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グリーン・ベレー
- 1 名前:みつ 投稿日:2001年09月20日(木)23時42分05秒
- ファンタジーものです。
結構真面目な内容です。
メインは吉澤。
設定はちょい現実から離れています。
- 2 名前:みつ 投稿日:2001年09月20日(木)23時43分23秒
- ― 1 ―
「起きてってば」
ヒトミは隣りの座席で寄りかかるようにして眠っているマキを揺り動かした。
「ん〜、もう着いたのぉ〜?」
ノソリとマキは起きあがる。
「もうすぐ着くって。それにもう朝だっての!」
列車の窓から見える風景は海だった。ただし、石ころと砂でできた海。不毛の砂漠が広がっていた。
「すんごく遠くに来たって感じだね」
うんうんと、ひとり感激しているヒトミ。ふぅぁ〜と思いっきりあくびのマキ。
このふたりが列車に乗ったのは昨日の事だった。
あんなにはしゃいじゃってたのに、今は何となくしんみりしている。
荷物はバッグひとつ。たいした中身は入っていない。必要なものは現地で買い揃える事にしている。
―そして、もう後戻りはできない。
- 3 名前:みつ 投稿日:2001年09月20日(木)23時45分53秒
- ヒトミは十六歳。それも昨日なったばかりだ。十六歳になるのを待ち、決行した旅だった。
何も考えず、青臭い憧れだけで。
それを言うとマキの方が何も考えてないかもしれない。
じゃあ、あたしも。と、喫茶店で同じ注文をするみたいに軽い返事で一緒に行く事になった。
目の前に迫るヒトミの目的地は第三新東京市。憧れの都市である。
「どうしようねー」
「そうだねー。でも考えてもどうしようもないと思うけど?全く知らないんだし。なんとかなるって」
再び外を見る。第三新東京市に近づくにつれて、砂漠の中から突き出ている高層ビルの残骸、
散乱する瓦礫の山が目立つようになってきた。遠い昔は都市だった事を覗わせる。
もう植物や動物は住めない土地。人間も例外ではない。
車内放送が第三新東京市に近づいた事を知らせた。気持ちが高ぶってきた。
「ついたらまず住む所を見つけなくちゃね」
「仕事もね」
「まずはアパートさがしだって。仕事を探すのは落ちついてからにしようよ」
「はいはい、わかってますって」
ヒトミは言った。
希望に燃える目をしていた。親元を離れて自分の力で生きていく期待に胸を膨らませている。
- 4 名前:みつ 投稿日:2001年09月20日(木)23時47分19秒
- 「おー、見えてきたよ」
ヒトミは進行方向を指差した。列車がスピードを落とす。キィーという音と共に到着を知らせる放送。
ヒトミの目に飛び込んできたのは砂の色をした巨大都市だった。
何故、第三新東京市と呼ばれているか。それはこの都市が移転してきたからだ。
廃墟となった古い地区を放置して、砂から逃げるように新しい市街は東の内陸部の方へ延びている。
捨てられた地区はだんだんと砂漠になる。それを繰り返してきたからだ。
灼熱の光りがふたりに襲いかかる。すこし北の方からやってきたふたりにはこたえる。
街は賑わっている。それも異常な賑わいである。第三新東京市は最大の都市でもある。
若者達の憧れの地である。このふたりも例外とならずにここに来た。
何でもする事はあるし、欲しい物は何でも手に入る。実際、殆どの品はここに集まる。
とはいっても―
「どうしよっか?」
溜息を吐く。いざ着いた途端に頭が真っ白になってしまった。感激と不安が混ざり合い、足が地につかない。
- 5 名前:みつ 投稿日:2001年09月20日(木)23時48分51秒
- 「とにかくアパートをさがそうよ」
ヒトミは言った。それだけは最初の計画としてふたりで決めていた事だった。
不動産関係を回ればよかった。お金はある。お金さえあれば何処でも契約できる。そう思っていた。
しかし―
適当なアパートは中々見つからなかった。実際に手続きとなると色々な問題が生じてくる。
定職を持たず、しかも家出同然で出てきた若者には貸したがらない所もある。
保証人もいない。保証人を代行する所もあるが法外な値段をふっかけられる。
それに―
ここにきてふたりの意見が微妙に食い違ってきた。一緒に住む事にしていたのだが、好みが違うのである。
ヒトミは静かな郊外を、マキは賑やかな中心街を。部屋の広さ、家賃等々。こういった具合である。
どちらも舞い上がっていて余計な力が入っていた。
色々問題が起きることは予想されたが最初の作業で早くも壁にぶつかった。
- 6 名前:みつ 投稿日:2001年09月20日(木)23時49分43秒
- 「もぉ〜、足が棒だよ〜」
「あたしも〜」
「ヒトミはダイコンでしょ?」
「そういう事いうかなー?でも、もう怒る気力も無いや…でさぁ、ホントどうする?ホテルにでも泊まる?」
「だめだよ。高くてもったいないよ。あたしは野宿でもイイよ」
「それこそだめだよ!危ないよ」
ヒトミは首を振って反対した。
そういえば地元で東京市から帰ってきた先輩に、野宿をした話しを聞いた事があった。
そういう情報は一応得ている。
「平気だよ」
マキは言った。
ヒトミは漠然と不安を感じ始めていた。それは微妙なずれからくるものである。
本当にこの先ふたりで仲良くやっていけるのだろうか。
親友のふたりが一歩知らない土地に出た途端、こうも脆いものだとは予想されなかった。
むしろ、何があってもふたりなら何とかなると考えていた。
- 7 名前:みつ 投稿日:2001年09月20日(木)23時51分21秒
- 「でも、野宿は冷えるよ?こっちは昼間暑くて夜は冷え込むって…」
「寝袋でも買えばいいじゃん。」
マキはもう決めつけて言い放つ。
「とにかくさ、もう少し探そうよ。一日だけじゃ、まださ…」
ヒトミはマキをなだめるように言う。
「もういい!ここで別れよう。その方がイイみたい」
マキの表情は冷たい。
「えっ!?ちょ、ちょっと何言ってるの?明日、また探そうよ」
「明日になったらうまくいくって言えるの?」
マキは更に不機嫌な表情をした。
感情の起伏が激しいのは知っていたが、こういった状況になると拍車がかかる。
その気持ちはヒトミにもわからなくはなかった。
「だって…ここで別れるって、後はどうするの?色々計画立ててたのに」
「そんな事言うんだったら、ヒトミが我侭を言わなければよかったんだよ」
マキは完全に苛立ってる。
- 8 名前:みつ 投稿日:2001年09月20日(木)23時51分58秒
- 「そんな事言われてもさ…お互いが折れなきゃ…」
「あたしは折れたもん」
「違うよ。マキの我侭の方が強かったじゃん」
ヒトミもむっときて言い返す。お互いに興奮している。もう止まらない。
「そう。そこまで言うんだ」
マキはくるりと向きを変えた。先に歩き出したのはマキだった。
照りつける太陽。照らされて焼ける顔。焼けて噴出す汗。噴出した苛立ち。
ヒトミは冷静になろうとしたが熱さが邪魔をする。
「マキのバカー!」
マキの姿はとっくに消えている。興奮はまだおさまらない。どうすればいいのか、考えもまとまらない。
(なんなんだよ…もう。むかつく…)
ヒトミは心の中でつぶやく。ふらふらと歩き出す。街は人で溢れている。もう隣り合わせる確率は無い。
(ひとりぼっちになっちゃった…)
ヒトミは改めて心の中でつぶやく。
別れはいつかやってくる。しかしこんなにも早く、こんな形で訪れる事は予想図には無い。
マキにはマキの生き方があるだろう。
自分には自分の生き方が―
- 9 名前:みつ 投稿日:2001年09月20日(木)23時59分54秒
- -
今回はここまで。1時間以内にもういっちょUPしますけど。
話は固まっているので、割と頻繁にUPできるかと思います。
誤字脱字、変換ミスは許したって下さい。感想、批評、お待ちしています。
-
- 10 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)00時28分57秒
- ― 2 ―
もう日が暮れ始めている。ヒトミは何時の間にか旧市街に足を踏み入れてしまっていた。
高層ビルの残骸。ゴミ。鉄骨。看板。車。落書された壁。そして砂。何もかもが砂をかぶっている。
死んだ土地。誰にも止める事はできない。旧市街の向こうは砂漠に繋がっている。
ここが直接砂漠になる日も来るだろう。
ヒトミは何となくマキが野宿をするんだという言葉が耳に残っていて、ふらふらと来てしまった。
旧市街は行政管轄外で浮浪者の多い地区だ。野宿をするなら場所は限定される。
大体の目星をつける。夜までに見つからなければ諦めるしかない。喧嘩別れした事が心残りだった。
突然―
ヴォンヴォンヴォン
爆音と共にビルの残骸の陰から一台のサンドバギーがわざと蛇行して近づいてくる。
その後ろから何台ものバギーが続いてくる。先頭の一台が突っ込んでくる。
ヒトミは慌てて飛びのいた。
- 11 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)00時29分47秒
- 「よっ。どしたの?あたしはこのグループ、プッチモニのリーダー、サヤカっていうんだけど」
大声でバギーに乗っていたひとりがたずねる。表情はゴーグルでよく見えない。
声からすると同じくらいの女の子だ。
「どしたのって聞いてるんだけど?」
女の子がバギーを降りて近づいてくる。ヒトミは嫌な予感をおぼえる。どう見ても不良といえる。
「友達を捜してるんだ」
ヒトミは出来る限りの力で言った。弱みを見せると簡単につけ上がらせる事になる。
「見つからないの?」
リーダーらしき女の子はゴーグルを外しながら再びたずねる。整った顔できれいだった。
しかし不敵な笑みを浮かべている。
「うん」
「あたし達が捜してあげよっか?」
「いや…」
「親切に言ってやってるんだよ」
ヤバイ―
どう考えても深く関わりたくない連中である。
- 12 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)00時30分40秒
- 「いや、結構です…」
ヒトミはその場を立ち去ろうとした。
「待てよ。人の親切、無にするっての?」
「………」
ヒトミはまわりを見た。完全に輪の中に取り込まれている。他の連中は無言の威圧を加えてくる。
「そこ、どいてよ」
「だーかーらー、こっちはあんたに手を貸してやるっていってんの」
ヒトミはこの子達の目的がはっきり理解した。親切の押し売りでお金を要求してくるのだろう。
「乗りなよ。一緒に捜してあげるから」
サヤカが言った。ヒトミのバッグにはカードも含め全財産、十六歳の少女が持つにしては大金がある。
有効に使えば一年間は食べていけるだけの金額がある。ここで巻き上げられたらおしまいである。
「わかったよ」
ヒトミは頷いた。相手を油断させる為に。
「そう、わかればいいんだけど。こっちに乗りなよ」
相手が動き出した一瞬をついた。サヤカを突き飛ばし、そのまま走りだす。
- 13 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)00時31分19秒
- 「くそっ!逃げたぞ!追って」
ヒトミは必死に走る。背後でバギーのエンジン音が聞こえる。強い風で砂が巻きあがり視界が悪くなる。
バギーを見失ってしまった。ただバギーのエンジン音だけが聞こえていた。
「逃げたって無駄だよ。あたし達、プッチモニからは逃げられないよ」
いつのまにかバギーに回り込まれていた。ゴーグルをしたリーダーのサヤカが立ちはだかって言った。
ヒトミは覚悟を決めた。背が高くてなおかつ運動神経のいいヒトミは喧嘩は弱い方ではない。
そこらへんの男の子よりも挌闘センスはある。ただ、ここまで囲まれては見込みが無い。
「わかったよ。いくら欲しいの?」
「おっ!物分かりがイイねぇ。そうこなくっちゃ。有り金全部ね」
「全部?」
「命までは取らないよ」
「これだけだけど」
「よし。ありがたくいただいとこ。でもさー、これだけじゃないでしょ?」
「それだけです」
「…バッグも探ってみて」
その時だった―
- 14 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)00時32分04秒
- 「やめなさい!」
どこからか甲高い女の声がする。
「奪ったお金を返しなさい」
全員がきょろきょろして声の出所を探す。
「誰だ!?」
「ここよ」
声は上のほうからやってくる。ヒトミは崩れたビルの上を見上げた。そこにひとりの少女がいる。
逆行の中で、少女の姿は影になり黒っぽく見える。髪が鳥の羽のように揺れている。
「なんだよ。邪魔するなっての」
サヤカは相手が少女ひとりだと確信すると嘲る様に言った。
「あんなのほっとこ」
「やめなさいって言ってるのよ」
「…しつこいねー。あんたには関係無いでしょ。さ、カードも持ってるんでしょ?バッグの中、見せて」
サヤカはもう少女に目もくれなかった。更にヒトミに迫る。ヒトミはずっと見上げたままだ。
- 15 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)00時32分52秒
- 「あっ!」
少女が髪をなびかせて宙に舞った。声に反応してサヤカも見上げる。少女はまるで猫の様にふわりと着地する。
細いが出るところは出ているスタイルのいい体が迷彩服に包まれている。
「そのお金は返すのよ」
サヤカ達は唖然として固まっていた。
「な、何なんだよ。み、みんな、たたんじゃえ!」
サヤカが命じる。不良達が飛びかかる。しかし、彼らの時間はそこで止まっていた。
「ちょ、ちょっと?」
「か、体が動かない…」
「こっちも…」
「そんなばかな!?」
「や、やめてくれ、頭が割れそうだ…」
サヤカはうろたえるように仲間を見る。
「同じようになりたくなかったら、お金を返しなさい」
少女は凛とした表情で詰め寄る。サヤカ以外はみんな固まっている。
- 16 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)00時33分30秒
- 「おたく、何者なんだ?」
「あなた達には関係無いでしょ。さあ、返しなさい」
「ちっ!」
仲間を縛られているサヤカは潔く返した。リーダーとしては潔い態度だった。
ヒトミは訳もわからず奪われたお金を取り返す。
「もうこんな事はしないことね。さあ、一緒にいきましょ」
少女はヒトミに言った。ヒトミは後ろに付いて行く。
「ちょうどいいわ。このバギー、借りていくね」
少女はサンドバギーの運転席に乗った。
「さあ、乗って」
「あの人達、あのままで大丈夫なの?」
「離れれば力は届かなくなるの。これで少しは懲りたはずよ」
少女は優しくヒトミに笑いかけた。少し太陽に焼けたかわいい顔、さらさらとした髪、そして不思議な力。
(カッケー!!)
ヒトミは不謹慎にもそう思いながら横顔を見つめるだけだった。ヒトミの一目惚れであった。
- 17 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)00時43分10秒
- -
本日はここまでです。
真面目な内容と断っておきながら、ほんの少し甘めが追加されそう…
個人的趣向のせいで…
-
- 18 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月21日(金)10時06分28秒
- おお、カッケーあの人って、ちょっと新鮮ですね。
好きな組み合わせになりそうなんで期待してます。
- 19 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)23時40分01秒
- -
>18 名無しさん
クールなおねえさん風味の梨華さんになりそうです。
組み合わせは御期待に応えられるかと思います。
それでは更新、いってみよー。
-
- 20 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)23時41分49秒
- ― 3 ―
バギーは快調にとばす。旧市街をもうすぐ抜けそうだ。
「名前は?」
「ヒトミ」
「ヒトミちゃんね。あたしはリカ。どうしてあんな所にいたの?まさか知らなかったわけじゃないでしょ?」
「いやー、そのまさかってやつで…今日着いたばっかりで。友達を捜してて。一緒にやって来たんだけど、
ちょっと喧嘩して別れちゃって…」
「そう。でももう見つけるのは無理かもね。旧市街にはああいった連中がたくさんいるの。
友達がもし入りこんでたなら無事かどうかは保証できないよ。ヒトミちゃんは運がよかったけど」
ヒトミは俯いた。無事である事は願うが、もう二度と会えない気がする。ここはあまりにも人が多い。
- 21 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)23時42分31秒
- 「えっとリカさんは幾つ?」
「十七歳よ。ヒトミちゃんは?」
「十六です」
「なんだ、かわらないじゃない。さん、なんて敬語みたいのやめてよ」
「う、うん。じゃ、じゃあリカちゃんは何処に住んでるの?」
「東の方かな。興味あるの?」
「ええ?あ、いや、あの、助けてもらったお礼がしたいし、知り合いは誰もいないし」
「お礼なんかいいよー。たまたま通りかかっただけだもん。ほっとくわけにもいかないでしょ?」
「他の人はしらんぷりしてたみたいだけど」
「私はほっとけない性格なの!」
リカちゃんは笑う。笑顔がかわいい。
(…って、何考えちゃってるの!あたし!)
