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かなづちキンギョ

1 名前：空飛び猫 投稿日：2001年11月06日(火)01時10分01秒
ここでは初めての連載です。
学園パラレルです。
宜しくお願いします。
2 名前：０．（1/1） 投稿日：2001年11月06日(火)01時11分20秒
泳げない金魚は、死ぬまで水面には上がれないの。
水底で口をぱくぱくしてるだけ。
だから、泳げる金魚は誰も気付いてくれないの。
可哀想な、可哀想な泳げない金魚。
もし、泳げる金魚の誰かが気付いてくれたら、
もう寂しいって泣かなくてもすむのにね。
3 名前：１．泳げる金魚達と今は咲いてない桜の花と（1/4） 投稿日：2001年11月06日(火)01時13分21秒
夏はもうそこまでやってきていた。
爽やかな午後の風が放課後のクラスで寛ぐ少女達に安らぎを与えていた。
「よっすぃー、今日これからどうすんのぉ？」
窓際で風にあたりながら後藤が、吉澤を見ようともせずに聞いた。
黒板を消していた吉澤は涼やかに笑って言った。
「特には、決めてないかな？」
「じゃぁ後藤とアイス食べに行かない？」
「いいよ」
自分を指差しながら誘った少女は無邪気に笑った。
彼女は自分を名字で呼ぶ癖があり、
それがまた彼女の愛らしさを格別な物にした。
「なに？なんの話してたの？」
ドアの外から覗き込んで、安倍が首をかしげた。
「なっちも行く？アイス食べに」
「行く行く！」
後藤の誘いに、安倍は嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべた。
4 名前：１．泳げる金魚達と今は咲いてない桜の花と（2/4） 投稿日：2001年11月06日(火)01時14分08秒
私立のこの学校は、神学校な所為かゆったりとした空気で包み込まれていた。
並木路が学校に入る小さな門から大通りに入る正門までは続いており、
そこだけは一般にも解放されていた。
放課後に残っている生徒は少ない上に、
この時間帯になれば一般人もあまり見えない。
「アイスと言えばチョコミントだべ？」
「何で？ラムレーズンだよ！！」
「いや、普通にバニラとか言おうよ……」
三人の少女達は、他愛もない会話を続けながら並木路を歩いた。
「あ……！忘れてた！！」
吉澤がぴたっと足を止めると先を歩いていた二人が振り返った。
「どうしたの？」
「何？」
「……今日の体育の時、プールの更衣室に時計忘れてきた」
大事な時計だった。幼い頃に亡くなった祖母の形見で、
吉澤はいつもそれを手放さなかった。
「ごめん。先行ってて。すぐに追い付くから」
走り去る吉澤を見送った後藤と安倍はアイスの種類の討論に花を咲かせた。
5 名前：１．泳げる金魚達と今は咲いてない桜の花と（3/4） 投稿日：2001年11月06日(火)01時14分43秒
走って並木路を戻っていた吉澤が後ろを振り返ると、
彼女の友人達は楽しそうに笑っていた。
−アイス食べてる間に追い付けばいいよね？
さすがに息がきれてきた彼女は歩調を緩めた。
時々彼女は、１人になりたくなった。
勿論、時計を忘れたのは嘘でも、わざとでもなかったが、
それで助かったのも事実だった。
プールは学校から少し離れた場所にある。
「あっつぅ」
陽射しは段々陰ってきているものの真っ赤な太陽は健在だった。
暑さでブレザーを脱いだ吉澤はそれを片手に持って、
学校の脇にあるプールへの道に入った。
6 名前：１．泳げる金魚達と今は咲いてない桜の花と（4/4） 投稿日：2001年11月06日(火)01時15分28秒
小走りにプールの更衣室に入ると時計はすぐそこに置いてあった。
「あったぁ。よかった」
感嘆の声を洩らして、吉澤はそれを左の手首にはめようとした。

ちゃぷん。

そんな音が聞こえた気がした。
この学校に水泳部は存在しない。
なおざりに作られた小さなプールで部活動が難しいという事の他に
この学校は競技参加のある部活動は存在しなかった。
学長のおかしなこだわりである。
水泳やテニスといったスポーツから、
チェスや将棋といった文化的な競技まで。
ありとあらゆる競い合うゲームは部活動にはなかった。
−誰か、いる？
吉澤は時計と上着をテーブルに置いて、プールへの扉を開けた。
7 名前：空飛び猫 投稿日：2001年11月06日(火)01時16分47秒
そんな訳でこれから少しの間、宜しくお願いします。
8 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月06日(火)02時20分40秒
な〜んかいい感じですね。
タイトルに惹かれて読ませていただきました。
この先も期待してます。
9 名前：２．塩素が運んできたフェイクとリアル（1/5） 投稿日：2001年11月07日(水)00時58分01秒

ちゃぷん。

その音は、空耳ではなかった。
吉澤の目に入って来たのは制服を来た少女。
見覚えのある顔だった。
話した事もある筈のない、一つ年上の上級生。
隠れて憧れている少女達も少なくないものの、
彼女の周りに人がたむろす事はなかった。
吉澤は、彼女と昔一言だけ会話をした事があった。
『これのコピー、お願いしてもいい？』
申し訳なさそうに彼女の高い声が響いたのを今でも覚えていた。
彼女には他に山程仕事があり、同じ委員をしていた吉澤が
ちょうど手を余らせていただけの事だったのに、
彼女は遠慮がちに吉澤にコピーを頼んだ。
きっと彼女はそんな事、忘れているだろう。
彼女はどの少女にも、変わらず優しい声を聞かせるから。
10 名前：２．塩素が運んできたフェイクとリアル（1/5） 投稿日：2001年11月07日(水)00時58分58秒
プールの水をすくいあげてはまたプールに戻す綺麗な手に、
吉澤は釘付けになった。
彼女の形のよい指は、水に濡れてキラキラと光っていた。
暫くぼーっとその様子に見愡れていた吉澤は、
後藤達との約束を思い出して、更衣室に踵を返した。

ちゃぽん。

「え？」
吉澤が振り返ると、水辺にいた少女は先程よりも深く水に浸かっていた。
「あっ」
その手が段々とプールの中に入っていくのを見て、
吉澤は思わず声をあげた。
そんな吉澤に気付かないまま、少女は水に溶けていく様に
体をプールに沈めていった。
「ちょっ！大丈夫っ？！」
自分から入っていった様には思えない入り方に
吉澤は慌てて服のままプールに飛び込んだ。
11 名前：２．塩素が運んできたフェイクとリアル（3/5） 投稿日：2001年11月07日(水)00時59分44秒
水の中は音が篭って聞こえた。
吉澤は、プールの水が喉に入ってくるのも構わず
彼女を呼んだが、彼女は一向に気付かなかった。
水の底まで落ちていった少女はゆっくりと目を閉じて、
水にされるがままに漂っていた。
吉澤は彼女の腕に手が届く距離まで近付いて、
彼女を強引に引っ張り上げた。
触られた瞬間に驚いた様に少女は目を開いた。
途端に苦しそうにもがき、吉澤から離れようとした。
吉澤はそんな少女をきつく掴んで水面まで連れていった。
水面はきらきらと光ったまま、彼女達を拒まなかった。
12 名前：２．塩素が運んできたフェイクとリアル（4/5） 投稿日：2001年11月07日(水)01時04分26秒
「大丈夫……ですか？」
「貴方、吉澤さん？何してるの？こんな所で」
見当違いな彼女の言葉に含まれている自分の名前に密かに驚きながら
吉澤は質問をしかえした。
「石川先輩こそ、何やってるんですか」
「……怒らない？」
上目遣いに吉澤を見る石川の表情は、本当に子供の様で。
吉澤は彼女が年下の様な気すらして優しく頷いた。
どうして彼女はたった一言を交わした相手にこんな顔ができるのだろうか。
石川は右手で水をすくいながら言った。
「水に溶けちゃうかもって思ったの」
「水に？」
それは吉澤も感じた事だった。
まるで水の一部の様に、彼女は水と戯れていた。
「だから、少しだけ入ってみようかなって」
「制服のまま？」
「でも、楽しくない？」
「まぁ、ちょっとは」
13 名前：２．塩素が運んできたフェイクとリアル（5/5） 投稿日：2001年11月07日(水)01時05分22秒
先程から自分が彼女を抱きかかえたままな事に気付いて
吉澤は慌てて石川を離そうとした。
「駄目！離さないで？」
「え？あ、はい」
石川はそのまま俯いて言い難そうに言った。
「……ないの……」
「は？」
吉澤が聞き返すと、石川は拗ねた様な顔でハッキリと言った。
「泳げないの！」
自分がいなかったらどうするつもりだったんだと疑問に思いながら、
吉澤は自分達の身長よりも少し深いプールを
石川を抱いたままプールサイドまで泳いだ。
14 名前：空飛び猫 投稿日：2001年11月07日(水)01時08分14秒
更新しました。
早々に間違えてしまいましたが１０は（2/5）です。

>>8
有難うございます！頑張ります。
15 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月07日(水)01時32分48秒
描写が凄く綺麗でかっこいいっす！！
期待してます。
16 名前：ARENA 投稿日：2001年11月07日(水)03時41分53秒
うーむ。いい小説に出会った気分です。
つづきが楽しみです。
がんばってください。
17 名前：吉胡麻系 投稿日：2001年11月07日(水)19時37分06秒
どうも、初めまして！
いや、キレイですね〜。すごいです。
なんか、頭の中にスッと、その場の情景が浮かんでくるっていうか･･･。
期待してます！頑張って下さい！
18 名前：Charmy Blue 投稿日：2001年11月07日(水)23時21分25秒
情景描写が素晴らしいです。期待してますので頑張って下さい。
19 名前：３．川の流れよりはるかに緩やか（1/4） 投稿日：2001年11月08日(木)05時14分59秒
プールサイドはやけに冷たくて、石川がそれにしがみつくのを
横目で見ながら、吉澤は水の外に出た。
どうやってこれから帰ろうかと考えた末に、
ジャージが置いてある事を思い出したのだ。
「何処に行くの？」
「帰るんですよ。石川先輩は着替えありますか？」
石川が答えるより幾らか早く吉澤はもう一度口を開いた。
「私が持ってるのを貸します」
「あ、ない…って、知ってるんじゃない」
「そんな用意周到な人ならこの格好では泳がないでしょうから」
石川は一瞬不機嫌そうな顔をしてから、吉澤に手招きをした。
吉澤が不可解な顔をして彼女に顔を近付けると、
彼女の綺麗な指が吉澤の頬に触れた。
電流が走るなんて、吉澤は信じた事がなかった。
この世は全て理論で立証する事ができると、
彼女は親からも教わって育った。
だから人と人の間に静電気以上の電流等、
早々流れる事もないと、彼女はよく知っていた。
なのに、今彼女は落雷よりも激しい電流を感じた。
それは、激しいのに柔らかい電流。
いつまでも、いつまでも、その電流に包まれていたい錯覚にかられる、
そんな魔法の電流だった。
20 名前：３．川の流れよりはるかに緩やか（2/4） 投稿日：2001年11月08日(木)05時15分36秒
「…え？うわっ」
一瞬、夢現な顔をした吉澤に次の瞬間に訪れたのは
水との再開に他ならなかった。
「何、するんですかっ」
「着替えあるなら、もう少し遊べない？」
無邪気な顔をして聞いてくる石川に吉澤はため息をついた。
「泳げないんじゃありませんでした？」
「そう。だから、貴方が必要なの」
あんまり楽しそうに石川が笑うから、
吉澤は自分でもよく判らないまま頷いた。
ぱしゃぱしゃプールの水が笑った。
きっと二人がおかしいのだろう。
洋服のままで水中を散歩する姿は自分達の目から見ても滑稽だった。
「泳げる様になるかな？」
「水着の方が楽だと思いますけどね」
吉澤に向かって笑いかける少女は、
もう何年も前から吉澤を知っているかの様に笑い、
少女に笑いかけられて吉澤は、
戸惑いながらもそれが嬉しかった。
「さ、本当に帰りましょう」
「うーん、もうちょっとだけ」
そんな会話が何度か続いているのを、
プールの水は最初と変わらず、ぱしゃぱしゃ聞いていた。
21 名前：３．川の流れよりはるかに緩やか（3/4） 投稿日：2001年11月08日(木)05時16分12秒
グレープ色の湯舟に浸かりながら、吉澤は深いため息を吐いた。
疲れを表してはいたもののそれはけして嫌なため息ではなく、
むしろ吉澤の唇は幸せに緩んでいた。
『ありがとう』
ジャージ姿でそう言った時の石川が右の瞼の裏に焼き付いている。
左の瞼の裏には水に入る直前の憂いた表情。
一体彼女はどうしてあそこにいたのだろう？
吉澤はきっと夏休み明けまで戻ってこないだろうジャージを
密かにうらやましく思った。
「これじゃまるで恋じゃない」
天井に向かってそう呟くと、天井は返事をするかの様に
水を彼女の額にぽたんと落とした。
22 名前：３．川の流れよりはるかに緩やか（4/4） 投稿日：2001年11月08日(木)05時25分25秒
部屋に戻った吉澤は彼女を待っていた２通のメールを、携帯を器用に動かして読んだ。
＜追い付かなかったね。今度はよっすぃの奢りね。まき＞
＜アイスは結局チョコミントになったよ。私の勝ち！なち＞
吉澤は自分を待ちながら二人が仲良く一つのアイスをわけあう姿を
思い浮かべて微笑を浮かべた。彼女は謝罪のメールを送った。
「ひとみ！電話」
階下からの声に吉澤は机の横に置いている子機を手に取った。
「はい、電話変わりました」
予想していたのは後藤か安倍の不満そうな声だった。
『石川です』
聞こえてくる声は受話器を通しても十分に愛らしく。
「へ？あ、はい！」
吉澤は慌てて受話器を持ち直して姿勢をただした。
『あのね、ジャージ返さなきゃって』
「あ、別に今度で」
『だって今度って９月じゃない』
勿論、吉澤はそのつもりで言ったのだが
石川はそれを学校が終った事を忘れていると捉えた様だった。
『実はね、私も忘れてたの。終業式』
「終業式出なかったんですか？」
『え？吉澤さんは出たの？』
「はい。もしかしてずっとあそこに？」
『アハハ……ね、ねぇ暇な時ある？』
話を反らす石川に苦笑いを浮かべて吉澤はいつでも、と答えた。
23 名前：空飛び猫 投稿日：2001年11月08日(木)05時44分25秒
更新しました。最後のが文字数オーバーしてしまいました。
な、為原文のままではありません…。

>15
有難うございます。頑張ります。

>16 ARENA様
有難うございます。嬉しいお言葉です。

>17 吉胡麻系様
いつも読ませて頂いてます！なんだか凄く嬉しいです。

>18 Charmy Blue様
大ファンです！期待に答えられる様に頑張ります！
24 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月08日(木)14時48分30秒
ジャージというとﾒﾁｬｲｹSPの岡女の赤ジャージ思い出したり
25 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月08日(木)16時50分00秒
石川さんサボリですか（ｗ

それにしても本当に此処の小説はカコ (・∀・）ｲｲ!!っすねぇ
こうゆう風に文を書ける方が羨ましいかぎりです。
26 名前：ARENA 投稿日：2001年11月08日(木)18時55分16秒
なにかと行動的な石川に萌え（ｗ
「これじゃまるで恋じゃない」がなんか(・∀・)ｲｲ!
27 名前：空飛び猫 投稿日：2001年11月10日(土)02時46分02秒
更新滞ってます。すみません。
明日あたりには、更新されるかと。
今暫くお待ち下さい。

