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あなたへの想い

1 名前:K 投稿日:2001年12月19日(水)10時46分58秒
初小説になります。

メインはやぐちゅーです。
一応、構想し終わって完結しているので、それを少しずつ載せていくつもりです。
もちろん、みなさんの意見によっては展開を変更することも考えてます。
よろしくお願いします。

(この小説を考えたのは夏休みくらいなので、話題が古いと感じるところもあると
思いますが、その辺は勘弁して下さい。)
2 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)10時55分19秒
ごくっ、ごくっ、ごくっ。
「ぷはぁ〜っ。うまいっ」
缶ビールの最初の一口を飲んだ彼女は、満面の笑みを浮かべてオヤジ口調になっていた。
「いやぁ〜、やっぱビールはえぇなぁ。ほら、圭ちゃんも飲みいや」
ここへ来る途中、コンビニで6巻パックを買って来たんだとか。
テーブルの上には、未開封の缶が5本のっている。
でも、これらが空っぽになるのにそう時間はかからないんじゃないのかな。

「ほらっ、圭ちゃん」
ぐいっと目の前にビールを突きつけられた。
けど、私の視線は缶ビールじゃなく、それを持つ白くて華奢な手に注がれる。
きれいな手・・・。肌荒れというコトバとは無縁そうな。
細い指先から手首へ、腕へと視線を上げていくと、ふっと目が合った。
ビールのせいか、ちょっぴり不思議そうな目で私を見ている。
3 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)11時02分04秒
「ん?どうかしたんか?今夜は飲まへんの?」
ダメだ…。正視できたもんじゃない。
「別に。何でもないよ。じゃ、1本だけもらおうかな。」
私は少し笑って、彼女の差し出した缶ビールを受け取った。
ぷしゅっと缶を開け、ごくりと飲む。
喉を通るビールの冷たさが気持ちいい…。

今日はどうしちゃったんだろう?
仕事が終わって、夜、私の部屋でビールを飲むなんて、今までだって何度もあったことなのに。
今夜の彼女はいつも以上にかわいく見えてしまう。
…28歳という年齢はウソじゃないだろうか、とよく思う。
確かに、仕事中の彼女は年相応の落ち着きと常識を持っている。
けど、ひとたび仕事を終えてしまうと、とても私より8歳も上とは思えない。

ぼーっと考えてるうちにも、テーブルの上には空になった缶が1本、2本と増えていく。
ちょっとペースが速くないか?
4 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)11時08分14秒
「ねえ、裕ちゃん。今日はペース速いよ。どうかしたの?」
「そうか。んなことないと思うけど。圭ちゃんこそ全然飲んでないやん。」
そう言うと、私が持っていた缶ビールに手を伸ばし、ひょいと持ち上げた。
「ちょっとぉ〜。これほとんど減ってないやん。全く圭坊は…。」

何かヘンだ…。こういうのって空元気?
やっぱり何かあったんじゃないのかなぁ。
「裕ちゃん、やっぱおかしいよ。無理にって訳じゃないけど、話、聞くくらいなら…。大丈夫?」

すると、それまでビールを口もとへ運ぶだけだった手が止まり、彼女は私を正面から見据えた。
まっすぐな、澄んだ瞳が私の心に突き刺さる。
見つめられるだけで、私の心は熱くなってしまいそうだ。
5 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)11時19分07秒
「ありがとな、圭ちゃん。あのな、実はな、今日…」
そこで、彼女は言葉につまった。
「ふっ…、く…」

涙?言葉を失った彼女の口からは、小さな嗚咽が漏れ始めていた。

「ゆ…裕ちゃん。ちょっと、どうしたの?」
私を見つめていた青い瞳からは見る間に涙があふれ、彼女の頬を滑り落ちていく。
私は思わず彼女に手を伸ばした。
彼女はためらうことなく私に抱きついてくる。
彼女の涙が、私の服を濡らしていって…。

…何か、ヤバイかも。
私の中の熱は抑えようもなくなってきた。
こうして、私の腕の中で泣く人を、壊してしまいそうになる。

強い人。けど、それ以上に儚い人。
そして何より、愛しい人。

私は本能に流されそうになるのを必死でこらえ、彼女を優しく抱きしめて言った。
「裕ちゃん、大丈夫だよ。ここにいるから。何があったか、話してくれる?」
腕の中の彼女はようやく涙が止まったらしく、私の背にまわしていた腕を解くと、顔をあげて私を見た。



6 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)11時29分59秒
泣きはらした彼女は、例えようもなくきれいだった。
壊してしまいそうになるのではなく、壊したくなるような。そんな人…。

どうやら落ち着いたらしい彼女は、ぽつり、ぽつりと話し始めた。
「今日な、いつもみたいに矢口と遊ぼうと思って、収録の後でモーニングの楽屋に行ったんやけど…」
ちょっと嫉妬した。
やっぱり矢口なの?私は相談相手にしかすぎないの?

私の中の変化に気づいた様子もなく、彼女は話を続ける。
「楽屋の前まで行ったら、たまたまドアがちょっとだけ開いてたんや。
入る前に一瞬立ち止まったら、中から矢口の声で『よっすぃ大好き』って…。
そしたら吉澤が『私も矢口さんが大好きです。ずっと矢口さんの側にいますから』みたいなことを言ったんや」
彼女の声のトーンはますます沈んでいく。

けど、正直、悔しいという気がしてならない。
どうしてこの人は、矢口のそんなひと言にここまで落ち込むんだろうか。
そんなにも、矢口が大事なんだろうか。
7 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)11時33分59秒
「裕ちゃん、そんな気にすることないよ。あの2人、いつもそうしてふざけ合ってるし。」
私は明るい声で言ったが、彼女の表情は曇ったままだ。
「…それで終わりやないねん。」
要するに、そのまま立ち聞きしたのね。全く…。

「吉澤がずっと側にいます言うたら、あの娘、うれしそうな声で『きっとだよ。約束だよ』って…」
再び、彼女の目には涙が浮かんできた。
「あの娘が、矢口が…っ。『だって裕ちゃんは、矢口を置いて行っちゃったし。だから、裕ちゃんのことはもう何でもないんだもん』とか。
それ聞いて、もう、訳わかんなくなって。もちろん中には入れんし…」
ひっく…と喉の鳴る音がする。
8 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)11時36分47秒
はぁっと私はため息をついた。

矢口のコトバはこんなにも彼女を悲しませる。
もちろんその逆も。矢口の他愛ないひと言で、彼女は天にも昇る気持ちにだってなれる。
彼女の中で、計り知れないほど大きな存在である矢口。

どうして、矢口なんだろう。
彼女と出会った時は同じだった。
同じだけの時間を一緒に過ごしたのに、なぜ矢口だけが彼女の大切な人になれたのだろう。

「ねえ、裕ちゃん」
ん?と彼女は顔を上げた。
「矢口じゃないと、ダメなの?」
「圭ちゃん…?」
「私じゃ、矢口の代わりにもなれないの?」
「………」
返事は、なかった。
…構うものか。
抑えていたものが、一気にはじけた。
9 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)11時43分48秒
「ちょっ…、圭…。ふ…」
私を見上げていた彼女の細いアゴをつかみ、さらに顔を上向かせ、私は深い角度で彼女に口づけた。
激しく。息もできないくらいに。

逃したくなかった。この時を。この人を。

彼女の体は強ばっていたが、逃げ出そうとするほどの強い抵抗は見られない。
舌を差し込んで思う存分彼女の唇を味わってから、音をたてて唇を離す。
彼女の唇は、どちらのものかわからない唾液で濡れ光っていた。

キスだけじゃ、物足りない。
上気した彼女の頬、艶っぽく濡れる彼女の唇、あどけなさと色気が奇妙に同居する彼女の瞳。
その全てが私を誘ってる。

彼女が、望む望まないに関わらず。
10 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)11時48分44秒
私は彼女を床に押し倒すと、白くて細い彼女の首筋にキスの雨を降らせた。
「や…。圭…。放して…っ」
弱々しい抵抗をみせる彼女は、両腕を突っ張って、私の肩を押し退けようとする。
「お願…。やめ…。くぅっ」
彼女のシャツのボタンを外しにかかっていた私の指は、そこで止まってしまった。
また、涙を流していたのだ。
私ははじかれたように体を起こす。
「裕ちゃん、ごめん。泣かないで…。もう、やめるから」
どうしていいかわからなくなってしまい、ただオロオロとするだけだった。
11 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)11時51分20秒
私に助けられて体を起こした彼女は、首をゆっくりと横に振った。
「いいんや。私の方が悪いんやし…。私、圭ちゃんに甘えすぎてただけや。ほんまに、ごめんな。
話、聞いてもらいたかっただけなんやけど。聞いてもらって、思いっ切り泣けたら…って。
1人でいるのがいややったし」

思わず、苦笑いをしてしまった。
なるほど、やっぱり私は“いい人”にすぎないらしい。
彼女を傷つけるだけの“大事な人”にはなれないか…。

「矢口のこと、すごく好きなんだね」
私が自嘲気味につぶやくと、彼女は小さな笑みを浮かべた。
「圭ちゃんのことかて、大好きやで」
「いいよ。わかってるから。私も裕ちゃんが大好きだよ」

そう言って私は立ち上がり、電話に手を伸ばした。
彼女はちょっと眉根を寄せて、私の行動を見守ってる。
12 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)11時55分51秒
ケータイではなく、卓上電話を使ってメモリーに登録されてる番号にかける。
ピッとスピーカーホンのスイッチを入れると、部屋の中に呼び出し音が鳴り響く。
7回、8回…。何やってるんだ?おフロにでも入ってるのかな。

私の行動を不思議そうに見守っていた彼女が、口を開いた。
「なぁ。電話、誰にかけてんの?…まさか、やぐ…」
呼び出し音が切れると、彼女は口をつぐんだ。

『もしもし』
彼女の表情がみるみるうちに固まっていく。
「あ、矢口。どうしたの?結構鳴らしちゃったよ」
私は、ちょっとわざとらしいくらいの明るい声だった。
『んー。おフロ入ってて、今、部屋に戻ったとこだったの。圭ちゃんこそ、こんな時間にどうしたの?』

私は、次に話すコトバを選びながら、硬い表情を崩さない彼女を見つめた。
彼女は、ただ前を見て座っている。
13 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)12時02分11秒
「実はさぁ、今日、裕ちゃんと飲んだんだけど…」
『えっ。裕ちゃん、いるの?そこに』
心底、驚いたという声で、矢口が訊ねた。
私は一瞬だけ迷ったが、ウソをつくことに決めた。
「ううん。外で飲んだの。その時に、ちょっと相談ごとされちゃって。矢口のことで」
『………』
「今日さ、控え室でよっすぃーと2人になったことあったでしょ。それで、裕ちゃんのことを
話したって聞いたんだけど…」
『それ、裕ちゃんが言ったの?』
1mほど離れたところに座ってる彼女は、身じろぎもせず、耳をすましている。
「うん。矢口と遊ぼうと思って行ったけど、ちょっと開いてたドアからあんたたちの声が聞こえたって。
…まあ、話した時は裕ちゃんも酔ってたから、それが全部ほんとかどうかはわかんないけど。
ただ、ものすごぉ〜く落ち込んでたっぽい」
『そう…なんだ。裕ちゃんが聞いてたんだ、あれ…。矢口も、圭ちゃんになら、話せるかな…』

矢口は、うまく言い表せるコトバを探すかのように、少しずつ話し始めた。
14 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)12時13分39秒
『矢口、裕ちゃんと一緒にいるのが楽しくて。ずっとずっと楽しくて。裕ちゃんと離れる日が来るなんて、
全然考えたこともなくかった。もうこのまま、一生側にいられるものだと思ってたの』
彼女の表情がちょっと動いた。
『それなのに、裕ちゃん、モーニング辞めるって…。ちゃんと理由も言ってくれたけど、
矢口は理解できなかった。…ううん、理解したくなかったんだ。矢口はこんなにも
裕ちゃんを必要としてるのに、裕ちゃんにとって矢口の存在は大したことなかったのかって。
寂しくて、悲しくて、辛くて…。誰かに側にいて欲しかったの。裕ちゃんじゃなくてもいい。
矢口のことを必要としてくれて、大切にしてくれる人に』
「それが、よっすぃーなんだ」
『うん。よっすぃーがすごく優しくしてくれてさ。でも、でもね、矢口は裕ちゃんが好きなの。
どんなによっすぃーが矢口を大事にしてくれても、よっすぃーは裕ちゃんじゃないもん。
控え室で話したことだって、裕ちゃんを想いすぎて、自分がどうにかなっちゃいそうで…』
15 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)12時18分27秒
わかってたけど、この2人ってやっぱり両想いじゃん。
相づちを打ちながら、私は妙に冷めた気持ちで聞いていた。

あぁ、また泣いてる。全く、この人は…。今日は3回目?4回目か?
枯れることを知らない泉のように、彼女の目から涙があふれ出ていた。

「うん。矢口の気持ちもよくわかるよ。寂しいもんね。…ちょっと、待ってて」
私はスピーカーホンのスイッチを切り、コードレスの子機を彼女に差し出した。
呆然とした顔で私を見つめていた彼女は、やがてゆっくりとした動作で子機を手に取る。
「矢口ぃ…」

電話の向こうの矢口にも泣いてたとわかるような声で、彼女は愛しい人の名前を呼んだ。
向こうが何と言ってるかは聞こえないが、その内容は何となくわかりそうな気がする。
「ごめんな。ごめんな、矢口。大好きや…。誰にも渡したかないんや。これからはずっと、
矢口の側におるから。許してえな。矢口…」

矢口への愛のコトバをつむぐ彼女の声を背にし、私はそっと部屋を出た。
ベッドに倒れこんで、天井をじっと見つめる。
今夜は疲れた。このまま寝てしまおうか。
一旦そう思うと、急にまぶたが重く感じられる。

もう、どうだっていい…。
16 名前:1.優しさと残酷さ 投稿日:2001年12月19日(水)12時22分55秒
いつの間にか寝てしまってたらしい。
どれくらい経ったのか、ふと目を開けると、彼女がベッドの端に座って、私を見ていた。
「なっ、何してんの、裕ちゃん?」
驚いて起き上がろうとすると、彼女の手がそれを阻んだ。
再び、私はベッドに横になる。
すると、彼女は何を思ったのか、いきなり布団の中に入ってきた。
「どうしたの!?裕ちゃん、酔ってんの?」
私にぴったりとくっつくと、彼女はにっこり微笑んで言った。
「圭ちゃん、ありがとな。一緒に寝よか」
言うが早いか、彼女はそっと私の手を握り、目を閉じた。

結構鈍い…。と言うか、残酷かも。
けど、あったかい。すごくうれしかった。
たまには、いいか。

どうせ明日になれば、あのチビに獲られてしまうんだ。
今くらいは…。
17 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月20日(木)00時23分10秒
圭ちゃんが切ないですね・・・でも良い奴だ!アンタぁ最高にカッケーよ!
てなわけで1番目のレスがこんなくだらなくてスマソ(汗
作者さん頑張って下さい♪
18 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月20日(木)00時28分50秒
うわー!!
やぐKU?
いいものみつけちゃった。なんかKU好きには・・・ちょっとせつないけど・・・
鈍い裕ちゃん最高!
いい人圭ちゃん(涙
19 名前:K 投稿日:2001年12月20日(木)23時54分01秒
>17 名無し読者さん
初レス、ありがとうございます。
いや、私、圭ちゃん好きなんですよ…。
でも、何故か圭ちゃんはこういうキャラになってしまう(笑)
(裕ちゃんは別格なんですけどねvv)

>18 名無し読者さん
はい。やぐちゅー+圭ちゃんってカンジで進めようかと…。
矢口側にもう1人絡ませたいんですが、できるかどうか。

ウチの矢口は、はっきり言って、暗いです。
大丈夫かなぁ。
お付き合いいただければってとこで、ちょっと更新です。
20 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)00時05分27秒
昨日の今日ってのは、ちょっと照れくさいけど、やっぱり早く会いたい。
私は朝から張り切って、娘。の楽屋に来てくれるハズのあの人を待っている。

ガチャッ。
「おはよ〜さん」
あっ、来た!
楽屋にいたメンバーのあいさつに答えながら、彼女は私の方に来た。
「や〜ぐちっ。おはよっ」
以前と変わらない様子で彼女は私に抱きつき、そして、これもよくあったことだが、
彼女は私の頬に音をたててキスした。
「何だよ〜、朝っぱらから裕ちゃんは…」
口では不服そうにしながらも、心の中はうれしさでいっぱいだ。

けど、まさか昨日のあの会話を彼女に聞かれていたなんて…。
まぁ、そのお陰でこうして素直にじゃれ合えるのなら、いいってことか。
思わず、口元が緩んでしまう。

それに気づいた彼女が意地悪く笑う。
「な〜に、ニヤニヤしてんや。あ、きっとヤラシイこと想像してたんやろ。全く矢口は…」
そこまで言うと、彼女は私の耳元に口を近づけて、そっと囁いた。
「今夜は覚悟しとき。寝させへんで」
私の顔は、一気に赤くなる。
「ばっ、バカ裕子っ。何てこと言ってんだよ〜!」
21 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)00時07分43秒
立ち上がって離れようとすると、彼女は私の腕をそっとつかんで引き戻し、再び横に座らせた。
そして、それまでのニヤニヤ笑いを止めて、ふと真顔になる。
「ほんまによかった…。もう、絶対に放さへん。大好きや…」

昨日の電話でも聞いたコトバ。その時は、涙声だった。
今日のコトバはそれよりずっと力強い。

「うん。矢口もだよ」
私も、昨日と同じ返事をする。
お互いに見つめ合うと、自然に笑みが浮かんでくる。
22 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)00時10分42秒
「中澤さんと矢口さん、何かうれしいことでもあったんですかぁ?」

突然の幼い声に、私たちは2人の世界を作っていたことに気がついた。
幼い声の主は、加護。
けど、部屋の様子を見ると、周りにいる他のメンバーも声こそかけなかったものの、
私と彼女の微妙な変化に気づいてるようだった。

ふと、圭ちゃんと目が合った。
ちょっと気まずい思いが横切ったけどそれ以上に感謝の気持ちが強かった。
私が笑顔を向けると、圭ちゃんは苦笑した。
はは…。呆れられてるのかな。

「矢口さん、やっぱりうれしそうれすねぇ」
今度は辻も加わってきた。
「いいことあったんれすね」

もちろん。今朝の私はこの上なく機嫌がいい。
23 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)00時14分33秒
「まあね。…さっ、今日もがんばるぞっ」
初めのひと言は加護と辻への答えだが、後半は誰に対してでもなく、口から出た。
すっくと立ち上がり、隣に座る彼女を見下ろす。
彼女は楽しそうに笑い、私を見上げてた。
意味ありげに、私たちの視線が絡まる。

次の瞬間、彼女も立ち上がり、楽屋を見回して言った。
「ほな、私は自分のとこに帰るわ」
そして、ドアの方へ足を向ける。
「がんばってな」
みんなに向けてそう言い残すと
「裕ちゃんもねー」
という、いくつかの声を背中に受け、部屋を出て行った。
振り返らずに、颯爽と。
24 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)00時17分25秒
パタンと閉じられたドアを、私はしばらく見つめていた。
何か、用を思い出して戻ってくるかも、などと思いながら。
しかし、そのドアは開くことはなく、ドアの向こうに人の気配もないようだった。

…何を考えてるんだ、私は。

彼女は仕事をしに行ったんだ。止められるなんて、できないに決まってる。
彼女の心は、私のもの。
それは、たった今、確認したばかりなのに。

こんな気持ち、おかしい。
以前は、ここまで考えたことはなかったハズ。

それは、同じグループのメンバーだったから。

一緒の仕事ばかりだったから。

いつも、近くにいたから…。
25 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)00時20分03秒
けど、今は違う。

彼女はソロとして活動し、一緒の仕事は激減した。
私と一緒に過ごす時間は減り、彼女は他の人との仕事を増やしていく。
連続ドラマに、ミュージカルに、ソロ写真集に。

これって、こういう気持ちって…。

…独占欲。

イヤだ。醜い、こんな感情。
でも、抑えられなくなりそうになる。
一度手に入れたら、もう逃したくない。

どうしたら、いいんだろう…。
26 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)00時31分26秒
何で彼女は私みたいな醜い人間を選んだのか。
このまま私は狂ってしまうんだろうか。

彼女のことを想いすぎて。他のことが目に入らなくなって…。

彼女のことは忘れたハズだった。
少なくとも、忘れようという努力はしたつもりだった。
この先、彼女のいないことに耐えて、彼女のいないところで生きていかなければならないなんて。
そんなの辛すぎる…。

ずっとずっと、これからもずっと彼女を想い続けて苦しむより、自分の心からその存在を
締め出してしまう方がいい。
そうすれば、辛い思いをするのは最初だけで済むから。

悩んだ末、私はそう結論を出した。彼女への想いはもう忘れよう、と。
27 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)00時35分03秒
だけど、実行するのは限りなく困難だった。
完全に離れ離れになったのとも違う。
一緒にいる時間が減ったとは言え、ハロモニみたいなレギュラー番組の収録もある。
彼女を忘れようと努力しても、その姿を目にし、声を耳にし、肌に触れていると、
私の決心はいとも簡単に揺らいでしまう。

苦しかった…。この苦しみから救って欲しかった。
28 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)21時26分45秒
そんな時、私に優しくて、苦しみから救ってくれそうだったのが、よっすぃーだった。
「矢口さん、矢口さん」と、大きな体で小さな私の横にくっついてきた。
よっすぃーは、すごく私を甘えさせてくれた。
でも、よっすぃーに「大好きだよ」と言うたびに、私の脳裏にはあの人の顔が浮かぶ。

「大好きだよ。」

このコトバは目の前にいるよっすぃーに向けて言ったハズなのに、いつも彼女を思い出す。

時間が解決してくれるんだろうか。
この苦しみから、いつかは解放されるんだろうか。
そんなことを考えながら過ごす毎日。

昨日だって、いつもと同じ一日で終わるハズだった。
29 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)21時30分11秒
楽屋でよっすぃーと「大好きだよ。」と言い合うのも、大したことじゃないと思い始めた頃。
もちろん、あいかわらず彼女の顔はちらついたが。
だから、口に出した。

「裕ちゃんのことは、もう何でもない。」

私の本心…と言うよりも、そうしなければならないという観念からか。
いつまでも変えられない私の気持ち。
いつかは変えなきゃならない私の気持ち。
声に出して、他の人にも聞かせることで、その決心を確かなものにしようとした。

「裕ちゃんのことは、もう何でもない」

新たな一歩を踏み出したつもりだった。今度こそは。
30 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)21時34分24秒
だけど、その日の夜、私の決心は脆くも崩れていった。
音をたてて、がらがらと。
泣きながら何度も何度も謝る彼女の声は、まだ耳に残っている。

昨夜の圭ちゃんからの電話。何でケータイじゃないんだろう、と不思議に思ったのを覚えてる。
きっと、スピーカーホンか、さもなければ子機と親機を使って彼女に聞かせてたのだろう。

ふと顔を上げると、また圭ちゃんと目が合った。
どうやら向こうがずっと私を見てたらしい。私は、圭ちゃんの側へ行った。
圭ちゃんに話しかけていた石川が、私に気づいて話をやめた。
「あれー、矢口さん。さっきの元気はどこいっちゃったんですか?」
無邪気な顔で話しかけてきた。
「えーっ、何言ってんの。矢口はいつだって元気だよ」
笑顔を作って答える。
「そうですよねぇ」
と、石川。

伺うように圭ちゃんを見る私に気づいたのか、珍しくその場の空気を察した石川は
圭ちゃんにひと言言って中学生コンビのとこへ行ってしまった。
31 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)21時36分45秒
「圭ちゃん、昨日は…、ありがとね」
何か照れくさくて、圭ちゃんを正視できないよ。
「いいって、そんな。電話をかけたのは私のおせっかいだったんだし。
それにしても、昨日の裕ちゃん、これでもかってくらい泣いてたよ。
あんまり裕ちゃんを泣かすんじゃないぞ、矢口」

圭ちゃんは頼れるお姉さんかな。
精神年齢なら、きっと彼女よりも上だと思う。
だってあの人は、私と比べても幼いカンジがする。全く…。ま、そこがいいんだけど。

心の内が顔に出たらしい。
「ま〜た、矢口は。沈んでたかと思えば、急にニヤニヤして」
圭ちゃんのそういうコトバがうれしかった。
相談できる人がいるってのは、幸せなことなんだろうな。
32 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)21時50分42秒
私は、圭ちゃんの人の良さに甘えて、言いにくい感情を少しずつ話し始めた。
自分の抱える独占欲のことを。
今、こうしている間にも、彼女が他の人と笑い合うのが我慢できないって。
聞いてて楽しい話ではないのに、圭ちゃんはイヤな顔もせず、笑ったりもしないで静かに聞いてくれた。

ひと通り私は話し終えて、ちらっと圭ちゃんを見た。
少しの間、圭ちゃんは無言だったけど、すぐに口を開いた。
「好きな人を誰にも渡したくないっていう気持ちは、決して異常なものじゃないでしょ。
まあ、程度にもよるだろうけど。矢口の場合は自分の想いが通じてるんだし、相手の
気持ちもわかってるんだから、ヘンに肩肘張らなくてもいいんでない?私はさ、昨日の
裕ちゃんを見てるからわかるけど、裕ちゃんってこっちが嫉妬するくらい矢口のことを
大切にしてる。あぁ、矢口はすごく裕ちゃんに想われてるなって感じたし。自分の想いだけじゃ
どうにもならないことってあるよね。独占欲…失くせとは言えないけど、2人だけの時に
思う存分発揮するだけにできれば、ね。…なぁんて、こんなのただの気休めか…」
そう言って、圭ちゃんは薄く笑った。
33 名前:2.独占欲 投稿日:2001年12月21日(金)21時52分55秒
圭ちゃんの笑顔につられて、私の口元にも笑みが浮かぶ。
…やっぱり、私はまだまだコドモなのかな。

完全に収まったワケじゃないけど、とりあえず、仕事が終わるまでは、という気持ちだ。
早く、夜にならないかな。
ヤバイ。また赤面してしまいそうだ。
さっ、仕事仕事…。
34 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月21日(金)23時38分46秒
ん〜なかまだ始まったばかりって感じですね。
今からいろいろありそうなので楽しみ(w
35 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月24日(月)11時46分50秒
イイッスね!
やぐちゅーは永遠です。KUも好きだったりするし。
36 名前:K 投稿日:2001年12月25日(火)05時07分34秒
>>34 名無し読者さん
一応、まだまだ続くつもりでいます。
章立てすると…いくつくらいになってるのかなぁ。
ちょっとわかんないや。
飽きずに読んでいただければ、と。

>>35 名無し読者さん
その通り(笑)やぐちゅーは永遠です。
みんな好きだけど、やぐちゅーに優るものナシ…かな。私の中では。

年末年始はちょっと出かけるので、次の更新は年明けになります。
1月5日過ぎになる予定です。すみません。
37 名前: 投稿日:2001年12月26日(水)02時11分28秒
甘く切ないやぐちゅ〜に、切なすぎるKU! 発見ー!!
どっちも大好きなカップリングのため、勝手に苦悩中!!!
更新、楽しみに待ってます。 ではでは。
38 名前:K 投稿日:2002年01月06日(日)16時58分05秒
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

>>37 Nさん
レスありがとうございます。
自分が読んでる小説の作者さんからレスしてもらえるなんて。
未熟ながらもがんばっていくので、見捨てないでもらえれば。

今度はもうちょっと甘いシーンが書きたい…。
というとこで、新年初の更新です。
39 名前:3.Time Is Gone 投稿日:2002年01月06日(日)17時10分36秒
一日中、仕事が終わるのが待ち遠しくて仕方なかった。
ようやく仕事から解放され、彼女と待ち合わせて一緒に帰宅する。

タクシーの中。
私は大好きな人の隣に座り、彼女の手を握りしめていた。
睡眠中のその人の頬には、薄茶色の髪がはらはらとこぼれ落ちて淡い影を落としている。

タクシーに乗った直後、
「着いたら起こしてな。少し寝るわ」
そう言って、彼女は目を閉じた。
それから何分も経たないうちに、すやすやと寝息が聞こえてきた。 

始めは、せっかく会えたのに寝るなんて…と思ったりもしたが、この寝顔が見れるならいいか、と思い直す。
…ほんとに28歳だろうか。
何度となく、感じた疑問。なっちや圭ちゃんもよく言ってた。
あどけない。無防備。そんなコトバでしか言い表せない。
タクシーは、あと5分もすれば停まってしまうだろう。
彼女の自宅なんてすぐそこだ。

もっと、こうしていたい。

ずっと、この寝顔を見ていたい。

永遠に、この手を離したくない。
40 名前:3.Time Is Gone 投稿日:2002年01月06日(日)17時18分07秒
しかし、無情にも時間は流れる。

「はい、着きましたよ」
運転手さんの声で、寝ていた彼女は目を開ける。
「あぁ、着いたんか。ほら、矢口、さっさと降りぃや」
彼女は私を降ろしてから料金を払い、荷物を持って自分もタクシーを降りた。

「う〜ん。もうちょっと寝てたかったなぁ…」
彼女は伸びをしながら言うと、すっと私を見下ろした。
「さ、行こか」
ごく自然に、彼女は手を差し出す。
私はにっと笑ってその手を取り、一緒にマンションのエントランスへ入って行った。

「裕ちゃん、疲れてるんだったら、矢口、帰ろうか。明日の朝は早いの?」
一応、気づかってみる。
けど、答えは何となくわかっていた。
「何言うてんの。ようやく仕事が終わって2人になれたのに。仕事も睡眠も大事やけど、
私がいちばん大事なのは、矢口と一緒に過ごす時間やから。矢口がいちばん大切なんや」
そう言って、彼女は優しく微笑む。

エレベーターの中で、私たちは久しぶりにとろけるようなキスをした。
最後にこんなキスをしたのは、いつのことだったか…。
41 名前:3.Time Is Gone 投稿日:2002年01月06日(日)17時21分32秒
「夕べはな、圭ちゃんのとこ行って、ビール飲んで忘れようって思ったんや」
唇を離してエレベーターを降りると、前触れもなく彼女が話し始めた。
「けど、圭ちゃんは私の様子が何かヘンやって気づいたみたいで、よかったら話聞くよって。
あの娘もほんまにええ娘やなぁ」
昨夜のことを思い出してるのか、彼女は目を細めた。

彼女に続いて部屋に入りながら、何だか複雑な気持ちになる。
確かに、今朝は私も圭ちゃんに自分の気持ちを相談した。
そのお陰でずいぶん楽になって、話を聞いてくれる人がいるのは幸せだと思った、けど…。

そう言えば、圭ちゃんが言ってたな。

「裕ちゃん、これでもかってくらい泣いてたよ」

イヤだ。泣き顔なんて、他の人に見せないで。
泣き顔だけじゃない。彼女の存在自体、私だけのものにしたい。
誰にも触れられないように、どこかに閉じ込めておきたい…。
42 名前:3.Time Is Gone 投稿日:2002年01月06日(日)17時24分50秒
あぁ、まただ。

