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リプレイスメント(同名映画の娘。仕様のバスケ小説)
- 1 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時21分13秒
- 赤板2作目になります。アメフト映画を強引にバスケに変えました。
アメフトは全然わからないので。
この作品は1年前くらいに書いてそのまま、なぜか眠らせてませし
た。改めて一部改正してカキコします。
- 2 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時24分40秒
- プロバスケットボールリーグ委員会で選手の年俸上限規則が撤廃され、各チーム
の選手がそれに乗じて大幅な賃上げを要求するようになっていた。しかし、チー
ムのフロントはほとんどそれに応じることはなかった。各チームで、選手とフ
ロントの確執が深刻な問題となっていた。選手会ではストライキにより試合放
棄することを積極的にすすめ、ほとんどの選手達がシーズンを途中にどんどん
と試合をボイコットした。
シーズンの完全中止という最悪の事態は免れたものの、運営は困難を極めた。
主力選手たちが出ないといってもシーズン続く。各チームは選手達がストライ
キを止めて復帰する時に備え、少しでも勝ち星を増やしておく必要があった。
そこで各チームは引退したばかりの選手や、アマチュアリーグなどから臨時雇
用選手を集めて臨時チームを結成していった。こうやって集められたプレイヤー
達を世間では代理人(リプレイスメント)と呼ぶようになった。
- 3 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時26分54秒
- 「ようきたな、中澤。元気してるか?」
「ぼちぼちですわ。好きなだけビールが飲めるから最高ですよ。それにしてもつんくさんは忙しそうですね。」
「そうなんや。ほんま無茶なことばっかりやで。」
サングラスをかけた男性がため息をつく。彼は屈指の強豪チーム「モーニング」のジェネラルマネージャーである。かつては名監督として現場に立っていたが、今はGMとしての手腕を思う存分発揮していた。
中澤と呼ばれた女性はモーニングのスター選手として活躍していたが、体力の限界を理由に昨年のシーズンを最後に引退したばかりであった。
「今日は真剣な話があるんでしょ?つんくさん。まさか、私に現役復活しろっていうんじゃないでしょうね。それは嫌ですよ。せっかく引退試合を感動的に終わらせたばっかりなのに。」
「いいや、復帰してくれるんなら嬉しいけどそこまでお前にやってもらうのは悪いわ。そのかわりといっちゃなんやけど…監督やってみんか?」
「私が!?だって私はコーチの勉強とか全然したことないですよ。」
- 4 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時28分06秒
- 「今うちのチームはプレーオフ進出の瀬戸際なんや。残り4試合のうちに3試合に勝ったらプレーオフに出られるんや。だからうちは臨時雇用選手を集めて、正規の選手達がストライキを止めるまで戦わせる。中澤には勝てるチームを作ってもらおうと思ってな。」
「でも私がいきなし監督になったら今の監督やコーチが納得せんでしょ?」
「もちろんそいつらには辞めてもらう。全然仕事しとらんかったしな。スタッフはお前だけじゃもちろん心細いやろうから和田さんもコーチにつけるから頼むわ。」
中澤はさすがに引き受けるのをためらう。
「技術的なことは和田さんにまかせたらええんや。お前に期待してるのは選手としてのハートを教え込むことや。」
「ハート?」
- 5 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時29分22秒
- 「そうや、心や。今のレギュラー陣ははっきりいって金のためだけにやっとる連中ばかりや。お前がばりばりやった頃は全然違った。なんかこう、バスケが純粋に好きっていうやつらばかりやったやろ。だからな、お前の心意気を選手達に伝えて欲しいんや。」
「…はい、わかりました。和田さんも一緒なら心強いですよ。やります。」
「ほんまか!おおきに!ありがと!」
「その代わり。指揮権は全てを私に委任するということが条件ならです。」
「もちろんや!イヤー良かった!」
- 6 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時30分22秒
- 中澤はしばらく悩んだが了承したのには理由があった。現在のモーニングの金権主義には呆れるばかりであった。昔はもっとアットホームなチームであったが、社長が現在の山崎になってからは非情ともいえるビジネス主義に変わっていった。依然としてチームの強さは健在であるが、全てが一体となったかつての人間味溢れるチームはそこにはなかった。
中澤は選手としてはベテランの年齢であったが、若手には負けず何年かは続けられるほどの力はあった。華があるうちに引退したいと前から思っていたのもあるが、かつてとは違うチームに無理して残るほどの魅力はなかった。中澤はかつての良き時代のモーニングをわずかの間でもいいから再び甦らしたいと思い、つんくの頼みを引き受けることにしたのである。
「代理人達はどうするんですか?」
「お前が好きなようにしてくれ。もちろん協力はする。」
「わかりました。絶対にプレーオフに出して見せますよ。」
「すまんな…頼りにしてるぞ。」
- 7 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時31分18秒
- 「久しぶりですね、和田さん。」
「俺も久しぶりに現場に帰ってきたよ。」
和田は以前モーニングのコーチとして腕を振るっていた。指導力には定評があり、チームの信頼も厚かった。最近はスカウトとしてチームに貢献していたが、非常事態ということでコーチ業に復帰することになった。中澤もルーキーの時は和田に色々と指導を受けて開花した。モーニングで彼に教えてもらい、スターになっていった選手は数え切れない。
「ところで選手はどうするんだ?チームの経営事情でそんなにたくさん集められないけどな。せいぜい10人くらいだな。」
「10人なら充分ですよ。」
中澤は自分で作成したリストを見せた。
- 8 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時32分32秒
- 「おい、この保田圭って警察官じゃないか。」
「たまたま彼女の大学時代の試合を見たんですよ。無名でしたけど実力は間違いないですよ。何といってもハングリー精神と闘争心が人一倍強いんですよ。」
「それとこの身長が150cm以下のが3人もいるじゃないか。」
「この3人はストーリートバスケのチームを組んでいて、3on3の世界ではちょっとした有名人なんですよ。特に矢口っていうやつは146のくせにダンクまでかますんですよ。この加護と辻っていうのもちょこまかとすばしっこいんですよ。体のでかいプロでは逆にこの小ささが役に立つんですよ。」
「この石川ってやつは?」
「スリーがうまいんですよ。センスいいですよ。」
「この吉澤ってやつは背も高いから比較的ましそうだな。この後藤ってやつはどうなんだ?」
「彼女、学生時代はちょっとしたプレイヤーだったんですけどね。とにかく気性が激しくてね。暴力事件で何度も警察に捕まってましてね。それだから実力はあるのにプロの目には今までとまってなかったんですよ。ちょうど、明日刑務所から出てくるんですよ。」
「そんなやついれて大丈夫か…」
和田は少し大丈夫かと不安になった。
- 9 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時33分30秒
- 「他にも誰かいれるんだろ?」
「もちろんですよ。紗耶香とか。」
「市井が!だってあいつはアメリカへ挑戦するんじゃないのか?」
市井とはモーニングの中でも屈指の実力者であった。しかし前監督の大型選手を重視する方針と対立した。そのため出場の機会も全くなく、自ら辞めることを決めた。そしてかねてから希望していたNBAへ挑戦する準備をしていた。
「市井は試合に出てくれるのか?」
「大丈夫ですよ。昨日連絡入れたら、試合の感覚を忘れそうだったから調度いいって。最後はやっぱり自分の古巣に恩返しをしたいって言ってましたから。」
和田は市井の実力が申し分ないのを充分に知っていたので、寄せ集めチームの中でもこれならなんとかなるかもという希望もでてきた。
- 10 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時34分18秒
- 「あとは誰なんだ?センターもいるだろ。」
「センターは圭織にやってもらいます。」
「飯田が?あいつの実力はもちろん知っているが…」
飯田とはモーニングでは中澤と同時期に活躍していた名センターであったが、大型選手の宿命というべき膝の故障が原因で若くして引退していた。
「それならまさか…」
「なっちもいれますよ。」
「飯田はともかく安倍は無理だろう…」
「私が説得してみせます。」
今まで自信満々の顔をしていた中澤も少し不安な表情をした。
- 11 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時35分16秒
- 中澤は北海道へきていた。空港からバスで何時間も揺られて、中澤はとある牧場に来た。ここで安倍は現役を離れ生活していた。
中澤は牧場主に安倍の居場所を聞いた。牧草の中を歩いて行くと、そこには安倍がいた。
「久しぶりやな、なっち。」
「裕ちゃんじゃん!久しぶり。」
「さまになってるな。」
「だいぶんこの仕事も慣れてきたんだよ。見てよこの馬。かわいいでしょ。なっちがお産に付き合ったんだよ。」
「へぇ〜、すごいな。」
二人はしばらく再会を喜び色々と話をした。それでもバスケの話は全く無かった。
しばらく考え込んだ後、とうとう中澤が話を切り出した。
- 12 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時36分38秒
- 「あのな、なっち。こんなところにいても新聞やニュースぐらいは見てるやろ。」
「うん…」
さっきまで笑顔で話していた安倍の顔が曇った。
「まあ、色々大変なんや。なっちもこんなところで埋もれんとな…」
「せっかくきてくれて悪いけど断るよ。」
「まだ何もいってないやろ。」
「どうせチームに戻れでしょ。」
「わかってるなら話は早い。戻ろうや。そんでまたあの頃のモーニングを復活させようや。」
「やっぱり断る…」
「どうしてや?まだ明日香のことを気にしてんのか?」
「ごめん。まだ仕事が残ってるから…」
安倍は馬の世話を再び始めた。
中澤はモーニングが圧倒的な強さでリーグ1位になってプレーオフ進出したときのことを思い出した。
- 13 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時37分20秒
- 明日香とはかつてのチームメイトのことである。名スリーポインターとして知られていた。
その頃のモーニングは歴代のチームの中でも最強といわれていた。特に中澤を含めたスタメン5人は黄金のメンバーと言われた。中澤のリーダーとしての統率力。ガード安倍の変幻自在なアシスト。福田のスリーポイント。長身選手の石黒という名ポストは飯田とともにツインタワーとして相手の脅威となっていた。何よりも心からバスケを楽しむ姿勢が多くのファンを魅了した。
- 14 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時39分03秒
- その年のプレーオフでは優勝も確実視されていた。周囲の期待があまりにも大きすぎたために、それが選手への負担となっていたのも事実であった。
特に安倍は相当プレッシャーを受けていた。プレーオフの1回戦で、そのプレッシャーが形となって表れた。チームは苦戦を強いられ、2勝2敗と予想外の展開に追い込まれた。最終戦でも苦戦は続き、1点を相手チームにリードされて試合時間残り10秒をきっていた。
安倍は焦っていて、その日もミスが続いた。焦りが持ち味のアシストを出せず、無理に一人でドリブルで突き進んでしまうことの繰り返しであった。安倍は残り時間も自分で行くことしか頭になかった。その様子を見て福田はパスを望むのは不可能と思い、安倍についているディフェンスにスクーリーンをしにかかった。安倍はそのことにさえ気づかず強引にドリブルで進んだ。そのときに事故が起こった。
- 15 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時40分12秒
