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初めての夏休み
- 1 名前:みや 投稿日:2001年09月13日(木)22時06分59秒
- 主演:加護亜依
中学1年生になった加護が初めて迎える夏休み。
すごい田舎のばーちゃんちに向かった彼女。
そこでおこる、いろいろな出来事。
共演は、まあ予想できるような人々が出てきます。
- 2 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月13日(木)22時10分21秒
- タイトルは、某1日テレビ内のドラマからの裏ぱくりですが、中身は全然関係ありません。
誰も白血病にはなりません。
本当は、”亜依の夏休み”になるはずだったのですが、どこかに”ののの夏休み”というのがあったのでやめました。
夏がもう終わりを告げつつある時期になってしまいましたが、タイトルどおりの真夏の話です。
- 3 名前:1 ばーちゃんち 投稿日:2001年09月13日(木)22時13分03秒
- うちは加護亜依。
12歳。
中学1年生や。
今は、人生初の夏休みや。
中1なら全然人生初やないやろって?
それが違うねん。
うち、小学生の頃は、おかあちゃんに、頑張れ、頑張れ、言われてお受験目指して一直線やったんや。
だから、当然夏休み、なんちゅうもんは、塾の強化合宿に行かされてたってわけ。
そのおかげで、頭いいねんで、うち。
そうは見えない、なんて言ったら嫌やで。
そうは見えないように振る舞うのが、本当の頭のいい人間ちゅうもんなんや。
まあ、それはともかくとして、頑張った甲斐あって、なんとか大学までエスカレーター状態の学校に入れたわけや。
今年の夏休みは、そのご褒美ってことで、お母ちゃんはうちに好きなように過ごしてええで、って言ってくれた。
それで、うちはどうしたかっちゅうと、「ばあちゃんちに行きたい!」って言ったわけや。
- 4 名前:1 投稿日:2001年09月13日(木)22時14分52秒
- ばあちゃんちは、とんでもない田舎や。
だけど、行ってみたかったんや。
ちっちゃい頃一度行ったきりでほとんどあったこともないばあちゃんやけど、なんかあいたなってしもたんや。
それに、なんにもない田舎っちゅうのにもあこがれたしな。
まるで、おばはんみたいな言い方やけど、気にせんといてや。
というわけで、今、ばあちゃんちにむかってる。
宿題は全部持ってこさせられたから、あんましのんびりって感じや無いけど、入学祝いに買うてもろたプレステ2もこっそり持ってきた。
夜中までやるんや。
ばあちゃんにはおこられへんしな、たぶん。
しかし、さっきからトンネルと畑と、田んぼしかあらへんで。
大体電車1両やし。
そうそう、言い忘れ取ったけど、もちろん一人で来たんやで。
一人で、これだけ長い時間、電車乗り継いで来たんや、うちって大人やろ?
- 5 名前:第1話 投稿日:2001年09月13日(木)22時16分31秒
- そんなん、思いつつ、ぼーと外見とったら、車掌さんが切符チェックに来よった。
「切符拝見します。」
ちっちゃな車掌さん。
うちより小さいんちゃうか?
「んっ?姫牧まで行くんだ。のんびりしたいいところだよ、姫牧は。」
「夏休みにおばあちゃんちにいくんです。」
「そっかあ、一人でおばあちゃんちにいくんだ。偉いねえ。楽しい夏休み過ごすんだよ。」
「はい。」
うちよりちっちゃなかわいい車掌さん。
そっか、姫牧はいいところなんだ。
楽しみだな、ばーちゃんち。
どんなとこなんやろ。
やっぱ、なんもあらへんのかなあ。
うちのんびり夏休みなんて過ごしたことあらへんから楽しみや。
- 6 名前:第1話 投稿日:2001年09月13日(木)22時17分28秒
- 「次はー、姫牧、姫牧でーございます。お下りの方は、前扉よりお下り下さい。」
なんちゅうことをおもっとったら、ようやく目的の駅に着いた。
電車やのに、前の扉からしか降りられないんかい。
しっかし、ほんま、なんもないんやな。
だけど、一応駅舎はあった、無人駅だけど。
「姫牧は、のんびりしたすごいいいところだから、楽しい夏休み過ごすんだよ。いっぱい思い出作りなね。」
「はい。車掌さんも、お仕事頑張って下さい。」
「うん、ありがとう。」
- 7 名前:第1話 投稿日:2001年09月13日(木)22時18分43秒
- 切符を車掌さんに渡して、駅舎に入っていったら、ばーちゃんがすわっとった。
「ばーちゃーん!」
「おー、亜依、久しぶりだねえ。」
「ばーちゃん、元気やった?」
「あー、あー元気だったよ。亜依はどうだい?いくつになった?」
「亜依12歳になったよ。中学校入ったんやで。」
「おー、そうかそうか、大きいなったなあ。」
「ばーちゃん、早くばーちゃんち行こうよ。」
「おー、そうだねえ、じゃあ行こうか。」
- 8 名前:第1話 投稿日:2001年09月13日(木)22時20分07秒
- ばーちゃんちは遠かった。
駅からタクシーで30分。
ほんまになんもないんやで。
スーパーがなければ、コンビニもあらへん、マクドもあらへんし、大体、家以外の建物見かけへんで。
どないして暮らしとるんやこの辺の人。
大丈夫なんか?こんなとこに1ヶ月もおって・・・。
なんか、不安になってきてもうた。
だけど、ばーちゃんちまでの30分は、畑の真ん中通ったり、坂道やったり、森の中通ったりなんかちょっと冒険気分やった。
とりあえず、探検から始めるかな。
- 9 名前:第1話 投稿日:2001年09月13日(木)22時22分15秒
- 「亜依、ついたよ。」
「ついた?これがばーちゃんち?おっきーー!!」
「ははは、田舎だからねえ。こんな広い家に独りで住んでるのも寂しいんだよ。亜依が来てくれてばーちゃんはうれしいよ。」
「ホント?ホントに?」
「ほんとさあ、亜依のためにごちそう用意したんだから、たくさん食べるんだよ。」
「うん。」
ばーちゃんちは、古い日本家屋って感じやった。
日本家屋なんて、難しい言葉ちゃんとしっとるんよ、うち。
庭、っていうか、ほとんど広場みたいなのもある。
うーん、田舎やなあ。
うちが、イメージした通りや。
とりあえず、まず荷物をおいて、うちは散歩してみることにした。
- 10 名前:第1話 投稿日:2001年09月13日(木)22時23分18秒
- 「ばーちゃん。ちょっと散歩してくるね。」
「もうすぐ日が暮れるから、あんまり遠くにいかんようにな。」
「はーい。」
時計を見たらもう5時過ぎやった。
まあ、今日家を出て遠いとこまで来たんやから、こんな時間にもなるわな。
まわりを見れば、田んぼと畑。
ちょっと先には森がある。
とりあえず、田んぼに挟まれた狭いあぜ道をあるってみた。
なんか、虫がいっぱいや。
それに蝉が鳴いとる。
ミーンミーンいうやつだけやない。
ジージーいうてるのもおる。
蝉っていっぱい種類おるんやな。
田んぼには、鴨が泳いどった。
なんか、田んぼんなかの虫をついばんどる。
かわいいなあ。
- 11 名前:第1話 投稿日:2001年09月13日(木)22時23分57秒
- それにしても、ホントのどかや。
車掌さんの言ってたとおり、この村はのんびりした感じ。
でも、1ヶ月おるんはちょっと不安やな。
暇すぎて退屈したりするかもしれへん。
暗くなってきたから、ばーちゃんちに帰ったら、夕飯ができとった。
「亜依のためにたくさん作ったから、いっぱい食べなね。」
うっ、なんか、和食ばっかしや。
なんやっけこれ、佃煮いうたかな?
あとは、うちが苦手な漬け物がたくさん並んどるし、あっ、肉じゃがはうち好きや、大丈夫や。
そやけど、どっちかつうと、苦手なもんがおおいなあ。
でも、ばーちゃん、作ってくれたしなあ・・・。
- 12 名前:第1話 投稿日:2001年09月13日(木)22時25分00秒
- とかなんとか思いつつ、ばーちゃんのために、苦手なもんもけっこう食べたんや。
うちって偉いやろ?
たくさん食べて、後かたづけてつだっとったら、ばーちゃんが見せたいもんがあるいうんや。
「亜依、向こうじゃ見られないいいものがあるから、庭に出よう。」
「うん、ええよ。」
「よし、それじゃ、スイカ切って持っていこう。」
「やった!」
それで、スイカを持って、庭にでたんや。
「ばーちゃん、見せたいもんってなに?」
「亜依、上を見てごらん。」
「上?」
見上げた空は、一面光っていた。
赤いの、青いの、そして白いの。
いろんな光が、夜空一面に輝いていた。
- 13 名前:第1話 投稿日:2001年09月13日(木)22時25分38秒
- 「・・・すごい。これ、全部、星?」
「そうだよ。都会じゃ見られないでしょ。」
「・・・うん。」
びっくりした。
星って、10個とか20個とかしか見れないもんだと思ってたから、うちは、仰向けになって、ただただ見とれとった。
「あっ!流れ星!」
生まれて始めてみる流れ星。
うちは、楽しい夏休みになるようにってお祈りしたんや。
神様、お願いや、うちの人生初めての夏休み。
楽しい夏休みにしてや。
- 14 名前:作者 投稿日:2001年09月13日(木)22時28分46秒
- 第1話ここまでです。
簡単に言うと、長い前振りというところ。
第2話から本編っぽくなっていきます。
一箇所入れ忘れたところあったけど、話が普通に通るので、そのままにしました。
無駄な描写の多いことが、自分で分かってショック・・・。
- 15 名前:第2話 お化けの森 投稿日:2001年09月14日(金)21時20分07秒
- うーん、ひまや。
ほんまに田舎ちゅうのはなんもあらへんのやな。
ばーちゃんちも広いだけで何もあらへんし。
田舎にあこがれて来た言うても、何するかまでは考えてへんかった。
さすがに、プレステにも飽きたなあ。
三日三晩やり通しやったからなあ。
うち、元々ゲーマーやあらへんから、エンディング見てもうたら、もうええねん。
他にもゲームは持ってきたけど、大体、何でここまで来てゲームしてるんや?うちはまったく。
もうすぐ7月が終わってしまう。
せっかく来たんや、外出せなしゃーないな。
- 16 名前:第2話 投稿日:2001年09月14日(金)21時21分30秒
「ばーちゃーん。ちょっと散歩してくる。」
「外は、暑いよ。きいつけてな。夕飯までには帰って来るんだよ。」
「はーい。」
とりあえず、向こうに見える森まで行ってみるか。
畑と田んぼに囲まれた一本道。
あっついなあ。
まあ、夏やし、しゃーないんやけど。
畑では働いてる人がおる。
なんか、のどかやなあ。
こういうの見たくて、田舎に来たんやったっけ。
でも、森の中に入ったら、すごく涼しかった。
不思議や。
これなら、クーラーとかいらへんな。
蝉がないとる。
ミーンミーンてやつだけやあらへん。
なんか他にもジージー言うてるのとか、いろいろおる。
こういうのもええなあ。
- 17 名前:第2話 投稿日:2001年09月14日(金)21時22分24秒
- 道は舗装なんかされてへん。
けものみちってやつや。
片方は、崖みたいになっとって、草で覆われとる。
もう片側は、木がいっぱいや。
そうや、これが田舎や。
うーん、いやされるなあ。
薄暗い森っちゅうのもええもんや。
なんか、うち、おばはんみたいや。
- 18 名前:第2話 投稿日:2001年09月14日(金)21時23分03秒
- 突然、崖の側から人が現れた。
「えっ?えっ?」
何?何?
なんで、こっから人が出てくるん?
小学生?
いや、制服着とる。
えっ?なんで?
夏休みやろ、今。
だれ?
お化け?
うそ?
「ぎゃーー!!」
もう、どこを走っとるかわからへん。
でも、なんとか森を抜けて、元の畑と田んぼの一本道へもどっとった。
- 19 名前:第2話 投稿日:2001年09月14日(金)21時23分51秒
- なんだったんだ、あれは。
ほんまにお化けなん?
あーこわっ。
崖のぼって来るってどういうこっちゃ。
あっ、足無いから、別に崖とか関係ないんか。
ぞぉーー!!!
寒!
ほんまにお化けやん。
- 20 名前:第2話 投稿日:2001年09月14日(金)21時24分30秒
- 帰ってばーちゃんに話したら笑われた。
「亜依、そんなに昼間から、お化けなんて出ないよ。」
「でも、でも、見たんやて。崖からぬっと現れたんやて。」
「亜依は、何か悪いことしたの?」
「そんな、してへん、してへん。多分・・。」
「じゃあ、大丈夫だよ。お化けだって、悪いことしてない子には、何にもしないよ。」
「ほんまに?」
「ああ、ほんとだよ。」
「だったら、なんで出てきたんかなあ。」
「亜依と友達になりたかったんじゃないのかい?」
「お化けが?うちと?」
「うーん、分からないけど、きっとそうなんじゃないかな。」
- 21 名前:第2話 投稿日:2001年09月14日(金)21時25分03秒
- 翌日、うちは探検に出かけた。
お化け退治や。
ばーちゃんはああ言っとるけど、もし、ほんまにお化けやったら退治せなあかん。
でも、小学生の女の子か。
ちょっとかわいそうかな。
いや、ここは心を鬼にして退治せなあかん。
ちゃんと、装備も調えた。
昔じーちゃんが使ってたっていう剣道の竹刀も持った。
昨日は、びっくりしてこわなって逃げてもうたけど、今日はちゃんと戦うんや。
絶対に、退治したる。
ばーちゃんは、うちの格好を見て笑ったけど、ばーちゃんのためにも退治して帰ってくるんや。
- 22 名前:第2話 投稿日:2001年09月14日(金)21時25分33秒
- 昨日よりも1時間位早く、その場所に着いた。
周りを見回す。
薄暗い。
崖の側は、草がぼーぼーに生えとるけど、人の足でも、なんとか降りたり上ったり出来ないことはなさそうだ。
昨日と同じや、蝉がないとる。
ちょっと怖い。
怖いから、いろんな歌うたっとった。
一学期の音楽の成績は5やったからな、みんなにも聞かせたかったで。
30分くらい経つと、正面のけもの道から何か来た。
昨日の子だ。
昨日と同じように、制服を着とる。
昨日は気づかなかったけど、なにやらバックも抱えていた。
じーちゃんが使ってた竹刀を構える。
- 23 名前:第2話 投稿日:2001年09月14日(金)21時27分36秒
- 「悪霊退散。悪霊退散。」
「だあれ?」
「だあれ?やあらへん。そっちこそ誰や。お化けは退治せなあかんねん。」
「おばけ?生きてるよ。ほら。足もあるし。」
「生きてるよ、やあらへん。昨日、うちのこと襲おうとしたやんか。」
「なんのこと?」
「そこの崖から現れて、うちのこと襲おうとしたやんか。」
「なんだ、昨日の子か。そんなこと無いよ。靴落としちゃったから、拾ってただけ。」
「靴落としたって、やっぱり足無いんやんか。」
「違うよ。履いてる靴じゃなくて、体育館シューズ。ちょっとつまづいた拍子に、もってた靴がそこから落ちちゃったの。だから、降りていってとってたの。」
- 24 名前:第2話 投稿日:2001年09月14日(金)21時28分21秒
- 「体育館シューズ?ホントに?」
「ホントだよ。お化けじゃないよ。人間だよ。」
「じゃあ、じゃあ、なんで、うちのこと襲おうとしたんや?」
「襲ってなんかいないよ。そっちが勝手に驚いて逃げちゃったんだよ。」
「でも、でも、小学生なのに、制服着とるやんか。」
「中学生だよ。中学1年生。」
「ほんまに?1年何組や?」
「何組って、1クラスしかないし。」
「じゃあ、数学で、多項式って習ったやろ。あれ、説明してみ。」
「習ったっけ。てへへ、忘れちゃった。」
「美しいは英語でなんて言うか分かるか?」
「習ってないよ。たぶん。」
「やっぱり、小学生やろ。」
「違うよ。中学生だよ。算数じゃなくて、数学だし。図工も美術になったし、運動会だって、体育祭になったし。」
「うーん。」
- 25 名前:第2話 投稿日:2001年09月14日(金)21時30分31秒
- なんか、おかしくなってきて、わらってもうた。
よく考えたら、ばーちゃんの言うとおり、お化けなんてそう簡単に出るわけもない。
「なんで、笑ってるの?それに、あなた誰?この辺の子じゃないでしょ。」
「分かるの?」
「しゃべり方違うし。それに、この辺の子はみんなおんなじ学校行くから、ちっちゃい頃から友達だもん。」
「そうなんだ。」
「で、どこのこ?夏休みに遊びに来たの?」
「そや、うちは加護亜依。12歳。中学1年生や。」
「ふーん、加護のおばあちゃんとこの子か。」
「ばーちゃん知ってるん?」
「うん、なんか優しいよね。昔は、よく学校の帰りとかに畑で会うと、トマトとかくれたんだよ。」
「そのまま食べちゃうの?」
「うん、取れたてのトマトっておいしいんだよ。帰りにはいつもおなかすいてたから、すごいうれしかったんだ。」
「そーなんだ。ばーちゃんがねえ。」
「ねえ、もしかしてさあ、私のこと退治するためにそんな格好してるの?」
「えっ?あっ?まあ、ええやん。」
「竹刀持って、ヘルメットかぶって、顔黒くなんか塗って、どっちがお化けかわかんないよ。」
「ははは、まあええやん。」
- 26 名前:第2話 投稿日:2001年09月14日(金)21時31分06秒
- こんな風にして彼女と出会ったわけや。
「名前は?」
「辻希美。13歳です。私のがお姉さんだよ。」
「でも、中1なんだから同じやん。」
「そんなこと無いよ。お姉さんだもん。」
このお化け事件が、ののとの最初の出会いやった。
プレステ三昧の寂しい夏休みになるところを、このお化け、やなくてののに救われたっちゅうところやな。
あっ、のの、っちゅうのがこの辻希美のことな。
どうして、ののって呼ぶかは、まだ秘密や。
「何で、夏休みなのに制服なの?」
「部活だったから。学校行ってたの。」
「部活?何やってるの?」
「バレーボールなんだ。ののレギュラーなんだよ。今度見に来る?」
「行く!」
- 27 名前:作者 投稿日:2001年09月14日(金)21時35分57秒
- 第2話ここまでです。
ようやく、準主役が出てきました。
ここから、1話ずつ小さなエピソードの積み重ねです。
まあ、そんなに長くないです。
平和な退屈する話になってます。
そういうのでもいい、って人がいれば、残りを読んでみて下さい。
- 28 名前:第3話 バレーボール 投稿日:2001年09月15日(土)22時10分09秒
- ののは、いいやつや。
あれから、いろんないいとこに連れってくれた。
きれいな小川とか、見晴らしのいい高台とか。
神社でかくれんぼもしたんや。
かくれんぼは、ののにすぐ見つかってばかりやった。
やっぱり、よくあそんどるところだと、隠れる場所っちゅうのもわかるんやろな。
ののと遊ぶのは楽しい。
たまーに畑の野菜とか盗んで食べたり悪さもちょこっとだけしたりもした。
たまにやで、たまにや。
そして、今日は、のののバレーボールの試合を見にいくんや。
ばーちゃんも一緒やで。
- 29 名前:第3話 投稿日:2001年09月15日(土)22時10分45秒
- 「ののー!」
「あー、亜依ちゃん。」
「すごい人やな。」
「うん、試合があると近所の人が見に来てくれるんだ。」
「のの、ほんとに試合でるん?」
「出るよ。」
「そっか、ほな、頑張ってな。うち、応援しとるから。」
「うん。」
- 30 名前:第3話 投稿日:2001年09月15日(土)22時11分23秒
- なんでも、今日はただの練習試合じゃなくて、隣町っていうか隣村の学校との定期戦みたいなものらしい。
ばーちゃんが言うには、隣の町とはお祭りとかでも競い合う仲なんだそうだ。
だから、ただの中学生のバレーボールの試合に人が集まるってわけや。
都会から来たうちが思うに、娯楽が少ないんやな。
でも、ええなあ、こういうの。
- 31 名前:第3話 投稿日:2001年09月15日(土)22時11分55秒
- 「姫牧中、がんばれー!」
おっさんたちの声援が飛んでる。
いかにも農作業の途中で来たって感じやな。
ちょっと酔っぱらいもいるんは気のせいか?
まだ、昼間やぞ。
「ののー!」
うちも負けずに叫ぶ。
ののは、ちょっと照れながらも手を振り返してくれた。
コートの上にいるちゅうことは、ほんまに試合にでるんやな。
ちびっこいのに。
- 32 名前:第3話 投稿日:2001年09月15日(土)22時12分30秒
- 「ののちゃんは、ちっちゃい頃から、かけっことかも速かったみたいだよ。」
「ばーちゃん、のののこと、ちっちゃい頃から知ってるん?」
「うん、なんか、みんなでいたずらしたりしてな、怒られると、一番逃げ足が速いのがののちゃんだったんだよ。」
「そうなんだ。」
「それに、男の子と喧嘩になりそうになっても、ののちゃん、力ずくじゃかなわないから、すぐ逃げちゃうの。だけど、おいつけるこっていなかったんだよ。」
「ののがかけっこなあ。」
- 33 名前:第3話 投稿日:2001年09月15日(土)22時13分22秒
- ふーん。
今は、力も十分強いけどな、とか思う。
この前腕相撲したら、すごい力やったし。
かけっこは、昔のが速いんちゃうか?
まあ、ええけど。
- 34 名前:第3話 投稿日:2001年09月15日(土)22時14分24秒
- 試合が始まった。
なんか、のの、かっこええ。
いつもの間抜け面、やなくて、力の抜けたふにゃーとした感じの表情が今はまるでなくなってもうた。
ああいうのもののの一部なんやな。
ののの役目は、ボールが来たら2番目にさわる役目らしい。
セッターって言うたかな。
あんまし、バレーボールのことはわからへんけど。
第一セットは、のの達の姫牧中が25-22で取った。
近所のおっちゃん達の盛り上がりもすごいわ。
なんか、ハーフタイムショーみたいなのがあるらしい。
吹奏楽部が、いろんな楽器を抱えて出てきた。
ちょっと時間あるみたいやし、ののと話してこよ。
- 35 名前:第3話 投稿日:2001年09月15日(土)22時15分05秒
- 「ののー!」
「あっ、亜依ちゃん。」
「すごいやん。勝てそうやん。」
「うん・・。」
「なんや、元気ないなあ。疲れたんか?」
「そうじゃないけど。」
「そうじゃないけど、何?」
「うーん、後1セットで終わっちゃうんだよね。」
「そりゃそやろ。」
「うーん。」
「どうしたんや、のの。元気だしーや。こんなにたくさん見に来てるんやで、頑張らなあかん。」
「うん、分かってるよ。アップするからもう行くね。」
「うん、頑張りな。」
「うん。」
- 36 名前:第3話 投稿日:2001年09月15日(土)22時15分48秒
なんや、元気ないなあ。
なんなんやろ。
まあ、えっか。
- 37 名前:第3話 投稿日:2001年09月15日(土)22時16分22秒
- 第二セットが始まった。
今度は、さっきみたいにはいかないみたい。
相手チームがリードしてる。
なんか、ののの様子が変だ。
ミスばっかりしとる。
トスはきれいにあがらへんし、サーブも入らない。
自分のすぐ近くの、素人目に簡単そうなボールもレシーブできてへん。
どないしたんやろ。
- 38 名前:第3話 投稿日:2001年09月15日(土)22時17分01秒
-
「おーい、ちびっこいの、そんな下手ならヤメチマエ!」
酔っぱらいがヤジってやがる。
うるさいねん、くそジジーが。
昼間から酔っぱらいやがって。
ののだって、頑張ってるちゅうねん。
たまにはミスすることだってあるっちゅうねん。
「ののー!頑張れ!負けるな!」
うちも負けずに声を出す。
ののの目はなんかうつろや。
大丈夫なんやろか。
- 39 名前:第3話 投稿日:2001年09月15日(土)22時18分04秒
また、レシーブでミスした。
「こらー、ちび!ひっこめー!」
あーっ!!!
酔っぱらいジジー、むかつくー!!
