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ラストチャンス
- 1 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月13日(木)13時48分24秒
- はじめまして。
はいめんてと申します。
野球もので小説書きます。
しかも、いまさらながらのオリンピックネタです。
文章力ないので、読みづらいかもしれませんが興味をもっていただければ幸いです。
- 2 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月13日(木)13時50分21秒
- 「あ〜、納得できへん」
豪快に大ジョッキをあおってから、開口一番に中澤からでたセリフがこれだ。
「まあまあ、姐さんおさえて」
大学時代の後輩平家がなだめる。
「これが黙ってられっか!!」
「…………」
中澤のあまりの剣幕に平家は言葉を失った。
中澤という人間はたしかに酒乱で有名ではあるが、(少なくとも本人は)
楽しく酔うことがモットーで、酒の席で怒声を上げるなんてことは、少
なくとも平家の記憶の中ではなかった。
ただ、中澤の気持ちを考えるとこれはしょうがないことかもしれない。
- 3 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月13日(木)13時56分32秒
- かねてから論議されてきた、今年のシドニー五輪予選と来年のシドニー五輪本選への
プロの選手の派遣が正式に決定したのだ。
中澤には到底この決定を受け入れることができなかった。
3年前、アトランタ五輪の後、数球団が中澤の獲得に名乗りをあげていた。
しかし、中澤はプロ行きを拒否した。
過去2度のオリンピックで果せなかった金メダルのために………。
だのに、である。
子供の頃から中澤には2つの夢があった。
1つはオリンピックの金メダル。
そしてもう1つは、一流のプロ選手になること。
誰かが言った。2つの願いは1つしか叶わない。
キューバの主砲バダーヒアの打球がアトランタの空を切り裂いた瞬間
それが少なくとも中澤にとってはそれが真実であると認識せざるを得なかった。
- 4 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月14日(金)11時13分43秒
- ミスった。
野球がオリンピックの競技になったのはロス五輪からだ。
子供のころからの夢ってことはありえないな。
というわけで
(誤)子供の頃から中澤には2つの夢があった。
(正)高校生のころ中澤には2つの夢があった。
というふうに訂正します。
ちなみに話の都合上メンバーの年齢は実際よりも引き上げてます。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月16日(日)01時51分24秒
- 続きまってますよ〜。
- 6 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月16日(日)10時35分28秒
- あと3人や。
あと3人抑えれば金メダルや。
アトランタ五輪野球競技決勝日本―キューバ
9回表キューバの攻撃
スコアは 日3−1キ
中澤はここまで142球を投げていたが、不思議なことに疲れはほとんど
感じてなかった。いや、疲れを感じる余裕すらなかったのかも知れない。
そして、生涯最高のピッチングそういっても差し支えなかった。
その好調を表すかのようにキューバの先頭バッターを外角低めいっぱいのスライダー
で三振にしとめた。
中澤のピッチングの生命線はなんといってもスライダー。
こいつが低めいっぱいにコントロールされているときはまず大丈夫。
あと2人、いけるで。
- 7 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月16日(日)10時39分47秒
- 「あっ」
すっぽ抜けた中澤の149球目が相手バッターの肩を直撃。
デットボールで1アウト1塁。
まだ1人出しただけだが、中澤は明らかに焦っていた。
前回のバルセロナは銅メダルに終わった。
それから4年この日のためだけに野球をやってきたといっても過言ではない。
だが皮肉にもその思いが中澤を追い詰めていた。
ここまできて負けたらうちの4年間はなんだったんや。
くそっ、落ち着け、落ち着くんや裕子。このランナーは返してもいいんや。
後続をうちとりゃ問題ないんや。
必死に自分に言い聞かそうとする。
- 8 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月16日(日)11時00分45秒
- しかし
ビキーン
鋭い金属音とともにボールはあっという間にレフト前へ。
マウンドへ集まる内野陣。
「だぁいじょうぶだって裕子。あと2人だろ。
さっさと終わらせて酒浴びるほど飲もうぜ」
一際背の低い二塁手矢口真里がいった。
矢口は年上の中澤を裕ちゃん、もしくは裕子と呼び捨てにする。
オリンピックメンバーの中でも鬼の主将中澤を呼び捨てにできるのは
矢口くらいなものである。
「ここまできたら全力で投げるだけですよ。もし打たれても恨みはしませんよ。」
こういったのは三塁手の日本の4番小湊。
「中澤さんの球はまだ生きてます。だから自信をもってください。」
捕手の市井が励ます。
しかし中澤はそれらの声にろくに反応できない。
- 9 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月16日(日)11時17分33秒
- やおら市井が中澤の肩につかみかかり
「主将のあなたがしっかりしないでどうするんですか!
さっきも言ったように中澤さんの球はまだ走ってます。
だから中澤さんは私のリードを信じて投げてください。そうすれば勝てます
絶対に!!」
市井の剣幕にあっけにとられていた中澤だったが、
「ふふっ。」
自然に笑みがこぼれてきた。
あの紗耶香がここまで言うよういなったか。
思えばチーム結成時の時はあまりの頼りなさに心配したものだが、
日の丸を背負って試合を重ねるうちに日本にとって必要不可欠な選手になっていた。
そして中澤にとっても、なくてはならない恋女房になっていた。
「何がおかしいんですか」
「何でもないわ。とにかくうちは紗耶香のミット目掛けて全力で投げるわ。」
そして一呼吸おいて
「祝勝会じゃ、みんなつぶれるまで飲ますで。」
そうや、うちがへこんでどうすんねん。
- 10 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月16日(日)11時24分54秒
- >>5
ありがとうございます。
やはり、レスがあると更新しなければという気になりますね。
- 11 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月17日(月)23時18分27秒
- しかし、向かえるバッターはキューバの主砲バダーヒア。
ここまでは3打数ノーヒット。しかしこれまで8試合で6ホームラン。
なんとしても一発は避けなくてはならない。
初球、外角へのストレート
ストライク。
バットはピクリともしない。
2球目、低めへのカーブ
ボール。
これにも反応なし。
(なんかじっくり見られてる。イヤな感じだ)
あまりに静かな相手に市井は不気味なものを感じた。
3球目、外角高めへのストレート
1塁側スタンドへのファール。
よし追い込んだで。どうする紗耶香
市井のサインは外角へはずれるスライダー。
(ここです。ここなら打たれてもおそらくファールです)
要求通りのスライダー。しかし明らかなボール球、外にはずれすぎている。
ところが、バダーヒアこれを強振。
大きい当たりだが、大きく右へそれていった。
- 12 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月17日(月)23時20分21秒
- (しかし、あのボール球を振るってことは、あっちは外角に的を絞っているのか。
たしかに長打が怖いから外中心で攻めていたからなあ。ここは、中澤さんの決め球
外角低めいっぱいのスライダーと、いきたいところだけど。)
市井のサインは内角低めへのストレート
(これなら裏かける)
紗耶香強気やんけ。おもろいのったで。
セットポジションから中澤渾身のストレートが内角低めに。
(外を待っていたら打てないはず)
だが、
『予想通りだ』
バダーヒアのスイングは明らかに内角をまっていた。
金属音とともにボールはアトランタの空へ消えていった。
(やられた、あのくそボール打ったのは内角の球投げさすためだったのか)
「うそや……こんなんうそや」
中澤はマウンド上でうわごとのようにつぶやいていた。
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月18日(火)00時48分02秒
- レスありがとうございました。
もちろんここもチェックしてます。
- 14 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月18日(火)01時57分22秒
- その後数日間は、いや数週間は放心状態であった。
なにをするのにも、気が入らない。
中澤の身分はあくまで社会人。
会社では、書類のコピーやお茶くみなどの代表的雑用をしているれっきとしたOLなのだ。
昼の2時までは働いてなければならない。
野球の練習はそれからだ。
しかし、日中の仕事ではミスばかり。
おまけに練習には出ていない。
中澤のあまりの憔悴ぶりに監督が休養を命じたのだ。
もう鬼の面影はなかった。
- 15 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月18日(火)02時06分13秒
- そんな中澤に阪神、横浜、オリックスの3球団が獲得を表明した。
正直中澤は迷っていた。
まさかこんな状態の自分にプロから誘いがあるとは思ってもみなかった。
プロになるのなら今年がラストチャンスだろう。
しかし、今はボールを見るのもつらい。
- 16 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月18日(火)23時15分09秒
- プルルル プルルル
「はい。」
「おう、裕ちゃん元気か」
「矢口やんか。いったいどないしたんや」
最も親しかった戦友の声を聞くのも約1ヵ月ぶりだ。
「いや、あの後ものすごく落ち込んでたでしょ。心配したけど、
すぐに連絡するのもマズイかなって思ったからほとぼりが醒めたころにね。」
「そうか、なんかすまんな。心配かけさせて。近頃ようやく立ち直ってきたところや。」
「そっか。なら、よかった。あともう1つ。」
「なんや?」
「裕ちゃん、どこにいくか決めた?」
「おい、矢口・・・、それが目的やろ。」
冗談めかしてドスをきかせた声でいう。
「はは、バレた〜?でも心配したのも本当なんだからな」
「分かってるって。」
なんにせよ、バカ明るいちびっこの声を聞いて元気がでたようだ。
「実はまだ決めてへんのや」
「ん、でも裕ちゃん阪神ファンでしょ。おいらはてっきり阪神で即決だと思ったんだけど」
「まだそういう段階やないんや」
」
- 17 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月18日(火)23時16分26秒
- 「どういうこと?」
「プロにいくか、いかないか、迷うとる」
「なんでだよ、自信ないの?裕ちゃんならプロでも確実に活躍できるって」
「そういうことじゃ、ないねん。今後野球続ける気力が湧いてこんのや。野球辞めるかもしれん」「おい!」
矢口が激しい口調で叫んだ。
「辞めるってなんだよ」
「正直いってな、あれからボールも握ってないんや。野球やる気がおきへん」
冗談じゃねえよ。
なんだよ、それ。
全然立ち直ってなんかねえじゃねえか。
「逃げんのかよ。おいらの知っている中澤裕子はそんなヤツじゃねえよ。
あんた、あんなので野球人生に幕引いて満足なんか」
- 18 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)00時31分01秒
- 聞きたくなかった。
中澤という人間は他人に厳しい。
矢口もオリンピック予選前合宿の頃は何度も説教された。
その度に同じ部屋の市井と愚痴りあったものだ。
しかし、中澤の野球に対する取り組み方を目の当たりにして、
それ以上に自らに厳しい人間であることを知った。
そんな中澤をみて、自分の考え方が甘いことを痛感した。
今では中澤に一種の尊敬の念すらおぼえているのだ。
だからこそ、そういう言葉を聞きたくなかった。
「おい、なんかいったらどうなんだ」
もう、ほとんど涙声である。
「矢口ありがと、な」
「ありがとうじゃ、わからねえよ」
「今後のことはこれから考えるわ、じゃあな」
プツッ、ツーツー
「勝手に切んなよ。ぶぁか〜。」
- 19 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)01時35分46秒
- 翌日は市井から電話があった。
その翌日には稲葉(アトランタの2番手投手)から。
どうやら矢口が電話しまくったらしい。
その後も毎日、一緒に日の丸をつけて戦った戦友が中澤を説得し続けた。
- 20 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)01時37分10秒
- 翌日は市井から電話があった。
その翌日には稲葉(アトランタの2番手投手)から。
どうやら矢口が電話しまくったらしい。
その後も毎日、一緒に日の丸をつけて戦った戦友が中澤を説得し続けた。
- 21 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)01時39分35秒
- 「なあ、裕ちゃん。いつまでもうじうじしてても、しょうないだろ。