- ターンをしてディフェンスをかわした安倍がそのまま福田にぶつかる形となったのである。ぶつかったのときの衝撃はかなりのもので激しい衝撃音が歓声に包まれていた体育館のなかでもしっかりと聞こえた。
そのまま安倍は福田に覆い被さるように倒れてボールを手放しそのまま試合は終了した。負けたという事実を忘れるほどにチームメイトが安倍と福田の事故に急いで駆け寄った。安倍は大したことがなさそうであるが、福田は顔面に安倍の頭突きをまともに喰らう形となって意識も朦朧としていた。福田はそのまま病院に運ばれた。
命には別状はなかったが、医師からの言葉を聞いて一同に衝撃が走った。網膜剥離であった。もちろん手術では直るが、激しいプロの世界では二度とプレイできることはなかった。
- 16 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時42分48秒
- 安倍は自分のせいで起きた事故だと責任を感じそんままチームを去った。その頃から少しずつチームも変わっていった。
まず石黒が突然の結婚により選手生活を引退した。
飯田も酷使させてきた膝の爆弾がとうとう爆発し、出場機会も減りそのまま解雇された。膝の故障を抱えたセンターを取るチームもあるはずはなく、そのまま飯田は引退した。
中澤は一人ながらも続けていったが、控えのメンバーも含めかつてのチームメイトはすでにいなかった。新たに入ってきたメンバーは金を儲けるためにバスケをやる人間ばかりであった。折りが合うはずもなかった。中澤はレギュラーのポジションは確保し続けたがこの辺が潮時かと引退を決めた。
- 17 名前:日公 投稿日:2001年11月03日(土)04時43分49秒
- 思ったより量が多いのでいったんとめます。最初の方に改行失敗してみずらくなってすみません。
- 18 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)00時56分01秒
- 「なっち。明日香がな、地元の地域リーグでまたバスケを始めたんやって。それくらいなら明日香も安全にバスケできるしな。バスケができるって喜んでたで。明日香も最近のモーニングの雰囲気には嫌気がさしてるみたいやで。自分が行って立て直してやりたいと悔しがってるで。なあ、なっち。明日香はもちろん、彩っぺは妊娠しているから無理なのはしょうがないけど、圭織はまた一緒にやるで。それに紗耶香も一緒や。他にもおもろいメンバーがたくさんおる。絶対楽しいって!」
安倍は黙りつづける。
「うちはもう明日の朝1番の飛行機で東京に帰るで。ここにチケットがある。もしやる気があるなら一緒に東京へ行こうや。じゃあ待ってるで。」
中澤は封筒に入れた一枚の航空券を台にそっと置いた。
安倍は帰る中澤の方を向かず黙って仕事を続けた。
- 19 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)00時57分23秒
- 翌朝。中澤はゲートで安倍の姿を探し続けた。しかし、安倍はきていない。
「やっぱあかんか…」
飛行機の時間がきて中澤が諦めかけたときだった。
「裕ちゃ〜ん!」
安倍が荷物を抱えて急いで走ってくる。
「遅いがな!」
中澤は怒ったように言ったが、顔はにやけている。
「ごめん!ほんとはもっと早くきたかったんだけど寝坊しちゃって。」
「もう飛行機が出るで。急ぎまいよ。」
二人は走って自分の座席に座った。
「よかった間に合って。」
「よく決めたな。」
「だって、こんなことじゃ明日香にまたバカにされそうだからね。」
安倍の目が選手時代の頃のようになっていた。中澤はそれを見て安心した。
- 20 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)00時59分33秒
- 選手達が集められいよいよ練習を始めることになった。選手がバスで練習場へ来たとき、モーニングファンが一斉に生卵をバスに投げつけてきた。顔なじみの選手もいたとはいえ、特に安倍と市井に対してのファンの態度は歓迎ムードよりもむしろ敵対心が丸出しであった。事情があるとはいえ、彼らから見たら裏切り者にしか見えなかったからだ。そしてどこの馬の骨かわからない連中がモーニングのユニフォームの袖を通すのが許せなかったのである。
安倍と市井はそのことはある程度承知していたから落ち着いたものであった。
「早速手荒い歓迎やな。」
- 21 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時00分10秒
- 中澤はビールを飲んでいる。加護と辻は恐怖のあまり窓側から離れてバス補助席に座っている。石川は何が何だかわかってないようである。後藤はすやすやとこんな状況の中でも眠っている。
「うっせーんだよ!」
矢口が外のファンに向かって中指を突き立てる。
ファン達が余計に怒りが増して騒ぎ始めた。
「おい、そんなことしたら収拾つかなくなるだろう。それにしてもお前、酒臭いぞ。だいたいお前まだ未成年じゃないか?」
警察官の保田が注意する。
「生卵じゃなくてゆで卵ならいいのに…」
ぽつりと吉澤が漏らす…
- 22 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時01分06秒
- 着いてバスの扉が開くと、洪水のようにファンが殺到した。警備員が必死に抑える。ファンの一人が警備をすり抜け保田の服をつかむ。
「てめえ!とっとと帰りやがれ!お前がモーニングに入るなんて100年早いんだ!」
「公務執行妨害で逮捕するぞ。」
「何ポリ公みたいなことをいってやがんだ!」
「警官だ。」
保田は警察手帳を見せた。
「うそ!」
そのファンは驚き走り去っていった。
- 23 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時02分11秒
- ようやく練習場に着いた。1時間くらいのアップを終えると力試しの意味で早速実戦練習から入った。
「ようし、ハーフで5対5の練習だ。」
和田が適当にチームを振り分けた。安倍、飯田、矢口、保田、後藤が赤チーム、市井、石川、吉澤、加護、辻が白チームと別れた。
「ディフェンスはマンツーマンでやってくれ。」
安倍がボールを持って位置に着いた。辻がマークにつくようである。「飯田・吉澤」「矢口・加護」「保田・石川」「後藤・市井」のマッチアップになった。
安倍が辻にパスをして辻が返してゲームが始まる。安倍がゆっくりドリブルを始めた。
「圭織!」
安倍が隙をみて飯田の足元へバウンドパスをした。飯田は振り向きざまにシュートを打ってきれいにきめた。
「ナイッシュ!」
「ナイスパス!」
安倍と飯田が手を叩く。
それからも安倍は久しぶりと思えぬほどきれいにアシストを決めていった。ただ、後藤へはさすがに市井のマークがあっただけになかなかパスは出せなかった。
- 24 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時05分00秒
- 「ようし、石川すまんがポストしてくれ。」
和田が言うが石川に返事がない。
「おい!石川!」
和田は聴こえなかったのかと思い更に声を大きくした。それでも返事がない。和田は怒って石川のところに寄って肩を叩いた。石川も気づいたようで何かを言っている。しかし口がパクパクしているだけで何を言っているかわからない。中澤は何かを思い出したのか慌てて駆け寄ってくる。
「ごめん和田さん、言うの忘れてた。石川は耳が聴こえないんですよ。」
石川は手話で何かを言っている。和田は手話を知るはずがないので何を言っているかわからない。
- 25 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時05分34秒
- 話し掛けられていたのに気づかなくてすみませんだって。」
安倍が言った。
「安倍。お前手話がわかるのか?」
「はい、一応勉強したことあるので。ええとね、梨華ちゃん。みんなあなたの耳が聴こえないことを知らなかったんだって。」
安倍が手話で石川に話し掛ける。石川も何やら手話で返している。
和田が小さな声で中澤に話した。
「中澤、耳が聴こえないのに大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。それ以上に彼女の腕はいいんですから。」
「でも意思の疎通とかが大変だろ。試合中の指示も聴こえないんだぞ。」
「なっちなら手話で指示できるから大丈夫ですよ。」
「おいおい…」
和田は頭を抱えた。
- 26 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時06分16秒
- 「おい!さっきからパスが全然こないじゃないか!」
後藤がシャツの袖をまくりあげてずかずかと歩いてくる。
「あんたが私のマークを振り切ってないからだよ。」
市井が釘をさす。
「なんだと〜!」
「やるかこの。」
「このやろ!」
後藤が市井の頬を殴る。市井もすかさず後藤の腹にお返しする。二人の取っ組み合いの喧嘩が始まった。
「いいぞ!やっちまえ!」
矢口が興奮して叫ぶ。いつの間にか片手にウィスキーの瓶を持っている。
「おい、やめろ!」
保田が間にはいる。それでもまだ二人はやめそうにない。
- 27 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時07分01秒
- 「やめんか!」
中澤の怒声が体育館中に響き渡った。その声で一斉に体育館が静まった。
「早く練習せんか。後藤、あんた保田にまたブタ箱へ連れて行ってもらうか?紗耶香!あんたもそれでプロをやってたんが情けないわ。それと矢口。早くその酒をしまえ。」
矢口は急いで酒をカバンにしまった。
「あんたらは明日がないんやで。それを自覚せんかい。」
みんなその言葉に一斉に黙ってしまった。
- 28 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時08分34秒
- その後練習は無難にこなし、紅白戦をすることになった。
「早く試合の感覚を思い出してくれや。」
中澤がセンターサークルに立った。和田も審判の準備はできている。ジャンパーは飯田と吉澤であった。
中澤がボールを上にあげた。二人は一斉にジャンプした。飯田が競り勝ち安倍が取って試合が始まった。
ゆっくり自陣に動いていった。安倍はゆっくりボールをついて中を見た。
「こっち!」
矢口が保田のスクリーンを使ってフリーになった。安倍はすぐさまパスを出した。
「おりゃ!」
矢口はワンドリブルをいれて走りそのまま信じられないほど高く飛んでダンクをかました。身長が146の矢口がダンクをかましたという光景に一同ポカンと口をあけるしかできなかった。
「おっしゃ!みたか!ちっこいからってバカにするなよ!」
- 29 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時09分25秒
- 中澤が笛を吹いた。
「あほ、トラベリングや。」
「ちょっと!なんで今のが歩いてるんだよ!」
矢口は自身満々なだけあったために納得ができない。
「あんたが今までやっていたストバスと違うんやで。正式なルールじゃあんたのステップは全部トラベリングや。」
ゲームを進めるうちにそれぞれの課題が浮き彫りになってきた。
- 30 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時10分11秒
- 「辻!フロントコートに入ったらバックコートに返したらあかんっていったやろ!」
「加護!ボールは5秒以上持ちつづけたらあかんのやで!」
ストリートバスケットあがりのちびっ子3人は、ルールの違いにとまどっていた。加護と辻に関してほとんど無知に近い状態である。
「保田、ゴール下くらいきめんかい!お前は桜木花道か!」
保田はスクリーンプレイに関しては抜群で特にリバウンドはまさに鬼といえるほどであった。しかし、ゴール下のもっとも基本的なシュートができてなかった。レイアップ以外は全く点がとれない。
「石川!後ろ見ながら走らんかい!」
セットプレイになると石川はスリーをドンドン決めて活躍できた。しかし味方の声が全然聞こえてないため、特に速攻でのミスが目立った。
- 31 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時11分08秒
- 「吉澤!体がでかいんやからもっと積極的にいかんかい!」
吉澤はセンターにしては器用で、ロングシュートやパスもガード顔負けの上手さであった。しかし、激しい接触プレイになると脆い一面も見せた。センターとしては致命的で、後ろからディフェンスに押されるとパスを受け取ってからのポストプレイが全然できなかった。リバウンドのスクリーンアウトの押しもいまいち弱い。
