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彼女達の立ち方
- 1 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)00時29分40秒
- 新作、書かせてもらいます。
おぼろげに話の筋は考えていますが突発的に近い小説なので
どういう風になるのか自分でも分かりませんがよろしくお願いします。
感想などありましたらなんでもレスください。
それでは始めます。
- 2 名前:JAM 投稿日:2001年10月17日(水)00時36分24秒
- AKIさんの新作ッスか〜。楽しみです〜!
やっぱりカップリングはあの二人ですか?
- 3 名前:プロローグ 〜あの人との出会い〜 投稿日:2001年10月17日(水)00時39分21秒
私を変えたあの人との出会い
それは夏のある日のことだった
- 4 名前:プロローグ 〜あの人との出会い〜 投稿日:2001年10月17日(水)00時53分25秒
- 灰色の雲から冷たい雨が降り注ぐ。
昼間は雲一つない晴天だったが今は夕方。
哀愁を漂わせていた夕日を重い雲が覆いまもなくして雨は降り出した。
突然の降り始めた雨に町を行き交う人々は足早になり
それぞれの目的地へと向かっていく。
しばらくすると雨は本格的な物になりそれは大地を忙しなく叩き始める。
うるさいほどの雨の音は町を行き交う人々の足を余計に早いものにさせる。
ある人は手を額の辺りにかざし、ある人は鞄を頭の上に持ち。
店に駆け込む人やそのまま目的の場所へ走っていってしまう人。
少女はただぼんやりと雨を降らせる灰色の雲を見つめていた。
傘も差さず、雨から逃れようとせず、ただ雨に打たれ見つめていた。
少女の瞳にはその重たい雲の姿は映っていなかった。
その先のずっと向こうを、彼女は見つめていた。
- 5 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)00時57分54秒
- 2:JAMさん
>さっそくのレスすごく嬉しいです。
カップリングはご想像通りになりそうです。
楽しみに答えられるように頑張りますよ〜。
それにしても久々にこういう感じの小説ぶっつけ本番で書いたらかなり
時間掛かっちゃいました。
月の方は気楽にいけるんですけどね・・・^^;
- 6 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時28分11秒
- 少女はどこへ行く当てもなくただ街を歩いていた。
ただゆっくりと。
どこかへ行く必要がないのなら止まってしまえばいい。
歩く事なんか止めてしまえばいい。
だけど私は足を止める事が出来なかった。
周りは私のすぐ横を追い抜いていく。
後から後から止め処なく。
どんなに遅くても歩くのを止める事はできなかった。
止まってしまったら最後、私という一人の人間だけしか存在しない別の世界へ
送らされてしまいそうだったから。
後少しで止まりそうになる足を必死に後一歩、そしてまた一歩と
前に出す。
悪あがきだって分かってた。
馬鹿みたいだとも思った。
必死に自分とは合わない世界に自分からすがり付こうとしているのだから。
- 7 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時32分22秒
- だけどその努力もすぐに空から降ってくるそれにかき消された。
冷たい感触を頬に受け、私は空を仰ぎ見た。
灰色の雲が、いつもまにか夕日をも飲み込み大粒の雨を空から降り注いでいた。
街には雨の躍る音が響き人々は更に目まぐるしく行き交い始めた。
そしていつのまにか私の足もその雨に止められていた。
必死に重たい足を動かしていた私の努力は、ここでかき消されたのだ。
傘も差さず、走る事もせず、ただ雨に打たれ濡れていく自分を
気にとめる人など人などいない。
前々から気が付いていた。
そして目を背けていた。
- 8 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時33分25秒
- 必死に動こうとしていた。
だけど今初めて止まった。
ただ呆然と雨の中立ち尽くす。
何も考えず、いや何も考えられなかった。
頭の中はただ真っ白で。再び動き始める事なんて無理だった。
そして今初めて怯えていたことに対峙する。
ただ立ち尽くす私のすぐ横を人々が走り抜ける。
それはまるで自分だけ違う世界に追いやられたような感覚に似ていた。
周りはビデオの早送りのように凄まじいスピードで過ぎていく。
その状態で時間が止まり、私だけが取り残されていた。
気付いていた。
そして今始めてそれを感じた。
- 9 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時34分03秒
- それは思っていた通り居心地が悪くて、気持ちが悪い。
吐き気がするほど。
雲は徐々に低い唸り声をあげ雨と共に雷の存在の雰囲気も漂わせる。
少女は必死に体を動かした。
そしてビルとビルの間の暗い路地に入った。逃げるように。
いつまでもこの空間の中に居たくなかった。
路地を作る二つのビルはどこか古ぼけていて両方とも7回ぐらいの高さのビルだった。
幅は、わずか2m弱ほど。
だけど通りよりこちらの方が断然少女には良かった。
- 10 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時34分44秒
- 微かに、締め付けられていた胸が楽になる。
雨は弱まることなくリズム良く振りつづけ地上に潤いを与える。
もう洋服の中まで雨は浸透し始めていた。
自分の肩を抱いて路地を少しだけ進む。
そして、目に映るのは向こうの通り。
わずか2m弱だが路地を抜けた向こうの通りでもこちらと同じように人々が
忙しく行き交う様が目に映った。
「・・・・・・・・」
少女は足を止めた。
もう歩けなかった。
- 11 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時36分42秒
- 分かっていた。
ただの一時凌ぎだとは。
ただ一瞬だけでも逃れたかった。
まるで自分だけが取り残されていくような感覚がとてつもなく怖かった。
少女は目を瞑った。
闇にはただ自分一人。
あんなに怖かった一人も、追い立てる周りの人間がいなければ
そんなに怖い物ではなかった。
だけど無情にも届く人の足音、雨の忙しない音。
- 12 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時37分21秒
- 目を閉じても無駄だった。
本当は、どこかでそれも分かっていた。
どうして、自分だけこんな気持ちなの?
どうして私はここにいる?
私は、一体どこに行ったらいいの?
だれか私を必要としてくれる人は、果たしてここにいるの?
どれも答えは出てこない。
雨は私の体を濡らし、冷やしていく。
- 13 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時38分26秒
- 雨さえも私を独りに?
どうして?どうして・・・・。
いつのまにか私は地面に崩れ座り込んでいた。
そして目を瞑りながら返ってこない質問を私は何かに問い掛けていた。
私は目を開き雨の降り注ぐ空を仰ぎ見た。
灰色の雲から無情にも雨は降り注ぐ。
どうして・・・?
雨はただただ私の体を濡らしていく。
答えがないことは知っていた。
そして何の返事も返ってこない事は疑問に感じる以前から分かりきっている事だった。
少女は俯いた。
もう立ち上がることも出来ない。
そんな時、彼女に出会ったんだ。
- 14 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時39分11秒
あなたは何を思う?」
突然した声に私はびくっと反応しすぐに顔をあげた。
目の前には少女が立っていた。
たぶん私より一つか二つ、年上の。
ショートカットのどこかボーイッシュな感じの人だった。
私はすぐに返事をすることが出来なかった。
目の前の少女は答えを返さない私の目をただ真っ直ぐ見つめている。
その瞳は嫌なものじゃなかった。
むしろどこか癒される―――――
- 15 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時40分37秒
- 「・・・・・別に。」
嘘。
本当はこの胸全体に占めつけられる想いを今抱えてるくせに。
「そう・・・・・」
人と直接話したのは久しぶりの事だった。
何か、不思議な感じだった。
路地を抜けた向こうの通り、そしてさっきまでいた通りでは未だ人々が
忙しく目まぐるしく行き交う。
だけどここだけはそれから切り離された別の空間のようだった。
こうなる事を恐れていたのに、その空間の中に自分以外の目の前の少女がいるだけで
それはとても居心地の良い物に変わっていた。
今会ったばかりなのに少女と私は同じ空間を共有しているように感じた。
そしてそれは全く違和感がない。
- 16 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時41分25秒
- とても、気持ちが良かった。
自分とは合わない空間に無理して合わそうとする必要がなかった。
孤独感、疎外感というものがなくそれはこの空間から取り除かれていた。
ただこの空間にはここだけの時間が流れていた。
二人は静かに見つめあっていた。
しばらくの間、ずっと。
あれは長いものだったのかもしれない。
だけど長いとは感じなかった。
耳に未だ雨の音が届く。
だけどそれはただの『音』としてで今さっきのような感じがない。
この不思議な感じに私はただ呆然としていた。
- 17 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時42分46秒
- 「あなた・・・・一体・・・・」
言葉が自然と口から漏れた。言うか言わないか考える前に。
「気持ちいい?今流れるこの時間。」
目の前の少女は私の質問には答えず思ってもいなかったことを口から発した。
「え・・・・?」
「もしあなたも私と同じように感じているのならおいで。」
そう言うと彼女は静かに右手を私に向かって差し出した。
「・・・・・・・・」
何を言っているのか頭では分からなかった。
だけど、耳にから入ってきたその言葉に私の体は反応した。
この時の私は不思議と落ち着いていた。
「あなたが、必要なの。」
彼女が私の目をみつめそう言ったと同時に、私は無意識に近いほど
に彼女の手を握っていた。
- 18 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時44分10秒
- もう、あの空間には戻りたくなかった。
今さっきまでいたすぐそこには。
雨は降り続き通りの向こうではさっきと変わらず人々が行き交う。
路地で佇む私たちに気付くことなく。
まるでここだけ別の時間が流れているようだった。
これが、私と彼女の出会い。
あまりにも突然ではたから見ると単純な出会い。
だけど、それは私の全てを変えた。
もう今までいた空間には戻りたくなかった。
別の、どこか違う場所へ行きたかった――――――
- 19 名前:aki 投稿日:2001年10月17日(水)18時46分13秒
- 今日の更新はここまでです。
あぁ・・14のところ最初「 が抜けてます・・・。
しかも今日の更新のところ全部名前のところ書き直すの忘れちゃったし・・・。
- 20 名前:aki 投稿日:2001年10月18日(木)18時48分28秒
- 午前9時37分。
今日も本当は学校に行かなくてはいけない時間をゆっくりと寝過ごし
私はいつものように慌てず制服に着替え学校へ向かっていた。
別に学校などサボってもいいのだが、行く当てもないのでただ
行っているだけ。
高校二年。
某有名私立女子高校に通う石川梨華はのんびりとした歩調で学校へ向かっていた。
通う私立高校は東京でも結構名が通っている有数私立学校。
しかし本人はそんなこと気にせず高校受験を受け、受かったので通っていた。
「はぁ、毎日毎日面倒くさいなぁ、学校。」
ため息をつき家から最寄りの駅までの道をのんびり歩きながらあたしはそうぼやいた。
- 21 名前:aki 投稿日:2001年10月18日(木)18時49分41秒
- いつもいつも同じ日々の繰り返し。
それにいい加減嫌気がさしていた。
学校に何ために行ってるのかさえも分からない。
ただ行って授業受けていれば進学学校のため良い大学は狙えると
周りの人は言うが大学なんてさらさら興味ない。
良い大学行って、良い仕事ついて、それでどうなっていくの?
ありふれた生き方をするなんて吐き気がする。
結婚して、子供産んで・・・?
まるであらかじめ敷かれたレールの上をただ歩いているような気がして
本当に気持ち悪くなる。
つまらない。
繰り返す同じような日々。
くだらない毎日。
- 22 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)18時54分08秒
- 「もう、ほんとヤダ。」
だけどそれにしがみ付く自分。
抜け出す勇気はなくて同じような愚痴を零しながらただ居座っている。
結局はそれが楽だから自分からは動き出さないでいた。
それに対しても自分の事ながら腹が立ってくる。
石川はただでさえ遅刻しているのだが今日は特に遠回りをした。
電車には乗ったのだがいつも学校に行くために降りる駅で降りず
その先まで乗り越したのだ。
「どうせ遅刻してるんだから急いでいかなくてもこの際同じでしょ。」
そう自分の行動に理由をつけてあたしは両腕を上げて伸びをした。
学校の最寄りの駅から二つ乗り越すだけで平日でも人がいる繁華街に
来れる。
あたしは制服のまま街をうろついた。
学校に行かず街をぶらつくのは今日が初めてじゃない。
こんなこと続けていたら学校を辞めさせられるだろうけど
そんなことはとっくに承知の上だ。
止めさせるつもりならとっとと止めさせればいい。
- 23 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)18時54分57秒
- ありふれた楽な生き方に反抗しながらも従っている自分へちょっと
したスリル。
実際に止めさせられたらその時はその時だ。
むしろ人とは違う道を歩めそうでそれもいいかもしれない。
結局は全部人任せということにこの時のあたしは気が付いてなかった。
もしかしたら心のどこかで分かっていたのかもしれないがあたしは
それから目を背け同じ日々に抵抗し反抗する自分に酔いしれていたのかもしれない。
自分から変えようとする勇気がなくてくだらない毎日を本当は壊せないで
いる自分のことを、必死に知らないふりしてた。
- 24 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時00分28秒
- ただ街をぶらついてた。
CDショップに入ってみたり本屋に入ってみたり。
ウィンドウショッピングなど全て見るだけ。
気付けば時刻は午前10時20分を軽く廻っていた。
今日はいつもと同じ、「暇つぶし」をしていたはずだがいつもより
多く時間が掛かっていた。
今いるこの場所から駅まで結構な距離がある。
別に急いでなどいないが石川は今日はいつもと違う道を歩く事にした。
いつもは表通りを通り街を散策しているが帰り道は裏通りを通って行くことに決めた。
- 25 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時03分27秒
- 「うわ・・・・・。」
すぐそこのわき道から裏通りへ来てみたが思っていた通り、いやそれ以上そこは
柄の悪い通りだった。
この街自体が若者メインの繁華街のため裏通りはなにやら怪しい店に
小さな居酒屋などまるで表とは正反対の雰囲気だった。
有名私立女子高校の制服のままこんな道を通るのもどうかと思ったが
来た手前引き返すのも嫌で石川はそのまま駅に向かう事にした。
幸い午前中のためこの辺は人の姿はあまり目に付かなかった。
少し足早で通りを行く。
そしてやっと通りの向こうの駅前が目の前に開き始めた時、
「あれ?あの制服有名な〇〇女子高校のじゃん?」
「ん?あ、本当だ。超かわいいじゃん。」
そんな若い男二人の声が後ろからして石川はびくっとした。
気付かないふりをしてそのまま裏通りを後にしようとする。
- 26 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時06分18秒
- 「ねね、待ってよ。」
「・・・なんですか?」
後ろから一人の男に腕を掴まれ石川はそちらに向かされた。
すぐに自分の腕を掴むその手を石川はあからさまにばっと振り払った。
「学校終わったの?それともサボり?」
「・・・なんでそんなこと聞くんですか?関係ないでしょ。」
「ごめんごめん、どっちでもいいからさ。ね、遊ばない?」
もう一人の男が前の男を退かせ機嫌を取るように陽気な感じで誘った。
「嫌です。これから学校なんで。」
別に学校に行かなくちゃと思うほど優等生でもない自分がこういう時に限って
都合よく「学校」を使うのも石川は自分の事ながらどうかと思った。
- 27 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時11分10秒
- 石川は言うとさっさと二人を置いて駅に向かおうとした。
「ちょっと待ってよ。友達呼んでもいいからさ。付き合ってよ。」
「いい加減にしてくださいっ!」
また後ろから腕を掴み懲りもせず誘ってくるため石川はその腕をまた
乱暴に振り払い歩こうとする。
「待てよっ!」
しかし、次に掴まれた時は今までとは比べ物にならないくらいの強さで
強引に二人の方へ石川は振り向かされた。
- 28 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時11分53秒
- 「こんなに優しく誘ってやってんのにさ。そういう態度ってないんじゃない?」
「・・・・別に頼んでませんから。」
「・・・人が下手に出てりゃ調子こきやがって・・・・」
男はそう言うと石川を乱暴に表通りから見えない位置の路地へと入れた。
「った・・・。何す・・・」
勢い良く投げられ肩を壁にぶつけ、石川は尚態度を引き下がらせずそう
言い返そうとした。
しかし・・・
「おいっ、そっち人が来ないように見てろ。」
「あい。」
最初に声を掛けて来た男は素直に従い狭い路地の入り口で普通を装い
立った。
「・・・・・・・・」
二人の会話、そして行動に石川は一気に体が強張るのを感じた。
- 29 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時12分34秒
- 今さっきの威勢も、今の石川からは全て消え去っていた。
それにこちらにやって来ながら男が気付く。
「あらら?今さっきまでの生意気な態度はどこに行っちゃったのかな?」
「・・・・なに、するつもり?」
「怖いか?」
「・・・・・・」
男はすぐに石川に対して何かする様子はなかった。
体が強張り固まっている石川の顎の下に手をやり目を合わせながら言った。
「本当はすごい怖いんだろ?怯えてんだろ?」
「・・・・・・・」
今さっきのように石川はその汚い手から逃れようとすることは出来なかった。
ただ一つ、男の言う通り「怖い」という感情が石川を占める。
- 30 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時15分12秒
- 「本当は怖いくせにそれがばれないように必死に強がってんだろ?」
「・・・ち・・がう・・・・!」
「本当は何もできない無力なくせに。」
「!」
『本当は何もできない。無力のくせに。』
男の言葉は石川の胸に深く響いた。
今だけのことに対して言った言葉だろうが、その言葉は石川の心の
一番深くて真ん中の部分に土足で入りこんだ。
「・・・ち、がうっ・・・。」
小さく抗議する言葉はとても弱く、息でも吹きかけられたらすぐに
消えてしまうろうそくの火のよう。
- 31 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時15分56秒
- 「ちょっとーっ!早くして下さいよ〜。」
「悪い悪い。」
「ったく言葉で人を罵るのが好きなんだから・・・・」
路地の前で立つ男は俯きながらため息混じりにそう呟いた。
目の前で自分を覆う影の存在に気付かず――――――
- 32 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時16分37秒
- 「ちが・・う・・・・」
「あ?なんか言ったか?」
小さく抗議する石川の言葉は目の前の男にも聞こえないほどの微かな物だった。
それがそれだけ小さい理由は石川本人が一番知っていることだった。
『本当は何もできない。無力のくせに。』
その言葉は、私の全てに言えること――――
「言葉も出なくなっちまったか?もう自分の力じゃ何もできないか?」
馬鹿にするように男は石川を前にして下品に笑う。
「違うっ!!!」
石川は強くそれを否定した。
『自分の力じゃ何もできない?』
その言葉に石川はもはや閉じそうになっていた目を見開き、そして俯いて
いた体を起こし男の目を見て言った。
- 33 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時20分42秒
- 「・・・・・」
石川の瞳はさまざまな感情が宿っていた。
怒り、憎しみ、悲しみ、恐れ、そして必死に強がる瞳――――――
一言では、言い表す事ができない。
男はそんな石川に少し戸惑った。
「なら試してやるよ。本当かどうか。」
しかしすぐに男は石川に体を寄せる。
「っ!止めて!!」
石川は男の体に体当たりし突き飛ばした。
「っ・・・・んの野郎っ!」
男は理性を失い切れたように石川に飛び掛った。
- 34 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時21分19秒
- 「い、嫌っ・・・!!」
必死に男から抵抗する。
だがその力はものすごく強くて自分の力では振りほどけない。
『本当は何もできない。無力のくせに。』
『自分の力じゃ何もできない?』
成す術のない自分に再びその二つの言葉が石川の胸に蘇る。
本当は心のどこかで感じていた事、気付いていた事。
ずっとそれに気付かないふりして、目を背けてた。
- 35 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時22分04秒
- だけど、今初めてそれを他人の手によって目の前に付きつけられた。
土足で自分の心の中に入り込まれた。
なのに、それなのに自分は何もやり返す事が出来ない。
自分の力ではどうすることもできない。
なんて、無力なのか。
- 36 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時22分40秒
- 「うっ・・・・・」
自然と石川の目からは涙が一筋零れ落ちていた。
「怖いか?最後には泣くのか。はははっ、もっと泣けっ!!」
男はそう嘲笑しながら言い行為を続ける。
――――続けようと、した
- 37 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時23分20秒
- 「いい加減にしな。」
「「!?」」
石川と男は自分達以外の声に気が付いた。
それは、路地の前に立っている男の声ではない。
男はばっとすぐに振り向いた。
「な、なんだお前っ!」
「・・・・・・」
男と共に石川もそちらへ顔を向けた。
そこには、背中辺りまでのさらさらなストレートの髪の、同い年ぐらいの
女の子が立っていた。
- 38 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時24分26秒
- 「聞こえなかった?その辺で止めときな。」
「何言って・・・・」
少女の声に男は気付いたように路地前を見た。
そこには完全に気を失い倒れる男の姿があった。
「なっ・・・・お前よくも・・・」
「あんたが言えるセリフじゃないよ。それ。」
「んだとっ!?」
男は石川から体を起こしそう言う少女に掴みかかろうとした。
「女の癖にいい気になってんじゃねえよっ!死ねっ!」
男が手加減なしに少女に殴りかかろうとした。
「あっ!!」
それに石川はとっさに両手を顔に当て目を背けた。
- 39 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時25分35秒
- バキッ!!
そんな音が耳に届き石川は恐る恐る手を顔から退けた。
「ははっ・・・かっこつけて正義の味方気取ってると、怪我すんだよ・・・・?」
目の前にはそう言う男の背中があった。
右腕を前に出し、パンチを繰り出したということがそれから簡単に想像できた。
「・・・・・!!」
その姿に石川は恐怖に駆られ体が震えた。
何もできない無力な自分のせいで、自分以外の他の人間まで巻き込んでしまった―――
石川の頭の中が真っ白になる。
しかし―――――
- 40 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時26分19秒
- ドサッ
次にその音と共に倒れたのは他でもない目の前の男の姿だった。
「え・・・・・?」
そして目の前から男の背中が崩れ去ると共に、石川の目には少女の姿が
ゆっくりと映し出された。
「・・・・・・・・・」
少女は黙ってこちらを見ていた。
その姿に、石川は見とれた。
さらさらな髪、整った顔、スタイルの良い華奢な体、そして少女の醸し出す
特有のオーラ。
他に二つとないであろうそのオーラは他でもない彼女から出ているものだった。
- 41 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時27分02秒
- その少女の全てに石川はただ見とれていた。
頭の中では未だ何も考えられないでいた。
ただその姿に心を奪われていた――――――
「・・・・・・・」
少女はしばらく石川の姿を見つめると、くるっときびすを返し
その場を後にしようとした。
「あっ・・・・ま、待ってっ!」
石川は慌てて彼女に声を掛けた。
だけど少女は足を止めず歩いていこうとしてしまう。
- 42 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時27分59秒
- 「お願いっ、待って・・・下さい・・・・」
無意識と口からは敬語が漏れていた。
懇願するような言い方で。
立ち上がろうとしたが、力が入らず立ち上がれなかった。
「・・・・・・・」
少女は静かに黙ったまま石川の方へ向いた。
「あ、あの・・・・・」
上手く言葉が出ないでいた石川に少女は黙って近づいた。
- 43 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時30分00秒
- 「・・・・・服ぐらい着たら?」
「あ・・・・・」
少女ははだけている石川の制服を前から着させてあげた。
その手はとても細くて長く、綺麗だった。
少女の顔が目の前に来て、石川はただ恍惚とした表情で少女を見ていた。
結局少女が石川の制服を全て着させるまで石川は何もできずただその姿を
見ていた。
「・・・・・・・」
「あっ・・・・」
そして最後に、頬に伝っていた涙を彼女は優しく指で拭ってくれた。
- 44 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時30分48秒
- 「それじゃあね。」
全て着替えさせると少女はすくっと立ち上がりその場を後にしようとした。
「ま、待ってっ!あの・・・・そう、お礼でも・・・」
「やめてくれる?そういうの。わずらわしいんだよね。」
振り向かず少女はそう言うと路地を抜け消えていってしまった。
「あっ・・・・・」
石川はただ呆然としばらくその場に佇んでしまった。
胸の中では石川は気付かないでいたが高鳴っている鼓動があった。
それはその人と、何かに対するドキドキ感。
まるで遊園地のジェットコースターに乗る前のような――――
- 45 名前:全ての始まり 〜彼女との出会い〜 投稿日:2001年10月18日(木)19時31分24秒
- 「どうして・・・・・・」
一つだけ、石川は感じていた事があった。
それは少女の醸し出すオーラに対して。
なぜなのか分からないがそれはとても気持ちが良かった。
居心地が良かった。
自分の探していた空間が、彼女の側にいる時初めて感じた。
それはとても気持ちよくて、癒された。
ずっとそれを、感じていたいと思った―――――――
- 46 名前:aki 投稿日:2001年10月18日(木)19時32分40秒
- 今日の更新ここまでです。
最初というか今日の分は多くなっちゃいました。
石川が声を掛けられた所や襲われているところで止めたくなかったので・・。
果たしてこれ読んでくれてる人いますかね・・・。
- 47 名前:JAM 投稿日:2001年10月18日(木)22時33分58秒
- 読んでますよ〜!!!