いいかげんに観念しろや」
今日の説得役は矢口。
「あんた、観念って・・・・」
「しかし、あんたらもしつこいなあ。ここんとこ毎日やで。」
口ではそういっているがちっとも迷惑そうではない。
「裕ちゃんが、野球再開するまで、やめないからね」
「わかった。野球続けるわ。あんたらの執念にゃ負けたよ」
「ホントに?」
「本当や」
「ホントのホント?」
「本当の本当や」
「ホントのホントのホン・・」
「だぁ〜、もおいいちゅうねん。とにかく、うちは野球やるっちゅーねん」
その声のトーンは明らかに今までの沈んだ感じとは違っていた。
「で、裕ちゃんどこいくの。」
「そこまで決めてへん。プロいくか、もう一度オリンピック目指すか。」
「でも、そろそろプロに返事しないとまずいんじゃない」
「寝ずに考えるわ。ほんじゃ、そろそろ切るで」
「おう、おやすみ」
「おやすみ矢口」
- 22 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)01時40分10秒
- 考えるとかいってたけど、多分裕ちゃんプロにはいかないな。
何故か、矢口はその時そう思った。
2日後中澤は正式にプロ入り拒否を表明。
はっきりいって、プロにも未練はある。でももう1度あの舞台へ立ちたかった。
- 23 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)02時03分03秒
- >>19>>20
やっちまった。
二重投稿だ。
とりあえず、中澤の昔話はこれで一段落です。
この後は他のメンバーも出てきます。
(0^〜^0)<レスがあると嬉しいな〜。
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月20日(木)02時16分13秒
- 読んでますよ。
へタレ中澤も、カッコイイ中澤も、影のある中澤も
全部好きです。
関係ないけど。10月からMの・・・MC&いいとも準レギュラー決定した模様ですね。
- 25 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)11時37分52秒
- どうしよう。
わたし、抑える自信ないよ。
全日本大学選手権準決勝、明治(東京六大学)―青山学院大(東都大学)。
回はもう8回。3−1で青学がリードしているものの、二死満塁。
しかもバッターは、大学NO.1スラッガー吉澤ひとみ。
ちなみに、明治の1点は吉澤のホームランだ。
「さあ、こいや」
投手がマウンド上で青ざめている様子を見てか、威嚇するように叫んだ。
ここで決めなきゃ、うちが負ける。
梨華ちゃん、またネガティブになってるわ。
こういう時って外野手はイヤだ。近くに行って励ますこともできない。
がんばれ、梨華ちゃん。センター方向にきたら必ず捕るから。
柴田は心の中で叫んだ。
初球のカーブは、余裕をもって見逃された。
2球目のスクリューは、右に僅かにきれたもののフェンス直撃の弾丸ライナー。
どうしよう、どうすればあの人を抑えられるの。
やはり、ここは………。
- 26 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)11時39分36秒
- 3球目、キャッチャーのサインはナックル。
そうよ、それしかない。
伝家の宝刀ナックル。
でも、満塁でナックルは危険すぎる。
日本にナックルボーラーが、ほとんどいないのには、いくつか理由がある。
中でも、よくいわれるのが、どう変化するか分からないために、
パスボールもしくは、ワイルドピッチが多発するのである。
でも、この人を打ち取るにはこれしかない。
しかし、力が入りすぎたのか、その左腕より放たれた球に
ほとんど変化はない。
もらった。
手には確かな感触。
いっただろ。
吉澤は確信した。
だが、逆転満塁ホームランかと思われた打球はわずかにポールの左側にはずれた。
ちょっと、タイミング速かったか。
それでもマウンド上の石川梨華の顔は完全に血の気が引いている。
「おい、そんなへなちょこナックルで打ち取れるとでも思ってたのか」
追い討ちをかけるように吉澤は石川を挑発する。
ところが。
「たとえ誰であろうとわたしのナックルをバカにするヤツは許さない」
呟き程度の声であったのでおそらくは、誰にも聞こえなかったであろう。
しかし、吉澤はマウンド上のピッチャーがさっきまでと様子が違うことは分かった。
- 27 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)11時41分32秒
- 秋。
それは高校野球では新チーム結成の時期である。
県立百合丘高校は数年前に新監督を向かえてから急激に力をつけたチームだ。
むろん百合高(百合丘高校の略称)でもそれは同じ。
そのなかに石川梨華はいた。
しかし、彼女には背番号は与えられなかった。
今でこそ、ナックルを始めカーブ、スライダー、シュート、スクリュー、フォークと多彩
な変化球をあやつる彼女だが、当時は、カーブとスライダーしか投げられず、しかも
その変化ではとてもではないが、試合で使えるレベルではなかった。
ストレートなんかは今でも使い物にならないくらいだ。
そして2年秋でベンチにも入れないということは、このチームで試合に出るのは
ほとんど不可能と宣告されてしまったようなものである。
それでも、石川はあきらめてはいなかった。
しかし、どうすればいいか、光はまったく見えてこなかった。
- 28 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)11時43分18秒
- 石川が何気なくつけていた、深夜TVにその答えがあった。
それは、往年の大投手フィル・ニークロの特集だった。
子供の頃から、球が遅く悩んでいたフィル。
平凡は投手が変わったのは、父親にナックルを教わってから。
魔球を手に入れたフィルは、投球の9割にそれを使うことにより、
メジャー318勝の大投手となる。
これよ!
石川はおもわずブラウン管の前で叫んだ。
この日から石川とナックルボールとの格闘が始まる。
それから毎日正規の練習が終わると近くの公園で
ナックルだけを投げ込んだ。
日本でナックルを投げられる人間なんてごく僅かだ。
そんな人間が都合よく自分の周りにいやしない。
石川のコーチはいそいで録画したあのニークロのTVだけ。
ビデオテープが摩り減るまで見た。
それだけを頼りにひたすら投げつづけた。
ゆれろ
ただ、それだけを念じて。
- 29 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)11時44分32秒
- 実はこれはまったくの偶然だが、石川の爪の質は常人にくらべてはるかに強い。
これはナックルボーラーの必要事項である
人差し指、中指,薬指の中3本の指の爪を縫い目に立てて投げるため
爪の質が弱いとすぐに爪が割れてしまう。
この爪があったからこそ、一日もかかさずにナックルを投げ続けられた。
4月。
石川のユニフォームには1番が縫い付けられていた。
そして、夏の県大会。
ナックルを手にした石川は別人だった。
石川は5試合投げて、4失点という抜群の成績でチームを準優勝に導いた。
- 30 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)11時47分54秒
- ナックルはわたしの魂のボール。
それをバカにするヤツは許さない
さっきまで、青ざめていたのが、みるみる紅潮していく。
何かさっきより、気合入ってそうじゃん。
いいねえ、そのほうがこっちも打ち甲斐があるってもんだよ。
吉澤は舌なめずりをした。
「わたしのナックルを打てるもんなら打ってみろ!この頬袋!!」
石川の絶叫が響き渡る
何だよ、このゆれは。
吉澤の視界にはボールがいくつにも見える。
くそっ、
当てずっぽうでバットを振るしかなかった。
だが、先ほどとは比べものにならない変化にキャッチャーがついていけなかった。
バックネット方向へボールはころがっていく。
だが
「あーはっは。私の負けだよ。あんた、かっけーな。気に入ったよ」
吉澤はバッターボックスから一歩も動いていなかった。
- 31 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月20日(木)12時08分33秒
- >>24
レスありがとうございます。
中澤は頭の中で勝手に動いてくれるので書きやすいです。
ただ、書いていくうちにどんどんヘタレになっていく気がしますが………。
この後も中澤にすこし、あがいてもらいます(w
ところで、いいとも何曜日ですか?
最近、意外とタレントとしては仕事ありますね。
- 32 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月22日(土)00時05分29秒
- 準決勝第二試合
白球が神宮の空のすいこまれる。
スタンド上段へのホームラン。
だが試合の大勢は決していた。
9回裏、7−1で立命館大のリード
たかだか、ソロホームラン1発打ったって何にもならない。
しかし、それでも立命館のセカンド加護亜依はその打球を苦虫を噛み潰したような表情でみつめていた。
「ナイスバッティング」
2塁ベースに差し掛かったとき、加護は努めて無表情で話しかける。
「ありがとう」
打った辻希美はさきほどの加護の表情など知らないのかうれしそうに応えた。
- 33 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月23日(日)20時10分49秒
- 辻が加護と初めて会ったのは中学3年のとき。
お互いが東京、奈良の代表としてシニアリーグの全国大会でぶつかった。
試合は辻の逆転ホームランで東京代表、板橋シープ勝った。
「自分、すごいな。うちとあまり変わらん体であんな大きなホームラン打つやなんて」
初めに話しかけてきたのは加護だった。
「あなたこそ、すごいれす。つじにはああいうかれいな、しゅびはできないれすから」
当時、中学生にしてはかなり舌足らずな感じの辻がこたえた。
- 34 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月23日(日)20時27分28秒
- この後、ふたりは、シニア選抜に選ばれた。
その遠征中では常に同じ部屋。
ふたりが親友になりまでさほど時はかからなかった。
以後、2人は定期的に連絡をとるようになる。
そして高校3年に、2人とも甲子園に出場を果す。
しかし、辻の城東(東東京)は初戦敗退。
一方、加護の智弁学園(奈良)は準優勝を果した。
それと同時に加護は高校NO.1内野手の称号を得た。
- 35 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月23日(日)20時34分19秒
- だが、それまでは常に辻のほうが評価が高かった。
シニア選抜のときに加護は辻のすごさをいやというほど感じた。
辻の身体能力は同世代の誰よりも優れていた。
加護も足の速さは負けていなかったが、他の面では勝負にならなかった。
筋肉トレーニングをしているわけでもないのに、ホームランを量産するパワー。
そして、どんなに苦しい体勢でも腕だけで1塁手へ送球できる肩の強さ。
どれも加護にはないものだった。
- 36 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月23日(日)20時48分54秒
- しかし加護を1番驚かせ、また悔しがらせたのは、辻の練習量の少なさであった。
加護は小さい体のハンデを克服するために人の2倍も3倍も練習してきたつもりだ。
他人より先に練習を止めたことなんて1度もない。
だが、辻は自分から居残り練習をしたことなんてなかった。
それどころか、正規の練習でも適度に手を抜いていた。
似たような背格好の2人であったが、まったく正反対の選手。
一方は、人の何倍もの努力で日の丸をつけたユニフォームを手に入れた選手。
もう一方は、ありあまる才能のみで日の丸をつけたユニフォームを手に入れた選手。
表面上は仲良くしていても、辻への劣等感は日に日に増していった。
- 37 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月23日(日)21時54分16秒
- そして、辻が楽しく野球をやりたいという理由で全国区の私立高校の誘いをけって、
公立の城東へ進学したこと聞かされたときは、心底憎らしかった。
野球をなめるのもたいがいにせい。
加護は迷うことなく、野球の名門智弁学園で自らを高めることを選択した。
辻へのコンプレックス、それが今の加護をつくり上げた。
- 38 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月24日(月)22時42分53秒
- 考えられないことだった。
昨年度都市対抗準優勝の大阪ガスが2次予選の初戦で敗退し、
敗者復活へまわったのである。原因は明らかだ。
先発投手が5回もたずに8点とられりゃ勝てるはずない。
なんちゅーピッチングや。
あんだけ球が高めに浮いたらそりゃ打たれるわな。
中澤は自嘲気味に笑った。
でも、以前なら球が多少高めにういても球威で抑えてこられた。
それもできない
何でや…。
ロッカールームで1人呆然とたたずむ中澤であった。
- 39 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月24日(月)22時57分23秒
- 矢口は中澤とまた一緒にプレーできることが素直にうれしかった。
自分の原点は間違いなくあのオリンピックだ。
もし、オリンピックにいってなかったらプロとしてやっていけたかどうか分からない。
だから、真っ先に中澤に電話した。
だが、ろくに話もできなかった。
「悪い、今そういう気になれへん」
中澤が一方的に電話を切ったのだ。
裕ちゃん、おいらともう一度プレーするのうれしくないの?
