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『恒例企画!! オムニバス短編集 』5th stage ”モーヲタはサンタクロース”』
- 1 名前:第5回支配人 投稿日:2001年12月03日(月)22時17分35秒
- このスレッドは第5回オムニバス短編集投稿用スレッドです
『やあ、みんなこの1年間いい子にしてたかな?
えっ、おじさんが誰かって?
おやおや、忘れてしまったのかい、昔はあんなにおじさんのことを待っていてくれたじゃないか
おお、そうか、思い出してくれたかい
そう、おじさんは・・・・・・
うん?
ハハッ、おじさんの名前なんかよりもこの袋の中身の方が気になるようだね
よしよし、それじゃあ、好きなものを選びなさい
その代わり、楽しんだ後は感想と投票にもできるだけ参加しなくちゃ駄目だよ
きちんと参加できた良い子の所には来年もおじさんはたくさんのプレゼントを持っていくからね』
作品を楽しむ。>>4-999
作品を投稿する。>>2-3
今までの内容を見る
第一回http://mseek.obi.ne.jp/kako/purple/989646261.html
第二回http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=purple&thp=993979456
第三回http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=flower&thp=998168613
第四回http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=white&thp=1004797991
- 2 名前:作品を投稿する-1 投稿日:2001年12月03日(月)22時19分25秒
- 1)まずは作品を完成させてください。
(投稿の際、コピペを使用することが望ましいので、できればその準備も)
2)次に登録用スレッドにて参加登録してください。
登録用スレッド
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=imp&thp=989174315
登録する際の例
「★〇〇番目「タイトル」●●●レスより開始します。」
もし、タイムラグでほかの作者さんと(登録のタイミングが)被ってしまい
同じ番号が2つ(複数)出来てしまった場合には、若いレス番号の方を優先してその番号を取得し、
被ってしまったほかの作者さんは、再度登録をしなおしてください(書き込み例は上記と同様)。
ただ、再度登録しなおし、というのが誰から見ても分かるような但し書きをすること。
3)続いては作品の投稿です。
「名前欄」には「タイトル名」、「メール欄」には「登録番号」を必ず記載してください。
その際、投稿数25レス以内、一度投稿しはじめたら最後まで一度に投稿してください。
作品の最後に必ずそうと判る目印(fin.や-完-など)を入れるのも忘れずに。
なお、あとがきは投稿用スレッドには書かないようにしてください。
書き込みたいときは、感想用スレッドに投稿してください。
- 3 名前:作品を投稿する-2 投稿日:2001年12月03日(月)22時20分59秒
- もし、書き込み(登録スレ)から24時間以内に更新されなかった場合、
その作者さんの登録番号は登録キャンセル/中断と見なします。
無効になった作者さんは再度登録し直す必要があります。
登録番号が無効になった場合、登録スレに
『〜番が無効になりましたので、次の「○○○○(タイトル名)」をこれから書きます。』
のように書き込み、その書き込みから1時間以内に投稿を行って下さい。
4)最後に投稿が終わったら、登録スレッドにその旨書き込んでください。
例
「☆〇〇番目「タイトル」●●●レスで終了しました。」
なお、投票締め切りまで参加作者がハンドル等を公開することは禁止されています。
次にルールの説明です。
・テーマは「クリスマス」。
・また、前回話題になったエロ・複数投稿に関しては、規制はありませんが、
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=imp&thp=1006011538
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=imp&thp=1004798175
上記スレの内容を参照したうえでの自己判断にお任せします。
・25レス以内にまとめてください。短い方の制限はありません。
なお、投稿締切日は12月16日(日)です。
- 4 名前:作品を楽しむ 投稿日:2001年12月03日(月)22時24分28秒
- 読者としての注意点。
作品に対する感想や批評は案内板の感想スレッドに書き込んでださい。
投稿スレッドに感想を書き込むのは厳禁です。
感想スレッド
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=imp&thp=1004798175
あなたの書く感想が、明日の良作に繋がる・・・かも知れません
酷評、批判も含めて歯に衣を着せぬ感想が許されるのも短編集という企画です
気軽に、そして意欲的に感想にも参加してください
なお、投稿締め切り後、投票がありますので、そちらにも振るってご参加ください。
それではお楽しみください。
- 5 名前:星のピアス 投稿日:2001年12月04日(火)01時50分31秒
あたしは少なくとも、他の誰よりも彼女を愛していた。
彼女の為なら何も顧みらずに。
想ってきた。
アナタだけを……。
それだけ。
それだけだよ。
……ねぇ?…よっすぃ………
- 6 名前:星のピアス 投稿日:2001年12月04日(火)01時51分34秒
「これ…。」
「え?」
「ん。」
ちょっとぶっきらぼうに渡される小さな箱。
それには綺麗に赤いリボンが施してあった。
街は今宵クリスマスで、恋人達も甘い空気に包まれているだろう頃。
相変わらずあたし達は、いつものように遅くまで仕事をしていた。
休みをくれとまでは言わないけど…。
もうちょっと早く終わっても……。
……せめてクリスマスくらい。
だけど、それも最初から分かっていた事。
あたしはそれ程落ち込むこともなかった。
何よりこうしてよっすぃーと一緒にいることが出来たわけだし。
- 7 名前:星のピアス 投稿日:2001年12月04日(火)01時52分41秒
すっかり習慣付いた、人気のないこの夜道を二人で帰れる。
それだけであたしにとっては、跳ね上がるような嬉しさまではいかなくとも、
切なくなるような温かい感情が胸の中に広がっていた。
…なのにさ。
こんなことするんだもん。
どんな顔をしていいか分からず何となく渡されたそれを受け取った。
手の中の小箱を黙って見つめるしか出来なかった。
……いつ買ったんだろう…。
「いちようクリスマスだし…。」
その声に顔を上げたけど照れているのか、なかなかこっちを見てくれない。
でも、今のあたしは自分で精一杯だから。
そんなよっすぃーを気にしている余裕もないくらい…。
- 8 名前:星のピアス 投稿日:2001年12月04日(火)01時53分52秒
「……あたし、なんも用意してないよ?」
声…震えてないかなぁ…。
「あぁ、いいって。」
苦笑しながら「早く開けてよ」なんて言われて。
ゆっくり赤いリボンを解いて箱を開けると、中には銀色に輝くピアスが入っていた。
「これ……。」
「ごっちんに似合うかなぁって。高いもんじゃないけど…へへっ。」
照れ隠しで笑ったときに出た息が白色に変わる。
「…ありがとぉ。」
やばいなぁ…泣きそう……。
鼻の奥がツンとしてよっすぃの顔がちょっとぼやける。
- 9 名前:星のピアス 投稿日:2001年12月04日(火)01時55分32秒
でもそれを知られるのが、気恥ずかしかったあたしは掠れる声で
「…付けていい?」
ちょっと誤魔化してみた。
「ん。あ、付けたげよっか?」
「…うん。」
髪を少し震える手で両耳に掛ける。
よっすぃの冷たい指が耳に触れて、自分の体がビクッと大きく震えたと思ったら
ずっと我慢していた涙が目から零れた。
彼女があたしの泣いていることに気付いたのは、ピアスを付けてくれた後だった。
- 10 名前:星のピアス 投稿日:2001年12月04日(火)01時58分04秒
「…泣かないでよぉ。」
「……っ…だってぇ…。」
少し情けない顔であたしの涙を指で拭ってくれるけど
次々に目から溢れ落ちていくから
そんなんじゃ追いつかなくて、あたしも手の甲で涙を拭う。
「赤くなっちゃうよ…。」
その手を優しく制して、こんなあたしに気を使うよっすぃ。
「…んっ…いいもん…うっ…っ…。」
あたしは嗚咽を漏らしながら泣くばかり。
もっとマシな、女の子らしい泣き方もあっただろうに…。
「…ほらぁ、もう泣かないでって。」
よっすぃはそう言って、子供のように泣きじゃくるあたしを
ぎゅっと抱き締めてくれた。
でもさぁ、そういうことされると余計泣きたくなるんだってば。
- 11 名前:星のピアス 投稿日:2001年12月04日(火)01時59分14秒
「よくそんな涙出るよねぇ。」
「うぅ……ばかぁ…っ……。」
ちょっと、からかったようにそう言われて、あたしは涙を拭っていた手を
よっすぃの背中に回した。
涙で洋服を汚してしまうと思ったけど、どうしてもよっすぃーの温もりを
感じていたかったからその肩に顔を埋めた。
「ピアス…よく似合ってるよ…。」
あたしの頭を撫でる手はすごく優しいもので
ずっとこの腕の中にいられるのなら、あたしはどんな大切なものでさえも
躊躇する事無く捨てていただろう。
- 12 名前:星のピアス 投稿日:2001年12月04日(火)02時00分54秒
「…もう5年も経っちゃった……。」
マンションのベランダに出て、クリスマスの夜空を見上げながら
ビンのカクテルを一口飲み、呟いてみる。
あの日から5年間ずっと付けているピアス。
これ以上ないあたしの宝物。
悪戯っぽく笑いながら、あたしを見守ってくれているよっすぃーが、
どの星になってしまったのかをクリスマスがくる度に探しているあたし。
どうやったって胸に空いた寂しさを
埋めることは出来ないと分かっているけど……。
「…きっとあの一番綺麗なのだね。うん。」
誰もいないのに、わざと明るく努める。
もう涙で星なんか、霞んでしか見えないくせに。
自分への強がりなのか。
- 13 名前:星のピアス 投稿日:2001年12月04日(火)02時01分53秒
すると、後ろにあるリビングから聞きなれた声がした。
『もうごっちん、また泣いてる』
「…………。」
……え?
あたしはその声に驚き、振り向いた。
リビングにあるソファー。
そこには間違いなく、あぐらをかいてよっすぃーが少年のように笑っていた。
- 14 名前:星のピアス 投稿日:2001年12月04日(火)02時03分13秒
「……ウソ…………よっすぃ……。」
いや、嘘じゃない。間違いなくよっすぃーだ。
あの時のまま、何も変わってない。
時間は止まったまま。
驚きのあまり瞬きをして目を開けたときには
もうよっすぃーの姿はなく、ただソファーがあるだけだった。
「あ………。」
- 15 名前:星のピアス 投稿日:2001年12月04日(火)02時04分17秒
…いつも……いつも……勝手なんだから………。
でもさ、よっすぃー……あたしはそんなとこも含めて全部よっすぃーが
好きで。好きで好きで。……ただ、それだけなんだよ。
あたしは誰もいないソファーに向かって
「……フフッ、泣いてなんかないよぉーだ。」
クリスマス。
サンタさんからのステキな贈り物に、あたしはまた泣いた。
- 16 名前:星のピアス 投稿日:2001年12月04日(火)02時04分58秒
…END
- 17 名前:何故だかさみしいけれど・・・ 投稿日:2001年12月04日(火)13時09分08秒
- 今日はクリスマス。
人々は幸せな雰囲気に包まれています。
それはもちろん、私達モーニング娘。でも同じコトで。
今日の仕事が1時までという事で、各々予定を立てています。
「いちーちゃーん。今日空いてるよね?・・・うん!」
ごっちんは市井さんか。
「裕子ぉ。飲もうぜぇ」
矢口さんは中澤さん。
「保田さ〜ん。お買い物して帰りましょ〜」
「ちょっと。ベタベタしないでよね」
保田さんと梨華ちゃんは相変わらず仲良くて。
「よっしゃ〜。パーティーやで〜」
「パーティーれすよ〜」
「は〜い!」
加護とののと新メンはいっしょにパーティー。
「じゃあカオリ、うちらも飲みにいくっしょ」
「だね〜。行こっか」
安倍さんと飯田さんは飲みに行くのね〜。
・・・私は?
- 18 名前:何故だかさみしいけれど・・・ 投稿日:2001年12月04日(火)13時18分17秒
- あはは、一人なんですよね私。
みんな出払ってさみしくなった楽屋で、静かにため息をつく。
・・・キツイなぁ。
今まで、一人でクリスマスを過ごした経験はなかった。
モーニングに入る前は友達と、去年は当時の新メン4人で過ごしたのに・・・。
楽屋にいるのも惨めなので、そそくさと帰路につく。
町はイイ感じに盛り上ってて、幸せそうな人々を見る度、一人の悲しさは倍増する。
腹が立ったので、早足で家へと帰り、ドカッとベッドに寝転がる。
・・・へっ、いいさ。今年は「寝クリスマス」だよ!
- 19 名前:何故だかさみしいけれど・・・ 投稿日:2001年12月04日(火)13時27分33秒
- ♪テッテテ〜 テテテ テテテテ〜
ケイタイが鳴って、目が覚めた。
もう6時半。
ふてくされて5時間も寝てたのか・・・。
てか、ケイタイ鳴ってるよ。
急いで電話に出る。
「あ〜よっさぁん〜?よっさんやな?よっさん〜」
なんだなんだ!?
いきなり名前を連呼されて戸惑ってしまう。
「よっさぁ〜ん。裕ちゃんよ〜」
よっさんって言う呼び方で、相手が中澤さんってコトはわかってたけど・・・酔ってます?
「聞いとるか〜?」
「はい・・・聞いてますけど・・・」
「そうか〜。今一人なんやて〜?」
ぐっ。イキナリキツイコトを・・・。
「よかったら裕ちゃんと飲まんか〜?」
どうやら、誘ってくれてるようだ。
- 20 名前:何故だかさみしいけれど・・・ 投稿日:2001年12月04日(火)13時37分39秒
- 場所は変わって、中澤さんの家の前。
結局、私はお誘いに乗ったわけです。
・・・一応言っときますが、ホントは最初は行く気なかったんですよ。
でも、
「矢口寝てもうたんよ〜。裕ちゃんさみしいわ〜」
なんて言われて、決心が揺らいでしまいました・・・。
インターホンを鳴らすと、すぐにカギを開けて中澤さんが顔を出した。
「おうよっさ〜ん。来てくれたんやなぁ。うれしいわ〜」
そういって、グデーッと私に抱きついてきた。
「ちょ、中澤さん〜・・・」
・・・それにしても、こんなにへべれけな中澤さんはじめて見た。
見た目は大丈夫そうなのに、もう呂律はかなり怪しい。
とにかく、部屋に通してもらう。
そこには、既に夢の中の矢口さんがいた。
「ま、飲もうや」
早速、綺麗な色をしたシャンパンを注いでくれた。
- 21 名前:何故だかさみしいけれど・・・ 投稿日:2001年12月04日(火)13時46分40秒
- 一口飲んでみると、ものすごく甘かった。
これなら、何杯でもいけそうだ。
多分、矢口さんもすごい勢いで飲んだんだろうな・・・。
そう思いながら、ニ杯目に口をつける。
それから数10分、私と中澤さんは、甘いシャンパンをお供にクダラナイ話をした。
ホントに大したことない話なのに、すごく楽しかった。
まぁ、勢いで中澤さんがからんで来たりしてあせったりもしたけど。
やっぱり、一人なんてなるもんじゃないよなぁ・・・。
そんな事を思っていると、不意に中澤さんが、イイ雰囲気だった場を止めた。
「さみしかったか・・・?」
驚いて中澤さんの顔を見ると、さっきまでのふざけた人とは違う、いつもの中澤さんがいた。
- 22 名前:何故だかさみしいけれど・・・ 投稿日:2001年12月04日(火)13時56分45秒
- しっかりした口調で、いつもの雰囲気で語りかけてきた中澤さんに押されてか、私は反射的に首を縦に振り下ろしていた。
「そうか。やっぱりさみしかったか・・・」
そう言って、中澤さんは私の隣に移動し、グッと私を引き寄せた。
中澤さんの左腕が肩にまわされ、急に心臓の鼓動が早くなる。
「・・・なんでやろな?」
肩にまわされていた腕を私の髪に持ってきて、髪の間に指を滑らせながら、中澤さんが呟いた。
なんとなく、私は黙ってしまう。
「なんで、今日一人やとさみしいんやろな?」
「いつもと何も変わらん、ただの一日のはずやのにな・・・」
中澤さんの言葉の意味は、すぐにわかった。
- 23 名前:何故だかさみしいけれど・・・ 投稿日:2001年12月04日(火)14時05分18秒
- でも、中澤さんは私に、考える時間を与えてはくれなかった。
「ま、さみしいんやからしゃーないわな」
なんだかすごく中澤さんらしい結論で、私は少し脱力してしまった。
それでも、中澤さんは真剣に、
「そうと決まれば、わざわざ一人でおることないからなぁ」
私の目を見て言った。
この言葉で、私の中でひとつの考えが浮かんだ。
そして、次の言葉で、私はその考えに自信をもてた。
「ま、今年は裕ちゃんでカンベンしといてな」
- 24 名前:何故だかさみしいけれど・・・ 投稿日:2001年12月04日(火)14時15分34秒
- ブワッと、私の視界が歪む。
一斉に、涙が瞳から零れ落ちた。
中澤さんは、私が一人なのを気遣ってくれていた。
だから、私をここに呼んだんだ。
わざわざ、矢口さんを眠らせてまで。
楽しみにしてたであろう、矢口さんとの時間を削ってまで。
「気にしたらあかんよ」
泣いている私をふんわりと抱きしめ、頭の上から中澤さんが話しかける。
まるで、私の気持ちを察したかのように、
「さみしい思いは、誰だってしたないからなぁ・・・」
このあと私は、ずっと中澤さんの中で泣いていた。
いろいろな気持ちが混ざったままで、混乱した状態で。
そんな私を、中澤さんはずっと抱きしめててくれた。
・・・だから、私は気付けなかった。
もう一人、感謝すべき人がいたことに。
「メリークリスマス。よっすぃ・・・」
完
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月04日(火)14時24分30秒
- ある日の楽屋。貴重な待ち時間を、皆思い思いに過ごしていた。
私は読みかけの本を読んでいる。
「もう12月ですねぇ」
横にいた石川が唐突に話し掛けてきた。
「え?あぁ、そうだねぇ。もう12月なんだよね…」
「保田さん、イブ予定入ってますか?」
「…仕事でしょ」
「えっと、その後です」
「…別に」
「じゃあ、保田さんち行っていいですか?」
「…いいけど?」
「じゃあっ、約束ですよ」
「はいはい…」
- 26 名前:サンタからのプレゼント 投稿日:2001年12月04日(火)14時25分13秒
- あれから、石川とはイブの話をしていない。
その次の日から、石川は仕事が終わるとすぐに、吉澤と後藤と3人で帰るようになっていた。
「なんか最近仲いいねぇ〜、アイツら」
「そうだねぇ。年も近いからね。仲良い事は良い事だよ。リーダーとして、カオリはそう思うの」
あぁ、こりゃまた訳分かんない事喋りだしそうだな・・・そこにいた誰もがそう思った。
「あっ、次ラジオあんだった!」
「矢口ぃ〜、話し終わってないよぉ〜」
「じゃあねぇ〜」
矢口、逃亡。こりゃ早いとこ逃げなきゃ捕まりかねない。
「私も帰るね」
「あっ、圭ちゃ〜ん」
「じゃね」
結局誰が捕まったんだろうか。私は知らない。
- 27 名前:サンタからのプレゼント 投稿日:2001年12月04日(火)14時25分57秒
- そして、イブ当日。仕事も早めに終わり、帰り支度を済ませる。
石川と目が合った。けど、すぐ逸らされた。
石川は今日も、吉澤と後藤と帰っていった。
やっぱり、話半分だったんだ。約束を破られることは、よくある。慣れたつもりだ。
それでも…やっぱり、少し寂しい。
私は、一人で楽屋を出た。
- 28 名前:サンタからのプレゼント 投稿日:2001年12月04日(火)14時26分38秒
- 寄り道せずに帰った。イブは、どこもカップルで溢れていて、嫌だ。
冷えた部屋に、明かりを点け、暖房のスイッチを入れる。
窓から、外の明かりが見える。
眩しい、イルミネーション。ひどく遠くに見えた。
テレビをつけても、クリスマス番組ばっかり。つまんないから、すぐに消した。
「…はぁ」
どうしようかな。ケーキでも買ってこようか?それとも、美味しい料理でも食べに行こうか?
…やめとこう。一人じゃ、寂しい。
- 29 名前:サンタからのプレゼント 投稿日:2001年12月04日(火)14時27分14秒
- ピンポーン
呼び鈴が鳴った。なんだろう、クリスマスだけに宗教の勧誘かなんか?
だったら、とっとと追い返そう。
ピンポーン
また呼び鈴が鳴る。せっかちなやつらしい。
玄関まで行くと、私は覗き穴を覗いた。
目に飛び込んできたのは赤い服。サンタ?顔までは見れなかった。
やっぱり宗教の勧誘?なんか怖いなぁ。途端に不安になる。
ピンポーン
しつこいなぁ〜。はいはい、今開けますよ。
「宗教なら、間に合って…」
パンッ
その乾いた音に、私の言葉は遮られる。
- 30 名前:サンタからのプレゼント 投稿日:2001年12月04日(火)14時28分00秒
- 目の前にいたのは、サンタクロースの格好をした…石川?
手にはまだ煙を吐き出すクラッカー。
クラッカーから飛び出したカラフルな紙が、私の頭に絡み付いていた。
パシャ
次に私を襲ったのはカメラのフラッシュ。
視線だけそちらに移すと、石川の横からカメラ片手に後藤が笑っていた。
反対から、コンビニ袋を持った吉澤も顔をだす。
「きゃはは!圭ちゃん、その顔!ケッサクだぁ〜!」
私の肩にポンッと手を置いてそう言うと、勝手に中へ入っていった。
「あ、色々買ってきたんで。食べましょう」
コンビニ袋を少し持ち上げて私に見せると、吉澤もまた勝手に中に入っていく。
玄関には、まだ固まっている私と石川だけが残された。
- 31 名前:サンタからのプレゼント 投稿日:2001年12月04日(火)14時28分49秒
- 「あの…保田さん?…もしも〜し?お〜い」
私の目の前で手をパタパタと振る。
大丈夫。気は確かだから。
「…なに?その格好」
「何って…その…サンタさんです…」
すこしだけ俯いて、顔を赤らめた。恥ずかしいなら、そんな格好しなければ良いのに。
「家からその格好で来たの?」
「…ちょっとだけ、恥ずかしかったです。皆、こっち見てて…」
そりゃあ、そうだろう。いくらイブでも、こんな浮かれた格好をしてれば、嫌でも目を惹くよ。
「…途中で着替えればよかったんじゃないの?」
「あっ…」
あっ、じゃなくて…普通気付くでしょ、そのくらい…
「もういいから、中、入りなさい」
「…おじゃまします」
- 32 名前:サンタからのプレゼント 投稿日:2001年12月04日(火)14時29分35秒
- テーブルの上には既にお菓子やら何やらが所狭しと広げられていた。
「その辺、適当に座って良いわよ」
「もぉ〜座ってま〜す」
あっそ。こいつらに気を使った私が馬鹿だった。
「もう脱いでいいかな…?」
腰をおろした石川が、横にいる吉澤に問い掛けた。
「えぇ〜、ダメだよ。あんなに苦労したんだから、ちゃんと着ててよ〜」
「そんなぁ〜」
苦労したって…作ったの?その辺で買えるだろうに…。
「自分らで作ったの…?」
「そうだよぉ〜、毎日3人して頑張ったんだよぉ〜」
ああ、それで毎日3人して帰ってたのか。
「ごっちんは結構器用だから良かったけど、私と梨華ちゃんは大変でしたよ」
良く見ると、所々失敗した形跡がある。その辺は、石川か吉澤がやったのだろう。
- 33 名前:サンタからのプレゼント 投稿日:2001年12月04日(火)14時30分22秒
- 「もぉ脱ぎたいよぉ〜」
「だ〜め。梨華ちゃん、カワイイよ?」
「ホント?」
「ホントホント。もう、梨華ちゃん好きにはたまんないよ。ね?よっすぃ〜」
後藤が、吉澤に話を振る。
「ねぇ、ホント…たまら〜ん!」
「きゃあ〜♪」
ふざけて抱きつく吉澤。間の抜けた悲鳴を上げる石川。それを見て大笑いする後藤。
皆笑っていた。私も、笑った。
- 34 名前:サンタからのプレゼント 投稿日:2001年12月04日(火)14時31分01秒
- 気が付くと、3人ははしゃぎ疲れたのか、眠ってしまっていた。
私も寝ようかな…あっ、日記つけてないや。
私は引き出しから日記を取り出す。ここのところは毎日、日記をつけていた。
12月24日の日付を見つけると、そこに書き込んでいく。
『12月24日。今日、サンタがうちにやってきた。私が一番望んだプレゼントをもって、3人のサンタが、うちに来た。』
日記を閉じると、元の場所に戻した。
さぁて、寝ようかな。久しぶりにはしゃいだから、疲れた…。
伸びをしながら、3人のサンタの寝顔を覗く。3人とも、幸せそうな寝顔だ。
シングルのベットの上で寝ているのは、石川と吉澤。ちょっと狭そうに寝てる。
ソファーの上には、後藤。だらしない寝相で寝てる。
- 35 名前:サンタからのプレゼント 投稿日:2001年12月04日(火)14時32分19秒
- …ん?私はどこで寝れば良いんだ?
自分でいうのもなんだが、私の部屋は殺風景だ。ベットとソファー以外、これといったものがない。
ってことは…床しかないじゃない…。
私は3人に布団を掛け直してやると、余った毛布にくるまって、床に横になった。
冬の床は冷たく、固い。
どうやらこのサンタたちは風邪までプレゼントしてくれるつもりらしい。
〜FIN〜
- 36 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月04日(火)23時55分05秒
- 今日はクリスマスイブ。
年に一度のその日は世界中を一つにしてくれる。
そんな大切な大切な、日・・・・。
「さぁ!シャンパン飲もうっ!!」
「飲みすぎだよ〜。」
「いいからいいから!」
ここは石川のマンション。
広くもなく狭くもないが三人はクリスマスを一緒に過ごしていた。
大量のシャンパンが飲み散らかされそれでもまだ後藤と吉澤はなんとか止める石川を
無視し完全に酔っていた。
「ん?」
カチカチ・・・・・・
時計の針が徐々に進んでいく。
この日のために一秒たりとも間違えのない正確な時計は徐々にゴールへと近づいていた。
- 37 名前:いつでも心は一緒 投稿日:2001年12月04日(火)23時56分25秒
- カチッ!
パパパ〜ン!
