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ドラマ
- 1 名前:LVR 投稿日:2001年10月13日(土)22時10分44秒
- 古参の方が白赤青を好むように、僕はやっぱりここかなと紆余曲折の末思いました。
とりあえず石川さん主役の話を書こうと思います。
よろしくお願いします。
- 2 名前:出会いはドラマのように 投稿日:2001年10月13日(土)22時14分19秒
- 爽やかな朝。
こんな日は、何かいいことがあるんじゃないかと期待させられる。
だって、今日は始業式。
クラス替えはないけど……でも、もしかしたら新しい出会いがあるかもしれないもん
ね。
「おっはよ」
あ……この声は。
「ごっち〜ん」
後藤真希、十六歳。
私と同じ学年で、中学校時代からの付き合いだ。
今では、親友っていうのをやらせてもらってる。
- 3 名前:出会いはドラマのように 投稿日:2001年10月13日(土)22時16分40秒
- 「えへへ、何かありそうだよね、今日は」
ごきげんな笑顔で、ごっちんに声をかける。
それを聞いたごっちんは、なんだか少しニヤニヤしているような……。
「あは、梨華ちゃんは何があって欲しいのかな?」
見る見るうちに真っ赤になる私の顔。
「そういやさ、矢口さんも今日、一年生の世話するらしいよ」
「え!?」
「あはは、頑張りなよ」
- 4 名前:出会いはドラマのように 投稿日:2001年10月13日(土)22時18分39秒
- 一年生の世話か……。
そう言えば、去年も矢口さんはその役目だった。
明るく、優しく、常に笑顔で私達の世話を焼いてくれて矢口さんを見て、私も今年、
その仕事をやってみようかなって気になったんだ。
まあ、その時に一目ぼれしちゃったんだけどね……。
でも、まさか今年もやってるなんて……。
予想外のことに、思わず笑みがこぼれる。
「でもさあ」
そんな私の至福のときを、ごっちんがあっさり打ち破る。
もう、なによぅ!
「ちょ〜っと、理想が高いかな」
- 5 名前:出会いはドラマのように 投稿日:2001年10月13日(土)22時22分09秒
- 容姿端麗、文武両道、みんなのアイドル矢口真里。
……前にこんなこと言ったら、ごっちんに笑われちゃったけど。
でも、高嶺の花であることは間違いない。
私は、いつもごっちんが側にいてくれてることで救われてる部分があるけど、それでも友達が多いとは言えない。
でも彼女は、友達が多い。
引っ張りだこ、引く手数多。
言いかえれば、モテモテ。
ふふふ、でもね。
- 6 名前:出会いはドラマのように 投稿日:2001年10月13日(土)22時25分17秒
- 「でっかな夢ほど、叶えたくなるものだもん!」
そう、ポジティブシンキング。
こんな時ほど、元気にいかなくちゃ!
「あはは、梨華ちゃんらしいや〜」
ごっちんがそれを聞いて笑う。
苦笑いじゃなくって、いつものふにゃっとした笑い。
「さ、早く行こう!」
無闇な力を手に入れた私は、そう言うなりごっちんを置いて駆け出す。
「ちょっと待ってよ〜。あ、梨華ちゃん、前……」
「え?」
その声に、後ろを振り向く。
直後、私の視界が揺れた。
- 7 名前:出会いはドラマのように 投稿日:2001年10月13日(土)22時28分18秒
- 「いった〜い!!」
「あぅぅぅぅ……」
痛い痛い痛い!
よそ見をしながら走っていた私は、交差点で思い切り誰かとぶつかってしまった。
車じゃなかっただけマシだけど。
そうだ、相手の人は大丈夫かな……。
「ごっめんね〜、急に出てきて気付かなかったから。……怪我はない?」
私よりは全然大丈夫そうな様子で、私を気遣う。
……今気付いたことだけど、相手は自転車だった。
- 8 名前:出会いはドラマのように 投稿日:2001年10月13日(土)22時31分00秒
- 「いえ、大丈夫です」
それでも、礼儀正しく返す。
と言うか、よそ見してたのは私だし。
「あ、バックの中身出ちゃってる。ホントにゴメンね」
すぐに自転車を飛び降り、地面に落ちている筆箱やらノートやらを拾い集める。
「ああ、申し訳ないです、申し訳ないです」
こういう事されなれてないから。
ごっちんってば、いつもふにゃあって笑ってるだけだし。
- 9 名前:出会いはドラマのように 投稿日:2001年10月13日(土)22時32分22秒
- 「これでもう、全部かな」
二人でやった甲斐もあり、思ったより早く片付けることができた。
「ありがとうございます」
制服についた埃を掃う女の子の方を向き、深々と頭を下げる。
「そんな改まらないで、お互い様ってことでいいじゃん」
……あれ。
どこかで聞いたことのある声。
きっぷのいい喋りっぷり。
慌てて顔を上げる。
- 10 名前:出会いはドラマのように 投稿日:2001年10月13日(土)22時35分43秒
- 「ん、どしたの?」
顔を上げたまま固まってしまった私を見て、不思議そうな顔をする。
まさか、こんなことって。
「矢口の顔に、何か付いてる?」
まだ少し信じられないんだけど。
見間違いでも、得意の妄想でもなくて、目の前にいるのは確かに矢口真里。
「ホントに、何かあった」
「え?」
一方通行ではない、私達の初めての出会い。
それはまるで演出されたように、始業式の朝に起こった。
- 11 名前:LVR 投稿日:2001年10月13日(土)22時37分13秒
- 第一話終わりです。ってか、第一話って書き忘れた。
- 12 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月13日(土)22時59分22秒
- いしやぐ。すっごい嬉しいです。前に作者さんのいしやぐ読んで、お気に入り
になったのでまた読めて嬉しいです。
なんかこの頃この二人いい感じなコンビになってきたと思いませんか?
期待してます。頑張ってください。
- 13 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月14日(日)02時02分23秒
- つーかもういしやぐ小説の第一人者。
期待してます。
- 14 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月15日(月)11時02分59秒
- 「も〜、ほんとにびっくりしたんだから!」
思わずにやけてしまいそうになる自分の抑え、朝の一部始終をごっちんに話す。
「あ〜はいはい。梨華ちゃん、顔にやけてるよ」
(というか、後藤もすぐ後ろにいたんだけどな……)
「あ、やだ。顔に出てる?」
ほっぺをおさえ、ごっちんに尋ねる。
するとごっちんは、大きくため息をついた。
「まあ、そんなのはどうでもいいんだけど」
何か……少し目が冷たいような?
- 15 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月15日(月)12時50分18秒
- 「私は何でここにいるわけ!?」
いきなり強く言われ、パニックになってしまう。
「え……今日から学校だし」
うん、正論だよね。
ごっちんってば、いつもぼうっとしてるから、学校忘れてるんだよきっと。
「だ〜か〜ら〜!」
あれ? 違う?
「何で誰も学校に来てないのか聞いてるの!」
いらいらしたごっちんが、遂に声を荒げる。
「えっと……それは……」
チラッと上目遣いでごっちんをみる。
うわ、メチャクチャ睨んでるよぅ。
「えっとね、今日始業式は午後からだから……」
チラチラ表情を伺いながら話す。
- 16 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月15日(月)12時54分02秒
- 「で? 何で私達は今の時間からここにいるわけ」
怖いよう怖いよう。
「それは、私が入学式の手伝いをしなきゃ駄目だから」
「で、私は?」
「えっと、付き添い……かな?」
「……」
「ごっちん?」
「バカァ!!」
滅多に見ることの出来ないごっちんの激怒。
それを見れた私は貴重な体験をしたわけだけど……。
- 17 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月15日(月)12時56分11秒
- 「梨華ちゃん……私がどんな思いで起きたか分かってるの?」
「……はい」
うわぁん、ごっちん寝ることへの執着が強すぎだよ。
「だから、誉めて」
「ん……え?」
なんだか、良くわかんないことを言ってる。
「私今日の朝凄い頑張ったと思うでしょ?」
「思う思う。思うよ、ごっちん!」
だから怒らないで神様お願い。
普段は意識の外に追いやられてるけど、こういうときは神様に限る。
私は、必死でお祈りした。
- 18 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月15日(月)12時58分22秒
- 「だったらさあ、私のこと誉めて」
「え……誉めるの? 私が?」
「うん」
……何か、よくわかんないけど。
とりあえず、誉めてみよう……かな?
- 19 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月15日(月)12時59分51秒
- 「ごっちんすごい!」
「ほんと?」
「うんすごいすごい。ごっちん凄すぎ、天才的」
「……もっと」
「クール、可愛い、頭いい、それからそれから……とにかくすごいっ! 大好きっ
!」
「えへへ〜」
突然、ごっちんがいつものふにゃっとした顔になる。
もしかして……私助かった?
「じゃあ、後藤ここで寝てるから、頑張ってきてね」
「うん! ホントにゴメンね、ごっちん」
「いいよ〜。いってらっしゃ〜い」
- 20 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月15日(月)13時03分24秒
- ――二時間後。
「ごっち〜ん」
教室には、半べそをかいた私がいた。
「どうしたの?」
「矢口さんがいなかったよ〜」
同じ仕事をやるって言うから、一緒に働くものだと思ってたのに。
私は裏方で補助、彼女は表で直接入学式に携わっていた。
……何か、実生活とかぶって見えて、すごく嫌。
「あ〜そうなんだ」
同情してるかどうか分からないような間の伸びた声で、ごっちんが答える。
「もう、ホントに悲しかったんだよ!」
私は必死に自分の思いをぶつける。
その隣で、ごっちんは耳をふさぐ。
これじゃ、イタチゴッコだよ。
- 21 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月15日(月)13時06分19秒
- 私が我を失ってわめいていると、教室のドアが開く。
「じゃ〜ね〜、梨華ちゃん」
助かったとばかりに、ごっちんが席に戻る。
私も先生を敵に回してまで追うことが出来ず、結局諦めた。
それにしても、久しぶりのホームルームって、何かドキドキするな。
「はい、それじゃ、出席取るよ」
先生まで気合入っちゃてるし。
いつもはごっちんに負けないくらいぼうっとしてるのに。
- 22 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月15日(月)13時12分06秒
- そんなことを考えている間にも、出席は取られていく。
「はい、全員出席……と」
そのまま先生の話に入るのかと思ったら、先生はドアをチラチラ気にし始めた。
……何だろう?
「それじゃ、早速だけど、新しいお友達を紹介します」
え!?
私はその言葉を聞き、目を大きく見開いた。
私だけではない。
みんな、急にざわつき始めた。
- 23 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月15日(月)13時13分43秒
- 「どうぞ」
先生の声に引っ張られるように入ってくる、一人の少女。
一瞬で、教室内が静寂に包まれる。
その中で響く、誰かの息を呑む音。
私達の前に現れたのは、息を呑むほどに美しい少女だった。
「初めまして、吉澤ひとみです。これから二年間、よろしくお願いします」
そう言って、にこりと微笑む。
そのすぐ後、彼女と目が合った。
あ……。
私の意識は、いつかの過去へと引き戻されていった。
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月15日(月)20時45分54秒
- 過去?よっすぃーと繋がりが?