- 22 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)23時43分18秒
- 「どうしたの?」
「え?あの…凄かったよ!金縛りにするやつ、超能力っていうの?初めて見たよ」
「たいした事ないよ。訓練すれば誰だって出来る。ヒトミちゃんだって出来るよ」
「え?あたしにも?」
「でも強い心が必要だけどね。純粋で強い心」
「こころ?」
最後の砂防壁を越えると、そこはもう東京市の繁華街の裏手だった。もうすぐ完全に日は落ちる。
バギーをここで止めると、リカはキーを抜いてゴミ集積のペールに投げ入れた。
「これでよしと。どうせ盗まれたバギーなんだからこれでいいわね」
いたずらっぽく笑う顔は確かに十七歳のものだった。
「もうこの辺で平気でしょ。じゃあ、これからは気をつけてね」
「え?ええ!?ちょっと待ってよ!」
ヒトミは慌てて言った。何処にもいくあてが無い。どうすればいいのかもわからない。
「あの…もうちょっと付き合ってもらえないかな?…なんて」
「これでも忙しいんだよ、私」
「もうちょっとだけでもいいんだけど」
ヒトミは手を合わせてお願いする。
「じゃあ、少しだけなら」
リカは幼さの残る笑顔を返してくれた。
- 23 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)23時44分15秒
- ― 4 ―
東京市の夜は眠らない町と聞いてきた。事実、夜のほうが眩しいくらいだった。ぎらぎらと輝く夜。
そんなところでヒトミは寝る場所を探さなければならなかった。リカに頼み込む。
「簡易宿泊所みたいなとこ?案内するわけ?」
「お願い!リカちゃん!出てきたばかりで右も左もわからないんだよ。ご飯、奢るからさ?」
「もう、しょうがないなー」
宿はリカに案内されて簡単に決まった。宿泊料を前金で払うと、ヒトミはリカを食事に誘う。
勿論、誘うといっても場所はリカが決めたわけだが。
「聞いてもいい?」
「何?」
「その服装、迷彩服、リカちゃんがしてる事に関係あるのかなーって思って」
ヒトミはリカの着ている迷彩服を指差していった。別に服装がおかしいというわけではない。
この東京市では様々な人間が、それこそありとあらゆる人種が集まるるつぼである。
民族衣装を着ている人もいれば、奇抜なファッションを楽しむ若者もいる。
しかし、リカの迷彩服はまるで制服のようにピッタリきまっている。
- 24 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)23時45分16秒
- 「これ?意味が有るといえば有るし、無いといえば無いし。それよりヒトミちゃん、何食べる?」
「ねぇー、リカちゃん、はぐらかさないで教えてってばー。学生じゃないんでしょ?」
「学生よ。ヒトミちゃん達のいう意味とは違うけど」
「なになに?まわりくどいのずるいよ」
「ようするに、学校に行って皆と勉強してたって意味じゃないってこと」
「でも、親は?」
「いないよ。物心ついたときから」
「でも誰かに育てられたんでしょ」
「そうね。誰かにね」
リカはメニューをヒトミに渡す。
「あたしはこのベーグルサンドと、ゆで卵でいいや。…んで、毎日の生活はどうしてるのかな?って」
ヒトミは知りたくなった。リカの事がどうしても知りたくなった。変な感情だった。
「何でも聞きたいんだよ。教えて欲しいんだよ…」
ヒトミは必死に訴えた。せっかく知り合えた。少しでも長く引き止めておきたかった。
- 25 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)23時46分09秒
- 「へんなヒトミちゃん…負けたわ。教えてあげる」
「やった!あたしの勝ち〜」
「グリーン・ベレーって知ってる?」
「え?あの、一般的にいうところの陸軍特殊部隊員ってこと?カッケー!!リカちゃん!」
「じゃなくて、一種の特殊部隊員だけど、文字通り緑の特殊部隊員」
「ん?えっと、あたしにはよくわかんないんだけど…」
「ヒトミちゃん、モーニン樹って知ってる?」
「もーにんじゅ?ああ、それなら知ってるって。森でしょ?東京市の東に広がる最大の森」
「最大でもあるけど唯一でもあるの。残されたたったひとつの自然の聖域がモーニン樹と呼ばれているの」
「リカちゃん、そこに住んでるの?」
「そう。私達のグリーン・ベレーっていうのはね、森の中で暮らし、
東京が吐き出す毒から森を守る為に戦っている人達のこと」
「毒から森を守る?」
「残された森は東京にどんどん侵食されている」
「侵食?」
ヒトミはリカの言おうとしてる事がピンとこなかった。確かに壮大な森自体、見た事が無かった。
- 26 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)23時46分45秒
- 「わからないでしょうけど。あ、ごめんね。東京市にやってきたばかりのヒトミちゃんに
こんな事言ってもしょうがないね。私、この事になるとムキになっちゃうんだ」
「う〜ん、わかんないよぉ」
「わからなくていいの」
そういわれるとヒトミの方も気になってしかたがない。
「何でそんな不便なとこに住んでるの?」
「…自然を愛しているから」
確かに東京市は完璧な都市だ。しかし実際、自然というものにはかけ離れていた。
自然を克服しての姿ではないのか?それを否定する事は人類の成長を否定するのではないのか?
「どうしたの?」
「いや、あのさ、森が貴重だって事はわかるよ?勿論、守る必要だってあると思う。
でも水も、新鮮な空気も、木材だって作り出せるじゃん?」
「そうね。でもそれは本物?それに作り出せない物だってあるよ?」
「………」
「命。蟻一匹だって人間は作り出せない。東京市にある緑や動物、
あれっていったいどこから持ってきたものだと思う?モーニン樹なの。勿論、盗まれてね」
ヒトミは言葉を失った。
しかし、テーブルの上は料理でいっぱいになっていた。
- 27 名前:みつ 投稿日:2001年09月21日(金)23時53分21秒
- -
今回はここまで。
まだ結構ストックはあるんですが、小出しでいいですよね?どうでしょう?
そんな長編にはならないと思いますので、だらだら迷惑かけない様に
サクっと短期間で書き出していきたいと思います。
-
- 28 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月22日(土)03時28分51秒
- ふむ。独特の世界観が面白そう
更新はどうぞ作者さんの良いようにして下さいな
- 29 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時28分39秒
- -
>28 名無しさん
近未来の東京って感じでかいてます。
それでは本日もきりのいい所までいってみよー
-
- 30 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時29分47秒
- ― 5 ―
翌朝、ヒトミは早々に宿を出た。
昨日、リカと別れてから、ずっと森の事が頭から離れなかった。
しかし考えた所で答えは出ない。無知である事に不安を覚えた。
モーニン樹―
森が滅ぼうとしている。リカはそう言った。一方的な言葉を鵜呑みにしていいのかわからない。
しかし、リカに対する興味があるのは間違いなかった。
助けられた事とは別に、ヒトミの心を揺さぶる子に出会った事が、重大な出来事として心に残っていた。
ヒトミは知らず知らずのうちにモーニン樹を目指していた。ただその森を自分の目で見て確かめたかった。
まず足を探す。中古バイクが適当だろう。更には野営の為の準備。
たったひとりでの初めての旅立ちだが、リカに会えるかもしれないという思いが強くて止まらない。
最後に書店によった。地図を買う為だ。しかし、正確に森を描いた地図は置いてなかった。
- 31 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時30分31秒
- 「余り深入りはしないほうがええ。見つからんうちに目的の物を採って引き上げる事だね」
書店員はそう付け加えた。ヒトミはすぐに言葉の意味を理解した。草や花を採りに行くと思われたのだ。
リカの話しによるとバカ高い値で取引されているそうだ。採りに行く人しかいないって事か…
とにかく最低限は揃えた。今は不安よりも期待が大きい。なれないバイクのハンドルを強く握る。
東京を出る。
漠然と森に向かってひた走る。やがて森の近くで周回道を見つけた。森に向かって進入路が作られている様だ。
オフロードに乗り入れる。かつては森であった事を示すように潅木などがあちこちにある。
ヒトミはバイクを止めた。
切り株を見つけた。切り株ごと普通は掘ってしまうが、白蟻にやられている為、残していったのだろう。
リカの言葉に偽りは無かった。なんだかとっても悲しい気持ちがこみ上げてくる。
荒れ果てた荒野が何かを語ってくるようだ。
とにかく―
今すぐリカに会いたかった。会って話しがしたかった。今まで少しでも疑っていた自分が恥かしい。
ヒトミはバイクのスピードを上げた。森までもう少し。
- 32 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時31分24秒
- 「チョット、止まってくださーい」
ひとりの女性が手を振っている。陰にはジープがとまっているのが見えた。ヒトミはブレーキを踏む。
「スイマセン、チョット手を貸してもらえないですか?」
どうやら外国人のようだった。
「どうしたんですか?」
「車がクラッシュです」
油が漏れているらしい。ヒトミは下を覗き込んだ。
その時、いきなり頭に衝撃を受けた。ヒトミはそのまま気を失ってしまった。
- 32 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時33分56秒
- ― 6 ―
(何でこんなに頭が痛いんだ?)
ヒトミは頭を振って起きあがろうとした。辺りを見渡す。女の姿は無い。バイクも無くなっていた。
ジープはそのままだった。そこで初めてヒトミは気がついた。
(あたし、殴られて、気絶してたんだ…)
盗まれたのはバイクだけだった。よく見るとジープにはいくつかの穴があいていた。
銃弾の痕といっていいだろう。何か争いでもあったのだろう。物騒な話しだった。
しかし油断したのが間違いだった。こういう所にいるって事が悪い連中に違いない。注意すべきだった。
森まであと数キロという所。歩くしかない。頭痛はまだあるが大事にはいたってないようだ。
むしろたんこぶなんかは引き始めている。ヒトミは足を早めた。
何時の間にか道らしきものはなくなっていて、タイヤの跡なども見えない。
森に辿り着いたのだ。
上にはざわざわと木々の枝葉が鳴っている。しかし下は無残だった。木の枯れ葉が散乱している。
掘り返した跡も幾つかあった。大掛かりな盗伐が行われたようだった。錆びたワイヤーが放置されている。
ヒトミは森に入った。そこでは太陽の光は吸い取られている。ゆっくりと奥に進んだ。
- 33 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時35分44秒
- (森ってこんなふうなんだ…)
ヒトミは土を踏む感触を味わいながら奥に進む。木漏れ日がちかちかとヒトミを照らす。
ヒトミはじっと耳を澄ました。
木々の呼吸が聞こえてきそうだ。
小鳥の囀り。木々の葉がこすれ合う音。風の音。涌き水の音。それらは森の交響楽だ。
そんな中から人の声が混ざってきた。十人ぐらいのグループだった。ヒトミに気がついた。
「あ、こんにちは」
「ひとりできたの?」
グループにリカの姿は無かった。
「はい」
「何かの調査とかで?」
「まあ、そんなとこです。…あの、あなた達がグリーン・ベレーなんですか?」
グループは互いに顔を見合わせた。
「とんでもないわ。単なる探鳥会よ。バードウォッチング」
その女性は顔色を変えて否定した。確かに首には双眼鏡をぶら下げている。
- 34 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時37分06秒
- 「さ、もう帰ろう」
別の男性メンバーが言った。全員が大きなリュックを背負っている。
何人かのリュックからは木の枝や草の葉のようなものがはみ出していた。そして逃げるように消えていった。
ヒトミは気がついていた。無断採取だろう。双眼鏡なんてカモフラージュに過ぎない。
後味が悪かった。再び静寂が訪れた。ヒトミは更に歩き出した。道なき道を。
気がついた時にはすっかり迷っていた。うかつだった。もう戻る事すら出来ない。
太陽の位置すらハッキリしない。方角も全くわからなくなっていた。
「おーい!」
叫んでみるが返事はない。ヒトミは考える。ここは単純に川に沿って移動する事にした。
いつかは出られると思ったからだ。近くにせせらぎの音が聞こえる。
- 35 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時41分48秒
- 「あれだ!」
ヒトミは思わず声に出して足を早めた。岩の間から水が湧き出しているのだ。
涌き水は一筋の流れとなって下っている。ヒトミは一口飲む。そして水の流れを辿っていった。
水の流れを辿って行けば、外まで通じていると思ったからだ。それしか今は思いつかなかった。
夕暮れは迫っている。ここには人を襲うような動物はそうそういない事はわかっている。
しかし、それでもどこからか化け物が襲ってきそうな感じだった。
(怖い…)
ヒトミは訳も無くびくびくする。泣きたくなってきた。それでも足は進める。
しかしそれもしばらくして止まった。止めるしかなくなった。何故ならその川の先は滝になっていた。
ヒトミは力なく座り込む。既に周りは闇に包まれている。恐怖がヒトミを包み込む。
「リカちゃーん!!………」
ヒトミは絶叫した。
- 36 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時43分22秒
- ― 7 ―
鳥の声でヒトミは目覚めた。
(朝だ…)
ヒトミは寝袋のまま上を見た。木漏れ日が注いでいる。動物は襲ってこなかった。
怪物は襲ってきた。そいつは自分の中に潜んでいた。逃げられない。しかし目覚めてみれば何でも無い。
すがすがしい空気を吸い込んだ。木々の芳香が肺を満たす。しかし深呼吸したところで名案は浮かばない。
「さあ、出発」
不安を振り払うように自分に言い聞かせた。後ろは振りかえらなかった。どんどん前に進む。
ヒトミは疲れてもただひたすらに進んだ。ふと、森のざわめきが大きくなったように感じた。
耳を澄ます―
犬の声―
ヒトミは森の鼓動の中でそれを聞いたように感じた。そして、はっきりと聞こえた。
「ワン!ワン!」
それは確かに犬の声だった。
(野犬…かな?)