- 40 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月24日(月)22時59分05秒
- プロ派遣選手発表
後藤真希 投手 (ダイエー)
矢口真里 内野手(西武)
飯田圭織 内野手(日本ハム)
安倍なつみ 内野手(近鉄)
保田圭 外野手(ロッテ)
稲葉貴子 投手 (オリックス)
石黒彩 外野手(広島)
福田明日香 内野手(中日)
市井紗耶香 捕手 (ヤクルト)
- 41 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月24日(月)23時00分21秒
- 派遣リストを見て愕然とした。
矢口だけでなく、市井、稲葉、アトランタのチームメイトが
3人も選出されているのである。
そして石黒はバルセロナのチームメイト。
みんな、オリンピックよりもプロを選んだ。
だのに、こうして予選とはいえオリンピックに出場することができる。
いや、出場権をとれればおそらく本選も出られるだろう。
うちの選択はなんだったんや。
最近の不調からもいらだちは増す。
- 42 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月25日(火)00時01分34秒
- 「よしっ」
バッターボックスから2,3歩あるいてから飯田は拳を突き上げた。
打った瞬間にそれとわかるホームラン。
打球は東京ドームの自動車メーカーの看板を直撃していた。
今季2度目、通算5度目の看板直撃弾。
飯田圭織が看板女といわれる所以である。
このソロホームランで日ハムが先制。
このあと両チームの対戦にしてはめずらしく、投手戦になったが、
最終回。
近鉄の4番安倍なつみの一発試合は決した。
なんと、看板の上の壁に直撃。推定飛距離165bの大ホームラン
パ・リーグを代表する長距離砲の競演に観客は酔いしれた。
- 43 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月25日(火)00時03分26秒
- ロッテ―西武
9回表2死満塁、点差は1点。
つまり、1打逆転の場面だ。
マウンド上では、ロッテの外人ストッパーのが苛立ちを隠せないでいる。
願ってもない場面だね。おいらが決めてやるよ。
向かえるバッターは矢口真里。
誰しもがこのような状況で対戦したくないバッター。
特にチャンスに強いバッターをクラッチヒッターいう。
矢口はまさにそれであった。
得点圏打率.457はリーグトップ。
- 44 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月25日(火)00時05分45秒
- 初球の甘く入ったストレートを矢口は見逃さなかった。
強く叩いた打球は弾丸のような勢いでレフト線へ。
打った瞬間思わずガッツポーズが出た。
しかし、その弾丸ライナーに飛びつく1つの影が。
バレーボールの回転レシーブのようにして転がり、
ボールの入ったグラブを掲げる。
「アウト!」
審判のコールが響き渡る。
西武の、矢口の不幸はロッテのレフトが、球界NO.1の守備範囲を誇る保田圭だったことだろう。
- 45 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月25日(火)00時12分58秒
- <<40
安倍の所属は近鉄じゃなくて大阪近鉄
<<42
一番最初に 日本ハム―大阪近鉄
っていれるの忘れた。
挙句に38と41のメールのとこに从#~∀~#从いれようとして失敗した。
#はダメなんですね。
鬱だ………
- 46 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月25日(火)15時00分59秒
- なんで、シーズン真っ最中に球団社長から呼ばれなきゃいけないの。
私に限ってトレードなわけないし。
それとも、大車輪の働きしている私に社長自らが特別手当でもくれるのかな。
いや、んなわけないか。
せいぜい監督賞で数万円が関の山か。
オーナーからってことはないか。
じゃあ、何なんだ。
後藤真希はそんなことを考えているうちに、社長室の前についた。
「いやー、後藤くん待っていたよ。」
秘書が社長室のドアを開けた瞬間に社長のまとわりつくような声がした。
なんでコイツの声はこんなに粘着質なんだ。
「しかし、最近のキミの活躍はすごいねえ。キミのおかげで、わがホークスも首位にいられるわけだしねえ〜。
あっそうそう、特にこの間の西武戦なんかは………」
「で、社長。わざわざこの時期にごとーが呼ばれたのはどうしてですか」
鬱陶しいので、社長の話は途中でさえぎった。
社長のヤツ、少し寂しそうな顔をしたがすぐに真顔になり予想外のことをいってきた。
「後藤くん。キミ、オリンピック予選にでてくれないかね。」
- 47 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月25日(火)15時03分07秒
- 「はあ」
正直、私にはこの件で声がかかるとは思ってもみなかった。
だって前々から「興味ない」っていってきたんだから。
「なんで、ごとーなんですか。うちには後藤以外にもいっぱいいい選手いるじゃないですか」
私はわざと怒気をはらんだ声でいった。
しかしというか、もちろんというか社長は聞いちゃいないって感じで話を続けた。
「パ・リーグは各球団トップ選手を1人派遣するということで合意している。
そしてわがチームは派遣選手として、キミは最適だと考えている。」
たしかにトップ選手だといわれて悪い気はしないが、なんとなく球団の考えていることが分かってしまった。
オリンピック予選は約1週間。
ピッチャーならローテを1回とばす程度ですむだろうが、
チームの主砲を5試合も6試合も欠くのは重大な痛手だ。
おそらくは、そのような打算がはたらいているのだろう。
- 48 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月25日(火)15時05分53秒
- 「それは、打者よりも、投手も方が実害が少ないからですか」
「たしかに、それも考えていないとはいえんな。だが、それだけではない。
うちの選手がオリンピック予選で活躍することによってパ・リーグを、そしてダイエーをファンにアピールできる。
残念ながらパ・リーグでどんなにいい試合するよりも効果があるだろう。
そしてこの役目はキミにしかできないことだと思っている。無論、これはオーナー代行も同じ意見だ」
ははっ、ここまでいわれたら悪い気はまったくしないな。
「わかりました。そこまでいわれたら行かないわけにはいかないね」
思わず出場を承諾してしまった。
話も終わったしさっさとこんな部屋からおさらばするか。
でも社長室を出る前にこれだけは言わなきゃ。
「あっ、査定にオリンピック出場分も考慮してくださいね」
- 49 名前:パク@紹介人 投稿日:2001年09月26日(水)15時11分04秒
- こちらの小説を「小説紹介スレ@青板」に紹介します。
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=blue&thp=1001477095&ls=25
- 50 名前:はいめんて 投稿日:2001年09月28日(金)23時34分18秒
- 依然中澤の調子は戻ってこない。
どうにか、敗者復活で大阪・和歌山地区の第3代表になった大阪ガスだが、
本大会ではいいところなく二回戦で負けてしまった。
またしても中澤の背信投球。
さすがに2度続くと調子悪いでは済まされない。
「衰え」
中澤の脳裏に一番考えたくない言葉がよぎった。
- 51 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月01日(月)21時45分52秒
- 8月下旬、2次合宿が始まった。
1次合宿は日程の都合で大学生と社会人で別々に行われた。
つまりこの2次合宿で初めて、アマの代表候補が全員顔をあわせるのだ。
今までなら、この合宿までくるとメンバーは最終決定も同然であり、
どちかというとこの合宿は顔会わせの色合いが強いものであった。
だが、今回は全く違う様相を呈していた。
後から9人のプロ選手が加わる。
単純に考えて、9人は代表をはずされるということである。
- 52 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月01日(月)21時57分38秒
- 中澤も実績のお陰か合宿に選ばれていた。
が、そのことが火種になった。
「ご老体はさっさと隠居したほうがいいんじゃないですか」
明らかに中澤に向けられた言葉だ。
「なんやと、ごるぁ!もういっぺん言ってみい」
声の主のむなぐらに掴みかかり、顔を確認する。
「おい、自分大木とかいったな。」
「はっきりいって、あんた目障りなんだよ。
あんたはどうせ、お情けで残れるんだろうけどね
そのために落とされる人の身にもなってよね。」
大木衣吹をはじめ、多くの選手は当落ライン上だと思っている。
実際投手で、確定と思われているのは青山学院の大学NO.1左腕石川梨華くらいなものである。
実力で、落とされるのならまだ納得もいく。
だが、中澤の花道のために自分が弾き出されることにガマンならないのだ。
これは大木以外の投手もほとんど同じ気持ちであろう。
- 53 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月01日(月)22時04分53秒
- 「まあまあ、衣吹おさえて、おさえて。」
間から入り、大木を中澤から引き離した人物は中澤の方を向き、
「あっ、自分北上いいます。ホントに衣吹が失礼なことを……、
ほら衣吹も頭下げる」
大木の頭を押さえつけながら北上も頭を下げる。
「ほんまやで。次おかしなこと、ぬかしとったらただじゃすまさへんで」
「けど、今年の成績じゃ誰も納得しませんよ。やっぱり実力を示してもらわないとみんな納得できないんじゃないんですか?」
それだけ言い残すと、二人はブルペンの方へいってしまった。
「おい、ちょっとまてや」
中澤は2人を追いかけようとしたが、
「必要以上に攻撃的なのは焦りがあるからじゃないんですか」
また後方に別の人影。
「今度は誰や」
うんざりしたような表情で中澤は振り向く。
- 54 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月01日(月)22時10分30秒
- 「中澤さんが、浮き足立っていると周りにも影響しますからね。
しっかりしてもらわないと困るんですよね」
声の主、村田めぐみははっきりとした口調でいう。
「あんたも、うちがえらばれたことが不満なんか」
「そんなんじゃありませんよ。しかしですよ、今回のチームの中で唯一のオリンピック経験者の
あなたが、その調子ですとチームに悪影響だといってるんです」
挑戦的な大木のしゃべり方とは違い、村田のそれはいたって静かである。
あまり感情を感じさせない。いや、機械的といってよい。
「えらい、優等生発言やな」
中澤は村田をねめつける。
が、すぐ村田とのいさかいを避けるようにランニングを開始した。
中澤にだって村田のいったことが、正論だということは分かっている。
でもはっきりいって今は自分のことで精一杯なんや
前回の合宿は自分がエースであるという自覚があった。
つまり、チーム内でも周りを気づかえる余裕があった。
だからこそ、主将としてキャプテンシーを発揮できたのであろう。
今は………
そんなものの欠片もない。
- 55 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月01日(月)22時19分25秒
- 「監督、このままでいいんですか。なんかビシッといってやったほうがいいのでは」
この殺伐とした雰囲気に、コーチの夏まゆみは顔をしかめる。
「まあ、明後日になれば嫌でもわかるやろ。このままじゃあかんってな。」
寺田光男は他人事のような感じで答えた。
- 56 名前:はいめんて@グチ 投稿日:2001年10月01日(月)22時28分52秒
- 駄文なのは自覚しているが、さすがに、まったくの無レス状態は悲しい。
勝手にはじめて、レスないでいじけるのもどうか、とは思うが
モチベーションがなくなるのも事実。
どうか、私にレスと言う名の愛をください(泣)
今日は和田の引退試合だった。
ラジオの前で泣いてました。
- 57 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月01日(月)23時10分49秒
- 楽しみに読んでます。
俺は石川にやられました。
和田選手お疲れ様でした。俺も好きな選手だったよ。
- 58 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月02日(火)23時05分16秒
- 二日後、アマ代表対中日2軍との練習試合が組まれていた。
相手はプロとはいえ2軍。
ここに勝てないようでは、おそらくプロのベストメンバーを組んでくるであろう
韓国や台湾に勝つことは到底不可能だろう。
しかし、結果は完敗だった。
スコアは9−2。
先発の石川は立ち上がりこそよかったものの、ランナーが出ると突如崩れるという
悪癖が出てノックアウトされた。
中澤の球に以前の勢いは戻っていなかった。
続いて投げた大木、北上も火だるまになった。
唯一好投した松浦も大量得点で相手の気が抜けた後では評価のしようがない。
- 59 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月02日(火)23時07分04秒
- アマ代表の得点は吉澤と、東芝の4番木村アヤカのホームランのみ。
その、吉澤にしたって他の打席は3三振。
変化球におもしろいようにバットが空をきった。
ストレートには滅法強いが、その反面変化球にはもろいところがある。
アヤカは「左殺し」として名を馳せているだけあって、左投手から一発をはなったものの
右投手にはまったく手が出なかった。
- 60 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月02日(火)23時11分55秒
- なかでももっとも自信を失ったのは加護であった。
加護のシングルヒットはツーベースと一緒。
関西大学リーグではこのような格言めいたものまでいわれている。
それだけ加護の盗塁技術が優れているということである。
現に加護は春季リーグでは実に12もの盗塁を記録している。
そして驚くべきことに、失敗はたったの1回。
その加護が盗塁を3度試みて3度失敗した。
生来の俊足に加え、スライディングの最も効果的な方法や、できるだけ速くトップスピードにのる
ためのスタートなど中学時代からずっと自分なりに研究してきた。
いくらプロ相手でもそうそう刺されまい。
加護は試合前そう思っていた。
