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夢と魔法と真実と
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月15日(土)00時33分17秒
- いしよしごま主演。
ちょっと不思議なコメディです。
お付き合いのほどよろしくお願いします。
- 2 名前:1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと 投稿日:2001年12月15日(土)00時33分58秒
- 「こんにちは。はじめまして」
可愛らしい声で挨拶をして、にこっと笑った女の子。
肩よりも少し長い明るい色の髪の毛。
穏やかに微笑む切れ長の目。
ふっくらとつややかな唇。
第一印象はとにかく可愛い娘って感じ。
それも守ってあげたくなるような、儚さを含んだ可愛らしさ。
容姿も言動も男っぽいあたしから見て、うらやましくなるような文字通りの女の子。
着ているものも淡いピンクのワンピース。
色といい、形といいキャラクターにぴったり。
きっと、こういう娘に男は弱いんだろうな。
そんなことを漠然と考えていた。
正確にはそんなことしか考えられなかった。
だって、普通そうだよね。
──起きたら自分の部屋に見知らぬ女の子が立ってるんだもん。
- 3 名前:1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと 投稿日:2001年12月15日(土)00時34分29秒
- 起きたばかりでねぐせのついた髪の毛をがりがりとかき、あらためて周りを見渡す。
別に寝ている間に違うところに連れて来られた訳じゃないらしい。
6畳の部屋には余分なものがほとんど無い。
殺風景なこの部屋以外に2つの部屋とリビングにダイニングキッチン。
いわゆる3LDKってやつ。
このマンションにあたしは一人で住んでいる。
今年の秋から海外に赴任の決まったお父さん。お母さんは当然それに付いていった。
なにせ、うちの両親は恐ろしいくらいに仲が良い。
一人暮らしをしたいと恐る恐る進言したあたしに向けられた目は、
大切な一人娘(それもまだ16歳だぞ)を残していく不安より、
久しぶりに二人っきりになれる喜びのほうが勝っているように見えた。
……実際、こんな環境でよくグレずに育ってきたものだと自分でも感心する。
ま、それはともかく、ここは確かにあたしの部屋だ。
夢の一人暮らしを始めて2ヶ月。
その寂しさにもようやく慣れ始めたあたし──吉澤ひとみの小さなお城。
- 4 名前:1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと 投稿日:2001年12月15日(土)00時35分05秒
- 「……あのー、はじめまして」
何もリアクションのないあたしに戸惑ったのか、女の子はもう一度挨拶してきた。
それでもあたしはまだ、なんの対応もできないでいた。
起きぬけの頭はまだきちんと本来の役割を果たしていない。
そのふやけた脳みそで、あたしは昨日の夜のことを必死で思いだそうとしていた。
休日前の金曜の夜。一人暮らしの気安さか、ついつい夜更かししてしまった。
本当は夜更かしなんてするつもりじゃなかった。
何の気なしに点けたままにしておいたテレビで、チープなホラーが始まったのが運の尽き。
ナタを持った殺人鬼に追いかけられた主人公がどうなるのか、
最後まで見届けなくては安心して寝るに寝られない状況になってしまった。
こういうとき、一人暮らしは困るよね。
おかげで黒と白のチェックのパジャマに着替え、ベッドに入ったのが午前4時。
若い娘が休みの前夜にやることとしては、はなはだ不健全ではあるが、
昨日の夜にあった事はそれだけだ。
こんな娘を部屋に泊めた覚えは無い。
ベッドの反対側の壁にかけてある時計をみる。
デフォルメされた二つの針が、もうすぐ真上で出会おうとしていた。
- 5 名前:1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと 投稿日:2001年12月15日(土)00時35分38秒
- 「……あのー」
三度声をかけられる。
ずっと放置されて不安になったのか、今度の声は消え入りそうなほど小さい。
あらためて目の前の女の子を見る。
その眉毛は八の字に下がり、恐る恐るこちらを見る目はちょっと涙ぐんでいた。
やっぱりその顔は記憶にない。
……待てよ。そういえば、この娘、はじめましてって言ったよね。
ってことは、あたしとこの娘は、はじめて会ったってこと?
なら、見覚え無くってあたりまえか。
いやそんなことより……。
「あんた誰?」
ようやく頭が動き始めた。そうだ、この状況はおかしい。
「ていうか、なんであたしの部屋に勝手に入ってきてんの!?」
なんだか、だんだん怒りが湧いてきた。
この娘の見かけにごまかされてたけど、これって不法侵入じゃんか。
それも眠ってる若い娘の部屋に……。
ったく、どういうことなんだよ!!
- 6 名前:1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと 投稿日:2001年12月15日(土)00時36分13秒
- 「ねえ、ちょっと!」
「ああ、よかった! やっとしゃべってくれた!」
うれしそうな笑顔に出鼻をくじかれ、高まっていたあたしのテンションはがくっと下がった。
「いやー、ときどきずっと固まったまんまになってる人とか、
目の前で見てることを信じようとしない人とかいるんですよぉ」
そう言って胸の前で小さくぱちぱちと手を叩く。
「とりあえず、コミュニケーションは取れたわ。第一段階は終了っと」
よしよし、と呟きながら何度もうなずく。
「あ、あのさ……。一人で納得してないで、ちゃんと説明してくれる……」
マイペースな女の子のおかげで怒る気力はすっかり失せた。
そこはかとなく感じる頭痛を無理やり押さえつけ、疑問を解決することを優先する。
「あ、失礼しました。……えっと、どこから説明しましょうか?」
「どこからって……。とりあえず、あなたは誰? いったい何者?」
「あ! すみません。ご挨拶して無かったですね。ではあらためて……」
こほん、とわざとらしい咳払いを一つ。
「わたしは石川梨華、16歳。魔法使いです。よろしくお願いします!」
そう言って自称魔法使いは深々と頭を下げた。
- 7 名前:1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと 投稿日:2001年12月15日(土)00時36分47秒
- 「…………」
「あ、本当はまだ見習いなんですけどね」
「…………」
「でも、いつかは立派な魔法使いになりたいなと思ってるんですよ」
「…………」
「努力すればきっと夢はかないますよね」
「……あのさ」
延々語り続けそうな話を暗い声でぶった切る。
頭痛はさっきよりも本格化していた。
「はい? なんですか?」
「ふざけてるなら帰ってくんない。あと、宗教とかも間に合ってるから」
「ひどーい、わたしふざけてなんか無いですよ」
と腰に手を当て、ほっぺを膨らませる。
ぷんぷんって頭の上に書いてありそうな見事なふくれっつら。
「あ、いや、ごめん」
あれ? なんであたしが謝ってんの?
「だ、だってさ、突然魔法使いって言われても……。
何か証拠見せてくれないと、そんな話信用できないって」
「ああ、それもそうですねぇ」
胸の前でぱちんと手を合わせ、
「それじゃあ、わたしが魔法を使ったら信用してくれますか?」
と軽く小首をかしげる。
その表情は女のあたしから見ても可愛らしい。
「あ、う、うん……」
ちょっととまどいながらうなづく。あ、あたしは何でどきどきしてるんだ。
- 8 名前:1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと 投稿日:2001年12月15日(土)00時37分44秒
- 「さて、何をしましょうか」
顔を紅くしたあたしに、ニコニコ笑顔の石川さんが聞いてくる。
「何って……何ができるの?」
「あんまり難しいことはできないんですけど……。
小さなものを取り出すくらいならできますよ」
「あ、それじゃ、コーヒー飲みたいな。コーヒー出して」
いつも目がさめた後はコーヒーを飲まないと調子が出ない。
すっかりこの娘のペースにはまってるけど、コーヒー飲んですっきりすれば……。
あれ? あたしこの娘が魔法つかうこと信じてるの?