ちょっと不良っぽい梨華ちゃんと
かっけぇ〜○っ○○(名前バレするので伏字。意味無いですが(笑))が
目茶目茶いいカンジですよぉ〜。
- 48 名前:名無し読者です 投稿日:2001年10月18日(木)23時43分18秒
- ホントいい文章表現ですね(^^)
最初のプロローグだけ読んだ時は、この文章表現に、
一瞬ファンタジー系?って思ってしまいました^^;
でも…どうでしょう…
期待してますんで頑張って下さいね♪
- 49 名前:aki 投稿日:2001年10月19日(金)13時54分17秒
- 47:JAMさん
>レスありがとうございます^^
すっごく励みになってやる気が沸いてきますっ。
すっげぇ更新早いですか。そう言ってもらえて嬉しいっす^^;
やっぱり描写だけでこの人は分かっちゃいますね。<〇っ〇〇
これからも頑張りまっす!
48;名無し読者さん
>ありがとうございますm(__)m
自分の書く文章表現を誉めてくださってすごく自信が湧いてきます。
ファンタジー系<ですね。私も最初自分で書いててそう感じました^^;
ちょこっとそうなるかもしれません。もろファンタジーにはしないつもり
なんですけどね^^
初めて同じ板ですね。
雪板でもよろしくお願いします^^
これからも頑張ります!
- 50 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)18時59分36秒
- 「はぁっ・・・・・・はあっ!」
それからすぐに私は体を起こし立ち上がると駆け出した。
狭い路地を抜け出しあたしは当てもなく街を走った。
あの人を見つけるため。
他の人間では変わることの出来ない、あのオーラを持った彼女に会うため。
走りながら自分の周りの全てに目を向けくまなく街全体を見渡した。
だけど、その姿は見つからない。
駅前に出て人通りの多い場所で探した。
そして彼女のことを町を行き交う人々に尋ねた。
- 51 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時00分47秒
- 「少し茶色の入った背中辺りまでのストレートの髪で・・・・」
こんなに夢中になって何かをしたのは久しぶりの事だった。
「16、7で大人っぽい女の子なんですけど・・・・」
当てもなく誰かに尋ねるなんてことは初めてに近かった。
それだけ、私は彼女を見つけるのに必死だった。
だけど返ってくる言葉はどれも、
- 52 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時02分53秒
- 「知らないなぁ。」
「ごめんなさい、急いでるんで。」
「それだけじゃ分かんないねぇ。」
どれも同じような答えだった。
確かに、午後に近づき街は徐々に人が増え始めている。
しかもただでさえ若者向きのこの街では16,7の女の子なんて溢れ返っていて
よほど奇抜な格好でもしていなければ町を忙しく行き交う人々には
記憶に残らないであろう。
16,7で背中辺りまでの少し茶の入ったさらさらなストレートな髪。
そんな子は辺りを軽く見渡せばすぐに見つかる。
- 53 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時03分40秒
(だけど・・・・・・)
あの子は自分にとって一人しかいない。
誰も、変わることなんてできない。
そう私は信じて疑わなかった。
たった一度、
本当に一瞬だけど、
彼女の側にいると癒された。
その感覚は、彼女との出会いは自分の心に深く刻まれたのだ。
私は休むことなく夢中で走った。
そして見つけた。
- 54 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時04分29秒
「あっ・・・・!」
彼女の後姿。
人ごみの中、彼女は綺麗な髪を空になびかせどこかへ向かっていた。
人違いではないと石川は確信していた。
あの時の彼女の立ち去って行く時の彼女の後姿、それはとても自分の
目に焼き付いていたから。
そして遠くからでも分かる。
彼女だという事を示す彼女だけの雰囲気。
それは遠目にも確かにかもし出されていることが分かる。
見つけたことの嬉しさ、安堵に浸っているとすぐに彼女の姿は見えなくなるほどに
人ごみの中へ埋もれていってしまう。
- 55 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時05分12秒
「ちょ、ちょっと待ってっ!」
もう一度だけ、
あなたと話したい。
それは助けてくれたこととは関係なく。
あなたが何者なのか知りたかった。
私にとってどういう存在なのか。
必死に人ごみを掻き分けて彼女の姿を見失わないように追いかける。
当の彼女は全く石川の存在など気付かずただ目的地へと向かっていた。
「ごめんなさいっ!通してください。」
ほとんど隙間のない人と人との間を石川は体を横にしてすり抜けるように
ようにして追いかける。
ただ彼女を見失わないことに必死になっていた。
- 56 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時06分01秒
「待ってっ・・・・・」
必死に追いつこうとするが彼女との距離は縮まらず逆にこの距離を保つ事
も精一杯だった。
彼女は何でもない風に人を避け、そして歩いていく。
自分はまるで彼女の避けたそれを全てたらい回しにされているかのように
人ごみにもまれた。
すると彼女が表通りを抜けて少し人の数がまばらな少ない通りへと消えていくのが
目に映った。
「すいませんっ!急いでるんです。」
自分も急いで人ごみから抜け出し彼女の消えたその通りへと向かった。
一気に人の数が減り、やっと普通に歩ける程度の道へと出た。
ほっと一息つくのもつかの間、彼女は速さを変えずわき道もしないで
歩いていく。
- 57 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時06分55秒
「・・・・・・・・・」
今なら走っていって彼女に声をかけ、立ち止まらせる事ができる。
だけど今さっきの彼女の言葉からすぐに相手にせずそのまま行ってしまうの
はないかと石川はふと思った。
たぶん、自分が今の今まで探していた事も察してしまい私の存在に彼女は
本来の目的地に行く事を躊躇ってしまうかもしれない。
そしたら、困った事になってしまう。
石川には彼女の向かう所がどこかなんて分かりもしなかったが
彼女の目的とする場所は、なぜかその辺のCDショップや本屋さん、
そして買い物などとは思わなかった。
直感的に、本能的にそう感じ取ったのだ。
彼女は絶対に、どこかある場所へ向かっている。
だから声は掛けなかった。
これが男だったらストーカー一歩手前だろうが今の石川には自分のしている行動に
ついて冷静に客観的な視点から考える事は無理だった。
- 58 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時08分17秒
- 彼女は通りを流れるように歩いていく。
私も、その姿を後ろから追いかけた。
すると、ふいに彼女の姿が消えた。
「あれ!?」
あまりにも突然のことで石川は訳がわからなかった。
急いで彼女のいた辺りまで足を運んでみる。
するとすぐよこに2mほどぐらいしかない路地へと彼女は姿を消していた。
石川も見失わないようにただ彼女の姿を追いかける。
昼間だが路地をつくる建物によって出来る影のため薄暗く、じめじめしていて
道路も湿っている。
カエルやなめくじでも出てきそうだった。
- 59 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時09分01秒
- つまり、一言で言うととても気持ちが悪い。
しかし石川は我慢して彼女の後を追いかけた。
当の彼女は何とも思っていないような様子でただ突き進んでいる。
路地の先を見ると向こうもこちらと同じような通りに繋がっていた。
自分に向かって右は高い古ぼけた無機的なまるで魂の入っていないただの
コンクリートの塊のような建物。
そして左はなにやら使われていない閉めきったお店が集合していた。
辺りを見渡す余裕が出たかと思うと彼女はスッと横へ消えた。
石川も急いで彼女の曲がった角まで行きそっと顔を出して様子を見てみる。
- 60 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時10分25秒
―――――――――――
それはどこかしゃれたバーだった。
外装が木でまとめられているアメリカにあるようなラフな感じなバー。
ただ、お店の名前を照らすネオンや他の照明はセットされているものの
明るく灯ってはいなかった。
それはなにやら不思議な雰囲気を漂わせていた。
少女は関係なく中へ木のドアを開け、カランカランと鐘の音を鳴らし入っていく。
「どうしよう・・・・・」
さすがにこれには石川は戸惑った。
彼女の目的地まで来る事は出来たが、当然入った事のないバーという所。
お酒を飲む場所なのだろうけど自分は当たり前だが飲めない。
なら彼女はなぜ、なんのためにこんなところに来たのだろう?
新たな疑問が石川の胸の中に浮かぶ。
- 61 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時12分49秒
「・・・・よしっ!」
ここまで来たら最後まで行かなくては彼女を必死に探し追いかけてきた意味がない。
石川は覚悟を決め急いでお店の前まで走った。
ドアがゆっくりと閉まろうとした直前で止めて静かに極力音を出さないように
開けて恐る恐る中へ入る。
すると中はすぐ前が木のカウンターの狭いバーだった。
だがやはり中も照明は切れていて薄暗い。
中を照らすのは外から微かに漏れる陽の光だけ。
バーの中のテーブルの上には椅子が逆さまにして置かれており大分ほこりが
たかっている。
天井を見上げてみればもう使われていない大きなくもの巣がはっていた。
- 62 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時14分46秒
「うわぁ・・・・・・」
外も不思議なら中はもっと不思議な雰囲気を漂わせていた。
まるでここだけ別の世界のようだった。
だけど気のせいか、嫌な感じはしない。
前に目をやると少女がカウンターの横の向こうのドアの前でなにやら佇んでいた。
しかし彼女の左手は壁に向かってなにやら静かに動いていた。
- 63 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時17分06秒
「・・・・・・?」
ここからでは何をしているのか分からずただ石川は姿がばれないように
静かにそこに息を殺しながら立っていた。
少女は見事にその姿に気付かずしばらく何か壁に向かってしていると
ふいに部屋にカチンッという音が静かに響いた。
少女はその音と共にドアノブに手を掛け力を入れるように押した。
そしてドアをそのままドアを閉めず放って中へ入っていった。
「あ、待ってっ。」
石川もすぐにその場に付いていき自然に閉まろうとするドアに駆け寄る。
今さっきのように閉まる前に止められたが、そのドアは少女の様子からも察しは
付いてはいたのだがかなり重い。
- 64 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時20分16秒
「ん〜っ!」
体重を掛けるように前に出しなんとかドアを開け石川は出来た隙間へ
急いで中へ入った。
「・・・・・!!」
顔を上げると、そこは中のバーとは反対にシックな感じの大人な雰囲気を
漂わすバーだった。
そして、ここには薄くだが照明が灯っていた。
相手の顔が分かる程度の明るさ。
それはとてもここの雰囲気に似合っていた。
入ってきたバーとは違い中はとても広く正面にあるカウンターは
今さっきとは違いもっと向こうにある。
お酒のボトルが壁に並べてあり綺麗なグラスが逆さまに上から並べてある。
人がここには存在しているという事がそれから分かった。
- 65 名前:もう一度会いたい 投稿日:2001年10月19日(金)19時23分00秒
「あれ?誰?この子。」
そんな自分に向けられた声に石川はびくっとした。
「え?」
その声にカウンター前で行きなにやら誰かと話していたらしい彼女も
何かと振り向いた。
綺麗な茶色の髪を横に流れさせ静かにこちらに振り向く。
「あなた・・・・・・」
「あっ・・・・・」
二人の視線は静かに交差した。
再び見た彼女の瞳は、今さっきと変わらず綺麗でどこか癒される瞳。
だけどほんの少し、本当に少しだけだがそれは微かに緊張の解けたような、
優しいものに変わっていた―――――――
- 66 名前:aki 投稿日:2001年10月19日(金)19時25分47秒
- 今日の更新はここまでです。
なんかぼかぼかすごいペースで更新してる気が・・・・。
新作のせいかどうしてかこの小説はすごく執筆が早いです。
- 67 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月20日(土)14時42分48秒
- おお!2、3日見てない間にakiさんの新作が!
怒涛の描写で始まるオープニングからもうシビれちゃいました。
そしてこの爆発的な更新ペース(w
○っ○○もカッケーけどakiさんもカッケー!
- 68 名前:aki 投稿日:2001年10月20日(土)19時35分49秒
- 67:名無し読者さん
>レスありがとうございますっ!
あまりにも突発的なものだったので気づかれないかとも
思ったのですが発見してくれて嬉しいです^^
いつのまにか私の書く小説ってだけでチェックしてくれる読者さんが
いるんですね・・・ちょっと感動的です(笑)
爆発的>本当にその通りですね。見た時納得してちょっと笑っちゃいました^^;
カッケー!>おおっ!そんなことこと言われたの初めてですよ。嬉しいです!
- 69 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月20日(土)21時55分05秒
「・・・・・・・・・」
どうして助けたんだろう。
少女は今さっきの自分の行動について疑問を感じていた。
若者向きの繁華街のこの街ではあのような光景はくさるほど見てきている。
そのたびに自分は関係ないということで放っておいた。
面倒くさい事に巻き込まれるのは嫌だから。
そして自分の立場上あまり人に関わってはいけないから。
だから今の今までああいう場面い遭遇しても何もしなかった。
- 70 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月20日(土)21時55分57秒
- いや、何もしなかったというのは嘘だ。
少なからず介入していた。
そして助けていた。
持って生まれたこの能力で。
だけど、自分という存在が介入したのは今日が初めてだった。
どうして、自分があんな行動を起こしたのか自分でも分からなかった。
だけど、気付いたら・・・・・男を殴り気絶させていた。
そして、あの子を助けていた―――――――
- 71 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月20日(土)21時57分05秒
- 今までしたこともない。
自分のしたことながら今では信じられない。
はだけた服を着させて、最後に涙を拭ってあげるなんて。
少し思い出してみる。
名も知らない少女の瞳。
それは声を出ないほど驚いて呆然としていた物だった。
「・・・・・・・・」
思い出してみた少女の瞳に少し気分を悪くしまた何も考えず私は歩き出した。
向かう場所は、ただ一つ。
唯一、私という人間が存在していい、私を必要とするたった一つの――――
――――――私の居場所。
- 72 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月20日(土)21時58分06秒
いつもの道を通り抜ける。
半端じゃない人の数の表通り。
もう慣れた。
自分と同じ方向へ歩く人々の間を抜けただその場所へ向かう。
「・・・・・・・・」
慣れた、けどやっぱりこの感覚を感じなくなったわけじゃない。
同じ流れの中にいてもやっぱり私は周りとは何か違う流れを走っている。
油と水のように。
どんなにその一部に混ざったとしても溶け合うことはない。
一つにはならない。
- 73 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月20日(土)21時58分43秒
- 微かに、胸が締め付けられる気分になる。
もう慣れたはずなのに。
見つけたはずなのに。
違う。
自分の居場所、見つけることが出来たからまだこれだけで済むんだ――――――
- 74 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月20日(土)22時00分57秒
- 今日は特にそんなことを考えてた。
もう大分こういうことは考えなくなったのに、考えないで済むようになっていたのに。
だから気が付かなかった。
私を必死に追いかけてくる、彼女の存在に・・・・・。
- 75 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月20日(土)22時01分49秒
- しばらく歩き、表通りを抜け人のまばらな狭い通りへ出た。
少しだけ、胸につかえていた何かが取り除かれるのを私は感じた。
私は歩く速さを変えず、ただその場所へと向かった。
わき道などせず、ただその場所へ。
少し通りを歩いて、いつもの路地への入り口が目の前に現れる。
いつもの、薄気味悪い路地の入り口へ。
私は躊躇うことなくそこへ進み入った。
- 76 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月20日(土)22時02分49秒
- 街に行き交う人は気付かない。
こんな汚い路地へ入っていく私に。
ここから続くそこがどんなに私にとって重要な場所かなんて知らない。
ここは、あそこへたどり着く入り口の一つ。
ここには見えない壁がある。
『もうひとつの』世界とを繋ぐたった一つのroad―――道。
彼女と出会って、見つけた場所―――――――
- 77 名前:aki 投稿日:2001年10月20日(土)22時03分33秒
- こっちも区切りがいいので今日の更新はここで終わります。
- 78 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月21日(日)00時46分44秒
- 謎めいてますね。
最初の「ショートカットの少女」が鍵を握ってるのかな?
楽しみです。
- 79 名前:aki 投稿日:2001年10月21日(日)19時15分21秒
- 78:名無し読者さん
>レスありがとうございます。
書いてるとあまり分からないんですが謎めいてますか。
詳しくは言えませんが「ショートカットの少女」はこれから少し重要な
役になるかもしれません。
これからも頑張りますっ。
- 80 名前:aki 投稿日:2001年10月22日(月)15時36分23秒
「・・・・・・・・」
いつきても薄気味悪い。
私は表情を変えず横目で辺りを見渡した。
じめじめしていて日が当たらないこの路地は時に見たことのない動物さえも
見かける。
私は少し足早に歩いた。
いつも通っている道だけどこの気味悪さに慣れることはない。
しばらく狭い路地を歩いていき、目の前にあの場所へ続くいつもの曲がり角が
出て来た。
- 81 名前:aki 投稿日:2001年10月22日(月)15時36分55秒
「・・・・・・・」
私はスッと音を出さずその曲がり角を曲がった。
そして目の前に現れたいつもの光景。
当分昔に閉められたという雰囲気を醸し出すバーの扉を押し、私は
もう一つの世界へと消えていった。
- 82 名前:aki 投稿日:2001年10月22日(月)15時37分51秒
- 少し更新しました。
結構ストックが溜まってきたので今日はあと夜もう一度更新します。
- 83 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時03分05秒
ほこりがたまり歩くと床がぎしぎしと音を鳴らす。
私はそのまま店の中に置かれたままのテーブルを避けて歩き
もう一つの扉の前の前に来た。
「・・・・・・・・・」
ポチッ
その扉の横の壁を私は押した。
するとそこの一部の壁が静かに機械的な音を立て自動ドアのように開く。
その中には、アルファベットが電卓のように並べられているボタンが現れた。
- 84 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時04分19秒
・・・I・・・P・・・ND・・・T・・・W・・・・D・・・
私は決められているアルファベットを静かに押した。
入力し終わるとカチッという音がし、私の目の前のある一部の壁の縁に
微かにずれができる。
私はその壁から少し浮き出ている所をドアノブのようにして掴み
それを体全体で前に押した。
- 85 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時05分15秒
- 目の前に、いつもの光景が現れる。
まるでやっと自分に合う居心地の良い空気を吸えたような感覚になった。
目の前のカウンターまで私は無言のまま突き進んだ。
いつものように、誰も煩わしい事はしない。
みんな好き勝手にそれぞれ自分のことをしていた。
ここにいる人間は自分を含め誰かに囚われることなくそして必要以上に
くっ付いたりすることもしない。
みんながみんな、同じ空間の中に存在はするがそれぞれ全員が自分の足だけで
その場所へ立っていた。
誰かに支えられることなく、自分の力で。
それでいて離れすぎず付き過ぎない距離感。
こんな小さな事だが、私にとってとても居心地が良く落ち着く場所となっていた。
- 86 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時06分51秒
私はそのままカウンター前まで歩いていった。
「はい、頼まれてた書類のコピー取って来た。」
「・・・・・あぁ、あれね。ご苦労様。」
洋服の胸ポケットに入れておいたフロッピーディスクを取り出して
カウンターの彼女に手渡した。
忘れていたのか一瞬考えた後すぐに彼女は私からそれを受け取った。
「何もなかった?」
「うん、私を誰だと思ってんの?」
「はは、聞くだけ無駄やったみたいやな。」
彼女は軽く笑いその後に「何か飲む?」と付け加えた。
私はそれにブラックのコーヒーと答えた。
慣れた手つきで彼女が私に背を向けそれを作り始める。
私はカウンターの席に腰を下ろしそれを待った。
- 87 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時07分50秒
「あれ?誰?この子。」
そんな時、ここではあまり見られない少し大きめの声が突然響いた。
「・・・・?」
私はその言葉の意味が聞いただけでは分からず何かと後ろへ振り向いた。
「あなた・・・・・・・」
思わず驚き、口からそんな言葉が考える前に出ていた。
ここにいるはずがない相手の姿に私は珍しく素直に感情を出していた。
「あっ・・・・・」
相手も私の声に気付きこちらを見てそう小さく声を漏らした。
- 88 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時09分22秒
私と彼女の視線は交差したまま少しの間時間が止まったように見つめあっていた。
そう、そこにいたのは今さっき、自分の取った行動に対してなぜか考えると共に
微かに思い返していた少女の姿だった。
それはまぎれもなく自分が今さっき助けた少女本人。
幻や夢ではなかった。
確かに彼女がそこにいた。
- 89 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時10分49秒
―――――――――
「何?マキの知り合い?」
梨華は黙ったままカウンター前の彼女と見つめあっていたが間に
入った声の方へ顔を向けた。
するとそこには金髪のギャル風な小柄な少女がいた。
少女といっても明らかに自分より年上の17、8の少女だった。
バーの中のカウンター前ではない部屋の所々に設置されている高めの
テーブルの椅子に腰を掛けこちらを?の表情で眺めていた。
「・・・・・・・・」
その少女の言葉に「マキ」と呼ばれたカウンター前の彼女は何も言えずにいた。
- 90 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時12分07秒
(マキって言うんだ・・・あの人の名前・・・。)
そんなことをふと考えたがさらに違う声が自分に向かって発せられた。
「何々?どうしたんですか?」
梨華は続いてそちらに顔を向けた。
するとそこには天井から一つのオレンジ色の照明で照らされている
ビリヤード台があった。
その前にビリヤードをするための棒、キューを持った少女がいた。
何かと彼女も?の表情でこちらにやってくる。
同い年ぐらいの茶パツのショートカットの男の子っぽい子だった。
- 91 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時13分27秒
少女が私の姿に気付く。
「・・・この制服あの有名な〇〇女子高校のじゃん。」
梨華の姿をじろじろ見ながら少女は言った。
「〇〇女子高校?」
「超お嬢様学校って有名なところですよ。」
テーブルの上の少女と彼女は他愛無い会話のように話していた。
「・・・・・・・・」
カウンター前の少女だけが黙って複雑な表情でこちらの様子を見ていた。
- 92 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時14分13秒
「でもなんでそんなお嬢様学校の生徒がここにいるわけ?何の用?」
「あ、その・・・・私・・・・・」
「可愛い声。でもここは部外者立ち入り禁止だよん。」
からかうようにビリヤードのキューを持った少女はそう言いながら梨華に
近づいてくる。
「もしかしてマキの後ついて来たの?」
「・・・・・・・・」
すぐ目の前までやって来た少女の言葉は図星だった。
言葉どおりなので否定する事も言い訳もする事も出来ない。
梨華は何も言い返せずただ何か言いた気な表情で俯き黙ってしまった。
- 93 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時15分25秒
「図星みたい。」
金髪の少女も梨華の様子に確信を得る。
「ちょっとマキ〜気がつかなかったの〜?後付けられてたこと。」
言い方が悪いがそのままの言葉に梨華は微かに胸が締め付けられるような
気持ちになった。
- 94 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時16分11秒
- ―――――――――
「・・・・・・・」
あからさまに馬鹿にする嘲けたような言い方でひとみが私に言った。
全く今の今まで彼女の存在に気が付かなかった私はその言葉に何も言い
返すことが出来ない。
私はひとみから視線を外し密かに唇を噛んだ。
「・・・・後藤、知り合いなんか?」
コーヒーをとりあえずカウンターの上に置き彼女が今さっきとは
うって変わって険しい顔つきで私に尋ねた。
- 95 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時17分16秒
「知り合いっていうか・・・・・今さっき彼女が男に襲われてたの
を助けただけで・・・・」
私の言葉に彼女はふぅとため息に似た息を呆れたように出した。
「意外に正義感強いんだね〜マキは。そういうの見るとほっとけないんだ。」
ひとみが向こうでくすくすと嫌な笑みを浮かべて今さっきと同じように
馬鹿にした形で苦笑する。
「よっすぃー、その辺で止めときなよ。」
いつものことだがテーブルのやぐっつあんはこちらと同じように呆れた
ようなため息を零しながらそう言った。
- 96 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時18分25秒
「・・・・・・・・・」
今さっき私の助けた少女は困ったような様子で私たちのやり取りを見ていた。
何か言いたいようだが言えないでいるのが目に分かる。
それもたぶん私の弁護の言葉でも考えているような顔だ。
こんなに分かりやすい子も珍しいだろう。
「あの・・・・ごめんなさい。私・・・・・」
上手く言えないながら少女今にも泣きそうな顔をしつつ必死に何かを言おうとする。
「・・・あんた超私好みなんだけど。かなりタイプ。」
「え?」
ひとみが自分の顎に手をやりながら少女の顔を覗き込むようにしてまじまじと
眺めながら言った。
話がずれてしまいそれと突然の言葉に少女は驚いた表情をする。
- 97 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時19分53秒
「名前なんて言うの?」
まるで町のその辺でナンパしている男のような口調でひとみが彼女に
名前を尋ねる。
「あ、あの・・・・・・」
「中学からあの女子校行ってんの?キスしたことある?それともまだバージン?」
ひとみのセクハラその物の発言に梨華はかぁっと一気に顔を赤らめた。
それは恥ずかしさより馬鹿にされた事に対しての動作のようであった。
- 98 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時21分31秒
「よっすぃー、いい加減にしなっ!」
バチッ!