彼女と2人きりで楽しく過ごすハズだったのに、私の醜い独占欲がまた現れる。
私は、思わず後ろから彼女に抱きついた。
彼女の腰に腕を回し、彼女の背中に顔をうずめて。

「何?どうしたん?」
彼女は首だけねじって振り返る。
私は何も答えず、彼女を抱きしめる腕に力を込めた。
彼女もその変化に気づいたようだ。
「大丈夫やで、矢口。裕ちゃんはちゃんとここにおるから。ずっと矢口の側に」
そう言って、自分の腰にまわされてる私の手に触れ、そっとそれを解こうとした。
私はそれを許さずに、ますます強く彼女を抱きしめた。

「だって、放したら、裕ちゃんどっかに行っちゃいそう。いつも、どんな時でも矢口の腕の中にいて欲しいのに…」
「約束したやろ。もう絶対に離れないって。矢口のこと、大好きやから」
私の手を撫でながら、あやすような声で彼女は言った。
43 名前:3.Time Is Gone 投稿日:2002年01月06日(日)17時29分13秒
その声に諭されたかのように私は腕の力を弱め、彼女が振り返るのを見つめた。
彼女は私を正面から見る。穏やかな顔で。

「お腹、空いてる?何か食べるか?」
私は首を横に振った。
「いらない。裕ちゃんと一緒にいられれば、いい」
すると、目の前の顔がくしゃっとくずれた。
「かわいいこと言うてくれるやん。ほな、今夜は一緒にフロ入ってさっさと寝よか?」
「一緒に?」
思わず聞き返してしまう。

「何で?いいやろ。そりゃ最近はこういうことあらへんけど、前はよく一緒に入ったやん」
すっかりその気になったらしい彼女は、私の返事も待たずに、さっさとおフロを沸かし始めた。
さらに、コンタクトをはずし、つけ爪も取っていく。

そのうれしそうな顔が、私を見てちょっと曇った。
44 名前:3.Time Is Gone 投稿日:2002年01月06日(日)17時34分38秒
「矢口、一緒にフロ入るのイヤか?ま、別に無理して入れって訳やあらへんし」
残念そうな、そしてどこか淋しそうな顔になっていく彼女。
そんな表情をさせたいワケじゃないのになぁ…。
「別に、イヤなハズないよ。ただ、やっぱり恥ずかしいなって…」
途端に、彼女はまたぱぁっと笑顔になる。
「くぅ〜っ。やっぱ矢口はかわええなぁ。んな、恥ずかしがるこたないって。入ろ入ろ」

でもなぁ、どうしたって恥ずかしいよぉ、裕ちゃぁ〜ん…。
45 名前:3.Time Is Gone 投稿日:2002年01月06日(日)17時38分40秒
そんなワケで、今、私たちは2人でおフロに入っている。
私と彼女も髪と体を洗い終えて、浴槽の中に。

お世辞にも、ゆったりとは言えない広さだよなぁ。
彼女も同じことを思ったらしい。
「矢口、悪いけどちょっと立って」
言われた通りにすると、彼女は私が座ってたとこに脚を伸ばし、バスタブいっぱいに体を横たえた。

「何、矢口に出ろって言ってるの?」
「ちゃうよ。矢口が座るのは、ここ」
そう言って、彼女は自分の脚を指す。
「さ、ほら」
思わず固まった私の腕をぐいっとつかみ、向かい合わせで自分の脚に座らせる。
当たり前のことだけど、体がさっきよりもずっと密着してる。
恥ずかしいじゃんかよぉ…。
だけど。
決してイヤじゃないのも確かだった。
むしろ、自分の近くに彼女を感じられたのがうれしくなった。
46 名前:3.Time Is Gone 投稿日:2002年01月06日(日)17時50分13秒
どちらからともなく、私たちは自然に顔を近づけて唇を重ねる。
エレベーターの中でしたよりも、ずっと長くて深いキスを。

当然のように彼女は舌を滑り込ませ、私もそれを受け入れる。
互いのそれを絡ませ、歯列をなぞり、唾液を送り込んで。
背中に回された手が微妙なタッチで脊椎の上を行き来したり。

彼女のキスの巧さか、入浴中のせいか、おそらく両方のせいだと思うけど、私の頭の中は真っ白になっていく。
もう、何も…考えられないよぉ。

私の意識は徐々に遠のいていった。
47 名前:3.Time Is Gone 投稿日:2002年01月06日(日)17時54分09秒
気づいた時にはベッドの中にいて。
私にはちょっぴり長めのシャツとジャージを着ていた。

そして、視界には苦笑した彼女の顔も。
私の視線を受け止めた彼女は、何だか楽しそうだ。
「のぼせたんやな。びっくりしたで。唇を離したら倒れ込んでくるし」
私はぷいっと顔を背けた。
「ふんっ。裕ちゃんのキスが長すぎたんだよ」

ほんとは、長すぎただけじゃなく、巧すぎて、気持ちよすぎたせいもあるんだけどさ…。
「だって、ずっと矢口とキスしてたかったんや。ずっと矢口を感じられるように」
寝顔はコドモだったけど、キスの巧さはやっぱオトナだった。
あんなキス、立ってる時だったら、腰や足に力が入りそうもなかったな。
…って、私も何、考えてんだか。

「な、一緒に寝てええか?」
唐突と言えばそうだけど、十分予想できたその問い。
そんなわかり切ったこと、聞くなよぉ。
48 名前:3.Time Is Gone 投稿日:2002年01月06日(日)17時57分36秒
小さく頷くと、彼女はぱっと満面の笑みを浮かべて、いそいそと布団の中に入ってきた。
間髪入れず、私のシャツの裾に手を伸ばしてくる。
「ダメ」
「えぇっ!?」
不満そうな顔で私を見る。
「一緒に寝るだけなの」

腰の辺りに伸びた手を、私はそっと握った。
今夜は、これだけ。
「おやすみ、裕ちゃん」
やったもん勝ち(?)とでも言うように、私は目を瞑って睡眠モードに。
「しゃあないなぁ。おやすみ、矢口」
苦笑いしたまま、彼女も目を閉じて眠りにつこうとした。

隣から穏やかな寝息が聞こえてくるのに、そう時間はかからなかった。
49 名前:3.Time Is Gone 投稿日:2002年01月06日(日)17時59分38秒
やっぱり、疲れてるんだろうな。

私は目を開けて、そっと彼女を見る。
例えようもなく、かわいい…。
この寝顔が見たかったんだ。
タクシーの中で久しぶりに彼女の寝顔を目にしてから、ずっと思っていた。

彼女とエッチするのは嫌いじゃないけど、そうなったら、きっと私は先に寝てしまう。
朝も、絶対彼女のほうが早く起きる。
寝顔が見られるチャンスは、ほぼゼロ。

彼女の手を握り、彼女の寝顔を間近に見る。
幸せ…だよな。
明日からもまた、がんばろう。この寝顔を見るために。

そう思いながらも、襲ってきた睡魔には勝てず、私も目を閉じたのだった。
50 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月06日(日)18時21分38秒
今日はリアルタイムで読ませていただきました。
ご馳走様。やっぱりやぐちゅーが最高!(w
Time Is Gone を読みながら・・・メンバーのここが好き?ってラジオで話していた時
カオリが「カオリは裕ちゃんの寝顔をみるのが何気に好きなの。なんかカワイイだもん。」
圭ちゃんも「あー私も好き〜。」
って会話を思い出しちゃいました。(w
長編らしいので・・・かなり楽しみです。
51 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月08日(火)22時46分16秒
Time Is Gone最高です。
なんかほのぼのとして・・・甘いのに・・・
私の文章力では表現できないけど・・・あまずっぱい?って感じ???
やぐちゅーかなり読みましたが・・・私の中でTime Is Goneは、BEST3に入りました(w
そんなのありがたくないよ!って思っても・・・ナイショニシトイテクダサイ・・・
今後の展開に期待大大大です。何か嵐の前の静かさにも思える(w
52 名前:K 投稿日:2002年01月09日(水)06時01分44秒
>>50 名無し読者さん
レスありがとうございます。
>長編らしいので・・・かなり楽しみです。
長編…。どうかな。中編くらい?
とりあえず、このスレで終わるくらいの予定でいます。
にしても、続き物は難しいです。
1章を1つの短編としても考えてもいいような構成でやってきたつもりですが…。
ま、どうなるか見守ってて下さい。

>>51 名無し読者さん
>やぐちゅーかなり読みましたが・・・私の中でTime Is Goneは、BEST3に入りました
そんなもったいないコトバ、ありがとうございます。
がんばります…けど、どっかで期待を裏切っちゃいそうで怖いです(^^;
>何か嵐の前の静かさにも思える
あ、そう思えちゃうんですか…。鋭(略

アイさが!を見てから今日提出のレポートをやっと書き上げたんで、気分がいいついでに更新します。
53 名前:4.永遠 投稿日:2002年01月09日(水)06時05分22秒
目が覚めた。
自分でもびっくりするくらい、ぱっちりと。

隣に目をやると、彼女の姿はない。
しっかりと手を握っていたハズなのに…。
予想はしてたけど、やっぱりちょっと寂しいな。
いつ、起きたんだろう。全然、わからなかった。

「ん〜。」
小さい手足を思いっきり伸ばして、ベッドから出る。
今、何時だろ?時計を探してぐるりと部屋を見回した。
昨日は部屋の様子を見る余裕なんてなかったけど、何だか、懐かしい。
しばらく彼女の部屋には来てなかったしな。
6時4分。よかった。今朝はちょっとゆっくりしてられる。

部屋を出て、キッチンへ。
人の気配が…ない。
彼女の姿を求めてうろうろしたけど、見つからない。まさか、もう出かけたんだろうか。

ひどい…。起こしてくれたって、いいのに…。
54 名前:4.永遠 投稿日:2002年01月09日(水)06時06分25秒
せっかく寝てるんだから、と気づかってくれたのか。おそらく、そうだろう。

でも、そんな気づかいはされたくない。
出かける時には、「いってらっしゃい」と言ってあげたい。
時間や場所が許すなら、私も一緒に出かけたい。

それなのに…。
55 名前:4.永遠 投稿日:2002年01月09日(水)06時09分03秒
すると、ガチャッという音が玄関で聞こえた。

そっちに目をやると、彼女がいた。
「ああ、起きたんか。おはよ」
手にはコンビニの袋をさげている。

何だ。コンビニに行ってたのか。ちょっぴり、いや、かなり、ほっとした。
「起きたらいないから、心配したんだぞ。もう仕事に行ったのかと思ったし」
ぷぅっとふくれてみる。
「ごめんなぁ。ウチ、食べるもん何もなかったし、買いに行かなあかんと思って。
ひと言、言ってから行こうかとも思ったんやけど、ぐっすり寝てるアンタの顔を見たら、
ついつい起こせなくてな」
言いながら、コンビニの袋からパスタとサラダを取り出している。
「矢口、パスタでよかったか?ペペロンチーニとカルボナーラ、どっちがいい?」

あなたが買ってきてくれたんだから、どっちでもいい…と言いたいところだけど、カルボナーラの方が好きだ。
「んっとね、カルボナーラがいい」
56 名前:4.永遠 投稿日:2002年01月09日(水)06時10分28秒
「おっけ。先にそっちからあっためるわ。もう顔、洗ったん?その顔じゃ、まだやろ」
てきぱきと行動する彼女を、私はぼーっと見つめてた。
「ほら、タオルはこれ使うて。お湯は出るようになってるから、食べる前に洗ってきぃや」

やわらかいタオルを手渡され、私はゆっくりと洗面所へ行った。
最初にお湯で洗顔したけど、まだ頭の中はぼーっとしてた。
もう1回、水で洗おう。

リビングに戻ると、私のパスタはあっためられていた。
「あ、カルボナーラできたで。さっ、座って食べな。サラダも開けていいから。…何、飲む?」
私は何もしないでもいいみたい。
あいかわらず、世話好きだなぁ。呆れるくらいに。
「あるんだったら、ウーロン茶がいい」
「あるある」
うれしそうに言いながら、彼女は煌のペットボトルを取り出して、グラスになみなみと注いでくれた。

そうしてる間に、ペペロンチーニもあったまったらしい。
57 名前:4.永遠 投稿日:2002年01月09日(水)06時13分08秒
狭いローテーブルで、私たちは向かい合ってコンビニのパスタとサラダを食べた。

何とも言えず穏やかな、そして幸せな時間。

毎日、こんな朝を迎えられたら、いいのに。

ずっと、このままで…。

「こんな日が続けばええなぁ」
突然、彼女が言った。
心の中を読まれたかと思った。
「えっ!?」
顔を上げると、彼女は優しく微笑んでいた。
「いや。こうして朝起きたら矢口がいて、一緒にご飯食べて、一緒に仕事に出かけるような、
そんな日ばっかりやったらええのにって思ったんや」
私も笑い返した。
「そうだね」

こんな日が、永遠に続けばいいのに。
58 名前:K 投稿日:2002年01月10日(木)18時44分13秒
テストも一段落して、明日から来週の火曜日まで5連休!!
中休みってカンジか。

ってなところで更新します。
ちょっと更新の量と速度が上がっちゃいそうだけど、大丈夫かな?
59 名前:5.自覚 投稿日:2002年01月10日(木)18時45分58秒
「おはよー!」
楽屋に入る時も、私は今朝の幸せの余韻に浸っていた。

今夜は、一緒にいられるだろうか。彼女は、忙しいかな。
ま、その時はその時だ。

「…おはようございます、矢口さん」
少し、沈んだ声であいさつされた。
振り向く前から声の主はわかってたし、いずれ、ちゃんと話さなくては、と思っていた。

「あ、おはよう、よっすぃー」
いつも通り、私は答える。
60 名前:5.自覚 投稿日:2002年01月10日(木)18時48分34秒
「昨日は、中澤さんと…一緒だったんですか」
よっすぃーの声は、沈んだままだ。
「…うん」

ためらわず、本当のことを言おう。

「あのね、よっすぃー。矢口が本当に好きな人は、よっすぃーじゃないの」
「………」
「わかってるかもしれないけど、心の底から好きなのは、…裕ちゃんだけだから。」

「それは、今までもずっとそうだったんですか?」
これにはちょっと考えた。気持ちの整理がつかなかったのは本当だ。
だけど、他人にも自分にも、もうウソはつきたくなかった。

「よっすぃーに『大好きだよ』って言った時、矢口はなぜか裕ちゃんのことを考えてた。
言うたびに、いつも。裕ちゃんのことは何でもないって言ったのは、そうしなきゃならないっていう
自分の気持ちだったの。忘れなきゃ、苦しむだけだからって…」

「じゃあ、何で?」

まっすぐ、よっすぃーの目を見ることができなかった。
61 名前:5.自覚 投稿日:2002年01月10日(木)18時49分57秒
「でも、裕ちゃんへの想いは捨てられなくて。そしたら、ちょっときっかけがあって、裕ちゃんと2人で話す機会が…。
そこで、自分の気持ちを正直に話したら、裕ちゃんもまだ矢口のことを想ってくれてたの。大切な人だって」

「そう…ですか」
そう言い残すと、よっすぃーは離れていった。

私は、ひどいことをしたんだろうか。

よっすぃーを傷つけたんだろうか。

ウソをつきたくないっていうのは、自己満足にすぎなかったのか。

他人を傷つける真実より、傷つけないウソの方がよかったのか。

わからないよ…。
62 名前:5.自覚 投稿日:2002年01月10日(木)18時50分39秒
でも、彼女への気持ちはもうウソをつかない。

私は、裕ちゃんを愛してる。


これが、私の真実。
63 名前:5.自覚 投稿日:2002年01月10日(木)18時52分29秒
その日の仕事もとどこおりなく済んだ。
今頃、彼女は何をしてるんだろう。ずっと、そんなことを思っていた。

最後の収録が終わって、楽屋に戻る。
メンバーの何人かはもう帰ったらしかった。

早速、ケータイをチェックすると、メールの着信が。やった。
思わず、顔がほころぶ。送信者はもちろん彼女だ。
すぐに、受信メールを開く。

“ごめん。顔合わせで、ドラマの人と飲みに行くことになった。今夜は会えへん。またな。
ちゃんと埋め合わせするから。お疲れさん”
64 名前:5.自覚 投稿日:2002年01月10日(木)18時54分17秒
簡潔なメッセージだった。

別々の仕事をしているということを実感させられる。
ドラマの人、か。飲みにいく、か。

今、電話したら、迷惑かな。
メールが届いたのは2時間も前だ。
メールをする気には、なれなかった。

しょうがない。今日はさっさとウチに帰るか。

「ねえ、矢口。圭ちゃんと圭織とご飯食べ行くけど、矢口も行く?」
なっちが明るい声で聞いてくれた。

ご飯…。なっちと圭ちゃんと圭織と。…気分じゃない。

「んー、ごめん。今日は帰るよ。誘ってくれてありがとね」
なっちは別段気にした様子はなかった。
「そっか。んじゃ、またね」
「うん。ばいば〜い」
同じコトバを、圭ちゃんと圭織にも返す。

楽屋に残ってるのは…、気づいたらよっすぃーだけになっていた。
65 名前:5.自覚 投稿日:2002年01月10日(木)18時55分50秒
さすがに気まずい。私も帰ろう。
バックを持って立ち上がり、意を決してよっすぃーの方を見る。
「それじゃ、ばいばい、よっすぃー」

よっすぃーからの返事はなかった。

…無理もないか。そう思って、私はドアの方へ歩き出す。
次の瞬間、ガタンという音が聞こえ、私は振り返ろうとしたが、遅かった。
66 名前:5.自覚 投稿日:2002年01月10日(木)18時56分50秒
私は後ろからよっすぃーに抱きしめられていた。

「矢口さん。私の方が、絶対大事にしますから」
首筋に、よっすぃーの熱い息がふりかかる。
身動きが、できなかった。

「よっすぃー…」
「大好き…なんです。誰よりも、強く。…中澤さんよりも、ずっと」

ほんの少し前は、こんなコトバが私の救いだった。
私を必要としてくれる人。私を大切にしてくれる人。私を愛してくれる人。
67 名前:5.自覚 投稿日:2002年01月10日(木)18時57分43秒
でも今は、他人に愛されるより、彼女のことを愛していたい。

もちろん、彼女に愛されたいという気持ちはあるけど。

よっすぃーを好きになれたら、自分もすごく楽になれると思う。
あの人を愛し、あの人に愛されることは、楽しいことばかりじゃないハズ。
現に、彼女と想いが通じたと同時に、彼女への独占欲に気づいた自分が、醜くてイヤになる。

…だけど、私は彼女を愛してる。

そして、彼女に愛されたい。
68 名前:5.自覚 投稿日:2002年01月10日(木)18時59分26秒
「気持ちはうれしいし、悪いのは矢口だけど、ごめん。もう自分の気持ちにウソはつけないよ」
「どうして。絶対、私の方が矢口さんを大事にします。幸せにもします。絶対に…。だから…」
よっすぃーの腕に、力がこもる。何だか、昨日の私みたいだ。

「中澤さんなんて、全然矢口さんのこと想ってないですっ。矢口さんのことが大事なら、
ほんとに大切で愛してるのなら、どんなことをしたって離れなければいいのにっ」
「そうなのかもしれない…。でも、例え、裕ちゃんが矢口のことを大切に想わなくても、
矢口が…、矢口の方がダメなの。裕ちゃんの存在がないと、生きていけないよ…」

よっすぃーは何も言ってこなかった。言い返せなかったんだろうか。
腕の力が弱まったのを感じて、私はよっすぃーから逃れ、後ろは振り返らずにドアを開けて走って行った。
69 名前:5.自覚 投稿日:2002年01月10日(木)19時00分32秒
私は、酷い人間だ。

彼女に、会いたい。会って、抱きしめたい。彼女の存在を、この手で感じたい。放したく、ない。

体中を駆け巡るこの欲望を、どうやって沈めようか。

誰かに話す?話せるワケがない。

彼女の家に行こうか。もう、帰ってるのかな。

様々な思いが、浮かんでは消えていく。
結局、決心がつかないまま、自宅へ帰りつつあった。
70 名前:5.自覚 投稿日:2002年01月10日(木)19時01分21秒
住宅地。静まり返って辺りは暗く、一定間隔で建っている街灯と家々から漏れる明かりだけが、路上を照らしている。
自分の家が視界に入るころ、その玄関先で佇む人影も目に入った。

まさか。

そんなハズは、ない。

彼女がこんなとこに、いるなんて。


「お帰りぃ。」
71 名前:6.待ち伏せ 投稿日:2002年01月10日(木)21時17分32秒
聞き慣れたその声を確認しても、まだ信じられなかった。

「どうしたん?そんなに驚かせたか?」
私の愛する人は、にっこり笑って言った。

「何で、ここに…」
「そんなぁ、決まってるやん。矢口に会いたかったからや。今日はごめんな。
飲みの方、早めに切り上げてこっち来たんや。帰ってるかどうかわからんかったから、
1回チャイム鳴らして矢口のお母さんと話したんや。まだ帰ってないって言うから、待ってよかと」

彼女の手は、かなり冷たかった。どれくらい、ここにいたんだろう。
「そんな。中で待っててもらってよかったのに。ごめんね。お母さん気が利かなくて」
彼女の手を取り、自分の手でそっとあっためる。
「んなことあらへん。矢口のお母さん、あがってお待ち下さいって言うてくれたんよ。
でも、特別に用事があったワケやないし、アンタの顔を見たかっただけやし。
家の前で待ってたなんて知ったら、驚くやろなぁ」
くすくす笑いながら言った。

全く、時々とんでもないことするよなぁ。
気をつけないと、どこにカメラ構えた人がいるかわからないんだから。
72 名前:6.待ち伏せ 投稿日:2002年01月10日(木)21時18分47秒
「でも、矢口も裕ちゃんに会いたかった…」
ぽふっと彼女の胸に寄っかかる。
「裕ちゃんのとこ、行こうかなって思ったけど、帰ってるかわかんなかったし、今更メールもしずらかったし。
今、すごい幸せ。ありがとね」

彼女の細い指が、私の髪を梳く。
「私も、こうしてられて幸せや」

私たちは、しばらくそのままでいた。

世界でいちばん、居心地のいい場所。私は今、そこにいる。
73 名前:6.待ち伏せ 投稿日:2002年01月10日(木)21時20分03秒
「ほな、そろそろ帰るわ」

唐突に彼女は言った。私は名残惜しそうに彼女から離れる。

「うん。それじゃ、裕ちゃん。おやすみ。会えて、よかった」
「わざわざこっち来てまで待ってたかいがあったな。私も、矢口の顔見たら、1日の疲れもイヤなことも吹き飛ぶわ。またな」

彼女は手を振った。タクシーでも拾って帰るつもりだろうか。
74 名前:6.待ち伏せ 投稿日:2002年01月10日(木)21時22分08秒
彼女の背中を見つめてると、歩き始めた彼女はふと立ち止まり、振り返ってこっちに戻ってきた。

「おやすみ、矢口。愛してるで」

そう言うと、彼女はかがんで私の唇にそっとキスした。
唇が触れるだけの、軽いキス。

そして、そのまま歩き去ろうとする。
思わず、自分のアゴに触れてた彼女の手をつかんで引き止めた。

「裕ちゃんっ」

彼女は、ん?と振り向いて私を見下ろした。
「矢口も、裕ちゃんのこと、愛してるよ」
言うと同時に手を離した。

彼女は笑ってそれに頷き、再び歩き出した。カツカツとショートブーツの足音を響かせて。
75 名前:6.待ち伏せ 投稿日:2002年01月10日(木)21時23分42秒
彼女の姿が見えなくなるまで、私はその後ろ姿を見ていた。

…悪い1日じゃなかったな。

このたった数分の出来事で、そう思える自分が何だかうれしかった。

「ただいま〜」
心なしか、声が明るい。当たり前か。彼女と会えたんだから。

お母さんの話だと、彼女はどうやら40分ほど待ってたようだ。
私に、彼女を屋外で40分も待たせるだけの価値があるかは疑問だが、彼女は待ってくれた。

それは、紛れもない事実。
そして、彼女のコトバも。
76 名前:K 投稿日:2002年01月10日(木)21時28分50秒
勢いでまだ更新します(笑)

今まで裕ちゃん側から書くことはなかったけど、ここでちょっとだけ挑戦。
『待ち伏せ』の裕ちゃん視点です。
77 名前:7.待ち伏せ〜中澤裕子〜 投稿日:2002年01月10日(木)21時38分51秒
お酒を飲むのは嫌いやない…どころか、かなり好きである。
いつもなら酒に飲まれるくらいに酔ってしまうことも珍しくないが、今日はそんな気にもなれへんかった。
飲みに行くことが決まった時点でメールを送ったのに、結局あの娘からの返事は来なかった。

やっぱり、怒ってるんやろか…。
しゃーないやん、こっちも仕事の一環なんやし。はぁ…。

でも、あの娘の膨れた顔を思い浮かべると、思わず口元が緩む。
かわええなぁ、ほんまに。

よし。思いたったら、即、行動や。
今日はさっさと帰らせてもらお。
78 名前:7.待ち伏せ〜中澤裕子〜 投稿日:2002年01月10日(木)21時45分11秒
「申し訳ないんですけど、今夜はちょっと用事があって。ここで帰らせてもらおうかと…」

あちこちで、あれっ、中澤さん帰っちゃうの?という声が上がり、私はすみませんすみませんと頭を下げる。
幸いなことに、私の“用事”について突っ込んで尋ねる人もいなかった。
それに感謝して、私はそれじゃ、と店を出る。

タクシーを拾って、住所を告げる。

早く、会いたい。一目でいいから。


79 名前:7.待ち伏せ〜中澤裕子〜 投稿日:2002年01月10日(木)21時48分04秒
道路が空いてたのか。思ってたよりもかなり早く着いた。
静かな住宅地。料金を払ってタクシーを降り、ある家の前に立つ。

もう、帰ってるやろか。
ちょっとドキドキしながら、チャイムを押す。

ピンポーン。

“はい。”

女性のやわらかい声。お母さんか。

「あの、中澤と申しますが、真里さんはいらっしゃいますか」

“中澤さんって、裕子さんですか?”

「はい」

“………”

あれ、返事ないやん。疑われてるんやろか。
80 名前:7.待ち伏せ〜中澤裕子〜 投稿日:2002年01月10日(木)21時50分13秒
すぐに、玄関のドアが開いて、優しそうな女性が顔をのぞかせた。
私は目深にかぶっていた帽子を取り、軽く頭を下げる。

「あの、まだ帰ってきてないんですよ。どうぞ、あがってお待ち下さい」
明らかにほっとした表情を浮かべ、さあ、とドアを開けてくれる。

どうしようか。いつ、帰るかわからへんし…。

「いえ、結構です。たいした用事があった訳ではないので。夜分遅く、失礼しました」
もう一度、ちょっと深めに頭を下げた。

「そうですか。それでは、訪ねてらしたことを伝えておきますね。お仕事、がんばって下さい」
にっこりと微笑んだその顔は、やっぱりあの娘にどこか似ていた。

とりあえず、玄関に背を向けて歩き出した。
すぐに、ガチャリとドアの閉まる音が聞こえる。
そこで、私は歩みを止めた。

さて、待つかな。10時7分。
はよ帰ってこんかなぁ。
81 名前:7.待ち伏せ〜中澤裕子〜 投稿日:2002年01月10日(木)21時51分38秒
10分、20分と時間が経つ。
全くと言っていいほど人が通らない。たまに、車が通るくらいだ。
こんなとこに立ってたら怪しまれるなぁ。まだ帰ってこんのかなぁ。
仕事が長引いてんのか、誰かとどっか寄ってんのか…。

30分以上経ち、そろそろ10時45分になろうかという頃、ようやく帰ってきた。

愛しいあの娘が。
82 名前:7.待ち伏せ〜中澤裕子〜 投稿日:2002年01月10日(木)21時53分01秒
街灯の下を通るたびに、小柄なあの娘の姿が浮かび上がる。

驚きの表情が読み取れた。ここからでも。
まあ、ちょっとくらいは驚いてくれへんと、こっちもがんばったかいがないし。

「お帰りぃ」

声を、かけてみた。

まだ、驚いてるんか。目を見開いてる。
「どうしたん?そんなに驚かせたか?」

もっともっと、驚かせたいと思う。かわいすぎて、たまらない。
83 名前:7.待ち伏せ〜中澤裕子〜 投稿日:2002年01月10日(木)21時56分41秒
「何で、ここに…」
「そんなぁ、決まってるやん。矢口に会いたかったからや。今日はごめんな。
飲みの方も早めに切り上げて、こっち来たんや。帰ってるかどうかわからんかったから、
1回チャイム鳴らして矢口のお母さんと話したんや。まだ帰ってないって言うから、待ってよかなと」

矢口は私の手にそっと触れてきた。あったかい…。

「そんな、中で待っててもらってよかったのに。ごめんね。お母さん気が利かなくて」
そういって、両手で私の手を包み込んでくれた。愛しさがこみ上げる。

「んなことあらへん。矢口のお母さん、あがってお待ちくださいって言うてくれたんや。
でも、特別に用事があったワケやないし、アンタの顔を見たかっただけやし。
家の前で待ってたなんて知ったら、驚くやろなぁ」

この呆れ顔さえも愛しくてしょうがない。
84 名前:7.待ち伏せ〜中澤裕子〜 投稿日:2002年01月10日(木)21時58分46秒
もう、側を離れていたくない。悲しませたくない。

「でも、私も裕ちゃんに会いたかった」
そのコトバだけで、今度は私が驚く番やった。その上、矢口は私の胸にもたれてきた。
「裕ちゃんのとこ、行こうかなって思ったけど、帰ってるかわかんなかったし、今更メールもしずらかったし。
今、すごい幸せ。ありがとね」
愛しい、愛しい矢口。私は彼女の髪を梳きながら、改めて思った。

…待ってて、よかった。

「私も、こうしてられて幸せや」
私の本心。誰が何と言おうと、この娘と過ごす時間だけは失いたくない。絶対に。
85 名前:7.待ち伏せ〜中澤裕子〜 投稿日:2002年01月10日(木)22時00分06秒
「ほな、そろそろ帰るわ」

人気がないとは言え、この娘の家の前でいつまでも抱き合ってるのは憚られる。
時間も時間やし。

私から離れる時の、残念そうな顔がうれしかった。
「うん。それじゃ、裕ちゃん。おやすみ。会えて、よかった」
「待ってたかいがあったな。私も、矢口の顔見て、矢口に触れたら、1日の疲れもイヤなことも吹き飛ぶわ。またな」

矢口にばいばいと手を振り、背を向けて歩き出した。

視界に矢口がいないのが寂しかった。帰らなあかんってことはわかってるのに。

…もう一度だけ。あと少しだけ。
86 名前:7.待ち伏せ〜中澤裕子〜 投稿日:2002年01月10日(木)22時04分16秒
私は足を止め、振り返って矢口の前まで戻った。
不思議そうな顔をしてる矢口のアゴに軽く指で触れる。

「おやすみ、矢口。愛してるで」

言い終わると同時に、矢口のやわらかい唇にキスした。そっと掠め取るように。
意を決して、また暗い夜道を歩き出そうとしたところ、アゴに触れてた手をつかまれ、引き戻された。

「裕ちゃんっ」

思わず向き直り、私を見上げるその顔を正面から見つめた。

「矢口も、裕ちゃんのこと、愛してるよ」

すぐに、私の手は解放された。矢口にしては、あまりにもストレートなそのコトバ。
ほんとに、待っててよかった。
私は心の底からの笑みを浮かべ、軽く頷いて、今度こそという気持ちで歩き出した。

