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奇妙な味の物語。

1 名前:スミヲ 投稿日:2001年09月16日(日)04時23分52秒
短編、あるいは中編をちょこちょこ書いていこうと思います。
まずは安倍なつみさんから。
2 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時24分48秒
雪の結晶のかたちって、不思議だと思いませんか?
ちいさな正六角形、
そしてすこし大きな、やっぱり六角形が、そのまわりを覆う。
それが幾重にも、幾重にも。
頂点を結ぶ直線の先には、綺麗な飾りがあって。
自然の産物にしては、やや人工的な造形。
3 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時25分19秒
ちいさなころ、窓に張りついたちいさな雪の結晶を
飽きずにいつまでも眺めていた記憶があります。
なんでこんなかたちなんだろう。
誰かがつくって、降らせているのかな。
お母さんにそう聞いてみたら、
そうね、きっと神様がていねいにつくった宝石なのね、
と答えてくれました。
4 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時25分42秒
二十歳になってもまだ、
その時のお母さんの台詞を信じているふしがあります。
でも東京じゃめったに雪も降らないし、
降ったとしても北海道の粉雪とは違って湿気の多いぼたん雪だから、
あの綺麗でちいさなかわいい結晶は、上京して以来ずっと見ていません。

見ていません、でした。
5 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時26分14秒
今年の夏。
久しぶりのオフが取れた私は、久しぶりの遅い朝食を、久しぶりに味わっ
て食べていました。
忙しくて見る暇のなかった連ドラの再放送を見ながら、すこし焼きすぎた
トーストをかじっていると、急に窓の外で、セミが鳴き出しました。
私がひとり暮らししているマンションの裏手には、すこしだけ自然が残っ
ています。そこにはちょっと名前はわからない背の高い広葉樹が数本と、
レンガに囲われたちいさな花壇がふたつ。花壇には薄紫色の花を咲かせた
セントポーリアと、黄色いパンジー、それと綿毛のうちにどこからか飛ん
できたのでしょう、タンポポが仲良く咲いていました。
6 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時26分56秒
セミはそこにある木にとまって鳴いていました。アスファルトによって味
気なく区画整備されたなかに取り残されたちいさな木立で、そのセミは鳴
いていたのです。
「おやおや、迷子かい?」
窓を開けてその木立を眺めます。
あたりには森はもちろん、公園もありません。孤立したちいさな自然のな
かで大声で鳴いているそのセミは、迷子に違いないのでした。
「みーんみんみんみんみん・・・・・」
セミといっしょに鳴いてみます。窓の桟に頬杖をついてそうしているとけ
っこう時間は早く流れて、私は食べかけの朝食とつけっぱなしのテレビを
忘れてしばらくそうしていたのでした。
7 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時27分21秒
「もしもし、圭織?」
携帯電話を持ってきて、圭織にダイヤルしました。
『・・・はぁい。・・・なっち?』
数回のコールサインのあとに出てきた圭織の声はいつにもまして抑揚がな
くてくぐもり気味で、私は彼女が寝起きなんだとすぐに分かりました。
「ごめんね、起こしちゃった?」
『いや、ちょっと前に起きたばかり。どうしたの?』
どうしたの、と聞かれて私ははっとしました。
どうもしてない。
セミといっしょに鳴いているうちになんだか楽しくなってきて、なぜか私は
圭織に電話してしまったのです。どうしたの、と言われても、どうしたもの
か。
8 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時27分49秒
「あのね、いまウチの前でセミが鳴いてるの」
できる説明と言えば、それしかありません。ただそれだけで電話してきたの
か、と普通の人なら怒るかもしれません。でも、私には確信がありました。
この私の謎のわくわく感を、圭織は感じとってくれるに違いない。
『ほんと?』
事実そのとおりで、圭織の声はぱっと明るくなりました。
「そうなの。迷子のセミがね、いっしょうけんめい鳴いてるの」
この時の私がなんで、セミが鳴いているというだけでそんなに楽しくなって
いたのかは今でもわかりません。久しぶりの休み、平和な寝起き、都会の中
