インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板

彼女達の立ち方

1 名前:aki 投稿日:2001年11月07日(水)01時09分34秒
雪板で書いてた物の続きです。

内容は少しだけ非現実的要素が入った感じの話です。
登場人物は今のところ後藤、石川、吉澤、矢口、安倍、中澤、保田、加護、辻、飯田です。

ここで初めて知った方ももしよろしければ読んでやってください。
これからもよろしくお願いします。

前スレ雪板 彼女達の立ち方
 http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=snow&thp=1003246180
2 名前:無意識の感情 投稿日:2001年11月07日(水)13時19分11秒
「石川の能力、それはずばりヒーリングや。」
バーのカウンターで中澤は真希と梨華を除く三人に戻ってくるなり開口一番に
言った。

あれから結局タイムオーバーとなりひとみとなつみも何もせず戻って来たのだ。
案の定、会社には飯田が待ち受けておりうかつにデータの入ったパソコンに
手を触れることは叶わなかった。
依頼を達成できず「失敗」したのは、近頃では本当に珍しい出来事だった。

「ヒーリング・・・・なるほど、石川さんらしいや。」
ひとみが小さく笑いながら中澤の言葉に納得した。

「それにそれだけやない。ヒーリングの他にあともう一つ・・・・全ての能力を
クリアする力を持ってる。」
「クリア?」
なつみが首を傾げてそのまま聞き返した。
中澤が静かに頷く。
3 名前:無意識の感情 投稿日:2001年11月07日(水)13時19分56秒
「全ての能力に対してそれらを能力者本人の意思に関係なく停止、いや無にする
ことができる。」
「そうか、だからあの時・・・・・」
閃いた矢口の言葉に中澤は再び頷いた。

「塔は加護の力によって建てられていた。しかし、加護本人も思ってもいなかった
時にそれは崩れだした。それも石川の能力が開花した後に。これはたぶん
確実に断定できる。」

全員が中澤の言葉にしばし黙った。
しばらくの沈黙の後、なつみが口を開いた。

「仕事は失敗しちゃったけど・・・・梨華ちゃんの能力が開花して良かったね。
これで梨華ちゃんがここにいてもいいって目に見える証拠もできたし。」
なつみは言いながら中澤を見た。
「ま、そうやな。ヒーリング系の力を持つのは今いなかったし。ちょうど
良かったかもしれへん。」
おだやかな表情をして中澤はなつみに答えた。
4 名前:無意識の感情 投稿日:2001年11月07日(水)13時21分21秒
「・・・・・あたしの言ってた事、意外にも早く証明できたね。」
矢口が少し考えたような表情は独り言を呟くようにして言った。

「けど石川の能力が開花したのはいいとして問題はそれを石川が使いこなせるかって
問題がまだ残っとる。」

中澤は再び真面目な顔をして話を戻した。

「実はうちも他人の能力をクリアする力の持ち主に会ったのは石川が始めてや。
それをまだ見てないからなんとも言えないけど、扱いに手間取るんとちゃうかな。」

「そうだね。ある意味攻撃するよりも梨華ちゃんの力は強力なのかもしれない。
コントロールできないようじゃ最悪発動してるあたし達の能力をクリア
しかねないね。」
なつみも中澤の言葉に頷き言葉を足した。

「ま、いいや。あたしも怪我したら治してもらお〜っと。」
ひとみはそう言い残すと椅子から降り、そのままビリヤード台へ向かって行った。
5 名前:無意識の感情 投稿日:2001年11月07日(水)13時22分36秒
「久しぶりになっちもビリヤードやろっかな。」
「本当ですか!?それじゃ勝負しましょ!」
子供のような表情で言うひとみになつみは笑いながら「OK〜」と答えると
席を外し同じくビリヤード台へと向かって行った。

「裕ちゃん。」
二人だけになったカウンター。
矢口は何か行動を起こさずそのまま椅子に座っていた。

「何や?」
中澤もグラスを吹いたりと作業し出した中不意の矢口の言葉に顔を上げた。

「後藤のことなんだけど・・・・・」
矢口は目の前のグラスを見たまま中澤の方へ向き直らず言った。
6 名前:無意識の感情 投稿日:2001年11月07日(水)13時24分04秒
「後藤が・・・・どうしたん・・・・・?」
少し様子の違う矢口に中澤も静かに聞いた。

「今さっき言わなかったんだけどさ・・・・後藤、あの時・・・・梨華ちゃんが
襲われたって聞いたとき・・・・あいつ自分を見失ってた・・・・。」

矢口は至って普段通り話していたが微かにその表情は心配するような
感情を含んでいた。

「・・・・・・・」
中澤も矢口の言葉にすぐに答えずしばらくまたグラスを拭きながら黙っていた。

「久しぶりに見たよ、あんな後藤は。まるで・・・・『あの時』みたいだった・・・・・」
矢口はグラスの中の氷をからんっと傾けながら言葉を続けた。

「見え見えのあからさまな加護の罠に引っかかったし、いつもなら何でもない
攻撃にもあいつガードしきれないで深い傷を負ってた・・・・」
7 名前:無意識の感情 投稿日:2001年11月07日(水)13時24分49秒
「そうやったんか・・・・」
「大丈夫かな・・・・あいつ・・・・」
「・・・・・・」

カタンッ

矢口の言葉に中澤が再び黙った時、バーに小さいドアを開ける音が響いた。
矢口と中澤は同時にそちらを振り向いた。

「・・・・・・・・」

そこには少し足元がおぼつかない真希の姿があった。
同じく真希も矢口達の方を黙って見ていた。
なつみとひとみは真希の登場に気が付いていたが特別何も声をかけず
ただ楽しそうにビリヤードを続けていた。

「・・・・・・・・」
真希は静かにバーの中を歩いていく。
歩くたびに地面からは乾いた音が響いていた。
8 名前:無意識の感情 投稿日:2001年11月07日(水)20時04分49秒
「無駄な心配いらないから。」

真希は矢口と一つ離れた場所に腰をかけるとどこか不機嫌そうに
矢口と中澤に答えた。

「真希・・・・・」
「自分のことは自分でするし、変に気を使われても邪魔なだけ。」

真希は中澤にただの水を頼みながら二人に言う。

「・・・・・怪我はもう大丈夫なんか?」
「平気。起きたら何にも傷ついてなかったし。少しだるいけど。」

水の入ったグラスを受け取り真希はそれをぐっと勢いよく口に注いだ。

「梨華ちゃんは?」
「・・・・・まだ寝てる。当分起きそうにない。」
「・・・・そう。」

真希は水を一気に飲み干すとそれをバンッと音を立てカウンターに置いた。
9 名前:無意識の感情 投稿日:2001年11月07日(水)20時05分47秒
「何怒ってるん。」
「・・・・・別に・・。」
「・・・加護に負けたのが悔しいんか?」
「・・・・・少し」

真希の表情を中澤は探るようにして見ながら言葉を続けた。

「それとも・・・・石川が襲われてたってのに腹立ってるん?」
「はっ?んなわけないじゃん。」
「なら助けられなかった事か?」
「・・・・・違うよ。さっきから何言ってんの?」

完璧にケンカ腰の真希の口調と様子に中澤が小さく肩を竦めると
ため息と共にカウンターへと戻っていった。

「・・・・・・・」
矢口はただ黙って真希の横顔を横目で見ていた。

「ふぅ・・・・・・」
中澤も、後ろを向いてグラスを拭きながら小さく息を吐いた。

矢口と中澤の頭に占めている物、それはほとんど同じものだった―――――



10 名前:aki 投稿日:2001年11月07日(水)20時06分24秒
>>2-9
更新しました。
11 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月07日(水)23時28分40秒
う〜ん!いい感じ!!!
12 名前:aki 投稿日:2001年11月08日(木)14時48分11秒
11:名無し読者さん
>レスありがとうございます^^ 
 やる気が沸いてきますよ〜。
 頑張ります!
13 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時44分20秒




「・・・・・・・・」

ここは・・・・どこ?

自分以外誰もいない殺風景な寂しい場所に私はいた。

誰も、いない。

私は少しだけその場所を歩いてみた。

目の前に広がるのはただ真っ白い世界。

それを遮る物は何も無い。


そうだ・・・・私・・・・保田さんたちに人質にされちゃって・・・・・。

それで・・・・それで確か・・・・矢口さんと・・・・後藤さんが・・・・
私を助けに・・・・。




14 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時45分11秒



梨華の足は自然と止まりただ呆然とその場に立ち尽くしていた。

「後藤さ・・・ん・・・・・そうだよ・・・・後藤さんはその時・・・・・」

忘れかけていた物が頭の中に蘇る。


自分のせいで・・・・後藤さんは・・・・攻撃されて・・・・・それで・・・


梨華の体は記憶が戻ってくると同時に小刻みに震え出した。



15 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時46分17秒




『しくじっちゃ・・・った・・・・・』


血まみれの体。
白い綺麗な頬には傷がつけられ紅い血がそこからにじみだす。

「あぁ・・・・・・!!」

梨華は顔を両手で押さえた。
思い出したら最後、押しとめようとする理性に関係なく全部頭の中にフラッシュバック
してくる。

冷たくなり始めるその体。
止まらない血。

「や、やだ・・・・・・」

その体を抱きしめることもできない自分。
辺りはどんどん血の海と化す。



16 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時47分06秒



ついに閉じられる瞳。
だけどそれと反対に未だ流れ続ける紅い血。

「ご、とうさ・・・・・・」

梨華の瞳から涙が溢れ出してくる。
両手で押さえているのにそれはどんどん流れ出してくる。


そして、まるでスローモーションを見てるかのように地面に崩れていく彼女の体。


「い、いや・・・・・後藤さ・・ん・・・・っ!」

いくら名前を呼んでも反応の無い彼女の表情。
それは安らかで、眠ったようで・・・。

冷たくなり始め血の気の少なくなる様が見ていても分かるほど。





17 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時47分59秒



『やだ・・・・・後藤さん・・・お願い・・目を・・・・』

「!!」

あの時の、自分のセリフが蘇る。
それと同時に真っ白だった自分の周りの風景が一瞬であの時の塔の
光景に姿を変える。

そして、目の前には・・・・・

「後藤さんっ!!」


すぐ目の前には血だらけの後藤の姿があった。
「あ・・・・・あぁ・・・・・・」

冷たい体。
何も反応が返ってこない。

「いやぁーーーーー!!!」

梨華はうずくまって両手で頭を抱えながらその世界で悲鳴を上げるように叫んだ――――





18 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時48分41秒


―――――――――――


「はっ・・・・!」

梨華は目を覚ました。
しばらくぼーっとしていたが急いで辺りを見渡す。
すると自分は黒いソファの上に寝かされていた。
体の上には軽く毛布が掛けられている。

すぐ自分の横には向き合うように同じ方向に似たソファが置かれてあり
その上には自分のと同じ毛布が置かれていた。

しかし、そこには人の姿が無かった。

「あたし・・・・・・」

今自分の置かれている状況が分からなくて少し混乱する。

上半身をソファの上に上げるとそこで自分の頬に伝う物に気がついた。

19 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時50分38秒
「涙・・・・・?」

一瞬なぜ涙が流れているのか分からなかったがすぐに今さっき自分の見て
いた夢を梨華は思い出した。

「夢・・・・・後藤さん・・・・・そうだ、後藤さんは!?」

梨華はソファから体を起こし部屋のドアに向かって急いで歩き出した。

少しだけ、体がだるかった。


バンッ!

「後藤さんっ!!」

勢いよくそのドアを開けながら梨華は真希の名前を呼んだ。

「・・・・・・・・」

するとそこにはいつものバーの姿があった。

20 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時51分29秒
こちらから正面の向こうにはいつもこのバーに入ってくる時の重い
バーの扉があった。

自分はここに戻って来たことに今梨華は気が付いた。


少し余裕が出来て辺りを見渡してみた。

するとそこには全員が同様にびっくりしたように目を丸くしている表情の
いつものここのメンバーが揃っていた。


「愛されちゃってるねぇ。」

ひとみがおもしろそうに小さく笑いながらこちらを見ていた。
その隣には同じようにキューを持つなつみの姿がある。

ひとみの言う方を梨華は見てみた。
するとそこにはいつものカウンターがあってその中で経つ中澤に椅子に
座る矢口、そして・・・・


21 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時52分16秒
「後藤さん!」
「・・・・・・・・」
梨華は急いで真希の元まで寄っていった。
ひとみの言葉など全く耳に届いてなかった。

真希は何も言えずただ梨華の方をどこか少し気まずそうに見ていた。

「良かった・・・無事だったんですか?」
「・・・・・・・」
梨華の言葉に真希は少し反応したが言葉が出てこなかった。

「あれ?でもどうして・・・・傷がないんですか・・・?」
目の前の真希には傷一つ付いていなかった。
この前飯田につけられた傷さえもない。
頬を掠めた傷跡も跡形もなく、まるで最初からないかのようだった。

22 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時53分20秒

「あんた・・・・・覚えてないの?」
「え?」
中澤が真希の代わりに梨華に言った。
しかし梨華は何の事なのかさっぱり分からない。

「私・・・・・何かしたんですか・・・・・?」
「何って・・・・・」
梨華の言葉に思わず中澤と矢口は顔を見合わせてしまった。

「梨華ちゃんが真希の傷全部治したんだよ?」
「わ、私が!?」
こちらの状況に気付きなつみが向こうから声をかけた。
突然のなつみの言葉に梨華は何がなんだか訳が分からないでいた。

「ま、あの時力出し切った後、気を失っちゃったしね・・・・・」
「私が・・・・力を・・・・?」
「まぁ、そういうことや。」
矢口の言葉にまだ戸惑っている梨華に中澤はそう言うと話を終わる方へ
持っていった。
黙ったまま矢口へと顔を向ける。
矢口は中澤の言いたいことは分かっていたが視線を受けるだけで何も
言わなかった。

23 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時54分27秒
「後藤さん・・・・・」
「あんまり人の名前呼ばないでよ。恥ずかしいじゃん。」
「・・ご、ごめんなさい・・・・・」

梨華は気がついてすぐに俯いて謝った。
だけど不安でいっぱいだった自分の心はそれだけで全て取り除かれた。
今までほとんど話したことのなかった彼女との始めてのまともな会話。
それが梨華の心を安堵でいっぱいにさせた。

「でも・・・良かった・・・・・」
「・・・・あなたのお陰だよ。」
真希は小さく、本当に呟くような小さい声でぽつりと独り言のように言うと
そのまま自分の今来た部屋へと戻っていった。

「え・・・・・?」
聞き取れなくて聞き返したが、真希はそれ以上何も答えず中澤にまだ寝ることを
告げるとそのまま向こうへ行ってしまった。


向こうでは何やら意味深な表情と少し楽しそうに口元を緩めるひとみの姿があった。



24 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時55分02秒
それから梨華は自分の能力についての説明を中澤から受けた。
ヒーリングという能力のこと、そして全ての能力をクリアする力。
自分の力はこの二つらしいと中澤は言っていた。

「あんたも今日からここの正式な仲間やで。」

中澤は優しく微笑むとそう言ってくれた。
そして頭をぽんっと撫でてくれた。

初めて自分が来た時とは全く違う、その時の中澤を全く感じさせない
ぐらい優しかった。

この時初めて自分が同じ「仲間」としてこの場所へ歓迎されたことを
梨華は実感し、心から嬉しかった。

しかし喜びもつかの間、梨華は矢口からあることを告げられた。
それは自分の能力が突発的な物じゃないかどうか。

ピンチの時だけ発動する力では実際に仕事の時に使いこなせない。
行き当たりばったりでは他の仲間さえも危険に巻き込む事になると
矢口は真剣な表情で自分に言った。
25 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時56分11秒
そしてこれからは梨華には自分の能力をコントロールすることが
課題とされた。
通称「教育係」には矢口がつくことになった。

翌日からさっそく実行された。

「自分の中に流れる『気』みたいな物を手に集めて・・・・・・こう!」
「集めて・・・・・んっ!!」

矢口が自分の隣で両手を下にあわし言葉と共に光を集めていく。
梨華も同じようにしてやってみて掛け声も出してみるが全くうんともすんとも
言わない。

「こつさえ掴めば後は楽なんだけど・・・・」
「うう〜ん・・・・。」

集中して自分の中に流れるらしき物を手に向かって高めてみるが・・・・全く
何の反応も無い。
26 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時56分52秒
「・・・・才能ないんでしょうか私・・・・」
「・・・まぁみんな最初は同じだから・・・・。」

矢口は梨華の背中をぽんっと叩いてあげた。

「矢口さんは、どうだったんですか?」
「あたしの時は裕ちゃんが教えてくれたけどやっぱり最初はてこずったよ。」
「そうだったんですか・・・・」

梨華は矢口の言葉に気を取り直すと再び集中し始めた。

「そうそう、そんな感じ・・・・・」
「・・・・・・・・」

目を瞑り精神を高めていく梨華。
その体に徐々に静かにだが確実に紅い光が覆っていく。
梨華の髪がふわっと浮いた。
まるで下から風を受けているかのように。
27 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時58分05秒
「なっ・・・・・・」
「ん〜・・・・・・」

紅い光はその存在を確実に示し出しだんだん大きく梨華の体を包んでいく。
気付けば梨華の手には大きすぎるほどの紅い光の固まりができていた。
それは小さくばちばちと音を立てている。
そして同時にすごい速さで大きくなっていく。

「り、梨華ちゃん!?」
「え?」

矢口の戸惑いの言葉に梨華は瞳を開き何かと振り向いた。
それと同時にスッとその光が跡形もなく消えていった。

「どうかしたんですか?」
「どうって・・・・・」

彼女は気付いてなかったの?
その力の大きさに。
自分から止め処なく溢れ出していくその力に。


28 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時58分47秒
「今何も感じてなかったの!?」
「え・・・?あ、でも何か暖かい物が体に漂ってたような・・・・」
「・・・・・・・」

梨華の言葉に矢口は口を開けて呆然としてしまった。

「そ、そっか。まぁ、頑張りなよ。」
「はい。ありがとうございますっ!」

矢口の励ましの言葉に梨華はやる気を益々起こしまた練習へと戻っていった。
今度は今さっきのようにはならなかった。

29 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)17時59分36秒

「・・・・・・・」

一生懸命になって練習する様を矢口はずっと見ていてあげた。
それだけで梨華のやる気がでているのが見ているこちらにも伝わってくる。

(それにしても・・・・・)

梨華に秘められる力、それはどのぐらいのものか想像もつかなかった。
潜在能力が高すぎるといってもいいほどだ。

レベルがいくら高いと言っても加護もあの塔を作るには大分時間を
掛けただろう。
それをあっという間に崩れさしてしまうのだから。

力が弱いよりは断然強い方がいい。
しかし場合によってはそれが災いを生み出すこともある・・・・。



30 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)18時00分54秒

(そして問題はそれだけじゃない・・・・。たぶん、梨華ちゃんの能力は
・・・・後藤にかかってる。)

実際あの時梨華の力を引き出したのは真希の行動によってだ。

ついこの前出会ったばかりなのに。
梨華にとって真希はかけがえのない特別な人間になってる。
会話なんてほとんどしてないのに、梨華は真希に、そして同じように真希は
梨華に特別な感情を持っている。

それがどういうものなのかまだ分からないが・・・。

梨華が来てからまだほとんど時間が経っていない。
なのに二人は惹かれあってる。


31 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)18時01分47秒

(どうして二人ともほとんどお互いのこと知り合ってないのにあんなに
なれるわけ?)

少しだけ不思議だった。

だけど今思えば自分もなつみや中澤に出会った時、ほとんど『時間』なんて
ものは関係なかったかもしれない。

たぶん、ここに集まるべくして集まり、全員は出会うためにここに引かれた。

(運命なんて目に見えないものよく分からないけど、出会う運命だったって
言われたら納得しちゃうかも。)

目の前には必死になって力をコントロールしようとしている梨華の姿があった。

その一生懸命な様子に矢口はふっと小さく微笑んだ。

32 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)18時02分44秒
「よしっ!それじゃそろそろ休憩にしようか。」
「あ、はい。」

矢口の言葉に梨華は精神統一を中断させた。

「!?」

するとドンッと上から押されるような衝撃を感じた。

「な、なんか・・・・・体が・・痛い〜。」
「あぁ、それよくあるんだよね。筋肉痛みたいなやつだからほっとけば平気。」
「い、痛いよ〜・・・・!」

半分涙目になりながら梨華は痛さを訴えていた。

「椅子に座りなよ。そうだ。今日の昼食矢口が作ったげる。」

梨華にそう言うと矢口はカウンターへと向かって行った。
可愛いピンクのぞうさんのエプロンを付けて。

33 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)18時04分55秒

「わぁ〜可愛いぞうさんですねぇはあとはあと
「あはは、矢口のお気に入りだったりするんだよね。」
「そうなんですかぁ。」

梨華はカウンターにもたれかかるようにして話をしていた。
体がだるくて起き上がらないのだ。

「んじゃ少し待ってて〜。矢口特製オムライス作ったげる。」
「楽しみに待ってま〜す。」

すると冷蔵庫から材料を持ってきて包丁で切っていく音がバーに心地よく
響いた。
それがちょうどいい子守唄になる。


34 名前:覚醒し始めた力 投稿日:2001年11月08日(木)18時06分13秒

「ふぁ〜・・・石川寝ます。」

うとうとしていた目を瞑りしばらくするとだんだん眠気が襲ってくる。

軽やかな包丁の音。
それからフライパンで炒められているような食欲をそそる音に
いい香り。
眠りに落ちようとする意識の中それは遠くから聞こえるように頭に伝わっていた。

(いつからだろう・・・・・・・)

いつからこんな居心地のいい空間の住人になれたんだっけ?
それが当たり前のようになってる。

まるでずいぶん前からいるみたいに。
ここにいる自分が当然のようになっていた。

最初からあたしはここにいるってことが決められていたかのようだ・・・。


一つだけ確かに言える事、それは全ての始まりは・・・・彼女と出会った時から。


梨華は微かにその人を頭の中に思い浮かべてそして眠りの淵へと落ちていった―――




35 名前:aki 投稿日:2001年11月08日(木)18時07分34秒
>>13-34
更新しました。
今日はかなり書き溜めました。
次の更新辺りで全員の能力の紹介をしたいと思います。
36 名前:謎な関係2  〜同業者〜 投稿日:2001年11月09日(金)12時28分23秒
「あたた・・・・・!」

頬のかすり傷が染みて加護はすぐに辻の元へと駆け寄った。

「のの、早く治してぇ。」
「ちょっと待ってくらさい〜。・・・・はい、飯田さん治りましたよ〜。」
「お、サンキュ。」
「早く早く!」
「亜依ちゃんはせっかちだね〜。」

言いながら辻は飯田から加護へ体の向きを代えた。

そして右手を加護のその頬へと優しく添えた。
しばらくするとそこから黄色い光が手に帯びてくる。
微かに光が帯びた手を患部に当てて優しく撫でる。
すると頬にあったかすり傷はスーッと消えていってしまった。
37 名前:謎な関係2  〜同業者〜 投稿日:2001年11月09日(金)12時29分17秒
「ん〜はあとはあと気持ちいいんだよねぇ、これ。」
「亜依ちゃんもう治ったよ。」
「もっとやって〜はあとはあと

辻の光の帯びた手はとても優しい暖かさで安心するぬくもりだった。
加護は特別怪我をしていなくても辻にこれをしてもらうのが好きだった。
辻もそんな猫のようにする加護におもしろがっていつもやってあげているのだ。

「力をあまり無駄遣いすると疲れるよ?」

飯田がそんな二人向かって忠告する。

「あ、そうやな。ののもういいよ。ありがとう。」
「確かに少し疲れたれす・・・・。」

辻はそう言うとそのままソファに寝転がった。
38 名前:謎な関係2  〜同業者〜 投稿日:2001年11月09日(金)12時30分12秒
「お〜い、また仕事来たよぉ。」

保田がソファで時間を潰す三人に向かっていつものレポートを持ちながら
やって来た。

「またれすか〜?」
「うち今回で疲れたぁ。」

辻と加護はソファで泳ぐようにしながら気だるそうに答えた。

ここは保田達のオフィス。
中々のビルの一室を借りてそこを保田達は仕事場にしていた。
四人で勤めるには結構広く、そして綺麗で新しい。

こんな事務所を借りれられるのも保田達の所属する会社のおかげだった。
中澤達が個人でやりくりする自営業のようなものなら保田達はいわば大手会社に
雇われたその中の分散されたグループのなかの一つだ。
39 名前:謎な関係2  〜同業者〜 投稿日:2001年11月09日(金)12時30分54秒
簡単に言うとセブンイレブンやロンソンみたいなもの。

全国で広く展開し幅広く活動していてそれぞれのグループに成績がつけられている。
それが悪いか良いかによって給料も決まるのだ。

しかしその評判はただ大きいだけでその実態に関しての安心面などは保証は
充分にされているがその分『仕事』に関しての評判はあまり良くなかった。

逆に中澤達のような自営業のところはその世界に深い人間が主に依頼し
『仕事』達成の評判はその世界でも1、2を争うほど高いものだ。

「今回は楽そうだからあたしが行ってくるよ。三人は疲れを取っといて。」
「「「は〜い」」」

保田の言葉に三人は一緒に返事した。

保田はそのままソファの前の事務所のディスクの椅子にどかっと腰を下ろした。

40 名前:謎な関係2  〜同業者〜 投稿日:2001年11月09日(金)12時31分27秒
「ぐぅ〜。」
1分もしないで加護と辻の寝息が聞こえてきた。

保田は机に肘をかけながらレポートに目を通していた。
しかしその目にはレポートはほとんど写っていなかった。

「ふぅ・・・・・・」
「どうしたの?」

小さくため息を吐いた保田に飯田がソファから立ち上がり首を傾げて尋ねた。

「ちょっと・・・・思い出しちゃった。昔のこと・・・・」
「・・・・・そう。圭織も時々あるよ。」

『昔のこと』が何を示すのか飯田には聞かないでも分かっていた。
しばらく部屋に沈黙が流れた。
41 名前:謎な関係2  〜同業者〜 投稿日:2001年11月09日(金)12時32分03秒
「ま、思い出しても意味ないけどね。」

少ししんみりしていた表情を明るい物に変えいつもより元気にふるまって保田は
言った。

「でも、みんなの心に残ってる。どんなに離れていても。そう思うと
なんかほっとするよ。」
「そうだね・・・・・・」

飯田の言葉に保田はおだやかな表情を浮かべて頷いた。


(だけど・・・・・・・)


今は今を歩くしかない。

いくら振り返っても戻れないんだから・・・・。


保田はあれから何度心に言い聞かせただろうその言葉を小さく胸の中で呟くと
椅子に再び腰を掛け直した――――――



42 名前:aki 投稿日:2001年11月09日(金)12時34分55秒
>>36-41
更新しました。
次に本編ではないちょっとした登場人物の能力紹介をしようと思います。
こういう非現実的系な話になるとどうしても違う物と似かよる
ことになるかもしれませんが・・・・・一応オリジナルなので
よろしくおねがいします。m(__)m
43 名前:aki 投稿日:2001年11月09日(金)12時36分11秒
『登場人物能力別、紹介』

登場人物それぞれの能力の紹介をしていきたいと思います。
基本的にできることは全ての能力に共通します。
そしてそれぞれがいろんな事に応用しているって感じです。
その中でもそれぞれが得意とする分野みたいなのがあります。

44 名前:aki 投稿日:2001年11月09日(金)12時36分44秒
中でも一番強力な力を持つストレートタイプ
 
中澤、後藤、吉澤、保田

全てのタイプの中でこれが一番総合的にレベルが高いです。
ただ攻撃が正直すぎるのが欠点。

中澤・・・・この中では一番能力値が高いです。そして一回の攻撃の最大
放出量も一番上です。総合的になんでもできる万能型です。光の色は薄い紫です。

後藤・・・・潜在能力、実力とも高レベルです。たぶんそれは中澤の次に並ぶほど。
後藤も同じく総合的に安定しています。コンピュータを扱うのも得意(後藤個人が)
光の色は蒼に近い(?)青です。

吉澤・・・・後藤より少し下か同じぐらいの実力です。ただ得意とするのが極端に
ストレートな攻撃であまりにも正直です。光の色は白に近い黄色。

保田・・・・この四人の中では一番下になってしまいますが中澤と同じく総合的に
なんでもできる万能型です。能力が目覚めてから結構経つので中澤にも言えますが
いろいろな使い方を知っています。光の色は同じく薄い紫。
45 名前:aki 投稿日:2001年11月09日(金)12時37分24秒
力は上には劣るが操作することを得意とするタイプ
 
加護、矢口

魂のない物体を自由自在に扱うことができます。
力はストレートタイプに劣りますがその使い勝手によっては・・・。

加護・・・・潜在能力がそうとう高いです。しかもそれに加えよくきれる頭。
力の差など感じさせないほど巧みの自分の持つ力を一番良い形で使いこなします。
光の色は薄い緑です。

矢口・・・・能力的には加護に劣るが同じく操作する事を得意とします。
最大放出量もそれほど高くなくあまり戦闘向きとは言えませんがその分安倍と
協力し絶妙なコンビネーションを生み出しています。光の色は薄い水色。
46 名前:aki 投稿日:2001年11月09日(金)12時38分06秒
ヒーリング系(+クリア)

辻、石川

癒す事が主な目的な能力です。その分ガードしたりと攻撃には全く向いていません。

辻・・・・ヒーリングを主に使いこなす。攻撃はほとんどできません。
仲間をガードしたり優しい力が多いです。使い方はさまざま。光の色は薄い黄色です。

石川・・・・同じくヒーリングを得意とします。それに加え全ての能力をクリアする
力も秘めています。潜在能力ははかりしれません。一体どれほどの力を秘めているのかはこれからの展開で・・・・。石川に関してはあまり具体的な紹介は控えておきます。
光の色は紅です。
47 名前:aki 投稿日:2001年11月09日(金)12時39分00秒
研ぎ澄ましコントロールに長ける放出タイプ

飯田、安倍

力は操作タイプと同じぐらい。レーダーのような研ぎ澄ます攻撃が得意です。

飯田・・・能力値は至って普通。コントロールは抜群です。いろいろな場面での
使い勝手も巧みです。光の色は辻と同じ薄い黄色。

安倍・・・飯田とほとんど同じぐらいのレベルです。コントロールも狙えば
ほとんど全てに命中するほどです。安倍個人としてコンピュータ関係がかなり得意です。
それに加え自分の持つ能力と掛け合わしクラッカーとしては世界で見ても
トップレベルと思われます。矢口とよく行動を共にします。光の色は薄紅色。
48 名前:aki 投稿日:2001年11月09日(金)12時40分06秒
以上です。
光の色の種類もそれぞれに合うようなものにしました。
具体的に話を進めていくうちにこれに関して納得できるように書いていきたいです。



49 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時47分47秒
それから5日間の時間が流れた。

「ん〜・・・・!」

梨華はバーでやっぱり練習を続けていた。
あれから5日、練習に練習を重ねているのだがまだこつが掴めないでいる。
手を前にかざして体の中に流れるものを集中させて・・・・。

「・・・・・・はぁ・・・やっぱりダメだ・・・。」

時間があれば練習しているのに全く微かにも光は手から放出されない。
矢口の言ってた通りあの時だけの突発的なものだったんじゃないのかなんて
不安にもなったりもした。

だけど、今は練習するしかない。

そうすればいつか、コントロールできるようになるはずだ。

みんなのように・・・・・あの人のように・・・・・・




50 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時48分34秒

「・・・・・・・」

梨華は再び集中し始めた。

(後藤さん・・・・・)

この前は自分でも予想もしなかった時に自分に秘められる力が発動していた
らしい。
そのおかげで真希を救う事が出来た。

だけどもし同じようなことがまた起こった時、その時『ピンチ』に頼って
救えなかったら絶対に後悔する。

できれば起きて欲しくない。

もうあんな事は二度と。

だけど何があるか分からない。
だから絶対に自分の力をコントロールできるようにしなくちゃいけない。

大切な人達を、守る力が欲しい。

それを私は持っている。

あの人を、守る力を・・・・・・

51 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時49分21秒

「・・・・・・・・」

知らない間に梨華は今まで一番精神を集中し高める事が出来ていた。
目を瞑り、体に流れる微弱な物を手にへと集中させていく。

梨華の髪が、あの時のようにふわっと浮いた。

なんとなく、あの時のように体の中に暖かいものが流れるのを梨華は感じていた。

気持ちよくて、優しい暖かさ。

(後藤さん・・・・・・・)

無意識に頭の中には彼女の姿が過ぎっていた。

梨華は体に覆われている紅い光の存在に全く気がついていなかった。
52 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時51分54秒
「・・・・・・・・」

そっと瞳を開いてみる。

するとどうしてもそれと共に消えていってしまう紅い光。

「あぁっ!!」

しかし今回は微弱にだが前にかざす両手に紅い光は留まっていた。

「で、出来たぁ!!」

初めて自分の力を目にする事が出来て梨華は嬉しくてしょうがなかった。

「だ、誰かぁ!」

特に矢口に見てもらおうと梨華は辺りを見渡した。
だけど今はバーには残念なことに誰もいなかった。

「出来たぁ!誰か見て〜〜!」

梨華は急いで向こうの休憩室へのドアに向かって走った。
しかしその間にも消えていってしまおうとする紅い光。
53 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時52分39秒

「ちょ、ちょっと待ってぇ!」

光に必死に呼びかけるが確実に光の色が弱くなっていく。
まるで消えそうになっているろうそくの火のようだった。

走ってドアの前までちょうど来たとき、

「・・・・・・・?」
「キャアッ!」

ドンッ!

ドアがいきなり梨華の前で開いた。
タイミングが良すぎてドアに正面衝突する。

「わ、わ・・・・・!」
そのままバランスを崩し手も離れ倒れそうになる。

「危ない!」
その体をドアから出て来た彼女が支えてくれた。
54 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時53分32秒

「ご、ごめんなさい・・・・・・って後藤さん!!」
「気をつけてよ?・・・・って私も悪いのか。」

優しく体を支えてくれたのは他でもない真希だった。
突然で梨華は目を丸くしてかなり驚いた。

「ど、どうして・・・・・」
「隣で何か騒いでたから覗いてみたんだけど・・・・」
「あ、そうだ!後藤さん!私出来たんですよぉ!」

梨華は真希の言葉に一瞬忘れていた物を思い出し自分の掌を見てみた。

「あ・・・・・・・」

しかしそこにはもう光は全く存在しなかった。

「せっかく出来たのに・・・・・あ、本当なんですよ?今さっき本当に・・・」

「分かってる。誰も疑ってないよ。」

真希は必死に訴えかける梨華にそう答えながらカウンターに向かって行った。
55 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時54分14秒
「後藤さん・・・・・」

こちらに背を向けてカウンターに座ってしまった真希の後姿に梨華は
小さく言葉を漏らした。

『分かってる』

そんな素朴な言葉がとても嬉しかった。


今は午前9時。
まだバーには二人だけしか来ていない様だった。
だから少しだけ梨華は勇気を出してみた。

座る真希の横に梨華は向かって行った。
56 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時55分26秒
「後藤さんも最初はやっぱり難しかったですか?」
「何が?」
「力をコントロールすること・・・・・それともここに来る前から目覚めてた
んですか?」
「・・・・・・・」

梨華の言葉にしばし真希は考えたように言葉を置いた。

「あ、ご、ごめんなさい。ただ私が聞きたかっただけで言いたくなければ
全然言わなくていいんですけど・・・・。」

梨華は真希の様子に慌てて言葉を付け足した。

「いや、そうじゃないの・・・・ごめん。」
「いえ、そんな・・・・」

前を向いたまま静かに謝った真希の言葉に梨華は悪い気がして自分の方がそんな
こと聞いて、言わせてしまって申し訳ないような気持ちになった。
57 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時56分22秒
「私も・・・・最初は自分にこんな力があるなんて知らなかったの・・・・。」
「えぇ!?」

予想もしなかった真希の言葉に思わず大きな声を出してしまった。
二人だけしかいない比較的早い時間のバーにはよくそれは響いた。

「あ、ごめんなさい・・・」
「いいよ別に。面倒だからあまり謝んないで。」
「はい・・・・・・」

真希はそのまま言葉を続けた。

「最初ここに来た時は、私もあなたと同じように力を持っていなかった。」
「そうだったんですか・・・・・」
「それに・・・・私の場合はここに来てからもしばらくの間はずっと目覚めなかっ
たんよね。」
「・・・・・・・」

思ってもいなかった真希の力に関しての話に意外だという気持ちと共に
本当に驚いていた。
58 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時57分25秒
「それで・・・・・それからちょっといろいろあって・・・・今に至るんだけど
・・・」
「・・・ごめんなさい・・・・なんかまずいこと聞いちゃったみたいで・・・・」

少し気まずそうに言葉を濁した真希に梨華は慌てて俯いて謝った。

「・・・・・・・・」

梨華の言葉は耳に届いているのかいないのか真希は何も言葉を返さず少し
考え事をしているようだった。

「後藤さん・・・・?」

梨華が顔を覗き込むようにして言った言葉にはっとして真希は気がついた。

「なんでもない・・・・・」

不思議がる梨華に真希はそれだけ答えた。
59 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時58分21秒
「・・・・?」

少しだけ真希の様子がいつもと違うのに梨華は少しだけ不思議に思ったが
その時はあまり深く考えずすぐに疑問は消えていった。

「でも・・・・後藤さんも最初はそうだったんですね。私も・・・・もっと
頑張らなくちゃ・・・!」

梨華は真希の側を離れまた練習を再開し始めた。

「・・・・・・・」
真希はしばらくその様子をカウンターに肘をかけて眺めていた。
「ん〜・・・・・」
精神統一は出来ているようだがまだ力は彼女の言う通りコントロールはできていない
ようだった。

「・・・・・ちょっと何もしないで目瞑ってみて。」

真希は椅子から立ち上がると梨華の側に寄っていった。
60 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時59分20秒
「え?あ、はい。」

言われたとおり梨華はすぐに目を閉じた。

「力を抜いて。何も考えないで・・・・」
「・・・・・・?」
突然の真希の行動に戸惑いながらも梨華は素直に言葉に従った。

「・・・・・・・・」

真希は梨華の額に向かって微弱な青い光を帯びた手を触れない距離で添えた。
川のせせらぎのようにそれは梨華の体を覆い包んでいく。

「・・・・・・・」

暖かかった。
自分の額辺りからとても優しい暖かいものが自分の体の中に流れ込んでくる。
だんだんそれは自分を包むようになっていく。
61 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月10日(土)20時59分59秒
ドクンドクン

(なんだろう、これ・・・・・・・)

そして自分の体のちょうど中心辺りの部分がそれに反応するように鼓動していく。

気持ちいい。
暖かくて、安心できる。

「目を瞑ったままちょっと集中してみて。」
真希の耳から届いてきた言葉に梨華はそのまま何も考えず実行してみた。

すると今さっきとは全く比べ物にならないほど自分の精神が研ぎ澄まされていく
のが分かる。

そして今感じている暖かさとは明らかに違う物が自分の中から生まれだしてくる。

それは徐々に自分の体を中心から広がり占めていった―――――――




62 名前:aki 投稿日:2001年11月10日(土)21時00分47秒
>>49-61
更新です。
63 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月11日(日)08時37分28秒
この先なにが起きるのかな?
二人の仲は進展するのかな?
たのしみ〜
64 名前:aki 投稿日:2001年11月11日(日)21時56分41秒
63:名無し読者さん
>レスありがとうございます!
 これから少しづつ動いていきますよ〜。
 二人の仲はどうなるかは・・・・今は秘密です(w
 楽しみに答えられるように頑張ります〜。
65 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月12日(月)20時59分54秒
「・・・・・・・」

真希から見る梨華は見ているだけでも分かるほど集中していた。
そのままだんだん自分の力を押しのけて梨華の中で奥深く眠っていた潜在能力が
覚醒していくのが分かる。
それは力強くて優しいものだった。

梨華の力と共に自分のものも徐々に梨華から抜いていく。
全て真希が自分の力を梨華から退けた時、梨華の体の全てに梨華自身の力が
流れているのを真希は感じていた。
微かにその紅い光は体の外にも帯びていた。

「目を開けて。」
「・・・・・・・・」

真希の言葉に梨華はそっと目を開いた。
それと共に体に微かに帯びていた光は消えていったが確実に梨華の中には
その力の存在が強く残っていた。
66 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月12日(月)21時00分49秒
「なんか・・・・・体に電流が走ったみたい・・・・・」

梨華は自分の掌をまじまじと見ながら不思議そうに呟いた。

「もうこれで眠る力は完全に覚醒したはず。後は加減とコントロールだけ。」
「あ、ありがとうございますっ!」

梨華は慌てて頭を下げてお礼を言った。

「いいよ、別に。それよりさ、その敬語、なんとかしてよ。」
「え?」
「一応あなたの方が年上なんだからさ・・・・・」
「でも・・・・やっぱり後から来たから・・・・」

ふとして言ってみた言葉に梨華は困ったようにした。
たぶんこれ以上言ってこの場は納得したとしても再び自分に向かって彼女
は敬語を使うだろう。

真希は梨華の言葉に特別返事を返さず小さく息を吐くとそのままカウンターの
中へ向かっていってしまった。

梨華も真希の様子に邪魔になるかと思いそれ以上は何も声をかけなかった。
67 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月12日(月)21時01分59秒

「・・・・・・・・」

真希は今自分が梨華にしたことに対して考えていた。



あれはそもそも『彼女』が自分にしてくれたことだ。

なんでそれを彼女にしたんだろう。



一生懸命な彼女を見てたら自然と体が動いてた。

不可解でしょうがない自分の行動に今はまだ説明がつかないでいた。



68 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月12日(月)21時02分54秒

「あ、あのっ!」
「・・・・・なに?」
「どうして・・・・こんなことしてくれるんですか・・・・?」
「・・・迷惑だった?」
「ち、違います!ただ・・・・その・・・・」

彼女の聞きたがっていることは分かってる。
だけどそれは今他でもない自分が疑問に感じていた事だ。
尋ねられても答えなれない。

むしろ答えを聞かせて欲しい。


「それじゃあね、また寝るからあたし。」
「あ、はい。・・・あの、ありがとうございました。」
「・・・・だからそれやめてって。」

小さく苦笑すると真希はまた来た部屋に戻っていってしまった。
69 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月12日(月)21時03分50秒

「・・・・・・・・」

梨華は呆然とその後姿を見つめていた。



(ドキドキ・・・)

まだ高鳴ってる鼓動。

そして自分の中に微かに残る彼女のぬくもりのようなもの。

まるで、一瞬だけ真希と一つになったような感覚を感じた。


(もしかして、私・・・・後藤さんにときめいてるの・・・・?)