>24
私も思い出しながら書いてました。赤ジャージ。
でも、個人的には白がいいな、なんて設定してみたり。

>25
有難うございます！
照れながらも、頑張ります！

>26 ARENA様
石川、これからも行動的らしいです。
あんな描写をしておきながら恋じゃないと言うのもなんですが。
28 名前：４．奇跡の軌跡を道標に（1/4） 投稿日：2001年11月11日(日)03時50分22秒
その日の朝、吉澤は待ち合わせの時間よりも二十分も前に
待ち合わせ場所に着いていた。
朝日が目に入った瞬間から、シャワーを浴びた時も、
朝食を口に入れていた時も、ずっとずっとその時が来る事を考えていた。
こんなにも意識をする必要性は皆無である。
そんな事は、吉澤にも判り切った事だったのに。
それでも、彼女はその瞬間の事をずっと考えていた。
いっそ、石川が訪れなければいい。
学校でしか使用しないジャージなんて、九月でも十分に間に合うのだから。
吉澤はそう思っていたが、吉澤の足はいつもよりも早く動いた。
朝の公園は、たまに犬の散歩をしている人がいるものの
昼間の騒々しさは何処へ行ってしまったのか、とても静かだった。
小さな公園を一回りして石川がいない事を確認した吉澤は
少しほっとした様な残念な様な気持ちにさせられた。
「こないだからおかしいよ、私」
ぽそっと呟いても、誰も否定はしてくれなかった。
29 名前：４．奇跡の軌跡を道標に（2/4） 投稿日：2001年11月11日(日)03時51分09秒
木漏れ日は、きらきらと地面の埃を宝石の様に見せた。
「おはよう」
ぼーっとそれを眺めていた吉澤の後ろから、声が聞こえた。
「あっ、おはようございます」
「何見てたの？」
不思議そうな顔をする石川は何故か手ぶらだった。
「埃が日光の加減できらきらしてて綺麗なんですよ」
説明しながら、吉澤は石川が何も持っていない事に気付いた。
「石川先輩、ジャージは？」
「あ……やだ、取りに帰るから、ちょっと待ってて」
慌てて帰ろうとする石川を見て、吉澤は堪えきれず笑いだした。
きらきら光る地面と、さぁっと音を奏でる風と、楽しそうな吉澤の声だけで
公園は形成されていた。
「もうっ！笑わないでよっ」
「ごめ……なさっ」
笑いを必至で抑えて、吉澤は石川をゆっくり見た。
時が止まった様に感じたのは、吉澤だけだろうか。
「……お詫びに、食事に行きましょうか？」
「……え？えぇ」
否、吉澤だけではない筈だった。
30 名前：４．奇跡の軌跡を道標に（3/4） 投稿日：2001年11月11日(日)03時51分56秒
公園の一番近くにあるベーグルショップは吉澤のお気に入りだった。
誰にも教えていない、とっておきのお店。
後藤と安倍ですら、その存在を知らない。
穏やかで、優しい老夫婦が経営しているその店は、
クラムチャウダーやブイヤベース、シチューといったスープと
ベーグルが一緒に出てくる珍しい店だ。
「珍しいね、ひとみちゃんが誰かを連れてくるなんて」
「ここはとっておきだからね」
店主に笑い返して、吉澤は一番奥のテーブルについた。
石川は、彼女の前に座って、嬉しそうに店内を見回していた。
「先輩、何か食べられない物ありますか？」
「うーん…桃とか好き」
的外れな返答にも段々慣れてきた吉澤は、構わず質問を続けた。
「クラムチャウダー、平気ですか？」
「平気」
吉澤はマンハッタンクラムチャウダーを二つを頼んで、
石川はその様子をにこにこしながら見ていた。
31 名前：４．奇跡の軌跡を道標に（4/4） 投稿日：2001年11月11日(日)03時52分54秒
「御機嫌は、直りました？」
「あら、機嫌なんて最初から」
石川は公園を出た時からこの店に入るまで、一言も喋らなかった。
吉澤が少し後ろを歩く石川の方を振り向いても、
目を合わせようとしなかった。
「ま、いいですけどね」
「ねぇ、吉澤さん」
吉澤がため息の様な笑顔を見せると、
石川が久しぶりに吉澤を見て言った。
「ジャージ、やっぱりとってくるわ？」
「いいですよ、また今度で」
それは既に何度か繰り替えした会話だった。
ゆらゆらと湯気を放ってクラムチャウダーがテーブルに置かれた。
何種類かの小さなベーグルが真ん中に置かれる。
「お嬢さん、これには桃のジャムが入ってますから食後にどうぞ」
老夫人がにっこり笑うと、石川は驚いた顔をして、
それから愛らしい笑顔でお礼を言った。
吉澤もお礼を言って、二人は食後に議論を持ち越す事にした。
「おいしい！」
「でしょ？」
店主の特製マンハッタンクラムチャウダーは、
二人の間から敬語の垣根を取り除いた。
32 名前：空飛び猫 投稿日：2001年11月11日(日)03時53分49秒
更新しました。

食べ物書いたら、お腹空いてきたな…。
33 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月11日(日)04時31分11秒
こんなに綺麗な小説を読んだのは久しぶりです。注文する時のよっすぃ〜の心遣いがカッコいいっす
34 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月11日(日)09時11分23秒
紳士的なよっすぃ〜がカッコイイっす！
石川さんの的外れな会話も萌え〜
35 名前：吉胡麻系 投稿日：2001年11月11日(日)10時00分16秒
やはし、描写が細かくてキレイっすは･･･。（感動）
かなり見習いたいです。
36 名前：ARENA 投稿日：2001年11月11日(日)16時24分20秒
途中で何かと会話がすれ違いましたが、
おいしい物のおかげで二人の距離が縮まったのでよかったです。
これからがまた楽しみです。
37 名前：５．Half Speed,Double Happiness（1/3） 投稿日：2001年11月12日(月)03時00分38秒
「ねぇ、やっぱり私、払うわ」
「誘ったのは私だから」
「でも…」
「それに先輩、財布ないでしょ？」
「あ…」
すっかり打ち解けた二人は、レジの前でそんな会話を繰り広げていた。
ニコニコしながら待っていた夫人が二人の会話に口を挟んだ。
「ひとみちゃんは自分の分払えばいいでしょ？
こちらのお嬢さんは御来店記念で無料なんだから」
「え、柿本さん？」
驚いた様に吉澤が夫人を見ると、夫人はウィンクをして言った。
「あら、いつもの事でしょ？」
「そうなんですか？」
石川は首をかしげて無邪気に聞いた。
「そうなのよ。ほら、ここは目立たないから、
お客さんがあまりこないでしょ？だからまた来て下さる？」
「はい」
吉澤が奥の店主を覗き見ると、店主も黙って頷いていた。
「有難うございました。」
「あらあら、それはこっちの台詞よ？ひとみちゃん」
二人が出ていった店の中には老夫婦と鍋から溢れ出る湯気だけが残った。
「良かったな、他にお客さんがいなくて」
「そうね、いたら大変だったわ」
おかしそうに夫婦は笑った。
38 名前：５．Half Speed,Double Happiness（2/3） 投稿日：2001年11月12日(月)03時01分53秒
「いいお店ね」
「また、行きましょうか」
ゆっくりと歩きながらさりげなく吉澤が誘うと、
石川は吉澤を見て頷いた。
普段吉澤が歩いている早さの二分の一ぐらいの早さで歩いていても、
石川にとっては普通の早さの様だった。
「ゆっくり歩くと、世界が違うなぁ」
「早く歩くよりも、色んな物が見えるでしょ？」
触れ合いそうになる腕に、妙に心臓を高鳴らせながら
吉澤は前を向いて頷いた。
雲の流れがいつも見ているよりも本当はもっと早い事、
夏の暑さは風の前では全く意味がない事、
蝉だけが音楽を奏でている訳じゃない事、
そんな事、今まで気付こうとしていなかった。
気付いていても、気にもしなかった。
吉澤は、新鮮な気持ちになった。
もしかしたら隣にいる相手が石川だったからかもしれない。
石川がいなかったら、吉澤はまだ気付いていなかったかもしれない。
雲や風や蝉のいる世界に石川がいる気がして、
そこで石川が呼んでいると、吉澤はそんな気がした。
39 名前：５．Half Speed,Double Happiness（3/3） 投稿日：2001年11月12日(月)03時02分49秒
石川の家の前まで送り届けた吉澤は、わざとそのまま帰る事にした。
もっと石川と一緒にいたいと、図々しくもそう思ってしまった。
それはもう、抑えきれない衝動の様な物で。
だから、彼女はジャージの事には何も触れずに
にっこり笑って別れを告げた。
『また会いましょう』
そう暗黙のメッセージを込めて。
ただ、それが石川に通じるかどうかというのは別問題である。
「吉澤さーん！」
「先輩？」
「ジャージ、忘れてる！」
案の定、石川には通じなかったらしい。
吉澤はこっそりため息をついて、振り向いた。
愛らしい笑顔は相変わらず細い体にぴったりとフィットしていた。
「石川先輩！また明日！」
隙のない笑みを浮かべて吉澤はそういうと、
くるっと踵を返して帰路に着いた。
後に残された石川の表情を想像して、吉澤はこっそり笑った。
40 名前：空飛び猫 投稿日：2001年11月12日(月)03時22分11秒
更新しました。

>>33
有難うございます。
これからもかっこいいよっすぃを心掛けつつ頑張ります。

>>34
石川さん、雲を掴む様な感じになっちゃってますね。
よっすぃはどんどん男らしく…いいんでしょうか、それで…。

>>35 吉胡麻系様
ありがとうございます！
吉胡麻系さんのお話も大好きです。

>>36 ARENA 様
おいしい物って、人に心を許させる力がある様に思います。
いや、単に私がお腹空いてただけという説もあるんですが。
41 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月12日(月)04時28分06秒
ジャージについて触れなかった よっすぃ〜 の気持ち分かるなぁ…なのに石川先輩 にぶちんだわ。
石川の気持ちが気になります〜。
42 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月13日(火)14時38分21秒
細かい心理のやりとりが凄く良いっす!!
43 名前：ARENA 投稿日：2001年11月13日(火)16時12分47秒
老夫婦がホントいいですね〜(´ー｀)y──┛~~
今回のほのぼのした感じも好きです。
44 名前：空飛び猫 投稿日：2001年11月13日(火)22時12分57秒
都合により数日旅に出ます。
探さないで下さい。…じゃなくて、
更新は帰ってきてからになります。
45 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月15日(木)13時34分46秒
お早いお帰りを〜
46 名前：ARENA 投稿日：2001年11月16日(金)01時19分51秒
ものすごい探したくなるんですけど・・・（ｗ
じゃなくて、ごゆっくりどうぞ〜。
47 名前：６．真っ白い君を、愛してもいいですか？（1/4） 投稿日：2001年11月19日(月)22時59分35秒
朝から蝉はけたたましく音楽を響かせていた。
昨日と同じ時間に公園に来た吉澤は、石川の家の方向から
石川がやってくるのを見つけた。
「おはようございます、先輩」
「おはよう、吉澤さん」
相変わらず手ぶらな石川は、嬉しそうに笑った。
「先輩、何か企んでる？」
訝し気に吉澤が聞くと、石川は吉澤の手を握った。
「ついてきて？」
にこにこ笑いながら手をひく石川の後をついていきながら、
吉澤は汗ばんでいく右手が、夏の暑さの所為だけではない事に気付いた。
「先輩、逃げないから手を……」
「あ、嫌だった？」
「そうじゃなくて……ま、いっか」
しっかりと握り直して吉澤は石川の隣に立った。
「何処へ行こうとしてるの？」
「なーいしょ」
48 名前：６．真っ白い君を、愛してもいいですか？（2/4） 投稿日：2001年11月19日(月)23時00分30秒
「先輩、料理できるの？」
「失礼ね。一人暮らしなんだから、出来るわ」
「一人暮らしの人なら誰でもできるもんじゃないんじゃ…」
左手には野菜やお肉の入った紙袋を、
右手には石川の左手を離さない様にしっかりともちながら
吉澤は石川の家に向かった。
初めの頃は心臓になってしまったかの様に高鳴らせていた右手も
大分慣れて、石川を引き寄せたりもできる様になった。
「で？何作るつもりでこの材料？」
「内緒よ。先刻から言ってるでしょ？」
怒った様に睨み付ける石川が、心無しか吉澤は近くに感じる様な気がした。
昨日までより、少しだけ。
「知りたいな」
「だぁめ」
自分でも不思議なぐらいの甘ったるい声にくらくらしながら
吉澤は昨日やってきたマンションを見上げた。
49 名前：６．真っ白い君を、愛してもいいですか？（3/4） 投稿日：2001年11月19日(月)23時01分06秒
「手伝う？」
「大丈夫。座ってて？」
白いソファに座って、吉澤は部屋の中を見回した。
見事に白い世界。こんな所に住んでいたならば、
石川が白く感じるのも無理はないのではないかと
吉澤はこっそり頷いた。
「この部屋は先輩の趣味？」
「ううん。親の趣味。私はピンクにしたかったんだけど」
50 名前：６．真っ白い君を、愛してもいいですか？（4/4） 投稿日：2001年11月19日(月)23時01分52秒
判る様な気がして、吉澤が苦笑いを浮かべると、
石川がそれに気付いて怒った顔をして背中を向けた。
「可愛いなって思ったんだって」
「どうせ子供っぽいです！」
「そうじゃなくて」
慌ててフォローしても、既に石川の御機嫌は
野菜籠よりも下まで落ちていっていた。
「そうじゃなくて」
外では子供の楽しそうな声が響いていて、
窓から見る景色は歪んで見えた。
暑さの所為でおかしくなってるんだと自分に言い聞かせながら
吉澤は石川を抱き寄せて耳許で呟いた。
「判るよね？」
「……は、はい」
石川の耳はまるで金魚の様に赤く染まって、
吉澤はゆっくりとソファに戻った。
台所からトン、トン、と包丁の音が聞こえてきてやっと
自分のした事に気がついた吉澤は、顔が火照っていくのを
石川に気付かれない様に、吉澤は彼女に背を向けた。
51 名前：空飛び猫 投稿日：2001年11月19日(月)23時03分22秒
更新しました。
お待ち下さった方々に感謝。
今回は４分割中３回が台詞始まりでちょっと反省してます。
芸がなかったですね…。