第二セットは、ののがミスばかりしとったけど、それでもエースらしき人が頑張って、2点差で終盤。
24-22で相手がリードして、のののサーブになった。
「こらー、ちびー!今度ミスしたら、承知せんぞ。この村に住めんようにしてやるわ。」
もう許されへん。
ののに、こんなこというやつは許されへん。
- 40 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時19分19秒
- 「何言うてんねん、くそじじー。」
「なんや、このガキ、見かけへんやっちゃなー。」
「うるさい、それがどないしたっちゅーねん。なんや、今のヤジは。」
「なんか文句あるか、ガキ。」
「文句?あるに決まってるちゅーねん。この村に住めんようんにしてやるだ?それはこっちの台詞だっちゅーねん。おまえみたいななあ、酔っぱらいジジーは、生きてる価値もないっちゅーねん。やじるだけで、なんもでけへんくせに。あんな言うんやったらなあ、自分でサーブ打ってみしてみや。自分でレシーブしてみーや。ああ?出来るんか、われ。」
「なな、なんなんだよ、このガキ。どこの子だよ。」
「ののだってなあ、頑張ってるちゅーねん。そら、たまにはミスすることもあるわ、それでもなあ、あんなちびっこい体で頑張ってるんよ。何で、それがわからへんねん。おまえみたいなやつは、帰れ!」
- 41 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時20分17秒
- 「亜依ちゃん、もういいよ。」
「よくあらへん。これだけは言うとかへんと、うちの気がおさまらん。ののはなあ、頑張ってるんや。昼間から酒飲んでるようなやつとは違うねん。夏休みだっていうのに、毎日毎日熱い中、学校まで来て練習してるんや。おまえなんかに、おまえなんかに、やじられるすじあい無いっちゅーねん!」
- 42 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時20分50秒
- 酔っぱらいの胸ぐらをつかんで叫んでるうちを、ののとばーちゃんがなだめて、席に引き戻された。
「がんばれーののちゃーん。」
うちのようしらん人たちの声援が飛ぶ。
うちだけやなかったんや。
のののこと心配しとったんわ。
ばーちゃんが教えてくれた。
あの酔っぱらいは、近所の鼻つまみ者らしい。
酒飲んだまま農作業して、帰りには酔っぱらってひとんちの田んぼに落ちたりするそうや。
第2セット、のののサーブは、ネットに引っかかって25-22で、相手に取られた。
- 43 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時21分24秒
- ののが心配や。
うちが酔っぱらいに怒鳴ったりしたから、よけいそれがプレッシャーになったりしたんやろか。
大丈夫やろか。
- 44 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時22分02秒
- 「辻。」
「・・・はい。」
「酔っぱらいの言うことなんか、気にしなくていいよ。だけどさあ、ミスが多いのは自分でも分かってるでしょ。」
「はい、ごめんなさい。」
「辻はさあ、セッターで、チームの一番大事なところを任されてるんだから、しっかりしてもらわなきゃ。」
「・・・はい。」
「レシーブやサーブは、多少ミスってもいいからさ、トスだけ、しっかりやろう。頼むよ。」
「はい、頑張ります。」
「今日は、やっぱり勝ちたいじゃん。」
「はい!」
- 45 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時22分35秒
- なんか、うちの出る幕あらへんみたいやな。
キャプテンらしいエースっぽい人がのののこと励ましてくれとった。
なんや、ちょっと寂しいやんか、うち。
- 46 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時23分12秒
- 第3セットの始まり。
いきなりのののサーブから。
今度はしっかり相手コートに入る。
ボールはつながれて、きれいにアタックされて相手の得点になったけど、でもさっきのののよりはだいぶいいみたいや。
さっきの酔っぱらい親父は、近所の人たちに体育館の外に追い出されてた。
ええ気味や。
あんなやつに、ののの試合見る資格なんてあらへん。
- 47 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時23分56秒
- 第3セット、さすがに最後のセットだけあって大熱戦や。
ののもさっきよりはだいぶ調子ええみたい。
エースとのコンビネーションもばっちしやし。
でも、元気そうやけど、集中してるようにも見えるけど、なんやさみしそうやなあ。
なんでやろ。
泣きそうや、のののやつ。
- 48 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時24分41秒
- 第3セット、24対21でリード。
のののサーブになった。
「ののー!頑張れー!」
ののは、何かを納得したようにうなずいた。
うちの方は見てくれへんかった。
でも、うちは感じた。
そのときのののは、それまでの、そしてその後のどんな瞬間よりも、輝いてた。
すごくかっこよかった。
- 49 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時25分30秒
- のののサーブが放たれる。
相手レシーブが乱れて、チャンスボールが帰ってくる。
それを拾い、ののが正確なトスを上げて、エースの強烈なスパイクが決まった。
ののの、そして、姫牧中の勝ちや。
- 50 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時26分28秒
- 「よっすぃー!、よっすぃー!」
ののは、泣いとった。
長身のキャプテンに抱きついて泣いとった。
- 51 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時27分13秒
- 「もう・・、コートの上ではよっすぃーって呼ぶなって言ってるのに。」
「だって、だって。」
「いいから。」
「いなくならないで、よっすぃー、いなくならないで。」
「私はいなくならないよ。一緒にバレーボールをするのは今日でおしまいかもしれない。だけど、いなくなったりはしないよ。」
「ののは、ののは、よっすぃーが、今日で、いなくなっちゃうって思ったら、なんか、試合終わらせたくなくて、そんなこと考えてたら、2セット目は、何にも出来なくて、でも、でも、そんなののを、よっすぃーに、見られるのはいやで、ひっく、ほんとにいやで、ひっく。」
「のの、分かったから。分かったから。」
- 52 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時27分59秒
- 「だから、最後は、ひっく、ちゃんと、のの、頑張ったでしょ。」
「頑張ったよ。ののは頑張った。」
「さいごは、ほんとにさいごだから、だから、ひっく、だから、ひっく、負けたくなかったの。終わりたく、ないけど、まけたく、なかったの。」
「のの、わかったから。もういいよ。のの。」
「よっすぃー!!!いかないで。遠くに行かないで。」
「のの、私まで泣きたくなっちゃうよ。」
「ひっく、よっすぃー。やめないで。」
「もう、ののはいつまでたっても子供なんだから。3年生は、夏の定期戦を最後に引退する、ってのは毎年のことでしょ。」
「でも、でも。」
「しょうがないなあ、卒業するまでは、たまには練習来るからさあ。」
「ホント?ホントに?」
「ああ、ホントだよ。」
「毎日、毎日来てくれる?」
「いや、毎日は・・・ちょっと・・・。」
- 53 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時28分38秒
- よっすぃーっていうそのキャプテンは、ののの頭をなでながら、ちょっと困った顔をしてた。
観客の、村の人たちは、みんな拍手しとった。
今日の試合に対して、そして、引退する3年生に対して。
うちも、もちろん拍手した。
ええな、のの。
うちも、あんな風に、泣き出すような強い思いを持って、何かしてみたい。
それに、なんかちょっと嫉妬してまうやないか。
きっと、中学校に入ってからやなくて、ずーと仲良かったんやろな。
帰り道にばーちゃんが教えてくれた。
この辺には高校がないから、村の子は、高校に進むと、街に出て寮に入るんやって。
だから、遠くに行かないで、やったんやな。
- 54 名前:第3話 投稿日:2001年09月16日(日)21時29分15秒
- のの達は、バレーボール部のお別れパーティーとかで一緒に帰れなかった。
ま、そこにうちが入っていくわけにはいかへんからな。
でも、村の人たちが用意してくれるごちそうっての、うちも食べたかったなあ。
ののはもう泣きやんだやろか。
食べ物見ればけろっと忘れそうや。
のの、先輩の最後に勝てて良かったな。
明日も練習あるのかな。
練習終わったらまた一緒に遊ぼうな。
お化けの森で明日も待ってるで。
- 55 名前:作者 投稿日:2001年09月16日(日)21時32分30秒
第3話、ここまでです。
小さなエピソードその1って感じです。
中学校のバレーボールって、3セットあるんでしょうか。
とりあえず、まだしばらく続きます。
次も、まあ、こんな話です。
バレーボールはしないけど。
- 56 名前:第四話 夏祭り 投稿日:2001年09月17日(月)22時19分33秒
のの達バレーボール部は、隣村との定期戦が終わって、しばらく部活は休みなんだそうだ。
やった、一日ののと遊べる。
うちは、お化けの森でののと待ち合わせて、近くの川へ行った。
うちとののしかおらんねんで。
きれいな川や。
川ってこんなにきれいなんやなあ。
川底が見れる川なんて、うち、初めてや。
ののと二人で、めいいっぱい泳いだ。
気持ちよかったで。
- 57 名前:第四話 投稿日:2001年09月17日(月)22時20分08秒
- 「ののー。」
「んっ?亜依ちゃん、なあに?」
「のの、いつまで休みなん?部活。」
「んーと、お盆明けまでは休みだよ。」
「じゃあ、しばらくは、一日中遊べるな。」
「そだね。亜依ちゃんさあ、来週お祭りあるの知ってる?」
「お祭り?ほんま?」
「うん、それでさあ、カラオケ大会あるんだけど、一緒に出ない?」
「カラオケ大会?何うたうん?」
「んーとねえ、のの、こういうやつ唄いたいの。」
- 58 名前:第四話 投稿日:2001年09月17日(月)22時20分44秒
- ののは、スクール水着のままちょっと大きな岩の上に載って、歌い始めた。
「うーん、ちゅっ、ちゅっ、ちゅちゅちゅ、さまあぱーてぃー、ちゅっちゅっ、期待しちゃうわ。ちゅ!」
なっ、なんや、このけったいな振り付けは。
ののは、まあ、チャーミングっちゅう感じやけど、頭に指当てて、腰をふる、っちゅうんはどないな振り付けやねん。
さいごに、ちゅ!って、なんか、すごいわ。
- 59 名前:第四話 投稿日:2001年09月17日(月)22時21分18秒
- 「亜依ちゃーん、どお?」
「どおって、これ歌うんか?」
「そだよ。ピンクのカツラかぶって、おへそ出して、ちょーみにスカートはくんだよ。一緒にやろうよ。」
「おへそ出してって、そのおなかでか?」
「ひどーい、亜依ちゃんだっておなか出てるじゃん。」
うちは、思わず自分のおなかぱんぱんたたいてしもた。
それは、ともかく、やっぱし、ピンクのカツラはやばいやろ。
- 60 名前:第四話 投稿日:2001年09月17日(月)22時21分51秒
- 「うーん、うち、その歌しらんねん。」
「えーーー、知らないのーー。三人祭、かわいいのに。」
「三人祭いうんか?なんや、けったいな名前やなあ。」
「ホントに知らないの?恥ずかしいからいやがってるだけじゃなくて?」
「うち、あんまりテレビ見いへんから、わからんねんそういうの。」
「そっかあ、残念。」
- 61 名前:第四話 投稿日:2001年09月17日(月)22時22分49秒
- ののは、その後も、“おいしい牛乳のむのだぴょーん”とか、わけのわからん曲を選ぼうとしとったけど、まあ、最後は無難な曲を選んだ。
うち、あんまし変な曲はイヤや。
でも、これも十分変かも・・・・。
「なんか、地味だよ。」
「しゃーないやん。うち、あんまりしらへんのやもん。」
「そっか。」
ほんまは、ちょっとはしっとるんやけどな。
だけど、ピンクのカツラは嫌だ。
- 62 名前:第四話 投稿日:2001年09月17日(月)22時23分26秒
- 「おっととと、な・つ・だ・ぜ♪♪♪」
きもちええー。
ステージに立つってこんなに気持ちええんやな。
今日は、街まで出てのお祭りだー!
おみこしもすごいのあったで。
隣村と、派手さを競ってるっちゅことやから、あんなに派手派手しいんやな。
カラオケ大会も負けられへん。
うちも、ののと一緒に姫牧村のために唄うでー。
- 63 名前:第四話 投稿日:2001年09月17日(月)22時24分07秒
- 「こーいをし・よーよ♪♪」
みんな、うちらの方見とるわ。
ほんま気持ちええなあ。
うちうまいやろ。
ののは、ちょっと舌足らずで、かわいい歌って感じやけど、うち、うたうまいやろ。
もっとうちのこと見てや。
「練乳か・け・て♪♪♪」
- 64 名前:第四話 投稿日:2001年09月17日(月)22時24分58秒
- 「・・・遊ぼう♪遊ぼう♪遊ぼう♪ちゃんちゃんちゃん。」
ののと手をつないで、お客さんに挨拶や。
なんか、プロになった気分。
みんな、うちらに投票してや。
- 65 名前:第四話 投稿日:2001年09月17日(月)22時26分23秒
- カラオケ大会、うちらは優勝でけへんかった。
優勝したのは、“亜依のばかやろう“なんていう、ちょっと迷惑な唄うたとった女の子。
まあ、その子も、うちと同じくらいかわいかったからしゃーないな。
あの子が唄った後、ののが、亜依のばかやろう、亜依のばかやろう、うちの方見て繰り返すんは、ちょっと腹も立ったわ。
それはそうと、うちとののの二人は3位に入ったんやで。
商品は、その日1日屋台で食べ放題や。
かき氷に、お好み焼きに、焼きそばに、さあ、食べるでー。
- 66 名前:第四話 投稿日:2001年09月17日(月)22時27分44秒
- 「亜依ちゃーん!メロン味がいい。」
「のの、かき氷4杯目やで。だいじょぶか?」
「だいじょーぶ。のののおなかはむてきなのです。」
まったく、うちもよう食べる方やけど、ののはあきれるくらい食べまくっとる。
しかも、さっきからかき氷ばっかし。
「のーのちゃん。」
どっかで見たことある人が声かけてきよった。
- 67 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時04分58秒
- 「あっ、よっすぃー。」
「ののちゃん、浴衣にあってるねえ。」
「よっすぃーもかわいいです。」
「ははは、ありがと。」
「よっすぃーもカラオケ大会出ればよかったのに。」
「私はいいよ。」
「のの、この亜依ちゃんと一緒に出て3位になって、ご褒美に食べ放題券もらったんです。」
「そっか、こんにちは。初めまして、吉澤ひとみです。」
「初めまして、加護亜依です。この前、バレーボールの試合見ました。」
「あっ、見てたの?恥ずかしいなあ。あー、あの子でしょ。酔っぱらいにつかみかかった。」
「・・・はい、・・・そうです。こっちこそ恥ずかしい・・。」
「いや、あれねえ、みんな喜んでたんだから。あの酔っぱらい親父、いっつもああでさあ、むかついてたんだよね。だから、ありがと。」
「そんな、恥ずかしいです。」
「ふふふ、じゃあ、私友達と待ち合わせしてるから行くね。のの、食べてばっかりじゃダメだよ。太ってジャンプ力無くなったら、ブロックに飛べなくなっちゃうから。」
「ばいばーい。」
- 68 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時05分32秒
「亜依ちゃん、今度はお好み焼き。」
「のの、いま吉澤さんに注意されたばかりやのにええの?」
「ええのええの。」
「もう、えせ関西弁使いよって。」
- 69 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時06分16秒
- このあとも、うちとののは、屋台めぐりしとった。
そのあいだ、ののはいろんな人に声かけられとった。
友達多いねんな。
うちときいへんで、他の子と来たほうがよかったんちゃうやろか?
あたりまえやけど、うちにはこの辺に友達おらへんもん。
ばーちゃんと来れば良かったかな。
なんか、さびしなってしもた。
- 70 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時06分52秒
- 「あいちゃん、たこ焼き食べよ。」
「ん?うん。」
「あっち、あっち。」
元気やなあ。
そんなにはしらんでもええのに。
- 71 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時07分23秒
- 「おー、ののちゃん、いらっしゃい。カラオケ大会3番だったんだって?」
「そーだよ。食べ放題券もらったんだから。」
「じゃあ、奮発して、たこ2つ入りたこ焼き作っちゃおう。そっちの子もそれでいいかい?」
「あっ、はい。じゃあ、それで。」
「なんか、元気ないねえ、大丈夫?」
「亜依ちゃん、どおしたの?」
「なんでもあらへん。」
「ふーん、それならいいけど。」
- 72 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時08分03秒
- まあ、すねててもしゃーないんやけど。
でも、ののって大人にも人気あるんやなあ。
村中みんな知り合いってかんじなんかなあ。
村に住んでへん、うちなんかはきいへんほうがよかったんかもな。
- 73 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時09分03秒
- 「はい、おまちどうさん。おじちゃん特製のたこ二つ入りたこ焼き。そろそろ花火始まりそうだから、見晴らしのいいとこ確保した方がいいよ。」
「うん、わかった。ありがとね。」
たこ二つ入りたこ焼きは、なんか、ホントにたこ焼いたたこ焼きって感じやった。
そのまんまな説明やけど・・。
ののは、いっぺんに2個もほうばっとる。
「のの、うちのも食べるか?」
「いいの?」
「うん、うち、そろそろおなかいっぱいやねん。」
「じゃあ、もらうね。」
ホント元気いっぱいってかんじやな。
うちも、普段ならそうやのに。
- 74 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時10分04秒
- 「ののちゃーん。」
また誰かきよった。
「あっ、愛ちゃん。愛のばかやろうがここにもいた。」
「ひどーい。向こうに真琴ちゃんもいるんだよ。ちょっと来てよ。」
「亜依ちゃん、ちょっと待っててくれる?」
「んっ?ええよ。」
- 75 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時11分09秒
- のの、行ってしもた。
やっぱしひとりぼっちか。
ばーちゃんとくればよかったなあ。
花火やるらしいから、それ見たらかえろっかな、一人で。
そういえば、この村だけやなくて、学校帰ってもそんなに友達っていなかったっけ。
小学校の時は学級委員とかよくなっとったけど、仲良しっていう友達は少なかったなあ。
さびしいなあ。
こんなこと思ったことあらへんかったのに。
どうしたんやろ、うち。
元気に暮らしとったんやけどなあ。
ええなあ、のの。
ひとりぼっちか。
- 76 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時12分27秒
- そんなん思いながらあるっとったら、こぢんまりとした感じの鳥居があった。
この辺はもう、あまり人がいない。
屋台も全然見かけなかった。
階段上っていったら、やっぱし神社があった。
神社の裏っかわは、見晴らしよくて、畑が見下ろせる。
ここにおるか。
- 77 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時13分08秒
- はたけ、はたけ、たんぼ、いえ、やま、やま。
いなかやなあ。
町に出てきたいうても、ちょっと歩くとすぐこんないなかなんやなあ。
みんなが知り合いの小さな村か。
隣村と張り合う言うても、それはそれで仲良うやっとるんやろな。
- 78 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時14分01秒
- “ドン!ドンドン!”
ぼけーとすわっとったら花火が始まったみたいや。
なんや、見晴らしええけど、こっちかわじゃないやん、花火。
だから人おらへんのか。
せっかくだから、花火だけでもみいへんとな。
っていうても、見晴らしのようないもんは、かえられへん。
しゃーないから、うちは、一本突き抜けた木に登ることにした。
うち、運動神経はそれほどでもないけど、木登りくらいは出来るで。
その重さじゃ無理やろ、なんていいっこなしや。
てっぺん近くまで上って太い枝に座って花火を眺めとった。
- 79 名前:第四話 投稿日:2001年09月18日(火)22時14分47秒
- きれいやなあ。
なんで、うち、ひとりぼっちで花火眺めとるんやろ。
寂しいやないか。
のの。
なんで、いってしもたんや。
やっぱうちより、村の友達のがええんかなあ。
- 80 名前:第四話 投稿日:2001年09月19日(水)22時11分48秒
- 1時間くらいで花火は終わってしもた。
しゃーない、かえろ。
木登りって、上るよりも降りる方が難しいんよ。
それでも、慎重に足下を確認しながら降りたら、後ろから突然声かけられたんや。
- 81 名前:第四話 投稿日:2001年09月19日(水)22時12分37秒
- 「木の上なんかにいたら、見つかる分けないじゃん。」
知らない声。
驚いて振り向いたら、さらにその子は続けた。
「みんなで探したんだよ。ののちゃんなんか、大泣きしちゃって、亜依ちゃんが亜依ちゃんがって、もう、あの子泣き虫なんだから。いなくなっちゃったっていうからさあ、もう、ちゃんと話したこと無いのに私までさがしてたんだよ。まったく、こんないい女が浴衣来て、花火も見ずに一人で歩き回ってさ。どうしてくれんのさ。もう。カラオケ大会のとき顔覚えといてよかったよ。」
- 82 名前:第四話 投稿日:2001年09月19日(水)22時13分09秒
- 声をかけてきたのは、“亜依のバカヤロウ”の子だった。
彼女も同じこと思ったらしい。
「まったく、これこそ亜依のバカヤロウだよ。ののちゃん心配してるよ。かえろ。」
うちは、何がなんだか分からず、だけど、頭んなか真っ白になってしもて、泣き出してしもた。
- 83 名前:第四話 投稿日:2001年09月19日(水)22時14分07秒
- 「もう、しょうがないなあ。寂しかったんだよね。きっと。ののちゃんばっかり友達がいて、自分はひとりぼっちみたいな気がして寂しかったんだよね。だからいなくなっちゃたんだよね。よしよし。真希お姉さんがお友達になってあげるから。ううん、私とお友達になって下さい。」
まきちゃんは、私のことを抱きしめて、頭をなでながらこう言ってくれて、最後に顔を見て友達になって、なんて言うんだ。
だから、うちは、どんどん涙出てきてしもて、もうどないもできへん。
ただ、しがみついて泣いとるしかなかった。
「亜依のバカヤロウちゃん。かえろ。」
うちが落ち着いてきたのを見て、まきちゃんはこう言ったんだ。
「バカヤロウじゃあらへん。」
うちがこう言い返すと、まきちゃんは、笑ってそだね、といって手をつないでくれた。
「亜依ちゃん。かえろ。みんな心配してるよ。」
「うん。」
- 84 名前:第四話 投稿日:2001年09月19日(水)22時14分48秒
- 町まで戻って、まきちゃんが言う何かあったときの集合場所ってとこまで行ったら、吉澤さんとののちゃんがまっとった。
ののは、うちに抱きついてきて、半泣きでこういうたんや
「亜依ちゃーん。ごめんねごめんね。ひとりぼっちにさせちゃって。」
「のの、ごめんな。一人でいなくなって。心配してくれたんやて?」
「亜依ちゃんが、亜依ちゃんが、どこかに、大人の人につれて行かれちゃったかと思って怖かったの。亜依ちゃんが、亜依ちゃんが、ののに怒ってどっかいっちゃたと思って怖かったの。亜依ちゃんが、亜依ちゃんが・・」
「のの、ごめんな。なんか、さびしなってしもてな。ののが悪いんやないよ。大人の人にもつれてかれてないよ。」
「二人ともそれくらいにしたら。」
べそかいてるののと、しゅんとしてるうちに向かって吉澤さんが言ってくれた。
- 85 名前:第四話 投稿日:2001年09月19日(水)22時15分36秒
- 「亜依ちゃんも無事に戻ってきたし、誰が悪いってわけじゃないみたいだし、仲直りして帰ろうよ。おうちの人も心配してるよ、きっと。小学生が二人でこんな遅くまで外で遊んでたらいけません。」
「ちゅーがくせいだもん。」
うちとののは声を揃えて抗議した。
きれいにハモってて、みんなで笑い出してしもた。
「今みたいにそろってたら、カラオケ大会わたし負けてたかもね。」
まきちゃんはこう言って、うちの頭をなでてくれた。
「かえろ、みんな。」
「うん。」
- 86 名前:第四話 投稿日:2001年09月19日(水)22時16分21秒
- うちら4人は、仲良く手をつないで帰りました。
帰り道でののがぼそっと言った一言、うちは忘れられへんねん。
「亜依ちゃんのせいで、焼きそば食べらんなかった。」
焼きそば食べずにうちのこと探してくれたんやな。
とりあえず、焼きそばよりはうちは大事にしてもらっとるんやな。
とも思ったけど、あれだけ食べて、まだそんなこというか、とも思いました。
まきちゃんがこの村に来たのは1年ちょっと前のことって吉澤さんが教えてくれました。
まきちゃんが、うちのこと必死に探してくれたのは、ひとりぼっちの寂しさがわかっとるからかもしれへんな。
ありがとなまきちゃん。
言葉に出さずに、顔を見て心で思ったら、まきちゃんは、にこっ、として手を強く握ってくれました。
- 87 名前:作者 投稿日:2001年09月19日(水)22時20分14秒
- 第四話終わりました。
7日目にして未だレスねーよ。
すげーなおい。
ここまでほっとかれて、めげずに更新してる自分を誉めてやりたいよ。
テキスト手元に抱えたまま、放置しようかな。
百近くまでレスのない作品って、あるのかなあ?
まあ、あんまり気にしないことにして、明日また第5話書きます。
だれも、待ってなさそうだけど。
あと、第四話で出てきた真琴は、麻琴の間違いみたいです。
もし、また出てくることがあれば気をつけます。
- 88 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月20日(木)13時08分40秒
- 読んでんで!がんばってください。
- 89 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月20日(木)13時42分07秒
- 今日一気に読みました。
こういうほのぼのしたの好きです。
頑張ってください。
登場人物がどこまで出るのかが楽しみです。
- 90 名前:作者 投稿日:2001年09月20日(木)22時59分28秒
- >88、89 レスありがとうございます。
やる気出てきます。
って言っても、手元では完結してますが。
ちょっと手直ししてみようかな。
登場人物がどこまで出てくるか?はまだ秘密です。
どれだけ読者がいるかは分からないけど、責任持って最後まで書き上げます。
放置はしないので、暖かく見守って下さい。
- 91 名前:第五話 村の結婚式 投稿日:2001年09月20日(木)23時00分28秒
「亜依、明日結婚式があるからね。」
ばーちゃんにいきなり言われた。
なんでも、お盆の時期に、みんなが村へ帰ってくるのを見越して、結婚式をやるんだそうだ。
実際、その結婚する新婦さんも、村を出てはや10年近く、結婚式のために村へ帰ってくるんやそうだ。
村の人総出の結婚式。
どんなんやろ。
この前、珍しくばーちゃんが町までうちのこと連れてって、胸に蝶のリボンなんかついた黒いワンピースをこうてくれたんはこういうことやったんやな。
- 92 名前:第五話 村の結婚式 投稿日:2001年09月20日(木)23時01分11秒
結婚式ちゅうたら、うちなんかはウエディングドレス、ってイメージやけど、ここでの結婚式はだんぜん和服らしい。
そらそやろなあ、お盆の結婚式で、ドレスっちゅうのもどないなもんや、とかおもてまうもんな。
式の会場は、村の一番大きな神社やった。
式に参列する人は意外と少ないなあ。
ばーちゃんに聴いてみたら、披露宴にはみんな呼ぶんやけど、式自体にはあんまし大勢は来ないっちゅうことやった。
ばーちゃんは、新婦さんの小さな頃からかわいがってたから、是非にって呼ばれたらしい。
実はばーちゃんって、この辺の人気者なんか?
- 93 名前:第五話 投稿日:2001年09月20日(木)23時02分00秒
新婦さんは、きれいやった。
うっとりするくらいきれいやった。
ええなあ。
うちも結婚したいわ。
ええなあ。
- 94 名前:第五話 投稿日:2001年09月20日(木)23時02分57秒
披露宴は、場所を移して小学校の校庭でのパーティーだった。
会場はすごい人。
なんか、今日もお祭りって感じ。
鉄棒のところにののがおった。
- 95 名前:第五話 投稿日:2001年09月20日(木)23時03分39秒
「ののー、きとったん?」
「亜依ちゃん。ワンピースかわいい。」
「そやろ、そやろ。」
「亜依ちゃん、式の方にも出てたの?」
「うん、でとったよ。新婦さんむっちゃきれいやったで。」
「いいなあ。」
「なあ、なんで、小学校が披露宴の会場なん?他にひろいとこないから?」
「たぶん、ふたりの出会った場所なんじゃないかな。二人とも村の人だし。村の人みんなここの小学校行くから。」
「ののも、ここにかよとったん?」
「うん、3月までここに通ってたんだよ。」
「そうなんや。」
- 96 名前:第五話 投稿日:2001年09月20日(木)23時05分08秒
お祭りといえば、ごちそうや。
まあ、お祭りとはちゃうけどな。
似たようなもんや。
そうおもとったら、披露宴は、うちの想像を遙かに超える参加者で、想像を遙かに超える豪華なごちそうがならんどった。
- 97 名前:第五話 投稿日:2001年09月20日(木)23時05分49秒
「のの!何から食べよ。」
「うーん。あのおっきなチキンが食べたい。」
「うん、そやな。でも、あれ、メインっぽいで。ええんかな?」
「いいよ、食べちゃおうよ。」
なんか、この前の夏祭りの時もそうやったけど、うちら食べてばっかりや。
エビフライやら、だしまき卵やら、えらい庶民風なもんも多いけど、サーモンとかキャビアとかもあってええ感じや。
でも、キャビアって、しょっぱいだけやんか。
ちょっとがっかりや。
- 98 名前:第五話 投稿日:2001年09月20日(木)23時06分50秒
「こら、のの!そんなに食べて太ってレシーブできなくなっちゃったらどーするの!」
吉澤さん登場や。
「大丈夫だもん。こんなごちそう前にして見てるだけなんていやだもん。」
まあ、そらそうやけど、でも、ののは食べ過ぎやろ。
「亜依ちゃんもよく食べるねえ。」
「でも、のののがたくさん食べ取る。」
「ののちゃんは、バレーボールやってるからまだいいけど、亜依ちゃん大丈夫?」
まきちゃんがいたいとこ突いてきよった。
まきちゃんと吉澤さんって仲ええんやな。
- 99 名前:第五話 投稿日:2001年09月20日(木)23時08分11秒
披露宴は、村長さんやら、小学校の先生やらの演説みたいなもんもあったけど、あんまし覚えてへん。
そのあと、なんか余興をやるっちゅうことになった。
でも、なんか、変な踊りとか、詩吟?っちゅうたかな、じいさまがうなっとるやつとか、うちにはようわからへん。
まあ、新婦さんきれいやし、ごちそうおいしいしえっか、おもっとったら、えっかじゃすまん風向きになってきよった。
「次、歌いこ歌。か・ら・お・け。誰かいるかー。」
「この前の夏祭りで、賞取った子おるやろ。」
「ののちゃんや。歌ってや、ののちゃーん。」
- 100 名前:第五話 投稿日:2001年09月20日(木)23時09分54秒
- えらいことなってきよった。
ののちゃーん言うとるんは、この前たこ二つ入りたこ焼き焼いてくれたお兄さんや。
そしたら、今度はののコールや。
「のーの!のーの!」
のののやつ、調子に乗って、てへへ、って感じで笑いながらでていきよった。
勘弁してや。
うち、新婦さんも新郎の人も、ちゃんとはしらんのやで。
「亜依ちゃーん。唄うよ。」
- 101 名前:第五話 投稿日:2001年09月20日(木)23時10分53秒
- うそー!!!