「後藤走れ!歩くな!」
後藤はオフェンスに関しては安倍・市井を凌ぐほどでもあった。しかし守備に関しては全くの素人であった。スタミナも問題があり、素早い攻守の切り替えのときもだらだら歩く始末であった。
市井自身は問題ないが、周りとのコンビネーションが全然かみ合わない。飯田も昔よりは精彩を欠く。それ以上に中澤は安倍のことを心配した。
- 32 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時12分14秒
- 「なっち、パスばっかりせんとたまには自分でいかんかい。」
安倍はほとんどカットインせず、マークがつくとすぐにパスをまわした。
「やっぱりまだひきずってんのか…」
中澤は誰にも聞こえないように言った。中澤の心配していたことが現実に起きた。
安倍はまだ福田との事故の恐怖が残っており、相手に向かってドリブルして進むことができずにいた。
- 33 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時13分17秒
- その日はなんとか練習も終り、夕食の時間となった。各々が好きなように食べる。
「吉澤、ベーグルとゆで卵ばっかり食べんとしっかり食事しろ。なんで肉残してんのや。」
「お肉嫌いなんです。」
「あんたそれでもスポーツ選手か…」
ちびっ子3人も好き嫌いが多い。
「あんたらただでさえちっこいのに牛乳飲まんと大きくなれへんで。」
「ぎゅうにゅうきらいなんです。」
辻が悲しそうな目をする。
「こら加護!ニンジン捨てるな!」
「ニンジン嫌です。ちょ!梨華ちゃんなにするんや!」
石川がフォークでニンジンを無理矢理に加護の口におしこむ。意外に石川の力も強く、加護も必死にもがく。嫌がる子供とそれに無理に食べさせる母の姿に似ている。
「矢口はもう成長期は終わったもん。」
矢口は牛乳の代わりにウィスキーを飲んでいる。すでに、べろんべろんになって酔っている。
「酒飲むな!」
「あんただってビール片手に持ってたら説得力ないよ、あはは!」
中澤も酔っていて顔が赤く、ろれつもまわっていない。
- 34 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時14分39秒
- 「こうして一緒にご飯食べるの久しぶりだね。」
安倍が嬉しそうにはしゃぐ。修学旅行の生徒みたいだ。
「まあ、最近は一人で食べることが多かったからこういうのもいいね。」
市井が持参の昆布を取り出す。
「ああ、紗耶香。私にもちょうだい。」
飯田が紗耶香に手を出す。
「なっちにもちょうだい。」
「だめー。」
「けちー!」
同窓会気分で盛り上がってる3人をよそに、現役警官の保田と、つい最近まで刑務所にいた後藤という奇妙な組み合わせの二人が向かい合って黙々と食事をしている。
- 35 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時15分48秒
- 矢口がご機嫌に千鳥足で二人のもとにきた。
「よう、後藤!あんた最近までムショにいたんだって?何したの?万引きかい、あはは!」
後藤が食事に使っていたナイフを矢口の首に突きつけた。
「傷害罪だ。腹に思い切ってナイフで刺してやってな。相手は全治3ヶ月だ。まあ、向こうから大勢でいきなし売ってきた喧嘩だからね。ある程度は正当防衛を認められて罪が軽くなったから。そうじゃないと今ここにいないよ。」
矢口はひきつりならが笑った。
「た、大変だったね…。でも向こうから喧嘩売ってきたんでしょ?最悪だよね、警官も捕まえるときにもっと状況確認してあげろよな。まったく、最近の警官って適当だよな。善良な市民のことを全然考えていないもんね。」
矢口は後藤のご機嫌をとるつもりで言ったつもりが、また新たに窮地に追い込まれるとは思ってもみなかった。
「私も警官だ。」
保田が鳥の足を豪快にかじりながら無表情に言った。
「はは…・」
矢口は空になった酒の瓶を力なく床に落とした。
- 36 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時16分55秒
- 試合前日の日。和田が練習を終えて選手を集めた。
「明日はいよいよ試合だけどその前にみんなにユニフォ−ムを渡す。」
一斉にメンバー達がざわめく。
「中澤から一人一人手渡してもらう。中澤、任せた。」
「そういやまだキャプテンを決めてなかったな。じゃあ、キャプテンは圭織。いいと思う人は拍手。」
みんながためらうことなく拍手した。
「じゃあ、圭織。前へ出てみんなに挨拶や。」
「えーとね、…勝つぞ〜!」
飯田が必死に考えた末にでた言葉であった。一同大爆笑する。
「あははは!なんだよそれ!」
矢口は笑いすぎて苦しそうである。
「もう何よ!失礼ね!」
- 37 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時17分40秒
- 「ははは!ほんじゃ圭織。4番はあんたに任せるで。次は5番。副キャプテンは圭ちゃん。」
意外な名前にみんなが驚いたように保田を見た。保田もなぜ自分が選ばれるのかと不思議そうな顔をしている。
「私のように本職でない人間でもいいのか?」
「そんなのは関係あらへん。さすが警官だけあってみんなをまとめるのが上手いからや。あんたのリーダーシップは期待してるで。」
「わかった。」
「6番はなっち。7番は紗耶香。8番矢口。9番石川。10番後藤。11番吉澤。12番加護。13番辻。以上。ほんじゃ明日は試合なんやからゆっくり休むように。」
- 38 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時18分47秒
- 選手達が帰宅しようと体育館から出てきたときであった。
「中澤さん。久しぶりですね。」
少しキンキンとする高い声が中澤を呼んだ。
「尾見谷…それに他のみんなまで。モーニングのスター選手のみんながこんなところでどうしたんや?」
尾見谷と呼ばれた女が前に立って挑発的な仕草をしていた。尾見谷は安倍が辞める直前に入団して,安倍と入れ替わる形でレギュラーとなった。現在のモーニングのトッププレイヤーでガードとしての実力は安倍にも勝るとも劣らずものである。その後ろに立っているのも現在のモーニングの主力選手ばかりであった。
「中澤さん、現役復帰ですか?」
尾見谷が嫌らしく笑いながら喋る。
「あほ。こんな年までやりたくないわ。それよりどうした?ストやめるんか?」
「まさか?私達の要求を飲むまではやめませんよ。それにしても、ストライキを邪魔するようなことをするなんて。労働者の権利の侵害ですよ。」
- 39 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時19分52秒
- 「今なら楽にプレーオフでられるで。」
「プレーオフに出るだけじゃ何の腹の足しにはなりませんよ。」
「金ばっかりいってしょうもないな。」
「好きなだけ言ってください。それにしても個性的としかいいようのないチームを作りましたね。安部さん元気でしたか?良かったですね。私がいないおかげでまた戻ってこれて。市井さんもこのチームならレギュラーですよ。飯田さんもまたバスケができて良かったですね。」
かつての同僚とは思えないほどの言葉であった。それでも中澤達は黙っていた。
「いきなしでてきて誰だ貴様!いい加減にしないと殺すぞおら!」
後藤がたまりかねて前へ歩みでようとするが、市井と飯田がそれを止める。
- 40 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時20分45秒
- 「私のことを知らない?そうか刑務所にいたから情報が遅れてるんだね。まあ、単なるバスケット選手だよ。警察官もいるってきいたけど、まさか彼女が暴れたときに取り押さえるためにいるの?」
「ぶっ殺す!」
「やめんか後藤!尾見谷、今日はこの辺で引き下がってくれや。こいつらも、あんたら帰ってくるまでのために頑張ってるんや。」
「まあ、中澤さんの顔に免じて今日は帰りましょうか。」
モーニングの正規の選手達が笑いながら去って行った。
「何あいつら!むかつくな!」
矢口が酒をがぶ飲みする。
「耐えろよみんな。あんたらは代理人。あいつらの代理人として雇われたんや。それをようく認識しとけ。」
中澤は唇をかみ締めた。
- 41 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時23分20秒
- とうとう新チームで初めての試合が始ろうとしていた。
「いやぁプロのコートでするの初めてだから楽しみだね!」
矢口は朝から酒を飲みハイテンションである。
「ようし、私が1番乗りだ!」
矢口が控え室の廊下からコートへ走って行く。
「あ、矢口さん一人だけずるい!」
「まってくらさ〜い。」
加護と辻も追いかける。
「イェイ!大勢のファンの大歓声が聞こえるぜい!……あれ?会場間違えたか?」
- 42 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時24分29秒
- 会場は間違っていなかった。コートの観客席は矢口の想像していたのとは全く違うものであった。客は数えられる程しかおらず、席はほとんど空席であった。客も本気で応援しにきていそうなのはほとんどおらず、酔っ払いや冷やかしばかりであった。それならまだましで、中にはモーニングのメンバーをバッシングするプラカードを持ってブーイングを飛ばす客や、中傷・誹謗の垂れ幕がたくさんあった。
「矢口さん。うちらのストバスを見ているヤンキー達よりもガラが悪いですね。」
「やぐちさん、こわいれす。」
中澤達がコートに出てくる。
わずかな観客が一斉にブーイングを飛ばす。特に安倍と市井へのバッシングは凄まじいものであった。
「まあ、しょせん寄せ集めやからこんなもんやろ。」
「なっち。私とあんたはかなり歓迎されているね。」
市井がその様子を気にもせず、軽く笑い飛ばす。
- 43 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時25分45秒
- 「スタメンいうで。ガードになっちと紗耶香。ファワードが後藤と圭ちゃん。センターが圭織。最初の試合で緊張してると思うけど、向こうのチームもストライキしていて寄せ集めのロートルの集団にすぎん。自分の力を出したら負ける相手とちゃうで。ようし、いつものいくで!」
「がんばっていきましょい!」
スターティングメンバーのアナウンスにもブーイングが飛び交う。
今日の相手チームのドリ−ムもストライキへの苦肉の策として、OB達を呼び集めた急造チームであった。元ナショナルチームに選ばれたことのある者もたくさんいたが、選手としてはとっくに峠を越えて引退した高年齢の選手が中心のチームであった。
- 44 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時27分38秒
- いよいよ試合が始った。プロの経験のある3人はともかく、後藤と保田は初めてとは思えないほど冷静であった。さすがに警察のテロリスト対策の特殊部隊に所属する保田は何事にも動じない。後藤といえば、昨晩テレビを見て夜更かしをしすぎたために眠たいだけであったが。
立ち上がりからにモーニングは好調であった。8分を過ぎた時点で点差はすでに20点差までになっていた。
「裕ちゃん楽勝じゃん。」
「あのな矢口。絶対このままじゃ終わらんで。」
「なんで?相手はやっぱり年寄りだから動きも鈍いじゃん。」
「現役を引退したとはいえ、かつてはナショナルチームを引っ張った猛者達やで…」
「大丈夫だって。」
中澤の不安は的中した。10分過ぎから徐々に差が縮まってきた。
- 45 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時29分09秒
- まずは点をいくら取ってもすぐに取り返され始めた。後藤のディフェンスの甘さが突かれた。守備の穴を見つけると、しつこく後藤を攻めてなんなく点を取り返していった。そして守備で攻められ続けた後藤は不安視されたスタミナ不足による疲労で、攻めにおいても精彩を欠き始めた。大きな得点源を1人失い、どうしても飯田と市井だけでは単調な攻めになった。保田のシュート力の無さもすぐにばれた。ドリームは後藤と保田を捨てて、飯田と市井を重点的にマークした。さすがに飯田と市井も分が悪い。
「おやおや安倍さん。今日は控えめなプレイですな。」
相手選手が安倍にマークについたときに言った。
- 46 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時30分03秒