うすうす感じていた事だが今特に明らかになったその気持ちに梨華は
戸惑った。

初めて出会った時から真希には惹かれていた。

だけどその時はまだそれがどういう気持ちかなんておぼろげで分からないでいた。

どういう感情なのか分からない。

それでいいと思ってたのに・・・・。


70 名前:自分の気持ち 投稿日:2001年11月12日(月)21時05分11秒

(やだ・・・・女の子同士なのに・・・・・私って変・・・・?)

梨華は自分の気持ちに戸惑った。

だって、こんなにもはっきりしてる。
真希のことが好き。
彼女にこんなにも惹かれてる。
誤魔化しようがない。

「・・・・・・・!」

梨華は頭を横に振った。


好きだ!

好きなんだもん!

『後藤真希』って一人の人にそういう感情を持ったんだもん。

変に思うことなんてなんにもない・・・・

でしょ?


最後に少しだけ確認するように胸の中で小さく呟きそれに「うんっ!」と頷くと
梨華は再び練習に戻っていった。
71 名前:aki 投稿日:2001年11月12日(月)21時06分35秒
>>65-70
更新です。
ストック使い切っちゃいました(T_T)
それに更新遅くなってきちゃってすいません・・・。
72 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月13日(火)21時14分49秒
とってもおもしろいっす!!

>71今まですさまじいスピードでしたからね(w
作者さんのペースで頑張ってくださいな
73 名前:aki 投稿日:2001年11月14日(水)00時54分02秒
72:名無し読者さん
>レスありがとうございますっ。 
 おもしろいと言ってくれて本当に嬉しいです!
 今までがすさまじかったんですね^^;
 やっと再び一つだけになり集中しやすくなりました。
 頑張ります!
74 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時27分54秒
翌日

「ほなこれでやってみて。」

昨日あれからずっと練習して急激にかなりコントロールも力の加減も身に
付ける事が出来た。
実際にヒーリングの力も他の力をクリアすることもやってはいないのだが
少し集中すれば時間はかかるものの手に紅い光が帯びるほどにまで
成長した。
それが嬉しくて朝一番にここに来るとすぐに中澤にそのことを報告したのだ。


「こ、これをどうするんですか?」

そして目の前に出されたのがこれ。
枯れた花がそのままの植木蜂だった。
75 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時28分51秒
「完璧に力が目覚めてコントロールできてるんなら、これを元の状態に
戻すことができるはずや。」

「これを・・・・ですか・・・・」

目の前には完璧に枯れてしまっているもはや何の花かも分からない
一瞬でも触れたら崩れてしまうような枯れた花があった。

「ヒーリングの力のテストだよん。」

矢口もカウンターで肘を突きながら中澤と梨華の様子を見ていた。
戸惑っている梨華とは正反対にのんびり至って普段通りである。

ひとみとなつみはそれぞれ単独で仕事に出かけているためバーにはいなかった。
76 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時29分36秒
「できるかな・・・・・・」
「できるかできないかはやってから決め。」

中澤の言葉に少しやる気を出し梨華は気合いを入れるように両方の拳を握った。
両手をそれにかざしいざ挑もうとした時、梨華ははっとして後ろを振り向いた。
そこにはいつのまにか来ていた真希の姿があった。
別段こちらに気にする様子もなくただ普通におもむろにコートを脱いでいた。

「裕ちゃん!甘酒頂戴っ!」
「あいよ。」

矢口と中澤はへたに注目し緊張させるのもまずいと思い気にかける様子は
表に現さなかった。


そんな時真希が視線を受けているのに気付きスッとこちらに向いた。

77 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時30分15秒
「あっ・・・・・・・」
「・・・・・・・」

少し二人の距離は離れていて大きな声を出して話さなければいけないほどだった。
しかしへたに真希に声をかけたりしてみんなの注目を浴びせてしまうのは
嫌がられるかと思い梨華は開きかけた口をすぐに閉ざした。

「・・・・・・」
「!」

しばらく見つめあった後不意に真希の口が動いた。
それは言葉は発さずただ口だけ動かした物。
それを見た瞬間、梨華の体は一気に電流が走ったかのような感覚になった。
78 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時30分45秒
『大丈夫。きっと上手くいく。』

優しい表情で、最後にウィンクをして言ってくれたその言葉。

まるで時間が止まったかのようだった。
一瞬のうちに瞬く間に体に電流が流れ、すぐにその後に何とも言えない
感情から胸の鼓動が高鳴り始める。

「後藤さん・・・・・・」
「・・・・・・」

嬉しくて、本当に嬉しくてしょうがなくて緊張していた心も体も一気に
そんなこと忘れてしまう。
不安げだった表情も気付けばこの上ないほどの嬉しさが混じった物になっていた。

真希は梨華の小さく漏らした言葉には答えずそのままスッと視線を外すと
向こうへ背を向け行ってしまった。
79 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時31分29秒
「石川頑張ります!」

梨華は中澤達のいるカウンターに向き直ると元気一杯の声で言った。
中澤と甘酒を飲んでいた矢口が突然元気になった梨華に揃って?を頭の上に浮かべる。

『きっと上手くいく。』

すぐにでも思い出せるその言葉。

他の誰かじゃダメで。
まるで何か魔法でも掛けられているような感じ。

同じ言葉でも他の誰かじゃダメなの。

『あなた』だから、嬉しい。

嬉しさ、勇気、元気、やる気・・・・いろんな感情がそこから生まれてくる。
80 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時32分01秒
「ふっ・・・・・」
突然元気よく大きな声を張り上げた梨華に、真希は人知れず小さく
苦笑した。




「・・・・・・・・」

梨華はそんな真希の様子には気付かず、静かに瞳を閉じた。
そして両手をそれにかざし集中し始めた。


見ててね。

絶対にやってみせるから。

見守っててね・・・・・・・



81 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時32分39秒

「・・・・・・・」

梨華はいつもよりはるかに早く集中することができた。
自分の体の一番深くて中心のような場所が熱くなってくる。
そしてそれはだんだん体中に広がっていく。

しばらくして体中の隅から隅までそれが自分の体を占める。
次第にそれは体から溢れていくのを梨華は感じていた。
暖かいそれにまるで包まれるような感じがした。

手が熱い。

それを感じると梨華は一気に手に精神を研ぎ澄ませた。


82 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時33分17秒
「・・・・・・・・」
「・・・・・・!?」

中澤は冷静に、矢口は驚きを隠せない表情でそれを見つめていた。

集中している梨華の体から紅い光がはっきりと目に見えるほど
放出されている。

精神が完璧に研ぎ澄まされているのもはっきりと分かる。

そして一番にこの部屋全ての空気が一つになっていた。

梨華に向かって辺りを漂う気の力が流れていっている。
まるで一つの線を張ったように辺りの空気は張り詰め緊張の漂う
物に変わっていた。

次第に梨華の体に帯びていた光が少しづつ手に集中し始める。
紅い光は梨華の体全体から手に向かって流れそのまま枯れた花へと
注がれていた。

83 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時34分15秒
「なっ・・・・・」
「!!」

するとどうだろう。
枯れてしまい下にもたれかかっていた花がみるみると輝きを戻し始め
うなだれていたそれがゆっくりと上に伸び始めた。
同時に葉、茎、土、花の全てに生き生きとした鮮やかな色が戻り生命力が
溢れ返ってくる。
茎は太く力強く、葉は花を引き立てるように空に伸び、土にはまるで
今、水を受けたかのように瑞々しささえも感じられた。



「・・・・・・・・」

真希は向こうから黙ってその光景を見つめていた。
その生命力を取り戻していく花の姿を、そして梨華の横顔を。
84 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時35分00秒
「・・・・・・・・」

梨華は尚それに力を降り注いでいた。
少しだけ表情が険しい物になり額にも一筋の汗が流れていた。

うなだれていた花はとっくに空に向かってその存在を示していた。
しかし時間が経つごとにまるでそれは今開花したかのような生き生きさと
溢れるほどの生命力を秘めていっていた。


「ストップ!」

「「!!」」

突然の中澤の言葉に梨華と、そして矢口も同時に反応した。
よく通るまるでゲーム終了を知らせるような口調だった。
中澤の言葉と同時に梨華の体から一気に力が抜けていった。
85 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時35分34秒
「よう頑張ったな。合格やで。石川。」

「・・・合格・・・?ってあ、あたし・・・合格・・・!?」
「梨華ちゃん、それそれ。」
「え?」

混乱状態で何が何だか分からないでいる梨華に矢口が梨華の目の前の
それを指差して言った。

「あっ・・・・・!!」

そこには瞳を閉じる前の物を全く感じさせない、まるで違う別なもの
かのようなそれがあった。

「完璧やで。非のつけどころがない花丸の120点や。」
中澤は満足気に微笑むと優しい口調で梨華に告げた。
86 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時36分11秒
「これ・・・・あたしがやったんですか・・・?」
「梨華ちゃん以外誰がいるのさ。そう、梨華ちゃんがやったんだよ。」

矢口はやれやれと笑いながら確認させるように再び梨華に言ってあげた。

「嘘じゃない・・・・本当に、あたしが・・・・。や、やったぁ!!」

嬉しくて嬉しくて梨華はつい大きな声を出してしまった。

そんな梨華の様子に中澤と矢口が微笑む。
87 名前:あなたの存在 投稿日:2001年11月14日(水)21時37分30秒
梨華はそのまま笑顔のままで後ろに振り向いた。

「後藤さんっ・・・・・!」
「・・・・・・」

そこには微かにだが同じように微笑みを浮かべる真希の姿があった。

力を扱えるようになったのが嬉しかった。
すごく嬉しかった。
やっとみんなと同じ仲間になれた。
もう足を引っ張る事も無い。
同じ視線に立てた。

だけど、それ以上に嬉しかったのは・・・・・


真希の微笑みに梨華も嬉しさで一杯の笑顔を返した。




それ以上に嬉しかったのは、あなたのその笑顔が見れたこと――――――




88 名前:aki 投稿日:2001年11月14日(水)21時38分43秒
>>74-87
更新しました。
一つだとやっぱりやりやすいですね。
89 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月14日(水)21時59分42秒
akiさんの作品大好きでいつも読ませていただいてます。
今回も読ませてくれますねー。楽しみです。
がんばってください。
90 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月15日(木)19時24分39秒
すごいおもしろいです。
目が離せません!!
それぞれのキャラがいい感じですね!!
特にごっちんに注目してます。
続き楽しみにしてます。
91 名前:aki 投稿日:2001年11月15日(木)21時52分58秒
89:名無し読者さん
>レスありがとうございますっ^^
 いつも〜>本当ですか!嬉しいです!!
 今回の作品もお読み頂いているようでとても嬉しいです。
 頑張りますよ〜。

90:名無し読者さん
>レスありがとうございますっ!
 おもしろいと言ってくれて本当に嬉しいです。
 これからは更に目が離せなくなってくると思います。
 今回のキャラクターは全員立っていてみんな動かしやすいんです。
 いい感じで良かったです!
 これからの展開でごっちんには特に注目されていくかと思います。
 楽しみに答えられるよう、これからも頑張りますよ〜。 
92 名前:答えられない疑問 投稿日:2001年11月15日(木)21時59分20秒
ボンッ!

「きゃぁ!!ごめんなさいごめんなさいっ!!」
「・・・・・・い・し・か・わぁ!!」
「あははは!!」

それからヒーリングの力はOKだったものどうしても次の、力をクリアする
能力だけは使いこなす事が出来なかった。

中澤に協力してもらい何度も練習しているのだが、これがまたすごく
難しくて微妙な力加減を間違えてしまうだけで中澤の手に集中していた
力がボンと音を立てて小さな軽い爆発を起こしてしまうのだ。

「まったく、わざととちゃうからええものの・・・・・」
「ごめんなさいごめんなさいっ!!」

さっきから失敗するたび梨華はぺこぺこと頭を下げていた。
無理も無い。
これで合計10回以上は失敗している。
93 名前:答えられない疑問 投稿日:2001年11月15日(木)22時00分33秒
「何かこつは掴めないんか?」
「最初の時よりかは何か、分かってきたような気がするんですけど
どうしても・・・・・・」
「ふぅ、うちもクリアする能力ってよう分からんけど厄介な物らしいなぁ。」

最初の時よりかははるかに上達はしてきている。
どうしてやっていけばいいのかなども分かってきた。
しかしそれを実行して成功させるのが、どうしても上手くいかない。

イメージ的には、サーカスの綱渡りのようなもので。
最後まで気が抜けないで少しでも油断したら失敗してしまう。
それに加えその綱がはるか遠く長いのだ。

「今日はこれぐらいにしとこか。次は矢口やってや。」
「えぇ、矢口は遠慮しときます。」

「あの、今日はその、ありがとうございました!」
気楽に会話する矢口と中澤に梨華はお礼を言いながら頭を下げた。
94 名前:答えられない疑問 投稿日:2001年11月15日(木)22時01分45秒
「あいあい、お疲れさん。」
「お疲れさ〜ん。」

中澤と矢口はそんな梨華の様子に気軽に返事した。
そんな親しみのある感じが今日は特に嬉しかった。


体の向きを変えるとそこにはテーブルの椅子に座る真希の姿があった。

少しだけ走ってできるだけ早くその側へ向かって行った。

「あの、ありがとうございました。」

梨華は真希に向かって頭を下げた。

昨日の事、今日のこと。
全てに対してのお礼の言葉。

「やめてよ。あたしは何もしてないよ。」
「・・・・・・・」

苦笑しながら言う真希に梨華はただ何も言葉を返さずその横顔を見つめていた。


95 名前:答えられない疑問 投稿日:2001年11月15日(木)22時02分31秒
ぶっきらぼうに言ったその言葉とは裏腹に、
あなたはいろんなことを私にしてくれたって胸の中で思ってた。

それは昨日のことに今日のことに、そしてなにより・・・・・


「後藤さんがいてくれたからできたんです。」


あなたが近くにいたから、

側にいてくれたからできた。

あなたの存在だけでいいの。


何も言ってくれなくてもいい。
何もしてくれなくてもいい。
ただ側にいて見つめていてくれれば―――――――


梨華ははっきりと一言真希に向かってそう答えた。
嘘なんか微塵も無い、本当に心から想っていった言葉。




こんな感情の中で発した言葉は、初めてだ―――――




96 名前:答えられない疑問 投稿日:2001年11月15日(木)22時03分30秒
「はい、これあんたの次の仕事。」
「・・・・・・・・」

梨華の帰った陽も沈み徐々に寒くなり始めたバーで真希はコートを羽織っている
最中に中澤から仕事の内容の書かれているレポートを手渡された。

真希は黙ってそれを受け取り目を通していた。
そんな真希の様子を何か意味ありげに中澤は黙って見ていた。

「・・・・・あんたあの子に何かしてやったんか?」
「え?」
「いや、ちょっと気になってな。」

しばらくして中澤は口を開いた。
突然の言葉に真希はレポートから目を外し顔を上げた。
97 名前:答えられない疑問 投稿日:2001年11月15日(木)22時04分38秒
「別に・・・・・ちょっと手助けしてあげただけ。」
「そうやったんか。どうりで上達が早いわけやな。」

真希の言葉に中澤は梨華の今さっきの様子を思い浮かべた。

「ちなみにどこで習ったん?そんなの。」
「・・・・してもらったことがあるの。」
「・・・・・・」

真希の視線を横に外し言ったその言葉に中澤はすぐにどういう意味なのか気が付いた。

しばらくの間二人の間に沈黙が流れる。

「そっか。悪い事聞いてもた?」
「ふっ、いいよ別に。変に気使わないでよ。」

中澤の言葉に真希は小さく苦笑して答えた。
98 名前:答えられない疑問 投稿日:2001年11月15日(木)22時05分36秒
「・・・・・もう一つ聞いてもええか?」
「何?」
「あんたにとって・・・・石川はどんな存在なん?」
「・・・・どういう意味?」
「あ〜、ごめん。質問変えるわ。何で石川にそんなことしてあげたん?」
「・・・・・・・」

真希はしばらく黙ってしまった。
何か言いたそうにして何か言葉を発しようとしてもその『答え』が出てこない。
だからといってその質問に嘘なんかは絶対につきたくなかった。

「あたしも・・・・よく分からないんだよね。近頃の自分の行動が・・・・・」

真希は打ち明けるような口調で中澤に言った。
99 名前:答えられない疑問 投稿日:2001年11月15日(木)22時06分15秒
「何であたしこんなことしたんだろうってその5秒後ぐらいにいつも思ってる・・・・」
「・・・・・・」
「どうしてだろう。教えてよ・・・・・」
「後藤・・・・・」

真希の言葉は中澤だけに問い掛けられているものではなかった。
誰でも言いから答えを聞かせて欲しい。
そんな言い方だった。

「だから、自分でも分からないから答えようがないよ。」

最後にそう言うと真希はレポートを中澤に返した。
長い大人っぽいコートを着て帰り支度をする。

そしてさっさとバーを出て行こうと扉へ向かって行った。
100 名前:答えられない疑問 投稿日:2001年11月15日(木)22時06分48秒
「後藤」

その後姿に中澤が声をかけた。
真希も音を立てずスッとすぐに振り返った。

「あんたの疑問や。あんたの中に答えもあるはずやで。」
「・・・・・・」

中澤の言葉に真希は黙って聞いた。
そして何の返事もせずしばらくしてバーから出て行った。



「・・・・・・・」
中澤も何もそれ以上は声をかけず真希の帰る姿を見送っていた。

「たとえそれが・・・・・自分の思ってもいない答えでもな・・・・・」

誰もいなくなったバーで中澤は一人小さくそう言葉をもらした。



101 名前:答えられない疑問 投稿日:2001年11月15日(木)22時07分25秒
扉を開いてもう一つの廃墟化されているバーに真希は出た。
中を歩いて外への扉へと向かっていく。

「・・・・・・・」
密かにその頭の中には今さっきの中澤の言葉が駆け巡っていた。


「あたしの中にねぇ・・・・・」

中澤は言った。

その疑問に対する答えは自分の中にあるって。


「果たしてどんな答えなんだか・・・・・」

真希は小さく呟くともう一つのバーの扉を開いた。
風が一気に中に、体に吹き荒んできた。


肌寒いその風は本格的な冬の到来を全ての人々へと告げていた―――――




102 名前:aki 投稿日:2001年11月15日(木)22時08分39秒
>>92-101
更新です。
なんかやっぱりこれ一つになったら執筆がものすごく早いのに
戻りました(w
103 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月16日(金)20時18分54秒
早い執筆嬉しいです
月のほう更新してたから少し遅くなるのかな(w
104 名前:aki 投稿日:2001年11月17日(土)21時41分29秒
103:名無し読者さん
>レスありがとうございます。
 月もその日の更新で終わったのでもう大丈夫・・と
 いいたいのですが、年末のためまたゆっくりになりそうです(w
105 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時43分03秒
翌日、真希は一度バーに来てから依頼場所へと向かう事にしていた。

朝早く寒い木枯らしが吹く中いつもの道を通ってやってきた。
町に植えられている街路樹も既に紅葉し始め色づいた葉も地面に
どこか演出するかのように落ちていた。

手袋を付けていても寒さを防げずかじかむ手をそれから出してバーの
いつもの重い扉のキーワードを入力する。

キーッと暗証番号を確認する音が響くとすぐにカチッとロックが外れた音が
した。

体全体を使うようにして中に入る。

まだバーには誰も来ていないようだった――――――




106 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時44分02秒



「うぅ、さむさむっ・・・・・・」

梨華は寒い中コートに手を突っ込みながら歩いていた。
チェック柄のマフラーも首に巻きできるだけ寒さを防ぐようにしてはいるが
やっぱり冷たい風が肌に刺さる。

「手袋忘れてきちゃったよ・・・・・」

コートに入っていると思った手袋は外に出ていざポケットに手を入れてみれば
そこには何もなかった。
思い出せば昨日手袋を机の上に置いてそのままにしてしまったのだ。
それに気がついたのは外に出て家を離れてから結構した時でもう時遅く
引き返すことができなかった。

少しいつもより足早に町の中を通り抜けていく。

まだクリスマスには早いがお店の所々にはクリスマスのロゴのイルミネーションが
され綺麗に鮮やかに照明が光っていた。
街路樹にも色鮮やかなイルミネーションが少しだけ飾られていた。

107 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時44分35秒
クリスマスはその当日よりも一ヶ月前が楽しくていいななんて思いながら
マフラーに口元も埋めて梨華は町を歩いていた。

やっといつもの路地への入り口へとたどり着き迷うことなくそこへと
入っていく。
こんな汚い路地に入っていこうとする自分に誰も気にする様子もない。

「・・・・・・・・・」

初めて来た時とは全然印象が梨華の中で変わっていた。
汚いとか気持ち悪いとか見た目であまりそこを見なくなったのだ。
見た目なんかある意味どうでも良くなってくる。
それ以上にそれは大事な場所へと続く一つの道なのだ。

それから角を曲がり冬のせいか始めてきた時よりはるかに寂しい雰囲気を
漂わすそこが目の前に開けた。
108 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時45分38秒
躊躇うことなくバーの中に足を進めほこりの溜まるそこをブーツで音を
立てながら歩いていく。

『independent world』

キーボードを打つ場所を壁から出し間違うことなくパパパッとそれを打った。

何度も打ってるけどその意味を忘れる事はない。
どうしてか、いつも打っている最中に意味が頭の中に浮かんでくるのだ。

それからロックを解除する音が小さく鳴って梨華はそれを確認すると
扉を開いた。

中はガランとしていて暖房器具もつけられていなく明りも付いていなかった。
109 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時46分14秒
「一番?」

梨華は確かめるように首を傾げながら部屋の中に入っていった。
朝早いので誰もいないかもと来る時から思っていた。
学校と違うのでいつ来ても別に来なくてもそれぞれの自由。
それに加え特に寒い今日、みんな来るのは遅いかと思っていたのだ。

「残念でした。」

「その声は・・・・・・」

不意に自分の横の方から声がしたのでそちらに振り向いた。
だけど振り向く前から誰なのかは分かっていた。

110 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時46分46秒
「後藤さん!」
「人の顔見るなり大きな声で呼ばないでよ・・・・・・。」
「ご、ごめんなさい・・・・」
「いいけど別に。それよりこれ手伝ってくれない?」
「え?」

真希の視線を追うとそこにはちょうどいい大きさに割られている薪が
持たれていた。

「何するんですか?」
「暖炉を付けるの。半端じゃなく寒いから。」

真希は言いながら顎で向こうを指した。
するとそこにはやっぱり埃とすすをたくさん被る暖炉らしきものがあった。
汚れてはいるが良い物だとは暖炉を始めて見る梨華にも分かった。
まるで映画に出てくるような、サンタさんが抜けて出てくるような定番だけど
古くて高そうな暖炉だった。
111 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時47分18秒
「それじゃ私掃除します。」
「よろしく。」

梨華の言葉に真希はそれだけ言うと手に持っていた薪をその暖炉近くへと
運んでいった。

梨華も向こうの休憩室から掃除用品をいろいろ持ってくると暖炉の周りを
濡れた雑巾で拭き、掃かれずに残ったすすをほうきで掃いた。

「げほげほっ!!すごい埃っ」
「ちょっと大丈夫?」

暖炉の中に体を入れて上に抜けるトンネルを叩きで軽く叩くとそこからすごい
量のほこりやすすが舞い落ちてきた。

そぐにそこから体を退けたが下には綺麗にしたが再びそこにすすが落ちて
来てしまった。
112 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時47分57秒
「・・・・・普通さ、上から掃除しない?」
「・・・・私も後から気付きました・・・・・」

結構力を入れて先に下を掃除してしまったため今やっとその事実に気が付いた。
真希の助言の言葉に梨華はそんな自分に呆れながら答える。

「ダメじゃん、それ。」
真希がそんな梨華の言葉に小さく口元を緩める。

「・・・・・・・」
梨華はそんな真希を黙ってはいたが密かにその横顔を見つめていた。

そんな真希との会話、やりとりが心の中では本当は嬉しくてしょうがなかった。

113 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時48分34秒
「そういえば今日後藤さん早いですね。」
「いつも遅いって事?」
「ち、違いますっ!!ただ、いつも人がだんだん集まり出してから来るからそう
思っただけで・・・・・」
「あは、いいってそんなに気使わなくて。本当にその反応、からかい甲斐があるね。」
「はぁ、そうですか?」
梨華の言葉に真希は「うん」と薪を運びながら答えた。

二人だけのこの場所。
そして初めてといってもいいぐらいの彼女との会話。
偶然でも何でも今この場所に彼女と自分が二人だけということに
梨華は感謝していた。
114 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時49分47秒
「本当はいつも通りゆっくり来たかったんだけどね。今日は仕事があるから・・・・・」
「忘れ物でもしたんですか?」
「・・・・・・・」

梨華の言葉に真希は少しの間黙った。



彼女の言いたいことは分かる。
そのまま仕事に行けばいいのになぜいちいちここに寄ってから行くのか。
その事を言ってるんだ。
その上での疑問だ。
忘れ物をしたのかという質問は。
だけどね、違うんだよ。
ちゃんとした憎いほどの理由があるんだ・・・・・・。




「仕事の時でも・・・・・ここには寄ってから行くことに決めてるの・・・・・」
真希は今までより少し沈んだ声でそう答えた。
「・・・・・・?」
しばらく返事が返ってこずそしてその明らかに変わった口調に梨華は?と不思議に
思い一旦暖炉から体を出した。
115 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時50分41秒


「後藤・・・・さん・・・・?」

明らかに変わった表情。
どこか今さっきよりも暗くなっている気がした。

何か考えているのか意味深な表情で黙っている真希を梨華は心配して
名前を呼んだ。

そんな梨華の声に真希ははっとした。

「ごめん。なんでも・・・ないから・・・・・」
「・・・・・?」

真希は勝手に頭の中で巡り始めようとする『それ』を中断させると
梨華の声になんとか声を絞り出し答えた。




なんてたちの悪い自分の中に刻まれた『それ』
悔しい事にそれは自分の中の一番深くて中心的な部分に根付き時間が経った今でも
未だ取り除けない。




116 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時52分35秒
「・・・・・・・・・」

梨華はまだ表情の曇る真希に自分もすごく不安になり真希のことが心配に
なった。

前にも真希がこういう風になるのを見たことがある。
時たま真希がこのような表情に、口調になるのを梨華は知っていた。
そのたびにどうしたんだろうと自分は首を傾げていた。
だけど今はそんな目の前の彼女が心配でたまらなかった。

自分に心配されるほど彼女は弱くはないかもしれない。
でも、その表情になる時の真希はなぜかなによりも弱くて小さくて、
儚いものに見えてしょうがないのだ。

「どうかしたんですか・・・・?」
「・・・・・・・」

梨華は初めてそれを真希に尋ねてみた。

117 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時53分29秒



今までは疑問に感じても聞かないでいた。
聞けずにいた。
でも今は違う。
自分の中に秘められた『その』気持ちに気付いたから・・・・
ただの興味本位とかじゃなくて、自分があなたに対する感情は他の人に
は感じない物だって気付いたから。
あなたのことが・・・・・好きだからって気付いたから・・・・
だから知りたい。



「なんでもないから・・・・・」
「・・・・・・・」

しかしあくまで「なんでもない」で片づけてしまおうとする真希に梨華は少しだけ
胸が締め付けられる想いになった。

今さっきまでのなごやかな部屋の空気が、一変して気まずい物に変わった。


梨華は勇気を出してそれに対しての自分の気持ちを伝えることにした。


118 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時54分46秒

「私・・・・いつも気になってたんです。後藤さんが今みたいに・・・・何か
考え事をして沈んだ表情になってるのが・・・・・」

ゆっくりと口を開き言葉を繋いでいく。


「なんでもないって・・・・・」

それにあくまで答えを変えない真希。
その口調は少しだけ苛立ちが含まれていた。

「今までは聞かないでいたけど・・・・・・でも私・・・・」
「なんでもないって言ってるでしょっ!!?」

真希は俯いていた顔を起こして近頃では出したことがないような大きな声で
そう微かにヒステリックに叫んだ。

「!」
梨華はそんな突然の真希の様子に驚き、目を丸くしていた。

すぐに真希も今の自分自身が取った行動にはっと気がついた。
何よりその行動に真希自身が一番驚いた。
思わず今気付いたかのように口に手を添えてしまう。
119 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時55分56秒



「ご、ごめん・・・・・。だけど・・・ただの興味本位なら・・・聞かないで・・・」
「興味からなんかじゃないですっ!」

次に梨華が真希に向かって叫ぶように反論した。
真希も初めて見るそんな梨華の様子に驚くように顔を上げた。

「き、興味本位からなんかじゃないです・・・・・。私は・・・その・・・・・」
「・・・・・・・!」

今、叫んだ威勢がスッと消え、不意に梨華の口調が弱くなった。
それに真希が気付く。
そして俯いてしまった梨華の頬はどこか紅かった。
真希はそこであることに気がついた。
今から梨華が言おうとしている事、それが何なのかということが微かに
頭の中で予想がついたのだ。
一瞬にしてその考えが頭の中を過ぎるのを真希は感じていた。


120 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時57分21秒


「ま、待って・・・・・!」
「好きなんですっ!後藤さんのことが!」

自分の止めようとする言葉は空しく遮られ、梨華が自分の気持ちを真希へと
告白した。








121 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時58分26秒





梨華は緊張していた。
生まれてこのかた、告白というものをしたことがなかったからだ。
小学生も中学生も全く彼氏とかそういうものに興味がなかった。
周りで告白したり高い声で騒いでいるクラスメートを自分はいつも人事のように
横目でただ見ているだけだった。

しかし、今しかないと梨華は思っていた。
なぜなのか分からないが、チャンスはこの一度だと思ったのだ。
今言わないといけない。
今しかない。
そして、今言いたい・・・と。

真希が何か言おうとしたがその声を自分の言葉が遮った。


思わず恥ずかしくて言った後、顔を下に俯かせてしまった。
梨華からは真希の表情が分からなかった。

ただ、部屋にはしばしの沈黙と緊張した空気が流れた。





122 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時59分18秒



まさか、彼女がそんな感情を自分に持っていたなんて。

「・・・・・・・・・」
真希は心の中でただ動揺し戸惑っていた。

彼女が自分にそんな感情を持っていたことに驚いているんじゃない。
心のどこかで気が付いていたのかもしれない。
彼女が自分に対して特別な感情を持ってるって。
そして自分もどこかで彼女に惹かれている。
でも、これじゃまるで・・・・・・・





「・・・・・女の子、同士なのに?」

気付けば思ってもいない言葉が自分の口から発せられていた。
いや、正確には昔一度自分が感じたことだ。

その言葉に梨華がびくっと反応するのが目に入った。

123 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)21時59分52秒

「お、女の子同士じゃ・・・・変ですか?私は・・・・後藤さんが女だから
とか私が女だからとかそういうんじゃなくて・・・ただ単に・・・・・」
「・・・・・・・・・」

必死に自分の想いを打ち明けてくる梨華に真希は何も言葉を返せず更に戸惑った。

「後藤さんは・・・・やっぱりこういうのって・・・変だと思います・・か?」

よほど今言った自分の言葉がショックだったんだろう。
自分に向けられる言葉も途切れ途切れ、今にも消え入りそうなほどになっている。

「変じゃ・・・・ないよ・・・・・・」

真希もやっとそれだけ目の前の梨華に対して言った。
124 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)22時00分48秒



変なんかじゃない。
偏見だって持ってない。
だってあなたの気持ちよく分かるもの。
同性だから『好き』になったんじゃない。
『私』にそういう感情を持ったんだよね。
変なんて心にも思ってない。
だって・・・・・
だってあたしも昔・・・・・・・


心の中で一人でに目の前の彼女に答えていく自分の中のありのままの自分。
それは飾らない本当の自分の気持ち。
だけど、それは自分の口からは発せられない。


そして気付かないうちに、自分の口からは思ってもいない言葉が発せられていた。


125 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)22時04分23秒

「だって・・・・・あたしも・・・好きになったことあるから・・・・」





「!!」

突然の返って来た真希の言葉に梨華は驚いた。

『好きになったことあるから』

確かに目の前の彼女は他でもない自分にそう言った。

(それって・・・・・・・)

今言うんだから当然女の子に、ということだろう。
梨華はこれ以上にないほど複雑な気持ちになった。

偏見を持っていないってことに対する安心、嬉しさ。
126 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)22時05分19秒
だけどそんな彼女が言った突然の言葉。

『好きになったことがある』

それは彼女が今まで自分の知らない間に他の誰かに今の自分と同じ感情を
持ったということだ。

梨華はショックだった。
思ってもいない言葉が返って来たからだ。
まさか彼女が今までに他の誰かに異性だろうと同性にだろうとそんな感情を
持ったことがあるなんて。
自分の勝手な思い込みだが真希は今までそんな感情は持ったことがないんでは
ないかと思っていた。
自分の中で密かに建てられていた彼女の神秘性というか自分の思い描いていた彼女
のイメージが崩れたような気がした。

しかし心のどこかではそんな彼女に自分が近づけて、彼女は自分とは生きている
世界が違うなんて思いもした気持ちが崩れていくのが分かる。
そして自分の告白に対して可能性があるかもしれないなんて思ってる自分。

なんとも言えない複雑な心境。

梨華はこれ以上ないほどに戸惑った。
127 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)22時06分59秒


「でもね、その人・・・・もういないの・・・・・」
そんな梨華の胸の内など構うことなく真希の口からは言葉が続けられていく。

「・・・いな・・い・・・・・?」
「いなくなっちゃったの・・・・・」
「・・・・・?」

この時、まだ梨華は真希の言葉がどういう意味を秘めているのか分からなかった。


真希は俯きながら梨華とは視線を外して静かに言葉を発した。
そして次の続けられた真希の言葉に梨華は更に驚くことになる。


「殺しちゃったの・・・・・その人のこと・・・・」
「!?」

「あなたのことも・・・・殺しちゃうかもよ・・・・・?」


真希は静かに不気味なほど感情のないに等しい口調で梨華にそう告げた――――――







128 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)22時07分46秒

それから梨華は呆然とその場に立ち尽くしてしまい何も考えられなかった。
真希もそんな梨華に何もそれ以上言葉をかけなかった。
それからどれくらいの時間が経ったのだろう。
真希は自分の腕につけられている時計で時間を事務的に確認するとただ静かに
バーを去っていく足音だけを残しその場から去っていった。

「・・・・・・・・・」
梨華は何も考えられなかった。
真っ白で、考えたくても何の疑問も感情もしばらくは頭の中には生まれてこなかった。

「殺した・・・・・?」

その言葉の意味が分からなくて言葉に出してみる。
それからしばらくしてどういう意味なのか頭の中に浮かんでくる。
それにはいつもの倍以上の時間が今の梨華には必要だった。

129 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)22時08分53秒
「後藤さんが・・・・・・人を・・・・・?」

少しづつ今さっきの彼女を確認するように口から発していく。
しかしどんなに時間を用いても意味が分からない。

「後藤さんが昔後藤さんの好きだった人を・・・・殺した・・・・・?」

やっとそこまで言葉が続けられた。
しかし口から言葉へと変換していくのをただ自動的に体がしているだけで
どういう意味なのかが頭の中に浮かんでこない。分からない。

『あなたのことも・・・・殺しちゃうかもよ・・・・・?』

それから頭の中に突然浮かぶ今さっきの彼女の言葉。
そしてその時やっと梨華ははっと我に帰った。

「後藤さんっ!?」
梨華は今気がついたようにすぐに辺りを見渡した。
しかしそこには自分以外誰もいない。
探している彼女は自分の目の前にはいない―――――――



130 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)22時09分36秒
気付けば自分の手は寒さで悴んでいた。
まるで雪でも降るぐらいの気温にバー一帯が冷え切っていた。
そんなことにも梨華は今の今まで気付かないでいた。

『いなくなっちゃったの』

今さっきの真希の言葉が次々に梨華の頭の中に浮かんでは消えた。

131 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)22時10分07秒
「・・・・後藤さんは・・・一体何を・・・・・・」

自分の知らない間の彼女。
自分が『あの時』彼女と出会う前の彼女。
そこには一体何が隠されているの・・・・・?
自分の出会う前の彼女に一体何があったの?

