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THE BATTLE OF EVERMORE〜蒼天2
- 1 名前:十三 投稿日:2001年11月29日(木)01時08分29秒
- 今まで赤板で書いてた物の続編です。
元ねたは、あります。
前スレは
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=red&thp=995045246
- 2 名前:十三 投稿日:2001年11月29日(木)01時09分44秒
- 序章〜武門
1.
三重にある平家流の道場に蝋燭が等間隔に10本立てられている。
直径が10cmはあるであろう。ちょっとやそっとで消えるものではない。
その目の前に一人の武人がいる。
中澤 裕子であった。やや半身に構え氣を練っている。
しゅっという息が漏れる。
蝋燭の火が揺らめいた。
次の瞬間
「ちぇりゃ〜〜〜〜〜っ」
気合一閃。
中澤の左下段回し蹴りが空を切る。
蝋燭の火が綺麗にまとめてその風圧により消えた。
- 3 名前:十三 投稿日:2001年11月29日(木)01時10分26秒
- 「さすがやな」
中澤の後ろにいたもう一人の武人・・平家 みちよが感嘆の声をあげた。
「まっ・・調子は上々といったとこやな。」
「その割には、うかない顔しとるやないか?」
「まあ・・・相手は、あの怪物、市井や・・・どうなることか・・・」
「らしくないで・・・大丈夫や中澤 裕子の打撃がきかん奴はこの世におらん。」
「あたりまえや、ウチの打撃で砕けん奴はおらん!」
「ふふっ!そうや!それでこそ中澤 裕子や!」
「まあな」
そう言うと中澤は、その場にどかっと腰を下ろした。
平家もまたそれに従う。
「ところで・・・吉澤の奴はどこへ消えたんや?」
中澤が言った。
「さあ・・・皆目見当つかん・・・」
平家が言った。
- 4 名前:十三 投稿日:2001年11月29日(木)01時10分57秒
- 「まあ・・・ショックだったちゅうのはわかる。」
「ああ・・・後、飯田 圭織も消えたらしいで・・・」
「そうか・・・あいつにとっても辛い出来事やな・・・」
「けどな祐ちゃん・・・ウチ等”武”に生きる者にとってな・・・これは避けられんことや
今日は生きてるが明日は誰かに倒され死ぬかもしれない・・・」
「ああ・・・わかっとる。そんなんは、吉澤も圭織もわかっとる。」
中澤はそう言うとすっと立ち上がった。
中澤はふと天を仰いだ。
「そうよ・・・お前のいうとおりや!闘いとはそういうもんや・・・」
中澤の顔に厳しさが漂っていた。
- 5 名前:十三 投稿日:2001年11月29日(木)01時11分29秒
- 2.
船橋にある繁華街の裏路地は表の喧騒とは無縁の世界である。
人の通りがなくじめっとした質感の空気が支配している。
その裏路地に何人かの人がいた。
辺りにおびただしい量の血が流れており倒れている人物がいた。その倒れている人物は
その格好からして、チンピラである。
その倒れている人物のそばで仁王のようにたっている娘がいた。
その娘は倒れている者の連れをにらんで言った。
「こいつはもう立ち上がれないよ!次はお前がやるかい?」
その言葉の主は市井 紗耶香であった。
顔は獣の笑みを浮かべ嬉しそうな表情であった。
「て・・・てめえ〜〜っなめんじゃねえ〜〜っ」
連れはナイフを取り出し紗耶香に対し刃を向けた。
その手はこぎざみに震えていた。
「ふっ、これがナイフ?笑わせてくれるね。なあ?柴!」
紗耶香は自分のやや後方を見た。
そこには柴田 あゆみがいた。
- 6 名前:十三 投稿日:2001年11月29日(木)01時12分01秒
- 「ええ。」
くすりと笑っていた。
柴田はすっと前に出ると連れのチンピラの前に立ちナイフを取り出すと
刃渡り30cmはあろうかという巨大なナイフを軽々と扱いぴたりとチンピラの喉に突きつけた。
「これがナイフですよ。鉈の重さに剃刀の切れ味。どうです?あなたの喉
で試して見ますか?」
柴田は表情ひとつ変えずに言った。
その目は狂気と冷酷さを放っていた。
「ひっ〜〜〜ひいいいいいいい」
チンピラはその場で気を失い失禁してしまった。
「相変わらず、見事なナイフ捌きだね。」
紗耶香が言った。
- 7 名前:十三 投稿日:2001年11月29日(木)01時12分31秒
- 「いえ、だいぶ実戦から遠ざかってますからね。」
「そうか・・・そういえば、あたし達の部隊で今も軍人やっているのは
お前くらいか・・・」
「ええ、ミカ、レファ、ダニエル、そして、有紀さん・・・みんなもう退いてます。
あなたは・・・戻ってくるんですか?」
「さあね、ただ今は中澤をぶちのめすことしか考えてないよ!」
「そういえば、二週間後でしたね。どうですか?」
「どうもこうも・・・久しぶりに全力だせそうだよ。」
「それは、それは・・・相手が気の毒でなりませんね。」
「ふふっ、楽しみにしときな!」
- 8 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)01時28分07秒
3.
(ここで闘うのはいつ以来だ?そういえば、暫くは闘ってなかったな。)
市井 紗耶香との闘いの当日、中澤 裕子はだいぶ早くから
会場入りしていた。控え室でその時が来るのを待つ。
「なあ?みちよ」
中澤がふと言った。
「なんや?」
平家が言った。
「ウチは・・・いや・・・心水館は武を完成させたとおもっとった。」
「どうしたんや?」
「いや・・ふと思ったんや。」
「なにが・・・」
「もしかするとウチ等は、ただ小さな門ひとつ越えただけなんやないかと・・・」
「えらい謙虚やないか。」
「ああ・・・ウチ等格闘家は神棚に上がったら終わりや。次々に門を越えてゆかんと・・・」
「今日の門は今までの中で一番でかいで!」
「ああ・・・もしかするとあいつを倒すことで完全な"武"っちゅうもんがみえるかも知れんな。」
そこまで言うと中澤 裕子は大きく息を吸い込んだ。
そして再び語り始めた。
- 9 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)01時28分38秒
- 「この頬の傷をつけられた時・・・ウチは酒をのんどった・・・心水館の館長代理になったのが
うれしくってな、つい羽目はずしてもうた・・・」
「・・・・・・」
「そんときよ・・・紗耶香がウチの前に現れたのは・・・あいつは何の躊躇もなくウチに踵落しを見舞ってきよった。」
中澤の表情は堅い、過去の嫌な思いが頭の中で交錯しているせいであったためだろう。
「酒が・・・ウチの一瞬の反応を鈍らせた・・・」
「祐ちゃん・・・そら、あんたが悪いで・・・武道家は行住坐臥これ闘いや・・・酒を飲んでたなんて
言い訳にならんで・・・まして、あんたかりにも武神と言われてるんやで。」
「そうや・・・そのとおりや!紗耶香には悪いことしたで・・・今度こそあいつには武を
味わってもらわんとな。」
「そうや!食中毒起こすくらい味あわせたれ!」
「ああ・・・奴を倒して武の完成の第一歩としたるで!」
- 10 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)01時29分09秒
4.
市井 紗耶香は大の字に眠っていた。
中澤 裕子との決戦を数時間後に控えていたが
そんなことは意に介さずという感じであった。
その部屋には市井の他に柴田 あゆみがいたが
柴田はただ何もせずに座っていた。息をする音すらも立てず、ただその場所にいた。
それは、市井が起きだすまでその体制を崩さなかった。
やがて紗耶香がおきだした。
気がつけば開始まであとわずか30分しかなかった。
「お目覚めですか?」
柴田が言った。
「ああ・・・・あと三十分位だろ?」
紗耶香が言った。
- 11 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)01時29分45秒
- 「さすがですね。ところでいいんですかウォーミング・アップをしないで・・・」
「柴!戦場でこれから戦うという時にウォーミング・アップする奴がいるのか?」
「そうですね・・・何時いかなる時に戦闘が起こっても対処する。それが軍人ですからね。」
「そのとおりだよ。」
「これから私があなたに襲い掛かったらどうしますか?」
「きまってるだろ。殺すさ!」
「そうですね。私が逆の立場でもそうします。」
柴田はさもそれが当然のような物言いであった。
- 12 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)01時30分17秒
- 5.
「さて・・・・いくかっ!」
闘技場はからの歓声が控え室まで聞こえてくる。
紗耶香との対決はもうそこまで来ている。
中澤の体に緊張が走る。そして、顔はきりりと引き締まっていた。
中澤は、静かに控え室のドアを開けた。
(はぁ?何やこれは?」
中澤はドアを開け通路に出た。
目の前には錯覚であろうか?巨大な門が聳えていた。
その門はがっちりと錠が閉じられその周りを鎖が巻かれていた。
(なんや・・・武の神さんはウチに紗耶香と闘うなっちゅうとるんか・・・・)
「どないしたんや?」
後ろから平家が声をかけた。
- 13 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)01時30分52秒
- 「何でもあらへん、それより観客席から応援たのんだで。」
「ああ・・・まかせとき!」
平家はそう言うと中澤と逆の方面に歩いていった。
(こんなんが目の前にあれば尼さんやったらひきかえしとるんやろな・・・)
中澤 裕子は思った。
(せやけど・・・そこが格闘家の辛いところや・・・)
中澤は、その門に向かい歩いていった。
その姿は、”武”の道を究めんとする求道者の姿であった。
- 14 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)01時31分25秒
- 6.
闘技場にはすでに市井がいた。
辺りに強烈な闘気を巻き散らしている。
そしてやがてもうひとつの巨大な闘気が現れた。
市井と中澤互いの闘気の質は同じ激情型の闘気
いわば力と力のぶつかり合いであった。
二人は、闘技場の中央で相対した。
互いに視線を一歩もそらさない。
闘気で互いを威圧する。
その二人を裁く立会人が二人に対し説明をしている。
「いいね。武器の使用以外は・・・」
「しゃっ!」
その説明の途中で中澤 裕子は奇襲を仕掛けた。
野生の馬のような後ろ蹴りであった。
(な・・・なに?)
- 15 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)01時32分00秒
- 市井は中澤の打撃をまともに食った。
「ア・・・アヤカさん・・・」
立会人がプロモーター兼最高責任者のアヤカの方を見た。
「かまいません、この二人は、軍人と武人です。行住坐臥すべて闘いです。
そのまま続行してください。」
「はっ・・・・開始めっ!」
この瞬間に遅まきながら市井と中澤の闘いが始まった。
- 16 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)23時47分22秒
- 7.
「おいおい裕ちゃん・・・」
観客席の保田がつぶやく。
「圭!あれがスポーツではなく武道というものよ、いざ戦いとなれば
正義もなにもない・・・ちっとも変わっとらんな・・・」
平家がニヤリと笑いながら言った。
「破ッ!!!」
さらに中澤は、紗耶香に対し蹴りを一呼吸の間に3発はなった。
紗耶香はそれを獣の反射神経でブロックする。
中澤は、間髪いれず因縁の技である踵落しを紗耶香に見舞う。
紗耶香はそれを肩のあたりで受け止めるとその体制のまま中澤を投げにいった。
中澤は、瞬時に受身を取り、市井の方を向く。拳が降って来る。
かわす。
さらに紗耶香は上段蹴りを見舞ってきた。中澤もそれに蹴りで応戦する。
空中に電流が走った。
ここで二人は、大きく間を取る。
そして中澤は構えを取った。
「最高だ・・・最高の夜だよ・・・」
紗耶香がそういいながら・・・中澤の方に向かってきた。
- 17 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)23時47分57秒
- 8.
(なんやあの歩方は・・・?)
観客席の平家は思った。
紗耶香はノーガードのままゆっくりとした歩き方で中澤の方に向かってきた。
その歩き方は、正しすぎるくらいに綺麗な姿勢を保っていた。
「裕子〜〜っ逃げるんや!」
平家が叫んだ。
(うるさいな!あの歩き方が普通やないっちゅうのはわかっとる。けど下がらんで。
ウチの空手は後退のネジはずしとんねん。)
耶香が中澤の間合いに入った。
「シャッ!」
中澤の前蹴りが紗耶香に放たれた。
そのけりは、紗耶香をすり抜けた。
その次の瞬間、紗耶香の胴回し回転蹴りが中澤に炸裂した。
「ガハッ!!!」
中澤の体が地面に倒れ。辺りに血飛沫がとぶ。
(なんや・・・今のは・・)
「ふっ!今の歩方は御殿手って言ってね琉球王朝秘伝の武術さ!」
- 18 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)23時48分28秒
- 御殿手・・・その最大の特徴は正中線を維持したままの
歩方にある。体の左右のぶれはまったくなく打ち込む隙のない物であった。
中澤は立ち上がり紗耶香のほうを睨む。
だが、この闘いが楽しいのであろうか
口元は笑みが浮かんでいる。
「王朝秘伝?なんか、ええもん味あわせてくれるやないか!」
「そんなにお気に入りなら何度でも味あわせてやるよ!」
「いや!味わうのは、一回だけでええ!」
中澤はそう言うと前に出した左足の踵をあげ、両手を自分の前に出す構えを取った。
前羽の構え。空手では鉄壁のディフェンスを誇る構えである。
- 19 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)23時49分00秒
- 9.
ズサッ
紗耶香が再度中澤に向かう。
中澤は動かない。
紗耶香がくる。
まだ動かない。
互いの制空圏が触れ合った。
まだ動かない。
紗耶香は中澤の手が触れる距離まで来ていた。
「じゃっ」
紗耶香の手刀が打ち下ろされた。
「しっ!!!」
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ
中澤の正拳が紗耶香の体にVの字を描くように決まった。
「くっ・・・」
紗耶香は地面に片膝をついた。
- 20 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)23時49分31秒
- 「師匠・・・今のは」
保田が言った。
「あの歩方は、まず敵に攻撃を仕掛けさせてこそ意味のあるもの
それに対し裕子が取った作戦は、あの構えにより先に市井に攻撃させるためのもの。
裕子の間合いに入った時に市井の本能が攻撃を仕掛けるのを待ってカウンター
を打つということやな。しかしあんなん貰ったら市井でもただではすまんやろ。
長引くと思ったがな。」
- 21 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)23時50分01秒
- 10.
「立てぇや紗耶香・・・・」
倒れている市井に対して中澤が言った。
「お前がダメージを受けていないのは、打ったウチがようわかっとる。」
続けて言った。
紗耶香は、にやりと笑うとすっと立ち上がった。
「タフさだけじゃないさ!今度は、あたしの猛獣の連撃!味わってみるかい?」
ザッ
紗耶香が動いた。
ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ドカッ、バキッ、ビシッ、ドン、ガンッ
紗耶香の連撃が開始された。
その攻撃のあまりの速さに観客は目で追いきれない。
それは、対戦者の中澤も同様であった。
(くっ!ブロックが引き裂かれる・・・)
さらに紗耶香の連撃が続く。
(あれしかないか・・・)
「ひゅっ」
中澤は両腕で円を描くように防御した。
空手の防御の最高峰の回し受け。
それを中澤は極めて高いレベルで行った。
- 22 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)23時50分32秒
- バシッ
紗耶香の攻撃がとまった。
「どうした紗耶香?猛獣の連撃とやらがとまったで?」
「ちぃ〜〜」
再度、連撃をかける。
「はっ」
ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ
中澤は紗耶香の連撃を完璧に受けきった。
「当たらんな〜〜紗耶香・・・今度はお前が空手を思い知る番や!」
- 23 名前:十三 投稿日:2001年12月02日(日)23時59分34秒
- とりあえず今回はここまでで。
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月03日(月)04時36分15秒
- うあわー。
中澤と沙耶香か元祖男前コンビ!!かっけー。
中澤ガンバ!!(小川・明日香・矢口がやられて・・・中澤までやられたら・・・終わりでっせ!!)
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月03日(月)16時57分31秒
- 最高!両者の接戦が目に見えるようです!
中澤がんばれ!ここで負けるなんて簡単すぎ!
心水館の凄さをみせて次のstepにあがって!!
- 26 名前:十三 投稿日:2001年12月06日(木)00時38分36秒
- 11.
(なぜだ?なぜよけきれない?さっきから何発貰っている?10発か?もっと多くか?)
永い時間をかけ会得した中澤の打撃の境地に市井は苦戦している。
「どうや?紗耶香!これがン十年間毎日鍛え上げた打撃の境地や!
お前の獣の反射神経でもさけられんやろ。」
中澤が言った。
形勢逆転。今やこの闘いの主導権は中澤にある。
「そらっ」
中澤の拳が市井の顔面を捕らえた。
ゴッ
鉄球が当たったかのような感触を紗耶香は感じた。
紗耶香は、思わずよろめき闘技場の壁に手をついた。
(お姉ちゃん頑張って・・・・)
その時、紗耶香は幻聴であろうか、その声が聞こえた気がした。
瞬時に観客席に目をやる。
(ひとみ・・・?いや幻覚か・・・・)
紗耶香はその時、ひとみを見た。いや見た気がした。
「はっ」
紗耶香はそう声を発した。
気のせいであろうか?いや確かに紗耶香の体が一回り大きくなるのを
中澤 裕子は見た。
- 27 名前:十三 投稿日:2001年12月06日(木)00時39分02秒
- 12.
「裕子〜〜〜〜っ逃がすな!!!」
平家は観客席から中澤に指示した。
中澤が出る。
「ドリャァァァ」
中澤は、市井に対し渾身の正拳を叩き込む。
一発、二発、三発、四発、五発。
ズドッ
さらに追撃で前蹴りを水月に見舞う。
「おらっ」
拳が一直線に紗耶香の顔面に向かう。
グシッ
中澤の正拳が市井の顔面を捉えた。
13.
(あっ・・・)
正拳が顔面に決まったと思った瞬間
中澤の小指と薬指は紗耶香に握られていた。
ベキン!
躊躇なく紗耶香はその二本の指を折った。
「!!!」
そして紗耶香はその二本の指を握ったまま
中澤を一本背負いのように投げた。
ドスッ
鈍い音をたてて中澤は倒れた。
苦悶の表情を浮かべる。
そして折れた二本の指は無理やり元に戻した。
(中澤 裕子・・・・よくぞここまで鍛え・・・ここまで
造りあげた・・・その克己心に愛すら感じるよ!)
「見せてやるよ!獣の拳を・・・・」
紗耶香が不敵な笑みを浮かべいった。
- 28 名前:十三 投稿日:2001年12月06日(木)00時39分55秒
14.
(祐ちゃん・・・)
保田はすっと立ち上がり観客席の最前列に向かった。
乱入するつもりであった。中澤が負ける。否、殺される
保田の格闘家としての本能がそう感じた。
保田が闘技場の壁に足をかけようとした時、喉に冷たいものを
感じた。
保田の喉下には、刃渡り30cmはあろうかという巨大なナイフが突きつけられてた。
保田の傍には柴田 あゆみがいた。
「なにをしようとしてるんですか?この闘いは邪魔させませんよ。」
「誰だ?お前?」
「まあ誰でもいいでは、ないですか・・・さあ!そこに座ってください
私と一緒に見ましょう。」
柴田はそう言うとナイフの先にさらに力を込めた。
「くっ・・・」
保田は、やむを得ず。席に着いた。
「それでいいのです。」
柴田もそう言うと保田の傍に座った。
- 29 名前:十三 投稿日:2001年12月06日(木)00時40分52秒
15.
ブンッ
紗耶香の拳が中澤に向かう。
中澤は防ぐ。
(ぐっ)
しかし、防いだ腕に激痛が走る。
(ひびが・・・・)
ドンッ、ドカッ、ドスッ、ドスッ
紗耶香の連撃が次々に中澤に決まる。
中澤の体は、全身青く腫れ上がり骨にはひびが入っている。
肩で息をしており呼吸が安定しない。脂汗が全身に流れる。しかしそれでも何とかたっていた。
「いくら鍛え上げようが所詮は人を対象とした技術です。
本気になった時のあの人は、もはや人の域ではありません。」
柴田が保田の方をみて言った。
「ちっ・・・・」
保田が舌をうつ。
中澤が・・・中澤が負けるわけがない。
保田はそう信じきっている。
この状況におかれてもまだそう思っていた。
「裕子〜〜〜〜〜っ」
保田の声が闘技場に響き渡った。
- 30 名前:十三 投稿日:2001年12月06日(木)00時49分28秒
- とりあえず更新です。
ところでこの小説の主人公って一応、吉澤だということを
覚えておりますでしょうか?
- 31 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月06日(木)01時52分17秒
- おつかれさまです!
な、中澤〜!?続きが楽しみです。
吉澤でしたね そういえば。
今は中澤に夢中で忘れてました・・
- 32 名前:十三 投稿日:2001年12月09日(日)23時28分16秒
- 16.
「はぁ〜〜〜〜〜ッ」
中澤は死力を尽くし攻勢に転じた。
古来より伝わる。空手における完全なフェイントに
隠された必殺の両手貫き!