で見つけた自然の息吹き、もしかしたらそんなものが一緒になってあの時の
私の気持ちをたかぶらせていたのかもしれません。そして私のそのわくわく
感は、圭織にも伝染したようでした。
『今日はお休みだからね、久しぶりになっちのとこに行こうかな』
よくわからないテンションで(圭織は寝起きだというのに)ひとしきりおし
ゃべりしたあと、圭織はそう言ってきました。もちろん断るわけがありませ
ん。
9 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時30分05秒
「ふーん。元気よく鳴いてるねー」
私の部屋にやってきた圭織は、鞄を置くとすぐに窓から身を乗り出して、セ
ミが鳴いているあたりを見つめていました。
「でしょ?こんな自然のないところで、迷子になっちゃったんだよ」
圭織の隣にたって、私も窓の外を眺めます。
お互いが立ったまま、背の高い圭織の横顔を、背の高くない私が見ようとす
るとどうしても私が見上げるかたちになります。その時もそうでした。
まばたきひとつしないでセミの鳴き声に聞き入っている圭織(その状態を私
達はよく『交信中』といって笑います)の横顔を、ふと見上げてみました。
窓から入ってくる風に、「21世紀らしくした」といって茶色くした長い髪
が綺麗になびいていて、それはとてもとても綺麗でした。モーニング娘。の
オリジナルメンバーとしてずっと昔から今まで一緒にいるのに、圭織の横顔
だって何度も見てきたのに、なぜだかその時、私は圭織に見とれてしまいま
した。
10 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時30分44秒
いいえ、正確には、圭織と過ごしたたくさんの思い出をその横顔に映して、
私はそこに見入っていたのです。
「セミが鳴いている」というだけでこうして遊びにきてくれて、いま私の部
屋で一緒に窓からセミのいる木を眺めている。
ここに至るまでふたりはいろんなケンカもしてきたし、仲が悪くなった時期
もあった、そんなちょっと苦い思い出もある。
そんなこんなを通り越して、いま一緒にこうしていることがなんだかとって
も嬉しくて、私は思わず圭織に抱きついたのでした。
「ちょ、ちょっとなっち、なにさ、どうしたの」
笑顔の圭織に、私は笑顔を返しました。
11 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時31分30秒
あの日の私の、すべてが楽しくてしかたがない妙なテンションの理由をどう
にかして説明しようとすると、ひとつの結論に行き着きます。
それはずいぶんあとになって圭織の口から聞かされるのですが、もし、本当
にそうだとしたら。
それは同時に、すこし悲しいことでもあるのです。
12 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時32分03秒
「おはよう、なっち!」
次の日、歌番組の収録のためにスタジオ入りした私を最初に出迎えたのは矢
口の元気な声でした。
「おはよーやぐちー」
「こらー辻!加護!見つけたぞー!」
私が返した挨拶を聞くか聞かないかのうちに、矢口はどこかへ走って行きま
した。おおかた、辻と加護がまたなにかいたずらしたのでしょう。お目付役
の矢口はいつもふたりに目をとがらせています。ふたりは懲りずに悪だくみ
をして、矢口を困らせます。それは最近ではもはや恒例になった光景です。
13 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時32分40秒
「おはようなっち」
「おはよ、圭ちゃん」
圭ちゃんは鏡台の前で本を読んでいました。圭ちゃんはよく、楽屋でもひと
りで本を読んでいます。本を読んでいる時の圭ちゃんはそこに没頭してしま
うようで、話しかけても反応しないほどです。おおかたそれは小説でした。
だけど、その時は違いました。圭ちゃんが膝のうえに置いた本は硬い表紙の、
図鑑のようでした。そしてそこに、セミの写真があったのです。
「セミ?どうしたの?」
私は圭ちゃんの横に並んで、図鑑をのぞきこみました。「ミンミンゼミ」の
ページが開かれていて、そこにはそのセミの特徴や生態が、写真のわきにび
っしりとちいさな字で書かれていました。
14 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時33分17秒
「ちょっとね、気になって。これ」
そう言って圭ちゃんは私の顔のすぐ前になにかを突き出しました。すぐには
それがなにかわからず、わたしはそれをまじまじと見ます。
セミの死骸?
「やあー」
思わず私は叫んでしまいました。いきなり目の前にセミの死骸を突き付けら
れたら、誰だってそうなるでしょう。目の前が真っ白になって、ひっくり返
りそうになりました。
