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ファイナル・クエスト
- 1 名前:なつめ 投稿日:2001年09月25日(火)08時39分26秒
- 〜ご挨拶〜
SF、ファンタジー色の強いアンリアルものです。
面白いものになるようがんばりますので、ご意見等々よろしくお願いします。
途中、この世界での設定上の特殊な固有名詞が出てきますが、それに関しては、話の中でおいおい
説明していきますので「こんなものかな」と思いながら読んでいただければ幸いです。
ちなみに「これはぜんぜん意味がわからないぞ」という言葉がありましたら、レスの中で説明しますので
ガンガン突っ込んでください。
それではよろしくお願いします。
- 2 名前:ファイナル・クエスト(001) 投稿日:2001年09月25日(火)08時41分26秒
- 「・・・やっぱり1人くらいちゃんとした操縦経験のあるやつが必要だよ。」
(クソッ、また始めやがった)
ただでさえじめじめして寝苦しい地下牢、なのに奴らときたらこのところきまって
人が寝付いたころにくちゃくちゃとなにやら話し始める。
昨日までは我慢してきたが、どうせ一緒に過ごすのも明日一日だ、我慢することもないだろう。
「コラ、うるさいんじゃ!」
そう言って立ち上がろうとしたが、耳に入ってきた会話のあまりの物騒さに驚き、
もうしばらく様子を見ることにした。
- 3 名前:ファイナル・クエスト(002) 投稿日:2001年09月25日(火)08時42分15秒
- 「だから、それは私がやるって。」
「だめです、ヨッスィさんは確かに小型飛空艇の操縦に関してはプロ並かも知れないけど、
私たちが今必要なのは、シードラゴンクラスのパイロットですから。」
どうやら、輪になって話し込んでいるのはいつもの5人、今何かを提案したのがたしか、
ヨッスィとかいうスタルディー人の少女、そして、それをやんわりと断りつつ、
場を仕切っているのがアイ=T、彼女は純粋なヒューマンだが、ジェッティに傾倒している
ため、この特殊房に入れられているときいた。
- 4 名前:ファイナル・クエスト(003) 投稿日:2001年09月25日(火)08時43分02秒
- 「まったく、これだからヒューマノイドは駄目ね、ぱっと飛ぶこともできないんだから。」
「ちょっとそこの『5時からヴァンパイア』うるさいですよ!」
「なに、ホッター家最後の生き残りケイ様に意見するのはどこのメカオタク!」
そして、あの一番うるさいのがケイ、彼女は自分のことをヴァンパイアの末裔だと言っているが、
ここに収監されている時点で怪しいものだ。
ヴァンパイアといえば、デミヒューマン(亜人)の中でも高い知能と、人間など足元にも及ばない
身体能力、そして、強力な術を使いこなす伝説の一族のはずなのに、彼女がヴァンパイアらしい
ところといえば、ジェッティと不仲なところくらいだろう。
- 5 名前:ファイナル・クエスト(004) 投稿日:2001年09月25日(火)08時44分00秒
- 「ケイちゃん、ホント静かにしなよ、看守が来るでしょ、それに確かに今の私たちよりは
アイちゃんの方が使えるのは確かなんだから。」
おっ、いつも寝てばかりで、無口な田舎ものが珍しく仲裁に入っている。
名前はマキだったか、彼女は辺境のナップ族らしいが、高名なサモナーの一族も、この結界が
張り巡らされた特殊房では寝て、食うくらいしかできない。
「まぁまぁ、皆さん喧嘩しないで、仲良くやりましょうよ、ねっ。」
また、このパターンか、奴ら5人がもめ始めるときまって最後はあのハーフダークエルフが例の
笑顔で終わらせるのだが、ダークエルフの笑顔ほど信用できないものはない。
それに、あのリカの場合、元シスター(ダークエルフの血が入っている奴をシスターにする方も
する方だが)のくせに、この地下結界牢獄にいる時点でかなり信用に値しない。
- 6 名前:ファイナル・クエスト(005) 投稿日:2001年09月25日(火)08時45分04秒
- 「でも、ホントにアイちゃんどうするの?明後日には私たち監獄島だよ。」
「そ、それは・・・」
そう、私たち超1級犯罪者はこうして各地の結界牢獄施設で検査や、必要に応じて封印を
施されたあとは、一生を監獄島で過ごすことになるのだ。
「ねぇ、アイツは?」
「アイツって?」
「そこで寝た振りしてる奴。」
突然指差され、一瞬の驚いたが、動揺していると思われたくなかったので、平静を装って
応えた。
「何の話や?」
- 7 名前:ファイナル・クエスト(006) 投稿日:2001年09月25日(火)08時46分07秒
- 「あんた、前にここの宮廷親衛隊にいたって言ってたよね?」
5人の中で唯一、同じ労働をしているヨッスィが訊いてきた。
「ああ。」
「だったら、シードラゴンクラスの飛空艇操縦できる?」
「バハムートクラスでも大丈夫や。」
ホントはバハムートクラスではコ・パイまでしかやったことがなかったが、少し見栄を張った。
案の定、5人の間からは「おお〜」と歓声が上がっている。
「単刀直入に言う。
私たちは明日ここを出る。そのためにはパイロットが必要だ。
成功の可能性は20%ってとこ、どうする?」
このまま、明後日までここでおとなしくしていればその後は一生監獄島だ。
選択の余地はなかった。
「ミチヨ=ヘイケ、見てのとおりハーフエルフや、よろしく。」
- 8 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月25日(火)10時14分45秒
- FF系?
おもしろそうなので期待しています。
- 9 名前:なつめ 投稿日:2001年09月26日(水)09時54分45秒
- >8さん
初レスサンクスです
FF系を意識してるわけじゃないんですが、タイトルがなかなか思いつかなかったので、
某有名RPGのタイトルをひっつけちゃいました(w
面白いものにしたいと思ってるので、これからもどんどん突っ込んでください
- 10 名前:ファイナル・クエスト(007) 投稿日:2001年09月26日(水)09時56分40秒
- 「いや、見ての通りって言われてもまるっきりヒューマンなんですけど。」
先ほどまで黙ってヒトミとのやり取りを見ていたアイが、おずおずと口を開いた。
「ああ、そうか、これやこれ。」
言いながら肩まで伸ばした髪をかき上げ、右耳を見せた。
ハーフエルフといいながら、こうして私が父親から引き継いだものは、ヒューマンのそれよりも
やや大きく、上部が鋭利な刃物のように尖った耳と術に対するわずかな素養だけだった。
しかし、この耳のおかげでこれまで受けた不当な扱いは数知れない。
「それは分かったけどさ、こいつ信用できんの?」
今度は自称ヴァンパイアのケイが、アイを押しのけ、疑わしそうに睨んできた。
正直私はこの5人の中では彼女とリカが苦手だ、といってもダークエルフのリカはどちらかというと
苦手というよりは、問題外だが。
「あん、なんか言うたか、そこのワーウルフ。」
「誰がワーウルフよ、ヴァンパイアよヴァンパイア!」
ケイの挑発するような目を見ていると、どうしても好戦的になってしまうのだ。
- 11 名前:ファイナルクエスト(008) 投稿日:2001年09月26日(水)09時58分15秒
- 「もう、ケイちゃんおっきな声出さないでって言ったでしょ、それに、この人にしたって私たちを
裏切るメリットなんかないんだから、信用しとこうよ。
あっ、アタシはマキね、みんなごっちんて呼ぶから、よろしく。」
そういって差し出された手を自然に握り返す。
敵意や戦意をそぐ、彼女のこうしたぼんやりとした雰囲気が、ナップ族特有のものなのかどうかは
分からないが、戦うことを生業としてきた私としては、ケイやリカとは違う意味でこれもどちらかと
いうと苦手だ。
「じゃあ、私も。」
同じようにヨッスィが握手を求めて、手を差し出してきたが、どうにもこうした和気あいあいとした
空気は照れくさい。
「いやや、スタルディーと握手なんかしたら妊娠するやんか。」
「なっ!そんな迷信教会の長老だってもう信じてないぞ。」
そんなことは私だって知っている。
- 12 名前:ファイナル・クエスト(009) 投稿日:2001年09月26日(水)10時01分01秒
- スタルディー人はデミヒューマンではないが、純粋なヒューマンと比べると明らかに違う点が
いくつかある。
まず、その体躯である。男なら2mを超えることも珍しくなく、まだ成人前のヨッスィもここにいる
6人の中では1番背が高い。次に、その体躯にふさわしく、彼等はとんでもない怪力を誇る。
スタルディー人の扱う武具はヒューマンではとても扱えないようなものばかりだ。
そして、先ほどミチヨが言っていた話だが、スタルディー人は男女ともにきまって美形であることが
多く、さらに、かなり多種多様な種族との交配が可能なことでも知られている、そのため、以前は
淫らな種族の代表のように言われていた時期もあったのだ。
こうした不思議な特性を数多くもつスタルディー人が、デミヒューマンではないとされているのは、
ヒューマン同様、彼らの持つ霊力の低さゆえである。
スタルディー人の多くは術に対する素養が極めて低い、現にヨッスィも術の類は一切使えない。
これらの特性から、彼らスタルディー人のルーツにはオークが関係しているのではという説も
あるが、ひそかに自らの容貌に誇りを持っている彼等はその仮説を強く否定している。
- 13 名前:ファイナル・クエスト(010) 投稿日:2001年09月26日(水)10時02分44秒
- 「とりあえず、一時休戦やな。」
言いながら、最後にリカに声をかけた、ダークエルフと協力するなど反吐が出そうだったが、
状況を考えればやむをえないと自分に言い聞かせた。
しかし、返ってきた答えは意外なものだった。
「やだなぁ、私は別にあなたと喧嘩する気はないですよ。
私ダークエルフ入ってるけど、物心ついたときから教会にいたから、ダークエルフとしての
アイデンティティなんかないのよね。」
ダークエルフは忌むべきもの。
そう教えられて育った私にとって、目の前で屈託なく笑うリカは珍獣のようだった。
エルフとダークエルフは能力や特性の上で非常に近い種族でありながら、聖と魔、その恩恵を
受けている側の違いから、長年にわたり争いつづけているのだ。
- 14 名前:ファイナル・クエスト(011) 投稿日:2001年09月26日(水)10時03分50秒
- 「ところで、何でみんなはここに入れられたん?」
話すこともなく、何気なく訊いてしまったのだが、この軽はずみは発言を後になってひどく後悔した。
「ああ、私はれいの魔女狩りよ。」
最初に応えたのは、以外にもケイだった。
「私ってヴァンパイアだから、昔から目立ってたのよ、でついにこの間の魔女狩りで
捕まっちゃったってわけ。」
「でも、ホンマモンのヴァンパイアやったら、そう簡単に捕まらへんやろ?」
「これのせいよ。」
彼女がヴァンパイアだという事に、疑いを持っていたので、少し馬鹿にしながら訊いた私に、
彼女は前髪をかき上げてそれを見せた。
彼女の額、正確には額の左上、髪の生え際のあたりには2cm四方ほどの青い刺青が
施されていた。
「これのおかげで、私の能力はかなり制限を受けてるの、昔いろいろあってやられちゃった
んだけど、ホント不便なのよ、日が暮れないと能力は使えないし、その能力も本来のものと比べると
半人前もいいところよ。」
- 15 名前:ファイナル・クエスト(012) 投稿日:2001年09月26日(水)10時04分50秒
- 忌々しそうに髪を戻すと、私をにらみながら続けた。
「ちなみにその魔女狩りはあんたたち親衛隊よ。」
そういえば、半年ほど前に国境近くの村に魔女狩りの遠征に行ったことがあったことを思い出した。
ばつが悪くなった私は、興味なさそうにしていたマキに話をふった。
「そ、それでアンタは?」
すると、それまでぼうっとしていたマキが、驚いた様子で振り返ると、恥ずかしそうに言った。
「・・・無銭飲食。」
「はぁ?あんた馬鹿にしとんか、無銭飲食くらいで、監獄島行きになるか!」
思わず大声を出してしまった私をなだめるように、苦笑いのヨッスィが割り込んできた。
「まぁまぁ、ごっちんもちゃんと説明しなきゃ。
ヘイケさん、去年の暮れに皇太子の誕生会が襲われたの知ってるよね。」
- 16 名前:ファイナル・クエスト(013) 投稿日:2001年09月26日(水)10時06分20秒
- ヨッスィが言っているのはおそらく、昨年の皇太子の生誕祭のパレードのことだろう。
あの時は私も警備のために出張っていたのだが、大変な事件だった。
パレードの最中、突然ジンが現れたのだ、ジンはマリード、イフリートに次ぐ火の元素界に住む
高位の幻獣だ。
結果、市街地での戦いは2昼夜に及び、召還士部隊総がかりでディスペルに成功した。
しかし、被害も甚大で死者23名、負傷者多数と王国史上に残る惨事になったのだ。
「ちょっと待て、まさか、あれあんたが・・・」
「いやね、ごっちんあの日、田舎から出てきたばっかりで、こっちの通貨制度なんか知らないでしょ、
で、たまたま入った食堂のおじさんにお金持ってなくてこっぴどく怒られてるうちに、怖くなっちゃった
んだよね?」
状況を説明しながら、やさしく確認するヨッスィにマキがコクリとうなずく。
「で、ちょっと暴走しちゃって、霊力が跳ね上がっちゃったところにジンが喰いついちゃって、
その後は制御不能、例の大惨事ってわけ。」
- 17 名前:ファイナル・クエスト(014) 投稿日:2001年09月26日(水)10時08分49秒
- 言ってるヨッスィも苦笑いを浮かべているが、マキは真っ赤になって下を向いているだけだ。
おそらく恥ずかしがっているのだろうが、そこは恥ずかしがるところじゃないのではなかろうか。
「ごっちん、あんたよう死刑ならんかったな。」
「ああ、それは故意じゃなくて過失だからですよ。」
脳みそをくすぐるような声でリカが応えた。
「過失」で死んでいった23人が心底気の毒だったが、それ以上に、やはりこのダークエルフは
気に入らない。
「そういうあんたは何でここにおんの、シスターやったんやろ?」
シスターのところにアクセント置いて訊いてやった、暗にダークエルフのくせにという意味を
込めるためだ。
「私は、重要機密漏洩、およびスパイ容疑、窃盗、傷害、その他もろもろです。」
リカはとんでもないことを、晩御飯の献立を数え上げるように笑顔でつらつらと言ってのけた。
「教会の持ってる機密をジェッティに売ってたんですけどぉ、捕まった時の連絡係がドジで、
結局その後、それまでちょこちょこやってたこと全部ばれちゃって、超1級扱いです。」
- 18 名前:ファイナル・クエスト(015) 投稿日:2001年09月26日(水)10時10分55秒
- 楽しそうに話すリカが指差す先には、申し訳なさそうにするアイの姿があった。
「連絡場所間違えちゃって、それが原因で親衛隊に踏み込まれちゃいました。」
「待て!それは先月の話か?」
「はい、そうですけど。」
最悪だ。確か先月ジェッティの一斉摘発の指揮をとった記憶がある。
ジェッティとは、もともとはジェット族という少数民族のことだが、現在では彼らの意思を引き継ぎ、
旧世界の技術を信仰する集団を指す。
術や霊力の存在に頼らず、教会が禁忌の武器としている火薬や銃を用いる彼らは、多くの国で
禁教とされているので、ジェッティだというだけで無条件で超1級犯罪者だ。
彼らの特徴として、ジェット族の民族衣装にあやかり、黒い衣装を好んで身にまとう、そのため、
近頃ではジェッティでない者は、疑われるのを恐れて黒い服を着ることも少ない。
しかし、旧世界の技術を禁じている教会が持つ機密をジェッティが欲しがるとはどういうこと
だろうか、そんな疑問を見透かしたようにリカがボソリと言った。
「いろいろあるんですよ。」
- 19 名前:ファイナル・クエスト(016) 投稿日:2001年09月26日(水)10時12分29秒
- それにしても、5人中4人までもが、親衛隊時代の自分の敵だったとは、そんな彼等と
共闘しようと言うのだから、人生は分からない。
「で、最後にヨッスィ、あんたは?」
「あっ、私はテロ、ほら私傭兵だから。」
最低だ・・・全員かよ
「さて、みんな言ったんだから、あんたもなんでここにいるのか言いなさいよ。」
あまりに数奇で馬鹿げた運命に、倒れそうになっていた私にケイがいつもの高圧的な口調で
訊いてきた。
「・・・過度の上官侮辱罪・・・」
正直言いたくなかった、なぜなら、この後の展開が手にとるようにわかるからだ。
「え〜、みっちゃん何したの?」
「誰がみっちゃんや!」
「だって、私のことごっちんて呼ぶじゃん」
「まぁまぁ、話がそれるから、このへんにしとこうよ、ねぇ、みっちゃん。」
「だっ!・・・まぁ、ええわ。」
「で、結局何したんですか?」
部屋の隅のほうにいたはずのアイも、いつのまにか興味津々のまなざしでそばまで来ていた。
- 20 名前:ファイナル・クエスト(017) 投稿日:2001年09月26日(水)10時13分37秒
- 「・・・その上官な、スケベで有名やってん、普段からケツ触ったり・・・
んでな、ある日うちと、もう1人同期のやつのどっちかが昇進のチャンスがもらえることになってな、
そん時、あいつ『ヘイケはヒューマンと違って寿命が長いから、今回は譲れ』って言いやがってん。」
「うゎ、ひどい話ですね。」
ダークエルフは嫌いだが、この時ばかりは同じ混血種としてのリカの言葉がありがたかった。
「で、それだけやったら良かってんけどな、その後あいつ、『まぁ、君ので方次第では・・・』って
言いながら、制服の胸元に手ぇ入れようとしやがったもんやから、思わず、蹴りいれてしもたんよ、
あそこに、そしたらそいつそのショックで不能になってもて、後は逆恨みのでっち上げで、超1級
犯罪者や」
話し終わると、自然とため息が出た。
宮廷親衛隊と言えば、子供なら10人中10人が一度は夢見る職業だ、それを・・・
案の定しばらく沈黙を守っていた5人だが、今は床に這いつくばって爆笑している。
ああ・・・うちの人生って・・・
- 21 名前:ファイナルクエスト(018) 投稿日:2001年09月28日(金)14時06分24秒
- 「さて、肝心の作戦やけど・・・って、ごっちんあんたまだ笑てるんか!」
「だ、だって、上司のセクハラにキレて、クビって・・・あはっ、腰掛OLじゃないんだから。
宮廷親衛隊だよ、軍のエリート部隊でしょ・・・あはっあはっ、ひぃ〜おなか痛い。」
ああ、もう気が済むまで笑ってくれ。
彼女の言う通り、宮廷親衛隊とはこのエイム王国軍において、超一級のエリート集団だ。
その入隊資格には戦闘能力に加えて、高い忠誠心、そして、術や他民族の言語など、何らかの
特殊能力までが求められ、入隊倍率は毎年200倍を超える超難関だ。
しかし、その分周囲の信頼は厚く、多くの国民は彼らに対し、畏敬の念と羨望のまなざしを送る。
それを、一発の蹴りですべてふいにした女、それが私だ。
- 22 名前:ファイナル・クエスト(019) 投稿日:2001年09月28日(金)14時07分58秒
- 「明日、私たち囚人を監獄島に送るための飛空艇が入港するから、それをいただくの。」
自らが犯したあまりに馬鹿馬鹿しい過ちを思い出し、うんざりしていたところに、ケイがボソリと
つぶやいた。
思考がその場を離れていたこともあって、私がそのあまりに大胆な発言を理解するのに、
しばらくの間が必要だった。
「冗談やろ?」
「いいえ、本気です。」
笑顔で否定するリカの顔を睨みながら、絶望的な気持ちになっていった。
ヴァンパイア、スタルディー人、ジェッティ、サモナー、ダークエルフ、そして元宮廷親衛隊の
自分、これだけ特殊で個性的なメンバーがそろえば計画の如何によっては、この結界牢獄施設
からの脱出ももしかしたら、と言う希望があった、しかし、彼女たちのあまりに無謀な計画の
一端を聞き、ここまで話に付き合ってきた自分が馬鹿者のようにすら思えた。
「あんたら、何も分かってない。
囚人輸送艇の警備は、その辺の物資輸送艇とは比べもんにならんねんで、だいたい、そんな
計画絶対戦闘は避けられへん、今のうちらにここの看守や警備兵と戦う力なんかないやろ。」
- 23 名前:ファイナル・クエスト(020) 投稿日:2001年09月28日(金)14時09分23秒
- ミチヨの言う通り、ここ結界牢獄内においては、いかに熟練した術者であっても、施設全体に
張り巡らされた、強力な結界によって一切の術の使用が禁止されている。
さらに、スタルディー人のように高い身体能力を持つ人種や種族にはワーク、肉体労働の時間を
除いて、常に両手、両足に枷がはめられている。
つまり、ここではどんな屈強な戦士でも、常人以下の戦闘能力しか持てないのである。
「それが、できるんですよね。」
脱出は不可能、この話はここまでだと思い、自分の寝床に潜り込もうとしていたミチヨを
にやけた顔のアイが呼び止めた。
「どうやって?」
「わぁ〜、っと騒ぎ起こして、その間に逃げる。
・・・うわぁ、危なっ、そんなモン当たったら怪我するじゃない!」
ヨッスィのあまりに要点を欠いた説明に、思わず手元にあった鉄パイプを投げつけた。
おそらく、もともとはベッドの一部だったものだろう。
「はしょりすぎや!もっと分かるように説明せい!」
「では・・・」
真打登場とばかりに、それまでおとなしい印象しかなかったアイが、得意気に説明をはじめた。
- 24 名前:驟雨 投稿日:2001年09月28日(金)15時32分46秒
- ふむふむ、続き楽しみにしてますよ。
- 25 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月29日(土)00時15分56秒
- 設定が細かい……。
テーブルトークのRPGを思い出す。
おもしろいです。がんばってください。
- 26 名前:なつめ 投稿日:2001年09月29日(土)03時03分16秒
- >驟雨さん
ありがとうございます、続きがんばって書いてます(w
>25さん
設定細かすぎるかな、と思いつつ趣味にはしってますのでお付き合い頂ければ
幸いです。
ところで、テーブルトークのRPGってなんですか?
