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Nobody knows

1 名前:瑞希 投稿日:2001年10月01日(月)00時51分40秒
花板でも書いてるんですが、
あっちとは少し違う路線とカップリングで書きたいと思ってます。

まずは「よしやす」
2 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月01日(月)00時58分03秒
「……離しなさい」
腕の中の、意外とほっそりした肩が僅かに震えてる。
強気の言葉とは裏腹な、怯えたその目にそそられてるって、気付いてます?
「イヤです」
答えて腕に力を込める。
「…吉澤…っ?」
今日の衣装、そういえば肩が出てたな。
だからかな、だからこんな気持ちになっちゃったのかな。

今は隠れてる肩先に唇を近づけて薄いTシャツの上から歯を起てる。
勿論、痛くない程度に。
3 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月01日(月)01時02分32秒
「やめなさいって!」
強く肩を押してるみたいだけど、あまり感じない。
ホンキで抵抗してます?

「怒るよ!」
「もう怒ってるじゃないですか」
「ふざけんのもいい加減にしな」
「ふざけてなんかないですよ。こうしたいんです」
壁に押し付けながら抱きしめてるから、逃げ場なんてない。
あたしが腕を離さない限り、この人はずっとこのままだ。

閉じ込めてるんだな、って考えたら、何だかちょっと、興奮してきた。
4 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月01日(月)01時06分20秒
「保田さん…」
耳元で囁いてみる。
思った通り。
ここ、弱いんですね。今、カラダが揺れましたよ?

「離…、あっ!」
耳の穴に舌を突っ込んだら、声が漏れた。

うわわ、そんな声出すんですか?
ちょっと、意外っす。ますます興奮してきます。

そう思った次の瞬間、
「離しなさい!」
言葉と一緒に、どんっと、強く突き飛ばされ、腕の中から逃げられてしまう。

ありゃ、ちょっと油断しました。
5 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月01日(月)01時11分30秒
「……なかったことにしてやる」
気のせいかな?
たったアレだけで、息、上がってません?

「そんなのはつまんないですね」
「な…っ」

反論とか、抵抗とか、されればさけるだけ燃えるって、あれ、ホントだな。
ちょっとからかうだけのつもりが、ムキになって抵抗なんてするから、
マジにもっと触りたくなってきた。

身の危険を感じたのか、逃げようとした彼女の腕を一瞬早く捕まえて、
カラダごと壁に押し付ける。
今度は簡単には逃げられないように、背中からではなく、
真正面から押し付けたからか、さっきとは違って顔が苦痛に歪んでる。
「い、痛…っ」
「……おとなしくしててくれたら、痛くしないですよ」
6 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月01日(月)01時15分47秒
主にダンスレッスンとして使用されるその部屋は、
出入り口付近と窓側以外は鏡が張られてるから、
あたしが保田さんのカラダを押し付けてるのは、ホントは壁じゃなくて鏡なんだけど。
「力じゃ、適わないでしょ?」
言いながら着ているTシャツの中へ手を滑り込ませる。
びくんっ、と揺れたカラダ。
ほら、カラダは正直っすよ?

「…何で…」
鏡越しに見た、訴えるような潤んだ瞳。

…ダメです。それ、今のあたしには逆効果ですよ。
7 名前:nanasi 投稿日:2001年10月01日(月)23時23分00秒
こりゃいいぜ、やっすー萌えるわ、
楽しみやわ。
8 名前:瑞希 投稿日:2001年10月02日(火)00時42分44秒
>7さん
い、いいっすか?(汗
頑張りまっす。
9 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月02日(火)00時48分11秒
「……何ででしょう?」

意地悪するつもりじゃなかったんだけどな。
何でかな、素直になれないや。
触りたいな、って、最初は単純にそう思っただけなんだけど。

「保田さん」
やっぱり、腰も細いや。
ひょっとしたら片腕で回っちゃう?

「…やだ…っ」
胸も思ってたより大きいな。片手じゃ余っちゃうもん。
何か、いいな、オトナのオンナって感じ。
10 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月02日(火)00時53分43秒
軽く揉んで、きつそうなブラジャーをずらす。
指の腹でその先をそっと押してみると、またちょっとカラダが揺れた。

でも、鏡越しに見た彼女はカタく目を閉じて唇も噛んでて、
声を出さないように堪えてる。

だから、そういうの、そそられるんですってば。

あたしは我慢出来ずに彼女が履いていたジャージの前から中へ手を突っ込んだ。

「や…っ」

けれどそこはまだ渇いた感じがして、
あたしの指を簡単には受けれいれてはくれなさそうだった。
11 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月02日(火)01時00分32秒
「保田さん…」
耳元でまた囁いて舌を差し込む。
びくついた彼女のカラダがあたしの腕の中で小刻みに震えだす。

「ん…、あっ」

ジャージの中に入れた右手でそこを軽く擦ると、彼女が逃げるように腰を引く。
勿論、背中から押さえ付けてるんだから、逃げ場なんてないんだけど。

「やめ…っ、あ…、あっ!」

口では拒絶してても、カラダって正直ですよね。
だんだん指先が湿ってくるのが判るもん。

「……イイですか?」
答えないだろうなって思っても、聞いてみたくなるのって、何ででしょうね。
12 名前:LINA 投稿日:2001年10月02日(火)01時25分32秒
け、圭ちゃんまじでカワイイっ!!!
よっすぃ〜いけ、いってしまえ(w

作者さん頑張ってください!!!
13 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年10月02日(火)23時34分36秒
もう最高です!
やすよし好きの自分にとっては、かなりツボにはなりました。
やすよしはあんまり見かけないので、続きが楽しみです。
期待してるので、頑張って下さい。
14 名前:瑞希 投稿日:2001年10月03日(水)23時53分58秒
>12:LINAさん
ありがとうございます。
>いけ、いってしまえ
「吉澤、いっきまーす」…って、ヲイ

>13:弦崎あるいさん
ありがとうございます。
>やすよしはあんまり見かけないので…
そうですね。見かけても痛めが多いし…。
私も痛めですが、頑張ります。


では、続きです。
15 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月03日(水)23時59分17秒
突然、保田さんの重心があたしに移ってきた。

「おっと」
危うく二人ともが倒れそうになるのを何とか踏ん張って、
左腕だけで彼女のカラダを支える。

「…大丈夫ですか?」

膝から崩れるように重心が移ってきたということは、つまり、
堪えきれなくなったってこと?

「そんなにイイんですか?」

あ、またイヤな言い方しちゃったな。
ホントはさ、もっとこう、
甘い雰囲気なんかに持っていきたい気持ちもあるんだけどな。
16 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月04日(木)00時05分27秒
思った通り、顔だけ振り向いた彼女の表情はかなり怒っていて、
でも、抵抗しても適わないのを悟ってるのか、暴れたりするようなことはなかった。

「…好きに、すれば」

それはきっと、精一杯の強がりですよね。
でも……、さすがにちょっと傷つきました。

「…そうします」

何だかなあ。
ホントにこんなハズじゃなかったのに。

どっちが悪いのかな。

やっぱり、悪ふざけでやめとかなかったあたしかな?
それとも、ムキになって抵抗した保田さん?

……でもさ、もう止められなくなっちゃったし、
ここまで来たら、保田さんだってもう、おさまりつかないでしょ?
17 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月04日(木)00時11分38秒
鏡の壁に張り付く彼女の手。
そこから放たれてる熱が鏡を少し曇らせる。
あたしが手首を掴んでそこから離すと、鏡にはくっきりと手形が残ってた。

「保田さん」
呼んで、あたしはゆっくり、彼女の中へと指を押し進めた。

「ふ、あ……っ」

少しずつ、少しずつ……。
締め付ける感覚が指を包む。

「…ちょっと、キツイですね」
「…い、痛……、あっ」
「力、抜いて下さいよ。でなきゃ痛いままですよ?」
18 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月04日(木)00時18分32秒
鏡に映る、苦痛に耐えてしかめられた眉。
反らされた喉に支えていた腕の手を滑らせ、開いた口の中にも指を挿し込む。

噛めばいいと、思った。
歯型を残してくれればいいと。

でも、歯の感触は感じても、噛み切られそうな痛みなんかは一度もなかった。

「保田さん」
もう一度囁くように呼んで、うなじにも舌を滑らせる。

揺れる彼女の目尻に涙が浮かんだのが見える。

彼女を貫くあたしの指が、
熱を持って圧迫されていく、締め付けられていく。

「んっ、う…っ」

窮屈に感じられる中で指を動かす。
ゆっくりと、でも、確実に敏感な箇所は刺激して。
19 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月05日(金)00時44分56秒
「よし…、あっ、ああっ」

重心がほとんどあたしに寄せられてるせいで、
片腕だけで支えてるのが辛くなってくる。

あたしはゆっくり膝を曲げて、彼女を抱きかかえるようにしながら床に膝を付いた。
まず左膝を付けて、左腕で支えている彼女のカラダを横たわらせる。

態勢を変えたことで指が少し抜けた。

「あ…、んっ」
と、彼女の腰がねだるように微かに浮いた。

求められている、と感じた。

そしたらもう、今度こそ本当に止まらなくなった。
20 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月05日(金)00時51分13秒
そのあとは、もう、無我夢中だった。

横たわらせた彼女のTシャツを捲り上げ、腹の上を唇で滑る。
臍の辺りから沿うように鳩尾を昇り、胸の谷間で舌を這わす。

「あ…っ」

聞こえてきた声がとても悩ましげで、興奮に拍車をかける。

胸の先を舐めて転がし、痛くない程度にそっと歯を起てたら、
寄せてくる快感に堪えきれなさそうに小さく喘いだ。

この顔を、見ていいのは、
この声を、聞いていいのは、
あたしだけだ。
21 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月05日(金)00時56分23秒
半ば剥ぐようにジャージを引きずり下ろし、
両足を掴んで左右に広げてその中心へと顔を埋める。

「やだ…っ、や…っ、ああっ」

彼女の手があたしの頭を掴む。
皮膚に爪の感触を感じても、痛いとは思わなかった。

そんな余裕はなかった。

「あっ、ああ…っ、んあっ!」

あたしの唾液も混じり、次第に蜜が溢れて濡れてくる彼女のそこは、
既に次の事態を期待しているようにヒクヒクと震えていた。

まださっきの余韻を残している指先を舐めて、
あたしは再びそこへ指を押し込んだ。
22 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月05日(金)01時01分34秒
「あっ、く…っ、ん…、んんっ」
漏れて聞こえる吐息混じりのいやらしい喘ぎ声にあたしのカラダも震え出す。

「イイんですか?」
そんな言葉が彼女を更に凌辱していると知ってて尋ねる。
勿論、答えなんて返ってくるワケがない。

あたしは押し込んだ指の動きを速めた。

「あ、ああ…っ、よし、ざ…っ」

こんなときに名前を呼ばれることがどれほど興奮するかなんて、
ホントに今まで知らなかった。
23 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月05日(金)01時05分15秒
「イイ? ねえ、イイですか?」

動きを止めずに何度も尋ねる。
答えは期待しない。
あえて言葉で聞かなくても、彼女のカラダがそれを教えてくれてる。

「あ…、あっ、ああーっ!」

彼女の背中が反るようにしなってすぐ、ぐったりとカラダを横たえる。

乱れた熱い息があたしの思考を真っ白にする。


――もう戻れないと、何かか耳元で囁いた。
24 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月05日(金)09時18分04秒
このエロさがたまらん!
テクニシャンなよっすぃ〜に萌え(w
25 名前:瑞希 投稿日:2001年10月06日(土)00時14分22秒
>24さん
ありがとうございます。
自分でもここまでエロくするつもりはなかったんですが…(汗


では、続きです。
26 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月06日(土)00時18分32秒
しばらくして、呼吸の乱れもなくなった彼女がゆっくりカラダを起こした。

あたしが脱がせた服を手繰り寄せ、無言のままで袖を通していく。

「…あの」
着込み終えた彼女がのろのろと立ち上がる。
「保田さん」
まだ力が入らないのか、ふらつく足取りがそれを物語る。

「あ、危ないっ」
かくん、と、まるで引き落とされるようによろめいた彼女のカラダ。

それを支えようと伸ばした腕は、パシン、と目前で振り払われた。
27 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月06日(土)00時24分39秒
「……もう気は済んだでしょ」
「やす……」
「もういいでしょ。帰らせて」
キッと睨み付けてくるその目の強さ。

カラダは自由にさせても、心は違うって言いたいんですか?

何となく腹立たしくなって、あたしは咄嗟に彼女の右手を掴んでいた。

「なっ、何よ! 離して!」
強引に引き寄せ、その腕の内側に噛み付く。

「…痛いっ。…よ、吉澤っ?」

あたしの行動の意味が判らないと言いたげな声にも構わず、
あたしは噛み付いたそこを思い切り強く吸い上げた。
28 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月06日(土)00時29分28秒
「吉澤…っ、や、やめなさい!」
取り戻そうともがくカラダ。

でもあたしはやめたりなんかしなかった。

強く強く吸い上げてから、唾液と一緒に離れたあたしの目は、
青紫色でその存在を誇示する、あたしという人間の証をそこに確認する。

「な…に、すんのよ」
「……これ、あたしの印しです」
「何…?」
「保田さんがあたしのものだっていう」
「なっ、何バカなこと……!」
「覚えててください。この印しが消えるまでに、また抱きますから」

嫌味っぽく、笑えたかな。
29 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月06日(土)00時34分57秒
「ふ、ふざけないで!」
パシッ、と強く頬をぶたれた。

ひどいなあ。
コレ、この顔、一応商品なんですよ?

「……帰る」
「はい、お疲れ様でした。また明日」
くるりと踵を返した彼女の肩があたしの言葉でビクッと震えた。
一瞬立ち止まった足取りが動揺を教えてくれる。
小刻みに震える肩があたしを満足させる。

そんな態度、きっともう、あたしだけにしか向けませんよね?

何も言わず、彼女は逃げるように部屋を出て行った。

残されたあたしは、まだ少し部屋の中に漂う、汗が混じったような匂いの中で、
ぶたれた頬をそっと撫でた。
30 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月06日(土)00時38分12秒
考えるだけで、そのひとを閉じ込めてしまいたくなる。
そんな衝動にかられるこの感情の呼び名を、保田さんは知ってますか?

恋とか、愛とか、そんなんじゃないですよ。

そんな甘いものじゃない。

あたしは知ってる。

これは…、これはね、保田さん。

『執着』って、言うんですよ――。
31 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月06日(土)00時39分29秒
逃がさないですよ。

もう、捕まえましたからね。
32 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月06日(土)00時41分15秒
―それを愛とは…―

――― END ―――
33 名前:瑞希 投稿日:2001年10月06日(土)00時46分47秒
はーい、終了、終了、終了ーっす(爆)

と、言いたいところですが。
続き、あったりします…(汗

でもかなり痛い展開(更にちょっと長め…)になってしまいそうなんで、
正直悩んでます。

か…、書いてもいいですか…?

もしよろしければ、感想&レス、いただけると嬉しいです。
34 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月06日(土)00時56分12秒
お疲れ様です。
いい感じですね。よしこかっけーッス。妖しさ満載ですね。

よしやすはかなり新鮮なんで、
続き読みたいです。
35 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月06日(土)01時02分43秒
よっすぃーカッケーです!
そしてやっすー受に激しく萌えました。

この続きがかなり痛い展開&ちょっと長めの予定だそうですが
大歓迎でございます。
36 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月06日(土)01時10分01秒
良かったです!危ないよっすぃ〜に惚れ&保田が25才・美人(?に思えてドキドキ。残りの年上3人も…
37 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月06日(土)01時17分04秒
すみません 4人ですね。次回作楽しみにしてます◎
38 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月06日(土)08時15分21秒
終わった気がしない、これから始まりな感じだし、
是非、続きをお願いしたいとこう思いますね。
39 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月06日(土)11時08分33秒
サスガ年上キラー吉澤!かっけーよ
40 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年10月06日(土)23時29分58秒
おもしろかったです。
小説の雰囲気とか書き方とか、自分的には結構好きです。
続きが読みたいので、書いてもらえると嬉しいです。
お疲れ様でした、期待して待ってます。
41 名前:瑞希 投稿日:2001年10月09日(火)09時03分14秒
うわっ、思いがけず、たくさんのレス…、ありがとうございます!!

>34さん
ありがとうございます。
>妖しさ満載
私にとって、すごく嬉しいコトバです。

>35さん
ありがとうございます。
書き始めて知ったというか、意外とやっすー受って少ないんですね…(w

>36、37さん
ありがとうございます。
でもあの…、と、年上4人っていうのは…、よしこよりも年上ってことでしょうか…?

>38さん
ありがとうございます。
ホントは、ここで終わらせるつもりだったんですけど…(汗

>39さん
ありがとうございます。
>年上キラー
私の中でのよしこのイメージって、まさにそれです(w

>40:弦崎あるいさん
ありがとうございます。
書き方が好きって言ってもらえるのって、ウレシイです。
私も黄板のお話、読ませていただいてますよ〜。
42 名前:瑞希 投稿日:2001年10月09日(火)09時08分01秒
さて、思いがけず(イヤ、ホントに)たくさんのレスをいただき、
続きを書くことを決意しました。

でも、まだちょっと具体的には仕上がりが曖昧なのと、
花板のほうでまた始めるのとで、
取り掛かりはあっちのほうが一段落してから、と考えてます。

皆さんのご期待に添えられるかどうかはわかりませんが、
頑張りたいと思います。
ので、もうしばらくお待ちください。
43 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月16日(火)16時52分53秒
花板から、またまたこちらにお引っ越しですよね?!
楽しみにしてます!
44 名前:瑞希 投稿日:2001年10月16日(火)21時37分57秒
>43さん
花板のほうも読んで下さってたのかな?
ありがとうございます。


さて、いよいよ続きを書くワケですが、
改めてこんなこと言うのもちょっとどうかとも思ったのですが、一応…。

花板とこちらとでは、書いてる話の登場人物の人格・性格設定は大幅に異なります。
まったく別人、と考えてください。

それから、タイトルも、内容に若干の変更が出たので変えようかとも考えたのですが、
わかりやすく、前のままでいきたいと思います。


では、お待たせ(?)しました。
スタートです。
45 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月16日(火)21時40分21秒
手に入れたんだと、捕まえたんだと、思ってた。
抱いたときに感じたあの熱は、今でも覚えてるくらい、
確かなものだったのに。

『あの日』以来、当然と言えば当然なんだけど、
保田さんは、あたしをあんまり見てくれなくなった。
46 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月16日(火)21時43分37秒
「ね、よっすぃー」

番組収録のスタジオに向かう途中、
梨華ちゃんが声をひそめながら話し掛けてきた。
「最近の保田さん、ヘンだと思わない?」

ギクッとした。

「…何で? どこが?」
「んー、どこって言われると難しいけど、何だか違うんだもん。
あんまり、笑わなくなったなあって」

イヤだなって、咄嗟にそう思った。
47 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月16日(火)21時47分38秒
言われなくたって、そんなこと、あたしが一番よく知ってる。
だって、原因はたぶん…、ううん、絶対あたしだもん。

でも、保田さんは梨華ちゃんの教育係だったんだから、もしかしたら梨華ちゃんは、
あたしよりももっといろんな保田さんを知ってるかも知れないんだな。

そう思ったら、何だかすごく不愉快だった。
イヤだなって、そんな気持ちが先に立った。

今までそんなこと、思いもしなかったのに。

「……よく、判るね」
「え…、あの、判るっていうか、そう思っただけだよ。
もしかしたら勘違いかも知れないし」
48 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月16日(火)21時50分30秒
あたし、今、もしかしたらものすごくイヤな顔してるのかも。
梨華ちゃんの顔、何か、困ってるみたいに見える。

「優しいね、梨華ちゃん」

優しくしたら、また笑ってくれるのかな。
笑って欲しいな、前みたいに。

「そ…、かな?」

よかった。
あたしはうまく笑えたみたい。
梨華ちゃんが、少しテレたように笑ってる。

「うん」
頷いたとき、梨華ちゃんの肩の向こうに保田さんが見えた。
49 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月16日(火)21時53分58秒
セットの隅のパイプ椅子に座って、ぼんやりしてる。

疲れたような横顔に、ちくちくとあたしの胸の奥が痛み出す。
駆け寄って、抱きしめてしまいたくなった。

「…よっすぃー?」

黙ったあたしの視線を梨華ちゃんが追いかけてくる。

「……ね? 何か、元気ないように見えない?」
「……うん」

落ちる肩が頼りなさげだった。
吐き出された溜め息の理由は、あたしかも知れない。

そう思ったら、どんどん胸が痛くなってきた。
50 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月16日(火)21時58分42秒
「……何か、あったのかなあ」
心配そうな梨華ちゃんの声が、そのまま、痛むあたしの胸に突き刺さる。

「…あ、あいぼんだ」

梨華ちゃんがそう言ったとき、あたしの目の前で、
まるでそれが当たり前のように、
とことこ歩いてきた加護が保田さんの膝に座った。

勿論、保田さんはびっくりしたように大きく目を見開いた。
でも、加護が何か言ったのか、すぐに小さく笑って、
軽く手を振り上げて加護の頭をはたくように叩いた。

「…あ、笑った」

胸の痛みは、久しぶりに見た保田さんの笑顔のせいで、光速で嫉妬に変わる。
51 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月16日(火)22時02分36秒
「あいぼんも気付いたのかな?」
「まさか! ただ遊んで欲しかっただけじゃないの?」

言葉にしてから、その声の低さと乱暴さに自分でも驚いた。

「…よっすぃー? 何で怒ってるの?」
「怒ってないよ」

マズイ、って思ってももう遅かった。
そう答えた声も、自分で判るくらい、低かったから。

あたしは梨華ちゃんから離れて保田さんのところに向かった。

イライラした。
ただそれだけだった。
52 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月17日(水)22時47分04秒
「あっ、よっすぃー」

近付いてきたあたしに気付いた加護が無邪気に笑って振り向き、
ギクリとしたように保田さんは肩を揺らした。

でも、あたしを見ようとはしなかった。

「……離れなよ」
「え?」
「保田さんから離れろって言ってんの」

加護の目が、少し怯えたように震えて見えた。

「何も知らないみたいだから言うけどさ、保田さんは……」
「吉澤!」

どきっと胸が鳴った。
久しぶりに保田さんに名前を呼ばれたような気がした。
53 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月17日(水)22時51分46秒
「…ごめんね、加護。ちょっと降りてくれる?」

保田さんが苦笑いで加護に告げると、
加護はためらいながらもすぐに保田さんから離れた。

「……ちょっと来て」

困惑したようにあたしを見る加護を庇うように背後に押しやってから、
保田さんの手があたしの腕を掴む。

「どこへですか?」
「いいから来なさい…!」

掴んだあたしの腕を強く引っ張って、スタジオの外へと連れ出す。

出る直前に擦れ違った梨華ちゃんは、加護よりももっと困ったような顔してた。
54 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月17日(水)22時55分09秒
何でもないフリしてても、
そのときのあたしの心臓は、耳に痛いくらいドキドキ鳴っていた。

「……どういうつもり」

誰もいない、スタジオの隣の衣装室。

保田さんと二人きりになるのは、『あの日』以来だった。

でも、まだ彼女はあたしを見ようとしない。

「どうって?」
「何で加護にあんな…っ」

言われることなんてだいたい予想は出来てた。

あたしは、保田さんが言い終わる前に彼女の右手を掴んだ。
55 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月17日(水)23時00分51秒
「は、離して!」

そう言われて、
ハイそうですかって離すようなあたしじゃないって、もう知ってるでしょ?

掴んだ腕を手前に引くと、
『あの日』、あたしがそこに落とした印しが、鈍い色で残っていた。

「……忘れてないですよね」

手から伝わる緊張感。
ゾクゾクと、あたしの背筋を奇妙な感覚が滑り落ちていく。

「あたしのものだって、言いましたよね?」
56 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月17日(水)23時04分33秒
目を伏せながら、保田さんがきゅっと唇を噛む。

「何で勝手にあんなことさせてるんですか」
「……アンタに、何でそこまで縛られなくちゃなんないのよ」

キッ、と強く見上げてきたその瞳の輝きは、屈服しない意志を伝えてきた。

かちん、と頭の中で何かが弾ける。

「アンタのものになった覚えなんてない。あたしが誰とどうしようと、
そんなのアンタに関係ない」

真っ直あたしを見るその瞳。
久しぶりにそこに映る自分。

ジワリジワリと、自分の体温が上昇していくのを感じた。
57 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月17日(水)23時09分20秒
「あたしはあたしの好きなようにする。アンタの指図なんか受けない」

あたしに掴まれていた腕を強く振って取り返す。

手の先から、途端に逃げ出してしまうように放れた熱。

『あの日』のことを、なかったことにするつもりですか?

「……じゃあ、この前あたしが保田さんにしたこと、梨華ちゃんや加護にしようかな」

あたしに背を向けて衣装室を出て行こうとした彼女の肩が揺れたのを、
あたしは見逃したりしなかった。

「な…に?」

ゆっくり振り返って向けられる、軽蔑の眼差し。

「保田さんが好きなようにするなら、あたしだって好きなようにしますよ」

なかったことになんか、させないですよ。
58 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月17日(水)23時13分28秒
急速に青ざめた保田さんの困惑顔は、
それだけであたしをかなり嬉しくさせたけれど、
でもまだ、あたしを満足させるには、まだ何かが足りない。

「……冗談」
「…に、なるかどうかは保田さん次第ですけど?」

我ながら意地悪だなあと思う。
意地悪っていうより、ズルイって感じ。
だってあたし、今、保田さんの弱みにつけ込んだんだもん。

「……」

何か言いたそうに僅かに唇が動いた。
でも、何も声にはならず、
保田さんは諦めたように目を伏せて深く息を吐き出した。
59 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月17日(水)23時17分35秒
「……石川と加護だけじゃなくて、他の誰にも何もしないで」

声は、震えていた。

あたしの中で、うまく言い表せられないいろんな気持ちがごちゃ混ぜになっていく。

「いいですよ」

今度こそ、手に入れられたのかな。
捕まえられたのかな。

「……保田さん、あたしのものですよね?」

閉じられている瞼がピクリと震えた。
肩も、少し揺れた。

「……アンタのものに、なる。だから、他の子には何もしなぃって約束して」

両手で顔を覆い隠しながら、訴えるように彼女は言った。
60 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月17日(水)23時21分06秒
「約束します」

だって、あたしは保田さんしかいらないから。

顔を隠す両の手首を掴んで手前に引くと、
目を合わせまいと閉じられている瞼が少し濡れていた。
唇を噛み締めるその姿にも、あたしの胸が痛みを訴える。

「……今日、帰りに保田さんのウチに寄ります」

それだけ言って、返事も聞かずにあたしは衣装室を出た。

ホントは、抱きしめたかった。
でも、そんなことしたらホントに泣き出されてしまいそうで、出来なかった。
61 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月17日(水)23時24分41秒
あたしのものになるって保田さんは言った。

それは確かに捕まえたと思えるはずの言葉なのに、ちっとも充実感なんてなかった。

理由は判ってる。
そんなの簡単、バカでも判る。

でも、そのときのあたしには、そんなこと、もうどうでもよかった。

保田さんの気持ちなんて構ってられない。

保田さんが欲しくて欲しくてたまらなかった。
あたしだけのものにしたかった。

それだけが、そのときの自分で確認出来た感情だった。
62 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月18日(木)19時39分01秒
初めて訪れた保田さんの部屋の印象は、至ってシンプルだった。

キッチンも、リビングのソファやテーブルも、家電製品の並ぶ棚やラックも、
すべてが保田さんらしい色合いで落ち着いていて、彼女の新しい一面を見た気分になる。

小物とかがゴチャゴチャ並んでるあたしの部屋とは大違いで、
何となく、また距離を感じてしまったけど。

「……それで?」

冷ややかな声が頭上から降ってきた。

顔を上げると、どこか疲れた面持ちで保田さんがあたしを見下ろしている。

「それで…って?」
「あたしは何をすればいいの」

どこか投げやりな口調。
好きにすればいい、って、そんな感じの眼差しであたしを見てる。
63 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月18日(木)19時42分02秒
たぶん、あたしと保田さんの間には、もう、
きっと前みたいな穏やかな空気が流れたりすることはないんだ。

それが判って、あたしは考えることをやめた。

したいと思ったことをすればいい。
思ったことを口に出せばいい。
そう思った。

「……ここ、座ってください」

ソファに座るあたしの隣を指差して言うと、
彼女はほんの少し肩を竦めるポーズをしてから、溜め息と一緒にゆっくり座った。
64 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月18日(木)19時45分37秒
「それから?」
「…やだな、そんなに焦らないでくださいよ」

口惜しそうに唇を噛んで、あたしの視線から逃げるように目を逸らす。

「服、脱いでもらえます?」

逸らされた視線が瞬時に戻ってきた。
驚きというより、むしろ呆れたような目が。

「…ここで?」
「ここで」
「全部…?」
「全部。あたしの見てる前で」

ひどく困惑した顔があたしを満足させる。
少しずつ赤らんでいく顔も同様だった。
65 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月18日(木)19時49分50秒
保田さんは少しためらいながらも、座ったばかりのソファから静かに立ち上がると、
ゆっくり、着ていた服を脱ぎ始めた。

そのときのあたしは、とても興奮していた。

親に隠れてこっそり見たアダルトビデオなんか比べ物にならないくらい、
一枚一枚を自分のカラダから外していくその光景は刺激的でいやらしかった。

でも、とても綺麗だった。

初めて保田さんを抱いたときは判らなかったカラダのライン。
細くなく、だからといって太ってもいない。
ふくよかで、とても肉付きのいい裸体。
66 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月18日(木)19時53分09秒
「…これでいい?」

いつまでも見ていたい気持ちと同じくらい、
触れたくてたまらない欲望も湧きあがってくる。

「…もうちょっと、そのまま」
恥ずかしいのは判っててあたしは言った。

「……変態」

ぐさっ、と胸を突き刺す冷ややかな声。

……普通、思ってても、目の前にいる、いたいけな女子高生にそんなこと、言います?