「いいですよ。それじゃ、ちょっと待ってくださいね」
そう言って足元に置いていたピンクのカバンをごそごそし始める。
「えーっと、確かここに入れといたはずなんだけど……」
一体、何を出すつもりなのか……。好奇心に誘われて、その手元を覗き込む。
カバンの中には色々なものがごちゃごちゃと詰められていた。
どうやら見かけによらず、整理整頓は苦手なほうらしい。
「あ、あった!」
嬉しそうな声と共に取り出されたもの──それは一枚のカードだった。
- 9 名前:1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと 投稿日:2001年12月15日(土)00時38分16秒
- 不審な顔をするあたしの前で、石川さんはカードを確認している。
「うん、まだ度数は残ってるわね」
「あのさ……。それ……何?」
「あ、これですか? これはマジカですけど」
「まじか?」
「正式にはマジカルカードっていいます。
わたしは見習なんで、たくさんは支給されないんですけど……。
あ、でも、これは経費で落ちると思うんで大丈夫ですよ」
いや、別に心配してないけどさ。
「あの……マジカってなに?」
「これの度数分だけ魔法が使えるカードです」
「は?」
度数って……。
「ちょ、ちょっと見せて」
「はい、どうぞ」
どっから見ても普通のテレカだ。ほうきに乗った魔女のシルエットが描いてある。
右上に1〜10まで数字が書いてあるところがあり、そこの『5』って所の横に穴があいていた。
「この間大きな魔法使ったんで半分しか残ってないんですけど、コーヒーくらいなら……」
- 10 名前:1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと 投稿日:2001年12月15日(土)00時41分05秒
- ………ぜってー嘘だ。こんなもので魔法が使えるようになるなんて。
こんなんじゃアッコちゃんやサリーちゃんの立場が無いじゃんか。
「あ、一応言っときますけど、ちゃんと素質のある人でないと魔法は使えませんからね」
あたしのジト目をどう思ったのか、石川さんは慌てて言い添えた。
「もういいですか? それじゃはじめますよ」
「ねえ、さっき言ってた、支給とか経費って何?」
「ああ、それは後から説明します。とりあえず、コーヒー出しますね」
「あ、うん」
だめだ。完全にペースを握られてる。
とにかく、この娘の言う魔法を見てみなくっちゃ話にならない。
「手を出しといてもらえますか? そこに出しますから」
「あ、わかった」
言われたとおり、素直に両手を差し出す。
「いきますよー」
と気の抜けるような掛け声をかけ、右手の中指と人差し指でカードを挟む。
そのまま右手を顔の前に持ってきて、左手をあたしの手のひらに向け集中をはじめる。
あたしはその真剣な顔を見つめた。ぐっと唇が引き結ばれ、鼻の頭にしわが寄っている。
あー、この顔も可愛いねえ。って、何言ってんだあたしは。
- 11 名前:1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと 投稿日:2001年12月15日(土)00時42分12秒
- 「…………」
ぶつぶつと聞こえないくらい小さな声で何かが唱えられる。
聞いたことの無いような言葉だ。これが呪文なんだろうか?
「ん?」
そのときあたしは気づいた。
部屋の様子がおかしい。
さっきまでと比べて明らかに暗くなっている。
ゆらゆらと彼女の周りに何かが集まっていくのを感じた。
え? うそ? これってまさか……。ほ、ほんとなの?
空気が違うものに変わった気がした。
石川さんを中心に見えない渦のようなものがぐるぐる回っている。
何かが高まっているのがわかる。そして、それは今にもはじけようとしていた。
い、一体何が起こってるの!?
「えい!」
とそれまでの緊張感を打ち破る、間の抜けたアニメ声。
カチャっという音と同時に、ポンと手のひらの上に小さな煙がわきおこった。
あたしはただでさえ大きめの目をさらに大きく見開いた。
驚いたことに、本当にどこからとも無くコーヒーが現れた。
信じられないことだが本当だ。
本当にあたしの手のひらの上にコーヒーが現れた。──中身だけ。
「うわっちゃちゃちゃ!!!」
あたしはベッドの上で間抜けなダンスを踊る羽目になった。
- 12 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月15日(土)00時46分33秒
- こんな感じです。
次回に続く。
- 13 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月15日(土)03時17分07秒
- なんか出だしから愉快そうな話でイイです。
次回も待ってます。
- 14 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月15日(土)05時20分19秒
- 面白そうですね、今後も期待します
コーヒーよしこワラタ
- 15 名前:ARENA 投稿日:2001年12月15日(土)05時54分14秒
- お、かなり面白くなりそう・・・
- 16 名前:名無し男 投稿日:2001年12月15日(土)11時28分27秒
- 激ワラタ
- 17 名前:夜叉 投稿日:2001年12月16日(日)00時07分55秒
- もしや…、と思ったら、そのままコーヒー(w。
楽しすぎます、二人とも。
さて、ごまは(略。w
- 18 名前:作者 投稿日:2001年12月16日(日)01時05分14秒
- 皆様さっそくのレスありがとうございます。
>>13
しばらくは愉快な話が続くと思います。
>>14
よかったうけて(w
>>15
ありがとうございます。期待に添えればいいんですが。
>>16
メール欄のコメントに笑ってしまいました(w
>>17
ごまは今回登場します。お楽しみに(?)
それでは続きです。
- 19 名前:1-2 差別と調査と間違いと 投稿日:2001年12月16日(日)01時06分21秒
- ◇
「ごめんなさい……」
しょんぼりと肩を落とした石川さんがリビングの椅子に腰掛けている。
「もういいよ」
まだ少しひりひりする手のひらを軽く振って、あたしは向かいの椅子に座った。
コーヒーまみれになったシーツを引っぺがし、
同じくコーヒーまみれになったパジャマと共に洗濯機に突っ込んで、
ラフなトレーナーとジーンズに着替えたあたしは、まだ少し赤くなっている手のひらを見つめた。
幸い火傷はしていないみたい。
「あの……熱かったでしょう?」
「あ、うん。まあね」
「本当にごめんなさい。石川、いつもドジばっかりで……」
叱られた子犬のような顔をしている石川さんを見ていると、
やっぱりさっきのは何かの間違いだったんじゃないかって言う気持ちになってくる。
- 20 名前:1-2 差別と調査と間違いと 投稿日:2001年12月16日(日)01時06分57秒
- あらためて淹れ直したコーヒー(石川さんにはミルクティー)をひと口すする。
眠気はすっかり覚めていた。それでも頭は動いてくれない。
昨日ベッドに入るまで、あたしは普通の女子高生としての生活を送っていた。
それが今は、自称魔法使いの女の子と差し向かいでコーヒーを飲んでいる。
──不条理だ。あまりにも不条理だ。
いろんなことがいっぺんに起こり過ぎて、頭の中が整理しきれない。
もともと、あたしは頭脳派じゃないんだ……。
「あの……まだ怒ってますか?」
「ううん、怒っては無いけど……。あの…石川さん……」
「はい?」
「あの……あなたは本当に魔法使いなんだよね」
「はい! ようやく信用してもらえました?」
「あ、うん。一応ね」
信用したくは無いけど、手のひらの痛みがそれを許してくれない。
「ああ、良かった。これで第二段階終了だわ」
「ねえ、その第二段階って何?」
「あ、私たち『NMK』には決められたマニュアルがあるんですよ」
「NMK?」
「はい、正式には『日本魔法教会』っていうんですけど」
うわ、ベタなネーミング。
……はあ、また頭痛くなってきた。
もう、やだ。誰か助けて……。
- 21 名前:1-2 差別と調査と間違いと 投稿日:2001年12月16日(日)01時07分51秒
- ──ピンポーン。
そのとき、あたしの心を読んだかのように、軽い音を立ててチャイムが鳴った。
「はーい」
「って石川さん。何であなたが返事してんの」
「だって、お客様は気持ちよくお迎えしてあげないと」
「いや、確かにそれはそうだけど……」
あたしたちがずれた会話をしていると、ドアのところでカチャりと音がする。
手前に開いたドアから、見知った顔が現れた。
初対面だと冷たく見られてしまうほど、整ったその顔。
年齢に不相応なセクシーさを漂わせる、気だるげなその表情。
せっかくの綺麗な二重を台無しにする、眠たげに垂れ下がったその目。
その顔を見るより早く、あたしは誰が入ってきたのかわかっていた。
まるで自分ちのように我が物顔で、合鍵を使ってドアを開けるようなヤツは一人しかいない。
「あれぇ? よっすぃーお客様?」
あたしの幼稚園のときからの腐れ縁。幼馴染の後藤真希はぼんやりとした声でそう尋ねた。
- 22 名前:1-2 差別と調査と間違いと 投稿日:2001年12月16日(日)01時09分22秒
- 「ああ、うん。まあね」
さて、困った。この状況をどう説明したものか。
大体あたしがまだ現状を把握していないというのに……。
「こんにちわ。わたしは石川梨華、16歳。魔法使いです。よろし──」
「ちょ、ちょっと!」
慌ててテーブル越しに手を伸ばし、石川さんの口を押さえる。
なんてストレートなんだ、この娘は。
「へー、魔法使いなんだ。すごいねえ。あたしは後藤真希。よろしくね」
「って、ごっちんもなにあっさり納得してんのよ!」
むーむー言ってる石川さんの口を押さえたまま、あたしは親友に突っ込む。
「だって、本人が言ってんだからそうなんでしょ」
薄茶色のダッフルコートを脱ぎながら、平然とごっちんは言い放った。
……そうだった。この幼馴染は昔からこういうヤツだった。
うう、なんだか頭痛の種が増えただけのような気がする。
ぐったりと力なく椅子に座り込んだあたしに、幼馴染が声をかける。
「あ、後藤にもコーヒーちょうだい。ミルクたっぷりがいいな。もー外寒くってさ」
「ああ、それじゃ、石川が──」
「いや、あたしがやるから座ってて」
嫌な予感がして石川さんの言葉をさえぎる。
これ以上面倒なことは正直ごめんだった。
- 23 名前:1-2 差別と調査と間違いと 投稿日:2001年12月16日(日)01時10分43秒
- 「それにしても、よっすぃーに魔法使いの知り合いがいるとは思わなかったな」
あたしの淹れたコーヒー(ミルクたっぷり)を受け取ったごっちんは、相変わらずのぼやけた顔で言った。
「あ、でも会ったのは今日が初めてなんですよ」
ニコニコと石川さんが答える。
「いやー、後藤、魔法使いと会うのって初めてだよ。意外と普通のカッコなんだね」
「そうですね、街中だと目立っちゃうんで。あ、でも事務所では黒いローブ着てますよ」
「へー、そうなんだ」
「はい、制服なんで」
「あはは、まるで会社みたいだね」
「あ、そうですよ。魔法使いは職業ですから」
「えー、そーなんだ。後藤知らなかったよ。ねえよっすぃー知ってた?」
なんかあたしを無視して二人で盛り上がってるし……。
「ねえ、ごっちん。少しは不思議に思わないの?」
「なにが?」
「だってさ、魔法使いだよ。急に魔法使いって言われてなんで簡単に信じられるの?」
「あー、よっすぃー、人を職業で差別しちゃいけないんだよー」
「いや、そういうことじゃなくて……」
- 24 名前:1-2 差別と調査と間違いと 投稿日:2001年12月16日(日)01時11分47秒
- 「いいんです。わたし慣れてますから……」
あの、石川さん。そのフォローも間違ってると思うんだけど……。
「かわいそう……。ひどいな、よっすぃーは」
え、なに? あたし悪人? あたしそういう役なの?
