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story in grapevine
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月13日(木)23時28分11秒
- 初めて書きます。
駄文ですが、お付き合いくだされば光栄です。
- 2 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時28分58秒
- ちょっとサイコな感じのやつです。
- 3 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時29分37秒
- 真っ暗だ。いや、真っ暗なわけじゃない。何もない、そう言ったほうが正しいかな?
本当に何もない?何も見ようとしないだけじゃなくて?あ〜もう訳解んない。
―あれ?梨華ちゃん?ねぇ、待ってよ。何処行くの?ねぇ・・・
そのうしろ姿は止まってはくれない。必死で走るけど、追いつけない。
これが、最初見た夢とその感想。
- 4 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時30分24秒
- 二度目の夢で、あとちょっとの所まで追いつけた。
三度目の夢で、肩に手が触れた。
四度目で、抱きしめた。五度目で、キスをした。
少しずつ、私の思い通りになっていった
- 5 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時31分08秒
- 私が、そのカプセルを手に入れたのはちょっと前。
と言っても、何処で、どうやって、誰から、何1つ覚えてない。
気が付いたら、そこにあった。そして、何の抵抗も無く、それを受け入れていた。
そのカプセルを飲んで寝ると、不思議とあの夢を見た。
何も無い空間に、私と梨華ちゃんだけがいる、あの夢。
それは、少しずつ、その内容を変えていった。
私と梨華ちゃんの距離は、どんどん縮まっていった。
何も無かった空間に、ベットやら、テーブルやら、色んなものが増えていった。
- 6 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時31分48秒
- そこは、梨華ちゃんの部屋だった。ベットに腰掛けている梨華ちゃんに、私は近づく。
―梨華ちゃん、愛してるよ。
そう言ってキスをする。出迎えるように少し開いた唇に、舌をねじ込む。
梨華ちゃんの舌が、それに応じる。
- 7 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時32分24秒
- 初めは、自分の部屋でしか、そのカプセルを飲まなかった。
最近は、常にカプセルを持ち歩くようになった。
収録の合間の休憩時にも、平気で飲むようになった。
何度目かの夢。もう、数え切れない。
私たちはベットの中にいた。ふたりとも裸だった。
―梨華ちゃん
それしか言わず、既に硬くなっている乳首を口に含む。
どちらのものともわからない吐息が漏れる。
私は、梨華ちゃんのソコに手を伸ばす。
もう、濡れていた。あっさりと、侵入を許してくれた。
夢の中で、私は梨華ちゃんを思い通りに出来るようになっていた。
私の要望に、梨華ちゃんは従順に応じてくれた。
でも、なにか物足りなかった。
- 8 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時33分41秒
- いつからか、梨華ちゃんは抵抗するようになった。
些細な抵抗だった。私はそれに今まで以上の興奮を覚えた。
だけど、その抵抗は日増しに激しくなっていった。
- 9 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時34分50秒
- 梨華ちゃんの部屋。私は入り口に立っていた。
梨華ちゃんは、怯えた表情で、こちらを見ている。
―どうして、怖がってるの?痛いことなんてしないよ?
梨華ちゃんは答えない。ただ、震えている
私は梨華ちゃんの隣に座って、キスをした。
―イヤッ!
梨華ちゃんは、身体を離し、唇を手で拭った。
その行為が、私を逆上させた。
―なんで!こんなに愛してるのに!どうして分かってくれないの!
私はヒステリックに叫ぶと、梨華ちゃんを押し倒し、馬乗りになる。
―ねぇ、私のこと、愛してくれるよね?
梨華ちゃんは、何も言わず首を横に振った。
私の手が梨華ちゃんの細い首にかかる。
- 10 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時35分37秒
- ―こんなに好きなのに!こんなに愛してるのに!どうして分かってくれないの!どうしてっ!
―…許して…
今更許すことなど出来なかった。指にありったけの力を込める。
梨華ちゃんは少し足をばたばたさせると、すぐにぐったりとした。
―これでちゃんと愛し合えるね…
私は冷たく言った。まったく感情のない声で。
- 11 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時36分11秒
- いつのまにか、カプセルは最後の1つになっていた。
今まで、減っている様子など無かったのに。
私は、最後の1つを飲み下した。
- 12 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時36分50秒
- 何も無い空間。目の前を梨華ちゃんが走っている。
私はそのうしろ姿を追いかける。
―ねぇ、待ってよ!
梨華ちゃんの肩にかけようとした手は、何の抵抗も無く、空を切った。
私はそのまま転んだ。痛みは無かった。
―待ってよ!離れてかないでよ!何処にも行かないで!傍にいてよ!ねぇ!梨華ちゃん!
私の声が空しく響く。梨華ちゃんは見えなくなってしまった。
- 13 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時37分34秒
- 「警部!薬物判定の結果が出ました。やはり、薬物を服用していた模様です。」
「やはりか。出所を探れ!」
「はい!」
新米に指示を出し終えた初老の男は、深くため息をついた。
「ちくしょう!」
持っていた新聞を机に投げつける。
その新聞には、最近の薬物中毒者による殺人事件の増加を訴えていた。
新種の可能性。他国によるテロの可能性。さまざまな憶測が飛び交った。
人気アイドルグループにも服用者がいたこと。そして、その同グループに被害者もいた事。
そのことは、文の最後に、小さく書き加えられていた。
- 14 名前:フィギュア 投稿日:2001年09月13日(木)23時43分53秒
- とりあえず、1作目「フィギュア」終了です。
一応、とあるバンドの、とある楽曲をモチーフにしてます。
感想等、いただけたら嬉しいです。
内容がこういうものなので、人によっては、拒絶するものなのかもしれません。
覚悟は出来ております。批判、非難、等など、あれば、言ってください。
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月14日(金)06時35分00秒
- え?誰??
- 16 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月14日(金)18時55分37秒
- >15
そういうものなんじゃない?
徐々にわかってくるでしょう・・
>作者さん
まだまだ分かんないことだらけで何とも言えないけど、
期待してます。 頑張って!
- 17 名前:作者 投稿日:2001年09月14日(金)23時25分45秒
- レス、感謝です。読んでいただき、光栄の至りです。
>15さん 誰、とはこの話の主人公のことでしょうか?
一応、自分の中では、ちゃんと決まってて、書き始めたんですが、なぜか本文に名前がこれっぽっちも出てきません。
書いてから気付きました。しかし、読み手の方に自由に想像していただいた方がいいのではないか、と浅知恵な考えで伏せたままにしました。
- 18 名前:作者 投稿日:2001年09月14日(金)23時26分20秒
- >16さん 分からないことだらけ、確かにその通りです。意図的に分かりにくくした部分もありますが、本当に訳分からなくなってしまいました。
最初から、1話完結物としてこれを書きました。続編か何かを書いて、謎を解決するものにしようかな、なども考えましたが、
所詮理系に進もうってな作者には、これ以上話を膨らますことが出来ません。
なので、誠に申し訳ないんですが、謎を残したまま、といった形で、終わりにしたいと思います。
- 19 名前:作者 投稿日:2001年09月14日(金)23時33分21秒
- 一応、自分なりの話の流れがあって、書きました。
が、それはほとんど表現できてないです。
希望があれば、多少の解説をしたいと思うんですが、いかがでしょうか?
そういうのを書くと、白けるかな、と思うんで、私の判断では決めかねるんで。
また、今回で、自らの力不足を痛感しました。更に精進してきたいと思います。
- 20 名前:16 投稿日:2001年09月15日(土)00時30分24秒
- >作者さん
そかそか。
でもそんなに悪い作品でもないよ。
初めてにしては文章表現も上手くできてると思う。
ただやっぱり多くの謎を残しすぎたってのもあるね(w
解説はあえて聞かないどくっす。
また次の作品を期待してますよ(^^)
- 21 名前:作者 投稿日:2001年09月15日(土)01時06分05秒
- >16さん なんとも嬉しいお言葉。ありがたいっす。
次のも、近々あげたいと思うんで、そのときもまたヨロシクです。
- 22 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時07分05秒
- 恋愛ものです。
- 23 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時11分45秒
- 『つまりはいつものように過ぎるという事 或は音を立てて崩れそう』
『ただ好きなだけじゃこの手 離れるだけ』
『ただ好きなだけがこの手 繋げてるだけ』
『もう手のひらの上 消えてなくなって
忘れられたはずなのに ふと何度も蘇るのは?』
- 24 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時12分59秒
- 「ねぇ、このあと梨華ちゃんち行っていい?」
仕事が終わって、荷物をまとめてる梨華ちゃんに、私はいつものように問いかける。
「うん、いいよ」
梨華ちゃんの返事も、いつもと同じ。何も変わらない日常。
- 25 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時13分33秒
- 梨華ちゃんの部屋。ふたりの間に、会話は無くなっていた。
最初はまぁ、順調にいってた。けど不意に、途切れてしまった。
沈黙。私たちはよくこの状況に陥る。
初めは、不安で、どうして何もいわないの?とか、何か言わなきゃ。とか思って焦った。
でも最近、この沈黙が心地いいとさえ思うようになった。
ここの時間だけ、ゆっくり過ぎるように思えて。一緒に入れる時間が長くなるから。
もちろん、実際の時間は変わんないんだけど、もっとこう、精神的な部分で、共有できる時間、みたいなものが。
でもそれは、薄氷の上に立ってる様な危うい感じ。
手を触れてしまえば、崩れてしまいそうなバランスの上に成り立ってるようにも思えた。
- 26 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時14分27秒
- 「ねぇ…ごっちん?」
「ふぇ?なに?」
突然の言葉に、間抜けな返事をしてしまう。
この沈黙の中で、あっちから声をかけてくるのは珍しかった。
「昨日さ…その…一緒に寝た時にさ…」
言いながら、顔が赤くなっていく。きっと、昨日の夜の情事を思い出してる。
「ごっちんさ…先に寝ちゃったでしょ…それでね…」
なかなか本題に触れない梨華ちゃんに私は苛立ちを感じた。
「で…どうしたの?ちゃんと言ってくれないと分かんないよ?」
「…聞いちゃったんだ…ごっちんの寝言・・・」
「…!」
確かに…昨日はあの人の夢を見た。もう、遠くへ行ってしまった、かつて好きだった人。
「なんて…?」
「…市井ちゃん、って…」
あぁ、やってしまった…
- 27 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時15分33秒
- なぜか、梨華ちゃんとの情事の後、見る夢は決まってあの人の夢。
いまはもう、好き、とかそういう感情は薄れていった。少なくとも、自分ではそう思っていた。
「私…市井さんの代わりなの…?」
「…!」
その言葉は、今、最も聞きたくない言葉だった。
私は、梨華ちゃんのことが好き。それは間違いない。
けれど、梨華ちゃんの問いかけを、ハッキリ否定できないのも事実だ。
だから、聞きたくなかったのに…
- 28 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時16分24秒
- もちろん、市井ちゃんがいなくなったから梨華ちゃん、といったような不真面目な動機で付き合い始めたわけじゃない。だけど…重なっちゃう。ふたりの笑顔が。
梨華ちゃんを好きになればなるほど、私は市井ちゃんの笑顔まで思い出してしまう。
市井ちゃんに似てるから、梨華ちゃんのことが好きなの?