「あはは、落ち着いて。これは抜け殻だよ。ここに来るあいだに見つけたの」
私のほうが抜け殻でした。
15 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時33分48秒
おそるおそる手にとってみるとその抜け殻は、すこし変な言い方ですが、と
ても綺麗でした。よくできた彫刻。じゃなかったら、蝋細工。不思議な質感
で私の手のひらに乗るそれは、私の心を打ちました。
「途中で図書館に寄って、図鑑まで借りてきちゃったんだよ。でも、抜け殻
だけじゃなんのセミだかわかんないね」
「ミンミンゼミだよ」
考えもせずに、無責任な答えが私の口をついて出ました。もちろん適当です。
適当ですが、自信がありました。その理由もまた、わからないのですが。
「ほんとう?詳しいね」
「でしょう?」
16 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時35分24秒
ミンミンゼミのほか、考えられなかったのです。前の日、突然私の部屋の前に
現れた、ミンミンと鳴くセミ。その次の日には、セミの抜け殻。
たったふたつの事柄だけど、そのふたつが、ひとつのことに結びついているよ
うな気がしていました。
まったくの直感で、私はそれがミンミンゼミの抜け殻だと思ったのでした。
17 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時35分59秒
圭ちゃんが見つけてきたセミの抜け殻は、その日の楽屋の話題をさらいました。
「かっけー」と呟いてヨッスィーがそれを指でつまんでみせると、梨華ちゃん
はすごい声をあげて楽屋の端まで逃げて壁に張り付いていました。苦手のよう
です。ごっちんはめずらしく興味津々でそれを眺めていました。圭織は私と
(そう言えば昨日もセミだったね)と目で会話しました。このへんは彼女の言
う「腐れ縁」のなせる技でしょうか、以心伝心です。結局その抜け殻は辻と加
護のおもちゃにされたあげく、あっけなくつぶれてしまいました。矢口のお説
教の種がまたひとつ。
18 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時36分31秒
その日の収録は早く終わり、まだ日も沈まないうちに私は帰途につきました。
帰りの電車のなかで、私はずっと前日に圭織とふたりで鳴き声を聞いたセミの
ことが気になっていました。
迷子のセミ。今日もまだ、迷子でいるだろうか?
19 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時37分10秒
でも、あの木立にセミはもう、いませんでした。少なくとも、鳴き声を聞くこ
とはできませんでした。木を見上げて、「みーんみんみんみん・・・」と小さ
く呟いてみます。返事はありません。
ふと、セミの寿命はとても短いということを思い出しました。
でも、もしかしたら迷子じゃなくなって、どこかへ行ったのかもしれません。
何気なく目を落とした花壇のわき、レンガの囲いのうえに、光を反射するなに
かが目にとまりました。
20 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時37分53秒
セミの羽、でしょうか?
不思議な形をした透明の、極薄の、なにか。
それは透かして見ると向こうが不思議な形にゆがみ、日にかざしてみると七色
に輝きました。
その中に、私は雪の結晶を見つけたのです。
透明な中にも、やや鮮明ではない部分がところどころにありました。そのうち
のひとつが、雪の結晶のかたちだったのです。
私はしばらく、それをただ眺めていました。
21 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時38分31秒
これが、あのセミの羽だとしたら。
羽だけが落ちているということがどういうことなのか、考えなくても分かりま
す。
では、あのセミの羽ではないとしたら?
でも、あのセミはここにはもういないのは事実です。そして、セミの羽ではな
いなら、これはいったいなんなのか?
深く考えるのはやめました。
なんにせよ、これはセミが残していった素敵な贈り物であるような、気がしま
した。
22 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時39分09秒
雪の結晶は、すぐに消えてしまいました。恐らくは、汚れや油脂の関係でそう
見えたのでしょう。それでも、その素敵な宝物は、私の部屋の机のうえに、し
ばらくハンカチでくるんだまま置かれていました。
23 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時42分09秒