「大丈夫です。ありがとう後藤さん」
「あ、あたしのことはごっちんって呼んでよ。あたしも梨華ちゃんって呼んでいい?」
「はい、もちろんです」
「やった! ねえ、後藤と友達になってくれる?」
「あ、はい! わたしでよければ喜んで!」
そう言って二人で仲良く笑いあう。
ねえ、あたしは置いてけぼりなの?
二人とも何か間違ってない?
それともあたしが間違ってる?
「それで梨華ちゃんはよっすぃーのお家に何しに来たの?」
「あー! そう、そうだよ。それずっと聞こうと思ってたんだ」
ごっちんの質問にあたしは鋭く反応する。
「もちろん、お仕事です」
「お仕事って……魔法使いの?」
「はい」
- 25 名前:1-2 差別と調査と間違いと 投稿日:2001年12月16日(日)01時13分12秒
- 「……魔法使いの仕事って何するもんなの?」
「おもに調査ですね」
「調査?」
あたしは魔法使いに調査されるようなことは無いと思うんだけど……。
てか、魔法使いの仕事ってそんな地味なもんなの?
魔法使いって何調査するもんなの?
「へー、梨華ちゃん調査とかするんだ。すごいねー」
ごっちん、驚くポイントはそこじゃないと思う。
「で、何の調査なの?」
「魔法が使われた場所を調べて、その魔法がどのように使われたかを解明するんです。
そして、それが不正な目的で使われたのなら、それに対する対処をしなくちゃいけません」
「対処って?」
「魔法の効果を無くしてしまうとか、悪質な場合は処罰を加えたりとか」
「まじで? なんか警察みたいだね」
「そうですね。特殊な権限とかもらってますし」
「誰から?」
「…………内緒です」
……石川さん。なんかその笑い方怖いよ……。
- 26 名前:1-2 差別と調査と間違いと 投稿日:2001年12月16日(日)01時14分52秒
- 「ふーん、梨華ちゃんってすっごいんだね。後藤感心しちゃった」
「いやー、そんなこと無いんですよー。
石川まだ見習で……。今日も本当は先輩と来るはずだったんですけど、
他の調査がいっぱい入っちゃって……。
それで急遽一人できたんです。それにわたしはこれが初仕事なんで……」
と、照れた顔をして石川さんが答える。
「え? 他の調査って……。魔法使うひとってそんなにたくさんいるの?」
少なくとも、あたしの知り合いには一人もいない。あ、目の前に一人いるけど。
もちろん今までテレビなんかでも、魔法が使われた事件なんか見たこと無い。
普通に考えて、人手が足りなくなるほど調査が必要だとは思えない。
「魔法は誰にでも使うことができますよ」
あたしの疑問に石川さんがあっさりと答える。
「えー、後藤は今まで魔法使ったこと無いよ」
「それは意識していないからです。みんな無意識のうちに魔法を使ってるんです」
「ホントに?」
眉をひそめるあたしに、石川さんは真剣な顔で説明を続けた。
- 27 名前:1-2 差別と調査と間違いと 投稿日:2001年12月16日(日)01時15分48秒
- 「ええ、魔法はその人の生まれつきの素質と、
思いの強さによって成功するかどうかが決まります。
例えば、よくあるおまじないなんかでも、
その人の思いが強ければちゃんとした魔法になるんです。
ただ、普通はそこまでの思いを持つ人はいないんで、
魔法が使われることは多くは無いんですけど。
でも、最近は不景気のせいか、思いつめる人が多くって……」
「へー、そういうものなんだ」
相変わらずぼんやりとした声でごっちんが相槌を打つ。
しっかし、景気が悪いとこんなところにまで影響が出るんだね。知らなかった。
「はい、後は『火事場の馬鹿力』ってありますよね。
あれも本当は、極限状態になった時に無意識のうちに
魔法を使ってる状態のことを言うんです。
魔法で筋力をアップさせてるから、普段持てない物が持てたりするんですよ」
慣れているのか、すらすらと説明する石川さんに、あたしはなんとなく納得してしまう。
- 28 名前:1-2 差別と調査と間違いと 投稿日:2001年12月16日(日)01時16分28秒
- 「ちょうど一週間前。この部屋で強い魔力が検出されました。
わたしはその調査に来たんです」
「え? ちょっと待ってよ。それじゃあたしが魔法使ったってこと?」
はっきり言ってそんな覚えは全く無い。
「そうです。だからあなたが何の目的で魔法を使ったのか教えてください」
「あたしそんなの知らないよ」
「隠さないでください! 別に不正な目的でないのならそれでいいんですから」
「いや、そうじゃなくて……。あたし何にもしてないんだもん」
「あー、隠し事するのはあやしーなー」
「ちょっとごっちん。何言ってんの!」
「占いとか、おまじないとか……。何かしたはずなんです。
さあ、正直に話してください。大丈夫、悪いようにはしませんから」
そう言って真剣な顔であたしを見つめる。
やー、そんなに見つめられると照れちゃうなあ。ってそんな場合じゃない。
- 29 名前:1-2 差別と調査と間違いと 投稿日:2001年12月16日(日)01時17分10秒
- 「ちょ、ま、ちーがうって! あたしじゃないってば」
必死に言い募るあたしに、石川さんは残念そうに肩を落とした。
「……ふう。あなたなら正直に答えてくれると思ったのに……。
あのですね、先週の土曜日朝10:00にここで魔力が検出されたのは間違いないんです。
ちゃんと記録に残ってるんですから」
「ん? ちょっと待ってよ。先週の土曜日なら、あたし学校に行ってるよ。
ね、ごっちん、一緒にいたよね」
「そうだっけ?」
こ、こいつ……。
「そんな……。でも間違いないですよ。このマンションの506号室で……」
「え?」
その言葉にあたしは思わず声を出した。
「どうしたんですか?」
小首をかしげる石川さんに、あたしはごくりと息を飲み込み、衝撃の事実を伝える。
「……ここ、605号室なんだけど……」
「…………」
「…………」
突然、泣き出しそうな顔になった石川さんは、恐る恐るあたしに聞いた。
「……石川、またやっちゃったんですかねえ……」
あたしに聞かないで。
- 30 名前:作者 投稿日:2001年12月16日(日)01時21分55秒
- 1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと
>>2-11
1-2 差別と調査と間違いと
>>19-29
- 31 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月16日(日)03時03分27秒
- 章ごとのオチが最高です(w
これからどういう風に発展していくのか楽しみです
- 32 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月16日(日)05時05分59秒
- 石川さん・・・
おもしろすぎです(w
- 33 名前:ARENA 投稿日:2001年12月16日(日)16時56分42秒
- 石川&後藤のボケにツッコむ吉澤。
この三人がすごくいい味だしてて面白い。
続きに期待してます。
- 34 名前:名無し男 投稿日:2001年12月16日(日)17時39分04秒
- 宇宙一のボケ役に突っ込み役の吉澤が食われてる形に
ある意味恐ろしい
- 35 名前:夜叉 投稿日:2001年12月17日(月)02時20分02秒
- そりゃあ、Mr.マリ○クもびっくり(爆)。
石はどこまで行ってしまうのか…(w。
- 36 名前:作者 投稿日:2001年12月17日(月)23時01分19秒
- >>31
気に入っていただけて嬉しいです。次は起承転結の「転」ですね。
>>32
ありがとうございます。まだまだボケますよ(w
>>33
ありがとうございます。最近この組み合わせ好きなんですよ。
>>34
宇宙一(w 本物の吉澤さんはボケ役なんですけどねえ。
他の二人の方が更にボケなので。
>>35
もうそれはどこまででも(w 続きもお楽しみください。
それでは続きです。
- 37 名前:1-3 パスタと空き巣と友達と 投稿日:2001年12月17日(月)23時02分57秒
- 「うう、やっぱり石川はダメな子なんです……」
「いや、そんなこと無いって」
石川さんは椅子の上で膝を抱えて、顔を埋めてしまっていた。
頭の上には見事なまでにどんよりとした雲が乗っかっている。
そんな落ちこんでしまった石川さんを、あたしは必死になって励まそうとしていた。
さっきからあの手この手でなだめてはいるのだが、全く効果が無い。
「部屋を間違えるなんて……。さっきもコーヒー一つ満足に出せないし……。
わたし、いつも先輩に怒られてばっかりで……。ああ、そういえば先週も……」
だめだ、連鎖反応的に鬱に入っていってる。なんてネガティブな。
「ねえ、石川さん……」
「そう、あれは幼稚園のときに……」
……いったい、どこまでさかのぼってるの……。
はあ……考えてみたら、あたしって被害者じゃんか。何でこんなことまで……。
む! そういえばごっちんはどこいったんだ!?
