インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板
君のとなり
- 1 名前:アリガチ 投稿日:2001年09月25日(火)23時44分55秒
- 学園モノの小説もどきをやります。
いつもの通り、アリガチな話で。
ちなみに年齢設定めちゃくちゃです。
- 2 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月25日(火)23時48分23秒
- 猛暑だった夏も終わり、外の空気が肌寒く感じるようになった頃。
せっかくの日曜日だと言うのにあたしはバイト先を目指して歩いていた。
ため息をついていると騒がしい街の雑踏の中
それでもよく目立つ誰かの叫び声が聞えてきた。
それは叫び声というよりは怒鳴り声。
声が聞えた方を見てみるとそこはちょっとした野次馬の輪が出来ている。
まだバイトまでの時間に余裕があったあたしは暇つぶしに
その輪に近づいて見てみると輪の中心には四人の少女がいた。
どうも三対一に分かれているようだ。
「アンタ!いい加減にしてよね!!」
コギャル風で今時まだガングロな少女が相変わらず大声を張り上げている。
そしてそれを聞いて後ろの二人が頷いている。
「何がー?」
三人に睨まれても、どうでも良さそうな顔をして答える少女。
「この子の彼氏を取ったっていうのに今更とぼけないでよ!」
かなりのご立腹状態であるガングロは
自分の後ろにいる少し大人しそうな子を指差しながらまだまだ叫ぶ。
「だから、知らないって言ってんじゃん」
深いため息をつく少女。
なんだー?
略奪愛か?
しかし、よくこんな人目のあるとこでやるよなぁ。
- 3 名前:アリガチ 投稿日:2001年09月25日(火)23時49分58秒
- あたしは呆れながらも、ずっと責められ続けている少女を見ていた。
その男の気持ちもわかるね。
だって、あの子の方が可愛いもん。
そりゃ男もフラッといっちゃうわな。
っつーか、あんだけ責められてても平然としてられるのはスゲーな。
あたしが妙な感心をしている内に責められ続けていた少女も少しイラつき始めていたらしく。
「もう気がおさまった?友達との約束の時間がきちゃうからもういいでしょ?」
そう言いながら腕時計で時間を確認して、少女はその場を去ろうとする。
「アンタねー!!」
散々、文句を言っていたのに全く堪えていない少女に対して
ついにガングロはブチキレたのか、少女の腕を左手で無理矢理掴み
そして右手を天に振りかざした。
肌と肌とがぶつかる激しい音が街中に響く。
「…あ」
場が一瞬にして静まる。
- 4 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月25日(火)23時52分32秒
- 「…いい加減にしたら?公衆の面前で恥ずかしいと思わないわけ?」
あたしは自然とその場へ駆け寄り、ガングロの攻撃を自分の右腕で防いでいた。
「何よ、アンタ…その子の知り合い?」
睨みを利かすガングロ。
「いや、知らないけど」
あたしがサラッとそう答えるとガングロは片眉を上げた。
「じゃあ、引っ込んでてよ。関係ない人はどっか行ってよね」
「っつーか、君等がどっか行った方がいいと思うんだけど。
もうちょっとでここに警察が来るよ」
「…え」
突然、顔色を変える悪者三人。
「あまりにもうるさいから電話しちゃったんだよね」
あたしがそう言うと覚えてなさいよ!とドラマとかでよく聞くフレーズを叫びながら
三人は人ごみに紛れていった。
長々と文句をたれてたわりに、逃げるのは早い。
周りの野次馬も騒ぎが収まってしまったので興味が失せたのか、方々に散って行く。
やれやれ。
何やってんだろ、あたし。
自分で思うのもなんだけど、人が良すぎるよね。
「大丈夫?」
それまでずっと黙り込んでいた少女に声をかける。
「…ありがと」
少女は少し顔を赤らめて一応お礼を言ってくれた。
- 5 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月25日(火)23時54分50秒
- 「ゴメン、余計な事しちゃったかな…」
「うぅん…助かった」
「そう、ならよかった」
助けてあげたのに怒られたらシャレになんない。
とりあえず問題なかったようでホッとした。
「そんな事より私達もここから離れた方がいいんじゃないの?」
「へ?なんで??」
「だって、警察が来るんでしょ?」
「ああ…あれは嘘だよ。あんな風に言ったら収まると思ってね」
「…なーんだ。ちょっと焦って損した」
少しガッカリした表情を見せる少女。
やっぱ、この子って可愛いなぁ。
これでお別れするのは惜しい。
惜しいってなんだ…ま、いいじゃん。
「あ!」
「わっ。ビックリした…何?」
少女があたしを見て軽く驚いていた。
「腕…怪我してんじゃん」
そう言われて自分の腕を見ると確かに血が流れている。
どうもガングロの攻撃を右腕で防いだ時に爪で傷つけられたらしい。
あのガングロってば昔懐かしのキン肉マンに出てくるウォーズマンみたいな爪の長さだったからなぁ。
…って、それは言い過ぎか。
っていうか例えが古いね。
- 6 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月25日(火)23時56分37秒
- 「ちょっと待ってね」
そう言って少女は自分が手にしていたカバンからハンカチを取り出した。
「いいよ、汚れちゃうから」
「そんなんどうでもいいの!ジッとしてて」
そう言われるとこちらとしては何も言えなくなるし、何も出来なくなってしまう。
どうも、この少女は逆らえない雰囲気を持った人だ。
「よーし、オッケー!」
あたしはされるがままの状態で少女に肘近くをハンカチで巻かれた。
大したことない出血の量だったので、ちょっと大袈裟のような気もする。
「ありがと」
あたしがお礼を言うと少女は大きく首を横に振った。
「こっちこそ、重ね重ねありがとう。家に帰ったらちゃんと消毒した方がいいよ」
ニコッと笑顔になる少女。
初めて見たその笑顔はとても可愛らしいものだった。
ただ…。
消毒って…意外と細かいなぁ。
猛毒でも持ってるのか、あのガングロは。
「あー!もう約束の時間過ぎてるー!!」
突然、大声をあげる少女に驚くあたし。
「あー、ビックリしたー」
あたしが胸を撫で下ろして、大きくため息をついた頃には
少女は目の前から姿を消していた。
遠くの方でじゃーね、という声だけ残して。
- 7 名前:アリガチ 投稿日:2001年09月25日(火)23時59分13秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<この少女って私の事かしら?
そういや、名前出てないなぁ。
次で出します。
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2001年09月26日(水)20時34分32秒
- アリガチさんの新作発見!!期待してます!
- 9 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月26日(水)23時47分07秒
- 月曜日。
結局、お互いの名前もわからないままなんだよね…惜しい事した、と思いつつ
朝日を受けながら学校へ行くべく歩いていると
後ろからあたしの名前を呼ぶ声が聞えた。
「紗耶香ー、おっはよー」
「あ、圭ちゃん。おはよ」
駆け足であたしの隣にやってきたのは幼馴染の圭ちゃん。
家が近所という事もあって、幼稚園からずっと学校が一緒という腐れ縁。
彼女は幼い頃から恐ろしいくらい顔が変わらないという特技を持つ素敵な人だ。
「あれ?右腕の包帯どうしたの?」
今頃、あたしの肘辺りに撒かれている包帯に気づいた圭ちゃん。
普通は声かける前に気づくと思うんだけど。
「ウォーズマンに襲われた」
「はぁ?アンタ、漫画の読み過ぎじゃないの?」
呆れ顔の圭ちゃんを横目で見ながら
あながち嘘でもないんだけどなぁ…と心の中で呟いてみる。
っていうか、圭ちゃんもよく漫画読んでるんじゃん。
「えっと…大した事ないんだけどね、ちょっとした名誉の負傷ってとこ」
「はぁ?さっきから何言ってんのよ?」
そりゃ、わけわかんないよね。
実は昨日のガングロから受けた傷はドンドン腫れあがっていったのだ。
- 10 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月26日(水)23時50分17秒
- どうやら、あのガングロ…本当に毒を持っていたらしい。
あの少女と別れてからそのままバイトに行ってたんだけど
道理でずっと痛みが続くと思った。
家に着いてから見事に炎症を起こしていた我が腕を初めて見て
さすがにあたしも病院に駆け込んだ。
そして未だに痛みと腫れはひかない。
あたしは学校へ行く途中、圭ちゃんにこの怪我の原因及び昨日の出来事を話してみた。
「バッカだねー、でしゃばっていい格好するからよ」
話を聞き終わった後、圭ちゃんの口から出て言葉はこれだった。
鼻で笑う圭ちゃんに対してあたしは少しムッとする。
「人助けしてバカにされるっつーのはどういうこった?」
「だってねー、助けるなら怪我なんかしないでもっと格好良く助けなさいよ」
「…そりゃそうだけどさ」
「それより、名前も聞かずに帰っちゃう相手も相手だわね」
「でも、可愛い子だったよ」
「あのね…可愛い、可愛くないは関係ないでしょ」
「…そりゃそうだけどさ」
過去に圭ちゃんを相手にして口喧嘩で勝った事がないあたしはすぐさま引き下がる。
それに圭ちゃんが言う事はもっともだと思う。
いつもイマイチ決まらないんだよね、あたしって。
- 11 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月26日(水)23時51分37秒
- 「どうでもいいけど、紗耶香さー、学校の外でまで女の子追いかけるの止めなよ?」
「は?何それ?」
突然、わけのわからない事をいう圭ちゃんに驚く。
「だって、ただでさえうちの学校って女子高じゃん?
男前なアンタはいつも上級生からも可愛がられてるじゃないのさ。
それなのにわざわざ外で女ひっかけてくんなって言ってんのよ」
「ちょっと待ってよ…言っとくけど、別にあたしはいつも何もしてないじゃん」
相手が勝手に寄ってくるだけなんだから、とブツブツあたしがボヤいていると。
「よく言うよ。悪い気はしてないくせに」
…それは確かに。
「言っておくけどあたしはノーマルだからね。
それに一途だよ。この人だって思ったらその人しか見えないんだから」
「で、その昨日助けたって子はどんな子だったの?可愛いって言ってたけど」
あたしが力説してるのに圭ちゃんは相手にしてくれない。
そんなに説得力がないんだろうか。
…ま、いいや。
- 12 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月26日(水)23時53分00秒
- 「それが、めっちゃ可愛いんだよ!圭ちゃんにも見せてあげたかったなー」
あたしが嬉しそうに言うと圭ちゃんはため息をついた。
「…どこがノーマルなんだか」
ボソッと圭ちゃんが言った言葉を聞いてないふりをしてあたしは話を続ける。
「誰に似てるっていうのはないんだけどさ、うーん…似てる人いないかなぁ……」
あたし達と同じように登校してる人達をキョロキョロと見てみる。
そしてあたしの視線が止まった。
圭ちゃんがそんなあたしを見てキョトンとしている。
「どしたの?」
「圭ちゃん、あそこにい…」
あたしの言葉はそこで途切れる。
その理由はあたしの視線の先にあの少女がいたから。
- 13 名前:アリガチ 投稿日:2001年09月26日(水)23時55分15秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<ダイバー終わっちまったわよ!チクショー!!
>8さん
早速、見つけてくれて有難うです。
期待を裏切らないように頑張りたいと思っておりますです。
- 14 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月27日(木)23時55分04秒
- 「あれ?矢口じゃない。おーい、矢口ー」
「へ?」
圭ちゃんはあたしの事なんてシカトして先へ進んで行く。
矢口と呼ばれた少女は圭ちゃんの呼び声に気付き
圭ちゃんに朝の挨拶をしている。
あたしはその場から一歩も歩けずにいた。
圭ちゃんの知り合いだったのか。
世の中って案外狭いもんだなぁ…。
「ちょっと紗耶香ー、早く来なよ。何やってんのよ?」
圭ちゃんはようやくあたしが固まっている事に気付いたらしい。
そして矢口と呼ばれたあの少女も気付いたらしい。
あたしはどういう態度でいたらいいのかわからず、あいまいな表情を浮かべる。
「一緒の学校だったんだね。腕…大丈夫?」
包帯が巻かれているあたしの腕を軽く取り、心配そうな表情を浮かべている。
「あ、あぁ…こんなの平気!平気!」
あたしが強がって言うと事情を全て理解した圭ちゃんが
横から入れなくていいツッコミをくれる。
「嘘つきなさいよ。化膿しちゃってるくせに」
「マジで!?」
くっ…余計な事を。
- 15 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月27日(木)23時56分37秒
- 案外、傷が深かったなんて事は知らせない方がいい。
気に病まれても逆に困るし。
「大丈夫だって。病院にもちゃんと行ったし、すぐ治るって言われたし。
だから気にしなくていいよ…えーっと、矢口さんだっけ?」
「ならいいんだけど…そういや、名前言ってなかったね。
私は矢口真里って言うんだ」
「あたしは市井紗耶香。圭ちゃんの幼馴染なんだ」
歩きながらの自己紹介。
自己紹介する必要がない圭ちゃんはどうでもよさそうにただ歩いている。
「へー、いい名前だね。紗耶香って呼んでいい?」
「あ、うん。じゃ、あたしは何て呼んだらいいかな?」
「別に何でもいいよ」
うーん。
なんて呼んだらいいんだろう…。
少し悩んだ挙句、思いついた呼び名は。
「じゃ、まりっぺっていうのは?」
「却下」
アッサリ棄却された。
言葉の通り、気にいらなかったようで不機嫌な顔になっている。
「…じゃ、じゃあ矢口でいい?呼び捨てになっちゃうけど」
「うん、それでいいや」
なんだか気まずい。
そう思ってるのはあたしだけなのだろうか。
でも、横目で矢口をチラリと見た感じではまだ不機嫌そうだ。
- 16 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月27日(木)23時57分38秒
- さっきの呼び方がそんなにマズかったのだろうか。
圭ちゃんにコッソリ聞いてみると矢口が嫌いと思ってる人と同じようなあだ名で
本人はこの名前を呼ばれるのが大嫌いなんだそうだ。
…ヤバイな。
ここらで話題を変えた方がいいんだろうな。
「そういや、二人はどういう関係なの?」
あたしはそう言いながら二人の顔を交互に見る。
今まで圭ちゃんの口から矢口の名前が出て来た事はないと記憶してるんだけど。
「関係って大袈裟ね。別に趣味が一緒なだけよ」
「そうそう」
二人はニカッと笑い合う。
こっちはなんだか除け者にされてるようで面白くない。
「趣味って?」
圭ちゃんってなんか趣味持ってたっけ?
あたしの頭の中で『?』が渦巻いているのも気にしないまま
二人は声を揃えてこう言った。
「「美味しい焼肉屋さんを探す事」」
……は?
何言ってんだ、この二人は。
- 17 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月27日(木)23時58分51秒
- 圭ちゃんが言うには行きつけの焼肉屋で偶然会ったらしいんだけど。
っていうか、この歳で行きつけの焼肉屋があるっていうのもかなり変だと思う。
で、焼肉好きという事で意気投合。
そして何時の間にかグルメ系の雑誌をチェックしては
今度ここに行こうとか言い合う仲になっていたらしい。
「…二人とも、金持ちだね」
こっちはバイト三昧だってのに。
あたしは少し呆れてしまっていて、それだけしか言えなかった。
「何言ってんのよ!美味しい焼肉屋の為に日々頑張ってバイトしてんのよ!」
圭ちゃんはあたしにとってはどうでもいい事を熱く語る。
なんでこんなに力説するかな…。
大体、焼肉食べたいが為にバイトする人なんて聞いた事ない。
その後、話を聞いてみるとどうやら矢口はあたし達と同じ二年生だったようだ。
クラスを聞くと別の校舎だった。
それじゃわからないはずだ。
うちの学校はとんでもなくマンモス校なもんだから同じ学年の人でも
顔と名前が一致する人なんてごく僅か。
違う学年になると部活が一緒だとか同じ委員とかっていう
よっぽどの事がない限りサッパリわからない。
- 18 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月28日(金)00時00分17秒
- 学校へ到着した頃にはあたし達はスッカリ仲良くなっていた。
「昨日のお礼とその怪我のお詫びに今度何か奢るね」
矢口はニッコリ笑ってそう言うのを見て、それまでの戸惑いも消えた。
そしてその替わりになんだかドキドキしてきた。
何だろう…このドキドキは。
これってまさか…。
あたしが自分の気持ちに気付くまでもなく圭ちゃんが口を開く。
「紗耶香…アンタのどこがノーマルなわけ?」
「へっ!?」
「アンタがボーッとしてる間に矢口ってば行っちゃったわよ」
「……あ」
圭ちゃんに言われて初めて矢口が自分の校舎へ行ってしまった事に気付いた。
あたしはずっとぼんやりしていたようだ。
「やっぱりこんな事になると思った」
「圭ちゃん!あたし矢口の事を好きになっちゃったみたい!」
あたしはため息をついている圭ちゃんをシカトして一世一代の告白をする。
「バーカ…そんなの見てたら丸わかりだっつーの」
今度はもっと深いため息をつく圭ちゃん。
- 19 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月28日(金)00時01分04秒
- …そんなにわかりやすいのかなぁ。
まぁ、いいや。
行動は早く出ないとね。
「あたし休み時間になったら告白してくるよ」
「はぁーっ!!!???」
圭ちゃんの素っ頓狂な大声を聞いて周りが一斉に振り向く。
「圭ちゃん、恥ずかしいから大声出さないでよ」
「アンタが変な事言うからでしょ!それに早過ぎっ!」
「別にいいじゃん」
「…どうなったって知らないわよ」
「何それ?意味深だなぁ…」
「…さぁね。別に深い意味なんてないわよ」
あたしがご機嫌になっているのとは反対に
圭ちゃんは浮かない顔をして先に教室へと向かって行った。
- 20 名前:アリガチ 投稿日:2001年09月28日(金)00時02分25秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<さやまりかよ!
こんな感じで話は進んでいくのです。
初のさやまり・・・どうなることやら。
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月28日(金)02時28分19秒
- さやまり発見!(狂喜
- 22 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月28日(金)23時32分47秒
- 「で?どうだったのよ?」
昼休みになってゾロゾロとクラスメートが食堂を目指して教室を出て行くのを
ぼんやり眺めながら圭ちゃんは自分の弁当箱をカバンから取り出して呟いた。
「…それがさぁ……逢えなかったんだよ」
あたしは片肘ついて窓から見える風景を見つつ、深いため息をついた。
「休み時間になる度に矢口の教室に行ってなかったっけ?」
「行ったさ、通ったさ。でも逢えなかったんだよ…」
あたしは圭ちゃんに泣きつきつく勢いで午前中の出来事を話し始めた。
休み時間になる事に矢口のいる教室へ行ってみたんだけど
矢口は教室にはいなかった。
クラスメートに聞いてみてもどこへ行ったのかわからない。
結局、一度も逢う事はなかった。
- 23 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月28日(金)23時33分47秒
- 「…ふーん」
圭ちゃんはお弁当の方が大事らしく、話を聞いても
どうでもよさげな反応しか返してこない。
「ふーん…って、話させといてそれで終わりなわけ?」
ちょっとムッとしながらあたしが言うと圭ちゃんはお茶を一口飲み
口の中を空にして、やっと話始めた。
「いや、なんとなくそうなるって予想してたから
特に言うべき言葉もないなぁと思ってさ」
「…なんなの、その意味深な発言は?今朝といい、今といい…」
「ま、矢口は止めといた方がいいって事よ」
圭ちゃんはそう言ってまた箸を進める。
「あ!もしかしてもう彼女がいるとか!?」
あたしは一つ閃いた事を言うと圭ちゃんは呆れ顔になった。
「アンタねぇ…どうして彼氏じゃなくて彼女なのよ…」
「え!?マジで彼氏いるの?」
もう言ってる事が滅茶苦茶だわね、と圭ちゃんはボヤいた。
他人の事を裏でゴチャゴチャ言うのは好きじゃないから、と言って
圭ちゃんはその後も何も話してくれなかった。
- 24 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月28日(金)23時34分45秒
- なんてケチなヤツなんだ。
そういう問題じゃないってわかってるけれど
誰かにあたらずにはいられない心境だった。
折角、告白するぞって気分になってるのに肝心の相手に会えないなんてさ。
あっという間に放課後になってしまい
圭ちゃんは所属している部活、吹奏楽部の練習に行ってしまった。
帰宅部のあたしは暇なわけで。
それでもほとんどの日にバイトをしているので
バイトの時間が来るまで校門でハリコミしてたら
矢口に逢えるかもしれないというささやかな希望を抱いて
あたしはずっと校門前で待機していた。
その間に色んな先輩からどこか遊びに行こうと声をかけられ
こっちはそれどころじゃねーんだよ、と心の中でツッコミながら
丁重に断り続けていた。
なんだかここに来たのは先輩達にナンパされる為のような気がしてきた…。
そんな事を思いながら、ため息をついていると後ろから声が。
「わー、モテモテじゃん」
振り向くとそこには矢口がいた。
- 25 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月28日(金)23時36分09秒
- 「紗耶香ってモテるんだねー、カッコいいー」
なんだか冷やかされてるみたいに聞えてあたしは激しく焦る。
「ち、違うよ!そんな全然モテないって!!」
「嘘ばっか。今日一日だけでも色んな先輩が紗耶香狙ってるって噂聞いたよ?」
「いや、それとこれとは…矢口だって略奪愛の疑いかけられるくらいモテるんじゃないの?」
言ってからしまった、と思った。
余計な事を言った。
こんな事言われたくないよな…。
でも、矢口はなんでもないような顔をしていた。
「あー、アレは友達の彼氏が矢口に悩み相談したいって言って来てさ。
その現場を見たお馬鹿さんが勘違いしただけだよ。
ま、結局二股だったわけだけど」
「そうだったんだ…そういや矢口の教室に行ってみたんだけどいなかったね?」
あたしは何の為にここで待っていたのかを危なく忘れそうになっていた。
危ない、危ない…。
「…あー、教室には何時もほとんどいないよ?何か用だったの?」
じゃあ、どこに行ってたんだろう…と聞いてみたかったが先に本題に入る事にした。
「あのさぁ…」
- 26 名前:アリガチ 投稿日:2001年09月28日(金)23時38分43秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<今日のMステでのごっちんって口開いてたっけ?
>21さん
初めてのさやまりなのでちょっと不安です(苦笑)
とりあえず頑張ります。
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2001年09月29日(土)21時27分10秒
- じ、じらしますねぇ(w
- 28 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月29日(土)22時51分17秒
- ――翌日。
「へっ???!!!」
「圭ちゃんってば…声デカイよ!」
あたしは慌てて圭ちゃんの口を塞ぐ。
案の定、教室にいる周りのクラスメートが何事かとあたし達の方を見ている。
圭ちゃんはモガモガと苦しそうな声をあげてあたしの手を無理矢理もぎ取った。
「アンタねー!口と一緒に鼻まで塞ぐんじゃないわよ!
息が出来なくて一瞬死にそうになったわっ!!」
そう言いながら怒り狂う圭ちゃん。
「ちょっとの時間しかやってないじゃん。吹奏楽のくせに肺活量なさ過ぎだよ」
また怒鳴ってくるかと思って耳に手をあてたけど圭ちゃんはもう素に戻っていた。
「そんなのはどうでもいいのよ!一体どういう事なのよっ?!」
「えー?だから、矢口に告白したらOKもらったって言ってんじゃん」
ニヤニヤしながらあたしが言うと圭ちゃんは信じられない、と呆気にとられていた。
「案外、すんなり事は進んだよ?」
「…おかしいなぁ」
圭ちゃんはしきりに首を傾げている。
何がそんなにおかしいのかあたしにはわからない。
- 29 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月29日(土)22時51分59秒
- 矢口への告白は本当にあっさりしたものだった。
付き合って、というあたしの告白に対して矢口はいいよ、の一言。
そんな感じだったから。
自分でも矢口の淡白過ぎる返答に物足りなさを感じたのは事実。
でも、まぁいいじゃん。
振られるより付き合える方がいいに決まってる。
「意外だなぁ…」
圭ちゃんはずっと腑に落ちないという顔をしていた。
- 30 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月29日(土)22時53分26秒
- 「ねぇ…本当にここでいいの?」
あたしは呆気にとられていた。
怪我させたお詫びに何か奢ると確かに言われたけれど。
あたしはてっきりファーストフードとかファミレスかと思ってたんだけど。
矢口に連れられて来た所は高そうな焼肉屋だった。
「ここのタン塩、メチャ美味しいんだよ」
ウキウキしている矢口とは反対にあたしは落ち着かなかった。
本当に焼肉好きなんだなぁ。
っていうか、会計とか大丈夫なんだろうか…。
「…なんかここ高そうだけど大丈夫なの?」
「あー、大丈夫、大丈夫。
今日は紗耶香に奢る為に何時もより多めにお金持ってきたから」
「いや、でも…」
「いいから、いいから!」
「う、うん…」
なんだかんだで結局はご馳走になったんだけど。
焼肉屋の帰りにちゃんと矢口にお礼を言った。
「今日は本当にありがとう。美味しかったよ」
「でしょー?圭ちゃんもよく来るんだよ」
…圭ちゃんってば、よくやるよ。
必死でバイトしてんだろうな…。
さっき会計の時にチラリと見えた金額を見てあたしは青ざめたんだけど。
それにしても矢口の家って金持ちなのかなぁ…。
ちょっと羨ましいぞ。
- 31 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月29日(土)22時54分08秒
- 「今度、あたしも何か奢るよ」
大したものは奢れないけど、と一応付け足して。
なにせあたしって貧乏だし。
「怪我させたお詫びで勝手に矢口が連れて来ただけなんだから気にしなくていいよー」
矢口は笑いながらそう言った。
くーっ。
いい子だなぁ。
メッチャ好きかも。
あたしが幸せを噛み締めている間に
じゃ、また明日ねー、と笑顔で手を振りながら矢口は帰って行った。
…なんか、呆気ないな。
ちょっと寂しい。
- 32 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月29日(土)22時55分10秒
- 昼休みにぼんやり中庭で日向ぼっこ。
ただ一人っきりでなんだけど。
矢口に焼肉奢ってもらった事を圭ちゃんに話したら
どうして私を誘わないのよ!と激しく叱られた。
奢ってもらった身のあたしが誘えるわけないじゃんか、と言ってみたんだけど。
圭ちゃんはプリプリと怒りながらどこかに行ってしまった。
まさかあのまま矢口のところへ怒りに行ったわけじゃないだろうな…。
そういえば…さっき矢口の教室に行ってみたけどいなかったんだよなぁ。
どこ行ったんだろう…。
何時も逢えないんだよなぁ。
付き合うってこういうもんなんだっけ?
あたしは何時も矢口と一緒にいたいって思うんだけど。
矢口は違うのかなぁ…。
なんかただの片思いっぽいな、これじゃ…。
- 33 名前:アリガチ 投稿日:2001年09月29日(土)22時56分49秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<焼肉食いてー!
>27さん
じらしてますかね?(笑)
今後もマターリします。
- 34 名前:ラークマイ(略奪愛 投稿日:2001年09月30日(日)02時26分22秒
- さやまりですか…タノスミです!
( `.∀´)<おばちゃん涙腺が弱いんだよ!いいから自分の更新しなさいよ!