「クリスマスだよ〜ん♪」
「メリ〜クリスマス〜!」
「あ、本当だぁ」
三人は後藤の声と共にクラッカーを鳴らした。
紙ふぶきが部屋に舞い落ちる。
「まだ残してあったケーキを食べよう!」
「まだ食べるの?」
顔を赤くし後藤はケーキの入った紙の箱を上に高々と上げた。
「ん〜?食べないって言うのぉ?そういう悪い子は・・・・」
「キャァ!」
「よしこも手伝え〜!」
「よし来たっ。」
「や、やめ・・・・キャア〜〜!!!(泣)」
後ろから後藤に羽交い絞めにされた石川は目の前に綺麗な鳥の羽を置かれて
失神まじか。
ケーキを買ったと同時に白い鳩の羽、一羽がプレゼントされたのだ。
「いやぁ〜〜!!(泣)」
こうして、石川の悲鳴と共にクリスマスは過ぎていった―――――
- 38 名前:いつでも心は一緒 投稿日:2001年12月04日(火)23時57分11秒
「ん・・・・・?」
気付くと自分はこたつの中で寝転がっていた。
隣では後藤と吉澤も幼い顔をして眠っている。
どうやらあの後気付かないうちに寝てしまったらしい。
外はまだ暗く深夜の真っ最中らしかった。
「2人とも起きて〜風邪引いちゃうよ〜。」
「「んん?」」
2人は石川に揺すられ同時にくぐもった声を上げる。
「何〜?まだケーキ食べたいのぉ?」
後藤が目を擦りながら体を上げた。
「こたつで寝たんじゃ風邪引いちゃうよ。」
「こら〜よしこ〜!ダメでしょ〜そんなところで寝ちゃ〜。」
ほとんど眠気なまこで後藤が分かっているのか分かっていないのか吉澤の
体を揺すった。
「何よ〜。まだ寝るんだからぁ・・・・・」
吉澤は眠そうに後藤の手を払いのけまた眠りに落ちようとした。
「もう・・・・・・」
石川がそんな2人に楽しそうにため息をこぼした時・・・・・
- 39 名前:いつでも心は一緒 投稿日:2001年12月04日(火)23時57分49秒
- 「可愛いお嬢さん達。プレゼントはいかがかね?」
「「「!!?」」」
ちょうど石川のマンションのドアの方から神々しい光と共に聞こえてきたその声に
三人は驚き眠気なんぞ吹き飛ばして振り向いた。
するとそこにはサンタの格好をした人間がいた。
白いひげと髪に覆われ顔は見えない。
しかしその肩には大きな白い袋が抱えれておりサンタにしてはイメージと違い
太っていない体型だった。
「サ・・・サンタ!?」
「サンタクロース!!」
「・・・・・・・」
石川はびっくりして声を上げた。
その隣で後藤が目をきらきらさせてサンタを見つめる。
そしてその隣では吉澤がぽかーんと口を大きく開けてその姿を見ていた。
- 40 名前:いつでも心は一緒 投稿日:2001年12月04日(火)23時58分43秒
- 「驚かんでもうちは本物のサンタクロースです。さぁ、良い子の三人。
この中からプレゼントを・・・・・ちょ、ちょっと・・・・・!?」
「・・・・・中澤さんっ!!」
おそるおそる近づいていった吉澤はそのサンタのひげが少し横に違和感丸出しで
ずれているのに気付いた。
それを引っ張ってみるとそこからは戸惑いびっくりした中澤の顔が現れた。
「な、何やってるんですか!?中澤さんっ!!」
「な、何って・・・・・・私はサンタやっ!」
中澤が吉澤からひげを引ったくりびっくりして声を上げる石川に答えた。
「裕ちゃんがサンタクロース・・・・・・?」
後藤だけ不思議そうに首を傾げてそれを見ていた。
- 41 名前:いつでも心は一緒 投稿日:2001年12月04日(火)23時59分38秒
- 「「・・・・・・・・」」
疑いの眼差しで見つめる石川と吉澤を無視し中澤はなんとかふんぞり返った。
「姿を見破られたからにはしょーがない。三人とも、ついて来っ!」
中澤は戸惑う三人を余所に手をくるっと空中で回した。
するとそこにサンタのそりが現れる。
そこにはちゃんとトナカイもいた。
「「「なっ!!?!?」」」
それに目を丸くする三人。
「あんたら三人を助手として認める〜」
中澤が言うと同時に三人はそりの中へと放り込まれた。
「な、なんですかこれは〜〜!?何の真似ですか!!」
「黙っとき!」
吉澤に中澤はしっと指を口元に立てた。
見ると気付けば自分達の服はサンタの服に変わっていた。
- 42 名前:いつでも心は一緒 投稿日:2001年12月05日(水)00時00分23秒
- 「しゅっぱ〜つ!」
どこかのんびりした口調と共にそりが空中に浮かんだ。
そして壁をすり抜けてそれはクリスマスの真夜中の空へと走り始めた。
「な、なんじゃこりゃ〜〜!!?!?」
後藤もやっとこの状況に声を上げる。
なぜか外なのに全く寒くなかった。
「な、中澤さん・・・一体何の・・・・・・」
「サンタやで〜うちは中澤裕子とちゃうで〜」
サンタ(中澤)は言うとトナカイへとつながるムチを一回ぴしっと叩き
スピードを上げた。
「「「うわっ!!??」」」
一瞬まばゆい光に包まれたかと思うとそこは見覚えのある部屋だった。
「「加護!!!それに辻!!?」」
後藤と吉澤がそれにびっくりして声を上げた。
そこには加護の部屋が下に見え、自分達は上から見ているようになり加護と辻がいたのだ。
2人仲良くケーキを真ん中にして今さっきの自分達と同じようにこたつでぐっすり寝ていた。
- 43 名前:いつでも心は一緒 投稿日:2001年12月05日(水)00時01分19秒
- 「ほれ。プレゼント渡し来て。」
「へ!?」
突然中澤は袋からがそごそと四角い綺麗に包装されたプレゼントを石川に手渡した。
渡されたと同時に石川はそりから下へ放り出された。
「これでいいの・・・・?」
石川はとりあえずそれを2人の元へと置いてみた。
「ん〜?梨華ちゃん?」
加護が目を覚ます。
石川はそれにびくっとした。
どうやらそりの姿は見えなくなっているようだった。
「あれ〜?なんで梨華ちゃんがいるの〜?それにサンタさん?」
そう、今石川はサンタの格好をしていた。
辻も起きだしプレゼントの箱をまじまじと見ながら眠そうにこちらを見た。
- 44 名前:いつでも心は一緒 投稿日:2001年12月05日(水)00時02分08秒
- 「石川っ!」
「キャッ!?」
中澤に呼ばれたかと思うと自分の体はそりの中にあった。
「「消えた〜??」」
下では2人が目をごしごししながら辺りをきょろきょろしていた。
「ほな次や。」
「つ、次は・・・・?」
「矢口の所やで。」
「「「わっ!!!」」」
するとそりはその部屋から消えていった。
それから四人は一緒にクリスマスを祝っていた矢口と安倍、そして保田、飯田、そして
それぞれ自宅で過ごす新メンバーの所へ回った。
そして今はやっと石川のマンション。
- 45 名前:いつでも心は一緒 投稿日:2001年12月05日(水)00時04分34秒
「お疲れさん。ほれ、これあんたらのプレゼント。」
中澤はくたくたになっている三人にそれぞれプレゼントを差し出した。
三人はもはや疲れの限界で何か分からずとりあえずそれを何も言わないまま受け取った。
「そんじゃな〜♪」
「ちょ・・・・・・中澤さん!?」
「サンタやで〜」
石川が最後とめたが中澤はそりと共に部屋から消えてしまった。
「・・・・・なんだったの今の・・・・」
「分けわかんな〜い。それよりごとーはもう寝ます・・・・」
「吉澤も・・・・・」
首を傾げる石川の横で2人は石川のベッドに入って一緒になってぐーすか眠りに
ついてしまった。
「あ!ちょっと2人とも〜!それじゃあたしが寝れないよ〜」
石川の声など全く耳に入らず2人は仲良くぐっすり眠ってしまった。
そして翌日・・・・
「ん・・・・・・」
朝の明るい日差しに石川は目を覚ました。
確かあの後自分はこたつの横で毛布を掛けて寝たはず・・・・。
自分の周りをきょろきょろと見渡してみた。
- 46 名前:いつでも心は一緒 投稿日:2001年12月05日(水)00時05分06秒
- 「!?」
しかし自分の体は『そこ』にはなかった。
三人で散らかった部屋の真ん中でこたつの中に自分の体はあった。
「ご、ごっちん!?よっすぃー!?」
急いで辺りを見渡してみる。
するとすぐ両端の隣に2人も一緒に寝転がっていた。
「ん〜?梨華ちゃん〜?」
2人が目を覚まし始める。
「あれ〜?あたしベッドで寝たんじゃなかったっけ?」
吉澤が寝ぼけた声で首を傾げた。
「サンタの裕ちゃんは〜?」
後藤も辺りをきょろきょろ見渡した。
しかし中澤の姿は何もない。
「あっ!2人ともこれっ!!」
「え?・・・・・あぁ!!!」
2人は石川のびっくりした声に顔を向けた。
するとそこには四角いプレゼントの箱があった。
「な、何で・・・・・??」
確かにあるそれ。
三人は呆然と目を丸くしながらクリスマスの朝を迎えた。
- 47 名前:いつでも心は一緒 投稿日:2001年12月05日(水)00時05分50秒
- そしてクリスマス翌日のさっそく仕事。
「そういうば〜夢に梨華ちゃんが出て来たぁ〜」
「辻もだ!」
仕事場につき顔を見合したなり加護と辻が石川に向かって言った。
「え!?」
「なんかね〜サンタの格好してた。そんでね〜朝起きたらプレゼントが置いてあった。
なんで?」
加護が不思議そうに首を傾げる。
聞けば他のメンバーも同じことを次々と口にしていた。
サンタの格好をした後藤が面倒くさそうにプレゼントを置いていったなど
同じくサンタの格好の吉澤が部屋でつまづいた、などなど。
「「「・・・・・・夢・・じゃない?」」」
三人は同時に目を丸くした。
夢じゃない。
とすると・・・・・・?
「ふあ〜!」
そして今日もベッドから体を起こすその人。
眠たい目を擦りその人は満足そうに仕事場へと向かって行った。
End
- 48 名前:クリスマスピアスと涙の価値。 投稿日:2001年12月09日(日)21時26分24秒
- これからは私が経験した、ある二人の物語を語っていこうと思う。
興味のない方はとばしてもかまわないができるなら全ての人にしってもらいたい。
- 49 名前:クリスマスピアスと涙の価値。 投稿日:2001年12月09日(日)21時36分27秒
- あれはたしか私が高校に入学して二回目の冬が訪れた時だった。
その日はクリスマスだと言うのに私はまるで予定がなく、ただただヒマを持て余すだけだった。
彼氏もいないし、誘ってくれるような友達もいない。
まあ、それならそれで、いい。
誘いがくるまでまっていよう。気は長い方だ。
しかし、さすがの私も待切れなくなった。
あれから二時間。時計はすでに十四時をまわっているというのに。
・・・しかたない、自分から動こう。
そう考えた私は防寒用のファー付きハーフコートをきて家をでた。
- 50 名前:クリスマスピアスと涙の価値。 投稿日:2001年12月09日(日)21時47分56秒
- 行き先などはもちろん、ない。
いくところもなく、誰もいないのだから。
・・・さて、どうしたものか。
早速、自分に手詰まりを感じた私は、ぶらぶらとあるくだけだった。
それから少したって、目的のなかった私はある一つの結論にたどりついた。
・・・帰ろう、寒い。
クリスマスがなんだ。うちは仏教だ。
そう思い、帰路についた。
家のちかくまでくると、まだ三時ちかくであることに気付いた。
・・・これから、どうしよう。
途方に暮れていた時、ある少女と出会った。
それが石川だった。
- 51 名前:クリスマスピアスと涙の価値。 投稿日:2001年12月09日(日)22時08分17秒
- 石川とは、本名石川梨華。
私の一コ下の高校一年生である。
後輩では唯一の私の友達と呼べるやつだ。
性格は明るくて、おっちょこちょい。
どこにでもいそうなタイプの人間だが、私はそんな石川が好きだった。
その石川が向こうから歩いてくる。
なんだか少し沈んでいる感じがしたから、声をかけようかどうかまよった。
が、実はすごく寂しかった私は結局、石川に声をかけた。
「おす。石川。」
なるべく明るく話しかけたが、曖昧に微笑む石川。
私はかまわず続けた。
「どっかいくの?彼氏?」
今度は少しちゃかすかんじでいってみた。
「いいえ、お墓参りです。」
なんだか私の言葉がすごく軽くて、意味のないものにおもえた。
- 52 名前:クリスマスピアスと涙の価値。 投稿日:2001年12月09日(日)22時18分17秒
- 「すいません、保田さん。つきあわせちゃって。」
「ん?いや、全然いいよ。私が勝手についてきただけだし。」
私達は今、バスに乗っている。
石川に聞くところによると、ホントは歩いていくつもりだったが、私があまりにも寒そうだったからバスにしたらしい。
つまりあまり遠くはないらしい。
それでも、あんなに明るい石川があまりにおとなしかったせいか、結構遠く感じた。
ついたところはひっそりとした山の中のような、静かな丘だった。
「・・・知り合いのお墓?」
私は石川に尋ねた。
「・・・はい。大好きな人です。今も。」
墓石には『吉澤家の墓』と書いてある。
- 53 名前:クリスマスピアスと涙の価値。 投稿日:2001年12月09日(日)22時28分46秒
- 「去年の・・・クリスマスに・・・事故で・・・」
石川は早くも涙ぐんでいる。
私は、少しだけついてこなかったほうがよかったかもと思った。
「あのころは・・・ホントに幸せでした・・・よっすぃーも多分そうだったと思います。」
石川は涙ぐみながら、ゆっくりと・・・『吉澤さん』との思いを語り出した。
ふと気付くと石川は持ってきた小さなかばんから少しづつ、いろんなものを取り出した。
ろうそく、お線香、菊の花。そして最後にピアスと安全ピンを。
「石川・・・あんた・・・・」
「これはよっすぃーがいつもつけてたやつなんです。」
石川は安全ピンをゆっくりと火であぶりはじめた。
「よっすぃーはいつも・・・私を馬鹿にするんですよ。梨華ちゃんは子供だねって。」
いつのまにか石川の涙は止まっていた。
- 54 名前:クリスマスピアスと涙の価値。 投稿日:2001年12月09日(日)22時41分59秒
- 「も〜!ファーストキスだったのに!」
「あはは。梨華ちゃんは子供だね〜。今ごろ初めて?」
「くやし〜!なんで勝てないの!?私テニス部なのに!」
「あはは。梨華ちゃんが大人になったら分かるよ。」
「なにそれ!?ピアスなんかあけていいの!?いたくなかった!?」
「あはは。梨華ちゃんは子供だから泣いちゃうだろうね〜。」
「も〜!いっつも子供扱いして〜!」
「梨華!!あぶない!!」
「よっすぃー!よっすぃー!どーして!?どーして私なんかかばうのよ!!」
「あ・・・は・・・は。梨華ちゃ・・・ん、これぐらいで・・・な・・・くなんて・・・こども・・・だなあ・・・」
*
そして安全ピンを火であぶり終った石川はおそるおそる耳たぶに近付ける。
私はもう、だまって見ることしかできなかった。
石川は、穴を、開けた。
「よっすぃー・・・もう私は大人になったよ。テニスだって私が勝つし、ピアスだってあけれるようになったよ・・・・。よっすぃー・・・よっすぃー・・・」
石川が、涙をこぼした。
私は、思った。
この涙ひと粒で一体、どれくらいの価値があるだろう。
もしかすると、この涙ひと粒で世界中が平和になるんではないかと思った。
- 55 名前:クリスマスピアスと涙の価値。 投稿日:2001年12月09日(日)22時51分30秒
- 私が家に帰りついた時、すでに六時を過ぎていた。
今夜、石川は吉澤さんのもとへいくんだろう。
石川のひとみがそういっていた。
なぜだか、私はとめようとしなかった。
理由は、わからない。
その夜、私は夢を見た。
二人の少女の夢だ。
顔は分からなかったが、予想はついた。
夢の中で二人はとても楽しそうだった。
笑い、ふざけあい、微笑みあう。
そして最後に二人は私にむかい、
「ありがとうございました」
といった。
涙がひと粒こぼれた。
私の涙には一体どれくらいの価値があっただろうか?
・・・・少なくとも二人を幸せにできたと、私は思いたい。
これが私が経験したクリスマスの夜の二人の少女の物語り。
願わくばこの話が語り継がれますように・・・・。
- 56 名前:クリスマスピアスと涙の価値。 投稿日:2001年12月09日(日)22時58分54秒
- 「・・・ってゆーお話。どう?」
「・・・なんでうちと梨華ちゃんで、しかもうちが死んでるんですか?」
「話の設定上しかたないでしょ!いいじゃない、ラブラブなんだから。」
「そんなことないです!うちと梨華ちゃんは・・・・」
「も〜!よっすぃー!おいてくよ〜!」
「あ、はーい!まってー!梨華ちゃーん!」
「どんな関係なの?」
「う・・・・じゃあ!さよなら保田さん!いいクリスマスを!」
「あ!まちなさい!吉澤!」
「梨華ちゃん、今日どーする?」
「イタリア料理食べたいなー。」
「よし!いこいこ!!」
「むーかーつーくー!私・・・やっぱりひとりじゃないのよーーーーー!!」
こうしてクリスマスの夜は更けていく・・・・。
- 57 名前:クリスマスピアスと涙の価値。 投稿日:2001年12月09日(日)22時59分36秒
- 終了です!
- 58 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)14時56分27秒
サンタクロースさんは、来るもん。
ぜったい、ぜったいにやって来るもん。
- 59 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)14時56分59秒
- 「え? のの、今なんて言ったのー?」
「だからぁ、もぉ、あいぼん。お菓子食べてないで、ちゃんと聞いてよぉ〜」
「えっ、のの、お菓子いらないの?」
「いるぅ!……って、だから、聞いてって、ののの話ぃ」
おちゃらけた加護に、1人でムキになって。
キーッと、珍しく怒りを表す。
そもそも、この質問は、加護から訊いてきたもの。
「サンタクロースって、来る思う?」って。
だから、「来るもん。ぜったいにやって来るもん」って答えたのに。
- 60 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)14時57分29秒
- まるで、バカにしているような、そんな顔。
からかって、遊んでる。
「ののって、まだ信じてんだぁ。サンタさんなんか、いないよー」
「…なんで! いるよぅ、いるもん!」
「いないって。それは、サンタさんのカッコした、おとーさんだって」
「ちがうちがうぅ。だってだって、ののの欲しいもの、ちゃんとくれるもん!
のの、おとーさんに欲しいものとか言ってないのに!」
「それは、おかーさんがおとーさんに言ってるからだよ」
「…………………………」
加護が言っていることは、間違っているワケではない。
だからこそ、辻も言い返す言葉が見つからなくて。
冷たく辻をあしらって、黙々とお菓子を食べている加護を、黙って見つめる。
そもそも、口では加護には勝てない。
かといって、とっくみ合いの喧嘩なんかしたら、事務所の人にこっぴどく叱られる。
じゃあ、辻が勝つ方法は?
- 61 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)14時58分00秒
- 「………んっ………ヒック…」
「え…、ちょ、のの?」
「うぇぇ〜〜〜んっ!!!!」
「…………………」
絶句。
たちまち、スタッフさんマネージャー、メンバーが楽屋に集結。
そして、当然囲まれる、加護。
「アンタ、何したの!」
「また辻いじめたのかぁ〜?」
娘。リーダーと、ミニモニリーダー。
2人から発せられる、怒りと呆れの言葉。
何もしてない。いじめてなんかない。
だけど、この状況じゃ、そんなこと言えなくて。
「アンタ、ちょっと来な」
リーダーとサブリーダーにつれてかれ、部屋を出る。
出ても聞こえてくる、辻の泣き声。
そりゃ、悪いことしたな、とは、思った。
だけど……………
- 62 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)14時58分35秒
- 「……加護、最近どうしたの。荒れてるよ、なんか」
「確かに、12月はクリスマスや年末だから、あれだけど。
加護、おかしすぎるよ、最近」
「…………別に、いつも一緒です……」
「嘘つくなって。現に、収録とか元気ないじゃん」
「………………」
言い当てられて、シュンとなる。
「でもね、だからって、辻に当たるのは、どうかと思うんだ。
辻は、加護よりも弱いんだから」
「……………………」
違うよ。違うよ保田さん。
あたしだって、弱いです。
ほんとは、ののなんかより、ずっと弱い。
- 63 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)14時59分11秒
- そんな泣きそうな加護の表情を見て、ふと飯田が言う。
「…………加護、もしかして………ホームシック……?」
「っ!!!」
サンタはいる、と言い張る辻に冷たく言う加護。
最近、元気がない。
それは、自分もデビュー時、経験したことがある。
- 64 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)14時59分42秒
- 思えば今日は、クリスマス。
本来なら、加護くらいの年齢の子ならば、友達や家族と一緒に、楽しくやっている、クリスマス。
だけど、モーニング娘。の加護亜依は、今日も当然仕事で。
しかも、奈良と東京という、両親との距離の差。
おばあちゃんがいたとしても、まだまだ親が必要な加護には、つらい。
辻には、お父さんとお母さんが、いる。
だから、辻のサンタさんはそこにいて。加護のサンタさんは、そこにいない。
いる、いる、なんて、辻の必死な顔。
そうだよね、そりゃ、ちょっとは当たりたくもなるよね。
たとえ、それが悪いことだとしても。
少なくとも飯田だったら、もっと当たり散らしていた所だ。
- 65 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)15時00分12秒
- 「加護、今日はかおりとご飯食べに行こうか」
背が伸びた、なんて言っても、まだまだ小さい加護。
その小さい加護の頭を、優しく撫でてあげて、優しく言う。
だけど、その手さえも払いのけて、その言葉さえも邪険にして。
「あっ、ちょっと、加護!!」
「あー、いいよ圭ちゃん。どうせもう、今日は仕事終わりだし」
泣きながら出て行った加護を追おうとする保田。
だけど、その保田の行為も、やんわりと断わってあげて。
「今日は、クリスマスなんだから。サンタさんが、やって来るから。早く、帰してあげよ?
「…………………圭織」
- 66 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)15時00分45秒
- リーダーに言われちゃ、しょうがないね。
勝手に加護を帰したことをマネージャーに怒られると分かっていながらも、保田は加護を追いかけるのをやめた。
「…圭織、なんか大人になったね」
「そりゃあ、もうあたしも、ハタチだもん」
加護みたいに、ホームシックになったりしたことだってあった。
クリスマスの日は、寂しかった。
だけど、信じてたから。
サンタクロースは、いるよ。
サンタクロースは、やって来るよ。
だからこうして、娘。を続けてこれたんだ――。
- 67 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)15時01分19秒
- ――――
街には、たくさんのイルミネーション。
そのイルミネーションの中を、恋人、友達、そして家族が歩いてる。
(………娘。に入ってなかったら、あたしもあの中におったんかなぁ……)
名前を覚えてもらうための一人称「加護」もやめ。
事務所にストップされていた「標準語」もやめ。
加護亜依は、1人の少女、加護亜依になって。
「おとーさん、今年のサンタさんにお願いするプレゼントはぁ、キティちゃんのぬいぐるみがいいー」
隣にいるハズもない、おとーさん。
そしてその加護のお願いを笑顔で聞いている、おかーさん。
2人は、いない。
「………今年のサンタさんにお願いするプレゼントはぁ、この日だけでも、傍におってほしい………」
ただ、それだけで、いいから。
- 68 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)15時01分51秒
- カチャリ、と鍵を開けて。
ガラガラ、と、玄関の戸を開けて。
「おばーちゃん、ただいまぁ」
それはもう、いつもの挨拶。
だけど、その後に続く「おかえり」が、帰って来ない。
何処かへ行く、なんて、朝喋った時には、聞いてなかった。
だけど、中は真っ暗で。
どうして、こんな日に、嫌なことは重なるんだろう。
サンタさんはやって来ない、おばーちゃんはいない。
そして、あたしは1人――。
「あはは………なんか、アホみた――」
――パァン!!
「…え、な、何のお……と…」
「亜依〜!! メリークリスマース!!!」
「元気やったぁ、亜依!」
- 69 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)15時02分20秒
- 「お、おとーさん……おかーさん……」
「ビックリしたか? ずっと帰ってくんの待っててんでー」
「電気消してな、亜依帰ってこんかったらどうしよー、とか言って」
まるで、2人の登場が合図だったかのように、電気がついて。
いなかったと思っていたおばあちゃんも、弟を抱いて顔を出す。
「アホちゃう………ほんま、アホやわ……」
「アホやとぉ? せっかく奈良から飛んできたのに」
「そうやで、このサンタ衣装、いくらしたと思ってんの。
…って、ほんまはアンタの給料から払ったヤツやけど」
- 70 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)15時02分52秒
寂しかってん。
ずっと、寂しかってん。
逢いたかってん。
ずっと、逢いたかってん。
待っててん。
ずっと、待っててん。
―――そしてあたしは、1人じゃなくなる。
- 71 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)15時03分30秒
「お、おい、亜依。どした、なんで泣くねん」
「亜依? ちょ、ちょっとアンタ、驚かせすぎやろっ。
あーあ、だからあたしはやめとこ言うたのに」
「嘘つけぇ、お前が、こんな服とかまで買って、一番乗り気やったクセに!
亜依ー、亜依ー?」
「……………えへへ」
なんでもない、と、満点の笑顔を見せて。
ぎゅうっと、加護だけのサンタさんに、抱きつく。
「……サンタのおじさん、プレゼント、ずっと待っててんで……?」
「……そうか。じゃあ、今日は、一生忘れられような夜にしよな?」
「…………うんっ!!」
- 72 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)15時04分06秒
「よっしゃ、じゃあケーキ切ろかー」
「あ、あたし持ってくる!」
「亜依、コケんようにしてや。そのケーキ高かってんで!?」
「わかってるってー。んしょ、と……とっとっ、て、わぁ!」
グシャッ。
しばらく、みんな無言。
そして、「えへへ…」と笑みを浮かべながら、起き上がる加護。
それを合図に、みんな一斉に笑う。
「ほらー、言わんこっちゃないで。もぉ、ホンマにアンタって子はぁー」
「一番アホは亜依で決定やな」
「フローリングでよかったわ。畳やったらどうしたもんか」
楽しい楽しいクリスマスが始まる、そんな序章にそれは過ぎない――。
- 73 名前:サンタクロースはやって来る 投稿日:2001年12月10日(月)15時04分59秒
- ―――
そして、次の日。
集合して早々辻に謝った加護は、楽屋でお菓子をぱくつきながら、辻と談笑してる。
「やっぱさぁー、ほんとにサンタさんっているよねー」
「うん、いるよぉ。あいぼんとこにも、きのう来たの?」
「うん、来た!」
「へぇ、何もらったの?」
「ん、んーとねぇー………」
愛情と、一生忘れらない思い出――かなっ!