それからまもなくして、新曲のレコーディングがはじまりました。
今度の曲名は「ザ☆ピ〜ス!」。
その歌詞の中に、「うれしい出来事がふえました」というのがあります。
その部分を録音する時に、私はまた不思議な気持ちがわき上がりました。圭織
に思わず電話をかけてしまったあの日の、なぜだか楽しい気分。
それをそのまま歌詞に乗せて歌ったら、つんくさんから一発でOKをもらいま
した。そしてその部分は私のソロパートになりました。
24 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時42分46秒
セミの羽は丁寧にくるんだハンカチのなかで、いつのまにか粉々に砕けていま
した。私はそれを、木立のすぐ脇にそっとまくことにしました。
「ありがとうね、セミさん」
私の手から、ちいさな破片になった羽ははらはらと舞い落ちます。
光を反射しながらゆっくりと地面へと落ちていくそれは、
それはまるで、季節外れの雪のようでした。
25 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時43分35秒
それからさらにしばらく経った、ある日。
圭織が不思議なことを口にしました。
「あの時のセミね、歌ってたんだよ」
それが「あの日の」セミのことを言っているのだと気付くのに、すこし時間がか
かりました。圭織の言うことはたまについていくのが大変です。
「歌ってた?」
「そう。元気の出る歌をあげる、って、いっしょうけんめい歌ってたんだよ。だ
からあの日のなっち、なんだかとっても元気だったでしょう」
私は何も言えませんでした。
「いい思い出になる、って。セミの寿命って短いでしょう?だから」
26 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時44分21秒
だから、でしょうか?
あの日いっしょにセミの鳴き声を聞いた圭織は、新リーダーの責任を果たそうと
いっそう元気に頑張っているような気がします。
私は、どうでしょうか?
自分では、元気に明るく、頑張っているつもりです。
そして、元気の出る歌を、これからも歌っていくつもりです。
聞いてくれるみんなをどんどん元気づけていけますように。
そう願って、安倍なつみ、がんばってます。
27 名前:結晶の羽 投稿日:2001年09月16日(日)04時46分16秒
それと、もうひとつ。
うれしい出来事がこれからも、もっともっと、増えますように。
28 名前:てうにち新聞新入社員 投稿日:2001年09月16日(日)09時50分09秒
良いっすね〜。
感動的でした〜
29 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月16日(日)11時00分05秒
なっち視点は珍しいですね。
ファンとしてはうれしい出来事でした(w
素敵なお話で次も楽しみです。
30 名前:スミヲ 投稿日:2001年09月27日(木)11時46分51秒
>>28 >>29
ありがとうございます。励みになります。
こういう雰囲気の話ばかりが続くわけではないので、
そのへんは御期待にそえられないかもしれません。
31 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時47分45秒
石川梨華は自室にこもり、なにをするでもなくただ膝を抱えて座っていた。
32 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時48分25秒
彼女の部屋はピンク色。
ベッド。カーテン。ソファ。本棚。コンポ。テーブル。
彼女が身につける物もピンク色。
洋服。ヘアピン。時計。ピアス。リップクリーム。
33 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時49分01秒
「・・・飽きちゃった」
石川は力なく、そう呟いた。
そう。ピンクに飽きたのだ。なにがきっかけになったわけでもなく、いきなり飽きた
らしい。
いちど飽きてしまうと、一面ピンクの部屋がやたら目につき気に障る。なんで私は部
屋をこんなにしてしまうほどピンクに狂っていたんだという疑念もわく。
考えてどうなるものでもなく。このピンクの世界から脱却するために石川はすっくと
立ち上がる。
「模様替えしちゃうわよー!」
34 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時49分42秒
で、石川はピンク以外の一色で部屋を埋め尽くすことになる。なにも一色で統一せず
に雑多な配色にすればいいものを、なぜか色調を統一したがる。そのへんは彼女なり
のこだわりがあるのかもしれない。
そんなわけで、石川が考えた新たな部屋の基調となる色の候補は以下の三つ。

