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『オムニバス短編集』4th Stage 〜ノベル・ア・ラ・モード〜
- 1 名前:第四回支配人 投稿日:2001年11月03日(土)23時33分11秒
- カランカラン。
当ビストロへようこそ。
ご予約のお名前は?
……伺っております。さ、こちらへ。
当店では名だたるシェフが、腕によりをかけた美味しいお話をご用意しております。
シフォンのように甘いお話。
ガトーショコラのようにほろ苦いお話。
ワインのように薫り高き大人のお話。
どれも選りすぐりの一品と自負しております。
ぜひご堪能ください。
さてそれではお客様、本日のご注文は?
作品を楽しむ。>>4-999
作品を投稿する。>>2-3
今までの内容を見る
第一回http://mseek.obi.ne.jp/kako/purple/989646261.html
第二回http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=purple&thp=993979456
第三回http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=flower&thp=998168613
※このスレッドは第4回オムニバス短編集投稿用スレッドです。
- 2 名前:作品を投稿する-1 投稿日:2001年11月03日(土)23時38分06秒
- 1)まずは作品を完成させてください。
2)次に登録用スレッドにて参加登録してください。
登録する際の例
「★〇〇番目「タイトル」●●●レスより開始します。」
もし、タイムラグでほかの作者さんと(登録のタイミングが)被ってしまい
同じ番号が2つ(複数)出来てしまった場合には、若いレス番号の方を優先してその番号を取得し、
被ってしまったほかの作者さんは、再度登録をしなおしてください(書き込み例は上記と同様)。
ただ、再度登録しなおし、というのが誰から見ても分かるような但し書きをすること。
3)続いては作品の投稿です。
「名前欄」には「タイトル名」、「メール欄」には「登録番号」を必ず記載してください。
その際、投稿数は25レス以内、一度投稿しはじめたら最後まで一度に投稿してください。
作品の最後に必ずそうと判る目印(fin.や-完-など)を入れるのも忘れずに。
なお、あとがきは投稿用スレッドには書かないようにしてください。
書き込みたいときは、感想用スレッドに投稿してください。
- 3 名前:作品を投稿する-2 投稿日:2001年11月03日(土)23時39分29秒
- もし、書き込み(登録スレ)から24時間以内に更新されなかった場合、
その作者さんの登録番号は登録キャンセル/中断と見なします。
無効になった作者さんは再度登録し直す必要があります。
登録番号が無効になった場合、登録スレに
『〜番が無効になりましたので、次の「○○○○(タイトル名)」をこれから書きます。』
のように書き込み、その書き込みから1時間以内に投稿を行って下さい。
4)最後に投稿が終わったら、登録スレッドにその旨書き込んでください。
例
「☆〇〇番目「タイトル」●●●レスで終了しました。」
なお、投票締め切りまで参加作者がハンドル等を公開することは禁止されています。
次にルールの説明です。
テーマは「食べ物」。
今回は入れなければいけない言葉もNGワードもありません。
作者の皆さんが「食べ物(または飲み物)」をテーマとしているならば
どんな作品でも結構です。
タイトル、文中に食べ物が出ていなくてもかまいません。
25レス以内にまとめてください。短い方の制限はありません。
なお、投稿締切日は11月17日(土)です。
- 4 名前:作品を楽しむ 投稿日:2001年11月03日(土)23時40分27秒
- 読者としての注意点。
作品に対する感想や批評は案内板の感想スレッドに書き込んでださい。
投稿スレッドに感想を書き込むのは厳禁です。
感想スレッド
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=imp&thp=1004798175
投稿が締め切られると、案内板に投票スレッドが立ちます。
ぜひともふるってご投票ください。
なお投票のルールは、投票スレを参照して下さい。
それではお楽しみください。
- 5 名前:第四回支配人 投稿日:2001年11月03日(土)23時44分36秒
- 登録用スレッドのリンクを張り忘れていました。
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=imp&thp=989174315
参加希望の方はこちらで登録をしてください。
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時32分43秒
- (あれっ?)
(たしか次のコンサート会場へ移動している車の中だと思ったのに…)
そこは、いつも見慣れたスーパーの生鮮食料品売り場。
あわてて立ち上がろうとしたが体が動かない。
(ええ〜こんなところで金縛り〜だれか〜)
見るからに日常に疲れた様子の主婦がこちらへやってくる。
(お願い助けて〜)
声を出そうとするがでてこない。それどころか口を開く感覚自体がない。
声をかけることをあきらめたあたしは、表情で彼女へ訴えかける。
あたしの視線に気づいたのか、まっすぐあたしの前に来てくれた。
(すみません。体が動かなくて救急車呼んでもらえますか?)
あたしは精一杯現状を伝えた。
声は出なかったけど…
ジッとあたしを眺めていた彼女はふいに
フッ…
寂しそうに微笑んでそのままあたしの横を通り過ぎていった。
(ひっどーい)
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時35分22秒
- ちょうど夕飯前の買い物時だったのだろう。
何人もの人があたしに目をとめたがみんな同じ反応だ…
(あたしを放置しないで〜)
あたしの心の叫びが通じたのだろう、ついに一人があたしに手を伸ばす。
(いや〜ん)
彼女はあたしを手に乗せるとひっくり返しながら観察し始めた…
手に乗せ?
ひっくり返す?!
(いや──────)
ようやくパニックから解放されたのは、元の場所に置かれしばらく経ってからだた。
…たまご……
あたしはたまご…
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時38分21秒
- (だめ!ネガティブになっちゃ!ポジティブになったはずでしょ!ふぁ〜いと〜!!)
改めて確認してみる。
あたしはたまご…
(でもふつうのたまごじゃないわ!)
商品分類: 全国名産物コーナー:関東
商品名: 最高級さくらたまご
販売価格: 98 円
消費税: 外税
大手菓子メーカー・都内一流料亭・料理店に卸し最高品質の評価を得ています。20世紀最高のフランス人シェフR 氏も恵比寿店で使用。マンガ「美味しんぼ」で究極の卵として紹介されています。
(これがわたし。最。高。級。〜〜)
何てすばらしい響き。
…されどたまご……ズーン
(でもふつうじゃないのよ〜)
…だけど98円。税抜…ズズーン
(美味しんぼ〜よ〜)
……
……
- 9 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時39分37秒
- 10回ほどリピートした後だっただろうか…
あの声が…あの愛しいあの人の声が聞こえてきたのは
「すっげぇ〜」
そこには顔の半分を目にしてあたしを食い入るように見つめている愛おしい…
(よっすぃ─────)
心の叫び通じたのかよっすぃーは、あたしに駆け寄ってきてくれた。そしてその端正なお顔を近づけ…
…ジィー…
(いやぁん。そんなに見つめないで〜)
「う〜ん、どうしよう…」
(あたしを買って〜)
「100円か…」
(98円よ!……税抜きだけど…)
「……」
(買って!買って!買って!買って!買って!買って!……)
「よしっ!」
よっすぃーはあたしを掴む…抱きしめるとレジへ向かってくれた。
- 10 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時41分25秒
- (嬉しい!嬉しい!嬉しい!嬉しい!嬉しい!嬉しい!……)
よっすぃーの持つビニール袋の中でネギと一緒に揺られながらあたしは喜びに浸っていた。
一番星にいつも誓った「いしよし」
流れ星を見るたびに三回唱えた「いしよし」
凍える日、滝に打たれながら祈った「いしよし」
etc,etc,etc,
あの辛かった日々が走馬燈のようにあたまの中を駆けめぐる。
(やっぱり、よっすぃーとあたしは赤い糸で結ばれていたんだわ!)
カチャ
「ただいま〜」
「おかえり〜」
(げげぇ〜な…なんであんたがここにいるの〜)
奥からでてきたその人にあたしの幸せな気分は吹き飛ばされた。
そこには、かわいらしいエプロンをし初々しい若妻然とした…
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時43分08秒
- 「買ってきてくれた?」
「はい、これっ」
「じゃあすぐ出来るから座って待っていてね」
よっすぃの手から別れ彼女へと渡されたあたしは絶望を胸に、
台所へと運ばれていった。
ゴソッ
「よっすぃ、なあに?この浅黒いたまごは」
(浅黒いじゃなくて、さ。く。ら。い。ろ。!)
「それ、さくらたまごっていうだよ〜、なんと一個100円!」
(98円税抜き…)
「ふ〜ん、そんなにするんだ」
料理をしているごっちんの背中を見ながらあたしは悩んでいた。
ああ〜、どうしてこんなことに…「よしごま」と札に書いた藁人形使ったお百度参りがやりすぎだったのかしら…
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時45分00秒
- 「いや〜家族がみんな出かけてたから、外食しようと思ってたんだけどごっちんが作ってくれるとは思わなかったな」
「別に料理は好きだからかまわないよ〜…でも…」
「でも?」
「いや、梨華ちゃん呼んだら喜んで来てくれたんじゃない?」
(そーよ、そのとおり!)
「う〜ん、それはそうなんだけど…」
「そんなにまずいの?」
(失礼ね!)
「まずいというか…」
「ん?」
「隠し味とか言って変な物入れるんだよね。高麗人参とか赤まむしドリンクとか…」
「な〜に、それ。あはっ」
(変な物なんてひどい!よっすぃを元気づけようと思って一生懸命考えたのに〜)
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時46分12秒
- 「ねえ、よっすぃ」
「ん〜」
「たまご割っておいてくれる〜」
「わかった〜」
よっすぃがあたしを取り出す。
かぱっ
痛いかと思ったけど全然そんなことはなかった。
小鉢に移された裸のあたし。よっすぃの視線がとてもはずかしかった。
ツンツン
(あっああ〜ん、そんなとこさわらないで…)
「なんか、100円のたまごだと、ハリが違うみたい」
そ、そうだ。あたし食べられちゃうんだ…
(でも…)
よっすぃの口から入る。
よっすぃに消化される。
よっすぃの体の一部になる。
よっすぃと共に生きる。
それは、とても魅力的なことのように思えた。
そう、これこそ究極の「いしよし」じゃないのかしら…
そうよ。あたしは永遠の「いしよし」伝説になるの!
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時47分58秒
「よっすぃ、たまごかして」
「ほいっ」
ごっちんにかき混ぜられながら、あたしは恍惚の中にいた。
そうそれは、まさに殉教者のこころ。
あたしは「いしよし」の十字架を背負ったキリスト!
グツグツ
ああっ、このキリストは火あぶりの刑なのね…
「最後にたまごで完成っと…」
この瞬間まであたしは安らかな気持ちだった…
下を見るまでは……
(えっ、ええっ〜)
グツグツ
(いや─────それだけはかんべんして────)
グツグツ、グツグツ
(ひぃ───────)
グツグツ、グツグツ、グツグツ、グツグツ、グツグツ、グツグツ……
「はい!できたよ〜」
ゴトッ
「うわー。おいしそうな親子丼!」
(……………………。)
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時49分19秒
- ……………………
………………
…………
……
(はっ)
夢か…
イヤな夢だった…あんなものと一緒になるなんて…
思い出すだけ鳥肌が…あっ…思い出すのやめよう……
やっぱり、コンサートが続いてるから疲れがたまってたのよね。
ここは、開演前の楽屋。
目の前によっすぃの顔が見える。
楽しそうに矢口さんと話している。
ちょっとムカツク。
(ねえ、よっすぃ〜)
あれ…声が出ない。
タラー…イヤな汗が背中を流れる。
訂正。流れる気がする。
なんで、机の上にいるの〜
なんで…なんで…なん…
わかった。こんどは、なに?なにになったの〜?
- 16 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時50分53秒
- …ベーグル
あたしの隣にベーグルの箱があった。
あたしだけ特別に
特別に。
特別大事そうに分けておいてあった。
今度こそ
今度こそ大丈夫。
今度こそよっすぃと一緒になれる。
前みたいな恐ろしい思いはしない。
チョコのコーティングが気になったけど…(もうつっこみません。神様)
じゅる
(へっ?)
じゅる、じゅる、
(なんの音?)
音のする方に視線を向けると…(動けないけどね)
そこには、野獣のまなざしが!
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時52分32秒
- (いや〜、助けて〜!よっすぃ─────!!)
あたしの声に気づかない愛しい人は矢口さんとおしゃべりに夢中。
そしてついに野獣の魔の手があたしの体に…
「よっすぃ、これくらさい〜」
(きゃ─────)
「あ〜、それはだめ!」
「いっぱいあるから、ひとつくらいいいれす!」
「それは特別なの!」
野獣を追いかける、王子様。
「まって〜」
「けち〜」
特別…
特別…
特別…
もういい
もういいよ。
そこまで言ってくれたあなたの気持ちだけであたしは幸せな青春だったと言える。
野獣の牙にかかりながら思った。
(我が青春に悔いなし!)
- 18 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時54分36秒
ゴックン
「ああ、食べちゃった」
「うげ」
「大丈夫?辻ちゃん」
「なんか、梨華ちゃんの味がします〜」
(当たり前でしょ)
「キャハハハハハ」
(何がおかしいんです矢口さん!)
「辻ちゃん、それさっきトイレで落としちゃったから…」
(えっ)
「キャハハハハハ梨華ちゃんの味はトイレ味キャハハハハハ」
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時57分18秒
(ひど〜いです〜矢口さん)
「ひど〜いです〜矢口さん」
(えっ)
「なんであたしがトイレ味なんですか〜」
(ええっ─────)
その一オクターブ高い声は…
「梨華ちゃん落ち着いて」
愛しいあの人の声を聞きながら思った。
(それじゃあたしは誰?)
あたしは辻ちゃんのおなかの中でう○こになりながら叫んだ。
(あたしって誰なのよ─────)
- 20 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時58分33秒
- 某モ娘。(某桃) (^▽^)&(#´▽`)´〜`0)ヲタ某避難所
433 名前: 名無しチャーミー 投稿日: 2001/10/15(月) 22:12
なんか、アンチが暴れてるな…
じゃ○いはなにしてんだ。
434 名前:名無しチャーミー 投稿日: 2001/10/15(月) 22:33
ほれ、ツアーの追っかけだろう(w
435 名前: 名無しチャーミー 投稿日: 2001/10/15(月) 22:45
またか、しょうがねーなぁー(w
- 21 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時59分15秒
(……。)
- 22 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月04日(日)03時59分57秒
- おしまい
- 23 名前:あたしをたべて…はぁと 投稿日:2001年11月04日(日)04時10分07秒
- 1番目作品名「あたしをたべて…はぁと」でした。
- 24 名前:冬のうた 投稿日:2001年11月04日(日)11時35分07秒
- ある日、飯田圭織の携帯電話にこんなメールが入ってきた。
TO:macoto@docame.ne.jp
FROM:kaorin@docame.ne.jp
SUBJECT:助けて…
飯田さん寂しいよ…助けて…
今すぐあたしの元に来て…待ってるから。
じゃ
このメールが圭織の運命を決める基となった。
「行かなきゃ…」
圭織はこう呟くと小川麻琴の部屋に行くことにした。
- 25 名前:冬のうた 投稿日:2001年11月04日(日)11時43分54秒
- しばらくすると圭織は麻琴の部屋の前に到着した。
圭織はドアをノックしてみた。すると…
「開いてるよ…」
麻琴の声が聞こえてきた。
すると圭織は部屋の中に入った。
麻琴の部屋はいまどきの女性らしくデザインされていた。
「麻琴?どうしたのよ…」
圭織は早速麻琴に話し掛けた。
すると麻琴は自分の身に起こった出来事を全部話した。
「そう…彼氏にふられたんだ…」
麻琴の話を聞いていた圭織はこう言った。
- 26 名前:冬のうた 投稿日:2001年11月04日(日)12時34分14秒
- 「うん…」
麻琴は言った。
すると圭織は暗い雰囲気を飛ばすようにこう言った。
「あっそうだ、あたしローソンに行くけど何か食べる物買ってくる?」
「はい、お願いします…」
「じゃあちょっと待っててね、すぐ来るから」
圭織はこう言うとドアを開けた。
そして部屋を出ると近くのローソンへと歩いて行った。
麻琴はドアの閉まる音を聞くとこう呟いた。
「飯田さん…優しいんだね…」
するとソファに行き、ゆっくりと横になった。
*
しばらくすると圭織が帰ってきた。
「買って来たよ」
圭織はこう言うと袋からいろいろな食べ物を出した。
すると麻琴はこう言った。
「いっぱい買って来たんですね…」
「ほら、これでも食べて?暖まるよ…」
圭織はこう言っておでんの入った容器を麻琴に差し出した。
麻琴はそれを受け取ると静かに食べ始めた。
- 27 名前:冬のうた 投稿日:2001年11月04日(日)12時42分39秒
- しばらくすると圭織は麻琴に話し掛けた。
「ねぇ、麻琴…挫けないでね、また新しい相手を探せばいいからね」
「うん…」
「男の子なんていっぱいいるから、前の彼氏の事は忘れてもいいよ。」
「わかりました…ありがとうございます、慰めてくれて…」
「ううん、いいのよ…麻琴が元気になればそれでいいんだから」
「…そうですよね」
麻琴は言った。
「そうだ、今夜は麻琴と一緒に寝てあげるよ」
「いいんですか?」
「うん、それなら寂しくないから…ねっ?」
「本当に何から何までお世話になって、この事は一生忘れません」
すると麻琴に笑顔が戻ってきた。
そしてこの日は二人で一緒に寝る事となった。
- 28 名前:冬のうた 投稿日:2001年11月04日(日)12時59分33秒
- 翌朝。
この日は横浜アリーナでのコンサートの日である。
麻琴は昨日圭織に励まされたのですでに元気が戻っている。
「今日のライブはしっかり頑張ってね」
圭織は麻琴に話し掛けるようにこう言った。
*
そしてここは、横浜アリーナの楽屋の中である。
「いい?麻琴に昨日の夜の事言っちゃダメだよ…」
圭織は他のメンバー達にこう伝えた。
「いいんですよ、もう元気が出たんだから」
麻琴は他の事を気遣って圭織に言った。
「リハーサルの前に腹ごしらえでもしようか」
すると安倍なつみがメンバー達にこう言った。
「はい。みんなお菓子でも食べようね」
麻琴は言った。
- 29 名前:冬のうた 投稿日:2001年11月04日(日)13時08分18秒
- このライブは非常に面白く、みんな声も出て最高のライブとなった。
この日の夜はホテルで打ち上げをしていた。
さて、ここはとあるホテルの一室。
麻琴は圭織と一緒にこの中にいた
「今日も楽しかったね」
「そうだね、また明日もこの調子で行きたいね」
「はい」
麻琴は言った。
あの日以来、麻琴はまた一つ成長していった。
過ぎた事は忘れて新しい恋を見つけようと麻琴は思った。
〜終〜
- 30 名前:トマトジュース 投稿日:2001年11月04日(日)21時18分31秒
- 街灯が夜の道にほのかな明かりを提供している。
人通りの無い道を吉澤は手をポケットに突っ込んで歩いていた。
向かう先は後藤宅。先程メールで呼ばれたためだ。
すぐ来て欲しい、メールにはそう書いてあった。
何かあったんだろうか?
そんなことを考えていたため、あっという間に後藤宅に着いた。
吉澤は呼び鈴を押した。
「どうしたの?なんかあった?」
「ん…別に〜」
「え〜、すぐ来てって言ったじゃん」
「あ、そうだったっけ?」
「もう〜」
「ゴメンゴメン。あっ、部屋行ってて。飲み物、トマトジュースでいい?」
「うん、お願いね〜」
- 31 名前:トマトジュース 投稿日:2001年11月04日(日)21時19分27秒
- その後、吉澤と後藤は、後藤の部屋でのんびりとすごした。
何をするでもなく、ただのんびりと。
ふいに後藤が話題を振った。
「ねぇ、うちって、開かずの間ってのがあるんだよね〜」
「えぇ!?何それ〜」
「気になるでしょ?」
「なるよ〜、ねぇ、どこにあるの?」
「フフ、行ってみようか?」
- 32 名前:トマトジュース 投稿日:2001年11月04日(日)21時20分03秒
- 二人は部屋を出た。後藤が廊下の隅を指差した。
そこにはなるほど、扉がある。
扉の前には様々な物が積み重ねられていて、その扉が普段使われていないことを示していた。
「あそこだよ」
「えっ、フツーじゃん。どうして開かずの間なの?」
「ん〜とねぇ、誰も中知らないの。何度か開けようとしたんだけどね…不思議と覚えてないんだぁ〜」
「へ〜、なんか怖いね…」
「あれ?びびっちゃった?」
「んなわけないじゃ〜ん、行ってみようか」
近づくにつれ、吉澤は少し恐怖を覚えていた。
どこからか、鉄が錆びた様な嫌な匂いがした気がした。
後藤が扉の前の荷物をどけた。埃が、舞った。
吉澤が扉に手を掛ける。重々しく、甲高い音が鳴り、扉が開いた
- 33 名前:トマトジュース 投稿日:2001年11月04日(日)21時21分01秒
「えっ、これって…」
吉澤が声を上げたとき、背を押され部屋に押し込まれていた。
後藤が気がついたとき、何もかもはもう遅かった。
後藤は頭の中がもやもやするような錯覚を感じていた。
辺りには、食べ残しの夜食と、赤い野菜ジュース。
そう、後藤の脳は受け取った。
新しい赤と、古い赤が微妙に交じり合っていた。
指先で赤いジュースを掬い、口に運んだ。
それは、まだ暖かかった。
鉄の味が、舌に残った。
そのとき、後藤の頬を水が伝った。
それが、涙なのか、汗なのか後藤にはわからなかった。
意識がまた、遠のいていった。
- 34 名前:トマトジュース 投稿日:2001年11月04日(日)21時21分52秒
『開かずの間』から、後藤が一人出てきた。扉を閉め、そこら辺の物をまた積み重ねた。
目は虚ろに、何も見てはいないかのようだった。
血まみれで微笑んだ市井の顔。
吉澤の戸惑ったような表情。その後の恐怖。
それが、浮かんですぐに消えた。
脳裏に、石川の泣きそうな表情が浮かんだ。
が、それもまたすぐに消えた。
無意識に、唇に付いていた「赤い野菜ジュース」を舌で舐め取った。
その口元が、艶やかに歪んだ。
- 35 名前:トマトジュース 投稿日:2001年11月04日(日)21時23分14秒
〜終〜
- 36 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)12時37分54秒
- ときとして疼き出す古傷のように、普段は意識してないのに何かの拍子で
思い出してしまう苦い過去がある。
心に刺さった刺のように、それは抜けず膿まず、日々の暮らしの中に沈殿する。
そして無垢だと信じきっていた自分の心を苛(さいな)むのだ。
決してそうではないのだという事実をつきつけて...
今日、私のもとへ届いた一枚の封筒。
差し出し人はわかっている。
内容の見当もつく。
それでもすぐに開けられないのはなぜだろう。
その名前が思い出されるたびに心がちくりと痛む。
かまうまい。
しばらく置いておこう。
自分の中でうまく折り合いをつけられるようになるまでは...
- 37 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)12時39分50秒
――秋
リムが生まれてからほぼ1年が過ぎようとしている。
まだハイハイがやっとで、歩けはしないけれど、
一生懸命立とうとして奮闘する姿はとても愛らしい。表情も豊かになってきた。
いろいろな感情を覚えて、表現しようとしているのだろう。
喋ることはできないが、いろいろな発声で何かを伝えようとしてくれる。
すべてを伝えられないもどかしさで、手足を振って全身で表現しようとする姿に
彩はたまらない愛おしさを覚える。
日に日に愛くるしさを増していく我が子に目尻は下がりっぱなしだ。
きっと小じわが増えて、TVに出るとしたらメイクさんは大変だろう。
もっとも、もう一度娘。に戻るなどという気は毛頭ないが。
- 38 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)12時40分23秒
- ここのところ、秋晴れが続いて洗濯ものがよく乾く。
布おむつを利用している彩にとって、天候の安定していることは何にもまして嬉しかった。
数時間おきにおしっこやうんちを繰り返す赤ん坊のおむつは日に十数枚も汚れるのだ。
一日、洗濯が滞ると、次の日は大変なことになる。
紙おむつに換えたら、と夫の真矢は言ってくれるが、本意ではないことはわかっている。
リムにはなるべく自然のものを与えたい。
常々そう言って自然食品や衣類を探してきては、嬉しそうに彩の目の前に積み上げる夫のことだ。
本心では布のおむつがいいと思っているにちがいないのだ。
自分を気遣ってくれる夫の優しさを感じられるだけで彩には十分だった。
それに応えることがまた嬉しい。
毎日の大量の洗濯は確かに大変だけれど、
それさえ今では幸せを実感するための貴重な労働に思えるから不思議だ。
- 39 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)12時42分19秒
- ここのところ、秋晴れが続いて洗濯ものがよく乾く。
布おむつを利用している彩にとって、天候の安定していることは何にもまして嬉しかった。
数時間おきにおしっこやうんちを繰り返す赤ん坊のおむつは日に十数枚も汚れるのだ。
一日、洗濯が滞ると、次の日は大変なことになる。
紙おむつに換えたら、と夫の真矢は言ってくれるが、本意ではないことはわかっている。
リムにはなるべく自然のものを与えたい。
常々そう言って自然食品や衣類を探してきては、嬉しそうに彩の目の前に積み上げる夫のことだ。
本心では布のおむつがいいと思っているにちがいないのだ。
自分を気遣ってくれる夫の優しさを感じられるだけで彩には十分だった。
それに応えることがまた嬉しい。
毎日の大量の洗濯は確かに大変だけれど、
それさえ今では幸せを実感するための貴重な労働に思えるから不思議だ。
- 40 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)12時44分18秒
翌日はあいにくの雨で洗濯物を屋内に干さなければならなかった。
リムのお散歩も今日はお預けだ。
ベビーカーに乗せて公園で日向ぼっこさせるのが日課になっているだけに、
リムは外に出られないのが不満そうだ。
さっきから鼻をひくひくさせて、そろそろ泣き出しかねない。
どちらの親に似たものか、はちきれんばかりの笑顔で外界との接触を喜ぶリムは、
いつしか公園の人気者になっていた。
散歩で訪れる、おばあちゃんには特に評判がいい。
子どもを介して交わす何気ない会話を、今では母親の自分までもが楽しみにしていた。
リムのみならず、雨の日は彩の気持ちも湿りがちになる。
リムの機嫌の具合から、そろそろミルクの用意をしなければと判断した彩が立ち上がろうと、
腰を上げたとき、居間の電話が鳴った。
(ハイハイハイ、今、出ますからね...)
- 41 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)12時45分38秒
子どもを抱きかかえて急いで受話器を取ると、名乗る間もなく耳慣れた声が聞こえてくる。
「おはよう。ねぇ、今日、雨だから暇でしょ。これから行ってもいい?」
明日香だった。
春に高校を中退して以来、自分の方が暇をもてあましているのだが、
彩っぺは主婦だから暇でしょうとかなんとか理由をつけてはよく遊びに来る。
「これから行ってもいい」と一応、こちらの都合を慮っているようだが、
彩には「これから行くわよ」と宣言しているようにしか聞こえない。
「あんた、勉強はいいの?」
一応、大検を取ると公言している明日香に対し、厳しい態度に出ては見るものの
彩とて、彼女の訪問を実は楽しみにしている。
今日のように外へ出られない日は、特にありがたい。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。全然、OKだって。じゃ、今から行くからね。」
- 42 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時37分00秒
- 玄関のベルが鳴って、彩がドアを開けると、
赤いチェック柄の小ぶりな傘を腕にぶらさげた少女が佇んでいた。
何事にも挑まねば気が済まない性分そのままに、
自分の肩を濡らした雨模様の空に向かって毒づいているかのような表情。
濡れた靴を脱いで家にあがり、ようやく人心地がついたのだろう、
少女がリムに向かってにっこり微笑むと、ほの暗い居間に明かりが灯る。
「ほんっと。雨の日って髪の毛がくるくるして嫌だよねぇ。」
相変わらずのくせっ毛をくしゃくしゃとかきあげると、
またぞろリムに向かってニカっと笑いかける。
「そろそろさぁ、モーニングの歌なんか聴かせたら踊ったりするんじゃない?」
「どうかしら。真矢は情操教育上良くないからモーニングもルナシーも聴かせないって言
い張ってるけど。」
「そりゃまたご挨拶だね。でもママの若いときの姿見たらリムも喜ぶんじゃない?」
「わたしゃ、今でも若いわよ。」
「ま、裕ちゃんよりはね。」
一応、睨む振りはして見ても明日香には暖簾に腕圧し。
飄々としてつかみ所がない。
- 43 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時37分47秒
- 「ねぇねぇ、ビデオとかないの?」
人の気も知らないで、明日香はすっかり乗り気になってその辺を物色している。
正直なところ、リムにはまだモーニングの映像は見せたくなかった。
真矢がいうように確かに子供向きの歌ではないと思っていたからだ。
「あった、あった。あれ、でもこれ彩っぺ映ってないよね...」
明日香は事務所からもらった紗耶香のラストコンサートのビデオを見つけたようだ。
自分が所属していたときのビデオは引越したときにどこへしまったのか、見つからない。
ビデオラックに自分や明日香の映るビデオはない。
結婚した後で送られてきたものしかないのだ。
明日香はまだ探しているが、みつからないはずだ。
「明日香、ないわよ。引っ越したときにどこかへしまったままだと思う。」
「なぁんだ。でもいいや、これ見ようよ。あたし、これ見に行ったんだよ。」
「...やっぱり、見るの...?」
恨めしそうに明日香の顔を凝視するが、まったく気にする素振りはない。
- 44 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時39分17秒
- (はぁっ、しょうがないわねぇ...)