何も知らない自分。
何も知らない彼女と今、自分は接してる。
彼女のこと知らないで『その』彼女に対して自分はこの感情を持った。
そして告白した。

知りたい。
自分の知らない彼女の全て。
だけど・・・・・



132 名前:私の知らないあなた 投稿日:2001年11月17日(土)22時11分17秒


「あたしはその時・・・・・・」

全てを知ったその時、あたしは彼女にまたこの感情を抱くことが
できるんだろうか。


分からない。


彼女の『あの』表情のわけを聞くのが怖い。


知ったその時、自分が果たして彼女のことを好きなままでいられるか
分からないから。

自分の知らない彼女を知った時、それも自分は『好き』になれるのだろうか。


分からない。


絶対って言えるほど、今のあたしには自信と勇気がなかった―――――――



133 名前:aki 投稿日:2001年11月17日(土)22時13分35秒
>>105-132
更新です。
あぁ、125の更新のところの一番始めの後藤のセリフ本当は
125ではなく124の一番最後に入れたかったのに間違えちゃいました・・・・。
削除してもらおうかなって微かな時間の中考えたんですけどテンポが
悪くなると思ったのでやめました。
今回の更新、結構重要なシーンですね(w
134 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月18日(日)02時09分07秒
すげーすげー!!めっちゃドキドキしましたよ!読んでて。
やっぱり「あの人」って…あの人かなあ?なんて。
akiさんの小説は『とある旅館〜』の頃から大好きなんですけど、akiさんのせいで
いしごまマンセー!になっちゃいましたよ(w
135 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月18日(日)22時47分25秒
いや〜マジで続き気になるっス
ど〜なるんですか〜!!!つ〜感じです(w

ちなみに俺は『めぐる気持ち』からのakiさんの大ファンです(w
136 名前:aki 投稿日:2001年11月19日(月)15時05分11秒
134:名無し読者さん
>レスありがとうございます!
 ドキドキしてくれましたか!嬉しいですねぇ。
 『あの人』に関しては固く口を閉ざしておきます(w
 ほとんどの方が察しがついているかも知れませんが最後まで
 誰かは分からないってことで(w
 おぉ!いしごま好きが増えて嬉しい事です。
 これからももっといしごまにはまらせますよ〜(w

135:名無し読者さん
>レスありがとうございますっ。
 これから果たしてどうなっていくんでしょうか(w
 ただ一ついえることは今までとはちょっと違う感じになるかも
 しれませんね。
 おっ!最初の作品の名前を上げてくれるのはかなり嬉しいですね!
 何回言われても嬉しくて照れます(w <ファン
 これからも頑張りますっ!
 
137 名前:Please Tell Me 投稿日:2001年11月19日(月)19時50分03秒
それからしばらくして中澤や矢口や安倍が一緒になってバーへやって来た。

その少しちょっと前に暖炉を綺麗に掃除し終わる事が出来ていた。
今さっき真希の運んでいた薪を暖炉の中にくべると近くのマッチでそれに
火をつけその前で暖まりながら梨華は中澤達を迎え入れた。
いつものように「おはよー」の朝の挨拶から始まる一日。
梨華もいつもと変わらず同じように答えた。
しかし幾分沈んだ口調になっているのが梨華自身も気が付いていた。
それに当然中澤や安倍、そして矢口も気付く。

「あ、暖炉つけたんです。今日すごい寒いから・・・・・」
「あぁ、ご苦労さん。」

しかし梨華は中澤達に何も言わなかった。
普段通りを装って話し掛ける。
そんな梨華に中澤達も気になったがあえて何も聞かなかった。

矢口と安倍はいつものように同じテーブルの椅子に座りジュースを飲みながら
談笑をし始めた。

中澤もカウンターの向こうで新聞を広げ読み始める。
138 名前:Please Tell Me 投稿日:2001年11月19日(月)19時50分36秒
「・・・・・・・・」
梨華は暖炉の前でしゃがみただ肘を突いて顎に手を乗せ、その暖かい暖炉の
火をぼーっと眺めていた。

今さっきの出来事が未だに信じられない。

本当に今さっき自分はここで彼女と話をしていたのか。
自分はその時本当に彼女に告白したのか。

全てが真希から発せられたその言葉で遠い昔のことのようになっている。

(後藤さんの好きだった人・・・・・・・)

どんな人だったんだろう。
今はいないその人に対して微かに興味が湧いてくる。

たぶん、その人との出会いが会って今の彼女があるんだろう。
なぜかは分からないけどそんな気がする。
139 名前:Please Tell Me 投稿日:2001年11月19日(月)19時51分33秒
(ここで・・・・・出会った人なのかな・・・・・)

ふとそんな疑問が頭の中に生まれた。



「・・・・・・・」
中澤は暖炉の前でしゃがむ梨華の後姿を見ていた。
その後姿はどこか小さく切ない物。

中澤は真希と梨華がここで自分達が来る前に会ったのではないかと察していた。
それはいつも仕事の時でもここには寄ってからいくという真希の習慣、そして
その暖かい炎が燃やされている暖炉からだった。

来てまもない梨華には暖炉の存在はおそらく知らなかったはず。
なのになぜ薪のある場所や実際に火をつけられているのか。
周りのことを気にして動く梨華は暖炉の存在に気付いたとしても誰かに相談も
しないで暖炉を使うはずはないと中澤は考えていた。
140 名前:Please Tell Me 投稿日:2001年11月19日(月)19時52分24秒
そしてなぜ今暖炉の火がついているか、それは真希がここに立ち寄りその時
梨華に教えたとしか考えられないのだ。

中澤はしばらくその後姿を見ていたが不意にその後姿に声をかけた。

「お〜い、石川ぁ。後藤知ってるか?」
「!」

ふいに後ろから掛けられた言葉に梨華はびくっとした。
それには中澤も気付く。

「後藤さんなら・・・・・今さっき仕事に行きましたよ」
「そうか。ならいいんやけどな。」

あからさまにぎこちない口調。
それに気付きはしたがあえて指摘はしなかった。



141 名前:Please Tell Me 投稿日:2001年11月19日(月)19時53分20秒
(中澤さんなら・・・・・・・)
ふと掛けられた声に梨華ははっとした。

昔からいる中澤なら自分が出会う前の真希のこともたくさん知っているはず。
何か、自分の知らない彼女のことが分かるかもしれない。

「・・・・・・・」
少し躊躇ったが梨華はそのまま無言で中澤のすぐ前のカウンター席に座った。

中澤もそんな梨華を黙って見つめる。
何か言おうとしている顔だ。

「あの・・・・・・聞いてもいいですか・・・・?」
「・・・・なんや?」
「中澤さんって・・・・結構昔からここにいるんですか?」
「そうやなぁ、確か5年ぐらいかな。・・・なんでそんなこと聞くん?」
「なんでもないんです・・・・・ただちょっと・・・・」
言葉を濁す梨華に中澤もそれ以上は自分から何も言わなかった。
142 名前:Please Tell Me 投稿日:2001年11月19日(月)19時54分30秒
(5年ぐらい前から・・・・・)

5年前からだと梨華も真希もちょうど10歳か11歳だ。
その5年の間に真希がここに来たと言うのも充分に考えられる。

「あの・・・・・教えて欲しい事が・・・あるんです・・・」
「・・・・・・」

俯きながら少しづつ言葉を繋いでいく梨華に中澤は黙って聞いていた。
無駄なことは言わずただ次の言葉を待った。
それに梨華も促されるように言葉を続けていった。

「後藤・・さんって・・・・いつここに来たんですか?」
「・・・なんでそんなこと聞くん?」

今さっきとは違い真希は質問に対して逆に疑問を投げかけた。
そこに一番重要な今、目の前にいる彼女の気持ちが入っているはずだからだ。
143 名前:Please Tell Me 投稿日:2001年11月19日(月)19時55分17秒
「ちょっと・・・気になって・・・・」
「・・・今さっき後藤に何か言われたんか?」
「!」

さらっと言った中澤の言葉に梨華ははっと顔を上げた。
驚いた表情の梨華に中澤は表情を変えずただ黙って見つめ返す。

「後藤に会ったんやろ?何かあったん?」
「どうして・・・・・」
「覗いてたわけやないで。ま、この辺の状況見れば一目瞭然ってだけや。」

中澤が言いながら暖炉の方を見た。
それに梨華も気付く。

「教えて下さい。昔、後藤さんに一体・・・何があったんですか・・・・?」

意を決して梨華ははっきりとした口調で中澤に尋ねた。
144 名前:Please Tell Me 投稿日:2001年11月19日(月)19時56分15秒
「それは・・・・あんたが後藤の口から聞かないかんことちゃうか?」
「!・・・・そ、そうですよね・・・・・」

梨華は今の自分の言葉にはっと気付いた。
真希の言葉に驚き、いつのまにか自分を見失ってた。
彼女のことを、他の誰かに聞こうだなんて。
そう、中澤の言う通りこれは彼女の口から、彼女の言葉で聞かなければ
いけないことなのだ。
なのに自分は・・・・・
梨華の中に一気に罪悪感に似た真っ暗な気持ちが立ち込めてきた。


「・・・・ただ一つ。教えてたる。」





145 名前:Please Tell Me 投稿日:2001年11月19日(月)19時56分59秒
「え?」
「今あんたが接してる後藤は・・・・・・偽者やで。」

『偽者』
中澤の言葉が心に深く刻まれる感覚を梨華は覚えた。
衝撃的に近いほどの、自分に重く圧し掛かる言葉。

「・・・・・・・」
思わず言葉が出なくなった。

その彼女の作り出した『偽者』に恋した自分。
何も彼女のこと知らないくせに『好き』になったりして。
なんて能天気な自分。
なんて図太い神経なんだろう。

こんなの・・・・好きだなんて告白できる資格、ない。




146 名前:Please Tell Me 投稿日:2001年11月19日(月)19時57分35秒
「・・・・・・・・」
矢口と安倍は後ろでその二人の会話を聞いていた。

自然と会話がなくなるその会話。
ずっと前に起きた事。
しかしそれは今と近かろうとどんなに離れていようと拭い去れない事実。

どんなに今が楽しくても、さよならは出来ない過去の出来事――――――




147 名前:Please Tell Me 投稿日:2001年11月19日(月)19時58分25秒




「石川梨華。16才。神奈川県出身。A型。この写真の子が、そうです。」
「ん・・・・なるほど。」
「彼女がヒーリングの能力と、そして類まれな全ての能力をクリアする力を
持つ能力者と思われます。」
「ふむ・・・・・・」

むやみに広い部屋。
ビルのてっぺんか部屋の窓には外の景色が続いている。
邪魔になる物が全くない。

そこに男が二人。
一人は椅子に座りその写真を眺めもう一人は秘書らしくその横で立っていた。

「潜在能力は・・・・・はかりしれないです。これは・・・・・」
「・・・・そうだな。これからが重要になってくる。ご苦労。これからも監視を頼む。」
「はっ!」

机の上には寂しく一枚の写真が置かれていた。
それは梨華の何もしていない時の一人の時の横顔。

何もない机の上にただ一つ存在していた―――――――





148 名前:aki 投稿日:2001年11月19日(月)20時01分22秒
>>137-147
更新しました。
この次の更新・・・・今さっき書いてましたがお楽しみあれ(w

これと全く関係ないですが昨日(今日?)しし座流星群見てきました。
わざわざ田舎に行って(爆)
北斗七星も流れ星も見れて良かったです(w
149 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年11月20日(火)12時06分10秒
作者さん、はじめまして。
つい最近「とある〜」を読みまして、同じ作者さんで作品を探して
こちらへやって参りました。
(正しくは「雪板」から追ってきたのですが・・・)
前の作品とまた雰囲気の違ったストーリーについつい引き込まれて
とうとうここまで来てしまいました。
素晴らしい作品を読ませていただき、ありがとうございます。
今後の展開にも期待です。

あと、同じ作者さんで「めぐる気持ち」という作品があるらしいのですが
見つかりません。どなたか教えていただけたらありがたいです。
(ここに書くのにふさわしくない内容で申し訳ないです。)
150 名前:aki 投稿日:2001年11月20日(火)12時53分48秒
149:M.ANZAIさん
>レスありがとうございます。
 おぉ、結構「とある〜」から知ってくれた方が多いですね。
 とても嬉しいです^^
 これはかなり前とは雰囲気が違くなりましたね。
 今更ですが「とある〜」がコメディチックに書けたのが嬉しいです(w
 これからも頑張ります!

 ご指摘ありがとうございます。
 142の下から2行目、これ「真希」ではなくて「中澤」です。
 すいません(++)

 それと「めぐる気持ち」が行方不明みたいですね(爆)
 娘。小説保存庫にも今行けないみたいですし・・・・。
 一体どこに行ってしまったんでしょう(w
151 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時17分20秒
それから翌日

梨華は今日もぼーっとコートに手を突っ込んで平日もにぎやかな町を歩いていた。

「ね、暇なの?遊ばない?」
「・・・・・・・」
そんな時向こうから近づいてきた男に話し掛けられた。
顔はまあまあだがいかにもナンパ好きそうな男だ。

「暇じゃないんで。」
梨華はほとんど相手にせず黙って冷めた目で男を見るとそのまま抜いて行こうとした。

「ちょっと待ってよ。少しだけでいいからさ。ゲーセンでもいかない?」
「・・・・・・・」
(しつこいなぁ・・・・・)

いつまでもくっ付いてくる男に梨華は苛立ちを隠せないでいた。
無視して歩いていっているのにそれに邪魔くさくくっ付いてくるのだ。
絶対に落とせるとでも思っているのだろうか。
152 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時18分02秒
「お金はもちろんおごるしさぁ。」
「・・・・なんのためにナンパしてるんですか?」
「え?」
「何が目的ですか?」

突然の梨華の言葉に男は目を丸くし驚いているようだった。
外見からでは察しがつかなかった言葉にさぞかし驚いているのだろう。

「何が目的って・・・・・君可愛いしさ、一緒に遊ぼうかなって・・・・」
「ありふれてるじゃないですか。可愛い人なんて見渡せば。」

冷めた口調で言うと梨華は男を放っておきそのまま歩を進めた。
ナンパなんてどうせ誰でもいいから可愛い子に声を掛けてるだけだ。
誰でも良い。
そんな気持ちに腹が立つ。
世界にたった一人の、誰かが変わることができない人とかいないのだろうか。

(あたしは・・・・・・・いる・・・・・)
その人の声だけですごく嬉しい気持ちになれて体全体が反応する。
そんな人は世の中いくら探したって、あの人しかいない。
153 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時19分00秒
「ったく、なんだよ。固いやつ。」

後ろで拗ねたような口調で言い捨てる男の声が聞こえた。
ムカついたわけではないが梨華はスッと後ろに振り返った。

「?」

梨華の行動に慌てる男。
聞こえるように言ったくせにいざとなるとびくついている。
なんて肝っ玉の小さい男なのだろう。
心の中で梨華は目の前の男の様子に呆れた。
そして相手の様子など構わずそのまま再び前に向き直った。


「固いで結構・・・・・」

そして小さく呟くとすっと瞳を閉じた。


154 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時19分53秒
「!?」

すると途端にその男の体が強張るのが分かる。
まるで、電気が一瞬にして体に流れたようにびくっと反応しそのまま
動かなくなってしまった。

「な、なんだ!?」

一種の金縛りだ。
力を扱える能力者には基本的に練習すれば同じことができる。
梨華も練習に練習を重ねこのぐらいのことはできるようになったのだ。
1、2分すればすぐに解けるぐらいのものだが。


混乱する男を放りそのまま歩いていく。

町の人々は全くそんな梨華と男のやり取りに気にとめることなく
ただそれぞれ自由な時間を過ごしていた。
155 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時21分32秒



『あんたが接してる後藤は、偽者やで』

ふと頭の中に昨日の中澤の言葉がそのまま思い浮かんだ。

(後藤さんに・・・・・・聞かなくちゃ。)

心の中で小さく呟いた。

本当は不安だ。
どんな言葉が返ってくるか分からない。
予想もしないすごい事実を知ることになるかもしれない。
だけどね、もう手遅れだよ。
こんなにもあなたに溺れてしまってる自分がいる。
怖気づいて引き返せるほど、この想いは軽いものじゃない。

そんなことにも、あなたの言葉から気付いたんだ――――――


156 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時27分15秒


バーに来てみるとそこには誰もいなかった。

今日はどうやら正真正銘一番らしい。
しかしとてつもなく冷え切っておりそのまま梨華はマッチを手に暖炉に
それを放り込んだ。

少しづつパチパチと音を立て徐々に火が灯っていく。
徐々だがバーが確実に暖かくなっていく。

梨華はその炎が大きくなっていく様をただぼーっと見つめていた。

「・・・・・・・・」

好きです。
本当にあなたのことが好き。
もう、止められない自分の想いはこのままじゃ勝手に暴走していってしまいそうだ。


全て受け止めてみせるなんて大人なみたいなことまだ言えない。
でもね、あなたの『その』表情のわけを知りたい。
あなたの口から、聞きたいんだ。
157 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時28分02秒



カタッ

小さい音がバーに響いた。
梨華はすぐにそちらに振り向いた。

「・・・・・・・・」

そこにはあなたの姿があった。
待ってた。
ずっと。
あなたの教えてくれた暖炉の前で―――――



158 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時29分08秒


真希は驚いたように梨華の姿に目を丸くした。
いるかとも思ったが心の中ではできればいないで欲しいと願っていた。
だってどう接すればいい?
どんな態度で接しられても、今の自分は全てに傷つきそうな気がしたんだ。

逆に自分を見る梨華の表情は落ち着いている物だった。
冷静にこちらを見据えていた。


159 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時30分18秒
真希はそのまま梨華に何も話し掛けずすっと隣の部屋に向かおうとした。

「待ってください。」
「・・・・・・・」

逃げようとしたのは所詮形式的なことで。
結局は彼女が自分を引き止めることは予想していた。

「・・・・・何?」
「聞かせてください。私の知らない全てのことを。」

はっきりと梨華は言葉を濁すことなく自分の気持ちを真っ直ぐ伝えた。
もう、曖昧に言葉を飾る必要はないから。

真希はそんな梨華の言葉、そして瞳に少しだけ戸惑った。
まさか、こんなにもはっきりと言ってくるなんて。

(ある意味、適わないかな・・・・・)

小さく心の中で呟くと真希は静かに梨華との距離を縮めた。
160 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時31分04秒
「昨日の事?」
「そうです。私・・・・一番大切なことを、後藤さんの口から聞いてません。」

二人は二人だけのバーで少しの距離を取り向かい合うようにして立った。

そうだ。
昨日、自分は一番肝心なところを抜いて話したんだ。
彼女の気持ちを確かめる意味がそれには含まれていたかもしれない。
無意識に、彼女がどんな反応を返してくるか試していた。

「私が好きな人を、殺したってだけだよ。」

なのにまだ誤魔化す自分。
彼女の言いたいこと分かってるくせに。
どこまで、自分は弱いんだろう。
彼女の反応を確信したがってる。
161 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時32分27秒

「違います!私は、どうして後藤さんが・・・・・・・」

はっきりと梨華はそれを否定した。
その後続かなくなった言葉は何が言いたいのかは容易に想像できる。

「・・・・聞いてどうするの?」

冷静に彼女の言葉に耳を傾けるのは心の中の自分で、今彼女と向き合っている
自分は所詮強くはなかった。

彼女の言葉の全てに体が反応し冷静に保とうとする心の中の自分とは裏腹に
感情が荒げてきそうになる。

今だって、気付けばそんな言葉がとって出ていた。



162 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時33分11秒

「知りたいんです・・・・後藤さんのことを・・・・・・」
「知ってどうするの?何か変わるの?」
「・・・・・・・」

真希の言葉に梨華は何も言えなくなってしまった。
何か必死に返す言葉を考えたが、頭の中に生まれてこない。

自分が彼女の知らない事を知って何か変わるのか。
考えもしなかったけど今更のように胸にその言葉が響いた。
好きだから知りたい。
それじゃあ知った後どうなるのか。
自分に変化があったとしても彼女には・・・・・ないに等しいの・・・・?
だけど・・・・・・

「何か・・・・・変わるはずです・・・・・・たぶん、今よりはずっと・・・・」

何かがそれによって変わるはず。
そう信じて疑わなかった。
このままでいるよりかは、絶対に何か変わるはず・・・・・


163 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時33分57秒



「本当に!?嘘だ、変わるはずがないっ!!」

梨華は突然怒鳴るようになった真希の言葉にはっと顔を上げた。
そこには俯くようにして微かに体が震えながら訴える真希がいた。

「後藤さ・・・・・」
「何も変わらないのっ!!私が彼女を殺したってことは何も変わらないの・・・・・」

気付けば怒鳴ってた。
知らない間に息が切れてた。
冷静に自分を止める事ができなくなってくる。
感情が、自分を支配してくる。



164 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時35分01秒

「でも・・・・・」
「理由が何であれ・・・・・・私が彼女を殺したって事実は永遠に変わらない・・・・・・」

自分の言葉も遮られ、真希は息を切らせながら訴えるように切実と言葉を
続ける。
そんなあなたに私の胸は痛いぐらいに締め付けられる。

「私は・・・・・後藤さんのことが好きです!だから力に・・・・」
「うるさいっ!!」

真希は梨華の言葉が言い終わらないうちにそれを遮った。

最後まで聞きたくない。
今でも頭がおかしくなりそうなのに、それを最後まで聞いたらもう・・・・・
自分を保てなくなりそうだ・・・・・



でももうすでに遅くて、説明がつかない自分の中の感情が自分を支配し始めていた。




165 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時35分53秒

「それじゃぁ、何?変わりにでもなってくれるっていうの・・・・・?」
「え・・・・?」
「彼女の変わりにでもなってくれるの?」

真希の言葉に梨華は一瞬体が強張るのを感じた。
真希の様子が一変したからだ。
いつもの雰囲気が消えて、まるで我を見失っているようだった。

「後藤さん・・・・・?」

戸惑う梨華を知る由もなく真希は静かに梨華に向かって歩を進めた。
少しづつ距離が縮まっていく。

166 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時36分34秒


「彼女の名前は市井紗耶香・・・・・私の好きだった人・・・・・」
「!」
「私がこの手で・・・・・殺した人・・・・・・」
「後藤さ・・・・」

二人の距離がすぐ目の前になった。
しかし真希は更に距離を近づけてくる。

「今言ったよね?私のことが好きだって。それって・・・・人殺しにも同じ事
言える?」
「!」

二人の距離がほとんど0に等しくなり顔がすぐそこまでになった。
真希はほとんど感情のないうつろな声で言いながら梨華の手首を掴んだ。

167 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時37分42秒


「どうなの!?答えてよっ!」
「っ・・・・・・」

真希は顔を上げた。
梨華の目を見てそう叫んだ。

掴まれる手首が痛くて梨華は微かに顔をしかめた。
だけどそれはそれだけじゃない。
実際に今、彼女に聞かれた時自分は何も答える事ができないのだ。

「細い手首・・・・・ちょっと力入れたら折れちゃいそう・・・・・」
「後藤さん・・・・」

真希はその手首を掴んだまま顔の高さまで上にあげるとそこにそっと唇をあわした。


168 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時38分48秒


「っ!」

突然の事で心から驚いた梨華。
そっと触れたその唇の感触はどこか冷たくて、しかし『彼女』のその感触に
体がびくっと反応した。
しかしそんな梨華の様子に真希は気にする様子もない。

「怖い?逃げたら?このままだと私あなたに何するか分からないよ?」
「怖くなんかありません・・・!逃げるなんてこと・・・・絶対にしません・・・!!」

真希の言葉に梨華はそれだけははっきりと言い放った。
そんな梨華の様子に予想しなかった反応が返って来たせいか驚きを隠せない真希。
しかし、驚きと同時に真希の中で何かが・・・・・・切れた。


「本当に・・・・・?それじゃ試してあげるよ。」
「!!」


169 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時39分33秒
それがどういう意味なのか考える前もなく梨華の唇が真希によって奪われた。
手首を掴まれたまま、唇を奪われたままガタガタっと音を立ててすぐそこの
壁に押さえつけられる。

しかしそのまま唇が離れることなく口付けは交わされ続ける。
唇だけを貪っていた口付けは次第に淫らな音を立て中に侵入してくる。

「・・・・んっ・・・・」

梨華にとって誰かとキスをするのはこれが初めてだった。
戸惑う暇のなく自分の口の中へ真希の舌が入って絡み付いてくる。
抵抗する暇のなくそのまま真希のなす術になってしまう。

壁に押さえつけられ、時に顔の向きを変えてもっと口の中に入ってくるそれに
何もできずされるがまま絡まされる。
まるで承諾していないのに勝手にダンスパートナーに選ばれ躍らされているようだった。

170 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時40分11秒
「はぁ・・・・・・後藤・・・さん・・・・」

長い間卑猥な音を立て口づけを交わした後そのまま糸を引きながら唇は離された。
離された頃には梨華の息は荒く上がっておりそれに比べ真希のは全く整った息は
微塵も乱れている様子はなかった。

「やっ・・・・・・!」


そのまま真希の唇が梨華の耳を厭らしく舐める。
体が同時にびくっと跳ねる。
遠くなりつつある意識を少しでも抜けば足ががくっと崩れてしまいそうになる。
今まで感じた事のない感覚に梨華は思わず声を上げてしまった。

乱れる息を整える暇のなく行為が続けられるので梨華の漏らす声には熱い吐息が
含まれる。
それが完全に我を失った真希にとって益々行為に没頭させる元になっていた。
171 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時40分43秒
ここに来て暖炉をつけ、暖かくなってきたのでコートとセーターを脱いだため
洋服はワイシャツ一つだった。

そのためどんどんボタンは外されていく。

「後藤・・・さ・・・・んっ・・・・!!」

その間にも首筋、鎖骨、胸元に唇を這わされ口付けされる。
全てが始めての感触のため戸惑うがほとんどを体を占めるがそれでも
その感触に体の全てがびくつき反応してしまう。

甘い感覚にすぐにでも目を閉じて気を失いそうになるが必死に瞳を開け
真希の名前を呼ぶ。
しかしその自分の声は全く真希の耳には届いていないようだった。

ワイシャツはもはや脱がされ梨華の肘のところでやっと落ちずになっている。
気付けばボタンは全て外され真希の手が梨華の肌に微かに触れながら背中に
回されブラの金具が外された。
華奢な体の割にはふっくらとした胸がそれから解き放たれる。
172 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時41分35秒
「あ・・・・んっ・・・・・」

そのまましなやかな真希の手が梨華の胸に直に触れた。
触れた瞬間甘い声が自分の口から漏れた。
そんな自分の普段出したこともない声に恥ずかしくて梨華は咄嗟に頬を紅くさせる。

微かにその形が現れ始めた胸の蕾に真希の手が摘むように触れた。

「あっ・・・・・ダメ・・・・・」

思わず自分の体の上に覆うようにする真希の体を梨華は両手で押すようにして
添え抵抗する。
しかしそれは所詮形だけの物だけでほとんど力が入っていない。
梨華はこの時自分の言葉、行動がどういう意味を示すか分からなかった。
突然の真希の行動に対してか、それとも始めての感覚に対してか・・・・・・・。

梨華が本当に嫌がっていないのはそれからは容易に察する事ができ、真希は
行為をやめなかった。
いや、真希の耳にはもはや梨華の声は届いていなかった。
もはや今のこの行為に没頭する自分はいつもの彼女と接している自分ではない。
173 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時42分10秒
「んん・・・・・・・・」

そのまま真希の手は梨華の胸をまさぐる。
それは初めてでは少し強くきついほどに。
しかし全てに対して梨華の体は感じていた。
それが真希の手だということだけで梨華の体は感じてしまうのだ。

運命のいたずらかそれともただの偶然か、バーには未だ二人以外誰も来る様子は
なかった。
暖炉の薪に灯る火がぱちぱちと小さく音を立てるのがバーに静かに響いた。


しばらく真希の手で摘まれるように、こねられるようにされ弄ばれたそれは十分な
ほどに形を現していた。

「後藤さ・・・・ん・・・・・」

今にも崩れそうになる体。
必死に自分の意志だけで支えて甘い感覚に溺れるのを堪える。
そんな中梨華の視界から真希の顔がすっと消えた。
174 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時43分07秒
「あっ!・・はぁ・・・はぁ・・・・・んん・・・・・」

同時に梨華の口から高い甘い声が漏れた。
ブラを上にたくし上げそれに真希がそっと口付けしたのだ。
それから愛しむように舌で愛撫していく。

「やだぁ・・・・・・・」

思わずその感覚に梨華は両手で紅くなった顔を隠した。
体が火照っているのが分かる。
昂ぶっているのが分かる。
どうしようもなくそれを『彼女』がしているというだけで梨華の体は
熱くなってしまうのだ。


真希の頭の中ではほとんど何も考えられていなかった。
ただ今の自分の行為に没頭するだけ。
なにより耳元に伝わる熱い吐息と荒い息が余計に自分を昂ぶらせる。

つい今さっき、自分の胸の中の『理性』という留め金が一気に弾け飛んでしまったのだ―――



175 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時44分02秒
「・・・・・・あんっ・・・・んん・・・・・!」

厭らしく胸の蕾は愛撫されそれは時に口に含まれる。
それに加えもう一つも丹念に揉まれてはもう甘い快楽の底に落ちてしまいそうになる。

今の梨華には、なぜ真希がこんな行動を取ったかなんて考える余裕が微塵もなかった。

口の中に含まれ舌で転がされ時に軽く歯を当てられる。
全てが始めてのことなのに全てに感じてしまう。

「後藤さぁ・・・・ん・・・・・・」

もうほとんど意味をなさないが梨華は彼女の名前を呼ばずにいられなかった。
しかしその声は真希には届かない。

そっと梨華の胸から顔を離すとそのまま流れるように梨華の首筋に口付けを這わす。
176 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時44分58秒
「!」

しかしその時梨華は見た。
流れるように自分の首筋に口付けしようとする彼女の横顔を、瞳を。

それはほとんど真希の意思が込められていなかった。
正しく言うと真希が感じられなかった。
目はどこか遠くを見ているようで明らかに自分の姿は映っていない。
冷たくて感情がほとんどない、どこか寂しい瞳。

甘い感覚に囚われていた梨華の意識がはっきりと戻ってきた。

しかし真希はそんな梨華の胸の内など知らず左手を下に這わそうとする。
177 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時45分35秒
「お願・・・い・・・・・やめ・・・てっ・・・・!」

その手を止めようとする梨華の手は空しく真希の手はスカートから侵入し指は下着の上から
その既に濡れているそこに触れた。

「後藤・・・さん・・・・お願いっ・・やだ・・・やぁ・・・・ん・・・・・」

梨華の言葉も空しく真希の手は止まらない。
そこを触れ思いのままに揉みしだく。
体に電流が走るようにして伝わってくるその感覚に気が遠くなってしまいそうになる。
次第に潤い始める梨華の瞳。
なぜかは分からないけど涙が溢れ出しそうになる。

「んっ!・・・・・いや!!」
「!」

太股に手が触れ下着が脱がされそうになった時、梨華は初めて両手で真希を前に押し出す
ようにして突き飛ばした。
後ろに押されたその時やっと真希が我を戻したようにはっとした。
178 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時46分13秒
今更のように目の前の状況に驚いたように瞳を見開き目を通した。
そこには、洋服も脱がされ乱れた梨華の姿があった。

「あっ・・・・・・・」

今始めて真希の胸の中で胸の鼓動が高鳴り始めた。
それはその梨華の姿にではなく今まで自分がしていたことに気が付いたからだ。

「!」

真希の目に映った目の前の梨華の瞳から、一筋の涙が流れた―――――




179 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時46分59秒



「ひどい・・・・です・・・・・こんな・・・・・」

乱れた洋服を急いで掛けなおす。
ボタンが外れているそれを梨華は前で合わせるようにして掴み前を隠した。

梨華の瞳からは涙が流れていた。
頬にそれが伝う。
薄暗いバーの中、暖炉の中の火がそれを反射させ綺麗に真希の目に映っていた。


「ご、ごめん・・・・・・・」

真希はやっとそれだけ口にした。
それ以上のさまざまな感情が胸の中に渦巻いていたがそれだけしか言葉にできなかった。

上目遣いで涙を一筋流し必死に訴えるようにこちらを見る梨華に今更真希の胸は
高鳴っていた。
しかしそれと同時に締め付けられるような気持ちになる。
180 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時47分31秒
こんなことするつもりはなかった。
今更だが言い訳と言われても仕方がないが本当にこんなことするつもりは微塵も
なかったのだ。

ただ、梨華と言葉を交わしていくうちに失われていく自分と言う『理性』。
そしてそれと反比例的に増え、自分を奪っていく感情。

気付けば自分は梨華を襲っていた。
どんなに言い訳しようが弁解しようが目の前にはまぎれもなく自分が襲った梨華の
姿があるのだ。

誤る事以外、今の自分にはすることができない。


気まずい空気が二人の間に流れる。

真希も梨華も何も言う事ができなかった。
181 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時48分01秒



カタッ

そんな時小さな音がバーに響いた。


「あぁ、寒かったから今日寝坊しちゃったよ。」

矢口がその重い扉を開きバーにやって来たのだ。

真希と梨華が同時にばっとそちらに振り向いた。

「何?ってなっ・・・・・・!」

矢口がそんな二人に戸惑うようにして慌てて首を傾げた。
しかしすぐに矢口の目に梨華の姿が映る。
驚きと何があったのか頭の中で勝手に思い浮かべてしまい矢口は目を丸くしたまま何も
言えなくなってしまった。


182 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時48分48秒
「・・・・・・・・」

真希はこのバーの空気に絶えられずばっとそこから勢いよく抜け出すように
隣の部屋に向かって歩き出した。

梨華はただその体勢のまま何も言えずできずただ俯きながら真希の繰り出す
バーの床の音に耳を傾け下に向ける視線の中で真希を微かに見ていた。

パタンッ

しばらくしてバーにドアの閉まる音が響いた。


「り、梨華ちゃん・・・・・・?」
「・・・・・・・」

矢口が気まずそうに梨華に向き直り疑問が含まれる形で梨華の名前を呼んだ。
しかしそれに何も返事ができない梨華。
その胸の中には今さっきのことへの気持ちが隅から隅まで占められていたから。
183 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時49分42秒


(どうしよう・・・・・・どうしたらいいの・・・・・・?)

嫌じゃなかった。
むしろあのまま最後までいっても良いと思ってる自分がいた。
体の全てが反応し感じて、火照っていた。
まだ残る彼女の唇と手の感触。
思い出せばすぐに体が高鳴り始めてくる。

だけど、『あの時』の真希の瞳を見たとき何とも言えない感情が
自分の中に生まれた。

それはまぎれもない自分に対してのこの行為への拒否感。
嫌だという気持ち。
184 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時50分20秒
そして気付いたら真希の体を前に押し飛ばしていた。
後ろに押され微かにバランスを崩す真希。
その時初めて自分の行動にはっと気が付いた。

そして口から飛び出したその言葉。
本当にそれを言える資格は自分にはない。

だってこんなにも感じている自分。
思い出すとすぐにまた体が熱くなる。



「なんでも・・・・・ないんです・・・・・・・」

梨華はそれだけ矢口に答えた。

「あ、あぁ・・・・・」

矢口もそれ以上何も梨華には何があったのかは聞かなかった。



185 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時50分58秒




真希は隣の部屋に入りドアを荒々しく閉めると閉まったドアに背中を凭れさせた。

「・・・・・・・」

何も言葉が出てこない。

真希は思わず自分の口を右手の平で覆った。

真希自身も充分今の自分の行動に戸惑っていた。
いや、戸惑うと言うより動揺している。

何かが自分の中で切れたのを感じた。
それは梨華と話すごとにまるで爪で引っかかれる紐のように細く途切れていったんだ。

気付けば自分は彼女を襲っていた。
他でもないこの手と唇で。

彼女のきめ細かくて暖かい肌の感触がまだ残ってる。
186 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時51分37秒
本当に、こんなことするつもりはなかった。

ましてやあんな言葉彼女に対して言うつもりなんて微塵もなかった。


気付けば自分は突き飛ばされてバランスを崩してた。
よろめいている瞬間に彼女の姿に気がついた。
乱れた服で必死に前を隠す彼女。

そして・・・・・頬には一筋の涙。

戸惑い、悲しみ、それらの感情が入り組んだ瞳。
それは強い意思を秘め自分の胸に深く突き刺さってくる。
187 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時52分11秒
「・・・・・・私が・・・・」

純粋な気持ちを汚したのは他の誰でもない私。

純情で純粋で清らかな自分への想いを『私』が汚した。犯した。


なんてことを・・・・・してしまったんだろう・・・・・。

「うっ・・・・・・・」

気付けば真希の瞳からは涙が零れていた。
いつ以来だろう、涙を流したのは。

熱い涙が目から止め処なく溢れ出す。

そうだ。
涙を流すのは、自分が彼女を殺した時以来。
それ以来ずっと涙なんて二度と流さないって誓ったのに。
あの雪の日以来・・・・・・。
188 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月20日(火)19時52分51秒
真希は顔を手で押さえた。
顔がくしゃくしゃになっていくのが分かる。

自分が彼女を汚したことへの重大さ、そして彼女の心に付けられた悲しみの事を思うと
計り知れない重い罰の十字架が圧し掛かってくる。

この手で再び大事な人を傷つけた罪の重さ。
それはすごく重くて何よりも深かった。

傷つけてから気付くなんて、なんて愚かなんだろう。

『あの時』から自分は、何も変わっていないんだとこの時思い知らされた―――――




189 名前:aki 投稿日:2001年11月20日(火)19時55分19秒
>>151-188
はぁ、やっと終わりました。長かった・・・・・。
今日は大量更新です。
真ん中で区切ってしまうと焦らしてしまうと思ったので(w
今日に限ってsageで行こうと思ったんですが間違えて更新してしまったので
ageました。
本当にどじな自分・・・・・。
190 名前:89です 投稿日:2001年11月20日(火)22時39分25秒
どんどん深みを増していきますね、目が離せません。
大量更新おつかれさまです。ご無理なさいませぬよう。
191 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年11月21日(水)02時38分27秒
たくさんの更新、ありがとうございます。さっそく読ませていただいてます。

とうとうあの方の名前が出て来ましたね、
それと共に、真希の過去、梨華との関係、そして梨華を監視する謎の組織・・・
ますます目が離せなくなって来ました。
192 名前:aki 投稿日:2001年11月21日(水)18時33分37秒
190:89さん
>レスありがとうございます。
 どんどん書きたかった辺りに突入していきます。
 それと同時に話も深くなっていきつつありますね。
 頑張ります^^

191:M.ANZAIさん
>レスありがとうございます。
 いつも読んで下さっているようで嬉しいです^^
 とうとう名前が出てきました。
 ただまだ名前だけでそれもちょこっとだけですね。
 今回は登場人物全員が動かせて嬉しいです。
 頑張ります!