- なにより安倍の消極的なプレイがなおさら飯田と市井の持ち味のインサイドプレイへのマークを厳しくした原因でもあった。外からこないのがわかっていて中を守るだけでは、いくら年齢の高いチームでも疲労は少ない。市井がたまらず外からのスリーポイントで応戦するが単発に終わる。さすがは往年の名スターが集まるドリ−ムだけあり、モーニングの弱点を見つけるとすぐさま反撃に転じた。最初のリードはあっという間になくなり、とうとう前半残り5分で逆転された。中澤はタイムアウトをとった。
「何してんのや。相手は40越えたおっさんばっかりやで。とにかく圭ちゃんと後藤は休んどき。最初にしてはよく頑張った。それにしてもなっち。なんや、逃げてばっかりで。それでもポイントガードか。そんなんじゃ誰も信用してくれへんで。引っ込んで頭冷やしとき。」
中澤はあえてきつくいった。ここで甘く言ったら他のメンバーの信用に関わるので心を鬼にした。
- 47 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時31分36秒
- 「矢口、石川、吉澤出番や。特に石川はスリー打って相手を外におびきだしてや。それを狙って圭織と吉澤が決めるんやで。ええか、矢口。ゆっくり攻めんでええからな。派手に暴れておっさんどもをヘトヘトにしてこいや。」
中澤は石川への言葉は手話をすることを忘れない。
「おっしゃ!出番だ!」
矢口が両手で自分の頬を叩いて気合をいれる。
試合が石川のスローインから始る。矢口は味方がセットする前にそのまま暴走したかのようにゴ−ルヘドリブルして突進し始めた。ドリームも慌てて対応にまわる。しかし、矢口の型破りなステップにはてこずる。矢口はディフェンスがもたついている隙をみて自分の身長よりも高くジャンプしてそのままダンクを決めた。中澤はその瞬間審判を見た。主審がゴールのサインを出す。
「おっしゃ!トラベリングなしや!」
矢口がガッツポーズでベンチの声援にこたえる。
- 48 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時32分47秒
- それに続き吉澤がシュートをおもしろいように決める。長身選手のロングシュートは計算外であったのかほとんどフリーにしてしまっていた。しかしドリームも流れをそう簡単には渡さず、取って取られての緊迫した試合展開となった。そして同点のまま前半が終了した。
「よしよし矢口。ようやった。」
「私が本気になればこんなもんよ。」
「矢口、後半もお願いね。」
「後半はどんどん石川もスリーを打っていけよ。」
中澤の指示はずばり的中。後半開始早々、石川が4本連続でスリーポイントを決めて、わずか3分で10点差をつけた。
「石川もういっちょ。」
市井が石川にパスをする。石川がスリーを打つ。ボールはボードに当たりながらネットに入る。
「ナイシュ!」
シュートを入れられてからドリームがすぐにスローインを開始して速攻にまわった。今までスローペースで攻めていたので呆気にとられたままあっさりレイアップを決められた。
- 49 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時34分13秒
- 「なんだよ。いよいよ焦りだしたのかよ。」
「矢口、気をつけて。」
飯田がすぐにメンバーに注意を促す。
吉澤のシュートが外れリバンドがとられるとすぐにドリ−ムはまた速攻に転じた。またまた予想外の速攻にあっさりゴール決められた。この時点ではすぐに疲れがでるだけで自殺行為だと誰もが思った。しかし、体力の衰えはなかなか出てこない。それどころかモーニングの方が早い展開についていけずになってきていた。
「石川!」
矢口がロングパスをしたが、石川には当然声が届いておらずそのままボールはラインを割った。
「こら矢口!石川は耳が聴こえんのやから気をつけんかい!」
- 50 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時35分42秒
- ドリームは今度の攻撃はじっくりときた。ゆっくりとパス回しをしながら突然動きがあった。矢口がマークしているガードのカットインを抑えようと必死に喰らいつく。いきなり矢口の背中が誰かとぶつかった。飯田のマークしているセンターにスクリーンされたのである。矢口のマークしていたガードはそのまま矢口を抜き去った。
「矢口!スイッチ!私が行く!」
飯田が矢口のマークをかわってフォローする。しかし、飯田がマークについたらすぐさまガードからセンターにパスがまわった。
「あかん!ミスマッチや!」
中澤があっと思った瞬間にドリームのセンターが矢口の上から豪快にダンクで押し込んだ。
「ちくしょー!あんなジャイアント馬場みたいに鈍そうなやつに決められるなんて屈辱だ!」
矢口が悔しがる。
「さすがやな…」
中澤はベンチに深く座った。
次々とドリームは矢口マークのミスマッチを誘っていった。単純で地味なプレイであるが、一番効率的なプレイであった。
「最も基本的なプレイだが、彼らがやると華があるな…」
和田がやれやれといったように吐き捨てる。
- 51 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時37分20秒
- 「前半は抑えて体力を温存してたんやな…。それだけじゃなくて後半の動きも無駄がないから体力の消費も少ない。速攻の時は最少人数で攻める。残りは体力を温存して守備に備える。それに比べてうちのむだな動きの多さは…」
ドリームはここがチャンスとみてゾーンからマンツーマンへと守備を変更した。
モーニングはボールをフロントコートでカットされ速攻をされる悪循環に陥った。先程までシュートを決めていた吉澤が嘘のようにシュートさえ打てない。激しいコンタクトへの弱さが露呈した。いつの間にか逆転され、点差は広まるばかりであった。中澤は加護や辻を投入して流れを変えようとしたが結局はうまくいかなかった。頼みの綱の安倍を最後に出したが散々なもので、頼りの安倍の不調が逆にチームの反撃ムードを完璧に潰してしまった。
モーニングは初戦を完璧にやられる形で星を落とした。
- 52 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時38分05秒
- 「なっち。司令塔が逃げ腰でどないするんや?そんなことじゃいつまでたっても味方の信頼を獲得できんぞ。」
%8
- 53 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時38分44秒
- 「なっち。司令塔が逃げ腰でどないするんや?そんなことじゃいつまでたっても味方の信頼を獲得できんぞ。」
「今日はあまり自分が行かない方がいいと思っただけ。チャンスがあればいくらでもいくよ…」
「なら次は頼むで。もう、後はないんやからな。」
- 54 名前:日公 投稿日:2001年11月04日(日)01時39分24秒
- 52間違えてしまいました。すみません。
- 55 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時12分18秒
- 敗戦の夜。中澤が選手達をバーでお酒を飲もうと誘った。このバーは中澤が現役時代によく利用していたものであり、歴代モーニングの選手ご用達の店であった。
「今日は残念やったな。でもまだチャンスはある。残り全部勝ってやろう。今日はうちのおごりや。嫌なことはパーっと忘れて飲もうや!」
しかし,ムードは暗い。矢口が気を利かせて店のCDを流した。スピーカーからノリのいいダンスミュージックが流れる。少し前に流行ったアイドルグループのディスコ調の音楽である。
- 56 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時13分22秒
- 「なんでLOVEマシーンなんか流すんだ?」
市井がよしてくれよというかんじで矢口に聞く。
「私これ大好きなんだよね。振り付けも完璧に覚えてるよ。ストバスやってるときよくこれ流しながらやってたもん。」
矢口がサビの部分で親指と人差し指を伸ばしてL字を作っている。加護と辻も同じように踊る。
突然ドアの開く音がした。モーニングの正規の選手達が入ってきた。
「おやおや,残念会ですか?あんなおっさんどもに負けたんだからそりゃ落ち込むわね。」
尾見谷がげらげらと笑う。
- 57 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時14分32秒
- 「それにしても色々いるね。そこのやつ耳がきこえないんだろ?ひょっとしてこのチームってパラリンピック目指してるの?ははは!」
「このやろ。」
後藤が前へ出て尾見谷を殴ろうとしたが,中澤が後ろから手を掴む。
「おいおい俺を殴ってまたブタ箱へ行くか?」
「どうせ,あんたのいうことは石川に届いてないから言うだけ無駄やで。」
石川が手話で安倍に話す。安倍が代わりに喋る。
「耳がきこえないおかげで,馬鹿のいうことが聴こえないから助かるだって。」
「貴様!」
尾見谷が怒って石川を殴ろうとしたとき,中澤が身代わりとなって前へ出た。
- 58 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時15分40秒
- 「裕ちゃん!」
安倍が駆け寄る。
「大丈夫やなっち。後藤,これは向こうから手を出してきたから正当防衛になるから大丈夫やで。」
「こいつ!」
後藤が尾見谷の鼻をグーで叩きつけるように殴った。尾見谷の鼻から血が大量に流れ出す。
「こいつ・・・」
尾見谷が鼻を両手で抑えながら後藤を睨む。
「みんな,やっちまへ!」
矢口が尾見谷の頭に跳び蹴りを喰らわす。それが合図かのように一斉に敵味方が入り混じっての大喧嘩となった。
- 59 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時16分23秒
- 「みんな!やめろ!ここで問題起こしたらまずいだろ!」
保田が必死に訴えるが誰も耳を貸しやしない。
「死にやがれ!」
「う!」
保田が背後からビール瓶で殴られた。
「お前!公務執行妨害だ!」
「うわー!」
保田が自分を殴った相手を掴んでそのまま持ち上げて遠くへ放り込んだ。
喧嘩はさらにエスカレートしてきた。
- 60 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時17分30秒
- 店の従業員が警察に通報し,しばらくして大勢の警官が駆けつけてきた。みんな逃げようとするがあっさり捕まって,留置場行きとなって同じ牢屋に押し込むように入れられた。
「ちくしょ!なんで私達だけがいれられなきゃいけないんだよ!」
矢口が吐き捨てるようにいった。
「仕方ない。うちらが敗者やからや。それにしても圭ちゃん。いつも自分が犯人を閉じこめてるところに入る気分はどうや?」
「悪くないな。これじゃいつまでたっても犯罪が減らないわけだ。」
「私なんか慣れっこだよ。」
後藤が自分の部屋のようにくつろいでいる。
- 61 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時18分51秒
- 「ごっちんや矢口が一緒に喧嘩したのはわかるけど,まさか石川や吉澤までやるとはね。」
市井が感激したように喋る。
「なっちも自分で人を殴ったのがまだ信じられないよ。」
「あーあ。朝までずっとここにいなくちゃいけないんだぜ。こんなところだと寝ることもできないよ。」
「後藤はもう寝てるで。」
「ほんとだ・・・」
牢屋慣れの後藤はすでに寝息を立ててぐっすり寝ていた。
「ニッポンの未来は・・・」
矢口がバーで踊っていたLOVEマシーンをまた始めた。
「楽しそうだね。なっちも踊ろう。」
「あ,かおりも踊る。」
安倍と飯田もつられて踊り出す。段々とみんなが体をリズムにのせてきた。
「ようしみんなでレッツダンシング!」
矢口がみんなに呼びかける。
後藤も騒ぎに目が覚めて様子に気づき一緒に踊り出した。
- 62 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時19分40秒
- ニッポンの未来は WOW!WOW!WOW!WOW♪
世界がうらやむ YEH!YEH!YEH!YEH!♪
恋をしようじゃないか WOW!WOW!WOW!WOW♪
ダンス DANCING ALL OF THE NIGHT♪
拘留所の中はいつのまにか宴の席となっていた。気づかないうちに朝になっていた。
「なんや元気にやってるやないか。」
つんくが牢屋の鉄格子の前に立っていた。
- 63 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時20分26秒
- 「あ,つんくさん・・・」
