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吉澤ひとみの冒涜
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時25分51秒
- 短編を書いていきます。
主人公は主によっすぃ〜になるはずです。
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時26分29秒
- 『モーニング娘。が多すぎる』
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時27分09秒
- わたしは大人数でわいわい騒ぐのが大好きだ。逆に一人でラジオ番組に出たり、プッチモニ三人だけで活動したりというのは、なんだか淋しいし落ち着かない。
しかし、メンバー増員で13人になるとは思ってもみなかった。つんくさん増やしすぎ。
13人ともなると、全員がそろうことはそう多くはないのだが、収拾がつかなくなることがある。飯田さんもリーダーとしてまとめていかなくてはいけないので、声も自然と大きくなる。胃が痛くなるのもわかるが、牛乳が飲みたいというのはよくわからない。
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時27分41秒
- レッスンには1時間前に行くのだが、すでに新メンバーの4人が自主練習を始めているときもある。すると4人がそれぞれ挨拶してくる。するほうもたいへんだが、されるほうも同じだ。全員がそろうころには挨拶に忙殺されるありさまだ。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時28分28秒
- レッスンが終わって、控え室に戻りくつろいでいると、左にごっちん、右に梨華ちゃんが座ってきた。二人が同時に「よっすぃ〜」と話しかけてきたので、どっちを向いたらいいかわからなかった。
「よっすぃ〜、ご飯食べに行こうよ」
「よっすぃ〜、お買い物につきあってくれる?」
同時遂行が不可能な難題をつきつけられた。体が2つない限りできない相談だ。
返事ができずにただ笑ってごまかしていると、辻と加護がやってきた。ここは2人にかきまわしてもらってうやむやにしてもらいたいところだ。
「よっすぃ〜、これから映画見にいこ」
「チケット3枚買ってあるよ」
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時29分15秒
- 難題がまた増えた。2人に悪い方向にかきまわされてしまった。左手をごっちんに、右手を梨華ちゃんにひっぱられ、背後から加護に首をしめられ、前方から辻に抱きつかれた。身動きできないところに、矢口さんと保田さんがやってきた。
「こらこら、何してんだ」
「吉澤がかわいそうだろ」
ようやく4人は解放してくれた。と、体が空いたところに矢口さんが飛び込んできた。
「よっすぃ〜、ラジオ聞いたよー。一人で淋しかったなんて、言ってくれればすぐに飛んでいったのに」
「矢口さん」
「ラジオでのしゃべりならまかせな、よっすぃ〜。じゃあ、これからコツを教えてあげるから、うちにおいでよ」
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時29分54秒
- これまた返事ができないでいると、保田さんが助け舟を出してくれた。
「おいおい、それじゃこの子たちと変わらないでしょ。吉澤、今度出るプッチの新曲のうち合わせやるから来なさい」
「圭ちゃんこそずるーい」
収拾がつかなくなってしまった。そこに飯田さんと安倍さんが何事かとやってきた。ここはオリジナルメンバーの2人にびしっと一発お願いしたい。
「吉澤ー、茶に行くぞ、茶」
「よっすぃ〜、いっしょにサウナ行こう」
2人に期待したのが間違っていた。8人がそれぞれ己を主張し始め、わたしはあっけにとられて見守ることしかできなかった。
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時30分30秒
- ふと新メンバー4人のことが気になった。4人は遠目でこちらのほうをうかがっているようだ。みっともないところを見られて恥ずかしくなった。その4人がゆっくりと近づいてきた。
「あのー、吉澤さん」
「新曲のダンス」
「練習するんですけれど」
「つきあっていただけますか」
わたしは目の前がまっくらになり、がっくりとうなだれた。12人の声が控え室に充満し、息苦しくなってきた。もうどうでもいいから早く帰して。
- 9 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時31分02秒
- やがて、どのくらい時が経ったのだろうか、飯田さんが大声をはりあげた。
「静かに! ちょっとひっかかることがあるんだけど」
「何、圭織、なんかあったの」
「ここで点呼取ります」
飯田さんから順番に番号を叫び始めた。
「1」
「2」
「3」
「4」
「5」
「6」
「7」
「8」
「9」
「10」
「11」
「12」
「13」
「14」
わたしの番号は14番だった。
- 10 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時31分53秒
- 「1人多い?」
「誰か2回言った?」
もう一度くり返しても、わたしは14番目に回ってきた。
「ええい、みんな、番号のあとに自分の名前言うこと。1、かおり」
「2、なっち」
「3、やすだ」
「4、まりー」
「5、ごとーだよ」
「6、りかでーす」
「7、ひとみ」
「8、のの」
「9、あい」
「10、まこと」
「11、あいです」
「12、りさです」
「13、あさみです」
「14、ええええええ?」
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時32分30秒
- わたしは7と答えた人物を指差した。辻が叫んだ。
「あれ、よっすぃ〜が2人いる!」
わたしは吉澤ひとみだ。目をつむって少し確認した。やはりわたしは吉澤ひとみだ。でも、目の前にいるあの子も、わたしだった。
「わたしは吉澤ひとみです」
もう1人のわたしも自己主張した。声もそっくり同じだった。
「えー、わたしだって吉澤ひとみだよ。なんとなくモーニング娘。になっちゃった吉澤ひとみだよ」
「わたしだって、日曜日早起きして『ガオレンジャー』見てる吉澤ひとみだよ」
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時33分08秒
- いくら主張しあっても、わたしたちは2人とも吉澤ひとみであることを譲らなかった。他の12人はしばらくあっけにとられていたが、ごっちんが向こうのわたしの腕をひっぱった。
「別にどうだっていいじゃん。さ、よっすぃ〜、ご飯食べに行こ」
ごっちんはもう1人のわたしをひきずりながら部屋を出ていった。そして梨華ちゃんがわたしの腕に手をまわした。
「そうだね。じゃあ、よっすぃ〜、お買い物に行こ」
わたしは梨華ちゃんにひっぱられて部屋を出た。この後、残りの10人が何を思い、何をしたのか、わたしには思いもよらないことである。
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時33分45秒
- 翌朝目が覚めて、しばらくふとんの中で考えた。どうやら悪い夢を見たらしい。わたしが2人いるなんて、冗談にもなりはしない。
レッスンに行くためタクシーに乗っていったが、折り悪く渋滞にまきこまれ、到着するのに時間がかかってしまった。こんなときのためいつも早めに出るのだが、今回はそれが幸いしてぎりぎり遅刻しないですんだ。
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時34分20秒
- 「おはよう」
元気いっぱいで控え室に入った。すると辻がいきなり抱きついてきた。
「どうした、ののー」
「待ってたのです。ここまで全部、みんなに先に取られてしまったのです」
辻が何を言ってるのか見当もつかず、辺りを見まわした。
みんなの隣に、わたしを含めて、わたしが12人いた。
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月23日(金)23時34分51秒
- おしまい
- 16 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月23日(金)23時35分28秒
- しばらく前に書いたものなので
- 17 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月23日(金)23時36分23秒
- 話題が古めなのは勘弁。
- 18 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月25日(日)00時22分25秒
- 前に「妄想」書かれてた方ですか?