- 35 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月30日(日)23時54分28秒
- 「紗耶香ー」
あたしがため息をついていると声をかけられた。
「あ…こんちは」
それは矢口の事を好きになる前から何度か声をかけられた事がある先輩だった。
名前を覚えていないんだけど。
えっと…なんていったっけ…顔は覚えてるんだけどなぁ。
「暇そうだね」
「ええ…暇なんです」
あたしは寝転がったままであくびをする。
先輩は何時の間にかあたしの横に腰を下ろしていた。
「そういえば矢口と付き合い始めたんだってね」
「…なんで知ってるんですか?」
「結構、噂になってるよ。ショック受けてる子も多いみたい」
「…はぁ」
なんて言ったらいいんだか。
そんなにあたしってモテるのか。
ちょっと自分でもビックリしたりして。
- 36 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月30日(日)23時55分23秒
- 「矢口の事知ってるんですか?」
「うん、前に男を取り合った事があってね」
私がその時は勝ったけど、と笑いながら言う先輩。
聞くんじゃなかった…。
まさか矢口はこの先輩を見返す為に
あたしと付き合う気になったわけじゃないだろうな。
気になってその事を聞いてみると先輩は大笑いした。
「あははっ。それはないって。
矢口はまだその男と私が続いてるもんだと思ってるだろうし」
先輩の返答を聞いて、あたしはホッと胸を撫で下ろす。
「…なんだ。安心した」
「まぁ、私はそれでも別に気にしないんだけど」
変な事を言う人だなぁ。
「普通は気にするんじゃないんですか?」
「邪まな思いで矢口が紗耶香と付き合うっていうのなら
私は本気で矢口から奪うからいいの」
なんだそれ。
あたしの意思はおかまいなしかぃ。
- 37 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月30日(日)23時56分16秒
- 「先輩って変な人ですね…」
あたしは上半身起こして笑いながら先輩の顔を見る。
すると先輩はそうかもね、と言いながらおどけて見せた。
「前から気になってたんだけど…私の名前覚えてくれてないでしょ?」
あ…ついにつっこまれたか。
あたしは誤魔化すように笑って正直に頷いてみせた。
「うわっ、やっぱりだ。私の名前は石黒彩。ちゃんと覚えてて欲しいなぁ…」
ちょっと寂しそうに、でも笑いながら言う。
「すいません、石黒先輩…」
あたしが頭をかきながら謝ると先輩は口をへの字にした。
「石黒先輩っていうのは固過ぎるからあやっぺでいいって」
「はぁ…わかりました」
面白い人だなぁ。
そして前に矢口がまりっぺと呼んで不機嫌になった事を思い出した。
まりっぺとあやっぺ…似てるな。
矢口が嫌いだと言ってたのは石黒先輩の事だったんだ。
- 38 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月30日(日)23時57分49秒
- バイトに行く途中。
たまたま矢口と逢った。
ラッキー。
「今からバイト?」
「うん、そういう矢口はなんで私服なの?」
授業が終わってからさほど時間も経っていないはずなのに
矢口はすでに制服ではなく私服になっていた。
「あー、今日学校に行ってないもん」
「サボったの?道理で今日見かけないと思った」
「いやー、どうしても見たい映画があってさー。
授業終わってからだと混むのわかってたから」
てへへと誤魔化すように笑う矢口。
なんか人生なめてるな…。
「そういや、この前石黒先輩と逢ったよ」
「げっ、あやっぺと?」
矢口は本当に嫌そうな顔をした。
…そんなに嫌いなのか。
別に悪い人じゃないと思うけどなぁ、ちょっと変わってるけど。
- 39 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年09月30日(日)23時58分33秒
- あ、そうだ。
ちょっと矢口の気持ちを試してみよう。
「石黒先輩ってさ、あたしの事が好きなんだってさ」
どういう反応を返してくるのかドキドキしていたのだけど。
「へー」
矢口の返答は実にあっさりしたものだった。
表情を見てもよくわからない。
…素だぞ、この表情は。
「い、いや、それだけの話なんだけどね。
あたしは別に石黒先輩の事なんとも思ってないし」
なんか言い訳っぽくフォローをしている自分が少し悲しい。
「…じゃあ、矢口もう帰るから」
そう言って矢口は焦ってるあたしの事なんて気にせず
てくてくと歩いて行く。
ほんの一瞬だけ、ムッとした顔に見えたのは気のせいなのかな…。
- 40 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月01日(月)00時00分16秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<あやっぺ!ヒサブリね!!
>ラークマイ(略奪愛 さん
すごいHNになってますな(笑)
さやまりでも大丈夫ですか?
たしかごっちんファンですよね?(笑)
- 41 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月01日(月)07時07分59秒
- めっちゃ、面白いっス! そっこーでお気に入りのスレになりましたっ。
作者様、がんばってください。
- 42 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月01日(月)23時02分39秒
- 「はぁー…」
教室中にあたしの重いため息が響き渡る。
そんなあたしを見て圭ちゃんは呆れている。
「朝っぱらから鬱陶しいわね…」
眠たそうにしている圭ちゃんはますますしかめっ面になる。
あたしは机に座り足をブラブラ揺らしながら、そしてイジけながらぼやく。
「だってさ、ここ数日ちゃんと矢口と逢ってないんだよー…」
最後に逢った日から三日くらい経ってるんだけど。
全く逢えない。
「あー、矢口って真面目に学校来ないからね」
「…そうなの?」
…やっぱりサボリの常習犯か。
- 43 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月01日(月)23時03分32秒
- 「堂々と平日の昼にショッピングとかするようなヤツだからね、矢口って。
それに電話してみたらいいんじゃないの?」
「電話番号知らない」
「はぁっ?!電話番号の交換って基本でしょ?」
「…聞くのをスッカリ忘れてた」
ますます落ち込むあたし。
なんで聞いておかなかったかなぁ。
自分で自分のバカさ加減に心から呆れる。
「バカね。それに紗耶香には手におえない相手だって事よ、もう止めたら?」
「…圭ちゃんってそういう事ばっか言うね」
ムスッと膨れっ面になりながら圭ちゃんを睨む。
それに対して圭ちゃんはあたしに背を向けて窓の外を眺めていた。
「私はね、紗耶香の事を想って言ってあげてるのよ」
「……本当かいな」
- 44 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月01日(月)23時04分27秒
- キョロキョロと矢口の教室の中を伺う。
「…やっぱ、いないか」
「いないわね」
圭ちゃんは暇そうに豪快なあくびを一つ披露する。
何かを食っちゃう気満々のようなそのあくびを見て
廊下にいた人達はあたし達を避けて通っていく。
休み時間に二人で矢口に逢いに来たのはいいけれど
やっぱり教室にはいなかった。
「だから言ったでしょ?もう矢口は諦めろって」
圭ちゃんは何かを知ってるようなコメントをする。
「圭ちゃん…本当は何か知ってんでしょ?」
「何がよ?」
「だから、矢口がどこに行ってるのかとかさ」
「…さぁ?もしかしたら今日も学校に来てないんじゃない?」
「……」
…どうも口が堅過ぎる。
何を隠しているんだろう。
こんな事なら矢口本人から聞いておけばよかった。
- 45 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月01日(月)23時05分27秒
- そろそろチャイムが鳴りそうだ。
この学校の生徒は真面目な人ばかりなものだから
チャイム前にはほとんどの生徒が教室へ戻ってしまう。
何時の間にか廊下にいるのはあたし達だけになってしまっていた。
「そろそろ授業始まっちゃうから戻ろっか」
「そうね…あ」
圭ちゃんが何かに反応したのに気付いてあたしも圭ちゃんの視線の先を辿る。
そこには矢口がいた。
しかし、一人ではなく。
「なんや?アンタ等…授業もう始まるで?」
矢口の隣には怖いと生徒に大評判の生徒指導、中澤先生がいた。
「あー、紗耶香!来てくれてたんだ」
矢口があたしに向かって嬉しそうに言ってくれるのはいいんだけど。
あたしの視線は二人の手に釘付けだった。
だって、二人の手は繋がれているから。
それに気付いたのか二人はパッと手を離した。
- 46 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月01日(月)23時06分08秒
- 「裕ちゃんー…校内で堂々と手を繋ぐのはよくないと思うわよ」
圭ちゃんも気になったのか、さすがにツッコミを入れている。
…っていうか、裕ちゃん?!
「圭ちゃんってば中澤先生の事を裕ちゃんって呼んでるの?」
「…あー、うん…まぁ、いいじゃないの」
言葉を濁す圭ちゃんを見て、まだ何か隠してると思った。
わかりやすい性格だなぁ。
それにしても…。
「ちょお待ってや、私が繋いだんやなくて矢口の方から繋いできたんやで?」
とぼけた表情の中澤先生。
「矢口、そんな事してないもん」
矢口もシラっとした表情で言う。
「嘘つくなや…」
むーっとしながら矢口にぼやく中澤先生を見ながらあたしはちょっと驚いていた。
- 47 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月01日(月)23時07分19秒
- こういう一面も持ってたのか。
あたしの中の今までの中澤先生のイメージは
怖いっていうのしかなかったんだけど。
いつも生徒に向かって怒鳴り散らしてるから。
それにあたしはある理由が原因で中澤先生を好きになれない。
直接、本人には関係ないんだけど。
それにあたしに好かれていないのを知ってか
中澤先生も普段からあたしにあまり声をかけてこない。
そこでチャイムが鳴った。
「…じゃ、またね。矢口…」
チャイムが鳴ったからというわけではなく、なんだかこの場にいるのが居辛くて
あたしはそそくさと自分の教室へ戻って行った。
- 48 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月01日(月)23時08分34秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<裕ちゃんまで登場!
>41さん
ありがとうです。
そう言っていただけてマジで嬉しいッス。
- 49 名前:LINA 投稿日:2001年10月03日(水)00時19分15秒
- ハジメマシテ〜!
いつも読ませてもらってます♪
なんか、いちーちゃんが切ないっ!
アリガチさんがんばってくらさーい!
( `.∀´)←圭ちゃん顔文字まじで好き!(w
- 50 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月04日(木)00時10分34秒
- 昼休み、あたしは圭ちゃんと教室にいた。
「矢口の教室には行かないの?」
「行ったところで、どうせいないんでしょ…」
あたしは肩肘ついてため息をつく。
それを見て圭ちゃんもため息をついた。
「ま、そうだろうね」
「…圭ちゃんは何か知ってるんでしょ?」
「何がよ?」
「あの二人ってどういう関係なの?」
ずっと疑問に思ってた事を口にする。
怖いと有名な生活指導が普段とは全く違う態度で
ただの生徒と手を繋いでるってのは変だ。
それにしても、どうしてよりにもよって中澤先生と…。
ムカムカする。
イライラする。
- 51 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月04日(木)00時11分58秒
- 圭ちゃんはあたしの顔を見て困ったような表情をしている。
自分でも今の自分の顔が険しくなっているのがわかる。
「どういう関係かって私に聞かれてもね、詳しくは知らないのよ。
ただ、よく焼肉屋で二人っきりでいるのをよく見るだけ」
「二人っきりで焼肉屋?」
「私もその焼肉屋でたまたま一緒になる事が多くてね。
で、仲良くなって裕ちゃんって呼ぶようになったんだけど…。
まぁ、これは学校では呼ぶなって言われてたんだけどね」
なるほどね。
それで馴れ馴れしく呼んでたのか。
っていうか、何度もツッコミ入れるけど高校生のくせに
焼肉屋の常連になるなっつーの。
それにしても。
焼肉屋巡りが趣味っていうからには圭ちゃんみたいにバイトをしてるか
家が金持ちか、金蔓がいるかのどれかになる。
- 52 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月04日(木)00時12分53秒
- 「矢口ってバイトとかしてんのかな?」
「バイト?そんな話聞いた事ないわよ」
「家が金持ちとか?」
あたしに焼肉奢ってくれてた時も別に苦になってなかったみたいだし。
「…さぁ?矢口って家の事となると全く口を開かなくなるのよね」
「じゃあ、中澤先生って矢口の金蔓なの?」
「金蔓ーっ!?…アンタ、凄い言葉出してくるわね。
確かに私が一緒の時は奢ってくれたりしてたあたり
そう見えない事もないんだろうけど、でも詳しくは知らないんだってば。
あー、まぁ…アレよ。
とりあえず、あたしが言いたいのは何度も言うようだけど
矢口は止めときなさいって事よ」
圭ちゃんはそう言って困ったような顔をした。
まだ何かを隠しているような気がしないでもないんだけど。
きっとこれ以上聞いても何も教えてくれないんだろうな。
でも、今までの圭ちゃんの発言から考えてみると
圭ちゃんは二人が普通の関係ではないって思ってるんだろう。
だから、矢口に告白する時にも止めておいた方がいいと言ったり
いつも矢口が教室にいない事を知ってたりしたんだ。
…あの二人は学校で何時も逢ってるんだ。
そう思うと、もの凄く腹が立った。
- 53 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月04日(木)00時15分28秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<前作と比べて随分更新ペースが遅過ぎだわね!
>LINAさん
ありがとうございます。
市井ちゃんは幸せになれるんでしょうかね・・・。
( `.∀´)<顔文字だけじゃなくて本人も好きになりなさい!
- 54 名前:LINA 投稿日:2001年10月04日(木)03時15分20秒
- く〜〜、いちーちゃん幸せにしてやってほしい!
けど、やぐちゅーも好きなあたしって・・・(w
っつぅか、タイトルの歌めっちゃ好きなんだよね〜♪<MADETOBE〜
>圭ちゃん( `.∀´)
大好きです(大爆笑
- 55 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月06日(土)03時32分35秒
- アリガチさんの作品発見!!……って遅いか〜(w
でも一気に読めたんでラッキーです。
最初、お得意のいちごまかと思ったのですが、さやまりとは意外でした。
まあ自分は市井好きなんでどっちでもいいんですが(w
とにかく一言“頑張って下さい”それだけです。
- 56 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月06日(土)11時28分39秒
- さやまり好きなんで楽しみです。
頑張って下さい!!
- 57 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月06日(土)22時49分49秒
- 放課後になり、また校門前で矢口を待ち伏せしようかとも思ったけど
どうにもそんな気持ちにはなれない。
告白して付き合う事になり、さほど日にちも経ってないのに
なんでこんな気持ちにならなければならないのか。
それは矢口の事を全く知らないくせに
告白してしまったのが原因だってわかってる。
でも、一目惚れしちゃったんだから、それは仕方ない。
バイトに行くまでの間、ぼんやりと教室の中で過ごしていた。
矢口は中澤先生とデキてるのかなぁ。
それじゃあ、なんであたしの告白をOKしたんだろう…。
矢口にとってはあまり意味にない告白だったのかな。
友達として仲良くしましょうっていう意味に取られたとか。
なんだか、付き合ってっていう言葉の意味を
取り違えられてるような気がしてきた…。
- 58 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月06日(土)22時50分55秒
- 「紗耶香ー」
この声…。
あたしは呼ばれた声に激しく反応する。
「矢口!」
「…なんでそんな大声出すんだよぉ。ビックリするじゃん」
しかめっ面の矢口。
「どうしたの?わざわざうちの教室に来るなんて」
まさか矢口の方から来てくれるとは思ってもみなかった。
さっきまでヘコんでたのが嘘のように心が弾む。
「一緒に帰ろうかと思って。今日、暇?」
「…あ。バイトがあるんだよ…それまでの時間だったら大丈夫だけど」
くそー、こんな事ならバイト入れるんじゃなかったなぁ。
折角、誘ってくれてるのに。
「そっか。じゃ、それまでここでお喋りでもしよっか」
「うん!」
かなりツイてる。
これで聞きたい事がチャンスが出来たっていうもんだ。
一つの机をお互いに挟むような形で座り、向かい合う。
周りのクラスメートもほとんどいない。
話を聞くにはうってつけだ。
イキナリ中澤先生の事を聞くっていうのもなぁ…。
当り障りのない話からするかな。
- 59 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月06日(土)22時51分55秒
- 「そういえば紗耶香って何のバイトしてんの?」
「へ?」
何から聞こうかと悩んでいるうちに矢口の方から質問されてしまった。
あたし、何やってんだろう…。
「あたしバイト沢山やってんだよね。
えっと…居酒屋、カラオケ屋に知り合いの喫茶店の手伝いとか」
指折りしながらあたしがバイトの名前をあげていくと矢口は心底驚いていた。
「マジで!?それって休みとかあるの?」
「んーとね、居酒屋は月水金の晩でカラオケ屋が土日の昼。
喫茶店の手伝いは呼ばれた時だけ行ってるよ。だからそれ以外はフリー」
自分でも結構タフだなぁって思うんだけどね。
矢口は呆気に取られている。
「…なんでそんなにバイトしてんの?
うちの学校ってバイト許可してないでしょ?皆、影でやってるけどさ」
バイトをしている理由。
いくら矢口でもあんまし言いたくないなぁ。
あたしがなかなか口を開かないでいると横から邪魔が入った。
- 60 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月06日(土)22時53分59秒
- 「紗耶香ー」
声がした方を見ると教室の入り口に圭織の姿があった。
後ろにはりんねを連れて。
「わー、なんか珍しい組み合わせだねぇ」
りんねはのんびりした口調で驚いてみせた。
「生徒会長と副会長じゃん。紗耶香の友達なの?」
矢口も少し驚いて二人とあたしを見比べている。
そう、この二人は一応生徒会長と副会長という関係。
ちなみに圭織が会長でりんねが副会長だ。
この二人が生徒のトップに立ってて大丈夫なのかなぁと常々思ってるんだけど
さすがに本人にそれを言った事はない。
「中学校が一緒だっただけだよ。で、どしたの?何か用なわけ?」
話の邪魔をされてあたしが不機嫌そうに言うとりんねは黙り込んでしまった。
…しまった。
邪険にするとすぐ泣くんだよ、りんねって。
「紗耶香、りんねを泣かせないでよね」
案の定、圭織に叱られる。
この二人、中学の時からラブラブなのだ。
- 61 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月06日(土)22時54分56秒
- 「あのね、圭織、紗耶香に忠告しに来たの」
「忠告って何が?」
圭織が何を言おうとしてるのかわからない。
あたしが首を捻っていると圭織は小声でこう言った。
「バイトだよ、バイト。もうちょっとコッソリやらないと。
圭織の友達がこの前見たって言ってたんだよ。
先生にバレたらヤバイって、下手したら停学喰らっちゃうよ」
「ですよねー」
りんねはコクコクと頷いている。
なんだか少し嫌な予感がした。
- 62 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月06日(土)22時59分37秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<今週も私はヤンタン休みだわよ!
>LINAさん
タイトルはすぐわかりましたか。
ちょっと古い曲かもしれませんけども。
( `.∀´)<心から応援しなさい!
>55さん
有難うございます。
さやまりで意外でしたか。いや、ちゃんと書けてはいないと思われるんですが。
前回よりも、この知は書き難いです(苦笑)
>56さん
有難うございます。
さやまり好きな方には喜んで頂ける内容になるのかどうか
かなり不安なんですが(苦笑)
- 63 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月07日(日)20時40分37秒
- 圭織とりんねが(笑)
これまた意外な組み合わせ
どうなるかまったく読めないですね
- 64 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月07日(日)23時59分58秒
- バイトの理由・・・何だろ?
- 65 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月08日(月)00時38分58秒
- 「母子家庭っていうのはわかるけどさ。
うちの学校って校則厳しいの知ってるでしょ?
中澤先生あたりにバレたらマジやばいって」
「そうそう。いくら自分の学費とか自分の力で払おうと思っててもねぇ」
圭織とりんねは矢口がいるのにわざわざあたしの家庭の事情を
ペラペラと話してくれる。
余計な事を…。
矢口の方をチラリと見ると思ってた通り、少しショックを受けてるみたいで。
「…母子家庭って…お父さんは?」
「二年前に死んだんだ」
ここまで話されては正直に答えるしかない。
本当はこんな事教えるつもりなんてなかったのに。
「……そっか」
矢口はそれだけ言って顔を伏せた。
そこまで聞いてやっと圭織とりんねも
あたし達の様子がおかしいという事に気付いたらしい。
「…もしかして矢口は知らなかったの?」
あたしと矢口が無言になっているのを見て圭織とりんねは顔を見合わせて
マズイという表情をした。
「……あー、えっと一応ちゃんと言っておいた方がいいと思ってね。
じゃ、気をつけてね!」
言うだけ言って二人はあたふたと教室を出て行ってしまった。
- 66 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月08日(月)00時40分45秒
- 圭織達が出て行ってからも、しばらく無言のあたし達。
そして先に口を開いたのは矢口だった。
「…紗耶香、バイトの時間大丈夫なの?」
黒板の上にある壁時計を見ると何時の間にかかなりバイトの時間が迫っていた。
「大丈夫じゃないかも。そろそろ学校を出ないと…」
「じゃ、途中まで一緒に帰ろうよ」
矢口はようやく笑顔をみせてくれたので、あたしも少し笑顔になって頷いた。
あまり自分の家庭環境を他人に知られたくないと常々思ってたけど。
矢口にはなんとなく一番知られたくなかった。
こうなったらとことん落ち込んでやる。
かなり憂鬱になってしまっているあたしは思い切った行動に出ることにした。
立ち上がり行儀良く椅子を戻している矢口を抱き締める。
「ちょっ!紗耶香、どうしたの!?」
矢口は突然の事に驚いて固まっている。
- 67 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月08日(月)00時41分44秒
- 「…あのさぁ、矢口と中澤先生ってどういう関係なの?」
「え?裕ちゃん??」
「なんか仲良さそうだったじゃん…」
あたしはそう言って矢口を抱き締めている手にギュッと力を入れる。
それでも矢口はされるがままだ。
どういう答えが返って来てもいいや。
どうせ落ち込むならどん底まで落ち込んでやる。
「…仲はいいよ」
「もしかして付き合ってるとか?」
「はぁー!?矢口と裕ちゃんが?!」
「他に誰がいるっていうのさ…」
「ないない!それは絶対にない!」
キャハハハハッと大笑いしている矢口。
嘘をついているようには見えない。
「だって、何時も休み時間とかに一緒にいるんでしょ?」
「あー、いるよ。焼肉屋さんの研究を一緒にする為に雑誌見たりしてね」
「…は?」
また焼肉かい。
でも…ということは。
- 68 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月08日(月)00時42分27秒
- なんだ…。
あたしの勘違いか…。
「裕ちゃんは昔からの知り合いなんだよ」
「…ふーん」
「信じてくれた?」
おどけた表情をした矢口が間近に見える。
あたしはようやくこんなに近くに矢口がいるという事に気付き
ドキドキしてきた。
「信じた…」
そう言って顔を近づけようとしたら矢口はあたしのアゴに手をやり
そのまま勢い良く思いっきり上に上げる。
その瞬間、グキッというあたしの首の音が教室中に鳴り響いた。
「時間…ヤバイんじゃなかったっけ?」
「………はい、その通りです」
…まだ早かったか。
- 69 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月08日(月)00時44分26秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<紗耶香、手が早いわ!
>63さん
二人好きなんです(笑)
しかしマジで邪魔者でしたね、この二人・・・。
>64さん
大した理由でないような、そうでもないような。
そんな感じになりました。
- 70 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月08日(月)23時36分57秒
- ちょっとヘナな市井くん萌え〜(w
- 71 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月10日(水)00時56分51秒
- それにしても。
矢口と中澤先生ってただの仲良しっていうわりには度が過ぎてるような気がする。
大体、生活指導のくせにそれでいいのか?
最初っから中澤先生の事は好きじゃなかったけど
これでますます好きじゃなくなった。
そんな事を思いながら、バイト帰りにコンビニ寄って
雑誌をパラパラと流し読みしていると。
「市井やん。こんな時間に何してんの?」
…好きじゃないって言ってるのにどうして逢うかな。
雑誌から視線を自分の真横に移動させると
そこにはやっぱり中澤先生が立っていた。
「…ノドが乾いたんで立ち寄っただけです」
さすがに正直にバイトに行ってました、とは言えない。
夜もふけてるから本当の事なんて言わなくても注意されるのは仕方ないだろうけど。
「ふーん」
なんで制服姿やねん?と、てっきり怒られるのかと思ってたのに
どうでもよさそうな返答が返ってきた。
どうせならあたしの事を気付かない振りしてさっさと帰ってくれれば良かったのに。
それなのに中澤先生は自分も雑誌を手に取り、パラパラとページを捲っている。
- 72 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月10日(水)00時57分28秒
- 「そういや、矢口と付き合い始めたんやってな」
…な、なんで知ってんだ?
でも考えられる事は一つだけ。
「…矢口から聞いたんですか?」
「そうや」
そんな事まで言う仲なのか…。
二人の関係がますますわからなくなってきた…。
あたしが混乱していると中澤先生は勢い良く雑誌を閉じ
そしてあたしを真っ直ぐ見つめてこう言った。
「矢口と付き合うのは止めとき。それがアンタの為やで」
何を言ってるんだろう、この人は。
圭ちゃんにも同じような事を言われたけど、どうして皆して止めるんだ?
大体、なんでこの人にこんな事を言われなくてはならないんだ。
- 73 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月10日(水)00時58分07秒
- 「…どういう意味ですか?」
あたしが睨みながら聞くと中澤先生はため息をついた。
「私にはアンタ等が上手くいかへんのがわかってるからアドバイスしてんねん」
ますますわけがわからない。
何を根拠にこんな事を言ってるんだ?!
「生活指導って生徒の恋愛事まで干渉するんですか?」
「アンタ等は特別や。矢口にも止めとけって言うたんやけどな。
聞き入れてくれへんねん…」
矢口にまで何余計な事言ってんだよ。
あたしの顔はますます強張っていく。
「まー、そんなに怒んなや」
「わかってるならこれ以上怒らせないで下さいよ」
「市井が私の事を嫌ってるのは重々承知やけど落ち着きぃや」
「…嫌ってるのがわかってるなら余計な事を言わないで下さい」
中澤先生はまだ何言いたそうにしていたが
あたしは言うだけ言ってコンビニを出た。
- 74 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月10日(水)00時58分53秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<みんなー、フラッシュ買いなさいー!!
>70さん
ヘナですかね(笑)
多分ずっとこんな調子で行くと思われます。
- 75 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月10日(水)22時57分58秒
- ――二年前。
まだお父さんが生きてた頃。
あたしの家はまだ普通の生活をしていた。
でも、お父さんの会社が倒産してから全てが変わった。
借金取りが毎日のように家に押しかけ
その度にあたし達は部屋の中に隠れて何時も怯えていた。
彼等の乱暴な振舞いは耐えられないものがあった。
ある日、お父さんは突然あたし達の前から姿を消した。
それでも相変わらず借金取りはやって来ていた。
お父さんがいなくなった不安と借金取りの怖さに
精神が病んでしまいそうだった。
そしてお母さんはパートに出るようになり
お姉ちゃんは県外に出て仕送りをするようになった。
あたしはまだその頃は中学生だったからバイトも出来ず
ただ不安な日々を過ごしていた。
しばらくしてお父さんが会社があったビルで自殺しているのが見つかった。
- 76 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月10日(水)22時59分17秒
- お父さんは会社が危ない事を前々から知っていたのか
数年前からあたし達に黙って保険に入ってたらしく
その結果、お父さんが残した保険金でなんとか借金取りからは逃れる事になった。
借金の心配はなくなったが、残された家族が受けた傷は大きかった。
そして高校に入学してあたしはとんでもない出会いをした。
父を殺したと言ってもいい、あの借金取りの血を引く者がこの学校にいたのだ。
名前や喋り方ですぐわかった。
中澤先生があの借金取りの家の娘である事が。
中澤先生も全ての事情を知っていたらしく
最初は気を遣ってあたしによく声をかけてきていたが
その度にあたしは彼女を邪険にした。
そして彼女も徐々に近寄らないようになっていった。
中澤先生が悪いわけじゃない。
でも、許せなかった。
これからもずっとあの血を引く人間をあたしが快く思う事はないだろう。
- 77 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月10日(水)23時00分15秒
- 「ねぇ…まだ行くの?」
「もちろん!」
「…疲れたし、重い」
元気な矢口とは対象的にあたしは疲れ果てていた。
あたしと矢口は街中に来ていた。
しかも平日に。
バーゲンがあるという事で、何故かあたしまで授業をサボるはめになり
こうして荷物持ちの役をさせられている。
「そうだなぁ…ちょっと一休みしよっか?」
「やった!」
さすがに矢口も疲れが出始めたようで
別にあたしに気を遣ったわけではなさそうだ。
二人で近くにあった公園のベンチに座る。
あたしの周りには紙袋の山。
ちなみにこの中にあたしが買ったものはない。
公園の周りもそうだけど、さっきまでいた街中も
まだ人通りがまばらだった。
きっとあたし達二人は目立っていたに違いない。
どう見ても学生な外見をした二人が買い物なんてしてるんだから。
- 78 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月10日(水)23時01分25秒
- 「こんな時間にウロウロしてて大丈夫なのかな…」
買い物中もずっと周りの目を気にしていたあたしがボヤくと
矢口もそうだなー、と意味もなく空を見上げた。
「裕ちゃんに見つかったら大目玉だね、こりゃ」
…どうしてその名前を出すかな。
せっかく忘れてたのに。
中澤先生はあたしと矢口が上手くいかないって言ってたけど。
本当に何の根拠があってあんな事を。
そういや、矢口にも何か余計な事を言ったらしいし…。
でもこうして変わらず付き合ってくれてるんだから
矢口も気にしてないって事なのかな。
でも…気になる。
「中澤先生ってさ…前からの知り合いなんだよね?」
「うん、そうだよ」
「……」
その後の言葉が出て来ない。
何をどういう風に聞いたらいいのかわからない。
今、あたしの中にあるこの不安な気持ちは何なんだろう…。
- 79 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月10日(水)23時02分13秒
- 黙り込んでしまったあたしを矢口は怪訝そうな顔をして見ている。
「紗耶香?どうしたの?」
「…あ、いや…なんでもない」
「ふーん」
そういえば知り合いって、どういう知り合いなんだろう…。
実は前に付き合ってたとか?
あの仲の良さはちょっと普通じゃないと思うし。
もしかしたら今も付き合ってるとか?
実は矢口って何又でも出来るヤツだったりして…。
そういえばあたしって矢口の事何も知らないんだよなぁ。
なんでこんな事ばっかり考えてしまうんだろう。
きっと、それは自分に自信がないからなんだろうな…。
中澤先生の言葉だけでこんなに気持ちがグラグラと不安定になってしまう。
……すげーカッコ悪い。
止めた、止めた。
もう何も考えない事にしよう!
せっかく矢口と二人っきりなんだし。
- 80 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月10日(水)23時03分15秒
- 「なんかこうやって外でのんびりしてると、ちょっと肌寒いね」
矢口は少し腕を擦りながら肩を上げる。
「暖めてあげよっか?」
あたしはお約束のように矢口の肩を抱こうとする。
しかし、スルリと逃げられた。
「何で逃げるのさ?」
「…紗耶香がスケベだからだよ」
「今のでスケベ呼ばわりされちゃたまんないよ」
あたしはちょっとふざけて立ち上がっている矢口のお腹に腕を回す。
「ちょ!ちょっとっ!!」
明らかに慌てている矢口。
顔を見ると真っ赤になっていた。
…結構、純粋なのかも。
「顔赤いよ?」
あたしが笑いながら言うと矢口は更に真っ赤になってあたしの頭に
脳天チョップを喰らわした。
「…痛い」
「調子に乗り過ぎ!」
「……」
…やっぱり矢口の気持ちがわかんない。
- 81 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月10日(水)23時05分37秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<バカップル!!