今度振り返ったら、周りなんて気にせず、無理やりキスして私のものにしてしまいそうやった。

…タクシーが通らない。でも、もう少し夜風に当たって歩いてるのもいいかもしれへん。
87 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月11日(金)04時52分37秒
スゴイ!!感動。
こんなやぐちゅ−スレがあったとは・・・気が付きませんで(w
これからずっとROMさせてもらいます(w
88 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月12日(土)19時52分28秒
やぐちゅーいい!!
どんどん読めちゃいますね。
これからもがんばってください。
89 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月13日(日)14時44分45秒
待ち伏せ裕ちゃんいいよ。
やぐちゅーマンセイ!!(w
90 名前:K 投稿日:2002年01月14日(月)23時21分59秒
>>87 名無し読者さん
こんな拙い文章ですが、1人でも多くの人の目に触れればと思って書いてます。
気づいてもらえただけでうれしいです。
レスありがとうございます。

>>88 名無し読者さん
>やぐちゅーいい!!
そうですね。やぐちゅーはとにかく好きです。
期待に添えられるかはわからないですけど、がんばって書いていきます。

>>89 名無し読者さん
裕ちゃんって、こういうふうにさらっとカッコいいことをして、それがまた似合いそう…。
私の中ではそんなイメージが。


それでは「ギンザの恋」も終わったところで、更新します。
91 名前:8.気づいて欲しいのに… 投稿日:2002年01月14日(月)23時31分56秒
家の前で彼女に待ち伏せされた夜から、すでに1週間以上経過していた。
お互い仕事も忙しく、メールや電話も数えるほどしかできなくて。

でも。
今日はまちに待ったハロモニの収録日。
朝からうれしくてうれしくてしょうがない。


「おはよ〜!!」
いつもと同じように、元気よく楽屋に入った。

「あ、おはよう矢口」
「おはようございます、矢口さん」
すでに来ていたみんなが、それぞれあいさつを返してくれる。
楽屋を見渡すと、もうほとんど来ていた。私はどうやら遅い方だったみたい。

なっちと圭織と圭ちゃんが固まって、何かを熱心に見ながら騒いでる。
ん〜、何を見てるんだろう。

92 名前:8.気づいて欲しいのに… 投稿日:2002年01月14日(月)23時35分14秒
「ねえ、何何何?何か面白いもの見てるの?」
「あぁ、矢口も一緒に見ようよ。…じゃあ〜ん。裕ちゃんの写真集っ!」
圭織が、表紙をばっと掲げて見せて、教えてくれた。

写真集…。
彼女のソロ写真集か。

発売することは知ってたけど、そうか、もうできあがったんだ。

表紙。
肩の出てるピンクの服を着て、俯きがちに視線を伏せている。
ネイルも、服に合わせたかのように淡いピンク色で統一されている。
腕には金の細いブレスレットをつけ、それが絶妙のアクセントになっていた。

きれい…。

「うん。見たい」

魅惑的な彼女の姿につられて、私もその輪の中に入った。
93 名前:8.気づいて欲しいのに… 投稿日:2002年01月14日(月)23時52分01秒
なっちたちは、私のために、また最初のページから見ていってくれた。

ワンピースやジーンズのようなカジュアルなものから、背中が開いたりスリットが入ってるような、
思わずドキッとさせられるショットまで、数多くが載っていた。

「裕ちゃん、きれいだね…」
最後のページを閉じて、つぶやいた。

「ほんとだねぇ。何か裕ちゃんに見えないのもいくつかあったべ」
なっちがうんうんと頷いてる。

「裕ちゃんってさ、うちらといる時はやっぱり無理してたのかなぁ」
何とはナシに、圭織が言う。

「歌の衣装とかは絶対してたよね。私もツライなぁというのあるし。矢口もそうじゃない?ミニモニ。とかは」
圭ちゃんの問いに、しばらく気づかなかった。再び、彼女の写真集を見ていたから。

「あ、あぁ、ミニモニ。ね。あれはさすがに矢口でも無理してたよ。しょうがないとは思うけどね」

「な〜に、矢口。また見てんの?」
写真集から目を上げない私に気づいて、圭織が覗き込んできた。
94 名前:8.気づいて欲しいのに… 投稿日:2002年01月14日(月)23時53分33秒
「いいじゃん。圭織は矢口が来る前から見てたでしょ」
「じゃ、圭織ももっかい見ようかな。矢口、見せて」
「うん。いいよ」
隣に座って、2人で一緒に見始めた。

本当は、誰もいない静かなところで見たかった。
これって、もらえないのかな。

欲しい。

私の知らない彼女がいっぱいいる。2人の時でさえ見られない彼女が。
それが、悔しかった。
カメラマンやスタッフの人だけじゃなく、これを買った全国の彼女のファンが、目にすることができるなんて。
95 名前:8.気づいて欲しいのに… 投稿日:2002年01月14日(月)23時57分48秒
そんな時、廊下に足音が響いた。

もう収録時間になったのかな。

時刻を確かめる。
違う。まだだ。
ということは…。

「おはよーさん」

やっぱり。
ドアの向こうから現れたのは、今いちばん会いたくて止まない人だった。
彼女はすぐに私を見つけて、笑顔を見せる。

「裕ちゃん裕ちゃん。見て見て。『Yuko Nakazawa feather』だって」
すぐに、圭織がさっき私にやったみたいに表紙を掲げた。

それを見た途端、にこやかだった彼女の表情が驚きのそれへと変わった。
「えっ?何でアンタらがそれ見てんの。誰から渡されたん?」
「マネージャーさん」
「あぁ〜っ。恥ずかしいやん。見るな。もう回収やっ」
顔を赤くしながらも、彼女は圭織の手から写真集を取り上げる。
96 名前:8.気づいて欲しいのに… 投稿日:2002年01月14日(月)23時59分33秒
「裕ちゃん」
私は座ったままで、横に立ってる彼女の服の裾を、くいっと引っぱった。

「何や?」

「それ、欲しい。ちょーだい」

彼女は、一瞬、私の言ってることがわからなかったみたいだ。

「それ、ちょーだい」
もう1回、言う。

「何、言うてんの」
「だ〜か〜ら、その写真集、ちょーだい。それとも、お店で買わなきゃダメ?」
「んなことあらへんけど…。何で?」
何でってことないじゃん。理由は1つしかないのに。

全く、鈍すぎる。欲しいって言ってるんだよ。
97 名前:8.気づいて欲しいのに… 投稿日:2002年01月15日(火)00時01分47秒
「いいよ。そんなに矢口にはあげたくないんだね。別にいいもん。もう、いらないから」
ぷいっと横を向いて立ち上がり、辻・加護とよっすぃーのところへ歩いて行った。

この前のことがあるから、よっすぃーとはうまくしゃべれるか不安だった。

「何してんの?」
彼女たちの輪の中に入っていくと、意外にもよっすぃーは私を歓迎してくれた。
少なくとも、表向きは歓迎してくれるように見えた。

「あ、矢口さん。辻のテスト見てるんです。もうすごい点数なんですよ」
「あ〜、よっすぃーやめて。矢口さんには見せちゃダメ〜」

辻が、よっすぃーの持っていたテスト用紙を取り戻そうとがんばったが、結果は見えている。
私はよっすぃーの手元を覗き込んだ。

「うわぁ。32点。これって100点満点だよね。ヤバすぎるよ、辻」
「そうですよね。私でさえ、中2の時にこんな点数とったことないですよ」
「だってよっすぃーは頭いいもんね。私もうらやましいくらい」
「そんなことないですよ〜」

答案用紙を2人で見ながら、私はしばらくよっすぃーと話してた。

少し離れたところにいる彼女にも、確実に聞こえる声で。
98 名前:8.気づいて欲しいのに… 投稿日:2002年01月15日(火)00時03分09秒
「じゃあ、行くわ。スタジオでな」

突然、耳に入った彼女の声。

そっちを向いた時には、彼女はもう部屋を出て行くところだった。
音をたてて、ドアが閉められる。

怒った…のかな。
99 名前:K 投稿日:2002年01月15日(火)00時08分24秒
もう1章、続けて更新します。

最初に話題が古いかもってことを書いたけど、今、写真集と言えば矢口でしょう。
ようやくってカンジですね。
もちろん私は買うつもりでいますが(笑)

すみません。余談でした。
100 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時10分22秒
救いを求めるかのように、思わず、圭ちゃんを見た。
すると、圭ちゃんは、そっとドアを指さす。

追いかけろってこと?
ちょっと首をかしげると、圭ちゃんは再びドアを指さすだけだ。

とにかく、いても立ってもいられず、私は彼女を追いかけようとした。

「ごめん。あとでね」
辻の答案用紙をよっすぃーに渡し、私は廊下へ。
101 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時12分25秒
勢いよくドアを開け、彼女の楽屋の方へ行こうとしたら私の目に、彼女が映った。
壁に寄りかかり、腕を組んで。
まるで、私が来るのがわかっていたかのように。
いや、わかってたんだろう。

「血相変えて、どうしたん?」
ニヤニヤと笑いながら、彼女が聞いた。

からかわれたんだ。
「…何でもない」
部屋に戻ろうときびすを返したら、腕をつかまれる。

「私ンとこに来ようと思ったんやろ。おいで」
彼女は、私を連れて、自分の楽屋へ入ろうとする。
102 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時14分14秒
「そんなことないもん…。ジュースでも、買いに行こうと思っただけだもん」
腕をつかんでいた彼女の手を振り払い、咄嗟に言い訳した。
私の行動が見破られてるとわかって、すごく悔しかった。
自分1人があたふたしてるみたいで。

「そうなん?ジュースなら、楽屋にペットボトルがあったと思うんやけど」
「…矢口が欲しいのがなかったんだもん」

バレてるのは明らかなのに、私は彼女を追いかけてきたという事実を認めない。

「ふ〜ん。だって、今、私の顔見たら、中に戻ろうとしたやん」
意地悪そうな声が、上から降ってくる。

「………」

何も言い返せず、私は、俯いたまま黙って立ち尽くしていた。
彼女を振り切って、部屋に戻ることはできたハズなのに。
103 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時17分37秒
そのまま、1分くらい経っただろか、突然、再び彼女に腕をつかまれ、今度は強引に彼女の楽屋へと連れ込まれた。
彼女は私の腕をつかんだままドアを開け、まさに押し込むというカンジで私の背中を押し、自分は後から入ってくる。

「何…するんだよぉ」
ドアがバタンと閉じられてから、私は振り向いて抗議する。

彼女は無言だった。
その沈黙が、何だか怖かった。
そして無言のまま、私に近づいてくる。

恐怖を感じた私は、彼女の顔から目を背けられずにいながらも、じりじりと後退した。

「な、何、裕ちゃん。どうしたの。怖いよ。何か言ってよ」

背中に壁が当たる。
もう、後がない。
彼女の歩みも止まらない。

怖い…!
104 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時21分29秒
彼女は両手を私の首筋に這わせる。
一瞬、首を絞められるかと思った。
なのに、恐怖からか声が出ない。

その視線が痛いほどに突き刺さる。
いつも見つめてて欲しいと思った人の視線なのに…。

次の瞬間、彼女は私の顔をぐいっと上向かせ、強引に唇を重ねてきた。

「やっ。ふぅ…。んんっ…」

舌が、歯列をなぞるように動く。
私の口の中を蹂躙する。

相手の意志なんか関係ないかのようなその行動は、私を怯えさせるだけだった。
105 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時24分26秒
ガリッ。

この状態から逃れたくて、思わず、彼女の舌を噛んだ。
「つぅ…」
彼女はかがめいた体を起こして、口元を押さえる。

「何で…。裕ちゃん、こんなこと…、するの…?怖いよぉ…」
いつの間にか、私の頬には涙が伝っていた。

「矢口…」
ようやく、しゃべった。

「私は、矢口が思うほどオトナやないねん…」
「何、言ってるか、わかんないよ…。裕ちゃん、怖いんだもん…」
涙が、止まらない。
私はそんなに涙もろい人間じゃないのに。
これじゃ、いつもの彼女みたいだ。

「矢口…。泣かないで。ごめん…。もう、しないから。ごめんな。泣き止んでや」
先ほどの気色ばんだ様子は消え、彼女の普段の優しさが戻り始めたようだった。
106 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時27分52秒
彼女が手を伸ばして私を抱こうとする。
まだ恐怖が完全に消えてない私は、一瞬、身を強ばらせた。

「もう、絶対に怖がらせたりしないから…」
伸ばされた腕は、そっと私の肩を抱き、背中に回される。

「裕ちゃん…」
彼女の服が濡れるのもかまわず、私はその胸で泣いた。
背中をさすってくれる腕は、数分前の行動が信じられないほど優しくて。

「ひっく…。何で、しゃべってくれなかったの?矢口、やだって言ったのに、何で、聞いてくれなかったの…?」
顔を上げると、彼女は困ったような顔をして、私を見ていた。
「何でかって?」
「うん。…だって、矢口、あんなのイヤだったのに…。急に、態度変わっちゃうし。怖かったよ…」
彼女はちょっと笑った。いや、苦笑いというカンジか。
107 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時30分35秒
「さっき、言ったやん。私はまだまだコドモなんやって」
「だから、それってどーいうこと?」

彼女は私の手を引いて、部屋にある椅子に座らせた。
彼女も、私の隣に座る。

「矢口は、嫉妬したこととかないんかなぁ…」
誰に言うとでもなく、彼女はつぶやいた。

「…あるよ」

彼女の驚いた顔が、こちらを向く。
「えっ。ほんまに?」

「だって、矢口、裕ちゃんが矢口の知らないところで仕事するのイヤだよ。
矢口はいつも裕ちゃんの側にいたい。裕ちゃんの笑顔は、矢口だけのものにしたい。
…こんなの、自分でも変だと思うけど、今この瞬間、裕ちゃんが、矢口じゃない
別の人に笑いかけてるのかと思ったりすると、何か、胸が苦しくなったりする。
矢口は、裕ちゃんを、独占したい」

彼女は、何も言ってこなかった。
108 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時32分23秒
正直に言ったけど、やっぱりこーいうのはイヤなのかな。
言わなきゃ、よかったのかな…。

束縛されるのとか、嫌いそうな人だもんなぁ…。

でも、そんな私の不安は、すぐに解消された。
109 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時34分05秒
「矢口ぃ。私はもうずっとアンタのもんやから、安心していいで。裕ちゃんは、矢口が大好きなんやから。
矢口以上に大切な人はいないって言うたやろ」

「うん…。わかった」

「それじゃあな、もう1つ言っておくわ。矢口が、私が他の人と仕事するのをよく思わないのと同じで、
私やって矢口が他の奴にベタベタするのを見るのは、いい気分じゃないんや。さっきみたいに、
私の側にいたのに、突然吉澤のとこに行って、これみよがしに楽しそうにしゃべるのは。
あン時な、みんなの前で無理やりアンタを吉澤から引き離してやりたかったんやよ」

ちょっと拗ねたように言う彼女は、彼女自身が言った通り、どこかコドモの顔をしていた。

「それ、怖いよ…」

「…実際にはやらんかったやろ」
110 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時35分50秒
「その代わり、私に暴力的だったじゃん」

「ぼ、暴力的なんて言わんでも…。…や、さっきのは謝るって。私に愛されたんが不幸の始まりやと思って、覚悟しぃや」

照れているのか、ぶっきらぼうに言い放ったそのコトバが、何だかすごくうれしかった。
私は彼女の手に自分の手を重ね、握りしめる。

「…不幸なんかじゃないよ。裕ちゃんに愛されてるなら、矢口は世界でいちばんの幸せ者だよ。
裕ちゃんも、矢口に愛されたら幸せでしょ?」

彼女の顔が、ふっと綻んだ。
「…当たり前やん。わざわざ聞くまでもないやろ」
111 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時37分02秒
「じゃあさ、矢口だってコドモなんだから、急に楽屋を出てったり、訳わかんないこと、しないでよ」

「そんなん、矢口が急に吉澤のとこ行って、いちゃついたからやん」

「それは、裕ちゃんがあの写真集をくれないからだよ。欲しいって言ったのにぃ…」

何か、痴話げんかみたいになってきた。

「それは…」
彼女はそれ以上何も言わない。

「矢口には見せたくなかったの?あげたくなかったの?」
ちょっぴり、口調がキツくなる。
あれは、マジで欲しいと思った。
あんな彼女の顔、もっと見ていたいと思った。
112 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時39分58秒
「違うんや…。恥ずかしいって気持ちがあったのは確かやけど、矢口にはちゃんと私から渡したかったんや。
…ちょっと待っててな」
そう言って彼女は立ち上がると、自分の黒いバッグの中から、薄青のペーパーで包まれたものを取り出した。

「ほら」
とそれを私に差し出す。

「え…、それじゃ、これって…」
私はびりびりと紙を破き、はやる気持ちを抑えて、中身を取り出した。


『Yuko Nakazawa feather』


「自分の写真集をあげるって、すごい変な気がして。いらないとか言われたらどうしようとか思ったし。
だから、さっき欲しいって言ってくれたのには、驚いたのも確かやけど、それ以上にうれしかったんや。
でも、やっぱり私が矢口のためにって思ってたやつをあげたくてな。意地張って、ごめんな。これ、もらってくれるか?」
113 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時41分26秒
言葉が出なかった。
うれしすぎて。
ぼーっと写真集を見つめていた。

「大事にするよ、裕ちゃん。ありがとう」
ようやく写真集から目を上げて、彼女に答えた。

彼女は今度こそ、満面の笑みを浮かべてくれた。
「よかった」
たふたふと私の頭を撫でて。
114 名前:9.オトナとコドモ 投稿日:2002年01月15日(火)00時42分27秒
「じゃ、そろそろスタジオ行くか?たまには呼ばれる前に行くのもいいやろ」
立ち上がって、ドアへ向かう。

「裕ちゃん」

「何や?」

「矢口、この写真集、すごく好きだし、すごく大事にするけど、裕ちゃん本人がいちばんいいんだからね。
裕ちゃん自身がいつも矢口の側にいてくれなきゃ、イヤだよ」

「まかしとき」

そう言った彼女の笑顔を、胸に刻みつける。
115 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月17日(木)01時01分34秒
毎日チェックしてます。(w
ここのやぐちゅーがツボです。
今日アイさがDVD偶然でてたので・・・購入して家でみたら・・・
やぐちゅーティストいっぱいでよかったです。
116 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月17日(木)01時56分43秒
作者さんの書く小説中毒患者です・・・
そろそろ・・・更新を・・・ヤクがきれます。(w
117 名前:K 投稿日:2002年01月17日(木)02時08分06秒
>>115 名無し読者さん
レスありがとうございます。
アイさが!DVD買ったんですね。しかも、偶然見つけたって…。
発売日は一応17日なんですよ(^^;
私はすごく待ち遠しく思ってて、ようやくというカンジで今日買いました。
感想は…同じです(笑)


では、更新します。
次の話の元ネタは、3〜4ヵ月前のハロモニです。
…わかるかなぁ。ちょっと心配です。

あと、前回更新時はsageてましたが、気まぐれでやったことなんで、今回は普通にageていきます。
118 名前:K 投稿日:2002年01月17日(木)02時11分56秒
>>116 名無し読者さん
書き込んだらageてあったのでちょっと驚きました(笑)
お待たせしてすみません。
レスありがとうございます。

上に書いた通りです。更新しますね。
119 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時16分11秒
「あ〜、今回のハロモニ最悪っ。どうして矢口の時にゴキブリ出すかなぁ。どうせなら、他の人の時にしてくれればいいのに…。
それなら、笑って見てられたのにぃ」
ぶつぶつと、文句を言いながらスタジオを後にして楽屋へ向かう。

「ほんとだよね。ゴキブリ好きな人でもいる…ハズないよねぇ。でもさ、矢口は確かに面白かった。
スタッフもゴキブリを出したかいがあったと思ってるんじゃない?また出るね、きっと」
やっぱり圭ちゃんは冷めてるなぁ。言うことが。

「そんな。圭ちゃんだってぶどうにあれだけ騒いでたじゃん。座り込んで『帰りたい…』とか言ってたクセに」
「そ、それは…」
120 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時17分52秒
へへっ。勝ったぞ。

「でも、矢口みたいに絶叫しなかったし、裕ちゃんに助けを求めたりしなかったもんね」

うっ…。

「それを言われてしまうとツライ…」

そう。アイマスクを使った今日のゲームでは、見えない恐怖と周りの(特になっちの)声から、かなりパニくった。
圭ちゃんに抱えられながら、「裕ちゃん、もうイヤ…」と叫んだらしい。

実は、そんなこと言ったていうのは覚えてないんだけど…。
みんなの話によると、相当なものだったみたい。
少しだけVTRを見せてもらったけど、うん、否定はできないな。

確かに、私もなっちも絶叫しまくったけど、極めつけはやっぱり…。
121 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時20分03秒
「でもさぁ、やっぱ裕ちゃんだよね」
圭ちゃんが言う。一瞬、何のことだかわからなかった。

「え?」

「いや、ほら、なっちも矢口もみんな騒いだけど、ゴキブリ投げつけられた裕ちゃんも見ものだったねってこと。
散々ウチらのこと笑っててさ」
「ほんとだね。私も思った。…でも、何かかわいかったよね、裕ちゃん」
「あ、矢口もそう思った?私もさ、涙目になった裕ちゃん見て、やっぱかわいいなぁとか思っちゃったんだ」
圭ちゃんは妙に満足そうにうんうんと頷いてる。
122 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時23分42秒
ふ〜ん、圭ちゃんってそんなこと考えるんだ。何か意外。

「ねえ、圭ちゃんって、裕ちゃんのこと好きとか思ってる?」
ちょっと、気になった。

「え?好きだけど…。ああ、別に気にしないで。矢口のそういう好きとは違うから」
特に焦ったりする様子もなく、普通に正直な気持ちを話したというカンジだ。

気のせい…だよなぁ。圭ちゃんは私の気持ちも彼女の気持ちも知ってる人だし…。
いや、でも…。
う〜ん。

考え込むと止まらない私だけど、それは直後に聞こえた悲鳴によって遮られた。

「きゃぁぁぁ〜っ!!!」

彼女の、悲鳴。
123 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時25分06秒
楽屋の方からだ。

気づくと同時に、隣にいた圭ちゃんがいち早く走り出していた。
急いで私も後を追い、彼女の楽屋の前まで来た。

彼女は廊下にうずくまり、顔を覆って…泣いている。
圭ちゃんが、その横で優しく彼女の肩を抱いていた。

「大丈夫だって、裕ちゃん。あれ、おもちゃだよ。すぐ片付けるから、ちょっと待っててね」
まるで、幼い子供をあやすかのように。

開け放たれたドアから、彼女の楽屋の中を覗くと…。
うわっ。これじゃ、泣くわな。

先ほどの収録で使ったおもちゃのゴキブリが、至るところにあった。
まずは、ゲームで使ったように、紙に貼り付けてドアの上から吊るしてあるし、足元にも数匹。
おそらく彼女は部屋に入らなかったから気づかなかったと思うけど、テーブルと椅子の上にも少し。
124 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時28分49秒
彼女の悲鳴を聞きつけて、メンバーだけでなく、スタッフも数人集まってきた。

「今から片付けるね。すぐだから」
彼女の肩を抱いていた圭ちゃんは、そう言って立ち上がりかけた。

でも、彼女がそれを許さなかった。
圭ちゃんの手をつかみ、涙のたまった目で圭ちゃんを見上げて言う。
「やだ…。圭ちゃん。もうちょっといて。他の人に片付けてもらえば、いいから」

「裕ちゃん…」
驚いた表情をした圭ちゃんだったけど、あんな頼まれ方をして断る人は、いない。
思った通り、圭ちゃんは再び裕ちゃんの側に膝をつき、手を握った。

「加護と辻は?多分、あの子たちでしょ。片付けさせて」
圭ちゃんは、周りを見回しながら言った。
125 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時31分45秒
そして、私と目が合った。

圭ちゃんの顔が、ちょっと変わった。

「さ、裕ちゃん。立って。ウチらの部屋に行く?連れてくよ?」
彼女は弱々しく頷いて、圭ちゃんに支えられながら、ゆっくりと立ち上がった。

「矢口、手、貸して。そっちについてあげて」
私は少し複雑な気持ちを抱えながらも、圭ちゃんの言う通りに彼女の左側につき、腕を支えた。

「大丈夫?裕ちゃん…」
そっと、声をかけてみた。

「ああ、矢口ぃ。怖かった…。ドア開けたら、アレがいっぱいいるんや。さっきの矢口を笑ったバツかなぁ…」

だいぶ、落ち着いてたみたいだった。
126 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時33分20秒
私と圭ちゃんは、彼女を支えながらモーニングの控え室に入り、そっと椅子に座らせた。

「裕ちゃん、何かあったかいものでも飲む?買ってくるよ」
圭ちゃんが、彼女の顔をのぞき込んで、問う。

「あ、ありがとな。んじゃ、あったかいコーヒーが飲みたい」
「おっけ。ちょっと待っててね」

そう言うと、圭ちゃんは自分のバッグから財布を取り出して廊下へ出ようとしたけど、ドアの前で思い出したかのように振り返り、私を見た。

「矢口、ちゃんとついててあげなよ」
言うだけ言うと、私の答えを待たずに、出て行った。

「何や、あれ。わざわざあんなこと言わへんでも、矢口はついててくれるやろ?な?」
もう、いつもの彼女だった。笑いながら、話してる。
127 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時35分02秒
「当ったり前じゃん。でも、やっぱ圭ちゃんはしっかりしてるねぇ。裕ちゃんの悲鳴を聞いた時の、圭ちゃんの行動は速かったし。
今も、すごく裕ちゃんを気遣ってたし」

「あ、そうなん?なぁんだ。矢口の私への愛はその程度か。裕ちゃん悲しいなぁ。こうなったら圭ちゃんに浮気でもしよか」
冗談で言ってるんだと信じたいけど、私は信じ切れなかった。

何でだろう。
年齢の差?
それとも、何となく気づいた圭ちゃんの気持ちか…?

「あれ?何ブルーになってんの、矢口。まさか本気にしたんやないやろ」
「そんなことしたら、裕ちゃんのこと大っ嫌いになるからね。絶対だよ」
彼女は、圭ちゃんの気持ちを知ってるんだろうか。

圭ちゃんは、彼女のことを想ってる。絶対に。

「んなことせえへんって。何や、私も信用ないなぁ。ちょっとショックやわぁ」
からからと笑っている。
128 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時37分42秒
本当だろうか。
彼女にその気がなくても、もし、圭ちゃんに迫られたら、彼女はきっと拒めない気がする。
それは、相手を傷つけまいとする優しさからか。

でも、そんなこと、絶対、許さない。
圭ちゃんに限らず、相手は誰であっても。

彼女のことも、許さない。
129 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時38分25秒
「なあ、ちょっとした冗談やで?裕ちゃんには矢口しかおらんから。なあ。聞いとんの?」

気づいたら、目の前に彼女のきれいな顔があった。

「うん。聞いてた…。約束、だよ」

「ああ。約束や」

彼女の笑顔が、眩しい。
彼女の髪が、ふんわりと匂う。
華奢な彼女の手が、私の頬をさらっと撫でる。


約束の、印だ。
130 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時40分18秒
お願いだから、もうこれ以上、私自身に自分の醜い部分を自覚させないで欲しい。

彼女の言動がこんなにも私を不安にさせる。

そして、こんなにも嫉妬深くさせる。

お願いだから…。


ねえ、私たちは、愛し合ってるんだよね?
131 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時45分18秒
数分後、缶コーヒーを持った圭ちゃんが戻ってきた。

「はい、裕ちゃん。ちょっと熱いから気をつけてね」
「ああ。ありがとな。これ圭ちゃんの奢りか?」
「もちろん。そんな缶コーヒーくらい、気にしないでよ」
「全然しとらんよ。一応、聞いただけや」
「あっそ。ま、そうだと思ったけど」

ちょっぴりつまらなそうに圭ちゃんは答え、バッグに財布をしまってなっちと圭織の方へ行きかける。

そんな圭ちゃんを、彼女が呼び止めた。
「圭ちゃん」

「何?」

彼女は、缶コーヒーを目の前で小さく振り、にっこり笑って言った。
「ほんまに、ありがと。圭ちゃんがいてくれてよかったわ」

「どう致しまして」

さらっと受け答えた圭ちゃんが、何だかすてきだった。
自分とは違うな、と。
132 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時51分45秒
圭ちゃんがなっちたちのところへ行っても、彼女の視線はしばらく圭ちゃんを追っていた。

「………」

無言で、彼女の横顔を見つめる。
彼女は、すぐに気づいた。

「何や。まだ疑ってるんか?ちょっと圭ちゃんを見てただけやんか。そうカリカリしたらあかんって」
「でもぉ…」
上目使いで彼女を見る。

「そんなかわええ顔されたら、裕ちゃん叶わないって。少しは信用してくれへんかなぁ」
苦笑いして、彼女は答えた。

あぁ。何でそんな表情をするの?
困ったような、オトナの顔を。

「…うん。信じてる。矢口は、裕ちゃんが好きだよ」
133 名前:10.疑い 投稿日:2002年01月17日(木)02時56分17秒
心の底からの“信じてる”じゃなかった。

それに気づいてしまう自分がイヤだった。

何で、私はこんな人間になってしまったんだろう。

いつから、私はこんな人間になってしまったんだろう。

誰か、助けて…。

昔みたいに、無邪気に彼女とじゃれ合える自分が懐かしい。
134 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月17日(木)03時42分45秒
KU絡みのやぐちゅー・・・めっちゃ好きなんですけど・・・
オモチャのゴキブリに泣いた裕ちゃん・・・裕ちゃんには悪いけど私的のもビンゴでした。(w
あのシーンビデオで10回はみたような(w
やっぱり・・・数あるやぐちゅーの中でも作者さんとツボがにてるのかも(w
135 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月17日(木)15時41分27秒
ここの圭ちゃんせつない。(w
別の作者さんスレで保吉でKU絡み・・・いつも幸せになれない裕ちゃんってのもありますが・・・
ここは逆のようで(w

いつかヒマで書く気になったら・・・なっちゅー書いてもらえませんか?やぐなちゅーでもいいのですが
作者さんの描くなっちゅーが読んでみたくなったのです。書く気になったらでいいので・・・是非お願いします。
アイさがDVDでやぐちゅー&なっちゅーにやられた読者でした。


136 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月17日(木)15時49分24秒
姐さんの辻加護逆襲がみてみたい(w
で・・・さらに姐さんのほうが辻加護にやられたりして。
137 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月19日(土)03時14分21秒
このスレたまんない!!
138 名前:K 投稿日:2002年01月20日(日)01時28分32秒
>>134 名無し読者さん
泣き虫な裕ちゃんは大好きです。
あの時は、はっきり言ってかわいすぎでした。
その後、逆ギレしてたのもツボでしたが…。

>>135 名無し読者さん
多分、135さんが言ってる作品、私も読んでます。
登場人物たちの微妙に揺れ動く心の内が、上手く描かれているなぁと感心しながら。
え〜と、なっちゅーについてですが、これが終わった後に載せようかと考えている短編が3つほど…。
その中の1つがなっちゅーなので、気長に待っていただければと。

>>136 名無し読者さん
考えてはみますが、ちょっとどうかなぁ…というカンジです。
もしかしたらリクに答えられないままになるかもしれません。
すみません。

>>137 名無し読者さん
レスありがとうございます。
これからも暇つぶし程度にでも読んでいって下さい。
139 名前:11.本当の気持ち 投稿日:2002年01月20日(日)01時47分33秒
その日、午後からの仕事で雑誌のインタビューと写真撮影が終わってからケータイをチェックすると、思わぬ人からのメールが来ていた。
今日はゴキブリいたずら騒ぎの後、他局で収録だって言って、早々に出て行ったけど…。

『今夜はヒマ?ヒマやったら、裕ちゃんとデートせえへん?…と言っても、一緒に飲もうってだけやけど』

う〜ん。デートって言うからには、2人で飲むってことだろうなぁ。
アイツはほっといていいのかなぁ。
そう思いながら、あいかわらずうるさい矢口の姿を探した。

ちょっかい出されて加護と辻を叱ってる…みたいだけど、遊ばれてるんじゃないか、あれは…?

