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Epitaph 〜碑文〜

1 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月15日(木)03時57分02秒
色々な方の美文に触発され、自ら筆を取りました。
拙い文章ですが、よろしくお願いします。
最初なんで短めの文章で様子をみたいと思います。
2 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月15日(木)03時59分42秒
『それでもいいと思ってた』

久しぶりのオフ。だけど、どう過ごしていいか分らずに
迷っていたらあの娘に、声をかけられた。
そして今二人で歩いている。
3 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月15日(木)04時13分41秒
遮断機が上がり、坂道を登ればもうすぐこの娘の家に着く。
雨上がりのレールは薄っぺらい日差しを受けて、夕焼けに光っていた。
圭にとってこの街はまだよく分らない。何処に何があって、
どんな人たちが毎日を送っているのかも。
でも、一つだけははっきりと言える事がある。
それはこの娘が今ここに住んでいる、と言う事。

彼女は寒空に震えながらもアイスキャンディをほおばている。
一方圭は、両手に買い物袋を抱えた恰好で風さえも遮れない。
誘われた自分が何故荷物を持っているのか、不思議に思った。
でも・・・

それでもいいと思った。
4 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月15日(木)06時30分12秒
凍てつくような寒さに咳き込むあの娘。
強がってるけど耳たぶと頬は温かそうで。
街を歩いていても何処か注意深くて
それでも野良猫を見れば必ず話しかけてる。

圭は少し先行くその娘を見ていた。

ちょっと生真面目で正義感が強くて、
その割にふとした事で瞳に不安の色を浮かべて、
得意な手料理が愛情より何故か下手で。
でも・・・

それでもいいと思った。
5 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月15日(木)06時37分51秒
圭は腕をふるって、以前番組で裕子と作った
サーモンのクリームシチューをこしらえた。
彼女は手伝いもせずテレビに夢中になっている。
話しかけても何も言わず、うたた寝を始める。
「せめて何か掛けてから寝たほうがいいよ」って言っても
あの娘は聞かず、浅い寝息を響かせる。

圭は夢の中の彼女を見つめながら、遠い記憶の欠片を思い出した。

始めはちょっと辛かった。
キスしたとかしないとかで張り合ってばかり。
傷ついたような素振りにやりきれなさをぶつける自分が
ちょっと情けなかった。
でも・・・

それでもいいと思ってた。
6 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月15日(木)06時45分18秒
圭は曇ったガラス窓を掌で擦ると、外は二度目の冬を待っていた。
出来たばかりのシチューの匂いも気にせずにその場にゆっくりと座ってみる。
出会った頃に揃えたティーカップも今は色を無くしていた。

「愛している」「愛されている」

誕生日に贈った壁掛け時計が刻む時間の中でそれだけが
形の無いまま、答えの無いままこの部屋中をさ迷っていた。
でも・・・

それでもいいと思った。
それでもあなたが好きだから。

大好きだから・・・。
7 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月15日(木)06時51分42秒
一応第一作目は終了です。
申し送れましたが、主人公は保田さんであります。
とりあえず、「クールで渋い保田さん」をテーマに
書いてますので、面白みなどには欠けると思います。
よかったら読んでやってくださいませ。ではまた。
8 名前:LINA 投稿日:2001年11月15日(木)14時09分30秒
圭ちゃんってばぁ〜、可愛いようなカコイイような・・微妙な感じがイイです!
その相手を予想したんですけど・・でも、まじでわかんない(w
絞り込んではみたんですけどぉ(w

2作目も頑張ってくださいねー♪
9 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月16日(金)06時40分25秒
For LINAさん

読んで頂いて恐縮です。
次作で相手がわかりますし、保田さんもかなり「クール」になってます。

LINAさんの方もこっそり読んでるので、頑張ってください。
ではこの辺で

 
10 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月16日(金)12時32分17秒
二度目の冬というキーワードと、1人暮しの年下メンバー。
さらに、保田がクールになれる相手って、他に思い浮かばない。
11 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月17日(土)04時05分08秒
二作目にいく前にもう一パターンあったので
そちらを先に載せておきます。

『それでもいいと思ってた ver.A』
12 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月17日(土)04時20分31秒
そしていつものようにあなたを自転車に乗せて、圭は海沿いの斜道を走る。
あなたはこぶしを突き上げ背中越しに笑い、圭は両手を離す。
蒼い月が揺れていた。

海風に吹かれて桟橋を走る。風に散る福寿草が眩しいね。
大空に輪を描くカモメに無邪気な瞳で挨拶してた。
辛い事があると決まってここに連れて来る。
人の前では強気を売っても私には悲しみを投げ出してた。
でも・・・

それでもいいと思った。

13 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月17日(土)04時38分20秒
迷路という名の地図を広げてここまで来てみたけど
鏡の中の姿が目の前のあなたよりなやましかった
肩にかかる髪は幼さを一層引き立たせるけれど
見つめる唇が私の心を盗んでいた。
でも・・・

それでもいいと思った。


圭はそっと浜辺に腰を下ろし、波と戯れるあなたに思いを巡らせてみた。

カッコ悪いくらいにカッコつけて、告白しても
あなたは返事をする前に逃げ出してたね。
笑顔でくれた映画のチケットもポケットの中でしわだらけ。
映画を見た夜、突然の雨に咳き込む私をよそに
あなたは映画の余韻で一人はしゃぎたてる。
でも・・・

それでもいいと思った。
14 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月17日(土)04時48分54秒
今日も一日が終わりを告げ、圭はいつもの景色を楽しむ。

明かりが灯る街の色を退屈そうな笑顔で笑いながら
心のどこかで慌ててた。
パジャマのままで枕抱えて、思わせぶりな台詞で誘ってみても
お酒を飲む仕草も、悲しいほど笑う癖も、全て私を真似してた。
毎日違うけど、虜になんて出来ないほどの眩しい笑みに
いつしか勝手に酔いしれてた。
でも・・・

それでもいいと思った。
それでもあなたが好きだから・・・。
15 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月17日(土)04時57分15秒
For 名無し読者さん

あくまでも小説はフィクションの世界なんで、勝手に場面や人物を設定しました。
でも、当たってます。そう「あの娘」です。
一応おもに出てくるのは保田さんと「あの娘」ともう一人の方だけで、進めてます。
でも読んで頂いて恐縮です。
ではまた。
16 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月18日(日)06時40分13秒
『宇宙(そら)』

 タクシーを降りて、圭はしばらくその場に立ち止まりながら、
天を見上げて見た。排気ガスで汚れた昼間とは違い、
星を散りばめたような澄んだ夜空。
そんな綺麗な空のキャンバスに浮かぶ蒼い月ひとつ。
その灯りを背に、圭は通りを歩きながら
出来あがったばかりの新曲を口ずさむ。
時計の針はあと一時間ほどで一日の終わりを告げる。

17 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月18日(日)06時47分21秒
 舗装されたばかりの歩道を歩きながら、
圭は携帯電話を取り出しかけてみる。
いつもよりやや遅くあの娘の声が耳に届く。

「あっ、もしもし、アタシ」
「・・・遅いですよぉ。十時に来るって言ったじゃないですかぁ」

少しだけ不機嫌なご様子。
あの娘の事だ、ベッドの上で枕を抱いたまま連絡が来るのを
飽きもせずに待っていたのだろう、と一人考えてしまう。
でもそれはいつもの事で、それをわかっているから
圭はいつものように言い訳を言ってみる。

「ごめん。レコーディングが延びちゃってさ」
「・・・もういいです」
「なんで?」
「来なくていいです。他の人来てますから」
 
意地を張ってまで嘘をつくところは出会った頃から変わっていない。
18 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月18日(日)06時59分17秒
「そっか。じゃあUターンするわ」
「え〜、う、嘘です。ごめんなさい、行かないでぇ〜」
「・・・知ってる。今、交差点曲がったから・・・あと五百メートル」
「・・・・・・」

自然と顔が綻んでいくのも構わず、圭はあの娘が待つ所へ足を運んでゆく。

「・・・あと三百メートル」
「・・・」
「あと二百メートル・・・見えてきた。確か三階だったよね?」
「待ってください。今灯り消しますから」
「ちょっとぉ、モールス信号じゃなんだから・・・」
「えへへ」

圭は歩きながら、目線を前方の建物へと移す。
ひとつだけ、灯りを消したり付けたりを繰り返している部屋。
そこから女の子のが窓越しに手を振っている。

(何をやってるんだか・・・)

圭は玄関の前まで来て、持っていた合鍵でドアを開ける。
そこにはお風呂あがりのように頬を赤く染めたあの娘・・・
梨華が満面の笑みで立っていた。
「おかえりなさい」という安らぎの言葉と共に・・・。
19 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月19日(月)02時53分50秒
 上着を脱ぎ、それをハンガーに引っ掛け、ゆっくりとベッドサイドにもたれた。
久しぶりに見る部屋の景色と芳香剤に混じった梨華の匂い。
圭は自然と心が落ち着いていくのが判った。

「今日はどうやってきたんですかぁ?」
「ん?近くまでタクシーで来て、そっから歩いてきた」
「ばれちゃいますよぉ」
「サングラスしてきた」
「してても判ります」

目の前に座る愛しい顔がほころぶ。普段みんなに見せる笑顔とはまた違う、
情がこもった笑顔は圭の目元を和らげる作用を引き起こす。

「誰かいるの?」
「いるかもしれませんよ〜私、ばれても知りませんから」
「平気だよ・・・」
「え〜そうですかぁ?」
「なんで?」
「私が言っちゃいます!」
「誰に」
「フ○イデーに」



20 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月19日(月)03時00分29秒
 携帯を手にして電話する仕草を見せる梨華に、
圭は躊躇することなくむしろ挑戦的な態度で応えた。

「・・・言ってもいいよ」
「嘘ですよぉ」

意表を突かれた返しに困惑の色を見せる梨華に対し、
誇らしげな笑みを浮かべて、圭は更に詰め寄る。

「言えば? 好きなだけどうぞ」
「またそうやってすぐいじめる〜」

人差し指を圭の腕にグリグリと押し付けながら、梨華は拗ねる。

「いじめてないよ・・・・・・それ・・・消えるの?」

テーブルにおいてあるお洒落なスタンドを指差して、
圭は梨華の側に寄った。

「ライトですか?・・・・・・消えますよ」
「・・・・・・消して」

片方の影がもう片方の影のほうへと崩れかかっていった・・・。
21 名前:LINA 投稿日:2001年11月19日(月)11時09分12秒
ちょっとちょっと!なんだか甘いじゃないですかぁ〜(じゅる

あの娘は、梨華ちゃんだったんですね!
そうですよね、やっぱやすいしですよね!(w

描写がすごくキレイです。
期待してます!
22 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月20日(火)22時43分54秒
元ネタはTMの「Crazy For You」ですかね?
(・∀・)イイッ!
23 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月22日(木)01時48分47秒
For LINAさん

やすしとは言い切れないですよ。
一応もう一人のほうがメインだったりするかも・・・。


For 名無し読者さん

その通りです。あの曲の台詞好きなんですよ。
なんか現実的にあり得るような設定がよくって。
24 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月22日(木)02時01分56秒
「ラブホテルみたい・・・」
梨華は寄り添う腕に抱かれながら呟いた。
梨華と肩を寄せ合い、同じ呼吸を確かめながら
圭は星空を眺めていた目線をそっと隣に移す。
「ん?」
「この部屋ピンク一色だから・・・」
「なるほどね・・・・・・でもいいんじゃない、梨華らしくて」
「それって子供っぽいってことですか?」
梨華はそっと圭のほうを見た。月明かりに照らされて窓の外を見ている横顔は
何処かミステリアスな雰囲気を出していて、すごく異邦人のようだった。
「さぁね・・・・・・」
短くした髪の毛をかきあげる何気ない仕草に梨華は心を弾ませる。
見惚れながら目線を首の辺りにうっすらと浮き出る汗に移した。
「・・・・・・すごい汗ですね」
「アンコール一回分、かな」
そう言って冗談っぽくウインクして笑う圭に梨華は抱きついた。
25 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月22日(木)02時19分16秒
「・・・水、飲みたいな」
「ちょっと待っててください・・・・・・あ〜だめですぅ。
 貸して下さい」

梨華はゆっくりとベッドから体を起こし、上に羽織るものを手に取り
キッチンへと向かおうとする。圭はそれを着させまいと袖を掴んだまま
じっと梨華を見ていた。

「いいじゃん、そのままで」
「いやですよぉ。恥ずかしいじゃないですか」
「なんで?」
「だって、そのぉ・・・えっとぉ・・・言わせないで下さいよぉ・・・・・・」

梨華は少し頬を赤らめながら、素早くキッチンへと姿を隠した。
その後姿がなんとなく若奥様のようで、圭は口元を緩めて笑った。


26 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月22日(木)02時32分07秒
キッチンから優しいメロディを奏でた鼻歌が流れてくる。

「でも久しぶりですよね、保田さんがここに来るのって」
「そうだっけ?」
「そうですよぉ。誰と間違えてるんですか」
「じゃあ、いつから付き合いだしたんだっけ?」
「忘れたんですかぁ〜?」
「・・・・・・忘れてないよ」

ミネラルウォーターの入ったグラスを手にして、膨れっ面の梨華が戻ってきた。

「はい、お水」
「アリガト」
「そうやって私のこともすぐ忘れるんですね」

ベッドに身を潜め、すっぽりと目元まで布団を被った梨華は疑いの目線を圭に向けていた。
そんな姿が可愛らしくて、圭はゆっくりと梨華に顔を近づけて言った。
27 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月22日(木)02時37分33秒
「忘れたら・・・」
「忘れたら?」
「忘れたら・・・・・・もう一度出会えるよ」

梨華は耳元で囁くように言われて、布団をぎゅっと握り締めて顔を埋めた。
照れている梨華をよそに圭はまた外に目を向けた。
そしておもむろにベッドから抜け出し、ベランダへと足を運んだ。
星が降りしきる遠い空を見上げてみる。

「巡り会いは二人だけの遠い過去の約束・・・だからきっとまた出会えるよ」

心地よい風と壮大なパノラマに包まれ、さっきまで少しだけ雲隠れしていた月が
満面の笑みを浮かべて星たちと共に光っていた。
28 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月22日(木)02時44分17秒
「え〜もうですかぁ」
「明日早いんだ・・・おやすみ」

いつものようにそっと梨華の身体を自分の中に包み込んでから、ドアノブに手をかけた。

「忘れ物ですよ」
「ン?何?」

振り向いた先にあったのは少しだけ光沢を失った部屋の鍵。

「これ、鍵」
「ああ・・・」
「もう来ないつもりですかぁ?」

少しご立腹の梨華の顔をしばし見つめて、圭は微笑むと梨華と相対して言った。

「そんなことないよ・・・」
「明日の夜は来てくれますか?」
「収録中にサイン、送るよ」
「なんてサインですか?教えて下さいよぉ」

ダダをこねる梨華に背を向け、圭はそのまま部屋を後にした。
29 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月22日(木)02時48分44秒
外に出ると、タクシーを降りた時のように空を見上げた。
東京でも綺麗な夜空は見えるものだ、見えないのはその人に見ようとする気持ちがないだけ。
スケールの大きいプラネタリウムを見ながら圭はそう思った。

「また、ここに来る時も今日のように綺麗な月が見れるといいなぁ」

冬の星座の下、圭の足どりは月に誘われるように家路へと向かっていった。

 〜 F I N 〜
30 名前: 投稿日:2001年11月25日(日)08時25分47秒
いいですねぇ♪
自分も「Crazy〜」好きでした。 あの大人ちっくなセリフ♪
なんだか、目に浮かぶような文章の流れも良かったです。
31 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月26日(月)02時27分31秒
For Nさん

読んでいただき恐縮です。
とりあえずは文章から絵が浮かぶように心がけて書いてますので
それが伝わってくれたのは嬉しい限りです。

32 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月26日(月)02時38分01秒
『文(ふみ)』

 遠くでサイレンの音が響いている。
この部屋のカーテンの隙間からは蒼い月が顔を覗かせている。
窓についた結露の雫がひとつ、引力に従うように流れ落ちた。

「どうしたの、おもしろくなかった?」
「ん?そんなことないよ」

ソファーに寄り掛かる様に身体を預けていたなつみの問いかけに圭は優しく応えた。
長時間、画面を見つづけていたせいか、少しだけ瞳が潤んでいたなつみの目は
まさに純粋そのものだった。
33 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月26日(月)02時47分13秒
 借りてきたビデオはだいぶ昔のSFアニメだったが、嫌いではないので
圭はなつみに付き合うことにした。
なつみはしばらく様子をうかがうと、おもむろにデッキのスイッチをオフにし、
キッチンへと消えて行った。

「どうしたの?見ないの?」
「いいや。一緒に見ないんなら後で一人で見るよ」
「あっ、ごめん。悪いコトしちゃったね」
「気にしないでいいよ。もしかしたら泣いちゃってたかもしれないし」
「別に泣いたってかまわないよ」
「だってさ、なんか恥ずかしくって・・・」

34 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月26日(月)03時02分23秒
 キッチンから照れ笑いが漏れた。
ようやく二十歳を迎えたなつみには、一見大人びた表情をする時もあるが、
ちょっとした所に見え隠れする幼なさもまだ残っている。
そういうアンバランスさが彼女の人気の秘密なのだろう、と
ひとり圭は納得していた。

 お洒落なティカップとポットをシルバーのトレイにのせてなつみが戻ってきた。
その姿はどことなく幼な妻を想像させるほど見事にハマっていた。

「そういえばこの間、部屋の模様替えしたんだ。どうかな?」
「ん〜前よりはいい雰囲気だね」
「それって前は良くなかったってことかい?」
「少なくともウチよりはいいと思うよ」
「え〜圭ちゃんちだって前からキレイじゃん」
「ウチはものがないからそう見えるだけだよ」
「その割にはきっちりしてるっしょ」
「お客さんが来るときはきっちりしないと失礼に値するからさ」

そう言いながらふと目線が大きなアルミ缶に止まった。
35 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月27日(火)13時23分42秒
 それはディズニーのキャラクターが描かれた缶で、
思ったよりもかなり重量があった。

「これ何?なんかお貸しとか入ってたような感じだけど」
「ん〜、ああ、それね。それはなっちが学生の頃に内緒で
 やってた文通のお手紙だよ。あの頃は手紙書くの好きだったから、
 いろんな人達と文通してたんだ」
「そ、そうなんだ・・・」
「へへ〜、最初は友達同士でやってたんだけどさ、気がついたらなっちだけ
 続けててね、そのうち雑誌とかの募集欄見ては切手買いにいってたね」

なつみが言った「文通」という言葉に圭は、一瞬身を固めた。
しかし、テーブルに頬杖を突いて記憶の糸を手繰り寄せていたなつみに
悟られる事はなかった。
36 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月27日(火)13時30分00秒
 圭はその缶を持ってなつみの脇へ座ると、なつみはまるで
パンドラの箱を開くかのようにゆっくりと丁寧に蓋を開けた。
蓋の開いた缶からは想い出のオルゴールが鳴り響いてきそうなほど
懐かしさを放つ手紙たちが顔を出した。
その数といったら計り知れなかったが、その一通一通にペンを取った人の
熱い気持ちが込められていた。
圭は嬉しそうに手紙を広げるなつみと同じ気持ちでその仕草を眺めていた。
37 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月29日(木)04時07分32秒
「ホントは実家に置いといたほうがよかったんだけど、なんだか離さずには
 いられないっていうか、うまく言えないんだけどなっちだけの家族みたいで
 結局もってきちゃった」
「でもさ、そんな大事なものを他人にさらけだしていいの?」
「いいんだ。この手紙くんたちはなっちの大切な友達なの。で今なっちと圭ちゃんは
 友達じゃん。友達の友達はやっぱり友達っていうじゃん。だから、圭ちゃんと
 手紙くんたちも友達なの。なっちが圭ちゃんに友達を紹介したってことかな」

照れたように笑うなつみの笑顔は他人の気持ちを温める効果があるように思えた。
38 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月30日(金)02時54分39秒
「いやぁ、それにしても懐かしいや。最近はあんまり読み返さなかったけれど、
 以前はけっこう助けられたんだよね〜」

顔がほころびっぱなしのなつみを見ながら、圭は自分も同じようにしていた事を
思い出していた。
デビューした当初はうまくコミュニケーションが取れなかった事もあって、三人で
色々と助け合っていたが、それでも決して人には言えなかった事もあったわけで、
そんな時は決まってなつみのように彼らに励まされて勇気をもらっていた。

(アタシにもそんな時があったっけ・・・・・・)

圭はそう思いながら、目の前に散らばる封書の山から思いがけないものを見つけ出した。
39 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月30日(金)03時02分24秒
「ねえ、なっつぁん。この封書だけどさ・・・」
「ん〜どれぇ?」
「これだけど、このペンネームで書いてあるやつ」
「おお〜それかい。えっとペンネーム『プッチ』さんだ。
 圭ちゃんと同じ千葉県の人だったかな。いやぁ〜懐かしいねぇ」
「ず、随分と懐かしげだね」
「へっへ〜だって初めてなっちと文通した人だもん。音楽雑誌かなんかで知り合ったんだ。
 歳も近かったし、他の子と違ってただ音楽について喋りませんか、って言う内容でさ、
 なんかその文句に惹かれちゃってペンとってたんだよね」
「ふぅ〜ん。どんなこと話したの?」

40 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月30日(金)03時21分58秒
「えっとね、最初に来た手紙には将来の夢が書いてあって、絶対歌手になるんだっていう
 思いが便箋に3枚ぐらい。もうそれだけでなっち驚いちゃってさ、うわぁ〜すごい意志って。
 でさ、なっちは色々とプッチさんに教えてもらったよ、音楽のあれこれを。
 このアーティストのこの曲がいいとか、この曲のメロディがカッコイイとか、
 なんか評論家みたいなこと言ってたんだ。だからさ、最初は薦めてくれた曲とか聞いてたりしたけど、
 段々自分でもわかってくるとこっちからも色々と薦めたりしてたよ」
「その人って歳が近いんでしょ?なんかすごいね」
「そうそう。で、文章とかもさ、漢字だらけだったり、ときには英単語がでてきたりしてさ。
 封書が届くたびに二つの辞書片手に読んでた、いや違うなぁ、解読してたって言ったほうがいいかな。
 だから英語と国語には強くなったよ」
「あははは。切手代だけで音楽談義ができて、そのうえ勉強にもなるなんて通信講座みたいだね」
「そうかも。他の人ともやってたけど、それはホント日常の事とかの内容なんだけど、その人だけなんか
 なっちの先生みたいでさ。一番苦労したけど、一番印象に残ってるよ」
41 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月30日(金)03時30分30秒
「じゃあさ、その人がいなかったら今のなっつぁんはいなかった?」
「ん〜どうだろ?でもこの世界を目指すきっかけをくれた中の一人ではあるよ」

圭はなつみの話を夢中になって聞き入った。
自分の子供の頃の話をされているのに、何故か恥ずかしいとかいう気持ちは
微塵もなかった。
むしろその話を素直な気持ちで受け止めている自がそこにはいた。

「あのさ・・・どれか一つ、読んでもいいかな?」

圭は恐る恐る聞いてみた。
それは相手に対して失礼だとは思ったが、話を聞くうちに
自分の中にもなつみと同じ、いやそれ以上の懐かしさが
込み上げ、抑え切れないところまで達していた。

「いいよ。どれでも勝手に見ていいから」

なつみはあっさりと言いきった。

「えっ、いいの?ほんとに?だってプライベートな事だよ?」

42 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月30日(金)03時36分44秒
「さっきも言ったっしょ。圭ちゃんと手紙くんは友達だからって。
 それにラブレターとかじゃないから恥ずかしくないし平気だよ」

平然とした顔で言うなつみの心の寛大さに戸惑いながら、圭は
目線をじっと封書の山へと向け、一通の手紙を引き抜いた。
手にはスカイブルーの封書。
年頃の女の子が使うような可愛らしいものではない。
表にはキレイとは言い難い文字。裏には住所と何故かペンネーム。

(なんで名前にしなかったんだろ・・・)

圭の意識は過去を遡り、あの頃の自分を見つめていた。
鮮明にあの頃の風景が脳裏に甦ってくる。

 
43 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月30日(金)03時42分40秒
(あの頃はずいぶんとおとなしかったんだよなぁ。
 人見知りが激しくって口下手で、
 それでいて目つきが鋭かったから
 よく上級生とかに目をつけられてたっけ・・・・・・)

比較的おとなしかった思春期の自分が今、全国の人々の前で
歌い踊っている、そんな見違えるほど成長した自分が妙に
おかしかった。

「・・・ちゃん。圭ちゃん。お〜い、大丈夫かぁ」
「ふぇ?あっ、なに?」
「どうしたの?ぼけぇ〜として」
「えっ、そう?ははは」
「交信なら一人の時やってね」

いつの間にか時空を旅していたようで、なつみはおどけて笑っていた。
44 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月30日(金)03時49分15秒
 圭はそっと中の便箋を取り出した。
広げて見ると、そこには鉛筆書きで英単語をノート一面に
書きなぐったようにびっしりと言葉が詰っていた。
当然見栄えがいいとは言えないが・・・。

「結局、その人が学校辞めてオーディション受けるって言ったのを最後に
 自然と終わっちゃったんだよね」

なつみが思い出したように呟いた。

「今頃どうしてるかなぁ。ちゃんと歌手になってるのかなぁ。
 なってたらちゃんと会って話がしたいのに・・・」
「・・・・・・。でもさ、その人はどこかでなっつぁんを見てるわけだから
 画面の向こうで愚痴ってるかもよ」
「・・・・・・そうだね。夢が叶ってなくてもなっちのこと見ててくれてるよね」

なつみは何かを確認するように笑顔を見せた。
まるでなつみはその人が誰であるかを知っているかのように・・・。
45 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月30日(金)03時55分33秒
 圭はなつみに笑顔を向けられて、全てを打ち明けてしまいそうになった。
しかし、それをなんとか堪え、平静を装った。
せっかくの想い出を余計な一言で台無しにはしたくなかった。
なにより自分が今そばで本人を見守っていることができている、
それが一番いいと思った。

圭は読みかけた自分の便箋を封書にしまい、そっと戻しておいた。
なんだか幸せな気分になった圭は隣りをゆっくり見た。
なつみはいつしか友達の山に埋もれるようにその場に突っ伏していた。
彼らに囲まれたその顔はあの頃にでも戻ったように可愛い寝顔をしていた。
46 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月30日(金)03時59分05秒
 圭はゆっくりと立ち上がって、寝室から毛布を取りだし、
そっとなつみに掛けてあげた。

「大切な友達・・・か」

ふとなつみの顔がほころんだ。
きっといい夢を見ているのだろう。



数日後、一通の手紙がなつみ宛に届いた。
もちろん差出人はあのペンネームで・・・。

              〜 FIN 〜
47 名前:うっぱ 投稿日:2001年11月30日(金)04時04分04秒
段々と書いていて、恥ずかしくなったので一気に仕上げてしまいました。
今一度読み返しても、ずいぶんと汚いなぁ〜と思ってます。
読んでくださる方に深くお詫び申し上げておきます。

次回作は保田さんと石川さんが登場する中篇になるかと思われます。
ではまた。
48 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月03日(月)02時27分41秒
『幻夢(ゆめ)』


「ご、ごめんなさい。き、急に呼び止めたりして・・・・・・」
「かまわないよ。で、それよりどうしたの?そんなに改まっちゃって」
「えっと・・・・・・言いにくいんですけど・・・・・・その・・・・・・」
「なに?」
「あ、あの、お願いがあるんです」
「お願い?」
「は、はい・・・・・・こんな事・・・・・・保田さんにしか言えなくって・・・・・・」
「そんなに緊張しなくていいよ」
「は、はい、えっと、あの、その、つまり・・・・・・」
「なに?何でも言って」
「・・・・・・料理・・・・・・作ってください・・・・・・」
「えっ?な、なに言って・・・・・・」
「保田さんの手料理が・・・・・・」
「ちょ、それってまさかプロポ・・・・・・」
「私、保田さんの手料理が食べたいんです!!!」
49 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月03日(月)02時37分31秒
 ブワァサッ!!!

「・・・・・・ゆ、夢・・・・・・か」

 雀の鳴き声が聞こえ、カーテンをそっと開ける。
既に四十五度まで昇っていた太陽の光を全身に浴びた。
いつもより遅くベッドを後にする。
 顔を洗い、簡単に朝食をこしらえる。
昨日のうちに下拵えしておいた味噌汁に火を入れ、卵に納豆、
ほうれん草のおひたしと鮭の切り身をテーブルに置き、
これまた昨日のうちに炊いておいたご飯をよそう。
典型的な朝のメニューをテレビと共に過ごす。
50 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月03日(月)02時44分07秒
 画面を見つめながら、ふとさっき見た夢を思い出す。

「なんであんな夢見たんだろ?よりによってあの娘から
 あんな事言われるなんて・・・・・・あたし、欲求不満なのかな?」

 鮭の切り身を突つきながら、ぼんやりとテレビと睨めっこ。
そのうち、テレビからは今日の運勢が聞こえてきた。

『え〜射手座のあなた、今日は思いもよらない告白がありそうかも』

 一瞬箸からご飯が滑り落ちそうになった。

「ま、まさか・・・・・・ねぇ・・・・・・」
51 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月04日(火)04時19分51秒
 今朝の夢のせいでぼんやりし過ぎた圭は、急いで仕事先へと向かった。
現場に着いてみると、幸いまだ全員が揃っているわけではなく、いつも通りの
挨拶を交わし、楽屋へ入った。

「あっ、圭ちゃん、おっはよぉ〜」

 珍しくなつみが既に来ていた。そして片手を挙げてにこやかに挨拶をする。
しかし、そんな元気のいいなつみとは違い、圭は無反応で通り過ぎて行く。

「あり?どうしたの〜?お〜い、圭ちゃん?」
「・・・・・・・・・」

 肩透かしを食らったなつみは再度、圭の前に回りこみ
ややボリュームを上げて挨拶をしてみた。

「おっはよぉ〜!」
「・・・・・・・・・」
52 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月04日(火)04時26分14秒
 やはり結果は変わらず、なつみはそれでも健気に頑張ってみた。

「お〜い、圭ちゃん。なっちだよぉ。
 あなたの天使、なっちさんだよぉ〜。
 可愛い可愛いなっちさんだよぉ〜」
「・・・・・・・・・」

 依然として目線はそのままで無反応な圭。

「ちょっとぉ、圭ちゃんてばぁ。返事してよぉ、なっちさみし〜」
「なにしてんの、なっち?扇子なんか煽って」

 いつの間にか真里が呆れた顔つきで隣に立っていた。
なつみはどこから持ってきたのか、日の丸がプリントされた扇子を
両手に持って、一人芸を披露していた。当然客はゼロだったが。
53 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月06日(木)03時11分42秒
「えっ、いやぁ〜、あはははは」
「どしたの?」
「それがさぁ、圭ちゃんがさっきから一言もしゃべってくんないんだよね。
 なんかうわのそらって感じでさ〜」
「ふぅ〜ん。でもそれって圭ちゃんだけじゃないよ」
「なんで?」
「ほら、あそこに同じようなのが一人」

 真里が指差す方へ目を向けると、そこには意識が宇宙へ飛んでいる梨華が
ボヘ〜っと座っていた。
 二人はゆっくりと梨華の元へ近寄り、様子をうかがってみた。
54 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月06日(木)03時17分46秒
 なつみは試しに、猫だましを一発炸裂させてみる。

「・・・・・・・・・」

 続いて真里が梨華の正面に座り、梨華の頬を両手で摘み、
横や縦、回したりして引っ張った。終いには額を人差し指で
思いっきりはじいた。
 傍から見ていても痛そうな音が響いた。

 しかし、梨華はただボヘ〜ッとしたまま旅行中。

「ね」
「う、うん。こりゃすごいわ。一体どうしちゃったんだろ、二人とも?」
「さあ?でもお互い意識し合ってることは確かだけどね」

 真里はそう言うと、少し離れた場所で黄昏ている圭を見て言った。
55 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月06日(木)03時26分06秒
とりあえず今宵はここまでで。

今のところ手元に二作出来あがってるんですが、
どちらを先にするか迷ってまして・・・・・・。

一つは保田さんと安倍さん編。もう一つは保田さんと石川さん編。

う〜ん、微妙であります。
ではまた。
56 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月07日(金)20時17分24秒
楽しく読ませて頂いてます!いい感じですね〜
保田さんと石川さん編がよいな
57 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月10日(月)02時08分06秒
For 名無し読者さん

楽しんでいただいて光栄です。
ご希望通り保田さんと石川さん編にします。(短いですが)
では続きを
58 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月10日(月)02時17分47秒
 それからというもの、二人は軽口を交わす事もなく、目が合うと
二人共にもじもじするだけだった。
特に梨華のほうは視線が合う度に顔を紅潮させ、両手で頬を覆い、
頭を左右に振り乱すといった奇怪な行動をしていた。

「なんか怪しいよ、二人とも」
「特に石川のほうがあぶないよ。なんか近付きがたいよ、あれじゃあ」
「でも何があったか知らないけど、いいんじゃない?
 あれから進展したってことで」

二人に行動を逐一観察されていたのも知らず、圭と梨華は相変わらず
うわの空を決め込んでいた。
59 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月10日(月)02時24分36秒
(う〜ん、今日ダメだ・・・。どうしても意識しちゃう・・・。
 それと言うのも今朝あんな夢見たおかげだよ・・・)

(うぇ〜ん、どうしよぉ。まともに保田さんの顔見れないよぉ〜。
 でも、でも言わなくっちゃ・・・)