いつもそう自問自答する。答えはいつも、「わからない」。
- 29 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時18分06秒
- 「ねぇ!答えてよ!ねぇ!ねぇってば…」
梨華ちゃんが、涙目でそう訴える。力無く、私の胸を叩く。
私は、梨華ちゃんを抱き寄せた。答える代わりに、唇を重ねる。これ以上、何も言わせないために。
最初、ちょっとだけ抵抗したけど、力では私に敵わないと悟ったのか、抵抗を止めた。
そのままベットに押し倒した。慣れた手つきで、梨華ちゃんの衣服を剥いでいく。
すぐに、そのしなやかな肢体が露わになる。覆い被さるように、また口づけをする。
- 30 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時20分00秒
- ねぇ、忘れさせてよ。私の中を、梨華ちゃんでいっぱいにしてよ。思い出が残る隙間も無いぐらいに。
私は無言で行為を続ける。でも、心の中では、狂ったように叫んでいた。
静かな部屋の中に、梨華ちゃんの吐息だけが、満たされていった。
- 31 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時20分57秒
- 私たちはそのまま眠ってしまっていた。
目が覚めたとき、私の腕の中で寝てたはずの梨華ちゃんが見当たらない。
頭の中に、最悪の事態がよぎる。慌てて飛び起き、辺りを見渡す。
不意に、物音がした。私はすぐにその物音がした場所へ向かう。
そこはお風呂場。私が勢い良くドアをあけると、バスタオルを身体に巻いたままの梨華ちゃんが、驚いた表情を浮かべている。私は、無意識に梨華ちゃんに抱きついた。
「…?ごっちん、どうしたの?」
「梨華ちゃんが…いなくて…いなくなったら…どうしようって…おもって…」
嗚咽交じりに喋る私を、梨華ちゃんは優しく抱きしめてくれた。
その優しさに安心したのか、余計涙が出てきた。
- 32 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時21分30秒
- 「何処にも…行かないでね?ずっと…そばに…いてね?」
「うん…ずっと一緒にいようね。」
私は更に泣いた。今度は嬉し泣きで。
「服濡れちゃうよ?私まだ体拭いてないから…」
「いいよぉ…そんなの…どうだっていいよ…」
私は、きつく梨華ちゃんを抱きしめた。
- 33 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時22分01秒
- 「わぁ、いい天気!」
カーテンを開けた梨華ちゃんが、歓声を上げながらこちらを振り向く。
…また重なってる。でも私は、戸惑わずに後ろから抱きしめる。
問いかけの答えはまだわからない。案外、答えは簡単な一言で済むのかもしれない。
「好きだよ」
陽だまりの中、私たちは口づけを交わした。
- 34 名前:手のひらの上 投稿日:2001年09月16日(日)00時28分59秒
- その日、私たちは朝の道を散歩した。
強い風が吹いた。繋いだ手が離れてしまわぬよう、強く握る。
梨華ちゃんも、握り返してくれた。
「春だねぇ」
道端の桜を見上げながら、梨華ちゃんは呟いた。そのあと、私に笑顔を向ける。
「そうだね」
返事をしながら、私は見惚れていた。梨華ちゃんの笑顔に。
- 35 名前:作者 投稿日:2001年09月16日(日)00時35分14秒
- 2作目「手のひらの上」これにて終了です。終わり方が中途半端にも思えますが。終わらせ方って難しいです。
それと、これにもモチーフとする歌があります。1作目と同じバンドの、別の楽曲です。
冒頭に書いた『』の部分は、私が印象に残ったフレーズです。雰囲気みたいなものを感じていただけたら幸いです。
- 36 名前:作者 投稿日:2001年09月18日(火)20時49分11秒
- 次の書きます。今までのよりは長くなります。
- 37 名前:序章 〜想うということ〜 投稿日:2001年09月18日(火)20時51分09秒
- あなたを好きになった。この気持ち、最初は誰にも言わないで、胸のうちに隠そうと思った。
だって、おかしい。女同士なのに。誰にも言えないよ。
心の中で、抑えつけて、消してしまおうとした。でも…無理だった。
このことを聞いたら、あなたはどんな顔するかなぁ?嫌がるかも…
でも!私は決めた。この気持ちを伝えようって。
大好きになった人に、好きって言うこと。
それが、この世界に生まれてきた理由なんだ、って思えるようになったから。
あなたの前だと、戸惑って、ちゃんと言えないかも知れないけど。
今日、あなたにこの気持ちを伝えよう。
- 38 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月18日(火)20時55分23秒
- 収録の合間。さっきADの人に3時間空きを伝えられた。みんな思い思いに時間を過ごしてる。
ごっちんは、出かけていった。なんでも、今日久しぶりに市井さんと会う予定だったらしい。
3時間の暇を伝えると、じゃあ今から遊ぼう、ってことになったそうだ。
凄く嬉しそうで、今にもスキップしそうな勢いで出て行く。
いいなぁ、幸せそうで。ちょっとだけ、羨ましく思う。
中澤さんは矢口さんとじゃれてる。や、ちょっかいを出してる、って言った方が正しいかな。
飯田さんは交信中。保田さんは読書。ののとあいぼんは安部さんを巻き込んで、相変わらず騒いでる。
私は、隅っこの椅子でよっすぃと話してた。
- 39 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月18日(火)20時56分29秒
- 「久しぶりだねぇ〜3時間も空くなんて。最近忙しかったし、頑張ってるから、神様からのご褒美かな?」
「ははっ、そうかもね。でもそれだったら、もっといいもんよこせぇ〜って感じだよね」
飯田さんがいつのまにか、何かぶつぶつ言い出してた。
その雰囲気が、いつもと違う気がしたけど、その時はさして気に掛けなかった。
- 40 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月18日(火)20時57分04秒
- 「ごめ〜ん、ちょっとトイレ行ってくるね」
「「は〜い」」
安部さんが、片手で謝りながら立ち上がり、楽屋を出て行った。
「わぁ、もう3時間経っちゃうよ」
「え?あ、本当だ。3時間って、結構短いねぇ」
「だねぇ」
今まで交信してた飯田さんが、いきなり立ち上がった。
全員が、びっくりしてそちらを向いた。
「きせきが・・・降ってくるよ・・・」
「はぁ?カオリ、なにいってんの?」
その瞬間、辺りは光に満たされていった。
- 41 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月18日(火)20時57分57秒
- 気が付くと、さっきまで楽屋にいたはずなのに、草原みたいな所に倒れてた。
周りには不自然な感じで花がたくさん咲いていた。ひょっとして天国?などと思い、辺りを見渡す。
傍にいた梨華ちゃんはまだ気を失ってるみたい。すぐそこに矢口さんが座り込んで両手で顔を覆ってた。
「矢口さん・・・」
「あっ…よっすぃ、気が付いたんだ…」
慌てて顔を拭い、私に笑いかける。今思えば、あの時矢口さんは泣いてたのかもしれない。
でもそのときの私は、現状を把握するのに精一杯で、それに気付けなかった。
- 42 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月18日(火)20時58分38秒
- 「ここ、どこですか?」
「…わかんない…」
「みんなはどこに…?」
そう言って、私は立ち上がり、矢口さんに近づこうとした。
「!!だめぇ!」
矢口さんの声に驚いて、私は立ち止まった。
「花…踏んじゃ駄目…」
「え…?」
見ると、私の足の一歩先に、花が1つ咲いていた。
「その花…裕ちゃんなの…」
その言葉を、すぐに理解することはできなかった。
- 43 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月18日(火)20時59分30秒
- 「…裕ちゃん…目の前で…花になっちゃったの…」
「はい?意味わかんないですよ」
「私だって…わかんないよ!…でも…私が気付いたときには…辻と加護は…もう花になってて…圭ちゃんも…花になっちゃって…それで…裕ちゃんも…花になって…」
矢口さんは、言いながら泣き出してしまった。信じられない話だけど、その様子はとても嘘を言っているようには見えない。
「どうしたら…いいのかな…?私も…花になっちゃうの…?わかんない…もう何にも…わかんないよ…」
ついに、矢口さんはその場に泣き伏してしまった。そして…矢口さんも花になった。
私は驚きのあまり声もでなかった。ただ、その場に立ち尽くすしかなかった。
- 44 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月18日(火)21時00分03秒
- あ〜ぁ、何でこんなことになってんだろ?なっち、花になっちゃったよ。夢みてんのかなぁ。
あっ、向こうにみんないるじゃん。
まだ倒れてるみたいだけど。あっち、行きたいなぁ…でも、無理だよね。動けないもん。
そういえば、ここどこなのかな。建物も何もないし。
森があって、綺麗な川が流れてて。間違い無く東京じゃないよね。
あぁ〜、なんか眠くなってきちゃった。少し眠ろうかな…起きたらきっとこの変な夢も終わるよね…
起きたら今日、なにしようかなぁ。…ホント、眠たいや……
- 45 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月18日(火)21時00分50秒
- もう、何がどうなってんの?人が花になる?ありえないよ!そんなこと!
でも、事実目の前で矢口さんは花になってしまった。
もしかしてこれは夢?淡い期待で、頬を抓る。…痛い。夢じゃ…ないんだ。
今まで息を潜めていた現実が、一気に押し寄せる。
みんな…花になっちゃったんだ…ね…
周りに咲く花はみんな綺麗で。すごく悲しくなった。
私は、声を殺してしばらく泣いた。
- 46 名前:作者 投稿日:2001年09月18日(火)21時05分15秒
- とりあえず、今日はこんなもんで。これで大体3分の1ぐらいです。
第1章の「きせき」は、吉澤視点です。が、44だけ阿部視点です。読みづらそうだったので一応補足。
読んでいただけた方、感想くださると嬉しいです。お願いします。
- 47 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月19日(水)18時56分02秒
- ずっと読ませて貰ってました。どの話も、不思議でキレイって感じがしました。
ろくな感想じゃなくてスマソです。
38に>私は、隅っこの椅子でよっすぃと話してた。
ってあるけど、ここは石川視点なんですか?
続き、楽しみにしてます。
- 48 名前:作者 投稿日:2001年09月19日(水)19時38分39秒
- >47さん レス、ありがとうございます。ありがたいお言葉、痛み入ります。
すいません、38〜40は石川視点でした。ご指摘、感謝します。
続きは今日の夜にでも更新できると思います。期待に沿えるものになるよう、頑張ります。
- 49 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時07分18秒
- このままじゃいけない。泣いてたってどうにもならない。
無理矢理自分を奮い立たせ、涙を拭う。梨華ちゃんの近くに歩み寄って、そっと手を握った。
落ち着いて考えよう。辺りに人影はない。私と梨華ちゃん以外には。
花が、咲き乱れてる。かつて人だった花が。また悲しくなったが、頭を振って何とか吹き飛ばした。
どうして私たちは無事なんだろう?もうすぐ、私たちも花になるのかなぁ?