諦めてビデオカセットをデッキに挿入する。
明日香はリムの反応が楽しみで仕方がない様子で、早くも膝に載せてやる気満々だ。
リムの方も何が始まるのか、興味深々でテレビの画面にかじりついている。
「さぁ、始まるよぅ。リム、おっかぁ出ないけどな、おっかないのがでるぞぅ。
圭ちゃんって言うんだけどな。ギャハハハ、ほれ見とけよ。」
やめてくれと何回も言ってるのに、
リムに対すると明日香はいつもぞんざいな口調になる。
リムもリムでキャッキャッと奇声を発してはしゃいでいる。
それにしても、このビデオも見るのは久しぶりだ。
彩は自分のいないタンホポがどうなったのか気になっていたのだが、
カオリと矢口がふたりで「タンポポ」を唄うのを見て
なんだか微笑ましく思ったことを憶えている。
さすがに、今のタンポポはちょっと敬遠したいのだが。
彩のいた頃とはまったく違うユニットに変貌してしまっている。
正直なところ、カオリを見るのはつらい。
- 45 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時40分10秒
- 最初の曲はハッピーサマー・ウェディング。
遅れ馳せながらということで、彩と真矢へのつんくからのはなむけの曲。
4人も一度に増えて、賑やかになった娘。たちが可愛らしく踊る曲。
リムも気に入ったのか、上機嫌で手足をバタバタさせている。
彩の知らない新しいアルバムからの曲を挟んで、真夏の光線に入ると、
知らずに声を合わせて歌っていた。
明日香とハモる形になり、綺麗なハーモニーが居間に響いた。
リムは不思議そうな表情で二人を交互に見比べている。
すっかりフルコーラス歌い終わって見ると、自分はやはり歌が好きなのだと
改めて実感してしまう。
それは明日香も同じことだろうと思う。
リムの両手を持って拍手のまねごとをさせている明日香に向かって彩は問う。
「明日香、やっぱり歌いたいんでしょう?」
それには応えず、あのアカペラ、なかなかよくできてたよね、などと誉める振りをして、
話しをはぐらかす。なかなか、本音を出さないところは変わっていない。
- 46 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時42分06秒
- その後も知っている曲になるとついつい唄ってしまう二人だったが、
かつて自分がリードを取っていた、サマーナイトタウンになると、
明日香は唄うことを止めた。
画面から流れてくる音声に注意深く聴きいっているようだ。
その表情からは、どのような感情も判別できない。
彩は前々から気になっていたことを聞いてみた。
「正直なところ明日香はどう思ってんの、圭ちゃんのヴォーカル。」
「...」
黙って彩の顔を見つめ返す明日香の表情に、やはり何事かの感情を示す材料は窺えない。
母親たちがなにか真剣な話しを始めようとしている気配を察知したのか、
リムがむずがりだす。
うたって、うたってとおねだりするかのように手足をバタバタと動かして
アピールするのを機に明日香は赤ん坊の体を母親に預けた。
「悪くないよね...うん、悪くないよ...」
- 47 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時43分56秒
- 視線を逸らし節目がちにつぶやく言葉は、彩に向けられたものというよりは、
自分自身に問いかけているかの印象さえ与えた。
自分と異なり、保田の加入経緯にこだわっていないはずの明日香が、
唄に関しては必ずしも同様のスタンスでないことを今更ながら発見して、
彩は意外に思った。
ただ、保田についてなにか含みを持っているというのとはまた違った
歯切れの悪さを感じたのも確かだ。
彩は娘。を辞めてからなんとなく理解したことがある。
明日香の老成した落ち着きというのは多分に意識してつくられたものではなかったのかと。
彼女の冷めたような物腰は、ごく一般的な女の子に対する奇妙な距離の置き方に
起因していたのではないか。
言いかえれば、自分は決してその辺の十羽ひとからげの普通の女の子では断じてない
という奇妙な自意識の発露ではなかったか。
彩は明日香が弱音を吐いた場面をてんで思い出せないでいるのだが、
そうした表面的な繕いが、果たしてすべての悩みや戸惑いを自分で解決していた
ということと同義に捉えてはいけないのではなかったか。
- 48 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時45分42秒
- だから、明日香が辞めると言い出したのも、決して本当に辞めたかったからではなく、
むしろそこに留まり続けることにいぎたなさを「感じなくてはいけない」という
強迫観念に近い妄念に追いたてられたためではなかったか、と彩は思う。
今、また口を濁して本心を語ろうとしない明日香をそのまま返してしまったら、
彩はまた長いこと後悔しなければならないだろう。
ここはひとつ時間をかけようと思った。
「今日ね、旦那帰ってこないのよ。泊まってかない?」
驚いたように目を見開く明日香ではあるが、意外にも素直にこくりと肯いた。
(よしよし...あんたにしちゃ、上出来よ。)
泊まるとわかったのかどうか、ご機嫌ではしゃぐリムの相手を任せ、
彩は買い物にでかけた。
実家から離れて暮らす彩にとって気軽に子守りを頼む相手はなかなかいない。
雨の日はリムを連れて出かけるわけにもいかず、明日香が見てくれるのは
彩にとっても助かるのだった。
- 49 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時46分24秒
夜。
夕食を済ませても尚、はしゃぎ続けるリムにはさすがに疲れたのか、
布団に転がるとほぼ同時に軽い寝息を立てていた。
(あら、寝ちゃったか...)
リムを任せっきりで自分としてはかなりリフレッシュできたのだが、
明日香の方は慣れない子供の相手で疲れたろう。
悪いことをしたとは思うものの、気付けば自分もまた心地好い眠りへと落ちて行った。
- 50 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時47分09秒
なんだかがさこそと落ち着かない動きの気配を感じて、彩は目を覚ました。
リムが予泣きをすることは滅多にないものの、深夜のもの音には敏感になっていた。
様子を覗こうとして半身を起こすと、リムの頭をなでている明日香と目が合う。
「起きてたの?」
「うん、なんだかさっき起きてから目が冴えちゃって...」
「少し話そうか...」
「うん...」
- 51 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時48分33秒
- 明日香が何事か悩みを抱えていたとして、自分から話すことはないだろう。
ただ彩としてもどう切り出したものか、妙案はない。
沈黙の気まずさを振り払うように、思いつくまま話すことにした。
「リムが産まれてから3ヶ月くらいはね、毎日3時間おきにミルクをあげていたの。」
「寝不足になんなかった?」
「なった...今みたいに、子供が泣いてるわけでもないのに急に目が覚めてしまったりね...」
「そう。母親って大変なんだね。」
リムのすやすやと寝入る姿に目をやって、明日香はつぶやく。
「そんなときに聴いてたMDがあってね...」
「...」
黙って自分を見つめる瞳に何か期待めいたものを確認した彩は、
すっくと立ちあがって言った。
「コーヒーでも入れようか?」
- 52 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時49分54秒
- 食卓に向かい合うと、カップから湯気と香気が立ちこめる。
どらからともなく言葉がもれる。
「ねえ、これって...」
「モーニングコーヒー!」
ユニゾンでそろったのがおかしかったのか、
二人とも大きな声をあげて笑い出しそうになり、慌てて口をつぐむ。
彩が人差し指を立てて唇にあてるしぐさを見て、また明日香が笑いを堪える。
ようやく収まったところで、ポータブルMDを取り出して渡した。
「聴いてごらん。」
怪訝そうに彩の顔を上目づかいに見やりながら、
イヤホンを耳に挿入しスタートボタンを押す。
曲が流れ始めたと見えて、視線が宙に浮く。
しばらく聴きいった後、はっとした表情でこちらを振り向く明日香。
「これって...」
(そうよ...)
黙ってうなずく彩に、納得したのか再び曲に集中する。
何曲か聴き終わって合点がいったのだろう、プレーヤーを止めてイヤホンをはずした。
- 53 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時51分34秒
- 「圭ちゃんのこんな唄...初めて聴いた...」
「落ち着いた?」
「うんん。逆になんか興奮しちゃった。コーヒーおかわり頂戴。」
その言葉通り、こころなしか目の輝きが増したように見える少女のために
キッチンでコーヒーを入れながら、背中ごしに語りかける。
「丁度、去年の年末くらいかな...それが送られてきたの。」
そう、まだ子育てを始めたばかりで不安だった頃だ。
寝不足で精神が不安定になっいてたせいもあるのだろう、
送られてきた封筒はしばらく開かれずにいた。
娘。を去る頃には、既に保田に対するわだかまりが自分なりに解消できていた
と思っていただけに、
意外でもあり、腹立たしくもあった。
封筒を開くことになったのは、まったくの偶然だった。
「リムがどうやって見つけたのか、噛りついてたのよ。
やっと寝返りがうてるくらいになったときだから、びっくりしてね。」
そう、そして開けた封筒にはこのMDと短いメッセージが添えられていた。
- 54 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時52分19秒
『おめでとう、彩っぺ
お祝い、いろいろ考えてたんだけど、なかなか決められなくて。
みんなから、あんたは趣味悪いからプレゼントしなくていいよとか言われるし(泣)
それで結局、これにしました。ごめんね、お金かかってなくて(笑)
子守り歌のCDいろいろ探したんだけど、ピンと来なかったから自分で入れちゃった(笑)
あっ、もちろんリムちゃんには彩っぺが歌って聴かせるんだよ。
デモの代りに使ってくれれば嬉しいです。
それじゃ、子育て大変だけど頑張ってね。
モーニング娘。 保田 圭』
- 55 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時54分10秒
- メッセージをじっと読む明日香の手が少し震えた。
手紙を食卓にそっと置いて、なにごともなかったかのようにコーヒーカップを口につけるが、
その表面で子刻みに揺れる褐色の液体は心の動きを素直に反映していた。
「なんか嬉しくてね...で同時に凄く悪いことしたなぁって...
私がいたときよりさらに忙しくなってたはずなのにって思ったら...」
手紙に記しているように、MDは保田が自ら、様々な子守り歌を唄って録音したものだった。
モーツァルト、ブラームス、五木の子守り歌から、Lullaby of Birdlandといった
スタンダードナンバーまで。
伴奏も作曲の勉強がてら覚えた楽器で自ら打ちこんだらしい。
明日香はうつむき乍らカップを抱え、じっと押し黙ったままリムの寝顔を見つめていた。
リムが果たした役割に偶然では説明できない何事かを感じたのかもしれない。
- 56 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時55分03秒
「私ね...圭ちゃんが羨しかった...」
ようやくぽつぽつと語り出した明日香の視線はしばらく、宙を泳いだあと、
明かり取りの子窓に向けられた。
気がつけば、もう夜明けの空は白み始めていた。
それに合わせるかのように、小鳥がさえずり始める。
「まっすぐで...なんか圭ちゃんの歌って偽るところがないなって...
ううん。生き方に偽りがないなって...」
彩はカップのふちを指でこすりながら、耳を傾けている。
つんくの言葉を思い返していたのかもしれない。
(保田は中澤や石黒が超えられなかったものを克服している...)
「私が辞めたとき、圭ちゃんがパート引き継ぎたいって手を上げたこと聞いて、
正直、自分だったらそんな格好悪いことできないって思った...でも...」
明日香はそこで言葉をつまらせた。
「でも...気付いた...格好悪いのは自分の方だったって。」
彩は笑みを浮かべやさしくうなづく。
- 57 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時56分05秒
- 「でもやっと気付いたんでしょ、自分が何をやるべきか...」
「...」
「若いうちは多少回り道をした方がいいこともあるのよ...」
「彩っぺも回り道したと思う?」
「娘。のこと...?さあ、どうかしらね...」
明日香は静かに笑みをたたえ、ゆっくりと頭を左右に振る。
外では小鳥のさえずりが合唱となって、活気を帯びてきた。
朝はもう近い。
「こういう夜明けの鳥のさえずりってさ、"Dawn Chorus"って言うんだって...
夜明けの合唱って...」
彩はカップを持って立ち上がり、窓に向かいカーテンを開けた。
姿の見えない鳥たちが奏でる音楽は終わりゆく夜を惜しむというよりは、
また新しい一日を迎えることができた生命の喜びに満ちている。
空の白さが増していくにつれ庭の木々が薄明かりの中にぼんやりとした形をなしてくる。
木立の向こうに覗いている遠くの空に浮かぶ雲は朝日の照り返しを受け、
乳白色からほのかに赤みを帯びてきた。
- 58 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時56分53秒
- 「明日香...娘。で一緒に唄っていたことってなんて明け方の小鳥のさえずりみたいなものよ...」
くるりと振り返り、今度は明日香の目をまっすぐに見つめる。
「日が登れば、みんなそれぞれ自分の歌を唄い出すわ。。。」
そして、ゆっくりと息を吐いて続けた。
「だから、あなたも...あなたの歌を唄いなさい...」
外はもう完全に朝を迎えつつあり、鳥たちに代わって今度は人間が活動を始めているようだった。
ときおり、新聞配達のバイクが家々の前で止まっては、また走り出すエンジン音が響く。
その言葉を噛み絞めるように、明日香は深くうなづき、まっすぐな視線を返した。
彩はその目に宿る力を信じていいかな、となんとなく思った。
- 59 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時58分09秒
リムが起きる前に帰るという明日香を送り出し、角を曲がるまで姿を見送った。
その小さな背中で背負うには重過ぎる荷を少しでもここで降ろせたのか定かではなかった。
だが、かまうまい...と彩は思う。
焦る必要はない。
結局、自分の問題は自分で解決するしかないのだ。
それがあまりに重荷であるならば、しばらく置いておけばいい。
いずれ、自分の中でうまく折り合いをつけられるようになるまでは...
- 60 名前:Dawn Chorus 投稿日:2001年11月05日(月)13時59分08秒
玄関のポストから新聞を取り出す。
朝の太陽の強い日差しが既に黄色く色づき始めた庭の楓の葉に映え、黄金色に輝く。
昨日の雨が嘘のように奇麗に晴れ上がった空を見上げ、彩は嬉しくなった。
今日は洗濯ものがよく乾きそうだ。
――おわり――
- 61 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時43分48秒
- 「今日、夜勤頼むわ。」
思えばなぜあの時適当な理由をつけて断らなかったのか
翌日は1限だったし、レポートの提出もあった。
だけど、あの時のわたしは、自然に「はい」と応えていた。
- 62 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時46分27秒
- 「ふ〜ん、朝短の生徒かあ、懐かしいなあ、ウチもあそこ出てんねんで。」
生まれて初めてのバイトの面接は、店長がわたしと同じ短大出身者ということもあって、
スムーズに運んだ。
実家に帰省していたわたしが、寮に戻ってくるといつの間にかオープンしていたカフェ。
学校からも、寮からもちょうどいい距離にあって、講義が終わってから1度友達と行った時も、
木とコーヒーの香りの立ち込める素敵な店だと思った。
- 63 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時47分10秒
- 「ところで、免許は持ってる?」
金髪の店長は自分でもうすぐ30だと言っていたが、とてもそうは見えない、
特にコロコロと笑う姿は年上の女性に対して失礼かもしれないけれど、かわいいと思った。
けれど、真剣にこう訊いてきた時の店長の顔は、不思議な怖さを感じさせた。
今になって考えれば、その理由も分かろうというものだが、その時のわたしは、
車と調理師の免許くらいしか思いつかず、そのどちらも持っていなかったので、
もじもじとするばかりだった。
「・・・まあ、ええわ、その代わり免許ないんやから仕事は朝と昼だけな、じゃあ明日からよろしく。」
こうして、わたしの初面接は、ほんの少しの疑問と採用されたことへの喜びをもって
無事幕を閉じた。
- 64 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時48分03秒
- 仕事は大抵朝の7時から12時まで、開店の準備をして、出勤前のお客様から始まって
少し早い昼食を取りに来る学生に給仕する頃わたしの勤務も終了。その後はわたしも
1人の学生に戻って、そのまま学校へ向かう。
そんなに大きな店ではないので、朝はいつも調理担当の先輩と2人きりになる。
保田さんはよく喋る人ではないけれど、仕事の教え方は丁寧で、なんでも”免許”も持っていて、
ここへ来る前はもっと都会の店で働いていたらしい。
それに、保田さんはわたしが出勤すると必ずもう店に来ている。
1度保田さんより先に出勤しようと、いつもより30分早く店に来た時も
すでに保田さんがいたので、いったい何時に来ているのか訊いてみたら、
夜勤をしているので一晩中店にいると言われた。
もちろん、次の日からわたしは無駄な努力をやめ、出勤を定時に戻した。
- 65 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時48分49秒
- こういう店では朝でも夜でも挨拶は「おはようございます」と決まっている。
「おはようございます。」
「あれ?石川こんな時間に何してんの?」
「それが、今日の夕方になって中澤さんから電話で夜勤頼まれちゃったんです。」
口をあんぐりと開け、信じられないと言った顔のまま固まる保田さん。
何かとんでもないことを言ってしまったんだろうかと不安になったが、我慢強く次の言葉を待った。
「あんた、夜勤って意味わかってるの?」
「はい・・・メインは掃除だから大丈夫だって言われて・・・」
額に手を当てて、横を向く保田さんを見ながら、わたしはようやくとんでもないことを
引き受けてしまったんだと気付き始めた。
- 66 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時49分29秒
- 「・・・よし、終わりっと!」
絞り終わったモップを用具入れに放り込むと、保田さんが笑顔で振り返った。
バイト仲間の間では厳しい、怖いという印象の強い人だが、こうして2時間も一緒に
掃除をしているといろいろな面が見えてきた。
特に、普段見ているテレビ番組と、それを見て泣くポイントが同じだった事は嬉しい発見だった。
「ところで、まだ1時過ぎですけど、これから朝まで何するんですか?」
「・・・まあ、そのうち分かるから、それより今のうちにまかない食べちゃいな・・・(忙しくなるから)」
最後にボソリとつぶやいた言葉はうまく聞き取れなかったけれど、厨房に入っていく
保田さんの背中を見ながら、わたしは修学旅行の夜を思い出して、少しワクワクしていた。
- 67 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時50分37秒
- 「じゃあ、看板出して。」
「え?」
まかないも食べ終わり、のんびりとコーヒーをすすっていたわたしの耳に
信じられない言葉が飛び込んできた。
「だから、看板!」
「でも、保田さん夜中の2時ですよ。」
「いいから、それから今から来るお客さんたちに関して詮索しないこと、そして、
いつもどおり接客すること、いいね。」
保田さんの迫力に促されて、朝の準備のように看板を出しに行ったわたしは
その時初めて気付いた。
『営業時間8:00〜22:00 (26:00〜26:30)』
「保田さん、26時ってなんですか?!」
「午前2時。」
「そうじゃなくてぇ!」
「ああ〜、うるさい、そろそろお客さん来るから、準備して・・・
あっ、いらっしゃいませ。」
わたしの肩越しに営業スマイルを投げかける保田さん。
振り返ったわたしの目の前には、2人の子どもがいた。
- 68 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時51分26秒
- 「あれ、どうしたのかな、こんな時間に?」
てっきり迷子が迷い込んできたのだと思ったわたしを一瞥すると、
彼女たちはさっさと奥のテーブル席に陣取ってしまった。
「けふん、なんなんれすかあの失礼な店員は。」
「まあまあ、いつもの姉ちゃんやないとこ見ると新人さんやろ。」
真夜中のカフェに2人の常連客、しかも子ども。
助けを求めたわたしの視線を保田さんはばっさりと切り落とすと、ひどく事務的な口調で言った。
「さあ、注文取っといで。」
- 69 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時52分56秒
- しぶしぶとテーブルに向かうと、頭をお団子にした少女は備え付けのペーパーナプキンで
大量のハートを作っていて、もう1人の少女もそれを熱心に見つめていた。
「あの、ご注文は?」
「焼きそば。」
「あの、申し訳ありません当店にはそう言ったメニューは・・・」
「焼きそば。」
こちらを見ることもなく、自分達の手元に集中したまま「焼きそば」だけを繰り返す少女たち。
わたしでは手におえないと思い、再び助けを求めに戻ったわたしに保田さんは
信じられないものを手渡した。
- 70 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時53分32秒
- 「これでしょ?」
そう言って保田さんがわたしのトレーにいおいたのは焼きそば1人前。
「保田さん、こんなのメニューにないですよね?」
「いってらっっしゃい。」
わたしの質問など聞こえないふりで、笑顔で手を振る保田さんに見送られ、
戸惑いながら焼きそばを見つめる。
それはたしかに焼きそばだった、けれど、こんなメニュー今までこの店で見たことはない。
安っぽいプラスチックの皿の上には茶色のそば、そしてちょこんとそえられた
ピンク色の紅しょうが、鼻を近づけてみると香ばしいソースの匂いが・・・しない
(なに、これ、変な匂い。でも、どこかで嗅いだことある・・・芳香剤!トイレの芳香剤だ!
でも、こんなの出して大丈夫かなぁ?)
- 71 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時54分18秒
- 「お待たせしました。」
わたしの不安は見事に裏切られた。
テーブルに置くやいなや、ハートを折っていた団子頭の少女が、
すごい勢いで焼きそばをすすり始める。
「ああ、これやこれ、うわぁ、トイレ臭ぁ!」
臭い臭いと言いながらもずるずると焼きそばを食べる少女、それに対してもう1人はというと
「らって、自慢するんらもん」
泣いてる・・・
焼きそばくらいで、しかも、食べたければ、頼めばいいのに。
居たたまれなくなって、もう1度注文を取ろうとしたわたしを、
厨房の保田さんがばってんマークを作って呼び戻した。
「あの2人はね、あれでいいんだよ。1人が食べて、1人が泣く。それで楽しんでるんだから。」
「はあ・・・」
カウンター越しに見える理解不能の世界を眺めながら、始まったばかりの夜勤を投げ出して
早速帰りたくなっていた。
- 72 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時54分50秒
- 「さあ、気抜いてないで、次来るよ。」
保田さんがわたしの肩を叩いたと同時に、扉が開いた。
家族で遠くまで出かけてきた帰り、たまたま車を走らせていたらまだ開いているカフェが
見えたので、家に着く前にちょっと休憩していこう
そんな様子の両親と1人娘。いたって幸せそうな家族3人連れだった。
「パパ、ママ、何食べる?」
そう、その娘がパパ、ママと呼んでいるのがイグアナでなければ。
2匹のイグアナを伴って店に入ってきた少女は、先の2人組みの少女たちとは反対方向に
店内を進むと、丸テーブルを囲むように置かれたソファーに座った。
もちろん、パパとママも少女の膝の上で一緒だ。
「保田さ〜ん・・・」
情けない声を出すわたしを無言の笑顔で送り出す保田さん。
- 73 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時55分21秒
- 「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「コーヒー3つ。」
パパとママの額を交互に撫でながら、少女が応えた。
あまりに普通のオーダーに正直ほっと胸をなでおろした。
ここで「コーヒーとこおろぎ50匹」なんていわれた日には、間違いなく仕事を投げ出して
帰っていただろう。
保田さんが淹れてくれたコーヒーを持っていくと、パパとママは気持ち良さそうに目を閉じて、
眠っていた。
「ありがとう。」
テーブルにコーヒーを並べていた時、少女がそう言ったのだが、昼間ならありふれた
こんなやり取りが、その夜は逆に異様なことのように感じられた。
- 74 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時56分05秒
- 「いらっしゃいませ。」
3組目のお客様は1人だった。
モデルさんかなと思うようなスタイルで、ピンクのブーツカットパンツも変に浮いてなくて、
かっこよかった、なにより、髪を伸ばそうかなと思っているわたしにとって、彼女の長い髪は
とても魅力的だった。
「ご注文は?」
「ラジオ。」
はいはい、もう慣れましたよ。
人間がもつ変化への適応能力は非常に高い。変なお客様も3組続くと慣れてくるものである。
「はい。」
そして、予想通り、厨房に戻ったわたしに保田さんは1台の携帯ラジオを持たせてくれた。
「お待たせしました。」
真っ白な大き目のお皿に乗せたラジオを差し出す。
きっと音楽でも聴くのだろう、そう思ったわたしはまだまだ”夜勤”を理解していなかった。
- 75 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時56分53秒
- モデル風のその女性客は、目の前に置かれたラジオを両手で持つと、それを無造作に食べ始めた。
アンテナから、バリバリと音を立てて、途中で1度水を飲んだのを除くと一気に食べてしまった。
(ラジオって食べれるんだ)
あまりの出来事に精神が現実を離れようとしていたが、驚くのはまだ早かった。
食ベ終わりちびちびと水を飲んでいた女性が、ブルルと震えたかと思うと、
突然つぶやき始めたのだ。
「$%U%$HDHTU#$#'&((&'()GE$%#$Wkj」
しかし、それはわたしにはまったく理解できない言語で、英語でも
習い始めたフランス語でもない、もっと無機質で、機械の話すラテン語のようだった。
- 76 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)01時57分37秒
- それからしばらくは誰もこなかったので、店内には焼きそばをすする音とそれに伴う泣き声、
イグアナのいびきと幸せそうな笑い声、そして、無機質な音が響いていた。
「保田さんはいつもこんなトコで働いてるんですか?」
「こんなトコってずいぶんな言い方ね。」
「でも、絶対変ですよ。」
「まあ、わたしも最初は驚いたけどね。けど、免許とる頃には慣れちゃって、
今じゃ普通の接客じゃ物足りなくてね。」
「免許?」
「そう、特殊接客業免許。あんた今日は無免許だから皆にこの事言っちゃ駄目よ。」
もっと訊きたいことはあったけれど、目を細めて店内を眺める保田さんを見ていると、
なんだか分からないでもないような気がしてきて、それ以上は何も言えなかった。
- 77 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)02時00分27秒
- 「さて、最後のお客様かな。」
入ってきたのはわたしと同い年くらいの少女。
注文を取りに行きながら、今度はどんなオーダーが出てくるのか、
少し楽しみにしている自分がいた。
「え〜っと、このAセット、パンはベーグルで。」
けれど、返ってきたのは極普通のオーダー。
少しがっかりしながら、厨房に通すと、Aセットと一緒に『closed』の札を渡された。
「今のお客様で最後ね。」
「でも、まだ朝まで時間ありますよ?」
「ううん、もう来ないのよ、繋がってるのが解けちゃったからね。」
- 78 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)02時01分11秒
- 保田さんの指差す方を振り返ると、さっきまでいたはずの2人組の少女も、
イグアナの家族も、ラジオを食べたモデルさんもいなくなっていた。
残っていたのは、最後に入ってきたベーグルのお客様だけだった。
「あれっ?」
「言いから、早く持って行きな。」
結局その後は、最後のお客様が同じ朝短の生徒だと分かったので少し話して、
お客様が帰った後は保田さんと片づけをして、朝の準備をして帰った。
店長当てのメモを残して。
『店長へ
来週からのシフトでお願いがあります、週1〜2回で夜勤入れてください
石川』
- 79 名前:いらっしゃいませ、何名様でしょうか? 投稿日:2001年11月06日(火)02時02分02秒
- 「おはよう。」
「あ、おはようよっすぃ。」
「昨日の夜もバイトだったの?」
「うん。」
「ねえ、梨華ちゃんのお店って前に夜行ったけど、ほら初めて会った時。いっつもあんな感じ?」
「・・・うん、まあ、普通だよ。それより、語学の訳ちゃんとやってきた?」
「あ〜!忘れてた、後で写さして。」
「もう、しょうがないな。」
わたしが夜勤をしているのは内緒、だって無免許だから。
けれど、きっと免許を取ってもわたしが夜勤の話をすることはないでしょう。
夜の出会いは夜に働く人だけの特権だから。
あなたの周りにもこんな会話がありませんか?
「バイト何してるの?」
「・・・普通だよ。」
おしまい
- 80 名前:何味だろう? 投稿日:2001年11月06日(火)10時28分53秒
- 何味なんだろう?
メロン味?レモン味?イチゴ味?
甘いとも、ほろ苦いとも言われてる。
いったい、なんの、どんな、味がするんだろう?