いたいけ、なんて、自分で言うことじゃないって、突っ込まれそうだけど。
67 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月18日(木)19時58分31秒
「そうですか?」

答えて立ち上がり、少し寒そうに身を捩る保田さんに歩み寄ると、
彼女のカラダが怯えたように僅かに揺らいだ。

存在感のあるその胸に手をのばして触れる。
軽く撫でて包み込み、ゆっくり唇を近づけた。
ぴくん、とほんの少しだけ揺れたのを確認してから、口の中に含む。

「ん…っ」

軽く吸い上げながら手で腰を撫でる。

あたしは床に膝をついて、保田さんの下腹部に唇を滑らせた。

僅かに引かれた腰を手で押さえつけるように支える。

なぞるように腰を撫でながら指の先だけでお尻にも触れてみた。
引いていた腰が戻り、あたしは更に下へと顔をずらす。
68 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月18日(木)20時03分26秒
「……足、開いて」
反抗するかと思った予想を裏切り、
保田さんはあたしの言葉に素直に従って足を開く。

開かれた足の中心に、あたしは迷うことなく顔を埋めた。

「…あっ、ああっ」

前のめりになる保田さんがあたしの肩を掴む。
小刻みに震えながらも爪の感触が伝わってくる。

「よし…、あ…っ、ん!」

膝も震えていて、立っているのが困難な状況なのだと判る。

彼女から唇を離し、そのまま腰を掴む手に力を込めてソファへと座らせる。

立ってするのも悪くなかったけど、結構態勢が辛くて、
ちょうどいいタイミングだった。

ソファに座った保田さんも、どこかホッとしたように見えた。
69 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月18日(木)20時07分33秒
「……何よ?」

ちょっと乱れていた呼吸が艶やかで、
それに見とれていたあたしに保田さんの強い目が向けられる。

「…別に」

正直に見とれてた、なんて言っても、
素直に信じてもらえないのは判り切ってるから、そんな風に答えた。

保田さんの唇が、また悔しそうに歪んでいくのを見る。
目を背けられて、また胸が痛み始める。

「……早く、済ませなさいよ」

強がりな台詞や口調は、それだけであたしの中の、
自分でも気付かなかったマイナスの部分を呼び覚ます。

「……そんなに焦らなくても、夜はこれからですよ」
70 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月18日(木)20時10分43秒
たぶん、あたしにとっても、保田さんにとっても、
今日という日は、普段の何倍も、何十倍も長く感じる夜になるんだろうな。

初めて力づくで保田さんのカラダに触れた『あの日』よりも、
ちゃんと向き合ってるはずの今夜のほうがずっとずっと切ないなんて、
その理由を考えたら、全然笑えないけど。

頭のどこかで冷静になってる自分と、
目前の欲求に忠実な自分との間に揺れながら、
あたしはゆっくり、保田さんに手をのばした―――。
71 名前:名無しっす 投稿日:2001年10月19日(金)17時43分53秒
(・∀・)イイ!
悪キャラ?よっすぃーが新鮮っす!
72 名前:瑞希 投稿日:2001年10月19日(金)22時54分10秒
>71さん
ありがとうございます。
もうしばらくは、悪キャラよしこで…(w
73 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月19日(金)22時58分06秒
そして、保田さんはますます笑わなくなった。

いつもいつも部屋の隅で一人でいて、
疲れたように目を閉じながら、誰も寄せ付けない雰囲気を醸し出してる。

あんなにじゃれついていた加護や辻でさえ、
最近ではほとんど近付かなくなっていた。

「保田さん」

ぴくっ、と肩が揺れて、閉じられていた目が開く。
あたしを見上げる保田さんの瞳に落胆が見える。

「……何?」

用なんてなかった。
ただ、近くにいたかった。

「…隣、座ってもいいですか」
74 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月19日(金)23時02分46秒
無言のまま目を伏せ、あたしが座れるくらいの間隔を空けてくれた。

すぐに隣に座って、保田さんの横顔を眺める。
でも、言葉なんか何も出てこなかった。

「……今日も、来るの?」
目を閉じたまま、保田さんは言った。

3日と空けず保田さんの部屋に通うあたしに、
最初は戸惑い気味だった彼女も、今ではすんなり通してくれるようになった。
勿論、あたしが本当に望んでる方向に向かってるワケじゃない。

諦めた、そんな感じだった。

「今日は…」
明後日から試験があるからしばらく行けません。

そう言おうとしたときだった。
75 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月19日(金)23時08分15秒
「あ、保田さんとよっすぃーがイチャイチャしてるー」
梨華ちゃんの、甘えたような鼻にかかる声が楽屋に響いた。

今、あたしが保田さんの隣に座ってるのを確認してから、
軽い口調で言いながら梨華ちゃんが近付いてくる。

梨華ちゃんは梨華ちゃんで、最近の保田さんの様子の変化を心配してたんだから、
これはきっと、梨華ちゃんなりの励まし方なんだろうなって、判るんだけど、
でも、ちょっと、その内容はマズイと思うんだけど。

「なっ、何バカなこと…!」

ほらね、絶対そう言うと思ったんだ。

「えー、違うんですかぁ?」
「違うに決まってるでしょ!」

ちくっ、と胸に小さなナイフが刺さる。

ああもう、このナイフ、何回あたしを刺したら気が済むんだろう。
76 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月19日(金)23時13分22秒
「だって、最近のよっすぃー、いつでも保田さんの近くにいるし、
もしかしたらそうなのかなって」

梨華ちゃんは、きっと深い意味なんて込めてなかったはずだ。

最近の保田さんは誰が見ても様子がおかしかったし、
元気もなくて、メンバーをハラハラさせていた。

あたしはその理由を知っていたから、というか、
そもそもあたし自身がその原因なんだから、
深くは何も考えずに保田さんの近くにいたんだけど。

でも、梨華ちゃんはきっとこの状況を利用して、
ちょっとでも保田さんを元気づけようとしたんだと思う。

つくづく健気だなあって思うけど、でもあたし、知ってるよ。

梨華ちゃん、保田さんが好きなんだよね。
尊敬を通り越して、愛情を持ってるんだよね。

でも、絶対譲らない。
保田さんはあたしのものだよ。
77 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月19日(金)23時17分45秒
「…あちゃー、やっぱりバレちゃいましたね」
あたしはそう言って保田さんを見た。

「ええっ?」
梨華ちゃんの声がまた楽屋内に響き渡る。

保田さんの目が、ひどく困ったようにあたしを見つめた。

「あたしと保田さん、付き合ってるんだよ」
「う、嘘ーっ!」

アタマから信用しない梨華ちゃんにちょっとムッとなって、
あたしは保田さんの膝を枕にするようにして、ゴロン、と横になった。

「嘘じゃないもん。…ね?」

保田さんは、あたしのいきなりのその行動に戸惑ってるのか、
答えの言葉を見つけられないでいる。
78 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月19日(金)23時23分10秒
「…ほ、ホントなんですかぁ?」

ちらりと梨華ちゃんのうしろを見ると、
他のメンバーも興味津々といった顔付きでこっちを見ていた。

「あ…、これは、その」

言葉を詰まらせてる彼女の膝で寝返りを打って態勢を変え、
抱き付くように腰に腕を回す。

腕を回した先の背筋を、あたしは指でそっと撫でた。

ぴく、と彼女のカラダが震える。

服を通してても、弱いところは同じですね。

「ホントですよね?」
「……う、ん」

あたしの言葉に続くように、でも顔は俯かせたまま、小さな声で保田さんは頷いた。「」
79 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月19日(金)23時26分35秒
正直に言えば、このときのあたしはメチャクチャ驚いてた。
ホントに頷くとは思わなかったから。

でも、あたしにそんな余裕を与えなかったのは、
そのやりとりを見ていた他のメンバー達。

保田さんが頷いた途端、それまで遠巻きに見てたのに、どっと近付いてきた。

「マジ?」
「いつから?」
「全然気付かなかったよー」
「きっかけって何ー?」

それぞれが思い思いの気持ちをあたし達にぶつけてくる。
80 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月19日(金)23時29分57秒
ヤバイな。
保田さん、こういう状況って、絶対苦手なはず。
ただでさえ不本意な毎日だっていうのにね。

あたしは急いで自分のカラダを起こし、
保田さんの顔を隠すように抱きしめてから頭だけをメンバーに振り向かせた。

「ナイショですぅ」
「おっ、ズルイぞ、よっすぃー」

矢口さんが軽くあたしの頭を小突いたとき、

「おーっす、みんなおるー?」

聞き慣れた声が楽屋のドアを開けた。
81 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月19日(金)23時34分37秒
「あっ、裕ちゃん!」
「どーしたのー」

あたし達を囲んでいた輪の一番外側にいた安倍さんとごっちんが中澤さんに駆け寄る。

腕の中の保田さんのカラダも揺れたように感じた。

「やー、べつに用はないんやけど、ちょうど通りかかったし、
みんな元気かと思て、顔見に来てん」

安倍さんとごっちんの頭を交互に撫でてから、中澤さんの視線がこっちに向いた。

「お? 何や何や? 吉澤と…、圭坊?」
82 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月19日(金)23時38分39秒
「裕ちゃん、スゴイよ、大ニュース!」
「何? どーしたん?」

あたしの近くにいたはずの矢口さんは、
いつのまにか中澤さんのもとにいて、じゃれつくみたいに腕を掴んでいた。

中澤さんもそうされることが満更じゃなさそうで、
口元を綻ばせながらニコニコ笑ってる。

でも、その笑顔は矢口さんの次の言葉で凍り付いたように固まった。

「圭ちゃんとよっすぃー、付き合ってるんだって!」

今度は間違いなく、あたしの腕の中で保田さんのカラダが揺れた。
顔は見えなかったけれど、確かにカラダは震えていた。
83 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月20日(土)00時12分08秒
すばらすぃです。
激しく上質な極悪っぷりの(0^〜^0)が(・∀・)イイ!!
84 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月20日(土)03時05分46秒
エロス、独占欲…切ない。
でも面白いから(・∀・)イイ!!
85 名前:瑞希 投稿日:2001年10月20日(土)09時45分48秒
>83さん
ありがとうございます
>上質な極悪…、嬉しいホメ言葉…(w

>84さん
ありがとうございます。
面白いですか? …よかった。
レス少なくて、皆さん、引いてるのかと…(w


では、続きです。
86 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月20日(土)09時50分42秒
「…それ、ホンマなん?」

あたしに向けられた中澤さんの目は、
他のメンバーから向けられたような明るくて軽いものではなく、
どこか挑むような真剣さがあった。

「なあ、吉澤? ホンマに圭坊と付き合うとるん?」

声色からもその雰囲気は感じ取れて、
中澤さんの腕を掴んでいた矢口さんも困惑気味に見上げている。

見透かすような真っ直ぐな目にあたしが何も言えないでいると、

「……ホントよ」

あたしの腕の中で保田さんが呟くように言った。

静かな空間だったから、
普段なら呟いただけにも聞こえる小さな声も、みんなにはっきり届いた。
87 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月20日(土)09時53分57秒
「ホントだから」

力強ささえ感じられる声で同じ言葉を繰り返し、
保田さんがあたしから離れて立ち上がる。

「……圭坊」

中澤さんの声に、また保田さんの肩が揺れた。

何かを堪えるように俯き、その何かから逃げるように楽屋を飛び出していく。

「保田さんっ?」
「圭坊!」

同時に叫んでドアへと向かう。

でも、先に中澤さんにドアノブを取られてしまった。
88 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月20日(土)09時57分18秒
「…アンタは来るな」

振り向いた中澤さんにぐっと肩を押し返される。

「え?」
「ええから来るな。これはあたしと圭坊の問題や」
「な…っ?」

強く睨み返され、声が詰まる。

中澤さんはあたしにそれ以上何も言わせず、
保田さんを追いかけて楽屋を出て行った。

一瞬でも怯んでしまったことを悔やみながらあたしも追いかけようとしたとき、
そのあたしの腕を矢口さんが捕まえた。

「ダメだよ」
89 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月20日(土)10時01分01秒
「……矢口さん?」
「行っちゃダメ。二人にしてあげて」
「でも」
「あの二人には、あの二人にしか判らない事情もあるんだよ」

知っているような口振りが逆にあたしをイラつかせた。

「どんな事情ですか」

「……行けばいいじゃん。そしたら判るよ」

口ごもった矢口さんに代わってごっちんが答えた。

あたしの腕を掴んでいた矢口さんの手の力も弱まる。

「圭ちゃんと付き合ってるんなら、知っといたほうがいい」

ごっちんの言葉を背中で聞いて、あたしは二人を追いかけた。
90 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)00時14分21秒
二人の姿は意外と早く見つけられた。

楽屋を飛び出した保田さんをすぐに追いかけた中澤さんも、
保田さんを捕まえるのは簡単だったようで、
同じフロアにあるスタジオの、入り口近くの化粧室にいた。

「……だから別れる言うたんか」

人通りを気にして廊下の影に隠れたあたしに気付かないで、二人は喋っていた。

けど、聞こえてきた中澤さんの声に、あたしの胸がギクリと鳴る。

さっきごっちんが言ってた、知っといたほうがいいことって、このこと?
保田さんと、中澤さんが?
ごっちんや矢口さんは知ってたの?
91 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)00時16分35秒
「……もうあたしのことはキライになったんか?」
「違うよ、そんなんじゃない」
「じゃああたしより吉澤のことを好きになったってことやな?」

保田さんは何も答えなかった。

「答えられへんのか?」


92 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)00時19分46秒
「……お願い、あたしはもう大丈夫だから、だからあたしにもう構わないで。
裕ちゃんがホントに優しくしたいと思ってるひとに優しくしてあげて」
「そんなん圭坊だけや」

労わるような中澤さんの声。

あまり聞き慣れない中澤さんのその声で、
あたしの胸が次第に大きな高鳴りを呼び起こしていく。
93 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)00時24分36秒
「……あたし、吉澤と寝たの」

しばらく沈黙が続いたあと、まるで吐き捨てるように保田さんは言った。

「1回だけじゃないよ。何度も何度も、吉澤に、抱かれた」
「圭坊…?」
「吉澤に抱かれながら、あたし、
こんな風に裕ちゃんに愛して欲しかったんだって、思った」

愕然となった。

あたしの腕の中で、中澤さんを想ってたの……?

「もっと触って欲しかった。もっと抱きしめて欲しかった。
…優しくされるだけじゃ、足りなかったんだよ」
94 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)00時28分36秒
それは、嘘だ。
保田さんは嘘をついている。

いつだって、触るときは怯えてるじゃないですか、震えてるじゃないですか。

「……吉澤は、圭坊の思うように愛してくれるんか」

中澤さんの問いかけに返事の声はない。

「……もう、優しくしなくていいからね」
「アホ、言うたやろ。そんなん圭坊にだけしか思わへん」
「あたしは、大丈夫だから」

大丈夫なんかじゃない。
いつだって、今にも壊れそうじゃないですか。
95 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)00時33分54秒
「……勘違いしてるようやから訂正させてもらうけど、
あたしはアンタが可哀相ったから付き合うてたんと違うで。
ちゃんと好きやったで?」
「……うん、ありがとう」

「また電話するし、一緒に飲みにも行ってくれるか?」
「うん」
「吉澤に、大事にしてもらうんやで?」
「……そうだね」

曖昧に保田さんが答えたあと、少ししてから中澤さんが出てきた。

そこにあたしがいたことでかなり驚いたようだったけど、
不機嫌そうに眉を歪めたあと、
深い溜め息を吐き出してから、あたしの腕をパシン、と叩いて去って行った。

中澤さんの背中を見送って、あたしは化粧室に入った。
96 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)00時39分13秒
「…保田さん」

彼女は洗面台の縁に両手をついて鏡を見ていた。

鏡越しに見るその顔は、とても疲れているように見えた。

「いたの……?」
「……中澤さんと、付き合ってるんですか」
「……聞いてたんでしょ、別れたわよ」

自虐的な口調は、今の保田さんの心をそのまま表しているようにも聞こえた。

「……アンタはあたしから何もかも奪うのね。カラダだけじゃ足りないの?
ちょっとした願いも、アンタが支配していくの?」
「保田さん…」
「……裕ちゃんは、一度もあたしを抱かなかった。
でも、いつでも優しくて、愛されてるって、大事にされてるって実感があった。
なのに、それをアンタが壊した」
97 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)00時42分59秒
くるりと振り返った彼女が強い眼差しであたしを睨む。

「アンタに抱かれて気付かされた。
あんなことがなかったら、あたしの中のこんな気持ちに気付かないで、
ずっと裕ちゃんのそばにいられたかも知れないのに……!」

嘘、じゃない。
さっきのあの言葉は嘘なんかじゃないんだ。

触るときにいつも怯えてるのは、震えてるのは、
相手が、あたしだからだ……。

「……だから? だからどうだって言うんですか?」
98 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)00時46分35秒
でも、それが判ったからって、今更手放すことなんてもう出来ない。

「欲しいものを欲しいって言うことのどこがいけないんですか。
したいって思うことは悪いことなんですか?」

あたしは、あたしの本能に従っただけだ。
正しい方法なんて知らない。
もうそんなこと、知りたいとも思わない。

「誰がなんて言おうと、保田さんはあたしのものです。中澤さんにも渡しません」

あたしの気持ちが間違ってるなんて、絶対、言わせない。

保田さんが欲しいと思うこの気持ちは、他の何よりも確かなものだ。
99 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)00時50分33秒
あたしは素早く手をのばして保田さんの腕を掴み、
以前その印しを残した肘の裏側に思い切り噛み付いた。

「吉澤…っ?」

もう一度、印しを残す。
あなたが、誰のものであるかを忘れさせないために。

「は、離してっ!」

渾身の力で突き飛ばされたあたしは、壁に強く背中をぶつけた。

「……今日も、帰りに寄りますから」

それでも怯まず答えたあたしに保田さんの顔付きが変わる。

「……顔も見たくない。もう来ないで」
「なら、あの約束はなかったことになりますよ。いいんですか?」
100 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)00時53分56秒
思い出したように肩が揺れる。
あたしを見つめる顔付きが強張ったのも判る。

卑怯だと言いたいなら言えばいい。
手段なんて選んでられない。

「最っ低……!」

低く唸るように告げて、彼女は敗北を示すように目を伏せて両手で顔を覆った。

忘れたと言うなら言葉とカラダで何度でも思い出させてあげますよ。

あなたは、あたしのものだって。
101 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)23時37分45秒

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
102 名前:LINA 投稿日:2001年10月21日(日)23時38分12秒
よしこ黒ぇーーー!!!(w

でもおもしろいです!
作者さん頑張って!
103 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)23時41分47秒
あたしが同じ空間にいるというだけで保田さんは安らげない。

いつでも、ぴーんと張った糸が見えそうなくらい、ピリピリしてる。

なのに、伏せがちの憂いた目があたしの気持ちをどんどん煽っていく。

触りたくてたまらなくなって、
強張るカラダを人前で抱きしめたことも数え切れなくなってくる。

保田さんはそのたびに、泣き出しそうな目を向けるけど。

……おかげでテストも散々だった。

「…よっすぃー」

呼ばれて振り向いたら、梨華ちゃんがいた。
ちょっと怒ってるみたいで、眉間にしわが寄ってる。
104 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)23時46分08秒
「…何?」

帰り支度も済んで、今日も保田さんの部屋に寄るつもりでいる。
保田さんはまだ着替えてる途中だから、
一緒に帰れたらいいな、なんて、そんな風に思ってたんだけど。

「……話が、あるんだけど」

何となく、その話はあたしにはいい話じゃないんだろうなってことが判った。

「明日聞くよ」
「……そんなこと言って、さっきも聞いてくれなかったじゃない」
「そうだっけ?」

言いながら目だけで保田さんを探したら、
もう着替え終えていて、今は鞄の中身を確認してる。

「……よっすぃー、ホントに保田さんと付き合ってるの?」
105 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)23時50分51秒
それをメンバーに宣言してからもう1週間ぐらい過ぎている。

最初は冷やかされたりとかもしたけど、保田さんがあまりいい顔をしないせいか、
さすがにもうそのことにはあんまり構われなくなったっていうのに。

「……何で?」
あたしは保田さんから梨華ちゃんに視線を戻して聞き返した。

「だって、そんな素振り、ちっとも見せなかったじゃない」

そんなに悔しかったのかな、あたしに保田さんをとられちゃったってことが。

「……わざわざ言い回るようなことじゃないもん」
「それは、そうだけど……」
106 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)23時56分00秒
言葉尻を濁した梨華ちゃんから視線を外して楽屋を見回すと、
今ちょうど安倍さんと飯田さんが揃って出て行ったから、
もう保田さんとあたしと梨華ちゃんだけしかその部屋に残ってない。

保田さんを見ると、少し困惑気味にあたしと梨華ちゃんの様子を窺っていた。

帰り支度も済んでるのに帰ろうとしないのは、あたしを待ってるからじゃない。
あたしが梨華ちゃんに何かしでかさないように見張ってるつもりなんだ。

あたしは、今、自分の脳裏に浮かんだ考えを口にするために、
保田さんから梨華ちゃんに視線を戻した。
107 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月21日(日)23時59分32秒
「……そっか、梨華ちゃんは保田さんが好きなんだっけ」

自分でも、どうしてこんなにも意地悪な言葉が言えるのか不思議だった。

「な…っ!」
梨華ちゃんの顔がカーッと赤くなる。

「隠してたみたいだけど、知ってるよ」
それこそ、今言うべきじゃないって、思いもしたけど。

「でも、保田さんはあたしと付き合ってるんだよ」

真っ赤になった梨華ちゃんが俯く。
頭のてっぺんが見えて、それに向かってあたしは続ける。

勿論、保田さんにも聞こえるように。
108 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)00時02分17秒
「梨華ちゃんがどんなに保田さんを好きでも、
保田さんは梨華ちゃんを選ばないんだよ」

選ばない。

……本当は、あたしだって選ばれたワケじゃない。

俯いてる梨華ちゃんの肩が震えてる。
泣かせたって判っても、もう引き返せなかった。

「保田さんはあたしのものなの」

誰にもやらない。
誰にも渡さない。
109 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)00時05分59秒
「だから…」
「吉澤っ」

保田さんがあたしと梨華ちゃんの間に割って入る。

「……いい加減にしなさい」

低い声とキツイ眼差しがあたしを萎縮させた。
それは明らかに軽蔑の目で、あたしから言葉を奪う。

「や、保田さん…」
涙目の梨華ちゃんが頭を上げて保田さんを見る。

あたしから目を背けた保田さんが、梨華ちゃんに向き直って彼女の頭を撫でた。

見ているだけで、あたしの中では煮えたぎるような嫉妬が渦巻いていく。
110 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)00時10分03秒
「……ありがとね、石川」
「保田さぁん…」
「…気持ちは嬉しいよ、ホントに嬉しい。…でもゴメン、あたしにとって、
石川は大事な仲間で、それ以上でも以下でもないの。だから…」
「い、いいんですっ」

梨華ちゃんは、保田さんの服の裾をきゅっと掴んで言った。

「い、石川は、保田さんが笑ってくれればそれでいいんです」
「石川……?」
「好きになって欲しいとか、思ってないワケじゃないですけど、でも、
笑ってる保田さんが、石川は一番好きなんです」
111 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)00時14分44秒
あたしはそのとき、梨華ちゃんにだけは絶対負けたくないと思った。

あたしからは絶対に言えないその言葉を、彼女が言ったからだ。

「…ありがとう」

小さく呟くような声が、微笑みを浮かべているのだと知らせる。
背中を向けられてるせいで、あたしにはそれは見えない。

もう、あたしにはほとんど向けられることはなくなった、保田さんの笑顔。

「あっ、あのっ、じゃああたし、帰ります。お疲れ様でしたっ」
まだ涙で目を潤ませながら、頬を僅かに染めて、梨華ちゃんがぺこりと頭を下げる。

「……ばいばい、よっすぃー」

出て行く直前、あたしにも手を振って行った。

……人が好すぎるよ、梨華ちゃん。
112 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)00時18分58秒
ドアが閉じられ、二人きりになった空間が耳に痛いくらい沈黙で静まり返る。

「……アンタ、今のままじゃ友達失くすよ」

そう言った彼女の背中が少し淋しげに見えたのは、
あたしの都合のいい勘違いだろうな。

「保田さんだけでいいです」

他には何も、誰もいらない。
あたしをこんな気持ちにさせたのは、あなたじゃないですか。

「何言って…っ」

振り返られる前に背中から抱きしめた。
113 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)00時22分16秒
「よし…っ?」

声を出させまいと左手で口を覆い、
右手は彼女の履いていたジーンズのジッパーにのばす。

「…んんっ!」

素早く外して中へと手を滑らせる。

「や、だ…っ!」
「……今更」
耳元で、出来る限り冷ややかに囁く。

「こっ、こんな…トコ、で…!」

言葉が途切れるのは、あたしの指が保田さんを刺激しているからだ。
114 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)00時26分41秒
ジーンズの中におさまるあたしの腕を保田さんが掴む。
服を通してても、爪の感触が伝わってくる。

「…帰るまでなんて待てない」
告げてから耳を噛んだ。
あたしの腕の中で保田さんのカラダが大きく揺れる。

「…石川、が…っ、まだ、いるか、も……知れない…っ、のに……!」
「……聞かせてあげればいいじゃないですか」
「な…っ、…ああっ」

まだ少しきつそうなそこへ強引に指を押し込む。

震え始めた彼女の膝が次第に力を失くしていき、支える腕に重心が寄ってくる。
115 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)00時29分34秒
あたしを見て。
あたしだけを見て。
誰も見ないで。

でももう、そんなことは言えない。
言えないから、こうして、無理矢理カラダを繋ぐことしか出来ない。

「よし…、あっ」

カクン、と堪え切れずに膝から床に落ちる。
あたしも一緒に膝を付いた。

さらりと揺れた髪からうなじが覗く。
そこに唇を滑らせて軽く噛み付く。

保田さんのカラダが、また、揺れる。
116 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)00時34分20秒
「あ…っ、ああっ」

乱れ始めた彼女の吐息に胸の奥が熱くなっていく。

決して本気ではない、気持ち程度の抵抗を示すようにあたしの腕を掴んでた保田さんの、
爪の感触が強くなった。

傷を残してくれればいい。
一生消えない傷でも構わない。

あなたがあたしのものなら、あたしだって、あなたのものだ。

……いらないって、言われそうだけど。

あたし達だけしかいない楽屋に、
保田さんの押し殺したような声だけが、響いていた―――。
117 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)00時36分50秒
>102:LINAさん
ありがとうごさいます。
黒よしこ…(w
もうそろそろ、黒くなくなるハズ……?
118 名前:JAM 投稿日:2001年10月22日(月)01時12分29秒
泣ける〜〜〜〜!!!ってまだ早いですね・・・
最近、この作品と黄板の『Love is Blind』で
やすよしにはまってます。
この作品は更新が早くてすごく好きですね。
がんばってくださいね〜。期待してます。
119 名前:瑞希 投稿日:2001年10月22日(月)23時42分17秒
>118:JAMさん
ありがとうございます。
泣けますか〜? まだもう少し痛くなりますが…(汗
>更新が早くて
ん〜、勢いのあるうちに書きたいので、頑張りまっす!