 
193 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時37分25秒
「ごめんなさい・・・・・私・・・今日はもう帰ります・・・・。」
「う、うん。」

梨華は矢口にそれだけ言うと急いでセーターとロングコートを羽織りバーを
飛び出した。

これから中澤達がやって来る。

その時自分はどういう顔をすればいいのか。
何か尋ねられた時何て言葉を返したらいいのか。
自分があそこに留まっている以上、全てのことにどう反応したらいいのかなんて
分からなかった。

そして何より、自分がいることによって彼女が変な目で見られるのが嫌だった。
自分も、誰もが真希に対して疑問を感じるような様子を絶対に出してしまう。

だから飛び出した。

行く宛なんかどこもなかった。

だけど、これ以上あそこには居たくなかったんだ――――――
194 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時38分36秒
外は寒かった。
灰色な重い雲が空を覆い隠し町並み全体がどこか暗くなっている。
風が肌に突き刺さる。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・!」
いつもの路地を抜け出して町に飛び出した。
走ると白い息が口から出て行く。
拭ってなかった涙を梨華は今気付いて手の平で拭った。
だけどあそこを離れてまた溢れ出しそうになる涙。
自分を必死に押しとめていた緊張感が一気に抜けたような気がした。
止めようとするのに溢れ出してくる涙は横に流れていく。
町の人々が興味津々な顔で見てくる。
その瞳は言葉を出さずとも梨華を追い詰めるような気持ちにさせた。
「・・っ・・・・・・」
梨華はここから早く抜け出したかった。
どこか、人のいない場所に行きたい。
そしてそこで人知れず枯れるまで涙を流したかった。
もう泣かなくてすむぐらいまで。
195 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時39分33秒
こんなにも涙が溢れてくるのになぜ自分が涙を溢してるのかが未だ
分からない。
自分の気持ちを踏みにじられたから?
思ってもいなかった行動を取られたから?
初めてがあんなに強引な物だったから?

違う。
どれも違う。
だけど何なのか明確な答えが出てこない。
どうしてこんなにも涙が溢れ出してくるんだろう。
どうして涙を流さずにはいられないんだろう。
「分からないよぉ・・・・・」
梨華は人の間をくぐり抜け全力で走った。
嫌に今日は人の数が多い。
その全てが好奇な目で自分を見てくる。
それはある意味今さっきされたことよりはるかにつらかった。
196 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時40分05秒
ドンッ!

「キャッ!」
「うわっ!」
そんな時、人と人の間をくぐり抜けたところに更に人がいたためぶつかってしまった。
全力で走っていた足がそれによって止まる。
ほとんど目の前なんて見ていなかった。
「すいませんっ!」
俯いたまま梨華は謝るとそのまま走り去ろうとした。
「もしかして・・・・石川!?」
「!!」
突然の自分の名前を呼ぶ声に梨華はびっくりして後ろに振り向いた。
なんとそこにはコートを着ている保田の姿があった。
「保田さん・・・・!」
「何あんた・・・・・泣いてるの!?」
保田は驚いて梨華の元に寄って来る。
197 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時40分40秒
「どうして・・・・・・」
「それはこっちのセリフよ。一体何があったの!?」
戸惑う梨華もだがそれは保田にとっても同じだった。
「保田さ〜ん。鯛焼き買って来ましたよぉ。」
「・・・・・あいぼんっ!」
横からこちらに掛けられた声に梨華は振り向いた。
それは聞き覚えのある大阪弁のイントネーションの少女、加護亜依だった。
可愛い白のPコートにマフラーを着用している。
「あっ!梨華ちゃんだぁ!!久しぶり〜・・・・てどしたの!?」
側によってくるなり加護は驚いて声を上げた。
だってそこには涙を流す梨華の姿があったから。
町を行き交う人々は何かと探るような目で三人を見た。
保田はそんな周りの視線に冷ややかな視線で確信すると言った。
198 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時41分13秒
「とりあえず場所を変えよう。ここは人の目に晒されすぎだわ。」
「変えよ変えよっ。」
「すみません・・・・・。」
「水臭いなぁ、梨華ちゃん。出会って間もないけど一夜を過ごした友達やん♪」
加護は梨華に優しく微笑みかけると「行こ行こ♪」と梨華に久しぶりに会えた事が
嬉しいのか梨華の手を取り前を歩いていった。


199 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時42分08秒
小休止
200 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時42分45秒



「ほい。たい焼きだよん♪」
「ありがとう・・・・。」
「甘いのだいじょーぶ?」
「うん。平気だよ。」
加護は白い紙袋から鯛焼きを一つ取り出すと梨華に手渡した。

ここは近くの公園。
どちらかというと小さめの広さの公園のベンチに三人は座り休憩を取っていた。
この気温のせいか公園には三人以外誰もいなかった。
保田にもたい焼きを配り加護は嬉しそうにたい焼きの頭から頬張った。
「んで、いきなりで嫌だったら言わなくていいけど。・・・・何かあったの?」
「・・・・・・・・」
保田の言葉に悪いとは思ったが何を言ったらいいのか分からなかった。
どこから話せば、ましてやどこからが話していいのかさっぱり分からない。
201 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時43分30秒
「言いたくなかったらいいよ。久しぶりに会ったんだからさ。何か世間話でも
しようよ。」
「すいません・・・・・・」
梨華は申し訳なさそうに保田に謝った。
加護が一つの鯛焼きを口の中でもぐもぐさせながら梨華の前にやって来た。
「あの後のこと聞きたくない?」
加護が話題を変えるようににこっと笑い梨華に言った。
「あっ・・・・そういえばあの後無事だったんですか!?」
「まぁね。重たい加護と辻を背負って間一髪逃げ出したよ。」
梨華は気を失っていたが自分達の居たあの塔が跡形もなく崩れ去ったのを
中澤から聞いていた。
そして保田達と別々に脱出した事も。
それからしばらくは保田達がどうなったか心配だったのだ。
「失礼な!ののもうちも保田さんに背負ってなんかもらってないです!」
加護が言いながらもう一つ鯛焼きを紙袋から出した。
「太るよ?」
保田が一応忠告するが全く加護の耳には入っていないようだった。
202 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時44分13秒
「・・・・・なんか・・・・不思議・・・・・」
梨華はそんな二人のやり取りに小さく微笑んだ。
ついこの間まで敵だライバルだとか言っていたのに今はそんなの微塵も感じられない。
いや、それより仕事以外で彼女たちに会うのがどこか不思議だった。
変な言い方だが彼女達の存在は現実にちゃんと存在していて、同じ地球の同じ人間で
幻じゃないんだなんて思ってしまう。
「仕事以外はなんでもないからね。買い物にも普通に来るってわけ。」
保田も鯛焼きを二つに割り白い湯気が立つそれを頬張った。
梨華の小さく呟いた言葉にもちゃんと何か察し答える。
「・・・・・・・・」
梨華は保田の言葉に黙って鯛焼きのしっぽにかぶりついた。
「わ〜いっ!!」
加護が楽しそうに無邪気で満面の笑顔を顔に浮かべベンチのすぐ前のブランコに
立った体勢で飛び乗った。
203 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時45分54秒
「好きな人が・・・・・・・・苦しんでるんです。」
「え?」
「傷ついて・・・・叫んでる・・・・なのにあたしはその人に力になりたいなんて
言ってる・・・・結局は何もできないのに・・・・・」
「石川・・・・・」
前を見つめたままただ呆然と言葉を続けていく梨華に保田は心配気に名前を呼んだ。
その梨華の瞳には周りの景色は写ってはいず、ただどこか遠くを見ている。
204 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時46分33秒
「何があったのかは知らないけどさ・・・・・あんたはあんたなりにがんばんな?」
「・・・・・・・・」
「頑張ってただ必死になってしたことは・・・・必ず叶うから・・・・・。」
保田はそれだけ静かに梨華の横で言った。
聞いているのかいないのか確認せずそのまま返事のない梨華の横でただ黙って保田は
鯛焼きを食べた。
返事は返さなかったが梨華にはちゃんと保田の言葉が届いていた。
そして微かにだけど胸が軽くなった。
205 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時47分33秒
知らない彼女のことを知っていくたびに自分にも圧し掛かっていく重い十字架。
真希のことなのにまるでそれを知るたびになぜか自分にも同じ罪と悲しみが
重い重圧として圧し掛かってくるのだ。
それも、深く彼女のことについて知ろうとする前から覚悟していたこと。
自分も背負う事によって彼女の悲しみや罪が軽くなるかなんて勝手に思いもしていた。
『頑張って必死にしたことは必ず叶う』
そんな素朴な言葉が落ち込んでいた心を明るくさせ沈んでいた気持ちを上昇させていく。
206 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時48分13秒
(そっか・・・・・・・)
今さっきの答え、分かった。
なんであんなにも涙が溢れたんだろうって疑問の答え。
それって今自分が保田に向かって言った事そのものだ。

傷ついて震えて叫んでいる彼女を助けられなかったから。

受け止めるなんて言っといていざとなったら彼女の悲しみを受け止められなかった。
それに対して、そして彼女の悲しみをそれによって増やしてしまった事が悔しかった。
そんな自分に対しての甘さに腹が立ったんだ。

そして傷ついた彼女の行為にそのままただそれを『快感』だけで取って
受けていた自分。
瞳に写っていなかった自分。
写れなかった自分。
無理ないのにただそれにその時自分はショックを受けていた。
彼女の瞳に写る努力もしなかったくせに。
何してるんだろう、私・・・・・・・。
207 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時49分12秒
「ジャ〜ンプッ!!」
加護が元気よく叫びながらブランコから飛び降りた。
そのまま柵を越えて見事に着陸する。
「10,0!!」
「なんだそりゃ。」
加護に保田が笑いながら言った。
「知らないんですか?満点ってことですよ。」
「んなの知ってるわっ!」
保田に加護があははと笑う。
梨華も隣でそんな二人のやり取りに笑みをこぼす。
それを加護が見守るように温かく見つめた。
「梨華ちゃん!」
「え?」
「んはあとはあと
梨華の側まで来ながら名前を呼び梨華の顔を上げさせるとその唇にちょんっと加護が
キスをした。
208 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時50分09秒
「あいぼん・・・・・」
「元気だし!!いつでも話聞くで!友達やもん!」
「あんたずっとブランコで遊んでたでしょ。」
保田の突っ込みに「それ言っちゃダメっ。」と加護が笑いながら答えた。
「ありがとう・・・」
梨華は心から加護と保田にお礼を言った。
微笑みの戻った梨華に加護も保田も安心するように笑みを溢した。

「本当に今日はありがとうございました・・・・・それじゃ私そろそろ行きます。」
「また会おうね。」
ベンチから立ち上がった梨華に加護が少し寂しそうに言う。
「うん。」
梨華がそんな加護に微笑んで答えた。
「・・・・・・石川。」
そんな中保田が表情を険しい物に変えて梨華を呼び止めた。
「はい・・・・・?」
突然様子の変わった保田に首を傾げる梨華と加護。
209 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時50分56秒
「あのさ・・・・・誰でもそうなんだけど入った頃っていろんな所に噂が回るのよ。
やっぱりこの力持つ人間ってごくわずかなわけだから・・・・注目されるのよね。」
「?」
梨華は突然の保田の言葉に首を傾げた。
しかし隣の加護は今回は保田の言っている意味が分かっているのか黙って聞いていた。
「特にあんたのって・・・・・・滅多にない能力の上に潜在能力も測りしれないみたい
だから・・・・・くれぐれも気をつけなよ?」
「あ・・・・・はい。分かりました。」
保田の言葉の全ての意味が分かったわけではないが梨華はとりあえずそう答えた。

そして再び梨華は二人に挨拶すると公園を去っていった。
210 名前:純粋な罪と罰 投稿日:2001年11月22日(木)18時52分39秒
「保田さん・・・・・」
「実はさ、石川の噂うちにも届いてんのよ。」
保田の言葉に加護が黙った。

辺りはまだお昼過ぎだったが薄暗く街灯が既に灯っていた。
灰色の雲は未だ頭上に立ち込め青い空が覗く様子は微塵もない。
張り詰めた空気に突き刺さるような冷たい風。
町並み、公園、外のあらゆる物が今日はどこか寂しげに目に映った。

しばらくして保田と加護もその公園を後にした。



211 名前:aki 投稿日:2001年11月22日(木)18時56分18秒
更新です。
スタイルを初めの頃みたいな感じに戻しました。
なんかこっちの方が間空けるより緊張感があるかなって思ったので。
感想なんでも下さい。
212 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年11月22日(木)19時16分26秒
>スタイルを初めの頃みたいな感じに戻しました。
たしかに緊迫感が出てますね。
話の展開も驚くような方向になっていますし。
ライバルであるはずの保田さん達って実は・・・?

あ、探し物、倉庫で見付かりました。
さっそく読ませてもらいましたが、あちらはあちらなりの
人物がしっかり設定されていて、とても読み応えがあります。
(勝手に「ハロモニ劇場」などの画を思い浮かべながら)
213 名前:理科。 投稿日:2001年11月23日(金)08時05分32秒

お初です。今、一気に読ませていただきました。
なんか引きこまれるって言うか…。
面白いです!頑張って下さい。
214 名前:aki 投稿日:2001年11月23日(金)22時33分30秒
212:M.ANZAIさん
>レスありがとうございます。
 緊迫感が出せたようで良かったです。
 ただこっちにすると今度は読みづらいかなっていう心配があるんですけどね。
 話の展開も目が離せないように中だるみしないように心がけてます。
 保田達のことにしてもそうですけどまだ明らかになっていないことが
 多いですね・・・。
 
 見つかりましたか。良かったです。
 書き終わった作品を探してくれて読み返してくれているっていうのは
 とても嬉しいです。
 ありがとうございました^^

213:理科。さん
>レスありがとうございます。
 お、一気に読んでくださったんですか!
 結構長くなり始めてから見つけて最初から読んでくれて新しい読者さんが
 増えるのはすごく嬉しいです。
 面白いの一言はとてもやる気が出てきます。
 もっと引き込まれるようにこれからも頑張りますよ(w
  
215 名前:つめ跡 投稿日:2001年11月23日(金)22時49分14秒
梨華はその後そのまま自宅へと向かって行った。
今日はもうあそこには帰れない。
寒いから早くお風呂入って寝ようと梨華は歩きながら考えていた。
今にも雪が降るのではないかと思うほど自宅までの道のりは寒かった。
灰色の雲からは一筋の光も零れてこない。
街灯も灯り始め蛾がそこに群がっていた。
電車に乗っていつもの駅で降りて家に向かう。
自宅のマンション近くの通りにはほとんど人がいなかった。
まるで、自分だけ違う世界に取り残された気になった。
216 名前:つめ跡 投稿日:2001年11月23日(金)22時50分31秒
「・・・・・?」
そんな中梨華はふいに後ろに振り向いた。

何か視線を感じた気がした。
しかしそこには誰もいなかった。
しばらくの間そちらを見ていたがすぐに向き直ると歩を進めた。



寒さに自分の体を抱きしめるようにしてやっと付いたマンション。
ポケットからかじかむ手でカギを取り出しカタッと音を立ててドアを手前に引く。
自分を出迎えてくれる言葉は何もない。
部屋の中はカーテンもしていたため真っ暗だった。

「ただいま。」

誰もいない部屋に梨華はすぐドアの横の電気のスイッチを押しながら入っていった。
コートを脱いで部屋の中央のリビングのソファに掛ける。
それから梨華自身もソファに横になった。
217 名前:つめ跡 投稿日:2001年11月23日(金)22時52分48秒
「・・・・・・・・・」
ぼーっと部屋の天井を眺める。
真っ白で、何もない。
今日はいろんなことがあった。
中澤達に会わなかった。
そのかわりに保田と加護に会えた。
矢口の顔も見れた。
そして、・・・・・・・
梨華は黙ってそっと自分の唇に触れた。
あの唇の感触、まだ残ってる。
そのまま自分の首筋に触れる。
どれも全て体に残ってる。
思い出すと、すぐに体が熱くなってくる。

『変わるはずがないっ!!』

(後藤さん・・・・・・)
不意に真希の今さっきの言葉が脳裏に浮かんだ。
その瞳はつらそうに苦しそうだった。
ぎゅっと胸を掴まれたように切なくなる心。
218 名前:つめ跡 投稿日:2001年11月23日(金)22時55分02秒

しばらくぼーっとしていた後梨華はテレビを無造作につけそのまま浴室へと
向かって行った。


「!」
服を脱いで浴室に向かおうとした時、自分の体が脱衣室の鏡に映った。
(やだ・・・・・・・)
途端に梨華の頬を紅く染まった。
首筋、鎖骨、胸元に彼女の付けた跡がはっきりと残っている。

(ドクンドクン)

一気に高鳴ってくる胸の鼓動を押さえつけるように胸を押さえた。
だけど収まる様子が全くない。
急いで掛けてあった白いタオルを体に添えた。
鏡に映らないように、見ないですむように。


219 名前:つめ跡 投稿日:2001年11月23日(金)22時55分58秒

「・・・・・・・・・」
梨華は自分の体をきつく抱きしめた。

思ったことすぐに理解できるほど自分は大人じゃない。
彼女を支える支えない、助ける救うの次元の前に、
こんなにもドキドキしてしまうんだから。
ときめいて、感じて、高鳴ってしまう。
あんな強引なキスでも嬉しかった。
戸惑いとは比較できないほど嬉しくてしょうがない自分がいた。
初めてのキスが強引でも彼女に奪われて良かったなんて。
たとえ襲われたんだとしても彼女の唇が自分に触れたことが嬉しかった。
彼女のつけた爪跡の全てが愛しくて切ない。
初めての甘い快感に溺れさせてくれるのが彼女で良かった。
・・・・・・これって変ですか?


梨華はぎゅっと再び自分の体を抱きしめると今度こそ浴室へと向かって行った。
しばらくしてシャワーから暖かいお湯が流れる音が響いてきた。
これ以上自分の心が取り乱されないように、跡を消すようにきつく体を洗い流した。
また明日から落ち着いた『自分』でいられるように・・・・・・・。





220 名前:つめ跡 投稿日:2001年11月23日(金)22時57分31秒


「鈍感そうで結構鋭いわね・・・・・・」

今から約1時間ぐらい前。
寒い木枯しの吹く中少女二人が梨華の跡をつけていた。
お姉さんタイプな女性としっかりもので可愛らしい女の子。
梨華が不意に後ろを向いたので二人は慌てて角に身を潜めた。
「寒いですぅ。」
「それじゃそろそろ行きましょうか。寒いし。」
「はい。」
二人はそれから梨華が前を向くまで気を消して身を潜めるとしばらくして
そこを後にして行った。



221 名前:aki 投稿日:2001年11月23日(金)23時01分10秒
今日は更新しない予定だったんですがちょこっとしました。
レス大歓迎なので何でも下さい。
読まれてるってことが微かにでも形として現れるととても
励みになるので・・・。
222 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年11月24日(土)00時46分19秒
とうとう石川は自宅に帰ってしまいましたか。
一方のあの場に残った後の後藤の態度が気がかりです。
それに“現場”を見てしまった矢口がどんな行動を起こすのか・・・

>お姉さんタイプな女性としっかりもので可愛らしい女の子。
だっ誰!?
223 名前:aki 投稿日:2001年11月24日(土)21時28分53秒
222:M.ANZAIさん
>レスありがとうございます。
 その後の後藤の行動はこの次の更新になります。
 矢口のこれからの行動にも注目ですね。
 >お姉さんタイプな女性としっかりもので可愛らしい女の子。
 突然この二人が出ることになりました(w
 これから更新しますんで誰か明らかになりますよ。
224 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時29分35秒
その日朝早くに梨華は眠りについてしまった。
早くにお風呂に入ったせいか眠気もいつもなら全然平気な時間に襲ってきたため
そのままベッドに入った。
その夜は何も夢を見なかった。
ただなぜか深く眠りに落ちているのを感じていた。
(明日は何があるんだろう・・・・・・)
梨華は小さく胸の中で呟くと深い眠りについていった。
225 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時32分13秒
「ん・・・・・・朝・・・・・・?」
梨華は窓から差し込む眩しい光に目を擦りながら体を起こした。
「今何時・・・?」
顔の向きを後ろに変えてベッドのそこにある時計で時刻を確認する。
「・・・・・・10時・・・・・」
近頃では起きた事のないその時間に梨華は驚くのを通り越して呆然としてしまった。
髪にはひどい寝癖がついている。
昨日は確か一ケタ代に眠りについた。
それから爆睡してこの時間らしい。
この頃ずっと力を早くコントロールできるようになるために練習に励んでいたのがここで
束になって押し寄せてきたらしい。
少しだけ寝すぎのせいで頭がガンガンした。
「頭が痛い・・・・・・」
梨華はだるそうにベッドから体を起こすとそのままキッチンに向かって行った。
パンをトースターで焼いてミルクと一緒にそれを食べた。
それからパジャマのまま歯ブラシをさっさとして髪を洗った。
四方八方にはねまくるこの寝癖はスプレーでは取れそうになかった。
タオルを首に巻いてパジャマも服に着替えた。
226 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時37分39秒
部屋の壁に掛けられている時計を仰ぎ見てみる。
現在午前11時半。
「・・・・・・・・」
梨華は今日あそこへ行く事を少し躊躇った。
昨日あんなことが会ったためどういう顔をして行ったらいいのか分からない。
真希とも必ずいつか顔を合わせることになる。
その時どういう態度を取ればいいのか分からなかった。
とりあえず昨日保田達に会った事で気持ちの整理は簡単にはついた。
だけど・・・・・・

「考えても仕方がないっか・・・・・・」
逃げていては何も始まらないことは分かりきっていた。
別に学校でもあるまいし行かなくても連絡はしなくていいしむしろ行きたい時
だけ行けば良い。
だけどなぜか一日一回そこに足が運んでしまう。
梨華はさっさと髪を乾かしブローすると部屋を出た。
昨日が昨日だったせいか今日はとても天気が良かった。
雲一つなく太陽の光がさんさんと地上に降り注いでいる。
部屋のカギを閉めまた今日もいつもの『あそこ』へと梨華は向かって行った。
227 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時39分08秒
気付けば今日は日曜日だった。
そして午後に近づくこの時間帯。
若者で溢れ返るこの繁華街までの電車はぎゅうぎゅうに人で込み合っていた。
むせるような電車から抜け出すように飛び出ると人で込み合う中をなるべく早く
人と人の間を通り抜けるように行く。
まるで自分が彼女と出会ったその日のようだった。

「ねねね、君いくつ?」
あからさまに如何わしい仕事関係の呼び込みをしているような黒のスーツを着込んで
いる茶髪の男に話し掛けられる。
「・・・・・・・・・」
日曜なので特に今日は多い。
梨華は完全に無視で歩いていった。
228 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時39分38秒
「ねぇねぇ遊ばない?」
やっとその男が諦めたかと思うとまた違う男に声を掛けられた。
いい加減に呆れてため息が出てくる。
「暇じゃないんでっ!」
梨華は強くはっきり男に言うとそのまま走って行った。
後ろでチェッと舌打ちをした男の声が小さく聞こえた。

「疲れる・・・・・・」
どうしてこう変なのにばっか声を掛けられるんだろう。
これさえなければここは町自体何でも揃ってて良い場所なのに・・・・・・。
梨華はため息混じりに後少しで着くと言う事だけ心の中で自分に言い聞かせ
歩く足を速めた。
「ねぇちょっと。」
「・・・・・・・・」
やっと気を取り直したかと思えばまた声を掛けられた。
しかも今度はなれなれしく肩に手なんか置かれた。
梨華の中でふつふつと呆れの中から怒りが込み上げてくる。
229 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時40分52秒
「聞こえてる?」
「聞こえてますっ!!!」
確かめるような声に梨華は怒りを爆発させ怒りの表情と口調で振り向きざまに
相手に叫んだ。
しかしすぐにその相手に目を丸くすることになる。
「吉澤さん!!」
「今気付いたの?」
そこにはジーンズとパーカーというラフなスタイルで決めているひとみの姿があった。
頭には今流行りのデニムの生地のキャスケットを被っている。
「何だ・・・・・早く言ってくださいよ・・・・・」
「ずっと前から声掛けてたよ。でも全然聞こえてなかったみたい。」
「・・・・ちょっと考え事を・・・・・」
それから二人は目指す目的地は同じなため一緒に歩いていった。
会話は依然としてほとんどなかった。
梨華は少しひとみが苦手だった。
230 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時41分43秒
「そういえばさっきからずっと声掛けられてたね。」
ひとみがそんな梨華の気持ちなど知りもせず前を向いて歩いたまま言った。
「見てたんですか!?」
「うん。駅の近くで見かけてからずっと見てた。」
「・・・・・・・・」
ならどうしてもっと早く声を掛けてくれなかったんですか!?って言おうと思ったが
言葉に出てこなかった。
ある程度返って来る答えは想像出来たからだ。
どうせ自分の様子をおもしろうそうに見てたんだろう。
早く声を掛けてくれてればこんなに声を掛けられずに済んだろうに・・・・。
梨華は心の中で小さくぼやいた。
「続けて声掛けられるなんてすごいね。びっくりした。」
「迷惑なだけですよ・・・・・・」
感心するようにして言うひとみに梨華ははぁとため息を吐いて言った。
そういえばひとみと会って合流してから全く声を掛けられずに済んだ。
良かった良かった。
231 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時43分11秒
「吉澤さんは声掛けられないんですか?」
「あたしは全く無視。あなたみたく面白可笑しく反応しない。」
ひとみは言いながら小さく楽しそうに苦笑した。
梨華はそんなひとみの様子に失礼だなと思い小さくじろっと見た。
しかしやはりひとみはそんな梨華に気付かない。



二人の間に再び会話がなくなった。
大きな通りを抜けて路地のある人の通りがそこより少ない通りへと出た。
「・・・・・・・跡ついてるよ。首に。」
「!」
ひとみの不意の言葉に梨華はばっと反応するように首元を押さえた。
「誰かに付けられたんだ?その反応は・・・・」
「・・・・・・」
梨華は無言のまま首元を服の襟元で隠した。
232 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時45分02秒
ほとんど自信はなかったがカマを掛けたのはどうやら成功したらしい。
本当に微かに梨華の首元にちらっとアザが見えたのでまさかとは思ったが。

「あぁあ、もうキスマーク付けられちゃったか。」
ひとみはわざとため息混じりに言うと両手を後ろに回し頭に添えた。
「・・・・・別に・・・なんでもないです・・・」
ぶつけたなど見え見えの言い訳は梨華の口から出てこなかった。
「その辺の奴とやったの?」
「!違いますっ!!」
ひとみの言葉に梨華は叫ぶようにひとみに向き直ってそれを力強く否定した。
そんな梨華をひとみが少し目を見開き上の視点から見た。
233 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時45分51秒
「じゃあ誰?」
「・・・・そんなの吉澤さんには関係ないじゃないですか。」
「きっつぅ。ま、言わなくても大体誰か分かるけど。」
「・・・・・・・」
梨華はひとみの言葉に黙り何も言葉を返さなかった。
ひとみに中でそれを見たときから誰が付けたのかおよその見当がついていた。
梨華の胸は強いぐらいに高鳴っていた。
朝は全くそれが消えてるか確認するなんてことが頭に浮かばなかった。
どうやら完全には消えていないらしい。
梨華は微かに頬を紅く染めそれがひとみにばれないように顔を横に向けながら
再び首元まで隠すように服をたくし上げた。
234 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時46分21秒
再び会話が二人の間に消えた時、梨華は目の前に二人の女性が自分達に向かって
近づいてくるのを見た。
ただこちらの方向へ近づいているんじゃない。
なぜか『自分達』へ近づいてくるかのようだった。
「・・・・・・・」
それにはひとみも隣で気がついていた。
一人は髪の長い女性、そしてもう一人は彼女の妹ぐらいの年齢の可愛い女の子だった。
「え・・・・?」
梨華が二人をずっと見ていると不意に彼女たちが梨華と目が会った。
そしてその瞬間に一人の女の子が梨華に向かってにこっと微笑んだ。
それは確実に自分に向けられた物。
だけど自分は彼女を知らない。
梨華は訳が分からず首を傾げてしまった。
だんだん間が縮まっていく。
235 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時47分24秒
10m、8m、5m、そしてちょうど人一人分ぐらいの距離になったときは梨華達の
目的地へ繋がるその路地の入り口のすぐ前だった。
「こんにちは♪」
「???」
年上の方の彼女に梨華は微笑みかけられ咄嗟の事に戸惑い何も言葉を返す事が
出来なかった。
「・・・・・何あなたたち突然。」
ひとみが梨華に変わって隣で二人に向かって言う。
しかしほとんどひとみの言葉は二人は全く耳を傾けていない。
「石川梨華さんですかぁ?」
「え?あ、・・・はい、そうですけど・・・・」
「!バカッ・・・・・・」
咄嗟に聞かれた質問に梨華は訳が分からず瞬間的に答えてしまった。
隣でひとみが小さな声でそれに反応した。
236 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時48分33秒
「どうもぉ♪始めましてはあとはあと私は松浦亜弥と言いますはあとはあと
「??」
亜弥と名乗った少女が梨華に手を差し伸べる。
梨華は?を頭の上に浮かべながらとりあえずその手を取り握手した。
その間もずっと彼女の笑顔は絶えない。
「私はアヤカですはあとはあとちなみにハワイ出身です。よろしくぅ♪」
「あ、よろしくお願いします。」
もう一人の彼女からも手を差し伸べられ梨華は頭を下げながらその手を取った。
「・・・・・・・・」
ひとみには二人から握手を差し伸べられる事はなく全く相手にされていなかった。
険しい表情でひとみが二人を見る。
「噂通り可愛いですね♪」
「噂以上かもねはあとはあと
ひとみが二人の『噂』という言葉に耳をぴくっとさせた。
梨華は全くそんなひとみの様子には気付かず気まずそうに口を開いた。
237 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時52分19秒
「・・・・・・・あのぉ・・・」
「「はいはあとはあと?」」
二人が同時に顔を近づけ梨華の言葉に反応した。
「すいません・・・・・どこかでお会いしまいしたか・・・・?どこかで会っていたら
本当に申し訳ないんですけど・・・・・お二人の事全く記憶になくて・・・・・・」
梨華は気まずそうに二人に対しておずおずとした口調で言った。
「「・・・・・・・」」
二人がそんな梨華の様子にびっくりしたように目を見開いた。
「さっっすが印象どおり素敵な人ですね!」
「本当!可愛い!」
「あのぉ・・・・・・・」
質問に答えてくれない二人に梨華は困ったようにした。
238 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時57分27秒
「覚えてなくて当然ですよはあとはあとだって今始めて出会ったから♪」
「はっ!?」
「石川さんからは、ですけどねはあとはあと
「それ一体どういう意味・・・・・・」
梨華の言葉に亜弥とアヤカが顔を見合した。
そしてにこっと何か企んだかのように笑うと再び梨華のほうへ向き直った。
「つまりはこういう意味ですよ!!」
梨華が混乱しまくって言った言葉に亜弥が大きめの声で答えた。
「え?キ、キャァッ!!!」
突然亜弥に手を握られるとふわっと自分の体が浮いたかと思えばその後すぐに
梨華の体は空高く浮いていた。
「な、な、な、私浮いてる〜!!!?」
「捉まっていて下さい。危ないですよ。」
隣で同じ高さで浮いている亜弥が言った言葉に梨華は咄嗟に混乱したまま亜弥の体に
しがみ付いた。
239 名前:スカウト  〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月24日(土)21時58分19秒
「なっ!!」
ひとみが下からその光景を仰ぎ見ていた。
ひとみの目には梨華と亜弥が透明でシャボン玉のような物に包まれているように見えた。
膜に微かだが青みが掛かっていてどうやら能力者以外の者には見えないようになっている
ようだった。
町を行き交う人々はただ上を仰ぎ見るひとみを不思議そうに眺めながら歩いていく。
「それではごきげんよう♪」
「ちょ、ちょっと待っ・・・・・・」
ひとみの止まる声も空しくアヤカの体もひとみの目の前でスッと消えてしまった。
上を反射的に再び見たときそちらもスッと消えて行った所だった。
「・・・・これって・・・まさか噂には聞いてたけど・・・・・・・」
ひとみは今の二人の行動にはっと察しがつくとすぐに飛び出すようにそこを
駆け出し路地へと飛び込んだ。
240 名前:aki 投稿日:2001年11月24日(土)21時59分32秒
>>224-239
更新です。
急きょこの二人が登場することになりました。
241 名前:キャメル 投稿日:2001年11月24日(土)22時06分38秒
リアルタイムで拝見☆
この二人が出てくるとは意外!能力もまだ謎っすね〜。
先が気になります!頑張ってください!
242 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年11月24日(土)22時40分30秒
あの2人って、この2人だったんですね。
また他のメンバーとは違う能力なんですね。
で、石川はどこへ連れてかれちゃったんですか?
中澤たちのこの後の行動は?
う〜ん、気になります〜。
243 名前:aki 投稿日:2001年11月25日(日)18時54分51秒
241:キャメルさん
>レスありがとうございます。
 リアルタイムで読んでくださってたんですか!嬉しいですv
 私にとってもこの二人が登場してくるとは意外でした(w
 これからも頑張りますよ〜。

242:M.ANZAIさん
>レスありがとうございますっ。
 あの2人はこの2人でした(w
 これからますます忙しくなりそうです。
 こんなに長くなるとは書き始めは思ってもいませんでした。
 頑張ります。
244 名前:スカウト 〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月25日(日)18時56分21秒
「誰かいますか!?」

ひとみはバンッと荒々しくドアを開け放つとバーに向かって入るなりそう叫んだ。
既にお昼のためほとんどの人間が揃っていた。
しかしそこには真希の姿がなかった。

「何や吉澤。大きな声出して。」
中澤がグラスを拭きながらひとみに答えた。
「連れ去られたんです!石川さんがっ!!」
「はっ!?」
矢口もひとみの言葉が一瞬理解できずそのまま聞き返す。

「だからっ!!今そこで彼女と会ったんですけどすぐそこの路地の前で二人組の
女に話し掛けられて・・・・・」
「それ誰や。」
中澤はすっと表情を冷たい物にしてひとみが言い終わる前に聞き返した。
それにひとみは微かにぞくっとした物を背中に感じた。
245 名前:スカウト 〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月25日(日)18時57分18秒
「確か・・・・亜弥・・・松浦亜弥とか言うのと・・・アヤカとかいう名前だったと思います。」
ひとみは思い出すようにして中澤に答えた。

「松浦亜弥・・・・それにアヤカ・・・・そんな名前確か圭ちゃん達の所にいなかった
ような気がするな。他のグループかな・・・・」
「そんなこと後でいいよ!どうすんのよ!!?それに何で梨華ちゃんを連れさらう
必要があるの!?」
矢口が横で突然入ってきたひとみの言葉に動揺しながら中澤に叫ぶように言った。

「たぶん・・・・自分達のグループにスカウトするつもりやろな・・・・・」
中澤は軽く視線を下に向けて冷めた口調で言う。
「ど、どうして・・・・・」
「この前石川、あのどでかい塔をぶっころわしたやろ?それの時使った波動が
結構離れてる能力者にも伝わったんと思う。それに新人のデータはどこのグループにも
くまなく回るから・・・・・」
「梨華ちゃんの能力はヒーリングに滅多に見ないクリアの能力。それに加え潜在能力も
果かり知れない。たぶんその人たち以外にも梨華ちゃんを狙ってるグループは多いだろうね。」
なつみも中澤の前のカウンターに座ったまま至って変わらない口調で言った。
「と、とにかく早く助けに行かなくちゃ!!」
矢口が椅子から飛び降りバーのドアに向かって駆け出そうとした。
246 名前:スカウト 〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月25日(日)18時59分32秒
「待ちっ!」
中澤がその矢口の後姿に向かって大きな声を上げた。
「なんで止めるのさ!!」
「連れ去られた後なんやろ?どこに行くつもりや?その二人が石川をどこに連れ去った
んか分かるんか?」
「分かんない!けど・・・・・」
「大丈夫。スカウトするために誘拐したんなら荒っぽいことは絶対にしないはず。」
「それじゃどうするのさ!?」
「遠くにも行ってないはずや。この辺一体の地図を見て大体の目星をつけて作戦立てて
から行っても遅くない。」
「・・・・・・・・」
中澤の決して取り乱さない口調に矢口は微かに苛立ちを感じたが一度大きく深呼吸した。
247 名前:スカウト 〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月25日(日)19時00分35秒
「・・・・分かった。そうだね。焦っちゃったよ。」
「吉澤。二人はどんな能力を使っとった?」
「それが・・・・・」
中澤に尋ねられひとみは今さっきの事を話し始めた。

その隣で矢口はカウンターのなつみの隣へ席を移動した。
「そういえば・・・・・・真希は・・まだ来てないの?」
「うん。まだ来てないみたい。・・・・・・どうかしたの?」
なつみは矢口が真希のことをそのまま呼んでいることに気付き聞き返した。
「いや、なんでもない。ただ気になっただけだから・・・・・」
返事を濁す矢口の言葉になつみの中の疑問は消えることはなかったがそれ以上聞き返すことは
しなかった。



248 名前:スカウト 〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月25日(日)19時02分22秒
中澤はこのバーを中心として描かれているこの辺一帯の地図を引出しから埃と共に
持ってくるとそれを机の上にばんっと音を立てて置いた。

「ふぅ・・・・・・・」
一呼吸を置いてから中澤はその地図に向かって掌を翳した。
薄い紫の光がそこから放出される。
あっという間に地図はその薄い紫の色によって包まれてしまった。
そして静かに目を閉じて神経を研ぎ澄ました。
中澤は精神の中でその地図を頭の中に描いた。
町の全ての地図が収縮された形で中澤の頭の中にまとまる。
その中で中澤はくまなく石川の微弱でもいい力のオーラが出ていないか探した。
自然にしていても一度覚醒している能力に対する力のオーラは普段からその本人の
体に帯びている。
能力者それぞれ全員が異なるオーラを持っているため石川がどこにいるのか
探すにはそれを探すのが最適だった。
中澤を除くバーにいる全員は固唾を飲んでそんな中澤の様子を眺め反応を待っていた。
249 名前:スカウト 〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月25日(日)19時05分06秒
「!」
そんな時突然中澤の目が開いた。
何か閃いたように地図の横にあった赤いサインペンを持ち上げると中澤は地図の
至る所にマークをつけた。
その数3つ。
ひとみになつみ、そして矢口がそれを反対側からすぐに目を通した。
「裕ちゃん!」
「あぁ、かったるぅ。これ疲れるから嫌なんや・・・・・・」
「それはいいから!」
中澤は気だるそうに言うと自分で肩を揉んでから改めて口を開いた。
「石川のオーラが感じられた石川のいると予測される場所はいっくら目凝らして
見ても3つやった。」
「何で3つもなんですか?連れ去られたルートがそれに現れてるんですか?」
ひとみが首を傾げて中澤に尋ねる。
しかしその質問にはなつみが答えた。
250 名前:スカウト 〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月25日(日)19時10分30秒
「連れ去られた最中のオーラと梨華ちゃんが今いるその場所とのオーラの強弱は
比べ物にならないほど別物。なのに裕ちゃんの中では『同じ』物が3つ捕らえられた。
つまりこれは・・・・・・」
「罠、ですか?」
「そうやな。たぶん吉澤も居たから追いかけてこられるとは絶対に相手も予測
したようみたいや。しかもその3つはどれもばらばらで離れ取る。つまりこれに
よって相手の特異能力ってのも分かるな・・・・」
「瞬間移動・・・・・だね。」
なつみがカウンターに肘を掛けたまま中澤の言葉に続けた。
黙ったまま中澤が頷く。
「ただ瞬間移動は石川の能力をクリアする能力と同じでデリケートで扱いに手間取るもんや。
例え完璧にマスターしたとしても体力の限界があるはず・・・・・」
これ以上は相手も移動はできないはず。と中澤が後に続けた。
「拡散する意味も含まれてるみたいだね。」
矢口は困ったように今マークのされた地図を見た。
251 名前:スカウト 〜一方的な知り合い〜 投稿日:2001年11月25日(日)19時14分22秒
「しょうがない。三つに分けるしかないかな?」
「そうだよねぇ・・・・・いちいち全員でそれぞれ回ってるわけには行かないし・・・・」
それから三つのグループは矢口となつみ、そして中澤、ひとみに分けられることになった。
「それじゃ行こう!」
矢口の言葉を合図に全員は寒い外へのコートをドアに向かいながら羽織り梨華を救出する
ため出かけていった。