END
- 74 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月11日(火)04時47分31秒
- いい話や
- 75 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時28分19秒
- 冷たい空気の中、二人で息を潜めていた。
半ば崩れ落ちたビルの中は薄暗く、ただ握り締めた互いの手のぬくもりが
どうにか冷静さをその心につなぎとめていた。
遠くに悲鳴らしき声が聞こえる。
自分の指を握る手に力がこもるのを感じ、
梨華は隣で奥歯を噛み締める端正な顔を不安げに見つめた。
視線に気がついたひとみは、わずかに口元を曲げる。
微笑んだつもりなのかもしれないが、それはとても成功しているとはいえなかった。
正義感の強いひとみにとって、自分の感知できる範囲で人が殺され、
しかもそれに対して何もできないでいることは耐え切れないことなのだろう。
もちろん、それは梨華にとっても同じ事だ。
自分の無力さが思い知らされる。
- 76 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時29分47秒
- あの出来事から一年が過ぎた。
たくさんの子供達が期待に胸を膨らませ、
恋人達が愛を確認しようと待ち望んでいたあの日。
しかし、それはあっけなく打ち砕かれた。
予想もつかない出来事によって。
──いつしかあたりは静まり返っていた。
大きく息をついたひとみが、立ち上がって梨華のほうを向く。
「行こう。梨華ちゃん」
その顔には拭い去れない疲労が見て取れる。
色白の肌はところどころ黒く汚れ、やや下がり気味の大きな目の下には
色濃い隈が浮かんでいる。
無理もない。そう梨華は思った。自分の格好だって大差ない。
明るく染めた髪の毛はぼさぼさに絡み合い、
お気に入りだったピンクのワンピースはすでにぼろぼろだった。
先日倒壊したデパートの中で見つけたコートの上から、
自分の体をぎゅっと抱く。
- 77 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時30分27秒
- 「いつまで……こんなことをしなくちゃいけないの……」
自分で想像していたよりもずっと弱々しい声だった。
「こんなふうに逃げ回ってもう二ヶ月がたったわ。
何日も満足に寝てないし、食料だってもうどこにもない。
……無意味よ。これ以上逃げたって……。
やっぱりこれは運命なのよ……」
「諦めちゃ駄目だよ」
見上げた視界には、唇を引き結んだ凛々しい顔があった。
こんな状況の中、その目には強い希望の光がある。
「あたしは、ヤツラにむざむざ殺されるのは嫌だ。
あたしは生きる。それがヤツラに対するあたしの抵抗だから。
それに……あたしは決めたの。梨華ちゃんを守るって」
- 78 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時30分59秒
- ──強い娘だな、と梨華は思う。
とても自分にはヤツラに抵抗などできそうに無い。
第一ヤツラは──
服の上から胸の辺りをぎゅっと掴む。
ひとみが、その腕にはめたごついダイバーズウォッチを見た。
女の子がつけるようなものだとは思えない、大きくて丈夫な時計。
それは崩壊した世界に残された二人にとって、唯一の文明を感じさせるものでもあった。
「もうすぐ陽が暮れる。早く別の場所に移動しよう」
すっと右手が差し出される。
「行こう。二人ならどうにかなるよ。ね」
にっこりと微笑んだその笑顔が、梨華の心に染み入る。
一度目を閉じ、顔を上げると差し出された腕を取った。
- 79 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時32分09秒
- 左右を伺い、そっと道に出る。
行く当てがあるわけではない。ただ、少しでもヤツラから遠のきたい。
その気持ちが足の動きを早くさせた。
バサリ。
大きな翼が空気を打つ音が聞こえた。
二人の体が電流に打たれたようにこわばる。
肌を切り裂くような冷たい風の中、頬を流れる冷たい汗を感じながら、
ひとみはゆっくりと振り返った。
今まさに自分達が出てきたビルの屋上。
そこにヤツラの一体が座っていた。
頭頂には金色の柔らかそうな巻き毛。
白くつややかな体には何もまとっていない。
背中に生えた大きな翼。
今、その真っ白な羽根は小さく折りたたまれていた。
じっとこちらを見つめる目には白い部分がない。
黒曜石のような瞳は瞬きもせずにこちらを見つめていた。
そこからは何の感情も読み取ることはできない。
上を見上げたまま、ひとみが梨華の前に体を出す。
そんな行為が無駄であることはわかっている。
ヤツラにかかれば二人の少女の命を奪うことなどたやすい。
かばうことなどできるはずはない。
それでも、ひとみは手を広げて立った。
- 80 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時33分05秒
- すうっと音も無くヤツが屋上から飛び降りる。
グライダーのように風を切り、一直線に二人に向かう。
目の前にあるひとみの背中を見ながら、梨華は再び胸の辺りを掴んだ。
やはり…運命だったんだ……。
逃れることのできない運命。
全ては……御心のままに……。
次に訪れる惨劇を予感し、梨華はゆっくりと目を閉じた。
激しい爆発音が響き、梨華はその目を開けた。
目前まで迫っていた翼は真横に吹き飛ばされていた。
その体からはまだ黒い煙が上がっている。
「早く! こっち!」
呼ばれたほうを振り向くと、二人の女性が立っていた。
そのうちの一人、丸顔の女性が手招きをしている。
状況を理解しきれていない梨華の手を引き、ひとみはそちらに走った。
「急いで! あんなもんじゃヤツラは倒せない!」
銃口から煙の出ているグレネードを抱えた女性が鋭く言い放つ。
その吊り上がった目にも緊張が見て取れた。
ヤツはまだ動かない。逃げるなら今のうちだ。
瓦礫の散乱する路地を通り抜け、四人はその場から離れた。
- 81 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時34分08秒
- 「どうにか振り切れたみたいだね」
「いやー、無事でよかったねえ」
全力で走り去った四人はようやくほっと息をついた。
「あの……ありがとうございました」
ひとみは立ち上がり頭を下げる。梨華も慌てて後に続いた。
「あらら、そんなに気にしないでいいべさ」
人のよさそうな笑みを浮かべた童顔の女性が、ひらひらと手を振る。
「それより、あんたたちこんなところで何してるのさ。
この近くにコミュニティは無いだろ」
猫のような目をした女性が、グレネードを肩にかけ聞いてくる。
「それは……」
ひとみは言い止んだ。
「なんだい、もしかしてずっと彷徨ってたのかい。
行くところが無いんだったら、わたし達のところにくればいいっしょ。
まだ少しくらいなら余裕はあるべさ」
笑顔を浮かべたまま女性は優しく話し掛ける。
「いえ……」
またひとみは言葉を濁した。視線があらぬ方向に流れる。
- 82 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時35分18秒
- わたしのせいだ……。
梨華は視線を落とす。
わたしのせいでコミュニティには行かれない。
だからこそ、こうやって二人っきりで街を這いまわっているのだ。
わたしさえいなければ……。
梨華はまた無意識のうちに胸の辺りをぎゅっと掴んでいた。
「あんた……」
厳しい声が聞こえ、梨華は顔を上げた。
大きな猫目が鋭くこちらを睨む。
「あんた、『クリスチャン』だね」
梨華はびくんと体をこわばらせた。
- 83 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時36分00秒
- 「圭ちゃん! それは……」
「悪いけど、『クリスチャン』を連れて行くわけにはいかないの」
顔を伏せていても強い視線を感じる。
梨華は服の上から十字架を掴む手に力をこめた。
そう、梨華は敬虔なクリスチャンだった。
あんな出来事があってさえ、信仰を捨て去ることができないでいる。
信仰にすがっているつもりは無かったのに。
それでも身に染み付いた教えを拭い去ることができない。
そんな自分が梨華は嫌いだった。
「お願いです。ひとみちゃんは『クリスチャン』じゃありません。
ひとみちゃんだけでも連れて行ってください」
「梨華ちゃん! 何いってんの!!」
振り返ったひとみは梨華の両腕を掴む。
- 84 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時37分18秒
- 「言ったよね。あたしは梨華ちゃんを守るって。
どんなことがあっても、あたしは梨華ちゃんを置いて行ったりしない」
強い目に見つめられ、梨華は泣きたくなった。
この澄んだ目に自分は応えることができない。
それが哀しかった。
童顔の女性は同情に満ちた目で二人を見た。
「ねえ、圭ちゃん……。『クリスチャン』だからってこの娘に罪は無いんだし……。
連れて行っちゃダメかなあ?」
「なっち……。気持ちはわかるけどダメだよ。
たしかにあたしはこの娘に罪は無いと思う。
でもね。他のみんながどう思うかはわからない。
あたしはコミュニティを守らなくちゃいけない。無用の混乱は避けたいの。
それに、結局信仰を捨てない限り、結局この娘が苦しむことには変わりが無いよ」
「それはそうだけど……」
「いいんです」
はっきりとした口調でひとみは言った。
「あたしたちは二人で行きます。いろいろとありがとうございました」
「でも……二人だけじゃ……」
「大丈夫です。今までもやってこれたし……。
それにこれ以上ご迷惑をかけるわけにはいかないですから」
- 85 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時39分31秒
- なっちと呼ばれた女性は哀しそうな顔でひとみ達を見つめていた。
が、突然何かを思いついたように大きな声をだす。
「いやー、なっちももう二十歳になったんだべなあ」
「ど、どうしたのよ。なっち」
圭と呼ばれた女性が眉をひそめる。
「もう、なっちもおばちゃんっしょ。最近物忘れもひどいし」
「……何言ってるの?」
「持ってきた荷物を忘れて帰るなんて、どうしようもないべさ」
そう言ってにっこりと笑う。
「行こう。圭ちゃん」
荷物を置いたままその場を去ろうとする仲間を、圭は優しい目で見つめた。
その目がひとみ達のほうを向く。
「元気で……」
それは現状を考えると無理な注文ではあった。
だが、ひとみ達にとって何よりのはなむけでもあった。
「それから、もし気が変わったらここへおいで。待ってるから」
と、コミュニティへの地図を差し出す。
ひとみは、立ち去る二人の姿が見えなくなるまで、ずっと見送った。
おそらく二度と会うことは無いだろう。
しかし、一生忘れることは無いだろう恩人を。
- 86 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時40分13秒
- 残された荷物にはいくらかの食料と、固形燃料。そして……。
「これは……」
ひとみが取り出したものは、でこぼことした小さな楕円形。
頭の部分には取ってのような物がついている。
「それって……爆弾?」
「多分……手榴弾ってヤツだと思う」
ヤツラが現れて真っ先に狙われたのは、やはり軍事施設だった。
だから、武器の類はほとんど残されていない。
先ほどのグレネードにしろ、彼女達がどうやって武器を手に入れたのかはわからない。
しかし弾薬はとても貴重なものに違いない。
ひとみはあらためて先ほどの二人に感謝した。
- 87 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時41分16秒
- 夜も更けた。
たまたま見かけた教会に二人は入っていた。
教会はほとんど壊された様子は無い。
高い天井のステンドグラスもそのまま残っている。
こんなふうに教会が残されているのは奇跡に近い。
あるいは、ここの住人は早いうちに他の地に逃げ出したのかもしれない。
暖を取るため、寄り添って毛布に包まる。
梨華はひとみの肩にそっと頭を乗せた。
「……ねえ」
「なに? 梨華ちゃん」
「本当に後悔しないの。わたしといること」
「しないよ。だって、もう決めたから」
その言葉に梨華はさらに身を寄せた。
「思い出してたの。昔のこと」
「うん」
「クリスマスの日、毎年教会で賛美歌を歌ったわ」
「うん」
「あの頃は……楽しかった……」
「……うん」
「……もーろびとー、こぞーりーてー」
「梨華ちゃん」
小さく歌い始めた梨華をひとみは厳しい声で止めた。
「それは……歌わないで」
「あ…ごめんなさい……」
そのまま二人の間に沈黙が流れる。
- 88 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時42分42秒
- バサリ。
聞こえてきた羽音に二人の目が見開かれる。
ステンドグラスの向こうに、大きな羽根を翻すシルエットが浮かんだ。
がしゃーん。
色とりどりのカケラをばら撒きながら、白い体が飛び込んできた。
真横に梨華を突き飛ばし、反対に大きく転がったひとみはすっくと立ち上がる。
滑空してくる体をかわすように、後ろに倒れこみながら蹴り上げた。
再び舞い上がった翼人は天上付近でホバリングをはじめる。
その口が開いた。
ひとみは大きく前にダイブする。
リィィィィィィィィ。
鈴を転がすような可愛らしい音が聞こえた。
その音と共に、見えない刃が、ひとみのいた場所にあったオルガンを真っ二つにした。
──『歌声』を使われたらどうしようもない。
長机の下に身を隠し対策を必死に考える。
いちかばちか。ひとみは覚悟を決めた。
「梨華ちゃん」
ひとみはその人の名を呼んだ。
成り行きだったにも関わらず、最後まで付き合ってしまった人の名を。
どうしてもほおって置けなかったその人の名を。
二人の目が合う。
ひとみはうっすらと笑った。それはとても透明な笑顔だった。
「こっちだ! 来い!!」
「ひとみちゃん!!」
飛び出したひとみに梨華が悲鳴をあげる。
- 89 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時43分20秒
- リィィィィ。
ジグザグに走ることで『歌声』を避け、ひとみは入り口から飛び出した。
ヤツは抵抗する様子の無い梨華よりも、ひとみを標的に選んだようだ。
入り口に向かって再び滑空をはじめる。
バサリと音を立てて入り口から飛び出した白い体に、扉の陰に隠れていたひとみが飛びついた。
リィィィ、リィィィ、リィィィィ。
後ろから羽根を掴まれ、ヤツはやたらと『歌声』を響かせる。
巻き添えを食った教会の壁が、がりがりと削られた。
必死に喰らいつくひとみを、白い羽根が地面に叩きつける。
倒れ伏すひとみの上に馬乗りになったヤツは、必殺の一撃を与えるため大きく口を開いた。
その口にひとみの右手が伸びる。手の中のものを口に押し込みピンを抜く。
「うわああああああ!」
気合の声と共に、全身のバネを使って上に乗った体を跳ね上げる。
そのまま両足で蹴り飛ばした。
- 90 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時44分49秒
- リィィィ。
最後に放った『歌声』が爆発音にかき消される。
よろけるように入り口まで辿り着いた梨華が見たものは、頭を無くして倒れるヤツの姿だった。
「ひとみちゃん!」
梨華はひとみの元に駆け寄ると、その体を起こした。
「……へへ…やったよ…梨華ちゃん……。あたし……ヤツを倒したよ……」
「ひとみちゃん……」
「あのさ……今日ってちょうどあれから一年なんだ。
だから…今日はクリスマスなんだよね。それで…これ……クリスマスプレゼント」
自分の腕から外したダイバーズウォッチを梨華に差し出す。
「もう…あたしには必要なくなるから……」
受け取ったダイバーズウォッチには、べっとりと血がこびりついていた。
ヤツが最後に放った『歌声』それはひとみの腹部を切り裂いていた。
「ごめん……ごめんなさい……。わたしのせいで……」
「気にしなくて良いよ。あたしは自分のやりたいようにやっただけ……。
梨華ちゃんを守りたかったから……。運命なんて…信じたくなかったから……」
「ひとみちゃん……」
「あ…雪だ……。これで……ホワイ…ト……クリス……マスだ…ね……」
力の抜けていく体を梨華はぎゅっと抱きしめた。
舞い降りる白い雪の中、抱きしめた体がすっかり熱を失うまで梨華はそのまま動かずにいた。
- 91 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時45分45秒
- クリスマス──聖誕祭。
偉大なる『主』の降誕を祝う祭。
世界中の人々が待ち望んでいたこの日。
去年のこの日も毎年と同じ日になるはずだった。
ケーキが食べられ、シャンパンが開けられ、そして賛美歌が歌われる。
諸人こぞりて……
『主』は来ませり
そう、『それ』はやってきた。
あの日、突然に。
- 92 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時46分28秒
- 『天使』と呼ばれる翼を持った生物を使い、人類に攻撃を仕掛けたもの。
その正体がなんなのか結局わかってはいない。
異次元からの侵略か、あるいはどこかの国の軍事実験の失敗か。
だが、まことしやかに流され、人々に信じられた一つの噂があった。
あれこそが『主』であると。
おろかなる人間達に罰を与えるために現れた『偉大なる父』であると。
これこそが、驕りたかぶった人類に対する罰であり、滅亡それは『運命』であると。
信仰の厚い国ほど崩壊するのは早かった。
アメリカも3ヶ月持ちこたえることはできなかった。
とはいえ、所詮は早いか遅いかの違いだけだった。
無宗教であった日本も、冬の始まりを無事に迎えることはできなかったのだから。
- 93 名前:聖誕祭 投稿日:2001年12月12日(水)00時47分14秒
- 頭の上に積もった雪を払い、梨華は立ち上がった。
かじかんだ手で、首から下げた十字架を取り出す。
神の造りたまいし人間。
それを滅ぼすのも神の御心。
そう思っていた。でも……。
私たちは生きている。例え愚かであろうとも。
ちっぽけな存在であっても、精一杯生きている。
それはいかに神であろうと奪っていいものではない。
梨華は十字架の鎖を引きちぎった。
積もり始めた雪の上に投げ捨て、代わりにその細い腕には大きすぎる
ダイバーズウォッチを左手にはめる。
降りしきる雪の中、梨華はしっかりとした足取りで歩き始めた。
その手には昼間に受け取ったコミュニティへの地図がある。
例え愚かであろうと、間違っていようと人々は戦う。その尊厳を賭けて。
そして今日一人の少女がその戦いに加わった。
──END
- 94 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時11分33秒
- 早朝の寒さに身をちぢこませて、辻はスタジオへと入っていく。
手袋とマフラーをはずしながら、トレーニングウェアに着替えるべく
更衣室へ向かう途中で加護に会った。彼女も今来たところらしい。
「あ、のの。とうとう今日やなあ」
「うん!」
今日――クリスマスが来るのを、モーニング娘。のメンバー達は、もうずっと前から
楽しみにしていた。
年末から年始にかけてのテレビ番組の収録はあらかた撮り終わり、この日は
午前に正月コンサートのリハーサルがあるだけで、午後からは完全なオフである。
娘。達はこのオフをずっと前から頼み込んでおり、とうとう二週間前に約束させて以来、
メンバー全員でディズニーランドへ行く計画を綿密に立ててきた。
辻加護に限らずメンバー全員、年末のハードスケジュールに耐えて来られたのは、
この日のためと言ってよかった。
2人が軽い足取りで通路を歩いていると、突然正面の会議室のドアが開き、中から矢口が
出てきた。少し前から来ているようだが、まだ着替えてはいない。
辻達に気付くと、手招きする。
「ああ〜2人とも、こっちこっち。着替えなくていいから。もうみんな来てるよ」
部屋の中では確かに他のメンバーがそろっていた。あと、つんくがイスに座っている。
「やっと全員そろったようやな」
つんくは待ちわびたように言うと、イスから立ち上がった。
「ほな、用件を言うで」
皆そろうまで待っていたらしい。メンバーの間に緊張が走る。
- 95 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時13分33秒
- 「今日はクリスマスやろ。ちゅーわけで、俺からのプレゼントや」
「え?」
メンバー全員、肩透かしをくったような顔でお互いを見合った。
部屋に安堵と期待の空気が広がる。
が、それもつんくの次の言葉で凍りついた。
「まずは……午後からのオフはなし! そして代わりに『スペシャルクリスマス完徹ダンス
レッスン 〜そして夜は明けた〜』や、受け取れ」
誰も言葉が出ない。
オフはなし、と言ったのか?
