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greenage 3

1 名前:★★★ 投稿日:2001年11月30日(金)21時19分52秒


   greenage -Part.3-
  



2 名前:作者 投稿日:2001年11月30日(金)21時20分58秒


新スレです。

「3」なんですよね…
こんなに続くとは、正直思ってませんでした。
皆様のおかげです。
ありがとうございます。

前のスレは2個目だったんですけど、スレのタイトルには「2」ってつけてなかったんで、
何で急に「3」?って思う人がいるかもしれませんが…。
ま、いっか。




   *



『シェルター』 


3 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時21分52秒



「…っくしょい!……あ゛〜」

派手なくしゃみをひとつして、ズルズルと鼻をすすったのは、あたし。

「だいじょーぶ?…」

心配そうにあたしの顔を覗き込んだのは、後藤。


おそらくは、昨日の夜、リビングでソファに寝転んだままテレビを見ていて、
そのまま明け方まで眠り込んでしまったのが原因だと思う。
今朝からずっと、鼻水とクシャミは止まらないし、頭はボーっとするし、
寒気はするし…完璧に風邪をひいてしまった。



4 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時22分40秒


いつもの学校からの帰り道。
風邪をひいているせいか、今日は、一段と寒さが増したような気がする。
木枯らしが一層冷たく感じて、弱った体にはかなり厳しい。

「さぶっ…」

思わず背中を丸め、身震いしてボソッと呟くと、
後藤は、そのひと言に敏感に反応して、パッとあたしへと振り返る。

「寒いの?市井ちゃん」

「んー…ちょっとね…」

そしてまた、鼻をグズグズ鳴らして、首に巻いてあるマフラーに顔を半分うずめた。
そんなあたしを、隣を歩く後藤は、なぜだかニコニコしながら見つめて、

「じゃー、後藤があっためてあげるねっ!」

と、嬉しそうに言ったかと思えば、横からあたしの肩に手をかけて引き寄せると
ぎゅ〜っと力いっぱい抱きしめられてしまった。



5 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時23分28秒

「ちょっ、ちょっと、やめろって!」

「なんで〜?…こうしてたらあったかくない?」

いや、それはもう、かなりあったかい…
って、そういうことじゃなくって。
こんな道端で恥ずかしいじゃん。それに…

「そんなにくっついたら、風邪がうつっちゃうから…」

それが、一番の理由。

今朝から、ずっと意識して後藤とは距離を置いて接していた。
でも、後藤はそんな事ちっとも分かってくれなくて、何かとあたしに触れてこようとする。
あたしがさり気なく後藤からスッと離れると、後藤はすかさずその距離を縮める。
あたしが背中を向けてくしゃみをすると、後藤は回りこんで顔を覗き込んで心配してくれる。


6 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時24分01秒


…うん。心配してくれてるのは分かってるんだけどね、
だけど、あたしの風邪が、もしも後藤にうつりでもしたら…
こんなふうに、力いっぱい抱きついてくる元気もなくなるし、
普段のしゃべり声より少しトーンの高めな、子供っぽい甘え声も、
鼻声とか、ガラガラ声になっちゃうかもしれないんだよ?
そんなの、絶対に許されないでしょ?
てか、許さないから、あたしが。
それに、苦しくて、辛そうな後藤の顔は見たくない。


それなのに、
あたしがこんなにも思いやっているのに、
当の本人は、あたしに抱きついたまま離れようとしない。
それどころか、あたしが引き剥がそうとすると、より力を込めて抱きついてくる。


7 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時24分42秒


「だから、風邪うつるだろっ、そんなに近寄ったら!」

「いいもんっ」

「よくない!!」

「いいよ…市井ちゃんの風邪なら、うつってもいい」

「……良くないよ」




………。


結局あたしは、駅に着くまでの間、右腕に後藤をしがみつかせたまま
歩き続けたのでした。

まったく…人の言う事聞かないんだから、後藤は。
ホントにうつっちゃっても知らないよ、あたしは。







8 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時25分21秒



―――――



いつもの学校からの帰り道。
風邪もほぼ完治して、あれほど身に凍みていた北風にも
何とか耐えられるくらいまでに、回復した。

しかし、なぜか体の右半分だけが、やけに寒い。
風邪のピークの時でさえ、この道を通るときは、右側だけはいつも温かかった。



たまに腕が触れるくらいの微妙な距離で並んで歩いて、
時には、ふざけて腕にしがみついて来たり、
さり気なく、指をあたしの手に触れさせてきたり、
いつもあたし右隣にはホワンとした温かさがあった。



右隣に居る事が、もう当たり前になってしまってたから、
居ない事がこんなに堪えるなんて、はじめて分かったよ。



…まったく。
だからあれほど言ったのに。
そんなにくっついてると風邪がうつるって。
あたしは、少しくらい離れて歩いても、声が聞けるだけで充分元気をもらえてたよ。
それなのに、これじゃあ声どころか顔を見ることも出来ないよ。



9 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時25分59秒


あたしの風邪が、ようやく治りかけた頃、
今度は、後藤が喉が痛いと言い出した。
次に会った時には、咳をしていて、そしてついに昨日、学校を休んだ。
おまけに、今日になっても熱が下がらないらしくて、休んでいる。


…二日も続けて休むなんて、どんな風邪ひいてんだよ。
重症じゃんか。
あたしだって、責任感じてんだぞ。
メール送ったって、なかなか返事返ってこないし、心配で昨日の夜は
ほとんど寝てないんだから。

今日は今日で、授業には集中できないし。
寝不足のせいもあるけど、大部分は、風邪をひいてる後藤のことが
気になって仕方なかったから。
学校が終わったら終わったで、教室を出る前に、もうすでに心は後藤の元へ向かっていて、
いつのまにか、途中で電車を降りて、後藤の家目指して歩いてるし。

自分の時は、「うつるから近寄るな」なんて強がってたくせに、
逆の立場になると、居ても立っても居られなくて、
なんて言い訳しようか考えながら、いつもよりも早足で歩いてしまう。






10 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時26分33秒






そんなこんなで、後藤の家の前まで来てしまった。

もうここまで来てしまったら、潔く正面から正々堂々と…

“ピンポーン”

玄関のチャイムを押して、しばらくの沈黙の後、
ドタドタとこっちに近づいてくる足音がして、ガチャリとドアが開く。


「あ、こんにちは」

「あら、市井さん」

ドアから半分、体を覗かせたのは、後藤のお母さん。

「あの…」

「まぁー、わざわざ見舞いに来てくれたのー?悪いわねぇ。
大分良くなったんだけど、まだ熱が下がらないのよー、
だから、大事を取って今日も休ませたんだけどねぇ」

「…はぁ」

11 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時27分04秒

「あの子の事だから、寝てるかもしれないけど、顔でも見て行ってやってくれる?
いやねぇ、今ちょっとバタバタしてて、なんのお構いも出来ませんけど、どうぞ上がってて?
もぉ、ホントに悪いわねぇ」

「はい…」

後藤のお母さんは、自分の言いたい事だけ言うと、スリッパを一組置いて、
あたしに家に上がるように促し、さっさと家の奥に戻っていってしまった。

いや、後藤の家がお店をやってて忙しいのは知ってるけども。
…いいのか?こんなにあっさりと家に上がれても。

まぁ、何というか…
この親子、似てるんだか似てないんだか。
チャキチャキしてて、せっかちっぽい所は後藤には無いけど、
かなりのマイペースなところは似てるな、うん。



12 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時27分41秒


取り合えず、こうやって玄関でポツンと突っ立ってても、しょうがないから、
誰に言うでもなく、一応「おじゃましまーす」と言ってから、家に上がった。

玄関の傍にある階段を昇って、二階へ向かう。
階段を昇ってすぐの場所にあるのが後藤の部屋だ。

ドアの前でちょっと立ち止まる。
やっぱ寝てるかな…
でも、いきなりドアを開けるのも、いくらあたしと後藤の仲とはいえ、失礼だし。

コンコン
と軽くドアを叩いてみる。
返事は、無い。
やっぱり寝てるみたいだ。

出来るだけ音を立てないように、そっとドアを開けた。
ドアの隙間から中を覗き見ると、相変わらず散らかった床と、
真ん中がこんもりと膨らんでいるベッドが見えた。

こっそりと部屋の内側に入って、そっとドアを閉める。

13 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時28分17秒

そーっと、そーっと音を立てないように…

“カチャ”

やばっ…
心拍数が一気に跳ね上がるのを感じて、ビクビクしながら後藤が寝ている
ベッドの方へ振り返ると、後藤は相変わらずスースーと気持ち良さそうな寝息を
立てて眠り続けている。

よかった…
…って、何でこんなにビクビクしてんだよ、別に悪い事してるわけじゃないのに。
でも、ちょっと興奮するのは、何でなんだろう…?


理由の分からない高揚感を胸に、ベッドへと近づいて、
寝ている後藤の顔を覗き込んでみる。
さっき後藤のお母さんが言ってた通り、まだ熱が引いてないらしく、
後藤の顔は、頬が紅潮していて、呼吸も少し荒い。

14 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時28分57秒

…まぁ、顔見に来ただけだからね。
こんなに良く寝てるのに、わざわざ起こすのもかわいそうだし。
ベッドの横に膝を着いて座り、後藤の寝顔を除き込む。



それにしても、安らかというか、健やかというか…
…あ、風邪ひいて寝てるんだから、「健やか」ではないか。
でも、…とにかく、かわいい寝顔だ。



どんないい夢見てるのかな?
みんなでさわいで遊んでる楽しい夢?
それとも、お腹一杯ご馳走食べてる、おいしい夢?
…あたしと、一緒にいる夢かな?

なんか、見てるだけじゃ我慢できなくて、そっと後藤の頬に手を伸ばし、
手のひらで包み込むように触れてみた。

…やっぱり、まだ微熱があるみたいだ。

起こしちゃいけないって思ってるのに、なかなか手を離す事が出来なくて、
後藤の寝顔を見つめたまま、少しずつ手を滑らせて撫でてみた。

15 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時29分46秒

「ん…」

後藤のまぶたが一瞬ピクッと震えると、ゆっくりと薄く開いて、
まだ半分ほど閉じたまま、ぼんやりした視線をあたしへと向けた。

「…ごめん、起こしちゃったね」

「んー…ぃちーちゃん、来てくれたんだぁ…」

ふにゃふにゃと目を擦りながら、寝起きのポヤンとした顔であたしを見上げる。

「…今ねぇ、市井ちゃんの夢見てたよ」

「……うん」

「それでね、夢のなかの市井ちゃん、すっごい優しかったんだよ。
なんでこんなに優しいのかなぁって思ってたら、やっぱり夢だったんだね(笑)」

「…はは、そっか」

ふにゃっとめっちゃくちゃ可愛いくて、嬉しそうな顔で微笑む後藤。



16 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時30分38秒


…ごめんな、後藤。
あたしは「近寄るな!」とか、あんなに邪険に扱ったのに、
後藤はこんなに嬉しそうにあたしの事を見てくれて。
それに、あたしの夢見てたって。
優しいと思ったらやっぱり夢だったって…
……『やっぱり』ってどういう意味だよ。

…よし。分かったよ、後藤。
病気のときくらい、照れずに思いっきり優しくするから。






寝ぼけていた顔も大分はっきりしてきた後藤は、ベッドから体を起こそうとする。
あたしはそれを察して、慌ててそれを止める。

「いいよ、後藤。起きなくても」

「でも…」

「いいから寝てなよ、ね?」

「うん…」

17 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時31分12秒


出来るだけ優しい声で後藤をなだめて、
なんとなく、もっと後藤の傍に近寄りたくて。
立ち上がり、ベッドの端の、寝ている後藤の隣に座りなおした。


「…まだ、熱下がってないみたいだね」

さっきみたいに、後藤の頬に手を添えてそう言うと、
後藤は、くすぐったそうに微笑んで頷いた。

「うん。でも、だいぶ楽にはなったよ」

「そっか…良かった」

あたしも、後藤の笑顔につられるように頬が緩んでいくのを感じながら、
頬に添えていた手をそのまま上に滑らせて、額に掛かった前髪を上に撫で上げた。
後藤は、あたしの事をジッと見つめて、大人しくされるがままになっている。


「…きもちいー」

「え?」

「市井ちゃんの手、気持ちいいよ…なんか、優しくて」

「…うん」


18 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時31分46秒



優しいって感じた?
だったら、嬉しいよ。
さっき、今日くらいは照れずに優しくしようって決めたからさ。
それに、こうして後藤に触れてると、あたしの方が心地よくて安心できるから、
なかなか手が離せなくなるんだ。
だから、もう少しだけ、このままで居させてよ。



後藤の前髪を何度も上に撫で上げていると、後藤は気持ち良さそうに目を閉じて、
大きくひとつ、溜め息を吐いた。

いつもよりも随分大人しい後藤は、
なぜだか、いつも以上に子どもっぽく見えて。

すっかり安心しきった表情と、火照ったピンク色のほっぺと、
少しだけ開かれて吐息が漏れている唇と…。


19 名前:シェルター 投稿日:2001年11月30日(金)21時32分54秒



こうして傍に居るだけで、こんなに癒される。
風邪ひきの後藤に癒されるなんて、なんかヘンだけどね。

後藤は、ただ黙って目を閉じてるだけだけど、
あたしに、心も体も全部預けてくれてるってことが
それだけで充分、分かるから。だから…、

…こんなに誰かの事を守りたいって感じた事、今まで無かったよ。

後藤のことは、あたしが守ってあげるから…、なんてセリフは恥しすぎて、
それに風邪をうつしちゃったあたしが言える言葉じゃないけど、
だけどさ、今ものすごく、そう感じたよ。



20 名前:作者 投稿日:2001年11月30日(金)21時33分50秒


後半もあります。



目にオデキみたいのができて痛いけど、
がんばって近いうちに上げます。

では。


21 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月01日(土)22時01分41秒
新スレおめでとうございます。
ずっと読んでました。
続き楽しみにしてます。
22 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月02日(日)01時56分05秒
同じく、新スレおめでとうございます。
新しいお話もあま〜くて、あま〜くて、もう・・・。
続き楽しみですが、どうかお体には、お気を付けて作者さんのペースで
マターリ待たせていただきます。
23 名前:作者 投稿日:2001年12月03日(月)22時12分09秒

>>21さん
どうもありがとうございます。
こっちのスレもよろしくお願いします。

>>22さん
はい、私は甘い話しか書けないみたいなんで…。
そして、お気遣いどうもありがとうございます。
待って頂いている方が居ると思うと、やる気が沸きます。


それでは、続きです。


24 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時12分54秒


後藤の髪を撫でる手を一旦止めて離すと、
後藤は閉じていた目を開いて、


「…いちーちゃん…もうちょっと…」

なんて、甘えてきて。

「しょうがないなぁ…、じゃあ、もうちょっとだけだよ?」

あたしは、偉そうなセリフに全然説得力がないくらい、
緩んだ顔で答えて、また後藤の髪に触れる。




かわいいなぁ…後藤。
ホントにかわいい。


…その赤いパジャマ。
初めて見たけど、メチャメチャかわいいよ…。


25 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時14分14秒




…どうしよう。

今日は、優しくしようって決めたのに。
後藤は病人なんだから、いたわってあげなきゃダメなのに。
こんなに、無防備でかわいらしい顔を間近で見ながら、その髪に触れていると、
どうしても、湧き上がってくるものが抑えられない。

だって、…かわいいんだもん。



…ごめん…後藤…




後藤の髪に触れていた手を、ゆっくりと枕元に着いて、
もう一方の手も、後藤の頭を挟んだ、反対側に着いて、
身体を徐々に、後藤へと近づけていく。

26 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時14分48秒

あたしの手が自分から離れた事に気付いた後藤は、
閉じていた目蓋を開いて、今は自分の真上にある、あたしの顔へと視線を合わせた。

「…市井ちゃん?」

「ごめん、後藤…」

戸惑い気味の後藤の頬に軽く口付けて、そのまま横に滑らせて、唇へ移ろうとすると、
下から後藤に、肩を手で押し返された。
無理やりって言うのも嫌だから、一旦顔を離して後藤の顔を覗き込む。

「…せっかく、治ったのに…また風邪うつっちゃうよ」

なんだ、そんな事か。
でも、戸惑う理由がそれだけなら、このまま続けても大丈夫だね。
だって…

「もともと、あたしの風邪だもん。
免疫あるから、だいじょうぶだよ…」

…多分、だけど。

27 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時15分59秒

言い終わらないうちに、後藤の唇を塞いで、
乾いて少しカサカサしている唇を、あたしの唇で挟んで軽く吸い込んで、
何度もそれを繰り返して、ゆっくりと湿らせてあげる。
後藤の唇が充分に潤って、あたしの肩を押していた手が、いつの間にか、
シャツをグッと掴むように変わったのを感じて、唇を割って舌を滑り込ませる。
戸惑って竦んでいる後藤の舌は、あたしがそっと触れると、
すぐにそれに応えるように求めてきた。

…やっぱ、口の中も熱っぽいな…

いつもより少し熱い後藤の吐息と、
後藤の体が動くたびに、布団から篭った空気と匂いが漏れてきて。

…そして、ここはベッドの上。



…ホントにごめん、後藤。



あたしの唇は、後藤の唇を離れて顎を伝い、首筋を目指して、
そこへ辿り着くと、いつもより熱くて、しっとりとした肌を軽く吸い上げる。

28 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時16分38秒

「…っ…市井ちゃん…、だめ…汗掻いてるし、昨日お風呂入ってないから…」

後藤は、あたしの身体を押し返そうとしてるんだけど、
力が入らないらしく抵抗になっていない。

…ごめん後藤…、ちょっとだけだから…そんなに無理させないから…

と、頭では謝りつつも、身体は正直に動いて、
後藤のパジャマのすそから手を滑り込ませると、
汗ばんだ肌を撫で上げていく。
そして、たどり着いた膨らみを手のひらで包み込む。
ゆっくりと手を動かすと、後藤の肌が粟立ってくるのを感じて、
自分の耳元で聞こえる、荒い息づかいと、抑え切れない声に、
どうしようもなく、昂ぶってしまって、頭では後藤の体を気遣わないといけないって
分かってるのに、…途中で、止まれない。