あのいたずらの張本人も、予想に違わず2人だったワケだけど。
移動前の彼女から、ひと通りカミナリは落とされてたが、そんなものにめげる様子も気落ちする態度も見られず…。
まぁ、今回のは度が過ぎたってことで落ち着いたか。
140 名前:11.本当の気持ち 投稿日:2002年01月20日(日)01時49分15秒
…さて、このメールには何て返事をしようか。

彼女と話しをするのは大好きだ。

ただ、この前のこともあるしな…。
彼女は、この様子じゃ全然気にしてないみたいだし。
私の理性を失わせるようなことはしないで欲しいんだけど。

問題は、もし今夜彼女と会ったことが矢口にバレたら…。
冗談抜きに怖いかも。

『ぜひって言いたいとこだけど、矢口はいいの?』

返事を送ったはいいけど、彼女も忙しいからな。
返事はアテにしてないでおこう。

ところが、10分も経たずに返事が来た。

『それなんやけど、矢口のことをちょっと相談したくてな。別に、無理せんでええよ』

そう言われるとなぁ。
私の気持ちとしては、彼女に会いたい方が優ってるし。
141 名前:11.本当の気持ち 投稿日:2002年01月20日(日)01時51分33秒
ま、会う前から矢口にバレることを心配しててもしょうがないか。
よし、会おう。何より、会いたい。

『無理なんかするハズないじゃん。いいよ。デートしよ。どこで?』

『そりゃ、私かアンタの部屋やろ。この前は圭ちゃんのとこやったから、今夜はウチにおいで。おみやげ大歓迎』

うわっ。部屋に誘われちゃった。
って、何を1人で興奮してるんだろ。
どうせ、私は相談相手にしかなれないって、この前はっきり突きつけられたばっかじゃん。

彼女は、私の気持ちをわかってて、こういうことするのかな。
それって、かなり酷いよね。
ん〜、こういうことに関してはすごく鈍い人だから、ほんとにわかってないのかもしれないけど。
142 名前:11.本当の気持ち 投稿日:2002年01月20日(日)01時52分48秒
私は、彼女に従順な犬じゃない。
時々は歯向かいたくなるし、飼い主の手を噛みたくなる時もある。

でも、彼女が好きで好きでたまらない。

矢口みたいな好きとどう違うとか、そういうことははっきり言えないし、自分でもわかってないけど、見てみたいとか思ってしまう。
いろんな彼女の姿を。
乱れる、その表情を。

乱れさせたい、私の手で。
143 名前:11.本当の気持ち 投稿日:2002年01月20日(日)01時54分57秒
………知らなかった。
私って、こんな人間だったんだ。
でも、私をそうさせたのは、彼女だから。

今夜は、うれしい反面、またツライ夜になるのかな。
あんまり飲ませないうちに帰っちゃおうか。

いや、無理そう…。
彼女を目の前にした私は、きっと暴走してしまう。


お願いだから、あんまり私を欲情させないでよ、裕ちゃん。
144 名前:11.本当の気持ち 投稿日:2002年01月20日(日)01時56分41秒
「あっ、メールだっ」

浜崎あゆみの着メロが聞こえると、矢口の弾んだ声が楽屋に響いた。
うれしさを隠そうともせず、自分のバッグへと飛びつく。

多分、彼女からの…。
この後の矢口の反応がわかるだけに、何だかこの場を離れたくなった。
でも、あまり変な行動をとると、矢口に気づかれちゃいそうだからな。
妙なとこでカンがいいし、アイツは。

結局、私は楽屋にいたままで、圭織のとこへ行って話し始めた。

矢口の様子を視界の隅に捉えながら。

矢口の表情が、一転して暗いものになる。
メールのメッセージを読んだらしい。
不機嫌さを露わにして、ケータイをバッグの中に放り込んだ。

おいおい、返事もしないのか…?

なんて、私が突っ込むことじゃないか。
私も、矢口のことをとやかく言えないな。
145 名前:11.本当の気持ち 投稿日:2002年01月20日(日)01時59分24秒
今すぐにでも、彼女に会いに行きたい。

矢口に対しては多少後ろめたいとこもあるけど、やっぱり私の正直な気持ちとしては、彼女に信用されてることがわかってうれしい限りだ。

その信用を、失わないように努力しよう。
そうやって、彼女への自分の気持ちを欺いてるのもどうかと思うけど。
でも、私の本当の気持ちなんて伝えられるハズもないし…。
さすがに、乱れた姿が見たい…なんて告白じゃ、彼女も引くよな。
もちろん、それだけじゃないけどさ。
彼女のことは、ほんとに、大好きだし。

今夜会えるのを、楽しみにしてよう。

いつまでも、彼女の良き相談相手でいられるように。
私には、それ以上のことは分不往相になってしまうんだろう。
彼女を好きでいられるこの環境だけで、十分だ。

多くは、望まないから…。
146 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時01分51秒
「お邪魔しまぁ〜す」
私は恐る恐る彼女の部屋に足を踏み入れた。

「何、遠慮してんや。さっ、どうぞ」
ドアを開けてくれた彼女は、この上ない笑顔だった。

何だか、テレる。
彼女が私の部屋に来るのはよくあることだけど、その逆はほとんどなかったもんなぁ。
何で今夜は彼女のとこなんだろう。
彼女が、誘ってくれたから…?
147 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時02分47秒
「ねえ、それ、何?何か持ってきてくれたんか?」
彼女は、私が提げていたコンビニの袋を目ざとく見つけた。

「ああ、これ。裕ちゃんどうせ飲むだろうから、おつまみにと思って。よかったかな」
袋の中身をどさっとテーブルに出した。

「よかったも何も、みんな好きやで。何てったって、圭ちゃんが私のために買ってきてくれたんやからな。ありがとな」
たかがコンビニのつまみくらいでオーバーに感謝されちゃって、変なカンジだ。

「な、何言ってるの。そんな…。安いもんばっかでごめんね」
「だ〜か〜ら、圭ちゃんのその気持ちがうれしいんやって」

ダメだ、この表情。
気をしっかり持たなきゃ。
148 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時04分04秒
「じゃあ、せっかくつまみもあることやし、飲もうか」
そう言って、彼女は缶ビールを取りに立ち上がった。

「あぁ、私は飲まないからね〜」
一応、彼女の背中に声をかけてみる。
期待はしてないけど…。

戻ってきた彼女の手には缶ビールが3本。
大した量じゃないけど、これだけで終わるとは思えないもんなぁ。
こっちも覚悟しなきゃなぁ。

「ねえ、裕ちゃん。私、さっき飲まないって言ったと思うんだけど…」
早速1本目のプルタブを開けた彼女は、ひと口飲んで私を見た。

「ん〜、そんなん聞こえんかったで。さっ、ほら」
やっぱり…。
私は彼女を見つめ、ため息とともに差し出された缶ビールを手に取った。

「何や、私からのは受け取れへんのか」
「んなことないって。ほら、裕ちゃんも話があるならあんまり酔わないうちに話してよ」

何か、この前のくり返しになりそうで危険なカンジ…。
149 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時07分46秒
「あぁ、それなぁ…」
ビールの缶を見つめ、プルタブを無意識にいじりながら、話し始めた。

「うん、矢口のことなんや…。あの娘なぁ、最近何だか変なんやけど…。気のせい…じゃないよな。圭ちゃん何か気づかへん?」

変…。
う〜ん、変なのか。
確かに、また彼女と(おそらく)つき合い始めた矢口はどこか…。

「変って言うか、裏表のない明るさみたいなのが少なくなったかなとは思う」
彼女はうんうんと頷いている。

「そうそう、わかってるやん。何かなぁ。いや、あいかわらずあの娘はめっちゃかわいいんやけど、
時々以前の矢口からは想像できないほど暗い顔するんや。それを、私に見せたくないとは思ってるみたいなんやけど…」
酔えないと話せないのか、ビールを飲む手は止まらない。

暗い顔ねぇ。矢口言うところの独占欲ってヤツか?

彼女はその話は知ってるのかな。
150 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時09分43秒
「ねえ、矢口が裕ちゃんを独占したいって気持ちは知ってる?かなり強い気持ちだって矢口は言ってたけど…」

「うん、それとなくな。聞いたのは今日なんやけど。ほら、今朝は私の写真集のことでちょっとあったやろ?
写真集を欲しいって言ってくれた矢口に、私が渋ってたら、あの娘いきなりこれ見よがしに吉澤のとこへ行ったりするし…」

そうだった。
傍から見てると2人の気持ちは丸わかりなだけに、思わず苦笑してしまう状況ではあったけど。

「あン時な、矢口が私を追って来るのは想像できたし、圭ちゃんもわかったと思うんや」

確かに。

「裕ちゃんが部屋を出てった時の矢口の顔、見せたかったよ。あの後、2人そろってスタジオ行っちゃったりして…。
てっきりうまくいったんだと思ってたけど。何かあったの?」

彼女は人差し指で鼻の頭をぽりぽりとかき、ちょっと照れくさそうに話し始めた。
「ん〜、その時はちょっとなぁ。矢口ったら、私を追ってきたなら素直にそう言えばええのに」

何だ?自慢したいだけなのか?顔、笑ってるぞ。
151 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時11分55秒
「あ、あの、裕ちゃん…?」
「あぁ、ごめん。でな、あまりにも意地はってるから、私の方もちょっとムカッときてな」

「何、したの?」
「何や、そんな心配そうな顔せんでも。別にヤバイことはしてへんって。押さえつけて無理やりキスしただけや。
…ま、泣かれたのにはさすがに驚いたけど」

おいおいおい…。

「あんまり、獣になっちゃダメだよ?」
「バカ。何てこと言うんや。私なりの愛情表現だったんや。で、泣かれたからマジでびっくりして謝って。
でも、私の目の前であんなふうに吉澤とベタベタするなって」

正論って言えば正論か。
無理やりキス、ねえ…。
152 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時13分19秒
「で、矢口の反応は?」
「あぁ。矢口も、私が他人に笑いかけたり優しくするのがイヤなんやって。裕ちゃんの笑顔は矢口だけのものにしたいって」

「…のろけ話するつもりなの?」
「違うって。何や、今夜の圭坊キツイなぁ。あんまりイジメんといて。裕ちゃん泣いてまうからな」
上目づかいでお願いされて、思わず固まってしまった。

そういう仕草が誘ってるように見えてならないんですけど…。

私は慌てて彼女から目を逸らす。

「別にキツくないよ。で?」
「そおかぁ?ん〜、ま、ええか」
153 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時17分53秒
納得したのかしてないのか、彼女は言葉を続ける。

「矢口はさ、自分が独占したいと思うくらいに私のこと好きだって言いたかっただけだと思うんや。
でもな、何だかあの娘のそういう気持ち、ちょっと尋常じゃない気がしてならないんやけど。
コトバは悪いかもしれへんけど、ストーカーになる一歩手前の人っぽい。
でも、そういう気持ちを持ってる自分にすごく悩んでるのもわかるし、私に気づかれたくないって
思ってるカンジやから、まだ何とかなるかなと…」

あっ、1本目が飲み終わってる。
当然のことながら、その手は2本目の缶へ。

まだ、シラフっぽいよな。

「矢口のその状態は何となくわかってるつもりだけど、裕ちゃんはそれでどうしたいワケ?矢口と別れたいの?」

彼女は驚いたように私を見た。
「んなことあらへんって。矢口のことは、ほんとに大好きなんや。本気で、愛してる。ただ…」

「ただ?」
154 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時19分53秒
また一口、ビールを飲んで話し始める。

「あまりにも執着されると、私の方も気が重いし、あの娘自身にとってもよくないんやないかと思って。
今のとこ、私の気づく限りでは大丈夫っぽいけど、どうなん?モーニングの仕事とかに支障はないんか?」

あぁ、そうか…。
彼女のコトバを聞いて、妙に納得した。

「あくまで“今のところ”だけど、大丈夫だよ。ちゃんと仕事してるし、少なくともカメラの前ではいつものキャラだし。
あ〜、でも、吉澤とちょっとごたごたしてたみたいな時があったけど…」

でも、今日の写真集の時は吉澤のとこ行ってたしなぁ。
もう、うまく収まったのか…?

「えっ。じゃあ、あの2人はほんまはデキてたん?」
少なからず、驚いたという顔で彼女が問う。
155 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時22分18秒
「いや、デキてたってそんな言い方は…。少なくとも、裕ちゃんと矢口みたいなのとは違うと思うよ。
単に、『好きだよ』って言って、言い返してってくらいだったから」

彼女が目を見開いて言う。
「け、圭ちゃん、ウチらみたいなって言われても…」
「え?だから、してるとか…」
言ってから、自分でも後悔した。

わざわざ出すような話題じゃないよな。
「ごめん。言うようなことじゃなかったね。ほんと、ごめん。…あ、それとも、してない…ハズないよね?」

顔…赤くなったよ。
酔い…とは違うよなぁ。どう考えても。
やっぱ照れてるのか?
156 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時24分50秒
「裕ちゃん?」
「あ、あぁ。それより、な、何で圭ちゃん知ってんの?矢口、そんなことまでしゃべったりしたん?」
「いや、何となくそうかなぁって…」
「嘘やろっ。矢口に聞いたんや、絶対」

そんな、断言されても困るんですけど…。
やっぱりこの人、覚えてないんだなぁ。

「いや、実は、裕ちゃんから聞いたんだけど…」
「えぇ〜!?」
目を見開いて、私を見つめる。

「い…、いつ言ったん?」

「多分、すっごい飲んでたから覚えてないんだよ。ウチらが裕ちゃんの卒業を知らされて、少し経った頃だったかなぁ。
いつもみたいに、ウチで裕ちゃんが缶ビールをどんどん空けてったんだけど、その時に、こういうふうに裕ちゃんが矢口のことを
相談してた…っていうか、かなり愚痴っぽかったけど…」
157 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時27分11秒
がっくりと彼女はうなだれた。

「うわぁ〜、自己嫌悪やわ…。何や、私そんなことまで話してたんか。これからはあんまり飲まんようにせんとあかんなぁ…」
「安心して。話してないから、誰にも」
「当たり前やろっ。私だって、きっと圭ちゃんやからって安心して話してしまったんやと思うし…。にしても、飲みすぎは気ぃつけんと…」

うなだれながらも、視線をチラッと私に向け、恐る恐るといったカンジで聞いてきた。
「なぁ、私、どんなことしゃべったん?」

「…え?」

「いや、矢口とそーいう関係やったっていう事実だけを話したのか、もうちょっと詳しいことまで話したのか…。どうなん?」

これは、答えちゃっていいのかなぁ。
158 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時28分48秒
彼女、さらに落ち込みそうなんだけど…。
いや〜、酔いってのは恐ろしい。私は酒飲みにはならないようにしよ。
ほんとに覚えてないんだなぁ。

「なぁ、圭ちゃん。…どうなんや?」
「かなり、しゃべってたと…」

「かなり…?」
「いや、裕ちゃんの方が立場弱いのかなぁって感じたくらい…」

「んな…っ」
「あぁっ、嘘だよっ。そんなこと思わなかったって」

「無理せんでええよ、圭ちゃん。よおわかったから」
「裕ちゃんをがっくりさせるつもりはなかったの。…ごめんね、裕ちゃん」

1つ、ふぅ〜っと大きく息を吐くと、何かを吹っ切ったように、彼女はからっとした笑顔を向ける。

「ええって。圭ちゃんは何も悪くないんやし。…そン時も、私の愚痴につき合ってくれたんやろ。悪かったな」

うっ。やっぱ最高にかわいい…。
159 名前:12.戸惑い 投稿日:2002年01月20日(日)02時32分05秒
「そんなこと…」
「あるって。ほんと、圭ちゃんにはいっつも迷惑かけてばっかやったし。
嫌かもしれへんけど、これからも変わらないつき合いでいたいなぁって」

ビールのせいで、ほんの少し、彼女の頬が赤くなっている。
それからしばらくの間、そのテの話題にはわざと触れないように、お互い当たり障りのない会話が続いた。
もちろん、彼女は冷蔵庫から新たなビールを持ってきては飲み続けて…。

そうしてるうちにも、少しずつではあるにしろ、彼女は確実に酔いが回ってきたみたいだった。
そんな、ふにゃふにゃに崩れた笑顔でにっこりと微笑まれると、ほんとに、私はどうにかなってしまいそう。

さっき、飲みすぎには気をつけなきゃって言ったばっかじゃん。
ダメだね、これじゃぁ。
でも、きっと私の前だから気を許してる、とか、ちょっとは自惚れてもいいよね、裕ちゃん。
ま、この分じゃ今夜の矢口の話も終わっちゃってるみたいだし、これ以上ここにいると、
私自身、抑えがきかなくなるのは目に見えてるし。

そろそろ帰った方がいいな。
まだ、私に自制心が残ってるうちに。
160 名前:K 投稿日:2002年01月20日(日)02時41分43秒
更新しました。
あと、大体5〜6章くらいで終わる予定でいます。
ここに載せる時点でだいぶ削ったんで、始めに考えてたのよりも短くなりましたが。

これが終わった後は、短編を載せようかと思ってます。
とりあえずは、もう少しおつき合い下さい。
161 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月20日(日)03時40分18秒
あの〜・・・全然削らないで戴いていいのですが(w
っていうか・・・削らないで全部書いちゃってください。
KUというかどっちかというとUKかな?いい感じですね。
圭ちゃんいいヒトだ。(w
それにしても・・・今日のタイ裕ちゃんは解放感が漂っててGOODでした。
162 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月22日(火)00時48分57秒
下がってたので・・・更新に気づかなかった。(w
作者さんのやぐちゅーは・・・愛が一杯で・・・でも切なくて・・・最高です。
どこまででもついていかしていただきます。
163 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月22日(火)14時19分56秒
やぐちゅー&地味なKU
両方とも大好きです。
164 名前:K 投稿日:2002年01月23日(水)05時12分45秒
>>161 名無し読者さん
そう言ってもらえるのはとてもうれしいですが、構想した時期がかなり前であることなどから、明らかにおかしな箇所があったんです。
そういった部分については削らせてもらいました。
>それにしても・・・今日のタイ裕ちゃんは解放感が漂っててGOODでした。
その通りですね。
いい意味で、自然体の裕ちゃんだなと思いました。

>>162 名無し読者さん
レスありがとうございます。
気まぐれで申し訳ないんですが、これからsage方向でいこうかなと思い始めていたので…。
よろしくおつき合い下さい。

>>163 名無し読者さん
私も両方大好きです。
やっぱりKUって地味なイメージあるんでしょうか(笑)
KU好きな人って、実は結構いると思うんですけどね。


それでは、更新します。
165 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時16分10秒
そう思って、彼女に帰る意思を伝えようとした。

「ねぇ、裕ちゃん」
「何や?」
そのコトバと同時に、彼女のさらさらした薄茶の髪が私の頬をさっと撫でた。
髪が触れたくすぐったさと肩に重みを感じて横を向くと、彼女は私の肩に頭をもたせかけていた。

「ちょ…、酔ったんでしょう。もう止めないと」
「ん〜、酔ってなんかないでぇ。圭ちゃんの側は気持ちええなぁって思って。裕ちゃんこのまま寝てしまいそうや〜」
そう言うと、ほんとに目を閉じて睡眠モードに入ってしまった。

マジか!?この人はっ!

「お〜い、裕ちゃん!私は帰るよ。もう遅いから…」
肩をゆすると、とろんとした瞳が私を見つめる。
「う〜ん…。そんなツレないこと言わんといてやぁ。遅いんやったら泊まっていけばいいやん…。裕ちゃんは全然構へんでぇ」

私が構うんだって!!

「そういうワケにもいかないでしょ。私は帰るって」
「何でぇ?圭ちゃん、私のことは嫌いなんか…?」

そ、そんな涙の溜まった目で私を見ないでっ。
166 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時17分31秒
私だって、彼女のことを好きなのと同時に、矢口のことだって大好きなんだ。
矢口との仲も大事しなきゃいけない。

第一、彼女は酔ってるだけで、誘ってるとかそういうんじゃないし…。
それに、彼女が愛してるのは矢口1人だもん。
振り切って、早く帰らなきゃ…。

「ごめんね、裕ちゃん。裕ちゃんのことは大好きだけど、また、この前みたいになっちゃって裕ちゃんに泣かれるのはイヤなんだ。
このままここにいたら…、裕ちゃんの側にいたら、私は裕ちゃんの相談相手じゃいられなくなっちゃう…」
彼女の顔が、正視できなかった。

俯いたまま言い終えると、そのまま立ち上がって帰ろうとした。
167 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時18分26秒
でも。

でも、その動きを彼女の手が阻んだ。

彼女は立ち上がりかけていた私の腕をつかむと、強く引く。
私は不意を突かれて、彼女の上に倒れ込んだ。

「裕ちゃん!?」
慌てて体を起こし、彼女との間に空間を作って。

すると、彼女の唇が信じられないコトバを紡いだ。

「ええよ」

「………」
私の思考は停止してしまったみたいだ。

「ええよ、圭ちゃん」

聞き間違いじゃ、なかったみたい…。
168 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時20分18秒
「ええよって…。じ、自分が何言ってるか、わかってんの?裕ちゃん…?」
「だから、圭ちゃんが相談相手じゃなくなってもええよ。…圭ちゃんなら、ええよ…」
そう言うと、彼女は目を閉じて顔を近づけてくる。
まるで、キスするかのように…。

次の瞬間、私はほんとにキス…されていた。彼女から…。

思考能力と一緒に、体まで停止してしまった私は、ただただ彼女のキスを受けていた。
下唇に軽く歯を立てられ、私が一瞬ひるんだ直後、彼女の舌が中に入り込んできて、思うがままに私の中を蹂躙する。

「ゆぅ…、あ、ふ…っ」

思わず声を上げてしまうと、彼女は満足したのか音をたてて唇を離し、至近距離で私を見つめたまま、罪作りなその唇で囁いた。

「なあ、裕ちゃんにも、して…」
169 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時22分58秒
それを聞いた瞬間、帰らなきゃという意志とか、彼女が酔ってるとか、そんなことはどうでもよくなった。
一瞬、矢口の顔が脳裏をよぎったけど、それも関係なくなった。

欲情してる彼女を目の前にした、今は…。
170 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時24分27秒
私は先ほどの彼女よりずっと荒々しくキスを返すと、その手をためらいなく彼女のシャツのボタンに伸ばし、
逸る気持ちを抑えるようにゆっくりと外していく。
滑らかな白い肌が視界いっぱいに広がり、私が唇を落として強く吸うと、そこだけが赤く染まっていく…。

「け、い…。あぁ…っ」

ため息とともに彼女の喘ぎ声が部屋に響く。
もう、私の行動も止まらなかった。

この手で、彼女をめちゃくちゃにしてしまう。
そんな思いもどこかへ行ってしまった。
171 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時25分36秒
が、次の瞬間。

プルルルっ。

乾いた音が鳴り出した。
彼女の部屋の電話だった。

非日常の世界から、急に現実世界へと引き戻された私は、はじかれたように彼女から体を離す。
「ゆ…ちゃん、電話、鳴ってる…」
目の前の乱れた彼女は顔だけ電話の方へ向けたが、出る様子はない。
まあ、今電話に出ても、まともな受け答えができるとは…。

電話はすぐに、留守番電話に切り替わった。
『はい、中澤です。ただ今留守にしていますので、ご用の方は発信音の後にメッセージをどうぞ』
私も何度か聞いたフレーズが聞こえる。

ピィーっと発信音が聞こえ、私も彼女も次の声を待った。
172 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時26分59秒
『裕ちゃん…』

矢口の、声。

『…これから会えないかな。もし、いるなら電話に出て…。矢口、裕ちゃんに会いたいよ…』
彼女が危惧していた通り、矢口の声は沈んでいた。

こんな夜中に会いたいなんて…。
少しは考えればいいのに…なんて、呑気なことも言ってられない。

「裕ちゃん、どうするの?電話、出るの?」
「あ…、やぐ…ち。どうしよう、圭ちゃん」
うろたえるだけの彼女をなだめ、私は外された彼女のシャツのボタンをはめていく。
ところどころ赤くなった彼女の胸元や首筋を目に焼き付けて。

「裕ちゃん、落ち着いて聞いてね。裕ちゃんは、今、矢口に会いたい?」
「矢口に…?会いたい…けど、でも…。今は…」

そうしてるうちにも、矢口からの電話は切れた。
留守電の録音時間が終わったのか。
173 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時28分46秒
「圭ちゃん、矢口…怒ってるのかな」
私は電話を見つめる彼女の腕をつかみ、真正面から見つめて強い口調で問う。
「いい、裕ちゃん?このことが、矢口にバレたらマズイのはわかる?」
こくっと彼女は頷く。

「今の電話も、いなかったってことにすれば大丈夫。少し時間を置いてからか、明日でも構わないけど、
矢口にあの時はごめん、まだ帰ってなくてって言えるなら。できる?」
「大丈夫や。酔いも、だいぶ冷めてきたから。ちゃんと、考えられる」
確かに、コトバも表情もずっと落ち着いている。

「よかった。それじゃ、私は帰るよ」

「え!?」
174 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時31分43秒
「え、じゃないでしょ。私も今夜はここにいられないよ。矢口への後ろめたさだってあるし。
さっきまでのことは…、なかったことにしよう」
「後悔してるんか…?私の誘いに乗ったこと、後悔してるん?」
酔っていたハズなのに、まっすぐに見つめてくる彼女が眩しい。

でも、はっきり言わないとダメだ。

「……てる」

彼女の目には、また、涙が浮かんできた。
「圭ちゃ…、何て…?」

意を決して、私は彼女に言った。
「後悔してる。酔った勢いでこんなことになっちゃって。矢口に申し訳ないし、拒めなかった自分自身もイヤになる。
裕ちゃんだって、矢口が大事だとか散々言っときながら…っ」

「そ、んな…」
「帰るね」

私は彼女を振り切って立ち上がり、自分のバッグとジャケットをつかんで玄関へ急いだ。
175 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時33分36秒
彼女は…、追ってこなかった。
当たり前か。

彼女の部屋のドアを開け、外に出て、閉める。
外は寒かった。
急いでジャケットを着る。

そのままドアに寄りかかってじっとしてると、いつの間にか自分の頬を涙がつたっているのに気づいた。
「あれ、おかしいな…」
思わずそんなコトバが口から出たが、おかしくないのは頭ではわかってた。

後悔なんて…してるワケない。

矢口に後ろめたさと申し訳なさを覚えたのは確かだけど、彼女との関係を、たとえキスだけとは言え、後悔なんてするハズはない。
こんな気持ちにまで彼女に嘘をつかなきゃならない自分が惨めだった。

もう、どうなったっていい。
そう思えるほど、私は強くなれない…。

所詮、それが私の役回りなのかもしれないな。
176 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時34分55秒
私はゆっくりと歩き始め、エレベーターに乗った。

1階に着いてエレベーターを降りると、マンションのエントランスの外に、見覚えのあるコートを着た姿があった。
夜中でもひと目でわかる、金に近い茶色の髪。
間違えようもない。矢口だった。

隠れようか。
一瞬、そんな考えが頭を横切ったが、矢口の視線はしっかり私を捉えていた。

観念して、私は外へ出る。
177 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時39分14秒
「矢口…」
「裕ちゃんのとこに、いたんだね」
今更、言い逃れができるハズもない。
「うん。…さっきの電話、ここからかけてたの?」

怒った様子を見せないどころか、矢口は薄く笑みさえ浮かべていた。
「まあね。ちゃんとさぁ、裕ちゃんの部屋に電気がついてること、確かめたんだよ。
留守電になってるのは考えてたけど、まさかそのまま居留守使われるとは思ってなかったなぁ…。
おフロ入ってるとか、何か手が離せなくて電話に出られないのかもって期待したんだけど、やっぱり居留守だったんだね。
ちょっと、ツライよ」

こんなにも矢口は真剣に、そして一途なまでに彼女のことを想ってる。
私の想いが純粋じゃないとは思わないけど、やっぱり、私が入り込むような隙間はなかったんだな。
…何を今更…。
そんなこと、わかり切ってたハズなのに…。
178 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時42分39秒
私は伺うように矢口を見て、問う。
「私のこと、怒ってる?」
「怒ってないって言ったら嘘になるけど、どっちかって言えば、圭ちゃんじゃなくて裕ちゃんに対して怒ってるかも。
約束、したのに。矢口だけを見ててって…。それなのに…」

「今夜ここに来たのは、裕ちゃんに矢口のことで相談したいことがあるからって言われたからなんだ。
別に、矢口が勘ぐるようなことはないよ。もっと、裕ちゃんのこと、信じてあげなきゃ」
「どんな相談?」

「どんなって…」
何を、話したっけ…。
ヤバイ。さっきのことで、頭の中も吹っ飛んでしまったみたい。

確か、矢口が心配…。
そうだ、矢口が最近変わったって話。それを彼女が心配してる。

「裕ちゃんは、矢口が前みたいに明るい矢口じゃなくなってるみたいだって。それは、自分のせいなのかなって感じてた。
それと、モーニングの仕事に差し障りが出るようなことはないかって聞かれた。大体はこんなこと」
179 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時43分36秒
「じゃあ、ほんとに話をしただけ?」
「そうだよ。まあ、裕ちゃんはだいぶビール飲んでたから、途中からはかなり酔いが回ってたけど」
「ふ〜ん」
完全に納得したようには見えなかったけど、一応、矢口は頷いて、マンションに背を向けた。

「矢口、帰るの?上、行かないの?」
「うん。何か、会わす顔ないし、インターホン押してここにいたことがバレるのも…」

矢口に、何かしてあげたかった。

「私がインターホン押そうか?忘れ物をしたとか言ってここ開けてもらって、矢口が入れば…」
矢口はちょっとの間考えてから、頷いた。
「じゃあ、お願いしていい?」

よし。

ピンポーン。
私はインターホンを押して、彼女からの応答を待った。
180 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時44分52秒
『はい』
思ったよりもずっとしっかりした声で、彼女は答えた。

「裕ちゃん、私。実はさ、忘れ物しちゃったみたいで戻ってきたの。開けてくれる?」
『圭ちゃん…』
それっきり、後が続かない。

「裕ちゃん?聞いてる?」
何か、変なことを口走りそうでドキドキする。

「あぁ、聞いてる。わかった。待ってるから、はよ上がっておいで」
コトバとともに、鍵の開く電子音が響く。

「じゃ、矢口。また明日ね。おやすみ」
矢口はさすがに少し照れくさそうな顔をしていた。
「うん。おやすみ、圭ちゃん。明日、また矢口の相談にものってね」
ひらひらと手を振りながら、矢口は奥へと消えて行った。
181 名前:13.後悔 投稿日:2002年01月23日(水)05時45分51秒
…どうなるんだろう。

裕ちゃん、まさかしゃべらないよなぁ。
明日になれば、わかることだけど。

こうやって、自分1人で帰るのとか、何か逃げてるような気もしてイヤだけど、あの矢口の顔は見てられない。
何とかして、彼女に会わせてやりたかった。
その後は…、ちょっと卑怯だけど、本人たちに任せて退散ってことに。

それにしても、何で彼女は私を誘ったりしたんだろう。
お酒のせい…だけだったのか…。


彼女自身は後悔してたんだろうか…。
182 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月23日(水)17時33分43秒
修羅場なのか?(w
犬も食わぬ中に見えるやぐちゅーだけど・・・
でもKUもいいな。やっぱり。
183 名前:182です。 投稿日:2002年01月23日(水)17時35分10秒
すいません。これからsageで行くって書いてあったのに。
本当にスイマセン。
184 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月24日(木)02時28分24秒
すごい展開・・・気になってたまらない。
かなりおもしろいです。っちゅーかハマッタ。
185 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月24日(木)16時28分41秒
切ない・・・圭坊が・・切な過ぎっす(号泣
にしても姐さんの確信犯的な誘い受けっぷりに脱帽です。
あんたホント矢口はどうしたのさ!みたいな(オオワラ

自分はKさんの表現力・人物の心理表現に打ちのめされました。(w
今後の展開に更にハラハラさせて貰います。頑張って下さい!
186 名前:K 投稿日:2002年01月25日(金)22時22分26秒
>>]182 名無し読者さん
まぁ、修羅場って言えば、そうでしょうか(笑)
ageちゃってもそんなに気にしないで下さい。
ほんとはもう少し沈んでから更新しようと思ってたんですが、ま、いっかってことに。

>>184 名無し読者さん
レスありがとうございます。
この先も、面白いと言ってもらえるかは不安なんですが…。
多分、あと2回くらいの更新で終わりになるんじゃないかと。

>>185 名無し読者さん
圭ちゃんは…とことん切な系になりそうです(^^;
ごめんなさい。
>にしても姐さんの確信犯的な誘い受けっぷりに脱帽です。
誰が悪いかってことになったら、まず間違いなく裕ちゃんでしょうね(笑)
自分で書いといて何ですが、この裕ちゃんには思わず、突っ込み入れたくなります。


では、今回の更新です。
187 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時25分11秒
圭ちゃんが、彼女の部屋に。

現実を突きつけられると、やっぱりショックだった。
私のことで相談にのってたって言ったけど、ほんとにそれだけだったのかな。
別に根拠はないけど、何か違うような気がしてならないよ…。

それに、私は何でここに来たんだろう。
彼女に、会いたかったから。

彼女に会ってどうしたかったんだろう。
…わからない。

話をしたかった?
かもしれない。

でも、何の話を?
何だっていい。

彼女を抱きたかった?
多分。

抱きしめて、キスして、それから…?
前みたいに、体を重ねて愛し合いたかった。
一晩中、彼女に触れて、彼女を感じていたかった。

前以上に限られた時間しか一緒にいられないなら…。
せめて夜だけは、彼女といたい。
188 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時26分30秒
そう思って、ここに来たハズだったのに。
こんな思いをするなら、来なければよかった…。
何で、私がやることは裏目に出てしまうのか。
ツラすぎるよ…。

圭ちゃんの計らいでマンションの中に入ることはできたけど、これから彼女と何を話せばいいんだろう。

圭ちゃんと何をしてたかを問い詰める?
どうして電話に出てくれなかったかを問い詰める?
私のことをどう思ってるか…?
答えを聞くのが、怖い。
彼女の答えを疑ってしまう自分が、イヤだ。

誰か、助けて。
裕ちゃん、矢口を助けてよ…。
189 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時27分41秒
エレベーターに乗って、ボタンを押す。
瞬く間にエレベーターは停まる。
エレベーターを降りて、彼女の部屋へ行こうとしたけど、私の足取りは重かった。
視線を上げることなく、とぼとぼと歩を進めていた。
10秒もしないで着くハズなのに、今は何倍も時間がかかってるみたいだった。

私は、彼女に会いたいの?
それとも、会いたくないの?