さっきから姿が見えない。
まさか、逃げたの!?
- 38 名前:1-3 パスタと空き巣と友達と 投稿日:2001年12月17日(月)23時03分54秒
- 「はーい、おまたせー」
まるでタイミングを計っていたかのように、両手にお皿を持ったごっちんが現れた。
「はい、これでも食べて元気出してね。ごっちん特製トマトソースだよー」
とパスタの入ったお皿をテーブルに置く。
ふわっといい匂いが漂った。
そういえば、お昼はとっくにまわってる。
色々ありすぎてすっかり忘れてた。
クウ、と小さな音が聞こえた。
音のほうを見ると、こちらを見上げる石川さんと目が合う。
慌てて顔が伏せられたが、髪の間からのぞく耳は真っ赤に染まっていた。
くす、と軽く笑ってしゃがみこんだあたしは、椅子の上の彼女の顔を見上げる。
「ね、一緒に食べようよ。お腹いっぱいになったら元気も出るって」
膝を抱えた腕の間から、潤んだ目と斜めになった眉が顔をのぞかせる。
にまっと笑いかけると、石川さんは恥ずかしそうに微笑んでこくんとうなづいた。
- 39 名前:1-3 パスタと空き巣と友達と 投稿日:2001年12月17日(月)23時04分40秒
- ──それにしても、やるな、ごっちん。でも、これじゃ今までのあたしの苦労って一体……。
やれやれ、と隣の椅子に腰をおろしたあたしの袖を石川さんが引っ張った。
「あ、あの…ありがとう。慰めてくれて……」
俯き加減の上目づかい。まだ少し潤んでいるその瞳。
う、あたしが男だったらイチコロにされちゃいそう。
「あ…いや……。御礼ならごっちんに言ってよ。
あたしは…結局何もできなかったし……」
切なげな顔に見つめられて、思わずどぎまぎしてしまう。
「ううん、そんなこと無い。とってもうれしかった」
そう言って微笑んだ顔は、さっきとは打って変わって子供のように純真で。
その笑顔を見て、あたしまでなんだか嬉しくなる。
──うん、やっぱり笑った顔のほうが全然可愛いよ。
心の中でそう呟いた。
- 40 名前:1-3 パスタと空き巣と友達と 投稿日:2001年12月17日(月)23時05分19秒
- あれ? 石川さん。なんで俯いてるの。
「まったく、何どーどーと女の子口説いてんだか」
一人黙々とパスタを頬張っていたごっちんが、あきれたような声を出す。
「え……? も…もしかして…あたし……今、声…出してた?」
ごっちんは表情も変えず、ひょいっと肩をすくめる。
石川さんは俯いたまま、スカートをぎゅっと握り締めた。
「あ、あは、あはは、あははは」
だめだ、もう笑うしかない。
「早く食べないと伸びちゃうよ」
のんきにそう言うごっちんの声を聞きながら、あたしたち二人は
目の前のお皿の上のトマトソースのように真っ赤になっていた。
- 41 名前:1-3 パスタと空き巣と友達と 投稿日:2001年12月17日(月)23時06分15秒
- 「おいしかったー」
パスタを食べ終わり、すっかり元気を取り戻した石川さんが感嘆の声をあげる。
「でしょ。ごっちんって、ほんとに料理うまいよね」
「まあね。小さい頃からやってたから」
「えー、そうなんだ。すごいなー」
尊敬の目を向ける石川さんに、ごっちんは軽く笑いかける。
「そーいえばさ、よっすぃー。お母さんが今晩ご飯食べにおいでって」
「あ、いつもありがと」
ごっちんの家とあたしの家は昔から家族ぐるみの付き合いをしている。
なんでも、あたしの母親とごっちんのお母さんが高校時代からの親友らしい。
うちの両親が日本にあたしを一人残して置けるのも、
同じマンションにごっちんのお家があるからだったりする。
たまにこうやって晩御飯をご馳走になったりすることもある。
ほんと、感謝しなくちゃね。
- 42 名前:1-3 パスタと空き巣と友達と 投稿日:2001年12月17日(月)23時07分16秒
- 「気にしなくっていいよ。あたしもよっすぃーが来てくれたほうが嬉しいしね。
食事は賑やかなほうがいいって言うじゃない。
あ、そうそう。そういえば、今はあの人も帰ってきてるよ。
もう冬休みだって。いいねえ、大学生は」
そう言ったごっちんの表情は、それまでと何も変わっていないように見える。
たぶん、その変化に気がつけるのはあたしだけなんだろう。
10年以上一緒に育ってきた幼馴染。
ある意味、家族以上の関係であるあたしにしかわからない、その顔の────翳。
「ごっちん……」
「さて! それじゃ行きましょうか」
ぱちんと手を鳴らしてごっちんが立ち上がる。
「え? なに? どこへ?」
「もちろん、その506号室だよ。
あたしとよっすぃーで梨華ちゃん助けてあげようよ」
「あ、そんな。これ以上迷惑をかけるわけには……」
「何言ってんの。あたしたち友達なんだからさ。遠慮しないで」
ね、と声をかけ、へらっと笑う。
- 43 名前:1-3 パスタと空き巣と友達と 投稿日:2001年12月17日(月)23時08分04秒
- まあ、乗りかかった船だしね。付き合ってみるのもいいかもしんない。
それに……確かに興味もある。こんな経験滅多にできるもんじゃないし。
第一、石川さんを一人にするのは非常に心配だ。つーか危険だ。
「とにかくさ、その506号室に行ってみれば良いんでしょ」
「あ……ありがとう……。わたしのために……」
「いいっていいって。どうせ今日は暇なんだしさ」
口の端をむにっと曲げてごっちんが言う。
この人の場合、照れ隠しなのか本音なのか掴めないところが怖いよね。
じゃ、行こっかとコートを手に立ち上がったごっちんは、
そのまますたすたと歩いていく。
相変わらず、マイペースな。
軽く苦笑して、あたしもジャンバーを取り出した。
- 44 名前:1-3 パスタと空き巣と友達と 投稿日:2001年12月17日(月)23時08分50秒
- 「本当にいいのかなあ。こんなことまでお願いしちゃって……」
心配そうに言う石川さんを安心させるように、あたしはひらひらと手を振る。
「気にしないで。ごっちん、きっと石川さんに興味持ったんだよ」
「興味?」
「ごっちんってさ。興味のあることのためだったらものすごい情熱を燃やすんだよね。
傍から見てると分かりにくいけど。ホント、ああいうところって昔っから変わんないな」
ま、その代わり、興味のないことには指一本動かさないけどね。
「……幼馴染なんだ」
「そう、腐れ縁だね」
「いいなあ……」
「え?」
「おーい、何してんのー。早く行こうよー」
「あ、はーい。さ、行こ」
あたしはにっこりと笑うと、石川さんの手を掴んで玄関へと向かった。
- 45 名前:1-3 パスタと空き巣と友達と 投稿日:2001年12月17日(月)23時09分42秒
- ◇
ピンポーン
「留守みたいだね」
「どうしよっか」
「部屋の中調べてみましょう」
「へ?」
ごそごそとかばんをあさった石川さんは、またあのカードを取り出す。
「んあ、なにそれ?」
「あ、これはマジカっていって……」
再びあの説明が繰り返される。
「はー、すっごいねー。あ、それでカギをあけるんだ」
「そう、それじゃいきますね」
石川さんは、また右手の中指と人差し指でカードを挟み、集中をはじめる。
「えい」
カチャ
小さな音がして鍵が開いた。
ん? これだけ? えらくあっさりとしてるなあ。
「あれ? さっきみたいな派手なのは?」
「あれは特別な演出だったから」
「演出って……」
「魔法使いらしいところ見せないといけないかなって……」
むう、そんな余計なことしようとするから失敗するんだよ。
- 46 名前:1-3 パスタと空き巣と友達と 投稿日:2001年12月17日(月)23時11分11秒
- 「でも、なんかドキドキするよね。まるで刑事みたいじゃん」
あたしは少し興奮して言った。
「ま、やってることは空き巣に近いけどね」
う、ごっちん、そんなぶっちゃけな言い方しないでも……。
「あ、もしかして、あたしのときもこうやって入ったの?」
「あの…チャイム鳴らしても誰も出てこなかったから……」
「よっすぃー、寝てるときは何があっても起きないからねえ」
そんな人聞きの悪い。
「何回も鳴らしてくれたら起きてたよ」
「だって、こんな時間まで寝てるなんて思わなかったし……」
「ぐ……」
それを言われると返す言葉がない。
「先行くよー」
「あ、ごっちん待ってよ」
幼馴染はさっさと部屋の奥へと消えていく。
ったく、いつもいつも。
「じゃ、石川さん、あたし達もはいろっか」
横を向くと、なんだか真剣な顔でこちらを見つめる石川さんと目が合った。
- 47 名前:1-3 パスタと空き巣と友達と 投稿日:2001年12月17日(月)23時12分12秒
- 「あのー」
「なに?」
「あの……あたしも…よっすぃーって呼んでいいですか?」
「え?」
「あの……石川…あんまり同じ年くらいのお友達がいなくって……。
それで……なんかこうしてるのがとっても嬉しくって……」
ちょっと恥ずかしそうに俯く。
「だめ……ですか?」
「ううん、そんなことない。いいよ、どんどん呼んじゃって」
「ふふ、よかった。あたしのことも梨華って呼んでください」
「うん、梨華ちゃん」
二人で見詰め合ってにっこりと笑う。
考えてみたら、あたしと同じくらいの年でしっかり仕事してるんだもんな。
きっといろいろ苦労もあるんだろう。
うーん、健気だよなあ……。
「さて、それではあらためて参りましょうか。梨華ちゃん」
「うん、よっすぃー」
あたし達はさわやかに部屋の中へと足を踏み入れた。
ま、やってることは犯罪だけどね。
- 48 名前:作者 投稿日:2001年12月17日(月)23時13分26秒
- 今回はちょっと可愛く
1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと
>>2-11
1-2 差別と調査と間違いと
>>19-29
1-3 パスタと空き巣と友達と
>>37-47
- 49 名前:名無し男 投稿日:2001年12月18日(火)10時33分32秒
- ワーイ
ワーイ
大量行進うれCな♪
でもこれが転ってことはもうすぐ終わっちゃうんすか?