皆、つんくの言ったことを必死で理解しようとしていた。
「どういう意味ですか…?」
ようやく飯田が聞き返した。
「言うた通りの意味や」
「そうじゃなくて、なぜオフがなしなんです?」
「急遽新曲の予定を入れてな、今日から練習せな間に合わんのや」
「そんな! みんなこの日を楽しみにしてたんですよ!? つんくさんだって
オフを約束してくれたじゃないですか!」
「しゃーないやろ、仕事や。それにな、クリスマスや言うても所詮大したことないで。
そこら辺の日曜日と同じや。誰かと一緒にいなあかんっちゅうこともない。
俺は、クリスマスに一人でディズニーランドへ行っても楽しめるぞ」
「ラブソングを書く人の言葉とは思えませんね」
「想像力は、ときに経験を超えるもんや」
「虚しい名言ですね……」
「やかましい。さ、話はこれまでや。早よ着替えて練習場へ行け」
「どうしても、無理ですか…?」
「無理や」
- 96 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時15分37秒
- 飯田は腰に手をやり、頭を垂れて息を吐き、やれやれ、というふうに首を振った。
そして、そのままの格好で、メンバーに指示を飛ばす。
「新メン4人は足」
「了解」
4人はうなずく。
「後藤石川吉澤圭ちゃんは胴体と腕」
「おっけ〜」
「わかりました」
「まかせてカオリ」
「矢口辻加護は目隠しと猿ぐつわ」
「おう」
「はぁーい」
「なっちは外見張ってて」
「うっし」
「スタジオを出たら、各班に分かれて所定のルートでディズニーランドへ」
「了解」
メンバーの声がそろう。
「? なに言うとんやお前ら?」
「GO!」
飯田の合図で、一斉に動き出した。
まず新メン4人が二手に分かれてつんくの左右に回り、その両足をつかんで引きずり倒した。
そして、紺野が常日頃から持ち歩いている手錠で両足をつなぎとめた。
同時に、後藤石川吉澤保田がつんくをあお向けに転がし、両腕を後ろで縛る。
「お、お前ら、なにすん……」
つんくの叫びは、矢口の猿ぐつわによって封じられ、視界も、辻加護の目隠しによって
さえぎられた。
身動きできずに床に這いつくばる様子は、まるでいもむしだ。
つんく拘束を終えたメンバー達は、次々と部屋を出て行く。
- 97 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時16分56秒
- 「ほら、私らも駅へ急ぐよ」
飯田が、目隠しに落書きをし始めた辻加護に向かって言った。
「はぁ〜い」
皆が部屋を出たのを確認すると飯田は、つんくを拘束している間に作った注意書きを
ドアの外側に貼った。
『臨時閣議中 関係者以外立ち入り禁止 内閣総理大臣小泉J一郎』
「おーいカオリー、行くよー」
矢口が飯田を呼んでいる。
彼女と辻加護は、飯田が率いる1班である。
メンバーはスタジオを出ると、それぞれの班に分かれて街中へ消えていった。
- 98 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時19分20秒
- 10分後、飯田達はスタジオの最寄の駅に着いた。
有事の際、娘。達は3つの班に分かれて行動するよう決めていた。
飯田矢口辻加護の1班、後藤吉澤石川安倍の2班、保田新メンの3班である。
そしてそれぞれ、電車、タクシー、ヒッチハイクで目的地へ向かうことに
なっている。
全ては飯田一人が考えたことだが。
駅は、今日がクリスマスのわりに落ち着いている。
駅正面の広場を横切り、駅に入ろうとしたとき、飯田の携帯が鳴った。
飯田は電話に出ると、少し苦笑しながら応対し、「じゃあ待ってるね」
と言って切った。
「誰から?」
矢口が聞いた。
「圭ちゃん。ヒッチハイクの車がつかまらないんだって」
「あ〜やっぱりねぇ」
矢口は苦笑しながら言った。
「でね、今からこっちに来るって。だからちょっと待ってよう」
「あいよ」
4人は入り口付近の壁にもたれかかって、駅に入っていく人の、あるいは駅から出て行く
人の観察をしながら待つことにした。
よく見たら、実にいろいろな人が通り過ぎていく。
親子連れ、登山家風の人、サラリーマン、オタク風の人。
種類は多々あるが、やはり全体の人数自体は多くない。人はまばらで、見通しはよい。
だから、知った顔の人が駅前広場に入ってきたとき、すぐに気付くことができた。
「カオリ…! あの人たち、コンサートのスタッフだよ…! 連れ戻しに来たんだ」
最初に気付いたのは矢口だった。
他の3人も目をやると、コンサート会場で何度か会ったことのあるスタッフが2人、
キョロキョロしながら広場に入ってきたのが見えた。
「ホントだ。ヤバイね…。駅の中へ入ってよう」
- 99 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時21分34秒
- 4人は駅の奥へと入り、飲食店がたち並ぶエリアまで来た。
店と店の間の、通路からは死角になった場所へ身を隠す。
「早すぎる。どーなってんの?」
飯田が店の影から通路を覗き込みながら言った。
「だって飯田さん、つんくさんの前で駅に向かうって言ってましたよ」
辻が言った。
「そうだっけ? くそー、耳栓もすればよかった」
「それにカオリさ、ドアの前に何であんなの貼ったの? 臨時閣議って書いてあった
ようだけど…」
「あれはぁ、誰も部屋に入らないように」
「誰が信じんだよあんなの」
3人は大きくため息をついた。
そのとき、通路をスタッフが横切るのが見えた。
4人は小さく身をひそめる。
「さっきの人達と違う。新手ね」
飯田は声を潜めて言った。
「もう、うちらだけで先に行きましょうよ」
加護が飯田の袖を引っ張る。
「もうちょっと待ってようよ。とりあえず、駅にスタッフが来てることを
圭ちゃんに知らせとくか」
そう言って飯田が携帯を取り出しかけたとき、加護の携帯が鳴った。
「誰から?」
「……非通知です」
とりあえず出てみる。
「………」
電話に出た瞬間、加護は微妙に顔をしかめた。
他の3人は通路の方に集中していたために、その変化に気付く者はなかった。
「……わかりました。絶対ですよ」
加護は電話を切った。
- 100 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時23分28秒
- 「誰からだったの?」
飯田が振り向いて聞いた。
「……や、保田さんです」
「圭ちゃん!? なんで加護にかけんのよ」
「……さっき飯田さんにかけたとき、笑われたのがムカついたから、だそうです」
「大人気ないなぁ」
「なんて?」
「あ、はい…。えーと…、この駅にスタッフが入っていくのが見えたから、自分達は
隣の駅から乗る、先に行っててくれ、って言ってました」
「ふーん。じゃあ、行くかぁ。ちょうど今スタッフさん達は見あたらないし。
3人とも、しっかりカオリの後についてきて」
「おう」
「はい」
「……」
「行くよ!」
飯田が先頭を切って店の影から飛び出した。後に矢口が続く。
そして辻も出ようとしたところを、加護が腕を引っ張って引き止めた。
「な、なに、あいぼん」
「しっ!」
加護は、辻を再び店の影へ押しやると、通路を覗き込んだ。
2人が先に行ったことを確認すると、辻の方へ向き直った。
「ええかのの、よく聞きや……」
小さい2人がついて来ていないことを、切符売り場へ急ぐ2人はまだ気付かない。
- 101 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時25分16秒
- 飯田が料金表を見上げて、目的地までの金額を調べていると、うしろで矢口が叫んだ。
「カオリ! 2人がいない!」
「うそ!」
振り返って、辺りを見回してみるが、確かにいない。
「なんでついてきてないのよぉ」
「知らないよ。とにかくヤバイよ、戻ろう」
「うん」
2人はスタッフに注意しながら、飲食店エリアへ戻った。
さっきの隠れ場所へ行くと、辻がいた。
しかし、加護の姿はない。
「辻! 加護は!?」
辻はしばらくうつむいていたが、やがておろおろと口を開いた。
「あ、あいぼんは…、スタッフの人につれて行かれた…。
わたしを逃がすためにおとりになって…」
「うっそ! マジィ!?」
「どうしようカオリ…?」
「う〜ん…」
目をとじて、腕を組んで考える。
「…ふぅ。やっぱ、加護だけ残して行けないでしょ」
「じゃあ、ディズニー中止?」
「いんや、加護を取り返しに行く!」
「…なんか、カオリってそういうの好きだよね…」
「ん?」
「いや、別に」
「あの…」
「ああ、辻、心配しないで。絶対連れ戻すから。みんなでディズニーランドへ
行こう」
そう言って、正面のハンバーガーショップを指差す。
「辻はあそこの店でハンバーガー食べて待ってて。多分見つかんないと思う。
お腹いっぱいになるころには戻ってくるから」
辻は何か言いたそうな目をするが、小さくうなずいた。
「よしっ。いくよ矢口」
「おう」
2人は駅を駆け出していった。その姿を、辻はじっと見ていた。
- 102 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時27分33秒
- 数分後、2人はスタジオへ戻ってきた。驚いた顔のスタッフを無視して、ダンスレッスン場へ
急ぐ。
息を弾ませて扉を開け、中へ飛び込んだ。そこには、加護がいた。そして……
「あれ? なんで圭ちゃん達までいんの?」
部屋の中には私服の加護と、トレーニングウェアに着替え、夏に指導されている保田と新メンが
いた。
「カオリ、矢口。加護に騙されたね…」
保田が踊りながら、顔だけこっちに向けて言った。
「は? なに言ってんの?」
「つんくさんがね、あたしに電話かけてきたの。加護は捕まえた、お前らが戻ってこんかったら
加護一人で徹夜レッスンさせるぞ、ってね。それから加護が電話に出て『保田さん、助けて
くださぁ〜い』とか言って。で、戻ったらこのざま。ソイツ、つんくさんとグルよ。
あたし達を戻す手伝いをする代わりに、午後からのオフもらったのよ。ですよね、つんくさん?」
「おう、まぁな。お前ら、俺の言うことは聞きよらへんからな」
気付かなかったが、横の壁につんくがもたれかかっていた。
「つんくさん…。…でも! 辻が、加護はスタッフに連れ戻されたって…」
「ああ、辻もグルやで。加護の要求は、辻と加護のオフやったからな。
加護は、スタッフの車に乗って戻って来たんや」
「そんな……」
「どういうことだよ!」
矢口が加護に詰め寄った。
「だって…、せっかくディズニーランド行っても、追われてたら楽しくないじゃないですかぁ」
「だからって、自分達だけよければいいの!?」
加護が何か言い返そうとしたとき、入り口の扉が開いた。
- 103 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時31分36秒
- 「加護…! あ…れ?」
息を切らせた後藤吉澤石川安倍が入ってきた。
飯田達同様、中の状況にとまどっている。
「ごっちんたちも、つんくさんと加護から電話あったの?」
「うん、そうだよ。なんでやぐっつぁんいんの?」
矢口は答えず、加護の方を向いた。
「加護…アンタ、全員騙したの?」
「そーゆう要求だったんで」
加護は目をそらしたまま言った。
「…憶えとくよ。アンタがこんなヤツだってこと」
「そんなんゆわんとってくださいよぉ。あ、ののをココにつれて来なかったのは
ありがとうございます」
言いながら、ドアの方へ歩いていく。
「じゃあみなさん、がんばってくださいねぇ」
他メンバーのじと目を浴びながら、加護はドアノブに手を伸ばす。
手がノブに触れようかというとき、ドアは勢いよく開いた。
- 104 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時32分48秒
- 中に入ってきたのは、ぜいぜい言いながら肩で息をしている辻。
「のの!」
「あ、あいぼん」
「なんで来んねん。先にディズニーランド行っといてってゆうたやろ」
辻は、時間をかけて乱れた呼吸を整えると、メンバーの方へ向き、
頭を下げた。
「みんな、ごめんなさい。ほんとうに、ごめんなさい」
「辻……」
「わたし、どうしてもディズニーランドへ行きたくて…、つんくさんが休みを
くれるって言って…、みんなを、だましちゃって…」
「だからのの、今から行こう」
辻は首を振った。
「ごめん、あいぼん…。最初は、あいぼんと2人でディズニーランド行けるなら
いいかと思って、だから、飯田さんたちもだましちゃった…。でも、飯田さんたちは
いっしょうけんめいみんなをつれて行こうとしてくれて…。
わたしも、やっぱり、みんなと一緒がいい」
「あほぉ…、そりゃみんな一緒がいいに決まってるやろ。せやからって、
クリスマスをダンスレッスンで過ごすのはいやや……」
- 105 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時34分43秒
- 「よしっ! やっぱりみんなでディズニー行こう!」
飯田が突然叫んだ。
「カオリ…?」
「辻も加護も悪気があった訳じゃなし! もういいじゃん! 今からあらためて行こー!」
「でも……」
矢口は、夏の後ろの壁にもたれているつんくに目をやった。
「行かさんぞー」
何か言われる前に釘を刺す。
「いいですよ、勝手に行きますから」
飯田はそんなつんくを無視する。
「アホか、せっかく戻ってきたのに誰が行かすか。……ん!?」
つんくがドアの方へ回り込もうとしたところを、夏が羽交い絞めにした。
「夏先生……」
「行っといで」
夏は娘。達に苦笑して見せる。
「はいっ!」
「こら待て! くそっ…! 放せ!」
「つんくさん、最近太り過ぎですよ。ここで踊って、少し痩せましょう」
「ええっちゅうねん! 放してくれ!」
つんくはじたばたあがくが、夏の腕はびくともしない。
その間に、メンバー達は部屋を出ていこうとする。
矢口が加護のそばへ行った。
「矢口さん……」
「なんかみんなに言うことは?」
「……ごめんなさい」
「よし、行こう」
「はい!」
- 106 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時36分02秒
- 「くそ…、結局今年もこうなんのか…」
メンバーの足が止まった。皆、急に声色の変わったつんくの方を見る。
「どういうことですか?」
飯田が聞いた。
夏も羽交い絞めを解いた。
つんくは、脱力した様子で話し出す。
「俺な…ここ数年まともなクリスマスを過ごしたことないねん。
毎年毎年、正月コンサートの打ち合わせやら各ユニットの新曲やらで、冷たい
スタジオの中で過ごしとんねん。
…今年もまたそんなんなんかなぁって思っとったら、お前らがディズニーランド
のことで盛り上がってんのが見えて、なんか腹立ってきてなぁ。
俺と同じ目に合わしたろ思ってしもうたんや…」
「……つんくさんって、一人でディズニーランド行っても大丈夫な人じゃなかったんですか?」
「アホ! そんな人間どこにおんねん!」
「…………」
- 107 名前:Road to Xmas 投稿日:2001年12月13日(木)03時38分05秒
- つんくの余りに自分勝手な動機に、メンバー一同かすかに怒りを覚えたが、
よく考えれば、つんくは彼女らのために頑張っているのである。
理不尽ではあるが、つんくを許さざるを得ない。
しかし、せっかくのクリスマスをあきらめたくもない。
みんながどうすべきか考えあぐねているところ、リーダー飯田が一つの打開策を
提案した。
「じゃあ、つんくさんも一緒に行きましょうよ!」
「……は…?」
「それいいじゃんカオリ! 行きましょう、つんくさん!」
他のメンバーも同意する。
「でもな…もうレッスンスケジュール組んでもうたし」
「今日遅れた分は後で取り返します。ねえ、みんな」
全員うなずく。
「お前ら……。……おっしゃあ! 行くでぇええ!」
「やったあ!」
皆、飛び跳ねるように喜んだ。
やはり堂々と行ける方がいい。
先ほどまでのギスギスした空気がウソのように笑い合っている。
そして、それぞれ準備を整えるために散っていった。
残ったメンバーは、つんくの周りに集まっている。
「あの、つんくさん」
飯田が話し掛けた。
「なんや?」
「失礼なこととか言ってしまって、すいませんでした」
「ええってええってお前ら、そんなん、ははは。…………謹慎や!!」
「ええっ!!」
「じょーだんやって。ハハハハハ」
「はは…は…は…」
場は微妙な笑いに包まれた。
その後、13人の少女と1人のおっさんは、一緒に仲良くディズニーランドへ行った。
――おわり――
- 108 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時04分53秒
- 十二月十五日――夕方。
『市井ちゃん。久し振り〜。元気してた? 十二月に入って、もう冬って
感じだね。ごと〜は寒いのが苦手だー! 娘。も年末になって忙しくなっ
てきたよ。そう言えば新曲聞いてくれた? 乾杯べいべぇーって言う所、
今メンバーの中で流行ってるんだよ。市井ちゃんのまわりでも流行らせて
ね〜。寒くなってきたけど、風邪引かないように! じゃあね!』
同日――夕方。
『久し振りだね、後藤。何ヶ月ぶりぐらいかな? 最後のメール忘れちゃ
ったよ。相変わらず娘は急がしそうで、テレビでみんなの姿を見ない日は
ないよ。新曲もちゃんと買いましたよ。元メンバーなんだから、気を使っ
て送ってほしいもんだけどね……うん、でもかっこいい感じだったよ。来
年は二十一世紀だね。どんな年になるのか、今からワクワクだ』
- 109 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時06分12秒
- 十二月十六日――深夜。
『ア〜よかった〜。久し振りだから、市井ちゃんにメール送るの緊張しち
ゃったよ。ちゃんと返事返ってきてくれてうれしいっす! もうこっちで
はテレビの収録で「あけましておめでとうございます」とか言っちゃって
るんだよ〜。クリスマスもまだだって言うのに、やっぱり変な感じだよ〜。
市井ちゃんは最近何をしてるの? 暇があったら久し振りにお話したい
ねぇ〜』
同日――昼。
『最近はね、ほのぼのと毎日を過ごしてるよ。周りの風景が見えるように
なったんだ。なんていうのかなー、こう忙しかった頃には感じられなかっ
た……って言うか気がつかなかったのかな? そういうものに気がつく
って感じでね。うん、ゆっくりと心を休ませてますよ。ああ、もちろんテ
レビじゃちゃんと後藤のこと見てるからね。ちゃんとわたしが教えた事守
るんだぞー! おねーちゃんはいつでも見守ってるからね。――今度ヒマ
があったら電話してきなよ。もちろん料金はあんた持ちだよ(なんてね)』
- 110 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時07分00秒
- 同日――夜。
『今テレビの収録の合間で〜す。待ち時間、暇だよ〜。あ、今よっすぃー
がベーグル床に落とした! 何か悲しそうな顔してるよ〜。うん、こっち
は何も変わらないっすね。みんな元気だ……ごと〜も色々大変だけど頑張
りますよ』
同日――夜。
『吉澤って天然な所あるよね。あんなにかわいい顔してるのに、そう言う
ところがあるって思うとキュンってくるね。新メンバーも頑張っているん
だね。後藤も頑張りなさいよ〜。最近テレビでも気を抜いてる所ばっちり
写っているみたいなんだからさ』
同日――夜。
『……自分でも……わかってるんだけどね』
同日――夜。
『どうした? 後藤……』
- 111 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時08分04秒
- 十二月十八日――昼。
『あれからメール返って来ないから、こっちから送るね。忙しそうだから、
今まで遠慮していたんだけど……。えーと、何か悩みとかあるんなら、頼
りないけどわたしが聞くよ。今、大変そうだから色々あるんじゃないかな
って思うけど……一応ね、わたしも元メンバーだから、何か役に立てれば
いいかなって思うんだけど……わたしに気を使う事なんてしないでね』
同日――夕方。
『ごめんね、ここ最近忙しくて、返事書けなかったよ〜。ごと〜は大丈夫
です。市井ちゃんに励まされてパワーが充電されたから! でも最近少し
疲れて来たかなー。冬だしね、体が冷えて動きませんぜぇ』
同日――夕方。
『そっか。忙しそうだもんね。わたしがいた頃も忙しかったけど、今年は
それ以上なのかな? 後藤もね、辛い事あったら自分で溜め込んじゃダメ
だよ。そう言うの溜まっていくと大変だからね』
同日――夕方。
『ありがとう、市井ちゃん』
- 112 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時09分15秒
- 十二月十九日――朝。
『後藤! 凄いよ! 目が覚めて窓の外見たら雪が降っていたんだ!
真っ白で綺麗だよ! 後藤のほうも降っているのかな?』
同日――昼。
『雪? へぇ〜いいなぁ〜。こっちじゃまだ降ってませんぜ、旦那。その
代わりにさむーい、風とカオリのギャグに参ってます。辻と加護はより一
層うるさくなったね。市井ちゃんが居た時とは比べ物にならないよ〜』
同日――夕方。
『今日はね、雪が降ったから外に出てみたんだ。白い雪を踏むとね、ギュ
って言う音が鳴ってさ、足に変な感覚が伝わってきたよ。冬だからね、寒
いし、体冷えて痛いけど、何か幸せだね。去年の今ごろはさ、プッチで忙
しくて、こうして雪を踏んでその伝わってくる感覚も気がつかなかったけ
どさ、今は風景とか、そう言うのが凄く大切な感じがする。ああ、何いっ
てるのかわからなくなってきたけど、雪を見てこんなにはしゃいだの、子
供の時以来かなって、今思っちゃったよ』
同日――夕方。
『……こっちは忙しいよ。早く雪降らないかな……』
同日――夜。
『そんなに離れているわけじゃないからね。きっと近いうちに東京でも雪
が降るよ……冷えてきたから、風邪に気をつけるんだよ。おやすみ』
- 113 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時10分11秒
- 十二月二十日――深夜。
『今日、少し怒られちゃった。……おやすみ』
同日――深夜。
『電話ありがとう、市井ちゃん。色々悩んでたけど、話してスッキリした
よ。やっぱりおねーちゃんだ。そう言えば電話する時はあたしからだった
っけ? 長電話させちゃってごめんね。おやすみ、市井ちゃん』
同日――深夜。
『お互い頑張ろうね。おやすみ』
同日――昼。
『市井ちゃん。今テレビの待ち時間。市井ちゃんは何してるの?』
同日――昼。
『市井ちゃん? 寝てるのかな? 着信音で起きろ〜』
同日――昼。
『暇だよ〜。市井ちゃん、お返事ちょうだいな』
- 114 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時11分12秒
- 同日――昼。
『悪い、後藤。ご飯食べてたよ。それにしてもニ三分返事がないからって
連続して送るなよー。昨日長電話しちゃったから、寝不足になってないか
な? 体に気をつけろっていった本人がこんなんじゃいけないよな〜。テ
レビの収録、頑張るんだよ』
同日――昼。
『イエッサー! ごと〜は今日も頑張ります!』
同日――夕方。
『今ラジオの打ち合わせ中〜。圭ちゃん真剣な顔だよ〜』
同日――夕方。
『こらっ。仕事中に何やってるんだか。困った妹だ。ちゃんと打ち合わせ
するんだよ』
同日――夕方。
『は〜い。でも打ち合わせって言ったって、毎回同じ事ばっかりだけどね』
同日――夕方。
『市井ちゃん〜。今ラジオの収録中〜。ドキドキだね〜』
同日――夕方。
『お〜い。ごと〜がみんなの隙を見計らって送ってるんだぞ〜。返事ちょ
うだいよ〜』
同日――夕方。
『市井ちゃ〜ん? どうしたの〜?』
- 115 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時12分05秒
- 同日――夜。
『市井ちゃん聞いてよ〜! さっき、めっちゃ圭ちゃんに怒られちゃった。
凄い剣幕で、びっくりしちゃったよ〜。んで携帯没収されちゃってさ〜、
メールもあれから打てなかった。超むかつくよねー』
同日――夜。
『後藤、収録中にメールなんか出したら怒られるの当り前でしょう。仕事
なんだよ。そんな時にメール出すあんたの方が悪いんだよ。スタッフの人
たちやそれを聞いてくれる人に悪いでしょう? こっちだって、そんな時
にメール送られてきても迷惑だよ』
同日――夜。
『……ごめんなさい。ごと〜のこと嫌いになった?』
同日――夜。
『嫌いになんかならないけど、少しは考えて行動しよう』
同日――夜。
『電話で言ってくれたよね。市井ちゃんはごと〜の味方だって』
同日――夜。
『そうだよ。だから、もうこんなことしちゃダメだよ』
同日――夜。
『アイアイサ〜!』
- 116 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時13分24秒
- 十二月二十一――早朝。
『市井ちゃんおはよ〜。ごと〜はこれから仕事に向かいます。正直眠いで
あります!』
同日――早朝。
『今タクシーの中。外は寒そうだ』
同日――朝。
『事務所に着きました。これからみんなと合流します』
同日――朝。
『移動中です。暖かくて眠くなっちゃった。少しだけ眠りま〜す』
同日――昼。
『おはよ。いちいち今の状況を説明せんでもいいよ、後藤』
同日――昼。
『市井ちゃん起きたの? お寝坊さんだね〜。そう言えばもう少しでクリ
スマスだよ。ごと〜はその日も仕事だけど、市井ちゃんなんかほしいもの
ある?』
同日――昼。
『強いて言えば、仕事』
同日――昼。
『うわ〜。笑えね〜! じゃあ娘に復帰しようよ! あたしから事務所に
頼んでみよっか? そうすればいつも一緒じゃん!』
同日――昼。
『遠慮しておく。クリスマスも仕事みたいだけど、がんばりなさい』
- 117 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時14分20秒
- 同日――夜。
『電話中なんだけど、誰と電話してるの? お仕事終わったから、今度は
ごと〜の方から掛けようと思ったのに……』
同日――夜。
『長電話しすぎだよ〜』
同日――夜。
『まだ電話してるの?』
十二月二十二日――深夜。
『圭ちゃんと話してた。後藤、しばらく電話もメールもやめよう。最近あ
んた仕事も疎かになっているらしいじゃん。待ち時間もわたしとメールし
てメンバーとも話してないらしいじゃない。一体どうしたの? 圭ちゃん
心配してたよ。まるで仕事をしていると思っていないって……圭ちゃん言
ってた。このままじゃ、みんなに迷惑掛けちゃうよ』
同日――深夜。
『市井ちゃんはあたしとメールするの迷惑なの?』
- 118 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時15分01秒
- 同日――深夜。
『そういうわけじゃないよ。ただ、このままの状況が続くなら、しばらく
やめたほうがいいって事だよ。もう後藤だって先輩になったんだから、い
つまでも甘えてられないんだよ』
同日――深夜。
『誰かから言われた? あたしとメールするなって誰かから言われたん
でしょう? そんなのどうだっていいじゃん! 市井ちゃんはあたしの
味方だって言ってくれたじゃん! 先輩とか後輩とかそんなのどうだっ
ていいよ! あたしは市井ちゃんとメールして救われたんだよ! 辛い
時も市井ちゃんの返事で頑張れたんだ! だから嫌だよそんなの!』
同日――早朝。
『おやすみ……電話では怒鳴っちゃってごめんね。でも後藤の為だと思う
んだ……。わたしも、後藤がメールを送ってくれて嬉しかったよ……』
同日――早朝。
『もう泣かないって思ってたのに、泣いちゃってごめんなさい。また電話
市井ちゃんのほうから掛けさせちゃったね……おやすみなさい』
- 119 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時16分00秒
- 十二月十三日――夜(未送信)。
『市井ちゃん久し振り〜。新曲出たけど買ってくれたかな〜? 衣装とか
サイバーな感じっていうか、近未来って言うかー。チョ〜カッコいいんだ
よ〜。今何してるのかな? 暇だったら電話していい?』
十二月十四日――夜(未送信)。
『市井ちゃん久し振り! 新曲でたんだけど、聞いてくれたかな? 前と
は違う感じで、ノリノリだよ〜。色々とお話したい事があるんだけど、電
話してもいいかな?』
十二月十五日――夜(未送信)。
『市井ちゃんにメールするの久し振りだったから、緊張しちゃった。急に
ごめんなさい。最近、ごと〜疲れてるんですよ。何ていうか、ぼんやりと
していて……時々マネージャーさんや裕ちゃんに怒られて……何かそう
したら市井ちゃんと話したくなっちゃったんだけど……』
十二月十七日――夜(未送信)。
『周りの風景によく気が付くって市井ちゃんの言葉聞いてたら、羨ましく
なってきたんだ。同じ時間を過ごしてきたのに、どうしてごと〜は忙しく
て、市井ちゃんは幸せそうなんだろうって、凄く思う。昨日、色々考えて
みた。何か切羽詰ってるみたい。先輩になったから、しっかりしないとい
けないし、市井ちゃんみたいに、加護の教育係しっかりやりたいし。でも
気持ちがついていかなくて……』
- 120 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時17分04秒
- 再び十二月二十二日――夕方(未送信)。
『市井ちゃんとメールしていて、あたし救われた。辛い事とか、そう言う
こと話すだけで落ち着いていったんだ。だから、いつも市井ちゃんと話し
ていたかった。こう言うのイゾンっていうんだよね……市井ちゃんの味方
だって言う言葉、凄く嬉しかったよ……ありがとう』
同日――夜(未送信)。
『夜はキツイッす。体が冷えていくからかな? ……寂しいな』
十二月二十三日――深夜(未送信)。
『市井ちゃん……あたし、上手に笑えてますか……?』
同日――深夜(未送信)。
『今日、一日、ごと〜がんばりました。市井ちゃんおやすみなさい』
同日――朝。
『約束破ります。こっちにも雪が降りました。白くてとてもキレイ……』
同日――朝(未送信)。
『まだ雪は積もらないみたい。でも白くてとてもキレイだ。サンタのおじさんはトナカイに乗ってきてやってきてくれそうだよ』
同日――昼(未送信)。
『少し期待しちゃった。返事返ってこないよね……』
- 121 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時18分08秒
- 同日――夜(未送信)。
『明日はクリスマスだね……今日みたいに雪が降ってくれるとありがた
いな……』
十二月二十四日――深夜(未送信)。
『また……ひとりぼっちになっちゃった……』
- 122 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時19分56秒
- ハロープロジェクトのリハーサルのため、スタジオにいたあたしは、そ
っと携帯を自分のポケットの中に閉まった。窓際でパイプ椅子に座って、
外を見てみる。闇の中で白い雪がひらひらと降っていた。
顔を上げると、メンバーが騒ぎながら帰りの用意をしていた。よっすぃ
ーや梨華ちゃんがこの後どこか行こうと誘ってくれたが、あたしは丁寧に
それを断る。さっき裕ちゃんに怒られた事がまだ尾を引いていたからだ。
ぼんやりと外を見ていたあたしに近寄ってくる人の気配がして、首を向
けるとそこには圭ちゃんがいた。
「どうした? 雪がそんなに珍しいのかい?」
あたしは首を横に振る。
圭ちゃんはゆっくりと自分のマフラーをあたしの首に回していった。
「クリスマスプレゼント。今夜冷えそうだからね」
「急にどうしたの? ……明日返せとかいわないよね」
あたしがそう言うと、圭ちゃんは愉快そうに笑いながら出口に向かって
歩く。
- 123 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時20分46秒
- 「大丈夫。安物だよ、それ」
そう言って小さくなる圭ちゃんの背中を、あたしは思わず椅子から立ち
上がって呼び止めるように声を掛けた。
「圭ちゃん!」
「……ん?」
振り返るその姿に、少しだけあたしは胸から出てくる言葉を飲み込もう
とした。でも、まだマフラーに残っているぬくもりから、その言葉は自然
と解凍された。
「この前は……ごめんなさい」
圭ちゃんははじめ何の事を言っているのかわからなかった様子だが、す
ぐにラジオの件だと気が付いたらしく、少しだけ困った顔をしてから苦笑
いをする。
「もう過ぎた事だよ。お互いがんばろうぜ」
「……うん」
圭ちゃんが出て行って、あたしはゆっくりと自分の荷物をまとめた。ス
タジオの中には誰も居ない。しん、とした空気が少しだけ弱ったあたしの
心を締め付けた。
- 124 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時21分43秒
- 鞄を持って、首に巻いたマフラーをちょっとだけきつく締める。スタジ
オから出ると、降り続く雪が一粒だけ鼻に当たって溶けた。
目の前を通り過ぎていく車。地面には茶色く汚れた雪の足跡がついてい
た。あたしはゆっくりとまだ残っている白い部分を探して、そこに足を踏
み入れてみた。
ギュッ。
足にはじんわりと感覚が伝わってくる。
市井ちゃんの言った通りだ。
あはっと笑うと、何故だか悲しくなった。
寒さのせいなのかわからなかったが、鼻が出てくる。胸の奥がマフラー
と同じようにきつく締め付けられた。
ちらちらと降り続く雪。息を吐くと白くて、急に寂しさを感じた。
マフラーだけじゃ、温まらないよ……。
そう思っている時だった。ポケットに入れていた携帯が音を上げる。あ
たしは悴む手でそれを抜くと、液晶を見てみる。
メールだ。
十二月二十四日――夜。
『メリークリスマス、出てくるの遅いぞ』
- 125 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時22分33秒
- あたしは振り返った。
そこには電飾で飾られた街路樹の一本の中に、コートを着ている女の人
が白い雪を被りながらあたしを見ていた。
点滅する電飾に色とりどりに飾られるその人は、寒そうに肩をすくめな
がらあたしに向かって微笑みかけた。
ドクン、と何かが胸の奥を突き上げる。その人の笑顔は、あたしが一番
好きな表情だ。
どうして……?