「久しぶりに派手にやったやないか。」
「その,すみませんでした・・・」
「ははは!ええんや!それくらい元気な方がええ!だいぶんチームワークが良くなってきたやないか。みんな出てこい。釈放や。」
- 64 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時21分16秒
- 第2試合直前のミーティングに選手達が集まった。
「みんな試合前でこんなん聞くのもなんやけど怖いものってあるか?」
「つじはぎゅうにゅうがこわいれす。」
「うちはニンジンです。」
「それは嫌いなもんやろが。」
全員が爆笑する。
「かおりは幽霊が怖い。」
「お前だって貞子そっくりじゃん。」
「なんだって!」
矢口が飯田をからかう。
- 65 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時22分14秒
- 「市井は夏コーチかな。新人の時いちばん私がたくさん怒られてたからね。」
「ほんじゃ紗耶香。夏先生にそのこといっといてあげる。」
「それは勘弁してよ。」
「なんか方向がずれてきてるで。誰か他にないか?」
「流砂・・・」
安倍が独り言のように呟く。
「流砂ね。たしかに怖いね。足をいれたら抜け出せないからね。」
「そういう意味と違うで,矢口。これは例えや。そうやろなっち。」
「うん・・・」
「なら何の例えかみんなに言ってやって。」
- 66 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時23分29秒
- 「飲み込まれ出すともう止まらない。どんなに作戦を変更させても,どんなにメンバーを入れ替えても逃れる方法がない。行く先は暗くて深い闇の中・・・なっちはそれが一番怖い・・・」
メンバー達もさっきまでの冗談が嘘のように真剣な顔をして考え込む。
「そうや,なっち。それが一番怖いな。でも,それを恐れてたら何もできんで。たった1つだけやけどそれから脱出できるもんがある。」
「なになに?」
「矢口,そう慌てんでも今から言うって。ええか,それはハート。心や。」
「こころ?」
辻が首をかしげる。
「そうや辻、心や。あんたらははっきりいって正規のメンバーに比べたら技術はもちろん体力だって全然負けとる。だけど1つだけ彼らがないものをあんたらは持ってる。それが心や。そしてそれが一番大切なことなんや。今の正規の連中は金のことばかりで心がない。あんたらはそれに比べてハングリー精神が旺盛や。なんてったってほんまに明日がないんやからな。あんたらなら試合に勝てる。なんといってもハートは頑丈やからな。ええか,今日の試合は絶対勝てるで!」
- 67 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時24分33秒
- 「心か・・・」
市井はバスケを始めた頃の自分を思いだしていた。自分もマイケル・ジョーダンのようになりたいと純粋に夢見ていた頃を。
「なんかわかんないけど勝てそうな気がしてきましたよ!」
吉澤が立ち上がる。石川も親指を立てて合図を送る。
「ほんならいくで!がんばっていきましょい!」
チームがようやく一体となって動き始めた・・・
- 68 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時25分37秒
- 試合は白熱の攻防を繰り返していた。相手のチームのアースはストライキした主力選手に替わって,大学生を臨時にたくさん呼び集めていた。大学生といっても学生選抜のメンバーがたくさんいるので今すぐにでもプロですぐに活躍できる実力の選手がたくさんいる。それでもモーニングは自分達の力をフルに発揮して互角の展開に持ちこんだ。点数的には互角でも中澤はなんとなくいける気がした。何より安倍が以前のようなプレーを取り戻し始めていた。
残り時間一分でスコアは同点のときであった。
「なっち!」
市井がマークを外してフリーとなりパスを求める。安倍はアシストすると思いきや,フェイクをいれドリブルでゴール下に持ちこんでそのまま相手ディフェンスのシュートチェックを気にせずあっさりとゴールを決めた。結局それが決勝点となってチームは初白星を飾った。
- 69 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時26分37秒
- 「いやっほー!なっち!最後はすごかったじゃん。」
「いや,紗耶香が声を出してくれたから相手のマークが一瞬だけ甘くなったおかげだよ。」
「よっしゃ!よっしゃ!おめでと!よーがんばった!何はともあれ初白星や!ようし!今日のビールはうまいで!」
「ようし今日のヒーローなっちを胴上げだ!」
「え,いいって。」
安倍が嫌がるのを無視してチームのみんながコーチ達も含め功労者安倍を胴上げする。
安倍へのチームメイトの信頼は少しずつだが,大きくしっかりしたものができてきた。同時にチームの絆も深まってきていた。
- 70 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時27分29秒
- そんなチームの様子にモーニングのファンも少しずつ心をひらき,段々と今の代理人のモーニングを応援するようになってきていた。
「最近のモーニングはどうですか?」
テレビでリポーターが街を歩いている人に質問する。
「すごいね。今の選手は代理人だけど,なんか俺達と同じ立場の人間が必死にがんばっていて俺も勇気が湧いてくるよ。それに比べて正規の選手達は年俸を1億円増やせだとか無茶な要求ばっかで呆れてしまうよ。ストライキが終わっても今の代理人の選手達は残って欲しいね。」
モーニングには追い風が吹き荒れていた。そんなムードが予期せぬ幸運を招き寄せてしまうこともあった。
- 71 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時28分32秒
- 3つ目の試合。残り10秒でチームは1点リードされている状況であった。
「なっち!」
飯田が守備の前をとってボールを求める。
「かおり!」
安倍がパスを出したが,明らかなパスミスだった。ボールが高すぎたため飯田がジャンプしてもやっと手に当てることしかできなかった。誰もが負けを覚悟した瞬間飯田がはじいたボールがそのままゴールに入ってしまったのである。
- 72 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時29分30秒
- 「うわはいってもうたで!信じられへんわ!」
「うわ!苦しいだろ!」
中澤が興奮を抑えきれずに腕で矢口の首を絞めてしまう。
「ようし!ようし!よくやったで!」
中澤が帰ってきた安倍を祝福する。しかし安倍は不満の表情であった。
「最後ミスしてしまった・・・」
「ええんや,運も実力のうち。それにそれまでのなっちの活躍があったからこそあのラッキーも生きたんや。」
「でも・・・」
「もうええがな。次もあるんやで。がんばってや。」
中澤が他の選手達にも祝福にいった。というよりもキスしに行ったと言う方がより状況を正確に表しているであろうが・・・
「よっしゃ。加護も辻も愛してるで。ちゅ!次は矢口。」
「いい加減にしろよ!さっきしたばっかりだろ!」
「だってかわいいからや!」
「うわー助けて!」
必死に抵抗する矢口を中澤はいとも簡単に押さえつけて矢口の唇を奪った。なぜか飯田と保田だけにはしなかったというのは何故か誰もつっこまなかった。後で中澤が言うには,二人は大人だからだということであった。飯田と同い年の安倍にキスしたことはどう説明するのかというのはあえて誰も口出さなかった。
- 73 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時30分59秒
- 「中澤あと1回勝ったらプレーオフへ出られるな。さすがやな、寄せ集めのあのチームを短期間でここまで仕上げるなんてな。」
「いやいや、あいつらのハートがしっかりしてたからですよ。」
中澤はつんくに呼ばれていた。
「まあ、呼び出したのは他にも用があるんやけどな。尾見谷がストライキをやめた…」
「そうですか。」
「それで今度の試合は尾見谷がポイントガードで出てもらう。」
- 74 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時32分19秒
- 「なにいってるんですか!なっちがいるのにどこに尾見谷が出る必要があるんですか!」
「尾見谷の方が能力的には高い。」
「でもあいつには心がない。今はなっちを中心にチームがまとまってきたんですよ。尾見谷が入るとそれこそ無茶苦茶ですよ。」
「だが、安倍は前の試合の最後にミスをした。」
「誰だって一度くらいミスはありますよ!それになっちのそれまでの活躍があったから勝てたんですよ。」
「次の対戦相手はハロープロジェクトや。選手達がストライキを辞めた。昨年のプレーオフでうちに勝って優勝した強豪チームや。ハロープロジェクトもストライキで成績を落として今度の試合に勝たないとプレーオフに出られないから必死や。そんなチームに今のままでは勝てん。とにかく決まったことや。」
「指揮権は全部私に任せる約束やったやないですか!」
「従わないなら全員解雇だ。」
「またあのアホ社長の命令ですね…」
「………すまんな。」
「…しょうがないですわ…私からなっちには説明しときます…」
つんくは何も言わず去っていった。
- 75 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時33分43秒
- 安倍が公園のリングでシュ−ト練習をしていた。
「なっち。相変わらず精が出るな。」
「うん、この前の試合でミスしちゃったから。」
「残念やけどその必要はもうない。尾見谷がストを辞めた…」
中澤は安倍の目を見ないように言った。
「そっか…しょうがないね。チームの勝利のためだもん。尾見谷はさすが今のチームを引っ張ってるだけあるもんね。」
「いや、あいつには心がない。なっちには心がある。心があってこそ能力が生きてくるんや。すまんな…」
「いいよ。短い間だったけどまたバスケができて楽しかったよ。」
「みんなにはうちから…」
「いや、私がきちんとみんなにいうよ。」
「そっか…」
「じゃあね、裕ちゃん。今度の試合も頑張ってね。」
安倍は嫌な顔一つせずに笑顔のまま荷物を手早く片付けて公園を出て行った。
- 76 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時35分01秒
- 体育館ではモーニングの代理人選手達が練習を始めていた。
「なっち!遅い!」
矢口が安倍にパスをする。安倍が荷物を肩にかけたままキャッチした。そのまま矢口が安倍によってきた。
「今度の試合も頼りにしてるからね。」
「それなんだけどね。私クビになったの。尾見谷がストやめて復帰することになったから…」
「たいしたことないじゃん…って今何言ったの!」
「もう私の出番はないんだよ。」
「嘘でしょ…」
「冗談でこんなこといえないよ。」
「これみんなに言うの…?」
「うん。今日はそれをいいにきたの。」
「みんな!ちょっときて!」
矢口が大声で集める。
- 77 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時36分31秒
- 「なに矢口?」
飯田が何事かと驚いた顔をしている。
「その…なっちから大事な話があるんだよ。なっち…」
矢口が安倍に目で合図する。
「次の試合は私じゃなくて代わりに尾見谷がでることになったから。残念だけど今日でみんなとはお別れ。尾見谷は優れた選手だよ。チームを勝利に導いてくれるよ。最後までみんなと一緒にできないのは心残りだけど、いい結果を残すことを期待してるから。」
メンバーが呆気に取られて信じられない顔で安倍を見る。
「それって本当?」
「そうだよ圭織。なっちと同期としても頑張ってね。」
「嘘…なんで!私、文句言ってくる!」
「待って圭織!そうすると裕ちゃんにまで迷惑かけるよ!」
「だって黙ってられるわけないでしょ!」
メンバー達が次々と不平不満を口にし、抗議しに行こうとした。
- 78 名前:日公 投稿日:2001年11月05日(月)00時37分58秒
- 「上の命令に従う。従わないのものは除外される。それが常識だ。監督の気持ちも考えてやれ。あんたが逆らったら全員がすぐに解雇されるだろう。」
保田がそういって制した。メンバーもそのことに気づき足を止めた。
「なんとかできないのかよ!」
後藤がボールを蹴り上げる。
「なっち…あなたのためにも絶対に勝つから。どんな形になろうと私達のエースはなっちだよ。」
市井が静かに安倍に握手をしようと手を差し伸べた。
「ありがと、紗耶香…」