暗いようなそうでもないような更新内容。
これで半分くらいは話が進みましたです。
- 82 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月11日(木)23時50分15秒
- あと半分、がんばって!!
ヤッスー、市井ちゃん復帰に一言よろしく
- 83 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月12日(金)01時40分40秒
- 昼休み、教室で真剣に雑誌を読んでいた圭ちゃんに声をかけてみた。
ちなみに読んでいた雑誌を見ると特選!美味しい焼肉の店と書いてあった。
……。
「裕ちゃんに矢口と付き合うのを止められた?はー、やっぱりね」
「やっぱりって何が?」
「いや…別に」
中澤先生に言われた事をそのまま話してみた。
驚くのかと思ったら圭ちゃんは知っていたかのような態度をみせている。
「圭ちゃんってさー…まだあたしに隠してる事あるでしょ?」
「何がよ?いい加減しつこいわよ。
それより腕の傷は良くなったの?まだ包帯してるみたいだけど」
圭ちゃんは購買で買ってきたパックのジュースを飲みながらとぼけている。
コイツ、絶対に口を割らない気だな…。
- 84 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月12日(金)01時41分46秒
- 「おかげさまでもうほとんど完治しました!」
あたしはそう言って立ち上がる。
「どこ行くの?」
「あたしも購買行って何か買ってくる」
「何よー、私が買いに行った時に言えばよかったのに」
そう言いながらもあたしについて来る気はないらしい。
こっちもその方が好都合だ。
圭ちゃんがいると邪魔になるからね。
こうなったら他の人から情報を得てやる。
あたしは圭ちゃんに向かって手をヒラヒラと振りながら教室を出た。
- 85 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月12日(金)01時45分28秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<紗耶香ー!ダイバー終わっちゃってゲストに呼ぶ約束は果たせなくなったけど!
特別に我が家でホルモンパーティーして復帰を祝うわよ!
もちろん、ごっちんも強制参加!!
>82さん
ありがとうございます。
ヤッスーの一言はあんなんでいいのでしょうか・・・(笑)
市井ちゃん復活、おめでとー。
素直に喜びます。
- 86 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月12日(金)21時26分08秒
- やぐっちゃん、何も触れませんでしたね…。
矢口に遠慮せずにいちごま書きましょう!!(w
- 87 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月13日(土)01時41分04秒
- 「圭織、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「紗耶香じゃん。どうしたの?」
あたしは購買部には行かず、生徒会室へ来ていた。
周りを確認すると圭織とりんねの二人しかいないみたいだった。
「まぁ、座りなよ。りんね、お茶出してあげて」
「はーい」
圭織に言われた通り、備え付けの冷蔵庫からお茶を取り出すりんね。
この生徒会室は何でも揃っている。
テレビやビデオに雑誌の数々。
二、三日ならここで住めそうな感じ。
授業をサボりたい時は利用させてもらいたいくらいだ。
圭織とりんねは真面目だからそんな事しないんだろうけど。
あたしは会議室とかによくある長テーブルに
何かの書類を広げていた圭織の横に座ると
タイミングよくりんねがお茶を出してくれた。
「ありがと」
「いえいえー」
相変わらずのんびりした口調のりんね。
りんねの相手をしてるとどうもこっちの調子が狂う。
- 88 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月13日(土)01時43分47秒
- 「もしかして忙しかったのかな?大丈夫だった?」
「大丈夫だよ。中澤先生に頼まれてた用事を済ませてただけだから」
「…中澤先生!?」
あたしはその名前に過敏に反応する。
案の定、圭織とりんねは驚いていた。
「…な、何?どうしたの?」
「圭織はさ、中澤先生と矢口の事…何か知ってる?」
単刀直入に聞いてみる。
生徒会長なら何か知ってるかもしれないと思って
こうして圭織達に逢いに来たのだ。
矢口にとって恋のライバルだったというあやっぺに聞くのが
一番の近道のような気もするけど。
残念ながらクラスがわからないし。
だから圭織達から何も情報が得られなかったら
あやっぺのクラスを聞こうと思って生徒会室まで出向いたのだ。
「何か知ってるって言われても…大体、中澤先生の事なら紗耶香も知ってるでしょ」
中学が一緒だった圭織とりんねはあたしの事情を全て知っている。
だからあたしが中澤先生の事を好きじゃないって事も知ってる。
ちなみに圭ちゃんもだけど。
- 89 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月13日(土)01時48分16秒
- 「じゃあ、矢口の事は?」
「なんでそんな事を聞くのー?」
何時の間にか圭織の隣に座っていたりんねは首を傾げている。
「あのさ、あたし矢口と付き合う事になったんだけど
矢口の事なんにも知らないからさ」
とりあえず当り障りのないコメントをする。
「え…」
圭織はぽかーんと口を開けて固まってしまった。
「ちょ、どうしたの?圭織…ねぇ?」
突然の圭織のフリーズにビックリするあたし。
しかし、りんねは圭織のおかしな様子に全く気付かず謝ってくる。
「それで二人で話し込んでたんだ。ゴメンね、あの時邪魔しちゃって」
「それは別にいいんだけど…」
今となっては、その事はどうでもいいんだけど。
それより、なんで圭織はフリーズしてるんだ?
- 90 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月13日(土)01時48分55秒
- 「あー、じゃああの話題を出したのはマズかったんだ…うわー、本当にゴメン!」
りんねは泣きそうな顔になってあたしに謝ってくる。
泣かれるとまたやっかいなのであたしは即座に首を振った。
「いや、何時かはバレただろうし気にしないでよ」
そんなことより…。
しばらくして圭織はフリーズが溶けたのか、ようやく口を開いた。
それはとても意味深な発言だった。
「紗耶香は矢口の事情知ってて付き合ってるんじゃないんだよね?」
- 91 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月13日(土)01時51分41秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<矢口ー!!
>86さん
事務所から市井ちゃんネタを話す事はストップがかかってるんでしょうね・・・。
いちごまはしばし時間いただけたら・・・(笑)
- 92 名前:読んでる人 投稿日:2001年10月13日(土)08時19分19秒
- うぉぉぉおぉぉぉぉおおおお!!
矢口の事情って何だぁ!?
続きが激しく気になるよ〜!!
- 93 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月13日(土)09時24分57秒
- お、俺も気になるよぉ〜!!
- 94 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月14日(日)00時58分20秒
- …こんなに最悪の気分になったのは久し振りのような気がする。
聞くんじゃなかった。
知ろうとするんじゃなかった。
圭ちゃんがずっと止めろと言ってた意味がようやくわかった。
…そりゃ止めるよな。
あたしは気がつくと屋上に来ていた。
生徒会室からどうやってここに来たのか覚えていない。
随分と前に授業開始のチャイムが鳴ったような気がしたけど
とても授業を受ける気にはなれなかった。
- 95 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月14日(日)00時59分37秒
- 制服が汚れるのも構わず床に寝転がる。
一面に広がる青空。
それなのにあたしの心はどんより曇っている。
晴天の空を見たところで心が晴れるわけじゃないし。
目に映るもの全てが鬱陶しくなってきてあたしは目を閉じた。
しかし目を閉じた瞬間に声をかけられた。
「紗耶香ー」
それは今一番逢いたくない人の声だった。
何時の間にか授業は終わっていたらしい。
あたしは聞えなかったふりをして目を閉じたままでいた。
「こんなとこで寝てたら風邪引くよ」
「……」
「それに制服汚れるよ?」
「……」
「紗耶香?…寝てるの?」
「…ほっといてくれないかな?」
あたしはようやく目を開けて声の主の顔を見た。
- 96 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月14日(日)01時00分27秒
- 矢口は悲しそうな顔をしていた。
あたしはそれを見ても気にしないふりをして起き上がる。
「何しに来たのさ?」
あたしが聞くと矢口は顔を伏せてこう言った。
「生徒会長に言われて…」
そうか。
圭織のヤツ、自分があたしに全部話したって事を矢口に教えたのか。
矢口はそれ以上、何も言わなかった。
いや、多分何も言えなかったんだろう。
だから、あたしの方から口を開いた。
「中澤先生って義理のお姉さんなんだってね…」
- 97 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月14日(日)01時02分19秒
- 圭織から聞いた話はこうだった。
借金取りの父の連れ子が中澤先生。
そして、その父と再婚したのが矢口の母。
二人は去年再婚して今年に入って離婚したらしいけど。
苗字が違うのはそういう事だ。
どうして二人が仲良いいのかという謎もこれで解けた。
義理ある仲なんだから当たり前だ。
親が離婚したところで二人の関係にさほど影響がないだろうから。
焼肉屋巡りが趣味ってのも、そりゃそうだ。
離婚する時に慰謝料をガッポリもらったらしいし。
金ならいくらでもあるはずだから…。
- 98 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月14日(日)01時03分27秒
- 「矢口はあたしの事情を知ってて付き合うのをOKしたんでしょ?」
「……」
矢口はただ俯いているだけで無言だった。
でも、その無言があたしの質問を肯定しているかのように見える。
もしかしたら圭織が言ってた事は間違ってるんじゃないかと
ほんの少し淡い期待を抱いていたけど…甘かったのか。
「義理のお父さんがあたしのお父さんを死に追いやったって知ってて
それであたしの事可哀想だって思ったんでしょ?哀れんでたんでしょ?
それとも少しばかし罪の意識でもあったのかな。
だから、あたしの告白を受け入れたんだ。
なーんだ…つまりはただの同情だったわけだ。
矢口は別にあたしの事を…気に入ってたわけじゃなかったんだ」
あたしってバッカみたいだ、とあたしが言うと矢口は激しく首を振った。
「違う!そんなんじゃないよ!」
「どこが違うって言うのさ!?」
「…っ」
あたしが激しく怒鳴ると矢口はまた黙り込んでしまった。
- 99 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月14日(日)01時04分43秒
- 「…金持ちのお嬢様の道楽みたいなもんじゃん。
楽しかった?貧乏人をからかってさ…」
「そんなんじゃ…」
矢口がまだ何かを言おうとしていたがそれを遮るかのように
あたしは立ち上がる。
何を言われても言い訳にしか聞えない。
もうこれ以上何も聞きたくない。
「サヨウナラ」
あたしは矢口に背を向けて別れの言葉を言った。
- 100 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月14日(日)01時09分11秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<バレバレな展開でゴメンね!
>92さん、93さん
実は矢口の事情っていうより家庭の事情でした(笑)
市井ちゃんはとことん不幸ですな。
明るい話より暗い話の方が書きやすいもので・・・。
- 101 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月14日(日)23時54分44秒
- おもしろいよ。頑張って!
- 102 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月15日(月)04時02分25秒
- 最初っからわかりやすかったはずだ。
だって、一度も好きって言われた事なんてなかったんだから…。
あたしが勝手に好きになって暴走してただけだ。
階段を降りて行くと徐々に視界が悪くなっていく。
圭ちゃんがずっと矢口は止めとけって言ってたのも
中澤先生が言ってた上手くいかないってやつも
こういう意味だったのか。
どうせ中澤先生もあたしに同情してあんな事を言ってたんだろうけど。
圭ちゃんも言うに言えない状態だったんだろうな…。
もう矢口の事なんて忘れちゃえ。
なかった事にしてしまえ。
好きになってさほど日にちも経ってないんだ。
忘れる事なんて簡単に出来るはずだ。
気持ちを切り替えたらいいだけさ。
簡単な…事だ。
- 103 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月15日(月)04時03分02秒
- しばらく学校へ行かずにバイトへ行っていた。
学校へ行くと逢いたくない人に逢ってしまうから。
案の定、圭ちゃんから電話が何度かかかってきてたけど。
圭ちゃんはあたしが話す前から全ての事情を知っていた。
きっと矢口から話を聞いたんだろう。
適当に話をしてから後はずっと留守電にしてた。
今は何も考えたくなかったから。
- 104 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月15日(月)04時03分52秒
- どういう事か、あたしは進路指導室へ呼び出されていた。
あたしの目の前にいるのは中澤先生。
汚いな…職権乱用しやがって。
これからあたしに何を言って来るのかが目に見えている。
「聞いたで…矢口を振ったらしいやん」
…やっぱり。
矢口も早速、話すなよ。
「振ったっていうか…そもそも別に好かれてたわけじゃないし」
あたしは素っ気無く答える。
中澤先生はそれを聞いて大きくため息をついた。
「あのなぁ…私がこうやってアンタを呼んだのは他でもない。誤解を解こうと思ってな」
「…誤解?」
「そうや。アンタは矢口が最初っから全部知ってて付き合う事にしたって思うとるやろ?」
「思ってますよ。だって、事実そうでしょ?それのどこが誤解だって言うんですか?」
あたしがふてくされて言うと中澤先生は大きく首を横に振った。
- 105 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月15日(月)04時05分07秒
- 「だから、それが誤解や言うてんねん。矢口は最初何も知らんかったんや」
「…嘘だ」
そんなの信じるもんか。
「ホンマやねんて。それによく考えてみ?アンタのお父さんが亡くなったのは二年前。
うちらの親が結婚したのは一年前や。ま、すぐ離婚してしもうたけど。
な、時期が合わんやろ?
それにやなぁ…過去のそういう話をわざわざする必要もないしやな…」
「……」
「矢口からアンタと付き合う事になったって最初聞いた時はビックリしたわ。
それでその話を聞いた時に私が全ての事情を話したんや。
私が教えんでも何時かは知る事になるかもしれへんし。
話すなら早い方がええと思ってな…その方が傷も浅くて済むやろうし。
それに私は付き合うのを辞めさせる為に言うたんやけど
それでも矢口の気持ちは変わらんかったんや…」
「……」
「矢口はホンマにアンタの事が好きなんや。それだけはわかってやって」
「……」
その後、あたしは終始無言のままだった。
- 106 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月15日(月)04時05分57秒
- 進路指導室に出てからずっと頭の中がグチャグチャになっていた。
ただでさえ、グチャグチャだったのに。
矢口があたしの事を好きだって?
吹っ切ろうと思ったのに、どうしてそんな余計な事を言うかな…。
「紗耶香?帰らないの?」
「…あぁ?……うん、帰る」
圭ちゃんにそう言われて初めてもう放課後になっているのに気付いた。
考え事をしてると時間が経つのが早く感じる。
「元気出しなよ。今日は特別に私が奢ってあげるからさ!」
圭ちゃんは明るくそう言いながらバシバシとあたしの背中を叩いた。
励ましてくれるのは嬉しいけど…痛い。
とりあえずお言葉に甘える事にするか。
一人だと色々と考え込んじゃうし。
「何奢ってくれんの?」
「ま、ついて来なよ」
…なんで教えてくれないんだよ。
とことん秘密主義だなぁ。
- 107 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月15日(月)04時08分18秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<眠いー!!
>101さん
ありがとうです。
頑張ります。
- 108 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月15日(月)14時10分39秒
おもしろいよ!!
中澤は悪くないのにちょっとかわいそう…
でも、矢口と市井うまくいったらいいのになぁ。
この先の展開楽しみです!!
がんばってくださーい!!
- 109 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月16日(火)01時39分35秒
- 「…圭ちゃん」
「何よ?」
「…どういう事なのさ?」
「だから何が?」
「……なんで矢口がここにいるんだよ!?」
あたしが少し怒って言うと圭ちゃんはおどけた顔をした。
反対に矢口は少し戸惑っている。
「私が呼んだからよ」
…そんな事は言われなくてもわかってるっつーの。
圭ちゃんに連れられて来たのは焼肉屋。
どうしても頭から焼肉が離れられないのか…。
それは別にどうでもいいんだけど。
あたし達が店に入ると矢口が待ち構えたようにして席に座っていた。
そして今現在この状況に…。
- 110 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月16日(火)01時40分26秒
- 「ちゃーんと話し合った方がいいと思うわけよ。
でもさ、矢口に逢えって言ってもどうせ嫌がると思ったからこういう手段に出たわけ。
ま、後は任せるわ。じゃーね」
そう言って圭ちゃんは立ち去ろうとする。
「ちょっ!ちょっと待ってよ!圭ちゃん、帰る気!?」
あたしは慌てて圭ちゃんの腕を取って引き止める。
「違うわよ、離れた席で焼肉食うのよ」
そう言って圭ちゃんは本当にあたし達の席から離れたところをキープして
早速、注文をしている。
…結局、ちゃんと焼肉は食べるわけね。
矢口の方へ視線をやると居心地が悪そうにしていた。
それにしても一体何を話せって言うんだよ…。
ため息をつきながら周りを見回すと店内はそれなりに賑わっているようだ。
圭ちゃん曰く、かなりの穴場らしいんだけど。
ジュージューと肉を焼く音や周りの人の賑やかな声がうるさい。
それなのにこのテーブルだけは静かだった。
- 111 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月16日(火)01時42分13秒
- 「何か頼もうか…」
あたしがとりあえずそう言うと
店員がちょうどテーブルに肉が盛られている皿を持ってきた。
ちょっと待って?
なんでまだ頼んでもないのに持ってくるんだ?
「あ…えーと……」
あたしが戸惑っていると遠くから圭ちゃんが声をかけてきた。
「私が適当に頼んであげたから遠慮なく話しててー」
…くっ。
余計な事を。
結局、ふりだしに戻ってしまう。
「…とりあえず折角だから焼こうか」
あたしはため息をついて皿に盛ってある肉を焼きにかかる。
矢口もそれに習って箸を動かす。
二人とも無言なだけに肉を焼く音だけがこのテーブルに響いている。
どうしよう…。
この重い空気がとてつもなく辛い。
矢口も何か話してくれればいいのに。
あー、でも何も聞きたくないなぁ…。
ゴチャゴチャと頭の中で葛藤してると。
「イテッ!」
頭に何かが当たった。
- 112 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月16日(火)01時43分15秒
- …それは割り箸だった。
あたしが振り向くと圭ちゃんが早く何か話せ!とジェスチャーしていた。
…無茶言うなよ。
心の準備も出来てないのにこんな状態にされて何を言えって言うんだ?!
あたしが心の中でぼやいているとパチッと音をたてて油が飛んだ。
「熱っ!」
それは見事に矢口の左手首にヒットしていた。
手を抑えてしかめっ面をする矢口。
「だ、大丈夫?」
「…うん、ちょっと火傷したみたいだけど」
「マジで?じゃ、冷やさないと」
あたしは傍にあったおしぼりに水を含ませ矢口の手に巻く。
しかし、長さが足りない。
広げた方がいいのだろうけど…うーん。
あ、そうだ。
ハンカチで固定したらいいんだ。
ポケットにずっと入れてた矢口に返しそびれていたハンカチをおしぼりの上から
巻きつける。
「それ…持ってたんだ?」
「うん、ずっと返そうと思ってたんだけどすっかり忘れてた」
「そっか…」
「しばらく、こうやって冷やしとくといいよ」
「ありがと」
- 113 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月16日(火)01時44分16秒
- そうこうしてるうちに肉は焼けてきていたので
仕方なく箸を動かす事にした。
焼肉マニアである圭ちゃんの行きつけの店という事で美味しいはずなんだろうけど
今のあたしには何を口に入れても味なんてわからない状態だった。
そんな事を思いながら矢口の方を見ると箸を置いたまま固まっていた。
「どうしたの?食べないの?」
あたしが声をかけると矢口はイキナリ頭を下げてきた。
「…ゴメンね。ずっと裕ちゃんとの事、隠してて」
「……いや、もういいよ」
あたしも箸を置く。
圭ちゃんに一応気を遣って出されたものは全て平らげるつもりだったが
ますます食欲が失せた。
「中澤先生から話は聞いたよ。
矢口は最初何も知らなかったんだって…」
「…うん」
「でも…やっぱあたしと矢口じゃ無理だよ。
戻っても上手くいかないと思う…」
「……」
- 114 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月16日(火)01時45分36秒
- お父さんの事がなくても
矢口があたしに対してどう思っているのか今までずっと疑心暗鬼になってた。
矢口の気持ちが全くわからなかったから。
例えまた付き合う事になったとしても、きっと同じ事を繰り返すと思う。
だからやっぱり無理なんだ…。
そしてあたし達はまた黙り込んでしまった。
焼かれている肉が全て炭に変わってしまってもずっとそのままで…。
- 115 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月16日(火)01時47分40秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<また焼肉かいー!
>108さん
ありがとうございます。
そういえば・・・ねーさんって何もしてないのに憎まれてるっつーのは可哀想ですよね。
一番の被害者はねーさんかも。
いや、奢った焼肉を食べてもらえなかったヤッスーが一番の被害者かも(笑)
- 116 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月16日(火)21時39分38秒
- 2人とも素直になってくれ・・・
- 117 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月16日(火)23時25分09秒
- さやまり大好きなんでうまく行って欲しい!!
けどこの二人はなぜか切ない話が似合うなぁ・・
作者さん、楽しみにしてますんで頑張ってください!!
「焼肉」って毎回出るからついに食べてしまいました(笑)
- 118 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月17日(水)01時09分13秒
- 「せーっかく、この私が奢ってやったっていうのに!!
何で残すのよ!もったいない!!」
店を出るなり圭ちゃんは二度と奢らないからね!と、プリプリ怒っていた。
しかしその手にはあたし達が残した肉が入っている紙袋がきちんとあった。
…お持ち帰りかぃ。
ちゃっかりしてんじゃん。
すっかり日も暮れて、周りは真っ暗になっていた。
帰り道の方向が違うあたしは二人にまたね、と告げて歩き出す。
気分が重い。
これから…どうしたらいいのかな…。
もうわけがわかんないよ…。
- 119 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月17日(水)01時10分43秒
- あたしがぼんやりしたまま歩いていると後ろから肩を叩かれた。
誰だ?と思って首だけ後ろにやると思いっきり人差し指で頬を突かれる。
グサッという擬音が聞えそうな感じだった。
「痛い…」
「…あ、ゴメン。そんなに勢いよく振り向くと思わなかったから」
あたしが頬を抑えて改めて相手を見るとそれはすまなさそうな顔をしたあやっぺがいた。
「こんな時間に制服のままで何やってんの?」
矢口と焼肉食べに行ってた…という言葉が何故か口から出てこない。
あやっぺに対して気を遣ったというのではなく
今自分の口から矢口という言葉を出したくない気分だった。
何も言わないあたしに気を遣ったのか
あやっぺは食べる?とガムを出してきたので
あたしはとりあえず大人しく素直にそのガムを貰った。
- 120 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月17日(水)01時11分47秒
- あやっぺはコンビニ帰りだったようで私服で片手にコンビニ袋を提げている。
私服のあやっぺは実際の年齢よりももっと大人に見えるような服装をしていた。
…と、言うよりはどこかのヤンキーのように見える。
このままコンビニの前で座り込んでても違和感ないんだろうなぁ。
あたしがそんなどうでもいい事をぼんやり思っていると
あやっぺはキョトンとした顔をしていた。
「どうした?元気ないねぇ…」
あやっぺはそう言ってあたしの頭を乱暴に撫でる。
「…なんでもないですよ」
あたしが平静を装ってそう言うとあやっぺはうーん、と軽く唸った。
「ねぇ…ちょっと時間くれない?」
そう言ってあやっぺはあたしの手を取ってスタスタと歩いて行った。
- 121 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月17日(水)01時15分00秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<忘れた頃にあやっぺ登場!
>116さん
素直になってないのは市井ちゃんだけだと思われ(笑)
>117さん
これだけ焼肉という単語を連呼してる話も珍しいでしょうね(笑)
狂牛病に気をつけて下さいな。
- 122 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月17日(水)21時31分33秒
- やっぱりヤッスーはお持ち帰りかよ!(w
- 123 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月18日(木)00時13分33秒
- あやっぺに連れられて来た所は人通りの少ない近くの小さな公園だった。
滑り台やジャングルジムにブランコに砂場。
それくらいしかない本当に小さな公園。
そこのベンチにあたし達は並んで座った。
あやっぺは手にしていたコンビニ袋からお茶をあたしに差出し
そしてもう一本を自分用に出して一口飲んだ。
「なんかあった?」
「……」
「どうせ矢口の事でしょ?」
「……」
「何も言いたくないなら別に無理に聞き出そうとはしないけど」
あやっぺは何もかもお見通しのような顔をして、また一口お茶を飲む。
「そうそう、矢口と言えば…まぁ、なんて言うか私と矢口って
何度も恋のライバルになったりしてるわけなんだけどさ。
好みのタイプっていうのが被ってるのかなぁ。
友達になるとしたら気が合って楽しいのかもしんないね。
ま、あっちは私の事を嫌ってるから友達になる事もないんだろうけど」
笑いながらあやっぺは聞いてもない事を語り出す。
「…はぁ」
あたしはそれだけしか言葉が出ない。
時間をくれっていうのはそういう話をする為だったんだろうか。
- 124 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月18日(木)00時14分32秒
- 「それでさ、前の男の時になんで私が勝ったかっていうと
私の方がお喋りだったからなんだよね」
はぁ?
突然、何を言い出すんだろう…。
「矢口ってさ、いつもギャーギャーと騒いでるわりには
自分の気持ちをなかなか言わないタイプなんだよね。
逆に私はペラペラ言っちゃうタイプなわけなんだけど。
で、前の男は矢口の気持ちがわからなくなったっていうので
わかりやすい私に気持ちが動いちゃったってわけ」
損な性格だね、矢口って、とあやっぺは苦笑いしながら言う。
「紗耶香もそうなんでしょ?矢口の気持ちがわからないから悩んでるんでしょ?」
確かに…。
矢口が最初っからあたしの事を好きだったんだって中澤先生から言われても
直接本人がそう言ったわけじゃないから。
だから何もかも信じられなくなって…。
「でもさ、相手の気持ちがどうこうっていうのより
自分が相手をどう思ってるかっていう事の方が大事だと思うんだけどなぁ…」
「そりゃそうだろうけど…」
「紗耶香は矢口の事が好き…それでいいじゃん。
別に悩む事なんてないと思うよ?」
- 125 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月18日(木)00時15分48秒
- 「いや、でも…」
あたしが言葉を濁していると、あやっぺは首を捻ってこう言った。
「うーん、紗耶香って案外暗い性格してんだねぇ」
…そういう問題じゃないと思うんだけど。
そんなに簡単に気持ちの整理が出来たらこっちだって苦労しないさ。
あたしがため息をつくのを見てあやっぺは肩を軽く上げておどけてみせた。
そして羽織っていたジャケットのポケットからタバコを取り出し
慣れた手つきで火をつけた。
「あのさ、他人の気持ちなんて本当は誰にもわかんないもんだよ。
わかってるって思ってても、それはわかってる気になってるだけ。
自分の気持ちなんてその本人にしかわかんないんだから。
だから相手の気持ちがわかんないって悩む必要なんてないんじゃない?」
「それはそうなのかもしれないけど…って、あの…タバコはヤバイんじゃないですか?」
さすがにあたしも指摘せざるを得ない。
でも、周りを気にしているあたしを見てあやっぺは白い煙を吐きながらニコっと笑いかける。
「紗耶香が黙っててくれれば誰にもバレないし」
「そりゃ誰にも言わないけど…」
「あ、そうだ。タバコに例えるとわかりやすいかも」
「はぁ?」
- 126 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月18日(木)00時19分04秒
- 「タバコを矢口とするでしょ?で、こうしてタバコから出てる煙は矢口の気持ち。
今はこうして目に見えてるけどしばらくしたら空気中に広がって色が薄くなって…。
そして消える、と。煙だからずっと存在してないってわけ。
届けー、届けーって思ってても相手が早く気付いてくれないと届く前に姿形がなくなるっていう。
そもそも届いたとしても自分が届けたいって思ってた形じゃなかったりするわけよ。
逆に相手にしてみればわかったような気がしたと思った途端にすぐ消える。
そういうとこが人の気持ちと煙って似てると思わない?」
「…はぁ」
「私って例え下手だから、言わんとしてる事わかんないかなぁ?
こうなったら例え上手な生徒会長でも連れてこようか…」
生徒会長って…圭織の事か?!
まさかあやっぺの口から圭織の名前が出るとは思わなかったけど。
それに圭織なんて呼ばれたら何時間例え話を聞かさせられるハメになるかわからない。
しかも理解するまでにもの凄く時間がかかるし。
「や、なんとなくわかります!」
あたしが焦ってそれだけ言うとあやっぺは少し安心した表情になった。
- 127 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月18日(木)00時20分39秒
- 「少しはわかってもらえたのかな…よかった。
まぁ、大体気持ちって目に見えるもんじゃないからね。
あ、でも手で掴めないっていうのは本当に似てると思わない?