1・青(クールなイメージにしたい)
2・赤(よりポジティブになれそう)
3・黒(大人っぽさを出していこう)
35 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時50分28秒

1・青

石川は半日かかって部屋の模様替えを決行した。
「ふう。これで私も少しはクールになれるかな」
かくして彼女は、青い部屋の青いベッドで青いパジャマに身を包んで眠るのだった。
36 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時51分22秒
次の日、テレビ局の楽屋にて。
その場にいたモーニング娘。のメンバー全員が石川の豹変ぶりに目を丸くした。
青い帽子に青いサングラス、青い水玉模様のシャツにインディゴブルーのジーンズ姿
で現れた石川は開口一番、
「クール石川です。よろしく」
と低い声で呟き、あさっての方向に目をやって溜め息をひとつ。椅子に腰かけ足を組
み、膝のうえで頬杖をついてまた溜め息。
37 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時52分00秒
辻と加護がなにやらこそこそ話をして、こっそりと石川の後ろにまわる。
加護が後ろから石川の両目を手で覆い、辻が「だ〜れだ?」と言う。その声で石川に
「辻でしょう」と答えさせ、加護が「ぶっぶ〜。加護でした」などと言って馬鹿にす
るのだろう。しかし、石川の答えはちがう。
「目を隠してるのが加護。いま喋ったのが辻。早くどけてくれないかな、手」
ぴくりともしないまま、石川はそう言ったのだ。辻と加護はなにも言えなくなった。
「辻。加護。もう少し大人になりな」
石川はただ動かずに、虚空を見つめている。
38 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時52分42秒
保田と後藤は遠巻きに石川の様子を観察している。
「後藤。石川なんかあったの?」
「さあ、どうしたんだろ。クールというかニヒルだよね」
後藤の言う通り、クール石川はどこか「クール」の意味を取り違えている。
楽屋のドアが開き、ADらしき男性が顔を出した。
「それじゃあモーニング娘。の皆さん、これからトーク録りなんで。よろしくお願い
します」
「よろしくお願いしまーす」
声を揃えて挨拶をし、メンバーは各々楽屋から出ていく。石川は椅子からゆっくりと
腰をあげ、またもや溜め息まじりに呟いた。
「今日も仕事。明日も仕事。仕方が無いと割り切ってはいるけれど」
39 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時53分31秒

2・赤

石川は半日かかって部屋の模様替えを決行した。
「ふう。これで私ももっとポジティブになれるかな」
かくして彼女は、赤い部屋の赤いベッドで赤いパジャマに身を包んで眠るのだった。
40 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時54分16秒
次の日、テレビ局の楽屋にて。
その場にいたモーニング娘。のメンバー全員が石川の豹変ぶりに目を丸くした。
赤い帽子に赤いサングラス、赤いキャミソールに赤いスカート、唇には真っ赤な口紅。
スキップで現れた石川は開口一番、
「もっとポジティブ石川です。よろしくっ」
とキンキン声で叫んだ。椅子に腰掛けもせず、ただ楽屋の中を軽やかな足取りで跳ね回
る。
41 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時55分10秒
「どうしたの石川、座りなよ」
「飯田さん!いやリーダー!いやチャネラー!今日も電波っすか!受信?発信?」
「梨華ちゃん、今日はなんだか元気いいんでない」
「安倍さん!最近痩せました?でも私には程遠いですよ!いいから食え!食え!」
いつもの石川では絶対にありえない暴言。しかも言ってる本人は最高の笑顔。飯田と
安倍はなにも言えず、ふたりとも泣きそうな表情になって見るからに落込んでいる。
「そんなことで落込まない!ポジティブ!ポジティブ!」
石川だけが無駄に元気だった。
42 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時55分55秒
保田と後藤は遠巻きに石川の様子を観察している。
「後藤。石川なんかあったの?」
「さあ、どうしたんだろ。ポジティブというかアグレッシブだね。悪い意味で」
後藤の言う通り、もっとポジティブ石川はどこか「ポジティブ」の意味を取り違えて
いる。
楽屋のドアが開き、ADらしき男性が顔を出した。
「それじゃあモーニング娘。の皆さん、これからトーク録りなんで。よろしくお願い
します」
「よろしくお願いしまーす」
声を揃えて挨拶をするメンバー。石川は真っ先に楽屋から飛び出して、駆け足でスタ
ジオへ向かう。番組のスタッフの姿を見つけると、大声で「頑張るっす!」「見てて
下さいよ!」と。そんなテンションでは余計に空回りするだけだろうが。
「しゃーおらー!気合い入れてくぞ!いじられてナンボ!滑っても前向き!」
43 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時56分38秒