では続きです。
120 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)23時44分14秒

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
121 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)23時46分33秒
ホントは、昨日の夜から随分顔色が悪いようには思ってた。

でも、それを出さないように、気付かれないようにしてたから、
あたしも何も言わなかったし、何もしなかった。

けど、来てよかったって、今は本気で思ってる。

昨日のうちに来ておけばよかったって、後悔もしてる。
122 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)23時51分16秒
『せっかくのオフなのに、朝からイヤな顔を見た』

あえて言葉にはされなかったけれど、
そんな表情で、パジャマ姿の保田さんはドアを開けた。

「……いきなり来ないでよ。来るなら連絡して」
疲れた声が溜め息と一緒に吐き出される。

「……すいません」
謝ったあたしに、保田さんは面喰らったように目を見開いた。

「……何よ、調子狂うじゃない」

声には皮肉がたっぷり込められてたけど、顔色は昨夜より悪い。
ケンッ、て聞こえる咳もしてる。
123 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)23時54分49秒
「……疲れてるから、相手は出来ないわよ」
ふらつく足取りで中へと誘導される。

「……あたし、まだちょっと寝るから」

あたしの横を擦り抜けながら寝室に戻ろうとした保田さんは、
あたしが振り向いたと同時に手で額を押さえた。

「保田さん?」

そしてそのまま、眩暈を起こしたようにふらつき、床に手をつく。

「保田さんっ!」

触れた肩がひどく熱を持っていた。

あたしは咄嗟に自分の手を彼女の額にかざす。
124 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月22日(月)23時58分59秒
「! ちょっ、すごい熱ですよっ?」

パシン、と手を振り払われる。

「…寝てれば治る。放っといて」
「放っとけるワケないでしょう!」
逃げようとする保田さんを抱え上げて寝室に向かう。

「や…、お、降ろして!」

抱き上げるあたしの腕にも彼女の高い体温が伝わってきて、気持ちを焦らせる。

「吉澤…っ」

ベッドに横たわらせてもう一度額に手をのばす。

保田さんのカラダがびくんって震えたのが判ったけど、構ってられなかった。
125 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)00時03分01秒
「薬、どこですか? …あ、でも、その前に何か食べたほうがいいですよね」

すぐにキッチンに向かい、冷蔵庫を開けてみた。
でもそこには食料らしいものはほとんど見当たらない。

あたしは舌打ちして寝室に戻った。

「保田さん?」
彼女はこっちに背を向けるようにして横になっている。

「薬、どこですか?」
「……いらない」
答えた声と一緒に吐き出された息が熱い。
やっぱり、ケンッ、て聞こえる、その咳も痛々しい。

「放っといて。……もう帰って」

あたしはもう一度舌打ちをして、寝室を出た。
126 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)00時06分44秒
リビングのテーブルの上に置いてあった部屋のカギを持ち、
そのまま玄関に向かう。


近くのコンビニで胃に優しそうなレトルトのお粥を幾つかと、
飲み切りサイズのペットボトルのスポーツドリンクを3本買った。

それからコンビニの並びにある薬局で顆粒の風邪薬も買って、
あたしは急いで部屋に戻った。
127 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)00時10分40秒
お粥を温めて寝室に入る。

「保田さん」
声をかけてベッドのそばまで寄ると、彼女はひどく驚いたように飛び起きた。

「か、帰ったんじゃ……」
「病人放ったらかして帰るほど、性格悪くないつもりです」
答えてベッドの端に腰を下ろし、
お粥の入った器を乗せたトレイごと彼女に差し出す。

「薬飲む前に何か食べたほうがいいですよ」

困惑しているのが表情からも読み取れる。
128 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)00時13分55秒
「レトルトですけど、少しぐらいは食べてください」

上半身は起こしてくれたけど、まだ困惑気味にあたしを見ている。

「…どうぞ」
レンゲを差し出しても受け取らない。

あたしは差し出したレンゲでお粥を掬い、息で吹き冷まして彼女の口元に近づけた。

「食べてください。…でないと口移しででも食べさせますよ」

あたしの言葉に保田さんは目を見開き、戸惑いながらも口を開けた。
129 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)00時17分15秒
「……味、しない」
不満げな声がした。

「熱のせいですよ。下がれば味覚も戻ります」
そう言いながらもう一度掬ってそれを彼女の口元に向かわせる。

「いい、自分で食べれる」
あたしの手からレンゲを受け取り、ゆっくりと食べ始める姿にホッとした。

「薬も買ってきましたから」
「……粉じゃん」
「水で溶かしたら飲みやすいですよ」
「……ガキの飲み方ね」

バカにされたのはすぐに判った。

「この薬が一番よく効くんです!」
130 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)00時21分50秒
コップに注いだ水の中に薬を溶かし入れ、
食べ終えた器を受け取りながらそれを差し出す。

「…あと、水分もちゃんと補給したほうがいいですよ」

たぶん、熱のせいで力なんて入らないだろうから、
買ってきたペットボトルのキャップを一度外し、もう一度軽く閉めてから枕元に置いた。

薬を溶かした水も飲み干したのを確認して、コップを受け取る。

「はい、じゃああとはもう寝てください」

トレイを右手に持ちながらベッドから立つ。

彼女が横になるのを見届けてから、あたしは寝室を出た。
131 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)00時27分36秒
使った食器を洗い、片付けてから風呂場に向かう。

洗面器とタオルを持ってキッチンに戻り、
冷凍室から氷を取り出して洗面器に移して水を足す。
そこにタオルを浸して、あたしは再び寝室に入った。

ベッドに横たわる保田さんは、よほど疲れていたのか、
あたしがさっきここを出てからそんなに時間は過ぎてなかったのに、
もう既に眠りに落ちていた。

近くまで寄っても起きる気配はない。

あたしはタオルを絞って額や鼻の頭に浮かぶ汗を拭い取り、
そのまま折りたたんで額に乗せた。

冷たさが心地好かったのか、目を閉じて眠ってるはずの保田さんの口元が、
ほんの少しやわらいだように見えた。
132 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)00時31分36秒
あたしはベッドにもたれるようにして床に座り、
頬杖をつきながら彼女の寝顔を見つめた。

眠っていても、時折咳き込むその音がやっぱり痛々しくて、
大丈夫だろうと判っていても、とても心配だった。

もし今日、あたしがここに来なかったら、
一人でずっと耐えるつもりだったんだろうかと思う。

そう考えたら胸が痛くなってきた。

保田さんは違うって言い張るかも知れないけど、
病気になったら、たとえそれがただの風邪でも、どうしてか人恋しくなる。
誰でもいいからそばにいてくれたらいいと思うこともある。

保田さんにとってのその『誰か』は、以前は中澤さんだったんだろう。
133 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)00時34分50秒
でも、あたしがそれを叶わない願いにしてしまったから、
今はもう、本当に一人きりでいろんなことを耐えているみたいだった。

勿論、そこにはあたしとのことも含まれているんだろう。

本当なら、今ここに、保田さんのそばに、
一番いて欲しくないのはあたしかも知れない。

体調を崩してるのに、誰にもそれを言えないようにしたのも、
あたしなのかも知れない。

保田さんの眉が少し苦しそうに歪んだのが見えて、
あたしはタオルを絞り直した。
134 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)00時39分01秒
あたしの存在が保田さんを苦しめていると判っても、
でももうどうしようもなかった。

保田さんを見てると触りたくてたまらなくなる。
独占したい気持ちばかりが渦巻いていく。

あたしを、あたしだけを見て欲しくて、いつも、無理強いしてしまう。
そして、泣かせてしまう。
ますます距離を広げてしまう。

ホントはもっと優しくしたい。
もっともっと包み込むように抱きしめてあげたい。

でも、あたしは、方法を間違えたから。
正しい方法なんて、知らなかったから。

今更もう、それを知りたいとは思わないけれど。

保田さんの寝顔を見ながらそんなことを考えていたあたしも、
いつのまにか、眠りに落ちていた。
135 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月23日(火)01時24分29秒
愛し方を間違えたかもしれないけど
よっすぃ〜の愛はホンモノ。いつかやっすーに伝わるといいな。
136 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月23日(火)23時02分08秒

やすよし最高!
久しぶりに名作集をいろいろ見てたらすごい自分が好きな感じの話が。
これから毎回チェックします。
二人にはハッピーエンドを迎えてほしいですね。

137 名前:LINA 投稿日:2001年10月23日(火)23時23分22秒
よしこ、黒いなんて言ってゴメン(w

圭ちゃんの裕ちゃんに対する想いがどーなるのか〜〜〜!
続き楽しみにしてまっす!
138 名前:瑞希 投稿日:2001年10月23日(火)23時34分40秒
>135さん
伝わると…いいなぁ…。(ヒトゴトのよう…)

>136さん
ありがとうございます。
>自分が好きな感じ
気に入ってもらえて嬉しいです(^^)

>137:LINAさん
>圭ちゃんの裕ちゃんに対する想い
うっ、イタイとこ突かれた(w


では、続きです。
139 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)23時39分16秒
頭を撫でられているような感じがした。

それは、子供の頃、親や親戚に誉められたときに撫でられたような、
そんな優しさに似ていて、
あたしはしばらくその手の心地好い優しさに酔っていた。

でも、すぐに状況を思い出して飛び起きたあたしは、
目の前に、上半身を起こしている保田さんが、
戸惑いの見える顔付きであたしを見下ろしているのを見た。

飛び起きる直前引かれたのだと思われる保田さんの手が、
隠すように腕組みされる。
140 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)23時44分25秒
夢…、じゃないのかな?
頭を撫でられてた感覚は、保田さん、なんですか?

口をついて出そうになった疑問だったけれど、
あたしは寸前でそれを思いとどまらせた。

聞いたって、保田さんはきっと答えない。
もし本当にそうだとしても、いや、夢じゃないって確信はあるけど、
でも、それはきっと、保田さんには困る質問になる。

「……具合、どうですか」
気付いてないフリで聞いた。

髪をかきあげるフリで頭に手をやると、
まだちゃんと手の感覚が残っていて、とてもドキドキした。

メチャクチャ嬉しかったけど、でもそれは表現出来なかった。
141 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)23時48分06秒
「……結構、ラクになった」
「そうですか」
「……ずっといたのね」
「……寝ちゃいましたけどね」

会話が続かなくなる。

よく考えたら、あたし達の間には、会話らしい会話なんてほとんど成立したことがない。

それに気付いて、ますますあたしは言葉に詰まった。

「……今、何時?」
「えっ? あ、えと…、2時、です」
あたしは自分の腕時計を見て答えた。

「…意外と寝てたのね」
142 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)23時52分03秒
「あの」
「…何?」
「…お粥、レトルトの、まだあるんですけど、食べますか?」

我ながら間抜けたことを言ってるとは思ったけど、
会話を続けたくても、思い浮かんだ話題といえば、それぐらいしかなかった。

思った通り、保田さんは少し目を見開いてあたしを見た。

「……うん」

でも、頷いてくれた。
目を伏せて、あたしの視線から逃げるようにだったけど、それでも。

「じゃあ、すぐ温めてきます」
あたしは急いで立ち上がってキッチンに向かった。
143 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月23日(火)23時57分20秒
寝室に戻ると、保田さんはさっきと同じ態勢であたしを待ってくれていた。

「…どうぞ」
朝と同じようにベッドに腰掛けてトレイを差し出す。
今度は保田さんもためらうことなくレンゲを持った。

「…まだ味がしない」
「じゃあまだ完全じゃないってことです」

そう答えたときだった。

あたしの腹の虫が、それはそれは大きな声で鳴いたのだ。

自分でも勿論驚いたけど、
それよりもっと保田さんのほうが驚いたみたいだった。

大きな目をますます見開いて、あたしのことをじっと見つめる。
144 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月24日(水)00時00分32秒
「……こ、これは、その…、朝、ここに来る前に食べたっきりだから」
答えてる途中でまたしても要求してくる腹の虫。

だんだん恥ずかしくなってきて、顔が熱くなって、
あたしは俯くしかなかった。

だけど、たぶんあたしはこの次の瞬間を絶対忘れることはないと思う。

だって。
だって保田さんが。

「ぷっ」
って、ホントに小さくそう漏らして、笑ったんだ。

堪えきれない、そんな風に。
145 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月24日(水)00時03分03秒
あまりに突然のその事態に、
あたしはしばらく茫然としながら保田さんを見てた。

右手はレンゲを持ったまま、左手で口を覆って、
俯きながら肩を震わせている。

それはあたしか望んで予想した事態ではなかったけれど、
それでも、確かに、彼女は笑っていた。

ひとしきり笑って、あたしと目が合って……。

でも、笑顔は、そこで消えた。
146 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月24日(水)00時07分00秒
「……もういいよ、帰りな」
「えっ?」
「もう大丈夫。明日も仕事にはちゃんと行くから。だからアンタはもう帰っていいよ」

それは、そのときの保田さんがあたしに向けることの出来る、
精一杯の優しさだったと思う。

でも、彼女をこの部屋に一人にしてしまうことが何故だかとてもイヤで、
あたしは首を振った。

「もう少し…、夜まで、います」

保田さんはやっばり困ったようにあたしを見たけれど、
小さく溜め息を吐き出してから言った。

「……好きにすれば」
147 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月24日(水)00時10分43秒
「そうします」

答えたあたしに器を渡す。
それからゆっくり横になった。

「…もうちょっと、寝る」
「はい。…あ、あの」

あたしに背を向けた彼女が頭だけで振り向く。

「コンビニ、行きますけど、何か食べたいものとか、飲みたいものとかあります?」

そう聞いたあたしを保田さんは無表情でしばらく見つめたけれど、
ふいっと嫌うみたいに向こうを向いてしまった。

それは何もいらないという、意思表示に見えた。
148 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月24日(水)00時13分45秒
でも、あたしが肩を落としながら寝室のドアノブに手をのばしたとき、

「……アイス」

小さな声が、聞こえた。

「えっ?」
振り向いたあたしに、保田さんは背を向けたまま、
でも今度はハッキリ聞こえる声で言った。

「アイス食べたい」

最初は聞き間違いかと思った。
でも、今のあたしが保田さんの声を聞き逃すワケがない。

「は、はいっ、すぐ買ってきます!」

あたしは寝室を飛び出した。
149 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月24日(水)02時38分35秒
徐々に、徐々に。
神様・仏様・作者様この想いが僕の勘違いであらんことを…
150 名前:瑞希 投稿日:2001年10月24日(水)23時33分07秒
>149さん
……祈っててください。 <だからなんでヒトゴトみたいに…


では、続きです。
151 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月24日(水)23時38分00秒
そのあとのあたしは、ただの子供みたいだった。

保田さんが答えてくれただけなのに、
それだけでメチャクチャ嬉しくて、飛び跳ねて、スキップまでしてしまいそうだった。


朝も来たコンビニで、
今度は自分の空腹を満たすものを幾つかカゴの中に放り込み、
それから冷凍コーナーに向かう。

でも、扉を前にして、はた、と気付いた。

……何味が食べたいのか、聞くのを忘れてしまった。
152 名前:瑞希 投稿日:2001年10月24日(水)23時41分43秒
オーソドックスなバニラ?
でも、保田さんもホントは牛乳嫌いなんだよね。
けど、アイスはまた違うかな。

じゃあチョコレート?
でも、コーヒーは限りなくブラックに近い味が好きって言ってたから、
甘いのは嫌いって言われるかも。

それなら抹茶とか?
……オバサン扱いすんなって逆ギレ……は、ないか。

あたしは扉の前でたっぷり5分間は悩んで、
結局、そこに陳列されている全種類を買った。
153 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月24日(水)23時46分20秒
「保田さん」

急いで部屋に戻ったけど、保田さんは眠っていた。

何となく、こういうことも予測出来てて、あたしはがっかりと肩を落とした。

でも、さっきより幾らか穏やかになった寝息を聞いてると、
起こすのはさすがに心苦しくて、
あたしは買ってきたアイスを全部まとめて冷凍室に入れた。

それから自分の昼食分として買ったおにぎりで、
さっきから激しく要求してくる腹の虫を黙らせることにした。
154 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月24日(水)23時57分35秒
食べ終えて、片付けて、時計を見たらもう時刻は4時になろうとしていた。

まだ眠ってると思われる保田さんの様子を見ようと寝室に足を向けたとき、
内側からドアが開いて保田さんが出てきた。

「もう起きても大丈夫なんですか?」
「…喉渇いて、目が覚めたら、なかった」

あたしの問いかけに、
彼女はカラになったペットボトルを掲げて見せながら答えた。

「あ、新しいやつ、出します」
「いい、自分でやる」

冷蔵庫に向かおうとしたあたしを遮って、保田さんが自らキッチンに入る。
155 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月25日(木)00時02分09秒
「……アイス、買ってきたの?」
「はい。冷凍室に」
ある、と答える前に扉を開けて、保田さんは目を見開いた。

「何コレ…。何個買ったの」
「…だって、どの味がいいのか聞くの忘れたから」
あたしの答えを聞いて、呆れたように深く息を吐き出す。

「…アンタも食べる?」
「いいんですか?」
「って、アンタが買ってきたんでしょ。何味がいいの?」
「えと…、じゃあチョコで」

手のひらに乗るカップのアイスを放り投げられる。
それを受け取ってソファに座ると、
スプーンを2本持って、保田さんも隣にやってきた。
156 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月25日(木)00時06分56秒
差し出されたスプーンを受け取ったとき、ほんの少しだけ、指先が触れた。

とくん、と胸が鳴る。

我ながら、今更こんな些細なことで胸を鳴らせるなんて、
ガラじゃないって、思いもしたけど。

でも、保田さんは触れたことにも気付いてないみたいだった。

彼女が選んだアイスは、バニラだった。

「……顔色も、だいぶマシになりましたね」
「……そうね。朝よりはラク」

ぼんやり、窓の外の空を見つめている保田さんの手が止まる。

テーブルにアイスを置き、
ゆっくり立ち上がってベランダへと続く窓を開ける。

夕刻の、穏やかな風が凪いでいく。
部屋の中まで入ってきたその風が、保田さんの髪を揺らす。
157 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月25日(木)00時11分25秒
「……雨、降りそう」
その言葉通り、空の雲行きは怪しかった。

「本格的に降る前に帰りなよ」
まだいます、と答えかけたとき、
ソファの下に置いてあった保田さんの鞄の中からケータイの着信音がした。

メロディがワンフレーズ奏でる前に、
保田さんは少し慌てた様子でケータイを取り出した。

「もしもし」
声色が、柔らかだった。

「うん…、ううん、大丈夫」
ちらりと、あたしを盗み見るような視線が向けられた。

それで、それだけで、相手が誰か判った。

……中澤さんだ。
158 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月25日(木)01時38分42秒
誰がなんと言おうとよっすぃ〜を指示するよ。
素直にぶちまけてしまえ!そして楽になるんだ。
ああ、届かぬこの思いってか?
159 名前: 投稿日:2001年10月25日(木)04時12分25秒
上がってたので今日始めて知りました。
めちゃめちゃ面白いです。 ドッキドキです。(^^
作者様、がんばってください。
160 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月25日(木)21時59分58秒
私も今日始めて子の小説の存在を知りました。
自分のつぼにかなり来ました。
やすよしもいいですね。吉澤も保田も幸せになってほしいです。
161 名前:瑞希 投稿日:2001年10月25日(木)23時28分03秒
>158さん
ラクになっちゃいましょうか… <またヒトゴトみたいに…。

>159:Nさん
ありがとうございます。
面白いですか〜? よかったです、頑張ります。

>160さん
ありがとうございます。
やすよし、今、かなり萌え萌えなんです(w
幸せに、なれるといいなあ… <だからなんでヒトゴトのように言うんだ…。


では、続きです。
162 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月25日(木)23時34分31秒
「うん、…うん、いいよ」
嬉しそうな声だった。

それを、何も言えずにただ聞いているだけだったあたしの目に、
ケータイにぶら下がるストラップが灼きつくように映った。

あまり派手ではなく、だからと言って地味でもなく、
なのにそれはとても彼女らしいもので。

いつだったか、あたしがまだ保田さんにここまで固執するずっと前、
嬉しそうに笑いながら教えてもらったことがある。

「コレ、実は裕ちゃんとお揃いで買ったの。
でも裕ちゃんは恥ずかしがって付けてくんないから、あたしだけ付けてんの」

そのときは深く考えなかったことも、今ならすべてに納得がいく。

あたしの頭の中で、
あたしのカラダの芯で、
それまで静かだった何かが、弾けた。
163 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月25日(木)23時39分13秒
「うん…、うん、判った、じゃあ次の…、って、ちょっと!」

考えるよりも早く、理性よりも早く、本能が働いた。

あたしは保田さんからケータイを奪い取り、即座に終話ボタンを押した。

「何すんの!」
取り返そうとのばしてきた彼女の手首を捕まえる。

「……中澤さんですか」

びくんっ、とカラダが揺れた。

「…返して」
「イヤです」
「返してよ!」

ケータイがあたしの手の中で鳴り響く。
ディスプレイを見ると、思った通り、『裕ちゃん』と表示されていた。
164 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月25日(木)23時42分50秒
「吉澤!」

あたしを呼ぶ保田さんの顔付きはひどく怒っていて、でもどこか強張っている。

そして、今度もまた、考えるより先にカラダが動いていた。

持っていた保田さんのケータイを、窓の外へ投げ捨てるという、
自分でも信じがたい行動に。

投げたケータイを追うように、
保田さんが泣き出しそうな顔でベランダに向かい、下を見た。

あまり高層階ではないにしても、この高さから落とされたら、
もうその機能は果たさないと判る。
165 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月25日(木)23時47分46秒
それでも保田さんは玄関に向かって走った。
あたしはそれを、彼女の腕を掴んで引き止める。

「離して!」
「もう壊れてますよ」

あたしの言葉に、保田さんはひどく憤慨した顔と声で振り向いた。

「アンタ、いったい何考えてんのっ? あのケータイ、どんなに大事だと思ってんのよっ!
今までお世話になった人達の住所とかだっていっぱい入ってんのよっ?」

「……大事なのは、ケータイのほうじゃなくてストラップのほうなんじゃないんですか?」

そのとき、確かに保田さんの瞳が揺れたのを、あたしは見た。
166 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月25日(木)23時53分36秒
「やだっ」

それは、今までにないくらいの激しい拒絶だった。
初めて力づくで保田さんを抱いた、『あの日』よりも。

「やめてよ!」
掴んだ腕を強く引き、バランスを崩したカラダをそのまま床へと押し倒す。

「吉澤…っ!」
パジャマのボタンを外すのが面倒で、
襟ぐりを掴んで引き裂くように力いっぱい左右に広げる。

弾け飛んで床に散らばったボタンが、かつん、かつん、と乾いた音を起てる。

抗うようにあたしの肩を押すその手の力が、
初めてのときよりももっと弱く感じるのは、
彼女の体力がまだ完全には回復していないからだと思い出す。

気付いても、構わなかった。
構ってなんかいられなかった。
167 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月25日(木)23時59分03秒
あたしは、顕わになった保田さんの肌に、
数え切れないくらいの印しを残しながら彼女を抱いた。

いつも以上に強張っていた彼女のカラダは、
当然、あたしが望むような熱を灯すことはなく、
それでも、与えられる快感には正直で、乱れる吐息が部屋中に充満する。

そのときのあたしは、まだ自分一人では消化出来ない嫉妬に弄ばれている、
ただの、ケダモノだった。

彼女が苦痛に顔を歪めながら吐き出した息を飲み込むように、
雨が…、降り出した―――。
168 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月26日(金)00時34分24秒
よっすぃ〜・・・バカだな。
素直になれってのは本能のままに生きろってことじゃないぞ。
ああ、これでまたやっすーとの距離が・・・
この小説を読むとやきもきするよ。すごいよ、作者さん。
169 名前:JAM 投稿日:2001年10月26日(金)00時37分48秒
良い雰囲気だったのに〜・・・ほんのちょっと残念です。
またムリに抱いてしまいましたか。これでまた振り出しに・・・
よっすぃ〜の思いが届くのはいつでしょうか・・・
170 名前:43 投稿日:2001年10月26日(金)09時35分19秒
花板から読んでます。
作者さんの描く世界は、切なくて甘くて、時に激しいですね。かなり好きです。
保田さんがよっすぃ〜の切ない思いに気づいてくれることを願いたい・・・
171 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月26日(金)15時50分07秒
今日初めてこのお話を読ませて頂きました。
読み進んでは戻り戻っては進む。で1時間ぐらいかけて噛み締めるように読みふけりました・・。
「ん?私の頬を濡らすものは・・・・涙?」
切なさと近所の豪邸の野焼きが目に染みた秋の午後でした。
あぁ〜・・・ヤバイ。本当に涙腺が・・(ニガワラ

全く訳の解らないレスですが・・敬意を込めて!瑞希さんマンセー!!・・良し。(満足気
172 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月26日(金)21時41分30秒
吉澤の気持ちと行動のギャップがすごく切ないですね。
保田はどうなんだろう・・・。
憎かったり、嫌悪感を抱いていたりとか、
そういう感情ばかりではないと思ってるんだけど・・・。
173 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年10月26日(金)22時11分04秒
2人の微妙が距離が縮まるのか、これからの展開に期待です。
行動は不器用だけど思いは純粋で、それ故に誤解されてしまう吉澤さん。
その思いが理解できない保田さん。
距離が近いのにすれ違ってしまう2人のもどかしさ。
すごくせつなくて、続きが気になってます。
あまりレスしませんでしたが、ちゃんとチェックして読んでますよ。
これからも頑張って下さい。
174 名前:瑞希 投稿日:2001年10月26日(金)23時31分20秒
なっ、なんか、思いがけずたくさんレスが…(感涙)

>168さん
バカなよしこ…。ホントにねぇ <またヒトゴトかい!