相変わらずシュールで面白いです。
- 19 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月25日(日)16時12分55秒
- や、イイ感じ
あなたの作品好きだよ!!
- 20 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月26日(月)22時06分54秒
- 読んでくれる人がいるということは
たいへんありがたいことです。
- 21 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時07分31秒
- 『お葬式』
- 22 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時08分11秒
- その日はどんよりとした天気で、空は灰色だった。湿度はやたら高く、息苦しい。アスファルトの歩道はところどころひび割れし、歩きにくいことこのうえない。
「よっすぃ〜、ちょうどよかった。早く行こう」
ビルの自動ドアを通りぬけるとすぐにごっちんにつかまり、そのままタクシーに連れこまれた。
「ちょうどよかったって、何?」
「お葬式」
「誰の?」
- 23 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時09分00秒
- 最後の質問に、ごっちんは答えてくれなかった。タクシーはやがて狭い道を走り始め、民家の前で止まった。
「香典袋持ってきてないよ」
「……よっすぃ〜はいいよ」
「そういうわけにはいかないよ」
ごっちんから袋を奪うと、1万円札を足し、ごっちんの名前の横にわたしの名前をつけくわえた。受付の人に頭を下げて、香典を渡した。その人は辻だった。
- 24 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時09分41秒
- 「辻の知り合いの人なの?」
「……そうです」
辻は悲しそうな顔をした。でも辻に香典任せて大丈夫なんだろうか。そして加護が現れた。加護もこの葬式の手伝いをしているらしい。二人とも黒いスーツ姿で、しおらしい顔をしている。
加護に案内してもらった。床がみしみしと音をあげる。ごっちんもわたしも喪服じゃない。普段から用意しておくべきだった。
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時10分26秒
- ふすまを開けると、喪主らしき人、その家族、参列者が数人いた。みんな知っている人だった。
「南無妙法蓮華経……」
お坊さんがお経を唱えている。剃髪はしていないらしい。と思ったら保田さんだった。忙しい合間をぬって、いつのまにか得度してもらったのだろう。
参列者が次々とお焼香を続ける。安倍さんが腰をあげ、祭壇まで近寄るが足元があやしい。正座して足がしびれたらしくよろめいている。飯田さんがそれに続く。香をくべ、手を合わせるとき大きな音がした。拍手を打ってはいけない。
- 26 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時11分04秒
- ごっちんの焼香が終わり、わたしの番が回ってきた。正式なやり方がわからないので、ごっちんのやり方を見ておいた。同じように香をくべ、手を合わせた。そういえば誰が死んだのだろうと、祭壇に飾られている遺影を見た。わたしだった。
- 27 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時11分50秒
- 大声をあげそうになったが、場の雰囲気を考えてとどまった。見間違えかもしれないと写真を凝視した。頭に角が生えている。プッチモニのジャケ写真だ。もっとましなのはなかったのだろうか。ともかく写真はわたしだ。
みんなひどいことをする。陰湿ないじめじゃないか。ごっちんに続き遺族に挨拶をする。矢口さんと梨華ちゃんが喪主の役らしい。思い切りにらみつけた。
- 28 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時12分37秒
- 矢口さんも梨華ちゃんも、人目をはばからずにぼろぼろと涙を流していた。どうも演技とは思えない。二人の泣き顔は、醜かった。
「よっすぃ〜の顔を見てあげてください」
棺おけについている小さな扉をひらいた。それは紛うことなくわたしだった。顔色は青白く、目は半目だ。口も少し開きかげんで、顔の周りを小蝿がたかっている。
- 29 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時13分20秒
- 出棺のときがきた。梨華ちゃん、飯田さん、ごっちん、そしてわたしが棺おけを霊柩車まで運んだ。わたしの遺骸は重かった。
霊柩車はクラクションを何度かならし、発車した。わたしたちは用意されていたマイクロバスに乗り、町の葬儀場に向かった。車内は、矢口さんと梨華ちゃんの泣き声だけが響いた。ごっちんのほうを見ると、寝息を立てていた。
- 30 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時24分24秒
- がらんとした殺風景な部屋に通された。白いペンキを塗られた鉄の扉がいくつかついている。葬儀場の人がその扉を開いた。そしてわたしたちはそこに棺おけを押しこんだ。
しばらくして、棺おけが出てきた。ふたをあけると、白いかたまりが見えた。みんなで手分けして、骨を布の袋につめこんだ。わたしも一袋もらった。
わたしとごっちんは遺族に一礼すると、タクシーで帰った。
- 31 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時27分09秒
- 「ごっちん、あれ……わたし?」
「そうだよ。よっすぃ〜だよ」
「でもわたし生きてるよ」
「そうだね」
「どういうこと?」
「さあ」
- 32 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時27分52秒
- 「みんなが意地悪してわたしをいじめてるのか思った」
「よっすぃ〜をいじめるわけないじゃん。みんなよっすぃ〜のこと大好きだよ」
「わからない」
「あたしもわからない」
「わたしが二人いるってこと?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「ごっちん、わたしをよく見てよ。わたしは吉澤ひとみでしょ」
「うん、吉澤ひとみだよ。よっすぃ〜だよ。でも、それは他人に確認してもらってるだけだね」
- 33 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時28分54秒
- 「わたしは吉澤ひとみだよ」
「どうして自分は自分だって言い切れるのかなあ。鏡見て? 写真見て? どっちも不確かだね」
「じゃあ、心。わたしの心はわたしを吉澤ひとみだと確信しているよ」
「それもだめ。心が狂ってるとしたらどうする?」
「じゃあ、どうしたらいいの」
「どうもしなくていいと思うよ。よっすぃ〜はよっすぃ〜だよ」
- 34 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時29分26秒
- わたしは、小さな袋を握りしめた。空はあいかわらず曇ったままだった。
- 35 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月26日(月)22時37分09秒
- おしまい
- 36 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月26日(月)22時39分22秒
- ぴったりしたい
- 37 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月26日(月)22時39分56秒
- まったりしたい
- 38 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月26日(月)23時19分30秒
- 短編大王
- 39 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時13分32秒