獰猛な野犬ならば襲われる可能性がある。ヒトミは身構えた。犬の声が近づいてくる。
ヒトミの前に現れたのはちりちりアフロ毛の犬だった。首輪らしき物をしている。
何処かに犬をつれてきた人がいるのだ。
- 37 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時44分43秒
- 「おーい!道に迷ったんだけどー!助けてくださーい!」
ヒトミは恥も外聞も無く、ありったけの声で叫んだ。犬は尻尾を振っていた。
「アフロ!誰なの!?」
ヒトミはその声に雷に打たれたように立ちすくんだ。目の前に現れたのは見た事のある姿だった。
「リカちゃん…」
見間違えるはずは無かった。迷彩服ではなく普通のブラウスにジーンズだったが確実だった。
ヒトミは一目でリカだとわかった。
「ヒトミ…ちゃん…ど、どうして!?」
リカは精一杯の驚きを表していた。
「リカちゃん…リカちゃーん!!」
助かったとヒトミはその場にへなへなと座り込んだ。
「どうして?いつここにやってきたの?」
「昨日。迷ってて…」
「無茶だよ。でも、どうして…」
「森が見たかったんだよ。それに…」
「とにかくここじゃなくてベースキャンプに行きましょ。私達の住んでる所よ。お腹減ってるでしょ?」
「うん、ぺこぺこ」
- 38 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時45分58秒
- ヒトミは尻尾を振っているアフロ毛の犬の頭を撫でた。この森でのリカとの再会。奇跡としかいえない。
「どうしたの?」
リカはたずねた。不覚にもヒトミは泣いていた。どうしようもなく怖かったことを思い出した。
そっと涙をリカがぬぐう。ホントは大声を上げて喜びを表したがったが、必死でこらえる。
しかしこらえてもこらえても溢れてきていた。
「ヒトミちゃんも泣くんだね。男の子みたいからそんな事無いって勝手に思っちゃった」
「リカちゃんのいじわる…」
「あそこだよ」
リカちゃんは指差した。丸太小屋が並んでいた。そこだけが切り開かれてた。
- 39 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時47分43秒
- 「ここに住んでるの?」
「そう」
「他のグリーン・ベレーの人達は?」
「丁度パトロールの時間かな」
「リカちゃんは?」
「今日はオフなの。一応許可をとって知り合いがたずねてきたという事にしてあげるけど、
夕方にはここから出てもらわなくちゃならないの…」
「夕方までに?そんな!」
「そう、迷い込んだなんていうのはなんの理由にもならないの。滞在する事はどうあっても出来ないのよ」
「そんなに厳しいんだ…」
「最近は組織だって盗伐に来るから手におえなくなってきてるし…」
「あたしのバイク、盗んだ人もそうなのかなぁ?ジープが銃弾受けてたけど」
「昨日?」
「うん。間抜けな事に殴られてね…気がついたらいなかった」
「どこで?」
「あたしにはわかんないよ。周回道から適当に入って二キロぐらいかな」
「ちょっと待って。連絡とってみるね。ミニモニの一派が入りこんでるの」
「ん?みにもにって?」
「私達が戦っている盗伐組織」
リカはヒトミに椅子をすすめて、無線機を取りにいった。
- 40 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時48分46秒
- ― 8 ―
ひとり乗りのスクーターは少し重そうに森の中を滑走した。
「しっかりつかまってて」
リカはスピードを上げる。ヒトミはしがみついていた。
ホバースクーターは地上五十センチを保って木々の間を飛翔する。
浮動するスクーターは森内の植物を踏みつける事は無い。
グリーン・ベレーには絶対に必要な乗り物だった。リカの運転は巧みだった。
(なんかリカちゃんっぽくない…)
ヒトミは勝手にそう思っていた。
「迷う事は無いの?」
「そんなの、仕事にならないじゃない。隅から隅まで全てを知るにはかなりの年数が必要だけどね」
「えっと、でもリカちゃんは確か十七歳だよね?」
「ほんとは三十歳くらいだったりして」
リカはイタズラっぽく笑った。
ヒトミは体をリカの迷彩服に密着させた。
ひとり乗りのスクーターの為、ひどく窮屈だった。お尻が痛い。
遠慮がちに腰に回した手をもぞもぞと動かす。
- 41 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時49分41秒
- 「あっ、ちょ、ちょっとヒトミちゃん!変なとこ触らないでよ!!」
「ご、ごめん!ちょっとお尻が痛くて」
「我慢してよ。もうすぐだから」
「ところでさ、方角はどうやって知るの?」
「木に聞くの」
「はぁ?木に聞くって…どうやって?」
「そんな事説明できないよ」
不意に何処かで銃声が鳴った。三発。続いてもう一発。
「始まってる。危ないからあたしの側をゼッタイに離れないでね」
(なんか自分よりちっちゃくて女の子らしいリカちゃんにそんなこと言われるのって情けない…)
一台のスクーターが止まっていた。銃撃戦は始まっている。
「降りて。送ってあげられるのはここまでよ。あっちに行けば出られるから」
「でも…」
「大丈夫。ミニモニは一般市民には手を出さないから」
「でも、できないよ」
「わかって、ヒトミちゃん。私が困るの」
- 42 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時50分41秒
- リカは突き放すように言った。
「時々キャンプをはって、正面から戦闘を挑んでくるの。かなりの人数で。
目的は手薄になったエリアで別隊が樹木を伐採するの。
グリーン・ベレーの絶対数が足りないからとてもカバーしきれなくて。
私だってそんなにたくさんの人には力も使えないし…くい止めきれないの」
「隊員の数は?」
「約三十人かな」
「ええ?たったの?」
「そう。ここ数年でかなり減ったわ。さあ、そんな事より早く行って」
「あたし、ここに残るわけにはいかないかな…?」
「バカなこと言わないでよ。もう、困った子。ついてきて」
リカはヒトミの手を引っ張った。ブッシュの陰に人の姿が見える。
- 43 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時51分18秒
- 「さ、ここまで。じゃあね…」
リカはヒトミの背中を押した。その時、森の中にいきなり数発の銃弾が撃ち込まれた。
ヒトミは森の中に転がった。木の陰からリカが応戦している。ヒトミは立ち上がれなかった。
「どうかしたの?ヒトミちゃん!!」
流れ弾が右の太ももに当たったのだ。
「弾が…当たった…らしい…うぅ」
ヒトミはやっとの事でそう言った。ジーンズがどす黒い血で濡れている。
「そっちにいくから、動かないで」
リカの声。激痛はひどくなる。これまでに経験のした事の無い痛みだった。血が溢れる。
ヒトミは次第に気が遠くなるのを感じていた。
- 44 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時52分15秒
- ― 9 ―
ヒトミは目が覚めた。目の前にリカの顔。
「気がついた?」
「うわっ!うわぁ!」
「大丈夫だよ、ヒトミちゃん。私だよ、リカだよ」
(リカちゃんの顔が目の前にあったからびっくりしたんだってば…)
ヒトミは起きあがろうとした。足が痛む。そうだ。銃弾を受けたんだ。今は包帯が巻かれてある。
「ここは…どこ?」
「私の部屋。覚えてないのね。弾は摘出したから大丈夫だよ。すぐによくなるよ」
「リカちゃんがしてくれたの?」
「違うよ。ドクターが。私はここに運んだだけ」
「…また、迷惑かけちゃったね」
「しょうがない人だよね、ヒトミちゃんって。特例としていられるのよ」
「ホントはダメなの?」
「そう。無許可の侵入者は即刻退去。例え怪我しててもね」
- 45 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時53分09秒
- リカは髪をかきあげながら言った。十七歳の素顔がある。迷彩服ではなくかわいい私服に着替えていた。
白いTシャツにコットンパンツ。ヒトミはまぶしそうに見る。リカが視線に気付く。
「な、何?」
「えっ!?いや、あのさ…そう、どこに許可出せばいいの?そうすればここにいられるんでしょ?」
「もう、ぜーんぜん知らないんだから、ヒトミちゃんは。例えば学術的な研究目的とかが無い限り、
連合委員会は許可しないよ?」
リカは呆れたように話す。
「あれから戦闘はどうなったの?」
「今もにらみ合いが続いてるみたい。あ、何か食べる?」
「うん、いただきます」
リカは部屋を出ていった。
これからどうすべきなのか。ヒトミはぼんやり考えた。明日には追いだされる。
どうあがいても部外者で不法侵入者だった。帰っても何も無い。そういえばマキはどうなっているのか…
様々な思いが錯綜する。なんだかすっかり弱気になってしまっている自分がいた。
- 46 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時55分12秒
- 「おまたせ。さあどうぞ」
「ありがとう」
「………」
「………」
「起きあがってよ。食べさせてあげる何て言ってないよ」
「そっか。ハハハ…」
ヒトミは上半身を起こした。足の傷みは感じない。麻酔がまだ効いているのか?
「壁に背を凭せ掛けて」
リカはちょっぴりお姉さんぶった口調で命令した。顔はやさしく笑っている。
「これ、リカちゃんの料理?」
「そう。何か文句でもあるの?腕は悪いかもしれないけど、材料は最高の物だよ。
すべてモーニン樹の中でとれたもの」
「リカちゃんの手料理が食べられるなんて、怪我はしたけど…ついてるなぁ」
「な、何言ってるのよ。早く食べて」
ヒトミのくいっぷりは凄かった。
- 47 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時56分54秒
- 「どう?」
「ほんとに美味しいよ。材料もいいけど、腕もいいって!」
「あ、ありがとう」
ヒトミはあっという間に平らげた。デザートはモーニン樹で採れたフルーツ、メロン。
栽培種ではなく、自然のままになった果実。虫やら鳥やらにかじられた跡はあるが全く気にならなかった。
全てが自然だった。ヒトミは森の恵みを腹いっぱいに詰め込んだ。
「申し訳無いけど、お付き合いはこれまでなの。松葉杖を用意したから使ってね」
「えー、リカちゃんいっちゃうの?」
「甘えないで。まだやる事があるの」
リカは仕事に戻ったようだ。残ったのは静けさ。ヒトミはまた考えにふけった。
自分は何をすべきなのか。何がしたいのか。見えそうで見えない。
いつしかのリカの言葉が響いてくる。
「私達は、ただハエを追っ払っているだけなのかもしれない…」
自嘲的な笑い。意味はそのまま。森の侵入者を追い払っている。ただ追い払っているだけなのか?
「そんな事、ないよ…リカちゃん…」
ヒトミはつぶやいた。
- 48 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)01時59分12秒
- ― 10 ―
窓から朝日がさしこんでいた。ヒトミは起きあがると背伸びをした。
足の傷みは和らいでいたが、完全とは言えない。松葉杖で外に出た。
「どうやら大丈夫みたいね」
声をかけてきたのはドクターと呼ばれている人だった。リカがすぐ近寄ってきた。
「起きられた?今たたき起こそうと思ってたところなの」
「何かあったの?」
ヒトミはたずねた。周りは出動の準備をしているのかあわただしい。
「何でもないわ。あ、こっちの人がドクター。治療をしてくれた人よ。名前はケイちゃん」
「どうも、ありがとうございました」
「じゃあ、私が送るから、いこ?」
「あの、話しがあるんだ。リカちゃんだけじゃなくみんなに」
ヒトミは思い切って言った。
- 49 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)02時00分03秒
- 「何を?」
「夕べ、一晩掛かりで考えたんだけど…あたしもグリーン・ベレーになりたい。入隊したいんだ」
「それ、本気なの?」
リカはヒトミの大きな目を見つめる。ヒトミは頷いた。覚悟はある。ヒトミはリカの目を真正面から見据えた。
「ヒトミちゃん…」
「どんな仕事でもするから。森を守る為にあたしも戦いたいんだ」
「本気で言ってるの?」
「うん。リカちゃんのおかげで目が覚めたんだ」
「でも考えてるほど簡単じゃないよ。ヒトミちゃんは優しいから…
私はヒトミちゃんが森を理解してくれたらそれで満足だよ?」
「そうだよ」
横からドクターが口を挟んだ。
「あんたの事はリカから聞いたよ。その思いをずっと持ってくれればいいから。その意気だけはかうわよ」
- 50 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)02時01分29秒
- ドクターはヒトミの肩をぺしぺしと叩きながら言った。そしてリカが部隊長を連れて帰ってきた。
ヒトミも女の子にしては長身だが、この部隊長はヒトミより更に少し高い。ヒトミは緊張している。
「あたしはリーダーのカオリ。話しは全て聞いたよ。結論から言うとね、入隊は出来ない」
「何故ですか?」
「いい?あなたはね、不法侵入者なんだよ。リカがかばっているのも知ってる。
盗み目当てじゃなくても無許可には変わりないのよ。それ、忘れてない?」
まるで心の中を見透かされるような光りをたたえた目だった。
「それから、どれだけリカに迷惑をかけたと思ってるの?それに感化されて入隊しようなんて筋違い」
ヒトミはリカを見た。
「私は迷惑だ何て思ってないけど…残念だね…私は、ヒトミちゃんと…」
リカは語尾を濁して俯いてしまった。
- 51 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)02時03分23秒
- 「気持ちはわかるよ、カオリも。でもどれだけ知ってるの?森の事。迷わずここに帰り着く自信はある?
これは教えるものではないの。感性の問題なの。あなたにはまだ森の資質が足りない」
ヒトミは言葉を失った。言われた通りだった。リカは黙ったままだった。ヒトミは天を仰いだ。
「リカはね、強くあなたを推薦してたよ。でもね、カオリの判断はノーなの。そして忘れないで。
意気込みはカオリもかう。要はそれを今後どう生かすかだよ。決して不合格なんて言ってないから」
「さあ、行こう…」
リカが促す。ヒトミはうなだれた顔を上げた。
「送るのは東京市駅ね」
「どこでもいいよ。リカちゃんが連れてってくれるなら」
ヒトミは肩を落として適当に答える。
- 52 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)02時04分01秒
- 「足は大丈夫?」
「平気だよ」
「病院でもう一度見てもらってね」
「そうするよ。忙しいところ、ごめんね」
(はぁ、ダメだったか…気を落とすな…気を落とすな…)
ヒトミは心に言い聞かす。
「それから、もっと森の事が知りたかったら、ここ、訪ねてみて。ハロプロっていう事務所よ。
ナツミさん、いると思うから」
リカは小さなメモを手渡した。
「ナツミさん?」
「うん。とってもいい人だから。私の名を言えば資料を提供してくれるよ」
「ハロプロ?」
「そう呼んでるの。ホントはハロープロジェクトって言うんだけど。支援グループの事務所って事になってる」
- 53 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)02時06分19秒
- リカはそう言ってヒトミのシャツの裾を引っ張った。
「早くしまって。でも気をつけてね」
「ありがとう、リカちゃん…あ、そういえばリーダーにあたしの事、推薦しててくれたんだね…」
「私は、ただ…」
「あたし、まだ全然諦めてないから。スタート地点にも立ってないって感じ?
グリーン・ベレーになるためにめちゃくちゃ勉強してくるから。そしてね…
絶対またリカちゃんに会いに行くから!!」
「そんなこと…」
「ダメ…かな?」
「そんなこと…ないけど…」
「よっしゃー!待ってろよー!リカちゃーん!!じゃあね!!」
やる事が山ほどありそうだ。ヒトミはポケットに紙片をねじ込んだ。
- 54 名前:みつ 投稿日:2001年09月23日(日)02時12分49秒
- -
本日はここまで。
明日、明後日は無理かもしれないからその分多めに。
物語はおり返し地点にきました。
-
- 55 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月23日(日)04時53分29秒
- 折り返し地点ですか〜
もっと長く読みたいな、とか言ってみちゃったりして・・・
- 56 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月23日(日)16時12分44秒
- おお〜! こうゆう未来の小説読んだの始めてなのですごい面白いです。
更新頑張って下さい。
- 57 名前:作者 投稿日:2001年09月23日(日)18時56分33秒
初めて読みました〜。面白いです。
ヒトミは一員になれるのでしょうか?
頑張って下さい!
- 58 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時16分00秒
- -
レス、ありがとう!!読んでくれてる方がいるとわかって一安心です。
>55 名無しさん
長くすることも可能かもしれませんが、一応、起承転結を基本に進めているので、
変にしまりの無い話になっても逆につまらなくなるかもしれませんので…
>56 名無しさん
なきにしもあらず、な未来を思い浮かべて…複雑な気分
>57 作者さん
その質問は物語の中心となるんでしょうかねぇ…どうなることやら(笑)
それでは今回分、ようちぇけらっちょ!