助けてーって感じで、まきちゃんの方を見る。
そしたら、まきちゃん、頑張ってねーって感じで手振りよった。
「違う!一緒に行くの。」
「えっ?私も?」
「うん。そう。」
「いっといでよ、真希も。カラオケ大会優勝は真希じゃん。」
「よし、分かった。よっすぃーも入れて4人で唄おう。」
「えーーー!何でそうなるのーー!!」
- 102 名前:第五話 投稿日:2001年09月21日(金)22時56分28秒
- まわりにあおられて、結局うちら4人で唄うことになってしもうた。
曲は、ののが選んだ結婚式にぴったりのこの曲や。
うちも、しっとってよかった。
- 103 名前:第五話 投稿日:2001年09月21日(金)22時57分04秒
- 「ぱらっぱら、ぱらっぱら。ぱらっぱらっぱっぱ。」
いいぞー、ののちゃーん、とか、よっすぃーがんばれーとか声が飛ぶ。
やっぱし、誰もうちのことはしらんのな、当たり前やけど。
「父さん、母さん、ありがとう。たーいせーつなひとが・できたの・です。」
まあ、唄ってみると、夏祭りの時と同じで、やっぱきもちええ。
ののも、まきちゃんも、吉澤さんも楽しそうや。
- 104 名前:第五話 投稿日:2001年09月21日(金)22時58分09秒
- 「いっしょうけんめいちかいまーす♪♪♪・・・はっぴー!」
新婦さんは、幸せでええなあ。
こんなに多くの人に祝福してもらえるんやもんなあ。
- 105 名前:第五話 投稿日:2001年09月21日(金)22時58分43秒
- 「しょーかいします。よしもとこうぎょうにつとめてる、杉本さん。まあ、背はひくいほーやけど、やさしいひと。・・・」
この曲の、一番メインのとこは、ご指名のあったののが唄った。
うちら3人は、適当に振り付けなんかしながらあわせとった。
そんなとき、新婦さんの方を見ると涙ぐんどった。
うちらの歌聞いて泣いてしもうたんやろか。
なんでやろ。
自分で言うのも何やけど、涙ぐむような歌ちゃうやん。
幸せに感動したんかな。
- 106 名前:第五話 投稿日:2001年09月21日(金)22時59分28秒
- 歌い終えると、やんややんやの歓声を受けた。
ののって村中の人気者なんやなあ。
「もー、ののが出て行くから私まで歌う羽目になったじゃん。」
「いーじゃん。よっすぃーだってうまかったじゃん。カラオケ大会出れば良かったのに。」
「そっ、そうかなあ。」
ちょっとその気になっとる吉澤さん。
なんか、かわいかった。
- 107 名前:第五話 投稿日:2001年09月21日(金)23時00分04秒
- そのあと、大人達が歌ったり、お酒飲んだりしとったけど、うちらはさすがに食べ飽きてきた。
まあ、2時間も3時間も食べ続けたら、さすがのののもおなかいっぱいになる。
「のの、学校ん中案内してや。」
「うん、いいよ。」
- 108 名前:第五話 投稿日:2001年09月21日(金)23時00分44秒
- 人のいない校舎。
夏休みの学校っちゅうんはちょっと気味悪いとこもありよる。
夜になってしもたらなおさらやろな。
教室、給食室、保健室、とかののが案内してくれる。
ののの思いで解説つきや。
カレーの日に給食室に忍び込んで怒られたことや、身体測定で片足上げて体重計ったけど、何も変わらなかった話し。
まあ、そんなん話ししながらあるっとったら、ピアノの音が聞こえてくるんや。
- 109 名前:第五話 投稿日:2001年09月21日(金)23時01分45秒
「なっ、なんなんや。ピアノの音しとるで。」
「うん、そだね。」
「なんや、怖いやんか。」
「そーお?」
「そーお?ってこわないんか、のの。」
「うん、だって誰かが弾いてるんじゃないの。」
「でも、人やあらへんかもしれんし。そういう話しあるやろ。」
「うーん、夜中になると、音楽室のベートーベンの写真が動き出して、ピアノ弾くって噂あったかなあ。」
「それや、きっとそれや。」
「そうかなあ?」
- 110 名前:第五話 投稿日:2001年09月21日(金)23時02分21秒
- うちらは、音楽室へ向かった。
怖いけど、何も見ずに帰る方がもっと怖いわ。
音楽室のドアはしまっとる。
ピアノの音色はますます響きわたっとる。
- 111 名前:第五話 投稿日:2001年09月21日(金)23時03分18秒
- 「のの、どないする?」
「うーん、せっかく来たんだし、入ってみようよ。」
「えっ、でも、怖いやん。」
「音楽室行こうって言ったの亜依ちゃんだよ。」
「でも・・・。」
「どうするの?」
「じゃあ、のの、先に入ってや。」
「もう、亜依ちゃん恐がりだなあ。」
- 112 名前:第五話 投稿日:2001年09月21日(金)23時03分59秒
- ののは、文句を言いながらも先に入ってくれた。
うちらがドアを開けると、ピアノの音は止まった。
中にいたのは・・・。
- 113 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時31分56秒
- 「あれ、さっき歌ってくれた二人?」
中におったのは、新婦さんやった。
- 114 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時32分36秒
- 「はい、ごめんなさい。邪魔するつもりはなかったんです。亜依ちゃんが、お化けじゃないかっていうから。」
「うち、そんなん言ってへんて。」
「言ったじゃん。」
「言うてへんて。」
「もう、二人とも止めなって。」
新婦さんは、笑ってうちらをなだめてくれた。
- 115 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時33分15秒
- 「披露宴飽きちゃったかな?」
「えっ、いや、そんなこともないですけど・・。」
「ええから、そんな気いつかわんと。」
えー??関西弁?
うちの驚きは顔に出てしもうたようや。
- 116 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時34分05秒
「亜依ちゃんって言うたかな?関西弁は珍しくないやろ。関西のどこ?」
「うちは、奈良です。」
「うちな、この村出てもう10年になるんや。出てった先が、京都で、その後大阪やから、すっかり関西弁になってしもうたんよ。」
「そうなんですか。」
「なんで、ピアノ弾いてたんですか?」
ののがまた直球な質問しよる。
- 117 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時34分57秒
- 「うちな、あの人って、亭主な、と出会ったんが、ここなんよ。まさにここ。この小学校のこの音楽室。うち小さい頃はいじめられっこでなあ、いじめられると、すぐここに逃げてきとったんや。それで一人でしょんぼりすわっとるところに現れたんがあの人や。うちは、すぐ隠れたからあの人はしらんと思うけど、あの人ここでピアノ弾きはじめよったんや。それが、下手でな。下手なんやけど、なんか一生懸命で、見とるうちに好きになってしもうたんやな。まあ、遠い昔の話や。3つ上のあの人は、さっさと卒業していきよって、再会したんは、京都やもん。向こうは、うちの名前くらいしか覚えてへんのやもん、がっかりや。」
「ずーと好きだったんですか?」
「んっ?そんなことはあらへんよ。他につきおうた人とかおるし。だけど、大事に心の中にもっとった初恋やから、ずーと好きやった、っていうこともできるかもしれへんな。二人もそんなお年頃なんやないのか?」
- 118 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時35分30秒
- 新婦さんは、いたずらぽい顔してうちらの方をみよる。
うちと、ののは顔見合わせて、ちょっと照れ笑いしてしもうた。
「なんや、二人とも、変な笑いしよって。まあ、深くはつっこまんといてやろか。生まれて初めての恋っちゅうんは大事にせなあかんで。初めてに限ったことでもあらへんけどな。」
まあ、心当たりが無いような気もするし、全くなくはない気もするけど、その話はここではするつもりはあらへんで。
でも、ええなあ、そういう出会いって。
- 119 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時36分13秒
- 「なんや、えらいはずかしい話してしもうたな。今の話は絶対秘密やで。音楽室で彼のこと見とった話は絶対秘密やで。うち、あれから音楽の先生に頼んで、ピアノ教えてもろうたんやもんなあ。うちにもかわいい頃あったんやなあ。二人とも、いつかは大人になるんやろうけど、なんか、もったいないなあ。そのままでいてくれへんかなあ・・。」
新婦さんは、なんか幸せそう。
当たり前なんやけど。
そういえば、さっき、何でうちらの歌で泣いたんやろ。
- 120 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時36分44秒
- 「新婦さん。」
「んっ?なんや?」
「さっき、うちらが歌ったとき、なんで泣いてたんですか?」
「えっ?ああ、みとったんか。誰も見てへんおもっとったのになあ。うちな、父さんいないねん。ちっちゃい頃に死んでしもてな。あの曲、父さん母さんありがとうとか、紹介します・・・とか、そういう曲やん。うち、母さんもつい2年くらい前死んでしもうたし、天涯孤独ってやつでな、結婚報告する相手おらんのよ。でもな、やっぱ報告したいやん。それで、二人でお墓参りして済まそうかとも思うたんやけど、せっかくやから、お盆にやろうか思うてな。二人ともしっとるか?お盆って死んだ人が帰ってきてくれる日なんやで。」
「そうなんですか?ホントですか?」
「まあ、一応そういうことになっとるんや。それで、お盆に小学校で披露宴やれば、お父さんもお母さんも来てくれるかなあ、思うて、今日披露宴にしたんや。実際、うちの両親もこの学校で出会ったらしいしな。それで、あんたらの歌うの聞いとって、父さん母さん見とるかなあ、思うたらな、なんか泣いてしもうたってわけや。」
- 121 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時37分21秒
- 「いたー!!!」
絶叫して入ってきたのは、吉澤さんやった。
まきちゃんも一緒におる。
なんや、そんなにうちらのことさがさんでもええやん。
- 122 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時37分59秒
「新婦さんがいなくなって騒ぎになってますよ。」
なんや、うちらのことやないんか。
- 123 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時38分32秒
- 「だめでしょ、ののちゃん、亜依ちゃん。新婦さん連れまわっしゃ。」
「ええねんて。うちが勝手に出て来たんやから。この子らが悪いわけやないで。」
「でも・・・。」
「新婦さん。ピアノ聴かせて下さい。」
「新婦さんか・・・。ええ響きやな。うちのピアノ聴くか?」
「はい。」
- 124 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時39分08秒
新婦さんが弾くピアノは、柔らかい音色やった。
うち、音楽のことはようわからんけれど、こういうの好きや。
あんまりうまいって感じやないけど、やわらかくてあったかくて。
- 125 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時39分40秒
「お父さんもお母さんも聴いてくれてはるやろか。」
「聴いてくれてるよきっと。だって、今日は死んだ人が帰ってくる日なんだから。」
「そうやな。そうだとええな。」
- 126 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時40分23秒
新婦さんを真ん中に、うちらは校庭へ戻った。
披露宴は、新郎のスピーチで終わった。
絶対幸せにします、言うとった。
- 127 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時40分53秒
- 「私たちにもあんな日が来るのかね。」
「来るんだろうねきっと。」
「でも、この二人にはこなさそうじゃない?」
吉澤さんがひどいこと言うとる。
- 128 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時41分29秒
- 「来るもん。ののもけっこんするんだもん。」
「お父さんとでも結婚するのかな?」
「違うもん。かっこいい白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるもん。」
それは、ちょっと夢みすぎやろ、のの。
- 129 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時42分14秒
- 「やっぱり、この二人には来ないかもね。」
「ののと一緒にせんといてや。」
「じゃあ、亜依ちゃんは、どんな人と結婚するの?」
「うーん、うーん、・・・社長さん。」
「やっぱ無理でしょ。」
「ひどいよ、まきちゃん!!
」
- 130 名前:第五話 投稿日:2001年09月22日(土)20時42分51秒
- まあ、たしかに、うちやののには遠い未来のことかもしれへん。
でもな、うちやて、いつか人を好きになって、結婚するんやで、きっと。
今は、男の子より、ののと一緒にあそんどる方が楽しいし、デートとかよりも、おいしいもん食べる方が好きや。
それでも、うちもそのうち大人の女になって、きれいになっていくんや。
みんな、そのときになってびっくりしてもしらんで。
- 131 名前:作者 投稿日:2001年09月22日(土)20時46分33秒
- 第五話まで終わりました。
村の結婚式という題で、お盆時期に何故か披露宴をしています。
と言うことで、夏休みは残り2週間程度となってます。
しかし、世の中はかなり涼しくなってるのに、今頃真夏の話を書いてるのは、どうなんでしょう。
続きはまた明日。
気が向いたら、感想など書いてみてくれるとうれしいです。
- 132 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月22日(土)21時52分10秒
- 加護ちゃんがかわいいですね〜
作者さんは関西の方ですか?関西弁の書き方うまいですね。
この作品は自分の好きなメンバー(あいののよしごま)が多くてうれしいです!
明日の更新待ってます。
- 133 名前:作者 投稿日:2001年09月23日(日)21時19分06秒
- >132
どうもありがとうございます。
えー、自分は、ばりばり関東人です。
関西弁うまいですか?
うーん、何となく書いてるんですが・・。
待っててくれる人がいると、更新しよう、というやる気が出てきます。
では、続きをご覧下さい。
- 134 名前:第六話 夏の夜(仮) 投稿日:2001年09月23日(日)21時20分19秒
- 「のの、この川の上流って、どないなっとるんや?」
「上流?」
「この川、すごいきれいやんか。だから、流れてる水ってどこからきとるんやろか思ってな。」
「うーん、わかんないや。」
川でおよいどって、突然浮かんだ疑問やった。
だって、あんまりにもこの川きれいやったんやもん。
- 135 名前:第六話 投稿日:2001年09月23日(日)21時21分00秒
- 「なあ、いってみいへんか?」
「どこに?」
「だから、上流。」
「うーん、危なくない?」
「大丈夫やて。うちがちゃんとついとるし。」
「なんか、まるで亜依ちゃんが大人で、ののが子供みたいな言い方じゃーん。」
「違うんか?」
「ちがうよー。ののが大人で、亜依ちゃんが子供なの。」
「まあ、どっちでもええやん。それで、行く?いかへん?」
「うーん、どうしよう。」
「なっ、いこ。」
- 136 名前:第六話 投稿日:2001年09月23日(日)21時21分41秒
- しぶるののを説得して、うちらは、川の上流に向かって冒険を開始した。
川辺の岩場をちょっとずつ上っていく。
最初に誘ったのはうちやのに、ののばっかりどんどん先へ行って、全然ついていけへん。
- 137 名前:第六話 投稿日:2001年09月23日(日)21時22分25秒
- 「ののー、まってやー。」
「亜依ちゃん遅いよ。」
「田舎の子とちごうて、うちみたいな都会人は、こういうの慣れてへんのや。」
「亜依ちゃんが体力無いだけでしょ。なんか部活でもやったら。」
「そんなんいいっこなしや。」
「じゃあ、ちょっと休憩する?」
「うん。」
- 138 名前:第六話 投稿日:2001年09月23日(日)21時23分19秒
- 川を上りはじめて1時間も経たないうちに休憩。
よわいなあ、うち。
おやつにって、畑でもらったトマトを川で洗って食べた。
なんか、川にいるってのもあるけど、ずいぶん涼しいなあ、って思ったら、太陽が雲に隠れとった。
「亜依ちゃん、ここからは、ちょっと川の岩場のぼってくの無理みたいだから、森にあがろうよ。」
「うん、そやな。」
- 139 名前:第六話 投稿日:2001年09月23日(日)21時23分58秒
- うちらは、川が見える範囲で、森にあがって、さらに上流へ進んでいった。
なんか、暗くなってきた。
ちょっと時間かかりすぎかなあ。
「なあ、のの、時計もっとる?」
「ううん、持ってない。」
「なんかさあ、暗くなるのはやないか?」
「でも、森の中だし・・。」
「だけど、川も暗いで。」
「ちょっと、川に出てみよう。」
- 140 名前:第六話 投稿日:2001年09月23日(日)21時24分40秒
- 川に出て、空を見上げたら空が黒かった。
一面黒い雲。
「冷た!」
雨や。
- 141 名前:第六話 投稿日:2001年09月23日(日)21時25分18秒
- 「のの、傘もっとる?」
「・・・持ってない。」
まずい・・・。
もう2時間近く、あるってきとる。
戻るだけでも、大変や。
- 142 名前:第六話 投稿日:2001年09月23日(日)21時26分15秒
- そんなんおもっとったら、雨はどんどん強うなってくる。
「亜依ちゃん、帰ろうよう。」
「うん、そやけど・・。」
うちらは、結局もと来た道を戻ることにした。
そやけど、雨でぬかるみ始めた道、満足にあるくこともでけへん。
そのうえ、全身濡れ鼠や。
川の水が増えてきとる。
- 143 名前:第六話 投稿日:2001年09月23日(日)21時27分03秒
- 「のの、この道、危ないわ。ちょっと遠回りかもしれへんけど、川から離れた方がええ。」
「だけど、帰り道わかんなくなっちゃうよ。」
「そんなん言うても、川に沈んだら、帰れなくなるねんで。」
「うーん・・。」
うちらは、川から離れた。
これで流される危険はなくなったけど、時間はもっとかかるやろな。
うちが、上流に行こって言い出したんや。
だから、うちがしっかりせなあかん。
ちゃんと、ののを村までつれて帰ってやらなあかん。
- 144 名前:第六話 投稿日:2001年09月23日(日)21時28分02秒
- 「のの、右側崖みたいになっとるから、あぶないで、気いつけや。」
「うん。」
最悪や。
風まで吹いてきおった。
雨も強うて、まともに前もむけへん。
- 145 名前:第六話 投稿日:2001年09月23日(日)21時30分29秒
- 「あっ、亜依ちゃん!」
「のの!」
とっさに、ののの手をつかむ。
ののが風にあおられて、崖から落ちそうになったんや。
「亜依ちゃん!」
「ののー!」
また強い風。
今度は、ののが崖からホントに落ちた。
いや、落ちそうなのを、うちがささえとる。
そんな、のの、死んだらいやや。
- 146 名前:謎のロボット 投稿日:2001年09月23日(日)23時25分27秒
- 辻ー!!カオリが助けてあげるからね!!
どぼーん(水に飛び込む音)
ぴー、ガがガが・・・(カオリ故障)
・・・なんて展開は・・・ないですよね(笑
でも、この作品のほのぼのした感じが好きです。
なんか、妙に懐かしい気分になりますね。がんばってください
- 147 名前:作者 投稿日:2001年09月24日(月)21時16分33秒
- >146 ないです。
(かおり故障)って、ほのぼのじゃないし・・・。
懐かしい気分って言ってもらえるとうれしいです。
では、続きをご覧下さい。
- 148 名前:第六話 投稿日:2001年09月24日(月)21時17分39秒
- 「のの、がんばるんや。絶対引き上げるから。」
「亜依ちゃん。」
「だまっとけ、ガンバるんや、絶対死んだらあかんで。」
「亜依ちゃん。」
「なんや。」
「足つくよ。」
「へ?」
「手離していいよ。足つくから。」
- 149 名前:第六話 投稿日:2001年09月24日(月)21時18分35秒
- よく見ると、崖、と思っていたのは1mくらいの高さしかなかった。
泥だらけにはなっとるけど、ののは、普通にたっとった。
- 150 名前:第六話 投稿日:2001年09月24日(月)21時19分21秒
- 「のの!心配させおって。」
「ごめん。落ちちゃった。」
「ののが、ののが死んだらどないしよかって、もう!」
「だから、ごめんって。それに勝手に勘違いしたの亜依ちゃんじゃん。」
「そやけど、そやけど。」
「とりあえず、引っ張ってよ。上あがるから。」
「やだ。」
「なんで?」
「手、離してええって言ったやん。」
「そんなあ。」
「しばらくそこで反省しとき。」
「あいちゃーん。」
「ははは、ウソや。ほら。」
ののを引っ張り上げたけど、ふくれっ面や。
ののが悪いんやで、うちのこと心配さすから。
- 151 名前:第六話 投稿日:2001年09月24日(月)21時20分52秒
- 「ひどいよ、亜依ちゃん。」
「ののが悪いんやで。」
「ののが悪いんやで、じゃないよ。」
「そんなに、おこらへんでもええやん。」
「怒ってなんかいないよ。」
「怒ってるやん。」
「怒ってないよ。」
「なんやねん、まったく。うちが、せっかく心配したったのに。なんで、うちが怒られなあかんねん。」
「そっちこそ怒ってるじゃん。」
「うっさいわ。」
「なんで、そうなの。亜依ちゃん、自分で全部決めちゃって、どんどんすすんでっちゃってさあ、この村に住んでるのはののなんだよ。それなのに、全然この辺のことわかんない亜依ちゃんが全部決めちゃってさ。だから、危ない目にあうんじゃん。さっきだって、ホントに崖だったらどうするの?私死んでたよ。なんで、それで、ののが怒られなきゃいけないの?」
「もうええよ。わかったよ。」
「わかってなんかない。」
「わかったよ。うちが悪いんやろ。それでええよ。」
「そういうこと言ってるんじゃないでしょ。」
「ええって、それで。分かったから。とっといこ。」
- 152 名前:第六話 投稿日:2001年09月24日(月)21時21分42秒
- なんやねん、のののやつ、いきなり怒りだして。
崖から落ちたみたいにして、心配させたんはそっちやんか。
だいたい、ののがしっかりしてないから、うちらはこんなとこで迷ってまうんやないか。
村育ちで、山なんかうちより歩き慣れとるはずやのに、こけたりしよって・・。
ああ、もう、雨うっとうしいわ。
- 153 名前:第六話 投稿日:2001年09月24日(月)21時22分15秒
- それからもうちら二人は歩き続けた。
正直言うて、ここがどこかもうわからへん。
雨は降るし、風は強いし、視界が全然きかへん。
どれだけ進んでてどれだけ時間が経ったのかもわからへん。
さっきの喧嘩以来、ずっと無言や。
のののやつ、何考えとるんやろ。
ただ、うちの後ついてくるだけや。
- 154 名前:第六話 投稿日:2001年09月24日(月)21時23分06秒
- もう、ずいぶん歩いたような気もする。
雨も風も、いっこうに弱まる気配はあらへん。
あたりは、かなり暗くなってきとった。
もうすぐ夜なんやろか。
けものみちから少しはずれた森の中に、洞穴みたいなとこがあったから、そこで休むことにした。
- 155 名前:第六話 投稿日:2001年09月24日(月)21時23分59秒
- 「のの、とりあえず、休も。火はたけんけど、濡れた服は、その辺の枝に引っかけて、ちょっとでもかわかそ。」
「うん・・。」
うちらは、服を脱いで、水着になった。
山ん中でスクール水着着とるのって、なんかへんやな、って自分の置かれてる状況もわすれて、ちょっとおかしくなった。
そんなおもっとったら、ちょっと余裕が出て、冷静になれた。
うち、さっきなんで、ののに怒ったんやろ。
怒ったっていうか、逆切れってやつやな。
やっぱ八つ当たりやったんやろか。
そら、ののも怒るわな。
うちが悪いんやろなあ、こうなったのって。
- 156 名前:第六話 投稿日:2001年09月24日(月)21時25分14秒
- 「のの、ごめんな。」
「あいちゃん・・・。どおしたの、急に。」
「いや、さっきさ、ののが崖もどきのとこから、落ちたとき、喧嘩になったやん。」
「うん。」
「あのとき、やっぱうちがわるかったんやろなあ、おもってな。」
「うん・・・。」
「だから、ごめんな。」
「ううん、ののも、ごめん。なんか、雨強くてさあ、寒くてさあ、おなかもすいて、滑って転んで、なんか、全部やになって、亜依ちゃんのせいにしてせめちゃって、ごめんなさい。」
「いや、そんなことあらへんて。川の上流が見たい、なんて言いだしたんうちやもん。うちが、あんなん言わなければ、こんな目にあわんですんだんやし。」
「それは、しょうがないよ。こんな雨降ってくるなんて、わかんないもん。」
「でも、ごめんな。うちのせいで。」
「いいよ、それはもう。結局、私も来たいから来たんだし。」
「うん。」
- 157 名前:第六話 投稿日:2001年09月24日(月)21時25分52秒
- 雨は全くやむ気配を見せない。
風も強いまま。
そして、とうとう、あたりは真っ暗になってしもうた。
薄暗いとか、そんなんを完全に通り越して、本当に真っ暗や。
なんもみえへん。
- 158 名前:第六話 投稿日:2001年09月24日(月)21時26分47秒
- 「おかあさん、心配してるかなあ。」
「そやな、ばーちゃんも心配しとるやろな。」
「雨やまないね。」
「風もやまへんな。」
「そうだね。」
「電気もなくて、火もなくて、月も星も出てないと、こんなに真っ暗なんやな。」
「あたりまえだよ。夜だもん。電気つけなきゃ、家の中だってそうじゃん。」
「都会だと、そうでもあらへんのや。どこかで電気がついとって、ホントの暗さってうち、今までしらんかったわ。」
「ふーん、そうなんだ。」
- 159 名前:第六話 投稿日:2001年09月24日(月)21時27分44秒
- こんな中、生きて帰れるのかなあ?