やぐっつあんの声と私の無言のひとみへの制止が重なった。
「痛っ!・・・・」
ひとみが私の方へばっと振り向いた。
怒りの表情を交えながら。
私は気付くとひとみに微かな攻撃を加えていた。
そして、自分の意志とは関係なく無意識に近い形で睨んでくるひとみを
私は睨み返していた。
その今自分の取った行動に私が気付くのは先のことだった。
- 99 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時22分26秒
「・・・・・なんだ、先にマキがこの子に目付けてたんだ?」
ひとみがスッと視線を外すと両手を軽く上げて肩を竦めながらそう言う。
「まだ懲りもせずくだらない事言うつもりなの?」
私はひとみにそう言い返した。
ひとみがその言葉に再び怒りの表情で睨みつけてくる。
しかし無言の私の攻撃はひとみへと続けられた。
「っ!・・・・・やる気ってわけ?」
そしてその言葉と共にひとみも私に対して攻撃を加え始めた。
「あ、あの・・・・・・」
少女は困ったように戸惑いおろおろしている。
- 100 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時23分18秒
- 少女にはこの部屋に漂う嫌な空気しか感じ取れないだろうが私とひとみの
間には私たちだけにしか見えない光同士のぶつかり合いができていた。
それは徐々にばちばちと音を上げながら大きくなっていく。
「やめなっ!!!」
「「!!!」」
バーに響いた大きな声にひとみと私は同時に力を解いた。
その光も同時にスッと音を立てず消えていく。
「あんたたち毎日毎日いい加減にしな。ここで能力者同士でぶつかり合うのは
タブーだって最初に言ったはずや。」
氷のような冷たい瞳でカウンターの彼女、中澤が二人を見た。
- 101 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時24分26秒
私とひとみはその瞳に何も言えず凍りついたように何もすることができなくなった。
「・・・・・でも最初にやって来たのはマキの方・・・・」
私とひとみはその彼女の様子に狼狽していたがひとみが抗議するように
口を開く。
「口答えは許さないよ。」
「っ!・・・す、すいません・・・・」
中澤の研ぎ澄まされた攻撃にひとみは軽く声を上げ苦しそうにしながら謝った。
「・・・・・それとあんた」
中澤がどうしていいか分からないでいる少女に声を掛けると同時にひとみへの
攻撃も解いた。
- 102 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時25分30秒
「はぁ・・・・はぁ・・」
ひとみは地面に崩れ膝を付きそう息を上げていた。
「は、はいっ。」
梨華は中澤の言葉に顔を上げ慌てて返事した。
「ここはあんたみたいなお嬢様が来るところじゃないの。部外者には直ちに
出て行ってもらうで。」
「ご、ごめんなさい・・・・・」
少女はそのまま体を180度回転させるとドアに向かって帰ろうとした。
「ちょっと待ち。」
「は、はい?」
梨華は後ろからの中澤の声に少し飛び上がるように反応し振り向いた。
- 103 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月22日(月)23時26分13秒
「誰がただで返すって行った?」
「え・・・・?」
少女の顔が明らかに外からすぐに分かるほどに曇る。
「ここの存在を知ったからにはただで返すわけには・・・・」
「裕ちゃん。」
中澤の言葉ともう一つの声が重なった。
- 104 名前:aki 投稿日:2001年10月22日(月)23時28分47秒
- 今日はこの辺で終わりにします。
それにしてもかなりの量・・・・。
なんかひたすら更新してる更新バカみたい・・・(意味不明)
- 105 名前:名無し読者です 投稿日:2001年10月23日(火)00時20分28秒
- これだけ更新していただけると、読んでるほうもすっごい嬉しいです^^
だんだんと本題ですね…
能力…akiさんのある意味新しいジャンルですね^^
これからどうなるのか…
裕ちゃん…何を…
応援してますんで、頑張ってください!
- 106 名前:aki 投稿日:2001年10月23日(火)12時13分52秒
- 105:名無し読者さん
>レスありがとうございますっ。
ほっ、良かったです。更新ばかりであまり時間も経ってないのに
100超えてしまったんでちょっとあららと思ってたんですけど^^;
だんだんと本題に入ってきますね。
ただカップリングのこともあってそれだけじゃなくしたいので
これからどうなるのか自分でも分からないです(w
非現実的な部分が入るのは初めてなんで頑張りたいですv
これからも頑張りまっす!
- 107 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時00分07秒
「・・・・・どうしたん」
「ちょっとやり方が乱暴じゃない?」
中澤に意見できる数少ない中の一人、安倍なつみが矢口と同じテーブルのそこから
そう中澤に意見した。
「どういう意味?」
中澤の険しい目つきを変えずにいたがなつみは少しも怯むことなく至って
普通に言い返す。
「そのままだよ。このまま彼女にアレやって帰すのはちょっと酷だよ。」
「でもそれがここのルールや。」
なつみの言葉に怯まず中澤は自分の考えを考え直す事はしなかった。
少しだけ沈黙が流れた中、矢口がなつみに続いて言葉を発した。
- 108 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時01分10秒
「・・・・でもさぁ、なっちの言うとおりだよ。別にこの子だって悪気があって
やったわけじゃないだろうし、それに・・・・・」
「それに?」
「ここに来れた・・・っていうか導かれたってことは少なからずこの世界の
関係者だと矢口は思うね。」
「・・・・・・・」
中澤は矢口の言葉に少しだけ思案するような表情で黙ってしまった。
「・・・・・・?」
(世界?関係者?)
梨華にはもはやここにいる全ての人間の言葉の意味が分からなかった。
ただ戸惑う事しか出来なかった。
- 109 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時02分11秒
中澤はしばらく黙って考えた後、静かに口を開いた。
「矢口がそう言うんならとりあえず様子を見るってことに保留にすることに
するわ。・・・・・けど何の力も持たないただの向こうの人間の時は・・・・
分かってるんやろな?」
中澤の言葉になつみと矢口が深く同時に頷いた。
「今日は仕方ないとして、基本的に例外は認めんからな。」
「はいはい。」
矢口が微かに笑いながら中澤に答えた。
中澤はそれだけ言うとカウンターの中へと帰っていった。
- 110 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時03分07秒
「・・・・後藤」
「・・・・・・・」
黙って見ていた私にふいに声が掛けられる。
すれ違いざまに中澤が私にだけ聞こえる程度に小さく声を掛けたのだ。
私はそれに黙ってまま応じる。
「あんた注意力が散漫すぎやで。今回のことはあんたも深く関係してるってこと
よう覚えとき。それと、・・・・・次はないと思いな。」
「・・・・はい。」
私は小さくそう返事した。
そして中澤はそのままカウンターの中で椅子にどかっと腰を掛け
タバコに火をつけカウンターに置いてあった英字新聞を読み始めた。
- 111 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時04分23秒
梨華はまだおろおろしていた。
何かされずに済んだらしいがこのまま帰ってもいけないらしい。
ひとみはさすがに今回は参ったらしく肩を自分で揉みながらビリヤード台へと
戻っていった。
私はただ黙って出された少し冷め始めたコーヒーに口をつけた。
再びこの場所にいつもの静寂が戻る。
- 112 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時06分57秒
――――――――
「ちょいちょい。」
そんな中、矢口が梨華に向かって声をかけ手招きした。
「え・・・っと・・・・・」
どう反応したらいいのか梨華は困りその場に立ち尽くしてしまった。
「もう大丈夫だからおいで。」
なつみがにこっと笑い梨華の緊張を解きそう声をかけた。
「あ・・・・はい・・・。」
梨華は言われたとおり二人の元に行くと高めのテーブルと椅子に少してこずり
ながらなんとか座った。
「飲み物、何か飲む?」
「あ、いいです。」
金髪の今さっき「矢口」と呼ばれていた彼女にそう聞かれたが梨華は
遠慮して断った。
- 113 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時08分10秒
「怖かった?」
「・・・・・はい。」
梨華は少しの間なんて返事するか困ったがすぐに正直に返事した。
「素直でよろしい。でもま許してやって。裕ちゃんはこの場所を守ろう
としてるだけだから。今さっきのセリフも結構何度も聞いてるしね。」
矢口が笑いながら中澤に聞こえないほどの小さい声で言った。
「何だかんだ言って裕ちゃんは優しいからね。いっつも私たちの意見ちゃんと聞いて
くれるんだよ。」
安倍が矢口の言葉に加えフォローするように中澤の事を言った。
「そう、なんですか。」
梨華はそんな二人の身内の中の話に少しだけ戸惑ったがそう普通に答えた。
- 114 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時09分38秒
- 「今日学校は行かなくていいの?それとも帰ってきたところ?」
「あ、いえ・・・・。サボり、です。」
「あはは、サボりかぁ。いいの?行かなくて。」
「・・・・いいんです。別に退学させられても良いって思ってるし・・・・。」
矢口の言葉に梨華は素直にありのまま答えた。
なぜか、ここでは隠すような気持ちにはならなかった。
「なるほど。でも親とかは?まずくない?」
「・・・・平気です。両親は、二人ともいませんから・・・それに一人暮らし
だし・・・・。」
「・・・・そう」
梨華の言葉に矢口はそれだけ答えそれ以上は何も聞かなかった。
少しだけ沈黙が流れてふいになつみが口を開く。
- 115 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時11分35秒
「聞いていいかな?どうしてここに、マキの後に付いて来たの?」
「あ、マキってあの子ね。後藤真希って言って16才の子だけど。」
矢口がなつみの言葉に真希の方を指差しながらそう付け加えた。
「真希・・・って言うんですか・・・。あの人・・・・」
指差された彼女の方を見てみるとコーヒーを啜っているところだった。
「うん。で、話してくれる、かな・・・?」
「はい。」
なつみがいいかどうか尋ねるようにして梨華にそう尋ねた。
梨華は彼女出会う前の自分の気持ち、そして彼女にに助けられた時のことから
その時感じた彼女のオーラのようなことに彼女に対して思ったことまでの全てを
こと細かく二人に話した。
なつみと矢口は黙ってその話に聞き入っていた。
- 116 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時13分06秒
「・・・・・それで、気付いたら彼女の・・・後藤さんの後を追いかけてたんです。」
「「・・・・・・・・・」」
しばらくなつみと矢口は梨華が話終わった後も黙ったままだった。
が、しばらくしてなつみが口を開いた。
「矢口・・・・もしかしたら矢口の言ってたことまんざら嘘じゃないかもね。」
「うん。」
「・・・・・・?」
二人の意味深な会話に梨華は首を傾げた。
- 117 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時14分13秒
「あのさあなた・・・・・じゃなかった、えーと、そういえばあなたの名前まだ
聞いてなかったっけ?」
「・・・・はい。たぶん。」
梨華も少し考えた後自分の名前を言ってない気がした。
「それで名前は?」
「石川梨華です。」
「梨華ちゃんね?可愛い名前だね。」
「どうも・・・」
なつみの言葉に梨華は少し照れて送れて返事した。
「ところで梨華ちゃんは何か、周りの人とは違うその・・・なんだ・・・・」
「?」
「不思議な能力とか力を持ってるって、感じた事ない?」
言葉が出てこないでいたなつみの代わりに矢口がそう梨華に尋ねた。
- 118 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時15分40秒
「不思議な能力?」
「うん、そのまんまだけど・・・・その、それにはこれがこうだとか
はっきりとして定義がないんだよね。」
「はぁ。」
「なんか今まで生きてきた中でそんなことを自分に感じた事ない?」
「・・・・・・・・」
梨華は矢口の言葉に少しだけ記憶をさかのぼってみた。
だけどそんなこと自分の今まで生きてきた中では思い当たらない。
今の今まで普通のごくありふれている一般市民として過ごしてきたから。
そのため平和ボケのようなこともつい今さっきまでは感じていたし。
なぜか、突然の矢口の非現実的なまるで物語のような質問に梨華は
不思議と疑問を感じなかった。
『不思議な能力』
中にはそれを馬鹿にするような人もいるかもしれないが、この場所、
雰囲気もあるが梨華は自然とそれをそのまま受け止めていた。
- 119 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時16分37秒
「ないです。たぶん・・・・・。」
梨華は気まずそうに答えた。
「そっか・・・・・。」
矢口は少し残念そうにして言った。
この部屋一体に沈黙が流れる。
ただ一つだけ、ひとみの所から響いてくるビリヤードの玉をつく音が
部屋に通り抜けていた。
「まぁ、気にしなくていいから。」
「・・・はい。」
「もしかしたらこれから現れてくるのかもしれないしね。」
少し落ち込んでしまった梨華になつみが優しくそう声を掛けた。
- 120 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時18分13秒
「そうそう。まぁそれは一旦どっかに置いといて。なんか聞きたいことある?」
「聞きたいことだらけです・・・」
「あはは、そりゃそうかもね。」
矢口が梨華の言葉に軽く笑った。
一見使われていないバーを装うその店のなかではまた更に存在する
人のいる綺麗なバー。
こんなお店どこ探してもここしかないだろう。
それに入ってみるなり突然本題に入られてここがどういう場所なのか
尋ねる暇もなかった。
ただ休憩を取ったりお酒を飲むバーではないことだけは当然分かるが・・・。
それに今さっきケンカしていた時のなにやら良く分からない不可解な
動作。
- 121 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月23日(火)20時19分53秒
「あの・・・ここは一体どういった場所なんですか?」
梨華は一旦少しだけ躊躇ったが一番の疑問を二人にぶつけた。
「「・・・・・・・・」」
なつみと矢口はその言葉に少しだけ困ったように顔を見合わせ、すぐに
矢口は中澤の方へ顔を向けた。
「・・・・・・・」
中澤はこちらの会話が聞こえていたらしく新聞から顔だけ出すと顎を
ふいっと上げた。
どうやら話してもOKという合図を出したらしい。
矢口はそれを確認すると梨華に向き直りそしてゆっくりと話し始めた。
- 122 名前:aki 投稿日:2001年10月23日(火)20時22分09秒
- 今日はここまでです。
昨日言い忘れたんですけどこれから小説の中の人物の名前は
名字は使うのはやめようと思いました。
なんかどことなく他人行儀って感じがするかと思ったので・・・。
急な変更で違和感が出なければ幸いです。
これからもよろしくお願いします。m(__)m
- 123 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月24日(水)01時54分12秒
おもしろいです。
裕ちゃん・・強い(?)のかな?
だったらうれしいけど…
謎が早く知りたい!!
名字じゃなくて大丈夫です!
- 124 名前:aki 投稿日:2001年10月24日(水)12時28分36秒
- 123:名無しさん
>レスありがとうございます。
裕ちゃんはたぶん強いかと・・(w
これから活躍させていきたいですね。
謎は少しづつ次から明らかになっていくかと思います。
名字じゃなくて大丈夫ですか。良かったです^^
- 125 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月24日(水)22時08分14秒
- 「・・・・ここはね、簡単に言うとちょっと普通の人とは異なった能力を
持った人が集まってる場所なんだよね。」
「はい。」
それは今さっき尋ねられた内容やその前の交わしている会話でとりあえず
分かっていることの一つだった。
梨華は小さく頷きながら答えた。
「それで、ただそういう人間の集まりじゃなくて・・・。その、簡単に言うと
なんでも屋って言うか・・・・。」
「なんでも屋?」
「そう、このお店はいろんな世界に裏で繋がっているの。そしてそこからさまざま
な仕事内容を依頼される・・・。」
矢口がそこまで説明するとそこからはなつみにバトンタッチした。
- 126 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月24日(水)22時10分59秒
- 「大手会社からのライバル会社の重要な書類のコピーを依頼されたり、逆に
うちで作った特殊なコンピュータウィルスをその会社のパソコンに感染させ
たり・・・・・。」
「・・・・・・・」
「反対に個人的な依頼もあるの。歴史的価値のある宝石や数少ない有名な
稀覯本を盗んできたりとか・・・・」
「はぁ・・・・」
梨華は自分の常識を外れた内容にびっくりしたような感心するような
ため息を出した。
ここまで来たらどんなに常識外れのようなことを言われても信じてしまう
ことしかできない気になった。
- 127 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月24日(水)22時12分06秒
- 「それで、私たちはその依頼をこなすために雇われた人間の集まりよ。」
「なるほど・・・・・」
「危険は並外れたものじゃない。生命に関わることだってある。その辺の一般の
普通の人間には到底出来ない事だから報酬もそれなりの額になるの。」
「はぁ。」
ここまで知ってやっといろんなことの意味が繋がった気がした。
だからこんな人に知られないような路地の向こうにあってしかも
閉められたようなバーの中にまたバーがあることも。
「というわけ。ま、それだけの理由で集まってるわけじゃないんだけどね・・・。」
なつみは小さく後にそう続けた。
「・・・・・・?」
その時梨華はそれがどういう意味を示すのか分からなかったが尋ねることは
しなかった。
- 128 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月24日(水)22時12分44秒
- 「あの、いいんですか?そんな大切なこと今来たばかりの私なんかに
教えてしまって。」
「・・・・・うん。大丈夫、なの・・・」
矢口がちらっと中澤の方を複雑な表情で盗み見ながらどこか気まずそうに
それに答えた。
そんな曖昧な矢口の返事、様子に梨華は?と首を傾げた。
「・・・・・・」
中澤はその視線に気付いていたがわざと気付いていないふりをして新聞を
読みつづけていた。
気付いていないのか気付いているのかこちらからでは分からなかった。
だけど、中澤がその言葉と共に新聞を1ページ捲り組まれていた足を組みなおした
ことから矢口は気付いているんだと心の中で感じ取っていた。
- 129 名前:出会い、再び。 投稿日:2001年10月24日(水)22時13分46秒
- 「つまりここは秘密基地みたいなものだね。後はなんかある?」
矢口はこちらに向き直るとわざと明るい口調で梨華に聞いた。
「えーと・・・・・・」
梨華は聞きたいことがもう一つだけあったが少し気まずく言い出せなかった。
「なに?なんでもいいよ。」
「その・・・ここにいる人たちの簡単な紹介を・・・してくれませんか?
本当に簡単でいいんで・・・・。」
「・・・・そっか、そういえば何も知らないんだっけ。」
そう言うとまた矢口は軽く笑った。
矢口の笑い声は少しだけ梨華の不安な気持ちを取り除いた。
- 130 名前:aki 投稿日:2001年10月24日(水)22時16分36秒
- 今日はここまでです。
ついに明らかになっちゃいました。
後、一つお礼をさせてください。
今やっている小説投票の所に感想書いてくださった方、
見ていることを思いここにお礼をさせてください。
公に書いてしまうのはまずいかとも思ったんですけど嬉しかったんで^^;
嫌だったらすいません。
- 131 名前:aki 投稿日:2001年10月25日(木)15時06分39秒
- ここに書くのもどうかとも思いましたが「導かれし娘。」。
この前から読ませて頂き今読み終えました。
一作者のくせに名作を読んでいないのに憤りを感じる方がいるかも
しれませんが少し内容が私の書くようなものとは全く違うようなので少し
敬遠していましたが投票の感想や投票数から読むことにしました。
一言。すごい。
私にはいろんな意味で書けませんね。
胸が痛くなる部分がとても多く私にはおもしろいという感情はあまり
胸に込み上げてきませんでした。
ただただすごい・・・。
ホラー映画さえも苦手でその類のものはあまり見ず終わりがHAPPYな
ものばかり見る私には結構ショックに近い感想を持ちました。
感想をこんなところに書くのもどうかと思ったんですが
誰かに聞いて貰いたかったので書いてしまいました。
すいません・・・。
P.s 昨日のレスに書き忘れたんですが投票の所に投票してくれた方々
本当にありがとうございます。
読まれているんだなと改めて実感しました。
- 132 名前:キャメル 投稿日:2001年10月25日(木)18時44分44秒
- >>131 akiさん
こんばんは、小説読ませて頂いてます。
「導かれし娘。」もこの前読みました。大作ですよね、あれ。
なんというか、凄く悲しい話で・・・。
とても話に引き込まれたのを覚えています。
でも、akiさんの書いているこの小説もすごく引き込まれます。
とても楽しみにしてます。頑張ってくださいね!
スレ汚しスマソ。
- 133 名前:aki 投稿日:2001年10月25日(木)20時12分52秒
- 132:キャメルさん
>レスありがとうございます(T_T)
勝手に書いた独り言に近い感想にレスくれるなんて思わなかったので
くれてとても嬉しいです。
しかも嬉しいお言葉感謝ですTT
楽しみに答えられるように全力尽くします!
スレは気にしないで下さい^^
もとはといえば私が汚してしまったので^^;
- 134 名前:I・W 投稿日:2001年10月25日(木)20時15分01秒
- 「それじゃ一人づつ。まずはあたしの紹介から・・・・でいい?」
矢口がなつみに確認を取るために語尾にそう続けた。
「どうぞ。」となつみが笑いながら答える。
矢口がその言葉を合図に自己紹介を始めた。
「あたしの名前は矢口真里。18才。A型。神奈川県出身。」
「あ、私も神奈川出身です。」
「お、一緒だ。よろしくっ!」
「よろしくお願いします。」
矢口は改めて梨華と挨拶を交わした。
「それじゃ、私の番だね。私の名前は安倍なつみ。20才。同じくA型。
北海道出身。」
「北海道なんですか。」
「そう。こっちにきてからもう3年は経つかな?」
「そうなんですかぁ。」
梨華は感心するように頷いた。
生まれて16年、北海道の人に出会ったのは今日が初めてだった。
- 135 名前:I・W 投稿日:2001年10月25日(木)20時15分49秒
- 「それで・・・あっちでビリヤードやってんのは、吉澤ひとみ。」
矢口はビリヤード台の方を方を軽く親指で指差して言った。
「・・・・・・」
今さっきのことがあり少しだけ自分の体が堅くなるのが梨華は感じた。
「名前、吉澤ひとみ。16才。」
「はぁ。」
なんとなく梨華は頷くだけだった。
思った通り同い年だった。
「梨華ちゃんは高1?高2?」
「高2です。」
「え〜と、確かよっすぃーは・・・・・」
「行ってれば高1ですよ。」
ひとみがキューを持ち移動しながら答えた。
「と、年下!?」
つい梨華は大きな声を出してしまった。
そんな梨華の様子にひとみがビリヤードをしたまま横目でこちらを見ながら
小さく口元だけで笑っていた。
- 136 名前:I・W 投稿日:2001年10月25日(木)20時16分34秒
- 梨華は矢口の何気ない一言に気が付いた。
(あれ?行ってたらってことはあの人学校行ってないんだ?)