「矢口」
不意に、声が聞こえた。

「え?」
彼女の部屋のドアまであと2〜3mというところだった。
190 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時29分09秒
顔を上げると、そこには寒そうに自分を抱きしめながらドアの前に立つ彼女がいた。

「裕ちゃん…」
「何や、圭ちゃんに騙されたわ。電話、この近くからかけてたんか」
「うん。ごめんね」

彼女はドアを開けて、私を招き入れる。
「何言うとんの。謝るのは私の方やろ。ほら、さっさと入り。めっちゃ寒いわ、ここ」
薄着だった彼女は、ほんとに寒そうに震えながら、私の後に続いて部屋に入る。

部屋の中は、あったかかった。
リビングのローテーブルの上には、圭ちゃんが言った通り、ビールの空き缶が乱立している。
いくつかは、まだ中身が入ってるのかもしれないけど。

「あぁ、ごめんな。すぐ片づけるわ。ちょっと待ってえな」
そう言うと、彼女はがさがさとテーブルの上を片づけ始めた。
ビールの缶に、スナック菓子の袋…。

やっぱり、圭ちゃんと飲んだだけだったのかな。
191 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時30分26秒
私はソファに座って、彼女が片づける様子をぼーっと眺めていた。

「矢口、何か飲むか?」
キッチンにいた彼女が突然声をかけてきた。
「え、別に…」
「ずっと外にいたんやろ。何かあったかいもん飲んだ方がええんとちゃう?」

あぁ、そうか。
「ありがと。何でもいいよ」
「何でもいいって言われてもなぁ。あっ、インスタントのたまごスープでええか?」
「うん…」

優しいね、裕ちゃん。

こんなに私に優しくしてくれる彼女を、私はずっと疑ってたの?
…今でも、疑ってるの?
192 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時32分20秒
「わかった。すぐ持ってくからな」
2分ほどしてお湯が沸くと、彼女はたまごスープを入れたマグカップを持ってきた。
「はい」
目の前にトンと置かれたカップを、私は少しの間見つめていた。

「で?」
突然の声にはっとして顔を上げ、隣に座ってる彼女を見る。

「え?」
「だからぁ、何かあってこんな遅くにウチへ来たんやろ。どうしたん?それより、家の人はアンタがここにいること知ってんやろな」

「………」
実は、言ってなかった。
ちょっとコンビニに行ってくると言って、出たっきりだ。もう2時間近く経ってる。
2回、家からケータイに電話がかかってきたけど、無視したし。

「言っとらんの?」
「うん…」

「ったく…。家の人に心配かけたらあかんで。はよ電話しいや。…裕ちゃんがかけたろか?」
「うん…」

「何や、ほんまに元気ないなぁ、矢口。私だってさっきまで酒飲んでたんやから、ロレツ回らんかもしれへんのに…」
ブツブツと文句を言いながらも、彼女はコードレスを手にして電話をかけた。
193 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時35分03秒
「あ、いつもお世話になっております。中澤ですが…。はい、実は真里さんが私の家に来てるんですが、
そのことをお知らせしておこうと思って…。今夜は…、ちょっと待って下さい」
彼女は通話口を押さえて、私の方を向いた。
「今夜はここにおるのかって。お母さんが」

どうしよう…。

「…裕ちゃん、いても、いい?」
彼女はにっこり微笑むと、再び電話を耳にあてる。
「はい、本人こちらに泊まりたいと言ってますけど…。あ、私の方は大丈夫です。むしろ、歓迎したいくらいなので。
はい、わかりました。明日はここから直接スタジオの方に向かわせます。…はい、夜分遅くに失礼致しました」
194 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時36分18秒
彼女は電話を切ると、呆れ顔で私を見た。
「お母さん、心配してはったで。これからは気いつけや」
「ごめんなさい…」

「謝るくらいなら、最初からやらない方がええで。…で、ほんまにどうしてここに来たん?」
「裕ちゃんに、会いたかったから…」

「それだけ?」
「それだけじゃ、来ちゃダメ?」

「いや、そんなことあらへんけど、何か大事な用か話でもあったんかなぁと思って…」
「裕ちゃんに会うのが、私のいちばん大事なことだよ」

「あ、あぁ。ありがとな。裕ちゃんもうれしいで。矢口に会えて」
困ったような顔が、気になる。
195 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時37分32秒
「ねえ、圭ちゃんと何してたの?」
ついに聞いちゃった。

「何って…。ビール飲むのにつき合ってもらってたんや」
「何も話さずに飲んでただけじゃないでしょ。何、話してたの?」

「何や、急に…。とりとめのないことばっかやで。そんな、特別矢口に話すようなこと…」
嘘、ついてる…?
それとも、酔ってるだけなのかな。

「矢口のことを、話してたんじゃないの?」
「そりゃ、私と圭ちゃんの会話やから、当然矢口のことも話したかもしれへんけど、ほんまに大したことやないで。何心配しとるん?」

「心配って…。圭ちゃんとどうにかなっちゃったり…とか。そんなこと、ない?」
一瞬、彼女の表情が微妙に変化したような気がした。
「またその話か…。いい加減うんざりやわ」

質問に、答えてくれないじゃんか。

もしかして…?
196 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時38分20秒
「裕ちゃん、何で、答えてくれないの?」
「え?」

「矢口の質問に答えてくれてないよ」
「あぁ。何もなかったよ、矢口が心配するようなことは」
投げやりな言い方が気になってしょうがない。

「ねえ、裕ちゃん。矢口に嘘ついたら、裕ちゃんのこと嫌いになるよ?もう一生許さないよ?」
彼女の答えを待つ。
なかなか話そうとしてくれなかった。
私たちは正面から見つめ合い、しばらくはどちらも話さなかった。

何か、言ってよ。
そんなに後ろめたいことでもあったの…?

ねえ、答えてよ。
197 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時39分14秒
先に視線を逸らしたのは、彼女の方だった。

ふっと視線をはずして俯くと、小さな声で囁いた。
「ごめん…」

「裕ちゃん…?」
私は、彼女に裏切られたの?

「裕ちゃん、何があったの?」
「ほんとに、ごめん」
彼女は同じコトバをくり返すだけだ。

「ねえ、裕ちゃんってば」
思わず、肩をつかんで強く揺さぶる。
未だに視線を上げようとしない彼女は、力なくうなだれるままだ。

「答えてよ。矢口のこと、裏切ったの?」
何だか、自分も泣きそうになってきた。
198 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時40分11秒
「裕ちゃんっ!」
ひときわ強く肩を揺すると、彼女はこくっと頷いた。

「圭ちゃんと、キスした…」
「いつも、楽屋でみんなにやるようなのじゃなくて…?」

「矢口と2人っきりの時にやるようなの…」
体中の力が抜けてしまったみたい。
てことは、さっきの圭ちゃんにも嘘をつかれてたのか。

いや。そんなことより、彼女に裏切られた。

私だけを愛してるんじゃなかったの?
私だけのものじゃなかったの?

今日、私の目の前でそう言ったばかりじゃん。

酷すぎるよ、裕ちゃん。

何で、こんなことするの?
199 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時41分21秒
「帰る…」
もう、彼女の側にいたくなかった。
少なくとも、この瞬間は。

「ちょっ…、弁解させてくれへんの?」
彼女は慌てて私を引き止めようとした。

「聞きたくない」
「そ…んな。ちょっと飲みすぎて羽目外しただけなんやって。全然気持ちなんてこもってなかったんや。
私が愛してるのは矢口だけやから」

「気持ちのこもってないキスが、舌入れるようなキスなの?」
「や、それは…。だから、酔ってておかしくなっとったんや。ごめんな、矢口。
もう絶対せえへんから。私には矢口しかおらんって」

「そんなことないよ。矢口は裕ちゃんがいないと生きていけないけど、裕ちゃんはそんなことない」
「何、言うとんの…?」
200 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時42分48秒
「裕ちゃんは、矢口がいなくてもいいんだよ。キスしたいのは矢口だけってワケじゃないんだね」
「違…。私だって、矢口がいないとこじゃ生きていけん。誰よりも側にいて欲しいのは、矢口だけなんやって。
お願いやから…、私の側にいて…」
彼女の目には、涙が浮かんできた。

でも、彼女が私を裏切って圭ちゃんとキスしたのは事実だ。

彼女を許す…?
許さなかったら、彼女は私から離れてく…?
私は独りぼっちになるの…?

イヤだ。それだけは耐えられない。
201 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時44分22秒
「裕ちゃん」
「何や?」
幾分優しくなった私の声を聞いて、彼女は顔を上げる。

「矢口と圭ちゃんと、どっちが好き?」
「矢口」
即答だった。

「他のメンバーの誰よりも、矢口のことが好き?」
「もちろん」

「みっちゃんや彩っぺよりも、矢口の方が好き?」
「ああ」
嘘は、ついてないと思う。

だけど…。

「矢口と仕事だったら、どっちが大事?」
「え?」

「矢口と自分自身だったら、どっちが大事?」
「………」

「ねえ、どっちなの?」

彼女はうろたえる。
当たり前だとは思うけど。

どっちなの?
202 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時47分02秒
彼女は沈黙したままだった。

仕事と自分と、私自身…。彼女は何を選ぶの?

「…矢口」
彼女ははっきりと口にした。

「え、今、何て…?」
「私は、どんなものよりも、自分自身よりも、矢口のことが大事や。矢口のためなら何でもするし、矢口が私を必要としてるならどこへだって行く。
矢口が私を許せないって言うなら、何をしてでも償うから」
ほんとに、そう思ってくれてるの?

「じゃあ、矢口のために死んでって言ったら?」
「そうする」

「じゃあ、矢口を殺してって言ったら?」
一瞬考え込んだけど、彼女は答えた。
「矢口がそうして欲しいなら、私はそうする。でも、矢口のいない世界じゃ生きてる意味もないから、私もすぐに後を追う」

「その逆は?」
私の質問は止まらない。
203 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時49分24秒
「逆?あぁ、矢口に殺されてもいいかってことか。構へんよ。矢口になら。それって、死ぬ時も矢口が側にいてくれんのやろ?」

何で、笑顔なの?
ほんとに、そうなってもいいの?
矢口に殺されて、裕ちゃんは幸せになれるの?

それよりも。
裕ちゃんを殺して、矢口は幸せになれる…?

「裕ちゃん、死んだら矢口だけのものになるんだよね…」
「今だって、矢口だけのものやん」
「違うよ。生きてたら、また今日みたいなことが起きるかもしれないじゃん。その度に、矢口はこんな苦しい思いをするんだよ。
そんなの、イヤだ」

彼女は、私の手を取って自分の胸元へ導いた。
204 名前:14.裏切り 投稿日:2002年01月25日(金)22時50分29秒
「矢口、私を殺したいん?」

私は彼女を殺したい…?
ああ、そうなのかもしれない。

彼女を殺して、私も死ぬ。
さっき、彼女もそう言ってたじゃないか。

誰にも渡さないためには、彼女の存在を消してしまえばいいんだ。

何て簡単なことなんだろう。

永遠に、私たちは2人きり。

もう誰も、私たちの仲を裂くことはできない。
205 名前:K 投稿日:2002年01月25日(金)22時52分42秒
ほんとは1章ずつの更新にしようと思ってましたが、ちょっと切りたくないので、続けて載せていきます。
次が、一応最後の章ってことになるかな。

それでは。
206 名前:15.ずっと一緒… 投稿日:2002年01月25日(金)22時54分23秒
私が手に持っているもの…、それは、ナイフだった。
彼女の部屋のキッチンに置いてある、何の変哲もないナイフ。

これで、人を殺すことなんてできるんだろうか…?

試しに、自分の指にすーっと刃を走らせてみる。
わずかな痛みを感じた直後、私の指に赤い線が浮かび、即座に血が溢れ出した。

何だ、ちゃんと切れる。
よかった。

私はそれを手に、彼女の寝室に行く。
207 名前:15.ずっと一緒… 投稿日:2002年01月25日(金)22時55分12秒
ベッドの上には、パジャマの上だけを着た彼女の姿が。
その乱れた髪と額に残る汗、そして、しわくちゃのシーツがさっきまでの行為を物語っている。
お酒が入っていたせいか、今夜は彼女の方が先に果てて眠りについてしまった。

珍しいことだけど、それが私には絶好のチャンスを思わせる。

またとない、チャンス。

私と、彼女が一緒になるための…。
208 名前:15.ずっと一緒… 投稿日:2002年01月25日(金)22時56分07秒
そっとベッドに近寄り、彼女の体を眺める。

どこを刺したらいいんだろう。
胸?お腹?それとも、脇腹?
首や手首を切る方がいいのかな…。

彼女の滑らかな首筋に手を這わせる。
首筋にくっきりと残る、赤い痕。

不快なのは、私がつけたものだけじゃないってことか。
多分、圭ちゃんが。

…もう、そんなことはどうでもいい。

すぐに、彼女は私だけのものになるんだから。
209 名前:15.ずっと一緒… 投稿日:2002年01月25日(金)22時57分10秒
私は彼女の首筋にナイフの刃をあてる。

ひんやりとした感触に気づいたのか、彼女はうっすらと目を開けた。
「やぐ…ち?」
思わず、手の動きが止まった。

彼女は視線をずらして私の手の中にあるナイフを見つけると、微笑んだ。
「苦しませんようにしてな、矢口」
全てを悟ったような顔だった。

「愛してるよ、裕ちゃん」
そう言うと、私は彼女の首筋に強くナイフを押し当てた。
210 名前:15.ずっと一緒… 投稿日:2002年01月25日(金)22時58分17秒
ぶつっと肉の切れる感触の後、それを引く。
うまく頚動脈が切れたみたいだった。

彼女の首筋から鮮血がほとばしる。
私の手や服、シーツなどが瞬く間に真紅に染まっていく。

「やぐ…」
彼女が苦しそうに私を呼んだ。
「愛し…てる…か、ら…」
そこまで言うと、激しく咳き込んで吐血した。

私はその様子をただ見つめていた。
真っ赤に濡れる手で彼女の手を握りながら。

「裕ちゃん、すぐに、私も行くから…」
ちゃんと聞こえたかどうかはわからないが、私のこのコトバの直後、彼女は絶命した。
顔には笑みを浮かべたままで。
211 名前:15.ずっと一緒… 投稿日:2002年01月25日(金)22時59分14秒
私は呆然とそんな彼女の姿を眺めていた。

薄茶の髪も、白い肌も、全てが紅く染まった彼女の姿。
そんな姿さえも、きれいだった。

もう、誰にも渡さない。
私だけの、矢口だけの、裕ちゃん。
212 名前:15.ずっと一緒… 投稿日:2002年01月25日(金)23時00分18秒
どれくらい、そのままでいただろうか。

十分すぎるほど彼女の姿を目に焼き付けた私は、彼女への最後のコトバを実行することにした。
血に染まって滑るナイフを握り直し、今度は自分の首筋にあてる。

「愛してるよ、裕ちゃん」
彼女の時と同じように呟き、首を切りつける。

焼けつくような熱さと痛み。
彼女の上に覆いかぶさるように倒れ込んだ。
すぐに意識が朦朧となる。

「ず…と、いっ…しょ…」

私は彼女の後を追った。
213 名前:15.ずっと一緒… 投稿日:2002年01月25日(金)23時01分15秒
もう、これで誰も私たちの邪魔はできない。

矢口と裕ちゃんは2人きり。

これからは、ずっと一緒に。

永遠に…。
214 名前:K 投稿日:2002年01月25日(金)23時06分29秒
最後に、短いエピローグ的なすごく短い話を載せて、完全に終わりにするつもりでいます。
215 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月26日(土)06時19分26秒
い、痛い・・・
それしか言えません。

朝からやや凹み・・・

作品とすれば素晴らしいです。
でも、それだけに衝撃が大きかったです。
216 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月26日(土)18時16分02秒
こんな凄い衝撃の結末になろうとは・・・
昨日の夜読んだけど凹んで固まりレスもこんなに遅くなりました。(苦笑
本当にお疲れ様でした。
圭ちゃんはこの後・・・自分のせいと凹んだのかな?
エピローグの後、短編でもいいので・・・甘いやぐちゅー書いてください。
217 名前:K 投稿日:2002年01月26日(土)23時10分15秒
それでは、最後にちょっとだけ更新です。
218 名前:エピローグ〜保田圭〜 投稿日:2002年01月26日(土)23時11分25秒
病院の霊安室で、彼女たちに会った。
死んでしまった裕ちゃんと矢口に。
真っ白な布を纏い、穏やかな表情で永遠に眠り続けている。
2人の首筋には、目を逸らせないほどに目立つ赤い線が走っている。

何で…?
私が最後に彼女たちを見たのは、今からたった24時間前じゃないか。
何で、こんなことに…。
219 名前:エピローグ〜保田圭〜 投稿日:2002年01月26日(土)23時12分47秒
今日は朝からごたごたしていた。
集合時間になっても矢口が一向に現れず、焦ったマネージャーは自宅に連絡して。

そこで、昨日の夜に、裕ちゃんのとこに泊まって次の日は直接スタジオに行くという電話が裕ちゃんからあったことを知る。
時間的に考えても、私が帰った直後のことだと思う。
当然のことながら、裕ちゃんの家やケータイに電話するが、彼女も連絡がとれない。
聞くと、裕ちゃんも仕事をすっぽかしてるとか。

この時点で、今日は矢口抜きの仕事が決定する。
裕ちゃんも急病ということに。


その後、夕方近くに雑誌の取材と写真撮影を終えた時、呆然とした表情を隠せないままのマネージャーは、
私となっちと圭織の3人だけを呼んで、その事実を告げたのだ。

他のメンバーには、今は伏せておくようにと。
220 名前:エピローグ〜保田圭〜 投稿日:2002年01月26日(土)23時13分30秒
全ての仕事を終えた私は、まだ仕事の残るなっちや圭織を置いて、1人で病院へ向かった。

そして、今、ここにいる。

2人の遺体を目の前にして、立ち尽くしている。
221 名前:エピローグ〜保田圭〜 投稿日:2002年01月26日(土)23時14分16秒
何が、あったの…?

裕ちゃん、答えてよ。

いつもみたいに、バカな私に教えてよ…。

もう、あの悪戯好きの瞳も見られないの?

魅力あふれる艶やかな声も聞けないの?

私にもたれて、囁いて、キスしてくれた裕ちゃんはいないの…?

こんなのって、ないよ…。
222 名前:エピローグ〜保田圭〜 投稿日:2002年01月26日(土)23時15分09秒
心中らしいというのは聞いていたけど、詳しい検死結果によると、矢口が裕ちゃんを殺して、それから自殺したとか。
裕ちゃんに、抵抗した跡は全く見られないらしい。
あの顔を見れば、何となくだけど想像はつく。

だって、笑ってるんだよ、裕ちゃん…。


でも。

残された私たちはどうなるか、考えてくれた?
裕ちゃんと矢口を失った私たちが、これからも今まで通りに生きていけるなんて、思ってるの?

そんなの、酷いよね。

酷すぎるよ…。
223 名前:エピローグ〜保田圭〜 投稿日:2002年01月26日(土)23時15分56秒
あぁ、何で矢口を裕ちゃんの部屋に入れてあげなきゃ…なんて思ったんだろう。
こんなことになるなんて…。

…ということは。

私が、2人を殺した…?

私の軽率な行為。
裕ちゃんのキスを受け、キスを返した行為。
矢口に同情して、インターホンを押した行為。
それらが重なって、こんな結果になったんだ。
224 名前:エピローグ〜保田圭〜 投稿日:2002年01月26日(土)23時16分32秒
そんな…。

もう、ヤダ…。
私まで、死にたくなっちゃうじゃん。

ラクになれたり…するのかな。
残される人のことなんて、考えなければ…。
225 名前:エピローグ〜保田圭〜 投稿日:2002年01月26日(土)23時17分12秒
決して開くことのない裕ちゃんの瞳。
見つめても、どれだけ見つめても、もう私を見てはくれない。

226 名前:エピローグ〜保田圭〜 投稿日:2002年01月26日(土)23時18分20秒
裕ちゃん、あなたの死が残したもの。

それは。

例えようもないほどの悲しみと、絶望と、喪失感。


そして、あなたの死が奪ったもの。

それは。

私の、生きる気力。
227 名前:あなたへの想い 投稿日:2002年01月26日(土)23時19分11秒


     ――Fin――
228 名前:K 投稿日:2002年01月26日(土)23時26分35秒
最後は自分でageちゃいました(^^;
…というワケで、ここまでおつき合いいいただいた方、どうもありがとうございます。
こういった終わり方は嫌いな方も多いと思いますが、結末から書き始めた自分にとって、ラストだけは変更はできなくて。

>>215 名無し読者さん
そんな朝早くから読んでいただいたのに、ブルーにさせてしまったみたいで。
何か、申し訳ないです。
レスありがとうございます。

>>216 名無し読者さん
レスありがとうございます。
>圭ちゃんはこの後・・・自分のせいと凹んだのかな?
バレてましたか…(苦笑)
まぁ、やっぱりここで圭ちゃんを登場させないことには…、終われないです。私の中で。
229 名前:K 投稿日:2002年01月26日(土)23時33分01秒
今後の予定を少し。

以前にもちょっと書きましたが、一応、できあがってる短編が3つあります。
まだこのスレで全然大丈夫そうなので、とりあえずはそれを載せていきます。

それらの内容は、みっちゅー、かおゆう、なっちゅー です。

何か需要が少なさそうなものばかりかなぁとも思いますが(笑)
とりあえず、興味がある方は目を通してもらえれば。

この3つが終わってまだスレの容量が残っていたら、リクを受け付けようかとも考えてます。
(おそらく、裕ちゃんの相手は?ってことで…)

それでは。
230 名前:216の名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)02時04分53秒
みっちゅー、かおゆう、なっちゅー全部好きなカップリングなので
かなり期待して待ってます。(w
容量が残っていれば・・・ごまゆうなんかはムリですか? 
231 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)03時37分36秒
衝撃的ラスト…でもよかったです。
やぐちゅーはやっぱええ・・・。
でも驚きました。
3つの短編も楽しみです。
余ってたらやっぱりやぐちゅーかな、書いて欲しいです。
これからもがんばってください。
232 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)06時01分23秒
やぐちゅーで死ぬのって結構ここでも多いから
最後は、罪悪感から見た圭の夢オチっていうふうに
さらにとかわしても良かったと思うけどね。
233 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)20時24分48秒
みっちゅーカモーン!!!!
234 名前:K 投稿日:2002年01月28日(月)02時53分57秒
>>230 216さん
3つともそんなに長くないので、多分、リク受け付けられると思います。
ごまゆう、遅くなるかもしれませんが、気長に待ってて下さい。

>>231 名無し読者さん
レスありがとうございます。
はい。やぐちゅーはいいです。(←もう何回言ったかわからない…)
また考えついたら、やぐちゅーは書きます。きっと。

>>232 名無し読者さん
レスありがとうございます。
そうなんですよね。
最近、やぐちゅーの痛い話が何か増えてるような。
しかも、私のはリアルものだったんで、余計に苦手と思う人もいたんじゃないかと。
そういう機転を利かせた話運びができるようにしたいです。

>>233 名無しさん
それでは、みっちゅーいきます(笑)
あと、レスはsageでお願いしますね。
まぁ、沈んでなきゃ嫌ってワケではありませんが。
私のわがままです。
235 名前:弱み 投稿日:2002年01月28日(月)02時56分13秒
「なあ、今夜久しぶりにみっちゃんち遊び行ってええか?」
突然の、誘い。
「今夜?何でまたそんな急に…」

最近は一緒に仕事をすることもほとんどなかった彼女との、久しぶりの仕事。
いちばん最後は…、夏のハロプロツアーだったかな。
あの時はソロになった彼女とずっと同じ楽屋で、ずい分長い間一緒にいた覚えがあるけど。
「だって、みっちゃんと一緒に仕事したの、久しぶりやん。今は美少女教育もないしさ。たまには遊びたいなぁって思ったんや。
な?ビール用意して待っとって」
一方的に決めつけるのは変わってない…。

「ねえ、私、まだいいって言ってないんやけど…。ねーさん、聞いてます?」
もうすっかりその気でいる彼女に半ば(以上?)呆れながらも、口を挟んでみたりして。
236 名前:弱み 投稿日:2002年01月28日(月)02時56分58秒
ま、私の答えは決まってるんやけど。

「え、何?聞いとらんかった」
この人はぁっ。

「だ〜か〜ら、いきなり来る言われても、こっちの都合だってあるんですけど…」
彼女の顔から瞬く間に笑みが消えて行く。
面白いくらいに。

「何や…。みっちゃん、予定あるんか…。何?誰となん?」

かわええなぁ。もうちょっと苛めてもいいやろか。
ってか、苛めたいんやけどな。

「そんなん、ねーさんに教えなる義理はないですやろ」
すると、今度はぷ〜っと膨れている。
237 名前:弱み 投稿日:2002年01月28日(月)02時58分12秒
「みっちゃんはいつからそんな冷たい子になってしまったんや。私はみっちゃんのいない独り寝は寂しくて耐えられへんのに…。
ちょっと会えなかった間に、捨てられてしまったんやろか」
な、何か返し方が強烈なんですけど…。

この人、どこまで本気で言ってるんかわからへんからなぁ。
もう正直に言おうかどうか考えてたら、彼女は急に私の耳元に顔を寄せてきて、囁いた。
「なあ、裕ちゃんは、みっちゃんと一緒にいたいだけなんやけど。ダメ?約束、断れへんの?
今夜はみっちゃんの好きにしてええから。な?」

赤面…。
まっ昼間っから、な、何を…。
238 名前:弱み 投稿日:2002年01月28日(月)02時59分07秒
私の真っ赤な顔を見て、彼女は意地悪くニヤニヤと笑っている。
何か、悔しい…。

「諦めや、みっちゃん。魂胆はバレてるで。アンタ、ほんまは今晩ヒマなんやろ」

何で、こうも簡単に見透かされてるんやろ…。
あぁ〜っ、ほんま悔しいわ。

「ほな、今夜遊びに行くわ。楽しみにしとるから」
そう言うと、彼女はさっさと出て行った。
私の返事も待たずに。
もちろん、彼女の誘いを断るなんて、私にはハナから無理な話なんやけど。

惚れた弱みってやつなんかなぁ。
それにしても、悔しいわ〜。
全く、今夜は覚えとき。
239 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)10時57分27秒
みっちゅーだ!!(w
この頃少ないので嬉しい。
240 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)21時27分41秒
みっちゅー初めて読みました。イイ!!
今まで一度も見たことなかったので嬉しいです!
作者さんがんがってください!

sageですね、了解。
241 名前:K 投稿日:2002年01月28日(月)23時17分19秒
>>239 名無し読者さん
私も好きなんですけどね。みっちゅー。
やっぱり最近はTVとかでなかなか絡んでくれないせいでしょうか。
ちょっと寂しいです。

>>240 名無し読者さん
レスありがとうございます。
みっちゅーは初めてですか!
そういう方もいるんですねぇ。
やっぱり最近はみっちゅーが少なくなってきてるんだっていうのを実感します。


それでは、更新します。
242 名前:弱み 投稿日:2002年01月28日(月)23時18分32秒
「は〜い。中澤裕子登場っ!」
めっちゃくちゃ上機嫌な彼女は、10時過ぎにウチに現れた。

「何や、裕ちゃんもうできあがってんの?」
「ん〜、ちょっとだけ」
いや、かなりじゃないかな…。

「なあ、みっちゃん、ビールある?」
「え?まだ飲むん?止めといた方がええんとちゃう?」
しかし、そんな忠告をこの人が聞くワケもなく…。
あぁ、人ンち冷蔵庫勝手に漁ってるし。
ねーさんらしいって言えば、らしいですけど。

ところで、今日のあのコトバは本気なんやろか。

今、こんな状態の彼女に聞いて、まともな答えが返ってくるとは思ってないけど、さ。
一応ね、ほら、こっちの心づもりってのもあるし…。
243 名前:弱み 投稿日:2002年01月28日(月)23時19分23秒
「裕ちゃん、今日、私に言ったこと、覚えてる?」
早速1本目の缶ビールを飲み始めたこの酔っ払いは、大して関心もない様子で答えた。
「今日?何?何か大切な話したんか?覚えとらんわ」

やっぱり…。
まあ、あんなコトバ、期待してる私の方がおかしいんやろな。

私は気持ちを切り替える。
「別に、なんもないよ。ところで、今夜は泊まるん?」
泊まるなら、パジャマの代わりになるもん出さないと…。
布団も敷かなあかんか。

「みっちゃんは泊まってって欲しいん?」
244 名前:弱み 投稿日:2002年01月28日(月)23時20分43秒
は?