そんな疑問がわいてきたけど、口には出せへんかった。
ののも、同じことおもとったのかもしれへん。
二人でしばらく黙り込んでしもうた。
そしたら、ののが突然昔話を始めたんや。
- 160 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時18分40秒
- 「昔々、姫牧村に、小さくて、それはそれはかわいい女の子がおりました。」
「なんや、急に、昔話かいな。」
「亜依ちゃん、こういう暗いとこ苦手みたいだからさ。」
「そんなことあらへんて。暗いのが初めて、言うただけやん。」
「いいよ、強がんなくて。」
「強がってなんかおらへん。」
「いいから、聞いてよ。どっちにしてもすること無いんだし。」
「うん。そやな。」
- 161 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時19分34秒
- 「昔々、姫牧村に、小さくて、それはそれはかわいい女の子がおりました。
その子は、いっつもとろくて、すぐ転ぶし、舌が回らなくてちゃんとしゃべれないし、みんなにいつもいじめられておりました。
その子は、自分の名前もちゃんと言えません。
なぜなら、舌足らずで発音がきちんと出来ないからです。
それで、いつもみんなにバカにされてました。
- 162 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時20分25秒
- “ののみ、ののみ!名前もちゃんと言えないんでやんの。ノーノーだ。”
そんな、小さな女の子を守ってくれたのは、二つ年上の、かっこいい女の子でした。
“いいじゃん、名前なんかちゃんと言えなくたってさ。いじめられたらひとみお姉ちゃんが守って上げるからね。”
そうです、正義の味方ひとみお姉ちゃんは、いつでも守ってくれました。
でも、いつまでたっても、ちゃんと名前が言えるようになりません。
それが嫌で、その子はひとみお姉ちゃんに相談しました。
- 163 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時21分00秒
“あたし、自分の名前ちゃんといえるようになりたい。”
- 164 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時21分51秒
- そしたら、ひとみお姉ちゃんはこう言いました。
“そんなに無理しなくていいよ。じゃあ、今日からのぞみちゃんは、ののちゃんにかえよう。言ってごらん、ののって。”
- 165 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時22分33秒
“のの。”
- 166 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時23分11秒
ねっ、言えたでしょ。
こうしてその女の子は、自分の名前が言えるようになりましたとさ。」
- 167 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時23分41秒
「ののって、名付けたの吉澤さんなんや。」
「うん。すごくちっちゃな時だけどね。」
- 168 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時25分05秒
ののが、昔話をしてくれたから、うちもしようかな、思うたけど、やめた。
なんか、思い出せへんねん、昔のこと。
優秀な中学に行くために、勉強ばかりしとった小学校時代。
もっと小さな頃は、友達と駆け回って遊ぶのが大好きやったのに、いたずらするのが大好きやったのに。
いつの間にか、先生に誉められてばかりの優等生になっとった。
学校から帰ったら、すぐに塾へ直行や。
まあ、そのおかげで勉強は出来るようになったし、いい子ねって誉められる。
それは、悪い気分はせえへんけどな。
- 169 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時25分44秒
でも、そんな暮らしぶりは思い出せても、友達と何かをしたって記憶が、あらへんねんうち。
中学に入ってからは、お母さんもあまりうるさくいわへんようにはなったけど、今度は、うち自身のそれまでのええ成績がプレッシャーになって、さぼることがでけへんかった。
入学祝いにこうてもらったプレステ2だって、こっちに持ってきて初めてやったんや。
ばーちゃん、なんもうちにいわへんから、あやうく、夏休み中プレステやっとるとこやった。
初めての夏休みみたいなもんやから、どう過ごしてええんか、全然わからへんかったからな。
たまたま、あの日、外に出たから、ののに出会ったんやな。
- 170 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時26分24秒
「のの、いつまでも友達やで。」
「・・うん。当たり前だよ。」
「そやな、当たり前やとええな。」
- 171 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時27分42秒
信じてるで、のの。
ずっと、ずっと、友達やで。
- 172 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時28分20秒
暗い洞穴の中、うちらはずーと話しとった。
他にすることあらへんからな。
ずーと話しとっても、雨は全然やまへんかった。
- 173 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時28分58秒
- 「のの、もう、今日は帰るの無理やないか?」
「うーん・・・。」
「だって、ここがどこかもわからへんねんで。」
「そうだね。それにおなか空いたね。」
「そやなあ、さっき、おやつのトマトも食うてしもたからなあ。」
「やきそば、お好み焼き、チョコレートパフェ、アロエヨーグルト、ミカンゼリー、ハンバーグ。」
「やめーや。余計おなか空いてくるわ。」
「・・・うん。でも・・食べたい。」
「のの、もう寝よか。」
「寝るって、ここで?」
「うん、しゃーないよ。明日は晴れとるのを期待して。こんな暗い中、村まで戻るのはもう無理やろ。あとは、寝て待つしかあらへんやろ。」
「でも、水着で寝るのって、なんか変だね。」
「服、もうだいぶ乾いとるみたいやで。」
「ほんとだ。でも、ちょっと冷たい。」
「でも、着ないよりええやろ。」
「うーん、じゃあ、ねよっか。」
「うん、ほな、お休み。」
「お休み。」
- 174 名前:第六話 投稿日:2001年09月25日(火)22時31分23秒
夢を見た。
ちっちゃなうちとののが喧嘩して、やっぱりちっちゃなまきちゃんとうちが二人であそんどったら、今よりはちっちゃな吉澤さんがののをつれてきて、なぜか二人して怒られるっちゅう夢や。
なんなんやろ。
まあ、ええけど。
- 175 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月26日(水)19時25分51秒
- こういうあいののもいいな〜
どたばた系じゃなくてほのぼの系で。
作者さんリアルタイムで読んでます。
がんばってください。
- 176 名前:第六話 投稿日:2001年09月26日(水)22時19分19秒
- >175 どうもです。
そういえば、この二人がメインだとどたばたになるのが多いですね。
それでは、続きです。
- 177 名前:第六話 投稿日:2001年09月26日(水)22時20分09秒
-
うちが目を覚ましたとき、ののはまだ寝とった。
あー、背中いた。
背中だけやなくて、体中痛いわ。
こんな、ごつごつした岩の上で寝たんやから、しゃーないんやけど。
外は、驚くほど静かやった。
陽はまだ上っていないようで、薄暗かったけど、風は、すっかり静かに止んでいた。
ののは、しばらく寝かしとこ。
洞穴を出ると、昨日は気づかへんかったけど、ちょっと先に開けて崖みたいなとこがあった。
もし、そこに迷い込んでたら思うと、ぞっとする。
その、開けたとこまで行って、崖から先を見ていると、太陽が上がってきた。
- 178 名前:第六話 投稿日:2001年09月26日(水)22時20分42秒
嵐の去った静かな朝。
空気の中の汚れは、全て風がぬぐい去り、雨が落としている。
空は、雲一つない。
そんな朝、緑に覆われた山と山の間から、深紅の太陽が昇ってくる。
美しい、その言葉の意味を、今初めて知った。
うちは、こんな光景を見るんは初めてや。
あたりの暗さは、徐々に薄れてゆく。
少しずつ昇ってくる太陽に照らされて、うちの体も、赤く染まっていくようや。
不思議と静かやった。
虫の鳴き声も、鳥の歌声も全く聞かれへん。
朝焼けの太陽に照らされて、森全体が、山全体が目覚め始める。
そして、夜が明けた。
- 179 名前:第六話 投稿日:2001年09月26日(水)22時21分20秒
「きれいだね。」
いつの間にか起き出してきとったののが、語りかけてくる。
「ああ、きれいやな。きれいとか、美しいとか、そんな言葉じゃたりんくらい、きれいやな。」
- 180 名前:第六話 投稿日:2001年09月26日(水)22時21分54秒
朝焼けの太陽は、地平線から姿を完全にあらわし、紅の色から、いつもの落ち着いた普通のオレンジ色になってくる。
そして、木々もざわめきはじめ、森の虫たち、空の鳥たちも、再び行動を始めたようだ。
うちとののは、しばらく、明るくなってゆく山々を見つめていた。
きっと、うちがしらんだけで、山では毎日のようにこういう光景があるのだろう。
それこそ、何十年、何百年、いや、何万年かもしれん、毎日のように毎年のように、日が昇り、日が暮れて、虫が鳴き、鳥が鳴き・・・。
ずーと変わらないもの、なんやろな。
うちも、変わらないものが欲しい。
今年の夏、ののと出会って、変わらないものはつくれたんやろか。
ののとは、ずっと変わらない友達でいられるんやろか。
- 181 名前:第六話 投稿日:2001年09月26日(水)22時22分39秒
「美しいはビューティフル。」
しばらくして、突然ののが言い出す。
覚えとったんやな、お化けの森で最初に出会ったときのうちの台詞。
- 182 名前:第六話 投稿日:2001年09月26日(水)22時23分19秒
「ののも、あんなにきれいなお日様は初めて見た。」
「うちもや。遭難して良かったな。」
「それは、ちょっと違うんじゃないの?」
「まあ、ええやん。嵐は去ったし、これで帰れそうやな。」
「うん、でも、おなか空いた。」
「それは、うちもそうやけど、しゃーないやん。あとちょっとの辛抱や。」
「やだよ。おなか空いたよー。朝ご飯食べたーい!!!」
- 183 名前:第六話 投稿日:2001年09月26日(水)22時24分17秒
のののやつ、大声で叫びよった。
“やっほー”やないんやで。
まったく、山びこまで帰ってきて、“朝ご飯食べたーい”が村中に響き渡ってるよ。
- 184 名前:第六話 投稿日:2001年09月26日(水)22時25分14秒
- 「何のんきに、朝ご飯食べたいとか言ってるんだよ、
まったく、こっちは苦労して一晩中探してたってのに、いい気なもんだよ。
これだから、ガキは困るんだよな。しょーがねーなー、私がいつも持ち歩いてるカロリーメイト食べさせてやるから、
帰るぞ、おこちゃま達。」
- 185 名前:第六話 投稿日:2001年09月26日(水)22時26分41秒
ののの“朝ご飯食べたい”のおかげで、うちら二人は、レスキュー隊の人に発見された。
うちらを見つけたのは、保田さんという、新米レスキュー隊員で、ぐちぐち言いながら、村までうちらを送ってくれた。
ののの家族や、うちのばーちゃんは、一睡もせずにうちらのことまっとったらしい。
吉澤さんもまきちゃんも、赤い目をして、まっとってくれた。
堪忍やで、みんな。
うちもののも悪くない。
わるいんは、あの台風や。
- 186 名前:第六話 投稿日:2001年09月26日(水)22時34分03秒
レスキュー隊と警察にこってり絞られてからようやく家に帰してもらえた。
でも、ホントにつらかったのは、その後で、さんざん雨に濡れたうちもののも、その後数日風邪で寝込んでしもうたことや。
うちなんか38度7分も熱出たんやで。
だけど、後悔はしてへん。
誰もいない森の中で、ののと二人で一晩過ごしたこと。
そして、二人で見た美しい夜明け。
なにものにもかえられへんものやから、うちは、後悔してへんで。
- 187 名前:作者 投稿日:2001年09月26日(水)22時36分09秒
- 第六話、終わりました。
二人とも、無事で何よりでした。
レスキュー隊は、何となくイメージでこの人でしたが、いいのかな?
第七話は、また明日からです。
- 188 名前:第七話 さよなら、夏の日 投稿日:2001年09月27日(木)22時34分19秒
山での遭難から帰ってきて丸3日。
うちは、風邪ひいてダウンしとった。
あれだけ濡れたんやからなあ、そら風邪もひくわ。
- 189 名前:第七話 投稿日:2001年09月27日(木)22時34分51秒
-
風邪から治ったうちは、残り少ない夏休みをやっぱりののとすごそうと、遊びに出かけようとしたら、ばーちゃんにとめれらた。
- 190 名前:第七話 投稿日:2001年09月27日(木)22時35分54秒
「亜依、ののちゃんとは遊べないよ。」
「なして?」
「亜依が、風邪ひいてたのと一緒で、ののちゃんも風邪ひいて寝込んでるの。だから。」
「ふーん、そっか、じゃあしゃーないな。うち、お見舞いに行きたいんやけど、ええかな?」
「それもだめ。亜依が行ったら、絶対騒ぐでしょ。
だから、おとなしく寝かしといてあげないと、ののちゃん治らないでしょ。
分かったら、亜依もおとなしくしてなさい。」
「はーい。」
- 191 名前:第七話 投稿日:2001年09月27日(木)22時36分33秒
はーい、言うて、その日一日はうちでおとなしゅうゲームやっとったけど、やっぱつまらんわ。
それで、次の日は一人でお化けの森まで行ってみた。
でもやっぱつまらん。
川まで行って、一人で泳いでもみたけど、それでもつまらん。
あーあ、のの、はよ風邪治してや。
うち、もうすぐ帰ってしまうねんで。
- 192 名前:第七話 投稿日:2001年09月27日(木)22時37分07秒
次の日になっても、元気なののには会えへんかった。
その日、うちはお化けの森におったらののが来るかなあ、思ってまっとったら、来たのはまきちゃんやった。
- 193 名前:第七話 投稿日:2001年09月27日(木)22時38分17秒
- 「亜依ちゃん、ひとりぼっちでどおしたの?」
まきちゃんが心配そうに訪ねてくれた。
「うん、ののがな、風邪ひいて寝込んでる言うから、遊んでもらえへんねん。
それで、一人でおるんよ。
なんか寂しいわ。
のの大丈夫なんやろか。」
「ふーん、そういうことになってるんだ。
私で良かったら、一緒に遊ぼうよ。」
- 194 名前:第七話 投稿日:2001年09月27日(木)22時39分21秒
- 一瞬うれしかったんやけど、そういうことってどういうことやろ。
まあ、それはおいといて、うちは真希ちゃんと神社で鬼ごっこしたり、川で泳いだりして遊んだ。
泳いだ後は、河原で二人だけのカラオケ大会や。
うち、あんまり歌とかしらんから、まきちゃんにいろんな曲とか振り付けとか教えてもろうた。
真希ちゃんは、やっぱうまいわ。
カラオケ大会優勝したんもうなづける。
でも、うちだって負けてへんで。
ののに教えてもろた、ピンクのカツラの曲の振り付け教えて上げた。
ちょっと恥ずかしかったけど、やっぱあの曲でカラオケ大会出たらよかったやろか。
暗くなってきたから、真希ちゃんにうちまで送ってもろうたんやけど、やっぱり気になったんは、さっきの“そういうこと”っていうまきちゃんの言葉や。
なんか、気持ち悪いから、まきちゃんに聞いてみた。
- 195 名前:第七話 投稿日:2001年09月28日(金)23時49分10秒
「なあ、さっきさあ、そういうことになってるって言うたやん?」
「へっ?なんのこと?」
「さっき、のののこと、そういうことになっとる言うてたやん。あれってどういうことなん?」
「えっ、ああ、さっきの。あれねえ、私が言っていいのかなあ。」
「言っていいのかなあ、ってなに?なんなん。気になるやん。はっきり言ってえな。」
「うーん・・・。実はね、ののちゃんの風邪は、とっくに治ってるんだよね。」
「えっ?それってどういうことや。どういうことやねん。」
「あのね、この前さあ、二人で山で遭難したとき、山にいこって誘ったの、亜依ちゃんでしょ。」
「うん。そや。」
「それで、二人で山に行って台風が来て、帰ってこれなくなっちゃった。」
「うん、確かに、うちがののを誘わんかったら、ののは、あんな怖い目にあわんですんだし、風邪もひかずにすんだんかもしれへん。」
- 196 名前:第七話 投稿日:2001年09月28日(金)23時49分51秒
「それをね、ののちゃんのお母さんも思ったらしいのよ。」
「それってどういうことなん?」
「だから、亜依ちゃんが、ののちゃんを悪い道に引き込んだと思ってるのね。だから、ののちゃんに亜依ちゃんと遊んじゃいけませんって言ったらしいの。」
「それじゃ、それじゃ、ののとは、もう会えへんの?そんなんいやや。うち、ののの家行く」
「亜依ちゃん、落ち着いて。そんなことしても逆効果だよ。ののちゃんのお母さん、怒るとホント怖いらしいから。私は知らないんだけど、よっすぃーがそう言ってた。だから、今亜依ちゃんが、ののちゃんの家なんか行ったら、ののちゃん夏休み中家から出してもらえなくなっちゃうよ。」
「じゃあ、じゃあ、どないしたらええっちゅうねん。」
「亜依ちゃんが、奈良に帰るのって、いつ?」
「三日後や。後三日しかあらへんねん。」
「そっか。じゃあ、私とよっすぃーでなんとかするから、亜依ちゃんはおとなしくしてること。いい?」
「いやや。おとなしくなんかしてられへん。」
「でも、亜依ちゃんがいまどうこうしても、どうにもなんないよ。」
「でも・・。」
- 197 名前:第七話 投稿日:2001年09月28日(金)23時50分21秒
「私とよっすぃーを信じて。ののちゃん、今はバレー部の練習に出てて、行き帰りはお母さんの送り迎えつきらしいんだ。だから、亜依ちゃんが会うチャンスはないの。よっすぃーが、昨日練習であったときにね、ののちゃんは、亜依ちゃんに会いたいけど、お母さん怖いから、どうしようって言ってたらしいんだ。だから、もうちょっと待ってて。お願い。」
まきちゃんは、手を合わせてうちのこと上目づかいに見るんや。
そんなんされたら、イヤって言えへんやんないか。
しゃーないから、絶対やで、頼むでって念を押して、まきちゃんと別れた。
- 198 名前:第七話 投稿日:2001年09月28日(金)23時51分08秒
ばーちゃんひどいやないか、って責めたら、しょうがないでしょ、でもごめんねいうて、晩ご飯は焼き肉にしてくれた。
ばーちゃん、入れ歯しかないから、肉食べられへんのにな。
ちょっと責めて悪かったかな、思うたけど、焼き肉食べられてラッキー。
でも、このままののに会えへんで帰ることになったらどないしよって思うたら、その日はほとんど眠られへんかった。
- 199 名前:第七話 投稿日:2001年09月28日(金)23時51分38秒
次の日も、その次の日もまきちゃんはうちと遊んでくれた。
まきちゃんと遊ぶんは楽しい。
最後の日は、まきちゃんちに行ったんやで。
まきちゃんちで、うちは生まれて初めての化粧をしてもろうた。
まあ、うちは化粧なんかせえへんでも、十分かわいいんやけどな。
なんか、まつげを調える道具とかあって、すごいんな。
まきちゃん、うちのまつげ変な形にしよるし、口紅べたって塗って、最初はお化けみたいにされたんや。
- 200 名前:第七話 投稿日:2001年09月28日(金)23時52分16秒
でも、そのあと、まきちゃんのお母さんに、ちゃんと化粧してもろうたら、うちがうちやないみたいやった。
まきちゃんの化粧した顔も始めた見たけど、いつもかわいいけど、なんか今日はすごい大人っぽかった。
記念に二人で写真とったんや。
だけどな、まきちゃんと遊ぶんはすごい楽しいんやけどな、なんかたりんねん。
まきちゃんは何も悪くないんやけど、なんか寂しいねん、ののがおらんと。
帰る前の日になっても、結局ののとはあえへんかった。
その日、まきちゃんがうちまで送ってくれた。
- 201 名前:第七話 投稿日:2001年09月28日(金)23時52分48秒
「まきちゃん、うち、ののと会いたい。うち明日帰っちゃうんや。」
「ごめんね。亜依ちゃん、明日は絶対、ののちゃんのことつれてくるから。駅につれてくるから。明日、電車何時?」
「電車は、1時15分やけど。」
「絶対、つれてくるから。大丈夫だからね。それじゃ、バイバイ。」
「バイバイ。」
- 202 名前:第七話 投稿日:2001年09月28日(金)23時53分36秒
まきちゃんは帰っていった。
うちは、まきちゃんを信じへんわけやないけど、ののとどうしても会いたかったんや。
だから、その足で、うちはののの家へ向かった。
のの、うちは会いたいねん。
嵐に巻き込まれて、二人だけで洞穴で一晩過ごして、怖い思いさせて悪かった思うとるけど、でも、会いたいねん。
のののお母さんは怖いらしいけど、そんなん関係あらへん。
うちはののにあうんや。
ののの家は、田舎の家には珍しく、インターホンなんちゅうもんがついとった。
まあ、ついとるんやから、押すしかないやろな。
- 203 名前:第七話 投稿日:2001年09月29日(土)22時04分11秒
“ピーンポーン”
のののお母ちゃんらしき人が出てきよった。
- 204 名前:第七話 投稿日:2001年09月29日(土)22時05分23秒
「加護さんとこの娘さんね。何かご用?」
「うち、ののと、辻希美さんと会いたいんです。」
「希美は、今寝ています。お帰り下さい。」
「風邪は治ったって聞きました。だから、会わせて下さい。」
「風邪治ったの知ってるんなら、はっきり言わせてもらいます。
あなたと希美は会わせるわけにはいきません。」
「どおしてですか?」
「どおしてですか?じゃないわよ。
あなたといると、希美が危険な目に遭うからです。
うちの娘連れ出して、山の中で一晩過ごして、崖から落ちそうになったり、危ない目に遭わせるような子と、希美を会わせる分けないでしょ。」
「この前の、遭難のことは、反省しています。
希美さんを危険な目に遭わせて本当に申し訳ありませんでした。
だけど、そやけど、それとこれは違います。
ののを、希美さんを危険な目に遭わせたんも、わざとじゃないんです。
ののと楽しく過ごしたかっただけなんです。
だから、会わせて下さい。」
「帰りなさい。
反省してます、で済む問題じゃないの。
命に関わるようなことなんですからね。
あなたに娘を会わせるわけには行きません。」
- 205 名前:第七話 投稿日:2001年09月29日(土)22時05分57秒
うちは、もう、頭に血が上ってしもうたんや。
もう、前後の見境もなくなってしもうた。
- 206 名前:第七話 投稿日:2001年09月29日(土)22時06分28秒
「いやや、ののと会うねん。ののー!!聞こえるかーー!!。聞こえたら、出てきいや。亜依やで。加護亜依が来たで。この前はすまんかったけど、うちは、ののと会いたいねん。顔だけでもみしてーや。」
「帰りなさいって言ってるでしょ。」
「ののー!!うち、明日帰ってしまうねん。だから、もう会えへんねん。明日1時15分の電車で帰るから、絶対来てや。絶対やでーー!」
- 207 名前:第七話 投稿日:2001年09月29日(土)22時06分58秒
うちは、のののお母さんに、つまみだされてしもうた。
さすがにのののお母さんだけあって力はうちの数倍はあった。
結局ののとはあえへんかった。
でも、うちは信じとる。
ののは、うちの声は聞いたはずや。
うちが来たんは分かったはずや。
だから、明日はきっと来てくれる。
来てくれるはずや。
- 208 名前:第七話 投稿日:2001年09月29日(土)22時07分30秒
翌日、うちが帰る日や。
ののは、結局うちには来てくれへんかった。
午前中にお化けの森まで行ってみたけど、ののはおらへんかった。
お昼前に、タクシーを呼んで駅に向かった。
駅に着いたのは12時ちょっと過ぎ。
電車にはまだ早いけど、駅でばーちゃんと二人、作って持ってきた弁当を食べとったらまきちゃんが来てくれた。
- 209 名前:第七話 投稿日:2001年09月29日(土)22時08分18秒
「亜依ちゃん、早いね。ちょっと早めに来てみたのに。」
「ののは?ののはおらへんの?」
「・・・。」
「ののは?うち、あいたいねん。」
「ののちゃんとこには、よっすぃーが行ってる。だから、多分来てくれる。大丈夫だよ。」
- 210 名前:第七話 投稿日:2001年09月29日(土)22時09分00秒
まきちゃんは寂しそうやった。
でも、うちかて寂しいんや。
結局ののとはあえへんのやな。
だけど、のの以外では、この村で一番いっしょにおったんはまきちゃんやと思う。
まきちゃんと遊ぶのは楽しかったし、まきちゃんはやさしいし、まきちゃんはうちと同じくらいかわいいし。
だから、まきちゃんが見送りに来てくれたんだから、寂しい顔しちゃいけないんやろな。
そう思って、にーと笑って見せたら、まきちゃんもにーって笑い返してくれた。
- 211 名前:第七話 投稿日:2001年09月29日(土)22時09分38秒
「もう、お別れなんだね。短いよね、夏休みって。」
「まきちゃん、見送りに来てくれてありがとう。」
「いいよ、お礼なんか。」
「まきちゃんといっしょに遊べて楽しかったよ。」
「うん。わたしもだよ。」
「うち、小学校の頃は、ずーと勉強ばっかしとって、夏休みは、塾に通って毎日毎日お勉強、だから、今年は、初めての夏休みみたいなもんやったんや。だから、めいいっぱい遊んで、すっごいたのしく出来て、すっごいよかった。まきちゃんと会えて良かったよ。ありがとう。」
「私も、亜依ちゃんと会えて良かったよ。私、昔は東京に住んでてさ、こっちになれるのも大変だったんだよね。それで、よっすぃーみたいなともだちも出来て、こっちに馴染んでは来たけど、まだまだ友達少なくてさ。それに、ちょっと都会のかおりも欲しかったんだよね。だから、亜依ちゃんみたいな、ほんの少しだけ、都会の匂いのすること遊べて良かったよ。」
「ほんの少しー??うち、めいいっぱい都会人やん。」
「うーん、それはどうかな?」
「どうかなやない。うちは都会人や。」
「じゃあ、そういうことにしとこうか。」
- 212 名前:第七話 投稿日:2001年09月29日(土)22時11分51秒
そう言って、うちらは大笑いした。
「もう1時だね、そろそろホームの方行く?」
「うん、そだね。」
- 213 名前:第七話 投稿日:2001年09月29日(土)22時13分08秒
うちとばーちゃんと、まきちゃんの3人は歩道橋をあがって、ホームに入った。
このころ、ののが何をしとったかは、まきちゃんが後で手紙に書いて送ってくれた。
- 214 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時33分02秒
ののは、お化けの森におった。
うちとほとんどすれ違いやったらしい。
正確に言うと、お化けの森の、あの最初に出会った場所の、ちょっと崖っぽくなってたとこの下。
ののにとって、そこは体育館履きを落っことすってだけや無くて、悩みがあるときに座り込むお気に入りの場所やったらしい。
うちは、しらんかったけど、そこには小川が流れとって、きれいな場所なんやって。
それを知ってて、そこにやってきたのが吉澤さんやった。
- 215 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時33分35秒
「のの、どおしたの。」
「よっすぃー・・・。」
「まあ、どおしたのかは、実は聞かなくても分かってるんだけどさ。それでも、聞いちゃう。どおしたの?」
「よっすぃー・・。昨日亜依ちゃんうちに来たの。」
「・・うん。」
「それで、ののにあわせろーって叫んで、お母さんがそれを追い返したの。」
「・・うん。」
「それで、ののは、陰に隠れてそれを見てたんだけど、お母さんは戻ってきて、ののに、絶対あっちゃダメだからねって言ったの。」
「・・・うん。」
「昨日は、それで終わったんだけど、今日の朝、お母さんと喧嘩しちゃった。」
- 216 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時34分16秒
「・・・喧嘩しちゃったんだ。」
「うん。亜依ちゃんに会いたいって。だけど、お母さん絶対ダメ、あの子と会うなら、ののはもううちの子じゃありませんって言われたの。だけど、亜依ちゃんと会いたくて、お母さんのばかー!って叫んで、飛び出して来ちゃった。」
「そっかあ。・・・それで、ののは、何でここにいるのかな?ここは駅じゃないよ。」
「だって、なんか、会いづらくて。」
「なんで?亜依ちゃん会いたがってたよ。」
「せっかく来てくれたのに、昨日も隠れたまんまで出て行かなくて、それに、何日も遊んであげなくて。」
「ののは、それでいいの?」
「良くないよ。」
「じゃあ、行こうよ。」
「でも・・・。」
- 217 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時34分55秒
「亜依ちゃんに会いたくないんだ。」
「会いたいよ。亜依ちゃん帰っちゃったら、次いつ会えるかわかんないもん。もう会えなくなるかもしれないもん。」
「じゃあ、行こうよ。」
「でも、もう、間に合わないよ。走ったって、間に合わないもん。」
「大丈夫。よっすぃーが、自転車に乗せて上げる。上に、自転車あるから、早く。」
「いいの?」
「もちろん。亜依ちゃん待ってるよ。ほら、行くよ。」
- 218 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時35分33秒
ののは、こうして吉澤さんの説得で、ようやく駅の方に向かってきてくれてたらしいんや。
お母さんと喧嘩なんて、ののちゃんもそろそろ反抗期かな?なんてまきちゃんは書いとった。
ののは、吉澤さんの自転車の後ろにのって、背中にしがみついてたそうや。
なんか、あの2人って姉妹みたいやな。
- 219 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時36分11秒
1時15分。
電車がホームにはいってきよった。
やっぱり、ののにはもう会えへんのやなって思う。
だけど、まきちゃんがおるから、笑顔でいないと。
まきちゃんだけでも見送りに来てくれたんや。
うれしいことやないか。
- 220 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時36分46秒
「亜依ちゃん、最後にプレゼント。」
「何?」
「これ。」
- 221 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時37分21秒
それは、写真やった。
まきちゃんと初めておうたのは、あの夏祭りの時や。
そのときから、お盆の結婚式や、昨日の生まれて初めてのお化粧写真もある。
「今日ね、朝一番で町まで出て、スピード現像のお店で、現像してもらったんだ。」
- 222 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時37分55秒
まきちゃん・・・。
こんなんされたら、うち、泣いてしまいそうやんか。
- 223 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時38分30秒
「亜依ちゃん、泣きそうだよー。泣かないでよ。」
「泣いてなんかあらへん。まきちゃんが悪いんや。こんな、写真なんか持って来るんやもん。お別れなんやーって実感してしもうたやないか。」
「ごめんね。でも、持っていって欲しかったんだ。」
「うん。ありがとう。」
- 224 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時39分02秒
うちは、電車に乗り込んだ。
ののは、結局来てくれへんかった。
「亜依ちゃん。気をつけて帰ってね。元気でね。」
「まきちゃんも、元気でね。受験勉強頑張って。」
「それは、あんまり言わないでよー。」
車掌さんの笛が鳴った。
- 225 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時39分34秒
「その電車、ちょっとまったー!!!」
- 226 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時40分05秒
辺り一面の田園風景に似合わない大声は吉澤さんの声やった。
ののが、自転車の後ろから飛び降りてこっちに走ってくる。
吉澤さんも、自転車を放り出して、こっちに向かってきた。
二人とも、線路を走ってこっちに向かってくる。
まったく、危ないなあ・・・。
- 227 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時40分37秒
「亜依ちゃん。亜依ちゃん。ごめんね。ごめんね。」
「なにあやまっとるん。」
「ごめんね、昨日うちに来てくれたのに、出ていけなくて。」
「まあ、ええよ、そんなん。今日会えたし。」
「うん、ごめんね。ごめんね。」
「泣くなって、もう・・。」
- 228 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時41分12秒
うちは、電車の中から、ののの頭をなでた。
電車の高さ分、うちのがお姉さんになった気分や。
- 229 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時41分44秒
「亜依ちゃん。いつまでたっても、ずーとたっても、1年たっても、10年たっても、大人になっても、ののと亜依ちゃんは友達だよね。」
「ああ、ののとうちは、いつまでたってもずーっとずーっと友達やで。」
「また、会おうね。また、会おうね。」
「うん、そやな。絶対やで。」
「うん。」
車掌さんの笛が、また鳴った。
今度こそ、本当にお別れの時。
- 230 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時42分19秒
「亜依ちゃん、元気でね。」
「ああ、ののも元気でな。食べ過ぎに気をつけーよ。」
「亜依ちゃんだって、食べ過ぎるじゃん。」
「そんなことあらへん。」
- 231 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時43分07秒
二人で大笑いした。
お別れや、のの。
「のの。」
「んっ?」
- 232 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時43分45秒
チュ
- 233 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時44分20秒
ドアが閉まり、電車が走り出した。
のの、まきちゃん、吉澤さん、それにばーちゃんの4人が、ずーと手をふっとった。
うちも、窓から身を乗り出して、手を振ってた。
そしたら、トンネルが来て、みんな見えなくなってしもうた。
- 234 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時44分50秒
夏休み、終わってしもうたなあ。
初めてのチュは、女の子とになってしもた。
恋とか愛とか、まだうちにはようわからへんけど、なんかな、チュってしたなったんや。
だから、ののは女の子やったけど、それでもええの。
- 235 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時45分34秒
- もう、帰るんやなあ。
最初は何もあらへん村やなあ思うてたけど、本当は、山があって川があって、田んぼも畑もあって、神社があって、森があって、いろんなものがあるんや。
のの、楽しい夏休みありがとな。
会えてよかったで、ホントに会えて良かったで。
まきちゃんや吉澤さんもありがとな。
そんなん思うとったら、泣きそうになってきてしもうた。
そんで、うつむいてすわとったら、うちよりも小さな車掌さんが声をかけてきよった。
- 236 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時46分14秒
「楽しい夏休み過ごせたかい?」
「・・・うん。」
「そっか、それなら、良かったね。でも、電車を止めて待って上げるのはもう出来ないよ。」
車掌さんが笑ってそう言ってるのをみて、うちも笑いたかったんやけど、結局泣いてしもうた。
- 237 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時46分47秒
「うん、うん。お別れはつらいよね。でも、出会わなければお別れはないんだよ。楽しい夏休みだったんだね。思いでいっぱい出来たんだね。会いたいって強い気持ちを持ってれば、きっとまた会えるよ。ねっ。」
車掌さんは、小さな背を伸ばしてうちの頭をなでてくれた。
うちは、泣きながら、きっとまた会えるって信じとった。
- 238 名前:第七話 投稿日:2001年09月30日(日)19時47分38秒
のの、また会おうな。
- 239 名前:完 投稿日:2001年09月30日(日)19時48分16秒
−− 完 −−
- 240 名前:エピローグ 投稿日:2001年09月30日(日)19時48分58秒
以上が、うちの夏休みの思い出や。
大事な大事な、思いで。
人生初の夏休みやったしな。
ののは、ホントにええ子や。
夏休み、遠い昔のことやなあ。
そんなののが、今日はうちにくるんや。
ホントに久しぶりや。
あの夏休み以来やから、4ヶ月ぶりや。
ん?今いつかって?