- 『ガラス』
- 40 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時14分19秒
- 久々に保田さんのお説教を食らった後、さっさと家に帰ろうとして楽屋を飛び出したら、何かを蹴飛ばしてしまった。それは数メートル先まで床をすべっていった。
拾い上げてみると、薄いガラスの板だった。長さ5センチ、幅2センチくらい。昔どこかで見たことがあるが思い出せず、何気なくポケットに入れて持って帰ってしまった。
- 41 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時15分15秒
- ☆
辻に相談を持ちかけられたのは、昼前のことだった。他のメンバーはまだ来ていない。
「悩みがあるのです」
多感な時期だから悩みを抱えているのは当然だ。わたしもごっちんも、のほほんとしているように見えるだろうが、実は人知れず苦悩しているのだ。辻も加護もそうだ。ただ梨華ちゃんみたいにそれを顔に出さないだけだ。
そして、その悩みというのは、根っこのところでは一緒だ。つまり、自分って何なのだろう、他人とどう違うのだろうということなのだ。
- 42 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時16分19秒
- 「最近また体が大きくなってしまったのです」
辻のセールスポイントは小さな体に秘める大きなパワーだ。加護と一緒に暴れまわっているが誰もがそれを微笑ましく感じている。それが二人の魅力だからだ。その魅力は、小さな体に根ざしている。例えばわたしや飯田さんが同じように暴れまわったら、周りはまゆをひそめることだろう。
だから辻の悩みは深刻といえばそうである。わたしもまだ背が伸びつづけているが、わたしは他のメンバーより背が高めというのがキャラの一つなので問題はない。しかし、辻の背が大きくなったらミニモニ。を続けることも困難になる。何より今までのキャラがそぐわなくなる。
- 43 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時17分10秒
- 「横に大きくなるだけだったらダイエットしようがあるんだけど、縦に伸びるは止められないのです」
辻も成長期にある。これを止めようとすることは体に良いわけがない。だがそれでは今まで辻が培ってきたキャラを捨てなくてはならない。
- 44 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時17分50秒
- 「どうしよう、よっすぃ〜」
特に辻は自分のキャラを、ミニモニ。でいることを気に入っている。ところが人生の岐路に立たされてしまったのだ。
しかし、わたしに何ができるというのだろう。何かホルモン注射みたいなものを打ってみろと言えるだろうか。ミニモニ。でいることをあきらめろと言えるだろうか。
言えはしない。言えるのは事務所か、あるいは。いずれにせよ言うだけであって、決めるのは辻本人だ。
- 45 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時18分20秒
- 「おはよう」
飯田さんが入ってきた。辻ははっとした顔つきになり、だがすぐにその表情は消えた。
「吉澤、廊下で後藤が呼んでるよ」
わたしはそそくさとその場から消えた。
- 46 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時19分11秒
- ☆
帰り道、わたしは結果的に辻に冷たくしてしまったことを後悔していた。たとえ気休めにしかすぎなくても、なんらかの慰めの言葉すらかけてやることができなかった。
まず、わたしたちは「モーニング娘。」であることが重要なのだ。ミニモニ。は派生ユニットに過ぎない。娘。でいられることをまず考えなければならない。
- 47 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時19分49秒
- はて、わたしはそこまで娘。に執着しているのだろうかと問い直すと、そうだと断言できる自信はない。それがわたしのキャラだから。
だいたい娘。が永遠に続くという保証はどこにもない。永遠に、ということはまずありえないし、もしかしたら明日にでもなくなってしまうかもしれない。
だから、今、娘。であることを噛みしめるべきだと思う。喜びをもってか、苦渋をもってかは人それぞれにしても。
- 48 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時20分33秒
- ☆
家に着いてから、ポケットにしまっていたガラス片のことを思い出した。取り出してまじまじと観察してみる。よくみると、中央にわずかな点があり、それにかぶさるように薄い正方形の膜が貼ってある。
そうだ。理科の時間で見たことがある。顕微鏡で目に見えないような小さな物を見るときに使うガラスだ。名前は忘れた。
- 49 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時21分24秒
- 早速弟が入学祝にもらった顕微鏡(本人はゲームがほしかったらしい)を押入れの奥から取り出した。
光は机の蛍光灯でじゅうぶんのようだ。下の鏡を動かして明るくする。ガラスをピンで押さえ、点を中央にくるようにした。筒の先からのぞきこむとピントがあっていない。横の丸いネジを回してピントを合わせた。
- 50 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時22分04秒
- まだ少し小さいのでレボルバーを回転して一番大きく拡大するレンズを選んだ。もう一度ピントを調整する。
ガラスについた小さなほこりが黒く映っている。これではない。のぞきこみながらガラスを左右上下に動かしてみた。一瞬何かが映ったが通りすぎてしまったので、逆方向に少しずつガラスを動かし続けた。見えた。
- 51 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時22分37秒
- スニーカー、赤い靴下、チェックのスカート、だぶだぶのトレーナー……縛った髪……太めの足……。
- 52 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時23分15秒
- わたしは顔を上げて顕微鏡をのぞくをやめた。机のスイッチを押して蛍光灯を消した。わたしは混乱した。
顕微鏡に映ったものは。
あれは本物なのか。
誰があんなふうにしてしまったのか。
そんなことができるのか。
- 53 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時23分55秒
- 再び顕微鏡をのぞくことなんてもうできそうになかった。わたしはガラスをピンにはさんだまま、顕微鏡を箱にしまい、押入れの奥にしまった。
- 54 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時24分40秒
- そのままベッドに入り、ふとんを頭からかぶった。
もしあれがよくできたおもちゃなら問題はない。
もしあれが本物だったら。
辻は永遠に小さいままだ。
それはそれで良いのかもしれない。
わたしは目を閉じ、眠ることにした。ほっといても明日はくるのだ。それまで、良い夢か悪夢かわからないが、しばしの夢に身をまかせることにしよう。
- 55 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月30日(金)00時25分11秒
- おしまい
- 56 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月30日(金)00時25分44秒
- 目が覚めるまで
- 57 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月30日(金)00時26分16秒
- おやすみなさい
- 58 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月04日(火)23時09分25秒
- ( ^▽^)<もうネタ切れです