- 50 名前:夜叉 投稿日:2001年12月18日(火)18時05分34秒
- えっ??そ、そうなんすか?
でも「1-1」ってなってるから、1話目が、ってことですよね?きっと…。
♪可愛い振りしてあの子 わりとやるもんだねと
つか、不法(略。
- 51 名前:ARENA 投稿日:2001年12月20日(木)16時33分53秒
- 心の中で言ってると思いながら口に出しちゃう吉沢萌え(w
>47の「よっすぃーって呼んでいいですか?」もまたいい・・・
- 52 名前:作者 投稿日:2001年12月20日(木)23時02分46秒
- >>49
第一話のって言う意味です。ただ、第二話は全然できてないですけど(w
長い話は書けないんで、短い話をつなげていく予定です。
>>50
はい、第一話ということです。
なお、魔法使いは特殊な権限をもっているため、犯罪にはなりません(多分)
>>51
よかった萌えてもらえて(w 甘いの書くのは苦手なんです。
さて、残るは『結』だけなんですが、予想以上に長くなったんで二つに分けました。
それから展開が大きく変わっています。序盤のドタバタを気に入られた方には、
期待はずれな内容かもしれません。
どうにもヒネた作者なもので、素直に明るい話になりません。
あらかじめ謝っておきます。ごめんなさい。
- 53 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時08分43秒
- 「どう、ごっちん? なんかあった?」
さっさと先に入って黙々と部屋を捜索していたごっちんは、
表情も変えずに親指で本棚を指す。
「あ、おまじないの本がある」
「ホントだ」
「けっこう凝ってるみたいだね」
本棚には様々な占い雑誌や書籍がびっしりと並べられていた。
若い女の子向けのものから、本格的な解説書までよりどりみどり。
なかにはちょっと怪しげな本まである。
「どうやら、魔法を使ったのがここの部屋の人だってのは間違いないみたいだね」
「ねえ、よっすぃー。この部屋の人ってどんな人だか知ってる?」
ごっちんが聞いてくる。
「うーん、何回か挨拶はした事あるんだけど、良く知らないんだよねえ。階も違うし。
確か一人暮らしの女の人だったと思うんだけど」
「ねえ、もしかしてこの写真……」
梨華ちゃんが机の上に置いてあった写真立てを手に取る。
そこには数人の白衣の天使が写っていた。
- 54 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時09分24秒
- 「あ、そうそう、この人。この真ん中の人だよ」
「看護婦さんなんだ」
記念写真だろうか。ナースセンターらしき場所に澄ました顔でその人は写っていた。
他の人とおそろいの白衣にナースキャップ。
「あ、これ隣町の総合病院だよ」
「え? どうしてわかるの?」
「ほら、襟のところに青いラインが入ってるでしょ。これはあそこの制服だよ」
「へー、ごっちん、詳しいのね」
梨華ちゃんが感心して言う。
「うん……まあね。昔良く通ってたから」
そっか、あの病院ってごっちんの……。
相変わらず幼馴染の表情に変化は無い。
いつからだろう。
ごっちんがその感情を表に現さなくなったのは。
辛い事を辛いと言わなくなったのは。
彼女の涙をあたしはずっと見ていない。
- 55 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時09分57秒
- 「さ、それじゃ病院へレッツゴー」
考えに沈み込んでいたあたしは、当の幼馴染の言葉で現実に引き戻された。
「え? ちょっと待って。何しに行くのさ」
「もちろん、この人に会いに」
「でもさ、確かに今この部屋は留守だけど、病院にいるとは限らないじゃん。
お休みでどこかに出かけてるかもしれないし」
「壁に勤務表が貼ってあったよ。今日は朝からお仕事みたいだね」
いつの間に……。さすがに抜け目が無い。
「すごいなあ、なんだかわたし頼りっぱなしで……」
「へへへ、後藤はやればできる子だからね」
「なに言ってんだか」
三人で顔を見合わせて笑いあう。
あたし達は慎重に部屋を元通りに直して駅に向かった。
- 56 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時10分28秒
- ガタンゴトン
「……ほんとに良く寝てるね」
「三秒で寝れるって言ってたからね。ある種才能かも」
「でも、寝顔可愛い」
ガタンゴトン
「えー、梨華ちゃんってイッコ上なんだ」
「一月生まれだけどね」
「あ、それじゃあたしと三ヶ月しか違わないや」
ガタンゴトン
「一人暮らしって寂しくない?」
「うーん、もう慣れたかな。すぐ近くにごっちんもいるしね」
「そっか。わたしは寮だから……」
ガタンゴトン
「うっそ、まーじで!? そんなことしたの?」
「あー、ひっどーい。そんなに笑わないでよ!」
「くくく、だ、だってさ……」
ガタンゴトン
「そろそろ着くよ」
「うわ! ごっちん起きてたの!?」
「今起きたんだよ」
プシュー
「さ、行こう」
「はーい」
- 57 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時11分01秒
- 「さて、どうしよっか」
病院に辿り着いたのはいいけど、これからどうすれば良いんだろ。
ここはこの辺りでは一番大きな病院だ。
敷地も広いし、看護婦さんの数も多い。
探そうとするのは結構大変かもしれない。
第一あの人を見つけたとして、なんて訊けばいいんだろう。
魔法使ったんですか? なんて普通は訊けないし。
などと考えながら入り口付近をうろうろする。
「ねえ、どうすればいいのかなあ」
不安な顔をして梨華ちゃんが聞いてくる。
……ねえ、梨華ちゃん、それはあなたが考えることじゃないの?