その軌道は、市井の心の臓を目指していた。
だが、それも市井の獣の反射神経に凌駕された。
中澤の両手貫きが心臓に突き刺さる寸前に市井の両の掌は
中澤の耳を強打していた。
中澤の鼓膜が破れ、耳から血を流し前のめりに倒れた。
ズチャっという鈍い音がした。
くるりと市井は中澤に背中を向け歩き出した。
「勝負あ・・・」
立会人がそういいかけた。
- 33 名前:十三 投稿日:2001年12月09日(日)23時28分52秒
- 17.
もう動かないと思われた中澤の体が動いた。
意識はあるのかはわからない、格闘家としての本能
のみで立ち上がってきた。
(まだやらせてくれるというのかい・・・・感謝!!)
向かってきた中澤に対し紗耶香は強烈な掌底を打った。
その掌は眼底を強く打った。
中澤は目を押さえ前かがみの姿勢をとっている。
だが、もう片方の手は構えを取っていた。
(武神の名に恥じない漢(むすめ)だね・・・)
紗耶香は両の手を大きく頭の上に挙げた。
- 34 名前:十三 投稿日:2001年12月09日(日)23時29分26秒
- (今宵・・・こいつを使えるとは思わなかったよ・・・)
紗耶香のヒッテティングマッスルが全快に開放される瞬間である。
その背中の筋肉の作り上げる形は鬼が笑っているかのようであった。
紗耶香はその体制から体を独楽の様に一気にねじると
一気に踏み込み中澤に突きを見舞った。
その突きは人間の目では捉え切れないものであった。
「ドーンッッ」
というもの凄い音とともにその突きが中澤に突き刺さった。
- 35 名前:十三 投稿日:2001年12月09日(日)23時29分56秒
- 18.
「保田さん・・・あれが市井 紗耶香ですよ・・・悪魔に授かった筋肉で
ただ思いっきりぶん殴る。ただそれだけですが、スピード、破壊力、タイミング
ともに人智を越えています。つまり・・・防ぎようがない・・・」
柴田が保田の方を見て言った。
「裕ちゃん・・・」
保田は茫然自失といった感じであった。
紗耶香は中澤の目をみた。そして次の瞬間
くるりと背を向け歩き出し闘技場から出ようとした。
「い・・・市井選手・・・どこへ行く気ですか?試合放棄とみなしますよ・・・」
立会人が紗耶香に言った。その声は震えている。
「もう終わってるよ!」
紗耶香が中澤のほうを親指で指差して言った。
ドサッ
中澤の体は音をたてて崩れ落ちた。
「しょ・・・勝負ありっ!」
紗耶香の勝利が会場中に宣告された。
- 36 名前:十三 投稿日:2001年12月09日(日)23時30分26秒
- 19.
この闘いの後、中澤 裕子は長期入院になった。
今回の闘いは、市井 紗耶香という巨大な門を
越えることはできなかった。
ベッドの上で中澤は思う。
(今回はウチの負けや・・・だが今度あったと時はただでは済まさん・・・)
それと同時に別の思いもある。
(世の中にはまだあんな化け物がおるんか?・・・なんや楽しゅうなってくるな・・・)
今はまだ自分の力不足で門を潜り抜けられなかったが
いつか必ず武を完成させる。中澤は病室のベッドの上でそんな途方もない夢を描いていた。
- 37 名前:十三 投稿日:2001年12月09日(日)23時36分16秒
- 第1章〜帰還。
1.
中澤と市井が闘ってから既に数年の時が過ぎていた。
その間、吉澤と飯田は姿を消したままであった。
しかし闘いの炎は消えた訳ではなかった。
東京にある巨大なドームスタジアムは熱狂に包まれていた。
「BRAVE17」という何でもありの格闘技のイベントが
行われており、現在そのメインイベントの試合が行われている。
そのメインイベントで闘っている娘は安倍 なつみ、そして
鈴木 あみであった。
この両者は数年前に行われた「BRAVE2」で闘っており。
その時は安倍 なつみが勝利を収めた。このメインイベントの売りは
鈴木 あみのリベンジマッチである。
その闘いも佳境に差し掛かっていた。
- 38 名前:十三 投稿日:2001年12月09日(日)23時36分50秒
- 2.
「しゃっ」
あみが中段蹴りを放ってきた。
ガシッ
なつみはその蹴りをキャッチすると己の体を反転させた。
ドスッという音とともにあみの体がうつぶせに倒れた。
なつみはすばやくあみのは左腕を自分の両足で挟み込み
さらに顔はフェイスロックで固めてある。
ナツミロック2という安倍 なつみオリジナルホールドである。
なつみはさらに腕に力を込め絞り上げる。
あみはたまらずなつみの体を二回軽くポンポンと叩いた。
ギブアップの意思表示である。
「よっしゃ〜〜〜〜!!!!」
勝利をつかんだなつみは、コーナーポストまでダッシュし、一気に駆け上がり叫んだ。
そして左の腕は敬礼のポーズをとっている。
なつみっ、なつみっ、なつみっというコールが繰り返される。
拍手が嵐のように頭上に降り注ぐ。
至福の一瞬である。
なつみは一礼するとリングから降りた。
- 39 名前:十三 投稿日:2001年12月09日(日)23時37分23秒
- 3.
安倍 なつみは意気揚々と控え室に引き上げてきた。
その途中でこの大会のプロモーターのアヤカが祝福に来てくれた。
「安倍さんおめでとうございます。」
「ああ・・・ありがとう。」
「しかし、強いですねこれで無傷の16連勝ですか。」
「もう・・・そんなになるんだね。」
「そうですね。安倍さんは2回大会からずっと出てもらってますからね。」
「そっか・・・」
「まあ、安倍さんはこの大会に出てもらうまで苦労しましたからね
まだまだ頑張ってもらいますよ。」
アヤカが冗談交じりの口調でそういった。
「はは、そうだね。あんたに色んなとこ頭下げて回ってもらったからね。」
「いえ、安倍 なつみという優秀なグラップラーを埋もれさせる訳に
いかないですからね。」
「ん、ありがと・・・ところで・・・後藤は・・・」
「今でも地下闘技場のチャンピオンですよ・・・なかなか互角に闘える者が出てきません。」
「そう・・・」
「吉澤 ひとみ辺りが出てくれば・・・面白いの・・・いえすみません、決して
興味本位でいったのでは・・・」
「わかってる・・・本来ならあたしが奴と闘りたい・・・けど後藤を倒すのは
吉澤さ・・・」
- 40 名前:十三 投稿日:2001年12月09日(日)23時37分54秒
- 3.
安倍 なつみは意気揚々と控え室に引き上げてきた。
その途中でこの大会のプロモーターのアヤカが祝福に来てくれた。
「安倍さんおめでとうございます。」
「ああ・・・ありがとう。」
「しかし、強いですねこれで無傷の16連勝ですか。」
「もう・・・そんなになるんだね。」
「そうですね。安倍さんは2回大会からずっと出てもらってますからね。」
「そっか・・・」
「まあ、安倍さんはこの大会に出てもらうまで苦労しましたからね
まだまだ頑張ってもらいますよ。」
アヤカが冗談交じりの口調でそういった。
「はは、そうだね。あんたに色んなとこ頭下げて回ってもらったからね。」
「いえ、安倍 なつみという優秀なグラップラーを埋もれさせる訳に
いかないですからね。」
「ん、ありがと・・・ところで・・・後藤は・・・」
「今でも地下闘技場のチャンピオンですよ・・・なかなか互角に闘える者が出てきません。」
「そう・・・」
「吉澤 ひとみ辺りが出てくれば・・・面白いの・・・いえすみません、決して
興味本位でいったのでは・・・」
「わかってる・・・本来ならあたしが奴と闘りたい・・・けど後藤を倒すのは
吉澤さ・・・」
- 41 名前:十三 投稿日:2001年12月09日(日)23時38分25秒
4.
ガチャリ
なつみが控え室のドアを開けた。
汗と薬品の入り混じったにおいがした。
「なっち!」
その声はなつみの横からした。
「ののちゃん!」
「なっち、おめでとう。かっこよかったよ。」
声の主は希美であった。かつての幼さはもうなく
若いながらすでに貫禄が漂っていた。
「ありがと。」
「なっち・・・いよいよ明日だね。」
「そっか・・・明日だね。吉澤が帰ってくるの。」
「うん、なっち一緒に迎えに行こうよ。」
「ん、いいよ。ところで圭織はまだ帰ってこないの?」
「あの人は、ああいう人だからね。もうあたしをほっといて一年にもなるってのに。」
「でも、ほっといてるってのはさ信頼してるんだよ。」
「そうかな〜〜〜」
「そうだよ!じゃ、あたしこれから記者会見だからさまた後で連絡するよ。」
なつみはそう言うと、ドアをあけ出て行った。
- 42 名前:十三 投稿日:2001年12月12日(水)00時18分47秒
- 5.
なつみと希美は空港のロビーにいた。予定の到着時刻より十五分を過ぎたくらいであろうか
到着のゲートから人がゾロゾロと出てきた。国際線のため外国人の客も多く搭乗しており
欧米人と体格を比較するとどうしても見劣りする。
しかしそれらの中に混じってもまったく引けをとらない娘がいた。
確かに体格では、一回りは小さいであろう。しかしその体から発する闘気や風格といったものが
にじみ出ておりそれがその娘を大きく見せていた。
「よっすぃ〜〜〜」
希美がそう叫びその娘に向かい走っていった。
その娘は吉澤 ひとみであった。
「のの!久しぶり!見違えたね。」
「うん!よっすぃーも相当、鍛えたね。」
「解る?さすが飯田さんの妹だね。」
ひとみがそこまで行った時、やや後方から声がした。
- 43 名前:十三 投稿日:2001年12月12日(水)00時19分17秒
- 「吉澤!お疲れさん!」
「安倍さん、お久しぶりです。見ましたよ、鈴木 あみとの闘い!
以前より技の切れが鋭くなってましたね。」
「もう知ってるんだ?」
「ええ!飛行機の中で見てました。」
「へ〜〜凄いね。今はそんなのもやってるんだ」
それから二人はたわいもない話を暫く続けた。
数年ぶりあったというのに不思議なくらいに。
不意に吉澤の顔が引き締まった。
「安倍さん!」
「なに?」
「ありがとうございます。」
「どうしたの?」
「聞きました・・・・安倍さんが梨華の墓を守っていてくれたことを・・・・」
「別に・・・あんたのためじゃないよ・・・」
「ええ・・・・・・」
「そう・・・いいか!!後藤を倒すのはあんただよ!あんたの拳で倒せ!
負けは許さん!その時は・・・腹を切りな!!!」
「・・・わかっています。その安倍さんの思いに答えさせていただきます。」
「よし!それじゃ明日にでも梨華のところへ帰国の報告に行くか!」
- 44 名前:十三 投稿日:2001年12月12日(水)00時19分47秒
6.
強烈な太陽が照りしきる中、吉澤 ひとみは
田舎の田んぼ道を歩いていた。
蝉の声がうるさいくらいにきこえる。夏草の匂いがした。
ひとみは田んぼ道を抜け小湊流の道場へ向かっていた。
小さな山のふもとに小湊流の道場はあった。
(ここが・・・小湊流の・・・道場・・・)
ひとみはその歴史を感じさせる造りに感心している。
もうここには、梨華はいない。しかしひとみは、無理にでも過去の梨華を
感じようとする。
門をくぐると道場がありその隣に古めかしい日本家屋がある
ひとみはその辺りをゆっくりといとおしむ様に歩いた。
「この裏手が梨華の墓だ・・・」
自分のそんな気持ちなど意に介さずといった感じになつみはいった。
「「はい・・・・」
ひとみは、家屋の裏手に回り林をゆっくりと歩き出す。
少し遅れてなつみと希美も後についていった。
その先には、小湊流の伝承者達の墓がある。
(ここに梨華が・・・)
やわらかな風がひとみのほほに触れる。
梨華もかつてこの風を感じていたのだろうか?そう思いながらひとみは歩を進めていった。
- 45 名前:十三 投稿日:2001年12月12日(水)00時20分17秒
- 7.
林を抜けるとそこは開かれており多くの墓が並んでいた。
その墓石の多さが小湊流の歴史の深さを物語っている
が、それは、もう増えることはない。
その墓石が立ちひしめく中に一人の娘がいた。
その娘は梨華の墓石の前で拝んでいた。
「後藤・・・・・・」
ひとみがつぶやいた。
その娘は後藤 真希であった。
「・・・あんたか・・・今までどこ逃げ回ってたんだい?」
そう言われてもひとみは、何も答えないただ真希を睨む。
「あたしはね、今まで梨華の無念を晴らすために闘ってたんだよ!」
後藤が言った。
「なに?」
ひとみが言った。
「あんたがいなければ、梨華はあたしの物になった。あんたがいたばっかりに
あいつは、あたしに殺された。あんたがいなければ、あいつは、死ななくて済んだんだよ!」
「・・・・」
「まあいいさ!お前は、こんな太陽の下で死なせはしない!お前は、地下闘技場の
大勢の前で無様に葬ってやるよ!」
後藤はそういい残し林の中に消えていった。
- 46 名前:十三 投稿日:2001年12月12日(水)00時20分47秒
「あいつ・・・本気であんなこと言ってるのか?」
なつみが言った。
「本気でしょうよ!あたしも知ってますよ自分中心でしか物事を考えられない人間を。」
ひとみが言った。
「よっすぃー気をつけて!あいつ本当に人を殺す目だよ。」
希美が言った。
その表情はこわばっており額からは汗がにじんでいた。
「ああ・・・わかってる・・・心配するな。」
ひとみは、墓石の方を向いた。ようやく梨華と対面することができた。
(小さくなっちゃったね・・・・)
涙が後から後から出てくる。
梨華が死んだとき自分はその現実を受け止められなかった。
その時のことは、何も覚えていない。ただ、気がついたら
海外にいた。そして様々なところを渡り歩き武を磨いていた。
(梨華・・・今までこれなくてごめん・・・でも今のあたしの右拳には梨華が宿ってるよ!
これであいつを倒すよ!)
ひとみはそう強く・・・強く思った。
ひとみは、ふと空をみた。空には夏の雲が一面に広がっていた。
梨華もかつてここから、この空を見ていたのだろうかとひとみは思っていた。
- 47 名前:十三 投稿日:2001年12月14日(金)00時31分21秒
- 第二章〜死神の娘。
1.
吉澤 ひとみは三重にいた。
平家の道場に用があった。
後藤との対戦はまだ決まっていないがいずれ決まるという確信はある。
そのときに備えるためである。
平家の屋敷は数年前に訪れた時と何も変わっていなかった。
ひとみは階段を登り門に向かう。そこには平家が向かえてくれた。
「ひとみ・・・強くなったな雰囲気が違うで!」
平家が言った。
「ありがとうございます。”あの時”から世界を見てきました。」
ひとみが言った。
「なるほど武者修行っちゅうやつか・・・まあ・・ここで話もなんや・・・なか入れ。」
「はい」
- 48 名前:十三 投稿日:2001年12月14日(金)00時31分52秒
- 2.
ひとみは、道場に通された。
目の前の平家は正座をしてひとみと向かい合っている。
ひとみも同様に正座をし、平家と相対した。
そこに松浦がお茶をもってきてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます。」
ひとみが言った。
「少しお待ちください当主がきますので。」
(当主?)
ひとみは思った。
「平家先生は、もう退かれたのですか?」
ひとみが平家に問う。
「ああ・・・今では、圭が平家流の総帥や!」
平家がそういった瞬間に道場の扉が開いた。
そして保田が入ってきて平家の隣に座った。
- 49 名前:十三 投稿日:2001年12月14日(金)00時32分23秒
3.
「平家流当主 保田 圭です。」
保田がひとみの顔をしっかりと見据えていった。
かつて火花の散りあう戦いをしたもの同士
の緊張感があたりを支配する。
「吉澤 ひとみです。お久しぶりです。」
ひとみのその言葉は水面のごとく穏やかなものであった。
かつての獣のような攻撃性を内に秘めつつ
精神は常に平静を保つ。吉澤の成長を物語っていた。
「強くなったな。」
保田が言った。
「保田さんも強くなりましたね。」
ひとみが言った。
「君の姉の試合を見させてもらったよ。それからだよ!あらゆる打撃の対策に血路した。」
「・・・・」
ふーっと保田が急に息をついた。
「ははっ、やっぱこういう話し方だめだね!肩こるよ!」
保田が言った。
「ほんとだね!」
ひとみが言った。
「まあ、あたしら武道家は話すより闘う方が楽だね!どうだ?久しぶりに手合わせしてみるか?
あんたに教えたい技があるんだ!」
「ああ・・・やろう!」
- 50 名前:十三 投稿日:2001年12月14日(金)00時32分56秒
- 4.
ひとみと保田は庭に出て互いに構えた。
保田の構えは柔道の構えよりだいぶ腕の位置が低く
体は半身の構えであった。
「しゅっ!」
ひとみの方から仕掛けた。
その下段回し蹴りは、上体は、ほとんど動かず膝から下だけの
動きで放たれた。保田は脚をあげそれをブロックする。
ムチのようにしなったその蹴りは、保田の脚を捉えた。
保田は脚に電流が流れるのを感じた。
「しっ」
次には保田が仕掛ける。肘から先の動きの掌打!
体は半身のまますり足でひとみを追い詰め変幻自在の動きで幻惑する。
しかし、ひとみも寸でのところで見切っており、クリーンヒットを許さない。
掌、掌、掌、肘、甲
保田はひとみを攻める。
ひとみはそれらを掌あるいは腕ではじいた。
「しゃっ!」
ひとみは、保田の攻撃を受けきった後、円の蹴りを見舞う。
飯田 圭織直伝の高速の蹴り。永い時間をかけひとみは、その蹴りを物にしていた。
「くっ!」
保田はその蹴りに対する反応が少し遅れた。
とっさに後ろにそらしたが、こめかみの辺りが切られた。
「中国拳法か・・・・・」
保田が言う。
「そうだ・・・」
ひとみが言った。
- 51 名前:十三 投稿日:2001年12月14日(金)00時33分28秒
保田は、この戦いを離れたところで見ていた平家の方に目をやった。
平家は無言でうなずく。
保田はひとみの方を向き言った。
「吉澤!あたしがこれから仕掛ける技は、平家流最大の奥義!
勿論、手加減して仕掛けるが、この技をあんたに伝えたい!
いいか?いくぞっ!」
「なぜ?・・・その技をあたしに?」
「見たくなったんだよ!この技であんたが市井 紗耶香に勝つのをさ!」
「すまない・・・・・」
「礼はいらないよ!いいか?いくぞ!」
「おう!」
二人の間に電流が走った。
- 52 名前:十三 投稿日:2001年12月14日(金)00時33分59秒
- 5.
「先生、お水をお持ちしました。」
松浦が平家の下に水を運んできてくれた。
しかし、平家は松浦に気づいていないかのように
渋い表情をしたまま一点を凝視している。
「先生・・・・?」
松浦が平家の先の視線に目をやった。
「きゃ〜〜〜〜っ!」
松浦の叫びが空にこだました。
視線の先には、吉澤 ひとみがうつぶせに倒れている姿があった。
意識は完全にないようだ。
その隣には、息を切らせている保田がいた。
「圭、見事や・・・平家流奥義 虎王」
平家が言った。
「ありがとうございます。」
保田はそう言うと倒れているひとみを抱きかかえ
屋敷の方に向かった。
- 53 名前:十三 投稿日:2001年12月14日(金)00時34分30秒
- 6.
ひとみが目を覚ましたのは夜も更けてからであった。
「お目覚めでございますか?」
傍には松浦がついていてくれた。
「ああ・・・まだだるいかな?」
「なにがあったんですか?」
「平家流の奥義を掛けられた・・・・きいたね。」
「・・・・」
「保田があたしにこの技を教えたいって言ってさ・・・いい土産をもらったよ!」
「そうですか・・・」
「しかし・・・保田が当主か・・・・あんたや加護も大変だね・・・
毎日ボロボロじゃないの?」
「加護は・・・もうおりません・・・」
「何故・・・?」
「わかりません・・・あなたが・・・消えて少ししたころです。」
松浦は顔をうつむいたままで力なくそういった。
言葉には出さないが、加護を妹のようにかわいがっていた
松浦の寂寥の念は相当のものであっただろう。
「ああ・・・そう・・・あの娘。出ていく時に”やっとウチの進む道が決まったんや”と
うれしそうに言っておりました。そしてとても・・・とても怖い目をしていました。」
- 54 名前:十三 投稿日:2001年12月14日(金)00時35分00秒
- 7.