優等生の矢口さいこー!!いしやぐ期待してます。頑張ってください。
- 25 名前:LVR 投稿日:2001年10月16日(火)00時50分25秒
- >>12さん
ありがとうございます。
以前の作品を呼んで頂けたんですか。
なんか、どれを読まれていても恥ずかしいような……(w
このコンビについての考えは遠回りという話の中で恥ずかし
いほど書かせて頂いています。
>>13さん
ありがとうございます。
そんないしやぐばかり書いている訳じゃありませんが(w
なんて、気付いたらいしやぐ五作目でした。
たぶんこれからも増えるんでしょう(w
- 26 名前:LVR 投稿日:2001年10月16日(火)17時50分46秒
- >>24さん
ありがとうございます。
察しの通り、過去で吉澤さんと関わりがあります。
ということで、簡単にいしやぐになるかどうかはわからないです。
- 27 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月17日(水)13時57分23秒
- ――ひとみちゃん、ひとみちゃん。りかのこと、およめさんにしてね。
それは、大切な約束。
――え、そんなのやだよ。ずっといっしょにいようねって、いったじゃない。
必ず、その約束が果たされると思ってた。
――やだよう、かえりたくないよう。
けど、現実はそんなに優しくはなくて。
私は、早く大人になりたかった。
- 28 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月17日(水)14時01分19秒
- 「ねえ、梨華ちゃん、梨華ちゃんってば!」
「え?」
ごっちんに少し強く言われて、私は我に返った。
「もう、ぼうっとしちゃ駄目だよ」
いや、ごっちんには言われたくないけど。
「そうだ、そんなことじゃなくて」
そう言いながら、人だかりの方に視線を向ける。
「転校生だよ。あは、面白そう」
何が面白そうなんだか良くわかんないけど、とりあえず頷いてみる。
「ちょっと、話しに言ってみようよ」
あ、そういうことか。
私は、私の手をつかんで立ち上がったごっちんの手を引き戻す。
- 29 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月17日(水)14時03分35秒
- 「ん、どしたの?」
不思議そうな表情で、振り向くごっちんに曖昧な表情で微笑む。
「後でも話せるし、今はゆっくりしない?」
それを聞いたごっちんは、しばらく何を考えているか分からない表情で、私を見つめ
ていたけど、
「まあ、梨華ちゃんがそういうなら」
と言って、再び席についた。
ごめんね、ごっちん。
ちょっとまだ、うまく笑える自信が、ないんだ。
- 30 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月17日(水)14時07分05秒
- 「でもさ、あの子ちょっとかっこいいよね。何か付き合いやすそうだし」
そんな、後藤真希の吉澤ひとみ評。
「そだね。今も上手くやってるみたい」
チラリとひとみちゃんの方を見ると、今日初めて会ったとは思えない様子で、クラス
メイトと談笑している。
無理をした様子もないし、きっと天性の素質なんだろうな。
……私にはそんなもの、ない。
- 31 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月17日(水)14時10分09秒
- しばらくごっちんと話していると、そのひとみちゃんが私達の方へ近づいてきた。
「おはよ」
ひとみちゃんはそう言って、にこりと微笑む。
「お…おはよ」
どもりながら、ぎこちない笑顔で返す私。
ごっちんは、何が起こったんだかわかんない様子で、ぼうっと私達の方を見ている。
「あ、初めまして」
それに気付いたのか、ひとみちゃんがごっちんにも言葉をかける。
「ん……と、初めまして!」
さすがごっちん。
一瞬の戸惑いの後に元気よく返す。
- 32 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月17日(水)14時18分07秒
- 「梨華ちゃんは久しぶり、だね」
「……うん」
何か色んなことが頭に蘇ってくる。
「ずっと、忘れらんなかった」
すごくまっすぐな言葉。
そのまっすぐさが、今の私には痛い。
頭に蘇ってくるってことは、今まで忘れてたってこと。
私も、絶対に忘れたくないって思ったはずなのにね。
- 33 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月17日(水)14時19分32秒
- 「え、二人とも知り合い?」
「ん、ちょっとね」
そう私が答えると、すぐさまひとみちゃんが遮る。
「ちょっとじゃないよ。かなり深い仲」
そう言って私を見つめる目に、私は真っ赤になる。
「え〜、どういうこと?」
俯く私を、ごっちんが問い詰める。
「あはは……、ちょっと、ね……」
気恥ずかしさも手伝って、私は曖昧な答えを返すことしか出来なかった。
- 34 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月17日(水)14時22分03秒
- 「あのう」
そんな私に、そんな声が聞こえてくる。
私は藁にもすがるつもりで、即座に反応した。
「はい、何ですか?」
その声の主が、私の目に入る。
あ……。
- 35 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月17日(水)14時23分00秒
- 「あ〜、やっぱりここでよかったんだ。今朝はどうも、石川梨華ちゃん」
矢口さん……。
会いに行ったときは会えなくて、教室にいるときに会えるなんて。
あれ、でもなんでここにいるんだろう。それに……。
「どうして、私の名前を……?」
「何でだと思う?」
いたずらそうに笑いながら、低い目線から私を覗き込んでくる。
「全然、わかんないです……」
その行為に、私は思いっきり照れてしまい、目を逸らす。
- 36 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月17日(水)14時24分32秒
- 「はい、これ」
私は、矢口さんから何か手渡される。
「……え、あ、はい」
慌てて受け取ったそれは、私の手帳。
「なんかさ、渡し忘れたみたいなんだよね。ごめん」
申し訳なさそうに、矢口さんは頭を下げる。
「いや、いいです、大丈夫です。拾ってもらっただけで、ありがたいですから」
「そう言ってもらえると助かる。じゃ、またね」
「あ、はい!」
- 37 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月17日(水)14時26分40秒
- 「……はあ」
その後の私は、傍目にもわかるくらい、落ち込んでいた。
折角また会えたのに、何も話せなかった……。
「梨華ちゃ〜ん」
そんな私を、ごっちんが必死に慰める。
「なんかこういう再会ってさ、ドラマにありそうじゃない。きっと、また話せるっ
て」
そういえば、確かに、ドラマとか漫画とかにありそうな展開だけど……。
「それに、矢口さんだって、またね、って言ってたじゃん。もっと、前向きに考えな
きゃ」
そう言えば、そうだよね。
またね、って、確かに言ってた。
もしかして……矢口さんも私にまた会いたいのかも。
- 38 名前:第二話 再会はドラマのように 投稿日:2001年10月17日(水)14時28分05秒
- 「あの……梨華ちゃん……?」
いきなりニヤニヤし始めた私を、今度は怪訝そうな表情でごっちんが覗き込む。
でも、ごっちんの言うとおりだよね。
なんたって、私の座右の銘は……。
「ポジティブッ!」
「うわっ!!」
いきなりの大きな声に驚き、ごっちんが後ろに飛びのく。
「なんなのよ〜、いきなり」
ごめんごめん。
でも、私はもう大丈夫だよ。
だって、こんなドラマみたいな再会、そうはないもんね。
本当に、普段の私じゃありえないくらい浮かれてた。
だから、ひとみちゃんの表情が曇っていたことに、私は気付けなかった。
- 39 名前:LVR 投稿日:2001年10月17日(水)14時29分00秒
- 第二話終わりです。
- 40 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月17日(水)22時05分45秒
- いま一番楽しみな作品なんです。頑張ってください。
- 41 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月18日(木)23時25分09秒
- 「ひとみちゃん、ひとみちゃん」
「なあに、りかちゃん」
私達は、小さな頃からずっと一緒だった。
だから、ずっと一緒にいれると思ってた。
「りかのこと、およめさんにしてね」
「うん、いいよ」
すごく幸せな毎日だった。
けど、その頃のあたしは知らなかった。
幸せがずっと続くことなんて、あるわけがないことに。
- 42 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月18日(木)23時28分27秒
- ある日の公園。辺りは夕焼け色に染まっていた。
そこにポツリとたたずむ、一つの影。
「……ひとみちゃん」
私が声をかけると、ひとみちゃんは黙って振り向いた。
「どうしたの?」
その頬が、キラキラと沈みかけた太陽の日に照らされていた。
私の問いかけにも何も答えずに、ただ俯く。
小さいながらに、とても大変なことが起こったんだと私は感じた。
- 43 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月18日(木)23時30分04秒
- 「りかにだけ、はなして」
その言葉に、ひとみちゃんは伏せていた目を少し上げる。
私は、出来る限りの優しい笑みで迎えてあげた。
そのまま、時間だけが流れた。
何も言おうとしないひとみちゃん。
それを、ただひたすらに待つ私。
不思議と、待ちくたびれることはなかった。
ただ、ひとみちゃんのことが心配でしょうがなかった。
- 44 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月18日(木)23時31分28秒
- 「はなれたくないよう……」
「え?」
耳を澄まさなければ、聞こえないような囁き声。
けど、それにすら私は敏感に反応する。
「ねえ、どうしたの?」
顔を覗き込むようにして、もう一度尋ねた。
「あのね、わたし、とおいところにいかなくちゃ、いけないんだって」
少ししゃくりあげながら、ひとみちゃんの言葉は続く。
「りかちゃんと、さよならしなきゃ、いけないんだって」
そこまで言うと、堰を切ったように涙が溢れ出した。
その横で、呆然とたたずむ私。
- 45 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月18日(木)23時33分39秒
- 「やだよう、やだよう……」
けど、その言葉で私は我に返る。
「え、そんなのやだよ。ずっといっしょにいようねって、いったじゃない」
「だって、だって」
そして、今の私でも、あの時の私でも信じられないような言葉を言った。
「いっしょににげよう」
不思議な勇気があった。
ひとみちゃんといるから大丈夫って言う、不思議な確信。
でも、独り善がりだったとは、今でも思っていない。
だって、ひとみちゃんが頷いてくれた時、確かに笑顔だったから。
その日の夜、私達は初めて夜の街を二人きりで歩いた。
- 46 名前:LVR 投稿日:2001年10月18日(木)23時42分57秒
- 短いけど今日の更新終了
>>40さん
ありがとうございます。
なんか、プレッシャーがかかりますね(w
更新を早めに出来るように頑張ります。
- 47 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月20日(土)00時19分23秒
- 「りかちゃん、ここ、どこだろう」
「……わかんない」
私達を包み込む漆黒の闇。
見慣れない街並み。
その全てが不安となり、私達の勇気を覆い隠す。
「……どうしよう」
泣きそうなひとみちゃんの声。
「だいじょうぶだよ」
そう言う私の声も震える。
それも当然だ。
だって、これから私達がどこへ行くのかなんて、私達だって知らないのだから。
- 48 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月20日(土)00時20分38秒
- 「でも……」
とうとうひとみちゃんの瞳から涙がこぼれた。
そこで、私の心に一つの、大きな不安が広がる。
「もう、かえりたくなっちゃった?」
何処かに行く当てがあったわけじゃない。
いつかは戻らなければならないことも分かっている。
けど、ここでひとみちゃんと心が離れてしまうことが、何よりも怖かった。
「ううん、りかちゃんといたい」
「ほんと?」
「うん」
わけもわからず嬉しくなって、ひとみちゃんの手を握る。
ひとみちゃんも、笑顔になり私の手を握り締める。
- 49 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月20日(土)00時21分52秒
- そのうち、私達は灯かりのある場所に出た。
「……わたし、ここにきたことある」
突然、ひとみちゃんが言葉を発した。
そこは、私も訪れたことがある場所。
行き交う人並みにのまれそうになりながら、繋いだ手に力を入れる。
「ここって、でんしゃがくるところだよね」
ひとみちゃんの言葉に大きく頷く。
ここからなら色んな場所にいける。
私達の第一目標は、もう手の届くところまできていた。
- 50 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月20日(土)00時23分32秒
- 「お嬢ちゃんたち、こんなところで何をやってるんだい?」
その言葉に、私達は一瞬で体を強張らせる。
幼いながらにも、彼が警察官であることが分かった。
「お父さんとお母さんは?」
私達はその問いに、押し黙ったまま何も答えなかった。
今となってみれば、何で上手い言い訳が思いつかなかったんだろうって思う。
そう後悔するほど、どんな質問にも口を開かなかった。
ただ、ずっとひとみちゃんの手を握ってた。
- 51 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月20日(土)00時24分55秒
- 結局、黙って家を抜け出してきたことがばれ、私達は家に連れ戻された。
どうやって家までたどり着けたのかは、よく覚えていない。
家族が迎えにきてくれたような気もする。
覚えているのは、ずっと、かえりたくない、って叫んでいたことだけ。
その日は、疲れているはずなのに夜遅くまで眠れなかった。
- 52 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月20日(土)00時26分04秒
- 「……もう、あさ」
日光の輝きに、眠たい目を無理やりこじ開けられる。
前の日に珍しく夜更かしをしたこともあって、目覚めは最悪だった。
既に時計の針は十一時を指している。
普段なら、こんな時間まで寝ていることなどありえなかった。
一階に下りていくと、私を迎えた母の様子が何処かおかしかった。
私に向けて、曖昧な笑みを浮かべている。
昨日の事を引きずっているのかな、と何となく思った。
- 53 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月20日(土)00時27分23秒
- 「あのね、梨華」
少し遠慮がちにお母さんが口を開く。
「もう知ってると思うんだけど、ひとみちゃん引越ししちゃうんだって」
「……うん」
再び思い出して、暗い気分になる。
「それでね、これ、ひとみちゃんからよ」
そう言って、メモ帳のようなものを私に渡す。
「一時間くらい前に、挨拶に来たんだけどね、どうしても梨華を起こすなって言うか
ら」
それを聞いたとき、一瞬で血の気が引いた。
慌てて、メモ帳を開く。
- 54 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月20日(土)00時29分21秒
「やっぱり、はなれなくちゃだめみたい。ごめんね。
しょうらい、ぜったいおよめさんにしにもどってくるから。 ひとみ」
- 55 名前:第三話 別れはドラマのように 投稿日:2001年10月20日(土)00時31分13秒
- 「そんな…ック…やだよぅ……」
ひとみちゃんが我慢して行くのに、泣くのは嫌だった。
でも、涙が次から次へとこぼれてきて。
止める術もないまま、メモ帳を力の限り握り締める。
あの年の頃には、お嫁さんになりたいなんて、軽々しく言うことも多かった。
もしかしたら、最初は私もひとみちゃんに対してそういう気持ちで言っていたのかも
しれない。
でも、それは、確かに私の初恋だった。
小さな胸が潰されそうになるほど苦しい、私の初恋だった。
- 56 名前:LVR 投稿日:2001年10月20日(土)00時32分35秒
- 第三話終わりです。
- 57 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月20日(土)11時24分35秒
- 初恋というのは切ないですね。
そのよっすぃーが帰ってきたということは・・・。
梨華ちゃんの想いは一体・・・。
- 58 名前:もち 投稿日:2001年10月22日(月)23時55分05秒
- 面白いです
ところでLVRさんの過去の作品が読みたいのですが
タイトルなど教えていただけませんか?
- 59 名前:LVR 投稿日:2001年10月23日(火)01時04分14秒
- 相変わらずパソが直らず少し更新が滞るので、レスだけ。
>>57さん
ありがとうございます。
次回は再び現在に戻ります。
確かに、この話の中心は石川さんの気持ちが何処へ行くのかですね。
>>58 もちさん
ありがとうございます。
過去の作品は銀の「グラフィティー」、森の「kind of love」、雪の「風来音」、これでほぼ全部です。
意外と王道のカップリングを書いてたりします(w
- 60 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月24日(水)14時46分12秒
- まるでドラマのような出会いがあったわりに、授業は比較的あっさりと始まった。
これから、また今までのような日常に戻っていくんだろう。
それを楽しいものに変えていけるかは、自分次第だ。
そんなわけで、私、石川梨華は、これまでにないほど張り切っていた。
もちろん、張り切る材料がないわけじゃない。
実は、一年生の世話は、入学式だけではないのだ。
- 61 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月24日(水)14時54分52秒
- 「あれ、矢口さん、お久し振りです」
これからどういう学園生活を送っていけばいいのか、などという名目で、今日も上級
生が一年生の元へ集まる。
そこには当然、矢口さんの姿も。
「おっ、梨華ちゃんもこの仕事やってたんだ」
明るく、屈託のない笑顔を浮かべる。
この笑顔を見れるだけで、仕事をやっててよかったなあと思わされる。
しかも、それは私だけに向けられたもの。
- 62 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月24日(水)14時59分55秒
- 「はい、去年先輩方に優しくしてもらって嬉しかったので、今年は私が優しくしてあ
げたいなって……」
チラチラ上目遣いで見ながら、話す。
とは言っても、矢口さんの方が随分と背が小さいんだけど。
「マジで!? 嬉しいなあ。実は、去年も矢口やってたんだ」
知ってます、といいそうになるのを慌ててこらえる。
それを言って、今の言葉がお世辞だと思われるのは嫌だった。
少なくとも、嬉しかったというのは嘘ではないのだから。
「じゃあ、がんばろっか」
「はい!」
話もそこそこに仕事に戻る。
忙しい仕事が、何故か楽しかった。
- 63 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月24日(水)15時03分50秒
- 始業式から何日か経つと、ごっちんとひとみちゃんは、私が嫉妬するくらいの仲良し
になっていた。
もちろん、私を軸に二人が知り合ったことに変わりはないので、今日も三人で帰る。
「あ、やば」
ごっちんが、いきなり足を止める。
「どしたの?」
「いや、宿題の件で、職員室に呼ばれてた……」
その言葉だけで、私はごっちんが何を言いたいのかが分かった。
- 64 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月24日(水)15時17分30秒
- 「まだやってなかったの?」
「……はい」
ごっちんと宿題。
反発し合う物だってのは分かってるけど、もう休みが終わってしばらく経ってるよ。
明日までにやってきますって言うごっちんの言葉を、朝のホームルームで、何度聞い
たことか。
きっと、そのことで先生に呼び出されたんだろう。
「あっ!」
今度はよっすぃー。
「私も、授業のことで呼ばれてたんだ……」
そっか、よっすぃーは転校生だもんね。
- 65 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月24日(水)15時37分43秒
- ……それにしても、二人とも忘れすぎだよ。
そこで、私は一つのことに気付いた。
「もしかして、私今日一人?」
「「あ……」」
二人とも、忘れてた、というような様子で顔を見合わせた。
その後、二人に散々平謝りされ、渋々二人を見送った。
別に一人で帰るのに慣れてないわけじゃないけど……。
そんなことを考えながら歩いていると、突然誰かに声をかけられた。
- 66 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月24日(水)15時57分10秒
- 「お〜い、梨華ちゃ〜ん!」
聞き覚えのある声に慌てて振り返る。
「矢口さん!」
その人は、多くの友達に囲まれながら玄関に向かっていた。
自分を見る。
横に誰もいないのが、随分と寂しかった。
「あ、もしかして一人?」
いきなり聞かれ、返事に詰まる。
答える言葉は一つしかないというのに。
「……はい」
改めて言葉にすると、やはり少し気が滅入った。
- 67 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月24日(水)15時58分45秒
- 「じゃあさ、一緒に帰ろうよ」
「え?」
突然のお誘いに、体が固まる。
「確か方向一緒だよね」
「でも……」
誘われて嬉しいはずなのに、私は素直に応じれなかった。
だって、矢口さんの周りにはあんなに友達がいるのに……。
「いや?」
「そんなことないです!」
慌てて否定する。
「じゃあ、決まりだね」
そう言うと、矢口さんはにっこり笑った。
そして、私に気を遣ってか、他の友達に別れを告げていた。
- 68 名前:LVR 投稿日:2001年10月24日(水)16時00分57秒
- 今日の更新終了
- 69 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月25日(木)14時47分42秒
- 二人っきりなんて、梨華ちゃんどうする!