そう声に出そうとしても、喉が震えて言葉にならない。唇をただ振るわ
せるあたしを、多分目の前のその人は、寒さにそうしているのだろうと勘
違いしたのかもしれない。わざとらしく笑うまねをして、彼女は首元に指
をさした。どうやら圭ちゃんのマフラーのことを言っているらしい。
――クリスマスプレゼント。今夜冷えそうだからね。
ああ、そっか……圭ちゃんこのこと……。
全てが嬉しくなって、そのくせさっきより胸の奥はきつく締め付けられ
る感じがする。でもそれはどこか暖かくて、白い息とともに暗い上空を
目指して開放されていくような気がした。
- 126 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時23分21秒
- 「凄く……寒いよ……」
多分あたしの言葉は小さすぎてその人には聞こえていない。
「だから……駆け寄ってもいいよね……」
それなのに、目の前のその人は、あたしの事は全て見透かしているとで
も言いたそうな表情で、穏やかな眼差しを向けてくれた。
恥ずかしいけど、あたしは声を張り上げた。
周りの人が驚くぐらいの声を張り上げた。
「市井ちゃん!」
- 127 名前:返事を下さい 投稿日:2001年12月13日(木)04時24分19秒
- 十二月二十五日――夕方。
『市井ちゃん、昨日はありがとう。東京にも雪が降っている事、確認でき
たよね? 市井ちゃんは相変わらず変わってなくて、ごと〜は安心しまし
た。迷惑かけてごめんなさい。市井ちゃんが圭ちゃんとあたしのこと考え
ていてくれた事、昨日知りました。あたしは一人じゃないんだって、実感
したよ。今度会えるのは大晦日だね。期待してま〜す!』
十二月二十五日――夜。
『大晦日って……そんな約束してないだろ。わたしの予定も考えてよね。
まったく……もちろん、後藤がおいしいケーキ作ってくれるんだよね?
わたしの方こそ、おいしい手作り期待するよ」
十二月二十五日――夜。
『冬は寒いけど、だからこそ人の暖かさを感じられるんだなってわかった
気がする。――ありがとう。そして……大好きだよ』
(終わり)
- 128 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時11分57秒
- 12月に入って間もない平日の午後。
TV番組収録の空き時間、紺野はセットの書き割りの後ろでひそひそと話す声に気付いた。
誰だろう...? 覗いたら悪いかな...?
その必要はなかった。
平板なイントネーションの方言で話すメンバーは一人しかいない。
「ほやさけ、当日も午前中はリハーサルがあるんでの。やっぱり行けんにゃぁ。」
『みんな、楽しみにしとるんやけんどぉ。』
「うらもさびしいんにゃざぁ...」
『...』
「今年もあの曲ば唄うんかの?」
『ほやなぁ。子供らが喜ぶでのぉ。』
「去年は楽しかったわの...」
『愛ちゃん...』
「すまんの...今度の休みにまた帰るんでの。ほしたら会おっさぁ...」
『無理せんでええよぉ。愛ちゃんは大事な時期やから...』
- 129 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時13分00秒
- 高橋は携帯を直すと目尻をこすった。
一応、周囲を確認してみる。
良かった...誰にも見られていない...
「高橋さん。」
びくっとして振り返ると紺野が心配そうな顔で自分を見つめている。
「ああ、びっくりしたぁ。何?」
「ごめんなさい...電話の声...聞こえちゃい...ました。」
えっ...高橋は言葉に詰まった。
聞かれてまずいことはないが、少し恥ずかしい。
高橋がまったくの福井弁で喋ると「わからない」と言われることが多く、
メンバーの前ではなるべく使わないようにしていたからだ。
しかし紺野はわざわざ何のつもりでそんなことを...
- 130 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時13分41秒
- 「私...マネージャーさんに...お願いしてみます。
当日のリハーサル...ちょっとだけ...抜けられないか。」
「紺野ちゃん...」
「せっかく地元でのコンサート...なんですから...」
びっくりした...
あんな断片だけ聞いて、話の内容を理解しているとは。
聞かれたのが新垣だったら、こうはいかなかっただろう。
「大丈夫だよぉ。そんな個人的なことでリハーサル抜けられんよ。それにもう来週だし...」
「子供たちって...前に言ってた施設の...」
「うん...」
そうか、そうだった。紺野には以前、話したことがあったのだ。
郷里の中学で在籍していた合唱部。
そこでは毎年、クリスマスに市内の児童養護施設を訪れていた。
施設というのはもともと孤児を引き取って育てていたところだが、
最近では、両親とも健在なのに入所してくる子どもが少なくない。
そう。虐待だ。
むしろ今ではその犠牲となった子どもたちが入所者の大半を占めている。
- 131 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時14分35秒
- 高橋は合唱部の一員として、昨年まで二回、クリスマスの催しで施設を訪問している。
最初は戸惑った。
自分とそう年齢の変わらない子どもたちを前にどう振る舞っていいか解らない。
他人に対して心を閉ざしている子どもが多く、容易には打ち解けてくれなかったのだ。
高橋は紺野に話すともなく話しかけた。
「目をね、見てくれんのよ、最初は。
でもね、ずっと一緒にいるとそのうち、ちらちらと覗いてくるんよ。」
高橋のいかにも楽しそうな微笑みにつられて紺野も口許が緩む。
「そうなったらしめたもんでね。ゲームとかするんよ。
同じ組みで勝ったり負けたりすると一緒んなって喜んだり、悔しがったりでね。」
「それで、すっかり打ち解けるんですか?」
「うん...」
思い出しているのだろうか。楽しかったひとときを...
紺野はその割に高橋の表情がすぐれないことに気付いた。
- 132 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時15分12秒
- 「どうしたんです?」
「本当にね...楽しそうやったんよ...」
高橋は知っていた。
その楽しそうな子供たちの表情が長くは続かないことを。
クリスマスのほんの短いひとときだけ。
それが終われば、彼らはまた冷たい現実と向き合わなければならない。
「モーニング娘。になったらぁ、もっとたくさんの人を幸せにできるんやて思ってたんよ。」
紺野にはやや唐突に聞こえた。
だが、きっと高橋の中では切実につながっているのだろう。
施設でのことと娘。になろうと決意したこととが。
「でもね...私...紺野ちゃんみたいにおもしぇことよう言わんし...」
「え...そんなこと...ないです...」
気にしているのか...?
紺野にはいつもニコニコしている印象しかないだけに、
高橋の内省的な面を見て意外に感じた。
それにしても何をそんなに気にしているのだろう?
- 133 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時16分09秒
- 「今年は施設にも行かれんし、かといってモーニング娘。って胸張って言えること、
まだ何もしとらん...」
焦り...不安...何なのだろう。
それは高橋自身にもはっきりとは自覚できていなものなのかもしれない。
ただ、本人が漠然と感じているように、紺野にも高橋が娘。の中で
自分の居場所を見つけられてはいないように思えた。
施設に行くことができれば、また自信を取り戻せるだろうか?
「高橋さん...私、やっぱり頼んでみようかと...」
「紺野ちゃん、すごくありがたいけど、でもこん話、忘れて。
個人的な理由でリハーサル、抜けられんて。」
「でも...」
「ええんよ。さ、楽屋戻ろう。マネージャさん、怒っとるよ。」
高橋は紺野を急かしながら、思った。
紺野の好意は嬉しい。
だが、自分だけが甘えるわけには行かない。
みな同じ悩みを乗り越えてきたのだから...
多分...きっと...
- 134 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時17分06秒
- 福井でのコンサート当日、朝。
今日は本来なら高橋にとって三度目となるクリスマスの慰問の日だった。
しかしモーニング娘。となった今年、高橋は地元福井でのコンサートを目前に控えている。
やはり地元での開催ということもあるのだろう。
平静を装ってはいるが高橋はやはり緊張を隠せない。
紺野に軽口をきくことでなんとかリラックスしようとしている。
「こっからそんなに遠くないんよ、こないだ言ってた児童養護施設。
だから、友達はちょっと抜けて来られるて思ったみたいやねぇ。」
「ごめんなさい...私、矢口さんたちには相談したんですけど...やっぱり...」
「ええんよ。そんなことできんて、ようわかってるから。」
冗談めかして言ってはいるが、やはり心残りではあるのだろう。
そういうと高橋は紺野を置いて、楽屋を出た。
少し熱っぽい...緊張で顔がほてっているのがわかった。
ちょっと外の風で冷やそう...
- 135 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時17分45秒
- 12月初旬、北陸に吹く風は既に冷たい。
近在に高い山がないせいか、市内こそ雪はあまり積もらないものの
東側の永平寺あたりはもうじき深い雪に閉ざされる。
遠く西の方角に頭を覗かせている国見岳にはぽっかりと雲がかかっている。
高橋の実家からはもっと近くに迫っていた。
自分はあの山に抱かれて、毎日学校へ通っていたのだ...
久しぶりに郷里の風景を見られただけで高橋はもう胸がいっぱいになっている。
昨日の夜は久しぶりに家へ帰ることを許された。
友達とも久しぶりに会えた...
できれば、もう少し...
親や友人が、こんなにも大切に感じられるとは思っていなかった。
当たり前のようにあるものだと思っていた。
いつでも存在するものだと思っていた。
遠く離れることで、それがいかに大切なものか...
そして、それが当たり前ではない施設の子どもたちの気持ちが...
今、ようやく解ったような気がした。
さ、戻ろう...もうじき、リハーサルだ...
- 136 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時18分27秒
- 「だから矢口さん、マネージャーさんにお願いできませんか?」
「えっと...ちょっとでいいんです...」
「そうなんです、ちょっとなんです。」
控え室に高橋が戻ると小川と紺野、新垣の三人が矢口に食い下がっているところだった。
高橋に気付いた矢口が声を掛ける。
「おおっ、高橋ぃ、来たか!ちょっとおいで!」
矢口は五期メンバー四人を並べ、話しを聞く体勢に入った。
高橋はわけがわからないまま矢口を見つめる。
「もう一度説明してみて。」
- 137 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時19分07秒
- 小川が口火を切った。
「愛ちゃんに会いたがっている大勢の子どもたちがいるんですよ。」
「あの...養護施設の子どもたち...です...」
紺野は小川の言い足りないところを補完する。
高橋は慌てた。
紺野や小川の気持ちはありがたいが...
「ここからそう遠くないところにあるそうなので...」
「だから、ちょっとリハ抜けられませんか!?」
「えっ?ち、ちょっと...」
再び小川が後を続けると、新垣が首を大きく縦に振って同意した。
高橋はひとりあたふたしている。
矢口はちょっと困った風で保田に助けを求めた。
「圭ちゃぁん、どうするぅ?」
- 138 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時20分05秒
- 保田はつかつかと歩みよると傍らの椅子を引き寄せ、どっかと座った。
四人のメンバーは無表情を崩さない保田の顔を不安げにうかがっている。
「ひとつ聞いておきたいんだけど...」
「ハイ...」
四人は緊張した面持ちで応えた。
保田は相変わらず無表情な顔つきを崩さずに言い放つ。
「リハーサルだからって軽く考えてない?」
「...」
「いえ...そんなことは...」
紺野だけが心外だというように憮然とした表情で返すが、保田はかまわず続ける。
高橋も言い返したいが保田の迫力がそれを許さない。
「あんたたちもいろいろ事情を抱えてるでしょうけどね。」
保田はそこで四人の顔をねめまわすように一人一人視線を合わせた。
「ファンがどんな気持ちでコンサートに来るか考えたことある?」
「...」
- 139 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時20分54秒
- 紺野ひとりが憮然とした表情を崩さず、潤んだ瞳でまっすぐに保田を見つめているが、
他の三人はうつむいて視線を落としている。
「6,300円っていう決して安くはないお金を払って来てくれるんだよ。」
「...」
保田は紺野の視線を捉え鋭く見据える。
「この日のためにバイトでお金を貯めた子がいるかもしれない。
この日のために欲しいものを我慢してお小遣いを貯めて来たかもしれない。
仕事の都合をつけて無理に休みを取って来てくれる人がいるかもしれない...」
紺野の瞳からは今にも大粒の涙がこぼれそうだ。
うつむいたままの三人の表情はわからないが、高橋の肩は震えていた。
心無しか保田の声もまた震えているように聞こえる。
- 140 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時21分31秒
- 「私たちにとっては何回もあるステージの一回に過ぎないかもしれない。でもね...」
保田は傍らで真剣な表情を崩さない矢口に視線を合わせ、
わかっているというように肯いた。
「でもね...お客さんにとっては一回限りの貴重な機会なんだ...だから私たちには
常に最高のパフォーマンスを提供する義務がある...そのためのリハーサルだよ...」
言い終えた保田の四人を見つめる視線は優しかった。
「そうよ。あなたたちの落とした涙の分だけ、お客さんは幸せになって帰っていくの。」
気付かない間に側で話を聞いていたらしい。安倍がつないだ。
「だから一生懸命やろうね。」
「ハイ...」
四人は声を合わせて素直にうなずいた。
呆れ顔の保田と矢口をよそに、安倍は優しく微笑みかける。
- 141 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時22分10秒
- 「なっつぁん、後から来てまとめちゃって、いい人みたいじゃん。」
「だってなっち、いい人だもん。」
からむ矢口に安倍がぷぅっと頬を膨らませるとようやく、
いつもの楽屋の喧騒が戻ってきた。
「あのね、カオリもね、大好きな聖子ちゃんのコンサート行けなくってぇ、
すっごいつらかったんだよ。だから、みんなもねぇ...」
「いや、リーダーそれはちょっと違うんじゃ...」
「カオリのは説得力ないからさぁ...」
「なぁんでだよぉ!」
リーダー飯田が保田、矢口とじゃれ合い始め場が和んだせいか、
四人の緊張もほどけたようだ。
- 142 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時22分45秒
- 小川がためらいつつも口を開く。
「飯田さん、泣いちゃったんですよね。」
「そぉなんだよ、泣くかぁ普通?」
「なぁに言ってんだよ、矢口!お前にあのつらさがわかるかぁ?」
飯田がむきになればなるほどおかしいらしく、高橋からもくすくすと笑いがこぼれた。
新垣も調子に乗って口を出す。
「飯田さん、泣き虫ですもんね。」
「なぁに言ってんの。さっきまで泣いてた人が。」
飯田に返されて首をすくめる新垣を辻がまぜっかえす。
「ほんとぉに、にいがきちゃんはお調子ものれすね!」
「っていうか、お前が言うなよ...」
その場の全員につっ込まれ、今度は辻が首をすくめたところで
マネージャーがリハーサルの開始を告げた。
リーダーの一声で場の空気が引き締まる。
「さぁ、ゲネプロいくよ!」
「ハイ!」
- 143 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時23分20秒
- 勢いよく立ち上がって、みなステージへと向かって歩き出す中、高橋は紺野に声を掛けた。
「紺野ちゃん...ありがとう。」
「いえ...ごめんなさい...余計なことしたみたいで...」
「ううん。嬉しかったよ。」
紺野が微笑み返すと、後ろで保田の呼ぶ声が聞こえた。
「紺野ぉ、ちょっと来てぇ。」
「はぁい...今すぐ...それじゃ...」
高橋はうなずくとステージへと向かって歩き出した。
- 144 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時23分55秒
- いよいよコンサートが開演した。
新メンバー参加後初となる福井県でのコンサートは、
新メン四人の気合の入ったリハーサルのせいか、
いつも以上の盛り上がりのうちに始まった。
最初の3曲が終わってMCで13人が並ぶときだ。
高橋の肩を保田が叩いた。
(えっ、何?)
右側の客席を指差しているが、暗くてよくわからない。
目を凝らしていると、観客席のライトが灯った。
「あっ!」
保田の指差している辺りにはペンライトを振る子どもの集団があった。
来てくれたんだ...
見ると「愛ちゃん、がんがれ!」という垂れ幕まで用意してある。
高橋は嬉しくなった。
なぁんだ、そっかぁ...向こうで来てくれたんだぁ...
施設の子どもたちの来場に励まされた高橋はリラックスしてMCも決めた。
もちろん、地元だけに凄まじい声援の中で。
メロン記念日の出番を迎え、ステージを掃けた高橋は保田のもとに駆け寄った。
- 145 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時24分29秒
- 「あの...なんで保田さん...あの子たちの場所...」
「ん、招待したから。」
「えっ?」
予想外の言葉に高橋は理解するため時間を要した。
保田はと言えばケロっとした顔つきで早速着替えにかかっている。
「あの、あの、保田さんには、その話してませんでしたよね...」
「ん、紺野から聞いてたから。」
言葉のない高橋に対し、うつむいて着替えを続けている保田が顔を上げて言った。
「それより、あんたちゃんと歌えんでしょうね?」
「へっ?」
「施設で歌ってたっていう、あの歌よ。
今日は赤とんぼの代わりにあれだからね。とちったら承知しないよ!」
「は、はいっ!」
- 146 名前:ひいらぎかざろう 投稿日:2001年12月14日(金)03時25分22秒
- 恋のダンスサイト、加護チームの「嬉しいポーズ」に続いて保田、高橋たちのチームが登場。
会場の盛り上がりは最高潮に達しようとしていた。
軽いMCの後で保田が曲を紹介する。
「それじゃ歌は...『ひいらぎかざろう』です! 今日は特別に地元の高橋メインですよ!
高橋、歌えるよね?」
「ハイ!」
「みんなも一緒に歌おう! せーの!」
♪ひいらぎかざろう ファラララ ラーラ ラララ
はれぎにきがえて ファラララ ラーラ ラララ
カロルを歌おう ファララ ラララ ラララ
楽しいこのとき ファラララ ラーラ ラララ♪
――おわり――
- 147 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時04分30秒
- 「クシュン・・・」
「ありゃ、大丈夫? 梨華ちゃん」
「うん。・・・今日はありがとうね、付き合ってもらっちゃって」
「そんなのいいよ。LIVE 楽しかったよー!」
「良かった。『GET』で大谷さん待ってるんでしょ? 私はここでもうちょっと待ってるから」
「んー、じゃあお言葉に甘えてお先に行かせてもらおうかな?」
「うん! 大谷さんによろしく言っておいてね」
「OK。また、メールするね・・・えーっと、お邪魔にならないようにあさってくらいに」
「・・・・・・っ!!」
そう言葉を残し、柴田は逃げるように出て行った。
梨華は顔を赤くしたままバーカウンターに一人俯き、紛らわすようにフロアに目をやった。
出入り口付近はアンケートを回収している出演者が、頬を紅潮させて客出しを行っている。
その中にはもちろん紗耶香の姿もあったのだが、何故だか声をかけるのが躊躇われた。
先ほどまでステージに立っていた恋人が遠く感じる。
恋人には変わりないハズなのに・・・。
様々な人から声をかけられ、丁寧にお礼を返している。
交友関係も広く、モテない方でもない。それは知っている。
しかし複雑。
- 148 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時10分19秒
- そんな梨華の心内をよそに紗耶香は、笑顔は絶やさず、時々冗談を交えながらスキンシップをはかり、
写真の申し出も快く引き受けていた。
モテない方ではない。
むしろモテると言ってもいいだろう。
それ以上に一途で恋人に気を使う人だということも、一応付け足しておこうか。
「メリークリスマス!」
「ありがとう!」
「メリークリスマス!!」
人影もまばらになった頃女の子が一人、紗耶香に花束と紙袋を渡す。
頭をかき少し困ったような仕草をするが、その顔はまんざらでもないといった様子だ。
そして・・・
「あ・・・・」
ポンポンと相手の頭をなでる。
紗耶香のクセだ。
何度となくされてきた行為。
誉められた時。いじけて拗ねてる時。泣いてしまった時。
別れ際のホーム。1週間振りの再会。くちづけのその後。
愛情表現、照れ隠し。
はにかむその顔が好きで、わざと怒って見せることもあった。
ぷくっと心の中で何かが顔を出した。
紗耶香がチラリとこちらを向いた。梨華の存在には気付いていたらしい。
梨華はすぐさま目をそらす。
心まで読まれることは無いだろうが、今の自分の顔には自身がなかった。
- 149 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時11分53秒
- きっと・・・・イヤな女の顔をしてる。
待たされてる苛立ちか、それとも嫉妬か。
自分でも良くわからない。
しかし心の中では、カレーが煮え始めた時のようにゆっくりと気泡が持ち上がる。
ぷくぅ・・・・・・ふしゅん!
その気泡を壊すのはいつも恋人で、
「ごめん。今、撤収すっからさ。もうちょっと待っててくれる?」
「あ・・・・うん
「紗耶香ー! 10時完パケ!! 早く客出して、こっち手伝ってーー!!」
「わかった、今行くー! ・・・外で待っててもらえる?」
その気泡を作るのも恋人だった。
「パスがないとここには居られないんだ。悪いけど、外出て」
こんな時に素っ気無く言われるとやるせなくなる。
「えぇ〜、外寒いようぅ・・・・」
すこし駄々をこねてみた。
ふっと小さな溜息と共に、次の瞬間紗耶香の手が伸びる。
「いいコだから・・・・」
ポンポンと頭をなでる。
それは予測していた出来事。
今回は別に狙ったワケではなかったのだが。
ぷく
また1つ・・・・。
- 150 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時12分41秒
仕方なく外へ出るが、今日は驚くほど冷え込んでいた。
根っからの冷え性である梨華にはかなりこたえる。
お気に入りの手袋も頑張ってくれているが、今日ばかりは力不足のようだ。
「やっぱり寒いよぅ・・・」
こんな日に一人街角に立つのはなんと淋しいものだろう。
通りを歩くカップル達の視線が突き刺さるようだ。
実際それは梨華の思い過ごしにすぎないのだろうが・・・。
「あれ!? 梨華ちゃん?」
「ひとみちゃ〜〜〜ん・・・」
「どしたの? こんなトコで・・・・って、あぁ」
梨華は潤んだ瞳でコクリと頷いた。
「機材、そんなに無いから〜もうすぐ出てくると思うよ」
「うん・・・・」
沈んだ顔ははたから見ても「カワイソウ」
ひとみはその場を取り繕うように、低い声を目一杯引き上げて明るくつとめた。
「もぉ〜ちろん打ち上げ行くでしょ?」
「え・・・・!?」
この後は当然家に帰って2人きり・・・・を予想していた梨華には、ひとみの言葉は正に寝耳に水。
「もうノドカラカラだよ〜〜。早くビール飲みたいっす〜〜〜〜!」
遠吠えにも似たひとみの大きな声と共に、またしても梨華の心の中にぷくっと1つ・・・・。
- 151 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時14分15秒
「コラ! ひとみ!! サボってないで圭ちゃんのベーアン上げるの手伝いなさいよ!!」
どこから現れたのか圭織がひとみの夜空に浮かべた大ジョッキをかき消す。
ポカッと頭を叩かれてひとみは恨めしそうな顔。
「ぶーたれてないで、ほら、行った行った!」
唯一車を有する圭織には、今日の出演者たちは頭が上がらなかった。
圭織らしく花が飾られた車に、運ばれてきた機材が、ワゴンに隙間無く詰め込まれていく。
「ちぇ、梨華ちゃん後でね!」
走り去るひとみを目では追っているが、梨華は上の空で今日の予定を思い出していた。
イルミネーションが彩る街を手を繋いで歩いて。
チャンドルの揺れる紗耶香の部屋に2人・・・。
シャンパンで乾杯をして、プレゼント交換。
ケーキを「あーん」してあげる。
口の端に付いたクリームを拭って、そのまま見つめ合い、甘い・・・キス。
その後は・・・、その後は・・・
それはあくまで自分で勝手に立てた予定には違いないのだが・・・・。
「その後」に行き着くことも無く、「その前」がこんな状況なのだ。
- 152 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時15分38秒
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「 ごめん!! 」
1ヶ月前のデートの際、突然それは告げられた。
朝からどうも様子がおかしいと思っていたら・・・・。
「クリスマスライブ!?」
「・・・・はい」
紗耶香の話では夏頃から、この企画はあったらしい。
1人モノ達がいかに楽しくクリスマスを乗り切るか!
という話し合いから生まれたイベントだという。
「まっさか、いちーもさぁ、クリスマスまでにこんなカワイイ恋人が
できるなんて思ってなかったしさー・・・」
そんな捨てられた子犬みたいな目で見られてしまうと、梨華は何も言えなくなってしまう。
確かに梨華にしてみてもクリスマスまでに、憧れの紗耶香と付き合えるなんて夢にも思ってなかった。
「ごめん! マジッ、ごめん!!」
だからこそ甘い2人きりのクリスマスを、心から楽しみにしていたのに。
プレゼントのリサーチをする為のデートで、こんな告白を受けるハメになるとは・・・・。
「ごめんよ・・・梨華ちゃぁ〜〜〜んんっ!」
紗耶香の情けない声が響いたのは、調度1ヶ月前。
付き合い始めてまだ2週間とちょっとの頃だった。
- 153 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時16分37秒
付き合う前の約束とあっては何も言えない。
渋々ながら承諾はしたが、その代わりにライブの後は2人きりで・・・・
(それがなんで、こんな寒空の下で待たなきゃいけないのよぅ!)
(しかも、打ち上げって何!? もう! イヴが・・・終わっちゃうよぅ・・・!)
