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帰ってきたあいつ 続き
- 1 名前:みや 投稿日:2001年12月01日(土)23時28分50秒
- 青坂内で連載してきた”帰ってきたあいつ”の続きです。
前スレは、まだ話の途中であり、続編という感じではありません。
話の内容は、市井紗耶香復帰もの。
現実と同じ形ではありません。
たいせーとのユニットではないという意味です。
たいせーが気に入らん、という方良かったら呼んでみて下さい。
前スレのアドレスは、下のリンクです。
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=blue&thp=1002808313
本来ならば、もっとスレ枚数の少ないところに立てるべきなのですが、続きなので、同じ板に立てることにしました。
ご了承下さい。
こちらは、第九章からとなります。
- 2 名前:第九章 ご対面 投稿日:2001年12月01日(土)23時30分57秒
- レコーディングは、最初の作詞の件を除いては順調に進んでいる。
2日目に入って、メインの曲の方は残すは3人のユニゾンを取ってみるだけとなった。
まあ、カップリングの曲もあるから、まだ終わりじゃないんだけど、とりあえず一段落。
私たちよりもスタッフさん達の方が大変という感じ。
そんなところに、電話が入った。
知らない番号。
非通知。
イヤな感じ。
こういう電話には出ないようにしている。
無視していたら、当然切れたんだけど、その直後に今度は圭ちゃんの着メロが鳴った。
赤トンボの着メロなんて、どこで見つけてきたんだ?
- 3 名前:第九章 ご対面 投稿日:2001年12月01日(土)23時31分34秒
- 「はい、もしもし。」
「え?」
「何ですか?唐突に。」
「いや、いいですよ。こっちにも話したいことありますし。」
「分かりました。後藤とも相談します。」
「はい。」
私?
なんだろう。
- 4 名前:第九章 ご対面 投稿日:2001年12月01日(土)23時32分19秒
- 「後藤。」
「なに?何の電話?」
「鈴木あみから。」
「は?」
「後藤にもかけたけど出ないからって、私にかけてきた。」
「うん、それで何?」
「会いたいって。」
「何で?」
「わかんないけど、お話がありますだって。どうする?後藤は。私は会って見るつもりだけど。」
「うーん、後藤も行くよ、じゃあ。」
「嫌ならいいよ別に。」
「ううん、行く。私も言いたいことあるし。」
「そっか、分かった。」
- 5 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時32分50秒
圭ちゃんは、即、鈴木あみに返事を返した。
私たちのスケジュールと、向こうのスケジュールからすると、時間があるのは今しかないらしい。
向こうもレコーディング中で、近いところにいて、ちょっと時間が空いているんだそうだ。
- 6 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時33分22秒
- なんの話か、なんてことは考えるまでもなく市井ちゃんのことだろうけど、レコーディング中に呼び出してまでなんだろう。
言付けでも預かってるとか、そういうことかなあ。
なんでもいいや。
市井ちゃんのこと聞かせてくれれば。
それにしても、うらやましい立場だな、市井ちゃんとユニットを組んでるなんて。
- 7 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時33分54秒
- 「二人でどこ行くんですか?」
「ん?ちょっとね。」
「なんですか?吉澤だけ仲間はずれにするんですか?」
「あのね、鈴木あみに会ってくる。」
「え?鈴木あみって、あの鈴木あみ?」
「うん。何か呼び出されちゃって。向こうのご指名は私と圭ちゃんなんだけど、よっすぃーも来る?」
「えー、私別に話すことないし。それに、呼ばれてないんでしょ。」
「うん。」
「まったく、なんで仲間はずれにされるかな。もう。おみやげなんか買ってきてね。」
「うん、わかった。」
- 8 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時34分32秒
- まあ、よっすぃーはいいよね。
あんまり市井ちゃんと接点無かったし。
市井ちゃんはレコーディング中かあ。
詩の内容はまだ知らないんだけど、早く曲聞きたいな。
- 9 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時35分13秒
- 圭ちゃんは、市井ちゃんが連絡をよこさないのは、あみさんのせいだと思っているらしい。
話をつけてやる、とかって息巻いてる。
それはまるで、昼ドラで男の奪い合いをしてる中年おばさんのようだった。
スタジオ近くの芸能人のよく訪れる喫茶店に、あみさんはすでに座っていた。
- 10 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時36分05秒
- 「はやかったじゃないですか。」
「まあね。すぐそこだし。そっちこそ、レコーディングの最中なくせに、簡単に抜け出してこれるのね。」
「ん?ああ、今、紗耶香がやってるから。私は時間空いてるの。」
- 11 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時36分40秒
- 圭ちゃん、最初から口調がきついよ。
明らかに喧嘩ごし。
あみさんも、わざとクールみたいに振る舞ってるように見える。
ちょっと無理してる感じ。
なんでだろう。
- 12 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時37分14秒
- 「それで、何の用?」
「何だと思う?」
「からかわないで。あなたと違って、忙しいのこっちは。」
「ふん、まあ、いいや。でも、何の用?とか聞かなくても分かってるんでしょ。」
「・・紗耶香のこと?」
「ご名答。」
- 13 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時37分47秒
- 圭ちゃん、あみさんのペースになってるよ。
冷静にしなきゃ。
注文を取りに来たウエイトレスさんに、私はアップルティを、圭ちゃんはアイスコーヒーを頼んだ。
大して暖房も効いていない、この店でアイスコーヒーがまだおいてあるのもびっくりだけど、それを注文する圭ちゃんにもびっくり。
そう思って、圭ちゃんの方をみると、手がびっしょり汗で濡れていた。
- 14 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時38分20秒
- 「はっきり言うね。紗耶香につきまとうのやめてくれない。」
店員さんが下がったのをみて、あみさんが話を切り出す。
「なんで、あなたにそんなこと言われなくちゃいけないの?」
「いや、だって、本人からは言いづらいだろうし。」
「市井ちゃんがそんなこと言う訳ないじゃん。」
「おっ、やっとしゃべってくれたね、後藤真希さん。」
「答えてよ。市井ちゃんがそんなこと言うわけないじゃんって言ってるの。」
「それが言うんだな。モーニング娘。のメンバーから電話がかかってきてうざいって。」
「言うわけない。」
「そうよ。紗耶香がそんなこというわけないでしょ。」
- 15 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時39分02秒
- 市井ちゃんが、市井ちゃんが、私たちのことをそんな風に言うわけがない。
そりゃあ、後藤は、いい子じゃなかったし、市井ちゃんにいっぱい迷惑かけたけど、でも、市井ちゃんはそんなこと言うわけない。
そんなことはあり得ない。
- 16 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時39分41秒
- 「話にならないなあ。言ってたよ。特にうざいのがあなた達二人だって。」
「何でそういうことが平気で言えるの?」
「そうだよ。市井ちゃんはそんなこと言わない。あなたの嘘なんでしょ。」
「そういうとこがうざいんじゃないの? あのね、紗耶香の言葉そのまま言うよ。もう昔のことなんだよね。あの二人はいまだに私のことを、仲良しお友達みたいに思ってるみたいだけど、やめてほしいんだよね、そういうの。もう、敵なんだから。まあ、敵って言っても、こっちはアーティストになって、向こうはアイドルやってるんだから、同じ土俵の上じゃないけど。といっておりました。」
「紗耶香が、ホントにそんなこと言ったの?」
「言わないよ。言うわけないじゃん。圭ちゃん、なんで、そんな嘘信じるの?」
「あなた、保田さん?あなたの方は、確か唄にこだわってたんじゃなかったっけ?紗耶香は、あなたのことはいろいろ言ってたよ、他にも。」
- 17 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時40分16秒
- 「何よ、何言ってったって言うの。」
「最初は、まあ、モーニング娘。ってのを利用してもいいとは思うけどさ、いつまでアイドルやってるつもりなんだろうってね。大体、バラエティ番組ばっかりやってる人たちが、唄います、なんて言ったって、説得力無いじゃんだって。」
「そんな、自分だって、アイドルやってたくせに、あなたにそんなこと言われたくない。」
「だから、私が言ったんじゃなくて、紗耶香が言ったんだって。」
「紗耶香って呼ばないで。」
「なんだかなあ・・。話しかみ合ってないよ。とにかく、あなたみたいに、おばあちゃん役までやって笑いを取って喜んでる人にライバルなんて言われたくないってさ。」
- 18 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時40分52秒
- 「あ、あのー、お待たせしました。アイスコーヒーは?」
ウエイトレスさんが、その場の雰囲気に戸惑いつつも、飲み物を持ってきた。
圭ちゃんは、我に返ったように、手を挙げる。
あみさんは、嫌な笑みを浮かべていた。
なんか、むかつく。
私は、砂糖をカップに注ぎ、圭ちゃんはストローをいじっている。
- 19 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時41分30秒
- 「お呼び出ししたのはわたしだから、二人の分もおごって上げるよ。」
「あなたになんか、おごってもらいたくない! あっ。」
ストローを差し込もうとしたときに、叫んだせいで、圭ちゃんはアイスコーヒーをテーブルにぶちまけてしまった。
私は、さっと足をよけたからいいけど、圭ちゃん自身は、呆気にとられてジーンズに全部かぶってしまったらしい。
- 20 名前:第九章 投稿日:2001年12月01日(土)23時42分29秒
- 「あーあ、しょうがないなあ、まったく。子供じゃないんだから。」
あみさんの言葉に、むっとしながらも圭ちゃんは何も言い返せないでいる。
大丈夫ですか?とやってきた店員さんがテーブルを拭いてくれ、圭ちゃんはドライヤーを貸してもらうということで店の奥につれられていってしまった。
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月02日(日)07時30分05秒
- こっちの鈴木さんは嫌な奴っちゃな〜
- 22 名前:第九章 投稿日:2001年12月02日(日)23時24分02秒
- 「紗耶香も、こんなのとつきあってたと思うと同情するよ。」
「ねえ、なんなの?」
「なんなのって?」
「なんで、わざわざ、私たちを呼びだしてさあ、こんなお芝居までして嫌がらせするの?」
「あら、保田さんはいたいとこ突かれてだいぶ動揺してるみたいだったけど、あなたはまだ、冷静なんだ。」
「だって、市井ちゃんは、そんなこと言わないもん。それに、もし言うんだったら、こんなまわりくどいことしないで、絶対自分で言ってくる。非通知で電話かけてきたりして、ストーカーみたいだよ。大体、後藤や圭ちゃんの電話番号どうやって知ったのさ。市井ちゃんに聞いたんじゃないんでしょ、どうせ。」
「ふふ、あなたのことは、一番かたくなだから、一番話したくないって言ってたよ。」
「答えてよ。どうやって知ったの?」
- 23 名前:第九章 投稿日:2001年12月02日(日)23時25分25秒
- 「しつこいなあ。まあ、いいや、答えて上げましょう。紗耶香のさあ、最初の復帰の発表のときのASAYAN見た?」
「関係ないでしょ。」
「関係あるんだな。答えてほしいなあ。見た?見てない?」
「見たよ。」
「そのとき、偶然じゃなかったでしょ?」
「裕樹なの?裕樹に聞いたの?どうやって?」
「はずれ。あなたの弟とは何の面識もないです。まあ、そこに伝わるようにはしたけどね。」
「ソニンちゃん?ソニンちゃんから聞いたの?」
「まあね。」
「なんで?どうやって?」
- 24 名前:第九章 投稿日:2001年12月02日(日)23時26分30秒
- 「あの子と会ったのは、たまたま。ボーカルレッスンが同じところでね。それで、まあ、年も近いしいろいろと話すようになったわけですよ。」
「だからって、なんで、そんな、人の番号教えないよ普通。」
「私はね、あなた達に、紗耶香を渡すわけにはいかないの。もう、一人になるのはたくさん。そういう話を彼女にしたら、ホントよく分かってくれてさ。誰かさんのバカな弟のせいで、彼女も一人になるつらさがよーく分かってるみたいだし。それで、まずは、あなた達に紗耶香の復帰をテレビの向こう側で見てもらおうと思ったの。」
「なんで?何のために?」
「はっきり分かってもらうためよ。もう、別の世界の人間だってことを。紗耶香は、もう、あなた達とは無関係な人間なんだってことを伝えて上げたかったのよ。一視聴者として、テレビで眺めるだけの遠くにいる人間だってことをね。それを、ソニンちゃんに話したら快く協力してくれたよ。裕樹にもそれを分からせたいみたいなことも言って。」
「関係ないでしょ、裕樹は。」
- 25 名前:第九章 投稿日:2001年12月02日(日)23時27分28秒
- 「まあ、私にはね。でも、ソニンちゃんは、あなたの弟のことをユニットパートナー以上の目で見てるみたいよ。だから、裕樹君にも、紗耶香をテレビで見るくらいの距離にさせたかったみたいね。」
「じゃあ、やっぱり市井ちゃんは、私たちのことを悪く言ったりしてる訳じゃないんじゃん。」
「なんで、電話に出てもらえないか、考えたこと無いの?」
「・・・」
「さすがにさあ、私に対してあなた達のことをうざいって愚痴れても、本人に対してそんなこと言える子じゃないからさ。私が代わりにね、伝えに来て上げたってわけよ。言ってたことは全部ホントよ。まあ、一字一句丸ごと全部とは言わないけど、内容はね。紗耶香の気持ち分かってあげなよ。うざいとは思っていても、まだ自分の手で傷つけたくはないな、って思ってもらってるうちにさ。」
「そんなことない!」
- 26 名前:第九章 投稿日:2001年12月02日(日)23時28分02秒
- 「頑固だなあ。じゃあ、もう一つだけ付け加えて上げるよ。紗耶香は、あなた達とは完全に決別したんだって言うのを示すために、私も驚くような提案したんだから。」
「何?何なの?」
「やっぱ、やめた。そのうち分かるよ。嫌でもね。あなたも忙しいんでしょ。紗耶香につきまとってないで、自分の仕事したら。」
「つきまとってなんかない。」
「はあ・・・。いくら言っても無駄みたいね。もう、こんな時間じゃない。そろそろ戻らなきゃさすがに怒られるから、帰ります。さっきも言ったけど、おごって上げますよ。」
「いいって言ってるでしょ。」
「そんな、怒鳴ると、アップルティまでこぼすよ。どじなおばあさんにもよろしくね。それじゃ。」
「ちょっと、待ってよ。」
「じゃあねー、いずれまた。」
「ちょっとー!!」
- 27 名前:第九章 投稿日:2001年12月02日(日)23時29分05秒
- あみさんは、レジで3人分の支払いを済ませて帰ってしまった。
圭ちゃんは戻ってこない。
結局、おごられてしまったよ。
市井ちゃんは、何で電話に出てくれないんだろう。
そんなの、言われなくたって考えてるよ。
あみさんの言っていたことを全部信じているわけじゃない。
だけど、市井ちゃんは、あみさんをユニットパートナーに選んだんだね。
市井ちゃんが選んだんだから、あみさんにもきっといいとこがあるんだ、とか言い聞かせないと腹立つ自分の感情が抑えられなくなってきた。
生ぬるくなったアップルティを一杯すする。
なんか、やだなこういうの。
- 28 名前:第九章 投稿日:2001年12月02日(日)23時30分02秒
- 「後藤!あの女帰ったの?」
「へ?」
「鈴木あみ帰ったの?」
「・・うん。言うだけ言って、仕事だからって帰っちゃった。」
「そうか。」
「服、大丈夫?」
「服?ああ、ドライヤー貸してもらって乾かしたから。ったく、なんで手前に倒したかな。せっかくだったらあいつの方に倒せば良かったものを・・。」
「そだね。」
- 29 名前:第九章 投稿日:2001年12月02日(日)23時30分46秒
- 戻ってきた圭ちゃんは、不満がありますっていう時の顔をしてる。
私とよっすぃーが、レッスン最中にふざけすぎて怒鳴られたときもこんな表情だった。
でも、今回は、不満をぶつける相手はもうここにはいない。
- 30 名前:第九章 投稿日:2001年12月02日(日)23時31分44秒
- 「どう思う?」
「どう思うって?」
「あいつの言ってたこと。全部丸ごと信用する訳じゃないけど、私、紗耶香がなに考えてるか分からなくなってきた。」
「もうさあ、悩むのやめない?」
「どうやって?」
「たぶん、ここで市井ちゃんがなに考えてるかなんて、考えたって分からないよ。あみさんの言ってることは、まるであてにならないし、市井ちゃんと連絡付かないんだから、ホントのところは分からないもん。市井ちゃんがなに考えてるのかは、市井ちゃんにあったときに聞こうよ。つんくさんも言ってたけど、私たちが出来ることをして、待ってるしかないよ。そのうち絶対市井ちゃんに会うこともあるはずだから。」
- 31 名前:第九章 投稿日:2001年12月02日(日)23時32分59秒
- 「後藤は、紗耶香のことなら全部信じられるのな。」
「それじゃ、なんか、私がバカみたいじゃん。」
「そうじゃないけどさ。私には、そこまで信じられないし。」
「後藤だって気になるよ。でも、しょうがないよ。市井ちゃんとあったときに、胸を張って“頑張ってきたんだよ”って言えるようにしとくしかないよ、今は。」
- 32 名前:第九章 投稿日:2001年12月02日(日)23時34分19秒
- 圭ちゃんは、まだ納得いかないみたい。
そりゃそうだ。
言ってる私だって、納得できてないもん。
気になって仕方ないさ。
あみさんが言ってたことで、一つだけ、実感してしまったことがある。
市井ちゃんと、自分の距離。
テレビの向こうとこっち側って、絶対につながることのないものに思える。
例えるならば、死後の世界のような。
ただ、私は、テレビの向こう側へ入ることが出来るから、いつか、本人と話をすれば、いろんな誤解もとけると信じていられる。
- 33 名前:第九章 投稿日:2001年12月02日(日)23時35分13秒
- 店を出るときに、圭ちゃんはお金を払おうとして、止められていた。
やっぱり、つかみかかってでも、あみさんに払わせちゃいけなかったのかもしれない。
いろいろ考えるけどやっぱり今思うのは一つ。
鈴木あみ、むかつくー!!!
- 34 名前:作者 投稿日:2001年12月02日(日)23時38分49秒
- >21
ここのってことは、どこか他の話で出てるんですか?
ちょっと見てみたい。
第九章ここまでです。
>>2-33 第九章 ご対面
第十章はまた、明日以降。
- 35 名前:21 投稿日:2001年12月03日(月)02時17分19秒
- ヤンジャンのことです(w
- 36 名前:作者 投稿日:2001年12月04日(火)23時28分17秒
- >35 ああ、それなら読みました。
あれとは、大分違うでしょうね。
昨日は、”回線がビジーです”とかいうあほらしい理由で更新できませんでした。
今日は第十章です。
- 37 名前:第十章 レコーディング風景 投稿日:2001年12月04日(火)23時29分02秒
- なんで、一人になっちゃったんだろう。
新曲のレコーディングは5曲目にして初めて一人ですることになった。
フューチャーリングってのは、ソロって言うのかなあ?