- 70 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月31日(水)14時14分31秒
- 矢口さんと二人きりの帰り道。
たしかにずっと望んでいたことではあるけれど……。
「梨華ちゃん、どしたの?」
うつむき加減の私を覗き込みながら、心配そうな顔で矢口さんが尋ねる。
「あ、なんでもないです」
すぐに返事を返したけど、私の表情が暗いことに矢口さんも気付いたのだろう。
ますます心配そうな顔になる。
「もしかして、矢口と帰るの嫌だった?」
今度は不安気な表情。
表情がくるくると変わるのは彼女の魅力の一つだけど、マイナスの表情ばかりさせていることに、胸が痛んだ
- 71 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月31日(水)14時15分52秒
- 「そんなことないです! ただ……」
「ただ?」
チラリと矢口さんの方を見る。
「私といるより、他の子と帰った方が楽しくないですか?」
「何で?」
矢口さんは、心底不思議そうな表情で聞いてくる。
次の言葉は、口に出すのが躊躇われた。
でも、矢口さんは、きちんと理由を言わなければ許してくれなさそうだ。
「それは……」
私は、意を決した。
「もしかしたら、私に気を遣って帰ってくれたのかなって」
それを聞いた瞬間、矢口さんは顔を和らげた。
しかし、すぐにまた険しい表情になる。
「今まで、ずっとそんな風に思ってたの?」
私は黙って頷く。
矢口さんは、そんな私の目をじっと見据えた。
- 72 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月31日(水)14時17分25秒
- 二人の間を、沈黙が包む。
私にとって長い一瞬だった。
そして、その沈黙を打ち破ったのは、矢口さんの高い声。
「バーカ」
意外な一言に、私は呆然とする。
「え? え?」
矢口さんはまだ表情を変えていない。
「矢口のこと、買い被り過ぎだよ。矢口は、嫌なことを進んでやるようなやつじゃない」
「じゃあ……」
私はそこで言葉を止める。
できれば、その一言は矢口さんの言葉で聞きたかった。
矢口さんは、一度息を深く吸い込むと、口を開いた。
「梨華ちゃんと帰れて、嬉しいよ」
そう言って、笑った。
だから、私も笑う。
今、私たちは同じ時間を共有しているんだ。
一緒に帰って、一緒に笑ってる。
- 73 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月31日(水)14時18分00秒
- けど、所詮友達という関係でしかない私たちには、必ず別れがやってくる。
「あ、梨華ちゃんこっちだっけ」
「はい、そうです……」
ここは、私たちがぶつかった場所。
「じゃあ、バイバイだね」
その言葉に、私は黙って頷くしかない。
心なしか、矢口さんの表情も少し陰って見えた。
「それじゃ、失礼します」
矢口さんがどんどん遠くなっていく様を見るのは嫌だったから、私が先に歩き出した。
目の前に続く道が、急に色あせて見える。
- 74 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年10月31日(水)14時18分45秒
- 「梨華ちゃん!」
後ろから聞こえる声に、私はゆっくりと振り向く。
見ちゃうと、ますます寂しくなるのがわかってるのに。
矢口さんは、さっきと同じ場所に立っていた。
「また、一緒に帰ろうね」
「え……? あ、はいっ!」
私は、自分でもびっくりするぐらいの大声で返事をした。
もしかしたら社交事例かなって思ったけど、それでも構わなかった。
私は、矢口さんの口から出た言葉は、すべて信じることにしたんだから。
夕日が眩しい。
そこから目を反らす、そんな名目でもう一度、来た道を振り返った。
もう、そこには矢口さんの姿はない。
ただ、名残惜しそうに、私の影だけが延びていた。
- 75 名前:LVR 投稿日:2001年10月31日(水)14時24分11秒
- 短いけど更新終了。
アイモードが使えなくなって書込できませんでした。
ちなみに、まだ四話は終わってないです。
>>69さん
ありがとうございます。
石川さん、こんな感じになっちゃいました(w
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月01日(木)18時46分15秒
- 急展開ですね。結構いい感じになってきたのでは?
でもよっすぃ−が・・・。
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月04日(日)16時39分56秒
- このままいくってことはなさそうですね。続きが楽しみっす。
- 78 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月05日(月)18時37分23秒
- 「昨日はごめんね〜」
朝教室に着くとすぐ、ごっちんが申し訳なさそうな表情で謝ってくる。
「いいよ、別に」
そう、そんなことはどうでもいいんだ。
だって、昨日は矢口さんと……。
そんなことを考えていると、自然と顔がにやけてくる。
「梨華ちゃん、どうしたの?」
「あ、なんでもない!」
危ない危ない。
自分だけで楽しもうと思ってたのに、いきなりばれちゃうとこだった。
「ま、いっか。今日は一緒に帰れるから、一緒に帰ろうね」
「うん」
自分の席に戻っていくごっちんを、満面の作り笑いで見送る。
その直後、背中に妙な気配が……。
- 79 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月05日(月)18時38分43秒
- 「絶対何かあったね」
「うわっ、ひとみちゃん!」
背後から聞こえた声に、私は飛び上がりそうなほど驚く。
……ひとみちゃん。
私がこういうの苦手なこと知ってて、わざとやったでしょ。
「で、何?」
心臓の鼓動が落ち着くのを待って、私は口を開いた。
「だから、梨華ちゃん絶対何かあったでしょ?」
「え? べべべ…別になにもないけど?」
物凄くしらじらしい口調で返す。
再び、胸を打つ鼓動は早まる。
- 80 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月05日(月)18時39分33秒
- 「だってさぁ、梨華ちゃん、昔っから隠し事があるとき、そんな風に笑うんだもん」
そういって、おかしそうに笑った。
言われて初めて気が付くこと。
そう言われれば、確かにそうなのかも知れないな。
「ごっちんも梨華ちゃんの友達長いみたいだけど、やっぱり私が一番だね」
今度は、満面の笑み。
少したわいもない話をしたあと、ひとみちゃんは椅子から立ち上がった。
「もう、授業が始まっちゃうね」
「あ、そうだね」
というか、とっくに授業は始まっている。
まあ、この授業の先生はいつも来るのが遅いから、特に問題はないんだけど。
- 81 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月05日(月)18時40分19秒
- 「じゃあ、昨日の矢口さんとの話は、帰り道にでも聞こうかな」
「そうだね……って、え?」
慌てて顔をあげると、ひとみちゃんはまだ微笑んでいて、すぐに私の元を離れていった。
……なんで、昨日の矢口さんとのこと知ってるわけ?
ひとみちゃんは職員室に行ってたから、絶対に会わないはずなのに。
そこまで考えて、一つの答えに行き着いた。
ひとみちゃんだからだ。
ちっちゃい頃から知りあいで、私の癖も全部知ってて。
そんなひとみちゃんだから、きっとわかったんだ。
今日の私の機嫌の良さのわけも、矢口さんへの想いの強さも。
なんか、ひとみちゃんには隠し事が無理そうだな。
廊下から聞こえる先生の足音を聞きながら、私はそんなことを考えていた。
- 82 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月05日(月)18時40分52秒
- 「梨華ちゃんかえろ」
授業が終わるとすぐに、ごっちんが私の元へやってくる。
そうだ、今日は一緒に帰る約束をしたんだった。
「あ、うん」
私はすぐに荷物をまとめ、鞄のなかへ入れる。
そうして私たちが帰ろうとしていると、後ろから声を掛けられた。
「私もすぐ行くからちょっと待って」
ひとみちゃんだ。
「わかった〜」
ごっちんが笑顔で声をかける。
でも、ひとみちゃんの目的は……。
その時、ひとみちゃんと目があった。
ひとみちゃんも気付いたらしく、意味ありげに微笑む。
……やっぱり、矢口さんとのことを聞くつもりだ。
私は、憂鬱なような、嬉しいような気持でひとみちゃんを待った。
- 83 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月05日(月)18時41分23秒
- 「でさぁ、先生ったらさぁ」
今日の話題は、職員室での先生のこと。
どうやら、昨日ごっちんは、ずいぶんと絞られたらしい。
その場にいたひとみちゃんがお腹を抱えて笑っているのが、いい証拠だ。
「もう、ちょっと笑いすぎ」!
そういって、ひとみちゃんの肩を叩く。
そんな様子を、わたしは遠い世界のように見ていた。
頭にあるのは、昨日の矢口さんとのこと。
少しだけ切なくて、そしてそれ以上に楽しい時間。
その思考の片隅で、ごっちんの話が終わったら、ひとみちゃんにそのことを聞かれるのかな、何て考えたりしている。
もしかしたら、言いたくてたまらない自分がどこかにいるのかも知れない。
- 84 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月05日(月)18時41分58秒
- 私たちは先生の話で盛り上がったまま、玄関に差し掛かった。
「梨華ちゃん!」
そんなときに聞こえる、一つの声。
「矢口さん!」
昨日と同じようなシチュエーション。
矢口さんの周りには、たくさんの友達がいる。
「梨華ちゃんも帰り?」
ただ、昨日と違うのは、私の周りにも友達がいること。
矢口さんもその友達――ごっちんとひとみちゃん――に気付いたらしく、少し眉を潜める。
でも、すぐにいつもの笑顔になると、またね、と言って手を振った。
私も、少しだけ二人の視線を気にしながら、矢口さんに向けて頭を下げた。
- 85 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月05日(月)18時43分03秒
- 「んあ、いつのまに矢口さんと仲よくなったの?」
ごっちんは表情を少し変えて――たぶん驚いた表情――私に問いかける。
私はごっちんから視線を逸らし、たぶん何か聞かれるんだろうな、と思いながらもひとみちゃんの方を見た。
けど、私の目に映ったのは、曖昧な笑み。
「梨華ちゃん、教えてよ〜」
私の視線はごっちんによってすぐに元の所へ戻されてしまう。
「教えてって言われても……」
「梨華ちゃん、全部話しなさいよ〜」
今度はひとみちゃんの声。
その声の方を向く。
ひとみちゃんはもう、先ほどの表情はしていなかった。
- 86 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月05日(月)18時43分39秒
- 結局、私は家に着くまで同じことを聞かれ続けた。
私は巍然とした態度で、それを断り続ける。
二人が見ていないときに、自然と笑みがこぼれちゃったって言うのは、内緒だけど。
それにしても……。
私には、なぜかひとみちゃんのあの表情が心に残った。
ホンの一瞬だけ見た、あの表情。
もしかしたら、見間違いかも知れないのに。
……けど、本当は知っているんだ。
あれが私の見間違いなんかじゃないってこと。
そして、どんな時に、ひとみちゃんがああいう表情をするかってこと。
ねえ、ひとみちゃん。
隠し事ができないのは、私だけじゃないんだよ。
小さな頃から知ってるのは、私だって一緒なんだから。
- 87 名前:LVR 投稿日:2001年11月05日(月)18時52分27秒
- 新曲聞きながら更新終了。
次回で第四話終わりです。
>>76さん
ありがとうございます。
自分もびっくりの急展開です。
今回の更新で、吉澤さんをようやく出せました。
>>77さん
ありがとうございます。77を自分で踏まなくて良かった。
このまま行くことはないと思います。
予定では八話(予定は本格的に未定)まで続くつもりなので。
- 88 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月06日(火)16時20分15秒
- もしかしたら、毎日、と言っても過言ではないかも知れない。
私たちはいつも三人で帰って、そして、いつも玄関の前で矢口さんと別れの挨拶をした。
端から見れば、幸福な毎日だと思うかも知れない。
でも、現実にはそんなことはなかった。
手が届くほど近くにいるのに、言葉を交わすことしかできない。
それも、一言二言の挨拶。
さらに言えば、何度、もし私が一人だったら、と思ったことか。
そして、こっそりとそう思っては、すぐに自己嫌悪をする。
けど。
「ごめんね、ひとみちゃんと私、文化祭の準備しなきゃ駄目なんだ」
今朝学校に来てすぐ、私はこんなことを言われた。
もちろん即座に、いいよ、と笑顔で返す。
一人で帰るのは寂しいけど……。
それ以上に、もしかしたら、という思いが私の胸に溢れた。
- 89 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月06日(火)16時20分52秒
- そして放課後。
ドキドキと高鳴る胸を押さえながら、玄関へと足早に歩く。
「あれ……?」
自然とそんな声が漏れて出る。
そこに、矢口さんの姿はなかった。
今回のことに過剰な期待をかけていたわけじゃない。
どちらかというと、一緒に帰ろう、と誘われればラッキーと考えていた。
それでも、現実として結果を見せ付けられると、なんだかいたたまれない気持ちになる。
でも、いつまでも落ち込んでるわけにはいかないから。
仕方なく私は、靴を履いて学校を出た。
もしかしたらまだ来ていないだけかも知れなかったけど、わざとらしくなると嫌だったから、矢口さんを待つことはしなかった。
昨日までだって、たまたま帰る時間が一緒なだけだったんだから。
- 90 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月06日(火)16時21分42秒
- 学校を出た途端に、夕日が目に飛び込んでくる。
この間、矢口さんと別れたときに見たよりは、高い位置にある。
この夕日があの日と同じ位置まで沈んでいくのを、一人で見ることになるというのは、憂鬱だった。
その時、私を呼ぶ声が聞こえた。
ごっちんかひとみちゃんかと思い、辺りを見回す。
でも、二人はどこにもいなかった。
「はあ……、空耳か」
なんか、余計に悲しくなった。
もう一度歩き出す。
「梨華ちゃん!」
「え?」
今度は確かに聞こえた。
もう一度辺りを見回す。
……やっぱりいない。
「梨華ちゃん」違い、もしくは新手の石川いじりかと思い、気にしないことに決め、今度こそ帰ろうと思った。
- 91 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月06日(火)16時22分29秒
- 「ちょっと、こっちだってば!」
やっぱり、私?