相手の気持ちを掴もうとしても掴めないって感じがさ」
…なんか凄い例え方されてるんだけど。
でも、なんとなくあやっぺの言いたい事がわかってきたような気もする。
「矢口の場合、出す煙の量が少ないんだろうね。
まぁ、矢口だけじゃなくて誰にでも言える事なんだけど。
人は皆他人の気持ちに疑心暗鬼になって生きていかなくちゃいけない生き物なんだよね」
あー、一気に喋り過ぎてノド乾いちゃった、と言いながらお茶をがぶ飲みするあやっぺ。
そして、またタバコを口にする。
モクモクと火のついたところから煙が上がる。
「…なんか、哲学的っぽい話ですね」
あたしが感心して言うとあやっぺは大笑いした。
「今の話を鵜呑みにしないでよ?私バカだからあんましちゃんとした事言えないもん。
ま、私が言いたかったのは悩んでばっかいないで紗耶香は紗耶香らしくしてなって事かな?」
…今の話でどうやったらそういう結論になるんだろう。
あたしがバカなだけなのか。
- 128 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月18日(木)00時21分29秒
- 「石黒先輩はいい人ですね」
「何それ?」
「いや、だって矢口の肩持ってるじゃないですか」
「別に矢口はどうでもいいんだけどね。紗耶香が落ち込んでるのは見たくないだけだよ」
さりげなく酷い事を言うな…。
でも、照れてるあやっぺを見てたらなんだか笑えて来た。
「どうでもいいけど、石黒先輩は止めてよね。あやっぺでいいって言ってるじゃん」
「あ・・・はい」
「それと、矢口に振られたらいつでも私のとこに来てもいいからね」
「…それは考えさせて下さい」
「……ちぇっ」
「はは…」
二人で顔を見合わせて笑い合う。
あやっぺと話せてよかった。
なんか憑き物が落ちたような気がする。
きっと一人っきりで誰にも相談しないままでいたら、あたしは何も変わっていなかっただろう。
あやっぺはいい人だ。
心から感謝したいと思う。
もしかしたら矢口と出会っていなかったら本当に好きになってたかもしれない。
矢口と出会ってなかったらの話だけど。
- 129 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月18日(木)00時23分29秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<あやっぺの説明、わけわかんねー!
>122さん
だって、ヤッスーですから(笑)
期待は裏切りませんよ。
- 130 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月18日(木)22時43分51秒
- 市井ちゃんと石黒って、
あんまり見ないけどいい感じ。
- 131 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月20日(土)01時01分07秒
- 土曜の昼下がり。
いつものようにバイト先へと急ぐ。
寝坊してしまったおかげでバイトの時間がかなり迫っていた。
早く行かないとヤバイなぁ。
そんな風に思ってたのに…。
また出くわしてしまった。
「アンタね!今日という今日は逃がさないからね!!」
威勢良く街中で怒鳴っているのはあたしの右腕に
すさまじい傷跡を残してくれたあのガングロだった。
二度と遭う事はないと思ってたのに。
おかげで治ったはずの傷がまた疼いて来たような気がする。
そして絡まれているのは予想通りやっぱりあの少女。
- 132 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月20日(土)01時02分05秒
- 「まーた、やってんの?飽きないねぇ…」
あたしは呆れて言うとガングロもあたしの事を覚えていたらしく
あぁー!!とオーバーリアクションで指を指してきた。
少女も突然現れたあたしにビックリしていた。
「今日は子分を連れてないんだ?」
あたしがニヤニヤしながら言うとガングロは怒り出した。
「子分って何よ!それにアンタは関係ないんだからどっか行っててくんない!?」
こめかみに血管を浮かせながら怒鳴るガングロを見ながら
あたしは同じ女にはとても見えないなぁ、とぼんやり思っていた。
「悪いけど、関係あるんだよね」
「はぁ?」
「この子、あたしのモンだから」
「はぁ??!!」
「そういう事でサヨーナラ」
あたしは少女の肩を抱いてガングロの傍から離れる。
途中で振り返るとガングロはまだ呆気にとられて固まっていた。
- 133 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月20日(土)01時03分20秒
- 「まだ、あのガングロに絡まれてるとはね…」
あたしが苦笑いしながらそう言いながら矢口を見ると戸惑いの表情をしていた。
「…どうして?」
「何が?」
「矢口の事…嫌いになったんじゃないの?」
「誰も嫌いだなんて言ってないと思うけど?」
「……でも」
矢口は足を止めて俯いてしまう。
あたしはずっと矢口の肩を抱いてた手を離した。
「ちゃんとハッキリさせようと思って」
「…何を?」
おどおどしながら矢口はやっと顔を上げた。
あたしは矢口の目をちゃんと見てこう言った。
「矢口はあたしの事を好き?」
今までちゃんと聞いた事がなかったから。
こうして聞いておけばよかったんだよ。
今まで聞けなかったのはずっと怖かったから。
矢口の口からどんな答えが返ってくるのかわからなかったから。
でも、ちゃんと聞かないと矢口の気持ちを少しでも形にしてもらわないと
前に進めない。
- 134 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月20日(土)01時04分25秒
- あたしは矢口の返答を待った。
ずっと待ってたけど矢口はあたしを見つめたまま固まっている。
街中を歩く人達の視線が痛い。
そりゃ、女二人が道端で固まってるんだから何してんだ?って思うよなぁ。
しかも一人は赤くなって、もう一人はそれを見つめてるんだから。
場所を間違えたかな…と少し後悔し始めた頃ようやく矢口が口を開いた。
「…初めて逢った時から大好き」
真っ赤な顔をしてあたしの胸に抱きついてくる。
あたしもしっかりと抱き締め返す。
「……よかった」
「…もう怒ってない?」
くぐもった声の矢口。
この声が好き。
「怒ってないよ。あたしも矢口の事が大好きだから」
あたしがそう言うと矢口はポロポロと泣き出した。
この可愛い顔が好き。
あたしは矢口が好きなんだ。
色々悩んだけどこの気持ちだけは変わらなかった。
好きじゃなかったらあんなに悩んでない。
- 135 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月20日(土)01時05分24秒
- 「…ずっと悩んでたの。最初はお父さんの事とか本当に何も知らなくて。
ただ紗耶香の事が好きっていう気持ちしかなかったんだけど。
でも、お父さんの事を知ってから紗耶香にどうやって
接していったらいいのかわかんなくなっちゃって…」
「…うん」
「裕ちゃんと私の関係を知ったら絶対に紗耶香は怒ると思ってずっと隠してた。
紗耶香に嫌われるのが怖かったんだよ…。
こんな気持ちを抱えたままでいたら素直に自分の気持ちを言う勇気なんて
無くなっちゃって…。ただいつも通りに振舞う事しか出来なかった…」
「……うん。あのさ、お願いだからもう泣かないでよ」
話しながらもずっとポロポロと涙を流す矢口を見て
たまらずあたしは抱き締めた腕に力を込めた。
「…もう大丈夫だから。あたしもこれから強くなるからさ。
矢口にこんな気を遣わせるような事なんてさせないようにするから」
「……紗耶香」
矢口も強く抱き締めてくる。
「ずっと好きだから」
「……アリガト、矢口も…大好きだからね」
あたし達は通行人の視線も気にせず、ずっと抱き締め合っていた。
- 136 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月20日(土)01時06分03秒
- しばらくして、もじもじしながら矢口が口を開く。
「紗耶香…あの」
「何?」
「いい加減、離れない?周りの目が…ねぇ?」
「ヤだ」
「もうー…」
「一つだけお願い聞いてくれたら離すよ」
「何?お願いって…」
きょとんとした顔をしてあたしを見る矢口。
「これからはあたしにちゃんと意思表示とかして欲しいなーと思って。
あたしバカだから、ちゃんと自分の気持ちとか表に出してくれないとわかんないからさ」
もうすれ違うの嫌だし、とあたしが続けると矢口はニコッと笑ってこう言った。
「…わかった」
「ありがと」
あたしがそう言って抱き締めてた手を離すと
矢口は一瞬だけあたしの首に手を回した。
- 137 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月20日(土)01時06分37秒
- それはほんの一瞬の出来事。
あたし達の周りを歩く人達は何やってんだ?とジロジロ見ながら通り過ぎていく。
「……」
あたしは自分の唇に手をやって固まってしまっていた。
「…矢口の気持ち、わかった?」
「………うん」
「もう!何時まで固まってるんだよぉ!」
矢口は何時もの調子に戻り、あたしの手を取って早足で歩き出す。
後ろから見ても顔が赤くなっているのがわかる。
耳までも赤い。
「…幸せかもしんない」
「……大袈裟だよ」
「……」
「…何時まで固まってんの?」
「………」
「そういえば、紗耶香。土曜にバイト入ってるって言ってなかったっけ?」
「………あ」
幸せに浸っているあたしを矢口が現実に戻してくれる。
…完璧に遅刻だ。
まぁ、いいか。
今が幸せなら。
- 138 名前:MADE TO BE IN LOVE 投稿日:2001年10月20日(土)01時07分41秒
- 人の出会いというものは不思議なもので。
大切な友達、大好きな人もいれば気に入らない人、嫌いな人もいるわけで。
それでもそれらの出会いは今の自分を作るパーツの一部分になる。
街中を矢口と手を繋ぎながら歩く。
今、この手にある大切な人。
ずっと大事にしたい。
もし、それでも傷つけたり、傷つけあったりしたとしても
きっと二人なら乗り越えていけるはずだから。
まだ見ぬ未来へ二人一緒にどこまでも行こう。
あたしの知らない矢口の性格やその他の色んな事はまだまだ沢山あるけれど。
これから時間をかけてでも知っていくんだ。
「今度、あたしが何か奢るよ」
「マジで!?やったー!絶対、焼肉ね!!」
…とりあえず、今のあたしが知ってるのは焼肉好きって事だけだけど。
−終わり−
- 139 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月20日(土)01時14分35秒
- ++あとがき++
( `.∀´)<奢り損のまま私は終わりかよ!
初のさやまり・・・自分には難し過ぎました(爆)
学園モノも初めてですし。
あと、登場メンバーが偏り過ぎてましたかね。
次回はあの人を出せればいいなぁ、と思いつつ。
感想とかあれば次回の参考のさせて頂きますです。
>130さん
そう言っていただけるとあやっぺ出したかいがあります(笑)
やはり珍しいんですかね・・・。
- 140 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月20日(土)01時16分26秒
- いいらさんだったら…
川 ‘〜‘」||<人の気持ちってタンポポみたいだと思うの。
ぐらいのことはいうかな。(w
市井ちゃんに向かって飛ばしてるのに、くしゃみして吹き飛ばしてしまうとか…
>>52 あたりで矢口がなにげにお金持ちなのは、
裕ちゃん相手にエンコーしてるのかなー
とか思ってしまった私は逝ってよしですね。
- 141 名前:140 投稿日:2001年10月20日(土)01時35分40秒
- あ、なにげにリアルタイムだった。131あたりに書きこむつもりだったのに(w
終了おめでとうございます。
衆人環視のなかキスしちゃう矢口、萌!。
- 142 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月20日(土)03時29分14秒
- やっぱりこの世知辛い世の中にこそハッピーエンドが必要なのです!!(爆
作者さんお疲れ様でした。次回作も楽しみにしています。
- 143 名前:117 投稿日:2001年10月20日(土)22時47分17秒
- お疲れ様でした!!作者さんの書く文章の流れ?雰囲気が好きでした。
次回作楽しみに待ってますんで頑張ってください!!
で、いつでもいいんでもし気が向いたらせっかく幸せになったさやまりの
続編なんて読みたいんですけど、どうですかね?(笑)
- 144 名前:アリガチ 投稿日:2001年10月22日(月)21時05分33秒
- レスを。
>140、141さん
タンポポの例えに感服しました!
くしゃみって自爆ですか?(笑)
>142さん
暗い話で暗いまま終わるっていうのもアレなんで・・・。
一応ハッピーエンドにしてみました(笑)
>117さん
文章の流れ(?)を好いてもらったのは初めてかもしれません(笑)
有難うございます。
117さんのリクというわけでここには載せませんでしたが
↓に番外を書きました。
時間に余裕のある方は見に来て頂ければ幸い。
ttp://ca.mixnet.to/~arigati/
- 145 名前:すんません 投稿日:2001年11月10日(土)06時44分03秒
- 番外編で迷子なのはオイラだけ?
hつけておんで何処行けば…
- 146 名前:WISH 投稿日:2001年11月13日(火)23時26分37秒
- 気がつけば暑くなったり寒くなったりと気温の変化についていけず
気をつけないと体調を崩し易い季節になっていた。
いつの間に夏が終わってしまったんだろう。
そしてあっという間に冬がやってきそうだ。
周りは静まり返っている。
それはそうだ、だって今は授業中なんだから。
しかし私には授業なんて関係ない。
ポケットに入れていたモノを取り出す。
それはライターだった。
別に今から煙草を吸うわけではなく
これはもう片方の手にあるものに火をつける為だけのモノだ。
私が今いるこの中庭を軽く見渡す。
そして誰もいない事を確認して火をつける。
火がついたそれを地面に落とし
私は二、三歩後ろに下がった。
- 147 名前:WISH 投稿日:2001年11月13日(火)23時27分33秒
- パンッ!パンッ!パンッ!
「きゃっ!」
軽い爆発音がこだまするのと同時に傍で誰かの悲鳴が聞こえた。
誰もいないと思ってたのにいたのか…。
私がそう思いながら声がした方向へ振り向くと
そこには二人の生徒がいた。
木陰にいたのでどうやらパッと見ではわからなかったようだ。
二人をよく見てみると悲鳴をあげたと思われる人がもう一人へ
抱きついていた。
そして抱きつかれていた人と目が合う。
その瞬間、怒鳴り声が聞こえてきた。
「コラー!!授業中に何やってんの!!」
- 148 名前:WISH 投稿日:2001年11月13日(火)23時28分46秒
- 「後藤…アンタなぁ、何でいつもこんな事すんの?」
「別に……意味はないです」
「意味がないわけあらへんやん。何か理由があんのやろ?」
「理由なんて別に。ま、担任の平家先生に迷惑かけたくはないんですけどね」
「…なら、こんな事もう止めとき」
「それが無理なんです」
「後藤…いつも言うてる事やけどな、悩みがあるなら聞くで?」
「平家先生、私が何を考えてるか本当はわかってるでしょ?」
「……」
平家先生は大きなため息をついた。
私の担任である平家先生を困らせてあんな事をいつもしているわけじゃない。
受け持っている授業がちょうどなかった平家先生に現場で捕まってしまった私は
生徒指導室へ来ていた。
隣には目が合ったあの人もいる。
一緒にいた悲鳴をあげた人は平家先生の怒鳴り声を聞いて
一目散に逃げていったのでここにはいない。
私にとっては見慣れたこの部屋なのだが暇なので改めて見渡す。
難しそうなタイトルの本がズラリと並び
そして進路指導室も兼ねてるので進学、就職関係の本や資料も沢山並んでいた。
まだ一年生である私にはどれも無関係のように思えてしまう。
- 149 名前:WISH 投稿日:2001年11月13日(火)23時29分40秒
- 先生達も出払っているようでこの教室には私達三人以外は誰もいなかった。
机にある電源を切り忘れた誰かのノートパソコンの音だけが部屋中静かに響いていた。
「市井もやで。アンタもここの常連やけど授業出ずに何やってたん?」
「天気が良かったんで小鳥のさえずりを聞いてただけです」
「はぁ?」
意味不明な答えに平家先生は大袈裟に聞き直していた。
ふーん。
この人、市井っていう名前なのか。
学年は私より上っぽいなぁ。
私がぼんやりそんな事を思いながら顔を眺めていると
突然彼女が私の顔を見てきた。
視線がぶつかる。
もしかして私がチクるとでも思っているのだろうか。
他人の事なんて全く興味がない私がそんな事するわけないのに。
「アタシじゃ話にならんようやから
今から裕ちゃ…あ、いや…中澤先生を呼んで来るからな。
メッチャ怒られると思うけど自業自得やからしゃーないわなぁ」
ちゃんとした返答をしない私達の相手に疲れたのか
平家先生は深いため息をついて中澤先生を呼びに行ってしまった。
- 150 名前:WISH 投稿日:2001年11月13日(火)23時31分40秒
- 二人っきりになってしまったこの部屋はさっきよりますます静まり返っている。
周りはまだ授業中なので余計に静かだ。
中澤先生を呼びに行ったはずの平家先生はなかなか帰ってこない。
待っていた私達は会話もせず、ずっとボーッとしていた。
静かなところでこうしていると眠くなってくる。
私があくびをかみ殺していると突然声をかけられた。
「黙っててくれて助かったよ」
「…何の事?」
「あ、んーと…まぁいいや。ねぇ?なんで爆竹鳴らしてたの?」
「……」
「…えっと、あたしは三年の市井紗耶香って言うんだけど」
「ふーん、市井ちゃんね」
「…『市井ちゃん』って……。同じ学年なの?
なんか大人っぽくは見えるけどあたしは年下かと思ってたんだけどな」
「年下だよ、だって一年だもん」
あたしがサラッというと市井ちゃんははぁ!?と声を裏返した。
- 151 名前:WISH 投稿日:2001年11月13日(火)23時32分37秒
- 「年下ならちゃん付けで呼ぶなよ…」
「いいじゃん、そんな事どうでも」
「…別にいいけどさ……えっと…後藤さんだっけ?」
「後藤真希。後藤でいいよ」
「言われなくたって呼び捨てで呼ぶよ。で、なんで?」
「何が?」
「いや、だから爆竹…」
「別に…意味なんてないよ」
「………あっそ」
そして私達の会話は止まってしまった。
- 152 名前:アリガチ 投稿日:2001年11月13日(火)23時34分44秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<やっとこさ新作よ!
今回は更新速度が激遅になると思われますが
お付き合い下さいませ。
>145さん
無事に辿り着けたんスかね?(^^;
- 153 名前:WISH 投稿日:2001年11月15日(木)00時32分19秒
- しばらくすると突然扉が開いた。
平家先生が中澤先生を連れて来たようだ。
「なんや、ホンマに説教せなアカン相手が二人もおるんかいな」
そう言いながら私と市井ちゃんの顔を見た中澤先生の表情が少し固まる。
いや、正確に言うと市井ちゃんの顔を見て動きが止まった。
市井ちゃんはというと、そ知らぬ顔で窓の外を眺めていた。
その様子に全く気付いていない平家先生はドアの入り口付近で
立ち止まっている中澤先生の背中を軽く押す。
「裕ちゃ…あ、いや……中澤先生、なんで止まってますのん?
早よ、進んで下さいよ」
「…わかってるがな」
中澤先生はこめかみの辺りに手を当ててため息をつき
そのまま私達の前の席についた。
平家先生もその横に座る。
「で?アンタ等何やってたん?事情はさっき平家先生から簡単に聞いたけど」
中澤先生は腕を組んで私達二人を見比べている。
「「何もしてません」」
二人の声が重なってお互いに顔を見合す。
それを見て中澤先生は片眉を上げ、椅子の背もたれに思いっきり体重をかけた。
- 154 名前:WISH 投稿日:2001年11月15日(木)00時33分03秒
- 「我が校の問題児が揃うっつーのも珍しいけどな」
中澤先生はそう言いながらも私の顔なんて見ていない。
ずっと市井ちゃんの方を見ている。
私としてはなんかシカトされてるみたいで面白くない。
「平家さんも平家さんやで。自分のクラスの子くらいちゃんと叱りや」
急に自分に振られるとは思っていなかった平家先生は
その言葉に少し戸惑っていた。
「あ、いや…そんな事言われましてもね…」
「まぁええわ。後藤…今度また何かやらかしたら反省文書かすからな」
「……」
「じゃ、もう帰ってええよ」
「…え?」
中澤先生から出た私が予想もしてなかった言葉に自分の耳を疑った。
中澤先生の隣に座っている平家先生も驚いている。
説教らしい説教もしてないのにもう終了?
そんなのでいいわけ?
なんか面白くないけど、まぁいいや。
- 155 名前:WISH 投稿日:2001年11月15日(木)00時34分20秒
- 「中澤先生、あたしももういいでしょ?」
私が立ち上がると隣で市井ちゃんが鬱陶しそうに頭をかいてそう言った。
「アホか、アンタの説教はこれからや」
「…何もしてないって言ってるじゃないですか」
「嘘はバレバレやで。それにちょっと話しておきたい事もあるしやな」
「……」
「後藤は帰ってええよ。っていうか、邪魔やから早よ出てってくれ」
ボーッとしていた私に中澤先生から冷たい一言。
言われなくなって出て行くよ。
私はちょっとムッとしながら部屋を出た。
私はいつも何かをやらかして、その度に生徒指導室へ連れて行かれる。
しかし何の御咎めもないままに開放されてしまう。
学校としては何も問題事がないようにしたいのだろう。
私はそれが気に入らなくて何度も同じような事を繰り返す。
それでも学校側の対応はいつも同じだ。
私としては大事になって欲しいのに。
それにしても今日は更に酷かった。
説教すらないだなんて。
- 156 名前:WISH 投稿日:2001年11月15日(木)00時35分18秒
- いつの間にか昼休みになっていた。
人ごみが嫌いな私は学食を利用しないし、教室で弁当を食べるわけでもない。
朝に立ち寄ったコンビニの袋を提げて私は屋上へ来ていた。
最近少し肌寒くなって来たので周りには誰もいない。
元々、生徒はあまりここへ来てはいけないと言われていた。
柵が低いので危険という理由かららしいが
いつも鍵が開いている現状を思うと出入り禁止という言葉を
ほのめかしているのは全く無意味だと思う。
私は柵にもたれて座り、大きくため息をつく。
いつからだっけ。
こんな生活をするようになったのは。
ちょっと前まではちょっと人付き合いが苦手なだけの
ごく一般的に普通の生徒だった。
それが今では学校の問題児。
無駄な抵抗ばっかりしてるというのは自分でも気付いているけれど。
それでも私は反抗し続けなければならない。
- 157 名前:WISH 投稿日:2001年11月15日(木)00時36分01秒
- 「こんなとこで何やってんの?」
そう言いながら屋上の扉から姿を見せたのは
中澤先生からの説教を終えた市井ちゃんだった。
「…別に」
私は素っ気無く答える。
何をしにここへ来たのだろう。
「昼御飯いつもここで食べてんの?」
「……」
「…うーん、愛想ないね」
私の態度を全く気にしていない市井ちゃんは私の横へ来て座る。
さっさと立ち去ってくれるのかと思ってたのにどうも居座るつもりらしい。
仕方なく私は口を開く。
「何?なんか用?」
「いや、あたしもここで御飯食べようと思って」
無表情の私に対して笑顔の市井ちゃん。
言葉の通り、手にはお弁当箱がある。
もの凄く居心地が悪い。
でもだからと言って私の方からこの場を去るのもなんとなく嫌だし。
それに御飯はちゃんと食べたい。
ここ以外に人がいなくて食事出来る場所なんてないし。
結局、無言でコンビニ袋から牛乳とパンを取り出す。
さっさと食べて立ち去ろう。
- 158 名前:WISH 投稿日:2001年11月15日(木)00時37分36秒
- 「あ、そういやさ。さっき中澤先生から聞いたんだけど後藤って
あの理事長の娘の後藤だったのかー。
後藤って名前に聞き覚えはあったけどまさかなーって思ってたんだ」
「……っ」
突然一番触れて欲しくない所を触れられて私は一瞬言葉を失った。
「それにしても理事長の娘が問題児ってある意味スゴイなー」
「…うるさいな!」
「うわっ!」
手にしていた牛乳パックを力一杯握り潰してしまい
まだ一口も飲んでいなかった中身がストローから噴射して
市井ちゃんの全身が真っ白に染まった。
「……あ」
その市井ちゃんの姿を見て頭に血が上っていたのがスッカリ冷める。
さすがに負い目を感じた。
ちゃんと謝った方がいいのかな…。
っていうか、なんでこんな目に。
大体、こんな話題をしてきた方が悪いんじゃん。
でもやっぱ謝らないとダメだよなぁ…。
頭の中で色々葛藤しながら市井ちゃんの顔を恐る恐る見てみると
市井ちゃんはあまりの事に放心状態だったけれど
しばらくして口元に流れてきた牛乳をペロリと舐めた。
「牛乳飲んだら背伸びるのかな?」
「…へ?」
- 159 名前:WISH 投稿日:2001年11月15日(木)00時38分52秒
- 「もうちっと身長欲しかったんだけどねー」
「…今頃飲み出しても伸びないと思う」
「だよねー」
イヒヒ、といたずらっぽい笑顔を見せる市井ちゃん。
普通なら怒るとこだと思うんだけど。
なんだか拍子抜けした。
「ゴメン…」
私が自分のハンカチで服を拭いてあげながら言うと
市井ちゃんは手でストップをかけた。
「いいよ、別に。聞かれたくない話をしたこっちが悪いんだし」
「……」
「体操服に着替えたらいい事だしさ…って、あ
……しまった、今日体育ないんだった」
体操服持って来てないや、と市井ちゃんは苦笑いしている。
「後藤のを着たらいいよ。ちょっと待ってて」
私がそう言って立ち上がると市井ちゃんは申し訳なさそうな顔をしていた。
「迷惑かけてワリーね」
「…悪いのはやっぱこっちだから」
- 160 名前:アリガチ 投稿日:2001年11月15日(木)00時40分30秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<更新激遅って言ってたくせに!
今だけ早めで後の更新が滞る可能性があるという事で(^^;
- 161 名前:つけました。145 投稿日:2001年11月15日(木)04時14分35秒
- え〜〜無事やどり着きました.
新たにスタートですね。ワクワク
- 162 名前:WISH 投稿日:2001年11月17日(土)00時32分39秒
- ロッカーを目指して走る。
早く着替えないと風邪でも引かれたら厄介だ。
でも市井ちゃんってなんか憎めない性格をしてる人だと思った。
だからと言ってわざわざ仲良くしようとは思わないけど。
授業中に密会してるような人間なんだから一癖ありそうだ。
ロッカーから体操服を出していると。
後ろから偶然私に対する噂話が耳に入った。
「また後藤が何かやらかしたらしいよ」
「理事長の娘だもん。何をやったって怒られないんだからいいよね」
「やりたい放題だもん。だからって、ちょっといい気になり過ぎだよね」
「ねー」
気分が悪い。
吐き気がした。
こっちはそれが嫌だと思っているのに。
「何か言った?」
わざわざ噂話をしていた二人の前へ立つ。
私の姿に気付かず話し込んでいた二人は飛び上がった。
「べ、別に何も言ってないよ」
「そ、そうそう。後藤さんって人と違ったオーラを持っててかっこいいなーって話してたんだ」
二人はぎこちなく笑みを浮かべて嘘を並べる。
ますます気分が悪くなった私はそのまま何も言わず来た道を引き返した。
- 163 名前:WISH 投稿日:2001年11月17日(土)00時33分21秒
- 屋上に戻ってくると、市井ちゃんは自分のハンカチで髪の毛を乱暴に拭いていた。
「あ、おかえり」
「……」
「どうかした?」
「……」
「なんかさっきより無愛想になってない?」
市井ちゃんは黙り込んでいる私を見てキョトンとしている。
なんでこんな思いまでして学校なんかに来なくてはいけないんだろう。
私は別に理事長の娘になんてなりたかったわけじゃない。
子供には親を選ぶ権利なんて持ちあわしていないんだから。
お陰でこのまま午後の授業を受ける気がますます失せてしまった。
「はい、これ。早く着替えた方がいいよ。じゃ」
「へ?」
私は無理矢理持ってきた体操服を市井ちゃんに手渡し
屋上を降りる階段へ無言で進んだ。
「御飯、食べないの?」
後ろから市井ちゃんが呼びかけてるけれど
それを無視する。
一人っきりになりたい。
イライラしてる状態で誰かと一緒にいる余裕なんて全くないから。
「コレ、ありがとー。ちゃんと洗って返すからー」
市井ちゃんはそれでもまだ何も言わない私に声をかけていた。
- 164 名前:WISH 投稿日:2001年11月17日(土)00時34分27秒
- 駅のロッカーに入れていた私服を取り出し
トイレで着替えて街へ出る。
これが私の日課だ。
家に真っ直ぐ帰る事もない。
いつも夜遅くまで街をうろつき、適当な時間に帰る。
帰りがほとんど午前様の父に会う事もないし。
お店をしている母もいつも遊び呆けている弟とも会う事がない。
うちは一家団欒という言葉からかけ離れた家族だった。
しばらく街をうろついて、たまたま近くにあったファーストフード店に入った。
結局、昼御飯を食べていなかったのでかなりお腹が空いていたのだ。
店内は空いていたので窓越しの席を陣取り、ボーッと外の風景を眺める。
昼下がりという事もあって歩いているのはサラリーマン風の人が多い。
ハンバーガーを完食してもまだぼんやり窓の外を眺めていると
見覚えのある服装が目に入った。
というか、正確には見覚えのある人物が目に入った。
そして向こうも私の視線に気付いたのか
たまたまこのお店を見たのかわからないが私の姿に気がついた。
体操服を着た市井ちゃんが誰かと一緒にいたのだ。
- 165 名前:アリガチ 投稿日:2001年11月17日(土)00時37分11秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<紗耶香とごっちんはよく出会うわね!
>145さん
無事に行けましたか、それはよかった。
今度は少し長くなるかもしれないので
それでもよければお付き合い下さいませ(笑)
- 166 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月17日(土)14時49分18秒
- アリガチさんの新作が始まってる!
いちごまですか?楽しみです〜。
- 167 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月17日(土)18時03分35秒
- おっ、新作ですね。続き期待!!