29 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時17分21秒



理性を半分失いかけているあたしの手は、後藤のパジャマのボタンに伸びて、
上から一つ、二つと、外していく。
そして、後藤の唇に再び口付けようとすると、
後藤は急にあたしから顔を逸らして、

「…ッ、グッ…ゴホッ」

「あ…」

急に咳き込みだした後藤に、あたしはハッと我に返った。
少し身体を離して後藤を見下ろすと、布団が腰のあたりまでずり下がり、
パジャマのボタンは半分はずされ、その裾は捲れ上がってお腹が見えている。

「ご、ごめん…後藤、…あたし…」

…なにやってんだ、あたし。
弱ってる後藤に、無理矢理こんな事して…。

ごめんな、後藤…。



なんか、今日は後藤に謝ってばっかだけど、
現に、謝らないといけないことをしてる訳で…マジでごめんな。

30 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時18分13秒

ただひたすら申し訳なくて、情けなくて、まともに後藤の目を見れなくて…
俯いて謝りながら、下にずり下がった布団を、後藤に身体に掛け直そうとした、

…その時。
布団を掴んだ手に、後藤の手が触れて、上から弱いながらも握られ、
驚いて、顔を上げて後藤を見ると、その目は真っ直ぐにあたしの事を見つめていて。

「あの…大丈夫だから…」

「え?」

後藤はベッドから体を起こすと、視線をつながれているふたりの手に落とし、
小さな声で呟くように言った。

「…大丈夫だから、平気だから……だから、…えっちはダメだけど……」


「……」





…かわいいな、後藤。



31 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時18分57秒


後藤の体を引き寄せて強く抱きしめてあげる。
また少し咳き込んだから、身体に回している手で、背中を擦ってトントンと軽く叩いてあげて。
後藤はあたしの肩におでこを擦り付けて、力が入らないなりにもギュウッと抱きついてくる。

「…へへぇ…いちーちゃん、あったかぁい…」

「そう?」

「うん…あ、そうか、後藤に興奮してるから、体が熱くなってんのかなぁ」

「…そうだね」

「フフッ…素直だねー、今日は」

素直?
そうかな…?
でも、そうだとしたら、後藤に耳元で甘え声で囁かれて、
後藤の首や髪から感じる熱っぽい匂いに包まれているせいで
もう頭の中が半分蕩けてるから、考えないで、思ってることが
そのまま口に出ちゃうんだよ。

32 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時19分56秒

だから、あたしの身体も心に正直に、思ってるままに動いてしまう。



後藤の首筋に、再び自分の顔をうずめて、唇を這わせながら
うっすらと浮かんだ汗を舌で掬う。

でも、後藤はそれに抵抗して、首をすくめてしまう。

「…んっ…だから、だめだよ、市井ちゃん…
後藤、汗かいてるから、きたないよ」

「…汚くなんて、無いよ」

「でも…汗くさいでしょ?」

「んー、汗の匂いはするけど、臭くは無い」

本当にそう思った。
後藤に気を使ってそう言ったわけじゃなくて。
不快になんか、全く感じないし、それどころか、逆に…
…って、ヘンタイか、あたしは。
汗の匂いにこんなに、…
でも、これが後藤以外の人のものだったら、
絶対こんな風には思わないだろうから、まだ大丈夫…なのかな。


33 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時20分45秒


後藤は、あたしが自分の首に顔を埋めているのを嫌がって、
もぞもぞと抵抗してるんだけど、
あたしは、構わず後藤の身体を抱きしめたまま、
首筋にキスをするのを止めなかった。


そのうち後藤は諦めて、ブツブツ文句を言いながらもあたしの背中に手を回して、
ふざけて軽く叩いたり、優しく撫でたりしてくれる。

「もぉ〜、市井ちゃん、後藤が元気なときにはこんなに抱きついたりしてくれないのに、
なんで、弱ってるときには甘えてくるのぉ?」

「…甘えてるんじゃないよ、後藤が寒いだろうから、あっためてあげてるんだよ」


34 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時21分37秒


抱き合ったまま、お互いの耳元に話しかけて、
お互いの言葉に笑いあって、その振動が直接身体に伝わって…


…幸せって、こういう気持ちを言うのかな?
別に、劇的に感動する出来事があるわけじゃなく、
自分を忘れるほどの快感を与えられたわけでもない。

ただ、腕の中の愛しくてたまらない彼女の、
その声が優しく鼓膜をくすぐって、触れ合った身体から体温を感じるだけで、
こんなにも、心地よくて、安らげる。


35 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時23分01秒



「後藤…キスしていい?」

「…さっきはそんな事聞かなかったのに」

「それはさぁ……じゃあ、いやだったらしないよ」

「いやじゃないよ…」

「なら、してもいい?」

「…うん」


後藤にもう一度口付けても、さっきみたいに暴走しないのは、
この、まったりと甘い雰囲気のおかげなのかな。
それとも、この部屋の暖房がちょっと効きすぎてるせいで、
のぼせ気味だからかな。
…まぁ、のぼせてるのは、暖房のせいだけじゃないけど。


なんだかもう、頭に伝わるのは、抱きしめてる後藤の体が、
柔らかくて温かいという事と、後藤のキスがただ気持ちいいって事だけで、
それ以外のことは、全くなにも考えられないし、なにも聞こえないし…。





36 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時23分41秒






だから、
階段を昇って近づいてくる足音にも、
気付く事が出来なかった。
不覚にも。



37 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時24分38秒


“ガチャッ”

「ごっち〜ん!風邪、良くなっ…」
「よっ、…!!」
「よっすぃ!?」

幸い、ドアのノブが回る音に、何とか反応できたあたしは、
反射的に後藤の顔から離れて、
…その最中をバッチリ目撃されるのは免れたけど、
あたしの手は後藤の肩に置かれたままで、
風邪で反射神経が鈍っている後藤は、すぐに反応できず、
支えを急に失った勢いであたしの胸に倒れこむ格好に…



そして、それを目の当たりにして、ドアの前で口を開けて固まっている…吉澤。






38 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時25分36秒


―――――


後藤の家からの帰り道。

いまだかつて、駅までのこの道がこれ程までに長く、
憂鬱に感じた事は無かった…。


「いや〜、邪魔するつもりは無かったんですけどぉ、
ごっちんのお母さん、市井先輩が来てるなんて言わなかったしぃー、
それに、ちゃんとノックだってしましたよ?
お二人には聞こえなかったかもしれないですけどねー」

「……」


あれから後のことは、あまりの恥ずかしさでよく覚えてないけど、
なぜか、あたしと吉澤は一緒に帰る事になって…。

「それにしても、お二人があんなにラブラブでアツアツじゃ、
ごっちんの熱もなかなか下がんないですよぉ?」

「……」

吉澤のオヤジギャグにも、突っ込めるほどの元気もなくて…


39 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時26分38秒


「あたし、ごっちんに風邪うつしちゃったから、責任感じてたんですけど、
そんな心配しなくても良かったみたいっすね〜。
つーか、逆に感謝されてたりして。アハハ」

「……え?……えぇっ!?」


って、ちょっと待て、
後藤の風邪が、吉澤にうつされたって、どういうことよ?
あたしの風邪がうつったんでしょ?

「…吉澤の、…風邪が……うつった?」

「多分そうじゃないっすかね?症状も同じだし。
喉の痛みと、咳と、発熱と…」

…え〜と、
あたしの風邪の症状は…
くしゃみ、鼻水、熱は…無かったな…。

…吉澤と後藤は同じクラスで、後藤は吉澤の前の席だったよな。
授業中、休み時間とずっと一緒に居る吉澤と、放課後の何時間かを
一緒に過ごすだけのあたしと、どっちと居る時間が長いかなんて比べるまでも無く…。


……マジで?




40 名前:シェルター 投稿日:2001年12月03日(月)22時27分57秒


――― 数日後。



「ゴホッ、ゴホッ…う゛〜〜」

微熱気味のぼんやりした頭と赤い顔で、フラフラしながら咳き込むあたしと。

「…よっすぃのウイルスのほうが強力だったみたいだね…
ごめんね、市井ちゃん…」

申し訳なさそうに、隣に寄り添う後藤と。



吉澤菌に侵された後藤に、あんな事やこんな事をしてしまったあたしは、
前の風邪が治ったばかりで、抵抗力が弱っているのもあって、
当然のごとく、見事に今年2度めの風邪をひいてしまった。


それにしても…
はぁ〜…ぐるじい…

なんて、強力でタチが悪いんだ。
吉澤の風邪菌は…。










   end.
41 名前:作者 投稿日:2001年12月03日(月)22時28分49秒


というわけで、『シェルター』でした。

42 名前:作者 投稿日:2001年12月03日(月)22時29分30秒



ありがちなネタですが、プッチ新曲PVのごまのパジャマ姿が
あまりに可愛すぎて、妄想が膨らみこんな話になってしまいました。


43 名前:作者 投稿日:2001年12月03日(月)22時30分27秒


あ、自分が人にうつした風邪には免疫があるから大丈夫とか、
人に風邪をうつされると、その人と同じ症状がでるとか、
実際にそうなのかは知りません。
作者の都合です(w



それでは。

44 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月04日(火)00時44分37秒
もの凄い優しい甘いお話に、読んでいるこっちの瞳が潤んでしまいました(笑)
こんな経験は初めてです(笑)
今回は市井ちゃんがごまにかわいいをたくさん言っていたけど、
私の方こそこのお話にかわいいを連発しちゃいますね。かわいすぎです!(笑

45 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月04日(火)18時58分51秒
よ〜し〜ざ〜わ〜(w
どんな出来事でもこの2人だと甘くなっていいですね。
目は大丈夫ですか?
治ったらでいいんで、また甘いのお願いします(w
46 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月07日(金)01時52分28秒
前回から早めの更新嬉しいっす!!
今回もものすっご良かったですきほし
つーかごまのあのパジャマは可愛いですよね。
ちゃむがその気になるのも分かる!!(w
47 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月08日(土)17時38分36秒
初めは手を繋ぐのも恥ずかしがってた市井ちゃんが
だんだん大胆になっていくのがいいですね!
このままもっと進化し続ける事を期待します(w
作者さんも体に気を付けて頑張って下さい!
48 名前:作者 投稿日:2001年12月10日(月)22時06分55秒


>>44さん
ありがとうございます。
作者自身が最近ごまの事がかわいくって仕方なくて、
テレビで見るたびに、「かわいい」連発してるんで、
市井ちゃんにもそう言わせてしまうんです。



>>45さん
どうも、お気遣い頂いてありがとうございます。
目の方は全快しましたので、がんばります。
…しかし、いまいちいいネタが思い浮かばず、苦しんでます。



>>46さん
はい。あのPVのごまは最高にかわいいです。
やっぱ、ごまはクールに大人っぽくきめてるのも良いけど、
はしゃいで楽しそうにしてるのが一番かわいいです。
なんか「ごまカワイイ」しか言ってないような気がしますが…
頑張ってネタ考えます…。


49 名前:作者 投稿日:2001年12月10日(月)22時08分31秒


>>47さん
言われてみればそうですね。
市井ちゃん、だんだんと自分に正直になってきてます。(w

>このままもっと進化し続ける事を期待します(w
う〜ん、市井ちゃんが今以上に積極的になって…
ちょっと、それもつかえるかな、なんて思ってしまったんですが(w



今日のHEY×3で、プッチとwyolicaが同じステージの上に立ってるのが
なんか嬉しかったんで、記念にカキコしてみました。
(分かる人には分かってもらえてると思うんですが…、多分。
 こないだ、短編上げたばっかりだし…)


てなわけで、更新はもうちょっと待って下さい。
50 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月12日(水)19時05分42秒
「シェルター」はwyolicaですか。いい曲ですよねー。
それで気付いたんですが、題名はスーパーカーですね。
今頃ですいません。
ゆっくりでいいんで、次回も甘いのお願いしますね(w
51 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月22日(土)19時21分40秒
年末はいろんな行事が目白押しですね。
クリスマス、お正月、初詣、もちろん市井ちゃんの誕生日。
次はどんな話になるのか、期待して待ってます。
52 名前:作者 投稿日:2001年12月25日(火)22時12分28秒


>>50さん
「シェルター」は名曲です。
wyolicaについてはイロイロ語りたい所ですが、関係ないんで我慢します。
スレのタイトルは、その通りっす。
ちなみに今までの話、全部誰かしらの曲名だったりするんですが…
そーとー趣味が合う方じゃないと全部は分からないと思います。
結構古いのもあるし…。


>>51さん
前回からけっこう間が開いてしまったのは、
年末のイベントラッシュに合わせたからです…ウソです。
ごめんなさい、ぶっちゃけスランプ気味だったんで…
51さんのレスを読んで、なんか吹っ切れました。
ありがとうございます。

というわけで、こんなの書いてみたんで、読んでやってください。
53 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時13分24秒


SLIDE


54 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時14分15秒

今日は二学期の終業式。


式を終えると、午前中で帰る事が出来るんだけど、
あたしは、市井ちゃんと待ち合わせて、放課後の人がまばらになった校内を
何の目的があるわけでもなく、ただブラブラと歩いていた。
明日から冬休みという事に加えて、数日後にはクリスマスが控えている事もあって、
殆どの子が早々に帰ってしまっていて、校内は比較的静かだった。



ただ並んで歩きながら、今日あったこととか、お互いの友達や家族の事とか、
取り止めのないことを話して、あたしの言葉に笑ってくれる市井ちゃんの横顔を
見てるだけで、それだけでもあたしは楽しかった。

55 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時14分57秒


誰も居ない渡り廊下を歩いていると、市井ちゃんが「あっ…」と声を漏らして
立ち止まった。

「どしたの?」

あたしも、二、三歩先で立ち止まって振り返ると、市井ちゃんはなぜか、
一瞬「しまった」って感じの顔をしてあたしの顔を見返した。

「あ、…あの、忘れ物しちゃってさ…ちょっと教室に取りに行ってくるわ。
…後藤、ここで待ってくれる?」

「じゃあ、後藤も着いて行くよ」

「いや、いいよ…すぐ帰ってくるから」

そう言って、なぜか慌てて教室へ向かおうとする市井ちゃんが、
なんとなくヘンに感じたあたしは、無理矢理着いていくことにした。





56 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時15分33秒


市井ちゃんの教室は、みんな帰ってしまった後で、
シンとしていて、誰も居ない。

「…誰もいないや」

「ホントだぁ〜…へへぇ、後藤も入っちゃお」


教室に入って、中をぐるっと見回してみる。
自分の教室と造りはかわらないけれど、明らかに雰囲気が違っていて
不思議な感じだ。だけど、市井ちゃんの教室ってだけで、嬉しくなってくる。


あ、そうだ、…えーっと、市井ちゃんの席は、確か…
前に、教室の外から覗いたときに市井ちゃんが座っていた席を
思い出した。窓際の後ろから三番目の席だったはず。

「あそこ、市井ちゃんの席だよね?」

「あ、…うん、そうだよ」

窓際のその席まで小走りに駆け寄って、椅子を引いて座ってみる。
他の、周りの席の机や椅子と同じものなんだけど、なんとなく
この席だけが、特別な席に感じて、そっと机の上を手のひらで撫でてみた。


57 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時16分12秒

「なぁ〜に、ニヤけてるんだよ、おまえ」

無意識にあたしの顔は緩んでしまっていたらしく、
いつの間にか、隣に立っていた市井ちゃんに、頭をポンと叩かれて、
さらに、頬が緩んでしまう。

そして、市井ちゃんはあたしが座っている、自分の席の隣の席に、
身体をこっちに向けて座った。

「へへぇ、市井ちゃんの席だぁ〜」

「…ばーか、なにやってんだよ」

顔を緩ませたまま、机の上に伏して、ぺたっと抱きつくあたしに、
市井ちゃんは、半分呆れ顔で、でも、半分は優しい微笑で答えてくれる。


58 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時16分47秒


誰もいない静かな教室に、ふたりっきり。
市井ちゃんは、あたしが大好きな優しい微笑で見つめてくれて。
ただ、それだけで、こんなにも幸せで優しい気持ちになれるなんて、
誰かに恋するって、すごい事なんだなぁ…


…なんて、乙女チックな妄想に浸りつつ、
何気なく、机の中に手を入れてみた。

…別に、意味なんてなかった。
当然、その中には何も無くて、ただ、冷たい鉄の手触りだけだと…



けど、机の中の手を、横に滑らせた時、
カサッという音と共に、指に何かが触れた。


「ん?…なんだ?」

「あっ…!」

59 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時17分30秒

何の迷いも無く、取り出してみたそれは、薄いブルーの封筒だった。
トクンと一瞬心臓が大きく跳ねるのを感じながらも、封筒を裏返して、
目に留まったのは、“市井紗耶香 さま”という、小さなかわいらしい文字。



…もしかして、これって…

どんどん心臓の鼓動が速くなるのがわかる。
視線を自分の手元から、市井ちゃんの顔へと移すと、
市井ちゃんは、気まずそうに目を逸らした。

…やっぱり。

「…いちーちゃん、…これ…手紙…読んだの?」

「あ、…うん…今日朝来たら、机の中に入っててさ…」

「…もしかして、取りに来た忘れ物って…これ?」

「……」

あたしの問い掛けに、市井ちゃんは、無言のまま俯く。
やっぱりそうなんだ。
あたしは、この手紙がどういう手紙なのかを、確信した。

60 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時18分00秒

なんだろう…不思議な気持ちだ。
不安とか、嫉妬とか…そんな気持ちじゃない気がする。
単に、好奇心なのかもしれない。
けど、もしかしたら、嫉妬する気持ちを認めたくないだけなのかもしれない。


封筒には、差出人の名前は書かれていない。
それが余計に、この何とも言えない感情を膨らませる。

…あたしの他にも、市井ちゃんのことを想ってる人がいるんだ。

だけど、今、市井ちゃんに想われてるのは…あたしだよね?