何で逆にこっちが質問されなきゃならんの?

「何、言うとんの?」
「いや、みっちゃんが泊まってって欲しいって言えば、今夜は泊まろうかなと思ってんねん」
そんな…。
もちろん泊まってって欲しいけど…。

「なあ、どっちなん?」
詰め寄られると、やっぱり私は弱いなぁ。
「泊まってって…」
目の前の彼女は、うれしそうににっこりと笑った。
「だと思ったわ。最初からそのつもりやし」

ため息…。
何で、こうもいいように遊ばれてるんやろ。
いつものことだって言っちゃえば、それまでなんやけどなぁ。
245 名前:弱み 投稿日:2002年01月28日(月)23時21分34秒
しゃーない、さっさと布団でも敷いてくるか。
そう思って、立ち上がりかけた、その時。

「みっちゃん…」
優しい声で呼ばれた。

「え?」
急に変わったその声音にびっくりして、彼女を振り返る。

「ちゃんと覚えてるから、安心し」
「覚えてるって…。何のこと…?」

まさか…。
246 名前:弱み 投稿日:2002年01月29日(火)12時27分07秒
飲み終えたのだろうか、手にしていたビールの缶をテーブルに置くと、彼女はソファに深く座り直し、ジャケットを脱ぎ始めて。
ぴったりとしたタンクトップと白い肌が見えると、思わず、ごくりと喉が鳴る。
続けて彼女は、腕時計とブレスレットを外しにかかった。

「裕ちゃ…、何を…」
彼女は、ん?とこちらを向いて、あの時みたいに私の耳元に顔を近づけて、言った。
「言ったやろ。今夜はみっちゃんの好きにしてええって」
ふうっと耳に息をかけられる。
くすぐったさと、何とも言えない気持ちよさに身をよじってしまう。

次の瞬間、彼女は決定的なコトバを紡いでいた。

「最近な、ちょっぴり欲求不満だったんや。なあ、して…」
247 名前:弱み 投稿日:2002年01月29日(火)12時28分46秒
彼女からの、誘い。

彼女はタンクトップも脱ぎ捨て、ジーンズのファスナーに手をかける。
その手の動きを押さえると、彼女は怪訝そうに私を見上げた。
「して、くれへんの…?」

私は次のコトバを遮るように、彼女に口づける。
「私が脱がしたるから…」
それを聞くと、彼女はふっと微笑んで私にもたれかかってきた。
248 名前:弱み 投稿日:2002年01月29日(火)12時29分50秒
私は彼女の首筋や肩にキスしながら、下着の肩ひもを咥え、徐々にずらしていく。
白くて滑らかな肌に指を走らせ、その感触を思う存分堪能すると、片手で器用にホックを外す。
大きくはないが形のいい彼女の胸が露わになった。

「裕ちゃん、あいかわらずかわええな…」
もたれかかってくる華奢なその体をそっと起こし、ソファへと横たえて。
彼女の胸の突起を口に含み、舌で弄ぶ。唇で挟んで引っ張ったり、軽く歯を立ててみたり。

「んっ…。やあ…、は…っ」
そのたびに嬌声が上がり、同時に彼女の体がびくんびくんと跳ねる。

私は、喘ぎ声を上げ続けるその口に、自分の人さし指と中指を押し込んだ。
「んんんっ……」
「濡らして、裕ちゃん…」
私が言えば、彼女は恐る恐る、指に舌を絡めてくる。
その間も、私は唇で彼女の胸に刺激を与え続けて…。
249 名前:弱み 投稿日:2002年01月29日(火)12時31分03秒
湿った水音と乱れる息づかい、そして、時折彼女が上げるくぐもった声だけが部屋の中に響く。

空いてる方の手でジーンズのファスナーを下げると、彼女の唾液で濡れた指を下着の中に忍び込ませた。
「あ…っ。みっ…ちゃ…」
「指、舐めてもらう必要なかったやん。裕ちゃん、もう十分すぎるほど濡れてるで」
意地悪く囁けば、彼女の顔が羞恥に染まる。

「や…、そん…な…」
決して私と目を合わせようとしない。

恥ずかしがって…いるんだろうか。
自分から誘っておきながら…。


そんな彼女がたまらなくかわいく、愛しいのも確かなことだけど。
250 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)01時56分41秒
「んああぁぁっ…!!」
彼女の内部に指を挿入すると、ひときわ高い声が発せられる。

熱い、熱い、彼女の中。
締めつけられ、奥へと誘い込まれる私の指。

「…ぅ…くっ。ああぁ…っ」
堅く目を閉じて、眉根を寄せるその表情。

何で、そんな苦しそうな声を上げる?
何で、そんな辛そうな顔をする?

私は、あなたを悦ばせたいだけなのに…。
私は、あなたを気持ちよくさせたいだけなのに…。
251 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)01時57分41秒
「なあ、気持ち、ええやろ?裕ちゃん…?」
「はあ…っ。んな、こと…」
この強情さは何なんだろう?

あなたは乱れたいんじゃなかった?
私に乱れさせて欲しいんじゃなかった?

違う。

私が、あなたを、乱れさせたい…。

全てはそれだ。
252 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)01時58分42秒
彼女の内部で、彼女を気持ちよくさせようとして動かしていた指を、止めた。

与えられなくなった、快感。
昇りつめる寸前で止められた、感覚。

「ふ、う…。みっちゃ…ん?」
ふっと開かれた虚ろな瞳が、私を探す。

「なあ、気持ちええ?」
その瞳を正面から捉えて、再び問う。
彼女が答えたくないのを承知で。

「な…っ」
「気持ちええの?」
たたみかけるようにくり返す。
253 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)01時59分40秒
「お…ねが、い…。もう…」
赤く染まる顔を私から背けて。

「何、お願いしてるん?言わんとわからんで」
わかり切ったことなのに、彼女に言わせたい。
羞恥に震える彼女に言わせたい。

彼女の強情さとか、プライドとか、粉々に崩して私の前に堕としたい。


もっと、私を欲しがって。
254 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時02分05秒
いつまでも意地を張り通しそうな彼女に、私が焦れた。
挿入していた指を、少し、引き出して。

「や…っ」
小さく、彼女は抗議の声をあげる。

「何が、イヤなん?言うてくれたら、その通りにするから…」
彼女は大きく息を吐き、弱々しく手を伸ばす。
「みっちゃん…。ね、え…」
その白い指が、私の頬をつぅっと撫で、唇をなぞる。
欲情したその瞳で、私に訴えてくる。
255 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時03分24秒
でも、わかりすぎる無言の訴えは敢えて無視して。
「言わんとダメやって。なあ。もっと欲しい、もっと奥まで入れて、もっとぐちゃぐちゃにしてって言ってみ?
…裕ちゃん。して、欲しいんやろ?」

唇を引き結び、目尻には涙をにじませながらも彼女はそれを拒んでいた。
私の加虐心を煽るような顔をして。
256 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時04分23秒
突然、彼女はぐいっと私の首に手を回して自分の方へ引き寄せ、強く抱きしめる。
「もっと…、指、入れ…て。う、ごかし…て…」

残念。

言ってる時の顔、見たかったわ。
どんなにかわええ顔してたんやろ。

でも、いいにするわ。

彼女のコトバ通り、私は引き抜きかけていた指を再び奥まで挿入し、前以上に激しく動かした。

「あああぁぁっ…!!」
待ちわびていた刺激に身をよじらせ、更に大きな喘ぎ声が発せられて。

「あっ、あっ、もっ…とぉ…」
乱れ始めたら、止まらなかった。
257 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時05分37秒
挿入する指を、もう1本、増やして。
圧迫感が強まり、私の指を痛いほどに締め付けてくる。
それに逆らうように手首を反転させると、その細い体躯は弓のようにしなり、さっきよりもずっと大きな反応が返ってくる。
彼女の意思とは、全く無関係に…。

「も…、もう…」
彼女の限界が近いのを悟り、手の動きを速めて、絶頂へと導いていく。

やがて、彼女の中がぐっと収縮するのと同時に、嬌声が響いた。
「あっ、あああああぁぁっ…!!」

次の瞬間、一気に弛緩して、汗ばんだ体はソファに沈み込んだ。
258 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時07分40秒
しばらく荒い息を吐いていたが、落ち着いたのだろうか、固く閉じられていた瞳がふっと開かれる。
ようやく、私をちゃんと見てくれた。
その瞳は、さっきまでの行為が信じられないほどに澄んで、きれいだった。

彼女にパジャマ代わりにとTシャツを手渡し、それを着るところをぼーっと見ながら呟いた。
「ごめんな…」
つい、口から出たというカンジだ。

「何で、みっちゃんが謝るん…?私が、誘ったんやから…」

そうやけど…。
259 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時08分26秒
「いや、久しぶりで加減がわからなくなってたんかも…。ウチ、酷かったか?」
彼女はわずかに頬を染め、視線を彷徨わせた。
「…みっちゃん、意地悪やった…。今は、こんなに優しいのに…。何でなんやろな?」

「裕ちゃんの、せいやから…」
ん?と、彼女は不思議そうな目を向ける。
260 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時09分58秒
「裕ちゃんの声とか、目とか、体とか、そーいうのが全部、私の理性を奪ってくんや。もっともっと…って思ってしまうん…」
彼女はふっと笑った。
「何や、みっちゃんもえっちやなぁ」

私にも、笑う余裕ができた。
「みっちゃんもって、裕ちゃんほどじゃないわ」

「生意気…」
261 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時11分12秒
「裕ちゃんって、いつもこんなふうに誰かに抱かれるんかなぁ…?」
反応が返ってくるとは思ってなかったが、彼女は明らかに眉根を寄せ、不機嫌になっていた。
「誰かにって、どういうことや…。私にはみっちゃんしかいないのに…」

「え…?」
「え、やないやろ。何や、私が他の誰かとしてるって思ってたん?それこそ、ショックやわぁ…」

「あ、いや…、そんなつもりじゃ…。私が知らない頃とか、裕ちゃんは誰かにそんな表情を見せたのかと思うと、
すごく、悔しいって言うか…。ごめん、何、言ってるかわからんようになってきた」
262 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時12分06秒
彼女は、俯いた私を下から覗き込むようにして、言った。
「どんな顔してたかはわからへんけど、私がいちばん好きなんは、みっちゃんやから。それは、これからもずうっと変わらへんで。
みっちゃんだけを、愛してるから。な」

て、照れる…。
何で、こう臆面もなくこういうことが言えるんやろ、この人は…。

「あははっ。何で赤くなってんの、自分」
笑うし…。
263 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時13分23秒
「…裕ちゃんのコトバに照れたんやって…!」

可笑しそうな笑いがふと消えると、彼女は真剣な表情で私を見つめた。
「なあ、みっちゃんは?」

「は?」
突然、何を言い出すんだ?

「だからさ、私はみっちゃんのこと大好きやし、これからもたまにはしたいなって思ってるけど、みっちゃんはどうなんやろって」
「なっ…。そんなこと…」

そんなこと、わかってるやろ…?
264 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時14分25秒
「言ってくれんと、裕ちゃんわからんから」
やり返された…。

「なあ、私のこと、嫌いなん?」
ぶんぶんと、かなり大げさに首を振る。
そんなん、当たり前じゃないですか…。

「じゃあ、好き?」

「…き」
ぼそっと呟く。
265 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時15分14秒
彼女は私の手に、自分の手を重ね、優しい口調で言う。
「聞こえへんで。ちゃんと、みっちゃんの気持ち、聞かせてえな」

私は意を決して、彼女を正面から見つめた。
「裕ちゃんのこと、大好きや。誰よりも、裕ちゃんのこと、愛してるから…」

ぎゅうっと抱きしめられた。

「何や、うれしいなぁ。裕ちゃん幸せやわ」

それは、私の方だ。
言わなかったけど、抱きしめ返すことでそれに答えた。
266 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時16分18秒
「みっちゃん、今夜、一緒に寝よ?」
また、唐突な…。

返事に窮してると、上目づかいでお願いされた。
「みっちゃんと、離れていたくないんや。お願い…。いいやろ?」

いいけど、一晩中も私の理性がもつかなぁ。
心配やわ…。

「な?」
でも、こんな顔されたら、断るのが無理な話だ。

「うん…」
267 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時17分26秒
私には、頷くことしかできない。
あなたの要求なら、どんなものでも。
あなたの虜である私が、首を横に振れるハズもない。
そうやって、喜んでくれるあなたを見ることが、私の幸せでもあるんだから…。

だけど、これってほんとに惚れた弱みやなぁ…。

これからもいろんな意味で苦労は絶えなさそうや…。
268 名前:弱み 投稿日:2002年01月30日(水)02時18分14秒

――Fin――

269 名前:K 投稿日:2002年01月30日(水)02時26分03秒
というワケで、みっちゅー『弱み』でした。
あいかわらず、タイトルにセンスないですけど…。

さっき見ていたアイさが!では、すっごい久しぶりに初代MCの映像があったりして、かなりうれしくて…。
やっぱこの2人っていいなぁって思わせてくれました。

えっと、次のかおゆうですが、明日からちょっと出かけるので、更新は日曜日になる予定です。
それでは。
270 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月30日(水)02時52分43秒
相変わらず「ただの」エロにはしませんね〜
何か裏が有り過ぎて何度も読んでみたくなります。

日曜日楽しみにしています。
271 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月11日(月)19時34分10秒
かおゆうってかなりマイナー???ってか読んだことないので・・・楽しみです(w
裕ちゃんANNの再来週ゲスト・・・カオリだし。
矢口のANN来週ゲスト・・・裕ちゃんだし。
ネタの宝庫になりそうな予感。
272 名前:K 投稿日:2002年02月12日(火)21時39分11秒
復帰していたんですね。よかったです。
復帰のために尽力された方、ご苦労様です。
そして、ありがとうございます。

ここがネットする上でのかなりメインになってたので…。

読んでくださってる方、これからもよろしくお願いします。
273 名前:K 投稿日:2002年02月12日(火)21時55分35秒
>>270 名無し読者さん
レスありがとうございます。
>何か裏が有り過ぎて何度も読んでみたくなります。
裏…。ないです、特に(笑)
あるのは、みっちゃんは裕ちゃんにベタ惚れという(私の妄想の中の)揺るぎない真実だけです(^^;
機会やネタがあれば、みっちゅーはまた書きたいんですけどね。

>>271 名無し読者さん
そうですね。かおゆうは間違いなくマイナーじゃないかと。
でも好きです。新旧のリーダー2人。
>裕ちゃんANNの再来週ゲスト・・・カオリだし。
すっごい楽しみです。
最近めっきりきれいな大人になった圭織が、裕ちゃんとどんな会話をしてくれるか…。
矢口のANN-Sももちろん楽しみに。

それでは、マイナー(?)かおゆうです。
ちなみに、みっちゅー「弱み」のようなエロは皆無です。
274 名前:仲間 投稿日:2002年02月12日(火)22時00分12秒
仕事を終えて家に帰ると、留守番電話に1件のメッセージが。
あまり深く考えずに再生してみたら、聞こえてきたのは圭織の声やった。
珍しいな。

『裕ちゃ〜ん。圭織だよぉ。近いうちにヒマだったらつき合って。話したいことがあるの。…それじゃ、仕事がんばってね。飯田圭織でした』

何なんや…?
こんな改まったカタチで相談したいことでもあるんか。
誰かに、何かあったんやろか。

気になるわ…。
275 名前:仲間 投稿日:2002年02月12日(火)22時01分34秒
早速、圭織のとこに電話してみた。

プルルルっ。
4回目で出た。

『もしもし?』
「あぁ、圭織。私やけど」

『裕ちゃん…』
「今な、帰ってきて留守電のメッセージ聞いたんや。何かあったんかと思って、心配になったから。どうかしたんか?
電話じゃマズイん?」

『………』

何や、ほんまにエライことでも起きたんとちゃうやろな。
276 名前:仲間 投稿日:2002年02月12日(火)22時04分13秒
「圭織…?聞いてるん?」
『会って、できれば顔見て話したいんだけど、裕ちゃん、忙しいの?』

急ぎ…ってワケじゃないんか。

「いや、来週の月曜日まで待てるんやったら、夜に時間作れると思うんやけど…。そんなに先でもええの?」
『うん。圭織の愚痴を聞いて欲しかっただけなの。なっちとか矢口や圭ちゃんには言いずらくてさ。
それに、裕ちゃんともゆっくり話したいなって思ったんだ。じゃあ、月曜日、空けといてね』

ほっ。
安心した。圭織の愚痴か…。
そんなんいくらでも聞いてやるで。
277 名前:仲間 投稿日:2002年02月12日(火)22時06分14秒
「おお。わかった。空けとくわ、圭織のために。ところで、どこで会うん?圭織のとこか?」
『うん、いいよ。ウチに来て。待ってるから。それじゃ、わざわざありがとね。おやすみ、裕ちゃん』
「あぁ。おやすみ」

すぐに電話は切れた。

それにしても、圭織の愚痴ねぇ。

何やねん、一体…。
278 名前:仲間 投稿日:2002年02月12日(火)22時07分11秒
待て!?矢口とかなっちとか圭ちゃんには話せないことなんか?
それはそれでヤバイことちゃうんか…?

ああぁぁっ、気になるやんかっ。

月曜日までまだ5日もあるやん。
気になって、仕事どころじゃないわ。
もっと早くにしとけばよかった…。


後悔………。
279 名前:仲間 投稿日:2002年02月14日(木)06時59分01秒
それからは圭織のことを心配しつつも、何とか仕事をこなしていった。
圭ちゃん辺りにそれとなく聞いてみようかとも思ったが、やっぱり圭織から直接聞くべきやと思い、月曜日を心待ちにしていた。


そして、月曜日。

申し訳程度のお土産としてケーキを2個買って、圭織の家に行った。
あ、夜にケーキ食べたりしたらヤバイかなぁ。
まあ、ええわ。舞台終わったばっかやから、ちょっとくらい食べても…。
280 名前:仲間 投稿日:2002年02月14日(木)07時00分44秒
ピンポーン。

インターホンの応答を待つ。

………………。

あれ?
いない…なんてこと、ないやろな。
寝てたりして…?
いやいや、仕事が長引いてるんか?

ピンポーン。

とりあえず、もう1回押してみる。

………………。

応答ナシ。

………さて。
これは考えとらんかったけど、どうしたらええんや。

電話…するか。
281 名前:仲間 投稿日:2002年02月14日(木)07時03分04秒
そう思って、ケータイを取り出した時だった。

『裕ちゃん?』
ガチャッという音がしたのと同時に、聞き慣れた声がした。

おぉっ!驚くやないか、いきなり…。
慌ててインターホンに口を近づける。

「何や、いないんかと思ったで」
『ごめんね。今、開けるから上がってきて』
電子音が響き、ドアを押して私は中に入る。

いや〜、ほんまに圭織のとこ来るのは久しぶりやなぁ。
どうでもええけど、インターホン、いきなり『裕ちゃん』は止めた方がええんとちゃうか?
どこの誰が来るかもわからへんし…。

エレベーターを降りて、そんなことを考えながら圭織の部屋へ向かった。
282 名前:仲間 投稿日:2002年02月14日(木)07時04分53秒
ピンポーン。
部屋のインターホンを押すと、今度はすぐにドアが開けられた。

「裕ちゃん」
「こんばんは〜」
さっ、どうぞと招かれ、私は部屋の中へ。

あっ、圭織の髪が濡れている。
そう言えば、何だかシャンプーとかのいい香りがするし、頬が上気してるような…。

「圭織、アンタ、フロ入ってたんか?」
「ん?うん、そうだよ。それでインターホン鳴ったのに気づかなくてさ。ごめんね」

ふ〜ん。
しっかし、こうして見ると、圭織ってほんまにええ女ってカンジやなぁ。

…って、何を考えてるんや、私はっ!
何か、今夜の私、おかしいかもしれん……。
283 名前:K 投稿日:2002年02月14日(木)07時08分34秒
少しだけ、更新しました。

えっと、どうでもいい補足を1つだけ。
この時の裕ちゃんが言ってる舞台ってのは、フットルースのつもりです。
これを書いたのは11月くらいだったので。
284 名前:K 投稿日:2002年02月15日(金)06時35分26秒
えぇと、連日更新…です(笑)

何か、妙に張り切ってるなぁと自分で呆れてます(^^;
でも、一度になかなかたくさんの量が上げられないですが……。

285 名前:K 投稿日:2002年02月15日(金)06時36分18秒
「圭織、これ。ケーキ買ってきたんやけど、食べる?この時間にケーキはヤバイかもしれんけど」
「ケーキ?甘いやつ?」
え?ケーキって、普通は甘いもんじゃないんか…?

「チーズケーキ…だけど」
「あっ、食べる。圭織チーズケーキ好きなんだ。コーヒー淹れるね」
うれしそうに言って私からケーキの箱を受け取り、立ち上がってキッチンへ。

チーズケーキ…。まあ、圭織は好きだって知ってたけど、何だか、あの娘の感覚はおかしいな。
あいかわらずって言ってしまえばそこまでなんやけどな。
ようわからんわ、やっぱり。
286 名前:仲間 投稿日:2002年02月15日(金)06時37分28秒
それより。

メンバーに話せない愚痴って何なんや?
私はそれが気になってしょうがないんやけど。

2〜3分ほどして、圭織は2つのマグカップと皿に移したチーズケーキ、そして2本のフォークを乗せたトレーを手に戻ってきた。
「はい」
「あ、ありがと…」

愚痴…、いつになったら話してくれるんやろか。
圭織はそんな私の心配を他所に、チーズケーキを食べて幸せそうな笑顔を浮かべてる。
何なんや、ほんまに…。

「な、なあ、圭織…」
圭織はケーキを食べる手も止めずに、ん?と、顔だけこっちに向ける。
287 名前:仲間 投稿日:2002年02月15日(金)06時38分50秒
「いや、あの…。話、あるんやなかったの?」
「あ、あぁ、それ?」

それ?

それってアンタ、今、疑問形やなかった?
どういうこっちゃねん。
何や、心配した私がバカみたいやん…。

圭織はあっという間にケーキを平らげると、カップを両手で持ってコーヒーをずずずっとすすり、ふぅ〜と息を吐いた。
をい。お茶飲んでるんやないんやから。

「実はさぁ」
お、ようやく本題かいな。
私はちょっと座り直して話を聞く体勢に入った。
288 名前:仲間 投稿日:2002年02月15日(金)06時41分18秒
「今度ね、またタンポポの新曲が出るんだけど…」
おぉ。話だけは聞いとるけど、どうかしたんか?

「圭織、あーいう曲、歌いたくないんだよねぇ。何か、彩っぺのいたタンポポが懐かしい…。
何で、あんな曲ばっかになっちゃったんだろうねぇ。オトナの歌、みたいなの歌いたい…。前のタンポポみたいなのが」
「圭織…」

そうか。

以前、石川と加護が加入すると決まった時も、圭織は泣いたっけ。
彩っぺがいた頃の曲は歌えないのは明らかだった。
アニメ声の石川や中学生の加護が、あの存在感のある彩っぺの代わりになれるワケがないんは、
誰もが予想してたことやったから。
予想は裏切られることなく、それまでのタンポポから大幅な路線変更を余儀なくされた。
289 名前:仲間 投稿日:2002年02月15日(金)06時43分50秒
「確かにさ、アルバムとかはあんまり売れなかったけど、圭織、歌ってる曲は好きだったよ。
聖なる鐘が響く夜も、たんぽぽも、ラストキッスも、アルバムの曲も全部…。何かヤダな…」
「圭織ぃ。そんなこと言わんといてや。私はタンポポの曲はみんな好きやで。まあ、圭織の気持ちもようわかるけどな」

「ほんとに?」
「当たり前やん。ええか。私が演歌でソロデビューしろって言われた時、どんだけ嫌がってたか覚えてるやろ?」
圭織はこくっと頷いた。

「それに、セールス的なこと言われたら、私なんてどうしたらいいん?モーニングのユニットはみんなオリコンでいい順位取ってるやん。
そりゃ、タンポポは1位こそ取ったことないかもしれへんけど、立派なもんやで?」
圭織は何だか、泣きそうな顔になる。
290 名前:仲間 投稿日:2002年02月15日(金)06時45分51秒
「でも、裕ちゃん。矢口や加護はミニモニ。があるから、タンポポじゃ別にいいやとか思ってそうなんだもん。
石川だって、モーニングのセンターだし…」
「何、言うとんの。みんな、そんないい加減な気持ちでやってるワケないやろ。もっと、矢口のこととか信じてやらんとダメやん。
私は圭織がずっとずっと一生懸命やってるの見てきたんやし。な、いつもがんばってるよな、圭織は。もっと自分に自信持たなあかんで」

あ、泣いちゃった。
泣かせるつもりなんてなかったのに。

「圭織ぃ。そんな、泣かんでええやん…」
「ふぇ…。ゆ…ちゃん。だって、だってぇ…」

「あぁ、わかったから。圭織、泣かんで。な?」
私はよしよしと、圭織の頭を撫でる。

やっぱり圭織も幼いなぁ。
めっちゃかわいいやん。
291 名前:K 投稿日:2002年02月15日(金)06時57分38秒
今回はここまで。

何か、いちいち補足するのもどうかと思いましたが、一応。
前に、これ書いたのが11月頃ってしたからわかるかと思いますが、ここの新曲は「王子様と雪の夜」ってことで。
もちろん、現タンポポが嫌いなワケでは決してないです!
ただ、個人的にオリジナルのタンポポが異様に好きなだけなので(^^;
あしからず………。


かおゆう『仲間』は、あと1回の更新で終わる予定です。

あと、少しだけ宣伝。
少し前から新スレたてて、よしやぐちゅーを書き始めました。
もし興味のある方がいれば、そちらの方も覘いてみて下さい。
292 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月16日(土)02時44分27秒
昨日の更新気づきませんで(汗
かおゆう・・・マイナーだけど・・・私も好きです。
後、よしやぐちゅーはもしかして・・・この風板ですか?(w
それだったらレスはしたことないですが・・・毎日チェックさせていただいております。
これで・・・カップリングがちょっと読めたかも。(w
293 名前:K 投稿日:2002年02月19日(火)00時48分14秒
>>292 名無し読者さん
多分、想像された通りかと思いますが、>>291のメール欄を見て確認してください(笑)
そちらも読んでいただいてるんですね。
どうもありがとうございます。


それでは、更新します。
294 名前:仲間 投稿日:2002年02月19日(火)00時50分24秒
「新曲、裕ちゃんにも聴かせてえな?楽しみにしてるからさ。圭織が歌ってるとこ見るの、大好きやから」

あ、また泣き出した。
まあ、うれし泣きだからいいか。

私はそのまま圭織の頭を撫でながら、彼女が泣き止むのを待った。
何だか、ちっちゃい子供をあやしてる気分や。
…全然ちっちゃくないけどな。

「何かね、裕ちゃんのいないモーニングって、時々すごく寂しいよ。ここに、裕ちゃんがいてくれたらなぁって、圭織、思っちゃうもん…」
そう言ってくれるんはうれしいんやけど、それじゃ私が辞めた意味ないやん…。
「圭織。さっきも言ったやろ。アンタはがんばってる。ようやってると思うわ。今のモーニングに、もう私はいなくたっていいんや。
…むしろ、いない方がいいんやって」
「そんなこと、言わないでよぉ。裕ちゃん…」

だってなぁ…。
295 名前:仲間 投稿日:2002年02月19日(火)00時54分33秒
「圭ちゃんたちとも話したけど、圭織は圭織でいいリーダーだって言ってたで。何も私みたいなリーダーを目指そうってワケやないんやろ?」
まだ、鼻をぐずぐず言わせながらも圭織はコクコクと頷く。
まぁ、私みたいなのを目指されても困るしな。

「リーダーって言われ方をするのが何となくイヤなんもわかるし…。大変やもんな。大丈夫やって。自然な、そのままの圭織が
大好きなんよ、みんな。矢口たちも、タンポポ好きに決まってるやん」
「ありがとぉ、裕ちゃん…。何か、元気出たかも」
目元はまだ赤いけど、圭織は顔を上げて笑ってくれた。

ええ顔するやん、ほんまに。
296 名前:仲間 投稿日:2002年02月19日(火)00時57分04秒
その時、突然に電話が鳴った。

「圭織、電話出れる?」
「だいじょーぶ。留守電だから」
何や、そうなんか。
メッセージをどうぞというお決まりのコトバが流れ、発信音が続く。

『圭織?あれ〜?まだ帰ってないのかなぁ』

ウワサをすれば何とやら。
矢口やん。この娘は夜中でも元気やなぁ…。
「出たら?圭織」
圭織を伺うと、出ようという気はありそうだが、いかんせん、驚きの方が勝ってるようだった。

『…まぁ、いいや。明日タンポポのレコーディングだね。お互いがんばろうね〜!そいじゃ。矢口でした〜!』

何や、圭織も愛されてるやん。
……っつーか、ほんま、矢口はかわええよなぁ。
297 名前:仲間 投稿日:2002年02月19日(火)01時01分52秒
気づいたら、私が受話器をひっつかんでいた。

「よお」
『……………』

「あれ?切れたんかいな?」
圭織と受話器を交互に見つめ、誰にというのでもなく尋ねる。

が、そんな一瞬の沈黙の後。
『何で裕子がいるんだよぉ〜!!』
うるさっ。

「何や、そんなでかい声出さんでええやろ。鼓膜破れるわ。…ったくぅ」
『だから、何でいるの!?』

「あぁ?私が圭織のとこにいたら悪いんか?」
あれ。当の本人を余所に話が盛り上がっていいんか?

『や…。別に悪いって言ってるワケじゃ…。ただ、びっくりしただけ』
「始めからそう言えばええのに。久しぶりに圭織といろいろ話したんや。タンポポの話も聞いたで。明日レコーディングなんか。
がんばりや」
298 名前:仲間 投稿日:2002年02月19日(火)01時03分25秒
『……………』
あれ?何で黙るん?