252 名前:aki 投稿日:2001年11月25日(日)19時24分58秒
>>244-251
更新です。
253 名前:迷える者 投稿日:2001年11月25日(日)19時26分38秒




「・・・・・・・・・」
真希はコートに手を突っ込みながら町を歩いていた。
昨日のあれから真希はバーを飛び出した。
誰にも言葉を掛ける空きを与えず抜け出した。
そしてそれから今の今まで自分が何をしていたのかさっぱり覚えていない・・・・・
というのは嘘で、あれから真希はある場所へと向かった。
無意識に、真希の意識下の中で自然と足が歩き気付けばそこにたどり着いていた。
254 名前:迷える者 投稿日:2001年11月25日(日)19時27分35秒




――――――――

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・」
真希はバーのもう一つの休憩専用の部屋の中で頭を抱えて苦しんでいた。
今さっきの彼女の顔が、瞳が頭の中にこびり付いて消えない。
『やだぁ・・・・・・・!』

「っ!!」
頭を押さえて俯きながら真希は目を見開いた。
今更のように今さっきの彼女の言葉が頭に蘇ってくる。
そして彼女を襲っていた自分の姿がまるで映画の映像のように頭の中を駆け巡っていく。
「ち・・・・がうの・・・・・」
真希は小さく誰かに訴えるように言葉を漏らす。
『ひどい・・・・です・・・・・こんな・・・・・』
「!!」
乱れた服で必死に前を隠す彼女。
綺麗すぎる切なすぎる涙を頬に伝わせる様子。
実際にその時見た以上に頭の中に鮮明に映し出される。
「違う・・・・の・・・・・・私は・・・・こんなこと・・・・・・」
息を切らせ真希は必死に言葉を続けた。
違う・・・・私はこんなことするつもりじゃ・・・・
しかしその時、頭の中で強烈な閃光が走ったのを感じた。
255 名前:迷える者 投稿日:2001年11月25日(日)19時30分07秒



閃光が一瞬のうちに消え去りその後に封じていた過去の出来事の一端が
まるで映画のように自分の目の前で現れた。


白い雪が空から舞って来る。
いつしか地面には2、3cm雪が積もっていた。




『お願い・・・・後藤・・・あたしを・・・・・・・』


『やだ・・・・・やだよぉ!!!』


『これ以上・・・こんな姿を、あんたに見られたく・・ないの・・・・お願いだから
後藤の手で・・・楽に・・・して・・・・・』


『・・う・・・うわぁ!!!!』



「!!」



『後藤!紗耶香!どこや!!』


『・・・・・・・』


『そこにいるの後藤か!?紗耶香は・・・・・っ』


『裕・・・・ちゃん・・・・・』


『一体何があったんや!?紗耶香は・・・・』


『私が・・・・・殺したの・・・・・』





黒い煙が空に向かって唸りを上げ紅い炎が荒れ狂う。
そして、私の腕の中には・・・・・安らかな永遠の眠りについた・・・・あの人・・・・




256 名前:迷える者 投稿日:2001年11月25日(日)19時30分58秒
「い、いやぁ!!!!」
真希は頭を抱えたまま激しく振った。
息はますます荒くなりまるで走った後かのようになっている。
「はぁ・・・・はぁ・・・・・・」
あれからずっと彼女の名前を口にしたことはなかった。
なのに梨華を目の前にした時それは本当に自然に口から発せられていた。
自分が・・・・壊れていってしまう・・・・・
真希は乱暴にコートを掴むとそれを着込んだ。
バンッ!
真希はコートを羽織ると飛び出すようにドアを壊すぐらいにドアを開け放った。

257 名前:迷える者 投稿日:2001年11月25日(日)19時31分51秒
「真希!?」
「・・・・・・・・」

そこには矢口だけがいた。
戸惑うような表情のままこちらを見た気がした。
真希は矢口を無視して出入り口の扉へと歩を勢いよく進めた。

「ちょっとどこ行く・・・・・・」

話し掛けた矢口の言葉も空しく途中で扉の閉まる音に遮られてしまった。
話す空きを与えないようにして真希はバーを出た。
だってどこに行くのかなんて自分にも分からない。


それから真希は自分がどこをどう歩いて『ここ』にたどり着いたか分からなかった。
気付いたらそれは目の前に聳え立っていた。
258 名前:aki 投稿日:2001年11月25日(日)19時33分16秒
今度こそここまでです。
中途半端な切りかたになってしまったんですけどここで
切らないと果てしなく切れなくなってしまうんで^^;
259 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年11月25日(日)23時20分15秒
そうか、瞬間移動だったんですね、空中に浮いたのって。
普通の人間からすれば一瞬に消えたようになるわけですね、なるほど。
それにしても中澤さんの能力はスゴイですね。
地図の上からそんなこと出来るだなんて・・・。
いよいよ“石川奪還作戦”が始まりますね。
どんな展開になるのか、ハラハラドキドキです。

そして後藤の行き着いた場所とは・・・?
260 名前:aki 投稿日:2001年11月26日(月)22時57分32秒
259:M.ANZAIさん
>いつもレスありがとうございますm(__)m
 すぐにレスを下さるので本当に嬉しいです。
 裕ちゃんのレベルは計り知れないですね・・・・(w
 また変なところで切ってしまって申し訳ないです。
 今日はどうしようかと思いましたがこりもせず更新します(w
 
261 名前:迷える者 投稿日:2001年11月26日(月)22時59分12秒

「・・・・・・・・」
コートに手を突っ込んだまま真希はほぼ放心状態でそこに足を踏み入れた。

高い黒い門をぎーっと音を立て真希はそこに入った。
そこから左右は深い緑色の木で埋め尽くされ晴れていてもそこはいつも太陽の光が
あまり零れてこない場所だった。
空には雲が立ち込めここにはいつもより一層強く暗さが増していた。
そしてなぜか白い霧のような物が辺りに漂っている。
目の前5m先は白い霧のためほとんど見えなかった。

真希はそこからただ黙って無言のまま歩を進めた。
白い霧を掻き分けるようにただ静かに歩いていく。
途中、木の枝にとまる白い鳩がこちらを見てクーッと微かに鳴いた。


262 名前:迷える者 投稿日:2001年11月26日(月)23時00分04秒

「・・・・また・・・来ちゃった・・・・」

真希の目の前に一つの建物が聳え立った。
来る者を決して拒まず全ての者に懺悔と安らぎを与える場所。
木で作られているアンティックな雰囲気の大きな扉の少し上に目を向ければそこには
美しいステンドグラスが貼り付けられてあった。

扉の目の前までやって来て真希はそれをギーッと小さく音を立てながら入る分だけ開けた。
目の前にずらーっと木で作られた椅子が左右二つに並ぶ。
そしてその先には教壇のような机がありその目の前には・・・・・

「綺麗・・・・・・」
真希はそれにぼーっと心を奪われながら呟いた。

美しい色鮮やかな大きなステンドグラスが三つに分かれ貼り付けられその前には祭壇が
設けられている。
その左には天井に高く備えられるパイプオルガン。
祭壇の向こうの壁際には・・・・十字架に貼り付けにされているイエス・キリストの姿があった。
その少し手前にキリストを抱く白いマリア像ある。
真希は静かに中へと進んでいった。

ここに来るのは三回目だった。
ここの存在を私に教えてくれたのは、そう『あの人』だ。
そのたびにここは私を落ち着いた心にさせ全てをさらけ出しても守ってくれる暖かさがある。
263 名前:迷える者 投稿日:2001年11月26日(月)23時01分28秒

ここは教会。
今は真希以外誰もいないようだった。
ゆっくりと歩を進め真希は祭壇の前で立ち止まった。
「・・・・・また大切な人を傷つけてしまいました・・・・・」
真希は懺悔するように十字架のイエス・キリストを見つめながら言った。
「もう二度と・・・・大切な人も・・・特別な人間な作らないって決めたのに・・・・」
そうすれば誰も傷つけなくて済む。
自分も傷をつけられないで済む、そう思ってたのに・・・・。

これはあなたのいたずらですか?それとも定められた運命なんですか?

「運命だと言うのなら・・・・・悲しすぎる・・・・・」
言いながら少し俯いた。

私はどうすればいいんだろう。
過去の過ちは拭い去れない。
なのに彼女は私のことを好きだと言う。
力になりたいって・・・・・



264 名前:迷える者 投稿日:2001年11月26日(月)23時02分34秒


私はどうすればいい?
彼女の気持ちに答えればいいの?
そして『あなた』のことも忘れて時間とともに傷が癒されるのを待てばいい?

それとも、彼女の気持ちに答えず一生『あなた』の傷を負ったまま生きていくの?

単純すぎる選択。
バカみたいに正直に考えればこの二つしかないんだ。
だけど現実はそれほど単純ではなくて、
私は決して『あなた』のことを忘れてはいけない。それが彼女をこの手で殺めた
ことへの報復。
誰よりも大切だった彼女を殺めてしまったのは私。
思い出の中の彼女は私に微笑みかけてくれない。
あんなに笑顔をくれたのに・・・・・・


265 名前:迷える者 投稿日:2001年11月26日(月)23時03分34秒
真希は顔を上げ仰いだ。
そこにはイエス・キリストを抱いた慈愛満ちた微笑みを浮かべて私を見ていた。

「これから何があるんだろう・・・・・・」

真希はそのままの体勢でそう小さく呟くとしばらくただマリア様を眺めた後
近くの椅子に向かって歩き座った。
誰もいない。
それになぜか教会は外の寒さは完璧に防がれていた。
全く寒くない。
むしろ暖かいぐらいだった。
真希は椅子に体を寝かせ横になると目を瞑った。
266 名前:迷える者 投稿日:2001年11月26日(月)23時04分24秒


「・・・・・・・・」

『彼女』のこと、嫌いじゃない。
ただ素直に考えて可愛いと思う。
自分にもしこんな過去がなければ・・・・何か変わっていたんだろうか。
あ、ちょっと待ってよ・・・・一番重要なこと忘れてるじゃん・・・・・
私は彼女のことを『好き』なんだろうか。
それはいちーちゃん、あなたよりも?
真希は薄れていく意識の中確かに微かにだが『あの人』の名前を心の中で発していた。
それから自然すぎるほどに真希は深い眠りに落ちていった。
安らかな、それだけは『あの時』のまま変わらない純粋な幼い寝顔をマリア像は
見守るように見つめていた。



267 名前:迷える者 投稿日:2001年11月26日(月)23時09分33秒





「ん・・・・・・?」
真希はふと目を覚ました。
瞼の向こうから赤い光が感じ取れた。
眠たい目を擦り上半身を上げる。
自分の体には一枚の毛布が掛けられてあった。
「・・・・・眩しい・・・・」
真希は手を翳して目の前に広がるそれを仰ぎ見た。
朝の神々しく鮮やかな光がステンドグラスから降り注いでいる。
教会の全てがそのステンドグラスの綺麗な光で灯っていた。
あれからずっと眠りつづけてなんとそのまま朝になってしまったらしい。
朝といってもまだ太陽もまだ完全に昇っていないぐらいの早朝だった。

「目が冷められたようですね。風邪は引きませんでしたか?」
「!」
ふと掛けられた声にびっくりして真希はした方へ顔を向けた。
するとそこには結構年のいった品のある女性がいた。
シスターの格好をしている。


268 名前:迷える者 投稿日:2001年11月26日(月)23時10分17秒
「すいません。私昨日来てそれから眠ちゃったみたい・・・・・・」
「いいんですよ。気持ちよさそうに安らかに眠られてました。マリア様の見守る元で。」
シスターは慈愛深く微笑んだ。
真希はそれに申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
「私・・・・行きます。あ、毛布ありがとうございました。」
「神は全ての者に差別することなく平等の愛を与えます。いつでもいらっしゃって下さいな。」
シスターの微笑みながら言った言葉に真希は再び頭を下げた。
そして教会を後にして行った。



269 名前:迷える者 投稿日:2001年11月26日(月)23時11分51秒



外は寒かった。
早朝といってもまだ午前4時。
人もいなければ猫もいない誰もが眠りについている時間帯。
空気もどこか張り詰め寂しい雰囲気を漂わす。
お風呂に入らず昨日眠ってしまったため熱いシャワーが浴びたかった。
結局家に着いたのは午前5時半。
真希は自宅のあるマンションに着くとすぐに熱いシャワーを浴びた。
「ふぅ・・・・・・」
タオルを首に巻いてラフな格好で部屋に戻ってきた。
ペットボトルの水を飲みながらため息混じりに仰ぐ。
「・・・・・・」
しばらく何か考えるような表情の後、真希は大きくゆったりとしたソファに体を
横にさせた。




270 名前:迷える者 投稿日:2001年11月26日(月)23時12分48秒
結局その後再び目を覚ましたのは午前11時。
行くかどうか迷った。
しかしとりあえず赴くままに体を動かした。
別に行かなくても良いのに・・・・。
彼女が来る前は一週間に2回か3回ぐらいしか通っていなかった。
それも仕事がある時だけだ。
なのに今は毎日のように通っている。
意味分かんない。


真希は服に着替えるとさっさと朝食もパンで済ませ部屋を出た。
今日は気付けば日曜日だったらしい。
来るまでの道のりは絶え間なく人の存在があった。
いつもの特に人の多い表通りを抜けて路地の入り口のある通りに出た。
271 名前:迷える者 投稿日:2001年11月26日(月)23時13分32秒


するとそこに見知る人間の姿があった。
矢口だ。それに後からなつみ、中澤、ひとみと路地から全員がぞろぞろと出て来た。
「・・・・・・?」
真希はその様子に不思議に思い歩く足を速めた。
全員の表情がどこか険しく普通とは違う緊張したような面持ちだったからだ。
「ちょっと・・・・」
「真希!」
一番最後のひとみに真希は呼び止めた。
呼び止められたひとみは驚いたような表情をしている。
272 名前:迷える者 投稿日:2001年11月26日(月)23時14分17秒
「みんな何なの一体・・・・・」
「あんた今までどこほつき歩いてたの!?それに遅いよ!来るのっ!!」
「遅いって言われたって・・・・自由じゃん。それぞれの。」
「バカッ!石川さんがさらわれたのっ!2人組みに!」
「・・・・・・え?」
一瞬何のことか分からず聞き返す。
ひとみはそんな真希にいらだつようにして言った。
「石川梨華がさらわれたっつってんのっ!!」
「・・・・・・・っ・・!」
ひとみの言葉の意味がやっと理解できて真希は途端に走り出した。
「ちょ、ちょい待ちっ!」
駆け出した真希にひとみは慌てて後を追いかけた。
「さらわれた・・・・・・!?」
真希は呆然とした表情で中澤達の向かった方へ走った。
後ろからひとみの何やら叫んでいる声が聞こえたが全く耳に入っていなかった。


273 名前:aki 投稿日:2001年11月26日(月)23時16分29秒
ここまでです。
あぁ、これ読まれてますかね。
ちょっとへこんでます(w
274 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月26日(月)23時37分29秒
読んでます。
がんばってください!
275 名前:89です 投稿日:2001年11月26日(月)23時59分00秒
はいっ、ちゃーんと読んでますよ。
早い更新とってもうれしいです。
これからの展開どうなっていのか。
あの二人の組織は?保田加護のチームとの関係は?そして・・・。
akiさんの更新楽しみにしてる人間がいる事は間違いありませんよ。
276 名前:Russian 投稿日:2001年11月27日(火)01時17分09秒
こちらの板に移ってからは初レスになりますが…
この作品も、もちろん楽しませていただいております。
『純粋な罪と罰』以降のごっちんの苦悩。
『Amazing Grace』が頭の中を回ります。

akiさんの作品。大好きです。頑張ってくださいね。
277 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年11月27日(火)01時35分09秒
後藤の心の葛藤が切ないですね。

そしていよいよ石川奪還に後藤が走り出す・・・
どんな場面が繰り広げられるのか、今からワクワクワドキドキです。
278 名前:mode-rika 投稿日:2001年11月27日(火)16時42分05秒
akiさんの作品いつも読ませていただいてます!
ごまりかよいですねっ。
この先楽しみ!!
279 名前:aki 投稿日:2001年11月27日(火)16時55分10秒
うわぁ、たくさんのレス本当にありがとうございます(T_T)感激です。

274:名無し読者さん
>レスありがとうございますっ。
 読んでもらってとてもうれしいです。
 がんばりますっ!

275:89さん
>レスありがとうございます〜(T_T)
 更新はバカみたいに多いみたいし長編で中だるみしないかなとか
 思ったり結構しんどかったんで嬉しいです。
 これからの展開も気ぬかずがんばります。
 まだまだ明らかになっていない部分がたくさんありますね、こんな所で
 へこたれてたらダメですね。
 更新これからもがんばります(T_T)
280 名前:aki 投稿日:2001年11月27日(火)17時11分02秒
276:Russianさん
>レスありがとうございますっ!
 ちゃんと読んでて下さってるんですね。嬉しいです(涙)
 『Amazing Grace』これはそのまま訳して受け取れば良い
 のでしょうか・・?(爆)
 今まで書いてて良かったななんてつねづね思いますv
 がんばります!

277:M.ANZAIさん
>レスありがとうございますっ!
 切なく感じられるように書けたことが嬉しいです。
 レス見て再び考えることが近頃よくあります。
 当初考えていたよりもっと激しくするかな・・・とか思案中です^^
 楽しみにしてくださって嬉しいです。がんばります。

278:mode-rikaさん
>レスありがとうございます!
 初めて、ですね^^とっても嬉しいです。
 いつも読んでくれているなんて感謝感激です(w
 ごまりか良いなと感じてくれて本当に書いてて良かった(w
 がんばります!


たくさんのレスありがとうございます。
たまにへこんだり疲れたりするとそれが文章に出ちゃったりと
するんですけどそんなときは読者さんのレスが本当に特効薬です^^;
はげみにやる気がたっくさん出てきます。
楽しみにしてくれてる読者さんがいる限り気を抜かず
この先もがんばります! 
 
 
 
281 名前:Chase And Escape  〜胸に秘める想い〜 投稿日:2001年11月27日(火)22時06分20秒
「裕ちゃん!!」
「真希っ!!」
真希が声を叫ぶように掛けた時ちょうど中澤達は人通りの極力少ない通りで車に
乗り込むところだった。
ちなみに赤の4シートのオープンカーである。
助手席にはなつみ、そして運転席に中澤、後部座席に矢口が乗っているところだった。
「あんた今やっと来たの!?」
矢口がまるで学校の教師のような口調で困ったように声を上げた。
「さらわれたって!?一体どういうこと!?」
真希は矢口の言葉に答えず車に乗り込みながら動揺を隠せない口調と表情のまま
聞いた。
「そのままや。石川がさらわれたんやで。」
中澤が車のエンジンを掛けながら至って普段通り答える。
282 名前:Chase And Escape  〜胸に秘める想い〜 投稿日:2001年11月27日(火)22時07分50秒
「今からどこに行くつもり?」
「地図上で石川の反応が出たところ3つにそれぞれが行くところや。途中まで
一緒に行って3つに分かれる。」
エンジンがかかり車が音を立てて揺れた。
「ちょっと待ってよ!」
遅れて走ってきたひとみが急いで車にドアを開けないまま上から飛び越むようにして乗り込んだ。
「地図どこ!?貸して!!」
真希はなつみが上にあげた地図帳をひったくった。
「・・・・・・・・」
そして今さっきの中澤と全く同じやり方で地図を目の前に集中し始めた。
「あんたいつのまに・・・・・」
このやり方は中澤が自分で編み出したやり方だ。
真希には全く教えていない。
驚きを隠せず中澤が集中して瞳を閉じる真希を見た。
283 名前:Chase And Escape  〜胸に秘める想い〜 投稿日:2001年11月27日(火)22時10分18秒
「!車出してっ!!」
瞳を見開き真希は突然そう叫んだ。
「んっ!!」
中澤はそれだけ答えると何も聞かず荒々しく車を出した。
タイヤの擦れる音と灰色の排気ガスが後に残る。
車は風を切らせ大きな道に出た。
「この地図上の右上の赤いマークの場所を目指して。」
「それはいいけど・・・・・なんでそこって分かるん?」
「絶対にここ・・・・・だって彼女は『今』ここにいるって言ってる・・・・・」
「・・・・どういう意味や?」
「偽りのない彼女のオーラがここにある。」
「・・・・・・・・」
真希の言葉に中澤は正直言葉を失ってしまった。
はっきりと言ってのけてしまうその自信に呆気に取られてしまったのだ。
しかしすぐにそれは楽しそうな笑みに変わる。
「そうか。・・・・・なるほど。ならフルスピードで行くでっ!!」
言うと中澤は大きな通りをUターンして真希の示した場所へと方向を変えた。
勢い良くきつく曲げたためタイヤの擦れる音が今さっきよりはるかに大きく高く響いた。
284 名前:Chase And Escape  〜胸に秘める想い〜 投稿日:2001年11月27日(火)22時11分24秒
「ちょっと狭いよ〜!」
「しょうがないやんか。そもそも五人乗りやないし。」
矢口が後ろの横で真希とひとみがやって来たため狭くなった後部座席でぼやいた。
中澤がバックミラーから微かに苦笑しながら答える。
なつみも後部座席に三人乗っている姿を横目で確認し小さく微笑した。
「全く・・・・・・・・」
矢口は再び小さくぼやきながら風になびく髪を手で押さえた真希の横顔を微かに
盗み見た。
そこにはただ見ただけでは全くいつもと変わりない真希の姿があった。
全く、昨日の出来事を物語っていない。
矢口はすぐに顔を前に向けた。

車が風を気持ちよく切らせる。
車の中の全員の髪が風になびき後ろに流れる。
中澤はハンドルに片手だけ添え窓のところへ肘をつき、なつみは姿勢正しくただそのまま助手
席に座りひとみは足を組み肘をつき矢口も腕を組んで何やら考えたような表情をしていた。
真希はひとみと同じように足を組みただ流れる髪をたまに押さえていたりしていた。
その表情は冷めたもの。
至っていつもの真希と変わらない。
ただその胸の中にあるものは、必ず助けるという誓いだけ・・・・・。




285 名前:aki 投稿日:2001年11月27日(火)22時15分20秒
すいません、今日はこれだけです(++)
結構昨日までの更新でストックを使ってしまいまして。
レスに励まされ今日ずっと書いてたんですけどこれ以上更新すると止まらなくなってしまうので。
ストックがなくなるとしんどくなってしまうので許してください(w
ちなみにこのサブタイトル悩みました。
最初に浮かんだのが「追いかけっこ」なんですけど英語にしようかと思ったり
して辞書引いたんですが分からなかったので(爆)
286 名前:Russian 投稿日:2001年11月27日(火)23時24分20秒
Amazing Graceというのは、元はスコットランドの民謡で、
それに、イギリスの奴隷商人(?)だった、ジョン・ニュートンが詩をつけたもので、
有名なゴスペル(賛美歌)です。

詩の意味は、一言で言うと『主よあなたの救いに感謝します』ですね。
さわりだけ挙げておきますので、イメージしてみて下さい。
…と、思いましたが下手にネタばれになったら嫌なのでやめておきます。
そのイメージに縛られても申し訳ないですし。

紗耶香のこと、梨華ちゃんのこと…教会。イメージがぴたっと。
また、akiさんにツボ突かれちゃいました(笑)。
続きも、頑張ってくださいね。
287 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年11月28日(水)03時08分08秒
真希(この作品だとこの呼び方の方がふさわしいですね)が中澤も驚くような
能力を発揮しだしましたね。それがいったいどこから来るものなのか・・・
真希自身は気づいてなくて、どうやら中澤の方が感づいているみたいです。

「Amazing Grace」は白鳥英美子さんが唄ったバージョンを持っています。
教会での場面に・・・、なるほど、ぴったりな感じですね。

サブタイトルの付け方にすごくセンスを感じます。
(なんて言うとかえってプレッシャーになってしまいます?)

はたして真希の睨んだどおりにその先に梨華が居るのか・・・
この後の展開、楽しみに待ってますよ。
288 名前:aki 投稿日:2001年11月28日(水)16時01分38秒
286:Russianさん
>レスありがとうございます。
 ほう、そうなんですか。何でも有名なゴスペルらしいですね^^
 もしかしたら聞いた事があるかもしれません。
 すいませんでした。なんかアホみたいなこと尋ねてしまって(爆)
 実は『純粋な罪と罰』のサブタイトルはあまり次のことを考えて
 付けたのではないんです。言ってしまうと教会のシーンもその時
 考えてませんでした。でも後から私が見てもとても合っているので
 良かったです(w
 これからもがんばります。

287:M.ANZAIさん
>レスありがとうございます。
 秘められていた潜在能力が真希の気付かないうちに発動してますね。
 中澤もそんな真希の様子に頼もしいというか良い意味でおもしろいと
 感じていると思います。
 あぁ、「Amazing grace」今度必ず聞きます(爆)
 サブタイトルに関して今回は初挑戦、プラスちょこちょこ変えるので
 目がそっちに行くかなと思ったりもしたのですごく嬉しいです。
 大丈夫ですよ^^素直に嬉しがってます(w
 文章を書いて読み直してその時ぱっと浮かんだ直感的に近いものが
 多いんです。 
 今後の展開も目が離せないぐらいに気合入れて書きますよv
289 名前:Chase And Escape  〜どんな時でも・・・・〜 投稿日:2001年11月29日(木)00時06分02秒
「・・・・・あのぉ・・・・・」
「どうかしましたか?」
「・・・・・・・」
梨華は返ってきた至って平凡な返事に困ってしまった。
あの後いつのまにか自分は大きな車の中にいたのだ。
窓には外から見えないように特性のガラスを張られているよくあるワンボックスカーだった。
それからすぐに車は発進してそのすぐに目隠しをされてしまった。
ちゃっちゃと作業を進められ梨華はここまで何も言えずにいた。
耳には車のラジオから流れてくる洋楽の音楽が届く。
たまにアヤカが口ずさむ声が聞こえた。
「一体・・・・どこに向かってるんですかぁ?それに私はこれからどこに連れて
いかれるんでしょうか・・・・?」
「だいじょーぶですよはあとはあとちょっとお話するだけです。いきなり私たちの
グループに連れて行くなんてしませんから安心してくださいはあとはあと
「はぁ・・・・・・」
あまりにも一方的過ぎる行動に返事に梨華は困ってしまった。
そしてここまでなすがままにされていたのだ。
290 名前:Chase And Escape  〜どんな時でも・・・・〜 投稿日:2001年11月29日(木)00時07分17秒

(なんか毎日いろんなことがある・・・・・・)

梨華は心の中で小さく呟いた。
昨日真希にとてつもなく緊張しながら告白して予想だにできない事が起きれば
今日は今日で思ってもいないことが起きてしまった。
知らない二人。
知らない人間に一方的に連れ去られている自分。
一体自分の知らないところで何が起きてるの?
少しだけ不安になった。
昨日あんな出来事があったため真希は今日バーに来るかは分からない。
むしろ来ない可能性のほうがはるかに高いのではないかと梨華は思った。
291 名前:Chase And Escape  〜どんな時でも・・・・〜 投稿日:2001年11月29日(木)00時08分37秒

(会いたいよ・・・・・・・)

顔が見たい。
それだけで良かったはずなのに・・・・。
欲求は始めの頃とは比較できないほど膨らみもっと触れ合いたくなってくる感情。
むしろ告白しない方が良かったのかなと梨華は不安に思った。
自分が告白した事により真希が苦しんでいる。
それは絶対と言える事だった。
力になるなど大きなことを言っても彼女がそれを望んでなければただのおせっかいだ。
必ず何かあると彼女は自分を助けてくれた。
初めて会った時、保田達に捕まった時、力がコントロールできなかった時、
そして退屈で仕方がなかった毎日から助けてくれた・・・・・・。
自分は何か彼女に返す事ができるのだろうか。
好きという感情に比例して膨らむ不安。
拭い去れないこれからへの不安はまるでどこまでも果てしなく目の前に続く暗い
トンネルのよう。
292 名前:Chase And Escape  〜どんな時でも・・・・〜 投稿日:2001年11月29日(木)00時09分43秒
(後藤さん・・・・・・・)
昨日のこと、決して忘れたわけじゃない。
なのに今も考えてる。
一日一日彼女のことを考えない日はない。
今もそうだ。
どんな時でも、助けてくれるのは彼女がいい。
なんて、思ってる自分がいる――――――――





「・・・・・・・・」
亜弥は少し真剣な表情で目隠しをされている梨華に向かって念を込めていた。
実は、梨華が目隠しされている目的はどこに行くのかばれないためと梨華のオーラを
所々に分散させることだった。
瞬間移動の応用でこんなこともできるのだった。




293 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)00時13分35秒

日曜日ということで道路はどこも込んでいた。
首都高に乗り目的地へと急ぐが渋滞10kmとほとんど動かない。
「くそっ!何やねんこの込み具合はっ!」
中澤がハンドルをばんっと叩きながらいらついたように言った。
「なんで裕ちゃん怒ってるのさ。」
矢口が様子の変わった中澤に後ろから尋ねる。
「なるべく急がなあかん。あの2人に限って手荒いことはせんと思うけど石川の
能力が完璧に覚醒しきってないことがばれると・・・・まずい。」
「すぐさま情報が回るね。覚醒しきってないとなるとますます能力のレベルが
図れない・・・・プラス返ってそれは周りにとって都合がいいし。」
なつみも今気が付いたように顔をしかめていた。
「どうしてですか?」
ひとみが後ろから首を傾げて尋ねた。
294 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)00時14分47秒
「レベルの高い人間にとっては覚醒しきってない人間の力は本人が扱いきれてない分
利用する事ができるから・・・・そんなことする人間は滅多にいないと思うけど・・・・・」
なつみが不安げに言った言葉にひとみは納得するようにただ何度か頷いた。
「・・・・・・・・」
真希は肘についたまま遠く向こうの景色を眺めていた。
矢口がそれを何か言いた気な様子で見つめていた。
少しだけ車が空き始めた。
ほとんど動かなかった状態が少しづつ進み始める。
しかしまた詰まってしまう。
「だから日曜日は嫌いなんや!」
中澤はそう怒鳴るとハンドルをきつく切った。
高速を抜けると中澤は近くの料金場向かってフルスピードで走らせた。
295 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)00時15分56秒
「ちょ、ちょっとお釣りっ!!」
おつりを受け取らないまま払うとそのまま中澤は走り去ってしまった。
「下の方が空いてるやん。全くこれだから首都高は・・・・・」
愚痴を小さくこぼしながら中澤は明らかにスピード違反の速さで道路を駆けぬけらせた。
「ひゅ〜!気持ちいぃ!」
ひとみが後ろで風に目を細めながら声を上げた。




「・・・・・・真希。」
「何?」
不意に矢口が意を決したように真希を呼んだ。
真希が至って普段通りの全く焦った様子もない表情で振り向いた。
「あんたさ・・・・・昨日何があったの?」
「・・・・・・・」
言い辛そうに言った突然の矢口の質問に真希は黙ってしまった。
296 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)00時19分30秒
「聞くか聞かないか迷ったけどさ・・・・・いつもならそんなのそれぞれの勝手だって
納得してそれがここのルールだったけど・・・・でも・・・・・」
「でも、何?いつもならこんなことやぐっつあん聞かないじゃん。」
言葉が一瞬切れた矢口に真希はそこで間髪いれずすぐに尋ねた。
それに矢口が顔を上げた。

「『あの時』からあたしはここに集まる人間のことをただそれぞれの目的のために
集まってるって納得することにしようとした。でも・・・・今は違う。」
「・・・・・・・」
隣で真希が、そして運転席からは正面を向いたまま矢口の言葉を聞いている中澤がいた。
「梨華ちゃんも、真希も、なっちだってよっすぃーだって裕ちゃんだって・・・・
みんな仲間でしょ?今だって梨華ちゃんのこと・・・・・仲間だから助け出そうとしてるん
だよね?ただ仕事に不都合がでるからとか・・・・そうじゃないよね!?」
「そうやで。石川はうちらの仲間や。同じ居場所を持つもの同士、やで。」
矢口の少し語尾の口調が大きくなったのに中澤がハンドルを握ったまま正面を
向いたまますぐさま答えた。
矢口がその中澤のすぐ返ってきた返答に安心するようにほっとした。
297 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)00時21分21秒
「・・・・・・・・」
真希がそれに再び黙った。
「真希あんた・・・・昨日梨華ちゃんに何したの?」
「・・・・・・・・」
なんでもないとも別に、とも答えられなかった。
嘘は答えたくない。
だけどそれには本当のことを言わなければならない。
昨日の自分のしたことを、言葉に出したくなかった。
そもそも自分がしたことなのに言葉に出すのも嫌だった。
「言いたくないならいいけどさ・・・・・・あの時梨華ちゃんも何も言わなかったし・・・・」
「・・・・・ごめん」
その時真希の口からは自然と謝罪の言葉が出ていた。
せっかく気持ちを伝えてくれたのに答えられない。
あくまで答えたくないという範囲だが、言わずにはいられなかった。
298 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)00時22分16秒
「いいよ、別に。気にしないでよ。必要な時でいいからその時は、何でも言ってよ?」
「うん。」
矢口の言葉に真希は素直に答えた。
なつみもひとみも二人の会話は聞こえていた。
何のことか分からなかったが二人とも何も尋ねなかった。
「それよりさぁ、あの人ほんっとうによくさらわれるよねぇ。」
ひとみが肘をついたまま少し体を下にしてだらしなく座りながら言った。
「よっすぃーその時一緒にいたんじゃなかったの?」
「いましたけど・・・・・」
なつみが後ろから少し問い詰めるような言い方でひとみに言った。
矢口も気を取り直しひとみに向き直った。
「梨華ちゃんはまだ駆け出しだしぃ、よっすぃーがちゃんとサポートしなきゃさぁ。」
「つまりあたしがいけないんですか?」
「そうやで。」
きっぱり断言した中澤にみんなが一斉に笑い出した。
真希も小さくみんなと一緒に笑っていた。
風を切り、車は確実に梨華を追っていた。
299 名前:aki 投稿日:2001年11月29日(木)00時24分49秒
すいません、本当はこの先もう少し更新するはずでしたが
やっぱりここまでにしておきます。
次でまた一つ小さな謎が解けるので今日、そんなに慌てなくても
いいかなと思ったので。
300 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年11月29日(木)02時11分45秒
アヤカたちも車で移動、はたして中澤たちは追いつけるのか?
矢口の言う『あの時』って?
矢口のみんな仲間だという言葉に同意する中澤のセリフが救いです。

そんなに慌てないで待ってます。
301 名前:aki 投稿日:2001年11月29日(木)13時54分50秒
300:M.ANZAIさん
>レスありがとうございます。
 矢口の言う『あの時』のおぼろげな部分も次の更新でほんの少し
 明らかに・・・・なるかな?(^^;
 全てが繋がるのはももうちょっと先かもしれませんね。
 そういえばもう300・・・早いなぁ。このスレで間に合うかな・・・(w
 ちなみにテレビジョンって雑誌ですか?気になりますね(笑) 
302 名前:Chase And Escape   〜『あの事件』〜 投稿日:2001年11月29日(木)18時45分28秒
やっと車が止まった。
アヤカがサイドブレーキを引いて車を止める音が聞こえた。
「着きましたぁはあとはあとここまで来れば大丈夫でしょうはあとはあと
亜弥の声が聞こえた。
それから目隠しを外される。
「・・・・・ここはどこですか?」
梨華は辺りをしばらくきょろきょろ見渡しながら尋ねた。
辺りを見渡したものの今まで目隠しされていたためここがどこなのかなんて当然
分からなかった。
「別に至って普通の町ですよはあとはあと
「・・・・・・・・」
いや、それは言われなくても分かるんだけど・・・・・と言わせない何かが
彼女にはあった。
303 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)18時48分03秒
「追いかけられると困るんで結構遠くまでやって来たんです。それでは話しましょうか。」
アヤカが運転席からこちらにやって来ながら梨華に向かって言った。
「聞きたいことは私もたくさんあるんですけど・・・・・」
「それじゃお茶でもしながらお話しましょうか♪」
言いながらアヤカは車の運転席のすぐ後ろのバッグの中からお茶のパック3つと紙コップ、
そしてお湯の入った魔法瓶を取り出しながら改めてやって来た。
「うわぁ・・・・・・・」
突然のお茶会。
その準備の良さに梨華は今更のように呆気に取られた。
「どうぞはあとはあと
「あ、ありがとうございます・・・・・」
梨華は湯気の立ち上るアールグレイの入った紙コップを受け取った。
「それじゃ改めて。よろしくねはあとはあと
「こちらこそ・・・・」
アヤカも自分の分の紙コップを手に改めて梨華に挨拶した。
梨華も慌てて返事する。
304 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)18時48分59秒
「あそこの新人さんですよね?」
「!なんで知ってるんですか!?」
「どこのグループでも新人のデータはくまなく回るんですよ。」
アヤカが得意げに梨華に答えた。
「そうなんですか・・・・・」
ふと答えながら梨華の頭の中に昨日の保田の言葉が浮かんだ。
(こういう意味だったのね・・・・・・。)
今気付いても後の祭りだった。
305 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)18時50分02秒
「それでっ。突然本題に入っちゃいますけど。石川さんはヒーリングとクリアの能力を
持ってらっしゃるんですよね?」
「え?・・・・はい、そうですけど・・・・ど」
「本当に、ですよね?間違えはありませんよね?」
梨華が後にどうして知っているのか聞こうとしたがすぐに亜弥に遮られ言葉を被せられ
てしまった。
「はい。間違えは・・・ないと思いますよ。」
梨華のとりあえずはっきりと断言した言葉に亜弥とアヤカはうんうんと何かに納得する
ように二度三度頷いた。
「そ・れ・で。クリアの能力って今できますか?見せてもらえますか?」
「え?」
「見たことないんです。私。彼女も。一度見てみたいんですよ。」
アヤカは亜弥を手で紹介しながら梨華に答えた。
「でも・・・・・・・」
クリアの能力はあれからしばらく練習したが確実にはできていなかった。
なによりそれを実際に活用したことがない。
それに自分の能力をそう他人に見せてしまって良いのだろうか?
306 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)18時57分10秒
「ダメですか?」
亜弥がおねだりするように目をキラキラさせ梨華に尋ねた。
「え・・・と・・・・・・」
梨華は困ってしまった。
どうしても二人のことが悪い人だとは思えなかった。
良い人そうに作っているとも思えない。
だけど・・・・・・
「ちょこっと見せて下さるだけでいいんです。そしたらすぐに近くまでお送りしますし。」
アヤカがにこっと微笑みながら梨華に言った。
「本当ですか?」
「ええ。ただし見せてくれれば、ですけど。」
「・・・・・・・・」
梨華はアヤカの言葉にしばらく黙って考え込んでしまった。
一瞬だけそう言った時のアヤカの目が鋭くなったのを梨華は見落とした。
307 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)18時59分30秒
「あの・・・・・一つ質問させて下さい。」
「どうぞはあとはあと
アヤカは微笑みながら梨華を促した。
「見せたとしたら、どうなるんですか?」
「とっても参考になりますはあとはあと
「何の?」
「何のでしょうねはあとはあと
「・・・・・・・・」
アヤカの返答に梨華は再び何も言えなくなってしまった。
「ま、時間はまだありますし。また楽しい世間話でもしましょうか。」
アヤカは一旦話を始めに戻すとなくなってしまったのか魔法瓶からお湯を紙コップに
注いだ。
「はぁ。」
「そういえばつい最近保田さん達のグループに誘拐されてたらしいですね。」
ずずずっとお茶を飲むように亜弥が熱い紅茶を冷まして飲みながら梨華に尋ねた。
308 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)19時02分38秒
「!保田さん達のこと知ってるんですか?」
「もちろん。だってそもそも同じ会社の元で働いている仲間ですから。」
亜弥は梨華にそう答えた。
しかしその後で「あれ?でも事実上はライバルかな?」と小さく独り言のように付け加えて
いた。
「同じ会社でもそれぞれ独立していて各グループごとに成績表みたいなものがあるんです。
それによって給料も決まるし待遇も決まるんです。」
亜弥の独り言にアヤカが説明するように付け加えた。
「あっちには辻さんがいるんですけどうちにはちょうどヒーリングの能力を持った人が
いないんですよねぇ。」
亜弥があまり困った風ではなかったがとりあえず困ったように言う。
「そうなんですかぁ。」
「そうなんですよぉ。・・・・で。話を戻してなんとあの加護さんが作った塔を
跡形もなく壊したらしいですね!!」
少し興奮したように亜弥が言った。
309 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)19時04分01秒
「え?あ・・・・そうらしいです。」
梨華は再びなぜ亜弥がそれを知っているのか疑問に思ったが聞かないまま答えた。
「あのか・ご・さ・んが!作った塔を!!」
「た、たぶん。」
興奮気味に亜弥の勢いに少ししり込みしながら答えた。
梨華の曖昧な答えにも関わらず亜弥は感心したように頷いた。
「・・・・・・・・」
アヤカはただ2人の会話を紅茶を啜りながら冷静に見つめていた。
そして不意に口を開いた。
「そうだ。ちなみに知ってます?保田さんたちと中澤さん達の関係。」
「!何ですか!?何かあるんですか!?やっぱり!!知りません!」
アヤカのふとした言葉に梨華は大きく反応した。
梨華は気付いていなかったが少し言葉がむちゃくちゃになっている。
310 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)19時05分42秒
「えぇ、私もこの仕事ついてこの世界に入ってから結構経ちますから何気にいろいろな
こと知ってますよ。」
「教えて下さい!」
「そうですねぇ。教えたら他人の能力をクリアするところ、見せてもらえます?」
「もちろんっ!!」
考える前に口が勝手に答えていた。
あまりに興奮していたためそれにさえ梨華は気付いていなかった。
「OK.それではお話しましょう。実はですねぇ。保田さん達は昔中澤さん達の所、
つまり同じ場所で働いてたんですよ。」
「え・・・・えぇぇ!?!!??」
予想もしなかった言葉に梨華は思わず大きな声を出して叫んでしまった。
それに思わず目をぱちくりさせる2人。
「す、すいません。つい・・・・どうぞ話を続けてください。」
梨華は少し恥ずかしそうに頬を赤く染めてアヤカの話を促した。
311 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)19時07分40秒
「つまり同じ仲間、ということになりますよね。でもそれは石川さんが入る確か一年
ちょっと前までのことです。」
「そうなんですか・・・・・」
予想をしなかったというのは嘘かもしれない。
心のどこかでやっぱりって思ってる自分がいる。
保田の時に見せる表情や加護達の言っている事などから何かあるとは思っていた。
「しかしその今から一年と少し前・・・ある事件がきっかけでちょうど今ぐらいの時期に
保田さんを含む四人はそこを出て行ったんですよ。」
「それが加護さんに辻さんに飯田さんですか・・・・」
そのアヤカの言葉に亜弥が頷きながら答えた。
どうやら亜弥もそれ以後にこの世界に入ってきたらしい。
噂には聞いてはいたが詳しくは知らなかった。


312 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)19時08分36秒
「ど、どうして・・・・・・それにある事件て・・・・・」
「ちなみにそれ以前の中澤さん達のグループ。トップの中のトップですよ。頼まれた仕事は
100%こなすしそこの全員のレベルは誰もがトップクラスでしたね。」
アヤカが思い出すようにして話を続けていく。

「しかし今から思えばそれが仇になってしまい・・・・今に至るわけですよ。つまり
全てはあの事件がそうさせたんですけどね・・・・・・」
「あの事件って何ですか!?教えて下さい!!」
思い出すように言っていたアヤカの様子がだんだんおばあちゃんの思い出話のように
なっていくのを梨華は途中で大きな声の質問で遮った。

アヤカが思い出したかのように現実に戻ってくるとすぐに梨華に向き直った。
とても真剣な面持ちで話を待つ梨華に心の中で満足し嬉しくなったアヤカはぐぐっと
梨華に顔を近づけた。
「あの事件とは実は・・・・・・・・」
そしてアヤカが梨華に答えようとしたその時―――――



313 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)19時10分08秒




プップーーーーー!!!