- 168 名前:WISH 投稿日:2001年11月17日(土)23時28分51秒
- 「学校、サボったの?」
市井ちゃんはお店に入ってくるなり迷いもせずに私の前の席に座った。
なんで一日に何回も会うんだろう。
それが不思議で仕方なかった。
「そう言う市井ちゃんも学校サボってデート?」
私がどうでもよさそうにコーラを飲みながらそう言うと
市井ちゃんは笑ってみせた。
「いやー、服は着替えても身体がどうも牛乳臭いからさー。
どうせなら、もう帰ろっかなーって」
普通なら嫌味に聞えても仕方のないような言葉だったけど
むしろ市井ちゃん自身がやらかした失敗のように聞えて
嫌味とはかけ離れた感じだった。
「で、さっきの人は?」
ちなみに市井ちゃんと一緒にいた人はここにはいない。
市井ちゃんはさっき私を発見した時に
一緒にいた人とはあっさり別れてここに入ってきたのだ。
「あー、あの人ね。さっきたまたま一緒になっただけ」
「へー、後藤が爆竹鳴らしてた時にいた人とは別の人だったね」
「まあね」
モテそうだもんね、市井ちゃんって。
それにしても根っからの遊び人って感じがして
どうしても私は市井ちゃんに対して好意的にはなれない。
- 169 名前:WISH 投稿日:2001年11月17日(土)23時34分16秒
- 「誰にでも好かれるっていうのはさぞかしいい気分なんだろうね」
私が皮肉を言うと市井ちゃんは口元に手を当てて軽く考え込む仕草をした。
「んー、それはちょっとなんとも言えないなー。
だって別にああいう相手ってあたしの好きな人ってわけじゃないから」
向こうが勝手に好いてくれてるだけだもん、と市井ちゃんはなんなく言う。
「爆竹の時にいた人も好きな人じゃないの?」
「うん、違うよ」
なるほど、だからか。
きっと相手も市井ちゃんを遊び相手だと割り切ってるんだろうな。
だからあの時市井ちゃんを見捨てて逃げて行ったんだ。
それにしても結構薄情者だなぁ。
「でも…好きじゃないのに付き合ってるの?」
「そうだよ。変かな?」
「…変」
私の答えに対して市井ちゃんは軽く首を傾げていた。
何がおかしいのかわかっていないようだ。
ちょっと私には理解出来ない。
好きでもない相手と一緒にいるだなんて。
「あたしは……付き合ってる人がいても決して自分の心は動くことがないから」
「え?」
一瞬何を言ってるのかわからなくて、私は市井ちゃんの顔を見直した。
- 170 名前:WISH 投稿日:2001年11月17日(土)23時35分20秒
- 市井ちゃんは頬杖ついて窓の外を眺めていた。
それは今日初めて見た、少し陰のある表情だった。
どこか自分と似たモノを持つ人なのかもしれないと、その時ちょっと思った。
++++++
「…どうでもいいけど臭い」
私は鼻に手を当てて、ずっと黙ってた言葉を口にする。
それを聞いて市井ちゃんはちょっとムッとした。
「ちょっと待て、コラ。誰のせいでこんな事になってると思ってんの?」
「さ〜?知らない」
「…結構いい根性してんね」
「まぁね」
私が当たり前のようにそう言うと市井ちゃんは首を軽く横に振ってため息をついた。
「それにしても参ったなぁ。バイトまでに家に帰って風呂入る時間がないんだよなぁ…」
「え?バイトしてんの?」
うちの学校ってバイト禁止だったような気がするけど。
隠れてやってるのかな。
- 171 名前:WISH 投稿日:2001年11月17日(土)23時36分13秒
- 私の考えなんてお見通しのように市井ちゃんは口を開く。
「うちの家は貧乏だからね。ちゃんと許可貰ってやってるんだ」
「ふーん」
学校からの許可が下りるって事は本当に貧乏なのか。
こんな事を本人に言ったら怒られるかもしれないけれど。
それくらいうちの学校はバイトに厳しいところだ。
って事は、本当に今困ってるって事になる…。
「…じゃ、うちの家来る?こっから近いから時間に間に合うかもよ?」
市井ちゃんをこんな目に合わせたのは私だし
体操服貸しただけで責任逃れするのもさすがに気が引けるので
仕方なく自分から案を出した。
そして市井ちゃんはその案を聞いてパッと明るい表情になった。
「いいの?」
「今なら誰もいないと思うし」
「メチャ助かる!」
結局なんだかんだいっても人がいい自分が自分でなんとなくおかしかった。
- 172 名前:アリガチ 投稿日:2001年11月17日(土)23時38分37秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<なんか前回ホクロがデカイ気がするわ!
>166さん
今回はいちごまにしてみました(笑)
>167さん
ありがとうです、ボチボチやっていきます(笑)
- 173 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月21日(水)07時51分07秒
- ほんとだ、ホクロがデカイ(w
- 174 名前:WISH 投稿日:2001年11月21日(水)21時45分33秒
- 「スッゲー!!後藤の家ってスゲーデカいね!」
市井ちゃんは私の家を発見するなり、こう叫んでいた。
自分で言うのもなんだけど、うちの家は金持ちなので敷地も広い。
それに改築したばかりなので綺麗なのだ。
でも私にとってはどうでもいい事なので何も言わずにドアの鍵を開ける。
家の中に入ってもまだ市井ちゃんはキョロキョロ周りを見渡しながら
歓喜の声をあげまくっていた。
「風呂場はあそこだから。あとで着替え持ってくよ」
「サンキュー」
市井ちゃんはニコニコしながら、そのまま風呂場に入っていった。
私は自分の部屋へ行き、適当に着替えになる服を手にして
ため息をついた。
何やってんだろ。
今日逢ったばっかりの人を自分の家に上げて。
しかもお風呂まで使わせて。
本当に何やってるんだろ。
- 175 名前:WISH 投稿日:2001年11月21日(水)21時46分48秒
- 気分が沈んだまま着替えを風呂場に持って行く。
「ここに着替え置いておくから」
「わかったー、サンキュー」
ドア越しに声をかけるとエコーのかかった市井ちゃんの声が聞こえてきた。
お風呂から出たらさっさと出ていってもらおう。
そして私もまた出て行こう。
この家にはずっといたくない。
いるのは寝てる時だけで充分だ。
今日何度目なのかすでに数え切れなくなったため息をつきながら
私がお風呂場から出るのと同時に玄関の扉が突然開いた。
「…こんな時間に何をやってるんだ?」
…それは父だった。
- 176 名前:WISH 投稿日:2001年11月21日(水)21時48分15秒
- 「…こんな早い時間に帰ってくるなんて珍しいね」
私は表情が固まったままでそれでも視線は外して口を開いた。
父は靴を脱ぎながらそれでも視線を私にやる。
私がそれを見なくても突き刺さる視線を感じる事が出来た。
「書類を忘れたので取りに戻ってきた。そんな事はどうでもいい。
今の時間はまだ授業中のはずだろう?どうして家にいるんだ?」
「…ちょっとしたアクシデントで友達が牛乳被っちゃったから
お風呂を貸す為に家に帰って来たの」
「学校にもシャワー室があるだろう。わざわざ家に帰って来なくてもいいはずだ」
そう言われて初めて気がついた。
そうだ、シャワー室があるじゃん。
市井ちゃんも気付けばいいのに。
こんな事を今頃気付いてももう遅いけど。
それからずっと玄関口で父の説教を聞くハメになってしまった。
- 177 名前:WISH 投稿日:2001年11月21日(水)21時52分13秒
- 「…時間がないから今日はこの辺にしておく。
くれぐれも後藤の名に恥じぬ行動をするように…いいな」
ピシャリと言い放ち、忘れたと言っていた書類を手にして父は出て行った。
私は俯いてその場に立ち尽く事しか出来ない。
しばらくしてガチャッと背後から音が聞こえた。
振り向くと頬をポリポリかきながらお風呂上りの市井ちゃんが出て来た。
肩にバスタオルをかけて髪から雫がポタポタ落ちている。
「…聞えたんでしょ?」
私が無表情で言うと市井ちゃんは曖昧な顔になった。
「んー、まぁ…」
「まさか、こんな時間に戻ってくるとは思ってなかったよ」
私は俯いて唇を噛んだ。
市井ちゃんはそれに対して何も言わなかった。
しばらく二人とも無言の状態が続く。
軽く息をついて私は顔を上げて市井ちゃんを見ると
市井ちゃんはまたポリポリと頬をかいていた。
「…お茶でも出すよ。こっち来て」
- 178 名前:アリガチ 投稿日:2001年11月21日(水)21時54分18秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<プッチが2位だなんて!
>173さん
たまにホクロが大きくなったり小さくなったりするんです(笑)
- 179 名前:117 投稿日:2001年11月22日(木)10時07分49秒
- 新しいの始まってますね!!気付くの遅っ(w
ホクロ大小に笑ってしまった・・・
- 180 名前:WISH 投稿日:2001年11月22日(木)22時58分50秒
- リビングに入ってお茶を出す。
私達はソファーに横に並んで座っていた。
お茶を一口飲み、大きく息を吐いて市井ちゃんは私の顔を見ず
口を開いた。
「…お風呂ありがとね。助かったよ」
「これくらい別にいいよ」
私もそれだけ言ってお茶に手を伸ばす。
さっき聞いた事を市井ちゃんは話題にしようしない。
きっと私が学校で家の事を触れられた時に激怒したからだろう。
横にいる市井ちゃんを見ると何事もなかったかのように
ガシガシとバスタオルで髪の毛を拭いている。
…そんな風にしたら髪が痛むのに、とぼんやり私は思っていた。
「…さっきの」
「へ?」
私が急に話し出したものだから市井ちゃんはキョトンとしていた。
何故か私は自分から自分の嫌いな話題を出していた。
「…父はね、お母さんの再婚相手なんだ」
「……へー、そうなんだ」
市井ちゃんは髪を拭いていたバスタオルをテーブルに置き
腕組みをして静かに私の言葉の続きを待っている。
- 181 名前:WISH 投稿日:2001年11月22日(木)23時04分50秒
- どうしてこんな事を話そうという気になったんだろう。
誰にも自分からは話した事なんてなかったのに。
自分でもよくわからない。
「後藤のね、本当のお父さんは小さい頃に事故で亡くなってさ…。
それでお母さんが一人でお店をしながら育ててくれてた。
でもいつ知り合ったのか興味がないから聞いてないけど
あの理事長である父と再婚したの。
本当のお父さんの事が大好きなのは変わりがないけど
お母さんも大好きだから再婚するって言われた時に
後藤は特に反対とかはしなかった。
一人で頑張ってるお母さんがそれで幸せになれるなら別にいいや、って」
「……うん」
「でもね、後藤は父の事がどうしても好きになれない。
最初は少しでも合わそうとしたけど…でもダメだった。
考え方が全く正反対なんだもん。
あの人は自分が偉い人だからって人目ばっか気にするの」
- 182 名前:WISH 投稿日:2001年11月22日(木)23時05分39秒
- 「他人を見下してばっかり。
自分の子供がバカなのは許せない。そんなの認めない。
塾へ行け、家庭教師を雇ったらどうだ、とか。
自分の家族になったからにはいい大学に行って
そしていつかは将来有望な旦那を見つけろって。
後藤の意思は完全無視。
顔を合わす度に文句ばっかり。
だから後藤はいつも家にいないようにしてる…」
「……」
「勉強が大切なのはわかるけどまずは自分がやりたいって思う気にならないと
意味がないと思う。
でもそんなのわかってくれない。
お前の為を思って言ってるんだ、って口癖のようにいつも言うけど
後藤からしてみれば自分の為に言ってるんじゃん、って思っちゃう。
後藤はあの人の見栄の為に生きてるわけじゃない。
しかも全部お母さんのいないところで言うんだもん。大人って汚いよ…」
「……そうだね」
市井ちゃんはそう言いながら私の頬に触れた。
そして気がついた。
私の目からいつの間にか零れていた涙の存在に。
- 183 名前:WISH 投稿日:2001年11月22日(木)23時06分34秒
- 「だから爆竹を鳴らしてたの?」
市井ちゃんが私の涙を拭ってくれながら言う。
「…学校で何か問題を起こせば退学にしてもらえる。
あの人がいる学校なんかに行きたくない。
それにあの人の名前に傷をつけてやりたいから。
でも学校側は何もなかったかのように
あの人にバレないように対応しちゃう。
それが……悔しい」
「……」
私の目からボロボロと零れる涙を市井ちゃんは何度も拭ってくれる。
いつもだったらその手を払うのだけど。
今の私は何も抵抗せずにされるがままでいた。
「周りの人だってそう。
私が理事長の娘だから特別扱いされて調子にのってるって思ってる。
こっちだって何も考えずに問題ばっか起こしてるわけじゃないのに。
今まで仲良くしてた子だって離れて行っちゃった。
後藤の中身は親が再婚しても何も変わってないのに。
誰もそんな事すらわかってくれない。
もう…何もかもが息苦しい……」
- 184 名前:WISH 投稿日:2001年11月22日(木)23時07分10秒
- どうしてこんな事を市井ちゃんに話しているんだろう。
きっと市井ちゃんが自然だからだ。
他の皆と違って私の事を詮索しようとしないから。
「……そっか」
市井ちゃんはそれだけ言って、私の身体を抱き締めて来た。
私はそれでもまだ抵抗する力もなくてされるがままでいた。
むしろ、ずっと前から誰かにこうしてもらいたかったのかもしれない。
私は今までこうして自分の気持ちを誰かに話す事がなかったから。
でも別に心を許したわけじゃない。
ただ今の私は弱気になってるだけだ。
「後藤は誰にも頼らない、一人でも生きていける…」
抱き締められたままで言うような台詞じゃないとわかってる。
でもそう言わずにはいられなかった。
市井ちゃんは何も言わず、私を抱き締めたままで
ずっと頭を撫でてくれていた。
- 185 名前:アリガチ 投稿日:2001年11月22日(木)23時09分13秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<ごっちんの意地っ張り!
>117さん
ボチボチ新作始めてみました。
またーり待ってて下さいませ。
- 186 名前:WISH 投稿日:2001年11月27日(火)01時07分41秒
- 「…重い」
私はホースを手にして眉間にしわを寄せていた。
何をしているのかと言うと
いつも通り学校への嫌がらせをする為に
朝早く登校して廊下中を水浸しにしてまわっていた。
ある程度廊下が私の満足のいく惨状になったので
今度はホースを片付けていたのだけれど。
このホースがとんでもない長さで非常に重い。
手洗い場の蛇口の方からずっと巻き戻していたら
その途中でホースが軽くなった。
なんで?
首を傾げながらホースの先の方を見てみると
そこには生徒会長と副会長が立っていた。
「ホースがないと思ったらー!」
私達の他に誰もいないこの廊下中に副会長の声が響き渡る。
ちなみにホースが軽くなったのは彼女が手にしているからだった。
「…ゲ」
私は口が開いた口が塞がらなかった。
まさか、この二人に見つかるとは…。
- 187 名前:WISH 投稿日:2001年11月27日(火)01時09分23秒
- 生徒会長と副会長は三年生だ。
三年であるこの二人がまだ生徒会長と副会長をしているというのは
他の学校からしたら少しおかしいのだろうけれど。
うちの学校はエスカレーター式なので上に行くのに大した受験はない。
つまり二人とも他の大学を受けないので
このまま生徒会の役に就いているというわけだ。
この様子だと副会長が所属している園芸部で水やりするのに
必要なこのホースを探していたらしい。
どうやらタイミングが悪過ぎたようだ。
「後藤…アンタ、何やってんの?」
生徒会長は腕を組んで私を軽く睨みつけていた。
「……」
やっかいな相手に見つかってしまった。
この生徒会長の説教は平家先生や中澤先生よりも長いのだ。
案の定…。
- 188 名前:WISH 投稿日:2001年11月27日(火)01時10分14秒
- 「あのねー、今の時期はまだいいけどね。
夏になったら四国の人とかいつも水不足で困ってるんだよ?
水がなくなったら大変なんだよ。
水がないと人は生きていけないんだよ。
そういう人の為に圭織達も水が大切だって
日頃から思ってなくちゃいけないのに。
それなのにこんなに無駄に水を撒いちゃって…」
水巻きのいたずらしただけで水不足の話をされても…。
四国の人の話をされても…。
それに四国の人の為に私達が大切だと思わなくちゃいけないって言われても
その地域ごとにダムとかあるじゃん…。
そういえば水不足のニュースでよく見た四国のダムは高知だったっけ。
っていうか、やっぱり関係ないじゃん…。
どうでもいいけど彼女の説教はいつもツッコミどころが満載過ぎて困る。
それでもまだ人間の身体の約60%を占める水分の大切さとか
わけのわからない方向へと話が続いている。
私がため息をついているとちょうどまた平家先生がやってきた。
「わー!なんやねん、コレー!!」
そう言った瞬間に平家先生は足を滑らせ、派手に転んだ。
- 189 名前:アリガチ 投稿日:2001年11月27日(火)01時12分11秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<みっちゃん・・・ぽろり。
MUSIX・・・あれだけなのか。
寂しいですな・・・。
- 190 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月27日(火)20時33分59秒
- ごっちんは嫌がらせの為なら早起きするのね(笑)
- 191 名前:WISH 投稿日:2001年11月28日(水)00時34分49秒
- 「…イタタタタ」
「……」
平家先生は転んだ時に激しく腰を打ってしまったらしく
まだ腰を擦りながら辛そうな顔をしている。
その横で私は首をすくめていた。
結局私はまた生徒指導室へ連れて行かれている。
私がやらかした水の処理は生徒会長達があたっていた。
「まったく…廊下に水撒いたらどうなるかなんてわかってるやろ!?
まだ転んだのがアタシやから良かったものの総体とか行く子が転んで怪我でもしたら
責任取れるんかいな!?」
「うちの学校にそんなに凄い人いましたっけ?」
「…ちょこっとだけおるわ」
分が悪そうに平家先生は小声でそう言った。
うちの学校はどちらかと言えば勉強に力を入れてるはずなんだけど。
スポーツ系はどの部もさほど目立ってないと思う。
そういえば同じクラスの吉澤とかいう人がバレーで総体の選手になってたっけ。
他人に興味がないから、あまり知らないけれど。
でも確かに知らない誰かにまで被害が及んだらやっかいだ。
今度からはちゃんと考えて違った事をやろう。
- 192 名前:WISH 投稿日:2001年11月28日(水)00時36分40秒
- 生徒指導室の入り口まで来たが平家先生は足を止めてしまった。
「どうしたんですか?」
「んー、どうも先客がおるようやなぁ。この声は中澤先生と市井やね」
アゴに手を当てて考え込むようなポーズをしている平家先生。
言われてみれば部屋の中から小声でボソボソと声が聞える。
市井ちゃんもまた何かやらかしたんだろうか。
といっても、市井ちゃんがやる事といったら
また女の子を連れまわす事くらいだろうけど。
「ま、いつも通りの説教やろうから入るか」
平家先生はノックをしてお邪魔します、と言いながら勝手にドアを開けた。
私は平家先生の後ろから部屋に入る前に中の様子を伺った。
いきなり入ってきた平家先生と傍にいる私を見て
中澤先生は少し驚いているようだった。
そして私に背を向けている市井ちゃんの様子はわからなかった。
- 193 名前:WISH 投稿日:2001年11月28日(水)00時37分48秒
- 「市井…アンタもまた何かやらかしたんかいな?」
平家先生は遠慮なく中に進み、中澤先生の横についた。
私もとりあえず中へ入る。
市井ちゃんを見ると憮然とした表情になっていた。
どうしたんだろう。
そんなに中澤先生の説教が嫌だったのかな。
もしかして中澤先生の事が嫌いなのかな。
初めてここで逢った時もこんな感じだったけど。
でも今日はもっと不機嫌そうだ。
それにしても朝っぱらからこんなところに呼び出されるなんて。
私の場合は現行犯だから仕方ないんだろうけど。
市井ちゃんも朝っぱらから何をやったのだろう。
なんかこの状況が腑に落ちなかった。
- 194 名前:WISH 投稿日:2001年11月28日(水)00時38分24秒
- 何も言わない市井ちゃんを見て平家先生は肩を上げて
今度は中澤先生に同じ事を聞いていた。
「…まぁ、いつもの事やわ。色んな女の子と遊び呆けてるっちゅーやつやわな」
中澤先生が言いよどみながらそう言った瞬間に市井ちゃんは立ち上がった。
「中澤先生…話はもう終わりましたよね?もう戻っていいですか?」
「んー…まぁ、ええよ」
中澤先生は少し躊躇っていたが市井ちゃんはその言葉を聞いて
さっさとドアに向かって歩き出す。
「なんや、珍しく機嫌悪そうやなぁ…」
市井ちゃんの姿を目で追いながら平家先生が呟く。
同じような事を思っていた私は心の中で平家先生に同意していた。
「市井…変わってしもうたなぁ…」
中澤先生の独り言っぽいこの言葉を聞いてドアを開けようとした
市井ちゃんの手が止まった。
変わった?
以前はこんなんじゃなかったって事?
しかし市井ちゃんは何も言わずそのまま出て行ってしまった。
- 195 名前:アリガチ 投稿日:2001年11月28日(水)00時40分51秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<私の出番はいつなのよ!
そういや、ヤッスー出てきてなかったっけ。
>190さん
ごっちんは嫌がらせするのに必死ですから(笑)
- 196 名前:名無し読者。 投稿日:2001年11月29日(木)04時11分05秒
- 中澤先生と市井の過去が・・・気になるYO!
- 197 名前:WISH 投稿日:2001年11月29日(木)22時38分50秒
- 前回同様、中澤先生的に私より市井ちゃんへの説教の方が大事だったらしく
私への説教はどうでもいい簡単な言葉で終了してしまった。
いつもだったら不満に思うところなのだが
生徒会長からわけのわからない説教を受けた後だったので今日はそれが有難かった。
市井ちゃんは何を説教されていたのだろう。
生徒指導室にいる時からずっとひっかかっていたのだけれど。
市井ちゃんの事を何も知らない私にはサッパリわからない。
私が知ってる市井ちゃんと言えばただの女好きという事だけだ。
そしてどうしてこんなに気になっているのか自分でもよくわからなかった。
生徒指導室を出ると待ち構えていたかのように市井ちゃんが
入り口で待っていた。
そして私を見るなりニッコリ笑顔になった。
さっきの憮然としていた表情がまるで嘘のようだ。
「また何かやったの?」
それはこっちの台詞だよ。
というか、お互い様のような気がする。
そしてこの前自分の愚痴を散々聞かせてしまった挙句に
抱き締められた事を思い出して少し気まずくなる。
改めてあの時の事を思うと頭痛がする。
弱気になると何をやり出すか自分でもわからないという事か。
- 198 名前:WISH 投稿日:2001年11月29日(木)22時40分16秒
- 「なんだー?また無愛想になっちゃって」
何も言わない私を見て市井ちゃんは不思議そうな顔をしている。
「…元からこういう顔なの」
私はそれだけ言って歩き出す。
市井ちゃんも頭に手をやりながら私の後をついてくる。
一時間目の授業が終わって今は休み時間になっていた。
廊下にはチラホラ人が出ている。
その人の固まりを避けながら私はさっき少し疑問に思った事を考えていた。
どうして市井ちゃんはわざわざ私を待っていたんだろう。
私の事情を知ったからって同情してるんだろうか。
一人ぼっちの私が可哀相だからって今こうしているのなら
それはそれでかなり侮辱されたような気分になる。
「おーい、圭織ー、りんねー。何やってんの?」
私が今何を考えてるのかなんて全く気にしていないかのように
市井ちゃんは突然窓ごしから大声で叫んでいた。
私も窓の下を見下ろしてみると花壇で何かをやっている
生徒会長と副会長の姿が確認出来た。
「お花の水やりをしてるんだよー」
副会長が嬉しそうに市井ちゃんの問いかけに大声で答えている。
ホースが必要と言ってた理由はコレだったのか。
- 199 名前:WISH 投稿日:2001年11月29日(木)22時41分34秒
- 「知り合いなの?」
私がそう言うと市井ちゃんは頷いた。
「中学の時からの同級生。幼馴染みたいなもんだね」
それを聞いてやっかいな幼馴染を持ってるんだなぁ、と私は心から思った。
普段の何気ない会話も説教の時みたく、あんなに難解な内容なのだろうか。
それを毎日のように聞く羽目になるのは私だったら御免だ。
私がそんな事を思っている間も市井ちゃんは生徒会長達との会話を進めていた。
そしてイキナリぼんやりしていた私の手を取り歩き出す。
突然の事に私は驚いた。
「な、何?」
「いたずらしたお詫びに手伝いに行こう」
「えー!?」
市井ちゃんはニカッと笑ってズンズンと先へ進む。
どうやらぼんやりしていた間に今朝の事が全てバレてしまったようだ。
ガッチリと握られた手を払う事が出来なくて
そして私のいたずらの後始末を
あの二人がしてくれたという事実を知っていた為
仕方なく言われた通りについて行く事にした。
- 200 名前:WISH 投稿日:2001年11月29日(木)22時43分29秒
- 「いつ見ても凄いね」
市井ちゃんは花壇を目にして驚きの声をあげていた。
花壇にはいくつもの秋の花々が咲き乱れていた。
コスモス、サルビア、マリーゴールドなど。
他にも色んな種類があったけれど花に詳しくない私には見ても名前がわからなかった。
「そりゃ、りんねがいつも頑張って育ててるもん」
副会長はそう言いながら嬉しそうに水やりをしている。
生徒会長はその姿を幸せそうな顔をして見ていた。
「あ、そういや紗耶香ー。圭ちゃんがさっき探してたよ」
「圭ちゃんが?」
「別に急いでるって感じでもなかったけどね」
「うーん、この後の授業で逢うけどなんか後でうるさそうだしなー。
しょうがない、こっちから逢いに行くか」
ラッキー。
ということは、もう手伝いしなくてもいいって事だよね。
私がそんな甘い事を思っていると市井ちゃんはそれを見透かしたようにこう言った。
「じゃ、後藤。アンタはちゃんと手伝いしなよ。後はよろしく、二人とも」
「……」
片手を挙げて笑顔でじゃーね、と去っていく市井ちゃんを見届けていると
途中で女の子達に早速声をかけられていた。
- 201 名前:WISH 投稿日:2001年11月29日(木)22時44分13秒
- 「…市井ちゃんって本当にモテるんだねぇ」
私が独り言のように呟くとそれを聞いた生徒会長も頷いていた。
「っていうか、アンタ達が知り合いだったっていうのに圭織はビックリだけどね」
「別に知り合いってわけじゃないよ」
「だって『市井ちゃん』でしょ。仲がいい証拠じゃないの?」
「そんなんじゃないって言ってるじゃん」
私はどうでもよさそうな顔をして生徒会長に言うとその隣にいた副会長は顔を強張らせていた。
「…後藤さんってどうしていつもそんなに不機嫌そうなのー?
笑ったら可愛いんだろうなぁ、って思うのに、もったいないなぁ」
「じゃあ、どうして副会長はいつもそんなに泣きそうな顔をしてるの?」
「コラ!後藤!!りんねをイジめないでよね!」
あ、ヤバイ。
本当に副会長が泣きそうな顔になっちゃった。
下手したらまた生徒会長から説教される。
一日に二度も説教なんてされたくない。
私は慌てて話題を変えた。
- 202 名前:WISH 投稿日:2001年11月29日(木)22時44分59秒
- 「そういや、さっき市井ちゃんから聞いたんだけど
二人は市井ちゃんと中学校の時からの同級生なんでしょ?
市井ちゃんって前からあんな感じだったの?」
悪いけど話のネタにさせてもらおう。
このままだと自分の立場がドンドン悪くなりそうだし。
「んー?いや、前から相変わらずモテてたけど。
でも今年の春頃からだよねぇ、今の状態になっちゃったのって」
「…りんね。それくらいにしときなよ」
生徒会長は副会長の肩に手を当てて諭すように言った。
そして副会長は何かに気付いたような顔をして黙り込んでしまった。
今の状態っていうのは女ったらし状態っていう意味なんだろうな。
なんて言うか、それまでは違ってた、というのがどうも引っかかった。
ただ今のこの様子だと二人とも何も教えてはくれないんだろうな。
折角話を逸らして手伝いをサボろうと思っていたのに
私の予想を裏切って話はアッサリ終わってしまい
結局その後に何を手伝ってもらうか、という話に戻ってしまった。
- 203 名前:アリガチ 投稿日:2001年11月29日(木)22時47分16秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<そろそろストックがピーンチ!