勉強不足で申し訳ないですが・・・
- 27 名前:ファイナル・クエスト(021) 投稿日:2001年09月29日(土)03時11分26秒
- 「・・・なるほどな。」
説明を聞き終わった私は、平静を装ってはいるものの密かに彼女たちの立てた、
奇想天外な計画に舌を巻いていた。
なるほど、この5人だからこそ立てることができた計画、そして、なぜ、監獄島への出立を翌日に
控えた明日というギリギリの日程で計画を実行せねばならないのか、すべてが理解できた。
しかし、同時に理解できない疑問も数多く生まれた。
いや、正確には頭では理解できるのだが、受け入れることができないと言うほうが正しい。
初めて聞く言葉もたくさんあった、自分は世界のすべてを知っている、そんなことを
思っているわけではなかったが、自分の知っている世界が限られたものだったこと
への驚愕は大きかった。
「それでは、明日の成功を祈って。」
ピリリとした空気に不釣合いな声で、リカがふざけた提案をした。
「こら、不良シスターが何に祈るつもりや?」
「そうだよ、大体ケイちゃんなんか祈る神様さえいないよ。」
「いいんじゃない、自分の信じるものに祈るのって悪くないよ。」
私たちのつっこみをマキがやんわりとたしなめる、それはナップ族らしい意見だった。
- 28 名前:ファイナル・クエスト(022) 投稿日:2001年09月29日(土)03時12分59秒
- 第一段階
ミチヨ、リカ、ヨッスィの屋外でのワーク組3人は、ヨッスィの枷がはずされた事を合図に、一斉に
騒動を起こし、施設内の貯蔵庫に向かいつつ、抵抗する警備兵は叩きのめす。
「脱走っー、反乱だぁ!」
ワークが始まって間もなく、看守のヒステリックな叫び声が、労働区画に響いた。
が、その直後その看守の首はあらぬ方向に捻じ曲がり、そのまま倒れ込む。
そして、その脇を走り抜け、施設内になだれ込む3つの影。
「(なんや、あの蹴り・・・シスターの蹴りちゃうで)」
枷をはずされたヨッスィが、そばにいた看守を叩きのめしたのを合図に、ミチヨとリカは施設の
入り口目指して走り出したのだが、そこに不幸にも立ちはだかってしまった看守がいた。
まさに一閃、リカの右足は助走の勢いをそのままに看守のこめかみに叩き込まれた。
ベチャリという鈍い音がしたかと思うと、目をむいた看守がミチヨの足元に倒れ込んだ。
- 29 名前:ファイナル・クエスト(023) 投稿日:2001年09月29日(土)03時14分13秒
- 正直ぞっとした、戦闘が始まるまで、ミチヨは術なしでの戦闘能力の順位を、ヨッスィ>ミチヨ
>>リカだと考えていた。
実際、警備側もそう考えてヨッスィ以外には枷の着用を命じていなかった。
しかし、現実には術なし、武器なしの純粋に体術のみでの戦闘においては、リカ>>>ヨッスィ
>ミチヨだった。
そんなことを考えているうちにも、先頭を走るダークエルフの少女は、立ちふさがった警備兵の
懐に飛び込むと膝を叩き込み、うめき声を上げながらかがみ込んだ獲物の頭を、肘と膝で上下から
はさみ込むように叩き潰していた。
「なぁ、あの子なんなん?」
「リカちゃん逮捕された時の教会ではただのシスターってことになってたけど、ホントは
モンクなんだよ。」
- 30 名前:ファイナル・クエスト(024) 投稿日:2001年09月29日(土)03時15分18秒
- そばを走るヨッスィが、苦笑いしながら教えてくれた。
モンク。いわゆる教会における僧兵の彼らは、神に仕える身であるため、刃物のたぐいは
扱えないが、体術や棒術など鈍器の扱いに関しては、その辺の傭兵程度では相手にもならない。
「普段はいい子なんだけど、戦闘になるとスイッチ入っちゃうらしくて、あまりにもエグイ戦い方
だって事で最初の教会は破門、その後、転々としてたみたいだけど。」
確かにリカの後を走っていると、どこの戦場をさまよっているのかという気分になる、かろうじて
息はしているものの、リカにやられた警備兵たちはみなひどいありさまだ。
こんなことなら、自分が先に行って軽く気絶させてやろうかとも思うが、今のリカに近付き、それを
追い抜くことなどとてもできそうになかった。
もし万が一、後ろからの敵と勘違いされたら、おそらく後悔する時間も与えてはもらえないだろう。
- 31 名前:ファイナル・クエスト(025) 投稿日:2001年09月29日(土)03時17分55秒
- 「あっ、ここです。」
角を曲がると、先を走っていたリカが扉の前でおいでおいでと手招きしている。
そして、その足元には真っ赤な水溜りの中に倒れ込んでいる3人の警備兵があった。
「(大丈夫や、あれは昨日の夜ニコニコしながら喋っとった子や。)」
頭では分かっているのだが、生物が持つ危機感知能力がリカに近付くことを拒否させている、
足を止めて横を見ると、同じ葛藤にとらわれているスタルディー人の傭兵がいた。
「(あんた、先行きいや)」
「(いや・・・絶対いや)」
「ちょっと、2人とも早くおいでよ。
こん中にヨッスィの武器とかもあるんでしょ、これで鬼に金棒じゃない。」
「(金棒なしの鬼神やったら、すでに1匹おんねんけどな。)」
「(みっちゃん、突っ込みは聞こえるように言わなきゃ)」
- 32 名前:ファイナル・クエスト(026) 投稿日:2001年09月29日(土)03時19分11秒
- ここでこうしていても、次々と警備兵がやってくるのは目に見えている、覚悟を決め、
何気ない会話をしながら貯蔵庫に近付くことにした。
「と、ところで、あっちは大丈夫かな?」
「ああ、これだけ暴れれば、もうすぐ施設中の警備兵がこっちに来るはずだから、
大丈夫でしょ、それにいざとなればケイちゃんがついてるし。」
「そ、そっか、そしたら、うちらもはよ立てこもる準備せんとな。」
そういってリカの肩に軽く手を置いてみて、血の気が引いた。
あれだけの戦闘を繰り広げた後だと言うのに、リカは汗をまったくかいていなかった。
「(あかん、バケモンの仲間になってしもうた。)」
涙目のミチヨが、リカとは対照的に冷たい汗をにじませながら、鉄格子越しの空を眺めると、
真昼だと言うのに、そこは静かな闇に包まれていた。
(始まったか・・・)
- 33 名前:なつめ 投稿日:2001年09月29日(土)15時19分47秒
- 〜訂正〜
ファイナルクエスト(013)の中で『ジンはマリード、イフリートに次ぐ火の
元素界に住む高位の幻獣だ。』とありますが、イフリートとジンの間にシャイターン
というのがいるそうです、のでジンはこの種族の中では4番目、ちなみにその下は
ジャーンというそうです。
ホントどうでもよさげですが、一応。
- 34 名前:ファイナル・クエスト(027) 投稿日:2001年09月30日(日)03時51分41秒
- 第2段階
騒動によって、手薄になった警備の間隙を突き、最下層にある何物かを停止させる。
時はさかのぼる。
昨夜のアイの説明はこうだ。
「ヘイケさんおかしいと思いません。」
「何がや?」
「ここの結界ですよ、ヘイケさんも脱走囚が捕まる時に警備兵が術使うところ見たことあるでしょ?」
「ああ、術言うても、ヒューマンでも使えるようなモンばっかりやけどな、それがどないしたん?」
「ありえないんですよ。」
それまで、眠ているのかと思っていたマキがやや重いトーンで語り始めた。
「結界っていうのは特定の範囲内で無作為に作用します、つまり、囚人だけに作用している
この状態は異常なんですよ。
結論を言うと、私たちの術や霊力が制限を受けているこの状態は結界によるものじゃありません。」
若いとはいえさすがはナップ族だ。
確かにミチヨも警備兵が術を使う場面に遭遇したことはあるが、そんなことには気がつかなかった。
結界術は高度な術力を要するため、その多くは触媒を用いる精神魔法によって行われることが
多い。
故にミチヨ程度の術者では、そうした術力学の矛盾に気づくことはまずない。
- 35 名前:ファイナル・クエスト(028) 投稿日:2001年09月30日(日)03時53分39秒
- 術は生物の根源とされる、肉体(物質)、精神(霊質)、霊子体(霊質)のうち、霊子体に含まれる力、
すなわち霊力を用いて通常行う。
そして術は大きく分けて4種類。
聖なる存在に対する信仰によって与えられる、白魔術。
魔に属するものとの盟約によって得ることができる、黒魔術。
元素界の住人との関係によって使うことができる、精霊魔術。
この「関係」には支配、契約などだけでなく、友情や愛といったものまである。
そして、霊力を用いず、札やアイテムなどの媒体と、精神力あるいは体力を用いて起こす
精神魔術。
ただし、この精神魔術は正しいプロセスさえふめば、比較的簡単に起こすことができる反面、
本来術に対する素養が必要な部分を媒体に頼っているため、術者自身がなぜその現象が
起こるのか理解できていないことが多い。
つまり、精神魔術がただピストルの引き金を引くのに対し、それ以外の術はピストルを部品から
組み立てるようなものである。
それ以外にもマキ達サモナーが行う召還や古代魔術と呼ばれる高度な術もあるが、とりあえずは
白・黒・精霊・精神の4つの魔術を術と呼ぶことが多い。
- 36 名前:ファイナル・クエスト(029) 投稿日:2001年09月30日(日)03時58分38秒
- 「じゃあ、何でここでは術が使えんのや?」
「これだよ。」
そういってケイは、囚人服の胸元を下に引っ張り、自分の首をミチヨに見せる。
そこには、囚人それぞれの認識番号が彫られた金属製の茶色い首枷がつけられていた。
「ここに入る時、これつけられたでしょ、これが術を封じている原因。」
「そしたら、これ外したらええんか。」
「残念ながらそれは無理、この首枷には通常のロックの他に、術によるマジック・ロックも
施されているから、今の私たちには外せない。」
霊力を開放するためにロックを外すには、霊力が必要。
これは絶対に解けない問題だから、と言われて宿題を出された気分だ。
「そこで、とりあえず首枷は無視して、本体を叩きます。」
ミチヨが顔をしかめていると、さて、私の出番とばかりにアイがとうとうと弁舌を振るい始めた。
「この首枷はいわば受信機で、実際に霊力を抑制している本体、すなわち、電磁波の発信機は
おそらくここの更に下層に・・・」
「ちょっと、待って、受信機とか電磁波って何?」
それは、宮廷親衛隊での教育を受けてきたミチヨにとっては極あたりまえの質問だった。
- 37 名前:ファイナル・クエスト(030) 投稿日:2001年09月30日(日)04時00分51秒
- 「アイちゃん、この鎖国民にも分かるように説明してあげないと、宮廷親衛隊って今でも
飛空艇乗る時、風の精霊にお祈りするくらいなんだから。」
「こら、ヨッスィ誰が鎖国民や、それに、飛空艇乗る時にお祈りするのは常識やろ。」
「分かった分かった、そしたらその何百年も放置されてる常識を今からアイちゃんが一気に
更新してくれるから、心して聞いてなさい。」
そう言うと、ヨッスィはアイの手に軽く自分の手を乗せ、タッチをすると自分の寝床に戻っていった。
それから2時間に及んだアイの説明は信じられない事の連続だった。
禁忌として軍では決して教えてもらえなかった旧世界の技術の数々、そして、この施設の
『結界』がその技術によって運用されていたこと。
にわかにすべてを信じることはできなかったが、アイの説明はこの施設における結界の矛盾を
的確に説明していた。
すなわち、この施設の結界は術によるものではなく、旧世界の技術の1つ、霊力を抑制する
電磁波を発信して、囚人たちはそれを認識番号つきの首枷で受信させられているのである、
だから、大元である装置を停止させれば、術の使用が可能である、らしい。
- 38 名前:ファイナル・クエスト(031) 投稿日:2001年09月30日(日)04時03分20秒
- 「で、明日うちはどうしたらええんや?」
「ヘイケさんたちは明日、ワークの最中に大暴れしてください、そしたら、屋内作業の私と、
ケイさん、あと、マキさんでその騒ぎに乗じて最下層の装置を叩きます。
ついでに、その時に貯蔵庫にある没収された武器とか回収してくれると助かります。」
「それはええけど、ここの警備兵の数考えたら15分くらいが限界やで。」
「大丈夫です、到達に5分、解体に5分、ぴったり10分です。
施設の見取り図も手に入れましたし。」
そう言って、アイはこの結界牢獄の見取り図とひらひらと見せる。
「どこでそんなもん。」
「あっ、私です。」
むこうのほうで手癖の悪いダークエルフが嬉しそうに手を挙げていた。
「あと、そっち、そのメンバーで大丈夫かいな?肉弾戦になるねんから、ヨッスィ連れて
行ったほうがええんちゃう。」
「それは私に任せといて。」
「任せといてって、あんた昼間はただのヒューマンやろ?」
不安そうに提案したミチヨに対して、自身満々のケイ、それもそのはず、この圭の自信の
根拠こそが、今回の計画を明日に設定せざるえなかった原因なのだから。
- 39 名前:ファイナル・クエスト(032) 投稿日:2001年09月30日(日)19時57分07秒
- 場面は再び、大混乱の施設へ。
ミチヨがリカの闘いっぷりに戦慄覚えながらも、貯蔵庫に向かって爆進していた頃、3人の反乱に
よって、警備側はズタズタに混乱していた。
今回、警備側にとって意外だった事は、脱走囚が反乱直後に再び施設内に向かったことだった。
労働時間に脱走を試みた囚人は今までも数多くいたため、警備側はワークの時間にはかなりの
数の警備兵を施設外部に配置していた。そのため、突然の施設内への襲撃者に対して後手
を踏んでしまった。
そのうえ、ラッキーなことにリカの犠牲者第一号となった看守が、その時間の現場の
責任者だったため、数分ではあるが指示系統に乱れが生じた。
しかし、そのわずかな時間に、施設内では何人もの警備兵が連絡を絶ったため、混乱した
警備側は襲撃者を過大評価し、必要以上の人員を貯蔵庫の制圧に割いてしまった。
結果、こうしてケイ、マキ、アイの3人は予定よりも短時間で目的の部屋の前まで来ることができた。
- 40 名前:ファイナル・クエスト(033) 投稿日:2001年09月30日(日)20時05分04秒
- 「どう、アイちゃん開きそう?」
「楽勝です、マジック・ロックかけてあったらどうしようかと思ったけど、やっぱり物理的な
ロックだけでした。『技術屋』がここを使ってる証拠ですよ。」
軽口を叩きながら、アイはこの1ヶ月、ワークや食事の時間に手に入れた手製の工具で
ロック自体を解体し始めた。
素人目に見てもアイが只者ではないことは、その流れるような手つきから感じられた。
もうその作業を何年もしてきたかのような、無駄のない動きにケイとマキは、思わず見入って
しまった。
特にマキは、初めて見る「機械」の分解に興味津々で「なんかすることない?」を連発していた。
- 41 名前:ファイナル・クエスト(034) 投稿日:2001年09月30日(日)20時05分52秒
- 通常、ジェッティの囚人は、その技術を使っての脱走を警戒されるため、独居房に収監されたうえ、
厳しい監視下に置かれる。しかし、幼い外見と、捕まえた時の状況から、アイはただの下っ端
構成員だと判断され、それほど警戒もされていなかった。
しかし、実際の彼女は若いながらもエイム支部においては実力だけならトップクラスであり、特定の
分野では、ジェッティ全体を見ても指折りの技術屋だった。
では、なぜんそんな彼女が連絡係などに甘んじていたのか。
それは、彼女の提唱する「オールドテクノロジーと霊力の融合」が、ジェッティの上層部では
好ましく思われておらず、今回の実力に不釣合いな指令も嫌がらせの一環だったのだ。
異端の中の異端、控えめでおとなしそうな彼女の風貌からは想像できないが、
これが彼女の正体だった。
- 42 名前:ファイナル・クエスト(035) 投稿日:2001年09月30日(日)20時06分54秒
- 作業に集中しているためか、アイの口数が少なくなってきた。
その横顔は少し大人びて見え、額にはうっすらと汗をかいているが、眼だけは久々に機械に
触れた喜びで、活き活きと子どものように輝いていた。
そして、それは突然起こった。
耳をつんざくサイレンが響いた、と同時にアイが嬉しそうに言う。
「開きました、ちょっと失敗したけど。」
「ちょっとって、あんた完全に失敗じゃない!」
「でも、一応扉は開きましたよ、最後にトラップに引っかかったけど・・・」
うつむいて申し訳なさそうにしつつも、その表情は久しぶりにいじりがいのある機械に出会える
喜びを隠せずにいた。
「もう、しょうがない、とりあえずあんたは中に入ってその装置とやらを何とかして、私は・・・」
言いかけたケイが突然黙り込む。
突然動悸が速まり、異常なのどの渇きを覚えたのだ。
(来た・・・)
- 43 名前:25 投稿日:2001年09月30日(日)23時38分32秒
- うーん、おもしろいですよ。
それぞれのキャラもいい感じ。
特に石川のキャラが美味しいなあ。
ちなみにテーブルトークRPGってのは、シナリオの流れやいろんな判定を
コンピュータではなく人間同士の『会話』で進めるRPGのことです。
その場のアドリブで話が変わったりするので柔軟性はかなり高いです。
こういう奴は大抵設定が細かかったりするんですよ。
つか、RPGはこちらが元祖なんですけどね(いわゆるごっこ遊び)
- 44 名前:なつめ 投稿日:2001年10月01日(月)19時44分38秒
- >25さん
丁寧な説明ありがとうございます。
正直、小説のタイトルだと思ってました(w
これから他の人も順々にキャラ立っていくと思いますので、”リカ”ともども
末永くどうぞよろしくお願いします。
- 45 名前:ファイナル・クエスト(036) 投稿日:2001年10月01日(月)19時46分42秒
- 「どうしたの、ケイちゃん・・・始まったの?」
「そうみたい、グッドタイミングね。」
ケイは日暮れにだけ感じることができる、独特の高揚感で胸が熱くなるのを感じた。
昼が終わり、夜が始まる時、ケイの中にもう1人のケイがその存在を誇示するかのように、
熱い塊となって彼女の体を駆け巡る。
『私を解放しろ』
ケイには彼女がそう言っているように感じられる。
しかし、それは実際にはケイ自身であるため、それを自らの意思で押さえ込むこともできる。
事実、ケイはこの施設に収監されてからは、この時のために彼女を一度も開放したことは
なかった。
ケイがここへ来た時、看守達は彼女がヴァンパイアだということを信じなかった。
なぜなら、一般に知られているヴァンパイアと、封じている状態のケイでは比較することも
馬鹿馬鹿しいほどに霊力や身体能力に差があるからだ。
加えて、炎天下に元気いっぱいクワを振るう彼女は、伝説の闇の眷属とは似ても似つかない。
おかげで、ケイはヨッスィのように枷をつけられることも、封印を施されることもなかった。
しかし、今日やっと解き放つ時がきたのだ。
- 46 名前:ファイナル・クエスト(037) 投稿日:2001年10月01日(月)19時47分56秒
- 脱走は昼間でなければなかった。
夜になり、ヨッスィが枷をつけられ、全員が房に入れられた状態での脱走はほぼ不可能だ。
しかし逆に、昼間だとケイの能力が使えない。術が使えないとはいえ、ヴァンパイアの
戦闘能力をこの計画から外すことはできない。
そこで、今日が決行の日に選ばれた。
数年に1度だけ、昼間に夜が訪れる日、それを最初に察知したのはマキだった。
サモナーやウィザードは彼らの力に大きな影響を与える星の動き、特に月の状態に敏感だ。
マキも例外ではなく、彼女は1ヶ月前から今日の皆既日食を予言していた。
そして、それが近付くにつれて、ケイも気配を感じると言い出した。さらに、リカまでもが
そんな気がすると言い出したとき、作戦の決行日は決まった。
- 47 名前:ファイナル・クエスト(038) 投稿日:2001年10月01日(月)19時49分04秒
- 「いたぞ、こっちだ!」
警報を聞きつけた警備兵が怒声をあげて近付いてくる。。
「ごっちんも中に入ってて。」
すでに室内で作業をはじめているアイを手伝いに行くように促すが、マキはケイのそばを
離れようとしない。
ケイを1人にするのが心配なのが半分、残りの半分はサモナーとしての好奇心。
メタモルフォーゼの瞬間、それもヴァンパイアになるところなんかそうそう見れるものではい。
「新月の影響で霊子体が活性化してる。もしかしたら召還まではできなくても、
アクセスならできるかもしれないから、いざというときのためにスタンバっといてよ。」
作戦のため。そういわれては引き下がるしかない、不満をたらたら残しながらも、マキはアイの
いる部屋に入ると、中から扉を閉めた。
「さてと、それじゃいきますか。」
マキが中に入ったのを確認すると、ケイは徐々にこみ上げてくる熱を開放し始めた。
- 48 名前:ファイナル・クエスト(039) 投稿日:2001年10月01日(月)19時52分55秒
- 変化はまずその瞳と肌に現れる。黒い瞳は冷たい光を放つルビーのように、そして、その肌は
褐色ではなく文字通り黒く染まっていく。
次に、両手の指先からは漆黒のダガーのような鉤爪が現れ、そのころには体全体も元の
女性特有の柔らかさに代わり、野生動物の美しさにも似た、しなやかに絞り込まれた
ものに変化していた。
完全に変態を済ませると、熱はいつの間にか消えうせ、代わりに体全体が爬虫類の皮膚で
覆ったような冷たさに包まれる。
「な、なんだあれは!?」
圭のメタモルフォーゼが終了したのと同時に、完全武装した警備兵がなだれ込んできた、
その中には、囚人輸送艇の警護のために派遣されてきた親衛隊員も2人おり、総勢15名、一個
小隊に相当する戦力だった。
しかし、彼らは生まれて初めて見たヴァンパイアの姿に、それが何かは識別できないまでも、
ただならぬ恐怖を感じ、誰一人として動けずにいた。
- 49 名前:ファイナル・クエスト(040) 投稿日:2001年10月01日(月)19時55分10秒
- 「突撃ぃ!」
それでも、一人の忠誠心にあふれる親衛隊員が搾り出した叫び声によって、彼らは地獄への
一歩を踏み出した。
ケイと彼らの距離はおよそ20メートル、しかし、ケイにとってそれは無いも同然だった。
彼らが突撃を開始した直後、ケイは彼らの頭上にいた。
通路の天井を反転して蹴り、彼らの後ろに音もなく着地する。
完全にケイの姿を見失い、狼狽している兵士達をあざ笑うかのように、ケイが無人の野を
行くがごとく隊列を後から一気に駆け抜けると、重なり合うようにして絶叫と血しぶきががあがった。
兵士達の断末魔をBGMにケイは悠然と元の位置に戻ると、ゆっくりと振り返った。
立っていたのは親衛隊員1人を含む4人、予想よりも少し多かったが、気にしない。
返り血を浴びた漆黒の魔物は、血の匂いに酔いしれ、淫靡な微笑を浮かべる。
その様は狩られる者達に、恐怖、羨望、畏怖が混じったまったく制御不能な感情を起こさせた。
- 50 名前:ファイナル・クエスト(041) 投稿日:2001年10月01日(月)19時57分23秒
- 身をかがめると、今度は咆哮を上げながら彼らにも視認できるスピードで走り出す。
先頭の警備兵の顔が恐怖にゆがむ、が、それも一瞬。
1人目を鉤爪で軽く撫でると、逃げようとした2人目、3人目を同時に回し蹴りでなぎ倒した。
蹴り飛ばされた兵士は、激突した石壁に彼らがこの世に存在した紅い証を残して肉塊と化した。
残るは1人、最初に勇気を振り絞った親衛隊員だった。
軍の中でもエリート集団、畏敬と羨望の対象。いかなる敵にも怯まず、立ち向かう
それが彼ら親衛隊員だった。
しかし、彼は知ってしまった。
決して関わっていけないものがこの世に存在することを。
「ク、クソッ・・・化け物めぇ〜」
「わたし、そう呼ばれるの嫌いなのよね。」
力任せに振り下ろされた剣を、ケイはいとも容易く叩き折ると、親衛隊員の耳元でささやく。
「バイバイ、勇敢な兵隊さん。」
それはそのときのケイにとっては、足元の草花を摘み取るよりも簡単な作業だった。
- 51 名前:名無し 投稿日:2001年10月04日(木)00時17分33秒
- おもしろいなあ、一気に読んでしまった。
ケイちゃんかっこいいね。
- 52 名前:なつめ 投稿日:2001年10月05日(金)23時57分47秒
- >51
そう、ケイちゃん頑張ってもらいました。
かなり書いてて気持ちいいので、好きなキャラです。
今後ともよろしくお願いします。
〜宣伝〜
銀板の中断してた『やさしい風景』再開したんで、時間のある方、よかったらみてやって
ください(内容はこっちと全然違う、学園もの?です)
あと、オムニバス短編集に『01.あの夏の約束』で参加したので、そっちもあわせて
みてやってください。(これもここと全然違う系統ですが)
- 53 名前:ファイナル・クエスト(042) 投稿日:2001年10月05日(金)23時59分40秒
- 「・・・ちょっと変わりすぎた・・・かな。」
ケイは崩れるように膝をつき、その場にうずくまる、すると、背中から真っ白な蒸気が上がり、
それがケイの体を包み込んだ。
しばらくして、蒸気がおさまると、元の囚人服に身を包んだケイが床に倒れていた。
時間にして2分弱、決して長くはない時間だが、霊力を抑制された状態で”開放”することは、
肉体と霊子体のバランスを著しく狂わせる。その結果が、これだ。
後頭部を鈍器で思い切り殴られたような頭痛と眩暈がする。
それでも、気力を振り絞りケイは扉に手をかけると、アイとマキが待つ部屋に倒れ込んだ。
「ちょっと、ケイちゃんどうしたのよ?」
慌ててマキが駆け寄るが、ケイは軽く苦笑いを浮かべるのが精一杯だった。
- 54 名前:ファイナル・クエスト(043) 投稿日:2001年10月06日(土)00時00分41秒
- 「・・・私のことはいいから、そっちはどうなの?」
「よくわかんないけど、さっきからアイちゃんすごいすごいって言いながら、目輝かしてる。」
マキに抱えられるようにして、ケイは立ち上がるとアイのいるほうへと向かった。
見ると、アイは一心不乱に巨大なモニターの前で、3つのキーボードを叩いていた。
「すごいすごい、うわ、こんなこともできる・・・あぁ、このまま持って帰れないかなぁ。」
「ちょっと、アイちゃん楽しそうなのは結構なんだけど、霊力の抑制のほうは解除できそうなの?」
「あ、それなら今、プログラム破壊するバグをはしらせたんで、あと1分もあれば勝手に。」
「・・・なんかよく分かんないけど、とにかく1分くらいで解除されるのね。」
こっちの話など上の空、もしかすると本来の目的すら忘れているかもしれない、そんなアイに
見切りをつけると、ケイは目でマキを促した。
いつもはぼんやりしているマキだが、さすがにこれだけ緊迫した状態だと、察しもよくなる。ケイの
視線の意味を悟ると静かに目を閉じ、詠唱に入った。
- 55 名前:ファイナル・クエスト(044) 投稿日:2001年10月06日(土)00時03分37秒
- 召還。
現在では、札などを用いて行う精神魔法の一種に考えられがちだが、本来の召還とは
そうした形式化したものとは違い、一切の道具を用いない、秘術の一種である。
まず、術者は自らの霊力を高め、異界にアクセスをする、が、この時のアクセス先、いわば
異界の住所のようなものだが、それを含んだ呪文・言霊はナップ族のように代々召還を
行ってきた者たちの間でのみ受け継がれる。また、この詠唱の部分を形式化したものが
札である。
そして、アクセスに成功した術者は、目的の異界の住人に呼びかけを行いつつ、更に霊力を
高める。この時、相手の住人が望むもの(霊力の量、質)が達成された時、召還は成功する。
- 56 名前:ファイナル・クエスト(045) 投稿日:2001年10月06日(土)00時04分17秒
- しかし、こうした手続きをすべて正確に行っても、召還ができない者もいる、と言うよりも召還に成功
する者のほうが少数だ。これがいわゆる資質なのだが、その点がいまだに解明されていない
ことが、召還が秘術と呼ばれるゆえんである。
さらに、召還を行う者の中には、マスタークラス(支配者)と呼ばれる者たちもおり、彼らは、
憑依という技を用いて、召還されたものたちを自らの肉体に宿すことで、術者自身の身体能力を
高めたり、特殊な能力を発揮することができる。
- 57 名前:ファイナル・クエスト(046) 投稿日:2001年10月06日(土)00時05分37秒
- マキの詠唱が始まって1分が経った、アイの言っていた解除が始まったせいか、ケイの体には
生気が戻り始め、そして、マキの体からは目に見えるほどの霊力がゆらゆらと立ち上り始めた。
(すごい霊力、ヒューマノイドのものとは思えない・・・これがサモナー・・・)
初めて見た召還にケイも息を飲んだ、非常に短時間とはいえ、あそこまで霊力を高めることは
ヴァンパイアのケイにも難しい。
ケイの見つめる先で、マキの霊力が一段と高まり、詠唱が終わりに近付く。
「・・・・・・アスガルドの偉大なる支配者、オーディンに仕えし娘よ、我にその金色の翼与えたまえ・・・
出でよ、ワルキューレ!」
マキの前で空間が歪み、異界に続く渦が現れた。
そして、その中から光に包まれたワルキューレが現れた。
その背丈は、ヒューマンの女性と同じくらいだが、全身を金色の甲冑に包み、右腕に2mは
あろうかという槍を携えた姿はまさに戦士だった。
さらに、その背中には鷲のようにたくましい金色の翼。
「あはっ、ひさしぶり。」
現れたワルキューレの頭をマキは無造作に撫でまわした。
- 58 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月06日(土)01時11分14秒
- うーん、あいかわらず面白いです。
ようやくごっちんの能力も見れたし、
こうなると未だ登場しないメンバーも見てみたくなりますね。
>オムニバス短編集
実は私も参加者でした(w
もちろんあちらも読ませてもらいました。
そう言われれば内容はこちらとは違いますけど、
丁寧でやさしい文章は同じですね。
続き楽しみにしてます。がんばってください。
- 59 名前:名無しです。 投稿日:2001年10月06日(土)01時13分17秒
- 今日初めて読みました…、 なんでこんな面白いのに
見逃してたんだろう…。
多分 この安直なタイトルのせいです。もっと凝った名前付けてくださいyo。
………
平家のみっちゃんが ウチ等と おんなじ目線でキャラ相手に動いて
くれてるので、親近感があって読みやすいです。
これから 楽しみにしていきます!!
- 60 名前:なつめ 投稿日:2001年10月06日(土)23時39分22秒
- >>58さん
>未だ登場しないメンバー
ははは、と笑ってみる。全然考え中です。(ニガワラ
とりあえず、今出てる人たち含めても、ちゃんと考えてるの数人だけです。
でも、まあ、そのうち・・・
>丁寧でやさしい文章
ちょっと照れた
>>59さん
読者さんのレス読んで、声出して笑ったのは初めてです。
>この安直なタイトルのせいです。もっと凝った名前付けてくださいyo
おっしゃる通りです、苦し紛れにつけたタイトル、周りを見渡すと特にここ月板の
作者さんたちは凝ったタイトルが多いのでしょぼくて浮く浮く。
すごい後悔しましたもん、そこへきて、この的確な指摘、大笑いしました。
でも、内容勝負ってことで、頑張るのでまた続けて読んでやってください。
- 61 名前:ファイナル・クエスト(047) 投稿日:2001年10月06日(土)23時41分35秒
- 第3段階
霊力の抑制を解除したら、速やかに合流。
その際手段は問わない。
目の前で繰り広げられる光景に、ケイは卒倒しそうになっていた。
アスガルドの支配者、ヴァルハラの王、オーディン。闘いにおけるその力は絶大。
魔馬スレイプニルにまたがり、唯一無二の槍グンニグルで敵を蹴散らす姿は味方すら恐怖を
おぼえる。
そして、その娘でありオーディンに付き従う12人の女戦士の一人が今、目の前に現れた
ワルキューレである。
(それを、あの子は頭撫でまわして、よしよしって・・・)
加えて、ワルキューレの召還という、貴重な瞬間に立ち会いながら、そ知らぬ顔で巨大モニターと
にらめっこを続ける、アイ。呆れてものも言えないとはこのことだ。
- 62 名前:ファイナル・クエスト(048) 投稿日:2001年10月06日(土)23時42分44秒
- 「さてと、おしまいっ・・・あれっ、マキさん、だれそれ?」
「友達!」
自分の作業を散々満喫したアイが、間抜け顔でワルキューレを指差すと、マキは間髪いれず
元気いっぱいに応えた。
「あ、そうですか。
で、こっちは終わったんで、そろそろ合流しに行こうと思うんですけど。」
(なんで、『友達』の一言で納得できんだよ!)
心の中で毒づきつつも、ケイも先程から繰り返される自分の常識を超えた出来事に
なんだかそんなことは、どうでもよくなってきた。
「ねえ、ヨッスィたちが今いる貯蔵庫ってちょうどここの2フロアー上だよね。」
「ええ、見取り図ではそうなってます。」
「ふふ、アタシいい事思いついた。」
不適に笑うマキ、ケイはもうどうにでもして状態だったので、あえて何も言わなかった。
- 63 名前:ファイナル・クエスト(049) 投稿日:2001年10月06日(土)23時44分39秒
- さて、マキが悪巧みを思いついた少し前、貯蔵庫では壮絶な銃撃戦が繰り広げられていた。
港の倉庫ほどもある巨大な貯蔵庫の真中には、その辺にあった棚や机で高さ3メートルほどの
バリケードが造られていて、警備兵達は、たびたび侵入を試みるのだが、そのたび、倉庫の
奥から的確に狙撃され、中に入れずにいた。
「ちょっと、みっちゃん、いいかげんライフル使ってよ。」
「アカン、そんな禁忌の武器使うわけにはいかん。」
「けど、そんなボウガンじゃ全然向こうまで届いてないでしょ。」
慣れた手つきで弾を込めながら、ヨッスィが先ほどから幾度となく繰り返した説得をまた
始めている。
体術ではリカに遅れをとったヨッスィだが、貯蔵庫に入ってからは大活躍だった。
まず、巨大な棚を一度に3つ、4つと手際よく積み上げると、あっという間に強固なバリケードを
造り上げてしまった。
そして、その辺にあった使えそうな武器をリカとミチヨに渡し、軽く手ほどきすると、自分は
狙撃用ライフルでこれまで17人の侵入者を、17発の銃弾で葬った。
- 64 名前:ファイナル・クエスト(050) 投稿日:2001年10月06日(土)23時46分23秒
- 「あのね、みっちゃん、いくらわたしが頑張っても限界があるの、リカちゃんは見ての通り、
飛び道具の扱いはてんで駄目なんだから、みっちゃんに頑張ってもらわないと。
ライフルなんか弓やボウガンといっしょでしょ。」
「弓もボウガンも火薬使わんもん・・・」
(だめだ、子どもモード入ってる、こりゃ何言ってもだめだな。
リカちゃんはっていうと、さっきから反動で何回も吹っ飛んでるし、って言うかあのエグイ蹴りを放つ
下半身があって、なんでショートライフル程度の反動に耐えられないんだろう?
あ〜ぁ、わたしもあっちがよかったかも、なんかこっちって変人班じゃん・・・)
3人いながら孤軍奮闘、そんな状況にうんざりしつつも、ヨッスィは視界の片隅に新たな
侵入者を見つけていた。
しかし、まだ距離がある、もう少しバリケードに近付いてもらわないと必中は難しいので、
少し待とうと銃身を下げた瞬間、脳を揺さぶるほどの爆発音とともに、バリケードが吹き飛んだ。
一瞬の出来事、が、火薬の匂いはしない。最悪だ。
「クソッ、黒魔術部隊の到着か。」
先程までのいじけ顔とは違う、戦士の目をしたミチヨがいた。
- 65 名前:ファイナル・クエスト(051) 投稿日:2001年10月06日(土)23時47分32秒
- こちらの霊力が封じられている状態で、術者と戦うことは自殺行為に等しい。
生物は通常微かではあっても、無意識に霊力を放っている、そのため、それが術に対して
耐久を生むのだが、こうして一切の霊力が封じられている状態では、裸で戦うようなものだ。
普段なら、レジストできるほどの弱い術でも致命傷を負いかねない。
リカの顔色も優れない。ハーフとはいえダークエルフ、術に関する知識はヒューマン以上にはある。
非常に危険な状況に陥ったことを、瞬時に理解したのだろう。
しかし、だからといって、何か解決策があるわけではない。
おそらく、今崩れ落ちたバリケードの向こうで行われているであろう、術部隊の詠唱が終われば、
3人ともただではすまない。
(・・・しゃーないな、使うか・・・)
ある決意を胸に、ミチヨが左耳のカフスに手をかけた・・・
- 66 名前:ファイナル・クエスト(052) 投稿日:2001年10月07日(日)21時20分05秒
- 「あっ!」
リカのすっとんきょんな叫び声に驚いて、ミチヨは慌てて耳から手を離した。
決意をくじかれて、不機嫌な顔で振り向くと、リカの額にライフルをつきつける。
「人が一生懸命考え事してるときに、何事かなぁ?」
「いや、ヘイケさん、怖いからそれ向けないで、ねっ、落ち着いて、って言うかほんとにセーフティ
外してるし、いや、ごめんなさい、だから装填しないで、って、あっ、ガチャって、そんな・・・」
じと目のミチヨに恐れをなし、手をひらひらさせながらリカは作り笑いを浮かべる。
「ねえ、感じません、霊力戻ってますよね・・・」
「え?・・・言われてみれば・・・うん、確かに戻ってる!あの子ら成功したんやな!」
「ねっ、ねっ、これで楽勝ですよ。」
先程までの険悪な空気はどこへやら、両手をつないで飛び回りながら喜びを表す2人を、
霊力が弱いため状況が把握できないヨッスィはいぶかしげに見つめていた。
- 67 名前:ファイナル・クエスト(053) 投稿日:2001年10月07日(日)21時21分42秒
- 「よしっ、これで形勢逆転や、とりあえず今、詠唱に入ってる術兵は任しとき、あっ、けど
ちゃんと援護はしてな。」
そう言うとミチヨは2人が何か言うのも待たずに、先程までバリケードがあった場所まで降りると、
両手を前にかざし、静かに詠唱に入った。
敵から丸見えの位置での詠唱、それは術兵の前に配置された警備兵にとっては格好の
的になるはずだが、ヨッスィの的確な狙撃と、いつのまにかミチヨのそばまでやって来た
鬼神=リカのおかげで、彼らはミチヨに指一本ふれることができない。
「ヘイケさん、それ何の呪文?」
「黙ってて、集中できへん。」
リカもそれなりに術に対する知識はあるのだが、ミチヨが今唱えている術は記憶になかった。
(白魔術かな?)