>>41
ジャージはまだ返して貰えてない様です。
鈍い石川さんはその意味を判っているのか、いないのか。

>>42
有難うございます。
これからも頑張ります。

>>45
お待たせしました。

>>43
>>46　ARENA様
探さないでくれて有難うございました（笑）。
ただいま帰りました。…なんか違う…？
老夫婦は書いていて楽しかったです。
52 名前：空飛び猫 投稿日：2001年11月19日(月)23時04分02秒
あ、あげちゃったよ…。
53 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月19日(月)23時16分55秒
お帰りなさい！
な、なんだか二人が急接近？！続き期待です！
54 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月19日(月)23時21分41秒
吉澤、かっけ〜！！
55 名前：名無し男 投稿日：2001年11月20日(火)08時40分31秒
ﾏﾀｰﾘしててなんか心がほっとする
なんか顔の皺の一つ一つまで想像できるような表現力が凄い
遠からず近からずな関係って言うのもまたいいもんですな
56 名前：ARENA 投稿日：2001年11月20日(火)17時11分55秒
照れてる二人が想像できます。
なんかいいね〜（´ー｀）y ─┛~~
57 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月20日(火)18時55分12秒
判るよね………ってよっすぃ〜男前すぎ！最高
58 名前：吉胡麻系 投稿日：2001年11月21日(水)21時48分31秒
よっすぃ〜、かっけ〜！
梨華ちゃん、かわいい！
いいっすね！期待してます！
59 名前：７．Love starts from nothing.（1/3） 投稿日：2001年11月22日(木)04時37分36秒
外の熱気に関係なく部屋は涼しく、だがそんな部屋とは裏腹に
緊張した面持ちの少女が二人、食卓に座っていた。
「……」
「美味しい？」
「…うん。美味しい」
微妙な顔をして、吉澤は頷いた。
決して料理が上手ではない吉澤も、首をかしげそうになった。
「嘘。美味しくないんでしょ」
「いや、そんな事ないです」
「だって敬語じゃない」
頬を膨らませて、自分の作ったミートソースのスパゲティらしき物体を
口にいれた石川は、気まずそうに目を泳がせた。
「美味しいよ？」
吉澤はそんな石川に気付いてフォークにパスタを絡めた。
「嘘…パサパサしてる」
「和風に醤油かけて食べてみよっか。ほら、美味しいよ？」
「やっぱり不味いんだぁ」
「あ…」
シンプルな白いプレートにちょっと茶色いソースのパスタ。
食事が終る頃にはほろ苦いパスタは、
吉澤のお皿から一本残らず消えていた。
60 名前：７．Love starts from nothing.（2/3） 投稿日：2001年11月22日(木)04時38分14秒
桃色のジュースを持って石川はソファに座る吉澤のすぐ隣に座った。
「ありがと。食べてくれて」
「ごちそうさまでした」
「……ふふっ」
石川は俯いて笑った。
「なんで笑うの？」
吉澤が不思議そうに石川を覗き込むと、石川は彼女の頬を指で拭った。
「ほら、ミートソース」
指についたソースを自分の口に含んで石川は顔を顰めた。
「やっぱりあんまり美味しくないね」

これはもう、恋じゃないか。

吉澤は頭の中でそう呟いた。
「先輩」
桃色のジュースをテーブルに置いて、吉澤は石川を見た。
「何？」
台所からかしゃん、と皿が水に滑った音がした。
「名前で、呼んでくれません？」
驚いた様な顔をして石川は戸惑った様に彼女の名前を口にした。
「ひとみちゃん？」
にっこり笑って吉澤は彼女から離れた。
61 名前：７．Love starts from nothing.（3/3） 投稿日：2001年11月22日(木)04時38分50秒
自覚してしまった心に歯止めはかけられなくて。
だから、彼女はそれを無理矢理に止めなかった。
「どうしたの？ひとみちゃん。ニコニコしてる」
「ん？いや、なんでもないよ？」
食事のお礼に食器を洗う吉澤は、泡を石川の鼻の頭につけた。
「もー」
怒る石川の顔が先程よりも柔らかく見えたのは、吉澤の欲目なのか。
「ははっ。泡だらけ」
「自分でやった癖に」
泡が台所に飛び交って、二人の笑い声はやがて苦笑いに変わっていった。
「片付けなきゃね」
「台所こんなにしちゃったね。ごめんなさい」
「…でも、ちょっと楽しかった」
「先輩も？」
苦笑いはやがて微笑みに。
泡を台所のフローリングに散らばった泡を拭きながら、
二人はくすくすと笑いあった。
外からはもう、子供の声も聞こえてこなかった。
62 名前：空飛び猫 投稿日：2001年11月22日(木)04時39分28秒
更新しました。
展開早いかなぁと悩みつつも、
吉澤が全く悩んでいないのでそのまま。

>>53
ただいまです。
引き続き急接近中です。
は、早過ぎですかね？

>>54
吉澤、暴走しております。

>>55名無し男様
有難うございます。
これからも頑張りますので宜しくお願いします。

>>56ARENA様
照れてても、やっぱり料理の上手な石川は
書けませんでした…。

>>57
吉澤さんばっかりでばってますね〜。
石川好きな筈なのに、私。

>>58吉胡麻系様
有難うございます。
やっと折り返し地点にやってこれたし、
これからも頑張ります。
63 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月22日(木)23時57分56秒
急接近最高です（ｗ
続き超期待です。
64 名前：Charmy Blue 投稿日：2001年11月23日(金)16時34分18秒
ヨシコが、可愛いなぁ。
そして、石川先輩も、萌え。
65 名前：ARENA 投稿日：2001年11月23日(金)17時27分16秒
スパゲッティはトイレの味しないのね・・・（ｗ
ついに石川が名前で呼ぶようになりましたねぇ（´ー｀）y ─┛~~
66 名前：８．野菜達の憂鬱と彼女の膝のピンク色（1/4） 投稿日：2001年11月27日(火)01時20分04秒
約束はしていなかった。
だから確証があった訳でもなく、
本当にただ、ただ、気持ちだけで吉澤はそこに立っていた。
十時を公園の鐘が鳴らしたと共に、吉澤は遠くから来る人影を確認した。
走り出すのを堪えて、その人影が誰だかを見極めた。
胸元までの髪の毛は、今日は二つに纏めてあった。
膝上丈の赤色のスカートと、膝上までのハイソックスの間から
こっそり肌色が覗いていた。
グレイのＴシャツは彼女の細さを強調していた。
吉澤は、彼女が吉澤に気付く前に走り出していた。
「ひとみちゃんっ？」
走ってくる吉澤に気付いた瞬間に、その腕の中に収まっていた石川は
驚いた様に吉澤の顔を覗き込んだ。
「今日、約束してなかったから来てくれないのかと思った…！」
「大袈裟ね、もう２度と会えないみたいだわ」
そう笑う石川に、吉澤は甘く囁いた。
「もう、２度と会えないかと思ったから」
「ひとみちゃん、喜ばせるの上手いのね？」
おかしそうに石川はそう言って、吉澤を抱き返した。
「私も、会えて嬉しいわ」
吉澤の気持ちに気付いているのかいないのか、
石川は吉澤が離れるまでずっとそのまま腕の中に収まっていた。
67 名前：８．野菜達の憂鬱と彼女の膝のピンク色（2/4） 投稿日：2001年11月27日(火)01時21分07秒
昼前のスーパーは流石に空いていた。
人の何百倍もありそうな野菜がひしめいていた。
少女達の声を、野菜は聞こえていない振りをしながら聞いていた。
「今日はリベンジなんだからね！」
「へ？また作るんですか？」
「あー！！もう食べたくないとでも言うつもり？」
「言いません。言いませんよ、貴方の作ってくれる物ならば」
「…もうっ」
トマトが選ばれるのを、密かに羨ましがっていたズッキーニは
自分が選ばれて満足だった。
季節じゃないと諦めていた南瓜は選ばれて吃驚した。
茄子が、レタスが、赤ピーマンが、オクラが、
自分が選ばれた事を不思議に思っていた。
残った野菜も、選ばれた野菜も、そして吉澤の頭の中も、
疑問を一つだけ抱えていた。

何を作るつもりなんだろう？

その疑問は、結局どの売り場の商品達も抱える事になった。
68 名前：８．野菜達の憂鬱と彼女の膝のピンク色（3/4） 投稿日：2001年11月27日(火)01時22分01秒
燃えたぎる太陽を避けながら、少女達は石川邸に逃げ込んだ。
室内という事と空調が効いていた成果が相まって、
そこは楽園の様に感じられた。
石川が１人で作ると譲らなかった為、
吉澤はキッチンのカウンターに座って石川を眺めていた。
「ねぇ、ソファで待っててよ？」
「嫌。先輩を見ていたい」
嬉しそうに吉澤は言った。
朝、石川を遠くに見つけた時から彼女の気持ちは決まっていた。
若さ故の早急さではあるだろうが、吉澤は石川をもっと近くに感じたかった。
できるならば、誰よりも近くに。
「またそんな事言って！からかわないでよ…」
ちょっと不機嫌になる石川に、吉澤は構わず言葉を続けた。
「からかってなんかいないよ？本当に見てたいの」
顔を赤くして、石川は野菜を切り刻もうと俯いた。
「やっ」
包丁が滑って、彼女の人指し指が赤く染まった。
「先輩っ」
台所の中に急いで入った吉澤は、ためらう事なく石川の細い指を口に含んだ。
血を吸い取って、シンクに流した水道水に人指し指を入れて流させる。
それから、心臓の上まで指を持ち上げて、ペーパータオルでおさえた。
「そのままで」
それだけ言うと、吉澤は救急箱を探しにいった。
69 名前：８．野菜達の憂鬱と彼女の膝のピンク色（4/4） 投稿日：2001年11月27日(火)01時22分44秒
止血が完了した石川の指の傷は浅かった。
大丈夫だと、言うのを聞かずに吉澤は石川の指に
器用に包帯を巻き付けた。
「こんなに大袈裟にしなくても平気よ」
「だって、絆創膏ないじゃないですか。平気です。
水に触る事は私がしますから」
それからは石川が指示をして、吉澤が料理を作った。
ただし、味に関してだけは石川が譲らなかった為、
吉澤は触れる事が出来なかった。
「美味しい？」
「…は、はい」
「嘘つきね。でも、今日はひとみちゃんも作ったのよ？」
「はい…」
石川の言葉に頷きながら、吉澤は皿を空にした。
二人のお腹の中に収まった野菜達は、
スーパーに並ぶ野菜達を思ってため息を洩らした。

…君たちは選ばれなくて、良かったな…。
70 名前：空飛び猫 投稿日：2001年11月27日(火)01時23分38秒
更新しました。
吉澤、開き直りすぎです。
そして、ちょっとだけコメディタッチ。

>>63
急接近は好感触という事で、良かったです。
マターリ行けと言われたら、どうしようかと
思ってたので…。

>>64Charmy Blue様
吉澤、男らしくし過ぎないようにしなければと
頑張ってます。
石川はそんな事ないのにな…（あったらそれはそれで大問題）

>>65ARENA様
トイレの味は、吹き出してしまいそうなのでやめました。
でも言わなかっただけで、きっと…。
今回の何か判らない料理もきっと…。
71 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月27日(火)10時40分08秒
あー、いいなあこの文章。ほのぼのしてて可愛くて。
それと毎回のサブタイトルがとっても好きです。
72 名前：名無し読者 投稿日：2001年11月27日(火)12時05分57秒
ほんと文章うまいっすねぇ…
石川がよっすぃ〜の気持ちに気づく日はくるのかな…
73 名前：ARENA 投稿日：2001年11月30日(金)08時36分21秒
なんか指の傷を口に含むって、ベタでいいですねー（ｗ
いや、良い意味で。
74 名前：名無し男 投稿日：2001年11月30日(金)14時52分40秒
ぎじんほー最高!!
75 名前：空飛び猫 投稿日：2001年12月02日(日)03時35分34秒
準備は出来ているのです。
ただ…時間が…。
今日の晩には戻ります。
しばしお待ちを。
76 名前：名無し読者 投稿日：2001年12月03日(月)04時02分10秒
はい、待ってます
77 名前：名無し読者 投稿日：2001年12月10日(月)04時38分14秒
お忙しいのかな
78 名前：９．電話には、時として伝える以上に仕事がある。(1/3) 投稿日：2001年12月12日(水)22時29分31秒
夜の帳は例外なく、吉澤邸の上にも降りた。
オレンジの香りを漂わせた湯舟からあがった吉澤は、
にじみ出てくる笑みを、隠しながら自分の部屋へと戻った。
「ひとみー、電話よぉ」
電話、と聞いて浮かぶ顔はほわほわした笑顔。
彼女が、電話をかけてくる理由等はないのに、
吉澤はもしかしたら、という気持ちに狩られて子機を取った。
「はい」
「もっしー」
「なんだ、ゴッチンか…」
受話器の向こうから聞こえてくる後藤の声に、
吉澤は脱落した様な声を出した。
「なぁに？なんか待ってたの？」
「いや、誰かと思っただけ」
後藤の少し不満そうな声を聞きながら、
吉澤は、窓から外を見た。
この空の続く、そう遠くない場所で
石川は今何をしているのだろう？
離れていようが、いまいが、吉澤の頭の中から
石川が消える事等、２度とない様に思えた。
79 名前：９．電話には、時として伝える以上に仕事がある。(2/3) 投稿日：2001年12月12日(水)22時30分15秒
「ちょっとぉ聞いてんのぉ？」
「え？ん、あ、ごめん。なんだっけ？」
後藤が不満そうにため息をついた。
吉澤はそんな後藤に申し訳ない気持ちと、
先刻まで会っていたのに、どうしようもなく石川に会いたくなる自分に
喝をいれて、ため息を隠した。
「うん。だからね、いい場所を見つけたんだぁ」
「ふーん。で、何処？」
机の上を指でなぞって、その冷たさを確認した。
夏の暑い空気は、部屋の中まで進出してきていた。
石川の部屋とは比べ物にならない程暑く、息苦しかった。
それは、そこに石川がいないからなのか、
ただ単に部屋の空調の違いの所為か。
「今は内緒。でも、いいとこだよ」
「そ。今度教えてね？」
吉澤は窓辺に戻り、カーテンを少しだけ開けた。
初夏の星は、星座が全く判らない吉澤にも綺麗に見えた。
80 名前：９．電話には、時として伝える以上に仕事がある。(2/3) 投稿日：2001年12月12日(水)22時30分47秒
「ちょっとぉ聞いてんのぉ？」
「え？ん、あ、ごめん。なんだっけ？」
後藤が不満そうにため息をついた。
吉澤はそんな後藤に申し訳ない気持ちと、
先刻まで会っていたのに、どうしようもなく石川に会いたくなる自分に
喝をいれて、ため息を隠した。
「うん。だからね、いい場所を見つけたんだぁ」
「ふーん。で、何処？」
机の上を指でなぞって、その冷たさを確認した。
夏の暑い空気は、部屋の中まで進出してきていた。
石川の部屋とは比べ物にならない程暑く、息苦しかった。
それは、そこに石川がいないからなのか、
ただ単に部屋の空調の違いの所為か。
「今は内緒。でも、いいとこだよ」
「そ。今度教えてね？」
吉澤は窓辺に戻り、カーテンを少しだけ開けた。
初夏の星は、星座が全く判らない吉澤にも綺麗に見えた。
81 名前：９．電話には、時として伝える以上に仕事がある。(3/3) 投稿日：2001年12月12日(水)22時31分26秒
早く、冬になれと吉澤はいつも思っていた。
彼女は、夏よりも冬の寒さの方が好きだった。
夏の焦がれた匂いよりも、冬の凍った空気の方が好きだった。
星座も冬ならば一つだけ分かった。
切り裂く様な風も、じとじととした湿気には勝った。
そんな彼女が今は夏が終るのを惜しんでいた。
後、たった一ヶ月である。
いつもは長い様に感じていた夏休みは、光速で動いているかに思えた。
毎分、毎分、その時間を惜しんだ。
いつからこんなにも欲深くなったのか、彼女ははっきりと思い出せた。

ちゃぷん。

今も、あの水音が耳に響く。

ちゃぷん。

あの時には、既に。

ちゃぽん。

彼女の恋も、プールに浸っていたのだ。
82 名前：空飛び猫 投稿日：2001年12月12日(水)22時32分04秒
やっと復帰でございます。
お待ち下さった方々、すみませんでした。
見捨てないで待っていて下さった方々、有難うございました。

>>71
有難うございます。
サブタイトル、力入れてるんです。
キャッチコピー好きなもので。

>>72
有難うございます。
あれで気付いていない石川さんは凄いなぁと思います。
いや、気付いているのかもしれませんが。

>>73
ベタベタですねー（w
いい意味で言って頂けて良かったです。

>>74　名無し男様
擬人法、くどいかなぁと思ったのですが…。
どうしてもやりたかったんですよ。

>>76
お待たせしました。
すみませんでした！！
見捨てないでやって下さいませ。

>>77
すみませんでした…。
大変お待たせしました。
復帰出来そうです。
83 名前：夜叉 投稿日：2001年12月12日(水)23時59分34秒
わっ、更新されてる♪
待ってた甲斐がありました。
お忙しそうですが、がんがって下さいね。
84 名前：ARENA 投稿日：2001年12月13日(木)05時08分16秒
冬は寒いぞ〜、吉澤。いや、マジで(（（；´ー｀）)y ─┛~~
85 名前：名無し男 投稿日：2001年12月13日(木)21時37分31秒
ﾔﾀｰｰｰ
ｼｬﾁｮｻﾝ戻ｯﾃ来ﾀｱﾙｰｰｰ!!