今は、冬休みや。
あれからホントながかったんやで。
4ヶ月なんてあっというまやないかって?
それは、おっさん、おばはんの意見やな。
うちら中学生にとって、二学期ってのは、永遠みたいに永いもんなんや。
体育祭があって、文化祭があって、地獄の期末テストを乗り越えてやってきたのが、今日のクリスマスイブなんや。
今日、ののがうちにやってくる。
ののはガキや。
一人で電車にも乗られへん。
ちゃんとうちまでこられるやろか。
うちが駅まで迎えに行くことになっとるけど、ちゃんと来るんやろか。
田舎の中学生は携帯ももってへんから、迷子になってもしらへんで。
そんなうちらの、冬休みの話は、また今度な。
今日はクリスマスイブ。
みんな、幸せになるんやで。
- 241 名前:完結 投稿日:2001年09月30日(日)19時49分51秒
初めての夏休み −− 完 −−
- 242 名前:あとがき 投稿日:2001年09月30日(日)19時50分21秒
加護亜依の夏の物語はこれでおしまいです。
この話は、私が書き上げた初めての物語になります。
連載を始めた時点ではすでに最終話までのテキストは手元にそろっていました。
それでも、毎日アップしているうちに、ちょっとずつ手直ししたりしています。
最終話の、チュは、本当は握手してお別れのはずでした。
だけど、ここに乗せる直前に、急にそんな光景が浮かんだので、ちょっと変えてこの形になってます。
自分は、あまりレズレズしたものは書きたくなかったので、これを入れるのはためらいがあったのですが、この二人だと、お友達でもチュってやっていいかなと思ったので、付け加えました。
- 243 名前:あとがき 投稿日:2001年09月30日(日)19時50分55秒
この話は、最初から加護の話を書こうと思って書いたわけではありません。
7月のある日、“暑いなあ、でも、暑いから夏なんだよなあ”と思った時に、ふと田舎で過ごす中学生のストーリーが浮かんだのが元です。
先に、そのイメージがあって、そこに加護と辻を当てはめていきました。
全員出したいなあ、とは思いましたが、3人ほど登場していないのは、エピソードが足りなかったためです。
レスが全く付かなかった最初は、放棄しようかとも思いましたが、そこで愚痴ったときにレスを付けて下さった方ありがとうございました。
懐かしい感じがする、というレスはすごくうれしかったです。
自分では、そういった感じが出たらいいなあ、と思って書いてました。
そして、もう一つは夏の雰囲気が出したかったのですが、あまり夏っぽさがないですね。
話し全体としては、加護亜依が村に来たときと帰るときで、大きく成長している部分を描きたかったのですが、力不足でまったく成長のない、感じになってしまいました。
悔しいです。
- 244 名前:あとがき 投稿日:2001年09月30日(日)19時51分39秒
- ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。
よろしければ、感想などいただけたらうれしく思います。
第何話が一番面白かった(ましだった)とか、ここをこうしたらもっと良かったなど、何でも結構です。
ただ、つまらん、と一言書き捨てるのは、へこむんで、勘弁して下さい。
どこそこがつまらない、だからこうしたらいい、とかそんな感じでお願いします。
現在は、全く別のタイプの話を、書いてはいますが、公開するかどうかは分かりません。
正直、力不足を感じてしまったので・・・。
以上、エピローグ消しが、長くなったあとがきでした。
- 245 名前:これから読む方へ 投稿日:2001年09月30日(日)19時58分02秒
- >>1-13 第1話 ばーちゃんち
>>15-26 第2話 お化けの森
>>28-54 第3話 バレーボール
>>56-86 第4話 夏祭り
>>91-130 第5話 村の結婚式
>>134-186 第6話 嵐の夜
>>188-239 第7話 さよなら、夏の日
正直言って、第1話いらないかも。
前置きが面倒、と言う方は第2話からお読み下さい。
- 246 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月01日(月)10時54分08秒
- やっぱりもっとレスつけた方がよかったのかな?
最初からずっと読んでたけど、レスで汚すのは悪いかなって思ったんだけど・・・
今私の頭の中には井上陽水の「少年時代」が流れています。
なんか里帰りしてみたくなりました。
といっても実家に住んでるんですけどね。
ちょっと旅をしたくなりました。
- 247 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月02日(火)01時51分30秒
- あ〜不覚にも泣いちゃいました。
あいののはもちろん、お姉さんぽいよしごまも光ってますね。
特に良かったのは、「嵐の夜」の美しい風景に2人が感動するところ。
素敵な読み物をありがとう。
- 248 名前:22号 投稿日:2001年10月03日(水)04時11分48秒
- 寝ようかなと思った時に、見つけて読みふけってしまいました。
私は田舎で育ちなので、田舎で遊ぶ二人に昔を思い出しました。
川とかで遊んでると、その内上流の方に行ってみたくなるんですよね、自分も
そうでした。幸い台風は来なかったけど
そんな自然にまつわるエピソードが凄いリアルで、ひさぶりに田舎でのこと振り
ました。そのきっかけくれたこの小説と作者さんに感謝です。いい物読ませて
頂きました。次回作もぜひお願いします。
長レスすいませんでした。
- 249 名前:作者 投稿日:2001年10月04日(木)22時50分12秒
- 感想を下さった皆様ありがとうございました。
>246 レスがないと悩みます。
書いてみて初めて分かりました。
読み手としては、レスがない方が読みにくくていいんですけどね。
「少年時代」ですか。大人ですね。
私的には、メール欄使って書いたけど、Secret base がテーマソングでした。
加護辻は、”少年時代”知ってるかなあ?
>247 お姉さんぽいよしごま。
かごつじの前だと、この二人はお姉さんかな。
最近、かごごまが仲良しに見えてしょうがない。
”嵐の夜”のあのシーンは、一番力入れて書いたシーンです。
>248 22号さん。
リアルに見えますか?
全部、想像の世界で作りました。
第6話もそうですが、田舎へのあこがれみたいなものがあって出来た話です。
次回作は・・・月末か、来月はじめくらいに公開かな。
書き続けてれば、少しは進歩すると信じて、頑張ってみます。
みなさん、懐かしいとか、旅に出たいとか言う感想を下さいますが、実は書いてる自分が一番旅に出たい、とか思いつつ書いてたりしました。
なので、そういう感覚が伝わったようなので非常にうれしいです。
- 250 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月02日(金)05時13分28秒
- こんな面白い小説、終わってから見つけるなんて。
全部、朝までかかって読みました。面白かったです。
作者さん、ここをもう見てないかもしれないけど、
もし見てるなら、
書いている小説(これから書く小説)がどこにあるか教えてください。
お願いします。
毎日チェックしますよー。
では、どうか作者さんがここを見つけますように。
- 251 名前:morimori 投稿日:2001年11月08日(木)23時48分20秒
- 最高でした・・・・・・・(;_;)ウルウル
この二人だと、どたばた系が好きだった自分ですが
やはり感動というものには勝てないっす・・・・・
MP3で聞きながらもう一回読み直したら、マジで泣きそうになってしまった…。
作者さんへ………感動をありがとう………
こんなチンケなレスしか出来なくてすんません…m(__)m
- 252 名前:作者 投稿日:2001年11月10日(土)22時55分08秒
- 人様の見に来たら、上がってた・・。
>250 自作自演か?ってくらいの称賛レスどうも。
今は、事件が起こってしまったので、予定より早く新作を書いてます。
青板の、”帰ってきたあいつ”です。
現在は序盤の山場を超え、やや平穏な中盤を展開中。
山場を超えたら、レスがいきなり減ったのを見ると、あの展開は失敗か?
これとは、だいぶ違う話です。
年内には終わる予定で、その次は、年明けてからでしょう。
>251 チンケどころか、かなり伝わってくる感想ですよ。
しかし、照れるなあ・・・。
青板で書くわけにいかないんで、ここで愚痴っていきます。
青板の話と同じテーマを、白板で超有名人が書いてるし・・・。
予定してるラストを先に書かれたらどうしようと、かなりおびえてます。
かぶったら、絶対こっちがぱくりって言われるんだろうな・・。
たまに見に来るんで、感想あったら、まだどうぞ。
- 253 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月14日(水)10時17分47秒
- 案内板を見て、こちらの小説を知りました。
作者さんの想像だけとは思えない描写に感心し、
別れの場面に涙し、最後の部分に続きの期待をいたしました。
とくに山で遭難する場面ですが、
わたしは遭難者を探す立場で参加した経験がありまして、
地元の消防団員として30数名の仲間で横一列に
山のすそ野の方から行方不明者の名前を呼びかけながら、
捜索に参加した事がありました。あの時は、とにかく発見できた
ことで一同ホッと安堵したのを記憶しております。
お祭りの場面でふと思い出したのですが、今年の夏の祭りの
出店の中に、矢口さんのようにまっ黄色に頭を染めた可愛い女の子が
クレープを手際良く売っていたのを思い出してしまいました。
お盆の結婚式、とまではいきませんが、うちの地区では
都会に出た若者が帰省してくるこのお盆に成人式を行ないます。
わたしも数十年前に地元に戻って来た仲間と共に成人式の式典後、
二十歳の同級会を行なった事を今でも覚えております。
別に書かれている小説がお済みになってからでよろしいですから、
ぜひとも続きの「冬休み」編を書いて下さいませ。
- 254 名前:作者 投稿日:2001年12月09日(日)12時19分41秒
- >253
暖かい感想ありがとうございます。
いろいろなことを思い出していただけたようで、大変うれしいです。
冬休み編については、未定です。
この話を読み返してみて、序盤はともかく、後半は意外ときれいにまとまっているので、続編という形で手をつけることはしない方がいいかなあ、という気もしています。
現在書いている話は、一両日中に終了するので、次に書く候補としては入れておきます。
なんにしろ、もっと冷え込んでこないとストーリーが浮かんでこないので、まだまだ時間はかかることと思います。
ただ、登場人物が足りないかなあ?
案内板でも紹介していただき、最初の不安が解消されるくらいになかなか多くの方に読んでいただけたようで、ありがとうございます。
これからも、この話の続編については分かりませんが、いろいろと書いていくので、”みや”という名前を見かけたら、おつきあいいただけるとうれしく思います。
- 255 名前:予告編 投稿日:2002年01月15日(火)22時56分31秒
- 涙の別れから4ヶ月。
あの、加護と辻が帰ってくる。
二人の再会。
クリスマス、大晦日、お正月と続く、冬休みの数々のイベント。
二人はどんな素顔を見せるのか?
新たな登場人物は現れるのか?
後藤は? 吉澤は? いまどうしてるのか?
“みや“がお送りする、新たな加護、辻、の物語。
舞台は、姫牧の村から、加護の住む奈良へと移ります。
“みんなの冬休み” 近日、連載開始予定。
- 256 名前:作者 投稿日:2002年01月15日(火)22時57分52秒
- ちょっと偉そうに、映画のCM風に予告を作ってみました。
そろそろデータ整理の予感がするので、保全もかねての書き込みです。
“初めての夏休み”の続きを書くかどうか迷っていたのですが、なんか、浮かんできちゃったので書くことにしました。
話としては、前回と同じような形になると思います。
なので、人が死んだりとか、魔法が使えたりとか、そういうような話にはならないでしょう。
のんびりした、日常(ちょっと非日常?)の話です(言葉を変えれば、退屈とも言う)。
ストーリーは、“初めての夏休み”の続き。
前回のエピローグの後、から始まるような形です。
ただ、こっちの冬休みだけを読んでも、そんなに分からなくて困る、ということはないようにするつもりです。
おそらく、連載期間は1ヶ月くらい。
あんまり長くなって、春になるのに続いてるというような形は、絶対に避けたいところです。
最近多いエロは、誓って、ありません。
ありえません。
まあ、その手のは、ほか当たって下さい。
前回のを読んで下さった方がどれくらいいらっしゃるのかは分かりませんが、今回も頑張って書くのでよろしくお願いします。
- 257 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月16日(水)22時50分12秒
- なんと予告編が!?
楽しみにお待ちしております。
- 258 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月19日(土)06時12分57秒
- 続編嬉しい限りです。
前作を超える名作となるのでしょうか!?
期待してます。
- 259 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月19日(土)23時20分48秒
- 続編期待しています!!
派手さはないけれど静かな感動を呼ぶ、そんなところが良かったです。
- 260 名前:作者 投稿日:2002年01月19日(土)23時38分16秒
- >M.ANZAIさん
コテハンを持たれたのですね。
今回は、田舎の話ではないですが、よろしければご覧になっていって下さい。
>258
プレッシャーだなあ・・・。
まあ、自分でプレッシャーかけるために予告を書いたってのもあるんですが。
ご期待に添えるように頑張ります。
>259
感動ッスか?
今回は、どうだろう・・。
派手にはならないです。
間違いなく。
今後もレスはご自由につけて下さい。
それにしても、保全しといて良かった。
予想通り、スレッド整理の手が入りましたね。
そろそろ始めたいと思います。
のんびりとまいります。
- 261 名前:みんなの冬休み 投稿日:2002年01月19日(土)23時39分32秒
みんなの冬休み
- 262 名前:第一話 迷子の迷子ののの子さん 投稿日:2002年01月19日(土)23時41分05秒
- みんな、元気やったか。
冬休みやなあ。
うちは、加護亜依は、今は元気やで。
ちょっと前は、えーと、期末テストで・・・それは、ええやん。
ほっといてや。
今日な、ののが来るねん。
それでな、うち、駅まで迎えに来とるんよ。
おっ、電車が着きよった。
たぶん、あれに乗っとるはずなんやけど、どやろ。
- 263 名前:第一話 投稿日:2002年01月19日(土)23時41分39秒
- おかしいなあ。
のの、来ないやん。
何しとるんや・・。
もう、ののは携帯も持っとらんから、こっちから連絡することもできん。
遅くなるんなら、電話くらいしてきいや。
そう、おもっとったら、電話が鳴った。
あれ?何で?
- 264 名前:第一話 投稿日:2002年01月19日(土)23時42分41秒
- 「もしもし」
「亜依ちゃん? 久しぶり、元気?」
「まきちゃん?」
「うん、そだよ。なに、声忘れちゃったとか言うわけ?ひどいなあ」
「そうやあらへんけど、え? でも、なんで、まきちゃん?」
「なんでってこと無いんじゃない? まあ、でも、そっか、驚くか普通」
「うん。驚くさ、普通」
「ははは、そだね。ののちゃん着いた?」
「ううん。まだ、来いへんねん」
「うそ? まだ? もう着いてるはずだけど」
「でも、おらへんで。約束の時間過ぎたのに、まだ、来ないねん」
「おかしいなあ、大阪までは一緒に来たんだよね」
「まきちゃん、大阪におるん?」
- 265 名前:第一話 投稿日:2002年01月19日(土)23時43分44秒
- 「へへ、うん。高校受験用の講座に行って来い、という命令を受けまして、大阪まで来ちゃった。ははは」
「最後のわるあがき?」
「そんな言い方ないじゃん。そろそろ、頭悪いの結構気にし始めたんだから。それより、ののちゃんどうしたのかなあ?」
「そや、大阪までは一緒だったんやろ」
「うん。それで、そこから私は、とりあえず明日から通う塾に教材もらいに行くんで、別れたんだけど」
「じゃあ、ののがちゃんと乗り換え出来たかは見てへんの?」
「だって、後藤だって大阪とか奈良の電車なんか分からないもん。分かってれば、ちゃんと乗り換えのところまでつれてって、そっちに向かうの見届けたよ」
「どないしよ。のの、電話も持ってへんし、探しようないやん」
「ごめん。後藤がついてたのに」
「まきちゃんのせいやあらへんけど、でも、どないしよ。どないしよ」
- 266 名前:第一話 投稿日:2002年01月19日(土)23時44分27秒
- 「うーん。連絡来るの待とう。ののちゃん、後藤の番号も、亜依ちゃんの番号も知ってるはずだから」
「でも、のの、携帯持ってへん」
「公衆電話から掛けてくるよ、きっと。ののちゃん、一人で電車乗るの不安がってたもん。分からなくなったら、電話してきなね、って言っておいたから。だから、連絡無いってことは、まだのんきに電車の中で寝てたりして、迷子になってるの気づいてないんだよ」
「大丈夫やろか? のの、子供やから、悪いおじさんについていったりしないやろか。財布落として、電話も出来ひんようになってたりしないやろか」
「心配ないよ。今頃よだれ垂らしながら寝てるだけだって、きっと。後藤の方に電話来たら、すぐ連絡するからさ。そっちに電話あったら、連絡して」
「うん。分かった」
「いまから私も行くから。待ってて」
「うん。分かった。まっとる」
のの、なにしとるんや、もう。
まきちゃんはああ言うとるけど、ほんま大丈夫なんやろか?
- 267 名前:第一話 投稿日:2002年01月19日(土)23時45分02秒
- 心配や。
まきちゃんの電話からまだ10分もたってへんけど、なんか2時間も3時間もたったような気分。
大丈夫やろか。
うちは、どないしたええんやろ。
あっ、電話や?
のの? まきちゃん?
- 268 名前:第一話 投稿日:2002年01月19日(土)23時45分54秒
- 「もしもし」
「あいちゃん? あいちゃん?」
「のの? ののか? ののなんか?」
「・・うん。あいちゃん・・」
「のの、どうしたんや? 今、どこにおるんや。大丈夫か? 誘拐されたりしてへんか?」
「あいちゃん」
「なんや? どこにおるんや?」
「間違えちゃったみたい」
「だから、どこにおるんや?」
「おおさか」
「大阪? 大阪のどこや?」
「おおさか駅」
- 269 名前:第一話 投稿日:2002年01月19日(土)23時46分28秒
- 「大阪駅? まだ、大阪におるんか?」
「だって、なんか変なんだもん。ぐるぐるぐるぐるまわってさあ。なんで、電車乗ってて、同じ駅に戻るの? わかないよ」
「ははは、なんや、環状線のっとったんか。もう、心配させよって」
「ごめん。だって、電車多すぎるよ。駅も」
「大阪は、田舎とちゃうねんで」
「あいちゃんちだって、行ってみたら田舎なんじゃないの?」
「そんなことあらへん。とにかく、とりあえず、そこにおって、ちょっと待っててや。まきちゃんが迎えに行ってくれるから」
「うん。ごめんね、心配かけて」
「まあ、ええて。田舎者で子供なののに、一人で電車に乗れ言うた方が悪いんや」
「子供じゃないもん。あいちゃんよりお姉さんだもん」
「でも、うち、一人で電車乗れるで。」
「いいもん、別に」
「とにかく、まっとってや。環状線のホームやな」
「うん。分かった。待ってる」
- 270 名前:第一話 投稿日:2002年01月19日(土)23時47分24秒
- 電話を切ってうちはすぐにまきちゃんに連絡を取った。
まきちゃん、すごくほっとした感じで、すぐに迎えに行く言うとった。
なんや、まきちゃんも、“きっと大丈夫”なんて言うときながら、ホントはすごい心配だったんやないか。
それからしばらくして、まきちゃんからののと無事に出会えたという報告の電話があった。
はあ、これで一安心や。
まきちゃんさえおったら絶対大丈夫やろ。
あれえ、もしかして、まきちゃんもうちに来てくれるんか?