安倍と市井が握手を交わした。その上から他のメンバーも一緒に手を重ねていった。
矢口が飯田をつつく。
「キャプテンなんかいえよ。」
「ようしなっちのためにも勝つぞ!」
飯田が気合を入れた。
体育館の入り口の陰から中澤がその様子を見ていたが、声をかけず黙って去っていった。
- 79 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月07日(水)00時44分07秒
- 続き待ってまっせ。
この映画見たことあるけど、こうアレンジするとは感心。
- 80 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時30分29秒
- >>79
よんでいただきありがとうございます。今から残りも書きます。
バスケものはあまりないでのいつか書こうと思ってたときにたまたまこの映画を見て参考にしました。
- 81 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時31分34秒
- 安倍は自分のロッカールームの私物を片付けていた。
「やあ、安倍さん。」
後ろを見たら尾見谷が入り口で立っていた。
「そのロッカー私が使うんで早く片付けといてくださいね。」
「ごめんね。急いで片付けるよ。」
「私がチームを勝たせるから安心して辞めてくださいね。」
「うん、期待してるよ。」
「まあ、今は大したことないけど昔はすごかったんだからそんなにがっかりしないでくださいね。」
「スター選手にそう言って貰えると光栄だよ。」
「また夢を見れたじゃないですか。安倍さんそういやまだ優勝の経験はないんですよね?うちのチームってなかなか優勝には縁遠いけど今年はもらいますから。じゃあ、お元気で。」
「うん、応援してるよ。」
安倍はさんざんいわれたにもかかわらず、眉一つ動かさず冷静に話した。安倍は胸をはってロッカールームを出て行った。尾見谷はそれが気に入らず、安倍が出て行った後に唾を床に吐いた。
- 82 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時32分31秒
- 矢口が夜道を1人で歩いていた。酒でへべれけになっており、足元はおぼつかない。矢口の前方から3人のガラの悪い男が近寄ってきた。
「矢口!」
「誰だ?ういっく…あ…」
矢口はその顔を見て一瞬で酔いが冷めた。
「貸した金いつ払うんだ?」
「いや、そのさ…お金あったんだけど競馬ですっちゃって…」
「このアル中が。お前最近調子にのってテレビに映ってるじゃん。」
「俺達ってハロープロジェクトの大ファンだって知ってたか?」
「そ、そうなんだ…」
「次の試合で点をとったらぶっ殺す!」
「ということだ。じゃあな。」
男達は矢口の肩を叩いて笑いながら歩いて行った。
- 83 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時33分33秒
- リーグ最終戦。スタジアムはモーニングのホームということもあり、観客席は満員でチケットが手に入らなくて会場の外に詰め掛けているものも大勢いた。観客達は今のモーニングの活躍を心から応援していた。チームが忘れかけていた何かを、昔のモーニングの頃を思い出していた。相手は昨年の覇者と強豪であるが、期待せずにはいられなかった。
試合前のスターティングメンバーのアナウンスが流れた。
「ガード8番矢口、15番尾見谷。フォワード5番保田、7番市井。センター4番飯田。」
その放送を聞いた観客は一斉にブーイングを始めた。
「なんでなっちを出さないんだ!」
「今さら尾見谷なんか出すな!」
そんな野次も尾見谷にとっては何も痛くはないようだ。
「バカな奴らだ。私がいないと、とてもじゃないが勝てないのにな。ははは!ようし、お前ら行くぞ!」
尾見谷の掛け声に全員黙ったままであった。
- 84 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時35分29秒
- 「あかんまたファールや!圭ちゃんこれで3つ目や。ここで圭ちゃんを退場させるわけあかんから交代やな…吉澤出番やで。」
試合は序盤から一方的にモーニングが押されている状況であった。昨年モーニングを破って優勝したメンバーが相手とはいえ、チームの調子がいつもより悪いのは明らかであった。
尾見谷と他のメンバーの連携で特にミスが目立った。
「なんであれくらいのパスが取れないんだ。」
「なんだと!お前こそきちんとパスしろよ!」
尾見谷と後藤が睨みあう。
「やめろ。喧嘩してる場合じゃないだろ。」
市井が二人の間を割ってとめる。
矢口は味方の喧嘩にも目もくれず黙って顔が青ざめたままでスタンドを見た。例の男達が立って矢口を睨んでいた。点でもいれようならそのままコートに飛び出して殴りかかってきそうな勢いである。
「どうしたの、矢口?顔色が悪いぞ。今日はいつもよりもシュートも少ないし。どっか調子悪いの?」
「なんでもないよ圭織…」
- 85 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時36分50秒
- 尾見谷の傲慢なプレイにより、フォーメーションはばらばらであった。個人プレイではさすがに歯が立たない。矢口のいつもの豪快なプレイはすっかり陰を潜め、中澤もいつもと様子が違うのに気づいていた。相手のオフェンスを止めるため、どうしてもファールでしか止められずチームファールもすぐに7つを越えた。特に保田の3つ目のファールは痛かった。保田が引っ込むと同時に、ディフェンスとリバウンドの核を失った代償は大きかった。おもしろいようにハロプロにシュートを決められた。
「ファール!11番!」
審判から吉澤へのファールが宣告される。
「今度は吉澤もファールが3つ目だ。吉澤も引っ込むみたいだぜ。」
「保田と吉澤がいないと空中戦できるやつが飯田しかいなくなるぜ。もうだめじゃん」
客席からも悲観的な声が出てくる。
「うおお!」
飯田が孤軍奮闘というべき、なんとかゴールを決める。
「う…」
飯田が突然膝に激痛が走った。
(とうとうきちゃった…お願いだから試合が終わるまでもって…)
今まで痛みがないのが不思議なくらい飯田の膝は引退したときにすでにぼろぼろであった。
- 86 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時38分04秒
- 尾見谷が誰もいないところへパスをしてしまい、ボールがラインを割った。
「だめだなこりゃ。やっぱりレギュラーが揃わないと無理だな。」
尾見谷が諦めたように外国人のようなジェスチャーで両手を上げて、首をかしげる。
「やる気がないなら帰れ。」
「冗談ですよ、市井さん。市井さんにとっても最後の試合だからわかってますって。」
尾見谷は笑ってポジションに戻った。
「なっちがいたら…」
- 87 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時39分53秒
- 安倍はいつものバーで試合の様子をラジオで聴いていた。
チームの苦戦はわかっていて、会場に応援も行きたかったがあえて行かなかった。試合に出られなくてかえって虚しくなるのが怖かったからである。
安倍はじっと体育館の方向を見ていた。
「なっち!」
こんな夜の小さなバーで安倍以外に人がいるのも珍しいのに、安倍を名指しで呼ぶ声があった。
「誰?あ…明日香、明日香!それに彩っぺも!」
福田と石黒の姿がそこにはあった。
- 88 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時41分28秒
- 「まったくこんなところでブラブラしてしょうがないんだから。」
福田がやれやれと腕を組む。
「なんでこんなとこに二人ともいるの?」
「あんたを迎えにきたに決まってるでしょ。」
「行こうよなっち。みんななっちを待ってるよ。」
「でも…」
「またあんた逃げる気?あんたが試合に出ないと私までダメ選手扱いされるんだからね。」
「さあ、行こう。」
安倍は黙って顔をそむけたが、うんと1人で頷いて決めたように振り返った。
「行こう!」
「やっと決めたか。ほんとにのろまなんだから。」
「旦那に頼んで車があるからそれにのって!」
「旦那さんもいるんだ?そういや、少しお腹も膨らんでるね。大丈夫なの?」
「お腹の赤ちゃんも試合が見たくてうずうずして暴れてるわよ。」
「それにしてもよくここがわかったね?」
「モーニングといえば、ここのバーに決まってるじゃん。」
明日香が当然という顔をする。
3人は石黒の夫の運転する車にのって会場へ向かった。
- 89 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時42分54秒
- 試合は前半が終り得点は40点近く離されていた。モーニングはほとんど攻めという攻めをさせてもらえなかった。選手達は疲れきった表情で控え室に戻った。
「尾見谷。大事な試合にあんな態度をとるとはどういうことや?」
「そんな怖い顔しないでくださいよ中澤さん。私だって一生懸命やってるよ。」
「尾見谷!」
飯田が尾見谷の肩を掴む。
「離してくださいよ!どうしてそんなにマジになんのかな?」
「あんたいい加減に…」
中澤が堪忍袋の紐が切れそうで言おうと思ったときに控え室のドアが開く音がした。
「遅れてごめん!」
安倍が息を切らして入ってきた。すでに6番のユニフォームに着替えていた。
- 90 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時46分14秒
- 「なっち!あれ?明日香!あやっぺ!」
「遅かったやないか。二人ともご苦労さん。」
「もう、いきなし電話してきたと思ったらなっちを呼んでこいって人使い荒いんだから。」
「私も旦那をこき使って探したわよ。」
「感謝してるって。そうや、ハーフタイムの時間もそんなに長くないんや。次の作戦の指示や。」
「おいおいちょっと待てよ。私を差し置いて安倍が出るだって?そんなことが通用すると思ってるのか!」
尾見谷さっきまでの余裕の表情とは一変して、醜く顔を歪めて真っ赤になっている。
「ご苦労さん。後半休んどき。」
「おい!俺を外すとお前は解雇だぞ!」
「だから?どうせうちらはこの試合が終わったらクビや。」
「わかったならとっとと消えろ。」
後藤が尾見谷の顔を殴る。尾見谷が痛さでうずくまる。
- 91 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時47分27秒
- 「貴様、訴えるぞ!」
「いいよ、慣れてるから。」
「早く出て行け。」
選手達が尾見谷を担ぎ上げて廊下へ放り出した。
「ばいばい!」
「くそ!」
尾見谷が唾を吐き捨てて逃げるように尻を向けて走って行った。
「忘れ物。」
飯田が尾見谷のカバンを投げた。上手い具合に尾見谷の頭に当たった。尾見谷がその拍子にこけた。
中澤と福田と石黒もその様子を見て笑っている。
- 92 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時50分52秒
- 安倍が帰ってきて、チームが甦ったように活気に満ちていた。しばらく安倍の帰りを祝っていたが、やがて中澤がたしなめた。
「あんたらなっちが帰ってきて勝ったつもりでおるけど点差が40点近くあるんやで。」
メンバーが黙って中澤を見た。
「私は…」
市井が話し始めた。
「私はこれが日本での最後の試合になると思う。これが終わったらアメリカへ行ってNBAを目指す。だからみんなとはこれでお別れだと思う…」
「市井ちゃん…」
後藤が市井に近寄る。
「私も同じだよ。この試合が終われば刑務所に戻る。」
「え!?釈放されたんじゃないの?」
矢口が驚く。
「うん、実は裕ちゃんが保釈金を払ってくれて特別に仮釈放されてたんだ。」
「後藤が戻れば、私も警官としての仕事に帰る。」
保田がいすから立ち上がる。
「そっか…うちらもこの試合が終わればまた元のストバス生活だからね。こんな背の低いやつプロになんか雇ってくれるところがないもんな。なあ、辻・加護。」
矢口に辻と加護が返事をする。
- 93 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時52分24秒
- 石川が手話を始める。
「え?…・うんうん、石川は自分が障害者だからプロが無理だから先生になってバスケを教えるって?なっちも少し似てるかな…室蘭へ帰ってやり直す。それで子供達にバスケを教えてあげるの。」
「吉澤は学校に戻って、もう一度プロを目指します。」
「じゃあ吉澤は私達の希望の星だな。」
飯田が吉澤の肩を叩く。
「私は膝の爆弾を抱えてるからやっぱりプロは無理。でも心配しないでね。今日の試合は大丈夫だから。」