やっぱあなたﾎﾟｴﾏｰやわ
86 名前：名無し読者 投稿日：2001年12月20日(木)08時44分57秒
そろそろ続きを読みたいなーなんて（ﾎﾞｿ
87 名前：１０．アトランダムな誓いを貴方に(1/4) 投稿日：2001年12月20日(木)11時13分14秒
きっと、自分はどうかしてるのだ。
吉澤はコーベヤのサンドイッチを買いながら、そう思った。
朝、石川に電話をした時からそう思っていた。
『会いたいです』
そう素直に言えた自分はどうかしていた。
ウキウキしながら、サンドイッチを買っている自分はどうかしていた。
でも吉澤の頬に滲みでてくるエクボは止まらなかった。
たった今生まれた様な新鮮な風が彼女を包み込んだ。
今日は、あの高台に行こう、と彼女は頭の中で決めた。
それが決まった瞬間から、一つずつ細やかな内容まで決めていく。
ディーテルまで予め想定していくのは吉澤の癖である。
最初に彼女にかける言葉は、おはようでもこんにちはでもなく、
元気だった？にしよう。
飲み物は、カフェ・ドリューで買って行こう。
道程は、車の通らないまだ緑の銀杏並木を通って行こう。
あの高台の右から二つ目のベンチに座ろう。
あそこは木陰もあるが、程よく陽射しもある。
「恋人でもない癖に」
自分の身勝手さに苦笑いしながら吉澤は、
待ち合わせ場所に着くまでに一日のスケジュールを決め終っていた。
88 名前：１０．アトランダムな誓いを貴方に(2/4) 投稿日：2001年12月20日(木)11時13分49秒
「おはよう」
「元気だった？」
「やぁね。昨日も会ったじゃない」
おかしそうに石川が笑うのを吉澤は嬉しそうに見た。
吉澤はその顔が見たくてわざとそう言ったのだと、
石川に伝えたくて仕方がなかった。
「今日はサンドイッチ買ってきた」
「なぁに？私の御飯は食べられないの？」
唇を尖らせてそっぽを向く石川の右手を左手で握って吉澤は歩き始めた。
「いいから、着いて来て。絶対楽しいから」
「何処いくの？」
石川の歩調に合わせて、ゆっくりと歩き出して吉澤は人指し指を唇につけた。
「内緒」
「もうっ」
カフェ・ドリューでパッションフルーツのジュースや、
クランベリーティーの瓶を購入した。
緑が爽やかな銀杏並木を歩いていった。
吉澤は、決して手を離そうとせずにいて、
それに石川は不満げな表情は見せなかった。
89 名前：１０．アトランダムな誓いを貴方に(3/4) 投稿日：2001年12月20日(木)11時14分20秒
高台は、誰かいてもよさそうだったのに誰もいなかった。
「気持ちいいでしょ？」
「ひとみちゃんは、色んな所を知ってるのね」
目を輝かせて、石川が言った。
「私ね、あまり外に出て遊んだ事なかったの。だから、凄く嬉しい！」
満面の笑みを浮かべる石川を引き寄せて吉澤は満足そうに言った。
「喜んでくれてよかったです。ピクニック、しましょう？」
予定通り、右から二つ目のベンチに座った。
風が二人の間を過ぎ去って汗を連れていってくれた。
「なんで、外で遊ばなかったんですか？」
サンドイッチも空になって、アップルパイに齧りつきながら
吉澤が素朴な疑問を投げかけた。
「…大した理由なんてないわ」
「このアップルパイ、美味しいですよ」
明らかに曇る石川の顔に、吉澤は追求を諦めて全く違う話題に摺り替えた。
あなたの事なら、なんでも知りたい。
そうはっきりとはまだ、言えそうになかった。
90 名前：１０．アトランダムな誓いを貴方に(4/4) 投稿日：2001年12月20日(木)11時14分54秒
高台から少し歩いて着いた丘は、白い花が満開に咲いていた。
「昼寝にもってこいの場所だと思いません？」
吉澤がもうすっかり自分の一部にでもなった様な石川の右手を引き寄せて言った。
「ここで昼寝？」
石川は、訝し気な顔で聞き返す。
「膝枕してくれますか？」
そんな彼女を全く気にせずに、吉澤はにっこり笑ってそう言った。
「私は寝ちゃいけないの？」
「じゃぁ、一緒に」
先に座って、吉澤が促すと石川はおかしそうに笑って隣に座った。
「はい、枕」
吉澤が腕を広げて石川の枕を作った。
「じゃぁひとみちゃんの枕はこれね？」
石川は自分の肩にかかっていた若草色のパシュミナを丸めて吉澤に渡した。
木陰が彼女達を覆って、夢の国へと誘った。
木陰が反対側に移動してしまうまで、二人はそのまま固定した呼吸を続けた。
91 名前：１１．NATURE LOVE(1/3) 投稿日：2001年12月20日(木)11時15分30秒
「ひとみ、電話よ」
自宅の玄関を開けると同時にそう言われた吉澤は、
鞄も置かずに電話に出た。
「はい。変わりました」
「あ、よっすぃ？」
変わりない後藤の声に、軽口を叩きながら２階にあがった。
「で？なんか用だった？」
「うん。恋の相談」
あっけらかんと言われて、吉澤は少々驚きながらも
同じ様に簡単に返事を返した。
「好きな人が出来たの？」
「違う。ずっといるの」
後藤がそういう相談をしてくる事は珍しく、
吉澤は見当がつかなくて答に迷った。
「急展開でもあったの？」
「うーん…あったといえばあったかな」
具体的な言葉はまだ一つとして上げられていない。
「それじゃ判らないよ」
吉澤がそう言うと、後藤はぽつぽつと話し始めた。
92 名前：１１．NATURE LOVE(2/3) 投稿日：2001年12月20日(木)11時16分12秒
「幼馴染みがいてさ」
後藤はドライな関係を持ちたがる質だったので、
吉澤も安倍もあまり彼女の近辺については詳しく知らなかった。
「で、ずっと好きだったんだけどさ。最近はちょっと離れてて」
後藤の話を聞きながらも、吉澤は窓から見えない遠くの石川の家を探していた。
「でも、一緒にいたくて傍にいてって言ったら頷いてくれたんだけどさ」
「両思いじゃん？」
「それが恋愛としてでないんだ」
「あちゃぁ」
ベッドに寝そべった吉澤は、枕の硬さにパシュミナを思い出した。
「どしたらいいかな？」
「恋愛として好きって言ってみたら？」
思い当たるのは、自分と石川の関係。
きっと彼女は今告白をしても恋愛とは受け取らないだろう。
当り前だった。彼女と吉澤は出会ったばかりの同性なのだから。
「言ったら、壊れないかな？」
「でも、言いたいんでしょ？」
「…そだね。ありがと」
自分には出来ない事でも、他人になら言えるのかと
吉澤は電話を切りながらため息をついた。
93 名前：１１．NATURE LOVE(3/3) 投稿日：2001年12月20日(木)11時16分57秒
恋をしています、貴方に。
そう言ったら石川は拒絶をするだろうか。
吉澤は、首を振った。
困らせる事はあっても、あからさまな拒絶はしないだろう。
彼女のそういう部分はもう嫌という程理解していた。
毎日自分と会っているのだから、恋人はいないだろうという
安易な考えが吉澤の頭の中を占領していたが、
ふと、他の可能性を考えた。
もしかしたら、遠距離恋愛なのかもしれない。
或いは、夜会っているのかもしれない。
夜に急に自分が彼女の家を訪れたら、
彼女は誰かと抱き合っているかもしれない。
胸が苦しくなるのを感じて、吉澤は失笑を洩らした。
「馬鹿じゃないの。ありもしない事でこんなに辛いなんて」
天井に向かって呟いて、吉澤は目を瞑った。
「ごっちん、上手くいくといいなぁ」
彼女が上手くいけば、自分も上手くいく気がした。
94 名前：空飛び猫 投稿日：2001年12月20日(木)11時17分42秒
相変わらず更新が遅い今日この頃。
家に殆どいないのがいけないのですが、家にあまり帰れないのです。
言い訳にすぎませんが…。
待っていて下さってると思うと、
本当に申し訳ない気持ちで一杯です。
なるべく早く更新します。ごめんなさい。

>>83　夜叉様
相変わらず遅くてすみません。
待ってて下さって有難うございました。

>>84　ARENA様
いや、寒いですね〜。
でも、実は自分で夏より冬が好きだったりします（w

>>85　名無し男様
戻って参りました。と、言いつつまた遅い更新ですが。
ﾎﾟｴﾏｰなんて、初めて言われました。
褒めて頂けたんだと有り難く受け取っておきます。

>>86
遅くてごめんなさい…。
その代りと言ってはなんですが、今日は２章分更新です。
95 名前：名無し読者 投稿日：2001年12月20日(木)15時48分10秒
この２人が木陰で昼寝ってシチュエーションいいなぁ・・・
絵が思い浮かぶようです
96 名前：夜叉 投稿日：2001年12月20日(木)19時38分58秒
更新ありがとうございます♪

公園での二人、情景が浮かんできます。
まったりとした時間と吉の気持ちと石の優しさ。
いいですね、ほんっと。

吉の胸の苦しみ、分かるです。
そんなことないのに、いろいろと一人で暴走したり。

作者様、家に帰れないとのこと。
体の方が気になります。
あまり無理はしないで下さいね。
申し訳ないだなんて、とんでもない。
時間のあるときで構わないので、気にしないでくださいね。
97 名前：名無し男 投稿日：2001年12月21日(金)15時16分22秒
う〜ん
子供の時の思い出がﾌﾗｯｼｭﾊﾞｯｸして来た
今、なんとも言えない余韻に浸ってます。
98 名前：１２．恋の種・愛の花(1/3) 投稿日：2001年12月21日(金)17時24分09秒
後藤と安倍に吉澤が出会ったのは、昨年の春の事だった。
小学生の頃から学院生だった後藤と安倍は、元から仲が良かった。
吉澤が彼女達と仲良くなったのは、中途入学してきた吉澤が
それなりに周りと馴染みつつも、深入りしないのを見て
後藤が彼女に声をかけてきてからだった。
『吉澤さん。今日から君はよっすぃだ』
面喰らってる吉澤ににっと歯を見せて笑顔を後藤が見せる。
『なっちもそう呼ぶ！あ、なっちはなっちでいいよ。で、これがごっちん』
『なっち、これはないよ。大体なっちはなっちでいいって何？』
『それ以外どう言うのさ。なっちを呼ぶ時はなっちでいいよって？』
『変わってないよ』
真剣に言い合っている二人の会話に思わず吉澤が吹き出すと、
二人が同時に彼女の方に顔を向けてうなった。
『よっすぃ！！』
『よっすぃ！！』
あの日から、三人は行動を共にする様になった。
だが、吉澤は彼女達に彼女達の前で起きた事をあまり話さなかった。
彼女達も、吉澤に重要な事は言わなかった。
99 名前：１２．恋の種・愛の花(2/3) 投稿日：2001年12月21日(金)17時24分49秒
吉澤は電話の向こうの声の話す内容を聞いて、
三人は何処かで繋がっているのではないかと疑った。
「なんだって？」
『聞いてなかった？なっちは恋してるのさ』
独特のイントネーションで安倍は先程の言葉を繰返した。
「次から次だよ…」
『へ？』
吉澤は首をかしげてそうな声を出した安倍に
こっちの事だと、誤魔化して安倍の話を促した。
『なっちは恋してんのさ』
「それは聞いた。誰に？」
『それは内緒』
彼女が赤らめた頬を片手で隠しているのが想像できた。
「告白しないの？」
『違う人が好きな人だから、言わない』
語尾が震えているのが、受話器越しからでも伝わってきた。
吉澤は、傍にいたら肩を抱いていただろう小さな少女に
かける言葉を迷って、暫くしてから言った。
「なっち…後悔、しちゃ駄目だよ？」
100 名前：１２．恋の種・愛の花(3/3) 投稿日：2001年12月21日(金)17時25分27秒
恋というものは伝染するのだと吉澤は思った。
隠してきた恋の種が芽吹いたら、
それは春だと言わんばかりに他の人の種も芽吹くのだ。
だから、後藤からも安倍からもそんな話が出て、
自分の中にも抑えきれない程の愛しい気持ちが湧き出てくる。
石川にも、恋の種が芽吹いているだろうか。
吉澤の頭の中に、彼女の心を独占している顔が浮かんでくる。
石川の種が芽吹いていなければいい。
自分に気持ちが向けと思う一方で、吉澤は心底そう思っていた。
彼女はこんな醜い感情は持たないのだと、自分に言い聞かせる。
恋は美しいばかりではない事ぐらい、吉澤は嫌という程わかっていた。
それでも、恋の甘美な部分にばかりを人は見る。
誰だって、醜い物は見たくないのだ。そんな事も吉澤は理解している。
醜い自分を見られたくなかった。
そして自分自身、石川の醜い部分すら愛せる自信等、
まだ恋したばかりの吉澤にはなかった。
身勝手な感情を持て余しつつ、吉澤は窓からまた、石川の家を探した。
見える訳もない石川の家を、今日も探した。
101 名前：１３．夕方は涙色(1/3) 投稿日：2001年12月21日(金)17時26分05秒
吉澤は、今日もあの場所で待っていた。
暑い陽射しは、今や吉澤の中の一部にもなりえていた。
七月は既に後ろ姿を見せていて、もうそこまで八月がやってきていた。
いつも石川がやってくるのが見える坂の上を、吉澤はぼんやり眺めていた。
蝉がけたたましく鳴いていた。
空には雲一つ浮いていなかった。
いつまで経っても、石川の姿が見受けられず
それでも吉澤はその坂の上を眺めて待っていた。
約束はしていない。
彼女が来るとは限らない。
それでも、吉澤はそこで待っていた。
空に飛行機雲がクロスしはじめた。
蝉の声も何時の間にか聞こえなくなっていた。
陽が陰ってきはじめても、吉澤は公園のベンチから動かなかった。
石川があの坂の向こうからあらわれるのではないかと、
ずっと、そこに座って待っていた。
102 名前：１３．夕方は涙色(2/3) 投稿日：2001年12月21日(金)17時27分17秒
吉澤が気付くと、石川が隣に座っていた。
何時の間に、と吉澤が驚いていると、
目の前の石川は寂しそうに笑っていた。
「先輩？」
「ひとみちゃん、私の事そんな目で見ないでよ」
「え…？」
石川の顔がどんどん苦痛に満ちていくのを見て、
吉澤は彼女に触れようとした。
「触らないでっ…」
石川に拒絶されて、吉澤はナイフを突き付けられた気がした。
どうか、もう一度笑って下さい。
今まで通り、笑って下さい。
もう、度を越した願い等忘れますから。
吉澤は涙を流して願った。
泣いて、石川に取りすがった。
「ひとみちゃん…」
103 名前：１３．夕方は涙色(3/3) 投稿日：2001年12月21日(金)17時28分10秒
「ひとみちゃんっ。ひとみちゃんっ」
「先輩…ごめんね？」
涙で歪んだ視界の中でも、石川は綺麗だった。
「どうしたの？ひとみちゃん。謝らなきゃいけないのは私なのに」
吉澤は涙を拭う石川の右手が、いつもの石川の手だと再確認した。
既に、陽は明日の準備の為に身を隠していた。
「ごめんね、今日来れなくて」
吉澤は、石川の顔が自分の上にある事に気付いた。
「あれ？」
自分の頭の下にある柔らかい暖かな存在が何であるかにも、気がついた。
「あれ？もしかして、寝て…た？」
「恐い夢見たみたいだった。私、怒ってた？」
石川が不安そうに、吉澤の髪の毛を梳いた。
「ううん、悲しませた。ごめんね」
「私の方が、謝らなきゃいけないの。今日、来れなくてごめんなさい」
何処までが夢だったのか、まだ吉澤は判断がつかなかった。
「いいよ、来てくれたんだから来れなかった訳じゃない」
「ありがとう。だから、ひとみちゃんて好きよ」
そう言うと、石川はにっこり笑った。
吉澤は、そんな彼女に気付かれない様に赤い顔を隠した。
104 名前：空飛び猫 投稿日：2001年12月21日(金)17時28分53秒
更新しました。２章追加。
お休みばんざいです。
ここ最近の私の中での標語です。
更新は　出来る内に　しときましょ。