考えても仕方ないか。どうせわかんないし。わかるとこから、ゆっくりといこう。
- 50 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時08分23秒
- 私と梨華ちゃんと矢口さんの位置関係は楽屋にいたときと変わってない。ならみんなの位置関係も変わってないと仮定しよう。違ってるかもしれないけど、とりあえずそう考えとこう。
多分あそこに二つ、くっつくように咲いてるのが辻加護だろう。で、あそこのが矢口さん。その近くのが中澤さん。じゃあ、あれが保田さんかな?うん、あながち私の仮定も間違ってないっぽい。
周りに花は五本。ちょっと足んなくないか?ごっちんは出かけてたし…
安部さんは丁度トイレにいってたから、近くにはないとしても…
アレッ?飯田さんは?そういえば、矢口さんも飯田さんのことは言わなかったな…
そういや、飯田さんなんか変なこと言ってたっけ。たしか、きせきがどうとか…
- 51 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時09分24秒
- 「ん…」
梨華ちゃんが目を覚ました。まだ眠そうに目を擦ってる。
「あ、よっすぃ〜おはよ〜」
おもわず吹き出した。寝ぼけてるよ、この人は。こんな状況なのに。
でもなんか緊張がほぐれたみたい。
「おはよ、梨華ちゃん」
「え!アレッ!ここ、どこ!?」
私は、知る限りの情報を教えてあげた。尤も、とてつもなく僅かではあるが。
梨華ちゃんはしばらく放心状態になっていた。無理もない、私もそうだったし。
みんなが花になってしまったことは言わないことにした。
いきなりこんなこと聞かされてもパニクるだけだし。
- 52 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時11分19秒
- 「とりあえずさぁ〜、歩こうよ。ここにいたってしょうがないし、さ?」
そう言って私は立ち上がった。お尻の草を払う。手を差し出して、梨華ちゃんを立たせる。
「わぁ!?」
梨華ちゃんがよろけて、私が抱き止める形になった。
「もっ、もう〜。いつまで寝ぼけてんの〜?」
「ふぇ〜?ごめぇ〜ん・・・」
上目遣いのトロ〜ンとした目に、思わずドキドキする。私、結構不謹慎だな。こんな時だってのに。
「ほら、行こう?」
「うん」
私たちは、手を取り合って歩き出した。
- 53 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時12分03秒
- 「あ、花!踏んじゃ駄目だよ?」
「…?うん、分かってるよ〜。お花さんだって、生きてるんだもんね」
いきなりなんでそんなこと言うんだろう?って感じで一瞬戸惑ったあと、そう言った。
なんか…純粋だなぁ〜。好きだなぁ〜、梨華ちゃんのそういうとこ。
「歩ける〜?」
「もう、寝ぼけてないよぉ〜」
私たちは手を取り合って歩き出した。行く当てはないけど、どこにでも行ける気がした。
- 54 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時12分55秒
- 「ねぇ、寒くない?」
「うん、大丈夫」
梨華ちゃんは笑顔で答えた。でもその身体は微かに震えている。
私たちは、草原の真ん中で野宿していた。春先(楽屋にいた時点では)とはいえ、夜は冷える。
肩を抱いて、冷えた身体を寄せ合う。
人工の明かりが無い為、辺りは真っ暗で、私たち2人だけ取り残されたような錯覚を覚える。
- 55 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時14分16秒
- 「星、多いね」
梨華ちゃんは、のんびりと言う。その視線を追って空を見上げる。私は息を呑んだ。
「わぁ…凄…!」
そこには辺り1面の星空が広がっていた。星が、空を覆い尽くしてるかのようだ。
「これだけあったら、まだ未発見の星とかもありそうだよね」
「え?あぁ、うん。そうかもね」
- 56 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時14分51秒
- 「第一発見者とかになったら、名前付けられるんだよね」
「そうなの?」
「多分…付けられそうじゃない?私だったら…そうだなぁ…チャ―ミーとか?」
「ははっ、なにそれ!そんなんじゃ駄目だって。もっとかっこいいのじゃないと〜」
「えぇ〜、だめかなぁ?じゃ、よっすぃだったら、なんて付けるの?」
「ん〜…ムースポッキー?」
「あんまり変わんないじゃん、それ」
私たちは声をだして笑った。そうして、夜は過ぎていった。
- 57 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時15分28秒
- 朝。伸びをしながら辺りを見渡す。そのとき私の目の端にある物が映った。
「ねぇ!あれ!建物じゃない?」
「え?あ!本当!そうだよ!」
夜は暗かったからか、全く気付かなかったが、肉眼ではっきり見える距離に、それはあった。
私たちは歓声を上げた。きっと、あそこに行けば人がいる。
しかし、その期待はあっさり裏切られた。
- 58 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時16分55秒
- そこは遊園地だった。普段ならさぞ賑わっていることだろう。
今は人の気配すらない。裏切られたショックからか、梨華ちゃんはその場に膝をついて泣き出してしまった。
私は無言で、まるで遠いものでも見るように、辺りを眺めていた。
人のいない遊園地ってこんな感じなんだ…なんか…寂しいな…
でも…なんでここだけ…?周りはみんな草原なのに…
- 59 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時17分25秒
- 混乱した。意味わかんないものが多すぎる。もぉ、梨華ちゃん泣かないでよ…私だって泣きたいよ…
でも駄目…私まで泣いたら、梨華ちゃんもっと不安になっちゃう…だから…私は泣けない。
私もしゃがんで、梨華ちゃんを抱きしめた。
「よっすぃ〜…」
「泣いてちゃ駄目だよ。もしかしたら、中に人がいるかも知んないじゃん。探してみよ?」
「…うん」
梨華ちゃんの手を握って歩き出した。頭は何も考えられなかった。いや、考えたくなかった。
- 60 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時18分01秒
- 無意識に辿り着いたのは、酒場をモチーフにしたであろうレストラン。
本能って怖いな…でもホント、1日何も食べてなかったからなぁ。自覚すると、急に空腹が襲ってきた。
私たちは厨房を漁った。幸運なことに、若干の食料があった。
分けあいながら、ほとんど生のそれを胃に流し込む。
やっと、正常な意識が戻ってきた。
「さぁて、どっから探そうか?」
私は立ち上がり、レストランを後にした。
改めて見てみると、所々に花が咲いていた。舗装されたアスファルトの上に。
- 61 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時18分39秒
- 「すごぉ〜い、花ってこんな所にも咲くんだね」
梨華ちゃんは近くにあった花を摘もうと手を伸ばした。
「駄目!」
声を荒げてそれを制止する。梨華ちゃんは、声に驚いて振り返る。
その目が、どんどん潤んでいく。
「…花だって生きてるんだから、摘んじゃったら可哀想でしょ」
努めて穏やかな口調で、そう付け足したけど、手遅れだった。梨華ちゃんはまた泣き出してしまった。
- 62 名前:第1章 〜きせき〜 投稿日:2001年09月20日(木)00時19分41秒
- 「ごめぇ〜ん…怒んないでぇ〜…」
泣きじゃくる梨華ちゃんを思わず抱き寄せる。
「私こそゴメン…梨華ちゃんは悪くないよ…」
頭を撫でて、梨華ちゃんをあやす。
「まだね…言ってなかった事あるんだ…」
「…ック…何…?」
「あのね……」
私はすべて言ってしまった。みんなが花になってしまったことを。早く楽になりたかった。それぐらいこの事実は重すぎた。
梨華ちゃんはその場に泣き伏してしまった。小刻みに揺れるその肩に手を掛けて、私も泣いた。
- 63 名前:作者 投稿日:2001年09月20日(木)00時24分09秒
- これで「第1章 〜きせき〜」終了です。ここまでで半分ぐらいです。
第2章以降は、明日更新します。一応もう書きあがってはいるので、明日、明後日で全部終わると思います。
是非、最後までご付き合いください。
- 64 名前:第2章 〜ゴースト・タウン〜 投稿日:2001年09月20日(木)20時52分25秒
- 注 ここから石川視点になってます。
- 65 名前:第2章 〜ゴースト・タウン〜 投稿日:2001年09月20日(木)20時53分12秒
- 「ホラ…行こ?人…探さないと…」
「…うん」
何とか立ち上がって歩き出す。しかしその足取りはひどく不安定だった。
色んな場所を探した。どこにも人はいなかった。あと探してないのは、お化け屋敷だけになった。
お化け屋敷が最後まで残ったのは、そこを無意識に敬遠していたためだろう。
入り口を通ると、中は真っ暗だった。私は、繋いだ手に力を込めた。
それに答えるように、よっすぃも強く握り返してくれた。
- 66 名前:第2章 〜ゴースト・タウン〜 投稿日:2001年09月20日(木)20時53分47秒
- 「……なんか声しない?」
「……ホントだ…泣いてる?」
「行ってみようよ」
「…うん」
私はちょっと怖くて戸惑ったけど、そんなのお構いなしというふうによっすぃは私の手を引いて行く。
「……あの角の向こう?」
私は小声で尋ねた。よっすぃは無言で頷いた。
恐る恐る覗き込む。1人の少女がいた。目の前に、1本の花が咲いてる。
きっと少女は、その花になってしまった誰かを想って泣いているのだろう。
「…あのぉ〜…」
よっすぃの声に少女は振り返った。そこには見慣れた顔があった。
- 67 名前:第2章 〜ゴースト・タウン〜 投稿日:2001年09月20日(木)20時55分31秒
- 「「ごっちん!?」」
「よっすぃ…?梨華ちゃん…?」
泣き過ぎた為だろう、ごっちんの目はひどく腫れていた。
ごっちんの悲しみの強さに、比例するかのように…
「無事だったんだ…良かった」
よっすぃは後ろからごっちんに抱きついた。
「その花…市井さん…?」
その問いに答えず、ごっちんはよっすぃの手をそっと解いた。
「…お願い…1人にして…」
消え去りそうな声で、そう呟いた。
- 68 名前:第2章 〜ゴースト・タウン〜 投稿日:2001年09月20日(木)20時56分05秒
- よっすぃが、静かにこっちに戻ってきた。
「ごっちん…」
「梨華ちゃん…行こう。ごっちんの言うとおりに、してあげよ?」
そう言って、よっすぃは私の手を引き、もと来た道を歩き出す。
ごっちんのことは心配だったけど、よっすぃの言うように、ごっちんの思い通りにしてあげたほうがいいとも思えたから、私はその手に引かれてお化け屋敷から出た。
- 69 名前:第2章 〜ゴースト・タウン〜 投稿日:2001年09月20日(木)20時56分47秒
- 外に出ると、日が暮れかけていた。私たちは、最初入ったレストランに戻ることにした。
異が空腹を訴える。私たちは夕食にすることにした。
残っていた食料に、少しだけ手を加えてディナーにした。
尤も、ガスなんか無いから、調味料をかけた程度だったけど。
カラフルなテーブルが並んでいる。最初来た時はさして気にならなかったな…そういえば。
真ん中のテーブルに私たちは座った。こんなに広いのに私たちだけ。やっぱり…少しだけ寂しいな。
無言で夕食を終えた。よっすぃはずっと何か考えてるみたいだった。
- 70 名前:第2章 〜ゴースト・タウン〜 投稿日:2001年09月20日(木)20時57分28秒
- 食器を片付けてるとき、私はテーブルに小さな落書きを見つけた。
『このしるしにふれるとあなたはきっとなにもかもをわすれてうまれかわれる あたらしいあさとともに』
幼い字でそう書きなぐってあった。私は食器を片付けに厨房に行ったよっすぃを呼んで、これを見せた。
おそらく、子供のいたずらだろう。普段ならきっと、気にも留めないだろう。
だけど、こんなものでも、頼りたくなった。この悲しみを全部、忘れられるのなら。
「……それなら、私たちは印に触れる必要ないね」
「え?」
よっすぃは、あっさりそう言い放った。
- 71 名前:第2章 〜ゴースト・タウン〜 投稿日:2001年09月20日(木)20時58分15秒
- 「だってさ…まぁそりゃ、悲しいことは忘れたいけど…梨華ちゃんの事まで忘れるなんて、やだよ」
「…」
何も言えなかった。
「梨華ちゃんは?違う?」
私はぶんぶんと首を横に振った。
「私も…よっすぃのこと…忘れたくないよぉ…」
「そう…嬉しいよ」
私たちは抱き合った。涙がとめどなく流れて、頬を濡らした。
「よっすぃ…好きだよ…」
「私も…梨華ちゃんのことがすき・・」
- 72 名前:第2章 〜ゴースト・タウン〜 投稿日:2001年09月20日(木)20時59分28秒
- よっすぃの舌が、私の頬の、涙の跡を逆になぞる。
そのあと、唇と唇が触れ合う。涙で、ちょっとしょっぱいけど、暖かいキス。
よっすぃの気持ちが伝わってくるみたい。
唇を離し、私たちはしばらく見つめあった。
この時が、永遠に続けばいい。こんな世界でも、よっすぃと一緒なら、構わない。本気でそう思った。
そのとき、不意に入り口から物音がした。
「誰!?」
よっすぃが叫んだ。そこには、飯田さんが立っていた。
- 73 名前:作者 投稿日:2001年09月20日(木)21時07分14秒
- これにて「第2章 〜ゴースト・タウン〜」終了です。ここから最後まで石川視点です。
明日でラストです。読んでくださってる方、最後まで一つヨロシクです。
- 74 名前:最終章 〜lamb〜 投稿日:2001年09月21日(金)16時55分06秒
- 「飯田さん!無事だったんですか!」
私は飯田さんに駆け寄ろうとした。でも、飯田さんの手の平が、私を止めた。
「来ちゃ、駄目。カオリには、あんたを抱きとめる資格、無いから…」
「えっ…?それはどういう…」
「飯田さん、説明して貰えますか?何がどうなってるのか」
私の言葉は、よっすぃの言葉にかき消された。
「あの光の前、きせきがどうとか言ってましたよね…?何か、知ってるんじゃないですか?」
「…吉澤は、勘が良いね。いいよ、教えてあげる。私も、全部知ってるわけじゃないけど」
私は、2人の間でただ戸惑っていた。状況が把握できなかった。
- 75 名前:最終章 〜lamb〜 投稿日:2001年09月21日(金)16時56分01秒
- よっすぃ、どうしちゃったの?さっきまでの優しい表情はそこに無かった。その表情は怒りを含んでいる様にさえ見える。飯田さんも、真剣な眼差しで、私たちを見つめている。
飯田さんが口を開いた。
「石川たちは、神様って信じる?」
「えっ?」
「信じる信じないは自由だけどね…神様って、本当にいるんだよ。この星はね…っつってもこの星だけじゃないんだけどね…神様の、庭みたいなもんなの。要は、神様の玩具ってこと」
驚きで言葉も出ない私たちに向かって、飯田さんは続けた。
- 76 名前:最終章 〜lamb〜 投稿日:2001年09月21日(金)16時56分41秒
- 「神様は、人間を作って、自由にやらせていたの。パンドラの箱って話、知ってる?人々は、幸せに暮らしてた。なのに、ある人がパンドラの箱を開けたから、この世に災いが降りかかった。憎しみとか、悲しみとか、そういう感情が世界に溢れたの」
聞いたことがあった。幼いとき、寝物語か何かで。
「そのせいで、人々はおかしくなった。憎み合い、殺し合い、自然を破壊していった。地球はもう、再生不可能なぎりぎりのところまできてるの。それを見かねて、神様は奇跡を起こすことにした。なにもかもを、自然に戻すことにしたの」
「じゃっ、じゃあ、何で私と梨華ちゃんと…ごっちんは無事なんですか?どうして遊園地だけ残ってるんですか?」
- 77 名前:最終章 〜lamb〜 投稿日:2001年09月21日(金)16時57分25秒
- 「そんなのカオリだってわかんないよ。神様の考えてることなんて。単なる伝達役でしかないもん」
「あの…グループに入ったときから…そうだったんですか?」
「…そうだよ。有事の時以外は好きにしていいって言われてたから。ゴメンね。騙してたみたいで」
「そんなこと無いです!飯田さんは・・飯田さんです!」
思わず、飯田さんに抱きついた。今度は、止められなかった。
「…ありがとう。優しいね、石川は」
「…飯田さんは、私たちにそんなことまで話して良いんですか?」
「吉澤…、心配してくれんの?あんたも優しいね。大丈夫だと思うよ。多分。でも、神様って気まぐれだから」
そういって、飯田さんは笑った。いつもと同じ笑顔だった。
- 78 名前:最終章 〜lamb〜 投稿日:2001年09月21日(金)16時58分04秒
- 「じゃあ、もう行くよ。まだしなきゃいけない事あるから。」
飯田さんは私たちに背を向けた。ふと、思い出したように振り返って、声を張り上げていった。
「あんたらといて楽しかったよ!一緒にモーニング娘。として過ごしたこと!私忘れないから!」
その声は少し震えていたようにも思う。
「私たちも!」
「忘れませんよ〜!」
そう言って手を振った。飯田さんも、背を向けたまま手を振り返してくれた。
- 79 名前:最終章 〜lamb〜 投稿日:2001年09月21日(金)16時58分35秒
- そのあと、私たちはお化け屋敷に向かった。ごっちんにも、飯田さんから聞いたことを伝えようと思って。
…でも、そこにごっちんの姿は無かった。そこにはただ、2本の花が咲いているだけだった。
「どうして…?さっきまで…ちゃんと居たのに!」
私は泣いた。ここ1日2日で一体どれだけ泣いただろうか。近しい人を失った悲しみに、もう枯れた、そう思ってた涙が、またとめどなく溢れてくる。意識が、遠のいていった。
- 80 名前:最終章 〜lamb〜 投稿日:2001年09月21日(金)16時59分07秒
- 気が付くと、私はベットに寝ていた。もしかして、全部夢だった?そう願ったが、全て現実だった。
横に眠っているよっすぃは小さな寝息を立てている。手が、握られていた。
その手に、そっと力をこめた。
朝、起きてみると、遊園地が少しだけ、緑に侵食されていた。昨日までアスファルトだった場所に、青葉が生い茂っていた。
「行こう?」
「うん」
私たちは、限りなく広がる地平線に向かって歩き出した。
私たちは無力だ。でも、いつか神様が私たちを分かつまで、離れないでいよう。強く、そう思った。
- 81 名前:最終章 〜lamb〜 投稿日:2001年09月21日(金)16時59分58秒
「熱の花」 〜完〜
- 82 名前:作者 投稿日:2001年09月21日(金)17時03分51秒
- というわけで、3作目「熱の花」終了です。
一応、序章、第1章、第2章、最終章からなる4章構成です。
もう、ネタ尽きました。当分、書かないと思います(もう書かないかも)。
最後に、読んでくださった方、感想いただけたら嬉しいです。
では。
- 83 名前:名無し者 投稿日:2001年09月22日(土)01時17分47秒
- 不思議な世界観ですね。
「熱の花」の二人が少しでも長く一緒にいられることを祈ってます……。
- 84 名前:コール&レスポンス 投稿日:2001年10月06日(土)15時05分05秒
- 「ねぇ、よっすぃ」
「なぁに?梨華ちゃん」
返ってくる、あなたの声は優しい。
「よっすぃ」
「ん?」
私を見つめる、あなたの瞳は優しい。
「よっすぃ…」
「梨華ちゃん…」
私の背にまわる、あなたの手は優しい。
コール&レスポンス。コミュニケーションの基本。
些細なことだけど、それが、凄く嬉しい。
- 85 名前:コール&レスポンス 投稿日:2001年10月06日(土)15時06分09秒
- ―ねぇ、よっすぃ?私のこの気持ちに、応えてくれる?