新潟県長岡市にある心水館の道場は、日が暮れると辺りに人どおりはない。
夜になるとあたりに広がる光は、この道場からのものだけであり
周りは、のどかな自然が広がる。
「ま・・・参った・・・」
心水館長岡道場にその声は響き渡っていた。
この道場には、今、四人の人間がいるが
そのうちの一人は意識を失い倒れていた。
長岡道場師範、小川 真琴であった。
もう一人、技を掛けられている娘。名は紺野 あさ美という。
夜も更けたころにこの道場に二人の娘が来て小川と紺野に立ち会いたいと
いう申し出をしてきた。二人はそれを快諾したが、小川はあっという
間にのされてしまった。
紺野も粘りはしたが、現在、アームロックと袈裟固めの複合技を掛けられており
もはや脱出は不可能であった。
「参ったってなんや・・・参ったって・・・ワレも武道家の端くれなら覚悟きめえや!」
その技を掛けてる娘はそういうなり一気に紺野の腕と肩を破壊した。
人の間接とはこのような曲がり方をするのかというくらいひどい曲がり方をしていた。
- 55 名前:十三 投稿日:2001年12月14日(金)00時35分34秒
- 「ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
悲鳴とともに紺野はその場をのたうち回っている。
「まあ、こんなもんかいな・・・喰いたりんで・・・」
先ほど紺野を破壊した娘はそうつぶやいた。
「加護!あんたも言うようになったね!」
加護と同時にこの道場に来ていたもう一人の娘がそういった。・・・その娘
は体から妖気を発散させ目には狂気を帯びていた。
その娘は後藤 真希であった。
加護は現在後藤と行動をともにしていた。
加護は後藤と石川の闘いをみていた。その闘いに衝撃を受け自分も
そのような闘いをしてみたいと思い後藤の所に押しかけた。加護は自分の追い求めるスタイルを体現している後藤に強く衝撃を受けていた。
加護にとっては、闘いに余計な理屈は無用のものでありいかに相手を効率よく破壊するかということが
大切であった。
「まあこんな食いカスみたいなのといくらやってもたらんで!ウチは飯田 圭織とやりたいんや!」
「ふふっ、あんたが勝ち続けてればそのうち嫌でも闘ることになるさ!」
その後の二人の行方はわからない。
小川や紺野が倒れてるのが発見されたのは翌日になってのことであった。
- 56 名前:十三 投稿日:2001年12月14日(金)00時38分01秒
- 更新いたしました。
次回更新では、あの娘の怒り爆発・・・・なるか?
- 57 名前:十三 投稿日:2001年12月16日(日)21時50分27秒
8.
希美は長岡に向かっていた。心水館に世話になっていた時に同世代で仲良くなったものがおり
その娘に会いに行くためであった。その娘は、地方から暫くの間、東京の道場で研修を行っており
その娘が一番多く闘った相手が希美であった。
中国拳法と空手学んだものは違うが格闘に対する哲学や性格が妙に合い打ち解けた。
その娘の名は紺野 あさ美といった。
(紺野元気かな?)
弁当を頬張りながら希美はそう思っていた。
久しぶりの再開であり積もる話もある。
そんなことを考えてるうちにまもなく長岡に着いた。
希美はそそくさと降りるとタクシーにのり目的地である長岡道場の行き先を告げた。
車は暫く走ると辺りにはのどかな田園風景が広がっており
その田園を抜けると長岡道場が見えてきた。
希美は降りると門の前に立った。
(???)
希美の危機に対する感覚が異常を察知した。
(どうしたんだろう・・・・)
希美は慎重にドアを開けると半身の体制で中を確認した。
見れば中に人が二人倒れていた。
- 58 名前:十三 投稿日:2001年12月16日(日)21時51分00秒
- 「紺野〜〜〜〜っ」
希美が紺野の下に駆け寄った。
「しっかりして!大丈夫?」
「ああ・・・・のの・・・・ちょっと駄目かな・・・」
「誰がこんなことを・・・・」
「加護・・・・亜衣・・・後藤 真希といってた・・・」
(後藤??????)
「ははっ不覚を取っちゃった・・・後藤ってのに真琴がやられて
あたしが加護ってのにやられちゃったよ・・・」
「加護・・・・亜衣・・・・」
「あっ!そいつらは、ののの姉さんの事を探ってたよ・・・気をつけて・・・」
紺野はそれだけ言うと力尽きてしまった。
希美はそれから紺野の体に触れてみた。体のいたるところが折られ
または、靭帯が伸ばされていた。よほど実力に差がなければこのような壊され方はしない。紺野はいたぶられて
つぶされたということが希美にはわかった。
「あいつら〜〜〜〜地獄の果てまで追っかけてやる!」
希美の体は全身怒りで血液が逆流してるかのようであった。
かつてここまで怒りという感情を感じたことはない。
希美は友の無念を晴らすため闘う気であった。
- 59 名前:十三 投稿日:2001年12月16日(日)21時51分34秒
9.
加護 亜衣はバーのカウンターにいた。骨を折った後の酒は
美味い。加護は何時からかそう思うようになっていた。
昨日のことであるが鮮明にベキッという音が今でも耳に残っている。
「なあ?いつまでこんなことやるんや?ウチはもう雑魚はええねん
ウチも地下闘技場で強い奴とガツンとやりたいんや!」
加護が言った。
「ふっ・・あんたがああいう連中を2〜30人相手できるようになってからだね。」
加護の隣に強烈な妖気を放つ娘・・・後藤 真希がいた。
「まあ弱いのが何人いても同じや!それより問題は飯田 圭織や!
あいつどこで何しとるのか知らんが、一向に足跡がつかめん!
噂によると日本には、いないっちゅう話や・・・・
ウチに恐れをなして逃げたんかいな!」
加護はそう言うと酒の入ってることもあったのだろう、豪快に笑い出した。
「飯田・・・圭織に・・・文句があるのか?」
その声は、加護の隣の隣の席から聞こえてきた。
そこには、煙草をくわえた娘が座っていた。
希美であった。
- 60 名前:十三 投稿日:2001年12月16日(日)21時52分08秒
- 「あん?」
「圭織の文句は・・・・あたしに言えええっ!!!」
希美はそう言うと加護のそばに立ち、今までくわえていた煙草にターボライターで火をつけた。
強烈な炎が辺りをゆがめハイライトの紫煙が立ち昇る。
ぶはあッ!!!
希美はその煙を加護の方に向かい吐きちらした!
「ゴホッ、ゴホッ!・・・・なんや?ワレ?」
加護が煙にむせながら希美を見る。
「飯田 圭織の妹・・・希美。」
「ほう・・・ウチに何の用や?」
「紺野 あさ美は、あたしの朋友だ!それだけ言えば充分か?」
「そうか・・・ワレ!あいつの友達だったんかいな・・・・くくっ!雑魚一匹で
ええもん釣れたで!」
「表に出ろ!」
辻がそう言うと加護もそれをうけいれた。だが後藤は我関せずという感じで
飲み続けていた。
「頑張ってきな!」
後藤は加護の後姿にそう声を掛けるだけであった。
- 61 名前:十三 投稿日:2001年12月16日(日)21時52分38秒
- 10.
バーから少し歩くと大きな駐車場があった。
地元の運送会社の車庫であろうか、何台か大型のトラックが止まっていた。
事務所の灯りは消えており。人の気配はない。
「ウチも運がええで、ワレを倒せば飯田 圭織がでてくるやろ!」
加護が言った。
「姉はお前を相手にするほど暇じゃない!あたしで充分だ!」
希美が言った。
「ほう・・・まあええ、ワレの間接ぶったっぎったる!」
二人の頭上に月が怪しく光っている。その月を隠すかの
様に雲が次々に通り過ぎてゆく。その影が二人のたっている地面を走っていた。
そして頭上に輝く北斗七星がいつもより強い光を放っている気がした。
- 62 名前:さるさる。 投稿日:2001年12月21日(金)23時11分25秒
- 市井と中澤の対決、息をのみましたね。
後藤は相変わらずで・・良かった藁
加護を弟子にしたんですねぇ、おもしろい。
さぁ、加護辻がどうなるのやら、更新楽しみです。
- 63 名前:十三 投稿日:2001年12月24日(月)01時35分02秒
- 「いくで!」
加護はそういうなり希美に前蹴りを仕掛けた。
だがそれは、フェイントであり本当の狙いは足へのタックルであった。
希美はそれをひいてかわす。
「しっ!」
加護はさらに下段蹴りを打つ。左右で。
打、打、打、打、打。
希美はそれを全てかわした。
「どないしたんや?かわしてばっかやと話にならんで!」
加護は希美との間合いを詰めた。掌で希美の顔を狙いにいく。
どのくらい打ち込んだだろうか?10発、否、20発は打ち込んでいた。
しかし、希美は、それらを全て受けきった。
(ち〜っ!)
加護は、このままでは、拉致があかないと判断した。リズムを変えるために
体を反転させるとバックハンド・ブローで希美を狙う。
ガシッ!
希美はそれを腕で防いだ。
(な・・・なんやこれ・・・)
- 64 名前:十三 投稿日:2001年12月24日(月)01時35分51秒
- ぞくりとするものを加護は感じた。
初めて腕と腕が絡んだ瞬間に希美の体から発せられた圧倒的な
闘気、拳格を感じた。
「お前は・・・あたしの朋友をいたぶり・・・壊した・・・その無念・・・お前の体で
償ってもらう!」
(なんや・・・この肌の粟立ちは・・・震えとるんか?・・・ウチが・・・)
「あたあっ」
希美の円の蹴りが加護の側頭部に決まった。
「ぶっ!」
加護の顔が横に飛ぶ。
「おあた〜〜っ」
正拳突きが顔面にヒットした。
加護の歯が二〜三本折れたようである。口から血が滴る。
「あた〜〜〜〜っ!」
希美の蹴りが加護の体のいたるところを襲う。
加護はそれを全て食らった。
- 65 名前:十三 投稿日:2001年12月24日(月)01時36分22秒
- 「うごほっ!」
加護は、しかしそれでもまだたっている。
否、格闘家の本能がまだ倒れることを許してくれない。
加護は希美と向き合う。だが動けない、ダメージの蓄積も
あっただろうがそれだけではない、希美の放つ拳格に圧されて、蛇に睨まれた
蛙のように動けない。
(こ・・これは、ウチが震えとるんやない・・・ウチの格闘家としての本能が震えとるんや
・・まさかウチの本能が死を感じてるっちゅうんか?)
希美はすっと加護の方に向かって行った。
(き・・来よった・・・う・・動ごけ・・・ウチの体・・・)
希美の右の人差し指が加護の側頭部を狙いにいった。
その指の動きが加護にはスローモーションを見るかのようにゆっくりとしたものに感じられた。
しかし体は動かない。恐怖が全身を支配する。
「ふっ・・はぁつ!!」
加護が声をあげる。
- 66 名前:十三 投稿日:2001年12月24日(月)01時36分56秒
- 「加護 亜衣・・・・・・イ爾已經死了!!」
希美の指が加護の鼓膜を突き破った。
「ぎゃ〜〜っ」
加護の叫びが夜空に響き渡った。
ずちゃ!
鈍い音を立てて加護が崩れ落ちた。
希美は煙草を取り出すとそれに火をつけ頭上に煙を吐き己も天を見上げる。
夜空には北斗七星が怪しげな光を放っていた。
- 67 名前:十三 投稿日:2001年12月24日(月)01時38分06秒
- ちょっとですが更新しました。
- 68 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月28日(金)00時36分11秒
- 11.
希美はその場を立ちさろうとしていた。
「ちょっとまちなよ!」
暗くて顔はわからないが目の前から声がした。
「あんたなかなか面白いものもってるじゃない!加護を子供扱いするなんてただ者じゃないね。」
希美の目の前にいた娘は後藤 真希であった。
「お前か・・・・今日のところは見逃してやる!去れ!」
「そうは行かないよ・・・目の前でこんなもの見せられてのこのこ引き返すほどあたしも人が
できていないんだ。」
「お前を倒すのはあたしじゃない・・・吉澤 ひとみだ」
「吉澤?・・・・そうか・・・お前奴の一派か・・・そうならなおさらこの場から生かして返すわけにいかないね!」
「・・・・」
「ふふっ、行くぜ!」
ぶんっ!
後藤の拳が希美に放たれた。
- 69 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月28日(金)00時36分41秒
- 12.
バシッ!
その拳は途中で止められた。しかしその拳を止めたのは
希美ではなかった。
後藤の拳を止めたのは、吉澤 ひとみであった。
「よっすぃ〜〜〜!」
希美が声を挙げた。
「後藤・・・・今この娘が言った通りだ!お前の相手はあたしだ!」
ぎゅう
ひとみは拳に力を込める。
「くっ・・・てめえ・・・」
後藤が声を漏らす。
「加護のゆくえを追ってたら・・・とんだところに出くわしたよ!てめえが一枚かんでいたとはな・・・」
「ふんっ!」
「いいこと教えてやるよ!あたしとお前のカードが決まった!来月だよ・・・首洗ってまっとけ!」
「お前のほうこそ・・・無様な敗北を与えてやるよ!」
後藤は、そう言うとくるりと振り返り加護を引きつれ去っていった。
- 70 名前:十三 投稿日:2001年12月28日(金)00時41分36秒
- 第三章〜回想
1.
中国四川省に成都というところがある。
その近くの山に今はもう廃寺になった寺がある。
今、そこの武錬場に二人の格闘家が相対していた。
一人は、飯田 圭織、そして、もう一人はルルであった。
「しゃっ!!!」
ルルの高速の円の蹴りが圭織に襲い掛かる。圭織はそれをぎりぎり
で見切ってかわしたつもりであったが、額を薄く切られていた。
「はっ!」
圭織は身をかがめルルの腹部に掌で突きを放った。
ドンッ
ルルはそのまま後ろにのけぞった。
圭織はさらに追撃する。
一呼吸での必殺の三段蹴り!
ドン、ドン、ドン
ルルは二発は防いだが最後の一発は、こめかみの辺りを掠めていた。
「ふっ!」
ルルは素早く体制を立て直すと円の蹴りを上段に放つ。
圭織もまたそれと同じタイミングで円の蹴りを放っていた。
ガシ〜〜〜〜ンッ
二人の蹴りは空中で交差した。
二人の足には電流が流れるような衝撃が走っていた。
- 71 名前:十三 投稿日:2001年12月28日(金)00時42分42秒
- 「今日はこれまでよ、圭織。」
ルルが言った。
「ああ・・・」
短い時間ではあったが、互いの集中力は凄まじいものであった。
お互いに全身にびっしょりと汗をかいている。
「さすが中国拳法最高の称号の海王の名を継いでるだけあるね。全身が痺れているよ!」
圭織が言った。
「あなたも外国人として初の海王じゃない、それに今は海王は私とあなただけだよ。」
ルルが言った。
「そうだね・・・・だからこそあたしは、ここまでやってきて鍛えなおそうと思ったんだ!あたしを
鍛えられるのはあんただけだよ。」
「うん」
「でも・・・もうあたしは、帰らなきゃ・・・・」
- 72 名前:十三 投稿日:2001年12月28日(金)00時43分12秒
- 「帰る?日本に?」
「ああ・・・日本にやり残したことがある・・・」
「何を?・・・」
「吉澤の闘いをみとどけてやらんとな、そして・・・市井 紗耶香を引っ張り出す・・・」
「地上最強の娘・・・市井 紗耶香・・・でも圭織は一回勝ってるよ!」
「いや・・・まだ勝負はついてないさ・・・・」
「そう・・・もう何年前になるんだろうね・・・・圭織と市井が闘りあったのは・・・」
「さあね・・・大分たってるからね・・・あの時は、あたしもあんたもまだ若かったからね・・・」
「私はまだ若いよ!」
「ははっ、悪かったね・・・そうそう・・・市井とやりあうときは、多分またここになる・・・
あの時と同じさ・・・その時はまた立会人頼んだよ!」
「わかったよ!圭織、元気で戻ってきなよ。」
「ああ・・・ちゃんとあいつも連れてくるさ」
- 73 名前:十三 投稿日:2001年12月28日(金)00時44分05秒
2.
日本に向かう飛行機の中で飯田 圭織は夢を見ていた。
こういう時に見る夢は必ず決まっている。過去最大の死闘をえんじた
市井との闘いである。もう何度この夢を見たかわからないが
圭織の脳の中で記憶が鮮明によみがえっている。
その日は、凍えそうなくらい寒い日であった。
飯田 圭織は中国拳法の寺で、その娘が来るのを待っていた。
圭織の下に一通の手紙がきたのが一ヶ月ほど前であった。内容は
圭織と立ち会いたいというものであった。差出人は市井 紗耶香といった。
圭織はこの時は市井 紗耶香を知らなかった。しかし相手が誰であろうと
背中は見せないというのが圭織の信条であった。圭織はこの申し出を受け入れた。
カッン、カッンという音が石の階段から聞こえてきた。
「どうやら来たみたいだね・・・」
紗耶香との闘いのための立会人としてこの場にはルルがいた。
圭織の方をみてボソリといった。
- 74 名前:十三 投稿日:2001年12月28日(金)00時44分35秒
- 「ああ・・・」
その音がじょじょに大きくなり市井が姿を現した。
その傍らには小さな少女がいて市井の手を強く握っていた。
「飯田・・・圭織か?」
市井が圭織の方を見ていった。
「市井・・・紗耶香だな!」
圭織が言った。
市井は無言でうなずいた。
「お姉ちゃん・・・大丈夫?・・・頑張って・・・」
市井の傍らにいた少女がいった。
「ひとみ・・・心配しなくていいよ!すぐ終わる!それまで我慢してな!」
市井がひとみに優しく微笑みながら言った。その顔は自分が負けるということ
などまるで考えたこともないという顔であった。
「うん!頑張って!」
「ああ・・・」
市井はそう言うと圭織の方を向いた。その目はすでに野獣のそれであった。
そして、その闘気は、この場を覆いつくすほど大きなものであった。
(へー!いい目をしてるね。)
ルルは、そう思った。
- 75 名前:さるさる。 投稿日:2001年12月30日(日)00時20分30秒
- よっすぃと後藤が戦う日がやってくるのか・・・。
楽しみに読んでますよー。
- 76 名前:十三 投稿日:2001年12月30日(日)02時09分22秒
- >>75
ありがとうございます、なんとかがんばって書いてみます。
- 77 名前:十三 投稿日:2002年01月03日(木)01時16分02秒
3.
「ルールはなんでもあり!それでいい?」
ルルが言った。
「ああ・・・」
圭織が言う。
「なんでもいいさ」
市井が言った。
もう互いの間では闘いは始まっている。互いの手の内はわからない。
ならば、自分の得意な形に持っていこうとする。それは共通の思いであった。
ずんっ
市井が前に一歩でて正拳を放った。
(速い・・・・)
圭織は、ここまで市井の拳が速いとは思わなかった。
反応がわずかに遅れた。
市井の拳は圭織の頬を掠めた。かすっただけであるが電流が走った痛みを感じる。
- 78 名前:十三 投稿日:2002年01月03日(木)01時16分35秒
- 次は圭織が仕掛けた。
超低空のローキック。
市井は足を上げ防ごうとした。
しかし、圭織の蹴りは、当たる瞬間軌道を変え市井のわき腹を狙った。
ドスッ
鈍い音とともに圭織の蹴りが市井に突き刺さった。
「ぐっ!」
「はっ!」
気合一閃!圭織の掌のが市井を襲う。
市井はそれを拳で迎撃する。互いの体に稲妻が走った痛みを感じる。
「なかなかやるな」
圭織が言った。
「余裕見せてないで、全力で来なよ!」
市井が言う。
- 79 名前:十三 投稿日:2002年01月03日(木)01時17分06秒
- 4.
そこから先の場面は圭織の夢ではいつもぼやけている。
二人の闘いは力と力のぶつかりあいであったようなきがする。
圭織の拳と蹴りが次々に市井に決まった。
市井の拳と蹴りもまた次々に圭織に決まっていた。
そしてまた鮮明な画像を描くとき互いの顔は血だらけである。
ハァハァ
互いに肩で息をしている状態である。
額から血が流れ体中の骨のいたるところにはひびが入っている。
もはや互いに意地だけで立っていた。
「くわっ」
市井の渾身の拳が圭織に放たれた。
ガシッ
圭織はそれを掌でそらす。
そして圭織は、最後の力を振り絞り左下段回し蹴りを市井に放った。
- 80 名前:十三 投稿日:2002年01月03日(木)01時17分36秒
- 市井はこれを右脚を軽く上げ防いだ。・・・いや防いだつもりであった。
だが蹴りは、市井の脚に当たらなかった。圭織の蹴りは急激にその起動を変化させ
圭織の足の裏は市井の膝の上にあった。圭織はこの膝を踏み台にしさらに跳躍し
右膝で市井のこめかみを狙いに行った。ここまで一呼吸、人間技ではなかった。
”飛龍”・・・圭織はこの技をそう呼ぶ。プロレスではシャイニング・ウィザードという。
(ちぃ〜〜〜っ!!)
市井の獣並の反射神経がかろうじて、こめかみへのクリーンヒットを回避させた。
だが、かわしたとはいえ側頭部に圭織の膝を貰った。
市井の体が地面に転がった。
「止めっ!!!」
圭織は倒れてる市井に対し打ち下ろし式の右の蹴りを打つ体制に入った。
- 81 名前:十三 投稿日:2002年01月03日(木)01時18分08秒
5.