-
- 59 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時17分23秒
- ― 11 ―
リカと別れたヒトミはまずアパートを探した。リカに案内されていたのですぐに見つかった。
次に念の為、アパートの近くにある病院に向かった。
「どうしたんだね?」
「昨日、流れ弾に当たったんですけど…」
「物騒な話しだね。どれ…」
「弾は抜いてもらったんですけど、痕の具合を見てもらおうと思って」
「化膿すると面倒になるからね。…これ、本当に昨日なのかな?」
「はい」
ヒトミは包帯の解かれた自分の太ももを見た。赤く太い線のような治療痕が生々しく残っている。
医師は傷を指でなぞって首をひねった。
- 60 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時18分51秒
- 「そんなはずはない。傷口はふさがってるし、縫ったあとも無いようだが…」
「どうかしたんですか?」
「まったく。からかっちゃいかんよ。それとも心配性なのかな。薬も必要無い。診察料も別にいらんよ」
ヒトミは何の事だかわからなかった。確かに昨日銃弾を受けたのである。痛みもあり、歩く事もできなかった。
それが医師によるともう完治の状態だという。普通では考えられなかった。医師にも冗談だと思われてる。
「あ、もういいんです。診察料はちゃんと払います」
松葉杖は必要無かった。ヒトミは病院を飛び出した。あれからたったの三十時間足らずで傷が治ってしまった。
ふと、ヒトミは思い出した。リカの使った不思議な力を。
あのドクター、ケイにも不思議な力、治癒力があり、それによってではないかと考える事にした。
- 61 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時19分29秒
- ヒトミはグリーン・ベレーに助けられっぱなしであった。自分があまりにも無知無力だと改めて知った。
そしておろかな動物の仲間だった。知らず知らずのうちに自らを破滅へと導いている人間。
その事に人間は気付いていない。ヒトミもその中のひとりだった。おろかな構成員から抜けなければならない。
自然との共存は決して文明の後退ではないと知った。
暴走する東京市。削られるモーニン樹。
この図式について知らない事が多すぎる。どうするべきか…
「森の事を知りたければ、ここを訪ねてみたらいいよ」
唯一の手がかりはリカのくれたメモだった。ハロプロ事務所。住所と簡単な地図。
旧市街。そこはヒトミがサヤカ率いるプッチモニに襲われ、リカに出会い、助けられた場所だった。
今はここに行くしかなかった。情報が必要だった。
砂防壁に隔てられた旧市街は鉄とコンクリートと砂だけの街だ。浮浪者がいるぶん、まだ生きている。
人の流れが完全に途絶えた時、その街は死ぬ。そして町は更に移動するだろう。
- 62 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時20分07秒
- ヒトミは地図を確かめる。事務所は大きな通りから少し奥にある。人通りは殆ど無い。
しかし危険地帯だ。こんな所に事務所があるという事は、おそらくは秘密を守る為であろう。
東京市でのミニモニに関する事など扱っているに違いない。
ヒトミは見上げた。そのビルに目的の事務所はある。窓には明かりがついていた。
ビル内のエレベーターは動いていなかった。階段を上る。五階。ドアには表示はないが明かりはついていた。
ヒトミはノックをする。
「あの、こんばんわ…誰かいませんか?」
「誰なの?閉めて帰ろうと思ってるんだけど」
リカの言っていたナツミだろうとヒトミは思った。背は小さめで愛嬌のある顔でにこにこ笑っている。
- 63 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時20分50秒
- 「あの、リカちゃんから聞いて…ヒトミといいます」
「リカから…」
「はい。ナツミさんですよね?」
「そうだけど。あ、そうそう、ナッチでいいよ。今ね、部隊の者はいないよ?私はただの留守番役だから」
「ちょっと調べものがあったもので」
「調べものなの?資料見るのはいいんだけどね、もう時間なんだ」
「そうっすか。じゃあ、明日また出なおします」
「…ねぇ、朝までここにいられる?朝まで留守番できるんだったらいいけど」
「へっ!?あ、はい、できます」
「えへへ、これは特別サービスだよ。せっかく来たのに追い返すのはかわいそうだしね」
「ほんとにいいんですか?」
「リカのお墨付きなら信用できるから」
「ありがとうございます」
「うーんとね、ここら辺は安全が保証されてないから鍵はきっちりかけて、終わったら電気を消してね。
あ、そうそう。そっちに折りたたみのベッドがあるから、適当に使ってね。
明日は九時に来るけど、それでいい?じゃあ、お願いね」
- 64 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時21分27秒
- 予想もしない展開だった。書棚には森に関する本が並んでいる。ビデオなどもある。
とても一晩では見られない量だ。それでもヒトミはひとつずつ丁寧に読む事にした。
気力が充実していて眠気など感じない。ビデオを見ながら本を読みつづけた。
ずいぶんと考え方が変わっていた事に気がついた。恐怖を体感し、あたたかさに包まれ、失望を味わった。
今まではただ流れに身を任せていただけだったが、流れから外れた事によって現実を知った。
リカが認めてくれている。ヒトミは自分が変わろうとしている事を感じていた。
- 65 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時22分13秒
- ― 12 ―
深夜。しかし静かではない。外は暴走する若者の時間だ。
ヒトミは全く気にする事無く、本を読みつづける。そしてヒトミは深く知る事になる。
街で売られている鑑賞用の木、草花、鳥、蝶、虫。悪商人によって高値で取引される。
盗られるのは植物だけではなかった。乱獲によって絶滅した動植物がたくさんある。
ヒトミは知った。だんだんと怒りが込み上げてきた。同時に悲しくなってきた。
ドンドンドン
突然ドアが激しくノックされた。ヒトミは椅子から立ち上がった。
(だ、誰だろ…強盗とかじゃないよね…)
深夜に誰かが訪ねてきた。隊員ではないだろう。
「あの、どなたですか?」
ヒトミは恐る恐るたずねた。ノブがガチャガチャとなっている。鍵がかかっているので当然開かない。
「ねぇ、お願い!開けてって!」
若い、女の子の声だ。ヒトミは戸惑った。ヒトミはそろそろとドアに近づき、外の気配をうかがう。
- 66 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時23分03秒
- 「お願い!助けて!」
声は緊迫している。ただ事ではない。確かに女の子ひとりのようだ。
罠かもしれないが、女の子が襲われているのだとしたら無視することは出来ない。
思い切ってロックを外した。待ちかねたようにドアを開けて飛びこんでくる。
ヒトミはすぐにロックをした。ついでに電気も消す。相手が誰なのかは確認できない。
「ハァハァ、ありがとう。助かったよ、マジで」
暗がりの中で、息を吐きながらこっちを見上げる顔には見覚えがあった。
サヤカだった。
ヒトミからお金をまきあげようとした、あの不良グループ、プッチモニのリーダーだった。
ヒトミはビックリして声も出なかった。サヤカの方も気がついて口をあんぐりさせている。
「おたくはあの時の…」
サヤカはやっと口を開いた。その顔は青ざめている。どうやら仕返しに来たのではない事は確信した。
「あ、あの、すまん。追われてるんだ。まさかおたくに助けられるとはね…」
その時、複数の足音がそこら辺に聞こえる。
「くそっ!ここのビルじゃなかったか!次、行くぞ!」
足音は遠ざかる。
- 67 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時23分44秒
- 「えっと、どういう事?」
ヒトミは唾を飲みこみながら、低い声でたずねた。
「ごめん、あの時の事は謝るよ。でさ、あの時のチーム、バラバラになっちゃってさ。
要は裏切られちゃったってわけ。それより、何でおたくがこんなとこにいるの?」
「事務所の留守番をしてるだけです」
「そ。ねぇ、ちょっと座らせて」
ヒトミは困惑していた。不意の来訪者で、しかも知っている不良だ。どうしたいいのかわからない。
「そういえばさ、あの女の子はどしたの?」
「知らない」
「全く疫病神だよ。バギーは盗まれるし、その事でチームはがたがた、その隙に縄張りは荒らされるし。
あ、あたしの愚痴なんかどうでもいいか。ここで何してたの?夜中に」
「モーニン樹の事を調べてた」
「そいつぁいいねぇ。あたしにもひとくち乗せてくれよ」
ヒトミは絶句した。
- 68 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時25分21秒
- 「何だよ、教えてって。なに調べてんのさ」
「森の事。植物や動物」
「何の為に?」
「知りたかっただけ」
「そんな事知ってどーすんの?東京市の発展を邪魔してるだけでしょ?」
「それは逆です」
「そーかなー。あたしは森はあくまでも人間の為に利用すべきだと思うけど?」
「それは違います。ここにある資料に書いてあります。横暴なのは東京の住民だし、それを客とした組織…」
「ミニモニの事?」
「ミニモニを、知ってるの?」
ヒトミは机を乗り出してサヤカに飛びつく。
- 69 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時26分00秒
- 「表向きは建設業界の優良企業だが、影では植物、動物を売りさばくブローカー。
モーニン樹の木を切る権利を持っているって聞いてる」
「権利?」
「詳しくは知らないけどその事で争いは続いている。ミニモニが森の民から買ったって言ってるけど。
おたくはようするにミニモニに反対なんだね」
「そう。ミニモニと闘う為に色々勉強してるんです」
「ミニモニと闘う?おたくが?アハハハハハ!冗談でしょ?」
「でも森を破壊するのは許せない。悪いものは悪い」
「まるで正義の味方だねぇ。バカみたい」
「あなただってミニモニの手下グループに追われてるんでしょ?」
「そりゃそうだけど…」
「だったら逃げてばかりいないで、立ち向かったらどうですか!」
「逃げてる…か」
- 70 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時27分14秒
- ここでサヤカは自嘲的に俯いた。だいたい話の流れが掴めてきた。サヤカはミニモニに憧れていたのだ。
しかしプッチモニがバラバラになってしまった事によって、行き詰まっていたのだ。
「確かにね。わかるよ。おたくの言ってる事は正論だよ。
でも例え真実を知ったとしても、どうしようもない事だってあるんだよ」
「それでもいいんですよ。何もしなければ、知らなければ無理だっていう事すら気付かない…
あたしもそうでした」
「お説教はいいよ。わかってるから…」
サヤカは宙を見つめている。
「ミニモニの事で何か知っている事は無いんですか?」
「少しぐらいなら。情報ならいつでも集められる」
サヤカは腕を組んで自信ありそうに答えた。
- 71 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時31分38秒
- ― 13 ―
意見は時々対立したが、ヒトミとサヤカの間には奇妙な友情が芽生えていた。
同じ若さも手伝っての事だろう。共に満たされぬまま、共にちょっぴり挫折を味わっている。
ヒトミにとってサヤカとの再会は意外な収穫だった。結局朝まで一緒に過ごした。
サヤカは本や資料には手を伸ばさなかったが、ビデオを見たり、ヒトミの話しには耳を傾けた。
「ミニモニに関する情報は任せて」
そう言ってナツミが来る前に事務所を出ていった。一睡もしていなかったが充実していた。
朝をさわやかに感じる。
- 72 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時32分11秒
- 「おはよー。もう起きてたの?」
「いや、実は寝てないんですよ」
「調べものは済んだ?」
「とんでもない!これだけの資料、一晩なんて無理ですよ。それに調べものというより勉強したかったんです」
「はいはい、えらいねぇ」
ナツミはヒトミをそっちのけにして掃除を始めた。ちょっと居心地が悪い。
「あの、手伝いましょうか?」
「いいよいいよ。あたしの仕事なんだから」
「あのー、聞いてもいいですか?グリーン・ベレーに入るにはどうしたらいいんですか?」
「知らないね。ナッチはただの留守番だからね」
「でも、方法があるんですよね?」
「さあ?そう言われても知らないものは答えられないって」
ナツミはとぼけた口調で答えた。ヒトミは気がついた。
(そっか!そうだよ!あたし、試されてるんだ…)
- 73 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時32分49秒
- ナツミが何もかも知っている事は間違いない。
ただの留守番だというナツミが、いきなり来たヒトミが隊員と知り合いだからといって、
そんな簡単に事務所を自由に使わせるはずが無かった。リカから連絡がきているはずだった。
「まだ勉強するつもりなの?」
ナツミは机の上を拭きながら言った。
(もう!とぼけちゃって…)
強引に聞き出そうとすれば出来るかもしれない。しかしそれでは勉強した事にはならない。
真実を体験しろという事なのだ。それが全てだ。ヒトミには無いものだ。
チャンスを与えられているんだ―
「いや、今日はもうこれで…またお邪魔します」
「そりゃかまわないけど、いきなりはダメだよ。今度からはちゃんと連絡してからね」
- 74 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時33分31秒
- ナツミは笑顔を見せていた。ヒトミは事務所を出た。
アパートに帰った。寝転んで反芻する。森への思いは強くなるばかりだった。
森については勉強したが、ミニモニについては組織の大きさ、組織の頭、組織の本拠地など、
詳しい事は不明だった。ビデオに少し登場したぐらいである。盗伐の手口を説明したものだった。
ミニモニは木を切る権利があるという。権利があるなしに関わらず、森を破壊する行為には違いない。
個人での盗みなどは草花程度だが、ミニモニはだんだん大掛かりで大胆になってきている。
大型のトラック、クレーン、集材機まで持ち込んでいるようだ。昨日のビデオはそう説明していた。
「あたしにまかせて」
頼りはサヤカだけである。信じるよりなかった。
何もないアパート。こっちにきてから一週間も経っていなかった。
ヒトミは睡魔に襲われた。昨日から一睡もしていなかった。
ヒトミは睡魔に身を任せた。
- 75 名前:みつ 投稿日:2001年09月25日(火)00時44分01秒
- -
今回はここまで。
いい感じで進んでいるのでサクサク書いてきます。あと3、4回で終われそうです。
-
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月25日(火)17時26分15秒
- 放置が無いんで安心してます(w
- 77 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時34分05秒
- -
>76 名無しさん
パソが壊れない限り安心して下さい。あとは反書運動とか…
プッチモニダイバーV3、終わってしまったので追悼更新…
-
- 78 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時35分18秒
- ― 14 ―
「ヒトミ!!いる?」
ドアを叩く音でヒトミは目覚めた。ドアを開けるとサヤカが立っていた。
「よっ!」
陽気に手を上げながら中を見まわす。
「ボロッちいアパートに住んでるんだねぇ。っていうか何にもないし」
「昨日借りたばかりだから何もないんです」
「と思って、優しいサヤカ様が差し入れ持ってきてあげたよ。あの時のお詫びと昨日のお礼ってとこかな」
手には袋が握られていた。中には色々と食べ物が入っている。
- 79 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時35分50秒
- 「まあ、入って下さい」
「ところでミニモニの事なんだけど。まずわかった事はボスの名前はマリ。
生活の為に工務店をはじめて、ほんの数年で今の建設会社に大きくした。
びびったことに年はあたし達よりちょっと上なだけって話し。頭の回転がよくて要領がいいらしい。
若き天才成功者だよ。大豪邸も建ててるよ、結構近くに。それはいいとして、重要な事がもうひとつ。
どこかに秘密の地下施設を持ってる。施設は貯木場とか製材所らしいよ。場所はまだわからない」
サヤカはそこまで言うと溜息をついた。
「秘密の地下施設?」
「モーニン樹の盗伐から持って帰ってきたものを保管、加工してるんだろうね。ミニモニの心臓部。
これ以上はよくわからない。あんまり派手に動くとヤバイから、あたしは。なんせ敵が多いからね」
「ミニモニってどれくらいの人数がいるんでしょうね」
「さあ…そういえば最近、若い子をたくさん入れたらしい。目的はまだわからないけど」
そう言って首をひねった。
- 80 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時36分40秒
- 「まあ、入って下さい」
「ところでミニモニの事なんだけど。まずわかった事はボスの名前はマリ。
生活の為に工務店をはじめて、ほんの数年で今の建設会社に大きくした。
びびったことに年はあたし達よりちょっと上なだけって話し。頭の回転がよくて要領がいいらしい。
若き天才成功者だよ。大豪邸も建ててるよ、結構近くに。それはいいとして、重要な事がもうひとつ。
どこかに秘密の地下施設を持ってる。施設は貯木場とか製材所らしいよ。場所はまだわからない」
サヤカはそこまで言うと溜息をついた。
「秘密の地下施設?」
「モーニン樹の盗伐から持って帰ってきたものを保管、加工してるんだろうね。ミニモニの心臓部。
これ以上はよくわからない。あんまり派手に動くとヤバイから、あたしは。なんせ敵が多いからね」
「ミニモニってどれくらいの人数がいるんでしょうね」
「さあ…そういえば最近、若い子をたくさん入れたらしい。目的はまだわからないけど」