頼りのごっちんはただボーっとしているだけ。
仕方ない。あたしががんばらなくっちゃ。
それにしても広い病院だなあ。
内装も綺麗だし、窓も大きく取ってあるからとっても明るい。
- 58 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時11分35秒
- その大きな窓から中庭が見える。
この寒さのせいで、さすがに人は少ない。
でも、新鮮な空気を求めてか、何人かの入院患者さんがそこにはいた。
ん? あれは……。
「あ、ねえ、あの人……」
穏やかな微笑みを浮かべる車椅子の女性の横。
松葉杖を突いたちょっと太目の男の人と、
楽しそうにおしゃべりをしてるのは、あの写真の人。
いつも挨拶するときと違い、看護婦さんの格好だからわかりにくいけど、
確かに見覚えがある。
二人は何を話しているのかはわからないけど、とっても楽しそうに見えた。
「おー、すごいじゃん、よっすぃー」
「へへへ、あたしだってやる時はやるんだよ」
「すっごーい」
梨華ちゃんもぱちぱちと手を叩いてくれる。
あたしが得意げに胸を張っていると、男の人と別れた看護婦さんがこちらに向かってきた。
お、チャンスだ。でもなんて話し掛ければ……。
- 59 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時14分17秒
- 「すみません」
あたしが戸惑っていると、ごっちんがいきなり声をかける。
「あの、ちょっといいですか?」
「なに? 何か御用ですか?」
あの人は一瞬戸惑った後、笑顔を見せる。さすがプロだな。
青いラインの入った白衣。胸元の名札には『石黒』とあった。
脇腹を突付かれて横を見る。ごっちんと目が合った。
そこは幼馴染、言いたいことをすぐに察して石黒さんに話し掛ける。
「あ、あの…あたしわかりますか?」
不審そうにあたしを見ていた顔が、何かに気がついたように微笑む。
「ああ、下の階の女子高生。どうしたの? 誰かのお見舞い?」
う、どうしよう。話し掛けたのはいいけど、何も考えてなかった。
「実はこの娘が看護婦になりたいって言ってまして」
唐突にごっちんがそう言って、梨華ちゃんを前に出す。
「え? わ、わたし……。あの…その…」
いきなり押出されて、梨華ちゃんはわたわたと慌てふためく。
がんばれ! 梨華ちゃん!!
「ソ、ソーなんです。わたしムカシからカンゴフさんにアコガレてて……」
……だめだ、梨華ちゃん棒読み。
「それで、できたらお話を聞かせてもらえないかなって」
心配になったのか、ごっちんがつないだ。
- 60 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時14分49秒
- 「それでわざわざ? でも、良くここがわかったわね。
ま、いいわ。もうすぐ申し送りだから、それが終わったら付き合ってあげる。
ここの喫茶室ででも待っててちょうだい」
「あ、ありがとうございます。すみません、いきなり来て……」
そうあたしが言うと、石黒さんは悪戯っぽく笑い、
「あなた達運がいいわよ。私、今とっても機嫌が良いの。それじゃ、後でね」
と、軽く手を振り、真っ直ぐ背筋を伸ばして歩み去っていった。
その後姿を見てあたしはちょっと感動していた。
「カッケー! なんか大人の女って感じだよね。
かー、あこがれちゃうなあ」
「そうだね、かっこよかったね」
「だよねー。なんか梨華ちゃんとは大違いだ」
「あ、ひっどーい! わたしはよっすぃーよりお姉さんなんだからね!」
「三ヶ月しか違わないじゃんか」
「でも、お姉さんだもん」
「はいはい、喧嘩してないで。さ、行くよー」
まるで幼稚園の先生のようなごっちんを先頭に、あたし達は喫茶室に向かった。
- 61 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時15分34秒
- 喫茶室は思ったよりちゃんとしたものだった。
きちんとしたドリンクコーナーまである。
あたしはココア、ごっちんはオレンジジュース、梨華ちゃんはブラックコーヒーを買った。
「梨華ちゃん、ブラックなんか飲むんだ」
「そうだよ、わたしは、おませさんだからね」
……この人の考えてることはよく分からない。
もしかして、お姉さんぶってるつもりなんだろうか。
それぞれの飲み物を飲みながらボーっと時間をつぶす。
「ねえ、良い魔法と悪い魔法ってどこで別れるの?」
唐突にごっちんが聞いてきた。
眉の間をぎゅっと寄せて、薬を飲むようにブラックコーヒーを飲んでいた
梨華ちゃんが、そのままの顔で目線を上げる。
嫌なら飲まなきゃいいのに……。
- 62 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時16分14秒
- 「うーん、そーだな。とりあえず、人に危害を加えたりするのは悪い魔法だよね」
「それじゃ良い魔法は?」
「やっぱり、恋のおまじないとかかなあ。
伝えられない思いを魔法に込めて……。ああ、なんてロマンティック……」
胸の前で手を合わせて斜め上を見る。まるで夢見る乙女状態。
「ふうん、ほかには?」
「そうだな……。みんなが笑顔になる魔法かな」
「笑顔に?」
「そう、みんなが幸せな気持ちになって笑顔になるような魔法。それが良い魔法だと思う」
「幸せに…ね……」
それを聞いたごっちんはゆっくりと目を閉じた。
その表情からは、あたしでさえ感情をうかがうことはできない。
一体、何考えてるんだろ……。
「お待たせ」
明るい声が聞こえて振り返る。
パールホワイトのツーピース。お化粧もさっきより少し明るめだ。
うーん、改めてみると結構美人だな、この人。
ブラックコーヒーを手に(梨華ちゃんと違い、こちらは良く似合っている)
あたし達の前に座る。
「さて、何が聞きたいのかしら」
「とりあえず、看護婦の実態を聞かせてください」
あらかじめ打ち合せた通り梨華ちゃんが聞く。
「オッケー。それじゃさっそく……」
- 63 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時17分29秒
- ……むむ、この人話がうまい。
胃炎なのにガンだと信じ込んでて大変だった人。
毎年春になると急性アルコール中毒で運ばれるおじさん。
そんなエピソードを挟みつつ、ユーモアたっぷりに、いろいろと話を聞かせてくれる。
あたしは本来の目的を忘れ、ついつい話に引き込まれていった。
「まあ、外科のほうは良くわからないんだけど、こんなもんかな」
なんだかすっかり聞き入ってしまった。
でも、話を聞き終わったときには、あたし達はすっかり打ち解けていた。
それにしても、看護婦さんの仕事って本当に大変なんだな。
あらためて尊敬しちゃう。
「ありがとうございました。とっても勉強になりました」
梨華ちゃんが丁寧に頭を下げる。
「経験者から言わせると、看護婦なんてなるもんじゃないわよ。
合コンとかもできないから、男もできないし」
「えー、石黒さん美人なのに」
「あら、上手いわね」
あたしの言葉に、ふふと笑う。その笑い方もなんだか大人っぽい。
- 64 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時17分59秒
- 「その毛糸」
「え?」
ごっちんの視線は石黒さんの右腕に向いていた。
その手首には毛糸が巻いてある。
「おまじないですね」
「そう、よく知ってるわね」
「好きなんですか?」
「子供っぽいでしょ」
少し恥ずかしそうに目を伏せる。
お、チャンス。
ごっちんのアシストを受けて、あたしが聞く。
「それじゃ、恋のおまじないとかもするんですか?」
「ま、そりゃ私も女だからね」
「えー、でもおまじないって本当に効くのかなあ」
あたしが言うと、石黒さんはふっと笑った。
艶っぽい顔。なぜかどきりとする。
- 65 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時18分55秒
- 「効くわよ。真剣にやれば。ここに成功例があるし」
「え、それじゃ」
「そ…私」
「えー、お相手はどんな人なんですか」
「担当の患者さんなんだけど、お世話するうちにね」
「でも、それっておまじないのおかげなんでしょうか?」
表情も変えずにごっちんが言う。
「さあ…どうかしら。正直それはわからないわ。
ただ、自惚れじゃなくって、向こうも私のこと好きでいてくれると思ってた。
でも、こういうのってタイミングじゃない?