- 38 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時30分01秒
- つんくさんは、すごく忙しい人だ。
レコーディングも、日程ぎりぎりで、あまり長い時間をとってもらえない。
今日から私に付いてくれるはずだったのに、前のプッチモニの曲が長引いてて、私は詩を頭に入れといて、とだけ言われて、ほうっておかれてる。
とりあえず、詩は頭にはいったので、実はちょっと暇なんだ。
それで、スタジオの建物をふらふらしてる。
あみちゃんが、暇ならおいでって言ってくれたから、レコーディング風景を見に行くことにした。
- 39 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時30分39秒
- 「あみちゃん。」
「見に来てくれたんだー。」
「いいの?ホントに、私怒られたりしない?」
「大丈夫。マネージャーさんにも話し通ってるみたいだから。」
「そんな大がかりなことになってるの?」
「なんか、勉強させて下さい、みたいなこと言ってたよ。」
「それでは、鈴木あみ先生のレコーディングを見させていただいて、勉強させていただきます。」
「ははは、私先生なんだ。」
「頑張って。」
「おっけい。」
- 40 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時31分21秒
- レコーディングは、今日でもう6日目とのこと。
時間かけるんだね。
あみちゃんが、ブースに入ってしまって、心細くなりつつもソファに座って眺めていると、紙コップを持ってきてくれる人がいた。
- 41 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時31分58秒
- 「初めまして、になるかな。市井紗耶香です。」
「あ、どうも、初めまして。」
そうだ、いたんだ。
当たり前だけど。
裕樹のことがあるから、あんまり会いたくなかった。
「和田さんの紹介で見に来たのですか?」
「え、まあ、それもありますけど、あみちゃんが、見に来ない?って言うから。」
「あみのこと知ってるんだあ。」
「ええ、まあ、いろいろと。」
この人とどんな顔して、何を話したらいいんだろう。
共通の話題は、きっと、裕樹になってしまう。
- 42 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時32分37秒
- 「和田さん、厳しいでしょ。」
「え、ええ。テレビとか、ラジオの後のダメだしとか、すごい厳しいし、それに私生活についても、すごくいろいろなことを注意されます。」
「そうなんだよね。いまだに怖くてさあ。」
「もう、担当じゃなくてもそうなんですか?」
「うーん。どうにも頭上がらないもん。」
- 43 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時33分27秒
- その厳しい和田さんに反抗して、こんな事になってる裕樹。
市井さんは、今でも裕樹と会ってるのだろうか。
あの、週刊誌事件以来、和田さんの裕樹に対する管理は、ますます厳しくなっていった。
私は、裕樹にとって、悩みをうち明けてくれるに値する存在にはなれていなかったのだろう。
近くにずっといたからかもしれない。
それよりも、私自身が、裕樹のストレスの原因にもなっていたという部分もありそうなのが、悲しい。
- 44 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時34分03秒
- 「ごめんね、私、ピアノレッスンしなくちゃいけないからさ、別室で。」
「ピアノも弾くんですか?」
「まだ、分からない。使えたら使うって。とにかくやってみろって言われたから。」
「頑張って下さいね。」
「うん。」
- 45 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時34分50秒
- 再び一人になる。
ソファから眺めてるこの光景は、人が分からないだけで、あとは、普通のレコーディング風景。
もっとも、カメラが何台もいるから、普通じゃないのか。
スタッフの人たちにとっては、私は空気だね、ほとんど。
まあ、ほっといてもらえる方が楽だし、いいんだけど。
って、ここに座っててもしょうがないのか、あみちゃんのレコーディング見に来たんだから。
ブースをのぞくと、あみちゃんはすごくにこやかに、ゆったりとしたリズムを刻みながら、唄っている。
ん?裸足だ。
些細なことだけど、そんなところにアイドルからボーカリストになろうとしてるんだなあ、っていうのが伝わってくる。
- 46 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時35分31秒
- 2時間くらいそうして見ていただろうか。
ワンコーラス分を、何度もあみちゃんは歌い、プロデューサーさんが、次々と指示を与えていく。
つんくさんとは、大分指示の出し方が違うんだなあ。
技術的なことが結構多い。
つんくさんだったら、すごく具体的な、シチュエーションみたいなものを与えられるんだけど、ここでは、そういうのはそれぞれに任されているようだ。
ようやく、O.K.がでて、あみちゃんが出てきた。
- 47 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時36分05秒
- 「おつかれ。」
「いやー、楽しかったよ。」
「楽しかった?」
「うん、なんかねえ、ここのところ調子いいのよ。久しぶりのレコーディングなんだけど、すごい声が出る。自分でびっくりするくらい。レッスン積んだ甲斐があった。」
「そっかあ、いいなあ。わたしも同じレッスン受けてたのに、いまだに注意されてばっかりだよ。」
「そんなの私だって同じだよ。でも、前とは違う。うまくなってるって、自分で感じる。私しばらく休憩だから、ご飯食べない?」
「いいねえ。」
「って言っても、そこのお弁当なんだけどね。」
「なんだ。」
「なんだ、とか言わないの。一応3種類あるんだから。」
「わたしもいいの?」
「気にしない気にしない。」
- 48 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時36分39秒
- 自分のところに戻れば、お弁当はあるのに、そこから一つ取って、私とあみちゃんは、建物の屋上でご飯を食べることにした。
静かな小春日和。
そんな、秋の日差しを受けながら、あみちゃんは淡々と語りだした。
- 49 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時37分27秒
- 「暖かいね。」
「うん。11月とは思えない。」
「私、今、すごい気分いい。」
「唄えたから?」
「そう。ずっとね、自信なかったんだ。再デビューする。待っててくれる人はいるのか?私の唄で大丈夫なのか?紗耶香はなんで、私のこと誘ったんだろう?とか、そんなことばっかり考えてた。」
「うん。」
「それでね、この前、後藤さんと保田さんに会っちゃったんだ。結局。」
「結局会ったんだ。」
「うん。迷ったんだけど、なんか不安でさ。そして、二人にかなりひどいこと言っちゃった。」
「そう。」
「紗耶香につきまとうなって、それだけでもひどいのに、二人の欠点みたいなのをあげつらう様なことしちゃってさ。」
「うん。」
「二人を傷つけるために、わざわざ会いに行っちゃって。今になってはちょっと自己嫌悪だよ。」
自己嫌悪と語る彼女は、その台詞とは裏腹に、おだやかな表情をしている。
- 50 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時39分01秒
- 「不安は、まだ感じるんだ。紗耶香がね、彼女たちの元へ帰ってしまうんじゃないかっていうね。
でも、冷静に考えれば、ここまでデビューの話が進んでて、そんなのは無理だなあ、っていうの
は分かるようになってきた。そうは言ってもさあ、精神的な面では、私のことはどうでもよくて、
昔の仲間を選んでしまうかもしれないじゃない。」
「うん。」
「だけどね、紗耶香の居場所を、今作っているのは、私なんだって、そう思えるようになったよ、ようやく。」
「そっか。」
- 51 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時39分41秒
「ちょっと厳しい提案もしちゃったし。もうすぐ発表するけど、そのとき紗耶香や、向こうの人たちがどんな顔するのか、ちょっと楽しみな自分が悪い子だなって思う。それで、ちょっとやり過ぎたかなあ、って反省中。ただ、もっとも、モーニング娘の人たちと次にあったときに、どんな風に振る舞うかは、自分でもわかんないや。」
「わかんない?」
「うん。わかんない。彼氏と歩いてたら、昔の女が現れたって感じじゃん。」
「なにそれ、実体験?」
「えー?そんなこと無いけどさ。とにかく、紗耶香を束縛しすぎるのはよくないなあ、ってのは分かった。でも、改まって、そんなこと本人には言えないしねえ。やっぱり連絡取られるのも快くはないし。乙女心は複雑ってやつ?」
- 52 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時40分13秒
- あみちゃんは、最近のぎすぎすしたところが、薄れているようだった。
久しぶりにレコーディングしたことで、何か感じることがあったということなのだろう。
それが、どんなきっかけで、彼女に訪れたことなのかは分からない。
- 53 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時40分43秒
- 「いろいろ迷惑かけてごめんね。電話番号無理矢理聞いちゃったりさ、裕樹君に謎の伝言頼んだり。」
「ううん、いいよ。あみちゃんの気持ち、私にも分かったから。」
「あとさあ、この前後藤さんに、ソニンちゃんが、ちょっと悪者みたいな言い方しちゃった。」
「えー、それ裕樹に伝わったらどうすんのよー。」
「ごめん。ホントごめん。」
「もう、また、なんか、話しづらくなっちゃったじゃーん。」
「ごめんね。」
「いいよ、もう。自分でなんとかするから。それより、そろそろ戻る?」
「うん、そうだね。こっちのスタジオ午後も来る?」
「いや、とりあえず、自分のとこ戻るよ。もう一回詩を読み直す。あみちゃんの歌ってるの見てて、自分もやらなきゃって気になったから。」
「そっか、頑張って。」
「うん。」
- 54 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時41分23秒
- 今の私は、裕樹とはずいぶん遠いところにいる。
こっちはレコーディング。
むこうは、きっと今頃、学校で給食でも食べているのだろう。
最初は、3ヶ月くらいの休養って事だったけれど、今の時期に私一人でシングルを出すということは、もうちょっと一人でやっていろってこと。
せっかく、新人賞も大賞ではないにしろ、いくつかノミネートされてるのに、一人だから出演することすらままならない。
- 55 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時42分10秒
裕樹のバカ!
- 56 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時42分45秒
- バカ、っていいつつ、嫌いにはなれないのが辛いなあ。
だけど、本当にバカなのは、私自身でもあるのだろう。
裕樹への私の気持ちが、彼を追いつめてしまった。
ごめんね。
私のがずっと年上なのに。
私よりも、市井さんの方が頼りになったんだね、裕樹にとって。
すごく悔しい。
- 57 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時43分17秒
- あみちゃんと話して、ちょっと救われた。
裕樹が戻ってくる場所を守っていられるのは、きっと私だけ。
市井さんには、そんなことは出来ない。
- 58 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時43分50秒
- とにかく、仕事頑張らなきゃ。
裕樹が帰ってくる前に、私が消え去っちゃったら、帰ってくる場所なくなっちゃうもんね。
会いたいよ。
早く戻ってこないと、私一人で売れちゃうぞ。
待ってるからな、いつまででも。
- 59 名前:第十章 投稿日:2001年12月04日(火)23時46分50秒
- >>37-58 第十章 レコーディング風景
今回は、一日で第十章終わらせてしまいました。
短かったので。
この話、いろんな人が出て来ちゃったなあ・・・。
まだ、増えたりして。
どうなるんだろ・・。
- 60 名前:第十一章 衝撃の発表 投稿日:2001年12月05日(水)19時47分13秒
- じゃん。
都内某所。
そう、ここは新ユニットのレコーディングスタジオ。
市井紗耶香の詩に中村正人が曲をつけて、ついに、デビューシングルのレコーディングが開始されたのです。
彼女たち二人にとって、新しいプロデューサーの元初めてのレコーディングとなります。
さて、順調に進んでいるのでしょうか。
- 61 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時47分57秒
- まずは、作詞を担当した市井がブースに入る模様。
「よし、自分で書いた詩なんだから、完全に頭に入っているだろうし、とりあえず、通して唄ってみようか。」
「はい。」
流れてくるメロディに会わせて唄う市井。
それを見るプロデューサー、中村正人の表情は冴えません。
「ストップ。」
「はい。」
「ちょっと、出てきて。」
「はい。」
ワンコーラスを終えた時点で、止めてしまいました。
- 62 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時48分33秒
- 「全然唄えてないなあ。」
「すいません。」
「基本なんだけどさあ、おなかから声を出そう。のどから大きな声を出すのとは違うぞ。おなかから声を出すんだ。大きなイメージで。」
「はい。」
「よし、もう一度いってみよう。今度は止めないから。最後まで。」
「はい。」
おなかから声を出せ。
簡単なアドバイスを受けたのみで再びブースに入る市井。
はたして、大丈夫なんでしょうか。
「よし、行こう。」
「はい。」
- 63 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時49分14秒
- 再びメロディーが流れます。
それに会わせて唄う市井。
しかし、サビにはいると、自ら唄い止めてしまいました。
「続けて。とめないって言っただろ。」
続行を指示する中村。
それに答えて、市井も再び歌い出すものの、戸惑いながら唄っているという表情。
それでも、一通り唄い終え、一旦ブースから出てきます。
- 64 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時50分47秒
- 続行を指示する中村プロデューサー。
それに答えて、市井も再び歌い出すものの、戸惑いながら唄っているという表情。
それでも、一通り唄い終え、一旦ブースから出てきます。
「あのさあ、はっきり言うね。ちょっと今のままじゃ使えない。」
「すいません。」
「まず、絶対的に声量が足りてない。それをなんとかしないと、技術的にとか、感情がとか、そういうところに入れない。」
「はい。」
「しょうがないから、4分半全部はまず無理だけど、ワンフレーズワンフレーズとっていこう。」
「はい。」
- 65 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時51分22秒
- 早速ダメだしを受ける市井。
はたして、手法を変えることで光明は見えてくるのでしょうか。
- 66 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時51分45秒
- 「市井、何度も同じ事言わせるな。」
「すいません。」
結局、この日一日こんな会話の繰り返し。
市井自身も、うまく唄えない自分にもどかしい様子が見られます。
レコーディング初日は、なんと、市井一人分、しかも最初の2行しか終わらないという、大変困難な出だしとなってしまったのです。
- 67 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時52分15秒
- レコーディング二日目。
この日は、まず鈴木がブースに入ります。
「よし、とりあえず通して録るから。詩は頭に入ってるね。」
「はい。」
「じゃあ、いってみよう。」
メロディに会わせて歌い出す彼女。
非常ににこやかです。
おや、足下を除くと、なんと、裸足です。
彼女は、素足でレコーディングに臨んでいるのです。
そして、曲の方は、途中で止まることなく最後まで通して唄いきりました。
- 68 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時52分47秒
- 「うーん、まだまだだね。」
「はい。、すいません。」
「ただ、まあ、声はよく出てた。たまにピッチがずれたり、音はずしてる部分もあったけど、絶望的って程じゃなかったよ。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ、次は、頭から、そうだな、まずは2行分。ここまで。ここと、ここの2カ所は、さっきはずれてたところ。気をつけて。うわずらないように。」
「はい。」
早くも具体的な指示が入っています。
そして、彼女はそれに対し、次々と答えていきます。
- 69 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時53分23秒
- 「よし。今日は、ここまで。」
「ありがとうございました。」
鈴木は、1日で、最初のワンコーラス分を録り終えたのです。
歌の面において、市井に対して大きなアドバンテージを見せました。
- 70 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時53分58秒
- その、同じころ、レコーディングスタジオ別室。
市井は、こんな事をしていたのです。
- 71 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時54分39秒
- なんと、ピアノを弾いています。
「なにやってるの?」
「いや、ちょっと、気分転換に。」
「弾けるんだ。」
「まあ、ちょっとですけど。」
「なかなかうまいよ。」
「そうですか?」
「プロのピアニストとしては問題外だけど、ちゃんと聞かせられるレベルにある。」
「ありがとうございます。」
レコーディングスタッフとこんな会話を交わす市井。
そして、このことが、プロデューサーである中村の耳に入ります。
- 72 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時55分28秒
- 「市井。」
「はい。」
「ピアノ弾くらしいな。」
「いや、まあ、ちょっと、だけ、です、けど。」
「ちょっと聴かせてくれ。何の曲でもいいから、自分で弾けるやつ。」
「はい。」
そして、ピアノのある部屋にやってきた二人。
市井は、ここで、ショパンの練習曲の一つを弾きました。
聞き入る中村。
さて、彼は、この演奏にどんな判断を下すのでしょうか?
- 73 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時56分03秒
- 「市井ちゃん、ピアノうまい。」
「うん。でも、なんか、唄入れは手こずってるみたいな。」
「そうですね。」
- 74 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時56分59秒
- 私は、保田さんと、ごっちんと3人で、プッチモニ。のプチ合宿をしている。
ミニ合宿と呼んじゃダメだと、保田さんに言われてる。
知らなかったけれど、ここは旧プッチモニが合宿をした思い出の場所なんだそうだ。
- 75 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時57分32秒
- 「市井ちゃん、別に唄下手じゃなかったよね。」
「うん。うまいって絶賛する程じゃなかったけど、あんなにいわれるようなひどさはは無かったよね。」
- 76 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時58分07秒
- 市井さんとは、ハッピーサマーウエディングしか、一緒に歌入れやってないけど、下手どころか、私から見れば雲の上級のうまさだった。
まあ、あの頃の私は、ひどすぎたから比べる方が間違っているのだけど。
ボーカリスト、を名乗るということは、それだけ大変なことなのだろうか。
市井さんにはかなわないなあ。
そんなところへ飛び込んで行くんだから。
中澤さん達のMCが終わって、また、レコーディング風景の場面に戻った。
- 77 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時58分43秒
- 都内某所。
レコーディングスタジオ。
市井のピアノの腕前を、中村プロデューサーは、どう判断するのでしょうか。
- 78 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時59分19秒
- 「ぱちぱちぱちぱち。なかなかうまいじゃないか。」
「ありがとうございます。」
「弾いてみるか?レコーディングで。」
「いいんですか?」
「ああ。やるだけやってみよう。ダメならやめればいいんだし。」
「ありがとうございます。」
「唄入れもあるから、大変だとは思うけど、ピアノは最後に録るから、練習しといて。」
「はい。」
なんと、なんと、市井のピアノ、シングル収録大決定なのです。
- 79 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)19時59分55秒
- 一方、歌収録。
こちらでは、鈴木あみがほぼブースを占領する状態となっています。
「よし、じゃあ、次は、こことここのファルセット。」
「はい。」
「無理に出す感じじゃなくて、柔らかさをアピールする感じで。」
「はい。」
プロデューサーの指示に次々と答えてゆく鈴木あみ。
休養期間のボーカルレッスンの効果が出ているようです。
「イエーイ。」
「Be Together♪ Be Together♪」
休憩時間に、カメラに向かっておどけてみせる余裕も十分。
すっかり自信満々な様子。
- 80 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)20時00分30秒
- 一方、こちらは市井紗耶香。
初日のふがいなさを補おうと必死に唄うものの、いっこうにO.Kは出ません。
「市井、今日はこれで終わろう。」
「・・はい。」
ここで、プロデューサーの口から衝撃の発言が飛び出してしまうのです。
- 81 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)20時01分05秒
「ASAYANってやっぱり引っ張るね。」
「自信のなさそうな市井さんって、初めて見ました。」
「紗耶香だって、完全無欠じゃないよ。でも、あんなに手こずるなんてな。」
「圭ちゃんだったら、O.Kもらう自信ある?」
「・・・分からない。ただ、なんか、改めて考えちゃうな。鈴木あみに言われたこと。」
「何?」
「アイドルとボーカリストは違うって。」
- 82 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)20時01分38秒
- 「でも、唄うことに関しては一緒じゃん。」
「じゃあ、紗耶香は何であんなに苦労してるのさ。」
「そんなの、後藤にだって分かんないよ。」
「それでいて、鈴木あみは、言うだけあってうまくなってるみたいだし。」
「保田さんだって、ごっちんだって、レッスン受ければもっともっとうまくなりますよ。」
「ボーカルレッスンかあ。最近受けてないなあ、あんまり。」
「そういうの補うために、今日合宿組んだんでしょ。紗耶香に負けないために。」
「うーん。」
「あっ、続き出ますよ。」
- 83 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)20時02分13秒
- 都内、某レコーディングスタジオ。
中村プロデューサーから、衝撃の言葉が飛び出してしまうのです。
- 84 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)20時02分44秒
「メインボーカルを、鈴木にしよう。」
なんと、なんと、二人のボーカルユニットの、メインとして鈴木あみを据えるというのです。
- 85 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)20時03分42秒
- 「最初は、二人のハーモニーみたいなものを考えていたのだけど、どうも、力の差を感じる。
市井は、自分でも言ってたけど、休養期間は、作詞とかピアノとかそっちの方面に力を入れていたみたいで、全然ボーカルレッスンが積めてない。
その結果、詩はいいものが出てきたけど、唄わせてみると、おそらく自分自身の唄いたいようにすら唄えていないだろう。
一方、鈴木の方は、休養中にやっていたことはボーカルレッスンと言うだけあって、昔のアイドル時代のCDよりも全然良くなってる。
もちろん、パーフェクトじゃないし、改善点は山ほどあるけど、それで、レコーディングをしている今も、日に日にというか、ワンフレーズ毎にうまくなってる。
だから、今回は、鈴木をメインということにする。」
- 86 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)20時04分15秒
- そうなんです。
ボーカルレッスンを積み重ねた鈴木あみ。
彼女を、メインとして、今度のシングル曲は作るというのです。
さらに、彼はこんな言葉も付け加えました。
- 87 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)20時04分49秒
- 「市井は、幸いピアノが弾ける。この曲はピアノ伴奏の曲だから、鈴木がスタンディングで歌って、市井にはピアノ演奏という形でやってもらう。
もちろん、演奏だけじゃなくて、彼女にも唄パートはあるし、ハモル場面も多いけど、基本的に、鈴木がメインボーカルで、市井はピアノ。」
なんと、市井にのピアノは、レコーディングで使うだけでなく、テレビ出演などの際も、演奏することになるのです。
- 88 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)20時05分44秒
- 「ただ、この形は暫定的なもので、この一曲だけ。
市井には、今後徹底的にボーカルレッスンを積んでもらう。
もちろん鈴木もそうだけど。
それで、改善が見られたら、二人を並べて、ハーモニーを聴かせるようなものにしたい。
彼女たちは、まだまだ未来がある。
市井の唄は、今はちょっとひどい部分が多いけど、それでもレッスンを積めばちゃんと伸びていくと思うから。
ただ、今は練習が足りないだけ。能力はあるはず。
二人とも、未来は楽しみだよ。」
- 89 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)20時06分28秒
- この一曲暫定で、このスタイルを取るというのです。
まだまだひどいけど、将来が楽しみ。
彼はそんな発言もしています。
これは、将来的にも、プロデュースを続けていくという意思の表れと取って良いでしょう。
- 90 名前:第十一章 投稿日:2001年12月05日(水)20時07分23秒
- 「なんか、キロロみたいになっちゃったね。」
「うーん、市井さんが作詞もしてるし、唄うパートもあるから、花花の方じゃない?ボケじゃないし。」
「いや、紗耶香はある意味ボケだった。って、おい、どっちでもいいさ、そんなの。それより、鈴木あみメインってのがむかつくよ。」
「しょうがないよ。確かに、なんかうまくなってたもん。それに、ピアノ出来るってやっぱすごいじゃん、市井ちゃん。」
「中村さんは、ケミストリーみたいにしたいみたいだね。」
「市井ちゃんは、どっちかなあ、黒い方?」
「いや、紗耶香は白いでしょ、ってそういう問題じゃないって。」
「もう、ちゃんとみましょうよ。なんか、大事な話がまだあるみたいですし。」
- 91 名前:闇の住人 投稿日:2001年12月06日(木)00時31分36秒
- 毎日読ませてもらってます!
いやー、読んでたらナレーターの声が頭の中で・・・。(w
市井はピアノかぁ。鈴木がメインってのはちょっといただけないなあ。
今までは鈴木さん切なくて好きだったんですけどね。嫉妬に燃える女、怖いなあ。
- 92 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時26分03秒
- さて、ユニットのパートもほぼ決まってきたこの時期に、二人に大事なものが伝えられます。
「市井、鈴木。ちょっと聞いてくれ。」
「はい。」
「シングルの発売日。つまり、二人の再デビューの日が決まった。」
「決まったんですか?いつですか?」
「12月10日。」
「ホントですか?決まりなんですね。ホントに決まりなんですね。」
「うん。決まり。」
- 93 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時26分45秒
- 「えー!!!」
保田さんが叫ぶ。
ごっちんも。
そう、12月10日。
それは、私たちのシングル発売と同じ日だった。
- 94 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時27分20秒
- 「市井。」
「はい。」
「12月10日っていうのは、プッチモニのシングル発売と同じ日。」
「えっ?プッチと同じ日なんですか?」
「うん。やだ?」
「え、いや、やだっていうか、なんて言うか、でも、意識してもしょうがないって気もするし、いや、どうでしょう。でも、いや、ホントに?ホントに?プッチと、ホントに同じ日なんですか?」
- 95 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時28分00秒
- そうなんです。
ついに、彼女たちの再デビューの日が決まってしまったのです。
それは、なんと、なんと、市井紗耶香がかつて中心メンバーをつとめていた、あのプッチモニのニューシングルと同じ日だというのです。
大変なことになりました。
くー!!!!!