 お互い憂鬱な気分のまま、なんとかこの日の仕事も終わった。
楽屋から一人また一人とメンバーが帰宅してゆく最中、
梨華はそっと圭に近づいて言った。

60 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月10日(月)02時31分54秒
「あ、あのぉ、や、保田さん・・・この後・・・そのぉ・・・
 お時間・・・あります、か?」
「えっ・・・べ、別に・・・これといってない・・・けど・・・」
「ち、ちょっと、お、お話が・・・・・・」
「いい・・・けど・・・・・・」

 二人のぎこちないやりとりに目を精一杯輝かせて、興味津々といった
ご様子で見ていた真里となつみは顔を見合わせて頷いた。

「じゃあ、矢口たちも帰るよ。また明日ね」
「バイバイ、圭ちゃん、梨華ちゃん」
「あっ、うん、お疲れ」
「お、お疲れ様です」

 なんとなく気まずい雰囲気が辺りを覆っていた。
お互いが相手の出方を窺っているようで、圭はしきりに落ち着きなく
顎や頭を掻き、梨華はじっと真っ赤な顔を俯かせたままで立っていた。

 そんな二人の様子をドア越しに覗いていたなつみと真里は
勝手な妄想で盛り上がっていた。
61 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月10日(月)02時38分17秒
「(もしかして愛の告白かな?)」
「(え〜だって二人の関係はみんな知ってるじゃん。それはないよ)」
「(じゃあ、何、別れ話とか?)」
「(いや、ちがうね。あれは多分もっとすご〜い告白だね)」

 真里の目が輝きを増した。

「(えっ、それってもしかして・・・・・・)」
「(保田さん、石川を抱いてくださいっ! じゃない)」
「(・・・・・・・・・)」

「「(いやぁ〜っ!)」」

 二人は通路であるにもかかわらず、はしゃいでいた。
誰もそこを通らなかったから良かったものの、誰がどう見ても一番怪しいのは
そこで部屋を覗き見している二人なのは言うまでもない。

62 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月10日(月)02時44分23秒
 一方室内では今だ緊迫した雰囲気の中、向い合った二人がいた。
そしてその沈黙を打ち破ったのは梨華だった。

「ご、ごめんなさい。き、急に呼びとめたりして・・・」
「か、かまわないよ。それよりさ、どうしたの?こんなに改まっちゃって」
「えっと・・・・・・言いにくいことなんですけど・・・・・・その」
(嘘でしょ?夢と同じシチュエーションじゃない)

 圭の背中に一筋の冷たい雫が流れた。

「あ、あの、お願いがあるんです・・・・・・」
「お願い?」
「は、はい・・・・・・こんなこと保田さんにしか言えなくって・・・・・・」
「そ、そんなに真っ赤になんなくっても・・・・・・」
「あ、あの、その、えっと」
(お、落ち着け、保田圭!)
63 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月10日(月)02時48分55秒
「(おお〜ついにきたぁ〜!)」
「(ち、ちょっと矢口ぃ。重いよ)」
「(シーッ!静かに!なっち、声大きいよ)」
「(だって、矢口がのっかってくるから・・・・・・)」
「(今イイとこなんだから)」

「な、なに?何でもいってごらん」
「り、料理・・・・・・作ってください・・・・・・」
「えっ?な、なに言って・・・・・・」
「保田さんの手料理が・・・・・・」
「そ、それってまさか・・・・・・プ、プロ」
「保田さんの手料理が食べたいんです!!!」
(ゆ、夢とおんなじだぁ〜っ!)
64 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月13日(木)06時03分50秒
「(きゃぁ〜っ!!!ダイタン〜、いやぁ〜っ!!!)」
「(ち、ちょっと矢口ぃ、暴れないでよぉ。聞こえなかったじゃんかぁ)」
「(どうする、どうする、なっちぃ。手料理が食べたいだってよ!どうするどうする?!)」
「(だからぁ、人の背中で暴れないでってば)」
「(きゃぁ〜、矢口、あんなこと言われたらどうしよ〜、いやぁ〜)」
「(はしゃぎ過ぎだって。まだ圭ちゃんがなんて言うか聞いてないじゃん)」
「(そうだ、そうだよ。なんて言うんだろ?うわぁ〜ドキドキしてきたぁ〜)」
「(なんで矢口がドキドキすんのさ)」

 一人興奮してはしゃぐ真里と、何故か冷静になっているなつみ。
そんな凸凹コンビの視線は再び室内へ・・・。
65 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月13日(木)06時10分20秒
(どうしよ〜、夢だとここで終わってるんだけど・・・そんな状況じゃないし・・・)

(言っちゃったぁ・・・うぇ〜ん、顔が熱くて保田さんのこと見れないよぉ〜)

(こんな時にポジティブになられても・・・・・・困ったなぁ)


「(何やってんだよぉ、圭ちゃん!せっかく石川が勇気出して言ったのに〜)」
「(イタタ・・・矢口ぃ、背中叩かないでよぉ)」
「(あーもう!じれったいなぁ!)」
「(イタタ・・・髪の毛引っ張らないでってば)」

「・・・ダメ、ですか?」
「あ、あの、それって、その、つまり・・・」
「お願いです!」
(そ、そんなに頭深々と下げられても、心の準備ってものが・・・)
66 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月13日(木)06時18分51秒
「(もおっ!何してんだよぉ、圭ちゃん!!!サブリーダーならビシッと決めろぉ!!!)」
「(いったぁーい!矢口ぃ、つねんないでよ!)」
「(なっち、さっきからうるさいよ!聞こえないじゃんか!)」
「(矢口が叩いたりつねったりするからじゃん!)」
「(うわぁ、声が大きいよっ!)」
「(フガ、フガッ)」

 どう答えていいのか迷っている圭に、梨華は瞳に涙を溜めこんだまま、
圭に抱きついて上目遣いで叫んだ。

(な、何、今度は?まさか実力行使?嘘、待って、まだ早いって、ねえ、お願い・・・)
67 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月15日(土)02時23分52秒
「作ってください!この間作ってくれたホタテと鮭のトロロ丼の味が忘れられなくて
 どうしてもレシピが知りたいんです。だからもう一度食べさせてください!」

「(な、なんだとぉ〜)」
「(うわ、うわ、うわぁ、矢口、押したらドアが、ドアがぁ〜)」

 ガチャッ! ドサッ! ズザザーッ!

 真里が不意に前のめりに倒れかかってきた反動で、ドアノブを掴んでいたなつみの
身体が前へ押され、勢いあまってドアが全開した。

「いたた・・・矢口、押さない出よ。ドア開いちゃったじゃんか」
「だって、期待外れだったんだもん!こけたくもなるよ」
「はやくおりてよ、いつまで乗ってんのさ」

「何してたんですか、そんなと・こ・ろ・で!」

二人の頭上から鬼のような形相で梨華が尋ねた。
68 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月15日(土)02時35分19秒
「えっ、あ・・・・・・い、いやぁ〜ははは・・・・・・」
「あはははは・・・・・・そ、そのぉマ、マフラ−忘れちゃってね、ヘヘへ・・・」
「安倍さん、マフラー鞄に入ってますよ」

 倒れた拍子に鞄から飛び出したマフラーの端が顔を覗かせていた。

「どういうことなのか、はっきり説明してくれますか?」

 梨華は二人に弁解する余地をも与えないほどの睨みを効かし、詰め寄った。
逃げ場を失った二人は、お互い向き合い、そして・・・

「保田さん、お願いがありますぅ(矢口)」
「何?なんでもいってごらん(安倍)」
「保田さんの手料理が食べたいんですぅ・・・・・・どう、似てた?」

 ・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・。

 数分後、二人の両鼻にはティッシュが詰っていた。

 肝心の圭はというと・・・

(な、なんだ、プロポーズじゃなかったのか・・・・・・よかった・・・・・・)

 ひとり遠い世界を漂っていた。

 〜FIN〜
69 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月15日(土)04時21分15秒
なんかほとんど保田さんと石川さんばかりになってしまいました。
ので、ここではこの二人の話を載せていく事にします。

次作は『暖景(ほのぼの)』です。
ではまた。
70 名前:暖景 1 投稿日:2001年12月17日(月)03時16分32秒
 本格的な冬の到来がこの街にも訪れる。
午前八時、とある住宅街の一軒家は、梨華の威勢のいい挨拶から1日が始まった。

「おはよーっ!」
「おっ、おはよ。今日は早いな、せっかくのオフなのにどっか出かけるのか?」
「今日は保田さんが家に来てくれるの。寝てなんかいられないよぉ」

 笑顔で応える梨華。嬉しさを表すように陽気な鼻歌が洗面所から流れてくる。

「そんなに嬉しいもんかね」
「さぁ?どうなんですかね」
「なんだか私も学生時代に戻りたいよ・・・」

 急にナーバスになる梨華パパ。それも梨華ママの一言で打ち壊される。

「早くしないと会社チコクしますよ!」
71 名前:暖景 2 投稿日:2001年12月17日(月)03時23分36秒
 午前十時三十分、穏やかな日差しが降り注ぐ梨華宅。

「う〜ん・・・なんだか暇だなぁ・・・!!そうだ、たまには保田さんを見習って読書でもしよう!」

 居間に数冊の本を抱え、梨華は真剣な目つきで羅列された文字を追う。
その様子を垣間見ていた梨華ママ。

「あらっ、気合入ってるわね。ヨシッ、あたしも娘に負けないよう日本文学全集に挑戦するわよ!」

 梨華ママは負けじと分厚い全集との格闘が始まった。

 しかし・・・・・・


 数分後、二人の高いびきが家中に響き渡った。

 
72 名前:暖景 3 投稿日:2001年12月17日(月)03時34分48秒
 午後一時三十分。近所の幼稚園のバスが梨華宅の前を通り過ぎる頃、圭は梨華宅にご到着。
パタパタと家内から音がし、勢いよくドアが開く。

「やぁ」
「保田さぁん、お待ちしてましたぁ」
「ちょっと遅くなった・・・けど」
「どうしたんですか?」
「ごめん、昼寝中だったんだ?」
「えっ?」
「寝癖が・・・すごい・・・」
「いやぁ〜なんでぇ〜。ふぇ〜ん、見ないでくださぁ〜い」

 側頭部から後頭部にかけて大爆発の梨華の髪の毛を指ではじきながら、何故か座敷へと通される圭。
不思議がる圭をよそに、梨華は寝癖も気にせず笑顔を絶やさない。
そこへ梨華ママが茶菓子を持って出てきた。
こちらも側頭部に角のような寝癖が一つ。
圭は笑いを堪えるのに一苦労。親子揃って寝癖でお出迎えとは前代未聞の事だった。
73 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月17日(月)03時39分13秒
とりあえず今宵はここまで。

これからもこういったホンワカする話が中心になりそうなので、
こっそりと更新していこうかと思います。

読んで頂ける方もこっそり読んでもらえると嬉しいかも。
ではまた。
74 名前:暖景 4 投稿日:2001年12月18日(火)03時48分12秒
「まぁ、保田さん、お久しぶりね」
「お久しぶりです。あ、お構いなく」
「なんにも用意してなくてあれだけど、よかったら手作り羊かんでも召しあがって」
「そんなもの保田さんは食べないよぉ。甘いものは嫌いなんだからぁ」
「いや、このくらいなら大丈夫だよ」
「無理しなくていいですよぉ」
「せっかくの手作りだもん、いただきます」

 一口大にした羊かんを口へと運ぶ圭。
その様子をダイヤモンドの輝きのような目つきでじっと見つめる梨華親子。

「美味しい!」
75 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月18日(火)03時54分18秒
 ホッと胸をなでおろす梨華ママ。
圭と梨華ママを交互に見つめる梨華はちょっと母親に嫉妬する。

「いやぁ、甘いもの苦手なんですけど、この羊かんはあっさりしてて美味しいですよ、ホント」
「それじゃあ、もひとついかが?」
「お、お母さん!」
「よろこんで!」

 うきうきしながらキッチンへと消えてゆく梨華ママ。

「お世辞言っちゃダメですよぉ。調子にのっちゃうから」
「ホントだもの」

 あっさりとした口調でお茶を口にする圭。
番組でおばあちゃん役をこなしているせいか、妙にその姿がはまっている。
何気にあの恰好でたまに見せるダンスが梨華は好きだったりする。
76 名前:ティブレーク 1 投稿日:2001年12月18日(火)04時07分16秒
保 田「お邪魔します」
うっぱ「これは保田さんではないですか。まあどうぞ、お茶でも一杯」
保 田「どうも。なんかいいですね、ほのぼのしてて」
うっぱ「そうですか。これはどうも」
保 田「これからは寒くなるから温かい話、期待してますよ」
うっぱ「わざわざお忙しいところ出演ありがとうございます」
保 田「じゃあまた、遊びにきます」
うっぱ「お気をつけて」
77 名前:暖景 6 投稿日:2001年12月20日(木)02時12分15秒
「ご馳走様でした」
「おそまつさま」
「もう、びっくりしましたよぉ。保田さんが羊かん二つも食べるなんて」
「いやー、自分でもビックリしたよ。でもそれだけお母さんの羊かんが上手にできてたんだよ」
 
 圭からお褒めの言葉をいただいた梨華ママは照れ笑う。
それを恨めしそうに見つめ、ふくれる梨華。

「このお茶も美味しいし」
「あ、あの、じゃあ甘いもののあとにさっぱりとしたトコロテンなんかどうですかぁ?」
「トコロテン?」
「私の手作りのトコロテンも食べてください!」
78 名前:暖景 7 投稿日:2001年12月20日(木)02時17分24秒
「へぇ〜古風だね。でもなんでトコロテンなの?」

 圭の疑問に耳も貸さずエプロンを身につけ、梨華はガッツポーズを決めキッチンへと消えて行った。
慌てて梨華ママ、後を追うようにキッチンヘ。

「トコロテンなんてないじゃない」
「これから作るの」
「あのね・・・」
「お母さんは保田さんを引きとめておいて!」
「でも、いくらなんでも今からじゃ・・・」
「まずは天草を煮とかして・・・」

 梨華はぶつぶつと独り言を言いながら、調理に余念がない。
梨華ママは呆れた様子でその場を後にし、圭の相手をする事に。

79 名前:暖景 8 投稿日:2001年12月20日(木)02時23分40秒
 午後四時。梨華が調理に取り掛かってはや二時間が経過。
梨華ママは痺れを切らして再びキッチンヘ。

「もぉ、何してるの!これ以上保田さんを引きとめておくのは失礼でしょ!」
『あのぉ〜あたしそろそろ帰ります〜』

 座敷から圭の声が聞こえてきた。
梨華はせっせと調理に励むも一向に先へ進む気配はない。

『帰りますから〜』
「ホラ、急いで」
『もぉ〜か、帰り・・・ますか・・・ら』
「???」
『・・・・・・っ・・・』
「さっきっから帰るって言ってるけどへんね」

 梨華ママは首をかしげながら、座敷へと行ってみた。
80 名前:暖景色 9 投稿日:2001年12月20日(木)02時32分10秒
「帰・・・り・・・ます・・・か・・・ら」

 座敷を覗くと、圭が畳の上を這っていた。
長時間正座をしていたせいで相当痺れていた。
起きあがろうにも何かに掴まらないと立てないほど、ヨレヨレだった。

 その一部始終を見ていた梨華ママは疾風の如くキッチンヘ。

「ふふふっ」
「どうしたの?一人でニヤニヤしちゃって」
「保田さん、当分帰れそうにないわね」
「ええっ!?なんでぇ?」
「見てくれば」

 梨華は調理そっちのけで座敷へ向かう。

「かえ・・・くぅ〜立てない〜足がぁ〜」
「や・す・だ・さ・ん(はぁと)どうしたんですかぁ〜(ニヤニヤ)」
「へ?なに?あっ!ちょっ、寄るな、触るなーっ!」
「どこらへんが痺れてるのかなぁ〜?」
81 名前:暖景 10 投稿日:2001年12月20日(木)02時40分13秒
 含み笑いを浮かべながら、梨華は圭の背後へまわりこみ、人差し指で土踏まずを押してみた。
その反動で跳び上がる圭。一瞬だけ立てた。

「立てた・・・なんだ、治った。治ったよ、うん治った!」

 そのままニ、三歩進んで前のめりに倒れこむ。
かなり重症のようで、顔が痺れで真っ赤に染まっている。

「しょうがないですねぇ〜私がマッサージしてあげましょう」
「あー、ダメェー、さわんないでぇ」

 目を閉じて抵抗する圭と、いつも弄られてるお返しとばかりに足を突っつく梨華。

「ここですかぁ?それともこっちですかぁ?」
「だぁー、触るなぁ〜」
「へへへっ。おもしろぉ〜い!えい、えいっ」
「や、やめろぉ〜ひぃ〜やめてぇ〜」

 普段は見られない圭の情けない声が、夕闇迫るご近所中に響き渡った。

 〜FIN〜
82 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月20日(木)02時49分39秒
とりあえず、四作目終了です。
まあ少しだけでもほのぼのさを感じていただければよいのですが・・・。

次作は『花宴(まつり)』です。
ではまた
83 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月23日(日)08時17分44秒
エロがないやすいし話もイイ。
次作も頑張ってください。
84 名前:うっぱ 投稿日:2001年12月26日(水)01時02分13秒
For 名無し読者さん

気に頂けて光栄です。
なんとか続けてみたいと思ってます。

予定を変更して、『花宴』から『帚木』に変えます。
ではどうぞ。

85 名前:帚木(ははぎき) 1 投稿日:2001年12月26日(水)01時09分26秒
「○○くん、お腹いっぱいだから起きないと思うけど」
「わかった」
「くれぐれも気をつけてね」
「まかせといてよ」
「じゃ行ってくるよ」
「お礼のほうよろしくね」
「うん、バッチリよ!じゃ」
「いってらっしゃ〜い」

 圭は赤ちゃんを抱いたまま玄関先で知り合いのお姉さんを見送った。
今日は久しぶりのオフで疲れ切った身体と心を癒そうと思って
一日中ゆっくりとしていようと思っていたが、お姉さんの頼みとあって
一日赤ちゃんのお守を引き受ける事になった。
 とりあえず、食事等の大掛かりな育児は済ませてあるらしく
それほど荷の重い依頼ではなかった。

「よしっ。3次間のベビーシッターで行きたかったコンサートのチケットが
 手に入るんだからお得よね」

 眠ってしまった赤ちゃんを寝かせ、圭はしばらくその寝顔を眺めていた。
86 名前:帚木 2 投稿日:2001年12月26日(水)01時17分29秒
ピィ〜ンポォ〜ン

「ん?」

 不意に来客を告げるチャイムが鳴った。
物静かな部屋中にその音が意外と大きく響いた。

「どちらさまでございますか?」
「あっ、保田さぁ〜ん。石川ですぅ〜」
「あれ、今日なんか約束してたっけ?」
「ひどいですぅ〜、会いたくて会いに来たのに〜」
「う〜ん、せっかく来てくれたのは嬉しいんだけど、今日はちょっと用事が入ってるんだよね」
「なんのご用ですかぁ?私には言えない事ですか?誰か来てたとか?」
「いや、その・・・・・・」
「誰ですか!?ごっちん?よっすぃ?飯田さん?まさか中澤さんですか?!」

 圭は目に見えなかったが、凄い勢いで問いただす梨華を想像していた。

87 名前:帚木 3 投稿日:2001年12月26日(水)01時23分57秒
「それがね、知り合いの人に頼まれてベビーシッター引き受けてるの。
 だから、今日は無理なんだ。ごめんね」
「・・・・・・・・・」
「いや、ちょっと、そんなに落ち込む事ないでしょ」
「・・・・・・イヤです!」
「は?」
「イヤです!石川、帰りません!私もお手伝いします!」
「ち、ちょっと何言ってるの?こればかりは私用なことだし、その・・・」
「石川は帰りませ―ん!」
『うっ・・・うわぁ〜ん!』
「あ〜、とにかくそういうことだから」

 寝室から赤ちゃんの泣き声が届いた。
育児経験のない圭は慌ててインターフォンを切り、寝室へ向かった。

「あ〜ごめんごめん。びっくりしたね〜」
「うぇ〜ん」
「お〜よしよし」
「あうあう・・・・・・(スース―)」
「ふう・・・」

 落ち着いた様子を見て、大きく息を吐いた。

88 名前:帚木 4 投稿日:2001年12月28日(金)12時52分43秒
「可愛いですね」
「そう、まあね。・・・ってちょっと、いつ入ってきたの?
 それに今日はダメって言ったじゃない」
「だってぇ保田さんが赤ちゃんのお守をするところなんて滅多に見れないじゃないですかぁ」
「だからって勝手に入ってこないでよね」
「それに・・・(ポッ)」
「それに?」
「もしかしたら母乳あげてるところなんか・・・キャッ」
「!!!な、何いってんの!」
「うっ・・・うわぁ〜ん!」

 二人のやりとりが赤ちゃんの眠りの妨げ、再び泣き声が響いた。
あやそうと懸命に努力するがそれを拒むように腕の中で暴れ出す。

「あ〜どうしたの〜・・・ち、ちょっと暴れると・・・うわぁっ〜」
「あう〜」

 ツルッ

「!」「あっ!」
89 名前:帚木 5 投稿日:2001年12月28日(金)12時56分42秒
 圭の腕から赤ちゃんの身体が宙を舞った。
間一髪のところで梨華が小さな身体を受け止める。
も、足元は少々もたつきぎみ。

「ああっ・・・っと・・・ふう」
「だ、大丈夫?」
「はい。きゃぁ〜可愛い〜」
「うっ、うわぁ〜ん!」
「ええ〜???」
「うぇ〜ん!」

 ガツン!

「いったぁ〜い!」
「わぁ〜ん!」
90 名前:帚木 6 投稿日:2001年12月28日(金)13時01分35秒
 赤ちゃんは見ず知らずの顔が目の前に飛びこんできて驚いたのか、暴れ出した勢いで
梨華にヘッドバッドを食らわした。
さすがに梨華もこれが効いたらしく、足元が千鳥足になっていた。

「や、保田さぁ〜ん。パ、パスゥ〜」
「こら、投げちゃダメだって。あ〜よしよし」
「あうあう〜」
「あ〜いい子ね〜。よ〜しよし。は〜い、ねんねしようね〜。よしよし、いい子いい子」
「あう・・・(スヤスヤ)」

 何事もなかったように圭の腕の中で眠りに入る赤ちゃん。
少しだけおでこが赤く染まっていた。
91 名前:帚木 7 投稿日:2002年01月06日(日)01時46分47秒
「ふうっ、侮れないや、赤ちゃんは」
「す、すごいですぅ〜保田さん。本物のお母さんみたい・・・(ポッ)」
「あのね・・・とにかく今日はこういう状態だからおとなしく帰りなさい、ね」
「そんなかたいこと言わないでくださいよぉ。困っているならお手伝いしますから」
「だから困ってないってば」
「私、頼まれたらイヤとは言えない性格ですから。特に保田さんならなおさらですよぉ」
「誰も頼んでないよ」
「いやぁ〜お礼なんていいですよぉ。私と保田さんの仲じゃないですかぁ」

 段々と圭の話を無視して一人の世界へと入っていく梨華。
徐々に顔も真っ赤になっていった。
92 名前:帚木 8 投稿日:2002年01月06日(日)01時52分06秒
「だ・か・ら、そんなコト一言も言ってないってば」
「やだぁ〜保田さんのエッチィ〜。そんな、恥ずかしいですよぉ。もう、梨華困っちゃう」
「ちゃんと人の話は聞きなさい!」
「(ピクッ)うわぁ〜ん!」
「あ〜あ、また泣いちゃいましたよ」
「石川が人の話を聞かないからでしょ?」
「もう、保田さんたら、赤ちゃんまで泣かせちゃうなんて。女泣かせなんですから」
「なに言ってんのよ。頭大丈夫?」
「うぇ〜ん」
「それよりも泣き止ませないと」
「う、うん・・・あ〜ごめんごめん、よ〜しよし」

 赤ちゃんをあやしながら圭は思った。

(この娘が来てから大変な事になってる気がするのよね)
93 名前:帚木 9 投稿日:2002年01月06日(日)01時59分35秒
「あうあう」
「なんとか泣き止んだけど、寝つかなくなっちゃった」
「どうしましょう? これから」
「いや、石川はもう帰っていいって」
「いやです。ここまできたらとことんお付き合いします(ガッツポーズ)」
「たうたう」

 赤ちゃんは梨華の方へとハイハイをして近寄っていった。
どうやら梨華に興味を抱いたようだ。

「まあ、いいか。幸い○○くんも石川のコト気に入ったみたいだし」
「そうだ、今日ここにくる時いいものもらったんですよ」
「なに? 風船?」
「はい。今、膨らましてあげますからね〜」

 そう言うと梨華は風船を一つ取り、息を思いっきり吸いこんで、風船を膨らまし始めた。

「ふーっ」
「?」「・・・・・・」
「んんん・・・ぶはっ・・・もぉ〜この風船、ぶ厚すぎる〜」
「ほらほら、○○くん待ってるよ。早く膨らませてよ」
「あうあう」
「いきますよ、ふーっ」

 ぷくぅ〜

 野球ボールほどに膨らんだ風船に目を輝かせる赤ちゃんは、圭の膝の上で手を叩いて喜んでいた。
94 名前:帚木 10 投稿日:2002年01月06日(日)02時04分23秒
「ふーっ」
「おおっ!」「あい〜」
「・・・だあっ! はっはっはっ」
「た〜た〜」
「ち、ちょっと待っててね。今、途中だから。せぇーの、ふんっ!」

 ぷくぅ〜

「う・・・ぶっ!」
「・・・変な顔」
「ぶはっ! 保田さぁ〜ん、人が真剣にやってるのに邪魔しないでくださいよ」
「アタシ、なにもしてないよ」
「た〜た〜」
「ハイハイ、待っててね。せぇーの、ふっ!」
「「むうっ」」

 何故か赤ちゃんと一緒に圭までその様子を見て力んでいた。

「ふんっ!」

 ぷぅ〜

「おお〜」「たい〜!」

 見事に赤ちゃんほどに膨らんだ風船が出来あがった。
95 名前:帚木 11 投稿日:2002年01月06日(日)02時10分44秒
「どうです? 私が本気を出せばこんなモンです!」
「いや、風船一個でそこまで威張らなくても・・・」
「えっへん!」

 一瞬、気を抜いたその時、

 ぷしゅ〜っ

「「あっ」」

 ヒュルルルル〜

 風船ロケットは三人の頭上でとんびが輪を描くのような動きを見せながら飛びまわり
赤ちゃんの目の前に着陸した。
そしてそれを手に取り、梨華へと差し出す。

「たい!」
「・・・・・・はい(クスン)」
96 名前:帚木 12 投稿日:2002年01月06日(日)02時16分54秒
「キャッキャッ」

 再度膨らました風船と戯れる赤ちゃん。
ところが、赤ちゃんは急に顔を風船に押し付け始めた。
妙な形に変形している風船は今にも割れそうだった。

「キャー、割れちゃう、割れちゃうーっ」
「ち、ちょっとアタシに抱きつかないでよ」

 更に顔を押し付ける赤ちゃんと梨華。

「怖いよぉ〜」
「グヘッ・・・苦・・・し・・・」

 パァン!

「「あ・・・」」
「?」

 赤ちゃんは風船が割れた音になんの反応も見せずにキョロキョロと辺りを見まわしている。
そして近くにあった別の風船を一つ掴み、再び梨華ヘ渡した。

「たい!」
「・・・・・・ふぁい(グスン)」

97 名前:帚木 13 投稿日:2002年01月06日(日)02時22分01秒
 三度、風船に挑戦する梨華。

「ふーっ(プクゥ〜)」
「た〜た〜」
「もう割っちゃだめですよぉ」
「たい(ポイッ)」

 膨らました風船を放り投げ、別の風船を渡す。

「ええ〜あれじゃダメなの〜?」
「ぷ〜ぷ、ぷ〜ぷ」
「???」
「膨らましてる時の石川の変な顔が見たいみたい」
「ええ〜!」

 梨華は困った様子で赤ちゃんの顔を見つめるが、赤ちゃんも負けじと純粋な目で
梨華を見つめ返す。

「・・・・・・わかりました」

 赤ちゃんの無言の圧力に負けた梨華。
98 名前:帚木 14 投稿日:2002年01月06日(日)02時27分07秒
「ふんっ!」
「た〜た〜」
「はいっ」
「たい! (ポイッ)」
「ふぇ〜またですかぁ〜」
「ぷ〜ぷ、ぷ〜ぷ」
「ふーっ」
「た〜た〜」

 ・・・・・・・・・。

 風船と格闘すること30分。
ようやく最後の一つを無事に膨らませた梨華は酸欠寸前だった。
99 名前:帚木 15 投稿日:2002年01月06日(日)02時34分25秒
「はぁはぁ・・・目の前が暗くなりかけた」
「お疲れさん」
「はぁはぁ、もう・・・だめ・・・です・・・」
「た〜た〜」
「ようないんですよぉ」
「ぶ〜ぶ〜」

 赤ちゃんはふてくされながら、目線を梨華から逸らそうとした。
その時、あるものが赤ちゃんの視界に入り込み、それを凝視したまましばらく動かなかった。
次第に幼い瞳が輝き出した。
次の瞬間、それ目掛けて一目散に梨華へと突進していき、そのまま手でそれに触れた。
100 名前:うっぱ 投稿日:2002年01月09日(水)01時37分27秒
う〜ん、やっぱりエロがあったほうが良いのだろうか?
ちょっと迷ってます。

101 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月09日(水)03時03分56秒
エロ大歓迎!
続き待ってます。
102 名前:帚木 16 投稿日:2002年01月09日(水)12時24分42秒
 プニュッ


「えっ・・・キャァーッ!!!」
「ぷ〜ぷ、ぷ〜ぷ」
「こ、これは、あんっ・・・風船じゃないですよぉ」
「ぷ〜ぷ、ぷ〜ぷ」
「ひゃっ・・・ま、待ってぇ〜、はぁん・・・」

 梨華は自分の胸に興味を示す赤ちゃんの攻撃にたじたじになっていた。
圭に助けを求めようするが、圭は涙を流しながら笑い転げていた。
梨華は赤ちゃんの攻撃に悪戦苦闘しながら、なんとか興味を他へ逸らそうと必死になって考えてみた。

 そこで一案思い浮かんだ。
幸い、この部屋には二人の女性と一人の赤ちゃんだけ。
自分以外の女性に赤ちゃんの興味を引きつけてもらえばいい。
・・・となると標的はおのずと決まっている。

「ね、ねぇ○○くん、私の代わりにいいものあげよっか?」
「たぁ?」

 梨華は赤ちゃんを自分の膝に乗せ、笑い転げている圭の目の前に移動した。
そして赤ちゃんの手を取り、そのままある場所へと手を持っていってあげた。

103 名前:帚木 17 投稿日:2002年01月09日(水)12時32分18秒
 ムニュッ


「ひ、ひゃっ・・・ち、ちょっと、なにすんの! こ、こらっ、やめな、あっ・・・」
「ぷ〜ぷ、ぷ〜ぷ」


 プニ、プニ


「○○くん、待って、アアッ・・・ねえ、アタシのだって、んんっ・・・風船じゃ、ひゃあっ・・・」

 赤ちゃんは圭の上に乗りかかりながら攻撃の手を一層強めた。
圭は必死に抵抗しつつも、時折伝わる感触に妖艶な声を漏らしていく。
梨華はその色っぽい圭の声に理性が抑えられなくなっていく。

(・・・保田さんがエッチな声、出してる・・・・・・なんだか、コウフンしてきちゃった・・・
 はっ! ヤダ、私、何考えてるんだろ)

 梨華は赤ちゃんと戯れる(?)圭の姿がまともに見れずに、俯いてしまう。
耳まで真っ赤に染めたままで。

104 名前:帚木 18 投稿日:2002年01月09日(水)12時41分32秒
そしていらぬ妄想の世界が頭の中で駆け巡るうちに、いつしか気を失っていた。


「う、うう〜ん・・・あれ、私・・・そうか、寝ちゃったんだ」
「スース―」

 枕元で赤ちゃんの寝息が規則的に聞こえてきた。
しかし、それ以外物音一つせず、シーンとしていた。
圭の姿すら見えない。
ゆっくりと寝室から出ると、テーブルの上に一枚のメモが置いてある。

「保田さぁ〜ん、どこですかぁ〜? あれ、なんだろ、これ? 『しばらく起きそうになかったから
 ちょこっと買い物に行ってくるよ。少しの間、面倒見ててね』ってそんなぁ〜、私どうしたらいいのか
 わからないですよぉ〜」

 まるで赤ちゃんのようにべそをかいてうろたえていた。

105 名前:うっぱ 投稿日:2002年01月09日(水)12時48分11秒
101>名無し読者さん

続き待っててもらって申し訳ないですけど、この話し終わったら終わりにします。
あと、エロ歓迎していただきましたけど、どうも私にはその才能はないみたいです。

ご期待に添えなくてすいませんです。
あともうちょっとでこの話し、終わります。
ではまた。
106 名前:帚木 19 投稿日:2002年01月11日(金)02時39分20秒
 冷蔵庫からオレンジジュースを貰い、再び赤ちゃんのいる寝室へ戻った。

「はぁ〜なんか今日はいつもより疲れちゃった・・・いいなぁ〜赤ちゃんは」
「スースー」
「でもやっぱり可愛いや」
「エヘへ・・・(スース―)」
「へぇ〜赤ちゃんでも寝ごと言うんだ。ちっちゃくて可愛らしい手」

 梨華は小さな赤ちゃんの手を見つめながらさっきの光景を思い出していた。

(この手がさっき保田さんの胸を触ってたんだ・・・・・・どんな感触だったんだろ。
 羨ましいなぁ〜)

 梨華は自分の人差し指で赤ちゃんの手を突っついてみた。
それを感じ取った小さな手は素早く梨華の指を掴む。

「こんなちっちゃいのにちゃんと動くんだ。当たり前だけど」

 梨華は慣れない手つきで赤ちゃんをそっと抱き上げてみた。

「へぇ〜赤ちゃんて柔らかくて温かくてちっちゃくて・・・ウフフッ」

107 名前:帚木 20 投稿日:2002年01月11日(金)02時45分37秒
「(スースー)たう?」
「えっ?」

 急に目を開けてじぃ〜っと梨華を見つめてくる赤ちゃん。

「あうぅ〜(うるうる)」
「あ・・・・・・」
「あううぅ〜(うるうる)」
「まずい〜」
「うぅつ〜(うるうる)」
「ね〜むれ〜ね〜むれ〜ル〜ルルリル〜リ〜ラララ〜ラララ〜」
「(スースー)」
「ふう・・・」
「(パチッ)あうあう〜」
「!!!」
「あうぅ〜(うるうる)」
「ど、どうもぉ〜チャーミーですっ!(ニコッ)」
「たあ?」
「・・・・・・」
「えへへっ」
「笑った! 私のこと気に入ってくれたんだ、よかったぁ〜(ギュ〜)」
「あうあう〜」
「カワイ〜(スリスリ)」
108 名前:帚木 21 投稿日:2002年01月11日(金)02時50分16秒
 赤ちゃんを抱いてリビングへ出るとちょうど圭が外から帰って来た。

「ただいまぁ〜」
「たいたい〜」
「えへへ・・・」
(あらあらすっかり仲良くなっちゃって)

 圭は手荷物を持ったまましばらくその光景を眺めていた。


「・・・赤ちゃん・・・欲しいな」
「えっ・・・」

 梨華の一言で、手にしていた荷物を床に落とした。
その物音でようやく圭が帰ってきたことに梨華は今、気付いた。

「あっ保田さん、おかえりなさい」
「た〜た〜」
「た、ただい・・・ま・・・」
「?」

 梨華はその場に固まったまま立ちすくむ圭を不思議そうに見ていた。
109 名前:帚木 22 投稿日:2002年01月12日(土)01時17分09秒
 夕方、もうというかやっとというかベビーシッターの役目が終わった。

「いやぁ、今日は助かったよ。アリガトね」
「さすがに最初は戸惑ったけどね。でもいい経験ができたよ」
「石川さんもアリガトね」
「いえ、とんでもないです。役立たずで」
「なに言ってんの。○○くんになつかれてたじゃない」
「あうあう〜」
「ふふふっ。そんじゃまたね。今度遊びにでも来てよ」
「うん。じゃあね」
「ばいばぁ〜い」
「たいたい」

 手を振りながら夕焼けに消えてゆく二人を見送った二人は、部屋に戻りぐったりとして
ソファーに腰掛けた。
110 名前:帚木 23 投稿日:2002年01月12日(土)01時23分33秒
「ふう〜やっと終わった・・・。子育てって大変なんだなぁ〜ってな、何?」

 隣に座っていた梨華が圭の腿の上に頭をのせ、目を輝かせながらじっと見つめていた。

「あ、あのぉ〜」
「あうあう〜(保田さぁ〜ん)」
「・・・・・・これはなんの真似?」
「たあ?(どういうことですかぁ?)」
「・・・・・・」
「た〜た〜(そんなに見つめないでください)」

 ・・・・・・。

「元に戻んなさい」
「・・・ダメ、ですか?(うるうる)」
「・・・・・・しょうがないなぁ。今回だけだよ」
 
 夕焼けの光を浴びながら温かいぬくもりに包まれ、梨華はゆっくりと目を閉じた。
111 名前:帚木 24 投稿日:2002年01月12日(土)01時26分15秒
 プニュッ。


「ヒャッ、なにするの!」
「ぷ〜ぷ、ぷ〜ぷ(やわらか〜い)」

 
 ベチッ!