- 59 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時01分37秒
- 『欠片』
- 60 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時02分16秒
- 部屋の明りが鈍く反射しているそのグラスは、重力に逆らうことなく床に向かって突き進んだ。床は優しく受け止めることに失敗した。グラスは耳ざわりな音をたてて、いくつかのガラスの欠片に成り下がった。
- 61 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時03分04秒
- 割れたグラスは、もはやグラスではない。
- 62 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時03分35秒
- 誰もいない部屋で、辻はグラスを落として割った。誤ってグラスを落としたのではない。わたしはその場面を思いがけなく目撃したのだが、こういう辻をみかけるのは何度目だろうか。辻がこんなことをするのは、何か後悔するようなことをしてしまったときだ。
わたしはゆっくりと辻に近づき、肩をたたいた。辻はぎくりと肩を振るわせ、顔を向けた。案の定その顔は暗い。
- 63 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時04分18秒
- 「どうした、のの?」
辻はわたしの手を肩から払いのけて、逃げるように窓のほうにに向かった。ガラスの窓を左手でコツコツと何度か小突き、一度振りかえり、また窓の向こうの夕焼けに見入り始めた。
わたしは辻の隣に並び、いっしょに夕焼けを見つめた。夕焼けはオレンジ色の光を注ぎ、わたしと辻を赤く染めた。
- 64 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時04分52秒
- 「無理に話すことはない……なんて言わないよ。また加護とケンカしたのかな?」
辻は口を開け、そのまま固まった。図星のようだ。
「よっすぃ〜は魔法使いですか?」
「知らなかった?」
- 65 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時05分22秒
- ようやくそれだけを辻は口にした。辻の様子がおかしいときは、お菓子を食べ損ねたときか、加護とけんかしたときだ。夏先生にしかられたくらいでは辻はへこまない。
けんかの内容は様々だ。たいていは取るに足りないことばかり。周りの人間はそれを不思議に思うこともある。だがわたしはそうは思わない。どんなに些細なことだろうと、それは本人たちにとっては自分の世界の一部だから。ただ辻や加護は、他のメンバーよりその世界がいくぶん小さいだけなのだ。
- 66 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時05分53秒
- 「あいぼんとケンカしたんです」
辻の話をまとめると次のようになるらしい。二人はダンスレッスン終了後、こっそり抜け出してビルの屋上で遊んでいた。そこでミニモニ。のあり方について口論となり、辻は加護を突き飛ばして走り去った。
「もうあいぼんと友達ではいられないのです」
- 67 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時06分26秒
- わたしは、そのミニモニ。のあり方について二人がいったいどのような議論を交わしたのかが気になったが、辻の両目から頬に伝う液体を見ると、まず慰めることが必要だと判断した。
「そんなわけないよ。大丈夫だよ」
辻は頭を振った。
「だめなんです。このグラスみたいに壊れてしまったのです」
- 68 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時06分58秒
- わたしは辻の両肩にそっと手をそえた。辻は振り払おうとじたばたしたが、すぐにおとなしくなった。
「人はグラスとは違うよ。壊れてもまた直すことができるんだから」
そう言いながらもわたしは、自分と中澤さんの関係のことを思い出した。壊すことも直すこともできない関係。もともと存在しないものをどうこうするこはできない。
- 69 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時07分32秒
- 「だから、加護と仲直りしようよ」
偉そうに辻に何かを言える立場ではないのは承知している。だが、それはひとまず留保する。わたしと中澤さんの間のことはともかく、辻と加護は仲良くなければならない。それはまったく根拠がないが、それでもそうでなければならないとわたしは思う。
- 70 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時08分10秒
- 辻は意を決したかのように、わたしの手を引っ張りながら駆け出した。非常階段を駆け下り、ビルの裏側に回った。
「よっすぃ〜は魔法使いだから、あいぼんを直せるはずです」
辻は灰色のアスファルトを指差した。指先には壊れたそれがあった。それは夕陽に照らされ、真っ赤に映えていた。
- 71 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時08分44秒
- 壊れたグラスは、もう一度煮えたぎる窯に放りこめば再生が可能だ。ただ、そうやってできたグラスは、果たして元のグラスと同じだと言えるのだろうか。壊れたものが直ったからといって、以前と変わらないことがあるのだろうか。
わたしには、すでにこれから壊れてしまうかもしれないものをたくさん持っている。これ以上、そんなものを増やす必要があるのだろうか。そう思うと、中澤さんとの関係も悪いものではない。
- 72 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月10日(月)22時09分26秒
- 辻がわたしの袖を引っ張った。わたしは適当に呪文を唱えてみたが、壊れた彼女はもう元には戻らなかった。
- 73 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月10日(月)22時09分57秒
- HEY!^3見逃した
- 74 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月10日(月)22時10分28秒
- 激しく鬱
- 75 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月10日(月)22時11分00秒
- 「おしまい」って入れるの忘れた
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月11日(火)00時39分56秒
- あいかわらず、独特の雰囲気がいいですね。
次も期待してます。
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月14日(金)21時32分53秒
- >>76
サンクス
- 78 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時33分29秒
- 『時をかけた少女』
- 79 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時34分01秒
- コンサートも佳境に入っていた。
歌っているときは無我夢中である。会場の観衆の声援に応えて、笑顔で手を振ったりするのもほとんど条件反射になっていた。
「よっすぃ〜」と声をかけられるのは嬉しいが、すべての声に応えていては身が持たない。わたしの場合、大きな破綻もなく終わらせることだけで手一杯だった。
- 80 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時34分33秒
- 時間とは何か。ふと考えるときがある。時間は決して一様に流れたりはしない。これは確固たる根拠があるわけではなく、ただの感覚だけの話である。地球が太陽を一周する時間を1年としたり、何やらとかいう物質の何かの振動を基準にしたりと、いろいろ時間を決めてあるそうだが、それは違うと思う。時の流れかたは時計屋が決めるのではない