その心の叫びを夜空に放った直後、怒りの根源である紗耶香がギターをかついで出てきた。
鴨ネギ。
トンビに油揚げ。
ここは文句の1つでも言ってやろうと、車に荷物を積みいれて戻ってくるところを狙う。
しかし梨華の思惑も虚しく、紗耶香は踵をかえすとライブハウスの階段を駆け下りてしまった。
次に出てきたのは大きなアンプを、2人がかりで運び出してきたひとみと圭だった。
「お〜う! 梨華ちゃんお待たせ〜! これで撤収おわりだよ〜〜ん♪」
楽器や機材などは、1番近いという理由で飯田家送りとなり、後日、各自で取りに行くらしい。
熱が冷めないうちに、打ち上げ会場へ急ぐのだ。
「とにかくビ〜ル〜〜!!」
「あんたねぇ。一応未成年なんだから・・・・」
この後はいつもの溜まり場(?)、平家の店へと流れるのだろう。
- 154 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時17分46秒
- ひとみとの立ち話の途中にやっと、待ち人が目の前に現れてくれた。
「お待たせ! ごめん、寒かったでしょ?」
本日の任務を終えたその人は、いつもの優しい恋人に戻っていた。
大好きな笑顔に一瞬許してしまいそうになったが、ふと目を落とすと
その手には、先ほどの少女から受け取った花束と紙袋。
紗耶香は弁解もせず、当たり前のようにそれを持つ。
ぷくぷくぷく・・・・・・
「紗耶香ぁ〜〜! 打ち上げ行くよ〜〜〜!!」
にっこり笑ってみんなの方に花束を掲げて答える。
ぷくぷくぶくぶく・・・・・・
(信じらんない・・・・!)
「さて、行こっか」
「・・・行くの!?」
ぼこぼこぼこぼこ・・・・・・!!
梨華の心の中はすでに怒りで沸騰状態にあった。
激しく音を立てて幾つもの気泡が湧き上がる。
「どうしたの?」
紗耶香は梨華の様子が少しおかしいことに気付くが、構わず手を取った。
梨華は無言でされるままになっているが、心中は決して穏やかではなかった。
- 155 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時19分02秒
ぞろぞろと繁華街へと向かう一行。
梨華は上目遣いのまま睨むように、前を歩くひとみを凝視している。
特にひとみに恨みがあるワケではない。
ただ隣にいる恋人の顔を見たくないだけだ。
かといって何を見るワケでもなかった。
そう、ひとみのことすらその実、目に入ってはいなかったのかもしれない。
「・・・か? 梨華? りぃ〜かちゃぁ〜〜〜〜んん??」
手を引かれるまま、梨華はいつの間にか駅前に着いていたことに気付く。
「へ? あれ? みんなは?」
「打ち上げに行ったよ・・・・って、あんた大丈夫?」
まるで狐につままれたかのような顔をして、梨華は目をパチクリさせている。
おもむろに紗耶香の手が額に触れた。
「ふむ。熱は無いかな? でも顔がちょっと赤いような・・・早く帰ろ?」
いまだ状況の掴めていない梨華は慌てふためくように、まくしたてる。
「だって、みんなは? 打ち上げは? なんで駅にいるの? いいの?」
「なぁ〜〜に言ってんのさ。ライブの後は2人で過ごすって約束じゃん」
- 156 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時20分25秒
- そう。そういう約束だった。
折角のイヴにライブが入ってる。けど、早めに切り上げて2人で過ごすという約束だった。
それなのにひとみは打ち上げに当たり前のように誘うし、紗耶香もそれに笑顔で答えていた。
だから・・・あんなに梨華は怒っていたというのに。
「いいんだよ。あいつらとなんていっつも呑んでんだし」
再び梨華は手を引かれて電車に乗り込んだ。
運良く1人分の座席が空いている。
もちろん紗耶香は様子のおかしい梨華に座らせて前に立つ。
そして手に持っていた荷物を、梨華の膝の上に何気なくいつものように乗せた。
荷物・・・例の花束と紙袋だ。
ふつふつと梨華の心が再加熱を始める。
「ど、どうしたの? 気分悪い?」
「なんでもないよ」
間髪入れない応えは紗耶香に「なんでもなくない」ことを伝えていた。
同時に、気分が悪いワケでもなく、怒っているということを十二分に伝えている。
紗耶香の部屋は渋谷から7つ目。
10分ちょっとで、駅からは更に徒歩10分弱。
近くのコンビニでタバコと氷を買って家路についた。
その間2人は特に何も喋らなかった。
(触らぬ神にタタリ無し・・・)
- 157 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時22分00秒
慣れたように梨華が電灯のスイッチを押そうとするが、紗耶香がそれを制した。
「待ってて」
ジッポを点けると奥の部屋に消える。
梨華は手持ちぶたさから、コートを脱いで待っていた。
程なく柔らかな灯りが幾つか灯りはじめた。
「いいよー」
そっと部屋を覗くと5つほどのキャンドルが揺れていた。
「わぁ・・・きれい・・・・」
ッポン!
「キャ・・・何!?」
「メリークリスマス! お姫様。シャンパンをどうぞ」
2本のフルートグラスを器用に片手で持って、シャンパンをサーブする。
黄金色に細かい気泡が幾つも筋を作っていた。
キャンドルの光に反射してそれは幻想的な、小さな世界のようにも見える。
紗耶香の巧みな演出のおかげか、梨華の心の中の気泡も小さくなっていたようだ。
「「メリークリスマス」」
カチンとグラスは安い音を立てた。
それでも構わない。
1口含んだシャンパンは甘くて、ほのかに洋ナシの香りがした。
ほぅっと息をつくとその息を飲むように、唇が近づく。
許してあげよう。
誰に嫉妬しようとこの人は私のものなのだから。
ここにいる。
こうして甘いキスをくれる。
- 158 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時23分46秒
上唇をついばむ軽いキスは極上のものだった。
予定よりも早いキスだが、この際そんな贅沢は言わないでおこう。
離れても余韻は永遠のように残り、笑顔は確信をもたらす。
「さ、ケーキ食べようぜぃ。フンパツして自由が丘の人気の店で買ったんだ。いやー、予約取るの
大変だったよ。しかも朝一で取りに行ってさ、ここに寄ってからリハにちょっこー」
冷蔵庫からケーキを取り出す紗耶香の横で、梨華は皿とフォークを用意する。
2人でテーブルに戻ると「ケーキカットやる?」なんて、紗耶香がおどける。
「マジで大変だったんだよ。今日。プレゼントもさ、取りに行けなくって・・・」
「え、、、」
皿に盛り付けながら苦労話を語り始める紗耶香。
一瞬、梨華の顔が曇るのを見計らったように、ニヤリとする。
無造作に放り出されたままの、例の紙袋を引っ張ると
「んな、心配しないでよー。このいちー様が姫へのプレゼントを用意しないと思ったかい?」
おもむろに中からもう1つ水色の紙袋を取り出した。
「でもそれって・・・・」
「はい。メリークリスマス!」
「・・・・これ」
間違いなくあの少女から、紗耶香が貰ったものである。
- 159 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時25分27秒
「いいから、開けてみなよ」
中には小さな、同じく水色の箱。
-TIFFANY-
白いリボンをそっと引いて、開けるとそこには先ほどのシャンパンにも負けないほどの、
まばゆい輝きを放った銀のシンプルなデザインリングが収まっていた。
梨華は指輪と紗耶香とを何度も往復した。
優しい微笑みに促されて、恐る恐る手に取る。
「ほら、ここ。こんな時期だからさ、出来上がるのが調度今日でさー、いちー、取りに行けなくて
友達に頼んだんだ」
紗耶香が指差すところは一瞬しか見ることができなかった。
[ S to R ]
「キザことするなぁって、からかわれたよー。でもまぁ、愛する姫の為ですから」
梨華の顔が段々歪んでくる。
梨華の視界からは紗耶香も歪んで見えた。
「付けないの? どーれどれぇ」
固まりっぱなしの手から、そっと取ると左手を引き寄せる。
「10代のうちに銀のアクセサリーを貰うと、幸せになれるんだってさ」
そして薬指にゆっくりと差し込む。
たまらず瞬きと共に涙が落ちて紗耶香の手を濡らす。
よしよし。と優しく頭を撫でられると「うぅ〜〜」と声を漏らしてしまった。
- 160 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時27分21秒
「おいおい。しょーがないなぁ」
そのまま頭を寄せるとまぶたにキス。
改めて唇へのキス。
今日2度目のキスは少ししょっぱかった。
「あぁ〜〜ん! ごめんなさぁ〜〜〜い!!」
「はぁ!? なんで謝るんだぁ?」
「だって、だってぇ〜〜・・・。あぁ〜〜〜ん!! ぇっく、ぇっく」
「(?)よしよし」
ごめんなさい。
ごめんなさい。
私は、あなたをまるで分かってなかったみたいです。
醜く嫉妬して、自分のことばかり考えてて・・・・。
こんなに愛されてることも知らないで、求めてばかりで、いじけてて・・・・。
ごめんなさい。
愛してます。
ごめんなさい。
愛してるよぉ〜〜ぅ。
柔らかな灯火の中で。
柔らかなあなたの中で。
柔らかな愛は決して崩れることはないだろう。
「っく。うぅっく。ぇっく」
「もう大丈夫だろ?」
「ぅん」
「ほら、ケーキ食べよ?」
「うん」
紗耶香が苦労して手に入れたケーキは格別の味がした。
赤い鼻で不恰好な笑顔。
そんな梨華を見つめる、紗耶香の笑顔は幸せそうだった。
- 161 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時30分29秒
結局のところ、あの花束は出演者全員にプレゼントされたものだということも分かった。
花屋に勤める「りんね」という友達が売れ残りを、花束にして持ってきたのだ。
外で配っていたのだが、なかなか出てこない紗耶香の分を、あの少女に頼んだらしい。
そういえば、圭織の車には花が沢山あった気がする・・・・。
「でさぁ、いちーへのプレゼントは・・・ないのかなー? なんて」
「もっちろんあるよぉ! すごいんだよ。イタリア製のヘルメットでね」
バイクが趣味の紗耶香が近所のショップで、以前から羨望のまなざしを送っていたメットだ。
「お! もしかして!!」
「そうだよー。欲しがってたもんね。アレ・・・・」
「マジっすか? 見せて、見せて!・・・・ん?」
梨華はすっかり固まっていた。
「ど、どしたの?」
やっと、泣き止んだ梨華の顔が見る見るうちにまた歪んでゆく。
「まさか・・・・」
「渋谷のコインロッカーに入れたまんまだよぉ〜〜〜」
「あ・・・あは。あはははははは! 梨華ちゃんらしいや!!」
「う〜、あたし、取って来る!!」
「あははは・・・っは? 何言ってんのさ。もう電車無いよ?」
- 162 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時33分04秒
その時、時刻は忌々しくも12:00ジャスト。
「走れば間に合うよ!」
「どうやって帰ってくんのさ?」
「うう・・・。クリスマスに渡したかったのに・・・」
「明日もクリスマスだよ。明日一緒に行こうよ」
「でもぅ、でもぅ・・・」
「いいから。その代わり・・・それより」
紗耶香は耳元で囁いた・・・・。
その言葉に梨華は目を見開き
「紗耶香のバカ・・・!」
照れ隠しのように紗耶香に抱きついた。
「でも」
「ん?」
「大好き・・・・だよ」
今日という日に伝えたかった言葉の1つを、やっと言えた。
もう1つは・・・・また、後で。。。。。
- 163 名前:煮えたぎる銀の囁き 投稿日:2001年12月14日(金)19時34分20秒
今日はクリスマス・イヴ。
焦ることはない。
清らかな夜に身を委ねようじゃないか。
煮えたぎる程の、熱い愛の情熱を抱えて。
あなたを抱いて・・・・・・
紗耶香が囁いた言葉。
それはサンタクロースにも内緒だよ。
「「 Happy! Merry Christmas!! 」」
〜 Fin 〜
- 164 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 165 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)22時26分48秒
- がたんごとんと規則正しい揺れ音を響かせて夜汽車は走る。
過酷なスケジュールに一刻を争う者たちの移動手段は車、飛行機。
特急電車に乗ればグリーン車の片隅を仕事仲間で占有することになる。
今回は違った。
見知らぬ土地の鈍行列車に揺られる三人は、
乗車口の近くにこっそりと身を寄せて立っている。
毛糸の帽子を目深にかぶった後藤の横顔が、
外を流れる夜景の中に沈むように窓に映りこんでいた。
硬い表情と暖かそうな帽子と蛍光オレンジのサングラスが相まって、
試合に臨むスキープレイヤーを思わせる風貌だ。
後藤の奥には加護と辻の姿も映っていた。
やはり帽子とマフラーで顔半分を隠すようにし、幼い眼をぱちぱちと交し合っている。
(どうする?)
(どうしよう?)
- 166 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)22時29分05秒
- 三人はアイドルグループ、モーニング娘。のメンバーである。
明るさと元気さと無邪気さ、
実年齢以下に見られるような幼さを売りにしている加護と辻と、
十六歳の後藤は持っている雰囲気がまるで違っていた。
強い顔立ちと女らしい体を持っていた後藤は、
女と娘の両方の魅力を持った少女として大人びた扱い方をされている。
性格は温和でおおらか。外交的ではないのでクールな風に見られがちだが、
プライベートではずぼらで眠たがりという人間味ある一面もある。
後藤は第三期追加メンバーオーディションの唯一の合格者だった。
当時最年少の新人がすぐにモーニング娘。のセンターに立たされて成功を収める。
それはモーニング娘。の歴史の中では伝説で、後藤は英雄だった。
大造りに整った後藤の美貌が周りを圧倒することもあり、
加護と辻は後藤を慕いながらも、
ずっと目上の存在なのだとどこかで意識していた。
- 167 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)22時32分33秒
- 「十四、だっけ?学年で数えるとそんぐらいだよね」
後藤の顔は電車の進行方向に平行に向けたままだ。
サングラスに隠れた瞳の動きは見えない。
辻が後藤の問いに頷く。
「誕生日がくると、十四」
加護が答える。周囲を気にして、どうしても言葉が少なくなる。
後藤はふうんと相槌を打った。
「私は入ったときが十三、四だったからなぁ。
二人はその年でキャリアあるわけだし、やっぱ早いよね」
そんなことをボソッと呟いて、また黙った。
(後藤さん目立ちすぎや。)
後藤の服装は都心なら珍しくもないストリートスタイルで、
色はむしろ地味にくすんでいる。
だか、鄙びた辺境の土地に置いては目新しいもので浮いていた。
その上後藤はなにやら気を張っていて、
他人の視線を留める雰囲気を発している。
(これはなんなんやろ。ドッキリとかで仕事中なんかな。)
そう考えて、先ほどから辻と二人で何気ないふりをして周囲を探っているのだが、
証拠は掴めていない。
仕事ならいい。
けれども、仕事でなかったらこの奇妙な遠出は一体何なのだろう。
- 168 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)22時36分51秒
- 辻と加護は絡めあった指先をこすり合せて不安を打ち消そうとしたが
上手くいかなかった。
「遅くなると、おばあちゃんに心配かけちゃう」
奈良出身の加護は、モーニング娘。に入るにあたって上京し、
祖母の家に身を寄せていた。
「今日は泊まりますって、二人の家には連絡してあるから大丈夫」
そんな遠くまで連れて行かれるのか。
二人は焦燥に駆られてすがるように後藤を見たが、
後藤はまったく動かない。
夜汽車はがたごと走り続ける。
窓向こうに見える町並みからは遠の昔にネオンが消えていて、
街灯がまばらに散っているだけになっていた。
それもふっと消え、風景は一瞬で闇に包まれる。
加護の耳の中がきんと張る。
電車の立てる音がコンクリートの内壁に反響して車内に篭った。
外ではオレンジ色の蛍光灯が残像の線を引いて流れ、
目の中でちかちかと瞬く。
悪い夢に引き込まれたような眩暈を覚えた加護は、
辻の手を離して目頭をこすった
- 169 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)22時45分20秒
- その日の撮影が終わった夕方から不思議な旅は始まった。
メンバーたちと食事を食べに行くのだと、
先輩の矢口に手を引かれてテレビ局の駐車場に行くと、
同期だが年上の吉澤と石川がスクーターに跨って待っていた。
「四人で先に行ってて」
矢口に言われ、辻と加護は荷物のように吉澤たちに受け渡された。
スクーターに乗せられてデパートの駐車場へ着くと、
今度は後藤が待っていた。
後藤が用意していたバーゲン品の防寒服に着替えさせられると
五人揃って近くの駅に移動した。
快速電車のボックス席に座ってやれやれと思ったら、
ひょいとお化けのように吉澤と石川が姿を消した。
わずかな時間で同行者が目まぐるしく変わり、
加護のそばに残ったのは辻と後藤だけだ。
それから三人は幾つかの乗換えをしていた。
この電車に乗るときに「これが最後の電車だよ」と後藤が言っていた。
見たことの無い色をした、どこかしら鄙びた内装の電車だ。
座席の布は、加護の祖母の家のざぶとんと似たように色あせている。
- 170 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)22時49分38秒
- 窓の外の風景が失われてしまい、加護が行き場所をなくした視線を
空いた座席にやっていると、後藤が話し出した。
「あたしが加護たちぐらいの時ってさ、結構大変だった気がする」
電車が立てる轟音に、後藤の声はほとんどかき消されそうだったので、
加護と辻は後藤に近づいた。
「ガッコもなんだかだし、仕事もいつまでやってけるのかわかんないし。
気分が落ち着いてきたのは一人でドラマに出るようになったときぐらいかなぁ」
後藤がテレビドラマに出演したのは今年の春のことで、そう昔のことではない。
「いっつも振り回されてる、しがみつかなきゃって感じでさ。
好きだからやってるんだけど、でも……。
だからやっぱり、カオリの気持ちはわかるような気がする」
後藤が二人を見つめる目は、
銀のスプーンの裏側のように鈍く丸く光っていた。
「なに言ってるのかわかんない」
加護がぼそっと言い捨てると、
辻が同意するようにぎゅっと加護の手を握る力を強めた。
「ごめん。へんな独り言だよね」
- 171 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)22時58分35秒
- どうやら後藤は昔の姿を自分たちの中に見ているようだ。
でも二年後の自分は後藤ではないのだろうなと、
加護はうっすらと認識する。
隠し切れないカリスマの欠片を覗かせている目の前の少女と、
未だ子供の殻を頭につけたままの自分たちの行く先は、
ピッタリとは重ならないはずだ。
後藤は腕にしたダイバーズウォッチに目を留めた。
「そろそろ電車が着くこるかな。こんな遠くまで一人で――
一人じゃないけど、自分でみんなの乗り換えとか仕切ってさ、
そうやって電車に乗るのなんて初めてだから、めっちゃ緊張したよ。
着けてよかったぁ」
後藤はほっくり破顔する。
そこに照明を浴びて人を強く惹くアイドルのオーラはない。
日常の出来事を上手くこなすした時にふっと浮かぶ、
ありふれた会心さがあった。
それで加護は、後藤と二つしか年の変わらないことを思い出した。
加護も辻も後藤もひっくるめて、少女と呼ばれる年頃だったのだと。
車内に篭った電車の音が、さざなみに似た音を外界に向けて引き伸ばしながら
ぐんぐん広がっていく。
音の導きに三人ともが窓の外を見て、ぐっと息を飲んだ。
トンネルを抜けて目の当たりにするのは、
丘陵に塗せた粉雪がさらさらと闇夜に輝く銀世界。
- 172 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)23時03分22秒
- 扉が開くと、加護と辻は先を争って薄白く光るホームに降り立った。
小さなホームだった。降りる者は他になく、照明は少ない。
ホームは屋根もなく外にふきっさらしで、
駅構内の建物ははげちょろの塗装が目立つ田舎の駅だ。
駅員に切符を渡して人気の薄い待合所に入ると、
ダルマストーブの周りに見慣れた娘たちがいた。
「カオリ、お待たせ」
後藤の声に反応して、ベンチに腰をかけていた娘たちの中から
飯田が立ち上がった。
辻と加護、そして後藤の頭の雪を払ってから、
雪国に住む者が持つ雪解けの静やかさでひっそり笑う。
「メリークリスマス・イブイブ」
- 173 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)23時05分54秒
- クリスマス用の特番撮影の中で、メンバーの誰かが漏らした言葉だそうだ。
「でもさ、ホワイトクリスマスって見たことないよね」
飯田と安倍は、その時の事をずっと覚えていたんだよと言った。
その言葉に多くのものが賛同して、
見たい見たいと騒いでいたことがずっと気になっていたと。
彼女らの故郷の北海道では、毎年がホワイトクリスマスだったから。
「カオリね、いつか何かをしたかったの。
台本じゃなくて自分たちでやることと役割決めてさ」
「結局どっかのテレビ企画っぽくなっちゃったけどね」
うちらもテレビに頭まで染まっちゃってるからと、
飯田の横で安倍が口を挟んだ。
東京で別れたはずの矢口と吉澤と石川が構内のベンチに座っている。
サブリーダーの保田も石川の隣で首からカメラをぶら下げていた。
「カオリはね、みんなで、みんなにホワイトクリスマスをプレゼントしたかったの。
クリスマスとイブはスケジュールも押してるし、
家族とかと過ごしたほうがいいでしょ?
だから今日がうちらのクリスマス。みんなで作るクリスマス。
リーダーとしてカオリが決めた」
- 174 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)23時10分49秒
- 加護は辻と二人でぽかんと飯田を見上げていた。
「でも……加護とのの、なにもしてない。連れてこられただけ」
加護の呟きを飯田の耳はしっかり捕らえていた。
「うちらのやって来たことって、基本的に人を喜ばすことなんだよね。
だからやっぱり誰かを喜ばせるような感じの企画になっちゃって。
それで加護と辻なの。
メンバーの誰を喜ばせるかって考えたら、やっぱり加護と辻なの」
飯田の柔らかい言葉に、しかし加護は小さく嘆息した。
ああ、やっぱりうちらは加護、辻なんだと。
誰からも可愛がられる年少メンバーのままでいられるはずがない。
加護も辻も胸騒ぎを感じはじめていた時だ。
周りは二人をぬるい蜜に浸すように甘やかし、
加護にも辻にもその心地よさから必死で逃げようとはしない弱さがある。
「加護と辻の嬉しそうな顔を見るとさ、やっぱ癒されるんだよねぇ。
どう?北海道のとは違うけど、この雪もきれーでしょ?」
安倍に微笑まれれば、加護はやっぱり極上の笑みを作って返してしまう。
幼い弱さと切り離せない、大人を見上げる思いやりだった。
- 175 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)23時13分21秒
- 「何もしてないっていったら、
あたしだって写真撮るためだけに来たようなものよ」
保田がカメラを構えて、
ほら外に出てそのあたりに並びなさい雪の中で記念撮影するわよと
年少組に向けて命じた。
「そうだね、全員で記念撮影だ」
飯田が言うと、それまで口を半開きにして
夜空からひゅうひゅうと雪の降る様を見上げていた辻が声を出した。
「やだ」
意地を張る少年のように口をへの字に曲げて、一人で駅の外に駆け出す。
すぐさま石川が後を追った。
敏捷な辻をなかなか捕まえきれず、
踏み固められた雪の上に積もった新雪に足をとられてばかりの
石川の動きは見るからにおぼつか無い。
「なーに遊んでんだぁ」
安倍が笑う。矢口も、飯田も、保田も、吉澤も。
けれど加護は、他のメンバーのような屈託のない笑い方をしなかった。
奥歯を噛んで切なげに口端を上げる。
(ののは優しいなぁ)
辻と一緒にいることが一番多い加護だから、辻の気持ちがすぐにわかった。
これは全員の集合ではない。後輩の、五期加入メンバーがいない。
- 176 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)23時19分32秒
- もちろん、他のメンバーに後輩への悪意があったわけではないのだろう。
年長組から見れば、加入したばかりで年の離れた五期メンバーは
仲間ではなく生徒である。
グループ黎明期からメンバー増減による辛酸を舐めてきた年長組たちは、
メンバーの扱い方をよく心得ていた。
すなわち、無理に公平を規するのではなく、
仕事の流れが滞らないよう自然に接すること。
そのようなモーニング娘。のスタイルに、
四期加入メンバーたちも二年弱の活動の中で慣れてしまった。
辻も区別される事には慣れていた。
けれど区別する側に立つのには慣れていなくて抵抗を感じ、
白い夜の中に逃げ出したのだ。
おそらく辻は、皆の元から飛び出した心情を口はしないだろうと加護は思った。
グループにいる以上、変わらなければいけないのは辻の方なのだ。
優しい辻の、優しさが変わる。
そんな未来を思うと加護の胃はぐっと重くなった。
- 177 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)23時21分27秒
- やがて、石川に羽交い絞めされた辻が戻ってきた。
転んでも転んでも追っかけてくる石川に辻が根負けしたのだ。
赤子に歩行を教えるように、
雪まみれになった石川が辻の背中を抱きしめてよちよちと歩く。
その様子が皆の笑いをまた誘った。
「じゃ、撮影しようか?」
カメラを掴んだ保田の腕を、後藤がすっと制した。
「いいじゃん、集合写真なんか撮んなくても」
後藤は石川と辻の方に寄ると、辻の額をぽんと押した。
「お腹すいてるでしょ?あたしもペコペコだよ。
カオリ、早くご飯食べに行こうよ」
「せっかく集まったんだからさぁ、写真ぐらい撮ろうよぉ」
飯田が文句をいうと、後藤は駅の外に顔を向けた。
「タクシー待たせてんじゃないの?ご飯に行こうよー」
「写真ぐらいすぐ撮れるじゃない」
「辻、お腹すいたー」
「後藤もお腹すいたーー」
- 178 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)23時23分57秒
- 辻と一緒に騒ぎ立てる後藤に、飯田と保田は呆れたようだ。
「そんなにハラペコさんなのか、あんたらは」
保田の軽い叱責に、後藤が事を視界から逸らすように目を細める。
(後藤さん……?)