>196さん
二人の過去ですか・・・わはは。
これでわかった人もいるんじゃないですかね・・・わはは。
- 204 名前:WISH 投稿日:2001年12月03日(月)06時32分33秒
- 水やりの手伝いは一回の休み時間だけでは全く足りなくて
放課後にまで手伝いをさせられていた。
花の種類も多い事ながら量も多い。
ちなみに生徒会長はまだ来ていない。
どうも園芸部の部員も誰一人として来ていないらしく
今ここにいるのは副会長と私の二人だけだった。
サボってもよかったのだけど
家に帰るまでの時間を潰すにはちょうどいいのかもしれない。
それにたまにこういう事をするのは気分転換にもなる。
「ねぇ、いつもこういう事してんの?」
スコップを片手に私が訪ねると隣で私と同じようにしゃがみこんでいた
副会長はキョトンとしていた。
きっと私から話し掛けてくるとは思ってなかったのだろう。
「生徒会の仕事がない時はマメにやってるかなぁ。
何かを育てたり、世話したりするのが好きだから」
他の部員もいるはずなんだけど皆幽霊部員だからねぇ、と副会長は笑いながら言った。
「…ふーん」
私は頷きながら目の前にある花を見た。
- 205 名前:WISH 投稿日:2001年12月03日(月)06時33分35秒
- この花達にとってそれってやっぱ嬉しい事なのかな。
自分の力だけじゃなくて綺麗に咲く為に色々と世話してもらって。
あの父もそういう事を思っているのだろうか、とふと思った。
血が繋がっていないと言っても私はあの人にとっては自分の子供。
ああしろ、こうしろ、と言って指図して
あの人が理想としている良い大人に将来私がなるように、と望んで。
やっぱり何かが違う。
花壇で大事に育てられる花とそこら辺の路上に咲いている花。
もし自分が花になるとしたらどっちがいい、と聞かれたら私は後者を選ぶ。
例え花を咲かす事がどんなに困難だとしても。
それに花も人間と同じ生き物だけど。
それでも人間は花とは違って自分の意志で色んな可能性を持つ事が出来るのだから。
黙り込んだ私を見て副会長は首を傾げていたが
その時ちょうど校舎から出て来た人物の方へ歩み寄っていった。
「おー、ちゃんと手伝いしてるんじゃん」
それは市井ちゃんだった。
「…まぁね」
「なんだ、素直でいい子じゃん。エライ、エライ」
そう言いながら市井ちゃんは笑顔を作り、私の頭を軽く撫でる。
嫌な気分にはならなかったけれど少し居心地が悪くて私は立ち上がった。
- 206 名前:WISH 投稿日:2001年12月03日(月)06時34分25秒
- 「もういいでしょ。帰る」
そう言って傍に置いていたカバンを取りに行く。
「りんね、もういいの?」
市井ちゃんが確認すると副会長は笑顔を見せた。
「んー、ホント助かっちゃった。やっぱ一人より誰かと一緒にやる方が楽しいしねぇ。
それに後藤さんもいい人だってわかったし」
副会長のその言葉を聞いて私は少し戸惑う。
「いい人って…後藤は何もしてないじゃん」
普通に手伝いしてただけなんだけど。
「いやいや、だってねぇ…普通こういうのって皆嫌がるからさぁ。
それを証拠に幽霊部員は沢山いるしね。
だから手伝ってもらえただけで嬉しかったよ」
驚く事に副会長は心からそう言っているみたいで。
私は呆気に取られた。
「…変な人」
「でしょ。りんねは少し変わってるからね」
市井ちゃんはニヤニヤしながらそう言うと副会長が
えー!?、と声をあげた。
「りんねのどこが変わってるのー!?」
「変わってるっていうか、何と言うかねー」
「何それぇ!?」
イヒヒ、と市井ちゃんが笑いながら言うと副会長はまだ不服そうだった。
- 207 名前:WISH 投稿日:2001年12月03日(月)06時36分05秒
- 「おーい、後藤ー」
副会長に別れを告げて校門を出たあたりで市井ちゃんが追いかけてきた。
振り向くと私の背後で市井ちゃんが走ってきたせいで
膝に手をついて息を整えていた。
「…何?」
「だから何でそんなに愛想ないかなー?」
「しつこいね、後藤がこういう人間だってもうわかったでしょ」
「さー?それよりさ、今から後藤の家に行ってもいい?」
「はぁっ!?」
何を言い出すのだろう!?
私はあまりの事に唖然としていた。
市井ちゃんは私の顔を見て吹きだす。
「何て顔してんのさ?やっぱダメ?」
「……どうして?」
「後藤にちょっと興味があってね。ゆっくり話したいんだ」
「……」
- 208 名前:WISH 投稿日:2001年12月03日(月)06時36分37秒
- ニッコリと笑顔になっている市井ちゃんを
まじまじと見てたのだけれど、どうも胡散臭い。
そしてそう思ってるのが顔に出てしまっていたらしく
市井ちゃんはおどけて見せた。
「あのさ、別に邪まな考えを持ってるわけじゃないよ。
ただ純粋にそう思っただけ」
「…ふ〜ん」
どうもおかしい。
何を考えているんだろう。
っていうか、どうして私の家なんだろ?
話したい事があるんならここで聞けばいいのに。
まだ納得していない私を余所に前回の訪問で家までの道程を知った
市井ちゃんは私の手を取りドンドン進んで行った。
- 209 名前:アリガチ 投稿日:2001年12月03日(月)06時37分43秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<交信ー。この時間だと掲示板も軽いわね!
- 210 名前:WISH 投稿日:2001年12月06日(木)04時33分39秒
- 前回通り、リビングでお茶を飲んでいる私達。
こんな時間に家に帰る事になるなんて。
また父が戻ってきたらどうするつもりだろう。
ま、今日は怒られるような事はしてないつもりだからいいけど。
今日はちゃんと放課後まで学校にいたから。
それより今の私は前回自分の家庭事情を話してしまった事に
激しく後悔している状態なのだけど。
それでも市井ちゃんは私の事情を知ったところで
父が嫌いだという私の気持ちなんてわかってくれていないのだろうか。
「…で?」
「へ?何が?」
勝手にテレビをつけながら市井ちゃんは首を傾げている。
「何が?じゃなくて、話したい事があるんでしょ?」
私は話す事なんてないんだけど、と続けると
市井ちゃんは手をポンッと叩いて笑顔になった。
もしかして何をしにここへ来たのか忘れてたんじゃないよね…。
- 211 名前:WISH 投稿日:2001年12月06日(木)04時35分26秒
- 「そうそう、体操服サンキューね。助かったよ。
ここ三日くらい逢う機会がなくてなかなか返せなかったんだけど大丈夫だった?」
市井ちゃんはカバンから取り出した体操服を差し出した。
私は素直にそれを受け取る。
「体育の授業はサボったから大丈夫」
私が当たり前のようにそう言うとまたサボリかよ、と市井ちゃんは笑って
そして急に何かに気付いた表情になった。
「そうだ。後藤に言いたい事があったんだよ」
「何?」
「どうして前にここであたしに事情を話してくれたの?」
「…え?」
「逢って間もないあたしに自分の家庭の事情を話すなんてさ。
ちょっと不思議だったんだよね。
一人でも生きていける、なんて言ってたけど結構今辛いんじゃないの?」
「……」
私は目を見開いて表情が固まる。
- 212 名前:WISH 投稿日:2001年12月06日(木)04時36分52秒
- 「お父さんのやり方が気に入らないっていうのなら
ちゃんと話し合った方がいいと思うよ。
今学校で色々と後藤がやってる事ってさ、無意味だよ。
本当は自分でもわかってるんでしょ?
それに自分の気持ちをちゃんと相手に伝えないと
いつまでもわかってくれやしないよ。
ちゃんと相手が理解してくれるかどうかはわかんないけど。
でもやらないよりは前に進めるよ」
…そんなに簡単に言わないでよ。
人事だと思って。
「…話したい事って後藤への説教だったわけ?」
私が睨みながら言うと市井ちゃんはバカバカしい、と呟いた。
「過去に同じような経験をした事があるからさ。ちょっとした助言だよ」
「お節介だね」
私がまだ突っ張ってそう言うと市井ちゃんは鼻で笑った。
「もしかして、怖いの?」
「……っ!」
私が頭にきて反論しようとする前に市井ちゃんは続ける。
「大体ね、普通はさ、文句があるなら本人に言うもんじゃん。
それなのに後藤は問題を起こしてそれを学校側から言わそうとしてるわけでしょ?
あたしから言わせてもらうと、それって逃げじゃん」
- 213 名前:WISH 投稿日:2001年12月06日(木)04時38分08秒
- 「うるさいな!市井ちゃんに何がわかるの!?
逢って数日の人にどうしてこんな事を言われなくちゃいけないの!!」
「逢って数日だから冷静に意見出来るっていう事もあるよ」
市井ちゃんは真面目な顔をしてそう言った。
私は思いっきり歯を食いしばった。
自分でもそれは図星だとわかっていた。
現状に不満だと思ってても、いざとなったら父に何も言えない。
だから無駄な反抗ばかり繰り返してきた。
他人任せな行動って事は自分でもわかってる。
だからって逢った回数が数回の人に言われたくない。
お節介過ぎるよ。
「説教なんて聞きたくない!出てって!!」
私が大声で叫んでも市井ちゃんは動じない。
その代わりポケットからあるモノを出してニヤリと笑った。
「あんまし大声出さないでくれないかな」
「…な、何する気!?」
市井ちゃんが手にしているのは小型のナイフだった。
まだ真新しいそのナイフはキラキラと部屋の明かりに反射して光を放っていた。
「別に何もしないさ。黙らすにはこれが一番効果あるかなーと思って」
「……」
確かに脅しには充分効果があるモノだったけど。
っていうか、そんな危ないモノを持ち歩かないでよ。
- 214 名前:WISH 投稿日:2001年12月06日(木)04時38分55秒
- その時、玄関が開く音が聞えてきた。
私は反射的にビクッと肩を震わせる。
市井ちゃんは玄関の方に視線をやり、次に私を見てこう言った。
「…お父さんが帰って来たみたいだね」
どうしていつもこんなにいいタイミングで帰ってくるんだろう。
まるで狙いすましてたかのようだ。
案の定、父がリビングに姿を現した。
市井ちゃんの顔を見るなり渋い顔をしたまま父は口を開いた。
「君か、私を呼び出したのは…」
「…え?」
父の言葉を聞いて私は呆然としていた。
市井ちゃんが父を呼び出した?
一体、何の為に?
- 215 名前:アリガチ 投稿日:2001年12月06日(木)04時40分09秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<誕生日おめでとうー、私!!
- 216 名前:WISH 投稿日:2001年12月07日(金)00時46分37秒
- 「お邪魔してます。お電話差し上げた市井と言います」
市井ちゃんは立ち上がって丁寧に挨拶をした。
それでも私はまだ呆然としていた。
市井ちゃんはチラリと私を見下ろし、そして父に話かけていた。
「スミマセン。わざわざ呼び出すような形を取ってしまって」
口調は丁寧だが手にはさっき出してたナイフがまだある。
父はそれを見ながらも表情を変えずにいた。
「電話で真希が危ない目に遭うかもしれないと
言っていたのは私を脅す為なのか?」
「そのように取れる事を言ったかもしれませんが
そんなつもりはありませんよ。
ああ言わないと早く家に戻ってきてくれないと思っただけですから」
だからナイフなんて持ってたんだ。
それにしても。
市井ちゃん、いつの間に父に電話なんてしていたんだろう。
一体何を考えているんだろう…。
私と一緒で父も市井ちゃんが何を考えているのかわからないようだ。
「…ふん。まぁ、いい。君は何が望みなんだ?」
「お忙しい身だと思うので簡潔に申し上げます。
後藤…あ、いや、真希さんが今の生活に不満だ、と言ってたんですが
それをお父さんはご存知でしたか?」
- 217 名前:WISH 投稿日:2001年12月07日(金)00時49分15秒
- 「い、市井ちゃん!?」
私は思わず市井ちゃんの肩を取り
どういう事なの?と眉を寄せて聞いてみても
市井ちゃんはそ知らぬ顔をしていた。
父も渋い顔をしている。
「差し出がましい事だとは思いますけど
聞いた話じゃ色々と強要してるらしいじゃないですか。
あれしろ、これしろって言ったところで
本人が自分からやる気を出さない限りは逆効果ですよ?」
「君には関係のない事だろう。
他人の家庭の教育方針に口出ししないでもらいたい」
ピシャリと言い放つ父。
しかし市井ちゃんはそれでも怯まなかった。
「このまま真希さんを追い詰めて続けて
もし下手をして自殺とかしちゃったらどうするんですか?」
「はっ、何をいきなり…大袈裟な事を言わんでくれないか?」
突然、とんでもない事を言い出した市井ちゃんに父は鼻で笑ってみせた。
でも市井ちゃんはそれを見てニッコリ笑う。
「もちろん例え話ですよ」
「そんな例え話なんて在り得ない。なぁ、真希」
普通の親だったら激怒しそうなものだけど
まだ父はいい人を気取っていて私に話を振ってきた。
だけど私は何も言えずに俯いてしまう。
- 218 名前:WISH 投稿日:2001年12月07日(金)00時51分26秒
- 「子供の意見を聞く耳持ってもらえませんか?」
「君には関係ないと言っているだろう」
このままだと話は平行線を辿りそうだ。
市井ちゃんは私の為にわざわざ話をしてくれている。
逢ってまだ間もない私の為に。
それなのに私は何もしないままでいいのだろうか…。
……いや、良くない。
私は意を決し、顔を上げて市井ちゃんの手を取った。
いや、正確には市井ちゃんの手にあるナイフごと手に取った。
市井ちゃんは少し目を見開き、されるがままになっていた。
そしてさすがに父も驚きの声をあげた。
「真希っ!?」
「もう私に干渉しないで!考えを改めてくれないんなら
このままこのナイフで心臓を刺すよ!!」
「なっ!?バカな事はよせ!」
私は自分の胸へナイフを向けると父は顔色を変えた。
市井ちゃんはまだされるがままの状態でただ私を見ていた。
「本当は私の身体の心配じゃなくて、自分の心配をしてるんでしょ!?
私がこんな形で死んだら貴方の立場がなくなるもんね…」
「……」
父は一瞬、言葉を失ったがすぐに立ち直り
私の頬を思いっきり叩いた。
「いい加減にしろ…。子供の相手なんてしてる暇など私にはないんだ」
明らかに父は怒っていた。
- 219 名前:WISH 投稿日:2001年12月07日(金)00時53分17秒
- それは図星を指されたからなのか
私が言ってる事が間違っているからなのかは
わからないけれど。
だからこそ、わざと確認してみる。
「…図星なんでしょ?」
「……いいから、そのナイフをよこしなさい」
父はそう言いながら無理矢理市井ちゃんの手ごと
私が握っていたナイフを取り上げようとする。
しかし私も簡単には引かない。
自慢じゃないけど力はかなり人並みはずれたものを持っているのだ。
そして左右に大きく振られながらも必死で
父にナイフを奪われないようにしていると
突然意外な方向にナイフが進んだ。
そして三人の動きが止まる。
「……な、何を」
父は手を離して呆然としている。
私も同じような状態になっていた。
市井ちゃんはというとニヤリと笑っていた。
- 220 名前:アリガチ 投稿日:2001年12月07日(金)00時54分18秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<今後もこのままでゴー!
- 221 名前:WISH 投稿日:2001年12月15日(土)02時17分28秒
- 私が今までに人の死に関わったのは本当の父の時だけ。
父は事故で亡くなったので私と対面した時には
霊安室で顔に白い布をかけられて安らかに永久の眠りについている状態だった。
でもそれは私が今よりずっとずっと小さい頃の事で。
ぼんやりとしか記憶に残っていない。
だから他人の身体から沢山の血が流れている状態を見るのはコレが初めてだった。
そして自分の手が真っ赤に染まるのもコレが初めてだった。
私はしばらく自分の手を見て、硬直したまま市井ちゃんを見ると
市井ちゃんは私に向かって軽く笑ってその場に崩れ落ちた。
ナイフは…市井ちゃんのお腹に刺さっていた。
「市井ちゃんっ!!」
私は市井ちゃんにすがりつく。
意識はあるようで仰向けになってお腹を抑えて息を乱していた。
父はまだ呆然としたままで、私はそれを見て思わず大声を出す。
「救急車!早く呼んで!!」
その声を聞いてようやく我に返った父は顔色を変えて
慌てて廊下にある電話へと走っていった。
それを見届けてまた視線を市井ちゃんへとやる。
「市井ちゃん!大丈夫!?」
「…ハハハ……な、なかなか痛いね、こりゃ」
市井ちゃんは笑顔のままだ。
- 222 名前:WISH 投稿日:2001年12月15日(土)02時18分48秒
- もしかして自分から刺した?
しかしそれはここでは聞けなかった。
父に聞かせるわけにはいかない。
もし自分からやったのだとしたら
この行動に何か意味があるだろうから。
それに市井ちゃんの方から私に質問が来たので聞くタイミングを逃してしまった。
「後藤…さっきのマジだったの?」
「…な、何が?それよりあんまし喋らない方がいいよ……」
「自分からナイフを刺そうとしたのは…」
「……」
「あたしがさっき自殺なんて言葉使ったから?」
「…別にそんなんじゃないよ」
私は思わず視線を逸らす。
それでも構わずに市井ちゃんは続ける。
「あのさ…死んじゃったら、もう何も出来なくなるんだよ?
例え今自分が何かしたいものがなくても、後になったら何か見つかるかもしれない。
でも死んじゃったら心残りな事があったとしてもそれはもう何も出来ない…」
「……」
「それに残された人間もその人の為に何かしたいって思ってても出来なくなるんだよ?」
「……」
- 223 名前:WISH 投稿日:2001年12月15日(土)02時19分41秒
- 「あたしのお父さんも借金苦で自殺したんだ…。
その頃のあたしは今よりもっと子供だったから何も出来なかったのが辛かった」
「……」
思わず絶句する。
まさか市井ちゃんがそんなにヘビーな環境の持ち主だったとは
思ってもみなかったから。
「…死んじゃったらもう何も出来ない…出来ないんだよ」
市井ちゃんはそう言って私から目を逸らした。
それはどこか重い言葉に聞えた。
その言葉の裏側に何かあるような気がして。
不思議と自然に私の目から涙が零れた。
ポタポタと床に音を立てて落ちる。
市井ちゃんはそれを見て穏やかに笑った。
「後藤はいいね、素直で…」
素直なんて言葉、ここ最近言われた事なんてなかった。
市井ちゃんと逢ってからだよ。
こんなに自分の感情を表に出すようになったのは。
こんなに簡単に涙が出るようになったのは。
- 224 名前:WISH 投稿日:2001年12月15日(土)02時20分43秒
- 市井ちゃんはその後もずっと目を閉じていた。
床に出来た血の海が徐々に広がっていく。
刺さっているナイフを抜くと出血が増す、と
どこかで聞いた事があったので
ナイフはそのままで傷口を手で抑えても全く意味はなかった。
さっきまで冷静だったはずなのに
今ではスゴイ速さで動く心臓の音が耳障りで仕方がない。
市井ちゃんはかなりの汗をかいていたけれど
それでも私は何も出来ないまま
目を閉じた市井ちゃんをただ見続ける事しか出来なかった。
焦りの感情だけが私の中で空回りする。
全く役に立てない自分に腹が立って悔しくなって
そして市井ちゃんがこのまま死んじゃったらどうしようという事ばかり
考えてしまってずっと涙が止まらなかった。
しばらくしてどこからか救急車のサイレンの音が聞えて来た。
- 225 名前:アリガチ 投稿日:2001年12月15日(土)02時21分43秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<微妙な交信!
- 226 名前:名無し 投稿日:2001年12月15日(土)02時30分15秒
- 破滅型いちごま……。
(・∀・)イイ!!!
- 227 名前:WISH 投稿日:2001年12月17日(月)02時40分52秒
- 「後藤って料理する人だったんだねー、なんか意外」
「これくらい簡単だよ。それに前はよく御菓子作りとかやってたもん」
「えー、ますます意外」
「うるさいな。そんなのどうでもいいから早く食べなよ」
市井ちゃんは私が剥いたリンゴを眺めながら少し驚いていた。
ウサギくらい簡単に作れるのに。
そんなに料理が下手そうに見えるのだろうか。
私は少しムッとしながらもベットの上で美味しそうにリンゴを食べている
市井ちゃんの傍に座った。
あれから一週間が経っていた。
市井ちゃん怪我の状態はというと
どうやら二週間の入院で済むそうだ。
血の量は多かったけれどあまり深い傷ではなかったらしい。
今ここにいるいつも通りの市井ちゃんを見ていたら
死んじゃったらどうしよう、なんて思ってたのが
バカらしく思える。
私はあれから毎日お見舞いに来ていたが父は一度も来ていなかった。
- 228 名前:WISH 投稿日:2001年12月17日(月)02時41分59秒
- そよそよと窓の外から風が入ってくる。
窓から空をのぞいて見ると来る時にはなかった雲が少し出て来たようだ。
少し肌寒いと感じたけれど私がここに来るといつも窓は開いていた。
「市井ちゃん…聞いていい?」
「何を?」
市井ちゃんは手を止めて私を見返す。
「あの時…自分からナイフ動かさなかった?」
「……さぁ?」
私が真剣な顔をしているのに市井ちゃんはおどけて見せる。
また適当に誤魔化す気なのだろうか。
「それにどうして後藤の為にあそこまでしてくれたの?」
ずっと気になっていた。
逢って間もない人間という言葉はお互いに何度も口にした。
だから市井ちゃんも私に対して特に思い入れはないはずなのに
あの行動は度が過ぎている。
もしかしたら、もっと大怪我を負ってたかもしれないのに。
もしかしたら死んじゃってたかもしれないのに。
仮にいくら仲がいい相手であったとしても
あそこまで出来るものなのだろうか。
- 229 名前:WISH 投稿日:2001年12月17日(月)02時45分49秒
- 「なんとなく」
私が思っていた通りやっぱり淡白な答えだった。
「それで後藤が納得すると思う?」
「…やっぱダメ?」
「ダメ」
私がキッパリそう答えると
市井ちゃんは苦笑いして頭をかきながら俯いた。
「なんか後藤ってあたしと似てる気がするから」
「え?」
私が聞き返しても視線はベッドのまま。
少し前に私も同じ事を思った事があったけれど。
まさか市井ちゃんも同じ事を思ってるだなんて意外だった。
「ま、これで後藤のお父さんがあたしが怪我したのは正当防衛だって言っても
第三者である後藤が事情を表沙汰にしたら立場が悪くなるだろうね」
これで今までとは違って後藤にあまり強くは言えなくなったはず、と
市井ちゃんは顔を上げて笑った。
もしかして…それって私に父の弱みを握らせてくれたって事?
そんな事まで考えてたんだ。
- 230 名前:WISH 投稿日:2001年12月17日(月)02時47分07秒
- 確かに今回の事は表沙汰にはなっていない。
市井ちゃんはインフルエンザで休んでる事になっているらしい。
もちろんそうしたのは父だ。
そして私は父から硬く口止めされたというのもあるけれど
最初っから言うつもりなんてなかった。
「…どうしてそこまで」
私が戸惑いながら言うと市井ちゃんは私の鼻を軽く突付き
ニヤリと笑った。
「なんか後藤ってほっとけないって感じがするんだよね、危なっかしくて」
そんな事を言われるとなんだか急に居心地が悪くなる。
なんとなく市井ちゃんがモテる理由がわかったような気がする。
市井ちゃんは口が上手い。
「それは後藤が学校の問題児だからでしょ?」
「そんなの別に関係ないさ。現にあたしだって学校の問題児だし」
市井ちゃんは笑いながら肩をすくめた。
「でも危ないよ。あんなのもう止めてよね。
もし死んじゃったらどうするの?
あれだけ死んだら意味ないって後藤に言ってたくせに」
気持ちは嬉かったけど、と付け足して私が言うと
市井ちゃんは無言で私を見つめて、そして窓の外に視線を移した。
- 231 名前:WISH 投稿日:2001年12月17日(月)02時48分59秒
- 何も言わない市井ちゃんに私は少し焦る。
「…まさかあれだけ人に説教しておいて
自分は死んでもいいって思ってるわけじゃないよね?」
「そんな事思ってないよ…思わないよ」
「……」
市井ちゃんは私の顔を見ようとしない。
どうも言い辛い事を言う時には顔を背けてしまう癖があるようだ。
「自分から死ぬ事は絶対にない…」
市井ちゃんが話し始めたその時、ビュウッと強い風が部屋に入ってきた。
その風の音に紛れてあたしは抜け殻だから、と市井ちゃんはポツリと呟くのが聞えた。
- 232 名前:アリガチ 投稿日:2001年12月17日(月)02時51分20秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<226さん!別に破滅なんてしてないわよ!!・・・多分。
- 233 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)03時04分10秒
- 抜け殻のちゃむ…(・∀・)イイ!!
- 234 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月18日(火)03時45分08秒
- やはりあの人になにかが・・・
- 235 名前:117 投稿日:2001年12月18日(火)10時00分28秒
- なんかもどかしいと言うのか切ないと言うのか・・。
続き楽しみに待ってマス!!
- 236 名前:WISH 投稿日:2001年12月19日(水)04時34分15秒
- 「後藤さんー、ちょっとそこの肥料持って来てくれないかなぁ?」
中庭に副会長の声が響く。
私はその言葉通り素直に肥料を手にして副会長の元へと行く。
「ありがとー。重かったでしょ?」
「別に〜。後藤は力持ちだから大丈夫だよ」
私がそう言うと副会長はヘラッと笑った。
あれから父の干渉はなくなったけれど
学校での周りの対応は相変わらずだった。
問題事を起こす事はあれからパッタリと止めたのに
周りはまだ理事長の娘は贔屓されるという目で私を見るのだ。
それくらいで急に周りの態度が変わるわけがないとわかっていたので
別に気にするつもりはなかったけれど
自分から仲良くしようとも思っていなかったのでそのままの状態が続いていた。
ただそれでも一つだけ前と変わった事がある。
放課後に副会長の手伝いをするようになっていたのだ。
生徒会長と副会長は他人を特別な目で見る事はなく
皆平等に接してくれるので私としても一緒にいるのが楽だった。
それに何気に手伝いが楽しかったりもした。
- 237 名前:WISH 投稿日:2001年12月19日(水)04時35分06秒
- 「ねぇ…花育てるのももちろんいいんだけどさ、食べ物とか作らないの?」
私がそう言うと副会長はキョトンとしていた。
「今度何かやろうとは思ってるんだけどねぇ。作ってみたい?」
「いや、どうせ育てるなら食べれるモノの方がいいな〜って思っただけ」
そんな事を話していると生徒会長がやって来た。
どうも自分のクラスの掃除が長引いていたらしい。
「おー、後藤じゃん。今日も手伝いに来てくれてんだ?」
「ま、暇だからね」
「なんか紗耶香が怪我してからというもの、素直になったね」
「圭織もそう思ってた?実はりんねもそう思ってたんだよねぇ」
「…別にそれは関係ないんだけど」
ニヤニヤ笑っている二人を見て私は口ごもる。
市井ちゃんは誰にも怪我した本当の事情を話していないらしい。
自分の親友達にすら。
だから私からペラペラと話すわけにはいかない。
- 238 名前:WISH 投稿日:2001年12月19日(水)04時35分48秒
- 「紗耶香といえば、入院ってあと三日だっけ?」
「らしいよ。二人はお見舞い行ってんの?」
「出来れば毎日行きたいんだけどねぇ」
二人は顔を見合してため息をついた。
どうやら忙しくてあまりマメには行けていないそうだ。
文化祭も終わって生徒会の仕事が減ってるのかと思っていたら
案外そうでもないらしい。
細々した雑用が沢山あるそうだ。
「後藤は毎日行ってるんでしょ?
珍しくない?後藤が他人にこんなに興味持つのってさ」
「…べ、別に興味があるわけじゃないよ」
生徒会長のツッコミに思わず慌てる。
別にお見舞いに行っているのは怪我させた原因が自分だからであって。
特別な気があって行ってるわけじゃない。
「慌ててる後藤さんも珍しいよねぇ」
副会長は私と生徒会長のやりとりを見ながら笑っている。
「別に慌ててなんかないよ!」
「んー?なんかますます怪しいなぁー。本当に紗耶香の事好きだったりして」
副会長の冷やかしを聞いて私は顔を真っ赤にした。
- 239 名前:WISH 投稿日:2001年12月19日(水)04時36分30秒
- 市井ちゃんの事が好き?
私が?
…そりゃいい人だとは思うけど。
自分が怪我してまで私を助けてくれた人だし。
でも誰にでも優しい人だし。
何よりただの女ったらしじゃん、市井ちゃんって。
でも確かにここまで気になった人って今までにいなかったかもしれない。
じゃあ、やっぱり好きって事になるのかな?
私が頭の中でゴチャゴチャ考えていると
生徒会長が花に水をやりながら口を開いた。
「でもね、紗耶香は止めときなよ」
「…え?」
私が聞き返したが生徒会長は背を向けていたので
どんな表情をしているのかわからなかった。
- 240 名前:WISH 投稿日:2001年12月19日(水)04時37分26秒
- 数学の授業中、窓際の席の私はぼんやりと窓の外を見ていた。
授業の内容なんて聞いてもわかんないし。
ちゃんと授業に出るようになったのはいいのだけれど
今までサボっていたツケがやってきたようで
サッパリ内容についていけなくなっていたのだ。
「後藤さん、教科書見せてくれないかな?」
「へ?」
突然、声をかけられてビックリした。
隣の席の子の名前は確か…。
「…福田さん、忘れたの?」
「うん、ウッカリしてて」
「じゃ、後藤の貸してあげるよ」
そう言って私が教科書を福田さんの席に置くと
福田さんは少し怪訝そうな顔をした。
「一緒に見れるようにしてくれるだけでいいよ。後藤さんも困るでしょ?」
「別に困らないよ。どうせ見てもわかんないし」
「…そんなんじゃダメじゃん」
当たり前のように言う私に福田さんは少し笑って見せた。
それを見て私は軽く驚いた。
私ほどはスレてはいないけれど
いつもクールに振舞っている福田さんが
笑ったのを私が見るのは初めてだったのだ。
- 241 名前:WISH 投稿日:2001年12月19日(水)04時38分10秒
- 福田さんは私とは違って優等生タイプだった。
成績がいいというのもあるけれど
いつも冷静に物事を判断出来るという頭の良さを持っていて
そういう所を含めてやっぱり私には合わない人だと思っていた。
だって私とは正反対の人だから。
どうやら彼女も私がわかりやすい態度を見せた事に
驚いたらしく。
「後藤さんって私が今まで思ってたイメージと違うね。
なんか話しやすいよ」
「気が合うね、後藤もそう思った」
私がそう言うと二人で顔を見合わせてまた笑い合った。
なんだ、人付き合いなんて私には出来ないと思ってたけど
案外簡単なものなのかもしれない。
- 242 名前:アリガチ 投稿日:2001年12月19日(水)04時40分23秒
- ++ちょこっと休憩++
>233さん
( `.∀´)<それって褒めてるのかわかんないわよ!