セーバーを振りかざして突撃してきた警備兵を、軽く蹴り飛ばしながら、リカは
ぼんやりと考えていた。
- 68 名前:ファイナル・クエスト(054) 投稿日:2001年10月07日(日)21時22分47秒
- (それにしも、おかしなもんやな)
詠唱に集中しつつも、ミチヨの口元が緩む。
戦闘において、術の役割は大きい、その使い方、威力によって形成は簡単に逆転する。
しかし、その分リスクも大きい、それが詠唱の時間に表れる。
強力な術ほど、詠唱にかかる時間は長く、その分無防備になりやすい、そのため、術者が
その力を遺憾なく発揮するためには、味方との信頼関係が不可欠だ。
詠唱の間、完全に無防備になる自分の身を安心して預けることができる、そんな味方なくして、
術は成立しないといっても過言ではない。
出会って、まだ数ヶ月、しかも1人はエルフ族にとっては宿敵のダークエルフ、それでも、
その時のミチヨは無意識に彼らに全てを預けることができた。
- 69 名前:ファイナル・クエスト(055) 投稿日:2001年10月07日(日)21時27分39秒
- 「・・・さん、ヘイケさん!」
「ん?なんや?」
術への集中と、考え事でリカが呼んでいる事にも気付かなかった。
「ちょっとやばいです、向こうの霊力半端じゃないですよ。
たぶん、術を重ねてくる気です。」
「そうやろな、エイムの術部隊はほとんどがヒューマンかヒューマノイドやから、
術の合成に頼るしかないもんな。」
「そんな余裕で解説してる場合じゃないですって!あの霊力、絶対やばいです、
今からでも倉庫の物資から結界符探したほうがいいですよ。」
「大丈夫や、ウチを信じ、それよかウチが合図したら、絶対ウチより後にさがるねんで。」
言い終わるとミチヨは再び両手を前にかざし、詠唱を再開した。
見ると、警備兵達はすでに撤退していた。敵の詠唱が終わりに近付いている証拠だろう。
- 70 名前:ファイナル・クエスト(056) 投稿日:2001年10月07日(日)21時30分27秒
- 「よし、リカちゃん下がっとき!」
ミチヨが叫んだ瞬間、敵の陣営から真っ赤な光があがる、どうやら敵は部隊一丸でファイア系の
術を放ったようだ。霊力の高まりからして、この倉庫丸ごと焼き払える威力だろう。
(ヤッパリ放出系か、予想通りで嬉しいで)
「・・・静寂の森に住みし、慈悲深きディアナよ、その力をもって敵を退けん・・・ル・クロワ!!」
敵が放った紅蓮の炎が、ミチヨを包み込む直前、詠唱が終わり、ミチヨの前に淡い金色の壁が
現れた、壁といってもどちらかというとカーテンのように薄く柔らかで、一見すると金色のオーロラの
ようだった。
最初、その壁はミチヨを炎から守っていただけが、そのうち、その光が強くなるにつれ、炎を
押し戻し始めた。爆発音が起きないことに、異変を感じた敵が気付いたときには、すでに
手遅れだった。光の壁は完全に炎をはじき返し、貯蔵庫の外で待機していた警備兵も含めて
彼らを跡形もなく焼き払っていた。
黒魔術部隊1つ分の術を1人ではじき返す術力、腐っても元親衛隊である。
- 71 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月07日(日)22時13分39秒
- みっちゃんカッケー!
まだ切り札もありそうだけど……。
- 72 名前:なつめ 投稿日:2001年10月08日(月)23時26分47秒
- >71さん
戦闘場面はできるだけカッケーくなるよう頑張ってますので、そう言ってくれると
嬉しいです。
- 73 名前:ファイナル・クエスト(057) 投稿日:2001年10月08日(月)23時28分52秒
- 肉や石壁が焼けた匂いと煙で、倉庫跡はもうもうとしていた。
「ねえ、リカちゃん、今の何?何で私たち無事なの?」
「・・・アンチ・マジック・シェル、それもさっきのはとびきりすごいやつだよ、
多分、月の女神の祝福を受けてる。」
ミチヨが放った術にリカはすっかり興奮していて、ひとみの問いにも振り向くことなく、
立ち上がる煙を凝視しながら応えた。
「何?そのアンチなんとかって?」
「術への耐久力を高める術の鎧みたいなものだよ、だけど、普通は攻撃を防ぐだけ。
ああやって、完全に跳ね返すってのはかなりすごいんだよ。」
「ふ〜ん、みっちゃんてすごい人だったんだ。」
「いや、あれだけの術を1人ではね返したら、きっと本人もただじゃ済まない・・・」
独り言のようにつぶやいた自分の言葉にはっとして、リカはおさまりかけていた
煙の中に駆け出した。
- 74 名前:ファイナル・クエスト(058) 投稿日:2001年10月08日(月)23時30分42秒
- 「ヘイケさん!」
ミチヨは詠唱していた場所から動くことなく、自らを抱きしめるようにしてうずくまっていた。
「ヘイケさん、手・・・」
「ちょっと、しんどかったかなぁ。」
ミチヨの囚人服は二の腕のあたりからぼろぼろに焼け落ち、そこからのぞく腕もミキサーに
突っ込んだかのように、10cmほどの無数の傷を負っていた、しかし、同時に火傷も
負っていたので、腕全体が赤黒くなってはいたが、出血はなかった。
「悪いけど、当分何もできんわ。まあ、腕が残っとっただけでも良しとせんとな。」
へらへらと笑いながら立ち上がるが、痛くないはずがない、いや、それよりも、失敗すれば
自らの命すらどうなっていたか分からなかったのだ。
リカはミチヨのぼろぼろの腕を見ると、きつく唇をかみ締めた。
悲しいのが半分、そして、悔しいのが半分。
シスターでありながら、闇に属する魂を持つため神々の祝福を得られない彼女は、癒しの術が
使えない。まともなシスターなら、これだけの傷を完治させる事は難しくても、痛みを取り除いて
やることくらいなら、簡単だろう。
- 75 名前:ファイナル・クエスト(059) 投稿日:2001年10月08日(月)23時32分19秒
- 「ごめんね、みっちゃん・・・」
自分の囚人服のすそと袖を破ると、それをミチヨの腕に巻いてやる。
「なに謝っとんねん、大丈夫やって。それよりアンタまでみっちゃんて・・・アレッ、泣いとんか?」
「泣いてない・・・泣いてないけど、かっこつけ過ぎないでください。」
(おかしな子やな、ダークエルフのくせに・・・めっちゃ悪党で、鬼のように強いかと思えば、
今はこんなんやし)
下を向きながら、自分の腕に即席の包帯を巻くリカからは、さっきまで鬼神のように闘っていた
面影は無かった。
「うわぁ、派手にやったね。」
ライフル1丁、バックパック1個、それに特大のランスを抱えてやってきたヨッスィもミチヨの
腕を見ると驚きの声をあげた。
「アンタそれ使う気か?」
「うん、他のじゃ軽すぎて、これでもまだ軽くて頼りないんだけど手ぶらよりましかなって。」
そう言いながら、おそらく馬上用であろう巨大な槍をブンブンと振り回す。
「やめとき、こんなだだっ広いところやったらええけど、これからまた狭い通路通るんやろ?
そんなエモノ壁や天井に当たって邪魔になるだけや。」
- 76 名前:ファイナル・クエスト(060) 投稿日:2001年10月08日(月)23時33分49秒
- 「・・・言われてみればそうね。」
ミチヨに指摘された巨大なエモノをまじまじと見つめながら、少し考えた後、ヨッスィは
槍を無造作に放り投げた。刹那、槍が落ちたあたりから爆発音と噴煙が立ち昇った。
「到着!イェイ!!」
「あんた、私達を殺す気?!」
「怖かったです・・・」
新手かと思い、身構えていた3人の前に現れたのは、見慣れた2人を抱える見慣れない女。
ケイとアイをゆっくりと降ろすと、羽兜に金色の甲冑をまとった有翼の女は元気よく叫んだ。
「おまたせー!」
「あんた、ごっちんか?」
「あはっ、そうだよ、あれ、みっちゃん手怪我した?」
派手な装備で一瞬誰か分からなかったが、ぼろぼろのミチヨの手を心配そうに見つめる
その顔は憑依前より少し大人びているが、マキだった。
- 77 名前:ファイナル・クエスト(061) 投稿日:2001年10月08日(月)23時44分05秒
- 「・・・で、ワルキューレを憑依させたごっちんが、下のフロアーから天井突き破って、
一気にやってきたと、そういうわけね。」
説明というよりは、怒りにまかせてまくし立てているケイを、
ヨッスィとリカがハイハイとなだめている。
「ごっちんあんたマスタークラスやったんか?」
「ううん。この人だけ特別、友達だから。」
3人から少し離れた場所で、ミチヨはマキの治療を受けていた。
治療といっても、ワルキューレは戦闘の方が得意なので、痛みを和らげる程度にしかならないが、
何もしないよりはましだろうということだった。はずだが・・・
「なぁ、ごっちんあんた必要以上にウチの体さすってないか?」
「え〜、そんなことないよ、あっ、ここも火傷してる。」
「待てっ!そんなトコ絶対火傷してない!いや、ちょっとアカンて!」
そして、アイはというと、大騒ぎの5人を尻目に、ヨッスィが無事確保しておいてくれた
バックに、目じりの下がりきった顔で頬擦りしていた。
「あぁ、私のかわいい工具、機械、図面、そして・・・ふふふ。」
付近の警備兵を吹っ飛ばした貯蔵庫は、とりあえず平和だった。
- 78 名前:ファイナル・クエスト(062) 投稿日:2001年10月09日(火)23時17分55秒
- 第4段階
地下通路を突破し、ドックへ
飛空艇を奪取!
「なあ、まだ行かんの?」
全員がそろってからすでに15分ほどが経っていた。
その間にしたことといえば、一通り再開を楽しんで、焼け残った武器から、それぞれが
自分に合いそうな物を選んだくらいだ。
ちなみに、ケイとヨッスィは無難に警備兵用のセーバーを選んだ。ヨッスィは軽すぎて頼りないと
文句を言っていたが、他に良さそうな物も無かったので諦めたようだ。
リカは鋼鉄のフィストを嬉しそうにはめていた。ミチヨは先程まで素手で警備兵を叩きのめしていた
姿を思い出し、心の底から不運な警備兵達に同情した。
そして、ミチヨは負傷のため、マキはすでにワルキューレのランスがあるから何も手にしなかった。
「アイちゃんも何も要らんの?」
「はい、私にはこれがありますから。」
言いながら真っ黒のバックパックを担ぐアイ。
床に置くとアイの腰まであるバックは、その小柄な体にはあまりに不釣合いだ。
しかも、バックの側面に安全ピンでつけられた『第2班 アイ=タカハシ』の名札が
滑稽さを増している。
- 79 名前:ファイナル・クエスト(063) 投稿日:2001年10月09日(火)23時22分26秒
- なかなか出発しようとしない面々にミチヨが苛立ち始めた時、遠くで爆発音だろうか、
空気を震わせる、低い音がした。
「さて、始まったみたいだし、行きまっしょっか・・・どっこいしょ。」
「ちょっと、アイちゃん、重たいのは分かるけど、どっこいしょはないでしょ。」
大きすぎるバックに翻弄されて、ふらふらと立ち上がるアイにヨッスィが手を貸してやる。
「なあ、何が始まったん?」
「あの子、霊力抑制してた機械壊すついでに、この施設の扉開けれるだけ開けたんだって。
エンカクソウサとかなんとか言ってたけど、よく分かんないわ。
でもまあ、そのお陰で今頃、あっちこっちで、うっぷんの溜まってた囚人たちが大騒ぎ、ってわけよ。
・・・そんなことより、みっちゃん、あんたその手で飛空艇操縦できるの?」
ケイにしてみれば、ミチヨの怪我を純粋に心配しただけなのだが、マキに体をまさぐられた後
ということでミチヨの機嫌が良くなかったことと、何よりその目が見下すようで気に入らなかった。
- 80 名前:ファイナル・クエスト(064) 投稿日:2001年10月09日(火)23時23分37秒
- 「余計なお世話や、飛空艇操縦するのに力はいらん。
それより、人の心配よりも自分の顔色はどないやねん、今にも倒れそうな顔して
そんなセーバー持ってるけど、ちゃんと使えるんか?」
「・・・・・・かわいくない女。」
「お互い様や。」
「あの2人仲いいねえ。」
「・・・それよりリカちゃん、ちょっと見ない間にずいぶん色っぽいカッコになってるね。」
通常囚人服は野暮ったい長袖長ズボンだが、リカの上着はミチヨのために即席包帯を
作ってやったせいで、極端にすその短いノースリーブになっていた。
「うん、みっちゃん怪我した時、包帯になるようなものがなかったからね。
ごっちんこそなんかそれかっこいいね。」
リカが”それ”と言ったのは、マキの羽兜か、槍か、はたまた金色の翼か分からないが、
誉められたら、とりあえず誉め返す、それが彼女の哲学だった。
- 81 名前:ファイナル・クエスト(065) 投稿日:2001年10月09日(火)23時25分00秒
- 「・・・ふ〜ん、もうヘイケさんて呼んでないんだ。」
「あれっ、なんか怒ってる?」
「・・・別に、ちょっと面白くないだけ。」
金色の翼をはためかせ、さっさと貯蔵庫をあとにするマキ。それを追いかけるリカ、
そんな2人の後からはヨッスィとアイが「リュック何入ってるの?」などと言いながら、
のんびりついて来る。
そして、最後尾ではミチヨとケイがたまにお互いを睨みながら、だんまりを決め込んでいる。
前列、マキ・リカ。中列、ヨッスィ・アイ。後列、ミチヨ、ケイ。
戦闘本能なのか、単なる偶然か、6人は知らず知らずのうちにこの時の6人が取りうる
隊列の中で、もっとも有効な隊列を取りつつ、ドックへ向かった。
- 82 名前:ファイナル・クエスト(066) 投稿日:2001年10月10日(水)21時03分22秒
- 大混乱。
「C棟でデーモン出現!独居房の囚人に召還士がいた模様!」
「中庭、労働区画にて落雷発生!警備兵に多数の死者が出た模様です!」
「第4防衛ライン突破されました、何者かが囚人たちを指揮している可能性あり!」
地上からは絶えず警備兵の怒声や、何かが爆発する音、叫び声が聞こえてきた。
しかし、ミチヨ達が行く地下通路は本来囚人たちの居住区域であるため、ほとんどもぬけの殻、
警備兵の多くも地上に出払っていたため、後方からの追手はなかった。
これは、ミチヨとケイ、2人の負傷者を抱えるパーティにとって好都合だった。
- 83 名前:ファイナル・クエスト(067) 投稿日:2001年10月10日(水)21時05分08秒
- 「よしっ!8人目、これで追いついた。」
「いいえ、私さっきのヒゲで10人目、2桁に乗りました。」
まるで射的を楽しんでいるかのような2人。
たまに5〜6人の集団で現れる警備兵達も、その多くが発見と同時に中列のヨッスィと
アイによって狙撃の的になっていた。
ちなみに、ヨッスィの名誉のために言っておくと、純粋に射撃の腕前だけなら、断然ヨッスィが
上なのだが、いかんせんスペックが違いすぎた。
一方、貯蔵庫にあった改造銃、他方、ジェッティの技術の詰め込まれたオートサイト・ライフル。
技術だけでは埋められない差があった。
そして、無事狙撃を免れた残りの警備兵も、鉄壁の前列を突破することはできない。
「・・・ねえ、ヨッスィ、アタシの横で楽しそうに警備兵の鼻折ってるの誰?!
みっちゃ〜ん、この嬉しそうに敵のヘルメットごと頭砕いてるの誰?!
ねえ、リカちゃん・・・アタシもう怒ってないから戻ってきて、ねっ。」
- 84 名前:ファイナル・クエスト(068) 投稿日:2001年10月10日(水)21時08分25秒
- 大騒ぎしつつも迷路のような地下通路を1キロは走っただろうか、皆口には出さないが、
計画開始から戦闘続きで体力的にも精神的にもかなり消耗し始めていた。
「よしっ、開きました。」
本日、7つ目の開錠を終えたアイが見取り図を確認する。
この仰々しい扉の向こうの広間を抜ければ、ドックはもう目と鼻の先だった。
しかし、最初に部屋に入ったマキは、眉間にしわを寄せながら、誰にともなく尋ねた。
「・・・何この部屋。」
およそ30メートル四方の部屋は、地下にしては異常に天井が高く、
床と壁が扉をのぞいて一面銀色だった。
しかも、部屋の奥の天井からは、ガス管ほどもある銀色のパイプが口をあけている。
さらに、正面の扉のそばには羽の生えた悪魔の石像が1対。
「気味悪い部屋ですね。」
「最悪のインテリアね、減点20点ってトコかしら。」
内装の不気味さから来る恐怖を軽口に変えながら、部屋の中央まで一行がきた時、
背中のほうで石と金属がぶつかる音がした。
「・・・閉じ込められたんかな・・・」
「・・・やっぱり水攻めですかね・・・」
- 85 名前:ファイナル・クエスト(069) 投稿日:2001年10月11日(木)21時06分07秒
- 迂闊だった。
親衛隊員として、傭兵として、数々の戦場を経験してきた2人は顔を見合わせ、
苦笑いで互いの浅慮を慰めあった。
特殊な内装の部屋、天井からのパイプ、何かしらのトラップには備えておくべきだった。
「ギャギャギャ、かかったな!」
リカとは別の意味で耳に障る声。人の神経を直接鷲掴みするような、下品な響きだ。
物陰にでも隠れていったのだろうか、困惑するミチヨたちの前に現れたのは、極端に背が低く、
小太りの男。顔はぼろぼろのローブに隠れて見えないが、声からしてそれほど若くはないようだ。
「・・・最悪な奴が出てきたな。」
「みっちゃんアレ知ってるの?」
「笑い方が下品、更に減点20。」
いつも通りのやり取りの中にも緊張がはしる。
6人の中でも戦闘経験が豊富なミチヨ、ヨッスィ、ケイは、目の前の男の立ち振る舞いや
異質な霊力から、敵が今までの警備兵とはわけが違う事を瞬時に悟ったのだ。
- 86 名前:ファイナル・クエスト(070) 投稿日:2001年10月11日(木)21時09分11秒
- 「あいつ、元親衛隊員や。」
「え?親衛隊にあんな色物もいるの?」
マキのように辺境に住む者が親衛隊に持つイメージは『かっこよくて、強い』程度の漠然とした
ものだが、実際は軍の生え抜きの総称である親衛隊には様々な種類の者達がいる。
「ウチも1回しか会った事ないねんけど、アレは特殊工作、特に汚れ仕事を
一手に引き受けてた傀儡士(くぐつし)や。
けど、仕事ついでに私腹を肥やしてたんがばれて、トバされたって聞いてたけどまさか
こんな所で会うとはな」
汚いものを見るように、ミチヨに顎で指されたアレは形容し難い笑い声をあげ、ローブのフードを
めくり上げた。
しわだらけで、緑がかった肌の色は一見するとモンスターのようだが、その正体は
山岳地帯に住む少数民族、キアノシス。
彼らは外界との接触を好まないが、性質は温厚。
労働力として、ゴーレムなどを使っている以外は極平凡な山岳民族である。
が、長い歴史の中で異分子は現れるものである。
- 87 名前:ファイナル・クエスト(071) 投稿日:2001年10月11日(木)21時10分54秒
- 「俺はな、ヘイケ、お前が大嫌いだったんだよ、やれポリシーに反するだ、非人道的だと任務を
選り好みするくせ、色仕掛けで上官に取り入って出世だけは一人前。
けどな、そんなお前が、最後は自分の不正がばれそうになって、それを咎めた上官を
殴り飛ばして上官侮辱罪になったって聞いた時は、笑いが止まらなかったぜ、ギャギャギャ!」
「うわぁ、みっちゃん悪党。」
「うっさい、そんなわけないやろ、妬みそねみはどこにでもあんねん。」
一人で悦に入っている、傀儡士をよそに、ヨッスィは冗談を言いながらも、ミチヨの前で身構えた。
集団戦において、その時最も戦闘能力が低い者を守る事は傭兵時代に培われた常識だった。
「ローブ着てた方がましだったわね、減点30。」
「あはっ、あの顔は減点40だよ。」
同様にケイの傍らではマキが金色の槍を構えていた。
- 88 名前:ファイナル・クエスト(072) 投稿日:2001年10月12日(金)00時03分09秒
- 「ギャギャギャ、そうやって笑ってられるのも今のうちだけだ。」
減点80点が右手を挙げたのを合図に、天井のパイプからはピンク色をしたゲル状の液体が
流れ出した。そして、ただの石像だと思っていた悪魔が、その羽を大きく広げミチヨたちの
頭上を獲物を狙う鷹のように、円を描き始めた。
「何ですかあれ?」
「ちっ、水攻めの方がいくらからましだったみたい。
スライムとガーゴイルだよ・・・でもなんでこんなトコにモンスターがいるのよ。」
「傀儡は秘術の一種でな、ガーゴイルみたいな無魂系のモンスターを操ったり、
熟練者になると、ああやって知能の低いモンスターも使えるねん。」
生まれて初めて本物のモンスターを見たアイ、モンスターにはそこそこ免疫があるが、それでも
突然の登場に驚きを隠せないヨッスィ。
そんな2人に平静を装いつつ説明したミチヨも、心の中で舌打ちした。
(なるほど、それでセラミック張りか・・・クソッ)
- 89 名前:ファイナル・クエスト(073) 投稿日:2001年10月12日(金)00時04分34秒
- 状況が悪すぎる。
向こうは傀儡士1人にガーゴイル2体、そしてスライム。
単体の戦力は大した事ないが、組み合わせが悪すぎる。
ピンクのスライムは天然ではめったにお目にかかれない。
通称、アシッド・スライム。強酸の塊のような奴で、物理攻撃を仕掛けるのはかなり危険だ。
そのため、術による攻撃が有効なのだが、今上空を飛び回っているガーゴイルには、
術がほとんど通じない。
術しか通じないモンスター、術が通じないモンスター。
その2種類のモンスターが傀儡士という、強力な司令塔のによって、一糸乱れぬ連携を
空中と地上から仕掛けてくるのだ。
それに比べてこちらは、個々の能力こそ高いものの、パーティとして戦うには未熟すぎる。
出会ってまだ日が浅いうえ、一緒に闘ったのは今日が初めて。まだ、誰がどれほどの
戦闘能力を持っているのか分からない。
こんな状態では、とてもじゃないが集団戦闘などできるはずもない。
- 90 名前:ファイナル・クエスト(074) 投稿日:2001年10月12日(金)20時02分47秒
- (分断しての各個撃破しかない、一人一人の能力やったらこっちが上のはずや・・・)
「誰か!コールドかファイア系の術は?」
皆がどう戦うべきか分からず、悶々としていた空気をミチヨが引き裂いた。
「少しですが、水の精霊と契約してます。」
「おっ、やっぱりリカちゃん寒いの得意やねんな。」
「・・・ええ、まぁ。」
助かった。
釈然としない面持ちのリカはさておき、ミチヨは作戦のめどが立ったことに胸をなでおろした。
「みっちゃん、なんか手があるの?」
上空のガーゴイルを警戒しながら、振り返ったヨッスィに力強く頷き返す。
「多分、これしかないって方法や、ウチを信じてくれるか?」
ミチヨのあまりの真剣さに一瞬戸惑いを見せたものの、皆笑顔で頷いた。
「その代わり失敗したら分かってるんでしょうね。」
「心配せんでええ、失敗したらもうこの世で会うこともないわ。」
この時初めて、ケイの大きな瞳から放たれる光に優しさを感じた。
- 91 名前:ファイナル・クエスト(075) 投稿日:2001年10月12日(金)23時39分01秒
- 「よしっ、開始!」
ミチヨの合図と同時に、マキが上空のガーゴイルめがけて勢いよく飛び立つ。
ワルキューレとガーゴイルならば、10回戦えば10回ともワルキューレが勝つだろう。
しかし、この場合厳密にはワルキューレを憑依させて能力を高めたマキ対ガーゴイルだ。
戦闘経験がほとんど無いマキにとって初めて相手にするモンスター、空中戦、1対2、狭い戦場。
不利な要素は数え上げればきりが無い。
「うわっ!きゃっ!危ない!」
上空から聞こえるのはマキの叫び声ばかり。
前後左右のみならず、上からも下からもマキの死角を狙い、手足合わせて8本もの鍵爪が
間髪いれず襲いかかる。
(だめだ、避けるだけで精一杯だよ)
マキに与えられた役割。
それはガーゴイル2匹をできるだけひきつけ、地上に攻撃させないこと。
しかし、本当に引き付けているだけだった。
- 92 名前:ファイナル・クエスト(076) 投稿日:2001年10月13日(土)00時07分49秒
- 時間が経つにつれ、形勢は悪化するばかり、5合も合わせた頃には完全に防戦一方だった。
ガーゴイル達に速さは無い、むしろスピードだけならマキのほうがぶっちぎりに速いのだが、
そのスピードを活かすスペースが無いのだ。
30m四方の鳥かごでは、金色の隼は羽ばたけない。
(だめだ、やられる)
一瞬の隙を突いて、ガーゴイルの1匹がマキの下をくぐり、完全に後を取った。
振り向きざまに反撃すれば、今前にいるもう1匹に確実に首を持っていかれる。
もはや、これまで、それならばせめて1匹だけでもと覚悟を決めた。
後悔がないといえば嘘になる、だけど、ここまで自分はできる限りの事はしてきた。
願わくば、あと少し、みんなと一緒に居たかった・・・
思いを断ち切るように、目の前のガーゴイルに向かって、大きく槍を振り上げる。
しかし、マキの槍は空を斬る。
届かなかった。目の前のガーゴイルはとどめをもう1匹に任せ、マキの足元に消えていた。
- 93 名前:ファイナル・クエスト(077) 投稿日:2001年10月13日(土)00時09分42秒
- 視界の片隅でスライムの陰に隠れた、醜い傀儡士がにやついているのが見えた。
涙が出そうだった。
ただ死ぬことが怖いのではない、何もできずに死ぬことが悔しいのだ。
召還の才能には恵まれていた、特別な関係にあるとはいえ、この歳でワルキューレを
呼び出せる者などマキを除いて里にはいなかった。
しかし、与えられの天賦の才の代わりに失ったものも大きかった。
今までの人生でいつが一番楽しかったか、もしそう訊かれれば、里での暮らしを少し思い出した
後に、この数ヶ月の牢獄暮らしだと笑顔で応えるだろう。
ここでは皆誰も自分をマキ様とは呼ばないし、”特別”にしなかった。
力仕事が苦手な自分に代わって、進んで助けてくれたヨッスィ、文句を言いながらも
手を貸してくれたケイ。見たこともない国の話をしてくれたリカ、聞いたこともない技術を
教えてくれたアイ。
そして、昨日初めて話したばかりだけど、もっと前に知りあっていたかったミチヨ。
(・・・ごめんね、みんな・・・)
- 94 名前:ファイナル・クエスト(078) 投稿日:2001年10月15日(月)22時18分03秒
- 一寸先は闇。
戦場においては一瞬の判断ミスが命取りになるし、歴戦の勇者も思わぬことで命を落とす、
それが闘うという事が持つ本質的な怖さだ。
しかし、その逆もある。
決して大きな音ではなかったが、確かな意志をもって放たれたその音は
絶望のふちにいたマキに救いの手を差し伸べ、走馬灯を切り裂いた。
驚いて振り返ると、真後ろにいたはずのガーゴイルが、右手を振り上げたままの格好で、
着弾の勢いで吹っ飛んでいた。
即頭部への一撃。ヒューマンなら致命傷だが、ガーゴイルをはじめとする、
スタチューにとっては、かすり傷にもならない。そもそも「痛み」という概念すらないのだから。
それでも、マキにとってみれば起死回生の一撃。
銃声が、張り詰めていた気持ちをアドレナリンに変えた。
- 95 名前:ファイナル・クエスト(079) 投稿日:2001年10月15日(月)22時21分07秒
- 「らぁー!」
火薬の匂いの中、バランスを崩したガーゴイルを全力で追いかける。
もう1匹に背を向けることになるが、もうそんなことは気にする必要はなかった。
壁際に石の悪魔を追い詰めると、全力で金色に輝く弧を描いた。
生まれて初めての感触は爽快さや達成感とは程遠いものだったが、断末魔をあげる間もなく、
袈裟に斬り落とされた悪魔が、落下していくのを見ると、先程までの生ぬるい汗が
乾いていくのを感じた。
しかし、これで終わりではない。
残りの1匹を視界に捕らえると、壁を蹴り反転する。
その時、下で得意げにライフルを構えているアイに、親指を立てて応えてやるのを忘れなかった。
動きに余裕が出てきて、周りが良く見えるようになったのだ。
(あはっ、仲間っていいかもね)
- 96 名前:ファイナル・クエスト(080) 投稿日:2001年10月17日(水)20時46分55秒
- 「これで、勝ったな。」
「油断大敵よ。」
マキが叩き斬ったガーゴイルが、セラミック張りの床に激突するのを見ながら、
けが人2人は勝利を確信していた。
今回の作戦では、マキは2匹のガーゴイルを引き付けておくだけでよかったのだが、
予想を上回る働きですでに1匹を倒してしまった。
これで、この作戦の成功率はぐんと高まった。
ちなみに今回のそれぞれの役割は、マキがガーゴイルを引き付け、その間にリカが詠唱を行う。
そして、当然詠唱を妨害しようとするスライムに対しては、ヨッスィが溢れんばかりの体力と
機動力で縦横無尽に動き回りつつ、ライフルによる攻撃でけん制している。
「それにしてもスタルディーの体力はおっそろしいな。」
「あれで、ヒューマンだって言うんだからやってられないわね。」
- 97 名前:ファイナル・クエスト(081) 投稿日:2001年10月17日(水)20時48分48秒
- 戦闘開始以来、常に全力で走り回るヨッスィのスピードは時間が経つにつれて衰えるどころか、
ますます速くなっているのではないかと思えるほどだった。
それを遠巻き見ながら、ミチヨとケイは改造銃を持って走り回っている少女に
今回の作戦の”裏MVP”を心から送っていた。
ライフル程度で巨大なスライムを倒すことはできないが、隙あらば傀儡士を撃とうと右に左に
動き回るヨッスィの動きにスライムのスピードでついていけるはずもなく、結局スライムは
傀儡士を守る形で足止めされているのである。
そして、アイがミチヨに言われたのは、いざというときの狙撃である。
確かな腕前を持つアイだが、その防御力、回避能力はというと、非常に貧弱だ。
そのため、ヨッスィのように常時攻撃を行えば、ガーゴイルの的にされかねない、ゆえに、
ミチヨは自分が撃てといった時以外は撃つなと彼女に命令していたのだ。
そして、アイはその指示をきちんと守り、ここしかないというタイミングで大仕事をやってのけた。
ガーゴイルとスライムをリカに近づけないで、その間に詠唱を進める、作戦はここまでは完璧だった。
- 98 名前:ファイナル・クエスト(082) 投稿日:2001年10月17日(水)20時49分57秒
- 「さ〜て、リカちゃん、みんながんばっとるで、そっちはまだか?」
「いつでもいけます、ただ、私の霊力じゃあれだけ巨大なスライムを完全に凍らせる事が
できるかどうか微妙ですね。」
「は?微妙じゃ困るのよ!絶対成功させなさいよ!」
術よりも体術のほうが得意な元シスター。
得手不得手は誰にでもあると言って、術の鍛錬は正直あまり真剣にやってこなかった。
しかし、ミチヨの傷ついた腕とケイの形相を間近で見ながら、
術をまじめにやってこなかったことを初めて後悔した。
上空ではマキがガーゴイルをしっかり抑えていた。
タイミングは今しかない。
「ヨッスィ!下がり!」
ミチヨの合図で、リカが高めた霊力を解き放った。
「霧から生まれし、神牛アウドムラ、ユミルに授けしその力、今ここに示さん・・・フライズ!」
リカが天に向かってかかげた両腕の間から、冷気がほとばしりる。
そして、敵に向かってその腕を下ろした瞬間、横っ飛びのヨッスィの脇を
大気をも凍てつかせる吹雪が駆け抜ける。
「コラー!ギリギリのタイミングで撃つなー!」
- 99 名前:ファイナル・クエスト(083) 投稿日:2001年10月17日(水)20時51分18秒
- 水の精霊魔法の中でも、コールド系と呼ばれる分子運動を減速させることで低温を生み出す術は、
高温を生み出す術に比べ高度な技術が要求される、しかし、その分威力は絶大で、
一度放たれたコールド系の術を防ぐすべは結界を含めた術による防御を除いてほとんどなく、
物理攻撃に対して絶対的な強さを持つスライムもその例外ではない。
「今や、撃ち!」
「はいな。」
ミチヨの合図で、リカの後で構えていたアイのライフルが火を吹いた。
アーマーピーシング弾。
貫通力だけに重点をいて作られた弾丸は、ピンク色のシャーベットと化したスライムを貫通して、
正確に傀儡士の額を撃ち抜いた。
そして、主の断末魔を聞いたガーゴイルもまた元の石塊に戻り、グロテスクな部屋には
元の静寂が訪れた。
「意外と楽勝だったんじゃない?」
「・・・冗談。」
ギリギリの戦いを見てるくらいなら、自分も一緒に闘っているほうがどれだけ気が楽か。
手負いのヴァンパイアとハーフエルフは口には出さないが、苦笑いで、戦闘の感想を語り合った。
- 100 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月18日(木)02時41分45秒
- 設定は全部オリジナルですか?