>>95
有難うございます。可愛いですよね。
この二人が木陰で昼寝。
それでいいのかという程吉が男前ですが。

>>96　夜叉様
恋は魔物ですから。＞よく判らない例えですな…
たまに帰ってくると、息抜きになってここには助けられてます。
体には気をつけます！お気遣い、有難うございました。
嬉しかったです。

>>97　名無し男様
そう言って頂けて嬉しいです。
なんか、いつも嬉しい言葉を頂いていて、
恐縮しちゃいます。

今夜あたりもう少し更新できたらします〜。
105 名前：夜叉 投稿日：2001年12月21日(金)20時38分34秒
うをおおっ！！！「夕食バンザイ」（爆）。

失礼しました…。

もとい、「休日ばんざい」（ｗ。
公園の風景、やっぱり好きです。
こんな文才、自分にも欲しいです。
お手本にさせて下さい、師匠！！！

＞「ありがとう。だから、ひとみちゃんて好きよ」
はうううぅ、溶けますわ。
こんな二人に萌え♪。

さらなる更新に期待してます。
でも、無理はしないで下さいね。
106 名前：１４．笑顔は決意を揺りかごに(1/3) 投稿日：2001年12月22日(土)00時14分13秒
頭の中が覚醒してきた吉澤は何処までが夢で何処からが現実なのか
かなりはっきりと自覚してきた。
例え、夢の中だったとしても石川に拒絶された事が吉澤にはショックだった。
『触らないでっ』
あの時の怯えた声がまだ耳に残っていた。
もう彼女に気持ちを伝える事など出来そうにないと
吉澤は月に告白をした。
あんな顔を、例え夢の中でも見てしまった後に、
あの顔をもう一度させる可能性があるかもしれないと分かっていながら
彼女に気持ちを伝える事等、吉澤には出来なかった。
「ねぇ、ひとみちゃん」
「はい」
石川が言い難そうに口籠って、吉澤は目で促した。
「もし、もしもよ？今までそういう目で見てなかった人が
自分を好きだと思ってくれてたら、どう思う？」
吉澤は、自分の背中が急に冷たくなったのを感じた。
107 名前：１４．笑顔は決意を揺りかごに(2/3) 投稿日：2001年12月22日(土)00時14分57秒
なんでもない様な顔をして、吉澤は息を吸った。
声が震えないか、びくびくしながら声を出す。
「どうして、ですか？」
声は、綺麗に響いた。
そんな事に安心しながら、吉澤は石川の顔を盗み見た。
「べ、別に。ただ、そういう時ってどうするのかなって」
「無理矢理好きになる必要はないんじゃないですか？」
精一杯の強がりを口にした。
「でも、好きだと思ってくれてるなら、
その人をそういう対象として見てあげればいいんじゃないですか？」
石川はゆっくり頷いた。
「えぇ。そうね。そうやって見てみるわ」
艶やかな笑顔で、石川は吉澤を覗き込んだ。
「ひとみちゃん、ありがと」
「どういたしまして」
もし通じていないなら、それでも構わない。
吉澤は彼女のその気持ちだけで十分な気がした。
108 名前：１４．笑顔は決意を揺りかごに(3/3) 投稿日：2001年12月22日(土)00時15分29秒
夜のマンションは、いつもよりも大きく見えた。
マンションのロビーで、吉澤は石川に別れを告げた。
「じゃぁ、また…」
「えぇ。おやすみなさい。」
別れ難い気持ちを抑えて、吉澤はマンションを後にした。
きっと、彼女は魔法を使えるのだと吉澤は真夏の星座を探して思った。
「よっすぃ！何やってんの？」
突然声をかけられて、吉澤は心臓が口から出そうになった。
「な、なんだ。ごっちんか。何やってんの？」
「後藤の言葉を繰返すなよぉ」
そう言って、後藤は歯を見せて笑った。
「後藤は、好きな人に答をもらいに行くとこ。よっすぃーは？」
言うか、言うまいか迷った吉澤は、思いきって口にした。
「私は…好きな人の家に行った帰り」
「へぇ、よっすぃーにもいたんだ。好きな人」
後藤は驚きもせずにそう言って、マンションの方向に向いた。
「両思い？」
「片思い」
「お互い、大変だね」
この間の内容がどうなったのかと聞こうと思っていたのに、
後藤は別れを告げてマンションの方向に消えて行った。
109 名前：空飛び猫 投稿日：2001年12月22日(土)00時17分03秒
本日２度目の更新です。
２度目というのかという程、少なくない更新ですが。

>>105　夜叉様
三分クッキング。＞…ますます訳わからない。
無理してません〜。ちょっと少なくて恐縮なぐらいです。
頭をどろどろにしながら絞り出しているので、
文才という物があるのかどうか…。
感想下さる方々の意見にハッとする事の方が多いです。
でも褒められるのは嬉しいです。これからも頑張ります！
110 名前：吉胡麻系 投稿日：2001年12月22日(土)12時15分44秒
わぁお♪たくさん更新されてる！
感謝、感謝です！

なんか大変そうですね･･･、無理しない程度に頑張って下さい！
111 名前：夜叉 投稿日：2001年12月22日(土)21時27分25秒
＞無理してません〜。ちょっと少なくて恐縮なぐらいです。
そんなことないですよ。読めるだけでうれしいです。
でも考えすぎて、耳からおミソを出さないでくださいね。（ｗ

石の発言、なんか気になります。吉のことなのかな？と勝手に（略。
難しいですよね、こればっかりは。
二人の展開気になりますが、ごっつぁん、なっちの行方も…。
112 名前：名無し男 投稿日：2001年12月23日(日)14時52分55秒
おや？石川さんに微妙な変化が？
113 名前：空飛び猫 投稿日：2001年12月24日(月)08時25分24秒
今日は、更新はないのですが、お知らせがあります。
まずはレスを。

>>110　吉胡麻系様
無理しない程度に頑張っております。
沢山更新出来たのに、留守にしてしまってすみません。。

>>111　夜叉様
おミソ、出さないで頑張れる様に精進します。（W
年内にははっきりさせたいですね、石川さん。

>>112　名無し男様
微妙な変化は、吉とでるか凶とでるか。
自分で書いて、よしとでるかと読んでしまいました…。
馬鹿だ、私…。

さて、お知らせです。
このお話は年内には終了します。
が、ここから先は間があくと気付いてしまったり、
最後が見えてしまう可能性もある為、
最終回まで書いてしまってから一気に更新します。
勝手な事ばかり言ってすみませんが、しばらくお待ち下さい。
いつも待ってて下さる皆様には感謝です。
114 名前：夜叉 投稿日：2001年12月26日(水)17時06分17秒
年内で終了なんですね…（鬱）。
でも、特大最終回？楽しみにしてます。
まったりと更新お待ちしております。
115 名前：名無し男 投稿日：2001年12月27日(木)14時55分58秒
ｵｳそれは悲しい（TへT）
でも
最後にどんな展開が待ってるのかという期待も逆にあるし・・・