- 96 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時28分53秒
- 「中澤さん、どうですか?」
「驚きですよ。なにも、プッチと同じ日にしなくてもいいじゃないですか。」
「私もそう思うんですけどね、事務所がそういうんですから、しょうがないじゃないですか。」
「違うでしょ、どうせ、ASAYANのスタッフが頼み込んで、そういう形にしたんじゃないですか?話を面白くするために。」
「中澤さん、自分も、もうそういうASAYANの一員だってこと分かってはる?」
「いや、私は、そんな、人をだましたりするような人たちとは違います。純粋です。」
「まあ、ずっと、辞めない。子供産んでメンバーにするって言ってたグループから数ヶ月後にはもういなくなった人ですからね。なんとでも言えますわ。」
「うわ、岡村さん、きついなあ。」
「もう、なんとでも言って下さい。それで、はあ、12月10日なんですか。まあ、いろいろあるけど、再デビューの日がちゃんと決まって良かったじゃないですか。」
「そうですね。ちなみに、その日は、この二人と、プッチモニの他にも、いろんな人がシングル出しはるんですよ。」
- 97 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時29分27秒
- 「誰がいるんですか?」
「まず、ダンスマン。」
「どうも、いろいろお世話になりました。」
「ダンスマンって、自分自身は売れてるんか?」
「ダンスマン星では、売れてるんちゃいますか?」
「そんな、言い方しちゃダメですよ。すごい人なんですから。」
「いや、人じゃないんでしょ、宇宙人。」
「なんか、つっこみづらいから、ええわ、次。猿岩石。」
「まだやってらしたんですか、猿岩石さん。」
「なにも、このリストの中にいれんでもええと思うけどな。」
- 98 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時30分26秒
- 「他には、たいせーwith市井ユリ。」
「たいせーさん。どうも、お世話になってます。」
「っていうか、市井ユリって誰?」
「あれですよ、あの。“Da・Yo・Ne”。」
「Da・Yo・Neって、今田さん?」
「いや、ちょい違うから。今田さんは、本家じゃないから。」
「ああ、今田さんのパクリやった人らか。」
「逆逆。今田さんがぱくったの。」
「懐かしいですね。でも。たいせーさん、どこで見つけてきたんだろう。」
「で、その今田さん、Koujiトゥウェルブビリオネア。」
「はー?」
「ビリオネアって、億万長者ですよね。」
「っていうか、いいんすか?」
「シングルのカップリングが、“みのみのソング”らいしいで。」
「いいんですか?そんなことして。だいたいそれ、どんな曲ですか?」
「まあ、ええんちゃう?今田さんやし。」
「はあ・・。」
- 99 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時31分00秒
- 「あと、まともなとこだと、hiroなんてのがいますね。」
「まともなとこって、ダンスマンさんはまともじゃないですか。」
「おお、中澤は、たいせーはまともじゃない言うんやな。」
「そんな、そんなつもりじゃないですけど。たいせーさんも、市井ユリさんも頑張って下さいね。」
「ごまかしよった。まあ、ええわ。」
「いやあ、どうなるんですかねえ。新曲対決。」
「中澤、どっちに勝って欲しい。」
- 100 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時31分40秒
- 「もう、やめましょうよ。そういう、勝つとか、負けるとか。違うじゃないですか。いい歌を歌う。いい曲を作る。それが、勝ちですよ。」
「ええこといいますなあ。でも、それじゃ、番組成り立ちませんからねえ。」
「やっぱり、そういう番組なんじゃないですか。」
「中澤さん。その番組で司会やってるんだから、自覚を持ってもらわないと。同じ穴のむじなっちゅうてな、もう、中澤も俺らと一緒なんよ。」
「えー、私は中立です。紗耶香。あみさん。プッチのみんな。頑張りや。」
「おーおー、逃げよった。まあ、とにかく、再デビュー日が決まったというわけで。」
「そうですね。良かった。」
- 101 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時32分26秒
- 保田さんとごっちんは、呆然としている。
まさか、発売日をぶつけてくるなんて、全然考えてなかった。
レコーディング時期が近いって事は、そういう可能性があるって事だけど、でも、普通ははずさない?
- 102 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時33分05秒
- 「驚くような提案って、このことだったんだ。」
「後藤、なんか知ってるの?」
「圭ちゃんが、店の奥に引っ込んでる間に、あみさんが言ってたんだ。市井ちゃんが、驚くような提案をしたって。」
「紗耶香が、発売日をプッチと同じ日にしようって言ったって言うの?」
「はっきりそういった訳じゃないけど、驚くような提案って。」
「そんなの出来るわけ無いじゃない。紗耶香に発売日決める権限なんてあるわけないよ。」
「そんなこと、私に言われてもさあ・・。」
「でも、提案だったら出来るんじゃないですか?」
- 103 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時33分50秒
- 「なんで?なんのために。」
「あみさんは、私たちと、完全に決別したんだって事を示すためだって言ってた。」
「あんた、そんなのあいつに言わせて、黙って聞いてたの?」
「しょうがないじゃん。なんか、迫力あったし。」
「迫力あったしじゃないよ。あー!!!、腹立つ。座ってると、なんか、黒いものが全身を駆けめぐる感じするから、レッスンしよう。」
「そだね。」
- 104 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時34分30秒
- 練習再開。
今回のダンスは、踊るだけならそんなに難しいものではない。
問題は、かわいらしさをどう出すか。
さんざんかっこよさを求められた曲の直後にこれは、ちょっと気持ちの入れ替えが大変。
大体、昼間は、まだ歌収録で宝塚の世界に入って来たし今日も。
- 105 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時35分05秒
- 「じゃあ、一人づつ、通して踊ってみよう。後の二人がそれをチェック。」
「オッケー。」
「じゃあ、私から。」
- 106 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時35分38秒
- まず、保田さん。
レコーディングが終わって、ダンスレッスンもまだちょっとしか受けていないのに、全部頭にっていうか体に振りが入ってるのがやっぱりすごい。
ただ、なんて言うか、衣装じゃなくて練習着でこれを踊ると、保田さんの場合、ちょっと、違うかな、って言う気がしてしまう。
- 107 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時36分39秒
- 「どう?」
「もう、振りが全部入ってるんだね。」
「当然でしょ。そのためのミニ合宿なんだから。」
「ははは、そっか。」
「それで、なんか問題点は?」
「うーん。女の子っぽくない。」
ごっちん。
言い過ぎ・・・。
- 108 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時37分17秒
- 「どの辺が?」
「うーん、食べるものとか。」
「ははは・・。」
「ふざけないでよ。真面目にやってるんだから。レッスン中にバカなこと言ってるんじゃないよ!」
「ごめん。」
保田さんが、本気で怒っている。
怒鳴られたのは、すごく久しぶりなこと。
- 109 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時37分52秒
- 「それで、真面目に見て、なんか無いの?」
「うん・・・。真面目に言うと、手の動きとかが、男っぽいんだよ、たぶん。私やよっすぃーが、Mr Moonlightの時に、男の子っぽくするようにって言う注意を受けて、やった動きになっちゃってるから、それで、女の子っぽくないんだと思う。」
「なるほど。吉澤は?なんかない?」
「うーん、いや、特には。」
「ちゃんと見てたの?」
「いや、見てたんですけど、振りが頭に入ってるのがすごいなって。」
「だから、それくらい当たり前なの。まあ、いいわ。次、後藤やる?」
「おっけー。」
ごっちんは、1,2カ所あやふやなところがあったけど、それでも全部きれいにまとまっていた。
やっぱ、覚えるの早いなあ二人とも。
- 110 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時38分22秒
- 「後藤さあ、リズムとずれたとこあるよね。」
「うん、それは、自分でもちょっと分かった。」
「あと、笑顔が出来てない。」
「ああ、うん。」
「そんなんじゃ、1位取れないよ。」
「ごめん。」
- 111 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時38分56秒
- 保田さんは厳しい。
この3人だとリーダーって感じだけど、普段はこんなに厳しくなかったのに。
なんで、そこまで意識するのだろう。
いいものを作ろうっていう気持ちは分かるけど、1位にこだわるところがよく分からない。
そりゃあ、1位取れるに越したことはないけど。
- 112 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時39分30秒
- 「次、吉澤。」
「はい。」
まるで、オーディションみたい。
審査員が二人。
曲に会わせて踊ってみると、まだ、5,6カ所振りが飛んでしまうところがあった。
私を見る保田さんの目は冷たい。
それに、ますます萎縮し、笑顔を出すことも出来なくなってしまう。
- 113 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時40分02秒
- 「吉澤。全然ダメ。」
「すいません。」
「なに考えてるんだよ。それでもプロか?振りくらいすぐ覚えろよ。」
「はい。すいません。」
「モーニングの曲でセンターになったからって、いい気になってるんじゃないか?」
「そんなこと無いです。」
「圭ちゃん、言い過ぎだよ。」
「後藤は黙ってて。吉澤。私が、どれだけ苦労してプッチモニっていうグループを手に入れたと思う?吉澤に分かるか?」
「・・はい。テレビで見てました。」
「そうなんだよな。所詮テレビなんだよ。吉澤は、テレビの世界でしか、私たちの最初を知らない。」
- 114 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時40分37秒
- 「圭ちゃん!やめてよ。」
「いいから、黙ってな。後藤も分かってないんだよ。私たちはねえ、売れなくなったら終わりなの。どんなに唄いたくても、売れなくなったら、それで終わりなの。紗耶香に負けるわけにはいかないの。鈴木あみに負けるわけにはいかないの。どんな奴が相手でも、負けるわけにはいかないの。」
「圭ちゃん、なんでそうなの?そりゃあ、売り上げは大事だと思うよ。後藤だって、1位が取れればうれしいよ。でもね・。」
「分かってないんだよ。今回はそれだけじゃない。紗耶香に、あいつにだけは負けるわけにはいかないんだよ。」
- 115 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時41分57秒
- 「そうじゃないじゃん。圭ちゃん。
私たち、別に市井ちゃんに勝つために唄ってるんじゃない。
市井ちゃんに勝つために曲を作って、踊って、唄ってるわけじゃないじゃん。
ステージだってそうだよ。全部、自分が唄いたいから、踊りたいからって言うのが前提であって、その上にあるのが、お客さんのためでしょ。
この曲だったら、CDを買ってくれるファンの人、テレビで見てくれる人、ファンじゃないけど知ってるよって人、そして、ライブに来てくれるお客さん。
そういう人たちのために、後藤達は頑張るんじゃないの?プロってそういうものじゃないの?
後藤は、市井ちゃんにそう教わったよ。
だから、今度の曲が、市井ちゃん達と同じ日の発売だからって関係ないよ。
やることは基本的に同じ。もちろんいいものを作らなきゃいけないんだから、プチ合宿やってるのにふざけたこと言った後藤も悪いしさ、
振りが頭に入ってないよっすぃーも悪いよ。だから、圭ちゃんがそういうところを注意するのは全然いいと思う。
でもね、市井ちゃんのために、やってるんじゃないよ。そうでしょ。」
- 116 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時43分46秒
- 「後藤・・・。」
「私ね、市井ちゃんのこと好きだよ。でもね、圭ちゃんのこともすごく好き。もちろんよっすぃーの事も。
市井ちゃんは、今すごく遠くに行ってしまったし、圭ちゃんやよっすぃーとも、いつかは遠く離れてしまうのかもしれないなって思う。
でも、ずっと仲間だって信じていたい。ずっと友達だって信じていたい。
ライバル心があって、負けたくないって気持ちを持つのはいいことだけど、
でも、敵なんかじゃないよ。市井ちゃんは。」
「後藤、もういいよ。わかったよ。私が悪かったよ。ごめん。言い過ぎた。吉澤。悪かった。」
「いえ・・。私が悪いんですから。」
「いや、ごめん。悪かった。」
「そんなこと・・。」
「今日は、もう、やめるか。ちょっと早いけど、寝よう。明日は5時半起きね。」
「・・はい。」
- 117 名前:第十一章 投稿日:2001年12月06日(木)22時45分16秒
- こうして、プチ合宿の夜は更けていった。
それぞれにシャワーを浴びて、まだ11時前なのに、布団を並べて3人で眠る。
なぜか、私が真ん中だった。
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
- 118 名前:第十一章 投稿日:2001年12月08日(土)00時29分49秒
- すごく疲れた。
体力的なことだけじゃなくて、いろんな面で。
モーニングのセンターでいい気になってるんじゃないの?って言う保田さんの言葉は、ある意味当たっている。
いい気になったと言うんじゃなくて、意識がそっちにあるから、今度の曲の振りも頭に入ってこないのだろうし。
それに、センターのプレッシャーはすごく強い。
これで売れなかったら自分のせいだと思う。
保田さんの、売り上げを気にするのって、そういうことなのかなあ。
- 119 名前:第十一章 投稿日:2001年12月08日(土)00時30分19秒
- 「よしざわ。よしざわ。まだ起きてる?」
「へ?はい起きてますけど。」
暗闇の中、右から保田さんが声をかけてくる。
そっちを向くと、見えないはずなのに、保田さんと目があった、そんな気がした。
「吉澤、後藤はまだ起きてる?」
「んー・・・寝てるみたいです。」
反対側を確認すると、ごっちんは、すでに寝息を立てている。
- 120 名前:第十一章 投稿日:2001年12月08日(土)00時30分49秒
- 「そっか。後藤はよく眠るからな。」
「ふふ、そうですね。」
「初めてかもな。この3人でこういうのって。」
「そうですね。ホテルでも、3人部屋ってないですしね。」
「大体、吉澤とこうやって布団に入って話す事って無かったよな。」
「ええ。ごっちんとは結構あるんですけど。」
「同じプッチなのに、部屋一緒にならないもんな。」
「私は、いつもごっちんか、梨華ちゃんあたりが多いですよ。あとは、辻加護。」
「大変だな、あの二人は。」
「でも、夜はさっさと寝ちゃいますよ二人とも。ああ、でも、二人でうちの部屋にいて、私のベッドまで占領して寝てられると腹立ちますけど。」
「なんとなく目に浮かぶよ。」
「そうですね。」
- 121 名前:第十一章 投稿日:2001年12月08日(土)00時31分32秒
- 「吉澤。」
「はい?」
「さっきごめんな。」
「え?」
「さっきさ。いい気になってとか言っちゃって。」
「いや、そんなこと無いですよ。まあ、いい気になったつもりはないですけど、プレッシャーとかあるから、気持ちがまだそっちにあったのも確かだし。」
「プッチの3人の中でさあ、あの曲、私だけその他の女の子役だったじゃん。」
「はあ・・。」
「それで、ちょっと、嫉妬って言うか、ねたみって言うか、そんなのもあった。」
「・・・」
- 122 名前:第十一章 投稿日:2001年12月08日(土)00時32分30秒
- 「私、主役タイプじゃないじゃん。いつでも。モーニングに入ったときからそう。タンポポにも入れず、プッチモニは紗耶香がセンターで、その後は後藤。モーニングの曲も、メインパートにならないんだよね。裕ちゃんが卒業して、今度はサブリーダーだって。つくづくサブが似合うなあって思ったよ。」
「そんなこと・。」
「いや、そんなことあるんだな。私だって主役になりたいって思うことはあるし、写真集だってさあ、出してみたいよ本音としては。でもね、これだけ人数いるんだから、誰かが脇役をやらなきゃいけないんだよ。それも、主役と同等の力でね。私は、自分はそういう役目なんだな、って最近は思ってる。そして、主役と同等な力も持ってるとも信じてる。」
「はい。」
「歌なら、なっちにも、後藤にも負けない。ダンスだって誰にも劣ってない。そういうつもりでいる。見た目は、まあ、ちょっと負けてるかもしれないし、アイドルとしては、そこが致命的な気もするけど、でも、だからって、あきらめた奴には何も手に入らないじゃない。」
「そうですね。」
- 123 名前:第十一章 投稿日:2001年12月08日(土)00時34分02秒
- 「それで、頑張ってきたんだ。
ただ、そのせいで今回はかなり空回りしちゃったよ。
紗耶香には、負けたくないって気持ちが強いんだよね。
その上、その紗耶香自体があっちじゃメインをはずされて、鈴木あみがメインになってる。
私があのこの子代わりにあそこにいたらどうだろうって、ちょっと考えた。
自信持てなかったよ、中村さんに認めてもらう。
悔しいけど、鈴木あみは、完全ではないにしろ認められてる。
モーニング娘。は、いろんな面でレベルが高いグループだとは思う。
そんな中で、唄がうまいって思ってもらえてるのはうれしいし、1番であろうとしてる。
でも、仮にモーニングの中で1番でも、それでも、外の世界では通じないのかもしれない。
つんくさんの元を、夏先生の元を離れて、自分一人になったら、何も出来ないのかもしれない。
そんなこと思ってたら、もっとうまく、もっといいものをってなってさ、頭ばかり先走って、後藤に怒られちゃった。」
「ごっちんが、あんなこと言うなんて驚きでした。」
- 124 名前:第十一章 投稿日:2001年12月08日(土)00時34分54秒
- 「後藤真希16歳。吉澤ひとみ16歳。保田圭20歳か。」
「なんですか、急に。それに、もうすぐ21じゃないですか。」
「いや、私が4つも上じゃん。学年にすれば5つ。それで、みんなには、おばさんとか時にはおばあさんなんて言われる。でも、さっきは、自分よりも後藤の方が全然大人に感じた。“市井ちゃんのために唄うんじゃない“か。そうだよな。そんなんじゃ、どんなに完璧な振り付けしたって、ファンの人たちは、喜んでくれないだろうし。」
「でも、私、誰かに負けたくないって気持ちを持つのは大事なことだと思いますよ。」
「うん。でも、それも、行き過ぎると問題でしょ。今回の私は行き過ぎ。つんくさんにも何度も言われたのに、また、同じ失敗しちゃったよ。人間って、成長するのもなかなか難しいな。」
「ホントそうですね。」
- 125 名前:第十一章 投稿日:2001年12月08日(土)00時35分45秒
- 「寝る子は育つなのかな?」
「なんですか?それ。」
「いや、後藤を見てるとさ、なんかそんな気がしてきた。あいつ、最近まで割とクールみたいな言われ方してたでしょ。」
「そうですね。そうでもないのに。」
「そう、そうでもないんだよね。でも、最近、そのそうでもないのを隠そうとしなくなったじゃない、あまり。」
「はい。」
「その辺が、大人になって来たなあって感じさせられるんだよ。」
「隠さないところがですか?」
- 126 名前:第十一章 投稿日:2001年12月08日(土)00時36分25秒
- 「うん。ダイバーの最終回で、後藤は子供なんです、なんて言ってたでしょ。」
「はい。」
「あれ、私たちはそんなの知ってるし、あの番組聞いてたひと達にも分かってると思うんだけどさ、改めてあんなこと言い出して、それで、自分は大人じゃないなんてさ。それって、ちょっと大人になってるから言えることじゃないかなあなんて思ったのよ。」
「そういうもんなんですかねえ。」
「吉澤にも分かるよ、そのうち。」
「なんですか、それ。私がまるっきり子供みたいじゃないですか?」
- 127 名前:第十一章 投稿日:2001年12月08日(土)00時36分57秒
- 「その答えは、自分で考えな。」
「ひどいなあ。」
「もう、寝よ。明日も早い。」
「なんか、それじゃ眠れないですよ。」
「ははは、おやすみ。」
「えー、・・・おやすみなさい。」
- 128 名前:第十一章 投稿日:2001年12月08日(土)00時37分49秒
- 保田さんもごっちんもいろいろ考えてるんだなあ。
一つだけ、私にも分かることは、二人とも、歌うのも踊るのも好きだし、市井さんのことをすごく好きなんだろうなってこと。
そして、モーニング娘。とプッチモニのことも。
自分の立場を見極めて、それを受け入れて、その上で頑張ろうとしている保田さん。
かなわないな。
センターだからとか、メインパートが唄えるとか、そんなの、長い時間で見たらあんまり関係ないのかもしれない。
ずーとサブだったって言う保田さん。
全然、ダメな人じゃないもん。
っていうか、見習うとこだらけだし。
そういう生き方もかっこいいって思う。
明日も頑張りましょうね、保田さん。
そして、ごっちん。
私も大好きだよ。
ごっちんも、保田さんも、モーニング娘。のみんなも。
おやすみなさい。
- 129 名前:作者 投稿日:2001年12月08日(土)00時51分06秒
- >>60-128 第十一章 衝撃の発表
>91
ユニットのメインをこういう形にしたのは、私なりの市井紗耶香像でもあります。
ここまで、市井自身は、結構すんなり来ています。
だけど、そんなに簡単には行かないだろう、と思うんですよ。
ちゃんとアルバム買ってはいませんが、”フォークソングス”の何曲か聞くと、上手い、と言う感じはないですし。
実際、中村正人の元でレコーディングしたらこうなるんじゃないかなと。
まあ、鈴木あみは、ボーカルレッスンを積んでいるという、都合のいい設定を使ってもいるのですけどね。
それと、ああいう形になったのを、保田が見て・・・みたいな展開がここでは出したかったです。
闇の住人さん以外にも、あれはいただけないなあ、って方が結構いるかとは思いますが、勘弁して下さい。
第十二章は、明日と言うか今晩。
全く別のショートストーリーとしても成立するのですが、市井の話としてつなげたかったので入れてみました。
ここまでではほとんど出て来ていない人が、第十二章の主人公です。
- 130 名前:第十二章 大切なゆうき 投稿日:2001年12月08日(土)22時29分53秒
- 真希ちゃんが、僕に何かを頼むというのは本当に珍しい。
別に喧嘩するようなことはあんまりないけど、頼られることなんて、まるで無いことだった。
「裕樹、暇なんでしょ。市井ちゃんと会ってきて。」
ひまってはっきり言われると頭に来るけど、まあ事実だから仕方ない。
かえって渡りに船って感じで都合良かった。
それは、真希ちゃんの頼みっていう理由が出来たから。
ぼくは、紗耶ちゃんに会いたかった。
もうすぐ、手の届かないところへ行ってしまいそうな紗耶ちゃんに伝えたいことがある。
- 131 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時30分47秒
- 初めて紗耶ちゃんに会ったのは真希ちゃんがモーニング娘。になって2ヶ月くらいたった頃だった。
僕のことを見るなり、こう言ってくれたんだ。
「後藤よりかわいいんじゃない?ねえ、モーニング娘。に入らない?」
- 132 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時31分24秒
- 真希ちゃんが、どの辺が娘なんだよー、といいつつ自分の部屋につれて行っちゃったから、最初はぼくの方はただの内気な後藤家の男の子っていう印象しか持ってもらえなかったと思う。
だけど、ぼくにとっては紗耶ちゃんは、その瞬間から心を締め付ける存在になったんだ。
なんとなく通っていた芸能スクールで、ちゃんとレッスンを受けるようになったのはあの頃からだったのかもしれない。
そのおかげでか、今はEE JUMPになれた。
ただ、なったのはいいけれど、今はこんな状態だったりもする。
でも、こんな状態にしてしまったぼくの行動は、やっぱり紗耶ちゃんのことがあったからなのかもしれない。
- 133 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時32分46秒
- 紗耶ちゃんがモーニング娘。じゃなくなってから、ぼくたちはすごく頻繁に会うようになっていった。
最初は真希ちゃんを訪ねてうちへ来てたんだけど、しだいに、真希ちゃん抜きでもぼくと会ってくれるようになってくれた。
だって、日本一忙しい中学生よりも、デビューするかしないか位の時期だったぼくのほうが時間は十分にあるから。
きっとそれだけの理由だったんだと思うけれど、それでも、かわいがってた後輩の弟、という存在から後藤裕樹としてぼくのことを見てくれるようになった気がして、毎日がすごく楽しくて、朝起きることが待ち遠しい日々でした。
- 134 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時33分56秒
- 「裕樹君、時間ある?」
紗耶ちゃんからの電話は、いつもその一言で始まる。
“ゆうき“ってほんとは呼んで欲しいのに、いつまでたってもそういえなくて、”君“ってつくたびに距離を感じて、それでも会えることがうれしかったあの頃。
真希ちゃんは、“いつものけ者にして”って怒ってたけど、ぼくには、そんなことは全然気にならなかった。
だから、近所の、小さな頃から遊んでたようなところで紗耶ちゃんのこと自慢してあるったりもしちゃってた。
それが、あんな風に週刊誌に載ってしまうなんて・・・。
あれからすぐに全然会わなくなったわけじゃないけれど、ぼくの方の仕事も忙しくなった時期だから次第に遊びに来てくれることもなくなっていった。
最後に会ったのは、7月の半ばくらいだったかな。
紗耶ちゃんは、自分で書いた詩をいろいろと見せてくれた。
- 135 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時34分36秒
- 「そんな、簡単にすごいなんて言うなよー。」
ぼくが、すごいねって誉めたら、照れてそう笑ってた。
あれが、最後に見た笑顔。
ちょっとしばらく忙しくなるかも、って言うから、復帰するの?って聞いたら、“それはまだ先だけど、でも、しばらく遊べないかも”って言われて・・・。
そっか、ってそのときは受け入れたんだけど、仕事をしているうちに切なさがつのって、ストレスもたまって、こんな事になっちゃいました。
- 136 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時35分08秒
- 「裕樹君なの?今一人だけ?」
久しぶりに紗耶ちゃんに電話したら、それは留守電だったんだけど、ぼくが名乗ってメッセージだけ残して切ろうとすると、こう言って電話に出てくれた。
- 137 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時35分47秒
- 「だめだよー、仕事はすっぽかしちゃ。もう、古い話なのかもしれないけど。」
そして、その次がこれ。
こっちが話を切り出す前に怒られちゃった。
真希ちゃんも、こうやって怒られてたのかなあ。
ちょこっと嫉妬の気分だ。
- 138 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時36分25秒
- 「話があるから、会いたいんだ。」
ぼくがしたい話ってなんだろう。
自分のこと?