>234さん
( `.∀´)<まだまだわかんないわよ!
>117さん
( `.∀´)<今後もずっともどかしいままなのよ!
- 243 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月19日(水)04時47分17秒
- 素直になった( ´ Д `)が
(・∀・)イイ!!
- 244 名前:WISH 投稿日:2001年12月20日(木)04時03分27秒
- 夕方、家に帰ると珍しく弟がいた。
前まではこんな時間、家には寄りつきもしなかったくせに
父が何も言わなくなった途端にこの状態だ。
調子が良過ぎて頭に来る。
私はリビングでTVを見ている弟を無視して
冷蔵庫へ飲み物を取りに行く。
「あ、そうだ。ねーちゃん、母さんが話があるって言ってたよ」
「お母さんが?でも、この時間はお店でしょ?」
「んー、時間があったら店の方に来てくれって言ってた」
「ふ〜ん、なんだろ…」
私が首を傾げていると弟は私の様子を窺っているかのように
ずっとこっちを見ていた。
「何?」
「…いや、別に」
弟は慌てて背を向けてTVの続きを見だした。
一体、何の話だろう。
わざわざ店に呼び出すなんて
もしかして家で話す事が出来ないって事なのかな。
- 245 名前:WISH 投稿日:2001年12月20日(木)04時04分10秒
- 「とりあえず、行ってくる」
私は結局飲み物を取らずにそのまま外に出た。
市井ちゃんが怪我した本当の事情を母は知っている。
というか、うちの家族皆が知っている。
それでも父は沈黙を守っている。
本当にあんな人を父だとは思いたくない。
店の前に着くと看板に電気がついていなかった。
営業開始時間は過ぎているはずなのに
どうしたんだろう。
私は首を傾げながら入り口のドアを開けた。
「お母さん〜?」
キョロキョロと店内を見回すと誰もいなかった。
人を呼んでおいて何で誰もいないんだろう。
私が少し戸惑っていると奥の方から母の声が聞えた。
- 246 名前:WISH 投稿日:2001年12月20日(木)04時04分43秒
- 奥へ進むとそこには神妙な顔つきをした母がいた。
「悪いね、呼びつけて」
「何か話でもあんの?」
母は私の顔を見てもまだ笑顔一つ見せない。
何かあったのかな。
「…お父さんの事で話があるんだけどね」
「……」
私は息を飲んだ。
なんとなくそういう話だとは思っていたけれど。
母は父と何か話をしたのだろうか。
弟の様子が少しおかしかったのは
きっと私より先に話を聞いたからなのだろう。
私は母の目の前に行儀よく正座をして
母が話し始めるのを待った。
- 247 名前:WISH 投稿日:2001年12月20日(木)04時07分40秒
- 「市井ここに復活ー!さあ、皆祝ってくれ!!」
昼休みに屋上で昼食を取っていると突然市井ちゃんが現れ
両手を挙げて大声で偉そうに言い放った。
「うるさいよ、市井ちゃん。それに後藤しかここにいないんだけど?」
「何て言うかなー…もうちょっと気の利いたツッコミとか出来ない?」
「…出来ない」
市井ちゃんは退院してすぐ学校へ登校してきた。
まだ通院とかしなくてはいけないらしいけれど。
なんにせよ、私はホッとしていた。
「二週間も学校に来れなくさせてゴメンね。授業とか大丈夫?」
私が心配そうに言うと市井ちゃんは突然神妙な顔つきをしながら私の隣に座った。
「そんなのはどうでもいいんだけどね…っていうか、学校よりバイトがヤバイ。
一応、電話したんだけどなぁ…どうしよ、もう来なくていいとか言われたら」
そう言いながら悲劇のヒロインを気取って顔を両手で覆う。
「お金に困ったら父から慰謝料請求しちゃえば?」
「…しないよ、そんなの。っていうか、一応自分のお父さんなんだから
そういう事言うなって」
市井ちゃんは苦笑いしていたが私は黙り込んだ。
- 248 名前:WISH 投稿日:2001年12月20日(木)04時08分24秒
- それにしても市井ちゃんがいつも以上に
妙なテンションなのは久し振りに学校へ来れた喜びからなんだろうな。
病院だと喋る相手もあまりいないだろうし。
「後藤がお見舞いに行った時には居なかったけど
市井ちゃんがよく遊んでる人達は来なかったの?」
「あー、そういや来なかったな。皆薄情だねー」
市井ちゃんはどうでも良さそうに手にしていた袋からパンを取り出す。
「本気で市井ちゃんの事を好きな人っていないの?」
「いないんじゃない?それに向こうもわかってるからだと思うけど。
あたしがその気がないって事に」
そういえば確かそんな事を前にも言ってたな…。
「市井ちゃんは好きな人いないの?」
私がそう言うと市井ちゃんはパンを食べていた手を止めた。
「どうしてそんな事聞くの?」
「…なんとなく」
逆に聞かれて私は口をつぐんだ。
確かに何聞いてるんだろう。
別にどうでもいいじゃん、そんな事。
生徒会長達がここにいたらまた茶化されそうだ。
- 249 名前:WISH 投稿日:2001年12月20日(木)04時10分14秒
- でも本当は自分でもわかってた。
私は市井ちゃんを好きになりかけてる。
ただ認めたくなかった。
あんな女たらしな人を好きになっても苦労するだけだって。
あんな謎だらけな人を好きになっても苦労するだけだって。
だけどどこか惹かれるものがあるのは確か。
今までハリネズミのように周りのモノを
近づけないようにしていた私を変えたのは市井ちゃんだ。
私は市井ちゃんに何もしてないのに
市井ちゃんからは無償で沢山のモノをもらった気がする。
きっと今よりもっと踏み込んでしまったらハマってしまうだろう。
- 250 名前:アリガチ 投稿日:2001年12月20日(木)04時11分25秒
- ++ちょこっと休憩++
>243さん
( `.∀´)<アレで素直なのかしらね!
- 251 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月20日(木)04時21分09秒
- はまりそうで戸惑う( ´ Д `)が
(・∀・)イイ!!
- 252 名前:WISH 投稿日:2001年12月21日(金)07時27分15秒
- しばらく無言で昼食を取っていた私達の元へ
ある人物がやってきた。
「あ、こんな所にいたんか」
それは中澤先生だった。
私は反射的に市井ちゃんの顔を見ると
明らかに不機嫌そうな表情になっていた。
「何の用ですか?今日は何もしてませんよ」
傍に寄ってきた中澤先生に冷たく接する市井ちゃん。
それに対して中澤先生はあまり気にせず
私の方を向いた。
「今日は後藤に用があんねん」
「へ!?」
自分に振られるとは全く思っていなかったので
私は大袈裟に驚いた。
- 253 名前:WISH 投稿日:2001年12月21日(金)07時28分44秒
- 「ちょっと今時間ええか?」
「…別にいいですけど」
そう言いながらも私は戸惑っていた。
最近は何もしてないと思うんだけど。
それにわざわざ中澤先生からこうやって出向いてくるなんて。
「じゃ、行こか」
勝手に進んで行く中澤先生の背中を眺めながら仕方なく立ち上がる。
隣にいる市井ちゃんを見下ろすと眉を寄せて考え込んでいた。
「市井ちゃん?」
私が呼びかけるとハッと我に返った。
「…なんでもない。気にしなくていいよ」
作り笑顔を浮かべている市井ちゃんが気になったのだけど。
いつの間にか屋上から姿を消してしまった中澤先生の後を追う為に
私は早足でその場を去った。
- 254 名前:WISH 投稿日:2001年12月21日(金)07時29分40秒
- 中澤先生に連れられてきたのはいつもの生徒指導室。
ここにいるのは私と私を呼んでおいて席を外している
中澤先生だけだった。
昼休みが終わりそうなのにゆっくりしていていいのだろうか。
「で、用って何ですか?」
私のいるところでは棚に隠れて姿が見えない中澤先生に向かって
話しかけてみたが全く反応がない。
聞えてないのかなぁ、と思っていると中澤先生は書類を手に持って戻って来た。
机にドサッと乱暴に書類を置いて私の向かい側に座るなり中澤先生が口を開いた。
そしてその言葉は意外な言葉だった。
「後藤は市井の事が好きか?」
「は!?」
中澤先生の突拍子もない質問にとてつもなく驚く私。
…いきなり何を言うんだろう。
- 255 名前:WISH 投稿日:2001年12月21日(金)07時31分32秒
- 「突然こんなん聞くんも変な話やけどな。で、どうなん?」
「いや、どうって言われても…」
先生相手にこういう内容の話をするは変だと思うんだけど。
私はわざと話を逸らしてみる。
「なんですか?コレ…」
私が書類を指差すと中澤先生も視線を落とした。
よく見るとアルバムみたいなものも混ざっているようだ。
「今からな、後藤に話したい事があんねん」
「いや、だからこうして呼び出されてるんでしょ?」
というか、私の質問に答えてくれてないじゃん。
この書類達の意味ってなんなの。
私が不満に思っているとそれを見透かしたように
中澤先生は私にアルバムを差し出してきた。
「まぁ…そうなんやけどな。コレちょっと見てくれるか?」
「…はぁ」
私は言われるままにアルバムを手にした。
パラパラとページを捲る。
個人のアルバムじゃないのかな、コレ。
もしかして中澤先生のアルバム?
というか、なんでこんなの私に見せるんだろう。
- 256 名前:アリガチ 投稿日:2001年12月21日(金)07時33分29秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<そればっかかYO!
- 257 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月21日(金)10時36分42秒
- うぁぁァ〜(w
さやゆうの過去がついに来ましたか(w
明かされるのですね。
なんかさやゆうって意外に少ないので楽しみ(w
- 258 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月21日(金)19時58分40秒
- きましたね(w
市井&中澤の過去が(w
づっと待ってました。
- 259 名前:WISH 投稿日:2001年12月26日(水)05時50分02秒
- 「あの…これがどうしたっていうんですか?」
一通り見終わってから尋ねると中澤先生は私がいるのを忘れたかのように
鍵のついた動物のしっぽみたいなキーホルダーを手にして
それを大事そうに撫でていた。
私が首を傾げながらそのキーホルダーを見ると
作りがちゃちい感じがしてなんとなく手作りっぽく見えた。
私が見ている事も気付いていない中澤先生は
目を細めて穏やかな、そして少し憂いのある表情でそれをずっと見ていた。
中澤先生がこんな表情をしているのを初めて見たような気がする。
「あの…中澤先生?」
「……あぁ、悪い、悪い。ぼんやりしてしもうたわ」
ハッとしてようやく我に返った中澤先生はようやく私の顔を見た。
今日の中澤先生はどこか少し変だ。
話を進める為に仕方なく私は自分から質問をする事にした。
「…別にいいんですけど。これって中澤先生のアルバムですか?」
「そうや」
「この人可愛いですね」
私はそう言ってどのページにも中澤先生の隣にいる一人の少女を指差した。
- 260 名前:WISH 投稿日:2001年12月26日(水)05時51分19秒
- 背が低く、髪の色は金髪っぽくて長さは短め。
笑顔が可愛くて写真からは活発そうな印象を受けた。
「あぁ、そうやろ。私の妹やねん、矢口って言うんやけどな」
嬉しそうに言う中澤先生に対して私は曖昧に頷くだけ。
ただ一つ疑問があった。
「妹なのに苗字違うんですか?」
「あ、矢口は義理の妹やから名前が違うんや」
「…そうなんですか」
だからって、この写真を私に見せて何の意味があるというのだろう。
サッパリわからない。
私がとりあえずまたアルバム見ながら首を傾げていると
しばらくして中澤先生が口を開いた。
「もう一回聞くわ。市井の事好きか?」
「……あの…どうしてそんな事聞くんですか?」
だからその質問も何の意味があるの。
手っ取り早く要点だけ話してくれないかな。
私がため息をついて顔を上げてみると中澤先生は真剣な表情になってこう言った。
「後藤に市井を救って欲しいんや」
「……は?」
市井ちゃんを救う?
むしろ救ってもらったのは私の方なんだけど。
- 261 名前:WISH 投稿日:2001年12月26日(水)05時52分18秒
- そういえば市井ちゃんって中澤先生の事を嫌ってるみたいだけど
何か理由があるんだろうか。
もしかしてこのアルバムに意味があったりするとか?
この矢口とか言う人が関係するんだろうか?
「…言ってる意味がよくわかんないんですけど」
「まぁ、そうやわな。スマン、話す順序がごっちゃになったわ」
中澤先生は頭をかきながら陳謝する。
「どういう事か教えてもらってもいいですか?」
「当たり前や。その為にこうして後藤を呼んだんやから。
市井の今の状態っていうのは後藤にもわかるわな?」
「女ったらしって事ですか?」
「…まぁ、それもあるけど。
市井はな、誰に対しても上辺だけの付き合いをしてしまうんや。
希薄な関係で済ましてしまう」
そう言われて私は首を傾げる。
確かに周りにはそんな印象を持ったけれど私の時はそんな感じに思えなかったから。
これは私の自惚れとかじゃないと思う。
中澤先生もそれに気付いていたようだ。
「でもな、後藤だけは違っててん。それは何でやと思う?」
「市井ちゃんは自分と後藤が似てるからって言ってましたけど…」
本当かどうかはわからないけれど私には本当のような気がしていた。
それはただの勘なんだけど。
- 262 名前:WISH 投稿日:2001年12月26日(水)05時53分41秒
- 「そうや。多分な、私が思うに市井は後藤に自分の姿を重ねて見てたんやと思うわ。
だから後藤にだけは自分から近づいていった。自分が怪我をしてまでもな…」
やっぱり言っている意味がわからない。
ただ、今の言葉で市井ちゃんがどうして怪我をしたのかという理由を
中澤先生は知っているという事だけはわかった。
「このままだと話がまとまらんままで後藤をますます混乱させてしまうな。
ゴメンな、でも私も随分と悩んでんねん。
でもな、後藤になら市井を救ってくれるって思うてるんや。
信じてるからな…頼むで」
「……」
頼むでって言われても困るんだけど。
どうでもいいけど私の意志は無視なんだろうか。
ただでさえ、自分の事だけで精一杯だというのに。
でも詳しい話を知りたいと思った。
市井ちゃんを救う、救わないとかいう事はよくわからないけれど。
知ったところで、そういう感情が湧くのかどうかもわからなかったけれど。
それでも知りたいと思った。
- 263 名前:アリガチ 投稿日:2001年12月26日(水)05時56分51秒
- ++ちょこっと休憩++
>257さん
( `.∀´)<さやゆうの過去っていうか紗耶香の過去よね!
>258さん
( `.∀´)<お待たせしてゴメンね!でも詳しい事は次回なのよ!!
- 264 名前:とみこ 投稿日:2001年12月27日(木)10時10分43秒
- 最初から全部見たけ。
お気に入りに追加しとくでやんす。
毎日チェックいたしますばい。
- 265 名前:WISH 投稿日:2001年12月29日(土)04時35分55秒
- 今日は少し風が強い。
そして少し冷たかった。
屋上だと余計に寒い。
気をつけないと手にしていた紙が吹き飛ばされそうになる。
私は風があまり当たらない屋上の入り口裏へ移動して座り込む。
ここなら壁の影になって他人に私の姿が簡単には確認出来ないのでちょうどいい。
結局あの後、中澤先生の口からは何も聞かされなかった。
ただ今私の手にあるこの紙を見ろと言われただけ。
これに事情を書いてあるから、と。
ずっと手にしてた紙を広げる。
丁寧にワープロ打ちされているのを見て中澤先生って暇なのだろうか、と思ってしまった。
私が見易いようにわざわざ作ってくれたんだろうけど。
いや、それだけ真剣に市井ちゃんの事を思っているという証拠なのかもしれない。
内容をじっくりと読んでいく。
市井ちゃんの生い立ちから始まって詳しく書いてあるけれど。
こんなの他人の私に見せていいのだろうか。
少し戸惑いながらもとりあえず続けて読んでいく。
そして中学時代の内容で私は驚いた。
- 266 名前:WISH 投稿日:2001年12月29日(土)04時37分54秒
- お父さんが借金を苦に自殺したというのは本人から聞いていたけれど
まさかその借金取りが中澤先生のお父さんだったとは思ってもみなかった。
だから市井ちゃんは中澤先生に対しての態度がいつも悪いんだ。
中澤先生がこんなに市井ちゃんの事が詳しい理由もこれでなんとなく納得出来た。
そして高校の内容になってようやく見せてもらったアルバムの少女の名前が出て来た。
中澤先生の義理の妹である矢口という人。
この人は市井ちゃんとちょうど一年前くらいから付き合っていたらしい。
市井ちゃんの方がベタ惚れしてたというのがまた驚きだった。
今の市井ちゃんからは絶対に想像がつかない。
少しチクリと胸が痛んだ。
そしてその後の内容が一番驚くべき事だった。
矢口という人は今年の春に車に轢かれて死んだというのだ。
当時の市井ちゃんは見てられないものだったらしい。
皆の心配を余所にかなり荒れた生活を送って
しばらくしてようやく立ち直ったかと思いきや
今現在の状態である遊び人になってしまったらしいのだ。
- 267 名前:WISH 投稿日:2001年12月29日(土)04時40分28秒
- 「……」
さすがにこんな事情を知ってしまっては言葉を失ってしまう。
私なんかより遥かにヘビーな状態だ。
むしろ今までの自分が恥ずかしいと思った。
私が抱えていた悩みなど軽いものだったんだと思い知らさせた。
前に市井ちゃんが言ってた言葉。
『付き合ってる人がいても決して自分の心は動くことがないから』
『…死んじゃったらもう何も出来ない…出来ないんだよ』
…どっちも矢口さんの事を言っていたんだ。
自分の好きな人はこれからも矢口さんだけだから、と。
矢口さんがいなくなった今、他の誰かを好きになる事なんてない、と。
ある意味、今の市井ちゃんは心を閉ざしてしまっている状態なんだろう。
いつもニコニコしていて誰かに付き合って、と言われたらなんなく付き合って。
それでも決して心を開かない。
開こうとしない。
わざと遊び人という気ぐるみを着て偽りの自分を見せているのだ。
本当の自分なんて見せずにむしろ他人と距離を持とうとしている。
特別な人間を作る事を拒否しているのだ。
それは一番大切にしていた相手を失った後遺症。
- 268 名前:WISH 投稿日:2001年12月29日(土)04時41分24秒
- 市井ちゃんにとって特別な人間は
もうこの世にはいない矢口さんだけ…。
その生き方は幸せな生き方なのだろうか。
亡くしたモノを取り戻す事なんて出来ないけれど。
でも今の市井ちゃんは過去に囚われて
この先の自分の未来を諦めているような気がする。
手にしていた紙にポツポツと水玉模様が出来る。
いつの間にか自分の頬が濡れている。
ここ数日で随分と涙もろくなってしまった。
これも全て市井ちゃんと出逢ったから。
市井ちゃんは私に普通の感情を取り戻させてくれた。
心に余裕を持たせてくれた。
でも私が市井ちゃんの事情を知ったところで何が出来るというのだろう。
私は市井ちゃんに救ってもらった。
本人にはちゃんと言えてないけれど本当は心から感謝している。
そしてその借りは出来る事ならきちんと返したい。
でもこれはそんなに簡単に解決できる問題ではない事くらい私にだってわかる。
力不足だというのは決して否めない事実だ。
それに中澤先生はどうして私に頼んだのだろう?
他の人には出来ない私にだけ出来る事ってあるのだろうか?
- 269 名前:WISH 投稿日:2001年12月29日(土)04時42分11秒
- あと一つ引っかかる事があった。
中澤先生にこの紙を渡されて部屋を出る時の会話だ。
『実はまだ問題はあるんやけどな』
『…え?』
『後藤が少しでも市井を変える事が出来たらその時言うわ』
『…どうして今は教えてくれないんですか?』
『その紙の内容も結構プライベートな事を書いてるけどな。
その中にない市井がもっと他人に知られたくない事があるねん。
これはさすがに簡単には口にする事は出来へん』
『……?』
中澤先生はまだ何かを隠している。
私にはそれを聞く勇気があるのだろうか。
ただでさえ、こんなにキツイ事情を知ってショックを受けているというのに。
市井ちゃんの心の闇。
それはとてつもなく深い闇だ。
その深い闇に少しでも明かりを灯す事が私に出来るのだろうか。
でも自分の出来る事はやりたいと思った。
- 270 名前:WISH 投稿日:2001年12月29日(土)04時43分57秒
- まずは自分が変わらなくちゃいけない。
素直になろう。
意地を張ったり、他人を寄せ付けない雰囲気を自ら作るのは止めよう。
自分が心を開かなければ市井ちゃんの心を開く事なんて到底無理だ。
今自分の心の中にある感情。
正直に認めるべきだ。
私は市井ちゃんが好きだ。
だから矢口さんの存在を知って市井ちゃんがベタ惚れだったというのを知って
胸が痛んだのだ。
逢って間もない私なんて矢口さんと比べたら全く相手にもならない。
それでも私は市井ちゃんの心が欲しい。
そして自分の手で市井ちゃんの心の闇を無くしたい。
心からそう思った。
「……市井ちゃんは今幸せなの?」
寂しい独り言。
また自然と涙が溢れ出す。
私はその後もしばらく屋上で泣き続けていた。
- 271 名前:アリガチ 投稿日:2001年12月29日(土)04時46分00秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<次回から視点が変わるわよ!!
>とみこさん
( `.∀´)<ありがとー!先は長いから覚悟しといてね!!
- 272 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月29日(土)15時40分15秒
- チャムはいつか中澤の事を許せる日はくるのだろか?
- 273 名前:とみこ 投稿日:2001年12月30日(日)12時05分15秒
- ゴッツァンがホントの市井ちゃんを出すことが出来たら、きっとホントのいちごまが見れるはず。
- 274 名前:WISH 投稿日:2001年12月31日(月)18時25分02秒
- 中澤先生に連れて行かれた後藤を見送った後
あたしはぼんやりと空を眺めながら昼食の続きをとっていた。
どうしてだろう。
逢って間もない人間である後藤の為にどうしてあそこまでやろうと思ったのか。
実はあたしにもよくわかっていない。
ただ自分に似てると思ったのは本当。
不器用な生き方しか出来ない後藤。
そして不器用な生き方を選んだあたし。
境遇は違っていてもあたし達は似た者同士だと思った。
だから見て見ぬ振りをする事が出来なかった。
誰かの為に何かをしようなんてこの半年くらい思った事はなかったのに。
怪我してまでもだなんて尚更。
不器用なあたし達。
きっと他人では分かり合う事が出来なくても
後藤とだったら出来るかもしれない。
でも別にそんなつもりで後藤に近づいたわけではない。
あたしの意思なんてそこにはない。
だからこの先も今のあたしが変わる事なんてないだろう。
手にしていた袋を勢いよく握り潰して立ち上がる。
「さて、この後どうしようかな…」
あたしの独り言は風の音でかき消された。
- 275 名前:WISH 投稿日:2001年12月31日(月)18時27分25秒
- 今日は早い時間にバイトを入れていた為
あたしは午後の授業は受けずに帰ろうとしていた。
ここ数日、ある事情により通常の夕方からというバイト時間のシフトを
少し変えていたのだ。
それに二週間も入院していたせいもある。
それを見破ったかのように教室に戻ってカパンを手にしたあたしに
声をかける人物がいた。
「紗耶香ー」
「圭ちゃん、どうかした?」
「アンタ帰る気でしょ?」
「…バレた?」
腕を組んで仁王立ちしている親友の圭ちゃんを見て、あたしは苦笑いした。
この姿を見ているとそこら辺の寺に銅像として奉っておきたいと
ぼんやり思ってしまった。
「アンタが二週間も休んでた間、きっちり授業のノートをとってあげてた
私の好意を台無しにするつもりー!?」
「だって、そんなの頼んだ覚えないもん」
あたしがアッサリそう言うと圭ちゃんは般若のような顔をして怒り狂った。
「頼んでなくても感謝しなさいよ!
っていうか、周りより一人遅れてるんだから取り戻そうとか思いなさいよ!」
「勉強なんてどうでもいいもん。あたしは生活費の方が大事」
そう言ってあたしは教室を出た。
- 276 名前:WISH 投稿日:2001年12月31日(月)18時29分07秒
- 廊下に出ても圭ちゃんの怒鳴り声は聞えていた。
これじゃ、うちのクラスに珍獣がいるかと思われちゃうよ。
×××××
中庭を通り過ぎようとして立ち止まる。
ちょうど後藤の姿が目に入ったのだ。
しゃがみ込んでぼんやりと花壇を眺めている。
そういえば最近よくりんね達の手伝いをしている後藤を見かける。
ただ声をかけるのは退院したあの日以来だ。
ここ数日は見かけるだけであたしの方から逢いに行く事はなかったから。
「後藤ー」
あたしが声をかけると後藤は間を置いて振り向いた。
なんだか前と雰囲気が違うような気がしたのだけれど
気がつかない振りをしてあたしは後藤に近づく。
後藤はあたしの手にあるカバンを見て首を傾げていた。
「もう帰るの?」
「ん、今からバイトなんだ」
「市井ちゃん〜、サボリはよくないよ」
「お前が言うな」
あたしがツッコミを入れるとあは、と後藤は笑う。
それを見てちょっとビックリした。
そしてあたしの驚いた顔を見て後藤は首を傾げている。
- 277 名前:WISH 投稿日:2001年12月31日(月)18時31分34秒
- 「何、驚いてんの?」
「…いや、後藤の笑った顔って初めて見たなーって思ってさ」
「失礼だね、後藤は人形じゃないんだから。ちゃんと笑ったり、怒ったりするよ」
「っていうか、あたしの前ではいつも怒ってばっかだったじゃん」
「怒らせてたのは市井ちゃんでしょ」
「……口の減らない奴だな」
あたしがため息をつくと後藤はまた笑顔を見せた。
なんだ、笑うと可愛いじゃん。
いや、元々可愛いんだけどさ。
あたしがそんな事を思いながら頬をかいていると
後藤は花壇に視線を戻して生えていた雑草を暇つぶしに
ブチブチと抜きながら口を開く。
「…市井ちゃん、アリガトね」
「へ?」
突然のお礼に戸惑うあたし。
それでも後藤はまだ花壇に視線をやったままだ。
「だって、市井ちゃんのお陰なんだよね。
こうして今の後藤があるのも…だから、アリガト」
「……別に何もしてないさ」
- 278 名前:WISH 投稿日:2001年12月31日(月)18時32分44秒
- あたしがまだ戸惑ったまま頬をかいているのに後藤はそれを気にせず言葉を続ける。
「本当はもっと早くお礼を言わなくちゃいけなかったんだろうけど。
性格上なかなか言えなくて」
「なんか、素直な後藤って気持ち悪い」
「…何それ」
あたしが思った事をそのまま口にすると後藤はムッとしていた。
素直な後藤っていうのもなかなかいい。
今までが無愛想過ぎたからだろうけど。
ちょっと新鮮だと思った。
「ゴメン、ゴメン。別に悪気があって言ったんじゃないよ。
そろそろバイトに行かなきゃいけないからまたね」
「ん〜…、頑張って」
まだ膨れっ面をしている後藤の頭を軽く撫でてあたしは苦笑いする。
それでもまだ納得していない表情をしていたけれど
後藤はあたしに軽く手を振ってみせた。
なんか本当に変な感じ。
急に態度が変わるなんて。
今までと正反対だよ、これじゃ。
そんなのこっちが戸惑わないわけないじゃんか。
- 279 名前:WISH 投稿日:2001年12月31日(月)18時33分58秒
- あたしは後藤に背を向けて校門へと足を進め
首をかしげながら頭をかいていたのだけど
その時頭の中で何かがよぎった。
そうだ。
スッカリ忘れそうになってたけれど
一つ確認しておかなくてはいけない事があったんだ。
後藤をわざわざ呼びに来た中澤先生。
一体あの後後藤と何を話し合ったのか、それが物凄く気にかかっていたのだ。
あたしが離れてもまだ花壇の前にしゃがみ込んでいる後藤に
少し距離があるのも構わず声をかける。
「後藤ー、あのさー…」
「…何?」
キョトンとした表情であたしを見る後藤。
「この前さ、中澤先生に何か言われた?」
「……」
あたしが探りを入れると後藤は無言になって目を泳がせていた。
それにどこか挙動不審のような気がした。
- 280 名前:WISH 投稿日:2001年12月31日(月)18時34分43秒
- あたしが何か言おうとするとそれを拒絶するかのように後藤は立ち上がった。
「成績が下がったからなんとかしろだって」
それだけ笑顔で言ってあたしに背を向けて校舎の方へ歩いて行ってしまった。
あたしはその場で後藤の背中を眺めつつまた首を傾げてしまう。
立ち去り際の後藤が作り笑顔だったように見えたのだ。
やっぱり中澤先生に何か言われたな、あれは。
まさか、あたしの事なんて言ってないだろうな。
確かめてみたいと思ったけれど残念ながらバイトの時間が迫っていたので
仕方なくあたしはため息をついてまた校門に向かって歩き始めた。
- 281 名前:アリガチ 投稿日:2001年12月31日(月)18時37分52秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<今回から紗耶香視点よ!!