そっと頷く、あなたは優しい。…アナタダケハヤサシイ。
―ねぇ、よっすぃ?よっすぃだけは、私を放置しないでね?
- 86 名前:作者 投稿日:2001年10月06日(土)15時09分41秒
- とまぁ、衝動書きしてしまいました。
84,85の2レスだけという滅茶苦茶短い上、何言いたいのかわかんない物になりました。
気が向いたら、読んで頂けたら光栄です。では。
- 87 名前:作者 投稿日:2001年10月17日(水)20時50分31秒
- 久しぶりに書きます。
- 88 名前:作者 投稿日:2001年10月17日(水)20時51分39秒
- いしよしです。甘め、かと思われます。
- 89 名前:愛の歌が愛を歌うだけで間に合うなら 投稿日:2001年10月17日(水)20時52分45秒
- 「…う、ん」
真夜中、ふと目が覚めた。時計は3時を指している。
気だるい。明日はまた仕事がある。少しでも眠っておくべきだ、と脳が文句をたれている。
でも私の本能は腕の中で眠ったままの愛しい存在、梨華ちゃんへと向けられている。
露わになったままの肌。綺麗な顔立ち。今、どんな夢を見ているのだろう。幸せそうに笑ってる。
私の腰のほうへとまわっている手が、ひどく愛しく感じる。
そっと頬を撫でると、梨華ちゃんはくすぐったそうに寝息を上げる。
- 90 名前:愛の歌が愛を歌うだけで間に合うなら 投稿日:2001年10月17日(水)20時53分36秒
- 「…よっすぃー…」
目を瞑ったまま、寝言なのだろう。私の名を呼ぶ。それが凄く嬉しい。
梨華ちゃんの夢の中でも、一緒にいられる。梨華ちゃんの中に私がいる。そう思えるから。
でも…こうやって梨華ちゃんの頬や髪を撫でていると、思うことがある。
このままでいいのか、と。私たちの関係は、決して全ての人に祝福されるものではない。
むしろ、否定されて然るべきものなのだろう。同じ女性同士。メンバー同士。
- 91 名前:愛の歌が愛を歌うだけで間に合うなら 投稿日:2001年10月17日(水)20時54分18秒
- 他人の目は怖くない。どんなに非難されても、どんなに罵られても、耐える自信がある。
梨華ちゃんを、愛しているから。
でも、梨華ちゃんがもし非難されたら。もし罵られたら。私は耐えられないだろう。
梨華ちゃんを、愛しているから。
じゃあ別れる?そんなの、嫌だ。離れたくない。それに、自惚れかも知れないが、別れを切り出したら、梨華ちゃんは泣くだろう。それも、私には耐えがたい。
梨華ちゃんを、愛しているから。
思考はいつもこの繰り返し。メビウスの輪みたく、終わりが無い。
こんなにも梨華ちゃんを愛してる。その事実だけでは、答えにはなり得ないのだ。
- 92 名前:愛の歌が愛を歌うだけで間に合うなら 投稿日:2001年10月17日(水)20時55分02秒
- ―愛の歌が愛を歌うだけで間に合うなら
―愛の証明がただ愛することだけで足りるのなら
こんなに悩まなくてすむのに。
ずっとこのままでいれるのに。
いっそ、このまま朝が来なければ。この夜が明けなければ。
ずっと一緒にいれるのに。
- 93 名前:愛の歌が愛を歌うだけで間に合うなら 投稿日:2001年10月17日(水)20時56分06秒
- 「…よっすぃ〜?どうしたの?」
「あ…起きてたの?」
いつのまにか、考えに没頭していたらしい。梨華ちゃんの視線に気付かなかった。
「うん…ちょっと前から。何、考えてたの?」
「ん…ちょっとね…」
それだけ言って、唇を重ねた。
「もぅ〜、よっすぃ〜」
「へへ、おはようのキス」
「おはようって、まだ夜明け前だよ」
「まぁ、いいじゃん…」
また、唇を重ねた。不安な考えを消すために。
- 94 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月17日(水)22時35分16秒
- 新作始まるんですね。作者さんの小説好きなので続き楽しみにしてます。
- 95 名前:作者 投稿日:2001年10月17日(水)23時12分24秒
- >94さん
はい、新しいの書きます。そして、今日で終わりまで一気に行きます(w
すいません、短編好きなので…。残りも今から上げます。
楽しみにしていただけて嬉しいです。期待に応えられるよう、努力します。
- 96 名前:愛の歌が愛を歌うだけで間に合うなら 投稿日:2001年10月17日(水)23時13分44秒
- 「あっ、そうだ!ねぇ、よっすぃ〜?」
「ん?なに?」
「誕生日、おめでと〜」
そう言って、今度はあっちからのキス。私は、さっきまでの不安が消えていくのを感じた。
「ほんとはね、12時になったら言おうと思ったんだけどね…」
「…どうして言わなかったのかな〜?」
私は少し意地悪そうに訊く。
「だって…」
「だって…何かな〜?」
「もうっ。よっすぃ〜がいけないんだよ!あんなに…」
言いかけて、我に返ったように手で顔を覆い照れている。暗いからよく分からないけど、おそらくもう真っ赤になっていることだろう。
- 97 名前:愛の歌が愛を歌うだけで間に合うなら 投稿日:2001年10月17日(水)23時14分22秒
- 私は少し意地悪そうに訊く。
「だって…」
「だって…何かな〜?」
「もうっ。よっすぃ〜がいけないんだよ!あんなに…」
言いかけて、我に返ったように手で顔を覆い照れている。暗いからよく分からないけど、おそらくもう真っ赤になっていることだろう。
確かに昨日はその…ちょっと激しくやりすぎた。最近、不安なこと、多かったから。
- 98 名前:愛の歌が愛を歌うだけで間に合うなら 投稿日:2001年10月17日(水)23時15分34秒
- 結局私は、梨華ちゃんに依存しているんだ。梨華ちゃんがいなければ、どうにかなってしまうだろう。
それぐらい、私の中で梨華ちゃんが占める割合は大きい。
まだ手で顔を覆ったままの梨華ちゃんを、そっと抱き寄せる。吐息が、近くなる。
「梨華ちゃん、好きだよ…」
「ん…私も…よっすぃ〜のこと、好きだよ…」
「…ね、名前で呼んで…?」
「…ひとみちゃん…好き…」
「へへ…やっぱそっちの呼び方のが好きかも…」
- 99 名前:愛の歌が愛を歌うだけで間に合うなら 投稿日:2001年10月17日(水)23時16分13秒
- 梨華ちゃんをもっと強く引き寄せる。剥き出しの肌と肌とが触れ合う。
このまま、混ざっていけたらいいのに。
額と額をくっつけて、見つめ合う。そして、またキスをした。今までのどれよりも、深いキスを。
私たちはまた、抱きしめあったまま夢の中へと誘われていった。
願わくば、私たちに同じ夢を。そう、祈りながら。
- 100 名前:作者 投稿日:2001年10月17日(水)23時18分01秒
『愛の歌が愛を歌うだけで間に合うなら』 〜完〜
- 101 名前:作者 投稿日:2001年10月17日(水)23時24分55秒
- ちょうど100で終わりました。なんか嬉しいですね。
えぇと、97の所ミスりました。微妙に96とかぶってます。コピペの際にやってしまったようです。
申し訳ないです。
振り返ってみるとなんだかんだで石川関連ばかり…何個か短編書きましたが、全部石川絡みです…
これでいいんでしょうか?偏りが…(w
- 102 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月18日(木)18時41分38秒
- 94です。今回の短編もすごく良かったです。
偏りについては、作者さんの自由でいいと思いますが
自分は、石川の話がたくさん読めて嬉しいです(w
また、気が向いたら書いてください
- 103 名前:作者 投稿日:2001年10月18日(木)22時06分30秒
- >102さん
そう言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます。
ではお言葉にお甘えして、現状維持で。偏ったままいきます(w
またなんか思いついたら書かせてもらいます。
- 104 名前:作者 投稿日:2001年10月31日(水)23時13分15秒
- いしよし。暗いやつです。
- 105 名前:One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時14分25秒
- 「もう、別れよう」
出来るだけ感情を殺して、吉澤はそう言い放った。
泣き崩れる石川。ココまでは吉澤の予想の範疇に入っていた。
「どう…してっ…?嫌いに…なっちゃったのぉ…?」
「…ゴメン。もう、友達としてしか見れないよ」
「…うん…わかっ…たよ…」
「それじゃあ…」
「待って…」
石川の最後の抵抗。それを吉澤は聞こえないふりをして振り払う。
そのまま、吉澤は石川の部屋を出た。
- 106 名前:One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時15分49秒
- ―数日前。とある一室。そこに吉澤と金髪の男…つんくはいた。
「話って何ですか…?」
「あぁ…話ってのはな、お前と石川のことやねん」
「えっ…?」
「二人…付きあってんやってな…」
「…そう…ですけど…」
「それなぁ…アカンねん…」
「…!どうしてですか?」
「今はまだばれてへんようやからええけどもやな・・・これがもしばれたら、考えてみぃ」
「でも…」
- 107 名前:One 投稿日:2001年10月31日(水)23時16分37秒
- 「一部の連中はもう感づいとる…世間の眼はな…冷たいもんなんや…思ってる以上にな・・・」
「…」
「イメージが全てなんや、こういうのは。そやから…お前らみたいなんは…」
「そんなッ…」
「俺はお前らのプロデューサーや。メッチャ大事に思っとる。だからこそ…リスクファクターは取り除かなアカンねん…俺の立場も分かってくれ…」
「…だからって…!」
「…スマン…スマンけど…石川と…別れてくれ…」
「…!!」
「石川はナイーブやから、お前に頼むんや・・・残酷なこと言うとるはよくわかっとる」
それは、つんくにとっても吉澤にとっても辛い選択だった。
いつしか、部屋には吉澤の嗚咽だけが響いていた。
- 108 名前:One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時17分41秒
- 結局吉澤は、石川と別れることにした。
散々悩んだ末の決断だった。何度も、眠れぬ夜を明かした。
その末に出した答え…正しい答えなんて、有り得ない気がしていた。
石川を攫って逃げてしまえれば、どんなに楽だったろう。
何もかも捨ててしまえれば、どんなに楽だっただろう。
しかし、吉澤にはそれが出来なかった。他のメンバーを、犠牲には出来なかった。
だからこそ、別れることにしたのだ。
傍にいれば、いつかまた分かり合えると思った。今度は、友達として。
石川もきっと分かってくれる。そう信じたのだ。
翌日、吉澤は普段より早く楽屋に着いた。
誰よりもはやく、石川に挨拶をしよう、そう思ったからだ。
しかしその日…とうとう石川は姿を現さなかった。
- 109 名前:One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時18分37秒
- 翌日、吉澤は普段より早く楽屋に着いた。
誰よりもはやく、石川に挨拶をしよう、そう思ったからだ。
しかしその日…とうとう石川は姿を現さなかった。
事務所は石川は病気により入院したと発表した。
当然、それは嘘だった。石川は失踪してしまっていた。部屋にも帰った形跡が無く、親元にも戻ってないらしい。