それが分かるとまた梨華は小さくため息をついた。
自分は強がりを行っていても踏み出せないでいることを彼女は
平然としていることに少しだけ落胆する。
学校に無理して行っているかそれとも止めているのか。
決してどちらが偉いとも悪いとも一概に言う事はできないのだが梨華にとっては
これはショックだった。
- 137 名前:I・W 投稿日:2001年10月25日(木)20時17分23秒
- 「それじゃ次ねぇ。」
「・・・・・あ、あれ?」
「どしたの?」
梨華は矢口の言葉を待っていたのだが吉澤ひとみに関するプロフィールが
そこで止まってしまった為少し戸惑った。
矢口の紹介では名前と年しか説明していなかった。
当の矢口はそんな梨華の様子に首を傾げている。
梨華がそれ以外はないのかと尋ねようとした時、矢口はそのまま紹介を
続けていった。
「あっちのカウンターに構えてる関西弁のおっかない人は・・・・・」
「おっかないってなんやねん。」
中澤も目ざとく矢口の言葉に反応しちらっと睨む。
「あはは、聞こえちゃった?」
「丸聞こえや・・・・」
中澤がはぁとため息をつき答える。
- 138 名前:I・W 投稿日:2001年10月25日(木)20時18分15秒
- 「まぁ、ともかく。あの人の名前は中澤裕子。28才。京都出身。」
「京都・・・」
「そ。京都。んでその前のカウンターに座ってる子。梨華ちゃんが
一番知りたがってた子は・・・・」
「べ、別にそんな・・・・」
梨華の口調はとりあえず誤魔化しはしていたが全く隠し切れていなかった。
「後藤真希。確か16才。たしかごっつあんもよっすぃーと
同学年だと思った。」
「そうなんですか・・・」
梨華は彼女はもっと自分より上の年齢の人かと思っていた。
しかし同い年だが性格には同学年ではないということを知り
内心びっくりしていた。
後藤にはすぐそこの矢口の声は聞こえていたが興味もなかったので
何もリアクションを起こさなかった。
- 139 名前:I・W 投稿日:2001年10月25日(木)20時19分11秒
「これで全員。OKかな?」
「あ、はい。ありがとうございます。」
梨華は慌ててお礼を矢口に告げた。
「それで・・・・梨華ちゃんの紹介は?」
なつみがにこにこしながらそんな梨華に尋ねた。
「あ、すいません。私まだでしたね・・・」
なつみの言葉に今やっと自分が自己紹介をしていないことに気付く。
「石川梨華。16才。神奈川県出身のA型です。よろしくお願いします。」
「こちらこそ」
「よろしく。」
なつみと矢口は続けて梨華に答えた。
- 140 名前:I・W 投稿日:2001年10月25日(木)20時28分04秒
- そして梨華はふと頭に浮かんだ事を聞こうとした。
口を開きかけた時、
「紹介が中身がないって思ってるでしょ?」
「あ・・・・・・」
図星。
矢口の言葉はまさに今梨華が思っていたことを完全に当てていた。
そう、紹介といってもそれは名前と年齢、そしてあっても血液型ぐらい
しか付け加えられていなかった。
それも年齢も危うい場面があった。
どこに住んでいるのか、学校に行っているのか。
そういうことが全く分からなかった。
- 141 名前:I・W 投稿日:2001年10月25日(木)20時29分09秒
- 「答えは一つ。知らないの。お互いの深い部分は。」
「知らない・・・?」
「っていうか教えあわない。これも違うか・・・う〜ん、知りたがらない
っていうか・・・・。」
「知りたがらない・・・・・?」
「う〜ん、どれもぴんとこない・・・・」
それを最後に矢口は不思議がる梨華を余所に悶々と低く唸り声を上げながら
考え込んでしまった。
「あ、あの・・・・・」
「つまりね。名前と年。それぐらいしかお互いの事知らないの。」
なつみが変わりに梨華に答えた。
「どこからやって来てどこへ帰るのか、はたまたどこで生まれたのか、今まで
どういう人生を歩いてきたか、そしてどういう経路でここに訪れたのか、
そういう事含めてお互いの事全く知らないの。」
- 142 名前:I・W 投稿日:2001年10月25日(木)20時30分01秒
- 「どうして・・・・・」
「みんながちょうどいい距離を置いてるっていうのかな・・・・。同じ空間の
中にはいるんだけど決して近すぎず離れすぎず。みんな人に支えてもらったり
とかしないで自分の力だけで、自分の足でその場所に立ってるの。」
「そうなんですか・・・・」
「それが居心地が良いっていうか・・・・・面倒くさい事がないんだよね。」
「・・・・・・」
「これがお互いの名前と年しかしらない理由。」
なつみは最後にこっとして梨華の疑問に答えた。
「・・・・・・・」
少しだけ梨華はなつみの言葉に圧倒されていた。
年齢も離れているが同じ場所を同じ時間をここにいる人間は共有していて。
今さっきの彼女、後藤真希も吉澤ひとみもこの空間でそういう風に
過ごしているのかと思うと年下のようには思えずみんな大人なんだなと
感じていた。
- 143 名前:I・W 投稿日:2001年10月25日(木)20時31分04秒
- 「で、後はもう・・・・」
矢口が他に質問がないか梨華に尋ねようとした時、
ジリリリーン
昔の電話のようなレトロな音がバーに静かに響いた。
「はいはい・・・・・」
中澤が電話のある所へと椅子から立ち上がり面倒くさそうに向かっていく。
梨華はまだ少し聞きたいことがあったが電話の邪魔になると思い
黙って中澤の方を見ていた。
- 144 名前:aki 投稿日:2001年10月25日(木)20時33分41秒
- 今日はこの辺で終わりにします。
区切るいい場所があまり雪も月も見つけにくいです(++)
この後の更新で題名のところの意味が分かってくると思います。
- 145 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月26日(金)04時22分50秒
- なるほど、タイトルの意味が分かってきました。
梨華ちゃんも秘密の仕事に参加することになるのかな?
今後の展開が楽しみです。
- 146 名前:aki 投稿日:2001年10月26日(金)15時30分18秒
- 145:名無し読者さん
>レスありがとうございますっ。
タイトルの意味分かり分かり始めましたか^^
実はこのタイトル結構考えたんです。考えた割にはさほど
人を惹きつけるような題名にならなかったかもとも思いますが^^;
イメージとしてはよくモデルさんが何人かと違う方向を向いて
綺麗にそれぞれが立っているような感じなんですけどね。
梨華ちゃんもこれから頑張っていきます。
これからも頑張りまっす!
- 147 名前:名無しの読者 投稿日:2001年10月26日(金)18時09分59秒
- カップリングじゃなくても楽しめそう^^
カップリングもスキですけど、こういうのも^^
タイトル十分惹きつけられましたよ^^
これからどんどん深いタイトルになっていきそうですし…
期待してますので、頑張って下さいね〜
- 148 名前:aki 投稿日:2001年10月26日(金)20時15分54秒
- 147:名無しの読者さん
>おおっ!レスありがとうございますっ!
そうなんです。この小説はただのカップリング小説にはしたくなかった
んです。
それ以外でも楽しめたらいいなと思ってますがそうできるか少し
不安です^^;
でも出来る限り頑張りたいとは思っています。
タイトルのこと嬉しいです(T_T)
一人でもそう感じてくれている人がいると分かりとっても嬉しいです。
これからも期待に答えられるように私自身も楽しみながら頑張ります!
- 149 名前:I・W 投稿日:2001年10月26日(金)20時25分40秒
- 「はい。・・・・はい、そうです。・・・・・大変申し訳ないんですけど一週間
切った依頼に関しては料金も標準の20%増しになるんですけど・・・・・
はい・・・・それと依頼を受けるためにはどちらにせよどこかで実際に会うことに
なってます。・・・・・はい、分かりました。それじゃ今日の2時に〇×町の
K−N2会社玄関前ですね。はい。・・・・それじゃまた後で・・・。」
標準語なのだが少しだけ発音が関西弁の入った話し方だった。
電話は手短に済まされチンッと音を立てて切られた。
「初めての人?」
「みたい。ここのシステムに関して何も知らんかった。ってことだから
さっそく行ってくるわ。」
なつみの察した言葉に中澤は答えるとカウンターの奥に行き薄いコートを
羽織りながらそう言い、さっさとあの重い扉を開けると向かっていってしまった。
- 150 名前:aki 投稿日:2001年10月26日(金)20時26分16秒
- 中澤のいなくなったバー。
何も変わっていないようで何かが足りないような感覚をここにいる全員が
同時に感じ取っていた。
「いってらっしゃ〜い。」
矢口が扉が閉まる直前に既に中澤の姿は消えていたが手をひらひらと振りながら
見送った。
中澤は午後2時に会うと言っていた。
その時間まで待ち合わせまでかかるであろう時間を引くと、あまり時間は
残されていなかった。
ひとみも真希も、関係ないというような感じで何も変わらずそれぞれの時間を
過ごし続ける。
- 151 名前:I・W 投稿日:2001年10月26日(金)20時29分18秒
- 「んで、後なんかある?」
矢口は梨華に向き直ると聞いた。
梨華はしばらくここに流れる空気が微妙に変わった事にしばし
ぼーっとして感じ取っていた。
「あの・・・・私はこれからどうしたらいいんでしょう・・・?」
梨華はおずおずとして矢口に聞いた。
矢口はそんな梨華の様子を見ながら手元のオレンジジュースに軽く口を
つけると言った。
「それは梨華ちゃんが決めることでしょ?」
「・・・・・・・・」
「ここに残るのも来るのも。それとも二度と立ち寄らなくなるか。それは
梨華ちゃん次第であって矢口がどうすれとか強要することじゃない。」
「・・・・来ても、いいんですか?私・・・」
「梨華ちゃんがそうしたいんならね。」
「でも・・・・私何にも・・・・」
梨華はこの場所に真希の後について来て見たときから、入った時から
何か興味が注がれた。
そして彼女にも。
それに加えてなぜかここは気持ちが落ち着く。
居心地が良かった。
- 152 名前:I・W 投稿日:2001年10月26日(金)20時30分28秒
- しかしここがどういった場所なのかは分かったがなんの力も持たない自分が
ここに来て良いのか?
それが梨華にとって気がかりだった。
「力なんてどうだっていい。梨華ちゃんは、どうしたい?」
「私は・・・・ここにいたい・・・・・」
矢口の言葉に導かれるように梨華は自分の気持ちに気が付いた。
「んじゃ来なよ。だれも文句も言わないし。」
「・・・・はい。」
「・・・・・・・」
そんな矢口と梨華の様子を黙ってなつみは見つめていた。
ただ見つめているだけではなかった。
いつもとは違う矢口の訪問者への言葉になつみは気付き見ていたのだ。
矢口もそのなつみの視線には気づいていたが気付いていない振りをして
梨華と話していた。
その違和感はここにいる全員が密かに感じている事だった。
- 153 名前:I・W 投稿日:2001年10月26日(金)20時34分14秒
- 「そうそう、ここのこと言わないだろうけど絶対に他言しないでね?」
「はい。もちろん。」
「それと、もう一つ。ここに入るためのそこのドア・・・・あの超重い奴。」
矢口は今さっき中澤が出て行ったドアを指出しながら言った。
「あれね。出る時は何もしないでいいんだけど入る時は決められたキーワード
入力しないといけないんだ。」
「キーワード?」
「そ。キーワードは、I・N・D・E・P・E・N・D・E・N・T・W・O・R・L・D」
「長いですね・・・・」
「長いけどね。意味が分かると自然と覚えられるよ。」
なつみが途中で口を挟んだ。
「『Independent world』意味は独立した世界。」
「・・・・・・・・」
それを聞いたとき、梨華はなつみの言葉通りその言葉が自分の中に
刻まれる感覚を覚えた。
- 154 名前:I・W 投稿日:2001年10月26日(金)20時39分05秒
- 「どういうこと示してるか分かんないかも知れないけど・・・・・」
「いえ、なんとなく・・・・分かるような気がします。」
梨華ははっきりと矢口の言葉に答えた。
「・・・・・・・」
矢口となつみは梨華の言葉、表情にしばし言葉を失った。
その表情は今までとは違い凛としたものだった。
口調もしっかりとしている。
この時なつみと矢口は同時にあることを確信していた。
「なら良かった。ま、入る時はそのキーワードよろしく。」
「あ、はい。」
少し梨華はその感覚にぼーっとしていたのだがしばらくしてかけられた
矢口の言葉にはっと我に返った。
- 155 名前:I・W 投稿日:2001年10月26日(金)20時40分07秒
- 少しして、梨華はなつみに入力方法を教えてもらうと陽も暮れ始める時間に
なってきたので今日はそこで帰る事にした。
わざわざドアの前で深々と礼を済ませるとやっと帰っていった。
「ふっ・・・・・」
そんな様子にひとみは苦笑する。
「どうしたの?」
「いや、礼儀正しい人だなって。」
ひとみは声をかけた矢口にそう答えた。
「それにしても真希おもしろい子連れてきたね。」
「・・・・・・・・」
未だ嘲るような言い方でひとみは椅子に座り後姿の真希に声をかけた。
当然聞こえてはいたが真希は何も答えなかった。
「それにあたしの超タイプだし。」
「よっすぃーってあーゆーお嬢様タイプが好きだったんだ?」
「なおかつどこか負けず嫌いっぽいのがいいんですよ。」
ひとみは楽しそうに答えると持っていたキューを立てかける場所へと片付けた。
- 156 名前:I・W 投稿日:2001年10月26日(金)20時43分02秒
- 矢口は梨華をバーの前まで見送るとまた同じ椅子へと戻り座った。
なつみの座っているその場所へ。
「・・・・どうしたの?」
矢口はなつみの何か言いたそうな顔に気付き声をかけた。
そのなつみの様子にはさっきから気付いていた。
質問されることも、微かに分かっていた。
「いつもの質問じゃなかったね。」
「・・・・・分かった?」
「なっちだって結構経つもん。矢口と知り合ってから。」
「・・・・・・」
矢口は黙って残り少なくなってきたジュースを口にした。
- 157 名前:I・W 投稿日:2001年10月26日(金)20時44分00秒
- 「『それは梨華ちゃんが決める事でしょ?』なんてさ。」
なつみもグラスに口をつけ話を続ける。
「『力なんて関係ない。梨華ちゃんはどうしたい?』も。」
「矢口もさぁ、自然と口から出てたんだよね。その言葉。」
「ま、分かる気がするよ。」
矢口がぼーっとしながら言った言葉になつみは微かに笑い答えた。
「ここを知られた以上、普通ならアレをする。・・・・だけど梨華ちゃんの
場合は様子を見るってことになっていた。」
「・・・・うん。」
「本当なら梨華ちゃんに選択する権利はなかったんだよね。」
「そうだね。」
「NOと言ってももう答えは決められていた・・・・。だけどね、矢口には
梨華ちゃんが断るとは思えなかったの。」
「・・・・・・・」
「最初に言ったけどたぶんここに来たってことは何かに導かれて来たんだと
思う。」
「同じ力を持つものが集中して集まったこの場所に梨華ちゃんも自然と引かれて
来たって言いたいんでしょ?」
矢口はなつみの言葉にこくんと頷いた。
- 158 名前:I・W 投稿日:2001年10月26日(金)20時44分37秒
- 思い出してみる。
梨華がこの場所へ入って来た時のこと。
その表情は驚きと共にどこか何かに惹かれたような恍惚とした表情をしていた。
そして後藤に惹かれたという点もそれは容姿だけではなく含まれる一つとして
彼女だけがもつ独特のオーラ、つまり同じ力を持つ彼女に惹かれたのではないか
と矢口は思っていた。
全ては矢口の都合のいい風に関連付けた憶測でしかないのだが。
「全部矢口の勝手な憶測だったけど、それも今さっきの梨華ちゃんの様子で
確信に近づいた。なっちもでしょ?」
「うん。」
そこで二人の会話は止まった。
しばらくしてひとみが口を開く。
- 159 名前:I・W 投稿日:2001年10月26日(金)20時45分35秒
- 「どっちにしても早く彼女の力が目覚めれればいいですね。」
「・・・だね。期限付きだからのんびりもしてられないし。」
矢口は知っていた。
中澤は普段は自分達にとても優しい。
だけど仕事とプライベートは特に分けて考えている事を矢口は知っていた。
仕事というよりもここを守るために、中澤は時に非情な人間になる。
今さっきの言葉から梨華が多くてもこの一ヶ月以内に何か力が芽生え
ここに必要な人間だという事を示さなければ無理だろう。
なぜか矢口、そしてなつみは梨華のことが気にかかっていた。
いやここにいる全ての人間が、かもしれない。
どこか放っておけなかった。
特別おせっかいというわけでもないのに。
- 160 名前:aki 投稿日:2001年10月26日(金)20時46分07秒
- 今日はここまでです。
- 161 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 162 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 163 名前:Russian 投稿日:2001年10月28日(日)18時36分15秒
- カップリングにしないで、しかもアンリアル系で、となると、
より、繊細な話運びが必要となると思いますが、
その点を、akiさんの作品はしっかりとクリアにしていると思います。
もともと、繊細な切り口だな、と言う印象はあったんですが。
ここまで来て、ようやく、登場人物の人となりが見えてきた気がします。
娘。小説の域を超えるような作品になりそうな気がします。
頑張ってくださいね。
- 164 名前:aki 投稿日:2001年10月28日(日)19時36分27秒
- 163:Russianさん
>レスありがとうございます^^
おお、繊細ですか。嬉しいです!
カップリングだけじゃない小説は結構話その物にも
注目されると思うので結構緊張です。
「話」として楽しい小説になれるといいです。
カップリングというのはその付属品みたいな(w
娘。小説を〜>おお!本当ですか!嬉しいです。
持てる力は全て出す気で頑張ります!
- 165 名前:I・W 投稿日:2001年10月29日(月)01時17分06秒
- 「・・・・・・・・」
真希はコーヒーカップを飲み干しコップをカウンタに置いた。
そして椅子から立ち上がりどこかへと向かおうとする。
「どこ行くの?」
「別にどこも行かないけど・・・・・」
なつみの言葉に真希は素っ気なくそう答え壁に立てかけてあるボードの前に来て
刺さっているダーツを一本取った。
「ねぇ、真希。ビリヤードやんない?勝負しよ。」
「やんない。」
ひとみの言葉に真希は振り返らず的を狙いながら答えた。
真希の言葉にひとみはちぇっと口ずさむだけだった。
- 166 名前:I・W 投稿日:2001年10月29日(月)01時17分45秒
- 「んじゃなっちポーカーしようよ。」
「えぇ、矢口弱いからつまんない。」
「あ〜!言ったなぁ。見ててよ。絶対ぎゃふんと言わせてあげるから。」
そう言うと矢口もトランプとチップを棚から取ってきてなつみと二人だけで
ポーカーをし始める。
「・・・・・・・・」
周りの喧騒は耳には届かず、真希の頭の中には今さっきの彼女のことが
頭の中に埋め尽くされていた。
(そういえば、あたしも最初はなかったんだっけ。この力・・・・・)
真希は静かに心の中でそう呟くとダーツを放った。
真希から放たれたダーツはその周りに微かに蒼い光を受けてそのまま飛んでいった。
- 167 名前:I・W 投稿日:2001年10月29日(月)01時18分23秒
ストンッ
気持ちの良い軽やかな音と共に、真希の放ったダーツはちょうどボードの中心に
刺さった。
「ちょっと真希。ずるはなしだよ。」
いつのまにか矢口達と加わってポーカーをしていたひとみが言った。
「ばれた・・・・?」
「ばればれだよ。」
真希はひとみの言葉に苦笑しながら答えた。
そしてふっと力を抜いた。
それと共にボードに刺さっていたダーツがカタンと音を立て床に落ちた。
「・・・・・・・」
真希はそれを拾いにいかず黙ってそこでそれを見つめていた。
するとダーツは再び蒼い光に包まれるとふわっとおもむろに地面を離れ空に浮かぶ。
真希がくいっと指でこちらに引くとそれが静かに真希の手に戻ってきた。
- 168 名前:I・W 投稿日:2001年10月29日(月)01時19分07秒
(いつからかな・・・・。こんなの出来るようになったの・・・・)
真希は密かにある人の姿を思い出していた。
しかしすぐにその人物の影を拭い、真希は再びボードを狙った。
今度は蒼い光は真希の手から放出されていなかった。
もう一度狙いダーツを放つ。
静かに線を描きそれは軽い音を立て今さっきと同じ場所、ちょうどボードの
真ん中に刺さった。
「・・・・・・・」
真希はそれを興味なさそうにぼーっと眺めていた。
後ろではひとみや矢口になつみの楽しそうな笑い声が響いていた。
今、ここには珍しくにぎやかな雰囲気で包まれていた―――――――
- 169 名前:aki 投稿日:2001年10月29日(月)01時19分50秒
- こんな時間にちょこっと更新です。
- 170 名前:特別な場所 投稿日:2001年10月30日(火)01時33分33秒
- 翌日から梨華はその場所へと通い始めた。
最初は家に帰った途端あの出来事は夢だったのではないかと思い家では
夢から覚めたような気持ちになったが同じ道を通り、そして通い始めて
やっと実感が湧いてきた。
梨華はその場所、「I・W」では特別何かするわけではなかった。
カジノ類の遊び道具は全て揃っておりポーカーにルーレットなど
なつみや矢口に教えてもらい楽しい時間を過ごしていた。
なぜか、普通のような事もこの場所で過ごしする分には何か特別な物に
なり今まで味わったことのないような時を過ごせた。
通い始めたといってもまだ日にちはほとんど経っていないが梨華にとって
はとても長い物に感じられた。
- 171 名前:特別な場所 投稿日:2001年10月30日(火)01時34分19秒
- 「寒い〜。」
今日も梨華はその場所へと来ていた。
もちろん、学校にはあの日からまるっきり通っていない。
このままだと確実に退学だろう。
親戚のおばさんからの電話も一度か二度会ったぐらいで適当に
理由をつけて話すとそれっきり何も言ってこなくなった。
親戚といってもほとんどつながりのない人だったので面倒は見てくれるものの
それだけで思った通り無駄なおせっかいは焼いてこない。
それは梨華にとっても都合が良かった。
今日は昨日の夜から雨が降り続き今日も1日止みそうになかった。
ここに来てからちょうど4日目。
梨華は古ぼけた手前のバーの扉を開け中へと入った。
入る途中に始め来た時は気付かなかったバーの看板が目に入った。
- 172 名前:特別な場所 投稿日:2001年10月30日(火)01時35分40秒
- 『I・W』
それはここの店の中心的なキーワードが書き示されていた。
それが中のバーの中の意味と同じことを示すのかは分からないが・・・・。
すすやほこりで黒ずんだ向こうにそれは微かに書かれている。
分かっていて読まないと何か分からないだろう。
「・・・・・・・」
思い出してみる。
つい4日前の事。
それはもう大分前のことのように思えた。
退屈でどうしょもなかった日々が遠く懐かしい日々のようにも思える。
- 173 名前:特別な場所 投稿日:2001年10月30日(火)01時36分25秒
- Independent worid
それの意味を聞いたとき、なぜかは分からないけどその言葉は胸に響いた。
独立した世界。
それはいろんな意味を含めるだろう。
だけど第一印象として、確かにここは他とは違う別世界のような
雰囲気だった。
夢の中での話かとさえも思った。
4日経った今でも、思うこともある。
そしていつか夢から覚めるんじゃないかと――――――
- 174 名前:特別な場所 投稿日:2001年10月30日(火)01時37分32秒
- 「・・・・・・!」
梨華は自分の頭を横に振った。
自分の考えを拭い去るように。
他に変わることの出来ない自分にとってたった一つの大切な貴い場所。
それを見つけられたと同時に生まれる不安。
無くしたら、手放してしまったらどうしよう・・・・。
一人になると胸を覆い尽くす不安、それはここにいる時だけは感じないでいられた。
「梨華ちゃん?」
ふと後ろから自分の名前が呼ばれた。
すぐにばっと振り向いた。
「安倍さん・・・・・・」
「どうかしたの?」
顔を向けた先にはもうコートを着ているなつみの姿があった。
少しほっと安心する。
なつみは梨華にとって良い人で優しい人だったから。
キーワードを入力する壁の前で梨華は立ちすくんでいたらしい。
自分がいつここまで来て今まで何をしていたのか梨華は覚えてなかった。
- 175 名前:特別な場所 投稿日:2001年10月30日(火)01時38分19秒
- 「顔色が悪いよ?なんかあったの?」
なつみが小さく音を立てながらバーの中を歩き梨華に近づいてきた。
「いえ・・・・なんでも、ないんです・・・・」
梨華は沈んだ口調でなつみに答えた。
「なんか落ち込んだような顔してたよ。」
「そうですか?」
「うん。」
なつみは梨華に答えながら梨華に代わって壁にキーワードを入力した。
二人の間に小さな機械音が響く。
「手に入れたものが大きすぎて抱えてるのが不安?」
「え・・・・・?」
「違う?」
「・・・・・・・」
梨華は突然のなつみの言葉に驚いていた。
まさにその通りだったから。
- 176 名前:特別な場所 投稿日:2001年10月30日(火)01時40分33秒
- 「なんで・・・・・分かるんですか?」
「だって梨華ちゃん見てれば分かるよ。バーの中と外での様子とかね。」
なつみはふっと笑うとそう梨華に答えた。
壁からはキーワードを受け付けピーッとドアを解除する音が聞こえてくる。
「それに、あたしもそうだったから。」
「安倍さんも?」
「そう。正確には今も、だけどね。」
なつみは重い扉を体全体で壁に寄りかかり押しながらにこっと笑い梨華に答えた。
「『不安』とか『楽しい』とかここはいろんな感情を自分に生み出してくれる。
だからなっちはね、ある意味不安でもそう感じられるのは良いかなって思うよ
うにしてるんだ。」
完全に扉が開けられなつみは中のバーの光を逆光として浴びながら言った。
「・・・・・・・・」
梨華は少しその姿にぼーっとしていた。
- 177 名前:特別な場所 投稿日:2001年10月30日(火)01時41分06秒
- (そっか・・・・・・)
なつみの言葉に目を覚めさせられた気持ちを梨華は感じた。
『不安』なんて気持ちになるのはいつ以来だろう。
嫌な気分になる不安はここに来る前からなんども感じていた。
だけど、こういう不安になったのはすぐには思い出せなかった。
そして、自分だけではないということを知り梨華は少し心が軽くなった。
なつみに続いてバーの中へと入っていく。
中には、いつものメンバーが揃っていた―――――――
- 178 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)02時11分59秒
- 「んで、これが今回の仕事の内容。」
そう言うと中澤はカウンターに座る全員それぞれに一枚の紙を配った。
梨華も配られたそれに目を通してみる。
今日はこの間中澤が電話から受けた「初めての人の」仕事らしい。
「仕事レベルは5段階中最低のE。ギャラも安いし一週間切った突然の仕事。
いつもならこんなん断るんやけど初めての人やしな。それに・・・・・・」
中澤はちらっと矢口を見た。
矢口もそれにすぐに気付く。
矢口はにこっと笑った。
「んで、仕事の内容やけど・・・・・」
中澤はそんな矢口に少し微笑すると何もなかったように話を進めていく。
なぜいつもでは受け付けない仕事を受け入れたのか梨華には分からなかった。
だけど中澤はまだ「怖い」という印象が拭えず実際に怖そうなので
尋ねずそのまま話を聞いていた。
- 179 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)02時13分05秒
- 梨華に対しての矢口の意見は中澤も矢口本人から聞いていた。
しかしそれを聞く以前から中澤はもうこの仕事を受けることにしていたのだ。
眠る才能があるのならそれを引き出させるには何よりも実戦が一番。
梨華以外の全員はなぜこの仕事を引き受けたかの理由を察していた。
「この前後藤がやったのと同じ方法でその目的の会社の重要データの
コピーやけど・・・・誰が行く?」
「コンピュータ関係ならあたしかごっちんだけど、今回はあたしが行こうか。」
なつみが中澤に言う。
「そやな。あ、でもなこれ言い忘れとった。この仕事ギャラ安い割には
ちょっと面倒くさいかもしれへん。」
「どういう意味?」
矢口も中澤の言葉に尋ねる。
- 180 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)02時13分54秒
- 「どうやら向こうもちょっと用意してるみたいなん。この場合に関しても。」
「・・・・・・・・」
中澤の言葉に全員は共通のことを察し少し黙った。
「??」
梨華を除く全員だが。
「それじゃあたしも行くよ。」
後藤がその中で口を開く。
「ん、それがいいかも知れへんな。ま、普通なら後藤と安倍の二人でいいんや
けど・・・・・」
次に中澤は梨華のほうをちらっと見た。
「?」
梨華には中澤の視線を感じたがなぜかは分からないでいた。
- 181 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)02時14分40秒
- 「梨華ちゃんの子守りが必要だね。それじゃ今回はみんなで行こうよ。」
矢口は紙をカウンターに置くとそう言った。
「え?あ、あたしも行くんですか!?」
今まで黙って話を聞いていた梨華だったが矢口の言葉に驚く。
しかもそれは当たり前のように普通に話されていたから。
「当たり前やん。」
「で、でもあたしなんかが言っても足手まといになるだけなんじゃ・・・・・」
「だから全員で行こうって矢口が言うたやん。」
「・・・・・・・」
中澤の言葉に梨華は呆然としばし言葉をなくす。
「お遊びやないんやで?もしかしたらそこで石川の力が目覚めるかもしれへんし。」
「あ・・・・・・」
やっと中澤の言葉からどうして連れて行かれるのかという意味が分かった。
- 182 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)02時15分26秒
- (そういう事か・・・・・・)
なら納得もつく。
だけどそんな簡単にことが運ぶのだろうか?