「・・・すぃ。よっすぃ。・・・よっすぃ?」
「え!?」
「んも〜またボーッとしてたよ〜」
そう言ってキャハハと笑う矢口さんが、何時の間にか目の前にいた。
「最近、なんかよくボーッとしてるよね。なんかあったの?」
矢口さんに指摘されて、私はさっきまで考えていたことを思い返した。
近頃、確かによく考えてる。
考えていたのは、キスのこと・・・。
ファーストキスって、どんな味がするのかってことだった・・・。
- 81 名前:何味だろう? 投稿日:2001年11月06日(火)10時51分56秒
- 残念ながら、私は中澤さんとファーストキスを済ませている。
まあ、なりゆきで奪われたと言った方が正しいが・・・。
その時は、特に味は感じなかった。
こんなもんかなぁ〜って思ったのを記憶してる。
それでも、やっぱりなんらかの味はするはずなのだ。
友達は、「甘い〜」とか「オトナの味〜」とか言ってるし。
・・・やっぱりスキな人とするのが重要なんだろう。
自分のキモチによっても、味が違うのかもしれないし。
・・・矢口さんとのキスは、どんな味がするのかなぁ・・・。
- 82 名前:何味だろう? 投稿日:2001年11月06日(火)11時05分36秒
- 「よっすぃ〜。ヤグチの存在忘れてるでしょう〜?」
・・・また自分の世界に入ってしまっていたようだ。
すっかり矢口さんのコトを忘れてた。
「ああ、ごめんなさい。えと、なんですか?」
「・・・なんか失礼な気がするけどまぁいいや。
夜さ、屋上でお弁当食べようぜ。ちょっと涼しくてイイ感じだよ〜」
私がなにも言ってないのに、矢口さんはニコニコしながら私の目を見てくる。
・・・見つめられてしまいましたよ。かないません。
夜のお弁当は、矢口さんと二人で屋上で食べる事になった。
- 83 名前:何味だろう? 投稿日:2001年11月06日(火)11時17分41秒
- お弁当を受けとって、二人で屋上に向かう。
メンバーもよく出入りしているから、屋上にはカギは掛かってない。
扉を開けて、屋上に出てみる。
スーッと、少し涼しさを感じる風が通りぬける。
まだ薄明るいのに、街のネオンはこうこうと光っていて、彩りにあふれた街を演出している。
「キレイですねぇ・・・」
ホントに無意識のうちに、そんな言葉が出た。
「でしょー。ヤグチに感謝しろよー」
矢口さんも、自慢げに話しつつ、街の風景にみとれている。
風景を楽しみつつ、私達はお弁当の箸を進めた。
- 84 名前:何味だろう? 投稿日:2001年11月06日(火)11時25分28秒
- くだらない話しをしつつお弁当を食べ終え、私達はまた風景を眺めていた。
暗くなってから見る街とは、また違う趣がある。
「キレイだよねぇ・・・」
「はい・・・」
矢口さんのつぶやきに、私も同意した。
そのまま、ボーッと街を眺めていると、
「・・・まぁ、よっすぃのがキレイだけどさ」
- 85 名前:何味だろう? 投稿日:2001年11月06日(火)11時35分57秒
- ・・・驚いて矢口さんのほうを見ると、矢口さんの目は街に向いていた。
けど、すぐに視線を合わせ、
「違うね。よっすぃはカワイイや」
いつもの明るい笑みを浮かべながらそう言った。
「やぐち・・・さん・・・?」
はっきりと声が出せない私を、矢口さんは優しい表情で迎えてくれた。
「ホントにさぁ、カワイイ。
最初見た時からそう思ってたよ。
それに、性格だっていいんだから・・・」
固まってる私を抱きしめながら、はっきりと言った。
「大好きだよ、よっすぃ・・・」
- 86 名前:何味だろう? 投稿日:2001年11月06日(火)11時46分52秒
- ・・・その後は自然に流れていった。
矢口さんの肩をギュッと抱きしめ、表情を窺う。
矢口さんは目が合うと、スッと瞼を閉じた。
ぎこちない動きで、自分の顔を矢口さんの顔に近づける。
すい込まれるように、唇が重なった・・・。
かなり興奮してた私だけど、結構冷静にキスを味わう事ができた。
でも・・・言葉にはできない。
甘くも、苦くも、なんとも言いようの無い味だった。
・・・言えるのは一つだけ。
病みつきになるような味だった・・・。
- 87 名前:何味だろう? 投稿日:2001年11月06日(火)11時54分21秒
- ・・・何秒かのキスが終わり、今は二人で寄り添って座っている。
すごく、幸せな気分。
そんな時に、ふいに矢口さんが口を開いた。
「・・・よっすぃのキスはさ、甘いね」
「甘かった、ですか?」
「うん、すっごく甘かった」
「・・・どんな、味でしたか?」
なんだか雰囲気に合わないような会話だけど、どうしても知りたかった。
矢口さんは間髪をいれずに答えてくれた。
「よっすぃの味だよ」
- 88 名前:何味だろう? 投稿日:2001年11月06日(火)12時04分50秒
- 「・・・私の味ですか?」
「うん」
不思議そうに見つめる私に、矢口さんは説明してくれた。
「メロンを食べたらメロン味。
イチゴを食べたらイチゴ味。
よっすぃなんだから・・・よっすぃ味だよ」
これを聞いた時、私はバカなことを考えてたなぁと思った。
好きな人とのキスは、好きな人の味がするんだ。
人それぞれ、自分の一番好きな人の味が・・・。
「・・・矢口さん、キスしていいですか?」
ニッコリうなづいた矢口さんに、私はくちづけた。
さっきと同じ、紛れも無い「矢口さん」の味がした。
完
- 89 名前:コーヒー付 投稿日:2001年11月07日(水)00時42分54秒
- 雨降りの朝。石川の家の近くのファミレスに、私たちは入った。
ウェイトレスが、出迎えてくれる。
愛想のいい、好感のもてる女性だ。
私たちは、テーブルへと案内された。
「メニューが決まりましたら、お手元のボタンでお呼びください。ごゆっくりどうぞ。」
お決まりな挨拶を述べ、彼女は去っていく。
私はその後ろ姿を、何の気なしに眺めていた。
石川は、既にメニューを広げていて、それを私にも見えるようにしてくれていた。
「保田さん、なんにしますか?」
「ん〜…これかな?」
私は、メニューの上の一点を指で示した。
「クロワッサンセット、コーヒー付。石川は何にする?」
「そうですね〜…じゃあサンドウィッチと紅茶で。」
「ん。じゃあ呼ぶよ?」
石川が頷くのを確認してから、テーブル毎に設置されているボタンに手を伸ばす。
安っぽい、聞き覚えのあるような電子音が遠くから響く。
ウェイトレスが、早足でこっちに向かってくるのが見えた。
- 90 名前:コーヒー付 投稿日:2001年11月07日(水)00時44分27秒
- 「ご注文は?」
「えぇと、クロワッサンセット、コーヒー付1つと…」
とりあえず自分の注文を済ませてから、私は石川に視線を投げた。
「あ、あと、サンドウィッチと紅茶。」
「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
「はい。」
「ご注文のほう繰り返させてもらいます。クロワッサンセット、コーヒー付が一点、サンドウィッチと紅茶がそれぞれ一点。以上でよろしかったでしょうか?」
「はい。」
「かしこまりました。」
注文を取りおえたウェイトレスは、また奥へと帰っていった。
- 91 名前:コーヒー付 投稿日:2001年11月07日(水)00時45分33秒
- 「保田さん、昨日はありがとうございました。遅くまで相談に乗ってもらって…」
「ああ、いいわよ。それぐらい。私は石川の教育係だったんだから。」
「だったって…どうしてですか?もう、石川の教育係、してくれないんですか?」
だった、と過去形にしたのは、石川はダンスもだいぶ上達し、もう私のアドバイスなんて欲しがらないんじゃないだろうか。そう思ったからだったが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
石川は、泣きそうな顔で俯いてしまった。
無性に頭を撫でてやりたくなったが、場所を考えそこは自制した。
「…アンタさえ良ければ、ずっと教育係してやってもいいわよ?」
「ホントですか…?」
「本当だってば。」
「…嬉しいです。」
やっと石川は顔を上げてくれた。
眩しいくらいの笑顔と共に。私も、つられて笑顔になる。
- 92 名前:コーヒー付 投稿日:2001年11月07日(水)00時46分19秒
- そのうちに、料理が運ばれてきた。
私の前にクロワッサンとサラダとコーヒー、石川の前にサンドウィッチと紅茶が、それぞれ並べられた。
「おいしそう〜、食べましょう、保田さん。」
「うん。」
会話もそこそこに、私たちは料理に手をつけた。
皿の上に、上品に並べられたクロワッサンを手で掴み、口に運ぶ。
ぱりぱりの表面が、少しだけ下に落ちた。
- 93 名前:コーヒー付 投稿日:2001年11月07日(水)00時47分22秒
- 料理もあらかた食べ終わり、私たちは食後にケーキを頼むことにした。
「何にする?奢ったげるわよ。」
「ホントですかぁ!?」
「何よ、疑うの?奢ってあげないわよ?」
「え?あ、そんな…えっと、何にしようかなぁ〜…?」
石川は慌てて、メニューを広げた。その姿がなんだか微笑ましくて、幸せな気分になる。
「う〜ん、迷うなぁ〜…」
「あんまり高いのはダメよ?」
「分かってますよ〜。じゃあ、これにします。」
石川が指差したのは苺のショートケーキ。
メニューの中で1番安いケーキ。謙虚な選択だ。
私はウェイトレスを呼び、苺のショートケーキ2つ、それとコーヒーをもう1つ頼んだ。
- 94 名前:コーヒー付 投稿日:2001年11月07日(水)00時50分28秒
- しばらくして、ケーキが運ばれてくると、石川は目を輝かせた。
私は上にのっている苺から食べた。
石川はもうケーキをほおばっていた。
「おいし〜!」
頬に手を当て、おいしさを表現している。
そんなわざとらしい仕草さえも、可愛く思えてしまう自分に、私は気付いた。
そんな自分に、思わず苦笑が漏れてしまう。
「…?どうしたんですか?」
「なんでもないわよ。それより石川、クリームついてるわよ。」
「えっ、どこですか?」
「ここ、ここ。」
そう言いながら、自分の唇の辺りを指差す。
「ここですか?」
「違う、反対。」
「こっちですか?あ、ホントだ。」
石川は、クリームをふき取った自分の指を、そっと口に含んだ。
それがとても卑猥なものに思えて、そう思う自分に私は気恥ずかしさを覚えた。
- 95 名前:コーヒー付 投稿日:2001年11月07日(水)00時51分28秒
- ケーキも食べ終わり、私はコーヒーをちびちびと飲んでいた。
今日は午後から別々の仕事がある。まだ、時間に余裕があった。
出来ればもっと一緒にいたい。
だけど、まさか自分から「もっと一緒にいよう」などと言えるはずも無く、
ただただ、コーヒーをちびちびと飲むだけ。
これを飲みおえたら、一緒にいる理由は失われる。
石川を繋ぎ止める術を無くす。そう思えた。
そんなことばかり考えているから、自然と無口になっていた。
多分、傍から見たら今の私の顔は怒っているようにも見えることだろう。
初めは色々と話し掛けてきた石川も、私につられてか、黙ってしまっている。
もしかしたら、自分と同じ事を考えているのかも。
淡い期待を抱きながら、私はまた冷め切ったコーヒーに口をつけた。
- 96 名前:コーヒー付 投稿日:2001年11月07日(水)00時52分57秒
- 二人のテーブルを重苦しい雰囲気が支配し始めてから数分。
石川が口を開いた。
「あの…このあと暇ですか?」
「…どうして?」
「ケーキのお礼、ってわけでもないんですけど…お昼ご飯、ご馳走したいんで…」
「いいわよ。」
「ホントですか?じゃあ石川、腕によりをかけて振る舞っちゃいます!」
「アンタが作るの?まぁ、期待しないで待ってるわ。」
「なんでですか〜?」
口では抗議の意を示しながらも、顔は笑っている。
「フフッ、冗談よ。」
私も笑う。先程までの重苦しい雰囲気は、もうどこかに消えていた。
- 97 名前:コーヒー付 投稿日:2001年11月07日(水)00時53分36秒
- 「じゃあ、そろそろ行こうか?」
「はい。」
私は、まだ少し残っていたコーヒーを一気に飲み干した。
席を立ち、レジへと向かう。
- 98 名前:コーヒー付 投稿日:2001年11月07日(水)00時55分57秒
- ウェイトレスが、レジを打つ。
「しめて2450円になります。」
「はい。」
私は財布から千円札を三枚、取り出した。
「あっ、保田さん、私も払いますよ。」
「いいわよ、奢ったげる。かわりに、お昼、おいしーの作りなさいよ?」
「…はいっ。」
出来るだけ柔らかく微笑みながら、私は取り出していた千円札をレジに差し出す。
「三千円、お預かりします。550円のお釣りになります。」
「はい。」
受け取った小銭を、そのままポケットに突っ込む。
「じゃあ、行こうか。」
石川の方を振り返りながら、そう言った。
「はい。」
- 99 名前:コーヒー付 投稿日:2001年11月07日(水)00時58分13秒
- 店を出ると、雨はもう止んでいた。
「あっ、保田さん、虹ですよ、虹!」
「え、どこよ?」
石川の指差した先を目で追うと、さっきまで空一面を覆っていた雲の隙間から、青空が覗いていた。
そしてそこには、うっすらとだけど、確かに虹が出ていた。
空は、これから晴れていくだろう。ちょうど今の私の心の中のように。
そこには、透き通るような青が広がっていくことだろう。
〜fin〜
- 100 名前:時を『食う』 投稿日:2001年11月07日(水)01時47分36秒
- (はぁ・・・・・・、ひま……)
雑誌の写真撮影の待ち時間。
石川梨華は暇を持て余していた。
他のメンバーは思い思いの食べ物を持参し、ひたすら食べている。
(……よし!)
石川は何かを思いつくと、メンバー全員を見渡せる場所へ移った。
そして、静かに目を閉じ、耳を澄ます……。
- 101 名前:時を『食う』 投稿日:2001年11月07日(水)01時49分46秒
- ―――カリッ、ポリポリポリ……。
(これは……、野菜スティックをかじる音…。距離方角からして、安倍さんね。
彼女、最近健康に気を配ったものを食べてるわね。おかげでお肌もきれい。
以前とは見違えるよう…。
そうね……。あの時期はタイヘンだったわ。見さかいなく食べてて……。
あれは、完全に食欲と性欲を履き違えてたわね。
そりゃ太るよね、お肌も荒れちゃうよね。
でも今はもう大丈夫。
お肌キレイ、おなかもキュッ。
キレイよ…安倍さん)
- 102 名前:時を『食う』 投稿日:2001年11月07日(水)01時52分06秒
- ―――ムニュ―、ブチッ、モグモグ……。
(これは、ベーグルを噛み切る音…。よっすぃしかいないわ。
まだ食べてたんだ…ベーグル。
そういえば、ゆで卵も毎日のように食べてるわね。
好きなものを好きなだけ食べるのは、精神衛生上はいいかもしれないけど、
チョット偏りすぎかな。
前まで、太った太ったってゆってたし。
……そーいえば、なんで今は痩せてるの!?
食生活は何も変わってないし、お仕事の忙しさも以前と同じ…。
そりゃあ、よっすぃは今回センターで、人一倍踊ってるけど…。
ン? センター? センター……、男役……、男……。
まさか……! よっすぃ、本当に男になりつつあるんじゃ……。
それで、カロリー消費とかも違ってきて……、それで、痩せ……!
……な、ワケないか)
- 103 名前:時を『食う』 投稿日:2001年11月07日(水)01時53分45秒
- ―――ズズー……。
(お茶をすする音…。この方角は保田さんね。
保田さんって、楽屋とかでお菓子食べたりしないわね。
仕事が終わるとホルモンと餃子なのに……。
メリハリをつけてるってことかな。
さすが大人。
ホルモン好きも、雑誌やラジオで公言してるっていうし、怖いものなしね。
自分の好きなものを、しっかりけじめをつけて、なんにも気にすることなく
食べる。
これが、人として理想の『食』ね。
うん、カンペキ)
- 104 名前:時を『食う』 投稿日:2001年11月07日(水)01時55分03秒
- ―――ガリッ、グチャッ、ズズズー……。
(…なに、この音……。……ごっちん!?
固体と液体とゼリー状のものを一度に食べてる……!
まさか…、そんな食べ方が……。
もしかしてごっちん、『味』の新境地を開拓したとでも言うの!?
この取り合わせ……! このセンス…! このセンス!!
……あなた、いい『食人』になれるわよ……)
- 105 名前:時を『食う』 投稿日:2001年11月07日(水)01時56分12秒
- ―――ぎゅにょ〜ん、ぶにゅごにゅ、ぶひょろろろ〜ん
(な、に…こ…レ……。 飯田さんの方から聞こえる……。
飯田さん……なに食べてるの?)
- 106 名前:時を『食う』 投稿日:2001年11月07日(水)02時02分38秒
- (ふぅ…、でも、みんな食べることを楽しんでるみたいでよかっ……)
―――ガリッ! ゴリッ! グジグジ…!
(!! な、なに!? この音……! つ、辻ちゃんなの!?
この音は、食べることを楽しんでる音じゃない!
これは……憎しみ!? でも、どうして……。
辻ちゃん、今日はどんなお菓子持ってきてたかしら……。
たしか…、魚の形のグミに、豚さんクッキー……。
魚……ごっちん…? "元"豚さん……安倍さん……。
!! そ、そういえば、さっきのハロモニの収録で、2人は辻ちゃんに
けっこうヒドイことを……。
まさか、お菓子を2人に見立てて仕返しを!?
お菓子を噛み切ることで2人を切り刻み、ソシャクすることで2人の
存在をすり潰し、飲み込むことで2人を取り込み、体に吸収することで
2人を支配する……。
今までそうやって"復讐"することで、心のバランスをとってきたんだわ……。
だから、あんなに太って……。
- 107 名前:時を『食う』 投稿日:2001年11月07日(水)02時04分03秒
- ……でも、そんなことしたって何も変わらない…!
むしろ、心も体も醜くなっていくだけ…!
食欲ではなく、憎しみで食べるなんて……。
そんなの…そんなの、『食』じゃない!!
だめよ! 辻ちゃん!! 気付いて!! 私の声に気付いて!! 辻ちゃん――)
―――コンコン、ガチャ。
「石川さん、次お願いします」
「……あ、は〜い」
――おそまつさまでした――
- 108 名前:いのちの味 投稿日:2001年11月07日(水)02時20分31秒
――― ―――
「‥‥後藤‥‥やっぱ行くのやめる?」
道にへたり込んで、ポロポロと大粒の涙を流す真希を前に、紗耶香は途方にくれたように立ちつくした。
真希は激しく首を横に振ることで、自分の意志を表現する。
「‥‥だってなぁ‥‥」
紗耶香は困ったように眉間にしわを寄せ、髪の毛をかきあげる。
真希はTシャツの袖で涙と鼻水を乱暴に拭ると、おもむろに立ち上がった。
そのまま、ずんずんと遥か先の人だかりに向かって歩き始めた。
紗耶香は次第に遠くなる、強張った真希の背中を見つめて、ため息をついた。
いじっぱりが、小さな声でそう呟くと、紗耶香は早足で真希の後を追った。
- 109 名前:いのちの味 投稿日:2001年11月07日(水)02時21分09秒
――― ―――
一年に一回の村祭り。
村の繁栄と幸福を祈って毎年盛大に催され、それに伴ない、村人が丹精こめて育てた自慢の若鶏たちの品評会が開かれる。
その品評会で1等に選ばれた若鶏は、栄えある祭りの主役になるのだ。
主役に選ばれた若鶏は、見物人の目の前でさばかれ、大きな釜の中で煮られ、鶏汁としてその日のメインディッシュとして、皆にふるまわれる。
(もちろん主役だけで、祭りの参加者全員の胃袋を満たしてくれるわけもなく、鶏汁には他の鶏の肉も混入される事になる)
昔はこれが祭りのメインイベントだったらしいが、飽食の時代のいまどきの現代っ子は、それよりも屋台のゲームやお化け屋敷に夢中だった。
――去年までは。
- 110 名前:いのちの味 投稿日:2001年11月07日(水)02時21分43秒
今年は違う。
去年の夏から養鶏に手を出し始めた父親に協力して、たびたび真希も鶏小屋に足を運び、鶏に餌をやったり、糞を片付けたりしていた。
自分の所の鶏には愛着があるのだ。
鶏は2年から3年が食べごろだ。
それを過ぎると卵を産まなくなるし、何より肉自体もパサついて美味しくない。
まして、養鶏場を営む真希の家の鶏達も、いずれは人間に食べられるという運命を背負っている。
そういうことは知識として持っていた。
それにしても、何も今日じゃなくてもいいじゃないか。
せっかくのお祭りなのに。
真希は品評会に出品した父親を、苦々しく見つめた。
『1等、後藤養鶏所』
という、アナウンスが流れた瞬間、真希は去年までの楽しかったはずの祭りの思い出も、急速に色あせていくように思えた。
沈む真希とは対照的に、真希の父親は、自分の養鶏場の鶏が祭りで1等をとるほどのレベルまで達したのかと、満面の笑みを浮かべていた。
- 111 名前:いのちの味 投稿日:2001年11月07日(水)02時22分45秒
――― ―――
真希が人垣をかき分けながら進むと、目も前の広場ではすでに本日の主役――後藤養鶏場の鶏の解体作業が今にも始まろうとしていた。
鶏は約一時間ほど、木にぶら下げられる。
それから首を切り、血を抜いた後、熱湯につけられ、羽を全てむしられる。
それから解体が始まった。
真希の鶏の胸に包丁が入った。
血を抜いたとはいえ、やはり鮮血が流れる。
真希は凍りついた表情のまま、じっと自分の鶏を切り裂く包丁の動きを見ていた。
と、包丁を動かす手が止まり、解体作業をしていたおじさんが鶏の開かれた胸に手を入れる。
ゆっくりとした動きで、おじさんの太く無骨な指が、赤く丸い小さなカタマリを取り出した。
おじさんは、ただ黙って真希にそのカタマリを差し出す。
真希も無言でその血がこびりついたカタマリを受け取った。
- 112 名前:いのちの味 投稿日:2001年11月07日(水)02時23分17秒
真希が着ていたシャツで血を拭うと、それは、はっきりと姿を現わした。
まだ産み落とされていない卵だった。
鶏が大事に胸の筋肉で保護してあったものだ。
卵は温かく、そして小さかった。
「‥‥多分‥‥明日産むはずだった卵だよ」
紗耶香は真希の手のひらの小さな卵を覗きこんだ。
「うん‥‥」
「どうするの?」
「ウチで孵卵器に入れる」
真希がきっぱりと答える。
「‥‥孵るかな?」
紗耶香は首を傾げた。
「孵るよ!」
「そうだね‥‥」
紗耶香はそう言って、安心させるかのように、優しく真希の頭を軽くポンポンと叩いた。
- 113 名前:いのちの味 投稿日:2001年11月07日(水)02時24分02秒
――― ―――
真希と紗耶香は祭りの事務局の人から鶏汁を受け取ると、人ごみから離れた小高い土手に並んで座った。
そこからは祭り会場全体が一望できる。
見ているだけで、祭りに参加している人の熱気が伝わってくるようだった。
「‥‥美味しい‥ね」
紗耶香は気を使っているのか、時折チラチラと真希を見ながら、それでも美味しそうに鶏汁をほおばっている。
「‥‥うん」
真希は渋々頷いた。
- 114 名前:いのちの味 投稿日:2001年11月07日(水)02時24分51秒
鶏の肉は悔しいぐらい美味しかった。
とても悲しかったけど、すごく美味しかった。
新鮮で、油がのっていた。
これがいのちの味なんだって思った。
スーパーで切り売りされている鶏肉と同じだけど、少し違う。
いのちの味がした。
鶏汁を食べていると、餌をあげたら嬉しそうに鳴きながら寄ってきた様子とか、産んだ卵を取った時、怒って鶏に追っかけられたこととか、頭の中で鶏との思い出が蘇ってきて、また泣けてきた。
でも食べなきゃいけない。
残さず食べなきゃいけない。
これは義務だ。
いのちをもらうアタシの義務だ。
紗耶香は自分の隣で嗚咽を漏らしながら、それでも一生懸命鶏肉を口に運ぶ真希の姿を黙って見つめた。
自分自身の相反する感情と格闘しながら、何とか鶏汁を食べ終わった真希は、ようやく落ち着きを取り戻してきた。
- 115 名前:いのちの味 投稿日:2001年11月07日(水)02時25分37秒
「‥‥後藤?」
紗耶香は遠慮がちに真希に話しかけた。
「ん?」
「何つーか‥‥。んー‥‥。何でもない」
「‥‥変な、市井ちゃん」
「‥‥いや‥‥変な言い方だけど。あの後藤の鶏はいい鶏だったなぁと思ってさ」
「うん」
「その‥‥美味しかったし‥‥さ‥‥」
「何それ‥‥美味しいだけ?」
「何だよ。‥鶏にとって、それ以上の誉め言葉はないぞ!」
「‥‥いい子だったんだよ‥‥」
真希はまた涙がこみあげてくるのを感じた。
- 116 名前:いのちの味 投稿日:2001年11月07日(水)02時26分11秒
「‥‥あぁぁ‥‥後藤泣くなよ‥‥」
紗耶香は困ったように頭をかいた。
真希はグスグスと鼻をならしている。
「‥‥ウチらは他の命を食べて生きてるからさ。‥‥仕方ないんだよ。‥‥初めて鶏殺すの見たときは‥そりゃぁ‥‥ショックだったけどさ。‥‥孵ったらいいな」
紗耶香はそう言うと、真希が大事そうに抱えている卵を覗きこんだ。
真希は鶏汁を食べている間も、卵を大事そうに膝の間で挟み込んでいた。
「‥‥うん」
真希は潤んだ瞳で、小さく笑った。
「‥‥この卵が孵って‥‥その子が大きくなったら、また食べて。‥‥一生のうちに何世代の鶏を食べるんだろうね」
紗耶香が感慨深げに呟いた。
「‥‥さぁ」
真希は首を傾げた。
計算は苦手だけど、とてつもなく大きな数になることだけは想像がつく。
何だよ、その気の抜けたような返事は、と紗耶香が笑い出し、つられたように真希も笑った。
- 117 名前:いのちの味 投稿日:2001年11月07日(水)02時26分48秒
――― ―――
夜、祭りからの帰り道、俯いて卵を見つめ、大事そうに卵を両手で抱きしめて歩く真希を横目で見ながら、紗耶香がおもむろに言った。
「‥‥あたし‥‥後藤になら、食べられてもいいよ」
「んぁ!?」
真希は俯いていた顔を上げ、驚いたように紗耶香を見た。
「‥‥なんてね」
真希と目が合った紗耶香は、瞳をきらめかせて艶っぽく笑った。
紗耶香の笑顔に、真希の顔が赤くなった。
‥‥何なのさ。
何なのさ。何なのさっ。
意味不明なことを言い出すし。
‥‥とりあえず無心、無心。
今は‥‥この卵に集中しなきゃ。
真希は赤くなった顔を隠すように俯き、卵を睨むように見つめ、早足で歩き始めた。
その後ろから、紗耶香が笑いをこらえながらついていく。
夜空には大きな満月が輝いていた。
- 118 名前:いのちの味 投稿日:2001年11月07日(水)02時27分45秒
おしまい
- 119 名前:紺野ちゃんの全快祝い 投稿日:2001年11月07日(水)03時14分49秒
- あの、モーニング娘。の紺野あさ美、14歳です。……みんなから暗い、暗いって言われます。
でも……しっとり系、目指してます。……特技はマラソンです……。
今日は……私の足のケガが治ったってことで……都内某所の焼き肉屋さんに来てます。
……みんなでお祝いしてくれるそうです。……嬉しいです。
ちなみに「こういう時はお店の名前を明かさないで『某所』って言うんだよ」って……
安倍さんが教えてくれました。
こういう時って、どういう時か……よくわからなかったけど、使ってみました……。
私は、お誕生日席に座らされました。……同じテーブルには、右側に同期の3人。
左側には、辻さんと、加護さんと、矢口さんが座っています……。
他の皆さんは、別のテーブルです……。愛ちゃんの話だと
「年上の先輩が一緒だと、あたしたちが緊張するだろうって」
ということで、この席順に決まったそうです。
……矢口さんは、辻さんと加護さんの、お守りだそうです。……よくわかりません
- 120 名前:紺野ちゃんの全快祝い 投稿日:2001年11月07日(水)03時16分31秒
- 飯田さんと安倍さんが、ビール頼んでました。……アイドルがお酒飲んでもいいのかな
って思って、矢口さんに聞いたら「あの2人はハタチ過ぎてるからいいのよ」とのことでした。
プッチモニ。の皆さんは、仕事で遅れて来るそうで、保田さんも飲むんですかって聞いたら
「圭ちゃんはね〜、すごいよ!焼酎ガバガバ呑むのよ。キャハハハハ」
って笑ってました。ちなみに、焼酎は、蕎麦よりだんぜん芋だそうです。
……私もお芋さん、大好きです……。
- 121 名前:紺野ちゃんの全快祝い 投稿日:2001年11月07日(水)03時17分31秒
- 飯田さんと安倍さんが、ビール頼んでました。……アイドルがお酒飲んでもいいのかな
って思って、矢口さんに聞いたら「あの2人はハタチ過ぎてるからいいのよ」とのことでした。
プッチモニ。の皆さんは、仕事で遅れて来るそうで、保田さんも飲むんですかって聞いたら
「圭ちゃんはね〜、すごいよ!焼酎ガバガバ呑むのよ。キャハハハハ」
って笑ってました。ちなみに、焼酎は、蕎麦よりだんぜん芋だそうです。
……私もお芋さん、大好きです……。
- 122 名前:紺野ちゃんの全快祝い 投稿日:2001年11月07日(水)03時18分24秒
- 「はーい! みんなぁ、ちゅーもーっく!」
飯田さんです。リーダーです。……怒るとこわいけど、いつもは優しいです。
みんな、説教が長いって言います。……私が「そんなことないよ」って言うと、麻琴ちゃんに
「あさ美ちゃんは、時間がゆっくり流れてるからね」
って言われました。……でもダンスは一生懸命、急いでます……。
「……の……んの、紺野!」
「は、はい……」
考えごととしている間に、飯田さんに呼ばれたみたいです……。
「ほら、立って! みんなに挨拶!」
「……はい」
急いで立ち上がりました。……みんなはゆっくりだと思うかも知れませんけど。
「はい! じゃあね、ケガが完治した紺野からみんなにご挨拶です。紺野さん、どうぞ!」
「……はい。……あの、今日抜糸しました。皆さんには、ご迷惑かけてすみません……でした。
遅れた分……取り返すよう、頑張ります……ので、よろしくお願いします……それと」
「はい! おめでとう。よかったね。みんな、拍手ゥ!!」
あの、飯田さん……まだ挨拶、終わってないんですけど……。
「じゃね、紺野のお祝いと、みんなの健康を祈って、か〜んぱぁい……ベイベッ!」
……乾杯、です。
- 123 名前:紺野ちゃんの全快祝い 投稿日:2001年11月07日(水)03時19分36秒
- 「とりあえず、塩タンからね。もう、加護! タレもの先に乗せるなって!」
矢口さんが仕切ってます。……焼き肉、大好きだそうなので、お任せです。
「塩タンって、なんですか?」
里沙ちゃんが聞きました。……なんだか楽しそうです。
「里沙ちゃん、ミニモニ。に入れて貰おうって思って張り切ってるね」
私の耳元で、真琴ちゃんが囁きました。……芸能界って怖い。
「ん? 塩タンっていうのはね、牛の舌のことだよ。ほら、この前のモーたいで出てたでしょ。
写真のコーナーで、男の人がくわえてたヤツ」
……ちょっと思い出しました。……気持ち悪いです。食べたくなくなりました。
みんなは平気みたいです。どんどん、取ってちゃってます。
「紺野、早くしないとなくなっちゃうよ」
こんな時に限って矢口さん、優しいです。……いや、いつも優しいですけど。
「はい、あさ美ちゃん」
真琴ちゃんが、塩タンを一枚、私のお皿に取ってくれました。
「……ありがとう」
ちょっと困ったような顔をして、答えてみました。……でも、誰も気づいてくれません。
よく、友達から「いつも困ったような顔してるね」って言われます。
だから……本当に困った時に……気づいてもらえません。
- 124 名前:紺野ちゃんの全快祝い 投稿日:2001年11月07日(水)03時20分06秒
- みんな、よく食べます。すぐになくなっちゃいました。
辻さんが私のお皿をジッと見てます。……塩タンを狙ってるようです。
「……食べます?」
そっとお皿を差し出しました。辻さん、すごい早さで、首を横に振りました。
「いいよぉ。紺野ちゃん、食べて」
「私、いいですから。……食べて下さい」
「そう? じゃあ、いっただっきま〜す」
辻さんは、ちょっと矢口さんの方を気にしながら、塩タンを口に運びました。
……なんだか嬉しそう。……よかったです。
「はい、じゃあドンドン焼いていこう。カルビね、これロース。辻! それまだ焼けてないって!」
網の上が、お肉でいっぱいになりました。……美味しそう。
辻さんや加護さんは、矢口さんがお肉を置くとすぐに取っちゃいます。……まだ生です。
生はダメですよ。頭スポンジになるから。異常プリオンはよく焼かないと。……狂牛病、怖いです。
……私、なにか間違ってます?
- 125 名前:紺野ちゃんの全快祝い 投稿日:2001年11月07日(水)03時22分51秒
- 「こらぁ、なんでアンタたちばっか食べてんの? 今日は紺野ちゃんが主役なんだから
ちょっとは遠慮しろよ! みんなも食べてる? 遠慮してると辻、加護に全部食べられちゃうからね」
「はい!」
里沙ちゃんが元気よく答えました。……けっこう要領いいみたいです。
お皿にお肉、たくさん乗ってます……。
私……まだ、お肉食べてません。……よく焼かないと、怖いですし。
「はい、これ。よく焼けてるよ」
辻さんが、私のお皿に取ってくれました。……でもこれ、お肉じゃなくてピーマンです
- 126 名前:紺野ちゃんの全快祝い 投稿日:2001年11月07日(水)03時23分45秒
- 「遅れてゴメ〜ン」
プッチモニ。の皆さんが来ました。飲み物を持って、私のところに集まってくれます。
「紺野、おめでとう! か〜んぱいベイベッ!」
後藤さんと吉澤さんは烏龍茶です。保田さんは……あれ? 焼酎じゃなくてビール持ってます。
「えっ、なんでアタシが焼酎呑まなきゃいけないの?」
保田さん、ちょっと顔が怖いです……。
「乾杯はビールなんだよね、取りあえずってヤツ。2杯目からは圭ちゃん焼酎だもんね。
こうやって一升瓶抱えてさ。キャハハ」
「矢口ィ! またウソばっか教えて!!」
矢口さん……あれ、ウソ……だったんですか? なんのために……。
でも2人とも楽しそうです。後藤さんと吉澤さんも笑ってます。……よくわかりません。
- 127 名前:紺野ちゃんの全快祝い 投稿日:2001年11月07日(水)03時24分19秒
- 楽しい時間はあっという間に過ぎていきます。もう、解散の時間になりました。
「は〜い! じゃあみんな集まって!」
飯田さんが呼んでます。私も急いで行きます……。
「いい? 今日からようやく13人体勢になりました」
みんなで、円陣を組んで手を重ねています。ちょっと待って。私、まだその輪に入ってません。
「頑張って〜いきまっ」
「ショイ!!!」
……間に合わなかった。
- 128 名前:紺野ちゃんの全快祝い 投稿日:2001年11月07日(水)03時25分05秒
- あんまりお肉、食べられませんでした。でも……楽しかったです。
私のために、皆さんで集まってくれたこと……嬉しかったです。
なんだか、やっと娘。の一員になれた気がします。……一生の思い出です。
明日から頑張れそうです。……努力して、遅れた分……取り返します。
「紺野、3500円」
えっ? なんですか、飯田さん……。
「聞いてなかったの? 新メンは1人3500円でいいから。みんな払ったよ。あと紺野だけ」
……私、お金払うんですか? 今日は私のお祝いじゃ……。
それに、あんまりお肉、食べてないのに……。
「どうしたの? お金ないの?」
「いえ、あります……」
「はい、確かに頂きました。明日も早いから、遅れないようにね。……ちょっと!