>169:JAMさん
ホント、このままだったら届かないよね… <だからヒトゴトのように言うなよ…。

>170(43)さん
ありがとうございます。
花板とはもう、かなり路線も痛さも違いますが、
気に入っていただけたのなら、嬉しい限りです。

>171さん
ありがとうございます。
>近所の豪邸の野焼き
もうそんな季節なんですね〜 <お茶をすすりつつ…

>172さん
やっすーの気持ちですか…。
そのへんも、書くつもりではいますので…。

>173:弦崎あるいさん
よしこの不器用さが伝わっているのでしたら、
書き手としては、嬉しい悲鳴です。
ありがとうございます。


では、続きです。ちなみに、次の更新は明後日の予定です。
175 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月26日(金)23時37分09秒
外はもう、すっかり陽が暮れて真っ暗だったけれど、
雨の音は静かに、その存在を教えるように降り続いていた。

テーブルの上のアイスも完全に溶けきって液体になっていて、
もう食べられる代物じゃなくなってる。

あたしは開け放たれたままだった窓を閉め、ゆっくり保田さんに振り向いた。

床に横たわる彼女の顔には、涙の渇いたあとが残っている。

青ざめた表情で、焦点の合わない瞳で空を見つめる姿は、
あたしに後悔だけを植え付ける。
176 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月26日(金)23時41分04秒
「…保田さん」

ぴくっ、と肩が震えて瞳にも生気が戻った。
その目にあたしを映し、蔑む眼差しで睨みつける。

のろのろとカラダを起こして、
あたしが引き剥がすように脱がせたパジャマに手をのばす。

「……満足?」
抑揚のない声で聞かれた。

「ねえ、満足した?」
「保田さん……?」
「…もう何もない。あたしには、もう、何もないわ……」
177 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月26日(金)23時44分07秒
虚ろな瞳に確かに戻ったはずの生気が、
また少しずつ失われていくのが見える。

「……アンタは、あたしから何もかも奪うつもりなのね。
小さな…、ホントに小さな宝物さえ……」

俯いた彼女の顔から涙が落ち、床を濡らす。

でも、あたしにそれを拭うことは許されない。

零れる涙の数は、すべて、あたしの罪の数だから。

何も言えなくて、あたしは逃げるように保田さんの部屋を出た。
178 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月26日(金)23時47分25秒
エレベーターは使わず階段で降りる。
そのほうが誰とも擦れ違ったりしないで済むから。

自分の頭の奥が熱くなるのを感じ、
続けてこめかみにも小さな痛みが走るのを感じた。

涙が出る前兆に気付き、あたしは上を見た。

あたしは泣いちゃダメだ。
傷ついてるのはあたしじゃない。

あたしじゃない……。
179 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月26日(金)23時50分38秒
エントランスを抜けると、
外ではまだ激しく降る雨がアスファルトを濡らし続けていた。

傘なんてない。
傘なんていらない。

あたしはそのまま外に出て空を見上げた。

真っ暗な空から降り続く大粒の雨が、あたしの顔に刺すように降ってくる。

冷たくない。
痛くなんて、ない。

見上げた先に見えるベランダのひとつは保田さんの部屋だ。
明かりが、付いている。
180 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月26日(金)23時55分52秒
ゆっくり視線を落とし、
マンションの外観を彩るように綺麗に刈り揃えられている植え込みに目を向けた。

頭で理解するより先にカラダが動く。

植え込みの中に潜り込むようにカラダを押し込み、手をのばす。

真っ暗で、何も見えなくて、
雨で多くの水を含んだ柔らかな土の感触だけしか判らない。

もう一度上を見て、自分の足元との距離を推測する。

この辺だろうか。
それとももっと奥?
まさか粉々にはなってないだろうとは思うけど。

雨脚が強くなってきて、視界が更に悪くなる。
それでもあたしは手をのばして、植え込みの中を探り続けた。
181 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月26日(金)23時59分14秒
どれくらいの時間がたって、どれくらい雨に濡れていたのか判らない。

でも、見つけた。

粉々ではなかったけど、ディスプレイは傷だらけだった。
ボディもエグくへこんでる。

なのに、彼女にとって最後の小さな宝物は、
まるで、あたしの歪んだ気持ちには負けないと言いたげに無傷で、
それはとても気高く見えた。

あまりにも哀しくて、笑っちゃうくらいに。

あたしは泥だらけのそれを服の袖で綺麗に拭ってからマンションに戻った。
182 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月27日(土)00時03分03秒
出てきたときと同じように階段で保田さんの部屋に向かう。

インターホンを押してドアが開くのを待つ。
でも、彼女はドアを開けなかった。

誰にも会いたくないのかも知れない。
もしかしたらドアスコープであたしを確認して、
ますます開ける気を失くしたのかも知れない。

あたしは持っていたケータイを、新聞受けの入り口から中へ落とした。

ゴトン、と鈍い音が響く。

顔が見たかったけど、きっと哀しい顔しか向けてくれないだろうから、
会ったって切なくなるだけかな。

あたしは溜め息を吐き出しながら踵を返し、今来た道を戻った。
183 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月27日(土)00時07分14秒
階段を幾つか下りて、手摺りに手を掛けたときだった。

「吉澤…?」

呼ばれて振り向くと、保田さんが立っていた。

あたしがさっき、ドアの新聞受けから放り込んだケータイを、
大事そうに両手で持って胸に抱えながら。

「…アンタ、まさか、今までコレを……」

それには答えず、あたしは別の言葉を言った。
出来るだけ、笑顔で。

「…ケータイのほうも、弁償しますから」
うまく笑えてるか自信はないけど、
保田さんの表情は、困惑してるみたいに、少し、歪んでた。

胸が痛い。
痛いよ、保田さん……。
184 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月27日(土)00時09分33秒
「……ごめんなさい」
「え…?」
「……今まで…、ひどいことばかりしてごめんなさい。
……イヤがることばかりして、ごめんなさい」

保田さんの顔付きがますます困惑していく。

「それから」

そんな顔しないで。
もう終わるから。

もう、終わらせる、から。

「……好きになって、ごめんなさい」
185 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月27日(土)00時14分35秒
初めて素直になって言えた言葉が終わりの言葉になるなんて、
そう思ったら、やっぱり笑うことは難しいんだけど。

保田さんの大きく見開かれた目が真っ直ぐあたしを見つめる。

もう、いいですよ。
あなたは、もう、あたしのものじゃない。

いや、最初から、あなたはあたしのものじゃなかった。

どんなにカラダを繋いだって、それはそのときだけのものでしかなくて、
確かに感じていたカラダの熱も、吐息も、汗も、
そんなものは全部、あたしだけしか感じなかった感動で、
あなたは、いつでも、どんなときでも、あたしのものじゃなかった。

知っていても、判っていても、それでもあなたをあたしだけのものにしたくて。

でももう、今更好きだなんて言えなくて。

始め方を、この恋の始め方を、あたしは、間違えたから。
186 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月27日(土)00時18分32秒
「……」

何か言おうとしているのか、薄く開きかけた保田さんの唇。
それを見つめながら、あたしの中での彼女の大きさを痛感する。

抱きしめたい。
でももう、終わりにするから。

「…さよなら」

笑ってください、前みたいに。
あなたから笑顔を奪った人間は、消えますから。

「吉澤…っ?」

保田さんの声を背中で聞きながら、
あたしは階段を駆け下りてマンションをあとにした。


…雨は、まだその雨脚を変えることなく、強く、降り続いていた―――。
187 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月27日(土)00時37分31秒
うわー、よっすぃ〜!!!!!!!
胸が痛い・・・・・あ〜切ない。どうしてこんな風に・・・じゃぃhzldさzs・
すいません、取り乱してしまいました。
いや、信じてるよ、よっすぃ〜の気持ちがやっすーに届く事を。
は〜痛い痛い。
188 名前:83 投稿日:2001年10月27日(土)00時43分17秒
>「……好きになって、ごめんなさい」
黒(0^〜^0)も(・∀・)イイ!!けれど
このセリフに泣かされました。切なすぎっス…
吉澤の気持ちがヤッスーに届くことを願わずにはいられません…。
189 名前:JAM 投稿日:2001年10月27日(土)01時58分25秒
あぁ〜〜潤んできた・・・(目が)
よっすぃ〜・・・切ないです・・・。
190 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月27日(土)08時11分23秒
会話とは異なる吉澤の胸の中の言葉が痛いです。
朝っぱらからかなり切なくなりました。

もう一回読もう。
191 名前:もこもこ 投稿日:2001年10月27日(土)12時24分23秒
作者さん始めまして〜。

よっすぃ〜せつないっす・・・(涙)
んでも、これじゃレイプ・・・
人として一番最低な行為・・・
いくら好きでも、一人占めしたいといってもこれじゃいかんでしょ。
加護ちゃんネタに脅してるし・・・
不器用というより、犯罪者じゃん・・・
僕的にはどうしても、よっすぃ〜には同情できないっす。

「自業自得」

圭ちゃんの裕ちゃんに対する気持ちが本当に気になるし、
作者さんがこの後、どう調理していくか楽しみです。

瑞希さんガンバレ〜〜!!





192 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月27日(土)14時26分50秒
そうなのかなぁ・・・自業自得なのかな。
自分を見失う程の恋心を持ってしまったから、愛しくて、恋しくて、大好きで。
作中にもあるけど、愛情表現の仕方をほんのちょっとの間違えちゃっただけなんだと思う。
解っては居るけど・・・って言うのが切なくて可哀想なんだよね。吉澤の幼さとか。

まぁ これも私の理想的な解釈に過ぎませんけどね。やってる事は確かに酷いし(苦笑
193 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月27日(土)23時40分32秒
『好きになってごめんなさい』なんて…涙で画面が見えない。表現は歪んでいても、気持ちが純粋なよっすぃ〜…切ないです。
194 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月28日(日)02時16分43秒
>>「……好きになって、ごめんなさい」
今までのコトがあるから
このセリフ、よっすぃ〜に未来は……
195 名前:瑞希 投稿日:2001年10月29日(月)00時10分00秒
>187さん
取り乱させてしまうような展開で、申し訳ないです…。

>188(83)さん
もう黒よしこは、出ないと思われ… <ヲイ

>189:JAMさん
大泣きな展開…に、なるかなあ… <またヒトゴトかい。

>190さん
>朝っぱらから…
ありゃ。どーも、すいません。で、また読んでくれたのかしら?

>191:もこもこさん
はじめまして。
ケナされてるのかな? ホメられてるのかな?(ニガワラ
でも、頑張ります。

>192さん
よしこの言動をどう解釈するかは、読者様の受け止め方だと思います。
確かに客観的にもひどいですからね、よしこのやってることは。

>193さん
あのっ、画面、見えてますか?
そんなに泣かせちゃって、ゴメンナサイ…

>194さん
>よっすぃ〜に未来は……
うう、どうなるんでしょうか、よしこは…… <またヒトゴトかーっ!


では、続きです。

196 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)00時16分34秒
吉澤が、姿を見せない。


最初は、なかなか来ないのをただ遅いなって、
そんな感じで待っていたみんなも、集合時間を大幅に過ぎても現れないことに、
次第に不安が楽屋内に充満してきた。

「…よっすぃーが遅いなんて、珍しくない?」
あたしの隣に座っていた矢口が心配そうに言う。

「…圭ちゃんも、何も聞いてないの?」
「………うん」

あたしはポケットの中の壊れたケータイをぎゅっと握り締めた。

昨夜の、出来ることなら忘れ去りたい出来事が脳裏に蘇る。
197 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)00時20分15秒
吉澤があたしを抱くときは、強引で、力づくで、
抵抗なんてしても少しも適わなくて、
あたしはいつもされるがままだった。

なのに、力で組み敷き、言葉で凌辱しながらも、
あたしを見る吉澤の瞳は、いつでも傷ついたような色をしていた。

昨夜は特にそれを強く感じた。

行為は今までで一番乱暴で一方的だったのに、
漂う雰囲気は全然違っていた。
198 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)00時23分18秒
16という歳に相応な表情を向けるかと思えば、
ひどく醒めた目をしてあたしを見る。

それも、言葉にはならないような瞳で。

そのギャップが、いつもあたしを戸惑わせていた。

カラダだけが目的じゃないのはすぐに判った。
でも愛情なんて甘いものを感じたことは一度だってなかった。

だからいつでも怖かった。

あの醒めた瞳の奥の、本当に望んでいるものが読めなくて。
199 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)00時26分46秒
「……ヤバくない?」
圭織も心配そうにあたしを見た。

「…ちょっと、聞いてくるよ」

こんなとき、ホントならリーダーである圭織がマネージャーに
聞きに行くのが妥当だとは思ったけど、
あたし自身もとても吉澤の動向を気にしていた。

昨夜の、最後に見た吉澤の強張った笑顔が思い出される。

『好きになって、ごめんなさい』

初めて聞いた、吉澤からの告白だった。
けれど、謝られた理由はよく判らなかった。
200 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)00時30分38秒
楽屋を出ようとドアノブに手を掛ける直前、
マネージャーが部屋に飛び込んできた。

「吉澤がいなくなった!」

楽屋内がその一言でザワつく。

でもあたしは、その事態を頭のどこかで予想していた。

昨夜、最後に見せた笑顔と言葉。

『…さよなら』

あれは、あたしがそれまで見てきた吉澤の、どの表情にも当てはまらなかった。

何か考えている。
それだけしか読めない顔で、吉澤は駆け出して行った。
201 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)00時33分58秒
「い、いなくなったって、どーゆーことぉ?」

吉澤は昨日の朝、家を出たま帰ってないらしい。
ケータイも、何故か家の、吉澤の部屋の机の上に置きっ放しになっていたそうだ。

つまり、朝から夜まであたしの部屋にいた吉澤を、
最後に見たのはあたしということになる。

「……あたし、昨日の夜まで、吉澤といたよ」

答えながら、ひどく冷静になっている自分に気付く。
202 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)00時37分04秒
「…ってことは、誘拐、とか」
後藤の声が楽屋に響き、ザワつきが増す。

「…ううん、それはない」
言い切るあたしに周囲から問い掛けるような目が向けられた。

可能性を考えたら有り得なくもないのに、
それでもあたしは自分の考えに自信があった。

「……昨日、ちょっとあって、別れ際がヘンだったんだ」

吉澤は、自分から、姿を消したんだと。
203 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月29日(月)00時57分38秒
こんなところで切るとは殺生な・・・
やっすー、早くよっすぃ〜を見つけてくれ!
そしてよっすぃ〜の本当の気持ちをちゃんと聞いてあげてくれ!
よっすぃ〜もぶちまけろー!
204 名前:某作者 投稿日:2001年10月29日(月)22時48分18秒

自分も瑞希さんのお話は以前から読んでいました。
一番好きな組み合わせがやすよしなので、見つけたときはとても嬉しかったです。
ぜひ保田さんと吉澤さんには幸せになってもらいたいですね。
毎回更新楽しみにしています。
頑張ってください。

205 名前:瑞希 投稿日:2001年10月29日(月)23時19分26秒
>203さん
お? 似たようなツッコミを花板でもされたな(w
もしや、同じ人かな…?

>204:某作者さん
まっ、まさか、海板の、あの作者さんでしょうかっ。
か、感激だ…(涙)
ありがとうございます、頑張ります!


では、続きです。
206 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)23時22分41秒
すぐに捜索願いが出された。
勿論、マスコミには極秘で。

あたし達はその日、仕事をすべてキャンセルして自宅待機になった。

あたしは、ソファに腰掛けながら、
ずっと、昨日あったことを思い出していた。
207 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)23時26分47秒
風邪を引いて、寝込んだあたしの看病をしてくれたあの子の瞳を、
久しぶりに優しく感じた日。

帰らずに、ずっとあたしのベッドのそばに付いててくれたあの子の寝顔は、
16歳のあどけなさがあった。

柔らかそうな髪が揺れて、気が付いたら撫でていた。

あたしが我に返ったと同時にあの子も目を覚まして、
あたしは正直焦った。
聞かれても言い逃れる余地がない。

でも、あの子は何も聞かなかった。
あたしが困ってることに、気付いてるみたいだった。
208 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)23時29分23秒
そのあと、あの子の腹の虫が空腹を知らせたときの顔は、
あたし達の関係が、
こんな風に歪んだものになるずっと前に見ていた幼いもので、
自然と笑いが込み上げてきた。

でも、そんなあたしをあの子はとても驚いたように見つめていて、
そこであたしも、
あの子の前で久しぶりに笑ったことに気が付いた。
209 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)23時33分51秒
まだ帰らないと告げて、再び買い物に出かけたあの子を待ちながら、
あたしはまた眠ってしまったけれど、
目を覚ましたときは、そばにいるような気がしていた。

でも、喉が渇いて目を覚ましたときあの子は近くにいなくて、
正直、あたしはガッカリしたんだ。

帰ったとは思わなかったけど、
絶対そばにいると思った自分にイラ立ちさえした。
あたしにひどいことばかりするあの子に、
何を期待してるんだとさえ思った。

あの子はリビングにいて、あたし達は、
本当に久しぶりに、何でもないような会話をしてた。

……裕ちゃんからの、電話が鳴るまでは。
210 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)23時37分26秒
何でもない用件だったけれど、
3日ぶりに聞く声に、あたしの声はきっと弾んでたと思う。

何気なく吉澤を見たとき、いつも見ている、とても傷ついたような瞳をしていた。

でもそれは、すぐに冷たい、醒めた色に変わった。

あたしのケータイを窓から投げ捨て、
ケータイよりもストラップが大事なんだろうと言った吉澤。
そしてその言葉に少なからず動揺してしまったあたし。

……そのあとのことは、あまり思い出したくない。
211 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)23時40分17秒
あれは、あのときの吉澤のあたしへの行為は、
ただの暴力でしかなかった。

初めて力づくで抱かれた『あの日』よりも、
何の感情も感じられない乱暴な行為だった。

行為が終わったあと、あたしは、
本当に何もかもを失くしたような気分になった。

ケータイを投げ捨てられたことより、
吉澤との、穏やかにも感じられたあの何でもない空気さえ、
もう、幻なのかも知れないと。
212 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)23時45分16秒
追い立てられるように吉澤が帰ったあと、あたしはすぐにシャワーを浴びた。

なのに、カラダ中に残る吉澤の余韻は少しも薄らぐことがなくて、
目に見えるものでも残された吉澤の痕跡が、
逆にあたしを追い込んでいくようにも感じた。

暗く沈む外で降り続く雨の音をぼんやり聞いていたあたしは、
インターホンの鳴る音が聞こえても動けなかった。

誰にも会いたくなかったし、会える状態じゃなかった。

しばらくして、新聞受けの入り口から何か入れられたような音が聞こえて、
あたしは重い腰を上げて玄関に向かった。

そしてそこに、
壊れて機能を果たさなくなったあたしのケータイを見つけ、カラダが震えた。

吉澤だ。

そう思うより早く、あたしはドアを開けていた。
213 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)23時49分32秒
濡れた足跡は、エレベーターのほうではなく、
階段のほうに重なるように続いていて、
あたしはケータイを握り締めながらその足跡を辿るように走って追いかけた。

階段を下りていた吉澤はひどく濡れていて、
雨の中、ずっと、傘もささずに壊れたケータイを探していたことを、
その姿で物語っていた。

「……ごめんなさい」

そう言った吉澤の頬を伝った雨粒が、…いや、濡れた髪が額に張り付き、
そこからも落ちてくる滴のすべてが、吉澤の涙に見えた。

笑っていても、全然笑っているようには見えない笑顔だった。
214 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月29日(月)23時53分30秒
「…さよなら」

あたしの声を振り切るように駆け出した吉澤を追うことは、出来なかった。

吉澤が判らなかった。
あたしに何を求めてるのか、あたしにどうして欲しいのか。

何もかも奪っておきながら、それでも、
いつも物足りなさそうにあたしを見てたその哀しい瞳の奥で、
本当に望んでるものは何なのか。

ただひとつ、今のあたしに判っているのは、
吉澤のいなくなった本当の原因が、あたしにある、ということだけだった。
215 名前:名無し殺生 投稿日:2001年10月30日(火)01時57分21秒
はい、前と同じ人です。
あなたの作品はとても好きで、読んでるといろんな感情が渦巻くので
あんなレスになるんです。すいませんです・・・
で、またもや、こんなところで切るとは殺生な(w
やっすーよ、よっすぃ〜の本当の気持ち、心の奥底にある気持ちに気付いてくれー!
216 名前:瑞希 投稿日:2001年10月30日(火)23時27分04秒
>215:名無し殺生さん
やはり、同じ方でしたか、いつもいつもレスありがとうございます。
あやまらなくていいですよー、むしろ嬉しいくらいです!


では、続きです。
217 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月30日(火)23時31分55秒
夜になっても、まだ誰からも連絡は来なかった。

ケータイは壊れていたから、あたしはずっと家庭用の電話を見つめていた。

膝を抱え、ソファでカラダを小さくしていたあたしの耳に、
昨夜のようにインターホンの鳴る音が聞こえた。

あたしはドアスコープで相手を確認することもしないでドアを開けた。
吉澤だと思ったからだ。
吉澤が、現れると思っていた。

でも、そこにいたのは吉澤じゃなかった。

「…裕ちゃん」
218 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月30日(火)23時37分29秒
あたしの声色に、裕ちゃんは苦笑いして言った。
「ゴメンな、吉澤じゃなくて」

心を読まれたようで、ギクリと胸が鳴った。

「う、ううん。…でも、どうしたの?」
そう言ったあたしに、裕ちゃんはますます苦笑いする。

「どうしたんって、それはあたしの台詞やで。
昨日の電話、アレ、どうしたん? 急に切れたと思たら今度は全然繋がらんし、
でも、あのあとすぐ仕事で、掛け直されへんかったから朝にしよと思たら、
吉澤がおらんようになったってマネージャーから聞いて…。
けど、あたしも仕事がなかなか終わらんくて、
抜けるに抜けられんで、今になってもうたんやけど」
219 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月30日(火)23時43分07秒
裕ちゃんを部屋の中へと促しながら今度はあたしが苦笑いする。

「……そっか、裕ちゃんとこにも連絡いったんだ」

あたしの声の抑揚をどう解釈したのか、
振り向いた裕ちゃんの表情は、少し、困惑してるように見えた。

「……ごめんね、連絡しないで。
ケータイ、ベランダから落としちゃってさ、壊れちゃって」
「そーなん?」

まさか吉澤が投げ捨てたとは言えなくて、嘘をついて頷いた。

「……けど、昨夜は吉澤と一緒やったんやろ? 何かあったん?」
「…うん、まあ…、ちょっと、いろいろ……」
220 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月30日(火)23時47分03秒
言葉を濁したあたしに、裕ちゃんの表情はますます困惑の色を濃くしていく。

「……ケンカか?」

そんな可愛らしいものじゃないけれど、
本当のことなんて言えないから、あたしは曖昧にもう一度頷いた。

「……家出してまうくらいのケンカって、激しいやん」
「……そうね」

適当に返して裕ちゃんより先にソファに座る。
と、何かに気付いたように裕ちゃんの手があたしの首元にのびてきて、
シャツの襟を掴んで広げられた。
221 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月30日(火)23時50分31秒
「……こっちも、かなり、激しいやんか」

吉澤が残した幾つもの痕跡を見られて、
あたしは咄嗟に裕ちゃんの手を振り払っていた。

歪んだ裕ちゃんの表情が、あたしから言葉を奪う。

見ていられず俯くと、裕ちゃんの溜め息が聞こえた。

「……ホンマのこと言うてみ。吉澤と付き合うてるなんて、嘘やろ」

ギクリとまた胸が鳴る。
カラダも強張った。

「…図星か」

無言でいることが肯定を示してしまった。
222 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月30日(火)23時55分12秒
「何でや?」

本当のことなんて、言えるワケがない。

脅されて、関係を、強いられているなんて。

そして、そのことに、カラダがもう、慣れてしまっているなんて。

「吉澤がおらんようになった理由と関係あるんか?」

今度はカラダが反応してしまい、
答えにくいはずの裕ちゃんのその質問にも、
また素直に答えを返してしまっていた。

「…正直やな」
呆れたような、諦めたような、そんな声が聞こえてあたしは頭を上げた。

「…あたしじゃ、圭坊を助けられへんの?」
哀しそうな瞳で、口元を少し歪ませながら裕ちゃんは言った。

そのとき、あたしのカラダを熱い何かが一気に走り抜けた。
223 名前:JAM 投稿日:2001年10月30日(火)23時56分32秒
遂にバレてしまいましたか〜。
裕ちゃんはどのような行動に・・・?
224 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月30日(火)23時59分05秒
「……助ける…?」
「そうや。あたしが吉澤から圭坊を助けたる。
吉澤に何を言われたんや? 言うてみ?」

あたしの隣に座って、優しく肩を抱きながら聞いてきたけれど、
裕ちゃんの言ってる言葉の意味が、
そのときのあたしにはちゃんと響いてこなかった。

あたしの頭の中を、
さっき全身を駆け巡った熱と一緒に浮かんだ気持ちがぐるぐる回ってる。

「……圭坊?」
「……助けて欲しいなんて、思ったことない」

思いもしなかった。
それを、言葉にされるまで。
225 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月31日(水)00時02分35秒
「あたしにまで嘘つかんでええ。無理して、我慢しとったんやろ?」

それは否定出来なかった。

吉澤といることに、確かに無理はしていた。
我慢もしていた。

でも、助けて欲しいとは、ホントに一度も思わなかったんだ。

「……どんなひどい目に遭わされてきたんや」

ひどいことはたくさんされた。

でも。
でもそのときはいつも、傷ついた瞳をしていて。

あんな風にあたしを見るくせに、どうしてひどいことばかりするのか。
それが、知りたくて。
226 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月31日(水)00時06分35秒
「……無理矢理、やったんやな」

裕ちゃんの腕が、あたしを労わるように抱きしめてくれているのが判る。

そこは、あたしが一番好きなひとの腕の中のはずなのに。
嬉しくて、幸せで、一番求めている場所のはずなのに。

「守ったる。圭坊のこと、吉澤から守ったるから」

吉澤に抱かれる前のあたしなら、
こんな風に抱きしめられただけでカラダは熱くなったのに。

どこか冷めたように分析している自分に戸惑いながら、
それでも裕ちゃんの腕のぬくもりは心地が好くて、
あたしはゆっくり、背中に腕を回した。
227 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月31日(水)00時10分54秒
「ゆう……」

名前を呼ぼうとしたそのとき、電話のコール音が部屋に響いた。

音を聞くなり、思わずあたしは裕ちゃんのカラダを突き飛ばしていた。

そうされたことに裕ちゃんは驚いたように目を見開いたけれど、
あたし自身がもっと驚いていた。

「圭…?」
「ごっ、ゴメン!」

自分でも信じられなかった。
裕ちゃんを、突き飛ばすなんて。

だけど、鳴り続ける電話の音があたしのその理由を考えさせなくする。

あたしは慌てて受話器を上げた。
228 名前:LINA 投稿日:2001年10月31日(水)00時20分21秒
ここで切るとは殺生な〜(w

よしこ〜〜帰って来い!
229 名前: 投稿日:2001年10月31日(水)01時01分05秒
今、胸が締め付けられるような切なさでいっぱいです。
すごく面白くって、毎日毎日、更新を楽しみにしてます。
作者様がんばってください。
230 名前:名無し殺生 投稿日:2001年10月31日(水)20時29分37秒
>>228
取らないで下さい(w

またもやこんなところで・・・
やっすーはだんだんと自分の本当の気持ちに気付いてきたか?
いつもハラハラさせられます。更新が待ち遠しい!
231 名前:瑞希 投稿日:2001年10月31日(水)23時26分09秒
>223:JAMさん
バレたというか、気付かれてたというか…。

>228:LINAさん
帰って来ーい <だからヒトゴトみたいに言うなって(w

>229:Nさん
ありがとうございます。
私もNさんの作品、いつも楽しみに読ませていただいております(^^)

>230:名無し殺生さん
ああっ、取られちゃいましたねっ(w
さて、やっすーの気持ちはどこへ向かうのでしょうか…?


では、続きです。
232 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月31日(水)23時33分01秒
「もしもしっ?」
「…保田か?」

マネージャーか、事務所の誰かだと思ったのに、その声はつんくさんだった。

「は、はいっ。あの…っ」
「吉澤、見つかったで」
あたしの言葉の続きを奪うようにつかくさんは言った。

「どこですかっ?」
「…都内のホテルにおった。今は事務所のやつが見張っとる。…けど」
「……けど…? ま、まさか、怪我とか、してるんですか?」

何故か言い淀んだ彼から、吉澤が見つかったのに、
それに対して手放しでは喜べない状況であることが伝わってきた。
233 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月31日(水)23時37分23秒
「いや、大丈夫や。そんなんはない。
…けどな、あいつ、『娘。』辞める言うてるらしいねん」
「えっ?」

「…何か、自分がおったら保田が壊れるとか、保田に申し訳ないからとか、
そう言うたらしいんや。でもあんまり詳しいことは言いよらん。
とにかく辞めるって、そう言い張ってるらしいねん。
…オマエ、あいつと何があったんや?」

辞める?
吉澤が?
234 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月31日(水)23時42分04秒
「……そっち行きます。場所教えてください」
「…保田? 理由は教えてくれへんのか?」
「…すいません、言えないんです。でも、吉澤と、話させてもらえませんか」

電話の向こうで、この後の対処を考えている彼が想像出来た。

「説得してくれるんか」
「……やってみます。出来るかどうか判らないけど、でもたぶん、
あたしじゃないと、ダメだと思うんです」

不思議と、そう言った自分自身の言葉に自信があった。

「…判った、頼むわ」
溜め息混じりだったけれど、
それでもつんくさんは納得したようにそう言って、
吉澤のいるホテルの住所を教えてくれた。
235 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月31日(水)23時44分48秒
「……吉澤、見つかったって?」

走り書きしたメモをポケットに突っ込み、
振り向いたあたしに裕ちゃんが言った。

「うん。今から行って来る」

裕ちゃんの目が、少し淋しげに揺れて見えた。

「…行くんか?」
「行かなきゃ」
「…あたしが行くな言うても?」

言葉に詰まる。
それに気付かれて腕を掴まれ、抱き寄せられた。
236 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月31日(水)23時49分39秒
「…行かんでええ。何で自分からまた傷つきに行こうとするん?」
「裕ちゃん……」
「守ったるって言うたやろ」

抱きしめられていることに次第に息苦しさを感じるようになったのは、
裕ちゃんが腕に力を込めたからだろうか。

「吉澤に、ひどいことばっかりされてたんやろ? 無理矢理やったんやろ?
もうそんなんせんでええねん。我慢なんかせんでええねん」

あたしは、あたしを抱きしめてくれている裕ちゃんの腕をやんわりと解いた。

離れたあたしを、裕ちゃんは困ったように見つめている。
237 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月31日(水)23時53分23秒
「……確かに吉澤にはひどいことばっかりされてたけど…、
でも、でもね、そうじゃないときだって、あったんだよ」

吉澤があたしと付き合ってるとメンバーに知らせたとき、
答えに詰まるあたしの顔を、詰め寄る彼女達から庇うように隠してくれた。

昨日も、水分補給しろと言って差し出したペットボトルのキャップを、
一度開けてくれていた。

吉澤の優しさは、そんな、気にとめなければ気付かないような、
そんな小さなものばかりだけれど。
238 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年10月31日(水)23時56分19秒
「……優しくされたことなんて、数えられるくらいしかないんだけどさ、
でもあたし、そっちがホントの吉澤なんだって、信じたいんだ」

信じたい。
本気であたしを傷つけたいだけだったんなら、
土砂降りの中、傘もささず、何時間もかけて、
壊れてると判ってるケータイなんか探さないって。

信じたい。
あたしの大切なものを奪うつもりなんか、ホントはなかったんだって。
239 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年10月31日(水)23時59分12秒
「……吉澤が、好きなんか?」

裕ちゃんの声が部屋に哀しく響いた。

その言葉は、まだあたしの中を騒がせたりしないで、
ゆっくりと素通りしていくけれど。

「……判らない。でも、このままじゃダメだって、思う。
あの子とちゃんと向き合わなきゃダメなんだって、そう思う」

知りたい。
吉澤が、あたしに望んでたのは何なのか。
あたしにどうして欲しかったのか。

今は、それが、知りたい。
240 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年11月01日(木)00時02分47秒
「…だから、ゴメン」

あたしはそれだけ言って、
ソファの背凭れに掛けていたジャケットを羽織った。

「……気、付けてな」

裕ちゃんをそこに残したまま玄関に向かうあたしの背中に声が届く。

「行ってきます」
振り向き、あたしは笑って言った。

裕ちゃんは少し複雑そうに眉を歪めたけれど、
それでも小さく笑いながらあたしを送り出してくれた。


あたしはマンションの前でタクシーを拾い、
それに乗り込んでから、ポケットに突っ込んだメモの住所を告げた。
241 名前:それを愛とは… 〜side K 投稿日:2001年11月01日(木)00時03分53秒
吉澤を止められるのは、あたしだけだ。

それが、今のあたしを動かしていた。
242 名前:83 投稿日:2001年11月01日(木)00時24分08秒
最近、ここをチェックするのが日課になってます。

>吉澤を止められるのは、あたしだけだ。
がんがれ!( `.∀´)
そしてよしこに救いあれ!