足手まといの自分が行って全員が危険に晒されたらどうするのか。
不安は胸の中にいろいろ生まれてくるが梨華は中澤にそれ以上質問はしなかった。
「近頃仕事もなくて暇だったから別に私はいいですけど。」
吉澤も紙を指で弄びながらそう答えた。
「それにおもしろくなりそうだし。」
「こら。仕事は真面目にやるんやで?」
「分かってますよ。」
中澤は相変わらずの吉澤の様子にしばしため息をついた。
「んじゃ、とりあえず紙返して。」
気を取り直し中澤は順番に配った紙をまた自分の下へ回収し始めた。
- 183 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)02時16分08秒
- 「??」
自分の番が来たのでなぜかは分からなかったが梨華も紙を中澤へと返した。
「どっかで落としたりして情報が他に回ったりすると危険だから裕ちゃんが
回収して処分するの。」
なつみは紙を中澤に返しながら顔の向きを変えず梨華に答えた。
「はぁ、なるほど。」
梨華はなつみの言葉に関心するように頷いた。
「それと、この場所遠いからうちが車で運転していくから。当日遅刻せんといてな。」
中澤は紙の枚数を数えながらそう忠告する。
「はいはい。」
カウンターに座っていた全員は適当に返事するとそれぞれまた各自自分の
過ごす気ままな時間へと戻っていった――――――
- 184 名前:aki 投稿日:2001年10月30日(火)02時18分50秒
- 今日は結構更新しました。
しかもこんな時間に。
書き溜めていって多くなってきたので結局時間が経って二つ分今日
更新しちゃいました。
なんとなくこんな時間に小説書いてる自分って一体・・・(w
- 185 名前:名無し読者です 投稿日:2001年10月30日(火)17時51分41秒
- おぉじょじょに…
まだみんなの力が謎なんで、すっごい気になる…
なっちがコンピューター関係って…
うぅ〜ん…
更新頑張って下さい〜
- 186 名前:aki 投稿日:2001年10月30日(火)18時37分29秒
- 185:名無し読者さん
>おお、久しぶりのレス嬉しいです。ありがとうございます。
みんなの力はこれから明確になる・・・・かな?
なっちがコンピューター関係得意って不似合いでしょうか・・・?
これからも頑張ります〜。
- 187 名前:GAME START 投稿日:2001年10月30日(火)19時13分14秒
- 仕事当日
それは話し合いの二日後のことだった。
PM8時半。
中澤の用意したジープに乗り込んで中澤、矢口、なつみ、真希、ひとみ、
そして梨華の六人はある会社へと向かっていた。
ここからは少し離れているその会社までの道のりはジープのせいもあり
ずっとガタガタと揺られつづけていた。
そしてその会社の前にPM9時ちょうどに着いた。
- 188 名前:GAME START 投稿日:2001年10月30日(火)19時13分51秒
- 「それじゃ5人とも気をつけて行っといで。」
「任しといて。」
矢口だけが中澤にそう答え他の三人はほとんど何も返事せず車から降りた。
最後に梨華が車から降りた。
「わぁ・・・・・・」
目の前には高いビルがそびえ立つ。
外はもう充分暗くて人の姿はオフィス街ということもあり目に付かなかった。
真っ暗な空は微かに青い色も交えさせそこを微かに白い色を保つ雲が
静かに漂っていた。
梨華はさっさと歩いていく四人に逸れないように後に付いた。
中澤が下ろした場所は目的のビルの裏にあたる。
- 189 名前:GAME START 投稿日:2001年10月30日(火)19時14分53秒
- 「針金持ってます?」
ひとみが言うと矢口が「ほい」と洋服のポケットからそれを取り出した。
それをひとみはカギに当ててちょいちょいと操作すると簡単にドアは
開いてしまった。
「んじゃ次はなっちの出番だ。」
なつみはそう言うと小型サイズのパソコンをバッグから取り出すとドアに入って
すぐ横のなにやらコードの入っている小さな扉を開けた。
「・・・・・・・・」
そのコードを取り出し、なつみはしばしそれに薄い緑色の光を手から放出させ
コードにそれを込めた。
しばらくするとそれはなつみが手を離しても緑色の光を帯び始める。
「♪」
パソコンをその緑色で覆われたコードに臨時に繋げカタカタと音を立て操作する。
するとビンッと小さな音がビルに響いた。
- 190 名前:GAME START 投稿日:2001年10月30日(火)19時16分16秒
- 「これでOK♪」
なつみはパソコンをしまうとみんなにそう声をかけた。
「??」
梨華にはなつみが何をしたのかさっぱり見当もつかなかった。
そうこうしている内に四人はビルの中へと堂々と入っていってしまう。
「あ、あのっ!」
「ん?どうしたの?」
「今、何したんですか?」
梨華はなつみ本人に聞いてみた。
「あ、今のはね。ビル内に張り巡らす赤外線の網を解除したの。」
「あぁ、なるほど。」
「ついでに監視カメラの昨日もストップさせて。」
「すごいですね。」
「コンピューター関連はなっちは強いよ〜。」
なつみはにこっと笑い梨華に答えた。
「なっち!梨華ちゃん!遅いよ!」
矢口が少し向こうで極力小さな声でこちらに呼びかける。
「ごめんごめん」
なつみは手を前に添え謝ると梨華と共に少し走った。
- 191 名前:GAME START 投稿日:2001年10月30日(火)19時17分03秒
- 「な、なんだ君達は!?」
「・・・・・・・・」
会社にいた警備員に見つかったがひとみが手の平を警備員の顔の前に
かざした。
「う、うわ!?」
手からいきなり閃光が放出され警備員は訳が分からずあたふたする。
ひとみはその警備員の後ろから首辺りに手刀を振り下ろすと警備員は
小さく唸り倒れてしまった。
「ったく、面倒くさい・・・・・」
目覚めた時やっかいなことにならないように近くの壁に持たれかけさせる。
エレベーターも臨時に動かさせ5人はあっという間に目的の
フロッピーディスクがある部屋までたどり着いた。
仕事レベルEだけあっていつもの仕事に比べると比べ物にならないほど
今回のは優しいらしかった。
- 192 名前:GAME START 投稿日:2001年10月30日(火)19時17分42秒
- 「ぼろい仕事っすね。」
ほとんどいつもと変わらない様子で歩きながらひとみがそう呟いた。
「えっと、確かこれの暗証番号は・・・・・」
あらかじめ中澤が調べておいた資料を思い出し矢口はパソコンにそれを入力し
起動させようとした。
しかしその時―――――
「「そこまでです!!直ちにあなた方四人はこの会社から出て行きなさい!!!」」
比較的幼い声が二つ、部屋に響いた。
バッと5人はそちらに振り向く。
するとそこにはたぶん150cmあるかないかぐらいの身長の女の子二人の姿が
あった。
- 193 名前:GAME START 投稿日:2001年10月30日(火)19時18分39秒
- 「出たよ・・・・・かしまし姉妹。」
矢口の言葉と共に四人ははぁとため息をつく。
そんな矢口達の心情など知らず・・・
「あれ?亜依ちゃん、四人じゃなくて五人見たいれすよ?」
「あり?本当だ。」
のんきに話す二人。
当然梨華は二人の姿は初めて見るので?の表情だった。
(中2?中1?にしてもなんでこんな女の子が夜中の会社にいるの?)
梨華だけが状況が飲み込めていなかった。
バチッ!
「っ!」
そんな突然登場した二人組みの女の子など完全無視でなつみはカタカタと
パソコンに向かって座りキーボードを叩いていた。
が、突然の不意の攻撃になつみはとっさにパソコンから身を離れさせた。
「くっ・・・・!」
とっさに避けたもののなつみの右手の甲に微かに直線の傷がついた。
深紅の血がそこから滲み出す。
- 194 名前:GAME START 投稿日:2001年10月30日(火)19時19分20秒
- 「困るんだよね。無断でコピーされちゃうと。」
二人の声とは別にまた新たに別の声が部屋に届いた。
暗い部屋でそれはシルエットのように現れてくる。
「「保田さん!!」」
のんきに会話をしていた二人はその姿にそう呼びかける。
保田と呼ばれた女性は静かに部屋に姿を現した。
「ったく、面倒くさいことになるって裕ちゃんが言ってたからいるってのは
察しがついたけど・・・・」
矢口がため息混じりに言った。
「保田さん登場遅いれすよ〜。」
「そうだそうだ〜。」
「・・・・このバカッ!」
保田は呆れたように二人をぽかっと殴る。
「「痛い〜〜!!!」」
「あんたたちが話ししてる間に盗られちゃうでしょ!?」
保田は二人に説教をし始める。
- 195 名前:GAME START 投稿日:2001年10月30日(火)19時19分58秒
- 「???」
梨華は状況がつかめずにいた。
「あれは同じ世界の同業者。よく鉢合わせになることがあるの。」
なつみは前を向いたまま血の滲む手を押さえ梨華の疑問を察し答えた。
「同業者・・・・・」
(それじゃあの二人もそうなんだ・・・・・)
つい最近までは知らなかった世界。
そこには自分よりはるかに年下の女の子が活躍しているなんて。
梨華は少しだけ驚きそして少しだけ感心してしまった。
しばらくお互い微塵も動かず無言で向かい合っていた。
「?」
梨華はまたもなぜか分からなかった。
- 196 名前:GAME START 投稿日:2001年10月30日(火)19時20分32秒
- 「・・・・・なっち・・・」
「分かってる。」
「「・・・・・・・・」」
矢口の言葉に頷くなつみ、そして真希もひとみも動けずにいた。
張り詰める空気。
夜中のビルの一室でそれは漂っていた。
もう一人。
今現れた保田のほかに後一人この部屋のどこからか自分達を見張っている
人間がいる。
しかしどこにいるのかが掴めず動けずにいた。
たぶん、不審な行動を起こした場合すぐに攻撃は向けられるだろう。
- 197 名前:GAME START 投稿日:2001年10月30日(火)19時21分24秒
- 「いい加減仕事こなさないとこっちも信用失っちゃうからね。」
保田がこちらの様子に気付きそう言葉をかける。
「さすが保田さんれすね〜」
「おばちゃんや〜」
「うるさい!」
未だ楽しそうに会話する二人に保田はいらつくように怒鳴る。
しかし二人はこの空気には似合わずただ保田のそんな様子に愚痴を零していた。
パソコンの画面は、今さっきなつみが操作したところまでで止まっていた。
「ちょっと真希。」
「・・・・・何よ」
前を向いたままひとみは小さな声で隣の真希の声をかけた。
「あんた攻撃タイプでしょ。この状況を打破しなきゃ始まらない。あたしの
言いたいこと分かってんでしょ?」
「・・・・・・・・」
真希はひとみの言葉に返事をせず黙ってはいたが何が言いたいのかは
分かっていた。
ひとみの声は真希の他にも矢口の耳にも届いていた。
- 198 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時22分10秒
- 「矢口さん。スキをなんとか作るんで、安倍さんの補佐お願いします。」
「うん。それが良いかもね。」
矢口の言葉になつみも小さく頷く。
「あ、あの!あたしは!?」
「邪魔になんないように引っ込んでて。」
ひとみのぶっきらぼうな言葉に梨華は頬を膨らませ怒る。
しかし、実際その通りなので何も言い返せない。
「それじゃ3つ数えたますからそれを合図に。」
ひとみの言葉に真希、矢口、なつみは小さく頷いた。
「なんか企んでるみたいだけど怪我したくなきゃ止めといたほうがいいわよ。」
「そうだぞ〜。」
「れすよ〜。」
保田が体勢を構えた四人にそう言った。
- 199 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時22分47秒
- 「3」
四人はそれを無視し、ひとみは小さくカウントし始める。
「2」
部屋の中に今までで一番の張り詰めた空気が流れる。
「1」
梨華は少し圧倒ぎみにその様子を固唾を飲んで見つめていた。
「0!」
ひとみの言葉と共に真希とひとみが保田含む三人へ駆け出した。
シュッ!
真希が保田めがけて長い右足を空を切らせ繰り出す。
「無駄だよ。」
保田はそれをいとも簡単に左腕で受けた。
- 200 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時23分25秒
- 同時に真希に向かって部屋のどこからか白に近い黄色い光がレーダーのようにして
真希の肩近くの右腕に命中した。
「くっ!」
真希の洋服は裂かれ結構深くそれは腕を切り裂き光が抜けると共に紅い鮮血が
溢れ始める。
「後藤さん!」
梨華はその様子に無我夢中で真希の名前を呼んでいた。
「・・・・・・・・」
真希はその場所を手で押さえながら床に崩れ落ちていく。
「だからやめときなって言ったのに。」
保田があーあとため息をこぼしながらその光景を眺めていた。
「どうかな・・・・?」
「なに!?」
真希が床に倒れながらも小さく苦笑を浮かべながら呟いた言葉に保田は
はっと気が付いた。
- 201 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時25分10秒
- 「圭織!!」
呼びかけるのは既に時遅く、
「そこか!!」
ひとみは体をくるっと回転させると自分達の真後ろ、部屋の天井部分へ
微かに紫色の光弾を手から放った。
「キャッ!」
天井は小さくカラカラと音を立て崩れ、そこには小さな穴が開いた。
そこからどしんと音を立て一人の女性が落ちてきた。
身長の高くスタイルのいい人だった。
「圭織!!」
「飯田さん!!」
彼女の姿に保田と二人が一気に慌てて青ざめる。
- 202 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時25分54秒
- 「あんたの相手はこっちだよ・・!」
真希は珍しく声を上げ血の溢れる腕も構わず再び左足から脚を凄まじい速さで
繰り出す。
「この・・・・・」
保田はその攻撃をなんとか避け悔しそうに声を上げる。
「そ〜らよっ!」
ひとみは飯田と呼ばれた彼女の元まで駆けていくとそのまま流れるように
ひとみも飯田に向かい長い足を繰り出す。
「キャワッ!」
飯田はそれを辛うじて避け体勢を立ちなおした。
「・・・・・・・・」
梨華はそれを呆然と口を開けて見ていた。
まるでアクション映画さながらなのだ。
それだけ真希もひとみも動きが機敏で軽やかだった。
そしてそれを避け反撃する保田と飯田も。
- 203 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時26分39秒
- 「なっち早く!」
「分かってる!」
その間になつみと矢口は目的の重要書類をパソコンから呼び起こさせ
目的達成へと急いでいた。
梨華がそれをぼーっとまるで観客のように眺めていた。
と、その時・・・
「「そこまでだぁ!!!」」
幼い二人の声が響いた。
「「!?」」
全員がそちらに顔を向けた。
「あ、あれ?」
気付くと梨華も「そちら」に含まれていた。
見ると今さっきの二人に囲まれ両手を掴まれていた。
- 204 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時27分36秒
- 「この場にいる全員動くのを直ちに止めて下らさい!」
舌足らずな彼女が全員に向かって声をかける。
「早くしないとこの人の頭に穴が空きますよ〜。」
隣の彼女がそう言う。
するとその手には、なんと拳銃が握られていた。
それは梨華の頭に突きつけられている。
「なっ!!」
ひとみがそれに驚き声を上げた。
「・・・・・・・」
真希は何も声を上げなかったが顔には悔しそうな表情を浮かべていた。
二人は同時に動きを止めた。
「おお!加護に辻、ナイス!!」
飯田は逆に嬉しそうに二人を誉めていた。
「えはは〜〜」
辻はそれに嬉しそうにしてはにかむ。
- 205 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時28分16秒
- 「・・・・・・・」
なつみと矢口もその姿に何も出来なくなりパソコンを叩く手を止めた。
パソコンの画面には無情にもコピーが完了したことを知らせる
『Completed』の文字が無情にも浮かんでいた。
「形勢逆転。というわけだから。そのフロッピー、渡して。」
保田は真希から離れるとなつみと矢口に向かってそう言い放つ。
「・・・・・・・・」
矢口はフロッピーをパソコンから取り出すとそれを保田に放り投げた。
円を描きそれは保田の手の元へ渡った。
「聞き分けがよろしい。それじゃそのまま退散してもらいましょうか。」
保田はそのまま加護と辻の元へ行くと全員に向かって言った。
「まったく、腰が痛いよ。」
飯田も腰をさすりながらなんとかそこへ戻る。
- 206 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時28分56秒
- 「・・・・・・・・」
銃を突きつけられた梨華はきまずそうな表情を浮かべていた。
(言ってたとおりになっちゃった・・・・・。)
足手まといになると公言していたがまさか本当にそうなるとは。
梨華はもうやるせない気持ちで一杯だった。
「・・・・・・・」
矢口は悔しそうな表情で真希とひとみを呼び集めた。
「そう、それじゃもう出てって。」
「・・・・彼女はどうするつもり?」
これも珍しく真希が保田に質問した。
その目は少しだけ悔しさと怒りが込められている。
- 207 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時29分33秒
- 「あなた達にも仕事クリア期間ってのがあるでしょ?それまで彼女は
預からせてもらう。」
「人質ってわけだ?」
「そうよ。分かってんなら話が早いじゃない。」
保田はそんな真希の様子に怯むことなく答えた。
そう、仕事を受け付けてこなすまでは時間がある。
それまでに受け付けた仕事内容をこなし依頼者に引き渡すのだが・・・・。
「これはもう加護のお手柄ですね〜!」
加護は嬉しそうににこにこしながらこの場に似合わない声をあげる。
しかし、その手には梨華に突きつける銃がありそれを外すようなへまはしない。
- 208 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時30分08秒
- 「さ、早くして。さもないと彼女の綺麗な肌に傷が付くよ?」
「・・・・・あぅ・・」
梨華は情けない声を出した。
保田がポケットから小さいナイフを取り出しそれを梨華の頬に当てたのだ。
「ちっ・・・・・」
矢口は悔しそうにする。
しかし、無情にも保田の梨華に突きつけられるナイフは小さいながらにも
部屋の微かな光に反射し怪しく輝いていた。
切れ味ばつぐんだということをそれはあからさまに示してくる。
「矢口・・・・・」
「分かってる。」
なつみの言葉に矢口は答え真希とひとみの顔を微かに見ると言った。
「このままじゃ終わらせないからね。」
「楽しみに待ってる。」
保田は嘲るようにそう答える。
- 209 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時30分42秒
- 「・・・・・・・・」
そのまま矢口は梨華の顔を見た。
梨華は困ったような怯えたような表情をしていた。
(待ってて。)
矢口は小さく口だけ動かしそう言うとスッと音を立て四人は消えていった。
消える直前、梨華は真希と目があった。
「・・・・・!」
「・・・・・・」
真希は何もそれに答えずそのままその場を後にした。
- 210 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時31分36秒
- 「あっ・・・・・・」
「お約束の言葉言って欲しかったれす。」
梨華は消えてしまった四人にと真希に名残惜しそうにして小さく不安げに
声をもらした。
隣の辻はのんきにその姿があった場所へひらひらと手を振っていた。
加護がそんな辻にどういう意味か尋ねる。
それはどうやら「覚えてろ!」というセリフらしい。
「圭ちゃん超悪者って感じだったよ。」
飯田が微かに笑いながら保田に言う。
「もううるさいなぁ。いいでしょこっちだってお遊びでやってんじゃ
ないんだから。」
「でもまだ何かしてくるつもりみたいですね。」
加護は拳銃を梨華から離して鋭い表情でそう呟く。
それには今さっき辻と話していた時の幼さは微塵も残っていなかった。
- 211 名前:GAME START! 投稿日:2001年10月30日(火)19時32分09秒
- 「だね。ってなわけであなたには当分監禁されてもらうから。」
「監禁!?」
梨華は思わず声を出してしまう。
「そ。監禁れすよ〜。」
辻は未だのんきな声で恐ろしい言葉をまるでなんでもない風にバカにするようにも
取れる言い方で梨華に答える。
「そ、そんな・・・・・・」
まさかここまで全員の足を引っ張るとは。
梨華は心の底から落ち込み始める。
しばらくして飯田、保田、加護、辻、そして梨華の5人は会社を後にした。
夜は更けていく。
月が雲から顔を出しては隠れたりと繰り返していた。
退屈だった毎日は、いつしか手の届かないほど遠い過去の思い出になっていた――――
- 212 名前:aki 投稿日:2001年10月31日(水)14時09分07秒
- う〜ん、この小説果たしてだれか読んでくれてるのでしょうか・・・。
なんか自信喪失ぎみです(w
- 213 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月31日(水)20時43分34秒
- めちゃ読んでますよ!!
かなり楽しみにしてます、がんばって!!!
- 214 名前:aki 投稿日:2001年10月31日(水)20時46分16秒
- 213:名無し読者さん
>おぉ!今見たらレス付いてたんで嬉しかったです。
レスついてなくてもとりあえず更新してくか〜なんて思ってたので
ありがとうございます(w
頑張りまっす!
- 215 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時48分06秒
- 途中目隠しをされ梨華は車に乗らされた。
抵抗はせずただ四人の誘導に従った。
もし抵抗でもしたら矢口達に迷惑をかけ掛けないのとしても無駄だから。
それに思ったほど彼女達は悪い人でもないみたいだった。
しばらく目隠しで車に乗らされるとふいに車が止まった。
四人の誘導で歩かされやっと目隠しを取られると、そこは塔のような古ぼけた
建物だった。
案内の元に階段を登りたどり着いた場所はとある一室だった。
「ここがあんたの監禁場所。」
ドアがキィと開けられる。
すると中は殺風景な部屋だった。
高い壁に小さい窓が一つ、そして古いほこりだらけのベッド。
まるで牢屋そのものだった。
- 216 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時49分01秒
- 「・・・・・・・」
あまりの部屋に梨華は何も言う事ができなかった。
「まぁ、まだこの部屋入らなくていいや。さすがのあたしも絶対にここは
嫌だし。」
そう言うと保田は梨華をその部屋には入れずそのまま一緒に下の階に降り
三人のいる場所へと向かった。
「あ、保田さ〜ん!」
加護がこちらに気付き声をかける。
三人は床にそのまま座り、火を熾していた。
「・・・・・・・・」
使われていない建物らしいが勝手に使ったり火を熾したりしていいのだろうか?