待ってよ矢口、圭ちゃん。圭織もカラオケ行く!」
飯田さん、走って行っちゃいました。……気が付くと、周りに誰もいません。
ひとりっきりです。帰り道が……わかりません。
私……どうすればいいんでしょう?
- 129 名前:紺野ちゃんの全快祝い 投稿日:2001年11月07日(水)03時26分13秒
- こんなんで、終わっていいんでしょうか? でも……終わり……ます。
――完――
- 130 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時36分21秒
- 「もう梨華ちゃんなんて知らない!」
「なによ! よっすぃーなんて、だいっ嫌い!」
目を丸くするメンバー達をそのままにして楽屋を飛び出した。
今日の収録はもう終わり。
着替えも済ませて後は帰るだけ。
そんなわたしの私服姿を、よっすぃーにからかわれた。
なんだかとてもショックだった。
いじわるなその顔がとても嫌な子に見えた。
最近忙しくてイライラしていたからかもしれない。
売り言葉に買い言葉。
最後は感情を爆発させてしまった。
- 131 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時36分58秒
- 自分の部屋に帰っても気持ちは治まらなかった。
なによ、昔のよっすぃーはもっと優しかったじゃない。
同期でモーニング娘。に入って、同じくらいの年で……。
一番仲のいい友達だと思っていたのに。
考えてみたらケンカしたのも初めてだった。
年下なのにしっかり者の彼女は、
わたしがどんなことを言ってもいつも優しく笑っていた。
なのに……。
- 132 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時37分32秒
- せっかく早く帰れたのにブルーな気分。
はあ、つまんないな。
ふと、本棚にあるお菓子のレシピが目に入った。
──クッキーでも焼こうかな。
料理は得意なほうではないけど、お菓子作りは好きだ。
楽屋にも何度か持っていったことがある。
……評判は良くなかったけど。
- 133 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時38分11秒
- レシピをぱらぱらとめくる。
かぼちゃのクッキーか……。
そういえば、この間パンプキンパイ作ったときのかぼちゃが残ってるはず。
甘さ控えめ、ヘルシーなクッキー。
うん、これにしよう。
冷凍庫の中から、煮込んで凍らせておいたかぼちゃを取り出す。
レンジでチンすればOKだよね。
あとの材料は、っと。
- 134 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時39分03秒
- 戸棚の中をあさる。
この間パイを作ったときに買った材料の残りがまだあった。
えっと、ショートニングとグラニュー糖と薄力粉。
ベーキングパウダーと……あ、隠し味にお塩も入れるんだ。
冷蔵庫の中に卵とバターもあったし。
よし、どうにか材料はそろった。
さて、作ろうかな。
- 135 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時39分50秒
- ボウルにバターとショートニングをいれてよく練る。
ヘラでこねているとだんだんクリーム状になってきた。
うん、これくらいでいいかな。
泡だて器に持ち替えて、少しづつグラニュー糖を加える。
そっか、かぼちゃがあるから砂糖少なくっていいんだ。
隠し味のお塩で甘味を引き立たせて……。
だから、ヘルシーなのね。
白っぽくなってきたら卵を入れる。
ただし、いっぺんに入れちゃだめ。
分離しないように何回かに分けてよーく混ぜる。
- 136 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時42分23秒
- だんだん腕が疲れてきた。
やっぱり、電動の泡だて器買おうかな。
でも、あんまり使うこと無いかも……。
食べてくれる人がいればがんばって作るんだけど……。
よっすぃークッキー好きかなぁ。
はっ! だめだめ。あんなひどい人には、食べさせてあげないんだから。
よし、いい感じになってきた。
次は薄力粉とベーキングパウダー。
ヘラでさっくりと混ぜ合わせる。
- 137 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時43分12秒
- えーと、かぼちゃを裏ごししないと。
よいしょ、これって力いるんだよね。
そっか、この間パンプキンパイ作ったときは、よっすぃーが……。
はあ、またそこに戻っちゃうんだ。
よっすぃー、なんであんなこと言ったんだろ。
力をこめて裏ごししながら考えた。
ボイトレでしかられて、落ち込んでたわたしを励ましてくれた。
カントリー娘。に行くことになって、不安になってるわたしを元気付けてくれた。
センターになって、どきどきしているわたしをリラックスさせてくれた。
あの優しい笑顔はどこにいっちゃったの。
- 138 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時45分13秒
- 裏ごししたかぼちゃと隠し味のお塩。
まんべんなく行き渡るように混ぜ合わせる。
よっすぃー、わたしのこと嫌いになったのかな。
加入したときからもう1年半になる。
人の心もだんだん変わっていく。
それは仕方の無いことかもしれない。
なんだか、心が沈んでいく。
最近使うことの無くなったネガティブって言葉がよみがえってきた。
- 139 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時46分02秒
- 出来上がった生地を、鉄板の上にスプーンを使って丸く並べる。
熱したオーブンに入れて焼きあがるのを待つ。
赤く光るオーブンを見ながらまた物思いにふける。
明日どんな顔して会えばいいんだろ。
なんて挨拶すればいいんだろ。
なにを……話せばいいんだろ。
それとも、わたしとはもう口を利いてくれないのかな。
鼻の奥がつんとした。
くすんと音を鳴らして悲しさを飲み込む。
情けない顔を映すオーブンは、チンと音を立ててクッキーを焼きあげた。
- 140 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時46分43秒
- ほかほかと湯気をあげるクッキーをお皿に盛り付ける。
しっとりとした感じに出来上がったクッキーはきれいな焼き色をしていた。
いいにおい……。
その香りに少しだけ気分が晴れる。
アツアツのクッキーをひと口かじる。
ほくほくした歯ざわりに顔がほころんだ。
!? な、なにこれ。
……しょっぱい。
かぼちゃの甘味が足りなかったのかしら……。
それとも、あの隠し味のお塩……。
そっか、ぼーっとしてお塩入れすぎたんだ……。
もう……最悪……。
- 141 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時47分31秒
- がっくりと落ち込んだ目に、テーブルの上の携帯が入った。
電話…してみようかな……。
でも、何を話そう……。
うじうじとストラップをいじってると携帯が鳴った。
ディスプレイに表示される『よっすぃー』の文字。
少し躊躇してから耳に当てる。
- 142 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時48分32秒
- 「もしもし……」
『あの…あたし……』
「なに……」
『あのさ、ごめんね。今日なんか言い過ぎちゃって』
「…………」
『あの…なんていうか……。
何でだかよくわかんないけど、ちょっといじめたくなっちゃったんだ。
それで…なんかどんどんエスカレートしちゃって……。
止めなくっちゃって思うんだけど、止められなくって……。
その……梨華ちゃんのこと嫌いなわけじゃなくって……。
いや、むしろ好きだからいじめたって言うか……。
あーもう、なに言ってんだ、あたしは!』
- 143 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時49分07秒
- いつもしっかりしているよっすぃーが、しどろもどろになってる。
なんだかとても可愛らしく感じた。
ちょと不思議な感じだ。
ほんの少しいつもと違うだけでこんなに新鮮に感じるんだね。
……あ、そうか。
このクッキーと同じなんだ。
──隠し味。
違う味をほんの少し入れることでその味を引き立たせる。
- 144 名前:おいしいクッキー 投稿日:2001年11月07日(水)10時51分09秒
- 『梨華ちゃん。まだ怒ってる?』
「ううん、怒ってなんか無いよ」
そう、怒るようなことじゃなかったんだ。
ちょと隠し味を入れすぎただけ。
お塩の分量を間違えただけ。
『よかった』
ほっとした声が携帯の向こうから聞こえる。
その優しい笑顔が目に浮かんできた。
そうだね。
人間関係にも隠し味は必要なのかもね。
少しくらいのいじわるも時にはいいのかもしれない。
いつものあなたの優しさを引き立たせるためには……。
いつものようにはずんだ会話をかわしながら、わたしは思った。
もう一度クッキー焼こうかな。
こんどは分量間違えないように。
──END──
- 145 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時31分43秒
- 「つんく先生、最近の曲、評判よくないですね。」
まことは、胸の鼓動が傍らのひとみに聞こえないかとドキドキしながら、
世間話しのように何気ない風を装いながら質した。
「ああ、やっぱり才能はチャージしないと枯渇するんだよ。」
ひとみは、芸術に対する感受性と反比例するように人情の機微に疎い。
まことの心配は杞憂といってよかった。
「モーツァルトといい、ショパンといい本当の意味で天才と言える人たちは皆、
早逝している。僕には、キラ星のごとき彼らの作品と言うのはやはり、
命を擦り減らして得られたもののように思えてならないんだ。」
芸術談義を始めるひとみを見上げて、まことはひとまず安心した。
女性のくせに「僕」と自らを呼ぶ習慣がいつからのものなのか、
先輩たちに聞いても明らかでなかったが、少なくともまことが入学した当時は
既にそうなっていた。
- 146 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時32分31秒
- (やっぱり、つんく先生とは何にもないのかなぁ...)
背の高いひとみの横を並んで歩くだけでまことの心臓はそれこそ破裂しそうなくらいに、
脈打っているのだが、言葉を交わせるなんてそれこそ夢のようだった。
まことからは見上げる形になるその整った顔だちは、オーケストラ部女子学生の憧れだった。
新入部員のパート割で、ひとみがリーダーを勤める第一バイオリンへの配属が決まったとき、
同期から受けたやっかみは相当なものだった。
そのひとみが作曲科のつんく教授と恋仲であるとの噂がある。
「思うにつんく先生は働き過ぎだね。」
まことの心配をよそにひとみの饒舌は留まるところを知らない。
「だいたい、僕はあのモーニングとかなんとかいう素人なんかに先生が曲を書くのは
反対だったんだ。」
- 147 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時33分06秒
- つんく教授は国立大学のたいていの教授がそうであるように薄給を補う手だてとして
アルバイトを行っていた。
それが、アマチュア合唱団からの依頼を受けてつくる作曲である。
たまたまつんく教授のつくった曲で委嘱元の合唱団がコンクールを勝ちぬき金賞を獲得したため、
つんくの名前はその珍しい名字のせいもあり、一気に有名になった。
翌年に作曲した「ふるさと」は近年希に見る傑作として評価され、
教授は日本の合唱界で欠かせない作曲かしての地位を確立した。
今ではプロアマ含めて作品の委嘱が引きもきらない状態が続いているのだ。
ひとみは、つんくが余技で稼ぐことに不満である。
「だいたいが、アマチュア向けは曲の難易度を落とさなきゃならないし、
とにかく作曲技法上の制約が大きい。
せっかく長年暖めてきた構想をそんな形で世にださなきゃいけないなんて理不尽じゃないか。
モーツァルトみたいに楽想の泉つきない天才型というよりは、先生はベートーヴェンのような
努力家だと僕は思う。
薄給に耐えて作曲道に精進する求道者のイメージこそ先生にふさわしいじゃないか。」
- 148 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時33分57秒
- 水を得た魚のように滔々と論じるひとみに、まことは気付いた。
(この人は、先生のことを尊敬しているだけなんじゃ...)
つんくの才能がいたずらに浪費されることに対する悲憤の表現が、
いつのまにか「つきあっている」というような話しになってしまったのではないか...
そう思うと安心したものか、まことはつい口を挟んだ。
「でも、最近の研究ではベートーヴェンは意外に高収入だったことが判明しているそうですよ。」
勢いを削がれたひとみは驚いた表情でまことを見つめている。
(しまった...)
まことはひとみが機関銃のように舌鋒鋭く反論してくることを予想し身構えたが、
次の瞬間、ひとみが発した言葉はおよそ非難の口調とはかけ離れたものだった。
「へぇ、驚いたな。小川は勉強家なんだなぁ。」
大きな目をいっぱいに広げて、ひとみは本当に心底驚いたといった風情で、感心している。
(よかった...嫌われなくて...)
- 149 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時34分52秒
- ほっとした拍子に緊張のたがが緩んだものか、今度はまことが堰を切ったようにしゃべり出す。
「いや、勉強家というわけじゃないんですが、一応、ピアノ専攻なので...
ベートーヴェンは当時の作曲家としては異例なことにひとりの貴族のお抱えというかたちをとらず、
複数のパトロンと契約していたことで、収入の方はかなりあったようなんです。」
ひとみが、感心して先を促すのでまことは段々得意になってさらに続けた。
「貧乏なイメージが強いのは、収入の多さに比例して支出も多かったからなんです。
それと当時、帝政オーストリアのインフレがひどかったこともあげられますね。
おまけに生活が華美だっただけでなく、闘争的な性格が災いしてか、
裁判沙汰を巻き起こすことが多く、そのための費用もばかにならなかったようです。」
「甥のカールの親権を巡る裁判は有名だけど、他にもあったの?」
その件については初耳なのか、ひとみもすっかり引き込まれている。
- 150 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時37分17秒
- 「ええ、これはかなり変わってるんですけど、ベートーヴェン家が貴族の出身であるという
証明を裁判で訴えていますね。」
「Ludwig van Beethoven、間の”van”が貴族の証だと言いたかったわけだね。」
「ええ、ドイツでいう"von"に相当するとの主張らしいんですが、”van”にはそんな意味はありません。
ベートーヴェン家はもともと北部フランドル地方の出自で、有名なルートヴィッヒの祖父の代に
ケルン選帝侯国に下ってきたということになっています。」
「で、裁判はどうなったの?」
「結局負けました。」
「そう。裁判費用は無駄になっちゃったんだね。」
「そういうことになりますね。」
「ふ〜ん。でも、なんでベートーヴェンはそんなに貴族の身分にこだわったのかな。」
- 151 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時38分10秒
- そこが謎だと、まことも思っている。
納得できる理由を示した文献はまだ見つかっていない。
市民革命に共鳴し、ナポレオンに捧げようとした交響曲のタイトルを一旦は、
「ボナパルト交響曲」とまで命名したベートーヴェン。
彼の戴冠に激怒して表紙を破り捨て、「ある英雄の思い出」と変えてしまったという、
民主主義の理想家のイメージはそこにない。
「謎なんですよねぇ。」
「謎の多い作曲家ではあるね。不滅の恋人もそうだけどさ。」
近年の研究成果で、ヨゼフィーネ・フォン・ブルンズヴィックであろうと推定されている、
例の書簡の恋人だ。
94年に公開された映画では弟の嫁という設定になっていた。
いずれにしても大作曲家がその心情を託して曲を捧げた相手というのは気になるのだろう。
音楽史でもしばしば取り上げられる話題である。
- 152 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時39分27秒
- 「謎と言えば、例の絵は悩ましいね。」
「はい、絵自体よりもむしろ書かれている楽譜らしきものの方に注目が集まってますね。」
例の絵とは最近になって、オランダのマウリッツハイス美術館の倉庫で発見されたものだ。
ベートーヴェンがこともあろうかにんにくを掴んで凝視しているという突拍子もない構図で、
話題になった。
構図もさることながら、人々の好奇心を掻き立てたのが、背景に記されている楽譜だ。
これが本当にベートーヴェン本人をモデルに描かれたものならば、そこに記されている
楽譜も実在する可能性が高い。
つまり、未発表の曲が存在するかもしれないということになる。
制作年代については綿密な調査が行われたが、炭素14法による科学鑑定で1820年前後の
ものであることが明らかになり、
ベートーヴェンの生前に書かれたものである可能性は極めて高いとされた。
- 153 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時40分04秒
「あれの複製、先生取り寄せたらしいよ。」
「えっ?さすが小金もちですね...成金ぽいっていうか...」
「これから見にいってみようよ。なんだか、見たくなってきた。」
「これから...ですかぁ...」
先輩の瞳が好奇心でキラキラ輝いているのを目の当たりにして、まことはあきらめた。
(今日のハム太郎は見逃さなきゃならないなぁ...)
- 154 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時40分46秒
- つんく研究室では同じ器楽科でピアノ専攻の先輩である石川となぜか美術学部の保田がチェスに嵩じていた
「石川、そのポーン待ったっ!」
「だめですよぅ、保田さん。もう4回目じゃないですかぁ。仏の顔も三度までって言うでしょ。
りかの顔も三度までですぅ。うふふっ。」
「石川ぁっ!その『うふふっ』てのはなによ!ちょっと、待ちなさいよ、そのポーン!」
「嫌ですぅっ。べぇだ。」
「いぃしぃかぁわぁぁっ...三度どころか三途の川も渡れんようにしたろかぁぁっ...」
「もう、保田さん、だめですよ。恐いのは顔だけにしてください。」
保田が石川に掴みかからんばかりの勢いで立ちあがろうとしたところで、
ようやく二人に気付いた。ひとみが先に声を掛ける。
- 155 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時41分54秒
- 「いやぁ、圭ちゃん、相変わらず弱いねぇ。」
「ふん。言っとくけどあんたに負けた覚えはないわよ。」
「そりゃそうさ。危なくなるとすぐ千日手に逃げこむんだもん。」
「あんたにだけは負けるわけにいかないのよ。」
口調の割に保田は冷静だ。
こうやって掛け合うのが好きらしい。
口は悪いが、まことは保田が嫌いではない。
ひとみと中学の頃からの同級生だったという保田はこうして暇があるとつんく研究室に顔を出し、
ぶらぶらしている石川などとチェスを打って、時間をつぶしている。
「圭ちゃん、それはそうと例のベートーヴェンの絵、もう見たぁ?」
保田は首をはすに傾げて、何のことだと言いたげに大きな瞳を瞬いた。
「えっ、なんの話ですかぁ?」
石川も興味があるのだろう。話に乗ってきた。
- 156 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時42分58秒
- 「ほら、マウリッツハイスで見つかった例のやつ。」
「ああ、あれね。」
保田もようやく得心したらしい。
「いやさ、この小川がなかなかベートーヴェンに詳しくってね。
彼女を交えて皆で見れば、おもしろいことがわかるかなと。」
石川はそこでようやくまことに気付いたという振りをしてみるが、
まことにはわかっている。
ひとみと一緒に来たことが気に要らないのだ。
なにしろ、石川ときたら世話女房を気取ったものか、
学内にいる間はほとんどひとみの側を離れることがないくらいだ。
細身な割にほどよい胸のふくらみを持つスタイルのよい石川は、
ひとみに思いを寄せる女子学生の間で最大のライバルと目されていたのだ。
「あらっ、まこちゃんがベートーヴェンに詳しいとはしらなかったわ...」
そんなことはどうでもいいとばかりに言い放つと早速、いつものようにひとみに寄り沿う。
- 157 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時43分44秒
- 石川に割り込まれて居場所のなくなったまことは、つんく教授の机のあたりを物色して見る。
横に立てかけられているパネルを持ち上げて確認する。
「うん、これだ。」
まことは、保田に話しかけた。
「保田さん、この絵、誰が描いたものだと思います?」
「ん、19世紀前半の肖像画家というとベートーヴェンの代表的な肖像画を残している
シュティーグラーぐらいしか思いつかないけど...小川はどう思う?」
まことは保田の描いている抽象絵画は難しくてよくわからないのだが、
点描ならぬ「線描派」として前衛芸術家の間で早くも注目されているという。
分野は違うが芸術家として非凡な才能を秘めている(らしい)彼女に畏敬に近い念を抱いていた。
その保田に尋ねられたことで、ひとみと話すときとはまた違う緊張感を覚える。
「そうですね...シュティーグラーの絵は1820年の作ですが、
この絵のベートーヴェンはもう少し晩年に近いような印象です。」
まことは複製画を保田から見て正面になるよう置きかえると、自分も彼女の横に移動した。
- 158 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時44分20秒
- 描かれているベートーヴェンの半身は、向かって左下の方に顔を向け、右手に掴んだにんにくを凝視している。
放心したような、何かに思いを馳せるような...
それでいてなぜかその双眸には悲しみが宿っているようにまことには思えた。
なぜなのか...
まことは何か大事なことを思い出せずにいるような座りの悪さを感じた。
ベートーヴェンの後方に位置する机には明かりをほのかに灯す燭台が置かれ、
楽譜らしき紙片が散乱しているさまをぼんやりと浮かびあがらせている。
- 159 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時45分52秒
- しばらく、ねめ回すようにじっくりと眺めた後、
まことは何か見つけたようだ。小さな瞳が好奇心で輝きを増す。
「そして、決定的なのが...」
まことの指さしたところには、殴り書きのような自筆の楽譜に混じって綺麗に印刷された
スコアの表紙があった。
「この“Friedrich Wilhelm V”という献呈受領者名ですね。時のプロイセン国王、
フリードリッヒ・ヴィルヘルム三世です。
これがマインツのショット社から印刷された第九交響曲の初版であれば、
出版されたのが1826年8月ですから、そこからベートーヴェンが病に伏す12月までに
描かれたと見てほぼ間違いないと思います。
翌年3月26日に亡くなっていますから、最晩年と言っていいでしょうね。」
へぇっ...
保田は感心していいものか呆れたものか、判断しかねて取り合えず先を促した。
- 160 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時46分36秒
- 「こういう視線が下を向いている構図って珍しいんですよ...
ほとんどの絵では、顎をひいて上目づかいで睨みつけるような鋭い眼光を放っていますから...
いや、ちょうど...あっ...」
調子に乗って「保田のようなギラギラした視線...」と口をすべらしそうになり、
まことは慌てて口をつぐんだ。
「んっ、なんか気付いたの?」
都合のいいことに保田が違う方向で解釈してくれたため、まことはこれ幸いと思いつきで言い繕う。
「あっ、いや...ちょうどモーツァルトの絵でこういう目線の構図のものがあったなぁと...」
「義兄のヨーゼフ・ランゲが描いたやつだね。小林秀雄が『モオツァルト』で引用している...」
意外なことにまことでさえ誰が描いたか知らない画家の名前を保田は言い当てた。
二人が並んで謎の絵について推察し始めたことにようやく気付いたのか、
ひとみが再びまことの横へと回り込んで尋ねる。
- 161 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時47分27秒
- 「小川はこの絵の題名知ってるの?」
「はい、この正式なタイトルはもちろん不祥なんですけど...
この自筆原稿の表紙っぽいところをちょっと見てください。」
そう言うと、まことは何か文字らしきものの描かれている部分を指差した。
ひとみは二重のくっきりとした目を細めて文字を判読しようとする。
「んんっと...ドイツ語だよねぇ...T...A...これは...Fか。」
しばらく悩んだ後で、ある単語に思い当たったらしいひとみは叫んだ。
「あっTafelmusikかっ!その後はfur...そこで隠れちゃってるなぁ。」
「ねぇ、よっすぃ、Tafelmusikって何?」
「ターフェルムジーク、食卓の音楽って意味さ。
貴族の食卓を彩る音楽で、まぁ食欲の沸いてくるような音楽ってことかな。」
「りかとよっすぃがレストランでお食事したときに流れてたBGMみたいなもの?」
いつのまに食事なんか...
まことは、つんく教授とのなかを疑っている場合ではないことに気付き、
言いようのない焦燥感にかられた。
しかもバロックの流れるおしゃれなレストランとは...
- 162 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時48分08秒
- 「りかちゃん、ガストで流れているBGMを”食卓の音楽”とは言わないよ。」
ガストかよ...
ほっとしたまことは、あまり詳しくなさそうな石川のために説明を加えた。
「”食卓の音楽”として一番有名なのは、ゲオルク・フィリップ・テレマンのものですね。
ヘンデルも初版の楽譜は予約したと言われているくらいです。」
「うん、やっぱり小川はよく知っているねぇ。それにしてもTafelmusik fur...ということは...」
「誰かのための音楽ということになりますね...」
「これが実在すれば、えらいことなんだけど...」
まことはひとみに誉められるのも上の空で、この楽譜の存在について思いを巡らせた。
貴族のために書いたものか。
はたまた自分のために...
しかし...
- 163 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時48分42秒
- 「ベートーヴェンって家族いたんだっけ...」
保田がぽつりと漏らした言葉に全員が反応し、その角張った横顔に視線が集中する。
「いえ、終生独身で過ごしたはずですが...」
「だとすると、自分が家族と過ごすための音楽ではなくて、やはり誰かの委嘱作品
ということになるのかしら?」
「総合作品目録にそれらしきものは見当たらないですねぇ...」
「完成しているとは限らないんじゃない?」
「といいますと?」
「委嘱作品なら依頼とか報酬の交渉を行った書面なんかが残っていると思うんだけど...」
「そういったたぐいの書簡も今のところ発見されていないんですよね...」
そこで石川が思い出したように小声で問いかける。
「まこちゃん、甥のカールって一時期、一緒に過ごしてたんじゃなかったっけ...」
まことははっとした。
そうか、そうするとこのベートーヴェンの虚ろな表情には理由がつく...
石川の意外な面を見直すとともに、この絵の背景が段段と見えてきたような気がした。
- 164 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時49分31秒
- 「そうか、ベートーヴェンはカールの母親のヨハンナと親権を争って勝訴したんだよね...」
ひとみもそのことに気付いたのか、興奮を隠せない様子で声を昂ぶらせる。
ひとり事情を把握しきれていない保田が、問いかけた。
「えっ、てことは同居していた甥との食卓のための音楽を執筆中だったってこと?」
「そういう可能性もあるでしょうね...」
「であれば完成していたかもしれないんじゃ...」
「圭ちゃん...その理由であれば、作品はもし書かれていたとしても破棄された可能性が高いね...」
保田は首を傾げて納得していないことを示した。
ひとみは、厳粛な面持ちで答える。
「カールは自殺したんだから...」
- 165 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時50分01秒
- ただでさえ大きな目をさらに見開いて驚きを表現する保田に対し、まことが慌てて付け加える。
「あっ、あのっ、正確に言うと自殺未遂ですっ、死んでませんから...」
そう...
幾分か救われたと言うように保田がぼそっとつぶやく。
まことは続ける。
「自殺未遂を起こしたのが1826年8月。絵に記されている第九の初版印刷が同じく、
1826年8月ですから、絵が書かれたのは少なくともその後になります。」
「甥が死のうとまでしたのにのうのうと“食卓の音楽”を書いてる場合じゃないか...
で、あのにんにくには何か意味あんのかな?」
三人の目がまことに向けられる...
「握っていたんです...カールが...」
- 166 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時50分56秒
- まことは三人の顔へと順番に視線を移しながら続けた。
「その...香辛料のことで口論したみたいですね。もっともシントラーの口述記録だから、
信憑性は今一つなんですけど...」
「にんにくで喧嘩して自殺したのぉ?」
石川が間抜けな問いを発するが、まことを覗いたその場の皆が全員、
同様の疑問を抱いていることは明らかだった。
「にんにくはきっかけに過ぎませんよ...ほら、裁判で母親の親権が認められなかった
って言いましたよね...」
それがあの事件の根底にあるとまことは踏んでいる。
「確かに母親のヨハンナはだらしのない女で、親権剥奪も止む無しとなったわけですが...」
「まぁ、カールにして見れば、やっぱりダメ女でも母親は母親だからなぁ...」
「実の母親と切り離された上に、興奮すると暴れだすベートーヴエンと同居じゃぁ...」
「自殺のひとつもしたくなるかぁ...」
ひとみ、まこと、保田と三人が交互に後を続ける。
なんだか今はやりの家庭崩壊を先取りしているようで、やるせない...
- 167 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時51分29秒
- なんとなく倦怠した空気の中、沈黙を破ったのはやはり石川だった。
「あっ、あのっ、おなかすきません?ねっもうまっ暗だし。」
気が付くと既に外は夕闇に包まれていた。
石川の言葉を合図のようにして、また部屋に賑わいが戻る。
「あっ、そうだね。ご飯食べに行こうよ。」
「何がいいかなぁ。」
「焼肉ぅっ!焼肉にしよっ!ねっ!」
「圭ちゃん、たまには違うもん食いなよ。」
めいめい、勝手なことを言いながら、絵をもとの場所に戻し、鍵をかけて研究棟を後にした。
まことは、ひとみたちと歩きながらつんく教授の部屋に残された絵に思いを馳せた。
- 168 名前:Tafelmusik 投稿日:2001年11月09日(金)20時53分49秒
- (食卓の音楽...か...)
それが完成して一緒にご飯を食べていたならあんな悲劇も起こらなかったのだろうか...
そう考えたまことの頭の中に、なんだか暖かい感じの音楽が降りてきたような気がした。
燭台とワインを真ん中にして食卓に向かい合う甥と叔父のイメージとともに...
天国でなかよくできたのかな...
そうだといいね...
「まこちゃん、なにしてんの!置いてくわよ!」
石川の声にはっとして我に帰った。
慌てて追いかけると優しい笑顔で迎えてくれる先輩たちがいる。
まことはちょっとだけ幸せを感じた。
自分には暖かい食卓を囲む仲間たちがいるんだ...
秋の夕闇にじゃれあいながら駆けていく四つの影が踊った。
――おわり――
- 169 名前:Bitter taste 投稿日:2001年11月09日(金)21時54分46秒
- それは仕事が一段落ついて、休憩に入ったときのことだった。
私はロビーにある自動販売機の前で、何の飲み物を買おうか迷っていた。
今日は寒いから、ココアにしようかなぁ・・・・・。
私が買う飲み物を決めて、ちょうどボタンを押そうとしたとき、
「麻琴ちゃん。」
といきなり後ろから声が聞こえた。
「うわっ!」
私は突然のことに驚いて後ろを振り返ると、そこにはあさ美ちゃんが
立っていた。
「あっ・・・・・ごめん。」
そう言ってあさ美ちゃんは、申し訳なさそうに顔を俯ける。
いつも思うんだけど、やっぱりあさ美ちゃんって人より一歩下がってる
感じがする。
本人にそういう気がなくても、口調も弱々しくてのんびりしてるから、
そんな印象になっちゃうんだろうな。
いつも、自分が悪くないのに謝るんだよねぇ、あさ美ちゃんは・・・・。
- 170 名前:Bitter taste 投稿日:2001年11月09日(金)22時08分02秒
- 「別に謝らなくていいよ。それよりさ、もしヒマなら座って話さない?」
私は販売機の取出口から、熱い紙コップを取り出して言った。
「うん、いいよ。ちょうどヒマだから。」
あさ美ちゃんは軽く笑って頷いてくれた。
それから、2人して空いてる席を探す。
私は紙コップがかなり熱いから、空いてる場所を見つけると、すぐに
ガラス製のテーブルに置いた。
そして一人掛けのソファーに座る。
だけどあさ美ちゃんは、なぜか戸惑った表情をしていた。
私はそれを不思議に思ったけど、すぐにその意味に気がついた。
あさ美ちゃん、ケガしてたんだ!