- 81 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時35分08秒
- 何かに夢中で取り組んでいるときは、時間があっという間にたってしまう。逆につまらないことをいやいややっているときはひどく長い。その感覚は一人一人違うはずだ。
コンサートのときは長いとき、短いときの両方がある。体調が優れないときは長い。ノっているときは短い。今日はどっちなんだろうか。
- 82 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時35分40秒
- 最後の歌が始まった。無我夢中である。が、今日はなんだかいつもと違う。体は激しく動いているが、周りの様子がはっきりとわかる。耳からはいってくる音曲は次第に小さくなり、かわりにノイズ音が鳴り出した。目に映る光景は液体のようにくねり始め、カラーバーが時折挿入されるようになった。
- 83 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時37分03秒
- しかし歌うこと、踊ることを投げ出すわけにはいかない。やがてノイズ音がしなくなり、音楽が元に戻り始めた。ただテンポが遅くなってきた。それに合わせて、メンバーの動きも緩慢になってきた。観衆の合いの手も不快なくらいゆっくりだ。
梨華ちゃんの「ほいっ」が「ほおおおおおおいいいいいいいぃぃぃぃぃ」に聞こえた。右手が直角に曲がり、喉元に来たあたりでそれは止まった。他のメンバーも思い思いのポーズで止まっていた。どこかの山奥の美術館に放置されていそうなオブジェだ。
- 84 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時38分25秒
- すべてが止まっていた。しかし、時間は個々にそれぞれに流れるのだ。他のいろんな人たちの時が止まっても、わたしの時は流れたまま
だった。
わたしは静まりかえった舞台の上で、しばらくマイクをいじっていた。マイクを会場の席に向けて投げた。マイクは法被を着た男の頭に
跳ね返って、どこかに消えた。
- 85 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時39分09秒
- 上を見上げる。ライトはわたしたちを照らしたままだ。電気が流れているのだろうか。それとも、電気が通った状態でライトの時が止まったのだろうか。どうでもいいことだった。そのライトの光をよく見ると、微細なちりがうごめいている。とすると、空気の時は動いているらしい。それもどうでもいいことだ。
- 86 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時40分03秒
- 舞台の袖に行って、スタッフや事務所の人間の時が止まっていることを確認すると、ステージに戻った。腕組をして考えた。
まず考えたのは将来のことである。未来の結婚相手の時も止まっているのだろうか。止まっていたらクリスマスでぴったりできない。このまま自分だけ年をとってしまうのだろうか。その前に何か食べなければいけないだろう。でも食欲はわいてこない。頭はぼんやりしているが、体のほうはこの異常事態に戸惑っているのかもしれない。
- 87 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時40分33秒
- しかしモーニング娘。の存在自体が異常事態なのだから、戸惑っても仕方がない。どうにかなるだろう。今までもどうにかなってきた。
サンタさんだか神様だかがいると仮定しよう。そうすると、わたしだけ時が動いているということは、何か意味が与えられていることになる。ではその意味を考えよう。
- 88 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時41分24秒
- 時の流れは人それぞれに異なることはもう確認した。時間こそが自分と他人を区別する唯一の指標なのかもしれない。だが、この瞬間、わたしだけの時間が流れている。他の人たちは没個性に時を止めてしまっている。
これはゆゆしき問題である。わたしの存在は、わたしの時が流れていることではっきりしている。ところが、飯田さんも、安倍さんも、他のメンバーも、スタッフも、ファンの人も、みんな時を止められ、ただのモノと化してしまっている。神様はひどいことをする。
- 89 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時41分56秒
- ではわたしに与えられた使命は、神の意志に抗うことにある。ではそうすることにしよう。
どうするか。簡単である。みんなの存在を確かめればいい。それだけで試練を与えた神様はカンカンである。
- 90 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時42分41秒
- まずはメンバーの存在を確認していこう。スタッフがその次。遺憾ながら会場のお客さんは後回しになる。中にはあまりさわりたくないような人もいるようだが、それは妥協する。
「ほいっ」のポーズのまま止まってしまった梨華ちゃんの顔を覗き込んだ。あごが少ししゃくれている。梨華ちゃんだ。むき出しのお腹に両手をあてた。うらやましいくらい細い。そのまま両手を上にずらしていく。障害物にぶつかって止まる。これまたふくよかでうらやましい。いいなあ
- 91 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時43分27秒
- 次は飯田さん。相変わらずおみ足が素晴らしい。わたしはバレーボールやってたせいか筋肉質である。飯田さんは女性のしなやかさが表れている。確かにこの物体は飯田さんである。
ひとしきり太ももを撫でた後、保田さんの横を通り抜けて矢口さんのところに行った。小さくてかわいらしい。一度頭を撫でてから、両腕に抱えるようにして持ち上げた。この軽さはやはり矢口さんである。確認終了。
- 92 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時44分06秒
- さて、真打のごっちんである。くちびるをつまむ。いつものあひる口。鼻をつまむ。大きめの鼻。意を決して胸に手をやった。大きさと硬さを確認する。間違いない。ごっちんである。
もう少し念入りに調べてみよう。時の止まったごっちんはまるでマネキン人形のようだった。ふくらはぎや太ももが柔らかくて気持ちいい。
- 93 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時45分04秒
- ああ。時が止まった原因はわからない。ただ時間が止まったという事実だけがわたしには重要だったのだ。しかし神様が与えた試練というのは、個々の存在の有無にとどまらなかった。わたしはそれに気がついていなかった。今度はわたしの存在にかかわる問題が生じようとしていたとは。
時間がわけもなく止まる。それならば時間がわけもなく再び動き始めることだってあるのだ。
- 94 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時45分37秒
- 「いっ!」
梨華ちゃんの間の抜けた高音が響いた。
- 95 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時46分16秒
- 他のみんなの時間が流れ始めたのは、わたしがごっちんのスカートをめくって中をのぞいている時だった。
- 96 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月14日(金)21時46分48秒
- おしまい
- 97 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月14日(金)21時47分18秒
- 飛行機〜
- 98 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月14日(金)21時49分20秒
- ナカザワ?