「駄目〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
圭織の前にはひとみがいた。
手を大の字にしてこれ以上市井に攻撃を加えさせないようにするためのジェスチャー
であった。
すっ
圭織は蹴りを打つのを止めしゃがみこみ、ひとみと同じ目の高さにあわせた。
「どうした?これ以上姉さんを殴らないでほしいのか?」
圭織が言った。
「違う・・・違うもん!お姉ちゃんを倒すのは、ひとみだもん!あんたなんかに渡さないもん!」
「そうかい・・・・でも勝てるのかい?」
「今は・・・無理だよ・・・」
「そうか・・・どうしたら勝てる?」
「あ・・・あの・・・」
「なんだい?」
「その時は・・・ひとみに・・・あなたの技を教えてください・・・・」
「ああ・・・いいよ!」
圭織はにっこり笑ってそう答えた。
次の瞬間、圭織は背筋に寒いものを感じた。
ライオンやトラと同じ類の怖い視線が目の前にあった。
倒れてる市井がひとみと圭織を睨む!
- 82 名前:十三 投稿日:2002年01月03日(木)01時18分39秒
- 市井はかつてこれほどの屈辱を感じたことはない。自分の妹が敵に教えをこうている。
プライドの高い市井には到底許せるものではなかった。
この屈辱感、そして復讐への怨念が市井を獣に変えていた。
市井は、すっと立ち上がるとひとみと目もあわせずに石段の方に歩いていった。
「あっ・・・お姉ちゃんどこ行くの?待ってよ!ひとみを置いてかないで!」
市井が石段の方に向かっていったのにひとみが気づいた。目には涙が浮かんでいた。
「なあ!」
圭織が言った。
「ええっ?なに?」
ひとみが振り返り涙声で答えた。
「名前・・・・なんて言うんだ?」
「吉澤 ひとみ。」
ひとみはそう言うと必死になって市井の後を追っていた。
- 83 名前:十三 投稿日:2002年01月03日(木)01時19分09秒
- 6.
機内のアナウンスがまもなく日本であるということを告げている。それにより圭織は目を覚ました。
(また・・・あの夢だったか・・・)
圭織はまどろみながらまどの外を眺めていた。
雲の下には懐かしい故郷の大地があった。
(あれから数年後だったな・・・次に市井の名前を聞いたのは・・・地上最強の娘か・・・)
圭織は、あのような目をした人間がどのような行動に出るのかを知っていた。
次に会うときは、必ず自分にとって最大の敵となるということである。
(あの時は、ホントにひとみも小さかったな・・・)
- 84 名前:十三 投稿日:2002年01月03日(木)01時19分40秒
- そういえばひとみとも暫くあっていないということに圭織は気づいた。
ひとみが既に日本に帰ってきているということは知っている。
そして、後藤と闘うことになっているということも。だが、ひとみがどのくらい強くなったのかまでは、知らない。
一抹の不安がある。あって早くそれを確かめたかった。
そんなことを考えてるうちに機体はアスファルトにその足を下ろしていた。
- 85 名前:十三 投稿日:2002年01月03日(木)01時21分13秒
- 更新しました。
後先考えないで書くと後が大変になってきました。
まああまり気にしないで書いてますが。
- 86 名前:十三 投稿日:2002年01月07日(月)20時44分35秒
- 7.
圭織は自分が日本に戻ってくることを伝えていなかった。
日本に戻ってきたとき誰にも邪魔されずに行きたいところがあった為である。
圭織は、飛行機から降りると休みもせずある目的地に向かっていた。
その場所は、福島の小湊流の道場であった。
圭織は、かつての自分が毎日通った道を通り武錬場へ向かっていた。
やがて武錬場の裏手の林を抜け梨華の墓の前に立った。
(梨華・・・久しぶり・・・全然これなくてごめん・・・)
圭織は心の中でそう思った。
「梨華・・・ごめん・・・あたしが・・・後藤の力を見誤らなければ・・・こんなことには・・・」
圭織は、そう小さな声で梨華の墓石に語りかけた。
「うぐっ・・・・くっ・・」
嗚咽を漏らす。涙があとからあとから止まらない。
- 87 名前:十三 投稿日:2002年01月07日(月)20時45分07秒
- 圭織もまた梨華の死という現実を受け止め切れなかった。
その現実から逃れるため中国にわたった。そして己の体を苛め抜くことにより辛さを忘れようとした。
どのくらいその場で泣き続けたのだろうか、目は赤く腫れ上がっていた。
(ごめん・・・またくるよ・・・・)
圭織はふと空を見上げてみた。かつて梨華とともに見た空は、蒼天であった。
かつてと変わらぬ蒼であった。
しばし空を見上げた後に圭織は来た道を引き返し始めた。
- 88 名前:十三 投稿日:2002年01月07日(月)20時45分39秒
- 8.
林の中を歩いていた圭織の前にすっと人影が現れた。
だが圭織は、そのことに対して驚いた様子はなかった。
「なんの様だ?空港からずっとあたしの後をつけていたな!」
圭織が言った。
「あたしの名は、高橋 愛、おまえと立会いが望みだ!」
娘はそう名乗り構えた。娘の流派は圭織と同じ中国拳法であった。
高橋の圭織に向けられた視線は、圭織に対する強い恨みが感じられた。
圭織は前に高橋と立ち会ったことはない、しかし高橋の方は強い復讐の念が
あるというのを圭織は敏感に察知していた。
「お前の流派は、中国拳法か・・・」
圭織が言った。
「そうだ・・・」
高橋はそういうと構えをとり即座に臨戦態勢に入った。
- 89 名前:十三 投稿日:2002年01月07日(月)20時46分09秒
- 「来なっ!」
圭織が言った。
拳・・・疾風のような拳が圭織を襲った。圭織は体をそらし避ける。
(この拳・・・どこかで・・・・・)
高橋が放った拳に圭織は、過去の記憶がよみがえる。
さらに高橋は、拳と肘のコンビネーションで圭織を責める。
圭織は、それを腕あるいは、掌底で防ぐ。
さらに圭織は高橋の正拳に対し、カウンターを放っていった。
高橋はそれを腰をおとし、かわすと圭織の腹部に掌底突きを放った。
圭織はそれを肘で防ぐ。
(そうか・・・・こいつ・・・・)
「さすが・・・北の狼・・・飯田 圭織・・・」
「お前は、石黒の弟子か?」
圭織が高橋を見据え言った。
「・・・これだけの攻防でそこまで見抜いたのか・・・さすがだな・・
そう!石黒 彩はあたしの師匠だ!。」
- 90 名前:十三 投稿日:2002年01月07日(月)20時46分52秒
- 9.
「師匠はお前に負けた後、毎晩のように酒を飲み歩きそれが元で
体を壊し亡くなった。死の直前まで”飯田・・・飯田・・・”
と言っていた。その無念・・・あたしが晴らす!」
高橋はそういうやいなや圭織めがけ蹴りを打つ。
バシッ!
乾いた音とともに圭織の側頭部に蹴りが決まった。
「ハッ」
高橋は身をかがめると圭織の腹部に掌底を打ち込む。
綺麗な軌道を描き決まった。
圭織は数歩、後ずさる。
高橋はさらに間をつめ、圭織の顎を垂直の蹴りで蹴りあげた。
ドスッ
圭織が地面に仰向けに倒れた。
(弱い・・・これが飯田 圭織???)
圭織がゆっくりと起き上がってきた。
口元からは血が流れていた。先ほどの蹴りで切れたのであろう。
それ以外では、特にダメージというものを感じていない様であった。
しかし、目だけは悲しそうな目をしていた。
- 91 名前:十三 投稿日:2002年01月07日(月)20時47分23秒
- ブンッ
高橋の孤拳が圭織の顔面を捉えた。
圭織は、そのあたった部分を押さえ顔を下に向けた。
絶好の倒す好機であったが、高橋は、追撃をしなかった。
「貴様〜〜〜〜っ!!!あたしを舐めているのか?あたしに勝ちを譲る気か?」
高橋は、激怒していた。全力で戦って負けるのなら納得もいく。
しかし、無抵抗の人間をいたぶり倒すのはおのれのプライドが許さない。
「師匠もこんな奴に負けたとあってはうかばれまい!来い!あたしを全力
でつぶしてみろ!」
高橋が言った。しかし圭織は動かない。
「貴様っ・・・」
ブン
高橋の疾風のような手刀が圭織の喉にめがけ放たれた。
しかし、その手刀は圭織の体をすり抜けた。
小湊流の神技的ディフェンスである。
(はあ?)
高橋がそう思った次の瞬間に圭織の指が高橋の喉に突き刺さった。
ドスッ
(な・・・なんだ・・これは・・・体が動かない・・・)
高橋は圭織の方を見た。圭織はゆっくり構えを取っていた。
その体からは闘気が発散されており、それが圭織りの体をより大きく見せていた。
- 92 名前:十三 投稿日:2002年01月07日(月)20時47分56秒
- 「あたしに色々と技を掛けたが・・・どれもあたしに致命傷を与えるにいたらなかった・・・
次はお前が真の暗殺拳の恐怖を味わう番だっ!」
(くっ・・・体の自由が・・・そういえば、師匠が言っていた。中国には一子相伝で
伝わる恐るべき拳法があると・・・た・・・確か・・ほ・・・)
「高橋 愛・・・・・・イ爾已經死了」
圭織は円の蹴りを高橋に放つ。
その蹴りのあまりの速さに高橋は自分の前に光の輪が出来た様に見えた。そして
そう思った瞬間に地面にはいつくばっていた。
「うっ・・・くっ」
高橋が地面に這い蹲りながらうめいている。
「心配するな・・・急所ははずしてある。」
「な・・・なぜ・・止めを刺さない?」
「お前は、まだ若い、復讐のためだけに生きるな!石黒のことは忘れろ!そうすれば、お前は強くなれる。」
「くっ・・・」
圭織がその言葉を言い終えたのと高橋が意識を失ったのはほぼ同時刻であった。
圭織は高橋のその目に石川を見ていた。復讐にとらわれたその瞳をみて、もう石川と同じ人間を出したくはないという気持ちがあった。
高橋を木にもたれかけさせると圭織は再び林の中を歩き出した。
- 93 名前:十三 投稿日:2002年01月13日(日)00時07分16秒
- 第4章〜激突
1.
安倍 なつみは都内にあるビルの地下に道場を借り切っていた。
大きな試合が近づくとよくここで練習をする。
マスコミをシャットアウトするのが大きな目的である。
しかし今はまったく違う目的でその場所には、二人の武人がいた。
一人は、安倍 なつみ。そしてもう一人は吉澤 ひとみであった。
二人は、互いに正座し相対していたが、なつみが自分の横においていた
物を握るとすっとたった。
なつみが握っていた物は日本刀であった。その鞘を抜くと白刃をひとみの首に当てた。
「いいか、吉澤!もし後藤に不覚を取るようなことがあればこれで腹を切れ!」
安倍の要求はあまりにも無茶な要求であった。しかし、ひとみは何故、安倍が
このような要求をしてくるのかわかっている。
- 94 名前:十三 投稿日:2002年01月13日(日)00時08分04秒
- 自分の弟子である梨華が殺され指をくわえている程なつみも人間が出来ていない。
しかし、その復讐の機会を自分に譲ってくれた。
さらにひとみは、なつみの梨華に対する気持ちにも気づいていた。
それらすべての気持ちに報いるためにも負けは許されない。
「わかってます。あたしが負けたら・・・その刀で腹を切ります。」
「ああ・・介錯はあたしがしてやる。心配するな。」
「はい・・・」
「なあ・・・吉澤」
「はい」
その瞬間なつみは、強くひとみを抱きしめた。
「すまない・・・・あたしが中途半端な教え方をしたばっかりに・・・・梨華は・・・」
「安倍さん・・・」
「あたしは・・正直、梨華は後藤に勝てないと思っていた。殴ってでもとめるべきだった・・・・」
なつみのその目には大粒の涙が流れていた。後から後からとめどなく流れていた。
「安倍さん・・・梨華はたとえ99%勝ち目はなくても1%あればそれに掛けたと思います。」
「ああ・・・そうだな・・・あいつはそういう奴だよな・・・」
「ええ・・・」
- 95 名前:十三 投稿日:2002年01月13日(日)00時08分54秒
- 「吉澤・・・もしお前が死ぬようなことになったらあたしも一緒に逝ってやる!
お前一人に寂しい思いはさせない・・・だから心置きなく闘ってきな!」
なつみのその声は震えていた。
「安倍さん・・・あたし・・・絶対に・・・・絶対に勝ちますから。」
ひとみはなつみを強く抱きしめそういった。
実際に戦うのは吉澤であるが、なつみもまたこの闘いに命をかけている。
図らずももう一人の命も背負い込むことになってしまった、ひとみであるが
それを負担だとは感じていない。安倍のその気持ちにこたえるために
そして、梨華の無念を晴らすため、そして何より紗耶香と闘うために
ここで躓くわけにはいかなかった
- 96 名前:十三 投稿日:2002年01月13日(日)00時09分30秒
- 2.
(ついに・・・決まったよ、梨華!これで、あんたの無念が晴らせるよ。
最初に吉澤を知ったばっかりに、あたしを受け入れることが出来なく
なってしまったんだからね。ねえ、解るだろ?あんたを吉澤の呪縛
から解き放つには、ああするしかなかったってのがさ・・・・
あんたをそこまで縛り付けていた、あいつを生かしとくわけには
いかないよ・・・
えっ?なに?あたし?今は、まあ楽しくやってるよ、そうそう
あたしにも弟子ができたんだよ・・・・加護っていってさ、まだまだ
弱いけどかわいい奴さ・・・辻って奴につぶされたんだけどね・・・
いずれあたしがぶちのめしてやるさ!
そうだ!梨華・・・あんたなんであの時あたしの物になるのを拒んだんだ?
何があんたを縛り付けていたんだよ・・・・そんなに吉澤が怖かったのか?
ねえ梨華!教えてよ・・・ねえ・・・・)
あれ?なんだろ?あたしなんで目から水が出ているんだろ?
- 97 名前:十三 投稿日:2002年01月13日(日)00時10分00秒
- 3.
後藤との決戦の当日、吉澤ひとみは目を覚ますと仏壇に線香を添えた。
目を閉じ両手をあわせ拝む。
(梨華・・・とうとうこの時が来たよ!あたし・・・勝つよ!負けない!この右手には
梨華が宿ってる。あたしやっと解ったんだ!あれが・・・・)
ひとみは、すっと立ち後ろを振り返る。
部屋は見事に片付けられていた。まるでこれから戦地に赴くかのように。
吉澤はそれから戦場に向かう為の準備を始めた。
それからどのくらいの時間がたったころであろうか、ひとみの部屋の呼び鈴が鳴らされた。
吉澤はそれが誰だかわかっていた。
「吉澤!準備はいいか?」
訪問者は安倍 なつみであった。
「ええ、大丈夫です。」
ひとみが言った。
「白いスーツか・・・・死装束のつもりか?」
「まあ、そんなところです。」
「いい覚悟だ!いくぞっ!」
- 98 名前:十三 投稿日:2002年01月13日(日)00時10分44秒
4.
東京にあるドームスタジアムの地下闘技場の控え室は奇妙な静寂に包まれていた。
もう闘いまで30分もない。しかし吉澤 ひとみは、落ち着いている。
いつもであるならもっと闘志を前面に押し出すはずでは、あったが今回に関しては
なぜか、落ち着いていた。
闘志がないわけではない、ひとみの中には蒼い炎が燃え滾っている。
「安倍さん・・・」
不意にひとみが語りかけた。
「なに?」
不意に話しかけられたことにより、なつみは一瞬戸惑いを感じた。
「安倍さんは・・・梨華のこと好きだったんですか?」
「何を・・・・こんなときに・・・」
「答えてください!」
吉澤がなつみをじろりと睨んだ。
- 99 名前:十三 投稿日:2002年01月13日(日)00時11分17秒
- 「ああ・・・その通りさ・・・」
なつみはやや伏せ目がちにそう答える。
吉澤は無言でうなづいた。
「でもすぐに、あいつはお前しか見ていないというのが解ったよ。
それからだね・・・あいつの目的のために何かしてやりたいと思うようになった・・・」
「梨華は・・・よく安倍さんのことを姉さんが出来たみたいって言ってましたよ・・・」
「そう・・・なあ・・・吉澤・・・なんでこんな時に・・・」
ガシャ〜〜〜〜ン
控え室中に凄い音が響き渡った。
ひとみが机を強打した音であった
- 100 名前:十三 投稿日:2002年01月13日(日)00時12分41秒
- 「後藤はっ・・・後藤はっ・・・梨華が自分の物にならなかったという理由で
梨華を殺した!!!あいつは!!梨華の命を弄んだんだ!!!あいつは許せねえ!!!
あたしが・・・あたしが・・・・あいつに人の痛みってのを教えてやるっ!!!」
今まで言葉に出来なかった思いがついに爆発した。梨華の不条理な死に対する
思いは、後藤を前にしてもはや抑えることは出来なかった。
「安倍さん・・・すいませんこんな時に・・・でもこんな時だからこそあなたの梨華に対する
思いを確認しておきたかった。あたしの梨華への思い、そしてあなたの
梨華への思いがこの右拳に勝利を呼び込む!」
- 101 名前:十三 投稿日:2002年01月13日(日)00時13分14秒
- 5.
闘技場には既に後藤 真希の姿があった。
よほど己に自信があるのだろう。闘技場のフェンスのところで加護と話をしていた。
「ごっつぁん!勝利祈ってるで!」
「ふふっ、任せときな。」
「相手の吉澤は馬力のあるやつや!せやけど!ごっつぁんのほうが上や!」
「あたりまえさ、今夜は最高の破壊のショーを見せてやるよ!」
「そら楽しみやな!吉澤が気の毒やで!」
「ふふ、バラバラにしてやるさ。」
「敵さんぼちぼち来たみたいやで!」
- 102 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月14日(木)04時32分10秒
- 続きキボンヌ
- 103 名前:十三 投稿日:2002年02月17日(日)02時09分50秒
6.
ひとみは入場の通路を静かに歩いていた。何年か前やはり梨華もこの道を通り
後藤との闘いに向かった。ひとみの胸に過去の梨華が去来する。
その所為であろうか、ひとみから覇気というものがまるで感じられなかった。
まるで抜け殻のように。
(あのバカッ!)
観客席で見ていたなつみはそう思った。
「吉澤っ!」
なつみは思わず通路の端の所まで行きひとみに声を掛けた。
- 104 名前:十三 投稿日:2002年02月17日(日)02時10分27秒
- 「おまえ一体何を考え・・・・(えっ?熱い???)」
なつみはひとみの両肩をつかみそう怒鳴った。
「安倍さん・・・すいませんが、少し静かにしていただけますでしょうか!」
ひとみが低く迫力のある声でそう言った。
抜け殻のように見えたのは凄まじい集中力のためであり闘気を感じなかったのは
それが全て自分の内面に向かっていたためであった。その闘気が体を熱くさせていた。
- 105 名前:十三 投稿日:2002年02月17日(日)02時10分58秒
7.
「ふーなんとか間に合ったか・・・」
これから闘いが行われようかという時に一人の娘が闘技場に到着した。席はもう座るところなどなく
通路でたったまま見ることになった。その娘は到着するなり煙草を取り出しターボ・ライターで火をつけた。
あたり一面にハイライトの紫煙が立ち込める。その煙が出口の方に流れていった。
その娘は、希美であった。
「のの!どうだ?」
希美のやや後方にもう一人の娘がいた。
飯田 圭織であった。
「まだ、始まってないよ!」
「そうか・・まだか・・・」
「お姉ちゃん・・・あいつやばいよ・・・この前見たときと目つきが違うよ・・・」
「ああ・・・血に飢えた獣の目だ・・・」
「なんか、ただじゃすまない気がするよ・・・」
「大丈夫だ、ひとみの右拳には、梨華が宿ってる。」
- 106 名前:十三 投稿日:2002年02月17日(日)02時11分37秒
8.
「ふっ、あいつもちょっとは成長したみたいだな!いい目をしてるよ」
闘技場の観客席にひとつだけ異質の空気を放っている場所があった。
その娘の放つ闘気で空間がゆがんでいるかのような質感を感じる。
その重い空気にその娘の周りの客はひとり、ふたりと席を立った。
その闘気の主は市井 紗耶香であった。
「それはどちらですか?後藤?それとも吉澤?」
市井の隣にいた娘・・・柴田 あゆみが問う。
「後藤さ・・・あの目を見れば相当の修羅場をくぐってきたのがわかる。」
「なるほど」
- 107 名前:十三 投稿日:2002年02月17日(日)02時12分08秒
- 「しかし・・・それ以上に驚いたのがひとみだ!あいつは強い奴の雰囲気を持っている。」
「雰囲気?」
「ああ・・・おまえもわかるだろ?強い奴にはそういう雰囲気があるってのが・・・」
「なるほど空気が違いますね。」
「そういうことだ!」
「面白い闘いになりそうですね。」
「ああ・・・あたしが闘りたいぐらいだよ!」
- 108 名前:十三 投稿日:2002年02月17日(日)02時13分02秒
- 9.
もう限界だ!こいつの面見たらもう収まりがつかねえ!
今すぐだ!今すぐこいつと闘らせろ!