「矢口?」
『何か、優しくて怖い…』

「何言ってるん、自分!レコーディングがんばれって言うただけやん」
『ああ、ウソウソ。ありがと。がんばるからさ。…圭織、いるの?』

あ。忘れてた。
私は圭織に受話器を渡した。
ごめんな、勝手にしゃべってて。

「あ〜、矢口?」
しばらくの間、2人は話していた。

いや〜、やっぱメンバーってええなぁ。
優しい娘たちばっかやもんな。
時々例外になるヤツもおるけど。

さっきまでの泣き顔が想像できないほど、圭織は明るい声と表情で矢口と電話している。
299 名前:仲間 投稿日:2002年02月19日(火)01時04分20秒
しっかし、やっぱりみんな私がいなくてもちゃんとやってるわ。
うれしい反面、正直寂しいな。

はあ…。

近いうちに彩っぺに電話でもするか。
急に彩っぺと話したくなってきたわ。

私がため息を吐くと、ちょうど電話を切った圭織は、幸せそな顔して笑ってた。
「へへへ…」
「何、気色悪い笑いしてるんや」

「いや、何かうれしくてさ」
「言ったやろ?私も応援してるから。ほんま、がんばれよ」

「ありがとね。裕ちゃん大好き」
全く、照れもせずにこういうことを…。
そりゃ、うれしいけどさ。

「ああ。私もやから」
もちろん、私も正直に答えたけどな。
300 名前:仲間 投稿日:2002年02月19日(火)01時05分23秒

―――Fin―――

301 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月25日(月)16時42分34秒
おぉぉぉぉぉ!!!
更新気づきませんで(w
ANNssで裕ちゃんとカオリかなり仲良さそうで(w
プライベートでよく遊んでるとの事でしたね。
302 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月03日(日)13時14分07秒
作者さんの小説大好きです!
又KUも書いてください。(w
でも、教育が1番好きでっす。
303 名前:K 投稿日:2002年03月06日(水)01時56分42秒
気がついたら、かなり更新滞ってました。
すみません。
年中沈みっぱなしのこんなスレでもレスしてくれる方がいて、すごくうれしいです。

>>301 名無しさん
圭織ゲストのANN-SS、2人とも素の雰囲気でよかったですね。
1つだけ言わせてもらえば、裕ちゃんゲストの矢口ANN-Sみたいに、ゲストの時間をいっぱい取って欲しかったです。
通常の時間配分と同じでしたから(笑)
裕ちゃんのテンションは、いつも通りでしたが。

>>302 名無し読者さん
KU…。うまく書けるようになりたい…。
できれば幸せなやつ。
幸せって言うか、ノーテンキなやつを書きたいんですが…。
KUに限らず。……書けないなぁ。
ま、がんばってまたKU書きたいです。

でも、最近はもう1つのスレばかり書いていて、なかなかこっちが進まないです(^^;
(だいぶ前にごまゆうのリクもらってたけど、考えてない……。書かなきゃ)


では、なっちゅーのSSでも。
304 名前:教えて 投稿日:2002年03月06日(水)01時58分17秒
今日、あなたに会った。

今日、初めてあなたの舞台を観た。

今日、久しぶりにあなたは泣いた。


そして、私も一緒に泣いた。
305 名前:教えて 投稿日:2002年03月06日(水)02時00分36秒
それまでの2時間半、あなたは遠い世界の人だった。
私の知ってるあなたじゃなかった。

たくさんのライトに照らされるステージの上で、あなた自身も光り輝いていた。
たくさんの出演者の中で、あなたがいちばん輝いていた。

「緊張するわ〜。間違えるかもしれへん」

絶えず、そんなことを言っていた。
でも、とてもすてきだった。

私の目は、あなたに釘づけだった。
306 名前:教えて 投稿日:2002年03月06日(水)02時02分10秒
カーテンコールが終わり、観客が立ち上がり始めてから、私は楽屋へ行った。
あなたに、会うために…。

楽屋のドアを開けると、あなたはタオルに顔を埋めていた。
顔を上げて私に気づくと、汗が流れていたあなたの頬を、涙が伝い始めた。


突然に。
307 名前:教えて 投稿日:2002年03月06日(水)02時03分14秒
緊張の糸が切れたのだと、あなたは言った。
想像以上のあなたを見て感激し、興奮冷めやらなかった私も、涙が溢れてきた。

私たちは、抱き合って泣いていた。


ステージの上と客席。
別々の場所にいた私たちだったけど、気持ちはずっと一緒。
308 名前:教えて 投稿日:2002年03月06日(水)02時04分22秒
だけど、全てにおいて最高の気持ちを味わえたワケじゃなかった。

あなたのキスシーン。

しかも、2回。
それも、違う相手と。

何だか、すごく不快な気分になった。


何で?
309 名前:教えて 投稿日:2002年03月06日(水)02時05分19秒
ずっとずっと、あなたの唇は、私のものだと思っていたから。

不意に私の頬や唇に押しつけられる、あなたの唇。
抱きしめられて、キスされて。

それは、私だけの特権だと思っていたから。


でも。


私だけのものじゃ、なかったんだ…。

私だけのものじゃ、なくなったんだ…。
310 名前:教えて 投稿日:2002年03月06日(水)02時06分15秒
やっぱり、あなたが側にいないのはツライよ。

今まで当然だったことが、珍しいことになって。
例えば、あなたが私を抱きしめてくれたり。

今まであり得なかったことが、当たり前のようになって。
例えば、あなたが私の知らない男の人とラブシーンを演じたり。
311 名前:教えて 投稿日:2002年03月06日(水)02時06分57秒
あなたがどんどん遠くなってしまう。


私はどうしたらいいの?

私はどうしたらあなたを繋ぎとめておけるの?

私はどうしたらあなたに想ってもらえるの?


教えて。

その通りにするから。
312 名前:教えて 投稿日:2002年03月06日(水)02時09分06秒
ねえ、裕ちゃん。

教えてよ。


あなたのなっちのままでいられる方法を。
313 名前:教えて 投稿日:2002年03月06日(水)02時10分13秒

―――Fin―――


314 名前:K 投稿日:2002年03月06日(水)02時15分30秒
また古いネタを…ってカンジなんですが(苦笑)
ま、先日のやぐちゅーANN-Sでも、フットルースの裕ちゃんキス話をしてたからいいか。
ちゃんと、矢口となっちが異様に反応したってこともまた言ってたし。

と言うワケで、なっちゅー『教えて』でした。

次回は、一応ごまゆうのリクをいただいてるんで、その予定です。
でも、予定は未定ってことで…(爆)
315 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月18日(月)15時57分06秒
ROMさせていただいております。。。
ごまゆうの更新楽しみにしているのですが・・・???
待ってます〜!
316 名前:K 投稿日:2002年03月22日(金)00時34分54秒
>>315 名無しさん
あぁっ、すみません、お待たせしてしまって。
レスありがとうございます。

何か、後藤さんが書けなかったんですよ、ずっと。
元々苦手で、何もネタもないし……とか思って。

ようやく書き上げたんで、更新します。
317 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時36分22秒
「ねぇ」
どうでもいい雑談がちょっと途切れて、ほんの数秒沈黙が続いた後、突然ごっちんが切り出した。
今日は久しぶりにウチに遊びに来ていて。

昼間、『話したいことがあるから、今夜行っていい?』なんてかわいい顔でお願いされたら、
そりゃ断るのも無理な話やっちゅうねん。

「何やぁ?」
ただ、話の内容については全然想像つかへんけど。

いつもほわほわしてるごっちんが、どことなく真面目な顔して口を開く。
318 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時37分15秒
「後藤ね、この間、ハロプロのDVDもらったんだ」
「あぁ、アタシももらったで」

何や、まだ雑談の続きかいな。

「それのオマケのザンゲBOXなんだけど………」
「あ〜、アタシ、まだ見てへんから何が収録されてるかわからんのやけど」

どんなことをしゃべったんやろ、ちょお気になるけど、いろいろしゃべったから覚えてへんわ。
何かまずいこと言ったんか……?

「見てないんだったら、教えてあげる」
ごっちんのその言葉に、アタシは軽く頷いて興味津々な目を向けた。
319 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時38分14秒
「あのね、平家さんが『何か暴露話ない?』ってやぐっちゃんに聞いたのね」

みっちゃんと矢口ねぇ…………。

何や、アタシをネタにでもしたんか?
あ、それとも、ごっちんってみっちゃんのこと好きやったっけ?

接点少ない割に、みっちゃんのこと話題にすること多いもんな……。
でもな、確かにみっちゃんええヤツやけど、絶対アタシの方がええ女やで。
320 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時39分27秒
とりあえず、それで?と気になる話の先を促す。

「そしたら、やぐっちゃんが『みっちゃんはね、実はね、裕ちゃんとデキてるの』って言ったんだよ」

はぁ…………?

ちょっ、待ってえな。
矢口がそんなこと?
って言うか、冗談で言ってんのやろ?

何でごっちんがこんな怖い顔してるん?

「………で?」
それでも、みっちゃんのリアクションが気になって、聞いてみた。
321 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時40分41秒
「それだけだよ。平家さんが笑って、終わり」
さらりとした口調の割には、ごっちん、目ぇ怖いんやけど……。

まさか、それを信じてるなんてこと、ないやろな。

あっ、やっぱりみっちゃんのこと好きで、アタシに嫉妬してるとか?
そんなん、お門違いやって!
322 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時41分40秒
「………それが、どうかしたんか?」
ごっちんの眼差しから微妙に逸らし、恐る恐る問う。

「………ほんとなの?」
ほんとなワケないやん………!

「そんなん、矢口の冗談に決まってるやろ。何をわかり切ったこと聞いてるんや」
「だってさ、やぐっちゃんも何か思うところがあってそう言ったんじゃないかなって…」

「ちょぉ待ち。それより、アンタは何でその発言がそんなに気になってるん?」
アタシに向けられていた強い視線がふと逸れて、言葉を探すかのように考え込んでいる。
323 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時42分55秒
あぁ、そんな顔せんでもええやん。
何かこっちが虐めてるみたいな気分になるんやけど。

っつーか、これはやっぱりみっちゃんへの恋愛相談にでもなるんやろか。

でもなぁ、ごっちんだったらみっちゃんにはもったいないくらいやで。
あのマヌケでどっか抜けてる平家さんにはな。

まぁ、アタシに相談なんてせんでも、ひと言みっちゃんに『好きです』とでも言っちゃえば、
アレはかんたんにオチると思うんやけど………。
だってなぁ、みっちゃんってめっちゃ単純な人間やし、それ以上にごっちん魅力ありすぎやもん。

―――――何気に、みっちゃんに酷いこと言っとるわ、アタシ。
ごめんな、みっちゃん。………でも、全部ほんとのことやけど。
324 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時44分22秒
なんてことを考えていたが、たっぷり1分ほども続いた沈黙を破ったごっちんの言葉は、アタシの予想を大きく裏切るものやった。

「後藤ね、裕ちゃんが好きなの…」

……………………。

何やって?
ごっちんがアタシのこと、好き?

そりゃ、ごっちんから告白されるなんて、うれしくってしょうがないけど…。

「え、それって、どういう………?」
思わず、聞き返してしまった。
325 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時45分22秒
すると、むっとした顔を上げてアタシの腕をつかみ、のぞき込むようにして口を開いた。

「どういう好きかって?」
ちょっぴり低くなった声が怖い。

再び強気なごっちんか?
でも、何でアタシ、こんなに弱気なんや?
あぁ、ごっちんって美人だから、詰め寄られると妙な迫力あるからなんか…?

腕をつかまれ、徐々に近づいてくるごっちんの顔を避けることもできず、ドキドキしながら次の言葉を待つ。
326 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時46分32秒
「こういう、好き……」
甘く囁かれた言葉の意味を理解する間もなく、目の前にあったごっちんのやわらかそうな唇が、アタシのそれに重ねられていて。

「んん………」
すぐに口の中に進入してきた舌が、ねっとりと絡みついてくる。

腕をつかまれていたけど、逃れられないような強さではなかった。
なのに、アタシはそのキスを受け入れたままで。

何で、ごっちん、こんなにキス…うまいんや……?
思考力が奪われつつある頭の片隅で、ぼんやりとそんなことを思っていた。
327 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時47分27秒
何度も何度も角度を変え、深く浅く重ねられてくる唇。
いつの間にか、アタシ自身、懸命にそのキスに応えている。

不意に脊椎をつうっとなぞられた。

「あんっ」
思わず声が出て、身体が跳ねる。

それが合図のように、ごっちんの唇はアゴから首筋へと動いていって。
その指がシャツのボタンにかかったところで、アタシは微かに残る理性を総動員して、その手を押さえた。
328 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時48分36秒
「ちょぉ、待ってぇ……な」
はだらけられた胸元から、目だけでアタシを見上げるごっちんに流されそうになるのを必死で押し止める。

「アンタ、相手の意思は、どうでも…いいんか……?」
「相手のって…、裕ちゃんの…?」

をい。アンタ、さっき誰に告白したんや?
他に誰がいるっちゅうねん。

「他に相手がいたら、アタシの方が聞きたいんやけど……」
ごっちんが身体を起こしたので、アタシはさりげなくシャツの前をかき合わせる。

「あはっ。そうだよね」
な、何か、別の意味で脱力するわ。
329 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時49分50秒
「でもさぁ……」
ふっと声音が変わった。

「裕ちゃん、ソノ気だったじゃん。抵抗しないどころか、舌絡めてくるし」
や、それはやなぁ、抵抗しない……と言うよりなぁ……。

「できひんかったんや」
「え〜、何で?後藤、そんなに強くつかんでないよぉ?」
だからなぁ、そういうことを言ってるんやなくて……。

「ごっちん、ちゃんと聞いてえな」
諭すように言うと、ぷぅっとふくれたような顔をしながらも、大人しくアタシの言葉を待っている。
330 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時51分03秒
「あんな、アタシな、いきなり真面目な顔したごっちんに好きって言われて、めっちゃびっくりしたんよ」
「やっぱり、後藤のことキライなの…?」

今にもく〜んと鳴きそうな、捨て犬のように見つめてくる視線が痛い。
でも、それはカン違いやで。

「ちゃうって。アタシだって、ごっちんのこと大好きやから」
言った途端、ぱあっと広がるごっちんの笑顔に、ついついアタシもうれしくなる。

「ごっちんのキスは驚いたけど、うれしかったんや。でもなぁ、ちゃんとアタシの気持ちも、知って欲し………」

最後まで言えんかった。
331 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時52分11秒
これ以上ないくらいの笑顔のごっちんが抱きついてきたから。

さっきのアタシの腕をつかんだ時は、確かに力を込めてなかったんやろうな。
だって今、ものすごく、痛いんやけど…。

「ちょっ、ごっちん…、痛いわ」
冗談抜きにこのバカ力、何とかせな、アタシの方がヤバイって。

「いたたたた………」
情けない声をあげると、ごっちんはようやく腕の力を抜いてくれた。

「あっ、ごめん、裕ちゃん。うれしくて、つい………」
全く、こんなかわいい顔でにこぉっと微笑まれたら、もう何も言えへんわ。
332 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時53分07秒
腕を放したごっちんは、アタシを正面から見据えてはっきり告げた。
「後藤はね、裕ちゃんが好き」

だから、アタシも正直に答える。
「アタシも、好きやよ」


アタシたちはどちらからともなく、目を閉じ、ゆっくりと唇を重ねて。
333 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時54分12秒
お互いの口内を味わい尽くすと、ごっちんはアタシの耳に軽く歯を立てる。

「あぁっ」

無意識に逃れようとしたが、相手の力にかなうハズもなく。
ごっちんは、なおもアタシの耳を嬲りながら、掠れた声で囁いた。

「裕ちゃん、続き…、してもいい……?」

こんな状況で、大好きな人からの誘い…、断れる人間がいるワケないやん。
12も年下のごっちんに抱かれることとか、そういうのを考えないこともないけど、今はただ、この波に流されたい………。

真っ赤な顔をして微かに頷いたアタシの唇に、再び、ごっちんのものが重ねられてきた。


夜はまだ、始まったばかり…………。
334 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時55分34秒





335 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時56分50秒
「――――で、何でアンタはそんなこと言ったんや?」
後日、いつものスタジオで、アタシは矢口をつかまえた。

「え、何でなんて言われても…。とっさに思いついたって言うか…」

ごっちんとええ関係になったのは、まぁ、置いといて、そのきっかけだったDVD映像の当事者を問い詰める。

「マジにとる人がいるなんて思ってなかったけど、まさかいちばん身近にそんな人がいたなんて、びっくりだね」
336 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時58分02秒
うん…。それはアタシも思ったんやけどな。

でも、ごっちんがそれだけアタシのことを本気で想ってくれてたってことがわかったんやしなぁ。
それはそれでうれしいし…。

「裕ちゃん、顔、にやけてる」
ヤバイヤバイ、ちょっとあっちの世界に行きそうやったわ。

「うっさいわ。とにかくやなぁ……」
あれ?アタシは何を言おうと思ってたんや?

軽々しいこと言うなって注意するつもりだったけど、よく考えればそのお陰でごっちんに好きって言ってもらえたんやし。
ん〜、どうしたらええんやろ。
337 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)00時59分06秒
「とにかく?何?矢口のお陰で後藤とつき合えるようになったお礼でも言いたいの?」
矢口が楽しそうな顔で詰め寄ってくる。

コイツ、何で読めてんねん。

「そんなんやないですぅ」
ちょっと悔しくなって、素直にお礼を言うのは止めておいた。

「なぁんだ、正直じゃないなぁ」
それでも、よかったね〜と言いながら明るく笑う矢口がかわいくて。


………ほんの出来心で、ちょっとだけ、ちょっかい出してみた。
338 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)01時00分00秒
いや、要するに、いつもみたいに抱きついてほっぺたすりすりして、

「矢口かわい〜。もう大好きっ」

って叫んだだけなんやけどな。

放せよアホ裕子ぉ〜とわめく矢口に満足して解放すると、視界の隅に見てはいけないものを見てしまった気がして、思わず固まる。
339 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)01時00分50秒
「おはよー、やぐっちゃん」
いつもの眠そうな顔での登場ではなかった。

目ぇ、笑ってへんやん。

ちょぉ、待ち。今、やぐっちゃんて……。アタシ、シカトされたんか!?

「あ、おはよう、後藤…」
若干、引きつった笑顔で答えた矢口は、それじゃと言い捨てて、そそくさとアタシの傍から去って行った。

ちっ、逃げたな、矢口。
なんて悠長なことは思っていられず、恐々とごっちんに声をかけた。
340 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)01時01分49秒
「ごっちん、おはよーさん…」
冷めた目がアタシを射抜く。
「……おはよー」

ああぁぁ!怖っ!怒ってるやん!
もう、何でこんなタイミング悪いん!
っつーか、矢口へのスキンシップはいつものことやろぉ?

焦って頭ン中でいろんな思いが駆け巡るけど、まぁ、ここはやっぱりちゃんと謝っとかんと……。

少し重いため息を吐いて、アタシはごっちんの隣に腰を下ろした。
341 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)01時02分52秒
「ごっちん、もしかして、怒ったん…?」
「別にぃ。怒ってないよ」

嘘やっ。そんな怖い顔して怒ってへんとか言うなや!

「なぁ、わかってると思うけど、あんなんいつもの冗談やで?」
「知ってるよ。裕ちゃんは冗談で抱きついたりキスしたりできるんだよねぇ」

こ、これは日頃の行いを改めろってことなんやろか。

「じゃぁ、もひとつわかってて欲しいんやけど、アタシがほんとに好きなんは、ごっちんだけやから。な」
懇願ってこういうことを言うんやろなぁと、頭のどこかでぼんやりと考えた。
342 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)01時03分59秒
すると、ちょっと困ったような表情のごっちんは曖昧に笑って答えてくれた。

「後藤って結構嫉妬深いんだよ」
甘えるような、コドモの顔。

「うん。わかった」
アタシだって、逆の立場やったらあんまいい気持ちせえへんもんな。

ごっちんの機嫌が直ったようで、心底安心した。
それじゃ、アタシも自分のとこ戻ろうかと立ち上がりかけると、服の裾をくいっと引っ張られる。
343 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)01時05分09秒
「何や?」
まだ話があるんか?

ごっちんはアタシの耳元に顔を近づけると、あの時みたいに掠れ声で言葉を紡いだ。

「お仕置きするから」

えっ………?

「今夜は寝かせないよ、裕ちゃん」

冗談抜きで、真っ赤になってしまった。
344 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)01時06分04秒
何を言うとるんや、ごっちん!

まじまじと見つめると、ごっちんはふっと笑って、一度言ってみたかったんだよねぇなどと呑気なこと言ってるし。

「じゃ、夜に備えて後藤は寝るね」
言うが早いか、机に伏せて目を閉じた。

ごっちんの言葉は聞こえてへんと思うけど、真っ赤になって硬直したアタシの姿は楽屋にいたみんなが見ていて。

矢口、笑っとるな、アイツ。
後で覚えとけよ。

じろっと睨んだけど、照れた顔じゃ迫力ないのか、矢口を黙らせる効果はなかった。
345 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)01時07分17秒
それでも、何も言わずに娘。の楽屋を出ることはできなくて。

「それじゃ、収録の時にな」
ひと言だけ言って、早々に部屋を後にする。
閉じたドアの向こうからは、一斉に笑い声が聞こえてきた。

それにしても、何でアタシこんなに弱いんやろ。

今夜、ねぇ。
あ、それより、この後の収録が……。


――――何か、いろんな意味で泣きたくなってきたわ。
346 名前:コドモの強さ 投稿日:2002年03月22日(金)01時08分06秒


――――Fin――――

347 名前:K 投稿日:2002年03月22日(金)01時22分19秒
ということで、以上、ごまゆうの『コドモの強さ』でした。
マヌケな裕ちゃんと、ついでにちょっと弱い裕ちゃんも書きたくて、こんな話になっちゃいましたが。
う〜ん、それにしても、やっぱり後藤さんが書けない(^^;
まだまだだな………。

えっと、このスレではやぐちゅーのリクもいただいてるんですが、今、他で書いてるよしやぐちゅーの中編があるんで、
申し訳ないけど、パスさせて下さい。
ほんとに、すみません。

なので、あともらってるリクは……、KUかな。
この他にも、もしリクがあれば、書こうかなと考えてますが。
とりあえず、裕ちゃん絡みだったら。
348 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月22日(金)13時47分35秒
KU好きです!!
楽しみに待ってます!!!
349 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2002年03月25日(月)00時43分12秒
KUの後で構いません。やぐちゅー希望
350 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月04日(木)00時32分16秒
やぐちゅー小説って、波があるみたいですよね。
最近のものは、「痛め」が流行っているみたい。
幸せなやぐちゅー、それも、裕ちゃんが幸せになるものをお願いします。
裕ちゃんには、不幸は似合わない・・・。
351 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月09日(木)16時29分29秒
KU大好きです。
ゆっくりでもいいんで、更新待ってます
352 名前:K 投稿日:2002年05月12日(日)16時12分44秒
えっと、大変お待たせしました。
待たせた割には、短くて大したことない話ですが。
2週間くらいから書き始めてたけど、これがまた全然進まなくて。

というワケで、KUの『魔法?』です。
353 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時14分04秒
収録が終わって楽屋に戻ると、私のケータイは新着メッセージを告げていた。
ん?裕ちゃんからだ。珍しいなぁ。

“今日は何時に終わる?”

用件だけの短いメール。
彼女らしいって言えば、その通りだけど。

えっと、今日はこの後何があったっけ……?
雑誌のインタビューとラジオの収録と………と指折り数えていくうちに、最後の最後にダンスレッスンが待ち受けてたことを思い出す。
その途端、一気に気が重くなった。

ダンスレッスンの終了時間なんて、あってないようなものだ。
自主練の余地だっていっぱいあるだろうし。
354 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時14分49秒
泣く泣く、返事を送信した。

“最後がダンスレッスンだから、遅くなると思う。何時に終わるかわかんない。ごめんね”

終わる時間を尋ねるくらいだから、おそらく誘ってくれるつもりだったんだろう。
あぁ、私ってツイてない…………。

数分の間、ケータイ片手に待ってたけど、メール着信の気配はなかった。

しょうがない。
向こうも忙しい身だもんな。
355 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時15分50秒
「なーに沈んでんだよっ!」

突然、声と共に背中に何かが衝突する。
振り返ると、ちっちゃい矢口。

痛いなぁ。
どうやら体当たりされたらしい。

「別に、沈んでたワケじゃないよ」
言い当てられたのが悔しくて、否定する。
目ざとい矢口は、私がケータイを握り締めてるのに気づいたらしい。

「何っ?メール?誰からっ!?」
目を輝かせ、面白そうに尋ねてくる。

「内緒ですぅ」
笑って答える。

でも、こんな時、素直に裕ちゃんからって言えないのは何でだろう?
矢口には悪いけど、ほんの少しだけの優越感かな?
356 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時16分44秒
――――なんて浸ってたら、その優越感さえもあっさり覆された。

「わかった、裕ちゃんでしょ」

……………………………。

何でわかるの、矢口?

私の顔は相当マヌケなものだったらしく、矢口はもちろん、近くにいた後藤も吹き出した。
「ぷっ。何、圭ちゃん、その顔。めちゃくちゃマヌケだよぉ」

2人そろって大笑い。
うっさいなぁ。
そんなに笑わなくたっていいじゃん。

それにしても、悔しいなぁ。
って言うか、矢口、鋭いなぁ。


高い声で笑う矢口を恨めしそうに睨みながらも、私はがっかりした思いを消せなかった。
357 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時17分32秒


――――――――――


358 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時18分13秒
「はい。じゃあ今日はここまでっ」
夏先生の声がレッスンフロアに響き渡る。

「ありがとうございましたーっ」
声のトーンは様々だけど、13人がそれに答えた。

時計を見ると、10時半。
あぁ、もう10時を過ぎてたのか……。

バタバタとフロアを後にするメンバーもいれば、自主練を始めるのもいた。
この後の予定も残念ながらないし、まだ不安な箇所も多い私は、当然ながら、自主練組。

できなかったら、できるまでがんばればいいんだから。
流れる汗をぐいっとぬぐって、なっちがかけてくれたテープに合わせ、練習を再開する。
359 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時19分11秒
30分も経った頃、自主練をしていたメンバーも、1人、また1人と帰り仕度を始めていた。

「それじゃ、圭ちゃん。お先」
「年なんだから、無理するなよぉ」

「なっちもお疲れ。………矢口、ひと言余計だよっ」
なっちと矢口がそろって帰ったのを最後に、レッスンフロアは私だけになった。

それほど広くない部屋なのに、つい1時間前までの騒がしさは微塵もない。
しーんと静まり返って、ぽつんと取り残された気に陥る。

ぶんぶんと頭を振って、一瞬生じた心細さを払拭させた。
よし!と気合を入れて立ち上がり、テープを巻き戻してまた再生。

それからは、無心でレッスンを続けた。
360 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時20分39秒
覚えが早くないから。

少しでもみんなに迷惑かけないように。
みんなの足を引っ張らないように。


何回通しで練習しただろうか。
ようやく自分で満足できる程度になったと思う。


大きく息を吐くと、それまで感じなかった疲れがどっと押し寄せてきた。
さっさと帰って自分のベッドで寝たい気分なのだが、のしかかってきた疲労には抗えず、その場にくたっと座り込んでしまう。

鏡の壁に凭れると、Tシャツの布地を通してひんやりとした冷たさが染み渡る。
火照った身体に気持ちいい。

でも、激しい運動の直後で汗は止まらない。
早鐘のような心臓の鼓動と、はぁはぁという自分の荒い呼吸だけが耳に入る。
361 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時21分22秒
すると突然、俯いた私の視界に、レッスンフロアにはあまりにも不似合いなミュールが現れた。

色鮮やかなネイル。
白くて細い足首。

そして、聞き慣れた声が降ってくる。

「もう、終わったんか?」

考えるより先に顔を上げると、そこにはいちばん会いたかった人。

「お疲れさん」
ふっと目を細めて、やわらかく微笑む。
362 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時22分34秒
―――――あぁ、裕ちゃんだ………。


「何で、ここに?」
「決まってるやん。圭ちゃんに、会いたかったから」

だって、終わる時間も、レッスンの場所も言ってないよ?
疑問を口にする前に、裕ちゃんはすっとしゃがみ込んで、座る私と視線を合わせる。
至近距離のまっすぐな眼差しに、思わず胸が高鳴る。

「いつから、いたの?」
さっきとは違う動悸の激しさに気づきながらも、それを顔に出さないように訊いてみた。

「ちょっと前から」
「ちょっとって、どれくらい?」

「ん〜、わからん。矢口となっちには会ったけど」
そしたら、少なくとも30分は前だ。
363 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時23分39秒
「そんなに待ってたの?声、かけてくれればよかったのに……」
そう言うと、笑顔のまま手が伸ばされ、私の髪をくしゃっとかき混ぜる。
「だって、圭ちゃんのことやから、そんなことしたら途中で止めるんやないかと思って」

疲労しきった身体の隅々に浸透する優しさ。
うれしくてうれしくて、何だか泣きそうになる。

そんな私に気づいたのか、彼女は私の頭を引き寄せて、そっと抱きしめてくれた。
その優しい言葉は続く。

「アタシが待ってるの知ったら、納得できないまま終わりにしたやろ?そんなん、アタシかてイヤやわ。圭ちゃんのダンスずっと見てたけど、めっちゃカッコよかったで」
364 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時24分32秒
あぁ、彼女の前では、安心してコドモになれる。
いつもの気張った自分は必要ない。

「ありがと……」

しばらくの間、促されるままに彼女に身体をあずけて。
そして、ふとあることに気づき、焦って身体を離す。

「あっ、ご、ごめん!」
「何や?どしたん?」

驚いてるのか怒ってるのかはよくわからないけど、眉根を寄せた表情。

「いや、私、すっごい汗かいてて。その、裕ちゃんの服とか………」
ほら、汗臭い身体でくっつかれたくないでしょ……。
365 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時25分27秒
しどろもどろに弁解すると、裕ちゃんはほっとしたようにキツイ表情を崩した。

「そんなん、全然気にせんよ」
そう言って、また私の頭に手を伸ばし、額にかかる髪をかき上げると、そこに唇を押しあてる。
それはあっという間のことで、キスされたんだと認識した時には、すでに彼女の唇は離れていた。

「ほな、さっさと帰ろか」
笑いながら立ち上がって、私の手を引く。

「あ、うん…」
何か、調子狂わされっぱなしだよ。
366 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時26分16秒
思わず額に手をやる。
さっきの唇の感触を思い出して、自然と顔が熱くなった。

「何、笑ってるん?」
ニヤニヤしながら、裕ちゃんは私の顔を覗き込む。

「別に、笑ってなんかないよ……」
「そっか?顔、赤いで?」

「………そんなことないって」
ヤバイ、ますます赤くなってきた気がする…。
当然のことながら、隣にいる人はそれに気づいて。

「何や、おでこだけじゃ不満なんか?」
意地悪く、訊いてくる。

それには答えず、私は荷物を持ってシャワールームを目指す。
彼女は無言の私の後を、楽しそうについて来たりして。
367 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時27分50秒
…………って、ちょっと待って?


「あのさ、裕ちゃん」
シャワー室の前でピタッと足を止めて、彼女を振り返る。

「何や?」
「私、これからシャワー浴びるんだけど……」

「うん」
いや、“うん”じゃないだろ。

「だから…」
「だから?」

ボケてるのか、この人は?

「どこまでついて来る気?」
「………どこまでって、そりゃ、圭ちゃんが行くなら地の果てまでも」

頭、大丈夫か?