「ゴ、ゴメン!今、手を貸すね。」
私は素早く立ち上がると、あさ美ちゃんの座るソファーを引いた。
あさ美ちゃんはこの間の歌番組の収録中に、色々あって右膝に12針も
縫う大ケガをしてしまったのだ。
そのことをすっかり忘れてたよ・・・・・。
私って、気が利かないなぁ。
- 171 名前:Bitter taste 投稿日:2001年11月09日(金)22時18分37秒
- 「ありがとう、麻琴ちゃん・・・・。」
あさ美ちゃんはそう言って、照れくさそうに笑った。
「お礼なんていいよ。それより気が利かなくて、ホントにゴメンね。」
私は軽く髪を掻きあげて苦笑する。
「うんん。そんなことないよ。えっと、その・・・・・・。」
あさ美ちゃんは何か言いたそうだったけど、言葉に詰まってもどかし
そうにしていた。
「ありがとう。」
だから私はニッコリと笑って言った。
・・・・・言わなくても、気持ちは十分に伝わったから。
だけど私は本当に自分のことしか考えてなくて、それがなんかすごくガキ
ぽっく思えて嫌だった。
もっとケガのことに早く気づいて、椅子を引けたらよかったのに。
私は何となく、紙コップを手元に引き寄せた。
ふと飲みたいと思ったから。
でも私は一口飲んだだけで、すぐに紙コップを口から離した。
- 172 名前:Bitter taste 投稿日:2001年11月09日(金)22時32分08秒
- 「苦っ!・・・・・何これ?」
口の中に広がる痺れるような苦味。
舌に残る変な豆ぽっさ。
吐き出したくなるような嫌悪感。
口腔にへばりついてるような、なかなか消えない感触。
これ、ココアじゃないの?
でも私の飲んだそれは、間違いなくカフェオレのようだった。
さっきあさ美ちゃんに声をかけられたとき、驚いて振り返った拍子に、
きっとボタンを押し間違えたんだろう。
そんなこと全然気にしてなかったよ。
「麻琴ちゃん、どうしたの?」
あさ美ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「いや、なんか間違えてカフェオレ買っちゃったみたいでさ。それを
知らないで飲んだから、苦くて驚いちゃったよ。」
私はまだ口の中の苦味が消えなくて、引き釣った笑みを浮かべて答えた。
「・・・・・ごめん。私がいきなり声かけたからだね。」
あさ美ちゃんは急に暗い顔になって、か細くて小さな声で謝る。
「そんなことないって!私が勝手に押しただけなんだから、別にあさ美
ちゃんが悪いわけじゃないよ。」
私はこの雰囲気を変えたくて、何か違うことに話を逸らそうとした。
- 173 名前:Bitter taste 投稿日:2001年11月09日(金)22時40分05秒
- 「そういえばさ、もうすぐコンサートじゃん。どんな感じなんだろうね、
楽しみじゃない?」
私は軽く笑いながら、あさ美ちゃんに話題を振った。
「う、うん・・・・。」
だけどあさ美ちゃんの顔は、余計に曇ってしまう。
ヤバッ!!
私は自分の言ったことに気づき、バツが悪くなって視線を落とした。
・・・・・あさ美ちゃん出れないんだった。
MCには出るらしいけど、踊りはできないんだよね。
初めてのコンサートなのに。
何言ってんだろ、私。
人の気持ちを全く考えてないや。
だから、平気であんなひどいこと言ったんだ。
相手のことをよく考えれば、もっといい話題を振れたはずだ。
バカなこと言っちゃったなぁ・・・・。
それから何だか気まずくなって、私達の会話はそれで途切れてしまった。
- 174 名前:Bitter taste 投稿日:2001年11月09日(金)22時47分49秒
- お互いに何を言っていいか分からなくて、顔を微妙に逸らしながら俯いて、
でも時々は相手の顔色を盗み見たり、まるで嫌々させられてるお見合い
みたいだった。
でもお互いに共通するところはある。
それはきっと、この休憩時間が終わることを心待ちにしてるところだ。
こういうときに限って、私の頭には言葉が浮かんでこない。
ふとあさ美ちゃんを横目で見ると、まだ沈んだ顔して俯いている。
何か言おうと思うけど、でもまた傷つけること言いそうなのが怖くて、
だから黙って時が過ぎるのを待っていた。
あさ美ちゃん、変に気にしないといいけど・・・・・。
さらに私が自己嫌悪に陥りそうになったとき、いきなり後ろから肩を
叩かれた。
驚いて後ろに振り向くと、保田さんが立っていた。
- 175 名前:Bitter taste 投稿日:2001年11月09日(金)23時04分08秒
- 「うぃ〜っす!どうした2人共?なんか顔が暗いよ。」
保田さんは私達を交互に見ると、笑いながら2人の肩を叩く。
「あ、いや、その・・・・・。」
私はこの状況をどう説明していいか分からず、言葉に詰まってしまった。
「そういえばさ、紺野は足の具合はどうなの?」
保田さんは気遣ってくれたのか、少し真面目な顔になって話を逸らした。
「あ、はい。だいぶ良くなりました。」
あさ美ちゃんはすぐに顔を上げて答える。
「そっか。・・・・あんま、焦んなくていいからね。」
保田さんは少し考え込んでから、あさ美ちゃんの頭に手を乗せて言った。
あさ美ちゃんはそれが図星だったのか、気まずそうに顔を逸らす。
私にはどうなってるのか、全く分からなかった。
「まだまだこれからなんだから、最初のスタートが出遅れたからって、
全然気にすることないよ。私だって、スタートしたのは結構最近だし。」
保田さんは少しだけ苦笑して、あさ美ちゃんを諭すように言った。
あさ美ちゃんはしばらくして顔を上げると、固い笑顔で頷いた。
「はい。まだ・・・・・これからですよね?」
保田さんは優しい微笑みでそれに答える。
「そう、まだこれからだよ。」
- 176 名前:Bitter taste 投稿日:2001年11月09日(金)23時12分42秒
- そのとき、保田さんは大人だと思った。
やっぱりどこか余裕があるし、あさ美ちゃんの考えてることが分かる
冷静さとか、それを伝えられる経験の多さだとか、私がないものをたくさん
持っていて、それがすごく羨ましかった。
でも・・・・・・悔しくもあった。
私にはあんなこと言えない、あさ美ちゃんを笑わすことはできない、
ただ黙って待っていただけだった。
私は少し乱暴に紙コップを引き寄せた。
中身がカフェオレなのは知っている。
でも、よく分からないけれど飲みたかった。
「・・・・あっ。」
あさ美ちゃんがそれを見て、間抜けな声を出す。
だって分かっているから、私がこれを飲めないこと。
やっぱりカフェオレは苦かった。
私にはまだ飲めそうにない。
そんなこと飲む前から分かってた。
それでも飲もうと思ったのは、大人になりたかったからかな?
もし飲めたら、少しだけ自分が変わる気がした。
でもそういう考え自体が、きっと子どもなんだろうな・・・・・。
- 177 名前:Bitter taste 投稿日:2001年11月09日(金)23時30分57秒
- 「どうした小川?まずかったの?」
そのとき私はどんな顔をしていたんだろうか?
保田さんが心配そうなに私を見てるから。
「これカフェオレなんですよ。ちょっと間違えて買っちゃって、飲もうと
したんですけど、やっぱり飲めなくて・・・・・。」
私は紙コップを口から離すと、苦笑いを浮かべて言った。
そんなこという自分がすごく情けなく思えた。
「そっか。なら私が貰っちゃっていい?捨てるのもったいないし。」
私は保田さんに渡してしまうと、何だか負けたみたいで嫌だった。
だけど捨てるよりはマシだと思って、少し迷ってから頷いた。
保田さんは紙コップを引き寄せ、何のためらいもなくカフェオレを飲んで
しまう。
「うわぁ〜、かなり甘いねこれ。」
保田さんは軽く飲んでから、すぐ顔をしかめて言った。
・・・・・甘い?
私が苦くて飲めなかったのに、保田さんは逆に甘くて飲めないらしい。
「コーヒーってさ、私はブラックとかで飲み方だから、カフェオレだと
少し甘いんだよねぇ。」
保田さんは軽く舌舐めずりして言った。
大人と子どもの差を見せつけられた感じだった。
- 178 名前:Bitter taste 投稿日:2001年11月09日(金)23時47分30秒
- 「あの・・・・・・そろそろ時間なんですけど。」
とあさ美ちゃんが壁掛け時計を見て言う。
「もうそんな時間?それじゃ早く行かないと。」
保田さんは時計を見て呟くと、あさ美ちゃんの後ろに回って椅子を引いた。
「あっ、ありがとうございます!」
あさ美ちゃんはきちんと頭を下げると、椅子からゆっくりと立ち上がる。
「それじゃ、先に行ってるから。2人とも遅れてないでよ。」
保田さんは私達を促すと、早足で楽屋の方に行ってしまう。
すごいですよ、保田さん。
なんであんなに、普通に気を利かせられるんですか?
それに比べて私は・・・・・。
私はだんだんと小さくなっていく、保田さんの背中を見ながら思った。
早く大人になりたいと。
- 179 名前:Bitter taste 投稿日:2001年11月09日(金)23時58分59秒
- 「それじゃ、私達も行こうか?」
私はあさ美ちゃんに手を差し伸べて言った。
今の私にできることは、まだこれぐらいの気配り。
言葉で上手く言えないから、こんな些細なことしかできないけど、何も
しないよりはマシでしょ?
「うん。早く行かないと、怒られちゃうからね。」
あさ美ちゃんはちょっと笑って、私の手を取って握ってくれる。
・・・・・なんだろうなぁ。
きっと大人になりたいのは、もっと相手のことを気遣える人になりたい
と思うから。
椅子を引いてあげたり、言って欲しいと思ってる言葉が言えたり、そういう
小さい気配りができる人になりたいんだ。
でも今の私は自分のことで精一杯で、そういう他人への余裕が全くない。
それが、よく分からないけど嫌なんだ。
だから『子ども』なのが嫌で、『大人』に憧れるんだと思う。
・・・・それにしても、まださっき飲んだカフェオレの味が消えないや。
口の中にあの嫌な苦味が残ってる。
でもいつか、この微かな苦味を感じなくなったら、私は今より少しでも
大人になっているだろうか?
私は握ったあさ美ちゃんの手に、少しだけ力を込めて思った。
END
- 180 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時28分37秒
「それでは、新加入の四人に自己紹介をしてもらいましょう」
司会の人から言われた。
(この人の名前なんていったかなあ?)
他の三人が話している間、とりとめのない考えが浮かんでは消え、また浮ぶ…
いつだったんだろう、わたし、いや、わたしたちがこの舞台に立つことが、
この場所にモーニング娘。の一員として立つことが決まった日は…
つい最近のことなのにずいぶん遠い昔だったような気がする。
- 181 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時31分57秒
- ◇◇◇
わたしの名前が呼ばれた瞬間
まさかと思った。
きっと読み間違えたんだと、
最後まで残っていた人たちはわたしよりずっときれいだったし、歌もうまかった。
考えてみれば、前の選抜…いや最初の選抜の時からそうだった気がする。
なぜ私が選ばれたんだろう?
今日の審査。
最後の審査。
喜びより疑問
期待より不安
なぜ私が選ばれたの?
つんくさんが語った選んだ理由。
いろいろ言っていたが理解できたことは
「劣等生」だったから…
それが理由なの?
それが理由になるの?
- 182 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時33分12秒
- ◇
ダンスレッスン。
「すごいな〜、もう覚えたの?」
振り付けを覚えるのは一番早かった。
「ほら、もっと笑顔で」
「自分なりの表現で」
先生の容赦のない指摘が飛ぶ
結局最後までかかるのはわたし…
- 183 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時34分15秒
- ◇
新曲のレコーディング
思っていた通り、みんなの足を引っ張るわたし…
情けなかった。
どんなにがんばっても、考えている数パーセントも出ない声。
途方にくれて、ソファの片隅にみんなから離れて腰を下ろしていると、
「どうしたの?」
その声にはっとして顔を上げる。
そこには顔いっぱい笑顔にしたあの人がいた。
わたしはこの人が苦手だった。
まだ数えるほどしか会っていないのに。
なぜだろう?
いつも明るく。
最初から優等生で。
いつも娘。の中心にいた。
この人はわたしと正反対だった。
- 184 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時35分15秒
ソッとわたしの横に腰を下ろすと、
「最初は大変でしょう。慣れないし緊張するし…」
「ハイ…」
「でねそんな時は……」
チラチラ横目で見ながら話を聞く。
年上の人に思うことではないんだろうけど…
──かわいい。
一生懸命話しているその姿。
コロコロ変わるその表情。
特に笑顔。
見ている者すべてを引きつけてはなさないその笑顔。
話の内容は横を通りすぎて行く。
心だけ彼女に吸い寄せられたまま。
- 185 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時36分25秒
「……?」
突然、言葉が止まった。
ちょっと難しい顔をしたかと思うと突然両手を伸ばし、わたしの頬をはさむ。
「なっ!」
驚いて見返すと、彼女はにっこり微笑み
「ねえ、笑って」
「……」
「……」
呆気にとられていると、急に不安そうな顔になり
「おもしろくなかったかな…」
「……ぷっ」
「あはっ、笑った、笑った」
- 186 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時38分20秒
なんなんだろう、この人は、ひとしきり笑った後
「あの〜…」
「なあに?」
「この手…」
「手?」
「はなして…」
「やだ」
「えっ」
「ず〜っとさわりたかったんだよね 」
「……」
「ぷくぷくしてて〜やわらかそうだったから」
そんなにジッと見つめられると……
「あっ、赤くなった!」
頬に当てられた手の暖かみより、体の内側からの熱さが強くなる。
- 187 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時40分14秒
「……さ〜ん、つんくさんが呼んでます〜」
「は〜い」
すっ、と離される手。
立ち上がる。
ブースへ向かう後ろ姿。
ふうっ…
突然彼女が振り向いた。
「笑った方がいい…」
「えっ」
「笑った方がずっ〜とかわいいから……ねっ」
それだけ言うと、にっこり笑ってブースの中へと消えていった。
「……」
あの人のふれていた頬が熱い。
- 188 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時41分27秒
- ◇
新曲のダンスレッスンが始まった。
それはミュージカルだった。
わたしはその他大勢の中のひとり
新人四人による回り持ちのオープニング、唯一の見せ場。
正直ここが過ぎるとホッとする。
緊張の一瞬
そして幕が開く夢の世界
三人の男たちを中心に話は進む。
その中のひとりがあの人。
他のふたりより一回り小さなその体。
その体をめいっぱい使ったその動き。
コロコロ変わる表情。
ジゴロというより「かわいい男の子」
- 189 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時42分49秒
長時間にわたるレッスンが皆の顔を疲労の色に染めてゆく。
つかの間の休憩。
ぐったりしているメンバーの中でひとりニコニコ談笑するあの人。
それにつられて広がる笑いの輪。
いつも中心にいるあの人。
- 190 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時44分30秒
「はーい、じゃあ30分休憩します」
「あれっ、どこいくの?」
「ちょっとオトイレ」
(はあっ、きついな…)
個人活動が多いため、合同でやるレッスンは必然的に密度が濃く時間的にも長くなる。
同じ新人メンバーに負けたくなくて気がはってたから感じなかったのだが、かなり疲れているみたい。
(あっ、戻らなくちゃ)
個室でひとりになったら気がぬけてついぼーっとしてしまった。
──うっ、ううっ
(あれ…となりだよね)
(急病かも…でも違ってたら恥ずかしいし…)
パイプに足をかけ上からソッとのぞいてみる。
(変態じゃないよ…ちょっと心配だから)
そこには苦しそうにモドしている人がいた。
(……)
降りると音をたてないように、そっと外へ出る。
- 191 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時45分49秒
廊下の長椅子に座っているわたしを見て、あの人はちょっと驚いたようだった。
いつものように、となりに腰をおろす。
「…なんで、いつも笑っているんですか?」
「えっ」
「あんなに苦しいレッスンの中なんでいつも笑っていられるんですか?」
「苦しくないよ」
「でも…」
「好きな事してるのにどうして苦しいの?」
「……」
「好きなのにそれが出来ない事の方がずっとつらいよ…」
さっきのことなどなかったようないつもの笑顔がそこにあった。
- 192 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時47分33秒
(あぁ、そうだった…)
冗談半分で書いた申込書。
でも、どこかでこの人たちと一緒に歌いたいと思っていた。
審査に残るたび湧いてくる不安。
「もしかしたら」と思う期待。
どうして選ばれたか?なんて、どうでも良いこと。
わたしが、モーニング娘。になりたかった。
それが一番大切だったこと。
- 193 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時48分59秒
「あとね」
「はい?」
「笑う角には……福来たる…」
「?」
ソッと伸ばされる両手
「福が来ますように…」
頬に伝わる暖かさ。
見つめるひとみ
「なつかしいなこの感触」
あなたの視線はわたしを見ていない…
誰を見てるの?
誰を見ていたの?
泣きそう……
- 194 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時50分26秒
あなたはわたしのそんな表情に気がついたのか
「ねえ笑って」
あなたに言われたから、笑ってみる。
眉の間にしわを寄せ不満げなあなた。
まだ、あなたのようには、うまくは笑えない…
- 195 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時51分36秒
「つまんない」
そうつぶやいて、ちょっと考えていたあなた。
突然いたずらっ子のように目を輝かせると。
──チュ!
「!!!!な、な、なにを!?」
「あっははははっ、ねっ、びっくりした?びっくりした?」
ブンブン首を縦に振る。
「もしかして、ファーストキス?」
ブンブン、ブンブン
「やった!もーらいー!」
(いったい、なんなの〜!)
「笑った顔もかわいいけど…」
「……?」
「真っ赤になった顔はもっとかわいくて、大好き!」
くるりと振り向いて、レッスン場へ戻っていくあなた。
「そっか、なれちゃうとダメなんだ…キスになれたら何しようかな〜」
嬉しそうにつぶやきながら去っていくあなた。
あたしは口をパクパクさせて見送るしかなかった。
- 196 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時53分12秒
- ◇◇◇
…ツンツン……ツンツン…
「?」
横を見ると真琴ちゃんがこっちを見てる。
「?」
テレビカメラの上で赤く光っているランプ。
(あっ、いっけない!)
「紺野あさ美14歳です。」
「好きなモノは…」
- 197 名前:自己紹介 投稿日:2001年11月10日(土)08時53分53秒
「いもが大好きです!!」
おわり
- 198 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時04分34秒
- 「はぁっ...あれ、見てもうたらしゃぁないなぁ...」
二杯めのグラスを空けると、裕子はもう一杯おかわりを頼むべきかどうか悩んだ。
シャンペンなど仕事でビジネスクラスに乗れるこの機会を逃したら、今度いつ飲めるかわからない。
決めた、と思った次の瞬間にはフライトアテンダントを呼び止めていた。
傍らのマネージャーは滅多に乗れないビジネスクラスに舞い上がり、シャンペンを始め、
ブランデーやらワインやら、高そうなものを一通り空けて、既に高いびきで眠りこけていた。
- 199 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時05分10秒
- 先ほどから考えあぐねていて、結局、口をついて出たのは、辻への土産のことだった。
二日前のメールで、こう伝えてきていた。
『中澤さん
いってらっしゃい。
お仕事なので、辻はお土産とかはいらないです。
テロとかに会わないで無事に帰って来てください。
つじ』
(そら、テロは会いたないけどなぁ...むこうから来るもんはしゃあないで...)
くすくす...
相変わらずの辻の調子に裕子は胸の奥が暖かくなるのを感じた。
そして、『お土産はいらないです』というくだり...
裕子は思わず込み上げてくるものを押さえ切れず、目頭が熱くなった。
(無理してからに...)
他のメンバー、例えば矢口からそのようなメッセージが来たら、それは催促以外の何物でもない。
だが辻の場合、それは一生懸命考えた末の決断であるに違い無かった。
- 200 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時05分50秒
- 辻がわざわざ、このようなメールを送ってきたのには訳がある。
今回の海外ロケ企画、『中澤裕子のミュンヘン・ウィーン、飲んで食べて笑って、
酔っ払い一人旅−オクトーバー・フェストで大往生?−』が決まったとき、
裕子はモーニングのメンバー達に、ウィーンのお菓子についての話をした。
裕子達がメッテルニヒのトルテと呼ばれる、幻のトルテを探すという企画があったからである。
メッテルニヒとはナポレオンが敗退した後のヨーロッパ体制を検討すると題した国際会議を
主催したハプスブルク・オーストリア帝国の宰相である。そのメッテルニヒが配下の職人に
つくらせた、この世の贅を尽くしたトルテが現在も実在すると言う。
結局、企画段階でこの件については没になったのだが、例によってこの話に通常以上の
興味を持ったのが辻だった。
食い入るように裕子を見つめ、涎を垂らしそうな勢いで目を輝かせる辻に、
この話はボツになったと伝えたときの落胆ぶりは今、思い出してもおかしい。
周りに居たメンバー皆から茶化されて、気恥ずかしそうにしていた辻はそれでも諦めていなかった。
- 201 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時06分38秒
- (でもウィーンで自由時間もあるんれすよね...)
あるには、あるが、雑誌とのタイアップなのでブランド物などの買い物をまるで、
“オフの日に行っちゃいました”というのりでこなさなければならず、
実質的なオフというのはないに等しいのだという説明をした後の泣きそうな辻の表情...
そんなに食べたいのかと可笑しくもあり、可愛くもありで、笑いを押し殺すのに苦労した
ことしか覚えていないが、当人には大事だったのだろう。
あれっきり、忘れていたのだが、メールのメッセージですっかり思い出してしまった。
また、最近の辻の元気の無さを見るに連れ、裕子はちょっとだけ無理してもいいかなと思い始めていた。
もともと元気が良すぎるくらいで、控え室では加護と二人ではしゃぎまくっていた辻に元気が無い。
気づいたのは、つい最近だった。
- 202 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時07分24秒
- 新メンバーが入ってきて、自己紹介を含めて彼女たちを前面に押し出さなければならない
展開上、TVなどでは自ずと他のメンバーに割かれる時間が減少する。
その割りを一番食っているのが辻だった。
おまけに、先日のある番組では『孫にしたい娘。No.1』という企画で、辻はあろうことか、
保田より下の最下位にランクされてしまっていた。
人気商売の常とはいえ、酷な結果には他のメンバーさえ意義を唱え、辻を庇ったという。
- 203 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時07分47秒
- その笑顔に救われる思いをしたことも少なくない裕子としては、なんとか辻の笑顔を取り戻したい。
その結果が「多少、無理をしても...」という判断につながった。
実際、あまり時間はない。
昼食を挟んで午前、午後と雑誌の企画を終えた後、裕子に与えられた時間はほんの2時間か
そこらしかなかったのだ。
初めてのウィーンでもあり、収録で訪れる名所以外に美術史博物館でヒエロニムス・
ボッシュの絵なども見たいとも思っていたが、辻の望みを適えるにはそれも諦めねばならない。
裕子は3杯目のシャンペンを一息に煽ると、決心した。
(まっ、しゃぁないわな...)
- 204 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時09分12秒
ミュンヘンのオクトーバーフェストで酔っ払って、3gはあろうかという大ジョッキを振り回し、
大暴れした以外は無事にロケも終了し、最終日のオフ企画を残すのみとなった前日の夜。
裕子はロケの日程を通して公私に渡り自分をサポートしてくれた通訳の女性とウィーンの
とあるホイリゲに出かけた。
ホイリゲとは居酒屋のようなもので、気軽にワインやビールを楽しむところだ。
「いやぁ、ほんま助かりました。おおきに。」
「いえいえ...中澤さんこそ、お疲れ様でした...」
「で、迷惑ついでと言っては申し訳ないんですけど...」
「ええ、例のトルテの件ですね。」
快く引き受けてもらえそうな雰囲気に裕子は安心した。
- 205 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時10分06秒
- 「すんません。で、メッテルニヒのトルテいうと、えらい大仰やけど、ようは...」
「ええ、ザッハートルテですよね。」
そう、なんのことはない。
メッテルニヒのトルテとは有名なザッハートルテのことだったのだ。
チョコレート・スポンジケーキにあんずのジャムを挟み、チョコレートでコーティングした
チョコレートケーキ...
ただ「メッテルニヒのトルテ」というのは誇張ではない。
このトルテは1832年、メッテルニヒの料理見習だったフランツ・ザッハーが16歳の頃、
作り上げたと言われている。
「ちょうど取材で寄るKohlmarkt通りのルイ・ヴィトンの店の並びにデーメルがありますから、
そこで買えますよ。本当は本家のホテル・ザッハーで買えれば一番、いいんですけど、
ちょっと遠いですからね。」
ありがたい。
そこまで考えてくれているとは...ひたすら感謝だ。
デーメルはホテル・ザッハーとともにザッハートルテの老舗として有名だ。
どちらがオリジナルかを争う裁判まで起こったというが、そんなことはとりあえずどうでもいい。
裕子は安心して酔いに身を任せることができた。
- 206 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時11分08秒
――翌日、午後5時。
ルイ・ヴィトンで鞄を手に取る写真を撮って、ようやくロケの全日程を終了。
裕子は最後の締めとして、通りの同じ並びにあるデーメルへと向かった。
しかしそこにあったのは...
- 207 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時12分03秒
『本日休業』
店の入り口には、ドイツ語の読めない裕子にも明らかにそれとわかる札がかかっていた。
「まじかぃっ!」
驚いている暇はない。
フライトは午後8時35分の全日空208便。
それを逃すと翌日のオールナイトニッポン・スーパー生放送に穴を空けるという大失態を
演じてしまう。
1時間前には空港に到着するとして、残された時間は2時間半しかない。
- 208 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時13分14秒
- 「大丈夫ですよ、ザッハーまでは大した距離じゃありませんから、タクシーで行きましょう。」
「どれくらいですか?」
「道が込んでなければ5分もあれば行きます。」
よかった...
KaerntnerTor通りでタクシーを捕まえてもらい、乗り込むと裕子は安堵の息を吐いた。
ところが、2個目の通りを過ぎた辺りから、今度は車がまったく動かない。
5分...10分...と経過するに連れ、裕子は遂にしびれを切らした。
「ああっ、もうあかん!歩いて行きましょっ!」
どうやら、旧市街のあちこちで行われている道路の修復工事にぶつかってしまったらしい。
歩いて見るとザッハートルテの本家、ホテル・ザッハーまでは10分もかからなかった。
(なんや...最初から歩いとったらよかったんや...)
- 209 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時14分04秒
- なにはともあれ、ホテル・ザッハーの中にあるカフェ・ザッハーへと向かう。
何しろ本家本元。
怪我の功名とは言え、200年近く変わらぬ味を楽しめるのだから辻もさぞ喜ぶだろう。
意気揚揚とガラスのショーケースを覗き込んだ裕子はまたもや血の気が引くのを感じた。
(な、ないっ...)
とカウンターを見ると、最後の一品と思しき品を恰幅のいい白人男性が包んで貰っている...
(あかん、あれを逃したら、辻の分がなくなってまう...)
裕子はなんとかその男性に譲ってもらえるよう頼み込むことにした。
しかし...
運の悪いことに通訳は緊張のせいか、ホテルに着くなりトイレへ駆け込んでしまっていた。
ここは裕子ひとりで交渉せねばならない。
考えている余裕はなかった。
- 210 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時16分54秒
- 「えくすきゅぅず みぃ?」
カウンターの店員とお客の男性が裕子の方に振り向く。
「ぢす いず らすと わん? 」
二人が頷いたのを見て、自分の英語が通じてることを確認すると裕子は一気にたたみかけた。
「ぷりぃず ぎぶみぃ... まい きっず うぉんと ぢす... しぃ くらい、くらい...」
怪訝そうに顔を見合わせていた店員と客も、泣きまねをすると、ようやく意図がわかったらしい。
白人の男性客は大きく頷くと言った。
「OK, you mother, I present you this cake for your kids!」
(へっ?)
「It’s present for your kids, from me!」
(くれる...言うてんの...?)
裕子は男性と自分を交互に指差し確認する。
相手が再び首を大きく縦に振るのを見てようやく理解した。
「いいの!? OK!? さんきゅう! さんきゅうやで、おっさん!!」
裕子が握手を求め、手を握り大きく振ると、男性客は満足そうに帰っていった。
- 211 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時17分28秒
- (はぁっ...やっと手に入れたで...)
裕子はへたり込みそうになる自分を奮い立たせ、空港へと向かった。
空港へ向かうタクシーがやはり、渋滞につかまってやきもきしたものの、大きく遅れることもなく、
待ち構えていたマネージャーから小言ひとつもらうだけで済んだ。
裕子はほっと胸を撫で下ろした。
ようやく自分のものやメンバーへの土産が買える。
急いで免税店に駆け込んだ裕子は、そこでまたしても目が点になった。
- 212 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時18分12秒
『ウィーン銘菓、ザッハー・トルテ――日本への発送も承ります』
書いてある。
...しかも、日本語で...
(なんやってん...あの苦労は...)
裕子は文字通り泣きそうになったが気を取り直す。
なにはともあれ、空港の免税店で買ったものではなく、ホテル・ザッハーまで赴いて買ったものだ。
少なくとも、その点は誇れるだろう。
裕子は思い直すと、やけになったように出発までみやげ物を買い漁った。
- 213 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時19分30秒
――帰国、一週間後。
3週間はもつと言われているが、早く渡すに越したことはない。
帰国後初のハロモニ収録日、裕子はメンバーへの山のような土産とともにトルテを持参した。
不思議なことに、土産を渡したメンバー全員に礼を言われるだけでなく、
スタッフや知人みなに声をかけられる。
「裕ちゃん、見直したよ...」
「いやぁ、泣かせるよねぇ...」
なんやねんな!と憤って見せても、ニヤニヤするだけで埒があかない。
さて、そろそろ辻を探そうと立ち上がろうとした瞬間、何か重くて固い物体が背中に激突した。
- 214 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時20分10秒
- (ぬぁっ!なんや!?)
振り返ると辻が抱きついている。
「おう、探しとったんや...あんたに土産...」
裕子はしゃべりかけて、辻が号泣しているのに気づいた。
思わず吹き出しそうになる。
「なんぼ食べもん、もうて嬉しいからって泣く奴があるかい!」
「らって...なからわさん...のののために...」
辻は涙とも鼻水ともつかない液体で顔中濡らしている。
ひっくひっくと泣き止まない辻にトルテを渡し、いい加減、おかしいと思い始めたことろで、
背中を叩かれた。
飯田が無言で、新聞のTV欄を指差している。
そう言えば、今日が欧州ロケの放映日であることに気づいた。
飯田の指先に注視すると...
- 215 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時21分08秒
- (あっ、なんやこれ!)
番組タイトルは大きく変更されていた。
『中澤裕子、走る!メッテルニヒのトルテは見つかるのか?――欧州の地にモー娘。の固い絆を見た!――』
(あちゃぁ...やられたわ、こりゃ...)
やけにマネージャーが素直に単独行動を許したものだと思っていたが...
そう言えば、あの通訳もやたらと姿が見えなくなっていた...
- 216 名前:メッテルニヒのトルテ 投稿日:2001年11月13日(火)20時21分51秒
- (そうか...ぐるやったか...)
裕子は今度こそ完全に脱力した。
傍らでは辻が泣きながらもトルテの包みを解いて食べる体制に入っている。
「あっ、あかんで! それは砂糖抜きの生クリームと一緒に食べな美味しくないんやさかい...」
裕子はくすっと笑って、軽い満足感を憶えた。
早くも分け前を競い合う辻と加護を注意する飯田や保田の声に楽屋はいつもの喧騒に包まれていた。
(欧州の地にモー娘。の固い絆を見た...か)
悪くないタイトルだと裕子は思った。
――おわり――
- 217 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時26分27秒
それは、楽屋での石川と吉澤の話から始まった。
「ねえ聞いた、市井さん復帰するみたい」
(なんやてー!!)