そう言って首をひねった。
- 81 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時37分26秒
- 「若い子?」
「そう。あたし達より年下もね」
「それだけでもわかっただけ、凄いですよ」
「まあ一応はプッチモニのリーダーだったからね。情報のつては色々あるんだよ」
「そういえばあたし、サヤカさんのことなにも知らない…」
「話しても面白くないよ。年は十七、十五で家出してから家には戻ってない。
親も捜す気ないらしいし。まあ離婚しちゃってこっちもどうなってるのか知らないし」
「東京市の生まれでしょう?」
「ちょっと南の方だけど。ねぇ、ちょっとちょっと、ここでお涙頂戴の話し何てやめてよ。もう帰るね」
サヤカは立ちあがった。そういえば外はもうすぐ夜をむかえようとしている。
「あ、ちょっと待って下さい。もしよかったら、その邸宅近くまで案内してもらえませんか?」
「そりゃ別にかまわないけど…」
サヤカはあまり気がすすまないようだったが、ヒトミの申し出に応じた。
- 82 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時38分10秒
- 東京市の高級住宅街。
ヒトミとサヤカは地下鉄を降りて階段を上ると地上に出た。
「あのビルの裏だけど、行ってみる?」
「そうですね。せっかく来たんだし」
「それにしても人が多いねぇ…おたくの影響じゃないけど、あたしもうんざりするよ」
街は相変わらず人で溢れていた。東京市に静かな住宅街なというものは存在しない。
同じように暗い路地裏なんてものも存在しないといってよかった。
どんな深夜でもどんな狭い場所でも光りと音で溢れている。
人間は本能的に闇を恐れる動物かもしれない。森での恐怖の夜を思い出す。
ふたりは通りを渡ろうとした。
その時―
ヒトミに視界に見覚えのある顔がかすめて行った。
「マキ!?」
思わずつぶやく。人違いかとも思ったが、その横顔を間違えるはずもなかった。
歩き方もマキだった。マキの他にひとり、一緒に歩いている。
- 83 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時39分16秒
- 「何?」
「友達です。東京市に一緒に来た」
ヒトミはマキの後ろを追った。サヤカは慌てて引っ張り、ヒトミを止めた。
「ちょ、ちょっと待って。声かけちゃダメ。あとをつけるよ」
「え!?どうして?」
ヒトミはサヤカの意外な言葉に驚いた。
「間違いない。ミニモニだ」
「ええっ!?ミニモニ!?」
ヒトミは大声を出しそうになって、慌てて口を押さえた。
「そう。間違いない。麻薬を運んでるか密売してるのか。あたしは何度か見た事あるから間違いない。
ああいう若い子を使うんだよ。ほれ、あのカバン、目印なんだよ。その道の人なら知ってる」
「ま、まさか…」
マキは小さく平たいカバンを小脇に抱えていた。信じられないがサヤカが嘘を言ってると思えなかった。
- 84 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時40分41秒
- 「ミニモニにスカウトされたんだろうね。薬で操られてんだよ。洗脳に近い事されて抜けられなくなる」
「だったら、やめさせなきゃ」
「だから待ってって。せっかくのチャンスだよ。黙って後ろについてきて」
「………」
マキともうひとりの人は人の波を縫う様にして歩いていく。その後を追う。
ずっと無言になった。常にうるさい街も静かに感じた。ヒトミの目にはサヤカの後姿しか映っていない。
「あたしの勘だとおそらく地下に下りるよ。入り口を見つける絶好のチャンスかもしれない」
サヤカの言った通り、マキたちはひとつのビルの方へ入っていった。
「よし、ここで待っててね。あとはあたしにまかしといて」
そう言い残すとサヤカは静かにビルの中に消えていった。
ヒトミの頭は未だにオーバーヒートしていた。人違いでいて欲しいと願うが、結果は出ていた。
この数日間、自分の身に起こった事を考えると、マキにも何があっても不思議ではない。
- 85 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時41分23秒
- ただ―
お互いはまるで逆の方向に歩いていた。別れたまま、そのまま正反対にきてしまった。
ヒトミはモーニン樹を守ろうと。マキはその森を破壊しようと。
しばらくするとサヤカが戻ってきた。
「よし。ばっちり、入り口は見つけたよ」
「マキは?」
「通路の中に入っていった。どう?行ってみない?」
「…でも、もし見つかったら…」
「大丈夫だよ。なんかさ、向こうもコソコソしてるって感じじゃないんだよね。
それに、いざ見つかったらミニモニの志願者でも装えば何とかなるよ」
サヤカはすっかりその気だった。好奇心に満ち溢れた目をしている。ヒトミもマキの事が心配だった。
本当に洗脳されているのか確認したわけではなかった。まだ、引き戻せるのかもしれない。
会って話しをすればわかってもらえるかもしれない。ヒトミは決断した。
「さあさあ」
「はい、行きましょう」
「おし。そうこなくっちゃ」
- 86 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時42分11秒
- ― 15 ―
ヒトミをビルの中に導いた。奥隅の方にある荷物専用のエレベーターでB2まで降りる。
「これをつかうのがミソみたい。地下に行く階段はなかったよ」
地下二階は倉庫のような感じだった。ドアがたくさんあり、冷凍室みたいなものまであった。
全くもって人気はない。東京市の地上では考えられないことだった。
廊下の正面には鉄製のドア。サヤカはピンを頭から外して、鍵穴に突っ込んだ。
「こんなの、サヤカ様にかかれば…カード式だと無理だけどね」
なれた手つきで鍵を外した。サヤカはそっとドアを開く。
「誰もいないみたい。堂々といこっか」
- 86 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時43分13秒
- ドアの向こうは、トンネル上の通路が斜め下に向かって緩やかなカーブを描いて続いていた。
照明は人の顔が判別できるくらいの明るさでついている。幅、高さが二メートルくらい。
さしずめ白い壁の回廊だ。下りきった所で通路は二手に分かれていた。特に何の表示もない。
「どっちかな?こっちにいってみっか」
サヤカは右の方を指した。
「出口がわからなくなるんじゃ…」
ヒトミは心配になってきて言った。
「そっか。じゃ、こうしとこう」
サヤカは先程のピンで白い壁に大きく×の印をつけた。壁に塗られた白い塗料に跡がついた。
- 87 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時44分39秒
- 「これでどう?」
また通路は二手に分かれる。まるで迷路だ。サヤカはまた印をつけようとした。
しばらく考えていて、今度は大きな矢印だった。通路が分かれたり、十字に交差しているたびに、
サヤカは舌打ちしながら壁に矢印をつける。何時の間にかだんだんと通路が狭くなっていた。
幅が一メートル半ぐらいしかないように感じる。
「おっかしいなぁ…こんなはずじゃないんだけど」
サヤカは不安を隠さなかった。やがて通路は行き止まりになった。
鉄格子がはめられてあったのである。その先は真っ暗である。
「なんだよー、行き止まりかよー。この先は工事中って事?」
サヤカは鉄格子を覗きこむ。
- 88 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時46分00秒
- 「引き返しましょう?いやな予感がするんです…」
ヒトミはサヤカの腕を引っ張った。迷い込んだら逃げられない森に似ていた。ヒトミはそれを経験している。
人工であるぶん、余計にいやな予感がする。なぜなら侵入者を防ぐ為にわざと作られているからだ。
自然な迷路と人工の迷路では意味がまるで違う。
「そう、そういうなら戻るか」
ふたりは分岐点まで戻った。逆の方に進むとまた分岐点がある。更に十字路。どこまで行ってもただの回廊。
「もう引き返しましょうよ。完全にこれは罠ですよ」
ヒトミは言った。しかし、すでに罠にはまっていた。
「あ、ちょっと待って。ねぇ、これってあたしがつけた印じゃないの?」
サヤカは対面の壁を指差していった。確かに矢印をつけたあとがあった。しかしそれは消えかかっていた。
壁には傷に対する再生能力があるらしく、つけた傷が殆ど消えかかっている。慌てて戻る。
ある程度戻った所で矢印は完全に消えていた。ヒトミは壁を手でなぞった。
今まで気がつかなかったが、ぶよぶよした感じの壁だった。
- 89 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時47分41秒
- 「やられたね。こんな事、気がつかなかった。特殊な塗料でも使ってるんだ」
サヤカはがっくりして言った。完全に迷路で立ち往生である。
「何か紐のようなもの、持ってません?」
「ヒモ?」
「そうです。通路の幅です。最初の地点から微妙に狭くなっているんです。
広い方に進めば、何とかなるかなーって思って。見えない法則みたいなものですよ」
「なるほど。確かに狭くなってるし」
「ベルト、でどうですか?」
「そっか、ふたつ合わせれば」
ふたりのベルトを結んだ。二メートル近くはある。それを基準に通路の幅を計ればいい。作業は簡単に進んだ。
数ミリの感覚で通路の幅が違っていた。あるいはセンチの違いもある。人間では気がつかない程度だ。
- 90 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時48分58秒
- 「どっちも同じだ」
しばらく戻ってきた地点で全く同じという場面に遭遇した。何度やっても同じだった。
「どっちか選んでよ」
サヤカは少し投げやりに言った。自分の判断ミスをまだ悔やんでいるのだ。
「じゃあ、こっち」
どっちでもいい。次の分基点で幅が狭くなっていたら引き返してくればいい事である。
しかし、その先はまた鉄格子だった。
「またかよ」
「すいません。戻りましょう」
「いや、待ってよ。おたくの説によるとアレは抜けられるんじゃないの?
迷路に罠があると、案外こういうのが正解だったりするんだよね。常識の盲点ってやつ?」
「だめですよ、カンなんか。引き返しましょう」
「ほらほら、見てよ。向こうに道が見えるよ」
サヤカは覗きこんでそう言うと鉄格子をつかんだ。
- 91 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時49分31秒
- その瞬間―
雷のような青白い閃光と火花が散った。
「キャー!!」
サヤカは絶叫した。一瞬の事だった。衝撃でそのまま吹っ飛んで激しく痙攣している。
鉄格子には高圧電流が流れていた。
「サヤカさん!!」
ヒトミは叫んだ。しかしサヤカは何も答えなかった。鉄格子は余韻でまだ火花を散らしている。
ヒトミは体をゆすった。口に手を当ててみる。かろうじて息はしているみたいだ。
しかし全く意識はないようだ。辺りは何事もなかったように静まり返った。
- 92 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時50分44秒
- ― 16 ―
いきなり男達の声が聞こえた。ホバーコンテナに乗ってきた。
他の足跡が全くなかったのは、ミニモニのメンバーはホバーに乗って迷路内を移動しているからだった。
サヤカを抱えたヒトミの前に現れたのは数人の男達だった。
「なんだ。ガキじゃねえか」
「どこから入りこんだ?」
「それが…わからないんです」
「わからん?わからんでどうしてここにいる?何しに忍び込んだ?」
「まあいい。こいつを連れていけ。そっちのくたばりそこねたやつもだ。手を焼かせやがって」
ヒトミはがっちりとひとりの男に腕を取られた。いかにもミニモニの手下であるような人相だ。
男達の会話から迷路は鼠取りと言われているようだ。つまりミニモニの地下施設は、
回りに張り巡らされた迷路に守られているのである。確かにグリーン・ベレーも簡単には近づけない。
迷路にはもっと他にも仕掛けがあるに違いない。だが男達は迷う事無く進んだ。
- 93 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時52分06秒
- 通路はやがてひとつのドアにいき当たった。自動ドアがスーッと開く。その向こうは体育館みたいだった。
ぎっしりと並んだ巨木の列。木の香りが立ち込めている。天井にはクレーンにチェーンにワイヤー。
それがレールに沿って自在に動くようになっていた。ここがサヤカの言っていた貯木場に違いなかった。
近くに製材所もあるに違いない。地響きのような音が絶え間なく鳴り響いている。
「事務所に連れていけ」
貯木場の端の事務所に連れてこられた。もはやどうにもならなかった。
ヒトミの目にはまだサヤカの姿が焼き付いている。
「ねえさん、ねずみを連れてきました」
「ご苦労さん。くたばりぞこないは病院の前にでも捨ててきたって」
ドアを開けて、ねえさんと呼ばれる偉そうな女が入ってきた。年は二十後半だろうか。
金髪で鋭い目つきをしている。
- 94 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時53分08秒
- 「お嬢ちゃん。どうして入りこんだんか聞かせてや」
「あの…」
ヒトミは言葉を探した。不用意な一言で危険になるだろう。たったひとつの逃げ道はマキだった。
「友達を見かけたんです。その後を追いかけて」
「友達?」
「はい。名前はマキといいます。あたしと同い年で一緒に東京市にきたんです。はぐれてしまって…」
「あんたの名はなんていうん?」
「ヒトミです」
「あの瀕死の方は?」
「サヤカです」
女はそばの部下を手招いて何か耳打ちした。部下が出ていく。
「調べればわかる。最近ここを嗅ぎまわっているっていう情報があってな。こういう事は無視できへんのよ」
ヒトミは背筋が冷たくなった。地下迷路に入り、おまけに貯木場も見てしまっているのである。
簡単には解放してくれなさそうだ。もうひとつ不安材料があった。モーニン樹に行く時にバイクを盗んだ人に
顔を見られている事だ。ミニモニの手下である事は間違いない。
- 95 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時54分11秒
- 「それにしても偶然友達を見たなんて、この東京市でどれくらいの確率であるん?
そもそもあんたみたいなガキがうろつくような場所じゃないしな。この辺になんや用でもあるんかい?」
相手は百戦錬磨のつわものだろう。嘘はすぐ見破られる。
「まあええ。しゃべりたくないんやな。そんなん、あたしらだって知られたくない事もある。
けど、けどやな、あんたが見たものは現実や。この事を口外されては都合の悪いものもある」
「どうすればいいんですか?」
ヒトミは覚悟を決めて聞いた。殺されたくはなかった。ミニモニにおもねってでも生き延びたい。
逃げ出すチャンスを待つしかない。
「それは私が決めることちゃう。あんたが決めることちゃうの?」
「ここから出たって、誰にもしゃべりません」
「誰がそれ保証すんの?口約束なんてあかんがな」
電話がかかってきた。女は電話をとった。全く隙のない物腰だった。
- 96 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時55分58秒
- 果たして逃げ出すチャンスはあるのだろうか?マキは洗脳されてしまっている。
ミニモニは完全にコントロールできる、洗脳した者しか直属の支配下には置かない主義だ。
ヒトミにまっているものは、マキが受けたような洗脳なのかもしれない。ミニモニに利用されるロボット。
マキを考えるとそれはたった一日でも可能なのだろう。薬漬けにされてはかなわない。
時間的な余裕はない。自白剤でも飲まされてらそれこそおしまいである。
モーニン樹の事もグリーン・ベレーの事も全て知られてしまう。どうすればいいのかわからなくなってきた。
女は受話器を置いた。
- 97 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時56分37秒
- 「友達、マキやったな。その子に会いたいか?」
「はい」
「まあ、このユウちゃんがそのうち会えるようにしといたる」
ヒトミは反射的に答えていたが、本当のところは会いたいのか会いたくないのか複雑な気持ちだ。
ミニモニの手下となったマキが、ヒトミの言葉に耳を貸すとは思えなかった。
「部屋を用意してあるから。そこでゆっくり考えるなり、寝るなり、自由にしい。
あんた、若いしな。それにここまでやってきた、見応えもあんねん。」
手下に連れて通された所はおそろしく明るい部屋だった。天井は全て照明。まるで眠らせないかのようだ。
幾つかの仕切られた小部屋が並んでいる。ベッドと便器しかなかった。まるで牢獄だ。
- 98 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時57分33秒
- 「ここだ。鍵はない。ただし逃げるなんて事は考えない方がいいぜ。
死にたかったら挑戦してもいいが、オレならよすね」
手下は饒舌に語って、ヒトミを部屋に入れた。ドアはいつでも開く。しかし出ようとは思わなかった。
(試されているかもしれない…)
ヒトミは慎重だった。短絡的な行動は命取りになる事は東京市に来て散々学んだ事だった。
ここは焦るところではない。行動を読もうとする意図がありありだった。
目のくらむような照明は、精神の錯乱を狙っているのかもしれない。洗脳の第一歩かも知れない。
ヒトミはベッドの下にもぐりこんだ。そこだけが光の届かない場所だった。
知らぬ間にヒトミは眠っていた。
- 99 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時58分47秒
- ― 17 ―
どれくらいの時間がたっただろう。時計は没収されていてしまっている。
時間の感覚は早くも狂ってしまっていた。ヒトミはごそごそとベッドの下から這い出た。
「食事だ」
突然、ドアの外から声がかかった。おそるおそるドアを開けた。盆にのった簡単な料理が置かれている。
部屋の中へ持ってきたはいいものの、食べる気はしなかった。何が混入されているのかもわからない。
ヒトミはその全てを便器の中に入れて流した。しかしお腹の虫は暴れている。
(いいの!ベーグルとゆで卵じゃないし!ダイエット中だし!)