それも2軍相手ならなおさらだ。
だが、それ自信はもろくも砕かれた。
- 61 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月02日(火)23時43分34秒
- アマ代表の前に立ちはだかったのは、髪を2つに縛ったキャッチャー。
打っては4番に座り2安打4打点、特大ホームラン1のおまけ付。
守っては、自慢の強肩で加護の足を完全に封じこめた。
彼女の名は戸田鈴音。
- 62 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月02日(火)23時54分16秒
- >>57
レスありがとうです。
読者いた。よかった、よかった。
石川は普段いい子なんで、その反動を書いてみようかな、と考えてあのキャラクターです。
- 63 名前:かーくん 投稿日:2001年10月03日(水)14時34分15秒
- 楽しみに読んでいますよ。
裕ちゃんがどう立ち直るかが楽しみですね。
頑張って下さい。
- 64 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月03日(水)23時00分05秒
- 「こんなんじゃ、だれも使いもんにならへんわ!」
試合後、寺田は爆発した。
「チームっちゅうヤツは、個の集合体や。そりゃ、チームのために個性まで潰したら
なんにもならへん。でもな、チームであるためには、最低限のことは必ずあるんや」
寺田は止まらない。
「今日の試合、勝利を目指していたヤツがおるか。みんな、アピールすることばっか
考えていたろ。俺が欲しいのはどんな時でも、勝利を強く欲するヤツや。もう一度よく考えろ」
反論できる選手は誰もいなかった。
- 65 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月03日(水)23時27分35秒
- 8月31日、2次合宿最終日。
寺田は今回の選考は誤りではないことを感じていた。
叩いても効果がないなら、叩くはずがない。
中日の2軍に大敗し激をとばした、あの日から選手の意識は明らかに変わっていた。
たとえ練習試合でもアピールのためではなく、勝利のためのプレー。
そして、それこそが最高のアピールになることも理解していた。
続いて行われた阪神2軍、オリックス2軍との練習試合に連勝した。
寺田はこのチームに、はじめて手ごたえを感じることができた。
そして、ついに明日正式に代表選手が発表される。
- 66 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月03日(水)23時38分24秒
- 日本代表発表
位置 名前 背番号 投打 所属 出身
投手 中澤裕子 28 右右 大阪ガス 同志社大学
後藤真希 17 右右 ダイエー 帝京高校
石川梨華 14 左左 青山学院大学 百合丘高校
村田めぐみ 15 右右 JT 東北福祉大学
斎藤瞳 13 右右 河合楽器 帝京大学
稲葉貴子 34 左左 オリックス 日本生命
松浦亜弥 18 右右 立命館大学 東洋大姫路高校
北上アミ 16 左左 サンワード貿易 北海道東海大学
大木衣吹 12 右右 サンワード貿易 亜細亜大学
捕手 市井紗耶香 27 右右 ヤクルト 川崎製鐵千葉
大谷雅恵 21 右左 室蘭シャークス 城西大学
前田有紀 22 右右 ヤマハ 福岡工業大学
- 67 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月03日(水)23時42分49秒
- 位置 名前 背番号 投打 所属 出身
内野手 飯田圭織 2 左左 日本ハム 王子製紙苫小牧
安倍なつみ 3 右右 大阪近鉄 室蘭大谷高校
矢口真里 0 右両 西武 立教大学
福田明日香 6 右右 中日 早稲田実業高校
加護亜依 1 右左 立命館大学 智弁学園
辻希美 4 右右 東海大学 城東高校
末永真巳 19 右左 JT 日本大学
外野手 石黒彩 10 左左 広島 駒澤大学
保田圭 9 右右 千葉ロッテ 新日本製鐵君津
吉澤ひとみ 5 右右 明治大学 浦和学院高校
柴田あゆみ 8 左左 青山学院大学 日大藤沢高校
木村アヤカ 7 右右 東芝 上智大学
※名前の横の数字は背番号
- 68 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月03日(水)23時52分00秒
- >>63
レスありがとうございます。
さて、どのように立ち直らせようか(笑)
もちろん先の展開も考えていますが、書いているうちに変わってきているので
俺もわかんないに等しいですね。
>>60
いまさら気が付きましたが、最後の行は
(誤)だが、それ自信はもろくも砕かれた。
(正)だが、その自信はもろくも砕かれた。
です。
>>66,67
ズレちゃった。しかも下の※いらないし。
- 69 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月05日(金)23時41分28秒
- 9月4日、プロ選手を除いた日本代表は予選開催地・韓国へ降り立った。
10日まで現地で合宿を行い11日からの予選に備える。
今回のオリンピックアジア予選の参加国は日本、韓国、台湾、中国、タイ、フィリピン
の6カ国。
予選の方式は、まず6チームを3チームずつ2ブロックに分け、
一次予選を行う。
ここでの上位2チームずつの計4チームが決勝リーグを行い、2つの出場枠を争うのだ。
組み合わせはAブロックが日本、台湾、フィリピン。
Bブロックは韓国、中国、タイである。
- 70 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月05日(金)23時43分16秒
- 下馬評では、日本、韓国、台湾が3強とされている。
中でも実績では日本が一番であろう。
しかし、今回に限っては日本不利といって差し支えないだろう。
日本代表がプロ・アマの中途半端は混合チームなのに対して、
韓国、台湾は本気でメンバーを派遣してきた。
特に韓国はすべてプロの、それも韓国球界のスーパースターを
惜しみなく派遣してきた文字通りのドリームチーム。
台湾は日本と同じくプロ・アマの混合チームだが、大半はプロの選手で
やはり、すべてが超一流。
なによりも、韓・台両国は予選期間中、いや予選前の合宿期間から
自国のリーグを中断してオリンピック予選に備えている。
国を揚げてのバックアップ体制だ。
そんな相手に日本代表は戦っていかなければならない。
たとえ、自国のプロからたいした理解が得られなくとも……。
- 71 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月07日(日)01時23分09秒
- 日本のプロ野球はオリンピック予選期間中も、お構いなしに通常通り行われる。
もともと日本のプロはオリンピック参戦に乗り気ではなかった。
アマ側の強い要請により、仕方なしに派遣したというのが実情だ。
パ・リーグが全球団派遣したのは、セ・リーグに人気面で圧倒的に劣る
ためアピールが必要と考えた上でのこと。
セ・リーグは完全にバラバラ。
やはり、巨人が強硬に派遣に反対していたのが大きい。
1球団が派遣しなければ、他球団も派遣に二の足を踏む。
それが、最も戦力を有している巨人であればなおさらだ。
自分のチームだけ、不利にはなりたくない。
優勝争いから、早々と脱落したヤクルト・広島はともかく
優勝争い真っ最中の中日と横浜も難色を示した。
中日は最終的には折れたが、横浜は最後まで了承しなかった。
阪神は金にならないことには、興味を示さなかった。
結局、当初各球団1人ずつの12人の予定が9人になってしまった。
- 72 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月07日(日)01時24分50秒
- アマにはオリンピックは自分達の晴れ舞台という意識がある。
しかし、今回からはプロの参戦が可能になった。
各国がプロを送り込んでくるのに、日本だけがアマで勝てるか?
答えは否。
オリンピックというアマ最高の舞台をアマの選手(特に社会人)から奪い取って
しまうことには、たいへん抵抗がある。
ただでさえ、低迷ぎみの社会人野球の衰退は避けられないかもしれない。
しかし、オリンピックに出場できなければ、そんなことを言ってはいられない。
アマ側にしてみれば、プロに選手の派遣を要請することは
苦渋の選択であった。
しかし、プロ側は前にあげた通り自分の球団の利益しか考えていない。
そんな状態で、
プロが何の憂いもなく全力で戦ってくる韓国。
プロ・アマ一枚岩で栄光を目指す台湾。
どうして、この2カ国に日本が必ず勝てるといえようか?
- 73 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月07日(日)01時34分31秒
- やべえ、今回の更新全然娘。出てないや。
そろそろ、予選始まりますんで(多分)もう少々待てってください。
- 74 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月10日(水)20時54分24秒
- 9月10日、予選開催前日になって後藤以外のプロ選手がようやく合流する。
そして、その後のスケジュールは以下の通りである。
11日 予選リーグ フィリピン戦
13日 予選リーグ 台湾戦
15日 決勝リーグ第1戦
16日 決勝リーグ第2戦
17日 決勝リーグ第3戦
ちなみに後藤は14日に合流予定。
試合前日の練習、つまり初めてのプロとの練習。
明らかにアマの人間にはとまどいが見られた。
現にアマはアマと、プロはプロとしか組んで練習していなかった。
結局、気まずい空気のまま練習は終了。
- 75 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月10日(水)22時13分19秒
- 「おい、石川。お前肉ばっか食うなよ」
店内に保田の声が響きわたる。
保田の提案で、急きょ焼肉決起集会が行われることとなった。
一日で仲良くなるにゃ、うまいもん食って酒でも飲むのが一番だ。
「吉澤、なんであんたはサンチュを葉っぱだけで食うんだよ」
ことあるごとに、ツッコミをいれる保田。
保田も必死なのだ。
気持ちがバラバラのままで勝てる訳ない。
ここでどうにか、打ち解けないと……。
そんな、保田を中心としたプロの面々の奮闘もあってか、
次第に打ち解けてきた。
が、予想だにしないハプニングが起こった。
- 76 名前:傍観者 投稿日:2001年10月13日(土)21時21分30秒
- おもしろいです。石川が投手ってのが気に入った!
あと石川の大学が青山学院ってイメージぴったりだね
- 77 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月14日(日)20時15分46秒
- >>76
レスサンキューっす。
石川が青学なのは、石川雅規っていう実際にシドニーの出た青学のピッチャーからとりました。
当方大学4年であり、現在卒論の進行状況がすこぶる悪いです。
そのため今後、更新速度が著しくおちてしまう可能性があります。
っていうか、絶対おちるでしょう。
ですが放置はいたしませんので、数少ない読者の皆様、気長に待ってもらえると助かります。
- 78 名前:傍観者 投稿日:2001年10月15日(月)17時13分23秒
- >>77
俺も受験生だから気持ちはよくわかります。
あせらないでがんばってください。
- 79 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月25日(木)00時21分24秒
- ハプニングの主役は村田めぐみ。
ノンプロの強豪JTのエース、あだ名は精密機械。
精密機械には2つの意味がある。
1つは、村田の抜群のコントロールから。
もう1つは、冷静沈着にして感情を感じさせない言動から。
そんな村田が壊れた。
「あ〜、おいらのカルビ返せ〜」
「ふっふっふ、食べてしまったものは返せません」
矢口の上カルビを強奪した村田がしゃあしゃあと、言い放つ。
そして、上カルビに舌つづみをうちつつ、
「今晩は、村田のムラムラナイトじゃあ〜」
突如始まった、村田のワンマンショー。
まわりは、呆気にとられるしかなかった。
- 80 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月25日(木)01時00分37秒
- 「石黒さん、もっと盛り上がりましょうよ」
村田のシュールなギャグに盛り上がっているまわりを尻目に、
1人黙々と肉を消化し続ている石黒に声をかけたのは吉澤。
が、そんな吉澤に対して石黒が発した言葉は唐突なものだった。
「そういや、あんた筋トレまったくやってないんだって」
「えっ、なんで知ってるんですか」
「1年くらい前の週刊ベース○ールのインタビュー見たからね。
しっかし、あんた少し野球なめてるんじゃないか?」
石黒彩という選手は、一言でいえば練習の虫。
特に筋トレ量は尋常ではなく、それがセ・リーグ屈指の長距離砲を造り上げた。
そんな石黒にとって、あの吉澤のインタビューは許せなかった。
もし、一度会うことが絶対何かいってやろう、そう思っていた。
- 81 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月29日(月)23時36分52秒
- 「筋トレして変に肉ついちゃったら、服着れなくなるから嫌なんですよね」
これが、問題のセリフ。
こんなこと言われれば、石黒でなくても、ふざけんな!と思うだろう。
だが、吉澤は決して練習嫌いなんかではない。
全日本の中でも、五指に入る練習量であろう。
ただ、そのメニューが極端なのだ。
筋トレやランニングはほとんどしない。
技術練習しかしていない。
しかし、その偏重ぶりはなにも野球に限ったことではない。
吉澤の主食はベーグルとゆで卵。
一日中それだけでも全然飽きない。
男は、体育会系の汗くさい人間しか受けつけない。
何に対しても偏食、それが吉澤ひとみなのだ。
- 82 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月29日(月)23時45分43秒
- それに吉澤は自分の身体能力には自信をもっていた。
それ故に、筋トレを不要と考えていた。
現に高校時代は、通算52本塁打を記録した。
鍛えるべきなのは、パワーよりも技術的なこと。
意外と冷静に自分を分析した上での行動だった。
問題の発言は、吉澤のインタビューを面白くしようというサービス心から。
だが、石黒にはそんなこと分かるはずもない。
- 83 名前:とまときっど 投稿日:2001年10月30日(火)00時11分54秒
- 大学4年でHNはいめんて・・・もしかしてサンフレッチェのファンですか?