なあ今すぐだ・・・・今すぐだよ!!
10.
吉澤!やっとてめえと闘れる・・・
あたしがどんなにこの時を待っていたかわかるかい?
もうてめえを殺すしか梨華に対してしてやれることはないんだよ!
いいか!今日がてめえの命日だ!
- 109 名前:十三 投稿日:2002年02月17日(日)02時13分37秒
11.
「いいね!君たちの・・・・」
立会人が後藤と吉澤に注意を促す。しかし二人にはそんな声など届いていない。
互いに目を片時もそらさない。後は、開始の音を聞くだけである。
それが獣を解き放つ合図となる。
心臓の鼓動が速くなる。血液が逆流する。目が血走る。
「いいか!後藤!!お前のために祈る言葉はない!念仏は自分で数えておけ!」
極限の緊張の時に吉澤は後藤を挑発した。
「お前は決して楽に死なせやしない!!あたしの怖さを感じたまま地獄に送ってやるよ!」
後藤も負けじと返す。
互いの間に電流が飛び交った。
- 110 名前:十三 投稿日:2002年02月17日(日)23時52分00秒
- とりあえず更新できました。
しかし、紺野は空手着がビシッときまってたな。
これをもっと早く見てれば紺野もっとかっこよくかいたのに。
- 111 名前:十三 投稿日:2002年02月23日(土)00時13分04秒
「開始めっ!」
葬送の鐘が打ち鳴らされた。
ドンッ
ドンッ
二人の闘いは正拳の相打ちで始まった。
互いの拳がともに顔面にヒットした。
「てめえっ!」
吉澤はそれに怯むことなくハイキックを見舞う。シュッという風きり音
とともに衝撃が後藤に伝わる。後藤はその蹴りはかろうじて腕で防いだ。
(くっ・・・こいついい蹴りしてるじゃないか・・・ん?)
後藤がそう思った瞬間、首を取られた。
その首は両手でがっちりとロックされている。
その体制でひとみは、左右の膝を後藤のわき腹、あるいは腹部を打ち続ける。
- 112 名前:十三 投稿日:2002年02月23日(土)00時14分02秒
- ガシッガシッ
ひとみの膝が次々に後藤に決まる。
しかし、後藤はそれに対に何の反応も示さなかった。
まるで虫が止まっているかのように後藤は痛みを感じてないようであった。
「どうした?吉澤?そんなもんであたしの腹筋が破れると思っていたのか?」
ド〜〜〜ン
後藤はそういうやいなやボディーアッパーをひとみに加えた。
ガハアアッ
ひとみの胃から内容物が飛び散った。
(こ・・・これが梨華を葬ったボディーブローか・・・・こんなの何発も貰ったら
ただじゃすまないな・・・)
ブンッ
後藤の右拳がひとみに放たれた。
ひとみはそれを掌ではじく。
ブンッ
今度は左拳で打ってきた。風きり音が耳に残る。
後藤はさらに加速度的に両の拳の速度を速める。
「ち〜〜〜っ!」
ひとみは後退を余儀なくされた。ふとひとみは、己の背中に固いものを感じた。
- 113 名前:十三 投稿日:2002年02月23日(土)00時14分34秒
- 闘技場の壁であった。
(ここまで押し込まれてたのか・・・・)
ひとみは思う。
もう後退は許されない。
後は前に出るだけである。
しかし、後藤の拳がそれを許さない。
さらに後藤は吉澤に密着するぐらい接した。
「死にな!」
後藤の肘が吉澤に振り落とされた。
ガンッ!という音が響き渡った。
- 114 名前:十三 投稿日:2002年02月23日(土)00時15分35秒
- 12.
「ぐっ!」
後藤は肘を打ち下ろした瞬間に胸部に衝撃を感じていた。
(何なんだ今のは?)
吉澤は、肘を打ちおろされた瞬間に拳を放った。距離はわずか10pもない
拳の威力が発揮される距離ではない。しかし後藤が感じた痛みは、内臓まで響く威力であった。
「ほう!いいパンチだな!」
観客席で見ていた。圭織と希美の後ろから声が聞こえた。
「有紀か・・・何故ここへ?」
圭織が言った。
「今日は、ドクターとしてきてる。まあ終わるまでは暇だからな、見物さ!
それにしても今のパンチは”爆弾”か?」
「ああ・・・あんたと同じパンチだよ。」
「なるほど、さすが紗耶香の妹だけあるな。」
前田はそう言うとうなずきながら圭織の隣に座った。
- 115 名前:十三 投稿日:2002年02月23日(土)00時16分05秒
「やるじゃないか!」
後藤は薄笑いを浮かべひとみの方を見た。
「挨拶代わりだ・・・まだお前の制裁は始まったばかりだ!」
「この闘いが終わった後もそんなこといえるかい?」
そういうと後藤が構えを取り出した。両肩よりやや高い位置に拳をおき強く握り締めている。
防御のための構えなどではない。敵を制圧前進するための構えであった。
- 116 名前:十三 投稿日:2002年03月08日(金)00時30分15秒
- 13.
ブーーンッ!!
後藤の拳の風圧をひとみは頬で感じた。
(危なかった・・・)
さらに反対の拳が襲う。
その拳がひとみの頬を掠めた。
ブンッ!ブンッ!
後藤の拳が加速度を増す。ひとみも腕あるいは、肘で裁く!
しかし、それも徐々に後藤の拳についていけなくなった。
(えっ?)
ひとみがそう思った瞬間、後藤の拳が止まった。そして次の瞬間に後藤の拳
がひとみの顔面に入った。
後藤は、ひとみの腕をまず殺しにかかっていた。そしてそれが終わったところで
音速拳で止めを刺しにかかっていた。誰に教わった訳でもない、格闘の天才、後藤ならではの
闘いであった。
ずちゃ!
ひとみの体が前のめりに倒れた。
- 117 名前:十三 投稿日:2002年03月08日(金)00時30分47秒
14.
「終わりですか・・・意外とあっけなかったですね。」
柴田がぼそりと言った。
「柴!やせてもかれてもひとみは、あたしの妹だ!あのくらいでくたばる様なやわな鍛え方はしてないさ!
それに今の拳の急所をひとみははずしている・・・」
紗耶香が言った。
「あの速さの拳でそんなことができるのですか?」
「ああ・・・理屈じゃないさ!本能さ!」
紗耶香がそういった時、観客席から地鳴りのようなどよめきが沸き起こっていた。
「なるほど・・・さすが市井 紗耶香の妹だけありますね。」
闘技場ではひとみが壁に手をつきながらも何とか立ち上がろうとしていた。
- 118 名前:十三 投稿日:2002年03月08日(金)00時31分41秒
- 15.
「よく立ってこれたね、その根性だけはほめてやるよ・・・」
後藤がひとみを見ていった。
「所詮、お前の音速拳など矢口の猿真似に過ぎない。そんな技であたしが倒せるか!」
「心配してくれなくてもこれからいやというほどあたしの技を味あわせてやるさ!」
「あたしにてめえの汚い歯を入れようってのか?」
「いや!お前如きに大切な”牙”を使うのはもったいないからな!」
「ふん!まあ、いいさ!いくぜ。」
「きなよ!」
- 119 名前:十三 投稿日:2002年03月08日(金)00時32分11秒
- 16.
ブンッ
ひとみの膝蹴りが後藤の顔面を襲う。
速く重い膝蹴りであるというのが風切り音でわかる。
身長のあるひとみが放つ膝蹴りは豪快という言葉がぴたりと当てはまっている。
そしてそれは当たれば一撃で顎が砕かれるであろうかというけりであった。
しかしその蹴りに対しても後藤は憎らしいほど冷静であった。
ひとみは、時折その膝蹴りから前蹴りに移行させた蹴りを放つ
その蹴りの威力による焦りの為か後藤は、バランスを保つことが困難になってきていた。
グラッ
後藤がよろめく様にバランスを崩した。
その一瞬のチャンスをひとみは見逃さなかった。
- 120 名前:十三 投稿日:2002年03月08日(金)00時32分41秒
17.
「しゃっ!」
ひとみの左拳が後藤に向けられた。
がしっ!
その拳は後藤の手により阻まれた。
「ふふっ、あんたみたいな奴はこの手に簡単に引っかかるね。」
後藤はそういうともう片方の手も添えてひとみの腕を力いっぱい握った。
パンッ
ひとみの腕の血管が破裂した音がした。
「うわ〜〜〜〜っ」
ひとみの絶叫が闘技場に響き渡る。
もうひとみの腕は使い物にならない。
ひとみは必死になり後藤に頭突きを見舞いなんとかその場を逃れたが不利は変わらない。
- 121 名前:十三 投稿日:2002年03月24日(日)18時22分11秒
- 18.
(ハァハァ・・・・)
ひとみの呼吸が乱れる。左腕の激痛が脳に刺さるように伝わる。
「どうした?吉澤・・・お前の処刑は始まったばかりさ!今度はもう片方も使えなくしてやるよ!」
後藤は言うや否や左の手でひとみの右腕をつぶしに来た。
悪魔の手がひとみにのびる。
「なめんじゃねえ!」
ひとみは後藤の左手を右手で迎え撃った。
期せずして力比べの体制に入っていた。
「あんた、頭がおかしいのか?あたしと力比べするなんてさ・・・」
後藤が言う。
ひとみは、それに答えない。歯を食いしばり力を込める。
(こいつなかなかやるじゃないか・・・)
後藤は思う。
- 122 名前:十三 投稿日:2002年03月24日(日)18時23分04秒
- ギリッ
ひとみが力を込める。
ギュッ
後藤が力を込める。
力比べでは後藤に分があると思われたがひとみも負けてはいなかった。
いやむしろ押し気味なのは吉澤であった。
「てっ・・・・てめえ・・・」
後藤によゆうがなくなってきた。
ゆびがギシッと悲鳴を上げている。ひとみは歯を食いしばり、顔に血管が浮かび上がるくらい
緊張していた。
「うお〜〜っ!」
ひとみが限界の力を己の掌にこめた。
ベキンッ!!
後藤の指が折れた音をひとみは聞いた。
「あ〜〜〜〜っ!」
後藤の悲鳴が挙がった。
後藤はその場を逃れるために親指でひとみの目を狙った。それによりひとみはバランスを崩し
後藤はその場を逃れることができた。
「へっ!これで五分だぜ!」
ひとみが後藤を見ていった。
「貴様〜〜〜っただじゃすまねーぞ・・・・・・」
後藤が言った。
- 123 名前:十三 投稿日:2002年03月24日(日)18時23分37秒
- 19.
「これで、両者とも片手は使えない状態ですか・・・面白くなってきましたね。
どういう形で決着をつけてくれますかね・・・」
柴田が紗耶香のほうを見ていった。
「いや・・・互角じゃない、後藤が有利だ!」
「何故ですか?」
「ひとみには、片手で相手に致命的なダメージを与える技がない!
しかし後藤にはそれがある。」
「なるほど・・・それでは吉澤 ひとみの不利は否めませんね・・・」
「ああ・・・・・・」
- 124 名前:十三 投稿日:2002年03月24日(日)18時24分08秒
- 20.
「吉澤・・・・もうちょっとお前をいたぶってやろうと思ったがそうも
言ってられなくなった・・・」
後藤が額に汗を滴らせながら言った。
「ぐだぐだ言ってないで来いよ!!」
ひとみが言った。
「お前に人体の構造について教えてやるよ!」
後藤はそういうなりひとみに向かうと胃にパンチを見舞った。
「ゴフッ!!」
ひとみの口から吐瀉物が撒き散らされた。
(な・・・・なんだ・・・)
ひとみは思う。今までに味わったことのない打撃の感触であった。
内臓に直接浸透してくるそしてその波が全身につたわる。
「胃への打撃は、下30度から手首を効かせると響きやすいのさ!!」
後藤が余裕たっぷりに憎らしげな笑みを浮かべ言った。
「次は肝臓だよ」
後藤はうずくまる吉澤を引きずり起こすと肝臓にパンチを入れる。
- 125 名前:十三 投稿日:2002年03月24日(日)18時24分40秒
- ズンッ
音を聞いただけで気の遠くなりそうな重い拳が突き刺さった音であった。
「右肋骨下方向より60度・・・重く残るようにね・・・・」
後藤の笑みにさらに狂気が加わってきた。
(こ・・・・こいつ・・・本物のサディストか?)
ひとみは己の体が重くなってきたのを感じている。これ以上もらうと
危険だというのを。
「最後は脳さ!この場合は、目標を顎にするのがいいんだよ!そして掌で下30度
よりスピーディーにね!」
しゅっ
後藤の掌がひとみの顎を捉えた。
ひとみは脳が揺さぶられたことにより平衡感覚を失い地面をなめることとなった。
ひとみの意識があるのかはわからない状態であった。
「この技はね、あんたのねーさんから教えてもらったものさ!うらむならあんたのねーさん恨みな!」
倒れてるひとみに対して後藤は語りかけた。
- 126 名前:十三 投稿日:2002年03月24日(日)18時25分13秒
- 21.
「市井!なにそんなとこで見てるんだよ!もうあたしを喰らいたくなっただろ?降りてきなよ!」
後藤が観客席の市井の方をみて会場中に響き渡る声で紗耶香を挑発する。
「なに〜〜〜降りてこいだ〜〜〜??」
市井の顔に筋が浮かび上がった。体は小刻みにふるえ拳が強く握り締められていた。
そして跳躍一閃闘技場内に入ると後藤と対峙した。
「後藤〜〜〜〜いっぱしの格闘家気取りであたしを呼びつけるとは、いい度胸してるじゃないか!」
紗耶香が言った。
「今のあたしは、あんただって倒せるさ!」
「ふっ・・・餓鬼が・・・はねっかえりやがって・・・(ん・・・・?)」
紗耶香はそこまで言いかけると後藤の横に視線を移した。
後藤もそれに追随する。
視線の先にはひとみが立ち上がり構えをとっていた。
「姉貴・・・・すっこんでろ・・・・」
ひとみは後藤を睨んだまま視線をそらさず、紗耶香に言った。
「こいつを倒して・・・・必ずあんたの前に立つ・・・」
「はは・・・頼もしい妹だね・・・」
後藤が紗耶香のほうを見て言った。
- 127 名前:十三 投稿日:2002年03月24日(日)18時25分59秒
- 「後藤・・・・あんた負けるよ!」
紗耶香が後藤を見ていった。二人の間に冷気が漂う。
後藤にとっては、不気味な予言、それも紗耶香がいうならなおさらであった。
「それも一撃でね!」
紗耶香はそれだけ言うとくるりと振り返り観客席に向かった。
「いい型だひとみ!外しちゃったらあとないよ!」
紗耶香はそういい残すとすばやく観客席に戻った。
「あんたよっぽど信頼されてるんだね!」
後藤が言った。
「姉貴の言うとおり、これは最後の一撃だ!」
「ふふっ、そういえばさ!梨華も同じこと言ってたよね!あんたも死ぬかい?」
「いや、この右拳の一撃で倒れるのはお前だ!」
「まあいいさ、あたしのこの拳であんた死んでもらうよ!」
「こいよ!後藤!」
ぎゅう
ひとみの拳は強く握り締められていた。
- 128 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月24日(水)14時55分42秒
- 保全
- 129 名前:(´ー`●) 投稿日:2002年05月20日(月)04時13分55秒
- 保全しまーす
- 130 名前:十三 投稿日:2002年05月20日(月)21時48分04秒
- 21.
後藤は 肩の位置に拳を構えるとひとみに向かってきた。
ひとみの拳を跳ね返したらそのまま拳を入れる為である。
ひとみはゆっくりと後藤のふところに潜り込むと拳を放つ姿勢に移行した。
(みせてやる!お前にも!姉貴にも!真の一撃必殺を!)
そして中段の正拳突きが後藤に放たれた。
(きたよ!やっぱり平凡なボディー・ブローだね!狙いは水月!そこはあたしにとって急所じゃないよ)
足が揃う、膝が曲がる、腰が入る、肩、肘、手首の関節が固定される。
「ちぇりあああ〜〜〜〜〜っ!」
みしっ!
ひとみの正拳突きが後藤に炸裂した。
- 131 名前:十三 投稿日:2002年05月20日(月)21時48分38秒
- 22.
(??????)
「ぐわっはっ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」
ひとみの拳が決まった瞬間に後藤は口から血を吐き地面にうずくまった。
何が起こったのか自分でりかいすることが出来ない。
その後藤の頭の中で今ひとつの思考だけが巡っていた。
「はぁ・・・はぁ・・り・・・か・・・り・・・・か・・・た・・・す・・・け・・・」
(後藤???こんな時まで梨華のことを?何故?)
もはや後藤は言葉を発することが出来ない。
地面に這い蹲り身悶えながら血を吐いている。
その吐き出された血が闘技場を血に染めていた。
誰の目にもひとみの勝ちだとわかる。
「勝負あり〜〜〜〜!」
立会人がひとみの勝利を告げた。
その瞬間であった。ひとみの後ろから抱きついてくるものがいた。
安倍 なつみであった。
「よくやった・・・よくやったよ・・・」
なつみの目には大粒の涙がこぼれていた。
「はい・・・安倍さんのおかげで勝つことが出来ました。」
「いいよ・・・あんたが強いから勝ったんだよ!あんたの梨華に対する思いが勝ちを呼び込んだんだよ!」
なつみはそのまま、ひとみの胸で泣き続けていた。
- 132 名前:十三 投稿日:2002年05月20日(月)21時50分02秒
23.
「小湊流奥義 剛体術か・・・見事に決まったな!」
観客席の前田が言った。
「そう・・・あんたの得意技さ・・・」
圭織が言った。
「ああ、正拳突きに使用する足の指から手首までの関節を同時固定する。極めて至難なことだが成功すれば
自分の体重を全て乗せることが出来る!」
「それに、自分の拳の速さが加わる。つまり鉛の玉を超高速でくらった様なものだろ?」
「その通りだ!それじゃあたしはこれでな。」
「なんだ、いくの?」
「あの分だと、胃が破れている・・・あたしの仕事はこれからだ!」
前田はそう言うと医務室のほうに向かい歩いていった。
- 133 名前:十三 投稿日:2002年05月20日(月)21時50分35秒
- 24.
「市井さん・・・・今のは・・・」
観客席の柴田 あゆみが市井 紗耶香に言った。
「そうだ、前田 有紀の技と同じだよ!」
市井が言った。
「あの技を使うものがまだいたとは・・・」
「ふっ!あの餓鬼!ちょっとはやるじゃないか。」
「ねえ!市井さん!」
「なんだ・・・」
「面白いじゃないですか・・・・次はあたしがあの娘と闘っていいですか?」
「柴・・・・」
「ふふっ・・・久しぶりに血がたぎってきましたよ。」
柴田のその言葉を言い終えたのとほぼ同時に市井は自分に対する
強い視線を感じた。それは闘技場のほうからであった。
吉澤 ひとみは市井にその鋭い眼光を向けていた。
「もう・・・あなたが目の前にいる・・・・」
ひとみはそれだけ言うとくるりと振り返り引きかえしていった。
- 134 名前:十三 投稿日:2002年05月20日(月)21時51分07秒
25.
「ぐわっ・・・あああ・・・ぁはぁ・・・」
医務室に運び込まれた後藤 真希は身悶えていた。
口からの出血が止まらない。意識が朦朧とし始めている。
「なあ・・・あんた・・・ごっつぁんは大丈夫なんか?」
加護が後藤を診察している医者である前田に問う。
その表情に焦りが感じられる。
「胃が破れている。この場で手術が必要だ!こいつの血は?」
前田が抑揚のない言葉で答えた。
「たしかO型や!」
「お前は?」
「ウチか?ウチはABや・・・・」
加護がそういい終えると医務室のドアが開いた。
ドアの奥にいたのは吉澤 ひとみと希美であった。
加護は思わず希美のほうを睨む。しかし今はそんなことをしてる場合ではないと言うのを
よくわかってる。
「吉澤・・・・なにしにきたんや?」
加護が言った。
「なにね・・・こいつが・・・転げまわってる姿を拝みにね。」
ひとみが言った。
- 135 名前:十三 投稿日:2002年05月20日(月)21時52分01秒
- 「な・・・なんやて?」
加護は思わず大声を挙げひとみの胸倉をつかんだ。
「どうした・・・・これは、いつもお前らが勝った相手に対してしてきたことじゃないのか?」
「うっ・・くっ・・・それは・・・」
「あたしは、勿論こいつの胃を破るつもりであの拳を打った。やり過ぎたとは思ってない!」
「た・・・確かにウチらのやってきたことの是非を問われてもしゃあない!せやけど・・・せやけど・・・」
加護は涙まじりにその言葉を発していた。自分でもどう表現していいかわからない。
ただ、これ以上後藤のもだえ苦しんでいる姿を見せたくはなかった。
「ふんっ・・・お前も人の痛みがわかったか・・・・」
「・・・・・」
ひとみは、そういうと腕をまくりその腕を前田の前に差し出した。
「有紀さん・・・あたしとののの血液型はOだ・・・使ってください。」
「わかった・・・」
そのやり取りをみて希美は不思議そうな顔をしていた。
「よっすぃー・・・・・なんでそんな奴に血を・・・・??」
希美が言った。
「同じ人を愛した奴だから・・・・・」
- 136 名前:十三 投稿日:2002年05月20日(月)21時52分58秒
- 保全してくれた方、ありがとうございます。
出来れば感想とかいただけるとうれしいです。
- 137 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月21日(火)11時50分20秒
- ユリア…
再開オメ
この調子でたのんます
- 138 名前:十三 投稿日:2002年05月27日(月)22時16分08秒
- 第5章〜死地
1.