「いった〜い!」
「いい加減にしなさい!!!」


  〜 完 〜
112 名前:うっぱ 投稿日:2002年01月12日(土)01時39分39秒

 しばらくお休みします。
113 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月18日(金)03時30分10秒
ステキなお話を有り難う。
作者さんのお帰りをノンビリ待ちます。
114 名前:うっぱ 投稿日:2002年03月05日(火)00時47分35秒
今宵からまた再開します。

>名無し読者さん

待たせてすいませんでした。
いい話が書けるよう精進します。
115 名前:花宴(まつり) 1 投稿日:2002年03月05日(火)00時57分36秒
 冬が終わりを迎えた頃、雨のあがったアスファルトを歩きながら
梨華の鼓動は早鐘のように打ち、胸の高まりは頂点に達していた。
恋する年頃でもある彼女にとって、好きな人と一夜を過ごすという事は
青春の一大イベントだからである。
 以前はいい雰囲気のところまでいきつつも、後一歩のところで
未遂(?)に終わってしまった経験がある。

 (今日こそは、絶対に保田さんとひとつに結ばれるんだから!)

 あの時、聞いてしまった色気の混じった大人の声で梨華は完全に
圭の虜になってしまった。圭を見る度に、頭の中をあの声がリフレインする。
そんな生活に新たな1ページを加えるべく、梨華は今宵、勝負に出る。
116 名前:花宴 2 投稿日:2002年03月05日(火)01時06分25秒

 梨華は先ほど買い込んだジュースなどのつまみの入った白い袋をさげ、
マンションへと滑りこんで行く。そして少し後ろから響く靴の音を聞きながら
自宅のドアの鍵を開けた。

「あのぉ、少しだけ散らかってますけど、あがって下さい。
 それから、申し訳ないんですけど鍵、かけておいてもらえます?」

 圭は梨華の言う通りに鍵を掛けると、靴を脱いで丁寧に揃える。
「散らかっている」という言葉を意識してか、恐る恐る前に進みながら
開いたスペースへと身を運びこむ。
117 名前:花宴 3 投稿日:2002年03月05日(火)01時12分01秒

「お邪魔しま〜す。ふぅ〜ん、そんなに散らかってないじゃない。
 でもさ、なんで今日に限って呼んだの?
 いつもは何も言わなくてもうちに転がりこんで来るじゃない」
「えっ、あの、その、なんかいつもお邪魔してばかりじゃ悪いかな〜って
 思っちゃったりしまして・・・(にやっ)」
「その最後のふくみ笑いは何?」
「い、いえ、なんでもないです」

 圭はそれほど気にすることなく、近くのソファーに腰掛けた。
透明なガラスのテーブルを挟んで反対側の壁際にテレビやオーディオなど
ごく普通のものが置かれている。ただ少しだけ、ものが溢れている感がした。
118 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月06日(水)01時03分57秒
お、お帰りなさいませ。
またコノ話が読めるとは嬉しいかぎりです!!
119 名前:うっぱ 投稿日:2002年03月07日(木)03時58分58秒
>名無し読者さん

そういって頂けると嬉しい限りです。
またこっそりとやっていきたいと思います。
120 名前:花宴 4 投稿日:2002年03月07日(木)04時04分51秒
「アタシ、この映画見たかったんだよね。持ってるなら貸してくれてもよかったのに」
「でもぉ、一人で見るのにはちょっと恥ずかしくありませんか?」
「そうかな? そうでもない内容だけどな」

 梨華は二人だけの映画鑑賞会の準備に余念がなくなっている。
さっき買ってきたばかりのかぶき揚げやポテチなどをテーブルに並べていた。
パッケージを眺めている圭の目の前を横切ってキッチンへ行き、グラスを二つ
取り出してテーブルに置き、午後の紅茶を注いだ。
その様子を見ながら辺りをしきりに見まわす圭は、どこか落ち着きがなくなっている。
121 名前:花宴 5 投稿日:2002年03月07日(木)04時10分31秒
「どうかしましたか?」
「いや、なんだか落ち着かなくてさ・・・あ、あのさ、やっぱりアタシのうちで見ない?」
「それは無理です!」
「へっ、なんで?」
「えっ、い、いや、ですから、たまには保田さんのおうち以外の場所だと
 新鮮でいいかな〜なんて思いまして・・・」

 喋りながらも梨華の口元が緩んでいた。
122 名前:花宴 6 投稿日:2002年03月07日(木)04時17分30秒
「・・・なんか企んでない?」
「な、何言ってるんですか! もう、保田さんのエッチぃ」
「・・・グラスから紅茶、こぼれてるよ」
「へっ、あっ!」

 注いでいたはずの紅茶がグラスから溢れ、テーブルに滴っていた。

「なにやってんだか・・・。まぁいいか、早く見ようよ」

 そう言って何事もなかったかのように圭はビデオをセットして、リモコンの再生を押した。

「ち、ちょっと待って下さい」

 梨華は立ち上がって部屋の灯りを落とした。
テレビの青い光と窓から差し込む月の光だけが、暗闇の中の二人を照らす。

画面の中ではヨーロッパを旅するアン王女のニュースフィルムが流れ始める。
123 名前:花板の方の6っす 投稿日:2002年03月08日(金)00時07分55秒
こちらの方でもこんにちわっす。
実は以前からここもROMらせていただいてました。
久々に覗いてみたら更新されててめちゃうれしかったっす!

個人的にこっちのお話では『文』と『ははぎき(漢字が出ない…すんません)』が
すきっす!
これからも応援してます!頑張ってください!!
124 名前:うっぱ 投稿日:2002年03月16日(土)02時55分34秒
>123 6さん

あらら、見つかっちゃいましたか?
やっぱり『文』気に入ってくれると思いましたよ。
まああちらの方もよろしくお願いします。
125 名前:花宴 7 投稿日:2002年03月16日(土)03時01分19秒
 スレンダーで可憐な王女が群集に向かってにこやかに手を振っている。

「あれ〜、これってモノクロなんですね」
「当たり前じゃない。かれこれ三十年ぐらい前の映画だよ、これって」
「ヘップバーンって今、何歳なんですかぁ?」
「へ? 知らないの? もうとっくに亡くなってるわよ」
「そうなんだぁ」

 まるで初めて目にするような梨華の台詞に圭は目線を合わせずに聞いた。

「そうなんだって見たんでしょ、この映画?」
「えっ、一度も見てないですよ。今日が初めてです」
「初めてってさっき一人で見るのが恥ずかしいとかいってなかったっけ?」
「そうでしたっけ?」

 梨華がとぼけるのと同時に、アン王女もとぼけていた。

126 名前:花宴 8 投稿日:2002年03月16日(土)03時07分25秒
 各国大使のいる目の前で脱げてしまった靴を何食わぬ顔をしながら足で捜していた。
それを見ていた圭はクスッと笑った。その笑いを梨華は自分がとぼけた事に笑ってくれたものだと
勘違いをして一人喜んでいた。一歩前進。

「細いですよね〜」

 王女のきゅっとくびれたウエストを見て梨華は呟いた。
グラスを持っていた圭の手が一瞬止まったのも気付かずに、梨華は喋りつづける。

「細いし、可愛いし、出るトコ出てて非のうちどころがないって
 こういうのを言うんですよねぇ。羨ましいなぁ〜」

 また圭のグラスが口元で止まった。

「石川もこういう大人になりたいんですよね。でも、もう亡くなってるんですよね〜」

127 名前:花宴 9 投稿日:2002年03月16日(土)03時11分18秒
「あのさ」
「はい。なんですか?」
「それって嫌み? それとも自慢?」
「え〜石川なにかひどいこと言いました?」

 少し甲高い声を発しながら、何も判っていない梨華に呆れた圭は、視線を元に戻して画面を追うことにした。

 梨華は座り直すふりをして圭に近づいた。幸い圭は梨華の行動に気付かないほどストーリーに夢中になっている。
梨華は徐々に圭との距離を縮めながら、期待に胸膨らませてゆく。また一歩前進した。

128 名前: 投稿日:2002年03月17日(日)00時23分38秒
もち気付いてましたよ!
こっちもあっちも毎日チェックさせて頂いてます!!
どっちも頑張ってくださいね(w

それにしても梨華ちゃん…健気というかなんというか…。
圭ちゃんの事本当に大好きなんだねぇ。
こっちでは応援してるぞ!!頑張ってね!!
だから向こうでは邪魔しないでね(w
129 名前: 投稿日:2002年03月17日(日)00時27分24秒
もち気付いてましたよ!
こっちもあっちも毎日チェックさせて頂いてます!!
どっちも頑張ってくださいね(w

それにしても梨華ちゃん…健気というかなんというか…。
圭ちゃんの事本当に大好きなんだねぇ。
こっちでは応援してるぞ!!頑張ってね!!
だから向こうでは邪魔しないでね(w
130 名前: 投稿日:2002年03月18日(月)00時37分41秒
うぉ!!!二重投稿になってる…(滝汗
す、すみません!今ごろ気付きました…。
なにやってんだよ自分…。
以後気をつけます!ごめんなさい!
131 名前:うっぱ 投稿日:2002年03月18日(月)03時15分51秒
>130 6さん

別に気にしてないですよ。
こちらは結構6さんのコメント、面白おかしく受け取ってますから
132 名前:花宴 10 投稿日:2002年03月18日(月)03時23分14秒
 映画の中では退屈な生活に飽きた王女が迎賓館を抜け出し、洗濯屋のトラックに隠れて街へと出て行く。
そしてそのまま眠りこけてしまい、男の部屋に泊まる羽目になってしまっていた。
男は彼女が王女だとは知らずに、優しくパジャマを貸してあげた。

「(パジャマか・・・保田さんのパジャマ姿・・・)へへへっ」
「何一人でにやけてんの? それに変な笑い方しないの」
「へ? 石川笑ってました?」
「おもいっきり。ヘヘへとか言いながら。なんか変な事考えてないでしょうね?」
「そ、そんなことないです。保田さんこそなんか変な事考えてませんか?」

 梨華は疑惑の目を圭に対して向ける。

「はあ? 何一人でイヤらしい妄想してんの?」
「へ?」
「あのねぇ・・・まぁいいや。それより少し静かに見ようよ。
 それでなくても字幕追うのに精一杯なんだからさ」

 圭はリモコンで画面を巻き戻し、再びゆっくりと動きだした画面を見つめた。
133 名前:花宴 11 投稿日:2002年03月18日(月)03時29分46秒
 画面では王女がうつ伏せになって眠っていた。

「よくうつ伏せで寝られますよね〜。首が痛くなっちゃうじゃないですか。
 石川は仰向けじゃないとダメですけど」
「それは頭がゼッペキだからじゃないの?」

 圭は視線をそのままに梨華の後頭部を軽く叩いた。
叩かれた梨華はお返しとばかりに圭の腕に自分の腕を絡ませて頭を肩に乗せた。
いつのならその後優しく自分の頭を撫でてくれるのだが今日に限っては・・・

「ねえ」
「はい?」
「アタシの腕に絡まるのは何?」
「石川の保田さんへの愛情、なんちゃって」
「お・も・い」
「それだけ愛情が大きいってことです」
「は・な・れ・な・さ・い」

 圭は梨華の腕を引き離した。再びリモコンを手に巻き戻しをする圭はふと考える。

(なんか今日のこの子、変なんだよなぁ。何でここに来ちゃったんだろ)
134 名前:花宴 12 投稿日:2002年03月18日(月)03時36分33秒
 画面の中では人足先に夜が開け、正午過ぎに男は目を覚ますと部屋を飛び出していった。

「男の人と女の人が同じ屋根の下に泊まって、何もないなんてなんか不自然ですね」

 そう言って画面を見つめる梨華の目が、一瞬だけ輝いたのを圭は見逃さなかった。
直感で身の危険を察した圭は、梨華をその気にさせないよう上手く話を逸らそうとした。

「あるわけないじゃない。それが紳士というもんでしょ」
「ん〜昔はそうだったんですかね〜」
「昔も今も関係ないと思うけど」
「そうですか?」
「じゃあ、こういう時に何かあると思ってるわけ?」
「えっ! いや、その、別に思ってはないですよ、はい」
「じゃあ同じ女性同士ならいいの?」
「そ、そんな、何いってるんですか。それこそ変ですよ」
「ならいいじゃない」
「ええ、まあ、そうですけどぉ・・・」

 梨華はひとり合点がいかない様子で考え込んでしまった。
135 名前:花宴 13 投稿日:2002年03月20日(水)02時37分49秒
 同じように画面の中の王女も見知らぬ部屋で目覚めた事に悩んでいた。

「もし、保田さんが知らない人のベッドで目覚めたらどうします、どうします?」

 梨華は執拗以上に詰め寄った。

「そんな経験ないからわかんないなぁ。裕ちゃんみたいに寝ちゃうまで飲まないし、
 圭織みたく泥酔するほど飲んで記憶無くすこともないし」
「お酒飲んで酔っ払った事ないんですか?」
「ん? あるけど、そんな寝ちゃったり記憶無くすまではないよ。
 一応意識がある程度でやめてるからね」
「じゃあ今度、酔っ払ったら石川が介抱してあげますから安心して飲んでください!」
「石川がいない時はどうすんの?」
「その時はぁ・・・石川のところに帰ってきてくださればいくらでも」
「・・・・・・今日から禁酒するよ」
「え〜なんでですかぁ。ひどいですぅ」

 二人のやりとりとは関係なくストーリーは続いていった。
136 名前:花宴 14 投稿日:2002年03月20日(水)02時42分05秒
 ローマの市街地を徘徊する王女は思い立ったように美容院へ行き、思いきって髪を短くした。

「可愛い。アタシもそろそろ短くしようかな〜」
「え〜っ、もう切っちゃうんですか? たまにはロングヘアーの保田さんも見たいですよぉ」
「う〜ん、でもねぇ〜長いとシャンプーするのに時間かかるでしょ?」
「伸ばしましょうよぉ。そしたら石川とおそろいですよ、おそろい」
「・・・・・・やっぱり今度のオフにでも行ってこよっと」

 ショートカットになった王女の笑顔が輝いた。
137 名前:花宴 15 投稿日:2002年03月20日(水)02時49分37秒
 画面の中で美容師と笑い合ってはしゃいでいる姿を見ていた梨華は思い出したように言った。

「そう言えば、初めて手を繋いでのはサンリオピューロランドに行った帰りに大雨が降ってきた時ですよね?」

 梨華の恋人としてあなたの事をよく覚えていますよ、と言う自己主張に圭は無反応を決め込んでいる。
梨華的にはかなり前進したように思えた。

「そうですよね?」

 自身たっぷりにもう一度言うと、意外な返事が返って来た。

「お言葉ですが、石川さん。初めて手を繋いだのは箱根彫刻の森美術館に行った時ですよ」
「・」


 一気にふりだしへ戻った。
138 名前:花宴 16 投稿日:2002年03月20日(水)02時53分31秒
 ・・・気まずい雰囲気が辺りに漂っていた。
梨華は腫れ物にでも触るかのような言い方をした。

「そ、そうでしたっけ?」
「そうですよ。それに石川さんとプライベートでサンリオピューロランドに
 行った覚えはないですよ。吉澤さんと勘違いしてらっしゃるんじゃないですか?」

 圭が言い終る前に梨華は立ち上がって、窓を開けに行った。
139 名前:花宴 17 投稿日:2002年03月20日(水)02時58分25秒
 確かに行った記憶が頭の片隅に甦ってきた。
梨華はひとりで自爆していた。

「あ、暑いですよねぇ。いやぁ〜暑いなぁ。暖房入れてないのに何で暑いんでしょうかねぇ」
「今日はこの冬一番の冷え込みだけど・・・」
「・・・・・・・・・」

 再び気まづい沈黙。三歩後退。
梨華は思った。きっと自分は自ら地雷を踏んでしまうタイプなのだと・・・。
140 名前: 投稿日:2002年03月21日(木)23時30分47秒
梨華ちゃん…君最高だよ!!
しかも自ら地雷を踏むタイプだと今頃気付いたんだね(爆
画面みながら思わず爆笑してしまったっすよ!
そして圭ちゃんの冷静なツッコミ。

……この二人良いかもしんない(w
141 名前:うっぱ 投稿日:2002年03月22日(金)02時47分02秒
>140 6さん

いやぁ、楽しんで頂いて恐縮です。
あちらのほうは週明けにでも載せとくんで読んで上げてください。
きっとあの二人も喜びますんで。
142 名前:花宴 18 投稿日:2002年03月22日(金)02時55分31秒
 ストーリーは中盤を迎えて、王女がべスパでローマの街を快走していた。

「こういうの買ってくれる人、どこかにいないかなぁ〜」
「ダメですっ!!!」

 圭の一言に敏感に反応した梨華は、猛スピードで圭の隣りに戻り、
両手で大きなバッテンを作ると圭の眼前に差し出した。
少しだけ顔を引きながら、圭は目を丸くしていた。

「ダメですっ! 危ないです!」
「な、なんで石川がそんな事いう訳?」
「石川は保田さんの事を思って言ってるんです。それに・・・」

 梨華は真顔でそう言うと圭の腕に抱きついた。
まるで誰かに見せつけるようにぴったりと張りつく。

「それに誰にもそんなこと、させません」
「重たいって。あのねぇ、そんな真顔でじっと見つめなくてもいいでしょ?」
「あ〜、保田さん照れてるぅ〜。可愛い〜」
「・・・・・・はぁ〜」
143 名前:花宴 19 投稿日:2002年03月22日(金)03時01分11秒
 半ば意気消沈の圭とは裏腹に、画面内の王女は怒りを露わにして船上で暴れていた。
乱闘でギターを振り回して悪漢を蹴散らしていた。
王女という言葉からは想像もつかないほどエキサイトしていた。

「すご〜い。可愛い顔して豪快なんですね、この人」
「・・・・・・」

 少々お疲れ気味の圭は黙って梨華の言葉をやり過ごす。

「保田さんはこんな事しないですよね。いつも冷静で優しいですもんね」

 今度は正面から圭の顔を覗き込む梨華。
が、あっけなく圭に両手で遮られてしまった。
144 名前:花宴 21 投稿日:2002年03月22日(金)03時08分26秒
 サンタンジェロ号から川に飛びこんだ王女と新聞記者が川岸まで泳ぎ着いていた。
濡れた身体を寄せ合い、突然熱いキスシーンが画面に映る。

「キャッ、ダイタン。恥ずかしい」
「そう?」
「どうしてそうやって平気で見れるんですか?」
「だってこれ、演技でしょ? そんなに恥ずかしがらなくてもいいと思うけど」
「でもぉ、こうやって間近で見るとすごく恥ずかしくって」
「いつもしてるじゃない。同じこと」

 目線を向けることなく言う圭の横顔に何やら生暖かい風が吹きかかる。
そのうちに段々と自分に近づいて来る気配を感じ、圭は横を向いた。
そこには・・・・・・
145 名前: 投稿日:2002年03月23日(土)00時38分36秒
なんだぁ?そこにはなにがあるんだぁ??
うぅ、めっちゃ気になる…。

それにしても梨華ちゃん。から回ってますねぇ(w
なんか本当「幸薄少女」という言葉がピッタリって感じ(激爆
がんばれよぉ。と応援してあげたくなりますな(w
146 名前:うっぱ 投稿日:2002年03月23日(土)21時22分44秒
>145 6さん

これからもどんどん彼女にはから回ってもらいます。
なんかそういうイメージを感じるので。
147 名前:花宴 22 投稿日:2002年03月23日(土)21時30分39秒

「ん〜」
「・・・・・・何してるの?」
「ん〜ん〜」

 口をタコのようにして目を閉じ、しっかりと両手を組んだ梨華が襲いかかってきた。
圭はしばらく考えた後、テーブルの上にあったポテチの中から程よい形に曲がった
二枚をつまみ、唇のような形を作るとそれを梨華の唇にあてがった。

「キャッ、キスしちゃった。だけど、ガーリックの味がしたような・・・」
「そ、それはさ、今、これ食べてたからさ。ご、ごめんね」
「そうですか。で・も・保田さんの唇は石川がいただいちゃいました。イヤァ〜、キャァ〜」
「・・・・・・(ほっ)」

 全くといっていいほど気付いていない梨華はソファーにおいてあるクッションを
抱きかかえてもじもじしていた。
一気にゴールまであと三歩のところへワープして来た。
148 名前:花宴 23 投稿日:2002年03月23日(土)21時36分49秒
 ブラウン感の中では、悲しい恋の別れを映し出していた。
結ばれない二人は涙の口付けを交わし、女は夜の闇へと走り去った。
それを見つめる梨華は優越感に浸っていた。
自分にとって年上の恋人と甘すぎる一夜を過ごすというビックイベントが
もうすぐそこまで近づいていたから。自然と綻ぶ顔が妙に嫌らしかった。

「ニヤつく場面じゃないよ」

 あっけなく圭にばれた。

「そ、そうですよね。泣けるところですもんね」

 そう言いながらも頭の中では梨華の描いたラブストーリーは進んでいく。
そしてそれに比例するように表情も砕けてゆく。さっきから顔が緩みっぱなしである。

ゴールまであと二歩に迫った。
149 名前:花宴 24 投稿日:2002年03月23日(土)21時49分36秒
(何、このコったら目がイッてるじゃん。どうしたモンか)

 圭は徐々にストーリーから遠ざかるように前のめりで見ていた態勢を止め、
身体を引いた。それとは対照的に梨華の目がどんどん画面に釘付けになっていった。

 いよいよクライマックスに入り、梨華も自ら描いたストーリーのクライマックスとを
重ね合わせながら画面を見つめていた。ゴールまであと一歩。

 画面は二人の距離は動くことなく、決して結ばれる事はないが愛し合っている。
それを見ていた梨華の欲の賽が振られた。



「私だってあなたに負けないぐらい愛されてるんだから」



 本人に悪気はないのだが、何事にもT・P・Oというものがある。
梨華が振った賽の目が表していたものとは・・・

150 名前: 投稿日:2002年03月25日(月)01時44分10秒
梨華ちゃん…いくらなんでも唇とポテチの違いに位気付こうよ…。
……でもそんなあなたが大好っきさ!!!
これからもどんどんから回ってね(w

それにしても梨華ちゃんの振った賽の目はなんなのだろう…。
楽しみだわぁ(ww
151 名前:花宴 25 投稿日:2002年03月28日(木)02時22分52秒
「あれっ?」

 突然、部屋の灯りが灯された。
梨華はぐるりと辺りを見まわした。
目の前には仁王立ちの圭。

「どうしたんですか、いきなり。もうちょっとで終わりですよ」

 梨華はリモコンのポーズを押した。
ヘップバーンの極上の笑顔が止まった。

「すごくいいシーンじゃないですかぁ」
「なんかヘンだと思ったら、そういう事だったんだ。よかった気付いて」
「えっ? な、何をおっしゃってるんですか?」

 梨華の声が動揺丸出しと言わんばかりに裏返る。
152 名前:花宴 26 投稿日:2002年03月28日(木)02時29分01秒
「今日はこれで帰るよ」

 圭はバックを抱えて「おやすみ」という言葉を残して玄関に向かう。

「帰るって・・・ちょっと待って下さいよぉ〜」

 しかし圭は無言で靴をはく。

「明日はオフだから今日泊まるって言ってたじゃないですかぁ〜。
 あ、あのぉヘンな事しませんから、あっ、いや、その」

 それでもドアは虚しい音をたてて閉じられる。


 梨華の欲望の賽が出した目は・・・普通の賽の目にはないゲームオーバーだった。
153 名前:花宴 27 投稿日:2002年03月28日(木)02時32分26秒
 リビングに戻るとまだヘップバーンの笑顔は止まったままだった。
梨華はリモコンを取り、早送りのボタンを押した。
画面を足早に過ぎ去り、最後の文字が浮かび上がった。

   −THE END−




 〜FIN〜
154 名前:うっぱ 投稿日:2002年03月28日(木)02時36分25秒
150>6さん

こんな結果になりました。
いかがだったでしょうか?
155 名前: 投稿日:2002年03月28日(木)03時00分36秒
…こんな時間に画面見ながら大爆笑でした。
梨華ちゃん…本当に不憫な娘だね…。
圭ちゃんもねぇ…らしいっちゃあ彼女らしいけど、
もうちょっと優しくしたろうよ…。
…まぁ自分的にはかなり面白かったんで全然OKなんだけどね(爆

まさかこんな結末とはおもいませんでした(w
はてさてつぎはどんなお話だろう?
156 名前:うっぱ 投稿日:2002年03月29日(金)02時30分57秒
155>6さん

やっぱりここでも石川さんは保田さんをモノに(?)できませんでした。
そんな可哀相な石川さんを、次作ではちょこっと救済しようと思ってます。
あと、初期に掲載した『宇宙(そら)』のやすなち版をあちらのほうに載せるので
よかったら読んでくださいませ。
では。
157 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月29日(金)10時47分09秒
作者さんの話楽しませてもらっています。
自分はかなり圭ちゃん押しです!!
やすいし!!いいっすよね〜!!
…で、私ももうひとつの板の方みたいのですが…
どこか教えてくれませんか??
158 名前: 投稿日:2002年03月30日(土)01時04分33秒
救ったってください。
読み返せば読み返すほど幸薄少女に思えて仕方ないっす(ニガワラ

やすなち…大好物です(w
それも初期…レア物っすね!あぁ楽しみやわぁ。

>157さん
花板に行くと幸せになれますよ(w
こことは一味違ったうっぱさんの素晴らしい文章が堪能できます(ww
 
159 名前:うっぱ 投稿日:2002年04月04日(木)03時36分53秒
157>名無しさん

楽しんでいただけました?
当初の設定とは大幅に違ってますけども、
引き続きこの路線でやっていきたいと思います。


158>6さん

えっと・・・やっぱり石川さんには幸薄少女でいきます。
そのほうが合っているかな〜と思いまして。
あと、版宣伝してくださって光栄です。

160 名前:冬匂(おちゃめ) 1 投稿日:2002年04月04日(木)03時43分10秒
 今年もあと一週間ほどで幕を閉じる。

「ンフフフ・・・」

レギュラー番組の収録の合間、梨華は一人部屋の隅で、
週刊誌を広げ妖しく微笑んでいた。

「ちょっとぉ〜」
「ん? なぁにぃ?」
「空き時間に週刊誌見て、何二ヤケてんの?」

ひとみは梨華の頭越しに中を覗きこんだ。
そして大きな溜息を一つついた。

「えへへ。こういうこと。これに楽しかった秋のデートアルバムを挟んであるんだ」

ほんのり桜色に染まった梨華に、ひとみは青く冷たい現実を言い渡す。



161 名前:冬匂 2 投稿日:2002年04月04日(木)03時49分44秒
「もーとっくに冬じゃん。いつまでも思い出にしがみついてちゃダメだよ」
「え〜なんで? いいじゃない」
「時はどんどん過ぎていくの。過去に浸ってたら取り残されるよ」
「???」
「はぁ〜。ちょっときなさい」

ひとみは梨華の手を引き、楽屋を出てロビーへと連れ出した。

「ちょ、ちょっとよっすぃーてばどこ連れてくの?」
「ほれ、新しい現実をちゃんと受け止めなさい」

ひとみの示すほうへと視線を向けると、そこには愛しの圭と髪の長い女性が
何やら楽しそうに盛り上がっていた。

「かなり盛りあがってるみたいだね、あのお二人」
「しゅん・・・」

現実をつきつけられ、梨華は小さく丸まってしまった。

162 名前:うっぱ 投稿日:2002年04月04日(木)03時51分37秒
《お詫び》

懐に溜めておいた関係で、季節ハズれになってしまいました。
ご了承くださいませ。
163 名前: 投稿日:2002年04月06日(土)01時33分55秒
あらあら、今回も幸薄少女なのね…。
まぁ、これも運命(さだめ)だぁね(w
…ってそれよりも!髪の長い女性?…誰??
圭織?ごっちん?アヤカ???
…意表をついて斎藤瞳とか…(んなあほな)

てなわけで続きまってます!!
164 名前:うっぱ 投稿日:2002年04月07日(日)02時09分22秒
163>6さん

ええ、彼女にはこの路線で行ってもらおうかと。
そのほうが書きやすいという個人的な利点でもあるんですけどね。

髪の長い女性、の正体はこのあと判ります。
165 名前:冬匂 4 投稿日:2002年04月07日(日)02時16分50秒
次の日、梨華は探りを入れるべく、圭と一緒に帰ることにした。
そして歩きながら昨日のことを聞いてみた。

「あの〜昨日の空き時間、何話してたんですか?」
「ん? あ〜あれね。石川には関係ない事だよ」

 さらっと言いきる圭の口元が少し笑っていたのを見逃さなかった。
その勝ち誇ったような笑みが悔しくて、梨華は圭の前に立ち尽くした。

「どういうことですか? 石川には話せない秘密の話ですか?」
「別に秘密じゃないけど、ただ石川には面白くないと思ったから」
「そんなふうに決めつけないで下さいよ。石川にも話して下さい。
 保田さんに興味があることは石川にだって興味があるんです!
 聞きたいんです!」
「・・・じゃあそこのベンチにでも座って」

純粋な瞳が更に輝きを増して、圭の顔を捉えている。
その熱〜い期待を受け、圭はゆっくりと話し始めた。

166 名前:冬匂 5 投稿日:2002年04月07日(日)02時23分08秒
「実はさ、宇宙の話しなんだ」
「宇宙!?」
「そう。ビックバン宇宙論によると、150億年ほど前に・・・・・・
 で、銀河の4億光年は・・・・・・・なんだ。それでって石川?」
「ZZZ・・・(ムニャムニャ)」

梨華はものの5分で夢の旅へと羽ばたいてしまっていた。
無防備な寝顔が可愛らしくて、とても気持ちよさそうな寝息を立てていた。
圭は予想していた通りの展開に苦笑した。

「ま、しばらくおやすみ・・・」

穏やかな冬の一時がゆっくりと流れていった。


167 名前: 投稿日:2002年04月13日(土)00時59分02秒
梨華ちゃん…んなあっさり寝ちゃ駄目っしょ!
圭ちゃへの愛が足りないぞ(w
なんか空気がぽわわ〜んって感じで読んでて和みます(w
さて髪の長い女性の正体は誰なんだろう…?
この間から気になって×2仕方ないっす(ww

168 名前:うっぱ 投稿日:2002年04月13日(土)02時11分40秒
167>6さん

今回も(?)石川さんには小ボケを連発してもらいます。

髪の長い女性を気にしてらっしゃるようですが、
一応ヒントになる単語は出てますよ。

これで判るのではないかと思いますが・・・。
169 名前: 投稿日:2002年04月13日(土)23時38分40秒
マジッすか!?
う〜む…宇宙の話をする人となると思い浮かぶのは…
やっぱあの人でしょうか…??
あぁぁぁ!自分の読解力のなさが憎い…。
170 名前:冬匂 6 投稿日:2002年04月14日(日)03時43分19秒

 
  ガバッ!