とある偶然が重なって、この小説を見つけましたが面白いです。
学業との両立はお互い大変ですが(お互いといっても、読むだけですが)
期待してますので、頑張ってください。
プロとアマの間の壁をいかに表現するか、特に期待してますので。
- 84 名前:はいめんて 投稿日:2001年10月31日(水)08時38分54秒
- >>83
レスありがとうです。
ええ、とまときっどさんの思っている通りです。
あの作品が青板に来たんで緊張してます(笑)
- 85 名前:とまときっど 投稿日:2001年10月31日(水)23時57分30秒
- >>84
あ、やっぱりそーでしたか(笑)
実は某Z掲示板のジュビロファンです。
これからは黙って読みますので、頑張ってくださいマセ。
- 86 名前:傍観者 投稿日:2001年11月02日(金)23時09分08秒
- 本物の青学の石川がヤクルトにいくみたいですね。
更新がんばってください
- 87 名前:はいめんて 投稿日:2001年11月06日(火)00時18分46秒
- 翌日
ついに、予選開始。
初戦は格下のフィリピンとあってスタメンはアマ主体にした。
1.柴田 右
2.加護 ニ
3.木村 左
4.飯田 一
5.吉澤 中
6.辻 遊
7.前田 指
8.大谷 捕
9.末永 三
投.松浦
- 88 名前:はいめんて 投稿日:2001年11月06日(火)00時33分05秒
- フィリピンの先攻で試合開始。
マウンド上の松浦は初の国際試合だというのにまったく緊張していなかった
フィリピンなんかに打たれる訳ない。
一回から全力の松浦はMAX148`のストレートでフィリピン打線を
まったく寄せ付けない。
ほとんどストレートで、まさに力でねじ伏せるそう表現するにふさわし
い投球であった。
4回までパーフェクト。文句なし。
- 89 名前:はいめんて 投稿日:2001年11月06日(火)00時42分39秒
- だが、4回終わってまさかの0−0。
毎回ランナーを出すものの、あと一本がでない。
ヒットはもう8本も打ってるのに0点。
今回のチームは国際がほとんどない選手が多い。
そんなチームが焦るのには十分すぎる展開。
なんで、点取ってくれないんですか。
松浦の苛立ちも増す。
松浦の苛立ちは増す。
- 90 名前:はいめんて 投稿日:2001年11月06日(火)00時53分29秒
- 5回表。
先頭バッターにフォアボール。
はじめてフィリピンにランナーを許す。
プレートをしきりに気にしている動作が、松浦の苛立ちを表している。
次のバッターは高めのストレートをつまらせセンターフライ…
と思ったら、つまったのが逆に災いしセカンド、ショート、センターの
ちょうど真ん中におちた。
吉澤の守備範囲はアマでは並ぶ者がないくらい広い。
守備の人保田にゴールデングラブ級と言わしめたほどである。
だから吉澤で捕れなかったのだから仕方が無い、みんなそう思った。
いや、2名ほど納得していない人間がいる。
- 91 名前:はいめんて 投稿日:2001年11月06日(火)00時59分54秒
- >>85
Z掲示板でしたか(笑)
せっかくですので、たまにはレスくださいな。
レスないとへこむタチなんで。
>>86
青学の石川(本物)って意外と評価が高くないみたい。
体小さいからかな。
あと89の最後が変になっているのは無視しちゃってください。
やっと、試合が始まった(汗)
- 92 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月06日(火)20時03分26秒
- お、更新されてる。
期待待ち。
- 93 名前:傍観者 投稿日:2001年11月09日(金)21時49分54秒
- 更新がんばってくださいね
- 94 名前:はいめんて 投稿日:2001年11月22日(木)21時21分15秒
- 1人はもちろんマウンド上の松浦。
自分が打ち取ったはずのバッターに出塁される。
ピッチャーにとって、何よりも腹立たしいことである。
援護もしないのに足まで引っ張られちゃたまんないよ。
表面上はポーカーフェイスを保ちながらも、怒りゲージは上がっていく。
- 95 名前:はいめんて 投稿日:2001年11月22日(木)21時23分21秒
- なってないよ、吉澤。
心の中で毒づく。
不満も隠し切れないもう1人の人物。
それは、吉澤をゴールデングラブ級と言った保田圭その人であった。
- 96 名前:はいめんて 投稿日:2001年11月22日(木)21時24分42秒
- うそでしょ。
信じられないといった表情でライト方向へ飛んだ打球を目で追った。
ワンバウンドで柴田が捕球。
セカンドランナーは三塁ストップ。
ノーアウト満塁。
マウンドに内野陣が集まる。
こんなはずじゃないのに。
皆の表情がそう語っていた。
- 97 名前:はいめんて 投稿日:2001年11月22日(木)21時26分36秒
- たしかに、フィリピンのレベルは高校野球レベルといわれている。
しかし、我々が思っているよりもフィリピン野球の歴史は長い。
フィリピンに野球が持ち込まれたのは1901年頃だと言われている。
これは、アジアの中では日本に次ぐ古さである。
ちなみに、韓国や台湾に持ち込まれたのは1910年代である。
アジア野球連盟の初代加盟国であり、アジアの中でも最も野球が盛んな国の一つであった。
70年代には、アジア選手権で3位にもなったくらいの強豪であった。
だが、韓国、台湾にプロチームができるとともにフィリピン野球の地位は落ちていった。
しかし、それでも野球が盛んなお国柄には変わりがない。
野球が強くなる土壌は十分すぎるほどにある。
普通にやれば負けることがない相手ではあるかも知れない。
だが、油断してよい相手でもないはずだ。
- 98 名前:はいめんて 投稿日:2001年11月22日(木)21時32分05秒
- ぬう、かなーり更新遅くなりました。
本当にすみません。
レスをくれた皆様本当にありがとうです。
次の更新はまた先になってしまうと思います。
話はある程度頭にあるんですが、文章に落とす時間がない。
卒論は遅々として進まないし(泣)
そういう訳で気長に待ってやってください、お願いします。
- 99 名前:とまときっど 投稿日:2001年11月24日(土)16時08分28秒
- 内野陣がマウンドに…
飯田と加護辻、そして松浦、か。
末永、肩身狭そうだなぁ。ちょっと思った。
んじゃぁ、気長に待ってますので。
- 100 名前:傍観者 投稿日:2001年11月26日(月)18時44分16秒
- 気長に待ってますんで更新がんばってください
- 101 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月02日(日)21時09分05秒
- 「ストレートだけじゃ抑えられないよ。いい加減に変化球も使えって」
マウンド上に集まるなり、キャッチャーの大谷が苛立ちを隠そうともせずに
松浦を怒鳴りつける。
今まで松浦の投球数は54球。実にそのうちの50球がストレート。
大谷の変化球のサインにはほとんど首を横に振ってきた。
「大丈夫ですよ。抑えてみせますよ。」
ぶっきらぼうに答える。
松浦の答えになってない答えにいっそう不機嫌そうになった大谷を制しながら
言葉を発するは唯一のプロ選手、飯田圭織。
「少しくらい点とられたって、カオリ達が取り返してあげるから
安心して投げなよ」
「飯田さん期待してますよ、ホントに」
- 102 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月02日(日)21時09分38秒
- 「亜弥ちゃん、落ち着いてーな」
立命館のチームでもある加護も必死に松浦に冷静さを取り戻させようとする。
「大丈夫だよ。亜依ちゃん。」
こういう時の亜弥ちゃんはヤバイんや。
加護の脳裏に浮かんだのは3ヶ月前の全日本大学選手権決勝。
8回を終えて0−0。
松浦はこれまで被安打2。四死球はたった1。
だが、まったく援護のない打線にキレたのか突如制球を乱して四球3連発。
満塁で柴田に走者一掃の2ベースを打たれ立命館は敗れた。
- 103 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月02日(日)21時11分32秒
- 松浦はリトルリーグ、シニアリーグ、そして高校野球とずっとエースで4番だった。
それは、松浦の能力が並外れていたこともあるが、ずっとチームに恵まれてこなかったのも事実。
それを証明するように勝ってきた試合はほとんど1−0。
無論そのほとんどの得点に松浦がからんできた。
高校最後の試合も味方の援護がなくて延長で力尽きた。
こんな松浦が自分1人で野球をしてきたと錯覚してもおかしくはない。
- 104 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月02日(日)21時37分14秒
- 初球、大谷のサインは外角へのスライダー。
しかし、松浦は首を縦に振らない。
ちっ、ふざけるなよ。
苛立ちながらもインハイのストレートを要求。
いくら速くてもストレートと分かっていたら当てることはできる。
はじめからストレートにヤマをはっていたバッターの打った打球は
センターへ。
勢いはないが、犠牲フライには十分な定位置よりもやや深めのフライ。
吉澤は、落下地点よりもやや後方で獲物を狙うケモノのとうに身を屈める。
そして、白球に飛びかからんばかりにダッシュ。
「どっすーん」
その勢いを利用して捕球と同時にバックホーム。
レーザービームのような返球はワンバウンドで大谷のミットに。
大谷の視線の先にはホーム2メートル前で呆然と立ち尽くす
サードランナーの姿をとらえていた。
- 105 名前:とまときっど 投稿日:2001年12月04日(火)00時31分42秒
- 大谷がいつ松浦に対して切れてしまうか、
吉澤の好返球は混乱のバッテリーに何をもたらすのか?
不安の入り混じるベンチに緊張が走る。
次回! ラストチャンス! 「プロの意地、アマの意地」
お楽しみに!
…と、次回予告風に感想とこれからの期待を表してみました。
この予告で作者さんが書きにくくなったのなら申し訳ございません。
では、次回更新、期待しています!
- 106 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月19日(水)22時50分04秒
- 「すごっ!」
松浦の口からは思わず驚嘆の声がでた。
吉澤の肩の強さは、練習などで十分わかっていたつもりだったが
実際、試合で見るとその凄さが際立つ。そしてありがたみも……。
ふう、正直助かったな。
あれ?
初球、大谷のチェンジアップのサインに松浦は素直にうなずく。
もちろん、サインに従ってくれるのは嬉しいが、何か拍子抜けだ。
- 107 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月19日(水)22時50分44秒
- 変化球でカウントを稼ぎ2−1。
最後は、お得意のストレートで決めてやりな。
大谷の要求はインハイのストレート。
松浦は、ゆっくりとワインドアップで大きく振りかぶる。
ランナーがいようが関係ない。これで終わらせてあげるよ!
ストライク!バッターアウッ!
松浦の速球はバッターにスイングすることすら許さかった
- 108 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月19日(水)22時54分51秒
- 「吉澤さん、助かりました」
珍しいこともあるもんや……。
素直に吉澤に礼をいう松浦に、加護は驚く。
「うーん、ベイベー。気にしないでいいんだよ、ハニー。
打てないこっちも悪いんだから」
………。
な、何なんだこのテンション。
「おい、吉澤」
「あっ、何ですか保田さん」
「さっきの守備は何なんだ?」
「肩には自信ありますからね。イエーイ」
「バカ!あのプレーじゃないよ。その前のあんたが捕れなかったポテンヒットだよ」
- 109 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月19日(水)23時51分57秒
- 「へっ?」
吉澤の頭の中に?マークが増殖していく。
てっきり、ファインプレーを褒めてもらえると思っていた
吉澤にとってあまりに予想外の言葉だった。
だいたい、あんなところに落ちた打球なんて捕れないって。
「ファインプレーで気持ちよくなっちゃってるだけの選手は二流なんだよ」
「そういう言い方ってないんじゃないですか!」
「ピッチャーってのは、打ち取ったはずの当たりで出塁されるが一番イヤなんだよ。
だからこそ、あういう当たりは捕ってやらなきゃダメなんだ。」
保田は、高校まではピッチャーだった。それだけにピッチャーの心理が分かるのであろう。
- 110 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月19日(水)23時52分50秒
- 「でも……」
納得いかない様子の吉澤に保田は続ける。
「だいたい、お前に守備位置は深すぎるの!
もっと前で守ってたら捕れただろ。下手なヤツほど守備位置深いの」
「頭の上抜かれたら、どうするんですか」
「その場合はピッチャーが悪い。お前の守備範囲で追いつけなきゃ、完璧に打たれた場合だろ、ほとんど。
何度も言わすなよ、一番重要なのは打ち取った打球を抑えること。ファインプレーなんかはその次だよ」
吉澤は見ていると、歯痒くなってくる。
有り余る才能があるくせに、全然活かせてないんだよ、コイツは。
- 111 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月19日(水)23時54分38秒
- なんとか卒論が完成したんでヒサブリの更新です。
このペースだといつになったら終わるか分かりませんが気長にお付き合い願います。
- 112 名前:4126 投稿日:2001年12月20日(木)01時50分46秒
- ついに放置か、と思ってた。スマソ。マイペースでガンバレ。
- 113 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月20日(木)21時52分42秒
- 5回の裏。
いくらなんでも、そろそろ先制点が欲しい。
先頭の加護は外角のカーブを難なく流してレフト前へ。
ベンチを見るとかつては一番欲していたサインが。
盗塁。
だが、加護は中日の戸田鈴音に完全に押さえ込まれた
あの日から一回も盗塁を試みてない。
いや、できなかった。
盗塁が成功するイメージが全く持てなくなってしまった。
- 114 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月20日(木)22時11分01秒
- もちろん、寺田も加護が盗塁に対して自信を失っているのは重々承知している。
だが、いやだからこそ、この場面では盗塁のサインを出さねばならない。
接戦でものをいうのは機動力だ。
加護の盗塁は必ず大きな武器になるはずだ。
この先のためにも自信を取り戻してもらわなくてはならない。
- 115 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月20日(木)22時22分59秒
- すぅ〜。
加護は大きく息を吸い込む。
よし!