少し怒声の混じったその声の方を振り向く。
「あ……」
ちっちゃくて気付かなかったけど、校門の脇には、確かに矢口さんが立っていた。
「ちょっと、どうして気付かないのよ」
私が気付くや否や、すごい勢いで迫ってくる。
ちっちゃいからです、と言いそうになる口を慌ててつぐんだ。
「まさか、矢口がちっちゃいから見えなかった、って言うつもりじゃないよね」
ギク。
私の頬を、冷や汗が伝う。
「そそそ、そんなことない……です」
「……メチャメチャあやしいじゃん。ま、いっか」
私がビクビクしているのとは正反対に、矢口さんは笑顔になった。
- 92 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月06日(火)16時23分09秒
- 「再来週の日曜日、暇?」
「え?」
いきなりの言葉に、私は目を丸くする。
どういう意味なんだろう。
何か用事を頼まれるのだろうか。
それとも、こんなことを期待するのはいけないけど、もしかしたら……。
「あ、忙しかったら、無理しなくていいよ」
わたしが黙り込んだのをみて、慌てて矢口さんが次の言葉をつなぐ。
「だ、大丈夫です!」
私も慌てて言葉を返す。
良く考えたら、どちらにしたって断る理由はない。
日曜日は何も予定が入っていないはずだし。
- 93 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月06日(火)16時24分23秒
- 「そう?」
矢口さんが少し安心したような声で、そう言う。
「友達と遊園地に行く予定だったんだけど、何か予定入っちゃったみたいで。一枚余ったから、暇だったら一緒にいけないかなって思って」
いつも以上に早口で言うと、少し照れたようにうつむいた。
「私で、いいんですか」
ネガティブな私の、精一杯の肯定の言葉。
それに気付いたのが、矢口さんはひまわりのような笑顔になる。
「だから、矢口は自分が嫌なことは言わないよ」
「じゃあ、行きます!」
私も、とびっきりの笑顔でそれに答えた。
- 94 名前:第四話 片思いはドラマのように 投稿日:2001年11月06日(火)16時26分32秒
- その後、二人で一緒に帰った。
再来週のことを、まるで明日のことのように、詳しく話し合う。
自然とこぼれる笑みを押さえるのに苦労しながら、私は夕日を見ていた。
少しずつだけど、夕日は確実に高さを下げていた。
それを見ながら、何となく暖かな気持ちになる。
さっきまでは夕日を見るのが嫌だったのに、と自分の気紛れさがおかしくなった。
「どうしたの?」
夕日を見ながらクスクスと笑う私を、怪訝そうな顔で見つめる。
「えっと、夕日は赤いなって」
「なんだよ、それ」
矢口さんは、ますます怪訝そうな表情をする。
それを見ながら、私は再来週の日曜日の予定を、頭で確認した。
手帳を見なければわからないけど、もしかしたら、何か予定が入っていたかも知れない。
まあ、どっちでもいいや。
遊園地より大事な予定は、私にはないんだし、ね。
あの日より低く沈んだ夕日が、やけに眩しかった。
- 95 名前:LVR 投稿日:2001年11月06日(火)16時29分06秒
- 第四話終了。
メールアドレスにおかしな数字が入ってても、気にしないでください。
- 96 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月06日(火)22時56分27秒
- すっごいいい感じですね。二人が近づいてきましたね。ほんといつもどきどきしながら読んでます。
- 97 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月14日(水)20時42分39秒
- すがすがしい太陽の光。
暖房が良く効いていて、暖かい教室。
実は、今日もにやけていたりする。
まあ、しょうがないよね。
だって、矢口さんとデートの約束しちゃったんだし!
「梨華ちゃん、なんか気持ち悪いよ」
そんな私の姿を見て、ごっちんはすごく失礼な言葉を投げ掛ける。
「そんなことないよ〜」
ほっぺを膨らませて抗議するけど、ごっちんは全く意に介さない。
それどころか、ひとみちゃんに同意を求めようとしている。
「明らかに、最近の梨華ちゃん気持ち悪いよね」
うう…、ひどいよぅ。
もしこれで、ひとみちゃんまで頷いちゃったら、私、立ち直れないかも…。
けど、ひとみちゃんの返事は、私達が全く予想もしないものだった。
- 98 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月14日(水)20時46分04秒
- 「え、そうだね……」
そう言って、曖昧に微笑む。
限りなく普通に近かったけど、確かにそれは「曖昧な微笑み」だった。
きっと、私にしかわからないんだと思う。
現に、ごっちんは、ほら〜、とか言って騒いでるし。
「どうしたの、ひとみちゃん」
「え?」
私が突然問いかけたことで、ひとみちゃんは目を大きく見開いた。
「何かあったでしょ」
しばらく無言のまま私を見ていたけど、突然、ふっと笑うと、
「別に何もないよ」
と言った。
私の目には、それすらも無理をしているように見えてしまう。
- 99 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月14日(水)20時46分35秒
- 「え? え? どうしたの?」
そんな私達の様子を見て、さっきまで騒いでいたごっちんが、心配そうな声を出す。
ごっちんは、勘が鋭いところがあるから、私だけが気付くようなひとみちゃんの微妙な変化に気付いたのかも知れない。
「だから〜、何でもないって。それより早く帰ろうよ」
そう言って、鞄を背負う。
「早いよ、ひとみちゃん!」
私も鞄を持って追い掛けようとすると、後ろの方から、あ! というごっちんの声が聞こえてきた。
「今度は、どしたの?」
いい加減疲れた、といった感じの様子で、ひとみちゃんが振り向く。
明らかに、私への当てつけ。
なによ! せっかく心配してあげたのに……。
- 100 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)00時52分57秒
- 「ごめ〜ん、今日どうしても部活に出なきゃだめなんだ」
そういえば、ごっちん部活やってるんだよね。
まあ、もともと不真面目だから、あまり行ってないけど。
「だから、ね」
そう言って、パチンと片目を閉じる。
つまり、一緒に帰れなくてごめん、ということなのだろう。
そういう事情なら仕方ないか。
ちょっと残念だけど。
「わかった。じゃ、行こうか」
ひとみちゃんの言葉に頷くと、ごっちんに手を振って教室を出た。
- 101 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)00時54分25秒
- 二人で歩く廊下。
低い太陽が室内にまで入ってきて、二人の影を地面に、そして壁に映す。
……そういえば、昔もこんな感じだったな。
いつも、二人で並んで、一緒に歩いて。
永遠に続くと思っていた時間。
いつまでも消えない、大切な思い出。
私の、初恋。
「ねえ、梨華ちゃん」
ひとみちゃんが静かに口を開く。
私に再び、懐かしさがこみ上げる。
その容姿、背丈、声は変わったけど、私の名前を呼ぶその優しさは変わっていなかった。
私はいつも、それに安心して寄りかかる。
「……何?」
そのままもたれかかってしまいそうな誘惑に抗い、何とか返事をした。
ひとみちゃんは私をじっと見て、コホンと一つ咳払い。
- 102 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)00時55分22秒
- 「矢口さんの事なんだけど」
ゆっくりと、そう言った。
その言葉を聞いても心が乱れることはない。
私は、自分でも驚くほどに落ち着いていた。
「やっぱり、好きなんだよね」
彼女はそのまま言葉を続けた。
私は何も答えず、黙って話を聞く。
それを肯定と受け取ったのか、ひとみちゃんはさびしげに笑った。
「まあ、それは構わないんだけど」
ちっともそんな風には見えなかった。
少しは、嫉妬してくれているのかな。
不意に自分の考えていたことに気付き、苦笑いをした。
私はいつの間に、ここまで傲慢な人間になったのだろう。
ひとみちゃんにとって私との事は、あくまで思い出のはずだ。
私だってそう。私の初恋は、ひとみちゃんがいなくなったあの日に、終わった。
- 103 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)00時55分53秒
- 「昔、私が言った言葉、覚えてる?」
唐突に、ひとみちゃんがそんなことを言った。
何のことだろう。
あまりに思い出が多すぎて、選びきれない。
「えっと、どの言葉かな?」
そう言った私の言葉を聞きながら、ひとみちゃんは眩しそうに手をかざした。
壁に映る影が、ぐにゃりと歪む。
「梨華ちゃんを、絶対に幸せにするって言葉」
「あ……」
「その気持ちは、今も変わってないよ」
どうしてだろう。
急に胸が苦しくなる。
- 104 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)00時57分18秒
- 「矢口さんは、あなたを幸せにしてくれる?」
私が好きなのは、矢口さん。
「私だったら、絶対に幸せにする自信がある」
ひとみちゃんは、初恋の人。
「もし、矢口さんが幸せにできないようだったら……」
――じゃあ、今私は、ひとみちゃんのことをどう思ってる?
「私が梨華ちゃんを奪い取る」
そこまで言うと、ひとみちゃんは私の元から徐々に離れていく。
そのまま立ち止まった私を残して、玄関のほうへ消えた。
胸の苦しさが増して、私は両手を胸のところまで持っていく。
なんだか、すべてがわからなくなった。
ひとみちゃんの気持ちも、私の気持ちも。
私だけを描いた影は、思っていたよりも複雑に映されていた。
- 105 名前:LVR 投稿日:2001年11月17日(土)01時02分12秒
- 更新終了です。まだ第五話は続きます。
>>96さん
ありがとうございます。
もしかしたら、今回の更新でちょっと離れちゃいましたか?
- 106 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)17時55分31秒
- 「あれ、梨華ちゃんじゃん」
聞き覚えのある声が聞こえて、私は足を止める。
「矢口さん……」
「今日は、一人なんだ?」
そう言って、にこりと笑った。
「さっきまでは、友達と一緒だったんですけど」
ただの友達かどうかはっきりしないけど、と心で呟く。
「あ、もしかして……」
矢口さんの視線が、玄関のほうに動く。
それを見た私は、少し力なく微笑んだ。
「何か、あったの?」
私に注がれる、心配そうな視線。
私は目をそらし、なんでもないです、とだけ答えた。
- 107 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)17時56分01秒
- 「そんなことより」
矢口さんに向かって、できる限りの笑顔を作る。
「再来週のデート、楽しみにしてますからね」
その「デート」という言葉に反応して、矢口さんの顔が赤みを帯びてくる。
こういうところを見ると、やっぱり矢口さんはかわいいなって思う。
容姿も、性格も、今までずっと想ってきたのが、間違いじゃなかったって思えるほどに。
「私も……楽しみにしてるよ」
そう言った後に、また照れる。
それを見て、私は吹き出してしまった。
ますます赤くなる、矢口さんの顔。
「ちょっ…! 笑うことないじゃない!」
それでも私の笑いは止まらない。
しばらくして、矢口さんもクスクス笑い出した。
- 108 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)17時56分34秒
- 「……なんか梨華ちゃん、明るくなったね」
「え、そうですか?」
意外だった。
どちらかというと、自分の気持ちを持て余して、暗い気分でいるというのに。
「うん。明るくなったっていうか……雰囲気が変わったよ」
「雰囲気……?」
そう言えば。
矢口さんを目の前にしても、前ほどに緊張しない私がいる。
これは、慣れたって事なのかな。
「まあ、いいや。一緒に帰ろう」
「あ…はい!」
考えを途中で遮られる。私は慌てて返事をした。
- 109 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)17時58分06秒
- 帰り道。
どこかそわそわした感じの矢口さんを隣に、いつもの道を歩く。
今日で三回目。
だんだん慣れてきて、隣を伺う余裕も出てきた。
でも、どういうことだろう。
矢口さんがこんなにそわそわしているんなんて。
確かに以前は、私のほうが緊張してて、矢口さんの様子はわからなかったけど。
それでも、こんな風ではなかった気がする。
「あの、矢口さん」
別な用事でもあったのかと心配になり、声をかける。
「あ、な……なに!?」
びっくりしたように、大きめの声をあげる。
やっぱりどこかおかしいよ。
- 110 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)17時58分42秒
- 「……何かあったんですか、矢口さん?」
「いや……別に何もないけど?」
白々しい声音で答える。
……絶対何かある。
けど、矢口さんは何も言わないし、仕方なくそのまま歩くことにした。
ともに、無言。
不自然なほどに、長い沈黙が続く。
- 111 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)17時59分14秒
- そのとき、左手の甲に温かい感触が。
いつもならそれだけで幸せな気分になれるのに、こんな沈黙のときには、なんとなく気まずい。
思わずビクリとしてしまった。
けど、ここで意外なことがおきた。
私の隣で、私以上の反応をする矢口さん。
こんなところまでいつもと違う。
いつもなら、こんなこと気にするような人じゃないのに。
でもどうせ、問い詰めたところで、同じような反応をするだろう。
私は少しだけふてくされながら、再びその沈黙の中へ戻った。
- 112 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)17時59分48秒
- もう一度、左手の甲に温かさを感じる。
今度は、何の反応も示さなかった。
反応したところで、この場面を打開できるわけじゃないから。
でも、左手の甲の温かさは、いつもでたっても消えることはなかった。
最初は錯覚かもしれないと思ったけど、間違いない。
一体どういうつもりなのだろう。
私が手をずらさないから、矢口さんもムキになっているのだろうか。
私も少しカッとなって矢口さんのほうを向く。
「ちょっと、矢口さ……!」
- 113 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)18時00分19秒
- その時だった。
今まで微かだった温もりが、手のひら全体に広がる。
「あ……」
思わず、矢口さんの顔を見る。
彼女は、真っ赤な顔でそっぽを向いていた。
つないだその手は離さないまま。
いつのまにか、私たちを包む沈黙は気持ちのいいものに変わっていた。
この世界には私たち二人しかいないような、そんな感じ。
けどそこで、私の頭の中に、外の世界の人物の顔が、浮かぶ。
- 114 名前:第五話 初恋はドラマのように 投稿日:2001年11月17日(土)18時00分52秒
- 私ははっとした。
浮かんだのは、ひとみちゃんの顔。
そこで一つの考えが浮かんだ。
私が矢口さんの前に立っても緊張しなくなったのは、もしかしたら……。
私はその考えを打ち消す。
そんなことはありえなかった。
二人の人を、同時に愛してしまうなんて。
- 115 名前:LVR 投稿日:2001年11月17日(土)18時01分43秒
- 第五話終了
- 116 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月17日(土)18時52分04秒
- 二人ともすきになるなんて。梨華ちゃんはどちらへ。
やぐっつぁんがんばれ!!
- 117 名前:第六話 恋愛はドラマのように 投稿日:2001年11月20日(火)01時56分15秒
- 外は、今日も馬鹿みたいに晴れていた。
そんな中、私は窓際に腰をおろし、陽光を全身に浴びる。
誰も私に声を掛ける人はいない。
当然だ。
今ごろみんなは、理科室で実験でもやっているのだから。
私は今日、初めて授業をサボった。
最初こそ緊張はしたけど、やってみるとどうっていうこともなかった。
今はずいぶんゆったりと、流れる雲を眺めている。
……ただ。
この空ほどには、私の中の気分はすっきりしない。
昨日のことがぐるぐる渦巻いている。
今までこれほど、自分が嫌になったことはない。
もしかしたら、大した事ではないのかもしれない。
そんな考えを抱いてしまうことが、また私を打ちのめす。
とにかく考える時間がほしかった。
矢口さんのこと、ひとみちゃんの事。
そして私の、本当の気持ちのこと。
だから、この授業をサボってまで、教室に残ることを選択した。
- 118 名前:第六話 恋愛はドラマのように 投稿日:2001年11月20日(火)01時57分20秒
- 「梨華ちゃん!」
ドアのところから聞こえる、よく知った声。
「ん、授業は?」
穏やかな口調で答える。
今日みたいな天気には、これくらいが丁度いい。
「もう、授業は、じゃないよ。何かあったんじゃないかと思って、探しに来たんだから」
もう一人が、答える。
「はは、物好きだね」
そう答えた後で、その物好きの一人に心を乱されていることに気付き、思わず苦笑する。
「本当に何かあったの?」
ごっちんが心配そうな表情で尋ねる
「ああ、大丈夫大丈夫」
そう言って、重い腰を上げる。
本当はもう少しこのままでいたかったんだけど、仕方がない。
「本当に?」
なおもしつこく尋ねるごっちんに笑いかけ、私は教室を出ようとする。
その時だった。
急に腕を引かれ、進行方向とは逆を向かされる。
- 119 名前:第六話 恋愛はドラマのように 投稿日:2001年11月20日(火)01時58分00秒
- 「ひとみちゃ……」
目の前には、アップで撮られたような大きさの、ひとみちゃんの顔。
私は何も言えないまま、固まってしまう。
「梨華ちゃんは、昔っから無理するから」
ひとみちゃんの手が、私の額に触れた。
「熱はない……ね」
すぐにひとみちゃんの手は、額から離れる。
「無理しちゃ駄目だよ」
「あ…ありがと」
私は、真っ赤になったまま俯いてしまう。
「どしたの?」
「ううん、なんでもない!」
慌てて私は教室を出る。
横を向くと、ごっちんと目が合った。
少し驚いたような、非難するようなそんな目で、私を見る。
視線が痛かった。
それがいつも一緒にいてくれたごっちんの視線だったから、余計に痛かった。
ねえ、ごっちん。私は、罪を犯したの?