この町の商店街が終わるのは早い。夜の七時ともなれば
開いている店の数を数えたほうが早いくらいである。
そんな中、希美は今日の夕食のための買い物に来ていた。
希美は、大急ぎで買い物をすませると帰路についた。
(ふ〜〜今日も煙草が美味い!)
希美がそんなことを思いながら部屋のドアを開けた。
そして開けた瞬間に希美の目の前に信じられない光景が飛び込んできた。
「お姉ちゃ〜〜〜ん!」
部屋に圭織が倒れていた。希美は即座に圭織の意識を確認した。
「お姉ちゃん・・・しっかり・・・・」
「ん・・・ん・・」
「お姉ちゃん!」
「ああ・・・・ののか・・・」
「ああ・・・よかった・・・・・お姉ちゃんどうしたの?」
「いや・・・ちょっと疲れてね・・・」
「ホントに?医者呼ぼうか?」
「大丈夫だよ・・・・」
「そう・・・・・」
- 139 名前:十三 投稿日:2002年05月27日(月)22時16分42秒
- 2.
それから圭織の容態でおかしなところは、なかった。
希美もそんなことがあったと言うことを忘れていた。
何よりもアヤカからの一本の電話が圭織の体に闘気をみなぎらせていた。
その内容は、市井が圭織と戦いたいと言う旨をアヤカを通じて知らせてきた。
圭織は勿論それを快諾した。後は日時と場所を知らされるのを待つばかりであった。
トゥルル
電話の呼び出し音がなった。
「もしもし」
「ああ、飯田さん!アヤカです。実は市井さんとの件なんですが・・・」
「どうしたの?」
「ええ・・・もう一人、市井さんと闘いたいという人がいまして・・・」
「それで?」
「はい、自分の他にも市井と闘いたいというのがいるのであるなら、自分と闘って
勝ったほうが市井と闘う権利があることにすればいいと・・・」
「随分と勝手な奴だな・・・どこの馬の骨だ?」
「それが・・・中澤 裕子さんなんですが・・・・・」
- 140 名前:十三 投稿日:2002年05月27日(月)22時17分15秒
3.
心水館の本部道場から巨大な闘気が流れている。
そこにいる二人の武人の闘気である。
ミシッ
裸足が床にすれる音がする。
さっきから5分ほど互いに睨んだまま動かない。
矢口 真里は不動の姿勢を崩さない。
そして矢口と相対している中澤もまた不動の構えを崩さない。
ふーっと矢口の呼吸がわずかだが乱れた気がした。
「はっ!」
その隙を見逃さず、中澤は一気に間合いをつめ矢口に必殺の三段蹴りを放った。
「くあっ」
矢口は一発目こそ貰ったものの二発、三発と回避した。
「しゃ〜」
矢口は即座に体制を正拳突きの体制にすると中澤に音速拳を見舞った。
だが中澤はその前に矢口の足を払っていた。力なく矢口の拳が中澤の胸に突き刺さる。
その瞬間中澤の上段回し蹴りが矢口の側頭部に放たれた。そしてその蹴りは
寸前で止められていた。
「よ〜〜し矢口!ここまでや!」
中澤が言った。
- 141 名前:十三 投稿日:2002年05月27日(月)22時17分46秒
- 「やっぱ、祐ちゃんは、化け物だよ・・・・嬉しいよ!なんか・・・」
何年かぶりに中澤と手を合わせてみてその衰えない
強さに矢口は素直に感動した。
「まあリハビリとしてはこんなもんかいな?」
「充分過ぎるよ・・・・」
「はは・・・おだてるな!矢口!それよりもさすが館長代理や、強くなったな!」
「でも祐ちゃんには、まだまだだよ・・・もういいだろ?戻ってきなよ!」
「いや・・・まだ飯田 圭織と市井 紗耶香を倒さんと・・」
「いいよ!空手の中で最強でさ〜〜〜〜」
「矢口・・・・地上最強言うんは、闘い続け・・・そして勝ち続けるものに許される称号なんや!」
「祐ちゃん・・・」
「今、アヤカを介して圭織と闘りたいちゅうオファーだしとる。それに勝てば市井が見えてくる。」
中澤はそういうと矢口に一礼し道場を後にした。
- 142 名前:十三 投稿日:2002年05月27日(月)22時18分16秒
4.
夕暮れの川の土手を飯田 圭織は歩いていた。いつもトレーニングの後に必ず行う行為。
いわば儀式に近いものがあった。
呼吸を整え静かに歩く。
西日が己の目に容赦なく飛び込んでくる。そしてその西日の中に人がいた。
「裕ちゃん・・・・」
そこにいたのは、中澤 裕子であった。
「ひさしぶりやな・・・圭織」
中澤が言った。
「偶然ってわけでもなさそうだね。」
「ああ・・・・お前をまってたんや・・・」
中澤はそういうと圭織の隣にたち一緒に歩きだ出した。
「なに?」
「圭織!お前、ウチとの対戦を拒否しとるそうやないか?なんでや?」
「祐ちゃん!祐ちゃんあたしの拳を知っているだろ?ホントに人を殺すことの出来る拳だよ!
その拳を祐ちゃんに向けろって言うの?」
「圭織・・・ウチの拳も人を殺せる拳や!なあ?圭織、前にもいったはずや!ウチとお前がもしやりあう時は
全力で闘うって・・・生死はその結果に過ぎないやろ?」
「でも・・・」
「なあ・・・うちらもこういう人生歩んでしまった以上はしゃあないやないか
- 143 名前:十三 投稿日:2002年05月27日(月)22時18分46秒
- 強い奴をみると闘わずにおれんやろ?それにな・・・」
「それに?」
「ウチは圭織にやったら殺されてもええとおもっとる。飯田 圭織の拳に負けて死んでも悔いはないで・・・」
「祐ちゃん・・・あたしもだよ・・・中澤 裕子に負けるならしょうがないかなってさ・・・でもね・・・」
「なんや?」
「今は、まだ負けられない・・・紗耶香と闘るまではね・・・」
「ウチもや!あいつにリベンジせんと・・・なんや・・・この闘いは、紗耶香の取り合いか・・ふっ!」
「そうだね。ねえ!」
「ん?」
「手加減無しだよ!」
圭織はそういうと再び土手を走り出した。
- 144 名前:十三 投稿日:2002年05月27日(月)22時24分00秒
- とりあえずこちらのほうも更新できました。
こちらももうぼちぼち話をまとめないといけないと感じております。
- 145 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月03日(月)15時59分35秒
- 他にも書いてるの?
- 146 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月04日(火)15時37分11秒
- ガーン!圭織に伏線が張られている
最強を計る基準と語り部として最後まで残って欲しい
- 147 名前:十三 投稿日:2002年06月04日(火)23時49分17秒
- 5.
都内のドームスタジアムの地下にある闘技場は異様な興奮に包まれていた。
中澤 裕子対飯田 圭織の一戦が行われるためである。
中澤 裕子と飯田 圭織はともにこの闘技場で闘うのは数年ぶりであるが、二人の伝説は
風化していなかった。否、それどころか伝説に色々尾ひれがついていていた。
それが観客の興奮をあおっていた。
その観客席の興奮とはまた別に控え室も違う熱気に包まれていた。
青龍の方角の控え室に包に身を包んだ飯田 圭織がいた。
傍らに希美とひとみがいた。
「お姉ちゃん、いいよ!リラックスしてるね。」
希美が言った。
「ああ、悪くないね!」
圭織が言った。
「飯田さん、勝利を祈ってます。」
ひとみが言った。
「ひとみ・・・・いいのか?この場であたしを倒さなくて?」
圭織がつぶやくように言った。
- 148 名前:十三 投稿日:2002年06月04日(火)23時50分09秒
- 「突然、何を言い出すんですか?」
ひとみは、圭織の思いもかけない言葉により動揺した。
「あたしは、この闘いに勝ったら紗耶香と闘う!いいのか?獲物を横取りされても?」
「飯田さん!もしあなたが勝ったその時は、あなたに挑戦させていただきます。」
「・・・わかった・・・あたしの闘いしっかりみとけ!」
圭織はそれだけ言うと闘技場に向かった。
- 149 名前:十三 投稿日:2002年06月04日(火)23時50分44秒
- 6.
「矢口・・・お前とこうして話をするのもこれが最後かも知れんな!」
控え室にふと響いたその言葉により、矢口は動揺した。
中澤からでた初めての言葉、矢口はかつてここまで弱気な・・・否、悲壮な決意の中澤を知らなかった。
「なんで・・・らしくないよ・・・そんなこというなんてさ」
「相手が・・・相手やからな・・・」
「なんだよ〜〜〜裕ちゃん!市井と闘った時だってそんなこと言わなかったよ・・・」
「飯田 圭織・・・あいつは死神や・・・あいつの拳からは死の匂いが漂っている・・・」
「なんだよ〜〜それ?わかんないよ!」
「一度、手を合わせてみればわかる・・・」
バシッ!!
その時中澤は頬に熱いものを感じた。矢口の掌であった。
「大丈夫だよ・・・相手が死神だかなんだか知らないけどさ・・・裕ちゃんだって武神・・・武の神様だよ!」
「ふっ・・・そやな・・・ありがとな!」
「よし!いこうぜっ!」
- 150 名前:十三 投稿日:2002年06月04日(火)23時52分24秒
- 7.
闘技場にはすでに飯田 圭織が、入っていた。しかし、観客は声ひとつ上げられない状態であった。
それは、中澤が入ってきても同じであった。
観客は、飯田 圭織の放つただならぬ雰囲気に気圧されて声ひとつ挙げることすら出来なかった。
(圭織・・・本気やな・・・それでええんや・・・しかし・・・それにしてもこの
闘気はなんや・・・観客が声をあげれんのもわかるで・・・)
二人は向かい合うと目を逸らさなかった。
視線で挑発をしているわけではない。ただ互いにじっと目を見ていた。
立会人がなにか説明をしているようであったが、この二人には、そのようなものは不要であった。
ルールはこの二人が、決める。それで充分であった。
立会人により二人は、数歩後ずさりさせられた。
立会人はそれを確認すると、試合開始を要請した。
ドーン
太鼓の音が鳴り闘いが開始した。
- 151 名前:十三 投稿日:2002年06月04日(火)23時53分04秒
- 8.
(裕ちゃん・・・・いきなりか!)
観客席の矢口 真里は中澤 裕子の構えを見て驚いた。いきなり音速拳の構えを取っていたからである。
足をやや大またに開きじりじりと圭織に対して間を詰めていっている。
(圭織・・・いきなりですまんが、いかせてもらうで!)
さらに中澤は、数歩間を詰める。
圭織はまだ動かない。
中澤は、また数歩間を詰めた。制空圏まであと半歩の距離である。
そこまできてようやく圭織は構えを取った。
(圭織・・・いくで・・・一気に決めさせてもらうわ!)
次の瞬間、中澤は、半歩踏み出したと同時に間接を同時加速させた。
ブーーンッ!!
およそ人の目で捕らえきれないであろう拳が放たれた。
「ガハアァァッ!!」
ドン!
闘技場の壁に人が物凄い勢いでぶつかった音がした。
- 152 名前:十三 投稿日:2002年06月04日(火)23時55分06秒
- 9.
「うっ・・・・くっ・・」
(なんや・・・なにが起こった・・・?)
闘技場の壁に叩きつけられたのは中澤 裕子であった。
まだ衝撃が全身を支配している。
「裕ちゃん・・・今はカウンターであたしの掌が入ったんだ!その衝撃により壁まで飛ばされた・・・」
「さすが・・・圭織・・・けど・・・ウチはまだ動けるで!かかってきぃや!」
中澤は、ふらつきながらもなんとか己を闘える体制にした。
これほどのカウンターを受けてなおかつ立てるのは、もはや理屈ではなかった。
当たる瞬間に本能が敏感に危険を察知していたからであった。
すうっ
圭織は即座に間を詰め中澤に蹴りを見舞う!
中国拳法の円の蹴り、圭織はそれを超高速で放つ!
- 153 名前:十三 投稿日:2002年06月04日(火)23時55分39秒
- 中澤はその蹴りを防ぐ間がないと瞬時に感じ、体を後ろに逸らした。
ビシッ
よけはしたが、こめかみを切られた。鮮血が滴り落ちる。
「ち〜〜っ」
中澤は、躊躇せず正拳を見舞おうとするが、圭織はすでに次の技に移っていた。
バックハンド・ブローいわゆる裏拳である。それが的確に中澤の顔面を捉えた。
「ぶっ!」
中澤は、再び闘技場の壁にその体を叩きつけられた。
- 154 名前:十三 投稿日:2002年06月05日(水)00時02分14秒
- また更新できました。
ワールドカップ開催期間中ですのでただでさえ遅い更新が
余計遅くなりそうです。
またもう一作についてですが、愛の種で 餓娘伝 で検索かければ
見つかると思います。
- 155 名前:十三 投稿日:2002年06月05日(水)00時20分04秒
- >>146
そうですねこの話もいつの間にか主人公が飯田さんになってましたからね・・・
とりあえず中澤との闘いをお楽しみください。
- 156 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月07日(金)20時39分13秒
- 中澤やられてしまうのか?
逆転劇に期待!ドキドキ。ワクワク。
- 157 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月14日(金)04時53分00秒
- 本当の強者の戦いですね
この戦いがクライマックスと言っても過言ではない期待です。
- 158 名前:十三 投稿日:2002年06月16日(日)01時52分24秒
- 10.
「強いね・・・・圭織は・・・」
観客席で見ていた、吉澤 ひとみの後ろから、声がした。
聴きなれたその声にひとみは、振り向いた。
「安倍さん・・・」
「昔・・・一度、圭織と闘ったことがあるけど・・・やっぱりあの位に絶対的な
強さだったよ・・・でも、その時は今ほどの破壊力ではなかった気がする。」
「それって・・・」
「うん、圭織は闘う相手によって自分の力を抑えてたってこと!」
「なっち!」
ひとみの横にいた希美が少し声を荒げていった。
「お姉ちゃんはね・・・別に手を抜いて闘ってるわけじゃないんだよ!ただ・・・相手に無駄な怪我
とかさせたく無いだけなんだよ!」
「ののちゃん!わかってるよ・・・圭織は優しいからね・・・でも今日の相手は中澤 裕子だよ・・・
圭織のリミッターを外した闘いがみれるかもしれない・・・・」
- 159 名前:十三 投稿日:2002年06月16日(日)01時53分02秒
- 11.
(落ち着け・・・落ち着くんや・・・裕子・・・落ち着いて拳を打てばあたる・・・)
中澤は、構えを取った。
市井 紗耶香にも入れることが出来た、打撃の境地の拳。長い年月をかけて積み重ねた
一発一発に自信がある。相手も同じ人間である。通じないわけが無い。
中澤は、そう思っていた。
「いくで!」
ぎゅう
中澤は強く拳を握り締め拳を放つ。
すっ
(はあ?)
中澤の拳は、圭織の体をすり抜けた。小湊流の神技的ディフェンスであった。
しかも梨華の場合センチの単位で相手の拳を見切っていたが圭織はまさにミクロの単位で見切っていた。
(これが小湊流のディフェンスかいな・・・)
「しゃっ」
中澤は、次は蹴りを放った。だがそれも圭織の体をすり抜けただけであった。
拳、拳、拳、蹴、膝、拳、蹴、拳。
はぁはぁ
中澤は、すでに肩で息をしていた。ただでさえ集中力を伴う圭織との対峙はそれだけでエネルギーを使う。
それに加えて、先ほどから受けた圭織の打撃のダメージが押し寄せる。さらには、拳が当たらないという現実が精神を追い詰めていた
だが、中澤も拳を打つしかない。空手に己をささげたのである最後まで信じられるのは、己の拳であった。
- 160 名前:十三 投稿日:2002年06月16日(日)01時53分34秒
- ブーーン!
力を込めた中澤の拳が打たれた。
(これをかわし・・・カウンター・・・なに?)
中澤の放った拳を交わそうとした時、圭織は体が鉛の様に重くなったのを感じた。
それにより中澤の打撃をモロに食ってしまった。
「がはぁぁっ!!」
この闘いが始まって初めて中澤の拳が圭織を捕らえた。
(くっ・・・こんな時に・・・・)
「ようやくあたったな〜〜〜!!」
ぶんっ
中澤はさらに追撃をかける。ローキックを圭織の膝下に放つ。
「ぐっ!」
それにより圭織の動きが止まった。
「ちぇりゃああああっ!」
中澤はさらに一呼吸で圭織の体に正拳突きを5発入れる。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン
鉛の鉄球のような拳が突き刺さった。
「がはっ!」
その衝撃により圭織は口から吐血した。
だがそれは、中澤の打撃によるものではなかった。
(圭織・・・・・??)
- 161 名前:十三 投稿日:2002年06月16日(日)01時54分42秒
- 12
「お姉ちゃん〜〜〜〜!!」
観客席の希美が声を挙げた。
希美の頭には以前の出来事が思い出された。
(やっぱり、どこか悪かったんだ・・・)
闘技場の中の圭織は肩膝をついていた。
「圭織・・・どないした?」
「裕ちゃん・・まだ戦いの最中だよ!余分なことを考えるな!」
「お前・・・病気か?」
「もう一度言うよ!今は、戦いの最中だ余分なことを考えないで来な!」
「・・・ああ・・いくで!」
(圭織・・・すぐ楽にさせたる・・・心配するな)
中澤はそういうと、拳と蹴りのコンビネーションで攻め立てた。
普段なら、これらの攻撃を防いでも感じられない衝撃を圭織は感じる。
一発一発が、脳天に響く。
圭織もその攻撃を裁くのがつらくなっていた。
ふと中澤の左腕が圭織の右の視界をふさいだ。
(まずい・・・・)
圭織がそう思った瞬間中澤の左上段回し蹴りが圭織の側頭部を捉えた。
ドシ〜〜ンッ
圭織の体は力なく倒れた。
- 162 名前:今読んだ人。 投稿日:2002年06月18日(火)05時20分08秒
- 期待sage
- 163 名前:十三 投稿日:2002年06月23日(日)15時49分50秒
- 13.
(圭織・・・今回のことは不幸やがこれも勝負や・・・恨むな)
中澤は、くるりと振り返り立ち去ろうとした。
中澤は観客席の矢口と目が合った。
矢口の顔は、何か信じられないものを見たと言う表情をしていた。
「裕ちゃん・・・あれ」
矢口が闘技場の方を指差した。
中澤は、後ろを振り返った。
そこには、飯田 圭織がたっていた。
どこかおぼつかない感じであったが目は死んでいなかった。
「圭織〜〜〜っまだやるんか〜〜〜?本当に死ぬで〜〜!」
「あたしは、まだ闘える!来い!」
「この阿呆〜〜〜っ!」
中澤は、再び闘いの場に向かった。
- 164 名前:十三 投稿日:2002年06月23日(日)15時50分20秒
14.
中澤は圭織と間を詰めると即座に中段蹴りを放った。
圭織は、後ろに引いてそれをかわした。
中澤も蹴りの勢いを利して回し蹴りを放った。
圭織はそれもかわす、だが、その際バランスを崩してしまった。
「圭織〜〜〜っ!」
中澤は、渾身の力を込め前蹴りを打った。
圭織はそれをかわすと右の人差し指を中澤の額から目尻の辺りをラインを引くように移動させた。
「なんのまね・・・・ブッ!」
次の瞬間に中澤は己の目の前が紅く染まっていた。
額から目尻にかけ大量のおびただしい血が中澤の視界を奪った。
その焦りが、恐怖が中澤に不用意な蹴りを蹴らせてしまった。
(ごめん、裕ちゃんこの技使わせてもらうよ!)
ブーンッ
中澤の前蹴りに合わせ圭織は跳躍した。それは、まるで、宙を駆けるようであった
- 165 名前:十三 投稿日:2002年06月23日(日)15時50分58秒
- 中澤の足が伸びきった時、圭織は、中澤の膝を起点にさらに前に跳躍した。
そして、膝で中澤の顎を肘で脳天を打った。
ガアッシ!という音がほぼ同時に聞こえた。
中澤は、そのまま前のめりに倒れた。そしてもう動くことは無かった。
この技は”竜牙”と圭織は呼んでいた。膝と肘で相手を同時に攻める姿が、さながら竜の牙の様であったからである。
「勝負あり!!」
立会人が会場に響く声で宣言した。しかし、観客席の人間は声を挙げることが出来なかった。
まさに鬼神のような飯田の闘いに圧倒されたためである。
ドシッ
圭織もまたその言葉を聞くと崩れるように倒れた。
「お姉ちゃ〜〜〜〜ん」
「飯田さん!!」
「圭織〜〜っ」
飯田 圭織は薄れ行く意識の中で最後にその言葉を聞いた。
その後、圭織は病院に運び込まれた。そして圭織が病に侵されているということを
希美は知らされた。
- 166 名前:十三 投稿日:2002年06月23日(日)15時51分37秒
- 第6章〜軍神
1.