>272さん
( `.∀´)<さやゆうが和解するかどうか謎よねー!
>とみこさん
( `.∀´)<本当のいちごまとは何かしらねー!
- 282 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月02日(水)14時58分32秒
- MADE TO BE IN LOVEから繋がってるのかなあ?
なんて思っていたら、こんな繋がり方!
後藤、頼む!
- 283 名前:WISH 投稿日:2002年01月02日(水)23時52分16秒
- 今日のバイトは居酒屋。
看板娘ってわけじゃないけど、あたし目当てで来る常連さんもいるらしく
店長は二週間も来れなかったというのに笑顔で迎えてくれた。
久し振りのバイトは客の入りが盛況という事もあってなかなかハードだった。
重い大のビールジョッキを両手にテーブルを行ったり来たりしていると
途中で声をかけられた。
てっきり注文かと思って笑顔で振り向いたのに
声の主の顔を見た途端、脱力してしまう。
「…なんでこんなとこにいんの?」
あたしがそう言うと相手は心外そうな顔をした。
「なんでそういう言い方するかな?わざわざ紗耶香に逢いに来てあげたのに」
「確かに久し振りだね、半年ぶりだっけ?」
「そうだよ。私が卒業してから全然逢ってないから」
煙草を片手にニコッとあたしに微笑みかけてきたのはあやっぺだった。
- 284 名前:WISH 投稿日:2002年01月02日(水)23時52分58秒
- しばらくして休憩時間になったあたしは自分の晩御飯であるチャーハンを片手に
あやっぺが座っているテーブルについた。
ちなみにあやっぺは一人で来ていた。
「よく一人で居酒屋なんか入れるね」
「今日は特別だってば」
「相変わらず煙草も酒もやってんのか」
「まぁね」
テーブルの上にある料理に紛れてワインがボトルで乗っていたし
灰皿には沢山の吸殻があった。
久し振りに見るあやっぺは前より綺麗になっていた。
服装も前より大人っぽくなっていたし、化粧もバッチリしていた。
ただ、なんとなくこれから夜の仕事に行くようにも見えるのが難点か。
「久し振りに逢ったせいかな…なんか紗耶香ちょっと変わった?」
あやっぺのその言葉に思わず言葉を失いかけた。
今のあたしがどういう人間かなんて知らないはずなのに。
きっと矢口の事を知らないのに。
もしかして気付かないうちにあたしはそういうオーラを出しているんだろうか。
「自分では別に何も変わらないと思うけど…なんで?」
「いや、なんとなくそう思っただけ。気にしないで」
あやっぺはちょっと肩をすくめて苦笑いしている。
自分から話を逸らした方がいい。
こういう話題は苦手だ。
- 285 名前:WISH 投稿日:2002年01月02日(水)23時53分53秒
- 「あやっぺは今、服飾系の専門学校に行ってるんだっけ?」
あたしはそう言いながら自分で運んできたチャーハンを口に運ぶ。
あやっぺは灰皿に煙草を揉み消しながらあたしを見た。
「そうだよ。あ、そうそう。私、生徒会長に用があるんだよ」
「生徒会長って圭織に?知り合いなの?」
「ちょっとー。私ってこれでも二年の時に生徒会長だったんだよ」
「えー!?マジで??」
「コラコラ。なんで知らないかな?
私が生徒会長でその時圭織が書記だったんだから」
「…へー、知らなかった」
「私も紗耶香が圭織の友達だったなんて知らなかったわよ」
「なんだそりゃ」
じゃあ、なんであたしに頼もうとするかな?
圭織と全く接点がなかったらどうするつもりだったんだ?
それでもあたしに連絡を取らせようと思ってたのか。
それにしてもあたしが一年の時の生徒会長があやっぺだったとは。
こりゃ、かなりの驚きだな。
うちの学校って変な人ばっかが生徒会に入るんだなぁ。
ハッキリ言って人選ミスばっかじゃないか。
- 286 名前:WISH 投稿日:2002年01月02日(水)23時56分07秒
- 「で?圭織に用ってのは?」
「いや、今度作ろうとしてる服があってね、そのモデルになって欲しいなーと思って。イメージがちょうど圭織に合うんだ」
「ふーん、圭織ってスタイルいいから適任かも」
「それで連絡先知らないから紗耶香に用件を伝えてもらおうと思ってね」
「わざわざあたしに言わないで直接学校へ来たらいいじゃん」
「イキナリ行くより先に連絡入ってる方がいいでしょ?
ま、圭織も忙しそうだから今度私の方から学校へ久し振りに顔出すつもりだけどね」
「んー、わかった。一応あたしから言っておくよ」
「サンキュ」
そう言ってあやっぺは満足そうにワインを口に運ぶ。
相変わらずのマイペースぶりに思わずため息が出る。
「それにしても、あやっぺが生徒会長だったとはね。
服飾系の学校に進んだってのも驚きだったのに」
「こう見えてもね、色々とやってたんだよ。
部活とかでもほとんどの部は渡り歩いたし」
「は?何それ?」
- 287 名前:WISH 投稿日:2002年01月02日(水)23時57分00秒
- 「自分に合う部活を探す為に色々入ってみたんだ。
美術部で圭織と一緒に絵を描いてた時期だってあったし
紗耶香の友達の圭ちゃんがいる吹奏楽に入ってた時期もあったし。
軽音部ってのもあったなー。
ま、結局は手芸部に落ち着いたって感じだったんだけどね」
ジャンルがかなりバラバラだなぁ。
確かに圭織は美術部だし、圭ちゃんは吹奏楽だ。
っていうか、圭ちゃんも知ってるのか。
「手芸部ってのも変な感じだけど美術部とか吹奏楽までやってたのか。
ま、どうせ全部中途半端に終わったんでしょ?」
「うわー、失礼ね。じゃあ、ちょっと見ててよ」
あやっぺはそう言うなり自分のバックから手帳を取り出し、何かを書き出した。
何書いてるんだろ。
あたしが首を傾げている間にあやっぺは何かを書き終えて
満足そうにあたしにそれを見せてきた。
「はい!これだーれだ?」
「なんだ、絵を描いてたん……」
あやっぺが描いた絵を見て言葉を失うあたし。
『( `.∀´)ノ』
こ、これは…。
- 288 名前:WISH 投稿日:2002年01月02日(水)23時57分58秒
- 「…あれ?わかんない?結構自信作なんだけど…」
「い、いやあまりにも似過ぎて言葉が出なかっただけで…。
コレ…圭ちゃんでしょ?」
「ピンポーン!どうよ?上手いっしょ?」
「…上手過ぎ」
こんな時にでも話のネタになる圭ちゃんはある意味大物だと思った。
いや、そんな事はどうでもいいんだけど。
あたしがあやっぺ作の圭ちゃんに感動していると背後から声をかけられた。
「あれー?市井とあやっぺやんー。何してんの?」
ゲ、平家先生だ。
あたしはテーブルの上にあるほとんど空になっているワインの瓶と
満杯になっている灰皿を見て慌てる。
しかしあやっぺは堂々としていた。
「みっちゃんー、久し振りだね」
「アンタ、また酒飲んでるんかいな」
平家先生はテーブルにある品々を見て苦笑いしている。
「平家先生…怒らないんですか?」
あたしがおどおどしながら聞いてみると
平家先生は勝手にあやっぺの横に座りキョトンとしていた。
「なんで?別にええやん。アタシかて学生時代の頃やってたで」
「そうそう、みっちゃんは物分かりがいいんだよ。紗耶香はちょっと頭固過ぎ」
「……」
- 289 名前:WISH 投稿日:2002年01月02日(水)23時58分36秒
- …自分がやってたからって注意しないつもりなのか。
教師がそんな考えでいいのか?
「でも、煙草はアカンよ。これは控えとき」
「はーい」
今度は素直に返事をするあやっぺ。
二人はどういう関係なんだろう。
「…なんか仲良さそうだね」
「学校をサボってばっかの市井は知らんと思うけど英会話部の顧問やからね、アタシは」
「そうそう、そん時仲良くなったんだよね」
二人は顔を見合わせて笑っている。
…英会話部にまで入ってたのか。
あやっぺって一体・・・。
それにしても顔が広過ぎる。
- 290 名前:WISH 投稿日:2002年01月02日(水)23時59分56秒
- いつの間にか客の入りも落ち着いてきたらしく。
店長から退院したばかりという事もあって
しばらく休憩を延長してもいいという有難い言葉をもらった。
あたしはあやっぺと平家先生のいるテーブルで
その後もどうでもいい世間話をしていた。
「それにしても市井は大変やったなぁ」
少しお酒の入った平家先生が首を振りながら大袈裟に言う。
その言葉を聞いて何も知らないあやっぺはキョトンとしていた。
「大変って何?なんかあったの?」
「いや、ちょっと二週間ばかしインフルエンザで入院してて…」
あえて表向きな理由を出した。
「そうなの?紗耶香って怪我とか病気とか無縁そうに見えるのにねー」
「…失礼な」
「それと関係あるんかどうかは知らんけど市井が入院してからというもの
後藤が大人しくなってくれて…。
きっとその間に市井が後藤を改心させてくれたんやろ?
そう思うたらアタシはホンマに嬉しくてな…」
そう言いながら涙を拭う仕草をする平家先生。
それを見てあたしは少し気分が重くなる。
- 291 名前:WISH 投稿日:2002年01月03日(木)00時00分59秒
- ズキズキ…。
この胸の痛みは何だろう…。
「後藤って誰?」
あやっぺは相変わらず首を傾げている。
「そうか、後藤とあやっぺは入れ違いになってるから知らへんか。
後藤っていうのはな、うちの学校の理事長の娘や」
「あー、なんかその苗字に聞き覚えがあると思った。
で、紗耶香とその後藤って子が何か関係あんの?」
「二人とも学校の問題児って点では関係してるかもな。
それに最近仲いいみたいやし。
あと市井が後藤狙ってるっていう噂も聞いたことあるで。その辺どうなん?」
「「は?何それ?!」」
平家先生の言葉にあたしとあやっぺの言葉が重なる。
狙ってるってなんだよ、それ…。
別にそういうつもりじゃないってば。
あたしが戸惑っているのとは別の理由であやっぺも怪訝そうな顔になっている。
「どういう事よ?紗耶香、アンタ一体何やってんの?」
真剣な表情であたしの顔を覗き込んでいるあやっぺを見て
今度は平家先生が怪訝そうな顔になる。
「あやっぺこそ、何言うてんの?」
「だって…矢口はどうしたのよ?」
「……」
その言葉に思わず息が詰まる。
黙り込んだあたしをあやっぺは辛抱強く待っている。
しかし先に平家先生が口を開いた。
- 292 名前:WISH 投稿日:2002年01月03日(木)00時01分49秒
- 「矢口って……あの子なら半年前に事故で亡くなったで」
その言葉に今度はあやっぺが息を呑んだ。
静まり返るテーブル。
平家先生だけがビールを口に運びながら、あたしとあやっぺの様子を窺っていた。
「…知らなかった。そうなんだ……」
あやっぺはかなりショックを受けているようで、かなり声のトーンが下がっていた。
「知らんのはしゃーないわ。あやっぺが卒業してからの事やからなぁ。
それからやんな、市井がおかしくなったのは。
授業もろくに受けずに色んな子を連れまわすようになって。
で、後藤にもちょっかいかけてる、と」
平家先生は酔っ払っているのか余計な事ばかり口にする。
いい加減、あたしも頭に来てテーブルを思いっきり叩いて立ち上がった。
「…もう休憩終わりなんで戻ります」
二人の返事も聞かずあたしが背を向けて戻ろうとすると
あやっぺがボソッと呟く声が聞えた。
「紗耶香…本当に変わっちゃったんだね」
明らかに落胆した声。
それはあたしの胸を貫いた。
- 293 名前:アリガチ 投稿日:2002年01月03日(木)00時04分20秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<あけおめー!紗耶香に誕生日おめでとうを言うの忘れてたわ!
あと正月なので大量交信!!
>282さん
( `.∀´)<ゴメンね!焼肉話作ってる時からこうなる事が決まってたのよ!
- 294 名前:とみこ 投稿日:2002年01月03日(木)20時13分26秒
- 『保田さんって・・・×××ですね。』
なんて、直接顔見て言えないファイッ♪
- 295 名前:WISH 投稿日:2002年01月06日(日)01時41分44秒
- 次の日の放課後、圭織にあやっぺからの伝言を伝える為に中庭に行くと
後藤が友達を連れて花に水やりをしていた。
「後藤ー、圭織いる?」
声をかけると後藤がホースを持ったまま振り向いてきたので
危なくあたしは水を被りそうになった。
「…あ、ごめ〜ん」
「何やってんの、ごっちん」
後藤の横にいた友達がため息をついている。
頭が良さそうで後藤よりは幼く見えたけれどきっと同じ学年なんだろう。
後藤が同い年の子達より大人っぽいというのもあるから。
「後藤の友達?あたしは三年の市井紗耶香、よろしく」
あたしが笑顔で手を伸ばすと、その手とあたしの顔を交互に見比べながら
警戒するような表情をしていた。
それを傍で見ていた後藤はキョトンとしている。
「明日香、どうしたの?」
「いや…別に」
後藤の方へ振り返っても笑顔はないようだった。
ちょっと後藤と似たタイプなのかもしれない、とあたしはぼんやり思っていた。
- 296 名前:WISH 投稿日:2002年01月06日(日)01時43分32秒
- 何も言わずにあたしを睨むような目で見ている彼女を見て
後藤は頬をポリポリとかきながらフォローする。
「この子は後藤と同じクラスの福田明日香さん。
最近、仲良くなってたまにここの手伝いもしてもらってんの」
後藤に友達なんていたのか。
ちょっとした驚きだった。
後藤はもう大丈夫なのかもね。
サボリも止めて素直になったし、前と違って色んな感情を表に出すようにもなったし。
もうそろそろ後藤と距離を置いた方がいいのかもしれない。
きっとあたしは後藤を傷つけてしまうから。
そしてそこで気付いた。
「あれ?後藤、ココどうした?」
あたしが自分の左頬を指差しながら聞くと後藤は少し間をおいて苦笑いをした。
「昨日、ちょっと階段でぶつけてさ」
上るときに足を滑らせて顔をぶつけたんだよね〜、と頭をかいている。
「ふーん、案外ドジだね。気をつけなよ」
あたしがそう言うと後藤は頬を膨らませていた。
- 297 名前:WISH 投稿日:2002年01月06日(日)01時44分40秒
- こういう顔も可愛いんだけどね。
思った事を口にしたらまた勘違いされても困るし。
このままだと文句を言われそうだったので本題に入ることにした。
「そういや圭織とりんねはいないの?」
「ん〜、生徒会の用がすんだら来るって言ってたけど」
「そっか。んー、また今度でいいか。じゃあ、またね」
あたしがそう言ってその場を去ろうとしたその時、呼び止められた。
「ちょっと待って」
「…えーっと、福田さんだっけ?あたしに何か用があんの?」
「私の事は明日香でいいから、紗耶香って呼ぶよ。ちょっと時間くれない?」
「は?…別にいいけど」
あたしがとりあえず返事をすると明日香はあたしの手を取り
何も言わずにその場から立ち去ろうとする。
一応、これでもあたし上級生なんだけどなぁ。
後藤といい、この明日香といい…なんであたしに対して
皆敬語を使おうとしないんだ。
ま、別にいいけどさ。
引っ張られたまま後藤の方へ振り向くと何が起きてるのか
サッパリわからないという感じで明らかに戸惑いの表情を浮かべていた。
- 298 名前:WISH 投稿日:2002年01月06日(日)01時47分08秒
- 連れてこられた場所は近くの喫茶店だった。
放課後という事もあって同じ学校の生徒もちらほらと姿が見えた。
なんでわざわざこんな所に連れ込まれなくちゃいけないんだろう。
しかも初対面の相手に。
窓際の空いてる席に向かい合って座ったけれど明日香は俯いて
一向に口を開こうとはしない。
ウェイトレスがお水を持ってメニューを聞いてきた時にアイスティー、と
口を開いたくらいでずっと明日香は無言だった。
今日もバイトを入れているあたしとしては早く帰りたいんだけど。
「あのさ、あたしに何の用?」
あたしが小さくため息をつきながら聞いてみると明日香は俯いたまま口を開いた。
「…の代わりにするつもり?」
「え?何?」
ボソボソっとした声だったので周りの雑音に消されてハッキリと聞き取れない。
明日香は顔を上げるとキョトンとしたままのあたしを睨んできた。
「ごっちんを矢口の代わりにするつもり?って言ったの」
「……っ」
まさか彼女の口から矢口の名前が出るとは思ってもみなかったので
あたしが言葉を失っていると明日香はイラつきながらまた聞き直してきた。
- 299 名前:WISH 投稿日:2002年01月06日(日)01時49分13秒
- 「何も言い返せないって事は図星なの?」
「…ちょっと待って。なんで矢口の事を知ってんの?」
あたしがそれだけの言葉をやっとの思いで言うと明日香はため息をついた。
「矢口とは家が近所で小さい頃から幼馴染だった。
中澤先生との事も知ってるし、紗耶香の事も知ってる」
「…そう」
矢口に幼馴染なんていたのか。
…初めて知った。
それにしても。
どうしてここ数日になって矢口の話題がよく出るようになっているのか。
せっかく考えないようにしているのに。
今でもこんなにも胸が痛むというのに。
何も考えたくない。
そうしなければ今の自分を保つ事が出来ないから。
いつの間にか喉がカラカラに渇いていて
あたしは動揺している素振りを見せないように
そして何事もなかったかのように水の入ったコップを口に運ぶ。
冷たい液体が喉を通ってそのお陰で少しだけ自分の頭も冷えたように思えた。
ちょうどその時にウェイトレスが注文したモノを運びにきた。
明日香はそれに手をつけようとはせずに、あたしを睨んだまま喋り始める。
- 300 名前:WISH 投稿日:2002年01月06日(日)01時52分54秒
- 「忠告しようと思って」
「…何を?」
「興味本位でごっちんに近づくのは彼女を傷つけるだけだよ」
「……なんか大袈裟だね、それに別に後藤とはただの知り合いって程度だし」
あたしが少し調子を取り戻して笑いながら言うと
明日香は自分が注文したアイスティーのストローを弄びながら少し笑って見せた。
「そうだよね、紗耶香は矢口の事を忘れらんないもんね。
じゃなきゃ、矢口が可哀想だし」
「……」
この言葉にまた調子を崩される。
そんなあたしを見て明日香はまた笑っていた。
どことなくあたしを馬鹿にしたような冷ややかな笑みに見える。
明日香はどこまで知っているんだろう。
もしかしてあたしと矢口の事を隅々まで知っていて
こんな事を言っているのだろうか。
今あたしにわかるのは明日香に嫌われている事。
憎まれているという事だけはわかる。
- 301 名前:WISH 投稿日:2002年01月06日(日)01時54分19秒
- 「それにごっちんは私の大切な友達。
ごっちんを矢口と同じような目に遭わせたら許さないから」
「……」
明日香相手に誤魔化しは効かないと思った。
嘘を並べても何もかもバレてしまう。
そんな予感がしていた。
あたしが考えている内容を知ってか、明日香は目を少し細めてこう言った。
「自分でも気がついた方がいいと思うよ。紗耶香は周りを不幸にするんだってね」
×××××
「不幸にする…か」
あたしは昨日明日香に言われた言葉を思い出して自虐的な笑みを浮かべて呟く。
周りだけじゃなくて自分も不幸になってるんだけどね。
そんな事言ってても仕方のない事なんだけど。
でも明日香の言葉は的を射ている。
きっとこのままじゃ良くない。
- 302 名前:WISH 投稿日:2002年01月06日(日)01時56分25秒
- それに後藤は本当のあたしの事なんて知らないんだから。
きっと知ったら嫌いになる。
何も知らない方がいい。
知られない方がいい。
お昼休み、ため息をついているあたしに声をかける人がここに一人。
「アンタ、その顔気持ち悪いわよ」
「…圭ちゃんに言われたくない」
あたしが素で言うと圭ちゃんは劣化の如く怒り出した。
「………なんですって?」
「…な、何でもありません。それよか食堂行かない?」
「………いいけど」
怖っ。
…冗談なのに。
食堂に着いてもムスッとした顔で圭ちゃんはあたしの向かい側の席に座る。
ちょっとビクビクしながらも注文したうどんに七味をふりかけていると
圭ちゃんは割り箸を割るのに失敗したらしく顔をしかめていた。
それでもその後ラーメンをズルズルと豪快に…いや、美味しそうに食べていた。
- 303 名前:WISH 投稿日:2002年01月06日(日)01時58分01秒
- しばらくは食べるの集中してお互いに食べ終えると
圭ちゃんは一応あたしの事を心配していたらしくこう言った。
「なんか今日元気ないじゃん?どうかしたの?」
「んー、別になんも。あ、圭ちゃんは福田明日香って子、知ってる?」
「明日香?えーっと…」
圭ちゃんはその言葉の続きを言い難そうにしていた。
あたしの前で矢口の名前を出すのを躊躇っているんだろう。
「…本人が矢口の幼馴染だって言ってたんだけど」
あたしの言葉を聞いて圭ちゃんは激しく驚く。
「本人って明日香に逢ったの!?」
「うん、昨日ね」
ああいう事言われるんなら逢いたくなかったけどね。
終わった事についてゴチャゴチャ言っても仕方ない事だけど。
- 304 名前:WISH 投稿日:2002年01月06日(日)01時58分41秒
- 「それにしてもビックリだわね。まさか、うちの学校に来てたとは。
明日香とね、随分前だけど数回ほど逢った事もあるのよ」
「…ふーん」
「たまにキツイ事言う子だけど気にしない方がいいわよ」
「………ん」
あたしが矢口の知らない事ってまだあったんだなぁ。
矢口との付き合いは圭ちゃんの方が長かったから仕方ないのかな。
チクチク。
ズキズキ。
グサグサ。
この胸の痛みをどう表現したら一番わかりやすいのかな。
っていうか、本当にもう何も考えたくないんだよ…。
- 305 名前:アリガチ 投稿日:2002年01月06日(日)02時00分52秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<容量ヤバメなので次回分の交信が終わったら移動するわ!
>とみこさん
( `.∀´)<意味わかんなかったわ!
- 306 名前:WISH 投稿日:2002年01月07日(月)22時31分00秒
- 放課後の中庭にはいつものメンバーがいた。
「たまには紗耶香も手伝おうとか思わない?」
圭織がブツブツ言っているのを無視して夢中で雑草を抜いている後藤に話し掛ける。
「今日は明日香はいないみたいね」
「ん〜、今日はピアノ教室に行くんだって」
…そりゃ良かった。
あんまし逢いたくないからね。
まずはこれを確認したかったんだ。
あたしのホッとした表情を見て後藤は首を傾げていた。
しかし途中で固まる。
後藤の表情が険しくなっているのを見て今度はあたしが首を傾げる。
「後藤?どした?」
「…何でもないよ。で、明日香がどうかしたの?」
「…んにゃ、何でもない。いないならいいんだ」
「ふ〜ん」
どうもあたし達二人は噛合わない会話をしている。
さっき、あたしに無視された圭織はりんねと仲良く談笑している。
その様子を見てあやっぺに伝言を頼まれていた事を思い出した。
- 307 名前:WISH 投稿日:2002年01月07日(月)22時31分59秒
- 「ねーねー、圭織ー、あやっぺ覚えてる?」
あたしが二人の間に割り込んでいくと邪魔されたりんねは
ムゥッと頬を膨らませていた。
圭織はあたしの言葉に反応する。
「あやっぺ?んー、もちろん知ってるよ」
「この前あたしのバイト先に来たんだけど。
なんかね、圭織をモデルにして服作りたいんだってさ」
「えー!?スゴイじゃん!圭織!!」
「何が?」
「えー、だってモデルになるんでしょ!?」
「は?!」
「…いや、りんね…そうじゃなくてね……」
圭織はあたしが言ったことをちゃんと理解したようで
ちゃんとりんねに説明をしてくれていた。
どこまで天然ボケなんだ。
りんねを相手にすると、どうも疲れる。
あたしがため息をついていると
いつの間にかあたしの傍に来ていた後藤が何かを言いたそうにしていた。
「どした?」
「え〜っと…あのさ……市井ちゃん、今度の日曜ヒマ?」
「へ?」
- 308 名前:WISH 投稿日:2002年01月07日(月)22時32分57秒
- 「いや、お母さんの知り合いが遊園地の券くれたんだけどね。
行く相手がいないからさ〜…一人で行っても仕方ないし」
「あたしなんかより明日香誘えばいいじゃん」
「一応、誘ってみたんだけどね、その日、明日香は親戚の家に行くんだって」
また周りに誤解されるのもアレだしなぁ…と思って
即答しなかったら後藤は少し寂しそうな顔をしていた。
そんな顔されたらかなり困る。
っていうか、かなり弱る。
最近妙に可愛いな、後藤ってば。
「…じゃ、一緒に行こうか。あたしでよけりゃ」
「やった!」
結局こうなっちゃうんだよね。
ま、後藤のこんなにも嬉しそうな顔を見てたら
周りに誤解されても別にいいかー、って思っちゃうし。
案の定、横にいた圭織とりんねはあたし達を見てクスクス笑っていたけど。
- 309 名前:WISH 投稿日:2002年01月07日(月)22時33分46秒
- 「そうだ。連絡用として市井ちゃん携帯のナンバー教えてよ。
後藤のも教えるからさ」
「携帯?持ってるけどあたしからかけないよ、金が勿体無い」
「本当に貧乏症だね。じゃあ、何の為に持ってんの…?」
「待ち受け専用」
「……」
「いいじゃん、別に…とりあえず、あたしの番号教えとくよ」
後藤が大きくため息をついてるのを見て本当の事なんだけどなぁ、と
あたしは頭をかいた。
でもね、後藤。
これで最後だよ。
明日香に忠告されたからというわけじゃないけど。
自分でも後藤とはもう関わらない方がいいと思うから。
それがきっと後藤の為になるのは確かだ。
そしてあたしが自滅しない為にも。
- 310 名前:WISH 投稿日:2002年01月07日(月)22時34分48秒
- …どこだ、ここ?
モヤモヤした霧がかかった何もない所にあたしは一人立っていた。
周りには何もない。
しばらくボケーッとしていると遠くから誰かが来た。
目を凝らして見て見るとあたしと矢口だった。
…なんだ、これ夢か。
どうする事も出来なくてあたしは自分の分身と矢口の様子を見る事しか出来ない。
二人はとても幸せそうに手を繋いでいた。
それを見てズキズキと胸が痛む。
半年前なら当たり前にしてたこの状況を今のあたしが見るにはとても辛い。
だって今のあたしの傍に矢口はいないから…。
もう二度と在り得ない光景だから…。
- 311 名前:WISH 投稿日:2002年01月07日(月)22時36分02秒
- …矢口。
……矢口。
………矢口。
お願いだから帰って来てよ。
その為ならどんな事でもするから。
どんな事を引き換えにしてもいいから。
何もかも無くしてもいいから。
あたしは矢口がいないとダメなんだ…。
そして二人はあたしを無視して仲良く通り過ぎて行く。
きっとあたしの姿なんて見えていないのだろう。
後姿を見てこれは全て過去の事なのだと。
二度と取り戻せない過去なのだと思い知る。
- 312 名前:WISH 投稿日:2002年01月07日(月)22時37分14秒
- いつの間にかその場に崩れ落ちて顔を覆っていた。
地面に幾つもの涙が落ちても気にならない。
むしろ気にする余裕なんてなかった。
何も見たくない。
何も知りたくない。
何も思い出したくない。
誰か、助けてよ。
もう限界なんだ。
矢口…あたしを許して…。
そして矢口の傍に行かさせて…。
- 313 名前:アリガチ 投稿日:2002年01月07日(月)22時38分39秒
- ++ちょこっと休憩++
( `.∀´)<次から新スレに引越しするわ!
- 314 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月08日(火)23時59分01秒
- 初めて読ましてもらいました。
かなーり面白いっす!!!!
私的にはさやまり好きですが、
いちごまにも期待してますんで!!!!
何気に裕ちゃんが好き。。。
- 315 名前:アリガチ 投稿日:2002年01月10日(木)00時45分38秒
- ++ちょこっと連絡++
( `.∀´)<続きは新スレで!
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=purple&thp=1010590448
>314さん
( `.∀´)<さやまりは終わっちまったわ!ゴメンね!!
裕ちゃんは活躍するかどうかが謎よね。
Converted by dat2html.pl 1.0