…あたしだけ、だよね…?





ふたりっきりの静かな教室。
さっきまでの、穏やかで優しい空気は、痛いほど張り詰めたものに変わっていて、
その中で、続く沈黙は、このまま終らないんじゃないかと思えてくる。

市井ちゃんは、黙って俯いたままで、何も言おうとしない。
だけど、あたしは、この押し潰されそうな沈黙に耐えられなかった。

61 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時18分31秒


「……帰ろっか?」

「え…」

明らかに無理をしてると分かる、ぎこちない笑顔を浮かべてそう言ったあたしの顔を、
市井ちゃんは、やっと顔を上げて見てくれたけど、席を立とうとはしない。


…もう、この事は、これ以上聞かないでおこう。
これで終わりにしよう。
あたしが、何も聞かなければ、終る事ができる。

あたしは、市井ちゃんを信じてるから…だから、大丈夫。

市井ちゃんの前の机の上に、持っていた手紙を、指が震えそうになるのを堪えて、
そっと、置いた。

戸惑いを隠せない表情で、手紙を見つめる市井ちゃんは、
このまま、自分の言葉で何も言わないまま帰る事を、迷っているんだろうと思う。

62 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時19分01秒

「…市井ちゃん、帰ろうよ」

だけど、あたしは何も言わせないように、席を立って再び帰ろうと促した。

あたしは、市井ちゃんを信じてるから…何も言わなくても大丈夫だよ?


机の上の手紙をゆっくりとした動作で手に取った、市井ちゃんの姿を、
横目で確認すると、先になってドアまで歩き出した。
頭の中は、まだ、あの手紙の事で一杯なのは、正直、事実だけど、
でも、これ以上、蒸し返すような事を言って、市井ちゃんを傷つけることだけはしたくないから。
感情が昂ぶって、酷い事を言ってしまわないうちに、
早く、…忘れよう。






思い足取りで、出口へ向かうあたしの背中から、ガタンと勢い良く
椅子が動いた音がして、思わずビクンと肩が震えて足が止まってしまった。

63 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時22分29秒


「あの…後藤っ…」

その後聞こえてきたのは、…今までずっと黙っていた市井ちゃんの口から、
不意に発せられた、少し上擦ったような声のあたしの名前。
振り返ると、やっぱり気まずそうに目を逸らされてしまったけど、
市井ちゃんが何かを言おうとしてる事は分かる。

「…なに?」

「…あのさ、…この手紙…なんだけど」

「うん…」

「…多分、…もうどんな内容かは分かってるんだろうとは、思うけど…」

「……」

市井ちゃんの手にある封筒は、少し皺になっていて
手に力が入ってしまってるらしく、唇をキュッと結んだ表情からも、
緊張感が感じられる。

少しの沈黙の後、市井ちゃんは、決心がついたかのように、
スッと顔を上げて、一回大きく息を吐いた後、あたしの眼を見て話し始めた。

64 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時23分10秒

「誰からもらったかは、…やっぱり、後藤でも、言えない…それは、ごめん。
だけど…手紙には…あたしのこと、ずっと見てたって書いてあった…」

「……うん」

「…それと、…良かったら…クリスマス一緒にすごしたいって…」

「……」



なんて言ったらいいのか分からない。
なんで、市井ちゃんは、あたしにそんな事まで言うのかも分からない。
手紙の内容や、差出人が誰かなのか、正直知りたいと思った。
…だけど、聞いてしまうのも怖いとおもった。
だから、手紙の事を聞くことが出来ずに、曖昧にしたまま帰ろうとした。
なのに、…市井ちゃんは、どうしてあたしにその事を話したんだろう…
市井ちゃんがこのまま、何も言わないでいたら
あたしは、ずっとこの先も、何も聞かなかったよ?


65 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時24分39秒


「…あたし、…今晩この子に電話して、きちんと返事をしようと思ってるんだ。

「……」

心臓の鼓動が、苦しさを感じるほど、急激に速くなる。
なんで、そんな事まで…
そんなに、全部言わなくてもいいのに…




市井ちゃんは、あたしをまっすぐに見詰めて真剣な顔で話してくれるのに、
あたしは、見つめ返す事ができずに、視線を逸らせて俯いていた。
市井ちゃんの視線を痛いほど感じる。
これじゃ、さっきまでとは対場がまるで逆だ。
…さっきの市井ちゃんは、こんな気持ちだったのかな?


66 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時25分41秒


「こういう事って、曖昧なままにして置きたくないし…だから、ちゃんと返事するよ。
クリスマスは、…一緒に過ごしたい子が居るから、気持ちには応えられないって」

「……」

「…好きな子が、いるって」


市井ちゃんのその言葉に、胸がギュッと締め付けられて、苦しくなる。
予想していなかった、その言葉。

やっぱり、何も言えないよ。

だってさ、なんて言えばいいの?


市井ちゃん、ずっと、あたしがクリスマスの事を話題にしても、
人ごみがイヤだとか、出歩くのは寒いからとか、
イベント事には興味ないとか、乗り気じゃなかったのに。

なのに、なんで今、…今みたいな時に、そんな事言うの?
…カッコ付けすぎだよ。




67 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時26分22秒



「…あの…後藤?」


黙ったままのあたしの顔を、市井ちゃんは少し屈んで覗き込んでくる。
少し不安げな市井ちゃんの声と、困惑した表情。

…うん、分かってるんだよ。
充分伝わってるんだよ、市井ちゃんの気持ちは。

泣きたくなんて、無いんだよ?
思いっきり笑顔で、ありがとうって言いたいんだよ…?

だから、こんな泣きそうな顔したくないのに、市井ちゃんを困らせたくないのに…



「…後藤だけだよ」


市井ちゃんの声は、とても優しくて、穏やかな声で、
髪を撫でてくれる手も、あったかくて、心地よくて…

今まで張り詰めていた心がフッと緩んで、
ギリギリのところで留まっていた涙が溢れ出した。

68 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時27分58秒


「…泣く事ないじゃん」

「…っく…うぅ…」

「あのさ、やっぱりさ…このまま曖昧にして、
わだかまり残したままにしたくなかったんだ…。
楽しいクリスマスにしたいじゃん?」

「…うん」

頷いて、市井ちゃんの肩におでこをくっ付けて、腰に手を回し抱きついた。
誰も居ないとはいっても、ここは教室で、人目を気にする市井ちゃんは
嫌がるかもって思ったけど、あたしの背中に市井ちゃんの手のひらが触れて、
軽く抱き寄せられ、ほっと力が抜けていく。

「…市井ちゃんが、もてるのはちょっと複雑だけど」

「…もてるわけじゃ」

「充分、もててるよ。
 …でも、さっき言ってくれた言葉信じてるから」

「…さっきの…言葉?」

「うん…後藤、嬉しくて泣いちゃったもん」

「あぁ…うん」

「それに、……後藤の市井ちゃんへの愛に、勝てる子なんていないしねっ」

「……」

69 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時29分09秒

照れて、視線をきょろきょろと彷徨わせる市井ちゃんの唇を、素早く奪い、
すぐに離れて、市井ちゃんの反応を待つ。
目を少し見開いて、あたしを凝視する市井ちゃんのほっぺは、ほんのり赤くなっていた。

「…誰かに見られたらどうすんだよ」

「へーきだよ?誰か来たら足音でわかるもん
後藤、耳、いーから大丈夫」

「……ばか」

「えへへ…そんなばかに惚れちゃってるのは、誰かなぁ〜?」

「……自分で言うなっつーの」




ごにょごにょと小さな声で文句を言ってる市井ちゃんの唇を、再び塞いだ。
触れ合わせるだけのキスを、角度を変えて何度も何度も繰り返す。
シンとした教室に、二人の溜め息と、キスの音が響いて、
段々と気持ちが昂ぶってくるあたしは、軽めのキスだけじゃ我慢できなくなってくる。

70 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時30分08秒

そっと市井ちゃんの腰に回している腕を解いて、身体の前に持ってくる。
そして、市井ちゃんのブレザーのボタンをゆくっりと気付かれないように外し、
開いた前から、手を滑り込ませて、胸の膨らみを包み込んだ。

「…んっ…ダメだよ、後藤」

「どうして?」

「…どうしてって…教室でなんか…ダメだよ」

「じゃあ…キスはいいんだ?…」

囁くように言って、市井ちゃんに顔を近づけていく。
もう少しで、唇が触れそうになったその時、
プニッと、ほっぺをつままれて、横に引っ張られた。

「っんぁ、な、なに…」

「だ〜め、もうお終いだよ」

「えぇ〜っ」

思いっきり不満を丸出しのあたしの顔と声に、市井ちゃんは苦笑いで。

71 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時30分53秒

だけど、こんな風にいつもの二人に戻れたのも、市井ちゃんのおかげだから、
出口に向かって歩き出した市井ちゃんの背中に、小さな声で
「ありがとっ」って言ってみた。

「…ん?なんか言った?」

「んーん、なんでもなーい」




立ち止まって振り返った、市井ちゃんに追いついて


「市井ちゃん…クリスマス、楽しみだね」


市井ちゃんの腕に、自分の腕を絡めると、
返ってきたのは、照れくさそうな、はにかんだ微笑。

…今日は、もう、その笑顔をくれただけで我慢してあげるよ。











72 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時31分45秒












 数日後の、クリスマス・イヴの日。

映画を見て、ゴハンを食べたあと、イルミネーションで飾られた通りを、
市井ちゃんと二人で歩く。

辺りはもう、薄暗くなっていて、クリスマスの飾りつけが一層きれいに映る。

人ごみがイヤだって言っていた市井ちゃんも、「きれいだね」って
嬉しそうに微笑んでいて、寄り添って歩く距離も、
自然といつもよりも近くなっている。
さり気なく市井ちゃんの手を取り、ギュッと握っても、一瞬あたしの顔を
チラッとみただけで、そのまま握り返してくれた。


73 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時33分06秒


帰り道、駅までの道の途中にある公園のベンチで、
市井ちゃんが買ってくれた、ミルクティーの缶を両手で包み込むようにして
持ちながら、しばらく座ってお喋りをした。

…一本だけしか、ミルクティーを買わなかったって事は、
二人ではんぶんこして飲もうって意味だよね?
やっぱり、いつもと違うな、市井ちゃん。
これも、クリスマスの威力だね。

にやけつつ、缶に口を付けているあたしの隣の市井ちゃんは、
自分のバッグの中を探って、綺麗にラッピングされた箱を取り出した。

「…はい、これ…プレゼント」

「あはっ、ありがとー
じゃ、あたしからも…」

ミルクティーの缶を、ベンチの上に置いて、プレゼントを受け取ると、
自分が用意していたプレゼントをバッグから取り出して、市井ちゃんに差し出す。

「ありがとう」

「どういたしまして」

74 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時34分05秒

お互いのプレゼントを手にして、二人して照れてモジモジしているのがおかしくなって、
思わず噴き出して笑ってしまうと、市井ちゃんも「なんだよぉ〜」て口を尖らせながらも
すぐに一緒になって笑ってくれた。


「これ、開けてもいい?」

ひとしきり笑い合って、落ち着いた頃にあたしがそう聞くと、
「もちろん」
と、市井ちゃんが頷いてくれたから、包装紙を破らないように丁寧に開けて
中から出てきたのは、水色のキャップの白いボトルだった。

あ、これ知ってる。
けっこう有名な香水だ。
でも、これってさ…

「これってさぁ…子供用なんだよね?」

「そうだよ、…気に入らなかったかな?」

「そんなわけ無いじゃん!」

75 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時35分58秒

大きく頭を振って、声を上げたあたしを、市井ちゃんは苦笑いで受け流すと、
あたしの手元にある、自分からのプレゼントを見つめて、話し始めた。

「…なんかさ、この香りと、後藤の雰囲気って似てるような気がするんだ」

「…?」

「あんまり、キツすぎなくて、…なんつーか、自然で
ほわっとしてて優しい甘い香りで…なごむっって感じで…
安心するって言うか…なんとなく癒されるんだよね」

「……」


ふーん、そうなんだ。
市井ちゃんて、あたしの事そんなふうに思ってたんだぁ…


「市井ちゃん、この香り好きなの?」

「あ、うん…すっごい好き」



…すっごい好き…か



「じゃあ、あたし、これいつも付けてるよ」

「…ん」

76 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時36分40秒





その後、ふたりで市井ちゃんが買ってくれた、少しぬるくなったミルクティーを、
交互に飲んで、あたしの門限に間に合う時間、ギリギリまでベンチに座っていた。


隣でコートのポケットに手を入れて座っている市井ちゃんの首には、
あたしからのプレゼントの、ちょっとばかし有名なブランドのマフラーが巻かれあって、
やっぱり、この色にして良かった、なんて、市井ちゃんの横顔を盗み見ながら、
しみじみ思っていると、不意に市井ちゃんの声が隣から聞こえた。

「…後藤」

「んー?」

「それさ…、無くなったらさ…また、あたしが買ってあげるから」

「…え」

「…あ、でも…後藤がもっと、大人っぽい香水が似合う歳になったら
その時は、それじゃないのがいいかな…」


77 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月25日(火)22時38分09秒


市井ちゃんは、変わらず前を見つめたままだったけど、
あたしは、その言葉だけで、充分胸が一杯になって、せっかくのクリスマスを
涙で終らせないように、一生懸命に我慢して…

「後藤が大人になっても、市井ちゃんがこの香りが好きなままだったら、
…このままでいい…」

ちょっぴり鼻声でそう言ったあたしに、市井ちゃんは前を見たまま、
でも優しい微笑を浮かべて、あたしの手に、自分の右手をそっと重ねた。


「ん…でもさ、後藤が大人になったら、あたしに香水選ばせてよ。
やっぱ、あたし好みの香りになっちゃうと思うけど」



あたしが大人になって、もっと大人っぽい香りが似合うようになっても、
この香水の優しい香りと、今日の事は、きっと…ずっと忘れる事が出来ないと思うよ。

だから、ずっとこの先のクリスマスの日に、ふたりして今日の事を…、
…始めて一緒に過ごしたクリスマスの日を思い出して、話せるといいね。










78 名前:作者 投稿日:2001年12月25日(火)22時41分02秒

最後のイヴ当日の所は、書こうかどうか迷ったんですけど、…結局書きました。

プレゼントの香水のところも、立ち読みした雑誌に安・矢・石が同じのを使っているという
記事を読んだんで、なんとなくそれが頭にあってこんな流れになってしまいました。
ちなみに、話の中に出てきたものは、別にごまが使ってるわけではありません。
つーかなに使ってるのか知りません(w 作者の好みです。

79 名前:作者 投稿日:2001年12月25日(火)22時41分56秒


こういう話は、昨日までに上げた方が良かったんでしょうけど。
まぁ、まだ今日なら間に合うかなと…


80 名前:作者 投稿日:2001年12月25日(火)22時44分49秒



では。


81 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月25日(火)23時50分28秒
あの香水、石鹸ぽくて優しい柔らかな香りがしますよね。
昔好きだった子が「好き」と言っていたのを思い出しました。
それ以来香水に興味を持っています。
好きな人の影響力って絶大。俺も贈ろうかな、香水。
82 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月26日(水)00時01分33秒
メリークリスマスです!!
83 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月27日(木)07時54分31秒
2人は幸せなクリスマスを過ごしたようですね。
ああ、羨ましい(w
でも市井ちゃん、カッコいいっすねぇ。
84 名前:作者 投稿日:2001年12月29日(土)21時25分12秒


>>81さん
やっぱ、分かっちゃいましたか。めちゃめちゃ有名ですからね。
好きなんですあの香水。
香りがきつすぎなくて、優しい香りなんですよね。
つけてしばらくたってなじんだ頃の甘い香りが特に好きです。
もしプレゼントされるんなら、候補に入れておいてください(w


>>82さん
 です!!
今年ももう終わりですよ。はやいですねぇ…


>>83さん
市井ちゃんがかっこいいって褒められると、
作者も嬉しいです。
ありがとうございます。



というわけで、「SLIDE」
実はつづきがあります。
85 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時26分11秒


12月31日。

一年の最後の日、大晦日。
…でも、今年からはあたしにとって、それよりももっと意味のある日になった。


がんばって早起きをして、お正月の支度でバタバタしている台所の隅っこで、
お母さんや、お姉ちゃんにブツブツ文句を言われながら、小さくなって作った
ケーキを届けに、午後から市井ちゃんのうちに行くことになっていた。

何でこんな日にケーキなのか。
それは、今日が、市井ちゃんの18回目の誕生日だから。
だから、これはバースデーケーキなんだ。
そして、あたしからの誕生日プレゼントでもあるわけで。

ついこの間、クリスマスを一緒に過ごして、プレゼントを交換したばかりなんだけど、
市井ちゃんは、その事を気にして、誕生日プレゼントはいらない、なんて言いだした。
市井ちゃんらしいと言えば、そうなんだけど、それじゃ、あたしの気持ちが治まらないから、
こうして、手作りのケーキをもらってもらう事にした。
…ただし、この事は市井ちゃんには内緒なんだけど…。



86 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時27分04秒



ちゃんと用意していた箱に、ケーキを入れて、電車に乗っているときも、
通りを歩くときも、崩れないように大事に抱えて、市井ちゃんのうちを目指した。





玄関のチャイムを押して、しばらくして、市井ちゃんがドアから、
顔を身体を半分覗かせた。

「市井ちゃん、誕生日おめでとー!」

「あ、ありがと…」

ここへ来るまでに、すっかり気分が盛り上がってしまっていたあたしの勢いに、
市井ちゃんは一瞬、たじろいだけど、すぐにいつもの優しい表情に戻って、
家に招き入れてくれた。