ピッチャーの足が上がるのを見て、左足を強く蹴り出す。
3歩目ですでにトップスピードに。
これは、昨年パ・リーグ盗塁王の矢口並である。
フィリピンのキャッチャーの送球が届く前に悠々セーフ。
なんや、いけるもんやな。
- 116 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月20日(木)22時33分14秒
- もらった!
明らかな失投。
アヤカはほとんど真ん中に入ったスライダーを
思いっきり、引っ叩いた。
これが今日の全日本なのか?
アヤカの打球は痛烈だったが、
まるで自分から収まるかの如くショートのグラブの中に。
それもセカンドにかなり近い位置で。
加護はセカンドに戻ることができなかった。
- 117 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月20日(木)22時39分26秒
- >>112
レスありがとうです。
俺がここに書くきっかけになった方ですから、レスがあってうれしいです。
更新速度は余裕と気分次第ですから(笑)
- 118 名前:とまときっど 投稿日:2001年12月20日(木)23時12分17秒
- >>117
ということは、余裕が出来たんですね!
羨ましい…じゃなかった。
これから更新が期待できる! ということですね!
いや、気分のほうか… 片岡効果?(w
- 119 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月21日(金)22時44分50秒
- 次のバッターは、4番飯田。
飯田はこの試合に出ているメンバーで唯一のプロ。
ここで自分がなんとかしなくては、そういった気持ちは強い。
しかし、飯田はアマ時代に日の丸をつけて戦ったことはない。
プロに入ってからも、日本シリーズの経験はない。
つまり、短期決戦に慣れてないのだ。
周りから見れば、一番落ち着いていなければならない飯田だが、
実は他のアマと同じように、いやプロが故にそれ以上に焦ってしまっていた。
- 120 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月21日(金)22時57分21秒
- 初球、アウトローのカーブ。
ボール。
2球目、アウトローのストレート。
ストライク。
3球目、インローのスライダー。
ストレート。
飯田は3球ともまったく反応していない。
ただ、ずっとピッチャーを凝視しているのみ。
飯田は余裕をもって見逃しているわけではない。
ただ、極度の緊張で手が出ないだけなのだ。
「た、タイム」
何とかタイムを取ることだけはできた。
- 121 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月21日(金)23時11分01秒
- 落ち着け、落ち着けカオリ。
相手の球なんか、今までプロで対戦してきたピッチャーに比べれば
たいしたことないよ。
大丈夫、大丈夫……。
『バッター、早く!』
「ちょっ、ちょっと待って!」
「こういう時は人という字を3回書いて飲む。」
………。
よし!大丈夫!!
- 122 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月22日(土)20時35分17秒
- 4球目のカーブはまたも低めへ。
フィリピンバッテリーは4番の飯田を警戒して徹底した低め攻め。
しかし、飯田には返ってそれが逆効果だということにバッテリーが気付くのには1秒あまりで十分であった。
飯田圭織は典型的なローボールヒッター。
シーズン中も何本も、ともすればボールであろう低めの球をすくい上げてスタンドにもっていっている。
鋭い打球が右中間を破った。
- 123 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月22日(土)21時35分35秒
- 一塁を蹴り、二塁に差しかかる。
飯田は打球の行方を確認する。
当たりが鋭すぎたために、すでにライトが捕球。
しかし、飯田は全くスピードを落とさずにセカンドベースを蹴った。
「うおおー」
サードベース5メーター前から、勢いよくヘッドスライディング。
飯田がヘッドスライディングの動作を開始するのと同時に三塁手は返球をうける。
「セーーーーフ」
タイミングは微妙だったが、飯田の手が一瞬早かった。
「よし!よおし!」
三塁上で飯田は何度もガッツポーズをくり返した。
- 124 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月23日(日)21時44分45秒
- 2打席とも鋭い当たりを飛ばしている吉澤は警戒されたのか
半ば敬遠気味に歩かされた。
ちっ、打たせろよ。つまんねーよ。
自分のバットで先制点を叩き出そうと意気込んでいた
吉澤はイラツキながら一塁へ向った。
次のバッターは6番辻。
- 125 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月23日(日)21時45分41秒
- 飯田圭織。
辻にとって目標の選手。
初めて飯田を見たのは、2年前の日ハム―ダイエー戦。
この日、先発のルーキー後藤真希は絶好調であった。
150キロを超えるストレートと、140キロ近い高速スライダーで
バッターをまったく寄せ付けない投球であった。
7回を終えて2安打無失点に抑えていた。
一方、もともと層の薄い日ハム投手陣であったが、この日はローテーションの谷間。
7回までに投手を5人つぎ込んで、計8失点。
完全に勝負はついていた。
しかし、この試合で辻の記憶に最も強烈に残ったのは、
後藤のピッチングでもなければ、1イニング7連打で6点を挙げた
ダイエー打線でもなかった。
試合が決した感のある8回に飛び出した、飯田の一撃。
後藤の低めへはずれる高速スライダーを、豪快に振りぬき
スタンドに、いや上段の看板にぶち当てた。
これが、のちに看板女と呼ばれる飯田圭織の記念すべき看板直撃弾第一号であった。
すでに日ハムの敗色濃厚であったために、球場内の反応は薄かった(観客が少ないことも関係ある)
が、その豪快な一撃はしばらく辻の脳裏から離れることはなかった。
- 126 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月25日(火)21時40分46秒
- それから、辻は何度も日ハムの試合を見に東京ドームへ行った。
もちろん、飯田を見るために。
「飯田さーん。打ってくださーい」
また、あの娘来てる。
飯田はいつも最前列で声援を送ってくれる少女のことが気になっていた。
その頃の飯田はまだ、レギュラーに定着したとはいえず、
試合に出たり、出なかったりをくり返していた。
ところが、何故かあの少女が見にきているときは結果がでる。
このシ−ズンの終盤からレギュラーに固定されたのはあの少女のお陰ではないか
と本気で考えたくらいである。
- 127 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月25日(火)21時59分52秒
- 辻はプロの派遣メンバーを見たとき、震えがとまらなかった。
まさか、飯田圭織が全日本に加わるなんて……。
憧れの選手と共にプレーできるチャンスなんて、そうそうあるもんじゃない。
「飯田さん。はじめまして辻希美です」
「あー!あんたいつもドームに来てくれてる女の子でしょ」
「覚えてくれてたんですか。うれしいです」
飯田は驚いた、二重の意味で。
あのドームの少女がまさか全日本に選ばれるほどの選手だったこと。
そして、その娘が大学生であること。
といことは当時高校生だったことになる。
飯田の目にはどう見ても中学生にしか見えなかった。
- 128 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月27日(木)18時42分02秒
- 辻がバッターボックスに入る。
昨日たった1日だけだったが、飯田に、バッティングを見てもらえた。
辻はそれだけで、ものすごく上達したように思えた。
むろん錯覚だが……。
プラセボ(偽薬)効果というやつがある。
もともとは医学用語で、科学的に何の効果もないもの(例えばでんぷん等)を
あたかも効果のある薬のように認識させ患者に与えると
本当に効果が表れてくる、というものである。
辻が今まで受けてきた指導と飯田が言ったことはたいして違いがない。
だが、辻にとっては“飯田が言った”ということがプラセボだった。
- 129 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月27日(木)18時42分45秒
- 1−1からの3球目、
ピッチャーの投げたボールは低めへのカーブ。
それを自信をもってすくい上げる。
辻は飯田に憧れるあまり、飯田になろうと努力した。
もはや、バッティングに関しては飯田のレプリカ。
されば、低めの球は……。
打った瞬間に走らなくていいことを確信する。
「やっっったあ!」
辻は派手に飛び上がって、喜びを体いっぱいに表現した。
5回裏、ついに全日本先制。
- 130 名前:るみね 投稿日:2001年12月27日(木)22時58分41秒
- 金板で野球小説書いてるものです。
今頃この小説の存在に気付いたんですが、最初から楽しく読ませてもらいました。
吉澤とかのキャラが自分のと結構かぶっていて焦っております。
これからも注目していますので、更新頑張って下さい。
- 131 名前:のの〜ん 投稿日:2001年12月27日(木)23時34分25秒
- 今全部読みました。素直に面白いっス!
今後の展開に期待!
- 132 名前:純(量産型) 投稿日:2001年12月28日(金)20時30分22秒
- 凄いッス!
頑張ってください!
- 133 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月31日(月)23時53分54秒
- 溝にはまった車がようやく動き出した。
動き出したら一気に最高速へ。
続く、前田、大谷、末永の連続ヒットで2点を追加。
あっけなく、勝負は決した。
- 134 名前:はいめんて 投稿日:2001年12月31日(月)23時55分06秒
- 車を動かしたのは間違いなく飯田圭織。
初のプロアマ混合チーム、両者の間に溝ができないほうがおかしい。
アマの選手からしてみれば、プロはチームメイトというよりは助っ人。
予選前日になっての合流という事態を経て、その思いはいっそう強くなった。
直前に来て、おいしいところだけ持っていく気かよ。
知らぬ間に垣根を築いていったのはアマの方。
飯田のガッツポーズがそれを崩した。
プロだ、アマだとこだわる前に勝つことを考えようよ。
飯田の姿はそう言っているように見えた。
そして、それは寺田に言われたことじゃなかったか?
- 135 名前:傍観者 投稿日:2002年01月12日(土)14時03分21秒
- 更新がんばってください
- 136 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月15日(火)22時31分45秒
- いやぁ、おもしろいです。
今年もがんばってくださいね。
裕ちゃんが復活するのを心待ちにしています。
- 137 名前:のの〜ん 投稿日:2002年01月21日(月)20時54分14秒
- 更新気長に待ってます。
- 138 名前:はいめんて 投稿日:2002年01月25日(金)22時08分59秒
- 「よし、中澤いくで」
松浦は最初から5回までの予定。
寺田が2番手に指名したのは、中澤裕子。
「えっ、次うちなんか?」
信じられないといった表情で自らを指差す。
おそらくは、プレッシャーのかからない場面で投げさせよう
という寺田の配慮だろう。
しかし、格下相手のそれも勝敗の決まった後の登板。
中澤の自尊心を傷つけるのには十分な状況だった。
- 139 名前:はいめんて 投稿日:2002年01月25日(金)22時10分06秒
- まあ、ええわ。きっちり抑えれば、次からは先発やろ。
その言葉通りに中澤はフィリピン打線を寄せ付けない。
先頭バッターをライトフライに打ち取ったのを、皮切りに
次をショートゴロ、最後はインハイのストレートで三振。
三者凡退……。
さも当然と言わんがばかりに、表情も変えずにベンチへと帰っていった
- 140 名前:はいめんて 投稿日:2002年01月25日(金)22時23分56秒
- なるほど、あれじゃあフィリピンには通用しても、韓国や台湾相手にはキツイかな。
でも、原因は衰えだけじゃないからどうにかできるかも。
はぁ〜、問題は中澤さんにどうやって気付かせようか…….
- 141 名前:はいめんて 投稿日:2002年01月25日(金)22時27分38秒
- 今年初の更新です。
遅くて申し訳ないです、
>135,136,137
こんな、いい加減な作者の話を応援してくれて本当に感謝です。
試験期間中でなかなか時間がなくて……満足に更新できませんでした。
来月からはもう少しましになるかと……。
- 142 名前:のの〜ん 投稿日:2002年01月26日(土)00時16分01秒
- 更新お疲れ様でした!待ってましたよ(笑)
ゆうちゃんの今後に期待します!
- 143 名前:136 投稿日:2002年01月26日(土)02時10分56秒
- 待ってました!!
はいめんてさんのペースでがんばってください。
裕ちゃんの大活躍を期待して待っています。
- 144 名前:はいめんて 投稿日:2002年02月24日(日)13時30分40秒
- 結局試合は、この後着実に加点した、日本が11−0(7回コールド)で勝利をおさめた。
まあ、こんなもんやろ。
4打数2安打、盗塁1。
今日の成績に不満はない。
「もんだーい。盗塁に一番必要なことは何でしょう?」
「うわわー!」
突如背後から聞こえた声に加護は仰け反った。
「何ですか、矢口さん。急に……」
「いいから、さっさと答える!」
「そんなん、スピードに決まってますやん」
唐突な矢口の質問に、困惑しながらも強い口調で答えた。
「すぴぃどぉ〜?また、えらくアバウトだなぁ〜、おい?