だったらすごいなあ。
おもしろいです。がんばってください。
- 101 名前:なつめ 投稿日:2001年10月21日(日)00時31分46秒
- >100さん
神様の名前とかはいろんな神話から持ってきてますが、設定自体は恥ずかしながら
オリジナル、いわゆる元ネタありではないです。
最近閑古鳥で久しぶりのレスで嬉しかったです。頑張ります。
- 102 名前:ファイナル・クエスト(084) 投稿日:2001年10月21日(日)00時33分51秒
- ドックの占拠はあっけないほど簡単だった。
アイが施設中の囚人を解き放ったせいで施設は大混乱、おかげで多くの警備兵が
”大変そう”な所へ自らの判断で出撃して行ったせいでドックはほとんどもぬけの殻だったのだ。
「うわ〜、おっきな船だね。」
憑依を解き、元の姿に戻ったマキが初めて見る飛空艇を見上げながら口を大きく開けている。
たしかに、海へと続くドックに身を浮かべるその姿は海上要塞を思わせた。
- 103 名前:ファイナル・クエスト(085) 投稿日:2001年10月21日(日)00時35分05秒
- 飛空艇。
水空両用の乗り物の総称であり、その形状は空飛ぶ船といったものから、
完全に飛行機の姿をした物まで、用途によって様々だが、その多くは軍事用である。
また、サイズも1人乗りの戦闘機から、総乗員1000人を超えるものまで様々だ。
動力に関して、多くの飛空艇はオールドテクノロジーを用いているが、ここエイム王国軍においては、
徹底したオールドテクノロジーに対する規制のせいで、軍関係者であっても、飛空艇の動力が
風の精霊によるものだと信じて疑わない者も少なくない。
そして、今ミチヨ達の目の前にあるのが大型輸送艇、通称デュラハン。
全長165.3m、最大幅19.9m。エイム王国軍が所持する飛空艇の中でも
バハムートクラスに次いで大型とされるシードラゴンクラスに位置する。
この死の妖精の名を持つ飛空艇の建造にはジェッティが関わったとも言われているが、
これだけ大型の飛空艇になると建造工程はおろか、部品の発注までもが
トップシークレットとされるのでそれを知るすべはミチヨたちにはないはずだ・・・
- 104 名前:ファイナル・クエスト(086) 投稿日:2001年10月21日(日)00時36分36秒
- 「あっ!S−14だ。」
ドックに入ってからずっと飛空艇を遠目から眺めていたアイは、
突如思い出したようにその名を呼んだ。
飛空艇S−14型は、アイがジェッティに参加して最初に関わったプロジェクトだった。
エイム王国から依頼された飛空艇は、装甲と航続距離という相反する要素に
重点をおいてほしいという厄介なものだった。
そのため、多くの技術者がさじを投げたところに、アイが禁断の技術とされる
オールドテクノロジーと霊力の融合を提唱、渋る上層部に無理やり承諾させ着工に持ち込み、
クライアントである王国軍には『操縦の際、多少の霊力が必要です』とだけ告げ、
納品したといういわくつきの飛空艇だ。
- 105 名前:ファイナル・クエスト(087) 投稿日:2001年10月21日(日)00時37分37秒
- 「いやぁ〜、因果を感じますね、まさかこんな危険な機体で脱出することになるとは。」
「危険て、あんたそんなもんよう納品したな!」
すでに操縦室に乗り込んだ6人。
初めての飛空艇に興奮して、すっかり落ち着きを無くしているマキ、ケイ、リカ。
操縦室は強化ガラスで覆われていて、外の様子が良く見える。
壁に張り付くケイとリカ、見たこともない計器やモニターに目を輝かせるマキ。
そんな3人の様子を、経験者3人は暖かく見守って・・・いなかった。
黙々と沈痛な面持ちで作業をするミチヨとヨッスィ、そして、開発に一枚かんでいるアイ。
「大丈夫ですよ、ただ、霊力かけすぎるとコアに使ってるマジック・クリスタルが・・・
まあ大丈夫ですよ。」
「あかん!あんた今変な間あったやろ!」
「まあまあ、みっちゃん、ここまで来たら引き返せないんだし・・・諦めようよ。」
はしゃぐ3人、沈むな3人。
思いは様々だが、出立のときは近付いていた。
- 106 名前:ファイナル・クエスト(088) 投稿日:2001年10月21日(日)00時40分48秒
- 「よし、いけるで、そっちは?」
「こっちもOK、アイちゃんは?」
「いつでも行けます。」
「・・・誰がドックのハッチ開けるん?」
発進準備完了、しかし、海へと続くドックの扉は閉まったまま。すっかり忘れていたのだ。
「・・・まあ、脱出のお約束ってことで。」
「ちょっと待て、ヨッスィあんた今すごくいらん事考えてるやろ?!」
「私1回あれやってみたかったんだよね。」
正面のハッチをイッちゃってる目で見つめながら、おもむろに起動スイッチに手を伸ばすヨッスィ。
もう後戻りはできない。
「あほー!何考えとんねん!」
直後、ミチヨの怒号がかき消される。
たった6人の囚人を乗せた死の妖精は大音響をあげハッチを突き破ると、
それぞれの思いを乗せ、まだ見ぬ世界へ続く大空へと飛びだった。
- 107 名前:なつめ 投稿日:2001年10月21日(日)00時43分50秒
- 〜お詫び〜
突然ですが、ここまでを
『ファイナル・クエスト 〜第0章=エピローグ〜 』
とさせてください。
グズグズですいませんが、整理の都合です。
では、
『ファイナルクエスト 〜第0章〜=エピローグ〜 』
おしまい。
- 108 名前:名無し 投稿日:2001年10月21日(日)01時07分57秒
- ・・・え?? エピローグですか??
終わっちゃうんですかぁ?
脱出して、これから!っ だと 思って楽しみにしていたのに??
でも、 第0章ならこれから 1 2 と続きそうだし・・・。
どうなるの?
- 109 名前:なつめ 投稿日:2001年10月21日(日)03時11分36秒
- 〜大訂正〜
すいません、回線切って(略・・・ましたんで許してください
>>107
エピローグ→プロローグ
今書いてる別の書き物と混じっちゃいました・・・という言い訳が成り立たないくらい
バカな間違いですね・・・激鬱
>108さん そして他の賢明な読者の方々ならびに保存屋さん
広い心で忘れてやってください
107に限ってだけ、”エピ”を”プロ”と脳内変換してやってください。
では、一旦逝ってきます・・・
- 110 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (001) 投稿日:2001年10月26日(金)20時10分06秒
- 闇夜に烏とはよく言ったものだ。
真っ黒な船体は、今日のように月のない夜では地上からはまず発見されない。
オウティークが誇る大型輸送艇チョールヌィ。
失われた国の言葉で漆黒を意味するその飛空艇は、新月の夜に飛び立ち、次の新月の夜、
大量の兵器と引き換えに手に入れてきた食料や資材をこうして故郷に持ち帰る。
「それにしも、今回の旅はひどかったな、特に帰りの警備艇の多さはどうだ。」
「なんでも、1週間くらい前に結界牢獄がやられたて、王国が脱走者の追跡に必死なんだと。」
「そいつは痛快な話だが、俺たち”運搬屋”にとっちゃ、ちょっと迷惑だったな。」
国境の警備ラインも無事超え、1ヶ月ぶりの故郷を目の前にして、船員達の間にも
和やかな空気が漂い始めたその時だった。
「緊急事態!濃霧発生、総員襲撃に備えよ!」
エイム王国がある、ここイアスナック大陸北部において、霧の発生などありえない。
あるとすれば、術による人工的なものしか考えられない。
そして、この空域において霧の発生は破滅を意味していた。
- 111 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (002) 投稿日:2001年10月26日(金)20時11分45秒
- 「諸君、抵抗は無意味だ。この艇は我々の制圧下に入った。」
とんでもない早業だった。
減速したチョールヌィが敵艇に頭を押さえられ、覆面の戦闘員に司令室を制圧されるまでに
5分とかからなかった。
当然、チョールヌィにも戦闘員はいたが、抵抗といえる抵抗もできぬまま、
あっという間に司令室は押さえられてしまったのだ。
「諸君には10分間の猶予を与える、その間に艇から退去しない場合は人質の安全は保障しない。」
艇内のスピーカーから響く、無機質な女の声は圧倒的な力の差を艇員たちに知らしめ、
彼らの戦闘意欲をそぎとっていた。
霧の死神。
規模不明、リーダー不明、構成員不明、目的不明、本拠地不明。
神出鬼没の盗賊団。分かっていることは彼らが現れる時、必ず濃霧が発生することだけだった。
- 112 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (003) 投稿日:2001年10月26日(金)23時10分11秒
- 同日同時刻。
「・・・なあ、たしか第0章の最後、ウチら壮大に『大空へと飛び立った』よな?」
「うん、飛んだよ、明るい未来に向かって。」
「確かに飛んだわね、未知なる世界へ。」
「・・・じゃあ、何でウチら3人は今こうしてジャングルを徘徊してるんや?」
どっぷりと日も暮れた密林で、火を囲む3つの影。
その雰囲気は決して和やかではない。
「みっちゃんまだ怒ってる?」
「いや、ここに落ちたこと自体はウチの技量不足でもある。」
「じゃあ、まだ腕の傷が痛むの?」
「いや、それももう大丈夫や。」
「じゃあ、どっか悪いの?」
質問しながら、嬉しそうにミチヨに近付いていたマキだが、近くまで来ると、
ミチヨの肩が震えているのに気付き、どこか悪いのかなと、ちょっと心配になった。
- 113 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (004) 投稿日:2001年10月26日(金)23時12分05秒
- 「・・・これや!この雰囲気や!なんや、ウチらキャンプでもしてるんか?!
ちがうやろ、遭難してるんやで、もうちょっと緊張感持とうや!
あれやで、もう1週間やで、救助も来うへん、街は見えへん、あるのは一面の密林と
時々出てくるブラッド・ドッグだけ・・・
やのに、ごっちんは夜な夜な人の寝床にもぐりこんでくるし、ケイちゃんも戦闘になっても
全然やる気ないし・・・死ぬで、ウチらこのままやったら死ぬねんで!」
このところ、深夜の侵入者のせいで寝不足のミチヨ。イライラは最高潮だ、
いつの間にか立ち上がり、拳を握りしめての大演説だった。
「だって、独り寝は寂しいじゃない。」
「それやったら日替わりでケイちゃんの方へ行け!」
「私犬好きなのよね。」
「家で飼え!少なくともここのブラッド・ドッグは絶対なつかん!」
どこまでいってもついてない女の叫びが、今夜も密林に響き渡った。
- 114 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (005) 投稿日:2001年10月26日(金)23時13分20秒
- 牢獄を脱した6人が目指したのは、大陸北部の自治都市、オウティーク。通称スラム島。
自治都市というと聞こえはいいが、ようはならず者やおたずね者が集まって造った街である。
オウティークは正確には島ではなく半島の先端に位置しているが、陸路は密林、海路は激流、
そして、空路は対空設備によって敵からの進入を防いでいるため陸の孤島と化していた。
よって、地理的にはエイム王国領に属しながらも、完全に独立した共同体を形成し、
王国側も易々とは手出しできない。
つまり、ミチヨたちのような人間が逃げ込むにはもってこいの場所なのだ。
ちなみに、逃亡先としてここを選ぶことができたのも、6人の中にオウティークと
コネクションを持つ者が、3人もいたからなのだが、このことが逆に現在の悲惨な
遭難生活の原因をつくったとも言える。
- 115 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (006) 投稿日:2001年10月26日(金)23時14分28秒
- エイム王国軍のカラーであるブルーの機体。不幸な追跡艇は三機だけだった。
ミチヨ、ヨッスィ、アイの操縦経験者なら誰が出撃しても楽勝だろうということで、ミチヨが選ばれた。
残りの2人とリカはオウティークに着陸許可をもらうために、それぞれのコネクションの
チャンネルを探すのに大忙しだったのだ、万が一、許可なしでオウティークに近付こうものなら
対空砲火で今よりもっと高いお空の向こうへ御案内されてしまう。
きっかけはただのわがままだった。
小型戦闘艇へ向かうミチヨに、マキがついて行くといってきかない、しょうがないので
目付け役としてケイも一緒に行くことで解決。
そして、あとは予想通りの結果。
3機の追っ手を無事撃墜したあと、デュラハンに着艦しようとした戦闘艇の操縦桿に
マキが手をかけ、ケイが力づくで引き剥がすと、一緒に操縦桿がついてきた。
『あの時、遠ざかっていくデュラハンを見ながら、私は人生の真ん中には不条理という名の
川が流れていると悟った。 −ミチヨの日記より− 』
- 116 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月27日(土)00時04分37秒
- みっちゃん、いい子なのにね……。
- 117 名前:なつめ 投稿日:2001年10月27日(土)20時48分01秒
- >>116さん
まあ、基本ってことで(w
- 118 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (007) 投稿日:2001年10月27日(土)20時50分36秒
- 「それにしても、いったいいつになったら街に着くんやろ。」
「たしかに、不時着した場所から考えて、そろそろ街の明かりくらい見えてもいい頃よね。」
上空からの目測では、不時着地点から街までは30kmといったところ、足場の悪いジャングルを
お荷物を抱えているとはいえ1週間も歩けばそろそろゴールが見えてもよさそうなものだった。
「それにしても、この荷物、よく寝るわね。」
「1日10時間は寝とるよな。」
本人に言わせると成長期だからだそうだが、若きサモナーはたしかによく寝る。
夜は真っ先に、途中夜中に起きてミチヨにちょっかいを出した後は朝までぐっすり、
そして、当然のように最後に目覚める。
さらに、移動中も小休憩のわずかな時間で夢の世界ヘ旅立とうとする。
- 119 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (008) 投稿日:2001年10月27日(土)20時52分24秒
- 「まったくどっか悪いんじゃないかしら、この子。」
「いや、まじめな話副作用ちゃうかな。」
「副作用?」
「うん、ウチもそんなに詳しいわけやないけど、強力な術の影響で霊子体が
極端に消耗すると、肉体とのバランスを保つために、霊子体に合わせて肉体も
いつも以上に休眠が必要になることがあるらしいねん。
やから、この子の場合も召還みたいにごっつい術使った後の影響ちゃうかな。」
自分の膝の上で小さな寝息を立てているマキ、その頭を撫でながら、髪を手櫛で整えてやった。
脱出の時に自分が一番大怪我をしたと思っていたのだが、どうやら自分よりも
小さな体でもっと頑張っていた少女がいた。
- 120 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (009) 投稿日:2001年10月27日(土)20時53分24秒
- 知らないことが多すぎる。そう思った。
たとえば、今こうして話しているケイにしても、彼女が目覚めた時の本来の能力は
いったいどれほどなのか、それ以前に、彼女の額にある刺青が何なのか、いったいどんな
人物が最強のデミヒューマンとまで言われるヴァンパイアに封呪を施すことができたのか。
一緒に脱出したメンバーのことだけではない。
アイが語ったオールドテクノロジー、リカやヨッスィが旅してきた見知らぬ世界。
自分が生きてきた世界はなんて狭かったんだろう。
「・・・で、何しとんかな?」
木々の合間から見える星空に、世界の大きさを思い、感慨にふけっていた
ミチヨの内股を不愉快な感触が伝う。
「あはっ、ばれた?」
「・・・しょうもない事しとらんと、はよ寝!」
- 121 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (010) 投稿日:2001年10月28日(日)21時01分16秒
- 土と水を含んだ密林の空気は、目覚めに飲む冷水のように、胸に染み込む。
日はまだ昇りきっていないので、脱出以来の囚人服では少々肌寒い。
「(起きてるか?)」
「(ざっと5〜6人てとこかしら)」
「(うん、5人やな)」
早朝の来客といえば、よほど親しい友人以外なら侵入者と相場は決まっている。
いまだ幸せそうに惰眠をむさぼるマキを小突きながら、状況を分析する。
敵は多勢、普通に考えれば逃げるのがベストだが、相手が土地のものならそれも難しい。
「(1、2の3で走るで)」
「「((了解))」」
朝もやの中に、侵入者のシルエットが現れたのを合図に、
ミチヨが焚き火の中の1本を相手に投げつけた。
突然のことに一瞬驚きふためく敵が、気付いた時には、
ミチヨはすでに走り出していた2人の背中に追いついていた。
- 122 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (011) 投稿日:2001年10月28日(日)21時02分32秒
- 「やばい、リザードマンや。」
「はあ?なんで、こんなジャングルにワニがいるのよ。」
「りざあどまんってなに?」
マキが知らないのも無理はなく、リザードマンは湿地を好み、人里に現れることはほとんどない。
また、デミヒューマンでありながら、独自の言語をベースとする文化を形成しているため、
多種との交流もほとんどなく、分かっていることは非常に好戦的でテリトリーを荒らすものには
容赦しないということ、つまり、遭遇することは滅多にないが、関わると大変厄介なのである。
「・・・と、いうことは、今とっても大変なんだね。」
「分かってくれて、とっても嬉しいけど、その笑顔止めなさい、なんか無償に腹立つから!」
足場の悪い密林を、全速力で走る3人の後ろからは、その辺の鎧なんかよりもよっぽど
頑強な緑色の鱗に身を包み、槍や蛮刀をかざす5匹の悪魔が真っ赤な口をあけて迫っていた。
- 123 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (012) 投稿日:2001年10月28日(日)21時03分23秒
- 「なんか、たちの悪い夢見てる気分やな。」
「感想はいいから、なんか手はないの!」
「・・・ない。あれと丸腰でやりあうほどウチは根性ない。」
リザードマンの体力とまともにやり合える種族となると、ヒューマノイドでは
ヨッスィたちスタルディー人を含めて数えるほどしかいない。
ミチヨたちとリザードマンの距離は徐々に縮まりつつあった。
「きゃっ!」
そして、ついに脱落者が出てしまった。
体力勝負のかけっこでは、この中ではサモナーが一番不利だ。
朝露でぬかるむ地面に足を取られたマキが、豪快に顔からこけた。
「いった〜い。」
「痛ない!はよ立って走り!」
すぐに立ち上がれないマキを怒鳴りながらも、ミチヨたちもそろそろ限界だった。
立ち尽くす3人に凶悪な足音が迫ってくる。
- 124 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (013) 投稿日:2001年10月28日(日)21時04分01秒
- 「しゃあないな、ここらでやるか。」
「そうね、逃げっぱなしっていうのも気分悪いし。」
口では威勢の良いことを言いながら、ケイも内心穏やかではない。
これがせめて夜ならば、リザードマン5匹といえども敵ではないのだが、いかんせん
世は明けたばかり、はっきり言って1対1でもまず勝負にならない。
「わたしとみっちゃんが時間を稼いでる間に、ごっちんが召還、一発逆転、
と、まあこれしかないわね。」
自分の立てた作戦と呼ぶにはあまりにも辛い計画を自嘲気味に語るケイ、
しかし、残りの2人もそれを頷いて聞くしかなかった。
- 125 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (014) 投稿日:2001年10月28日(日)21時04分47秒
- 召還には、アクセスから実際に呼び出すまで少なくとも2〜3分はかかる、
しかも今マキは万全ではない。
はたして、詠唱の間2人でふんばりとおせるか・・・
「やるしかないか。」
「だね。」
悲愴な微笑を交わす2人を尻目に、マキは詠唱に入っていた。
焦らず正確にプロセスをふまなくてはいけない。
霊力をいかに早く高めるために、集中を切らしてはいけない。
何があっても詠唱を中断してはいけない。
時間と自分との孤独な戦いに、少女は挑む。
- 126 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (015) 投稿日:2001年10月28日(日)21時06分03秒
- 「らぁー!」
唯一の武器は落ちていた落木。
深追いはしない、基本はヒットアンドアウェーだ。
そして、なによりコンビネーションが命、リザードマンの一撃を丸腰で受ければ即致命傷になる。
ミチヨとケイは互いの死角をカバーしながら、迫り来る5匹のワニ顔の悪魔を右に左にさばく。
「何分くらい経ったかな?」
「まだ、1分くらいじゃない。」
少しずつ動ける範囲が狭められてきた。
敵も戦い慣れしていて、巧みな動きで2人を囲み、その移動範囲を制限してくるのだ。
足が止まるのを待って、一気にけりをつける気なのか、剣を振るう彼らの動きには
余裕すら感じられる。
「なんか遊ばれてる気がするんだけど。」
顔を伝う汗をぬぐう余裕もなくなってきた。
先程から何度となく紙一重、間一髪という場面が増えてきている。
もって、あと数十秒、しかし、マキの詠唱もまだ終わりそうにない。
- 127 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (016) 投稿日:2001年11月04日(日)03時21分32秒
- (ここまでかなぁ、もうちょっと頑張ると思ったんだけどなぁ)
純白のローブに身を包んだ少女は、先程から戦いの一部始終を木の上から見守っていた。
少女のよみでは7:3でミチヨたちに分があるとふんでいたのだが、
リザードマンの1匹が異常にいい動きをしているのだ。
(まったく、あの馬鹿何考えてんだか)
袖口から取り出した30cmほどもある針を、人差し指と中指でくるくると回しながら
下の戦いを冷静に見守る。
放っておけば数分後に立っているのは、5匹のリザードマンだろう。
「(どうしよっかなぁ、いっそ死んじゃってくれると、楽なんだけどなぁ
でも、中途半端に重傷とかになると逆に手間だしなぁ)」
考え事に熱中しすぎて手元がおろそかになった。
針はまだまだ持っていたのだが、その時どういうわけか反射的に落下する針を追いかけてしまった。
- 128 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (017) 投稿日:2001年11月04日(日)03時22分51秒
- 凍てつくほど緊張した空気を、間抜けな落下音が引き裂いた。
その音に的確に反応できたものは3人だけだった。
ミチヨとケイは、突然の大音響に一瞬身を固めてしまったリザードマンたちの隙を見逃さなかった。
それぞれ目の前の敵に当て身をくらわすと、すばやく包囲を脱出、
再び彼等と正面から対峙することに成功した。
そして、そんな2人の動きをよんでいたかのように、混乱に乗じて戦闘を離脱した者がいた。
先程まで一番いい動きでミチヨたちを苦しめていたリザードマンだった。
彼は、落下音、というよりも、突如木の上から現れた純白のローブを見るや、
怯えるように後ずさりし、完全に戦線を離脱したのだった。
木上の少女の意思とは関係なく、彼女は最も効果的な形でミチヨたちに加勢してしまった。
追い詰められながら、極限の緊張状態で闘っていた者と、必要以上に余裕を持って闘っていた者。
アクシデントはそんな両者に真逆の効果を与えた。
- 129 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (018) 投稿日:2001年11月04日(日)03時24分02秒
- そして、そんな混乱にまったく動じない者もいた。
マキの周囲の空間は戦闘開始以来、時間の流れが止まったかのように静かに、
それでいて異質な熱を発していた。
詠唱中とはいえ、周囲の状況はマキも把握できていた。
しかし、いくら味方が追い詰められようとも、それを助けに行くことが
彼らのためにならないことを彼女は身をもって知っていた。
自分の召還にすべてを賭け、そのために体を張る仲間たち。そんな彼らにしてやれることは、
一刻も早く召還を成功させること以外にはない。
そのためには、たとえ味方が目の前で殺されようとも、後になって見殺しにしたといわれようとも、
詠唱を中断することは許されない。
ただ、ひたすら唱え、祈り、願う。それが彼女の闘いだった。
(間に合わせる・・・絶対!
失敗は二度としない、私はサモナーだ!)
- 130 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (019) 投稿日:2001年11月04日(日)03時28分14秒
- 意志の力が魂を揺さぶる。
マキの霊力が、すさまじい勢いで高まり、大気を震わせた。
「腐野に生まれし呪われた棘(いばら)、我はその飢えと渇きを癒せし者なり・・・
くらえ、カルスソーン!」
マキが、だらりと垂らしていた右手を勢いよく振り上げると、
それが合図のように、リザードマンたちの足元がうごめき始めた。
異様な現象にリザードマンの間に緊張がはしったが、
彼らがそれに気付いたときにはもう手遅れだった。
リザードマンたちの足元から現れた無数の棘。
その異界の植物は、刺(とげ)の1つ1つまでもが禍々しい闇の色をしており、
敵に絡みつく様はさながら、凶悪な毒蛇のようだった。
刺の痛みと未知なるものへの恐怖から、リザードマンたちは懸命に逃れようとするが、
もがけばもがくほど、棘は絡みつく。
最初は、動きを封じるだけ、そして、そのうちに研ぎ澄まされた鏃(やじり)のような刺が、
血と生気を奪い去っていく。
- 131 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (020) 投稿日:2001年11月04日(日)03時29分24秒
- 「エグイ術やなあ」
「うん、正直あんまり使いたくないんだけど、生き物に比べて植物の方が早く呼べるからね。」
肩で息をしてうずくまるマキの傍に戻ってきた2人。
ミチヨもケイも肩と背中にそれぞれ軽い傷を負っていたが、それでも、
マキとくらべるとまったく問題ない状態だった。
「ところで、さっきの音何やったんやろな。」
「ああ、ドーンってやつ?猿か何かが木から落ちたんじゃないの。」
「猿って木から落ちるの?」
「猿じゃないよ。」
戦闘の余韻も緊張感もない3人の前に現れたのは、先程の白ローブの少女。
落ちた場所が悪かったせいで、顔中泥だらけだが、まだまだあどけなさの残る
かわいらしい顔をしていた。
「オウティークから来ました、ナツミ=アベ
ミネルヴァのSクラスエージェントです。
あなた方3人を迎えにきました。」
- 132 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (021) 投稿日:2001年11月04日(日)03時30分55秒
- 3人が理解できた単語はこれまで1週間かけて目指してきた目的地の名前と、
彼女の名前だけだった。
頭の上に?マークを並べる3人を察したように、ナツミが続ける。
「その前に、もう1人紹介しなければならない人物がいます。」
気が進まないのか、目を伏せ、ため息をつきながらその名を呼んだ。
「出といで、ヤグチ!」
怒声に呼ばれて出てきたのは、ミチヨたちにとって非常に見覚えのある人物だった。
先程の戦闘で、最も果敢にミチヨたちに挑んできたリザードマンは、申し訳なさそうに
節目がちにおずおずと木の陰から現れると、野太い声で言い訳を始めた。
- 133 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (022) 投稿日:2001年11月04日(日)03時32分15秒
- 「違うんだよぉ、ナッチ、ダブルブッキングなんだよ。」
「それにしたって、気合入ってたじゃない。」
「だって、手抜くと疑われるじゃん、それにこいつら結構強かったしさ。
それにしても、ナッチが落ちてきたときはびっくりしたよ、まさかナッチの回収品に
あいつらが目つけるとはね」
ポイポイと自分の腕や鱗、筋肉を引っぺがしそれを無造作にその辺に捨てるリザードマン、
それに伴って彼(?)の野太い声は次第に高く、終いには甲高いほどになっていた。
最後に高下駄のようなリザードマンの足を脱ぎ捨てると、そこにはリザードマンとは
似ても似つかない金髪の非常に小柄な少女が立っていた。
「マリ=ヤグチ、同じくミネルヴァのAクラスエージェントです。
今回は潜入捜査中のこととはいえ、大変失礼しました。」
リザードマンが少女になった。
目の前で繰り広げられた異様な光景に対して、その時のミチヨの精神はあまりに脆弱だった。
(ああ、最近あんまりちゃんと寝てなかったからなぁ、そやけど、どっから夢やったんやろ?