「知ってるよ」
「それ・・・ほんま?」
「決まりみたい。よっぽど嬉しいのかごっちんあちこちで喋りまくってるしね」
(ま、まずい・・・ウチあの人苦手やねん)
加護の脳裏に浮かぶ新人だった頃の思い出。
「なあ、よっすぃ。市井さんでどんな人だと思う」
「うーん、短い間だったけどね・・・」
「うんうん」
「曲がったことが嫌いというか、男気のある人だったよ」
「でも、ちょっと、うるさなかった?」
「それは、みんなに気を配ってたからじゃない。わからないことだらけの時ずいぶんいろんな事を教えてもらったよ」
「そっかなあ・・・」
- 218 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時27分54秒
「わかったー!」
突然話に割り込む石川
「加護ちゃん、ずいぶん厳しく指導されてたから苦手なんだー」
(普段は鈍いくせにこんな時だけ妙に鋭いんやから!)
「市井さんは、かっこよくて親切だしーそれに・・・」
(まだ言うんか!)
加護の心に殺意の衝動が湧いてくる。
「ふーん、梨華ちゃんは市井さんのことよっぽど好きだったんや」
「えっ」
「そういえば、市井さん市井さんてうるさかったもんなあ」
「・・・梨華ちゃん・・・・・・」
「うち、ずいぶんふたりきりで話し込んでるの見たなあー」
プイッ
「あーん、待ってー、よっすぃー」
(口は災いの元ってな。かっかっ)
- 219 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時29分00秒
ふたりの出ていった楽屋で考え込む加護。
(それにしてもマズい。あん人は真面目すぎるねん・・・体育会系だし、上下関係には特にきびしいんや)
最近の発言を思い出すと冷や汗が出てくるのが止まらない加護であった。
ポテポテ・・・
(ちょうどいいとこに)
「ののー」
「なんれすか?かぼちゃん」
「それやめぇー、ふたりの時はあいちゃんにしといてな」
「へい、なんれすか、あいちゃん?」
「あんなあ、市井さん復帰するらしいんやけどどう思う?」
同期のふたりにしたのと同じ質問をしてみる。
「市井さんれすか?」
「そや」
「んーと、やさしかったれす」
「そうかー、きびしぃなかったんか・・・」
「へい、おごってもらったケーキはおいしかったれす・・・ジュル」
(あかん、食い物で記憶が美化されとる)
このまま、自分一人が標的にされることをおそれた加護は、なんとしてでも辻をまきこむことに決めた。
- 220 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時30分56秒
「うちはあかんねん先輩に恨みを買ってるんや、もしそのことが市井さんの耳に入ったら・・・」
「怒られますね・・・それじゃ」
帰ろうとする辻。
「あかんでーののも一緒や!」
「なんれれすか、ののは良い子れす!あいちゃんと一緒にしないれくらさい」
(あかん、こいつまったく自覚しとらんわ・・・しゃーない)
「・・・ぶりんこ」
「うんこ!」
「わかったかのの!」
「へっ?」
「もはや、ウチとののは一心同体やねん!みんな言っとるやろ。つじかご、つじかご。ってな」
「・・・・・・」
「ウチが何かやれば、ののがやったも同然や!」
しばらくジッと考え込む辻。
「・・・わかりました」
「わかってくれたんか、ののー」
「ののは出来の悪い相方を持ったばかりにつらい思いをしなければならない漫才師なわけれすね」
「・・・・・・」
「ののはきよし師匠なのれすね」
「めがね、めがね、、、、ってうちは、やすしかいな!」
「わかりました、ののはアホなあいちゃんのために涙ながらに土下座をしましょう、それが運命なのれすから・・・」
(むーかーつーくー!)
- 221 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時32分40秒
「まずは飯田さんのとこに行くで」
「いいらさんのようなすばらしい人を困らせるなんて、あいちゃんはひどい人れすね。大体いつも・・・・・・」
飯田のマンションへの道すがら、加護を非難する辻。
「・・・あんなーのの」
「なんれす?」
「さきおとつい、あげぱん食べたやろ?」
「へい、とってもうまかったれす。」
「あれなぁ・・・飯田さんのやねん」
「でも、あいちゃんがこれ食べぇーて・・・」
「飯田さんがある人に喜んでもらお思ぉて作った自家製らしいねん」
見る見る青ざめていく辻。
「うちは一個も食べてへんしなー」
「・・・・・・」
「ばれたらヤバイんとちゃうんかなー」
「あいちゃんどうすればいいんれすかー」
「まあ、ウチに任せておけばええねん」
「おねがいれす、ののを助けてくらさい」
(それでいいんや!かっかっ)
- 222 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時33分30秒
マンションの入り口。最後の打ち合わせをするふたり。
「ええか、ウチが話すからうなずいていればええんやで」
「へい」
「もしもーし、加護でーす。あけてくださーい」
「よく来たね、でも突然なんのよう?」
ソファーに腰掛けているふたりにお茶を出しながら飯田が声をかける。
「いやー、普段からご迷惑をかけている飯田リーダーに先輩として後輩にどう接すればいいか、ご教授願いたくて・・・」
(あいちゃん、なに言ってるんれすか!)
(ええから、まかしとき)
「そう、ふたりとも先輩としての自覚が出来てきたのね。リーダーとしてカオリ嬉しいよ」
飯田はふたりの頭を優しく撫でると語り始める。
「むかし、ナメクジが中華風ドレッシングの中に落ちてしまったの・・・・・・」
- 223 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時34分34秒
・・・コックリ・・・
(こらっ!寝たらあかん!)
(・・・へ、へいっ・・・)
あれから、1時間が過ぎていた、飯田は身振り手振りをまじえながら、話し続けていた。今ナメクジが、ふるさとを後に都会に出るところらしい。
(あいちゃん、つらいれすー)
(そやな、まかしとき!)
「飯田さーん」
「なに?加護」
「ちょっと、胃の具合が・・・」
ふたりでおなかを押さえる。
「それは大変、ちょっと待ってね」
部屋を出ていく飯田。ふたりは顔を見合わせるとホッとため息をついた。
「長いっちゅうねん!」
「何か食べれるんれすかね」
- 224 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時35分30秒
「おまたせー」
しばらくしてふたりの前に出された、二つのマグカップ。
無言で目の前のモノを見つめるふたり
「ほら、カオリはリーダーになってすっごく大変だったわけ。ちっこい後輩は言うこと聞かないで暴れ回るし・・・」
何も言えないふたり
「もう、胃が痛くなってね、胃薬と牛乳が手放せなくなっちゃた。ふたりはまだ子供だから薬はまだ早いからね・・・どうぞ」
にっこり微笑む飯田。その表情からは何も読みとれない。
「「いただきまーす」」
ふたりが解放されたのはそれから数時間が過ぎてからだった。
ナメクジがその後どうなったかふたりは知らない。
- 225 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時36分36秒
「つぎいくで」
おもい足を引きずりながら、次へ向かうふたり
「今度はどこれす」
「サブのとこや」
「ののはもういやれす!あいちゃんひとりでいってくらさい」
(また反抗し始めたな)
「のの、おとついな・・・」
「なんれす!」
「ナンコツ食べたやろ」
「へい、あのコリコリ感がたまらなかったれす・・・ジュル」
うっとりとその感触を思い出す辻。
「あれな、仕事後にサブが楽しみにしていたんや」
「ひっ、あれは、あいちゃんが食べていいって」
あわてる辻。
「でも、ウチは一口も食うてへんしなー」
「・・・・・・」
「これ知ったらサブどうするかなー」
「・・・ののも行きます・・・」
「わかってもらえて嬉しいわ」
(ケッケッ)
- 226 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時38分09秒
「でどうしたのふたりそろって・・・」
「実は、後輩ができるにあたり、このままのお笑いキャラではマズいと思い、ぜひ実力派のおばち・・・保田さんに指導していただきたく」
「よろしくおねがいしやす」
「いい心構えね・・・まーかせなさい」
ソファーをかたずけ始める保田。
「なにするんれすか」
「なにってレッスンよ」
「カラオケでも行くんじゃ・・・」
「時間がもったいないでしょ!」
1時間後汗まみれでぐったりしているふたり。
「でぇー、もうだめれす」
「しむー」
「しかたないわね、お昼まだでしょ、今作るから」
そう言い残し保田はキッチンへ消える。
「気合いは入りすぎやっちゅうねん」
「なに食べれるんれすかね・・・ジュル」
- 227 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時39分38秒
「はい、おまたせー」
目の前に出された餃子ライス。
「芸能人はスタミナをつけないとね」
「じゃあいただき・・・・・・」
「ちょっと、まった!」
目の前に出されたコップ。
そこには、白い液体が注がれていた。
「保田さんこれは・・・」
「ニオイ消しよ。私たちはアイドルなんだから、気をつかわなければね。食事前に飲まないと効果ないから・・・さあ飲んで」
にっこりと微笑む保田。笑顔は怖かったが、他意を感じさせるものではなかった。「「いただきまーす」」
ふたりが解放されたのはそれからすぐのことだった。
それだけ気をつかっている保田自身がアイドルであるかどうかについてはまた別の問題である。
- 228 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時40分41秒
「さあつぎ」
足腰ガタガタになったふたりは、次の聖地を目指していた。
「もういやれす!あとはあいちゃん一人で行ってくらさい」
(またか・・・)
「あんなーのの」
「なんれす」
「きのう、ムースポッキー食べてたやろ」
「へい、あれはおいしかったれす・・・ジュル」
「あれ安倍さんのやねん」
「でも・・・」
「ウチは食べてへん、一本も」
「次は安倍さんのとこれすか・・・」
「いこか」
- 229 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時41分44秒
「で、なにしにきたの?」
部屋のソファーに沈み込み込んでいるふたりに安倍が尋ねる。
(しもた、なんも考えておらんかった)
「「・・・・・・」」
「まあいいか、もう三時だしおやつにする?」
「します、します」
「くらさい・・・ジュル」
キッチンに消える安倍。
(あいちゃん、安倍さんになんか悪いことしたんれすか?)
(そういわれれば、特になかったわ・・・でもおやつ食べられるんやからよかったやろ?)
(へい)
- 230 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時43分02秒
「はい、おまたせー」
両手いっぱいに抱えるほど大きなボールをテーブルの上に置き。
スプーンをふたりに手渡した。
「これはなんれすか?」
「なっち特製、杏仁豆腐だよー」
おそるおそるボールの中身をすくい口に入れるふたり。
「これね、前に、さやか、矢口、圭ちゃんが入ってきたときにも作ってあげたんだよ」
「・・・三人は何て言ってました?」
「すっごくおいしいって」
(あいちゃん、これ・・・・・・)
(そや、牛乳と寒天や)
嬉しそうにふたりを見つめる安倍の顔にはマリア様のような慈愛の表情が浮かんでいた。
「ひまだなーそうだ。なっち新しいギャグ考えたんだー聞いてー」
ふたりが牛乳の寒天固めを飲み込んでいる前でものまねを始める安倍。
(あかん、二重苦やー)
ボールの中身をからにしたふたりが接待から解放されたのはかなり日が傾いてからだった。
安倍さん笑いの才能はないですよと言えればどんなに気持ちよかったかと想像するふたりだった。
- 231 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時43分59秒
「今日はご苦労さん、残りは明日や」
「まだやるんれすか?」
「残りのふたりが肝心なんやで」
「・・・・・・」
「なんや、なんか言いたそうやな」
「いえ、いいのれす、ののは悟りました。一度仲間と宣言した以上、どんな悪人であってもそれを売ることはできない、例え世界中を敵に回して殲滅させられようとも。れす」
「うちはラディンか!」
「では、また明日れす」
赤い夕日に照らされたその後ろ姿は、重き十字架を背負って丘を登る聖人の姿を連想させた。
- 232 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時45分38秒
「おはようごぜーます」
「さあ、いこか」
「どっちが先れすか?」
「リーダーや」
「あいちゃん、ずいぶん迷惑かけてますから、きちんと謝るのれす」
「他人事みたいに言うな!」
「なんれれすか?ののは迷惑なんてかけてませんよ」
(その自信はどっからでてくるんや!)
「やぐーちさん遊びましょ」
ばたばたばた
ドアがあき矢口が顔を出した。そしてふたりを確認すると
ばたん
カチャ
「おかーさーん、塩持ってきてー」
「のの、ちゃうやろ!やぐちさーんあけてくださーい」
カチャ
ドアが少し開き矢口が顔を覗かせる。
「いじめる?」
「いじめないよー」
(ぼのぼのかよ!)
- 233 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時46分27秒
「なにしたんだよー、また矢口が謝りに行くのかよー」
不安な表情で落ち着きなく部屋をうろつく矢口。
「だからそうでなくて、日頃のミニモニリーダー矢口さんに感謝し労をねぎらおうと・・・」
「そうれす、矢口さん、えらーいれすー」
疑わしげにふたりを見る矢口。
「矢口さん」
「「えらい」」
「ミニモニリーダー」
「「さいこー」」
- 234 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時47分08秒
ちょっと考えてた矢口はなにかを思いついたらしく、ふたりを残し部屋から消える。
「全然信用せんなー矢口さん・・・」
「あいちゃんの日頃の行いがワルいせいれす!」
「ののも同罪やろー」
「ののはいい子れす!」
(だから、その自信はどっから出てくるんやー)
「まずはこれを飲め、そしたら信用する」
ふたりの前に出される二つのコップ
その中身は・・・
(鬼、鬼やー)
(こんなにかわいいののに、なにをするんれすかー)
涙目で訴えるふたりを凝視するその目には、何者にも曲げることのできない強い意志が感じられた。
その後、矢口からミニモニ結成当時からの数々の苦労(愚痴)話を聞かされ続けたふたりが解放されたのは数時間後のことであった。
矢口の髪の色が薄くなったのはハゲ隠しのためと聞いてちょっと同情したふたりだった。
- 235 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時48分29秒
「やっと最後や・・・」
「もういやれす!ののは、ここで帰らせてもらうれす!」
(またゴタゴタ言い始めよったな・・・)
「ののは、後藤さんを尊敬しているのれす。その後藤さんに迷惑をかけるあいちゃんは・・・」
「そっか、それじゃしゃーないな・・・ののこれ食べるかー?」
天津甘栗を手渡す加護。
「いたらきます」
「まだあるからなー、いっぱい食べーや」
「皮むき甘栗なんてのもありますがあんなのは邪道れす。こうやって一つ一つ殻をむいて食べるのがいいのれす」
もくもくと食べ続ける辻。
「食べ終わったな、ほな行こうか」
「ののはもう帰ると・・・」
「栗うまかったかー?」
「へい」
「あれな、後藤さんのやねん」
「・・・・・・」
「うちは食べてへんで・・・一粒も」
「・・・・・・」
- 236 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時49分23秒
「あとな、おみやげ買うてくけど、後藤さんの家で食うたらあかんで」
「なんれれす?」
「ののは食い始めると危険な状態になるからや」
「・・・後藤さんに勧められても?」
「食うな」
「・・・後藤さんが泣いて頼んでも?」
「あかん」
「・・・ぐしっ」
「泣くな!」
- 237 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時50分31秒
「よく来たね」
「これ、おみやげですねん」
「あれー、気をつかってくれなくてもいいのに」
机の上に広がるお菓子の山。
「じゃあ、いただきまーす。・・・あれ?ふたりも食べれば」
「いやー、来る前に食べてきたから、なあのの!」
「・・・へい」
「ふーん」
モクモクと食べる後藤を涙目で見つめる辻。
「あっ、そうだ。ふたりにはまだ話してなかったよね」
ビクッ
「市井ちゃんが復帰するんだよー」
「・・・それはよかったですなー」
「うん」
「それで、いつ頃なんですか?」
「なんか年末から動き始めるみたい」
「そうですか・・・これで、娘。も14人ですね」
「えっ??ちがうよ」
- 238 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時55分41秒
「ちがうって?」
「市井ちゃんはソロでやるんだよ」
「・・・ホンマ?」
「うん」
「・・・のの」
「ぐしっ・・・なんれす、あいちゃん?」
「食ってええで」
「ほんとれすか!いったらきまーす!」
「なんや、ソロなんや・・・あせって損したわ」
「?」
「ごっちん、あんまり食べると腹ピーピーになるでー」
ガツガツ
「ケッケッ、なんや娘。に復帰やないんや」
「??」
ガツガツ
「茶ーでも出せや、うんこ」
「???」
ガツガツ
「じゃあ、ひとつうんこのためにうんこ踊りでもしたるかいな」
ガツガツ
お尻を向けるため後ろを振り向いた加護は、その場で凍りついた。
「あっ、市井ちゃん。おそかったねー」
加護の前に目を丸くして立っている市井の姿があった。
背中を冷たい汗が流れる。
ガツガツ
「出がけに昔の友達と会ってたから・・・」
ガツガツ
(のの!)
「うっさい、いま忙しいのれす!」
(市井さんや!挨拶)
ガツガ・・・ゴクッ
- 239 名前:因果応報 投稿日:2001年11月14日(水)23時57分07秒
「ふたりとも、あいかわらず・・・元気そうだね」
「いやー、市井さんの方こそお元気そうで、お久しぶりです」
「・・・れす」
「後藤からよく聞いてるよ。楽屋をずいぶん明るくしてるんだってね」
「は、はあ」
(微妙な言い回しやなー・・・)
後藤を振り返るがその笑顔からは何も読みとれない。
「そうだ、ちょうどよかった。友達からおみやげもらったんだった。一緒にどう?」カバンから瓶を取り出す。
((うげっ))
「ジャージー牛乳
ジャージー牛乳だけのプレミアムミルク
濃さがだんぜん違います!」
(あいちゃーん)
(ののー)
「市井ちゃん、ふたりとも牛乳はダメなんだよー」
(神よー)
「あれっ?そうだっけ」
思いきりうなずくふたり。
「でも、給食に出るやつって、水っぽいからダメって人多いんだよね。
これ千葉マザー牧場特製の濃いー奴だから飲んでみ」
「あっ、そうかも。」
「「・・・・・・」」
- 240 名前:因果応報 投稿日:2001年11月15日(木)00時00分40秒
「辻は後藤みたいになりたいんだろ。牛乳飲まないとボインボインになれないぞー」
「もうやだー、市井ちゃんたらー」
「加護も飲んだら、髪の毛濃くなるかもよ、ウッシッシッ」
(そんな話聞いたことないわ!ちゅうかあんたに言われたないわ!)
「「それ!いっき、いっき、いっき!」」
かけ声にあわせ一気に飲み干すふたり。
((うげー))
特製の極濃牛乳は今まで飲んだものの比ではない生臭さをふたりに与えていた。
「なあ、美味かっただろう。なあ、なあ。おいしいよなあ」
市井のいきおいに、押され思わずうなずくふたり。
「そっか、やっぱりなーよかった。・・・たくさんもらったから遠慮なく飲んでな」
カバンから次々に取り出される瓶。
(ののー)
(あいちゃーん)
「後藤、ちょうどいいや、本家がいるんだから練習の成果を見てもらおう」
「あっ、そうだね」
苦行を続けるふたりの前で、踊り出すふたり。
- 241 名前:因果応報 投稿日:2001年11月15日(木)00時01分16秒
ぱっぱ、すぱっぱ。おどろ さわご。
ぱっぱ、すぱっぱ。ぱぱぱだ、ぴょーん。
(いじめか?虐待なんか?わからんへーん。あの人のことは読めへんのやー)
(あいちゃんといるとろくな事にならないのれすー)
「「おいしい牛乳飲むのだぴょーん。かっかっかっ・・・」」
───終わり───
- 242 名前:わたしをたべて…だぁあく 投稿日:2001年11月17日(土)02時17分30秒
…ちゃん…かちゃん…りかちゃん。
「なあに?ひとみちゃん」
…お願い、あたしをたべて…
「何を言うの。そんなこと、あたしできない」
我慢していた涙が頬に流れていく…
…泣かないで。悲しいことなんかじゃないよ
「……」
…わたしは、りかちゃんといっしょになりたいの…永遠に
「ひとみちゃん…」
- 243 名前:わたしをたべて…だぁあく 投稿日:2001年11月17日(土)02時18分48秒
……………………
………………
…………
……
…
「ひとみちゃん!」
あっ
自分の声で起きてしまった…
そっと、目に手をあててみる。
泣いてる。小さな子供じゃあるまいし。
どんな夢だったんだろう…悲しいイメージの断片しか記憶に残っていない。
グ〜〜
おなかが鳴った。
(やだ、聞かれなかったでしょうね)
となりで寝ているはずのひとみちゃんをソッと見る。
「うそ!?」
そこには、巨大なたまごが横たわっていた。
まさか、あたしが生んだんじゃ…
ちょっと確かめてみる。
…違った。
「ひとみちゃん?」
なんの脈絡もなくわかってしまった。これはひとみちゃんだと、
あたしの愛する吉澤ひとみなんだと。
- 244 名前:わたしをたべて…だぁあく 投稿日:2001年11月17日(土)02時20分00秒
生なんだろうか?茹でてあるんだろうか?
こんなに大きいと回すことなんかできないし…
「あっ、そうだ!」
たまごのとがっている方の反対側に…
「あった!」
そこには針で突いたような小さな穴があいていた。
前にひとみちゃんが言っていた、こうしておいてから茹でると薄皮がきれいに剥けると。ということは、これはゆでたまごだ。
「ひとみちゃん、剥いちゃうよ?イヤだったら言ってね」
ちょっと待ってみたけど返事はない。
考えてみたらたまごに返事をされたらすっごく怖い。
- 245 名前:わたしをたべて…だぁあく 投稿日:2001年11月17日(土)02時21分03秒
思い切って殻を剥いてみる。
…ドキドキ
ひとみちゃんの言っていた通りにきれいに剥ける。
…ドキドキ
白い肌があらわになる。
…ドキドキ
すべて剥き終わった。
透き通るような白い肌が目に痛いほど…
ソッと唇をあてる。
吸い付くような感触
舌先で感触を楽しみながら、下から上へと舐めあげる。
唾液により艶めかしく光る白い肌
ちょっと震えた気がしてドキッとする。
真ん中に耳をあててみる。
……
- 246 名前:わたしをたべて…だぁあく 投稿日:2001年11月17日(土)02時21分53秒
(ホッ…)
ドキドキいってたらどうしようかと思った。
ひとみちゃんを抱きしめてみる。
まだ茹でたてなんだろう、暖かい。
ミルクの匂いがする。
「ひとみちゃん、食べてもいい?」
返事がないのはわかっている。
さっき見た夢の言葉が頭によみがえる。
…わたしは、りかちゃんといっしょになりたいの…
じゅん
(濡れてきちゃった)
誰かが言っていた、食欲と性欲はよく似ていると
今ならよくわかる。
あたしは早くひとみちゃんとひとつになりたい。
ソッと歯を立てる。
口いっぱいにひとみちゃんの味がひろがった…
- 247 名前:わたしをたべて…だぁあく 投稿日:2001年11月17日(土)02時23分24秒
- …
……
…………
………………
……………………
ブッー、ブッー、ブッー、ブッー、
(はっ、いけない居眠りしちゃった)
「やっと、目が覚めた」
よっすぃの声ではっきり目が覚めた。
恥ずかしさに耳まで赤くなるのがわかる。
「ずいぶん疲れてたみたいだから、ギリギリまで起こさなかったけどマズかったかな?」
「ううん、ありがとう」
そうだ、いまはCMの撮影の最中だったんだ。
扉の上にあるブザーが赤ランプを回しながら間欠的に鳴っている。
その下にあるカウンター。これがゼロになったら、扉を開けてセリフを言う…
頭の中で段取りを何度もシミュレーションしてみる。
「緊張してきた?」
「うん…」
「大丈夫。わたしがついてるから」
失敗したくない…これはあたしとよっすぃふたりだけでやる始めての仕事。
5…4…3…2…1…
ゼロ!
- 248 名前:わたしをたべて…だぁあく 投稿日:2001年11月17日(土)02時25分49秒
ガシュー…ガー
「何て快適〜」
静まりかえっている扉の向こう。
(あれっ、棒読みだったかな…)
(…かなり…)
突然きらめくフラッシュ。光の洪水。
一緒にわき上がる人の群れ。
人の間でもみくちゃになっていると、急に手を引っぱられた。
「なにするんですか!」
振り返ると、ごっちんが笑いながら手招きしている。
「こっち、こっち」
そのまま手を引かれながら、人混みを抜け出すと小さな事務室に案内された。
- 249 名前:わたしをたべて…だぁあく 投稿日:2001年11月17日(土)02時28分09秒
着くなりごっちんから話しかけられる。
「ふひゃー大変だったね」
「?」
「でもふたりで、あれだけ長いこと休暇を楽しめたんだから逆に嬉しかったんじゃないの〜。新婚生活みたいで…」
近くではマネージャーさんが、強い口調で話をしている。
「…困るんですよ!」
「ですから計画的ではないんです。事故なんです」
「それにしても、もしなにかあったら…」
「このシステムは宇宙空間での生活を目的とした技術を使ってるんです。
あの空間内ですべて完結してるんですよ。ユニット自体がひとつの地球と
いってもいい。空気も水も食物も人間がふたりいれば十分連鎖が始まるんです。
もちろん違約金は払わせてもらいます。会社と交渉して倍払ってもいい。
すごい宣伝効果になりましたからねウチの【核シェルター】の…」
(アイドルを一般人と一緒にしないでよ)
- 250 名前:わたしをたべて…だぁあく 投稿日:2001年11月17日(土)02時29分13秒
「ねえ、梨華ちゃん?」
「なあに?ごっちん」
「ヨッスィはどこかで、はぐれちゃったのかな…
記者の人に質問攻めにあってなければいいけど…」
- 251 名前:わたしをたべて…だぁあく 投稿日:2001年11月17日(土)02時29分57秒
「…ここにいるよ」
「永遠に…」
- 252 名前:わたしをたべて…だぁあく 投稿日:2001年11月17日(土)02時30分27秒
おしまい
- 253 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)15時50分59秒
トコトコやってきた辻さんに言われた。
「りっさちゃん、それたべてもいいですか〜?」
「あっ、どうぞ・・・」
返事をすると、嬉しそうな顔をして私の前にあるお菓子をすべて持って行ってしまった。
(少しくらい置いといてほしいのに・・・)
でもそんなこといえない。
嫌われたくないから・・・
私にはもうここしかいる場所がないのだから。
- 254 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)15時53分03秒
楽屋の中、みんな楽しそうにお話ししながらお菓子を食べている。
(みんなプロなんだから、すこしはダイエットすればいいのに・・・)
でもいえない。
冷たい視線を浴びるのが辛いから・・・
ここ以外どこにも行く気になれないのだから。
「りさちゃんは小食なんだね」
「ハイ・・・」
「ちゃんと食べないと体が持たないよ」
「ハイ・・・」
「まだ緊張してるんだね。初々しい」
「・・・・・・」
メンバーの人はみんな優しい。
きっと知らないからだ。
知ってしまったらみんな変わってしまう。
私の周りの人がそうだったように・・・
あんな思いはしたくない。
だから知られちゃいけない。
絶対に・・・
────
────
- 255 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)15時53分49秒
ある日ママから言われた。
「モーニング娘。のオーディションを受けなさい」
モーニング娘。は好きだった。もちろんオーディションがあることも知っていた。
でも、すごく大勢の人が受けることも知っていた。
現に周りの友達も受けると言っていた。何人も・・・
そのことをママに言ったら
「りさちゃんなら大丈夫。ママ信じてるわ」
うれしかった。
だからがんばった。
合宿で初めてママと離れたときも、ママの言葉を信じて一生懸命に。
発表の時、自分の名前が呼ばれてスポットライトを浴びた。
会場にいるママが見えた。
喜んでいた。
がんばって良かったと思った。
- 256 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)15時56分29秒
私のとなりにはいつもママがいてくれた。
ずっとママの言ったことを守っていた。
そうしていれば、
みんな優しくしてくれた。
みんな褒めてくれた。
だからこれからもずっとママに言われたことを守っていこうと思っていた。
- 257 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)15時57分12秒
モーニング娘。になってから周りが変わった。
最初はみんな喜んでくれた。
落ちた子たちは冷たかったけど・・・
でもだんだん話をしてくれなくなった。
小さい頃からのお友達もみんな私を避けるようになった。
ママに聞くと
「みんなひがんでいるだけよ気にしちゃダメ」
と言われた。
でも寂しい・・・
- 258 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)15時58分00秒
モーニング娘。のみんなは最初から優しかった。
お姉さんがいっぱい出来たような気がした。
新メンバーの三人ともすぐにお友達になった。
周りの人は誰もいなくなった。
私のいる場所はモーニング娘。だけになった。
- 259 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)15時59分08秒
不思議なことがあった。
ファンレターが私だけないの。
新人の他の三人には来ているのに。
マネージャーさんに聞いてみた。
「りさちゃんのは、お母さんからすべて預かるように言われてるから・・・」
そう言って逃げるようにどっかに行ってしまった。
ママに聞くと
「まだ早いから」
と言われた。
読めばもっと元気が出るのに・・・
- 260 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)16時01分01秒
町で買い物をしていた。
お洋服屋さんの前でジッと見ていたら、視線を感じる。
何気なくそちらの方を見るとかっこいい男の子が私を見ていた。
ちょっと意識してポーズを取っているとすたすたと歩いてきて、
無言で手紙を差し出された。
うれしい。
急いでおうちに帰り、ママに内緒でこっそり読んだ。
「・・・・・・」
ママに聞いてみた。
「そんなことあるわけないでしょ」
手紙を破り捨てながらママが言った。
ママは私のことを見なかった。
わたしはわかってしまった。
その日は一晩中泣いた。
- 261 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)16時02分49秒
────
────
突然肩を叩かれた。
驚いて振り向くとそこに矢口さんが立っていた。
「ねえ、りさちゃんちょっと」
矢口さんはにっこり笑って私の手を引く。
そのまま、使われていない部屋に連れて行かれた。
もしかしたら知られてしまったのかも・・・
私はビクビクしながら言葉を待っていた。
「りさちゃんさー」
「・・・」
「何か心配事ある?」
「・・・」
「なんか、もう一つみんなとうち解けてないというか・・・」
心配そうに話してくれる顔を見ながら私は思いだしていた。
入ってすぐの頃、
私の身長を聞いてくれた矢口さん
ミニモニはいる?と言ってくれた矢口さん
いつも優しく気を使ってくれた矢口さん
- 262 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)16時04分21秒
「もし何かあるなら矢口に話してごらん」
泣きたくなってきた。
この人にうそをついていてはいけない。
すべて知っていてほしい。
いろいろな感情のなかで、自然とあの手紙のことを話していた。
矢口さんはジッと聞いてくれた。最後まで
私はすべてを話し終えると言葉を待った。
どんな言葉でも受け止めようと思っていた。
「それだけ?」
想像もしていなかった言葉に思わず矢口さんの顔を見返す。
とっても不思議そうにしている顔が見えた。
「・・・ハイ」
- 263 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)16時05分15秒
矢口さんはいつものようににっこり笑ってくれた。
(許してくれたんだ)
涙がこぼれそうになる。
「そんなこと気にするなんて・・・」
「・・・でも・・・」
「みんな同じだよ」
「・・・?」
「みんなコネだから」
- 264 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)16時06分04秒
「・・・矢口さんも?」
「うん」
「安倍さんも?」
「そう」
「保田さん・・・」
「・・・・・・わかった?」
なんだ・・・
なんだ?!