87 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時27分43秒





「市井ちゃん、これ…」

玄関に入って、もう待ちきれなかったあたしは、靴を脱ぐ前に、
持っていた箱を市井ちゃんに差し出した。
スリッパを床にそろえて置いていた市井ちゃんは、「え?」って顔で、
体を起こすと、その顔のまま、ケーキの箱をおずおずと受け取った。

「へへぇ〜、後藤の手作りバースデーケーキだよぉ」

「……ありがと…」

「やっぱさぁ、プレゼント無しなんて、味気ないじゃん?
だから、これは、後藤からの誕生日プレゼントだよ」

「…うん、…すごい嬉しい…」

優しい穏やかな微笑で、ケーキの箱を見つめる市井ちゃんのその表情に、
この顔が見たかったから、がんばって早起きして、手間をかけて作って、
苦労してここまで運んで来れたんだな、なんて、頬を緩ませつつも、
しみじみと感じてしまった。


88 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時28分32秒


「あれ?そう言えば、今家に誰もいないの?」

リビングのテーブルの上にケーキを置いて、
キッチンでお茶の用意をしている市井ちゃんの背中に、
ふと、疑問に思ったことを投げかけた。
家の中に入ってから、薄々は感じていたんだけど、やっぱり、いつまでたっても
あたしと市井ちゃん以外に、誰かがこの家の中にいる気配は感じられなかった。


「…うん、親は田舎に帰っちゃてるんだ」

「え…じゃあ、今日は市井ちゃん一人なの?」

「そうだよ…まぁ、しょうがないよね。…誕生日がこんな日だから、
こういう事は結構慣れてるし…」

トレイにカップやお皿やフォークなんかを載せて、リビングに戻ってきた市井ちゃんは、
なんでも無い事のように、さらっと話してるけど、聞いてるあたしの方が
なんだか、寂しくなってしまった。


89 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時29分22秒

「…市井ちゃんは、行かないの?」

「んー…年が明けてから行こうと思ってるよ、やっぱ行かないとお年玉貰えないしね(笑)」

「ふーん」

そーか…年が明けてから、後から行こうと思ってるのか…
…じゃあ、なんで一緒に行こうと思わなかったのかなぁ。
一緒に着いていったら、ちゃんとお祝いしてもらえてたのに…

…もしかして…誕生日は、あたしと一緒にいたいと思ったから…


今日の市井ちゃんは、いつもよりも、声も表情も優しい感じがするから、
思い切って、聞いてみようかなって思ったけど、あたしが言いよどんでいるうちに、
この話は、もうこれで終わりとでも言うように、「早くケーキを食べよう」って、
お皿を並べ始めたから、きっとあたしが思ってる通りだって勝手に信じることにした。

90 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時30分04秒

ケーキの上に、あたしが用意していたロウソクを立てると、
市井ちゃんは恥しがって「そんなの、いいよ〜」って、しきりに照れてたけど、
やっぱ、誕生日はこれがないと、雰囲気でないでしょ?

「はいっ、市井ちゃん、ふぅーってして?」

「えぇ〜、ホントにやるのぉ?」

「そうだよぉ、はやく〜」

「…う〜ん」

恥しがる市井ちゃんに、半ば強引にロウソクの火を吹き消させて、
お皿にケーキを取り分けてあげた。

「市井ちゃん、おいし?」

「ん…美味しいよ」

「へへぇ…よかった…」


91 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時30分57秒

あたしが作ったケーキは、ふたりで食べる事を考えて小さめに作ったんだけど、
何だか胸がいっぱいで、いつもならもっと食べられるはずなのに、
今日はもうお腹もいっぱいで、食べられなくて。
そして、市井ちゃんも普段から、それ程食べる方じゃないから、
三分の一くらい残ってしまった。


「…どうしよ、これ」

「そうだな…残りは、夜にでも食べるよ」

「うん、じゃあさ、紅白でも見ながら食べてよ。
…食べててさ、後藤のこと思い出して、寂しくなったら、電話してくれればいいから」


残ったケーキを前に、困惑するあたしに、市井ちゃんがさり気ない優しさを見せてくれて
ちょっと、ジンとしてしまったあたしは、思い切ってそんな言葉を言ってしまったんだけど、
その後返ってきた、市井ちゃんの返事に、そんな事を言える余裕さえ無くなってしまった。


「…うん、でも…後藤も一緒に食べようよ」

「へっ…」

92 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時31分42秒

思わず、間抜けな声を出してしまった。
思いがけない返事に、どう答えていいのか思いつかなくて。

固まっているあたしを、市井ちゃんは手元のカップを見つめたまま顔を上げて、
見てくれることは無かったけど、言葉の続きを、ポツポツと話し始めた。

「いや、あのさ…今日さ…っていうか、明日になるのかな?
まあとにかく、今日の夜、…初詣行かない?」

「……初詣?」

…さらに意外な言葉。
市井ちゃんから、イベント事の誘いをしてくれることは、今までほとんど無かった。
それに加えて、今日の夜に初詣に行こうって事は、このまま明日まで
市井ちゃんと一緒に過ごそうって事なのかな…?
いいのかな、今日は市井ちゃんの誕生日なのに、こんなにあたしが嬉しいばっかりで…

93 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時32分32秒


「…それって、夜中に行くんだよね?」

「うん、そう…だから、今日はこのままあたしと年越しして、
日付が替わったら、初詣に行かない?」

「…行きたいけど…許してくれるかな、お母さん…」

「なんなら、一回家に帰って、また出直してもいいし。
あ、初詣に行くって言っても、すぐ近くに神社があるんだ。
あたしからも、頼んでみるから…
たまには、あたしのワガママも聞いて欲しいな…なんて…」

下を俯いていた市井ちゃんは、いつの間にか顔を上げ、あたしを見て話してくれていた。
市井ちゃんが、こんなに真剣な顔であたしを誘ってくれた事は初めての事で…
嬉しいのを通り越して、なんか、ちょっと泣きそ…



「…うん、頼んでみる……絶対、行くよ…」








94 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時33分35秒






―――――



目が覚めて、始めに見えた天井が、何時も見慣れている
自分の部屋のものじゃないことに、ぼんやりした意識ながらも気付いて、
自分が今、市井ちゃんの家に来ている事を思い出した。

薄暗い部屋の中を見渡して、壁にかけてある時計を見ると、
6時を過ぎたところを指している。

隣にいる市井ちゃんは、軽い寝息を吐いて、まだ良く眠っている様子。
布団から覗いて見えている肩の肌の白さに、ドキッとして、ついさっきまで、
直接肌で感じた市井ちゃんの体温や、感覚がよみがえってくる。


…まぁ、つまりはそういうことなんだけど。


そして、なんでこんな時間に目が覚めても、慌てることなく
隣で眠っている市井ちゃんの寝顔を見つめている事が出来るのかというと、
見事無事に、あたしのお母さんから外泊の許可が貰えたから。


95 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時34分27秒



数時間前。
家に電話をして、「今日の夜、市井ちゃんと初詣に行きたい」って言った時、
あたしはすぐに怒られると覚悟していたんだけど、お母さんは何だか考え込んで
いるみたいに黙ってしまった。
自分の予想とは違っていた反応に、戸惑いと不安を感じつつ返事を待って、
しばらく沈黙が続いた後、
「行っても良いけど、気をつけなさいよ」
と、以外にもあっさりと許可がもらえた。

そして、一応市井ちゃんからもお母さんに話をしてくれて、
「初詣に行ったら、まっすぐ帰りますから」
と話す、市井ちゃんの声と口調は、あたしと話す時とは全然違って、大人みたいで
ちょっと、ときめいてしまった。

96 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時35分07秒


電話を切った後、あたしは、なんでお母さんは簡単に許可してくれたのか
不思議に思い、市井ちゃんはどう思うか聞いてみた。
市井ちゃんの答えは、

「まぁ、後藤も高校生だし…親離れって言うか、
子離れって言うか、…そういう事なんじゃない」

と、言う事らしい。

う〜ん…あたしにはイマイチ意味が良く理解できないけど、
市井ちゃんが言うんなら、そういう事なんだろうと思う。






97 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時35分56秒



それから、その後、…イロイロとあって、今に至るわけで。



市井ちゃんが目を覚ますのを待って、しばらく布団の中でふたりでまったりした後、
夕食を食べた。
もちろん今日のメニューは、年越しそば。


年越しそばを食べて、こたつに入ってテレビで紅白を見て過ごす。

大晦日は、今まで毎年家族とそうやって過ごしていたのに、
今年は市井ちゃんとふたりっきり。
去年の大晦日は、こんなふうに今を過ごしてるなんて、想像もつかなかったな…。
っていうか、まだ市井ちゃんと出会ってなかったもん。当たり前か。
でも、今年の大晦日は、来年もこうやって市井ちゃんとふたりで新しい年を
迎えたいって心から思える。

本当に、今年はあたしにとって特別な一年だった…。

…そして、もうすぐこの一年が終って、新しい年がやってくる。









98 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時36分39秒








日付が替わる前に、あたし達は家を出て、近くにある神社に歩いて向かった。

真夜中の冷たい空気のなか、静かな道をふたりで並んで歩いていると、
自然とお互いに無口になってしまう。




「…寒いね」

別に、このまま何も言わなくても気まずいわけじゃなかったけど、
なんとなく、独り言みたいにあたしが呟くと、市井ちゃんは、一度鼻を啜った後、
「うん」って返事をしてくれた。

ダッフルコートのポケットに両手を入れて、少し背中を丸めて歩く市井ちゃんは、
ホントに寒そうで。
だけど、あたしがクリスマスにプレゼントしたマフラーに半分顔を埋めているのが、
かわいくて、自然に口元がにやけてしまった。


99 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時37分36秒


「市井ちゃん…手、つなごうよ」

「え…」

歩きながら、唐突に呟くように言ったあたしの言葉に、
市井ちゃんは立ち止まって、ちょっとの間無言で目を泳がせていた。



「…うん」

市井ちゃんは、ポケットから右手だけを出して、あたしの左手を握る。
そして、また、ふたりで並んで歩き出す。
さっきよりも、少しだけ、寄り添う距離も近くなって。


ポケットから出した右手は、あたしの手とつながれているから、冷たくないはずなのに、
市井ちゃんは、何も言わずに、また右手をポケットに入れてしまった。
ただし、あたしの左手も一緒に。


「…へへ」

「なに、にやけてんだよ?」

「だってさ、これ、憧れてたんだよね」

「…あ、そう」


100 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時38分22秒


そっけない返事は、市井ちゃんが照れてる証拠だ。
だから、別に不満に思ったりなんかしない。
それ以上何か言うと、照れを通り越して意地になってしまうのも、分かってるし。
何も言わないで、ポケットの中の手にギュッと力を込めると、
市井ちゃんも握り返してくれる事も、分かってるから。
これは、今まで、市井ちゃんのそばにいて、分かった事。





「…あ、除夜の鐘だ」

「ほんとだぁ…」

静かな夜に響く鐘の音が、新年が訪れた事を知らせてくれる。

一年の始まりの瞬間に、いちばん大好きな人と手をつないで。




101 名前:SLIDE 投稿日:2001年12月29日(土)21時39分12秒




「あけましておめでとう」

「…おめでとうございます」

「今年もよろしくね」

「今年も、…これからもよろしくお願いします」

「何だよそれ…」

「…いいの」







この手の温もりと優しさが、あたしだけのものでありますように。

今年も、来年も、…ずっとこれからも。











   end.




102 名前:作者 投稿日:2001年12月29日(土)21時40分22秒

「SLIDE」でした。


市井ちゃんの誕生日にはまだ少し早いんですが、
とりあえず、おめでとうございます。

103 名前:作者 投稿日:2001年12月29日(土)21時41分51秒


昨日、スカパーで、中澤さんとのライヴを見ました。
アンコールのときの、サンタ姿がかわいかったです。


104 名前:作者 投稿日:2001年12月29日(土)21時42分22秒


それでは。


105 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月29日(土)21時52分25秒
前の感想書こうと思ったら、続きがあったんですね。
クリスマスでゴマに門限があって残念な思いをしたんですが(笑)
やっぱり特別な日は一緒にいたいですよね。
甘いいちごま、ありがとうございました。来年もお願いします。
106 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月30日(日)01時40分08秒
びっくりした。続きがあったとわ(笑)
今年は、greenageを読んで昨年よりずっといちごまを好きになりました。

作者さんは確か、ごま大好きさんですよね。やっぱり、市井ちゃんがいた頃の
ごまの思い入れみたいなのってあるのでしょうか?今のごまももちろんかわいい
けど、いちごまモードであったあのごまの・・。

まぁ、何はともあれ、素敵なお話をありがとうございました。
また、いちごまが浮かんだらどうぞよろしくお願いします。
'02年も、心より作者さんといちごまの幸せを願っております(笑)
107 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月31日(月)01時57分36秒
作者さんに一足早いお年玉をもらいました(w
ほんのり幸せです。
来年も頑張ってください。
108 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月31日(月)15時37分41秒
王道と言われながらだんだん減っていくいちごまが
ここではいつも甘く幸せで、安心して読めました。
来年も妄想が続く限り(笑)頑張って下さい。
ありがとうございました。良いお年を。
109 名前:flow 投稿日:2002年01月01日(火)23時56分51秒

 初めましてです!も〜、いちごまいいっすね!王道万歳!!
 というか、市井ちゃんが卒業してもう1年半以上たってもこのような素晴らしい
小説が出来るということが、いちごまの結びつきの強さを感じます……
 いい小説を見つけられてうれしい!文章のあったかさもイイ感じv
110 名前:作者 投稿日:2002年01月06日(日)21時47分19秒

遅ればせながら…
皆様、明けましておめでとうございます。


>>105さん
実はあったんですよ、続きが(w
クリスマス編の最後に「end.」って書いてなかったのは、忘れてたわけじゃないんです。
…まぁ、だれも気付かれてなかったかもしれませんが。
市井ちゃんの誕生日ばなしを書こうかどうか迷ってたんですけど、
書くなら、続きで書いちゃおって思いまして。
そんでもって、どうせ書くならラブラブにしなきゃ意味ないですしね(w


>>106さん
はい。自分はごまヲタです。でも市井ちゃんも好きだし、よっすぃーも、保田さんも…
要は新旧プッチのメンバーが好きなんですけど…でも、娘。のきっかけは石黒さん(w
市井ちゃんが卒業する前のごまも、もちろん好きでしたよ。
当時は一番年下で、加入時に言われてた大人っぽい見た目と違う、マイペースで
おっとり、のんびりしたキャラで、「末っ子」って感じでしたよね。
それが今では、マイペースさは変わりませんが、すっかりお姉さんぽくなっちゃって…イロイロな面で(w
ごまに関しては思うことは尽きないので、このへんでやめときます。
とにかく、今年も出来る限りがんばります。


111 名前:作者 投稿日:2002年01月06日(日)21時50分09秒

>>107さん
満足していただけたお年玉だったら良いですが。
「ほんのり幸せ」って、なんか嬉しい感想です。
こんな駄文でよろしかったら、今年もよろしくお付き合いください。



>>108さん
ほんとにいちごま減ってますよね…寂しい限りです。
以前は、大体の小説がいちごまという時代もありましたよね。
今では、い○よしにその座も奪われ…(w
…実は私、その組合せは全く受け付けないんですよね、なぜか(ボソッ
今は、数少ないいちごまと、最近急上昇中のよしごまを目当てでココに通ってる次第です。
(自分じゃ書いたこと無いんですけど、よしごまも好きだったり…)

いちごまは、他の作者さんの、めちゃくちゃ萌える小説が読めたら、
私の妄想もより一層膨らむこと間違い無しなんですが(w

112 名前:作者 投稿日:2002年01月06日(日)21時51分12秒


>>109 flowさん
ども、ありがとうございます。
数こそ減ってはいますが、少なくともココを読んでくださる方々は
いちごま愛好者だと信じておりますので、今年もハートウォーミングな
お話を書くことを目標にがんばります。

…いや、なんか、「ほんのり幸せ」とか「あったかい」って感想を頂いて、かなり嬉しかったんで。
だから、目指すのは「ハートウォーミング」(w



えーっと、greenageの続きじゃないんですけど、いっこ書いてみました。
年末年始の休みに浮かされた頭で書いた、妄想いっぱいの駄文です(w
一度は書いてみたかったネタだったりします。
そして、もちろんいちごま。
…greenageとは雰囲気が違うんで、なんとなくsageでいかせて貰います。






 『water』


113 名前:作者 投稿日:2002年01月06日(日)21時52分23秒



 待ち合わせたホテルの部屋のドアの前。

ついさっき、タクシーの中で電話をして聞いた、部屋番号を確認する。


電話の相手は、すでに部屋に着いて、あたしのことを待ってるらしい彼女だった。
「もう待ちくたびれた」と不満の言葉を口にする、電話越しのその声に、
仕事を終えたばかりの疲れた身体も心も癒されるのを感じた。



114 名前:作者 投稿日:2002年01月06日(日)21時53分21秒


ここで会う約束したのは、もう一週間ほど前になる。
あたしの分刻みの過密なスケジュールと、最近急激に忙しくなった彼女のスケジュールの中、
なんとか、お互いに時間が取れる日を見つけて、このホテルで会う約束をした。
お互いの仕事が早い時間に終る日を選んではいたけど、やっぱりこの業界で
時間通りという事は殆ど無い。
そして、今日もその例に漏れず、約束の時間に遅れてしまったんだけど…

そういえば、さっきの電話で、遅刻した事を謝るのを忘れてた。
久し振りに会えることが嬉しくて、つい忘れちゃってたよ。

電話越しの彼女の、ふざけ半分の不満そうな声を思い出して、
ドアの前で顔が緩んでくるのを抑えられないまま、チャイムを押す。


115 名前:作者 投稿日:2002年01月06日(日)21時54分05秒


「…おそーい」

カチャッと控えめな音を立てて、少しだけ開いたドアの隙間から、
顔だけ覗かせて、恨めしそうな目と声でそう言うのが、何だかかわいくて
思わず吹き出してしまう。

「あはっ…ごめーん、ちょっと時間が押しちゃってさ」

吹き出して笑うあたしに、ムッとして更に恨めしそうな視線を向けるから、
目深にかぶっていた帽子を取りながら、今度は真面目な顔でもう一度謝ると、
やっとドアを開けて中に入れてくれた。






116 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)21時55分51秒


「後藤、コートくらい脱いだら?」

「あ、うん…」

部屋の窓から、下を走る車のライトが流れていくのを眺めていると、
後ろから、声を掛けられた。
外から入ってきたままの格好で、窓の外を夢中で見ているあたしの後姿が
可笑しかったらしく、振り返ってみたその顔は、呆れたように微笑んでいた。

笑われていることに不満に思いながらも、言われたとおりにコートを脱ぐと、
さり気なく傍に近寄って、脱いだコートをあたしの手から取って、
クローゼットを開け、ハンガーに掛けてくれる。

「…優しいね、市井ちゃん…どうしたの?」

「なんで?このくらい普通でしょ」

117 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)21時57分04秒

照れることもなく、こういうことをしたり、言ったりするのは、市井ちゃんが
機嫌が良い証拠だ。時間に遅れた事を怒っているのも、ただの振りで、
本当は、久々にこうして二人で会えたことが、嬉しくて仕方ないはず。
…あたしが、そう思ってるみたいに。



隣に立って、同じように窓の外を眺めている市井ちゃんの横顔を、見つめると、
あたしの視線に気付いて、優しい微笑で返してくれる。

どちらからとも無く、お互いの身体に触れ合って、
自然に引き寄せられるように、ゆるく抱き合う。
会わなかった時間も、包み込まれるようなその温かい体温を感じるだけで、
すぐに埋められる。

118 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)21時57分47秒


「…会いたかった」

市井ちゃんの耳元で、胸に込み上げる想いを押し止めることなく、
溜め息と一緒に、掠れた声で囁いた。

口に出してしまうと、その想いは止め処なく後から溢れてくるけど、
もう、今は我慢しなくてもいいんだよね。
昨日までは、ずっと胸の中だけに押し込めていた気持ちも、
今は、市井ちゃんが受け止めてくれるから、…我慢しなくてもいいよね?