それが、なかなかうまくいかなくて……」
ふっと息を抜く。
「こういう仕事してると、時々急に不安になるのよ。そろそろいい年だしね。
誰かに頼りたくなる時もある。
でも、変なプライドがあるから、自分からはなかなか……。
あ、やだ、変なこと言っちゃったわね」
「だから、おまじないしたんですか?」
「そう、チャンスをくださいって」
「それで……上手くいったんですか?」
石黒さんの顔がふわっと緩む。
「昨日……彼から…ね」
「うわあ、すっごーい! おめでとうございます!」
「ありがとう」
本気で喜んでる梨華ちゃんに、石黒さんは満面の笑みを見せた。
- 66 名前:1-4 大人とチャンスと恋愛と 投稿日:2001年12月20日(木)23時19分27秒
- 「その人ってもしかして、さっき中庭にいた男の人ですか?」
梨華ちゃんと対照的に、冷静な口調でごっちんが訊く。
「あら、見てたの? 嫌ね」
笑顔がふと悪戯っぽいものに変わる。
ルージュを引いた唇がきゅっと吊り上がった。
「内緒よ。勤務中におしゃべりしてたのは」
伸ばした人差し指を赤い唇に寄せる。
その顔を見てあたしはなぜかぞくりとした。
その顔は…なんて言うか……。
あたしが言うのもなんだけど……。
なんだかとても……『女』の顔だったから。
- 67 名前:作者 投稿日:2001年12月20日(木)23時22分19秒
- 1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと
>>2-11
1-2 差別と調査と間違いと
>>19-29
1-3 パスタと空き巣と友達と
>>37-47
1-4 大人とチャンスと恋愛と
>>53-66
更に続きます。
- 68 名前:1-5 涙と別れと幸せと 投稿日:2001年12月20日(木)23時24分41秒
- 「あたしトイレに行ってくる」
石黒さんに御礼を言って別れた後、ごっちんは一人走っていった。
あたしは梨華ちゃんと二人きりになる。
「今日は本当にありがとうございました」
梨華ちゃんが深々と頭を下げる。
「気にしないでよ。あたし達も楽しかったし」
あたしはにっこりと笑顔を返す。
「結局恋のおまじないだったんだね」
「うん、二人とも幸せそうだったし、これなら何の問題も無いわ」
嬉しそうに梨華ちゃんが言う。
「良かったー。悪い魔法じゃなくって」
「梨華ちゃん、すっごく嬉しそう」
「だって、魔法が悪いことに使われるのってなんだか悲しくなるから」
そう言って柔らかく微笑む。
「魔法ってね。人の思いそのものなの。人の心の中の本当の部分がでてくるものなの。
だからこそ、魔法は人を幸せにするものであって欲しい。
他人を傷つける魔法なんか使って欲しくない。
人の心の中は、みんなが幸せになるのを願ってる……そう思うから」
「梨華ちゃんは優しいんだね」
「そんなことないよ。二人のほうが優しいよ。こんなに良くしてくれて」
照れたように手を振る。
- 69 名前:1-5 涙と別れと幸せと 投稿日:2001年12月20日(木)23時25分43秒
- 「いやー、それにしても今日はいろんなことがあったなあ。
なんだか、絶対忘れられない一日になるよ」
そのあたしの言葉に、梨華ちゃんの顔が曇った。
「どうしたの?」
梨華ちゃんは黙ったままカバンの中をごそごそとあさる。
取り出したものはまたあのカードだった。
「なに? また魔法使うの?」
指の間にカードを挟み、梨華ちゃんがこちらを向く。
鼻の頭にはしわが浮かんでいた。
「ごめんなさい……」
「え? なに? どうしたの?」
「わたし達に関わった人からは、記憶を消さなくちゃいけないの」
「え!? そ、そんな!!」
「後でごっちんにも……」
「ちょ、ちょっと待って! あたし嫌だよ!」
あたしは梨華ちゃんの肩を掴んで叫ぶ。
「あたし、梨華ちゃんのこと忘れるのヤだよ。
せっかく……せっかく友達になったのに……」
- 70 名前:1-5 涙と別れと幸せと 投稿日:2001年12月20日(木)23時26分52秒
- あたしから視線をはずした梨華ちゃんの目が涙で潤む。
「ごめんね……本当にごめんなさい」
小さく呪文が聞こえ始めた。
何かが梨華ちゃんの周りに集まってくる。
「やめて……やめてよ……。お願いだから……」
あたしと梨華ちゃんの体を、見えない何かがぐるぐると回る。
耐え切れなくなったあたしは、ぎゅっと目をつぶった。
「ごめんね。よっすぃー……」
「梨華ちゃん!!」
カチャ
小さな音が聞こえた。
- 71 名前:1-5 涙と別れと幸せと 投稿日:2001年12月20日(木)23時34分30秒
- 「………あれ?」
「………え?」
ゆっくり目を開ける。
「……梨華ちゃん?」
「……よっすぃー?」
「…………」
「…………」
ぺたりと梨華ちゃんがしゃがみこむ。
「あはは……わたし、またやっちゃった……」
「梨華ちゃん……」
こちらを見上げる顔は泣き笑いの表情。
手にしたカードをひらひらと振る。
「もう二人分の記憶を消すほど度数が残ってないや……」
「それじゃ……」
「もう…最後までドジばっかり……。
やっぱりわたしダメな子なんだわ……」
「ううん、梨華ちゃんは良い魔法使いだよ」
あたしは梨華ちゃんの手を引っ張って抱え起こす。
- 72 名前:1-5 涙と別れと幸せと 投稿日:2001年12月20日(木)23時35分56秒
- 「ねえ、梨華ちゃん。あたし、今幸せだよ。
梨華ちゃんのこと忘れなくって……。
あたしとっても幸せだよ。
梨華ちゃん言ったよね。人を幸せにするのが良い魔法だって。
だったら、今の魔法は、とってもとっても良い魔法だったよ」
「よっすぃー……」
あたしは梨華ちゃんに向かって、力いっぱい頷いた。
こちらを見つめる梨華ちゃんの顔がくしゃりとゆがむ。
「ふええ、よっすいー」
あたしの肩にこつんとおでこを当てて、優しい魔法使いは泣きじゃくる。
あたしはその柔らかな髪を、ゆっくりと撫でてあげた。
- 73 名前:1-5 涙と別れと幸せと 投稿日:2001年12月20日(木)23時38分05秒
- ◇
「それじゃ、わたしもう行かなくちゃいけないから」
ウサギのように真っ赤になった目を微笑みに変えて、梨華ちゃんが言う。
「わたしも二人のこと忘れたくない。だから…約束して。
わたしの事、誰にも言わないって」
「うん、約束する」
「それと……これ」
手渡されたのは例のカード。
「友達になった記念。もう、度数はほとんど残ってないけど」
「ありがとう」
「ごっちんにもよろしく伝えといてね」
「わかった」
「……それじゃ」
「また……また会えるよね」
「うん、きっとまた会える……そんな気がする」
微笑んだ顔は純真な輝き。
こうして、おかしな魔法使い(見習)は去っていった。
その姿が見えなくなるまで、何度も何度もこちらを振り返りながら。
- 74 名前:1-5 涙と別れと幸せと 投稿日:2001年12月20日(木)23時40分08秒
- 「あーあ、行っちゃったね」
「ご、ごっちん。いたの?」
いつのまに帰ってきたのか、後ろにごっちんが立っていた。
「もー、せっかく後藤が気を利かせて二人っきりにしてあげたのに」
「な、気を利かせるって何でさ!」
「だって、よっすぃーは梨華ちゃんのこと好きになったんでしょ」
「な、な、な、何言ってんの!」
「隠してもダメだよ。幼馴染なんだからばれちゃうよ」
そう言ってへへへと笑う。
「だから、ちーがうって」
あたしが腕を振り上げると、きゃあと笑って飛び退く。
整った顔が、だははと笑み崩れた。
「あはは、さーて帰ろっか」
「ねえ、ごっちん」
「んあ? なに?」
「ごっちんこそ、何か隠してない?」
「なにを?」
「とぼけたってダメだよ。幼馴染なんだからばれちゃうよ」
一瞬きょとんとしたごっちんが、にんまりと笑う。
「やー、参ったね」
すう、と表情を消したごっちんは、あたしから視線をはずした。
- 75 名前:1-5 涙と別れと幸せと 投稿日:2001年12月20日(木)23時41分32秒
- 「さっきの看護婦さんってさ、あの男の人を担当してたんだよね」
「あ、うん。そう言ってたね」
「あの男の人って、足怪我してたよね」
「そうだね。松葉杖してたし」
ごっちんの目があたしを向く。
「でも、あの看護婦さん、内科の担当なんだよね」
「あ……」
そういえば、ガンの話とか、外科のことはわからないとか言ってたような……。
「え? ナニ? どういうこと」
「後藤、気になったことははっきりさせないと気がすまないんだ。
だから、ナースセンターに行ってきた」
「あ、じゃあ、それでさっき……」
「あの男の人、もともと胃潰瘍で入院してたんだって。
それが退院の直前、階段から落ちて足を折ったんだってさ」
なるほど、それならつじつまが合う。でも、それはまた不幸な。
ごっちんはずっとあたしを見つめている。その表情に変化は無い。
「足を折ったのって、先週の土曜日、朝10時ごろだったって」
その言葉にあたしの体は凍りついた。
「ご、ごっちん。それって」
ごっちんの目は、まるでガラスのように透明だった。
そこには何も映されていない。
- 76 名前:1-5 涙と別れと幸せと 投稿日:2001年12月20日(木)23時42分24秒
- 「あの人さっき言ってたよね。タイミングが合わなかった。
なかなかきっかけが無かったって。
でも、病気は治った。タイムリミットは迫ってる。
だったら……」
だったら……。
タイムリミットを伸ばせばいい……。
おかげでようやくチャンスは巡ってきた。
そんな……でも……。
あたしは何も言えずにただ立ち尽くしていた。
ごっちんはそんなあたしを見て、ふっと笑う。
「結局さ、あの看護婦さんも、あの男の人も幸せになれたし、
梨華ちゃんも喜んで帰っていった。
だったら、あれってやっぱり良い魔法だったんじゃないの」
あたしの頭の中では、いくつもの顔がぐるぐると回っていた。
看護婦さんの格好良い大人の顔……。
ぞくりとさせられた『女』の顔……。
男の人の大きくて優しそうな顔……。
そして梨華ちゃんの純真な笑顔……。
ぐるぐる回る……ぐるぐる…ぐるぐる……。