作者さんもがんばってください。
243 名前:83 投稿日:2001年11月01日(木)00時25分36秒
あ、すみません…
ageてしまいました…
逝ってきます…
244 名前:名無し殺生 投稿日:2001年11月01日(木)00時36分23秒
おおっ!どうなるんですかー?殺生殺生〜♪
やっすー、やっとやっと・・・やっすーありがとう( `.∀´)
あとは互いに素直になって向き合うだけ、ですよね???
ああ、早くホテルに着け。
245 名前:瑞希 投稿日:2001年11月01日(木)23時23分04秒
>242,243(83)さん
>ageてしまいました…
お気になさらず(^^)
自分でageるのに抵抗があるだけです。
帰ってきてくださいね〜。

>244:名無し殺生さん
>ああ、早くホテルに着け
激しく笑いました(w


では、続きです。
246 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月01日(木)23時29分21秒

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
247 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月01日(木)23時33分00秒
ホテルの一室で、窓のそばに立ったまま、あたしはずっと外を見ていた。

でなきゃ息が詰まりそうだった。

ドアの近くでは、顔しか知らない、
事務所の社員のオバサンが、椅子に座って厳しい顔付きであたしを見張ってる。

今更、もう逃げられないことくらい判ってるんだから、
コドモ扱いしないで欲しいんだけど。
っていうか、逃げるつもりなんて元々なかったんだけど。

あたしは、もう数え切れないくらいついた中でも一番深い溜め息を吐き出した。
248 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月01日(木)23時38分14秒
昨夜、あたしは保田さんのマンションを出たあと、
雨の中、しばらく街を歩いていた。

頭を冷やすためと、これからの自分のことを考えるために。

どこか店に入って落ち着こうかとも思ったけど、
全身ずぶ濡れのあたしは、タクシーからも当然の乗車拒否を受けて、
結局すぐ近くで目についたこのホテルに泊まることにした。


部屋に入ってとりあえず服を脱ぎ、
雨に濡れて冷えたカラダをシャワーで暖めてから備え付けのバスローブに着替える。

それから電話で濡れた服のクリーニングを頼んだ。

引き取りに来た女性従業員に服を渡し、
受け取り時刻は早くても明日の朝になると聞いてから、
あたしは吸い込まれるようにベッドに倒れこんだ。
249 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月01日(木)23時42分41秒
気が付いたときはもうとっくに夜は明けていて、
窓から差し込む太陽の陽射しの高さに慌てて飛び起きた。

でも、
家に連絡せず外泊したということも、
今日も仕事だということも、
次の瞬間には気持ちが沈んで、どうでもいいように感じられた。

今から用意すれば少しの遅刻で済む。
でも、行こうとは思わなかった。
行けない、と思った。

だって、行けば保田さんがいる。

昨夜、あんなにもひどい仕打ちで傷つけたのに、
きっと、何もなかったみたいに我慢して、
カメラの前で作り笑いを浮かべる保田さんが。

それを考えたら、カラダは自然と強張った。
250 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月01日(木)23時45分07秒
もう会えない。
会っちゃいけないと、頭の奥で痛いくらい、警告のシグナルが鳴っている。

傷つけたくない。
もう、泣き顔なんて見たくない。

なのに、保田さんに会いたくて会いたくて、たまらなかった。

声が聞きたい。
でも、会えない。

顔が見たい。
でも、もう会えない。

触りたい。
でも、もう、会っちゃいけない。
251 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月01日(木)23時49分07秒
会いたくて、でももう会っちゃいけないという現実を考えて、
あたしの頭に浮かんだ結論は『娘。』を辞める、ということだった。

あたしが辞めれば、もう、保田さんはあたしに苦しめられたりしない。
あたしに傷つけられたりもしない。

あたしは、もう保田さんに触れられなくなるけれど、
でも、テレビで、ラジオで、雑誌で、
保田さんの顔を見ることは出来る。
保田さんの声を聞くことは出来る。

そして何より、保田さんの、作り笑いの笑顔を、見なくて済む。

それが、今のあたしに出来る、保田さんに対する最善の償いだと、思った。
252 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月01日(木)23時53分10秒
その結論に達したとき、時刻は午後をとうに過ぎていた。

あたしはフロントに電話して、
昨夜クリーニングを頼んだ服を持ってきてもらうように告げた。

この決意は、早く知らせなくちゃいけない。
今日の仕事を休んでしまったことも、親に連絡もいれなくちゃ。

でも、ケータイは家に置いてきた。

保田さんの家に行くときは、誰にも捕まりたくないから、
いつもケータイは置いていく。

たとえば仕事関係の電話なら、保田さんにも連絡がくるはずだから、
ケータイはむしろ不必要なものだった。

今までもそれほど困ったことはなかったから、
昨日もそうしたんだということを思い出したとき、ドアチャイムが鳴った。
253 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月01日(木)23時58分26秒
クリーニングの済んだ服を持ってきた従業員だと思い、
確かめもせずにドアを開けると、
そこには困ったように眉をしかめているまだ若い女性従業員と、
顔だけは知っている、事務所の社員のオジサンが二人、立っていた。


何の連絡もせずにいたことが、
かなり周囲に迷惑をかけていたと知らされて、あたしは正直困惑していた。

それでも、辞める決意を伝えると、
オジサン達は血相を変えてあたしを引きとめた。

とりあえず、結論はまだ急ぐなと言われ、
あたしが頷いたのを見てから、オジサンの一人がケータイを取り出す。

慌しく何人かに連絡を取り始めて数十分後、
現れたのは、今、この部屋にいるオバサンだった。
254 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月02日(金)00時01分38秒
オバサンが、あたしの監視のために呼ばれたのはすぐに判った。

逃げるって思われたようで、
何だかそれが逆に腹立たしくも思えたけど。
あたしは素直に従うことにした。

誰でもいい。
早くあたしを、ううん、保田さんを、解放して。

あたしは、そう思っていた。
255 名前:名無し殺生 投稿日:2001年11月02日(金)00時28分16秒
え?マジッスか?ここで終りって・・・
はい、一緒に殺生な〜。っておい!
ああ、きっと先に二人は会うんだろうけど、この距離感がもどかしい。
今頃、やっすーはホテルに向かって・・・
よっすぃ〜はやっすーとの決別に向かって・・・ノー!
続き、待ってます。
256 名前:瑞希 投稿日:2001年11月02日(金)23時41分01秒
>255:名無し殺生さん
>・・・ノー!
すいません、また笑ってしまいました(w


では、続きです。
257 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月02日(金)23時44分36秒
ホテルの窓の外は、昨夜の雨が嘘みたいに夜空が綺麗に澄み渡ってる。
星は、ネオンが明るすぎて見えないけど。

窓の下は、米粒くらいの人の影が幾つも行き交っていて、
時々、その波の中から弾き出されるみたいにこのホテルに入ってくる。

その流れはとても単調で、
あたしが今、息をしている、という時間さえ、
何だか曖昧に感じた。
258 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月02日(金)23時46分47秒
そして、こんなときでも、
結局あたしの頭には保田さんのことしか思い浮かばない。

今、何してるんだろう。
そろそろ、あたしが見つかったことは連絡ついてるだろうな。

怒ってるかな。
呆れてるかな。
それとも、あたしが見つかって、ガッカリしてるかも。

それが一番考えられそうで、あたしはまた溜め息をついた。
259 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月02日(金)23時48分48秒
そのとき、何の前触れもなくドアチャイムが鳴って、
あたしも、あたしを見張ってたオバサンもびっくりしたように立ち上がった。

つんくさんかな。
マネージャーかな。
あ、お母さんかも。

そんなあたしの考えを、聞こえてきた声が打ち崩す。

「保田です。開けてください」
260 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月02日(金)23時53分03秒
驚くあたしとは対照的に、オバサンはさっさとドアを開けてしまっていた。

…もう会えないと思っていたひとが、
額に少し汗を滲ませながら、そこに、立っていた。

「…すいません、お手数おかけしました」
言いながら、保田さんはぺこりとオバサンに頭を下げた。

「……どうするの?」
「あたしが連れて帰ります。つんくさんにも了解してもらったんで」

保田さんの柔らかな事務的口調は、
逆にあたしの意志がつんくさんにも、保田さんにも伝わったのだと教えた。
261 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月02日(金)23時56分57秒
「大丈夫ですから、もうお引取りくださって結構です」
「…いいの?」
オバサンはあからさまにホッとしたように口元をやわらげた。

監視なんて、やっぱ誰だって気持ちのいいものじゃないもんね。

「…吉澤」
「はっ、はいっ?」
唐突に呼ばれて、あたしは間の抜けた声を上げてしまった。

「アンタも謝りなさい」
保田さんは、あたしを見ないでそう言うと、そのオバサンにまた頭を下げた。

「ご心配、おかけしました」
262 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月03日(土)00時00分27秒
深々と頭を下げる保田さんを見てから、オバサンの視線があたしに移ってくる。

何のための謝罪かイマイチよく判らなかったけど、あたしも一応頭を下げた。
「……すいませんでした」

「……いいわ、無事だったことが何よりね。気を付けて戻ってらっしゃい」
言うなり、オバサンは部屋を出て行く。

ドアの閉じる音がして、それを見送る保田さんの肩がほんの少し上下する。
溜め息を吐き出した声がした。
でも、振り返らない。

あたしは身動きできず、ただ、保田さんの背中を見つめていた。
263 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月03日(土)00時04分08秒
「……つんくさんから、聞いたんだけど」

しばらく続いた沈黙で張り詰めていた部屋の空気が、
保田さんの声で少しだけ柔らかくなる。

「……辞めるって、本気なの」
あたしに背を向けたまま、保田さんは言った。

「はい」
あたしの即答に保田さんが振り向く。

呆れるか、ホッとするか、そのどっちかだと思っていたのに、
振り向いた保田さんはとても怒っていた。

あたしに歩み寄るなり、思いっきり平手打ちして吹っ飛ばすくらいに。
264 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月03日(土)00時07分49秒
「…や、保田さん…っ?」

ベッドに倒れ込んでしまったあたしは、
事態がすぐには飲み込めず、
殴られた頬を押さえながら保田さんを見上げた。

「……アンタ、ふざけんのもいい加減にしなさいよ」
低く唸るような声に言葉を失くす。

「連絡もなしに仕事ドタキャンしといて、辞めるで済まされると思ってんのっ?
明日は一日、みんなで頭下げて回らなきゃなんないんだからね!」

保田さんの勢いは激しくて、言い返す余地さえ与えてくれなかった。
265 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月03日(土)00時11分19秒
「ほら、帰るよ! 家でもきっと心配して……」
ためらわずにのばされた手があたしの腕を掴む。

それまで半ば茫然としていたあたしも、
肌に感じた体温にハッとして掴まれた腕を振り払った。

「辞めます」
きっぱり言い放ったあたしに保田さんは目を見開く。

だってもう、決めたから。

あたしがいるだけで、保田さんはちっとも安らげない。
心の底か笑えない。

そんなの、辛いだけだもん。
266 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月03日(土)00時14分54秒
「アンタね…!」
「だって!」
保田さんの言葉尻を奪うように遮って、あたしは深く息を吸い込んだ。

「だって…、このままいたら、絶対いつか保田さんのこと、壊しちゃうよ。
…もう傷つけたくないのに、そうしないって言い切れる自信がない……」

声が聞きたい。
顔が見たい。
そばにいたい。
触りたい。
抱きしめたい。

保田さんのことを考えたその次の瞬間には、
もうそんなことしか考えてない自分がイヤだった。
267 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月03日(土)00時18分09秒
「…このままそばにいたら、絶対またひどいことする。
あたし、もうそんなのイヤなんです」

再び、沈黙が訪れた。
空調の音だけが、やけにうるさく聞こえてくる。

「……随分、勝手な言い分ね」

保田さんの小さくて静かな声も、沈黙を破るには充分だった。

「今まで散々あたしのこと好きにしといて、もうイヤだから辞めます?
ふざけんのもいい加減にしなって、何度言わせる気?」

静かな声でも怒りは激しく含まれていて、あたしはまた返す言葉に詰まった。
268 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月03日(土)00時21分44秒
「……あたしを傷つけたくない?
もし今までのことを償うつもりでそう言ってるんなら、
辞めるなんて軽々しく言わないで!」

それは願いではなく、命令のようだった。

「アンタが辞めたって、そんなの償いになんかならないわ。
本気で償いたいなら、そう思ってるんなら、
あたしのそばで、あたしに見えるように、判るように償いなさいよ。
勝手に逃げて、自分だけラクしようと思わないで!」

大きな瞳が潤んでるように見えるのは、都合のいい勘違いだろうか。

でも、あたしは保田さんから目を逸らして俯いた。
269 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月03日(土)00時25分34秒
「……そばにいたら、自分でも何するか、判んないんですよ?
それでも辞めるなって?」
「…そうよ。あたしもう、誰にもいなくなって欲しくない。
それはアンタも同じなのよ」

声が柔らかくなって届く。

俯くあたしの前で影が動いたと思ったとき、
ベッドに座っていたあたしの隣に保田さんも座った。

当たり前だけど、あたしのカラダは、
すぐ近くに保田さんを感じてひどく強張った。
知らずにカラダが震え出す。
270 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月03日(土)00時30分06秒
「……辞めないわよね?」
次第に不安気になる声色に胸が鳴る。

あんなにひどいことばかりしてきたあたしに、
どうしてそんな声で話し掛けられるんだろう。

「……保田さんが、そう言うなら」

ホントは、いつも近くで、ずっと保田さんを見ていたい。

でもそれは、保田さんにとっては安らぎを奪われるのと同じことだから。
だから、辞めようと、思ったのに。

俯きながら答えたあたしに、保田さんのホッとしたような溜め息が聞こえた。

顔は上げられず、音はあっても声のない時間だけが容赦なく過ぎていく。
271 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月03日(土)00時33分46秒
「……ゴメン。加減忘れた」

突然、そう言った保田さんの手があたしの頬を撫でた。

カラダが瞬時に強張り、逃げるように態勢を変えたあたしの目に、
あたしの頬に触れた、宙に浮かぶ保田さんの手と、
ひどく困惑したような瞳が映る。

「……なん、で」

どうして、謝ったりなんかするんだろう。
だってそれは、あたしが言わなきゃいけない言葉なのに。

「…あたしのほうが、ずっと、ひどいことしてきたのに」

保田さんの瞳に陰りが見えた。
目を伏せて、あたしから顔を背ける。
272 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月03日(土)00時37分53秒
「……でも、殴ったりはしなかったわ」

意外な言葉が返ってきて、それに返す言葉をまた見失う。

耳に痛い沈黙の中、
あたしから顔を背けたまま目を閉じている保田さんの横顔を見つめる。

触れてもいないのに、近くにいるというだけで、
あたしの鼓動が思い出したように速くなっていくのが判る。

「……保田さん」

気が付いたら、名前を呼んでいた。
彼女が振り向く前に、手をのばしていた。

「よし……っ?」

触れたことで僅かに揺らいだ肩。
それが判ったのに、あたしは力を抜くことも、手を離すことも出来なかった。
273 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月03日(土)00時43分46秒
抱き付くようにカラダを寄せてベッドに倒れ込んだとき、
保田さんのカラダは、あたしの腕の中で一際強張った。

「は、離…っ」
「何もしません。ひどいことはしないから…、だから…、
ちょっとでいいんです。このままで、いてください」

胸の中に広がっていた緊張が、次第に薄れていくのが判る。

「保田さん……」

少し汗の匂いがする彼女の首筋に鼻先を埋め、思わずその名を呼んでしまう。

いつまでも、いつまでも、この腕の中に閉じ込めておきたいひとの、名前。

このまま時間が止まればいいと、生まれて初めて本気で思った。
274 名前:83 投稿日:2001年11月03日(土)01時00分01秒
戻ってきました。
( `.∀´)いいやつだなぁ…
幸せになってくれるといいなぁ…

もうすぐ終わるんですね…頑張ってください。
275 名前:名無し殺生 投稿日:2001年11月03日(土)02時17分24秒
1、2、3・・・ダッー!切ね〜!!!
ううっ、この先どうなるんだろう。
・・・・・(勝手に想像)・・・・・そんなの嫌だー!
二人が海辺を手を繋ぎながら、あははっ、待てよ〜こいつ〜って。
もうわけわからん。続き期待!!!!!
276 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月03日(土)11時26分18秒
はぁ・・・すごく良いです。
ほんとに切なくなってきますねぇ。
読んでるこっちが。

それにしても、作者さんの手の上で転がされてるような気分っす。
(ここ最近の更新状況とか・・・。)
277 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月03日(土)11時32分27秒
やすよしハケーン!!一気に読ませて貰いました!
作者さんの文章力・表現力に脱帽です。雰囲気とか文の用法とか心情の様子とか・・とにかく凄い!
こんなに素晴らしい小説がもうすぐ終りとは・・残念ですが(涙
今日から毎日読ませて頂きます!宜しくっす!(笑)
278 名前:瑞希 投稿日:2001年11月03日(土)23時56分23秒
>274(83)さん
お帰りなさ〜い(^^)
萌えポイントが同じでうれすぃ〜(^^)

>275:名無し殺生さん
も〜、毎回毎回、あなたのレスが楽しみで楽しみで…(w

>276さん
>ここ最近の更新状況
え…? な、何か、お気に障るようなことでも…?(汗

>277さん
ありがとうございます。
なんか、そこまでホメられちゃうと、気恥ずかしいです(照


では、続きです。
279 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時00分45秒
保田さんの手があたしの背中に回されたのは、
あたしが彼女の名前を呼んで、少したってからだった。

「……アンタは、あたしにどうして欲しいの?」
静かに尋ねながら、ゆっくりとあたしの背中を撫でる。

「あたしの何が欲しいの? あたしに何を望んでるの?」

あたしは最初、保田さんが何を言ってるのかよく判らなかった。

顔が見えなくて、声だけでは言葉の意味を推し測ることしか出来ない。

顔を見ようとカラダを離しかけたのに、
背中に回っていた保田さんの手に力が込められて、それは叶わなくなる。
280 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時04分26秒
「……あたし、もうアンタにあげられるものなんて何もないのに、
何でいつも、物欲しげにあたしを見るの? 何が足りないの?」

判ってて、言ってるんだろうか。
あたしが欲しいものなんて、そんなもの、たったひとつなのに。

「…保田さんが、欲しいんです」
「もう何もないわよ」

無気力な口調にも聞こえて、たまらなくなってあたしはカラダを起こした。
あたしの背中にあった保田さんの手が、ぱたりとベッドに落ちる。
281 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時07分50秒
両腕をベッドで突っ張らせ、
腕の中に閉じ込めるようにしながらあたしは保田さんを見下ろした。

「何もかもですよ。保田さんの全部が欲しいんです。
腕も、足も、髪も、カラダも、声も、全部、全部欲しいんです……!」

驚いたように目を見開いた保田さんと目が合って、
あたしは再び彼女を抱きしめた。

「……今まで、アンタのものじゃなかったって言うの?」

驚きというより呆れたと言いたそうな声だった。
282 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時11分10秒
「…カラダだけ繋いだって、そんなのそのときだけで、
保田さん自身があたしのものになったことなんて、一度もないじゃないですか」

力で組み敷いても、得られたものはそのときだけの征服感。
そのあとすぐに押し寄せるのは焦燥感。
少しずつ、少しずつ、遠ざかっていくような、…喪失感。

カラダが熱を感じても、
それはあとで必ず、倍以上の冷たさをあたしに教えてきた。
後悔と、一緒に。
283 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時13分38秒
「…保田さんは、いつだって、あたしなんかのものじゃなかった」

知っていても、判っていても、それでも触れていたかった。

苦しめていると知りながら、それでも手放せなかったのは、
あたしが、あたしのほうが、保田さんを求めていたからだ。

そばにいたいとか、抱きしめたいとか、
そんな甘い、素直な気持ちもなくはなかったけど、
それよりも強く抱いていたのは、保田さんの全部が欲しいという感情だった。
284 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時16分18秒
自分でも持て余して、嫉妬ばかりが渦巻いて、
優しくしたかったのにひどいことしか出来なくて、
傷つけてばかりでも、それでも…。

「…カラダだけが欲しかったんじゃない。
カラダも欲しかったんです、保田さんの、心付きで」

それは、あたしにとって二度目の告白。
決して受け入れてもらえることのない、哀しいだけの、告白。
285 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時20分16秒
「……順番、間違ってるわよ」

少しの沈黙が続いて、呆れたような、そんな声で保田さんは言った。

言葉の意味が把握できず、あたしは思わず腕の力を抜いた。
そのあたしを押し退けるようにして、保田さんがゆっくりカラダを起こす。
ベッドの端に座り、深くて長い息を吐き出す。

「……あたしが、好きなの?」
あたしの顔は見ないで、僅かに目線は床に落としたまま、聞いてくる。

「……はい」
今更隠すことなんてないんだから、あたしは素直に頷いた。
286 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時23分09秒
「…じゃあ、ちゃんとそう言いなさいよ。でなきゃ返事のしようがないじゃない」
「え?」

返事って、今更?
答えが判り切ってるのに、
それでももう一度言えって、そう言ってるんですか?

床に落ちていた保田さんの視線があたしに向けられる。

真っ直ぐで、淀みのないその瞳に見つめられて、あたしのカラダが熱くなる。
287 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時26分54秒
「……好き、です」
「…どんな風に?」
どんな風にって、そんなの、言っちゃってもいいの?

「……触りたい。…いつも、いつでも、保田さんに、触ってたい」

小指の先だけでもいい。
髪の一房だけでも構わない。
保田さんに、触れていたい。

自分でも、まさかそんな風に想うひとが出来るなんて考えもしなかったけど、
でも、そんな風に、あたしは、
いつのまにか、保田さんを……。
288 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時29分46秒
緊張か、それともまた違う別の感情からか、
あたしのカラダが小刻みに震えだした。

答えなんて判ってる。
判り切ってるけど、でも、改めて聞くのは怖い。

だってそれを聞いたら、今度こそホントに、
保田さんのそばになんていられなくなるから。

溜め息が吐き出された。

あたしは保田さんから目を逸らし、
俯きながら膝の上で組み合わせた手をぎゅっと強く握った。
289 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時33分48秒
「……あたしは、アンタのこと、そんな風には好きじゃない」

……ほらね。
ダメ押ししなくてもいいじゃないですか。
保田さんがそんな風に好きなのは中澤さんでしょ。
知ってますって、そんなの。

「誰かに触りたいとか、そんな風には思ったこともないし……」

自覚ないのかな?
いろんなひとにくっついてるように見えますけど。

でもあえて言葉にはしないで、あたしは保田さんの続きの言葉に耳を傾けた。

ちくちく、ちくちく、胸の奥では相変わらず痛みを訴えてたけど。
290 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時36分53秒
「でも」
力強く言ったわりには、保田さんはそこで言葉を切ってしまった。

俯いていたあたしは、そっと顔を上げて、そこで彼女と目が合った。

真剣な瞳だった。
それは、今までよく向けられていたような軽蔑の色ではなくて、
あたしの心臓も、見慣れないその色に跳ね上がる。

「でも……?」

その瞳の色の意味を考えて、どんどん胸が高鳴っていく。

期待しちゃいけないのに、それ以外は出来ないみたいに。
291 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時41分36秒
「……でも、アンタのこと、もっと知りたいと、思う」

きっばりと言い切る、迷いのない声。

でも、しっかりした声とは逆に、
保田さんの頬がだんだん赤く染まってくように見えたのは、
やっばり都合のいい見間違い?

「ホントのアンタが知りたいって、思うよ」
「……ホントのあたし?」
聞き返したあたしに、保田さんはバツが悪そうに目を逸らした。

「……今まで、あたしにひどいことしてきたアンタがすべてじゃなって、
今は、思えるから」

……保田さん、梨華ちゃんのお人好しが伝染っちゃったんですか?
そんな風に言われたら、あたし、舞い上がっちゃいそうなんですけど。
292 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)00時47分03秒
「……アンタはどうしたい? あたしにどうして欲しい?」

投げやりな、ぶっきらぼうな口調でも、そこに突き放すような冷たさはない。

あたしが望むことは、ひとつ。
たった、ひとつです。

「……やり直したいです」

今までしてきたことを全部なかったことになんて出来ないけど、
でも、もし、やり直せるなら。

最初から。

保田さんを意識し始めた、『あの日』から。
293 名前:名無し殺生 投稿日:2001年11月04日(日)01時11分53秒
んんんんんっ!?もしかして〜もしかして〜・・・逆転勝訴ですかー!?
やったーやったー!ありがとうございます!
これもひとえに支援して下さった皆様もおかげです。
864日戦ったかいがありました。
あう〜、やっすー少しだけど確実に心の扉を開いてくれたんだね。
そしてよっすぃ〜、よく素直に言った。父さんは嬉しいよ。あと2回。うしっ!
294 名前:瑞希 投稿日:2001年11月04日(日)23時17分11秒
>293:名無し殺生さん
さて、結末はいかに…!? <最後までヒトゴトみたいに…


本日の更新に向かう前に、お詫びがあります。
前回の更新でラストあと2回、と書きましたが、
どこで切っても区切りが悪いので、本日、一気に完結させることにしました。
自分の発言をお詫びとともに、訂正させていただきます。

2回分を一気に仕上げるため、少々更新に時間がかかると思われますが、
もしリアルタイムで読まれても、
途中のレスはENDマークをつけるまで控えていただけるとありがたいです。


では、続き(最終回)です。
295 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時20分54秒
沈黙が、あたしの気持ちをより確かなものへと変える。

保田さんの溜め息が、また聞こえた。

「……アンタは順番を間違えた。方法だって間違えたんだよ。
それは判ってる?」

「判ってます。だから…、だから辞めようと思ったんです。
あたしが近くにいたら、保田さん、いつか壊れるような気がして……。
もう、傷つけたり、したくなくて」
296 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時22分38秒
壊したかったワケじゃない。
傷つけたかったワケじゃない。

ただ、そばにいたかった。
確かなものだと、実感できる方法で。

でも、それは間違ってた。

だから、あたしは保田さんから離れようと思ったんだ。

逃げる、みたいに。
297 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時26分27秒
「……間違えたことに気付いたんなら、
そこからまたやり直せるんじゃないの?」

やり直せる、という言葉に、俯き加減にしていた頭を上げると、
保田さんはまだ少し困ったように眉をしかめながらあたしを見ていた。

「……あたしの、アンタのことをもっと知りたいって気持ちは、
アンタがあたしを好きだっていう気持ちとは全然違うものだと思う」

勿論、それは当然だと思った。
異論だってない。

あたしの気持ちはどこか歪んでいるけれど、
保田さんの気持ちは真っ直ぐで、清いものだ。
それを否定しようとは思わない。
298 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時29分10秒
「……それに、たとえやり直せても、
あたしがアンタの気持ちに応えてやれる日なんか、一生ないかも知れない。
それでもいいの?」

保田さんの目が、
言葉と同じくらいの真っ直ぐさであたしを射抜くように見つめている。

「……それでも、保田さんの、そばにいたいです」

たとえあなたが、あたしなんかのものにならなくても。

頷き返したとき、彼女の目元が少しやわらいで見えた。
299 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時33分26秒
「…なら、いていいよ」
「えっ?」
「いいよ、いても」
「え、でも、あの…、触ったり……、するかも知れないですよ?」

それにはやっぱり、保田さんも困ったように口を噤んで目線を逸らした。

「……今までみたいに?」
怯えたように揺れる肩がまた胸を鳴らす。
「ちっ、違いますっ。あんな風にじゃなくて……」

そういう気持ちがないと言えば嘘になるけれど、
困らせたいワケでも、傷つけたいワケでもなく、
ただ、あなたに、
ほんの少しで構わないから、触れたいだけで……。
300 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時36分36秒
「……いいよ」
目線は落としたまま、小さく答えの声が返ってくる。

「そばにいてもいい。あたしが傷つかないように、
傷つけられたりしないように、アンタがあたしのそばで見張ってなよ」

今まで、保田さんを傷つけてきたのはあたしなのに、
そのあたしに、そんな優しいこと言うんですか?