「「「!!」」」
三人は突然の車のクラクションに飛び跳ねるように同時に反応した。
「何一体!?」
アヤカは驚いて後部座席から後ろを見た。
「なっ!!?」
するとそこには赤のオープンカーでこちらに街中にも関わらずフルスピードでやって来る
中澤達の姿があった。
「ど、どうしてなの!?」
あまりのことに驚きと動揺を隠せないままアヤカは運転席へと戻っていった。
亜弥も急いで紅茶を飲み干すと助手席へと走りシートベルトをつけた。
「あ、あのぉ!!!!実はの後はぁ!?!!?」
「そんなの後で!!」
アヤカは後ろで訴えるような大きな声を無視しすぐに車を急発進させた。
314 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)19時11分02秒
キキキキー――――ッ!!!!

タイヤが擦れる音がひどく車内に響いた。
それと共に車内がこれでもかというくらいに揺れた。
「キャッ!・・・・・・・・」
突然動き出した車に梨華は後ろで紅茶を持ったままバランスを崩した。
結果、紅茶を頭から被る事になってしまった。
呆れて物も言えない。
「紅茶くさいよぉ・・・・・・」
魔法瓶から注いでからしばらく経っているため紅茶自体はぬるくなっているが
紅茶の匂いが自分に染み付きすごく情けなくなってくる。
梨華は微かに涙目になった。
すぐにハンカチで軽く拭いた後梨華は後部座席から後ろに乗り出しガラスから後ろを見た。
「中澤さん、みんな・・・それに・・・・・・・後藤さんっ!!」
そこには梨華の一番見たかった人、真希の姿があった。




315 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)19時26分19秒


「待たんかこら〜〜〜!!!!」
中澤は叫びながらハンドルを右へ左へと切った。
日曜日の午後のため住宅地にはほとんど人の姿がないのが救いだった。
直線勝負のスピード争いなら負ける気はさらさらないがこうカーブばかりではどうしようも
なかった。
目の前をでかい図体のワンボックスカーが巧みにカーブして逃げるのがすごく癪だった。
「ちょっとちょっとぉ〜〜!!いい加減酔うよぉ!!」
矢口が後ろで車にしがみ付きながら悲鳴を上げていた。
遊園地の絶叫マシーン系は得意中の得意だが、このカーブ連続の右へ左へとゆらゆら
揺れる動きはさすがに参ってしまう。
「我慢しい!もう少しで大通りに出るはず・・・・・・」
中澤は矢口に答えた時ちょうど同時に目の前に大通りが開いた。
ワンボックスカーはスピードを止めることなく大通りへと出た。
「ひゅ〜!カーチェイスじゃん!」
「しかも日本でね。」
楽しそうにしているひとみに今のこの状況に少し呆れ気味になつみ。
316 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)19時27分29秒
「・・・・・・・・・」
真希はただ無言のまま冷静にしていた。
こんなにも救いたいと思う自分のこの感情は一体何なのだろう。
どんな感情からこの感情が生まれるのか。
必死に冷静を真希は保とうとした。
少しでも気を抜くと自分がなくなってしまう。
彼女のことになるといつもそうだ。自分を忘れてしまう。
一つだけ確実に言える事、それはたとえ同じ言葉で表せる感情だとしても『あの人』に
対して抱いた感情と彼女に抱いている感情は違う物だということ。
全く違う。
どっちが良いとか悪いとかではなくいい意味で、だ。
『彼女』に対しては彼女に対してだけの感情を自分は持っている。
それがまだどんなものなのかははっきりとは分からないが・・・・。
その事実に真希は少し安心した。
彼女に対して『あの人』を重ねなくて済むからだ。
それだけは、嫌だった―――――
317 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月29日(木)19時28分07秒
「と、止めてください〜!!!ご、ご、後藤さんがぁ!!」
梨華は揺れる車体の中で必死に舌を噛まないようにしてしどろもどろになりながら
必死に訴えた。
「NO!まだあなたの力を見せてもらってないわ!どう報告すればいいのよ!?」
アヤカは少し八つ当たりに近い形で梨華に返事した。
「そ、それに!あの事件って何ですか〜!?」
「今はそれどころじゃないのよぉ!!」
アヤカは未だ質問してくる梨華と今の状態になぜか情けなくなりながら答えた。
大通りにやっと抜け出てアヤカは車をできる限りのフルスピードで通りを走らせた。
邪魔くさい車の間を華麗に抜けていく。
「ふふふ!アメリカ仕込みのハンドルテクニックを見なさ〜〜い♪!!!」
まるで人が変わったようにアヤカは車を走らせた。
「うわぁ・・・・・」
隣では今始めてアヤカの別な一面を見たのか驚いたような感心したような表情で
亜弥がため息混じりにアヤカの横顔と目の前のハンドルテクを呆然と見ていた。
318 名前:aki 投稿日:2001年11月29日(木)19時37分46秒
ここまでです。
モーたい見ながら更新してました(w
319 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年11月30日(金)00時45分57秒
なんと意外なところから語られはじめた『あの事件』。
それが矢口の言う『あの事』に繋がっていくのか?
う〜ん、アヤカの話も聞きたい。
でも中澤たちにも追いついてもらいたい。
うーん・・・
そんな、それよりカーチェイスなんてしちゃって大丈夫なのか!?
320 名前:aki 投稿日:2001年11月30日(金)22時09分09秒
319:M.ANZAIさん
>レスいつもありがとうございます。
 詳しくは言えませんが一つ、『あの事件』は『あの事』に少なからず関係してます。
 カーチェイスに関しては私もどうかと思いました^^;
 いいとしてもどう理由をつけよう・・・なんて考えてたんですけど
 まぁ大目に見てあげてください(爆)
 
 
321 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月30日(金)22時10分51秒
「こなくそぉ〜〜〜!!!!」
中澤は悔しそうに声を上げた。
アヤカのハンドルテクは確かに本物だった。
中澤の腕を持ったとしても中々追いつけない。
「あいつハワイ出身やったっけぇ?くそ〜!慣れ取るってことかいな!!」
ハンドルをきつく切らせながらサイドミラーで後ろを一応確認しながら中澤は
明らかに悔しくてたまらない声を上げた。
「なっちがタイヤでも狙おうか?」
「あかん。あのスピードでやったらバランス崩して周り巻き込みかねん・・・・。」
「一体どこに向かってるんだろう?」
「さぁ・・・・・巻こう思てることはないやろうけど・・・・・」

キキキキ―――――ッ!!!!!プップ――――ッ!!

目の前の梨華を乗せるワンボックスカーが突然進路を変更したため中澤は
話しながらハンドルをきつく回した。
それと同時に周りのトラックやら乗用車やらのクラクションが次々にまるで何かの
演奏のようにうるさく町に鳴り響いた。
322 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月30日(金)22時14分09秒
「やぁかましいぃ!だまっとけぼけぇ!!!」
中澤は叫びながら車のギアをがこがこ音を立てて変えた。
目の前はふっと車の数が一気に減っていた。
そしてストレートの長い直線が続いている。
「やっと得意分野や・・・・・ほな行くで!つかまっとき!」
中澤は車に乗り合わせる四人に言うとすぐにアクセルをハイヒールで目一杯踏み。
エンジンを荒々しく吹かせスピード全開でアヤカの車を追った。
「う、うわぁ!!!」
いきなりまるで宇宙戦艦がワープでもするかのように急に早くなったそれに全員が
車に捉まり悲鳴を上げた。





323 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月30日(金)22時19分05秒
「な、何なの!?あのスピード!!!?」
アヤカは後ろから確実にすごいスピードで距離を縮めてくるオープンカーに
目を見開き仰天した。
こんな都心の国道で時速100km以上は吹かしているだろう車が背後から
迫ってくる。
「・・・・BMWのスポーツタイプですね。この車じゃ勝ち目ありませんよ。」
亜弥が後ろから確実に迫ってくる車をサイドミラーで確認しながら至って普段通りの
口調で言った。
「なるほど。直線勝負はやめたほうがいいってことね。・・・・ならば変化球でっ!!」
アヤカはUターンに近いほどにハンドルを切り車を曲がらせると国道から抜けて
住宅街へと通じる通りへと出た。
「あ、あのぉ!!」
後ろから叫ぶ梨華の声は依然として二人には届いていなかった。



324 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月30日(金)22時22分54秒
「また狭い通りに・・・・・でもま、逃げれるとは思ってはないよな?」
中澤もすぐさまきついカーブを曲がりアヤカの運転する車の後を追った。
二つの車はほとんどスピードを落とすことなく狭い通りへと出た。
二車線しかない通りでアヤカはするりするりと狭いカーブを曲がっていく。
「そこの車!止まりなさい!!!」
なつみが椅子から身を乗り出し大きな声で叫んだ。
「うえ〜・・・・・なっちかっこいい〜・・・はあとはあと
すでに酔い気味の矢口は後部座席からなつみの勇姿を眺めていた。
前の車は止まる様子がない。
なつみは右手を拳銃の形にして人差し指を車に向けた。
「いいよね!?」
「・・・・・・ん、いいでっ!」
アヤカの車が再び大きな通りとこの通りの十字路を抜けたとき中澤がOKを出した。
325 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月30日(金)22時27分02秒
シュッ!

なつみは指から研ぎ澄ましたレーダーのような薄紅色の光を放出させた。
乾いた音と共にそれは一瞬のうちに車の前輪のタイヤの皮を擦った。
車がバランスを崩し必死に保とうとするのが分かる。
完璧にはコントロール不能にはしなかった。
車はよろよろしながら確実にスピードを落とし次の角を曲がった。
「観念しぃ!」
しとめた!と不敵な笑みを溢しながら中澤はハンドルを切らせた。



車はすぐ近くの公園の横の通りになんとか止められていた。
全員は車から飛び出すとそのワンボックスカーへと向かって行った。
「!いない・・・・・・」
「え?」
真希が小さく言った言葉にひとみが何か分からず聞き返した。
と、同時に中澤の大きな声が響いた。
「空や!誰もいないで!」
「・・・・瞬間移動か・・・・」
なつみがそれに気付き悔しそうに言った。
326 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月30日(金)22時28分50秒
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・・。もう既に何度も力使ってるんだから・・・・。
できたとしても・・・・近くだけじゃない?」
矢口は具合悪そうになつみに寄りかかりながら苦しそうに言った。
「!そうやな。既に移動能力はかなり発動させてるはず。できたとしても一回か二回やし
距離は・・・・遠くないはず・・・・・」
中澤は言いながらすぐ横の公園を見た。
緑が多いとてつもない大きな公園だ。
「!呼んでる・・・・・向こうから私達を・・・・呼ぶ声が聞こえる・・・・!」
真希は突然公園の方を呼ばれていたかのように振り向き徐々に確信していくように言った。
真希の突然の言葉に誰もが驚きそして一斉に全員がそっちへ顔を向けた。






327 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月30日(金)22時30分44秒





「そこの車!止まりなさい!!!」
「誰が止まるもんですか。」
アヤカはハンドルを右へ左へ忙しく回しながら後ろから聞こえる声にサイドミラーで
なつみの姿を確認しながら言った。
「と、止めてください〜・・・・・」
既に梨華も酔い気味だった。
口を手で押さえながらなんとかアヤカに対して訴える。
しかし亜弥にもアヤカにも梨華の声は届いていないようだった。
「どうします?あの分じゃタイヤでもパンクさせられちゃいますよ?」
「もううるさいわねぇ。・・・・この次の角を曲がると大きな公園があるからそこに
避難するつもりよ。」
「了解〜。」
アヤカの言葉に亜弥は後ろの梨華の席まで腰を折りながら歩いていった。
328 名前:Chase And Escape   投稿日:2001年11月30日(金)22時33分19秒
「あ、あの〜。降ろしてください〜・・・・・」
「すいません。緊急脱出です。捉まっててください。」
「へ?」
亜弥の言葉の意味が分からず聞き返したがそれ以上亜弥は梨華にどういう意味なのか
答えてくれなかった。
亜弥の周りにスッと音を立て一瞬にして薄いシャボン玉のような膜が張った。
「よっこらしょ・・・・・。それじゃアヤカさんいいですか〜?」
「わっ!」
亜弥はさっさと光の中から手を出し梨華の腕を掴みを同じ膜の中に入れその中がまるで
宇宙の無重量状態かのようになり梨華を軽々と抱っこするとアヤカに尋ねた。
それと同時に車内にバシュッと乾いた大きな音が響きがくんと車全体が左右に
揉まれるように揺れた。
「い、い、いいわよぉ!もうこの車限界よ・・・・」
アヤカが必死にハンドルを押さえつけ握りながら答える。
「本当は私も限界に近いんですが・・・・・とりゃっ!」
小さな掛け声と共に亜弥は瞳を閉じ一瞬にして集中し精神を統一させると力を発動させた。
「キャ・・・・」
梨華の悲鳴と共に車の中はもぬけの殻となった――――――





329 名前:aki 投稿日:2001年11月30日(金)22時36分50秒
更新です。
一つの作品にしぼられ再びものすごい更新に戻ったなと私自身も
感じているんですが、多すぎますか?
毎日更新ばかりしていて知らないうちにストーリーが流れていっていたり
してないか心配です。
ならゆっくり更新しろよって感じなんですが(w
330 名前:名無しです 投稿日:2001年12月01日(土)00時08分13秒
いえいえ全然です^^
すっごく読み応えがあっていいです^^
《あの出来事》がすっごい気なるのですが…(w

に、しても酔ってる梨華ちゃん可愛い(w

これからも頑張って下さいです。
331 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月01日(土)00時32分22秒
今日はじめて読みましたが、かなーり面白かったです!!
いしごま二人の気持ちの揺れ方もすごくいいです。
毎日更新ってのはすごいですね。続きが超楽しみです。がんばって下さい!
332 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年12月01日(土)02時21分10秒
なっち、カッコイイ〜♪
中澤さん、コワ〜ッ!

まだまだ簡単に『あの事』のなぞ解きをしていただけませんが、
充分にこの展開を楽しませてもらってます。

マジ走りで突進する真希に期待〜♪
333 名前:mode-rika 投稿日:2001年12月01日(土)10時44分02秒
今回は、ごっちんどんな風に梨華ちゃんを助けようとするのかな?
ワクワク・・・♪
334 名前:aki 投稿日:2001年12月01日(土)11時10分42秒
おっ!たくさんのレスありがとうございます(T_T)

330:名無しさん
>レスありがとうございます!
 更新に関していっつもどうかなと思ってるんですが
 いっつもそのたびのレスによって開き直れます(w
 ありがとうございます^^;
 『あの出来事』に関してはもう少し焦らしてしまうかも・・・
 すいませんv
 これからも頑張りますよ!

331:名無し読者さん
>レスありがとうございます^^
 お、まさか初めから読んでくださったんですか?ここまで長くなって
 から新しい読者さんが増える事はすっごく嬉しいですっ。
 面白いと感じて頂けてこれも嬉しいです(w やる気が出ますっ。
 がんばりますっ!

 

335 名前:aki 投稿日:2001年12月01日(土)11時18分31秒
332:M.ANZAIさん
>レスありがとうございます。
 なっちかっこよく書けて良かった^^
 中澤は私が後から読んでもなんか怖かったです(w
 すいません、『あの事』の謎解きはも少し後かな・・・。
 たぶんこの次の更新の真希の行動、楽しみにしていて下さい。
 ふふ・・・・(謎)

333:mode−rikaさん
>レスありがとうございます。
 ごっちんの救出劇、劇とまで行かないかもしれませんが少なからず
 期待しててください(w
 とか言っといて期待はずれな時が多いのであまり期待しすぎも
 危険なんですけどね^^;
336 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)19時52分44秒
「「キャア!!」」
一秒しないで三人は近くの公園の広場へと瞬間的に移動した。
今さっき連れ去られた時とは違い着地がかなりひどかった。
アヤカと梨華が尻餅をつく形になり亜弥はちゃっかり隣でしっかりと両足で着地していた。
「ちょっとぉ!ちゃんと着地しなさいよ!」
「だって・・・・これでも体力も限界なんですよ?一日最高でも5回ぐらいまでなのに
今日は石川さんのオーラ飛ばすのだってしてるし。」
「それにしたってこれはひどすぎ・・・・あたたた・・・」
「痛い・・・・」
梨華とアヤカは打ったお尻をさすりながらなんとか腰を上げた。
公園にはあまり人がいなかった。
日曜日といっても冬なので寒い。
たまにジョギングをする人やコートを着込み寒い中でも風にも負けず元気良く遊ぶ
子供達の姿があった。
「あぁもう、私が何したって言うのぉ?」
梨華は半分涙目で誰かに嘆いた。
337 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)19時58分12秒
「さっ!時間ももうないわ!早く力を見せて!」
「力って・・・・・あ、そうだ!その前に『あの事件』の続きを聞かせてくださいよ!」
「こっちが先っ!」
「こっちが先です!」
二人が言い合いしているのを亜弥はぼーっと見ていた。
「う〜ん。そういえば石川さんの力飛ばすのすごい楽だったけど・・・・・どのくらい
クリアの力を扱えるんですか?」
(ギクッ)
梨華はふと言った亜弥の言葉に心の中で変な罪悪感のような悪さをしたような気持ちに駆られた。
「どういうことよ!?」
「だから。つまりレベルの低い人はやりやすいんですよ。特に石川さんのオーラ飛ばすの
何の抵抗もなくてすごく楽だったから・・・・・」
二人の会話に梨華はなぜかすごくどぎまぎした。
今更になって自分がアヤカに能力を見せるのと交換でその『ある事件』について聞くという
取引をしたのを思い出したからだ。
はっきり言って、扱えないと言った方が正しい。
そして梨華自身がなぜか力を見せても扱いきれてないことを知られるのもまずいと
どこかで直感的に感じ取っていた。
338 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時05分04秒
(後藤さ〜ん・・・・・・・)
梨華は今さっきの真希の姿を思い浮かべながら情けない声で心の中で助けを求めた。
しかしアヤカと亜弥は話が一区切りついたようで梨華にスッと向き直り言った。
「もしかして・・・・・あなたまだ力を扱いきれてなかったりする・・・・・・・?」
「あっ・・・・・・」
アヤカのとっさに真剣な表情に変わり言った鋭い口調と言葉に梨華は再びぎくっとした。
今さっきとは違いアヤカを目の前にした今、すごく張り詰めた空気が流れ今更のように
怖くなってきた。
「私達にしてみればどっちでもいいんですよはあとはあとただどっちかはっきりしたいだけです。」
亜弥も微かに梨華に向かって距離を縮めた。
それに合わせて梨華も一歩後ろに退いた。
「わ、私・・・・・・・」
表情が険しくなり鋭くなった二人に梨華は両手を前に出して降参するように後ろに退いていった。
しかし二人は徐々に距離を縮めていく。


逃げられないようにアヤカが梨華の腕を掴もうとした時・・・・




339 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時10分37秒




「ちょっと待ったぁ!!!」
その場に一際大きい声が響いた。



「「!!?」」
アヤカと亜弥、そして梨華は同時にそっちにばっと振り向いた。
するとそこにはこちらに走ってくる中澤達の姿があった。
「中澤さんっ!!」
梨華がその姿に満面の笑みを浮かべた。
「な、な、何で分かるのぉ!?ど、どうすんのよぉ!」
「やばいです・・・・・」
「そうだ!移動して!移動!!」
「三人はもう限界ですよぉ・・・・・明日体ががたがたになっちゃいます。」
近づいてくる中澤達の姿にアヤカはパニックを起こし亜弥はもはや呆然としていた。
「限界を超えろ〜!」
「んな無茶な・・・・・・。」
しかし亜弥は言いながらもとりあえず重たい体を動かしアヤカとすぐ隣の梨華の手を掴んだ。
340 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時13分08秒
「え゛?」
「ん〜・・・・・・・・・行けぇ!!」
戸惑う梨華に構うことなく亜弥は必死に残された力を集め瞬間的に精神統一すると三人を
連れて再び移動しようとした。
三人の体が再びシャボン玉のような膜に包まれ空中に浮かぶ。



「!」
「裕ちゃん!どうすんのさ!」
空高く浮かんでいくそれを全員は下から成す術なく仰ぎ見た。
シャボン玉に包まれる三人が再びその場から消えようとした時・・・
「後藤さぁんっ!!」
梨華はほとんど涙目で真希の名前を呼んだ。
もう離れるのはやだよ・・・・・すぐ近くで顔が見たいよ・・・・・。


341 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時15分15秒



スッ!



「!!?」
中澤のすぐ横を風が抜けた。
風の余韻で髪が前に流れる。
何かと驚いてそちらを見るとそこにはなく目の前に真希の後姿があった。
そして真希は空中に浮かぶそれに向かって掌を向けた。
「あんた何を・・・・・・」
「梨華っ!!」
中澤が何をするか聞く前に真希の手から青い光が最大限に放出されていた。
青い光はそのままその三人の入る球体を飲み込み空に抜けた。
「キャ!何!?」
同時に三人を包む球体がパンッと音を立てて割れた。
亜弥が混乱して珍しくパニックを起こす。
なぜなら今日のこの一瞬までどんな物にも砕かれた事のないそれを割られたからだ。
そしてその後すぐに三人の体は地球の重力に従い地面に向かって落下していった。
342 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時16分25秒

「きゃぁ〜〜〜〜!!!!」
梨華は近づいてくる地面を見ながら悲鳴を上げた。


こんなところで死ぬなんて・・・・・


まったく知らない人間に良く分からないまま連れさらわれそのまま死ぬとは・・・・


真希の事、この世界で起きた事件の事、自分の気持ち・・・


「私まだ何にもしてな〜い!!!」
梨華はやけに近い形で叫んだ。

地面まで残り3m。

(もうダメだ・・・・・)
ついに梨華は瞳を閉じた。

と、その時――――――




343 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時17分49秒



ふわっ



「へ?」
自分を今までに確かに感じた事のある暖かい空気みたいな物が一瞬支えたかと思えば次に
自分の体は人のぬくもりの中にあった。
「大丈夫!?」
自分の顔の上で声がする。
それは自分が一番聞きたくて一番好きな声。
いつもとは違い必死で呼びかけてくれている。
梨華はゆっくり顔をそっちに向けた。
「・・・・・・後藤さぁん・・・・・」
自分の体をお姫様抱っこの形で地面で受け止めてくれたのは真希だった。
あまりのことで熱い涙が梨華の瞳から溢れてくる。
「・・・・・ごめんね、遅くなって。・・・怪我してない?」
「大丈夫ですぅ・・・・会いたかったぁ・・・・!」
真希は一瞬躊躇ったがありのままの気持ちを梨華に伝えた。
梨華も涙をぽろぽろ流しながらくしゃくしゃになりながら真希に答えそのままの
体勢で真希に抱きついた。
「・・・・・・もう大丈夫・・・」
真希はその梨華の体をそっと抱き返してあげた。
そして心の中で小さく梨華の言葉に答えた。
(私もだよ・・・・・・・)


344 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時19分48秒

矢口もなつみも、ひとみも腕を組んでその2人の姿に満足げに微笑んでいた。

そしてこちらは・・・・・



「落ちるぅ!!ってあら?」
「落ちてません。」
アヤカと亜弥の2人も地面に叩きつけられることなく無事着陸していた。
その体は二つとも薄い紫色の光によって下から支えられている。
「どういうことか・・・・説明してもらおかぁ!?」
徐々に降りてきた二人に中澤は怒りの表情に仁王立ちで下で待っていたように
2人に向かって迫った。
「「ひっ!!?」」
これにはさすがの2人も後ろに退いてしまった。
逃げようとするがすぐにその周りを矢口、なつみ、そしてひとみに囲まれてしまった。
「スカウトするってにも・・・・やり方がすこ〜しばかし荒っぽくない?」
矢口が責めるように2人に顔を近づけ問い詰める。
345 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時20分51秒
「あ、あ、・・・・・・・」
「こういうの好きはあとはあと
ひとみが慌てふためく2人におもしろそうに傍観していた。
「悪趣味・・・・・・」
横でなつみがひとみを横目に小さく呟いた。

「どういうこっちゃ?」
中澤が最後に再び話を戻し2人に尋ねた。
アヤカは覚悟を決め意を決したようにして下がった体を前に出し胸を突き出して言った。

「どうもこうも、スカウトですよ!スカウト!スカウトの下調べですよ!!」
開き直った口調でアヤカが中澤に向かって言った。


346 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時22分03秒
「それにしても手段が荒っぽいとちゃう?普通のスカウトとちゃうやん。」
「だって!みんな必死なんですよ!分かります?それだけクリアの能力は珍しくて
影響力が強いんです!私達がまるで突拍子もないことしてるみたいですけど今に
いろんなグループが彼女のことを狙ってきますよ!全てにくまなくデータが回ってるんだから!」
アヤカは息を切らせながら中澤に向かって叫んだ。
隣で亜弥が、そして2人の周りを囲む中澤以外の全員がびっくりしたように目を見開いた。


「・・・・・・・・・」
既に真希の腕から降りた梨華は少し離れた向こうで今叫んだアヤカの言葉に
不安そうに体を微かに後ろに退かせた。
「・・・・大丈夫・・・」
隣の真希は梨華の様子に気付きそっと肩に手を掛けてあげた。
「後藤さん・・・・・・」
「大丈夫だよ・・・」
梨華が真希に向き直り真希は梨華の目を見つめながら優しく再び声を掛け
そっと腰に手を回し抱きしめてあげた。
梨華も不安を消すようにしがみ付くように真希の体に抱きついた。

347 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時23分24秒
アヤカは梨華の様子に気付くことなくやけになった状態で言葉を続けていた。

「本部だって彼女を警戒し監視してる。いつまた『あの事件』と同じようになるか分かった
もんじゃないですよっ!このままじゃどうせまた『あの時』の二の舞よ・・・・・」
「アヤカッ!!」
小さ目の言葉で目を逸らしながら言った最後の言葉に中澤が大きな声で叫びそれを制した。
「っ!」
アヤカがそれに驚きびっくりしたようにして今にも泣きそうになった。
「・・・・・・・」
2人を囲んでいた矢口達も今のアヤカの言葉にどこか気まずそうに視線を外したりとした。
アヤカもそれに気付き流れる空気に今口にした言葉に対する罪悪感が生まれた。
「アヤカさん・・・・・」
「・・・・すいませんでした。口が過ぎました。だけどこれは警告でもあります。
そう受け取って下さい。もう二度と、あんな悲しいことはごめんです。」

アヤカも冷静さを取り戻し今の自分の発言に悪そうにして謝ると亜弥に目配せした。
亜弥もそれに小さく頷く。
最後の最後、本当に緊急脱出用に残り一回分の力は残しておいたのだ。
348 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時26分05秒
「私たちはこれで退散します。くれぐれも、気をつけて下さい・・・・。」
アヤカは最後にそう言い残すと亜弥の手を繋ぎ再び瞬間移動への準備に移った。
2人の体が今さっきのように空中にゆっくり浮かんでいく。
そして最後に梨華の方へ顔を向けた。
「!」
梨華はふとアヤカと目があった。
アヤカは口だけ動かし梨華に告げるとそれが言い終わったとほぼ同時に亜弥と共に
スッと姿を消した。
「アヤカさん・・・・・・」
梨華は消えていったアヤカを少し寂しげに、複雑そうに呼んだ。
(ごめんね)
その時言ったアヤカの表情はとても悪そうにしていて自分を気遣っていた。
悪い人じゃない。
最初に感じた通りだ。
なぜだか無性に自分も彼女たちに対して悪い気がして自分こそ謝りたい気持ちに
駆られた。
そして胸に新たに生まれる不安。
果たして自分の知らないところで何が起こっているのか。
何がこれから起こっていくのか、とてつもなく不安になった。

349 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時28分00秒
「・・・・・私・・一体どうしたら・・・・・」
「お〜い!いつまで抱きあってんのぉ?」
これからのことに不安げに小さく漏らした言葉の途中でからかうような大きなひとみの声に
よってそれが遮られた。
「!!」
梨華はその声に改めて今の自分の状況に気が付いた。
「・・・・・・・・」
真希もひとみの声と、それと同時に振り向いた中澤達の視線に気まずそうにした。
「ご、ごめんなさいっ!!」
梨華は急いでばっと真希の体から離れた。
「いいよ別に。・・・・・ていうか嫌だったならごめん。」
真希は不意に昨日の事を思い出し最後に付け加えた。
「嫌だなんて!・・・・そんなこと・・・あるわけないです・・・・・・」
梨華も真希の言い方に昨日の事が頭に過ぎり思い出したがすぐに微かに頬を染めながら
消えてしまいそうな声だがはっきりと最後まで想いを告げた。
中澤達が2人の側へと近づいてきた。
350 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時28分32秒
「ん?なんかあんた紅茶くさいで。」
「あ・・・・・紅茶を被っちゃったんです。車の中で貰ったんですけどその後の
急発進で・・・。」
「あいついっつもバッグの中にお茶道具持ってんねんな。」
中澤が思い出すようにして笑いながら石川の頭にぽんっと手を置きくしゃっと撫でてやった。
「良かった。梨華ちゃん無事で。」
「被害は紅茶だけだったと。」
矢口となつみも安心したように微笑みながら言った。
「それにしてもびっくりしたよ。真希が突然駆け出したかと思ったら名前呼び捨てで
空から落ちてきた石川さんを抱きとめてるんだもん。一体どうしちゃった?」
「!」
「・・・・・関係ないでしょ。ほっといてよ。」
梨華はひとみの言葉に今さっきの真希の言葉を思い出しすぐさま頬をぼっと紅く染めた。
真希は嫌なところを付かれたように気まずそうにすると視線を横に外しながら
ぶっきらぼうに答えた。
351 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時29分46秒
「ふ〜ん?」
ひとみが顔を背けた方向へ下からまじまじと覗いた。
「・・・・・・・・」
真希はそれから逃げるように後ろへ体を回してそっぽを向いた。
「・・・・・・・」
梨華はその後姿を胸に両手を当てながら見つめていた。
(そうだよ・・・・・あの時後藤さん・・・・・)
梨華は今さっきの真希が呼んだ言葉を思い出し一人どきどきしていた。
「んじゃ行こか。」
「そうだね。」
中澤となつみは車を止めた場所へと歩き出した。
「帰りは静かに運転してよ?」
「さぁ、どうしよっかな〜♪」
矢口の言葉に中澤がおもしろがりながら答えいろいろ話しながらその場を離れていった。
「あっ・・・・・・・」
梨華はその三人の離れていく後姿に何か言いかけたがやめた。
352 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時31分08秒
「それじゃあたしも行こっと。ここにはお邪魔そうだし。」
ひとみは面白そうに笑いながら向こうへと駆けていった。
「・・・・・・ったく・・・」
真希はそんなひとみに小さくぼやいた。
「・・・・・・・」
梨華は後ろでそんな四人の姿に何か言いたそうにしていた。
「・・・・どうかした?」
「・・なんでも・・ないです・・・・・。」
スッと後ろを向きどこか様子がおかしい梨華に真希が声を掛けた。
梨華は何かは真希に答えなかった。

(あの事件、あの時、それに本部って・・・・・・)
今さっきのアヤカの言葉はとてつもなく梨華に謎を残した。

まだ解き明かされていない謎にプラスしてまた分からないことが増えた。
確かなものは自分という存在と自分を包んでくれる仲間達だけで、
それ以外のもの全てが正体の分からない霧に包まれているような物に思えた。
知りたかったことが明らかにならないまま新たに増えた謎と不安。
アヤカがそれを口にした時の中澤達の様子。
気になって仕方がなかった。

だけど、今のこの居心地のいいほっとする空気も消してしまうのも嫌だった。
353 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時31分42秒
(これから一体何があるんだろう・・・・・)
梨華はとてつもなく不安になり自分の体を抱きしめるようにした。
「・・・・・・・」
俯いたまま沈んだ様子の梨華に真希は心配そうに見つめていた。
真希の瞳にはその梨華のしぐさが寒さや何かでしているとは思えなかった。
「ねぇ。」
「は、はい!?」
不意に掛けられた言葉に梨華はびっくりして顔を上げた。
354 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時33分32秒
「今さっき私が言った言葉覚えてる?」
「え?」
突然のことに梨華は何のことかすぐに分からず思い出せなかった。
真希は正面から梨華の瞳をまっすぐ見つめながら言葉を続けた。
「『大丈夫』って、言ったと思うんだけど。」
「あ、はい。そうです。」
梨華は慌てながら返事した。
どこかいつもの真希の雰囲気はそこにはなくとても自分と彼女の距離が短く思えた。
「あの言葉、覚えといて。」
「・・・・え?」
「・・・どんな時でも必ず・・・私が助けるから・・・・・・・守ってあげる。」
「!・・・後藤さん・・・・・・」
真希は梨華にそれだけ言うと梨華を置いて中澤たちの向かっていった方向へ
歩き出していった。
突然の真希の言葉に梨華はただ呆然とぽかーんとしてそこに立ち尽くしてしまった。
355 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時34分20秒
「え・・・・え?・・・えぇえ!?」
今の言葉を頭の中で必死になんとかリピートさせて最後にその意味が分かった後梨華は
悲鳴に近い声を上げた。
そして顔を再びぼんっと一気に赤く染めた。
(い、今のって・・・・・・)
どういう意味が含まれるのか一体どういうつもりなのか分けが分からず梨華は一人
取り残された芝生の広場の上で動揺し混乱していた。
彼女のぶっきらぼうだけどそんな単純な一言が、不安なんて物を跡形もなく
取り除いてくれたのに気付くのはもう少し後の事だった。




356 名前:求め合う魂 投稿日:2001年12月01日(土)20時35分08秒
「・・・・・・・・」
(私今・・・・・何て言った・・・・?)
真希の耳には大きな梨華の悲鳴は届いてなかった。
今口からとって出た言葉に真希自身が驚いていた。
『守ってあげる』
確かに自分はそう言った。
どういう意味が含まれるかなんて真希自身にも分からない。
(あの時のことは・・・・・・・)
含まれてない。
絶対に違う。
真希は最後にきつく否定した。
あの時『あの人』を守れなかったからじゃない。
ただ単に、彼女に対して思ったことだ。
守ってあげたいって―――――――




357 名前:aki 投稿日:2001年12月01日(土)20時35分47秒
更新です。
358 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月01日(土)20時48分46秒
ゴチンカコエー
359 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年12月01日(土)23時33分14秒
梨華をお姫様だっこする真希・・・・絵になりますねぇ。

中澤とアヤカはやはり顔見知りだったんですね。
亜弥のことは知らなかったみたいですけど。
またもや『あの事』のなぞ解きは先送りになってしまいましたが、
実はアヤカも『あの事件』に心痛めている風な様子が伺われ、
ますます真相が知りたくなってしまいます。

『守ってあげる───』
心強い言葉なのですが、さらなる梨華の受難を暗示しているようで・・・
360 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月02日(日)00時55分37秒
いいねぇ。言葉を変えた告白だね。
361 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月03日(月)10時36分04秒
めちゃめちゃおもしろいっす!
更新のチェックが毎日楽しみです。
クールだけどかっこいいごっちんから目が離せません!
これからも頑張ってください!!
362 名前:aki 投稿日:2001年12月03日(月)11時31分03秒
レスたくさんありがとうございます(T_T)

358:名無し読者さん
>レスありがとうございます。
 私から見ても今回のごっちんはいつしかこんなに
 かっこよくなってました。
 
359:M.ANZAIさん
>ありがとうございます。
 絵になりますか、良かったです(w
 『あの事』、『あの事件』これらに関してはもしかしたらもう少し
 後になるかもしれません。
 もうしばらくお待ちください^^;
 お、鋭いですね。何とも言えませんがこれからも何かが待ち受けてる
 ことは確かです。
 そういえば言われて気づきましたがハロモ二のあれでも手を肩に置いてますね^^;

360:名無し読者さん
>レスありがとうございます。
 そうですね、これってある意味無意識だけど告白かもしれません。
 いい感じに書けて良かったです(w
 
361:名無し読者さん
>レスありがとうございます^^
 おもしろく感じて頂けてこちらもすごく嬉しいです。
 やっぱり恋愛物にしてもシリアスでもコメディーっぽくても作品自体に
 『おもしろい』が重要ですね。
 書くたびに次がクライマックスかのように書いてます(w
 毎日更新チェックありがとうございます(T_T)
 ごっちんかっこいいで人気ですね(w
 これからも頑張りますっ。 
 
 
363 名前:取り巻く物達    〜いずれの当事者〜 投稿日:2001年12月03日(月)18時26分48秒




「何ですって!?」
「んわっ!あんまりドアップで顔近づけないでくださいよ・・・・」
「失礼ねっ!どういう意味よ!」
「そのまんまですよ・・・・」
ここは彼女達の職場。
保田は加護の言葉にびっくりしたように声を上げた。
加護がそれに耳をふさぎながら迷惑そうな表情をして保田を見た。
「もうスカウトされたなんて・・・・・」
「それにしてもアヤカさん達慌てすぎですよね。」
翌日。
昨日のことは全てのグループ、つまり保田達の元にも話は伝わっていた。
保田はその事実に今驚愕していた。
いくらなんでも早すぎる。
操作系を扱う能力者としてはレベルが高いことで有名な加護の作った塔を破ったからか?
そしてその時溢れ出した石川のオーラの凄さに?
それとも滅多に目にしない稀な能力、クリアする力を秘めているから?
潜在能力が計り知れないから?