スピード言っても、色々あるだろ。もっと具体的に言えよ」
「足の早さですよ」
そんなん、決まってるやん。この人は何を言いたいやろ?
だが
「ぶぁ〜か。だからお前はあんなスチールしかできないんだよ」
- 145 名前:はいめんて 投稿日:2002年02月24日(日)13時31分47秒
- 「じゃあ、他に何が重要なんですか!」
面と向ってバカ呼ばわりされたことが、気に入らないのか半ば怒ったような口調で
加護は言い返す。
「それは、目だよ、目!」
へっ……目ってどういうこと?
「何だ、そのボケっとした顔は?全然分かってないって顔だな、おい。
いいか、お前はスタートが遅すぎるんだよ。ピッチャーのクセを見抜ければもっとスタートが早くなるんだよ。
まあ、今度オイラが見本見せてやるよ」
- 146 名前:はいめんて 投稿日:2002年02月27日(水)00時43分04秒
- うーん。何か納得いかないなぁ……。
ちょっと、素振りでもしてこよう。
あれ?
夕食後の少々重くなった体に鞭を打ち、飯田がバットを抱えホテルを出るとすぐに、ビュ
ッ、ビュッという風を切る音が耳に入ってきた。
何だ、先約がいるのか。
いったい、誰だろ?
あれ、なっちじゃん。
その正体はシルエットでも分かるが、何よりそのスウィングスピードで分かる。
何しろ10メートルは離れている飯田のところまで、風を感じることができるのだ。
- 147 名前:はいめんて 投稿日:2002年02月27日(水)00時43分51秒
- 「あっ、カオリじゃん。カオリも素振りしに来たの?」
安倍も飯田の影に気がついた。
「まあね。今日の試合、納得いかなった点が多かったから」
「なっちは、みんなの試合見てたら、居ても立っても居られなくなって。」
そう言って安倍は屈託なく笑った。
「今日はカオリの3ベースで試合決まったようなもんだよね」
「そんなことないよ。」
「でも、あのころのカオリだったら多分キレてたよね」
「そんな昔のことはいいじゃない」
飯田はすねたように言った。
- 148 名前:はいめんて 投稿日:2002年02月27日(水)00時44分35秒
- 安倍なつみと飯田圭織。
2人とも高校時代に北海道の大型スラッガーとして名を馳せた。
それも、まったく同じ時期に。
その年の全国高校野球選手権夏季大会南北海道予選決勝は
大方の予想通り、安倍率いる室蘭大谷と飯田率いる北海の激突となった。
それまでの6試合で、安倍、飯田は同じく7本のホームランを打っており、
この試合は北海道NO.1スラッガー決定戦の様相も呈していた。
だが、この試合は思いもよらない一方的な展開となる。
- 149 名前:はいめんて 投稿日:2002年02月27日(水)00時46分07秒
- 2人の明暗を分けたのは、そのポジション。
安倍はこのころからサードを守っていたが、飯田の当時のポジションはキャッチャー。
飯田は自らが打つと同時に安倍を抑えることも考えなくてはならない。
だが、安倍に第1打席といきなりホームランを浴びてしまった。
これで、飯田は平常心を失った。
自分のバットで借りを返すという思いが強くなりすぎたせいだろう。
明らかにホームランを狙った大振りにボールは当たってくれなかった。
結局この試合は8−1で室蘭大谷の大勝。
両主砲の成績は、安倍が6打数4安打、1ホームラン、5打点。
一方の飯田は4打数ノーヒット、3三振。
極めつけは、8回にまわってきた、1アウト満塁のチャンスにひっかけてゲッツー。
まったくいいところがなかった……。
- 150 名前:はいめんて 投稿日:2002年02月27日(水)00時46分46秒
- この後、室蘭大谷は甲子園では二回戦で敗退したものの、安倍自身は3本のホームランを
放ち、その実力を全国に見せつけた。
そして、その年のドラフトで近鉄に指名されたのである
一方の飯田もプロ入りを熱望していたものの結局指名はなく、社会人の王子製紙苫小牧に
進むことになる。
飯田と安倍は高校時代からライバル校同士ながら仲がよかった。
練習試合で何度か会っていたが、すぐにウマが合った。
お互いなによりも、純粋に野球が好きだというところに惹かれあったのだろう。
だが仲がよくても、いや仲がいいからこそ安倍には勝ちたい、飯田は高校時代からずっと
そう思ってきた。
- 151 名前:はいめんて 投稿日:2002年02月27日(水)00時49分38秒
- 本当に久々の更新です。
今月になれば、少しはペース上がるといってこのザマです(苦笑)。
本当に申し訳ありません。
こんないい加減なヤツの作品ですが、よかったら見捨てないでください。
- 152 名前:はいめんて 投稿日:2002年02月28日(木)23時06分41秒
- 「こんな試合じゃ参考にもならへんわ」
大会2日目、台湾−フィリピン戦を見にきていた、中澤はため息混じりにそうもらした。
「主力温存してこの展開だからね〜」
同じく、この試合を見にきていた飯田も苦笑しながら答える。
試合は6回途中で14−1、台湾のワンサイドゲームだった。
「まあ、うちらもフィリピン戦はアマ中心で戦ったからお互い様っちゅうことやな」
さて……、カオリ帰るで。こんな試合もう見ても意味ないやろ。」
「そうだね、裕ちゃん。いくら試合に出たうちらが練習免除されたからっていっても少しは体動かさないとね」
やっぱり、台湾は楽に勝たせてくれへんようやな。
今日分かったことってこれくらいやろか……。
- 153 名前:はいめんて 投稿日:2002年02月28日(木)23時07分14秒
- 「おっ、みんな集まってるようやな。さっそく、明日のオーダー発表するで」
寺田のその声を聞いた瞬間に、夜のミーティングに集まった選手達の表情が
一気に引き締まった。
「一番セカンド矢口」
「!」
その瞬間加護の顔は引きつった。
アマチュアレベルでは加護の守備力は群を抜いている。
その守備範囲や判断力には疑いはない。
ただにも欠点はある。
それは肩の弱さである。
加護の肩ではショートやサードをこなすことは難しかった。
つまり、矢口がセカンドに入るということは、自分が控えに回るということ。
そして、辻が寺田に選ばれたということを意味するのだ。
何でや……、何でうちが選ばれんのや。
- 154 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 155 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 156 名前:村田城主久保竜彦 投稿日:2002年03月03日(日)19時51分37秒
- 何度か・・よまさせていただかせております。
・・・著者が・・某所でいった更新条件は・・・
今日、サンフレッチェ広島が開幕戦勝つこと!
今日、札幌に快勝というか・・・圧勝!
しかも、著者の好きなメロンメンバーのバースディですし・・・
つづき・・・期待してます
- 157 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月03日(日)22時18分27秒
- 「2番ショート福田。3番ファースト飯田。4番DH安倍。5番ライト石黒
6番キャッチャー市井、7番レフト保田、8番センター吉澤」
次々とメンバーが発表されていく。
そして……
「9番サード辻」
「わーい。やったぁ」
自分がスタメンに選ばれたことを辻は素直によろこんだ。
となりの加護の顔がゆがんでいるのにも気付かずに……。
- 158 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月03日(日)22時22分01秒
- 「んで、先発は稲葉、お前や。」
「はいな」
待ってました、と言わんばかりの表情で稲葉は返事をした。
「たしかに、明日の試合は予選リーグやから負けても問題ない。
でも、絶対に決勝リーグでも戦かわなあかん相手や。
だから決勝リーグで抵抗する気がなくなるように、ここで叩いとくんや。
そうすりゃ、後が楽やからな」
珍しく寺田のゲキが響いた。
- 159 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月03日(日)22時22分36秒
- 9月13日、日本−台湾戦。
天候はくもり。予報では雨は降らないようだったが、空には光を遮るように
厚い雲が覆いかかっていた。
稲葉さんの球ってこんなもんなの?
ブルペンで稲葉の球を受けていた大谷は、正直不安になった。
いくら、技巧派として知られている投手とはいえ、この程度の球なら
高校生クラスに大勢いる。
「稲葉さん、これで全力なんですか?」
「ああ、これがうちの全力や。まあ、130出てないやろな。」
そういって、稲葉は笑った。
「まあ、大船に乗ったつもりで見てな。伊達にうちもプロで飯食ってないんやから」
こんなんで大丈夫なの?
大谷の表情がそう訴えっていることに気がついた稲葉は自身満々といった表情でそう答えた。
- 160 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月03日(日)22時23分33秒
- 「まいったね。まさかうちにも控えメンバーでくるとはね」
今日も台湾はフィリピン戦と同様のオーダーであった。
「決勝リーグまで、手の内隠すってか。こうなったらギッタンギッタンにやつけちまおうぜ!」
矢口は、苛立ちを抑えずにそう言った。
- 161 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月03日(日)22時24分27秒
- 日本の先攻で試合開始。
トップバッターの矢口が右のバッターボックスに立った。
徹底的に叩きのめして、例えベストメンバーにしても勝ち目がないと思わせてやる。
ピッチャーはゆっくりとした動作で振りかぶり、第一球を投じた。
よし、これは外に外れる。
そう思って、矢口は余裕をもって外角のストレートを見送った。
だが……
「ストラーイク!」
審判の声が響く。
な、何でだよ。
ボール1つ分、いや1つ半ははずれてたぞ。
思わず、審判の方を向いしまった。
- 162 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月03日(日)22時24分59秒
- 2球目は外へのスライダー。
「ストラーイク!」
またかよ……。
これも矢口はボールと判断していた。
何なんだよ、この審判は……。
野球とは、不思議なスポーツである。
ストライクゾーンが国によって違うことが多い。
いやそれどころか、国内でも違う場合がある。
日本でも、セ・リーグとパ・リーグでストライクゾーンが微妙に異なる。
サッカーが国によってゴールの大きさが違うなんてことは聞いた事がない。
バスケットが国によってゴールの高さが違うなんてことも同様である。
そして、国際試合にも、国際試合のストライクゾーンがある。
これは、日本のストライクゾーンよりもかなり外をとる。
だが、プロとしてずっと試合していればそのストライクゾーンがすでに体に染み付いてい
る。
いきなり、いままでよりもボール2つ分外までストライクと考えろといわれても
難しいものがある。
- 163 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月03日(日)22時25分39秒
- だいたい、あんな外まで(ストライクと)とられたら、オイラの腕じゃ届かないよ。
………。
「タイム」
矢口は審判にタイムを告げ、ベンチに向う。
「あれ、矢口どうしたの……って、あ〜、カオリのバットォー」
「悪い、カオリ。バット貸して」
そういうと、飯田の返事も聞かずにバッターボックスに戻った。
- 164 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月03日(日)22時26分13秒
- ふ〜ん、あんな長いバット持ち出して。
それじゃあ、外角狙ってますって言ってるようなものじゃない。
台湾のキャッチャーはほくそえむ。
そう、飯田のバットは飯田の希望もあり39インチもある。
それを145センチの矢口が振っている姿は何だが、滑稽でもある。
第3球目、内角高めへのストレート。
ニヤッ
「!」
キャッチャーは、打つ直前矢口の口元がほころんだのを確かに確認した。
鋭く振りぬかれた打球は3遊間を抜けてレフト前へ。
ノーアウト、ランナー1塁。
くそっ、わざわざ長いバット使ったのは内角投げさせるためだったのかよ。
- 165 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月03日(日)22時27分03秒
- さてと……。
矢口は、ジリジリとリードを広げていく。
おら、牽制してこいよ。
セットポジションからピッチャーの右足が上がる。
その瞬間、矢口は帰塁する。
余裕をもってセーフ。
はじめから、走る気なんかないやんか。
あれは、塁に戻ることしか考えてない戻り方やで。
あんなんでホントに盗塁の見本を見せてくれるんか、矢口さん。
- 166 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月03日(日)22時27分48秒
- 「ボール」
何球牽制しても大きいリードを取りつづける矢口にペースを乱されたのか、福田への初球は明らかなボール球。
なるほど、コイツは牽制下手だな。
もうクセは見抜いた。
よし!