梨華には素朴な疑問が浮かんでいた。
建物の中は嫌に静かだった。
ここに来るまでの車の中でもだんだん辺りの喧騒が静かになっていくのを梨華は
感じていた。
たぶん、近くに民家などないのだろう。
- 217 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時49分44秒
- 「夜食食べましょ〜。」
辻がスーパーの袋を両手に持ちにこにこ顔でみんなに呼びかける。
「はいはい。」
保田はそちらへ近づき一緒になって火の周りに座った。
「・・・・・・」
梨華もとりあえず保田の隣に同じようにして座った。
現在9時50分。
お腹も少し減る時間帯、夜食としては最適な時間だった。
辻はコンビニで買ってきたらしいおにぎりやらサンドイッチやらを
取り出しそれをみんなに配りだした。
それは梨華にも当たり前のように配られ少し驚いた反面嬉しかった。
懐中電灯と中央の火に照らされ全員は談笑しながら夜食を共にした。
- 218 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時50分41秒
- 同業者、つまりライバルに当たる人たちと楽しく話すのはどうかと
思い梨華はあまり自分からは話さないでいたが当然のように自分に
話が振られてくる。
「名前なんてーの?」
加護がマツタケのおにぎりを頬張りながら梨華に尋ねてくる。
「石川梨華です。」
「梨華ちゃんか、可愛い名前やな。」
中学生ぐらいの少女の大阪弁はどことなく可愛らしかった。
「うち加護亜依。よろしく〜。」
「よろしく。」
加護が手を軽く上げて自己紹介する。
梨華は年上にも関わらず加護に小さく頭を下げていた。
「あたしは辻希美れす。よろしくです。」
「こちらこそ。」
舌足らずでどこか可笑しい彼女の敬語に梨華は少し微笑みながらまた頭を下げた。
- 219 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時51分40秒
- 「あたしは保田圭。で、こっちは飯田圭織。」
「よろしく〜。」
保田と飯田も軽く梨華に挨拶する。
もはや監禁される者とした者という隔てりは消えつつあった。
「なごんだ空気の中悪いけど、今から・・・・そうだなぁ、たぶん一週間は
ここに居てもらうよ。」
保田が話をそっちに戻す。
「一週間も!?」
「そ。そのぐらい経てば向こうの仕事依頼期間も切れるだろうし。
と、同時にうちらの仕事達成。」
聞くところによると保田達の仕事の内容はその重要なデータを使う一週間後の
当日の日まで保存してパソコンを守るということらしい。
向こうの会社もライバル会社の動きを予測しての行動だった。
- 220 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時52分56秒
- 「そんな・・・・・」
梨華は困ったように言葉を漏らす。
「へたなことしなければ安全だし何か逃げ出そうとでもした場合は
その時だね。」
保田は沈んだ梨華に言った。
なごんだ空気になり馴れ合ったとしても仕事とプライベートはしっかり
区別していることがそれからよく分かる。
脱走でもしようとしたらそれこそそれに応じた行動を起こされるだろう。
梨華は困り果てるだけで何もできないことを思い知らされる。
- 221 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時53分35秒
- 「そういえばあんた見かけない顔だね。あそこの新人?」
そんな梨華の気持ちなど知らず飯田が沈んだ梨華に声をかける。
「あ、あたしは・・・・・・」
「どんな能力持ってん?」
加護もその話に興味を持ち始め輪に加わる。
辻だけが、食べることに熱中していた。
「・・・・・・・・」
何か言おうとするのだが気持ちとは裏腹に言葉が出てこず、それに加え上手い
誤魔化しの言葉も思いつかない。
- 222 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時54分12秒
- 「まだ目覚めてないんだ?」
「・・・・・はい。」
敵だと言うのにも関わらず素直にそう答えこくんと首を縦に振った。
「だから連れてこられたのね。どうりで加護に銃を突きつけられても何も
出来ないわけだわ。」
保田がやっと理解できたと言うようにうんうんと頷く。
「・・・・・・・・」
保田の言葉に何もできなかった自分の姿が脳裏を霞んだ。
そして、その時自分の方を悔しそうに見つめる彼女の姿。
「はぁ・・・・・・」
梨華は小さくため息をついた。
- 223 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時54分53秒
- 「でも向こうも何か考えてくるはずですよ。」
加護はおにぎりを食べ尽くしペットボトルのお茶を飲みながら言う。
今さっき同様、その表情には幼さは残されておらずまるで逆に年齢以上の
鋭い表情があった。
「だね。する事と言えば目に見えてるけど、どうしたらいいと思う?」
「本部に頼んでアレを派遣してもらった方がいいと思います。」
少し大阪弁の発音をしながら加護が答える。
「そうだね。その方がいいよ。」
飯田も加護の案に頷く。
「・・・・・・・・」
(アレって何だろう・・・・・)
加護たちの話す「アレ」の意味が分からず梨華は不安になった。
しかし知ったところでそれを矢口達に伝える術はない。
近頃知らないことだらけだと梨華はついでに思っていた。
- 224 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時55分40秒
- 「・・・・・必ず助けに来るよ。矢口達。」
保田は梨華の顔の覗き言った。
梨華は突然の保田の言葉に少し戸惑った。
微かに保田の口調はどこか懐かしむようで表情はどこか遠くを見るようだった。
「・・・・なんでそんなこと分かるんですか?・・・・それに名前も・・・・」
「・・・・・・・」
梨華の意外に鋭いところを突いた言葉に保田はしばし黙ってしまった。
よく仕事が鉢合わせになるということだけでは片づけられないほど今の
保田の言葉は説得力があるように梨華には聞こえた。
「そういう人やもん。後藤さんもよっすぃーも安倍さんも中澤さんも。」
加護が保田に代わって両手の平を火のほうにかざしながら言った。
「・・・・・・・」
(なんで・・・後藤さんたちのことも知ってるの・・・?)
なんとなく、この話になってからこの場が寂しそうな雰囲気を漂わせていた。
尋ねても答えてはくれないだろうと思い梨華はそれに関してはもう質問しなかった。
- 225 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時56分53秒
- 「だけど、こっちも仕事だからね。相手が裕ちゃんたちだろうと
手加減できない。」
言う飯田の横では飯田に持たれかかるようにして携帯電話のゲームで遊ぶ
辻の姿があった。
「・・・・・・・・」
「・・・怖い?」
「怖くなんか・・・・ありません。」
保田の言葉に梨華は少し口を尖らし答えた。
「はは、分かりやすい子だね。」
正直梨華は少しだけ不安に思った。
それが表に出て強がっているように現れてしまったらしい。
「本当です。」
「なんでそんなことはっきり言えるのさ。」
「・・・・言えるんです。だってあの時・・・・・」
梨華はそこで言葉をとめた。
「?」
保田はそんな梨華の様子に加護と顔を見合わせる。
- 226 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時57分34秒
- (あの時見たあの人の瞳は・・・・・・言ってくれてた・・・・)
梨華が思い出しているのは今さっきビルでその場を消え行こうとした時の
真希のことだった。
言葉は交わしていない。
目があっただけだ。
だけど、彼女は溢れるほどの感情をその瞳に込めて自分に訴えかけていた、
ような気がした。
『必ず助ける』
そんな気持ちがびんびん伝わってきたんだ―――――
- 227 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時58分09秒
- ほとんど真希は日常生活では感情を露にしない。
仕事の時、まるで別人のように仕事をこなし、話す真希の姿には梨華は正直驚いた。
いつもつまらなそうにしている真希の表情ばかり見ていたから。
だけど、その横顔はどこか憂いを秘めていて魅力的だった。
そんな彼女のあの時の瞳、それは悔しさと、怒りとやるせなさと、そして
そんな自分に向けての感情が表れているような気がした。
ただ梨華がそう感じただけで、真希がどう思っていたのかは分からないが・・・。
(だから怖くない。信じてる。必ず助けてくれるって。だからあたしははただそう
信じて待つだけ・・・・・。)
梨華はそう心の中で言った。
- 228 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時58分48秒
- あたりを見渡すと辻はいつのまにか眠りに落ちていた。
飯田はそんな辻の体に毛布をかけてあげた。
それを自分にもかけ、辻と同じように眠りにつこうとする。
「はい、毛布。」
「あ、ありがとうございます。」
保田に毛布を手渡され梨華はそれを体にかける。
「ふあ〜うちもそろそろ寝る〜。」
加護は欠伸しながら言うとそのまま一分もしないですやすやと眠りについた。
「あんたも寝ていいよ。火の始末はあたしがしとくから。」
「すいません・・・・・。それじゃ、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
梨華も保田にそう言い残すと同じように目を瞑り眠りにつくことにした。
- 229 名前:謎な関係 投稿日:2001年10月31日(水)20時59分27秒
- (後藤さん・・・・・・)
無意識に近いほどに、梨華の頭の中には真希のことだけが占められていた。
梨華にとって真希はもはや特別な人間になりつつあった。
それはなつみや矢口などそこで出会った人間全員に言えるかもしれないが。
だけど真希だけは梨華もよく分からないが自分にとって特別な人間だった。
まだ出会って間もなくほとんど話しをしたこともないのに。
日頃のほとんど無表情な彼女、そして仕事は区別し完璧にこなす彼女。
少しづつだが分かり始めてきた彼女の事。
それは知れば知るほど彼女の事をもっと知りたがせた。
もっと知りたい。
この時まだ梨華はそれがどういう感情からの行動なのかは知る由もなかった――――
- 230 名前:aki 投稿日:2001年10月31日(水)21時00分24秒
- ここまでです。
なぜかこの小説はすごい速さで執筆が進みます。
のでこれからもったいぶらずにばしばし更新していきます。
- 231 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月02日(金)02時32分43秒
- シリアスだけどコミカルで面白いです。
ごっちんの梨華ちゃん救出劇に期待。
- 232 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時24分28秒
- あれから矢口達は待機していた中澤の元に戻り今はジープの中。
「人質として取られたぁ〜!!?」
ガタガタ揺られながら車の中で中澤のとてつもないでかい声が響いた。
全員は同じようにして耳を塞ぐ。
「いやさぁ、加護にしてやられちゃって。」
助手席の矢口は特に耳を塞ぎ、中澤に言う。
「言い訳は聞かん!・・・・にしても加護はあいつあれで結構切れるから・・・・」
「あーあ、初日から本当にあの人足引っ張っちゃってくれて・・・・・」
ひとみがため息混じりに言う。
「こら、石川をフォローできんかった自分を責め!」
「だって〜・・・・・」
「ったく・・・・だってやないでしょ・・・」
中澤はもはや怒る事を通り越し呆れてしまう。
- 233 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時25分11秒
- 「たぶん、一週間は梨華ちゃんのことは返してくれないだろうね。」
なつみが冷静な口調で話を戻した。
「圭ちゃんのことやからたぶんそれは確実やろな。・・・近頃向こうも失敗続きで
必死ちゅうことか・・・・・」
中澤がハンドルを荒々しく回しながら答えた。
「ぐわ〜!もうちょっと丁寧に運転してよっ!」
「ジェットコースターみたいでおもしろいやろ?」
矢口の言葉に笑いながら楽しそうに答える中澤。
「・・・・・・・」
真希だけは会話に入らず肘をついて窓から夜の町並みを眺めていた。
- 234 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時26分00秒
- 「ん?」
そんな真希の様子にひとみが気がついた。
矢口と中澤となつみはこれからのことを交えながら世間話を交わしていた。
「ちょっと真希。」
「・・・・・なによ。」
「何なのそのあからさまに不機嫌な態度は。」
「別に・・・・・」
珍しく自分の呼びかけに答えた真希だがすぐにそっぽを向いてしまった。
「はは〜ん。あんたもしかして石川さんのこと気になってんでしょ。」
「・・・・・何言ってんの。んなわけないじゃん。」
「周りは誤魔化せてもあたしは誤魔化せないよ。やけに今日の真希、饒舌だもん。」
「・・・・・・・・」
ひとみの言葉に真希は黙ってしまった。
- 235 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時27分01秒
- 「心配?それとも寂しいの?」
「・・・・何が言いたいの?」
「べっつに〜。それともあれ?助けられなかった自分に歯がゆい?」
「・・・・それはひとみじゃないの?」
「あはは、あたしはそんなことでうじうじしません。誰かさんと違って。」
ひとみが肩を竦めぺろっと舌を出す。
「・・・・・・・・・」
「今ごろ加護か保田さん辺りに襲われてたりしてね〜。」
「・・・・・・さぁね。」
真希はひとみの言葉に顔の向きを変えず興味なさそうにしてぶっきらぼうに答えた。
「またまた〜本当は気になってしょうがないくせに。」
「・・・・しつこいなぁ・・・なんなのよ一体。ひとみこそあの子のこと
好きなんじゃないの・・・?」
「好きだよ。でも真希もあの子のこと好きならおもしろくなりそうだなって」
簡単に言いのけてしまう吉澤の言葉が冗談なのか本気なのかそれからは
分からなかった。
- 236 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時28分13秒
- 「んなわけ・・・ないじゃん。ばっからしい。」
真希はひとみから顔をそらすように窓の遠くを見つめる。
正直、素直に言ってのけてしまうひとみに対して戸惑った。
「じゃぁ、なんでそんなに不機嫌なのさ。」
「それは・・・・・負けた事が悔しいから。」
「・・・・あっそ。」
意地でも認めようとしない真希にひとみは小さく笑いながらそれ以上は相手に
しなかった。
前で話す三人に加わっていく。
「・・・・・・・」
真希は一人、窓の外へ目を向けていた。
胸に渦巻く灰色の雲のような不機嫌なこの気持ち。
それが何から起こる感情なのか、なぜこんな気持ちになるのか真希自身にも
分かっていなかった―――――――
- 237 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時28分59秒
- 監禁され早5日間。
月日の経つのは早いもので監禁された時がなぜか遠く感じられた。
いつのまにかこの塔で気ままに保田達と過ごすのが当たり前のような毎日に
なりつつあったからだ。
まだ5日だがとても矢口達と離れているように感じられもしかしたら助けに
来てくれないのではないかと不安に思ったりもした。
「さつまいも買って来たぁ〜。」
今日もまた、秋の味覚と言わんばかり加護が紫色の形のいいさつまいもを
持って塔へと来ていた。
「わお〜焼き芋だぁ〜〜」
辻が目をきらきらさせ加護に駆け寄る。
「はよ焼こう〜。」
そう言うと加護はいつもの火を熾す場所に新しい紙やら木やら集め始めた。
- 238 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時29分43秒
- 「・・・・・・・・」
(・・・・また?)
この5日間で分かった事。
その中の一つ、それはこの二人はとてつもない食欲旺盛だという事だった。
つい今さっき昼食を取ったばかりだと言うのにもう焼き芋に取り掛かろうと
している。
今日に限らずいつもこうだ。
手が空いてさえすれば何か求めようとする。
そして欠かさず自分にもそれをくれるのだが。
- 239 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時30分42秒
- 「加護〜。」
塔の上の階から階段を下りてくる音が響いてきた。
それからまもなく保田が姿を現した。
「何ですか〜?」
「この前話してたアレ、今日中にもうすぐ届くから。」
「あ〜、そうですね。アレ今日中にセットしとかないとまずいですね。」
保田の言葉に加護は振り向かず芋を火の当たる場所へ移動させながら答えた。
「あれからもう5日。何かするんだとしたら今日しかないからね。
届いたらすぐにセットするんだよ?」
「あい。」
加護は手を上げて保田に向かって答えた。
- 240 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時31分45秒
- 「飯田さんはどこれすか〜?」
「圭織ならここのてっぺんで外を眺めてたよ。」
「また交信中れすか?」
「みたい。なんかぼーっとしてたよ。」
辻は保田の言葉に「ふ〜ん。」と頷くとすぐに焼き芋へと体を向き直らせた。
「・・・・何をするつもりなんですか?」
梨華は保田達の意味ありげな言葉に疑問を感じ尋ねる。
前々から感じていた事だが答えてはくれないとあきらめていた。
だけど、聞かずにはいられない。
「秘密。言ったら意味ないでしょ。」
予想してた通りの答えが返ってきた。
あまりにも予想通りなので落胆する事もない。
- 241 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時32分48秒
- 「はい。梨華ちゃん焼き芋だよ〜ん。」
加護が新聞紙に包まられた焼き芋を梨華に手渡した。
「ありがとう。・・・でも太っちゃうよ〜。」
この頃ずっと加護も辻も分け与えてくれるのだが、正直塔の中を少し歩いている
だけなので体重のことを梨華は気にしていた。
「大丈夫大丈夫。辻なんてもうやばいよ〜。」
辻がキャハっと笑いながら洋服の上からお腹の上をポンポンと叩いた。
「そうだよ。梨華ちゃん細すぎ。」
加護も焼き芋を頬張りながら言う。
「そうかな・・・・・」
いつもこれで梨華も付き合わされることになるのだ。
今も、加護と辻の言葉に催され焼き芋を口にしてしまっている。
- 242 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時33分19秒
- 『あるとしたら今日』
(後藤さんに、会えるかな・・・・?)
逃げれるとか外に出られるとかはあまり頭になかった。
たった5日間離れていただけなのに、頭の中では真希のことしかなかった。
(早く会って、会話を交わさなくてもいいから・・・あなたの横顔が見たい・・・)
焼き芋を頬張りながら梨華はそんな願いを込め今日もまた平和なお昼の時間を
過ごしていた。
- 243 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時35分12秒
- そして時早くPM7時。
辺りはすでに暗く空気も少し肌寒くなりつつあった。
そして塔から響いてくるでかい声。
「ちょっとぉ〜〜!!!保田さ〜ん!これは一体どういう事なんですかぁ!!!?」
梨華は叫んでいた。
無理もない。
いきなり「ちょっと石川にもスタンバってもらうから」と言われ訳も分からない
ままされたのがこの姿。
- 244 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時35分57秒
- 「ちょっと〜!身動きとれな〜い!!それに何ですかこの格好〜!?」
そうなのだ。
着ていた洋服は軽く乱され、まるで誰かに襲われた後のような格好になっている。
あれよあれよと言う間にスカートの横のファスナーは外されるは上着は
脱がされシャツはボタンを上から三つまで外されるは。
それだけならまだしもブラまで金具が外されている。
これはもう監禁に加えセクハラ容疑で逮捕されぞ、なんて梨華は
心の中でぼやいていた。
それにプラス、両足両手にはつながるようにして手錠がかけられている。
もはやなんじゃこりゃ〜!と言いたくなってくる。
- 245 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時37分05秒
- しかもその状態であの最初来た時目にしたあの牢屋のような部屋に入れられ
ているのだ。
なんでもあの加護や保田が言っていた「アレ」の存在を知られないように
するためらしい。
今さっきから部屋の向こうではガタガタと音がしているがドアには窓もなくカギも
閉められているのでそれが何なのかさっぱり分からない。
ここに来て今更というほどに「人質」な気分を梨華は感じていた。
「保田さんってば〜〜!!!」
「もう!いいから静かにしてなさい!」
まるで子供をしかる親のような口調で保田が向こうから叫んで言って来る。
「静かにしてなさいって言われても・・・・・」
いきなりこんな格好させられて閉じ込められて状況が分からないし保田達が
しようとしていることも分からないでいるのに静かにしてろと言う方が非常識で
無茶だと思う。
- 246 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時37分51秒
- ぶうぶうと文句を言う梨華の向こうでは作戦に向けて着実に事を進めている
ご機嫌の加護がいた。
「ふふふのふ〜〜♪うちの作戦完璧やぁそう思いませんか〜?
保田さ〜ん。」
「まあね。後は運を味方につけさえすれば本当に完璧だけど。」
「ふふん!勝負の女神も加護のキュートさにめろめろですよ〜」
「あっそ。」
さっきからこんな様子に加護に保田は適当に返事した。
「梨華ちゃんのあの姿に矢口さんたちは我を忘れ助けようとする・・・・
そこをどか〜〜んってやつですよ!」
加護は「アレ」をセットしながら握った拳を上に放り上げた。
- 247 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時38分29秒
- つまり加護の作戦とはこうだ。
必ず矢口達は梨華を助けに来る。
そしてそれからタイムリミット直前までに向こうは向こうで梨華が助けられた
と同時に会社に潜入しまたデータのコピーにかかると読んだのだ。
たぶん、データのコピーにはなつみと誰か。
そしてこちらには攻撃タイプの後藤か吉澤か矢口の誰かが来るであろう。
その中の誰にしてもこの塔に潜入してきたと同時に飛んで火に入る夏の虫。
梨華の姿に矢口達は我を忘れ、そして助けようとする。
そこに今用意している「アレ」が侵入者達の矢口達に向かって発動するのだ。
タイムリミットまでの時間を稼げれば良い。
そして時間切れとなったその時!自分達の仕事は達成されたことになるのだ。
- 248 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時41分10秒
- 「あっはっは〜〜♪♪どっからでもかかってこ〜いっ!!!」
「・・・・・・・・」
突然高らかに笑い出した加護に保田はびくっとした。
いつもこうなのだ。
自分の立てた作戦に対しては万が一という事を全く考えず全て成功することを
前提にしている。
自信たっぷりなのは別に悪い事ではないのだがそれが身を滅ぼさなければいいと
保田は思っていた。
・・・・結果的にいつもそれで自分達の足を引っ張っているのだが。
そのたびに反省もするが次は大丈夫だろうと思う自分にも問題もあったりするの
だがそれに保田は自分の事ながら気付いていなかった。
- 249 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時41分52秒
- 「保田さん終わりましたぁ?」
「ふぅ、今終わったよ。」
「ほんならちょっと退いて下さいね〜。」
「はいはい。」
加護の言葉に保田は答えるとすぐにその場を退いた。
「む〜・・・・・・」
二列に並んだ「アレ」に向かって加護は列の前のところに立ち、片手を
顔の前に縦に添えてお坊さんのような体勢で小さく唸りながら念じ始めた。
フワッ
まるでそう聞こえるかのように「アレ」の全てが微かに空に浮いた。
「・・・・・・・・」
保田は黙ってそれを見つめる。
- 250 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時42分34秒
- 「・・・・・・・・」
加護も無言になり真剣になり始める。
と、同時に全ての「アレ」が緑色の光に包まれそれぞれが不思議な動きを
し始めた。
「んっ!!」
加護が小さくだが力強くそう声を漏らすと全ての「アレ」に覆っていた紫の
光が微弱になり川のせせらぎほどにそれは静かに自然な物になる。
するとそれはまるで指揮官に向かって整列する兵隊のようにくるっと加護に
向かって回れ右をすると手を斜めに額のところに添え敬礼した。
「どうも〜♪それじゃ侵入者が来た時はよろしく〜〜♪」
加護の言葉にそれは再び敬礼するとそれぞれ自分の位置へと戻っていった。
- 251 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月02日(金)21時43分09秒
- 「ふぅ。後は待つだけね・・・・。」
それにしても小さいのに自分と同等、いやそれ以上の力を持つ加護に保田は
少し感心するようにため息をはいた。
それでいて年齢以上のよく回る頭を持っているのだから。
「ふふふ。今回も最初から最後まで加護のお手柄だ」
そう言うと加護はまるで本当の指揮官のような制服を着てスタンバイする。
小さい体で可愛い体にそれは不恰好だったがなぜかとてもそれは似合っていた。
今さっきから言う「アレ」
それはよくお城とかに置かれていたりする中身のない置物の銀の鎧だった。
それはそれぞれ剣と盾を持ち中身は存在しないのだが加護の力によって
動きそれぞれ意志を持ち始める。
加護の得意とする能力、それは魂のない物体を操作する力だった。
- 252 名前:aki 投稿日:2001年11月02日(金)21時45分15秒
- 232〜251 更新しました。
231:名無し読者さん
>レスありがとうございます。
シリアスにコミカルも感じて頂けて嬉しいです。
梨華ちゃんの救出劇、何かが起こりそうです・・・・(w
- 253 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月03日(土)00時51分50秒
- そして加護がその能力を発揮するちょうど二時間前。
「単純な作戦やけど、これしか方法がない。」
中澤の言葉はバーの中に静かに響いた。
カウンターに全員を座らせ中澤が中から全員に向かい合うようにして言った。
「二手に分かれてまず梨華ちゃんを救出する。そしたら会社に待機するグループに
すぐに連絡し時間切れ直前までデータコピーに挑む。でしょ。」
「そや。」
なつみが中澤がまだ一言もその作戦いついて話してはいなかったが
答えた。
中澤も察しがついていると思われていたらしくなつみの言葉に驚きもしなかった。
「でもさ〜、なっちやあたしでも想像できちゃうこの作戦。向こうも絶対予測
してるよ。上手くいくかな。」
「そう言うてもこれしか方法がない。」
- 254 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月03日(土)00時52分39秒
- 梨華が囚われの身の状態ではまず仕事本来に取り掛かることができない。
達成するにはまず梨華を救う事しか手がないのだ。
「ったく、困ったねぇ。」
ひとみがまるで人事のような口調で言う。
「それで、二手に分かれるグループの組み合わせやけど・・・・・」
「まずなっちは会社に行く側だね。」
矢口が言う。
「いつもならなっちにはあたしが付くけど、会社に誰も用意していないとも
思えない。」
「そやな。いくら加護のあの性格でも圭ちゃんがおるしな。」
「矢口じゃもし敵の数が多かったら不安だし・・・・・だからよっすぃーが
なっちにつく?」
「え?あたしですか?」
「うん、ダメ?」
「ダメじゃないですけど・・・・・」
ひとみはちらっと真希の方を見た。
- 255 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月03日(土)00時53分28秒
- 「・・・・・・・・」
真希は何も言わずただ無言で無表情だった。
「ほんならよっすぃーに決定やな。」
少し躊躇っていた吉澤に構うことなく中澤は吉澤にすることを決めた。
真希とひとみは攻撃タイプの強力な力を持つ。
それに比べると矢口はそれほどの力を持ち合わしていない加護と同じ
操作することを得意とするタイプだった。
もし、なつみと同伴しても敵が襲ってきた場合迎え撃てなかったらまずい
ことになる。
ひとみの気にかかった事。
それは梨華の救出の事だった。
別に囚われの身のお姫様を助けに行くことに燃える王子な気持ちなんて全く
なかったが、どう考えても救出組の方がおもしろそうだから本当はそっちが
良かったのだが・・・。
梨華を助け、真希にしても自分にしてもポイントを稼いだ時、その時の真希の
様子は目に見えていておもしろそうだったのに・・・・・。
ひとみは人知れずため息を吐いたが文句を言うようなわがままなことはしなかった。
- 256 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月03日(土)00時54分12秒
- 結局救出組は矢口に真希、そして運転手に中澤という組み合わせになった。
「ごっつあん頑張ろうね〜。」
「うん。」
矢口の言葉に素直に真希は答えた。
「・・・・・・・・」
矢口はびっくりしたような表情をした。
いつも自分がこのような言葉をかけても真希は素っ気なくしていたり
さらっと受け流してしまうからだ。
そしていつもぼーっと興味なさそうな顔をしているのに。
今日に限ってそれは真希からは感じられなかった。
- 257 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月03日(土)00時55分03秒
- いつもとはまったく正反対の感情がオーラのように真希から醸し出されていた。
真希はそんな矢口の驚きなど知らずただカウンターに肘をついて
前を見つめていた。
その瞳に映るものは何なのかは真希以外誰も分からない。
いや、それは真希自身にもなぜそれが映っているのが分からなかった。
- 258 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月03日(土)15時51分37秒
- おもしろい!