- 120 名前:LVR 投稿日:2001年11月20日(火)01時59分47秒
- >>116さん
ありがとうございます。
石川さんがどちらにつくのか……。
それがこの話の大きなポイントですね。
- 121 名前:名無しどす。 投稿日:2001年11月20日(火)06時48分03秒
…おもろいっす。
- 122 名前:第六話 恋愛はドラマのように 投稿日:2001年11月21日(水)21時44分15秒
- 悩みは抱えていても放課後はくる。
今日も、また矢口さんと会った。
いつもと同じ。
いや、それは間違いかもしれない。
だって、会うたびに、矢口さんとの関係が変わっていっている気がするから。
そんなこんなで、今日の矢口さん。
何かを話し掛けようとして口を開いては、閉じる。その繰り返し。
昨日のことが尾を引いてるんだっていうのは、すぐにわかった。
とりあえず、私から話すことはしない。
矢口さんの前に立って、ただ言葉をかけられるのを待ってる。
ちょっと意地悪かな。
- 123 名前:第六話 恋愛はドラマのように 投稿日:2001年11月21日(水)21時47分55秒
- 「あの…さ……」
ようやく矢口さんの声が聞けた。
でも、その視線は私を捕らえてはいない。
矢口さんらしくなく俯き、矢口さんらしくなく頬を染めている。
こういうのを見ていると、「ああ、私は恋をしているんだな」って思う。
抱きしめたいとか、かわいいって思うだけじゃなくて、それを全部ひっくるめた「恋」っていう感情を抱いている。
やっぱりどうやってみても、私はこの人が大好きなのだ。
「なんか照れくさいよね」
思わず吹き出してしまう。
さんざん時間をかけて出てきた言葉が、これなんだろうか。
でも、初々しいカップルって雰囲気が出てて、悪い気はしなかった。
「ちょっと、笑いすぎ!」
そんなこと言われたって、私の笑いは止まらない。
下校中の生徒が、何があったのかとこちらを眺めながら通り過ぎていく。
「ごめん…ふふ……なさい」
なんか最近、笑ってばっかりだ。
- 124 名前:第六話 恋愛はドラマのように 投稿日:2001年11月21日(水)21時48分25秒
- それからいつものように、初めてのデートの確認をする。
そしてその後、いつもの分かれ道で、またいつものごとく私たちは別れた。
収穫はあった。
私が矢口さんを大好きだっていう、疑いのない事実。
そのことに私は、ほっと胸を撫で下ろした。
けど、問題もある。
じゃあ、ひとみちゃんに感じているあの感情はなんだろう。
矢口さんに抱いているものとは、ちょっと違う気がする。
郷愁の念……なのだろうか。
- 125 名前:第六話 恋愛はドラマのように 投稿日:2001年11月21日(水)21時51分42秒
- 「梨華ちゃん!」
そのとき、私を呼ぶ大きな声が聞こえる。
ばね仕掛けの人形のように、勢いよくその方向に向きを変えた。
すなわち、私の家。
「どうしたの、ごっちん? 珍しいね」
かけがえのない親友。
少なくとも私は彼女のことをずっとそう思ってきたが、家に来ることは滅多になかった。
せいぜい、家に迎えに来るときくらい。
それと……。
なにか、大事な用事があるとき。
- 126 名前:第六話 恋愛はドラマのように 投稿日:2001年11月21日(水)21時53分08秒
- 「ひとみちゃんのことなんだけど」
ごっちんは彼女らしい、単刀直入な物言いをした。
ひとみちゃん……。
私は思わず苦笑する。
やっぱりごっちんは親友だ。
丁度ひとみちゃんのことを考えているときに、その質問をするなんてね。
「一応確認しとくけど、梨華ちゃんは矢口さんのことが好きなわけだよね」
ごっちんの表情は、普段と違い、鋭かった。
その表情のまま、私の返答を待つ。
- 127 名前:第六話 恋愛はドラマのように 投稿日:2001年11月21日(水)21時54分30秒
- 「うん」
私は、できるだけはっきりと答えた。
ごっちんは一瞬頬を緩めたが、すぐに引き締める。
「それは、ラブ?」
「うん」
「じゃあ……」
目を軽く伏せ、一呼吸おく。
「ひとみちゃんは?」
私たち二人の間を、沈黙が包んだ。
ひとみちゃんのこと……私は一体どう思ってるんだろう。
やっぱり、矢口さんへの気持ちとは違うと思う。
けど……。
- 128 名前:第六話 恋愛はドラマのように 投稿日:2001年11月21日(水)21時56分38秒
- 「好きだよ」
ゆっくりと答える。
一字一句、噛み締めるようにしながら。
「それは、ラ……」
「どっちでもいいじゃない」
ごっちんが言い切る前に、私は口を開いた。
ごっちんは少し驚いた顔をしている。
「そんなのは、どっちでもいいじゃない……」
そう、そんなことは、たいした問題じゃないんだ。
例えどんな感情であろうと、私が矢口さんを好きで、ひとみちゃんを好きなことには変わりない。
自分の感情がよくわからなくて、どちらとも好きだというのなら……。
二人の人を同時に愛することを、肯定すればいいだけの話だ。
- 129 名前:第六話 恋愛はドラマのように 投稿日:2001年11月21日(水)21時57分48秒
- 「ねえ、ごっちん」
口元だけで微笑みながら、ごっちんを見る。
憮然としているような、どこかおろおろしているような複雑な表情のごっちん。
「恋愛ってさ、ドラマみたいだね」
面白いほど上手くいく、と付け加えた。
私はそれを言い残すと、バイバイと言って、家の中へ入った。
ごっちんが何を言いたかったのはわかるけど……。
私は、二人を愛そうと決めた。
それですべてが上手くいく。
だって私は、ドラマの主人公なのだから。
- 130 名前:LVR 投稿日:2001年11月21日(水)22時07分48秒
- 第六話終了。
>>121 名無しどす。さん
ありがとうございます。
一言でも感想がもらえるとうれしいです。
そろそろ、佳境かな?
- 131 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月22日(木)02時03分57秒
- 更新お疲れ様です。
どっちをとるんだ?石川は。
微妙なところですね。
- 132 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月22日(木)02時22分42秒
- 石川それでいいのか…って感じです。
性格が最初に比べて、随分変わってきましたね。
LVRさんの話、本当に面白いです。最後まで楽しみにしてます。
- 133 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時05分23秒
- ごっちんに家の前で会ってから数日後。
あんなことを言ってしまったから、友人関係がどうなるのか不安だったけど、変わりなく話している。
もちろん、表面上は、ということだけど。
それでも、側にいてくれるのは嬉しい。
友達が少ないときでも、ごっちんがいてくれたら何とかなったから。
逆に、ごっちんがいなくなったら、と思うと自然と全身に悪寒が走る。
二人を愛する自信すら失ってしまうかもしれない。
そう考えると、ごっちんはある意味、恋人よりも大切な人なのだと思う。
……ふぅ。
最近、こうやって一人で難しいことを考える機会が、多くなった。
以前のように、ただ笑っていられる生活を懐かしくも思う。
でも、これが私の選んだ道。
- 134 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時06分05秒
- 一通り頭の整理が終わって教室に戻ると、ごっちんとひとみちゃんが、なにやら真剣な面持ちで話をしていた。
「二人とも、どうしたの?」
「ん、なんでもない」
ごっちんが答える。
少し、不機嫌な感じ。
「ねえ梨華ちゃん、今度どっか遊びにいこうよ」
それには構わず、ひとみちゃんが会話に割ってくる。
「ん〜、そうだねえ。どこいこっか?」
人差し指をあごに当て、首をかしげる。
もう一人の――矢口さんと出会ったころの私が、私を上から見下ろす。
今、私はどんな表情をしているのだろう。
もし矢口さんが見たなら、一体どう思うだろう。
私は、その考えを心の奥深くに閉じ込める。
いや、大丈夫。
私はきっと、上手くやれる。
私は笑顔を浮かべながら、そんなことを思っていた。
- 135 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時06分53秒
- 「梨華ちゃん、この後残れる?」
放課後になるとすぐに、ひとみちゃんが私の元へ駆け寄ってくる。
「あ、大丈夫だよ。けど……」
私は、矢口さんの事を思い浮かべた。
きっと、玄関で私がくるのを待っているに違いない。
「じゃあ、教室で待っててくれる?」
「うん、わかった」
私は、鞄を持たずに玄関へと向かった。
「梨華ちゃん」
廊下で、いきなり声をかけられる。
急いでいるというのに。
「……何?」
あくせくした動作で、後ろを振り返る。
ごっちんだった。
ゆくっり私の方へ近づいてくる。
- 136 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時08分22秒
- 「ちょっといいかな」
「あ、人待たせてるから、少しだけなら」
真剣な表情のごっちんを、困惑して見つめる。
「時間なさそうだから本題に入るけど、二人を同時に愛するって、本気?」
やはりこの間のことか。
私は思わず、嘆息した。
「その話はもう、決着がついたじゃない」
できるだけ冷たく言い放つ。
でも、今日のごっちんは、簡単に引くことをしなかった。
「私には、梨華ちゃんがそんなことできる人だとは思えない」
それを聞いた私は、皮肉っぽく笑った。
「それは、甲斐性がないってことかな?」
……私は、自分が汚いと思った。
いつからこんな笑いができるようになったの?
そう思いながらも、止めることはできない。
- 137 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時08分56秒
- 「そうじゃなくて!」
ごっちんは周りの生徒を気にせず、大きな声を出した。
「ずっと見てきたからわかる。梨華ちゃんがどれだけ矢口さんを好きかってこと」
私は、何も言わなかった。
「それをごまかして、ひとみちゃんと付き合うなんて無理だよ。賭けてもいい」
「別に、ごまかしはしないよ。矢口さんだって、愛すもの」
結局、私たちの会話は平行線なんだ。
ごっちんが今の私を、昔の私と同じだと思っている限り、ずっと。
ごっちんは悲しそうな表情になり、私の元から離れていった。
ひどく嫌な予感がした。
まるで、何かを暗示しているような。
- 138 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時09分26秒
- 玄関では、やはり矢口さんが私を待っていた。
私の姿が視界に入ると、パッと明るい顔になる。
「今日は遅かったね」
そう言いながら、地面に置いていた荷物を持つ。
「あの……矢口さん」
私は、おずおずと言葉を紡ぐ。
「今日、一緒に帰れなくなっちゃって……それで」
私は上目遣いで矢口さんの表情を伺った。
見る見るうちに、笑顔が曇っていく。
「あ…そ…そうなんだ。うん、わかった……」
「あの、すいません」
私は、必死で頭を下げる。
「いや、別にいいって。……矢口が勝手に待ってただけだし」
- 139 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時09分56秒
- そう言って微笑む矢口さんの顔を見ると、私は胸が痛んだ。
それは、一人で帰らせることへの罪悪感だろうか。
それとも、ひとみちゃんの事で、後ろめたさがあるからなのだろうか。
「じゃあ、また明日ね」
「……はい」
「今週の日曜、楽しみにしてるから」
「はい……、私もです」
それを聞いた矢口さんの目が笑ったから、少しだけ私は安心した。
そのまま、小さくなる後姿を見送る。
……胸が痛い。
どうして。
これが一番良い方法のはずなのに。
一瞬だけ、棺おけに片足を入れている絵が、頭に浮かんだ。
- 140 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時10分26秒
- 急いで、教室に向かった。
まだ、ひとみちゃんはいるだろうか。
そんなことを考えながら走っていると、教室のほうから声が聞こえた。
まだ誰か残っているのかな、と思いドアの窓からそっと覗く。
ごっちんと、ひとみちゃんだ。
ごっちんもいるのか、と思いドアに手をかけたとき、二人の声が緊迫していることに気付いた。
「矢口さんのこと、ひとみちゃんだって知ってるよね」
!?
私の……こと?
「知ってるけど、それが?」
小ばかにしたように、ひとみちゃんが鼻で笑う。
「じゃあさ、梨華ちゃんのこと、諦めてくれないかな」
まさに一触即発、といったムードだ。
だからといって、ここでノコノコと当事者が出て行くわけにはいかない。
私には、成り行きを見守るほか、なかった。
- 141 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時11分21秒
- 「なんで、ごっちんにそんなこと言われなきゃならないの」
さっきまでとは違う、厳しい口調で言う。
私は、こんなひとみちゃんの表情を、見たことがなかった。
「それは……梨華ちゃんが私の親友だから」
少し困った風に言う。
ひとみちゃんはわずかに間を置くと、
「へえ、なるほどねえ」
含みを持たせるように、笑った。
「ごっちんも、梨華ちゃんのことが好きなんじゃないの?」
え……?