「この試合でみんなお別れかいな…まあうちも終わったらとっとと辞めて、隠居生活や。」
「隠居して家にいたら本当に結婚できなくなるぞ。」
「なんやて矢口!せっかくしんみり最後にうちがしめたろうと思ってたのに。」
ロッカールームが笑いの渦で巻き込まれた。
- 94 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時53分19秒
- 「とにかく…うちらはこの試合が最後や。多分今までの試合の結果は残らんやろ。でもガッカリすることはない。うちらの活躍はファンがきっちりと覚えておいてくれる。彼らが私達の活躍を後世まで語り継いでくれる。記録には残らなくても記憶には残る。短い間だったとはいえ、あんたらは立派なスーパースターや!じゃあ、最後の気合の一発いくで。」
中澤に選手達が集まる。福田と石黒も一緒に集まる。全員が手を合わせる。
「いくで!」
「がんばっていきましょい!」
「いくよ!みんな!」
飯田を先頭に選手達が勢いよく部屋を飛び出してコートに出て行った。
- 95 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時54分28秒
- 「なっち!」
「安倍!がんばれ!」
安倍の出場がわかると途端に会場が一気に沸いた。みんな安倍の帰りを望んでいたのである。
「圭織!」
後半開始早々、安倍のループパスをそのまま飯田がアリウープで豪快にダンクを決めた。
安倍がチームに戻ってからは、前半とうってかわってモーニングは反撃に転じた。
市井と後藤も調子を取り戻して得点を重ねた。
- 96 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時55分34秒
- 「ファール、ハロープロジェクト。」
「矢口フリースローだよ。」
「うん…」
「どうしたの?」
「なっちぃー、俺決めたら殺されちゃうよー。」
矢口が半泣きで安倍にすがりつく。
「どうしたの?」
「あそこ。」
矢口が借金取りの方を指差す。
「なんか怖そうな人がいるね。」
「借りた金を酒と競馬で使い切っちゃったんだよ。そんで得点を決めたら殺すって…」
矢口が涙ながらに話す。
「……わかったよ矢口。私に任せて。」
安倍は矢口の耳にこそこそと話をした。
- 97 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時56分23秒
- 矢口は2本のフリースローの1本目を外した。2本目もリングにぶつけて外した。安倍がそのままタップで押し込んだ。矢口とボールをリングに当てて跳ね返す位置を打ち合わせしておいたので、安倍はなんなくボールの落下点を予測することができた。
「ナイス矢口。」
「ありがとなっちぃー!」
矢口はコアラのように安倍に抱き着いてわんわんと泣いた。
矢口は調子が悪いということでそのまま交代した。
- 98 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時57分47秒
- 「圭織!もういっちょ!」
「ようし!」
圭織が再び豪快にダンクを決めた。
「ブラボー!ジョンソン!」
ジョンソンとはモーニングファンの間での飯田の愛称である。本人はあまり気に入っておらず、そう呼ばれるといつもむっとしている。直接誰もそう呼ばないが、飯田がのってきていているときはみんな「ジョンソン」と呼んでボルテージを上げて盛り上がる。
飯田は膝に激痛を感じた。
(く、もってね…)
「圭織、とばしすぎてるけど足は大丈夫?」
「大丈夫よ、なっち。」
飯田の膝はとっくに限界にきていた。しかし、チームの勢いをここにきて止めるわけにはいかなという精神力だけが飯田を支えていた。しかし無情にも試合は飯田の壊れかけの足をあざ笑うかのように早い展開に持ち込まれた。
- 99 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)02時59分09秒
- 「圭織!」
安倍からのパスが飯田に通った。飯田はそのままレイアップを決めたが着地した瞬間の衝撃に足が耐え切れずに倒れ込んでそのまま膝を抑えたまま起き上がらなかった。
「圭織!膝やっぱ…」
「大丈夫だってなっち。これくらい…」
「大丈夫なわけないじゃん!早く休んで!」
「ここで退場するわけにはいけない…」
「まだ先があるんだよ!ここで無理したら本当に二度とバスケができなくなるよ!」
「だってもう次はないんだよ。」
「プロでやるだけがバスケじゃないでしょ!プロ以外でもリングとボールがあればどこでもバスケはできるんだよ!体を壊しちゃ元も子もないでしょ!だからお願い!」
安倍は福田のように、仲間が二度とバスケができなくなるのだけは嫌であった。
「なっち…。わかったよ。そのかわり、絶対勝ってよ。」
「もちろん。任せて…」
安倍はまっすぐ飯田を見つめた。飯田もそれで安心したかのように担架で運ばれていった。
- 100 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時00分20秒
- 飯田の抜けた穴は大きかった。保田もファールが4つで後がない状態となり、思うようにプレイができず制空権は完璧に失った。追いついていた点差も再び離されてきた。中澤は起死回生の切り札として加護と辻を出した。
「おいおい、ただでさえデカイのがいないのに、あんなチビを出して大丈夫なのか?」
「もうだめだ…」
観客達もここまでかとため息をついていた。
「ええか、あんたら自分の好きなようにせーや。」
「へい、がんばります!」
二人はお得意のガッツポーズをした。
- 101 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時01分08秒
- 速攻のチャンスで辻にボールがまわった。
「辻!」
前の市井が走りながら呼んだ。辻はすぐに市井にパスを送ったが、敵選手が市井へのパスコースに割って入った。カットされると思いきや、ボールは敵選手の目の前でバウンドして手前に跳ね返ってそのまま目の前を走る加護の手に渡った。加護はそのままあっさりシュートを決めた。辻は相手の動きを読んで逆スピンをかけていたのだ。
「ののちゃんナイスパス!」
二人はハイタッチで喜んだ。
- 102 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時02分13秒
- ハロプロのディフェンスは辻・加護のラインを警戒しだしたが体が小さくちょこまかと動かれたらなかなか止めることができなかった。
「おっちゃん足元ごめん。」
加護が相手ディフェンスの股下をスライディングで通り抜けた。
「しまった!」
「あいちゃん!」
辻はすかさず加護にパスをした。加護はなんなくシュートを決めた。
二人の活躍で点差は再び縮まりだした。
- 103 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時03分04秒
- 後藤がドリブルから真後ろへノールックパスをした。そこのフリーで待ち構えていた市井がスリーをきれいに決めた。最初は喧嘩していた二人だが、試合を通じて息が合うようになっていた。市井のスリーでとうとう3点差となって残り2分を切っていた。
- 104 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時03分53秒
- 残り3分を切ってハロプロはディレイドオフェンスを始め、30秒をフルに使おうとパスをまわし始めた。モーニングもすでに7ファウルとなっており、ファールをしてうかつに相手にフリースローを与えるわけにはいかなかったのでプレスを激しくすることはできずにいた。とうとう30秒ぎりぎりでシュートを決められ点差は5点へと広がった。
「まずいな…」
さすがに中澤の表情にも焦りが見え始めた。
次のモーニングの攻撃は失敗し、再びハロプロがディレイドオフェンスで攻め出した。時間は2分を切った。突然保田が強引にボールを取りにいった。しかし、保田のプレイに笛が鳴った。
「5番ファール!」
「あかん、圭ちゃん5ファールや…」
保田が退場となって黙ってベンチに帰ってきた。
「お疲れさん。わざと相手にフリースローを与えたんやろ?」
「単なるミスだ…」
保田の目に涙が光った。
- 105 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時05分26秒
- フリースローのミスをリバウンドしての逆襲という作戦ではあるものの、飯田、保田とゴール下の要を失ったモーニングは絶対絶命のピンチであった。相手はリバウンドに備え、長身選手に入れ替えていた。唯一残っている長身の吉澤でさえ彼らの身長に比べると小さく見えた。さらに悪いことに吉澤はがちがちになっていて頭の思考がまわっていなかった。
「吉澤!」
保田が吉澤に声をかけた。
「前をとれ!前をとればいくらでかくてもボールはとれん!」
「そうよ!気合よ!」
後ろで治療をしていた飯田が痛めた足を引きずって前へ出てきた。
「保田さん、飯田さん…」
「絶対とれるからね。」
「安倍さん…」
「取ったらすぐに外へ出してくれ。」
「市井さん…」
「ヨッスィーがんばってね。」
「ごっちん…」
コートの選手達も吉澤を励ました。吉澤がよしという顔をしてラインに立った。
- 106 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時08分11秒
- フリースローの1本目はあっさりと決められて6点差となった。2本目も続けて打つと、一斉にゴールしたのポジション取りが始った。吉澤は自分よりも大きい選手に後ろからどんどん押されたが、なんとか肘をはって前には出さなかった。ボールがリングに当たりシュートが外れて一斉にボールめがけて選手達が飛び上がった。吉澤の頭の上から手が伸びてきたが吉澤が前のポジションを取っていた分だけ先にボールを取って着地した。
「吉澤!」
吉澤はサイドにでていた市井に倒れ込みながらもパスをだした。
「吉澤、よくやった!後藤!」
市井は前を見た瞬間前を走っている後藤にロングパスを出した。後藤は受け取ってゴールめがけて一直線にドリブルした。ハロプロも対応は早くすぐに守備に戻っていた。フリースローラインで敵選手が2人すでに待ち構えていた。敵選手はしっかりとコースを塞いでサイドへ追い込もうとしており、完璧な位置であった。しかし突然敵選手2人の視界から後藤が消えた。一瞬何のことだがわからないまま混乱したが、すぐに後ろで大きな衝撃音が鳴ると、会場は一斉に声援で沸いていた。
「消えた…」
「どうしたんだ…」
- 107 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時09分23秒
- 後藤はフリースローラインから直接ジャンプして相手選手を飛び越えてそのままダンクを決めたのである。あまりにも人間離れの技なので、マークについた二人には起こった出来事を予測することは不可能であった。依然二人は何が起こったのかわかっていない。
ハロプロの攻撃となってディレイドオフェンスを続けようとしたが、先程のプレイのショックでプレイがおぼつかず、隙を見逃さなかった市井にスチールされた。市井は軽々とレイアップを決めとうとう2点差となった。たまらずハロプロが残り1分でタイムアウトを取った。
「よっしゃ!向こうも我慢できんようになってきたで。流れはうちや!次の守りをしっかりとして反撃してきっちり点をとろう!いよいよ最後や…なっち、紗耶香、ごっちん、吉澤、石川でいく。試合にでないみんなのぶんも頼んだで。いくで!」
「がんばっていきましょい!」
- 108 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時11分14秒
- 相手チームのスローインから始まった。モーニングはオールコートプレスでチェックについた。しかし、ハロプロも冷静さを取り戻し、簡単にボールは渡さなかった。30秒が立とうとして相手チームのガードがカットインからシュートを狙ったが、市井が先にそれを読みシュートを打つ前にカットした。
後藤がパスを受け取り、3人のマークにあいながらも同点を狙ったシュートでジャンプしたと思った瞬間体をひねって後ろ向きに外の安倍へパスをした。安倍は相手の腕を掴みながらのラフプレイを振り切ってそのままスリーポイントを打った。同点ではなく最初から逆転を狙っていたのである。ずばり的中。シュートは見事に決まった。
「やった!」
安倍がガッツポーズを決めた瞬間に笛が鳴った。
「ファール5番。シュート前!」
審判がハロプロの選手へのファールの宣告をした。つまり、シュート前のファールなので先程のゴールは無効ということであった。しかもハロプロはまだ7ファールになっていなかったのでフリースローも与えられず、残り10秒でサイドからの攻撃で始るということであった。