あたしが、ギュッと背中に回した腕に力を込めると、
それに応えるように、優しく髪や背中を撫でてくれるから、
ちょっと泣きそうになってしまって、市井ちゃんの肩に顔を押し付けた。









119 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)21時58分34秒









 ちゃぷん、という水音と、ふたり分の呼吸音だけが響く、広い、白い浴室。



足を伸ばしてもあまるほどの大きなバスタブに、
たっぷりと溢れそうなミルク色のお湯が揺れる。

市井ちゃんの膝の上に、向かい合って座り、
その華奢な肩に、頭を乗せてもたれかかる。


ほんのり良い香りのするお湯の温かさと、湯気で白くぼんやりと霞んだ視界、
時々、肩にお湯をかけてくれる、市井ちゃんの手のひらの感触は、
目を閉じるとそのまま眠ってしまいそうな程、心地良い。


120 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)21時59分20秒

「…後藤、今日は随分甘えんぼだね」

その心地よさに、耐えられなくなって、半分意識が眠りに落ちそうになる中、
浴室に響く声と、合わさった胸から声の振動が伝わって、呼び戻される。



「だって、…会えるの久し振りだから…」

閉じていた瞼を半分ほど開いてぼんやりと見つめるあたしを、
フッと目を細めて見つめ返してくれる市井ちゃんの目は優しすぎて、
吸い込まれるように、視線がそらせなくなる。

121 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)22時00分32秒


前に市井ちゃんとこんなふうに、ふたりっきりで会えたのは、もう何週間も前の事。
キスしたのも、抱き合ったのも、その時が最後。
それからずっと、お互い仕事、仕事の毎日で、
空き時間に送りあうメールも、返事が返ってくるのはずっと後。
真夜中の電話も、愚痴や悩みの相談とか、仕事の話ばかりで終ってしまうがほとんどで。



本当は、もっとたくさんいろんな話をして、
…甘い言葉を聞かせて欲しいのに。
触れ合って、確かめて、安心したいのに…





「…だから、今日はいっぱい甘えてもいい?」

「…ん」





122 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)22時01分17秒




市井ちゃんの手があたしの腰に回されて、わき腹をスーッと撫でられると、
それがくすぐったくて、クスクスと声を上げて笑ってしまう。

あたしの体が揺れると、お湯も揺れてチャプチャプと音を立て、笑い声と重なる。


「ふふっ、くすぐったいよぉ、市井ちゃん…」

もたれていた身体を起こし、市井ちゃんの首に腕を絡め、
自分のおでこを市井ちゃんのおでこにコツンと合わせた。

体中を包む込んでいるお湯の温もりと、触れている肌から感じる市井ちゃんの体温と。
すべてが心地よくて、体中の力がお湯の中に溶けていくかのように、抜けていくのを感じる。

市井ちゃんは優しい微笑であたしを見つめたまま、
腰に回していた右手をお湯から出して、あたしの頬を包み込むように触れる。
あたしは、それを合図のように、そっと瞼を閉じて…


123 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)22時02分08秒


柔らかな唇が触れ合うと、キュッと胸が甘い痛みで締め付けられる。

ずっと、ずっと待ってた、淡い甘い痛み。
市井ちゃんじゃなきゃ、感じられない。感じさせてくれない。

優しい、柔らかいキスを、何回も繰り返して、
浴室に響く、唇と舌が触れて離れる音が、耳を刺激する。

市井ちゃんの首に巻きつけた腕に、無意識に力が篭って
ふたりの体がより一層密着する。

市井ちゃんの唇は、あたしの顎を伝って首筋へ移り、
纏めて結い上げている髪から落ちて、肌に濡れて張り付いている髪の毛を
指で掬って払うと、軽く吸い付くようなキスをされる。


そのまま、市井ちゃんの唇は、耳の後ろや、のど、肩、
鎖骨へと音を立ててキスを繰り返して、
あたしは、解放された唇で、荒く短い呼吸と、うっとりとした溜め息を吐くだけで。


124 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)22時02分55秒

市井ちゃんの手があたしのわき腹を撫で上げて、辿り着いた胸の膨らみを、柔らかく包み込む。
その手の動きに、あたしの溜め息には声が混じって、呼吸も荒く不規則になっていく。

それだけでも、あたしの意識は飛びそうなのに、
もう片方の市井ちゃんの手があたしの太腿をお湯の中で撫でながら、
段々とその付け根に近づき、そして、そこに優しく触れると、
より強い快感に頭の中が一瞬真っ白になった。


「…あっ…ん…」

市井ちゃんの指が、敏感な箇所に触れるたびに、
あたしの身体は、いちいちビクッと揺れて反応してしまう。
それは、自分じゃどうしようもなくて。
指が、柔らかい肌に食い込むくらいに、市井ちゃんの肩にしがみついて、
ギュッと目を閉じていても、込み上げてくる声は抑えられなくて。
浴室に響く自分の声が恥ずかしくて、声を我慢しようとするのに、どうしても。


125 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)22時03分57秒

だけど、規則的に撫で続ける市井ちゃんの指の動きに、頭の中が段々と
白くなってくると、自分の声さえも遠くに聞こえてくる。



チャプチャプと揺れるお湯の音と、
エコーが掛かったように響く自分の声と、
すぐ耳元で感じる市井ちゃんの熱い吐息は、
バスタブ中のお湯みたいに、とろりと白くなっていく意識の中、
ぼんやりと聞こえていた。












126 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)22時05分07秒








荒い呼吸のまま市井ちゃんの肩にしがみついて、波が治まるのを待つと、
今度は逆向きに身体を捻って、市井ちゃんの胸に自分の背中をもたれさせる。

腰に回された市井ちゃんの手に、自分の手を重ねながら、
ポツリと独り言みたいに呟いた。

「…市井ちゃん」

「ん?」

「…このまま、お湯みたいにさ……溶けてひとつになっちゃえばいいのにね」

「……」

「そうすれば、もう離れないでずっと一緒にいられるから…」


127 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)22時05分44秒


大分長い時間お湯の中に浸かっている上に、ついさっきまでの行為も手伝って、
もう、半分頭がのぼせてしまっているあたしは、普段は胸の中だけに留めて、
口には出さないような言葉も、想ったまま口に出してしまう。

無言のままの市井ちゃんは、あたしの肩を後ろからギュッと抱きしめてくれて、
あたしの首筋に自分の唇を柔らかく押し当てた。
そして、あたしの耳を唇で挟んで、舌でゆっくりとなぞって、耳元に囁いた。


「…溶けてひとつになっちゃったら、こうやって抱きしめたり、
キスしたり出来なくなっちゃうじゃん」

「…そっか」

「離れてても、会えなくても、…後藤のこと想って、
ほっとしたり…泣きそうになったり…出来ないじゃん」

「…離れてても、あたしのこと考えてくれてるの?」

「うん…後藤は、あたしのこと考えない?」

「…考えてるよ…」


128 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)22時06分33秒

移動中の車の中で、騒いでいるみんなの声を聞きながら、ひとりボーっとしてるとき。
一日の最後の仕事が終って、ほっと気が抜けたとき。
布団に入って、眠りに落ちるまでのその間。
疲れてるとき、安心したいとき。
そんなとき、考えてるのは一番大事な人のこと。


肩を抱いてくれる市井ちゃんの濡れた腕に、そっと唇を落とすと
返ってくるのは、耳に優しい柔らかい声。


「…会えないとき、ずっとこんなふうに、後藤のこと抱きしめたいって思ってた」





抱きしめてくれる腕の力と、首筋や耳への優しいキスと、
そして、何よりも、その甘い言葉と。

本格的に、のぼせちゃいそうだよ…。


「…市井ちゃん…部屋に戻ろうよ…あたし、もう、のぼせそう…」

「それは、困る。…まだ朝までは長いのに…」





129 名前:water 投稿日:2002年01月06日(日)22時07分22秒





濡れた体のまま、部屋に戻って、縺れるようにベッドに倒れこんだ。

ギュッと抱きしめられて、ちょっと荒っぽくキスされると、
お風呂から出たばかりの火照った身体は、冷めるどころか、
ますます熱を帯びていくようで。


このまま朝まで、その熱が冷めないように、離れないでいて。

朝が来て、それぞれの戻る場所に帰っても、
この温もりが、無くならないように…









   end.



130 名前:作者 投稿日:2002年01月06日(日)22時08分15秒


本当はもっとエロいのが書きたかったんですけど…
やっぱエロは難しいっす。エロ書ける人、尊敬します。
こんなんでも、萌えて頂けると良いんですが…
どうでしょ?


次は、「greenage」を上げられると思います。

では。


131 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)00時23分03秒
萌えます!ただエロなのにエロくない。
爽やか。なんでだろ。作者のキャラ?(w
132 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)02時58分36秒
こんなに美しく幻想的な文章に萌えないわけがない(w
作者さんのエロスはそこいらのとは次元が違うと思う
133 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月10日(木)23時26分48秒
今回はどきどき感がgreenageとはまた違って良かったです!
シチュエーションが現実チックだったからですかね?
いつも思うのですが、後藤の語り口調がかわいいですよね。ほんと大好きです(笑
134 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月12日(土)00時00分56秒
萌える萌える(w
新年早々、良い物を読ませてもらいました。
今年もよろしくお願いします。楽しみにしてます。
市井ちゃんの大胆さに磨きがかかる事も期待(w
135 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月12日(土)01時57分44秒
三年の市井はそろそろ進路がハッキリわかる時期なわけだが
136 名前:作者 投稿日:2002年01月25日(金)21時30分40秒


>>131さん
う〜ん、そうですか。爽やかですか。
あ、でも作者は絶対に「爽やか」ではないです(w

>>132さん
いや、なんか…恐縮です(w
でも、ありがとうございます。

>>133さん
ありがとうございます。
…私もいちごま大好きです!(w
これからも、greenageとは違う、現実の…と言うかなんと言うか…
まぁ、こんな感じで短いのが書けたら上げたいと思います。

>>134さん
ありがとうございます。
市井ちゃん、がんばらせます。
作者もがんばります(w

>>135さん
そこをつっこまれると、イタイんですが…
実は、作者も前からどうしようか悩んではいたんですけどね。
今回のでちょこっとだけ絡めようと思ってます。
…半ば無理矢理な感じがするかもしれないですけど(w



ということで、greenage続きです。




『 Hello 』



137 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時31分42秒


 日曜日の人通りの少ない、工事現場の横の広い道。
あたしの家から駅までの間を二人で歩く。

休日の為に、学校帰りの学生も、会社帰りのサラリーマンも、
買い物帰りのおばさんもいなくて、
あたしの家から帰る後藤と、あたしの二人しか歩いていない。
隣を歩く後藤の横顔を時々盗み見て、微笑んでる口元とか
その頬にかかるさらさらの髪とか、あたしの目に
映るたびに、ちょっとドキドキさせられて。
なんだか、いい感じだ。

頬に感じる冷たい風も、気にならない。
日曜日の午後特有の、明日から学校が始まる憂鬱な感じも薄れていくくらい。


138 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時32分30秒

「市井ちゃん、手、つないでもいい?…大きい道に出るまででいいから」

「…いいよ」

甘えた声の後藤のお願いに、口元が緩んでしまうのを我慢しながら、
出来るだけいつもどうりの顔で返事をして、後藤の手をとる。
でも、後藤は嬉しそうな笑顔であたしを見るから、
あたしはちょっと照れているはずの笑顔で返した。

「へへ…あのさ、…市井ちゃんの手って、なんかちょっと冷たくない?」

「え〜、周りの空気が冷たいからでしょ」

「そうなのかなぁ…でもねぇ、気持ちいいよ…柔らかくて」



後藤はちょっとだけ、つないでいる手に力を込めた。
あたしもそれに応えて、手を握りなおした。
後藤は、口元に微笑を浮かべたまま、
つま先の少し先を見ながら話しつづける。

139 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時33分13秒

「今日は、楽しかったね」

「ホントに?市井のうちにいたのが殆んどだったじゃん」

「…それがいいんだよ」

「どういう意味?」

「…だって市井ちゃん、二人っきりだったら、後藤がくっついても逃げないじゃん?
それに優しいし…ほかにも、ね…ほら、いろいろと…」

「なに?いろいろって」

「も〜、分かってるくせに言わないでよ、そういう事」

「ハハッ…」

なんだろう…こんな会話なんて、何度も繰り返してきたはずなのに
隣を歩いている後藤の体温を、繋いでいる手から感じると、
その会話が、とてもかけがえのないもののように感じて、愛しくてたまらなくなるんだ。




140 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時34分11秒




「…ねぇ、市井ちゃん…もうすぐ、だよね」

「…なにが?」

「……入試」

「あぁ…」

後藤の手の温もりに、あたしの胸の中も暖かくなって、
ずっとこんな時間が続けばいい、なんてクサイ事を思っていると、
ポソッと後藤が呟いた一言で、現実に引き戻された。



そうだ。
あたしは受験生なんだ。一瞬忘れてたよ。
そして、もうすぐ目の前に「その日」が迫っているという状況で。
じつは、そのことで頭がいっぱいで、精神的にもピリピリしているのは事実だし。
後藤の前では、そんな素振りを見せないようにしてたつもりだったけど…
やっぱり、気付いてたのか。
141 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時34分49秒

後藤が、あたしの受験の事を口に出すのは珍しい。
最近後藤からの電話やメールが以前と比べて少なくなっているのも、
放課後や休日の予定を、あたしに聞かなくなったのも、
その事を気にしているからなんだろう。
逆にあたしは、後藤に自分の受験の事で気を遣わせたくなくて、
休みの日はちょくちょく遊びに誘っている。
後藤には「気晴らしがしたいから付き合って」なんてもっともらしい理由を作って言ってるけど。


なんだかなぁ…
こうやってお互いに遠慮して、気を遣いあうなんて嫌なんだけどね。
なにより、そんなの後藤らしくない。
あたしは、まっすぐ素直に自分の気持ちを伝えてくれる後藤が…好きなんだから。
マイペースが信条の後藤に、気を遣わせてしまう自分が少し嫌になる。

まぁ、しょうがないかな。

あたしが晴れて合格すれば、また元に戻れる…よね。


142 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時35分29秒


「まっ、だいじょぶでしょ。
そんなに切羽詰ってるわけじゃないし、平気だよ。
しいて言えば、本番までに体調を崩さないようにするくらいかな」

「…そか…がんばってね」

あ、ヤバイ…
ちょっとワザとらしかったかな。必要以上に口調が明るかったかも。
俯き加減に歩く後藤の、なんとなくフクザツそうな横顔をチラッと横目で確認して、
フォローの言葉を言おうとしたとき、後ろから聞こえた聞き覚えのある声に、それは遮られた。






「紗耶香?」



143 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時36分32秒

振り返るのと同時に、あたしはつないでいた手を、振り払うように離してしまった。
突然、知り合いに声を掛けられて…驚いて……だから…反射的に…。

あたしの手から離れた後藤の手が、ギュッと握られていくところは見えたけど、
視線をあげて、後藤の顔を見ることは出来なかった。


「…圭ちゃん」

「久しぶりじゃん。元気?」

圭ちゃんは、あたしの家の斜め向かいに住んでいた幼馴染だ。
大学進学の為に、実家を出て学校の近くのアパートに1人暮らしをしていた。
アルバイトだけでは生活できないから、当然親の援助が必要なんだけど
今のご時世と、圭ちゃんの性格から、親に負担はかけられないと思ったらしく
通えない距離ではないからと、帰ってきたという話を、親から最近聞いた。
そして、今日久しぶりに再会したという訳で。