真希ちゃんのお願い?
紗耶ちゃんの今を聞きたいの?
多分全部なんだけど、紗耶ちゃんにどう伝わったのかが、ちょっと怖い。
- 139 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時36分56秒
- 「うーん、最近はさすがに忙しいんだけど、仕事行く前の朝ならいいよ。」
うん分かったって電話を切る。
もっと話していたかったけれど、言いたいことは顔を見て言いたい。
朝は、紗耶ちゃんに一番似合う時間かなあ、なんて思いながら、ぼくは眠った。
いや、眠ったつもりなんだけど、ベッドの中では目がさえていて、いろんな事を考えてしまう。
もしかしたら、もう会えなくなってしまうかもしれないなあ、という思いは、ものすごく怖いものだ。
- 140 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時37分29秒
- 翌朝、ほとんど寝てない自分の目をこすりつついつもより早く起きると、台所では真希ちゃんが牛乳を飲んでいた。
「裕樹、早いじゃん。ちゃんと起きれたんだ。」
「うん・・。」
頭がまだよく働いていないぼくに向かって、いつもは出かける前は寝ぼけまなこの真希ちゃんが、珍しくすらすらとしゃべっている。
- 141 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時38分10秒
- 「裕樹、私はね市井ちゃんと話したいことはたくさんあるの。
言いたいことがたくさんある。でもね、それは自分で会って話したいんだ。
だから、裕樹に頼むのはこれだけ。
今、市井ちゃんは幸せなの?ってことと、私や、プッチモニや、モーニング娘。を嫌いになったわけじゃないよね?っていう、この二つだけは絶対聞いてきて。」
- 142 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時38分50秒
- なんで、紗耶ちゃんは真希ちゃんに会ってあげないんだろう。
忙しいってだけの理由じゃないことはぼくにだって想像は付く。
電話にも出ないんだから。
ぼくからの電話は、ぼくのことを確認して出てくれたのに。
- 143 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時39分27秒
- 「お願いね、裕樹。わたし、もう迎え来てるから行くね。」
本当は、真希ちゃんが時間が合えばこっそり連れていって上げようかとも思ってた。
でも、やっぱり、自分の姉貴がいる前じゃ言えないようなことも言おうとしてるんだし、これで良かったのかな。
改めて、モーニング娘。の忙しさを確認する。
紗耶ちゃんの方がまだ時間に余裕あるんじゃんか、と思う。
- 144 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時40分01秒
- 「真希ちゃん。」
「ん?」
「ありがとう、頑張ってね。」
真希ちゃんがいなかったら、ぼくが紗耶ちゃんに会うこともなかったのだろうと思う。
だから、よく分からないけれど、ありがとうって言いたくなったんだ。
- 145 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時40分40秒
- 「なに、突然。まあ、いいや、裕樹も頑張れよ。私のことだけじゃなくて、裕樹の言いたいこと、市井ちゃんに言ってもいいからね。」
どきっとした。
真希ちゃんは、もしかしたらぼくの気持ちを知ってるのかもしれない。
姉貴にそういうの知られるのって、ものすごく恥ずかしい。
どきっとして、返す言葉を失ってたぼくが、次の言葉を発する前に真希ちゃんは出ていってしまった。
- 146 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時41分14秒
- 紗耶ちゃんが指定した場所は、紗耶ちゃんちの近くの公園だった。
一応芸能人なぼくが、そこに向かうのに乗ったタクシーで場所を告げても、どこのことかよく分かってもらえない程度の、普通の公園。
ぼくの方が先に着いたみたいで、ぼけーと座っていると、首筋にあったかい何かをあてられた。
「あつっ!」
驚いて振り向くと、まだ時期的には早いのにコートまで着てる紗耶ちゃんが、午後の紅茶をふたつもっていたずらっぽく笑ってる。
- 147 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時41分52秒
- 「レモンとミルク、どっちにする?」
レモンとミルク。
どっちも、キスの味として聞いたことがあるようなものだけど、ぼくのファーストキスの味になってくれたらいいのに。
- 148 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時42分26秒
- 「いっ、いや、どっちでも。」
「なに緊張してるんだよー。なんか、最初に会った頃思い出すよ。」
「別に、緊張してるわけじゃないけど・・・。」
「そう?」
公園のベンチに座ってる紗耶ちゃんとぼく。
ちょっとでも恋人同士に見えたりはしてくれないだろうか。
- 149 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時42分57秒
- 「まださあ、コートは早いんじゃないかなあ?」
「えー、いいじゃん。寒いんだから。それに、ちょっと変装の効果も狙ってるんだよ。」
「でも、余計目を引くんじゃないかなあ。」
「そうかなあ。でも、寒いんだもん。裕樹君だって寒いんでしょ?」
「へ?」
「その手。」
気づくと、ぼくはふたを開けていない午後の紅茶で、手を暖めてた。
- 150 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時43分28秒
- 「もう、ミルクティーを選ぶなんて子供なんだから。」
「自分が先にレモンティーとったんじゃないか。」
「レモンティーは大人の味なのです。」
「自分で大人って言う人は、まだまだ子供だよ。」
- 151 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時44分19秒
- 紗耶ちゃんには子供でいて欲しい。
だって、ぼくがまだまだ子供だから。
15歳と17歳という年齢は、やっぱりお姉さんと弟って感じで、精神的にもそういうのがあるのが分かってしまうのがちょっと寂しく感じてしまう。
- 152 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時44分54秒
- 「そ・れ・で、話があるんでしょ。」
何から話したらいいんだろう。
っていうか、話すと言うよりは、聞く感じなんだけど。
とりあえず、自分のことは最後にして、聞かなきゃいけないことがある。
- 153 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時45分27秒
- 「いいよ、何聞いても。大体は分かってるよ。私が呼び出された理由。」
「え、なんで。」
「私だってバカじゃないんだから。裕樹君が私と遊びたいってだけの理由でこんな朝の時間に合わせてくれるわけないの位分かるよ。私の復帰のことなんでしょ。」
「うん・・、そう。」
「でも、大体は分かるけど、具体的に何が聞きたいのかまでは分からないよ。多分、裕樹君はお姉さまから何か言付けを授かってるのではなかろうか、って予想はしてるんだけど、どう?」
紗耶ちゃんは、真希ちゃんのことをいつもは“後藤”って呼んでるみたいだけど、ぼくの前ではさすがにそう呼びはしない。
そのかわり、いつもなんて呼ぼうか頭を使いながら、真希ちゃんのことだって分かるようにぼくに伝えてくれる。
- 154 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時46分05秒
- 「あたり。じゃあ、ストレートにそのまま聞くけど、紗耶ちゃんは、今、幸せ?」
「ストレートって言うかなんて言うか、どっちにしても答えづらい質問だなあ。」
「はっきり言えって言ったの紗耶ちゃんじゃん。」
「そうなんだけどさあ、裕樹君は、自分が今幸せかどうかって分かる?」
「うーん、今は、謹慎というか休養というか、こんな身分だから、幸せっていう風には言えないかもしれないけど、でも不幸とは違う気もするし、どうなんだろう。わかんない。」
「でしょ、私もわかんないよ。復帰したくて、復帰できたって意味では幸せなのかもしれないし、あみと歌ってるのは楽しいよ。でも、作詞がダメならデビュー取りやめとかさ、きつい試練もあったし、歌の方ではあみがメインみたいになって、結構ショックだし。ただ、やっぱり裕樹君と一緒で、自分が今不幸だとは思わないよ。」
- 155 名前:第十二章 投稿日:2001年12月08日(土)22時46分59秒
- 真希ちゃんは、幸せって言葉を使ったから、そのまま聞いてみたけど、もしかしたら本当はちょっと違うことが言いたかったのかもしれない。
それがどういうことなのかはぼくには説明できないんだけど、でもそんな気がする。
だから、紗耶ちゃんの答えは、不幸じゃないってだけでいいかなと思う。
それよりも、きっとこっちの方が大事なんだろう。
- 156 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時05分16秒
- 「じゃあ、もう一つ。真希ちゃんや、モーニング娘。の他の人たちに連絡を取らないのは、真希ちゃんやプッチモニやモーニング娘。を嫌いになったからなの?」
- 157 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時06分21秒
- 紗耶ちゃんにとって、それはある程度予想してた質問みたいであり、軽く何度か頷いてそれからはっきりと答えてくれた。
「後藤真希のこと、プッチモニのこと、モーニング娘。のこと、私は嫌いになったことは一度もないよ。
今ももちろん愛してる。だけど、それを疑われちゃってもしょうがないような行動してるよね私。
今はね、あんまり会いたくないんだ。
こっから先は裕樹君の心だけにとどめて欲しいんだけど、私自身不安なんだ、みんなに置いて行かれたような気がして。
ちょっと自信がもててないんだ。だけど、会いたいって気持ちもあるのよ。私の心の中は半々。
多分私一人ならきっともっと早い時期に会ってるよ、誰かしらに。」
私一人ならってどういうことだろう。
それに、ぼく一人の心にとどめるって、じゃあ、何で話してくれるんだろう。
- 158 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時07分49秒
- 「あみがね、すごい不安がるの。私がモーニングの話をすると。
あみはずっと一人でやってきたから、そういうグループのつながりみたいなものにあこがれがあるみたいなんだ。
それに、事務所とも裁判までやっちゃったし、最後には親とも喧嘩別れみたいにしてでてきちゃってさ、多分一人になるのが怖いのよ。
私はそんなつもりはないんだけど、モーニングやプッチモニの話をすると、自分が捨てられるんじゃないかって思うみたい。」
「あみさんが、全部悪いって事?」
「悪いとか、そんなんじゃないのよ。ただ、不安なだけ。
いろいろあって自信なくちゃってたからさ彼女。
私がみんなに連絡しようとしたら、止めてっていうんだ。
裕ちゃんの番組出るときは、私と裕ちゃんが収録の後とかに会わないようにいろいろやってるし、ちょっとうざい気もしたけど、でも、あみの不安な気持ちも分かるから。」
- 159 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時08分28秒
- 「じゃあ、あみさんとユニット組んでる限り、真希ちゃん達とはずっと会わないって事?」
「そんなことはないと思う。大体、シングル発売日プッチと同じ日だよ。絶対どこかの収録で会うって。」
「真希ちゃんは、多分そういうこと言ってるんじゃないと思うけど。」
「ああ、それは分かってるよ。会って、ちゃんと普通に話して、楽しく笑ってられるか、みたいなことでしょ。大丈夫。あみも歌でメインになって自信取り戻したみたいだし、もうすぐ会えるよ。」
「そっか。良かった。」
- 160 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時09分05秒
- 「あのさ、とりあえず、ホントの理由はそういうことなんだけど、表向きは、次に会うのは私がステージに立つときだって言ったのを真剣に守ってるからってことにしておいて。」
「そんなこと言ったの?」
「いや、3月にソロシングル出したじゃん、あいつ。あの時に、なんか勢いで言っちゃったんだよね。ただの冗談だったんだけど、都合良くあれから一度も会ってないからさあ、そういうことにしといて。」
「紗耶ちゃんは有言実行をモットーとしています、とでも言っておくよ。」
「ははは、そうでもないけどね、留学してないし。まあ、とりあえず、それでお願いします。」
- 161 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時09分37秒
- 安心した。
紗耶ちゃんが、真希ちゃんや、モーニング娘。の人たちを嫌いになるわけはないと思ってたけど、でもちょっと不安だったし。
誰かを嫌いになってしまった紗耶ちゃんをぼくは見たくない。
- 162 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時10分13秒
- 「いやー、話したらちょっとすっきりしたよ。裕樹君だけにでも分かってもらえたみたいだし。ただ、あみのこともあるからさ、本当の話はまだ裕樹君の胸の中だけにしまって置いてね。」
「うん、分かってるよ。」
「紅茶さめちゃったね。飲んで飲んで。紗耶香様のおごりだよ。」
「おごりって、えばるほどのもんじゃないじゃん。缶ジュースの午後の紅茶一本くらい。」
「なんだと、中学生のくせに。中学生にとって缶ジュースの一本は、お小遣いから買おうか買うまいか、悩んで悩んで手に入れるものじゃないのか?」
「いや、その、ありがたくいただきます。」
「うん、よろしい。」
- 163 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時10分47秒
- ちょっとぬるめのミルクティ。
別においしくはないんだけど、ほっとひといきっていうかんじ。
真希ちゃんに託されたぼくの使命はもう終わり。
ここからは、ぼくの時間だ。
- 164 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時11分19秒
- 「裕樹君と会うのも久しぶりだね。」
「うん。」
「まあ、用件は済んじゃったんだろうけどさ、私仕事までまだ時間あるんだよね。」
「それまでつきあえって言ってる?」
「うん、言ってる。」
「こうやって、後藤家は紗耶ちゃんに支配されてきたんだなあ。」
「別に支配なんかしてないよ。何、帰りたいの?」
「いや、そうじゃないけど。」
そうじゃないけど、これで、何も言えなかったときの言い訳がなくなちゃった。
- 165 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時12分01秒
- 「裕樹君は、何してるの最近。」
「いや、まあ、家でごろごろと。」
「なんだよー、単に仕事さぼってそんなごろごろしててどうすんだよ。ボーカルレッスンとか通えば。」
「だって、レッスンも仕事の一つだもん。そんなのダメに決まってるじゃん。」
「そっか、そうだよね。」
「でも、久しぶりに毎日学校に行くと、結構いいよ。」
「なに、学校でかわいい女の子でも見つけた?」
- 166 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時12分38秒
- 目の前にいる紗耶ちゃんよりかわいい子なんかいないよ。
そう、思ったけれど、そんなこと言えるわけもない。
なんとなく、黙り込んでしまった。
- 167 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時13分10秒
- 「なんだ、図星なのか?裕樹君も隅に置けないなあ。」
「紗耶ちゃんは、何も分かってないの?」
「へ?」
- 168 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時13分54秒
- ぼくの気持ちには全然気づいてくれない紗耶ちゃん。
歌の世界に復帰した彼女は、もしかしたらまた、手の届かない存在になってしまいそうだから。
もう、ぼくの気持ちは抑えられなくなってった。
- 169 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時14分25秒
- 「紗耶ちゃんは、ぼくの気持ちは何も分かってくれてないの?」
「裕樹君の気持ち?」
「真希ちゃんに頼まれたから呼び出したわけじゃない。ぼくが紗耶ちゃんに会いたかったから、今日ここに呼び出したんだ。」
「・・うん。」
「ぼくが、今、謹慎みたいな感じで仕事を休んでるのだって、元は紗耶ちゃんのせいだ。」
「私の・・せい?」
「紗耶ちゃんが、しばらく会えないなんて言うから、だから、寂しくて、不安で、周りの人は大人になれって感じで接してくるし。後藤真希の弟としか見てくれないし、そんなこと真希ちゃんには話せるわけないし。紗耶ちゃんに会いたかったよ。」
「裕樹君・・・。」
「ごめん、紗耶ちゃんのせいじゃないよね。ぼくが悪いんだよ。そんなのは分かってる。でも、会いたかったんだ。ずっと好きだったから。初めてあったときから。真希ちゃんがうちに連れてきたときから。」
「そう・・だったんだ・・。」
- 170 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時14分55秒
- 紗耶ちゃんの顔を見るのが怖くて、ぼくは芝生の上で駆け回る子犬を眺めながらしゃべってた。
だけど、本人の目を見て、はっきり伝えたいと思う。
ぼくを座り直して、紗耶ちゃんの方に向き直って、もう一度、自分の思いを伝える。
- 171 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時15分33秒
- 「市井紗耶香さん。ぼくは、あなたを一目見たときからずっと好きでした。どこがどう好きとかは、よく分からないけれど、あなたのことがずっと好きでした。あなたが、ぼくのことをどう思っているか聞かせて下さい。」
- 172 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時16分06秒
- こんな事を人に言うのは初めてのこと。
こういう想いを持ったのも初めてのこと。
たぶん、紗耶ちゃんはぼくのことをそういう目では見ていないと思う。
そんなことは分かってる。
だけど、伝えずにいられなかった。
- 173 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時16分39秒
- 「・・・ありがとうね。わたし、全然気づかなかったよ。ずっと悩ませちゃっててごめん。私にとっての裕樹君は、大事な友達かな。正直に言って、恋愛の対象としてとしてとして見たことはないです。」
- 174 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時17分15秒
- 予想通りだった。
あーあ、初めての告白は、失敗かあ。
でも、もう一つだけ確かめたいことがあるんだ。
「お願い。もう一つだけ、聞かせて。紗耶ちゃんにとってぼくは、後藤真希の弟ですか?それとも、後藤裕樹ですか?」
- 175 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時17分54秒
- これだけは確かめずにいられなかった。
紗耶ちゃんがぼくのことをぼくとしてみているのか。
もしそうならば、それだけでもう充分。
それ以上望んでしまうのはきっと罰が当たる。
- 176 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時18分33秒
- 「裕樹君は、私にとって大事な友達だよ。そりゃあ、最初は真希の弟っていう位置づけだったと思うよ。でもね、真希と裕樹はそれぞれ一人の人で、今は私にとってそれぞれに大事な人だよ。」
「・・・ありがとう、ありがとうね。」
「なんだよー、泣くなよー。」
- 177 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時19分04秒
- 自分では気づかなかったけど、いつの間にかぼくは泣いていたらしい。
美しい紗耶ちゃんの顔がゆがんで見える。
「泣いてなんかないよ。紗耶ちゃん、・・ありがとうね。」
「もう、しょうがないなあ、紗耶香お姉さまが慰めて上げよう。」
紗耶ちゃんがぼくのことを抱きしめて、頭をなでてくれた。
思いはかなわなかったけれど、もう、充分幸せだよ。
- 178 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時19分41秒
- 「裕樹、ありがとうね。裕樹に好きだっていってもらえた私は幸せ者だよ。ごめんね、ずっと気づいて上げられなくて。」
「紗耶ちゃんに会えて良かった。」
「私もだよ。裕樹、ずっと仲良くしてようね。もしかしたら残酷な言い方なのかもしれないけど、裕樹は私にとってすごく大事な友達だよ。」
「うん、ありがとう。」
- 179 名前:第十二章 投稿日:2001年12月09日(日)11時20分30秒
- 友達か。
でも、ずっと仲良くしようって言ってもらえた。
それって、紗耶ちゃんにとってぼくがかけがえのない人ではあるってことだよね。
紗耶ちゃんに抱きしめられて、泣きながらそんなことを思っていました。
- 180 名前:作者 投稿日:2001年12月09日(日)11時28分54秒
- >>130-179 第十二章 大切なゆうき
第十二章終わりです。
この話は、公園に着いたあたりからを、午後の紅茶を小道具に間接キスをテーマにアレンジして、第四回短編コンテストに応募することも考えていました。
だけど、そうすると、この二人の話をまた新たに書かないとここに入れられなくなるのでやめて、ここに持ってきたという経緯があります。
この第十二章は、第五章をアップしおえた時点で、すでに書き上がっていると書いた第十章がスライドしてきたものです。
なので、こんな後の方の話なのに、かなり早い時期に出来ていました。
こんな風に、後半の話しを早い時期に書いてしまって、中を詰めていくのに悩む、なんてのは私くらいなんでしょうか?