「?」
「なんかいい匂いがする!」
「そう? 別になんにも・・・」

 突然、梨華は何かに誘われたように起き出し、辺りをキョロキョロと見まわしている。
一方、圭は鼻に意識を集中するも北風の威力によってその匂いの素を探れないでいる。

「空耳かなぁ? 空鼻かなぁ?」
「夢でも見てたんじゃないの?」

 意地悪そうな目つきで梨華を覗き込む圭の耳に、冬の名物でもある、
あの独特の呼び声が届いてきた。

171 名前:冬匂 7 投稿日:2002年04月14日(日)03時51分46秒


『いしや〜きいもぉ〜、焼きたてぇ〜、い〜しやぁ〜きいもぉ〜』



「ほらっ!」

 梨華はその声のする方へと走り始めた。
圭は呆れながらもその後をゆっくりと追いかけた。


「あれぇ? 声はするけど、姿が見えない」

 梨華は辺りを見まわす。
ようやく追いついた圭が諦めにも似た態度で言う。

「石川ぁ、もう諦めようよ」
「もうちょっとなんですけどぉ。でも匂いが濃くなってきてるような・・・」

 再度、辺りを見まわした時、遠目にそれらしき車を見つけ猛然とダッシュした。
それを見ていた圭は思った。

(あの娘、あんなに食い意地張ってたっけ?)

172 名前:冬匂 8 投稿日:2002年04月14日(日)03時58分30秒
 梨華は匂いを頼りに後を追いかけて、ようやくその元締めを捕まえた。

「いらっしゃい、お嬢ちゃん。何本いる?」
「えっと、保田さ・・・あれ?」

 振り返ってみると、そこには匂いを嗅ぎつけてきたご近所の奥様方が、数人いるだけで
肝心の圭がどこにも見当たらなかった。

「あ、あの、また来ます」

 梨華はそそくさと来た道を戻りながら、ぶつくさと文句を言い始める。

「さっきまで一緒について来てくれたのにぃ。もぉ〜保田さぁ〜ん、どこですかぁ〜」

 半ばふてくされ気味の梨華が公園まで戻ると、あの時の二人がベンチで笑談していた。

173 名前:冬匂 9 投稿日:2002年04月17日(水)01時48分17秒
「あれっ? 石川じゃん。何してんの、そんなところで」
「い、飯田さんこそ・・・」
「実はさ、この子ったら」
「あー保田さん、言っちゃダメェッ!」
「え〜なになに? 圭織、知りたぁ〜い」
「石川ったらさ、焼きいも追っかけて行方不明に・・・」
「いやぁーっ、ダメだった言ったじゃないですかぁー」
「あはははは。アンタらしいね」
「う〜。ところで何のお話ですか?」
「さっき石川に話してたことだよ」
「宇宙のこと、ですか?」
「まぁ、そうかな」
174 名前:冬匂 10 投稿日:2002年04月17日(水)01時57分26秒
「圭織はいつか向井さんみたいになりたいんだって」
「向井さん???」
「夢なんだ」
「大丈夫ですよ! 飯田さんなら美人ですし、背も高いし、
 向井さんを超えるような大女優になれます」
「女優?」
「自信持ってください!」
「アンタ、何言ってんの? 向井さんは宇宙飛行士だよ」
「ええっ! 本業は宇宙飛行士だったんですか?」
「本業?」

 身振り手振りで熱弁をふるう梨華と、頭の中に?マークが飛び交う圭織。
いち早くその違いに気付いた圭は、笑いを堪えながら二人のやりとりを見ている。
だが、お互いが全く気付いていない様子で、おかしさを堪えられず圭は爆笑してしまった。
175 名前:冬匂 11 投稿日:2002年04月17日(水)02時05分15秒
「な、なんで笑うんですか、保田さん!」
「あのね、圭織が言ってるのは、宇宙飛行士の向井○秋さんのこと」
「えっ、向井さんってタレントの・・・」
「それは向井○紀さんでしょ」
「・・・ふっ、ふはは。あはははは」
「くっくっくっ」
「アハハハハハ、石川面白いよ。ヒハハハハ、ウハハハハ」
「わ、笑い過ぎですっ!」

「「アハハハハ。ヒハハハハ。ウハハハハ」」


 この日、梨華にとって焼きいもは逃すわ、圭織には大爆笑されるわ、
甚だしい勘違いをするわと散々な一日だった。
176 名前: 投稿日:2002年04月19日(金)02時45分31秒
おぉぅ!飯田さんだぁ!!
何気に予想があたっててうれしいっす!!(歓喜)
そして梨華ちゃん…。ごめんよ。
私もオオウケしてしまったよ…。
これからもそんな梨華ちゃんでいてね(w
177 名前:うっぱ 投稿日:2002年04月21日(日)04時24分39秒
176>6さん

まだまだ石川さんには空回っていただく予定です。
そろそろネタが尽きて来たんで、しばらく対石川さんは控えます。
ん〜誰がいいですかね、6さん? ヒントいただけます?
178 名前: 投稿日:2002年04月21日(日)04時43分13秒
うぉ!!ヒントっすか??
うぅむ…大役だわ…真剣に考えないと…。
自分としてはやはりなっちなんですが…向こうもなっちだし…。
実は最近圭ちゃんに甘えるごっちんに萌え〜♪な自分もいるし、
「圭ちゃん」と普通に呼べるようになったよっすぃ〜ににやつき、
「おばちゃん♪」と無邪気に笑う加護ちゃんに頬をゆるます日々…etc

…節操ないなぁ自分…。
とりあえず思いついたものを書き連ねてみました。
果たしてこんなんがヒントになるのでしょうか…(滝汗
179 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月21日(日)10時41分15秒
続き期待してま〜す!!

……中澤さんをちと希望してみたりして……
ですきたマネしてすんまそん
180 名前:うっぱ 投稿日:2002年04月25日(木)01時50分47秒
178>6さん
179>名無しさん

御ヒントありがとうございます。
行き当たりばったりですが、ご覧下さい。
181 名前:これって幸せなんでしょうか? 投稿日:2002年04月25日(木)01時58分50秒

 ・・・はぁ〜。


 最近ため息が多いこの頃。
なんでかって言うと・・・。


「保田さ〜ん、今日お家に遊びにきてくださぁ〜い」
「圭坊〜、これから飲みにいこ〜」
「おばちゃ〜ん、遊びましょ〜」


三人が三人とも同じタイミングでアタシにすり寄ってくる。
いつもと同じ台詞と、いつもと同じ顔ぶれ。
そして・・・いつもと同じようにアタシの取り合い。


・・・はぁ〜。

182 名前:これって幸せなんでしょうか? 投稿日:2002年04月25日(木)02時07分33秒
「今日こそは石川が保田さんと過ごすんですよ!」
「何言うてんねん。アタシが先に予約したんや!」
「ちがいます、加護が一番最初です!」
「亜依ちゃんにはこないだ譲ってあげたじゃない。だから今日は私の番だよ」
「石川かていっつも圭坊の側におるやんか。アンタこそどきや」
「何言ってるんですか。中澤さんこそ隠れて保田さんと飲みに行ってるじゃないですか」


自分のことで争ってくれてるんだけど、端から見るとくだらない争いよね。
好かれるのは嫌いじゃないけど、なんかねぇ。
他のメンバーなんか呆気に取られてるし。

・・・はぁ〜。
183 名前:うっぱ 投稿日:2002年04月25日(木)02時22分21秒
こうやって普通に喋っている間にもアタシは三人に掴まれ引っ張られっぱなし。
まるでサッカーボールにでもなった気分だよ。


「・・・いちゃ・・・圭ちゃん」
「へ?」
「圭ちゃん、服・・・乱れてるよ」
「!!!」

いつの間にか三人にもみくちゃにされて肌が露出してた。

「アーッ!」
「えっ?キャッ、ご、ごめんなさい」
「あわわわ、す、すみません」

石川と加護は真っ赤になってそっぽを向いていた。
でも裕ちゃんだけは・・・
184 名前: 投稿日:2002年04月26日(金)04時00分40秒
いいっすねぇ、もてもて圭ちゃん(w
こういう設定大好っき♪っす。
裕ちゃんは何しようとしてるのか??
続き待ってます!!
185 名前:うっぱ 投稿日:2002年04月27日(土)02時20分32秒
184>6さん

え〜結論から言いますと苦しまみれに載せてしまった感がします。
なんで、次の更新で終わります。
それでまたいつも通りに幸薄少女と保田さんでやって行きます。
ごめんなさい(ペコリ)

186 名前: 投稿日:2002年04月27日(土)05時38分57秒
次で終わりっすか?
ありゃ、それは残念…。
でもまた幸薄少女が何かやってくれるのかと思うと楽しみです(w
自分の事なんか気にせずうっぱさんのやりたいように楽しんでください☆
187 名前:これって幸せなんでしょうか? 投稿日:2002年05月03日(金)02時16分38秒


 チュ〜ッ


「ひゃぁっ、何してんのよ、裕ちゃん!」
「これで圭坊はあたしのモンやな。誰にも渡さへんで」

 なんと裕ちゃんはあたしのお腹にくっきりと大きなキスマークをつけた。
これじゃ当分消えそうにないくらい思いっきり吸いついてた。

「どうしてくれるのよ、これじゃ恥ずかしくて着替えすら出来ないじゃない」
「そんなん気にせんでもええよ。何なら裕ちゃんの楽屋で着替えるか?」

 何やら瞳の奥が妖しく光ってる・・・怖い・・・。
188 名前:これって幸せなんでしょうか? 投稿日:2002年05月03日(金)02時22分02秒
 チラッと他の二人が見えた。
二人とも裕ちゃんの破廉恥な(?)行動に目が点だよ。
石川はあと数秒で泣きそうになってるし、加護なんて今にも泡を噴き出しそうになってるし。
なんだか二人が可哀相に見えてきた。
だけど、そう思ったのも束の間、

「ずるいですっ!だったら石川だって!」
「加護だって負けないもん!」

 そう言って二人一斉にあたしに抱きついてくる。
そして・・・
189 名前:これって幸せなんでしょうか? 投稿日:2002年05月03日(金)02時27分22秒


 ちゅ〜っ
 ぶちゅ〜っ


・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。

あたしの身体には当分消えないだろうキスマークが三ヶ所もついた。
加護につけられた首筋、裕ちゃんにつけられたお腹、そして・・・
石川にはなんと、胸元。


 三人ともなんだか満足げな表情をしていた。

 これって幸せって言えるんだろうか?
誰か教えて下さい。そしてあたしを助けてください。

                〜 終わり 〜
190 名前:うっぱ 投稿日:2002年05月03日(金)02時30分19秒
以上が6さんと名無しさんのご意見をもとに出来た小話でした。

次回は、幸薄少女、ちょこっと救済したお話

『あなたの隣りでパッと春』

をお送りします。では。

191 名前: 投稿日:2002年05月03日(金)03時14分49秒
裕ちゃん…あんたお子ちゃまになんつう事を教えてるんすか…(ニガワラ
圭ちゃん…うん、きっと幸せなんだYo!!
ほら、人間やっぱ嫌われるよりね!うん、好かれた方が…。
その分これからも苦労しそうだけどねぇ…(←一言多い奴)

おっ!次回は幸薄少女の救済話っすか♪
「ちょこっと」というのが気にならないこともない(どっちだよ!)ですが、
救ったって下さい。あの不憫な少女を…。
192 名前:うっぱ 投稿日:2002年05月06日(月)03時24分20秒
191>6さん

なんかお恥ずかしいものをのせてしまって・・・
載せ終わった後で後悔しました。
やっぱり幸薄少女と保田さんが一番いいなぁ〜なんて。
という訳で(どういうわけだろう?)また始めます。
では
193 名前:あなたの隣りでパッと春 1 投稿日:2002年05月06日(月)03時29分54秒


(ルンルン♪♪ 今日も一日お疲れさまぁ〜)


 梨華は本日のスケジュールを終え、帰ろうと楽屋に置いてある荷物の元へと辿り着いた。
すると、自分の鞄に小さく隠れるように綺麗なスミレの花が置かれていた。

(??? スミレの花・・・一体誰が?)

 それをそっと手の平にのせ、しばらく考え、一つ思い当る出来事が浮かんできた。
それはつい1ヶ月前もの出来事。
194 名前:あなたの隣りでパッと春 2 投稿日:2002年05月06日(月)03時34分26秒

「保田さぁ〜ん、バレンタインのチョコなんですけど、甘いものがお好きでないと
 聞いたんでチョコチップクッキーにしましたぁ。食べてくださぁ〜い(はあと)」
「ありがと。どれどれ・・・・・・うん、美味しいね」
「ありがとうございますぅ」
「お返し考えとかなきゃね、何がいい?」
「んとぉ、石川はお花がいいなぁ」
「お花、か。石川らしいね」
「そんなぁ〜(ポッ)」

195 名前:あなたの隣りでパッと春 3 投稿日:2002年05月06日(月)03時37分38秒

(もしかして保田さんがこんな素敵なスミレのお花を・・・)

 しばし妄想の世界に浸っていた梨華をひとみの声が現実に戻した。

「梨〜華ちゃん、梨華ちゃ・・・どしたの? 顔真っ赤だよ?」
「えっ、な、なんでもない。なんでもないよ」
「??? なんかいい事あったんだ。よかったね」

 そう言って真里のほうへ行ってしまった。
196 名前:あなたの隣りでパッと春 4 投稿日:2002年05月06日(月)03時42分44秒
 梨華は居てもたってもいられなくなり、恋する彼女にお礼がしたくて
ありとあらゆる場所を捜し回る。

(保田さん、保田さん、どこぉ?)

 辺りをくまなく捜して、ようやくお目当ての彼女の後ろ姿を発見した。

(あっ! 私の大好きな後ろ姿、見ぃ〜つけた!)

 長椅子の側で立ち話をしていた圭と圭織。
梨華は待ちきれずに二人の周りをグルグルと回り始める。
そんな奇怪な行動をとる梨華を不思議そうに見つめる二人。

((何してんだ、こいつは???))

197 名前:あなたの隣りでパッと春 5 投稿日:2002年05月06日(月)03時47分44秒
 二人の視線を気にすることなく、ニコニコしながらずっと回り続ける梨華。
ようやく梨華の目的に気付いた圭織が気を利かせた。

「また明日にでも話すよ」
「あ、そう? わかった」

 圭織がその場を離れても尚、回り続ける梨華。

「何? なんなの、一体。目が回るじゃない」

 先ほどからずっとほころびっぱなしの梨華の表情が更に崩れる。

「保田さん、ありがとうございますぅ」
「何が?」
「これです!」
「へっ? 何それ?」
「ホワイトデーのプレゼントです。すごぉ〜く嬉しいかったですっ!」
「えっ、知らないよ、そんなの」
「え〜っ!」

198 名前:うっぱ 投稿日:2002年05月06日(月)03時49分05秒
【お詫び】

季節外れの内容ですいませんです。
推敲してたらこんなに遅くなってしまいまひた。
199 名前: 投稿日:2002年05月08日(水)01時34分58秒
あらあら、なにやら初っ端から石川さんは突っ走ってるようで…(苦笑)
かわいい奴よのぉ…どんどん突っ走ってね♪
よっ!暴走列車!!(注:誉めてます)

なぜか題名がツボにはまりました(w
もう私のハートをガッチシキャッチです!
こっちは幸せいっぱい夢いっぱいって感じで…。
むこうもそうなる事を心から願ってます…。(マジで)
200 名前:うっぱ 投稿日:2002年05月08日(水)02時54分27秒
>6さん

暴走列車とはいい言葉ですねぇ。
まあ今回は突っ走って突っ走ったあとに
幸せが待っている予定なんで、さしずめ「暴走三輪車」で
勘弁してやってください。
201 名前:あなたの隣りでパッと春 6 投稿日:2002年05月08日(水)03時00分45秒
 ここで二人はしばし考えこんだ。

(ホワイトデーっていつだっけ?)
(あれっ、今日ってまだ3月7日だった)


 そして考えがまとまった(?)頃、梨華が切り出す。

「保田さんがホワイトデーにお花くれるっていったからつい・・・」
「ん〜、花ね。確かに言ったけれど、これってなんの花だっけ?」
「石川の好きなスミレの花ですよぉ!」
「それは知らなかった」
「こっそり石川の鞄の隣りに置いてくれたとばかり・・・じゃあ一体誰が・・・?」
「ま、まぁ誰でもいいじゃない。き、きっとさ、誰かが石川にスミレの命を託したんだよ」
「・・・そうですね。大事に育てます」

 そう言ってこれから撮影に入る圭と別れて楽屋へ戻った。
202 名前:あなたの隣りでパッと春 7 投稿日:2002年05月08日(水)03時05分38秒
 しばらく楽屋でその綺麗なスミレを見つめながら、圭の帰りを待っていた。

「あっ、綺麗なスミレだねぇ。どうしたの、それ?」

 撮影を終えたばかりのなつみが梨華の隣りに腰掛ける。
人差し指で軽く小さな花弁に触れる。

「誰かわからないんですけど、石川の鞄の傍に置いてあったんです。
 安倍さん、誰か知ってます?」
「ん〜なっち今さっきまで撮影してたからねぇ」

 撫でるように花弁に触れるなつみ。
だが、思い当たるふしが見つかったのか、急に顔がニヤニヤし出した。
203 名前:あなたの隣りでパッと春 8 投稿日:2002年05月08日(水)03時11分53秒
「どうしたんですか、急に? ひょっとして誰だか知ってるんじゃ?」
「ふふ〜ん。実はねぇ、このスミレ、なっちの家に最初あったやつなんだ」
「ええ〜、じゃあ安倍さんのなんですね?」
「今言ったっしょ。最初は、って。それを誰かさんがなっちの家に遊びにきた時に、
 ひとつ貰ってもいいかって聞いてきたんだよね〜。で、なっちが理由を聞いたら、
 『お花が欲しいって言う人がいるから』だって」

 そこで梨華ははっと思い出した。
なつみの話しはまだ先があるようだ。

「でね、なっちがきちんと育ててねって言ったらその人、急に真っ赤になって言ったんだ」
「なんて言ったんですか?」
「なんて言ったとおもう?」
「さぁ?」
204 名前:あなたの隣りでパッと春 9 投稿日:2002年05月08日(水)03時18分51秒
「アタシよりもこの花がもっと似合う人に育ててもらうから、だって。
 だ・か・ら・ちゃんと育ててあげてね」

 そう言い残してなつみは人足先に帰っていった。

(スミレが似合うだなんて・・・保田さん、最初からわたしの好きなお花、知ってたんだ・・・)

 その場に残された梨華は天にも昇る勢いで顔が紅く染まってゆくのがわかった。
しばらく上の空だった梨華はその後、他のメンバーから心配されるほど、ひとり火照っていた。
205 名前:あなたの隣りでパッと春 10 投稿日:2002年05月11日(土)03時44分09秒
 それから・・・
今日のスケジュールが早めに終わり、梨華は圭を誘っていつもの喫茶店に来ていた。

 窓から少し離れた所で桜が咲こうと時を待っている。
圭はそんな穏やかな春の訪れを感じる景色を眺めながら、煎れ立てのコーヒーをすする。
そんな仕草を少し上目遣いぎみに見つめる梨華。

 先ほどの事を言おうかとも思ったのだが、彼女の性格を十分過ぎるほど
知り尽くしている梨華は、自らの心の中できちんとお礼を言っておいた。
もちろん、愛情たっぷりのキッスも忘れずに添えて。
206 名前:あなたの隣りでパッと春 11 投稿日:2002年05月11日(土)03時49分20秒
「ん? 何?」
「いいえ、なんでもないです・・・」

 急に俯いて黙りこむ梨華の態度を少し微笑ましく見つめ返して、
圭は再び窓の外へと視線を飛ばした。

 店内に流れるクラシックのメロディと共に、しばらく静かな時間だけが過ぎていく。
その間中、梨華の頭の中は真っ白に覆われ、自分から誘っておきながら言葉が出てこない
今日の自分に、段々と嫌気が生まれ始めた。
 何も言わずにコーヒーをすする圭を見つめ、梨華は思ってもいなかった言葉を口にした。
207 名前:あなたの隣りでパッと春 12 投稿日:2002年05月11日(土)03時56分22秒
「保田さんは今、幸せですか?」
「は? いきなりそんなこと言われても・・・。考えた事ないなぁ。なんで?」
「だって・・・こんなつまんない石川とお茶してて退屈じゃないかと思って・・・」
「・・・・・・」

(またやっちゃった・・・もうなんでいつもこうなんだろ、私って)

 自分の失敗を反省するように俯く梨華に、圭は少し困ったような返答をした。

「つまんないだなんて・・・あたしに対しても、自分に対しても失礼じゃない?」
「ごめんなさい。ずっと黙ってたからてっきり怒ってるのかと・・・」
「・・・・・・」

 自分を見つめる視線が痛かった。

208 名前:あなたの隣りでパッと春 13 投稿日:2002年05月11日(土)04時00分20秒
「・・・バカだなぁ。アタシはそんな娘と無理して付き合ったりはしないよ」
「えっ」

 思わず顔を上げた。
そこには優しく自分を見つめる大好きな瞳があった。

「何も話さなくてもいい気分で、お茶を飲める相手ってなかなかいないよ」
「(カァ〜ッ)」




 スミレのお花が咲くように、梨華の心の中では恋の華が満開を迎えました。



             〜FIN〜

209 名前:うっぱ 投稿日:2002年05月11日(土)04時06分08秒
とりあえず、「幸薄少女、ちょこっと救済ストーリー」終わりました。
ホントにちょこっとだけ、幸せになってる感じが読者の方々に
伝わって頂ければよいのですけど・・・

で、まあついでなんで、続編でもないですけど
幸薄少女視点のショートストーリー
『冬の向日葵』
を載せてみたいと思います。

では。
210 名前: 投稿日:2002年05月12日(日)03時48分48秒
なぜだろう?
些細なことなのに幸薄少女だとめちゃくちゃ幸せに感じてしまう…。
よかったねぇ梨華ちゃん…。
211 名前:うっぱ 投稿日:2002年05月15日(水)02時00分46秒
>210 6さん

幸せに感じてしまうのは彼女が幸薄少女だからだと思います。
アメとムチ、と言えなくもないんですが・・・。
これからは彼女にも少しだけ幸せを与えてあげるようにします。
では。
212 名前:冬の向日葵 投稿日:2002年05月24日(金)03時08分06秒
階段を急いで駆け上がって私は週末の人ごみの中を捜しました。
つい数時間前まで会ってたけれど、再び逢える喜びに誘われてあなたを捜してます。


身体の奥で揺れて確かに動いていた私の気持ち。
あなたの優しさから生まれる痛み。
涙の夜、一人淋しく問いかけた。
あなたがくれた優しさの意味を・・・。
そしてようやく気付いた瞬間に、胸一杯に伝えたい事が溢れてた。

向日葵のような笑顔で私を包んでくれたあの日、一緒にいないと長すぎた毎日に別れを言った・・・。
213 名前:冬の向日葵 投稿日:2002年05月24日(金)03時18分21秒
言えば聞かない性格で、そのくせ照れ屋で、不器用な生き方をしているあなたが
私にくれた一度だけのプレゼント。
小さな箱から流れる愛のメロディと一緒に零れるあなたの微笑み。
初めてあなたと二人っきりで、一緒にこの曲を聞いた夜。

不思議と雨まで止んでいましたよね?


やけに晴れた昼下がり、窓の向こうの青い空には、ふんわりと綿菓子が広がってた。
あなたは心理学の本をベッドに持ちこんでる。
私の瞳の奥の宇宙は学問だけじゃ探れないのに、あなたの瞳の宇宙には綺麗な
イリュージョンが私の恋する気持ちをくすぐってた。

今度、二人で素敵な星空でも見ませんか?
214 名前:冬の向日葵 投稿日:2002年05月24日(金)03時27分02秒
マンネリになってきた生活に終止符を打つべく、誘ってくれた一泊だけの旅行。
日常の喧騒を離れて、知らない土地に二人で足を運んで、貴重な時間を過ごした。
小高い丘に登り、大きな木の下で寝転んで、故郷を懐かしむように幼い頃の思い出を
隠すことなく話すあなた。

いつか、生まれ育った故郷に連れていってくださいね?


雨の中、傘さして、腕を絡めて、当てもなく寒い夜空を背中丸めて歩いた日。
あなたのコートに入り込み、熱い心で一緒に暖まる私の想い。
知らない間に、冷たい雨が白い雪に変わってたけど、寒さなんて感じなかった。

覚えていますか?
あの時、空から愛が降ってたんですよ?

215 名前:冬の向日葵 投稿日:2002年05月24日(金)03時40分19秒
どのくらい時が経ったのだろう。
止まっている夢の中で、魔法のように包まれていたあなたの温かい胸に誘われて目を瞑る。
昨日が悲しくても、明日雨が降っても、あなたのために傍にいたい。
心の底にいつまでも、大事に軌跡を残してゆく二人の愛を見つめていたい。
そしてまた私たちの愛は始まる・・・。



ようやく見つけたあなたの腕に、私はそっと寄り添いながら問いかける。


このまま二人でずっといられますよね、保田さん?


216 名前:うっぱ 投稿日:2002年05月24日(金)03時44分48秒
幸薄少女救済ストーリー、これにて完結です。
意見、感想等あれば何なりと申し出てくださいませ。
ではまた。
217 名前: 投稿日:2002年05月24日(金)23時20分34秒
さすがですねぇ…。
本当にきれいな文章で胸がキュルルン♪って感じです。
なんか幸せそうで…よかったねぇ梨華ちゃん。
218 名前:うっぱ 投稿日:2002年05月31日(金)01時08分43秒
>6さん

これで彼女も幸せになれそう(?)です。
そんな幸せな彼女が私的妄想の世界にて暴走する次作

『あ・ぶ・な・い・梨・華』

近日公開予定です。
では。
219 名前:あ・ぶ・な・い・梨・華 1 投稿日:2002年06月03日(月)02時32分42秒
今年も一年で一番うっとおしい季節がやって来た。
梅雨というものはどうも日本人の心を逆撫でする存在らしい。
けれどもそんな梅雨時の不快さを感じさせない一人の少女がいた。

「よぉ〜しっ! 今度という今度こそ、絶対にこの方法で保田さんとイイ関係になるんだからッ!」

梨華は怪しい佇まいを見せるお店から出ると、一人ほくそ笑む。
そして何やら怪しそうな黒いビニール袋に包まれたものを片手に、じめっとした夜空に誓いを立てた。
220 名前:あ・ぶ・な・い・梨・華 2 投稿日:2002年06月03日(月)02時39分39秒
さっそく自宅に戻った梨華は怪しい袋から雑誌を取り出し、読み始めた。

「もうこうなったらこの手でいくしかないもんね。石川だってやる時は
 やるっていうところを見せてあげますからね、保田さん!」

気合十分に読み進めていったのも束の間、梨華の学習ペースは徐々に落ちていく。
それに比例するかのように顔が火照り始める。

(それにしても、今時の若い子って進んでるんだぁ・・・こんな事できるかなぁ)

こうして梨華の怪しい学習は朝方まで続いた。
221 名前:あ・ぶ・な・い・梨・華 3 投稿日:2002年06月03日(月)02時49分20秒
来る日も来る日も梨華の学習は続いた。
というよりは、学習する前に羞恥心が先走ってしまい、前へ進まないのが現状なのだが。
そしてようやく、3週間かけて読破し、さっそく学習成果を発揮する時を迎えた。
お目当てであるターゲットを見つけると、さっそく行動を開始する梨華。

「保田さぁ〜ん。これからどっか行きませんかぁ?」
「ん? これから? 別にいいけど」
「ホントですかぁ。やったぁ〜」
「ちょ、何すん、こら、危ないってば。石川ぁ、止めなって、た、倒れるぅ〜」

勢いよく飛びついた梨華もろとも、圭は椅子から転げ落ちるように地面へ。
同時に首に巻きついてきた梨華の腕が完全にはいったので、一時的に呼吸困難に陥る圭。

「ゲホッ、ゲホッ、ってもういきなりなんてことすんの!」
「ご、ごめんなさいっ! だってつい嬉しくって・・・グズッ」
「うっ・・・わ、わかったからそんな顔しないの」

未だに梨華の涙に弱い圭だった。
しかし、これも梨華の作戦だという事を知る者は誰もいない。
222 名前:ぽろ 投稿日:2002年06月06日(木)01時40分53秒
うわぁ〜新作だぁ〜待ってました!
暴走少女は今度はどうなるのか!
楽しみです
223 名前:うっぱ 投稿日:2002年06月06日(木)03時34分01秒
>ぽろさん

初めまひて。
ここでは、幸薄少女(またの名を暴走少女)石川梨華さんと、
カッチョイイ保田さんをテーマにお送りしてますので、
これからも陰ながらよろしく願います。
224 名前:あ・ぶ・な・い・梨・華 4 投稿日:2002年06月09日(日)04時26分15秒
外に出ると、あいにくの雨模様が二人を待っていた。

「あ〜雨だよ。結構降ってるね〜」
「えっ、雨?」

開口一発、さっそく梨華の妄想劇場が始まった。



(突然の雨。天を見上げながら傘を取り出す保田さん。傘のない私。
 
 このシチュエーションは・・・・・・保田さんと相合い傘!!

 そして寄り添う二人。そっと保田さんの腕が私の肩に・・・)



「・・・・・・(ダラ〜)」

梨華の口からも雨が降り始めた。
当然この後、圭から容赦ない突っ込みが入ったことは言うまでもない。
225 名前:あ・ぶ・な・い・梨・華 5 投稿日:2002年06月09日(日)04時36分41秒
「ったく何考えてるの、こんな公衆の面前で」
「す、すいません・・・」
「で、これからどこに行くの?」
「えっ、イク?」

すかさず妄想劇場の第二幕が始まる。



(乱れ悶える真っ赤な肢体。ひときわ甲高い声でエクスタシーを迎える保田さん。

 私の背中に荒く爪をたててひとり快感の世界に・・・・・・。

 私はついに保田さんと一心同体になれたんだ!)



「・・・・・・(ダラ〜)」

先程よりも強い雨が口から降り注ぐ。
226 名前:あ・ぶ・な・い・梨・華 6 投稿日:2002年06月09日(日)04時45分43秒
「・・・ヨダレ、出てる」
「・・・へ? あっ、やだっ、恥ずかしいよぉ」
「って言うかヨダレ垂らして笑ってる石川と歩いているアタシの方が
 よっぽど恥ずかしいよ。はやく拭きなさい」

そう言ってハンカチをさりげなく渡す圭はやはり大人である。
梨華はそれを受け取ると、それを素早く懐にしまい込んだ。

(やったぁ、保田さんのハンカチ、ゲットォ〜)

この時から、彼女の思考回路には黄色信号が灯り始めていた。
227 名前: 投稿日:2002年06月09日(日)23時30分13秒
梨華ちゃんは相変わらずの暴走ぶりっすねぇ…。
なんか暴走三輪車から自転車位までレベルアップしてる気がするのは
自分だけでしょうか…。
今は(本人は)幸せそうですが最後にまた幸薄少女になるよう…
じゃなくてならない様祈ってます。はい。
228 名前:ぽろ 投稿日:2002年06月12日(水)00時42分02秒
口から雨って・・・梨華ちゃん、それじゃただのアブナイ人だよ・・・(w
やっすは今度はどこまで許容できるのか!?(w
229 名前:うっぱ 投稿日:2002年06月14日(金)02時16分11秒
>6さん

今回はかなり暴走しきってます。
なので暴走機関車といったところだと個人的には思ってます。
したがって幸薄少女どころじゃなくなる可能性も…。


>ぽろさん

今回の石川さんはかな〜り危ないです(タイトルがタイトルですから)
なので今回ばっかりは保田さんもお手上げ(?)かも。
230 名前:あ・ぶ・な・い・梨・華 7 投稿日:2002年06月14日(金)02時24分10秒
徐々に雨足が強まってきた。
さしている傘が風力に逆らう恰好でしなっている。

「うわぁ〜これは本格的になってきた」
「そ、そうですねぇ」
「ちょ、ちょっと石川さ、アタシほとんど傘から半身はみ出てるんだけど。少しぐらい中に入れてよ」
「ええっ、中に入れる?」


妄想劇場第3幕、開演。

(そ、そんな・・・梨華まだ何もしていないのに、もう中に入れるだなんて・・・
 なんて敏感なんですか保田さん。でも・・・保田さんがそう言うのであれば遠慮なく・・・)


梨華の手がすっと伸びて、圭の腰の辺りを撫で始めた。
231 名前:あ・ぶ・な・い・梨・華 8 投稿日:2002年06月14日(金)02時33分02秒
「ちょ、何よ、いきなり! 石川ってば何してんの! こらっ、変なとこ触るな!
 石川ぁ、目ぇ覚ませ! 撫でるな、触るな、揉むな!」

傘を持っているせいで身動きがあまり取れない圭に、梨華は容赦なくイヤらしい手つきで
圭の身体に触れていく。
昨晩までの学習成果が今、発揮されようとしていた。
腰のくびれから徐々に這いあがっていくマニュアル通りの責めで圭の身体を翻弄していく。
そして肌をなぞるような梨華の手が圭の首筋を捉えようとしたとき、
一台の大型車が二人の前を勢いよく通りすぎていった。
当然、水飛沫が二人目掛けて襲いかかった。


“バシャァッ!!”