なんだ!!
「な〜ん〜だ〜!!!」
そうか、私だけじゃなっかたんだ!
言われてみれば、そりゃそーか・・・はっはっ〜
「ありがとう、矢口!」
「矢口・・・」
- 265 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)16時07分22秒
私は部屋を飛び出していた。
(私だけじゃない!)
まるで、背中に羽が生えたみたい。体が軽い。
このまま空を飛べそう!
バタン
思いきりドアを開ける。
みんなの顔がこちらを向く。
(お友達だ!)
飛び込んだ勢いのまま宣言する。
「みなさん、お菓子の食べ過ぎです。プロなんですから、きちんと体重の管理ぐらいしましょう。特にそこの四人あんたたちよ!これからは私が管理します。
あとリーダーですけど、年齢なんか関係ないですから、歌のうまさ。可愛らしさ。トーク。どれをとっても、私がなるべきです。みなさんを導いてあげますからついてくるように。ちなみに芸歴も一番長いですしね。
あと・・・」
そこまで話した時
- 266 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)16時08分04秒
アチョー
後ろから衝撃が・・・
「誰が矢口だ〜」
呆気にとられていたメンバーが私に殺到する。
代打逆転サヨナラ満塁優勝アーチを放った近鉄の北川選手のように、
メンバーに手荒い祝福を受けながら私は思った。
- 267 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)16時08分43秒
「本当の仲間がいるって、すばらしい!」
あっ、前歯が折れた・・・
- 268 名前:にいにい 投稿日:2001年11月17日(土)16時09分22秒
Fin
- 269 名前:新メン@世界名作劇場 投稿日:2001年11月17日(土)19時46分54秒
- あ・・・紺野あさ美です・・・今回ナレーションやるように言われました・・・
緊張してます、けど、一生懸命がんばります・・・
- 270 名前:新メン@世界名作劇場 投稿日:2001年11月17日(土)19時47分42秒
- ・・・昔々深い深い森の奥、あいゼルとまこっテルという貧しいながらも仲の良い姉妹が
住んでいました。
「・・・・・・。」
「どうしたダス、真琴ちゃん?」
「いや、ヘンゼルとグレーテルは分かるんだけど、『あいゼルとまこっテル』って・・・安易じゃない?」
「まあ、梶原一騎っぽくならないための配慮ってことダス。
ワタスも最後になって刺殺寸前の真琴ちゃんと抱き合うのは嫌ダス。」
(・・・あのう、2人ともそろそろ森へ出かけてくれませんか?
話が止まってるって、後で怒ってるみたいなんで、お願いします)
「しょうがないダスね、あさ美ちゃんもああ言ってることだし、そろそろ出かけるダス。」
「そだね、ところで、今日里沙ちゃんは?」
「・・・よしっ、出発するダス!」
- 271 名前:新メン@世界名作劇場 投稿日:2001年11月17日(土)19時48分36秒
- 苺を摘みに森のさらに奥にやってきた2人。ところが夢中になりすぎて、帰り道が
分からなくなってしまいました。
そのうちに日も暮れてきて、次第に心細くなる2人に前に現れたのは、おいしそうな
お菓子でできた家でした。
「まあ、話の流れがなかったら絶対に近付くことすらしない家だね。って何してるの愛ちゃん?」
「フンッ、フンッ・・・駄目ダス、いくらアンテナ振っても圏外ダス。」
「あんた何でそんなん持ってるのよ、最初にあさ美ちゃんが言ったでしょ『昔々』って!」
「んだども、せっかくこっちさ来てはじめて手に入れた光るアンテナ、1回くらいは
光るトコ見てみたいダス。」
(・・・あのう、また脱線してるみたいなんで・・・魔女の人も待ってるみたいなんで、
あと、携帯は一応切っておいてください、スイマセン・・・)
「ああ、ハイハイ、今行くから、ほら愛ちゃんもいつまでも携帯振ってないで行くよ。」
「・・・分かったダス、その代わり帰ったら必ず1回電話してほしいダス、約束ダス。」
- 272 名前:新メン@世界名作劇場 投稿日:2001年11月17日(土)19時50分50秒
- おいしそうなお菓子の匂いにつられてやって2人でしたが、そこはなんと魔女の家でした。
魔女の魔法で眠らされてしまった2人は、牢屋に閉じ込められてしまいました。
そして、魔女は長い髪をなびかせて、毎日牢屋にやって来ては「ねぇ、笑って」と言いながら、
たくさんのお菓子を置いていくのでした。
- 273 名前:新メン@世界名作劇場 投稿日:2001年11月17日(土)19時52分11秒
- 「って、このナレーションどう考えても、飯田さんなのに、何で辻さんが魔女なんですか?!」
「けふん、いいらさんたちはタンポポの新曲が出て忙しいのれ、ののが代わりにやってるのれす、
ちなみにプッチの皆さんも忙しいのれ、暇なのはののだけなのれす、くすん・・・」
「あ〜あ、真琴ちゃん聞いちゃいけないことを訊いてしまったダスな、辻さんの目が
ミニモニ結成前の目になってるダス。」
「・・・あー、辻さん、ゴメンナサイ。いや、ホント辻さんその黒装束に合ってるから大丈夫ですって、
ほら、とってもかわいいし。」
「ほんろ?」
「うん、ほんとダス、ハロウィンになると街に溢れるガキのようで、とってもかわいいダス。
ところで、原作なら閉じ込められるのは1人だけのはずダスが?」
「けふん、それをすると残った1人にののがかまどに放り込まれるの2人とも閉じ込めたのれす
それに、モーニングに入ったからには1度は太ってもらわないといけないのれす、
いい機会なのれす。」
(いやなグループですね・・・いえ、嫌いとかそんなじゃないんですけど・・・
あ、スイマセン、続き読みます)
- 274 名前:新メン@世界名作劇場 投稿日:2001年11月17日(土)19時55分04秒
- それから数日。
魔女の作戦どおり、お菓子を食べてばかりの2人は少しずつ丸々としてきました。
「愛ちゃんちょっと顎が丸くなったね。」
「そういう、真琴ちゃんもエラが消えてきてるダスね。」
「・・・そろそろ2人で運動したほうが良くない?」
「運動ダスか?そんな、ワタスたちまだ早いダス!それにできれば最初は男の人がいいダス。
けど、これを機会に他の新メンに先駆けて『あいまこ』とかいうのを確立するのも悪くないダスな。
よしっ、覚悟を決めたダス、その代わりワタスは女の子らしいイメージを壊したくないダスから、
受けがいいダス、さあ、どこからでも来るダス。」
- 275 名前:新メン@世界名作劇場 投稿日:2001年11月17日(土)19時56分06秒
- 「・・・あのね、気持ちは嬉しいんだけど、わたしが言ったのはどっちかっていうと
保体の体育の方なんだよね、ストレッチとか筋トレとか、だから、できれば保健の方は
他の人とやってくれるかな、ほらそのはだけたシャツ直してね、いや、そんな目しても
ホント無理だから、ねっ。」
「・・・ふぅ、これだから都会もんは意気地がなくて嫌ダス、人をその気にさせといて・・・ブツブツ。」
(あのう、2人ともちゃんと台本読んでますよね?お願いですからちゃんとやってください、
わたしが怒られますから・・・いえ、決して怒られるのが嫌で言ってるわけじゃないんですけど、
その・・・お願いします)
- 276 名前:新メン@世界名作劇場 投稿日:2001年11月17日(土)19時59分07秒
- さらに何日かがたつと、魔女が2人の様子を見にやってきました。
「う〜ん、2人とも予想以上の早さで肥えたれすね、さすが娘。のメンバーれす。」
「あっ、辻さん久しぶりです、で、やっぱりわたし達を食べに来たんですか?」
「いや、今回はたしかカニパリズムは無しの方向なんれ、それはしないれす。
正直、ののもこの後のことは聞いてないのれ・・・どうしまふか?」
「とりあえず、こういう話では、魔女を倒して家に帰れば終わりなんですけど。」
「じゃあ、ののは今考えるべきことが多くて倒されてる暇はないのれ、2人で勝手に
脱出して帰ってくらさい。
ところで愛ちゃんの声が聞こえないみたいれすが?」
「ああ、最近では食べてるとき以外は寝てます。お陰で、私の倍くらいのスピードで成長してます。」
「それは、とっても優秀に『辻の道』を歩んでまふね。そのうち昔の写真を2chに貼られて、
『もうこの世にいない少女』なんて、タイトルを付けられないように気をつけるように
伝えておいてくらさい、じゃあ、ののはこれでもう行くのれ。」
「はい、分かりました。辻さんもミニモニ頑張ってください。」
- 277 名前:新メン@世界名作劇場 投稿日:2001年11月17日(土)19時59分31秒
- (あのう、魔女倒さないんですか?)
「まあ、ある意味精神的には木っ端微塵みたいだからこれ以上はいいんじゃない。
ところで、あさ美ちゃんはわたしたちが大きくなってる間何してたの?」
(いや、別に・・・ちょっと退屈だった・・・)
「そう・・・ごめんね、変なこと訊いて。
さて、それじゃ、帰る準備しようかな。」
- 278 名前:新メン@世界名作劇場 投稿日:2001年11月17日(土)20時00分05秒
- それから丸1日かけて牢屋の壁を食い破った2人は、本体の活動が始まるまでお菓子の家に
引きこもることにした魔女に追われることもなく、無事家路につきました。
「それにしても、今回は参ったダスな、まさか体重と体脂肪率が並ぶ体になんて成れるとは
思わなかったダス。」
「あと、ガンマ値もえらい事になってるね。」
「とりあえず、チョコレートの食べすぎでできたにきびは、矢口さんのパテを借りて
何とかするとして、この体どうするダスか?」
「まあ、そのへんはあとで安部さんと後藤さんに相談すればいいんじゃない、
奇跡の体現者だからね。」
「石川さんには聞かないんダスか?」
「それは駄目、あれは無かったことになってるんだから。
それより、ホント今回里沙ちゃんは?」
「・・・言わないダスか?」
「うん。」
「この企画の前に、コンピューターで太った新メンをそれぞれシュミレートしたんダス。」
「それで?」
「理沙ちゃんは放送コードに触れてしまったんダス。」
「・・・・・・」
以上、新メンによる世界名作劇場でした。
- 279 名前:新メン@世界名作劇場 投稿日:2001年11月17日(土)20時00分36秒
- ・・・あの、今回の報酬はいただけるんでしょうか?あっ、いえ、無理にとは言いませんけど
えっ、何がいいかって?・・・その・・・現金は何かとまずいんで、商品券で・・・
おしまい
- 280 名前:トロピカ〜ル食して〜る 投稿日:2001年11月17日(土)22時09分33秒
- んふ。
んふふふふ。
今私は、ものすごくゆるんだ顔をしているんだと思う。
顔面が富士山の雪崩くらい崩れてるんだと思う。
あれ?富士山って雪崩するっけ?
ま、いいや。
多分、ぱっと見は、ちょっと不思議少女をかもし出しているんだろう。
というか、不気味なのかもしれない。
さっき、紺野ちゃんが私の顔を見ておびえてたし。
でも。
誰にどう思われようと、私は構わない。
だって、今私は最高に幸せなんだから。
原因は、ちょっと前。
仕事が終わって、帰ろうとしていた時。
- 281 名前:トロピカ〜ル食して〜る 投稿日:2001年11月17日(土)22時10分42秒
『ごっちん、明日オフ?』
『え?そうだよぉ。なっちはオフじゃないの?』
『何か仕事があるみたいなんだぁ。いいなぁ、オフ。』
『そっかぁ。頑張ってね』
『うん!んでね、ごっちん』
『ん?』
『明日、夕食一緒に食べない?』
『はえ?』
『何か、ごっちんと食べたいなぁ、って』
『ごとーと?』
『うん』
『晩ご飯を?』
『そう』
『なっちが?』
『うん』
『一緒に?』
『そーだよぉ』
『・・・・』
『・・・・?ごっちん?』
『いいいいいいいい逝く!』
『うわ!何?急に?』
『逝く!絶対逝く!』
『そ、そぉ?嬉しいな。じゃあなっちが腕によりをかけて作るね!』
『て、手作り?』
『そう・・・だけど?』
『絶対逝くから!てんちしんめいに誓って逝く!』
『う・・うん(何かすごい迫力)』
『じょうしゃひっすいに誓って逝くから!』
『ごっちん、使い方間違ってるよ・・・それに『逝く』じゃなくて『行く』っしょ!』
はあ・・・・・後藤真希、生まれて初めて『心から幸せ』だと感じました!ザッツオーライ!
- 282 名前:トロピカ〜ル食して〜る 投稿日:2001年11月17日(土)22時11分22秒
- 次の日。
なっちは夕方まで仕事だから、約束の時間まで暇つぶしをしなきゃならない。
あいにく、誰とも遊ぶ約束はしてなかった。
とりあえず顔を洗って、朝ご飯は何にしよう、と思っていたところにメールが入った。
画面には『よっすぃ〜』という文字。
『ごっちん、おっは〜^^朝ご飯食べた?まだなら一緒にどっかに食べに行かない?』
『いいよぉ。んじゃあいつもんとこで待ち合わせね』
『おっけー^^」
こうして、よっすぃ〜との朝ご飯が決定した。
よっすぃ〜はやたらお腹がすいていたらしく、ベーグル屋さんで大量のベーグルを食べた。
なぜかよっすぃ〜は気前がよくて、おごってくれるって言ったから調子にのって食べまくってしまった。
お腹いっぱい♪
その後、よっすぃ〜は用事があるらしく、別れた。
多分、やぐっつぁんとデートなんだろうなぁ。
ふーんだ、ごとーも夕方はなっちとデートだもーん!
えへへへ・・・・
- 283 名前:トロピカ〜ル食して〜る 投稿日:2001年11月17日(土)22時12分04秒
- ウィンドウショッピングをしてブラブラしていると、着信があった。
梨華ちゃんからだった。
『ごっちん、お昼一緒に食べない?』
「あ〜・・・うん、別にいいけど」
『やったぁ。あのね、約束してたんだけど、ドタキャンされちゃってね、それで』
「何食べるの?」
終わりそうにない梨華ちゃんの話を聞かないようにするため、話題を変えた。
『えっと、いいパスタ屋さん知ってるんだ』
「いいねぇ〜」
『し・か・も。近くにケーキ食べ放題のお店もあるよ』
「ホント!?」
「食べ放題」という言葉につられてオッケーしてしまった。
これが、悲劇の始まりだったんだ・・・
いや、もしかしたらよっすぃ〜の時から始まっていたのかもしれないなぁ・・・
- 284 名前:トロピカ〜ル食して〜る 投稿日:2001年11月17日(土)22時12分53秒
- 「ごっちん、もうおしまい?」
「ぐ・・・・もう・・・・はいりましぇん・・・・」
「えー、まだいけるでしょう?ごっちんだよ」
「いや意味わかんないよ梨華ちゃん・・・ごとー・・・も・・・ダメ」
あれから、梨華ちゃんとパスタを食べた。それはよかった。
次がいけなかった。
ケーキ。
梨華ちゃんを狂わす魔性の物体だね。
梨華ちゃんが何個食べたかは、なんていうか、怖くて言えないけどさ、とにかくものすごい食べっぷりだった。
ごとーは、またまたつられて、20個食べちゃった。あはは・・・
「ケーキは入るところが違うの♪」
なんて言いながらパクパク食べる梨華ちゃんを見てたら、すでにお腹はいっぱいなのに、さらに気分的にお腹がいっぱいになって、何だか気持ち悪くなってしまった。
「えーごっちんもう行っちゃうのー?」
とか言いながらさらにパクパク食べる梨華ちゃんを置いて(モチロンお金は置いていったけどさ)私は店(ケーキ食べ放題一人2000円)を出た。ヤバイ。今にもリバースしそう。
今体重計ると・・・・・ものすごい事になっていると思う。
- 285 名前:トロピカ〜ル食して〜る 投稿日:2001年11月17日(土)22時13分33秒
- 絶対無理。確実に。
梨華ちゃんの話を面白くするくらい無理。
圭ちゃんの絵を並の上手さにするくらい無理。
そして、お腹が膨らんだまま約束の時間になった。
- 286 名前:トロピカ〜ル食して〜る 投稿日:2001年11月17日(土)22時15分52秒
- ガチャ。
ドアを開けると、満面の笑みを浮かべたなっちが出迎えてくれた。
「いらっしゃ〜い」
「えへへ〜こんばんわ〜」
「もうご飯準備できてるからね」
「う・・・うん」
食卓の上に並んだ料理を見て、後悔した。
朝から食べるんじゃなかった、って。
「多い」なんてもんじゃなかった。
「ヤバイ」って言ったらピッタリくるかなぁ。
「ごっちん、いっぱい食べてね」
か、可愛い!!
ごとー、死んでもいいから全部食べるね!!
ホントに死んだらごめん。でもなっちの料理で死ぬんだったらごとー、本望だよ。
- 287 名前:トロピカ〜ル食して〜る 投稿日:2001年11月17日(土)22時17分13秒
- ぱくぱく。
「あ、ごっちん、このスペアリブ美味しくできてるはずだよ」
「うん、おいしーよぉ」
ぱくぱく。
「ごっちん、このカラアゲ上手くいってるっしょ?」
「ほんとだぁ・・・美味しいや・・・」
ぱくぱく。
「ごっちん、このビーフストロガノフどぉ?」
「すごく・・・・美味しいよぉ・・・」
ぱくぱく。
「ごっちん、このヘビの蒲焼なかなかっしょ?」
「かなりいいねぇ・・・・・・・え゛?」
何だかヘンな所もあったけど、とりあえず全部食べた。
今ソファで寝ている。動いたら、即リバースな気がする。放送禁止だ。
- 288 名前:トロピカ〜ル食して〜る 投稿日:2001年11月17日(土)22時18分12秒
- 「ごっちん♪」
「んあ?何ぃ・・・・?ちょっと今、動けそうにないんだけど」
「え〜デザートまだ食べてないよぉ」
「うぇ!?いや、あの、えっと・・・・」
「・・・・あ、うん、嫌ならいいよ・・・無理しなくても・・・」
「た、食べる!いやー食べたかったんだよね!デザート!」
だってさ、なっち泣きそうな顔すんだよ?
食べるしかないじゃん!うぷ。
- 289 名前:トロピカ〜ル食して〜る 投稿日:2001年11月17日(土)22時18分52秒
- デザートはどんな物が来るんだろうと思っていたら、急に電気がオレンジ色の豆球になって。
???と思っていたら、なっちの顔が目の前に。
その顔がどんどん大きくなってきて。
唇にチュッ、って感覚がした。
「え?え?え―――――!!?」
「なっちが・・・・・デザート・・・・」
薄暗い中でもはっきりわかる、なっちの真っ赤な顔にお腹のつかえなんてどこかに吹っ飛んで、ごとーは・・・・。
そのあとは、アレがナニで。
まあそのイロイロとね。
あは。
- 290 名前:トロピカ〜ル食して〜る 投稿日:2001年11月17日(土)22時20分04秒
- 翌日。
「むー、ねむーい・・・・」
「あれ?ごっちん、どしたの?」
「ん〜、ちょっとデザートの食べ過ぎぃ〜」
ごちそうさまでした。
- 291 名前:トロピカ〜ル食して〜る 投稿日:2001年11月17日(土)22時50分05秒
- >>285の前に
ていうか、今3時なんだよね。
なっちとの約束は6時。
あと3時間でお腹をすかせなきゃならない。
これ、忘れてました。
失礼しました。
- 292 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時03分17秒
- おことわり
この作品には、
1.未青年の飲酒を助長する描写
2.未青年の性交渉を助長する描写
3.ある種の性描写
が含まれています。
このため、まことに勝手ながら準成人向け(R指定)作品とさせていただきます。
15才未満の方は閲読をご遠慮ください。
同じく、卑猥な描写に嫌悪感を感じられるという方にも、ご遠慮下さるようお願い申し上げます。
また言うまでもないことですが、仮想モーニング娘。に関してご理解をいただけないという方は、今すぐこのウインドーを閉じるよう強くお勧めいたします。
もし閲読をご遠慮なさる場合、投票に際しては1点をおつけ下さい。
同時に、その旨を記載していただければ幸いです。
以降しばらく読み飛ばし、引き続き >>316-999 より、第4回オムニバス短編集をお楽しみ下さい。
仮に御高覧いただいた場合も、当面の間、感想あるいは投票スレッドでの性描写に対する具体的な言及はお控え下さい。
企画への適合性に関してもご意見頂ければ幸いです。
- 293 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時05分31秒
- メモをたよりに訪れたドアにはこぎれいなクリスマスリース。
携帯の液晶を見ると、確かに年末が近い。
一昨日までは、この数字が31になるのをうかれながら待っていた気がする。
そう思うと、このリースが余計に腹立たしい。
私は携帯をコートのポケットに突っ込み、力強くチャイムを押した。
今日の日付になって、すでに2時間が経過している。
彼女はまだ起きているだろうか。
私は苛立ちながらも、再度チャイムを押す。
「はい」
あやふやな声。
真夜中に芸能人の家を訪ねているのだから、出てくれただけでも幸運というところか。
「後藤です」
私は声のトーンを出来る限り下げ、インターホンに向かって呟く。
しばらくの間、返答がない。
「後藤真希です」
せっつくように言うと、インターホンの向こうからため息が聞こえてきた。
少々お待ち下さい。
待つことしばし。
「今晩は、珍しいお客さん」
そう呟くと、彼女は髪をかきあげた。
「中に入れて」
彼女は無言で私を玄関に通した。
靴を脱ごうとした時、後ろから声がかかる。
「生意気なところまで紗耶香に似ちゃって」
ドアが閉められる。
「そう言うの、彩っペだけだよ」
- 294 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時06分04秒
- リビングに入ると、そこは思った以上に片付いていた。
部屋数はそれほど多くはなさそうだけど、キッチンとはカウンター続き。
冷蔵庫は小さいやつだった。
「座ってて」
言われて深めのソファに腰かける。
目の前には低いテーブル。
その上にはシャンパンかなんかのボトル、既につがれたグラス。中央に置かれた深皿。隣にはラベルのついた瓶。
「何これ」
皿からひとつつまみ出すと、はっきりとした匂いが鼻まで届く。
「瓶詰めオリーブ
よかったらどうぞ」
「納豆みたいな匂い」
別に納豆が嫌いなわけでも、その後思ったマスタードが嫌いなわけでもなかったけど、私はつまんだ一つを皿に戻した。
グラスをもう一つ持ってきた彩っペは、細長いテーブルの対に腰かけると、オリーブをひとつつまんだ。
「ま、酒の肴ってやつよ」
言いながら、持ってきたグラスを私の前にだす。
「飲むでしょ」
コルクの栓が抜ける音。
無言でうなずく。
向こうから酒を勧められたことに、少々戸惑いつつも。
- 295 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時07分53秒
- 金色の液体を注いでいる彼女の右手で、銀色の鎖が音をたてずに揺れる。
栓を閉める指を目で追っていると、持ち上げられたグラスが傾きとともに反射面を変えた。
「とりあえず乾杯」
慌てて自分のグラスを手にとり、重ねる。
グラスのふちに口づけた瞬間、果実の香りが通り抜けて行く。
香り高いとか、値段がどうというわけでは特になく。
ただ、それまで私の持っていたアルコールのイメージとは少し違う、フルーティーな風味を持っていた。
「飲み屋の娘にしちゃ、飲みっぷりが悪いよ」
鼻腔をかすめる感覚を味わっていると、向かいの彼女はすぐにグラスを半分にしていた。
「日本酒じゃないんだから、ちびちび飲まない」
その時になってやっと気付く。
彼女の頬はかすかに上気していて、口調は微妙に舌足らずで。
ここに来るまでに色々なケースを思いめぐらせていたけど、相手が既に酔ってるのは、算段に入っていなかった。
さほど意外なことでもないのに。
それは計算の甘さなのか、それとも本当に感情の現れなのか。
ため息ひとつ、うざったい考えを流すように私はグラスを傾ける。
「はは」
彼女の笑い声が熱を帯びて伝わり、私は一口でそれを飲み干した。
- 296 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時10分18秒
- 食器棚の言われたところからピーナッツを持って戻ると、彩っペは雑誌をめくっていた。
「どうやってここまで来たの」
「タクシー」
私も適当なのを選ぶ。
「そう」
彼女は顔をあげることなく、少しばかりゆったりと呟いた。
許可なく私的な所にタクシーを走らせてはいけない決まりになっていた。
そんなの、気にしたこともなかったけれど。
「気をつけてよね
後藤真希のお泊り情報なんて、いくらになるかわかんないんだから」
「どっか持ちこめばもうかるかな」
私がグラスに注ぎながらそう言うと、彩っぺはこちらに顔を向けた。
「今それをやるのは賢くないと思うけど」
彼女は本当に呆れ顔をしていた。
大人を不機嫌にさせる類の冗談というのはある。
普段は愛想良くしてくれてる人にでも、ため息をつかれたりする。
それはそこらの悪ガキを見て私がつく息と何もかわらない。
最近よく実感させられることの一つ。
グラスに口づけながらそんなことを考えていた。
その間に彼女は雑誌をひざに置く。オリーブをつまむ。その手が口に運ばれる。
そこまでおぼろげに目で追うと、私の視線は動きを止めた。
彼女が私を見ていた。
「どうしてうちに来たの」
- 297 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時10分54秒
- そこからは、タクシーの中で考えていた通りに述懐することになる。
その時すでにアルコールが回りはじめていて、話していく内に理性などすぐにとんでしまった。
自ら外しかけた枷、道具を使えばなおさら簡単に壊れる。
今から思うと、それは彩っペの思惑だったのかもしれない。
深夜の訪問は明らかに感情的なもので、しかし彼女が落ちついたリアクションを見せていて。
私が落ちつける状態であるのを示してから、再度酒を入れて渦に溺れさせた。
あながち考えすぎとも思えない。
アルコールは常套手段。それに彼女も既に少し入っていた。
感覚的なものを思惑とまで言って良いものか、ただそれでも結果として私は動かされていった。
本来なら顔をみてすぐに事情を尋ねられると思っていたのに。
ともかく、私は呑む速度を速めつつ具述を続けた。
彼女は熱心に聞き入るというわけでもなく、しかし適当な相槌だけをうつというわけでもなかった。
何をしていたかと言えば、それは話を聞く以外は呑んでいたんだろう。
- 298 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時11分26秒
- 「はいはい、見えてきた見えてきた」
ひとしきり私が言葉を並べた後、彩っペはそう言ってグラスをテーブルに置いた。
指をグラスから離した後、彼女は人差し指でテーブルを弾いた。
「要約するとだね、市井ちゃんとケンカして」
私は左頬を拳で殴られていたのに、彼女の言葉はずいぶんと軽く響いた。
「で、抑制の反動で他の人間にすがりつきたかった、と」
彼女は空気を強引に支配するように、要約を続ける。
この時点ですでに彼女を睨み据えていた、私に目を向けることなく。
「ただ男に組敷かれるのはなんとなくしゃくだった」
その通りだった。
狼どもに口笛を吹かせたい時というのも確かにあるけれど、その時はそういう気分じゃなかった。
あまりにも彼女の言う通りで、私は眉間に力をこめた。
「それでどうせならと、もうすぐいなくなる私のところに来た」
感情的な直情径行に、理屈を求めても意味は無い。
思いつきの細かい部分は、誰にとってもどうでもいいこと。
ただ漠然と不適切な要約に思えた。
断片的には、心の裏まで見透かされていたほどに、言い当てられていたのに。
何よりしゃくだったのは、彼女が最後まで付加疑問を用いなかったこと。
- 299 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時12分03秒
- 「ただグチを聞いてもらいに来たわけじゃないんでしょ」
どこまで掴まれているのか、私は彼女を見置く。
受け入れられるか心配しながら待つ緊張感。
人はこういう空気を“面接会場のような雰囲気”と言うのだろうか。
視覚が焦点を絞り、脳が判断するまで、私はそんなことを思い浮かべていた。
いくら現実に思考回路が割かれようとも、煩悩と言うか、無駄なことを考える余裕は持ち合わせている。
彼女の表情をはっきりと認識したのは、その二三秒程後。
そこにあったのは非難ではなく、意地悪な彼女の目つき。
途端に安堵感が体を抜けて行き、それとは別の期待感に顔がゆるみそうになった。
彼女の指が私の顔に近づいてくる。
私はじっと動かずに待つだけ。
「どうですか」
「うん」
できるだけ感情を隠して、受け答えする。
すがりつくにも、あからさまな思惑を見せてはいけない。
彼女の指が私の下顎に触れる。
そのまま私の下唇は引っ張られ、歯茎を冷ややかな空気が撫でる。
彼女の瞳は細められ、明るい色の唇が扇情的に照明を反射する。
アルコールがいい具合に気分を高めてくれていた。
- 300 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時12分35秒
- 恋情に突き動かさるように、やけになって他の人間のもとに走る。
だけど、それだっていいと思うようになっていた。
離した指に私の紅がうつるのを見て、彼女は息を吹きかけた。
「ねえ、私にその気がないとはおもわなかったのかしら」
「昔、裕ちゃんとやってたって聞いた」
私の言葉は随分と淫猥に響いた。
「まったく、矢口もロクなこと言わないんだから」
本当は、私にそのことを話したのはカオリだった。
でも、彼女はあまり快くなさそうにその話をしていた。
カオリだって同性愛自体に抵抗があるわけではない。
その時のカオリの言葉を借りれば、彼女達の恋は真剣ではなかった、と。
理想化なのかもしれないけど、それはとてつもなく甘美な情感にあふれていた。
「何でれっとした顔してんの」
顔をゆるめた私が彼女を見向くと、その瞬間に口許の筋肉だけが緊張を取り戻した。
「私がいつ、受け入れるなんて言った」
- 301 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時13分16秒
- 「え、って」
「悪いけど、後藤を抱く気にゃなれんのよ」
具体的な言葉遣い。言葉返しの拒止。再度意地悪な目つき。
刹那、頬全体に冷気がぶつかり、私の目は見開かれる。
冷酷に思えた。彼女のやり方が。ひどい仕打ちだと。
でも酔いの回った彼女の所に、浅はかな意識でやって来たのは私。
こうなるともう自暴自棄。目も当てられないほど惨絶たる青い衝動。
「なんでよ」
「お子ちゃま抱いても楽しくないもん」
「可哀想とか思わないの」
「そう怒鳴られてもね」
「ねえったら」
「一度冷めたのにヤル気だけは萎えないなんて、よっぽど生活乱れてるのね」
「抱いてよ、彩っぺ」
「処女じゃあるまいし、男のとこに行けばいいじゃん」
「そんなこと言ってないで、」
「ガキの尻拭いなんてごめんだよ」
厳しい声でそう言うと、彼女はグラスをあおった。
枯渇した数瞬の沈黙が、私の声を乾いて響かせる。
「抱いて」
小さくを鼻をすすりながらも、それしか呟けなくなっていた。
グラスを置いた彼女はそんな私を見て笑みを浮かべ、こう言い放った。
「んじゃあ、ひとりHでもしたら」
- 302 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時16分10秒
- 「ひとりえっち、って」
「トップアイドルのあたしが何の因果で、ってとこかしら」
別に本当にそう思ったわけじゃないけど、それほど彼女の言葉は下卑な響きを持っていなかった。
正直、すぐには把握できなかった。
抱いてよ
彼女の言葉を認識してすぐにそう返そうと思った。
でも酒が喉に重く鈍くからみつくようで、それすらも適わなかった。
「そこのソファ使っていいからさ」
なおも彼女は言い続ける。
「ひとりで喘いでるぶんには、こっちは構わないから」
体の中に熱を湛えて、頬はひどく紅潮していた。
酒がのどを鳴らし、指先をかすかに震えさせていた。
時間が疾走するのを見ているようで、視界はだいぶぼやけていた気がする。
そこまで言うならやってやろうじゃないか。
私は立ちあがると小さくひとつ鼻をすすり、無言でセーターを脱ぐ。
彩っペは座ったまま私を見上げていた。
カジュアルパンツのファスナーを降ろしたところで、再びソファに腰かける。
鼻の下を何度となくこする。
上半身を開けていく上で、冬場の汗の臭いを嗅覚が敏感に察知する。
暖房がきいた部屋の生暖かい空気が、私のうぶ毛を気持ち悪く溶かしいれた。
- 303 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時16分44秒
- 明るい照明の下、真向かいには7つ上の女性。