皆さんやっぱり、最初から順繰りに書いていくものなんでしょうかねえ。
さて、もうすぐこのはなしもおしまいです。
これから、頑張ってラストを書くこととします。
- 181 名前:第十三章 デビュー 投稿日:2001年12月10日(月)04時56分21秒
- 私たちの再デビューの日がいよいよ近づいてきた。
レコーディングから2週間。
私と紗耶香は、雑誌の取材などの仕事をまじえつつもレッスンに励んだ。
紗耶香がピアノ。
私がメインボーカル。
もちろん、紗耶香はピアノを弾くだけじゃない。
だけど、メインは私。
初めて、自分の存在が、紗耶香にとって必要なはずだ、と信じることが出来る場所を手に入れた
- 182 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)04時56分58秒
- プロデューサーの中村さんの方針で、私たちのテレビ収録では基本的に口ぱくは無し。
だから、レコーディングでの、何度も唄った中のいいとこ取りというのと、同じレベルを一発で出すことが常に要求される。
アイドルだった頃とは大きな違い。
紗耶香の方は、それプラスピアノもある。
中村さんは、イントロと間奏部分にピアノソロを作った。
そこを弾く紗耶香は、本当に気持ちよさそう。
ただし、レッスンの大変さは、私の比ではない。
彼女にとって、ピアノだけならともかく、ピアノ演奏をしながら唄うというのはかなり困難ことのようだ。
だから、メインボーカルの方が大変と言うことも、目立つと言うことも無いのだろう。
- 183 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)04時57分29秒
- それでも、私がいなくてはこの曲は成り立たない。
私が唄わなければこの曲は成り立たない。
紗耶香が書いた愛の唄。
私は、心を込めて、多くの人に届けたい。
- 184 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)04時58分03秒
- 再デビューシングル、初めてのテレビ収録。
中村さんと事務所が選んだのは、NHKのPOPJAM。
理由は、最初に唄うのは、お客さんがたくさん目の前にいるところがいいだろうというのと、それともう一つ私の問題。
下手をすれば業界追放というところまで行ってしまっていた私は、再デビューシングル最初のテレビ登場にするのを民放はいやがったようだ。
ああ、ASAYANは、怖いもの知らずだから、なんか別扱いみたいだけど。
その結果、最初はNHKに出演。
まあ、他の局の番組も、結局その後順繰りに出ることになってるから、これでなんとか晴れて私も復帰できることになったと、ようやく安心できる。
- 185 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)04時58分40秒
- でも、最初が、3000人のお客さんの前というのは緊張する。
それに、あそこは、何があっても口ぱくは無しだし、歌詞間違えても取り直しも無し。
中村さん、そこも狙ったのかなあ?
ギリギリになっても、逃げ道が無い場所を一発目にしようってことなのかもしれない。
そんなこんなで、私たちは、NHKホールの控え室にやってきた。
- 186 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)04時59分28秒
- 今日の仕事、私にとっての大問題は、唄収録だけじゃない。
あの、プッチモニもいるのだ。
っていうか、今日だけじゃなくて、これからほとんどどの番組でも彼女たちと同じ出演日。
まあ、リリース日を同じ日にしようって最初に言ったのホントは私だし、そうすれば、話題性とかいろいろあって、どの局も同じ出演日にするだろうってのは、よく考えてみれば当たり前なのだけど・・・。
失敗したかな。
- 187 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時00分02秒
- 紗耶香に捨てられるとはもう思ってない。
でも、気分的には、あまりいいもんじゃない。
最近の紗耶香はいろいろと悩んでいるように見える。
でも、一言もそんなことは私に言ってくれない。
頼りにならないのかなあ・・・。
って、ずっと自分の方が頼っておいて言う台詞じゃないけど。
そこで、プッチモニ登場、保田さん後藤さん登場ってなったら、・・・・・。
そうは言っても、しょうがないんだけど、でも、ソニンちゃんの寂しさが分かるなあ。
- 188 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時00分42秒
- 「紗耶香、緊張するね。久しぶりだよ、お客さんの前って、どうしよう。」
「私のが久しぶりだよ。あみは、1年ぶりくらい?」
「うん。確か、去年の紅白以来。」
「私、もっとだよー。1年半以上。その上、ピアノソロどうしよう。」
「今日来てるのって、ファンの人って訳じゃないんだよね。テレビの収録だから。ブーイングされたりとかしないかな。」
「それは、多分無いだろうけど、でも、怖いね。」
「うん・・。」
- 189 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時01分17秒
- 紗耶香でも、やっぱり緊張するんだ。
二人いるって、こういうときに心強い。
今までずっと一人だったから、楽屋で話す人は大人の人っていうか、ずっと年上の人が多かったし、緊張とか怖さを共有できる人はいなかった。
久しぶりのステージ。
3000人のお客さんの前で唄う。
テレビ収録だから、ライブとはちょっと違うけど、でも、今日は1曲だけじゃないし。
番組サイドも、二人の復活というのを全面に出してくれるらしく、トークのコーナーもかなり用意されているそうだ。
- 190 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時01分54秒
- 「あみ、ちょっと出てくるね。」
紗耶香は、大事そうに袋を抱えて部屋を出ていこうとしている。
- 191 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時02分32秒
- 「え?どこ行くの?」
「ん?うん。あのさ、今日の共演者に、たいせーさんっているんだけど、いろいろとお世話になってる人なのよ。」
「たいせーさん?」
「うん、シャ乱Qのメンバーだった人でね。」
「ああ、つんくさんの友達?」
「まあ、そんなところ。一回さあ、私があみを誘う頃に、一緒に組まないかって誘われてるって言ったじゃん。それが、たいせーさんなんだ。」
「えー?じゃあ、もしかしたら、その人のせいで、私デビューできてなかったかもしれないんじゃん。」
- 192 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時03分02秒
- 「そうなんだよね。それで、断っちゃったから、どうするのかなあって思ってたら、私と同じ名字の人見つけてきて、ユニット組んだらしいのよ。」
「なにそれー。名前にこだわりがあるのかな?」
「なんだろうね。私もびっくりしちゃってさ、あの断ったときからちゃんと会ってないから、この辺でご挨拶してこようと思って。」
「大丈夫?また誘われて、じゃあ3人で、とか言い出したりしないでしょうねえ。」
「大丈夫だよ。それなら最初からたいせーさんとやってるよ。」
「そっか、早めに帰ってきてね。」
「うん。分かった。いってきまーす。」
「いってらっしゃーい。」
- 193 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時03分32秒
- 笑顔で出ていった紗耶香。
私は、心の中に巻き起こるいろいろな複雑な感情を抑えながら、出ていったそのドアをしばらく見つめていた。
- 194 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時04分03秒
- 「後藤!だめ。」
「なんでー。」
「こっちから挨拶に行く必要なんか無い。」
市井さん達が今日、同じステージに上がると知って楽屋へ挨拶って言うか、会いに行こうとするごっちんを、保田さんはしきりに止めている。
- 195 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時04分38秒
- 「市井ちゃん、別に私たちのことが嫌いな訳じゃないんだよ。ステージに立つときに会えるって言ったんだから、それは今日のことじゃん。行こーよ。そんな、すねてないでさ。」
「すねてなんかいないわよ、別に。ただ、こっちから何度電話しても出ない奴に、こっちから会いに行く必要はないって。」
「それが、すねてるって言うんじゃん。」
「すねてるんじゃなくて、ちょっとむかついてるだけだよ。うちらには会わなくて、裕樹君には会うってどういうことさ。」
「圭ちゃん。会いたいの?会いたくないの?どっち?」
「会いたいよ。会いたいけど、なんて言うか、拒否されるの怖いし、また。だから、どうせリハーサルで会うんだし、そのときでもいいかなって。」
「何、片思いの小学生みたいなこと言ってるんだよー。おばさんのくせに。」
「だから、おばさんはやめなさいって。」
- 196 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時05分13秒
- 二人の口論というかじゃれ合いというかは、とまらない。
私としては、市井さんにわざわざ会いに行く気は全然なかった。
そりゃあ、先輩だし、リハーサルで会えば、挨拶もするだろうし、もし、二人しかいないようなシチュエーションになれば、いろいろと話すかもしれない。
でも、ちゃんと話するような、親しくなる時間は、私にはなかった。
私が市井さんから受けた影響は、市井さんがやめてからの方が断然多い。
正確に言えば、市井さんに影響を受けた訳じゃなくて、その幻影というか、そういったものと比べられてたわけだし。
別に、そんなの、まあ、復帰が決まった当初はちょっと動揺もあったけれど、今はもう気にしてないし、私は私、市井さんは市井さんって思えるし、そう自信を持って言える。
正直に言えば、もはや過去のちょっと知ってる人でしかない。
もちろん、すごい人だとは思うけど。
だから、わざわざ会いに行く気にならないんだよね。
もうちょっと、親しみがわく位の時間を共有していれば、また違ったのだろうけど。
- 197 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時05分45秒
- 「よっすぃーはどっちの味方なの?」
「へ?」
「へ?じゃないよ。市井ちゃんに会いに行くの?行かないの?」
「後藤。吉澤に振るなよ。吉澤と紗耶香は、そんなに接点無かったんだし、なあ。」
「いや、まあ、そんなつもりは。」
「じゃあ、どっち?行く?行かない?」
「わたしは・・。」
どっちでもいい、って答えようとしたそのとき、ドアのノックの音がした。
- 198 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時06分20秒
「よっすぃー。わたしはなんなの?はっきりいおーよ。」
「いや、ノックされてない?」
「ノック?」
もう一度ノックされる。
「ホントだ。もう、圭ちゃんがしつこいから、リハーサル始まっちゃうじゃん。」
「いいじゃんか、リハーサルで会えるだろ。はーい。どうぞ。」
初めはためらい気味に、そして、途中から一気にドアが開く。
- 199 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時06分52秒
- 「ハロー。みんな元気だったかい?」
入ってきたのは、市井さんだった。
- 200 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時07分23秒
- 「紗耶香!」
「市井ちゃん!」
二人が声を合わせて叫ぶ。
「久しぶり。」
市井さんが、はにかみながら入ってきた。
「元気だった?ってあいさつでいいかな?」
「よくないに決まってるでしょ。」
「いいんじゃない。市井ちゃんも元気そうじゃん。」
- 201 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時07分53秒
- 文句を言いたげな保田さん。
会えたからそれでいい、っていう感じのごっちん。
二人の対照的な言葉に、市井さんはとまどいを隠せない。
私自身も、なにか言った方がいいのか、黙って見てた方がいいのか、悩みつつ見てしまう。
- 202 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時08分30秒
- 「いや、まあ、元気だよ。」
「それで、なんで電話にも出てくれなかったのか説明してもらおうじゃない。」
「いいじゃん。別にそんなの。そりゃあ、裕樹とだけ会ったのは納得いかないけどさ。それより、新曲はどんな曲なの?後藤、まだ聞いてないんだよね。」
「いいや、納得いかない。説明してよ。」
「新曲の?」
「そうじゃなくて。」
「ははははは。」
ごっちんと保田さんの絡み合いを見て、市井さんが突然笑い出す。
- 203 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時09分10秒
- 「なんだよ。何がおかしいんだよ、紗耶香!」
「ごめん。いや、なんかさ、変わってないなって思って。」
「変わってないって、なんか成長無いみたいじゃん。後藤だって、頑張ってたんだよ。」
「ごめん。それは分かってるんだけど、そういうことじゃなくて、なんか、ほっとした。」
「ほっとした?」
「うん。これでもねえ、結構ドキドキしたんだよ。この楽屋来るの。誰?とか言われるんじゃないかとかさ。」
「そんなのあるわけないじゃん。」
「いや、でも、なんか、わざと無視されたりするかなって。」
「自覚はあったんだ。そういうこと言われかねないっていう。」
「圭ちゃん!」
「いや、いいよ。圭ちゃんの言うとおりだし。」
「市井ちゃん・・・。」
- 204 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時09分41秒
- 黙り込む三人。
私を、黙っているつもりだったのに、それを見て、つい口を挟んでしまう。
「市井さん。保田さんも、市井さんのことが嫌いでこんな風に言ってるんじゃないんです。」
「よしざわ!いいよ。」
- 205 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時10分12秒
- 「いえ、言わせて下さい。保田さんは、市井さんの復帰を知って以来、ずっとテレビで市井さんのことを見てました。復帰を一番喜んでたのも保田さんです。負けられないって、頑張って、それで空回りみたいになってしまうこともあって、それでつんくさんに怒られる保田さんを見るのはすごく辛かった。保田さんなら、そんなことでダメにならないって分かっていても、はためにそんな姿を見るのは、悲しかった。なのに、市井さんは連絡もしてこないどころか、こっちからの電話も出ないでいる。」
「吉澤、いいよ。別に紗耶香のせいじゃないし。」
- 206 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時10分44秒
- 「保田さんだけじゃない。ごっちんだって、本当は寂しかったはずです。市井さんが復帰する、っていうのを最初にASAYANでやった次の日、なんて言ったと思いますか?市井ちゃんがいたから、私はまともにモーニング娘。になれた。市井ちゃんがいなかったら、努力が嫌いな私は1ヶ月くらいで、つらさに負けて投げだしてたかもしれない。逃げだしてたかもしれない。だから、すごく迷惑もかけたと思う。モーニングに帰ってきて欲しいけど、そうはならないかもしれないけど、後藤は頑張ってきたんだっていうのを市井ちゃんに見てもらうんだ。誉めてもらうんだって。そう、うれしそうにはなしてました。そんな風に言ったのはそのときだけで、後はずっと普通に、自然な感じで、何事もなかったように仕事してたけど、絶対すごく会いたかったと思うんです。プッチの新曲で詩をつけるときも、なにも言わなかったけれど、ごっちんがつけた詩は、たぶん、市井さんのことでした。それくらい、ごっちんにとって、市井さんって大事な人なんです。」
「よっすぃー・・・気づいてたんだ・・。」
- 207 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時11分17秒
- 「市井さんは、分かってないんですか?自分が、保田さんや、ごっちんにとって、どれだけ大事な存在とされてるか。自分が復帰するってことで、二人がどれだけ喜ぶか。それを、拒絶するようなことして、どれだけ、二人が傷つくか、悩んだか、いろいろなことが起こるか。」
「ごめん。二人とも。本当、二人ともごめん。」
- 208 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時12分06秒
- 「私だって、市井さんのこと嫌いで、嫌がらせでこんなこと言ってるんじゃない。私も市井さんの復帰が決まって悩んだんです。もう、ずいぶん前のことっていう気がしてたけど、市井さんがやめて、私がプッチモニに入って、そのころ、どうしても私は市井さんと比べられてました。それがすごく嫌だった。私は吉澤ひとみなのってみんなに言って回りたいくらいだった。他の人ならともかく、あの市井さんと比べられて、同じ事が出来るわけない。でも、同じようにしなくちゃいけないかとか、すごく悩んだ時期がありました。たぶん、そのころはごっちんも保田さんも、私をどう受け入れていいのか悩んだと思います。市井さんと二人のつながりってとても強いものだったし。でも、二人は、そんな素振りを私には見せずに、最初はちょっと不自然ではあったけど、何も言えずに受け入れてくれました。それから、だんだんと、自分の姿を出せるようになって、今の自分があります。そこに、市井さんが帰ってくるかもしれない。本当に怖かった。自分はどうなるんだって。」
「吉澤は・・、私とは違うよ。私が戻ったって、吉澤がどうにかなるなんてことはない。」
- 209 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時12分52秒
- 「事実はそうかもしれない。でも、悩んだ。苦しかった。正直、市井さんが戻ってこないのが分かったとき、ちょっとうれしかったんです。それで、今度は、そんな自分が嫌になったりもしました。市井さんが復帰するっていうことで、これだけのことが起きてるんです。みんな、それぞれに悩んでるんです。それを、無視して、連絡を絶って、なんで、平気でいられんですか?私の自分勝手な悩みはともかく、保田さんや、ごっちんは、市井さんと話すことが出来れば、それで解決してたかもしれない。なのに、なんで、そんな、無視するようなことしたんですか。教えて下さいよ。話して下さいよ。」
- 210 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時13分23秒
- 「吉澤。いいよ。もう。紗耶香だって、そんなに悪気があったわけじゃないだろうし。」
「よっすぃー、ごめんね。心配させちゃったみたいで。でも、そんなに悩んでたわけじゃないよ、市井ちゃん。後藤は、長い時間考えてられるほど頭よくないし。」
「いや、私が悪いんだよ。ごめん。」
「いえ、市井さん。すいません。私こそ生意気言って。」
「いや。吉澤の言うとおりだよ。すごい成長したんだな。最初の頃の頼りなかったイメージしかないからさ。びっくりしちゃったよ。」
「そんなこと・・・ないです。」
思わず言いたい放題言ってしまった私。
市井さんは、とがめ立てすることもなく、成長したなと誉めてくれた。
- 211 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時14分01秒
- 「吉澤の言うように、ちゃんと説明しなきゃいけないよね。」
「市井ちゃん。無理に話さなくてもいいよ。いいじゃん、過ぎたことなんて。」
「後藤!話させてやろうよ。紗耶香だって、今日ここに来て、今まで無視したみたいになってたことを、忘れてましたって感じでふるまったり出来るような奴じゃないんだから。そうだろ、紗耶香。」
「まったく、圭ちゃんにはかなわないな。」
ため息を一つ付いて、私たち3人を見渡し、それから、モーニング娘。を脱退してからのことを淡々と語り始めた。
- 212 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時14分33秒
- 「辞めた次の日なんかはさ、朝、いつものように早く目覚めちゃって、朝ご飯食べようとしてから、あっ、もう仕事無いんだ、とか気づく感じで。結局その日は一日家にいて、のんびりしてた。家で、本当にのんびりしてたのは1,2週間くらい。やっぱさあ、モーニングがテレビ出てたら見ちゃうじゃん。それで、自分がいないモーニングを見てるってのがすごい不思議で。それから、だんだんと寂しくなっちゃったんだよね。みんな頑張ってる。お仕事してる。でも、自分はここでのんびりテレビ見てる。シンガーソングライターになりますとか言ったのに、なんにもしてないな、なんて思ってさ。」
- 213 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時15分06秒
- 私は、市井ちゃんとは辞めてからも何度も会ってるのに、そんな話は一度も聞いたことがなかった。
- 214 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時15分37秒
- 「それで、私も自分で詩を書いたり、ギターやらピアノやら習いだしたんだけどさ、やっぱりレッスンはレッスンだし、詩も、満足いくものが書けないし、書いたところで、それを唄うこともできない。みんなに聞かせることもできない。そんな時間を自分が過ごしてるのに、圭ちゃんや、後藤や、吉澤や、メンバーみんなは毎日懸命に働いてる。唄って、踊って、演技までして、最近ではコント?なんてのもやってるし。それが、すごくうらやましかった。自分もあそこにいたんだ、でも、もう、違うんだ。なんでだろう。そんなこと考えた。」
- 215 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時16分11秒
- そういえば、初めてかもしれない。
市井ちゃんのこういう話を聞くの。
私にとっては、常に先生だったから。
私が自分の気持ちを話すことはあっても、市井ちゃんが何を考えてるか、何を悩んでるか、そういうことを話してくれたことは、これまでにないことだった。
- 216 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時16分41秒
- 「あみと復帰することが決まって、みんなにすぐ報告しようかとも思ったんだけど、ほら、ASAYANのことがあったじゃない。それで、隠しとけって言われて、言い出すタイミングがなくなっちゃってさ。それに怖くもなっちゃって。今更復帰しますとか言って、だから何?みたいなリアクションされるのもそうだし、それに、なんか、私が勝手に思っただけかもしれないけど、すごく距離を感じた。1年半この世界から離れてて、みんながまぶしく見えた。ライバルとか言ってた圭ちゃんにも、教育係とかって生意気なこと言わせてもらってた後藤にも、実はずっとおいて行かれてて、もう手の届かないところにいるんじゃないかって思うと怖かった。」
「そんなこと、そんなことないよ。市井ちゃんはずっと、いつでも、私の教育係だよ。」
- 217 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時17分14秒
- 「ううん。私が後藤に教える、なんてことはもうなんにもないよ。長い時間休んでた私よりも、後藤のがこの世界での経験は長いんだから。3人とも、もしかしたらそのうち経験することになるのかもしれないけど、自分のいたグループをテレビで見るってのは、変な気分だよ。この間まであった自分の居場所がそこにはないんだから。その上、一緒にやってたメンバーは、どんどん成長していって、自分は家でごろごろしてたんだからさ、怖さも感じるよ。でも、会いたいとは思ってたんだよ。だから、後藤とは何度か会ってるしね。復帰が決まってからも、会いたいって思ったけど、もうちょっと自信を持ててから、なんて思ってたら、会わずには済ませられない今日になっちゃいました。」