232 名前:あ・ぶ・な・い・梨・華 9 投稿日:2002年06月14日(金)02時40分54秒
「うわっぷ」「きゃぁっ」


水も滴るイイ女。

全身水浸しになった二人はしばらくその場に立ちすくんでいた。
そして地獄の底からうめくような声で圭は梨華に問い掛ける。

「石川ぁ〜、どうしてくれるのよぉ〜この恰好」
「石川だって同じですよぉ」
「アンタがあたしの身体触ってくるからこうなったんじゃないの!」
「へ? 保田さんの身体を触る? 石川がですか? ななな何言ってるんですか!
 なんでそんなコトこんな公共の前でしなくちゃならないんですか!?」
「そんなのアタシの方が聞きたいわよ。もぉ〜全身びしょ濡れじゃん」
「えっ、びしょ濡れ?」

卑猥な言葉にすかさず反応する梨華の思考回路は暴走真っ只中。
凝りもせず妄想の世界へ・・・。
233 名前:あ・ぶ・な・い・梨・華 10 投稿日:2002年06月14日(金)02時48分59秒

(もう我慢できないほど感じてるなんて、石川どうにかなっちゃいそうです。
 もっともっと石川で一杯一杯感じて下さい・・・そしたらもっともっと石川、
 頑張っちゃいますから。ああ、そんな大胆に・・・保田さぁ〜ん・・・)


「石川っ!」
「は、はいっ!?」
「・・・・・・」
「あの、何か?」
「今日はこれで帰る」
「ええ〜まだどこにも行ってないじゃないですかぁ」
「何言ってんの。こんな恰好でどこ行く気なのよ?」
「・・・・・・ホテル、なんちゃって」
「・・・帰る」

そう言い残して圭はスタスタと行ってしまった。
その間、梨華は自分が言った言葉で妄想の世界に入り浸っていた。
234 名前:あ・ぶ・な・い・梨・華 11 投稿日:2002年06月18日(火)03時10分25秒
翌日。

楽屋に入った梨華は、同じ時間に入ってきたひとみに小脇を抱えられて椅子に座った。
そしてひとみは開口一番に昨日の事を聞いて来た。

「どうだった昨日は? 保田さんとどっか行ったんでしょ? なんか進展あった?」
「ええ〜何もないよぉ〜(ポッ) 結婚のけの字もないってばぁ」

そう言って一人真っ赤になってモジモジする梨華。
そんな彼女の姿を見たひとみはぼそっと呟く。

「・・・・・・キスのきの字もなかったんだね」

235 名前:あ・ぶ・な・い・梨・華 12 投稿日:2002年06月18日(火)03時18分26秒
その後、楽屋では真里の友人の恋話が話題になり、梨華も何気なくその話を聞いていた。

「・・・なんだって」
「出会ったその日にキス?」
「なかなかやりますねぇ、その人」
「でもさ、キスどころじゃなかったらしいよ。も〜っとスゴイ事を・・・」

「ええっ!!!」

思わず話に聞き入っていた梨華は大声をあげてしまった。
その場にいた誰もが梨華に視線を向ける。

「ヤダァ、梨華ちゃんてば真っ赤」
「・・・(カァーッ)」
「ウブだなぁ、石川は」
「あれ? でもなんか変ですよ、梨華ちゃん」
「・・・(ボォ〜)」
「なんかアブナイよ、この子」
「・・・(ニヤニヤ)」
「ちょっと離れたほうが・・・」
「・・・(ダラ〜)」
「やだ、ヨダレ」
「スケベだね、石川は」

この日を境に梨華の周りには近づくな、という暗黙の了解ができていた。

                  
                      〜 F I N 〜
236 名前:うっぱ 投稿日:2002年06月18日(火)03時26分31秒
次作からは『巡り会い』というテーマで五つのお話を取り上げてみようかと思ってます。

第一話を圭ちゃんとやぐっちゃん、二話を圭ちゃんと幸薄少女、
三話を圭ちゃんといいらさん、四話を圭ちゃんとみっちゃん、
そして最終話を「あの二人」でお送りしたいと考えてます。
(変更があるかもしれません)
ではまた。
237 名前:ぽろ 投稿日:2002年06月21日(金)02時39分29秒
えっと、何気ない単語から、エロ連想すること、おいらもあります(爆

でもさすがによだれはたらしません(w
今回も笑わせていただきました。次回も楽しみにしております
238 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)15時46分11秒
お久しぶりでございます。
今回も梨華ちゃん飛ばしてますねぇ。
もうこのままいくと暴走ジェット機位までいってしまいそうで
ちょっと楽しみ…じゃなくて心配です。
ってかよだれって…(滝汗)
一応アイドルなんだし…口元には気をつけましょうね(w
次作の最終話…私の大好物の二人でしょうか…?
ってか圭ちゃんがらみがイッパイ…幸せっす!!楽しみに待ってます!!
239 名前:うっぱ 投稿日:2002年06月25日(火)14時19分05秒
>237 ぽろさん

妄想は頭を柔らかくするんで良いかなぁ〜と思ったりして(?)描いてみました。
でもヨダレを滴らせる描写が似合う(?)のは石川さんしかいないでしょう(笑)


>238 6さん

ちょうどこのお話を作っている時、『シ○ィーハ○ター』のりょうちゃんが
頭に浮かんでしまったんです。ヨダレはそこからヒントを得ました。

最終話は6さんの大好物のお二人です。向こうが終わっちゃったんで・・・
でも、3rdは現在のところ1/4程度しかできてませんのでもうちょっとかかります。
ちょこちょこここで制作状況をお知らせするんで気長に(?)待っててください(ペコリ)

240 名前:あの日の風景 1 投稿日:2002年06月30日(日)02時54分54秒

「あっ、ここ・・・」

週末の賑やかな街中を軽快に歩いていた圭の脚がふと、一件の店の前で止まった。
白いサマーセーターが初夏の日差しを受けて光っている。

「あれから随分と時間が経ったけど、変わってないなぁ」

少し寂れた感じのある洋食屋の前に佇み、懐かしき日々の面影を思い出していた。

241 名前:あの日の風景 2 投稿日:2002年06月30日(日)03時02分27秒



圭は毎晩、この小さな洋食屋で和風パスタとシーザーサラダを摂ってから帰宅していた。
仕事で遅くならない限り、毎晩それを日課として繰り返していた。
そこに訪れる時間も座る場所も店内にかかる音楽も全く変わらなかった。
だから圭がその店の窓辺に座ると、自動的にいつのもメニューが前に置かれていた。

そしてもう一つ、変わらなかったものがあった。
それは圭がいつものように訪れると、必ず「こんばんわ」と声を掛けてくれる
アルバイトのウェイトレス、飯田圭織の笑顔だった。
242 名前:あの日の風景 3 投稿日:2002年06月30日(日)03時13分05秒
圭が来ると、どんなに店内が忙しくてもどんなに空いてても圭の正面に腰掛け、
ニコニコと愛想を振り撒きながら圭のお相手をしていた。
そんなもんだからいつもこの店のシェフである裕子に
「こらっ、圭織! 忙しいんやからはよ注文とってきい! 何度言ったらわかるん!」
とこっぽどく怒られていた。
しかし、当の圭織には馬耳東風といったご様子で、圭が店を出るまでずっと正面に座っていた。
まるで新婚の奥様が旦那の食事姿を見つめているかのように。

毎日同じことの繰り返しに苛立ちを覚えていた圭にとって、圭織と過ごす些細な時間は
このうえないほど新鮮で、生きている事を実感できる貴重な時間だった。
そしてそんな関係は徐々に発展していき、いつしか二人は客と店員という関係から
お互いが自分にとってかけがえのない存在へと移っていった。
243 名前: 投稿日:2002年07月08日(月)00時30分41秒
ご無沙汰しておりやす!!
ふと気づいたんですが圭圭の組み合わせってあんま見ないっすねぇ。
この二人がこの先どうなるのかな?
続き楽しみにしています♪
244 名前:うっぱ 投稿日:2002年07月09日(火)02時08分39秒
>243 6さん

いいらさんは今回「乙女」です。
でも・・・幸薄少女みたいにはなりません(笑)
かと言ってなっちゃんほど「恋する乙女」という訳でもない。
そんな感じにしてみまひた。
245 名前:あの日の風景 4 投稿日:2002年07月09日(火)02時15分24秒
しかし・・・そんな幸福な時間はそう長くは続かなかった。
お互いが持つ夢に向かって前に進めば進むほど、二人の距離は広がっていった。

ある週末の夜だった。
閉店後の店内で突然、切り出された「別れ」の言葉。
当の圭織は懸命に涙を堪えて胸の内を告白した。
奥にいた裕子の捲る新聞紙の音が静かに聞こえる。
俯き加減の圭織とは対照的に、冷静な態度で圭は言った。

246 名前:あの日の風景 5 投稿日:2002年07月09日(火)02時21分32秒
「行っておいでよ」
「えっ・・・圭ちゃ・・・ん・・・」
「気が済むまでやってきなよ」
「だってそうしたら圭ちゃんと逢えなくなるんだよ? そんなのヤダよ。
 せっかく仲良くなれたのに・・・それなのにもうお別れだなんて・・・」
「人は何かを手に入れるために、何かを犠牲にしなきゃ前に進めないんだよ?」
「でも・・・」
「それにべたべたとくっついてないと何もできないだなんて甘えんぼだよ?
 人は出会ったらいつかは離れていくものなんだよ。その繰り返しの中で
 一人でも生きて行けるくらいの強さを手に入れるの。
 アタシはそれで強くなれるんなら、迷わずそっちを選ぶよ」

冷静な分だけきつく聞こえてしまう圭の物言いに、圭織は耐えられずに
その場から無言で立ち去ってしまった。
247 名前:あの日の風景 6 投稿日:2002年07月09日(火)02時28分11秒
既に覚め切ったコーヒーを一口すすった。
そっと横に温かいホットが置かれた。
圭は視線を上げると、裕子が笑みを浮かべて一言、こう言った。

「これであの娘も一回り大きくなってくれるとええねんけどなぁ〜」
「そうだね・・・・・・これ、おいしいね」
「当たり前やん。だてにこの若さで店一件任されてへんわ」

この時、大人になっていた自分に始めて気が付いた。


結局、この日を境に二人が顔を合わせることもなく、圭織は自らの夢に向かって
一人、イタリアへと旅立っていった。
248 名前:ビギナー 投稿日:2002年07月09日(火)18時58分45秒
うっぱさ〜〜〜んっ。
お久しぶりです。
とうとう発見いたしましたよ。
けっこう時間かかっちゃいました。
ここは、花の方と違っていしやす、なんですね。
石川さんの暴走っぷりがめっちゃツボでした。

これからは、こっちにくればうっぱさんの作品が読めるということで
かなり落ち着きました。
また来るんで、よろしくおねがいしますっ。
249 名前:うっぱ 投稿日:2002年07月10日(水)15時34分20秒
>ビギナーさん

しばらくはこちらを主体としつつ、3rdを執筆します。
たぶん前と同じ場所でやる予定です。(解り易いんで)
なんでしばらくは幸薄少女にお付き合いください。
よろしくお願いひます。
250 名前:某やすなち 投稿日:2002年07月11日(木)14時20分22秒
んは。うっぱさま、やっと見つけました。
読みました。カムドーしましたよぉ!
うっぱさまさいこー。
小説ありがとでした!
251 名前:うっぱ 投稿日:2002年07月13日(土)02時27分20秒
>250 某やすなちさん

感動しました?
いやぁ〜こちらはそんな感動するような作品は
載せてないと思われますが・・・。

小説届いてまひた?
ホッ。まあ欲しくなったら言ってくらさい。
252 名前:あの日の風景 7 投稿日:2002年07月13日(土)02時33分31秒




「あれから二年、か・・・」

圭織と別れて以来、圭もこの街に戻ってきた。
もちろん自らの夢を見事に叶えてである。
以前住んでいたアパートも、今目の前にある洋食屋も当時のままで、
彼女は懐かしさを感じながらそっと入口へと足を運んだ。
扉を開けると、店内を忙しそうに動き回るウェイトレスの声が耳についた。
圭はやはり以前と同じ窓辺の場所に座った。
そこから見える景色も昔のままだった。
253 名前:あの日の風景 8 投稿日:2002年07月13日(土)02時40分40秒
少し経ってから、小柄な女の子がオーダーを取りに圭の元へとやって来た。

「いらっしゃいませぇ。何にいたしましょう?」
「んっとじゃあ、アイスコーヒーで」
「かしこまりましたぁ。少々お待ちくらさいっ」

女の子は舌っ足らずな口調でニッと笑みを浮かべると、厨房のほうへと行ってしまった。
その後ろ姿が、昔の圭織とダブって見えた。
容姿が全く別だが、雰囲気がどことなく似ていた。

(今頃、イタリアのどこか片田舎の長閑な街で暮らしてるんだろ〜な)

店内のレイアウトさえ変わっていない空間を見渡す。
そしてそんな事を考えながらしばし、思い出に耽った。
254 名前:あの日の風景 9 投稿日:2002年07月13日(土)02時47分02秒


ふと、目の前に人の気配を感じてゆっくりと目を開けた。
すると目の前には、注文したアイスコーヒーと共に和風パスタとシーザーサラダが置かれていた。
圭は一瞬驚いたけれども、すぐに誰の仕業かが分るとフッと口元を和らげた。
やはり変わってないであろう女性マスター裕子に向かって言葉を発した。

「あれから一度も来なかったのによく憶えていてくれ・・・・・・!!!」

裕子だと思った目の前の人間は、容姿がやや大人っぽくなって、髪が少しだけ茶色がかってはいた。
けれども、笑顔だけはあの時と変わらないまま圭をじっと見つめていた。

255 名前:あの日の風景 10 投稿日:2002年07月13日(土)02時49分55秒


「だって圭ちゃん、ずっと来てくれてたじゃない。だから今もここにいるんでしょ?」


あの時と同じように目の前に座り、両肘をついて微笑みながら圭の相手をする
「新」女性マスター圭織がそこにいた。


                       〜FIN〜

256 名前:六月の晴れた空 1 投稿日:2002年07月13日(土)02時57分12秒
紫陽花の花の色。ぼんやりと霞む雨あがりの道。
あたしは一人かくれんぼ。
広大な敷地内の庭園を横切れば、身を隠す場所もない。
見つかっても言い訳すら浮かばないこの場所で、愛しい貴方を呼ぶ
眩しい鐘の音が絶え間なくアタシの心に鳴り響いてた。

(裕ちゃん・・・)

ふと目の前にある水溜りに目をやる。
そこに映るのは晴れ着着た貴方の影・・・。

「け、圭坊!? アンタなにしてんの、こんなトコで?」

かくれんぼ・・・見つかっちゃったね。
257 名前:六月の晴れた空 2 投稿日:2002年07月13日(土)03時00分50秒
窮屈な帯をして綺麗に髪の毛を結ってる裕ちゃん。
似合うよね、意外にも。

「もう、あんま見んといて。恥ずかしいわ」

普段より綺麗だよ。
そっと見直して目を細める。
その視線に「嫉妬」という邪まなアタシの想いをのせて。

・・・見苦しいね。
裕ちゃんの気持ちなんて昔っから知ってるはずなのに。
258 名前:六月の晴れた空 3 投稿日:2002年07月13日(土)03時05分57秒

「はぁ〜、なんか落ちつかへんなぁ。慣れないことすると」

息抜きのようにふといつもの表情を覗かせてる。
気の進まない義理のお見合いなんだね。
ウンザリしてたみたいだね。お茶の席で。

「まぁな。おかんが決めたことやから仕方なしにってトコや」

それなら一緒に逃げ出そうよ。
頑固すぎる親たちの目を誤魔化して、風にのって見知らぬ世界まで走ろうよ。
お互いの指と指を絡めてさ。
その指先でほどけてゆく裕ちゃんとアタシの心、繋いでよ。
259 名前:六月の晴れた空 4 投稿日:2002年07月13日(土)03時11分28秒

「な、何言うてん・・・ち、ちょっと圭坊」

細い路地を走り抜けて砂浜へ。
夏を待たないで編みあがった白いサマーセーターの糸が
アタシたちを繋ぎ止めようとしてくれてる。
海からのそよ風を頬に感じて、アタシの心が駆け出してた。
平凡すぎる幸せよりも何かを求めていたかったみたい。

「なんで海なんよ? こんな恰好じゃ、裕ちゃん恥ずかしいわ」

額に光る無数の水滴。はにかんだ大人の笑顔。
一張羅の晴れ着なのにこれじゃ台無しだね。

「誰がそうさせたん? もうええわ、好きにして」

大丈夫。いつまでもアタシは裕ちゃんの味方だよ。
一人きりじゃないから・・・。
260 名前:六月の晴れた空 5 投稿日:2002年07月13日(土)03時15分17秒
遠くのほうで子供たちがしぶきを受けて波と戯れてる。
同じように波と子犬とじゃれてるありのままの裕ちゃん。

真珠のような輝きを放つ貴方の笑顔に溺れたアタシのこの恋に、今虹の雨が降り注いだ。

その光の矢に包まれて、振袖から牡丹が海風に舞い散る・・・。


                           〜FIN〜

261 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時02分29秒
はぁぁぁぁ…。
いいっすねぇ…。
特に最後の方の文章の綺麗さに感動してしまいましたよ。
子供の様な笑顔で二人は戯れてんですかねぇ…(遠い目)
次のお話も楽しみにしてます。がんがってください!!
262 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時03分18秒
はぁぁぁぁ…。
いいっすねぇ…。
特に最後の方の文章の綺麗さに感動してしまいましたよ。
子供の様な笑顔で二人は戯れてんですかねぇ…(遠い目)
次のお話も楽しみにしてます。がんがってください!!
263 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時03分48秒
はぁぁぁぁ…。
いいっすねぇ…。
特に最後の方の文章の綺麗さに感動してしまいましたよ。
子供の様な笑顔で二人は戯れてんですかねぇ…(遠い目)
次のお話も楽しみにしてます。がんがってください!!
264 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時04分20秒
はぁぁぁぁ…。
いいっすねぇ…。
特に最後の方の文章の綺麗さに感動してしまいましたよ。
子供の様な笑顔で二人は戯れてんですかねぇ…(遠い目)
次のお話も楽しみにしてます。がんがってください!!
265 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時04分56秒
はぁぁぁぁ…。
いいっすねぇ…。
特に最後の方の文章の綺麗さに感動してしまいましたよ。
子供の様な笑顔で二人は戯れてんですかねぇ…(遠い目)
次のお話も楽しみにしてます。がんがってください!!
266 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時05分27秒
はぁぁぁぁ…。
いいっすねぇ…。
特に最後の方の文章の綺麗さに感動してしまいましたよ。
子供の様な笑顔で二人は戯れてんですかねぇ…(遠い目)
次のお話も楽しみにしてます。がんがってください!!
267 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時05分59秒
はぁぁぁぁ…。
いいっすねぇ…。
特に最後の方の文章の綺麗さに感動してしまいましたよ。
子供の様な笑顔で二人は戯れてんですかねぇ…(遠い目)
次のお話も楽しみにしてます。がんがってください!!
268 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時06分37秒
はぁぁぁぁ…。
いいっすねぇ…。
特に最後の方の文章の綺麗さに感動してしまいましたよ。
子供の様な笑顔で二人は戯れてんですかねぇ…(遠い目)
次のお話も楽しみにしてます。がんがってください!!
269 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時07分09秒
はぁぁぁぁ…。
いいっすねぇ…。
特に最後の方の文章の綺麗さに感動してしまいましたよ。
子供の様な笑顔で二人は戯れてんですかねぇ…(遠い目)
次のお話も楽しみにしてます。がんがってください!!
270 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時07分41秒
はぁぁぁぁ…。
いいっすねぇ…。
特に最後の方の文章の綺麗さに感動してしまいましたよ。
子供の様な笑顔で二人は戯れてんですかねぇ…(遠い目)
次のお話も楽しみにしてます。がんがってください!!
271 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時08分13秒
はぁぁぁぁ…。
いいっすねぇ…。
特に最後の方の文章の綺麗さに感動してしまいましたよ。
子供の様な笑顔で二人は戯れてんですかねぇ…(遠い目)
次のお話も楽しみにしてます。がんがってください!!
272 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時09分28秒
うわっ!!!ごめんなさい!!
2重どころかとんでもないことに…(滝汗
決して嫌がらせではないです!!
本当申し訳ありません!
273 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時09分59秒
うわっ!!!ごめんなさい!!
2重どころかとんでもないことに…(滝汗
決して嫌がらせではないです!!
本当申し訳ありません!
274 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時10分31秒
うわっ!!!ごめんなさい!!
2重どころかとんでもないことに…(滝汗
決して嫌がらせではないです!!
本当申し訳ありません!
275 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)11時11分03秒
うわっ!!!ごめんなさい!!
2重どころかとんでもないことに…(滝汗
決して嫌がらせではないです!!
本当申し訳ありません!
276 名前: 投稿日:2002年07月13日(土)12時50分21秒
削除依頼出してきました。
ご迷惑おかけして本当に申し訳ありませんでした。
262 名前:うっぱ 投稿日:2002年07月15日(月)01時58分28秒
>6さん

お相手が大人の中澤さんだったので渋くキメテみまひた。
お次のおあいてはやぐっちゃんで
『あの日の貴方を忘れない』
です。
263 名前:あの日の貴方を忘れない 1 投稿日:2002年07月15日(月)02時06分52秒
いつもの場所でいつもの顔ぶれ。
そして、これまたいつもの習慣。

「けぇちゃぁぁ〜ん」
「相変わらず元気だねぇ、矢口は」

そう言っていつものように抱きついてきた真里の頭を撫でる。
その感触が気持ちいいのか、自然に真里の顔がニヘッと崩れていく。
二人のこの何気ないスキンシップももちろんいつもの事。

「ねえねえ、なんで圭ちゃんと矢口ってそんなに仲がイイの?」
「いっつも二人一緒だよね? なんかアヤシイぞ」

とある控え室で甘えモード全開の真里が、圭にじゃれついているのを
圭織となつみが冷やかしながら尋ねてきた。

「え〜だって同期だしぃ、大切な友達だしぃ、時には頼れるお姉ちゃんだからかなぁ」
「それだけかぁ? ホントは何か弱みでも握られてんじゃないの?」
「ち、違うよぉ! おいらと圭ちゃんはそんな仲じゃないやい!」
「圭ちゃんはどう思ってんの?」

視線が圭に集まった。

264 名前:あの日の貴方を忘れない 2 投稿日:2002年07月15日(月)02時14分16秒
「ん〜大体矢口が言ってることに異議はないけど、しいて言えば・・・」
「「言えば?」」

圭織となつみの不思議そうな顔が近づく。

「矢口とはずっと前から知ってるってトコが一番大きいかな」
「なんで前から知ってんの? もしかして二人は腹違いの姉妹だったとか?
 それとも義理の姉妹関係にあたるとか? はたまた道端に捨てられてた
 矢口を圭ちゃんが育てたとか?」
「なんだよ、その最後の推測は!」
「そんなんじゃないよ。仮にそのどれかだったらヤダもん。
 こんな甘えんぼで能天気なお子ちゃまがアタシの妹だなんて」
「なんだとぉ、そこまで言わなくてもいいじゃんか!」

小さな身体を目一杯使って、圭に抗議し始めた。
265 名前:あの日の貴方を忘れない 3 投稿日:2002年07月15日(月)02時22分51秒
「イタタ。だってこないだ映画館でR15指定のに引っかかったじゃん。
 一緒にいたアタシはめちゃくちゃ恥ずかしかったよ」
「今はそのことはカンケーないじゃんかよ!」
「な〜に、矢口まだひっかかるんだぁ?だっさ〜」
「まだってどういう意味さ、まだって」
「今度ぶら下げとけば? 『矢口は立派なお子ちゃまです』って書いて」
「・・・もおっ、バカにすんなぁ!!!」
「「キャァ〜、小型怪獣が怒ったぁ〜、逃げろぉ〜」」

真里は狭い控え室内で二人を追い掛け回した。
二人は真里を嘲笑しながら、室内から出ていってしまった。
殺気立っている真里を宥めるように圭が言う。

「あんまムキになると余計からかわれるよ。放っておきなって」

そう言い残していつものように読書に勤しむ圭。
その姿を眺めるのも真里の日課になっている。
椅子に腰掛けながら、真里はふと圭と初めて出会ったときの事を思い出していた。
266 名前:本庄 投稿日:2002年07月19日(金)00時14分41秒
先日は大変失礼致しました。本当にごめんなさい。
気分を新たに改名してみました…。

今度はやすやぐですか。めちゃ毒を吐いてるわりに
ラジオで一番圭ちゃんのことを話題に出してくれる矢口サンが大好きです♪

あ、自分がよく行く某ホームページでうっぱさんの寄稿された
やすなちを読ませて頂きました。
やっぱうっぱさんのやすなち最高です!!
267 名前:うっぱ 投稿日:2002年07月19日(金)03時01分41秒
>本庄さん

おお、隊長!お久しぶりです。
今回は少し長めになります。
なので、前に約束してたあの二人のお話はカットに・・・(焦)
その分、3rdで・・・
268 名前:本庄 投稿日:2002年07月19日(金)15時51分55秒
隊長…なんて良い響き…。
そうですか…カットですか…でもいいの!
圭ちゃん絡みがいっぱいで心ウキウキ気分はフラメンコですから(意味不明)
それにその分きっと3rdは…(妄想中)
…くふ♪(なにを考えてるかはご想像にお任せします)
こっちも3rdもがんばってくださいね☆
269 名前:うっぱ 投稿日:2002年07月20日(土)04時02分04秒
>本庄さん

3rd、そろそろ公開したい...です。
でも今はこちらがメインということで。
いつも読んでくださって恐縮です!
270 名前:長い時間 4 投稿日:2002年07月20日(土)04時07分32秒



 真里には当時、付き合っている異性がいた。
いつも同じバスに乗って登校していたのに、たまたま遅刻をして電車に乗ったあの日。
真里は電車の窓越しから、プラットホームに立っている一人の女性を何気なく見つめていた。
しかし、彼女がふと正面を向いた瞬間の綺麗な瞳を直視した時、一気に恋に堕ちた。

 どこの誰かも判らないまま一週間が過ぎ去った。
この間に真里はバスに乗れる権利と、今まで付き合ってきた彼氏を独占する権利を既に放棄していた。
271 名前:長い時間 5 投稿日:2002年07月20日(土)04時16分19秒
 そんなもどかしい日々が続くうちに、彼女が真里の通う校舎のすぐ傍にある
ファーストフード店でアルバイトをしていることが判った途端に色々な事が判り始めた。
アルバイトをしながら、オーディションを受けていること。
まだ二十歳前であること。音楽関係にはかなり精通していること。
自分の周りにはいなかった独特の雰囲気を持った彼女に、真里はますます熱を上げていった。

 朝、ホームで目が合った時には、いつの間にか会釈程度の軽い挨拶もできるくらい
久しい関係にまでなり、恋する乙女気分を充分過ぎるほど満喫していた。
272 名前:某やすなてぃ 投稿日:2002年07月20日(土)19時05分40秒
やぐやすですなぁ〜。
最近流行ってこともあるから楽しみれす。
どっきどきです。
がむばてくらさい。

>本庄さん
なんだかそれは私くさいですなー。
よく行くといってくださって嬉しくて死にそうです。
ありがとございまふ。
うっぱさんのお話はホントに素敵ですよね。

んでぃわ。
273 名前:ぽろ 投稿日:2002年07月22日(月)05時15分06秒
お久しぶりです。なかなか名作集にくる時間がなくて…
うっぱさんのやすいし以外の作品、ぢつははじめて読んだんですけど、いいですねぇ…

やすいしもいいけど、最近は保田、石川のカップリングに萌えるようになってきたんで(節操無し&爆
他のお話も楽しみにしてますよ〜
274 名前:うっぱ 投稿日:2002年07月29日(月)02時23分16秒
>某やすなてぃさん
>ぽろさん

幸薄少女ばかりだと芸がないかと思いまひて…
と言いつつも次作はまた幸薄少女なんですけども。
ちょこっとメジャー且つマイナーなびみょ〜さがいいんですよ。
275 名前:長い時間 6 投稿日:2002年07月29日(月)02時30分51秒
 ある時、真里は友達から上映中の映画チケットを一枚譲り受けた。
それは彼女が合コンで知り合った男から誘われたものらしく、
あいにくその日はどうしても外せない用事があるとかで代わりに
行って断ってきてくれないかと半ば強引に渡されたものだった。
真里はそんな代役などすること事態イヤだったが、映画自体は前々から
時期を見て行こうと思っていたから、複雑な思いで引き受けた。

(まあ、行ったからってその人と一生会う事もないし、
 たかが二時間我慢するだけだもんね)

 時を同じくして、別の場所では同じ事を思っている人間がもう一人いた。
276 名前:長い時間 7 投稿日:2002年07月29日(月)02時38分57秒
 約束の日の午後、真里はまだ複雑な気分のまま指定された場所へ行くと、
どこかで見かけた事のある女性が待ち合わせ場所に立っていた。
真里はその女性の顔を思い出しつつ、ゆっくりとその女性の傍へと近づいた。
そしてその女性の隣りへと辿り着いて、気付かれないようにそっと視線を上げた。
瞬時に真里は顔に熱を感じてしまった。

(ああっ、いつもホームにいるあの人だぁ!)