追伸
勝手に番外編＆次回作を期待してしまう俺は
逝ってよしですか？
116 名前：１５．それでもいいと思ってた(1/3) 投稿日：2001年12月30日(日)20時02分11秒
恋は日に日に大きくなるらしい。
結局吉澤は、毎日石川に会いに出かけた。
バイトをする事もなく、いつもの面子で遊ぶ訳でもなく、
毎朝を木漏れ日の中で過ごした。
石川の笑顔を見る度に疼く胸は、収まる事を知らなかった。
好きだと、今ならはっきり言えた。
彼女の全てを受け入れる事が出来るとさえ、吉澤は確信していた。
「ひとみちゃん？」
ただし、石川が彼女を受け入れるかどうかと聞かれたら、
吉澤は明確な答を出す事は出来なかった。
「ねぇ、ひとみちゃん」
「はい？」
吉澤が覗き込めば、石川の顔は赤く染まる。
吉澤が笑顔を見せれば、石川は恥ずかしそうに顔を背ける。
極上な甘い声すら彼女には届いている様に感じるのに。
それでも、石川が吉澤の気持ちを受け入れてくれるかと問われたら
吉澤ははっきりと答えられる自信を持てなかった。
117 名前：１５．それでもいいと思ってた(2/3) 投稿日：2001年12月30日(日)20時02分48秒
８月は既に旅支度を始めていた。
もう、石川と過ごせる時間は少ない。
「なんですか？」
赤く染まった石川の耳朶を見つめながら、
吉澤は我慢強く彼女が振り返るのを待った。
待ってばかりいてはいけないのも良く分かっていたが、
それでも石川の意にそぐわない事はしたくなかった。
「あのね、ひとみちゃん」
こっそりと石川が吉澤を覗き見て口を開いた。
「こないだ言ってた、あの話覚えてる？」
「どの、話？」
吉澤は、意識的にその話題をしない様にしていた。
「だから、自分の意識してなかった人がってお話」
「あ、はい」
言い難そうな石川になるべくそっけなく吉澤が答えた。
118 名前：１５．それでもいいと思ってた(3/3) 投稿日：2001年12月30日(日)20時03分29秒
陽射しはまだまだきつかった。
夏がそろそろ終るなんて、予測できそうにない程に暑かった。
「あの、お話なんだけどね」
恒例となった丘の上での昼寝は、相変わらず石川を独占できる唯一の時間だった。
髪の毛を撫でてみたいと思っても、その先を聞くまでは出来そうになく。
吉澤はゆっくりと空を見上げた。
入道雲がこの夏一番大きく見えて、吉澤はそれを伝えようと
石川の肩を数回優しく叩いた。
「やっぱり、無理だった」
「え？」
吉澤は自分の笑顔が凍り付いていくのがわかった。
「無理だったの」
石川は悲しそうに言った。
「好きだと言ってくれたその気持ちにはやっぱり答えられな…」
石川の目が潤んでいくのを見て、吉澤は何も言えなくなった。
「それで、いいんですよ…きっと」
「でも…っ」
石川の頬をつたう涙は、ビビッドな緑の丘に染み渡っていった。
辛い思いをさせてごめんなさい。
そんな思いをさせてしまうなら、想いの片鱗すら見せなかったのに。
吉澤は、空をもう一度見上げた。入道雲は、増々大きくなっていた。
石川の涙が止まるまで、吉澤はそのまま空を見続けていた。
119 名前：１６．探してたパズルの欠片は水の中(1/3) 投稿日：2001年12月30日(日)20時04分07秒
吉澤は、石川の泣き腫らして真っ赤な瞳が直視できなかった。
そうさせたのは自分で、自分の為に彼女の瞼は腫れ上がっていると思うと、
吉澤はなんと言えばいいのか判らずに、ただタオルを濡らしてきたり
冷たい飲み物を買ってきたりと、石川の世話をした。
あんな発言があった後なのに、石川は吉澤がタオルを濡らしに行く時には
何処へ行くのかと不安がったし、少し立ち上がる素振りを見せるだけで
吉澤のシャツの裾は握りしめられていた。
吉澤はなるべく今までと変わらずに石川に接した。
勝手な人だとこっそりため息をついて、絡ませてくる細い指を
吉澤はしっかりと握り返した。
「今日はそろそろ帰りましょうか」
「え…もう少し、駄目？」
帰りたくなさそうな石川を宥めて二人は帰路に着いた。
120 名前：１６．探してたパズルの欠片は水の中(2/3) 投稿日：2001年12月30日(日)20時05分08秒
本音を言えば、吉澤はひとりになりたかった。
何かを言う前に気持ちを拒まれて、
それでも今まで通りに過ごすのは簡単な事ではなかった。
「さ、今日はゆっくり寝て下さいね。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
そう言いながらも、石川は吉澤の手に指を絡めたままで。
「帰れないですよ」
吉澤が苦笑いを浮かべながら指を外そうとすると拗ねた様な顔をした。
「ほら、また明日があるじゃないですか」
笑顔を見せているのは辛かったが、石川に会えなくなる事に比べれば
吉澤にとって、選択肢等存在しないも同然だった。
「ね、だから今日は」
「よっすぃー？」
121 名前：１６．探してたパズルの欠片は水の中(3/3) 投稿日：2001年12月30日(日)20時06分09秒
甘い声で石川を説得していた吉澤の耳に聞こえてきた声は
あまりにも聞き覚えのある声で、吉澤は空耳だと
そのまま振り向きもしなかった。
石川の顔が強張っているのに気付き、
吉澤はやっと声の聞こえた方向に頭を向けた。
「ごっちん？！」
「よっすぃー、会うのは久しぶりだねぇ。梨華ちゃんと遊んでたの？」
後藤が綺麗な笑顔で言った。吉澤は、後藤が石川を名前で呼んだ事よりも
自分と石川が知り合いな事を知っている事に狼狽した。
石川はそんな吉澤の動揺に気付かずに後藤の手を取った。
「真希ちゃん、あのねっ」
「いーよ、梨華ちゃん。返事は分かってたから。幼馴染みに戻ろう」
石川が泣きそうな顔をして、後藤は彼女を抱き締めた。
「梨華ちゃんはやっぱり泣き虫だなぁ。
まきなら大丈夫なんだから、泣かなくていいのに」
「まきちゃ…ごめんね」
吉澤は、泣きながら後藤に謝る石川と、たった今起きたこの出来事で
今までの石川の矛盾した行動の理由が推測できた。
「悩み損？」
二人に気付かれない様に吉澤は小さく呟いた。
122 名前：１７．Let it be,as it will.(1/3) 投稿日：2001年12月30日(日)20時06分51秒
自分の愚かさに気付いて呆れる吉澤を後目に、
二人は仲直りの儀式を交わしていた。
「だからいいって。これからはまた幼馴染み。
まさか、それも駄目なんて言わないよね？」
「そんな事！……ごめんね、真希ちゃん。ありがと。大好きよ？」
「真希も梨華ちゃんが大好きだよ。
だから明日こそは美味しい朝御飯作ってね。おやすみ」
からかう様に後藤が言うと、石川は唇を尖らせた。
「もうっ！…いつもまずいって言う癖に！でも、作ってあげるわ。おやすみ」
本当に気にしていないといった顔つきで後藤はマンションに入って行った。
石川は、吉澤がそこに立っているのを見て、恥ずかしそうに俯いた。
「私、お姉さんなのにね」
吉澤はゆっくり首を横に振って、それから口を開いた。
「先輩、ちょっと待ってて下さい」
走って後藤を追い掛ける吉澤の背中を、石川は困った様な笑顔で見ていた。
123 名前：１７．Let it be,as it will.(2/3) 投稿日：2001年12月30日(日)20時07分31秒
石川の自宅の隣の家の表札にはGOTOHと細いアルファベットが並んでいた。
階段をかけあがった所為で荒くなった呼吸を整えて、
吉澤はそのドアのチャイムを鳴らした。
「よっすぃー、どうしたの？」
開かれたドアの中から飄々とした態度で後藤が聞いた。
「どうし、たのじゃ、ないよ」
「水いる？」
吉澤が辛そうに頷くと、後藤は彼女を招き入れて台所に向かった。
同じ間取りなのに、石川邸とは全然違う後藤の家の空気に
吉澤は石川の泣き顔を思い出した。
「はい」
戻ってきた後藤に水を手渡されて、吉澤はそれを一気に飲干した。
「なんで来たの？」
落ち着いた吉澤に、後藤は彼女を見ずに問いかけた。
無表情な彼女の横顔を、吉澤もやはり見ずに答えた。
「友達だから」
124 名前：１７．Let it be,as it will.(3/3) 投稿日：2001年12月30日(日)20時08分22秒
長い沈黙が続いていた。
家の奥からはテレビが大勢の笑い声を流していた。
「ごめんね、よっすぃー」
突然、後藤が切り出した。
「何が？」
「私、よっすぃーが梨華ちゃんと会ってるの知ってた。
だからわざわざよっすぃーに電話してあんな事言ったんだ」
後藤は決して吉澤を見ようとしなかった。
後藤をちらっと見て、吉澤は彼女と同じ様にドアに目を向けた。
「別に、謝る事じゃないじゃん。幼馴染みなの、知らなかったし」
「そうなのぉ？なんで言わなかったんだろ、梨華ちゃん」
吉澤は肩を竦めて玄関に並んだ靴を見た。
そこには、後藤の物と思われる靴と、両親のものと思われる靴と、
兄弟の物と思われる靴が沢山並んでいた。
「梨華ちゃんの事、宜しくね」
「できるなら、そうしたいけどね」
吉澤が後藤を見て言うと、後藤はドアから目を離さずに言った。
「よっすぃーにしか、出来ないよ」
リビングの方からは相変わらず大勢の笑い声が聞こえてきていた。
125 名前：１８．踊る恋と冷たいアールグレィ(1/3) 投稿日：2001年12月30日(日)20時08分55秒
後藤邸のドアを開けると、廊下の端から石川が覗いていた。
ドアを閉めて、笑顔を見せると石川が近付いてくる。
「真希ちゃん、どうしてた？」
「元気でしたよ」
そう答えると、石川はそれでも心配した顔をして言った。
「あの子、平気な顔してても平気じゃないの…。大丈夫かしら」
高くて心地よい声を後藤に聞かせるのは酷な気がして、
吉澤は石川をGOTOHの文字から遠ざけた。
「今は、そっとしておいてあげましょう」
悲しそうに石川が笑った。
「お茶でも、出すわ」
すっかり彼女の物と化したシャツの裾を握って、石川は吉澤を誘った。
吉澤は頷いて、石川のあの真っ白な部屋に入った。
玄関には相変わらず靴が一足も出ていなかった。
リビングは真っ暗で、テレビの音もしなかった。
「お家の人は？」
吉澤が聞くと、石川はちょっと考えてから言った。
「私、ひとりなの」
ソファに座ると、背の高いグラスに氷とアールグレィが入れられてきた。
126 名前：１８．踊る恋と冷たいアールグレィ(2/3) 投稿日：2001年12月30日(日)20時09分56秒
吉澤はそれを何も入れずに一口飲んだ。
シロップとミルクを入れながら石川は吉澤に礼を言った。
「どうしてですか？」
「今日一緒にいてくれて」
吉澤は首を横に振って、石川の細い指に触れた。
「ずるいんですよ、私は」
「え？」
カラン、と氷が音を鳴らした。
上の階の住人の足音が遠く離れていった。
「貴方が言っていたあの話が、私の事じゃなくてホッとしていた。
ごっちんの友達失格なんです。彼女がたった今失恋したというのに、
私はその相手の傍で胸を高鳴らせている」
外で、車がクラクションを響かせていた。
石川は逃げる様に窓辺に立って、遠くを見た。
「ひとみちゃんの家、ここから見えるかしら？」
「うちからは先輩の家は見えませんでしたけど、
ここなら昼には見えるんじゃないですか？」
石川の後ろに立って、吉澤は遠くを見た。
127 名前：１８．踊る恋と冷たいアールグレィ(3/3) 投稿日：2001年12月30日(日)20時15分19秒
星空が綺麗に見えた。スモッグの多い都会では珍しい夜だった。
「真希ちゃんね、いつもお話を沢山してくれてたの。
安倍さんとひとみちゃんと、３人の楽しいお話。」
窓ガラスに写った石川は目を閉じていた。
「狡いのは私だわ。ひとみちゃんが真希ちゃんの友達だって知ってて言わなかったの。
プールで会ったあの時よりも前からずっと知ってたのに言わなかったの。
真希ちゃんがひとみちゃんの事聞かれて誤魔化したの。
もう会わないかもしれないって。だって」
石川が振り向いて、吉澤のシャツの裾を掴んだ。
「だって？」
吉澤が促すと、石川は顔を背けて続けた。
「ひとみちゃんといる空気が心地良くて、一人占めしたかったの。
二人で会ってたかったの」
右手で石川の顔をもう一度自分の目の前に向けて吉澤はためていた言葉を吐出した。
「抱き締めて、いいですか？」
「駄目って言ったら？」
「それでも」
吉澤は有無を言わさずに石川を自分の腕の中に収めて、彼女の耳に囁いた。
「９月になったらまたあそこに行きましょう」
その言葉を聞いた石川はクスクス笑って苦しそうに頷いた。
「泳いでもいい？」
「仕方ない人だな。内緒ですよ？」
128 名前：１９．泳ぐ金魚達と少し気の早い紅葉と(1/2) 投稿日：2001年12月30日(日)20時16分21秒
九月がやってきた。
急に太陽が柔らかくなった様な気がする陽射しだった。
もしかしたら太陽にも恋人が出来たのかもしれない、と
吉澤は並木道で後藤と安倍を待ちながら思った。
「お待たせぇ」
「待ってないよね？よっすぃー」
「…待ったよ」
３人は並木道を、相変わらずの他愛無い会話を繰り広げて歩いた。
「だから、今日は奢りなんだよぉ」
「そーなん？やった！なっちダブル頼んでいい？」
「いいよ。もうなんでも」
そろそろ、木々も衣替えする時期になっていた。
「ごめん！明日でもいい？」
ぴたっと立ち止まった吉澤が二人に唐突に過った。
「えー！！」
「なんでぇ？」
「トリプル頼んでいいから！」
後藤が軽いため息をついて手をはらった。
「行ってきなよ。もう寒いからアイスはいいや」
「ありがとっ」
吉澤が走り去った後には二人の少女が残った。
「なっちが鯛焼き奢ってあげるさ」
いつまでも吉澤を見ている後藤の腕に自分の腕を絡めて安倍が笑った。
「うん。いこっか」
絡められた腕を解き、手を握り直して後藤も笑った。
風が葉をサワサワと揺らして、光はそこにあるままだった。
129 名前：１９．泳ぐ金魚達と少し気の早い紅葉と(2/2) 投稿日：2001年12月30日(日)20時16分55秒

ちゃぷん。

更衣室に入った吉澤はプールから聞こえてくる音に頬が緩んだ。
更衣室には、予めタオルとジャージが二着用意されていた。
ドアを開ければそこにはあの日と同じ様に制服姿の石川がいた。
悪戯っぽく笑って、石川は吉澤に手を伸ばした。
「今年はもうそろそろ寒くなってプールもお終いね」
「じゃぁ、今年最後に入っておきますか？」

ちゃぽん。

靴と、靴下を脱いで制服姿のままで吉澤は石川の待つプールに入った。
ゆっくりと泳いでいくと、石川はプールサイドから手を離して沈んでいく。
水の中で、石川を抱きとめた吉澤はそのまま彼女と唇を合わせた。
何度も何度も唇を絡ませて、水面にあがった。
最初は触れるだけだった唇の中まで侵食していく。
息苦しくなった石川が顔を背けて吉澤にしがみついた。
吉澤はその場で立ち泳ぎをしながらこっそり笑った。
石川は最初怒った様な顔を見せて、それから彼女も笑い出した。
二人が笑ってるのを聞いてか、プールの水もぱしゃぱしゃと笑った。

「ひとみちゃん、私来年泳げる様になるかしら？」
「ならなくてもいいです」

プールには、ちょっと気の早い赤い葉が一枚、水浴びを楽しんでいた。
130 名前：０．(1/1) 投稿日：2001年12月30日(日)20時17分45秒
泳げない金魚は、死ぬまで水面には上がれないの。
水底で口をぱくぱくしてるだけ。

「ねぇ、今日は着替え用意してきたのよ？」
「知ってます。…もう一回、キスしていいですか？」
「駄目って言ってもするんでしょ？」

だから、泳げる金魚は誰も気付いてくれないの。
可哀想な、可哀想な泳げない金魚。

「後藤はさ、今川焼きよりも鯛焼きのが好きだな」
「なっちもさ！鯛焼きは尻尾まであんこ入ってるから」

もし、泳げる金魚の誰かが気付いてくれたら、
もう寂しいって泣かなくてもすむのにね。

泳げない金魚は、だけど知らないの。
本当は泳げる金魚も泳げないって、知らないの。

「なっち、今日はありがと」
「おやすいごようです」

どの泳げない金魚にも、泳げる金魚はすぐ傍にいて
それに気付いてやっと泳げる金魚になれる泳げない金魚。

「後藤ね、失恋しちゃったんだぁ」
「なっちが傍にいるさね」
「そだね。鯛焼きもあるしね」
「なっちは鯛焼きと一緒ですかっ」

幸せな、幸せな、泳げない金魚。
その後ろには、泳げる金魚が気付いてくれるのをこっそり待っている。
131 名前：　　　　　 投稿日：2001年12月30日(日)20時18分16秒


　　　　　　　　　　　---------終---------

132 名前：空飛び猫 投稿日：2001年12月30日(日)20時19分21秒
終りました。この数カ月有難うございました。
レスに励まされたり、本人達にときめいたりしながら、
とても楽しく書いてこれました。
これにて、「かなづちキンギョ」は終了致します。
本当に、有難うございました。

とか言いつつも年明けぐらいに、語られていない部分を書こうかな、と思ってます。
石川さんだったり、安倍さんだったり。

>>114　夜叉様
終了してしまいました。
いつもお待ち下さっていて有難うございました！
変なレスばかりしていてすみませんでした。

>>115　名無し男様
いつもレス有難うございました。
絶妙なレスに、いつも楽しませて頂いていました。
次回作については未定ですが、番外編は年明けにあるかと。
なので、逝かなくていいと思いますよ〜。
独特な顔文字、素敵でした。

さてもうすぐ、2002年ですね。皆様もよいお年を。
133 名前：名無し読者 投稿日：2001年12月31日(月)09時21分08秒
凄く面白かったです。
ここの世界観が読んでて心地よくって。
番外編も期待しています。
134 名前：吉胡麻系 投稿日：2001年12月31日(月)14時39分53秒
お疲れ様でした！
周りの情景が頭の中に浮かんできて、
小説の中に入り込んだような気分になりました！
ホント、上手です！
番外編、頑張って下さい！
135 名前：夜叉 投稿日：2001年12月31日(月)15時14分34秒
ごっつぁんだったのね…、はらはらしました。
ずっと、二人の間に緩やかに時間が流れてて、そのまったり感が好きでした。
なっちとごっつぁんの間にも違った風が流れそうで。

作者様、お疲れさまでした。
いえいえ、変なレスだなんて、そんな。自分の方が作品を汚すようなレスをしてるんじゃないかと、
作者様を始め、他の読者様に申し訳なくって。
ほんっとに、師匠になって下さい、まぢで。
でも、こんな弟子、自分が持つんやったらイヤかも（ｗ。汗
語られていないこと、作者様と時間が許す限り、書いて欲しいです。
いつも、欲しがるばっかりですいません。
ほんとにありがとうございました。

私は待つ身の女（爆）。

136 名前：名無し男 投稿日：2001年12月31日(月)15時41分41秒
感動した!!
なんか物凄い完成度が高くてﾋﾞﾋﾞｯた!!
もうﾎﾝﾄにﾓﾆﾀｰの中に頭突っ込んだと思うくらい話の中にのめり込んだよ

とりあえずお疲れ様でした
年明けの番外編＆新作

待ｯﾃﾙｱﾙ〜
137 名前：LVR 投稿日：2002年01月02日(水)23時25分29秒
噂には聞いてましたが、本当にきれいな文章ですね。
物語の方も中だるみもなく、最後まで本当に楽しく読めました。
番外編を書くとのことですが、本編の中で気になる部分があったので、
そこを書いてくれるのかと、楽しみにしてみたり。
138 名前：空飛び猫 投稿日：2002年01月03日(木)03時35分39秒
明けましておめでとうございます。
さて、番外編を書き出していたのですが、
結構大きな物になってしまい、番外編とは呼べないぐらいの代物に
なってしまったので、「かなづちキンギョ２〜そして僕らの毎日〜」
という新しいお話として、始める事になりました。
収められないなんて力量不足でごめんなさい。
そんな訳でこのスレでは最後のレスです。

>>133
有難うございました。
心地良いと言われると、書いた甲斐がございます。
また、読んで下さいませ。

>>134　吉胡麻系様
有難うございます！
情景描写をし過ぎてしまったのでは、と少々心配していたので、
小説の中に入って下さったと聞いてちょっと安心しました。
また、御会いできますように。
139 名前：空飛び猫 投稿日：2002年01月03日(木)03時47分50秒
>>135　夜叉様
ごっつぁんだったのです。
騙されてくれたなら、本望でございます！
弟子をとれる程の身分でもないので…
お、お友達からはじめて下さい！（薔薇の花束付）
…最後まで変なレスですみません…。反省。
今度は次の場所で、私が待つ身の女になってます。

>>136　名無し男様
恥ずかしい！嬉しい！
そんなレスをいつも有難うございました。
脊髄直下のレスにいつもドキドキさせられていました。
また、ぞくぞくっとさせてくれるレスをいただける様な作品を頑張って
作りたいと思ってます。

>>137　LVR様
噂がどこで流れているのかかなり気になりますが、
そこは知らない方がいいのかもしれませんね。
多分、気になってる部分はあそこだと思うですが、
もしそうならば、次作はそこがメインです。＞違ってたらすみません。
また御名前を拝見できる日を夢見て。