- 99 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月15日(土)21時46分37秒
( `.∀´)ナンナノナニヨ
- 100 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月16日(日)13時52分23秒
- 吉澤いいなあ〜、最後のオチで最高に笑った。
- 101 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月17日(月)19時54分08秒
- >>100
100GETうらやますぃ
- 102 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)19時54分38秒
- 『悪夢』
- 103 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)19時55分20秒
- アイドルに休みはない。売れる期間が他の職業と比べて短いので、商品価値があるうちにできるだけ売らなければならないからだ。
必然的に睡眠時間を売らなければならなくなる。労働基準法は商売の論理の前に有名無実である。いずれ売れなくなれば、いくらでも眠ることができるのだから。
さて、年末はかきいれ時だから文字通り眠る暇がない。眠らなければどうなるか。
- 104 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)19時55分51秒
- 楽屋に入ろうとすると、ドアの前で梨華ちゃんが所在なく立っている。
「どうしたの、梨華ちゃん」
梨華ちゃんは「よっすぃ〜」と力なく返事をした。以下のやりとりは台本ではないことを断っておく。
「人間って、悲しいね……」
- 105 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)19時56分22秒
- 「どうしたんだよ、梨華ちゃん」
「目にクマができちゃったの」
振り向いた梨華ちゃんの目の下には、墨で塗ったかのような立派なクマがあった。梨華ちゃんはボロボロと大粒の涙を流し始めた。目薬ではない。
- 106 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)19時56分56秒
- 「僕にはわかる」という人物は現れなかった。わたしは梨華ちゃんの手を握った。
「しょうがないよ、ほとんど寝てないんだから。化粧でなんとかなるから、楽屋に行こ」
「いや、わたし帰る」とごねて頬を張り倒される展開にはならなかった。梨華ちゃんは抵抗することなくわたしと一緒に楽屋に入った。
なんとなくだが、おかしいと感じた。梨華ちゃんはすべてを語っていない。そこで収録が終わった後、いろんなテクニックを駆使して梨華ちゃんの秘密を聞き出した。
- 107 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)19時57分29秒
- 梨華ちゃんが寝てないのは、忙しいだけではない。眠るのが怖いからだという。悪夢を見るからというのだった。
「どんな夢なの?」
「わからない。覚えてない。だけど朝起きると全身が汗でぐっしょり濡れてるの」
- 108 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)19時58分00秒
- 高いところから墜落する夢。
猛獣に食べられる夢。
太ってスカートが入らない夢。
自動小銃で撃たれる夢。
飯田さんに説教される夢。
とぅんくさんが金の総入れ歯をする夢。
チョコレートの銀紙を噛みしめる夢。
ひとりぼっちで無人島にいる夢。
- 109 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)19時58分30秒
- わたしも今までいろんな夢を見てきたが、寝汗にまみれるほどの悪夢を見たことはない。
わたしにできることは、梨華ちゃんを慰め、励ますことしかない。
「大丈夫、梨華ちゃん。どんな夢かわからないけれど、その時は助けを呼んで。絶対助けるから」
なんだか幼稚園児をあやすような慰め方だったが、梨華ちゃんの精紳年齢がそれに近かったらしく、梨華ちゃんは「うん、がんばる」と言った。
- 110 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)19時59分14秒
- さて、その晩のことである。わたしは布団をかぶると簡単に眠りに落ちた。そして夢を見た。いや、夢じゃないのかも知れないが、確かめる術はない。
梨華ちゃんが得体の知れないものに追いかけられていた。それは得体の知れないものとしか言いようがない。それを言葉で表現しようとするとその姿形を変えてしまうのだ。
- 111 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)19時59分44秒
- 梨華ちゃんは必死で逃げるが、まもなく怪物に追いつかれそうだ。梨華ちゃんが叫んだ。
「よっすぃ〜、助けて!」
これは夢なのだろうか。誰の夢なのだろうか。
- 112 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)20時00分18秒
- わたしは梨華ちゃんの声を聞いて駆け出した。すぐに追いつかなければ怪物にどうにかされてしまうはずなのだが、なかなかたどり着かない。砂漠を走り、湖を泳ぎ、富士山の7合目まで登り、ベーグルを頬ばり、枕投げで遊び、腹筋をしてからようやく追いついた。
梨華ちゃんは断崖絶壁に追いつめられていた。怪物は多分口らしいものを開いた。わたしはどうしたらいいかわからなかったが、とりあえず怪物を殴ってみた。
夢の中では不可能なことなどないのだろう。怪物はどこかに消えてしまった。梨華ちゃんはわたしの手を握って「ありがとう」と言った。
- 113 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)20時00分49秒
- 目覚し時計が鳴った。覚えているのはここまでだった。この夢には、前後か、あるいは途中省かれている部分があるかもしれない。だが覚えているのはこれだけだった。
スタジオに行くと梨華ちゃんに会った。目の下のクマはきれいに取れていた。梨華ちゃんはわたしの手を握って「ありがとう」と言った。わたしは何も知らないふりをした。いや、実際に知らないのかもしれない。
- 114 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)20時01分21秒
- この翌日から、家を出るのが今までより遅くなった。目の下のクマを化粧でごまかすのに時間がかかるからである。どんな夢を見ているのか覚えていないが、朝起きると寝汗で布団が湿っている。
だが、わたしには「人間って悲しいね」などと口走ることはできない。多分、助けを呼んでも来てくれる人はいない。それがわたしなのだから。
- 115 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月17日(月)20時01分59秒
- おしまい
- 116 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月17日(月)20時02分29秒
- もーいーくつねーるーとー
- 117 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月17日(月)20時03分00秒
- おーしょおーがーつー
- 118 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時28分35秒
- 『疾走』
- 119 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時29分09秒
- 楽屋に入るとめまいがした。
みんな新聞と赤鉛筆を手にして何やら談笑していた。
辻と加護は地べたに新聞を広げ、何か数字を書いている。矢口さんは電卓で何かを計算している。ごっちんはサイコロを転がしている。梨華ちゃんは雑誌と新聞を見比べている。
- 120 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時29分44秒
- 「みんな、何してるの?」
「研究だよ、明日のための」
「明日?」
「明日は有馬記念だよ」
- 121 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時30分18秒
- どうやら競馬の話らしい。わたしは興味がないのでヘッドホンでMDの電源を入れた。目をつむって聞いていると、気配を感じた。
目を開けると、梨華ちゃんがのぞきこんでいた。
「有馬記念、やらないの?」
「やらない」
「どうして?」
「未成年は競馬しちゃいけないんだよ」
- 122 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時30分52秒
- 「固いよ、よっすぃ〜。明日はみんなで競馬場行くんだよ」
「わたしはいいよ」
「行こうよ」
「行かない」
「行こう」
「行かない」
「ばかっ」
というわけで、しぶしぶついて行くことになった。
- 123 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時31分32秒
- 満員電車に揺られて気分が悪くなった。人ごみも激しく移動もままならない。
「人が多いからね、早めに馬券買おう」
矢口さんの意見に従って窓口に並んだ。自分の番が着て、何を買ったらいいかわからなかったので、枠番連勝とかいうので2−3を500円買った。
- 124 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時31分55秒
- 梨華ちゃんに手をひっぱられて、人ごみをくぐりぬけた。気がつくと、目の前には大きな画面のついた建造物の前にいた。
「大きいテレビだね」
「ターフビジョンって言うんだよ」
「もうなんとか記念が始まるの?」
「有馬記念。その一つ前のレースだよ」
- 125 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時32分30秒
- わたしは偽善というものが嫌いである。
- 126 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時33分08秒
- やかましい音楽が流れた。人工密度がさらに増えた。なんとかビジョンに馬と人の群れが映った。ガタンと音がして、馬が走り出した。無機質な実況放送が流れ始めた。
歓声が大きくなってきた。馬が芝生を蹴り散らしながらコーナーを回った。
枯れ木が折れる音がした。
歓声は続いた。画面は馬が首を伸ばしてゴールする様を映していた。
- 127 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時34分08秒
- わたしは前を向いた。立ちすくむ人間と、足を上げて飛び跳ねる馬がいた。その前足は不自然な方向に曲がっていた。
「かわいそう」
梨華ちゃんが泣き出しそうな声をあげた。
「どうしたの?」
「足の骨が折れちゃったんだよ」
矢口さんが無表情だが、厳しい声で答えた。
- 128 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時34分34秒
- 車が来て、馬を乗せてどこかに消えた。梨華ちゃんは目に涙を溜めていた。
偽善だ。偽善か?