言葉と一緒に戻ってきた視線はとてもあたたかなもので、
それだけで、あたしの胸の奥がじんと熱くなった。
301 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時39分43秒
「……っ、保田さん…っ」

抑えようと思ったのに、そう決意したばかりなのに、
あたしのカラダは意志とはまるで正反対の方向に向かう。

「よ、吉澤?」
腕をのばし、強く抱き寄せる。

「好きですっ、保田さんが好きですっ!」

それまで声にするのさえ難しかったのに、一度言葉にした本当の想いは、
そのあとは意外と簡単に口に出せることに気が付いた。
302 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時41分24秒
「好きです」
「……うん、判った」
「好きです」
「判ったって」

頭を撫でられているのが判った。

ああ、やっぱり昨日のは、夢なんかじゃなかった。

この手を、あたしはちゃんと覚えてるもん。

優しくて、あたたかい、このひとの手を。
303 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時44分45秒
どれくらいそうしていたか判らないけれど、
ゆったりと、穏やかに流れる時間が、あたしの気持ちも同じように鎮めていく。

「……ごめん、なさい」
名残惜しくて、なかなか離れられなかった保田さんからカラダを離し、
あたしは呟くように言った。

「昨夜から謝ってばっかりね」
「でも、今までのこと考えたら、全然足りないです」
「……そうね」

頷きながら、保田さんがベッドを下りて立ち上がる。
304 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時47分31秒
それを見ていたあたしにゆっくり振り返り、
ためらいながらではあったけど、静かに右手を差し出した。

「……帰ろ。きっとみんな、待ってる」

でも、あたしはその手を取ることに一瞬戸惑ってしまった。

何となく、ホントにただ何となく、
この手を取ってしまえば、何もかも、なかったことになりそうな気がした。

あたしが保田さんにしてきたことも、
保田さんがあたしに向き合ってくれたことも、
何もかも、すべてが。
305 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時50分13秒
「……最初から、やり直そう」
「えっ?」

戸惑うあたしの気持ちに気付いたように、保田さんは言った。

「……なかったことにするんじゃなくて、やり直すんだよ。
同じ間違いをしないように」
「保田さん…」

「…最初から、ね」
「……はい」

差し出されていた手を握り返したとき、
保田さんの表情が、また少し、やわらいだように見えた。
306 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時53分32秒
「……帰ろっか」
「はい」

答えてあたしもベッドから立ち上がる。

繋いだ手から伝わる熱が、
不思議とあたしの気持ちを落ち着かせていく。

ドアノブに手を掛けたのは保田さんだった。
けれど、そのまま動きを止めてしまう。

「……どうしました?」
尋ねたあたしに、保田さんは背を向けたまま、確認するように声を出した。
307 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時56分42秒
「……このドアを開けたら、最初の一歩だよ」

それはきっと、あたしにとっても、保田さんにとっても、
『最初の一歩』になる。

「…はい」

力強く、声にも出して頷いたあたしに判るように、保田さんも頷いた。

そして、ゆっくり、ドアを開けた。
308 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時58分28秒
傷つけてしまった過去はもう取り戻せないけれど、
これからは、それを償える未来が待っている。

あなたのそばに。
あなたの近くに。

昨日とは、今までとは、違うあたしが、いるはず。

そして今、踏み出したこれが、その、一歩目になる。
309 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月04日(日)23時59分26秒

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
310 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月05日(月)00時02分59秒
「吉澤ァ、帰るよー」

保田さんに呼ばれてあたしは振り向いた。
「すいません、ちょっと忘れ物したんで取って来ます。待っててください」

眉間にしわを寄せて、早くしなさいよ、って保田さんが手を振るのを見て、
あたしは忘れ物を取りにレッスン室に向かった。


あの一件以来、保田さんの表情は随分と柔らかくなっていて、
以前よく見ていた怯えたような顔付きもほとんどなくなり、
見ているだけであたしもホッとする。

さすがに、まだ、心からの笑顔は見れてないけど。
311 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月05日(月)00時06分32秒
あの翌日は、保田さん以外のメンバーから散々お小言をもらい、
予想通り、全員でドタキャンした仕事先のお偉いさん達に頭を下げて回った。

文句は言いながらも、
それでも一緒に頭を下げてくれたメンバーに、あたしは深く感謝した。

特に梨華ちゃんは、朝、あたしの顔を見るなり号泣したくらいで、
改めて、意地悪したことを謝った。

それと、ドタキャンの理由をあんまり深く追及されなかったのは、
保田さんが事前にみんなに連絡して、
うまく言い訳してくれていたからだってことも、あとになって知った。
312 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月05日(月)00時08分14秒
今ではもう、
前みたいに保田さんを抱いたりするようなことはなくなったけど、
それでも、今のほうがずっと、
カラダも心も、満たされている感じがするのは、
保田さんを近くに感じられているからかも知れない。

そばにいてもいいと、言ってくれたから。
313 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月05日(月)00時11分01秒
レッスン室のドアを開けて明かりを灯し、
部屋の片隅に置き忘れていたタオルとダンスシューズを見つける。

それを持って急いで戻ろうとして、ふと、鏡に自分の姿を見た。

思えばここが、この部屋が始まりだった。

方法を間違えたあたしは、
ただ自分の本能の赴くままに強引に保田さんを抱いた。

傷つけるつもりなんてなかったのに、
結局は傷つけてばかりで、泣かせてばかりいた。
314 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月05日(月)00時13分33秒
あたしの言葉や行動は、
お互いの距離を遠くさせるばかりで、
どんなに近くにいても、いつもいつも、遠いひとだった。

触りたくて、抱きしめたくて、何もかもを独り占めしたかった。

でも、あたしのものになったことは一度だってなかった。

好きだと言う一言さえ、あたしにはとても重くて、言えない言葉で、
なのに気持ちはどんどん膨らんで、抑えられなくて……。
315 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月05日(月)00時16分24秒
あたしはくるりと部屋を見渡した。

背後にある鏡。

あの前で、初めて力づくで保田さんを組み敷いたときの情熱は、
今も勿論変わることはないんだけど。

あのときより気持ちが穏やかなのは保田さんのおかげだと思うと、
やっぱり、あたしにとっての彼女は大きな存在なんだと、思い知らされたりもする。

大切にしたいと、今は心からそう思える。
316 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月05日(月)00時19分18秒
「吉澤?」
「…あれ、どうしたんですか?」
レッスン室のドアが開く音がして、振り向いたら保田さんがいた。

「どうしたんですか、じゃないわよ、もう…。
遅いから迎えに来てあげたのよ。忘れ物取りにくるだけで何分かかってんの?」
呆れ口調で責めてても、声や目は優しい。

「…いろいろ、思い出しちゃって」
「何を?」

眉をひそめた彼女にあたしは笑って見せた。
317 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月05日(月)00時22分16秒
「…だってここ、この部屋が最初だったでしょ?」

保田さんはすぐに判ったようで、
ほんの少し眉を歪めてからあたしの頭を叩いた。

「い、痛いです…」
「バカなこと考えてないで、帰るよ!」
「わわっ、待ってくださいよぅ」

さっさと踵を返してレッスン室から出て行こうとする保田さんを慌てて追いかける。

と、ドアの前で保田さんが急に立ち止まった。
318 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月05日(月)00時24分48秒
「? どうしました?」

ドアノブに手を掛けることもせず、じっとしている背中に尋ねたとき、
勢いよく振り返ってあたしを見上げてきた。

「やす……」
言葉は、出なかった。

殴られるかと思うような勢いで胸倉を掴まれ、
それを理解するよりも早く引き寄せられて顔を近づけられたから。

最初は、噛み付かれたのかと思った。
でも、それは……。
319 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月05日(月)00時27分52秒
「……あのときの仕返し」

離れた保田さんが吐き捨てるみたいに言って、
突き飛ばすように手も離す。

あたしはバカみたいに茫然と立ち尽くしてた。

ドアを開けて、保田さんは何事もなかったように部屋を出て行く。

あたしはまだ、事態の把握が出来なくて動けなかった。

でも、だんだんと脳も正常に働き始めて、
何が起きたのかをようやく理解する。

今のは。
噛み付かれたようにも思えた、今のは……。
320 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月05日(月)00時30分22秒
「やっ、保田さんっ、…も、もっかい、お願いします!」

頬が熱くなっていくのを感じながら慌てて追いかけてそう叫ぶと、
保田さんはゆっくり振り向いて言った。

「やーだよ」

春風のような、穏やかな、笑顔で。
321 名前:それを愛とは… 投稿日:2001年11月05日(月)00時31分31秒
― それを愛とは… ―


――― END ―――
322 名前:瑞希 投稿日:2001年11月05日(月)00時41分34秒
…はい、以上で「それを愛とは…」終了です。

長らくのお付き合い、ホントにありがとうございました。

書き始めたときは、ホントに、最初にENDマークをつけたところで
終わるハズだったんですが(スレ立てたとき、短編ばかり書くつもりでした)、
途中でよっすぃーに感情移入してしまい(ニガワラ
ここまで長くなってしまいました。

とはいえ、書き手本人としても、とても満足度の高い作品になったので、
ENDマークが付けられて、今はホッとしてます <自画自賛(w


でも、実はこの話の番外編や、その後、なんていうのも考えてまして、
短編になると思いますが、また近々UPしたいと思ってます。

そのときはまたよろしくです。

それでは、そのときまで、しばし、さようならです。

感想などありましたら、また、よろしくお願いいたします。
323 名前:83 投稿日:2001年11月05日(月)00時47分31秒
ありがとう!&お疲れ様でした!
結果的に(0^〜^0)も( `.∀´)も救われましたようで、
自分的には嬉しいです。
ほぼリアルタイムで読ませていただきました。

それでも「そばにいてもいい」と言える( `.∀´)は大人ですな。
(0^〜^0)をしっかり受け止めてくれてありがとう!

その後やら番外編やらも期待してます。
お疲れ様でした。
324 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月05日(月)01時07分05秒
お疲れ様でした♪
昔のはどうか分かりませんが、最近のやすよし小説は非常にクオリティが高いですね〜♪

痛いままで終わるのもありですが、
私としては救いのある話が好きなので後味も凄く良かったです。

その後&番外編も楽しみに待ってます♪
325 名前:名無し殺生 投稿日:2001年11月05日(月)01時11分59秒
素晴らしい!ブラボー!!!
途中かなりドロめいて、どうなるのかとハラハラしたのに
この爽やかな終わりは何よ、何なのよ?って感じで。
もう気持ちが上手く言い表せない自分がもどかしい!
純粋だけど、屈折した愛し方をしたよっすぃ〜をよくぞ更正してくれた。
やっすーに拍手。いや、もう二人にっていうか作者さんに拍手!
番外編、めちゃめちゃ期待してます!
326 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月05日(月)03時53分12秒
誠に御疲れ様でした。
読んでいて凄く作品に引き込まれ、感情移入
してる自分がいました。
今は来るべき続編のためにも
もう一度読み返すことしか頭にないくらい…
327 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月07日(水)00時05分46秒
もう、夢中で読みました
心揺さ振られた
素晴らしい作品をありがとう。
328 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月07日(水)03時17分53秒
お疲れ様でした。素晴らしかったです。
途中からリアルタイムで読ませていただきました。
(0^〜^0)の心情が切なかったです・・・
普段甘いのを中心に読んでいるのでハラハラしましたが、
始まりの部屋でのラストは嬉しかったです。
番外編楽しみにしてます!!がんばってくださいね!
329 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月07日(水)20時28分51秒
すごく引き込まれました。こういう雰囲気、すごく好きです。
でも…裕ちゃんが、かわいそうだ…。
優しいから、圭ちゃんのこと大事にしすぎたのかなぁ。。
まぁ、ズルイ大人、って部分もあったのかもしれないし
圭ちゃんのことを守るべきもの、優しくする対象として見てて
イーブンな恋人としての扱いを怠ってたかもしれないけど
……ある意味、自業自得かもしれないけど
やっぱり裕ちゃん、カワイソウ。なんとか、裕ちゃんにも愛を!(藁
330 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年11月07日(水)22時27分06秒
まずはお疲れ様でした。
やすよしが読めただけでも嬉しいのに、こんなにもいい作品だったので
本当によかったです。
全体的にせつない感じで、なかなか噛み合わない2人に焦らされたりして
いつの間にか話に引き込まれていきました。
まだ子どもであるが故に、愛する人を傷つけてしまった吉澤さんと、傷つき
ながらも、吉澤さんを理解していく大人の保田さん。
お互いの感情の書き方が、すごく上手いなぁと思いました。
この作品は偶然見つけたんですけど、見つけられて本当によかったと
思いました。
これからも頑張って下さい。
331 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月08日(木)23時45分36秒
小説を読んで涙したのは何年振りだろう・・ちょっぴり気恥ずかしいけど(w
本当に心を打たれてしまいました!やすよし・・はまっちゃいそうです♪
続き&サイドストーリーまであるとは!
またしばらくハラハラドキドキする毎日になりそうです。(w
頑張って下さい!
332 名前:瑞希 投稿日:2001年11月11日(日)23時47分59秒
>323(83)さん
ありがとうございます。
黒よしこを書きながら、自分でも「コイツやべぇよ」なんて思ってたんですが、
上質な極悪っぷり、とのレスをいただいてからはかなりノッて書いてました(w

>324さん
ありがとうございます。
>救いのある話…
よ、よかった、最初のENDマークで終わらせなくて…。

>325:名無し殺生さん
ありがとうございます。
>爽やかな終わり…
うーん、やっぱりちょっと爽やか過ぎましたか…?
途中から毎回のコテハンレス、嬉しかったです(^^)

>326さん
ありがとうございます。
感情移入してもらえたのでしたら、それが何よりのホメ言葉です。
なんつっても書き手本人が感情移入しまくり(w

>327さん
ありがとうございます。
なんか、そこまでホメられちゃうと、は、恥ずかしいっす…(照
333 名前:瑞希 投稿日:2001年11月11日(日)23時57分01秒
>328さん
ありがとうございます。
>始まりの部屋でのラスト…
このシーンは、続編を考えたとき、既に思いついてました。
ここに向かって書いてたって感じですね。

>329さん
ありがとうございます。
>裕ちゃんにも愛を!
うう、またイタイとこ突かれちゃったよぉ(汗

>330:弦崎あるいさん
ありがとうございます。
「やすよし」、私も見つけたときは歓喜して、小躍りします(w
お互い頑張りましょうね!!

>331さん
ありがとうございます。
「やすよし」、どーぞどーぞ、はまっちゃってください(^^)
334 名前:瑞希 投稿日:2001年11月12日(月)00時03分49秒
さて、1週間ぶりの雪板ですが。

今回は短編と中編の間ぐらいの長さの番外編です。<ややこしいよ…。
ちなみに「KU」(ん? 「UK」か?)です。
最初に謝る、イタイです(ニガワラ
…が、本編で書きたくても書けなかったシーンもあるので、
自己満足的なものかも知れませんが、おヒマでしたら、読んでってください。


では、どうぞ。
335 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時12分22秒
紗耶香脱退の夜。
あたしは、圭坊の本心を知った。

「ずっと、紗耶香のことが好きだったんだ」

打ち上げ場所からこっそり抜け出した圭坊が何でか気になって、
周りの人間に適当に言い訳を取り繕って追いかけたあたし。

そのあたしに、圭坊は表情を歪めながらそう言うた。
誰かに言ってしまいたかった、とも。

もう過去形か、などと思いながら、
涙を堪える彼女に胸を鳴らせたのを覚えてる。
336 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時16分29秒
「……何で、泣かへんの?」
「泣いたよ。メチャクチャ泣いたじゃん」
「違う、今や。何で今、泣くのガマンしてるん?」

圭坊の眉がぴくりと動いた。

「ガマンせんでええねんで? 今はあたししかおれへんよ。泣いてええで」
「…泣かないよ、もう泣かない。紗耶香のことで、泣いたりしない」
「…無理せんでええ」
「してない」

ぷいっと顔を背けた彼女の頬を軽く引っぱたくと、
驚いたように見開かれた目が戻ってきた。
337 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時20分10秒
「……裕ちゃん?」
「アホ、年下は年下らしく、年上に甘えなさい」

圭坊は少し困ったような目であたしを見た。

「…ってゆーか、圭坊が泣いてくれやんと、あたしも泣かれへんやん」

口実やった。
圭坊の涙が見たかった。

泣かせたいっていうんやなくて、
彼女の、誰かを想って涙を流す顔が、ただ、見たかった。

誘われるように零れた涙は、思った通り、綺麗な涙やった。

胸が熱くなって、高鳴った。
338 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時23分20秒
「…裕ちゃん」
「うん?」

手をのばして、頭を抱き寄せる。
おずおずとあたしの服を掴む、遠慮がちなその手が、ワケもなく愛しかった。

「裕ちゃん」
「…うん、おるよ」

言われそうな言葉が予測出来て、先回りしてそう答えたら、
圭坊のカラダがほんの少し揺れた。

「どっこも行かん。ここにおるよ」

圭坊のそばに、おるよ。
339 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時26分52秒
あたしは、ひたすら、誰かを愛したかった。

『誰か』なんて、そんな曖昧なもんやなくて、
ホントは特定出来る人間がおったんやけど、
それはもう、叶う見込みなんてゼロの相手やった。

でも、愛したくて、愛したくて、愛情ばっかりが膨れ上がってた。

圭坊は、あたしとは反対で、愛されたがってた。

愛するという立場に慣れ過ぎて、愛されることにためらいながら、
それでも、心の底では愛されたいと、強く、願ってた。
それも、無条件に。

気付いたら、あとは、早かった。
340 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時29分38秒
「裕ちゃんのこと、好きになってもいい?」

季節は、夏になろうとしてた。

呼ばれて、振り向いたら、泣きそうな顔で、圭坊がそう言うた。

「……ええよ」

圭坊は知ってる。
あたしが、ホントはどれくらい『誰』を愛したがってるか。

あたしは知ってる。
圭坊が、ホントはどれくらい『誰』に愛されたがってるか。
341 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時31分58秒
始まりは、お互いがお互いとも、身代わりやった。

少なくとも、始めた、そのときは。

でも、そんなものは、時間がすぐに変えていった。

気持ちも、願いも、欲望さえ。

いつのまにか、あたしにとっての圭坊は、『誰か』じゃなくなってた。

圭坊のことを愛したいと、思うようになってた。
342 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時34分49秒
あたしの話に笑う圭坊が可愛かった。
あたしの意地悪に拗ねる圭坊が可愛かった。
あたしの愚痴に一緒になって怒る圭坊が可愛かった。
あたしの何気ない言葉で泣いてしもた圭坊を、初めて、抱きたいと、思った。

でも、あたしは一度も、圭坊を抱かんかった。

大事やった。
大切やった。

だからこそ、汚してしまいそうで、何も、出来んかった。
343 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時39分26秒
「……あたし、裕ちゃんが好きだよ」

圭坊の誕生日、
仕事が終わって、あたしはそのまま圭坊の家に行くことにした。

風が冷たくて、鼻の頭を真っ赤にしながら、
二人でコートに手を突っ込みながら並んで歩いて。

なんでもないような、そんなささやかな幸せが心地好くて。

会話が途切れて、無音を嫌うように、不意に圭坊がそう言うた。

「……何や、急に。知っとるよ、そんなん」
「意味が違うよ」
「…意味?」
「ちゃんと好きだよ、裕ちゃんのこと。…誰かの代わりとか、そんなんじゃなくて、
今はあたし、中澤裕子が、好きだから」
344 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時43分20秒
そんな不意打ち、反則やで。

「……そぉか」

でもそこで『裕ちゃんは?』って切り返さへんのが、
圭坊の、圭坊らしい不器用なとこで。

そしてあたしは、ズルイまんまや。

「…ほな、プレゼントはちゅーにしといたろ」
「うっわ、安上がり!」
「何ーっ、この中澤裕子サマのキスが安いっちゅーんかい!」
「安すぎだね!」

べー、と舌を出して笑いながら先を走る。

繰り返されるじゃれあいは、なんでもない、ささやかな、幸せ。

でもあたしは、それがいつまでも続くもんやないって、
心のどっかで、そう思てた。
345 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時45分28秒
あたしは、嘘をついた。

圭坊に触るのが怖かった。
触られるのも、怖かった。

だってもう、限界やったんや。

可愛くて、失くしたくなくて、
夢の中では何度も何度も圭坊を抱きながら、
現実では、あの笑顔を汚してしまうことに怯えて。
346 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時48分00秒
「……別れるって、こと?」
「いいや、今まで通りやで?」
「じゃあ何で辞めるの」

本音なんて、言えるワケがない。
あんまり近くにいすぎたら、理性が飛ぶなんて、なあ?

「……あたしのこと、好きか?」
「裕ちゃん、あたしの質問にまだ答えてないよ」
「なあ、好きか?」

表情が曇る。
でも、静かに頷いた。
347 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時50分43秒
「……あたしもや。好きやで、圭坊」

腕をのばして、掴んで、引き寄せて、抱きしめた。

「ずうっと、こうしときたいんやで、ホンマは」
でも、アカンねん。
あたしは、あたしが怖いねん。

「……もう、決めたんだね」
諦めたような声。

「うん」
圭坊の手が、背中に回った。

あたしの左肩に額を乗せてきた圭坊の耳元に唇を寄せる。
348 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時56分08秒
「……でもな、あたしが辞めたあと、今まで出来んかったこと出来るで?」
「……そんなの、ある?」
拗ねるような声。

……あんまり、煽らんといてな。

「うん。今までは、当たり前みたいに仕事に来て顔見てたけど、
辞めたら仕事も別々や。会いたいと思ても簡単には会われへんやろ?」
「……いいことないじゃん」
「まあ聞きって。…そら、簡単には会われへんねんから全然いいことないけど、
でも、そしたら約束が必要になるやん。いつ会うとか、いつ電話していいとか。
そんな、普通のカップルがするようなこと、あたしら今までしたことなかったやん?」

こくん、と小さく頷く。
349 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)00時59分55秒
「そういうの、考えたらワクワクせえへん?」
「……約束ごとが?」
「そう。いっぱい約束しよ。そんでいっぱい幸せになろ。な?」

腕の中で、圭坊のカラダが少しだけ揺れた。
あたしは、抱きしめるフリで髪に唇をつける。

「……好きやで、圭坊」
耳元で囁く。

これが、今のあたしの精一杯や。

あたしは圭坊を汚したくないねん。
綺麗なままでおって欲しいねん。

……ゴメンな。
こんなん、ただの一方的なワガママやけど。

「……あたしも」
こもるような声が返ってきて、あたしは強く、圭坊を抱きしめた。
350 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時01分40秒
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
351 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時03分58秒
後悔とは、後で悔やむと書くから、その意味を成す。

あたしは、その言葉を実感する。
ささやかな幸せの終末は、いつも突然、やってくる。

「別れて、欲しい」

ケータイから聞こえてくる圭坊の声は、聞いているだけでも胸に痛い。

「……何でや?」
「ゴメン、何も聞かないで」
352 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時06分58秒
「…もうイヤか? キライか? あたしのこと」
「違うっ、好きだよ! ……でも、ダメなの。裕ちゃんのそばには、いられない」
「圭坊」
「…ゴメン」

一方的に途切れた電話。
掛け直しても、留守番電話になって繋がらない。

また、失くすんか。
大事に、大切に、汚さんように守ってきたのに、それでも、アカンのか…?
353 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時10分32秒
次の日、圭坊の言葉がどうしても信じられず、
本心を確かめたくて会いに行ったあたしに、圭坊が言うた。

「何度も何度も、吉澤に、抱かれた」

圭坊からの告白は、あたしを奈落に突き落とすには充分な内容やった。

「もっと触って欲しかった。もっと抱きしめて欲しかった」

大事にしすぎた。
大切にしすぎた。

こんな風に横取りされるくらいやったら、
自分の欲望にもっと正直になっといたらよかった。

「……優しくされるだけじゃ、足りなかったんだよ」
354 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時13分49秒
間違えてたんか?
あたしは、圭坊の愛し方を間違えてたんか?

……いや、勘違いさせてたんや。

あたしが圭坊を抱かんかったのは、
大事に思いすぎて手が出されへんかったからやなくて、
始めたときのまま、あたしが、まだ、圭坊の上に『誰か』を重ねてるって。

こんな風になるんやったら。
こんな風に手放さなアカンようになるんやったら。
もっと自分の思う通りに、圭坊を抱きしめたったらよかった。
355 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時18分27秒
手をのばして、圭坊の頬を撫でた。
そのあたしの手に、愛しそうに目を閉じて唇を寄せてくる。
その仕草が胸を打つ。

まだ、あたしを好きでいてくれてると実感もした。
まだ、心までは完全に吉澤のものには、なってないって。
今ならまだ、なりふり構わず、泣いて、縋って、捨てんといてって言うたら、
圭坊を失くさんで済むような気もした。

でも、もう、アカンのかな。

あたしがそんな風に言うても、きっと圭坊は、泣きそうな顔であたしを見るだけや。

圭坊は、あたしを諦めるんや。
あたしより、吉澤を選ぶんや。
そしてあたしは、また大事なものを失くすんや……。
356 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時19分51秒
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
357 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時22分32秒
吉澤の失踪騒ぎが落ち着いた頃、圭坊があたしの家に来た。

「…ゴメン、いきなり」
「ええよ」
仕事帰りなのは、少し疲れている様子で読み取れた。

「……これ、返しに来たの」
言いながらポケットに突っ込んでいた右手を差し出す。

受け取るために出したあたしの右手の上に落ちてきたのは、
この部屋のスペアキー。

圭坊の誕生日に、あたしが、プレゼントとは別にあげたやつ。
358 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時25分14秒
「……もう、この部屋には、来れないから」

器用そうに見えて、感情表現は不器用なところが愛しかった。
合鍵を持ちながら、それでもインターホンを鳴らした、その誠実さとか。

「……返さんでもええ」
「でも」
「それは圭坊にあげたモンや。圭坊が好きなように使うたらええ。
いらんかったら捨ててくれてええよ」
「裕ちゃん……」

顔は見れない。
見たら、抱きしめたくなる。
359 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時29分33秒
「……いつでも、来たらええよ。あたしがおるときでも、おらんときでも。
今までかて、この部屋には、圭坊しか通してへんから」

いつでも、帰っておいで。
傷ついたり、泣きたくなったときには、いつでも、この部屋に。

「…ひとつくらい、吉澤に勝てる秘密があっても、ええやろ?」

言いながらスペアキーを圭坊の手に握らせる。

「……待つのは、慣れてるからな」
「裕ちゃん……」
「もう行き。…下で吉澤、待ってるんやろ?」

圭坊の目が見開かれる。
自分でも、察しの良さには苦笑してしまう。
360 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時32分12秒
「……ゴメン」
「アホ、圭坊は謝るようなことなんか何もしてへんやんか」

むしろ、それはあたしの台詞。
いっぱい幸せになろうと言いながら、結局、約束はすべて、叶わないものとなった。

「気ぃ、つけて帰り」

頷いた圭坊を送り出し、あたしは溜め息を吐き出した。

終わったんだな、と、心の奥でじんわりと染み渡る感情。

不思議と、涙は出ないけれど。
361 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時35分17秒
ふと懐かしい顔が脳裏を過ぎり、
テーブルの上に、
まるで忘れ去られていたかのように置きっ放しになっていたケータイに手をのばす。

コール音は数度で途絶え、
聞こえてきた柔らかなその声もまた、懐かしくて、愛しい。

「…あ、彩? ごめんな、急に。ちょお、声が聴きたなって……」
362 名前:DAYS 投稿日:2001年11月12日(月)01時36分05秒
――― END ―――
363 名前:瑞希 投稿日:2001年11月12日(月)01時42分54秒
ハイ、「DAYS」、終了でございます。
なんか、タイトルと内容が一致してねえぞ、ゴルァ、なんて突っ込まれそうですが(w

あー、でもちょい満足。<また自画自賛かい

さて、本編で書きたくても書けなかったのはどこでしょう?
なんて、バレバレかなあ…(w


次は本編のその後、の予定ですが、
ゴメンナサイ、短編になるはずが、今回の「DAYS」並になりそうです。
もうちょいお待ちくださいね。

では、感想などありましたら、またよろしくです。
364 名前:83 投稿日:2001年11月12日(月)01時51分44秒
お疲れ様です。リアルタイムで読ませていただきました。
いいっすねぇ…
こんな言葉は恐らく無いんだろうけど「ほのぼのとした痛さ」ですね。
うまい言葉が見つかりません。

本編その後も楽しみにしてます。
急ぎませんので、ゆっくり更新してください。
365 名前:83 投稿日:2001年11月12日(月)01時53分40秒
あ、なんかメール欄おかしいっすね…
从#~∀~#从って…素敵やん
と書きたかったらしいです(w
366 名前: 投稿日:2001年11月12日(月)06時31分33秒
まずは、本編及びサイドストーリー終了 お疲れ様でした。
サイドを一気に読み終えた今は、萌えと切なさでいっぱいで、なんと言っていいのやら・・・。
もう一度最初から読み直して、出直してきます。
367 名前:名無し読者@KU大好き。 投稿日:2001年11月12日(月)10時07分44秒
裕ちゃんのせつなさが・・・いいです。
裕ちゃんの最初の特定の人は・・・あやっぺですか?
ひまになった時でいいので裕ちゃんにも救済の手を・・・
二回も振られっぱなしは可愛そすぎる。(w
本編のその後も楽しみにお待ちしております。
368 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月13日(火)01時43分21秒
裕ちゃんサイドからのストーリーだとこうなるのは仕方ないですね…
切ないけど、青春の1ページって感じですね〜(古っ!