もしかしたら、目覚めたらウチまだ親衛隊やってたりせえへんかなあ)
気が付くと、ミチヨをあざ笑うかのように、白々と夜が明けていた。
- 134 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月04日(日)07時14分49秒
- お、ついになっちと矢口登場。
他のメンバーの登場が待ち遠しい。
続きが楽しみです。がんばってください。
- 135 名前:なつめ 投稿日:2001年11月09日(金)22時37分15秒
- >>134さん
久々の読者さんのレス嬉しかったッス
他のメンバーに関しては、きなが〜に、ぼちぼち待っててください
では、がんがって更新します
- 136 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (023) 投稿日:2001年11月09日(金)22時39分03秒
- 「まだかぁ?」
「もうちょっとですよ。」
夜までには街に戻りたいというナツミの希望で、ミチヨたち3人はリザードマンたちとの死闘で
傷ついた体に鞭打って、必死にナツミの背中を追いかけていた。
見るからに歩きにくそうなローブを着ているにもかかわらず、ナツミは獣道とも呼べないような
道をスタスタと先に行ってしまう。
こんな所で置いていかれては大変と、小走りで追いかけるが、それでもなかなか追いつかない。
「なあ、ちょっと休まへん?訊きたいこともあるし。」
一番にギブアップするのは悔しかったが、背中の荷物が悪いんだと自分に言い訳して、足を止めた。
自分ひとりならあと数時間は持つだろうが、半分寝かかっているマキを背負った状態では
この辺が限界だ。
「そうですね。あと少しで街ですし、休みましょうか?」
汗一つかいていない爽やかな笑顔で振り返るナツミ。それに対してミチヨとケイは、
ナツミの台詞を聞き終わるやいなやその場にへたり込んでしまう始末だった。
- 137 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (024) 投稿日:2001年11月09日(金)22時44分46秒
- 「で、訊きたいことって何ですか?」
向かい合うようにして倒木に腰をおろすと、
相手の言葉を促すようににっこりと微笑むナツミ。
幼子のようにも見える無邪気なその笑顔は、逆に彼女の正体を知る手がかりを
すべて覆い隠しているようにも思える。
「いろいろあるねんけどな、まず、ジブンらが何もんかってことやな。
敵やないって事はなんとなく分かるけど・・・
報告がある言うて先に行った金髪の子も言うてたけど『ミネルヴァ』ってなんや?
あと、エージェントとか分からん言葉だらけや。」
「そうですね、街に到着する前にオウティークのことを少し話しておくのもいいかもしれませんね。
・・・ミネルヴァというのは簡単に言えば傭兵ギルドに属する私設の組織で、
現在オウティークの傭兵ギルドはミネルヴァを含めて3つの組織で構成されています。
そして、そのミネルヴァの実行部隊員の総称がエージェントです、戦闘はもちろん諜報活動や
時には冒険者ギルドから回ってくる秘宝の探索なんてこともします。
ちなみに、今回のように依頼があれば迷子の捜索も引き受けますよ。」
(ふ〜ん、皮肉も言えるねんな)
- 138 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (025) 投稿日:2001年11月09日(金)22時45分55秒
- ナツミの言葉に頬が引きつりそうになるのを何とか堪えた。
ここで怒り出すとなぜかは分からないが、”負け”のような気がしたからだ。
「それから、エージェントにはその実力と功績によってクラス分けがなされます。
一番下がDクラス、このクラスは正式にはエージェントというよりは、訓練生ですね。
そして、C、Bがエージェント、さらにAクラスになるとリーダークラスと呼ばれ、
部隊を率いて作戦の指揮をとったりもします。」
「で、あんたのSクラスって言うのは?」
もったいつけて自慢してんじゃないわよ、そう言わんばかりの口調でケイが噛み付くが、
そんなことくらいでナツミの笑顔は崩れなかった。
「別格です。
さて、おしゃべりもこのくらいにして、そろそろ出発しましょうか。」
あっけに取られていた2人が正気に戻ったときにはナツミの背中はすでにかなり小さくなっていた。
結局、その後2時間のロードワークの末に3人がオウティークに到着した頃には、
太陽も中天を過ぎ去っていた。
- 139 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月09日(金)23時54分51秒
- ジャイアントロボ?(w
いつも読んでますよ。
がんばってください。
- 140 名前:なつめ 投稿日:2001年11月10日(土)20時14分06秒
- >>139
>ジャイアントロボ
正直名前聞いたことある程度、意味分からず、申し訳ない
ジェネレーションギャップでしょうか?(w
- 141 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (026) 投稿日:2001年11月10日(土)20時15分32秒
- めっちゃ都会やん!
それが率直な感想だった。
自治都市というと、不衛生な村落を想像しがちだが、森を抜けたミチヨたちの目に
飛び込んできたのは、軍事要塞を思わせるほどの高く、強固な石壁とそれを囲むように
なみなみと水をたたえる立派な堀だった。
エイム王国から見れば、非合法の塊のようなオウティークも、その地理的背景から
他の大陸からは裏の玄関口として半ば黙認されてきた。
そのため、僻地であってもこれほどの発展をとげることができたのだ。
- 142 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (027) 投稿日:2001年11月10日(土)20時16分24秒
- 「わあ、ちょっとした城下町なんか目じゃないね。」
跳ね橋を渡り、広場を抜けたマキが見たものは、美しく舗装された近代的な街並みだった。
一般の住宅にも自然石ではなくレンガが使われていることからもこの都市が、
高い技術に裏づけされた、安定した生産力を持っていることがうかがえる。
「それにしてもいろんな人種がいるわね。」
自分自身がヴァンパイアだということを忘れているような発言だが、ケイの言う通り
ここオウティークには多種多様な種族が共存しており、中には互いに敵対している部族が
同じ職業に就いていることもある。
それはこの街の自由を象徴しているようにも見えるが、住人の多くに『訳あり』という
共通点が存在するため、奇妙な連帯感が特殊な共同体を維持させているというのが
本当のところだろう。
- 143 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (028) 投稿日:2001年11月10日(土)20時17分09秒
- 「あそこです。」
そう言ってナツミが指差す先には海に面したドックとドックの外には見慣れた飛空艇の姿があった。
「デュラハンやんか!よかったあ、無事に着いとってんなあ。」
「・・・ええ、まあ無事に・・・」
即席とはいえ苦楽をともにした仲間との再会。嬉しくないはずがない。
少し浮かれ気味だったミチヨは、建物の影に消えては現れるドックにばかり気を取られて、
隣でナツミが目を伏せて苦笑いしていたことには気がつかなかった。
- 144 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (029) 投稿日:2001年11月10日(土)20時18分18秒
- ミネルヴァの本部はドックのすぐ隣だった。
本部といっても、個人の持ち物だった豪邸を改造してそのまま使っているので、
外観からはとても傭兵がひしめいているようには見えない。
馬車がそのまま通れそうな大きな門をくぐると、綺麗に芝が張られた庭が広がっていて、
大きな犬と戯れる少女でもいれば完璧に貴族の邸宅だった。
屋敷の中も床は完璧なほど磨き上げられ、入り口から奥に向かって赤絨毯までひかれていた。
(こんなんで、どうやって訓練してるんや?)
調度品や屋敷自体の美しさに目を取られているうちに、先を行くナツミの足が止まった。
「では、この中で私たちリーダーが待っていますので。」
ナツミが一歩さがって先に入るように促すが、マキもケイもなかなか入ろうとしない。
「こういう事はみっちゃんの役目」
何も言わずとも通じ合う。アイコンタクトというやつだ。
- 145 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (030) 投稿日:2001年11月10日(土)20時19分05秒
- 「失礼します。」
諦めたようなノックをすると、返事のない部屋に向かって扉を開けた。
「いらっしゃい、新人さん。」
オーク材の机の向こうで不敵に笑いながら女が出迎えた。
金髪にブルーアイ。長く伸ばした爪にはタンクトップとおそろいの豹柄のがペイントされていた。
(ケッバイ女)
それがミチヨの第一印象だった。
- 146 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (031) 投稿日:2001年11月10日(土)20時21分37秒
- 「ヤグチからの報告読ましてもうたけど、どうしてなかなか、3人ともそこそこのもんやな。」
机をはさんで立ち尽くす4人に向かって言っているのか、独り言なのか、
手元の書類をめくりながらにやつくユウコ。
「え〜と、ジブン、そうミチヨ=ヘイケ。エイムの元親衛隊員やってんな、
明日からBクラスエージェントな、それから、そこのサモナーと怖い顔の姉ちゃんは
Cクラスな、以上!」
「ちょっと待て!何勝手なこと言うてんねん、誰もここで働くなんて言うてないやろ!」
「そうです、わたしも納得できません、新人でいきなり正エージェント扱いなんて、
しかも1人はBクラスってどういうことですか!」
意外な参戦者はナツミだった。
ユウコが決めた処遇がよほど不満なのか、明らかに取り乱している。
「なんやナッチ、こいつらに説明してないんか・・・まあ、1個ずつ片付けよか。」
めんどくさそうな顔でタバコに火をつけると、ユウコはミチヨたち3人を順番に指差して回った。
- 147 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (032) 投稿日:2001年11月10日(土)20時22分54秒
- 「ええか、自分ら3人、いや6人は今ウチに2100万G(=Get:イアスナック大陸をはじめ
多くの都市で使われている共通通貨単位)の借金がある。原因はあれや。」
ミチヨたちの方を向いたまま肩越しに親指を向けた窓の外には、無残にも半壊したドックがあった。
「あんたらのデュラハンが着水に失敗した結果があれや、再建費、負傷者の治療代もろもろで
2000万G、残りの100万は今回のあんたらの捜索代金。ちなみに依頼者はあんたらの仲間や。
まあ、不満やったら一括で返済できる方法もあるけどな。」
ユウコがおもむろに取り出した紙切れを見て、ミチヨは卒倒しそうになった。
エイム王国専用のすかし入りのその書類にはミチヨたち6人の顔写真と、WANTEDの文字。
「初回の懸賞金が6人合わせて5000万Gとはなかなか破格やん。
ああ、あと娼館で働くって手もあるけど、どうする?」
残念ながら、ユウコの下品なジョークはミチヨの遠のく意識には届かなかった。
- 148 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (033) 投稿日:2001年11月10日(土)20時28分04秒
- 「さて、次はナッチやな。先に言うとくけど、正エージェントはこの3人の他に先に落ちてきた
3人の中からもう1人選んだからな。」
「ちょっとユウちゃん、新規採用者をいきなり正エージェント扱いなんて聞いたことよ!
たしかにサモナーは貴重だから分からないでもないけど、他の2人はただのヒューマノイドだよ。」
「ふふん、ナッチもまだまだ節穴やな、今からその訳見したるからちょっと落ち着き。
悪いけどそこの2人、髪の毛かき上げてくれるか。」
意識を取り戻したミチヨとケイが言われるがままに髪をかき上げると、ナツミの熱が一気に冷めた。
「・・・封霊石・・・それに、そっちは・・・」
「封呪法の一種やろな、形態が複雑でちょっと分からんけど、かなり強力なもんやわ。
さあ、これで納得したなナッチ?」
「ええ、けどなんでそっちはBクラスなのに、こっちはCなの?」
「まあ、親衛隊におったらしいから、そこそこ指揮もいけるかなと、あかんかったらCに落とすわ。」
- 149 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (034) 投稿日:2001年11月10日(土)20時41分42秒
- さくさく進む会話に1人だけついていけない少女は、ものすごく不機嫌だった。
(なんか、つまんない、起きたらおっきい街だし、いきなり借金まみれだし、なにより
みっちゃんもケイちゃんも内緒ごとしてたみたいだし)
しかし、頬を膨らましてそっぽを向くマキに気付かないふりで、更に話は進む。
ミチヨもケイも今日は心身ともに疲れきっていて、これ以上厄介事を増やしたくなかったのだ。
『寝る子は起こすな、寝かしとけ』
マキに対する扱いは、この数日間でほぼ完璧にマスターしていた。
「じゃあ、今日はとりあえずこんなもんでええやろ。」
ざっと見ても結構な額の紙幣が、ミチヨに手渡された。
「そんな警戒せんでええって、ただの小遣いや・・・その、なんや、とりあえず風呂入って、
着替え買うといで。ジブンら気付いてないかもしれんけど、結構きついことなってるから。」
戦いを離れれば、やはりまだまだお年頃。
洗練された部屋に泥まみれの自分たちを見て、この日一番の惨めな気分になった。
- 150 名前:139 投稿日:2001年11月11日(日)07時40分03秒
- ジェネレーションギャップ……(涙
アニメ版ジャイアントロボで〇級エージェントてのが出てたんで。
他のメンバーとも合流してまた楽しくなりそうですね。
続き期待してます。
- 151 名前:なつめ 投稿日:2001年11月12日(月)03時29分26秒
- >>150
丁寧にスイマセン、どうもそっち方面は弱くて
銀の方が終わったので、前よりはマメに更新しますんで良かったら引き続き読んでやってください
- 152 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (035) 投稿日:2001年11月12日(月)03時34分02秒
- ぼやけた視界に真っ白な天井が広がる。
鼻を突く薬品の匂いと清潔すぎるベッドでは長くは眠れない。
この1週間で何度目かの見慣れた光景は、無力感を増長させる。
「気がつきました。」
「うん、なんとか、どれくらい死んでた?」
「3時間くらいだそうです、わたしも今来たところだから。」
背中が真っ二つに裂けたかのように痛い。気絶する寸前に食らった一撃が原因なのは
間違いないだろう。相手の顔を思い出すと腹が立ってきたが、それもまた空しいので
余計な回想は止めた。
(腕っぷしには人並み以上の自信があったんだけどなあ)
医務室の静けさとアイの心配そうな瞳が、惨めさを一層引き立たせた。
- 153 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (036) 投稿日:2001年11月12日(月)03時35分35秒
- ミチヨたち3人がオウティークに着く1週間前、デュラハンは轟音を上げてミネルヴァの
ドックに頭から突っ込んだ。
飛空艇の操縦で最も難しいとされるのは、離水と着水の瞬間で、艇のサイズが
大きければ大きいほど繊細な技術が要求される。着水を急ぎすぎれば空中でバランスを失い、
下手をすれば空中分解なんてこともありうる。そして、逆に着水のタイミングを伸ばしすぎると
着水してから制御不能の状態で水面を水切りのように延々と進み、今回のような惨事を招く。
盗みや喧嘩などの小さな犯罪は日常茶飯事のこの街でも、ドックが半壊する事故となると
笑い事では済まされない。
王国の進軍が始まったと勘違いし、スクランブル発進した気の早い者もいたほどで、
街は一時パニック状態に陥った。
- 154 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (037) 投稿日:2001年11月12日(月)03時37分03秒
- しかし、これほどの大事故を起こしながらも、ヨッスィ、アイ、リカの3人は収監されることも
リンチにあうこともなく、『大馬鹿野郎』として街中の住人の冷たい視線に晒されるだけで済んだ。
これは、幸いにも人死にが出なかったことと、なによりここがオウティークだったことが大きい。
「自分で責任が取れるなら、後は勝手にしろ」
馬鹿に寛大な街。それがオウティークだ。
そして、3人が取らされた責任が借金2000万G。
エイム王国正規兵の月収100ヵ月分に相当する借金を、まともに返そうとすると6人がかりで
何年かかるか分かったもんじゃない、それならば駄目でもともと、ヨッスィの提案で被害先の
ミネルヴァに自分たちを売りこんでみると、意外なほどあっさりと受け入れられた。
しかも、その日のうちに適正を調べられることになり、3人は復旧作業に勤しむ人々の
冷めた視線の中、その日は夜中まで試験に没頭した。
- 155 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (038) 投稿日:2001年11月12日(月)21時06分18秒
- ミネルヴァでは構成員の採用合否はリーダーが伝えるのが通例。
案内された会議室は、かつては使用人たちの食堂として使われていた部屋を改造したものだった。
ミチヨたちが通されたリーダー専用の部屋と比べるとかなり広いかわりに、調度品の類もなく
部屋の真ん中に巨大なテーブルが置かれているだけの簡素なつくりの中では豹柄のコートは
かなり浮いていた。
「結果は見せてもうた。ダークエルフ以外は問題外やな、リカ=イシカワがCクラス、あとは・・・
ああ、アイ=タカハシ、戦闘能力は全然やけどあのデュラハンの主任設計士らしいな。」
「はあ、一応。」
「じゃあ、明日からドックの方に・・・いや、開発部行ってもらおかなあ・・・
なんにせよ技術屋として採用な、待遇は主任扱いで家1軒用意するから、
あとで誰かに案内してもらい。いやあ、今回では自分が一番の拾いもんやな。」
嬉しそうにアイの肩をバンバン叩くユウコとは対照的に、これまで一軒家はおろか1人部屋すら
持ったことのない少女は予期せぬプレゼントに返す言葉を見失っていた。
悪くすれば犯罪者として訴えられかねない相手から家をプレゼントされるなんて誰が
想像できただろう。
- 156 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (039) 投稿日:2001年11月12日(月)21時07分32秒
- 後になってヨッスィに教えてもらって納得したのだが、傭兵ギルドというところは荒々しく
すさんだイメージを持たれがちだが、金回りは意外といい。
仕事は3kの3乗、特に”危険”に関しては労働基準法が裸足で逃げていく。生きて帰ってくれば
それだけで任務は半分成功みたいなもので、そうしたリスクがあるからこその超高給職。
ヨッスィが手っ取り早い借金返済方法としてミネルヴァを選んだのも、傭兵のそうした側面を
知っていたからに他ならない。
命の危険は常に付きまとう、けれどうまくいけば飯と宿には困らないばかりか、普通の仕事を
していては味わえないような贅沢も夢じゃない。
そんな傭兵ギルドの中でもここミネルヴァの福利厚生は特に充実していた。
Bクラス以上のエージェントおよび同等の構成員には家賃無料の家が与えられ、同居人は自由。
3人はアイのお陰で借金まみれの生活ながら、街についた次の日にいきなり一軒家を
手に入れることができた。
- 157 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (040) 投稿日:2001年11月12日(月)21時08分27秒
- しかし、喜んでばかりもいられない人物もいた。
「ちょっと、わたしは?」
すっかりご満悦で頭を撫でまわすユウコとアイの間に割ってはいるヨッスィ。
それまでの傭兵としての経験に自信があったからこそ、こうしてミネルヴァに志願したのに、
いつまでたっても自分の名が呼ばれないばかりか、眼中にすら入っていない様子にずっと
感じていた苛立ちも限界に達した。
「ヨッスィ。本名不明、出身不明、年齢不明・・・なめた経歴やな。
はっきり言うていらんねんけど、訓練生でよかったら勝手におってええわ。」
「はあ?本気で言ってんの、わたしバリバリ現役の傭兵だよ!」
「じゃあ、よっぽどぬるい戦場ばっかり回っとったんやろな。」
体中の血が頭に昇った。
馬鹿にして見下すユウコを正面から睨み返しながら、殴りかかりそうになる衝動を
大きく息を吸って懸命に抑える。
スタルディーは力だけで馬鹿で粗野な種族だ。そう思われるのが何より嫌いなのだ。
人並み以上の戦闘は経験してきた自負があった。それをこの目の前の女は!
血が出るほど拳を握り締めながら、体中の忍耐を総動員して平静を装った。
- 158 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (041) 投稿日:2001年11月12日(月)21時09分31秒
- 「それじゃあ教えてよ、リカちゃんとわたしの間にどれほどの差があるっていうの?」
「しゃあないな、特別やで。ちょっと待っとき。」
肩をすくめ、うんざりした表情のユウコが持ってきたのは一振の何の変哲もない剣。
が、鞘からそれを抜いたヨッスィは思わず息を呑んだ。
話には聞いたことがあった。
エッジも含め刀身すべてが漆黒のその剣はダーク・シリーズと呼ばれる武具の一つに間違いない。
絶大な破壊力と引き換えに、持つものの生気を吸い、ついには死に追いやる。そんな呪われた
逸話をいくつも持つ武器の一つが今目の前にある。
「ちょっと、こんな物騒な物渡してどうする気!」
「心配せんでも巷の噂みたいにそれ持ってるくらいで死んだりせえへん。
それより感想は?」
「感想も何も別にどうってことないけど。」
「せやろな、じゃあ、次ダークエルフ、それ持ってみ。」
- 159 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (042) 投稿日:2001年11月12日(月)21時11分49秒
- リカもダーク・シリーズの話は修道院で何度も耳にしていたが、受け取った剣を
恐々抜くと、その美しい闇の色に思わず見とれた。
ダガーと呼ぶにはやや長く、ショートソードよりは少し短いその剣は、自分の手に吸い付くようで、
今までそれほど刃物を扱った経験のないリカにもそれがすばらしい品だと分かった。
軽く振ってみると、心地よいその重さは自分が達人になったかのような錯覚を起こさせる。
「すごく使いやすい剣ですね。」
感嘆の声をあげるが、視線は剣から離すことができない。
口元に笑みを浮かべて、じっと刀身を凝視する姿は、アイとヨッスィの身内が見ても
怪しい迫力を放っていた。
みなの見つめる中、何度も空を切る。
振るたびにアドレナリンが溢れ出し、そのうちに何者にでも勝てそうな気分になってきた。しかし、
同時に徐々にではあるが視界に霞がかかり始め、軽い頭痛を感じだした。
気絶する寸前に何とか剣を放り出すことができたのは、恐怖心とわずかに残っていた
理性のお陰だった。
- 160 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (043) 投稿日:2001年11月12日(月)21時13分04秒
- 「なんですか、この剣!?」
「驚かしてすまんかったな。
けど、安心し、ダーク・シリーズの正体は呪いでもなんでもない。暗黒竜やアンデットの霊力を
吸い取る性質を利用して、その骨を加工したのがダーク・シリーズや。
霊力を吸収した素材が活性化することで武具の攻撃力や防御力が上昇する、とまあそういう
仕組みやから所持者の霊子体が弱って時には死んでまうこともある。それだけや。
変な噂が立ってるけど、他の大陸では昔から使われてる武器やねんで。」
「それと、わたしの扱いにどういう関係があるの!」
気持ち良さそうに話すユウコに苛立ちを隠せずに噛み付くヨッスィ。しかし、彼女を制したのは
ユウコではなくこの状況で一番の味方だったはずのリカだった。
「まだわからないの、ヨッスィ。」
「リカちゃん?」
「今のままで戦場に出れば、ヨッスィなんかすぐ死んじゃうんだよ。」
「ヨッスィなんか」という台詞とリカの眼差しに絶句した。
挑発的で好戦的なその瞳は、戦闘中のエドワード=ハイドVer.のリカだった。
- 161 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (044) 投稿日:2001年11月12日(月)21時14分29秒
- 「このダーク・シリーズは無意識に放出される霊力を利用してるんだよ。つまり、これを持っても
何の変化もないヨッスィは普段からほとんど霊力を放出してないってことなの。
もし、この状態で術やダーク・シリーズの攻撃をまともに受けたらどうなると思う?」
「それは・・・」
「そうだよね、間違いなく即死だよ。多分今まではそれほど強力な術者と
戦ってこなかったんだろうけど、多分ここではそうは行かないよ。
イアスナック大陸内では伝説的な存在のダーク・シリーズが、個人の持ち物としてこんなに簡単に
見つかるような環境だもの、術のレベルも相当高いはずだよ。」
「その通りや、リカちゃんの言う通り他大陸との交流が盛んなこの地域は、鎖国的な政策を
取ってるエイム王国とは比べ物にならんくらい術のレベルは高い。術に対する耐性が
ほぼゼロの兵隊なんかこの辺では自殺志願者と一緒や。」
- 162 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (045) 投稿日:2001年11月12日(月)21時16分50秒
- リカの言う通りだった。
それまで出会った敵の中で、最も強力な術者といえば脱走時に戦った傀儡士程度。
それまでは、術者の少ない作戦を選んで参加し、持ち前のスピードとパワーで乗り切ってきた
というのが本当のところだ。
「だって、しょうがないじゃない、スタルディーなんだから。」
唇をかみ締め、うつむきながら吐き出した言葉は負け惜しみにもなっていなかった。
生まれて初めて自分の血を呪った。
悔しくて、情けなくて、けれど、どうしようもない、そう思っていた。
- 163 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (046) 投稿日:2001年11月12日(月)21時19分34秒
- 「歴史に名を残すスタルディーの剣豪たち、そいつらがみんな術に弱かったと思うか?」
「・・・?」
「スタルディー人の霊力は弱い、これは定説や、けど、嘘や。
霊子体の強弱は種族よりもむしろ持って生まれた個人の資質に影響される。もちろん、遺伝的な
要素も大きいからそれが種族の特性やと思われがちやけど、それがすべてやない。
あと、得手不得手もある。術という形で放出するのが得意な者もおるし、ウチのヤグチいうやつ
みたいに術はほとんど使えんけど内在化した霊力を高めることで身体能力を高めることができる
やつもおる。」
拳で顔をぬぐい、まっすぐにユウコを見つめなおした。
わずかな期待が胸の中で広がる。
「わたしにもその可能性があるってこと?」
「無きにしも非ず、努力してみる価値はあるんちゃう・・・その前に死なへんかったらの話やけどな。
さて、話が長くなったけど、もうええな。」
部屋から出て行こうとするユウコを引き止めたのは先程までの情けない声とはうってかわって、
決意に満ち、スタルディー人らしい力強いものだった。
「ねえ、訓練って今からでもできるよね。」
- 164 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (047) 投稿日:2001年11月12日(月)21時27分55秒
- 以来、今日に至るまでの1週間、朝から晩まで同僚の訓練生や教官役のエージェントたちに
ボコボコにされつづけた。
打ち身、打撲は怪我のうちに入らない。気絶と骨折は日常茶飯事で、分かったことといえば
医療設備の充実ぶり。初日に血の小便を流したのは貴重な体験だった。
住まいもアイの誘いを断って、あえて訓練生の寮に入った。
自分をより厳しい環境に置くため、そして、リカの喝を無にしないため。
「それにしても、リカさんって冷たいですよね、リーダーと話してたときも感じ悪かったし、
ヨッスィさんの様子1回も見に来ないし。」
背中の痛みもだいぶましになってきた、最初の頃は術で受けた傷が痛くて眠れないほどだったが、
こうして回復力が高まっているのも、これまでほとんど眠った状態だった霊力体が顕在化
してきている証拠らしい。
「そんなことないよ、それに今会いに来られても悔しいしね。」
- 165 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (048) 投稿日:2001年11月12日(月)21時29分39秒
- ヨッスィ同様、リカもこの1週間訓練を受けつづけていて、その異常なまでのやり込みと
上達はヨッスィの耳にも入ってきていた。
訓練生と違い、エージェントの訓練は基本的に個人の自由に任されているのだが、リカは
毎日のように術の訓練にうちこんでいた。
目的は3つ。二度と後悔しないため、責任を果たすため、そして、確かめるため。
「それよりアイちゃんはこんなトコで油売ってていいの?」
「ええ、技術屋の仕事なんて仕事場にいればいるだけ効率下がりますからね。
アイデア出ないときはとっとと帰って晩御飯作ってます。」
「そっか、勝手に寮入っちゃってごめんね。でも、あのリーダーの鼻明かすまでは
1人で張りたいんだ。」
「ええ、それはいいんですけど、今日はうちに来てくれませんか、なんでもヘイケさんたちが
到着したらしいんで。」
「えっ!何でそれ早く言わないの。」
慌てて起き上がったものだから、痛みで悶絶したが、この1週間で一番明るい
ニュースは久しぶりに痛み以外の涙を溢れさせた。
- 166 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (049) 投稿日:2001年11月14日(水)00時39分36秒
- アイに肩を貸してもらいながら、ミチヨたちが待つ家に向かっている頃、ミネルヴァの
一室ではユウコを中心に幹部会が開かれていた。
幹部会はリーダーとSクラスエージェントに加え、各部門の責任者で行われる最高の意思決定の
場である。とはいっても、現在3名のSクラスエージェントのうちナツミを除く2人はオウティークを
離れているため、特例として今回の議題に関する捜査活動の結果報告を兼ねてマリの出席が
許可されていた。
- 167 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (050) 投稿日:2001年11月14日(水)00時40分56秒
- 「さて、全員そろったみたいやし早速始めたいと思うけど
皆も分かってると思うけど今回の議題は『霧の死神』や。」
会議の開始を告げると、参加者の手元に資料が回るのを待ちながら全員の顔を見渡す。
この数ヶ月間常にミネルヴァを悩ませてきた問題とあって、特に驚く様子もなくみな
当然といった顔で次の言葉を待っていた。
「この数ヶ月、オウティークがあいつらから受けた損害は皆も知っての通りやけど、つい先日
商人ギルド輸出入部門から正式に討伐依頼があった。おそらく、1週間前に大型輸送艇
チョールヌィが略奪されてとうとう我慢しきれんくなったんやろな。
敵がでかいだけに3組織合同の作戦展開も検討されたけど、結果としてミネルヴァが
単独で依頼を受けることになった。」
拍手を送る参加者に向かって両手を上げワルい笑顔で応えるユウコ。どうしてこの人には
”自信満々”ポーズがこれほど似合うのだろう。
- 168 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (051) 投稿日:2001年11月14日(水)00時42分05秒
- 空賊退治のような巨大なミッションは難度も高いが、成功すればクライアントが商人たちだけに
莫大な報酬に加えて、組織の発展にも大きく影響してくる。物資面だけでなく、情報、
生産ラインなど、商人の持つ資源はどれも傭兵ギルドにとって欠かせないものばかりだ。
そのため、ミネルヴァ創設までは既存の二組織がバランスを考えながら共同戦線を張ることが
多かったのだが、ミネルヴァの登場によって昨今では3組織による競争が激化してきている。
中でもミネルヴァは”新参”のレッテルを払拭するため、依頼獲得が最大の目的で、報酬は
二の次というユウコの方針でこのところ大きな仕事を次々と獲得してきていた。
今回もいったいどんな条件で依頼を取ってきたんだか、嬉しそうに拍手する参加者の中で
ナツミとマリは半笑いの顔を見合わせていた。
- 169 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月14日(水)04時29分35秒
- みんな強そうだったのにBクラス以下なんですね。
なっちも裕ちゃんもすごく強いのかな?