3・黒

石川は半日かかって部屋の模様替えを決行した。
「ふう。これで私も少しは大人っぽくなれるかな」
かくして彼女は、黒い部屋の黒いベッドで黒いパジャマに身を包んで眠るのだった。
44 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時57分26秒
次の日、テレビ局の楽屋にて。
その場にいたモーニング娘。のメンバー全員が石川の豹変ぶりに目を丸くした。
黒い帽子にサングラス、黒い開襟シャツに黒いタイトスカート、さらには黒いピンヒ
ールを履きこなし、キャットウォークで現れた石川は開口一番、
「アダルト石川です。よろしくぅん」
と吐息混じりに呟き、メンバーに謎の色目をつかいながら椅子に腰をおろす。片足を
大きく挙げ、色っぽく足を組む。
45 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時58分21秒
吉澤がやや動揺しながらも、石川に声をかけた。
「梨華ちゃん、今日はなんだか色っぽいじゃない。イメチェン?」
「よっすぃ・・・」
石川は潤んだ瞳で吉澤を見つめると、彼女の手をとって自分の胸にそっとあてた。
「ちょ、ちょっと、梨華ちゃん!?なに?」
「よっすぃ・・私のこと、好き?」
吉澤は硬直したまま動けない。何も言えずにいると、石川は瞳をとじて顔をゆっくり
互いの吐息がかかるほどに、いや、それ以上にまで近付けてくる。
「え・・いや・・・梨華ちゃ・・・」
「こらぁー石川!オイラのよっすぃを誘惑するなー!」
ふたりの間に矢口が割って入ってきた。難を逃れた吉澤だったが、なぜかぼうっとし
たまままだ固まっている。
「矢口さん・・今日もちっちゃくて可愛い・・・」
今度は矢口に艶のある目をむける石川。矢口の首に手をまわし、もう片方の手で・・
「ちょ、ちょっと石川どこさわってんのー!こいつコワイよぉー!」
「あらぁ恥ずかしがり屋さんなのねぇ」
46 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)11時59分07秒
保田と後藤は遠巻きに石川の様子を観察している。
「後藤。石川なんかあったの?」
「さあ、どうしたんだろ。あれじゃアダルトを通り越してエロだよね」
後藤の言う通り、アダルト石川はどこか「アダルト」の意味を取り違えている。
楽屋のドアが開き、ADらしき男性が顔を出した。
「それじゃあモーニング娘。の皆さん、これからトーク録りなんで。よろしくお願い
します」
「よろしくお願いしまーす」
声を揃えて挨拶をし、メンバーは各々楽屋から出ていく。石川は鏡に自分の姿を映し、
様々な悩殺ポーズをキメている。彼女が目指しているものはいったいなんなのか。
「行こうかしら。胸の谷間と足を大胆に組み換えるサービスカットを忘れちゃダメね」
47 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)12時00分06秒

4・ピンク

模様替えを思い立ったはいいが、どんな色に変えたところでろくなことがないような
気が、なぜかした。
「ふう。やっぱりこのままがいいのかな」
かくして石川は、いつもどおりピンクの部屋のピンクのベッドでピンクのパジャマに
身を包んで眠るのだった。
48 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)12時00分45秒
次の日、テレビ局の楽屋にて。
その場にいたモーニング娘。のメンバーは、いつもどおり全身総ピンクで現れた石川
に恒例のちゃちゃをいれる。
「石川、またピンクなのー?」
「ほかの色の服、持ってないわけ?」
「いい加減飽きてこない?」
いつもの石川なら「なんでですかー、いいじゃないですかー」と言い返す場面。しか
しその日の石川は違った。
「実は私も、ピンクに飽きてきたんです」
かといって何色がいいのか、彼女には分からない。
49 名前:カラフルパラレルワールド 投稿日:2001年09月27日(木)12時01分40秒
「梨華ちゃんはピンク好きのままでいいよ、なんだかんだ言っても」
後藤が言う。その言葉を聞いて、石川の表情は明るくなった。
「そうかな。やっぱりピンクがいいかな」
「そうだね。他の色なんて想像できないし」
今度は保田が言う。ふたりの言葉を聞いて石川は、
「もうすこしピンクで頑張ってみよう」
という、意味のよく分からない決心をした。割と単純な、石川であった。
50 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月27日(木)23時23分04秒
むう、前回と打って変わってコメディ路線。
今回も面白いです。
勘違い石川いいなあ(w

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