もちろん、ケータイもつながらない。吉澤は落胆していた。自分のせいだと、自らを責めていた。
最悪の結果が、何度も脳裏を掠めていく。その度、吉澤は必死にそれを振り払った。
- 110 名前:One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時23分06秒
- それから、吉澤は仕事が終わった後は毎日、石川を捜し歩いた。
どんなに疲れていようと、どんなに夜遅かろうと。
日に日にやつれていく吉澤に、保田が声をかけた。
保田…メンバーの中で唯一、石川が失踪した真実を知っている人間。
「吉澤…あんまり自分を責めちゃダメよ…?」
「でも…梨華ちゃんが…」
「私も手伝うから…たまには休みなさい…。このままじゃ、あんたが倒れちゃうわ」
「大丈夫です…」
「仕事…休みもらったらいいんじゃないの?」
「いえ…迷惑掛けれません…」
「アンタねぇ…人の忠告は素直に聞きなさい!」
「…うるさい!梨華ちゃんを捜すんだ!」
「…!」
「…あっ…スイマセン…それじゃぁ…」
- 111 名前: One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時23分50秒
- 思わぬ反論に呆然とする保田を残して、吉澤は楽屋を出た。
吉澤は焦っていた。もう何日…こうやって捜しているんだろう。
保田も、時折家を出ては石川を捜していた。
お互い、焦燥の念にかられていたのだ。だからこそ、声を荒げた。
それから更に数日後。ついに吉澤は事務所からドクターストップを宣告された。
数日の自宅療養。それを言い渡された吉澤の目は、明らかに落胆とは違う輝きを灯していた。
次の日から、吉澤は朝から石川を捜しに出るようになった。一日中、街をさまよい歩いた。
誰もがその姿から目を背けた。そこには、かつての豊頬の少女の面影は無かった。
- 112 名前: One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時25分06秒
- ふと吉澤のケータイが鳴った。そのとき吉澤は石川の自宅のある町に足を伸ばしていた。
最初吉澤は電話に出ようとしなかった。しかし、一向に切ろうとしない相手に業を煮やし、しょうがなくその電話に出た。
「…はい」
「もしもし、吉澤!あんた何処にいんのよ!」
「…保田さんには…関係ないじゃないですか…」
「石川が!見つかったのよ!」
「…!本当ですか!?何処ッ、何処ですか!」
「落ち着きなさいよ!見つかったっていってもね…」
「なんなんですか!早く教えてくださいよ!」
「知り合いの探偵の話じゃ、今…石川は病院にいるらしいわ…」
「何処のですか!」
「待って、先に言っとくけどね、どんなことがあっても…もう石川を離すんじゃないよ?」
「…」
- 113 名前:One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時25分45秒
- 「それが約束できないのなら、居場所は教えられない。
でもね…石川は…ダメなのよ?あんたじゃなきゃ」
「…はい」
「それと…わかってないようだから言うけどね…アンタ、他のメンバーをもっと信じなさい」
「…皆に…話したんですか…?」
「悪いとは思ったけどね…このままじゃいけないと思ったから。皆、あんた達が帰ってくるのを待ってるわよ」
「…はい、ありがとうございます」
「じゃあ、とっとと行く!」
「はい!」
- 114 名前:One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時26分26秒
- 吉澤はすぐに保田に教えてもらった病院へ向かった。
小さな病院。警察の捜索に引っかからないわけだ。
ドアを開け、中に入る。
「梨華ちゃん!何処?」
「ここは病院です!大きな声を出さないで下さい!」
と、注意に出てきた看護婦を問い詰める。
「梨華ちゃんはっ?何処にいるんですかっ?」
「梨華ちゃん…?あぁ、あの子…」
「どこですかっ?あわせて下さい!」
「…こちらへどうぞ…」
- 115 名前:One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時29分07秒
- 看護婦に従って、吉澤は後に続いた。
「こちらです」
そう言って看護婦はドアを開けた。小さな病室のベットに石川は眠っていた。
その横に吉澤はそっと近づき、石川の手を取った。すっかり痩せ細った腕が見えた。
それでも、石川の手は暖かかった。生きている。そのことに、吉澤は安堵した。
そして、その場に崩れ、泣き出した。今まで張り詰めていた緊張の糸が切れたのだ。
「…ごめんねぇ…梨華ちゃぁん…」
「あんたが『よっすぃ〜』ってやつかい?」
いつのまにか、入り口の所に医者風の中年の男性が看護婦と後ろに従え立っていた。
- 116 名前:One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時29分59秒
- 「え…?」
「そいつが何度もその名前を呼んでたんでな…で?あんたがそうなのかい?」
「…はい、そうです…」
「そいつはだいぶ混乱してる。俺等を見ても怯えるばかりだよ。何も話そうとしない。
ただあんたの名前を呼ぶばっかりでな…」
「…」
「何があったかはきかねぇが…大事にしてやんなよ」
「はい…」
やさしく、吉澤は石川の手をさすった。
「寝かしといてやれよ。やっと眠ったんだ。それと…椅子持ってこさせるから、あんたも寝ろ。
死にそうな顔してるぜ」
すぐに看護婦が椅子を持ってきた。吉澤はそれに座ったが、とても眠れなかった。
- 117 名前:One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時31分01秒
- しばらくして、石川が目を開けた。
「梨華ちゃん!」
「…よっすぃ〜…?」
「ゴメンね…ゴメンねぇ…」
しかし…石川の目は怯えていた。
「わかんないの…?」
「よっすぃ〜…イヤァ!」
「梨華ちゃん!」
吉澤は石川を強く抱きしめた。石川はそれに強く抵抗する。
「うぅ〜…イャァ!」
石川の爪が吉澤の背中に立てられる。
―だいぶ混乱している。
医者が言った言葉の意味を、吉澤は理解した。
―記憶喪失。
石川が失踪してからの数日間、石川の身に起こったことを吉澤は想像した。
涙が出てきた。懺悔と後悔の涙。それは吉澤の頬を伝い、石川の肩に落ちた。
「ゴメンねぇ…梨華ちゃん…もう…離さないからね…」
「うぅ〜…」
石川はただうめいただけだった。
- 118 名前:One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時32分40秒
- 吉澤は医者から簡単な説明を受けた。
石川の記憶喪失はおそらくショックによるものだろうということ。
一時的なものかもしれないし、ずっと戻らないかもしれないということ。
そして最後に、覚悟はあるか、そう医者は吉澤に尋ねた。
吉澤は躊躇わずに頷いた。そして吉澤は石川と共に迎えの車に乗り帰っていった。
- 119 名前:One more time One more chance 投稿日:2001年10月31日(水)23時33分15秒
- 吉澤は石川の部屋で、石川と同棲をはじめた。
もうつんくも何も言わなかった。…言えなかった。
彼もショックを受けていた。いや、皆少なからずショックは受けていた。
それぞれの理由で。それぞれの涙で。
結局石川と吉澤は引き続き病欠ということになった。
事務所の徹底したマスコミ対策によって、二人の同棲も何もばれることは無かった。
そして数ヵ月後、テレビに映る二人の姿があった。
- 120 名前:作者 投稿日:2001年10月31日(水)23時35分08秒
『One more time One more chance』 〜終〜
- 121 名前:作者 投稿日:2001年10月31日(水)23時38分33秒
- いしよし。滅茶苦茶暗いです。
一応ラストはどっちとも取れるようにしたつもりです。
- 122 名前:作者 投稿日:2001年10月31日(水)23時40分26秒
- 読んでくださった方、感想いただけると嬉しいです。
出来れば今日中にもう一個、甘めのやつ書きたいと思いますんで、そっちも出来たらヨロシクです。
- 123 名前:作者 投稿日:2001年11月01日(木)00時51分01秒
- 口直しに甘いいしよし。
- 124 名前:優しさに包まれたなら 投稿日:2001年11月01日(木)00時52分18秒
- 「…!」
怖い夢をみて、目が覚めた。今、何時だろう?
辺りを見渡して、そこが自分の部屋じゃないことに気付く。
あぁ、そうだった。今日は地方に仕事に来たんだった。
隣のベットでよっすぃ〜は寝息を立てている。
そういえば、部屋割が決まったときはいっぱいお話しようって思ったっけ。
でも仕事が想像以上にハードで、二人してすぐに眠っちゃったんだ。
どうしよう…怖くて寝れない…
「…よっすぃ〜?」
「…ん?」
ってよっすぃ〜はすぐに応えてくれる。確かに寝てたはずなのに。どうしてだろう?
- 125 名前:優しさに包まれたなら 投稿日:2001年11月01日(木)00時53分05秒
- 「そっち行っていい?」
「…いいけど…どしたの?」
「怖い夢見ちゃって…」
私がそう言うとよっすぃ〜は寝たまま自分の布団を持ち上げておいでおいでと手を動かした。
そっと立ち上がって、私は自分の枕を抱きしめながらちょっと躊躇していた。
私っていつも甘えてばっかりだなぁ〜って。私のが年上なのに…
「梨華ちゃん、はやく〜冷えちゃうよ〜」
「えっ?うん…失礼しま〜す」
断りを入れてよっすぃ〜のベットにもぐりこむ。
するといきなり抱きしめられた。
「きゃ!」
「もぅ〜、梨華ちゃんが遅いから冷えちゃったよ〜」
「…ゴメンね…?」
私も抱きしめ返す。
- 126 名前:優しさに包まれたなら 投稿日:2001年11月01日(木)00時53分35秒
- 「別にいいよ。こうしてれば暖かいし…」
「えへへ…」
「どんな夢見たの?怖い夢って?」
「ん〜…あんまり覚えてない。でも怖い夢」
「ふ〜ん…」
「ねぇ…聞いていい?」
「何を?」
「よっすぃ〜って眠り浅い?」
「へ?なんで?」
「だって…私が声掛けるといっつも起きてくれるし・・・」
「…そう?」
「そうだよ〜」
「ん〜、テレパシ〜かな?」
「え〜!!よっすぃ〜凄い!」
「…冗談だってば」
「え?」
「ホラ、もう寝よ?明日も早いよ」
「うっ、うん…」
「おやすみ〜」
なんか、からかわれた気がするけど…まぁいいや。
そして私は、よっすぃ〜の優しさに包まれたまま眠りに落ちた。
もう、怖い夢はみなかった。
- 127 名前:作者 投稿日:2001年11月01日(木)00時54分45秒
-
『優しさに包まれたなら』 〜終〜
- 128 名前:作者 投稿日:2001年11月01日(木)01時00分55秒
- 一応、今日は短編を二つ書きました。
105〜120 『One more time One more chance』
124〜127 『優しさに包まれたなら』 です。
ともにいしよし。上のが暗めで下のが甘めです。どうぞ読んでやってください。
それと何でもいいんで感想いただけたら嬉しいです。では。
- 129 名前:空飛び猫 投稿日:2001年11月04日(日)22時29分48秒
- よしいし、いいです!