 真里は早まる鼓動を抑えようと必死になった。顔を隠すように下を向いた。
そしてすぐ隣に立ってしまった事をひどく後悔した。
この時既に約束の時刻は過ぎていたが、今の真里にはそんな事を気にする余裕さえなかった。
277 名前:長い時間 8 投稿日:2002年07月29日(月)02時43分38秒
 しばらく真里の中で止まっていた時間が動き出した。
真理の様子が気になっていたのだろう、その女性が声を掛けてきた。

「あのぉ、大丈夫ですか?」
「えっ、あっ、は、はいぃ!」
「いや、なんだか顔が真っ赤だし、具合でも悪いんじゃないかと思って…」
「い、いえ、そんなことないです。待ち人が来ない事にイラついてただけですから…」
「奇遇ですね。アタシもそうなんですよね。十三時に待ち合わせのはずなんですけど」

 そう言って少し溜息混じりに息を吐いた。その仕草が妙に大人びていたように真里には映った。
278 名前:長い時間 9 投稿日:2002年08月10日(土)04時07分58秒
(くそぉ〜なんてひでぇ奴だ! こんないい人をずっと待たせるだなんて)

 真里は、一人憤っていた。そんな様子を見ていた彼女がクスッと笑った。

「そんなに怒ってばっかりだと可愛い顔が台無しですよ」
「えっ、わ私そんなひどい顔してました?」
「待ち合わせの事でイライラしてるのは分るけどね。貴方は何時に待ち合わせなの?」
「あ、あの私は十三時にここで。で、でも、その代役なんで、その、えっと…」
「へぇ、あたしと一緒だね。アタシも代役なの」

 そう言って再度時計に目を送る彼女に、真里はちょっと妄想の世界に浸る。

(いいなぁ〜この人と待ち合わせしたいなぁ。さっき可愛いって言ってくれたし。
 このまま待ち人が来なければずっと一緒に……へへへっ)

 しかし、ふと或ることに気がついてしまった。
279 名前:長い時間 10 投稿日:2002年08月10日(土)04時16分19秒
(あれっ? 十三時にここで待ち合わせって言ってたよね? まさか……)

 真里は急に不安になって恐る恐る彼女に尋ねてみた。

「あのぉ〜さっきの待ち合わせなんですけど……」
「はい、何か?」
「失礼ですけど、その待ち合わせの相手とこれ見にいったりします?」

 おもむろに指定された映画のチケットを差し出す。
彼女は差し出されたチケットを見ると、鞄の中から一枚のチケットを取り出した。
そして同じように真里の目の前に差し出した。

 真里は二枚のチケットを見比べた。
同じ日の同じ時間、詩かも席番が隣同士。
しばらくお互いが固まったままチケットと相手の顔を伺う様に見詰め合う。
そしてどちらから誘うでもなく無言で、映画館へと向かい出した。
280 名前:長い時間 11 投稿日:2002年08月10日(土)04時23分56秒
 館内に入ってからも二人の間にはさっきまでのほのぼのとした会話など無く、
互いの友達が座るはずの席に腰掛けてスクリーンに没頭した。

 取りたてて何事も無くその区切られた特別な時間が過ぎていき、二人は映画館を出た。
真里も彼女も相手に申し訳ない気持ちが先走っていて、喋ることができなかった。
そして最寄の駅まで来ると彼女のほうから声がかかった。

「それじゃあアタシはこっちだから…」
「はい」

 真里は返事しかできない自分をひどく嫌った。
そして「またどこかでお会いしましょう」という言葉を残して雑踏に消えていく彼女を
ただただ見つめる事しかできなかった。
281 名前:本庄 投稿日:2002年08月10日(土)23時06分10秒
あらあら、やぐっちゃん。
意外(失礼)とシャイなのねん♪
ここからどういう経緯を得てあのような関係になるのか…?
イヤん♪楽しみぃ。
282 名前:うっぱ 投稿日:2002年08月11日(日)02時06分58秒
>本庄さん

矢口さんはシャイですね。
こう、普段威張ってる(?)人ほどこういう性格が似合うというか、
もうここの矢口さんは裕ちゃんよりも圭ちゃんにぞっこんですから。
(久しぶりにゾッコンなんて言葉使っちゃった…)

1週間ほどお盆休みを経て一気に行く予定です。
では
283 名前:長い時間 12 投稿日:2002年08月27日(火)03時10分15秒
 それから数日経ったある朝、珍しく彼女の姿を見ることができなかった真里は、何故か淋しさを感じた。
土曜日ということもあって下校後に友達と渋谷へ出かける予定だった真里は、足早に家へ戻った。
すると家に到着するなり、急にひどく気分が悪くなり。とても外出どころじゃなくなっていた。
二時間ほどしてようやくその症状から解放されたが、もはや出かける気力と時間はなくなっていた。

「もお、何なんだよっ! せっかくの楽しみが台無しじゃんか!」

 やり場のない怒りをぶつけるように真里はベッドにダイブして枕をおもいっきり握り締める。
しばらく経って興奮が冷めてくると、何故かあの人のことが頭に浮かんできた。
他の事を考えようとしても、どうも頭から離れないでいる。

 この日を境に真里の脳裏には完全に彼女の記憶がインプットされてしまったようだ。
284 名前:長い時間 13 投稿日:2002年08月27日(火)03時18分16秒

 それからというもの真里はここ数日、彼女を駅で見かけなくなってしまう。
脳裏に焼きついてしまった彼女に会えない事がかえって真里を落ち込ませる事になった。
そんなブルーな真里とは対照的に、いっしょに登校している友達はすこぶる笑顔を見せてくる。
話しによれば、彼氏がバイク事故で足の骨を折って入院しているとのこと。
その子は今日もお見舞いに行くのだと言って、心配なのか喜んでいるのかわからないような笑い方をしていた。

 真里はその子の話を興味深い様子で聞きながらも、内心少しウンザリしていた。
と同時にその子がすごく羨ましく思えた。

(あの人がもしそんな風になったら、矢口もお見舞いに行けるのになぁ……)

 真里は失礼ながらも本気で考えていた。そんな運命になろうとも知らずに。
285 名前:長い時間 14 投稿日:2002年08月27日(火)03時25分14秒
 いつものように退屈な日課が終わり、下校しようとしていた真里に友達が駆け寄ってきた。

「ねえねえ、今日暇?」
「うん。とくに何もないよ」
「じゃあさ、ちょっと付き合ってくれない?」
「えっ、どこに?」
「病院」
「え〜、やだよ。矢口、病院苦手だもん」
「いいじゃん。ちょっとさお見舞いの品が重くて一人じゃ持てないの。ちゃんとお礼するからさ」
「んもお、わかったよ。けど、すぐ帰るからね」

 半ばおかかえ秘書のような状態で真里はぶつくさ文句をたれながら、苦手な病院内へと足を踏み入れた。
286 名前:長い時間 15 投稿日:2002年08月30日(金)01時38分42秒
 病院という所は真里にとて地獄のような所だった。
この年になってもまともに見れない注射、怪談話の定番とも言える霊の存在など
真理が苦手とするものが全てここには揃っていた。

 気が滅入るような思いをしながら、なんとか任務を終え、足早に去ろうとした。
すると、隣りの病室の入口側のベッドで寝ている病人に目を奪われた。

(ああっ!! あの人だ! 入院してたんだ)

 真里はすかさず表のネームプレートを見て、名前を確認した。
そして名前を確認するとその足でナースステーションへと掛け込んだ。
さっきまでの自分はどこへやら。
必死になって院内を駆け巡る自分が不思議に思えた。
287 名前:長い時間 16 投稿日:2002年08月30日(金)01時53分12秒
 ナースステーションへ行くと、近くでカルテを整理している看護師に尋ねてみた。

「あの〜ちょっとお尋ねしたいんですが…」
「はい。なんでしょうか? 面会時間は午後八時までですよ」
「あの〜510号室の保田圭さんって、いつから入院してますか?」
「え〜っと、二週間ほど前にバイクで転倒して足を骨折してますね」
「そうですか、どうも」

 二週間前といえば、真里が友達と渋谷へ出かけようとした時に気分が悪くなった日である。

(あの日、あの時の痛みはもしかして保田さんが事故った事を知らせる前兆だったのかも……
 だとしたら、事故ったらお見舞いに行けるだなんて……矢口酷い事考えちゃったかも)

 憧れの人との偶然の出会いは嬉しかったが、その反面とんでもない事をしたようにも思えた。
そして、無意識のうちに真里の足は再度510号室へと向かっていた。
288 名前:長い時間 17 投稿日:2002年08月30日(金)02時07分10秒
 病室の前まで来ると、真理の胸の鼓動は速さを増していく。
四人部屋の室内は彼女以外誰もおらず、閑散としていた。
病室の前でオドオドしていると怪しまれそうだったので、思いきって足を踏み入れた。

 そっと覗くと、ベッドから足をはみ出してうたた寝をしている彼女がいた。
物音を立てないようにそっと彼女のもとへ近づいた。
普段見ていた顔とは違い、目を閉じている彼女も素敵だと思った。

 真里が何と言ってよいかわからずにその寝顔を見つめていると、急に彼女のハッキリとした
瞳と目が合ってしまった。
蛇に睨まれた蛙のように、真理はその視線から逃れる事ができずに黙っていた。

(うわっ、うわっ、うわっ! 目が合っちゃったよ。どうしよぉ)

 やがて真里を見つめるその視線が柔らかくなった。そして……

「また、会いましたね。こんにちわ」
「あ、あの、どうも、こ、こんにちわ」
「そんなに畏まらなくてもいいよ。そういえば、まだ名前聞いてなかったね?」

 そう言いながら彼女は微笑んだ。


 その後の事ははっきりと覚えていない。
けれども、この日、真里の中で「何か」が確実に変わったのは確かであった…。

289 名前:あの日の貴方を忘れない 18 投稿日:2002年08月30日(金)02時16分41秒



「……ち…さん……矢口さん、矢口さんてば!」
「う、うわぁぁぁっ!! な、なんだ、梨華ちゃんか……」
「あのぉ〜いいんですか?」
「えっ、何が?」
「ほら、あれ。保田さん、獲られちゃいますよ?」
「えっ、あっ! ああーっ!!」

 長い回想から戻った真里は、またしても瞬間湯沸し器になった。
鬼の居ぬ間に洗濯とはよく言ったもので、無防備な圭に魔の手が触れようとしていた。

「ね・え・圭ちゃんはあとはあと
「ん?何?」
「カオリ、今日圭ちゃんとご飯食べに行きたいなぁ〜」
「そうだなぁ〜、特にこれといった用はないしなぁ〜」
「ね、行こ」
「たまにはいいか。じゃあ早速…」
「コラァーッ!! なに抜け駆けしてんだぁ!!」

 鬼のような形相で圭織と圭の前に立ちはだかった。

290 名前:あの日の貴方を忘れない 19 投稿日:2002年08月30日(金)02時23分36秒
「オイラの居ないとこで何してんだよ!!」
「い、いいじゃん。たまには。少しぐらい大目に見てよ?」

 言葉では対抗するも、身体が徐々に後ろへと後ずさりしていく圭織。

「ダメッ!! 矢口の許可がない限り、圭ちゃんは譲らないっ!!」
「ちょっと、いつからアタシは矢口のものになったわけ?」
「ずっと前から! だからダメッ!」
「なんでそこまでしなきゃいけないのさ! 圭ちゃんは人間なんだよ?
 矢口専用の道具じゃないんだからね」
「ダメなものはダメッ!!」
「んもお、ケチッ!!」

 ぶつくさ文句を言いながら圭織は一人淋しく帰宅していった。
291 名前:あの日の貴方を忘れない 20 投稿日:2002年08月30日(金)02時32分43秒
 ふう〜と大きな溜息をついたのも束の間、今度は別の刺客が待っていた。

「ねえ、圭ちゃん。なっちとの約束覚えてる?」
「ああ、あれね。覚えてるよ」
「この間のお礼がしたくってさ。だからこのあと暇でしょ? だから行こうよ」
「別に構わないよ」
「ダメッ!!」
「「えっ!?」」

 頬を目一杯膨らました真里がなつみの前に立ちはだかる。

「なに、矢口も行きたいの? でも、こればっかりはねぇ……」
「そうじゃないっ! 圭ちゃんは今日、矢口が予約入れてるからダメッ!」
「嘘ぉ、ホントかい?」

 真意を確かめようとなつみは振り向いたが、すでにそこには誰も居なかった。

「あり? 圭ちゃん? 矢口? ちょっとぉ、なっちを置いてくなぁ!」

 もぬけの殻になった楽屋に、なつみの悲しい雄叫びだけが木霊していた。
292 名前:あの日の貴方を忘れない 21 投稿日:2002年08月30日(金)02時38分18秒
「ちょっと、ひっぱんないでよ。転ぶって…」
「ふう〜全くあの二人にはいっつも手を焼かされるよ」
「あのさぁ、あんまり露骨な態度とると相手は一層ムキになってくるよ?」
「いいの! そうしたらどこまでも阻止するから」

 振り返って上目遣いで圭を見つめる小さな大人からは、溢れんばかりの意思と愛情が漂っていた。
それを見ていた圭は呆れたように呟く。

「……矢口には負けるよ、ホントに」

 その言葉に真里はニヘッと笑う。
293 名前:あの日の貴方を忘れない 22 投稿日:2002年08月30日(金)02時45分45秒
「んじゃ、今日は矢口がご飯作ってよね」
「ええ〜!? なんでよ? ずるいよぉ」
「って言うか、今日は矢口が当番じゃんか、炊事は」
「え〜、オイラ、今日怒ってばっかで疲れちゃったぁ〜。圭ちゃぁ〜ん、変わってぇ〜はあとはあと
「なんでよ!? 矢口が言い出したんじゃん、当番制にしようって。ヤダよ」
「もぉ疲れたぁ〜、矢口眠い〜、もう歩けなぁ〜い」
「な、なによ、その目は」
「圭ちゃぁん、おんぶ〜、抱っこぉ〜はあとはあと
「……ったく。ホレ、行くぞ」
「へへへっ」

 真里は大好きな人の大きな背中で、心地よい眠りについた、とさ。


     〜 FIN 〜
294 名前:うっぱ 投稿日:2002年08月30日(金)02時50分52秒
ネタが尽きたのでまた通常通り、幸薄少女と保田さんに戻りまふ。
(あんまり宣言しても見放された感があって意味ないけど)


次作は『自転車に乗って(仮)』です。

幸薄少女と保田さん、そして初登場の後藤さんの三人でお送りいたしまふ。
では、また。

295 名前:ビギナー 投稿日:2002年08月30日(金)09時41分24秒
矢口さんがカワイイ・・・
一生懸命、動き回ってる?姿が目に浮かびます。

次は、幸薄少女ですか。
幸薄少女の極度の妄想に期待してます。
もちろん、まだまだ未知な後藤さん、天然な保田さんも楽しみにしてます。
がんばってくださいね。
296 名前:うっぱ 投稿日:2002年09月04日(水)02時22分29秒
>ビギナーさん

可愛らしさ全開の矢口さんが伝わってよかったです。

今回の幸薄少女は予定よりだいぶ手直した関係で、「暴走度」をかなり抑えまひた。
なので、少々物足りないかも知れません。
では始めます。
297 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 投稿日:2002年09月04日(水)02時28分41秒
「ちゃんと持っててくださいよ?」
「わかってるって。それにしてもこの年にもなって自転車に乗れないなんてねぇ」

 とある平日の午後の河川敷。
梨華は自転車に乗る訓練をしていた。
だが、一人で特訓といっても限界があるために、圭と真希の二人を道連れにすることに成功した。
梨華の情けないようで切実な訴えに最初、圭は頑なに拒否をしていたが、彼女の十八番でもある
涙の訴えにさすがの圭も降伏せざるをえなかった。
そんな二人のやりとりを聞いていた真希はオモシロ半分の気持ちで付き添う事に。
そして今に至る。

「いい? ちゃんと前向いてんだよ?」
「わ、わかりましたぁ……」
298 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 2 投稿日:2002年09月04日(水)02時36分15秒
 梨華はおっかなびっくりでヨロヨロとペダルを漕ぎ始める。
その後ろでは圭が荷台を支えながらゆっくりと後についている。
端から見ればなんとも摩訶不思議な光景にしか見えないだろうが、
当の本人たちは額に汗を浮かばせるほど真剣である。

 そんな真剣な二人をよそに真希は一人、コンビニで仕入れてきた
4コマ漫画を読みながら夏季限定のお菓子を摘んでいた。

「わぁ、わぁ、わあああっ!!」
「大丈夫だってば。押えててあげるから暴れないの」
「でもぉ、でもぉ……き、きゃぁーっ!!」

 一人喚き怖がっている梨華は、自ら身体を左右に揺らしている。
それに対抗するように圭は力を込めて安定感を保とうと踏ん張るが、
その努力も虚しく梨華は勝手にスッ転んだ。

299 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 3 投稿日:2002年09月04日(水)02時43分49秒
「あのねぇ、自分からバランス崩してどうすんの」
「だってだってぇ……怖いんですもん……」

 起き上がってサドルに跨り、再度挑戦する梨華。

「ホントは補助輪付けて慣れてから乗ったほうがいいんだけどねぇ〜」
「ええ〜、そんなの恥ずかしいですよぉ〜」
「そう思ったからこうして支えてあげてんじゃないの。ちゃんと乗れるようになってよね」
「で、できる限り……が、頑張りますぅ〜」
「ほら、しっかり押えててあげるからよそ見しないの」
「は、はいぃ〜」

 梨華は正面に向き直り、しっかりとペダルを漕ぐ事に専念する。
そのお陰でヨロヨロ走行の時に抱いていた恐怖心がスピードを上げる事で和らいでくるのがわかった。

(そっか、スピードを上げればぐらつかないんだ…)

 悟った梨華はペダルを漕ぐ足に力を込めた。
300 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 4 投稿日:2002年09月04日(水)02時49分32秒
 ヨロヨロ運転から徐々にスピードがアップし、荷台を支えていた圭の足が追いつかなくなっていく。
そんな後ろの様子に全く気付いていない梨華は更にペダルに力を込めて漕ぐ。

「ちょ、石川、速いって。アタシが追いつけなくなるでしょうが」
「………」
「おーいっ! 速いってば!」
「えっ、きゃぁーっ、何これぇ、どうしよぉー!」
「石川、ブレーキ、ブレーキッ!」
「ど、どれですかぁ!?」
「ハンドルのトコにあるでしょ、それっ!」

 梨華は言われるままにそれを思いっきり握ってブレーキをかけた。

301 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 5 投稿日:2002年09月04日(水)02時55分29秒
 勢いついていた車体が前のめりになるほど、急激なブレーキングにタイヤが悲鳴を上げる。
そのコンマ数秒後、違う悲鳴も上がった。

「のわぁっ!!」「んきゃんっ!!」


 閑静な風景に甲高い悲鳴が響き渡る。
その声に導かれるように真希は顔を上げて、悲鳴のしたほうを見た。
急ブレーキのせいで圭の身体がスピードにのったまま、制止した梨華の背中に激突した。
その拍子に梨華はバランスを崩し、自転車ごとずっこける。

 なんともお間抜けな光景が真希の目に映った。
302 名前:本庄 投稿日:2002年09月05日(木)12時56分48秒
こちらのほうではお久しぶりです!!
やぐっちゃんかわいかったっす〜〜〜〜♪
そして梨華ちゃん!圭ちゃんに手取り足取り腰取り教えってもらって
がんばってチャリに乗れるようになってね(w
303 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
( `.∀´)ダメよ
304 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
( `.∀´)ダメよ
305 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
( `.∀´)ダメよ
306 名前:本庄 投稿日:2002年09月06日(金)12時53分32秒
んが!?
ま、またやってしもうた…。
すんません今気づきました!
どーしてこのスレばっかうちのPCは調子が悪いんだろう…。
307 名前:うっぱ 投稿日:2002年09月07日(土)02時53分17秒
>本庄さん

隊長、お久しぶりです。
今回幸薄少女さんはかな〜り天然です。
なので暴走はしません(?)が、ちょこっと幸せそうです。
何故ってそれは……。
308 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 6 投稿日:2002年09月07日(土)02時59分28秒
「フ、フハハハハ、ヒハハハハ。梨華ちゃんてばサイコーッ! アハハハハ」

 ファ○タピーチを飲んでいた真希が、噴き出しながらビニールシートの上を
所狭しと笑い転げている。しかもかなりつぼに入ったらしい。

「イタタ…。あのねぇ、ごっちん笑いすぎ!」
「アハハハハ。らってぇ、らってコントみたいなんらもぉん。フハハハハ」
「わ、笑わないでよぉ。保田さぁん、ちゃんと押えててくださいよぉ。
 話が違うじゃないですかぁ」
「スピード出し過ぎでしょうが。あんなに速く走ったら追いつけないってば」
「でしたらそう言ってくれればいいのにぃ」
「言ったでしょうが!」
309 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 7 投稿日:2002年09月07日(土)03時07分28秒
 笑い転げている真希をよそに、梨華は自転車を起こし、サドルに跨った。

「ったくアイツは何しに来てんだか…」
「い、行きますよ、保田さん?」
「はぁ、はぁ、おなか痛い〜っ」
「いつまでも笑ってるからでしょうが!」

 圭が真希の方を向いて叱った途端、梨華の乗った自転車が急発進した。
そのせいで荷台を支えていた圭は引っ張られるような態勢になり、そのまま地面とフレンチキッス。
そして、支えのなくなった梨華も安定感を欠き、数メートル先で自転車と心中。
漫画でみかけるような光景を実写で見た真希は、再度腹を抱えて笑い転げる。

「ウハハハハ、ヒハハハハ。もうやめてぇ〜。お、おなか痛い〜。フハハハハ、ヒハハハハ」

 天然とは実に恐ろしいものである。
310 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 8 投稿日:2002年09月07日(土)03時12分40秒
「い、石川ぁ…急に発進しないでよ」
「や、保田さんこそちゃんと押えててくださいよぉ」
「出る時はちゃんと言ってよ」
「言いましたよぉ。行きますよって」
「ふう、ふう、ぽんぽん痛い…。くるし〜」

「「そこ笑い過ぎ!!」」


 ………。


 結局こんな調子が二時間ほど続き、梨華がちゃんと乗れるようになる見込みは全く無かった。
311 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 9 投稿日:2002年09月07日(土)03時21分10秒
「はぁ、はぁ、はぁ。もぉダメェ……」

 圭は大汗掻きながらビニールシートに寝転がった。
続いて全身傷だらけになった梨華が、フラフラになって腰掛ける。

「お疲れ。はい、ジュース」
「サンキュー。はぁ〜、なんでオフなのにこんなにハードなことしてんだろ?」
「ね、ホントに大変だよねぇ」
「ごっちんはマンガ読んで、人の不幸に大笑いしてただけじゃない」
「だってさぁ、あんなコント見たら誰だって笑っちゃうって」
「コントじゃないよぉ!」
「アハハハ。でもコントっぽかったよ」
「もぉ! 人の気も知らないでぇ。そういうごっちんはちゃんと乗れるの?」
「もちろん! これでも近所ではブイブイ言わしてたんだから」

 腰に手を添えて鼻高の真希。
ストローでチュウ〜とドリンクを流し込む梨華。
自分からふっておいて、あまり関心なさそうな態度である。

312 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 10 投稿日:2002年09月07日(土)03時28分52秒
「保田さんはどうなんですか?」
「アタシ? アタシはほら、田舎育ちだから自転車は必需品だったよ。
 結構改造とかしたり、曲乗りとかやってたし」
「いいなぁ〜」

 羨ましそうに嘆く梨華。
ふと思い出したように真希が言う。

「そう言えば、やぐっちゃんも乗れないんだよね、チャリ」
「あ、そうなの? 矢口ってなんでもこなせる器用な人間だと思ってたけど。
 なんだ、矢口って苦手なもん多いじゃん」
「そうなんですか? あの矢口さんが?」
「お化けダメでしょ、それから注射もダメだし、泳げないし、バランス感覚無いし…」
「あとさ、掃除ができないでしょ、やぐっちゃんて。前遊びに行った時すごかったもん、部屋の中」
「まるで誰かさんと似てるよね〜」

 そう言って横目で梨華を見つめる圭。つられて真希がほくそ笑む。
313 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 11 投稿日:2002年09月07日(土)03時36分17秒
「な、なんでですかぁ!?」
「あはは、梨華ちゃん、それって認めてんじゃん」
「むううっ……」
「その点、ウチらは結構なんでもこなすよね」
「体育会系って感じ?」
「身体張ってます、みたいな?」
「「ね〜」」
「もぉ〜、バカにしないでよぉ!!」
「アハハ。梨華ちゃんが怒ったぁ」

 そんな他愛のない会話中、真希の携帯が鳴った。
少し離れた場所に移動した真希をよそに、尚も梨華を小馬鹿にする圭。
それを必死になって言い訳する梨華。

 やがて真希が通話を終えて、荷物をまとめ出した。

「ごめん。お母さんから急な用事頼まれちゃったから、今日はこれで帰るね」

 そう言い残して真希は急いでその場を後にした。
314 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 12 投稿日:2002年09月11日(水)03時16分54秒
 真希の後ろ姿を見つめながら、梨華は愚痴をこぼした。

「なにしに来たんだろ、ごっちん?」
「んじゃアタシもそろそろ…」

 そう言って立ちあがろうとする圭の腕を掴む梨華。
思ったよりも力が込められている。か細い梨華の腕に血管が浮き出ていた。

「あのぉ〜アタシもそろそろ……」
「……」

 梨華は俯いたまま掴んでいる腕に力を込めている。

「あのぉ〜石川さん? アタシも…」
「イヤですっ!!」
「へ?」
「お願いします! 石川を…見捨てないで下さいっ!!」
「はぁぁ!?」
315 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 13 投稿日:2002年09月11日(水)03時24分42秒
 哀しいような情けないような訴えにどうしてよいか戸惑う圭。
梨華は掴んでいた腕を離し、今度は圭の足にしがみつく恰好で訴え続ける。

「お願いじまずぅ〜。頑張りまずがらぁ〜石川を見捨てないでくだざいぃ。やすらさぁぁ〜ん」
「わ、わかったわかった。わかったから落ち着きなさい」
「やずらざぁぁ〜ん、いじがわうれじいでずぅぅ〜」
「わかったってばぁ! あ〜そんなとこで鼻かむなぁ!」

 ようやく梨華の呪縛から解放された圭。
ジーンズの左膝辺りにテラ光る梨華の……。

「あ〜、このジーンズ高かったのにぃ〜」
「えへへっ。ありがとうございます」

 両極端の表情を見せる二人だった。
316 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 14 投稿日:2002年09月14日(土)03時26分18秒
 日も暮れかけた頃、ヨロヨロではあるがなんとか圭の補助無しで乗れるまで成長した。
直進走行のみであるが、梨華にとってはかなり成長した方であった。

「まだ不安定だけど、一日でここまで乗れればあとは日々の練習次第でちゃんと乗れんでしょ」
「ホントですか? 頑張りますぅ」

 自転車から降りようとした梨華は不意に態勢を崩し、圭に凭れかかった。

「っと、大丈夫?」
「すいません。なんか足がパンパンに張っちゃって……」

 自分の足で立っていられないほど梨華はヨロヨロしている。
よく見ると両手足には、練習した努力が生傷となって現れていた。

 圭は凭れかかる梨華をそっと抱き締めるように支えていた。
317 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 15 投稿日:2002年09月14日(土)03時35分37秒
「!! あの……」
「ん、なに?」
「その……腕が……」
「……よく頑張ったね」
「……」

 梨華はその言葉を素直に受け止められなかった。
というのも、自分の身勝手過ぎるお願いにここまで付き合ってもらった事に
後ろめたさを多少なりとも感じていたのに、圭は優しい言葉をかけて誉めてくれたのだ。
梨華はその意外性に対応し切れなかった。

 圭は梨華が乗っていた自転車に跨ると、車体を傾けて梨華に合図を送った。

「あの、これって……」
「このまま一人で歩いて帰る?」

 梨華は恥ずかしそうにゆっくりと荷台に腰掛けた。
それを見届けて、圭はゆっくりと自転車を走らせた。

「ちゃんと掴まってないと落っこちるよ」
「は、はい……(それって…いいのかな?)」

 梨華は恐る恐る圭のお腹に手を回した。
318 名前:自転車乗って貴方の中を走りたい... 16 投稿日:2002年09月14日(土)03時42分34秒
 夕焼けを背にして川沿いの細道を走る自転車。
段差の度に梨華の小さな悲鳴が上がる。
そしてその都度、お腹に腕を回している自分の身体と圭の背中が軽く触れ合う。
梨華の頬から温かい感触が心地よく伝わってくる。

(暖かいなぁ〜)

 しばらくすると疲れのせいからか、梨華は圭の背中に凭れかかるように眠ってしまった。
そんな梨華の寝顔を一日の役目を終えたお日様に代わって、空に浮かんでいるお月様が照らしていた。


            〜FIN〜
319 名前:番外編 投稿日:2002年09月14日(土)03時51分34秒
「あの時の保田さんの背中は暖かくて大っきかったです、エヘッ」
「な、なに言ってんの! どういう意味よ、それ?」
「その、つまり……た、頼れる背中っていうことですぅ」
「……で、乗れるようになったの、自転車?」
「はいっ! もうバッチリですよ! これで矢口さんに自慢できます」
「なぁに〜、呼んだぁ?」
「矢口さん、石川自転車に乗れるんですよ」
「矢口だって乗れるよ。あ〜、もしかして石川乗れなかったんじゃないの? カッコ悪〜」


「……保田さぁ〜ん、話が違うじゃないですかぁ!」


       〜ホントにおしまい〜
320 名前:予 告 投稿日:2002年09月14日(土)03時54分29秒
次回、抒情詩シリーズ第四弾

『夏の日の風鈴』

をお届けします。
321 名前:本庄 投稿日:2002年09月18日(水)01時28分24秒
こっちではお久しぶりっす。
あまりに失敗が多いのでこっちのスレにレス送るのが恐怖症になりかけました…。

さて…おめでとう!梨華ちゃん。
そしてやっぱ圭ちゃんかっけ〜!!
うちも圭ちゃんと2ケツしてぇのれす…。
322 名前:うっぱ 投稿日:2002年09月18日(水)02時01分18秒
>本庄さん

2ケツですか。どうでしょう?
確か本庄さんは保田さんに恨まれてたようですが?(むこうでは)

梨華「ダメです! 保田さんのリアシートは石川のものですっ!」

だそうです。また今度という事で…。

323 名前:夏の日の風鈴 1 投稿日:2002年09月18日(水)02時08分14秒

何時のことだろう。

夜明け前、貴方に逢いたくて目を醒ました。
風鈴が風もないのに鳴ってたっけ。
まるで今のカオリの心を見透かしたように、哀しい音色を奏でる。
ふと浮かんだ貴方に指先伸ばしても、貴方の笑顔は霞んでゆくだけ。
信じても消えてゆく風の糸を結べないままのカオリの恋心。
耳朶を押えても、離れないあの日の夏の名残り…。

悪い夢を見て目覚めちゃった夜は、大好きな貴方の声が聴きたくて。
速くなる胸の鼓動が誰かに聞かれそう。
勇気を出して貴方と話したいのに、友達に電話しちゃってた。
「何となく…」なんて言ってついつい長電話しちゃうダメなカオリ。
ホントは貴方の広いその胸に持たれながら話したいのに…。
324 名前:夏の日の風鈴 2 投稿日:2002年09月18日(水)02時14分07秒
あの時も風鈴が音もなく鳴ってた。

頬杖ついた夢の隅で、カオリの知らない人が声かけてきた。
「恋人いるの?」と訊かれる度に、頷く角度が小さくなってた。
「好きなものはなに?」と訊かれる度に、応えるものが変わってた。
そんな哀しくて切ない気持ちで目を醒ました夏の日の夜明け前…。

そして今も……風鈴は風もなく鳴っている。
綺麗な朝焼けを見ながら一人泣いていたカオリに、そっと腕を絡める一つ年上の貴方。

「どうしたの? 怖い夢でも見た?」
「違うの。そうじゃないけど、でも…なんだか怖い」
「じゃあ、落ち着くまでこうしててあげる」
「いいの?」
「いいよ。カオリなら」
325 名前:夏の日の風鈴 3 投稿日:2002年09月18日(水)02時17分44秒

導かれるまま繋がる貴方とカオリ。

カオリの心の中に貴方の清らかな香りが溶け込んでくる。

風鈴の音色と貴方の香りに誘われて、カオリは深い眠りにつきました。


     オヤスミ、圭ちゃん。


                   〜FIN〜
326 名前:本庄 投稿日:2002年09月18日(水)15時44分28秒
いやん♪梨華ちゃんのいぢわるぅ♪♪

…すんません、かなり無理ありました…。
自分でやってかなり吐き気が…(オェ

怨まれてますか…オイラは圭ちゃんの幸せを願ってやったのにぃ!!
はぁ…でも良いの!愛とは耐えることなのね…(自己陶酔中)

それはそうと圭織かわいいっすねぇ。
もう!圭ちゃんてば罪作りなんだから(w
327 名前:うっぱ 投稿日:2002年09月19日(木)02時24分40秒
>本庄さん

 圭 「あら?ここどこだ?」
梨 華「保田さぁ〜んはあとはあとやっと来てくれたんですね」
圭 織「ちょっとぉ、石川。圭ちゃんはカオリに逢いに来たんだよ!」
梨 華「違いますよォ。保田さんは渡しませんよ!」
圭 織「ダメッ!圭ちゃんはカオリの!」

 圭 「本庄さん!アタシの幸せ返してよ!あっちに戻してぇ〜(泣)」
328 名前:心のユートピアを求めて 投稿日:2002年09月19日(木)02時31分07秒
青空が広がってる真夏の空に、追い風の飛ばした帽子が、
踊るように転がりだしてく。
お洒落に気合入れ過ぎちゃって制限時間超えちゃったよ。
前髪が跳ねちゃうし、スカートのシワも気になるけれど、
いつの間にかダッシュしちゃってる矢口。
急な坂道で加速していく矢口の恋心。
息が弾んでいく。恋のシグナルが鳴りそう。

だからお願い。
こんな矢口をキュッと圭ちゃんの広い心で抱き締めて。
329 名前:心のユートピアを求めて 2 投稿日:2002年09月19日(木)02時37分55秒
急な坂道を駆け降りたら約束の場所。
大好きな圭ちゃんが手を振って笑顔で迎えてくれてる。
わざと少し遅れてふんわりと微笑んでみた。
ホントは余裕で恋をしたいけれど、圭ちゃんの事で矢口の胸は一杯だから。

一色のTシャツと歩きやすい靴がホントは好き。
その恰好で夏踊る海よりも、圭ちゃんとふらりと街並みを歩くのがいいんだ。
背が矢口より高い人だから、話すときはテーブルでコーヒー飲みながら
素敵な時間を過ごせるけれど、今日はこのままでいいよ。
いつまでもいつまでも二人分のテーブルの温もりを守っていたいから…。
330 名前:心のユートピアを求めて 3 投稿日:2002年09月19日(木)02時42分48秒
新緑の季節を飾る公園ではしゃぐ子供たちの声が聞こえる。
小さな手から天使の悪戯でスルリと抜けた赤い風船。
まるで何かを失った時に漏らす声を発する圭ちゃん。
大切なものは見えないものだと、どこかの小説に書いてあったっけ?