なんや、すごいラッキーやん。
のの、よく迷子になった。
えらい。
そうと分かれば、おかあちゃんに連絡せな。
一人増えるから、料理ちゃんと用意しとってやって。
ののだけやのうて、まきちゃんも来てくれるなんて、うちはなんて幸せなクリスマスを過ごせるんやろ。
まあ、うち、ええ子やからな、これくらいのごほうびあってもええか。
- 271 名前:第一話 投稿日:2002年01月19日(土)23時48分48秒
- まきちゃんから、ののと会えたっていう電話を受けてからもうすぐ1時間。
外も暗くなってきてよった。
そろそろついてもええ頃なんやけど、連絡あらへんなあ。
まったく、こんな日に一人でマクドにおるの寂しいねんで。
絶対、もうついてもええ頃なんやけど、どないしたんやろ。
電車止まってしもうたんやろか。
そんなん思うとったら、また電話がかかってきよった。
- 272 名前:第一話 投稿日:2002年01月20日(日)22時59分39秒
- 「亜依ちゃん?」
「まきちゃんか? どないしたん? 電車でもとまったん?」
「いやー、そうじゃないんだけどさあ、なんていうか、ねえ」
「どないしたん?」
「いやー、後藤もさあ、間違えちゃったみたいなんだよね」
「へ? なにを?」
「なんていうか、電車の行く先」
「間違えたん? まきちゃんが?」
「へへへ、ごめん」
「ホントに? まきちゃんが間違えたん? ののやのうて?」
「あいちゃん、まちがえるのわたしだけじゃないよ」
「のの。ホントにののじゃないん? まちがえたん」
「だって、まきちゃんが、乗ってればだいじょうぶだよっていうから。
「だから、ごめんって。亜依ちゃん。もうちょっと待っててくれる?」
「それで、今どこにおるん?」
「奈良」
「今度は奈良? 行き過ぎや、それ。途中で乗り換えな」
「めんぼくないです」
- 273 名前:第一話 投稿日:2002年01月20日(日)23時00分38秒
- もう、まきちゃんがおって間違えるなんて。
まきちゃんさえおれば絶対大丈夫やろって思うとったのに。
しょうがないから、今度はうちがていねいに乗り換えを教えて上げた。
なんや、うちのがまきちゃんよりも大人やん。
電車にもしっかり乗れないなんて、まきちゃんも意外と子供なんやな。
- 274 名前:第一話 投稿日:2002年01月20日(日)23時01分03秒
- 結局、ののとまきちゃんがうちの前に現れたんは、それから1時間くらい経って、外がもう真っ暗になってからやった。
うち、何時間まっとったんやろ。
ちょっと、本気で怒った振りしたろ。
- 275 名前:第一話 投稿日:2002年01月20日(日)23時01分49秒
- 「あいちゃーん!! ひさしぶりー!!」
「・・・」
「怒ってるの?」
「・・・」
「ののちゃん。先に、謝らなきゃ。たぶんずいぶん待たせちゃったんだから」
「ごめん。だって、電車わかんないんだもん」
「ごめんね。後藤がついていながら、何度も迷ってしまいました」
「うちが、どれだけまっとったかわかっとるんか」
「ごめん。ホントごめん。マックでなんかおごって上げるから、許して」
「マクドには、さっきまで2時間もおった」
- 276 名前:第一話 投稿日:2002年01月20日(日)23時02分28秒
- 「じゃあ、じゃあ、何がいい? 何か食べたいものある?」
「ののは、ケーキ食べたい」
「だからあ、ののちゃんも一緒にあやまってよう。最初に間違えたのののちゃんなんだから」
「ふーん。ののは、ケーキ食べとったらうちのことなんかどうでもええんやな」
「亜依ちゃん。機嫌なおしてよ」
「ケンタのチキン」
「え? なに?」
「ケンタのチキンおごってくれたら許したる」
「ホントに? ホントに許してくれる? じゃあ、ののちゃんと一本ずつね」
「二本」
「二本?」
「うちは二本おごってくれなやだ。ゆるさへん」
「あーずるい、ののもじゃあ二本」
「もう、ののちゃんは食べ物のことになるとこうなんだから。分かった。亜依ちゃんには2本、ののちゃんには1本ね。それで許して。ねっ。お願い」
- 277 名前:第一話 投稿日:2002年01月20日(日)23時03分20秒
- まきちゃんは、両手を合わせて上目づかいでうちのことを見とる。
まあ、ほんまのこと言うと、二人の姿を見た時点で、怒りはとんどったんやけどな。
もう、そんな顔で見られたら、怒ったふりすら続けられへんわ。
「もうええよ。でも、すごい心配したんやでー。久しぶりやなあ、ののもまきちゃんも。元気やった?」
「あいちゃーん」
ののが抱きついてきよった。
なんか、おもたなってへんか?
まあ、うちも人のこと言えへんのやけど。
久しぶりやなあ。
まっとったんやで。
- 278 名前:第一話 終わり 投稿日:2002年01月20日(日)23時03分57秒
- うち達は、この後ケンタのフライドチキンを3本買って、うちの家に向かいました。
ののが1本で、うちが2本食べるはずだったんやけど、やっぱり1本はまきちゃんにあげたんや。
「もう、二人とも電車にも乗れへんなんて子供やなあ。まきちゃんももうすぐ高校へ行くんやから、ちょっとは大人にならんとあかんで」
「しょうがないじゃん。たまには間違えることあるよ。だって、関西なんて来たことないもん。亜依ちゃんだって、東京の電車乗ったら、絶対迷うでしょ」
い、いや、まあ、そうかもしれへんけど、でも、なんか、自分がまきちゃんよりも、ちょっと大人な気分になれてたのにな。
まきちゃんも、来るなら来ると先に言うてくれればよかったのに。
でも、ののだけやなくて、まきちゃんも来てくれるなんて、すっごい楽しい冬休みになりそうや。
サンタさん、すてきなプレゼントありがとな。
でも、ちゃんと、物のプレゼントも、まだ期待してるで。
- 279 名前:作者 投稿日:2002年01月20日(日)23時09分06秒
- >>262-278 第一話 迷子の迷子ののの子さん
出だしは、まあ、こんな感じで。
第二話以降は、明日以降。
今回は、都合により、毎日更新とは限りません。
ですが、一週間は空かないと思います。
- 280 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月21日(月)00時07分06秒
- 出だしからちょっとしたエピソードがあって、この先も楽しみです。
ゆっくりとお待ちしております。
- 281 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月22日(火)21時28分55秒
- >最近多いエロは、誓って、ありません。
>ありえません。
>
賛成です!!
無理にエロを入れるのって話の展開能力がない人がすることだと思うんですよね。
だからエロ無しを貫いて執筆して欲しいと思います。
頑張ってください!!
- 282 名前:作者 投稿日:2002年01月23日(水)18時23分58秒
- >M.ANZAIさん
第二話から、本格的に話は進みます。
とは言っても、山あり谷ありみたいな、激しい展開とは無縁なんですけど。
>281さん
まあ、エロはエロで、あってもいいタイプの話しってのはあるでしょうけど、この話は、それとは縁遠いところで進めていこうと思います。
自分も、展開能力はあまり無いけど・・・。
第二話は、今更ながらクリスマスの話です。
- 283 名前:第二話 今夜はパーティー 投稿日:2002年01月23日(水)18時26分49秒
- クリスマスイブやで、みんな。
クリスマスイブや。
今日は、ののもまきちゃんもおるねん。
うち、友達と過ごすクリスマスって初めてやから、なんか興奮するわ。
むっちゃ、楽しそう。
- 284 名前:第二話 投稿日:2002年01月23日(水)18時28分27秒
- 「メリークリスマース!」
クラッカーを勢いよく鳴らす。
やっぱ、こういうんは人が多い方がええなあ。
「はやくこのケーキたべようよー」
「のの、急ぎすぎや。チキンからにきまっとるやろ」
「もう、二人とも喧嘩しないの。亜依ちゃんのお母さんが作ってくれたんでしょ。全部食べなきゃ。ののちゃん。ケーキは最後のとっておき。いい?」
「うん。分かった」
- 285 名前:第二話 投稿日:2002年01月23日(水)18時29分03秒
- 人数多いとこいうときもええなあ。
うちとお母ちゃんだけやと、そんなに食べられへんから、いろんなのないけど、ののやまきちゃんもおるから、たくさん料理がならんどる。
うちのおかあちゃん料理上手なんやで。
だから、当然うちも上手なんやけど、見せて上げられへんのが残念や。
人数多い、でふと思い出した。
ののやまきちゃんがここにおったら、よしざわさんはどうしとるんやろ。
- 286 名前:第二話 投稿日:2002年01月23日(水)18時29分40秒
- 「なあ、まきちゃん。よしざわさんどうしとるん?一緒に冬期講習受けたりせえへんのか?」
「うーん、家で勉強してるんじゃない」
よしざわさん、クリスマスに一人だったりするんやろか。
まあ、家族はおるやろけど、なんか、うちがののやまきちゃん取っちゃったみたいで、気になってしまうわ。
「よっすぃー、バレー部の練習にもさいきん来ないよ」
「それは、のの、さすがに3年生の冬ともなれば部活で取る場合やないやろ。勉強せな」
「あいちゃんの学校もそうなの? みんなよっすぃーみたいに練習来てくれなくなっちゃうの?」
「うーん、うちは部活入ってへんからようわからんけど、みんな高校受験とかあらへんから、多分中3になっても練習はでとるんやないかなあ」
ののの吉澤さんずきはあいかわらずやなあ。
「亜依ちゃんの学校は、進路の悩みとか無いんだね。うらやましいな」
まきちゃんは、さびしそうに、そう言った。
- 287 名前:第二話 投稿日:2002年01月23日(水)18時31分12秒
- 進路の悩みか。
うちも、中学受験の時には一応あったんやで。
まあ、うちの場合は、学校はお母ちゃんが決めたから、悩みとしては受かるかどうかっちゅうことだけやったんやけど。
まきちゃんも、大変なんやな。
冬期講習受けに大阪までわざわざでてきよったんやもんな。
一人で2週間近くホテル暮らしするんは、さびしいやろな。
「まきちゃん。時間あったらいつでも遊びに来てな。うちまっとるから。あと、今日泊まっていかへん?」
「ありがとね、亜依ちゃん。でも、今日は帰るよ。明日の授業早いしさ。でも、時間あったらまた遊びに来るから」
「うん。じゃあ、今日は帰れるギリギリまでおってや」
「そだね。ありがと。なるべく長くいるよ」
そう言って笑うまきちゃんは、やっぱしかわいかった。
- 288 名前:第二話 投稿日:2002年01月23日(水)18時31分51秒
- パーティーは続く。
こんな楽しいクリスマスは久しぶりや。
よしざわさんも来られれば良かったのにな。
そんなことも思いつつ、さて、最後のケーキを分配というときになって、ののが突然叫んだんや。
「あー!!!」
「なんや、のの。急に叫びよって」
「サンタさん、困ってる!」
「な、なんや、どないしたん、のの」
「だって、だって、のの、あいちゃんちに来ちゃったじゃん」
「うん」
「そしたら、のののところに来るサンタさんは、どうなるの?」
どうなるの? ってなんや? なんのはなしや?
- 289 名前:第二話 投稿日:2002年01月23日(水)18時33分09秒
- 「ののが家にいなかったら、サンタさんのプレゼントもらえないよ」
「なんや、そんなことか。のの。大丈夫やって。のののお父ちゃんちゃんとプレゼント買ってまっとるって、のののこと」
「えー、なにそれ。お父さん関係ないじゃん。サンタさん。サンタさんと今年こそ会おうと思ってたのにー!!」
「のの、いつまでサンタさん信じとるんや? サンタさんは、お父ちゃんにきまっとるやろ。うちの場合はお母ちゃんやけど」
「なんで、なんで、あいちゃんそういうこと言うの! サンタさんは、ちゃんとサンタさんなの」
「そんなわけないやろ。本物のサンタさんなんておらへんのや」
「いる! いるの! いるもん」
「おらへんって」
「いる!」
「ちょっと、やめなよ、二人とも」
うちにつかみかからんばかりの勢いで怒ってるののと、それをからかうようにしてるうちの間に、まきちゃんが入ってきて静めようとしとる。
- 290 名前:第二話 投稿日:2002年01月25日(金)22時06分09秒
- 「二人とも、せっかく久しぶりに会ったのに、喧嘩なんかしちゃだめだよ」
「だって、あいちゃんが・・」
「ののが、子供みたいなこと言うとるから・」
「ストップ」
まきちゃんがうちとのののそれぞれの顔の前に手の平をだして、ストップ、なんて言うからうちら二人は黙らずをえなかった。
「あいちゃん。ののちゃんのこといじめちゃダメだよ」
「そら、まあ、信じてるもんを、あんな言うたうちはわるいけど」
「それにね、サンタさんは、いるよ」
「ほらー」
「ののちゃんはちょっと黙ってて。あいちゃん。明日になれば分かるから。サンタさんはいるって」
「でもー」
「でもーじゃないの。まあ、とにかく、明日になれば分かるから」
「・・うん」
「二人とも、仲直りしよ。ねっ」
うちは、まきちゃんにいわれるまま、しぶしぶののと仲直りした。
まあ、まきちゃんとしても、のののサンタさんを信じとる気持ちを壊すわけにもいかんから、ああいうしかなかったんやろな。
しゃーない、ここはうちが大人になるしかないやろ。
- 291 名前:第二話 投稿日:2002年01月25日(金)22時06分41秒
- まきちゃんは、うちとのののことを仲直りさせて、うちのお母ちゃんに駅まで送られて帰っていった。
うちとののは、残りのケーキを食べて、一緒にお風呂に入った。
「あいちゃん。冬休み中遊べるね」
「そやな。いっぱい遊ぼうな」
「うん」
うち、ののの頭洗って上げたんや。
そして、うちのベッドに二人で眠った。
なんか、修学旅行みたいですごい楽しいんやけど、ええんかな? こんなに楽しゅうて。
となりで眠るののに、さっきごめんな、ってつぶやいてから、うちは眠りに落ちた。
夢の中でも、うちはののとまきちゃんと吉澤さんと、あと何人かであそんどった。
- 292 名前:第二話 投稿日:2002年01月25日(金)22時07分22秒
- 「あいちゃん! おきて。おきて」
翌朝、うちはまだ眠たかったのに、ののに揺り起こされた。
せっかくの冬休みなんやし、ゆっくり寝かせてや。
寝てるときに起こされるの、うちむっちゃ嫌いなんや。
「なんや、のの。うち、まだ眠い」
「これ! これ! プレゼント!」
うちが寝ぼけ眼で起きあがって枕の横を見ると、そこには袋がおいてあった。
「これか?」
「そう、そう。プレゼントだよ。サンタさんからの」
さんたさんからのぷれぜんと?
一瞬理解できひんかったけど、すぐに、そうか今日はクリスマスなんや、と思い出す。
でも、なんでやろ。
こういう演出の仕方は、もうずいぶん小さいときに卒業しとったはずなんやけど。
- 293 名前:第二話 投稿日:2002年01月25日(金)22時08分00秒
- 「はやくあけてみようよ」
「ああ、ええで」
興奮気味のののにせかされて、うちらはそれぞれに袋からプレゼントを取り出してみた。
「わー、セーターだ。あいちゃんは?」
「うちも、セーターや」
袋の中から出てきたのは、二人にお揃いのセーターやった。
しかも、うちの大好きな、エンジェルブルーのセーター。
おかあちゃん、そういう派手なのは嫌い言うとったのに、しかも、ブランドが大っきらいだったはずやのに、なんでこうてくれたんやろ。
「あいちゃん、サンタさんからのおてがみもはいってるよ」
「あ、ホンマや」
セーターを取り出した袋の中には、あいちゃんへ、とそのままのタイトルの手紙が、シンプルな封筒に入って置かれとった。
- 294 名前:第二話 投稿日:2002年01月25日(金)22時08分36秒
- あいちゃんへ
今年一年間、良い子に過ごしてましたね。
だから、サンタさんは今日やってきました。
せっかく遠いところから来たお友達とけんかなんかしちゃいけないよ。
そんなことしたら、来年はもう来ません。
また、1年間良い子で過ごしましょうね。
サンタより
- 295 名前:第二話 終わり 投稿日:2002年01月25日(金)22時09分14秒
- うちは、これを読んで、ようやくなにがどうなっとるのかが分かった。
「ほらー、あいちゃん。やっぱりサンタさんはいるんだよ」
「ああ、そやな」
「でも、サンタさん、すごいね。ののとあいちゃんが、きのうけんかしたのまで知ってるんだね。それに、ちゃんとののの家じゃなくて、ここに来てくれるんだもん。やっぱりすごい。あいちゃん、もうサンタさんはいない、なんてうたがっちゃだめだよ」
そやな、のの。
サンタさんはおるんやな。
うち、もう疑ったりせえへんで。
今年のサンタさんは、まきちゃんや。
手紙の字を見て分かった。
夏休み明けにうちに届いたまきちゃんからの手紙とおんなじ字や。
サンタさんは、おるんやな。
うちの欲しい物を持ってきてくれるサンタさん。
昨日来たサンタさんは、まきちゃんだけやない。
自分で分かってないんやろな。
のの、ののもうちのサンタさんなんやで。
- 296 名前:作者 投稿日:2002年01月25日(金)22時11分34秒
- 年が明けて早ひとつきも経とうというこの時期に、クリスマスの話です。
実際にその期間を過ぎてからじゃないと、話し浮かばないもんで。
あったかーい気持ちになっていただければ幸いです。
第三話は、ちょっと、冬休みとは関係ないかもしれない話になります。
- 297 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月25日(金)23時57分25秒
- 亜依ちゃんにとってはののや真希ちゃんと逢える事がもうプレゼントなんですね。
寒い冬に温まる話をありがとうございます。
- 298 名前:作者 投稿日:2002年01月28日(月)23時43分43秒
- >M.ANZAIさん
まあ、そこまではっきり言われてしまうと、身も蓋もないんですけどね。
サンタさんもいろいろです。
では、続き。
- 299 名前:第三話 先生登場 投稿日:2002年01月28日(月)23時44分25秒
- うちな、中学に入ってからは、すっかり勉強から解放された思うとったんよ。
まあ、なんか小学校までのくせで、1学期は結構宿題とかちゃんとやっとったから、まあまあ成績良かったんや。
だけどな夏休みに、遊ぶのって楽しいなあ、っちゅうことを思い出してもうて、2学期の成績は、あんまりいいいたないんやけど、ちょっとひどかったねん。
それでな、なんか、うちのお母ちゃんが、すっかり教育ママッぷりを取り戻してもうたんよ。
「のの、今日の午後な、家庭教師の先生来るねん。だから、遊べへんのや。それで、まきちゃん来てくれるいうとったから、二人であそんどってな」
「あいちゃん冬休みなのにべんきょうするの?」
「うちかていやや。でも、お母ちゃんが、この前の期末テスト見て、冬休みから家庭教師の先生呼びます言うんやもん」
実は、先生に会うんはうちも今日が初めてなんや。
ちょっとドキドキ。
カッコええ先生やったらええなあ。
こわい先生やったらいややな。
- 300 名前:第三話 投稿日:2002年01月28日(月)23時44分58秒
- その先生の前に、先にまきちゃんがうちに来た。
うちとののは、クリスマスにサンタさんからもろうたお揃いのセーターを着とる。
「まきちゃん、ええんか? あそんどって。勉強せえへんでええんか? どうなってもしらへんで」
「私だって、遊んでるだけじゃないよ。午前中は塾で勉強してきたんだから」
「まきちゃんも、一緒に勉強せえへんか。家庭教師の先生に教わったら、まきちゃんでも高校受かるかもしれへんで」
「真希ちゃんでもって何だよー。しかも受かるかもって、受かるに決まってるじゃん」
「まあ、ええやん。とにかく、一緒に勉強しようよー。」
「やだよー。午前中嫌になるほどやってきたもん」
「どうせ、寝とっただけやろ」
うちは、自分だけ勉強せなあかんのがちょっと悔しゅうて、玄関先でいきなりまきちゃんに毒づいてしもうた。
ちょっと悪いこと言ったなって思って、ののに先に部屋に戻らせて、まきちゃんにこっそり話しかける。
- 301 名前:第三話 投稿日:2002年01月28日(月)23時45分36秒
- 「まきちゃん。ありがとな」
「なにが?」
「このセーター。うちがエンジェルブルーが好きなのよう覚えとったね」
「え、い、いや、私じゃないよ。サンタさんでしょ」
まきちゃんは、ばつが悪そうにはにかみながら言う。
「ほんじゃ、ありがと、サンタさん」
そう言ってまきちゃんの方を見たら、にっこり笑ろうて、うちの頭をなでてくれた。
うちも、はよう誰かのサンタさんになりたいな。
- 302 名前:第三話 投稿日:2002年01月28日(月)23時46分09秒
- 家庭教師の先生が来よったんは、それから30分くらいたった頃やった。
うちとお母ちゃんが玄関で出迎える。
その後ろに、ののとまきちゃんもくっついて来よった。
「かっこいい」
まきちゃんが後ろでため息混じりにぽつりとつぶやく。
ホンマそうや。
えらいカッコええ。
うち、こんな先生に勉強教わったら、うちもきれいになりそうや。
いや、それは関係あらへんけど、でも、うち、勉強頑張る。
- 303 名前:第三話 投稿日:2002年01月28日(月)23時46分42秒
- 「初めまして、市井紗耶香といいます。今日から亜依さんの勉強を見させてもらいます。よろしくお願いします」
カッコええ。
声もカッコええ。
「ほら、亜依。あなたも挨拶しなさい」
「か、かっ、かごあいです。12歳です。がんばります」
とりあえず、リビングでお話。
お母ちゃんに、まったくあなたは挨拶もちゃんと出来ないで、と怒られた。
先生には、うちの子ちょっと人見知りなところがあって、なんて言うとる。
だって、先生かっこよくて、なんか、うちはずかしかったんやもん。
先生は、うちのことを利発そうなお子さんでって言うてくれた。
誉められた。
誉められたんやで、市井先生に。
- 304 名前:第三話 投稿日:2002年01月28日(月)23時47分16秒
- うち、舞い上がってしもうてようわからん間に、先生と自分の部屋に向かうとった。
そしたら、うちの部屋にまきちゃんがおった。
「初めまして、後藤真希って言います。中3の受験生です。なんか、亜依ちゃんが、先生と初めてで二人になると緊張しちゃうからって、一緒に勉強しよって言われてるんで、よろしくお願いします」
まきちゃん、なんか、さっきと話し違うで。
でも、まあ、先生と二人でだと緊張で勉強にならん、ちゅうんはまあ、ホンマのとこやし、まあ、別に、ええんやけど、でも、なんか、ちょっと、不満。
「あ、じゃあ、後藤さんも一緒に勉強しましょうか」
あ゛あ゛、うちの市井先生が、まきちゃんにとられてしまう。
いや、そういう問題ちゃうけど、どうなっとるんやろ、うちのあたまんなか。
- 305 名前:第三話 投稿日:2002年01月28日(月)23時47分47秒
- うちは、うちの机へ、そして市井先生はうちの隣にすわっとる。
まきちゃんは、部屋の真ん中にあるこたつで、塾のテキストらしい物をひらいとった。
「亜依ちゃん。頑張ろうね」
「は、はいー」
な、なに言ってるんやうち。
はいーって。
おちつけ、おちつかんかい。
「じゃあ、まずは亜依ちゃんの実力を試す意味で、テストをします」
「え? 最初からテストですか?」
「うん。そんなに身構えなくていいよ。得意とか、苦手とかそういうのを知るためにするテストだから。数学と、英語と、国語。三つ作ってきたから、全部で1時間。やってみよう」
「は、はい」
テ、テストや。
いきなりのテスト。
ええとこ見せたいやないか。
頑張るで。
- 306 名前:第三話 投稿日:2002年01月28日(月)23時48分53秒
と思うとったけど、やっぱしあかん。
これ、難しいわ。
市井先生、顔に似合わず問題えげつないて。
うちが、円すいを切り取った図形の体積に悩んどる頃、まきちゃんは市井先生と話しこんどった。
「そっかあ、先生って大学からこっちに来たんだ」
「まあね、元々は千葉なんだけど」
「千葉って、田舎ですよね」
「そんなことないよ。千葉だって広いんだから、田舎もあれば、都会なところもあるの。そんなことより、早く勉強、勉強。受験生なんでしょ」
「はーい」
やーい、まきちゃん怒られた。
でも、そんなことより、うち、こんな答案出したらもっと怒られる。
呆れられて、二度と来てもらえんようになってまう。
どないしよ。
でも、難しすぎや。
どなすればええっちゅんねん。
- 307 名前:第三話 投稿日:2002年01月28日(月)23時49分47秒
- 「はい、終わり」
えー!!!もう1時間?
うち、うち、やばい。どないしよ。
先生の顔見られへん。
「どーお? 亜依ちゃん出来た?」
まきちゃんまで、うちの答案見よる。
こんな事なら、もっと勉強しとくんやった。
あ゛あ゛ーーー顔から火が出るほど恥ずかしい。
期末テストも全然できひんかったけど、こんなひどくなかったし。
どないしよ、どないしよ。
「亜依ちゃん」
「は、はい」
「よく頑張りました、32点です」
32点・・・・。
そんなひどいんか。
後ろでまきちゃんがくすくす笑っとる。
「先生!私、頑張ります。頑張ります。いっぱいいっぱい頑張るから、やめないで下さい」
「いや、別にやめたりしないよ」
「ホントですか? ホントにやめないでくれますか? 私、今はこんなに頭悪いけど、頑張って、先生に嫌われないように頑張りますから、やめないで下さい」
「いやあ、ここまで言ってもらえるとは思わなかったなあ」
???
うちの頭の上にははてなマークが浮かんどる。
- 308 名前:第三話 投稿日:2002年01月28日(月)23時51分27秒
- 「あのね、このテストはね、すごく難しく作ってるんだ。だから、30点も取れれば上出来なの。
一応範囲は中1の部分だけになってるけど、中3の受験生がやっても、30点くらいの子って多い
んだよ。だから、そんなにショック受けないでね。こんな難しいテストをやってもらったねら
いは、もっともっと高いレベルっていうのがあるんだ、ってことを知ってもらって頑張っても
らおうと思ったんだ。でも、ここまで効果が出るとはね」
なんや、そうなんか。
なんか、むきになってしもて、恥ずかしいやんか。
まきちゃん、うちのこと見て笑うとるし。
「まきちゃん!」
「なに、どうしたの? 怒らないでよ、ちょっと笑ってただけだよ。なんか、標準語でしゃべる亜依ちゃんかわいかったんだもん」
うっさいわ。
うち、敬語使おうとすると標準語になるねん。
あたまにきたから、ちょっとまきちゃん困らしたろ。
- 309 名前:第三話 投稿日:2002年01月28日(月)23時52分08秒
- 「まきちゃんこのテストやってみて」
「え? 私?」
「ああ、それいいね。真希ちゃん受験生だったよね。復習もかねてやって見ようよ。まさか、亜依ちゃんのこと笑ってて、中1の亜依ちゃんよりも点が低い、なんてこと無いよね」
「い、いや、私、帰ろっかな」
ホントに慌てた顔をするまきちゃんに、うちと先生はわらいだしてしもた。
- 310 名前:第三話 先生登場 ここまで 投稿日:2002年01月28日(月)23時52分42秒
- 「あー、勉強してるんじゃないのー? だったらののもまぜてよー」
隣の部屋で一人ゲームをしとったはずのののがやってきた。
一人で寂しい思いさせてごめんな。
でも、それは、うちやのうて、まきちゃんのせいやで。
「じゃあ、みんなで勉強しよっか。ののちゃんは何年生? 4年生くらいかな?」
これには、うちもまきちゃんもまた大笑い。
ののはふくれっ面。
「ののは、あいちゃんよりもお姉さんだもん。中1で、もう13歳だもん」
「ごめん。ごめん。わかったから、ごめんね。じゃあ、亜依ちゃんと一緒に勉強しようね」
市井先生はものすごい慌てとった。
そらそやろ。
どう見ても中学生にはみえへんもんののは。
うちと違うてな。
それから、冬休みの間、うちとののとまきちゃんは3人で市井先生に勉強を教えてもらうことになった。
うち、これから勉強頑張る。
ちょっと、最近勉強嫌いやったけど、また、楽しく勉強できそうな気がするんや。
見とってや市井先生。
- 311 名前:作者 投稿日:2002年01月28日(月)23時55分57秒
- >>299-310 第三話 先生登場
ということで、今回は一日で一話完結。
冬とか休みとか、まるで関係のない話が入ってきました。
先生は、なんとなくこの人に・・。
第四話からは、また冬休みというか、年末年始というか、そういう話しに戻ります。
- 312 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月29日(火)07時48分02秒
- スミマセン、身も蓋もありませんでしたね。>サンタクロース
勉強しているのに楽しい雰囲気があってうらやましいですね。
亜依ちゃんのお母さん、とってもいい人を先生に連れてきてくれて嬉しいです。
4人が和やかな感じでこれからが楽しみです。
- 313 名前:通常の名無しさんの三倍 投稿日:2002年01月30日(水)21時25分21秒
- 期待して読ませてもらってます。
これからもエロなしのまじめな路線で頑張って下さい。
- 314 名前:第三話 絶対おきてるの! 投稿日:2002年02月16日(土)23時58分42秒
- 今年ももうあと1日でおしまいや。
今日は大晦日。
12月31日。
年越しパーティーやで。
なんか、冬休みってイベントが多うて、楽しいな。
夏休みも、お祭りやら結婚式やらいろんなイベントがあったけど、冬休みっちゅうんは部屋の中でのイベントが多いんやな。
まあ、大晦日パーティーなんて、うちらが勝手にやってるだけなんやけど。
- 315 名前:第三話 投稿日:2002年02月16日(土)23時59分17秒
- 「すいません、なんか、私まで呼んでいただいて」
「いいえ、それよりお口に合いますか?」
「ええ、それはもう。実はこういうまともな食事するの久しぶりだったりするんですよ」
市井先生は今日もうちに来とる。
お母ちゃんが、先生一人暮らしで寂しいでしょうからって呼んだんや。
べつに、うちがせがんだんやないで。
もちろん、昼間にはみっちりしごかれた。
市井先生、やさしそうに見えて授業の時は結構厳しいんや。
でも、うちは好きやで。
- 316 名前:第三話 投稿日:2002年02月16日(土)23時59分47秒
- 「後藤、そっちは危ないんじゃないか?」
「いいじゃん。大丈夫だよ。ちょっと行ってみたいんだもん」
「そんな、襲われてからじゃ遅いだろ」
「大丈夫だって、なんとかなるよ」
「うわーーー!!! 足、足捕まれた。助けて! ああ、引き倒される。やだ」
「何やってるんだよ。そんなの、頭吹っ飛ばせ!」
- 317 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時00分22秒
- 食事を終えて、まきちゃんと市井先生はバイオハザードっていうゲームをやっとる。
うち、こういうの怖いから苦手や。
まきちゃんは、さっきから鈍くさくてなんどもゾンビに襲われとる。
そのたびに市井先生がちょっとかしてみろ、ってコントローラーを取り上げて謎解きとか進めるんや。
市井先生一人でやった方が全然早いんちゃうか?