本当に何の因果なのか、私は下着だけになっていて。
そこまで脱いで、私は自分のグラスに残っていたぶんを一飲みにする。
観客からはパチパチと拍手。まるでうちの近所の色親父どもみたいだ。
身につけていたランジェリーは淡いピンクのクロップトップ。そのまま背後に放り投げる。
肘掛に左をつき、右足をソファの上にのっける。自然と二の腕が自由になった胸を寄せる。
目をつむりながら自らの胸を揉みしだき、息を荒くする。
不意に指先が乳首に触れると、無意識にそこをしぼっていく。
目をあけると丹朱の突起は神経をすりきらすほど反応していた。
右手で腰骨のあたりをなぞる。反動で一瞬だけ左脚が床を離れる。
下腹を親指でさすりながら手を絹地の下に滑りこませる。
中指が内股にふれた途端、わずかに体にはねかえる。
自然な声が徐々に音量を増していく。
左手に胸をいじらせたまま、右手を陰毛のあたりに這わせ続ける。
内股に寄せた小指を滑らさせた時、勢いあまって親指が陰核に触れる。
その瞬間に身体が大きくはね、ソファの上の腰がすべる。
完全に天上を見上げる形になり、私は背もたれのほうに額をつけた。
- 304 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時18分55秒
- 光がさえぎられたのを察知してすぐ、上から声がかかった。
「何かして欲しいことでもありますか」
別にどこか触れて欲しいとは思わなかった。
こうなってしまった以上、少しでも代用品を求める意識を持ちたくなかった。
額をソファ生地につけたままで薄めをあけていると、一本の指が口許に運ばれてきた。
くやしい。そう思いながら口にふくむ。
右手の動きとともに軽くを歯をたて、あとはまた行為に没頭していく。
噛んでいるのはこっちなのに、拘束されているような感覚。
「具合はどうよ」
なんとでもとれるような言葉がかかり、とりあえず私は顎に力をこめる。
「自分自身はさぞかし上手なんだろね」
そんなことを言ってた気がする。ようは酔っ払いの戯れ言。
正直、そんなの気にしている状況になかった。笑っちゃうけど。
「オリーブ」
「ん」
「オリーブの匂い、が、する」
私はうつろな瞳で彼女を見上げる。
彼女は目を大きく開き、ああ、とかなんとか呟く。
「あながち無粋なもんでもないでしょ」
「ひとりで、ん、
やってんだもん」
「そっかそっか」
呼吸の間にわずかに視覚をはたらかせる。
彩っぺは普段と同じ、優しげな笑みを浮かべているように見えた。
- 305 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時19分34秒
- 目じりから汗が流れ込む。
痛さをともない、アイラインにそってにじむ。
刺激された涙腺。目許を横切る一筋に、空気が冷ややかな感覚を与える。
体中が熱くて、耳なんか特にそうだというのに、雫は皮膚表面をにじんでいく。
時折、思いなおして噛みなおす。甘噛みと言うより、ただじゅくじゅくやってるのに近い。
右手の指の動きが徐々に早くなり、声もまた少しずつ荒くなる。
同時に目が冴えてくる。
光が頭の中に残っていて、あの時消してもらえばなどと思ったりする。
エクスタシーにはまだ遠いけど、疾走感にさかれる頭のメモリーは確実に増えていってた。
その中で、視覚的な反応で無意識に個々の物体を認識しようとした時のこと。
私の世界はこじあけられた。
彼女と完全に目があった。
瞬時に引き戻された理性のもとで、私は思わずたじろいだ。
まるで顔面を殴りつけられたかのように、頭部が傾いだ。
瞬きさえもできずに。
- 306 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時20分11秒
- 侮蔑とかなんとか、そういう慣れた具合とは違う、彼女の視線。
刃物や鈍器、そんなんじゃない。軽い一発のジャブのようなそしり。
そしてそれは、剣で突かれたり、刺すように譏られただけじゃ得られなかったであろう、重圧的な衝撃。
本当の子供のように、全てを蹴散らしてヒステリーにわめき散らしたかった。
それを制したのは、仕事仲間という彼女の存在。今まで思ってもみなかった、芸能人というアイデンティティ。
今さらながらの自覚。
彼女の指が唾液の糸を引きながら、私の唇から離れていった。
デ・ジャヴってやつかと思った。
本当はただのフィードバック。
彩っペの指は爪の型まで綺麗に整えられていたけど。
その指は彼女の口には入らなかったけど。
がっちりと噛みあっている歯茎に力を込め、私は体内にこもった熱に苦しむ。
もし今誰かに首筋を噛まれたら、まるで父親の腕を振りほどいた少年のような勢いで、私の内臓は食道を逆流するんじゃないかと思った。
丁度、コンドームをつける時みたいなイメージ。
- 307 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時20分51秒
- 「み・だ・らぁ〜」
その声が耳に入って来ると同時に、夜の沈黙が空気の塊となって耳にぶつかってきた。
裕ちゃんの歌い方をわざとらしく真似たのかもしれないけど、それはとてもしっくりきていた。
浸りきっていた世界をぶち壊されてから、緊張を絶対的な何かで失わせられるまで、私が認識していたのはせいぜい彼女のこと。
冷静とは言えないまでも自照してみれば、残った衣服は乱れに乱れ、右脚はソファの背に乗り出し、右手の指は艶やかに照り輝いていた。
「ちょ、ちょっとやだ、見ないでよ」
「写真でも撮ったら、それこそ高く売れそうなもんだけど」
「やめてってば」
私は床に落ちていたセーターを掴み、素肌の上から着る。下も同様にわたわたと脚を通す。
科学繊維が敏感な乳首を刺激する。
「何を今さら」
自分でもそう思いながら、わざとらしい行動を自らに許していく。
感情的な行動を許されたわけではない。
とはいえ理性的な行動を押しつけられてもいない。
彼女が与えてくれたのは、ただ空気の緩和。
「シャワーでも浴びなさい」
「うん」
意に反して割と大きい声での返答となってしまったが、気にしない。
私は彼女を追って、リビングを後にした。
- 308 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時21分24秒
- 白いタイルのシャワールームには、鮮やかな花々が描かれたシャンプーボトル。
壁と垂直に据えつけられたタップをひねると、冷たい水が勢いよく頭にふりそそぐ。
その一瞬私は肩をすくめるが、そのまま温水になるのを待つ。
上を向いて顔全体で浴びながら、私は考えた。
もし圭ちゃんのところに行っていたら、どうなっただろうか、と。
実際、それも思案に入れていた。
彩っペが起きていなければ、そして起きてこなければ、今度はそちらへ向かったはずだ。
先ほどと同じ、警戒心に満ち満ちた山犬の目をして。
雨に濡れた子犬の目などでは決してない。それでも弱さを隠しきらずに。
圭ちゃんは、どうしたろうか。
答えはでているようなもの。
彼女なら私を受け入れただろう。話を聞き終わる前に、唇をふさがれたかもしれない。
そう思い、私は身体を反らす。水流がこそばゆく胸部にあたる。
左肩に置いていた右手が、肌をすべる。温水にあたりたがるよう。
右脚が左ふとももをこすりつける。
ついに右手が左胸の中心に触れた時、私は我にかえった。
- 309 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時22分07秒
- シャワーから身体を退き、しゃがみこむ。
耳には温水が床にあたり続ける音だけが伝わり、その流れはなおも足の指をくすぐりつづける。
みじめだった。
ただひたすらみじめだった。
先ほどの彩っペの瞳がよみがえる。
今さらながらに身が震え、息が詰まる。
あまりにも動物である自分への嫌悪。
他者を大人として認識する甘え。
容易に外れてしまう枷。
なりきれない私。
なりきれない、14才の私。
- 310 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時22分45秒
- 「紗耶香から着信あったよ」
リビングに戻ってきた私にかけられた、第一声。
いつもの彩っペと同じ、声のトーン。
「は…」
はいともふうともつかない、浮ついたhの音。
言いかえれば、だらしなく開かれた口から息がもれただけ。
すぐにコートを引き寄せる気になれなかった。
ピーナッツに手をのばそうとして、躊躇する。
一呼吸おいて、私は皿からオリーブをひとつつまみだす。
口にすると、癖があるけど嫌いじゃない味だった。
種から果肉をこそげるだけかじり取り、種を出したあとグラスを取ろうとして、彩っペに制止された。
眉間と顎の示唆するに、私はグラスを持って立ちあがった。
シンクに残りをぶちまけ、青いほうをひねって水をつぐ。
そのまま薄暗いキッチンで一口飲む。
照明のついていない薄暗いキッチンから、カウンターごしにリビングを眺める。
暖色の空間は孤独感という感傷を許さない。
- 311 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時23分27秒
- 「紗耶香、謝るって」
ソファに腰かけようと先にグラスをテーブルに置いたとき、彩っペは下を向いたままそう言った。
「電話でたの」
口早に返したら、焦燥感からか語尾がうやむやになってしまった。
彼女は雑誌から顔をあげて、私の顔を見上げる。
「あ、ゴメン
メールってやつだった」
その時点で既に、彩っペが私のコートをあさったなんて事実は、どうでもよくなっていた。
元より彼女には捕まえられていたから。
「ほいよ」
そう言って彼女は足元から私の携帯を取り上げて、私の前に置く。
そして私がそれを手にするより早く、再び彼女は雑誌に目を落としていた。
私が携帯を掴み上げた時、画面に浮かんでいたのは、待ちうけ画面ではなくいきなりメール本文。
ゴメン、後藤。さっ
きのことは謝りま
す。
ちゃんと口で伝え
たいから、とりあ
えずtelください。
そして更にこのメールは続いていた。
だからさ、男のト
コに行くなんて馬
鹿なことはしない
で
Luv--Sayaka
- 312 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時24分07秒
- まるでそれは鏡を見ているよう。
鏡の中には対称に写った自分。
それを認識した瞬間、直前の蔑みが鏡で反射して、自分に返ってきた。
ただ堕落への憧憬。それが自分に不可欠だという思いこみ。そして苛立ち。
コンプレックスからの猜疑心。フェアな競争はプライドが邪魔した。ウソはついていなかったけど、同じこと。
そのプライドがうみだす蔑如。そこから得られる優越感。
背徳感も、法律への罪過以上の快感だった。
それらは皆、身を切られるほどの過失。
急激に想いが冷めた。
鏡に写った彼女を見てと言うより、跳ね返ってきた自己認識からだったのかもしれない。
彼女への当てつけでここまで来たはずなのに。
興味を失うというか、関与すること自体がわずらわしくなってしまった。
そのことを口にしたら、彩っペは口許を緩め、息をつきつつ呟いた。
「勝手ね」
「そうかな」
思わず口をついて出てしまう。
「そうでしょ。だって…」
「そうだよね」
直情径行なのは事実だ。
しかし正直そんなのどうでも良かった。
それはきれいごとへの反抗ではなく、まっとうな価値判断であったように思える。
- 313 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時28分18秒
- 「それくらいはいっか」
彩っぺはそう言って、私のグラスの水で喉を潤す。
「子供の遊びだもんね」
「そうだった」
私は彼女に向かずにそう答える。
「過去形にしちゃまずいと思うよ。
まだ終わっちゃいないんだから」
「私の中では数十秒前に完全に終わった恋なんだけど」
「そうね」
彼女の声のトーンは明瞭だった。
「でも、アンフェアなやり方しちゃだめよ」
「わかってる」
「本当にわかってるのかな」
彼女は眉をひそめて、もっともらしい態度でそう言った。
「仕事仲間なわけだし」
「それはちょっとクール過ぎだと思うけどね」
そう言うと彼女はひざにのせていた雑誌をわきに置いて、私に向き直った。
「当たり前のことだけどさ、紗耶香はまだ関係に沈んでるわけでさ
もしかしたら後藤に蔑まされていたことさえ、気付いてないかもしれない」
「うん」
「今後彼女が気付くかどうかもわからないけど、少なくとも後藤はちゃんと接しなちゃだめだから」
その言葉がさすのは、冷たいとか失礼な態度という意味じゃない。
線引きをするのは私。
引いた線が消えないようにするのも私。
押し通さなければいけない、無口という名の拒絶。
- 314 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時28分49秒
- 「キツイだろうけど」
そう言われて、私は顔をあげる。
彼女の言葉はすぐには続かなかった。
そのまま、安っぽい責任感を自制しようと考える。
私はオリーブをもう一つ手にとった。
彼女も同じく皿に手を延ばす。
実に歯をたてると、種は意外にに大きくて、思ったよりすぐにかちあたった。
「オリーブの種、なのかな」
「何が」
私のつぶやきを面白がるような口ぶりだった。
「なんで今まで存在に気付かなかったんだろうって」
「そう」
彼女は相槌をうつと、小さなラグビーボールみたいな種を、皿の上に置いた。
私はまだ口の中で転がす。
「種に気付くのは早ければ早いほうがいい」
彼女は私に向かってそう断言した。
「そうかな」
「私が後藤の歳には、まだ感づいてもいなかったと思う」
冷たくはなかったけど、はっきりとした声。
「私もやっと一つ種を出せたところかもしれない」
巣立つ彼女のその言葉。
私が口にふくんでいるのは、まだ一つ目のオリーブ。
「死ぬまでに私はいくつオリーブを食べるんだろう」
彼女は瞳で柔らかく笑い、瓶を手に取る。
「とりあえず、今夜はこれでおしまいにしよ」
- 315 名前:想起 投稿日:2001年11月17日(土)23時29分30秒
- 1999年、クリスマスと年末をひかえた一夜の出来事。
あれからもうすぐ2年。
私の3ヶ月の恋心は、Y2K問題より数日早く、それと同じように過ぎ去っていった。
その約10日後、彩っペはモーニングを卒業した。
あの夜以来、私は同性を愛していない。
もったいないとは思う。基本的にうちの家系は色好みで、それは私にしても例外じゃない。
ただどうしても、心のどこかでセーブがかかる。
嫌悪感ではなく、それでも理屈無く遠のく。
連鎖的に思いだされる、あの時の情景。
オリーブの記憶。
--終--
- 316 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時36分31秒
- いつも通りの食卓。
ここは何も変わらない。
整頓されたダイニング。カウンター越しに見えるママの背中。
オーディションに受かってから、私の生活は変わった。
学校へ行く回数も減り、友達と遊ぶ事など全くなくなってしまった。
ここでこうして夕食をとることなんてほとんど無い。
でも、これは自分が望んだ事。後悔はしていないつもり。
運ばれてきた熱いコーンスープに口をつける。
ママの味だ。いつもと変わらず、とてもおいしい。
変なの。別に何も特別な事なんてしていない、ただの市販のスープなのに。
ほんとに、ここは何も変わらない。
- 317 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時37分15秒
- 『新垣里沙』
名前を呼ばれた瞬間から、ずっと涙が止まらなかった。
うれしくてうれしくて。大好きなモーニング娘。に入れるなんて!
その時私は舞い上がってばかりで、これから先の事なんて考える余裕なんてなかった。
ここがゴールだと思っていた。
「里沙ちゃん、おめでとう。私の分までがんばってね。応援してるから。」
年が同じでオーディションを通して仲良くなった奈津美ちゃんは、そう言ってくれた。
一緒に励ましあって、一緒に頑張って、一緒に受かろうねって2人話してた。
でも、それは叶わなかった。
それでも、お祝いの言葉をかけてきてくれた奈津美ちゃん。
ありがとう。そう言いたかったのに、泣いてばっかりで言葉にならなかった。
結局その時は、奈津美ちゃんとゆっくり話すことができなかった。
- 318 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時38分21秒
- ゴールだと思っていたそこは、スタート地点だった。
私達4人は、ずっと前にスタートし、トップ集団を走ってる先輩たちに追いつかないといけない。
連日のレッスン、その合間にテレビやラジオ番組の収録。
何事も初めてで戸惑ってばかり。涙と汗にまみれる毎日が続く。
家に帰れないこともしばしば。帰れても遅くなってしまう。
ああ、いつもの食卓でいつものコーンスープが飲みたい。
思い描いていた華やかな世界はここには無い。
いや、あるのかも知れないけど、まだまだ先の方なんだろう。
私、大丈夫なのだろうか?ちゃんとモーニング娘。としてやっていけるのだろうか?
たぶん、これは愛ちゃんも紺ちゃんも麻琴ちゃんも考えてる事。
でも、誰も決して口に出すことはない。
- 319 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時38分59秒
- そんな生活にもだいぶ慣れてきた。先輩達とも少ないけど話するようになった。
モーニング娘。としての実感が沸いてきて、私達4人に笑顔が増えた。
そんな時に事件は起こった。
紺ちゃんが番組収録中に大怪我をしたのだ。
やっと走り出せたのに。これからなのに。可哀想。
どうしたらいいのか分からない私達3人は泣くことしか出来なかった。
不幸中の幸いと言うのは、すごくいけない事なのかも知れないけど、
紺ちゃんの怪我は骨や筋肉には影響なく、入院も1日だけで済んだ。
もちろんダンスは出来ないけど、それ以外の仕事は何とかこなしていけた。
紺ちゃんは私達に心配をかけないように、明るく振る舞ってくれる。
私達も紺ちゃんに気を遣わせないように、普段どおりに紺ちゃんに接した。
でも、その事故は私達の心の中に大きな影を落としていた。
『失敗をすれば他の誰かに迷惑をかける』という気持ちが、私達の行動を萎縮させる。
- 320 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時39分53秒
- 秋のツアーを控え、レッスンも最後の詰めに差し掛かっていた。
紺ちゃんは、まだ踊れないので見学している。コンサートには同行するがMCのみでの参加。
そんなある日、今ひとつ元気になりきれていない私達に気付いてか、
飯田さんと保田さんが御飯に連れて行ってくれた。
こんな形で先輩と御飯を食べるのは初めてだったので緊張したけど、
飯田さんと保田さんのおしゃべりで随分和まされた。
やっぱり先輩たちはすごい。
冗談を言いながらでも私達に仕事の重要さや、心構えなどを教えてくれた。
「アナタ達の言葉、アナタ達の歌、アナタ達の踊り、それを出し切ればいいのよ。
自分に自信を持って。失敗を恐れないで。例え誰かが失敗したとしても、
私達は13人で支えあってるから大丈夫なんだよ。」
最後に保田さんはそう言ってくれた。
- 321 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時40分24秒
- そしてツアーが始まった。
大丈夫。歌も踊りも精一杯練習した。自信を持っていこう。
頭では分かっていても体は正直だ。足の震えが止まらない。
「私もそうだったけど、緊張しないようにしようって思うから緊張するんだよ。
反対にね、思いっきり緊張しちゃったらいいの。」
4人固まって泣きそうな顔をしているのを見るに見兼ねてか、安倍さんからアドバイス。
「体がしたいようにしてあげるの。そうすると、今まで覚えてきたことも
自然に体がしてくれるのよ。」
そう、今悩んだって仕方ない。思い切って飛び込もう。
開始時間になった。13人の手が重なりあう。
先輩の手が温かい。不思議と落ち着いた気分になる。
「がんばっていきまーーーっ」 「「しょい!」」
- 322 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時42分23秒
- ステージに立つと不思議と震えが止まり、思いっきり歌えた。
ダンスもなかなか。ステージは雨で滑りやすかったけど何とかこけなかった。
何曲か終わってMC。
もう大丈夫。今、すごく楽しいし、テンションも上がりっぱなし。
やっぱり紺ちゃんは怪我のこともあってか、大きな声援を受けてた。
愛ちゃんも麻琴ちゃんもうまく自己紹介していた。
いよいよ私の番だ。
「新垣里沙です!ラブラブ!」
あれ?
「よろしくお願いします!新垣里沙でした。ラブラブ!」
あれれ?
(・・・・・・シネ・・・)
!!
- 323 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時43分12秒
- どうして?私だけそんなに声援が少ないの?
別に大声援が欲しい訳じゃない。でも、他の3人と同じ位は、、、って思ってた。
だって、一緒にスタートしたんだもん。
うぬぼれじゃないけど、まだ、みんなとそんなに変わらないよ。私。
なのに、どうして?
確かに聞こえた。(シネ)って。どうして?
目の前が遠くなる。
その後のことはほとんど覚えていない。
でも、ちゃんと歌って踊って、2回目のMCでもちゃんと挨拶した。
それは間違いないと思う。
ステージを混乱させる事はなかった。
後で、誰に聞いても「普通だったよ」という答えしか返ってこなかったから。
- 324 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時43分56秒
- 私の初コンサートは、周りから見たら成功だったらしい。
プロデューサーさんにも誉めてもらったし、先輩もみんな誉めてくれた。
でも、私は知っている。
私が声援をあまり受けなかったこと。
そのことに対して、周りは気を遣って触れないようにしていること。
そして、(シネ)とまで言われたこと。
私は体調が悪いと言って、早々にホテルの部屋に戻っていた。
知らず知らずのうちに涙が溢れ出て、枕に顔を埋めて泣いた。
そして、泣き疲れた私はそのまま眠りについていた。
- 325 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時44分44秒
- 携帯の着信音で目が覚めた。
誰だろう?知らない番号だ。
「もしもし」
返事が無い。代わりに、微かだけどメロディーが聞こえる。
携帯に耳を押し当てて何とか聞き取れた。
『I WISH』、、、私たちの歌だ。
「もしもし!誰ですか?」
何度も繰り返したけど、返事は無かった。
何だか気持ち悪くなって、私は終話ボタンを押して電源も切った。
一体誰なんだろう?
もやもやした気分のまま、ベッドに体を放り出す。
とにかく眠って、今日という日を終わらせよう。
- 326 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時45分55秒
- 次の日の朝、5期メンの3人が朝食に誘ってくれた。
私を気遣ってのことだろう。
私の部屋に迎えにきた3人は変にハイテンションだった。
麻琴ちゃんと愛ちゃんで変な顔合戦なんかしちゃったりして。
ありがとう。優しいね、みんな。
ホテルの朝食はバイキングだった。
私はパンを2つとサラダ、そしてコーンスープを取って席についた。
4人でワイワイ言いながら食べていると、先輩たちも降りてきた。
「おはようございま〜す」
近いテーブルでみんなで食べる朝食。とってもおいしい。
でも、私はコーンスープを残していた。
- 327 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時46分41秒
- それからはまた、いつもと同じ毎日が始まった。
まだまだコンサートのスケジュールは残っているし、他の仕事もある。
みんなのおかげで少しは気が晴れていたが、やっぱり全て忘れる事はできない。
レッスンの途中とか、ふとした拍子に思い出してしまう。
(シネ)って言葉が頭の中に浮かんでくる。
あと、あの電話。あれから、ほとんど毎日かかってくる。
いつも同じパターン。
ちょうど寝る前にかかってくるので、その電話を切って電源を切って眠るのが習慣になりそう。
家にも長い間帰っていない。
電話はしてるけど、やっぱり帰りたい。
帰って昔のように家族みんなで夕食を食べたい。
自分で選んだ道なのに、逃げようとする私がいる。
そう考えてしまう自分が嫌い。子供な自分が嫌い。
- 328 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時47分46秒
- 何回かコンサートのステージに立ったけど、いつも同じだった。
さすがに無意識状態になることはなくなったが、終わってからの虚無感は変わらない。
それは横浜でのステージでのことだった。
いつもどおりMCをする私。半ば投げやりになっていたかも知れない。
そうなっていたせいかどうかは分からない。
(・・・新垣シネ!・・・)
誰かが会場中に聞こえるくらいの大声で叫んだ。
一瞬その大きなホールが静まり返る。
すぐに飯田さんがフォローに入って、早めに曲に入ってくれた。
ダメ。もう限界かも。
ステージを終え、控室に戻った私は堰を切ったように泣き出してしまった。
- 329 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時48分18秒
- 先輩たちが代わる代わる慰めてくれる。
「私たちの頃なんて、もっとひどかったよ。」
「最初のうちだけだって。すぐになくなるよ。」
分かってます、先輩。
きっとそうなんだろうって、信じたいです。
分かってるんだけど、どうしても泣きやめないんです。
ホテルに戻る道中も泣きっぱなしの私。
ゴメンナサイ。みんなに迷惑かけて。
ホテルに戻るとすぐ、支えてくれていた腕を振り払い、逃げるようにして部屋へ。
ゴメンナサイ。すごく失礼な事してますね。
でも、一人にさせて下さい。今日は一人に、、、。
- 330 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時48分54秒
- どれくらい泣いていたのだろう。
ふと我に返ったのは、携帯が鳴ったから。いつもの時間だ。
同じように「I WISH」が流れる。
私には切る気力もなかったのかな?携帯を耳に当てたまま、メロディーを聞いていた。
そうしていると、徐々に冷静さを取り戻してきた。
同時に腹立たしさが私の中にムクムクと育ってきて、思わず口を開いて言った。
「ねぇ、聞いてる?どうしてこんなことするの?どうしてこの曲を私に聞かせるの?
私なんてモーニング娘。に要らないって思ってるんでしょ!
どうしてこんな嫌がらせするの!?そんなに私の事嫌いならハッキリ言えばいいじゃない!
私はね、友達とか家族と過ごす時間とか、そんなものを失ってここに居るの!
それでもダメなの?全てを失えって言うの!?
分かったわ!もういい!何もかも全部捨てたらいいんでしょう!?そうするわ!私!」
何を言ってるのか自分でも分からなかった。
ただ、この状況から抜け出したかったのかも知れない。
- 331 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時49分56秒
- 「弱虫!」
携帯の向こうで女の子の声が聞こえた。聞き覚えのある声。
まさか、、、奈津美ちゃん?
「アナタは確かに大切なものを失ったかも知れない。
でも、代わりに大きな何かを手に入れたでしょう。本当に大切にするべきものを。
それをどうして守ろうとしないの?
傷ついても傷ついても守らないといけないんじゃないの?
それをせずに逃げ出すなんて、、、ただの弱虫よ。」
「ち、違ッ」
「アナタだけがつらい目に遭ってると思ってるの?
どうして私が毎日この歌を届けてたか分かってくれてる?
分かってくれないなら、本当に辞めた方がいいんじゃない?」
- 332 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時50分28秒
- (♪誰よりも私が私を知ってるから、誰よりも信じてあげなくちゃ。)
一度終わったその曲は2回目に入っていた。
そのフレーズを改めて聞いた私は、これ以上ないくらいの大きな声で泣いた。
もう一度その曲が終わるまで私は泣きつづけていた。
曲が終わり、私の泣き声がすすり泣きに変わった時、奈津美ちゃんは言った。
「分かってくれたのね。うれしい。私ね、オーディションに落ちて分かったの。
自分で自分の事を信じることができて、初めて強くなれるって。
あの時、里沙ちゃんは自分のこと好きだったでしょ?信じてたでしょ?
私はダメだった。そういう風に自分を見れなかったの。
だから私はここに居て、里沙ちゃんはそこに居るの。」
私は何も答える事ができず、黙って奈津美ちゃんの言葉を聞いていた。
「もう大丈夫だよね。
何となく素直に伝えれなくて、、、。ちょっとした私のヤキモチだったの。
変な事してゴメンね。じゃ!これからもがんばって!」
- 333 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時51分07秒
- 「奈津美ちゃん!、、、ありがとう。」
やっと私がそう言えた時には、すでに電話は切れていた。
- 334 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時51分43秒
- 曲を覚えられた時、ダンスをマスターした時。先輩と話しが出来た時。
(私はモーニング娘。になれた)って思っていた。
でもそれは違っていた。
形だけのものは壊れやすい。実際に一度壊れてしまった。
でも、今の私は違う。
もう、迷わない。
もう、泣かない。
私は「モーニング娘。の新垣里沙」そのものなんだから。
- 335 名前:コーンスープ 投稿日:2001年11月17日(土)23時52分15秒
- いつも通りの食卓。
ここは何も変わらない。
整頓されたダイニング。カウンター越しに見えるママの背中。
コンサートツアーも無事、全ての日程を終えた。
束の間の休日に、久しぶりの家族揃っての夕食。
運ばれてきた熱いコーンスープに口をつける。
あれ?
「ママ、今日のスープいつもと違う?」
「いいえ、いつもと同じ里沙の好きなコーンスープよ。」
なぜスープの味がいつもと違って感じたのか、私には分かったような気がする。
(ママ、私、少し大人になったでしょ?)
−FIN−
- 336 名前:第四回支配人 投稿日:2001年11月18日(日)00時46分22秒
- ただいまをもってエントリーを締め切ります。
これより投票に移ります。
投票用スレッド
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=imp&thp=1006011538
なお締め切りは11/25(日)AM8:00です。
- 337 名前:ショートカット 投稿日:2001年11月21日(水)23時47分20秒
- >>6-23 あたしをたべて…はぁと
>>24-29 冬のうた
>>30-35 トマトジュース
>>36-60 Dawn Chorus
>>61-79 いらっしゃいませ、何名様でしょうか
>>80-88 何味だろう
>>89-99 コーヒー付
>>100-107 時を『食う
>>108-118 いのちの味
>>119-129 紺野ちゃんの全快祝い
>>130-144 おいしいクッキー
>>145-168 Tafelmusik
>>169-179 Bitter taste
>>180-197 自己紹介
>>198-216 メッテルニヒのトルテ
>>217-241 因果応報
>>242-252 わたしをたべて…だぁあく
>>253-268 にいにい
>>269-279 新メン@世界名作劇場
>>280-291 トロピカ〜ル食して〜る
>>292-315 想起
>>316-335 コーンスープ
みんな投票しようぜ!!
- 338 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月24日(土)23時27分07秒
- 締め切りまで後わずか。
ぜひとも投票を!!
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