- 218 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時17分50秒
- 「でも、それだけじゃないんでしょ。鈴木あみに会ったよ。」
「会ったの?」
「うん。私と、後藤が呼ばれて、紗耶香につきまとうなって言われた。」
「そっか、会ったのか。じゃあ、それも、話しちゃうよ。」
- 219 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時18分34秒
- つんくさんの言うとおり。
紗耶香は紗耶香で悩んでたってわけか。
まったく、やめるときに続いて復帰するときまでも、騒ぎを起こすんだから。
- 220 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時19分09秒
- 「あみは、別に悪いんじゃないんだよ。たださ、どうしても不安だったんだと思う。圭ちゃんや後藤には嫌な思いさせちゃったかもしれないけど、でもね、あみはあみなりに必死だったのよ。」
「必死って、でも、なんか、すごい嫌な感じだったよ。あんなのと、ユニット組んでられるの?」
「あんなの、なんて言わないで。圭ちゃんでも、それは許さない。」
「ごめん。言い過ぎたとは思うけど、でも、納得いかなかったもん。あんな風に言われて。」
- 221 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時19分39秒
- 「それは、悪かったと思ってる。私からも謝るよ。だけどね、あみは、どうしても一人になりたくないのよ。分かる?事務所と喧嘩して、親はお金の亡者で、半分業界追放みたいになって、仕事はなくなって、それでも唄いたいって思ってる状況。圭ちゃんに耐えられる?」
「・・そりゃあ、可哀想とは思うけど・・。」
「もしかしたら、私が誘わなければ、あみは一人ででも出来たかもしれない。だけどね、私は誘っちゃったのよ。そしたらさ、溺れるものはわらをもつかむって言うじゃない。そういう感じ。私のことを絶対離さないって思ったみたい。私と圭ちゃんと後藤、っていう3人はすごく仲がいいってのは、あみは知ってて、それで、絶対連絡しないでって言われたの。」
「それで、素直に従ったの?なんか、納得いかないよ。」
- 222 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時20分13秒
- 「ごめん。でも、私には、従う以外に選択肢はなかったの。あみの寂しさが分かるから。一人で怖いのは私も一緒だった。あみは、最初の頃は、自分が役に立ってないって不安がってたけど、本当は、最初から私の心の支えになってくれてたし、私にとって絶対に必要な存在だった。だから、圭ちゃんや後藤が不必要とか、そんな意味じゃないけど、あみが不安に思うようなことは、出来るだけしないで上げようと思ったの。」
- 223 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時20分43秒
- 「なんか、納得いかないんだよなあ。」
「いいじゃん、もう。圭ちゃん。」
「ごめんなさい。許して下さい。」
「圭ちゃん!なんかいいなよ。」
「釈然としないんだよなあ。」
「もういいよ。圭ちゃん、いつまで経っても聞き分けないんだから。あっ、ねえ、市井ちゃん。その袋何?」
- 224 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時21分18秒
- 「ん?これ?ええとですね、皆様にクッキーを焼いて持って参りました。これでご機嫌を治していただけないでしょうか。」
「わー、食べる食べる。後藤が食べる。そっかあ、市井ちゃんお菓子づくりにはまってるとか言ってたね。」
「うん、まあ、あんまり自信ないけど。ああ、あのさ、圭ちゃんも、どう?食べない?」
「いいよ、わがままおばさんは。ねえ、早く開けてよー。」
- 225 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時21分48秒
- 「後藤!」
「なに?もう。」
「だめ、食べちゃ。同じ日にシングルぶつけてくるような人の持ってきたものなんて、何が入ってるか分かったもんじゃない。」
「圭ちゃん、私そんな・・・」
「だから、後藤。貸しなさい!私が毒味します。」
「あー、圭ちゃんずるーいーー!!よっすぃーつかまえて!」
「保田さんずるいですよ、一人で。」
「うん、紗耶香にしてはなかなかおいしいじゃん。」
「圭ちゃん・・・。」
- 226 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時22分19秒
- まあ、これくらい脅かして上げても罰は当たらないでしょ。
さんざんやきもきさせられたんだから。
多分、本当にどんな理由であれ、紗耶香が目の前に現れたら、本気で怒ったりは出来ないんだろうな。
- 227 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時22分52秒
- 「市井ちゃん、新曲聞かせてよー、早く。」
「リハで、すぐ聞けるって。」
「シングル持参とかしてないわけ?」
「圭ちゃん、せこいよ。お金出して買ってよ。」
「じゃあ、これ上げないから。」
「なんだ、圭ちゃん、最初から市井ちゃんと会うつもりだったんじゃん。シングルなんか持ってきて。」
「別に、そんなんじゃないわよ。宣伝用にね、いつも持ち歩ってるの。」
「ホントかなあ??」
「いいじゃない、べつに、どっちでも。」
「はいはい。」
- 228 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時23分24秒
- よかった。
3人とも、楽しそうで。
私も、もっと早くモーニング娘。だったらよかったかなあ。
保田さんとごっちんは、市井さんがいない間に起こった、娘。の中のいろいろな出来事について報告してる。
市井さんは、それを一つ一つ聞きながら、すごくいい笑顔だ。
やっぱ、ちょっとジェラシー感じちゃうな。
最初は自分がいなかったんだなっていう。
- 229 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時23分55秒
- 「吉澤。」
「はい?」
「吉澤のプッチモニ好きだよ、私。」
「なんですか?急に。」
「いや、そのまんまだよ。私がいた頃と、吉澤が入ってからじゃ、また違う魅力になってるよ。」
「でも、市井さんにはかなわないなあ、っていつも思いますよ。」
「そんなことないよ。そりゃあ、私だって、負けてるとは思ってはいないけど、今のプッチモニはこの3人でプッチモニなんだよ。ちょっと寂しいけど。」
「市井ちゃん、悲しいこと言わないでよ。」
「後藤だって、そう思うだろ。今のプッチ嫌いか?」
- 230 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時24分32秒
- 「そんなことないよ。」
「だろ。じゃあ、今と昔どっちか一つ選べって言われたらどっち取る?」
「そんなの・・・決められるわけないじゃん。」
「ははは、今って即答されたらどうしようとか思ったけど、そうだろ。今と昔、比べるなんて出来ないんだよ。吉澤のプッチモニ、私はすごく好きだよ。」
「なんか、その言い方、私がおまけにしか聞こえないんですけど。」
「だから、圭ちゃん、ひがまないの。市井ちゃんに誉めてもらえないからって。」
「なんか、最近、後藤、私のことおばさんおばさん言いつつ、子供扱いしてないか?」
「そうそう、圭ちゃんってさ、いつからおばさんキャラになったの?」
「それはねえ、」
「後藤、ストップ。」
「えー、いいじゃん。」
- 231 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時25分07秒
- 市井さん、わざわざ私のフォローまでしてくれて、なんか、気使わせちゃったかな?
ごっちんも、保田さんも、いつもにもまして楽しそう。
こういう時間ってすごくいいなあ。
ずっと続かないかなあ。
でも、リハーサル始まっちゃうんだよね。
そんなことを思っていると、またドアをノックする音がした。
あーあ、リハーサルか。
でも、今日の収録は、すごく楽しいものになりそう。
- 232 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時25分40秒
- 「はーい、どうぞー。」
ごっちんの、お気楽な声が響き渡る。
ドアを開けて入ってきたのは、スタッフの人ではなく、鈴木あみさんだった。
- 233 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時26分21秒
- 「あー、やっぱりここにいた。紗耶香、うちらのリハーサル始まるって呼ばれたから行こう。」
「あみ・・・。」
「ほら、早く。」
「ごめん。あみ。ホントごめん。でもね・・。」
「なに言ってるの?ほら、早く行くよ。」
「ごめん。でも、聞いて。私は、みんなに会いたいの。でも、それはあみを見捨てるとかそんなんじゃなくて・・。」
「やめてよ!」
「聞いて。」
「なんだよー、何事も、なかった、かのように、リハーサルに、向かおうと、思ってたのに・・。」
- 234 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時26分54秒
- あみさんは、市井さんの腕をつかみ、引っ張っていこうとする姿勢のまま、一度天井を仰ぎ見ると、耐えきれなくなったのか市井さんに抱きついて泣き出してしまった。
「あみ。泣かないで。泣くことなんか、なにもないよ。」
市井さんにすがりついて泣くあみさん。
市井さんは、そんな彼女を優しく背中をたたいている。
私たちは、それを静かに見守るしか出来ずにいた。
- 235 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時27分29秒
- 「あーみ。大丈夫だから。なんにも心配いらないから。」
「分かってたよ。分かってた。いくら引き留めたって、紗耶香が、彼女たちと会っちゃうこと。いつかはこうなるって分かってた。」
「あみ、別に、私、昔に戻るとか、そんなつもりでここに来たんじゃないよ。」
「それも、それも、分かってる、つもりだよ。でもね、不安なんだ。ずっと、ずっと不安だった。だれも、頼れる人なんかいない。信じられる人なんかいない。そんな自分が嫌だった。でもね、紗耶香に逢えて、うれしかったの。紗耶香とずっと一緒にいたいと思ったの。」
「うん。うん。」
「私なんにもできないからさ、紗耶香に捨てられるんじゃないかって、怖かったんだ。」
- 236 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時28分05秒
- 「そんなことないよ。あみは、なんにも出来なくなんかない。なんにも出来ないと思ったら、最初から誘ってないよ。それにね、歌い手としてはともかく、友達としては、あみがなんにも出来なくたって、全然かまわない。そんなことで離れていったりしないよ。」
「ホントに?ホントに?」
「うん。ホントだよ。それにさ、今度の曲、あみがメインになっちゃったじゃない。私だって悩んでるんだぞー!!悔しかったんだからなー。」
「ずっと一緒にやっていってくれる?」
「当たり前だよ。そんなの。そっちこそ、唄えない奴はいらない、ソロでやっていくなんて言わないでよ。」
「うん。」
- 237 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時28分36秒
- なんか、ずるいなあ。
市井ちゃんにあんな風に言ってもらってる。
寂しいじゃんか。
「あみ。聞いて。」
市井さんは、あみさんの体を起こし、両肩に手を乗せて、向かい合って、改めて話しだした。
- 238 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時29分09秒
- 「だますような形で楽屋を出てきたのは悪かったと思ってる。でもね、逢いたかったんだ、3人に。私ね、昔に戻ろうなんてちっとも思ってなんかいないよ。そりゃあ、昔は楽しかったけど、今も楽しいし、充実してる。あみと離れてやってこうなんて、これっぽっちも思ってない。あみは、私にとって、大事なユニットパートナーでもあるし、それだけじゃなくて、とても大事な友人だよ。だけどね、それと同時に、圭ちゃんや、後藤やね、吉澤を初め他のメンバー達も、同じように私にとって大事な存在なんだ。それをね、あみにも分かって欲しい。」
- 239 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時29分39秒
- 「ごめんね。ごめんね。わたしが、わるいんだよね。きっと、全部。不安な気持ちを全部紗耶香に頼って、紗耶香に支えてもらおうとしてた。私のが二つもお姉さんなのにね。嫌な奴だなあ、私。」
「そんな、嫌な奴なんかじゃないよ。あみの気持ち、私にも分かるもん。」
「束縛し過ぎちゃったね。紗耶香は、私の持ち物でもなんでもないのに。ごめんね。許して。」
「いや、いいよ。分かってくれれば、それで。」
「保田さんも、後藤さんも、嫌な思いさせちゃってごめんなさい。」
「い、いや、まあ、過ぎたことだし・・。」
「あーっっ!!!もう、なんで涙とまらないかな。かっこわるいなあ。こんな姿見せたくないのに。リハーサルで声でなくなっちゃうよ。」
「あみ、大丈夫だよ。声でなかったら、私が全部唄っちゃうから。」
「それはだめー!!」
「ははははは。」
- 240 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時30分16秒
- 二人で楽しそうに笑いあってる。
鈴木あみも、ただの嫌な奴じゃあないんだな。
紗耶香を取られちゃったみたいで、ちょっと悔しいけれど、またしばらくはライバルってことで、頑張っていこうかな。
- 241 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時30分51秒
- ドアからまたノックの音がした。
「はい、どうぞ。」
「えー、プッチモニの皆さん、ってあれ?あっ、あの、じゃあ、市井さんに鈴木さんも、リハーサルの準備お願いします。」
「はーい。」
今度こそ、本当にリハーサルが始まる。
なんか、収録の前にすでにいろいろとあったけれど、今日は記念に残る日になりそうだ。
- 242 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時32分03秒
- リハーサルは、あみさんが、化粧を直すのに手間取って後回しになったけれど、それ以外は順調に終わった。
まだ本番でもないのに、市井さんはやっぱりすごいなあ、と思わされてしまう。
- 243 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時32分39秒
- 本番は、最初に私たちプッチモニの曲が入る。
「3人とも頑張ってこいよー。」
「紗耶香もやろうよ、久しぶりに。」
「へ?何を?」
「忘れたの?いつもやってたじゃん、ライブの出の直前に。」
「え?3人でもやったっけ?」
「いいの。今日だけ特別。紗耶香の復帰後初ステージでしょ。」
「じゃあ、やりますか。」
「うん、紗耶香お願い。」
「私なの?圭ちゃんでしょ。」
「市井ちゃんやんなよ。」
「そうですよ。市井さん。」
「しょうがないなあ。じゃあ、いくよ。」
“頑張ってー行きまーしょい!!”
おそらく、2度と無いであろう4人でのかけ声がきれいにそろう。
「行ってらっしゃい。」
「おう。」
- 244 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時33分16秒
- 私は、かけ声を揃える4人を遠目に見つめていた。
プッチモニの曲が終われば、次は私たち。
- 245 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時33分51秒
- 「いいなあ、仲間って。」
「なに?」
「あんな風にかけ声かけちゃってさ。楽しそうで。」
「あみ。わたしとあみも仲間だよ。それじゃダメ?」
「そっか。二人だけだけど、仲間か。そうだよね。」
「あっー!!しかし、緊張するねえ。出だしの音間違えたらどうしよう。」
「その前に、挨拶ちゃんとしないと。いきなりピアノの前行かないでよ。二人でステージの前まで出て挨拶するんだから。」
「分かってるよー。」
ステージの上の3人を見つめながら、いつしか私たちは手をつないでいた。
曲が終わり、司会のスポットへはけていく。
- 246 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時34分28秒
- 「はい、お疲れさまでした。」
「ありがとうございました。」
「すごい、女の子らしいクリスマスソングですね。吉澤さん、この曲をもらったときの感想はどうでしたか?」
「いやー、モーニングのー、前の曲で、すごい男の子役だったから、あー、今度は女の子になれるーって、嬉しかったですね。」
「女の子になれるって、女の子じゃないですか。」
「いやあ、そうなんですけど。違うんですよ。」
「はあ、ところで、保田さん。続いては、復帰を果たしたこの二人なんですけど、市井さんとはモーニング娘。で同期なんですよね。」
「そうなんですよ。ホント心配で心配で、いつ帰ってくるのかが。もう、待ってましたって感じです。」
「後藤さんは?教育係なんて言って、かなり近い位置にいたみたいですけど。」
「まだ、新曲聞いてないんですよー。だから、とにかく早く聞きたいんです。」
「じゃあ、後藤さんもこう言ってることですし。ステージの方へ、マイクをお渡ししましょう。」
- 247 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時35分04秒
- 私たちは、手をつないだままステージに入っていった。
ピアノが置いてあるだけのシンプルなステージ。
二人で、中央に立つ。
久しぶりに感じる3000人の視線は、緊張を呼ぶよりも、帰ってきたんだ、ということを実感させてくれる優しいものだった。
- 248 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時35分40秒
- 「こんばんはーー。市井紗耶香です。1年半の休養を経て、このステージに帰ってくることが出来ました。今日は、精一杯演奏して精一杯唄います。よろしくお願いしまーす。」
右手を高く挙げて、手を振りながらお客さんに向かって挨拶する紗耶香。
その隣にいることが出来る自分は、すごくしあわせ。
客席からも、大きな拍手を送ってもらえた。
「こんばんは。鈴木あみです。みんなのおかげで、そして、隣にいる市井紗耶香のおかげで、再びこのステージに立つことが出来ました。本当に、ありがとう。」
なんだよ、って紗耶香に肩をたたかれた。
いいじゃんか、照れるなよ。
決めてたんだ。
最初のステージの上で、お客さんのみんなと、紗耶香にお礼を言うって。
「あみも、私も、いろいろな思いを抱えて、このステージに、今、立っています。今回の二人の復帰シングルは、愛することのすばらしさのようなことを唄いたくて、私が詩をつけたものです。聞いて下さい。“あなたのために”」
- 249 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時36分12秒
- 紗耶香がピアノに向かい、私がステージの真ん中に立つ。
二人の視線が一瞬ぶつかり、そして紗耶香のピアノイントロが始まった。
- 250 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時36分46秒
- たった一曲だけど、これを唄うためにいろいろなことがありました。
辛いこともたくさんあった。
全てを失ったような気がしてたころ、紗耶香と出会い、裁判を経て、短い間ではあるけれど二人で暮らし、ユニットを作って、作詞の座を奪い合い、ボーカルとピアノに別れて・・・。
いっぱい迷惑かけちゃったね。
嫌な思いもいっぱいさせた。
自分が嫌いになりそうなこともたくさんあった。
そんな、多くの出来事を経て、今、紗耶香と二人、ステージに立ち唄っている。
これから、ずっと続いて行くんだよね。
もっと、上手く唄いたい。
もっと、いい詩が書きたい。
自分で曲もつけたい。
私も、ピアノ弾きたいよ。
アルバムも作ろうね。
ライブツアーも早く行きたいね。
そんな風に思いながら、唄っていると、何故か、涙があふれてきてしまいました。
- 251 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時37分18秒
- もう、涙腺弱っちゃって、ダメだなあ。
そんなに、泣き虫じゃないはずなのに。
でも、だけど、それでも、私は唄い続ける。
だって、私はボーカリストだから。
紗耶香が演奏してるんだ。
紗耶香が詩を書いたんだ。
私が唄わなくてどうする。
- 252 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時37分49秒
- 「頑張れーー!!」
「鈴木あみ頑張れー!」
「市井紗耶香―、頑張れ!」
- 253 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時38分20秒
- お客さんの声援がすごく嬉しい。
ふと、紗耶香の方を見ると、紗耶香も涙を流しながら演奏を続けていた。
最後のサビ。
二人のコーラス。
リハーサルの時はそんなことしなかったのだけど、ピアノの横まで行って、二人並ぶ。
紗耶香は、ピアノをやめ、マイクを持って立ち上がる。
ラストのサビは、BG無しで、ピアノとボーカルだけだったはずのところで、紗耶香がピアノを止めたから、ア・カ・ペラになった。
私も、紗耶香も、決してまだ、上手いとは言えない歌声だけど、それでも、最後まで精一杯唄いきる。
二人の、いろいろな気持ちを込めて。
- 254 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時38分52秒
- 「皆さん。ありがとうございました。」
手をつなぎ、両手を高く上げ、そして深々と頭を下げる。
たった一曲だけの、それも、テレビ収録という形での復帰ライブ。
私たちを見に来た訳じゃない人たちもたくさんいるこの場所。
それでも、私たちが唄い終え、挨拶をすると、会場の全ての人が立ち上がり、拍手をしてくれました。
二人で軽く抱き合い、そしてステージから袖にはけると、プッチモニの三人が花束を持って出迎えてくれた。
- 255 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時39分27秒
- 「復帰おめでとう。」
「私にまで、いいの?」
「まあ、いろいろあったけど、今後とも紗耶香のことをお願いします。」
「・・・ありがとう。」
もう、収録まだまだ終わりじゃないのに、化粧が崩れちゃうじゃないか。
- 256 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時40分02秒
- 「あみの泣き虫。」
「紗耶香だって泣いてたじゃん。」
「だって、あみの方見たら、泣いてるんだもん。」
「いい曲だね、市井ちゃん。」
「でしょー。自信作。」
「まったく、だからって、収録で泣かなくてもいいじゃない。もう、全部二人に持ってかれちゃったよ。私たちの初登場一位記録が危なくなって来ちゃったじゃない。」
「圭ちゃんには、負けないよーだ。」
「なんだとー!!」
「みなさん、まだ終わりじゃないんですよ。ほら、早くこの後の準備しましょうよ。」
「そだね。行こ、市井ちゃん。」
- 257 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時40分37秒
- 「あみ。ありがとうね。」
「なに、急に。」
「ステージの上で、いきなりお礼なんか言われちゃったから照れちゃったけど、すごい嬉しかったよ。」
「ううん。いろいろ迷惑かけちゃってごめんね。」
「そんなこと無いよ。さ、行こう。次の準備しなきゃね。」
「うん。」
- 258 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時41分11秒
- やっぱ、市井さんはすごい。
ピアノ弾いて、作詞もして。
ちょっとは追いついたつもりだったけど、全然だ。
まあ、モーニングに入ってすぐくらいの市井さんと、今の私が同じくらいかな。
教育係、なんてのを真剣にやったなら、ちょっとは近づけるのかなあ?