目を覚ますと周りは、白い壁であった。もう入院をして何週間もたっているが、
まだこの景色に慣れない。飯田 圭織は、中澤 裕子との闘いのあと即座に
強制入院となっていた。病状は、何とか小康状態を保っており、起き上がれはしないが
意識は、はっきりしていた。
がちゃり
ドアが開き、前田が入ってきた。
「だいぶ、良さそうだなまあ暫くおとなしくしてるんだな。」
「なあ、有紀!あたしは、いつ家に帰れる?」
「あせるな、暫くは絶対安静だ。」
「ホントの事言っていいよ!あたしは、もう永くないんだろ?」
「なにを・・・馬鹿な・・・」
「自分の体だからね、解るんだよ。」
「お前は、病気によってちょっと気が弱くなってるだけだ。」
「ねえ有紀!」
そう言うと圭織は、窓の外を指差した。
- 167 名前:十三 投稿日:2002年06月23日(日)15時52分10秒
- 有紀は怪訝そうな表情を浮かべ外を見た。
「ああ!今にも落ちてきそうなくらい強い光だ。」
「そう・・・それじゃその隣にある蒼星はみえるかい?」
「いや・・・そんな星は見えないが・・・」
「見えなくて当然、その星が見える人間は、死期が近いと言うこと・・・そして残念ながらあたしには、その星が見える・・・」
「お前らしくも無い迷信を信じるなんて。」
「なあ・・・有紀・・あたしにはまだやることがあるんだ!頼むあたしを帰さしてくれ。」
- 168 名前:十三 投稿日:2002年06月23日(日)15時52分40秒
- 2.
「落ち着け!お前がそんなに取り乱してると希美やひとみに心配をかけるだけだぞ。」
「すまない・・・」
そこまで言うと有紀はテーブルの上にあったグラスに手を伸ばし水でのどを潤した。
「今日はひとみが見舞いに来てくれたんだろ?あんまり心配をかけるな。」
「ああ・・・あいつ今度の戦う相手が決まったらしい。」
「ほう・・・誰だ?」
「柴田 あゆみって奴だけど、あたしは知らないけど、あんた知ってる?」
ガチャーン!
圭織がその名前を言った瞬間床にグラスが砕け散った音がした。
「柴田・・・だと・?」
「ああ・・・知ってるの?」
「悪いことは言わない。この闘いはやめさせろ・・・死ぬぞ。」
- 169 名前:十三 投稿日:2002年06月23日(日)15時56分08秒
- なんとかまた更新できました。
だいぶ元ネタがはっきりしてきましたが笑って見逃してください。
- 170 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月04日(木)02時48分10秒
- 166-167のやりとりになんか違和感があるんですが…
- 171 名前:十三 投稿日:2002年07月04日(木)23時22分44秒
- う〜んこれですか?何故圭織が星を見たところで死を悟ったかということだと思うのですが
これは、元ネタに関係があるんですが。
- 172 名前:十三 投稿日:2002年07月10日(水)21時47分17秒
- 3.
街灯の薄暗い光があたりを照らしていた。住宅街から外れた人気の無い公園に
人が、二人いた。市井 紗耶香と吉澤 ひとみであった。
二人は、数刻前から、にらみ合いを続けていたが、痺れを切らしたかのように
ひとみの口が開いた。
「どういうことだ?次の相手はお前じゃないのか?」
「ふっ、まぐれで後藤に勝った位で随分図にのってるじゃないか。」
「なぜ、あたしを避ける?」
「避けるもなにも無いさ、お前じゃ役不足ってとこさ!」
「なに?」
「まあ・・・あたしも鬼じゃないさ、お前が柴田に勝ったら闘ってもいい!」
「そいつが、誰だか知らないけどそいつに勝てば、いいんだな?」
「ああ」
「お前こそ、飯田さんに不覚を取るな!」
「お前に心配してもらうとはね・・・」
「あんたを倒せばあたしが、最強だ!その称号、あたしが貰うよ!」
- 173 名前:十三 投稿日:2002年07月10日(水)21時48分30秒
「二回・・・死んでますね。」
市井のそばからささやくように聞こえたその声は、ひとみの耳には、届いてなかった。
4.
もう何度、この控え室で、出番をまっただろう?あと少しで、柴田との決戦
が始まる。いつも闘いの前は、緊張するが、今回ひとみは、まったく違う緊張
に包まれていた。それは、相手が格闘技において、いっさいの実績が無いと言うことである。
表にしろ、裏にしろ柴田が、格闘技の試合を行ったことに対する記録がいっさいなかったのである。
その不気味な雰囲気がひとみの背筋を寒いものにしていた。
「随分、表情が硬いね、あたしと闘った時は、もっと嬉しそうな顔をしてたよ。」
ひとみのそばには、希美、そして保田がいた。保田は飯田との戦いで、入院をした中澤を見舞うために
東京に来ていたが、吉澤の闘いがあると聞き、いてもたってもいられず
吉澤の元に馳せ参じた。
- 174 名前:十三 投稿日:2002年07月10日(水)21時49分00秒
- 「姉貴が、こいつを倒せば闘っても良いと言うほどの相手・・・一体どんな奴か・・・」
「大丈夫だよ、あんたには、平家流の技は、大体教えてある。相手は神でもなければ
悪魔でもないだろ?」
「ああ・・・」
「頑張ってきな!」
しかし保田はその言葉とは裏腹に不安を隠せずにいた。
かつて柴田にナイフを突きつけられたときの彼女の表情を忘れられずに
いたからである。その氷のような瞳を。
- 175 名前:十三 投稿日:2002年07月10日(水)21時49分31秒
5.
控え室は、静かな緊張感に包まれてる、先ほどから柴田が太極拳のような
ゆっくりとした動きで、ウォーム・アップを行っている。
「ウォームアップか?柴?」
同じ控え室にいた市井が声をかけた。
「ええ、ここは、戦場ではなく、闘技場ですからね。」
「優等生のあんたらしいね。で勝てそうか?」
「あなたの妹さんですからね、厳しい闘いになることは間違いないでしょうね。」
「謙虚だな。」
「相手の力を過大評価もしなければ過小評価もしない、それが戦場で生きてゆく秘訣ですからね。」
「まあ、お前じゃ素手でのファイトでひとみに勝てないさ!」
「私もそう思います。8割がた相手の勝利でしょう。」
「そうだな、8割・・・いや9割は、ひとみの勝ちだろうな。」
「ええ。」
「ふふっ、なあ柴?」
「はい。」
「あいつは、もう来ているのかい?」
「来ていますよ、すぐ近くにね。」
- 176 名前:ロック 投稿日:2002年07月30日(火)18時16分39秒
- 久々の大作だ!
更新待ってます!
- 177 名前:十三 投稿日:2002年08月04日(日)03時00分49秒
- 6.
ひとみの目の前には、静かな娘がいた。凛とした佇まい。そして自分の意思など無いかのような
冷静な眼をしていた。ひとみは、闘うときはいつも闘気を前面に押し出して闘うが
今回の相手は、何故かその闘気が沸いてこない。それは、柴田の持つ人の体温を感じさせない
雰囲気のせいであった。
「いいね。君たちの・・・」
立会人の声も耳に入ってこない。闘う前でこんなに集中できないのは初めてであった。
一方の柴田は、普段と変わらぬ自然体でひとみと対峙している。
「開始っ!」
シュッ
その声と同時に仕掛けてきたのは、柴田のほうであった。その蹴りは教科書通りの正確な
きれいなフォームを描きひとみに向かっていた。
(な?)
ひとみは、その蹴りを防いだ瞬間に衝撃を覚えた。柴田の蹴りがあまりにもまっとう過ぎたからで
ある。否、その蹴りは表の世界であるならば、柴田の蹴りは一流の部類に入るであろう。
だが、ひとみはこのレベルの蹴りは、今まで数え切れないくらい裁いてきている。
様子見にもならない蹴りであった。
- 178 名前:十三 投稿日:2002年08月04日(日)03時01分21秒
- ブンッ
さらに間をおかず柴田の拳が来る。
これもひとみにとっては、どうと言うことの無い攻撃であった。
(こいつ・・・ブラフか・・・それともこれが実力なのか?)
ひとみは、この二発の攻撃をかわしたことにより幾分気が楽になっていた。
ブンッ
柴田がさらに顔面の攻撃を仕掛けた瞬間にひとみは、カウンターで柴田の
膝へローを入れた。柴田の表情が、ゆがむ。
ひとみは、なおも中段蹴りで柴田に追撃を試みた。柴田は、腕を立てそのけりを
ブロックしにかかる。だが、ひとみの蹴りの威力で体ごと持っていかれた。
柴田の体は、無様に地面を這いつくばっていた。
- 179 名前:十三 投稿日:2002年08月04日(日)03時02分03秒
- 7.
(弱い・・・これが本当に姉貴があたしにぶつけて来た相手か?)
ひとみは今、目の前に倒れている相手を見て怒りを感じている。
それは、柴田にではなく、紗耶香に向けられていた。
くるりとひとみは、観客席の方を向きこの闘いを見ている紗耶香を
凝視した。
「姉貴っ!随分となめてくれるじゃないか、あたしにこの程度の相手
をぶつけてくるなんて。」
「ごちゃごちゃいってないでさ!あんたの相手は、向こうだろ?」
「だまれ!あたしは、弱いものいじめは趣味じゃない!」
「まだ、柴田はたってるよ!」
ひとみが、後ろを振り向くと息を切らした柴田が立っていた。
「もう止めとけ、あたしとあんたじゃ実力が違いすぎる。」
「随分と余裕ですね・・・それならあたしを仕留めにきたらどうですか?」
「今までは、手加減してやったが今度はそうは、いかない。命の保障はできないよ。」
「素敵な言葉ですね。」
「馬鹿っ」
- 180 名前:十三 投稿日:2002年08月04日(日)03時02分33秒
- ズン
ひとみの前蹴りが柴田のミゾオチを捕らえた。
「ガッ」
そのあまりの威力に柴田の吐瀉物があたりにとんだ。
ドン
間をおかずひとみは、膝をつき立てる。
「グエッ」
柴田の意識はすでに朦朧とした状態であった。
(次の一撃で楽にしてやる。)
「はっ!」
気合一閃。
ひとみの上段回し蹴りが、完璧なスピード、完璧なタイミング、完璧な重さで放たれた。
そして、それは柴田のこめかみを捕らえた。
ズシーン
柴田の体は、再度闘技場の土をなめることとなった。
- 181 名前:十三 投稿日:2002年08月04日(日)03時03分09秒
- 8.
くるりとひとみは、身を翻し紗耶香の方を見た。
「姉貴!どうだ!あんたのお気に入りは、あたしが倒した。約束通りあたしと闘え!」
「一体どこを見てる?柴田は、まだ倒れてないだろ?」
「なに?」
「後ろ見てごらんよ!」
くるりと反転しひとみは、後ろをみた。そこには、柴田がまさに起き上がろうと
していた。そして、その体には、何か不気味なオーラが漂っている気がした。
「そんな・・・馬鹿な・・・」
「破壊の神のお出ましさ!」
- 182 名前:十三 投稿日:2002年08月04日(日)03時03分40秒
- 9.
「遅かったか・・・」
柴田が立ち上がろうかどうかと言う時にこの会場に前田 有紀
が到着した。その傍らには、飯田 圭織がいた。重い病ではあるが、この
戦いをどうしても見たいと言う旨を前田に告げた。勿論前田は反対したが
圭織の熱意にとうとうOKを出した。
「有紀・・・あいつは・・・」
「あいつは、もう一人の柴田 あゆみ・・・」
「もう一人?」
「奴は、多重人格者だ!お前も知ってるだろ?幼少期などのトラウマにより自分の
中にもう一つの人格が出来るという物だ。」
「ああ・・・それは知ってるけど・・・」
「柴田は、あたしと紗耶香と同じ傭兵部隊の一員だった。柴田はある作戦で敵の捕虜となり
まさに処刑される寸前までいった。無数の銃口が奴に向けられ、死が数秒後に迫った
その時、奴の中にもう一人の自分が生まれた。」
「だけど何故そんな状況で生きてられたんだ?」
「あたしと紗耶香が助け出したんだ。ギリギリでね。」
「なるほど」
「それからの柴田は、まさに破壊の神さ、特にゲリラ戦では圧倒的な戦力で
次から次へと屍を築いていった。」
- 183 名前:十三 投稿日:2002年08月04日(日)03時06分00秒
- またなんとか更新できました。
柴田のモデルは一応超軍人ですが、そんなことを言っても
知ってる人も少ないかな・・・
- 184 名前:読者 投稿日:2002年08月22日(木)18時00分33秒
- 今日、一気に読ませてもらいました。
めちゃくちゃ面白いです。
柴っちゃんの闘いぶりが気になる〜!
更新待ってます。
- 185 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月23日(月)21時37分08秒
- 保全しま〜す
- 186 名前:十三 投稿日:2002年10月06日(日)18時11分27秒
- 10.
「あれが、奴の本性か・・・」
市井は、その後ろから聞こえてきた懐かしい声に反応した。
「圭か。」
「ひさしぶりだね。紗耶香。」
保田はそういうと市井の隣に腰掛けた。
「ああ、あんたが野良犬の様な生活をしてた時以来だ、それが今は道場の先生とはね。
変われば変わるもんだね。」
「まあね。」
「しかし魅力が無くなったね。あの頃の様な野獣のようなギラギラとしたものがなくなってるよ。」
「いうな。」
「まあ、座ってみてな、ひとみの奴、柴を本気にさせるとは、なかなか楽しませてくれてるよ。」
「紗耶香・・・吉澤は勝てるのか?」
「さあね。」
- 187 名前:十三 投稿日:2002年10月06日(日)18時12分03秒
- 11.
闘技場の空気は先ほどとは、打って変わって不気味な雰囲気が支配していた。
柴田は、姿かたちは同じであるが、その目つき、そして発散してる
冷たい闘気によりまったく異なった人物がいるかのようであった。
「先ほどからお前の闘いを見させてもらった。この後もあたしを楽しませてくれるかな?」
柴田が表情一つ変えずひとみを見ていった。
その声、その顔つき、その佇まい、そしてなにより雰囲気がもはや別人のそれであった。
(こいつ・・・なんだ?まるで別人じゃないか・・・けど躊躇しても始まらない、いくっ!)
ゴウという音とともにひとみの中段蹴りが放たれた。
しかし、柴田は意に介さずという感じで右腕で軽く裁いた。
(な・・・いとも簡単に・・・・どういうことだ?)
そして、その蹴りを受けた瞬間に柴田のローキックが襲う。
ビシッ
脳天まで突き抜けるような痛みがひとみの体に走った。
- 188 名前:十三 投稿日:2002年10月06日(日)18時12分35秒
「はあっ!」
柴田は、その声と供に右腕の不規則な動きでひとみの顔を狙った。
パクッ
柴田の拳は確かにすんでのところでかわしたはずであった。
しかし顔に刃物で切り刻まれた後が残っている。
(凶器?そんな馬鹿な・・・)
「シッ!」
さらに柴田は、執拗に狙う。今度はひとみも腕で防いだ。否、確かに防いだがそこからも
また鮮血が滴り落ちた。
「やめ!」
立会人が試合を止め、柴田のボディーチェックが行われた。しかし凶器は見つからなかった。
だがチェックを進めてくうちに立会人は恐ろしいものを見た。
柴田の親指の爪が鋭利な刃物のように研ぎ澄まされていた。
「柴田選手・・・」
「この闘いは、自分の体以外の物は使ってはいけないらしいが、あたしの爪は
体の一部!ならこの爪を使ったところで問題は、ないんじゃない?」
柴田が立会人を見て言った。
「・・・は・・・開始めっ!」
立会人が再開の声を挙げた。
(あの痛みは、ナイフで切られたのと同じ痛み・・・急所狙われたら最後か・・・)
- 189 名前:十三 投稿日:2002年10月06日(日)18時13分42秒
- 12
ひとみは、柴田から間を取りじっくりと相手の出方をうかがった。
切られればそれで終わる。その恐怖がひとみを支配していた。
柴田はそのひとみの恐怖を見透かしていた。相手に対する威圧の意味も込め
ゆっくりとひとみのほうに歩いて来た。
(くるな・・・)ひとみの頭は混乱に陥っている。迫り来る死の恐怖に対して
その恐怖から逃れるように闇雲にひとみは、拳を打つ。
しかし当たらない逆に柴田の中段蹴りをレバーに貰った。
「ゲッ・・」
その蹴りでひとみは両膝をついてしまい思わず顔を下に下げてしまった。
そして顔を上げたときにはもう柴田はいなかった。
13
(何処へ?)ひとみがそう思ったとき首に何かが絡んできたのに気づいた。
巨大な蛇かと思うほどの力で柴田の腕は、ひとみの首に絡んでいた。
(うっ・・・くっ・・・)
いわゆるチョークスリーパーである。ひとみは、だんだんと意識が遠くなる感じがした。
「あんたも結構強かったけど幾多の戦場で生き延びてきたあたしの敵じゃない。
眠るように逝きな!」
その柴田の声を薄れ行く意識の中で聞いた。
- 190 名前:十三 投稿日:2002年10月06日(日)18時14分13秒
- 14
(ああ・・・いい気持ちだ・・・ここは、何処だろう?
なんか懐かしい気がする・・・暖かいし柔らかい。
ん?なんか遠くで声がする。あれ?なんだ?あたしが首絞められてるじゃない?どうして?
えっ?梨華?なんで・・・ここにいるの?なんで泣いてるの?ああ・・・わかったよ、まだ
あたしはここに来ちゃいけないんだろ?戻るよあっちにさ・・・)
15
(はっ?)
ひとみの体に急に力が戻ってきたことに対し柴田は動揺してた。
通常ではありえないこと。しかも、その力はこの闘いの中で、もっとも強い力であった。
(なに?)
ひとみは、柴田に首を絞められたまま立ち上がり、そのまま柴田を前に投げた。
さらに追い討ちをかけ、柴田の背中に蹴りを加えた。
「図に乗りやがって・・・」
ひとみが柴田を凝視して言った。
「てめえ・・・ただじゃすまねえ・・・・」
柴田もまたひとみを睨んだ。
- 191 名前:十三 投稿日:2002年10月06日(日)18時14分44秒
- 16.
「ひとみの奴ようやくエンジン温まってきたみたいだな。」
紗耶香が言った。
「あの状況であの技を返すとは・・・信じられない・・・」
保田が言った。
「圭、ひとみは、痩せても枯れてもあたしの妹、あいつの中には
あたしと同じ血が流れてる。」
「ああ・・・みてるこっちが怖くなってくるよ・・・この位置からでも
あいつの体が一回り大きくなった気がする。気のせいだと思うけど・・・」
「どうかな?あいつの体も全力をだしたがってるみたいだな。」
- 192 名前:十三 投稿日:2002年10月06日(日)18時15分14秒
- 17.
「もう遊びはなしだ!てめえの息の根を止めてやる。」
先ほどから二人は、睨みあいを続けていたが、先に柴田が動いた。
親指の爪でひとみの頚動脈を切りにかかった。その動きは、寸分の無駄も
予備動作もなくただ、ひとみの頚動脈を目指していた。
すっ
その動きをひとみは、最小の動きでかわす。ボクシングで言うスウェーのような動きだった。
そしてひとみは、柴田の腕が伸びきったところを捕まえた。
右手で手首を、左手で肘の辺りを、そして次の瞬間ひとみは地面を蹴っていた。
ふわりとひとみの体が宙に浮く。
(飛びつき逆十字?)
柴田はその瞬間そう思った。だが、ひとみの技はそれではなかった。
跳ね上がったひとみの左脚ががっちりと柴田の首を後方からロックする。
同時に跳ね上がったひとみの右膝が固定された柴田の顔面を目指す。
ガンッ
柴田の顎の骨の砕けた音であった。
柴田の体が崩れ落ちる。その落ちる瞬間、ひとみは右腕を抱きかかえ体をひねる。
- 193 名前:十三 投稿日:2002年10月06日(日)18時15分48秒
グシャ
柴田の顔面が地面に叩きつけられた音であった。
ひとみは地面に伏せている状態の柴田の頭と肩をまたぐ形で上になっている。
そして腕は、棒状のように上に向いており、がっちりと極められていた。
ひとみは、ただその状態のまま歯を食いしばっている。
柴田は、ピクリとも動けなかった。
「勝負ありぃぃぃぃぃ」
立会人のその声は大歓声にかき消されひとみの耳に届いては、いなかった。
- 194 名前:十三 投稿日:2002年10月06日(日)18時16分18秒
- 18.