- 77 名前:1-5 涙と別れと幸せと 投稿日:2001年12月20日(木)23時43分07秒
- 「さ、帰ろ。今日はよっすぃーの好きなオムライスだよ」
ごっちんが歩き出す。あたしはまだその場から動けないでいた。
なんだか急に寒さが増した気がして身を縮める。
体の中を冷たい風が通り抜けた気がした。
無意識にポケットに手を入れる。
指先に触れるものがあった。
取り出すと、それは梨華ちゃんからもらったカードだった。
梨華ちゃんの、あの優しい笑顔を思い出す。
さっきより、少しだけ暖かくなった。
もう一度梨華ちゃんに会いたい。
もう一度あの笑顔が見たい。
すごくそう思った。
カードを見つめる。
強く願えば魔法は使える。
梨華ちゃんはそう言ってた。
だったら……。
- 78 名前:1-5 涙と別れと幸せと 投稿日:2001年12月20日(木)23時43分39秒
- もう一度会いたい。
強く念じる。
あの笑顔を思い浮かべて。
もう一度、あの笑顔を見たい。
あたしは強く強く念じた。
カチャ
小さな音が聞こえた。
カードをポケットに戻す。
きっと……きっと……思いは通じたはずだ。
また……会えるよね。
あたしは軽く微笑んで、先を行く幼馴染の背中を追った。
- 79 名前:作者 投稿日:2001年12月20日(木)23時45分52秒
- 第一話終了。第二話はしばらく後になりそうです。
1-1 笑顔と頭痛とコーヒーと
>>2-11
1-2 差別と調査と間違いと
>>19-29
1-3 パスタと空き巣と友達と
>>37-47
1-4 大人とチャンスと恋愛と
>>53-66
1-5 涙と別れと幸せと
>>68-78
- 80 名前:ARENA 投稿日:2001年12月21日(金)02時40分38秒
- 今回はブラックを無理して飲む石川にかなり萌えました(w
そして、雰囲気が一変する話も、前とは違う意味で面白いです。
名作の予感・・・
- 81 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月21日(金)05時54分32秒
- 内容も文章も面白いわー。
名作集に楽しみが増えました。ありがとうございます。
- 82 名前:名無し男 投稿日:2001年12月21日(金)15時02分00秒
- 渋い表情で眉間に皺を寄せてブラックを飲む石川
なんか想像するだけで顔がにやけてくる(w
- 83 名前:夜叉 投稿日:2001年12月21日(金)17時59分21秒
- 密かに?いしよし♪。(w
ごっつぁんのか行動力ってすばらしい。暴いちゃうし。
でも、ごっつぁん、過去に何かがありそう…。
いしよしの再会、彩っぺの黒魔術?、続き楽しみにしてます。
- 84 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月23日(日)01時20分39秒
- この話すんごーいすきです。
あの、もしかして他にも二本ほど書かれてませんか?
そんな気がしました。勘違いだったらごめんなさい。
- 85 名前:作者@レスだけごめんなさい 投稿日:2001年12月23日(日)02時34分02秒
- ミスの訂正
>>59
「ああ、下の階の女子高生。どうしたの? 誰かのお見舞い?」
↓
「ああ、上の階の女子高生。どうしたの? 誰かのお見舞い?」
>>80
萌えポイント同じですね(w あんまり誉めないでください、びびりますから(w
>>81
こちらこそありがとうございます。できるだけご期待に添えるようがんばります。
>>82
ブラック飲むのは「FLASH」ネタです。「背伸び」だそうで。
>>83
石黒さんはゲストなので出番おしまいです(ごめんなさい)
ごっちんの過去は第二話以降で……。
>>84
ここ以外は一本だけなので別の方だと思います。でも、誰と思われたのか気になる(w
第二話は出だしだけできました。できれば短期間で更新したいので、もう少しお待ちを。
一部、他メンバーも登場予定。
- 86 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月24日(月)10時49分15秒
- 最初、元ネタが(メール欄)かと思って読まないでいたんですが、読んでみたらかなり
方向が違ってて今まで読まなかったのを後悔しました。
ほのぼのとしつつ、ちょっとダークな?雰囲気があるのがいいですねー!
ていうか元ネタとか全く関係なかったらごめんなさい。
- 87 名前:吉胡麻系 投稿日:2001年12月24日(月)14時29分09秒
- どうも、初レスです!
いやあ、魔法使い梨華ちゃん良さげ!
しかも失敗するし。(w
これからも頑張って下さい!
- 88 名前:月夜 投稿日:2001年12月28日(金)19時37分06秒
- ここでは初レスです。
いしよしごまのボケ突っ込みの嵐に笑いました。
ほのぼのできてすごく好きです。
- 89 名前:84 投稿日:2001年12月30日(日)02時59分33秒
- ありゃ、勘違い失礼しました。
もしかしたら「ハウンドブラッド」の作者さんなのかな、と思ってました。
作者さんの書かれてるもう一本の話もぜひ読んでみたいので、
差し支えなければどの話なのか教えていただけないでしょうか?
第二話以降もすごくすごく楽しみにしてます。よいお年を。
- 90 名前:作者 投稿日:2001年12月30日(日)20時14分09秒
- >>86
ビンゴです(w 『神麻さん=石川』が書くきっかけでした。
気に入っていただけたのなら嬉しいです。これからもよろしくどうぞ。
>>87
どじな石川さんが好きです(w 勉強がんばってください。
>>88
良いHNですね。ようこそ。こちらの方もどうぞよろしく。
>>89
大好きな作者さんなので光栄です(w
ほかに『百鬼夜行。』シリーズを書いてます(今は白板)
そちらもよろしければ。
さて、お待たせしていて申し訳ありません。
もう一つの方にかかりっきりなので、次回更新は1月中旬頃になりそうです。
一応ちゃんと書くつもりですよという意味をこめて(w
予告編らしきものをのせておきます。
それでは皆様良いお年を。
- 91 名前:第二話予告編 投稿日:2001年12月30日(日)20時16分57秒
- 泣き声が聞こえる。
目の前で泣きじゃくる幼い少女。
あたしは何もできず立ち尽くす。
「り、梨華ちゃん!!」
「おはよ、よっすぃー。相変わらず、お寝坊さんだね」
可愛らしくも人騒がせな、魔法使い(見習)はにっこりと笑った。
「大人って……そんなにちっちゃいのに」
「んだあ! ちっちゃいゆうな!!」
金色の髪がぶるりと振られた。
軽く下唇を噛んで上目づかい。
捨てられた子猫のようなその表情。
……なんで、そんなにフェロモン出すかな。この人は。
「なーんだ、もうチューしたのかい」
「な、な、な、何言ってるんですか」
「なーにー、もー照れちゃってぇ」
夢と──
あの涙を見てあたしは変わった。
強くなろうと思った。この娘を守れるように。
魔法と──
「断っとくけど、結果が出せなかったらアウトだからね」
「わかってます。……でも、絶対に結果を出して見せます」
「ったく、相変わらず強情だな」
真実と──
「どうしてそんなこと言うの! だって、家族なんでしょう!?」
「……家族なんかじゃ……ない」
SEE YOU NEXT。。。
- 92 名前:作者 投稿日:2001年12月30日(日)20時26分12秒
- (0^〜^0)<あれ? 更新してないのに上がってるYO。
- 93 名前:作者 投稿日:2001年12月30日(日)20時26分51秒
- ( T▽T)<間違えて上げちゃった……。やっぱりわたしはダメな子……。
- 94 名前:作者 投稿日:2001年12月30日(日)20時27分22秒
- ( ´ Д `)<んあー。どうせだからスレ流ししとくよ。ゴメンネ。
- 95 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月31日(月)15時45分55秒
- 予告編ハケーン!
こりゃ楽しみじゃ
- 96 名前:名無し男 投稿日:2002年01月03日(木)17時10分38秒
- 2日遅れのあけおめ!
頑張ってくんしゃい
- 97 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月04日(金)17時20分43秒
- 今度は、長編が見たいです。
- 98 名前:月夜 投稿日:2002年01月13日(日)07時46分02秒
- 保全sage
- 99 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月20日(日)23時49分59秒
- 続きに期待大!
ただのほのぼのでなく、少しひねり利かしてるのが良いですね。
- 100 名前:月夜 投稿日:2002年01月28日(月)19時41分16秒
- 保全sage
更新期待◎
- 101 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月15日(金)11時43分59秒
- そろそろ第2話読みたいな
- 102 名前:作者 投稿日:2002年02月16日(土)18時57分13秒
- 読んでいただいている方、待っていてくださる方本当にごめんなさい。
作者の力量不足と大スランプのため、再開の目処が立ちません。
予告までしておいて申し訳ないのですが、長期の更新停止とさせていただきます。
また続きが書けるようになればあらためて再開したいと思います。
このスレは倉庫行きにしていただいてかまいません。
こちらのわがままで中途半端な形になってしまったことをお詫びします。
本当にすみませんでした。
- 103 名前:名無し男 投稿日:2002年02月17日(日)23時24分59秒
- 逝き帰るまでホゼム
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