- 259 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時41分44秒
- 私たちにとっての最後のコーナー
それぞれに着替えも済ませ、ステージの袖で待機。
司会からの振りを待っている。
とは言っても、このコーナー、私だけ出番無いんだよな。
- 260 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時42分17秒
- 「えー、じゃあ、続いてのコーナーは、ミュージックワープのコーナーです。今日は、4の5の言わずに、いきなり曲行ってみましょう。オリジナルメンバーのプッチモニで、ちょこっとLOVE」
- 261 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時42分49秒
- たったたたた♪ たったったたたたた♪ たったたたたた♪ わっははははー♪
- 262 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時43分27秒
- 聞き慣れたイントロ。
ごっちん、保田さん、そして市井さんの三人が、ステージで踊っている。
やっぱ市井さんには、あの青いパーカーは似合うなあ。
- 263 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時44分01秒
- ほんのちょこっとなんだけど、髪型を変えてみた♪
ほんのちょこっとなんだけど、そこに気がついて欲しいぞ♪
愛しのまままマイダーリ♪
- 264 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時44分32秒
- いちいちゃん。
ん?なんだ、ごとう。
やっぱりたのしいね。
そうだな。
- 265 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時45分04秒
- ねーえねえもっとたのしいことからはーじめませんかあ♪
- 266 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時45分37秒
- やっぱこの曲は紗耶香じゃないと感じ出ないな、よしざわにはわるいけど。
でも、よしざわもがんばってるじゃん。
まあ、そうなんだけどさ。つんくさん、きっとこの曲、紗耶香向けに書いたんだよ。だから、かな。
- 267 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時46分13秒
恋という字を、辞書でひいたぞ♪ あなたの名前、そこに足しておいたぞー♪
- 268 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時46分51秒
ねえ、いちいちゃんのじしょにはなんてかいてあるの?
なにがだよ?
恋という字のとこ。まさか、ゆうきじゃないよね。
ははは、ごめん。ちがうは。
そっかあ、ゆうきはふられちゃったか。
しってたのか?
へへ。まあね。
- 269 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時47分25秒
愛しい人、オールユーニードイズラブ♪
- 270 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時47分59秒
- 「市井さんってすごいなあ。」
「やっぱり、あの中にいるのを見ると、ちょっと嫉妬しちゃうんだよね。」
「でも、さっきの曲、もう、二人の世界って感じで、誰も入っていけないつながりみたいなもの感じましたよ。」
「そう?そう言ってもらうと嬉しいなあ。」
「久しぶりに自分の曲を、一人で歌うのってどんな気分ですか?」
「え?ああ、そっか、つぎ唄うんだよね。なんか、見とれてて忘れてた。」
「余裕ですね。」
「そんなことないよ。不安だよ。でも、そんなのも、紗耶香がいてくれれば大丈夫って思ってられるから。」
- 271 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時48分33秒
- 今のプッチモニは、私と、ごっちんと、保田さんの3人。
それは、間違いないし、私の代わりが出来る人もいない。
そういう意味では、市井さんの穴は埋められたのかもしれないけれど、あんな風に、多くの人から復帰を期待されて、ユニットのパートナーから頼りにされて、そして、ごっちんや保田さんからも、信頼されている存在には、自分はまだまだ遠い。
そして、“ちょこっとLOVE”は、やっぱりこの3人の曲だなあ。
私じゃ似合わないよ。
市井さん。あなたは、また私の目標になりました。
私も頑張ります。
だから、市井さんも頑張って下さい。
- 272 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時49分06秒
たったたたた♪ たったったたたたた♪ たったたたた♪ わっははははー♪
恋という字を、辞書でひいたぞー♪ あなたの名前、そこに足しておいたぞー♪
- 273 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時49分41秒
- たのしいね、いちいちゃん。
ああ、たのしいな。
たまには、こうやっていっしょにうたいたいね。
そうだな、いつか、唄おうな。曲も自分たちで作って。
うん。
- 274 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時50分24秒
ささやかだけど♪ 先へ進むぞ♪ 愛しい人 オール ユー ニード イズ ラブ♪
- 275 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時50分58秒
- ちょっと、私のこと、忘れてるんじゃないでしょうね。
へ?ああ、忘れてた。
なんですって。
うそだよ。ごめん。
紗耶香、楽しいね。
うん。
紗耶香と出逢えてよかったよ。
わたしもそう思う。
また、唄おうな。そして、3人でさ、曲も作って。
もしかしたら、そのころは、圭ちゃんだけじゃなくて、私や後藤もおばさんになってるかもしれないけどね。
なによ、その言い方は、だけじゃなくって。
へへへ、圭ちゃんがこんなにおばさん臭いなんて知らなかったからさ。面白くて。
もう、いいよ。まったく。
ほら、ラストだよ。ちゃんと、しめるよ。
おっけー!!
- 276 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時51分46秒
いとしい人、オール ユー ニード イズ ラブ♪
まる♪ まる♪ まるまるまる♪
まる♪ まる♪ まるまるまる♪
まる♪ まる♪ まるまるまる♪ ふー
- 277 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時52分19秒
- いちいちゃん、おかえり。
さやか、おかえり。
- 278 名前:第十三章 投稿日:2001年12月10日(月)05時52分50秒
- ただいま。みんな。
- 279 名前:おしまい 投稿日:2001年12月10日(月)05時53分40秒
−−−−− おしまい −−−−−
- 280 名前:あとがきのようなもの 投稿日:2001年12月10日(月)06時29分28秒
- 長らくつきあって下さった方、どうもありがとうございました。
この話は、ここで一旦終わりです。
連載を開始した当初から、今日、市井が復帰ライブをするこの日に終わらせようと決めていました。
本人がちゃんと復帰した後も続けていくのは、ちょっと白々しいものがありそうだったので・・。
自分で締め切りを決めていたので、最後はかなりきつかった。
それでも、なんとか書き上げることが出来てほっとしています。
いじけたり、きれたり、引っ張ったり、中だるみしたり、いろいろと忙しい作者でしたが、皆様のおかげで、なんとか最後までたどり着けました。
本当に、どうもありがとうございました。
今日AXへ行かれる方、このサイトの有名人も何人か行かれるようですが、楽しんできて下さい。
- 281 名前:あとがきのようなもの 投稿日:2001年12月10日(月)06時35分55秒
- ここで一旦終わりではあるのですが、実は最終章は残っています。
というのは、結局最後まで市井の心理描写が出てきていないのです。
なので、最終章という形で、少し時間をおいて書いてみようと思います。
でも、あんまり需要はないのかな?
いろいろなことを書こうとして、それで失敗した部分も多いです。
保田は、なんか何度も同じようなこと言ってるし、同じことしてる。
そして、書き始めではもうちょっと目立たないはずだった人が、ほとんど主役。
m-seekで、この人が主役っていいのかよ。
苦労もあり、後悔も多かったけれど、書き上げられてほっとしています。
よろしければ、感想などいただけると嬉しいです。
前スレッド 第一章から第八章
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=blue&thp=1002808313
>>2-33 第九章 ご対面
>>37-58 第十章 レコーディング風景
>>60-128 第十一章 衝撃の発表
>>130-179 第十二章 大切なゆうき
>>181-278 第十三章 デビュー
- 282 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月22日(土)19時38分35秒
- お疲れさまでした。面白かったです。
最終章があるんなら読みたいです!
ちょっと休んでからでいいんで、よろしくお願いします。
- 283 名前:作者 投稿日:2001年12月31日(月)22時59分35秒
- 一日時間があったので、最終章のような物を書きました。
一応、これだけ独立で読んでも、ギリギリ理解できるようなフォロー入れてありますが、出来ればここまでの話を知っていた方がよいです。
市井視点で、あらすじっぽく全編をなぞった感もあります。
ただ、本編(というか第十三章まで)の段階では割愛した場面が中に二カ所ほど入っています。
本編を全部読んだ方は是非こちらも目を通して見て下さい。
- 284 名前:紗耶香は語る (本当の最終章) 投稿日:2001年12月31日(月)23時01分48秒
- 今日もモーニング娘。はテレビに出ている。
年末年始はそれこそ各局で一日に何度も彼女たちの姿を見ることになる。
あれ、レコード大賞見てたら、もう始まってるじゃん。
あゆなんか見てるからだと怒られてしまった。
去年はホントの9時ギリギリに始まってちょっとオーバーしてたから、今年もそんな感じだと思ってたのに。
NHKめ、去年の失敗を生かして時間に余裕を見てやがる。
- 285 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時02分26秒
- 私、市井紗耶香は、芸能界に復帰した。
みんながあまり想像してなかったであろう形で。
唄の世界に戻ったのに、紅白を家で見ているというのはちょっと寂しいけれど、こうやって一年のことを思い出しながらテレビを見て過ごす年末というのがなかなかいい物だというのは、一度失ってみて初めて分かったことだ。
本当に、いろいろなことがあった、そしていろいろなことを起こした一年だった。
- 286 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時03分00秒
- のんびり過ごしていた私の一年が動き出したのは4月のこと。
突然かかってきたあみからの電話。
正直最初は、久しぶりに現れたストーカー電話かと思っていた。
女の子からのストーカー電話は珍しいなあ、くらいの感覚。
大体、番号教えたことすら忘れたしね。
そして、なぜか顔を見た瞬間ひらめいたんだ。
- 287 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時03分32秒
この子と組めば、きっとなんとかなる。
- 288 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時04分05秒
- 正直、一番苦しい頃だった。
作詞、作曲、演奏、唄。
全部を一人で出来ることが理想。
だけど、とてもそれには及ばない自分をはっきり認識してしまった頃。
そして、その上に後藤のソロデビュー。
元々輝いていたやつではあったけれど、それでもかつては自分の生徒のような位置づけだった後藤がソロデビューをした。
シングルはかなりの売り上げを見せている。
そんな中、自分のことを考えてしまう。
- 289 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時04分43秒
- 後藤のソロデビューシングルが出た日、私はあいつに会った。
祝福しに行った私にあいつは言う。
「市井ちゃんは、いつ戻ってくるの?」
聞かれたくない質問だった。
他の人、全然関係ない人になら笑ってごまかせる。
だけど、後藤にだけは、なんて答えていいのか分からなかった。
先の見えない自分の未来が怖かった。
- 290 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時05分15秒
「いつってはっきりは言えないけれど、次に会うのがステージの上だったらいいな。」
- 291 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時05分55秒
- 精一杯の強がりだったと思う。
そして、ある種の本音。
私はこの時点で、しばらく後藤と会わない気持ちになっていた。
自分が、後藤の前に立って、後藤の存在におびえないですむ自信を取り戻すまで会わない方がいい。
それを取り戻すことが出来るのは、きっとステージに立てるようになってからだろう。
そう、直感しての発言だったのかもしれない。
- 292 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時06分25秒
- そんなさなかのあみからの電話。
暗闇にいた私に、どこからか降ってきた命綱のようでもあった。
ほとんど話をしたことのない人に会いに行くのは本当は怖いことでもある。
なのに、この時は、そこに何かのきっかけが転がっていて欲しい、そういう必死な思いを持って彼女の誘いに乗ってみた。
- 293 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時07分02秒
- この子と組めばなんとかなる、そう、瞬間的に感じたけれど、彼女にその気がなければどうすることもできない。
一目見て、いかにも憔悴しきった感じの彼女。
少し冷静になってもらって、次にあったときに何かアクションを起こしてみよう、そんなことを最初にあったときは考えた。
- 294 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時07分37秒
- そして、2度目の対面。
ある種デート感覚。
元気な彼女の姿が見られたから、これは何かを試してみてもいいかもしれない。
そう思い、カラオケボックスで彼女の曲を歌ってみた。
今にして思えば、彼女にとって結構残酷なことでもあるし、私の立場からすれば大きな賭だったろう。
嫌悪感を持たれたらそれでおしまいだ。
もう忘れたいの、と言われればそれでおしまい。
だけど、私は、その賭けに勝った。
彼女が芸能界への復帰の意志さえ持ってくれさえすれば、一緒にやってくれると思った。
彼女には、救いの手をさしのべてくれるような人は他にいないのだから。
- 295 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時08分16秒
- もちろん、打算だけで彼女と組んだ訳じゃない。
彼女と組めばなんとかなると思ったのは、私自身彼女のことを気に入ったからでもある。
私の周りに、芸能界と関係ない普通の友達はいる。
そして、モーニング娘。という芸能界の世界の目立つ場所に暮らす友達もいる。
だけど、芸能界に一度いて、今はやめてしまった友達というのは明日香くらいしかいなかった。
ましてや、芸能界から離れて、もう一度戻ろうと思っている人、なんて言ったらあみと私くらいしかいない。
そんな二人に、何かシンパシーが芽生えるのはきっと当然の結果だったのだろう。
家を飛び出したあみは、2週間ほど私の家に転がり込んできた。
- 296 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時08分47秒
- 不思議な二週間だった。
一つの目標を共有しようとした二人。
だけど、それだけだったら、あんな気持ちにはならなかっただろう。
- 297 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時09分28秒
「ずっとさあ、このまま、いられたらいいね。」
- 298 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時10分01秒
- 二人で暮らし初めて一週間くらいたった頃だろうか。
彼女が不意にそうつぶやいた。
ずっと、そのままでいることが出来ないからこそ出た台詞。
- 299 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時10分38秒
- 最初の1週間は、二人ともほとんど外出しなかった。
それぞれにピアノレッスンやボーカルレッスンに行くときと、近所のスーパーやコンビニへ二人で買い物に行くときくらい。
料理をしたり、掃除をしたり、二人でゲームをしたり。
大して興味もないテレビをつけたまま二人でソファにすわり、ぼけーっとしていることもよくあった。
これといって何かを成し遂げた、なんてことはまったくないのだけど、それでも二人の間には濃密な時間が流れていた。
- 300 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時11分24秒
- このままでいられたらいいね、と言った翌日、彼女は一人で暮らすための部屋を探し始めた。
そんな彼女を、私は夕飯を作って待つことになる。
ほとんど新妻のような感覚。
大した腕でもないのに、こんな味にしたら喜んでくれるかなあ、と考えつつ作る料理は、それまでに感じたことのない楽しさを私に味わわせてくれた。
- 301 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時12分07秒
- 二人の最後の夜。
大家さんとの契約を終えて帰ってきたあみを、手製のケーキを持って迎えた。
「すごいじゃーん。一人で作ったの?大変じゃない?」
「うん。お祝いだから。あみの。」
「お祝い。そっか。お祝いなんだよね。そうだよね。おめでたいことなんだよね。」
玄関に立ちつくしたまま、一瞬の静寂に包まれる。
「ぼーっとしてるなよ。ほら、パーティーの用意できてるんだよ。」
8畳ほどのその部屋の、中央にあるテーブル。
そのテーブルいっぱいに広げられた料理の数々。
わたしは、食べきれるかどうかなんてことは全然かまわずに、二人の別れを寂しい物にしないために、自分のレパートリーの全てを出し切ってしまっていた。
未成年のくせに買ってきたシャンパンで乾杯をする。
- 302 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時12分46秒
- 「あみ、なんか言ってよ。」
「えー、紗耶香言ってよ。」
「うーん、いや、やっぱりあみでしょ。」
「わたし?えー、じゃあ、私が言った後、紗耶香も言うんだよ、なにか。」
「うん、分かった。」
「よし、じゃあねえ、私からは、一言だけ。明日の、未来の紗耶香のために、乾杯。」
「私のため?じゃあ、あみの、明日のために乾杯。」
グラスをカチッって合わせて、一口口に含む。
私には、まだちょっと大人の味に感じた。
- 303 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時13分31秒
- その夜に話したことを、私はほとんど覚えていない。
だけど、これからの仕事のことだけは全くしなかったことは覚えている。
いや、仕事の話をしなかったのは、その日だけじゃなくて二人で暮らした2週間、全くそのことに触れることはなかった。
そして、この日も明日からのことを話すことはなかった。
ただただ、二人の時間を過ごすことがそのときの私たちにとっては大事なことだった。
- 304 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時14分11秒
「一緒に寝ようか。」
あみは、その後に何か続けようとしていた。
きっと、最後だから、と言う言葉を飲み込んだのだろう。
「そうだね、狭いけど。」
- 305 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時14分41秒
- 私は、続かなかったその後の言葉に対してそう答えた。
狭い一つのシングルベッドに、二人で眠る。
ベッドに入ってからはほとんど口を利かなかった。
いやでも明日のことを考える。
明日の今頃は、きっと一人なのだろうなと想像してしまう。
- 306 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時15分33秒
- 私は、普通の17歳よりはきっとすごく多くのお金を持っている。
そのおかげもあって、一人で暮らすにはちょっと広すぎるくらいの部屋を借りていた。
あみが転がり込んできても、何一つ困るようなことはなかった。
- 307 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時16分07秒
- ずっと、一緒に暮らそうよ。
そんな言葉が頭をよぎる。
そして思い出す。
「ずっとさあ、このまま、いられたらいいね。」
そう言った翌日に彼女が部屋を探しに出たことを。
きっと、わたしが、いま何を言っても、明日の夜は一人で過ごしていることだろう。
- 308 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時16分40秒
静かな夜は更けてゆく。
「紗耶香、まだ起きてる?」
どれくらい時間が経ったろうか、彼女は突然呼びかけてきた。
私は、まだ意識ははっきりしていて起きていたけれど、なにも答えなかった。
つぎに気がついたときは、もう、すでに朝を迎えていた。
- 309 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時17分11秒
- 別れの朝。
鞄一つでやってきたあみは、やっぱり鞄一つで出ていこうとしていた。
こういうときはきっとなにか気の利いた餞別みたいなものを送るのだろう。
だけど、どんな物を送ってもなにかが違うような気がしていた。
私が送ったのは、この世で一つしかない物。
この世で一つしかない二人のつながりにふさわしそうな物はこれしか考えられなかった。
- 310 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時17分41秒
- 「あとでさ、読んでみて。」
「手紙?」
「ううん。詩。私がこれまで書いてきたやつ全部。自分で気に入ってるのもあれば、失敗作だって思っているようなのまで全部。」
「ずいぶん書きためてたんだね。」
「一応ね、やることやっとかないと。今度さ、感想聞かせてよ。」
「うん。分かった。」
この2週間で初めてした仕事に関わるような話が、私たちの別れの言葉になった。
- 311 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時18分19秒
- 「駅まで送っていこうか?」
「いいよ、ここで。」
「うん。」
「なんだよ、元気出せよ。すぐ逢えるじゃん。」
「そうなんだけど。」
「それじゃ、行くね。」
「うん、元気で。」
「またね。」
- 312 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時18分53秒
- あみは、軽く手を振って出ていった。
握手を交わすこともなく、涙を流すこともなく。
ましてや、お別れのキスなんかすることもなかった。
- 313 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時19分25秒
- 彼女の言うとおり。
ユニットを組むことを決めているのだからすぐに逢える。
恋人同士が喧嘩別れをしたわけじゃないのだからすぐに逢える。
だけど、きっと、次に会うあみは、一緒に暮らしたあみとは別の人なのだろう。
別に女の子相手に恋をしてしまったわけではない。
かといって、この2週間の二人は、単なる友達ではない何かだった。
絶対に、単なる友達ではない何かだった。
他の誰とであっても、きっと生まれることのないであろう、二人だけにしかあり得ない不思議な関係が生み出した、不思議な時間がそこにはあった。
それを、あみの方もきっと分かっていて、わざとああいうさらっとした別れにしたのかもしれない。
- 314 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時19分58秒
- 彼女が出ていった部屋は、なんだか分からないけれど、なにかを無くしてしまったという空気が広がっている。
洗面所の歯ブラシと、ベランダに干された彼女のTシャツだけが、不思議な時間の名残として残された。
私には、その歯ブラシを捨てることもできなかったし、Tシャツを彼女に返すこともできなかった。
- 315 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時20分29秒
デビューに向けての本格的な話を持ってきたのは、やはりというかまたかというか、ASAYANだった。
正確に言えば、新しい事務所の社長さんが、ASAYANに持ちかけたらしいけど。
私の人生またそこにゆだねるんかい、とちょっとつっこみを入れたくもなった。
最初に言われたことは、娘。メンバーとの連絡禁止令。
まあ、あんな企画をやるためには、それくらい当然のことなのでしょう。
正直、上からそういう風に言われるのは気楽だった。
後藤や圭ちゃんに、あみと二人で復帰するから、と伝えるのはやっぱり心苦しい物がある。
そして、もう少し自分に自身を取り戻してからにしたいという気持ちがあった。
だけど、そう私が言われたことを知らないあみの言葉は意外だった。
- 316 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時21分05秒