- 170 名前:なつめ 投稿日:2001年11月14日(水)21時21分52秒
- >>169
クラスは実力に加えて経験、実績、適正も加味されてるんで
ただ、2人とも弱くはないです
そのあたりはまたいずれ
- 171 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (052) 投稿日:2001年11月14日(水)21時23分09秒
- 「ちなみに、報酬は必要経費込みでぴったり1億G、獲得物資は商人ギルドの持ち物以外は
こっちのもんや。」
(おろ?)
あまりにまともな条件にほっと胸をなでおろす2人の
「ただし、期限は1ヶ月間、急いでやらんとな。」
期待はしっかり裏切られた。
「なに考えてんのよ!」
思わずSクラスエージェント、ナツミ=アベではなく、ユウちゃんのお友達、ナッチに戻ってしまった。
「そうだよ、いもナッチの言う通りだよ、空賊退治が1ヶ月できると思ってんの?」
「誰がいもだべ。」
3人の世界についていけないほかの参加者を尻目に、ユウコは余裕の笑みで応える。その笑顔が
現場代表の2人を更に不機嫌にしているのを知らずに。
- 172 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (053) 投稿日:2001年11月14日(水)21時24分29秒
- 「空賊退治に時間がかかるのは、あいつらの所在が掴めんで事後的に追い回すからやろ。」
「つまり、掴んだってこと?」
ナツミを中心に一気に場がざわめく。
所在の知れた空賊を叩くのはそれほど難しくない。空賊といえど霞を食って生きているわけでは
ない、所在さえ分かれば補給路を断ち、敵よりも強力な火力を叩き込む、それで終わりだ。
「大陸の北部約150km、それほど大きな島やないし、資源もない。だからこそ空賊が身を
潜めるには最適とも言える。ただ、補給路の解明はまだや。」
「どうやってそんな情報を?」
「ヤグチがワニと追っかけっこしてる間にな。その代わり6人のエージェントが戻ってこんかった。」
エージェントの死は会議の場には必要のない情報だが、ユウコは必ず公の場で
作戦に際して誰が、いつ死んだかということを告げる。
それは、直接死と直面するような現場に出ない部門の者にも、そうした犠牲の上に自分たちの
仕事が成立していることを意識させ、エージェントには常に死への危険を忘れさせないためだ。
- 173 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (054) 投稿日:2001年11月14日(水)21時26分45秒
- 「ところでヤグチ、ウチまだワニの情報ちゃんと聞いてないねんけど、あんたの報告書あの3人の
ことばっかり嬉しそうに書いてたやろ。」
されとて、沈痛な空気をいつまでも引きずらせるつもりもない。
意識的に出した明るい声に慌てふためくマリが、場の空気を引き戻す。
話の流れから自分の報告はないと思っていたので、焦りまくって手元の資料と用意してきた
報告書をごちゃ混ぜにしてしまい、机の上を引っ掻き回し、終いにはコーヒーを撒き散らす姿は
一流のエンターテイナーだった。
- 174 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (055) 投稿日:2001年11月14日(水)21時28分24秒
- 「ワニ・・・じゃなくて、リザードマンに関する報告です。
2週間前にオウティーク近辺に現れたリザードマンと霧の死神についての関連について
潜入操作を行ってきましたが、結果はオールクリア、一切の関連はありませんでした。
リザードマンについては、おそらくただの出稼ぎの野盗か何らかの理由で共同体を出たはぐれ者
だと思われますが、不慮の事故で調査対象が死亡したため詳細は不明です。」
ようやく見つけた報告書を棒読みしたマリの額には、戦闘でも見せないほどの汗が粒になっていた。
「と、いうわけらしいから、やっぱりあいつらの補給路は依然不明。
そこで、敵の島への潜入操作を行いたいと思うけど、ヤグチ行ってくれるか?」
「もちろん。」
待ってましたとばかりの二つ返事。
- 175 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (056) 投稿日:2001年11月14日(水)21時31分10秒
- マリ=ヤグチはミネルヴァのAクラスエージェントとしては戦闘能力は低い、しかし、
諜報活動にかけてはAクラスだけでなくミネルヴァ全体、いやオウティークの
傭兵全員の中でも右に出るものはいない。
アルヴィスの父とコボルトの母、小人族のハーフとして生を受けたが、愚鈍でミルクが飲めない
変わり者はどちらの種族からも認められず、唯一自らのルーツを証明する母親譲りの金髪を
こよなく愛した。
- 176 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (057) 投稿日:2001年11月14日(水)21時32分37秒
- 些細なことで里を出て、たどり着いたのは東方からの移民が作った集落。人里から離れた
山間のその村はニンジャの隠れ里だった。
刃物、弓矢、鎖に手裏剣。何をやっても下手くそで、作戦では足手まとい、
訓練では教官たちの頭痛の種。
そんな彼女に転機が訪れたのは単独潜入を命じられた年だった。
期待に応えるため、そして、死なないために必死で敵の言語と習慣を頭に叩き込もうとしたら、
面白いように記憶できる自分に気付いた。
それまで憎悪の対象でしかなった顔も知らない父親に初めて感謝した。”すべてを知る者”を
意味するアルヴィスの血。知識に対する適正が花開いた瞬間だった。
そして、その小さな体も幸いして今では30を超える種族に完璧に化けることができる。
よく言われるのが叩かれて伸びるタイプと誉められて伸びるタイプがいるという話。マリは
間違いなく後者だった。初めての単独作戦で大成功を収めたマリは、その後戦闘に関しても
気持ちいいほどの成長を見せ、ついには里での筆頭にまでなりあがった。
- 177 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (058) 投稿日:2001年11月14日(水)21時42分45秒
- そして、今、様々な数奇な運命の導きでこうして、ミネルヴァのエージェントとして働くことに
なったのだが、今でも諜報活動が何よりの好物で、これだけ大きな仕事の下ごしらえとなると
腕もなる。
「そうか、やってくれるか・・・で、ものは相談何やけど」
「嫌!」
ユウコの台詞とかぶるくらいの即答。危機察知能力もニンジャのセールスポイントの1つだ。
「まだ、なんも言うてないやん。」
「じゃあ、言ってもいいよ、多分断るけど。」
「ぐっ、まあええわ。
今回拾った6人を実地訓練かねて連れて行ってほしいねん。」
「嫌、新人連れてなんて危険すぎるよ、しかも6人も。」
「じゃあ、5人。」
「2人。」
「4人、命令!」
「・・・3人。」
「よしっ、じゃあ3人な、人事は任せるから、出発は準備もあるやろうから2日後の朝4:00、
はい復唱。」
「・・・マリ=ヤグチは明後日午前4:00よりの霧の死神本部への潜入操作を拝命いたします!」
「よし、んじゃ、会議終わりな、次回はヤグチの報告待ちってことで、解散。」
- 178 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (059) 投稿日:2001年11月14日(水)21時43分30秒
- ユウコが言うが早いか、我先にと部屋を後にする参加者。マリの性格は誰もが知るところで、
これから起こる出来事のとばっちりを食ってはかなわない。
「(ちくしょう、ちくしょう、ちーくしょうぉ!)」
呪文のように呟きながら、おもむろに座っていた椅子に手をかける。
「クッソー!職権乱用じゃんかよぉ!」
「参考にしてな。」そう言ってユウコが置いていった6人の資料を前に絶叫。しかし、
椅子を振り回しながらの雄叫びはたぶんユウコには届かない。
- 179 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (060) 投稿日:2001年11月17日(土)03時08分52秒
- 「今、遠くでなんか聞こえなかった?獣の雄叫びみたいな。」
「いや、別に。それよかケイちゃん手元焦げてるねんけど。」
「おおっ!」
父親の帰りを待つ仲睦まじい姉妹のように、並んでキッチンに立つミチヨとケイ。リビングには、
早々にキッチン立ち入り禁止を言い渡されぶーたれるマキとその相手をするリカの姿もあった。
すっかり日も落ちたオウティーク。自治都市といっても、この時間になればそこら中から
食欲をそそる匂いが立ち込めるあたりは他と変わらない。もちろん、この家も例外ではなく、
特に今日はほんの少しだけれど、いつもより豪華なメニューをそろえてみた。
では、なぜ4人がこうして家主の帰りを待ちながら、再開の準備をしているのかというと
それを説明するには少々時間をさかのぼる必要がある。
- 180 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (061) 投稿日:2001年11月17日(土)03時11分16秒
- 1週間ぶりの風呂はまさに極楽だった。
施設内のシャワーでも良かったが、せっかくだしということで、途中着替えを買って湯屋に
行くことにした。
清潔とは程遠い風貌だったので、断れるのではないかと心配したが、まったくそんなことはなく、
親切なおばさんはぼろぼろの囚人服の処分までしてくれた。
ほのかに石鹸の香りが残るシャツに着替え、ジャケットを羽織る。ジャケットはブーツと一緒に
見つけた本皮の上物、新品特有の野暮ったさはあるがその分使い込む楽しみがあるというものだ。
縛り上げた髪も、先程までの三角コーナーにたまっているゴミのようなものとは違い、艶やかに
輝いていた。
湯屋を出、見事に変身した3人はミチヨを先頭に歩きはじめた。
目指すはミネルヴァ本部。散々使っといてなんだが、残った金をユウコに叩き返すためだ。
『衣食足りて栄辱を知る』を地でいく3人は、風呂に入り、コーヒー牛乳を飲んだあたりで施しを
受けたことに腹が立ってきたのだ。
「大体なんでええ歳こいて小遣いもらわなあかんねん。」
「そうだよね、小遣いくれるくらいなら、借金引いてくれればいいのに。」
「いや、ごっちんそれはそれで違うでしょ・・・」
- 181 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (062) 投稿日:2001年11月17日(土)03時13分06秒
- 肩をいからせてズンズン進む3人。
放っておいても厄介事が向こうからやってくるような街では、誰も進んで面倒な匂いが
するものには近付かない。人の波が嘘のように引いて、3人の行く手を阻むものは何もない
はずだった。
「いった〜い!」
「痛いちゃうわ、どこ見て歩いてんねん、このダークエルフは!・・・ダークエルフ?」
待ち人来るの知らせを受け、本部に行ってみたもののすでに3人の姿はなく、当てもなく
ふらふらと歩いていたら、人の流れに気付かず、道の真ん中にぼーっと突っ立っていた
どんくさいダークエルフ。
いきなり3人の怒れるお姉さん達に体当たりされた不幸な少女の行く末を、野次馬たちが
あたたかく見守るが
「リカちゃん!」
フライングアタックで喜びを表現するマキを合図に、好奇心剥き出しで止まっていた街の
時間が再び何事もなかったように動き始めた。
傾きかけた太陽は、出来過ぎの再会劇に更に彩りを加えていた。
- 182 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月17日(土)09時52分28秒
- 連日の更新すごいですね。
さて、誰が選ばれるのやら……。
- 183 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月18日(日)13時05分46秒
- かなり面白いです。
作者さんが登場人物の組み合わせに悩んでないか心配です。
戦闘シーン楽しみにしてます。
- 184 名前:なつめ 投稿日:2001年11月19日(月)22時40分22秒
- >>182
誉めてもらったとたん、更新滞りました、短編集読んでました。スンマセン
目標は週3〜4回、ガンガリます
正直、3人中、残り1人で悩んどります
>>183
ありがとうございます
悩んでます(w
あと、スイマセンがレスはsageでお願いします
・更新と勘違いしてがっかりする(私も読者としてよくあるので)
・この板の他の作者さんに悪いので(やっぱりせっかく更新したら、上の方に
でみんなの目に付くところにあった方が書き手としては嬉しいので)
理由はこの2つです。
お気持ちは大変嬉しいのですが、こういうわけで、よろしくお願いします。
生意気な書き手ですが、ご気分を害されず、またレスいただければ、嬉しいです。
- 185 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (063) 投稿日:2001年11月19日(月)22時42分54秒
- 「あそこでリカちゃんに会わんかったら、ウチらあのまま本部に行って大恥かくとこやったな。」
「そうだね、まさかあれっぽっちのお金で3人分の装備まで買わなきゃなんないなんて
普通思わないもんね。」
リカによれば、ミネルヴァにはユニフォーム的な装備は無く、装備品はその管理まで含めて
個人に任されている。
そのため、メンバーには入隊直後に装備を整えるための金が”小遣い”名義で手渡されるのである。
- 186 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (064) 投稿日:2001年11月19日(月)22時48分16秒
- 「それにしてもケチよね、一人当たり10万そこそこじゃ、ろくな武器そろえられないじゃない。
あんた達はどうしたの?」
「わたしたち一銭も使ってないよ。わたしは術の訓練しか受けてないから当面武器は
要らないし、いざとなれば脱走したときのフィストがあるから大丈夫でしょ。アイちゃんは
基本的に武器は手作りで済ましてるみたいだし、ヨッスィなんかリーダー室にあった
ダークシリーズがめてきて使ってるし・・・
だから、もしよかったら私たちの支給金使ってもいいよ。」
「ホンマか?!
それやったら、どうせごっちんも何もいらんから、ウチとケイちゃんの分だけでええから・・・
50万そこそこあったら、それなりの剣が2本は買えるな!」
「言っとくけど、私ヒューマン状態の時は二刀流だよ。」
「・・・・・・そんな聞いてないって、1本で我慢しいや!」
「無理、あんたが術者に徹したら?」
テーブルを挟んで向かい合って座っていた2人が同時に立ち上がり、互いを睨みつける。
おろおろするマキ、ニヤニヤするリカ。
対照的な反応に見守られながら、テーブルを迂回して近付く2人は、一瞬も目をそらさない。
- 187 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (065) 投稿日:2001年11月19日(月)22時49分48秒
- 「ただいま帰りました!って、なんか空気がよどんでません?」
一触即発の空気もなんのその、そんなものが通用するのは戦いの世界に生きてきた者だけ、
帰ってきたお気楽メカニックはその後から顔をのぞかせているヨッスィと顔を見合わせると、
相変わらずの様子に安心したのか、最初はクスクスと、次第に声をあげて笑い出した。
1週間やそこらで何が変わるものでもない。本当に何も変わっていなかった6人は
互いに顔を見合わせて大笑いした。
再会の挨拶としては十分だった。
- 188 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (066) 投稿日:2001年11月19日(月)22時51分09秒
- 「ところで、ここの訓練ってどうなの?」
食事も終わり、互いにこの1週間の経緯を語り合ったあとは、話題はもっぱらここでの生活だった。
特に、ケイとミチヨはミネルヴァという組織に関してもっと知っておきたかった。
「ああ、その話ならわたしよりヨッスィに訊いた方がいいよ。わたしの場合、訓練っていっても
今のところ術書読んでるのがほとんどだ
「やばいよ・・・」
リカの台詞をさえぎって、苦笑いで呟いたヨッスィに視線が集まる。
「強くはないと思うんだ・・・いや、もちろん霊子体の活性化とか、霊力の発現とか、そういう課題が
あるわたしから見てじゃなくて、みっちゃんとか、リカちゃんみたいに術も使える人と比べてね。
ただ、うまいんだよ・・・ここのエージェントはDクラスのやつでも闘いをよく知ってる。
自分の力、能力、特性、そういうのを熟知してるって感じかな。」
- 189 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (067) 投稿日:2001年11月19日(月)22時53分20秒
- 最初はボソボソと話していたが、話しているうちにいろいろと思い出し始めたのか、徐々に
口調が熱を帯びてきて、それにつられるように聞いているミチヨたちも身を乗り出していた。
「1回だけAクラスエージェントに稽古つけてもらったんだけど、ほら、ヤグチってやつ。
力とか技だけなら私のほうが強いし、速いんだけど、勝負どころになると絶対に勝てないんだよ。
一瞬だけどとんでもなく速くなって、気がついたら医務室のベッドの上・・・」
自嘲気味に笑いながら、なみなみと注がれた琥珀色のアルコールを呷ると、喉が、そして次に
胃が焼けるように熱くなり、最後に口の中がひんやりとして、再び同じ刺激を欲する。
「結局、井の中の蛙だったってこと。敵を知り己を知れば百戦危うからずって言うけど、
自分のこと知ってるやつとそうでないやつの差がここに来てはっきり分かったよ。
・・・けど、このままで終わる気も無いけどね。」
最後ににやりと笑うと、おもむろに席を立ち、みんなのグラスに注いで回った。
- 190 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (068) 投稿日:2001年11月19日(月)22時55分37秒
- 「呑もう、呑もう!今夜はガンガンいくよ!」
「アホか、スタルディーのペースについていけるはずないやろ、だいたいジブン怪我人やろ。」
「まあまあ、みったん、固いこと言わらいね、ねっ。」
「何でアイちゃんがすでにできあがってんねん、未成年やろ。」
「こらこら、みっちゃんこういう世界に未成年もないでしょ。大体あんたいくつよ?」
「・・・一昨年3桁に乗った。」
「はあ?私より年上?」
「ってことはケイちゃんまだ2桁?!ヴァンパイアのくせに?くそガキやん。」
「うっさいわね、おばん!」
グラスを握りつぶす音が響き、宴はさらに盛り上がる。
けれど、同じ星空の下、悶々と眠れぬ夜を過ごす者もいた。
「誰連れて行きゃいいんだよ〜!!」
オウティークの街に今夜2回目の遠吠えが響いた。
- 191 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月20日(火)00時53分21秒
- >>184
すんません、これからはsageでレスつけます。
でもねスレが汚れるのが気がかりです。
がんばれヨッシー!!
- 192 名前:なつめ 投稿日:2001年11月20日(火)03時14分48秒
- >>191
書き手としてレスにはずいぶん励まされています
個人的な考えですが、レスが無いととても長編なんて書けません
読者さんのレスでスレが”汚れた”なんて全然思わないのであまり気にしないでください
>がんばれヨッシー!!
最近では多分一番がんばってます(w
- 193 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月21日(水)03時59分47秒
- みっちゃんそんなに年食ってたなんて…
設定細かい話好きなんですが、これは本当に面白いです
頑張ってください 期待してます
- 194 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月21日(水)04時00分50秒
- >>193
いきなり申し訳ないです
もう終わりまでレスしないようにします
- 195 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月21日(水)23時56分02秒
- 実はこの小説の更新を一番楽しみにしています。
私も小説を書いていたことがあるので、
更新の苦労が目に浮かびます。
圭ちゃんの変身したときの姿を想像すると眠れなくなりそうです。
- 196 名前:なつめ 投稿日:2001年11月22日(木)02時11分21秒
- >>193
エルフの寿命は長いので別におばちゃんて訳じゃないです、大丈夫
設定細かいのはかなり趣味で書いてるからですね、書いてて楽しいです
>>194
別にsage進行じゃないんで、そんな気にしないでください
ただ、更新しないで上の方にあると、この板の他の作者さんに悪いかなと思った
だけですから
そんな寂しい事言わないで、気が向いたり、突込みどころがあったら、また
途中でもなんか言ってやって下さい(いつ終わるとも知れないし)
>>195
楽しんでもらえているようで嬉しいです
書くこと自体は楽しいんですけど、時間がなくてたまに更新が滞っちゃいます
>圭ちゃんの変身したときの姿を想像すると眠れなくなりそうです
なぜ?怖い?(w
- 197 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (069) 投稿日:2001年11月22日(木)02時14分47秒
- 毒々しい黄色い光線が窓から差し込んでいる。
二日酔いの眼に朝日は眩しすぎて、頭が割れそうだ。
「おっ、みっちゃん一番だね。」
トントンとリズミカルな包丁の音をBGMに振り返るヨッスィ、
(だから、お前らスタルディー人とは酒を飲みたくないんだよ。)
それを見ながら毒づくが、声を出す元気はない。
親衛隊時代、同じようにスタルディー人の同僚と一晩中飲み交わした。今思い出しても、
胸焼けする思い出だ。
ソファーに、床に、嫁入り前の娘たちがあられもない姿をさらしていて、その傍らには無数の
酒瓶が転がっている。1、2、3、・・・・・・数えるのを止めた。
「もうすぐ朝ご飯できるからね。私は訓練行くから、勝手に食べとくように皆に言っといて。」
「・・・う゛〜、分かった・・・分かったから、ちょっとボリューム落として。」
「それから、みっちゃん、ケイちゃん、あとアイちゃんのの3人、10時に本部に来いって、
さっき使いの人が来てたよ。」
「・・・りょーかい・・・だから、声を小さくして、脳がゆれて痛いの、ねっ。」
- 198 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (070) 投稿日:2001年11月22日(木)02時16分53秒
- 本部に着いたのは時間の10分前。
ぼんやりと歩いていて、さっきまで横にいたはずの2人の姿が消えていることに
ケイが気付いた時には遅かった。
「うっさいんじゃー!」
「そうだ、うるさいぞー!」
訓練生の掛け声に向かって吠え返すミチヨとアイを金網から引き剥がしながら、自分も
こんな風に思うがままに生きられたら、そんなことを一瞬でも考えてしまった。
(酒が残ってると駄目ね、冷静な判断ができない。さっさと帰ってもう1回寝よ)
しかし、残念ながらケイの希望は叶えられなかった。
本部をあとにした3人は、帰るどころか、明日からの準備のため丸1日
慣れない街を歩き回るはめになるからだ。
- 199 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (071) 投稿日:2001年11月22日(木)02時19分53秒
- うだうだ言いながら、本部を出て行く3人を窓から見下ろす人影が2つ。
「ヤグチの人選どう見る?」
「まあまあってトコじゃない。」
昼下がりのリーダー室に立ちこめるコーヒーと紅茶の香りの中、ユウコとナツミは
提出されたての行動計画を楽しそうに回し読みしていた。
「ヤグチもなかなか分かってきたと思わへん?
ミチヨ、リカ、マキ。現時点やったら戦闘能力面でこの3人を選びたくなるところやけど、
今回の任務が諜報やってことをちゃんと理解した人選ができてる、さすがウチのヤグチや。」
「まあ、ユウちゃんのもんかどうかは置いといて、たしかに、その辺は分かってきてるね。
ヨッスィは明らかに力不足、リカちゃんのキレたら止まらない性格は無意味な戦闘を引き起こす
危険がある、ごっちんは完全に体力不足で迅速な行動が要求される諜報には不向き。」
「うん、アイ=タカハシの体力も心配ではあるけど、大掛かりな潜入に技術屋は欠かせんからな。」
- 200 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (072) 投稿日:2001年11月22日(木)02時21分36秒
- 「まあ、そういうわけで無難だけど、問題ない人選はできてるね。
だけど、わたしだったら・・・」
「ヨッスィ、マキ、リカやろ。」
「あれ、なんでわかるの?」
「長い付き合いやからな。
まあ、とりあえず今は今回の成功を祈ろうや。」
話に夢中になりすぎたせいで、少しぬるくなってしまったコーヒーを一気に飲み干した。
最近、部下が淹れるコーヒーが以前よりも薄くなった気がする。こんなところにも、霧の死神の
影響が出てきているのか、それとも、ただの貧乏性か、なんにせよ早急に手を打たねばならない
問題であることに変わりはなかった。
(期待してるで、ヤグチ・・・ルーキーズも一応な)
- 201 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月22日(木)13時23分46秒
- 待ってました!!!
ナッチの「ヨッスィ、マキ、リカ」の理由を考えてみる・・・・。
わからん。
- 202 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月24日(土)00時51分35秒
- 問題児抱えていたほうが遣り甲斐があるから、とかかな
- 203 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月24日(土)01時22分56秒
- かなり良い!!!
ルーキーズがんばれ。
- 204 名前:なつめ 投稿日:2001年11月25日(日)22時14分46秒
- >201、202
>「ヨッスィ、マキ、リカ」の理由
一言で言っちゃうと性格と能力の違い、あとは戦闘スタイルの好みですね
例えば、マリが連れて行けないメンバーの弱点を補える能力がナツミにあれば・・・
まだあんまり詳しく言えなくて申し訳ないッス、そのうちってことで
>203
レスありがとうございます
ルーキーズ、死ぬほどがんばる予定です(w
- 205 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (073) 投稿日:2001年11月25日(日)22時16分56秒
- 波の音と海鳥の鳴き声に混じって、わずかに街の中心からの喧騒が聞こえる。
昼間は多くの人でにぎわうドックも、夜明け前のこの時間は静かなもので、その静けさと海風が
任務前の緊張感をより研ぎ澄ましていくようで心地よい。
今回の任務はマリにとっては、ただの大きな仕事ではない。
諜報という仕事柄、Aクラスエージェントでありながら、今まで部隊を率いた経験はなかった。
奪うものは情報、守るものは自分の命。それがすべてだった。
しかし、今回は違う。全員の生還が最大目標、任務遂行はその次だ。
個を滅し、全体のために尽くす。次の勝利のためならば、自らの命すらも投げ出す。
そんなニンジャたちの中で育ったマリにとって、人こそが財産というミネルヴァの方針は
正直馴染めない。
(どうなっても知んないぞ)
いろいろ考えても結局は「俺流」でいくしかない。
真っ暗な海から視線を外すと、そのまま近付いてくる足音の方に向き直った。
- 206 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (074) 投稿日:2001年11月25日(日)22時20分01秒
- 「おはよーございます。」
真っ黒なつなぎを着て、眠たそうに目をこするアイを先頭にやってきた面々。あれだけ荷物は
最小限にと言ったのに、アイの背中にはこれまた真っ黒な特大バックパックが1つ。
(お前はどこに引っ越すつもりなんだよ)
引きつる頬を抑えながら、ケイに目をやると、思わず自分の目を疑った。
服装はそこそこ心得ているようで迷彩の上下に、普通サイズのバックパック。
しかし、マリの目を引いたのは服装ではなく、両腰の短刀だった。
右腰の物は鍔も柄頭も無い棒のような形をしたダガー、刺突する事のみを前提としたつくりだ。
そして、もう1本は先ほどの棒のようなダガーと比べると幾分長く、刃も通常よりかなり広い。
おそらくなぎ払うことを目的として作られた、広刃平形両刃タイプのダガーだろう。
そして、その両方に共通するのが、握りの部分に施された逆さ三日月の細工。伝説の
殺人鬼にして名工による作品、マッド・ルナ・シリーズに間違いない。
- 207 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (075) 投稿日:2001年11月25日(日)22時34分58秒
- マッド・ルナ・シリーズはダーク・シリーズと違い、持つものを狂乱させ、殺人へといざなう
正真正銘の呪われた武具で、作者不明、この世にいくつあるのかもまったく分からず、今も
その数は増えつづけている。
なぜなら、マッド・ルナ・シリーズの正体が、20年程前から、各地で起こり続けている
無差別殺人事件の秀逸な遺留品だからだ。そして、それらには必ず黒い三日月が施されている。
しかし、そんな物騒な武器に群がる者たちも存在する。それは、マッド・ルナ・シリーズが
すばらしい作品であること、希少であること、そして、何よりある者たちにとっては使い道が
あるからだ。
普通の人間が扱えば、その不思議な力によって、自我を失ってしまうが、どういうわけか、
この武具の力に影響を受けない者たちも存在する。それが、ヴァンパイアのように闇に
生を受けた者たちだ。
それゆえ、マッド・ルナ・シリーズの作者は悪魔ではないか、などという噂すら流れている。
なんにせよ、一般人にとっては物騒極まりない代物も、ケイにとってはただの優れた武器に
すぎず、持っているだけで、大抵の敵はびびってくれるのでありがたいことこの上ない。
- 208 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (076) 投稿日:2001年11月25日(日)22時36分19秒
- それにしても、不思議なのは、市価で1本30万はするマッド・ルナ・シリーズをケイが
2本もそろえていることだ。
「ずいぶんいいもん持ってるね。」
「ちょっとした賭けに勝ってね。」
いぶかしげに訊くマリに向かってにやりと笑うと、ケイは隣の仏頂面の方を向き、楽しそうに
指差した。
「・・・何見とんねん。」
「えっ、いや、ヘイケさんは何買ったのかなあ、と思って・・・はは、いや、別にいいだけどね。」
ミチヨの格好は昨日会った時とほとんど同じだった。
レザーのジャケットに、デニムのパンツ。機能性は悪くないが、任務に向かうスタイルではない。
- 209 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (077) 投稿日:2001年11月25日(日)22時39分23秒
- そのうえ、ケイが高価な武器をそろえてきたのに対して、ミチヨの背中には2m近くもある鉄弓が
1本ぶら下がっているだけだ。明らかにミチヨのサイズとはミスマッチで、不本意さがにじみ出ている。
「これはな、その昔エイム王国を襲ったダークドラゴンを伝説の弓使いが一撃で仕留めたという
鉄弓や、しかも矢が30本ついてお値段たったの3万Gや、まいったか!」
海からの冷たい風が、やけくその高笑いを空高く運ぶ。
「ふ〜ん、その弓使いなんて言う人。」
「知るか、ボケ!」
いつもは優しいみっちゃんが・・・
無邪気な質問を事も無げに切り捨てられ、半べそで泣き崩れるマキ。その頭をよしよしと
撫でてやりながら、リカが目配せをする。
「それ以上その話題に触れるな」
その意思はその場の全員に一瞬にして伝わった。
- 210 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (078) 投稿日:2001年11月25日(日)22時40分09秒
- それは昨日の午後のこと。
半日で装備を整えることになったミチヨ、ケイ、アイは本部で指令を受け取ったその足で街に
向かったのだが、持ち金すべてあわせても60万そこそこ、ミチヨとケイ、2人の装備を完全に
整えるにはかなり足りない。
そこで思いついたのが、片方の装備だけを完全に整える、残った方は今回は術を中心に
バックアップに回るというもの。ミッションリーダーのマリの許可も得ないで、とんでもない
暴挙に出たのだ。
そして、その結果がこれである。
結局、ミチヨは最後に入った骨董品屋で、店の親父の与太話に半ば無理やり騙されてやる形で、
自分を納得させてその異常にでかい鉄弓を買ったのだ。
- 211 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (079) 投稿日:2001年11月25日(日)22時40分47秒
- (それにしてもとんでもない弓だなあ、あんなの本当に引けるんかよ)
マリは自分の身長よりも大きな弓を再びちらりと見たが、すぐに目をそらした。決してミチヨの
目が怖かったからではない。
「ところで、もう1人の訓練生のこは?見送り2人だけ?」
「ああ、ヨッスィなら昨日の夜から行方不明です。」
「あ、そう。」
本当なら、訊き返すことはたくさんあるのだが、マリはどうにもこのダークエルフが苦手だ。
何を考えているかわからないというか、他の者たちと違う空気感を持っているというか。
とにかく、こうした得体の知れないものには近付くなと教え込まれたマリとしては、できるだけ
関わりたくないというのが本音だ。
- 212 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (080) 投稿日:2001年11月25日(日)22時41分27秒
- 「さて、そろそろ出発した方がええんちゃうか、リーダー。」
「そうだね。けど、リーダーはやめてよ、マリかヤグチでいいよ、私も皆が呼んでるように
呼ぶから、みっちゃん。」
「・・・了解。」
「いってらっしゃ〜い、気をつけて帰ってきてね。」
無邪気に手を振るマキに4人は手を振り返してやりながら、ミネルヴァが用意した小型飛空艇に
乗りこんだ。
マキに手を振り返したときの思いは皆それぞれ違う。ただの挨拶から、ある種の決意まで。
けれど、一瞬だけは同じ思いが胸をよぎった。
必ず帰ってくるよ。
- 213 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月26日(月)05時13分05秒
- おっ更新されてる。
さっき途中で書き込むところでした。
はて圭ちゃんはどんなカケに勝ったのか?