「そっちこそ、元気なの?」

「まぁね〜 …なに、友達?」

144 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時38分21秒

圭ちゃんは、後藤へ視線を向けて言った。
さっきまでの、あたしの受験の話題で少しギクシャクしていたのも手伝ってなのか、
後藤のほうは少し居心地が悪そうだ。


「うん…学校の後輩…」


「こうはい〜? ハハッ、紗耶香が先輩ってなんか変な感じ」

「うるさい…」

あたしと圭ちゃんは、すぐに昔の空気に戻ることができた。
そして、後藤はその空気に違和感があったのかな…
あたしたち二人から、少し離れた場所に立ってた後藤は、会話が途切れた所で
小さな声で、あたしに声をかけた。


「市井ちゃん…後藤、もうここでいいから、帰るね」

「えっ、あの…」

「じゃあ、また明日ね。…ばいばい」

「うん…じゃあね…」

145 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時39分58秒

後藤は、そう言うとすぐに駅へ向かう道をまっすぐに歩いていった。
あたしは、その後姿をただ見つめていることしかできなかった。

「なんか、あたし…もしかしておジャマだった?」

「な、何言ってんだよっ」


そして結局、あたしはこれから遊びに行くという圭ちゃんと別れて、
そのまま自分の家から駅までの道を引き返した。


なんとなく見上げた空は、雪でも降り出しそうな、暗くて思い空で、
とぼとぼ歩く、あたしの胸も、どこか重苦さを感じていた。











146 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時41分00秒







 放課後、待ち合わせをしている駅の改札口の前まで急ぐ。

待ち合わせの相手は、圭ちゃんだ。
昨日、帰り際に、久しぶりに遊びに行こうと約束をていたのだ。
待ち合わせの場所に向かって、ホームから歩いている間にも、昼間の後藤の顔が
時々思い出されて、歩調が乱れていく。


”市井ちゃん、今日帰りどっか行こうよ”

”あ…ごめん。今日ちょっと圭ちゃんと約束しちゃって…ごめんな”

”そっか…じゃあ、しかたないよね”

最近ではめずらしい、後藤からの誘いだった。
おそらく昨日、気まずい別れ方をしたことが気になっているんだろうと思う。
でも、あたしはあの後、圭ちゃんと今日会う約束をしてしまっていた。

その事を告げたときの後藤の表情は、一瞬、圭ちゃんの約束を破ってしまおうかと
思うくらい、…胸が痛んだ。


147 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時42分39秒


あたしが待ち合わせの場所に着いたときには、すでに圭ちゃんはそこで待っていた。
あたしは、一回深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから声をかけた。

「圭ちゃん、相変わらず時間には正確だね〜」

「あんたも、そうじゃん。まだ時間まで5分あるよ」

圭ちゃんは視線を手元の携帯から、前に立っているあたしに移して、
少し笑いながら答えると、「行こうか」とあたしを促して、一緒に駅を出た。

駅を出ると、しばらくぶらぶらとお店を見て歩いたあと、
カラオケBOXで二時間ほど遊んだ。
店を出ると、お腹がすいたという圭ちゃんに連れられて
夕食をとるためにファミレスに入った。
ちょうど込み合う時間だったけど、運良くすぐに席に着くことができた。


「いや〜、こういうの久しぶりだね」

「そうだね…で、どうなの?大学のほうはさ」

「う〜ん。まあまあかな…」

「まあまあって…あたし一応受験生なんだから、もっと夢のある話してよ」

「なにいってんの、変な期待もたせて、後でがっかりさせないようにって思って、
言ってやってんじゃん」

148 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時43分37秒

あたしたちは、会わなかった時間を飛び越えたように、昔と変わらない感じで、
特に中身のない話を、食事を口に運びながら、ダラダラと続けた。


そして、食事も終わって、なんとなく会話が途絶えた頃、
圭ちゃんが、その間を何とか埋めようと考えたのか、思いついたように
わざとらしいニヤニヤした顔を作って言った。

「ところでさ、昨日の子。仲いいんだね」

「えっ」

唐突に、後藤のことを話題に出されて、言葉が出ない。
圭ちゃんは、そんなあたしを気にせず続ける。

「手、繋いでなかった?」

「あぁ…」

見られてたんだ…
急に、胸の辺りが重苦しくなる。
これは、なんなんだろう。
圭ちゃんに、後藤と一緒にいるところを見られたことに対してなのか、
そう思う自分が、後藤に対して後ろめたいからなのか…。


149 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時44分24秒


「紗耶香ってさ、年下の子とあんまり、つるんだりしないほうだったでしょ」

「…そうかな」

「それに、友達同士でベタベタしたりしなかったじゃん?」

「…そうでもないよ」

「ふ〜ん…ま、どうでもいい話か。
っていうか、どうでもいい話しかしてないじゃんうちら…アハハッ」


どうでもいいなんて…そんなわけない。
後藤の事をどうでもいいなんて思ってなんかいない。
でも、それを圭ちゃんに反論することも、あたしと後藤の関係を圭ちゃんに
説明することもできない。
圭ちゃんは、別に深い意味なんかなく後藤のことを話題に出した。
そして、後藤のことは、本当にただの仲のいい後輩だと思ってるんだろう。
あたしは、最後まで圭ちゃんに後藤との事を言えなかった。
後藤との関係を圭ちゃんに知られたら、どういう顔をされるのか、
どんな態度を取られるのか、そのことばかりを考えていた。


150 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時45分58秒


モヤモヤした重い気持ちを引きずったまま、圭ちゃんと別れて、
家の玄関の扉を開ける。
なんとなく携帯をカバンから取り出して見ると、メールの着信を知らせる
表示が出ている。

なんだよ、鳴ってたの気がつかなかった。

送信者は、後藤だった。着信した時間は今から30分前くらいだ。

< 帰ったら連絡ください。 いちーちゃんの声が聞きたいよ >


…後藤。

さっきのファミレスでの、圭ちゃんとの会話が思い出される。
その、後ろめたさからなのか、胸が締め付けられるように苦しかった。
後藤は、声が聞きたいと素直にあたしの事を求めてくれるのに、
あたしは…。



なんとなく、すぐに電話をかけることができずに、とりあえずお風呂を済ませて、
自分の部屋で、携帯を握り締めてため息をつく。
液晶の画面に後藤の電話番号を表示させても、最後のボタンを
押すことができない。
CDをプレイヤーにかけてみては、携帯を握り締めて、
テレビの電源をつけてなんとなく眺めてみては、携帯を見つめる。

そんなことを繰り返しても、結局その日、後藤に電話をすることができなかった。






151 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時47分03秒





 次の日の朝、睡眠時間を充分取れなかったからなのか、
はっきりしない頭のまま学校の校門をくぐる。

やや、俯き加減で歩く、あたしの後ろから声がした。

「市井ちゃん。おはよ」

「あ、おはよ…なんだよ、めずらしいな。まだ時間早いよ?」

できるだけ、いつもと変わらない表情と声を装う。
後藤も、いつも通りの笑顔と声で返事をする。

「えへ、今日ちょっと早く目が覚めちゃったんだ」

後藤は、そう言った後も、昨日電話をしなかったことを口に出したりしない。
それが、余計に罪悪感を感じさせる。
…なんでだよ、後藤。
いつもなら、あたしが電話しなかったら、会うなり文句言って拗ねたりするじゃん。
いつもどおりに、してよ。


152 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時48分45秒


「…後藤、昨日電話できなくてごめんね。
お風呂入ってからにしようと思ったんだけど、そのまま寝ちゃったんだよね…ごめん」

「…そうなんだ、…いいよ、気にしないで」

後藤は、あたしの言い訳にしか聞こえない理由にも、特に表情を変えずに
許してくれる。それなのにあたしの胸の中の罪悪感は消えないままだ。

どうしたら、この罪悪感をぬぐえるのかな…



あたしは、息を吸い込んで、できるだけ明るい声で言う。

「後藤、今日一緒に帰ろっか」

「…うん!」

そうだよ、このままじゃダメだ。
どうにかしていつもの二人に戻さないと…。

「どこ行く?」

「う〜ん…市井ちゃんち!」

「あたしんち?ん〜…ま、いっか。よし、放課後迎えに行くから」

戻れなくなる前に、後藤の事を自分の元に引き止めないとダメなんだ。
今ならまだ、それは簡単にできることだよ。
今ならまだ、間に合うよ…








153 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時49分41秒





あたしの家に向かう道で、後藤は普段の明るい声であたしに話しかけてくれる。
後藤のその様子に、今までのモヤモヤしていた気持ちも少しずつ薄れていく。

でも、このまま薄れていって、なくなってしまうはずだったのに、それは叶わなかった。

あたしの家の門の前で、ちょうど自宅の門を出るところの圭ちゃんと
目が合ってしまった。
圭ちゃんは、あたしに笑いかけながら近づいてくる。
あたしは、この間の日曜日の事を思い出し、体がこわばっていく。
でもそれは、圭ちゃんのせいじゃない。
あたしが、はっきりしないで、曖昧な答えしか返せなかったからだ。

「あれ、こないだの子じゃん。ホントに仲いいんだ…」

「うん、まあね」

あたしは、圭ちゃんの顔をまっすぐに見て答えた。
これ以上、後藤に曖昧なあたしの態度を見せたくなかった。
でも圭ちゃんは、それ以上あたしには聞かず、後藤の方を見て話し掛けた。

154 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時50分41秒

「どう、紗耶香はいい先輩してる?」

「え、…はい」

後藤は、一瞬戸惑ったようにあたしの方を見たけど、すぐに圭ちゃんの
質問に答えた。

「ふ〜ん、コイツも昔はホントに泣き虫で、よくあたしの後ろにくっついて
歩いてたのにねぇ…まぁ、もう18だし成長したって事か」

「う、うるさいよっ」

予想してなかった圭ちゃんの言葉に、少しあせって顔に血が昇るのが分かる。
圭ちゃんはその反応に満足して、あたしの頭をクシャってかき混ぜて
行ってしまった。

「何なんだよ…」

あたしは、さっき乱された髪を直しながら圭ちゃんの後姿を見送った。
後藤も同じように後ろを向いて見送っていたので、表情は分からなかった。




155 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時52分05秒


あたしの部屋で、後藤はカーペットの上に座り込んで、テーブルの上に
置いてあった、雑誌をぱらぱらとめくっている。
後藤はそんなにおしゃべりじゃないけど、今日は…というかあたしの家に
来てから、いつもより口数が少ない。

なんでだろ、今日はまずいこと言ってないし、
そんな態度もなかったと思うんだけど…
あたしの気のせいかな…

そんなことを考えながら、あたしは後藤を見つめていたらしくて、
視線に気付いた後藤は、あたしの方をちょっと不思議そうな顔で見つめ返している。

「あ…後藤、なんか飲む?」

「…別に…今はいいよ…」

「…ん…そか」

やっぱり、おかしい。どうしてだろ…
その理由を聞くべきかどうか悩んでいると、
後藤が雑誌を閉じて、ポツリと呟いた。

156 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時52分48秒

「市井ちゃん…は、…ちっちゃい頃泣き虫だったの…?」

「はぁ?」

「…だって、さっきの圭ちゃんって人が言ってたじゃん…」

「…そんなの、ずっと前の子供の頃の話だろ」

後藤の、拍子抜けするような質問に、安心感もあってか、
思わず、ぶっきらぼうに返事をしてしまった。
でも、後藤は真面目な顔のまま雑誌の表紙を見つめている。

「…ずっと前か」

「…なに?」

「あの人は、市井ちゃんの『ずっと前』を知ってるんだね…
後藤は、まだ会ってから、一年も経ってないよ…」

「…何だよそれ…」

「あの人は、後藤が知らない市井ちゃんの事、いっぱい知ってるんだよ」

「しょうがないじゃん。幼馴染なんだから」

157 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時55分05秒

何でこんな事言い出すんだ、後藤は。
圭ちゃんにヤキモチ焼くなんて、
全然、後藤の勘違いだよ…。
よく分からない苛立ちで、口調が荒っぽくなっていくのは分かってる。
表情も硬くなっているのも気付いてる。
だけど、それを取り繕う余裕なんて、あたしにはない。



「…市井ちゃんあの人に後藤のことなんて言ったの?」

「どういう意味?」

「後藤のこと、ただの後輩って言ったの?」

「え…」

一瞬、時間が止まったような気がした。
後藤の声は、力ない弱々しい小さなものだったけど、
あたしの胸には強く響いて、呼吸も忘れて声も出なかった。



158 名前:Hello 投稿日:2002年01月25日(金)21時57分26秒


「…ちゃんと、付き合ってるって言ってくれた…?」

「……」

沈黙が続く。
たまらなくなって、後藤に何か言おうとするんだけど、
後藤の横顔は、あたしの言い訳を拒絶しているかのように、強張っていて、声が出ない。





「…ごめん。そんな事言えるわけないよね…ごめんね」

何の返事も返せないあたしに、後藤は諦めたように、弱々しく微笑んでそう言った。



何も言えなかった。口を開いても言い訳しか出てこないだろうし
それも全部、後藤にはただの言い訳としか聞こえないんだと思うと、何も言えなかった。

どうしてこうなったんだろう。

どこで間違ったのかな。

あたしが、…悪いのかな。





後藤は、あたしの顔を見ないまま、「帰るね」と、一言だけ言うと、
帰っていった。




159 名前:作者 投稿日:2002年01月25日(金)22時00分00秒


…3年生の今頃って、もう学校には行ってないんでしょうか。
作者自身、昔の事なんであんまり覚えてません(w

いや、これ書き始めたのって、去年の事なんですよ。
それも結構前に書いててずっと温めてきたわけで、
時候の感覚がずれてるかも知れなくて…
…スイマセン、いいわけです。その辺は見逃してやってください。



そして、お知らせをひとつ。
この「Hello」をもってgreenageは完結とさせて頂きます。

それでは。


160 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月25日(金)23時15分45秒
自分は3年ですがまだ学校に行ってます。
来週のテストが終わったら卒業式まで来なくていい感じです(w<自分の学校
ま、学校によって違うのでわかりませんが(藁

Helloをもって完結ですか、、、
続きお待ちしております
161 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月26日(土)00時16分06秒
更新されてる!と喜んだのも束の間。
終わっちゃうんですか。残念です。

次回更新が楽しみなような、寂しいような…。
続き頑張って下さい。
162 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月26日(土)01時26分04秒
次ぎの更新をして欲しくないくらい…終わって欲しくないです…
163 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)13時43分24秒
greenageが終っちゃうなんて悲しいよ〜。
164 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)11時10分15秒
最初からずっとROMさせていただいておりました。
もう終ってしまうのですか?とても残念です。(涙
ここのいちご大好きでした。短編でもいいので又書いてください。(w
後、作者さんの書くやぐちゅーも大好きだったので・・・
その後のやぐちゅーも、出来れば書いていただけると光栄です。(w
165 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月29日(火)04時05分53秒
完結なんてやだぁ〜〜〜!!(悲
166 名前:作者 投稿日:2002年01月30日(水)22時02分30秒

>>160さん
情報ありがとうございます。
と言う事は、現在テストの真っ只中なんでしょうか?
なにかとバタバタとする時期でしょうが、
陰ながら健闘をお祈りしております(w


>>164さん
…やぐちゅーですか。
まだ覚えていて下さる方がいたんですね(w
作者も実は気にしていたりしたんですが…。
未熟な作者で申し訳ないです。


>>161-163さん
>>165さん
そう言って頂けると、作者冥利に尽きます。
でも、やっぱり終らせます(w

あっさり終りますって宣言してしまったんですが、
こんなに惜しんでくれる方がいらして下さるとは思ってなかったので
正直驚いています。
本当にありがとうございます、感謝してます。
167 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時03分25秒


 いつもより早く目が覚めたあたしは、だるい体を引きずるようにベッドから出て、
朝食もとらずに、身支度を整えて家を出た。
いつもと違う時間の電車に乗ると、乗降口の傍の手すりにもたれて立って、
窓の外の景色をぼんやりと見つめる。
時間を少しずらすだけで、こんなに電車内の雰囲気が違うんだ…
それが気分を紛らわせてくれて、ちょうどいい。

駅を出て、学校まで少しの距離を歩く。
登校時間のピークにはまだ早い時間だから、同じ制服もちらほらとしか見えない。

そして、校門を入って重い気持ちを引きずったまま、自分の教室のある階の
階段を足元を見ながら上りきったところで、誰かの気配を感じて、
なんとなく顔を上げた。


168 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時04分04秒

昇降口の壁際に、後藤が壁にもたれて、俯いて立っていた。
後藤は、あたしに気付くと、もたれていた壁から離れて、ちょっと気まずそうに
一旦あたしに向けられていた視線を、少し横に外した後、聞き取るのがやっとの
小さな声で言った。

「…おはよ、市井ちゃん」

「あ…おはよう」

お互いそういった後、しばらくは黙っていたんだけど、後藤は顔を上げると
さっきと同じような小さな声で話し始めた。

「あのさ、昨日のこと謝ろうと思って、…そう思ったら、…早く目が覚めちゃって
…待ち伏せみたいなことしちゃって…」

「うん…でも、後藤はなにも悪くないよ、だから謝る必要なんてないよ」

169 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時04分51秒

あたしが後藤に少し近づいて、できるだけ優しい声で言うと、
後藤のほうは上げていた顔をまた俯かせてしまった。

謝るのは後藤じゃない。
あたしの方だ。
だけど、謝罪の言葉は上手く頭の中でまとまらなくて、ただ気持ちが焦るだけ。



「でも、わがままばっかり言って…」

「そんなことないから」

「でも…」

後藤は、まだ何か言おうとしたんだけど、階段を昇って近づいてくるにぎやかな声に
それをやめてしまった。
彼女たちは、あたしたちのことなんて、まるでそこにいないみたいにして
通り過ぎて行き、その声が遠ざかって、再び沈黙が訪れる。