しかし、お母ちゃんはうちが学校行っとる間にこんなもんやっとたんやな。
- 318 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時01分06秒
- ののは、ちょっとつまらなそうやった。
そやろなあ、あんまりゲームとかやらへんやろしな。
実際、最初は興味を示したから、やらせてみたんやけど、一人目のゾンビにあっさり殺されよった。
それにしても、ミカンばっか食べとる。
「ねえ、紅白始まっちゃうよ」
「紅白? なにそれ?」
「いいよ、紅白、面白くないもん。それより、今日中にクリアするぞ後藤。コントローラーかして」
まきちゃんの“なにそれ”はちょっとどうかと思うけど、市井先生の言うとおりうちもあんまし紅白って面白いって気しないわ。
何人か見たいなって人はおるんやけど、でも、まきちゃんと市井先生がじゃれ合いながらバイオハザードを攻略していくのを見とる方が面白いなあって思う。
ちょっと、怖いけど。
「だめ。紅白見るの。大晦日は紅白。そう決まってるの」
ののが決めつける。
いや、そう決まってるの言われてもなあ、どない返事したらええんやろ。
- 319 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時01分40秒
- 「ののちゃんは、毎年年末には紅白を見てるの?」
「はい」
市井先生に問いかけられてののが笑顔で答える。
ののも市井先生のことは気にいっとるみたいや。
授業で一番苦労しとるんはののやから、ちょっと心配やったんやけど。
「それで、今年も紅白が見たいんだ」
「はい。ことしは、絶対最後まで起きてるの」
「ねえ、紅白ってそんなにすごい物なの?」
「ちょっと、後藤は黙ってて」
「はーい」
まきちゃん、ちょっと不満そう。
そういえば、うちも紅白最後まで見たことってあらへんかも。
なんか、気になってきよった。
- 320 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時02分11秒
- 「ののちゃんって、ずーっと姫牧村ってとこで育ったんだよね」
「はい。すごくいいとこですよ。いまは、雪にうもれちゃってるけど」
「そっかあ、そしたら、テレビってNHKくらいしかないよね」
「そんなことないです。他にもあります」
「でも、やっぱり年末は、家族みんなで紅白を見るの?」
「はい。家族って言うか、村のみんなほとんどみてます。はつもうでに行ったときに、小林幸子さんの衣装がよかったとか、どっちが勝ったとかはなすんです。でも、ののは小林さんの衣装くらいまでは起きてられるんだけど、最後までは見たことないんです」
「うん、分かった。よし、後藤、早くセーブして。終了」
「えー、いいじゃん先生」
「だめ、ののちゃんの今年の最後の目標なんだから」
「はーい」
まきちゃんは不満そうやったけど、急いでセーブが出来る場所に向かう。
だけど、急ぎすぎて途中で狂犬に襲われて死んでしもた。
グロテスクな終了画面やな。
「もう、みんながせかすから」
「しょうがないよ。また今度やろう」
テレビに切り替えると、オープニングが終わってちょうど一人目が唄うところやった。
- 321 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時02分50秒
- 「よかったねえ、ののちゃん。間に合ったね。」
「はい。のの、この子と一緒に唄うの夢なんです。ののと、あいちゃんと、このあややさんと3人で唄いたい」
「ああ、この子かわいいもんね。ところでさあ、亜依ちゃん。さっきから黙ってるけど、実は自分も紅白最後まで見たこと無いなあとか思ってたりしない?」
うっ、なんなんや。
この、市井先生ってまだ今日で会うの4回目やのに、うちの心の中を見抜きよった。
やっぱ、すごい人や。
「よし、今日はののちゃんと亜依ちゃんを最後まで寝かさないぞ大作戦だ。後藤も協力しろ」
「協力って、何するのさ」
「うーん、なんだろ。まあ、とりあえずおとなしく見てよ」
- 322 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時04分03秒
- まきちゃんはつまらそうに、ミカンを手に取った。
うちも、実はあんまり面白くはないかなあ、なんて思うとる。
だって、なんか演歌とか多いんやもん。
どっちっかっていうと、まだレコード大賞であゆとか見てたい。
ののは、なんか途中の寸劇みたいなのも見て面白い言うとるし、すごいたのしんどるようや。
まあ、ののが笑顔でおってくれれば、それでええかもな。
- 323 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時04分40秒
- ふと去年のことを思い出す。
去年の大晦日、うちは勉強しとった。
中学受験を目指して。
だけど、今年は、去年はまったく知らなかったこの3人と大晦日を過ごしとる。
そして、今度は姫牧村のことが思い出された。
そういえば、ぱーっと遊びに行くようなところはあらへんかったもんなあ。
別に、それが悪いことやないっちゅうのは、今のうちには分かるけど、多分そういう遊ぶとこがないせいで、大晦日は紅白みたいな図式がののの中で、村の人たちの中で出来とるんやろな。
きっと、それが分かったから、市井先生はゲームを止めて紅白を見ようって言ったんや。
ののにとっては、大晦日に紅白を見ないっちゅうんはとんでもないことなのかもしれん。
それ以上のことはうちにはわからへんけど、でも、今日はののにつきおうて最後まで見ようかなっちゅう気持ちになった。
- 324 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時05分14秒
- でも、そうは言ってもだんだん飽きてきた。
ガクトさんはなんか偉いかっこよかったけど、その後はもう、どうでもええっちゅう感じや。
「そろそろ眠そうだねえ、二人とも」
「そんなことないもん。でも、おなか空いた」
「そやなあ、うちもおなか空いた」
「後藤もおなか空いた」
「三人ともかいっていうか、私もおなか空いてるんだけどさ。よし、後藤、つきあって、おばさんに頼んで年越しそばつくらさせてもらおう」
「えー、私も?」
「ほら、ののちゃんと亜依ちゃんのためでしょ」
「はーい」
この二人、知り合ってまだ数日とは思えへんほど仲良うなっとる。
まあ、うちとののもそうやったけど、なんか、そういうのってあるんやろな。
- 325 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時05分50秒
- 「はーい、おまたせー。特製年越しそば大盛りセットにございます」
市井先生とまきちゃんがお盆に、そば四杯とおにぎりを載せて持ってきた。
もう、これがこんかったら、うち、空腹で寝てしまうとこやったわ。
「亜依ちゃん、空腹で寝ることなんてないよ。もう、眠いんでしょ。ののちゃんに負けちゃうよ」
「そんなことあらへん。のののが絶対先に寝よる」
「ねないもん」
多分、まきちゃんの言うとおり、紅白つまんないって思うとるうちの方が、ちょっと先に寝そうや。
でも、我慢せな、と思うてそばをすする。
ん?
この味、うちのお母ちゃんが作る味やん。
- 326 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時06分41秒
- 「まきちゃん、市井先生。これ、ホンマに二人で作ったん?」
「ん? うん。二人でね、頑張って作ったよな、後藤」
「うん。うん。頑張ったよ」
「お母ちゃんの味がする」
「げっ、ばれた。だって、後藤が野菜切るとき危なっかしいからさあ」
「違うよ。市井先生が、卵割るのもうまくできないからじゃん」
「なんや、二人とも料理下手なんや」
「でも、おにぎりは二人で作ったんだからね」
「そうだよ。先生と二人で、頑張って作ったんだからね。」
「おにぎりおいしいです」
「ほら、ののちゃんはいい子だねえ。亜依ちゃんはそうやってわがままばかり言って、今度宿題たくさんだそうかな」
「いやあ、このおにぎりおいしいなあ。こんなおいしいおにぎり食べたこと無いや」
「それ作ったの後藤」
ちょっと悔しそうな市井先生に、みんなで笑ってしもた。
なんか、ええなあ、こういうの。
- 327 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時07分45秒
- でも、この年越しそばが、うちへのとどめとなった。
おなかがいっぱいになって、すっかり眠気が襲ってきよったんや。
「亜依ちゃん、眠そうだねえ。ベッド行って寝たら?」
「先生意地悪や」
「無理しないでいいんだよ。眠かったら寝ればいい」
「先生が言うたやないか。最後まで寝かさないぞ大作戦って」
そういいつつも、だんだんと視界が狭くなってきよる。
こたつ、あったかい。
ののには負けへんで。
ののは?と見ると、まきちゃんが、多分お母ちゃんから渡された毛布をののにかけとるとこやった。
やった、ののには負けへんかったで。
うちの意識が消えるのに、それからそう時間はかからなかった。
- 328 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時08分35秒
- つぎに気がついたら、何故かうちはベッドに寝とった。
隣にはののが寝とる。
「あれ? あいちゃん起きちゃった?」
「うち、やっぱ寝とったんか?」
「うん。おそば食べて寝ちゃったんだよ。そうそう、明けましておめでとうございます」
「あ、おめでとうございます。あれ? もう、年明けたん?」
「うん。もう、1時。あの後ね、市井先生と私で、ののちゃんと亜依ちゃんを運んできたんだ」
「先生は?」
「もう、寝てるよ。私がお風呂から帰ってきたらもう寝てた。電気つけたまま寝てるんだもん。普通に声かけちゃったよ。そしたら目覚めたのは亜依ちゃんだったってわけ」
うちの部屋のこたつが片づけられて、そこに敷かれた布団に先生は寝取った。
- 329 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時09分19秒
- 「なんかさあ、こうやって夜中に起きてるのってすごく得した気分にならない?」
「うーん、起きてたことないから、あんまりわからへんは」
「はは、そっか。私ね、夜中に一人で起きてるの結構好きなんだ。今頃みんな寝てるんだろうな、なんて思ったりしてね。まあ、今日は結構起きてる人多いだろうけど」
まきちゃんは、なんとなく大人のような表情で話しとる。
「元々さあ、一人でいるのは好きなんだ。だけど、それは、ホントに一人って事じゃなくて、自分が望めばすぐに誰かがそこにいるって感じの一人なんだよね」
- 330 名前:第三話 投稿日:2002年02月17日(日)00時09分57秒
- まきちゃんどないしたんやろ。
大人のような表情の中に、すごく不安そうななにかが住んどる。
「あれ、なんかごめんね、急に変な話して。ありがとね、亜依ちゃん。私、ほとんど無理矢理押し掛けてみたような感じだったよね。ののちゃんと二人でたっぷり遊ぶつもりだったんだよね。ごめんね」
「そんなことあらへん。うち、まきちゃん来てくれて、すごいうれしかったんよ」
「ありがと。もう寝よっか。そうそう、新年の挨拶済ませちゃったのは、ののちゃんには秘密にしとこ」
「うん。そやな。まきちゃん、あした、みんなで一緒に初もうでいこな」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
- 331 名前:第三話 終わり 投稿日:2002年02月17日(日)00時10分27秒
- おやすみって言うまきちゃんは、いつものまきちゃんやった。
夜中に目を覚ますことなんか滅多に無いうちは、まきちゃんのことがちょっとは気になったのやけど、電気を消されるとすぐに眠ってしもた。
- 332 名前:作者 投稿日:2002年02月17日(日)00時17分39秒
- >>314-331 第四話 絶対おきてるの!
今気づいた。
第四話です。第四話。
間違えました。
m-seekの様子をしばらくうかがってました。
正式な復活宣言って出てないですよね。
ちょっと前にはまた読めなくなったりと、不安定っぽいけど、とりあえず再開します。
第四話も、また加護の家の中での話となってしまいました。
冬は、室内の話が多いです。
第五話は、外へ出ます。
>M.ANZAIさん
4人は、こんな感じです。
加護のお母さんは、名前はありませんが、イメージはあります。
他の人にも同じ人のイメージを使ったので、名前が出せません。
>通常の名無しの3倍さん。
まじめ、なのかなあ?
今後も、エロはないです。
これからもよろしくお願いします。
- 333 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年02月17日(日)12時40分53秒
- 復活おめでとうございます。
>だけど、今年は、去年はまったく知らなかったこの3人と大晦日を過ごしとる。
大晦日に仲良くコタツで紅白を見ている4人の様子が微笑ましいですね。
大騒ぎをするわけでもなく一緒にテレビを見ているだけなのに
全体を包んでいる温もりが伝わってくるような場面です。
- 334 名前:作者 投稿日:2002年02月18日(月)22時08分52秒
- >M.ANZAIさん
きっと、ゲーム中は大騒ぎだったことでしょう。
333getおめでとうございます。
- 335 名前:第五話 カルチャーショック 投稿日:2002年02月18日(月)22時10分07秒
- 「お年玉ちょーだい」
「バカ言うな。私だって、まだ大学1年生だぞ。そんなお金あるわけないだろ」
「でも、ちょーだい」
1月1日朝。
うちとののとまきちゃんとで、市井先生にお年玉をねだってみたけれど、やっぱりくれへんかった。
先生けちや。
でも、まあ、しゃーないか。
うちは、毎年初詣に行く橿原神宮へ、みんなを連れていった。
うちが、連れていったんやで、市井先生と、まきちゃんとののを。
電車に乗ってな。
- 336 名前:第五話 投稿日:2002年02月18日(月)22時10分59秒
- 「すごーい。人がいっぱいいる!」
「ののちゃんは、いつもは初もうでどうしてるの?」
「ののは、村の神社に家族でいつも行くんだ。でも、こんなに人いないよ」
ののは、目を丸くして興奮気味や。
「すごいね。初もうでってこんなに人が集まるんだ。わたし、たいてい寝正月で初詣なんか行かないからなあ」
「後藤らしいよ」
「先生だって、実はそんな感じなんじゃないの?」
「失礼な。私だってねえ、地元じゃそこそこ大きな神社に初詣に行ってたよ。寝正月なんて不健康過ごし方はしません」
なんか、人それぞれやなあ。
うちらは、市井先生にお年玉のかわりねってこうてもろうた、焼きそばやらお好み焼きやらを食べつつ本殿までたどり着いた。
それぞれにお賽銭を投げ入れて、手を合わせて祈る。
- 337 名前:第五話 投稿日:2002年02月18日(月)22時12分04秒
- 「あいちゃん。なにお祈りしたの?」
「うーん、ののは?」
「ののは、みんなとずっと仲良くしていられますようにって」
そっか、うちと大体おなじやな。
「あいちゃんは? ねえ、なにお祈りしたの?」
「まあ、ええやん。そんなん」
なんとなく、うちは恥ずかしゅうて、素直に言えんかった。
「まきちゃんは、何お祈りしたん?」
「私? 私は、秘密。なんかさあ、お祈りした事って口に出して言っちゃうとダメって言うじゃん。だから」
「あー、それ先に言ってよー。わたし、言っちゃったじゃん」
「だめやなあ、のの。だから、うち、いわんかったんやで、お祈りしたこと」
そうなんや。
しらんかった。
- 338 名前:第五話 投稿日:2002年02月18日(月)22時13分24秒
- 「じゃあ、私、そろそろ行くね。」
市井先生は、もう一件初もうでに行く約束があるらしいんや。
初じゃないやん。
別に、ええんやけど。
「ねえ、先生。お願いがあるんだけど」
「なんだよ、後藤。改まって」
「あのさあ、泊めて欲しいんだよね、しばらく」
「泊めるって、うちに?」
「うん」
まきちゃん、何言い出すんや?
うちとののは、手をつないだまま、まきちゃんの方を見上げる。
- 339 名前:第五話 投稿日:2002年02月18日(月)22時14分21秒
- 「いや、なんかさあ、ホテル代がもったいない気がしてさあ、それを浮かせるのに泊めてよ。お願いします。皿洗いでも何でもしますから」
「私の都合はお構いなしかよ」
「だからあ、お願いしてるじゃん。別に彼氏がいるわけでもなし、いいじゃん。ねっ、お願い!」
「勝手にいないって決めつけるなよ。いるかもしれないだろ。これから会うのが彼氏かも、とか思わないのか?」
「昨日、誕生日なのに何やってるんだろう、っておにぎり作りながらぽつりともらしたのは誰だっけ?」
「分かったよ、うるさいな。泊めればいいんだろ。とめれば」
「やった。ありがとう。さすが市井先生。亜依ちゃん、いい先生に勉強教われて良かったねえ」
「こういうときだけおだてるんだから」
先生は、困ったような、まんざらでもないような、そんな顔しとる。
ええなあ、まきちゃん。
うちも、市井先生のところに遊びに行きたい。
先生、彼氏おらへんのか。
ちょっと意外やった。
- 340 名前:第五話 投稿日:2002年02月18日(月)22時15分21秒
- 市井先生と別れて、うちら3人はお餅つきをしにうちの友達のとこへ向かった。
中学に入ってからの一番の友達なんや。
うちが、餅つきしたことあらへんっていうたら、じゃあお正月にうちで餅つきするからおいでよ、って誘ってくれたんよ。
おともだちも呼んでいいよ、って言うてくれたからまきちゃんとののも連れてきた。
彼女の家につくと、広い庭で餅つきがおこなわれとった。
うち、なんかわくわくしてきたで。
- 341 名前:第五話 投稿日:2002年02月18日(月)22時16分28秒
- 「亜依ちゃん。明けまして、おめでとう、ございます」
「明けましておめでとうございます」
「二人が、亜依ちゃんの、お友達?」
「うん、そや。ののにまきちゃん」
「はじめまして、紺野、あさ美、です。よろしく」
「あ、こちらこそ」
まきちゃん、とまどっとる。
紺野ちゃんは、おっとりしとるから、ペース合わせるんが最初はちょっと難しいんよ。
- 342 名前:第五話 投稿日:2002年02月18日(月)22時17分25秒
- 「亜依ちゃん。お餅つき、したい?」
「うん。やらせてな」
うちは、杵を持って、紺野ちゃんにお餅を返してもらう。
なんか、周りの人のかけ声とかあって、緊張するわ。
「あいちゃん。がんばれ」
のののやつ、お餅が食べたくてしょうがないって顔しよる。
ちょっと待っとってな。
いま、うちが、おいしいお餅ついたるさかい。
- 343 名前:第五話 投稿日:2002年02月18日(月)22時18分24秒
- ぺたっ、ぺたっって、なんか、あんまりおいしくなさそうな音しかせえへん。
なんでや。
「亜依ちゃん。もっと腰入れてやらなきゃだめだよ」
まきちゃん、ちょっとやったことある言うとったなあ。
でも、それって、どないしたらええんや?
「へたっぴ」
うっさいは、のの。
今に見とれ。
「せーの」
とりあえず、かけ声に合わせてついてみる。
でも、やっぱり、なんかだめや。
「亜依ちゃん。お餅が、堅く、なっちゃう。他の、人にも、ついてもらお」
「ああ、そや、そやな。のの、やるか?」
「うん」
紺野ちゃんにダメだしされてもうた。
ここは、ひとまずののについてもろうて、うちは食べる方っちゅうことで、ええか。
まあ、ののもそんなにうまくないやろし。
- 344 名前:第五話 投稿日:2002年02月18日(月)22時19分42秒
- 「あいちゃん、へただよ。のののみてて」
「うっさいは。餅は餅屋や。ええねん。うちが餅つくの下手やっても」
「亜依ちゃん、それ、ちょっと、意味、違う」
紺野ちゃんに冷たく突っ込まれた。
意味ちがうんか?
なんかののと紺野ちゃんがいいリズムでついとる。
はいっ、はいっ、はいっ、って周りのかけ声に合わせて紺野ちゃんが返し、ののがつく。
うまいやん、のの。
「あいちゃん。おもちっていうのはね、こうやってつくんだよ」
なんや、なんか悔しいやないか。
その後、まきちゃんもうまい具合についとった。
うちだけかい、下手なんは。
ふんっ、ええねん、別に。
餅なんちゅうんはな、つくためにあるんやない。食べるためにあるんや。
- 345 名前:第五話 投稿日:2002年02月18日(月)22時21分11秒
- 「お雑煮ができましたよ」
紺野ちゃんのお母ちゃんが、うちら4人にお雑煮を持ってきてくれた。
「うわあ、お餅が丸い。」
なんや?
のの、お餅が丸いんは普通やろ。
「ホントだ。初めて見た。お雑煮っていろいろ種類あるって聞いたけど、私の家と全然違う。東京だと、こんな透き通ってなくて、しょうゆ味だし」
そうなんや。
お雑煮っていろいろあるんか。
そういえば、うちのやとお豆腐はいっとるのに、あらへんなあ。
まあ、ええは、たべよたべよ。
あれ?
あまい。
なして?
「あんこがはいってるー」
「すごい。こんなの初めて食べてよ。関西ってお雑煮のお餅にあんこ入れるの? すごいね。」
いや、うちもびっくりや。
- 346 名前:第五話 投稿日:2002年02月18日(月)22時22分49秒
- 「あんこが、入ってるのは、変わって、るの?」
「変わってるやろ。うち、見たことないで」
「関西だとみんなそうなわけじゃないんだ」
「でも、おいしいよ」
うん。
ののの言うとおり。
ごっつおいしいねん、これ。
「おかわり!」
「私も、もうちょっと食べたいな」
ののとまきちゃん、もう食べたんか。
のののやつ、汁まで飲み干しとる。
「このあと、みんなで、大食い、大会、するんだけど、亜依ちゃんたちも、でる?」
「なに食べるん?」
「きょう、みんなで、ついた、お餅を、いろんな、ふうにして、たべる」
「うち、でる。たべる」
「ののもでる」
「じゃあ、私もでようかな」
決定。
全員参加ってことで。
でも、大食い大会するんやったら、お雑煮食べちゃだめやん。
そんな風に考えるうちとちごうて、ののはその前にもう一杯食べようよ、なんて言うとる。
のの、大会はどうでも良くて、おいしいもん食べたいだけやろ。
まあ、うちも、そうなんやけどな。
- 347 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年02月19日(火)22時43分59秒
- ごっちんのこの冬休みも気がかりになってきましたね。
さらに気がかりなのが"大食い大会"の行方・・・
こんちゃんとののはペースが合いそうで見ていてほのぼのします。
- 348 名前:第五話 投稿日:2002年02月20日(水)22時19分44秒
- 大食い大会は、紺野ちゃんちの広い和室で開かれる。
どうも、子供だけの大会みたい。
うちらの他にも、紺野ちゃんのいとことか、親戚の子、近所の友達なんかもおった。
あと、うちの中学の友達も。
「亜依ちゃん。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
うちに、挨拶に来たんは、里沙ちゃんや。
紺野ちゃんと一緒で、学校の友達。
最初、ちょっと勉強でけへんで、裏口入学、なんちゅうひどい噂も立ったりしたんやけど、うちと紺野ちゃんは、そんな噂信じてへん。
だから、周りになにを言われても、なかよくしとるんや。
「里沙ちゃんも、大食い大会でるん?」
「うん。さっき、台所の紺野ちゃんのお母さんが、里沙ちゃんにはちょっと小さいの出してあげるね、って言ってくれたんだ」
里沙ちゃん。そんなこと言うとるから、裏口入学言われるんやで。
うちには、ようわからへんけど。
- 349 名前:第五話 投稿日:2002年02月20日(水)22時21分05秒
- しばらく経つと、紺野ちゃんが一番前にたって、話し始めた。
うちらのクラスの学級委員も紺野ちゃんがやっとるんやで。
だから、こうやって、前に立って話す紺野ちゃんは、話しなれとるはずなんや。
「はい。それでは、毎年、恒例に、なっている、大食い、大会を、始め、たいと、思い、ます」
はよ、はよ始めよや。
うち、おもちたべたい。
「それでは、ルールを、説明、します。あんこを、つけた、あんころもち、きなこを、まぶした、あべかわもち、のりで、巻いた、磯辺焼き、お醤油と、大根下ろしを、かけた、からみもち、チーズを、のせた、チーズ餅。どれでも、すきなのを、たくさん、食べた、ひとの、勝ちです。優勝者には、おとしだまが、わたされます。」
お年玉やて。
お年玉。
うち、欲しい。
- 350 名前:第五話 投稿日:2002年02月20日(水)22時22分50秒
- ののの方を見ると、ののはあんまりお年玉には興味なさそうで、自分の前に置かれた、お餅が並んだお皿を見て、よだれを出しとる。
もう、中学生やろ、のの。
「時間は、30分、です。みんな、頑張って、下さい」
まきちゃんは、あの子のしゃべりちょっと力抜けるよね、と言うとる。
頑張って食べるとかって感じじゃないよ、だって。
うち、紺野ちゃんのあのペース、けっこう好きなんやけどな。
まあ、力抜けるいうんは納得や。
- 351 名前:第五話 投稿日:2002年02月20日(水)22時24分28秒
- 「じゃあ、始めて、下さい」
大食い大会は始まった。
うちは、まずあんこから食べる。
ののは、きなこか。
里沙ちゃんの、ホントにちょっと小さないか?