大空をキャンパスにして、好きという気持ちはきっとあの赤い色で…。
たとえ目に見えなくなっても風と一緒に踊ってたいよ。
隣にいる大好きな圭ちゃんを想いながら…。
331 名前:心のユートピアを求めて 4 投稿日:2002年09月19日(木)02時48分15秒
懐かしい友達に「変わらない」と言われても、嬉しくもないのに微笑んだりするこの頃。
どんなに辛い事があっても笑顔を絶やさないから、周りの人たちに誤解されがちなこの頃。

でもこのままでいいんだ。
いつだって夢中なのに、背伸びをしている矢口を好きだと
圭ちゃんは照れながら言ってくれたから。

ホントにこのままでいいんだ。
いつまでもいつまでも二人きりの時間を守りたいから…。

だから……お願い。
こんな矢口を、ずっと見つめていてね。


           〜FIN〜
332 名前:ビギナー 投稿日:2002年09月19日(木)18時01分32秒
やぁ〜、微妙に切ないですね。
矢口さん、尽くす女です。

あと、情景写生がすっごく伝わってきました。
すごいです。
よくわかんないんですけど、ありがとうございます。
ホント、なんかいつもすごいんですけどもぉ・・・

ではっ。
333 名前:ビギナー 投稿日:2002年09月19日(木)18時03分21秒
ごめんなさい。
ホント、すいません。
一番下で、ひっそりとしてたのに・・・
すいません。ごめんなさい。
以後、気をつけます。
すいませんでした。
334 名前:お返事 投稿日:2002年09月21日(土)07時11分38秒
>ビギナーさん

今回は乙女チックな矢口さんを目指したんですが、
切なさが浮き出てしまったようで。ちと反省しまふ。


>なんかいつもすごいんですけどもぉ…

誉めていただいて嬉しいんですけれども、
「…」以下がものすごく気になります。
335 名前:夕焼けに映えるメロディ 1 投稿日:2002年09月21日(土)07時23分45秒
今はもう誰も触れる事のない街外れの廃校舎。
壊れかけたピアノを人差し指でポンと奏でる裕ちゃん。

「ピアノってええね」

まるで発表会で緊張した子供のように
熱い胸のメロディがが上手に弾けないアタシ。
曲をストックするように募るアタシの想い……

貴方に伝えられずに黄昏るアタシの恋心。
336 名前:夕焼けに映えるメロディ 2 投稿日:2002年09月21日(土)07時30分32秒

夕陽の歩道橋。
手すりに映る裕ちゃんの細長い影。
隙間がまるで鍵盤のようだね。

初めて作ったこのメロディをポケットの中にして、迷いながらうろたえてる臆病なアタシ。
まるで裕ちゃんの指先が言い出せないアタシの心を優しく弾いてるみたい。
まるで裕ちゃんの指先がアタシの熱い気持ち、誘って迷わせてるみたい。
ふらっとしている今のアタシは、譜面通りに決められたコードをなぞれない。

「こんな場所から見る夕陽もええもんやなぁ」

白い車があと十台通ったら、このメロディ奏でるから。
そしたらちゃんと聴いてくれるよね?
337 名前:夕焼けに映えるメロディ 3 投稿日:2002年09月21日(土)07時38分13秒

落ち葉の残り雨が零れて、艶のある髪の毛が靡く午後、
こんな日はきっと圭ちゃんにもメロディが届くような気がする。

「すっかり秋だねぇ」

一人悲しみにさらわれそうな時、いつか聴いた圭ちゃんの優しいメロディ。
一人孤独に飲まれそうな時、心掴んでくれた圭ちゃんの温かいメロディ。

圭ちゃんの胸に忍ぶ想いも問いかけも全部知ってるけれど、今は微笑んで待ってみたい。
夕陽の光が全て情熱をぼかすように、今はゆっくり黄昏てみたい。
338 名前:夕陽に映えるメロディ 4 投稿日:2002年09月21日(土)07時45分52秒
綺麗な鰯雲が気持ち良さそうに浮かぶ空。
九月の空に風が唄うような涼しい声で、アタシの胸の糸弾く圭ちゃんのメロディ。
アタシの心の奥まで届くように奏でる圭ちゃんのメロディ。

鍵盤みたいに並んでいる街も唄い出しそうな今日の窓から、
アタシと圭ちゃんが出逢った日に聴いたあのラブソングが聞こえてきた。


懐かしいあのピアノのメロディが…。


             〜FIN〜
339 名前:本庄 投稿日:2002年09月21日(土)16時49分30秒
なんか日に日に圭ちゃんに嫌われてるような気がするのは 
気のせいでしょうか…(確実に嫌われてると思われ)

いや、でもねぇ…やっぱ圭ちゃんは皆のアイドルだから!!
はっ!!でもこのままいくと…

圭ちゃん大人気→なっちヤキモチ妬く→なっち&圭ちゃん喧嘩→
こうなったのは本庄のせいだ→なっち&圭ちゃんに嫌われる→隊長クビ…

…まずい!まずいわよ!!
カオリ!梨華ちゃん!!早急に圭ちゃんから離れろぉ!!!
んでもって圭ちゃん!私が悪かった!何でもするから許してくれぇ!!(大号泣)
340 名前:ビギナー 投稿日:2002年09月21日(土)17時10分13秒
・・・に深い意味はないですよぉ。
あえていれるとするならば、「今回の作品は特にすごいなって思いました。」
でしょうか。
あの、なんか傷付けてしまったみたいですいません。
嫌みとか、全然そういうつもりはないんです。ごめんなさい。
これからももがんばってくださいね。
341 名前:お返事 投稿日:2002年09月22日(日)06時19分48秒
>本庄さん

え〜、圭ちゃんは既にここにはおりません。
と言うのも、向こうでみっちゃんと圭ちゃんが入れ替わってますよね。
で、みっちゃんは任しとけ! って確か本庄さんおっしゃいましたよね?
なので、圭ちゃんは本庄さんの所に「今は」いるはずですが…。


>ビギナーさん

そう言っていただいて、ちょっとホッとしました。
また機会があればやろうかなと考えておりまふ。
なんせ、おふざけばっかりだと飽きてしまいますから。
342 名前:本庄 投稿日:2002年10月11日(金)01時00分55秒
こちらの方ではかなりお久しぶりです。
晴れて自由の身になれた本庄です。
ようやく家でネットが出きるかと思うともう嬉しくて×2…。

そういえば最近圭ちゃんを見かけませんが…今頃どこでなにをしてるんだろう…?
5期メンにつかまってるのか?
それとも梨華ちゃんの寒〜い話を聞いて凍ってるのだろうか…??
圭ちゃ〜〜〜〜ん!!カンバ〜〜〜〜ック!!!
343 名前:お返事 投稿日:2002年10月11日(金)02時24分38秒
>本庄さん

とある一室では…

圭 織「さ、圭ちゃんはあと」
真 里「邪魔者はいなくなったし」
梨 華「楽しみましょうねはあと」
ひとみ「嬉しいなぁ〜♪♪」
真 希「楽しいなぁ〜♪♪」
裕 子「では、さっそく」
六 人「「「「「「いただきまぁ〜す!」」」」」」

 圭 「なっちゃぁ〜ん!!! ヘルプミィ〜!」
344 名前:本庄 投稿日:2002年10月12日(土)02時53分24秒
うぉぉぉい!!!ちょっと待てぐぉらぁ!!
皆さん!そんな大勢で一気にいただいたらさすがの圭ちゃんでも大変でしょ!!
せめて2〜3人づつで…(爆

ま、まぁとにかく圭ちゃんはなっちのもんなんだから…あきらめなさい!

…でもなぁ…最近某所にある某スレの影響でやすごま、やすやぐも(・∀・)イイ!!
…な節操のない自分がいる…(滝汗
だって圭ちゃんに甘えるごまかぁいいし
圭ちゃんに悪態つきつつどっか甘えた感じのやぐもかぁいいんだも〜〜〜ん!!
なっち…ごめんよう!!!(逃走
345 名前:お返事 投稿日:2002年10月13日(日)16時59分09秒
>本庄さん

 圭 「…仕方ない。アレやるか」
六 人「???」
 圭 「んんんん〜っ!!」
六 人「???」
 圭 「ジゴスパークッ!!」

圭は地獄から雷を呼び寄せた

ドーーーーンッ!!!

六 人「ひでぶぅ〜」
346 名前:本庄 投稿日:2002年10月14日(月)00時24分12秒
……圭ちゃん、あんた何者??(滝汗
347 名前:お返事 投稿日:2002年10月18日(金)08時12分13秒
>本庄さん

 圭 「ふぅ〜久々に使っちゃったよ。これやると結構眠くなるんだよねぇ。
    まあ、今誰もいないからここら辺でひと休みするか。Zzz……」
梨 華「うふふ。甘いのは保田さんですよぉ。あれぐらいじゃ石川はくたばりません。
    これで保田さんはワ・タ・シ・の・も・のはあとはあと


348 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月18日(金)08時29分09秒

(るんるんるん♪♪ 今日はいい事ありそだな〜♪♪)

 鼻歌まじりで楽屋の扉を叩く梨華。

「おはよ〜ございまぁ〜す」
「おはよ〜」
「よっすぃ、おはよぉ〜」
「なんか嬉しそうな顔してるじゃん。いいコトあったの?」
「なんもないよぉ〜」

 梨華は笑顔を絶やすことなく既に来ていたメンバーに挨拶をしつつ、愛しの圭を探した。
だが、いつも最初に声を掛けてくれる筈の彼女の姿がどこにも見当たらなかった。
首を傾げながら、少し離れた所で談笑している真里たちに向かって尋ねてみた。

「あの〜、保田さんはまだ来てないんですか?」

 真里をはじめ、その場にいたメンバーが横目で梨華を見ながらフッとにやついた。
その勝ち誇ったような態度に少しだけムッとする梨華。

349 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月18日(金)08時38分47秒
「……保田さん、どうしたんですか」

 しかし、梨華の問いに対して誰も答えようとはせずに、ただ黙ってニヤついている。
梨華は頬を膨らませてムッとしている。

「なんですかぁ、教えて下さいよぉ!」
「そんなに圭ちゃんのことが気になるの?」
「えっ、いや、そういうわけでは……」

 みんなは知っていた。梨華が密かに圭にホの字であることを。
そして、同じような境遇の人間がもう一人いることも知っていた。

「だったらいいじゃん」
「よ、よくないですよ!」
「なんでそんなにムキになってんの?」
「えっ、いや、あの、その……」

 心なしかいつもよりも動揺が激しいと感じる梨華。
そんな梨華を見ていた圭織が決定打を浴びせた。

350 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月18日(金)08時48分30秒
「やっぱ圭ちゃんのこと気になるんだ? 好きなんでしょ?」
「!!! ななな何を言って言って……」

 梨華は頬を膨らませたまま顔を真っ赤に赤らめてしまった。
こんな梨華を裕子が見ていたら、真っ先に彼女の餌食になっていただろうとその場にいた誰もが思った。
してやったりの表情を浮かべながら今度は真里がもったいぶった様に言う。

「残念だなぁ〜。もっと早く来ればよかったのに」
「えっ、な、なんですか?」
「可哀相になぁ〜」

 何やら意味深な言い方をする真里。それに賛同するように圭織が腕を組んで深々と頷く。
ふと、圭織は自分の目の前に立っていた梨華に気付く。

「なんでそんなにイジワルするんですかぁ〜(泣)」

 梨華はダダをこねる子供のように圭織に縋った。
その行動に一瞬たじろぐ圭織だが、徐々にその勢いに圧倒されながら後ずさる。
351 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月18日(金)08時59分50秒
「なによー、知らないったら知らないって!」
「教えて下さいよぉ〜。一緒にご飯食べに行ったじゃないですか〜」
「あ〜もぉ、矢口、パスッ」

 そう言って梨華の身体を真里に無理矢理押し付けて、そそくさと逃げていく圭織。
標的を変更させられた梨華は真里にグッと抱き付きまとう。

「熱いってば! 矢口も知らないんだから離れろよぉ!」
「なんで隠すんですかぁ〜。中澤さん譲ってあげたじゃないですかぁ〜」
「譲ってもらった覚えなんかないよ! もお、他の人に聞け!」

 真里は強引に梨華を振り解き、一目散に逃げていった。
今度は今しがた到着したばかりのなつみに付きまとう。

「安倍さぁ〜ん。教えて下さいよぉ〜」
「は? 何を?」
「保田さんどこですか?」
「圭ちゃん? 来てないの? 珍しいねぇ、遅刻するなんて」

 あっさりと梨華の攻撃をかわすなつみ。
肩透かしを食らった梨華は次なるターゲットに目を向けた。

352 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月18日(金)09時11分24秒
「ねぇ、よっすぃー。教えてはあとはあと
「えっ、いや、あの、ちょっと梨華ちゃん?」

 瞳を潤ませ、上目遣いぎみでひとみに迫る梨華。
少女マンガから飛び出してきた乙女のような梨華の仕草にひとみはたじろぐ。

「私にはもう頼れるのはよっすぃーしかいないの。だから……」
「ああーっ!! なにしてんのさ、梨華ちゃん!!」

 横から真希が頭に角を生やしながら、二人の間に強引に割って入ってきた。
いつも自分が使っている手を使われたのが悔しいのか、はたまたひとみを横取りされそうになったのが
気に入らなかったのか、ものすごい剣幕で怒っていた。

「よっすぃーから離れてよ! 梨華ちゃんにはあげないからね!」
「なななに言ってんだよ、ごごごっちん」
「じゃあ保田さんどこにいるか教えてよ」
「アタシたちも知らないんだってば」
「そ、そういう事、事なんだ。ご、ごめんね」

 どことなく顔が紅く染まっているひとみ。多分真希の大胆発言が原因であろう。
353 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月18日(金)09時19分05秒
 今度は隅の方で一部始終を拝見(?)していた愛たちに問い詰め始める。

「ねえ、保田さん知らないの? ホントに?」
「さ、さぁ…」
「寝坊ですかね? ははは……」
「そうかもね。ほら、最近忙しそうでしたし…」
「もう少ししたら来るんじゃないでしょうか?」

 梨華の脅しにも似た問い詰めにビビる四人。
だが、一緒にいた希美と亜依はまだニヤニヤしていた。

「何ニヤニヤしてんの? 知ってるなら教えなさい」
「へへへ〜、ヤダよ〜」
「ウチはどうして梨華ちゃんがそんなにムキになってるのか知りたいなぁ〜」
「うっ……」
「梨華ちゃん、恋ですか? 愛ですか? チュウですか?」
「いやぁ〜、恋ってほんっとにイイもんですねぇ〜(水野○郎風)」
「ですねぇ〜」

 相手の方が一枚以上も上手だった。
354 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月19日(土)10時18分31秒
 結局、事の真相はマネージャーから聞くことになった。
どうやら圭は風邪を引いて寝こんでいるとの事。
しかし、梨華は不機嫌極まりない態度で誰も寄せ付けないオーラを放っていた。
その理由は、梨華にだけメールが入っていなかった事にある。

(もぉ、なんで石川だけに送ってくれないの!? こんなに保田さんのコト想ってあげてるのに!)

 その日のスケジュールは、えらいどんよりとした空気が辺りに漂っていた。
いつもなら誰かしらちょっかいを出してくるのだが、話し掛けようとする者さえいなかった。
355 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月19日(土)10時25分52秒
 無事に(?)収録を終え、本日のお仕事は終了。
梨華は今だ不機嫌なまま今後の予定を考える。

(絶対にお見舞いになんか行かないんだから! 看病なんて絶対にしないもん)

 心とは裏腹に梨華の足はいつしか圭の自宅へと向かっていた。

(何か食べたいって言ってもおかゆなんて作ってあげないんだから)

 そう思いながらもスーパーでは、手が勝手に食材を選んでいた。

(傍にいてって言われてもすぐに帰るんだから)

 重い荷物を抱きかかえながらも、携帯用の歯ブラシや洗顔セットなどがちゃんと鞄の中に入っていることを確認した。

(保田さんなんて知らないんだから。保田さんなんて……保田さぁん)

 梨華の指がインターフォンを押していた。
356 名前:nanasi 投稿日:2002年10月21日(月)17時22分33秒
age
357 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月21日(月)17時33分15秒
sage
358 名前:本庄 投稿日:2002年10月23日(水)14時52分20秒
梨華ちゃんかわええなぁ…。
…でも寝てる圭ちゃんを襲っちゃいけませんよ!!
できるだけソフトに…って違う!!

あぁ安倍しゃん…節操の無い私をお許し下さい…。
359 名前:お返事 投稿日:2002年10月24日(木)06時06分06秒
>本庄さん

そろそろ「幸薄少女」から「石川さん」に進化(?)します。
でも、やっぱり彼女には幸薄少女のままでいて欲しい……と思ったら戻りますけど。

>あぁ安倍しゃん…節操のない私をお許し下さい…。

 圭 「大丈夫です。すぐになっちゃんの虜になりますよ、きっと(フフフッ)」
360 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月24日(木)06時14分38秒



(……熱い……の、のどが渇く……でも背筋が寒いのはなんでだろ?
 ……それにどこに行ってもなんにもないし、誰もいない……ここ、どこ?
 あ〜、熱い、寒い、のどが渇く、だるい、きつい、ぼっとする、苦しい。
 そして……淋しぃ〜っ!!)



 ハッとして目が覚めた。

「ゆ……夢?」

 目の前に広がっていたのは砂漠でもなければ雪原でもない、見慣れた自分の部屋の景色だった。
長い溜息をついた時、まるで異次元の世界にでも紛れ込んだように、視界が歪み始めた。

(な、なんだ? 何が起こってんの?)

 一気に身体中が熱くなり、それに比例するように背筋からは寒気が襲う。
そして最後に鼻孔が詰まる感覚と…。

「ハ、ハックションッ!!」

361 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月24日(木)06時23分49秒

 ………。

 相変わらず景色が歪んで見える。
近くに置いてあるティッシュを一掴みして鼻をかむも、息苦しさは変わらない。

(鼻がつまって苦しいなぁ〜。のど渇いたなぁ〜。水、飲みたいけど……。
 遠いなぁ〜、キッチンまで。……はぁ〜辛いや)

 ちょうどお腹の虫が情けない音を立てて鳴った。
壁に掛かっている時計を見ると、既に夕方の五時を回っていた。

 朝方、突如襲った激しい頭痛は治まっていた。
その痛みに耐えられず、結局仕事を休む事にした。
枕元に携帯がぐっすりと眠っている。
どうやら連絡している最中に、お互い眠りこけてしまったようだ。

「ダメだ。なんか食べてエネルギー補給しないと、ホント辛くなりそ……」

 体内に残っている気力を振り絞ってベッドから起き上がるも、直に膝から崩れ落ちた。
362 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月24日(木)06時33分20秒

“ピンポ〜ン”


(ん? 誰か来たみたい……。けど、動けないしなぁ〜、どうしよっかなぁ)

 床に這いつくばる恰好でなんとか冷蔵庫の前まで辿り着いた時、
誰かがドアをノックする音が聞こえてきた。

(ん、誰だろ? そういえば昨日、鍵かけるの忘れたような気がするなぁ)

 その場から動こうともせず、ただ歪む景色の中で時の過ぎるのを待つ。

(そのうち帰るでしょ。ほっとこう……)

 しかし、ぼんやりする意識の中でハッキリとした高音が響いた。
誰もが聞いても判るほどの、あの独特の声が意識の中に入ってきた。


「保田さぁ〜ん、お邪魔しますよぉ〜」
(この声は石川!?)

 
363 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月24日(木)06時41分37秒
 元気一杯の笑顔を見せながら、両手に抱えきれないほどの買い物袋を下げた梨華が現れた。

「えへっ、鍵、開いてたんで勝手に入っちゃいました」
(石川だ……来てくれたんだ……)
「もぉ〜保田さん。居るなら出てくださいよ〜って言っても風邪引いてるんですよね」
(ん〜この声とピンクな感じは紛れもなく石川だね……)
「でも、ホントは石川怒って……???」
「ゲホゲホゲホ」
「あれ、どうしたんですか?」

 勝手に一人喋っていた梨華は、圭の異変にようやく気がついた。

「保田さん???」
「あははは……(ぱたっ)」
「あっ、保田さん? 保田さぁぁん!?」

364 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月24日(木)06時50分31秒

 ………。

「少しお熱もありますね」
「ん〜」
「とにかく今日は安静に寝てなくちゃダメですよ。いいですか?」
「ん、ん〜」
「何かして欲しいことがあったらなんでも言ってください」
「ん〜」
「もぉ〜、保田さん。生返事ばかりしないでちゃんと喋ってくださいよぉ」
「ん〜」
「保田さぁ〜ん」

 梨華が布団越しに圭の身体を少し揺らすと、布団の脇から手を出して、梨華の手を握った。

「あっ」
「ケホケホ…(チラッ)」
「もぉ〜、保田さんのバカァ〜」

 繋いだ掌から伝わる温もりに身を任せ、圭は静かに目を閉じた。心の中にも安堵感が広がる。

(石川が傍にてくれたら一日で治っちゃうよ。あ〜、シアワセだなぁ〜)

 しかし、悪夢は忘れた頃にやってくる。
365 名前:本庄 投稿日:2002年10月24日(木)14時47分35秒
甘い!空気が甘甘よ!!
今回は梨華ちゃん幸薄じゃないのかしらん?
いや、でも悪夢って書いてあるし…。
まぁ、たまには幸せ少女もいっかな(w
366 名前:お返事 投稿日:2002年10月26日(土)07時06分00秒
>本庄さん

梨 華「もぉ〜、本庄さんたら。甘甘だなんて、梨華困っちゃう」
 圭 「フガフガ(離せぇ〜)」
梨 華「どうしましょ、保田さんはあとはあと
 圭 「フガフガ(向こうに帰りたいよぉ〜)」
梨 華「今回は最後まで幸せ少女でいきま〜す」
367 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月31日(木)01時29分24秒

 “ピンポ〜ン”

「あっ、誰か来たみたい」
「ん? ん〜」
「もぉ、手離して下さい。誰か来ましたから」

 ちょっとしたじゃれ合いの間にも不幸(?)は近づいてくる。そして遂に……。

「けぇぼぉ〜、鍵開いてたから勝手に入ったでぇ。けぇぼぉ〜、どこやぁ〜」

 リビングから威勢の良い声が響いてきた事で、幸せな一時が崩れた。

「な、なんでぇ〜? どうして中澤さんが!?」
「ん〜、さぁ〜?」
「もぉ、どうしてそんなに呑気なんですかぁ!?」
(だって驚いた顔の石川、可愛いんだもん♪♪)

 裕子の悪魔の囁き(?)にアタフタし出す梨華をよそに、勢いよく寝室の扉が開いた。
368 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月31日(木)01時35分08秒
「圭坊? ってどないしたん、大丈夫かぁ? ん、チャーミーやん」
「な、中澤さん!?」
「ああっ!! アンタら、なにしてんの!!」
「えっ?」
「ふぇ?」

 圭は顔を少しだけ持ち上げると、そこには何やらお怒りの形相をした裕子が立っていた。
そしてズカズカと入り込んで来て、二人の傍まで来ると、目の前で握られていた手を叩いた。

「何してたん、二人で!?」
「何って…ただ看病していただけですけど」
「風邪ひいたんか、圭坊?」
「ふぅん…」
「シンドイんか?」
「ん〜」

 何やら一人考えこむ裕子。
そして自分の中で何かが閃いたのか、ポンと手を叩いた。
369 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月31日(木)01時43分22秒
「ほな、チャーミーはどきや」
「えっ、な、なんで?」
「裕ちゃんが来たからには安心やで。精根込めて看病したるでぇ♪♪」
(え〜、石川との幸せな一時がぁ〜)

 その一言で梨華は一人憤る。

(な、なんでですかぁ! 中澤さんも保田さん狙ってたんですかぁ!?
 ダメダメ!! 保田さんは石川のなんですからあげません!!)

 そんな梨華に更なる追い討ちをかける裕子。

「なぁ、圭坊……チュウしよか?」
「なっ…ゲホゲホ」
「な、何言ってるんですかぁ、中澤さんっ!!」
「昔っから風邪は人にうつすと治るっていうやろ? だから裕ちゃんにうつしてぇ〜♪♪」

 裕子の何やら只事ではないその気迫に、背筋がゾッと凍りつく圭。
そして……。
370 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月31日(木)01時53分01秒


「なんや寒いんか? だったら裕ちゃんが身体で温めたろ♪♪」


 強引にベッドに滑り込もうとする裕子を、慌てて梨華が止めに入る。

「何やってるんですか、中澤さんっ!! 保田さんは今、病気なんですから安静にしてなきゃならないんです!」
「さっきっからうっさいなぁ。チャーミーは知らんのか? 肌と肌で温め合うのが一番なんやで!
 だからこうして肌と肌をぴったりと合わせて……っと」
「ちょ、裕ちゃん……ゲホゲホ」
「はぁ〜。圭坊、温かいなぁ〜」
「止めてくださいっ!!!」

 梨華は強引に圭を起こして抱き合う裕子から圭を引き剥がし、自分の胸元へと抱え込んだ。
少しだけ荒い息を首筋に感じて、不謹慎ながらも胸が高鳴ってしまった。
371 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年10月31日(木)02時02分59秒
「なにすんねん、圭坊と裕ちゃんの甘〜い一時を」
「信じられません!! 病人をそんな風に扱うなんて、中澤さん最低ですよ!」
「チャーミーこそ何してるん! そんなにきつく抱きしめたら圭坊が窒息死してしまうやろ!?」
「もう中澤さんには任せられません! 石川が看病しますから帰ってください!」
「チャーミーこそとっとと帰り。明日早いんやろ?」
「明日はオフです。中澤さんこそお仕事入ってるなら早く帰ってください」
「イヤや! 今日は圭坊とマッタリ過ごすって決めたんや! チャーミー、どっか行け!」
「石川のほうが先に来たんですから、今日は石川が一緒に過ごすんですっ!」


“ピンポ〜ン”


 来客を告げるチャイムが鳴ったが、それさえ気付かずに二人の争いは徐々にヒートアップしていく。

「チャーミーみたいな乳臭いガキが何ぬかしとるんや! ピンクのくせに」
「中澤さんみたいな性欲丸出しのスケベが何言ってるんですか、変態キス魔!」

 しばらくして数人の足音と、「お邪魔します」という声と共に、ひょっこりと三つの顔が現れた。
372 名前:本庄 投稿日:2002年10月31日(木)11時28分52秒
まさか裕ちゃんが登場するとは…。
うん、こりゃ悪夢だ(爆)
そして現れた3つのお顔…誰だろ??

圭ちゃんには悪いけど暫くこっちにいて楽しませてね♪
373 名前:ビギナー 投稿日:2002年10月31日(木)19時33分25秒
これ・・・ある意味、石川さんやっぱり幸薄なんじゃあ・・・
しかも、もっと増えるみたいですし。
そして、石川さん、勢いに任せて中澤さんの事、言いまくり。

やっぱり面白いです。お腹よじれそうです。
がんばってくださいね。
374 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月03日(日)13時25分54秒
>「チャーミーみたいな乳臭いガキが何ぬかしとるんや! ピンクのくせに」
>「中澤さんみたいな性欲丸出しのスケベが何言ってるんですか、変態キス魔!」

この口喧嘩・・・最高過ぎです。大爆笑してしまいますた。(w
3人目が誰なのかドキドキしながら続きを楽しみにさせて頂きます♪ 
375 名前:お返事 投稿日:2002年11月05日(火)04時16分23秒
>本庄さん

悪夢というかなんというか、中澤さんが暴走機関車になってしまいまひた。
石川さん、お株奪われてるし…。


>ビギナーさん

やっぱり石川さんは「幸薄」になってしまってますかね?
そうならないようにしたつもりなんですけどね、設定当初は。


>名無しさん

勢いに任せて二人とも言いたいこと言いまくっちゃってます。
いやぁ〜受け入れて貰えて光栄です。
376 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年11月05日(火)04時26分24秒
「あれ、裕ちゃんじゃん。なんでいんの?」
「って言うか圭織たちの存在に気付いてないじゃん、二人とも」
「しかも圭ちゃん、ほっとかれてるし」

 いつも間にか、二人の言い争いは圭の看病の事ではなく、関係の無い話題に移っていた。

「そんなん使ってるからチャーミーはチャーミー言われんねん!」
「いいじゃないですかぁ! 石川はアレが好きだから使ってるのに、中澤さんにそこまで
 言われる筋合いはないですよ!」
「うっさい! 裕ちゃんはそんなん使てる奴は信用せえへん!」
「ちょっ、ちょっ、何モメテんのさ、人ん家で」
「ん? なんや矢口に圭織になっちやんか。何しに来たん?」
「聞いて下さいよぉ、矢口さん。中澤さんたら……」


 しばし、喧嘩のいきさつを聞いた三人。

「……で、裕ちゃんが『スーパーM○LD』で、石川が『植○物語』か」

 じっくり考えていた真里が急に叫んだ。


「ダッサァー!!」

377 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年11月05日(火)04時37分57秒
「な、なんやとぉー!! ほんなら矢口は何使ってんねん!?」
「シャンプーなら『ナ○ーブ』しかないじゃん!」

「「ペッペッ!」」

「ああっ!」
「そんなん使てるからいつまでも成長せえへんねん!」
「なんだとぉ! それとこれとは全然関係無いじゃんかよぉ!」

 遂に真里が参戦し始めた。甲高い声域を持つ梨華がいるうえに、真里が加わると
更に声のトーンは威力を増していく。
少々呆れたような態度で、圭織が止めに入った。

「矢口、なに参戦してんのよ。そんなコトしにきたんじゃないでしょ?」
「(むかっ!)じゃあ、圭織は何使ってるのさ!」
「そうや、言ってみぃ」
「え〜、圭織は『mo○’s h○ir』だけど…」

 「「「ダセエッ!」」」

「何さ、声揃えて言わなくたっていいじゃん!」
「そんなの使ってるからボケ〜っとしちゃうんだよ!」
「矢口みたいなお子ちゃまには良さがわかんないんだよ」
「なんだとぉー!」

 立て続けに圭織も参戦。
378 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年11月05日(火)04時49分32秒
 人の家に勝手に上がりこんだうえに、意味の無い論争を繰り広げる四人。
最後の砦とも言わんばかりに、落ち着いた様子でなつみが止めに入る。

「ハイハイ。もう分かったから、いい加減止めようね」
「なんやなっち、えらい良い子ぶってからに」
「そうだよ、なに大人ぶってんのさ」
「ハイハイ。皆さんの方がすご〜く大人ですからねぇ〜」
「安倍さんは何使ってらっしゃるんですか?」
「なっちは昔っから『メ○ット』だよ。アレが良いんだよねぇ」

 「「「「……プッ」」」」

「アーッ、鼻で笑ったなぁ!」
 
 結局、当初の目的も忘れ、口論に引きずりこまれた三人。
端から見たらなんとも大人気ない内容なのだが、当の本人たちはいたって真面目に口論していた。



 そんな中、ここのお宅のご主人様はというと……。

「……あ〜、お腹空いたぁ〜」


 いつの間にか、カヤの外の圭は一人淋しくベッドに横たわり、そのままゆっくりと瞼を閉じていった。

379 名前:本庄 投稿日:2002年11月09日(土)14時01分31秒
使っているシャンプーで喧嘩する5人・・・。
しかもその内の半数以上が二十歳越えてるっつうのに・・・。
そして放置される圭ちゃん。

・・・最高です!!