これは本編のその後で救ってあげるしかないですよね〜?
そして、それを出来るのは作者である瑞希さんしかいない!!

もちろん、やすよしのその後の関係もすごく楽しみですよ〜。
あと、長くなっても全然問題ないですよ!!

ゆっくりでいいので、更新お待ちしています。
369 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月14日(水)01時58分59秒
うん。痛いっていうより切ないだな。
こういうのも好きです。
370 名前:329 投稿日:2001年11月14日(水)17時18分02秒
イタイっていうか。ちょっと寂しいですね。泣けない裕子が、哀しい。
恋で泣いた経験のある者同士…しかも始まりが互いのココロの穴を埋める
ような流れだったりしたから、臆病になりすぎてた、ってことなのかな。
特に裕ちゃん、自信がなくて傷つくのを怖がって、大人のズルさで逃げて
自分のことでいっぱいいっぱいで、自分に向けられた想いに気づけなくて
……哀しいね。裕ちゃんは、愛されたいと意識したことはないのかな?
今の関係を壊したくないから。自分が、愛しい相手を変えてしまう悪夢に
ばかり怯えて、相手にも当然あるはずの欲望を忘れて。やっぱり自業自得か。。
恋愛の「恋」の部分を自嘲とともに流してしまうには、まだ若すぎやでぇ〜!(藁
いつか裕ちゃんにも、なりふりかまわず情熱的にアプローチしてくれる誰かが
現れてくれれば、って感じですね。あまりにも間違ったカタチだと問題だけど…。
371 名前:瑞希 投稿日:2001年11月14日(水)23時56分43秒
>364、365(83)さん
ありがとうございます。
>ほのぼのとした痛さ
こういう表現されると嬉しいですね。

>366:Nさん
ありがとうございます。
でもそんな、出直さないでもいいですよぉ(^^;

>367さん
>裕ちゃんの最初の特定のひと…
そうです。よかった、判ってもらえて…(^^;

>368さん
ありがとうございます。
…なんか、裕ちゃんを救済するまで言い続けられそうですな(w

>369さん
ありがとうございます。
切なくて痛い系が大得意(威張るな)なので、
そう言っていただけるととても嬉しいです。

>370(329)さん
ありがとうございます。
そうですね、裕ちゃんは一番オトナなぶん、いろんな面でガマンとか知ってて、
臆病になってたのかも。
そんな裕ちゃんを、誰が奪いに来るんでしょうか? <自ら煽ってみたり…
372 名前:瑞希 投稿日:2001年11月15日(木)00時02分13秒
さて、嘘つき作者です。<ヲイ

次は本編のその後、の予定でしたが、ちょい長くなっちゃったうえ、
一日ではとても更新出来そうもなく、そのお詫びっちゅーかなんちゅーか、
先に仕上がった短編をUPしたいと思います。

「甘々なやすよし」(甘いかどうかは読者サマの判断におまかせしますが)

ではどうぞ。
373 名前:幸せな選択 投稿日:2001年11月15日(木)00時06分48秒
「あなたは今、断崖絶壁にいます」

出番待ちの楽屋で、吉澤はいきなりそう言った。

「…何よ、急に?」
あたしは読んでいた本から顔を上げて吉澤を見た。

「いいから、ちょっと、聞いててください」
真剣な顔付きで人差し指を立て、あたしを見つめる。

「あなたの足元のその崖では、中澤さんとあたしが、
ぶら下がって助けを求めています。さて、あなたは先にどちらを助けますか?」

……新手の心理テストか?
でも、そのわりに目はかなり真剣。
っていうか、縋るような目で見るな。
374 名前:幸せな選択 投稿日:2001年11月15日(木)00時12分05秒
「裕ちゃん」
あたしは即答で答えた。

途端、ぷしゅー、って空気の抜ける音が聞こえそうなくらい、
がっくりと肩を落とす吉澤。

「だって、どう見たってアンタのほうが体力あるじゃない。
あたしが裕ちゃん助けてる間、アンタなら踏ん張れそうだし」

言い訳してるみたいで、なんかちょっと、不本意ではあるけど。

でも吉澤は肩を落としたまま、俯いてしまう。

「裕ちゃん助けて、すぐアンタも助けるよ。それじゃダメなの?」
俯いたまま、小さく首を横に振る。

「……ダメじゃないです。でも、こういうたとえ話は、
選ばれなかったほうは助からないのが基本じゃないですか」

吉澤の真意がそこで読めた。

でも、たとえが悪すぎる。
375 名前:幸せな選択 投稿日:2001年11月15日(木)00時16分11秒
「……いいんです、別に。保田さんにとっての中澤さんが、
どれくらい大切なひとなのか、知ってますし」

だったら最初から聞くな。

「……ぶら下がってる片方がアンタで、もう一人がメンバーの誰でも、
あたしはやっぱり、アンタじゃないほうを助けるよ」

ますます肩が落ちていく。

でも、それはあたしの本心だ。
万が一そんな状況に追い込まれたとしても、先に吉澤に手をのばすことはないと思う。

客観的に見ても、吉澤が一番持ちこたえそうだし。

「……嘘でもいいから、あたしって言ってくださいよぉ」

涙声で訴えるな。
376 名前:幸せな選択 投稿日:2001年11月15日(木)00時18分53秒
「嘘でいいワケ?」

ぐ、と詰まったように顎を引く。
幼い瞳が潤んでる。

「……うー」

顔をくしゃくしゃにして、また俯いた。

「……助けなかったアンタは、そのあと、どうなるの?」
「……落ちます。死ぬんです」
「ふうん…」

そっか、助からないのか。

「…じゃあ、あたしも飛び降りる」
377 名前:幸せな選択 投稿日:2001年11月15日(木)00時22分07秒
えっ、という短い声と一緒に吉澤が頭を上げる。
頬を赤くして、目を見開いて、あたしを見つめる。

「あ、あの…?」

うまく言葉が繋げられないようなその反応は、あたしをとても満足させた。

でも、それ以上は何も言ってやらない。
それで充分だろう。

続きどころか、もう一度言ってくれと頼まれたって、もう言ってやる気はない。

あたしは再び本に目を戻す。
このあとの、吉澤の行動には予測がつくから。
378 名前:幸せな選択 投稿日:2001年11月15日(木)00時26分26秒
「保田さんっ」

思った通り、ぎゅうって、息苦しくなるくらい、背中から抱きしめられる。

「……何」
「保田さん、保田さん…っ」
「……泣くほどのこと?」
腕にまた力が込められる。

腕力の違いにまだ気付かないのか、この子供は。

「…苦しいよ」

でも、まあ、これくらいは許してやろう。

吉澤が、あたしをどんなに大切に想ってくれてるか、それは判ってる。
でも、あたしがそれに応えてれる方法や程度は、たかが知れてる。

それでもいいと言ってそばにいる、まだ幼い子供の、
ささやかなこんなワガママに付き合わされるのは、別に苦痛じゃない。
379 名前:幸せな選択 投稿日:2001年11月15日(木)00時28分41秒
「……仕方ないなあ」
溜め息と一緒に告げる。

何が仕方ないんだか、と、心の中で自分自身に毒づいてみたり。

「時間がくるまでだからね」

抱きつきながら、吉澤は何度も何度も頭を上下に振った。

あたしは、周囲のニヤニヤ笑いを無視して、
背負うような態勢で吉澤に抱きつかれたまま、読書に専念した。
380 名前:幸せな選択 投稿日:2001年11月15日(木)00時29分25秒
――― END ―――
381 名前:瑞希 投稿日:2001年11月15日(木)00時33分02秒
ハイ、「幸せな選択」(ベタなタイトルやなあ…)、終了でございます。
これも一応本編のその後にあたりますが…、なんか、甘すぎますね(^^;

次こそは予告している本編のその後で。
もうしばらく(申し訳ないっす)、お待ちください。

ではまた、感想などありましたら、よろしくお願いいたします。
382 名前:83 投稿日:2001年11月15日(木)01時11分45秒
おつかれさまです。これを読んだ後、某番組の焼きそばもらえなくて
泣き出したつ(略を思い出しました。

( ´D`)<そのりゃくはなんなのれすか?

本編のだいぶその後って感じですね。心開いてきてる感じがします。
甘すぎってことはないですよ。カロリーカットの砂糖みたいです。

383 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月15日(木)03時10分47秒
なんか、不器用な甘さが心地良いですね。

「…あたしも飛び降りる」って結構すごいこと言ってますよね。
圭ちゃんは深い意味で言ったのかどうか分かりませんが、
れっきとした愛の告白ですよ、これは。

圭ちゃんがそう簡単にはそうさせないでしょうが、徐々に甘々に向かって…

更新は出来るときでいいので、ゆっくりなさって下さい。
384 名前:KUがツボ。 投稿日:2001年11月16日(金)02時45分31秒
やすよし短編本当に圭ちゃんそう答えそうかも(w

姐さんせつないよー。泣いちゃったよー。
作者さん姐さんをいつか救ってやってください。あまりにも可哀想だ。

本編もゆっくりお待ちしております。

しつこいけど・・・姐さん助けてやってくれー。
385 名前:329 投稿日:2001年11月16日(金)11時20分27秒
圭ちゃんのキモチは、どうなっていくんでしょうねぇ。。
とりあえず、恋になるってのは、あまり想像できないけど。
てゆーか衆人環視だったのか…ヨシザワ(藁
裕ちゃんを奪ってくれる人の出現、期待してます〜(w

あ、読んでてふと思ったんですが、作者さんて
成田美名子さん、お好きですか?
ってメチャ唐突で意味ナシでワケわかな話でスミマセン(^^;
アタマがそこに直結したもので。因みに自分は、勿論好き♪
386 名前:瑞希 投稿日:2001年11月16日(金)23時25分22秒
>382(83)さん
ありがとうございます。
つじと同レベルのよしこ…、何気に萌え(w <え、意味が違いますか?

>383さん
ありがとうございます。
確かに、ものすっごい台詞ですけどね、よくよく聞けば(^^;
…でも、私も言われてみたい…(爆)

>384:KUがツボ。さん
ありがとうございます。
泣かせてしまいましたか…。泣けない裕ちゃんのかわりに泣いてあげてください <ヲイ

>385(329)さん
ありがとうございます。
>成田美奈子さん
はい、例の作品の名台詞が「幸せの選択」のヒント、というか、そこから思いつきました。
このスレで書く話を全部終えてからネタバラししようかとも思ってたんですが…。
やはり名作マンガは知ってる方も多いですね(^^;
お気に障られたのでしたら、申し訳ないです。

これもパクリになっちゃうのかなあ、なんて、ちょっと凹んでみたり…(^^;
387 名前:瑞希 投稿日:2001年11月16日(金)23時32分17秒
はい、お待たせ(?)しておりました、本編のその後、でございます。
でも、書く前になんですが、やっぱり自己満足な仕上がりです、…うう、やっぱりまだ未熟だわ。
しかも「DAYS」の倍くらい長くなってしまい、4回くらいに分けることにしました。
重ね重ね、恐縮でございます。

つまらないかも知れないですが、おヒマでしたら、読んでってください。


では、どうぞ。
388 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月16日(金)23時39分30秒
息苦しくて、目が覚めた。

目を開けて、一番に視界に飛び込んできた幼い寝顔に胸が鳴る。

息苦しさの原因は、その寝顔の持ち主の右腕だ。
寝返りを打ったときにあたしの胸の上にのびてきたらしい。

あたしは、起こさないようにそっとその腕を掴んで自分から離す。
それから静かにベッドを下りた。
389 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月16日(金)23時43分20秒
寝室を出てバスルームに向かい、洗顔を済ませてからキッチンに入る。

時計で時間を確認して冷蔵庫を開けると、
中にはどう見ても、どうかき集めても、一人分の朝食材料しかない。
思わず溜め息が出る。

起き抜けでは、さすがに買い物しようと家を出る気分にはなれない。
第一、着替えるのが面倒だ。

今日はオフで、一日家で過ごすと前から決めていた。
掃除もしたいし、天気も良さげだから、布団だって干したい。

……なのに、吉澤が来た。
390 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月16日(金)23時47分51秒
昨夜、仕事を終えて、帰宅して一息ついたとき、
まるで、あたしが部屋に入ったのを見計らったみたいに、ケータイが鳴った。

「……今、下にいるんですけど」
心細そうな声がして、あたしはベランダから下を見下ろした。

暗くて表情までは見えなかったけれど、
あたしが見たそこに、図体だけはデカイ、見慣れた子供がいた。

「……行ってもいいですか?」
耳元で聞こえた声を把握する前に、視線の先の影が俯く。

「……ダメなら、帰ります」
テレビ電話みたいだな、なんて、思いながら。
391 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月16日(金)23時52分31秒
「いつからそこにいるの」

いつ来たの、なんて、そんな見え透いた嘘になんか騙されてやらない。

いることに気付かなかったあたしもどうかと思うけど、
声を掛けなかったほうもどうかと思う。

俯いた影が、またあたしのほうを見上げてくる。

「……学校が終わって、一度家に帰って、晩御飯食べてから、来ました」
「試験、どうだった?」
「前回よりは、出来たと思うんですけど」
「明日、学校は?」
「第二土曜だから、休みです」

この仕事するようになってから、曜日感覚、狂ってきたなあ。

「……ちゃんと、家のひとには言って出てきた?」
「はい」
「そ、だったらいいよ。おいで。カギ開けとくから」
392 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月16日(金)23時57分14秒
返事は聞かないで電話を切ると、ものの数分でインターホンが鳴った。

開いてるって言ったのに。

ドアを開けたあたしを、吉澤は嬉しそうに微笑んで見つめて、
それからゆっくり抱きしめてくる。

……そんな風にしなくても、あたしは壊れたりなんかしないのに。

ためらうみたいに、戸惑うみたいに抱きしめてくる腕は、少し、居心地が悪い。

大切にされているのだということは判っても、
この子供のそういう一面に、あたしはまだ慣れることがない。

もう少し、強引なくらいでも構わないのに、
今は、ベッドでも一緒に並んで眠るだけ。
嘘みたいだけど。

でも、その先を期待してるような自分が、たまらなく、キライなんだけど。
393 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月16日(金)23時59分32秒
あたしはもう一度溜め息を吐き出して、自分の身なりを確認する。

起き抜けだけど、顔も洗ったし、
すぐそばのコンビニに買い物に行くくらいなら、
この格好でもさほど支障はないだろう。

それでも一応、と、近くにあった帽子を持って、あたしは部屋を出た。
394 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)00時02分48秒
買い物を済ませて部屋に戻ると、
ドアを閉じるのと同時に中から吉澤が駆け出してきた。

「あ、起こした?」
不安そうな顔付きがホッとしたように和らぐ。

「……いなくなっちゃったのかと」
目が少し充血してる。
……まさか、泣いてた?

「ここ、あたしの家なんだけど?」

涙が残ってるように見えて、手をのばして、親指で目尻に触れる。

ちょっと驚いたように顎を引かれ、そこであたしも自分の行動に気付き、
のばした手を引っ込めた。
395 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)00時07分09秒
「……朝御飯の買い出しに行ってただけよ。冷蔵庫の中、何もなくて」
吉澤の横を擦り抜けてキッチンに入る。

「お、起こしてくれれば自分で……」
あたしのあとについてくる吉澤が申し訳なさそうに言う。

「……よく、寝てたから」
起こすのがもったいないくらい、幸せそうな寝顔だったから。
勿論、そんなことは口が裂けたって言ってなんかやらないけど。

「…っていうかさ、普通、他人の家であそこまで熟睡する?
緊張して寝れなかったり、家主より早く起きたりするもんじゃない?」
「……だって、保田さんのベッド、保田さんの匂いしかしないから気持ちよくて」
「…はあ?」
396 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)00時10分37秒
買い物袋の中から品物を取り出す手が思わず止まってしまう。

いきなり、何てことを言い出すんだ、この子供は。

普通、言うか?
本人を目の前にして、それもそんなストレートに。
しかも、メチャメチャ幸せそうに笑ってるし。

何も言えずあんぐり口を開けてしまったあたしに気付いたのか、
吉澤は慌てて口を覆った。

「す、すいません、ヘンなこと言って」
「……アンタって、よく判んない」

他意は含まず、思った通りのことを口に出したあたしは、
吉澤の肩が落ちるのを見た。
397 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)00時14分23秒
「……ごめんなさい」
「? …何で謝る?」

しゅん、て、肩を落として静かになるその姿は、
尻尾の下がった犬みたいだった。

「……最近のアンタ、あたしに謝りすぎる。
悪いことなんて別にしてないんだから、そんなにあっさり謝ったりしないでよ。
ごめんなさいって言葉は、言ったぶんだけ自分の価値下げるんだよ」

……あ、しまった、ますます落ち込ませてしまった。

俯く吉澤に、あたしは深く息を吐き出して手を差し出した。

見えた手に、吉澤が不思議そうに頭を上げる。

「……お手」
「わん」
398 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)00時19分04秒
軽い冗談のつもりで言ってみただけなのに、
吉澤はまるで条件反射のようにそう答えて、あたしの手の上に軽く握った手を乗せた。

「あ…」

どうやらそれは、本人も無意識に出た行動だったようで。

「ぷっ」
思わず吹き出したあたしの目に、少し頬を赤くする吉澤が映る。

「……よしよし、すぐゴハンだからね」
吉澤の手を握り返して、もう片方の手で頭を撫でてやる。

「……わんっ」

恥ずかしそうに、でも、嬉しそうな笑顔でまたそう言った吉澤は、
全開に尻尾を振っている犬に見えた。
399 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)23時21分21秒
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
400 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)23時26分14秒
「……今日、もしかして、何か予定ありました?」

朝食を済ませ、着替えようと寝室に向かいかけたあたしの背中に、
吉澤が恐る恐る、といった感じの口調で尋ねる。

「何で?」
振り向くと、ソファの上で膝を抱えながらこっちを見ていた。

「……あるなら、帰ろうと、思って」

さっきも見た、どこか心細そうな瞳がそこにある。
無意識に溜め息が出た。

「……あったら最初から泊めたりなんかしないわよ。
帰りたいんだったら帰りな。別に困らないし」

……素直じゃないな、あたしも。
こういう言い方したら、吉澤が落ち込むって判ってるのにな。

思った通り、俯いてしまった吉澤を見て、
いつも通り、あたしは罪悪感に包まれる。
401 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)23時31分55秒
「……掃除したいのよ。天気いいから布団も干したいし……。アンタ、ヒマなら手伝って」
「えっ」
「……ヒマじゃないの? だったら帰りなよ」
「ひ、ヒマです! 超ヒマ! だから手伝います!」

うーん。
やっぱり尻尾が見えるな。
それも今は最大級に、全開で振ってる尻尾が。

それを見て、可愛いなあ、なんて思ってる自分に気付いたりしても、
吉澤が喜びそうな言葉は声になんかなんないんだけど。

つくづく、あたしって素直じゃないよなあ。
吉澤も、こんなあたしのどこがいいんだか。

ふと、そんなことを考えている自分に気付いて、今度はあたし自身が落ち込んでしまった。
401 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)23時37分26秒
さほど広くもないあたしの部屋は、人手がひとつ多いだけで、
部屋中引っくり返す勢いで掃除しても順調に片付いていく。

ここぞとばかりに模様替えもした。
窓だって、キッチンの床だってピッカピカだ。

何だか年末の大掃除みたくおおげさな感じにもなったけど、
吉澤は終始嬉しそうにしていて、逆にそれがあたしを居心地悪くさせる。

「……疲れた?」
ふうっ、と深めの息を吐き出した吉澤に声を掛けると、満面の笑顔で振り向いた。

「全然。楽しいです」
「……何が?」
「保田さんとする大掃除が」

ほらまた。
そうストレートに言われちゃったら、こっちは返す言葉に詰まるのよ。

「…あっそ」
素っ気ない返事しか返せないのに、何で、そんな嬉しそうなのよ。
402 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)23時41分45秒
あたしは吉澤から視線を外してベランダに出た。

かなり集中して掃除に夢中になっていたようで、時計を見ると既に夕刻。
西日も眩しかった。

「そろそろ、布団、取り込んじゃいます?」
「そうね」

あたしが答えるより先に、柵に掛けていた布団を吉澤が持ち上げる。

「今日、すっごい天気よかったから、ふかふかですよー」
嬉しそうに笑いながら言って、布団を抱えて寝室に向かう。

あたしはベッドカバーを持ってそのあとに続き、
ベッドに広げられたのを見てからカバーを被せた。
403 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)23時45分32秒
「…あとは、えーと」
カバーを整えるあたしを手伝いながらも吉澤の思考は次に向かっている。

「…もう終わり。あとはアンタが帰るだけ」
どんな反応が返ってくるか、予想しながら冷たく言い放ってみる。

思った通り、淋しそうな目であたしを見た。
尻尾も下がったみたい。

「……冗談よ」
でも、その一言で、ぴょん、て尻尾の上がる音が鳴ったような気がする。

「…あたし、晩御飯の買い出し行ってくるから、アンタは」
留守番してて、と続けようとして言葉が切れる。

目の前の幼い瞳が、また潤んでるように見えたからだ。
404 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)23時49分33秒
何でそんな、置いてけぼりを喰らったみたいな、淋しい瞳であたしを見るんだろう。

ここはあたしの家なのに、何でそんな、
帰って来ないかも知れない、みたいな不安そうな顔するのよ?

「……アンタも、行く?」
「行く!」
返事の早さに少したじろぐ。

まるで、母親に縋り付いてる子供みたいだな、なんて思いつつ、
でもそれは、そんなに居心地悪くもなくて。

そんな自分に戸惑いを覚えなくもなかったけど、
えらく機嫌のいい子供と一緒に、あたしは今日2度目になる買い物へと出かけた。
405 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)23時52分39秒
夕食の献立はありきたりなカレー。
これぐらいならあたしにも簡単だし、調理の準備の分担も出来る。

ジャガイモの皮を剥くあたしのうしろで、吉澤はタマネギを切っていた。

「うー」
不満そうな声が聞こえて振り向くと、じっとしながら何かを堪えてるのが判った。

「しみるよぉ」
「バカ。切る前からそれぐらい覚悟してたでしょ」
「でもー、でもー」

ホントに子供みたいな情けない唸り声にはさすがに呆れてしまう。
406 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月17日(土)23時55分45秒
「…しょうがないなあ」
自分の服の袖口で吉澤の目元を拭ってやってから、そっと鼻をつまむ。

「ふが…?」
「代わろうか?」
自信はないけど、と続けたあたしの申し出に、吉澤は笑って首を振る。

「いいです。やります」

…だから、何でそんな嬉しそうに笑うワケ?
鼻歌混じりに、もう続きに向かってるし。
407 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月18日(日)00時00分43秒
こんなとき、一番困る。

あたしは、吉澤の気持ちには応えてやれないと思ってた。

だからと言って、
吉澤が望んでるような気持ちがあたしの中にあるとも言い切れない。

ひどいことばかりされてた頃とは別人のような、今は子供みたいな吉澤。

そんな吉澤を可愛いとは思っても、
果たしてこれがこの子の望む答えになるのか、自分でも良く判らなくなるときがある。

恋はした。
何度もしてきた。

でも、相手はいつも、どちらかと言えば自分と対等な、
もしくは人間として尊敬できるような相手で、
吉澤みたいなタイプは、あたしの周りには皆無に近かった。

だから、そんな存在があたしの心を揺るがすようになるなんて考えたことすらなくて。
408 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月18日(日)00時07分01秒
「ジャガイモ、剥けました?」
「…あっ、ゴメン」

ぼんやりしていたあたしは、
吉澤に声を掛けられ、止まっていた手を慌てて進めた。

それでも、一度浮かんだ疑問や憂いは頭から離れない。

あたしと吉澤の関係って、どう言えばいいんだろう。

恋人、なんて言えるほど、甘いものじゃない。
だけど、仲間っていうのも、何だか軽すぎて違う。

曖昧すぎて、微妙すぎて、居心地の良さも悪さも同居してる感じ……。

背後に聞こえる吉澤の鼻歌が、あたしの耳には何だか少し遠く聞こえた。
409 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月18日(日)02時21分22秒
更新お疲れ様です。
吉わんこがかなりかわいい・・・。
素直で忠実で愛想の良い大型犬って感じで。

後、心の中で吉澤の事を「子供、子供」言ってるヤッスーが
かなりつぼです。(w

410 名前:瑞希 投稿日:2001年11月18日(日)23時20分53秒
>409さん
>吉わんこ…
気に入っていただけましたようで、ウレシイです(^^)


では、続きです。
411 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月18日(日)23時26分28秒
夕食も、片付けも済んで、あとはホントに吉澤が帰るだけ。

でも、吉澤は名残惜しそうにソファに座って、
その前にあるテーブルに頬杖をついてるあたしを見ていた。

「……終電までには帰りなよ」

いくら明日が日曜でも、
世間と違う生活スタイルのあたし達には、それは無関係の休日だ。
明日は午後から取材が控えてる。

「……はい」

もっといたい、と目は訴えてるけど、さすがに突然の二連泊はヤバイしマズイ。
それは吉澤も認識してるようで、渋々、といった感じで、弱く頷いた。

そしてまた、不安そうにあたしを見る。
412 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月18日(日)23時30分08秒
そんな目は、何でかいつも、あたしの胸を騒がせる。

何が言いたいの?
何でそんな目で見るの?
物欲しげとはまた違う、訴えるように少し潤んだ瞳で。

「保田さんは……」
目を逸らせずにいたあたしに、吉澤のほうが先に視線を外して俯いた。

「……あたしがここに来るの、やっぱり、イヤですか?」

ホントにいつもいつも唐突だな。
それも、あたしが把握するまでには少し時間のかかる質問ばかり。

そしてあたしは、いつもいつも、同じ言葉を繰り返すしかない。

「……何で?」
413 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月18日(日)23時35分27秒
吉澤が、また少し潤んだ瞳であたしを見た。

頬杖を解いて吉澤を見上げると、困ったように目を伏せ、膝を抱えた。

「……帰れって、そればっか」

言われて初めて、あたしは自分の言動の軽々しさに気付かされた。

そんなつもりじゃない。
帰って欲しくて言ってるんじゃない。
第一、そう言ったって、その言葉に素直に従うことなんて滅多にないクセに。

「……言っても、いつも帰らないじゃない」
「…保田さん、ズルイ」

吉澤が、ぽつりと呟いてから抱えた膝に額を押し付けた。

「……あたしの気持ち、知ってるくせに」
414 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月18日(日)23時39分44秒
だから困ってるんじやないか。