では、次も風板ですので発見しやすいかと思います。
そちらも読んで頂けたら、本当に嬉しい事です！
それでは、また。
140 名前：空飛び猫 投稿日：2002年01月06日(日)02時57分20秒
三人称が恋しい病の処方箋。
取り敢えず何か書きましょう、という事で。
下の方にいるから、ここで短編をば。
141 名前：短編。 投稿日：2002年01月06日(日)02時58分52秒
今日も、ピアノの音がなる。
少女は頬を染めながら、指を軽やかに走らせた。
「違う。そこはフォルティッシモだよ」
耳元で囁かれる声に、少女の指が止まった。
怪訝な顔をするピアノ教師の方へと振り向いて少女は甘えた声を出した。
「先生のが聞きたいな」
ピアノ教師は短くため息をついた。
「仕方ないな、リクエストは？」
初夏の風が若々しく部屋を横切って、外の林も小さく揺れた。
「いつものがいい」
部屋は繊細で凛とした音で占領された。
少女は可愛らしい微笑みを顔に乗せて、教師の隣に座った。
142 名前：短編。 投稿日：2002年01月06日(日)02時59分24秒





　La Belle





143 名前：短編。 投稿日：2002年01月06日(日)03時01分23秒
ピアノの音が鳴りやむと、少女は小さく笑った。
「さ、練習再開だよ、梨華ちゃん」
教師が彼女の頭を優しく撫でて立ち上がると、
彼女は真剣な眼差しでピアノを睨んだ。
「そんな恐い顔で弾いたら、恐い曲になっちゃうよ？」
「だって」
外の林がざわっと音を起てた。冷たい風が部屋に入り込んできて
梨華は小さくくしゃみをした。
「窓、閉めようか」
教師が窓を閉めにいくと、梨華は慌てて後を追った。
「閉めないで、吉澤せんせ」
「なんで？」
夏草の香りが部屋まで届いてきた。
窓の下ではグレートピレニーズが、大きく欠伸をしていた。
「せっかく、夏だから」
「そっか」
吉澤は梨華に自分の羽織っていたジャケットを着せて、
ピアノの元へと連れて戻った。
Ｔシャツの袖から伸びる細い腕が、梨華を優雅に椅子に座らせた。
「せんせ、これがちゃんと弾けたら御褒美くれる？」
「はいはい、なんでもあげますよ。弾けたら、ね」
吉澤は楽譜を一枚目に戻して梨華の後ろに立った。
ピアノが鳴ると、窓の下のグレートピレニーズは少し頭を上げた。
曲が続くのを確認した彼は、そのまま頭を下ろして目を閉じた。
144 名前：短編。 投稿日：2002年01月06日(日)03時02分22秒
ピアノに赤い帯をかけて蓋を閉じた梨華はこっそりと吉澤を横目で見た。
「御褒美はないよ？ちゃんと弾けなかったんだから」
「でも、二回しかつかえなかったわ」
「二回も、つかえた」
鞄に教材をしまう吉澤は、梨華を見ようとはしなかった。
「せんせ、お願い」
「…駄目」
窓辺に吉澤が立つと、グレートピレニーズは既に場所を変えていたらしく
姿が見えなくなっていた。彼のいた後には、芝生だけが残っている。
大きなピアノ室の窓を閉めて、吉澤は俯いている梨華の前に立った。
「何？」
吉澤の問いかけに、梨華は上目遣いで答えた。
「ちょっと、ついてきてほしいなって」
吉澤が手を差し伸べると、梨華は満面の笑みで彼女に抱き着いた。
「ありがとう！せんせっ、大好き！」
苦笑いを浮かべつつ吉澤は先に外へ出る梨華を追って、
ピアノ室の電気を消した。
145 名前：短編。 投稿日：2002年01月06日(日)03時05分59秒
「あぁ、気持ちいいね」
吉澤が梨華に感想を告げると、梨華は嬉しそうに頷いた。
「先生は、４月から教えにきて下さってるからここは知らなかったでしょ？」
梨華が大きな木の上に作られた家の先端まで行くのを
吉澤は心配そうに見守っていた。
「大丈夫よ、せんせ」
「でも、怪我したらピアノは弾けないよ？」
「そしたら、先生に会えなくなっちゃうね」
ふふ、と梨華が笑って、吉澤は彼女を屋根の下に戻した。
「辛い時とか泣きたい時はね、ここに来るの」
「じゃぁ、今度レッスンから消えたらまずここに探しにくるよ」
「笑わ、ないのね」
青い空と緑の大地の境界線が風で揺れていた。
だが木の上に立っているこの家は、何故か揺れる事がなかった。
「大事な事なんでしょう？笑わないよ」
飛行機雲が真っ青な空を横切って、鳥達が感極まって歌いだした。
蝉も負けじと応戦して、木の上の家の周りは一気に騒がしくなった。
下でグレートピレニーズが梨華達を探して吠えた。
「ベルが呼んでる」
「そうだね。帰ろうか？」
梨華は首を横に振って、吉澤に寄り掛かった。
146 名前：短編。 投稿日：2002年01月06日(日)03時07分49秒
結局二人は陽が赤く色を変えはじめるまでそこにいた。
「せんせ、今日はありがとう」
「いや、楽しかったです」
おじぎをしあって、二人は笑うと電気のつき始めた石川邸に戻った。
玄関まで梨華を送り届けて、吉澤は自宅へ帰る為に自転車を漕いだ。
「せんせ！！」
後ろから、梨華の声が聞こえて吉澤は自転車を止めた。
走ってくる梨華を、吉澤は自転車を降りて迎えた。
「どうしたの？」
「あのね、本当はね、お願いは全然別の事だったの」
梨華は頬を赤く染めて吉澤のジャケットの袖を掴んだ。
「あの、その、えっと……」
「何？」
吉澤は、梨華の額の雫を拭いて彼女が話し出すのを待った。
「先生の気持ちが、欲しいの……」
吉澤は自分の心臓の辺りを一瞥して、それから梨華の額を唇で小さく触れた。
「曲がちゃんと弾けたらね」
耳まで赤くなった梨華を置いて、吉澤は自転車に乗った。
「絶対よ！約束よ！」
「はいはい。弾けたらね」
去っていく吉澤に声が届くまで、その会話は続けられた。
147 名前：空飛び猫 投稿日：2002年01月06日(日)03時09分21秒
おはり。

今の話を終らせてからにしろなんて、石を投げないで下さいね〜。
石川さんなら、投げてくれていいですけど。
がっちりキャッチ。吉澤さんにパス。
148 名前：短編。 投稿日：2002年01月07日(月)01時48分26秒
今日もピアノの音が鳴る。
ベルは下でため息を連発して、蝶が彼の周りを飛んだ。
流れてくる曲が、一度もつかえずに終って、ピアノ室からは拍手が聞こえた。
149 名前：短編。 投稿日：2002年01月07日(月)01時48分59秒




　　　　　　　　　　主よ、人の望みの喜びよ




150 名前：短編。 投稿日：2002年01月07日(月)01時50分04秒
「先生、素晴らしいですわ」
梨華の隣で女性がうっとりとした声で吉澤に話し掛けた。
吉澤は困った様に笑い、梨華を横目で盗み見た。
面白くなさそうな顔をしながら、梨華は教本を抱き締めた。
「あの、そろそろレッスンの時間ですので…」
吉澤がドアをあけると、女性は甘ったるい声で言った。
「私も見ていて宜しいかしら？」
「恥ずかしいので、駄目です！」
吉澤が答えるよりも先に梨華が答え、女性は梨華を見もせずにドアの外へ消えていった。
「せんせったら、いやらしい！」
「何が？」
女性が出ていった途端に、梨華が吉澤を責め立てた。
微かに風がカーテンを揺らして、窓辺に移動した吉澤を隠した。
「女ったらし！」
「あのぉ、私も女なんですけど」
「先生なんて、嫌いだわ」
カーテンを潜って出てきた吉澤は、梨華の教本をピアノに置いた。
「嫌いでもいいけど、まずはこれを弾いてね」
拙いハノンが流れて、窓の下のベルはのっそりと立ち上がった。
木陰では、小鳥がぴちぴちと鳴いていた。
今日は、蝉は応戦する気がないらしく、声が聞こえてこなかった。
151 名前：短編。 投稿日：2002年01月07日(月)01時50分37秒
「せんせ、お願いがあるの」
「駄目。今日もこのページが終らなかったでしょう？御褒美はなし」
「お願いよ」
窓に吉澤の姿が写し出された。きぃっと音がして、窓が外から風を運んできた。
のそのそとベルが窓の下へと戻ってきて、蝉が急に鳴き始めた。
「先生、お茶になさいません？」
ドアが開いた瞬間に嫌そうな顔をした梨華は、
愛想のいい笑顔で誘いを受ける吉澤を睨み付けて外へ出ていった。
「梨華ちゃんっ」
「あの子はいつもそうなんです。困りますわね」
女性が吉澤の手を取ってため息をついた。
「あの…すみません。ちょっと探してきます」
吉澤は、ゆっくりと女性の手から離れて外へと向かった。
今日の陽射しは特にきつく、真っ白な麦わら帽子が外の机に置いてあった。
吉澤はそれを手に取って、以前梨華に教えられた秘密の家へと真直ぐに進んだ。
152 名前：短編。 投稿日：2002年01月07日(月)01時54分14秒
木の上にあるその家は、梨華の父親が彼女の兄の為に作った物だ。
彼女の兄が今は一緒に暮らしていない為、その家は自動的に彼女の物になっていた。
梨華は木の下で吉澤が彼女を呼ぶ声を聞いて、木の上から覗き込んだ。
「はしごを降ろしてよ、梨華ちゃん」
「嫌」
怒った声を出す梨華を見て、吉澤は深いため息をついた。
キラキラと木漏れ日が舞い降りて、吉澤はその木にしがみついた。
少しずつあがっていくと、梨華が慌ててはしごを降ろした。
「怪我しちゃうわ、せんせ」
「はしごくれなかったのは誰ですか」
はしごに掴まって軽々と上に登った吉澤はジャケットについた木屑をはらった。
「だって、先生ったらでれでれしちゃってるんだもの」
「でれでれしてたんでなく、困ってたの！」
軽く頭を叩かれて、唇を突き出して怒る梨華を見て吉澤はおかしそうに笑った。
「やっぱり先生なんて嫌いだわ…」
梨華の顔が歪んで、瞳から涙がこぼれそうになる。
153 名前：短編。 投稿日：2002年01月07日(月)01時58分36秒
「仕方ないな、今日だけですよ？」
梨華の額に軽く口付けをして、吉澤は彼女の体を抱えて座った。
吉澤の膝の上で、梨華が固まってると、吉澤が楽しそうに言った。
「まだ、嫌い？」
「…嫌いだわ」
蚊のなく様な声で言いながら梨華は吉澤にぎゅっとしがみついた。
「だいっきらい」
「はいはい」
遠くから女性の二人を呼ぶ声が聞こえたけれど、
二人はそのまま風にあたっていた。
「ねぇ、せんせ？」
「ん？」
真っ白な太陽が夕焼けに変わる頃、梨華がこっそり吉澤に耳打ちをした。
「ほんとは好きよ？」
「知ってますよ」
吉澤は涼し気な顔で返事をして、はしごを降りた。
木の上に１人で残っていた梨華は、手を差し伸べる吉澤に向かって
大きな声で叫んだ。
「やっぱり先生なんてだいっきらい！！」
154 名前：空飛び猫 投稿日：2002年01月07日(月)01時59分42秒
おはり。

どんな時代の話なんだ…。
実は日本じゃないのかも。
155 名前：名無し読者 投稿日：2002年01月07日(月)14時09分30秒
昔の少女マンガ短編みたいでなかなかよろしいかと。
156 名前：空飛び猫 投稿日：2002年01月07日(月)17時09分22秒
>>155
読みにきてる方がいらっしゃったのね。
吃驚しました。忘れ去られた場所だと思ってたので。
お正月に見たはいからさんが通るの所為だと思います…。
157 名前：夜叉 投稿日：2002年01月07日(月)17時50分26秒
ぢゃ、自分がトス上げて、師匠がアタックってことで。

やはり、禁断症状には勝てなかったんですね（ｗ。
はいからさんぐらいの時代背景やったら、石のお家は相当（略。
吉は優雅な？役がよく似合う。
このスレの公園のシーン好きの自分としては、木の上の家のシーンも涙ものです。
症状が出始めたら、またこちらで（爆）。

と、友達からだなんて、そんな。（汗汗。
うれしいです、でも、師匠と呼ばせてくださいね。
ぢゃ、自分はパチンコ屋の花輪を背負って（略。ｗ
158 名前：名無し読者 投稿日：2002年01月12日(土)10時36分09秒
久振りに読み返しに来たら、短編が…いやはや
想像をかきたててくれる感じで、凄く好きです。吉先生と梨華ちゃん短編（ｗ
あちらの更新も、いつも楽しみにしてます。ｶﾞﾑﾊﾞｯﾃ！
159 名前：短編。 投稿日：2002年01月18日(金)03時14分05秒
今日もピアノが歌い出す。
大きな白い犬は定位置で大きく欠伸を繰返す。
彼の鼻の上にテントウ虫が止まった以外はいつもと同じ光景である。
160 名前：短編。 投稿日：2002年01月18日(金)03時14分58秒