170 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時05分33秒

沈黙が苦しくて、風邪なんかひいていないのに、鼻をすすってみた。
その音がやけに響いて、余計に静けさを際立たせて逆効果だった。



「あの…市井ちゃん、それだけだから、じゃね」

「…えっ、…うん…」

後藤は、あたしの方を見ないまま、階段を昇っていった。
あたしは、後藤の後姿が見えなくなっても、しばらく階段を見上げてた。
でも、そんなことしたって、後藤が戻ってきてくれるわけがない。
無意識に深いため息をついた後、まだ、誰も居ない教室へ入って、
自分の席に着くと、すぐに崩れるように机の上に突っ伏した。





171 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時06分24秒


――――――


「紗耶香さぁ、今日なんか元気なくない?」

今日最後の授業は、生物の授業だった。
チャイムが鳴って、みんなが生物教室を出て行く中、ダラダラと教科書やノートを
片付けているあたしに、矢口が近寄ってきて隣の席に座った。

「そう、かな…」

「どっから見ても、そうなんだけど、体調悪いの?…何かあった?」



教室から最後の一人が出て行くと、急に音が消えて静かになる。
二人とも席を立とうとしない。
矢口はあたしが何か言うのを待っているんだろう。
そして、あたしは矢口に聞いて欲しいと思ってるから、席を立たないんだ。


「…あのさ、…後藤の、ことなんだけど……」

「…うん……ごっちんとなんかあったんだ」


172 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時07分12秒

あたしは、日曜日に圭ちゃんと会ったときの事と、昨日後藤に言われた言葉を
矢口に話した。
矢口は机の上を見つめたまま、黙って話を聞いていた。

「…それで、紗耶香はこのままでいいの?」

「このまま?」

「このまますれ違っちゃって……ってこと」

「……いいわけ…ないじゃん」

「だったら、迷う事なんてないでしょ」

「…うん」

矢口は、しばらく目の前の机の上を見つめて黙っていたけど、
顔を少し持ち上げて、言葉を選びながらゆっくり話し始めた。

173 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時08分07秒

「…紗耶香、周りの目を気にする気持ち、わからないでもないけどさ、
本当にごっちんのことを引き止めたいって思うんなら、余計な事考えてちゃダメだよ。
難しくひとりで考え込んでないで、自分が思ってることを全部、ごっちんに聞いてもらいなよ」

「…でも、…それがあたしには出来ないから…」

矢口の言ってることの意味は解る。…けど、全部を後藤にさらけだして、
それを拒否されたらとか、受け止めてもらえなかったらとか、結局いろいろ考えちゃって…

「あぁ〜!もうっ」

はっきりしないあたしの態度に、矢口は痺れを切らしたみたいに叫んで、
机をバンって叩いて、体をあたしに向けた。

「紗耶香は考えすぎ!カッコつけすぎ!少しはごっちんを見習いなさいっ」

「見習う…?」

「だからぁ、ごっちんみたいに思ってること素直に態度や言葉に表せってこと。
ごっちんって楽しいときはホント楽しそうな顔で笑うしさぁ、でも、
つまんない時は無表情だし、愛想笑いもできないし、すぐ泣いちゃうし、
無理やり笑ったら顔引きつってるしさぁ、もうちょっと要領よくすればいいのに…」

「矢口、話が逸れてってるよ…」

174 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時08分43秒

「っ…とにかくっ! こうやってウジウジしてる暇があったら、早くごっちんの所へ行ってあげなよ。
……手遅れになっちゃってもいいの?」

「…良くない」

「でしょ?なら、早く行って来い!」

矢口はそう言ってあたしの背中を思いっきりバシッて叩いた。
「痛いだろぉ」って涙目で情けない声のあたしの抗議に、
矢口はいつもみたいにキャハハって笑って、「がんばって来い」
と、今度は背中を押してくれた。




175 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時09分27秒




結局あたしは、自分のことしか考えてなかった。
自分を守ることしか考えてなかった。

圭ちゃんや他の人に、後藤との事を知られるのを怖がっていた。
後藤にあたしがそう思ってるって事を知られるのも怖かった。
怖くて、ずっと逃げ続けてた。

後藤の気持ちを考えなかったわけじゃないけど、それでも、
変な自意識を言い訳にして、自分の気持ちを押し通そうとしてたんだ。
…後藤は、いつでも自分の素直な気持ちをあたしに伝えようとしていたのに。
あたしは、弱い自分を後藤に見せるのが怖くて、いつも大人ぶって逃げてきた。

そして、誰かに背中を押してもらわないと前に進めないような、
どうしようもない弱虫だ。


176 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時10分01秒


大切なのは、二人のことを周りにどう見られるかって事じゃなくて、
二人がお互いの事をどう思ってるかってことだよ。

その事に気付くと、もう次にするべきことは分かりきってる。
後藤に会って、自分の気持ちを全部伝えないと。
そして、後藤の事、取り戻さないと。

きっと、後藤は、カッコ悪いあたしも、弱虫のあたしも、
全部、受け止めてくれるよ。

あたしが、後藤のことを失いたくないって、心の底から思ってるみたいに。







177 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時10分46秒







生物教室を出て、階段を駆け上がってまっすぐに後藤の教室に向かう。
弾んだ息を落ち着かせながら、教室の窓からのぞいてみたけど、その姿はなかった。

もう帰っちゃったのかな…



「市井先輩?」

窓から離れようとしたその時、聞き覚えのある声に名前を呼ばれて振り返った。
これから部活に行くところなんだろう、ジャージ姿の吉澤が立っていた。

「あ…あのさ、後藤もう帰ったのかな」

「もう帰ったと思いますよ。クラスの子と遊んで帰るって言ってました」

「そっか…ありがと」


178 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時11分29秒


「あ、あのっ、市井先輩!」

吉澤に背を向けて、急いた気持ちを抑えながら、早足で階段へ向かおうとすると、
呼び止められて振り向いた。



「あ、…あたし、ごっちんと先輩のこと、変に思ったりしてませんから…」

「えっ」

「…ごっちんに、先輩との事どう思ってるかって聞かれたんです。
最近なんか元気ないような気がするから、何か関係あるのかなって…」

「そうなんだ…うん、ありがと」

後藤はやっぱり気にしてたんだ。
でも、それはあたしのせいだよね。
だったら、早く後藤にあって話をしないとだめだ。
後藤が不安に思ってるなら、早く解放してあげないと、
そうすることであたしの気持ちも晴れるんだから。







179 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時12分18秒





後藤の家の近くの駅で電車を降りて、そんなに遠くない後藤の家まで歩く。
やっぱり歩くのも少し早くなってしまう。

早足で、はやる気持ちを押さえながら来たのに、いざ家の前まで来ると
なかなかチャイムを押すことができない。

一回深呼吸をした後、思い切って、ゆっくりとチャイムを押してみた。
しばらく待ってみるが、人の気配はしない。
もう一度チャイムを押してみたけど、やはり留守みたいだ。

早く会いたいって思ってるのに、どこか安心してほっとしている自分もいて、
どこまでも弱気な自分に、自己嫌悪を通り越して呆れさえも感じる。


緊張感も解けて、ため息をついて、気付いた。
そういえば吉澤が、後藤は友達と寄り道して帰るって言ってたよな…
ついさっき聞いたことを覚えてないなんて、…まったく、情けない。


180 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時13分02秒

せっかく家まで来たんだから、引き返すわけには行かないし、
ここで帰ってしまったら、次に会ったときにも逃げてしまうかもしれない。

落ち着いて、後藤に話したいことを整理しながら待とうと、顔をあげた時
なんとなく人の気配を感じて振り返る。

その姿を認めると、一瞬頭の中が真っ白になった。


「市井ちゃん…」

後藤が、驚いた顔であたしを見つめて立ち尽くしていた。
あたしは、後藤の帰りが思ったより早かったので言葉がなかなか出てこない。

「…あ、あのさ、先に帰ってたみたいだから…」

181 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時13分33秒

何言ってんだよ、あたし…
別に約束なんかしてなかったのに…

「うん、…ちょっと友達と寄り道してて…」

「そうなんだ…」

ただ、黙って俯く二人。
後藤と話をしようとして、家まで来たのに、何から話していいのか分からなくて
最初の一言が出ず、ますます焦ってしまう。
沈黙の中、あたしの緊張を感じたのか、このままでは埒が明かないと
痺れを切らしたのか、後藤が先に口を開いた。

「…市井ちゃん、うち入ろっか…」

「…うん」





182 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時14分12秒



後藤の部屋に入るのは初めてじゃない。
でも今日は、なんだか違う部屋のように感じる。
見慣れたはずのカーペットや、相変わらず散らかっている服や、雑誌。
どれも別の物のように感じる。


後藤はあたしを部屋に残して、出て行った。
静かな部屋に一人残されると、落ち着かなくて、
緊張だけが大きく膨らんでいく。

あたしがそわそわしていると、後藤がトレイにカップをふたつ乗せて
戻ってきた。

「紅茶でよかったかな…」

後藤は、カップをテーブルの上に置いて、あたしの隣に座った。
二人の間の距離は、いつもよりも微妙に離れていて、
それが、あたしの不安と罪悪感を大きくさせるんだ。
大きくなりすぎて戻らなくなる前に、言えなくなる前に後藤に話さないと…

183 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時15分29秒

「…後藤、ごめんね」

「…なにが?」

「…あのさ、圭ちゃんに会った時とか、あと他にも、いろいろ嫌な思いさせて」

「ううん、…市井ちゃんは悪くないよ」

「いや、あたしは後藤の事、…たくさん傷つけたと思う」

後藤は「そんな事ない」と、俯いたまま呟いた。
あたしは次の言葉が出てこなくて、段々と焦り始める。

一回気持ちを落ち着けようと、テーブルの上のカップに手を伸ばす。
紅茶を飲み込む音が、頭の中に響いた。後藤にも聞こえたんじゃないかと、
あまり効果は無かった。



2人の間に流れる、沈黙と、重苦しい空気。
少し身動ぎしただけなのに、衣擦れの音がやけに大きくて、
それが気になって、あたしの仕草は、どんどんぎこちなくなる。

何とか落ち着こうと、小さく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。
後藤に分からないようにと、控えめにしたつもりだったのに、後藤は少しだけ
顔を上げて、ほとんど聞こえないような声で言った。

184 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時16分45秒

「…市井ちゃん、おこってる?」

「な、なんで、そんな事無いよ…」

動揺と、思い通りに自分の言葉で話せない事へのイライラや不安が
顔に出てしまっていたみたいだ。
返事の仕方も荒っぽくなってしまった。

再び俯いた後藤の表情は、前髪に隠れて見えないけど、膝の上にある両手は、
キュッと固く握られて、あたしの態度が後藤を不安にさせているんだということは分かるのに。

なにか、言わなきゃ…
後藤に、気持ちを伝えないと…

そう思ってるのに、ただ気持ちが空回りするだけで、何にも言えない。




「あの…市井ちゃん、…後藤、これからは気をつけるから…あんまり外で
くっついたりしないから、わがままも言わないようにするから…
後藤のこと、嫌いにならないで…」

「後藤…」


何でいつも後藤に謝らせてばかりなんだ。さっきの謝罪もこれじゃ意味が無いよ。
結局、後藤のこと不安にさせてるじゃんか。



そして、いつもきっかけをくれるのは後藤のほうだ。

185 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時17分35秒

俯いて不安げな表情の後藤と、自分への怒りと情けなさと不安と…
いろんなマイナスの感情が混ざり合って込み上げてくる。
それを吐き出してしまいたい衝動が、行動になって、体が動いた。

「違うから、後藤…ごめんな」

隣に座っている後藤の体に手を回して、自分の胸に引き寄せてきつく抱きしめた。
もうこれ以上後藤の事不安にさせたくないけど、言葉でうまく言えないから、
こうする事しかできないよ。


「後藤は、市井ちゃんのこと大好きだよ…」

腕の中の後藤の少しくぐもった声の甘い言葉と、温かくて優しい体温。
そして、柔らかいけれど確かな感触は、カチカチに固まっていたあたしの
心と身体を溶かしてくれる。

「好きなんだ、後藤が…好きなのにあたしは…っ」

溶け出した感情は、あたしの心の中に収まりきらなくなって溢れてくる。
そして涙と言葉になって、身体の外に流れ出した。


186 名前:Hello 投稿日:2002年01月30日(水)22時18分34秒


「市井ちゃん、泣いてるの?…泣かないで…後藤、もうわがままも
意地悪なことも言わないから…ごめんね、市井ちゃん…」

「違うんだ、後藤…あやまんないで。あたし、うまく言えなくて…」



涙で言葉につまるあたしの顔を、後藤は身体を離して覗き込んだ。
そして、「泣かないで…」と小さな子に言うように、囁きながら
右手は髪を撫でて、左手は背中を擦ってくれている。

それでも、まだ止まることの無いあたしの涙を、両手が塞がっている後藤は、
顔を近づけ、唇で優しく拭ってくれた。


今までずっと重く胸に沈んで固まって、自分じゃどうしようもなかった、
自己嫌悪と後悔の塊を、跡形もなく消し去ってくれたのは、
全身で感じる心地よい後藤の温もりと、優しい声だった。





187 名前:作者 投稿日:2002年01月30日(水)22時20分00秒

ここまでです。
次で終ると思います。
188 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月13日(水)22時10分29秒
やっと名作集も復活したし、明日はバレンタインだし。
いつもなら期待しちゃうんですけどね。
次回、お待ちしてます。
189 名前:作者 投稿日:2002年02月14日(木)22時34分56秒


この度は、大変な事で…
もしかしたら閉鎖という事態もあるんじゃないかと思ってたんですが、
管理人さん、存続を決断して下さって、ありがとうございます。



>>188さん
はい、今日はバレンタインデーですね。
ご期待通りとはいかないかもしれませんが、
…ラストまで上げさせていただきます。


190 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時36分28秒



「…ズッ…後藤、ありがと…」

「うん。でも、市井ちゃんが泣いてるの初めて見た」

「そうだっけ…?」

「そうだよ、後藤はいっぱい泣いてるけど…へへ、なんか嬉しいかも…」


後藤は、あたしの身体を抱いたまま、いつもの柔らかい
微笑で笑いかけてくれる。
あの日曜日から、この笑顔が見れなくてずっと不安で苦しかった。
でも、今はあたしの目の前にある。
ずっと、欲しくてたまらなかったものが目の前にあると、
触れたくて仕方なくなってくる。

すぐ近くにある後藤の少し潤んでいる目と、あたしの目が合って、
見詰め合って目を逸らせないまま、後藤の目に吸い込まれるように
自然に顔を寄せて、唇を合わせた。

「…後藤が…好きだよ」

キスだけじゃ伝わらないような気がして、唇を離して、
でもすぐ触れ合いそうな距離で、言ってみた。
言ったあと、後藤の返事を聞かないまま、また唇を塞ぐ。
後藤は答える代わりに、あたしの背中に回している腕に力を込めた。


191 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時38分48秒


どんなにキスを続けても、込み上げてくる想いは、さっきの涙みたいに治まってくれない。
それどころか、益々膨らんで押し寄せてくる。

止まらない熱い感情のままに、後藤の身体をカーペットの上にゆっくりと押し倒す。


「んっ…ダメだよ…」

唇を後藤の耳に柔らかく押し当てると、後藤は甘い声を漏らしながらも
あたしの肩を押し返している。


「…市井ちゃん、…誰か帰って来るかもしれないから…」

「大丈夫だよ、もし帰ってきたら…止めるから…」



192 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時39分40秒


それでもまだ、後藤があたしの肩を押し返す力は変わらなくて、
あたしも見つめる目には戸惑いの色が浮かんでいる。

それは、急なあたしの強引な態度に戸惑っているのか、
それともこうして強引に後藤を抱く事で、今までのことをうやむやにして
誤魔化されるんじゃないかと、感じてるのかもしれない。


でも、違うんだよ。
そうじゃないんだよ?
今のあたしは、そんなズルイ計算とか、駆け引きとか、考える余裕なんてないから。


「後藤のこと抱きしめたい。…後藤はまだあたしのものなんだって確かめたい。
 …後藤が欲しいよ…我慢できない」


だから、ただ単純に、純粋にそう思うだけ。



193 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時40分40秒


フッと後藤の腕の力が抜けていくのを感じて、
ゆっくりと、後藤の唇に口付けた。


後藤のシャツのボタンを外す指先が、気持ちが昂ぶって震えてしまい、
上手く外せないのがもどかしい。
ボタンを外すのを一旦あきらめて、その代わりに、衝動的にギュッと後藤の体を抱きすくめ、
首筋に顔を埋めて、大きく息を吸い込んだ。
後藤の香りは、前と何も変わらない甘い優しい香りで、あたしを包み込んでくれる。
そして、あたしの身体に伝わる体温と柔らかさが、とてつもなく心地よくて、
どうしようもなく後藤に甘えたい気分になる。

そんな気持ちが、後藤に通じたみたいに、後藤はあたしの体に腕を回し、
髪や背中を優しく撫でてくれる。

すごく、心地よくて、
安心して、落ち着いて、ずっとこのままでいたいと思った。
やっぱりあたしは、後藤じゃなきゃダメなんだと思った。


194 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時41分21秒


もう一度、後藤の香りを胸いっぱいに吸い込んで、
顔を上げ見つめあうと、唇を重ねる。

二人の唇が一瞬離れるその度に、あたしは「好きだよ」と囁いて、
そしてまた、唇を重ねて。
それを何度も何度も繰り返して。

一日のうちに、こんなに「好き」だと言ったことは無かったけど、
でも、今まで後藤を不安にさせてきた時間を考えると、
全然足りないくらいかも知れない。


だからあたしは、後藤の体に口付けながら、触れながら、
何度も「好きだよ」って繰り返した。
あたしの言葉に、後藤は、ただ、泣きそうで、だけど甘くて、
溜め息交じりの短い声を返すだけだったけど、あたしの心は充分に満たされた。