- 259 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月03日(土)17時19分28秒
- 梨華ちゃんの能力なんだろー?
気になるな
- 260 名前:aki 投稿日:2001年11月03日(土)18時01分44秒
- 258:名無し読者さん
>レスありがとうございます!
一言そう言ってもらえるだけでもとっても嬉しくて励みになります!
259:名無しさん
>レスありがとうございます!
梨華ちゃんの能力は・・・・・密かに決まっていたりします(w
これからの展開に乞うご期待あれ!
- 261 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月03日(土)19時08分44秒
- PM7時30分。
ブルンと音を立て一台のジープが砂利道に停止した。
すこし都会の中心から離れた郊外のここでは周りはすでに真っ暗に近かった。
電灯も所々にあるだけで人の姿なんて一人も目に付かなかった。
「ほんなら行っといで。」
サイドブレーキを引きながら中澤が後ろの席の二人に向かって言った。
「裕ちゃんは?」
「待ってる。そうやな・・・・・・一時間経っても帰ってこないようやったら
様子見に行くわ。」
「了解。」
矢口は中澤の言葉を聞くとジープのドアを開き外に出た。
真希も続いて車の外へ出ようとする。
「後藤。」
「・・・・・・・?」
真希はふいにかけられた言葉に?を浮かべて中澤の方へ振り向いた。
- 262 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月03日(土)19時09分21秒
- 「どんな時でも自分を見失うんじゃないよ?」
「うん?」
中澤の言葉に真希は今更と思いながら頷いた。
二人が出て行きドアが閉められたので中澤も車のライトにエンジンを消して
待つことにした。
「・・・・・・・・」
中澤の胸には微かにだが不安がよぎっていた。
後藤の様子、表情、雰囲気、それが少しいつもと変わっていたからだ。
まるで、あの時彼女がいた時のような雰囲気だった。
「・・・・・やな予感当たらんといいけど・・・・」
中澤はハンドルに持たれかかるようにして小さく呟いた。
(あの子は・・・・いざって時になると自分を忘れるから・・・・)
- 263 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月03日(土)19時10分54秒
- 砂利道を極力音を立てないようにして二人は進んでいく。
「あ、あれ・・・・」
矢口は目の前に暗い視界の中静かに立つ塔のような建物を指差した。
「・・・・・・・」
真希も黙ってそちらを仰ぎ見る。
「お待ちしてました〜〜」
塔の一番上、屋上のような所にぱっと演出したかのようなスポットライトが下から
灯った。
「ん゛??」
矢口は顔をしかめてそちらに目をやる。
するとそこから指揮官のような制服を来てばっちり決めた加護の姿が登場した。
「矢口さんに後藤さ〜ん??おはろ〜〜〜!」
「「・・・・・・・」」
いやにハイテンションの加護に真希も矢口も口を閉ざしてしまう。
「予想やと後藤さんとよっすぃーかと思たけど、まぁいいとして。」
こほんと堰をし、一旦置いてから加護が口を開いた。
- 264 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月03日(土)19時11分31秒
- 「これを見て下さ〜いっ!!!」
加護が横に手を広げた。
「キャッ!」
するとそこから両足はとりあえず外されたものの未だ後ろ手に両手を結ばれている
梨華の姿が登場した。
今は、洋服の上には軽い上着がかけられていた。
「梨華ちゃん!」
「・・・・・・・」
矢口は叫び、真希は静かにそれを睨んでいた。
「あっ・・・・・矢口さんに・・・後藤さん・・・・」
梨華はやっと塔の下に目をやる事が出来た。
するとそこには会いたかった人が、見たかった人の姿があった。
- 265 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月03日(土)19時12分23秒
- 「あっは〜梨華ちゃんを助けたければ最上階まで来なさ〜い!!
待ってま〜すっ!!」
「あ、だ、駄目ですっ!これは、わ・・・・・」
梨華が言おうとした瞬間、何かが口の中に塞がった。
「むぐぐ・・・・・!!」
「駄目れすよ〜?人質は人質らしくしてなくちゃ〜」
辻が後ろから梨華の口の中にいい感じに冷めたにくまんをねじ込んでいた。
「相変わらずあいつは・・・・・」
矢口がその姿にはぁとため息をつく。
「・・・・・・・」
真希はただその姿を黙って見ていた。
「矢口さん、後藤・・・さ・・・ん・・・・・」
梨華がにくまんを食べて続けて話そうとした時、そのままこくんと気を失った
ようにぐったりしてしまった。
「梨華ちゃん!!!?」
「あは〜♪上手く効いたみたいれす♪辻お手製の睡眠薬」
てへてへと笑いながら年より下な感じで辻が笑った。
- 266 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月03日(土)19時14分00秒
- 「それじゃ後藤さんに矢口さんまったね〜♪」
「あ、ちょっとっ・・・・・!!」
矢口の制止も空しく加護と辻、そして梨華は抱えられるようにして
塔の中へ消えていってしまった。
「助けなきゃ・・・・・!」
真希にしては珍しく感情を表にし仕事の割には冷静さを失っているように見えた。
「ちょ、ちょっとちょっと!どう考えたって罠じゃんっ!」
「だからって指加えて見てなんかいらんないっ!」
「ごっつあん・・・・」
真希のこんな様子はほとんど「あれ」以来始めて矢口は目にしていた。
少しだけ驚いて目を丸くし呆然としてしまう。
矢口の言葉も無視しどんどん進んでいく真希の腕を掴んで止めようとするが
矢口の力ではそれは無理に等しく逆に真希に引きずられてしまう。
- 267 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月03日(土)19時15分24秒
- 「なんかしら作戦立てようよ!」
「こんな鉛筆みたいな塔じゃ真っ向しか入るしかないよ。」
確かに、塔にはほとんど窓は付けられていないししかもそれは鳥がやっと降り立つ事が
できるほどだ。
「だけどさ・・・・・」
「じゃあ、やぐっつあんはここで待っててよ。あたしだけ行ってくるから。」
「あのねぇ、そんなことできるわけないっしょ〜?」
矢口の言葉も遠く真希はすたすたと塔の入り口へと向かって行ってしまった。
「ったく・・・・・」
(にしても何でごっつあんあんなにぴりぴりしてるわけ?)
矢口は一人で?と首を傾げていた。
(それは一旦置いといて・・・・・う〜ん、虎穴に入らずんば虎児を得ずって
やつ・・・・・?)
少ししてから矢口も真希の後姿に向かって走り出した。
「待ってよ〜!あたしも行くって〜!」
(こうなりゃどこまでもついて行くか・・・・・)
矢口は少し微苦笑をすると真希の元へと近づいていった。
- 268 名前:aki 投稿日:2001年11月03日(土)19時20分23秒
- 今日はここまでです。
昨日二回更新してしまったため少しストックがなくなっていきました。
38:私もこっちでレスを^^;
>レスありがとうございます!
雪板頑張ってます。
読んでても〜>そうでうか!嬉しいです。これからも頑張りますよー!
月の方の感想もありがとうございますm(__)m
「とある〜」ももう少ししたら再開していきたいです。
これからも頑張りましょうね^^
- 269 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月04日(日)22時18分41秒
- 塔の中は静まり返っていた。
外の肌寒さと共に塔の中もその外を冷たい空気を防ぎきれていなかった。
所々にこの前降った雨の後らしき水溜りが床に出来ていた。
照明は小さな炎がろうそくに至る所に灯っているだけで薄暗く
まるでお化け屋敷のようだった。
「やっぱり罠じゃん〜?何にもしてこないし〜・・・・」
「時間もないし急がないと・・・」
矢口の言葉はほぼ無視し真希は仕事達成に向けて歩く足を早めた。
真希達が塔の侵入したと同時に、塔の重い大きな入り口がバンッと大きな
音を立て閉められた。
確かめるまでもなかったがやっぱりそれにはカギがかけられていた。
たぶん、これも加護の仕業だろう。
- 270 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月04日(日)22時19分40秒
- 「ひっ!!!」
「・・・・・・なに?」
矢口の突然の小さな悲鳴に真希はほとんど普段通りに尋ね振り向いた。
「み、水が首筋に落ちてきたぁ!!」
矢口が少し泣きそうな顔をして言いながら真希の腕にしがみ付いた。
「・・・・・・・」
思っていたとおりの返事が返ってきたので真希はなんの言葉も返さず
そのまま塔の階段を上がっていく。
「あ、今呆れたでしょ?」
「・・・・・別に。」
「うっそだ〜。絶対「またか・・・・」とか思ったでしょ?」
「・・・・・・それよりあまりくっ付いてると何かあった時反応が遅れるから・・・・」
真希は言うと自分の腕にしがみ付く矢口の腕を見た。
「つまり邪魔って言いたい?」
「・・・・・・・」
「あいあい。離れますよ〜。」
返事は返ってこないが何が言いたいのかはとっくに承知で矢口はぱっと
真希から離れた。
- 271 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月04日(日)22時20分40秒
- 「なっちだと何にも言わないのにな〜。」
少し愚痴をこぼしながら矢口は壁のある物を見つけた。
「ん?何だろこれ。」
そこには壁のところに小さな穴が開いてあり中に赤いボタンが設置してあった。
その上には『押して』と書いてあった。
「ボタンがあると押したくなるんだよね〜。」
「あ、ダメ・・・・・」
真希が止めるのも時既に遅く矢口がぽちっと口で言いながらそれを押していた。
ギーーー、ガチャ。
「ん?」
すると壁の一部が外れ、何やらホースの先のような金属出てきている物がそこか
ら現れた。
それは矢口の目の前に、真正面に出現した。
- 272 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月04日(日)22時21分20秒
- 「早く避け・・・・」
「ぶわ〜〜〜!!!!!」
やっぱり真希の忠告は空しく、そこからいきなり凄い量の水が矢口に向かって
放出された。
しばらく水を放出し続けるとそれはまた機械音をたてまた壁の中に戻っていって
しまった。
「なんじゃこりゃ〜〜〜!!!!」
「・・・・・・・」
矢口の髪からは空しく今受けた水がぽたぽたと床に音を立て落ちていた。
真希は何か言いた気な表情でそんな矢口を見ていた。
『や〜い引っかかった〜引っかかった〜♪』
その後には壁の向こうから録音されたらしき加護と辻の声が響いてくる。
「くそ〜〜!!!あいつら〜〜!!!」
矢口は悔しそうにしながら歩く足を荒げながら再び階段を上り始める。
- 273 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月04日(日)22時24分13秒
- ポチ。
「ん?」
「あ〜・・・・・・」
もはや真希は呆れて忠告するのも忘れてしまう。
矢口が階段に付けられていたボタンをまた押してしまったのだ。
こうも見事に罠に引っかかってくれる侵入者も珍しいだろう。
ギーーーカチャ。
「うわわわわ!!!」
「・・・・・・・・」
今度は天井の上の一部が機械音と共に開くとそこから大量のぬいぐるみが
矢口の頭へ向かって降り注ぐ。
真希には至って被害はないのでだがやっぱり何か言いた気な表情でその姿を真希
は見つめていた。
- 274 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月04日(日)22時25分09秒
- しばらくするとぬいぐるみの雨は止み、また天井が機械音と共に塞がった。
「ちょっと、ごっつあん見てないで助けてよ〜!」
「だって・・・・・・」
とりあえず忠告しているのだがいつも矢口がその前にトラップに引っかかっ
てしまうのだ。
「くそ〜〜〜!!加護に辻め、見てろよ〜!!!」
矢口は拳を震わせ怒りに燃えていた。
「ん?ごっつあん?」
ふと後ろにいた真希に振り向いてみると真希も後ろを見たまま
無言で歩く足を止めていた。
「・・・・ごめん。」
真希は矢口に呼ばれ振り向いていた体を元に戻した。
「ふっ・・・・・」
小さく真希は元に戻りざま口元で小さく微苦笑した。
「?」
そんな真希の様子に矢口は首を傾げたが何も聞かなかった。
再び、二人は階段を登っていく。
そんな二人の様子をただ静かに天井から見守る一つの物が存在していた。
- 275 名前:aki 投稿日:2001年11月04日(日)22時26分56秒
- >>269-274
今日の分です。
- 276 名前:キャメル 投稿日:2001年11月05日(月)00時24分57秒
- なんか、愉快な戦闘っすね〜!
面白いです!楽しみにしてます!
- 277 名前:aki 投稿日:2001年11月05日(月)13時42分07秒
- 276:キャメルさん
>レスありがとうございます^^
愉快です。なんか愉快になってしまいました(爆)
でもこれから・・・・・。
面白いと言って貰えて嬉しいです!
頑張ります!
- 278 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時24分47秒
- ――――――――
「あっはははは〜〜!!!!」
「矢口さんおもしろ〜〜い!!!」
そしてこちらがその「物」から通して矢口達の状況を見守る二人。
塔に入ったところから真希と矢口の様子は監視カメラで見張られていた。
これも加護が操作している物の一つだった。
一つの監視カメラが加護の力によってまるで鳥のように優雅に飛び
真希と矢口の後を追っていた。
あまりにも作ったトラップに見事に引っかかってくれる矢口に二人は
待機所で大笑いしていた。
「あんたたち笑いすぎ。」
保田が未だ笑いつづける二人にそう嗜める。
だが、当分二人の笑い声は終わりそうになかった。
- 279 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時25分17秒
- 「・・・・・・・・」
(矢口さん・・・・後藤さん・・・・)
その後ろで目が覚めた梨華は監視カメラから映し出される二人の映像を見ていた。
目が覚めたのはいいが保田に言葉を力で言葉を発せなくさせられているため
梨華は何も言えずにいた。
梨華の目にはここ、つまり最上階に向かって階段を突き進む二人の姿があった。
(ダメ・・・・来たら罠が・・・・)
目が冷めたと同時に梨華は向こうの部屋にセットされている「アレ」の
正体を知った。
加護の能力も分かった今、来たら絶対に二人に危険が及ぶ。
だけど、それを二人に教える術はなかった。
- 280 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時25分54秒
- 「・・・!」
ふと今、微かに真希がこちらを見たような気がした。
しかしそのまま梨華が見ているとも知らず前に向き直ってしまう。
(お願いっ!!・・・・・後藤さん・・・・!)
梨華は必死に心の中で真希の名前を呼んだ。
何か、微かなことでもいいから伝わることを信じて、梨華は願いつづけた。
- 281 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時26分31秒
- ――――――――
あれから大分階段を登りつづけ二人は塔の中間より上辺りまでは来ていた。
所々に設置されているトラップもいい加減、矢口も引っかからなくなっていた。
そんな時、真希がはっとして顔を上にあげた。
「!!」
「ん?どしたの?ごっつあん。」
突然はっとした真希に矢口は不思議そうに首を傾げた。
「今・・・・誰かに呼ばれた気がした・・・・・」
「声は何もしなかったよ?」
「そうじゃなくて・・・・・誰かに・・・・」
「・・・・もしかしてそれ梨華ちゃんじゃん?」
「・・・・・・・」
矢口の言葉に真希ははっとしてまた黙って考え込むようにしてしまった。
- 282 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時27分07秒
- 「結構上ってきたし、もう少しなんじゃない?」
矢口は言いながらまるで果てしなく続くかのようならせん状の階段の上を見た。
らせんの真ん中は上から下までそのまま真っ直ぐ吹き抜けになっていた。
外で見たよりも実際階段を登ってみるととても長く高い気がした。
「早く助けてくれ〜って感じ?」
「いや・・・・違う・・・。何かもっと・・・嫌な感じ・・だった・・・。」
「・・・・虫の知らせ、みたいな?」
「・・・・・・」
矢口の言葉に真希は黙って頷いた。
「・・・・・そうだね、今の今まで大した妨害もなかったし・・・これから
用心したほうがいいかも。」
「うん。」
真希は矢口の言葉に再び今度は声を出して頷くと二人はまた永遠に続く
かのような長い階段を登り始めた。
- 283 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時27分46秒
- ―――――――――
「!?」
梨華の声に反応したのは真希だけではなかった。
車の中でただ静かに時が流れるのを過ごしていた中澤もはっとそれに反応した。
「・・・・・・」
黙って車に付けられている時計を見てみる。
すると矢口達が出て行ってから約30分が経っていた。
「タイムリミットまであと30分・・・・・」
(何もなければいいけど・・・・・)
今感じたどこか嫌な感覚に中澤は心の中で小さく呟いた。
- 284 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時28分24秒
- ――――――――
「矢口さんトラップに引っかからなくなってきちゃったよ。」
「つまんない〜。」
加護と辻は相変わらずその部屋の監視カメラのテレビで二人の様子を見ていた。
既に梨華は別のある場所にスタンバイさせてある。
出番が来たら自分達が後は行くだけだ。
それまではぼーっとお菓子を食べながら二人の様子を笑いながら眺めていた。
「ジュースないかな〜?」
加護が椅子から降りて後ろに飲み物を探しに行った時、
ガチャンッ!!シュー・・・
「亜依ちゃん!」
「!!」
突然機械の壊れるような音がしたかと思うとテレビの画面から映像が途切れ
ただ何も映らずにザーと言う音と映像が流れた。
- 285 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時29分01秒
- 「何!?壊れた?・・・・それとも・・・・」
「ご名答。」
加護が辺りを見渡そうとした時、不意に後ろから余裕のたっぷりの声が掛けられた。
「なっ・・・・・!!」
「矢口さんに後藤さん!」
驚いて声も出なかった。
辻もただ突然の二人の登場に目を丸くする。
- 286 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時30分25秒
- 「どうして・・・・・」
「監視カメラばれてないとでも思ってた?この塔に入った時からばればれだったよ。」
真希が苦笑しながら戸惑う加護に言い放つ。
足元には無残にも壊された監視カメラが落ちていた。
「どうしてここが分かったんですか?」
「だって、微かにだけど二人の笑い声が響いてきたもん。」
呆れるように再び真希は小さく苦笑しながら加護に答える。
「・・・・・・」
隣の矢口は何か言いたかったが何もいえずにいて困ったような複雑な表情を
していた。
「やぐっつあんに感謝だね。」
「もう、好きで引っかかってたわけじゃないよ〜・・・・・」
これは作戦でした!なんて嘘でも言えなくて矢口は少し頬を膨らませ
抗議する。
- 287 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時31分04秒
- 「ってことだから。さっさと彼女を返して。」
真希は二人に向き直り今までの軽い雰囲気を拭い去り冷たい口調で言った。
「「・・・・・・・・」」
二人は無言で困ったように顔を見合わせた。
しばらくそうしていると二人は「うんっ!」と小さく言うと深く頷いた。
「何が「うんっ!」なのさ?」
「「それは・・・・・こういうことです!!」
矢口の言葉を合図に二人は一斉に駆け出した。
真希達が入ってきた扉とは別のもう一つの扉を同時に足で蹴り飛ばすと
全力疾走で逃げていった。
- 288 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時31分39秒
- 「あっ・・・・・・」
「こら〜!!待て〜!!」
予定外の行動に二人は一瞬反応が遅れたがすぐに二人を追いかけた。
しかしお菓子をぱかぱか食べている割には意外にも二人の足は早く
あっという間に距離は離れていた。
「あんたたちには〜〜!!!今までのいたずら分、落とし前つけさして貰う
んだから〜!!!」
矢口も全力で二人を追いかけた。
二人が角を曲がり姿が不意に消える。
二人もすぐにその角を曲がって二人を追いかけた。
しかしそこには二人の姿は既になく、ただ目の前には大きな扉があった。
- 289 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時32分37秒
- バンッ
矢口は塔の最上階の木で出来ている大きな扉を勢いよく開け放った。
目の前に不気味なほど静かな廊下が広がる。
今、開いた扉からずっと長い廊下が続いている。
壁には所々にろうそくが配置されてあり風も吹いていないのに火が揺れ
それが作る影の揺らめきはどこか嫌な雰囲気を漂わせる。
そして自分達の左右の長い廊下に続く壁には銀の鎧がびっしりと隙間なく
立てかけてあった。
初めから終わりまで全て同じモデルの物が置かれており全てがそれを侵入者
二人に向いて立っている。
- 290 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時33分08秒
- 目はないはずなのに、矢口と真希も二人とも誰かに見られているような
気がしてならなかった。
廊下の全てが中世ヨーロッパをイメージしたような雰囲気だった。
加護と辻の姿を探していた二人だが、矢口が不意に目の前の彼女に気が付いた。
「・・・・・・ごっつあん、あれ!!」
「・・・・!!」
矢口の言葉に真希は真正面を見る矢口と同じ方向をすぐに見た。
するとそこには上着が脱がされシャツも上から3つまで外されしかもスカート
のファスナーまで微かに外れている梨華の姿があった。
しかもその乱れたシャツからは外れたブラまで姿を覗かせていた。
- 291 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時33分59秒
- 「・・・っ・・・・!」
梨華は真希と矢口の姿に必死に声をかけようとした。
だけど、それは空しく保田の力によって言葉を発さない。
(罠です!!お願いだから戻って・・・・・!)