「あれが、平家流の虎王か?」
紗耶香が言った。
「ああ・・・しかしあたしもあんなに凄い虎王は始めてみた・・・」
「ひとみの力を全力で出せば、あのくらいはするさ・・・」
「じゃあ・・・最初からこの結末は、わかってたのか?」
「力を覚醒させてないあいつと闘ったところでつまんないからね。」
「獅子は千尋の谷に子を落とすと言うけど・・・」
「そんなに大げさな物じゃないさ、ただ、出てくる料理にちょっと味付けしてみただけだよ。」
19.
「よっすぃー・・・勝ったんだよ。」
ひとみが気づくと目の前に梨華がいた。しかし焦点が定まらない。
幻なのだろうか?だがそんなことは、どうでもいい今、自分の前に梨華がいるそれだけで充分だった。
「ああ・・梨華・・・」
「いいよ喋らなくて・・・・今は、気を失ってなよ・・・」
「ああ・・・すまない・・・」
「いいって」
「ああ・・・梨華・・・ありがとう」
最後にそうつぶやくとひとみは、再び気を失った。
- 195 名前:十三 投稿日:2002年10月08日(火)01時31分14秒
- 第7章〜天
1.
「うっ・・・くっ・・・」
飯田 圭織は、ベッドの上で安静の状態であった。
中澤を倒し市井への挑戦権を得た。しかし、もはや体が闘える状態ではなかった。
「ぐっ・・・はぁ」
圭織は口のあたりを手で拭いた。血が掌にベタリとついた。
(ふっ・・・まだ・・・まだ死ぬわけにはいかないよ・・・)
ガチャリ
ドアが開き希美が入って薬をもってきてくれていた。
「お姉ちゃん、大丈夫?安静にしていれば、きっとよくなるよ。」
「のの・・・嘘いわなくてもいいよ・・・あたしの体は、もう長くはない・・・」
「お姉ちゃん!なに言ってんだよ・・・そんなこというなんて・・・」
「自分の体だ・・・自分が一番わかっているさ・・・」
「そんな・・・・」
「のの・・・あたしはまだやらなければいけないことがある!それまでは、死ねない!」
「なに?」
- 196 名前:十三 投稿日:2002年10月08日(火)01時31分44秒
- 「紗耶香と・・・紗耶香と決着をつけなければ・・・」
「こんな時に何言ってんだよ〜〜〜闘える体じゃないよ〜」
「のの!お前なら解るだろ?あたしの体は、ほっといても朽ちる!ならば、残されたこの命
最後の闘いの為に使う。」
「でも、そんな体で闘っても結果はみえてるよ・・・」
「解っている・・・しかし、この体に力を蘇らせる方法はある・・・」
「お姉ちゃん・・・それって・・・あの秘孔のこと?」
「ああ・・・」
- 197 名前:十三 投稿日:2002年10月08日(火)01時32分16秒
2.
安倍 なつみと吉澤 ひとみは圭織の家のすぐ近くの河原にいた。
二人は、すでに圭織が死の病に冒されていることを希美に告げられ知っていた。
そして、希美の方から電話がかかって来て、話したいことがあると呼び出された。
なつみとひとみが、約束の場についてからしばらくたっていた。
希美がその場に現れたのは、二人がその場についてから30分後であった。
「ののちゃん・・・」
なつみが希美に話しかけた。しかし、その後の言葉がつながらない。
「なっち、よっすぃー聞いて、お医者さんの話だとお姉ちゃんの命は、もって後3〜4ヶ月
みたい・・・」
希美はその言葉を淡々と二人に告げた。解っていたことであったが、そのことを聞き
なつみとひとみは涙が止まらなくなっていた。だが希美は泣きはしなかった。
きっと一人で泣いていたのであろう希美の目の下は、真っ赤に腫上がっていた。
「それで、お姉ちゃんの最後の希望は、市井 紗耶香と闘うこと・・・」
希美がそこまで言うとひとみが横から口を挟んだ。
「馬鹿なっ・・・そんな状態であいつと闘って勝てるわけが無い・・・」
ひとみが声を荒げた。
- 198 名前:十三 投稿日:2002年10月08日(火)01時32分52秒
- 「よっすぃー、わかってるよ、でもねお姉ちゃんの体を一時的に蘇らす事は
できる・・・その為になっちの道場をちょっと借りたいんだけど・・・」
希美の目はなつみを見据えていた。
「ああ・・かまわないけど、でも蘇らすってどうするの?」
なつみは不可思議そうな目で希美を見ていた。その表情はややこわばっていた。
「人体のある点穴を突くことにより一時的に病状を停止させるとともに
体の細胞を活性化させるの。でもこれは、急激に体の細胞を活性化させるために
地獄の苦しみが襲う、そして、効き目が切れたら・・・死・・・・」
希美は、俯きながら独り言のようにしゃべっていた。
「そんなことが、出来るの?信じられないよ。」
なつみが希美に言った。
「なっち、西洋医学だけが医学の全てじゃないよ中国拳法は何千年も前から
人体の構造について研鑽してきてるんだよ。」
「・・・それで・・・その点穴を突いてからどのくらい圭織は生きられるの?」
「一週間・・・いや五日くらいかも・・・」
「そんなに・・・・」
- 199 名前:十三 投稿日:2002年10月08日(火)01時33分22秒
- なつみは、それだけ聞くと顔をうつむけ黙りこくってしまった。
「ねえ、よっすぃー」
「えっ?」
ふと希美に声をかけられたかと思うとひとみは、希美に力いっぱい頬をぶたれた。
「のの・・・」
「お姉ちゃんは・・・・お姉ちゃんは・・・残された時間をあたしと一緒に
過ごす事より、ほんの一瞬だけの生でいいから市井 紗耶香と闘うことを選んだんだよ!
あたしより市井を選んだんだよ!そんな・・・そんな・・・素敵な姉さんを持ったよっすぃーが
羨ましいよ・・・わーーーーっ!」
希美は一気にまくし立てるように言うと堰を切ったダムのように涙が流れて止まらなくなった。
ふたりは、そんな希美を見ているだけしか出来なかった。
- 200 名前:十三 投稿日:2002年10月08日(火)01時33分54秒
- 3.
紗耶香との決戦は目前に迫っていた。
場所は、かつて紗耶香と圭織が決闘を行った中国拳法の武錬場であった。
しかし決闘の日が迫っているにもかかわらず、圭織の病のこともあり、まだ日本をたっていなかった。
そんな中、圭織は東京のとあるビルにある。安倍 なつみの借りている道場にきていた。
道場の前には、圭織以外に三人いた。なつみ、希美、そして、ひとみである。
「なっち・・・ごめん・・無理言ってここ借りて・・」
圭織が言った。
その声には、もはやあまり力は無い。目もどこかうつろで表情には生気がなかった。
「いや・・・そんなことは、いいんだけど・・・」
なつみも、死相が浮かんでいる圭織を前にしてどう言っていいのか分からなかった。
「じゃ・・・のの・・・始めようか・・・」
「・・・・」
希美もこの状況を前にしてなんと言っていいのか分からなかった。
ただ、死を目前にしてる者の頼みを断れないと言った感じであった。
圭織と希美は、しばらく目を合わせた後、道場の中に入っていった。
- 201 名前:十三 投稿日:2002年10月08日(火)01時34分33秒
- 4.
「じゃあお姉ちゃん・・・本当にいいんだね?」
「のの・・・すまない悪い姉で・・」
「えっ?」
「本当は、最期はののとゆっくり過ごしたかったんだけどね。でも・・・」
「でも?」
「あたしも天を目指した。武道家としてね。そして天が最後にあたしに試練を与えた。
市井 紗耶香!あたしの最期を飾るに相応しい相手だ。武道家としてこれに優る喜びは無い。」
「・・・お姉ちゃん、分かってる、分かってるよ・・・だからあたしが最後にお姉ちゃんを
闘える体にしてあげる。」
希美の目には涙が止め処もなく流れていた。
「ありがとう、のの」
「行くよ、この状態の体に生気を蘇らせる究極の秘孔・・・心霊台。」
- 202 名前:十三 投稿日:2002年11月23日(土)02時08分08秒
- 5.
扉の前のなつみとひとみは、先ほどから一言も口をきいてない。
中で何が行われるのか二人には、分からない。ただ、とてつもない事がおきるのであろうと言うことは
想像がついていた。
「うわ〜〜〜〜っ」
道場の中から悲鳴が挙がった。
「圭織???」
「飯田さん!」
その悲鳴に驚き二人は、思わず叫んでしまった。
「ぐわっ・・・はっ・・・あがっ・・・」
「おわっ・・おおおお」
「うわああああ」
「おわ・・・あがっ」
「ひっいいいい」
圭織の叫びは、いつ止むとも知れず、続いていた。
(飯田さん・・・)
ひとみは、この状況の中、姉、紗耶香のことを考えていた。
他人にここまでして闘いたいと思わせてしまう姉のことを羨ましいと。
そして、そんな姉に嫉妬していた。
- 203 名前:十三 投稿日:2002年11月23日(土)02時08分42秒
- 6.
道場から圭織の叫びが消えた。なつみとひとみは思わず目を合わせた。
叫びがするのは、まだ生きていると言う証。その声が消えたことにより
最悪の事を連想してしまっていた。
ギイッ
道場の扉が開かれ、希美が出てきた。
「のの・・・飯田さんは?」
ひとみが言った。
「大丈夫だよ・・・成功した!」
「よかった・・・」
なつみとひとみは同時に安堵の声を漏らした。
そして、再び扉の方をみた。圭織がゆっくりと扉から出てきた。
「!!」
二人は、圭織の姿をみて、その変貌振りに声も出なかった。
飯田 圭織の美しく、長い黒い髪が僅かの時間で全て白くなっていた。
しかし、体のほうは、以前と同じように生気がみなぎり、目も強い意志を感じさせるものであった。
時間が限られているとはいえ、圭織の体は、完全に復活した。
- 204 名前:十三 投稿日:2002年11月23日(土)02時09分17秒
- 7.
「圭織・・・髪の毛が白く・・・」
なつみが独り言の様につぶやいた。
道場から出てきた圭織は、なつみの方に近づいてきた。
「なっち・・・多分これで、なっちとお別れだと思うけど、ありがとう。あたし、なっちと友達になれてよかった。」
「あたしもだよ。」
「なっちには、頼んでばっかりで、悪いけど、あたしが逝ったらのののことをお願いします。」
「わかったよ!圭織は、心配しないで心置きなく市井 紗耶香と闘ってきてよ。」
「ありがとう、なっち。」
「圭織・・・さよなら」
「なっち・・・さよなら」
なつみは涙をこらえていた。泣くのは止めようと思っていた。
それこそが、死を決意した友に対する思いやりであると。
しかし、圭織がにっこり笑ってさよならと言った瞬間なつみはもう泣くのをを堪えられなくなった。
その場でうずくまり号泣した。
そんな友の姿を見るのが辛いのか、圭織は、ひとみの方に目をやった。
「ひとみ!明日・・・日本を発つ!あたしと紗耶香の闘いしっかり目に焼き付けておけ!」
「はいっ」
- 205 名前:十三 投稿日:2002年11月23日(土)02時09分49秒
- 8.
圭織が日本を発つ日の早朝、圭織と希美は歩いて駅に向かっていた。
遠回りになるが河原の土手のほうから歩いて駅に向かった。最期に二人だけの時間を持ちたかった。
早朝のためこの道を歩いているものはいない。圭織と希美だけの世界であった。
ふと見上げた空は、雲ひとつない蒼天であった。
圭織はその世界をゆっくりと歩いている。一歩一歩かみ締めるように。
希美はその僅か後方を歩いていたが、圭織がふと目を横にやった時、10mほど後方にいた。
見れば、希美は立ち止まりうつむいている。圭織は後ろを振り返ると声をかけた。
「どうした?のの!」
「お姉ちゃん・・・やっぱりあたし駄目だよ。お姉ちゃんがいないと・・・」
「しっかりしろ!お前は、次の伝承者だろ?」
「うん・・・でも・・・」
「大丈夫だよ!お前ならなれるよ。あたしを超える最強の伝承者にさ!」
「なに言ってんだよ・・・そんなの無理だよ〜〜〜」
その時圭織は、空に向かい己の人指し指を突き上げた。
- 206 名前:十三 投稿日:2002年11月23日(土)02時10分21秒
「のの!もし思い悩むことがあったら、”蒼天を思え!蒼天に願え!!”どんなに曇ろうとも
雲の上は常に蒼天だ!お前の望みは蒼天に!!」
「あたしの願い・・・望み・・・・」
「のの!あたしの最後の闘い、見届けろ、そして後は任したよ!」
- 207 名前:ヤグヤグ 投稿日:2003年01月05日(日)22時24分34秒
- つ、続きをお願いします・・・
- 208 名前:十三 投稿日:2003年01月06日(月)00時36分26秒
- 第8章〜最強
1.
山間からの冷たい風がふいていた。その風が圭織の長い髪をかきあげる。
圭織はかつて市井 紗耶香と闘った武錬場に立っていた。
圭織のやや後ろには、ひとみと希美が、やや前方にはルルがいた。
「ひとみ!覚えてるか?お前はかつてあの階段から紗耶香とやってきた。」
圭織が言った。
「なんとなくですが・・・」
「何故・・・紗耶香の元を離れた・・・?」
「姉を・・・憎んでました。」
「何故?」
「正確には姉の絶対的な強さを憎んでました。姉といては自分はもう強くなれないと
感じてました・・・」
「素直だな、それでいい・・・負けを認めることが強くなる第一歩だ。」
圭織がそういった時、今この場にいる全員が、巨大な闘気が近づいてくるのを
感じた。
- 209 名前:十三 投稿日:2003年01月06日(月)00時37分53秒
- 圭織、どうやら来たみたいだね。」
ルルが言った。
「ああ・・・」
カツン、カツンという石段の音がだんだん大きくなる。それに比例するように
闘気が大きくなってきた。そして、その主はがこの場に姿を現した。
地上最強の娘。市井 紗耶香であった。
- 210 名前:十三 投稿日:2003年01月06日(月)00時41分09秒
- 3.
「ひとみ!」
ふと圭織はそういうとひとみの背中を押した。
「あっ」
ひとみはその圭織の思いがけない行動によりバランスを崩し
前のめりの格好になった。
その崩れそうになった体制を紗耶香が受け止めた。
「飯田さん・・・」
ひとみは、圭織の真意を測りかねる。
「ひとみ、姉さんのそばにいてやれ。」
「何故・・・」
「紗耶香は、あたしに教えを請うたお前を見て自分を恥じた。そして
その恥をそぐためにここまで来たんだ。別にお前を見捨てたわけじゃないさ!
その姉さんの背中をみといてやんな。」
圭織にそう言われひとみはやや顔を上にあげた。
紗耶香のその瞳はかつて圭織と戦う前に見せた瞳と同じであった。
「ふんっ!」
しかし紗耶香は数瞬、ひとみと目を合わせただけで、再び圭織と向き合っていた。
互いの臨戦態勢は整っていた
- 211 名前:十三 投稿日:2003年01月06日(月)00時42分14秒
- 4.
「ひとみっ!」
紗耶香がひとみと目も合わさずに強い口調で言った。
「えっ?」
「あたしの闘いしっかりと、みときな!もしかするとあたしの弱点がわかるかもな・・・」
「う・・・うん」
紗耶香はそういいながら、圭織と対峙していた。
その二人の空間にはプラズマが発生してるかのような電流が飛び交っていた。
- 212 名前:十三 投稿日:2003年01月06日(月)00時43分01秒
- 5.
二人は闘いの鐘が鳴るのを待っている。市井は、自然体ともいえる構えを取って待っている。
対する飯田は、やや半身の構えを取っていた。
「開始!」
ルルの声が、空に響き渡った。
意外にも先に仕掛けたのは圭織であった。開始の声がかると同時に
紗耶香まで一気に間を詰めた。
ブンッ
圭織の左腕がうなりを挙げた。
(なっ・・・北斗七星・・・・???)
「があぁっは!!!」
紗耶香は、一瞬自分の目の前に北斗七星が見えた気がした。それは圭織の放った拳が
北斗七星の軌道を描いていたからである。梨華は一呼吸に5発の拳を繰り出していたが
圭織はそれよりさらに2発多く拳を放っていた。
ガクッ
紗耶香が片膝をついた。
(お姉ちゃん・・・)
ひとみは、その信じ難い光景に驚き声を挙げられなかった。
「くっ・・・」
紗耶香は、やや遠くにいる圭織を睨む。
「人の動きの死角をたどるとその形は、北斗七星になる。ゆえに北斗七星は
死をつかさどる星と言われている。しかし・・・さすがだな7発当てたが
すべて急所は、逸らしている。」
圭織が言った。
- 213 名前:十三 投稿日:2003年01月06日(月)00時45分52秒
- とりあえず更新しました。雲ゆえの気まぐれで更新しているので
読んでくださってる方どうもありがとうございます。
>>207さん
レスありがとうございます。この話ももうすぐ終わりなので
最後まで読んでいただけたら幸いです。
- 214 名前:十三 投稿日:2003年01月21日(火)00時07分58秒
- 「なかなか、面白い物を見せてくれるじゃないか、次はこっちからいくぜ!」
ジャッ
言うや否や紗耶香は、その体勢から伸びるように拳を突き上げていった。
ブーンッ
当たれば骨ごと砕けそうな音がした。
しかしそれも圭織のディフェンスの前には無力であった。
ミクロの間合いで見切られ腹にカウンターの掌打をもらった。
その衝撃が脳天に突き刺さる。
- 215 名前:十三 投稿日:2003年01月21日(火)00時08分48秒
- 「・・・拳の風圧だけであたしの頬を切るとは・・・」
圭織の頬からは血が止め処もなく流れていた。
「噴ッ」
圭織が独特の呼吸法を取るや否やその出血が止まった。
「さすが中国4000年!面白い物見せてくれるじゃないか!!」
紗耶香は立ち上がるや否や圭織にハイキックを放つ。
だがそれも圭織の腕でブロックされてしまった。そして次の瞬間に紗耶香は頬に火の玉を
受けたかのようなダメージを感じた。顔に正拳突きを食らってしまった。そして倒れた。
(そんな馬鹿な・・・姉より・・・市井紗耶香より強い人間がいるなんて・・・)
ひとみは、実力では紗耶香の方が上だと感じていた。
だが目の前の紗耶香は圭織にまるで歯が立たなかった。
- 216 名前:十三 投稿日:2003年01月21日(火)00時09分33秒
6.
ガンッガンッガンッ
倒れている紗耶香に対して圭織は容赦を見せない。ひたすらに蹴りを打ち続ける。
もう意識はないかのように見えた。
「飯田さん!!もうやめてくれ!姉はもう意識がないあなたの勝ちだ!」
「ひとみ・・・どこを見てる!こいつはまだ倒れてなどない!」
(えっ?)
蹴っている圭織には焦りが感じられた。蹴り続けているのに紗耶香の力が
まったく弱まってなどいない。それどころか蹴るたびに体の底から力が湧き出てくるかのよう
であった。
「止めッ!」
圭織の渾身の力をこめた蹴りが紗耶香に打ち下ろされた。
だが圭織が打ち下ろした先に紗耶香はいなかった。
「はっ?」
圭織は即座に後ろを見る。だがそこにも紗耶香はいなかった。
- 217 名前:十三 投稿日:2003年01月21日(火)00時10分29秒
- 「はっ?」
圭織は即座に後ろを見る。だがそこにも紗耶香はいなかった。
そして、再び前を見る。
そこにいた。
そう思った瞬間紗耶香のハイキックが襲う。
圭織は即座に腕でブロックに入った。
だがそれも意味のない物であった体ごと弾き飛ばされた。
(これは・・・さっきまでの紗耶香とは違う。)
圭織は立ち上がり紗耶香と対峙する。
紗耶香の右腕が一瞬ひかった気がした。そう思った瞬間顔に正拳を喰らっていた。
(ぐふっ)
さらに追撃の為紗耶香は倒れてる圭織の側頭部に蹴りを放った。
そのまま圭織は二回転ほどし仰向けのまま大の字になった。
紗耶香はその様を見てくるりと引き返した。
- 218 名前:十三 投稿日:2003年01月21日(火)00時11分07秒
- 7.
「くっ・・・・はははははは」
その笑い声に方向に紗耶香は再び目をやった。圭織は立ち上がっていた。
「人生は楽しいね!あたしの前にこんな凄い奴をだしてくれた神に感謝するよ!」
「まだ生きていたのか・・・次は確実にしとめてやるさ!」
「紗耶香・・・お前がそこまで自分の力を見せてくれるならあたしも見せてやるよ
我が流派最大の奥義、転龍呼吸法を!」
圭織はそう言うと己の全ての気を集中しだした。
その圭織の後ろには幻覚であろうか?巨大な炎が見えた気がした。
「おまえ・・・」
「人間は通常その力を30%しか使えない・・・だがあたしは100%使うことができる。
それが奥義転龍呼吸法!」
圭織の体からは闘気が渦巻いている。それは紗耶香も同様であり闘いはもはや
人の域を越えたものになることは必至であった。
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