私には、ひとみちゃんが何を言い出したのか理解できなかった。
「だから、そこまで私たちのこと……」
「それが?」
今度は、ごっちんが笑った。
「それがどうしたって言うの?」
- 142 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時11分54秒
- 「認めるの?」
驚いた顔で、ひとみちゃんが尋ねる。
「私は、ずっと梨華ちゃんのことが好きだった。でも、矢口さんがいたから、何も言わずにいた。……これで満足?」
それを聞いた私の頭は、真っ白になった。
だから、大きなミスをしてしまった。
ドアにつけていた体がぶれ、音に変わる。
そのすぐ後、私は二人の視線の中にあった。
私が動けないでいる間に、ごっちんはドアの所にまで来ていた。
「あ…あの……」
しかし、ごっちんは目を合わせようとしない。
そのまま、無言で私の横を通り過ぎる。
「ごっちんっ!」
振り向き必死に叫ぶが、ごっちんは何の反応もしない。
- 143 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時12分51秒
- その時、私の肩が叩かれた。
「……よっすぃー」
真顔のまま、私の目を見つめる。
「遊びに行こうって、約束してたよね」
「う、うん」
彼女の意図が読み取れず、私はただ頷く。
「今週の日曜日、映画見に行かない?」
「え……? 日曜日?」
その日は、確か……。
私が断るより早く、ひとみちゃんが次の言葉をつないだ。
- 144 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時14分27秒
- 「まさか、矢口さんと予定がある、なんて言わないよね」
ひとみちゃんはニコリと笑う。
「え、う……うん」
「じゃあ、決まりだね。楽しみにしてるから。バイバイ」
「あ……」
どうしよう。どうしよう。
私の頭の中は、その言葉で埋め尽くされた。
そうだ、こんな時は。
そこまで考えて、私は愕然とする。
こんな時、私はいつもごっちんに相談してた。
けど、今は……。
- 145 名前:第七話 現実、そして 投稿日:2001年11月22日(木)15時14分59秒
- 私は呆然としたまま、玄関へ向かった。
涙がのど元まで込み上げる。
思い切り涙を流したかった。
でも、私はそれをしなかった。いや、できなかった。
一人では、泣くことすらできない私が、そこにいた。
外に出ると、日はとっぷりと暮れている。
そういえば、鞄を教室に置いたままだ。
一度立ち止まるが、すぐにまた家路をたどる。
明日取りに行けばいい。
明日になったら、ごっちんもひとみちゃんも、教室にいるのだから。
――以前のような関係では、もうなくなっているのかもしれないけれど。
- 146 名前:LVR 投稿日:2001年11月22日(木)15時26分05秒
- 第七話一気に終了。次回、最終話。
半分くらい書き終わっているので、更新は早くに出来そうです。
>>131さん
ちょっとナルシストですかね(w
とりあえず、今回の更新で、どちらを選ぶか? という状況は変わったんじゃないでしょうか。
というか、どっち? という感想をいただく度、これを言いたくてたまらなかった(w
>>132さん
性格の変化は、僕も気付いてました。変わりすぎですね(w
でもまあ、徐々に変わっていったとは思うのですが。
でもたぶん、それは表面を取り繕っているだけで、
中身は変わっていない……のかもしれません。
レスのおかげで、ちょっとやる気が出て一気に書き上げちゃいました。
後少し、見てやってください。
- 147 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月23日(金)04時01分49秒
- 更新お疲れでした。
優柔不断な石川、どっちをとるのかは日曜日に決まるってことですね。
この小説はとても気に入ってるので、最後まで見ます。
だからLVRさんも最後までがんばって書いてください。
- 148 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月23日(金)21時12分24秒
- あの夏の恋が思い出に変わる〜♪ってか
ぞくぞくするよ、続き期待
- 149 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月24日(土)00時06分22秒
- 私は、一人ぼっちだった。
あれから、矢口さんも、ひとみちゃんも話し掛けてはくれるけど、それでも私は、一人ぼっちだと思った。
私の近くに、ごっちんがいない。
それが、今の私に突きつけられた、全て。
何故か、毎日が急に色あせた気がする。
だから、休み時間も外の世界を見たくなくて、机の上に突っ伏す。
そんな私の肩に、誰かが触れた。
億劫ながらも、顔を上げる。
- 150 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月24日(土)00時06分53秒
- 「梨華ちゃん……」
「あ……、ご……ご」
ごっちん!
目の前には、確かにごっちんの顔。
それだけで、不覚にも涙がこぼれそうになった。
ごっちんの近くにいるときの私は、驚くほど涙脆い。
「選んで欲しいんだ」
「え……?」
彼女が何を言っているのか、理解できなかった。
それほどに、唐突な言葉。
- 151 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月24日(土)00時07分24秒
- 「この間の会話、聞いてたんだよね」
私は思わず目をそらす。
あの時、もし私があそこにいなければ。
ごっちんが、ひとみちゃんと会っていなければ。
もしくは、あの二人が会うよりも早く、教室に行くことができたなら。
……こんなことにはならなかった。
「日曜日、学校で待ってるから」
それだけを言い残し、私の元を離れる。
私は、ごっちんを抱きしめたかった。
そして、どこにも行かないでって言いたかった。
でも、今の私にはそんな資格はない。
この日も、状況は悪くなる一方で、時間だけが流れた。
- 152 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月24日(土)00時07分55秒
- ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いよいよ、と言っていいのだろうか。
土曜の夜、私は眠ることが出来ずに、天井を見つめていた。
矢口さん、ひとみちゃん……そして、ごっちん。
みんな、私の大切な人たちだ。
――矢口さん。
私の大好きな人。
ずっと憧れていて、話すようになってからはますます好きになって、きっとこれからもずっと好きでいられる。
その思いは、今でも変わっていなくて。
私じゃふさわしくないって思いだけが、ただ募っていく。
――ひとみちゃん。
私の初恋。
あの日に終わっていたと思っていた想いは、私を苦しめる。
別れの日の、大人になりたかったっていう思い。
こんな大人になら、なりたくなかった。
――ごっちん。
かけがえのない親友。
いなくなるって思ったとき、胸が痛んだ。
それは、今までに経験したことのないような、激痛。
あの時確かに、他の事は捨ててでも、ごっちんだけは手放したくないって思った。
- 153 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月24日(土)00時08分25秒
- 私の気持ちは、どこにあるのだろう。
愛してるっていう言葉は、どういうことなのだろう。
宿題は多すぎた。
期限は、明日まで。
きっと、答えは一つじゃない。
でも、私が確かだと思える答えを選ばなきゃ、一生後悔する。
そんな予感があった。
その後も、私の頭の中をぐるぐる回る思い。
いつのまにか、意識は闇に引き込まれていった。
- 154 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月24日(土)00時09分33秒
- ――朝。
今日で、全てが変わる。
きっと、以前の生活には戻れない。
そんなことを考えて、思わず苦笑した。
以前の生活って、一体いつのことなんだろう。
少なくとも、もう全てが変わってしまっていた。
もう後戻りは、出来ないのだ。
私は携帯のディスプレイを見た。
きっと明日には、二つ、使わない番号が出来る。
その番号がなくなった携帯なんて、何か意味があるだろうか、なんて思う。
携帯をベッドに放り投げ、パジャマを脱ぐ。
せいぜい、今日は精一杯おしゃれをしよう。
見せることの出来ない後二人のためにも、精一杯……。
- 155 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月24日(土)00時10分07秒
- 私は、約束の場所へゆっくりと歩いた。
胸が張り裂けそうだった。
本当にこれが正しかったのか。
そんな後悔だけが、ぐるぐると渦巻く。
でも、私は足を止めなかった。
それが最低限の礼儀だと思った。
せめて私だけは、自分の選択に自信を持たなければ。
……そうじゃなきゃ、他の人が納得できっこない。
そして、目的の場所についたとき、一人の少女が目に入った。
サラサラの黒い髪。ほっそりとして、スタイルのいい体。
そこには、ごっちんがいた。
- 156 名前:LVR 投稿日:2001年11月24日(土)00時17分18秒
- 更新終了。後、半分です。
>>147さん
ありがとうございます。
メール欄にかかれた気持ち、わかります(w
とりあえず、全て書き終わりましたので、放棄はありません。
>>148さん
ありがとうございます。後一回で終了です。
おそらく、全ての人が望む形ではないと思うのですが、なるべく明日あたりにアップします。
- 157 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月24日(土)01時20分16秒
- 更新お疲れ様です。
後1回で終わりですか。残念です。
どんな終わり方でも、たぶん読んでる人は納得すると思いますよ。
石川が誰を選んだっておかしくないですから。
- 158 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月25日(日)01時00分50秒
- 「……ごっちん?」
思わず声を掛ける。
きっと私の声は震えている。
どうして……どうして……?
ゆっくりと、ごっちんはこちらに目を向けた。
そして、ニコリと笑う。
意味のわからない私に、さらに追い討ちが。
木の影から出てきたのは、ひとみちゃんだった。
私の目の前には、いたずらな笑みを浮かべた親友が二人。
一体全体、私には何が起こっているのかさっぱりわからない。
- 159 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月25日(日)01時01分33秒
- 「……ごっちん?」
思わず声を掛ける。
きっと私の声は震えている。
どうして……どうして……?
ゆっくりと、ごっちんはこちらに目を向けた。
そして、ニコリと笑う。
意味のわからない私に、さらに追い討ちが。
木の影から出てきたのは、ひとみちゃんだった。
私の目の前には、いたずらな笑みを浮かべた親友が二人。
一体全体、私には何が起こっているのかさっぱりわからない。
- 160 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月25日(日)01時02分33秒
- 「何でここに……?」
「だって、矢口さんと待ち合わせしてるでしょ?」
ね、と二人は顔を見合わせる。
「……知ってたの?」
「後藤を馬鹿にしちゃ駄目だよ〜」
ふにゃっと笑う。
この表情が、ひどく懐かしい。
でも、何が起こったのかということは、よくわからない。
「……なんで?」
「ああ、それは矢口さんの友達からさ……」
「ちょっと待った!」
もう一人、茂みからピョコンと飛び出してくる。
「矢口さん!」
私は、思わず大きな声を上げた。
- 161 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月25日(日)01時03分32秒
- 「ごっつぁん! 言っちゃ駄目だからね」
「え〜、でもなあ」
言い争いをしている二人を尻目に、ひとみちゃんが私の耳元で、そっと囁いた。
「ずっと楽しみだったらしくて、毎日のように友達に言いふらしていたんだって」
「おい、吉澤っ!」
今度はひとみちゃんに詰め寄る。
矢口さん、忙しそう……。
じゃなかった!
まだ何も解決していない。
「そうじゃなくてっ!」
必死に出した声に、三人がぴたっと動きをやめる。
「私、二人と約束してて……」
そう、そのために私はずっと悩んでいたんだから。
- 162 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月25日(日)01時04分08秒
- 「ああ、あれは、ちょっとひとみちゃんに一芝居うってもらったんだ」
「え……?」
私の頭に浮かぶ、ハテナのマーク。
「梨華ちゃんに、自分自身の本当の気持ちを知ってもらうためにさ」
話し合ってるところを梨華ちゃんに見られたときは、ちょっと焦ったけど、と付け加えて笑った。
続いて、ひとみちゃんも口を開く。
「言ったじゃん、私。梨華ちゃんに幸せになって欲しいって。だから、ちょっと試してみた」
私は、聞いたその姿勢のまま、二人を見ていた。
試す……? 誰を? 私を?
じゃあ、じゃあ……。
- 163 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月25日(日)01時04分43秒
- 「ごっちんが私を好きだって言うのは?」
一瞬きょとんとしたごっちんが、声を上げて笑う。
「そんなドラマみたいなことあるわけないじゃない。あれもちょっとからかっただけ」
じわじわと、怒りが込み上げてくる。
「ひっどーい! 本気で悩んだんだからね!」
ひどいひどい。
二人ともひどい。
私が、この一週間、どれだけ悩んだか。
しばらくこの怒りは収まりそうもない。
その……はずだった。
- 164 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月25日(日)01時05分26秒
- 「梨華ちゃん」
ビクリと私の肩が震える。
矢口さんの声を聞いたとたん、怒りが罪悪感に変わっていった。
最も怒らなければいけないのは、矢口さんだ。
私はずっと、矢口さんの前で偽っていた。
矢口さんを、裏切りつづけてきた。
「一応、話は聞いたよ」
静かな声。
私は、背を向けたままその言葉を聞く。
「私って、あまり魅力ないのかな……」
矢口さんは、勤めて静かな調子で言った。
それがますます、私の胸をきしませる。
「そんなことないですっ!」
私は、精一杯大きな声で叫ぶ。
そうでもしなきゃ、この重圧につぶされてしまいそうだった。
「じゃあさ、一つだけでいいじゃん」
「え……?」
意味がわからず、振り向く。
- 165 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月25日(日)01時06分13秒
- 矢口さんは、いつのまにか息も届くほど近くにいた。
ギュッと、私を抱きしめる。
矢口さんは、思っていた以上に、温かかった。
「許して、くれるんですか……?」
自分にも聞こえないくらい、そっと呟く。
「許すよ」
矢口さんは、だって、と続けた。
「矢口は梨華ちゃんが好きなんだもん」
なにか言葉を返したかったけど、無理だった。
息が詰まって、嗚咽にしかならない。
そんな私を、矢口さんはずっと抱きしめていてくれる。
- 166 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月25日(日)01時07分25秒
- 「ねえ、梨華ちゃん」
抱きしめたまま、矢口さんが優しい声を出す。
「ごっつぁんが作ったドラマは、偽者だったかもしれないけどさ」
そこで矢口さんは、言葉を一度とめた。
そっと表情を伺うと、矢口さんの顔は真っ赤だった。
矢口さんが私から、体を離す。
そして、じっと目を見詰めて、言った。
「私たちが出会えたっていう、一つのドラマだけあれば、それでいいじゃない」
そして十八番の、ひまわりのような笑顔。
言葉には出来なかった。
だから、笑顔で返した。
精一杯の、笑顔で。
- 167 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月25日(日)01時08分38秒
- 「賭けは、私の勝ちだね」
右斜め後ろから、ごっちんの声。
「だから言ったでしょ。梨華ちゃんは、二人の人を同時に愛することなんか出来ないって」
ごっちんも笑っている。
ひとみちゃんも笑っている。
「だって、梨華ちゃんは、矢口さんのことが大好きなんだから」
その言葉に、私は泣き笑いのまま頷いた。
そして、矢口さんの胸に顔を埋める。
- 168 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月25日(日)01時09分18秒
- ここ最近の、楽しくて、そして辛い日々。
その中で、私はわかったことがある。
それは、この日々自体が、大切なドラマだったって言うこと。
あまりに不器用で、将来振り返ってみたとき、ふっと笑ってしまうような、そんなドラマ。
でも、きっと確かなものとして残るんだろう。
だって、ごっちんに会えたことが、私は本当に嬉しいから。
ひとみちゃんに会えた事だって、本当に嬉しいから。
そして、わたし達四人がここにいるということ。それは奇跡に近い確率で……。
そんなことを、私は矢口さんの胸の中で、思うんだ。
いつまでも続きますようにって、祈りながら。
- 169 名前:最終話 たった一つのドラマ 投稿日:2001年11月25日(日)01時10分15秒
- ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「梨華ちゃ〜ん、泣き虫だよ〜」