ピッチャーが投球動作を起こすか起こさないかのうちに矢口はスタートをきる。
「!」
何やねん。あのスタートは。
ピッチャーの右足の動き出しと同時やんか。
キャッチャーはセカンドに投げることもできない。
矢口はベンチの加護の方を見る。
どうだ、これがホントの盗塁ってヤツだよ。
- 167 名前:純(量産型) 投稿日:2002年03月09日(土)01時44分44秒
- >どうだ、これがホントの盗塁ってヤツだよ。
かっこいいッスねぇ。
心理戦って経験がモノをいうんですよね。
- 168 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月18日(月)23時32分56秒
- この後、福田は送りバントをきっちり決め、1アウト3塁。
先制の絶好の機会。
この好機に飯田がバッターボックスに入る。
初球、真ん中よりもやや高めのストレート。
完全なコントロールミス。
もらった。
飯田のバットが球をとらえる。
カァーン
高い音をたてて飯田の打球は舞い上がる。
あれ?
だが、球がとんだ方向は後ろ。
打球はキャッチャーミットに収まった。
- 169 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月18日(月)23時34分08秒
- 2アウト3塁と変わり、ここでバッターボックスに入るのは、
大阪近鉄の、いや日本の主砲安倍なつみ。
彼女の今大会はじめての打席。
安倍はバッターボックスに入ると、まず足場を固め軽くスイングした後にゆっくりとかまえた。
これは、いつもと同じ安倍のリズム。
多くの投手は、安倍のリズムに取り込まれてしまう。
安倍がかまえたのと同時に投球動作を開始し、安倍に一番いいタイミングでのバッティングを許してしまうのだ。
いわゆる「格」が違うというヤツである。
- 170 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月18日(月)23時34分56秒
- そして、この打席もそう。
完全にピッチャーは安倍にのまれていた。
初球、内角低めスライダー……だったキャッチャーのサインは。
だが、実際に投げられた球は内角にこそきたが、高低は真ん中。
安倍は初球から積極的に打ちにいくタイプ。
この球を見逃す理由はない。
よし、のった。
- 171 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月18日(月)23時35分26秒
- 安倍に言わせると、ホームランを打つ秘訣はバットにボールをのせること。
ボールを叩くというよりは運ぶという感覚。
その感覚がはっきりと手に残った。
安倍の意思を与えられたボールはレフトスタンドへ。
「よおし!」
バットを大きく放り投げ、両手でガッツポーズ。
少数ではあるが、韓国まで駆けつけた筋金入りの野球ファン達は
ゆっくりとホームへ還ってくる安倍を近鉄ではおなじみの
「なっちありがとう」コールで迎えた。
1回の表、全日本2点先制。
- 172 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月20日(水)00時27分24秒
- マウンド上にいるのは魔術師か?
その左手は魔法のステッキ。
130キロに満たない直球を150キロの豪速球にしてしまう。
その証拠にバッターはストレートに手がでない。
でも、スピードガンの表示はMAX127キロ。
いったいどういうことなんだ?
台湾の選手は皆キツネにつままれたような表情でベンチに戻る。
マウンド上で、薄笑いを浮かべている稲葉とはあまりにも対照的であった。
- 173 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月20日(水)00時28分33秒
- 150キロのストレートを投げる投手が100キロの変化球をまったく同じフォームで投げたら打ち崩すことはかなり困難である。
しかし稲葉の直球は120キロ台。
これでは100キロの変化球を投げてもタイミングをはずすのは難しい。
だが、稲葉の伝家の宝刀ともいうべきスローカーブの球速はなんと70キロ台。
それもストレートとフォームが全く同じなのだ
速い球が投げられなければ遅い球を投げて緩急をつけようということである。
つまり、70キロの後の120キロは100キロの後の150キロと同じ。
単純なことだが、これが魔法の正体である
- 174 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月21日(木)00時21分03秒
- 主砲の一発と先発稲葉の好投。
これで全日本のペースになるかと思いきや、台湾の必死の粘りと
慣れないストライクゾーンに苦しめられ2回以降追加点を奪えないでいた。
こうなると頼りになるのは魔術師様。
稲葉は立ち上がりからずっと快調なピッチングを続けている。
うちの魔法はそう簡単に解けへんよ。
試合は7回の表まで進み以前2−0。
- 175 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月21日(木)00時23分36秒
- 「世の中に不思議なことなんてないんですよ」
突如口を開いたのは、スラッとした細身の背番号20番。
「どんなに速く見えても、実際は120キロ台のストレートなんです。
つまり、絶対に打てる球なんですよ。あのスローカーブに気を取ら
れなきゃ。今までの攻め方を見てるとほとんどが、ストレートかス
ローカーブのどちらかなんです。それに向こう同じ球だけでは攻め
られない訳ですから、どっちに狙いを絞っても最低1球はきます。
最初からどちらかの球に狙いを絞って待ってれば簡単に打てますよ」
彼女は、背中まで伸ばした髪を書き上げながら自信満々に言い放った。
- 176 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月22日(金)01時16分42秒
- 何で……こんなに打たれるんや。
カーブを完璧に捉えた当たりは、保田のグラブをかすめ左中間を破った。
「これで5−2か。たまにはYOUの言うことも当たるようだな」
小馬鹿のしたような口調で20番の女に話し掛けたのは監督らしき、長身のがっしりした男。
「『たまには』は余計です。少なくともウエダさんよりは当たります」
20番の女は露骨にむっとした口調で言い返した。
- 177 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月22日(金)01時17分14秒
- 7回の裏、稲葉は一気に崩れた。
狙い球を絞るという台湾の作戦は予想よりもはるかに効果があった。
いきなり連打を浴び、ノーアウト1,2塁になると、打たれまいという意識が強くなり
腕に余計な力が入る。
力んだ投球は稲葉の生命線である緩急を奪った。
スローカーブにブレーキがかからなくなり、球速があがってしまう。
そうなってしまえば稲葉は並以下の投手だ。
打ち崩すのは造作もないことだった。
- 178 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月22日(金)01時33分40秒
- 「村田!頼んだで。これ以上の失点は試合を決めかねんからな」
寺田はついに稲葉を諦め、マウンドに村田を送り出す。
3点差をつけられ、なおも1アウト2塁。
まず始めのバッターは、最初から歩かすつもりのフォアボール。
- 179 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月22日(金)01時34分52秒
- ここからが、“精密機械”の本領発揮。
初球、内角低めのスライダーでまず1つストライクを奪う。
右ピッチャーと右バッターの対決においてスライダーは外へ投げる
というのが定石。内角へのスライダーは少しでもコントロールが狂
うと中へ甘く入ってしまうので、リスクが大きい。その点外角への
スライダーはずれてもボールになるだけであるためリスクが少ない。
村田はよく内角へのスライダーでカウントを稼ぐ。コントロールに
自信がなければできない芸当である。
そこから、2球目、3球目とわざとはずして1−2。バッティングカウ
ントを作り上げる。とどめは、外角低めへのチェンジアップ。これを狙
い通りに引っ掛けさせて4−6−3のダブルプレー。
いとも簡単にピンチを抑えてみせた。
- 180 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月22日(金)01時47分13秒
- 村田めぐみは思う。
本格派ってなんだ?
速球投げられない投手はゲテモノってか?
ふざけてる。
よく速球にこだわったばかりに打たれる投手がいる。
バカじゃないの?
本気でそう思う。
でも、TVでえらそうなことを言っている解説者なんかは
いい勝負が見られただの、これが本当の勝負だのといって
美化する。
打者に打たれないために変化球は生まれたんじゃないの?
それを邪道扱いするなんておかしくない?
- 181 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月23日(土)05時06分07秒
- 8回の表。
この回の先頭は保田。
保田といえば守備の人のイメージが強い。
だが、それは保田の守備力があまりにも突出しているため。
決して、バッティングが悪い訳ではない。
2−2からの5球目。
内角低めのストレート。
よし、狙いどおり。
保田のバッティングの武器は、その洞察力。
- 182 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月23日(土)05時07分08秒
- バッターには大きく分けると2通りある。
単純に来た球に対応するタイプとあらかじめ配球を読んである程度の予測
を立てるタイプである。
保田はとびっきりの後者。
保田が思いっきりひっぱたいた打球は文字通り火の出るような勢いで3塁線を破った。
ノーアウト2塁。
- 183 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月24日(日)05時25分13秒
- ここは打たなきゃいけない場面だ。
ネクストバッターズサークルで何度もバットを振り回していたことからも
吉澤の気合の入りようがわかる。
「おし!」
自らを鼓舞するように声をあげてバッターボックスに入る。
- 184 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月24日(日)05時26分05秒
- 気合が入ってるのは次の辻も同じ。
辻はこれまで3打席3三振。
フィリピン戦のホームランのイメージを強く持ちすぎたのか
この試合では大振りが目立っている。
次の打席こそは……。
しかし、辻に3打席の挽回をするチャンスは与えられなかった。
「辻、ご苦労」
「えっ、交代ですか……」
気合に満ちていた辻の表情が、一瞬にしてくもる。
寺田はこの試合、始めから辻と加護の両方を使うつもりであった。
辻と加護にとって、この試合がレギュラーの座を決める実戦テストだったのだ。
- 185 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月24日(日)05時26分47秒
- 「悪いなのの」
「あいぼん……」
辻は目の前のおやつが取り上げられたような表情で加護を見る。
のの、うちは今までずっとそういう気分を味わってきたんやで。
ののには悪いが、このチャンス逃すわけにはいかへん。
- 186 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月24日(日)05時27分44秒
- 外角低めへのカーブに体がおよぐ。
ブン。
吉澤のバットは見事に空をきった。
「くそっ!」
三振にたおれた吉澤はバットを地面に叩きつける。
気合が入ってるのはいいけど力みすぎだよ。
メンタルトレーニングがなってないからそうなるんだよ。
保田は心の中で毒づいた。
- 187 名前:はいめんて 投稿日:2002年03月24日(日)05時28分40秒
- 「この!」
外角のチェンジアップをかろうじてカットする。
これで3球連続のファール。
この打席だけは打ち取られる訳にいかんのや。
もう、ののに負けとうないんや。
次は9球目。
加護の執念に根負けしたのか、カーブが真ん中よりの甘いコースへ。
もろうた!
ボールが加護のバットに吸い込まれる。
ピッチャーの足元をぬけるキレイなセンター返し。
2塁ランナーの保田が生還。
1点返して、なおも1アウト1塁。
そしてバッターはトップに返って、矢口真里。
- 188 名前:鑑真号にのる悲しい29歳 投稿日:2002年03月26日(火)23時05分45秒
- 義父さんのスタンスはさっき言った通りよ。
ひたむきな努力は報われる事が素晴らしいのではなく、
その行い自体が大切な事を忘れないで。
- 189 名前:はいめんて 投稿日:2002年04月01日(月)00時08分44秒
- 矢口はまた飯田の“物干し竿”を手にバッターボックスへ。
「このぉ」
矢口は外角のチェンジアップをカットする。
これが、6球目のファール。
台湾バッテリーは矢口に対し徹底的な外角攻め。
しかし、ここからが矢口の本領発揮。
抜群のバットコントロールで外角のボールをカットしていく。
第1打席で飯田のバットを使ったのは内角に投げさせるためであったが、
この打席は、外角いっぱいにバットを届かせるため。
外の球を打ち返す必要はない。
さて、先に我慢できなくなるのはどっちかな?
「うりゃ」
懸命に外のストレートに喰らいつく。
矢口の打球は3塁側のスタンドに飛び込んだ。
おおー。
スタンドからどよめきがおこる。
なにしろこれが10球目のファール。
2−3になってから7球連続のファール。
まさに、トップバッターに必須のいやらしいバッティングの見本とでもいえるものであった。
そろそろかな。
明らかにピッチャーは焦れてきているのが表情からも分かる。
次の球はすぐにそれと分かる高めのボール球だった。
矢口の粘り勝ち。
これで2アウト1,2塁。
- 190 名前:はいめんて 投稿日:2002年04月01日(月)00時10分37秒
- 訂正
>>189の最後は
2アウトじゃなく1アウトです。
やってもうた……。
- 191 名前:とまときっど 投稿日:2002年04月30日(火)05時42分10秒
- 続き、期待中。
気長にいきまっしょい!
- 192 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年05月22日(水)12時55分43秒
- 期待して待っています。
- 193 名前:はいめんて@作者 投稿日:2002年05月22日(水)23時27分10秒
- なんというか、長い間放置してしまいました(苦笑)
理由は仕事が忙しいとか色々あったのですが。
で、自分のサイトつくってしまったので、今後そっちで続けようかと
思ってます。
すみませんが、そういうことなので、もし興味を持っていただけたのならば
こちらのほうに。
http://members13.tsukaeru.net/haimente/
Converted by dat2html.pl 1.0