364 名前:取り巻く物達    〜いずれの当事者〜 投稿日:2001年12月03日(月)18時28分11秒
(どれも・・・・当てはまるじゃん・・・・)
さまざまなグループが彼女を狙う理由は結局は全てが原因だろうと密かに思い知らされ
保田は胸の中で微かに納得した。

元々アヤカはあんな性格だが滅多に冷静さを失わない彼女だ。
それがあんなに焦り大胆な作戦を取ったところ結果失敗するなんて今までに聞いたことがない。

それだけみんなが焦っている・・・・・。

(これじゃぁ・・・・・・)
保田は不意に『あの事』が頭を過ぎるのを感じた。
しかしすぐにそれを頭を振り拭い去った。
「もう亜弥ちゃん達の所スカウトに出たんかぁ。いいなぁ。うちも梨華ちゃんと一緒に
仕事したい!」
加護は全く保田のようなことは考えず至って普段通りソファに体を横にさせながら言った。
「梨華ちゃんと同じグループになったら楽しいだろうねぇ。」
辻も向こうから湯気の立つコップを持ってきながらこちらの話に加わった。
365 名前:取り巻く物達    〜いずれの当事者〜 投稿日:2001年12月03日(月)18時29分08秒
「圭ちゃん・・・・・・」
飯田だけは保田と同じように不安げな表情を浮かべ保田の名前を呼んだ。
「・・・・大丈夫。裕ちゃん達が付いてるもの。絶対に、大丈夫だよ・・・・」
保田は力なく微かに呆然としながら飯田に答えた。
「「・・・・・・・」」
ソファに寝転がる加護もコップを口にした辻も、保田達の雰囲気、そして会話に
何か気づき不意に沈んだ表情へと変えた。

「・・・・・・」
一変して変わった部屋の空気に保田は黙ったまますぐそこの窓へと向かっていった。
下では本当に小さく見える車がまるでおもちゃのように上と下とでそれぞれ違う方向へ
走っていた。

「・・・・お願い・・・・」
(あんな悲劇はもう、二度と起こさないで・・・・・)
保田は窓に向かって両手を組み祈るように空へ願いを込めた。

絶え間ない笑顔が、いつまでも続くように―――――――




366 名前:取り巻く物達    〜いずれの当事者〜 投稿日:2001年12月03日(月)18時30分49秒


――――――――



「失敗したぁ!?」
「「す、すいませんっ!!」」
あれからアヤカと亜弥はなんとか移動はできたものの亜弥の力が予定以上に限界に
近かったためそのまま自分達のグループの会社へと戻る事が出来なかった。
結局その結果タクシー代をはたいてさいふを空っぽにしなんとか明け方ここで
たどり着いたのだ。
既に亜弥の体は全身筋肉痛に近い物になっており歩くたびに小さな悲鳴を上げていた。
社長室に座る二人よりも少し年上のどことなく中澤に似てる彼女が2人の報告に
驚き声を上げた。

「どういうこと?それ。どの範囲まで失敗したのさ。」
「え・・・と・・・・・・」
アヤカはじろっと睨まれそれから視線を外し下から亜弥と目を合わせながら返答に
困った。

367 名前:取り巻く物達    〜いずれの当事者〜 投稿日:2001年12月03日(月)18時31分54秒
「どこまで?と聞いてるんやで?」
「つまりその・・・・・・」
はっきり言ってしまえば全くの失敗ではない。
たぶん、彼女の力はまだ完全にはコントロールしきれていないことが分かった。
だけどどうしてか、梨華のことをありのまま分かった事実を報告はしたくなかった。

「・・・・・・・」
アヤカは再びちらっと亜弥を見た。
何が言いたいのかそれで分かっているのか亜弥も小さくそれに頷いた。
アヤカは亜弥のそれに感謝し顔をあげ平家の顔を正面から見据えながらはっきりと言った。

「何も分かりませんでしたっ。」
「・・・・・・は?」
一旦どういう意味か分からず聞き返す。
しかしアヤカは依然として答えを変える気はないらしかった。
まっすぐに負けじとこちらを見返してくる。

368 名前:取り巻く物達    〜いずれの当事者〜 投稿日:2001年12月03日(月)18時32分52秒
「あんた今・・・・な・に・も分からなかった・・・って言った?」
「言いました!」
「・・・・・・・・」
嫌に腹を決めて言うアヤカに隣の覚悟を決めたような亜弥に平家は怒りを通り越して
あきれ果ててしまった。
はぁと重たい空気を口から溢す。

「どうしちゃったん?あんたら。失敗なんてここ長い事したことなかったやん?
結構重大な仕事やからあんたたち信じて任したのに・・・・・」
「「・・・・・・・・」」
平家の言葉にアヤカと亜弥は怒られると思っていたためすごく罪悪感を感じた。

自分のグループ個人で手に入れた情報は全てがそのグループによって手に入れられるが
やっぱり新しい情報や噂という物は自然と周りのグループにも回るものだった。
平家に限って誰かに密告したり情報を漏らしてしまったりするとは思えなかったが
少なからず自分達が今口にし言葉にすることによって梨華達に危険が回らないとは
絶対とは言い切れなかった。
369 名前:取り巻く物達    〜いずれの当事者〜 投稿日:2001年12月03日(月)18時33分49秒

(本当どうしたのかしら、私・・・・・)

『仕事』として行ったはずなのに、いつのまにか彼女たちを守るようなことをしている。
それはまるで『あの時』に抱いた感情に似ているような気がした。
自分達から一方的に知り合いと名乗ってほんの少しの間時間を共にしただけなのに
アヤカも亜弥も梨華のことが好きだった。
もちろんそれは中澤達にも言える。
同じ『力』を持つ者同士仲間として・・・・・・。


「もうええわ。怒る気もなくした。朝帰りで疲れ取るやろ?よう休憩取ったりや。
はい、下がってよろしい・・・・」
「「すいません・・・・・」」
力なくして言う平家の言葉に2人は本当に申し訳なく謝った。
そして2人はそこから離れ少し離れたソファの上に体を休めるように寝転がった。
370 名前:取り巻く物達    〜いずれの当事者〜 投稿日:2001年12月03日(月)18時36分04秒
「ふぅ・・・・・」
平家は座る大きな皮の椅子から足で地面を蹴り部屋に椅子の背中を回し後ろへ向いた。
ため息混じりにすぐに真剣な険しい表情へと戻る。

「『あいつら』だけには・・・・・彼女は渡されへん・・・・・・・」
一人呟いた声はアヤカ達には届いていなかった。






真希達の梨華を救出するところを、見ているものはあと一人だけいた。




371 名前:取り巻く物達    〜いずれの当事者〜 投稿日:2001年12月03日(月)18時36分54秒





「それは本当か?」
「はっ、絶対とは言い切れませんがまだ力の全てをコントロールし切れていないと・・・・」
「はは・・・・・それはいい知らせだっ!こちらとしては扱いきれていないほうが
好都合だからな・・・・・」
「私の他にも本部の人間が彼女達を監視しているようです。無論こちらの動きも・・・」
黒づくめの男二人がある一室で話していた。
「そうだな。慎重だけでもチャンスを逃してしまう。慎重かつ大胆にそして具体的に
『あの計画』を進めていく必要があるようだ。」
「はい。」
「ふっ・・・おもしろくなってきそうだ・・・・」
長身で茶色のサングラスを掛ける男は愉快そうに言った。
それに秘書らしき男も口元を緩め同意する。
梨華の不安は、不幸にも確実に当たっていた。



372 名前:取り巻く物達    〜いずれの当事者〜 投稿日:2001年12月03日(月)18時37分46秒


――――――――



「中澤のグループを中心にこの世界が再び混沌を渦に巻いていっています。」
「そうか・・・・・・」
「石川梨華を狙うグループの中でも社長の言われたとおり目をつけていた『あの』グループも
なにやら不穏な動きを見せています・・・・。」
「どうやら、対処はそうゆっくりはしていられないようだな・・・・」
こちらはビルの一室。
電気もつけずただ窓のカーテン越しに薄く入ってくる光だけの部屋で秘書らしき見るからに
真面目そうな男と少し太めの男性が椅子に座りながら話していた。
その机の上には梨華の写真がある。
「一体『あの』グループは何を考えているんでしょう・・・・」
「分からん。だが良からぬことを考えているのは必至だな・・・・・」
それを最後に二人の間に会話はなくなった。
太目の男は椅子に座ったまま梨華の写真を手に取った。
「彼女は再び破滅を呼ぶのか?それとも・・・・・・・」
小さく漏らした言葉は途中で切られた。
写真に写る彼女の胸にまだ不安という感情しかなかった。
自分がどれだけ周りの全ての物対して計り知れない影響を与える力を持っているなどとは
微塵も感じていなかった
彼女達を囲む全ては目に見えないところで何かしら動きを見せていた。



373 名前:aki 投稿日:2001年12月03日(月)18時39分16秒
今日の更新はここまでです。
今回のシーンはサブタイトルに全ての意味が含まれてます。
あぁ、近頃私自身がいしごま不足・・・・・(爆)
374 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年12月03日(月)20時50分57秒
弱った、謎が深まってしまった。
『あいつら』って?

唯一解ったのはアヤカ・亜弥を取りまとめるのが平家…
375 名前:aki 投稿日:2001年12月04日(火)19時48分39秒
374:M.ANZAIさん
>謎が明らかにならないまま増えてしまいますね、ごめんなさい^^;
 『あいつら』もたぶんこれから重要なグループになってきます。
 平家も突然登場することになりました。
 まさかこんなに人数が増えるとは思ってもませんでした。
 
376 名前:運命のいたずら 投稿日:2001年12月04日(火)19時51分28秒



「う゛〜・・・・・・」
梨華はカウンターの椅子に座りながらやるせないような声を唸るように出した。


「何唸ってん?」
「なんでも・・・・・ないんです・・・・・・」
そんな梨華に不思議がりながら前の中澤が尋ねたが何かは答えられず答えなかった。
「真希が無視すんだよねぇ?」
「!」
不意に掛けられたひとみの言葉に梨華は体全体でびくっとした。
「あら。そうなんか。」
「・・・・・そうなんです・・・。」
あれからちょうど一週間。
バーに入るときに入れ違いになったり、来たら真希の方が早く来ていたり逆に自分が後から
来たりと二人だけの時は少なからず結構あった。
しかしそのたびに自分が何か話しかけようとしても真希は興味なさそうにあまり言葉を
交わさないように部屋を出て行ってしまうのだ。
そしてやたらに仕事ばかりに出かけている。
377 名前:運命のいたずら 投稿日:2001年12月04日(火)19時52分44秒
「後藤さん・・・・・今日も仕事ですか?」
「ん?あぁ、そういえば今日も後藤のやつ仕事やな。」
真希はあれからかなりの仕事をスケジュールに入れていた。
それは周りが見ても分かるほど。

「真希のやつ何仕事励んでんだろ?お金でも貯めてんの?」
「さぁ、それは分からんけど入れられるだけ仕事入れろって言うてたからいつもなら
引き受けない仕事もめっちゃ引き受けたんやけどな。」
「きっと・・・・・私を避けるためです・・・・・・」
梨華は見るからにネガティブな落ち込んだ様子で小さく沈んだ口調で呟いた。

「あん?」
「あぅ〜・・・・・何でだろう・・・・・?」
梨華はついにいつもでは躊躇うがカウンターの上に体を突っ伏した。
378 名前:運命のいたずら 投稿日:2001年12月04日(火)19時53分36秒

『守ってあげる』
あの時の言葉は夢だったんだろうか?
つい一週間前のことがこの現実と比較すると甘い夢のように思えてくる。
あの時は幸せ絶好調だったのに・・・・・。
夢でも魔法でもいい、それでもいいから解けないでよ・・・・・。
あの時のぬくもり、少し切なげにまだ残ってる。

「はぁ・・・・・」
梨華は机に突っ伏し顔を隠してしばらくその体勢ですっかりネガティブに浸っていた。

「・・・・・・・・・」
ひとみはその梨華の姿を後ろからなにやら意味深な表情で見ていた。
「やれやれ。」
中澤はいつものことと勝手に決めつけため息混じりにグラス拭きに取り掛かっていった。



379 名前:運命のいたずら 投稿日:2001年12月04日(火)19時55分17秒
梨華がため息混じりに完璧にネガティブに入っている頃・・・・




―――――――――




「あぁ、疲れた・・・・・・」
仕事帰り。
真希は頑丈だが軽量でしかもコンパクトにデザインされている四角いバッグを片手に
持ちながらため息混じりにもう片方の手で自分の肩を揉んだ。
近頃仕事を詰めすぎだとは自分でも分かっていた。
こんなに仕事だらけの日々は初めてだった。

「・・・・・・・・・」
もう夕方の陽が落ち暗くなり始めた空を仰ぎ見た。
彼女とまだ顔を合わしたくない。
まだ普通に会話するわけにはいかない、してはいけない。
罪に甘えて縋った自分をまだ許すわけにはいかない。
だけど彼女は自分に接してくる。
それを交わす方法は、これしか見当たらなかった。

「・・・・・ごめんね・・・・」
この前の自分の行為、そして今の自分の行動、それらを含んだ全てに真希は
何かに誤った。
(こんな不器用なやり方しか知らないの・・・・・・・)
真希はバーへと向かう足を速めた。
外は既に暗くなり始め風も冷たく突き刺さるほどになってきた。




380 名前:運命のいたずら 投稿日:2001年12月04日(火)19時56分37秒




「ただいま。」
「お帰り〜」
言いながら入った自分を出迎えたのはひとみだった。
「・・・・・他には?」
他に誰かいないのかと辺りを見渡した。
「いないよ。それあの引き出しに入れとけって中澤さんからの伝言。」
「あっそ。」
真希はそれだけ答えると『あの』引き出しへと向かっていった。
カウンターの一番奥にあるその引き出しは埃を目一杯に被っていた。
バーの出入り口同様、その引き出しの壁の一部を触りキーボードを現せると『この』
仕事専用の暗証番号を打った。
「・・・・・・・・」
キーと音を立ててロックが外れた音が響きその後すぐに引き出しが微かにかちっと音と
共に開く。
真希はそれを引きバッグから中身を取り出しそこに入れ再び引き出しを閉めた。

381 名前:運命のいたずら 投稿日:2001年12月04日(火)19時57分28秒
「!・・・何よ。」
「何でも?びっくりした?」
後ろに振り向くとすぐそこにひとみがいた。
真希が操作して中身を入れたのを見ていたのだ。
「ちょっとね。」
「あれ?いつもなら『別に』とか言うのに今日はやけに素直じゃん。」
「・・・・・いけない?素直じゃ。」
「ほら。いつもならここで『ほっといてよ』とか『いいでしょ別に』とか言うのにさ。」

ひとみの続けての言葉に真希もついに顔をしかめた。
「ごめんごめん。気にしないで。」
ひとみは両手の掌を前に出し弁解するようにして言った。
「・・・・・もう私帰るから。」
真希はひとみの横を通りカウンターから出るとコートを取った。
382 名前:運命のいたずら 投稿日:2001年12月04日(火)19時58分37秒
「待ってよ。」
不意にひとみは真希を呼び止めた。
真希も今さっきとは変わったひとみの口調にすっと何も聞かないまま振り向いた。
「訂正。今日はじゃなくて近頃だった。」
「何が。」
「真希が素直になったってやつ。もっと正確に言うと『彼女』が入ってきてからかな?」
ひとみもカウンターから出てくるとゆっくり真希との距離を縮めながら近づいていった。
「・・・・・またその話?」
真希はため息を最初にこぼし呆れたように言った。
「呆れないでよ。しつこいってことぐらい自分でも分かってるんだからさ。」
「ならなんで聞くのさ。」
「気になるから。それ以外に何がある?」
ひとみは両手の平を上げていかにも疑問するようにして言った。
383 名前:運命のいたずら 投稿日:2001年12月04日(火)20時00分14秒
「気になるだけで関係していいんだ?ひとみの中のルールって。」
微かだが明らかにいらつきと怒気を含めながら真希が言う。
それには答えずひとみは自分の言葉を真希にぶつけた。
「この一週間。彼女を助けたあの時から仕事詰めてるみたいだけどそれって何で?」
「・・・・・・・・」
「答えられない?嘘だ。じゃあ変わりにあたしが答えてあげるよ。それは彼女を・・・」
「うるさいっ!」
言いかけたひとみの言葉を遮るように真希は怒鳴った。
ひとみが微かに驚いたようにしてそのままの体勢で真希を見返した。
「やめてよ。いいじゃん別に。関係・・・・ないでしょ・・・・・」
「・・・・・あんた彼女のことどう思ってんの?」
「・・・・・・・・」
ひとみの一瞬黙ったがその後に一番話の中心的な部分を聞かれ真希は視線を横に
外しながら黙ってしまった。
384 名前:運命のいたずら 投稿日:2001年12月04日(火)20時02分05秒
一瞬躊躇った自分がいた。
だけど気づいたら口からとって出ていた。
それは自分が一番聞きたかったこと。
はぐらかして話していたけどついに口から誤魔化しのないありのままの疑問が飛び出た。




「・・・・・・・・」
目の前の真希は黙ったまま何が言いたそうだが口を閉ざしていた。
「もしかしてまだ分かってないの?それって無意識の感情の上での
意識下の行動ってやつ?」
「やめてっ!!何なのよ一体・・・・・・それじゃあひとみは何でこんなこと
聞いてくるのさ!!?」
真希も冷静でいられなくなり怒鳴るようにして嫌に落ち着いているひとみに向かって叫んだ。
「え?」
「どうしてそんなこと聞いてくるのかって聞いたの!!」
確かに聞こえているのに戸惑うように聞き返してくるひとみにいらだちながら再び
怒鳴るように言い放つ。
「・・・・・・・・・」
今度はひとみが黙ってしまった。
何か言おうとするのに口だけ勝手に開き後に言葉が出てこない。続かない。
385 名前:運命のいたずら 投稿日:2001年12月04日(火)20時03分31秒
「・・・そうだよね。あたし何でこんなこと聞いてんだろ・・・・・。」
気づかないうちにそんな疑問が口から零れていた。
動揺していることがばれないように、戸惑っていることが悟られないように、ひとみは
至って普段通りを装って真希の前に立つようにした。
逆に真希は、そんな余裕はなく確かに感情を露わにしていた。
二人の間に会話がなくなり、沈黙が流れ始めたその時、





―――――カタッ・・・


「すいませ〜ん、忘れ物・・・・・・って、あ・・・・・・・」
運命のいたずらかそれともただの偶然か、真希とひとみだけだったバーに
他でもない彼女が姿を現した。

運命に呑まれて晒されて、そして囚われて、その姿を見て神様は楽しんでいるの?

ただの偶然には思えなかった。

『運命』という目に見えないものに、確かに振り回され、導かれているような気がした。



386 名前:aki 投稿日:2001年12月04日(火)20時04分50秒
う〜ん、センス0なサブタイトル・・・・。
感想何でもいいので下さいv
387 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年12月04日(火)22時09分53秒
梨華に対する真希の態度に、それはないよと思いつつ、
真希自身も何らかの葛藤を抱え込んでたんですね。
そして傍観者として冷静さを保ってるはずのひとみも
ついに自分の中からの声に動かされはじめましたね。
さあ、これから彼女達が何を感じどのように動くのか、すごく楽しみです。
そしてあの種証しも…
388 名前:読書の秋 投稿日:2001年12月05日(水)06時02分49秒
akiさんて「とある」と「もてる」書いておられた方ですよね。
昨日読ませていただきました。
こちらでも書いておられたのですね。
月板の甘めとは違い、こちらはかなり謎の多い小説なようで。
やばいくらい続きをたのしみにしています。
389 名前:闇の住人 投稿日:2001年12月05日(水)12時34分26秒
後藤ー、素直になれよ。
もしかして吉澤がキューピットっすか?それとも吉澤も・・・
それにしてもあの事って何なんでしょう。気になるー!
390 名前:aki 投稿日:2001年12月05日(水)21時11分12秒
たくさんのレス本当にありがとうございます(T_T)

387:M.ANZAIさん
>レスありがとうございます。
 やっぱりこの小説での後藤はすごく真面目で純粋で・・・ってな感じなので
 こういう行動に出てしまいました。
 ひとみも、少しづつ変化が見えてきましたね。
 これからもがんばりますっ。
 風板で書かれている物もとてもすばらしく拝見してます^^;
 いしごま少ないんでかなりきついです・・・・(w

388:読書の秋さん
>初めてのレスありがとうございます。
 そうですそうです。ずばりその人物本人です^^;
 この前の月での作品は楽しく書けたしたくさんの読者さんが
 読んでくださったみたいで本当に今更嬉しい気持ちで一杯です。
 発見してくださってとても嬉しいです。
 続きもがんばりますっ^^

391 名前:aki 投稿日:2001年12月05日(水)21時15分21秒
389:闇の住人さん
>初めてのレスありがとうございます。
 この前の件は本当にすいませんでした^^;
 お、いい所をつきましたね。吉澤は・・・果たしてどちらでしょう・・・。
 『あの事』はもうしばらくすると・・・・いやもう少しかかりそうです^^;
 がんばります!
 闇の住人さんもがんばってくださいねっ!
392 名前:今、この時間だけは・・・・  〜繋がった?二つの想い〜 投稿日:2001年12月05日(水)21時24分04秒
「あ、あの・・・・・・・」
梨華は姿を見るなり真希の名前を呼んでしまうのは余計に嫌がられるかと思った。
しかしそれ以外に上手い言葉も出てこない。
「・・・・・・・・」
真希も、ひとみも突然の梨華の登場に戸惑い動揺していた。
姿を見つめるだけで言葉が出てこない。


(なんでこんな時に・・・・・・)
真希は胸の中で小さく今の現状を恨んだ。
ひとみと今話していたためただでさえ冷静さを失いかけているのにそこで彼女が
来たんじゃ・・・・。


「私帰るから。」
真希は2人を無視して帰ろうと出入り口へと向かって行こうとした。
「あ・・・・・・・」
すぐそこの梨華が小さく残念そうに落ち込んだように声を漏らしたのが聞こえる。
だけどここで立ち止まるわけにはいかない。
393 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時25分21秒
「ちょっと待って。」
それなのに、自分の腕はその言葉と同時に後ろから掴まれていた。
振り向くとそこには真剣な面持ちのひとみが真希の腕をきつく掴んでいた。
「・・・・まだなんかあるの?」
「今のあんたの言葉、考えとく。それと、帰るのはあたしが先。」
「何でよ。」
「答えなんてない。後ね、あんまりそうじれったい行動取ってると・・・・・」
ひとみは真希の耳元に口を近づけ小さく囁いた。
「!」
それに真希が小さくびくっとする。
「それじゃあね。」
ひとみは不敵な笑みを残しバーを出て行った。



394 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時26分26秒
「あ、あの・・・・」
梨華は2人の会話がどういうことなのか分からずただおろおろしていた。
「後藤・・・・さん・・?」
「・・・・・・・」
真希はひとみが出て行った後もしばらく固まったようにそこに立ち尽くしていた。
ひとみが何を真希に言ったのかは分からないが確かにその時真希の体がびくっとしたのが
梨華の目からも分かった。
しかし気まずい雰囲気は流れ梨華は結局真希が何か言い出さない限り何も声を掛けることが
できなかった。
この前のことも、2人っきりになるとどうしても頭の中に記憶が思い出されていた。

395 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時29分09秒
「・・・・・何なのよ一体・・・・」
真希は小さく聞こえるか聞こえない程度の声で小さく呟く。
『取っちゃうよ?』
今、ひとみが言った言葉が頭の中にこびり付き離れない。
どういう意味なんて、聞かなくても分かっていた。
真希は黙ったままちらっと梨華を見る。
目に映る梨華はこちらを見ながらおろおろしていた。
(取るんなら勝手に・・・・・・)
やけになって胸の中でそう呟くが最後まで言葉は続かない。
「あの・・・・後藤さん・・・・・・」
長い沈黙の中、梨華がそれを破った。
「・・・・何?」
真希は静かにそちらへ向き直り一度小さく息を吸うと梨華に答えた。
396 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時32分45秒





「どうしてかな〜・・・・・」
ひとみはコートの中に手を突っ込みながら通りを歩いていた。
(何であんな事真希に聞いたんだろう・・・・)

今さっきの真希へ言った言葉が離れずにいた。
そして真希に聞かれた時の質問も頭から離れない。
今さっきの言葉はいつものように真希をからかうために言ったと言う事もあるが
それにしてもその時の自分の感情はいつもとは違うものだった。
からかうためじゃない、となると・・・・・

「まっさかねぇ・・・・・」
小さく独り言を呟きながら人通りの多い通りへと出る。
微かに胸に浮かぶおぼろげな答え。
もしかしたらそれを真希に聞かれた時から浮かんでいたのかもしれない。
だけど言葉にするのを拒んでいた。

(似合わないって、そんなの。)
ひとみは小さく口元に笑みをこぼし人ごみの中へと紛れていった。





397 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時34分18秒



「し、仕事帰り・・・・ですか?」
はっきり言って声を掛けてみたものの何も話すことを決めていなかったので梨華は
とりあえず思ったことを当たり障りがないかどうか考えながら尋ねた。
「・・・・・そう、今から帰るところ。」
真希はそっけなく答える。
冷静に、落ち着いて早くこの時間をやり過ごすため。

「そうですか・・・・・・」
梨華はそっけない真希の返事に再び元気をなくしネガティブモードに入ってしまった。
沈黙が、再び部屋の中に訪れる。

「・・・・・・・・」
真希は帰るに帰れなかった。
目の前の彼女が自分にまだ何か話しかけようとしているのが分かったからだ。
それに、このままの状態で自分一人帰ったらこの子はとことん落ち込んでいってしまう
気がした。
398 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時36分57秒
「あの・・・・・・」
梨華は今この時間何度言っただろう、再び小さく言いながら心の中で覚悟を決めた。
落ち込みの中から開き直りへ、そして覚悟へ。
単純だが今日に限っては単純な気持ちの変化に感謝した。
「どうして・・・・・私を避けるんですか・・・・?」
思い切って梨華は真希に対して聞いてみた――――――




399 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時38分00秒
「・・・・・・・・」
真希は梨華の言葉にすぐに言葉を返すことができず黙ってしまった。
はっきりとそれを聞かれるとは思ってもいなかった。
「別に・・・・避けてなんかいないよ。」
嘘。
自分でも分かってるのに気づいていることなのに最後の最後まで自分にも彼女にも
嘘をついている。
また、新たな罪を犯した気になって胸が締め付けられた。
「嘘ですっ!避けて・・・・ますよ。目が合ったってすぐにどこかへ行っちゃうし
仕事だって今までとは比べられないぐらい詰めてるし・・・・・。」
「あなたと目が合って、前だったら何かしてた?私。」
冷たい言葉。
それが自然と口から出て行く。
気持ちとは裏腹に・・・・・。


400 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時40分08秒
「それは・・・・・・・・」
真希のその返事は梨華の口を開かなくさせてしまう。
梨華は真希の言葉に再び落ち込んだ。

冷たい言葉。
それは自分の胸へと突き刺さってくる。
彼女のふとした全ての態度、行動、しぐさ、言葉は自分をさまざまな感情へと変えていく。

「でも・・・・今はあからさま過ぎます。私・・・・何かしましたか?」
必死に言葉を繋げ、梨華は沈んだ口調で真希と気まずそうに目を合わせ言った。


401 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時42分27秒

「何も・・・・してないよ・・・・・」

むしろしたのは私。
そんな自分をまだ許すわけにはいかない。


「この前の・・・・・ことなら私・・・・・・」
「!」
梨華の小さく言う言葉に真希は目を見開き体全体で反応した。
「言わ・・ないで・・・・それ以上・・・・」
小さく呟くようにとめる自分の言葉は空しく、
「だ、大丈夫ですから!・・・・・私・・・平気だから・・・気にしないでください・・・・」
自分に向かって発せられる言葉。

真希はそれにぎりっと唇を噛むと両手の拳を強く握った。
402 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時44分52秒


「・・・・あなたはよくても・・・・私はよくないの・・・・」

俯きながら言う自分。
いっつもそうだ。
彼女と話していると必死に取り繕う冷静な自分がどこかへ行ってしまう。
必死に押し留めようとする理性は空しく、
本当の自分が、かいま出てしまう。


「後藤さん・・・・・・」
「あなたは許すことができても・・・・・私は『あの時の自分』を許すことはできない・・・・。」
握る拳が小さく震える。
「だから・・・・やめて・・・。そういうこと言うの・・・・・苦しいだけだから・・・・・」






403 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時49分36秒

俯きながら、苦しそうに切なそうに言うあなたがとても儚く小さいものに見えて、
私の胸は、体の全ては切なさに締め付けられるような想いだった。


「自分を・・・・あまり追いつめないで下さい・・・・・・」
「・・・・・・・」
「お願い・・・・・そんな後藤さん・・・・見てられません・・・・」
いつのまにか発せられている言葉。
それにぴくっと反応する姿が見えた。
「どうして・・・・・?ねぇ、どうしてそんなに・・・・・・」
「・・・・・・・・」
彼女の言葉が途中で途切れてしまったが彼女の言いたいことは、聞きたいことは全て梨華に
伝わっていた。
404 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時50分59秒
「私は・・・・・・」
「どうしてそんなに優しいの!?寛容なの!?どうして・・・・・・答えてよ・・・・」

どうしてそんなに罪を受け止めることができるの?
なんでそんなに私の苦しみを背負うことができるの?
罪を、悲しみを・・・・・・。

気づけば自分の瞳からは涙が溢れていた。
頬を伝い、それは床へと落ちていく。

無様。
なんでこんなに自分は弱いんだろう。
強くなんかない。
ただ強がっているだけ・・・・。
こんなにも・・・涙が溢れてしまう・・・・・。


405 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時52分23秒

「っ!」
「泣かないで・・・・下さい・・・・・」

思いつめていた自分を、気づいたら彼女が抱きしめていた。
暖かく、優しい、それでいて力強いぬくもりが自分を包む。

「や・・・めて・・・・・・」
「やめません。後藤さんが泣いてると・・・・・私も悲しくなっちゃいます・・・・・」

彼女は言いながらもっときつく、強く自分を抱きしめてくれる。
どうしてそんなに優しい言葉が掛けられるの?
心の中で彼女に問いかけながら、そのまま自分は彼女のぬくもりの中に納まっていた。

気づけば拒んでいた自分の腕はいるのまにか彼女にしがみ付くように、
抱きついていた――――――





406 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時53分31秒

叫ぶあなたが切なくて、気づいたら自分は彼女との距離を縮めていた。
それにあなたは気づいていないようで、
自分がすぐ目の前に来た時、あなたの瞳からは涙が流れていた。
始めてみる涙。
それはとても綺麗で鮮やかで。
そして気づいたら自分という理性は何かの感情に囚われて弾け飛んでいた。
何よりも儚く感じる目の前の存在を私は確かめるように、確かめさせるように、きつく、
強く、抱きしめていた。



407 名前:今、この時間だけは・・・・ 投稿日:2001年12月05日(水)21時56分45秒
「私・・・・後藤さんのこと、好きです。」
言いながらもっと深く自分の体を抱きしめていく彼女の細い腕。
私も、気づいたらそれに答えるように強く抱き返していた。
「本当に・・・・好き・・・・だから・・・私も・・・・・・」
「っ!」
涙を頬に伝わせながら真希は反応した。
梨華は真希の耳元で小さく囁いた。

彼女にしか聞こえないように、ほかの誰にも聞かれないように。



『守ります。』
それは自分の体を縛り付けていた重たい鎖を一瞬のうちだけ完全に解き放させた。
悲しみの涙はまだ流れ続けるが、胸に食い込まれていた留め金がこの瞬間だけ、
この時間だけはるか遠くどこかへ弾け飛んだ気がした。


「梨華・・・・・・・」
胸にうずめていた顔を上げ、真希は梨華の目を見た。
「後藤さん・・・・・・」
それは何の偽りもなく暖かい瞳。
心から、そう言ってくれているのだと真希はその瞳を見た瞬間にそれだけで
全てから彼女を信じることができた。


しばらく見つめあった後、本当に自然と、二人は唇を合わしていた。

「ん・・・・・・・」

きつく抱きしめあい、それぞれ相手の存在をその腕で確かめ合いながら
長い間口付けを交わしていた。
二人以外誰もいないこの場所で、一瞬のそれを『永遠』へと変わることを信じながら―――――
408 名前:aki 投稿日:2001年12月05日(水)21時59分40秒
ここまでです。
一応ですがまだ続きます(爆)

ちなみに今日は映画のハリーポッター見てきました(w
409 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年12月05日(水)22時32分13秒
なんだか、ジーンとしてきてしまいました。
なんだか、ホっとしてしまいました。
でも、胸騒ぎがするんです。
この時が永遠であって、と願っているのに・・・

続き、期待しております。
410 名前:読書の秋 投稿日:2001年12月06日(木)04時41分15秒
素直になるって難しいですね・・・

続く・・・ブハッ(鼻血
411 名前:mode-rika 投稿日:2001年12月06日(木)12時14分35秒
あぁ、なんだか二人が抱き合うシーン、じ〜んときちゃいますね〜。
うるうるもんです(;_;)

・・・でも、ひそかにひとみの感情も気になるとこ・・・。
412 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月06日(木)23時00分51秒
ああ・・よかったぁ〜。ホントに。
ここの梨華ちゃんぐらい広い心の許容量があれば、
後藤さんならずともぐらりときてしまいますねー。
413 名前:aki 投稿日:2001年12月07日(金)01時24分03秒
たくさんのレス本当にありがとうございますm(__)m

409:M.ANZAIさん
>レスありがとうございます。
 相変わらず鋭いですね・・・・何とも言えませんが今はこの幸せを
 かみ締めていて欲しいです。
 一つ言える事はまだ続く、ということだけです。
 続きもがんばりますっ。

410:読書の秋さん
>レスありがとうございます。
 素直って本当に難しいですよね^^;
 ただ口から言ってしまえば済む事なのにそれが簡単ではないんですよね。
 これからもがんばりますっ。
414 名前:aki 投稿日:2001年12月07日(金)01時31分43秒
411:mode−rikaさん
>レスありがとうございますっ。
 今、この時間だけはジーンとして下さい(w
 これからが・・・・大変なので・・・・。
 ひとみも忘れられない人物ですね。この小説は今までの物と違って
 全員が重要で大切なキャラなので書いてる側はすごく嬉しいです。
 
412:名無し読者さん
>レスありがとうございます。 
 本当に良かった良かったです^^;今のところは・・・・ですが。
 次の更新では・・・さすがの石川も・・・・てな感じです(^^;
 意味深な文章ばかりで申し訳ないです。 
 続きもがんばりますっ。
  
415 名前:不協和音へと暗示する序曲 投稿日:2001年12月07日(金)13時34分48秒


それから翌日。


二人は会話や視線を交わさずともあまりそれらを特別視しないようになっていた。
今まで通り普通に生活し始め普通の接し方に戻った。
しかし梨華にとっては昨日のキスはどういう意味が含まれるのかした自分も分からず
一人カウンターに突っ伏して考えていた。
「う〜ん・・・・・・。」
昨日のキスは何だったのだろう。

(キス・・・・・・)
頬が微かにぼっと染まる。
これで何度目だろう。
心の中で小さく言葉にして見るだけで恥ずかしくなってしまいそこから
考えが続かない。
416 名前:不協和音へと暗示する序曲 投稿日:2001年12月07日(金)13時35分45秒

(とにかくっ・・・・・・)
昨日自分は彼女と唇を合わした。
たぶん、それはただのキスじゃない。
一瞬だけでも、彼女と気持ちが通じ合った気がした。
しかし根本的な問題もそれと同時にまだ片付いていないと梨華は思っていた。
彼女の中で、『その』問題は終わっていない。
そしたら昨日のキスは一体どういう物になるんだろう?
自分は、彼女にとって一体どういう存在なんだろう・・・。

新たに生まれる疑問。
彼女の中の、『その人』が彼女にとってどういう存在なのかが重要だった。
そして・・・・

(後藤さんは・・・・その人をまだ好きなのか・・・・・)

一番大切でもありとてつもなく単純な気もするその答えが、やっと胸の中に生まれた気がした―――――







417 名前:不協和音へと暗示する序曲 投稿日:2001年12月07日(金)13時37分41秒
バーのもうひとつの部屋の休憩所のソファで横になり毛布を掛け完全に寝る体勢で
真希は真希で考えていた。
昨日のことから変なぎくしゃくした空気は間から消えたが、自分の中には前から
感じていた疑問と、新たな不安が付きまとっていた。
「・・・・・・・・」
どうして昨日自分が彼女に唇を寄せたか分からない。
それはその場ではあまりにも自然で当たり前のようだったから。
前から感じていた疑問が、今ここで蘇る。
果たして、自分は彼女の事を『あの人』より好きなのか。
正直、分からなかった。
『あの人』がいない今、自分のその時のあの人への感情はそのまま思い出すことが
できない。
ただ分かっていることは、あの人も彼女も自分にとって大切な人であり二人に対して
『好き』という感情を持っているということ、そしてどちらに対してもそれぞれの感情を抱いていることだけだった。
決して自分の中で『過去』の人にならない彼女。
今でも、あの時のまま頭に蘇る。
『過去』のものが、いつまでもまるであたかも『今』のように残っていた。
418 名前:不協和音へと暗示する序曲 投稿日:2001年12月07日(金)13時39分45秒
再び大切なものを手にした時、新たに生まれる不安、葛藤。
それは少しづつ時間が経つにつれて『もう一人の自分』を生み出す。
(本当にあの子のことが好きなの?)