- 129 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時35分05秒
- 確かに馬はかわいそうだ。しかしそれは骨折以前の問題だ。人間の欲望のためだけに生を受け、走らされる。そんな存在に過ぎないからかわいそうなのだ。
それを忘れ、ケガをしたときだけ同情を与えるのは偽善だ。
- 130 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時35分36秒
- そうなのか?
梨華ちゃん、ごっちん、矢口さん、辻、加護、そしてわたし。
梨華ちゃんの涙、矢口さんの苦渋は偽善なのか?
- 131 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時36分30秒
- わたしたちはどうなのだろうか。人間の欲望の末に生まれた「モーニング娘。」として、わたしたちは芝生を走り回る馬とどこが違うのだろうか?
わたしたちが骨折したり、晴れやかな舞台から消えるとき、涙を流してくれる人がいるのだろうか?
- 132 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時37分01秒
- 骨折してのたうちまわったあの馬は、わたしたちの未来の姿なのだ。
ならば、涙は偽善ではない。
わたしは頬を伝う涙をぬぐった。
- 133 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)01時37分37秒
- おしまい
- 134 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月25日(火)01時38分30秒
- 金曜に書いて
オチも何もないので
載せるのやめようと思っていたのですが
- 135 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月25日(火)01時39分22秒
- 「HEY!^3」見て
気が変わりました
- 136 名前:flow 投稿日:2001年12月25日(火)18時43分45秒
- 不思議な世界観が好きです。
いつもいつも、不思議ワールドに引き込まれて、不思議な感覚で幕を閉じる……
次回作も、楽しみにしています。
- 137 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月26日(水)20時37分36秒
- >>136
うれしいです
- 138 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時38分08秒
- 『普通の女の子』
- 139 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時38分42秒
- 飯田さんはリーダーである。だから説教をする立場にある。
「いい、吉澤。ふくろうは……」
ふくろうは黄昏に飛び立つんですよ、飯田さん。
いつもは従順なわたしでも、今回ばかりは抗わなければならない。いつもは周りの雰囲気に流されるわたしでも、今回ばかりは自分を主張しなければならない。
- 140 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時39分18秒
- 「でもね、飯田さん……」
ギロリと見つめられた。にらまれるのはどうということはないのだが、飯田さんの場合目の焦点が自分に合っていないのがちょっと恐い。
普段ならある程度叱られた後、保田さんや矢口さんあたりが「まあまあ」ととりなしてくれることが多いのだが、今回は違う。二人とも、いや、ごっちんも梨華ちゃんも年少組も、援護を期待することはできない。
- 141 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時39分51秒
- 孤立無援に陥ったとき、人はどのような行動をとるのだろうか。どこかで妥協するべきなのだろうが、この件についてはありえない。
「だいたい、みんなおかしいですよ」
「おかしいのはよっすぃ〜だよ」
「そうそう。突然奇声をあげて走り出すし」
「そういうおかしいじゃなくて」
- 142 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時40分45秒
- 今まで黙っていた安倍さんが口を開いた。
「よっすぃ〜は芸能人としての覚悟が足りないと思うよ」
痛いところをつかれた。でも、中学生なら修学旅行に行きたいと思うのが普通ではないか。高校に行ってもいいじゃないか。
待て。論点がずれた。今度の問題は学校云々の問題ではない。わたしのアイデンティティにかかわることなのだ。
- 143 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時41分16秒
- 「芸能人としてだけじゃなく、モーニング娘。としての自覚も足りないね」
自分でも、血の気が引いていくのがわかった。
いいです、紅白は12人で出てくださいと言えない自分が悲しい。深く考えたことはないが、わたしは娘。でいることにそれほど執着していないのかもしれない。ただ、この場の雰囲気では一人足を洗うことは許されなさそうだった。
- 144 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時41分47秒
- 「いい、吉澤。黙って聞きなさい……」
飯田さんの目にはうっすら涙が光っていた。この涙は、聞き分けのないわたしのせいなのだろうか?
「モーニング娘。が他の芸能人と違うのは……」
違う、そんなんじゃない。みんなも心の奥底では気がついているのだ。何かおかしいと感じているはずなのだ。
- 145 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時42分22秒
- 「極上の美人というわけでもない、万人を震わせる歌声を持っているのでも……」
では、なぜ、みんなは抵抗しようとしないのか。唯々諾々と従っているのか。
「どこにでもいる普通の女の子たちが、ステージの上では一変して……」
それは、もう引き返せないからだ。後戻りのできない一方通行の道路に足を踏み入れてしまったら、自分の意思にはかかわりなく進まなければいけないからだ。
- 146 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時42分55秒
- 「だから、わたしたちはまず普通の女の子でなければ……」
ところが、実のところわたしはまだ引き返せるかもしれない微妙な立場にいる。
「普通の女の子でありながら華やかな芸能人でもある。そんなアンビバレンツな立場に耐えられないメンバーは脱退して……」
脱退することをみんなは許してくれるだろうか? そんなはずがない状況に陥ってしまった。道連れは多いにこしたことはないからだ。
- 147 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時44分44秒
- 「世間は日々変化しつづける。『普通』という概念も以前と比べて大きく変わった。世の中の『普通』が変わったのなら、わたしたちも変わらなければ……」
その世間の『普通』をなぜ疑おうとしないのか。わたしは疑っている。みんなはわたしをおかしいという。
「だから、吉澤。あんたも変わらなければならない」
わたしは後ずさりした。白い壁に背をした。ドアは反対方向にある。みんながわたしを囲んだ。
- 148 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時47分26秒
- 「よっすぃ〜ならすごく似合うと思うよ」
にっこりと微笑んだ梨華ちゃんを見ると、眉毛はすべて引き抜かれ、頭の真ん中が前頭部から後頭部までつるつるに剃ってあり、その幅はぴったり5センチを保っている。残った髪の毛は紫に染まっている。耳には穴があけられ、糸で分銅が吊るしてある。その重みで耳たぶは伸びきっている。鼻にも穴があけられ鉄の鼻輪をしている。アゴは植毛されヒゲが下がっている。歯は前歯上下4本が引き抜かれている。残った歯にはお歯黒がほどこされている。その他見えないところにもいろいろ処理されている。
- 149 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時47分56秒
- 「さ、吉澤。動くなよ」
飯田さんはバリカンに電源を入れ、わたしの額を左手でおさえた。
- 150 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月26日(水)20時48分29秒
- おしまい
- 151 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月26日(水)20時49分30秒
- ちょっと気を悪くしたが
- 152 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月26日(水)20時50分03秒
- 気を取り直して
- 153 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月26日(水)21時38分47秒
- もしかして案内のやつ?