雪の結晶を閉じ込めたような後藤の瞳の輝きに加護は直感した。
後藤も辻を理解している。
ただ一人の第三期メンバーである後藤には同期仲間がいなかった。
後藤は誰よりも特権という隔離に慣らされている。
公平を望む辻とはまた違った感覚で、
後藤は全員という言葉には敏感で不可触な感慨を持っていたのだ。
それに気がついた加護は傍観者のままでは居たたまれなくなった。
「飯田さん!保田さん!ほら、あれ!」
加護は叫んで、二人の腕を掴んで外に連れ出した。
「あれ、代わりにあれ、記念に撮ってください」
加護は駅前に植えられた小さな針葉樹を指差した。
- 179 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)23時25分55秒
- 加護の背丈ほどの木にはモールや鈴の飾りがされてクリスマスツリーに
なっていたが、本物の雪によって覆い隠されかけていた。
「あら、可愛いのに雪に埋もれちゃってかわいそうに」
保田は重そうに積もった雪を少しだけ除けてやってから、
真剣な手つきでささやかなクリスマスツリーを撮影した。
ツリーの前には飯田が呼んでいた大型タクシー二台が待っていた。
それ以上車を待たせるのも良くないということで、
メンバーたちはそそくさと二台の車に別れて車に乗りこんだ。
加護は後藤のすぐ脇の席に滑り込む。
座るや否や、後藤の腕をぎゅっと掴んで後藤の肩に頭を乗せた。
「みんな優しい」
「そぉねぇ」
後藤は力なく眠そうに笑う。
その顔は日に温もった海のように暖かい。
後藤も飯田も安倍も保田も矢口も吉澤も石川も辻も。
誰もがとても優しく思えて、加護はなんだか泣きそうになった。
- 180 名前:十三、十四 投稿日:2001年12月14日(金)23時29分51秒
- 加護は車窓越しに雪の夜を眺めた。
もっともっと雪が降ればいいと加護は思った。
雪は心の境界をはるかに越えた場所から降ってくる。
胸の葛藤を凍結させる。ささくれ立った擦り傷を真っ白に隠してくれる。
この雪空はどこまでも通じていて、
天からの贈り物はどこへにも届けてくれると信じたかった。
降れ、降れ、もっと降れ。
加護は小さな手を祈るようにこすり合わせて暖めた。
年が変わって保田から小さなクリスマスツリーの写真が加護に手渡された日、
東京に初雪が届けられた。
<終>
- 181 名前:ちょっと迷惑なプレゼント 投稿日:2001年12月15日(土)21時33分12秒
- 私が目を覚ますと、窓の外はもう暗くなっていた。
遠くに街のイルミネーションが見える。
そういえば、今日はクリスマスか・・・・・。
ふとカレンダーに目を移して思う。
なのに私は風邪をひいてベットの中。
家族は病気の私を放って出かけて行った。
今頃は福引きで当たった、豪華なホテルのディナーを食べてるんだろうな。
最初はそんな家族にムカツいた。
けど、今は感謝してる。
だってもし出かけてくれなかったら、私の横で気持ち良さそうに眠っている
彼女は、お見舞いに来なかっただろうから。
私はそっと手を伸ばし、彼女の髪を優しく撫でた。
- 182 名前:ちょっと迷惑なプレゼント 投稿日:2001年12月15日(土)21時42分18秒
- 「たっく、何考えてるんだよ!」
私は思わずベットの上から叫んだ。
家族が病気だっていうのに、普通出かける?
私はムカツいてしょうがなかったけど、今はそれを当たる相手さえいない。
とりあえず、ユウキが帰ったら殴っとこ。
そんなことを考えていると、いきなり家のチャイムが鳴った。
宅配便かな?
それとも、サンタさんとか?
・・・・バカぽっいなぁ。
とにかく下行くのめんどくさいから、今日は居留守使っちゃお。
でもチャイムはしばらく鳴り続けた。
しつこいなぁ。
この家には誰もいないんだって。
すると、チャイムが突然鳴り止んだ。
- 183 名前:ちょっと迷惑なプレゼント 投稿日:2001年12月15日(土)21時49分27秒
- それからいきなり、耳元で携帯の着信が鳴り響いた。
私はビクッと体が震えた。
そして、なんだか急に怖くなってきた。
こういう感じの怖い話なかったっけ?
電話に出たら「お前は3日後に死ぬ」とか言われたりして・・・・・。
それとも時期的に「メリークリスマス」とか?
でも全然知らない人から、そんなこと言われるのも怖いよ。
そう思いながらも、私はゆっくりと携帯に手を伸ばす。
やっぱり好奇心には勝てなかった。
確かに怖いとは思うけど、でもなんか気になるし。
私はゴクリと生唾を飲み込んだ。
そして、少し震えた声で電話に出た。
「も、もしもし・・・・。」
- 184 名前:ちょっと迷惑なプレゼント 投稿日:2001年12月15日(土)22時03分38秒
- 「あっ、ごっちん?」
それは予想に反して、なんとも脳天気な声だった。
なんだ、なっちか・・・・。
ビビさらせないでよ!
そういえばさっきメールで、「今日風邪ひいて寝込んでるんだ。家族は
みんな出かけちゃうし、もう最悪だよ〜」って送ったっけ?
そのメールでなっちはうちに来たのかな?
でもそのメールは、メンバーや友達とかにも送ったし。
それだけで家に来るとは思えない。
「えっと、なっちはなんでうちに来たの?」
私の問いに、なっちは少し考え込んでから答えた。
「・・・・・ごっちんが風邪をひいたから、お見舞いに来たっていうのは
ダメかな?」
私はなっちの言葉に少し感動した。
だってただメールを送っただけなのに、お見舞いに来てくれるなんて考えて
なかったから、それがすごく嬉しく思えた。
- 185 名前:ちょっと迷惑なプレゼント 投稿日:2001年12月15日(土)22時17分55秒
- 「ピンポン鳴らしても出ないから、心配したんだよ。だから倒れてるかと
思って電話したんだけど、出て良かったよ。」
「そ、そうなんだ。寝てたから全然気がつかなかった・・・・。」
私はそれらしいことを言って誤魔化した。
宅急便だと思って居留守使ってたなんて、死んでも言えなかった。
「あのさ、入ってもいい?」
なっちは少し遠慮気味に聞いた。
う〜ん、別に入ってもらってもいいんだけど、話するような気分じゃない
んだよねぇ。
あっ、そうだ!
なっちに看病してもらえばいいんだ!
せっかく来てくれたのを断るのも悪いし、私もご飯とか作ってもらえると
かなり楽なる。
確か、こういうなんとかって言うんだよね?
えっと・・・・・・なんだっけなぁ。
イチジクカンチョウ?
そんな感じの言葉だった気がする。
とりあいず、私はなっちを家に入れることにした。
- 186 名前:ちょっと迷惑なプレゼント 投稿日:2001年12月15日(土)22時29分05秒
- だけどなっちは私が言う前に、ちゃんと看病してくれた。
元々、そのつもりで来たと言っていた。
ヒマだからいいんだと。
まぁそうしてくれる方が、私としては好都合なんだけどさ。
「ごっちんはベットで寝てて。今、氷を持ってくるから。」
まるでお母さんみたいな口調だった。
なっちは私をベットに寝かすと、すぐに下へと降りて行った。
それからしばらくして、ビニール袋に氷を入れて持ってきた。
「熱とかは計った?」
「めんどくさくて計ってないよ。なんとなく、あるかなぁって感じ。」
私は自分の額に手を当てるけど、手も熱いから熱があるのか分からない。
「そっか。でも体温計は探すの大変そうだし・・・・・。しょうがないか、
ごっちん、ちょっとそのままでいてね。」
えっ?
うえぇぇぇぇぇぇぇ!!
- 187 名前:ちょっと迷惑なプレゼント 投稿日:2001年12月15日(土)22時38分36秒
- なっちは突然、自分のおでこを私におでこに当てた。
もし少しでキスしそうなくらい、すごい近くに顔がある。
白い肌、優しそうな瞳、柔らかい笑顔。
私はなっちから目が離せなくなっていた。
自然と鼓動が高鳴ってきて、顔や全身が熱く火照ってくる。
「・・・・・う〜ん、ちょっと熱高いね。」
自分でも熱があるのが分かった。
「とりあえず氷を頭に乗っけて、薬を飲んで横になればすぐ良くなるよ。」
なっちは私に布団をかけると、頭を優しく撫でてくれた。
急に頭がボーっとなって、胸が苦しいほど締めつけられる。
でもそれは風邪のせいじゃない。
きっとなっちのせいだ。
- 188 名前:ちょっと迷惑なプレゼント 投稿日:2001年12月15日(土)22時52分10秒
- それからお粥を食べさせてもらって、いつの間にか眠ってしまったらしい。
なっちはまだ静かな寝息を立てて眠っている。
私は撫でるのをやめて、なっちの顔を見つめた。
少しだけ鼓動が高鳴った。
寝ているなっち横顔が、とってもかわいかったから。
だから思わずキスしてしまった。
・・・・・おでこにだけど。
さすがに唇にする勇気はなかった。
だけどおでこにするだけでも、すごくドキドキした。
唇から微かになっちの体温を感じて、それだけで胸が熱くなる。
なっちはまるで目覚めのキスだったみたいに身を起こした。
「・・う・・・う〜ん。あれ?いつの間にか私も寝ちゃったんだね。」
なっちは軽く背伸びをすると、照れくさそうに笑った。
まさか、バレてないよね?
今度は違う意味で鼓動が早まった。
「ん?どうかした?」
なっちが不思議そうに私の顔を覗き込む。
「い、いや、なんでもないよ!ちょっとボーっとしてただけ!」
私はバッと上半身を起こし、少し焦った口調で言った。
- 189 名前:ちょっと迷惑なプレゼント 投稿日:2001年12月15日(土)23時03分10秒
- 「・・・・・本当に大丈夫?えっ?!もうこんな時間!なっち、そろそろ
帰らないと。」
なっちは腕時計を見ると、急いで身支度を始めた。
私は部屋にある壁掛け時計を見る。
もう7時近い時間だった。
「じゃ、なっちはこれで帰るけど、大丈夫だよね?」
なっちは少し心配そうに私を見つめる。
「大丈夫だよ、だいぶ楽になってきたから。」
私は笑みを見せてその言葉に答えた。
「じゃぁ、また仕事でね。」
となっちは軽く手を振ってから、体をドアの方へと向ける。
「待って、なっち!」
と私はその腕を掴んで引き止めた。
だって、まだ大事なこと言ってないから。
「今日は本当にありがとう。なっちが看病してくれてかなり助かったよ。
風邪が治ったら、何かちゃんとお礼するから。」
今日一日お世話になったんだから、お礼はちゃんと言わないとね。
- 190 名前:ちょっと迷惑なプレゼント 投稿日:2001年12月15日(土)23時15分16秒
- 「お礼はいいよ。ちゃんともらったから。」
なっちは嬉しい想に微笑んで言った。
へっ?
私は何もあげてないよ?
「ここに、欲しいものもらったから。」
ちょっびり頬を赤く染めて、なっちは自分のおでこを指でさす。
それって、まさか・・・・。
「き、気づいてたの?」
「うん。あのとき、寝たフリしてたから。」
バレバレだったんだ。
なっちの方が一枚上手ってことか。
そのときの私は、きっとバツの悪い顔をしてたんだと思う。
なっちはすぐにフォローを入れてくれた。
「気にしなくていいよ。別に・・・・・嫌じゃなかったから。」
嫌じゃない?
それって・・・・・・。
なっちはゆっくり私に近づくと、優しく私の頬にキスをした。
「風邪が早く治るおまじない。」
なっちは真っ赤な顔をして言うと、足早に部屋から出て行ってしまった。
私はしばらく呆然としていた。
豪華な食べ物や、ケーキもないけど、こういうクリスマスも悪くないね。
初めは最悪だって思ったけど、今はかなり幸せな気分だから。
最高のプレゼントももらったしね。
でも、あのプレゼントは確かに嬉しかったんだけど、
だけどもらったおかげで、熱は・・・・・・・今日中に下がりそうにない。
END
- 191 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時44分57秒
- 「う〜、サムゥ〜〜。」
突然首筋を舐めるように吹き抜けた寒風にアタシはコートの襟を立てた。
楽しげな音楽と煌びやかなイルミネーションが街を彩る聖なる夜。
そう、今日はクリスマスイブ。
しかも年末の殺人的なスケジュールの中で奇跡的に取れたオフ。
暖房の効いた部屋、美味しそうなご馳走、そしてサンタさん(お父さん)からのプレゼント。
きっと今年一番幸せな日になるはずだった。
それなのに……
なぜかアタシは一人、冬の星空の下に立っていた。
- 192 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時45分40秒
- 「矢口、圭坊。今年はアンタらがやってくれんか?」
「え?なにを?」
「サンタクロース。」
裕ちゃんに突然そう言われたのはこの前のハロモニの収録が終わった後のことだった。
「ほら、去年まではウチがアンタらにプレゼント配って回っとったやんか?
でも今年はもう娘。も卒業したことやし誰かに交替してもらおうと思っとるんよ。」
えー?つーことはヤグチがみんなにプレゼント配って回んなきゃなんないの?やだよ、そんなのー。
「それはわかったけどさ、なんで私達なの?カオリとかなっちは?」
おっ、流石圭ちゃん、いいコト聞くね。そーだよ!あの二人がいるじゃん!
「あの二人か?ん〜ウチが言うのもなんやけど、あのコら、ちょっと頼りないトコあるやんか?
それに二人とも当日は北海道に帰る予定らしいねん。ちゅうことで、な?頼むわ。」
そう言って半ば強引にイブのお勤めを私達に押し付けると裕ちゃんはさっさと帰ってしまった。
- 193 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時46分30秒
- 「……どうする?」
「ん?まあしょうがないんじゃない?」
圭ちゃんは不気味な笑顔をニタリと浮かべながら顎を指先で撫でている。
なに?もしかして意外と楽しんじゃってたりするの?
クリスマスだよ?ク・リ・ス・マ・ス!
こうなんかさー、素敵な彼(いないけど)と一緒に過ごしたいとか思わないワケ?
ぴったりマッタリしたいって歌ってたのは嘘だったの?
「さっ、そうと決まればプレゼント買いに行かなくちゃね!」
ダメだ、もうすっごいヤル気になってるよ……
幸か不幸か、こうしてアタシのイブの予定は決まったのだった……
- 194 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時47分16秒
- 時計の針が天辺で重なる。どこか遠くから鐘の鳴り響く音が聞こえてきた。
圭ちゃんとの約束の時間は11時半。もう30分も過ぎている。
も〜、圭ちゃん何やってんだよー!?
「や〜ぐち!」
「圭ちゃん?遅〜い…って!?」
やっと来た圭ちゃんに文句を言おうと思って振り返ると、そこにいたのは全身黒ずくめの女。
黒のウィンドブレーカーに黒いジーパン。そしてついでに帽子や手袋まで真っ黒くろ。
圭ちゃん、それじゃサンタじゃなくて泥棒じゃん……。呆れて文句を言う気もなくしてしまった。
「ごめんね、待った?」
「いや、そんなには……。そ、それよりそっちはどう?大丈夫だった?」
折角二人でやるんだから少し効率良くしようという圭ちゃんの提案で
新メンバーへのプレゼントは集合前に手分けして済ますことにしていた。
「もちろん。アンタ、私がミスするとでも思ってんの?」
よく言うよ。しっかりしてるようで実は案外天然のくせに。
「で、何プレゼントしてきたの?」
「ん〜とねぇ、新垣にはキッ○サイト、紺野には横山光輝三国志第13巻。」
ふ〜ん……ってキッ○サイトかよ!圭ちゃんから貰わなくても絶対持ってるって!
それになんで三国志第13巻だけなんだよ?そりゃ「赤壁の戦い」の所は面白いけどさ!
どうせなら全60巻あげよーよ!続きが気になっちゃうじゃんか!
- 195 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時48分19秒
- 心の中でそう突っ込むヤグチをよそに、圭ちゃんは熱弁を振るい続けている。
「それよりちょっと聞いてよ矢口!紺野の寝顔ってすっごい可愛いのよ!
なんかこうね、ほっぺをぷくっとさせたままスースー寝息なんか立てちゃったりしてさぁ。
思わずツンツンってしたらプニョってなるのよ?もうたまんなかったわ!」
……圭ちゃん、今度は紺野狙ってんの?
あ〜でも何となくわかるよ。圭ちゃん、ああいうタイプ好きだもんね……
「ん?ちょっと時間が押してるわね。ほら矢口、さっさと行くわよ!」
妙にテンションの高い圭ちゃん。なんかヤグチ、先が不安になってきたよ…。
- 196 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時49分19秒
- 三十分後、私達は辻の家の前に来ていた。
圭ちゃんはポケットから一枚のメモを取り出している。
「さて…裕ちゃん調べによると辻加護は今日は一緒にいるらしいわ。辻が実家でパーティーするからって加護を呼んだみたい。」
「ってことは一気に二人片づけられるってことだね。」
早速家の中に入れてもらおうとインターホンに手を伸ばしたら圭ちゃんに肩を掴まれた。
「ちょっとアンタ何してんの?」
「何って…チャイム鳴らそうとしたんだけど。どうしたの?」
「そんなことしたらバレちゃうでしょ!こっち来なさい!」
「え?バレちゃダメなの?」
「当たり前でしょ!私達はサンタなのよ!サンタが子供の夢を壊してどーすんのよ!」
黒ずくめのサンタ(てゆーか泥棒)が吠える。まさかここまでヤル気になっていたとは……
- 197 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時50分05秒
- アタシを引きずるようにして家の裏口に回ると、圭ちゃんは懐から何やら長い金属の棒を取りだした。
「圭ちゃん、何それ?」
「まあ黙って見てなさい。」
そう言うと圭ちゃんはその長い金属の棒をガラス窓の隙間におもむろに突っ込んだ。
そして数秒後。
さっきまで確かに閉められていたその窓はいつの間にか綺麗に取り外されていた。
この人、夢の代わりに窓壊しちゃったよ……
「はい、一丁上がり。」
手をパンパンとはたきながら達成感に満ちあふれた笑顔を浮かべる圭ちゃん。
それにしてもなんつー鮮やかな手つき……
「……ねえ、もしかして新垣や紺野の家にもそうやって入ったの?」
「ん?そうだけど?」
圭ちゃん、それって犯罪……
- 198 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時50分43秒
- とにかく家の中に入ったアタシたちは物音を立てないようにそっと寝室に忍び込んだ。
辻と加護は一緒のベッドの中で寄り添うようにして眠っている。
普段はうるさくて仕方ない二人だけどこうして見るとなんだかかわいいなぁ。
なんだかんだ言ってもまだ中2だもんね。
「…メリークリスマス。」
二人を起こさないようにそっと枕元にプレゼントを置いた。
辻のはアタシが、加護のは圭ちゃんがプレゼントを用意したんだけど……
そのでっかい箱には何が入ってるの、圭ちゃん?
すっごい聞きたかったけどやめといた。多分、いや絶対ロクなもんじゃないし。
そんなこんなでなんとか無事用事を済ませたアタシ達は次の目的地へ向かうべくタクシーに乗り込んだ。
「辻加護も無事終了っと。後は石川と吉澤ね。」
「あれ?ごっつぁんは?」
「ああ、後藤はいいのよ。」
「へ?なんで?
「後藤は別のヤツに頼んでおいたから。」
「え?別のヤツって誰?」
圭ちゃんはただ笑うだけでそれ以上は教えてくれなかった。
どうも圭ちゃんはヤグチを子供扱いしてると思う。
- 199 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時51分21秒
- 「うわ、高っ!」
タクシーを降りたアタシ達の前にそびえ立つのはオートロック完備の高層マンション。
裕ちゃんメモによると梨華ちゃんはここの最上階に住んでいるらしい。
「どーすんの?流石に今度は窓から入れないよ。」
「大丈夫。心配ないわ。」
圭ちゃんはつかつかとエントランスに入っていくとポケットから取り出した鍵をパネルの鍵穴に差し込んだ。
ウィィィィン。無愛想な電子音と共にドアのロックが外れる。
「さ、行くわよ。」
なんだ、鍵があるなら楽勝だね……って、ちょ、ちょっと待ったー!
「なんで圭ちゃん、梨華ちゃん家の鍵持ってるの?」
「合鍵作ったから。」
「作った?貰ったんじゃなくて?どーゆうこと?」
「知り合いの鍵屋さん連れてきて作ってもらったの。」
「はぁ?わざわざ今日のために?」
「違うわよ。ちょっとプライベートでね。」
……圭ちゃんってホントなんでもアリの人だよね。
- 200 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時51分54秒
- アタシ達を乗せたエレベーターはあっという間に最上階に到着した。
フロアの一番奥。石川とだけ書いてある表札。梨華ちゃんの部屋、ここみたいだね。
あれ?でも、ちょっと待って?
「玄関から入ったらバレちゃうんじゃないの?」
って、なんでアタシがバレる心配してるんだか。だんだん圭ちゃんに毒されてきた自分が情けない。
一人自己嫌悪に陥るヤグチの目の前に圭ちゃんが左手にはめた腕時計を突きだした。
「もう2時過ぎ。流石に眠ってるわよ。」
なるほど、それもそっか。
妙に落ち着いた圭ちゃんの口調にアタシはすっかり納得してしまった。
圭ちゃんが言うとなんか妙に説得力あるんだよね。
- 201 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時53分16秒
- エントランスに続き玄関のドアも合鍵であっさり突破。
中に入ると真っ暗だった。圭ちゃんの予想通り、もう梨華ちゃんは寝てるみたい。
忍び足で梨華ちゃんの寝室に入る。おろっ?意外ときれいに片づいてるじゃん。
前に誰かが梨華ちゃんの部屋は散らかってるって言ってたのにね。
早速プレゼントを置きに枕元へ近づくと……あれっ?頭が二つある?
起こさないようにそっと布団をめくってみるとそこには梨華ちゃんともう一人、見慣れた顔が。
色白の肌に栗色の髪。そして少し膨らんだ頬。これって…
「よ、よっすぃー?」
顔を寄せ、囁き合うように寝息を立てて眠る二人。その顔には至福の表情が浮かんでいた。
最近なんかアヤシイとは思ってたけど、まさかここまで進んでたとはね。
そんな二人のラブラブっぷりに感心していると、突然隣にどんよりとした殺気を感じた。
あっちゃ〜、そう言えば圭ちゃんって確か……
「あ、あの…圭ちゃん……?」
「石川の……バカァ〜………」
かすれるような声を残して圭ちゃんは外に出ていってしまった。
……なんだ、やっぱ梨華ちゃんのこと好きだったんじゃん。
- 202 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時53分53秒
- とりあえずベッドの横に二人へのプレゼントを残して圭ちゃんを追いかける。
エントランスを出てすぐ、駐車場の隅っこのほうで座り込んでいる圭ちゃんを見つけた。
け、圭ちゃんの周りに黒いオーラが見える……。
あ〜あ、こりゃかなり凹んじゃってるね。オイラどうすればいいんだよ〜?
〜♪♪♪
前触れもなく突然、静まり返った夜の空にノーテンキな着メロが響きわたった。
もー誰だよこんな時に……。
カバンから携帯を取り出して今届いたメールを開く。
「ん!?」
液晶に浮かんだ差出人の名前にアタシは目を丸くした。
なんでこんな時間に……?
少しだけ変に思ったけど、その疑問もメールの本文を読むと氷解した。
……オッケー、ヤグチに任せといて!
- 203 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時54分25秒
- 「ケ〜イちゃん?」
「……何よ、気持ち悪いわね。」
「今から圭ちゃんの部屋でパーティーしようよ。」
「やだ。」
って、即答かよっ!でもここで簡単に引き下がるわけにはいかない。
「なんでだよ〜?イブをこの可愛いヤグチと一緒に過ごせるんだよ?この幸せ者〜。」
「……矢口、アタシのタイプじゃないんだけど。」
ちょっとそんなハッキリ言わなくてもいいじゃん!どーせヤグチは梨華ちゃんみたいに女の子っぽくないですよーだ!
「今日はヤグチが慰めてあげるからさ。行こ、ね?」
「………」
も〜、ほんと頑固なんだから。こうなったら力ずくで連れて帰るしかないか。
座り込んでいた圭ちゃんの腕を思い切り引っ張り上げる。
「ちょっとどうしたのよ、矢口?」
いいから早く帰ろうよ。イブの夜はこれからなんだから。
- 204 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時55分14秒
- 「お邪魔しまーす。う〜、サムーい!」
やれやれ。サンタ役なんかしたせいですっかり体が冷えちゃったよ。
アタシは部屋に入るとすぐにエアコンのスイッチを入れてコタツにもぐり込んだ。
「アンタ、何いきなり和んでんのよ。」
圭ちゃんがいつもの口調でヤグチに突っ込むのと同時ににインターホンのチャイムが鳴った。
キャハハ、ナイスタイミング。
「ったく、こんな時間に誰?」
訝しげに玄関に向かう圭ちゃん。ま、ヤグチは誰だか知ってるんだけどね。
「ヤッホー。メリークリスマース!」
とぼけた口調でやって来た深夜の来訪者の正体は、アタシと圭ちゃんの大切な、仲間。
「紗耶香?アンタ、後藤はどーしたのよ?」
「いや〜それがアイツさっさと寝ちゃってさぁ。なんかやることなくて。
それにたまには同期水入らずで過ごしたいじゃない?」
「アンタがそんな事言うなんて珍しいわね。」
「後藤から聞いたんだよ。今夜石川と吉澤が一緒にいるって。
そんで、圭ちゃんのことだからきっとそれ見て凹んでるんじゃないかなと思ってね。
だから矢口にメールして、今夜は二人で慰めてあげることにしたんだよ。」
「……なによアンタ達、………ホントおせっかいなんだから。」
小さくそう呟いて圭ちゃんはキッチンに入っていった。
嬉しいんだったら素直にそう言えばいいのにね。紗耶香と二人で苦笑い。
それにしてもホント、紗耶香って圭ちゃんのことよくわかってるよね。
これがプッチの絆ってやつ?正直ちょっと妬けちゃうな……
- 205 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時55分51秒
- 「ま、折角のイブなんだしさ、パーっとやろうよ。圭ちゃん、ビールもらうよー。」
「あ、ヤグチも飲みた〜い。」
「アンタ達まだ未成年でしょ!」
ったく、相変わらずキビしいんだから。
結局アタシと紗耶香はジュースで我慢することにした。
「じゃ、まあそうゆうことで……」
「「「カンパ〜イ。」」」
カツンと部屋に響くグラスの音。冷たいジュースが喉に沁みた。
「あ、そうだ。」
紗耶香は思い出したようにそう言うと何やら小さな箱をテーブルの上に置いた。
「来る途中でケーキ買ってきたからみんなで食べようよ。」
「あら、アンタにしちゃ珍しく気が利いてるじゃない。」
「でもビールにケーキってなんかアレだね。」
「ま、圭ちゃんっぽくてイイんじゃない?」
「ちょっと、それどういう意味よ!」
アタシや紗耶香の軽口に圭ちゃんが怒るように突っ込む。
そう言えば、この三人でこんな風に話すのっていつ以来だっけ?