やつらの出方を待ってチャンスを得るしかない。ヒトミはじっと待った。ただ待つしかなかった。
自由にしろといっていたが、そのままほっておくわけがなかった。
どうしたらここを脱出できるか…色々考えを巡らせてる内にドアが叩かれた。
- 100 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)00時59分26秒
- 「は、はい…」
ヒトミは最大限の緊張をして返事をした。ドアを開けて入ってきたのはマキだった。
「マ…」
ヒトミは声を詰まられた。ユウコという人が話していたので、全く予想していなかったわけではない。
しかし、いきなりの登場にはさすがに驚く。
「よ。ビックリしたよ。まさかこんなとこで会うなんてね」
「こ、こっちだってびっくりしたよ!」
マキは笑って言った。ヒトミは記憶の中のマキの笑顔と照らし合わせた。特に変わったようには見えない。
「上の人に呼ばれてここへ来たんだ。いったいどうしてこんなとこにいるわけ?」
「昨日だったかな…マキを見かけたんだ」
「あたしを?ふーん」
「追いかけている内に迷い込んじゃった」
ヒトミは慎重に言葉を選んで答えた。
- 101 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)01時00分12秒
- 「そう。それで、あたしがここでどんな仕事してるか、知ってる?」
「全然」
「ミニモニの仕事。面白いよ」
「なんなの?ミニモニって」
「ほんとに知らないの?知らないでここまで来たの?ま、お互い出てきたばっかで知らなくても当然だけど」
「そうなんだよ。だからこまっちった」
「困ってるのはあたしの方だよ。もうヒトミに振り回されるのはごめんだよ」
喧嘩した時の事を思い出して、チクッとヒトミの胸が傷む。
- 102 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)01時00分54秒
- 「何か指示されてきたの?」
「何が?ヒトミが会いたがってるって聞いて、会ってこいって言われてきただけだよ」
「あたし、どうなるのかな?」
「んん、しらなーい。あ、ヒトミも一緒にやろうよ。それがいいじゃん!決まりね!」
「あの、ごめん。そんなつもりで来たんじゃないんだ。ほんとに迷い込んだだけなんだ」
「なんだ、そうなの。つまんなーい。でも組織外の人がここに入ってきちゃいけないんだよ?
ユウちゃんはそんな事じゃ納得しないと思うけど」
「だーかーらー、あんた追いかけて迷いこんだだけなの!」
「そんな事言っても、どうせ色々調べられると思うけど。自白剤とか使われちゃうよ?」
(やっぱり!)
マキの口が軽くて感謝したのは初めてかもしれなかった。自白剤など使われたら全てばれてしまう。
組織に利用されるどころか消されてしまうかもしれない。
- 103 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)01時01分45秒
- 「ねぇ、逃がしてくれない?」
「あたしが?」
「あんた以外に誰がいるのよ!」
「それは出来ないよ。ミニモニは裏切れない」
「出口に行く方法を教えてくれるだけでいいの」
「無理だよ。迷路を脱出しなくちゃなんないし」
「迷路以外にないの?」
「あるけど。皆の前で手を上げて逃げていくようなもんだよ?」
「じゃあ、迷路の抜け方」
「口じゃ説明できない。あたしも自分じゃわかんないんだけど、体が勝手に覚えてるって感じ?」
(そういう事か…洗脳で刷り込ませるんだ。洗脳された者しか通れないって事になる)
- 104 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)01時02分33秒
- 「ヒントだけでもいい」
「死ぬけど?」
「死にたくはないよ。でもここにはいられない事情があるんだ」
「事情ねぇ。やっぱりね。実はね、ヒトミを森付近で見かけたってミカが言ってるんだ。
さっき知ったんだけど。何してるのか知らないけど、聞かない事にしてあげる」
「そっか…やっぱり。お願い、内緒にしといて?」
「別にそれぐらいいいけど。迷路はね、斜めに坂を登っていくタイプ。入り口は製材所のゲートわき。
施設内での警備なんて無いに等しいから、そこまでで捕まる事は無いよ。分岐は右か左か真っ直ぐか。
選択回数は三十六回。うんとね、十二×三回かな。最初は右。最後は直進。ゆっくりとのぼってる。
ヒントはこれだけ」
「ありがとう」
「いいって。あたしとヒトミの仲じゃん」
(洗脳っていっても潜在的な意識を変えるだけなのかな…マキ、表面上は何も変わらないのに)
それがかえってヒトミには苦しかった。今の自分にはどうする事も出来なかった。
- 105 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)01時03分11秒
- 「あ、そうそう。それ持ってった方がいいよ」
壁際を指差した。そこには液体の入ったビンが置いてあった。
飲み水として置いてあるのだろうけど、危険なので手をつけずにいた。
「それを使って、上り坂を判断して。じゃあ。あとは勝手に逃げてね」
マキはそれだけ言うと何事も無かった様に戻っていった。マキのヒントで何とかなるかもしれない。
ヒトミはビンを掴む。ヒトミは間合いをはかるようにドアに手をかけた。ゆっくりと開く。
確かに人の姿は無かった。製材所の方向は知っている。迷路以外はいたって普通だ。
ヒトミは深呼吸をしてから製材所に向かった。
- 106 名前:みつ 投稿日:2001年09月27日(木)01時06分41秒
- -
ふぅ。今回はここまで。30分もかかってたし…それでは、ダーイバーーイ!!
-
- 107 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月27日(木)04時21分23秒
はたして、よっすぃ〜は逃げれるのだろうか…。
面白いです。頑張って下さい。
- 108 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)02時42分29秒
- -
>107 名無しさん
ん〜どうでしょう?いったい、ど〜なってしまうのか!?しんじゃったりして!?…
あまり読んでる人もいないみたいなので、予定より削って進めていきます。
取り敢えず終わらせたいので(放棄はしないよ)。今回は迷路内になりますが、
わかりにくいかもしれません。目いっぱい想像して下さい。では、いってみよー。
-
- 109 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)02時45分07秒
- ― 18 ―
製材所のゲートまでは何の問題も無く辿り着いた。警備らしき人の姿は無い。
ここ、地下施設内には入る事も出る事も出来ないとたかをくくられている。
自動製材機の音だけが響く。殆どの作業はコンピュータに任せてあるらしい。
ヒトミはゲートの前に立った。ドアが開く。ここが命をかけたゲームのスタート地点だ。
さっそく道は二手にに分かれていた。最初の分岐点は右。ここから先が問題だ。
ヒトミは慎重にゆっくり歩いた。追っ手はないが焦っては罠にはまる。次の分岐点。
三択である。ゆっくり登っている。ヒトミは地面に這って勾配を見る。さっぱりわからない。
ヒトミはポケットからビンを取り出した。中の水を使うまでもない。丸いビンは低い方へ転がっていく。
これで判断するしかない。マキを信じるしかない。ヒトミはそれぞれの通路にビンを転がした。
構造上、ひとつだけが必ず登りになっていた。ヒトミはビンにしたがって直進した。
- 110 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)02時46分25秒
- 更に分岐点。同じ方法をとるしかない。人の目は当てにならない。錯覚がある。
全て真っ白な壁は登ってるのか下ってるのかさえ、人の目には判断がつかない。
わかりにくいところでは通路を数歩進んでからビンを転がす。勾配が微妙になってきた。
わからないところで初めて中の水を使う。水は低い方へ流れる。左。直進。左…慎重にクリアしていく。
時間の感覚は無くなっていた。さすがに時間をかけすぎるとミニモニのメンバーと鉢合わせするかもしれない。
判定が微妙になってくる。それにしたがってビンの水も尽きてしまった。ふと思いついて小便も利用する。
(恥かしいなんていってられないよね…)
この時点で十四の関門を突破していた。最初のを合わせると十五である。
まだ半分もいっていなかった。なんとかビンの転がり具合だけで進む。
天井の照明が変わらず照りつける。先程のマキの顔が浮かんでくる。どうにもならないだろう。
心の奥底をすっかり変えられている。ミニモニに都合よく使われている。洗脳や薬のせいだろう。
それでもマキはヒトミを助けようとしてくれたのだ。
- 111 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)02時47分29秒
- ヒトミは慎重に歩を進める。十八番目をクリアした。半分だ。気が遠くなる。
ヒトミは失敗に気がついた。水を多く使いすぎた。唾を使う。なんとか二十四番目まできた。
あと十二。もう何もない。その他の案は浮かばない。頼るのはカンか…
ヒトミはとりあえず、今までで一番回数の少ない左へ進んでみた。確率的には高い。
あくまでもとりあえずだった。少しいくと分岐があった。こうなるともうお手上げだ。
別れる部分にたって、その先の様子を見ようと思った。立った時にかすかに足元に違和感を覚えた。
(なんだろう…)
一瞬考えてしまった。次の瞬間には床が沈んでいた。
「あっ!!」
ヒトミは床が沈む瞬間、足元が柔らかくなる瞬間に跳び上がって腕を伸ばした。
かろうじて上半身が床の淵にかかっていた。ヒトミは宙にぶら下がった状態で腕の力で這い上がった。
- 112 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)02時48分30秒
- (はぁはぁ、やばかった、マジやばかった!)
重量がかかると床が抜ける仕組みになっていた。ポケットの中でビンは砕け散っていた。
それに気がつくと、ヒトミは最後の賭けを思いついた。すぐにもとの分岐に戻る。
これは死と隣り合わせのゲームだった―
ヒトミは左腕を捲くった。躊躇無くビンの破片を手首に押し当てる。判定するためには液体が必要だった。
血もまた液体である。流れた痕跡がはっきり残るので正確に判定できる。鮮血が滴り落ちる。
右手で傷口を押さえる。直進。血は方向を示していた。だんだん痛みは感じなくなっていた。
精神的に張り詰めていて、ハイな気分になっていた。
自殺する為に手首を切ったのではない。生きる為に切ったのだ。
ヒトミは先を急ぐ。傷口が塞がれば、またガラスの破片を突き立てる。噴出す鮮血。血にも限界はある。
意識が朦朧としてきた。
- 113 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)02時50分32秒
- (もう少しだ…)
関門はあと六つまでに減っていた。どういうわけか、傷口がすぐに塞がってしまう。その度に広げる。
もう意識は限界だ。貧血状態である。ヒトミは立ちすくんだ。時間もどれくらいたったかわからない。
既に精も根も尽き果てていたが、ヒトミは先を見つめていた。
これ以上は危険かもしれないが、更に、今度は二の腕に突き刺した。
最初の傷は完全に塞がってしまっていた。銃弾の摘出手術を受けたあとの異常な回復力に似ていた。
どうしてなのかはわからなかった。
もう、血は殆ど出なかった。危険を感じて出血を拒否されているようだった。ものすごい脱力感。
意識は飛ぶ寸前。ぼんやりと森の事を思い出す。森はもっと複雑な迷路だった。
(なんでこんなことしてるんだろ…)
完全な思考が出来ない状態である。何を考えているのかさえわからなくなっていた。
ヒトミは膝をついた。眠気に近い感覚が襲ってくる。
- 114 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)02時51分58秒
- (…もうだめ…でもかえりたい…森に行きたい…リカちゃんに会いたい…)
もはや体力はない。しかし気力は残っていた。意識を奮いたたす。
ヒトミは森の事を思い出した。どこからか森の交響楽が聞こえてきそうな気がする。
ヒトミは耳に集中する。確かに聞こえる。森の交響楽。
ヒトミは立ちあがり、その音に引かれる様にゆっくりと歩き出す。まるで夢遊病者だ。
自分の感覚は余りなかった。吸い込まれるように歩くだけ。
聞こえていた音が消えた。目の前の通路は十字になっていた。そこが最後の分岐点だった。
真っ直ぐ坂道になった先に、はっきりと扉が見えたからだ。
(最後は直進…)
ヒトミはありったけの力で扉を目指す。足がもつれる。扉のノブに手をかける。重い扉を開く。
(助かった…)
ヒトミはそのまま意識が飛んだ。
- 115 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)02時57分49秒
- -
こんな夜中に何をしてるんでしょう?私。
話し、はしょったら余計に解かり辛くなってるし…
頑張ってもうちょっといってみますか…
-
- 116 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)03時05分38秒
- ― 19 ―
どのようにしてアパートまで帰りついたのか、ヒトミには全く記憶が無かった。
サヤカが差し入れてくれた物を食い散らかしたまま、寝てしまったらしかった。
目が覚めた時、それらが散乱していたからだ。
(そういえば、サヤカさん…無事かな…)
とにかくヒトミは生きているらしかった。とりあえずシャワーを浴びる。記憶が次第によみがえってきた。
ヒトミは腕を見る。左腕は傷だらけだった。しかしその傷も何日も経ったあとのように塞がっている。
痛みもさほどなかった。脳などにも大量出血によるダメージなど影響を感じない。
扉を開けた時の感動がよみがえる。あの迷路を脱出できたのは奇跡だった。
生きているのが不思議なくらいだった。夢の様でさえあった。しかしこうして生きているのだ。
それというのもあの森の呼び声であった。声に導かれたまま、手探りで迷路を抜けたのである。
- 117 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)03時06分42秒
- (なんだったんだろう…)
ヒトミは濡れた髪を拭きながら考えた。考えたところでわかるはずもなかった。
ヒトミ自身はただ朦朧と音の聞こえる方に歩いただけだ。
しかし、いまやもう、迷路の図面がはっきりとヒトミの頭の中にできあがっていた。
ヒトミは深呼吸をした。生きている事を確認するように。
「そう。あたしは森に行かなくちゃならないんだ」
ヒトミは声に出していった。わけもわからずそう思った。森が呼んでいると強く感じた。
だからこそ脱出できたはずだ。ヒトミは全てをバッグに詰めて、勢いよく部屋を飛び出した。
- 118 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)03時07分43秒
- (今すぐ行かなければならない。森を守る為に…リカちゃんに会う為に…)