いつも楽しみにしてます。
シリアスな二人を書いてもらえたら嬉しいな、なんて。
- 130 名前:作者 投稿日:2001年11月05日(月)00時05分24秒
- >空飛び猫さん
レス、感謝。マジで嬉しいです。楽しみにしていただけて光栄です。
シリアス…構想を練ってみます。が、自分はどうもシリアス書こうとすると暗めに行く傾向が…
何はともあれ、期待に応えられるよう頑張ります。
書きあがり次第、また一気に上げますんでそのときはまたヨロシクです。
- 131 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月08日(木)22時52分21秒
- やっぱこの2人いいっすね〜。次回作も期待しとります。
- 132 名前:作者 投稿日:2001年11月08日(木)23時02分44秒
- >131さん
レス、ありがとうございます。本当に励みになります。
次のは、ちょうど今書いてます。
今日中に全部書きあげるつもりですんで、ヨロシクです。
とりあえず、最初の部分だけあげさせてもらいます。
- 133 名前:discord 投稿日:2001年11月08日(木)23時07分54秒
- ブラウン管の向こう側で、アナウンサーが早口にニュースを伝える。
殺人事件。汚職事件。数え切れないほどに。
全てを教えられたとおりに述べたあと、アナウンサーは笑う。
「良い明日を。」
男は嫌気がさし、乱暴に電源を消した。
そのままリモコンを床に投げつける。
乾電池が、衝撃に耐え切れず、逃れるようにフタから飛び出した。
- 134 名前:discord 投稿日:2001年11月08日(木)23時08分42秒
- 「あれ〜、マネージャーさんは〜?」
「どこ行ったんやろ〜?」
「う〜…おなかすいたのに〜」
楽屋の中では、今日も辻加護が騒いでいる。
どうやら、マネージャーがいないらしい。
そこに、飯田が小さめの箱を抱えて入ってきた。
「お〜い、注目!つんくさんからの差し入れだよ〜!」
「わ〜い!」
辻と加護が喜んで殺到する。
「クッキーだ〜!」
歓喜の声を上げたのは加護。辻はもう袋を破いて食らい付こうとしている。
- 135 名前:discord 投稿日:2001年11月08日(木)23時09分59秒
- そんな中、石川はそれに手を伸ばさなかった。
「どしたの?梨華ちゃん、食べないの?」
「よっすぃ〜…私はいいや。あんまり食欲無いみたい」
「そ?じゃあ、私もいいや」
「あれ?よっすぃ〜も梨華ちゃんも食べないの?おいし〜よ?」
既にクッキーをかじりながら、後藤が二人に尋ねた。
「ごめん、ちょっと気分悪いんだ。ごっちん、食べていいよ?」
「あ、私のもいいよ」
「ホント?」
「あ〜、私も欲しい〜!」
「ののも〜!」
「へっへ〜、これは後藤がもらったんだよ〜だ」
じゃれ合っている後藤たちを残して、石川と吉澤は楽屋を出た。
- 136 名前:discord 投稿日:2001年11月08日(木)23時11分13秒
- 「大丈夫?」
「ん…ちょっと、眩暈するかも…」
トイレの鏡の前で、石川はもって来てあった薬を飲んだ。
吉澤が心配そうに後ろから見ている。
「風邪?」
「…だと思う。昨日からちょっとだるかったし…」
「無理しちゃダメだよ?」
「うん。でも…大丈夫だから」
石川は少しふらつきながらトイレを出ようと歩き出した。
吉澤が慌てて手を貸そうと石川に近づいた。
- 137 名前:discord 投稿日:2001年11月08日(木)23時13分31秒
- とりあえず出だしだけ。ここからシリアスになっていく…と思います。
今から残り書きますんで、今日中にあげられればいいなと思っています。
- 138 名前:discord 投稿日:2001年11月09日(金)00時38分48秒
- スイマセン、修正です。
133の所、男は嫌気が差し、→石川は嫌気が差し、 に変えさせてください。
あと、残りは明日になりそうです。ホント申し訳ないです。
- 139 名前:discord 投稿日:2001年11月09日(金)22時04分18秒
- 吉澤の手が石川の肩に触れたその時、石川は無意識にその手を払いのけてしまっていた。
全く予想だにしなかった石川の行動に、吉澤は呆然とする。
石川はただ一言、「…ごめん」と呟き、トイレを出て行った。
吉澤の手はまだ、そのまま宙に浮いていた。
まるで、母親を見失った子供のように。心細げに。
その後、二人は一言も交わさないまま、その日の仕事を終えた。
石川は終始どこか沈んだ様子であった。
他のメンバーは、それが体調不良によるものと考えているから、さして気には留めない。
しかし、吉澤にはそれが酷く気になった。
- 140 名前:discord 投稿日:2001年11月09日(金)22時05分00秒
- 石川は部屋の鍵を開け、見慣れた玄関を抜ける。
石川は最近ずっと耳鳴りを感じていた。それは、不協和音のように聴覚を支配していた。
靴は、適当に脱ぎ捨てた。
カバンをソファに投げ、服も適当にその辺に投げ出した。
ようやく身軽になり、ベットに倒れこんだ。
「…やっと終わった…」
ため息混じりにそうはき捨てる。
ベットは柔らかに石川を包み、まどろみへと誘った。
- 141 名前:discord 投稿日:2001年11月09日(金)22時05分33秒
- 石川は夢を見た。
皆がいて、笑っていた。でもその中で、自分だけ笑っていない。そう、感じた。
場面が急に変わり、周りには誰もいなくなった。
昨日見たニュースがフラッシュバックする。
殺された人の断末魔の顔。汚職した人の醜く歪んだ顔。
ニュースキャスターの張り付いた偽物の笑顔。
そして、それより滑稽な、笑えていない自分の顔。
それらが、石川の目の前に現れては消えていった。
どの顔も、今の自分を蔑んでいるかのようだった。
中途半端な自分を。上手く笑えない自分を。
吐き気がした。何もかも吐き出せればいいと、石川は思った。
けれど、それは叶わない。咽喉をこみ上げてくるのは、己の嗚咽だけだった。
- 142 名前:discord 投稿日:2001年11月09日(金)22時06分08秒
- 石川の部屋に、チャイムが鳴り響く。
何度も何度も、急かすように。
その音で、ようやく石川は目を覚ました。
今見た夢の内容はもう忘れていた。
ただ、不快感だけが残っていた。
重い体を起こし、もやもやする頭を無理矢理醒ます。
尚もチャイムは鳴り止まない。
ふらつきながらも、石川は玄関へ向かった。
入り口のドアを開ける。不用心にも、鍵を掛け忘れていたことに今更気付いた。
冷たい外気が部屋に流れ込む。
石川の目に飛び込んできたのは、吉澤だった。
- 143 名前:discord 投稿日:2001年11月09日(金)22時07分03秒
- 「梨華ちゃん、こんな遅くにゴメン。メールしても返事なくて、不安になっちゃって…」
「…入って。風邪引いちゃうから」
「あ…うん」
吉澤は石川の後について中に入った。
自分の靴を揃えるときに、脱ぎ捨てられていた石川の靴も、揃えた。
- 144 名前:discord 投稿日:2001年11月09日(金)22時08分12秒
- 「その辺、座ってて。なんか持ってくるから」
「いいよ。それよりさ…」
吉澤は石川を座るようにと促した。
「なんか…悩んでる?」
「別に…」
「私でよかったら…話してよ」
「悩んでないって言ってるじゃない!もういいでしょ!?帰ってよ!」
そう言い放つ石川の目には、涙が溜まっていた。
- 145 名前:discord 投稿日:2001年11月09日(金)22時09分30秒
- 本心からではない。本当は、側に誰かいて欲しい。
そう思っていることは、吉澤にも、そして石川自身にも明らかだった。
吉澤は思わず石川を優しく抱きしめていた。
「どうして?私じゃ頼りない?」
「そんなんじゃ…ないっ…」
「私は…梨華ちゃんの力になりたいよ…」
吉澤の優しさに、甘えてはいけない。
それは、逃げることになるから。目を背けることだから。
そう、石川は自分に言い聞かせた。
それなのに。涙はとめどなく溢れてくる。
石川は泣いた。溜まっていた全てが、堰を切ったように流れ出てきた。
手足の感覚が薄れゆく中、自分の頭を撫でてくれる吉澤の手だけを、石川は感じていた。
- 146 名前:discord 投稿日:2001年11月09日(金)22時10分03秒
- 「落ち着いた?」
「うん…ごめん」
「話して…くれる?」
「…うん」
石川は自分の悩みを話し出した。
どうして、私は自分のことしか考えられないのか。
他人への優しさも、結局は自分を良く見せたいだけじゃないか。
笑顔だって、心から笑っていることなんてほとんどない。
自分はもしかしたら、とてつもなく嫌な奴なんじゃないだろうか。
石川は、まず自分が信じられなくなったのだ。
そして、その矛先は当然他人へも向けられた。
誰も信じられなくなった。
石川は涙ながらにそう訴えた。
吉澤はそれを黙って聞いていた。
- 147 名前:discord 投稿日:2001年11月09日(金)22時11分10秒
- 心に巣食っていたわだかまりを全て吐き出したあと、石川は吉澤を仰ぎ見た。
その目は、救いを求めているようにも見えた。
「多分…私、難しいことはわかんないし…あんまりそう考えたこと無いけど…」
「…」
「梨華ちゃんは…そのままでいいと思う。嫌な奴なんかじゃないよ…」
「でも…」
「確かにさ…人に優しくするのは、自分のためなのかも知れないけど…そうじゃない時だって、あるはずでしょ?少なくとも、今私は梨華ちゃんの為にここにいるつもりだよ…」
「よっすぃ〜…」
「信じてくれる?」
「…うん、信じるよ」
「ありがとう…」
- 148 名前:discord 投稿日:2001年11月09日(金)22時12分09秒
- 吉澤は、石川の唇に、自分のそれをそっと重ねた。
突然のことで、石川はしばし呆然としていたが、やがて、柔らかく微笑んだ。
「ホラ、ちゃんと笑えてるよ」
「うん…」
石川は、吉澤の胸に顔をうずめた。
吉澤の鼓動が、優しく響いてきた。
耳鳴りは、もうしなかった。
〜FIN〜
- 149 名前:discord 投稿日:2001年11月09日(金)22時16分37秒
- 「discord」終了です。リクにあったようにシリアスにした…つもりなんですが、どんなもんでしょうか。
言い訳になりますが、書いてる内に最初の構想とかけ離れていってしまい、四苦八苦しながら書いたので、かなり不安です…
- 150 名前:ちび 投稿日:2001年11月09日(金)22時29分33秒
- いつも楽しみに読んでます。ここのいしよし大好きです!