あれ、紺野ちゃんも参加しとる。
「あいちゃん。きなこおいしいよ」
「あんこもええで」
「チーズも意外とおいしいよ。っていうか、全部おいしいじゃん」
まきちゃんのいうとおりやけどな。
とりあえず、30分のうちに食べへんと、片づけられてしまうから、5種類全部食べよ。
- 352 名前:第五話 投稿日:2002年02月20日(水)22時25分42秒
- うちらは、ひたすら食べた。
あんまり、優勝するためにとか言うんやなくて、おいしいから食べたんや。
からみ餅とか、チーズ餅なんて、うち初めて見たし、やっぱ食べへんとそんやろ。
「30分、たちました。おわり、です」
紺野ちゃんの、言葉で、大食い、大会が、終わりました。
なんか、あのしゃべり方聞いとると、うちまでそういうテンポになってまうわ。
「それでは、何個、食べたか、報告、してください」
みんなが、自分の食べた数を報告していく。
ののは7個、まきちゃんは6.5個やった。
「うちは、8個です」
うちは、1個ずつ5種類と、あんこと、きなこをたべた。
意外とおいしかったチーズを最後に食べて30分経ってしもうたんや。
他の人たちも報告していく。
里沙ちゃんは4個だけ。
一回りして、一番数が多かったんはうちやった。
もしかして、うち1番? 優勝? 優勝? お年玉?
- 353 名前:第五話 投稿日:2002年02月20日(水)22時28分37秒
- 「みなさん、よく、頑張りましたね。最後に、私は、8.3個、食べました。私の、優勝、です」
8.3個?
0.3って何?
そんなんあり?
そんなあ、うちのお年玉!!!
紺野ちゃん、自分の家で大食い大会やっとって、自分で優勝せえへんでもええやん。
「はは、亜依ちゃん、残念だったね。もうちょっとだったのに」
「おとしだまがあ!!!」
「優勝、したのは、私、ですけど、賞品の、お年玉は、亜依ちゃんに、差し上げ、ようと、思い、ます」
「やったじゃん、亜依ちゃん」
「うち、むっちゃうれしい」
うち、お年玉もらえる聞いてうれしかったんや。
紺野ちゃんが開いてる大会、なんちゅうことは考えてへんかった。
「賞品は、うちで、作った、吟醸、三人娘。です」
ぎんじょう?
なんや?
うちには、理解でけへん言葉やった。
賞品渡されて分かったんや。
「おさけ?」
「はい。日本酒、です。うちの、店で、一番、人気の、日本酒、です。おうちで、みんなと、飲んで、ください」
- 354 名前:第五話 投稿日:2002年02月20日(水)22時29分18秒
- まきちゃんは、「市井ちゃんの家に泊まるんだ」ってはしゃいで駅に行ってしまった。
市井先生のこと、市井ちゃんなんて呼んで、まったく、市井先生は、うちの市井先生なんやで。
「あーあ、もうちょっといいお年玉だったらなあ」
「でも、おもちおいしかったね」
「そやなあ」
「帰ったらさあ、おしるこ作って食べようよ」
まだ食べるんかい、ののは。
まあ、せっかくつきたてのお餅もろうてきたし、二人でつくろか。
- 355 名前:第五話 おわり 投稿日:2002年02月20日(水)22時29分48秒
- 今日も、楽しい1日でした。
楽しい1年の始まりでした。
今年1年、楽しいことばっかりになったらええなあ。
そんなん思いつつ、ののと二人で家に帰る元日の夕方。
夕日がとってもきれいでした。
- 356 名前:第五話 おわり 投稿日:2002年02月20日(水)22時37分46秒
- 第五話 カルチャーショック >>335-355
ようやく、年が明けました。
正月っぽいイベントで、ありがちな展開で、先に読める落ち。
っていうか、おちなんだろうか、あれは??
>M ANZAIさん
ほのぼのしかない話ッスから。
でも、ちょっと、そのネタいいのか? というのも入れてしまいました。
あの人のあのテンポのしゃべりを、”、”を多用して表現するのは、果たしていいのだろうか?
第六話は、明日以降。
- 357 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月22日(金)00時40分14秒
- いいなあ〜このほのぼの感。
たまらないね。
- 358 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年02月22日(金)22時13分20秒
- なんだか暢気な、のんびりとした正月の風景が思い描けて楽しいです。
紺野ちゃんて、喋っていると言葉と言葉に間があるんですけど、
内容を文字にしてみると、難しい漢字や言いまわしを使ってるんでね。
もはや市井先生を「市井ちゃん」呼ばわりしているごっちん・・・
やはり、こうでないと。
- 359 名前:作者 投稿日:2002年02月24日(日)19時17分48秒
- >357 ありがとうございます。
文章能力が無くても、ほのぼの系の数の少なさに救われてます。
>358 ちょっと、田舎の正月はいってましたね。
ちなみに、紺野さんの実家が何してるかなんてことは知りませんのであしからず。
造り酒屋はイメージです、単なる。
- 360 名前:第六話 スマイル 投稿日:2002年02月24日(日)19時18分34秒
- 冬休みも残り少なくなってきてしもうた。
でも、まだまだ遊ぶで。
今日、うちはスケートへ来とる。
スケートって、氷の上で滑るあのスケートや。
アイススケートな。
ののと市井先生と三人で来たんや。
まきちゃんは塾やって。
かわいそうやけど、しゃーないやろ。
今の時期にすべるなんてとんでもない、って市井先生に文句を言って出かけたそうや。
うちらも、ちょっと薄情かもしれへんな。
- 361 名前:第六話 投稿日:2002年02月24日(日)19時20分41秒
- スケートへ来たのはいいんやけど、うち、実は初めてやねん。
市井先生はそこそこ滑れるらしいし、ののなんかは雪国で育っとるからスケートは小学校の体育の時間であったりするような、うちらにとっての水泳みたいな感覚のものらしい。
滑れへんのうちだけなんや。
リンクの端っこで、手を引っ張られながら転んだりしとるのって恥ずかしいやん。
手を引っ張ってくれんのが市井先生ならまだええで、先生やし。
でもな、ののに滑り方教わるんは、なんか、いやや。
悔しいやん。
- 362 名前:第六話 投稿日:2002年02月24日(日)19時21分33秒
- 「あいちゃん。ののが教えてあげるから、しんぱいしなくてもいいよ」
「べつに、心配なんかしてへん」
「つよがっちゃって」
「つよがってなんかおらへん。うち、市井先生に教えてもらうからええもん」
「最初は、亜依ちゃんが滑れるようになるまで、ゆっくり隅っこでさ、やってようよ。ちゃんと両側に私とののちゃんで支えてあげるから」
まあ、先生がそういうなら、それでええけどな。
でも、ホンマええ人やなあ、市井先生って。
今日、スケートに行こって言いだしたんも、先生なんやで。
まきちゃんがこれへんの分かってて、この時間にしたんはなんでかようわからへんけど。
- 363 名前:第六話 投稿日:2002年02月24日(日)19時22分06秒
- うちらは、受付でスケートシューズを借りて、リンクに向かった。
あんまり、人はおらへん。
そんなにはやっとるとか聞かへんしなあ。
数少ないお客さんが、周りをぐるぐる滑っとる中で、中央にすごいかわいい人がおった。
「石川梨華じゃん。まじっすか? こんなとこで見られるなんて。ちょーラッキーじゃん」
市井先生が、驚きの声を上げる。
だれ?
先生の知り合い?
そう聞くうちとののに、先生が説明してくれた。
有名なフィギュアスケートの選手なんやって。
オリンピックに絶対出るだろう、って言われとったのに、最後の選考会で戸田さんと木村さんって言う、それまで陰に隠れた存在やった人に負けちゃって、代表になれなかったんやそうだ。
「私さあ、すごいファンなんだよね。ちょっと似てる、とか言われたこともあるし。休憩のタイミングの時に絶対サインもらう」
似てるって誰と?
いや、似てへんと思うけどなあ。
そう言ううちらに、昔は似てたんだよ、って力んで言う先生は、ちょっと女の子の顔しとった。
- 364 名前:第六話 投稿日:2002年02月24日(日)19時22分54秒
- だけどな、スケートしたことあらへんうちが言うのも変やけど、あんましすごい人には見えへん。
かわいいとは思うで、すごくな。
でもな、さっきから、なんか転んでばっかしや。
ずーっと、しかめっ面やし。
ホントにそんなすごい人なんか?
コーチらしい人に怒られとる。
あーあ、うつむきながら、リンクの端っこへ行って飲み物を飲み始めよった。
「よし、チャンス。サインゲットに行ってきます」
「ののも行く」
「ちょい待ってや。うち、滑れへんのやで」
滑れへんうちを置いて、二人はすごい勢いでリンクに飛び出して行きよった。
うちも、行かな。
でも、転びそうや、こわいは。
うちが覚悟を決めて、リンクの上に立つと、二人はもう、石川さんのところでサインをねだっとった。
- 365 名前:第六話 投稿日:2002年02月24日(日)19時23分32秒
- 「あの、私、すごいファンなんです。サインいただけますか?」
「いや、練習中なんで、ちょっと」
「そうですか。じゃあ、練習終わったらお願いできますか?」
「ええ、まあ、終わった後で良ければ。あっ」
うち、転んでしもうた。
しゃーないやん。
滑ったことあらへんのに、いきなし一人でリンクの上に立ったんやもん。
その勇気をほめて欲しいくらいや。
「大丈夫?」
転んだ上に、立ち上がろうとしてもう一回倒れたうちを、あの、えーと、石川さん? が助けてくれた。
- 366 名前:第六話 投稿日:2002年02月24日(日)19時23分53秒
- 「大丈夫? 痛いとことかない?」
「は、はい。だいじょうぶです。ちょっと、おしり痛いけど」
「もしかして、スケート初めて?」
「はい。滑ったことないです」
「だめだよ。無茶しちゃ。ちゃんと、最初は滑れる人に手を引いてもらわないと」
「だって、二人とも、さき行っちゃうんやもん」
「ダメじゃないですか! 滑ったことない人をほっといて滑れる人だけリンクに飛び出すなんて。頭打ったりしたら、本当に危ないんですから!」
「すいません」
大ファンと言っている石川さんに怒られて、市井先生はちょっとへこんどった。
先生やのに、うちのことほっとくから、その罰や。
「じゃあ、ちゃんとその子に教えてあげなね」
「はい」
それだけ言って、石川さんは練習に戻ろうとしたんやけど、そこに、外から待ったがかかったんや。
- 367 名前:第六話 投稿日:2002年02月24日(日)19時24分34秒
- 「石川!」
「はい。」
「石川。あんた、その子に滑りを教えて上げなさい」
「私がですか?」
「そう、あんたが。元はと言えば、あんたにサインをねだりにこの二人が来ちゃったから、この子が危ない目にあったわけだから、石川が責任取りなさい」
「でも、練習が」
「今日の練習は、この子にスケートを教えること。決まり」
「コーチ、そんな」
「黙ってやる。あっ、ごめんね。協力してくれるかな? 一応この子ね、日本ではトップのスケーターってことになってるから、それなりに教えて上げられると思うけど」
うち、ええんやろか。
なんか、すごいことになっとるで。
「じゃあ、サインいただけるなら」
先生、うちよりサインが大事なんか?
- 368 名前:第六話 投稿日:2002年02月24日(日)19時25分40秒
- 「よし、決まりね。石川! 丁寧に教えて差し上げるように。それと、滑れる二人は、良かったら私がジャンプとか教えて上げるけど、その気ある?」
「はい。よろしくお願いします。ほら、ののちゃんも、頭下げる。この人、日本一のコーチなんだからね」
市井先生は、ののの頭を手で押さえて、おじぎをさせよった。
なんか、イメージ違ってきたなあ。
「いやあ、かおり、そんな、日本一なんてそれほどのものでもないけどなあ」
日本一のコーチって言われた、長身のその人は照れてそんなことを言っとる。
この人もきれいやなあ。
うち、見とれてしまうわ。
- 369 名前:第六話 投稿日:2002年02月24日(日)19時26分35秒
- 市井先生が、このコーチのことも説明してくれた。
昔は、世界のトップスケーターで、初めて3回転半ジャンプってのを飛んだ人なんやって。
ジャンプしてから、3回転半も回るんか?
うちには、想像でけへんくらいすごいやん。
ここからは、本人に聞こえへんように、そっと教えてくれたんやけど、どんなにええ演技をしても笑顔を見せないから、アイスロボットなんて呼ばれて、記者会見で記者の人に、ねえ笑って、なんて言われたりしとったんだそうや。
うち、そんな人たちに、滑り方教えてもろうてええんか?
べつに、フィギュアスケートの選手になる気なんかあらへんで。
大体、なれへんし、どう考えたって。
「お名前は?」
「加護亜依です」
「亜依ちゃんは、滑れるようになりたい?」
「はい」
「じゃあ、練習しよっか、私と」
「はい」
石川さんは、コーチに無理矢理教えさせられてるはずやのに、嫌な顔もせず初心者のうちに接してくれた。
- 370 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年02月24日(日)21時37分55秒
- 3人でアイススケートですか、楽しいですね。
受験生にはたしかに禁句かもしれないけど、この季節ならではのスポーツですから。
さてそんな亜依ちゃんに教えることになった石川選手、はたして飯田コーチの真意は?
(あれ!?飯田さんって名乗ってない・・・・? ねぇ名乗って♪)
- 371 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月25日(月)00時59分22秒
- 今まで知らんかった………。いやぁ、おもしろいっす。頑張って下さい。
- 372 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月25日(月)01時28分32秒
- 新シリーズが始まっていたなんて知らなかった...
作者さんの作品は本当に心が温まるな。
- 373 名前:第六話 投稿日:2002年02月26日(火)23時47分19秒
- 「よし、じゃあ、最初は、滑るよりも前に氷の上にきちんと立つこと。いい? かかとをつけて、60度くらいつまさきを開いてみて」
「はい。 うわああ!」
ちゃんと言われたとおりに立ってみたけど、60度の形のまま足が開いていってしもうて、後ろに倒れそうになったんを、石川さんが支えてくれた。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと、足の形は出来てたから。もう一回やってみよう。今度は、私に捕まってていいから」
「はい」
石川さんの腕にしがみついたまま、言われたとおりの格好をする。
「よし、じゃあ、手離すよ」
「はい」
立てた! 立てたで。
うち、氷の上に立てた。
「すごい、すごい。ちゃんと氷の上に立てたねえ。始めて5分で立てるようになるなんて、すごいよ」
「ホンマ? ホンマに?」
「うん。すごいよ、亜依ちゃん。じゃあ、次は歩いてみよう」
「滑るんやなくて、歩くん?」
「そう、歩くの」
この後すぐに歩けるようになって、そしてちゃんと滑って、転ばずにリンクを一周出来るようになって休憩にした。
- 374 名前:第六話 投稿日:2002年02月26日(火)23時48分08秒
- 「はい、アイスティ」
「ありがとう」
冬で、氷の上だから寒いはずやのに、アイスティを飲むくらい、体はあったかかったんや。
リンク脇のベンチに座って、かおりコーチにしごかれとるののと市井先生を見ながら、梨華ちゃんと話す。
石川さん、ってよんどったら、梨華ちゃんでいいよ、って言うやもん。
「亜依ちゃん、スケート楽しい?」
「はい。滑れるようになったから楽しいです」
「そっか、滑れるようになって良かったね」
「梨華ちゃんのおかげです」
「ううん。亜依ちゃんがセンスあるから」
「そんなことない。うち、運動神経あらへんもん」
梨華ちゃんは、そんなこと言っちゃダメだよ、自信持ちな、ってうちに言うてくれた。
日本でトップのスケーターって言う人が、うちに教えてくれるんやから、すごいぜいたくなことなんやろな。
- 375 名前:第六話 投稿日:2002年02月26日(火)23時50分44秒
- 「練習、すごく大変なんですか?」
「うん。コーチきびしいから。私も頑張ってるつもりなんだけどさ。一回失敗しちゃうとすぐ落ち込んじゃうほうだし。
だけど、成功したときの喜びってすごく大きいし、観客の人たちも喜んでくれるしね。それに、なによりかおりコーチが
笑顔を見せてくれるのが嬉しいんだ。だから、頑張ってやってる」
「かおりコーチって、昔は全然わらわなったって聞いたんですけど、本当なんですか?」
「うん。笑わなかったから、冷たい人って思われたらしいけど、本当はすごく優しい人なんだよ。でもこの前、私失敗し
ちゃって、すごくがっかりさせちゃったんだ」
「うちになんか教えてて、ええんですか?」
「亜依ちゃんは、細かいこと気にしないの。練習いいのかな? って私も思うけど、コーチがやれっていったんだし、
それに、久しぶりに私も楽しいから」
コーチが喜んでくれると嬉しいっちゅうんは、うちもよう分かる。
今日も、梨華ちゃんが喜んでくれるから、うち頑張れるし、勉強も市井先生が来てからちょっと楽しくなってきた。
「そろそろ、始めよっか。今日中に片足で滑れるようになるよ」
「はい」
- 376 名前:第六話 投稿日:2002年02月26日(火)23時51分44秒
- それから、うちらは1時間くらい練習した。
片足滑りはけっこう難しくて、何度も転んだけど、大体出来るようになったんやで。
「はい、じゃあ、石川達も集まって!」
かおりコーチがうちらに集合をかける。
「それでは、今日の練習の成果の発表会をします」
- 377 名前:第六話 投稿日:2002年02月26日(火)23時52分26秒
- 最初は市井先生。
先生は、前向きに滑ってきて、片足でターンをして後ろ向きになるという、スリーターン、という技をやった。
うまい。うまい。
「はい、拍手!」
みんなで拍手。
次は、うちの番や。
「亜依ちゃん、頑張って! 絶対出来るから」
梨華ちゃんの声援に押されてみんなの前に出ていく。
うちがやったんは、前向きに滑っていって、途中で片足になるっていうだけ。
でも、一日目でこれだけやるんは結構すごいって梨華ちゃん言うとったで。
うちは、滑れたんや。
片足で。
両足で滑ってきて、片足あげてな。
出来たはずなんや。
だけど、出来たってよろこんどったら、最後に、最後に、こけてしもうたんや。
「亜依ちゃん。出来てたよ。出来てたから。そんな、泣かないで」
なんか、よう分からんけど、うち、泣いとったみたいや。
そんな、泣くようなことやあらへんのに。
ちょっと、悔しかった。
- 378 名前:第六話 投稿日:2002年02月26日(火)23時53分39秒
- うちの次にののは、半回転ジャンプをした。
すごいわ、のの。
ジャンプまで出来るんか。
「できたー!! いいださーん!!」
着地がきちんと決まった後、ののはかおりコーチの元に滑り寄っていって、抱きつきよった。
コーチも、良かった、良かったねえ、ってのののことを抱きしめとる。
うらやましゅうなって、梨華ちゃんの方を見たら、亜依ちゃんもちゃんと出来てたよって、肩を抱いてくれた。
「さて、最後に石川! あんたやってみな」
「私ですか? 何するんですか?」
「曲かけるから、フリー演技通しでやって見ろ」
なんで急に? ってかんじで梨華ちゃんは不満そうやったけど、それでもリンクの中央に立ち、演技の用意をする。
会場のスピーカーを通じて、曲が流れ出した。
ムーンライト・ソナタ。
ベートーベンの曲なんやって。
- 379 名前:第六話 投稿日:2002年02月26日(火)23時55分28秒
- 演技が始まる。
これまでの梨華ちゃんとはちょっと違った感じで。ピーンと張りつめた空気の中で、滑り出した。
「最初の、ジャンプ。それさえ決まれば」
うちの隣で、かおりコーチが祈るような表情で、梨華ちゃんを見とる。
梨華ちゃんは、うちらの目の前で、3回転のジャンプを続けて二つ決めた。
「よし、石川」
梨華ちゃんの演技は続く。
トリプルサルコウ、ダブルアクセル、スパイラル・・・。
かおりコーチが、単なる独り言なんか、うちらへの解説なんか、ようわからへんけど、しきりにつぶやいとる。
くわしい解説してもらわんでも、うちにも梨華ちゃんのすごさは分かる。
さっきまでの、かわいい梨華ちゃんではなくて、すごい梨華ちゃんや。
最後に、高速回転のスクラッチスピンというのをして、決めポーズ。
演技を終えて、梨華ちゃんは輝いた笑みを見せた。
「チャーミースマイルだ」
市井先生がつぶやく。
最高の演技が出来たときに出る、梨華ちゃんの笑顔をそう呼ぶんやって。
- 380 名前:第六話 投稿日:2002年02月26日(火)23時56分56秒
- 「梨華ちゃーん。すごい! すごい! すごいよ!!」
「ありがとう」
梨華ちゃん、ちょっと放心状態。
すごい。
梨華ちゃん、ホンマすごいわ。
こんなすごいのにオリンピック出られへんなんて、変や。
「わたし、なんで、出来たんだろう」
梨華ちゃんは、不思議そうにつぶやいて、帰ってきた。
「なに、自分で分かってないわけ? まあ、とりあえず、この3人にお礼を言うんだね」
「ありがとう」
いや、なんで、お礼言われるんや?
お礼言うんは、こっちやろ。
「こっちこそ、ありがとう。梨華ちゃんとスケートできてすごい楽しかった」
「私も、亜依ちゃんと一緒に出来て、ホント楽しかったよ。これからも頑張るから、応援してね」
「うん! また、チャーミースマイル見せてね」
- 381 名前:第六話 投稿日:2002年02月26日(火)23時57分45秒
- うちらは、スケート場を後にした。
ののは、かおりコーチと別れるとき、半泣きだったんやで。
うちは近所に住んどるけど、ののは遠くから来たからもうここには多分来ないって言うたら、かおりコーチも泣きそうになって、のののことを抱きしめとった。
うちは、いつでも来れるし、梨華ちゃんいつもここで練習しとるっていうからまた来ようと思っとる。
市井先生は、いつ買ってきたのか、しっかり色紙を二枚だして、二人のサインをもらっとった。
市井先生とは駅で別れて、二人で家に帰る。
うちがトイレいっとる間にののと市井先生が真面目な表情で話しとったんがちょっと気にくわんかったけど、なんとなく、なに話しとったのかは聞けへんかった。
駅から家までの帰り道。
真冬だなあ、って思わされるような冷たい風に吹かれて、二人ともポケットに手を突っ込んで歩っとる。
こんな風に過ごせるんもあとちょっとやなあ、なんて、しみじみおもっとったらののが話しかけて来よった。
- 382 名前:第六話 投稿日:2002年02月26日(火)23時58分19秒
- 「あいちゃん」
「ん? なんや?」
「のの、さみしい」
「どうしたんや? うちと二人で帰るんいやか?」
「そうじゃなくて、せっかく知り合ってなかよくなってもさあ、すぐみんな、会えなくなっちゃう」
「うん。そやな」
「ののは、みんなとずーっと一緒にいたいのに、みんな、それぞれ違うところにいってしまう。べつに、のののためになにかしてほしいってわけじゃないんだよ。ただね、一緒にいてほしいの」
「うん。うん。わかるで」
「だけど、それって、のののわがままなのかなあ?」
きっと、さっきのかおりコーチとの別れがつらくて、こんなこと言っとるんやろ、とこの時は思った。
それに、うちとののももうすぐお別れせなあかんしな。
あさって、ののは姫牧の村へ帰る。
うちかて、ののとずっと一緒におれたらええな、って思う。
まきちゃんにも、できれば帰ってほしくない。
だけど、それはどうすることもできんことなんや、いまのうち達にとっては。
すごくさびしいけれど。
- 383 名前:第六話 おわり 投稿日:2002年02月26日(火)23時58分51秒
- 「のの、あとちょっとやけど、めいいっぱいあそぼな」
「うん」
あとちょっとやけど、あとちょっとしかあらへんけど、今も、家に帰っても、ねむとっても、一緒におれるんや。
だから、ちょっとやけどちょっとやないって、そう思いたかった。
- 384 名前:作者 投稿日:2002年02月27日(水)00時03分47秒
- >>360-383 第六話 スマイル
第六話も終わり、冬休みも残り少なくなってきました。
文章のレベルはともかく、フィギアスケーターにこの二人を持ってきたのはちょっと自分で気に入ってます。
>370 M ANZAIさん
えー、コーチは持田香織です(嘘)。
何となく、石川選手には飯田コーチかと。
>371 初めましてです。
残りもわずかですが頑張ります。
>372 お久しぶりですになるのかな?
話も終盤になってきました。
冬の寒々しい話にならないように頑張ります。
- 385 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年02月27日(水)02時34分57秒
- フィギアスケートを教える方も教えられる方も真っ直ぐに取り組んでいて
とても好感がもてました。
とくに、かおりコーチの厳しくも暖かな眼差しを感じられた気がします。
余談ですが、うちのような田舎だと、スケートって普通に言うとスピードスケートです。
近くの川をせき止めて作った天然のスケートリンクでよく転んでたものです。
ふと、ののちゃんもそんな環境でからだに染み付いてるのかな、とか思いました。
そう言えばこの場面、ののといいださんの運命の出会いの場面でもあったんですね。
この後の展開、ちょっぴり覚悟して、お待ちしてます。
- 386 名前:作者からのお願い 投稿日:2002年02月28日(木)22時36分58秒
- えー、終演が近づいているのですが、手元のテキストとスレッド残り容量を見ると、ちょっとやばい。
ということで、スレッド移転を考えています(手直しがすべて済んでチェックしないと分かりませんが)
行き先は、花、青、空、海、森以外のどこかになります。
まあ、ここで告知はしますが。
そこで、移転先にここのアドレスを張りたいのですが、このスレッドが倉庫行きになった際にアドレスがどう変化するのか、分かる方いたら教えて下さい。
よろしくお願いします。
こうなるなら、冬編の最初から別スレッドにするのだった・・・。
ごめんなさい。
>385 M.ANZAIさん
辻さんは、小さな頃に吉澤さんに手を引かれスケートを教わりました。
おいかけっこをする内に滑れるようになったのです(という隠れ設定。かなりどうでもいいかも)。
この後の展開は、どうなるんですかねえ?
- 387 名前:作者からの告知 投稿日:2002年03月03日(日)00時02分25秒
- 結局移転しました。
とりあえず、今までのまとめ。
>>3-241 ”初めての夏休み”
>>1-13 第1話 ばーちゃんち
>>15-26 第2話 お化けの森
>>28-54 第3話 バレーボール
>>56-86 第4話 夏祭り
>>91-130 第5話 村の結婚式
>>134-186 第6話 嵐の夜
>>188-239 第7話 さよなら、夏の日
>>240 エピローグ
みんなの冬休み
>>255 予告
>>261-278 第一話 迷子の迷子ののの子さん
>>283-295 第二話 今夜はパーティー
>>299-310 第三話 先生登場
>>314-331 第四話 絶対おきてるの!
>>335-355 第五話 カルチャーショック
>>360-383 第六話 スマイル
- 388 名前:作者からの告知 投稿日:2002年03月03日(日)00時03分42秒
移転先は赤板です。
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=red&thp=1015079839
倉庫に行った際は、こちらとなると思います。
http://mseek.obi.ne.jp/kako/red/1015079839.html
今後ともおつきあいいただければ幸いです。
これまでどうもありがとうございました。
このスレッドは、これでおしまいかな。
たぶん。
Converted by dat2html.pl 1.0