何にも知らないままでいられたら、
もっと素直に、無邪気に吉澤とじゃれ合えたり出来たかも知れない。

でも、知ってるから。
知りすぎてるから。
吉澤が、あたしに抱いてるホントの激しさも、気持ちも。
だから、曖昧なこの関係に戸惑ってるっていうのに。

「……じゃあアンタは、あたしがホントは帰って欲しいと思ってる人間を泊めたうえ、
同じベッドで寝るのも平気な、そんなオンナだと思ってるんだ?」

吉澤の頭が勢いよく上がる。
「そんなんじゃ…」
「ないって言うの? じゃあどういう意味よ」
415 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月18日(日)23時43分16秒
だんだん、腹が立ってきた。

ズルイのはどっちだ。
子供のくせに。

「……アッタマきた。もう帰れ。もう来んな」

あたしは立ち上がって、吉澤の顔も見ないで寝室に向かった。
でも、ドアノブを掴む前に吉澤に腕を捕られる。

「ごめんなさい…」
「うるさい。帰れったら帰れ!」

ムカツク。
あたしがどんな思いでいるかも知らないで、自分だけが悩んでるみたいな顔して。
416 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月18日(日)23時47分08秒
「ごめんなさい」
「離してよっ」

強く振り解いてドアノブを掴んだとき、吉澤の腕があたしの前に回った。

……ズルイのはどっちだ。

いつもはこんな風に抱きしめたりしないくせに。
こんな、息苦しくなるような、振り解けない強さでなんか、抱きしめたりしないくせに。

「…吉澤っ」
どんなにもがいても、それは無駄な抵抗に終わる。

「離してったら…!」
こんなときの自分が、たまらなくキライだ。

心の底から、本気で、離して欲しいとは思ってない自分に気付くから。
417 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月18日(日)23時52分42秒
「……不安、なんです」

抱きしめる腕の強さは変えず、あたしの耳元で囁くように吉澤は言った。
吐息が耳に触れて、カラダが揺れてしまう。

「……あたしの前から、保田さんが、急にいなくなりそうで」

顔は見えなくても、声から吉澤の表情が見えるようだった。

きっとまた、眉尻を下げて、泣き出しそうな目をしてる。

「……保田さんのこと、ずっと見てたい。ずっと触ってたい。
そしたら、いなくなるかも知れないなんて、思わない」

吉澤が見せる、淋しそうなあの瞳の本当の意味が判って、
あたしは強張らせていたカラダから力を抜いた。

それに気付いたように吉澤も腕の力を弱める。
418 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月18日(日)23時57分35秒
「……何で、いなくならなきゃなんないのよ」
吉澤の腕から身を翻してドアに背を預ける。

「……アンタ、いつもそう」
「そう、って?」
不安気に見下ろす目の奥に戸惑いが見える。

「いつも…、いつもいつも、言葉にするのが遅すぎる。
言う前に動かないで。言ってから行動してよ」

でなきゃ言い訳出来ない。
吉澤にも、自分自身にも。

今、あたしがどんな気持ちでいるか、吉澤は気付くだろうか。

吉澤の目を見ることが出来ず、自分に素直になるのもためらっている、
今のあたしの本心に。
419 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時01分40秒
「…好きです、保田さん」

よりによって、今、それを言うか。

「……あたしは、アンタなんか、好きじゃない」
「知ってます」

答えた吉澤があたしの手を掴む。
そっと、軽く掴んで、手の甲に唇を押し付ける。

「…吉澤?」
吉澤の行動に少なからず困惑したあたしに、上目遣いで小さく笑う。

「でもあたし、ひとつだけ自惚れてることがあるんです」

掴んだ手に力が込められ、握り締められる。

でもそれは、決して不愉快な強さじゃなくて。
420 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時06分11秒
「保田さん、あたしのことなんか好きじゃないっていつも言うけど、
でも、まだ一度も、あたしをキライって言ったこと、ないですよね」
「な…っ」

迂闊、気付かれてたなんて。

「何、バカなこと…っ」
「…違ってます?」

……ズルイ。
今、それを言うなんて卑怯だ。

「…保田さん」

手を離した吉澤の腕が、あたしの動きを封じるように寝室のドアにのびる。
閉じ込められるようなカタチで、あたしは吉澤の腕の中に捕まる。
421 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時09分44秒
「…好きです、保田さん」
吉澤の顔が近付いてきて、あたしは逃げるように俯いた。

「……キスしたい」
耳元を掠めた吐息と言葉にカラダが知らずに強張る。

言動の矛盾は、幼さを思わせるのと同時にあたしに選択権を与える。
それも、ひどく答えに困る選択肢。

あたしは逃げられる口実の言葉を探す。
言い訳の出来る、答えを。

「好きに、すれば」
「……そうします」
422 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時14分56秒
抑揚の薄い返事とともに吉澤の唇があたしに近付く。

あたしは肩に力を入れながら、カタく目を閉じた。

ほんの僅かに唇に触れただけで、吉澤の唇が頬へと滑る。
顎に添えられた手で上向きにされ、
顔の輪郭を辿るような動きがますますあたしのカラダを強張らせるのに、
吉澤は構わず唇を滑らせていく。

「…よ、しざ…わ?」

顎を噛まれたように感じて、慣れないその感触に思わず声が出た。

その声に弾かれたように、吉澤があたしから離れる。

「ご、ごめんなさい」
一歩退き、目線を落とす。
423 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時19分52秒
以前のような強引さや乱暴さは、今の吉澤にはない。

だから余計に困る。

一方的だったら拒絶しても言い訳になる。

けれど、吉澤は選ばせる。
あたしに選ばせようとする。

拒否か、それとも許諾か。

吉澤の持つ空気があたしから離れ、張り詰めていた糸が切れたような気分になる。

膝から力が抜け、あたしはドアに背を預けたままそこにしゃがみ込んだ。

「保田さん?」

手で顔を覆い隠したとき、また空気が動いて、
吉澤もあたしと同じようにしゃがんだのが判った。

「…ごめんなさい、やっぱり、イヤでしたよね」
424 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時22分55秒
今、吉澤は、きっとあたしを抱きしめたいと思ってる。

でも、そうしない。
あたしに、触れようと、しない。

「ごめんなさい」

繰り返されるのは謝罪の言葉のみ。

居心地が悪い。

だんだん、胸の辺りで何かがザワつき始める。

もういっそ、前みたいに、強引に、乱暴に、奪ってくれたらいい。
言い訳も、思いつかないくらいに。

そうしたら、あたしは……。
425 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時26分27秒
「…帰ります」
静かな空間に、吉澤の小さな声が響く。

思わず顔を上げたあたしの目に映る、困り顔の吉澤。

「…このままだとヒドイことしちゃいそうだし、それに、
これ以上保田さんにキラわれたくないし……」

苦笑する口元が胸を鳴らす。

認めてしまえと、頭の奥で誰かが囁く。

堕ちてしまえ、と。

「それじゃ」

立ち上がりかけた吉澤の服を咄嗟に掴んだあたしに、弾かれたみたいに振り向く。
426 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時29分36秒
「……」

声が出ない。
喉の奥が熱くて、ヒリヒリして。

「…保田さん?」
「………じゃ、ない」

恥ずかしい。
もどかしい。
怖い。

自分が、自分じゃなくなりそうで。

ホントはこんなにも情けないあたしに、吉澤は呆れたりしないだろうか。

「……キライじゃ…、ない、から」
427 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時33分16秒
言わなければならないことは、もっと他にもあるような気もしたけれど、
声に、言葉になったのは、それだけで。

「保田さん」

俯いたあたしの耳に届く、嬉しそうな子供の声。
同時にあたしへとのびてきた腕。

強いくせに、甘い優しさで抱き寄せられる、その心地好さ。

「…今日も、泊まってっていいですか?」

吉澤は気付いてるのかも知れない。
あたしが、ホントはもう、吉澤のどんな願いも断れなくなってることに。
428 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時36分20秒
「……明日、仕事じゃん」

そんな言葉も、ただの言い訳でしかないことに。

「始発で帰ります」

耳に触れる吐息も、唇も。
それが吉澤のものだというだけで、あたしのカラダを熱くしていく。
そのことに、今、やっと気付く。

「……家にも、電話しなよ」
「あとでします」
「…よしざ……」

続きの声は、唇が塞がれて、奪われた。
429 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時37分47秒
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
430 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時41分37秒
今、あたしはすこぶる機嫌が悪い。

その理由は勿論、頬杖ついてるあたしの視界の端で、
デッカイカラダを小さくさせて、肩も竦ませている子供にある。

朝起きたら既に吉澤の姿はなくて、言った通りに、始発で帰ったのが判った。

何となく、いなくてホッとした。
だって、何て言えばいいのか、見当すらつかなかったから。

でも、シャワーしてるときに首筋の下に吉澤の痕跡を見つけて、
気恥ずかしさは吹っ飛んだ。

不機嫌を満面に出してるあたしに、吉澤は挨拶したきり、当然近付いてこない。
431 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時45分35秒
「圭ちゃん、顔がコワイよぉ」
矢口があたしの眉間を指差す。

「よっすぃーとケンカでもしたかぁ?」

……何でこう、機嫌を逆撫でするようなことをサラッと言うかな、このちっちゃい同期は。

「…うっさい」
「うわ、マジコワ」

そう言いながらもあたしの隣に腰を下ろし、ニヤニヤ笑ってあたしを見てる。

「…何よ」
「…よっすぃー、さっきからずっと圭ちゃんの様子窺ってるね。何やらかしたの」

ちらりと視線だけを泳がせると、バチッ、と音が鳴りそうなくらい目がかち合う。
けれど吉澤はすぐ目を逸らし、しゅん、となって俯く。
432 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時48分43秒
「…別に」

わざとじゃないのは判ってる。
だけど、簡単に許してやるのも何だか癪じゃないか。

「……何か、尻尾の垂れた犬みたいだね」
「ぷっ」
同じことを思っていたので、思わず笑ってしまった。

あたしの笑い声が聞こえたのか、吉澤が俯かせていた顔を上げてあたしを見た。
今度は目が合っても逸らさず、でも、申し訳なさそうに見つめている。

……仕方ない。
相手はまだ子供だ。
あたしまでオトナげなくなるのも、何だかバカバカしい。
433 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時52分25秒
「…ねえ、矢口、喉渇かない?」
「へ?」
「いらないならいいよ。……吉澤」

呼ぶと、返事の声と一緒にその場に直立した。

頬杖を解きながら手招くと、小走りでやってくる。

「……あの」
今朝は……、なんて言い出される前に。

「お手」
「わん」

思った通り、条件反射のように出た声と、差し出したあたしの手に乗せられた手。

…矢口、きっと口開いてるな。
434 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時55分37秒
「コーヒー買ってきて。銘柄は知ってるわよね」
「え…? …あ、はいっ」
「矢口、ホントにいらない? 吉澤がおごってくれるって」
「え…、え、あ、えと、じゃあ、ココア…」
「…ってことだから」
「はいっ」
「ほら、ダッシュ」

あたしの言葉通りに駆け出していく吉澤を見送ってから、
矢口が深々と溜め息を吐き出した。
435 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)00時59分53秒
「あれじゃパシリじゃん」
「そう? 主人に忠実な犬って感じしない?」
「…かなりデカイ犬だね」
「そうそう、躾がまた大変でさー」

そこまで言って、ふたりして顔を見合わせて笑った。

吉澤が帰って来たら、ホメてやるかわりに頭を撫でてやろう。
そしたらきっと、嬉しそうに、幸せそうに笑うだろうから。

ふと、今朝出掛けにテレビで見た、
飼い主に頭を撫でられて尻尾を全開に振る大型犬が思い浮かび、
それが何だかホントに吉澤を思わせて、あたしはまた笑った。
436 名前:幸せな休日の過ごし方。 投稿日:2001年11月19日(月)01時00分42秒
――― END ―――
437 名前:瑞希 投稿日:2001年11月19日(月)01時05分52秒
はい、「幸せな休日の過ごし方。」、終了です。
スレの容量が気になっちゃったんで、またしても2回分を一気にUPしました。

なんかもー、書いてるヤツだけが楽しい、自己満足な仕上がりになっちゃいましたが(^^;

次の予定は、一応「裕ちゃん救済編」(w
短編になると思いますが、何とかスレの容量もギリギリいけそうなんで、
また近々UPいたします。

では、それまでまたしばし、さようならです。

感想などありましたら、よろしくお願いします。
438 名前:名無し殺生 投稿日:2001年11月19日(月)20時12分25秒
またもや勝手に始めて・・・(w
なんかいいじゃないですか。もどかいしこの二人。
どこま〜でもどこま〜でも♪応援したくなる。
互いに最後の一歩が踏み出せなくて、不器用で、でも純粋で、カッーいいな〜。
青春だー、コノヤロー!とことんお付き合いしますよ、やすよしに。
大変楽しませていただきました。続編期待してるっす!
439 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月20日(火)04時21分30秒
番外編お疲れ様でした・・・

体調が悪くネットできなかったため一気に読ませていただきました。
二人の距離は確実に縮まっているのに、不器用なために・・・(w

私の萌え所は、
・あたしが、ホントはもう、吉澤のどんな願いも断れなくなってることに。
・「コーヒー買ってきて。銘柄は知ってるわよね」

ですね。ここだけじゃないんですけど。何故か気に入ってしまいました。

次回「裕ちゃん救済編」。待ってましたよ!
どんな、そして誰に救われるのか今から楽しみです♪

このスレ容量一杯になっても新スレ作って続けてくださいね♪
瑞希さんの小説好きですから♪
440 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月21日(水)21時13分05秒
暫く来る事ができなかった間に
こんなに更新されているなんて・・・。嬉しい・・・。
素直なよしこと素直じゃないヤッスーが対照的で
二人の会話と、ヤッスーの心の声のギャップが微笑ましかったです。

次の更新楽しみにしてますね。
441 名前:瑞希 投稿日:2001年11月21日(水)23時40分30秒
>438:名無し殺生さん
ありがとうございます。
久々にあなたのレス見て、正直ホッとしました。呆れられてなくてよかった(w

>439さん
ありがとうございます。
お風邪のほうは大丈夫ですか?
>新スレ…
作るとは思いますが、実はまだどの板に引っ越そうか、考え中です…。

>440さん
ありがとうございます。
このスレに関しては、更新速度の早さだけが自慢です(ヲイ
442 名前:瑞希 投稿日:2001年11月21日(水)23時43分41秒
さて、このスレでの最後の更新です。


では、どうぞ。
443 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月21日(水)23時47分11秒
コドモっていうのんは、それまでどんなに幼いと思てても、
急にオトナの顔になるから、オモシロイ。
444 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月21日(水)23時51分07秒
「何読んでるの?」

ちょこん、て首を傾げて、近付いてきたコドモ。
あたしの肩に手を置いて、あたしの手元を覗き込む。

「…うわ、何か、難しそうな本」
ちょっと厚めの文庫本。
確かにちょっと、このコドモには向いてなさそうな内容の。

「そうでもないで。結構オモロイ」
「そお? じゃ、今度貸して」
「えー、ごっちん、こんなん読むんかあ? ってか、読めるん?」
「ヒドーイ! ゴトーだって本ぐらい読むもん!」
445 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月21日(水)23時54分46秒
「…雑誌とかは本て言わんで?」
「…え、そなの?」

思わず笑いが漏れる。
そのあたしの笑いが不服だったのか、頬をぷうって膨らませる。

「…可愛いなあ、ごっちんは」

本を閉じて頭を撫でると、何だかますます不服そうに唇を尖らせて。

「もーっ、裕ちゃんはすぐそーやってゴトーをコドモ扱いするんだからっ」

だって、実際コドモやんか。
でも、それを言うと余計に拗ねるのは目に見えてるから。
446 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月21日(水)23時59分24秒
「ごっちんは立派なオトナやでー」
言いながらそのコドモの腰に手をのばす。

「…相変わらず、ええカラダして」
「…っ、裕ちゃんのえっち!」
ペシン、と腰回りを撫でていた手を叩かれた。

「失礼な。えっちと違うよ、スキンシップやん」
「裕ちゃんのはセクハラだよぉ」
「何ーっ、そんなん言うんやったら、こーしたるっ」

コドモの背中から抱きつくように腰に腕を回し、回した手で脇腹をくすぐる。

「や、やだっ、裕ちゃん、く、くすぐったいよぉ」
447 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月22日(木)00時04分29秒
身を捩って逃げたコドモの向こうに、
その立ち姿だけで、今でもあたしの胸の奥を切なくさせる人間を見つけて、
思わず手が止まった。

別れた直後は、見せる表情がどれも作られたように辛そうやったのに、
今はかなり穏やかに笑うようになってる。

「……裕ちゃん?」

ひょいっ、とあたしの視界を遮るように覗き込んできたコドモの眉が、
はっきり判るくらい、ハの字になってた。

「……圭坊と吉澤、仲良うやってるみたいやな」

そう言うと、コドモも後ろに振り返った。

スタジオの入口の隅で、壁に半身を預けるようにしてる圭坊と、
その圭坊に何やら一生懸命話し掛けてる吉澤のいるほうに。
448 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月22日(木)00時08分31秒
「……あー、うん。ゴトーも最初は意外な組み合わせだなあって思ってたんだけど、
でも圭ちゃん、クールに返してるわりに、満更じゃないって顔するんだよね」
「…ふうん」

笑えるなら、それでいい。
泣かれるより、ずっといい。

「……裕ちゃん、まだ圭ちゃんが好き?」
唐突に言われて、あたしは持ってた本を落とした。

その音でコドモがあたしに向き直る。
幼いがゆえの真っ直ぐな瞳は、言い訳を許さへん。

「……知ってたんか」
気まずそうに、小さく頷いた。
449 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月22日(木)00時13分17秒
「……ねえ、まだ好き?」

嘘つくのなんか簡単やったけど、目の前のコドモは、
何となく、騙されへんような気もして。

「……まあ、な」
本を拾い上げてから苦笑いと一緒に答えた。

「じゃあ、もう圭ちゃん以外のひとは誰も好きになれなさそう?」
「…うーん、どうやろ。先のことは判らんからなあ。
圭坊よりもっと好きになれるひとも現れるかも知れんなあ」

別に、今のままでも、ええねんけど。
鈍い痛みのような、重くはない想いを持ち続けてる現状を、
それなりに、楽しんでたりもするから。
450 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月22日(木)00時17分04秒
「じゃあ、じゃあさ、ゴトーが立候補してもいい?」
「へっ?」
「だからあ、裕ちゃんの恋人に、ゴトーが立候補してもいいかって」

これまた、唐突な。

「……それって、つまり、あたしが好きってこと?」
「大好き!」

…うわ、必殺。
しかも極上の笑顔つきやん。

「……えーと」
参ったなあ。
コドモすぎて、あしらう言葉も見つからへん。
てゆーか、もともと弱いねん、この笑顔には。
451 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月22日(木)00時20分03秒
「…あのな、ごっちん」
ポリポリと頭をかきながら、取り繕える言葉を探す。

どうしよう。
アカン、言うたら、泣くやろか。

「…別に、こんな年上のあたしなんかより、もっとええひとがおると思うけど?」
ちょっと、ズルイ逃げ口上やけど。

「裕ちゃんがいい」

……コドモすぎる真っ直ぐさ。

どうしよう。
逃げられへんかも。
452 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月22日(木)00時23分50秒
「……裕ちゃん、ゴトーのこと、キライ?」

ちょっとちょっと、そんな潤んだ目で、上目遣いでなんて、反則やん。

「まさか! メチャメチャ好きやん。けどそれは」
妹みたいなもんで……、と続けようとした唇が塞がれた。

……何ちゅう早ワザ。
誰や、このコドモにこんなん教えたヤツ。

「…ゴトー、立候補すんね」
頬をちょっとだけ赤くして、ニコニコ笑って。

「もうゴトー、コドモじゃないよ」
「えっ?」
…心ん中、読まれた?
453 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月22日(木)00時28分30秒
「裕ちゃんを振り向かせるぐらいイイオンナになるから」

コドモの瞳の奥に窺える、オトナみたいな強い意志。

それを見て、言葉を見失ってしもたあたしの背後でスタッフが大声を張り上げた。
「準備出来ましたーっ、移動お願いしまーす!」
「「「はーい」」」

いろんな声が混ざって重なる返答の声。

でもあたしは声すら出なくて。
目の前の、急にオトナの顔を見せ始めたコドモから目も離せられんくて。

「絶対好きになってもらえるように頑張る。……だから、待っててね?」
454 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月22日(木)00時31分05秒
「……そら、楽しみやな」
辛うじて、それだけ言えた。

少しぐらい、オトナの余裕を見せとかんと。

そしたらコドモはまた笑って。
「うんっ、楽しみにしてて!」
ぎゅっ、て、あたしの手を握ってきた。

「行こ!」
そう言うた笑顔は、もうコドモのもので。
455 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月22日(木)00時33分57秒
くるくる変わる表情は、正直、見ててオモシロイ。

もっともっと変わってくんやろな。

それがあたしのためで、あたしのせいやって言うんやったら、
それはそれで嬉しくもあったり。

「……まあ、お手並み拝見、てとこかな」

あたしの手を引っ張って歩くコドモの背中に、
聞こえんように小さな声で、あたしはぽつりと呟いた。
456 名前:コドモじゃないよ。 投稿日:2001年11月22日(木)00時46分08秒
――― END ――
457 名前:幸せのカタチ 投稿日:2001年11月22日(木)00時49分43秒
保田さんの部屋は、いつも静かで柔らかな空気が流れてる。
ゆったりと、まるでそよ風が凪いでいくような、そんな穏やかな、空間。

あたしはソファに座って、膝を抱えながらテレビを見てる。
保田さんは、そんなあたしのすぐ前で、
ソファに座るあたしに背を向けた状態で、
さっきからずっとネイルアートに夢中だ。
458 名前:幸せのカタチ 投稿日:2001年11月22日(木)00時51分53秒
そばにいることを許されて、
今ではこの部屋への出入りも前に比べたらかなり和やか。

お互いに何の用もないオフは、
こんな風に二人きりで過ごす、ありふれた、でもあたしには充実した、午後。

会話は普段からそんなに多くない。
でも、穏やかに過ぎていく時間は、それだけであたしの心を満たしてくれた。
459 名前:幸せのカタチ 投稿日:2001年11月22日(木)00時53分38秒
「保田さん」
「ん?」
ちゃんと返事は返ってきたけど、でも、こっちは見てくれない。

何だか淋しくなる。

「保田さん」
「何?」
そう言って、顔だけで振り向いてくれたけど、
きょとん、とした顔が、何故だかやっぱり、あたしには淋しかった。
460 名前:幸せのカタチ 投稿日:2001年11月22日(木)00時56分38秒
「……どしたの」
テーブルに手を広げて置いて、トップコートを塗り終えた爪を乾かしてる。

「……キス、していいですか」
そう言った次の瞬間、保田さんの顔がカッと赤くなった。

「……今、あたしが動けないって知ってて言ったわね」
「そ、そんなつもりじゃないです」

頬を朱に染めたまま、上目遣いにあたしを見る。

可愛い。

声にしたら、きっともっと真っ赤になるんだろうな。
461 名前:幸せのカタチ 投稿日:2001年11月22日(木)01時00分54秒
「……いいですか?」

保田さんは、ぷいっと顔を逸らしてしまった。

返事はない。
でもそれは、無言の承諾。

あたしはゆっくり膝を抱えてた腕を解き、
その間に彼女のカラダを挟み込むようにして足を下ろした。

手を動かせない彼女の顎に背後から触れる。
ピクリと小さくカラダが揺れ、拒絶を感じて、少し、戸惑う。

でも、あたしの指に彼女が軽く噛み付いて、緊張が解けた。

あたしは指を引いて、そっと彼女の唇をなぞった。
ゆっくりと、何度も、繰り返して。
462 名前:幸せのカタチ 投稿日:2001年11月22日(木)01時05分02秒
やがて、薄く開いた唇から覗く保田さんの舌に指先が触れる。

ぺろりと指先が舐められ、生暖かなその感触に、ゾクリと背筋が震えた。

「保田さん?」

再び噛み付かれて、口の中に指が吸い込まれる。

それは、あたしの欲望に火を灯す合図のように思えて、
あたしはたまらなくなって保田さんの肩を背中から抱きしめた。

「…何?」
何の感情も込められてないような、抑揚のない声が耳元に響く。

誘っておいて、気のない返事をするなんて、あんまりだ。
あたしがこれ以上は何も出来ないって、知ってて、言ってる。
463 名前:幸せのカタチ 投稿日:2001年11月22日(木)01時08分35秒
「…爪、乾くまで、あとどれくらいですか?」
「……5分もかからないと思うけど?」

動けない保田さんより、
動けるあたしのほうが形勢が不利だなんて不公平だと思いつつ、
それでもこんな空気は胸に熱くて、心地好い。

「じゃあ、それまでこうしてる」

カラダが火照る。
でも、そんな熱さえ、今は少し心地好い。

あたしの言葉をどう解釈したのか、腕の中でほんの少しだけ体が揺れた。
464 名前:幸せのカタチ 投稿日:2001年11月22日(木)01時11分48秒
「……5分、たった」
きっちり5分後に、保田さんは言った。

振り解けないような強さで抱きしめてない。
逃げようと思えば、いくらだって振り払える。

気付いてますよね?
あたし、ちゃんと言い訳の出来る逃げ場所、作ってますよ?

あたしはゆっくり、もう一度保田さんの顎に指を滑らせた。

「…上、向いて」

素直に従って上を向いた彼女に、あたしは静かに唇を近づけた。
465 名前:幸せのカタチ 投稿日:2001年11月22日(木)01時12分36秒
震えてるのは、あたし?
それとも、保田さんですか?
466 名前:幸せのカタチ 投稿日:2001年11月22日(木)01時13分14秒
――― END ―――
467 名前:瑞希 投稿日:2001年11月22日(木)01時23分03秒
はい、「コドモじゃないよ。」と「幸せのカタチ」、
この2本を持ちまして、このスレでの最終更新とします。

私のような拙い文章に今まで長々とお付き合いいただき、ホントにありがとうございました。
読者の方々のレスは、本当に、本当に、励みになりました。

次に書くのも、やっぱり「やすよし」の予定ですが、まだ具体的には全然不透明ですので、
新スレをたてるのも、少し先になるかと思われます。(その間に花板の更新しなきゃ…)

いろいろと至らぬ点もありましたが、今までありがとうございました。
次回作でも、頑張りたいと思います。
それでは。
468 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月22日(木)03時47分31秒
「コドモじゃないよ」「幸せのかたち」終了お疲れ様でした。

まさかごっちんに救われるとは…!
なっちかなぁって思っていたのでちょっと衝撃でした。
モーたいSPの「本当は好きでした」を思いだしてしまいましたよ…
ダイバーでのごっちんの言葉の逆を言ってるのも私には良かったです。

このスレが出来たとき、
やすよしでしかもよしこがかなりいってる感じで、
ほかにはない小説だと思って注目して読んでいました。

結ばれてからも甘々にならない(甘いんですが…)2人の関係も好きでしたし。
次回作、別のやすよしでもいいですけど、
ここの、少しずつ、少しずつ進んでいく2人の話も続けてほしいですね…

連載お疲れ様でした。
469 名前:弦崎あるい 投稿日:2001年11月23日(金)00時29分00秒
まずはお疲れ様でした。
程よく甘い感じで、やっぱり甘々よりもこういう方がやすよしには合う
なぁと思いました。
瑞希さんの話は爽やかで、全体に柔らかい感じがしてすごく好きです。
更新も多くて読む方としては嬉しかったです。
次回作に期待してるので、気が向いたら書いて下さい。
本当に楽しませてもらいました。
470 名前:83 投稿日:2001年11月23日(金)03時16分48秒
更新お疲れ様でした。
わんこ(0^〜^0)いいっすね。ゴールデンレトリバーっぽくて。
全体的に痛さと切なさと甘さという、どこか矛盾したものがうまい具合に
融合された作品だったと思います。好きです。こういうの。
( `.∀´)小説が増えてきた(?)中、正直、最初は物珍しさだけで
やすよし小説を読んでいましたが、読んでいくうちにハマってしまいました。
次回作も気長にマターリと待ってます。

お疲れ様でした。


471 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月25日(日)16時11分49秒
幸せのカタチ・・・凄い良かったです。
やってる事はめちゃくちゃ甘いのに、かなり格好良い!
痛くて切なかった本編ももう一度読みたくなって読み返してきました。

次回作も楽しみにしていますので。

472 名前:名無し殺生 投稿日:2001年11月26日(月)21時58分40秒
2本立て、楽しませてもらいました!
両方、明るい未来がありそうで、読んだあと温かい気持ちになりました。
やすいしの方は相変わらず?不器用な二人だけども、
二人なりのペースで近づいているようでなによりです。
次回次次回次次次回次次次次回・・・・・ずっと期待してます!
ひとまず、お疲れ様でした!
次からは必ず連絡をよろしくお願いします(w

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