ここは大人のスレッドだと思うけど(w
レスはしてないけどいつも見てますよ。がんばってくださいね。
- 154 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月26日(水)21時53分33秒
( ´ Д `)<>>153 冗談だよ〜
大人だから全然気にしてないよ〜
- 155 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月28日(金)23時17分36秒
- 今年はもうおしまい
- 156 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月04日(金)17時45分28秒
- さて、わたしは何故こんなことをしているのだろうか。
わたしは何故くだらない物語を垂れ流しているのだろうか。
わたしは何故主人公を吉澤ひとみにしたのだろうか。
わたしは
- 157 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時25分19秒
- 『プレミアチケット』
- 158 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時25分59秒
- 2002年は日韓共催で、サッカーのワールドカップが開かれるそうである。スポーツに興味がないといえば嘘になるが、くわしいことはよくわからない。
(ついでに、わたしとサッカー選手について、いろいろ取り沙汰されているようであるが、その件についてはノーコメントである。コメントしようがない)
- 159 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時26分35秒
- 「よっすぃ〜、見て見て」
辻がわたしに細長い紙切れをひらひらさせた。
「何?」
「ワールドカップのチケットだよ。お姉ちゃんが申し込んだら取れたんだ」
よっぽど嬉しかったのだろう。わざわざ見せびらかすために持ってきたのだから。
「いいなあ」
これは、わたしがうらやましがって出した声ではない。わたしがうらやましがるのは「うたばん」の中だけだ。梨華ちゃんだった。
- 160 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時27分17秒
- 「わたしも申し込んだけどさっぱりだめだったもん」
「ねえねえ、どことどこの試合?」
加護が割りこんできた。日本対ロシアだった。
「すげー」
加護が大げさに驚いた。だが確かに凄いことなのだろう。
「日本でワールドカップが開かれるなんて、もう当分ないだろうし」
「ね、ね、柳沢さん出るかな」
「梨華ちゃん、あーゆーのがいいんだ」
「なんで?」
- 161 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時27分49秒
- 「日本勝てるかなあ」
「きっと勝てるよ」
「開催した国が決勝トーナメントに進めなかったら恥ずかしいんだって」
「なんで」
「今までそういう国はないからだって」
「ふーん。じゃ、逆に考えたら日本はトーナメント行けるってこと?」
「たぶん、そういうことじゃないと思う」
「なんで?」
「外国から怖い応援団が来るんだって」
「フリーガン」
「フーリガン」
- 162 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時28分21秒
- わたしは3人のとりとめのない会話には加わっていない。飯田さん、安倍さん、保田さん、矢口さん、そしてごっちんもただにこにこと微笑むだけだった。
わたしは辻の頭をぽんとたたいた。
「チケットなくしちゃだめだよ」
「うん」
- 163 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時29分01秒
- みんな優しい。
貴重なチケットが手に入ったからといって、観戦する暇がわたしたちに与えられているはずがない。モーニング娘。を辞めて一般人に戻るならば話は別だが。
みんなは優しいからそんなことをおくびにも出さない。もちろん辻にだってわかっていることだ。
- 164 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時29分35秒
- では辻はいったい何を喜んでいるのか。
チケットにだ。
おそらく、日本とロシアの試合が行われるスタンドには、誰も座っていない席が一つできることだろう。それでも辻は本気で喜んでいるのだ。
誰もが手に入れたい、無理をしてでも手に入れたいと考えているチケットに価値がある。そこにはその内容など問題にならない。
- 165 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時30分08秒
- わたしたちのコンサートチケットも、びっくりするような金額で取り引きされているという。「あの」「モーニング娘。」の「チケット」。「あの」は「モーニング娘。」にかかるのではない。「チケット」にかかっているのだ。
すると、その内容が価値にかかわることはないということだ。歌や踊りがまずくったって、関係ないのだ。
- 166 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時30分43秒
- 「そろそろ時間だよ」
飯田さんの大声が響いた。TVのロケ録りのため、わたしたちはロケバスに向かった。灰色の雲が広がり、今にも泣き出しそうである。
そこに、突然降り出した。白や水色の細長い紙切れが。
- 167 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時31分15秒
- ワールドカップの観戦チケット。
東京ドームの巨人阪神戦。
大相撲初場所の桝席。
劇団四季のミュージカル。
ウィーンフィルの新年コンサート。
松崎しげるのディナーショー。
- 168 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時31分55秒
- 誰もが欲しがる、ありとあらゆるチケットが空から舞い降りてきた。スタッフや通行人が、いったん躊躇しながらも、我れ先にとチケットに飛びついた。
辻やみんなは、ただ無表情にその光景を眺めていた。
ぽつりとつぶやいた。
「なんで?」
- 169 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月05日(土)22時32分30秒
- おしまい
- 170 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月05日(土)22時34分51秒
- つまり
- 171 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月05日(土)22時35分37秒
- ということで
- 172 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)19時17分35秒
- 「吉澤ひとみの冒涜」おしまいです。
(0^〜^)<ばいばーい
- 173 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)20時47分29秒
- 「吉澤ひとみの慢心」始めます。
- 174 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)21時43分21秒
- 相変わらずシュールな。
次も楽しみにしとります。
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