何よりも強くそう感じる。しかし手段が問題だった。
バイクはやはり危険だろう。ミニモニの手下に会う可能性がある。
ヒトミが迷路を脱出した事がばれたら、何らかの命令が下されているだろう。
ミニモニにとって、もはやヒトミは危険人物である。アパートも危ないかもしれない。
一刻も早く、地下施設の事をグリーン・ベレーに知らせなければならない。
グリーン・ベレーとミニモニの争い、ミニモニの攻勢を断つ為には地下施設をどうにかする事が必要だ。
どう、森へ入るか。地上からでは危険だ。それならば空から…
- 119 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)03時08分49秒
- 「そっか、ヘリ!ヘリ使うしかない!」
ヒトミはつぶやいて、手の平にこぶしを打ち当てた。パン!と小気味いい音が響く。
早速地図を出して調べる。ヘリポートを見つけた。ヒトミはカードから大金を引き落とした。
大きな賭けだ。一生を左右する大きな博打を打とうとしている。それでも悔いはないだろう。
あるいは再び追放されるかもしれない。やった事に悔いが残らなければそれでいいと思った。
自分なりに体験した真実をぶちまける。答えはそののちに出る。
バッグに必要なものを買い揃える。その他諸々の中にエプロンがあった。
リカの為のエプロンだ。あの食事を作ってもらった事がひどく感動的だった。
全く意味の無い物だと思ったが、気がついていたら買っていたのである。
- 120 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)03時10分02秒
- (リカちゃんに似合うだろうなぁ…)
苦笑する。そこにはグリーン・ベレー、そしてリカに憧れている自分を発見した。
ひょっとしたらと思っている。一筋の光明がさしていた。迷いもあった。しかしやっとそれが払拭できた。
迷路に体当たりで臨んで勝った。やればできると身をもって知った。もはや怖いものなど何もなかった。
ギラギラ照りつける太陽のもと、ヘリポートに急いだ。
「モーニン樹に?」
「はい、ベースキャンプに降りたいんです」
「ベースキャンプ?」
「森を飛んでもらえればわかります。とにかく!一台チャーターしたいんです」
初めての事で要領がわからなかった。予約無しで女の子がひとりでやってきて、冷やかしと思われた様だ。
ヒトミは現金をテーブルの上に積んだ。多額の現金を見て係員の顔色が変わった。
- 121 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)03時11分41秒
- 「わかりました。すぐにフライトの用意をさせます」
慌てたように係員が奥に走っていく。まさか女の子がひとりでチャーターするとは思っていなかったようだ。
掲示板にスタンバイの文字が踊る。ローターが回転し、激しく風を巻き起こす。
操縦士がOKの合図を出した。ヒトミは乗りこんだ。ゆっくりとヘリが浮き上がる。
「モーニン樹だって?」
「はい、お願いします」
「どこが見たいのかね?」
「端から端まで飛んでもらえるとありがたいんですけど…中に村があるんです」
「高度は?」
「できるだけ低く」
「じゃあ200以内ぐらいでいいかね?」
「はい、おまかせします」
ヒトミの目的はたったひとつ。上空からベースキャンプを探す事だった。ヘリはスピードを上げた。
眼下には森が広がり始めた。かけがえのない緑の海。とても懐かしく、胸にグッとくるものがあった。
- 122 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)03時12分58秒
- 「あ、すいません、スピードを落としてもらえませんか?ゆっくり行って下さい」
ぽっかりと空いた、草地のような部分が見える。あそこだ。
「そこです。間違いありません」
「ほう、人が住んでる所なんかあったんだ」
「ここで降ろして下さい」
「何だって!?ダメだよ。森には許可を取らないと降りる事はできない。許可証を持っているのかね?」
「えっと、急いでいるんです。とにかく降りてください」
「無茶言わないでくれ。勝手に飛び降りるのはいいが、着陸はダメだ。航空法でそう定められている」
「でも降りたことはあるんでしょ?あそこなら降りられますよね?」
ヒトミは小高い草地を指差した。
「お金なら払います。これだけでいいですか?」
ヒトミはバッグから現金の束をつかみ出した。
- 123 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)03時14分04秒
- 「本気かよ!おい!」
「お願いします。特別になんとか…」
「………」
操縦士が黙って計器を見る。ヘリがホバリングの状態に入る。
「しょうがない。もしもの場合の罰金を払ってもおつりがくるようだから引き受けてやるよ」
「ありがとうございます」
ヘリが森の中に吸い込まれていく。
「この事は誰にも内緒にしてもらいたいんですけど…」
「わかってるって。お互い様って事だ」
操縦士は難なく着地させた。
「すぐ行って下さい」
ヒトミはヘリから飛び降りた。
- 124 名前:みつ 投稿日:2001年09月28日(金)03時30分17秒
- -
今回はここまで。ストック、書き途中だったものも全放出。もうすぐ物語は終わります。あしからず。
自分で娘。系のHPをしていまして、そこで娘。のゲームを作成、公開しているんです。
次はそっちに集中するのでなにかと急ぎ足に…(^^;)。実はこの話しはゲームのネタだったんですが、
ゲーム化しても面白くならなそうだったので、ここで小説として書き始めたんです…
などと、言い訳しつつ、フェイドアウト!…
-
- 125 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月29日(土)19時47分03秒
- かなりおもしろいです。
終わっちゃうのが残念です。
- 126 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時23分16秒
- -
>125 名無しさん
そう言ってもらえるとこんな小説でも書いたかいがあったってもんです。
それではラストスパート!!
-
- 127 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時24分41秒
- ― 20 ―
ヒトミは迷彩服を着た数人の男女に囲まれていた。
「君はこの前の…」
ひとりがヒトミの顔を見て驚いて言った。
「ほら、この前の銃撃戦で負傷した…」
「ええっ!?この子?」
彼らはお互いに顔を見合わせた。ヒトミは見渡してからたずねる。
「あのー、リカちゃんはいませんか?」
「今はいないよ。定期パトロールに出かけてる」
「伝えたい事があって、強引だけどやってきました」
「やってきたって?また許可無しでかい」
呆れたようにひとりが言った。
「全く人騒がせな…」
「遊びに来る所じゃないぞ」
「即刻退去してもらわなきゃ」
「最近の若いのは無鉄砲だからな」
口々に言う。
- 128 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時25分28秒
- 「遊びに来たんじゃないんです!重要な情報を伝えにきたんです」
「ダメだダメだ」
「まいったね」
殆ど全員が冷ややかにヒトミを見た。
「まって」
振り返るとこのキャンプのドクター、ケイが全員をなだめるようにして前に出た。
「とにかくリカを待とう。なんだかかなりの事情があるみたいだから」
そういうとケイはヒトミに笑いかけた。ヒトミは取り敢えずほっとした。
隊員たちは丘を降りて、ベースキャンプに戻っていった。
「あんた、また来たのね。今度はどしたの?」
「ミニモニについて情報を手に入れたんです。っていうか地下施設に行きました」
「えっ!?ほんとなの?」
「はい。だから何としてでもリカちゃんに会って…」
「まあいいわよ。リカのお客だから、それ以上は聞かないから」
そのままヒトミはログハウスに案内された。
- 129 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時26分06秒
- 「ヒトミちゃん!!」
ドアを開けて飛びこんできたリカが驚いたように叫んだ。
「や、やぁ。ほんとに来ちゃったよ」
「よくここがわかったね」
「ヘリで探せば簡単だったよ」
ヒトミはちょっと得意げに言った。リカに再会できた事で、これまでの苦労が全て吹っ飛んだ。
自信のついたヒトミはリカに見直してもらいたかった。今なら胸を張って笑いかけられる。
「リカちゃんに会いたかったからね」
「もう…困るわ」
リカはかわいい顔を赤く染めながら笑った。
- 130 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時26分40秒
- 「だって…また会いに来るって約束したじゃん…」
「………」
「………あ、そ、それでね!どうしても知らせておきたい事があったんだ。聞いてびびんなよー。
あたしね、ミニモニの地下施設に侵入して、貯木場も製材所も確認してきたんだ」
「えっ!?まさか…」
「ほんとだよ。まあ、侵入っていうか、偶然っていうか、捕まっちゃったっていうか…
でも命からがら迷路を脱出できた」
「あの迷路を?ほんとに脱出したっていうの?確かにあれを突破して施設を押さえる事が出来れば、
ミニモニに壊滅的な打撃を与える事が出来るけど…」
「勿論、色々あったんだ。マキにも会ったし、ほら、リカちゃんに初めて会った時の不良、サヤカさん、
一緒に行ったんだけど、罠にかかって重傷で…サヤカさんのおかげで入れたのに…」
「………」
リカは絶句した。信じられないという目で見ていた。
- 131 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時27分19秒
- 「あたしね、真実が知りたかったんだ。東京市の、モーニン樹の。事務所でも色々学んだよ」
対立する東京市とモーニン樹。その縮図がミニモニとグリーン・ベレーだ。
かつては大森林に覆われていた大陸は生き物たちの楽園だった。
汚染されて絶滅してしまった動植物たちを、色々な文献、資料で学んできた。人間は破滅に向かっている。
モーニン樹は残された唯一の森林地帯だ。東京市はそこを砂漠に変えようとしている。
自然を征服しようとする人間。砂漠はその結果だ。
リカに出会わなかったら一生気がつかず、破壊者の一員として暮らしていたかもしれない。
- 132 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時27分53秒
- 「ここに来る為にね、お金、殆ど使ってヘリをチャーターしてきた。決めたんだ。もう戻らない」
「………」
「聞いて、リカちゃん。あたしね、本気でグリーン・ベレーとして働きたいんだ」
「…わかったわ。リーダーに聞いてみる。でも簡単に入隊はできないよ。
素質がなければ認めてはもらえないよ?」
「うん。わかってる」
「少し待ってて」
リカはそう言い残して出ていった。ヒトミはリカが頭ごなしに怒るのではなく、
優しく歓迎してくれた事が嬉しかった。やっと対等に話しができたと思った。
ヒトミは初めて会った時から運命に似たものを感じた。どこか心の奥で通じるものを…
迷路から脱出する時、森の声が聞こえた。その時にはっきり確信した。
自分の中にもリカと同じように、森からパワーを受け取れる力がある事を。
ヒトミは自信に満ち溢れていた。
- 133 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時28分24秒
- ― 21 ―
「試験を受ける気はあるんだね?」
「はい。勿論です」
リーダーのカオリは言った。
「そう。わかった。試験といってもね、ペーパーテストするわけじゃないの。
知識だけあっても隊員にはなれない。実際に森の心を理解しなければいけないの。
カオリの言ってる事わかる?」
「わかります」
「これ、タンポポっていう植物。ある場所にしか生えない珍しい物なの。試験はこれと同じ物を採取する事。
それが合格の最低条件」
ヒトミは渡された植物を見た。タンポポの匂いが鼻につく。独特の匂いだ。
「別に制限時間は設けないから。いつ出発してもいいし。必要なものはリカが用意してくれるから」
「ありがとうございます」
ヒトミはリカが用意してくれた迷彩服に着替えた。
- 134 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時28分58秒
- 「ど、どうかな…?」
「かっこいい!ヒトミちゃん。とってもよく似合ってる」
リカはクスッと笑っていった。ヒトミは帽子をかぶる。
「ほんとにすぐに出発するの?」
「うん。せっかくリカちゃんに会えたのに残念だけど…する事はきちんとするよ。
そう簡単に見つからないだろうし、遠くまで行く必要があるんでしょ?だから早い方がいい」
ヒトミはバッグを肩に担いだ。腰にはナイフと拳銃。初めて持つ拳銃である。使い方は教わった。
試験中に侵入者に出くわす可能性があるかもしれないからである。
正式隊員ではないが、忠告を出す事は準隊員として認められている。
- 135 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時30分15秒
- 「じゃあ…頑張ってね、ヒトミちゃん」
「どれくらいかかるかわかんないけど、必ず元気で戻ってくるよ…リカちゃんの為に!」
「…なんで私の為なのよ…もう」
「えっ?いや、その、心配かけたくないから…」
「心配はするけど…今は試験の為に頑張ってよ…」
「あ、そっか。あはは…。決め台詞、使いどころ間違えちゃった」
「もう、私、ほんとに心配だよ…」
「いってきまーす!」
ヒトミは手を振った。既に太陽は傾いている。すぐに日は沈むだろう。そうすれば夜が昇ってくる。
森の夜は確かに怖かった。それは経験している。しかしあの頃の様に怯え怖がる事は無い。
ヒトミはひとつひとつ、地面の草花を見ながら歩いた。苔っぽい木、瘤のある木。
捩れている木、真っ直ぐな木、曲がっている木。全てが自然のままだった。
捜し求める花はなかなか見つからない。しかし焦る事はない。
隈なく回って、まずは森の地図を頭の中に叩きこむのだ。
何時の間にか辺りはすっかり闇で満ちていた。適当なところにキャンプを張ることにした。
枯れ木を集めて火をたく。ぱちぱちと音をたてて火が燃え盛る。森のエネルギーが燃える音だった。
- 136 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時30分50秒
- ― 22 ―
頭に入れた地図はまだ何十分の一かだった。だらだら歩きつづける。
しかし不思議な事に森の地図はすらすらと頭の中に書きこまれていった。
「森の心を読めばいいのよ」
リカはそう言っていた。確かにこのままだらだら歩きつづけたら、余計な時間を食ってしまいそうである。
ヒトミは静かに周りを見渡した。心を落ちつかせる。何かざわざわと心の中に侵入してくる。
森と触れ合って少しずつ森が体に染み込んでくる。それはやがて言葉になって浮かんでくる。
「私達はいつでも君のそばにいる…」
これが、森の心なのか?