感傷に浸る私にかけられる、ごっちんの声。
その声は、馬鹿にしたようで、優しさに満ちている。
みんなに出会った奇跡。
私がそれを心から喜んでいるって言う事実。
私の中に溢れてる、みんなへの「ありがとう」って思い。
「昔っから変わってないねえ」
「え、昔も梨華ちゃんあんな風だったの?」
「いやいや、こんなもんじゃないよ」
「ええ、どんなんだったんだろう」
「矢口も聞きたいっ!」
「例えばね……」
……やっぱりそれは、言わないでおこう。
いつまでも響き渡る笑い声。
数分後、遊園地の入り口には、彼女たちとの出会いを喜んでいいのか不安に思う、私がいた。
- 170 名前:_ 投稿日:2001年11月25日(日)01時13分16秒
- 本編『ドラマ』
出演
石川梨華
矢口真里
後藤真希
吉澤ひとみ
飯田圭織
FIN
- 171 名前:LVR 投稿日:2001年11月25日(日)01時23分07秒
- 完結です。
皆さんからのレスがなければ、終われなかったかもしれません。
少なくとも、もっと更新が滞っていたと思います。
>>157さん
>どんな終わり方でも、たぶん読んでる人は納得すると思いますよ。
ラスト自体は変えてないんですが、このレスを読んで、もう一度文章を書き直しました。
自分の中に元の文へ不満があって、このままでは期待に答えられないと思ったので。
おかげで、最高の自己満足を体験することが出来ました。ありがとうございます。
- 172 名前:157 投稿日:2001年11月25日(日)01時51分52秒
- 更新お疲れ様です。
俺のレスを見て最後の方を変えちゃったんですか。
余計な時間がかかっちゃいましたね。すみません。
でも、作者さんにとっては役に立ったみたいなので、うれしいです。
最後のほうはすごい意外でした。
てっきりごっちんを選んだと思ってました。
今まで読んだ小説で初めてってかんじです。
この小説には、裏をかかれっぱなしでした。
LVRさん、これからもがんばってください。
- 173 名前:LVR 投稿日:2001年11月27日(火)01時04分58秒
- 少しあとがきなど。
この話は、石川さんの目から見たドラマです。
それ以上でもそれ以下でもありません。
以上です。
読んでいただいた方、ありがとうございました。
>>172 157さん
ありがとうございます。
早く新しいものに取り掛かりたいのですが、
先に完結していない作品を仕上げることになりそうです。
- 174 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2001年11月28日(水)02時10分14秒
- 私の一日はため息から始まる。
授業は上手くいくだろうか。
何か問題は起きないだろうか。
教頭の機嫌は悪くないだろうか。
さらに言うなら、外は晴れているだろうか、電車はすいているだろうか、自転車はパンクしないだろうか……。
つまるところ、私はネガティブなのだ。
この全てを疑問ではなく、断定に出来たならきっと毎日がハッピーになるはずなのに。
そういうところは、自分でも情けないと思う。
少なくとも、私は教える側にあるのだから。
けど。
もう一度ため息をついてみた。
最近、やけに胃が痛くなるようなことが多い。
- 175 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2001年11月28日(水)02時10分45秒
- 実は最近、私の受け持つクラスに転校生がきた。
大学出たての私の元へ転校生をよこすのはどうかと思ったが、本人たっての希望らしい。
幸いにも明るい生徒で、私を悩ませるようなことをしていない。
そこまで考えて、ふと我に返った。
とりあえず家を出ないと、朝会に遅刻してしまう。
私は焦って、部屋を出た。
- 176 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2001年11月28日(水)02時12分01秒
- 授業を無事に終え、職員室に戻る準備を始める。
転校生は……どうやら上手くやっているようだ。
仲のいい友達が出来たらしく、楽しそうに笑っている。
「吉澤さん」
邪魔をするようで悪いのだが、話を遮り彼女を呼んだ。
「はい、なんですか?」
嫌そうな顔一つせず、微笑みながら私の元へ来る。
なるほど、これならすぐにクラスに溶け込んだのも納得がいく。
教師としても、非常に扱いやすい。
「ちょっと今日、職員室に来てくれるかな。面談とかしなきゃいけないの」
その言葉にも彼女は、ハイ、と明るい返事で答えた。
「じゃあ、放課後職員室で」
もう一度ハキハキとした挨拶を返すと、友達の元へ帰っていった。
- 177 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2001年11月28日(水)02時12分48秒
- 帰ろうとした私の視線が、吉澤さんの隣にいた少女とバッチリ会う。
その少女は、マズイ、といった感じで視線をそらした。……が、もう遅い。
「後藤、ちょっと来なさい」
吉澤さんとは正反対に――ひどく嫌そうな様子で私のところへ向かう。
「はーい」
後藤は、私と目線を合わせようとせず、ずっと下を向いている。
「何で呼ばれたかは、わかっているわよね」
「……わかってるよぅ」
人間って、不思議なものだ。
吉澤さんより、こんな後藤のような手の掛かる子の方がかわいいと思ってしまう。
「ごめんなさい」
突然謝られたりすると、なおさらだ。
- 178 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2001年11月28日(水)02時13分32秒
- 「あなたも、放課後職員室に来なさい」
許してしまいそうになるのを必死でこらえ、冷たく言う。
「ええ! 梨華ちゃんと帰る約束してたのに……」
「それは、宿題を忘れてきた後藤が悪い」
そう言うと、後藤はしぶしぶと納得し、ハイと小さく呟いた。
彼女が戻っていくのを見た後、私も職員室へと向かった。
そう言えば、後藤は石川と帰るとか言ってたな。
あの子も手が掛かる子だ。
それは、私が彼女をかわいいと思っていることを意味するのだけども。
彼女の場合、後藤とは逆で、大人しすぎることが問題だったりする。
学業に関することは何も問題はない。
それにしても、あの二人が親友だなんてちょっと意外だな。
まあ、逆だからこそ合うということもあるのだろう。
私も、同じようなものだから。
- 179 名前:LVR 投稿日:2001年11月28日(水)02時15分37秒
- 更新終了。
ただの蛇足ですが、まだ続きます。
- 180 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月26日(水)13時12分57秒
- 続きは…?
- 181 名前:LVR 投稿日:2001年12月27日(木)00時29分07秒
- >>180 さん
すみません。
ただいま雪板のほうに専念しているので、
それが終わり次第更新させていただきます。
- 182 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年01月05日(土)21時03分06秒
- すっかり忘れていたことがある。
実は今日、友達と会う約束をしていたのだ。
偉そうに二人を職員室に呼んだ後では、後の祭りだけど。
「せんせ〜」
ものすごく暗い声音で、私を呼ぶ声。
確認するまでもなく、後藤だ。隣には、吉澤さんもいる。
「先生のせいで、梨華ちゃん落ち込んじゃったよ! どうすんのさ!」
「私は知りません」
大体私はそれどころじゃないのだ。
どうしよう……。怒ってるだろうなあ……。
- 183 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年01月05日(土)21時03分53秒
- 「そんなことより」
私は気を取り直し、真面目な顔を作る。
「宿題はいつまで待てばいいのかな」
「え? あはは……」
途端に苦笑いになる後藤。
「今週中」
「え……?」
仕方がないから、救いの手を差し伸べてやる。
「だから、今週中だけ待ってあげる。それ以上は待たないからね」
「せ…せんせ〜」
うるうるとした表情で、私を見上げる。
そんな彼女に、私は行っていいよと促した。
- 184 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年01月05日(土)21時04分36秒
- 「ありがとね、先生!」
途端、満面の笑顔でかけていく彼女。
果たして宿題をやってくるのかどうかは、すごく不安だけど。
行ったのを確認して、私は吉澤さんに向き直る。
「さあ、面談だけど……」
一応資料の方にも目をやる。
「特に、問題はないわね」
そう言って、微笑む。吉澤さんも膝元に両手を置いたまま微笑んだ。
特に話すことはなかったのだけど、せっかく来てもらっておいてこれだけで帰すのも悪い。
- 185 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年01月05日(土)21時05分06秒
- 「そう言えば、吉澤さんが自分で入りたいクラスを決めたのよね」
「はい」
「どうして?」
その質問に対して、一瞬だけ不思議そうな表情をする。
でも、すぐにもとの笑顔に戻った。
「だって、梨華ちゃんがいるから」
「石川?」
「はい」
まっすぐに見つめてくる彼女の瞳を避けるように私は少し俯いた。
見もしない資料に目を落とし、当り障りのないことを話す。
なぜこんなに焦っているのかわからなかった。
恐らく、昔の知り合いか何かで、知り合いがいたほうがいいと思っただけなのだろうに。
「あ、長くなっちゃってごめんね。もういいよ」
そう声を掛けると、吉澤さんは音が立たないようにゆっくりと席を立った。
「じゃあ先生、また明日」
鮮やかに微笑む。
私は、再び目を逸らした。
- 186 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月11日(金)23時00分31秒
- 先生って誰なんだ???
- 187 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月08日(金)16時28分05秒
- 一気に読みました。
ちなみに、先生というのは出演者の1番最後に名前の出てるあの人なのでしょうか?
う〜ん。続きが気になります。
期待してますのでがんばってください。
- 188 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月19日(金)23時25分37秒
- 待ってるYO!!
コメントしてくれ・・・
- 189 名前:LVR 投稿日:2002年04月24日(水)09時21分44秒
- 更新が遅れてしまって、本当に申し訳ありません。
インターネットが出来る環境が整い次第更新したいと思っているのですが……。
- 190 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月24日(水)13時12分21秒
- 作者さんのネット環境が早く整いますように…
- 191 名前:LVR 投稿日:2002年05月07日(火)00時47分29秒
- どうやら今月末、もしくは来月頭の辺りに環境が整いそうです。
申し訳ありませんが、もう少しだけお待ちください。
- 192 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年06月06日(木)19時11分44秒
- 「ごめんっ!」
待ち合わせの場所に三十分以上遅刻してきた私は、彼女が私に気付くより先に深く頭を下げた。
それを見た彼女は、数秒驚いた顔をした後、いいよいいよとおばさんのような仕草で右手を振って見せた。
安倍なつみ。
高校のときからの私の親友。そして……。
- 193 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年06月06日(木)19時12分42秒
- 「学校で何かあったの?」
彼女――なっちは、鮮やかに微笑みながら小首をかしげる。
テーブルの上のグラスに光が乱反射して、なっちの顔をキラキラと輝かせた。
「はは、ちょっとね」
その笑顔を見ながら、笑顔は趣味だ、と言っていたなっちの言葉を思い出す。
笑うことが好きで、自然と他人も笑顔にさせて。
だから私も、なっち一緒にいることが好きなのだ。
- 194 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年06月06日(木)19時13分13秒
- 「ちょっと〜、圭織はいつもそうやって隠すんだから」
ぷくぅっと膨らませた頬が可愛らしい。
幼い顔をした彼女は、拗ねたような目つきで私の目の奥を覗き込んだ。
その姿を見て思わず笑ってしまった私は、もう既になっちの魔法にかかっているんだろう。
「わかったわかった、教えるから」
安倍なつみ。
高校のときからの私の親友。そして……。
私の、初恋の人。
- 195 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年06月06日(木)20時18分06秒
- 「わかったわかった。実はね…」
途端、すぐに身を乗り出してくるなっちに苦笑しながら、私は言葉を続けた。
「前に転校生の話をしたことがあったっしょ? ちょっとその子のことで」
すると今度は大きな目をまん丸にして驚く。
喜怒哀楽の表情がはっきりしていて、本当に天真爛漫という言葉がよく似合
う。
それは私が持っていないもの。
でも、だからこそずっと親友でいられるんだろうし、そんななっちだから好
きになれたんだと思う。
- 196 名前:LVR 投稿日:2002年06月06日(木)20時30分17秒
- >待っていて下さった方へ
大変申し訳ありませんでした。
まだ更新環境が完全に整いそうにないので、i-modeからの更新となります。
よって、行間の見にくさや、誤字脱字など増えるかとは思いますが、ご了承下さい。
- 197 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年06月06日(木)21時20分44秒
- 「確かさぁ」
そんなことを考えていた私へ、なっちは不思議そうに声をかける。
「圭織前に転校生のこと、いい子だって言ってなかったっけ」
言った記憶はある。
「いい子だよ。いい子だけどさ……」
そこで私は口をつぐむ。
「圭織?」
また、不思議そうななっちの声。
それに、軽く笑顔を見せながら、「最近ちょっとうるさくてさ」と返す。
なっちは、なるほど、と言いながら笑った。
- 198 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年06月06日(木)21時58分05秒
- 一体私は何を言うつもりだったんだろう。
まさか、吉澤さんの笑顔に悔しさを感じて、とでも言うつもり? 自分でも、
何で悔しかったのかわからないのに。
「……圭織?」
私の表情の変化を読み取ったのか、今度は心配そうな声。
私は慌てて笑顔を取り繕う。
「な〜んでもないって!」
好きな人に余計な心配を掛けるわけにはいかない。
嫌われることが怖くて、なっちの前では親友でいることしかできない私の、精
一杯の愛情表現。
何となく、吉澤さんに感じた悔しさの正体がわかった気がした。
- 199 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月18日(火)02時21分31秒
- 作者たん、頑張って
- 200 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月13日(土)17時00分31秒
- 期待してますよ〜
- 201 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月01日(木)18時01分31秒
- 待ってま〜す
- 202 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月10日(土)00時52分05秒
- 「うーん、やっぱり教師ってのも大変なんだねぇ」
なっちが頭をぽりぽりとかきながら言う。
「なーに言ってんのさ。なっちだって今年こそ教員免許取るっしょ?」
前回の教員試験。
私だけが受かってなっちは落ちた。
そのとき、少しだけ後ろめたい気持ちがある私を、なっちは笑顔で送り出し
たのだ。
来年こそ取るからね、って言って。
「まぁねぇ」
曖昧な返事をした後、なっちはえへへとだらしない笑みを浮かべた。
「そう言えば、今日はどうしたの?」
吉澤さんのことで頭が一杯で、すっかり忘れていた。
今日、私は、どうしてもと言うなっちの頼みによって呼び出されたのだ。
私の記憶するところ、今日はそのような話題は出ていない。
「あ、忘れてた」
ぺろりと舌を出して見せる。
「実はねぇ……」
- 203 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月10日(土)00時54分34秒
◇
◇
◇
- 204 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月10日(土)00時55分43秒
- ドアを開けると、窓からキラキラと夕日が零れ落ちてきて、教室全体がセピ
ア色に染まって見えた。
落書きのされた机、見慣れた教壇、白がかった黒板。その中でポツリと佇む
少女。
「吉澤さん」
その声に反応して、彼女は柔らかに振り向いた。
誰もいないはずの放課後の教室に佇む二人。
「あ、すみません。もう帰りま――」
「どうしたの」
彼女の声を遮るように言った。桜の花びらがチラリと目に入った。
「別に……」
別に……の後は何が来るのだろう。そんな顔でなんでもないって言われて、
誰が信じる?