「紗耶香、モーニング娘。の人たちとは連絡取らないで。」
- 317 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時21分36秒
- あみは、復帰が本決まりになってきた頃から、再び精神的に不安定になってきていた。
一人になることを異様に恐れている。
私を捨てないで、とも言っていた。
気持ちにすれ違いが生じてくる。
このころからしばらくあみが私にとって重荷になっていった。
だけど、彼女の気持ちの動きは何となく理解できた。
- 318 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時22分10秒
- 私には、モーニング娘。だった頃、身の回りに同じ年くらいの女の子達がライバルとして、友人としてそこにいた。
同期の矢口や圭ちゃん。
初めての後輩で、私が先生みたいな役割になっていた後藤。
最初は怖かったけれど、だんだんと対等な仲間になっていった裕ちゃんに、かおりやなっち。
わたしよりも先にモーニングを離れていった明日香とあやっぺ。
すごく大切な存在。
そんな存在と共に、常に活動していた。
最後には、ちょっと大人の思惑とか、そういうのにも振り回されてしまった部分もあったけれど、それでも、彼女たちがかけがえのない存在であることには変わりなく、ライバルとして負けたくない存在ではあるけれど、自分を裏切ることは絶対ないと信頼できる存在でだった。
今度は、あみがそういう存在になるんだと、何の疑いもなく思っていた。
きっと、あみのほうでもそう私のことを見てくれているだろうと信じていた。
- 319 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時22分51秒
- だけど、あみは、そんな単純には考えていなかった。
彼女はずっと一人でやってきたのだ。
芸能界の中に友達はいる。
けれど、共に活動している人間はいない。
身の回りにいつもいたのは彼女よりもずっと年上のマネージャーさんだけ。
そして、家族さえも、彼女のことを心から応援しているとは言えない状況。
いや、心からお金を稼いでいて欲しいとは思っていたのだろうが、それはあみにとっては応援してもらってるとは感じられないはずだ。
唯一、彼女が頼りに出来たのはきっと小室さんだっただろう。
そうは言っても、小室さんはいろいろな人をプロデュースをしている。
私にとってのつんくさんがそうであるように、あみにとっての小室さんも決して仲間ではあり得ず、先生のような位置づけだったに違いない。
彼女にとってわたしは初めて一緒に歩いていこうとする仲間だったように今は思える。
そう考えてみると、彼女が私にモーニングのメンバーとの連絡を取るなというのは、無理からぬことだった。
- 320 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時23分23秒
- そんなあみに気を掛けつつも、私自身にもそんなに余裕はない。
後藤と最後に会ったあの日に感じた、言いしれぬ不安感。
自分に対して持てない自信。
そういった物を克服していくには何らかの大きな課題を克服する必要がある。
その課題として与えられたのは作詞だった。
- 321 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時23分53秒
- そんなあみに気を掛けつつも、私自身にもそんなに余裕はない。
後藤と最後に会ったあの日に感じた、言いしれぬ不安感。
自分に対して持てない自信。
そういった物を克服していくには何らかの大きな課題を克服する必要がある。
その課題として与えられたのは作詞だった。
- 322 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時24分28秒
「もっとも、彼女たちの書いてきた詩が、曲をつけて売り出すに値しないかもしれない。そのときは、自分はこのプロデュースの件については考え直したい。」
- 323 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時25分03秒
- この中村さんの言葉は、まさにASAYANと感じさせる大きな大きなハードル。
中村さんがプロデュースをして下さることは、実は放送前に知らされていたけれど、この話は本当にその場で知らされたこと。
衝撃は感じたけれど、ちょうどいいチャンスだった。
それは、モーニングで自分たちの次のメンバーが入ってくると聞かされたときに似ている。
そう、後藤が入ってきたあの時。
あの時、後藤の教育係というのを私は自分から立候補した。
その結果が、今の自分だ。
もし、あの時教育係というのを圭ちゃんなり矢口なりがやっていたら、もしかしたら私は、今もモーニング娘。でいたかもしれない。
それくらいの変化をもたらしたのが、あの教育係というやつだった。
- 324 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時25分35秒
- 教わってるうちは分かったことにならない。
人に教えるようになって、初めて分かったことになるんだ。
誰の言葉かは分からないけれど、その言葉を私は身をもって知っている。
教えるというのは、すごく厳しい立場だ。
なにかを言ったならば、自分は実践しなくてはならない。
その大きなハードルを自分に課すことで、私は変わった。
- 325 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時26分08秒
- 全く違う形ではあるけれど、私の前にはまた高いハードルが置かれている。
そのハードルを私は乗り越えた。
もっとも、後ろ足で引っかけてハードル自体は倒してしまうような、そんなみっともない形ではあったけれど。
そして、そのハードルを私が乗り越えたことで、目の前にもう一人の後藤が現れたんだ。
- 326 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時26分44秒
- あみは、私に言う。
自分を捨てないでくれと。
それは、まるでモーニングに入ってきたばかりの後藤のようだった。
ステージに上がる直前に不安で泣き出す後藤。
レッスンがきちんとこなせないと泣き出す後藤。
それは、自分がなんとかしなきゃと思わせられるのにあまりある存在。
母親になったり姉になったり友達になったり。
そんな後藤が、あみとダブって見えた。
頼りなくて、自分がなんとかしなくちゃと思わされる存在。
しばらくの間、あみは私がいないとなにもできないような存在になっていた。
そして、私はそんなあみを見ていて、後藤に会いたいと思うようになった。
- 327 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時27分16秒
- ラジオの収録後、裕ちゃんに食事に誘われたのはそんな頃だ。
正直、あみの目を盗んで二人で行ってしまおうと思っていた。
でも、そんなに簡単に彼女が私を離すわけがない。
それで、裕ちゃんと、私と、あみ。
あまりにあり得なそうな3人の組み合わせでのディナータイムとなってしまう。
- 328 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時27分49秒
- 裕ちゃんには悪いことしちゃったな。
あの後、そういえばまだ謝ってない。
裕ちゃん、きっとあみのこと嫌いになっちゃっただろうな。
あみが一番不安定だったときだったから。
- 329 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時28分24秒
「一人になんかしないよ。」
- 330 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時29分01秒
- この言葉を、あみはどう受け取ったのだろう。
後藤が私を頼ったのと同時に、私には後藤が必要だった。
それと同じ。
この時、あみが私だけを心の支えにしていたように、私にとってもあみは大事な心の支えだった。
捨てられるわけがない。
私が、なんとかしなきゃ、私が引っ張って行かなきゃ、あみが自信を取り戻せるように、そう思っていた。
だけど、後藤と同じと言うことは、最終的には、私の存在なんか無くてもしっかりやっていけるということ。
私が、あみになにかをして上げる必要なんか本当はなにもなかったのだ。
- 331 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時29分36秒
「メインボーカルを、鈴木にしよう。」
- 332 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時30分10秒
- 何のための復帰だったのか。
何のために再デビューしようと思ったのか。
その日1日、そんなことが頭を回っていた。
この決定の前、レコーディング始まったばかりの頃までは、あみは私にべったりで、常に危なっかしい感じがしてた。
後で聞いたことだけど、後藤や圭ちゃんに、私に会うなと言いに行ったのもこの時期のことのようだ。
しかし、この日を境に、あみは変わった。
そして、私も変わった。
- 333 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時30分40秒
- あみのレコーディングはますます順調。
一方、私の唄パートは極端に少なくなっていく。
唄っている時間よりも、ピアノ部分の練習時間の方が圧倒的に長くなっていった。
あみは、私を頼ってくることはほとんどなくなっていた。
私の方は、だからといってあみに頼ることは出来ない。
二人って不便だなって感じた。
- 334 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時31分19秒
- 人数が多ければ違う。
タンポポオーディションに落ちたときは、圭ちゃんと悔しさをぶちまけあった。
同期の3人でなにか問題が起これば圭織に、悩みをうち明けることもある。
プッチモニでなにかが起これば、矢口に相談した。
後藤の指導法に悩めば裕ちゃんがいた。
二人だと、そうはいかない。
唄えない悩みを、自分がメインボーカルを奪われた悩みを、それを奪った本人に相談することが出来るわけはない。
そこで私が頼ったのは、年下でありながら私の先輩という立場にある彼女だった。
- 335 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時31分56秒
- 「久しぶり。」
相変わらずの素っ気ないそぶり。
でも、逆に明日香にフレンドリーにされることを考えると、ちょっと気持ち悪いかな。
なんとなく、さわやかな雰囲気の場所に行きたくて、自由が丘という、実は名前しか知らなかったあこがれの場所に彼女を呼びだしていた。
「紗耶香、暇なの?再デビューするってのに。」
「今日だけオフなの。レコーディングが終わって、本格的なプロモーションを始めるまでの小さな隙間に作ってもらったオフ。」
「そっか。仕事無いのかと思った。」
「ずいぶんなご挨拶だなあ。」
- 336 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時32分28秒
- 雑貨屋さんやら洋服屋さんやら、いかにも女の子っていうコースを歩きながら、時間は過ぎてゆく。
そういえば、ちょっと前までは、こんな風に町の中を歩くことが日々出来る暮らしをしていた。
明日香は、きっと、今も、これからもそういう暮らしをしていけるのだろう。
私は、それを捨てて、もう一度、唄の世界へ戻る。
それは、やっぱり、大変なことなんだ、ということを改めて実感していた。
日も傾いてきた頃、少し遅めのおやつにと、実は有名らしいケーキ屋さんに二人で入る。
- 337 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時32分58秒
- 「戻る?モーニングに?芸能界に?」
「どっちでもいいんだけど。」
「わたしは、ないよ。全然。」
全然と言いながら栗を口に入れる明日香。
有名なケーキ屋さんで、店名にもなっているシンプルなモンブランを注文するあたりが明日香らしいなと思う。
- 338 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時33分30秒
- 「唄いたいって気持ちはないの?」
「唄ってるよ。バンドで。小さなバンド。プロを目指す気なんかみんなまるで持ってない、そこら辺に山ほどあるようなバンドで。」
「唄ってるなら、戻ろうって思わないの?」
「10年、20年先は分からないよ。でも、いまは、いいかな。」
「なんで?」
「じゃあ、なんで紗耶香は戻ろうと思ったの?」
「うーん、なんでだろう。みんなの前で唄いたいからかなあ。みんなに伝えたいというか。」
「私、思うんだ。焦ることなんか全然ないなって。さっきも言ったけど、もしかしたら10年20年後は、唄の世界にいるかもしれないよ。だけど、いまは、この普通の暮らしをしていたい。」
普通の暮らし。
自由が丘に来て、モンブランを食べ、レモンティを飲む。
別に、自由が丘は関係ないか。
- 339 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時34分10秒
- 明日香は、大学には行こうと思うんだと続けた。
「高校は辞めちゃったし、悩みもいろいろあるけどさ、私の未来は無限大だと思ってるから。」
「すごい自信だね。」
「別に、自信じゃないよ。誰の未来も無限大なんだよ。」
「私も?」
「うん、紗耶香だってそう。みんなそう。考えてもみなよ、あの矢口がミニモニ。やってるなんて、だれが想像した?私がもしやめてなかったら、あの中にいたのかと思うと怖いよ。まあ、それはともかく、未来は無限大って思うだけ思って、いま、何にも頑張ってない私は、ちょっと問題かもしれないし、いま頑張ろうとしてる紗耶香に対してなにかを言う権利なんか無いんだけど、期待してるよ。私、みんなのことテレビで見るの好きだし。一番のファンだから。他にファンがいなくなっても、私だけは、紗耶香のこと応援してるよ
- 340 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時34分47秒
- なんとなく、この一言で、悩み相談する気持ちは失せていった。
誰の未来も無限大。
私だけは応援してるよ。
ホントに明日香だけになったらそれはそれで、すごく困ってしまうけれど、ここまで言ってくれる人がいるのなら頑張っていけると思った。
でも、ちょっと明日香のミニモニ。も見てみたいと思うのは私だけだろうか。
- 341 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時35分21秒
裕樹君から電話が来たのはその日の夜だった。
- 342 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時35分52秒
- 翌朝、約束の公園へ行くと、ぼーと、座ってる裕樹君がいる。
なんか、驚かせたくて、ちょっと戻ってわざわざ自販機を探しだして熱い紅茶を、首筋にあててやった。
「あつっ!」
期待通りのリアクション。
後藤を妹みたいに見るというのは、割とたまにしかないのだけど、裕樹君の場合は、ずっと弟感覚。
年下の男の子でこうやって話が出来る子って他にいないから貴重でもある。
- 343 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時36分25秒
- 裕樹君が私を呼びだした理由はほとんど予想通りだった。
正直言って、結構嬉しかったかな。
向こうが会いたいって思ってくれてるのは。
電話に出なかったり、結構ひどいことしたのは、私の自信のなさとあみへの気遣いと半々だったけれど、それが後藤や圭ちゃんに伝わるはずがない。
だから、この件で嫌われてたら、元に戻るのは大変だなあという覚悟をしていた。
そんな思いを裕樹君に話して、すごいすーっとした気持ちになったところで、あれだもん。
- 344 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時37分05秒
「紗耶ちゃんは、ぼくの気持ちは何も分かってくれてないの?」
- 345 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時37分41秒
- 私、そんなに鈍感だったかなあ。
まあ、あんまりもてる方じゃなかったし、だから、鈍感だったかどうかも確かめよう無いんだけど、裕樹君の気持ちに気づいて上げられなかったのだから、やっぱ、鈍いのか。
ソニンちゃんごめんね。
裕樹君が問題起こしたのは、どうやら私のせいらしい。
しかし、年下のかわいい男の子のに惚れられるとは、私もまだまだ捨てたもんじゃないな。
でも、今は、恋愛はいいや。
もしかしたら、すごい出会いはあるかもしれない。
だけど、しばらくは唄っていたい。
恋は、今じゃなくてもできるし、探し求めなくても、ある日突然降ってくる物だと思ってるから。
ごめんね、裕樹。
でも、裕樹はきっといい男になると思ってるよ。
紗耶香お姉さんは応援してる。
- 346 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時38分15秒
- 再デビュー後ASAYAN以外での初のテレビ収録。
私は、後藤と、圭ちゃんと、そして吉澤と会うことに決めていた。
あみは、シングルのメインボーカルを取ってから落ち着きを取り戻していた。
今や、私の方が捨てられる心配をしなきゃいけないような立場だ。
まあ、本気で心配してはいないけど。
だから、きっと、大丈夫だろうと思っていた。
だけど、面と向かって、プッチモニに会いに行くとは言いづらすぎて、だますような形になってしまった。
- 347 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時38分47秒
「ハロー。みんな元気だったかい?」
- 348 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時39分19秒
- 我ながら、アホな再会の挨拶だ。
もうちょっと気の利いた台詞はなかったのかよ。
後藤は、無邪気に私を迎えてくれた。
圭ちゃんは、やっぱり怒っていた。
ここまでは、大体頭の中にあった。
でも、吉澤に怒られるとは、まるで筋書きにない展開だった。
- 349 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時39分58秒
- 吉澤は、成長したなと思う。
きっと、圭ちゃんに鍛えられたのだろう。
教育係は、矢口だったかな。
あんまりその色は感じない。
なんだかんだで、同じユニットにいると、長い時間を一緒に過ごすからね。
私も、矢口は同期だけど、矢口から見れば私よりも圭織の方がきっと長い時間ともに過ごしているというのと同じだろう
私が知っている吉澤は、こんなにしゃべれる子ではなかった。
思っていることを思った通りに言葉に出来るような子ではまるでなかった。
そうだ、1年半の時が過ぎたんだ。
そう実感させてくれたのは、後藤でも圭ちゃんでもなく吉澤だった。
- 350 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時40分35秒
- そして、最後まで怒っていた圭ちゃん。
圭ちゃんの歌唱力があれば、あみにメイン取られずにすんだかもなとも思う。
でも、それは徐々に手に入れていけばいい。
私が抜けた後のプッチモニをまとめ、吉澤をこんな立派にして、唄も上手い。
やっぱ、圭ちゃんは永遠のライバルなのかな。
見習うところが多いしね。
でも、おばさん臭いところは、見習わないでおこう。
私がいた頃は、そんなとこ無かったと思うんだけど。
- 351 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時41分17秒
- とにかく、私はまた彼女たちと出会った。
後藤と会っても、自分を恥ずかしいと思わずに話をしていられる。
圭ちゃんにも引け目を感じたりはしない。
- 352 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時41分50秒
- そんな場面をあみに見つかって、泣かれてしまったけれど、もちろん昔の方が大事で、後藤や圭ちゃんが大事で、あみがどうでもいいなんてことはない。
私にとっては、どちらも大事な存在だ。
私がプッチモニにいた時間は帰ってこない。
あみとでさえ、二人で暮らした時間は帰ってこないんだ。
昔も大事だし、今も大事。
後藤や圭ちゃんと同じように、今、あみは私にとって、ユニットパートナーであり、特別な友人であり、ライバルであり、姉であり妹であり、どの面から見ても、とてもとても大切な存在なんだ。
だから、そんな彼女に、ステージの上でありがとうなんて言われたら照れてしまう。
そして、唄いながら涙を流す彼女を見て、私も泣いてしまった。
曲のラスト、アドリブでアカペラにしてしまった部分は、本当に気持ちよかった。
ただ、それと同時に、大きな課題が見つかった部分でもあった。
- 353 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時42分25秒
- 再デビューの最初のテレビ収録で、デビュー曲と同時にちょこっとLOVEを唄うのは、実はすごく抵抗があった。
この世界に帰ってきたら、いつかは、3人であの曲を歌いたいと思っていたのは確か。
だけど、それを最初のテレビ収録でやってしまうのは、あまりに昔を引きずっているような気持ちになる。
私にとってちょこっとLOVEという曲は、モーニング娘。の他のどんな曲よりも強い強い思い入れのある曲。
おそらく、圭ちゃんにとってもそうなはず。
そんな曲を、今、このタイミングで唄ってしまうえば、昔の自分の光に飲み込まれてしまう可能性もあると思っていた。
- 354 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時42分57秒
- でも、それでも、私は最終的に唄うことを選んだ。
なぜだろう。
きっと、ある程度の自信があったからだと思う。
後藤と、圭ちゃんと、この曲を唄っても、今の自分を見失うことはない。
自分の決断に後悔することはない。
そう、信じられたから、3人で唄う楽しさをその場で得ることが出来たのだろう。
そして、唄ってみて、本当に楽しかった。
幸せだと感じた。
こんな風に唄っていて幸せだと感じられる曲、そして、聞いていて幸せな気持ちになってもらえる曲、そういう物を自分で作り、自分で演奏し、自分で唄うことが大きな目標としてこの先待っている。
- 355 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時43分29秒
- こんな風にして、私は唄の世界へ戻ってきた。
今のところの21世紀最大の出来事。
だけど、来年、再来年、年を経る毎に、この21世紀最大の出来事が、もっともっと大きな、もっともっといいことになっていけるようにしたい。
- 356 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時44分00秒
- 私とあみの再デビューシングルはオリコンで初登場1位を獲得した。
プッチモニは、連続1位記録が止まって2位。
でも、そんな目の前の順位なんか、どうでもいいのかもしれない。
明日香が言っていた。
10年、20年後は分からないと。
それまでは、写真集出したり、アイドルみたいな今しかできなさそうなこともしつつ、毎日頑張っていけたらいいだろう。
もちろん、毎日楽しいことだけではない。
それでも、ずっとずっと、唄っていきたい。
唄うという仕事は、20年経っても30年経っても、続けようと思えば続けていけるはず。
自分の力がどれくらいの物なのかは分からないけれど、未来は無限大なのだから。
- 357 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時44分35秒
- 今年も1年が終わる。
私の部屋には、あみからの、そして後藤に圭ちゃん、矢口に圭織、さらには裕ちゃんからのプレゼントが並んでいた。
なっちには忘れられてしまったようだ。
- 358 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時45分11秒
「芸能人がさあ、大晦日に家でテレビ見てるのって、大丈夫なの?」
- 359 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時45分42秒
- 芸能人をとっくにやめている明日香が、隣でミカンを食べながら紅白を見ている。
頑張っているみんなのことをテレビで見るのが好き、というのは本当のことのようだ。
私のファンだと言ってくれる彼女のためにも頑張らないと。
そして、10年後、20年後、もしも、彼女が唄の世界に帰ってきたときに、私が慌てずにすむように。
- 360 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時46分14秒
- 「そろそろ、年越しそばでも作ろうか?」
「紗耶香、よろしく。」
「えー、私一人で作るの?」
「だって、私、お客さんだもん。」
- 361 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時46分49秒
こうして、私は今日、18歳になった。
- 362 名前:紗耶香は語る 投稿日:2001年12月31日(月)23時47分19秒
- 紗耶香は語る 完
- 363 名前:作者 投稿日:2001年12月31日(月)23時48分20秒
- この話はこれで終わりです。
帰ってきたあいつ、もこれで完全に終了。
これ以上続けても、どんどん白々しくなっていくだけですから。
- 364 名前:作者 投稿日:2001年12月31日(月)23時52分07秒
- 市井紗耶香、誕生日記念で、一日時間があったのでこのタイミングで書いてみました。
自分の頭の中の映像としては、結構好きなのですが、それがちゃんと描けたかどうかは、自分で判断するすべはありません。
現実に市井紗耶香が復帰した以上、こんな話はもはやいらないんですけど、勢いで第13章まで書きました。
そして、最終章というか、外伝というか、少し時間をおいて最後に市井紗耶香の一人語りでした。
おつきあいいただいた方、ありがとうございました。
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