シリアスも甘いのも。僕も作者さんくらいうまく書ければな…
- 151 名前:作者 投稿日:2001年11月10日(土)00時07分27秒
- >ちびさん
レス、ありがとうございます。読んでいただけて光栄です。
上手いだなんて、全然そんなこと無いです。
ちびさんの小説も読ませてもらってますよ。明るい雰囲気がいいです。自分のはなんか暗いんで…
- 152 名前:show 投稿日:2001年11月10日(土)18時52分40秒
- すっごいおもしろいです。
いしよしいいですね。
でもあま〜い、いしごま(orごまいし)希望♪
- 153 名前:作者 投稿日:2001年11月10日(土)23時31分02秒
- >showさん
レス、感謝。おもしろいって言っていただけると嬉しいです。
いしごま、了解です。甘く…頑張ります。
- 154 名前:ねてようび。 投稿日:2001年11月11日(日)01時30分29秒
- 窓を叩く風。カーテンを開けると、外はひどい雨。
たまのオフなのに、天気が悪い。
昨日話したショッピング計画は、全て水泡に帰してしまった。
しかし、不思議と残念という気持ちは湧いてこなかった。
- 155 名前:ねてようび。 投稿日:2001年11月11日(日)01時31分01秒
- 理由は簡単。すぐそばに、梨華ちゃんがいるから。
まだ寝息を立てている梨華ちゃんに、軽いキスをする。
お目覚めのキス。
「…ん…ごっちん…おはよぉ〜」
「オハヨ、梨華ちゃん」
「今何時…?」
「今ねぇ、10時…」
梨華ちゃんが飛び起きる。慌てて、髪を手ぐしで梳かしている。
「え!どうしよう、私寝坊しちゃった?どうして起こしてくれないの〜」
「だって、ほら」
私は窓の外を指差した。
「あ…雨…」
「ね?今日は無理だよ」
「うぅ〜、残念。じゃあ今日どうしようか?」
「ずっと寝てようか?」
そう言って私はベットに潜りこむ。
- 156 名前:ねてようび。 投稿日:2001年11月11日(日)01時31分53秒
- そう言って私はベットに潜りこむ。
「えぇ〜、せっかくのオフなのに〜?」
「い〜じゃん、たまにはこういうのも」
温もりを貪るように、梨華ちゃんに抱きついた。
少し冷えた体に、染み込むように梨華ちゃんの温もりが伝わってくる。
「梨華ちゃん…あったかいね…」
「そう?ごっちんはちょっと冷えちゃってるね」
「うん、だから…梨華ちゃんであっためて?」
私の手が、梨華ちゃんの胸元に伸びる。
パジャマのボタンに手を掛け、そっと外した。
「ちょっ、ちょっとごっちん!」
梨華ちゃんが慌てて胸元を手で隠す。
顔をほんのり赤らめていた。
- 157 名前:ねてようび。 投稿日:2001年11月11日(日)01時32分26秒
- 「恥ずかしがんなくてもいいじゃん。昨日はあんなに見せてくれたのに…」
「う…だって…明るいと恥ずかしいんだもん…」
「大丈夫だって!ゴトーしかみてないからさ…」
胸元を隠している手を、そっとどかしてやる。
残りのボタンも全て外し、梨華ちゃんの素肌が、露わになる。
「はい!上終わり!次は下だね〜♪」
「え!?ちょっとそんな…」
梨華ちゃんの抗議の声を無視し、私は布団の中に潜った。
梨華ちゃんの必死の抵抗もあっさりかわし、全ての衣服をフローリングの床に投げ出した。
「もぅ…恥ずかしい…」
「さ♪今度はゴトーのも脱がして?」
「え?」
「え、じゃなくてぇ。ほら」
- 158 名前:ねてようび。 投稿日:2001年11月11日(日)01時33分29秒
- 梨華ちゃんの手を、自分の胸元へと誘導する。
遠慮がちに、その手は私のパジャマのボタンを外しだした。
程なく、私の上半身も露わになった。
「今度は下…」
「…うん」
私の視界から梨華ちゃんが消える。
梨華ちゃんの手が、私の腰辺りに触れる。
見えないためか、普段とは違う興奮を感じた。
私の衣服が、梨華ちゃんの衣服の上に投げ出された。
再び梨華ちゃんが、視界に戻ってきた。
ちょっと俯き気味で、照れてるようだ。
その仕草に、例えようのない愛らしさを感じて、私はまた梨華ちゃんを抱きしめていた。
まだ少し赤い頬に、唇でそっと触れる。
その唇を、頬から耳へと移動させる。
- 159 名前:ねてようび。 投稿日:2001年11月11日(日)01時34分20秒
- 「梨華ちゃんってH…ゴトー、朝からやる元気ないよ〜?」
「…ごっちんの、ばかぁ…」
泣きそうな表情でそう訴えられては、もうどうしようもない。
「ゴメンゴメン、冗談だって。怒んないで〜」
「怒ってなんかないよ」
「怒ってんじゃ〜ん、ね?機嫌直してよ」
私は、梨華ちゃんに優しいキスをした。
「もうっ、キスなんかで誤魔化せると思ったら大間違いだよ!」
「…それって、キスなんかじゃ足りないってこと?」
「なんでそうなるの!」
梨華ちゃんは怒って、ついに背を向けてしまった。
向けられた綺麗な背中に一瞬見惚れてしまうけど、今はそれどころじゃない。
出来るだけ優しく、梨華ちゃんを後ろから抱きしめた。
- 160 名前:ねてようび。 投稿日:2001年11月11日(日)01時35分43秒
- 「ゴメンってば。許してよ〜」
「…」
「梨華ちゃ〜ん?」
「フフッ、冗談だよ〜」
振り向いた梨華ちゃんは笑っていた。
「焦った?」
「も〜ぅ、メチャクチャ焦ったよ!」
「ゴメンね…ごっちん、好きだよ…」
そう言って梨華ちゃんは私を抱きしめてくれた。
「ごっちんは・・・?私のこと、好き?」
上目遣いで、そう問いかけられる。
私の答えは、もちろん決まっている。
「好きに決まってるじゃん…大好きだよ」
また、唇を重ねた。
- 161 名前:ねてようび。 投稿日:2001年11月11日(日)01時36分35秒
そうして、私たちの休日は過ぎていく。
今日はねてようび。
- 162 名前:作者 投稿日:2001年11月11日(日)01時40分02秒
- 「ねてようび。」終了です。甘いのはこれが限界です…
- 163 名前:show 投稿日:2001年11月11日(日)12時35分52秒
- 作者さんリクに答えてくれてありがとうございます
大満足ですよ。
- 164 名前:作者 投稿日:2001年11月11日(日)23時46分13秒
- >showさん
レス、感謝。
満足していただけたなら幸いです。
- 165 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月12日(月)03時21分51秒
- 「熱の花」完結以来、久々に覗いたらいっぱい
更新してあってうれしかったです。
石川ヲタしとしては石川の話がいっぱいで
うれしい限り。
これからもがんばって下さいね。
- 166 名前:作者 投稿日:2001年11月12日(月)22時01分14秒
- >165さん
レス、ありがとうございます。
頻繁に、とまでは行きませんがこれからも書かせてもらいます。
- 167 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時14分33秒
- ある晴れた日。太陽が私の真上で全てを照らしている。
まるで笑っているかのようだ。
アスファルトに照り返す陽射しの熱さに、私の肌が涙を流している。
歩きなれた道を歩き、見慣れたドアの前に立つ。
呼び鈴を押すと、すぐに彼女は出迎えてくれる。
いつもと変わらぬ笑顔で。
- 168 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時16分01秒
- 「結構早かったね。お昼ご飯もう食べちゃった?」
私は靴を揃えながら、応える。
「ん〜ん、まだ。梨華ちゃんは?」
「わたしもまだ。どうしよっか?」
「ゴトーは梨華ちゃんの手料理が食べたいなぁ〜」
「えぇ〜、そう?不味いとか言わない?」
「言うわけないじゃぁ〜ん、なんだって美味しいよ。梨華ちゃんが作ってくれるものならさ」
「ホント?じゃあ今から作るね」
そう言って梨華ちゃんは振り返り、台所へと向かっていった。
振り返りざまの、少し虚ろで悲しげな目を私は見逃さなかった。
- 169 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時18分01秒
- いつからだったのだろうか。彼女があんな目をするようになったのは。
気付いたのはちょっと前。ふとした時に気付いて、それから気にしてみるようになった。すると、梨華ちゃんはしょっちゅうあの目をしていることが分かった。
誰にも気付かれないように巧みに。
その理由もわからない私は、ただただ戸惑うばかりだった。
何もしてやれない、何もわかっていない自分が心底憎く思った。
- 170 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時18分37秒
- だからこそ、もっとそばにいようと思ったのだ。
だからこそ、たまの休みにこの暑い中こうして来ているのだ。
理由を知りたい。いや、全てを知りたいのだろう。
何度言葉交わしても、何度身体重ねても分かり合えないであろう事を知っていながら。現に今まで本当に分かり合えたことなど無い。
それでも、僅かな希望を捨てられないから、今日も私はここにいた。
- 171 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時19分10秒
- 「できたよ〜」
「おぉ〜、美味しそうじゃん」
「あんまし自信ないけど…」
「そ?いただきま〜す」
明るく振る舞う私。なんとも滑稽だ。それでも、私は笑顔を向ける。
「おいし〜じゃん!料理、上手いんだね」
「ふふっ、ちょっと頑張っちゃった」
「ホントおいし〜よ、ホント…」
「ありがと」
あっという間に料理を平らげた。本題は、別にあった。
- 172 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時19分44秒
- 「ねぇ、梨華ちゃん…」
ソファーでくつろいでいる梨華ちゃんに、すっと近づく。
軽いキスをした。
「ダメだよ…」
手のひらで私の唇を遮る梨華ちゃんの言葉を無視して、私は更に深いものを求めた。
「…んっ、まだ…明るいのに…」
「関係ないじゃん。ね?いいでしょ?」
かなり一方的な要求に、少し躊躇いがちに頷いてくれた。
私は、梨華ちゃんを押し倒すと、その服のボタンに手を掛けた。
- 173 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時20分32秒
- 昼下がりの部屋に、梨華ちゃんの喘ぎ声が満ちる。
少しづつその声は大きくなり、やがて果てた。
まだ息が荒い梨華ちゃんを、いたわるように優しくキスをする。
何度も、何度も。
また分かり合えない。喪失感と虚しさを感じた。
求め合う身体の中で、すれ違う想い。
いつしか、本当に分かり合える日が来るのだろうか。
答えは…考えるのも嫌になる。それでも、開け放しのカーテンから覗く太陽に照らし出された梨華ちゃんの身体は綺麗だった。
- 174 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時21分04秒
- 私はそのもどかしさと切なさに堪りかね、梨華ちゃんを問いただすことにした。
答えを聞くことで、少しでも近づけると思った。
梨華ちゃんは最初は拒んでいたけど、次第にポツリポツリと語りだした。
「ごっちんは…小さい頃、空を飛べるって信じてた?」
「ん〜?どうだったろう?覚えてないけど…」
「私はね、信じてたんだ。目を閉じるとね、ふっと身体が軽くなって飛んでいけた。…信じてくれる?」
「…うん。信じるよ」
実際、私もそう感じることがあった。もっともそれは、小さい頃ではなく最近だが。
梨華ちゃんとこういう関係になった頃。些細なことで本当に嬉しくて、身体も気分も軽くなって。幼く、無邪気な愛情に身を委ねていく。…そんな頃もあった。
- 175 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時21分34秒
- 「だけどね…だんだんと飛べなくなっちゃった。目を閉じてもね、真っ暗なだけ。なんかね、わかるの。身体がどんどんと鎖に繋がれていくのが。昔みたいに素直に喜べなかったり、泣けなかったり…そんなの、悲しすぎる…」
「……」
「私はこのまま、飛べなくなるのはイヤ…。色んなものに縛られて、飛べなくなるのはイヤなの…。また、飛びたい…飛んでいきたい…ここじゃないところに。自由になりたいの…分かってくれる?」
- 176 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時22分09秒
- 私は、その言葉の真意を理解した。いや、理解させられたといったもいいだろう。
梨華ちゃんは優しい声で、とても残酷な選択を迫ったのだ。それでも、全てを理解して私はその問いに頷づく。
「…ありがと」
梨華ちゃんは微笑んだ。安堵なのだろうか?それとも悲しみ?私がそれを知る日はこないだろう。これで、サヨナラなのだから。
「…最後に…もう一回、愛して…」
これが、本当に最後。私たちは、また身体を重ねた。
- 177 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時22分43秒
- 愛が終わり、私は梨華ちゃんの横にその身を投げ出した。
不意に、涙が零れてくる。わたしは、それを止める気も起きず、ただ泣いていた。
「…どうして、泣いてるの?」
「……」
こみ上げてきた情。あの頃の想い。ずっと忘れてた気持ち。
今更どうしようもないのに。自分の愚かさを呪いたくなる。
「ごっちん…」
「…ゴトーじゃ…梨華ちゃんの翼にはなれないの…?」
「…ごめんね…ごっちんは、鎖だよ…。私を一番強く繋いでる…」
鎖だよ、もう一度梨華ちゃんは呟いた。
「…分かった」
そう言うと、私は梨華ちゃんの上に馬乗りになった。
顔は涙でぐちゃぐちゃ。心はズタボロ。それでも瞳は、ちゃんと梨華ちゃんを見据えていた。
- 178 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時23分23秒
- その細い首に手をかけ、力を込める。それ以上の愛を込めて、その首を絞める。
梨華ちゃんは微笑んだ。いつもと変わらないような微笑み。でもそれは、いつもとは違う、偽りの無い微笑み。
涙が更に溢れてくる。それでも、私は力を掛け続ける。
「…自由に…してあげ…る…今すぐ…」
嗚咽を堪え、やっとそう言葉に出来た。
梨華ちゃんの細い手が、すっと伸びてきて私の頬に触れる。
その指が、私の涙を拭っていく。けれど、悲しみまでは拭えはしなかった。
- 179 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時24分27秒
- 「…ありがとう…」
最後に梨華ちゃんはそう言った。そう言って、目を閉じた。
私は脱力して、そのまま横に倒れた。
体中から、全ての力が抜けていくようだった。
私は、とても大切なものを失った。梨華ちゃんという翼を。自らの手でむしりとったのだ。私の全てと言っても過言ではないものを。
- 180 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時25分26秒
- ソファーには私のほかに、翼を羽ばたかせここを飛び去った梨華ちゃんが残したもの、いわば羽根があるだけだった。
私はまだ温もりを残すそれをそっと抱き寄せると、自分もここから去ることにした。
空へ、梨華ちゃんのもとへと飛んでいけるとは思わなかったが、もうここにいる理由は無かった。
瞼を閉じる時、どこかに飛んでいく鳥の姿を見た気がした。
- 181 名前:羽根 投稿日:2001年11月27日(火)19時25分56秒
-
〜終〜
- 182 名前:作者 投稿日:2001年11月27日(火)19時27分26秒
- 「羽根」終了です。暗い話です…
- 183 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月28日(水)23時40分28秒
- 更新だ!(嬉
……内容が重いですな……。
- 184 名前:作者 投稿日:2001年11月30日(金)12時08分23秒
- >183さん
うっ…スイマセン…。重いです…。
次は一応もうちょっと軽い、ほのぼのしたやつを考えているんで、その時はどうかまた、ヨロシクです。
レス、ありがとうございました。
- 185 名前:パブロフドック 投稿日:2001年11月30日(金)13時24分29秒
- 日が、暮れかけている。
窓から、帰り道を急ぐ子供達が見える。楽しそうに、笑ってる。
ブラウン管の向こうでは、二枚目の俳優と綺麗な女優のありふれたラブストーリー。
確か去年ぐらいにやってたやつだ。
何回再放送されてるんだろうか?