戦闘シーン楽しみにしてます。
- 214 名前:名も無き侍 投稿日:2001年11月28日(水)01時09分35秒
- 短編集で気に入って、読みにきました。
最初から一気に読んでしまいましたよ!
激面白い。マジ面白い。アイ・タカハシ可愛いです(w
”みちごま”も別に好きじゃなかったのに、ここ見て好きになりました(w
どなたかもレスしてましたが、丁寧で優しい文体だと思います。
会話文の端々に、キャラクターに対する愛情感じますぞ。
短編集がいい宣伝になるのは、ほんとですね。
多くの人が、ここに目を通しに来てると思いますよ。
自分も第3回は参加したのですが、
第4回は草稿段階で終わってしまいました……。
今後の話の展開、楽しみにしております。
長文失礼しました。
- 215 名前:なつめ 投稿日:2001年12月01日(土)01時19分02秒
- >213
>戦闘シーン楽しみにしてます。
自分で書きたいと言いながら、最近ちょっとプレッシャー
けど、それがまた心地よかったりして(w
がんばります
>214
誉め殺されそうです(w、だいぶ照れてしまいました
短編集は思い切って雰囲気の違うものが書けるので楽しいですね
こうやって新しく読み始めてくれた方もいて嬉しいです
- 216 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (081) 投稿日:2001年12月01日(土)01時22分56秒
- 東の空に淡いピンクが差し込み始める。
出発してから約2時間、気温はやや低めだが、視界良好。いい天気になりそうだ。
移動はほぼオート、小型とはいえミネルヴァが用意した飛空艇は新技術
(正確には旧世界の技術の掘り起こしなので旧技術)を搭載した最新型で、
今回の任務のもう1つの目的はこの飛空艇の実践試験でもある。
「・・・・・・つまり、内蔵コンピューターに目的地の座標を登録することによってですね」
「はい、先生、みっちゃんがついて来れてません、座標、もとい、天体が球体だってところから
教えてあげてください。」
「座標くらい知っとるわ、馬鹿にすんな!・・・で、球体って嘘やんな?」
コックピットでの即興勉強会。頭から煙を噴きそうなミチヨに熱弁を振るうアイと
それを冷やかすケイ、しかし、そこにマリの姿はない。
- 217 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (082) 投稿日:2001年12月01日(土)01時25分10秒
- 「はーい、全員集合。」
黒を基調にした戦闘服に、防具は胸当てだけ、スピード重視の装備の上には
フリル付のエプロンというアンバランスないでたちのマリが、待機室から顔だけ覗かせている。
「あれ?ヤグチさん、1人分多いですよ。」
待機室に一歩入ったところで、朝食が5人分用意されていることにアイが気付いた。
当然の疑問だ。
しかし、その疑問は部屋の隅に転がっている”それ”がすぐに解決してくれた。
「さっき、水取りに行ったら、これが居たんだよ。」
めんどくさそうなマリに顎で指されながら、真っ赤な顔で何事かを言い返している”これ”、
しかし、猿ぐつわのせいで何を言っているのかまったく分からない。
驚き、哀れみ、呆れ、それぞれ感じ方は違うが、その時のミチヨたち3人は、
同じ思いで目の前のすまきを見つめていた。
(こいつは馬鹿だ・・・真性の)
- 218 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (083) 投稿日:2001年12月01日(土)20時54分45秒
- 「問題。」
一足先に食べ終えたマリが、すまきの方に冷めた口調で語りかけているが、
それに応えようとするものは誰もいない。アイはマリとミチヨの不機嫌に完全に気圧されて
怯えきっているし、ケイは我関せずをを決め込んでいる。
「諜報活動中に非関係者と接触、まして、移動中の飛空艇に侵入された場合、
その侵入者はどうなるでしょうか?
@諸手を上げて歓迎される
A拘束した後、最寄の陸地で解放
Bリンチの末、そのまま鱶の餌」
「さん。」
「はい、みっちゃん正解。」
普段から驚いたような顔をしているとよく言われるアイだが、その物騒なやり取りに
大きな目をさらに見開いて対面のケイに助けを求めるが、ケイは無言で立ち上がると
すまきの方に行ってしまった。
- 219 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (084) 投稿日:2001年12月01日(土)20時55分39秒
- 皆の視線が集まる中、ケイがすまきに近付きその猿ぐつわを外してやる。
「あんた何考えてんの。」
「・・・・・・・」
倉庫にあったロープでぐるぐる巻きにされ、芋虫のような姿をしているが、くつわを外した
端正なその顔はみんなのよく知るヨッスィに他ならない。ただし、拘束される際、マリに
手ひどくやられたようで左眼の周りには生々しい青たんが残っている。
「まあ、今回は侵入者の素性も、動機もはっきりしてるから特別に任務中拘束するだけって
ことでいいね。」
ため息混じりのマリの台詞に3人が無言で応え、収まりかけた場の雰囲気をヨッスィが再び、
引っ掻き回した。
「連れてって・・・わたしも連れてって!」
- 220 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (085) 投稿日:2001年12月01日(土)20時56分26秒
- うんざりしたような沈黙が漂う。誰も口を開きたくないのだ、疲れるのが分かっているから。
「・・・それ以上なんか言うたらホンマに海に放り込むで。」
本来ならば、諜報のような隠密行動に接触してきた部外者は、たとえ身内であっても
先に述べたような厳しい扱いを受ける。しかし、今回は功を焦って馬鹿なことをした
未熟者ということで、特別に恩情が与えられてもいいんじゃないかという空気になっていたのに、
こいつと来たら。
- 221 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (086) 投稿日:2001年12月01日(土)20時57分21秒
- 「ゴメン、間違ってるの分かってるけど、わたしも連れてく方に回るわ。」
しかし、ヨッスィにとって意外な賛同者が現れた。ミチヨたち脱走組の中では闘いにおいて
最もクールで、こういった局面で決して情に流されないのがケイなのだが
「本気の目、ってやつに弱いのかな。」
「わたしも一緒に行きたいです。」
マリとミチヨの迫力に押されて、言えなかったのだが、”民間人”のアイとしては単純に
仲間の希望は聞いてやりたい。そんな当然の気持を、ケイに乗っかる形で言うことができた。
3対2、通って当たり前の組織の論理が逆転されてしまった。
「ジブンら気は確かか!遊びとちゃうねんで、何言うてんねん。」
しかし、多数決で決まる問題でもない。
掴みかからんばかりのミチヨを制しながらマリは自らの不運を呪った。
(何ではじめてのリーダー任務でこんなことになるんだよ。
ここで喧嘩なんか始まったら・・・ああ、どうすりゃいいんだよぉ)
事の発端、芋虫ヨッスィもあまりの急展開にただただ、息を飲むだけだった。
- 222 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (087) 投稿日:2001年12月01日(土)20時58分09秒
- 「よしっ、じゃあ、これで決めない?」
「コイントス?」
ケイが取り出した100G硬貨をまじまじと見ながら、マリは内心胸をなでおろしていた。
隣のミチヨが無言で頷いたからだ。
(とりあえず、喧嘩回避!)
「但し、ただのコイントスはあかん、元々こっちに理がある話やねんから、裏表やなく、
上に投げたコインを右手、左手、どっちで受けるかにしてもらう、もちろん1回勝負、
ケイちゃんが親や。」
たしかにミチヨが言うような遊びは存在する。コインを投げ、その落下軌道に沿って両手を
絡ませるように交差させる事でキャッチの瞬間をごまかすのだが、親よりも子が断然有利な賭けだ。
- 223 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (088) 投稿日:2001年12月01日(土)20時59分12秒
- 「・・・いいよ、その条件で、その代わり、わたしが勝ったらヨッスィは好きにするよ。」
(ラッキー!一時はどうなるかと思ったけど、平和的解決できちゃった上に、
間違いなくオイラの勝ちじゃん。)
笑ってしまいそうになるのを堪えながら、マリは神妙な表情と声を作る。
「・・・みっちゃん、ここはわたしに任せてよ、もしみっちゃんが負けて、
責任感じるようなことになったら嫌だからね。」
2m弱の間合いで、コインの行方を見失うことなどニンジャたるマリにはありえない。
しかし、その大きすぎる自信が、自分よりも自信に溢れた顔をしている者がいることを
その時は見落とさせていた。
- 224 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (089) 投稿日:2001年12月01日(土)20時59分55秒
- 「いくよ!」
ケイの親指ではじかれた銀貨が勢いよく宙を舞う。
そして、頂点に達し、落下してくるコインの回りをケイの両手がその軌道を隠すように激しく動き回る。
その動きはたしかに人間離れしていて、普通の者が見れば、激しく動く手の陰から
時々コインが現れるようにしか見えない。
しかし、その程度でマリの目はごまかせない。
(らっくしょー!ケイちゃん悪いけど完全に見えてるよ。)
けいの頭上を通過し、鼻の辺りを過ぎた瞬間、ケイの右手がコインとマリの間に入り、
コインが消えた。
握る瞬間は右手の死角で見えなかったが、間違いなく左手だ。
- 225 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (090) 投稿日:2001年12月01日(土)21時00分36秒
- 「左!」
握った両拳をケイが差し出すやいなや、マリは勝利を確信して叫んだ。しかし、
ケイの左手握られていたのは空だけだった。
「嘘!」
ショックで崩れ落ちそうになるマリの目の前に、ケイの右手が差し出される、しかし、
そこにもコインはなかった。
にやりと笑うケイとアイ。
すると、マリが呆然と見つめるケイの右手の掌にコインが吐き出された。
「いかさま!口ん中じゃん!」
「残念でした、『右手、左手、どっちで受けるか』とは言ったけど、ダイレクトでなんて
誰も言ってないもんね。」
「う〜ん、そうやな、たしかにダイレクトでって言わんかったな、
しかも1回勝負って言うてもうたし。あ〜、残念、負けてもうた。」
ちっとも残念そうじゃない声で、ミチヨが棒読みしながらマリの方に舌を出してすまなそうに笑う。
- 226 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (091) 投稿日:2001年12月01日(土)21時01分26秒
- (やられた・・・)
3人がかりでヨッスィの参加に賛成すれば、大騒ぎの議論の末、遺恨を残したまま
ヨッスィ不参加による作戦開始になっただろう。
思えば最初からおかしかったのだ。情に流されたケイ、ミチヨに逆らうアイ、そして、
瞬間湯沸しのようにキレたミチヨ。皆あまりに不自然だ。
ヨッスィを作戦に参加させつつ、マリが納得せざる得ない状況をつくり出す最高のチームプレー、
マリが彼らの過小評価に気づいたときにはすでに勝負は決まっていた。
「みっちゃん、昨日この手でやられたんだね。」
「・・・まあな。」
何事もなかったように食事を再開するケイ、抱き合って喜ぶアイとヨッスィ。
そんな彼らを遠めに見ながらミチヨはマリの肩を2度3度叩いてやる。
(悪かったな、けど、きっとうまくやるから)
- 227 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月02日(日)00時37分20秒
- 圭ちゃんもみっちゃんもカッケーなー。
しかし、よっすぃー大丈夫なんだろうか? なんか心配。
- 228 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月04日(火)00時08分39秒
- この板回転速いな〜
これじゃいつ更新したかわからん
でもこの小説はいつも見てるから関係ないけど・・・
そういうことか、ヨッシーそのためにいなくなってたのか。
はてさて誰がトラブルメーカーになるか楽しみです。
- 229 名前:なつめ 投稿日:2001年12月05日(水)20時49分16秒
- >227
最近のカッケーさ
みっちゃん=ケイちゃん>>ヨッスィ
・・・まあ、そのうちって事で(←こればっかですね)
>228
>この板回転速いな〜
速いッスね〜
最近なかなか更新できないから、沈む沈む
ちょっと本業が思ったより忙しいので、更新目標を1〜2回/週くらいに
下方修正します(多分年内)、ごめんなさい
たまに更新であがる思うので、見捨てないでやって下さい
- 230 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (092) 投稿日:2001年12月05日(水)20時51分43秒
- 「この辺りから敵の防衛ラインだから。」
振り返ったマリの肩越しの月は、大気の具合でやや赤みがかっていた。
5人が島に潜入したのは、今から約4時間前。なぜ、オウティークから150km程しか離れていない
島まで半日以上もかかったのか、それは敵の本拠地が島の南部にあるためだ。
上空から島に近付けば、見つけて撃ち落してくださいといっているのと同じ、そこで、はるか
北側まで迂回した後、海上から島に上陸したのだが、船などはじめてのケイ、アイ、ヨッスィの
3人は道中えらい事になった。特にケイなどはユウコ特製という酔い止めを山盛り飲んでいた。
それでも、潜入してからはマリの予想よりも事は順調だった。
心配していたアイの体力不足は、お馬鹿な侵入メンバーが荷物のみならず、足場の悪い山道を
アイもろとも担いでガンガンいってくれるお陰で予定よりも速いペースでポイントに
近付きつつあったが・・・
- 231 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (093) 投稿日:2001年12月05日(水)20時52分44秒
- 「まあ、何事もなくいけるとは思ってなかったけどね。」
マリに続いて、他の4人も気配を感じ、緊張感が伝播する。
警告から10分も経っていなかった。
5対20、まるでこちらの潜入を知っていたかのような一個小隊様の登場。
「一人頭4人やな」
「まだ酔いが残ってて気持ち悪いから、わたしこのままでいくからね。」
「そこの年増コンビ、無駄口叩いてないでアイちゃん見習ってさっさと準備!
わたしとヨッスィ、ケイちゃんが前衛、残りの2人援護よろしく!」
言うが早いか、゛くない”と呼ばれる無骨な短剣を手にしたマリは、あっという間に敵がいる
茂みへと駆けていった。
- 232 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (094) 投稿日:2001年12月05日(水)20時53分41秒
- (1パーティーに二刀流が2人もおるんも珍しいな)
ケイとヨッスィの前を行く小さな背中を見ながら、ミチヨも敵を正確に狩れるポイントを探す。
「なあ、やっぱりそれ使うん?」
「・・・頑張ってみます。」
走りながらもガチャガチャと器用にアイが組み立てているそれは、銃の形状をしているが、
銃身が以上に太く、弾も一つ一つがおもちゃのボールのようだ。
「まあ、もし万が一のことがあってもまたウチがはめたるから。」
戦場となっている茂みからやや離れた巨大な岩の上に二人並んで陣取り、れいの鉄弓を構える。
「それにしても不思議ですよね、他の人がどんなに引っ張ってもぴくりともしないのに、
ヘイケさんだとちゃんと引けるんですから。」
「そやな、もしかしたらこいつもケイちゃんのマッド・ルナみたいにとんでもない武器かも知れんで。」
「いや、それはないです。3万ですから・・・」
「・・・せやな、あほな事言うとらんと、やることやろか。」
- 233 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (095) 投稿日:2001年12月05日(水)20時55分37秒
- 時には戦闘の要にもなるはずの後衛組がだらだらやっている頃、茂みの中はすでに
3対16になっていた。
電光石火のスピードで敵に近付いたマリが、戦闘開始の挨拶よろしく、一人目の喉元にくないを
突き刺すと、それに続くようにケイが卸したての2本のダガーで、2人を膾に1人を串刺しにした。
しかし、奇襲に成功した2人に比べて、ヨッスィの動きは明らかに1段も2段も落ちる。
ケイが2人目を仕留めた時、ヨッスィもリーダー室からガメっぱなしのショートソードで敵の1人に
斬りかかったが、どうしても敵の後衛が気になってしまし、浅く入れるのが精一杯だった。
(だめだ、やっぱり気になる)
一瞬目を閉じ、迷いを振り切るように頭を振るが、視界の隅にこびりつく術者への恐怖は消えない。
マリにも言われた。「作戦に着いて来るのは勝手だけど、ケアはしないから。」
当然だ。未熟だから外されたのに、勝手に着いて来てそのうえ、守ってもらうなんて虫が良すぎる。
- 234 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (096) 投稿日:2001年12月07日(金)20時11分42秒
- 「ちょっと、ヨッスィ!もっと動けよ。」
奇襲に虚を突かれた敵も、陣形を整えつつあり、後衛で4人の術者が詠唱に入ってから
というもの、マリの激も空しくヨッスィの動きはますますもって悪くなる一方だった。
(怖い・・・逃げ出したいよ!)
歯を食いしばって、鼻をすする。
しかし、ぼやける視界の片隅の術者を気にしながらでは、迫り来る白刃をふらふらと避けて
逃げ回るので精一杯だ。
知らなければ恐れることはなかった。
しかし、今ははっきりと分かるのだ。自分の弱さ、敵の強さ、そして、その差が
死に直結するほどのもだということが
その瞬間、ついに張り詰めていた誇りという名の糸は、プツリと音を立てて切れた。
- 235 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (097) 投稿日:2001年12月07日(金)20時12分34秒
- 「ダメだこいつ、使えねぇ。」
氷柱が立ち並ぶ戦場だった場所から、少し離れた林の中。木の根元で膝を抱え、
うずくまっているヨッスィのもとに集まってくるミチヨたちにマリがはき捨てるように言った。
戦闘後、放って行こうと主張するマリを何とか説得しての捜索劇、その第一発見者は皮肉にも
マリだった。
小刻みに震えるヨッスィの肩をアイがゆするが、下を向くばかりで反応はない。
ヨッスィの気迫を感じて、ここまで肩をもってきたミチヨとケイも失望感と憤怒からかける
言葉が見つからない。
(終わったな・・・この子もうあかんわ)
- 236 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (098) 投稿日:2001年12月07日(金)20時13分21秒
- 先の戦闘で最もアタリだったのはケイだった。
絶好調のケイが何人目かの敵兵を袈裟に斬り上げた瞬間、それまで3人を取り囲んでいた
敵の陣形が解け、あっという間に散開した。
間違いなく後衛の術者が詠唱を完了したのだ。
術者の霊力が大気の唸りとなって、ヨッスィを威嚇する。
次の瞬間、ヨッスィは許されない罪を犯した。
散開する敵を追うマリ、無人となった戦場を術者めがけて走り出すケイ。
術への耐性差を考えれば、2人の行動は適切だ。敵の術が放たれたとしても、術への耐性が
高いケイが囮になることで、マリへのダメージは軽減されることが予想される。
しかし、恐怖心は精神を極限まで追い詰め、そうした戦場における冷静な判断ばかりか、
戦士としての誇りまでも奪い去ってしまった。
逃亡。
恥に塗れたその罪は、時として万死に値し、一切の弁解は許されない。
- 237 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (099) 投稿日:2001年12月07日(金)20時15分36秒
- 結局、その後の戦闘を決定付けたのは後衛組だった。
あまりに狙い通りの結果に、一番驚いたのは当のミチヨ。
長すぎるリブゆえに、弓自体をやや斜め構える格好のまま口をあけて固まってしまった。
無人となった戦場を走り抜けた2本の矢が、正確に2人の術者の額を貫いたのだ。
実は剣や槍よりも弓やボウガンといった射程武器の方が得意だった。
しかし、それを差し引いてもこの鉄弓の吸い付くような感触と矢を放ち終えたときの快感は、
かつてない集中力とそれに伴う結果を与えてくれた。
- 238 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (100) 投稿日:2001年12月07日(金)20時16分59秒
- 最後に、あえて彼らの敗因を上げるならば、死を恐れず、時には味方の盾にすらなれる、
そんな心意気が裏目に出てしまったことと、術特有の気配がなかったことで、遠隔攻撃に対して
油断が生まれたことだろうか。
残った2人の術者を守るために、異常なほど密集してしまった敵めがけて、
アイの新兵器が火を、いや正確には冷気を噴いた。
マジック・ランチャー。
不恰好なアイの新兵器だが、その威力は絶大だった。
霊力とオールドテクノロジーの融合の真骨頂とも呼べるその武器は、
弾に詰め込んだ術を着弾と同時に爆発させる。
攻撃にしか使えない、元の威力よりも殺傷能力が低いなどなど、改善すべき点はまだ多く
残っているが、ノーカウントで術が放てることは大きな戦力となる・・・が、
アイ特有の問題点はかなり深刻だった。
「痛い、痛い!みっちゃん、助けて!」
ジェッティの異端児をもってしても、この発射時の反動だけはどうしようもなかったらしく、
はるか後方で右肩を抑えのた打ち回っている。
どうやら完成披露発射会に続いてまた肩を外したらしい。
- 239 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月08日(土)02時35分44秒
- うーん、はじめて読みました。
なんでいままで読んでなかったんだろう?
これから読んでいくので更新頑張ってください。
- 240 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月10日(月)01時38分48秒
- 作者さんおもしろいっす。
ヨッシーへぼいぞ!!!
- 241 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月16日(日)23時24分30秒
- 作者さん待ってます
- 242 名前:なつめ 投稿日:2001年12月17日(月)00時00分08秒
- >239
>なんでいままで読んでなかったんだろう?