「気がついたかね…」
確かに声が聞こえる。あの迷路を抜けたときに聞こえた声だ。森の意志が呼びかけてきているのだ。
- 137 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時31分45秒
- 「聞こえます。確かに聞こえます。あの…この辺にこのような花はありませんか?」
「知らないな…この辺りでは見ないな」
ヒトミは森の中を移動しながら、その場所、その場所の森の心にたずね歩く。
どれくらい歩いただろう。ヒトミは悲鳴を聞いた。それは人間の発する声でも動物のうめき声でもなかった。
森の心からの悲鳴だ。ヒトミは声のする方へ走った。既に森の周縁部に近い。ナタの音が聞こえてきた。
ヒトミは腰の銃を確認する。
「やめて!」
ふたりの子供が木の枝にナタをふるっていた。その木の枝からは麻薬がとれる事をヒトミは知っている。
「なんなん?あんた」
ヒトミはその少女を見た。自分より年下の十三、四歳の幼い顔をしている。
- 138 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時32分22秒
- 「やめて。そのままここを出ていきなさい」
「なんやの?うちらの邪魔、せんといて」
「そうです。えっと、邪魔はしないで下さい」
「あなた達、まだ子供じゃないの。ここでね、無断で植物を取るのは禁止されてるの。わかった?」
「そんなん知らんもん、なー?」
「うん、そう」
「とにかく、盗ったものはそのままにして、即刻出ていきなさい」
ヒトミはゆっくりと拳銃を抜いた。子供達の顔色が変わった。確かに抵抗する者には発砲してもいいという、
グリーン・ベレーには正当な権利が認められている。しかし、ヒトミは撃つつもりはない。
威嚇して追い払う為に抜いたのだ。
「おーい、どしたの?」
ちょっと離れた所から声がした。もうひとりいたらしい。この子達より少し大人びた声だ。
- 139 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時33分00秒
- 「何やってんの?アイボン、ノノ」
「あなたもこっちへ出て来なさい」
「なんなのよ、もぉー」
がさがさと茂みの中から出てきた人物を見て、ヒトミは息が詰まりそうだった。
「マキ!?」
その顔はマキだった。子供達を連れていたのはマキだった。
「ヒトミ…無事だったの?嘘でしょ?信じらんない…」
マキも驚いた様だ。まさにふたりはある意味、運命の糸で絡まりあっていた。
「死んだとでも思っちゃった?」
「当たり前でしょ。迷路から出られる確率の方が低いもん。縁がなかったんだって、祈りを捧げてたよ」
「あいにくだったね」
「なーに?そのダサい格好」
「グリーン・ベレーって知ってるでしょ?ミニモニなら」
「えー?冗談はよしてよ。ヒトミがそうだっていうの?」
「そうだって言ったら?」
ヒトミは拳銃をマキに向けた。
- 140 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時33分39秒
- 「ちょっと、やめてよ。あたしはあなたの命の恩人だよ?」
「わかってる。だから今回は見逃すから。次はそうはいかないよ。マキがミニモニにいる限り。
マキの事、憎んでるわけじゃないから。ミニモニが憎いだけ」
「どーしてー?どうしてそんなにミニモニを憎むの?」
「マキは、何をやってるのか知ってるの?」
「知ってるよ。あたし達は自由なんだ。悪いのはひとり占めしようとしてる人達でしょ?そうでしょ?」
マキは屈託のない笑みを浮かべていった。
(もう、ダメなのかな…)
ヒトミは思った。議論しても無駄だった。ふたつの線は永久に交わらないだろう。
一度洗脳を受けた人間を元へ戻す事なんて、ヒトミには無理だった。
「とにかく!これ以上切らせる訳にはいかないの。その子達を連れてかえって!」
ヒトミは拳銃をおろした。不用意だった。少女がその隙をついて背後から体当たりをしてきた。
- 141 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時34分25秒
- 「ちょっと、やめてよ。あたしはあなたの命の恩人だよ?」
「わかってる。だから今回は見逃すから。次はそうはいかないよ。マキがミニモニにいる限り。
マキの事、憎んでるわけじゃないから。ミニモニが憎いだけ」
「どーしてー?どうしてそんなにミニモニを憎むの?」
「マキは、何をやってるのか知ってるの?」
「知ってるよ。あたし達は自由なんだ。悪いのはひとり占めしようとしてる人達でしょ?そうでしょ?」
マキは屈託のない笑みを浮かべていった。
(もう、ダメなのかな…)
ヒトミは思った。議論しても無駄だった。ふたつの線は永久に交わらないだろう。
一度洗脳を受けた人間を元へ戻す事なんて、ヒトミには無理だった。
「とにかく!これ以上切らせる訳にはいかないの。その子達を連れてかえって!」
ヒトミは拳銃をおろした。不用意だった。少女がその隙をついて背後から体当たりをしてきた。
- 142 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時36分40秒
- 「ノノ!今のうちや、銃を奪ったれ!」
ヒトミは飛びついてきた少女をはねのけた。しかし銃はもうひとりの少女の手の中にあった。
「えへへ、このゲーム、ノノ達の勝ちです」
「さあ、立場逆転やで」
「マキ!やめさせて!こんな子供にこんな事させるの?」
「あたしには止められないよ。あたしはミニモニの一員だから」
ぞっとするほど冷たい声だった。マキの言っていた通り、ミニモニは幼い子供達を養成し始めたのだ。
頭の柔らかく、先入観のない子供は洗脳しやすく扱いやすい。若い力なくして組織の拡大はない。
マキはその子供達を使う地位にいるようだ。
「撃つ気?」
ヒトミはできるだけ冷静な声でたずねた。こんな運命のいたずらに遊ばれるわけにはいかない。
「撃ちますよー」
銃口がヒトミに向けられる。
- 143 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時37分16秒
- 「大丈夫だ」
ヒトミは森の声を聞いた。
「おまえには力がある。森の力を使える限り、おまえは不死身だ」
ヒトミは耳を疑った。いや、耳には聞こえてはいない。心に直接語りかけてくる。
ヒトミは顔を上げる。胸を張る。自分を信じる。森を信じる。
「撃てるものなら撃ってみなよ」
挑発されて少女はカッとなって引き金をひいた。銃口が火を吹く。弾はヒトミの脇腹をえぐった。
ヒトミは倒れない。
続けて二発目、弾は心臓からそれて左腕に。
それでもヒトミは倒れない。
痛みも感じない。血すら流れていなかった。
- 144 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時38分05秒
- 「どうしたの?ちゃんと狙えば?」
少女達の表情は驚愕に変わっていた。三発目、これも急所を外れて肩に食い込んだ。四発目はなかった。
もう少女の手は大きく震えていて拳銃をよく握れていなかった。
「弾はまだ残ってるでしょ?」
ヒトミは挑発するように言う。しかし少女はがたがた震えたままあとずさっている。
森もざわついている。ヒトミの体は緑に発光している。発光しているというより包まれている。
人間を超越した力がヒトミを包んでいた。
「目を醒ますの…マキ。もう一度、自分を見つめなおして…」
ヒトミは静かに言った。しかしマキ達は無言のまま背中を向けて、一目散に駆け出した。
森はまた静寂を取り戻した。
我にかえった時、ヒトミは改めて自分の体を確かめた。
傷といえるかどうかわからないが、弾が当たったところはわずかに赤く腫れているだけだった。
肩に触るとその部分のシャツは破れていた。弾がそこに当たったことは間違いなかった。
- 145 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時38分51秒
- (どうしたんだろう…)
生身の人間が銃弾を受けて平気でいられるはずもなかった。
しかし現実に弾は急所をそれていたし、当たった弾も肉を貫く事無く、少しめり込んだというだけだった。
その傷もすぐ塞がる。全ては森が協力してくれたのだ。森の力。森の力を使える自分の力。
ヒトミはバッグを拾う。先を急ぐ。タンポポを見つける事。最も重要な課題である。
必ず辿り着ける。成功する自信がついていた。どんどん先に進む。
森と心がふれあっている限り、迷う事はなかった。ヒトミは足を止めるたびに木の心と対話する。
呼びかければ誰かが答えてくれる。
夜が訪れ朝がくる。ヒトミは森をさまよいつづけた。いや、わからずに迷っているわけではない。
確実に頭の中に地図はできてきた。
- 146 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時39分29秒
- 「その花なら知ってる。北の方角だ」
ヒトミは森の奥のほうの標高も高めの山岳に近い場所まで来た。気温も少し低い。
目の前に周囲が十数メートルもありそうな大木に出くわした。その根元にタンポポを見つけた。
遂に見つけたのである。長い長い物語のクライマックスを見るような思いと同時に、
新たな物語のスタートを感じた。
「これ、タンポポですよね?」
ヒトミは感激を表わしつつ聞いた。今までに見た事のない木種の様だ。
- 147 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時39分57秒
- 「そうだ」
「あの、ひとつだけ頂いていいっすか?」
「いいさ。持っていきなさい」
ヒトミは丁寧にタンポポをひとつ採った。バッグから袋を取り出して入れる。これで試験の課題はクリアした。
しかし、気がかりな事にマキ達との争いで銃を奪われてしまっていた。失格にされても文句は言えない。
ヒトミはそれでも自信を持って帰路についた。拳銃は単なる道具にすぎない。誰にでも扱える。
しかし、森の心は道具ではない。誰にでも聞こえるものではない。その力を得たことが最大の武器だ。
「ありがとうございました」
ヒトミは巨木に礼を言った。
- 148 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時40分59秒
- ― 23 ―
ヒトミは走った。暗闇の中でキャンプの明かりがぼんやりと見える。闇の中でも迷うことなく戻ってきた。
(リカちゃんが待ってる…)
ヒトミは走った。リカのいるログハウスまでくると、ドアを叩いた。
「リカちゃん!ただいま!!」
「ヒトミちゃん…」
ドアを開けてリカが驚いた様に大きく目を見開いた。
「やったよ、見つけてきたよ」
「ほんとに!?よかった。おめでとう!」
リカはヒトミの肩に手をやった。
ヒトミは思わずその細い体を抱きしめた。涙が溢れてきた。
- 149 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時41分33秒
- 「ヒトミちゃん…」
「リカちゃん…」
「………ちょ、ちょっと、もう離してよぉ…」
そう言いながらも少し抱き返してくれていた。
「ご、ごめん。で、でも嬉しかったんだよ。こんな時ぐらい、優しく抱き返してくれたっていいじゃん…」
「もう、甘えないでよ…それにまだほんとに採ってきたか確認してないのに。
よく似た植物を間違えて持ってきてたらどうするの?」
「ほんと心配性だねぇ、リカちゃんは。でも大丈夫。絶対に本物だから」
「すごい自信だね」
「森の心を聞いたんだ。だから間違いないと思うよ」
「森の心?」
リカは顔を上げた。
- 150 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時42分07秒
- 「うん。どうしてかはわからないけど、声が聞こえるんだ。迷路を脱出した時にも聞こえてたし」
「…やっぱり、ヒトミちゃんにはそういう力があったのね。何となく感じていたけど」
「感じてた?」
「森に合う人と合わない人がいる。直感的にわかるの。ヒトミちゃんは無鉄砲だけど一途なところがあるし、
スレているところもないから、森に住める人だと思ったの。あとは…」
「あとは?」
「女のカンかな!」
そういってリカは微笑んだ。
「どう?まちがいないっしょ」
「はいはい、そんなにがっつかないで。とにかく中に入って。リーダーはまだ戻ってないみたいだから」
もう森は暗闇の中だが、昼夜を問わずパトロールは続けられている。
闇にまぎれて盗みに来る連中も少なくはないからだ。
- 151 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時42分47秒
- 「それにしても、あの迷路でも声が聞こえたっていうのはすごいね」
「うん。自分でも信じられないよ」
「人間はね、知恵を手に入れた事で失った能力があるの。でもね、誰だって心から自然を愛し、
触れ合う事でその能力に目覚める可能性はある。不思議な事でも何でもないの。
人間が自然に生きていれば、初めから持っていた力だから」
「なるほどね」
ヒトミは視線を宙に投げた。愛するという気持ちは全てに通じるのだ。
通じなければ森の声など聞こえないし、答えてももらえないだろう。
- 152 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時43分18秒
- 「ねぇ、お腹空いた?」
「うーん、リカちゃんの料理食べたいけど、まだなんだか自分の体が自分の物じゃないような気がして。
あっ!そうそう。リカちゃんにプレゼントがあるんだ。このエプロンなんだけど…」
「どうしたの?これ」
「いやー、この前食べたリカちゃんの料理に感動しちゃってさ。何かしんないけど買ってた」
「絶対変だよ、ヒトミちゃんって。エプロンって!おっかしぃ〜!でも、嬉しい。ありがと」
「なんでおかしいのさ!べつに裸にエプロンしてとか言ってるわけじゃないし…」
「!!…もう、ヒトミちゃんのエッチ!!バカバカ!!」
リカは真っ赤になって俯いた。
- 153 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時43分50秒
- 「はい、これ。確認して?タンポポでしょ?」
「でもよく探せたね。一箇所にしか自生してない花なの。きっとミニモニならとんでもない額をつける」
「ミニモニは幼い子供使ってまで採取に来てたよ」
「どっかであったの?」
「うん。そういえば、言っておかなきゃならない事があって」
「何?急に真面目な顔して」
「あたしはいつだって真面目です!…あのね、銃を奪われちゃったんだ」
「どこで?何があったの?」
リカは驚いて身を乗り出した。
- 154 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時44分26秒
- 「さっきも言ったけど、ミニモニの盗伐隊に出くわしたんだ。警告したんだけど聞かなくて。
それで銃で威嚇したんだ。そしたら隙をつかれて…で、統率してたのが、あたしの友達だったの。
一緒に東京市にきた、マキっていう子…」
「………」
「一番仲のいい友達だった。でもこっちに来てすぐ喧嘩しちゃってね。
サヤカさんといた時、偶然マキを見かけたのがミニモニの地下施設を発見するきっかけだったんだけど…
ミニモニに捕まった時、迷路のヒントをくれたのもマキだった。まさかと思ってて油断したんだ」
「それでどうなったの?」
「撃たれたよ。マキの手下に。でも平気だった。脇と腕と肩」
「ええっ!?な、なんでそれを先に言わないの!ちょっと、早く見せてよ!」
「だから平気なんだって。ほら」
ヒトミはその箇所を指した。傷は塞がっている。色がまだ多少赤いだけだ。
- 155 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時44分59秒
- 「信じられない…ほんとにこれ、撃たれた痕なの?」
「そんなの、あたしだって信じられないよ」
「それで、友達は?」
「そのまま逃げていった」
「そう…よかった。無事で。あ、銃の事なら心配しないで。リーダーに説明しとくから。
今の話しを聞けば誰も文句は言わないわ。ヒトミちゃんは重要な隊員になる。
森と通じてるし、地下施設の事も迷路の通り道も知ってるし。ミニモニを抑える最大のチャンスを作れる」
「ほんと?よかったぁ。それがちょっと気がかりだったんだよね。ほっとした」
「あ、リーダーが帰ってきたみたい」
窓の外を見てリカが立ち上がった。
- 156 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時45分46秒
- ― 24 ―
「グリーン・ベレー、第八十八号に任命する」
カオリは隊員バッジをヒトミの胸につけた。
「八十八?」
「そう。歴代通し番号だよ。今はたったの三十二名しかいないけど」
「それだけ危険で難しい仕事よ。相当の覚悟で望んでよね。ミニモニとの闘いが激化してるから。
殉職者が多いのよ。殉職者は森に埋められて森に戻る」
横からケイが真面目な顔で言った。
「命、かけられる?」
「はい、勿論です」
きっぱりと力強くヒトミは答えた。
- 157 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時46分31秒
- 「おめでとう!」
集まっていた隊員たちから、一斉に祝福された。
「ありがとうございます!」
ヒトミはふかぶかと頭を下げた。晴れてグリーン・ベレーとなった。
これで完全にドロップアウトだ。それでもいいと思った。いや、これがベストだと確信していた。
勉強する事はまだまだ山ほどある。やっとスタート地点に立った。
「よかったね。隊員になれて。さっそく明日から任務が始まるわ。ミニモニとの闘いが」
「うん。森を守る為にね」
ヒトミは力をこめて言う。
ミニモニと闘う―
それは、宿命とも思えるマキとの闘いが始まる事でもあった。
- 158 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時47分03秒
- 「それにしてもほんとに、すごい勢いで隊員になったね」
「そりゃそうだよ!リカちゃん。もう森が気になって気になって、いてもたってもいられないってやつ?」
「ほんとかなー?」
「ほんとだよ!それに…」
「それに?」
「ずっとリカちゃんと一緒にいたいから!」
- 159 名前:みつ 投稿日:2001年09月29日(土)23時59分43秒
- -
しゅーりょー!!あっという間に終わりました。いかがでした?自分としては満足です。
この話しの世界観も大事にしたいと思っていたので、会話中心の話しとかと違って
娘。色があまりうまく出せなかった所が力不足でした。
それでは。 チャオ!
-
- 160 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月30日(日)02時54分46秒
- ファンタジー物にはトラウマがあるので読まないようにしていたんですが、
某所の紹介で読んでみました。とっても良かったです。
ゲームの方が一段落したら、是非続編を書いてください。
- 161 名前:R 投稿日:2001年09月30日(日)04時20分30秒
- 続編切望!!
読みやすかったし、テンポも良くてすごく面白かったです。
- 162 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月04日(木)12時43分26秒
- 読んでみたらグイグイ引き込まれました。ほのかないしよしも良かったれす。
この語の展開が気になりますが、続編は無理すか?(w
マキはマキで、あっち側でのし上がって行きそー…。
とはいえ、お疲れ様でした。
- 163 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月04日(木)12時46分05秒
- 森の力を使うヒトミ、かっけ〜。
読み終わって俺等も自然について考えなきゃいけないと感じた。
ありえなくはない話だし。
どうもありがとうございました。
- 164 名前:みつ 投稿日:2001年10月06日(土)00時54分27秒
- -
久しぶりに来たらお褒めのレス…読んで下さった方、特に感想書いてくれた方には感謝感謝。
自然について考えてみる…なんて影のテーマも見てくれた方がいて言うことなし!
小説としてはこういう終わり方も珍しくないのですが、話しの続きは脳内にあるんです…
でも先に書いたようにゲーム作り(2作目)が忙しいので、書きたいのですが先になるかな…
ぶっちゃけゲームの方もいしよしぎみな作品で…さ、イベント作り、がんばろっと!チャオ!
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