出そうなのにどうしても途切れてしまう声に梨華は必死にそれを続けようとする。
「梨華ちゃん声出ないの!?」
「・・・・・・・・」
矢口が梨華の様子に気がついた時、隣の真希は梨華に向かって走り出した
所だった。
- 292 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時34分31秒
- 「真希っ!!?」
矢口は今までのお茶らけた様子はなく無意識に真希の名前をそのまま呼んでいた。
走り出した真希の表情、それは怒りに溢れまったく我を忘れている物だったからだ。
無我夢中で走り出した様が見ている矢口にも伝わってくる。
「・・・・ダメ!!来たら一斉に罠が・・・・!!!」
走って向かってくる真希の姿に梨華の声も自然と音を発していた。
無我夢中だったのは梨華も同じで声が出た事にすぐに気が付かなかった。
と同時に壁に立てかけてあった全ての銀の鎧が突然ビンッと音を立て一斉に
揃えたようにそれは微弱の緑色の光に覆われた。
- 293 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時35分07秒
- 「真希危ない!!!」
「!!」
矢口の言葉と同時に真希の横の鎧が上からするどくその腕に持たれている剣を
振り下ろした。
とっさに真希はそれをバク転をして華麗に避けた。
「真希!」
「・・・・加護の仕業か・・・・!」
矢口が真希の元に急いで駆け寄る。
その真希の瞳は怒りで満ち溢れていた。
そうしている間にも近くの置物の鎧が徐々に機敏な動きになり始め真希と矢口に
襲い掛かってくる。
まるでその動きはどこかゾンビを思い浮かばせた。
- 294 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時35分59秒
- 「うわっ!!」
「この・・・・」
4体の鎧が一斉に矢口達に向かって剣を振り下ろす。
二人は飛ぶようにしてそれぞれ逆の方向にしてそれをかわした。
そしてすぐにそれは目的物を見失ったようにして一瞬辺りを見渡すように
うろうろするがすぐに目標を見つけると躊躇うことなく襲い掛かってくる。
「矢口さん!後藤さん!!」
梨華は二人の名前を夢中で叫んだ。
すごい数の鎧が二人に襲い掛かっている。
しかしそれはまだ二人の付近にあるものだけで自分の所までにはまだ発動していない
鎧が無数にある。
- 295 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時36分38秒
- 怪我は負っていないものの絶対に自分を助ける事なんてしようとしたら
二人に危害が及ぶ。
しかし自分は両手は後ろ手に手錠に掛けられなぜか自分の足はしびれて
いて立ち上がることが出来なかった。
「お願い逃げてください!!」
「んなことできるわけないでしょう!!」
中国拳法のような華麗な動きで攻撃を交わしながら真希は梨華の言葉に
言い返す。
「後藤さん・・・・・・」
こんなときなのに、梨華は今の真希の言葉に嬉しくて、本当に嬉しくて
たまらなかった。
- 296 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時37分14秒
- 「っ・・・・いい気に・・なってんなよっ!!」
剣の攻撃を止め処なく自分に次々に浴びさせてくる鎧に真希は長い足を
その頭の部分にヒットさせた。
その足は梨華の目にもはっきりと見えるほど青い光に覆われていた。
真希の繰り出したキックに鎧はバランスを崩しよろよろしながらついに
崩れていった。
「こっちにこれだけ用意してるなんて・・・・よっすぃーをこっちに
した方が良かったわ・・・・」
本当は矢口も加護と同じ魂のない物体を操作する事を得意とする能力の
持ち主なのだが、決してレベルが低いわけではないが加護のレベルの高さには
叶わなかった。
攻撃力が真希より劣る分、小さい体を上手く利用し鎧と鎧の間を
潜り抜けおぼつかない鎧の攻撃を逆に利用し、味方の体にヒットさせ攻撃を混乱
させ確実に数を少なくしていく。
- 297 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月05日(月)19時38分03秒
「ストップ!!」
そんな中突然大きな声がその場所に響いた。
- 298 名前:aki 投稿日:2001年11月05日(月)19時40分08秒
- >>278-297
更新しました。
なんか気付けばもう300近いですね。
自分でも驚くほどのペースです。
思っていたより今までの中では一番の長編になりそうで少し嬉しかったりします(w
区切るのにいい場所がなくてこんなとこになっちゃいました。
- 299 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時45分00秒
- 「「!?」」
真希と矢口は同時にその声がした方を見た。
するとそこには保田に加護、辻の姿があった。
声を発したのは保田だった。
同時に鎧の動きが突然止まった。
動いている途中の姿でまるでビデオのストップを掛けられたようになっている。
時間を止めたような感覚に似ていた。
「圭ちゃん。」
「・・・・・・・」
矢口と真希は三人の姿に気づく。
「さすが二人とも一筋縄じゃいかないね。」
まるで世間話でもするかのような普段通りの落ち着いた口調で話す保田。
- 300 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時45分30秒
- 「こっちも仕事だからね。」
矢口も負けずに普段通りの口調で保田に言い返す。
「それはこっちも同じ。・・・・それよりさ、この子に何があったか知りたくない?」
言いながら保田は床に座って再び声の出なくさせられた梨華の姿を見た。
「・・・・彼女に何をしたの?」
言った真希の口調はほとんどいつもと変わりない様子だったがどこか冷たく
感情を押し殺しているようなものだった。
「あは〜見て分かんないんですか〜?それとも聞くまではそう思いたくない
んですか〜?」
加護が立てずにいる梨華の側に寄り添いいたずらそうに言うと梨華の肩を抱いた。
- 301 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時46分27秒
- 「・・・・・・!」
加護が何を言うつもりなのか真希や矢口と同じく梨華もその言葉に反応した。
嫌な沈黙が流れその中にはただ加護の次の言葉を待つ空気だけが流れていた。
加護はそんな空気に小さく苦笑するとふいに梨華のあごを持つとくいっと
自分に向かって顔を上げさせるようにして向かせた。
「気持ち良かったよね〜?加護の指使い。」
「「「!!」」」
三人の中の特に梨華が反応した。
その言葉に梨華は一気に顔を紅く染めた。
それは恥ずかしさなど微塵もなく嘘の言葉にただ微かな戸惑いと突然の思っても
いなかった言葉に対してだった。
その瞬間、自分の体の中で何かがぶち切れた音がしたのを真希は感じた。
「・・・・・・・・・」
強く握られた拳を静かに震わす。
- 302 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時46分59秒
- 加護は三人の反応に楽しそうにまた小さく苦笑すると梨華から手を外し
おもむろに立ち上がった。
「ってことですよ。梨華ちゃんは加護が食べちゃった」
舌をぺろっと出していたずらをした子供のように、しかもなんでもないような
言い方で加護は矢口と真希に向き直り言い放った。
その言葉が合図だった。
「・・・・・加護ぉっ!!」
俯いていた顔を上げると同時に真希は右手を加護に向かって向け途端にすごい
量の青い光を放出させた。
- 303 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時47分37秒
- 「ふふ、そんなの無駄ですよ!」
加護はすぐにその行動を予期していたほどの速さで自分の近くにいた何体かの
鎧を自分の前に立ち塞がせた。
同時に自分も両手を前にかざし緑色の光を鎧に最大限に浴びさせる。
真希から放出された光の攻撃はすさまじい音を立て突然前に立ちふさがった鎧を
こなごなに粉砕した。
向こうにいる梨華を含む加護達には傷一つついていない。
「!・・・・・」
梨華は目に見えるほどの真希の攻撃にただ呆然とし微かにその迫力に
圧倒され狼狽していた。
- 304 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時48分13秒
- 「ちょっと真希!梨華ちゃんがいるのにもし怪我させたらどうすんのよ!」
「うるさいっ!」
「もうちょっと冷静になりなよっ!加護が本当に梨華ちゃんを襲うわけ・・・・」
矢口が真希に言いかけている途中真希は躊躇うことなくいらだつようにして
駆け出した。
「真希!」
真希はもはや完全に我を忘れてしまっていた。
来る前に掛けられた中澤の言葉など全く頭の中に残っていなかった。
真希を占める物はただ一つ、それは怒りという名の感情だけだった。
「チェックメイトです。後藤さんっ!」
「!!」
加護の言葉と共に真希は自分の周り囲む状態を知った。
鎧が真希を中心にして円を書くように隙間なく取り囲んでいた。
「後藤さん!!」
梨華の声も再び保田の力を押しのけ夢中で真希を呼んでいた。
- 305 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時48分51秒
- 「後藤さん・・・・うちの夢は加護の教育係だった後藤さんを超えることです。」
「っ!」
静かに冷静で落ち着いた口調で言った加護の言葉を合図に全ての鎧の剣が
凄まじい速さで一斉に後藤に向かって振り下ろされた。
「後藤さん!!!!」
「真希!!!」
梨華と矢口はその光景に叫ぶように夢中で真希の名前を呼んだ。
「なっ・・・・・!!」
保田と辻も思ってもいなかった加護の攻撃に驚いたように目を丸くして
その光景を目で追っていた。
鈍い音が、辺りに響いた。
- 306 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時49分32秒
- 「くっ・・・・・・」
鎧の剣がおもむろにそこから離される。
咄嗟にガードしたものの、不意の攻撃に全てガードしきれなかったためいくつかの
剣は真希の体を貫いていた。
致命傷は幸い外れているものの、体に鈍い傷が無数に近いほど負われていた。
床には真希の体から血が流れ、紅い深紅の鮮やかな色が床に染まっていく。
このままでは出血多量により危険な状態になりかねない。
「後藤さーんっ!!!」
梨華は保田の力によってしびれさせられていた足も構わず立ち上がると真希に
向かって走り出した。
鎧は加護によってそれ以上の動きは止められていた。
夢中で真希に向かって走り、鎧と鎧の間を抜け梨華は真希の側に駆け寄った。
「真希!!」
矢口も真希に駆け寄る。
- 307 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時50分16秒
- 「後藤さんっ!大丈夫ですか!?」
「っ・・・・しくじっちゃ・・・った・・・」
真希は自分の体を抱くようにして俯きながら言う。
その頬にも線が走ったように傷跡が付けられ紅い血がそこからゆっくりと流れていた。
話す言葉もとぎれとぎれになりだんだん意識も遠のいていく。
「後藤さん!後藤さん!!」
梨華は必死で真希を呼んだ。
いますぐにでも真希の体を抱きしめてあげたかった。
しかし、行動を奪う手錠によってそれさえも叶えられない。
あっという間に真希から流れる血は床の面積を奪っていく。
そこはまるで血の海を思わせるほどの量だった。
- 308 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時50分47秒
- 「うっ・・・・・・」
「やだ・・・・・やだよ!!後藤さん!」
手で押さえても止まらず流れていく血。
意識もほとんど遠のき始めて立つ事さえままならなくなってくる。
「後藤さん!!お願い・・・・しっかりして・・・・・」
梨華の瞳からはいつのにか大量の涙がこぼれ出していた。
自由を奪う手錠を必死に振りほどこうとする。
しかしそれは無情にも梨華の自由を解き放つ事はしなかった。
梨華の両手に微かに血がにじみだす。
「後藤さん!!後藤さぁん!!!」
「・・・・・・・」
梨華は必死に真希の名前を呼んだ。
だけど、それも空しく真希の意識は確実に消え去っていこうとする。
- 309 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時51分22秒
- 「くそ!血が止まらない・・・・」
矢口も必死に自分の洋服を破り真希の特に深い傷へと当てていたが
それでも血の流れる勢いは止まる様子はない。
「ちょっと加護!あんた何もそこまで・・・・・」
「・・・・ち、違う・・・・あたしは・・・こんな・・・・」
加護はその後藤の姿を見つめながら体を震わしていた。
少し足を後ろに引きその場から狼狽しようとしていく。
とてつもない恐怖にかられ、後少しで加護も自分を見失いそうになっていた。
「ここまで・・・・するつもりは・・・・・・」
後藤を超えようとしたことは事実だ。
だけど、後藤の力ならこのぐらいの攻撃は微かな傷とダメージだけで
こんな深い傷を負うなんて思ってもいなかった。
作戦通りにことは進んだがここまで後藤が自分を見失うなんて思ってもいなかった。
- 310 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時52分00秒
- 「・・・・・・・・」
真希はすでに気を失っておりその表情は安らかなものだった。
しかし血の気の少なくなっていく顔色、そしてその頬に滲む乾いた紅い血。
白い肌にそれは嫌に映える。
「やだ・・・・・後藤さん・・・・目を・・・開けて・・・・」
梨華も俯いた様子でただ力なく呆然と涙を頬に伝わせながら真希の名前を
呼んでいた。
しかし、その呼びかけも空しく真希は瞳を開く事はない。
「真希・・・・!!」
矢口も必死に真希を呼ぶ。
だけど、真希の意識は戻ってくる事はなくただ血が無情にも流れ続けるだけ。
まるでしばらくの間時間が止まったかのようだった。
その場所一体がシンッと静かになり水を打ったようだった。
- 311 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時52分57秒
- 「・・・・・・・」
もはや梨華の目もうつろになりただ真希の顔を呆然と見ていた。
その目は力なく、まるで生気を失ったかのようだった。
「やばい・・・・・一分間にこの血の量じゃ・・・あと10分もしたら・・・・」
矢口が真希の冷たくなりだした頬に手を添えながら小さく呟く。
「やだ・・・・・後藤さん・・・お願い・・目を・・・・」
梨華の呼びかけも空しく真希の体はどんどん冷たくなっていく。
「やだ・・・こんなの・・・・いやぁっ――――!!!!!」
梨華が叫んだと同時に、梨華の体がいきなり紅い光で覆われた。
同時に眩しいほどの閃光が辺りに走った。
- 312 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時53分30秒
- 「梨華ちゃん!!?」
「後藤さん・・・・・後藤さぁーーんっ!!!!」
梨華は吠えるように叫んだ。
その部屋に、塔全体にその声は響き渡った。
それと比例し、梨華から放出される光も凄い速さで大きくなっていく。
キーンッと音を立て光はどんどん膨れ上がっていく。
真希も矢口も、そして加護も辻も保田もその光に包まれていた。
少し気を抜けばその光に押しのけられてしまいそうになる。
梨華と真希以外の全員が梨華の様子にただ唖然とし声もでないほど驚いていた。
梨華は涙を流しつづけてただ叫んだ。
その紅い光は部屋を抜け、塔全体に広がった。
ピカーッと一瞬、塔からその光が一斉に外に漏れた。
- 313 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時54分07秒
- 「梨華ちゃん・・・・真希・・・・!!?」
「うわーーーー!?」
光が最大限に放たれ矢口や保田達からはもはや二人の姿が見えないほどになっていた。
矢口は必死に両手を目の前に出し早く、一刻も早く二人の姿を見つけようとした。
視界がやっと現れ、目の前の光景が広がった時、
「・・・・・・・」
トサッ
梨華も気を失ったようにぐったりとするとそのまま真希の体に覆うように
倒れこんだ。
「梨華ちゃん!!!」
矢口は急いで二人の元に向かって行った。
- 314 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時54分47秒
- 「!!!」
するとなんとそこには全ての傷が癒えた真希の姿があった。
血が止まったわけではない。
まるで最初から無かったかのように、それか傷が直るまでの時間をまるで早送り
したかのような真希の姿があった。
顔色も戻り始めている。
「梨華ちゃんは・・・・!?」
急いで矢口は梨華へ目を向けた。
するとそこには傷は幸い負っていないただ気を失っているだけの梨華の
姿があった。
「な、なに・・・今の・・・・・」
「・・・・もしかして石川の能力って・・・・・」
戸惑う加護の隣では保田が何かを察していた。
しかし辻を含む三人はただ唖然とし何も行動を起こせないでいた。
- 315 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時55分29秒
- ガタンッ!
「「「「!?」」」」
四人は一斉に反応した。
現在の状況に戸惑っていた中、大きい地響きが塔に伝わってきたのだ。
まるで大きな地震のようにそれは最初の地響きを合図に持続的に塔全体が
揺れた。
カラカラ・・・・シャーー
周りの土でできている壁が少しづつ音を立ててはがれていく。
揺れはすぐに止まる様子はなかった。
「なにこれ!?」
「どうして・・・!?うちは何にもしてないのに・・・・・」
揺れる塔の中必死になんとか体勢を保ちながら保田が叫んだ。
その隣では状況が全く掴めないでいる加護がいた。
- 316 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時56分08秒
- 「真希!!梨華ちゃん!!」
くずれていく塔。
一刻も早く二人を連れて脱出しなければいけない。
しかし矢口に二人を抱えてこの塔を抜け出すのは100%無理だ。
二人を起こそうとするが全く矢口の声に反応する様子はなかった。
その場を微かに照らしていたろうそくが壁から落ち、獣のような炎が
辺りに一気に立ち込めた。
「どうしよう・・・・・どうしたらいいの!!!??」
矢口が完全にパニックになりかけた時、
「矢口っ!!!」
「!?」
後ろから不意に声を掛けられた。
大阪弁のイントネーションの彼女の声。
「裕ちゃん!!」
振り向くとそこには中澤の姿があった。
ぱぁっと矢口の表情が明るい物に戻る。
- 317 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時56分48秒
- 中澤は走って三人の元へ駆け寄った。
「真希と梨華ちゃんが・・・・・・」
「何があったのかは後で聞く。それより早く脱出や!!」
「うん!」
決して冷静さを失わず落ち着いて的確な言葉を掛けてくれる中澤に矢口は心から
安心した。
中澤が真希を背負い、矢口が梨華の腕を自分の腕に掛け横から支えるようにして
その場を後にしようとする。
ピピピピピッ!
「!!時間だわ!あたし達も早く脱出するよっ!!!」
「「はい!!」」
保田の時計が作戦終了の合図の音を発した。
三人も急いでその場を脱出する準備を始めた。
- 318 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時57分21秒
- 「な、今裕ちゃんなんて言った!!?」
「だからっ!!早くここから飛び降りてっ!!」
中澤の示すこことはなんと一階から最上階までずっと続いているらせん階段の
真ん中の吹き抜けのことだった。
「助かる前に死んじゃうよ!!」
「いいから早くっ!!」
そうこうしている内に周りの壁は確実に崩れていこうとしている。
階段さえももう揺れ、少し体重をかけたら崩れて壊れてしまいそうだった。
「矢口っ!!」
「・・・・え〜い!こうなりゃやけだ!!信じてるよ!裕ちゃん!」
「おうっ!」
矢口は意を決して梨華と真希と共にそこから飛び降りた。
中澤もすぐに手すりに足をかけ後を追おうとする。
- 319 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時58分03秒
- 「裕ちゃん!」
すると不意に後ろから声を掛けられた。
聞き覚えのある声に中澤はすぐに振り向く。
「圭ちゃん・・・・・・・」
二人は炎を間に立ちこませながら静かに見つめあっていた。
「今回はあたし達の勝ちみたい。」
そんな中、保田が静かに口を開いた。
「ふっ・・・・・次はこうはいかんで。」
にこっと笑い言う保田に中澤は小さく口元を緩ませながら答えた。
「裕ちゃ〜〜〜ん!!!!バカ裕子ぉ!!どうすんだよ〜〜!!!」
「今行くっ!!」
下からどでかい声で呼ばれて中澤はすぐに顔を戻し身を翻しすぐに吹き抜けへと
飛び込んだ。
「・・・・またね。」
保田はそんな中澤の後姿に小さく呟いた。
どこか寂しげな切なげな表情を顔に浮かべながら。
それが中澤の耳に届いたのかどうかは定かでない。
- 320 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時58分38秒
- 躊躇うことなく中澤は吹き抜けから飛び降りた。
「裕ちゃ〜ん!!!」
4メートル先ぐらいで矢口が今にも泣き出しそうな顔をして上の中澤の
顔を見ていた。
その両手にはしっかりと梨華と真希の体が支えられている。
「大丈夫!裕ちゃんを信じた矢口はバカやないでぇ!!」
「ほんとかよ〜〜!!?」
地面まで最上階からちょうどビル15階分ほど、つまり地面まで約45メートル。
辺りの壁は音を立て本格的に崩れだそうとしている。
塔の中を微かに照らしていたろうそくの全てが突然の地響きにより
落下し、塔はもはや紅い炎と黒い煙で覆われていた。
まるで竜が荒れ狂うように炎と煙は塔の中を駆け巡る。
中澤と矢口、そして真希と梨華は風を体全体に受けて、その真ん中を抜けていった。
地面まで残り約10メートル。
- 321 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)01時59分16秒
- 「どどどど〜すんだよ〜!!!?」
「・・・・・・・・」
矢口の声も耳には届いておらず中澤はただ両手を合わし神経統一をする。
「もうやばいぃーー!!!」
「はっ!!」
矢口の声と共に中澤が紫色で覆われた両手を地面にかざした。
それと同時に最大限の量の紫の光を中澤は地面に放出させた。
ブワァッ!!
空は音を立て、下の地面は少し削られ、矢口と中澤の体がふわっと浮いた。
まるでクッションの上に落ちたかのような感触を受け、ゆっくりと地面に
足を踏みしめる事が出来た。
「さすが裕ちゃん!!」
「!!」
ほっとするのもつかの間、塔の上からすごい勢いで塔の一部が崩れ
矢口達の頭の上へ落下してこようとする。
- 322 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)02時00分03秒
- 「おんどりゃ〜〜!!!」
中澤は叫ぶように言った掛け声と共に再び両手を天井へとかざした。
紫の色の光が再び中澤の手から溢れ、まるで竜の雄たけびのように
それは真っ直ぐ直線に落下物へと向けられた。
―――――――ズゴーンッ!!!
放出してから少し遅れ、落下物にそれが命中をしたことを示す音が階下へと
響いてきた。
跡形も無くそれは粉々になり小さい破片が下へぱらぱらと落ちてくる。
「はよ行くで!!」
「了解!」
中澤は矢口の抱えていた真希の体を再び背負うと梨華を背負う矢口と共に
塔を一目散に塔を抜け出した。
本当にぎりぎりで塔を四人が脱出したと同時に塔の中では炎が荒れ狂い
黒い煙は窓から黙々と空へと放たれしばらくするとガラガラと盛大な音を
上げて塔はその場に雪崩のようにして崩れていった。
- 323 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)02時00分33秒
- 「ふぅ・・・・・・」
中澤と矢口は塔から離れた乗ってきた車の近くでその崩れる様を見ていた。
こんなにスケールの大きい迫力のある仕事は久しぶりだった。
「圭ちゃん達・・・・無事かな・・・・」
「無事やろ。うちらが無事やったんやから、あの三人も必ず助かってるはず。
そういうもんや。」
「そだね。」
前を見ながら言う中澤の言葉に矢口はやっと微笑む事が出来た。
- 324 名前:ラウンド2 投稿日:2001年11月06日(火)02時01分04秒
- 崩れ去った塔。
炎は既に消え去りただ微かに黒い煙がそこから天高く空へと上っていた。
後に残ったものは土や砂、小石などといった物の類だった。
本来それら全てはそこにそのようにしてあったものだった。
それが今まで形を成していたのだ。
塔へと形を変えていた。
全ては加護の力によって―――――――
- 325 名前:aki 投稿日:2001年11月06日(火)02時04分04秒
- >>299-324
更新しました。
すいません、一日に中途半端に分けて更新してしまいました。
ここまで更新しちゃうと書き溜めていた物がほとんどなくなってしまうので
思いとどまったのですが、これからの展開の筋も少し思い浮かんできたので
更新しました。
次からは新しいスレをどこかで立てようと思います。
これからもよろしくお願いします。
- 326 名前:名無しです 投稿日:2001年11月06日(火)03時29分31秒
- お疲れ様でした^^
色々な意味…すごいですね^^
(akiさん自身の更新スピードも、この物語自体も)
伏線がありすぎて、気になることばっかりです。
教育係っていう関係に…メンバー全員の関係…
まだはっきりと出てきていないメンバーの力もすっごい気になる…
(なっちの力は、クラッカーかハッカー系なんでしょうか?
それとも、それ以上に’力’関係で…)
もし、全員の力が出きったら、力の具体的な紹介とかしていただければ(w
いえいえ、自分の好みなだけなので、時間があったらでいいんで(w
毎日のチェックが欠かせなくなっているこのスレさん^^
これからも期待してますんで、次のスレでも頑張ってくださいね!
- 327 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月06日(火)04時29分22秒
- すごい更新量ですねー。
面白いです。がんばってくださいね。
- 328 名前:aki 投稿日:2001年11月06日(火)19時33分29秒
- 326:名無しさん
>ありがとうございます!
とっても疲れが取れます(w
更新ばっかりしてますね^^;
伏線に関しては書いてる本人も結構つけてるなぁと思います。
読んで頂いている方にとっては私よりはるかにいらついてくるかも
しれませんがすいません(w
教育係に全員の関係に関してもちゃんと考え済みなのでもうしばらく
待ってください(^^;
力の具体的な紹介>そうですね。リクありがとうございます^^
考えてなかったのでアイディア感謝です。
これからも頑張ります!
P.S 次のスレ、長編にしようと思っているのでたぶん空板になるかも
しれません。なんか追いかけてるみたいでごめんなさい^^;
327:名無し読者さん
>レスありがとうございます^^
更新量すごいと私も思います(爆)
面白いと言って頂けてすごく嬉しいです。
これからも頑張りまっす!
次のスレでもよろしくお願いします。
- 329 名前:aki 投稿日:2001年11月07日(水)01時12分13秒
- 新スレは空板にすることにしました。
これからもよろしくお願いします。
彼女達の立ち方(空板)
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=sky&thp=1005062974
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