それはきっとタイトルがしょぼいからでしょう(w
新しい読者さんの登場、とても嬉しいです。ありがとうございます
>240
頻繁にチェックしてくれているみたいですが、ホント申し訳ないです
>241
申し訳ないです、できるだけ早くなんとかします
年末本当に地獄のように忙しくて、更新滞ってスイマセン
放置ではないことを伝えたくてのレスのみです。スマソ
- 243 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (101) 投稿日:2001年12月31日(月)02時46分48秒
- それでも脱臼や体の怪我は時間が経てば自然と癒える。
しかし、失ったプライドは、傷ついた心は時間をかけたからといって、必ず治るわけではない。
その傷が深く、芯に近いほど、欠けた心のピースを探すのは難しい。
「とりあえず船に戻ってな、帰り方くらい分かるね。」
怒りと一緒にマリが残していった言葉が、耳鳴りのようにいつまでも頭の中で響いていて、
何も考えられないし、考えたくなかった。
激しい戦闘ではなかった、むしろ、普段の訓練の方が肉体的には厳しい。しかし、体は鉛のように
重く、ようやく立ち上がっても激しい眩暈で体中を締め上げられているようだった。
立ち去り際、ミチヨたちが消えていった方に目をやったが、結局それとは反対方向に歩いている
自分に怒りを超えた殺意にも似た感情をおぼえるが、それもすぐに倦怠感に支配されてしまった。
- 244 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (102) 投稿日:2001年12月31日(月)02時48分42秒
- 林を抜け、海岸を目指す。あたかもそれが命令であるかのように、ただ無心に歩いていた。
「クズだな。」
後頭部の辺りで声がしたような気がして、振り返るが満天の星空が見えるだけ
「こっちだよ、ノロマ。」
再び前を向くと同時に、反射的に腰の剣に手をかけた。
文化や種族が違っても、殺意が漂う気配というのは万国共通のようだ。
「あれ?腰抜けさんが剣なんかもってどうする気?」
けらけらと笑う目の前の少女は、ぱっと見ヨッスィよりも少し幼い。しかし、それは彼女が
ヒューマンの場合だ。彼女の背中には、以前牢獄でマキが見せたような大きな翼が生えている。
「有翼人種?」
「セイレーンって呼んでくれるかな、腰抜けのデクノボウさん。」
明らかに馬鹿にした口調にカッとなるが、すぐにそれよりも情けない気持ちになっていまう。
「おや、図星突かれておちこんじゃったかな?」
刃物つきのフィスト、通称鉄の爪と呼ばれる武器を両手に構えながら、セイレーンは勝利を
確信していた。
(気持ちで負けてる奴が、戦場に出てくるなっての)
- 245 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (103) 投稿日:2001年12月31日(月)03時03分31秒
- 「それにしてもついてないなあ。」
セイレーンの少女はパワーはそれほどでもないが、圧倒的なスピードでヨッスィを弄ぶ。
「だってさあ、リーダー達はいいとして、残った4人でくじ引きしてなんでタカが負けないと
いけないわけ、あっ、タカってわたしのことね。」
ヒットアンドアウェーではなく、着かず離れずの距離から時々攻撃をしてくる意外は、
こうしてブツブツと愚痴をこぼしているのだが、その攻撃がぬるいかといえばそんなことはなく、
ヨッスィはそれを防ぐのに必死で反撃のきっかけもつかめずにいた。
「それにしても、さっき上から見てた時も一番ヘタレだと思ったけど、予想以上に弱いね。」
悔しいが、タカの言う通り2人の戦闘力の差は歴然だった。スピードもさることながら、
その戦闘経験の差によって、完全に間合いを支配され、戦闘開始以来、一度も
打ち合うことすらできずにいた。
- 246 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (104) 投稿日:2001年12月31日(月)03時05分10秒
- 「う〜ん、そろそろ飽きてきたし、終わりにしよっか。
あんまりこっちで遊んでると怒られちゃうしね。けど、どうせあっちももう終わってるかなあ。」
「あっちって?」
必死の防戦の中だったが、不吉な予感に思わず声が出た。
「だから、言ったでしょ、わたしくじ引きで負けて1人こっちにまわされたの。残りは全部あんたの
仲間の方に行ってるの。あんた見てるとパーティー全体のレベルもたいしたことなさそうだし、
もうみんな今頃逝っちゃってるんじゃない。」
- 247 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (105) 投稿日:2001年12月31日(月)03時05分59秒
- 先に異変に気付いたのは、本人ではなくタカの方だった。
勝負を決めるべく、それまでの遊び半分とは違う一撃を見舞ったのだが、あっさりと
さばかれてしまった。まあ、ただの偶然だと思いより厳しい突きを連続して放つが、
それもきまらない。
そのうちに責めつづけているタカの方に余裕がなくなり始め、徐々に息も上がってきた。
「ちっくしょー、なんでだよ!」
苦し紛れの大ぶりは当然かすりもせず、逆にバランスを崩したところに打ち下ろされた
一撃をかろうじてよけるという情けないありさまだった。
「わたしを弱いって言うのはいい、はずれって言われてもしょうがない。だけど・・・・・・・
いや、やっぱりなんかわかんないけどそれも含めてムカツクんだよ!」
- 248 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (106) 投稿日:2001年12月31日(月)03時06分45秒
- 振り下ろした漆黒の刃が、この時初めてすっきりと手に馴染んだ気がした。
見ると、タカが寸でのところで避けた跡には、クワで掘り返したような亀裂が走っていた。
「冗談じゃないよ、根性なしが逆切れして暴れてんじゃないっての。」
必死に余裕を見せようとするが、態勢を整えるタカの顔にはそれまでとは違い明らかに
焦りの色が見て取れた。
攻め手を欠き、追い詰められた鳥人は最後の勝負をかけるべく、勢いよく地面を蹴り、
文字通り飛び上がると、ちょうどヨッスィの後方の死角に入ったと同時にその後頭部めがけて
一気に急降下した。
まるで一本の槍のようになって、空中の死角から襲い掛かるこの技は彼女の奥の手、
いまだかつて失敗した事はなかった。
- 249 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (107) 投稿日:2001年12月31日(月)03時10分28秒
- 「早く止め刺しなよ」
しかし、血まみれで地面に叩きつけられたのは、ヨッスィではなかった。
振り向きざまに振るった剣はタイミングが早すぎて、タカには届かないかに見えた、
しかし、その時になってついに奇跡は起こった。
漆黒の刃が輝いたのはほんの一瞬だった。しかし、それで十分だった。
剣から放たれた波動は、形のない刃となってタカの右翼を切り落とし、翼を失ったセイレーンは
空に愛されることなく、真っ逆さまに地面に叩きつけられた。
「あいにく勝負が決まった相手を刺し殺す剣は、持ち合わせてなくてね。」
「あんた、うちのリーダーみたい、そういう騎士道臭いのわたし大嫌い。あと、怒りで
パワーアップなんて少年漫画みたいな展開、わたし認めないからね。」
「かっこよすぎて悪かったね、ただの努力までしちゃう天才なんでね。」
方翼を失って、そっぽを向くセイレーンにそれだけ言い残して、立ち去るヨッスィ。
目指す場所はもう決まっている。
- 250 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月03日(木)19時57分21秒
- 待ってましたよ作者さん。
- 251 名前:なつめ 投稿日:2002年01月06日(日)20時55分37秒
- >>250さん
待たせてスイマセン
今日から暫くはマメに更新します
終わりに向けていろいろ急展開しますんで、お付き合いよろしくです
- 252 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (108) 投稿日:2002年01月06日(日)20時57分04秒
- 黒い刃を肩に担ぐようにして、全力で走る。
先の戦いのダメージが残っていないわけではないが、体は羽のように軽く、
まさに飛ぶがごとく林を駆け抜ける。
収穫は2つあった。
術への恐怖心が完全に消えたわけではないが、キレたことで自分の霊子体に
少し触れることができた。
そして、敵についても少し分かった。セイレーンの怖さはなんと言ってもその機動力と多角的な攻撃。
しかし、自分の戦闘経験を伝えることでミチヨたちをそうした脅威から守れるかもしれない。
壊れた心を抱えてうずくまったあの木のそばも、目もくれず走った。
次第に木の合間からもれる月の光が眩しくなり、ついに林を抜けた。
きっとみんな苦戦してるはず、早く力にならなくては、そう思い続け、走ってきたヨッスィが
見たのものはあまりに凄惨な情景だった。
- 253 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (109) 投稿日:2002年01月06日(日)20時57分56秒
- 「助けて、助けてください!」
ヨッスィの姿を見つけ、一目散に駆けてきたアイがすがりつく、しかし、ヨッスィとて
それに応えるだけの余裕はなかった。
アイが走ってきた方には、剣山のように槍と無数の矢に貫かれ、ぴくりとも動かないマリが
血の海に沈んでいた。
「どうしたの、何があったの?」
「分からない、何も分からないんです!」
あまりに興奮して、アイの肩を掴みながら怒鳴りつけるように問い詰めてしまったが、
それにもアイは耳をふさぐように、頭を抱え、怯えるように一点を指差すだけだった。
- 254 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (110) 投稿日:2002年01月06日(日)20時58分50秒
- アイの指差す方、それは正にこの世のものとは思えない光景。
たとえるなら、そこは地獄と天国が繋がった世界のようだった。
「何あれ、悪魔と天使?」
戦場になっている場所の上空には、ヨッスィが悪魔と評した者が、呼び寄せたと思われる
暗雲が立ち込め、彼女がその腕を振るうたびに雷が剣となり銀の翼を持つ天使を襲う。
しかし、相手もただやられているだけではない。天使は、金色のオーロラを身に纏い、
その雷をことごとくはじき返していた。
「ねえ、まさか。」
「そのまさかです。」
術をはじき返す術、それにその天使が身に付けているデニムの穴には見覚えがあった。
- 255 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (111) 投稿日:2002年01月06日(日)21時02分43秒
- ミチヨたち4人が、林を抜けるとそこは、身を隠す場所など一切ない一面の荒野だった。
多勢で待ち伏せるには絶好の地形、罠の匂いはプンプンしたが、時間に追われるマリは、
勇気ある撤退という選択肢を選ぶにはあまりに若すぎた。
そして、敵はその若さにつけこむには充分に老練だった。
最初の襲撃者3人は、セイレーンだけあってそのスピードにおいては圧倒的だった。しかし、
逆に言えばそれだけだった。速さはあっても、その速さを活かしきるだけの経験はまだないらしく、
ケイに変態を起こさせるほどの脅威ではなかった。
しかし、今になって思えば、この時点で勝機を全力で掴みにいくべきだったのだ。
- 256 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (112) 投稿日:2002年01月06日(日)21時04分40秒
- 敵の機動力に手を焼き、いたずらに時間ばかりが経っていく中、戦場になっている地点から
少し離れた岩場に舞い降りた2つの影。
1人はやはりセイレーン、しかし、それまでの4人とは翼の色が明らかに違う。純白の翼と
それに合わせたような白衣(しろきぬ)、そして、月の光にさえ透けてしまいそうな長髪を
なびかせる姿は、巫女や天使といった神聖な存在を想起させる。
そして、もう1人はセイレーンではなく、見た目はヒューマンの少女だった。長髪のセイレーンと
比べると幼いその容姿や仕草は、戦場に似つかわしくない無邪気さすら感じさせた。
セイレーンが着地するや、むずがるようにその腕の中から這い出し、トタトタと岩場に登る姿からは
戦いへの緊張感は一切感じられない。
しかし、戦局を一変させたのは他ならぬこの小柄な少女だった。
- 257 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (113) 投稿日:2002年01月06日(日)21時06分03秒
- 「アサミ、うまくできそう?」
「はい、イイダさん。」
アサミ、と呼ばれた少女は、この異種族のお姉さんが好きだ。本来なら恨んでも恨み足りない
相手になっていてもおかしくないのだが、幼いとはいえ、好意や愛情を素直に受け止められない
ほど馬鹿ではない。
戦場になっている場所からはやや離れた岩場、戦闘の真っ最中に気付かれることはまずないが、
それでもセイレーンは細心の注意を払い、少女を庇う。
そして、少女そんなセイレーンに応えるかのように、懐から取り出した海の色をした宝石を手に、
静かに唱え始めた。
- 258 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (114) 投稿日:2002年01月06日(日)21時07分46秒
- 北の大陸の更に北、そこには名前のない湖がある。いや、あると言われていると言った方が、
正しいかもしれない。1年中晴れない霧に覆われた渓谷のその先にあるといわれる湖、しかし、
そこから戻ってきた者がいないからなのか、誰も語りたがらないからなのか、その存在は
そこに住むといわれるヘルの民とともに半ば伝説になっている。
しかし、今、岩場で静かに眼を閉じ、少女が唱えている術こそ、間違いなく女神ヘルが授けた秘術。
静かに広がる霧の結界は、侵入者の視界を奪うだけでなく、その位置までも正確に術者に
伝えることができる。
それでも、少女1人ではこの荒野を覆い尽くすような霧はつくり出せない、そこで、セイレーンが
彼女に与えたのが秘石、ディープ・ブルー。元はリヴァイアサンの鱗とも、人魚の涙とも言われる
深い青色をした宝石は、持つ者に水の精霊の加護を与える。
しかし、それだけの力を持った秘石だからこそ、そう簡単には手に入らない。少なくとも、
一介の空賊風情が所有できるものではないはずなのだが
- 259 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (115) 投稿日:2002年01月06日(日)21時11分26秒
- 「冷酷無情の冥府の女王、我は汝が唯一愛せし子、ヘルの民なり、願わくばその身に纏いし白き衣、
我に与えん・・・・・・ブルジャーレペス!」
攻撃用の術のような激しさはない、ただ静かに両手で握りしめた秘石から白い霧が立ち上り始める。
もちろん、その異変に気づかないほどミチヨたちも間抜けではない、しかし、目の前の
セイレーン3人を突破して、術を止めに行くだけの余裕はない。ミチヨとアイの飛び道具にしても、
白翼のセイレーンがいては術者の少女に届くわけもない。
数分後、荒野全体に行き渡った濃霧は戦局を完全に逆転させた。
それまで優位に戦闘を進めてきたミチヨたち4人だったが、いまや防戦一方、アイの
サーモグラフもほとんど役に立たず、霧の中から突如現れる白刃にされるがままになっていた。
- 260 名前:ファイナル・クエスト 第1章 (116) 投稿日:2002年01月06日(日)21時15分45秒
- 「このままではみんなやられる。」4人の胸の内は同じ、しかし、突破口は見つかりそうになかった。
「ケイちゃん、たしか獣化できるんだよね。」
「変態よ、しかも闇の眷属ヴァンパイア、獣といっしょにしないでくれる!」
意味ありげなマリの問いかけ、しかし、あまりに危険な匂いを伴う口調がケイを素直にさせない。
「どっちでもいいよ、それで勝てる?」
「そりゃあ、けど、無理だよ。少なくとも1分は無防備になるから、陣形が崩れて4人ともお釈迦だよ。」
「1分か、よしっ。」
ケイの1分という言葉を聞き終わると、マリは全霊力を両足に集中し始めた。
「ちょっと、何してるんや?」
「大丈夫、ちゃんと周りは見てるから。
それより、みっちゃん後頼んだよ。」
「後、って、何する気や。」
「ニンジャはね、仲良しこよしで共闘なんかできないんだよ、ただ、勝つためだけに、
そのためだったらなんだってするけどね。」
- 261 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月06日(日)21時20分55秒
- めちゃくちゃ面白いです。
続き楽しみにしてます。
- 262 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月06日(日)22時43分32秒
- 待ってました!
SPEEDにイーダリーダー、アサミはどっちの方だ?
矢口は果たして!?
興味は尽きませんね。
- 263 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)22時28分00秒
- >>261さん
そう言ってもらえるとすごい励みになります
>>262
>SPEED
外れ(w
>アサミはどっちの方だ?
ああ、忘れてた。そういや両方とも北海道だし
まあ、そのうち(←このフレーズばっかですね)はっきり書きますけど、
もう大体分かっちゃいましたよね
- 264 名前:ファイナル・クエスト 第1章(117) 投稿日:2002年01月07日(月)22時30分08秒
- 誰かがやらなければ、負ける。それならば、自分がやるのは当然のことに思えた。その結果、
自分がどうなるかなんて、考えるのも面倒だ。なぜなら、ニンジャが戦いに価値を
見出せるとすれば、それは勝利の中から以外にはありえないからだ。
「ヤグチさん、正面から2体来ます!」
アイの悲愴な叫び声に、不敵な笑みで応える。
ここへきて自分のところに2体も、運はこっちにある。
「いい?最低でも敵2人と1分間は任しといて、残りは任したからね。」
「ヤグチ、あかん!」
ミチヨは霧の向こうにマリの笑顔を見た気がした。
それは、今までにも何度か見た、悲しみを決意で覆った笑顔だった。
- 265 名前:ファイナル・クエスト 第1章(118) 投稿日:2002年01月07日(月)22時31分06秒
- 面食らったのは、マリを狙って突っ込んできた2人のセイレーン。
ナビゲーターの指示よりも早くエモノに手ごたえがあったばかりか、何かとてつもないものが
自分たちを抱え込み、押し戻してくるのだ。
「キャッ、何これ、マイ助けてよ。」
「無理だよ、こっちも必死だけど、全然止まらないよ。」
まさに電車道、足と腹に1本ずつ槍を受けながらもマリは止まらない。霧に覆われる前の記憶を
頼りに、術者目指して2人の敵を押し戻しながら突き進む。
しかし、次の瞬間、マリの顔が更なる苦痛に大きく歪んだ。
「やった、ミウの援護だ。」
しかし、腕の中のセイレーンたちの歓声をかき消すように、マリは更に加速する。
背中に矢を受けたくらいでは、今のマリ止まらない。背中をハリネズミのようにしながらも、
残り少ない霊力すべてを足だけに集め、最期のダッシュをかけた。
- 266 名前:ファイナル・クエスト 第1章(119) 投稿日:2002年01月07日(月)22時33分02秒
- 「御見事。」
薄れいく意識の中で、嫌味でも、皮肉でもなく本心から彼女がそういったのをマリは聞いた。
気配はなかった。いや、あったとしても回避するだけの余裕はなかった。
目測が確かならば、術者まであとほんの少しというところで、一瞬霧が晴れたかと思うと、
その中から天使が現れた。
もちろんその正体はただの白翼のセイレーンなのだが、瞬きするよりもまだ短い一瞬では、
マリにそう見えたとしても不思議ではなかった。
常人離れした踏み込みの速度に加え、翼による加速。
かつて音速の剣士と呼ばれた彼女の居合を、すべての力をただ速く走ることのみに
費やしていたマリに防ぐ術などあろうはずもなかった。
- 267 名前:ファイナル・クエスト 第1章(120) 投稿日:2002年01月07日(月)22時34分22秒
- しかし、これはセイレーン側の圧倒的勝利というわけではなかった。
足元に広がる3人分の血の海を睨みつけながら、唯一無傷だと思われる部下を呼びつける。
「ミウ!マイとミズをチョールヌィの医療ポッドへ、きっとまだ間に合う。
あと、アサミもミウについて行きな!」
「けど、それじゃリーダーが1人に・・・・・・・。」
「いい。その代わり、2人を運んだらタカを回収、たぶんやられてる。そうだね、アサミ。」
「はい、タカさんの気配がほとんどしないです。」
ナビゲートを務めるアサミからの情報通り、一瞬切れた霧の向こうには、敵の他に
見慣れた2人の姿が見えた。しかし、迷いはなかった、そうするより他に自分の後の
アサミを守る方法はなかったからだ。
わずかな抵抗の後、鉄が肉を引き裂き、骨を砕く最低の感触が掌から離れない。
生まれて初めて人を斬った時の事を思い出した。
- 268 名前:ファイナル・クエスト 第1章(121) 投稿日:2002年01月07日(月)22時36分20秒
- 「感慨には浸れたかい?」
結界師が離れたことで、晴れかけた霧の向こうから突如現れた黒い影。近付いてくる気配さえ
感じさせないそのスピード、決して小柄ではないセイレーンを片腕で首から持ち上げる怪力。
そいつはたった1度の攻撃で格の違いを見せつけた。
月光の元、艶やかな闇の色をした肌と血の色の瞳は、恐怖を超えて純粋な美しさすら感じさせる。
「ば、化け物が・・・・・・」
「鳥が囀ってんじゃないよ。」
喉を締め上げられながら、搾り出した罵声を一笑すると、ケイはセイレーンを先程まで
結界師がいた岩場に投げつけた。
「弔い合戦、て柄じゃないけど、あんたは殺すよ。」
- 269 名前:ファイナル・クエスト 第1章(122) 投稿日:2002年01月07日(月)22時39分02秒
- 「そこからは一方的でした。」
恐怖のためか、まだ小刻みに震えているが、アイは少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。
「”解放”したケイさんがすべてにおいてセイレーンを上回っていたのは一目瞭然でした。
勝負も数分でほとんどついていたんです。けど、あの羽が、ケイさんにあの黒い翼が生えた時から
何もかもがおかしくなったんです。」
その時の事を思い出したのか、再び歯を鳴らし、恐怖に震えるアイの頭を抱きしめながら、
続きを促す。
- 270 名前:ファイナル・クエスト 第1章(123) 投稿日:2002年01月07日(月)22時39分49秒
- 「悪魔でした。もうあれはケイさんじゃなかったんです。
すごいスピードで飛び回りながら、雷と炎を撒き散らして、わたし達も殺そうとしたんです。
ヘイケさんがいなかったらわたしも死んでたんです!」
なにが原因か今は分からない。しかし、確実に分かることはケイがケイでなくなってしまった
ということ。以前、牢獄脱出の時に解放したケイには翼はなかった、それは、まだケイの
意識がもう1人のケイを理性でコントロールしていた証拠でもある。しかし、今のケイは完全に
制御を失った、いや本来の姿に戻ったというべきなのか。
その身から溢れる破壊と殺戮の衝動に逆らうことなく、持てる力を
すべて欲望の解消に費やしていた。
- 271 名前:ファイナル・クエスト 第1章(124) 投稿日:2002年01月07日(月)22時42分07秒
- そんなケイに異変に触発されるように、ミチヨの左耳のカフスが淡い輝きを放ち始めた。
「ヤグチがやられて、ケイちゃんがとち狂って・・・・・・ジブンだけは生きて返らしたらなな。」
「ヘイケさん?」
「ええか、これから先なにがあっても生きて返るんやで。」
「やめてください、そんな今生の別れみたいに。」喉下まで言葉はきていた。けれど、
アイはそれを音にすることはできなかった。言ってしまうとそれが本当になってしまう、
そんな予感がやけにリアルで怖かった。
- 272 名前:ファイナル・クエスト 第1章(125) 投稿日:2002年01月07日(月)22時43分27秒
- カフスは物心ついたときからつけていた。
「絶対外しちゃダメよ。」母親にそう言われた素直な少女は、そのいいつけを守り、
自分からそれに手をかけることはなかった。
それを知ったのは、軍に入って数年がたったころだった。
当時、エイムの物流を脅かしていた空賊の本拠地に乗り込んだとき、諜報部の情報が
間違っていたのか、敵にはめられたのかは分からないが、圧倒的多勢の敵に王国側は
ミチヨを含めて数名がかろうじて命を保っているという状態だった。
もはやこれまで、そう思った時、敵の剣をかわした拍子に偶然カフスが外れた。
かつてない力が、自分の内から、そして、外からやってくるのを感じた。
何の予告もなく訪れた初めてのメタモルフォーゼも、なぜか自然と受け入れることができ、
それどころか、自らの背中に現れた銀色に輝く翼をいとおしいくさえも思った。
しかし、このまま身を任せてしまうと、それまでのすべてを失ってしまう、そんな恐怖を感じ、
何度も自分の存在を反芻した。
- 273 名前:ファイナル・クエスト 第1章(126) 投稿日:2002年01月07日(月)22時44分05秒
- 授けられたのか、発現したのか、出所こそ分からなかったが、その力は窮地を救うには充分すぎた。
剣を振るえば、それは今まで見たどの術よりも強力な波動を生み出し、敵のみならず、
味方も含めたその場にいるすべての者をなぎ倒した。
気がつけば、その場に立っていたのは自分だけ。半ば放心しつつも、カフスを
再び身に付けることができたのは本能に近い行動だった。
- 274 名前:ファイナル・クエスト 第1章(127) 投稿日:2002年01月07日(月)22時48分34秒
- そして、今、忌まわしいとすら感じた力を自らの意思で再び手に入れようとしている。
アイの肩に手をかけ、目元だけで微笑んだミチヨが、振り返ることはなかった。
髪をかき上げ、上部が少し尖ったその耳をあらわにすると、ゆっくりとカフスを外す。
変化は徐々に、しかし、確実にあの時と同じようにやって来た。ただ、すべてが
あの時と同じというわけではなかった。敵、いや止めるべき相手は、以前とは
比べ物にならないくらい強い、理性という名のリミッターをかける余裕はなさそうだ。
牙をむき咆哮をあげるケイに向かい、月の光をその身に受けながら銀の翼をはためかせた。
- 275 名前:ファイナル・クエスト 第1章(128) 投稿日:2002年01月07日(月)22時49分21秒
- 「そう、じゃあやっぱりあれはケイちゃんとみっちゃんなんだ。」
アイの話を聞き終わったヨッスィは、それまで気付きながらも認めたくなかった事実を
受け止めざる得なかった。
目の前で繰り広げられる人を超えた闘い、もちろん止めるすべもなければ、加勢することすら
できそうにない。圧倒的な力と力のぶつかり合いの前に、自分の存在のなんと無力なことか。
ほんの少し取り戻しかけた自信は音もたてず消え失せた。
「ヨッスィさん?」
「何もできないよ、わたし達には。
たぶん、ケイちゃんが勝てばわたし達も死ぬ。分かってるのはそれくらい、あとは何も分からない。」
「そんな。」
「でも、いやだからこそ、最後まで見守ろう。」
覚悟を決めたように、マリの亡骸を膝にその場に座り込む。まだ少し残るそのぬくもりが
逆に悲しかったが、泣いている暇はない。瞳が涙で曇ったその一瞬ですべてが終わる、
目の前の闘いはそんな闘いだからだ。
- 276 名前:ファイナル・クエスト 第1章(129) 投稿日:2002年01月07日(月)22時50分05秒
- (・・・・・・・わたしは、ミチヨ=ヘイケ・・・・・・止めないとみんなが終わる・・・・・・)
支配されそうになる意識を、ミチヨは懸命に紡ぐ。しかし、ケイの力に対抗するように、
その体の変化は更に進んでいた。
2枚だった翼はいまや倍の4枚になり、その額にはケイの刺青よりも一回りほど大きな
紋のような物がかすかに浮かび上がっていた。
(ケイちゃんには悪いけど、正直敵やない、けど、力加減が分からん)
ケイが狂ったように繰り出す雷を、蚊を払うようにすべてはじき返しながら、ミチヨは
この戦いをいかにして終わらすか、そのことばかりを考えていた。
おそらく、ケイを殺すことはそれほど難しくない、普段ならばあれほど集中と霊力を要する術も、
腕の一振りで繰り出せる今の状態ならば、目の前のケイを焼き尽くすことなど造作もないだろう。
しかし、それでは、何もならない。目的はケイを殺すことではない、しかも、力加減を間違えれば、
足元のアイとヨッスィのみならず、島自体もどうなるか分からない。
- 277 名前:ファイナル・クエスト 第1章(130) 投稿日:2002年01月07日(月)22時51分05秒
- その時だった。ミチヨの思いに応えるかのように、今まで存在すら忘れていたあの鉄弓が
地上からミチヨの手に吸い付くように、やってきた。
誰に教えられたわけでもない、ただその意味はなぜか理解できた。
自らの翼から1本、銀色に輝く羽を抜き取ると、それに霊力を込める。すると、羽は
更に輝きを増し、1本の矢となった。
「痛いのはほんの少しの間だけ、許してな。」
術では埒があかないとふんだケイは、肉弾戦を挑むべく、先程のセイレーンを越えるスピードで
ミチヨに迫る。しかし、ミチヨは臆することなく、その胸に狙いを定め、一気に弾いた。
「ガアァァァ!(・・・・・・サンク・・・・・・ス・・・・・・・)」
目を見開いたまま、真っ逆さまに落ちていくケイ。その体からは、蒸気のように霊力が立ち上り、
ケイの体から闇の力を奪っていく。
地上ギリギリでヨッスィが受け止めたときには、もう完全にいつものケイで、その表情は
安らかに眠る子どものようだった。
- 278 名前:ファイナル・クエスト 第1章(131) 投稿日:2002年01月07日(月)22時55分37秒
- ケイを抱きかかえ、アイとマリの亡骸が待つ場所に戻ると、自らの翼に抱かれ、
女神のように荘厳に、しかし、静かに立ち尽くすミチヨがいた。
「みっちゃん、あんた誰?」
ヨッスィの間抜けな質問に、ミチヨはほんの少しだけ悲しそうに微笑むと、マリの亡骸を
抱きしめ静かに、しかし、今までヨッスィが聞いたどんな詠唱よりも力強く唱え始めた。
「癒しの父アスクレピオス、我は欲深く、愚かな者なり。この願い叶うならば、我のすべてを捧げん
・・・・・・」
高まる霊力に威圧感はなく、むしろ、ミチヨの周りからは春の陽だまりのような心地よい
温もりが広がり、そこが今まで戦場だったことすら忘れそうになる。
「レジシスト」
マリの額にかざしたミチヨの手が、柔らかな光を放ったその時、奇跡は起こった。
「別に、誰でも生き返るわけやないんやで、崩壊が始まる前の肉体、
生への執着を支える精神、そしてなにより、これだけの術を受け入れらるだけの
強靭な霊子体、こんだけの厳しい条・・・・・・」
- 279 名前:ファイナル・クエスト 第1章(132) 投稿日:2002年01月07日(月)22時56分48秒
- ミチヨの台詞は最後まで聞こえなかった。
攻撃系の術に比べ、回復や癒しを目的とする術は格段に霊力を消耗する。それが、
一度命の息吹を失った者の復活となると、たとえヴァンパイアを一撃で倒すほどの者といえども
ただで済むはずもなく、その代償は計り知れない。
「みっちゃん!」
「触るな!」
ひざまずいた姿勢のまま、後に倒れたミチヨを抱き起こそうとしたしたヨッスィの前に
血で染まった刃が差し出される。
「この女、いや、この方は我々が頂く。
まさかこんな所で第三世代に出遭えるとは。」
傷だらけで今にも倒れそうなセイレーンだったが、その顔からは微かに喜びの色が見とてれた。
- 280 名前:ファイナル・クエスト 第1章(133) 投稿日:2002年01月07日(月)23時04分12秒
- 「なに訳わかんない事言ってんだよ!」
先のケイとの戦闘で満身創痍とはいえ、突如現れた眼前のセイレーンを瞬時に強敵と
判断したヨッスィ。剣を抜き構えようとするが、残念ながらかなわなかった。剣を抜くより早く
ヨッスィの腹部をとらえた蹴りは、彼女を沈めるには十分な威力を持っていた。
「ヘイケさんを返してください!」
アイの悲痛な叫びが、ミチヨを肩に担ぎ、立ち去るセイレーンの足を止めた。
「返す?お前たちは何も分かっていない。自分たちの非力さも、この方のことも。」
非力という言葉が、何度も頭の中を駆け巡る。連れ去られるミチヨを見ながら、
何もできない自分が憎くてたまらなかった。
- 281 名前:ファイナル・クエスト 第1章(134) 投稿日:2002年01月07日(月)23時06分32秒
- 長い夜が明けようとしていた。
結局戦いには負けてしまったのだろうか、いや、そもそもあれは戦いとよべるのだろうか。
アイは傍らに横たわるマリとケイをぼんやりと眺めていた。
ヨッスィは、チョールヌィが北の空に消えていく少し前に、気絶から目覚めたが、
そのまま無言でどこかに行ってしまった。
もちろん引き止めようとは思った。しかし、怒り、悲しみ、悔しさ、そして、決意を秘めた
その瞳を見ては、かける言葉など見つかりはしなかった。
「帰らないと・・・・・・」
涙は枯れ果てても、この悲しみは決して枯れないだろう。
うつむき唇をかみ締める背中を照らす朝日は、アイには眩しすぎた。
- 282 名前:なつめ 投稿日:2002年01月07日(月)23時09分53秒
- 『ファイナル・クエスト 第1章 〜夜明け前〜 』
おしまい
- 283 名前:なつめ 投稿日:2002年01月07日(月)23時15分37秒
- 〜あとがき〜
後半展開も場面転換も視点転換も速過ぎですね
わかってました、けど、残り容量が気になって(←はい、いいわけです)
ハロプロ関連以外からキャラ持ってくるのはどうかと思ったんですが、
やっぱり名前がないと、書きにくいってことでこういう形になりました。
とりあえず、続きはどっかに新スレ立てる予定です。
ので、ここはこのまま沈めるか、番外編書くか、設定みたいなの載せるか
しますが、本編はこのスレにはもう書きません。
それでは、最後までお付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。
- 284 名前:なつめ 投稿日:2002年01月07日(月)23時16分16秒
- 〜スレ流し〜
- 285 名前:262 投稿日:2002年01月07日(月)23時45分55秒
- そっか。タカで4人組だからてっきり(w
自分が古い人だというのを再認識してしまった。
ともあれ第一章終了お疲れ様です。
謎が謎を呼んだまま、先の展開が楽しみです。
同時連載もあって大変でしょうが、がんばってください。
今後も追っかけさせていただきます。
- 286 名前:なつめ 投稿日:2002年01月07日(月)23時57分46秒
- >>262さん
いやいや、実は書き終わったとき紛らわしいかなと思ったんで確信犯です。
>謎が謎を呼んだまま
予定よりも残っちゃいました
>同時連載
自分でまいた種(言い方悪いかな)なんで、頑張ります
引き続きよろしくです。
〜続・あとがき〜
スイマセン、書き忘れたんです。
正直、〜あとがき〜にも書いたとおり、特に後半、展開が早すぎたと自覚してます
そこで、もし、そういったご指摘があれば、第2章以降に活かしたいので、
お願いします。
小生、短編集にも参加していますので、少々の酷評では凹みませんし、厳しい意見は
他の読者さんに対して・・・・・・という人も、もう本編が終了したこのスレなら
気兼ねないんじゃないでしょうか
よろしくお願いします。
- 287 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月08日(火)23時30分27秒
- そうですね。確かに展開早かったかも。
あと、後半はよっすぃーのこととか、作戦の目的とか、
話のポイントになるところが多くてどこに重点をおいて
読んでいいのかわかりにくい所はありました。
ま、あえて厳しく言えばですが(w
- 288 名前:なつめ 投稿日:2002年01月08日(火)23時54分27秒
- >287さん
なるほど。展開、ポイント過多、両方とも危惧していた点です。
書いていると、自分の中では理解しているつもりのことが、表現を通して
意図するように伝わっているか分からなくなることがあるので、貴重な意見
助かります。
- 289 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月15日(火)15時16分00秒
- 続編を別スレでやるのなら、何処にたててくれるか。
教えてもらえるのなら幸いです。
- 290 名前:なつめ 投稿日:2002年01月15日(火)21時55分19秒
- >289
お待たせして申し訳ないです。
新スレについては、第2章のプロット作って、ある程度書いてから立てたいと思います
現在、某企画に参加しているので、とりあえずそっちを全力で仕上げて、赤板のほう
にも1本書いて、それから(並行しては書いてますが)なので今月中にはなんとか
します。
場所はその時スレが少なくて、いい雰囲気の板に立てます。
たてた後は必ずここで報告します。
- 291 名前:名無し読者。 投稿日:2002年02月16日(土)22時55分24秒
- 290の今月は終わっちゃって半分たつけど待ってます。
赤板の方もね。
- 292 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月28日(木)00時36分26秒
- いつまでも待ってます。
- 293 名前:なつめ 投稿日:2002年03月01日(金)21時45分20秒
- 変に期待されると悪いので、続きをうpできる状態になるまでは沈黙してようと思った
んですが、待ってくれてる方が2人もいるようなので無意味にヤキモキさせるのも
悪いので
実は現在他所でまったく違うものを書いています。
飼育の復帰がこれほど早いと思わなかったのです
ので、F.Q.に関しては、そっちが終わり次第です
場所は赤の『やさしい季節』スレを再利用するつもりです
正直、あっちは今書けそうにないです、かといって14レスで倉庫逝きもひどいので
こういう形をとりました
- 294 名前:名無し読者。 投稿日:2002年03月03日(日)01時01分02秒
- >>293
よそってどこ?
- 295 名前:なつめ 投稿日:2002年03月07日(木)23時16分11秒
- >>295
羊です
故あって名無しで書いてますので、完結するまでは題は伏せさせてください
- 296 名前:名無し読者。 投稿日:2002年03月12日(火)16時55分44秒
- >>295
今から探してみますが、完結したら題名の報告待ってます。
- 297 名前:なつめ 投稿日:2002年03月13日(水)21時41分59秒
- いきなりですが、ファイナル・クエスト再開しました。
再開は羊のやつが終わってからにしようと思っていたのですが、
並行して書いていくことにしました。
理由は償いです(w
正直書き始める書き始める良いきっかけになりました。
場所は、赤板『やさしい季節』スレの17レス目からを再利用します。
もし、『やさしい〜』シリーズの続き待ってる方いたらごめんなさい
あれはあれで、またどっかの死にスレででも断続的に・・・・・・
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=red&thp=1009886233&st=17
今のところまだ前章のあらすじと登場人物紹介しかあげてませんが、
今頑張ってますのでしばしお待ちいただければ幸いです
待たせてばっかですね、すいません。
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