- 109 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時12分30秒
- 当然のように客席からはブーイングが飛び交い、中澤も審判に抗議にいった。
「なんであれが無効や!シュートにいってたやろ!大体ファールならあれは意図的なファールやからこっちのフリースローやろ!」
「裕ちゃん落ち着けって。」
矢口が後ろから中澤の腕を引っ張って中澤が審判を殴ろうとしているのを抑えようとしている。中澤はしつこく食い下がったが、審判は判定を曲げる様子は微塵もなかった。
「いい加減にしないとテクニカルファウルを取りますよ。」
「ちっ!」
中澤は悔しそうに舌打ちした。テクニカルファウルをとられて相手ボールになったらどうしようもないので中澤はしぶしぶベンチに引き下がった。
「もう、あいつらを信じるしかないな。」
安倍はコートの4人を集めて何かひそひそ話をしていた。
「オッケイ?みんな頼むよ。」
- 110 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時14分41秒
- 審判から市井にボールが手渡された。ボールが入る前からハロプロのチェックが厳しいものであった。それでも後藤が何とか後ろを取ってボールを受け取った。
その時安倍が吉澤のスクリーンを利用してマークを外し、後藤がそれに合わせパスをだした。しかし安倍はそれをタップでそのまま後ろへ流した。後ろでは石川がキャッチしてスリーポイントをうった。
同時に試合終了のブザーが鳴った。
中澤は主審を見た。主審は指3本を上げている。シュートは認められている。しかし、タイミングよく相手のディフェンスのブロックシュートがはいった。絶対絶命であったが、石川はフェイドアゥエイでジャンプの際に更に後ろにとんで相手の高いブロックよりも更に高い軌道のシュートを放った。フェイドアゥエイシュートだとさすがに身長差があってもなかなかシュートをブロックすることができない。
ボールはロケットが発射するような軌道を描きそのままリングにかすることなくネットに吸い込まれていった。審判がシュートをカウントするジェスチャーをした。
石川は静かにガッツポーズを決めた。
- 111 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時16分44秒
- 「やったー!」
会場がビッグバンを起きたかのような揺れをみんなが感じた。
「梨華ちゃん!やった!」
モーニングの選手が一斉に石川に駆け寄る。
「あんた、何びびらせんねん!このこの!」
石川は照れたように笑う。
「勝ったぜ。うちら勝ったんだよ!」
矢口が甲高い声で大声を張り上げる。
「そうや、勝ったんや!もう嬉しすぎるからご褒美や!矢口ちゅーしたるわ!」
「もういいって!いやー!」
矢口はお約束どおりに中澤のキスの餌食になった。
- 112 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時18分09秒
- 「保田さん…」
吉澤が緊張の糸が途切れたように泣きだした。
「バカ、泣くやつがいるか。」
保田も泣いている。
「ヨッスィー!」
「ごっちん!」
後藤も涙を抑えきれないでいる。保田、後藤、吉澤という不思議な組み合わせで肩を寄せ合って喜びを分かち合っていた。
「梨華ちゃん決めたときは感動したわ。」
「すごいれす、てへ。」
加護と辻が石川の手を取って泣いている。石川は言葉こそ聞こえなかったが気持ちは伝わったようである
「うおぉぉぉぉん!」
飯田が石黒の肩を借りて大声で泣いている。
「ほら圭織。みんな見てるからそんな大きな声で泣かないの。」
「だって、だってさ!」
「昔を思い出して熱くなっちゃった…」
石黒も目を真っ赤にしてコートの様子を見つめていた。
- 113 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時19分16秒
- 「おめでとさん。」
福田が安倍に声をかける。
「明日香!」
安倍は泣きながら福田に抱きついた・
「ちょ、ちょっと汗だくのまま抱きつかないでよ。」
「だってさ!」
口ではいっても福田の顔は嫌がっていない。
「良かったよ。バスケ続けてくれて。」
「明日香、私…」
「いつまで気にしてるのよ。またプロを目指すことにしたんだ。日本がダメなら外国にでも行く。」
「明日香…」
「だから、あんたもバスケをきちんと続けなさい。」
「うん!」
- 114 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時20分10秒
- 「ようし最後の絞めはこれだ!」
矢口が先頭を切って踊り出した。続いてみんなもコートに立って踊り出した。観客達も一緒にリズムにのった。
ニッポンの未来は WOW!WOW!WOW!WOW♪
世界がうらやむ YEH!YEH!YEH!YEH!♪
恋をしようじゃないか WOW!WOW!WOW!WOW♪
ダンス DANCING ALL OF THE NIGHT♪
試合の後、選手達はろくにヒーローインタビューも受けないままロッカールームの私物を片付けてさっさと会場を出て行った。
- 115 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時21分28秒
- 市井と保田がパトカーの中をのぞいていた。後藤が乗っていた。手首には手錠がかけられている。
「これっきりで最後にするんだぞ。」
「後藤…あんた出てきたらアメリカにきなよ。あんたのプレイスタイルは絶対アメリカ向きだって。ね、待ってるから一緒にがんばろう。」
「市井ちゃん…わかった。出たらすぐにアメリカにいくね。」
市井は後藤と窓越しに握手をした。
「そろそろ時間です。」
パトカーの中の刑事が別れの時間を告げる。
- 116 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時30分18秒
- 「では保田刑事。先に向かいます。」
「ああ、頼んだよ。」
パトカーは窓を閉めてゆっくり動き出した。後藤が後部席から後ろを覗く。市井が追いかけてくる。しかしそれも次第に見えなくなった。
「絶対にNBAにでようね〜!」
市井が大きく叫んだ。
その声は後藤の耳にも届いた。後藤は両脇に付き添いの婦人警官がいるにもかかわらず泣き始めた。
市井が保田のところに戻ってきた
「私もいくね。飛行機の時間に間に合わなくなるから。」
「じゃあ私もこれから仕事だ。」
保田は市井に敬礼した。
「あはは、最後まで堅いんだから。」
二人は固く握手した。
- 117 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時31分19秒
- 「彩!でかしたぞ!」
「ほらそんなに大きな声を出すと赤ちゃんが起きちゃうでしょ。」
石黒の腕には赤ん坊が抱きかかえられている。腕の中では赤ん坊がぐっすりと眠っている。
「将来は絶対バスケの選手にするからね。」
- 118 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時32分10秒
- 「いやー飯田君。君の回復力は人間離れしているね。」
「人間離れってどういうことよ。」
「いや、これは褒め言葉としてだね…」
飯田は足のリハビリ中であった。
「じゃあバスケまたできるんですね。」
「そうとはいっとらん。なんせ君の足の状態だと歩くことだってろくにできなかったくらいなんだからね。よくもまあ、この状態であんな激しい試合をしたもんだ。これからがリハビリの本番だよ。」
「えー!そんなのつまんない!」
「つまんないじゃない!まあそのかわり、またバスケできるようにしてやるから安心せい。」
「は〜い、わかりました。」
飯田はふてくされながら、ボールをついていた。
- 119 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時33分14秒
- 「やぐちさ〜ん。」
「辻!ナイスパス!しゃー!」
矢口が2m近くある大男の上からダンクを決める。
「うちらの勝ちだよ!ささ、早く出して。」
「しょうがね〜な。」
男は渋々とポケットからお札を取り出し、矢口に渡す。
「ありがと!また勝負しようね!」
「もういいよ。」
男はうんざりという顔をする。
「矢口さん。何か食べにいきましょう。」
「いいね!じゃあ焼肉にしよう。」
「またれすか〜。」
「この前も食べたじゃないですか。」
「どうせあんたら食えたらなんでもいいでしょ。」
- 120 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時34分26秒
- 吉澤は大学の入学試験会場にきていた。
「あれ?梨華ちゃんじゃないの?え?…梨華ちゃんもここ受けるの?」
石川が受験票を取り出す。
「ふんふん……バスケ部入って、マネージャーするって?楽しみだな〜!一緒に絶対合格しようね!」
石川も笑顔でうなずいた。
- 121 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時36分56秒
- 中澤は安倍を空港まで見送りにきていた。
「裕ちゃん、こっから先は券がないと入れないからここまででいいよ。」
「そっか…向こう着いたらメール送ってや。」
中澤はすでに半泣き状態である。
「私の地元からどんどん選手育てて送るから裕ちゃんよろしくね。」
「あほ、またうちが監督するんかい。うちはもう嫌やで。」
「どうせまたバスケやりたくなるよ。私みたいに…みんなどうしようもないバスケ馬鹿だからね。」
「そうや。明日香から手紙があるで。あの子、誰にも告げずに勝手に日本出ていくんやからな。まあ、あいつらしいっていえばそうかもしれんが。」
「ありがと裕ちゃん…」
アナウンスで安倍の乗る便の搭乗時刻が告げられる。
- 122 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時37分57秒
- 「元気でな…」
中澤は泣きながら安倍に抱きついた。
「もう恥ずかしいよ…」
安倍も涙を流して、中澤に抱きついた。
「じゃあ、いかなくちゃ…色々ありがと!」
「こっちこそ。」
「飲みすぎには気をつけるんだよ!」
「わかってるわ!」
安倍は最後まで中澤に手を振りながら飛行機に乗り込んだ。中澤は安倍の乗った飛行機が出発して見えなくなるまでじっとそれを見つめた。
- 123 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時38分49秒
- 福田の手紙
『私はとりあえずフィリピンへいくね。やっぱNBAは健康診断とかうるさいからね。フィリピンはその辺ちょっと甘いから。本当は紗耶香みたいにアメリカいきたかったんだけどね。けどフィリピンはアジアではトップレベルのプロリーグもあるしね。あそこで鍛えるのも悪くはないから。
あんたとりあえず地元でコーチになるんだって?あんたらしくてそれも悪くないかもね。生徒になめられるんじゃないよ。それだけは心配。お互いバスケを続けてたらそのうちどっかで会うでしょう。その時までさよならはいわないよ。』
- 124 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時39分59秒
- 彼女達の記録は公式的には残ることはなかった。
しかし彼らの記憶はいつまでもファンの心に焼きつき、永遠に語り継がれることになるであろう。彼らは短い間ではあったが、代理人などではなく間違いなくスーパースターであった。
- 125 名前:日公 投稿日:2001年11月08日(木)03時43分52秒
- これで完結です。この作品は1年くらい前に書いたものですけど、設定的になぜか運命的なものを感じてしまいました。
自分ではかなり長い文章を書いたつもりだけど、カキコの数にするとこれだけとは驚きました。スレ移転させて続編を書き続ける作者さんの凄さを実感しました。
- 126 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月08日(木)13時54分57秒
- アメフトからバスケ小説へ、見事成功してますね。
エンディングも作者さんのオリジナルがとても良かったです。
- 127 名前:日公 投稿日:2001年11月09日(金)02時46分35秒
- >>126
最後まで読んでくれてありがとうございます。自分のオリジナルの部分を評価してもらってとても光栄です。
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