「・・・・・・・・」
(優しさに流されてるだけじゃないの?)
「やめて・・・・・・」
暗い闇の中で自分に囁いてくるのはまぎれもない自分。

(また殺しちゃうんじゃないの?)
「・・・・そん・・な・こと・・・・」
声が静まるように、頭を手で押さえつける。
なのにやまない声。
(分からないの?あなたが好きな人)
「・・・・・・・・」
ついに瞳を閉じ、ただ黙ってその声に耳を傾ける。
(教えてあげるよ)
無視するように、勝手に話させるようにさせるのに、

(あなたはあの人以外好きになれない。好きになっちゃいけない。そういう運命なんだよ。)




419 名前:不協和音へと暗示する序曲 投稿日:2001年12月07日(金)13時40分34秒
「やめてっ!!」
耐え切れなくなり声を遮るように叫び、真希はベッドから上半身を起こした。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」
荒くなる息。
気づけばもう一人の自分は、声はどこかへ消えていっていた。
「何なのよ・・・・一体・・・・・」
微かに頭に頭痛が走り真希はそれを手で押さえた。
『好き』
自分はまだ彼女に対してはそれを一度も口にしたことがない。
何でだろう・・・・・。
それって・・・・つまりそれが・・・・・・。

真希は頭の中で勝手に過ぎっていく考えを強引に中断させると再び毛布を体に
掛けベッドに寝転がった。



420 名前:不協和音へと暗示する序曲 投稿日:2001年12月07日(金)13時43分47秒






「・・・ちょっと待ってください・・それってどういう意味・・・・なっ・・・・
でも・・・・本人の意思は・・・・・・しかし・・・・」
仕事も終わり夜中の9時。
中澤は一人まだ帰らずバーの残っていた。
それは事前にファックスによってあることづけを受けていたため。
しかし、9時ちょうどに掛かってきたその電話に中澤は驚きを隠せないでいた。

「私は・・・・反対です。『その』ご判断に同意するわけには・・・・・・」
電話から冷静にゆっくりと話し続ける相手、それは本部の最高幹部に当たる人物。
『時間は一週間与えます。それまでによく考えて見てください。』
「しかしっ・・・・・!」
『あなたの気持ちも痛いほど分かります。しかし、再び徐々にだが確実にこの世界に
混沌の波が押し寄せようとしています。決して一方的な話ではないと思います。
『彼女』にもあなた達にも、この世界の秩序にとっても・・・・・・』
「・・・・・・・・・」
相手も言葉に中澤も黙ってしまう。
『私としても一方的に事を進めるのは嫌です。できればご理解頂きたい。』
「・・・・分かりました。この一週間、ぎりぎりまで検討させてもらいます。・・
・・・はい・・・・はい、それでは失礼します・・・・。」
中澤はちんと音を立てレトロなその電話を置いた。
「・・・・・・・」
電話を切った後も、中澤はしばし呆然としていた。

悲しすぎる運命は、螺旋のように果てしなく続き永遠に縛られるものなのか。

中澤は一人バーで頭をかきむしった。





421 名前:aki 投稿日:2001年12月07日(金)13時47分09秒
こんな時間に更新です。
あと今日はもう一回更新します。
夜にこれも含めて全部更新しても良かったんですが間に時間を
置きたかったので。
書き溜めている方とこっちで載せてる内容の差が激しくなってきたので
二度目は結構載せます。
それでまたストックがなくなりそうなんですけどね・・・・^^;
422 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年12月07日(金)16時51分20秒
続き、期待してます。
423 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)18時48分59秒



それから一週間の月日が流れる。


やっぱり梨華と真希はほとんど会話を交わすことなく、別にそれでも至って普通に
生活を送っていた。
しかし、それは表から見える場所だけ。
梨華はあの時の真希とのキスのこと、そして再び『あの事件』について気になり始めていた。
問題を解決するにはそこを知るしかないからだ。
そしてそこから繋がる『あの人』
全ては『あの事件』が鍵を握っている。



真希はそれからずっともう一人の自分に悩まされ続けていた。
一種の心の傷。
つまりトラウマに近いものが自分の不安や葛藤を『もう一人の自分』として心の中に
生み出してしまったのだ。
自分の意思とは関係なしに掛けられてくる声。
それは全く自分の状況を構うことなくしょっちゅういろんな時に聞こえてきた。
心の奥深くへ封じ込めようとする昔の傷を、それは全く無視し心の奥底から穿り返し自分の
目の前へ突きつけてくる。
普通だったら病院行きだろう。
このままにしていたら普通の人間だったら壊れてしまうとさえ真希は思った。
なぜ自分は平気なのか、
真っ直ぐに思いついたのが自分が普通ではないからだという答え。
どうせ自分は周りの人間とは違いどこか欠けてるんだと真希は勝手に答えを出していた。


424 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)18時51分31秒


そして今日。
あれからちょうど一週間。


「・・・・・・・・」
真希は休憩室のソファでいつものように寝転がっていた。
あれから仕事もいつも通り普通に戻したのだ。
彼女をあからさまに避ける必要がなくなったから。
正確にはなくなってはいないが何か彼女との関係が一つ段を踏んだ気がする。

お互い考える時間でこの一週間を過ごしていた。

「・・・・・ふぅ・・・」
今日はまだあの声は現れない。
真希は安心するように小さくため息をこぼすとソファの背もたれに向かって
寝転がりドアへ背中を向けた。
虫の知らせか。
どういうわけか分からなかったが今日は『何か』があると真希は思っていた。
それも自分にとってとてつもなく悪いことが・・・・。




425 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)18時53分12秒



「・・・・・う〜ん・・・」
梨華は隣のバーでいつものようにカウンターに突っ伏しながら考えていた。
今日は矢口となつみは仕事のため二人共バーには来ない。
ひとみも相変わらず気の向いたまま来たり来なかったりしている。
いつもならいるはずの中澤も、今日はどこかへと出かけていた。
この一週間、なぜか中澤がよく神妙な顔つきをしてかりかりしているのを
梨華は感じ取っていた。

あれからずっと考えた。
それはもう頭がはちきれるほど。
近頃そのせいか頭痛がする。
しかし結局は考えても考えてもそれに比例して答えは生まれはしなかった。
分からないまま知ろうとしても無駄だろうとも思いもしていた。
だけどそれでも考えてしまうのだ。


そして今日。
今日こそは誰かに『あの事件』のことを聞こうと思っている。
いよいよ覚悟を決め中澤に聞こうと思ったが、今日は理由も分からず今の今まで
中澤の姿は現れなかった。



426 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)18時54分55秒


「・・・・・・・・」
梨華はちらっと向こうの休憩室へと繋がるドアを見た。
あっちに真希がいることは知っていた。

あれから一週間。
自分も彼女も下手に会話しようとしたり変に意識したりすることがなくなっていた。
しかし梨華にはそんな日常の中でも胸のうちにはしっかりあの疑問が残り続けていた。
それは真希にとってあの人はどういう存在なのか。
そして、『まだあの人のことを好きなのか』ということ。
疑問が生まれたのはいいがやっぱり聞けずにいた。
聞いたらどうなるのか、心配だった。
今の関係のままでも良いとも思い、むしろそれを願ったが聞かないわけにはいかない。
問題はまだ、片付いていないんだから・・・・。

それに彼女と自分が言葉を交わすごとに、自分と彼女との関係がそのたびに変わっている気がする。
それがいい方向へなのか悪い方向へなのかは正直分からなかったが・・・・。
今回もまた、何かが待っているはず・・・。



427 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)18時57分44秒


「・・・・う〜・・・・・うんっ!」
梨華は唸っていたところの最後に自分を納得させるように掛け声を付け足した。

悩んでいても始まらない。
このまま悩んでいたら果てしなく時間と月日が流れてしまう。
そんなの嫌だ。
梨華は頭の中に浮かんだ前向きな考えと共に椅子から弾かれるように立ち上がった。
何を聞くかなんて考えていなかった。
勢いと共にそのドアの前までやって来る。
彼女と二人の時はそのたびにいろんなことが起こった。
きっとこれも、そのための時間なんだろう。


なにより、彼女の顔を近くで見たいという欲求に駆られた――――――




428 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時00分50秒



ギー・・・・・



「お邪魔しま〜す・・・・」
ドアを開けるとそこにはドアに向かって背を向ける形のソファに寝転がる真希の
姿があった。
梨華は極力音を出さないようにしてドアを自分の体の分だけ開けるとそこから
静かに部屋に入った。
「・・・・・・・・・」
梨華は口に手を当て声を出さないようにして真希の後姿に近づいていった。
(寝てるのかな・・・?)
微かにだが真希の寝息が聞こえる。
安らかに、夢も見ずに寝ているかのようにそれは落ち着いたものだった。
「後藤さーん・・・・・・・」
小さく真希の名前を呼んでみたがやはり耳に届いていないようだった。
返事が何も返ってこない。
そっとソファの所まで近づいたのは良いものの上から覗いてみるとやはり気持ちよく
寝ているところだった。
「・・・・・・・」
それを邪魔するのは気が引けそれでも部屋から出て行ってしまうのもやっぱり嫌で
梨華はしばらくそこで何もしないで真希の隣でぼーっとしていた。
そして少しして気づいたように隣りのソファに行き座った。


429 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時01分43秒


しばらく経った後も真希は目を覚まさなかった。


「・・・・・あっ・・・・」
微かに腕が動いて掛けられていた毛布が床に落ちる。
部屋は寒くはなかったが暖かくもない温度。
梨華は再び真希のソファに近寄ると床に落ちた毛布を手に取るとそれをそっと真希
の体に掛けてあげた。
「ん・・・・・・」
「!」
毛布を掛けたとき、小さく真希の体がびくっとしたのと微かに真希の口から声が
漏れて梨華は同じようにびくっとした。
別に全くやましい事をしているわけではないがそれでもやっぱり反応してしまう。
430 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時05分59秒
「ん〜・・・・・・」
「わっ・・・・!」
今度は少しのんびりとした声が聞こえたかと思うと真希の体が背を向ける形から
仰向けの体勢に変わろうとする。
それと同時にソファから体が出てあと少しで床に落ちてしまいそうだったため
梨華は急いで真希の体を支えてあげた。
(ドキッ)
真希の顔がこちらに倒れるようにして向いたため一瞬梨華はそれに胸の中で時めく。
「落ちちゃうよ〜・・・・う゛〜・・・・」
それから少しの間胸の鼓動は高鳴ってはいたがすぐに自分より身長がでかい真希の
体をなんとか支えてソファに戻してあげた。
「うー・・・・・・」
それでも真希は起きる様子は微塵もない。
431 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時07分00秒
毛布を再びきちんと掛けてあげて梨華はソファの横でじっとその寝顔を見た。
「・・・・・可愛い寝顔・・・」
いつもの真希の雰囲気は全くそれからは感じられない。
幼くて、可愛くて、いつもの真希の雰囲気は微塵もない、むしろ近づきやすいぐらいの
何の構えもしていない無防備なその存在。
たぶん、これが彼女の本当の姿なんだろう。
いつも冷静で無感情なのは、本当の自分を知られないため。
『偽者』
あの時中澤が言った言葉の意味が今この瞬間でやっと分かった気がする。
目に見えない何かが真希を蝕んでいるのはそれを見るだけでも納得することができた。


「んん〜・・・・・・」
「それにしても・・・・・・」
(恐ろしく可愛い寝顔・・・・)
これは梨華じゃなくても見た者全てにたぶん変な気持ちを湧き上がらせるに違いない。
(私は・・・・違うけどね?・・・・・たぶん)
しばらくぼーっとその寝顔を見惚れるように梨華は見ていた。




432 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時09分20秒



「・・・・・・・・・」
あぁ、近頃じゃこんなに気持ちよく寝れるの何日振りだろう・・・。
真希は眠りに落ちる前胸の中で小さく独り言を呟いた。
ずっともう一人の自分の声に悩み続けされこの頃は寝不足でもあった。
しかし今日は今までの分を取り返せるぐらいに寝むれそうだ。
(・・・・・・・・)
そして真希は深い深い眠りへとついていった。




―――――――


それからどれくらい経っただろう。
どれぐらい寝たのか分からないが真希の意識がだんだんしっかりしていくのを
寝ながら真希は感じていた。
「う〜ん・・・・・・ん?」
やっと体の疲れが取れるぐらいに寝れたと満足して真希が瞳を開けたとき、
そこには驚くべき状況が目の前にあった。
433 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時14分09秒
「び、びっくりした・・・・・」
普通ならそれほど驚きもしないが気持ちよく安心して眠りに落ちた後のため
大きく反応してしまった。
咄嗟にどきどきする胸を手で押さえる。
自分の隣で梨華が床に座りソファに置いた腕を枕にし同じように寝ていたのだ。
驚きでどきまぎしながら真希は上半身を起こす。
「あれ・・・・・?」
そこでやっと寝る前と今の体勢が違うことに気が付く。
毛布も今の体勢にきちんと掛けられていた。
真希は静かに梨華の方へ顔を向けた。
そこにはいつもと変わらない優しい表情で眠る梨華の姿があった。
真希はその姿に自分でも気づかないうちに小さく微笑むと毛布を取り体をソファから
起こし座った。
壁に掛けてある時計を見てみる。
するともうお昼を過ぎている、
あれから結構寝たんだと梨華を起こさないように心の中で小さく呟いた。
434 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時15分09秒
「んー・・・・・・あれ?・・・後藤さん?」
起こさないようにしていたが小さな物音に梨華も目をこすりながら起きだした。
「起こしちゃった?」
「・・・・大丈夫・・です・・・」
「ごめんね。」
眠気なまこで梨華が素朴にだが正直に答えるため真希は小さく笑った。
それに気づかずだんだん梨華の意識もはっきりしてきて眠気も覚めてくる。
「毛布、掛けてくれたんでしょ?」
「・・・・・あ、そうです・・・けど・・迷惑でした・・・?」
気まずそうに言う梨華に真希は再び微笑みながら「ありがと」と気にする梨華を
気遣い優しく返事してあげた。
「いえ・・・・・」
それに梨華は頬を赤くさせると小さく聞こえるか聞こえない程度の声で真希に答えた。
435 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時18分25秒



そして少しの間だけ沈黙が流れる。

梨華は緊張しているようだった。
はたからに見ても分かるほどかちこちになっている。
真希はその間ずっとそんな梨華の様子を横目で見ていたがおもむろに口を開いた。
「何か用だったの?それとも毛布掛けてくれるために来てくれたの?」
「あ・・・そうだ・・・。いえ、そうです。私・・・その・・後藤さんに聞きたい
ことがあって・・・・。」
梨華は顔を起こして真希の顔を見た。
「何?」
心持ちか、真希がとても身近に感じられた。
優しくて、いつもの人を近づけさせない雰囲気がない。
すごく、側にいてほっとする。
笑うところだって、もしかしたらこんなに近くで見たのは初めてだった。
こんなに無邪気で純粋に笑うんだ・・・・。
「後藤・・・さん・・・・」
「・・・・座ったら?」
梨華は話の切り出したものの今の真希にぼーっとしていた。
寝ていた体勢から起きてずっとそのままだったため梨華は床に座りソファに肘を
付いている姿だった。
それに真希が気づき言ってあげた。
436 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時21分48秒
「あ・・・・はい・・・・・」
今までなら言われたこともない言葉や優しい口調に梨華は微かに緊張しながら
席についた。
「それで、何聞きたいことって。」
話を切り出してくれたにも関わらず梨華はまだぼーっとしていた。
「あの・・・・・・・」
気が付いたように梨華は我に戻り話始めようとした。
「・・・・・・」
だが言葉が続かない。
口が開きかけた状態でとまってしまった。
だってそこには肘をついて優しく話を待っていてくれる真希の姿があったから。
再びそれに見惚れるようになって、何かの衝動に駆られ気付いたら口からは思っても
いなかった言葉が飛び出していた。


「・・・・・用が・・・・ないといけませんか・・・・・?」
「え・・・?」
突然の梨華の言葉に真希は戸惑い振り向いた。
「聞きたいことがないと・・・・側にいちゃダメですか?」
梨華自身も自分の口から発せられていく言葉に驚いていた。
気づいたらそんな言葉が勝手に口から出ていた。
たぶん、それは心の奥底にある本当の気持ち。
なんでだろう、今この瞬間だけは考える前に言葉が形として出ていく。
用があって来たのも事実。
だけど側に居たいって・・・顔が見たいって理由で来たのも本当だった。




437 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時23分51秒


「・・・・・・・・」
真希は戸惑いと動揺に微かに目を見開いた。
それを真っ直ぐ正面からとても熱心で真摯な瞳で問いかける梨華は見つめてくる。
突然のことですぐに返事が出てこない。
「ダメなわけないよ・・・・・」
できるだけ今の自分に可能の限り真希は早くに梨華に返事した。



ダメなわけない。
起きてすぐ隣にあなたがいるのを見た時、驚きと共にすごく嬉しかった。
毛布を掛けてくれたのもなにより『あなただから』嬉しかった・・・・・。



438 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時25分35秒





「理由がなくたって・・・・側にいたい・・・・・」
自然と真希の口からそんな言葉が発せられていた。

「後藤さん・・・・・」
「一緒にいたい・・・・だって・・・・・」


こんなにも側にいるだけで満たされる。

他には何もいらない。

ただそれだけで・・・・・・。



真希の想いは梨華には伝わっていた。

言葉にしなくても、互いの気持ちはちゃんと伝わっていた。



439 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時28分21秒


「・・・・・・・・」
真希はゆっくりと梨華との距離を縮めた。
顔を、そっと近づけていく。
「ん・・・・・・」
唇が自然と重なった時、梨華の口からは甘い声が漏れた。
「・・・・・・・」
ただ想いを絡めるように、互いを貪るように口付けていく。
梨華は真希の服の前をぎゅっと握り締めていた。
真希は優しく背中に腕を回し抱きしめてあげる。
梨華の強く握り締めていた手の力が弱まった。
「・・・・んん・・・・」
梨華の腕は真希の首に回され、真希は顔の向きを変える。
二人の口付けの音が辺りに響く。
しばらく二人は夢中で深い口付けを交わしていた。



440 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時29分22秒
「・・・はぁ・・・・・」
「・・・・・・・」
やっと唇が離れたとき、梨華の息は荒れていた。
とろんとした表情で真希を見る。
それに真希はとてつもなく何かの衝動に、欲望に駆られるのを感じた。
「後藤・・さんはぁ・・・・・私のことどう思ってるんですか・・・・?」
息が切れる中梨華がとぎれとぎれに真希に向かって言った。
「・・・・・・・」
突然の質問に真希は咄嗟に黙ってしまう。


441 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時31分30秒



彼女のことをどう思っているか。

たぶん、それは今さっき感じた気持ちの中に隠されている。


側にいるだけでいいって・・・・キスしたいって・・・・・。

そんな単純な気持ちでいいんだと思う。

こういう感情って・・・たぶんあまり考えない方が正しい気がする。

思ったままに、感じたままに動く物だと信じてる・・・・。




「・・・・・・・」
真希は自分のありのままの気持ちを目の前の梨華に告げようとした。
しばらく考えて口を開こうとした、しかしその時―――――――



442 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時32分58秒


(本当に?)
「・・・・・・!」
突然聞こえた声に真希はびくっとした。
(もしかして今から『好き』って彼女に言うつもり?)
「・・・・・・・・」
真希はその声の突然の登場に戸惑い、動揺し、何もすぐに言い返すことができず微かに俯いた。

今の自分の顔を、彼女には見られたくなかった。




「・・・・・?」
突然様子の変わった真希に梨華が首を傾げた。
俯き加減で何やら曇った表情の真希からは何も答えは返ってこない。

443 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時35分53秒


(なんで・・・・こんな時に・・・・・)
真希はその声の突然の登場を恨んだ。
聞こえないように額を押さえる。

しかしそれに関係なく今の自分を嘲るように声は続いていく。


(ダメだって。だってそうでしょ?あなたは『あの人』しか・・・・)
(やめてっ!)
真希は初めて『その声』と心の中で会話した。
すると声の向こうの心の奥底にいる自分が突然目の前に現れた。
周りは真っ暗闇で自分とそのもう一人の自分が向かい合うようにして立つ。

(わっ、びっくり。初めてじゃん?あんたが私と話したの。)
(うるさい・・・・・)

「・・・・・・・」
真希は心の中でもう一人の自分と会話しながら現実でちらっと隣の梨華を盗み見た。
心配そうに、こちらを見つめている。
早くこの声をやめさせようと真希はその梨華の表情に決心した。

再び正面から向き直るように『自分』と向き合う。

(いつもなら『私』から逃れようと目を背けるくせに・・・・)
(さっさと・・・・出てって・・・・・)
真希が話しつづけようとするもう一人の自分を遮った。
それに『自分』はわざとびっくりしたように目を見開き大げさに言ってみせた。

444 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時37分11秒

(出て行けって?あはっ!そんなの無駄だよ。だって私はあなたなんだから。)
(はっ・・・・・・?)
意味が分からず聞き返す。
(私はあなた。あなたは私。表と裏。実体と影。)
(・・・・・・・・・)
今始めて会話して分かった事だがどこか鼻に付く変なテンションの相手に真希はいらだった。
しかし、言っていることが嫌に理解できてしまい『自分』を相手に何も言えなくなってしまった。



「後藤・・・さん?」
心配そうに顔を覗きながら彼女は私の様子を伺おうとするが、
私にはもはやそんな彼女の声や姿は届いていなかった。






445 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時39分16秒

(分かるよね?私が言ってること。だって私はあなただもの。あなたが心の奥深く、
深層心理で思っていることを、感じていることを私はただあなたに言ってあげてるだけだもん。)
(・・・・・そんな・・・こと・・・)

ついに『自分』に対して何も言えなくなってしまう。
否定することも、意見することも、言葉を発することさえできなくなってしまう。


(あなたが好きなのは永遠に『あの人』。それ以外の人間をあなたは愛することはできない。)
(・・・・・・・・・)
(あなたを救ってくれたのは他でもない彼女。微笑みを、再びあなたの元に戻させたのも彼女。)

何も言い返せない。

だってそれは・・・・本当のことだから・・・・。



(諦めなさい。あなたの心に、永遠に『あの人』が残っている――――――)
それを最後に、もう一人の自分はどこかへ消えていってしまった。
呆然と力なく立ち尽くす真希を残して―――――


446 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時39分59秒
「後藤さん・・・・?」
「・・・・・・・・」

呆然とする真希に梨華は心配そうに声を掛けた。
様子が変わったのとほぼ同時に一瞬にして真希の雰囲気が変わった。
それは今感じていた気持ちのいい物ではなくいつもの物―――――


447 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時40分46秒



「残念だけど・・・・・・」

沈黙がしばらく流れた後、不意に真希が口を開いた。
その真希から発せられた言葉に梨華はびくっとした。
今から自分が何を言おうとしているのか真希には分かっていた。
だけど止まらない。止める事が出来ない。


「残念だけど・・・私が好きなのは・・・・・あなたじゃない・・・・・」


ほとんど機械的に口から出て行く言葉。
真希は自分の口から出て行くその言葉を自分もただ聞くように呆然としていた。
感情のまるでこもっていない、ただの言葉の羅列。
無機的な口調。


448 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時41分56秒


「っ!」

梨華は真希の言葉にこの上ないほどの衝撃を受けた。
計り知れないほどの重さのものが体にぶつかったような、
一瞬のうちにしてすごい量の電流を浴びたような感覚。


「どう・・・・して・・・・・・・」


自然と零れる言葉。

溢れ出してくる涙。

どれもが、止められない。止まらない。



449 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時43分34秒

「・・・・・・・・」

真希は俯いているため梨華の様子を窺い知ることはできなかったが震える声と
絶望的な声が梨華が今どうなっているのかは容易に知ることができた。

一瞬にしてこの部屋を覆う暗い空気。

今さっきまでのそれは全く感じられず、一瞬にして消え去ってしまった。


「後藤・・・さん・・・・・・?」
「・・・諦め・・て・・・・・」

自分を呼ぶ声を遮るように口からは言葉が発せられていく。
真希はただそれを呆然と聞いていた。

次に出てくる言葉がどれだけひどいものなのか、どれだけ悲惨なものか、この時でも
まだ真希自身にも分かっていなかった。



450 名前:悲しすぎる運命 投稿日:2001年12月07日(金)19時44分24秒

「私が好きなのは・・・・好きって言える人は・・・・『あの人』だけなの・・・・。」

心なしか、自分の言葉は震えているように思えた。


「!」

それに梨華が涙を流しながら体をびくつきさせる。

次に発せられる言葉が計り知れないほど自分を傷つけるかなんて、この時の梨華はまだ知らない。


「あなたじゃ・・・・ない・・・・・・・」

「・・・・・・!」


無残にも発せられ形を成したその言葉に、二人はしばらく永遠に続くかのような
『絶望』を感じていた――――――




451 名前:aki 投稿日:2001年12月07日(金)19時45分40秒
今日の更新はここまでです。
二度更新したので415-450までになります。
452 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月07日(金)23時40分07秒
うっわぁ〜!!
あの人の影&深層心理が遂に具現化ですね。
い、石川さん・・・・。どぉなるんだぁ!
453 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年12月08日(土)00時17分52秒
本当なのか?彼女の本当の言葉なのか?
でも諦めずに信じたい。
梨華の思いが本当の真希に届くことを。

そして、中澤に課せられたこととは?
454 名前:aki 投稿日:2001年12月08日(土)19時19分30秒
452:名無し読者さん
>レスありがとうございます。
 これはさすがの石川さんもやばいかも・・・・^^;
 続きもがんばりますっ。

453:M.ANZAIさん
>レスいつもありがとうございます。
 本当に波乱ばかりですれ違ってしまう2人です・・・(++)
 難しいですが私も諦めないで信じます(w
 中澤さんに課せられたことがこれまた・・・・^^;
 波乱の嵐です(w
455 名前:すれ違っていく2人 投稿日:2001年12月08日(土)19時22分36秒


「・・・・・本当・・・に・・・・?」
しばらく経った後今でも未だ信じられず何かに問いかけるように呟く。

「・・・・・・・・」
それに真希は何も答えてはくれない。

「それじゃぁ・・・・・あのキスは・・・・・・?」

梨華の問いかけに真希はわざと視線を横に外した。

まるで何でもなかったかのように、何もなかったかのように・・・。


「何とも・・・・私のこと思ってくれてなかったんですか・・・・・?」
「・・・・・・・」
「この前も・・・今も・・・・ただ私に後藤さんは『あの人』を重ねてただけ
なんですか!?」

悲しさに、訴えるように言う梨華の言葉に真希は何も言わない。言うことが、できない。


「守ってくれるって・・・・言ったじゃないですか・・・・」

思い出すように、あの時言ってくれた時に感じた感情をそのまま思い出すように
して梨華は涙を流しつづけながら訴えるように感情を込めてまるで何かに確かめ
るように言う。



456 名前:すれ違っていく2人 投稿日:2001年12月08日(土)19時23分53秒

「後藤さんあの時・・・・私のこと抱きとめてくれたじゃないですか・・・それは・・・・」
「・・・・・・・」
「何か・・・答えてくださいっ・・・・!」

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら必死に訴える梨華に真希は、何も言うことができない。

ただそんな彼女の悲痛叫びに、胸がえぐられるように痛むだけ・・・・。


「理由がなくたって側に居たいって・・・・一緒に居たいって今言ってくれたじゃないですか!!」

梨華はとめようとしても次から次へ溢れてくる涙を必死に抑えた。
だけどそれは梨華の行動とは裏腹に永遠に流れ続けるかのように溢れ出していく。

「・・・忘れて・・・・・」
「!」

不意に出た自分の言葉はとてつもなくひどいものだとはこの時の真希には分かっていた。
それにびくつく梨華の体も目に入る。



457 名前:すれ違っていく2人 投稿日:2001年12月08日(土)19時25分05秒

「ひどい・・・です・・・・・・・こんな・・・・・」
「・・・・・もう行くから・・・」

真希はもはやこの場にいることに耐えられず立ち上がった。


「・・・・・・!」

それに信じられないように見つめる梨華の視線を受けながら、真希はドアへと向かって言った。



「私・・・・・私、後藤さんなんか嫌いですっ・・・・!」

「・・・・・・・」


「大っ嫌いですっ!!!」

「・・・・・勝手に・・して・・・」

「!」


その言葉を最後に、真希は部屋を、バーを出て行った。
梨華を一人を部屋に置いて――――――






458 名前:すれ違っていく2人 投稿日:2001年12月08日(土)19時26分14秒


バンッ!



真希が荒々しくドアを開け放つ。
「お?後藤か。どうしたん?」
「別に・・・・・・」
そこには中澤がいた。
ちょうど向こうの出入り口からコート姿でバーへ入ってきたところのようだった。
「私・・・・今日はもう帰るから・・・」
「あっそう?・・・あ、そうそう、石川は・・・・・どこにいるか知ってるか?」
「・・・休憩室にいる。」
「あ、ちょっと・・・・・」
それだけ言うと真希は中澤の言葉も聞かずコートを乱暴に取りバーを出て寒い外へ出て
行ってしまった。
「・・・・何や・・・?」
明らかに様子のおかしい真希に中澤が不思議そうに首を傾げた。


459 名前:すれ違っていく2人 投稿日:2001年12月08日(土)19時29分06秒

しばらくすると中澤からちょうどこちらの正面の休憩室へ通じるドアが開くのが見えた。
その出て来た人物を確認すると中澤はすぐに話掛けた。

「あ、石川か?ちょっと話が・・・・・ってあんた何!?泣いてるんか!?」
「中澤・・・さん・・・・・」

しかしドアの向こうからやって来た梨華は涙で顔をくしゃくしゃだった。
よろついてなんとか向こうから出てくる。
そんな梨華の様子に気付くと中澤が動揺を隠せず石川にすぐに駆け寄った。

「何があったん!?あんたどうして・・・・・・・!もしかして後藤が何か・・・・・」
「何でも・・・ないんです・・・・・・」
「・・・・・そや。ちょっと休もう?飲み物でも飲んでそれからゆっくり・・・・・!」

はぐらかしてしまう梨華に中澤はカウンターに座らせるように催した。
しかしその腕を梨華は乱暴に振り解く。

「なんでもないんですっ!!ほっといてください!・・・・私・・・今日はもう・・・・」

いつもでは考えられないように梨華は中澤に対して怒鳴った。
自分のしている事を、冷静に見つめることなんてもうできなくなっていた。

「ほっとかんっ!!」
「!」

それにきつく言い返す中澤に梨華は驚くようにして顔を上げる。

「ダメや。帰さんで。・・・・・うちも・・・あんたに話があんねん・・・。」
「・・・・・?」

突然口調が下がった中澤に、梨華は首を傾げた。
気づけば、中澤がきつく一括してくれたおかげで混乱して暴れていた自分の感情も
とりあえずは落ち着きを取り戻していた――――――


460 名前:すれ違っていく2人 投稿日:2001年12月08日(土)19時30分17秒




「・・・・・・・」

寒い木枯しの吹く外を躊躇うことなく飛び出した。
もうあの場にいることに耐えることが出来なかった。
泣きながら、悲痛にも叫んでいる彼女の姿。
それをさせたのは私の言葉。

今更なのに、自分を殴りたくなってくる。
彼女の受け止めてくれる心の広さに甘えて、そして最後には突き放した。
なんて、ひどいことをしてしまったんだろう。

だけど口は勝手に動き、気持ちと理性とは裏腹にひどい言葉を彼女にぶつけていった。
必死に止めようとするのに止まらない。


そんな自分を、心の奥底から『もう一人の自分』が常に見張っていた。
まるで人間なのに機械のごとく発せられるその無機的な口調。


461 名前:すれ違っていく2人 投稿日:2001年12月08日(土)19時32分34秒

自分の存在が、まるで人間じゃないかのように思えてくる。
こんなの・・・きっと謝ったって許される事じゃない。
もう二度と、彼女と顔を合わすことは出来ない。
これ以上彼女を傷つけるわけにはいかない。

(消えよう、彼女の前から・・・・・。)

それが一番良い・・・・。
覚悟を心に決めて真希は一人町を歩いた。



「・・・・・・・・」
しかし、案外聞き分けが良さそうでそうではない。
頭では理解しているはずなのに体はそれほど素直ではなかった。
決心したはずなのに、体は中心から切なくて何とも言えない痛さが走る。
まるで鎖で縛られるかのように全身に伝わる。
とてつもなく痛い。

あの時の彼女の叫びが脳裏に蘇る。


462 名前:すれ違っていく2人 投稿日:2001年12月08日(土)19時33分35秒



大嫌い・・・だって・・・・

本当はあの時身が刻まれるような想いだった。
だけどたぶん、こんなの彼女に付けられた傷に比べれば軽い物だろう。
傷つけた分、それは倍になって自分に返って来る。
「・・・・・ごめんねぇ・・・」
頬に伝うのは彼女への懺悔の涙。
流したって許されるわけではない。
だけど止まらない。
流さずにはいられない。
あの時、初めて出会った時彼女を助けた事が悪かったのか?
そうしたら彼女はこんなにも傷つかなくて済んだのかもしれない。
だけどあの時の彼女を目の前でただ通り過ぎるなんて絶対にできなかった。
助けたいなんてそんな偉い事思ったわけじゃない。
ただ、気付いたら体が動いていた。
まるでそうすることが当然のように、決められていたかのように。
目に見えない形で助ければ良かったのかもしれない。
だけど、本当は分かってる。
どれも無理だ・・・・・。

463 名前:すれ違っていく2人 投稿日:2001年12月08日(土)19時34分14秒




(どうせ・・・会う運命だったんだよ・・・・・)

どんな悲惨な今という未来が待ち受けていたとしても、
どんなに逃れようとしても彼女とは出会う運命に会ったんだと思う・・・。

そんな気がした――――――




464 名前:aki 投稿日:2001年12月08日(土)19時36分18秒
更新です。
この辺書いてる私もやばかった・・・・(爆)
書きながらこんな気持ちになったのは初めてなんで嬉しくもあるんですが(w

そろそろスレがやばいかもしれませんね・・。
465 名前:M.ANZAI 投稿日:2001年12月08日(土)20時36分41秒
出会う運命・・・こんなに傷つけあう為に?
でもこれが本当に運命ならば、たとえ傷つけあいながらも2人は離れられないはず。
離れてはならないはず・・・

>そろそろスレがやばいかもしれませんね・・。
どこまでもお供いたします。
466 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月08日(土)22時44分25秒
なんか痛いですねえ・・・。
ああ〜、どうなっちゃうんだろう。
467 名前:名無し梨華 投稿日:2001年12月09日(日)20時38分01秒
ここにレスするのは始めてです。
ずっと読んでましたが(汗

イタイ展開になりそうですねぇ。
ん〜、こういうの、いつか書いてみたいれす(w

個人的に、カーチェイスんとこが一番好きです(w

それでは続き、がんばってくださいね♪
468 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2001年12月09日(日)21時58分38秒
いつも読ませてもらっています。すんごい面白いから続きを
はやくよみたいです。作者さん、どうか二人を幸せにしてあげてください。
これからもベストをつくしてください。応援しています。
469 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月09日(日)23時15分30秒
渦巻く陰謀(?)も気になるところですが・・・。
梨華ちゃんと後藤さんの危うい状況からも目が離せません。
期待です。
470 名前:aki 投稿日:2001年12月10日(月)13時23分02秒
おおっ!!レスたくさんありがとうとございます(T_T)

465:M.ANZAIさん
>レスありがとうございます。
 出会う運命だったしもしかしたら傷つけあうのも運命だったのかも
 しれません。でもやっぱり目に見えないもののせいにしてばかりは
 まずいかもしれませんね。どんなに悲しい運命でも変えられる力は
 誰にでもありますから・・・・。運命だったかもしれないし二人の
 歩いてきた道かもしれません。結局は運命がどうとかじゃなくても
 二人はお互いを求めてますからね。なんかマジな返事ですいません^^;
 
466:名無しさん
>レスありがとうございます。
 痛いですね、書いてる方も充分痛いので読まれている方はもっと
 痛いと思います。すいません^^;
 どうなるか・・・二人次第ですね・・・。
471 名前:aki 投稿日:2001年12月10日(月)13時31分14秒
467:名無し梨華さん
>レスありがとうございます^^
 私自身もカーチェイスの辺り書いてる時はすごく幸せでした・・・^^;
 これからもがんばりますっ。
 名無し梨華さんもがんばってくださいねv

468:いしごま防衛軍さん
>初めてのレスありがとうございます。 
 なんとも嬉しいHNですね(w
 近頃なぜか書くペースが落ちてきましたががんばりますっ!
 二人を幸せにしたいのはみなさんと同じく私もです^^
 全ての更新にベストを尽くすようにがんばってます(w
 ありがとうございます、がんばりますっ。

469:名無し読者さん
>レスありがとうございます。
 石川と後藤だけならまだしも『そっち』がありますからね・・・
 全てが交差する時がいつかやってきますがとにかく期待に答えられるように
 がんばります!(?)
472 名前:aki 投稿日:2001年12月10日(月)19時45分54秒

えっと、それでは初の3スレ目に行きたいと思います(w
次の更新をここで区切りの良い所までやるとなるとなんかぎりぎりになりそうなんで。

実はここのスレのタイトル、2とかパートUとか付けるはずだったんですけど
忘れちゃったんですよね(爆)
次もここの板にしようと思いますがタイトル・・・・・何かしらにします^^;

これからもよろしくお願いしますm(__)m


473 名前:aki 投稿日:2001年12月10日(月)20時47分46秒
同じ板ですが一応・・・・

彼女達の立ち方V
 http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=sky&thp=1007981418


474 名前:saitou 投稿日:2001年12月28日(金)17時33分27秒
とってもおもしろいです
475 名前:saitou 投稿日:2001年12月28日(金)17時40分27秒
すみません・・・・sageるのわすれてしまいました。
476 名前:aki 投稿日:2001年12月29日(土)21時47分20秒
474:saitouさん
>レスありがとうございます^^
 上げ下げは気にしないで平気ですよ。
 続きも同じスレにありますのでよろしくお願いします。
 がんばります。

Converted by dat2html.pl 1.0