なんかすごく懐かしい感じがした。
- 206 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時56分34秒
- 珍しく酔いが回ったのか、いつの間にか圭ちゃんは横になって寝息を立てていた。
もー、こんなとこで寝たら風邪ひいちゃうよ?
引きずるようにしてなんとか隣の寝室まで連れていくと、静かにベッドに倒した。
リビングに戻ると紗耶香が後片付けをしている所だった。
「大丈夫?ちゃんとベッドまで運べた?」
「うん、なんとかね。」
コタツの中に入って背中を丸める。テーブルの上には飲みかけのグラスが三つ並んでいた。
「……圭ちゃん、すぐ寝ちゃったね。疲れてたのかな?」
「そーかもね。年末年始の特番とかで最近忙しかったし。あと、ちょっと飲み過ぎだよね。」
アタシは圭ちゃんのグラスを手に取ると、残っていたビールを少しだけ口に含んだ。
何ともいえない苦味が口中に広がる。
前にも何回か裕ちゃんが飲んでいるのをこっそり飲んだことあるけど、やっぱりこの味には馴れない。
ヤグチってまだ子供なのかな……
喉の奥に残る苦さに我慢できず、ジュースを一気に飲み干した。
- 207 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時57分23秒
- 「……ねえ矢口、私達が娘。に入ったときのこと覚えてる?」
「忘れるわけないじゃん。……あの時は辛いこと、色々あったよね。」
上手くレコーディングできなかったこと、全然ダンスが覚えられなかったこと、裕ちゃんや彩っぺにいっぱい怒られたこと。
よくホテルの部屋に集まっては泣きながら愚痴や文句を言い合ったよね。
「私、圭ちゃんがいなかったら娘。辞めてたかもしれないな。」
「つーか紗耶香辞めちゃってるじゃん。」
「あはは、そだね。」
紗耶香は冗談っぽく言ったけど、その気持ちは何となくわかった。
裕ちゃんが前に言ってたっけ。三人の中で圭ちゃんが一番年長だったからその分余計に叱ったって。
ホントならアタシや紗耶香が怒られるはずなのに。一番怒られるのはいつも圭ちゃんで。
そのクセ、泣いてるアタシ達を励まして勇気づけてくれるのも圭ちゃんで。
なんでそんなに強いんだろうってずっと思ってたけど。
ミニモニ。の結成や新メンバーの加入なんかで自分が年上の立場になってようやく気付いた。
ああ、圭ちゃんってあの時きっとこんな気持ちでアタシ達を守ってくれてたんだなって。
アタシ達って圭ちゃんにずっと支えてもらってたんだなって。
- 208 名前:We wish 投稿日:2001年12月16日(日)17時58分08秒
- 時計の短針が下を向いた。イブの夜も、もうすぐ終わる。
さあ、そろそろ最後の仕事を終わらせなきゃね。
音を立てないように静かに寝室のドアを開けた。
部屋の片隅にあるベッドに忍び寄り、枕元にそっと小さな箱を置く。
なんとなく照れ臭くて渡しそびれてたプレゼント。
「なんだ矢口もプレゼント買ってたの?」
後ろからの声。振り返ると紗耶香が右手に綺麗に包装された箱を抱え、ドアに寄りかかるようにして立っていた。
「え?じゃあ紗耶香も?」
「まあね。ま、いつものお礼みたいなもんだよ。」
笑いながらそう言うと紗耶香はその箱をヤグチのと並べるようにして置いた。
圭ちゃんは頬を桜色に染めたまま幸せそうな顔をして眠っている。
「……また来年も、こうして三人でクリスマス過ごしたいね。」
「うわっ、女三人で?サミシー!」
……でもそんなのもいいかもね。
だって圭ちゃんと紗耶香と一緒に過ごしたクリスマス、なんだかすごく暖かかったから。
白く曇った窓の外で、街の灯りが静かに消える。
溶けかけの氷がグラスの中でカラリと音を立てた。
- Fin -
- 209 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時40分18秒
「ジングルベール、ジングルベール、鈴がー鳴るー。とくりゃ」
年甲斐もなく、スキップしながら浮かれている人がひとり。
何がそんなにうれしいんでしょう。
(こんな日にウチを呼んでくれるなんて期待するがな。さやかも復帰したしこりゃ両手に花になるかも・・・)
溢れんばかりの煩悩を抱えながら道のりを急ぐ中沢裕子その人であった。
- 210 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時41分03秒
ゼエゼエ・・・ケホッ
(ちいとはしゃぎすぎたがな・・・はぁしゃいじゃあってよいのかな?フッフゥー・・・いいがないいがな)
ピンポ〜ン
「は〜い」
カチャ
「いらっしゃーい」
「いらっしゃいました・・・ってなんやそのかっこ・・・」
- 211 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時41分56秒
「ちょっと待ってくださいね、今お茶入れますから・・・」
(おおっ、見えそう・・・)
キッチンへ消えるお尻を伏せの姿勢で見送る中沢。
まさにオヤジそのものである。
(う〜ん、まさに女の子の部屋そのものやな)
きれいに整理された部屋の中でぬいぐるみに囲まれながらチェックを入れる中沢。
(男の匂いはしないし・・・裕ちゃん感激!)
「どうぞ、粗茶ですけど」
- 212 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時42分40秒
ズッ〜
「・・・ところでそのかっこやけど・・・」
「あっ、これですか。番組でずっとおなか出しているでしょ、普段から慣れておこうかと・・・見苦しかったらやめますけど・・・」
上目づかいで中沢を見つめる。
(か、かわいい〜)
「あ、めざわりなんかやないよ、とっても似合っとるし・・・」
「そうですか、うれしい!」
満面の笑みで中沢に抱きつく。
(ああぁ、えー匂いや・・・んっ?)
抱きついている体が小刻みに震えていることに気がつく。
「中沢さん・・・」
潤んだ瞳で見つめられる。
- 213 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時44分00秒
「な、なんや・・・」
「・・・おなか痛い・・・」
「って、ほら言ったことじゃない!」
すぐに横にすると
「医者呼ぶか・・・」
立ち上がろうとするが中沢の手を掴んで離さない。
「なんや?」
「側にいてください・・・」
掴まれた手をお腹へと持ってゆかれる。
「・・・暖かい・・・」
手のひらに伝わる感触にドキドキする。
(これは誘われてるんやろうか・・・)
「・・・中沢さん・・・」
「・・・言葉はいらんで・・・」
そのまま重なりあう体。
「なあ、チューだけや・・・いいやろ」
「・・・・・・」
「やさしくするから・・・」
「・・・ちょっとだけ待ってください。いいですか?・・・」
「?」
「・・・7・6・5・4・」
「??」
「3・2・1・」
「???」
「ゼロ」
スウ〜〜〜〜
「??????」
- 214 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時45分07秒
「たすけて〜〜〜〜〜」
「なんや〜〜」
ガチャ
「なんや!どうしたん急に・・・」
ドンッ
両手で突き飛ばしたかと思うと、その勢いのまま入り口へと逃げ去る。
しりもちをついて呆気にとられ見送る中沢。
バタン
その時ドアを開けて入ってきた人物が・・・
サッとその人物の後ろへ隠れる。
「何してるんだよ!裕ちゃん!!」
(何でここに・・・)
「何でここにいるんや〜」
- 215 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時46分22秒
「・・・助けてください・・・市井さん・・・」
「って、なにいいだすんや、松浦!」
「あいかわらず、悪い癖が抜けてないみたいだね、裕ちゃん」
「ご、誤解や、話せばわかる。なあ松浦・・・」
「中沢さんが急に・・・怖い」
迫真の演技で市井の背中にしがみついている。
「どうゆうこっちゃねん!」
「問答無用!」
文字通りつまみ出される中沢。
「なんでこうなるんや〜」
情けない声とともにフェードアウトする中沢裕子。
ああぁ、かわいそう・・・
合掌・・・
- 216 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時47分31秒
「大丈夫?」
「・・・はい・・・」
ソッとハンカチを手渡す。
「ありがとうございます・・・グシィ」
「ふぅー、、、裕ちゃんにも困ったもんだね・・・気にしなくていいから、あれは病気だから」
「・・・優しいんですね、市井さん・・・」
「いやーそれほどでも・・・でもどうして9時ちょうどに来てくれって・・・」
「えーと・・・中沢さんが新曲の振り付け見てやるって・・・怖かったけど断れなくてもし勘違いだったら申し訳ないし。中沢さんに・・・」
「そっか、だからそんなかっこしてるんだね。裕ちゃんめ・・・」
ふと見るとうつむいて肩を落としている姿が目に入る。
「どうしたの?」
「・・・市井さん、嫌いですか、こんなかっこしてる子・・・」
落ち込んだその声を聞きあわてて否定する。
「そんなことないよ、似合ってるし・・・かわいいと思う」
「ホントですか!うれしい!!」
満面の笑みで抱きついてくる。
(ああぁ、いい匂い・・・)
その香りにしばらく溺れていたが不意に気がつく
震えてる・・・
- 217 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時48分10秒
「どうしたの・・・」
「・・・お腹痛い・・・」
「なに?!ほら横になって・・・え〜と、お医者さん呼ぼうか?」
「いえ・・・それより」
不意に手を取られお腹へとあてがわれる。
「暖かい・・・」
「松浦さん・・・」
「・・・すこし、さすっていてくれますか?」
「・・・うん・・・」
なめらかな肌の感触が心地よい。
「・・・市井さん・・・」
「・・・なに?・・・」
「・・・もう少し、下・・・」
ゴクッ
スウッー
「・・・もっと・・・」
ゴクッ
「・・・あっ」
ガバッ
- 218 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時48分56秒
「松浦ちゃん!」
「・・・市井さん・・・」
「んっ?」
「あややって呼んでください・・・」
「・・・あやや」
「うれしい・・・あたし・・・市井さんにだったら・・・」
「あやや〜」
「市井さ〜ん」
<自主規制>
「かわいいよ、あやや・・・」
「ああっ、そんな、市井さん」
<自主規制>
「ほら、こんなに・・・」
「はずかしい」
<自主規制>
「ああっなんで」
「うふふ・・・」
<自主規制>
「あっ・・・ぐぅっ・・・」
「そんなに恥ずかしがらずに」
<自主規制>
「はぁっう・・・ひっ・・・」
「もっと、大きな声を出して・・・隣に聞こえないじゃないですか」
- 219 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時49分39秒
「はぅ・・・って・・・はい?・・・ちょっと待った!」
「ああん、いいとこだったのに、何ですか?市井さん・・・」
「何でそんなに上手いの・・・じゃなくて、隣ってなに?!」
「市井さんのために一生懸命勉強しました!・・・隣の部屋にいる人のことですけど?なにか?」
乱れた服を整えると隣の部屋へ・・・
バタン
そこには・・・
壁にコップを当てている永遠のライバルが・・・
- 220 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時50分50秒
「圭ちゃん!!!」
よほど聞き入っていたのか、入って来たことにも気がつかなかったらしい。
「あら、さやか久しぶり〜」
(なに、その緊張感のない挨拶は・・・)
「これは、どういうこと!」
「?どうもこうも、あたしは恋のキューピットよ」
チュ
なんだ、寒気が走る・・・いつのまにそんな芸を身につけたの・・・
「え〜と、あたしがお願いしたんですよ、市井さんとラブラブになりたいって・・・」
「・・・で圭ちゃんが隣にいるのは・・・」
「人に見られていた方が興奮するじゃないですか!」
(あややちゃん・・・あなたって・・・)
- 221 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時52分33秒
急に鳴り出す携帯。
「ほら、さやかのみたいよ」
ピッ
「・・・もしもし・・・」
「・・・さやか・・・カオリさやかのこと見損なった・・・」
ツーツーツー
「カオリ!なに、どうしたの!」
間をおかずにまた鳴り出す携帯。
ピッ
「・・・もしもし・・・」
「・・・さやか・・・」
「あっ、矢口どうしたの?」
「・・・え〜とねえ、<自主規制>でね<自主規制>だから<自主規制>してね、このおんなたらし!」
ツーツーツー
「矢口・・・圭ちゃんこれはいったい!」
「ほらまた鳴ってるわよ」
ピッ
「・・・市井ちゃん・・・」
「・・・後藤・・・」
「・・・いちゃんの・・・」
「・・・・・・」
「馬鹿〜〜〜〜〜〜」
ツーツーツー
(漢字で怒鳴られてしまった・・・)
- 222 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時53分33秒
呆然自失・・・
「・・・圭ちゃん、これはいったい・・・」
圭ちゃんに向き直るとそこには・・・
『どっきりマル秘報告?!』の看板とヘルメットをかぶった圭ちゃんが悪魔の微笑みを浮かべてた・・・
(テレビの企画・・・でもあんな映像お茶の間に流せるわけが・・・)
あたしの当惑の表情に気がついたんだろう圭ちゃんが話し始める。
「大丈夫。今までの絵を見られたのは会員だけだから・・・」
「会員?」
「ネット会員よ『保田ドットコム』のね!」
思わずあややちゃんの顔を見る。
「あたしですか?知ってましたよ、過去の人たちと切れるチャンスだったし、それに興奮するじゃないですか」
「・・・興奮って・・・」
「さやか!」
「なに、圭ちゃん」
バシッ
「な、なにを…」
「あんたなに勉強してたの!ピンでやるからにはそれくらいナルシーが入ってないとやっていけないわよ。そんなことじゃ、ピン失格ね!!!」
ガ〜ン
- 223 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時54分28秒
「・・・ピン・・・失格・・・」
ヘタッ
「あたしなんて、『圭ちゃんの部屋』なんていって部屋の映像24時間ネット配信してるし・・・」
「市井さん、えーっと、サーヤ様って呼んでもいいですか?うふっ」
「見て、さやか!会員希望のメールがガンガン入ってくるわ!」
二人の声が遠くに聞こえる・・・
(・・・ピンでやっていくって・・・)
- 224 名前:小悪魔の誘惑 投稿日:2001年12月16日(日)22時55分10秒
「サーヤ様」
「打倒『中田ドットコム』!!!だぁ〜〜〜〜」
─おわり─
- 225 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時25分08秒
なっち、ずっと思ってた。
なんでなっちだけ教育係をやらせてもらえなかったの…
かおりも圭ちゃんもやぐちもさやかも…ごっちんでさえやったのに…
ソロ活動で忙しかったせいもあるけど…
うらやましかった。
悩み事があったときに相談するのは、教育係。
嬉しいことがあったときも…
なっちだって一緒に悩んであげたかったし、喜びたかった。
でも…
いつも脇でそれを見てるだけ…
新しくメンバーが増えると聞いたとき今度こそ教育係になれると思ってた。
でも今回は教育係を置かないみたい。
みんなソロとかユニット活動が増えてきて、満足に集まる機会がないかららしい…
だから、決めたの。勝手に教育係をやってしまおうって…
誰にも言ってないけど…本人にもね。
誰のかって?…ウフフ
- 226 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時26分21秒
- ◇◇◇
いつもの楽屋。
辻加護を中心に集まっている新メン四人。
なにが楽しいのかその輪の中では笑いが絶えない。
その光景をみるとはなしにボーっと見ていた。
「何か面白いものでも見える?」
顔をのぞき込むようにして声をかけてきたのは圭ちゃん。
「んー、楽しそうだなって」
なっちの視線の先を確認すると
「ああっ、新メンね。心配してたけど辻と加護がいろいろやってくれてリラックスしてるみたいね。
歳も近いし話も合うんじゃない。ただ…」
「ただ・・?」
むずかしそうな顔をして、一回言葉をおくと
「うん、あれでいいのかな?とも思う…プロとしてやっていくわけだし、もっと緊張感があった方が
いいのかも…」
やっぱり…
先輩の教育係が必要なんだ。
「決めた!」
「なに?」
不思議そうに見つめている圭ちゃんの視線を感じながら、なっちは頬がゆるむのをとめられなかった。
- 227 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時27分19秒
- 「ねえ紺野ちゃん、明日ひま?」
「あっ、安倍さん…」
みんなと離れてぼーっとしているところへ不意に話しかけられてびっくりしたみたい。
おっきな目を見開いてまっすぐ見つめてくる。
ちょっとドキドキする。
「あした、なにか予定がある?」
「…いえ、べつに…」
「なっちが東京案内してあげようか?」
紺野ちゃんはちょっと考えてから聞いてきた。
「…いいんですか?」
「何か問題あるの?」
「…あした、イブですけど…」
「だから。イブにひとりでいるの寂しいじゃない」
「…おねがいします」
ちょっとはにかんでうなずくその顔。
明日がたのしみ。
- 228 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時28分51秒
- ◇
待ち合わせ。
街はクリスマスの色で塗りつぶされている。
ちょっと遅れたあたしは早足で人混みをかき分けていく。
ウキウキする気分はこの街のせい?それとももうすぐ会える彼女のせい?
約束の場所。
「あれー、どこにいるべ」
さすがにイブ。待ち合わせの人であふれかえっている。
しばらく、人をかき分け探していたが、どうにも見つからない。
携帯で呼び出しをかけようと、人混みを離れたとき、
─トントン
肩をたたかれ振り返る。
「なに、その格好」
そこには、エビ茶色のジャージに身を固め襟を立てた紺野ちゃんが立っていた。
- 229 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時29分54秒
- なっちがきっちり決めてきたのに紺野ちゃんはジャージ姿でおいしそうにポテトグラタンをつついてる。
ポテトサラダにジャガバタ…芋づくし
気を取り直し聞いてみる。
「どこか行きたいところある?」
「…ここなんですけど…」
取り出してきた紙には池袋同人マップと書かれていた。
つまんな〜い
紺野ちゃんに連れられて…これも不満だけど
入るのはなんか漫画の本がいっぱいのお店ばかり。
最初は物珍しくて楽しかったけどすぐに飽きちゃった。
紺野ちゃんはお店の人と楽しそうに話してる。
仲間に入ろうとしたけどなんだか知らない言葉使ってるんだもん。
たいくつ〜
あまりにヒマだから奥の方をのぞいてみたら…
おもしろいもの見つけた。
- 230 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時31分29秒
- ウキウキ、ワクワク、ルンルンルン。
さっきまでの鬱な気分が嘘みたい。
二人仲良くペアルック。
道行く人が振り返る。
仲良しの証。
─ひゅ〜
「「あっ…」」
「なに?紺野ちゃん?」
「…安倍さんこそなんですか?」
同じかな?なっちの感じたことと…
じっと見つめる黒い瞳に期待して言ってみる。
「じゃあ、いっしょに…せーの」
「「雪の匂いがする!」」
やっぱり。この子はなっちと同じなんだ。
うれしそうにニコニコしてるその顔を見てそう確信した。
「降ればホワイトクリスマスだね」
うなづく彼女の手を取り…
初めてだからちょっと緊張しちゃった。
その手はプクプクして暖かくて気持ちよかった。
人混みを離れたくてメインストリートを離れて裏路地へ入っていく。
「…安倍さんどこ行くんですか?」
ちょっと不安そうな声で聞いてくる。
「大丈夫。なっちがついてるから」
できれば二人だけで雪を見たい。
その思いでどんどん奥へと入っていく。
- 231 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時33分14秒
- 少し広まった場所へでた。
かなりの人数が集まっている。
あ〜あ。二人きりになりたかったのに…
「なんだ〜、おまえら!」
ひとりの男の人がこちらに気がついてやってきた。
上から下まで黄色で笑っちゃう。
よく見るとほかの人たちも同じ。まるでひよこの集会みたい。
ニコニコしていたら、
「何がおかしいんだよ!」
─ドンッ
- 232 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時34分13秒
- ◇◇
ん〜
目が覚めたらサンタさんがなっちを見つめてた。
なんでそんなに心配そうなの?
あっ、思い出した。
「だいじょうぶ?!紺野ちゃん!」
ガバッっと起きあがる。
クラクラ…
「…あっ、頭打ったみたいだから、もう少しじっとしていた方がいいです」
そのまま、その場に腰を下ろす。
周りを見回すとさっきの人たちはいないみたい。
「えっと…ここはどこ?」
さっきの場所じゃないみたい。
周りは灰色の壁に囲まれて、ふたりっきり。
ちょっぴり、ドキドキしてきた。
- 233 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時35分16秒
- 「…人が集まってきちゃったので…」
「そう…それであの人たちは?」
「…なにか、ドラマの撮影だったみたいで…目が覚めたら謝っておいてくださいと…」
「そっか、悪いことしちゃったね撮影のじゃまなんて…またやっちゃった…」
「…また?」
「うん。なっち、よくぶつかるんだよねドラマの撮影…」
思い出しながら話してあげる。
「…みたいなことはしょっちゅうだし…そういえば、ニューヨークに行ったときなんか、銃撃戦なんか始まっちゃってびっくりしたなあ。日本でぶつかったときとは比べ物にならないくらい迫力あったし…」
そこまで話して気がついた。
彼女が青い顔でふるえていることに…
- 234 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時37分23秒
- いけない…
そっと彼女を抱きしめる。
やっぱり震えてる。
「ごめんね、おどろいた?だいじょうぶ。なっちがついてるから」
「…安倍さん…」
「なっち、って呼んでいいよ」
「…なっち…さん」
まあいいか。
「なあに?こんちゃん」
「…また誘ってくれますか…お邪魔でなければ…なっちさんが遊びに行くときにも…」
抱きしめる腕に力を込める。
「うん、いいよ。よろこんで」
ふるえが止まるまで抱きしめていてあげよう。
- 235 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時38分03秒
- 「…なっちさん…」
「なあに?」
「…ゆき…」
抱きしめている腕を緩めて…ちょと残念…空を見上げる。
灰色の空から、白い妖精が舞い降りてきた。
そっと彼女の顔を見る。
おっきな眼と口をあけて空を見上げてるその顔を見ながら考える。
きっといい関係になれるよね。
どんなふうになるのかな?
かおりと辻ちゃんみたいかな…
紗耶香たちみたいになれたらいいね。
「こんちゃん…」
- 236 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時38分59秒
- ◇◇◇◇
「なんだ〜おまえら!」
いやな予感がした。
TVで見たことがある。『カラーギャング』
たちの悪い人たちの集まりだとか…
すぐに離れようと思ってとなりを見ると、興味津々な顔をして安倍さんが彼らの方を見てる…
あちゃ〜
案の定…
「なにみてるんだよ!」
─ドンッ
それで、切れてしまったみたい。
倒れた安倍さんをソッと片隅に移動させるとその男を睨み付ける。
「なんだ〜文句あんのか!」
無言で蹴り上げる。
そのままその場にうずくまる男。
潰れちゃったかな?まあいいや。
「なんだ〜!」
また頭の悪そうな男がやってきた。
同じく蹴り上げる。
またひとり…
- 237 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時40分37秒
- 何人めかで、少し学習したのか内股になったお馬鹿が吠える。
「レ、レ、レッドの刺客か〜!」
刺客って、変な言葉だけ知ってるのね…
レッドね…安倍さんとペアの衣装がまずかったのか…
後ろから掛かってくる気配を感じると体を開いてそれを外す。
すれ違いざまに膝を入れておく。
その後何人か掛かってきたが、正面から掛かってくるものはいない。
なんか、めんどくさくなって立ち去ろうとすると、
「待てよ!ゴラ〜」
突っ込んでくる者がひとり。
「…そんな物使うと危ないですよ…あなたが…」
光り物を持ったその手を肘で弾きあげると掌底を顎に叩き込む。
突っ込んできた勢いそのままに後頭部を地面に強打する男。
「…念のために潰しときますね。フミフミ…」
地面に落ちたナイフを拾い上げる。
「…あのー、まだいらっしゃいます?…怪我をなさりたい方…」
半歩進むと
「お、お、覚えてろ」
蜘蛛の子を散らすように逃げ出すひよこたち。
…お友達置いたまんまで…都会の人って冷たいんですね…
このままでいいのかしら…まあいいっか。
- 238 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時42分02秒
- 安倍さんを担いでその場を離れる。
路地をいくつか入っていくと、少し広めの場所が目の前に現れた。
安倍さんをソッと背からおろす。
頭を膝の上に乗せ、口ひげを外す。
その穏やかな寝顔を見つめていると、暖かい気分になってくる。
無茶な人だな。
先ほどの行動を思い出し苦笑する。
よく今まで無事に暮らせていられたものだ。
プックリしたほっぺを突ついてみる。
「う〜ん…」
気がついたみたい…もうちょっと見ていたかったな、かわいい寝顔。
- 239 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時44分48秒
- 勢い込んで聞いてくる彼女をはぐらかしてドラマのロケということにしておく。
「あっ、そうなんだ…」
そんなに、あっさり納得しないでくださいよ…
その後に続く話を聞くにつれ、血の気が引いていくのが自分でもわかった。
安倍さんと出かけると保田さんに話したときに言われた言葉
「何か危ない目に遭いそうだったらひとりで逃げなさい。あの子は大丈夫。強運に恵まれてる子だから」
たしかにそうかもしれない。
安倍さんにはきっとトラブルを引きつける力があるのだろう、自分自信には降りかからない形で…
でも保田さん、いつでも大丈夫とはかぎらないじゃないですか…
抱きしめられながら私は決心していた。
彼女のボディーガードになろうと…
私の心など知らずのんきなことを言っている彼女と言葉を交わしながら考えていた。
「申し訳ありません大山館長…」
- 240 名前:雪の匂い 投稿日:2001年12月16日(日)23時46分08秒
- ─ポツリ
頬に何か当たる。
「…ゆき…」
灰色の空から落ちてくる雪を顔に受けながら思いをとばす。
これから起こるであろう刺激的な日々について…
ワクワクしちゃまずいかなぁ…
「こんちゃん…」
「…なんですか…なっちさん…」
「え〜と、ねえ…」
「…はい?…」
「東京の雪はあまりきれいじゃないから、食べるとおなかこわすよ」
「……」
「わからないことがあったら何でもなっちに聞いてね」
「…はい…」
FIN
- 241 名前:第5回支配人 投稿日:2001年12月18日(火)23時35分48秒
- 作者の皆さんお疲れ様でした
そして、ここまで作品を読んでくださった読者さんたち
只今、作品に対する投票を行っています
詳しくは↓で
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=imp&thp=1006011538&st=134
ご参加お待ちしています
- 242 名前:お知らせ 投稿日:2001年12月23日(日)10時17分24秒
- 本日23日24時をもちまして投票受付を終了いたします。
まだなさってない方は、お早めに。
投票所スレ
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=imp&thp=1006011538&st=134
なお作品の感想は継続して受け付けております。
感想用スレ
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