195 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時42分04秒








後藤の体温の余韻に浸りながら、ベッドにもたれて、
もう冷め切ってしまった紅茶を口に含んだ。
でもその喉をすべり落ちていく冷たさが、火照った身体には心地いいくらいだ。
それに、さっきまだ熱い紅茶を一口だけ飲んだ時より、ずっと美味しい。



後藤は、中途半端に引っかかっていた制服を脱いで、
トレーナとジーンズに着替えている。


「ん〜?…市井ちゃん、どっちが市井ちゃんのセーターだっけ?」

後藤は、学校指定のセーターを一着手にとって、もう一方のセーターを
見下ろしている。
脱ぎ捨ててあった場所が同じだったから、同型のセーターの為に、
どちらのものか分からなくなってしまったみたいだ。

196 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時44分23秒

「…どっちのでもいいよ、…また入れ代わるかもしれないし…」

「え〜…何かそれって意味深だねぇ…でも、どっちか当ててやるっ」

後藤はふざけながらそう言ったあと、持っていた方のセーターに
自分の鼻から下の部分をうずめた。
そして、わざとらしく大きく息を吸い込んだ。

「ぶっ、何やってんだよ後藤〜…エロオヤジじゃないんだから」

「う〜ん…わかった! こっちが市井ちゃんのだよ。…市井ちゃんの匂いがする…」

そう言って、手に持っていたセーターを、あたしに渡してくれる。
そして床に置いてあった自分の物のはずのセーターを拾い上げて、
同じように鼻先を近づけた後、「やっぱりそうだよ」と、満足そうに頷いて
セーターを軽くたたんで、ベッドの上に置いた。


あたしも後藤がやったように、セーターに鼻をうずめて空気を吸い込んでみたけど
よく分からなかった。

197 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時45分10秒

「匂いって…くさいって事?」

「違うよぉ、くさいとかじゃなくて、…なんかねぇ、市井ちゃんの匂いがするんだよ」

「…よくわかんないんだけど」

「ふ〜ん。じゃあ後藤だけにしか、わかんないんだね。市井ちゃんの匂いは…
 すっごい、いいにおいなんだけどな…」

「……」


…また、そういうカワイイこと言うんだよ、コイツは…
何にも言えなくなっちゃうじゃんか。

言葉に詰まってひとりで照れてるあたしに構わず、後藤は、
あたしの傍にしゃがみこんで、ふざけて子犬みたいにあたしの肩に
鼻先をくっつけてクンクンしている。

「ん〜…やっぱりセーターと同じにおいがするよ」

「…何やってんだよ…ばか」

照れ隠しに、後藤のおでこをコツンと軽く叩いた。
後藤は、エヘヘといつものとろけそうな笑顔であたしを見上げる。
その笑顔が、どうしようもなく可愛くて、
子犬にするみたいに、頭を撫でてあげた。




198 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時46分45秒




後藤の柔らかい髪の手触りとか、あたしに向けられるフニャッとした笑顔とか、
隣に寄り添ってあたしの身体に触れているときの甘えた声とか。
全部無くしてしまったら、あたしは多分、正気じゃいられないんじゃないだろうか、
…なんて、考えてしまう。

今更だけど、はっきりと改めて確信しまった。
後藤は、あたしにとって、唯一無二の特別な存在なんだって。

そして、今ならその想いを、後藤に伝える事が出来る。


「あのさ、…圭ちゃんに…後藤の事、話すよ」

「…もう、いいよ…その事は」

後藤にとっては、あまり思い出したくない名前だったらしい。
唐突なあたしの言葉に、目を伏せて唇を結び、俯いてしまった。
だけど、あたしと後藤の間に、思い出したくないことなんて作りたくないから、
今あたしが後藤に伝えたいことを全部聞いてよ。

「…うん、でも、あたしはそうしたいから。
圭ちゃんってさ、あたしの中ではかなり大きい存在なんだよね。
そんな人に、自分の一番大切な人のこと言えずにいたなんて、
ホントに…最低だったよね、あたし…」

「……」


199 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時48分05秒


後藤は今にも溢れ出しそうな潤んだ瞳であたしを見つめて、
泣き出す寸前の表情だけど、それは今までの悲しそうな顔とは違う。
あたしが触れたら、涙が零れだしそうだけど、どうしても我慢できなかった。

そっと、後藤の頬に手を添えて、
あたしの今の気持ちを全部一言に凝縮して、
世界中で後藤だけの為にしか言わない言葉…


「…後藤が一番大事だよ……愛してる、から…」


200 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時48分51秒


後藤に出会うまで、十代のうちの恋愛に「愛してる」なんて言葉は大袈裟だ、と思ってた。
まだ、十数年しか生きてない自分に、本当の愛なんて感情は分からないって思ってた。
簡単にその言葉を口に出したりしたくなかったし、今までだって言わなかった。
でも後藤の素直で純粋な想いは、あたしの心にいつもまっすぐに届いて。
楽しいときも、嬉しいときも、悲しいときも、辛いときも、
いつも、傍にいてくれたのは後藤で、
傍にいて欲しいと思うのも、後藤だった。

そんな後藤のことを、失いたくないと思う気持ちは、
そうなんだって、気付いてしまった。


だから、…ちょっと、照れて語尾が小さくなっちゃったけど……
ちゃんと聞こえたよね?





「…あた…しも、…っ」


やっぱり泣き出してしまった後藤の肩を抱き寄せて、涙を指で拭ってあげながら
額に優しく口付けた。
後藤は言葉の続きを言おうと頑張ってるけど、泣き声しか出てこない。

でも、言わなくても十分伝わるよ。
拭っても止まらない涙と、あたしのシャツを掴んでる指の力と、
あたしの体に伝わる体温が、全部教えてくれるから。






201 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時49分33秒







後藤の家の玄関の扉の前。
駅まで送ると言い張る後藤をなだめて、ここで別れることにした。
だって、駅から帰るときは一人になっちゃうから心配だもん。


「…じゃあ、また明日ね。…遅刻すんなよ」

「…うん」

「…また夜に、電話するから」

「…うん」

後藤は俯いて、短い返事しか返してこない。
そんなに、寂しそうな顔されたら、なかなか帰れないじゃんか…

「ごとぉ〜、また明日会えるんだからそんな顔すんなよ。
矢口に見られたら、張り倒されるぞぉ」

「…今日は、特別だもん…市井ちゃんがいつもより優しいから、悪いんだもん」

「……」

なんかそのセリフ、めちゃめちゃ耳が痛いんだけど…
あたしの日頃の行いが、悪いせいって事はわかってます。


202 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時50分08秒


「よしっ、じゃあ帰るからな!顔上げろ、後藤」

後藤の顔を両手で挟んで、目線を上に上げさせる。
でも、後藤は唇をちょっと突き出して拗ねた顔だ。
…だから、そんなかわいい顔されたら、余計に帰れなくなっちゃうだろって。

「…じゃあ、夜電話するから。…絶対電話するから、寝ないで待ってろよ」

「…うん、待ってる」

「…ばいばい、明日学校でね…」

「…うん、ばいばい…」

まだ寂しげな顔の後藤に後ろ髪を引かれる思いで、背中を向けた。

多分、今あたしの背中を見ている後藤の顔はまだそのままなんだろうな。
なんか、あたしの足もいつもより重いよ。


…うん、やっぱり、このままじゃ帰れない。


203 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時51分02秒


あたしは、後藤のほうに向き直って歩いていく。
後藤は不思議そうな顔であたしが近づいてくるのを見ている。

「…どしたの?…市井ちゃん、なんか忘れ…」

目の前の後藤の肩に手をかけて、そのままキスをした。
一瞬軽く触れるだけのキス。
そして、少しだけ顔を離して後藤の目を見る。
後藤は、驚いた顔を真っ赤にさせて、あたしを見つめ返した。

「…後藤の悲しい顔はもう見たくないよ…」

そう呟いた後、もう一度後藤の頬に軽く口づけて、
「じゃあな」って、言いながら歩き出す。
ちょっと振り返って見た後藤の顔は、まだ真っ赤だったけど、
あたしが一番好きな、あのフニャッとした笑顔だった。





204 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時51分45秒





帰りの込み合う電車の中でも、さっきの後藤の笑顔を思い出すと、
自然と顔が緩んでくるのを抑えられない。

気が付いて引き締めようとするんだけど、頭の中は、
さっきの後藤の笑顔でいっぱいで、すぐに緩んでしまう。

隣に立ってるおじさんのポマードの臭いも、OL風のお姉さんの肩にかけてる
バッグが腕にぶつかるのも、そんなことも許せてしまうくらい、
後藤の笑顔の威力はすごいんだ。




電車を降りると、自分の家には帰らずに、その足で圭ちゃんの家に向かう。
妙にすっきりした気持ちと、後藤にもらった勇気があるから、
今なら絶対に逃げ出すことなんてしない。


205 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時52分28秒


圭ちゃんの部屋。

あたしの雰囲気を汲み取ってくれたのか圭ちゃんは、
いつものようにからかい半分の話はしてこない。


「…なによ、なんか大人しいわね、紗耶香…」

「うん…ちょっと…話が…」



よしっ、言うぞ。
あたしは、背筋を伸ばして一回深呼吸をした。

「圭ちゃん、後藤って…知ってるよね」

「うん、何回か一緒にいるとこ見た…」

「あたしさ、あの…」

「…なに」

「……あの子のこと…好きなんだ。
 …ていうか、付き合ってるんだ」

「ふ〜ん、そうなんだ」

「……」

206 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時53分09秒

…って、それだけなの?…もっと驚かれると思ってたのに、
もしかしたら、もう口も利いてもらえないんじゃないか思ってたのに。

圭ちゃんは、特に表情を変えることもなく、「そうなんだ」と一人頷いて納得している。


「あのさ、…普通、突然こんなこと言われたら、もっとビックリするもんじゃないの?」

「まぁ、『突然』だったらそうかもしれないけど、別にそうじゃないでしょ」

「へっ」

あたしは圭ちゃんの言葉の意味がわからなくて、間抜けな声を出してしまった。

「…どういうこと?」

「こないだの日曜日にさぁ、二人でいるとこ見たでしょ。
ほんとは、もっと早く声かけようと思ってたんだけど、紗耶香があんまり
うれしそうな顔してるから、しばらく観察してたんだよね」

「……」

「それで、もしかしたら…って思ってたんだけど。やっぱりそうだったんだね〜
…それにしても、紗耶香って結構面食いだったんだね、
昔はルックスより性格重視だって言ってたのに…」

207 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時53分55秒

「…う、うるさい」

なんだよそれ…今まであたしが悩んできたのは意味がなかったって事?
悩みの原因の張本人は、なんか面白がってるし。

…それに、後藤がかわいいのはルックスだけじゃないし。

頭に血が上って、言い返せないあたしを、圭ちゃんはいつもの調子を取り戻して、
メチャメチャ楽しそうな、ニヤニヤした顔でからかってくる。

「で、チュウくらいはもう済ませたんでしょ?告白ついでに教えなさいよ」

「な、なんで、そんな事言わないといけないんだよ」

「いいじゃん別に…あら、紗耶香、首のここんとこ赤くなってるよ」

「えっ、ウソッ、マジで!?」

208 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時54分32秒

心当たりがあるせいか、すぐにその言葉を信じて自分の首をとっさに
押さえてしまった。
そして、圭ちゃんの、心底楽しそうなニヤニヤした表情に、騙された事に気付く。


「いや〜、紗耶香もまだ子供だと思ってたのに、やることやってんだね」

「…」

「それから、一回ちゃんと彼女と話させなさいよ。
いろいろ聞きたいこともあるしね、あたしも紗耶香の事、彼女にいろいろ
教えてあげるからさ〜」

「……」

心に引っ掛ってたものが取れた替わりに、今度は弱みを握られてしまった。
当分はこの事でからかわれるんだよ絶対。
今度後藤と一緒のとこ見つかったら、何言われるかわかんないな。
後藤にも、面白がってこういうこと聞きそうだし、この人は。
だから当分圭ちゃんには、後藤を会わせないようにしよう。


209 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時55分10秒


「でも、まぁ…紗耶香さっき、めっちゃ深刻そうな顔して言ってたけどさ、
自分が楽しくて、幸せなら、そんなに難しく考えなくてもいいと思うよ。
時間は元には戻らないんだから、今、自分が一番幸せになれる方向を選ばないと損だよ」





圭ちゃんは、いっつも、最後にはカッコつけて、勝手に仕切って締めちゃうんだから。

だからあたしも、しょうがないから、いっつも、おとなしく納得して、それに従ってあげるんだ。




210 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時56分08秒




 その夜、約束どおり後藤に電話した。

後藤は、1コール目ですぐに電話に出た。
ずっとあたしからの電話を待ってたんだなって思ったら、
携帯を握り締めてそわそわしている姿が目に浮かんで、
かわいさとか、愛しさとか、それに類する全ての感情が、押し寄せてきて、
少しの間何も言えなくなってしまった。



「もしも〜し、市井ちゃん?…どしたの?」

「……いや、ごめん……ちゃんと起きてた?」

「当たり前じゃん! 
市井ちゃんが起きてろって言ったんだよ?」

「そうだったね…」

「ん〜?なんか市井ちゃんテンション低いよ〜、眠いの?」

「そんなこと無いよ、こんな時間なのに後藤が元気いいからビックリしてるだけ」

「なんだよぉ、いつもこの時間はまだ起きてるもん」

「アハハッ、ホントかな〜」


211 名前:Hello 投稿日:2002年02月14日(木)22時57分19秒



電話越しの後藤の声は、元気いっぱいで、嬉しそうで、すごく可愛くて。

ふと視界の端に映った、鏡の中の自分の顔も、嬉しそうで、幸せそうで。

ずっとこのまま、後藤の声を聞いていたいけど、電話代もばかにならないから、
そういう訳にもいかないんだ。

でも、そんなに悲しんだり、惜しんだりする必要は無いね。
だって、明日も、その次の日も、ずっとずっとこの先も、
後藤はあたしの傍にいて、その声を聞かせてくれるんだから。



じゃあ、おやすみ、後藤。


きっと、あたしは今晩は、後藤の夢を見るだろうけど、
後藤は、あたしの夢を見るのかな…?


だけど、あんまりいい夢だからって寝過ごして、遅刻しちゃダメだぞ。


また、明日ね…



…おやすみ、後藤。











     end.




212 名前:作者 投稿日:2002年02月14日(木)22時58分11秒


…終わりです。

読んでくださった皆さん、ありがとうございます。
感想レスを下さった皆さん、本当に励みになりました、ありがとうございます。


213 名前:作者 投稿日:2002年02月14日(木)22時58分53秒


また、短編でも書けたらここに上げさせてもらおうかな…なんて、ちょっと思ってます。


214 名前:作者 投稿日:2002年02月14日(木)22時59分32秒



それでは。
本当に、ありがとうございました。



215 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月14日(木)23時07分56秒
すっごい良かったです!!
216 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月14日(木)23時25分02秒
いつも楽しく読ませてもらいました。
ぜひまた書いてくださいね。楽しみに待っています。
217 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月14日(木)23時30分38秒
お疲れさまでした。
この作品と出会えて良かったです。
ありがとうございました。
218 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月15日(金)00時53分11秒
最高でした。もう、滅茶苦茶最高。
終わってしまったのは・・もの凄く悲しいですが。
217さんと同じように、greenageに出会えて良かったです。
こちらこそ、本当にありがとうございました。
219 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月15日(金)02時28分31秒
永い間、本当にありりがとう。
220 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月15日(金)03時54分27秒
作者さん、本当に長い間お疲れ様でした。
この作品こそいちごま作品の最高峰でしょう。
221 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月15日(金)20時01分10秒
市井ちゃん、大人になったなー。
もっと2人の成長を見ていたかったです。
いつも幸せに気分にさせてもらっていました。
ありがとうございました。


222 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月16日(土)02時14分42秒
幸せな気持ちにさせてもらいました。
前も書いたけど、感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとう。また書いてください。
223 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月16日(土)17時37分29秒
完結おめでとうございます。
この作品のことがすごく好きでした。
いい刺激も受けました。
本当にお疲れ様でした。
224 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月16日(土)21時59分17秒
ああ〜、ほんとに終わっちゃったのか〜。
残念ですけど、楽しかったです。
お疲れ様でした。ありがとう。
短編も期待していいんですか?(w
225 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月21日(木)22時06分10秒
お疲れ様でした。
やっぱりいちごまはいいなぁ〜。
また何か思いついたら書いて下さいね。
226 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月23日(土)18時00分17秒
作者さん、永い間、ホント、お疲れさまでした。
この話しが終ってしまって、今、心にポカンと穴が、空いてしまったようです。
この感謝のレスの数々、作者さんが、このgreenageって言うお話しが、多くの人に
愛されていたって証しなんですね。
あらためまして、ありがとうございました。
227 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月24日(日)17時19分12秒
前スレの場所は何処でしょうか??
228 名前:何で上がってるのかと思ったよ 投稿日:2002年02月24日(日)18時34分31秒
>277
greenage 
ttp://mseek.obi.ne.jp/kako/silver/990105142.html
greenage -Part.2-
http://mseek.obi.ne.jp/kako/wind/998224526.html
229 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月13日(水)22時03分29秒
もうすぐホワイトデーですね。
作者さん、お元気でしょうか(w
230 名前:作者 投稿日:2002年03月14日(木)22時14分51秒


どうも、作者です。

皆さん、本当にたくさんのレスありがとうございました。

greenageを終らせてから一ヶ月、そしてこんな日ですから、何かお返しをしたい所なんですが、
なんか気が抜けてしまって、新しい話が思いつきません。ごめんなさい。
正直、次はいつのなるのか自分でも分かりません(w

とにかく、感想等くださった皆さんありがとうございます。
感謝してます。



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