この後圭ちゃんはどんな扱い…じゃなくて看病をされるのでしょうか。
いやぁ、おもしろくなってきましたなぁ。
そして個人的になっちの登場に非常に舞い上がってます(w
380 名前:お返事 投稿日:2002年11月11日(月)04時23分12秒
>本庄さん

この後は、本邦初(?)幸薄少女と保田さんの甘〜いシーンが……。
なので、なっちゃんはもう出ません(ごめんなさい)
というか、向こうでいっぱい過ぎるほど出てるんでいいかな〜と思いまひて…。
381 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年11月11日(月)04時32分04秒


「ん〜」

 何度かの寝返りの後に、ふと目が覚めた。真っ暗で物音ひとつしない。
昼間感じていた気だるさや息苦しさもすっかり消え、普段通りの生活環境に戻っていた。
が、相変わらず腹の虫は情けない弱音を吐き続けている。

「……。なんか食べよ」

 そう思って布団から抜け出そうとした時、誰かがベッドの端に突っ伏していた。
どうやら寝ているらしく、規則正しい寝息が耳に届いてくる。

「…誰だろ? 暗くてわかんないや」

 そのうち目が暗黙に慣れてくると、微かな声が聞こえてきた。

「……ふぅ〜〜ん。……んん〜、やすらさぁ〜〜ん……」
「ん? この声は石川か」

 どうやら梨華は夢を見ているようで、いつものように些細な物音で目を覚ます兆しはなく、
すっかり安心しきって寝ているようだった。
 
382 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年11月11日(月)04時47分43秒
「なんだかねぇ。寝てても可愛い奴だよ、ホントに」

 そっと頭を撫でてやると、その心地良さからか梨華の口からか細い声で寝言が漏れ始めた。

「やすらさぁ〜ん、石川はぁ…やすらさんがしゅきれすよぉ……。れもぉ……れもれすねぇ」
(なんだろ? 意味深な発言だなぁ)
「やすらさんはぁ、みんなにぃ…優すぃからぁ、石川、ちょっとぉ…嫉妬しちゃうんれす……。
 らってぇ…やすらさんの中で石川の居場所…なくなっちゃうんれすもぉん……。
 凄く不安なんれすぅ……。らからぁ、色々石川なりにぃ…アピールしてるんれすけろぉ……
 からまわってばかりなのれぇ……やすらさん、石川の事……見てくれなくなっちゃヤれすぅ……。
 やすらさんのぉ、傍にぃ、置いてくらさぃ……」

 梨華の表情が苦しそうになり、閉じられた目尻から1本の筋が引かれつつも、梨華の告白は続く。

「やすらさぁん……石川はぁ、中澤さんやぁ、いいらさんには勝てないんれすかぁ……
 やすらさんのぉ、いひばんにはぁ、なれないんれすかぁ……やすらさんはぁ、石川を……
 見てくれないんれすかぁ……教えてくらさぁい……うにゃうにゃ」
383 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年11月11日(月)04時58分58秒
 夢の中をお散歩中の梨華を起こさぬようそっと起きあがり、毛布をかぶったまま圭は
梨華の小さくなった身体をゆっくりと自分の腕の中へと抱え込んだ。
そして、可愛らしい寝顔に向かって言った。

「……そんなわけないじゃん。あたしの中の一番ていう特等席はさ、
 石川のためにいっつも空けてあるんだよ。いつどんな時でも待ってるよ」

 そういって少し力を込めて梨華の身体を抱きしめた拍子に、梨華の目がうっすらと開いた。
まだ虚ろな表情の梨華は、ゆっくりと顔を上げる。

「あっ……保田さぁん……だ、大丈夫ですかぁ」
「うん。もう平気。心配ないよ」
「そうですかぁ……良かったですぅ……」
「疲れてるんでしょ? 寝ときなよ」
「で、でもぉ……」
「いいから、いいから。はい、オヤスミ」
「おやすみ…なさ……い……」

 圭に寄り掛かる恰好で再び夢の中のお散歩へ出かけた梨華を、
圭は毛布に包まりながら朝までずっと支えていた。
384 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年11月11日(月)05時10分40秒


 翌日。梨華は窓の外で降りしきる冷たい雨の音で目が覚めた。
ふと、自分が居心地のいいベッドの上に寝ていたことに疑問を覚え、上体を起こして辺りを見渡す。

「あれ? なんでベッドに寝てるんだろ? それにここ、私の部屋じゃない……。
 はっ!! もしかして私、中澤さんに襲われちゃったんじゃ……。そ、そんなぁ……
 せっかく今まで純潔を守り通してきたのに、よりによって中澤さんに奪われちゃうなんてぇ……
 そんなの哀しすぎるぅ〜!! 保田さぁ〜ん、ごめんなさい〜!」

 “ガチャッ”

 不意にドアが開いた。その拍子に梨華も布団を抱きかかえて、身構えた。
だが、入ってきたのは純潔を奪った悪夢(失礼)ではなくて、このベッド及びこの家の住人でもある圭だった。

「なに、どうかした? 急に大声で呼び出して」
「や、保田さん!? どうしてここに?」
「どうしてここにっていわれても、ここはアタシんちだから」
「へ? ……あっ、お、おはようございます」
「もうお昼過ぎだよ。早く顔洗っといで」

 そう言い残して圭は部屋を出た。
梨華は思考回路が正常に戻ると、慌てふためいて身支度を整えた。
385 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年11月11日(月)05時21分31秒
 一通りスッキリすると、梨華はコーヒーを啜りながら雑誌を読んでいた圭の正面に座った。
梨華が落ち着きを取り戻したのを見計らって、圭は語り始める。

「昨日は色々とありがと。心配かけちゃったね」
「な、何言ってるんですか。石川はなんにもしてませんよぉ」
「なんにもしていないというのはどうだろ?」
「えっ、石川、何かひどいコトしました?」
「覚えてない?」
「いや、その、全然覚えてないというわけではなんですけど……」

 そう言いながら必死で昨日のことを思い出す。

(なんだろ? え〜、わかんないよぉ。もしかして寝ているのをいい事に、襲ってしまったとか?
 それとも何かとんでもない事を口走ってしまったとか? それともイヤらしい事を……???)
「寝言。それもかなり切実な訴えだったなぁ」
「寝言!?」

 更に考えこむ梨華。

(何て言ったんだろ? まさかものすごくエッチな事だったりして……。う、うそぉ〜。
 そんなのって、そんなのってぇ……やだ、もう恥かしいよぉ〜)
「ま、覚えてなくてもいけどね。石川の人格を損ねるような事じゃないし」
「そ、そうですか……(ホッ)」
386 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年11月11日(月)05時36分03秒
 しかしホッとしたのも束の間、圭がとんでもない事を口走った。

「でも、アタシの身体に持たれて寝てた時の石川は、すごく可愛かったけどね」
「えっ!?」

 更にとんでもない事を言った。

「思わずギュ〜って抱きしめちゃったよ。いやぁ〜、アタシとしたことが。ハハハ」

 その一言で真っ赤になる梨華だが、心の中では違うことを考えていた。

(ズルイよぉ。なんで寝てる時にそんなコトするんですかぁ。もぉ、こうなったら……)

 突然立ち上がり、衣服を整え、ヘアスタイルを整え、準備万端の梨華は、両手を目一杯広げて圭を見つめる。

「??? 何してんの?」
「準備OKです。どうぞ」
「はぁ? アタシが飛び込んでいくの? 石川の腕の中に?」
「違いますよぉ。ギュ〜〜ってして下さい!」

 梨華の目が本気だった。
387 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年11月11日(月)05時42分00秒
 一瞬の沈黙。そしてお決まりのように圭が呟く。

「なんで?」
「だって、寝てる時にそんなコトするなんて卑怯ですよぉ。起きてる時にしてくれないと意味ないじゃないですかぁ」
「そうかな?」
「そうですっ! だから今、して下さいっ!!」
「あ、そう? 起きてる時にすればいいのね?」
(コクコク)

 梨華の中で期待が膨らんでいく。

「じゃあ、石川さん。右腕を左肩に回して」
「??? こ、こうですか?」
「次に左腕を右肩に回してぇ」
「……はい」
「はい、力を入れてぇ〜」

 “ギュ〜〜ッ”

「どお?」
「……もぉ〜、違いますよぉ!!!」


 石川さんにホントの幸せがくるのはいつの事やら……。

388 名前:なんてったって梨華ちゃん!? 投稿日:2002年11月11日(月)05時43分10秒

         〜FIN〜
389 名前:お知らせ 投稿日:2002年11月11日(月)05時48分41秒
次作は、抒情詩シリーズ第6弾

『今日まで微笑んで、そして明日からは……』

をお届けします。引き続きこのお二人が主役です。
ではっ
390 名前:P.S 投稿日:2002年11月11日(月)05時54分12秒
しばらくお休みします。
ごめんなさい(ペコリ)
391 名前:ビギナー 投稿日:2002年11月13日(水)19時05分09秒
最後は、幸せ。めでたし、めでたし。でしたね。
それにしても、梨華ちゃんの妄想って・・・・
今回も久しぶりのギャグですごく面白かったです。
ありがとうございました。

少し、お休みですか。
ちょっと残念ですが、急がず、焦らずで
また、戻ってきてくれる事を期待しております。
392 名前:本庄 投稿日:2002年11月14日(木)14時40分11秒
梨華ちゃんよかったねぇ。
なんかここで梨華ちゃんと圭ちゃんが甘甘なの初めてみた気がするです。

しばらくお休みですか…まったりお待ちしています。
393 名前:うっぱ 投稿日:2002年11月29日(金)02時55分21秒
容量がそろそろ危うい状態で休止しておくのも何なんで、
一気に終わらせてしまいます。


>ビギナーさん

幸薄少女にはやっぱり妄想の一つや二つ必要なんで
ちょこっと入れてみまひた(笑)


>本庄さん

いやいや、本庄さんが「幸薄少女」と命名してから
幸話は避けていたんですけども、どんなもんでしょう?


次作はまたまた幸薄少女の爆裂妄想が冴え渡ります。
394 名前:妄想と赤い華には御用心 投稿日:2002年12月06日(金)03時02分16秒
 午後十時半過ぎ。
今日も短いようで長かった一日が無事終わった。
いつものようにくたびれた身体を引きずって家路につこうかと思った圭がふと足を止める。

(最近、別件の仕事で会ってなかったからフラストレーション溜まってんだろうな〜)

 そう思いながら携帯を取り出す。
連日のように届くメールを見ながら、ほんの少し考えて、いつもとは違う帰路を選ぶ。

「たまには出血大サービスしてあげるか」

 冷たい北風に身を縮めながら、通い慣れたもう一つの家路へと急いだ。
395 名前:妄想と赤い華には御用心 投稿日:2002年12月06日(金)03時11分28秒
 時刻は間もなく一日を終える頃。
以前貰った合鍵を使ってそっとドアを開ける。
疲れて眠ってしまったかな、と思いつつ忍び足で部屋の中へ。
まあ寝ていたならばそれはそれで一向に構わないのだけれど……。

「あれっ、保田さぁん。どうしたんですか、こんな夜遅くに?」

 膝の上に広げていた雑誌を閉じ、パタパタとスリッパを鳴らしながら圭の元へと駆け寄ってくる梨華。

「来たらまずかった?」
「いえ、そんなコトないですけど……ただ、来るなら連絡入れてくれれば……」
「勝手に来ちゃ迷惑だった、かな?」
「そんなコトないです。むしろ……」

 そう言って梨華は、そっと圭の身体を抱きしめる。
お風呂上りの梨華の体温で、圭の身体が温められていく。

「嬉しいです。最近すれ違いばかりでしたから……」
「そうだね」

 甘えてくる梨華にちょっとした悪戯心が湧き上がる。

396 名前:妄想と赤い華には御用心 投稿日:2002年12月06日(金)03時17分33秒
 ちょっときつめに肩を抱いてみる。
その拍子に「きゃっ」っと声を漏らす梨華。
それと同時に梨華の頬が赤く染まった。

「ど、どうしたんですか? いつもはこんな事しないのに……」
「こういうの、嫌い?」

 腕の中で軽く首を振る梨華。そしてパフッと顔を埋めて答える。

「なんだか不思議な気分ですぅ……」
「……そう」
「……あっ、お風呂の用意しますね」

 しばらく温もりを感じていた梨華は顔を上げて言った。
その視線を受けて圭はさらりと大胆な事を言い漏らす。

「一緒に入ろっか?」
「えっ!?」
「イヤ?」

 梨華は意外な言葉に戸惑うも、真っ赤になりながらも首を縦に振った。
397 名前:妄想と赤い華には御用心 投稿日:2002年12月06日(金)03時24分55秒
 やや少なめに張ったお湯に、お互い向き合う恰好で浸かる。
何となく気恥ずかしくて、梨華はずっと下を向いたまま微動だにしない。
水面下に映る自分の顔は赤く染まりっぱなし。
一方の圭は、普段と何ら変わりのない様子で一日の疲れを癒す。

「どうしたの? さっき入ったばっかりだからもうのぼせちゃった?」
「いえ、そんなことないです。ただ、そのぉ……」
「ん、なに?」
「こうして二人で入るのって初めてじゃないですか。だから少し恥かしくってぇ……」
「そう? じゃあさ、むこう向いてごらん」

 そう言って梨華を反対方向へと向かせる。
不思議そうな顔をして圭に背中を向けたとき、急に後ろから抱きつかれる。

「きゃぁっ!」
「これでどう? 少しは楽になったでしょ?」

 腰の辺りにそっと巻きつく腕が卑猥で、梨華の心境としては楽になるどころか
ますます羞恥心が高ぶっていった。

398 名前:妄想と赤い華には御用心 投稿日:2002年12月06日(金)03時35分48秒
「……あ、あのぉ、保田さん」
「なに?」
「ど、どうして今日はそんなに大胆なんですか? いつもはこんなに積極的じゃないのに……」
「そうかな?」
「そ、そうですよぉ。は、恥かしいじゃないですかぁ……」
「たまにはいいかな〜と思ったんだけど。イヤならやめるけど?」
「そんな……イヤじゃ……ない…で…す」
「じゃあ、これからずっとこうやって一緒に入ろっか?」
「えっ……あ、あの、その、えっとぉ……」
「どうするぅ〜?」
「えっと、その、つまり、なんていうか……」
「ちゃんと言わない娘にはお仕置」
「えっ、ひ、ひゃぁっ!!」

 心の準備が整っていない梨華を弄ぶように、圭の両手が梨華の柔らかい部分に触れる。
そして間髪入れずに、今度は首筋に圭の唇が絶妙のタッチで動き回る。
違う意味でのぼせそうになっていた梨華の理性が弾け飛び、なすがまま快楽へと昇りつめていく。

「保田さぁん……ダメで……すぅ…」
「……」
「やす……アアッ……ンハッ……ァァ……」



399 名前:妄想と赤い華には御用心 投稿日:2002年12月06日(金)03時43分48秒

……………
…………
………
……


「…やぁ……ダメですぅ……そんなトコ……アアッ……くぅ……」
「……華……ん。……梨……ちゃ……」
「ハァン……ダ、ダメェ……んはぁぁ……」
「梨……ちゃ……梨華ちゃん!」
「ンアアッ……あ、あれっ? よっすぃ……なんでここにいるの?」
「なんでって……ここは楽屋だよ?」
「へ? 楽屋???」

 梨華はぐるりと辺りを見渡す。
なぜか自分を取り囲むようにメンバーや裕子、真希などが揃っていた。
しかも全員が顔を真っ赤にしてしまっている。

「どうしてみんな顔が真っ赤なの?」

 梨華の不思議そうな質問に、圭織が苦し紛れに答えた。

「これ……聞けば判るよ……」

 そう言って近くに置いてあるCDラジカセの再生ボタンを押した。
400 名前:妄想と赤い華には御用心 投稿日:2002年12月06日(金)03時51分55秒


『…やぁ……ダメですぅ……そんなトコ……アアッ……くぅ……』
『ハァン……ダ、ダメェ……んはぁぁ……』


 「こ、これって……いやぁ〜〜っ!!」

 自分の淫らな声を聞いて一気に顔が火照る梨華。
そして堰を切ったように周りの人間が梨華を冷やかす。

「梨華ちゃんさぁ〜、どんなエッチな夢見てたんだよぉ?」(ひとみ)
「なんか、聞いてたこっちが恥かしくなっちゃったよぉ」(真希)
「梨華ちゃんのエッチぃ〜」(亜依)
「りかちゃんはよっきゅうふまんなのです」(希美)
「ごごごごめんなさい! 見てません、聞いてません」(愛)
「石川さん……不潔です」(里沙)
「私、石川さんのこと見損ないました」(あさ美)
「ぽっぽぉ〜、しゅぽぽぉ〜」(麻琴)

 皆、口々に言いたい放題騒ぎまくる。
更に大人連中からは過激な質問責めに会う羽目に……。
401 名前:妄想と赤い華には御用心 投稿日:2002年12月06日(金)04時01分18秒
「夢の中でどんな事されちゃったのさ?」(なつみ)
「相手は誰だよぉ? カッコよかったかぁ?」(圭織)
「気持ちよかったのかよぉ? 上手かったぁ?」(真里)
「○○○されて○○○されたんやろぉ? 詳しく知りたいなぁ〜」(裕子)
「「「裕ちゃん、いやらし過ぎ〜」」」
「ええやん別に、へるもんでもないしぃ。なぁ、石川」

 大人四人に揉みくちゃにされながら、梨華は夢の中でのお相手を務めた圭に縋ろうとする。

「保田さぁ〜ん、助けてくださいよぉ〜」

 そう言って縋ろうとしたが、あっさりとかわされる。

「なんで逃げるんですかぁ!?」
「だって……今の石川に近づいたら襲われそうなんだもん」

 その一言が引き金になり、その場にいた全員が身の危険を察した。
402 名前:妄想と赤い華には御用心 投稿日:2002年12月06日(金)04時05分44秒
 皆の視線が冷たいものへと変わっていく。
そして一斉に梨華の傍からジリジリと離れていく。

「なっ! もお、石川はそんなにエッチじゃないですよぉ!!」
「そんなに? ってことは少しはエッチなんだ」
「……」
「……」
「……」



 石川さんの苦悩の日々はこれからも続いていくのでした。


       〜FIN〜

403 名前:お報せ 投稿日:2002年12月06日(金)04時10分35秒
以上を持ちまして、このスレッドでの更新はお終いにします。
長きに渡り、読んでくださった読者の方々にお礼申し上げます。
では。
404 名前:ミス 投稿日:2002年12月06日(金)04時12分09秒
終わってから上げてしまいました。
ごめんなさい(ペコリ)
405 名前:名無し 投稿日:2002年12月06日(金)04時13分11秒
お疲れ!
406 名前:本庄 投稿日:2002年12月06日(金)12時24分24秒
ゆ、夢落ちっすか…(涙
梨華ちゃん…ごめんよう。
おいらが君の事を幸薄少女などと言ってしまったばかりにこんなキャラに…。

でも…そんなあなたが大好きさ(w
407 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月09日(月)01時13分07秒
「妄想と赤い華には御用心」笑わせて頂きますた(w
保田さん・・・夢の中ではあんなに(ry
なのに!なんてそっけないお言葉(w
うっぱさんの「薄幸梨華ちゃんシリーズ(勝手に命名」ハマらせて頂きました。

シリアスからギャグまで幅広い作風で、いつも感心させられてしまいます。
このスレッドはこれで打ち止めという事で、寂しくもありますが、
長い間楽しませて頂きました。どうもありがとうございました&お疲れ様でした
408 名前:お返事 投稿日:2002年12月18日(水)15時10分34秒
>本庄さん

「幸薄少女」というネーミングを頂いてから、テレビで彼女を見る度に、
「あ〜幸薄そうだなぁ〜」と思ってしまうほど、成長してくれまひた。
そういった点では感謝しておりまふ(笑)


>名無し読者さん

シリアスとギャグとのギャップの差が面白みを増したのではないかと
勝手に解釈しております。
たぶん、ギャグ一辺倒だとタイシタコトなかったと思いますね。
(読み返してみるとたいしたことない小話ばかりのような気もしますが……)

ご愛読ありがとうございまひた。
409 名前:大人な貴方と子供の私 投稿日:2003年01月06日(月)07時44分36秒
「今日お家に来て下さい。相談したい事があるんです」

 梨華は真面目な表情で圭に詰め寄った。その気迫に押されながら頷く事しかできない圭。
返事を聞いただけでそそくさと「一人で」帰ってしまった梨華を圭はしばし呆然と見つめていた。
隣で同じように呆気に取られていたなつみが目線を合わせることなく呟く。

「……どうしちゃったの、梨華ちゃんは? なんだかすごく思い詰めてたようだけど」
「さ、さあ? よくわかんないけど、時々ああなる事があるからね」
「ふぅ〜ん。相変わらず強い師弟関係で結ばれてんだね」
「そろそろ一人立ちしてもらいたいよ」
410 名前:大人な貴方と子供の私 投稿日:2003年01月06日(月)07時47分42秒
 梨華よりも一時間ほど遅くなって圭は梨華のマンションへ到着した。
応対に出た梨華は相変わらず思い詰めた様子だったが、一歩部屋へと通されてある事に気が付いた。
梨華の表情は変わらないのだが、着ている服が何やら妖しさを醸し出している。
真冬だというのに肌の露出度がかなり高い衣服を身にまとっていた。
それに比例するかのように、部屋中も妖しさ満点といった雰囲気を漂わせている。
まるでラブホテルのような部屋のムードに圭は段々と眩暈を覚え始めた。

「あ、あのさ、これって……」
「適当に座ってて下さい。今、お飲み物をお持ちしますから」

 そう言ってさっとキッチンへと消える梨華。
その拍子に短すぎるスカートが風で捲れ上がる。
すらりと伸びた太腿が視界に入り思わず圭は目を逸らした。

「座れって言われても……これ、どっから持ってきたのよ?」

 汚いものでも摘むようにクッションを持ち上げる。
ピンク色を基調としたドデカイハート型のラブラブクッションを脇に退けて、座るスペースを確保して座った。
どうも落ち着かない。理由は簡単だ。
部屋を照らすライトがピンクだったからで、妖艶な空間は否応無しに圭のテンションを狂わせていく。
411 名前:大人な貴方と子供の私 投稿日:2003年01月06日(月)07時51分16秒
「お待たせしました」

 トレイにワイングラスとワインを持って現れた梨華。
その立ち振る舞いは、銀座のクラブのホステスを思わせるほど妙にはまっていた。

「どうぞ」
「あ、ああ……どうも」

 固くなってぎこちなく対応する圭。一瞬、グラスの中の液体に見入る。
睡眠薬が混入されているかもしれないというマイナスの考えがよぎる。
が、目の前の梨華が部屋の雰囲気とはかけ離れた表情を未だにしていたことで、彼女の事を信じてあげることにした。

 一口飲んでグラスを置いて梨華を見ると、梨華は圭の顔を見つめていた。
熱い視線を受けて、改まって問いただす。

「で、相談って何?」
「保田さん」
「はい。なんでしょう?」
「抱いて下さいっ!」
「は?」
「エッチしましょう」
「いや、あの、真面目な顔して大胆な事言われても……」
「裸のお付き合いがしたいんです」
「だからさ、そう言う……」
「もう我慢できません。今日こそは保田さんと結ばれたいんです。愛の証が欲しいんです!!」
412 名前:大人な貴方と子供の私 投稿日:2003年01月06日(月)07時53分39秒
 そう言って徐々に圭に擦り寄って行く梨華。
バツの悪い事に窓際に座っていた圭は、逃げ場を失い、己の両腕で発情し出した梨華を食い止める。

「ち、ちょっと落ち着きなってば」
「抱いていただけないのなら、石川が抱いてあげます!」
「は? 何血迷ってんのよ? アタシは……」
「保田さん、石川が愛してあげます!」

 言い終る前に強引に圭を押し倒す梨華の目は暴走し出していた。

「ま、待って。コラッ、人の話を……」
「戴きますっ!」

 梨華が圭の唇を奪おうとした時、


   ♪♪〜、♪♪〜


 梨華の携帯が可愛らしいメロディを奏でた。
413 名前:大人な貴方と子供の私 投稿日:2003年01月06日(月)07時55分33秒
 すると梨華は一目散に携帯の元へ走り、有無を言わずに電源を切った。

「ちょっと、いいの? 誰からかかって来たか確認しなくて」
「いいんです。今は誰からかかってこようと関係ないんです。石川には保田さんしか見えてませんから」

 そう言って再び圭に詰めよる梨華。
呆気に取られて逃げるのを忘れていた圭は、再度貞操の危機を迎える。

「い、石川、待ってってば。ま、まだ心の準備って言うもんが……」
「言い逃れは通用しません。戴きますっ!」

 梨華の手が圭の衣服を捉えたとき、


   ♪♪〜、♪♪〜


 今度は圭の携帯が鳴り響く。
楽しそうなメロディを奏でる携帯に梨華は睨みを効かしたかと思うと、
また一目散に走り寄り、先ほどと同じように電源を切ってしまった。
414 名前:大人な貴方と子供の私 投稿日:2003年01月06日(月)07時57分37秒
「ああっ!何すんの」
「誰にも邪魔はさせません!」
「いいから話しを聞けっ!」
「全て終わってから聞きます」
「それじゃ意味ないでしょうがっ!」

 梨華が圭の身体に馬乗りになる。
両腕も封じ込められた圭はもう成す術がなかった。
もうダメだ……そう思ったとき、


 Pururururu、Pururururu……


 絶妙のタイミングで家の電話が鳴った。

「もお、誰よ。こんな夜遅くにっ!」
「今のうちに……グヘッ」

 梨華は圭が逃げないように、首根っこを掴んで引きずりながら受話器を取りに行く。

「は、離しなさいって。く、苦し……」
「ヤですっ!逃がしません!」
「息が……でき……な……」

 徐々に顔が真っ赤になる圭をよそに、梨華は乱暴に受話器を取ると、聞き覚えのある声が耳に届いた。
415 名前:大人な貴方と子供の私 投稿日:2003年01月06日(月)08時00分17秒
「もひもひぃ、りきゃひゃん?」
「よっすぃ、なに酔っ払ってんの? まだ未成年でしょ」
「あいかふぁらずましめらめぇ〜、えへへ〜、うぇっ」
「……酒にでも溺れちまえ〜っ!」

 バンッ!

 普段の梨華からは想像もつかないほど荒っぽい言葉遣いに圭は恐ろしさを覚えた。
既に目が血走って欲望しか頭の中にない“マッド石川”は、そのまま寝室へと圭を引きずって行く。

「これでもう邪魔者はいません(ニヤァ〜)」
「あ、あのさ、ちゃんと、話し合おうよ、ね」
「保田さん、覚悟ぉ!」
「は、早まるなぁっ!」
「唇、戴きますっ!」
「いしか……ん、ん〜」

(やったぁ保田さんの唇ゲットォ〜。後はこのまま保田さんの身体を……)

 そう思って服の下から手を入れようとしたとき、


ドンドンドン、ドンドンドン!!


 ドアを荒々しく叩く音。
416 名前:大人な貴方と子供の私 投稿日:2003年01月06日(月)08時03分37秒
 またもや愛の営みを邪魔された梨華は、完全に大魔神のような形相でドアへと進む。
もちろん、手には首根っこを掴まれて苦しそうにもがく圭が……。

「どなた!」
「オ〜イ、オレだぁ〜。ヒック……○○家のご主人様の、ヒック、ヒック……お帰りだぞぉ〜、ウィ〜」
「……アンタの家はもう一階上だろーがっ! 邪魔すっと東京湾に沈めんぞ、ボケェ!!」

バンッ!

 度重なる妨害にイラつき始める梨華。
頭から湯気が出そうなほど興奮していた梨華を見ていた圭は、冷静な態度で梨華に言った。

「石川、こっち来なさい」
「はい?」
「いいからこっちに来なさい」

 鳩が豆鉄砲を食らったような表情をする梨華の手を引き、ソファに座らせた。
梨華の隣りの腰掛けてそっと肩を抱く圭。
その行動に何がなんだか判らずされるがままの梨華。
やがて圭が諭すように話し始めた。
417 名前:大人な貴方と子供の私 投稿日:2003年01月06日(月)08時05分52秒
「あのね、気持ちは判らないでもないよ。好きな人に抱かれたい、っていうのは誰でも思うことだから。
 でもね、そういう時ってムードとか気持ちを高める副産物も必要なわけ。
 さっきまで石川が取ってた態度じゃいくらお互いが好きでも、誰だって嫌がるでしょ?
 無理矢理犯してるのと一緒でしょ?」

 正論であるが故に何も言えずに頷く梨華の目から涙が零れ落ちる。

「別に石川に抱かれるのが嫌なんじゃないの。
 石川のあたしを思ってくれてる気持ちが見えなくて、わかんなかったから拒んでたの。わかる?」
「はい……ご、ごめんなさい、変なことしてしまって」

 シュンとしている梨華の頭をそっと撫でてあげる。
その心地良さにくたっと圭の肩に頭を預ける。
418 名前:大人な貴方と子供の私 投稿日:2003年01月06日(月)08時07分44秒
「ホントはどうしたかったの? アタシにどうして欲しかったの?」
「えっ?」
「今ならお互いの気持ち、アタシが石川を思う気持ちと石川がアタシを思う気持ちがよくわかるから……」
「それって、その……」
「石川の気持ちはちゃんと伝わってるから、大丈夫」
「や、保田さぁ〜ん……」

 甘えるように圭の胸へと飛び込む梨華。
結局当初の目的は遠回り過ぎたが、無事達成された。

この日、梨華は心・技・体の全ての面で「一人の大人」へとステップアップした。


                       〜終わり〜
419 名前:予告 投稿日:2003年01月23日(木)01時17分31秒
今回はちょっと変わったお話。
辻さんが主役で、こういう風な設定も有り得る、かも
という感じで……。
420 名前:辻希美 へぇ〜んしんっ!! 投稿日:2003年01月23日(木)01時19分14秒
 最近、希美はよくもの思いに耽る事が多くなった。
学校でも仕事場でも楽屋でも、ほんのちょっとでも時間があれば
机の上に肘をついて遠くを見据える。
そんな仕草をよく亜依やひとみらに「飯田さんみたい」とからかわれたが、
等の本人は聞く耳を持たず、ひたすら考え事に没頭していた。

 今日も相変わらず壁の一点を見つめて考え事をしていると
真里が満面の笑みを添えて希美の隣にやって来た。

「おーい、なにボケ〜っとしてんだぁ? また食べ物の事でも考えてんのかぁ? 幸せ者だなぁ、辻は」
「……矢口さんこそ幸せ者ですよ」
「はあ? ちょっと頭、大丈夫?」
「辻はいつでも大丈夫です」
「……」

 ただならぬ希美の言動に恐れを感じた真里はそっと希美の元を離れていった。
421 名前:辻希美 へぇ〜んしんっ!! 投稿日:2003年01月23日(木)01時20分44秒
 そもそも希美がこのように変化したきっかけは、暇つぶしに見ていた教育番組だった。
『人は何の為に生きているのか』という哲学的なテーマだった。
いつもならそこでチャンネルを変えてしまう希美だったが、
その日はむしろ画面に食い入るように集中して見ていた。
何故なら自分とそれほど変わらない年代の子供たちが大人顔負けの理論を
己の持論でもって雄弁に語っていたからだ。

 希美はその時少なからずショックを受けた。
自分なりの根拠や理由づけができない事に悔しさを覚えた。
そして自分よりも大人の考えを持った子供に嫉妬していた。

 この日を境に希美は、「考える」ということを意識し始めた。
何事にもまず冷静になって考えてみて、自分なりの理屈を立て、
それを自分の言葉で説明できるように頑張ってみた。
しかし……それは難しい事だった。
簡単な事でもうまく表現できないことに、希美は初めて精神的な苦悩を味わう。

 そして悩みに悩んだ結果、希美はメンバーの中で成人している(表面上)三人に相談してみる事にした。
422 名前:辻希美 へぇ〜んしんっ!! 投稿日:2003年01月23日(木)01時24分01秒
 といってもまともな答えをくれるのは一人しかいないと希美もわかっていた。
案の定、平和主義であるなつみに聞いても、曖昧な返答しか戻ってこなかったし、
異空間への放浪癖(最近はないが)のある圭織に至っては、希美の変貌ぶりに驚き
心配されるだけで、何一つ得るものがなかった。
そして最後の頼みの綱、グループの中の最年長者である圭に全てを託した。

 圭の元へ歩み寄り、隣の椅子に畏まって座った。
そんな希美の突然の行動に、圭はゆっくりと視線を希美に移して問う。

「ん? なに?」
「あのぉ〜。ひとつ聞いてもいいですか?」
「アタシに? いいけど、変な事じゃないでしょね?」
「どうしたら大人になれますか?」
「へ? どうしたの、急に?」
「どうしたら本当の大人になれますかね?」
「辻は大人になりたいの?」
「はい。でも、大人って言っても、身体がとか見た目がとかじゃなくて、
 こうなんて言ったらいいのかわかんないですけど……」
「精神面で大人ってこと?」
「はい、そうです」
423 名前:辻希美 へぇ〜んしんっ!! 投稿日:2003年01月23日(木)01時26分45秒
「ん〜、そうだな〜。答えがこれって決まってるわけじゃないけど……
 物事をちゃんと考えて、その考えに責任が持てるようになったら大人なんじゃない?」
「考える、ですか?」
「そお。自分の考えや言動に責任が持てないと相手にも信用されないじゃない」
「はい」
「で、考えた事を相手に伝える為にはそれなりに知識も必要だし」
「それで本を読んでるんですか?」
「そういう訳じゃないけど、まあ知識が多ければ、色々と考えや知識も膨らむでしょ。
 そうすると更に相手にアピールし易くなるじゃない」
「はい」
「要は相手に認められるようになれば、ちゃんとした大人って訳よ」
「なるほど……」
「ホントにわかってる?」
「なんとなくですけど」
「まあ、とりあえずは考える事からはじめてみたら?」
「はいっ。辻も大人になるためにやってみます」

 この時から希美の中には大人と子供が同居するようになった。
学校の勉強以外にも本を読む事が多くなった。まるで誰かを見習うかのように……。
424 名前:辻希美 へぇ〜んしんっ!! 投稿日:2003年01月23日(木)01時33分33秒
 読書中の希美の横で笑談する梨華とひとみ、真里。
ふとひとみの視界に凛々しくなった希美が入った。

「おおっ、辻が珍しく本読んでる。どういう風の吹きまわしだぁ?」
「最近どうしたんだよぉ。いつものののらしくないぞ」
「そうだよ。もっと素敵で可愛いチャーミーとも遊んでよぉ。チャーミーさみしっ」
「梨華ちゃん……」
「なぁにぃ?」
「最近、自意識過剰過ぎるよ。もっと自分を弁えないと後でしっぺ返し食らうよ」
「(ガーン!)」
「それによっすぃもキャラ統一した方がよくない? さもないと自分を見失うかもよ」
「(ガーン!)」
「あははははっ。辻に説教されてるよ、ウハハハハ」

 しかしそんな真里にも……。

「矢口さん……」
「なに?」
「人は見かけで判断しない方がいいですよ。そうやって見かけで判断する人ほど
 相手からも見かけだけで判断されてしまいますから」
「(ガーン!)」

 一撃でノックアウトされる二人はフラフラとへたり込んでしまう。
425 名前:辻希美 へぇ〜んしんっ!! 投稿日:2003年01月23日(木)01時38分50秒
放心状態の三人の元に、圭が不思議そうな顔つきで入ってきた。
事の顛末を希美に聞いた圭は、思わず苦笑いをしてしまう。

「わ、笑ってる場合じゃないよ、圭ちゃん!!」
「そうですよ!! ののが変わったんですから」
「まあいいじゃないの。辻希美が変身する時が来たんだからさ」

 その一言を聞いて三人が一斉に圭に詰め寄る。

「「「よくないっ!」」」
「なんで?」
「こんなのののじゃないよ! おちゃらけたののを返してよ、圭ちゃん!」
「アタシ何もしてないってば」
「このままじゃオイラの立場ないじゃんかよ!どうしてくれんのさ」
「アタシに言われても……」
「これから先、ののに馬鹿にされ続けたら、責任とって下さいよ!」
「責任って……」

口々に言いたい事を圭にぶつける四人に歩み寄る一つの影。
それに気付いた圭と四人は息を殺して言葉を待った。
426 名前:訂正 投稿日:2003年01月23日(木)01時41分57秒
最後の二行を訂正

 口々に言いたい事を圭にぶつける三人に歩み寄る一つの影。
それに気付いた圭と三人は息を殺して言葉を待った。

失礼しまひた(ペコッ)



427 名前:辻希美 へぇ〜んしんっ!! 投稿日:2003年01月23日(木)01時45分35秒
 希美が三人の顔をまじまじと見つめた後、フッと薄ら笑いを浮かべて一言。

「矢口さんも梨華ちゃんもよっすぃも、まだまだ子供、ですね……」


「(ガーン! ピキッ、パラパラパラ……ヒュゥ〜)」


「ぶはっ!」

 圭が思わず噴き出した。
自分たちよりも年下のメンバーに子供扱いされた事にショックを隠しきれない三人。
この事件にノータッチだった他のメンバーも、部屋の隅でツボを得た希美の一言にこみ上げる笑いを押し堪えていた。

 結局この日、屋上で三人の女性が柵に持たれかかって、夕陽を眺めていた事は言うまでもない。



       〜おわり〜
428 名前:編集後記 投稿日:2003年01月23日(木)01時50分00秒
これで本当に終わりです。
とりあえず、スレッドの容量ギリギリまで小話を載せてきましたが、
いかがでしたでしょうか?
読んでいただいた方々、どうもありがとうございまひた。


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