- 205 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月10日(土)00時56分31秒
- 私は、思いつくままを口にした。
「あのね、たくさんのみかんの中にね、一つでも腐ったみかんがあると周りの
みかんは全部腐っちゃうの。それって、すごく悲しいよね。先生も悲しいの」
吉澤さんはきょとんとした後、少しだけ笑う。
「何ですか、それ」
クスクス、クスクス。
静かな教室に、二つの笑い声が重なり合う。
木々のざわめきのように、静かに染み渡った。
「っていうか、腐ったみかんって私のことですか? ひどいです。言ってるこ
と意味わからないし」
- 206 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月10日(土)00時57分56秒
- ゆるやかに、時間は流れる。
チャイムの音に時計を見やると、針は六時半を回っていた。
「先生は好きな人がいますか?」
唐突に彼女が言った。
「うん」
不意に浮かぶなっちの顔。
「……ずっと思いつづけていた人が、いつのまにか遠いところへ行っていたり
したらどうしますか?」
「吉澤…さん」
「あっ、すみません。何言ってんだろ、私…」
珍しく慌てている吉澤さんを視界に捕らえながら、私はなっちのことを考え
ていた。
いつかの、なっちの言葉。
- 207 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月10日(土)00時58分41秒
◇
◇
◇
- 208 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月10日(土)00時59分52秒
- 「そう言えば、今日はどうしたの?」
吉澤さんのことで頭が一杯で、すっかり忘れていた。
今日、私は、どうしてもと言うなっちの頼みによって呼び出されたのだ。
私の記憶するところ、今日はそのような話題は出ていない。
「あ、忘れてた」
ぺろりと舌を出して見せる。
「実はねぇ……」
もったいぶるなっちを、早く早くと急かす。
なっちの飲んでいたレモンティーが半分まで減った頃、彼女は満面の笑みで
口を開いた。
「なっち、結婚することになったの」
「え?」
「教師になるのは圭織に負けちゃったけど、永久就職は私が先だね」
コップに入っていた氷が溶けて、カチャリと乾いた音がした。
目の前がぐるぐると回って、なっちの笑顔がぐにゃりと歪んで見える。
- 209 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月10日(土)01時01分27秒
- なっちは言葉を続けた。
「大学のときから付き合ってた人でね。あ、サークルで知り合ったんだけど」
わたしは何とか相槌を打ち、なっちがそれに機嫌をよくしてまた話す。
「今度圭織にも紹介するね。圭織のことはなしたらさ、彼も是非会いたいって」
「あ…会わせていいの?」
「え?」
「圭織のほうが魅力あるから、その彼コロッといっちゃうかも」
精一杯におどけた顔を作る。
なっちはいつもの二倍くらい頬を膨らませた。目は笑ってた。
「そーんなことないですぅ」
「さぁ、どぉだか」
二人して、声を出して笑った。
どんどん笑いがこみ上げてきて、それはまるで嗚咽のようだった。
- 210 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月10日(土)01時01分57秒
- 「あ、なっちごめん」
私は伝票を持って席を立つ。
「遅れてきといて悪いんだけど、明日の準備があって……」
「あ、いいよいいよ」
そう言って、私の手から伝票を奪い取る。
もう一度奪い返した。
「これは婚約祝い。あんまり我が侭言って、愛想つかされないでよ」
「わかってるよぉ」
バイバイの代わりに伝票をひらひら振って、なっちと別れた。
店を出た後、風が目に染みて空を見上げた。
黒い雲が遠くからゆっくりと近づいてきている気がする。
雨が降ればいいと思った。
そうして全部流してしまえばいい。
さっきの言葉も、なっちとの思い出も、私の涙も。
全部流れた後にはきっと、なっちの笑顔だけが私の中に残るのだ。
- 211 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月10日(土)01時03分33秒
◇
◇
◇
- 212 名前:LVR 投稿日:2002年08月10日(土)01時09分07秒
- >>199 >>200 >>201 さん
本当にお待たせいたしました。
浮気のせいというのもありますが、今日よりバリバリやっていきます。
- 213 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月12日(月)01時49分51秒
- あの時は自分でも驚くくらいに傷付いて。
もちろん今もその傷は癒えてなくて、もし今なっちに誘われても、きっと会
えない。
それでも、この少女を目の前に、私は不思議なほど優しい気持ちになってい
た。
「先生ねえ、ずっと好きだった人がいたんだ。あ、女の人なんだけど」
驚いたように目を見開く彼女に、内緒だよ、と片目をつぶって見せた。
「その人が今度結婚しちゃうんだ。どうしようも出来ないってわかってる。残
念だけど、私には結婚は無理だしね」
自分でも驚いた。
こんなに割り切って考えれるなんて思ってなかったから。
「でも私はその人のことが好きだし、もし少しでも可能性があるなら、きっと
なんかやっちゃうと思うんだよね」
吉澤さんは黙って耳を傾けている。
夕日はもうずいぶん傾いていた。
- 214 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月12日(月)01時50分45秒
- 「先生」
思いついたように、吉澤さんが口を開いた。
「可能性があれば、相手が傷ついちゃってもいいのかな」
「え?」
吉澤さんの口元には曖昧な笑み。
私ではなく、窓の外を見ていた。
「好きな人と一緒になろうとすることが、例えばその人を傷つけるかもしれな
いとして……、上手く言えないけど」
気にしないでください、と吉澤さんが言った。
気にするよ、と私は返した。
「吉澤さんは、一緒にいたいんでしょ?」
無言のまま頷いた。
今日はいつもより素直だ、横顔を見てなんとなくそう思った。
- 215 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月12日(月)01時51分33秒
- もし私がなっちを奪える可能性があったとして。
吉澤さんの話を聞いて、ふとそんな考えが頭によぎった。
きっと、奪うためには何らかの犠牲が伴うだろう。
それは、私たちの生活そのものであるかもしれないし、なっちの笑顔である
かもしれない。
「私はどうしたらいいですか?」
室内に視線を戻した吉澤さんと目が合う。
迷っていた。
「吉澤さんは、その……」
不意に、石川の笑顔が浮かんだ。
「彼女を奪ったとき、彼女が傷つくと思うの?」
「彼女?」
「あ、私がそうだからって、吉澤さんが好きな相手が女の子ってことはないよ
ね」
- 216 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月12日(月)01時52分04秒
- 吉澤さんは、クスリと笑った。
「彼女であってます」
「あ、うん」
「きっと、傷つくと思います」
はーあ、と大きなため息をつくと、笑みを崩さずに言う。
「彼女、相手のこと、本当に好きみたいだから」
潔い口調で少し自嘲気味に話す。
それを聞いて、私も自分の境遇を思った。なっちのことを思った。
結婚することになったの。そう言った彼女の笑顔。
「さっきの質問の答えだけど」
「え?」
「相手を傷つけちゃっていいのかなってやつ」
「はは、何かと思ったら」
もう一度、今度はなっちの笑顔を思った。
「私は無理。だって、私は彼女の笑顔が大好きだから」
吉澤さんは、あははと笑った。
「じゃあ私も無理です。だって、梨華ちゃんの笑顔が大好きだから」
- 217 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月19日(月)23時21分54秒
- 外は思った以上に暑かった。
風は春の訪れを告げるわけでもなく、どこか梅雨の匂いを含んでいたし、桜
の花もずいぶんと散ってしまっている。
それでも、春という季節は私の心を不思議と躍らせた。
「今日はお礼が言いたくて」
微笑を浮かべ、吉澤さんはそう言った。
「お礼?」
「はい」
口一杯にベーグルパンをほおばりながら、ウンウンと頷く。私はもう一度お
茶を手渡した。
「先生のおかげで、本当に大事なものがわかりました」
彼女はまた、いつかのように真っ直ぐ私を見詰めた。
今回は私も、そこから視線を逸らさない。
- 218 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月19日(月)23時23分19秒
- 私は、彼女の真っ直ぐな瞳の中に決意を見た。
彼女が好きなもの。そして、それを守るために失わざるをえなかったもの。
「いいの?」
「梨華ちゃんの笑顔が大好きですから」
私の疑問に、彼女は飾りのない言葉で答えた。
「それで……」
言いよどむ彼女に視線を送り、次の言葉を促す。
「出来れば、先生にもその日来てほしいんです」
「私が?」
「ハイ、……駄目ですか?」
少しの間思案をめぐらし、もう一度彼女を見て笑った。
「いいよ、見届けてあげる」
「ありかどう、ございます」
それに対して、彼女は少し曖昧に微笑む。
彼女は私に伝えることで、最後の一歩を踏み出した。もう戻ることは出来な
い。
一瞬だけまつげの先が揺れたから泣いたのかと思ったけど、やっぱり彼女は
微笑んでいた。どうやら、私の思い違いのようだった。
- 219 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月19日(月)23時25分25秒
- 日曜日、私は何故か遊園地の前にいる。
なっちに、彼を見せたいから、と言って誘われたのだけど、こちらの約束を
選んだ。
吉澤さんと後藤と矢口さん。その三人からは見えない位置で、様子をうかが
う。
「じゃあ、ごっちん私たち隠れてるから」
吉澤さんの声。
「まかせて〜」
いつもより少しだけ緊張した面持ちで後藤が言うと、私の位置からは後藤し
か見えなくなった。
ほどなくして、見慣れた影が後藤のもとに歩み寄ってくる。
「……ごっちん?」
少し戸惑った風に石川が言う。
それを見た後藤がニコリと笑うと、ちょうど私と石川の死角となっている木
の影から吉澤さんがピョコリと顔を出した。
- 220 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月19日(月)23時26分30秒
- 「何でここに……?」
「だって、矢口さんと待ち合わせしてるでしょ?」
「……知ってたの?」
「後藤を馬鹿にしちゃ駄目だよ〜」
ふにゃりと笑った。
後藤は相変わらず、石川のこととなると途端に表情を崩す。
その笑い方はなんとなく、私がなっちに向けるものと似ているような気がし
た。もちろん、私はこんなに気を許したような笑顔は見せられないけど。
「……なんで?」
「ああ、それは矢口さんの友達からさ……」
「ちょっと待った!」
三人目が、私たちの死角から飛び出してきた。
「矢口さん!」
石川が驚きのあまり叫ぶが、それをさえぎるように矢口さんがずいっと前に
出てきた。
「ごっつぁん! 言っちゃ駄目だからね」
「え〜、でもなあ」
それを尻目に、吉澤さんが石川の耳元で何事か囁く。
「ずっと楽しみだったらしくて、毎日のように友達に言いふらしていたんだっ
て」
「おい、吉澤っ!」
まるで舞台に上がった役者であるかのように、所狭しと駆け回る矢口さん。
一瞬彼女達の置かれている状況を忘れて、腹を抱えて転げまわりそうになっ
てしまったけども。
- 221 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月19日(月)23時27分19秒
- 「そうじゃなくてっ!」
石川が必死に出した声に、私を含めた四人がぴたっと動きをやめる。
「私、二人と約束してて……」
「ああ、あれは、ちょっとひとみちゃんに一芝居うってもらったんだ」
「え……?」
石川の頭の上には、私のところからでも見えるような、でっかなハテナマー
ク。
「梨華ちゃんに、自分自身の本当の気持ちを知ってもらうためにさ」
話し合ってるところを梨華ちゃんに見られたときは、ちょっと焦ったけど、
と付け加えて笑った。
続いて、吉澤さんも口を開く。
「言ったじゃん、私。梨華ちゃんに幸せになって欲しいって。だから、ちょっ
と試してみた」
一瞬だけ私の隠れている先に目をやり、最高の笑顔でそう言ってのけた。
いつかの彼女とは違うふっきれた表情に、私の口元にも自然と笑みが広がる。
ねえ、石川。あんた、本当に幸せもんだよ?
だって、こんなたくさんの人に愛されてるんだからさ。
- 222 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月19日(月)23時28分01秒
- 「ごっちんが私を好きだって言うのは?」
後藤は少しだけ間を置き、一気に言葉を発した。
「そんなドラマみたいなことあるわけないじゃない。あれもちょっとからかっ
ただけ」
いつものようにふにゃっとした、それでいて少し戸惑いのある笑みを見せる。
「ひっどーい! 本気で悩んだんだからね!」
そんな二人を見て、ぷんすか怒り出す石川。
私はいつもと雰囲気の違う彼女に苦笑しつつも、話に加わっていなかった三
人目のヒロインに目を移した。
「梨華ちゃん」
ビクリと石川の肩が震える。
「一応、話は聞いたよ」
穏やかな彼女の声は、先ほどの二人の不自然なまでの明るさと綺麗に対比さ
れ、深く心の奥へ染み渡っていった。
石川は、振り向けない。
「私って、あまり魅力ないのかな……」
矢口さんは、変わらぬ声の調子で言った。
ひどくシャープな響きだった。
- 223 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月19日(月)23時29分22秒
- 「そんなことないですっ!」
石川がありったけの声で叫ぶ。
石川の背中のほんの少し先で、矢口さんは優しく微笑んだ。
「じゃあさ、一つだけでいいじゃん」
「え……?」
石川が、振り向く。
その隙に、矢口さんは石川の中に体を埋めた。
何事か囁きあった後、石川の瞳から雫が零れ落ちた。
「ねえ、梨華ちゃん、ごっつぁんが作ったドラマは、偽者だったかもしれない
けどさ」
矢口さんは石川の目と同じくらいに頬を真っ赤にさせる。
そして、体を少しだけ離すと、柔らかな声音で囁いた。
「私たちが出会えたっていう、一つのドラマだけあれば、それでいいじゃない」
- 224 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月19日(月)23時30分06秒
- 遠くの方で後藤は吉澤さんに目を向け、石川には見せないような大人びた笑
みを浮かべた。
吉澤さんもそれに苦笑で返し、後藤はやれやれといった風なジェスチャーを
して二人のもとへ近づいた。
「賭けは、私の勝ちだね」
二人だけの世界に入っていた石川の肩が、ピクリと揺れる。
「だから言ったでしょ。梨華ちゃんは、二人の人を同時に愛することなんか出
来ないって」
後藤も笑っている。
吉澤さんも笑っている。
「だって、梨華ちゃんは、矢口さんのことが大好きなんだから」
その言葉に、石川は泣き笑いのまま頷いた。
そして、矢口さんの胸に顔を埋める。
それを見て、後藤と吉澤さんは、もう一度顔を見合わせて笑った。
石川。あんたにはわからないだろうね。
あんたの周りに、もう一つのドラマがあったこと。
あまりに不器用で、将来振り返ってみたとき、ふっと笑ってしまうような、
そんなドラマ。
でも、きっと、彼女たちの中には確かなものとして残るんだろう。
だって、矢口さんと一緒にいるときのあんたの笑顔は、私の目にだって美し
く輝いて見えたから。
- 225 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月19日(月)23時30分40秒
- ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「吉澤さん、よく頑張ったね」
「……っ」
夕暮れの遊園地にいつまでも残る、彼女の嗚咽。
真珠のような雫が、彼女の足元に零れ落ち、いつか花咲かせるときを待って
いた。
多分、これは私の予想だけど。
きっとどっかの誰かさんも、今ごろ家で枕かなんかに大きなしみを作ってい
て、それでいて明日の朝には石川の前であのふにゃっとした笑顔を見せるのだ
ろう。
「先…っ…生……」
「……うん?」
「やっぱり…さ……梨華ちゃんの笑顔見ちゃったら…っく……駄目だよね…」
「……うん」
いつまでも零れ落ちる彼女の涙。
明日、なっちに会いに行こうと思った。
- 226 名前:もう一つのドラマ 投稿日:2002年08月19日(月)23時31分14秒
- 外伝『もう一つのドラマ』
出演
飯田圭織
吉澤ひとみ
後藤真希
石川梨華
矢口真里
FIN
- 227 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月20日(火)03時11分41秒
- 完結おめでとうございます。
同じ話を違う視点で見れるってイイですね。
自分としては、意外なとこもありました。とても面白かったです。
次回作も期待してます。
- 228 名前:LVR 投稿日:2002年08月27日(火)01時49分48秒
- >>227 さん
ありがとうございます。
ドラマ(本編)のあとがきで書いたことは表現できたかな、と思っています。
とは言え、ちょっと展開を急ぎすぎました。文章に見える風景が綺麗じゃない。
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