　　　　　　　　　　Pie Juse


161 名前：短編。 投稿日：2002年01月18日(金)03時15分32秒
「せんせ、お願い聞いてくれるって約束よね？」
「はいはい、お姫さま。なんなりと」
本来は一ヶ月で弾きこなせる様な曲を倍の時間かかって
弾きこなした事にはお互い触れずに、二人は外へと出かけた。
「映画が見たいの」
「それはだんな様が許して下さったらね？」
「狡いわ、せんせ！なんでも聞いてくれるんでしょう？」
梨華の声が草原に響き渡った。
「なんでも聞いてあげますよ？ただし、お家の人が許してくれるならね」
「いじわる！」
梨華が向かうその先を、吉澤は知っていたけれど
彼女は敢えて追わなかった。
木の上の家は１人きりの場所だったのに、
今では１人でいる事が寂しく感じた。
梨華は、太陽がさようならと手を振るまで、ずっとそこに座っていた。
「先生なんて、だいっきらいだわ」
162 名前：短編。 投稿日：2002年01月18日(金)03時16分04秒
翌日は晴天だった。
階下で声が聞こえて、梨華はガウンを羽織って階段を覗いた。
「これ、梨華。そんな格好ではしたない」
穏やかな父親の声は怒ってる様には感じなかった。
彼は隣に立っていた吉澤とまた話し始めた。
難しい話で、梨華には理解できなかった。
吉澤が階段の方を見て、梨華と目が合った。
怒ってるのよ、と顔で表現する梨華に吉澤が笑って言った。
「早く着替えていらっしゃい？映画を観に行きましょう」
梨華は先刻まで怒っていた理由も忘れて急いで部屋に戻った。
迷った末に選んだ真っ白なドレスを着て髪の毛を整える。
梨華が階段からその姿で降りると彼女の父親が目を細めた。
「吉澤君、馬車を使うといい」
「有難うございます」
吉澤に手を差し伸べられて、恥ずかしそうに梨華が階段から降りた。
「この間までまだ子供だったのに、立派な女性になったのだな」
「エスコートするのが私で申し訳ないぐらいです」
吉澤の言葉に笑って去っていく父親の姿を見て梨華は嬉しそうに笑った。
「有難う、せんせ」
「いつまでも嫌われてたら明日からのレッスンに困りますからね」
163 名前：短編。 投稿日：2002年01月18日(金)03時16分52秒
馬車を走らせる吉澤の隣で、梨華は先程摘んだ花で遊んでいた。
「ねぇ、せんせ。花占いって知ってる？」
「今どきは花でも占いをするの？」
「せんせったら、年寄りみたい」
くすくす笑う梨華を横目で見ながら吉澤は馬を更に早く走らせた。
街が遠くの方に見えてくると、梨華は目を輝かせて喜んだ。
「凄い！キラキラしてるわ」
活気ある街並に入る直前の馬車置き場に馬車を止めた吉澤は、
先に降りて梨華が降りやすい様に階段を横に持ってきた。
「さ、どうぞ。お嬢様」
「ふふ。楽しいっ」
門の場所にいる男にコインを渡し、吉澤は帳簿に名前を記入した。
「あら、ひとみじゃない。お盛んなのね」
街に入ると、少々大胆な服を着た女性が吉澤に話し掛けてきた。
「そういうんじゃないよ」
「そんな場面見せたんだから、ちゃんと埋め合わせしてね」
はいはい、と吉澤が生返事を返すと女性は笑って去っていった。
「せんせって不潔だわ」
「ただの冗談ですよ。ほら、映画観るんでしょう？」
膨れる梨華の手を取って、吉澤は歩き始めた。
たったそれだけの事でもう幸せになってしまう自分を
梨華は恨めしく思った。
164 名前：短編。 投稿日：2002年01月18日(金)03時17分26秒
映画館から外に出ると、もう太陽は落ちかけていた。
「そんなに長い事あそこにいたの？」
「あの映画は二時間程ですよ。…楽しかった？」
「えぇ！凄く。また来たいわ」
満面の笑みで吉澤に答える梨華に笑い返した吉澤は、
梨華にちょっと待つ様に言ってその場を離れた。
走って戻ってきた吉澤が梨華の手の上に何かを置いた。
「これは、御褒美のおまけ」
映画館に着くまでに萎んでしまった白い花によく似た髪飾りが
梨華の手の中で光っていた。
「いいの？嬉しい！」
大事そうにそれを抱き締めて、梨華は馬車までの道を歩いた。
「先生に、お礼をしなきゃだわ」
「いいよ。御褒美なんだから」
馬車に乗っても、梨華はずっとそう言い続け、吉澤も同じ返答を繰返していた。
165 名前：短編。 投稿日：2002年01月18日(金)03時18分13秒
「でも！」
夕日の中を葦毛の馬が走る中、梨華は
もう１０回は続けているだろう会話に終止符を打った。
「何かしてあげたいの！」
じゃぁ、と言った吉澤は梨華を引き寄せて唇に口付けた。
「これでいいです」
「…髪飾りのお礼もしなきゃだわ」
梨華は、吉澤に顔を近付けた。
「それから、先刻転んだ時に助けてくれたお礼」
二人の影が重なり、離れる度に梨華は理由をつけてもう一度近付いた。
「ねぇ、これって先刻の映画のワンシーンみたいだわ」
「助けられたお礼に夕刻の荒野でキスを？」
「そう」
ふっと、梨華の耳に息を吹き掛けて、吉澤は彼女から離れた。
「ここは荒野じゃないですけどね」
「あのかっこいい主人公もこんなに意地悪じゃなかったけどねっ！
せんせってやっぱり意地悪だわ。信じられない！」
梨華がそっぽを向いて、吉澤は馬に鞭を打った。
「さ、お姫さま。魔法の時間はお終いです。
レッスンの時間に間に合わない」
「先生なんてだいっきらい！！！」
穏やかな道を梨華の声が脅かして、馬車は過ぎ去っていった。
後には真っ白い小さな花がぽつん、ぽつんと咲いていた。
166 名前：空飛び猫 投稿日：2002年01月18日(金)03時26分28秒
おはり。
いよいよどんな時代なんだ…。
久々のキラキラは楽しかったです。

>>157　夜叉様
吉澤さんはきっと優しくキャッチしてくれるでしょう（ｗ。
いやいや、恥ずかしいのでどうしてもとあればこっそりと。
と、言おうと思っていたらもう長い事そう呼ばれている事に気付く私…。
…馬鹿だ。

>>158
終った場所なので、遊ばせて頂いてます。
適度に容量が残っててよかったです。はい。
楽しんで頂けたら幸いでございます。
167 名前：名無し読者 投稿日：2002年01月18日(金)07時33分59秒
吉澤せんせと梨華お嬢様
シチュエーション良すぎでございます。。
168 名前：名無し読者 投稿日：2002年01月18日(金)13時46分45秒
わ〜なんか新鮮な二人なんかいい感じ。
時代背景なんかいい感じ。
言葉使いなんかいい感じ。


169 名前：夜叉 投稿日：2002年01月18日(金)23時40分56秒
時代背景こそつかめたのですが、ここはどこの国かしら？（爆）
吉、お盛んなんですか？石川邸以外の吉の行動も見てみたい。
生徒、石に萌えてしまいました。

結構楽しみなんですよ、ここ。
師匠、頑張ってください。
170 名前：空飛び猫 投稿日：2002年01月21日(月)03時28分37秒
今日はちょっと違う奴。
171 名前：◆ミルククラウン◆ 投稿日：2002年01月21日(月)03時29分22秒
彼女が紅茶にミルクを入れるのを、私はハッキリと見ていた。
人指し指がミルクピッチャーにかけられて、親指がそれを支えて、
ミルクの最初の一滴がティーカップの中に入る瞬間まで、
私はそれを見続けていた。
「何？」
彼女が少し不安そうに聞いて、私は笑顔を見せて彼女を安心させた。
「いや、ただいいなって思っただけ」
「なぁに？それ。ひとみちゃんたら変なの」
おかしそうに笑う彼女に机の上にあったポッキーを渡す。
「はい。プレゼント」
これが？と彼女は少し不満げに見て言った。
それでもすぐに笑顔で私にお礼を言った彼女は、
ポッキーをゆっくりと口に含んだ。
ポッキーが唇に近付いて、唇が開いて白い歯がそれを噛み砕いた。
それを眺めていると、彼女は顔を赤く染めて拗ねる様に怒った。
「見ないでよ、ひとみちゃん」
「何で？」
嬉しそうに笑う私に気付いたのか、彼女は私に背を向けた。
「梨華ちゃーん。こっち向いてよ」
何度呼んでも、おかんむりな姫君はこっちを向かない。
「何もしてないじゃん」
「なんかしようとしてたの！」
彼女がミルクピッチャーを持った手はテーブルに置かれたままだった。
172 名前：◆ミルククラウン◆ 投稿日：2002年01月21日(月)03時30分05秒
人指し指に触れると、彼女は驚いて振り向いた。
「いい物持ってきたんだよ？見たい？」
「…うん、見たい」
彼女の顔が嬉しそうに変化した。
お天気よりも簡単な彼女の御機嫌をわざわざ損ねさせるのは案外難しく、
だけど、斜めを真直ぐにするのはとてもシンプルだった。
「目を瞑って」
手をかざすだけで簡単に目を瞑ってしまう彼女の、
その心から安心した様子にいつも少しだけ胸を痛めた。
いっそ脅えていてくれたなら、と
そうなったらそうなったで寂しく思う癖に私は想像する。
彼女の頭の上に昨日買ってきたばかりのそれを乗せると、
彼女は目を開けてそれを見た。
173 名前：◆ミルククラウン◆ 投稿日：2002年01月21日(月)03時30分46秒
「すごぉい！なぁに？これ」
「ミルククラウン」
「綺麗ねぇ」
白い石が洞くつから落ちてくる水で削れて削れて出来上がったミルククラウン。
まるで人が作った王冠の様な形をしていた。
「願わくば、これが数年後の貴方であります様に」
「え？」
お祝のキスすら出来なかった彼女の１６歳の記念に、
こっそりそんな願いも込めて私は彼女の誘いを断って帰路についた。

「ねぇ、何考えてるの？」
「ん？１年前もなんか仕事の後梨華ちゃんち来たなぁって」
あの時も、私は彼女の指の動きを見ていた。
ミルクピッチャーにかけられた人指し指も、
それを支えた親指も、あの日と何一つ変わらなかった。
「ミルククラウン、大事にしてるのよ？」
「本当？へへ、なんか嬉しい」
今年のポッキーは抹茶味で、それが去年と違う以外は全てが同じに見えた。
「今年は希望を聞こうと思ってさぁ、まだ準備してないんだ」
「あ！忘れてたでしょぉ！」
そんな事ないと手を振って、私は時計を見た。
「そろそろ帰るね」
あの細い指が、私に触れる日は何時来るのだろう？
白い石がミルククラウンになる日は何時来るのだろう？
174 名前：◆ミルククラウン◆ 投稿日：2002年01月21日(月)03時31分18秒
「泊まってって、ほしいな」

彼女の頬から耳までが真っ赤に染まる。
私のミルククラウンが誕生するまで、そんなに時間はかからないのかもしれない。
175 名前：空飛び猫 投稿日：2002年01月21日(月)03時37分28秒
聖誕祭更新。遅すぎるけど。
このネタに詰ってたのとか色々あって
更新途切れてました。ごめんなさい。
明日にはなんとかしたいです。…ここで言っても仕方ないのか…。

>>167
私も何気に楽しんで書いてます。
思い付きで書き始めた所為でよく分からない事になってますが。
こんなに続くとは…。

>>168
有難うございます。
言葉使いはこれを書いた後は
他の普通のまでこれになって大変です（w。
でも、書いちゃうんですけどね。

>>169　夜叉様
ど、何処なんでしょう…。
今はウェスタンな気分です。カウボーイよりはちと上流階級な。
馬車だけですが。私も一番ここが楽しかったりして。
ｺｿｰﾘ更新はいと楽し。
176 名前：夜叉 投稿日：2002年01月21日(月)16時32分58秒
やはり、ウェスタンカーニバル（爆）。

明日には…と書かれているのですが、続きあり、と見ていいのですか？
期待しちゃってよいのかな？（誤爆）。

国家が解けない自分、そして隠し扉も（鬱）。
177 名前：名無し読者 投稿日：2002年01月21日(月)21時58分50秒
わ〜、とってもあま〜いふたりの空気に…(ニヤニヤ
続きあるのかな？　はしゃいじゃってよいのかな？(ｗ

よすぃの想い…いとおかし。

178 名前：空飛び猫 投稿日：2002年01月23日(水)02時21分17秒
ここの事じゃないんだ…ゴメソ…。
急に家に帰れてないので、色々な更新は明日になりやす。

>>176
国歌、相変わらず全編聞けません。なんで１分しか流れないんだ…おかしい…。
隠しって、うちのですか？なら下にスクロール。かくしてないです。

>>177
次にこのスレ書くとしたらまたウェスタンにいくかと。
リアルにチャレンジ→見事に失敗→傷心
の流れなので。

御連絡だけのレスでごめんなさい。
明日は沢山書くので許して下さい。
179 名前：Ｍ．ＡＮＺＡＩ 投稿日：2002年01月25日(金)02時17分06秒
素敵な短編、読ませていただきました。
まるで異空間に紛れ込んだ思いで、不思議な感覚にとらわれました。

石誕祭記念の作品は良い雰囲気の２人が見られて幸せな気分を別けていただきました。
180 名前：短編。 投稿日：2002年01月25日(金)02時50分51秒
今日もピアノの音は響く。
白い犬は落ち葉の中に埋まって居眠りをしていた。
不協和音が響いて、犬は目を覚まして上を見た。
それでも何ごともなかったかの様に彼はまた夢の世界へと戻っていった。
それも、いつもと同じ光景である。
181 名前：短編。 投稿日：2002年01月25日(金)02時51分30秒



　野薔薇



182 名前：短編。 投稿日：2002年01月25日(金)02時52分03秒
「ずるい！！そんなの聞いてないわっ！」
怒った声を出すお姫さまの後を追いながら、吉澤は弁明を繰返した。
「いや、だから今言ってるんじゃないですか。
仕事なんです。仕方ないでしょう？」
「女の人も一緒なんでしょう！」
途端に黙る吉澤に、梨華はソファに置いてあったクッションを投げた。
「不潔だわっ！だいっきらい！もうここには来なくて結構です！」
お手上げだと言わんばかりに両手を広げて吉澤はドアの外へと向かった。
「もう二度と来ないで！」
ソファにそのまま突っ伏した梨華のスカートが風でふわっとなびいた。
ドアの音がカタン、といって暫く経ってから梨華は小さな声で泣いた。
彼女にも、それが仕方のない事だというのは分かっていた。
吉澤は、彼女のピアノ教師であると同時に彼女の父親の元で
彼の仕事の手伝い等もしていた。
だから、それが彼女の父親の頼んだ仕事である以上は、
吉澤に断る権限等なかった。
「でも、嫌なのっ！」
梨華はそのまま目を瞑ってまた少し泣いた。
183 名前：短編。 投稿日：2002年01月25日(金)02時52分39秒
暖かい手が彼女に触れて、梨華は驚いて目を開けて天井を見上げた。
「なんでも好きな物買ってきてあげるから、許してよ？」
何時の間にか戻って来たのか、吉澤はとても辛そうな顔をして笑った。
「ねぇ、私ともう二度と会えなかったら死んじゃう？」
「生きていけませんよ」
梨華が目を閉じると、瞼には優しいキスがおりてきた。
「せんせ、私に嫌われたら」
「死んじゃいます」
「今回だけよ？でも、他の女の人に触ったりなんかしたら
今度こそ許さな」
梨華の唇を指で封じて吉澤はしぃ、と短く言った。
「喋ってたらキスできませんよ」
柔らかいキスが繰返されて、梨華が吉澤の首に腕を回すと、
吉澤がもう一度だけキスをして離れた。
「貴方にはいつも負ける」
「…私の方が先生が好きだからだわ」
ねぇ、もう一回して、という梨華の願いに答えてから
吉澤は部屋から出ていった。

「負けてるのは、私の方だわ…」

梨華が唇を尖らせている事を、吉澤も下にいた白い犬も知らない。
184 名前：空飛び猫 投稿日：2002年01月25日(金)02時55分50秒
おはり。
短過ぎだけど、許して下さい。
ところで、国歌、やっと全編見れて感動。
神様には感謝。感動を有難う。

>>179　Ｍ．ＡＮＺＡＩ様
どうも有難うございます。
異空間が最近は作者の手にも終えない場所に逝ってしまってます。
どうにかせねば。
185 名前：名無し読者 投稿日：2002年01月25日(金)11時31分17秒
このいしよし、自分的には石川12歳、吉澤19歳くらいのイメージ。
186 名前：Ｍ．ＡＮＺＡＩ 投稿日：2002年01月25日(金)13時23分54秒
なんとなく石川さんのお父様のお仕事がどんなことなのか、吉澤さんはどんな手伝いをしているのか、
そのことを石川さんがどれくらいまで知っているのか、気に掛かりますね。
187 名前：夜叉 投稿日：2002年01月25日(金)14時43分22秒
わがまま石、炸裂ですね。
それに答える吉に萌え。
特に、二人のキスをしているシーンがツボにはまりすぎました。
師匠、有難うございました。

国家、見れましたか、おめでとうございます。
推しでない自分も感動しました、あれには。
作られた方は、神。
188 名前：名無し読者 投稿日：2002年01月25日(金)20時40分36秒
嫉妬心まんまんの石川さんに
困りつつもキスで機嫌を取る吉澤さん、ほほえましいねえ。

国家…あれはホントよかったねえ…
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