そんな使い古され、擦り切れた愛の物語を、石川は飽きもせずに見入っている。
俳優達の演技に一喜一憂しながら。
私はというと、そのドラマを見る気があまり起きなかったため、読みかけの本に目を通していた。
- 186 名前:パブロフドック 投稿日:2001年11月30日(金)13時25分13秒
- ふと目を上げると、石川が俯き、泣きそうになっている。
どうやら、見ていたテレビドラマが原因らしい。
女優が、台本通りに涙を流している。
私は読んでいた本を閉じていた。
- 187 名前:パブロフドック 投稿日:2001年11月30日(金)13時26分16秒
- ドラマも山場が終わり、CMへと移る。
テレビへの集中を途切れさせられた石川は、否が応でも「それ」に気付いた。
きょとんとした表情で、石川は私のほうを振り返った。
「…?保田さん…?どうかしたんですか?」
「え?あっ…何でも、ないわよ…。」
私は伸ばしていた手を引っ込めた。
無意識にしてた「それ」。手が勝手に、石川の頭を撫でていたのだ。
「…ヘンな保田さん。」
全く持って、その通りだ。なんだってこの手は勝手に動いたのだろう?
自分でもわからない。わかんないけど…今頭の中に描かれたイメージ。
- 188 名前:パブロフドック 投稿日:2001年11月30日(金)13時27分11秒
- なんて言うんだっけ?何か言葉が出てきそうで出てこない。
…あぁ、そうだ。思い出した。これじゃまるで…
「…まるでパブロフの犬ね…。」
「…え?犬?」
思ったことがそのまま口に出た。何か、今日はおかしい。
コントロールが効かない。感情が開け放たれているかのようだ。
「…何でもないわよ。」
「えぇ〜、教えてくださいよぉ〜。なんですか?バブロフの犬って?」
「パブロフの犬よ…。バじゃなくて、パ。」
「パブロフの犬…?言いづらいですねぇ…。で、なんなんですか、それって?」
- 189 名前:パブロフドック 投稿日:2001年11月30日(金)13時29分08秒
- 私は多少の面倒臭さを感じたが、これだけ言い寄られると断るわけにもいかず、浅いため息と共に喋りだした。
「昔ね…パブロフって言う科学者?が居たのよ。その人が実験に使ってた犬のことよ。えさをあげる前に、いつもある決まったことをするのよ。指を鳴らしたり、笛を吹いたり。そうしてるとね、目の前にえさがなくても、その犬は指や笛の音を聞くとえさがもらえると思ってよだれを垂らすようになるのよ…。うろ覚えだけど。」
私は少し早口気味に説明した。石川はというと、良くわからないといった風に、首をかしげている。
- 190 名前:パブロフドック 投稿日:2001年11月30日(金)13時29分48秒
- 「…なんか可哀想ですね…。」
「あぁ〜…そうかもね。」
「でもなんで、パブロフの犬なんですか?」
「…だから今言ったじゃない。」
「いや、そうじゃなくってぇ…」
…あぁ。そういうことか。石川はどうして私がそんなことを口走ったか、ってことを聞いているんだ。
「…さぁ?」
「さぁって…教えてくださいよぉ〜」
「別にいいでしょ…そんなの。ホラ、ドラマ始まってるわよ。」
「えっ。あぁ〜!」
ちょっと大きな声をだして、慌てて石川はもとの定位置へと戻っていった。
- 191 名前:パブロフドック 投稿日:2001年11月30日(金)13時30分38秒
- 石川はまたドラマに見入った。
追求を逃れた私は、そっと胸を撫で下ろした。
…ねぇ、石川?好きな人が、喜んでたら、嬉しいよねぇ?好きな人が、悲しんでたら、寂しいよねぇ?
心の中で、そう問いかけた。決して、聞こえるはずのない声で。
ドラマを見ながら、石川は泣きそうな顔になったり、喜んだりする。
それにあわせて、私も悲しみ、嬉しがる。
私の想いは、多分そういうことなのだろう。
…ねぇ、石川?わかってんの?
- 192 名前:パブロフドック 投稿日:2001年11月30日(金)13時31分31秒
- 「えっ?今呼びました?」
また口に出してでもいたんだろうか。石川がこちらを振り向き尋ねてきた。
いや、今のは口にだしてはいないはず…。…多分。
「…呼んで、ないわよ。」
「そうですか?気のせいかなぁ?」
もしかして、聞こえた?聞こえるはずないのに…。
想いは…多分そういうことなのだろう。
- 193 名前:パブロフドック 投稿日:2001年11月30日(金)13時32分19秒
-
〜fin〜
- 194 名前:作者 投稿日:2001年11月30日(金)13時33分50秒
- 「パブロフドック」終了です。ほのぼの…のつもりです。
- 195 名前:Only You 投稿日:2001年12月05日(水)21時55分50秒
- 静かな部屋を支配する、二人の熱い吐息。
触れ合う身体。重ねあう唇。君の声と、私の声。
「ねぇ…ずっと私だけ見てて?」
潤んだ瞳で私を見上げる君は、ずるいと思えるほどに愛らしい。
「うん。ずっと…梨華ちゃんだけを見てる」
私はそう応えた。そう応えたんだ。
- 196 名前:Only You 投稿日:2001年12月05日(水)21時56分48秒
- 目が覚めたのは10時過ぎ。寝ぼけまなこで時計を見た私は慌てて梨華ちゃんを起こす。
「ウソ!遅刻しちゃうよぉ〜」
私たちは服だけ着替えて、部屋を出た。それだけ、急いでいた。
- 197 名前:Only you 投稿日:2001年12月05日(水)22時04分21秒
- 外に出ると、とても良い天気。
完璧に遅刻だと分かると、私たちは開き直ってのんびりと歩くことにした。
これだけ天気が良いと、眠たくなる。温かな陽射しに身を委ね、自然に包まれながら昼寝でもしたらとても心地良いだろう。
そんな願望を抱いたが、流石に良心が咎め、仕事先へと足を進めている。
- 198 名前:Only you 投稿日:2001年12月05日(水)22時05分20秒
- 犬の散歩中の梨華ちゃんが私たちの目の前を通り過ぎる。
…え?
驚いて隣を歩く梨華ちゃんの方を振り向く。そこに、梨華ちゃんはいた。突然の私の行動にキョトンとしていた。
もう一度、目の前に視線を戻したが、犬の散歩中のその人はもういない。
見間違い?でも、確かに梨華ちゃんだった。
私は、繋いだ手に力を込めた。
- 199 名前:Only you 投稿日:2001年12月05日(水)22時05分51秒
- 犬の散歩中の梨華ちゃんが私たちの目の前を通り過ぎる。
…え?
驚いて隣を歩く梨華ちゃんの方を振り向く。そこに、梨華ちゃんはいた。突然の私の行動にキョトンとしていた。
もう一度、目の前に視線を戻したが、犬の散歩中のその人はもういない。
見間違い?でも、確かに梨華ちゃんだった。
私は、繋いだ手に力を込めた。
- 200 名前:Only you 投稿日:2001年12月05日(水)22時07分43秒
- 駅まで着いた。途中、何度も「梨華ちゃん」を見た。
OL風の「梨華ちゃん」。大人って感じでよかった。
コギャルな「梨華ちゃん」。なかなか新鮮だった。
ジーパンに革ジャンの「梨華ちゃん」もいた。でもそれはそれでなかなか良かった。
ここまで来ると、私は理解していた。
私たちが、昨日の夜、かわした言葉。
神様も、結構お茶目なもんだな。のんきに、そう思っていた。
- 201 名前:Only you 投稿日:2001年12月05日(水)22時08分30秒
- 改札で定期をだす。
最近ずっと梨華ちゃんちに泊まってたから、いっそ買ってしまえと思い、買ったものだ。
改札口の中には、駅員の格好をした、やはり「梨華ちゃん」。これはかなりツボだった。
おかげで、なかなか私が進まないことに苛立った、少し化粧の濃い「梨華ちゃん」に、後ろから小突かれた。
- 202 名前:Only you 投稿日:2001年12月05日(水)22時10分41秒
- ホームには、電車を待つ「梨華ちゃん」がいっぱい。
流石にびびったけど、少しだけ幸せと感じていた。このときの私は、まだ気付いてなかった。
電車が来る。運転するのは、もちろん「梨華ちゃん」。
電車の中にも、たくさんの「梨華ちゃん」。
仕事着を着てるのや、制服、学ラン、スーツと多種多様だ。
真面目な顔で、新聞読んでたり、腕を組んだまま寝てたり。
いちゃついてるのもいた。ちょっとだけジェラシーを感じて、梨華ちゃんの手を握った。
- 203 名前:Only you 投稿日:2001年12月05日(水)22時11分42秒
- 驚く梨華ちゃん。手を、振り解かれた。
なんで?なんか怒ってんの?
どうせ、私と「梨華ちゃん」しかいない。私は梨華ちゃんの肩を抱き寄せた。
「私…なんかした?なんで怒ってんの?」
「やめてください。大声、出しますよ」
「えっ?」
もしかして、梨華ちゃんじゃない?
そういえば、服装も微妙に違う気がする。
- 204 名前:Only you 投稿日:2001年12月05日(水)22時12分40秒
- これは、「梨華ちゃん」だ。じゃあ、梨華ちゃんは?
辺りを見渡しても、「梨華ちゃん」ばかり。
梨華ちゃんは、どんな服着てたっけ?思い出せない。
思い浮かんでくる梨華ちゃんの服装は、駅員の制服だったり、OL風のだったり。
なんで、思い出せないの?
「梨華ちゃん…どこ?どこぉ〜…?」
情けない声をだして、梨華ちゃんを呼んだ。
- 205 名前:Only you 投稿日:2001年12月05日(水)22時13分24秒
- 目頭が熱い。涙が出そうだった。迷子って、こんな気分だったっけ。
周りの「梨華ちゃん」は、変な者を見る目でこっちを見ている。
笑いがこみ上げてきた。
なんて滑稽なんだろう。
梨華ちゃんだけを見ていたいと願って、梨華ちゃんを見失ったのだ。
ホント、馬鹿だ。声をあげて笑う。腹の底に溜まったものを全て吐き出すように。
もう、周りの目も気にならない。
- 206 名前:Only you 投稿日:2001年12月05日(水)22時15分08秒
- 笑う。更に笑う。声が枯れても、目の前が霞んでも、私は笑う。
何気なく、窓の外を見た。
窓ガラスに反射して見えた「梨華ちゃん」も、笑ってた。
〜END〜
- 207 名前:作者 投稿日:2001年12月05日(水)22時19分36秒
- 「Only you」終了です。わけわかんない感じのです。
200も越えましたんで、このスレはこれで終了とさせていただきます。
読んでくださった皆様。レスを下さった皆様。自分の稚拙な文に付き合っていただき、ありがとうございました。
それでは。
- 208 名前:aki 投稿日:2001年12月05日(水)22時33分59秒
- おおΣ( ̄□ ̄;; 終わってしまうのですか・・。
ちょうど今発見して私の好きないしごまや石川関係のお話が
一杯で嬉しさでしょうがなかったんですが・・・。
どれも短い中に広い意味の含まれた内容でとてもおもしろかったです。
最後の最後でお目に掛かれて良かったです。
おつかれさまでした^^
- 209 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月05日(水)23時04分31秒
- とっても面白かったです。
文章に無駄が無くって、場面場面がすごく印象に残りました。
- 210 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月05日(水)23時57分12秒
- 今回の「Only you」はなかなかシュールでよかったです。
いつも微妙なツボを刺激されます。
次回作でもお目にかかれることを期待しています。
まずは、お疲れ様でした。
- 211 名前:作者 投稿日:2001年12月09日(日)20時34分33秒
- レス、多謝。
>akiさん
広い意味…かなり嬉しいお言葉です。ありがとうございます。表現できてるか自信なかったんですが、一安心です。
akiさんも更新頑張ってくださいね。
>209名無し読者さん
ありがとうございます。面白いと言われるのが一番の褒め言葉です。
>210名無しさん
「Only you」よかったですか。あんまり書かなかったジャンルだったんで、不安だったんですが、そういわれて嬉しいです。
次回作はいまんとこは考えてないですが、いつかはまたやりたいと思ってますので、その時はヨロシクです。
皆さん、レスありがとうございます。癒されます。レスが付くと。感謝。
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