「や、嘘やってっ。ちゃんと外で待ってるって」

気づけば、私はバッグを振り上げて、今にもそれで裕ちゃんを叩きつけようとしていた……らしい。
少なくとも、彼女にはそう見えたとか。
368 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時28分58秒
結局、私がシャワーを浴びてる間、彼女は大人しくレッスンフロアに戻っていった。

さっぱりした私が戻った時、裕ちゃんは誰もいないフロアにまっすぐ寝そべって、目を閉じていた。

まさか、寝ちゃってるとか?
一瞬、思ったけど、一歩踏み出した私の小さな足音で、ぱっちりと目を開く。

「あぁ、いたんか」
私の姿を認めると、よいしょっと起き上がり、バッグをひっつかんで駆け寄ってきた。

「じゃ、今度こそ、帰ろ」
するりと私の腕に絡ませて。

うれしそうに歩き出す彼女を見ながら、ふと浮かんだ疑問を口にする。
「何してたの?あんなとこに寝て」
369 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時30分18秒
笑顔はふっと真面目な顔に変わり、前を見据えながらつぶやいた。
「ん〜、ほら、アタシって最近、激しいダンスとかやってないやん。練習してる圭ちゃん見て、みんなどんどん巧くなってるだよなぁって。ちょっとだけ、置いてかれたような気になって。何か、昔を思い出してた」

その硬い表情はやわらく崩れたけど、目に宿る真剣な色はすぐには消えなかった。

でも、大丈夫だよ。
裕ちゃんの成長と活躍、みんなが見てるんだし。

「置いてかれたなんて、思わないでよ」
こっちを向いた裕ちゃんは、何だか困ったような、ちょっと情けない顔をしていた。

「アタシ、大丈夫やよね」
私の腕に回されていた彼女の右手に、ぎゅっと力が入る。
370 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時31分27秒
不安そうな声。

私は大きく頷いた。

「うん。今の裕ちゃん、ものすごく輝いてるよ」

だから、自分の選んだ道を信じて。
まだまだ走り続けるんでしょ?

安心したようにふんわりと微笑んだその顔は、思わず見惚れてしまうくらいで。
371 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時32分12秒
だけど、そんな儚げな表情はすぐになくなり、いつもの裕ちゃんが現れた。

「っしゃ!今夜は圭ちゃんちで飲むか!」

ちょっ……、マジ?
今、何時だと思ってんの?

「私、明日も早いからダメ」
「え〜〜っ。圭ちゃんなら大丈夫やって」

ダメダメ。
万が一、遅刻なんてしたら、示しつかないし。

断固として首を横に振ると、仕方なく諦めたらしい。
372 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時33分57秒
「でも、圭ちゃんとこ行っていいやろ?」
そりゃ、まぁ、いいけど……。

「今、ウチには何もないよ?食べもんも、もちろんビールも」
冷蔵庫とか空っぽだし。
私がそう言うと、実に彼女らしい、悪戯な笑みを浮かべる。

「別にええよ。圭ちゃん食べるから」

即座に真っ赤になって固まった私を見て、してやったりという顔を見せる。
「オヤジ……」

悔しくてつぶやいた言葉も、さらりと受け流された。
「はいはい、どうせアタシはオヤジですぅ」

私は腕を引っ張られながら、裕ちゃんと帰路につく。


――――たまにはこんな夜もいいなと思いつつ。
373 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時35分35秒
「それにしてもさ、ちょっと待たせちゃったけど、ほんとに裕ちゃんってタイミングよかったよね」
「裕ちゃんな、大好きな圭ちゃんに会いたくて、魔法使ったんよ」

「………何、それ?」
「内緒やって」

「いいじゃん、教えてよ」
「ダメ。言ったら効かなくなるから」


「ヘンな裕ちゃん……」
374 名前:魔法? 投稿日:2002年05月12日(日)16時36分11秒


―――Fin―――


375 名前:K 投稿日:2002年05月12日(日)16時40分47秒
以上、KUで『魔法?』でした。

なるべく早く、これの続編…と言うか、別視点のものを載せようかなと思ってます。
かなり短いので、容量の方も全然余裕ですし。ちょうどいいくらいかな。
376 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月13日(月)12時10分29秒
久々でUPに気がつきませんでした(w
KUいいですね〜。
続編楽しみにしています(w
377 名前:K 投稿日:2002年05月14日(火)17時17分52秒
>>376 名無し読者さん
レスありがとうございます。
えっと、続編ではなくて、矢口視点のものを書きました。

それでは、更新です。
378 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時18分43秒
いつもの楽屋。
13人の、かなり騒がしい部屋。
収録スタジオからぞろぞろと戻ってきて、みんな思い思いの行動をとっていた。

たまたま目に留まったのは、圭ちゃんの背中。
後ろからでもわかるほどに、大きなため息を吐いちゃったりして。

どうしたんだ?

こっそり様子を伺うと、その手にはケータイ。
液晶画面を見つめて、またため息。

面白いなぁ。
379 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時19分27秒
しばらく観察してみよっか……なんて思ったら、タイミングよく自分のケータイにメールが届いた。

あっ、裕ちゃんだ!
自然と口元に笑みが浮かぶ。

“今日の最後ってダンスレッスン?何時に終わる予定?”

ん?
何なんだ、このメール………。
ほんとに矢口へのなのかな?
ためらいながらも、慣れた手つきで返信する。

“10時だよん。何で?”
380 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時20分15秒
向こうも返事を待ってたみたいで、即座にまたメール。

“圭ちゃん誘ったら、ダンスレッスンだからって断られた”

あぁ、そりゃね……。
10時過ぎるのは確実だし、圭ちゃんはきっと残って練習してくだろうし。

“どうして矢口に訊くの?”

もしかして、矢口を誘ってくれるつもりなのかな。
そしたら、何かおごらせてやろう……と目論んでたのに、返ってきたのは冷たい返事。

“圭ちゃんが終わるの待って、内緒で迎えに行こうかと思って”

ちっ。
あくまで圭ちゃんか…………。
381 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時20分52秒
あそこの新メニュー、食べたかったのに……と思いつつも、もっかい送信。

“はいはい。好きにして。今度は矢口を誘ってね”

ケータイから顔を上げると、視界にはやっぱり圭ちゃんの背中。
まだ同じ姿勢じゃん。
自分から断りのメール送ったクセに、そんなに悩むなよなぁ。


ちくしょー、うらやましいぜっ!
382 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時21分44秒
ケータイをバッグに放り込み、だーっと圭ちゃんに突進した。

「なーに沈んでんだよっ!」
ため息ばかり吐く背中に勢いよくぶつかって。

「別に、沈んでたワケじゃないよ」
痛そうに顔しかめながら振り向いた圭ちゃんは、それでも精いっぱいの虚勢を張る。

全く、無理しちゃってさ。
ちらっと圭ちゃんが握ってるケータイに視線を落とす。


ここは1つ、圭ちゃんでもからかって憂さ晴らしするっきゃないな。
383 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時22分33秒
「何っ?メール?誰からっ!?」
興味津々の顔で尋ねれば、予想した通り、ちょっと困った顔をして。

素直に言うのかな?
ワクワクしながら圭ちゃんの言葉を待つ。

「内緒ですぅ」

おぉっ、隠す気か!
でもね、そんな答えで引き下がる矢口じゃないんだよ。

「わかった、裕ちゃんでしょ」
言った途端に、ほえっ?というカンジのものすごく可笑しな顔の圭ちゃん。

これには、たまたま隣にいたごっちんまで爆笑。
「ぷっ。何、圭ちゃん、その顔。めちゃくちゃマヌケだよぉ」
もちろん矢口は大爆笑していたけど。
384 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時23分21秒
お腹を抱えて笑う矢口を見つめた圭ちゃんは、やっぱりはぁっと息を吐いて肩を落とす。
もう、そんなに落ち込むなよぉ。
さっきの裕ちゃんのメールがほんとなら、あと何時間か後に、どんなに喜ぶか想像つく。

いいなぁ〜〜。

はぁっ…。

あ、ため息出ちゃった。
ダメだ、これじゃさっきの圭ちゃんみたいじゃないか。


ん〜、今日もこれからがんばれ、矢口っ。
385 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時23分55秒


―――――――――――


386 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時25分31秒
ダンスレッスンも終わって、その後ちょっと残って何人かで練習して。

「それじゃ、圭ちゃんお疲れ」
一緒に帰るなっちが切り出す。

「年なんだから、無理すんなよぉ」
矢口もちょっとだけ応酬。

裕ちゃん、ほんとに来るのかなぁ。
まさか、ぽろっとこぼして実際来なかったりしたらヘコむしね。
ここは1つ、明日の圭ちゃんの様子を楽しみにしてよう。

「なっちもお疲れ。……・・・矢口、ひと言余計だよっ」

ふんっだ。
これくらいは許してくれよっ。
387 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時26分16秒
シャワーを浴びて、なっちと何か食べて帰ろうか…なんて話しながら廊下を歩いていると、視線の先には見慣れた姿。

「お、今、帰りか?お疲れさん」

「裕ちゃん〜」
思わず、会いたかったよぉ〜と抱きついちゃったりして。
なっちも小走りに駆け寄ってきて、裕ちゃんの腕を取る。

「何でこんなとこにいるの?あ、これからヒマ?ねぇ、3人でご飯食べに行こうよぉ」
裕ちゃんの腕をぶんぶんと振りながら、一気にまくし立てる。

なっち、それは無理なんだよ……。
388 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時27分08秒
「あ〜、ごめんな。今日は無理なんや。また今度、何か食べに行こうな」
申し訳なさそうに眉根を下げて、なっちに謝る裕ちゃん。
そっかぁ……と残念そうな色を隠さないなっち。

ま、いいじゃん。
今日は矢口がいるんだからさ。
裕ちゃんの悪口大会でもやろうよ。

「じゃあな、裕子。今の約束、忘れんじゃねぇぞ」

その薄い肩をばしっと叩いて、なっちと歩き出そうとしたら、突然、腕を引っ張られて引き戻される。

「今日はありがとな、矢口」
満面の笑みで囁き、矢口の頭を撫でて。
389 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時27分53秒
ちくしょー、かわいいじゃんかよぉ、裕子。

満足そうに矢口の頭に置かれたままの手を払い落とし、びしっと指を突きつけて宣言する。
「感謝しろよっ」
はいはいと頷きながら、ひらひらと手を振ったりして。


上機嫌だなぁ、ほんとに。
390 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時28分41秒
なっちと一緒に悪口大会のつもりでご飯を食べてたのに、なぜか悪口は出てこない。

「裕ちゃん、最近かわいいよねぇ」
「だよねぇ。何か、幼くなってるみたいな?」

こんな会話ばっかりだった。


よし、明日は圭ちゃんにも感謝させてやる。
何かおごってもらおう。

そして、裕ちゃんには焼肉連れてってもらうかな。

覚悟しろよ、裕子。
いっぱい食べてやるから。
391 名前:タネ明かし 投稿日:2002年05月14日(火)17時29分20秒


―――Fin―――


392 名前:K 投稿日:2002年05月14日(火)17時33分32秒
以上、やぐちゅー(…になるのかな?)で『タネ明かし』でした。

まだ容量も大丈夫そうなので、もう1つ書けるかなと。
例によって、全然考えてはいないんですが。
とりあえず、やぐちゅーで書くつもりでいます。
残りが気になるので、かなり短いのになるかと思います。
393 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月14日(火)18時45分09秒
容量はまだまだ、大丈夫。
容量に合わせて話を短くしないで、思う存分、話を書いてください。
作者さんの小説、たくさん読みたいよー。
394 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月21日(火)10時48分54秒
更新されてたんだ。(w
作者さんのやぐちゅーはなんとも表現できないけど・・・大好きです!!
395 名前:K 投稿日:2002年06月04日(火)03時12分02秒
すみません。やっぱり言ったことは守らない人間みたいで(笑)
久しぶりの更新だけど、予告してたやぐちゅーじゃないです。
最近、無性に書きたくてしょうがなかったみっちゅーでいきます。
396 名前:Call Me 投稿日:2002年06月04日(火)03時13分10秒
…………プルルルルッ。

あ゛〜っ、何で出えへんねん!
もう、何回鳴らしたと思ってんのや。

ちょっぴりお酒が入ったアタシは、いつになく息巻いてて。

仕事なんかなぁ。
でも、結構な時間やん。
そりゃ、向こうも忙しい身やってのはわかってるけど。
397 名前:Call 投稿日:2002年06月04日(火)03時13分59秒
こないだラジオで言ってくれたこと、めっちゃうれしかったんやで。
アンタの何気ないひと言に、アタシがどれだけ一喜一憂するかわかってんのかいな…。

――――絶対わかってないんやろなぁ………。


「留守番電話サービスに接続します」の案内が聞こえたところで、諦めてケータイのボタンを押す。
どーしよ、ここまで来てもうたやん。
これは諦めて帰るしかないんかなぁ。

いやいやいや、もっかいくらいかけても構わんやろ。
思い立ったようにケータイを取り上げ、リダイヤル。

これで、また留守電に繋がったら諦めようや。
398 名前:Call Me 投稿日:2002年06月04日(火)03時14分57秒
早く出てと願う傍から、鳴り続ける呼び出しコール。
今日は無理かと落胆した瞬間、繋がった。

『はい』

いつもより、更に低く響く声。
アタシのほろ酔い気分も一瞬のうちに醒めていくような。
うわっ、めっちゃ機嫌悪そうやん!

「あ、あの…、あのぉ……」

ちょぉ待て、アタシ!
何どもってんねん。
399 名前:Call Me 投稿日:2002年06月04日(火)03時15分43秒
『何や?』

怖っ!
何で、そんな怒ってるん?
アタシ、何かした?してないよな?

『みっちゃん?』

少しだけ、優しくなった声音で名前を呼ばれて、はっとした。
あぁ、アタシ、電話してるのに、しゃべってなかったやん。

「あ、うん」
『うん、やないやろ。どないしたん?』
400 名前:Call Me 投稿日:2002年06月04日(火)03時16分53秒
「裕ちゃん、今どこ?仕事終わっとらんの?急がしい?電話してて平気なん?」
『……………………………』

あれ?何で黙ってんの?
何かヘンなこと訊いたか?

心配した直後、電話の向こうから、クッと肩を震わせたような笑い声が聞こえてきた。

『何や、いっぱい言うたな、今』

徐々に普段どおりになる声に、ほっと胸をなでおろす。
いや、前から電話の声は冷たく聞こえがちなんやけどな。
401 名前:Call Me 投稿日:2002年06月04日(火)03時17分49秒
「いっぱいって、別に……」

当たり前のことしか訊いてないやん。
そりゃ、立て続けに並べただけで。

『わかったわかった。で?』

で?って、アナタ。こっちが質問してたんやけど………。

「や、だからぁ、今、中澤さんはヒマですか?って訊きたかったんですけどぉ」
『何で?』

えっ…。
何でって、何でって、そりゃぁ、ちょっとしゃべりたいなぁとか、出きるなら会いたいなぁとか………。
なぁ、ダメなんか?
402 名前:Call Me 投稿日:2002年06月04日(火)03時18分41秒
『みっちゃん?聞いとんの?』
「聞いてる…けど」

『何やの、ほんまに。さっきからヘンやで?』
「………なぁ」

『ん?』

そんな優しい声で先を促されたら。
止まれなくなってしまうやん。

いいんかなぁ。
403 名前:Call Me 投稿日:2002年06月04日(火)03時19分36秒
「会いたいんや………」
『は?』

即座に聞こえる拍子抜けした声。
そうやろなぁ。
いきなり“会いたい”言われても困るっちゅう話やよな。

でも、無性に会いたくなってしまう時もあるんやって。

「ダメなん?」
『いや、ダメも何も……』

「―――だって、裕ちゃん言うてたやん」
『………何て?』
404 名前:Call Me 投稿日:2002年06月04日(火)03時20分22秒
思わず、言葉に詰まる。
あのひと言に、いつまでもしがみついてる自分はおかしいんやろか。
おかしいと自分でも思うけど、それでも想いは止められなくて。

「誰かとしゃべりたかったら、アタシんとこにでんわしてくれればええのにって………。この間、言うてたやん」
『あ、あぁ』

やっぱり、今の今まで忘れていたんだろうなぁ。
アタシって、所詮はその程度なん?
わかってたけど、やっぱ辛いわ…。
405 名前:Call Me 投稿日:2002年06月04日(火)03時21分09秒
『ええよ。ウチ、来るか?』
「へっ!?」

今度はアタシが驚く番やった。
思いっきり間抜けな声を上げて。

『都合がつくんなら、ウチおいでや。来れるん?』
「え、ええの?」

『うん。ええよ。今から向かって、どれくらいかかる?』

今から。
今からって……。

「裕ちゃん、今、ウチにおるの?」
『そうやけど』

何や。
なら、いつまでもうじうじしてないで、さっさと行けばよかったやん。
406 名前:Call Me 投稿日:2002年06月04日(火)03時22分19秒
「じゃぁ、今から3分で行くわ」
『ちょっ、3分?アンタ、どこにいるんや?』

「ん。そこまで3分で行けるとこに」

現金な奴だって言われればその通りやけど、電話を切った後のアタシの足取りは、とてつもなく軽い。
何や、ウチにおったんかぁ。
じゃ、何で電話出てくれんかったんやろぉ?

………まぁ、そんなんどうでもええか。
これから会えるんやし。
407 名前:K 投稿日:2002年06月05日(水)00時51分01秒
調子に乗ってさくさく更新(笑)
自分でも驚くけど、珍しいこともあるなぁ……。
でも、あいかわらず更新量は少ないですけど。
408 名前:Call Me 投稿日:2002年06月05日(水)00時52分03秒
ピンポーン。
意気揚々とインターホンを押して。

『みっちゃん?』
「うん」

ひと言、尋ねられて、マンションのエントランスが開錠される。
彼女の声が、呆れてたような気がしたのは…気のせいやろ。うん。

部屋の前にたどり着き、ひとつ、大きく深呼吸。
インターホンを押そうと構えると、何の前置きもなく、突然にドアが開かれた。
409 名前:Call Me 投稿日:2002年06月05日(水)00時53分31秒
ガツン。
外開きやから、避ける間もなくアタシの身体にぶつかってきて。

「あ、ごめん。もう来てたんか」
顔を覗かせた部屋の住人は、大して申し訳なさそうな顔をすることもなく、言葉では謝って。

「いったぁ…。ねーさん、わかっててやったん?」
いちばん被害に遭ったおでこを押さえて恨めしそうな視線を向けてみても、当然のことながら、全くそれを解する様子もなく。

「まっさかぁ。もう来る頃かなって思って、開けただけやよ」

どうだか……。
この人ならやりかねないからな。
410 名前:Call Me 投稿日:2002年06月05日(水)00時54分26秒
「ほら、入りぃ」

誘われるままに中に足を踏み入れて。
すたすたと奥へ足を進める。
リビングのソファに腰を落ち着けると、後からやってきた彼女はそのままキッチンへ。

「何か飲むか?」

あー、どうしよ。
ただ会いたい…って想いだけで来ちゃったからなぁ。

飲むか?
いや、すでにちょびっと飲んでるから今日はええか。
411 名前:Call Me 投稿日:2002年06月05日(水)00時55分47秒
「んっと、お水、もらえます?」
「え?水でええの?」

「うん。アタシ、今夜はちょっと飲んでるんよ」

そうなんやぁ…とつぶやきながらも、冷えたミネラルウォーターをグラスに注いでくれて。
ついでにとばかりにグラスは2つ。
持ってきたグラスは目の前のテーブルにトンと置かれた。

「んで?」
彼女はアタシの横に座り、伺うような視線を向ける。
来た理由を尋ねられてるのはバカなアタシでもわかるけど、敢えてそれは無視して。

「なぁ、電話、あれが2回目やったんやけど、家にいたなら何で出てくれへんかったの?」
「電話?」

あれ?気づいとらんかった?

「あぁ、そっか。それで起きたんか」

何?寝てたん?
412 名前:Call Me 投稿日:2002年06月05日(水)00時56分42秒
クエスチョンマークが飛び交ってるような顔をしてたアタシに、やわらかく微笑んで話してくれた。

「いや、アタシ、昨日の夜とかほとんど寝ないで朝から仕事やったんや。でも、夕方に終わったから、早々にウチ帰って寝ててな。何かで起こされたと思ってたら、アンタからの2回目の電話が鳴ったんや」

あぁ、それで……。

「寝起きのせいなんか、めっちゃ機嫌悪そうな声やったんは」
「そうやった?」

「うん。何か、怖かったもん」

なぁんだ。わかればどうってことない理由やね。
ってか、めちゃくちゃありそうな理由やった。
413 名前:Call Me 投稿日:2002年06月05日(水)00時57分42秒
「で、アンタは何で?」
「ん〜、何でって言われてもねぇ……」

会いたい以外の理由、ないもんなぁ。
答えられないアタシを見て、とってもうれしそうに笑ってくれちゃって。

「何や、ほんまにアタシに会いたかっただけなん?」

悪いかっ!
だって、だってなぁ……。

「すっごいうれしかったんよ。裕ちゃんが、アタシに電話してくれればって言うてくれたの」

わかってんの?全く…。
もっと、アタシのことも構ってえな。

こんなに好きなんやで。
なぁ、知ってんのやろ?アタシの気持ち。
414 名前:Call Me 投稿日:2002年06月05日(水)00時59分09秒
「ちょぉ、うれしいやん。みっちゃん、アタシのこと頼ってくれてんやなぁ」

頼る………ねぇ。
何だか微妙にはぐらかされてる気がしなくもないんやけど、こんな笑顔見たら、それでもええかなって。

「まぁな」
頼りにしてるのはほんとのことやし。

「それよりさ」
声と共に、不意に額がひんやりとした感触に包まれる。

「さっき、ほんまに痛かったんやなぁ。ちょっとだけど、赤くなってるで」
彼女の手が、アタシの額に伸ばされていた。
一気に上がったアタシの体温と対照的な冷たい手。

「痣とかにならんよなぁ〜」
さっきと何の変わりもないいつもの声で。
415 名前:Call Me 投稿日:2002年06月05日(水)01時01分34秒
でも、額を撫でられ、覗き込むように近づいてきた彼女のどアップに、アタシの心臓はバクバク言い始める。

視線を額に合わせてるせいで、逸らすことのできないアタシの目の前に彼女の唇。
薄く開いたその唇からは、言葉が紡がれるたびに赤い舌が見え隠れして。

吐息が感じられるほどに近づいている。



―――なぁ、これで我慢せえっちゅ方が無理な話ちゃう?
416 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月05日(水)22時42分31秒
是非とも暴走させてください。
『おっちゃん』頑張れ!!
417 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月07日(金)01時42分25秒
我慢はからだに悪いのれす。
418 名前:K 投稿日:2002年06月07日(金)07時01分52秒
レスありがとうございます。
沈みっぱなしなのに、読んでる方がいてうれしいです。
何か、最初に思ってたのより長くなってます。
ってか、少しずつしか書いてなくて、内容が単にだらだらしてるだけなんですけど(笑)

では、更新です。
419 名前:Call Me 投稿日:2002年06月07日(金)07時03分13秒
それでも必死に思い止まっていたつもりなのに、アタシに残された最後の理性を吹き飛ばしたのは、やっぱりこの人だった。

「まだ、痛いん?」

不意に、至近距離で絡められた視線。
答えられずにただ見つめていると、ふんわりと微笑まれて。

「アタシが治したるわ」

そう言って、額に触れていた手でアタシの前髪をかき上げ、軽くそこに口づけた。
420 名前:Call Me 投稿日:2002年06月07日(金)07時04分43秒
その瞬間、思わず彼女の背中に腕を回し、離れていくのを恐れるようにぎゅっと抱きつく。

「みっちゃ…ん?」

不思議そうな声を上げた彼女に縋りつくような目を向け、やっとの思いで自分の胸の内を明かした。

「好き…なんや」

裕ちゃんのことが、好きなんや。本気で。

口に出してはみたものの、彼女の顔を見るのが怖くてすぐに俯いてしまう。
421 名前:Call Me 投稿日:2002年06月07日(金)07時05分37秒
でも、そんなアタシの頬に、そっと彼女の指が触れて。
小さく息を吐いた。

「やっと、言うてくれたやん」

その言葉にアタシが驚く間もなく、頬を伝ったその指は髪の中に差し込まれ、優しく梳く。

「アタシやって、みっちゃんのこと好きやで」
「―――えっ?」
「何、驚いてんねん。まさか嫌われてるとでも思ってたんか?」

いや、そこまではさすがに思わんかったけど。
でも、こうしてあっさりと受け入れられるとは………。

「ずっと待ってたんやよ。いつになったら、ちゃんと言うてくれるんかなって」
422 名前:Call Me 投稿日:2002年06月07日(金)07時06分35秒
―――アタシ、何を迷ってたんや?

ってか、そんなん考えてるんやったら、裕ちゃんから言うてくれてもええやん………。
あいかわらず性格悪っ。

「いっつも言うてるやん。蹴り入れるのもアホ言うのもアンタだけやって。これだけやって何で気づかへんのやろ?」

やっぱり性格悪っ。
めちゃくちゃひねくれてるわ、この人。

何で蹴り入れられたりアホって言われたりして、愛されてるなんてわかれっちゅうのや。
遊ばれてるくらいにしか思われへんって。
423 名前:Call Me 投稿日:2002年06月07日(金)07時07分47秒
「そぉか、こないだのラジオが決定打やったんやね。『愛の証』とまで言うたもんな、アタシ」

あ、よぉ覚えてるやん。
そう、それもすっごいうれしかったわ。
でも、その後すぐ『友情』って言い直したしなぁ。

楽しそうにしゃべり続けるこの人を見てたら、怒っていいんだか喜んでいいんだか、何とも微妙な気がして。

待て待て待て。

とりあえず、アタシが裕ちゃんを好きって気持ちは伝わったんやな。
んで、それに対して、裕ちゃんもアタシの告白を待っててくれたと。
更に、アタシのこと好きやったと。

……こんなにすんなりいっちゃっていいんか。


………ええよな?
424 名前:Call Me 投稿日:2002年06月07日(金)07時08分41秒
いつまでもぐるぐる頭の中をめぐる想いと欲望。
散々悩まされてきたんやし、ここらで本懐遂げとくのも………。

「ゆう、ちゃん」

彼女を呼んだ自分の声は、何だか喉に張りついてたようで上手く発せられず。
ん?と覗き込んできたその瞳は、まだ微笑んだままだったけど。

背中に回していた手を、ゆっくりと移動させる。
脊椎を数えるようにたどっていくと、彼女がピクッと反応したのに満足して。

「ちょっ、何や、いきなり…」

焦った様子が手に取るようにわかるけど、しゃーないやん、もう止められへんで、アタシ。
アタシをこんなにしたのは、全部アンタなんやから。
425 名前:Call Me 投稿日:2002年06月07日(金)07時09分31秒
「好きやって、言うたやん」

片手を後頭部に回して抑え、そっと口づける。
一瞬だけ強張った腕の中の身体は、キスが深くなるにつれて徐々に脱力していく。
強引にねじ込んだ舌にも、少しずつ彼女の方から絡められてきたりして。

「ぁ…ふ、ぅ……」

悩ましげな吐息が、アタシの中をも熱くさせる。
426 名前:Call Me 投稿日:2002年06月07日(金)07時11分35秒
十分に味わってから音をたてて唇を離すと、含みきれなかったらしい唾液が、彼女の口の端から伝っていた。
慌ててそれを拭おうとした手を捉え、再び唇を寄せる。
アゴのラインをなぞるように、こぼれた唾液を舌先だけですくいとったり。

「んんっ……や…ぁ……」

さっきまでと違う、少し高い声。
初めて見る、その姿態。

耳が、目が、自分の全てが彼女に支配されていく。
焼きついて、離れない。


―――アタシ、今までよく我慢してたなぁ。
427 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月07日(金)20時28分21秒
まさかこのスレが稼動中だとは(w
みっちゅーだ。
やっと幸せ掴めるのかな?頑張れ!おっさん(w
428 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月08日(土)01時57分50秒
本懐キター(w
429 名前:作者 投稿日:2002年06月09日(日)07時17分46秒
今日のハロモニ。は平家さんのスタジオライブ。楽しみっ。

ってことで、更新です。
今回で終わります、ようやく(^^;
430 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時18分37秒
妙なところで感心しながらも、自分の心も次第に冷静さを失っていくのに気づく。

もっと、見せて。
もっと、聞かせて。
そして、もっと、感じて。


今だけでええから、アタシのこと以外、考えないで。
431 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時19分42秒
自分の膝を跨ぐように座らせ、首筋にキスをくり返す。
小刻みに震える身体を抱きしめながら、片手はTシャツの裾から忍び込ませる。

いつもより少し体温が高いような気がするのは、気のせい…やないよな。

さらっとした背中の感触を楽しみながら、器用に下着を外して押し上げる。
脇腹をたどり、膨らみに手を添えて揉みしだく。

「やめっ……ぁん……」

拒絶の言葉とは裏腹に、彼女の手は縋りつくようにアタシの腕をつかんでいた。
その手は、アタシの手の動きを妨げるようには思えない。
432 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時20分35秒
それでも、アタシにとって彼女の言葉は絶大で。
そんな小さな、わずかな拒絶の意志さえも。

思わず、手が動かなくなった。

首筋に埋めていた顔を上げ、伺うような視線を向ける。
熱っぽい身体と赤く染まる顔。
吐息と声が漏れ、閉じることのない口。

さっきの言葉は本心からの拒絶じゃないのは感じ取れるけど、始まりが唐突だったのは確かで。
433 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時21分26秒
アタシはTシャツの中から手を出し、両腕を彼女の背中に回して、もう一度、ぎゅっと抱きしめた。

「裕ちゃんのこと、大好きやから」

肩口に彼女の熱い吐息がかかる。
アタシのシャツをも通して、肌に染み込んでくる。

「だから、裕ちゃんが欲しいん」

耳元でのアタシの言葉に、ほんの少し頷き、抱きしめ返すことで応えてくれて。
そっと腕を解いて彼女を見ると、はにかむような微かな笑顔。

「―――アタシも好きや」

そう言って、恥ずかしそうに目を伏せる。
434 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時22分55秒
お互いの気持ちを再確認したところで、アタシは行為を再開する。

キスを交わす一方で、服の中の手は彼女の胸やお腹を撫でさする。
胸の突起をきゅっと摘まむと、キスから逃れて甘い声を上げる。

「やぁんっ……あ…ふ……」

シャツから見え隠れする鎖骨をぺろりと舐め、大きく仰け反った身体を押さえ込む。
片手で背中と後頭部を支え、胸元で遊ばせていた手を下へと移動させていく。
ピクリと揺れた肩に、軽く歯を立てて。

たどり着いたそこは、もうすでに十分なほど熱く潤っていた。
435 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時23分48秒
赤く染められた頬と固く閉じられた瞼を横目に、耳朶を口に含む。

「んんっ……はぁっ………」

彼女が反応するたびに、アタシの首に回されている腕に力が込められる。
非力な彼女の割には、ずいぶんと強い力で。
耐えてるような、眉根を寄せた表情をして。

なぁ、アタシしかいないんやから、もっと乱れてええんやで?

耳の縁をちろちろと舐め上げ、彼女の熱を感じる指は入り口を探るように動かす。

「ねえ、もっと、声聞かせて?」

耳元で囁けば、反射的に首を振る。
そんな様子までもが愛しくてしょうがないのやけど。
436 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時24分37秒
唐突に、入り口で遊ばせていた指を中に差し入れて。

「ひっ……あぁぁっ…………」

一瞬、硬直した身体。
シャツ越しにわずかに爪を立てられた。
そんな小さな痛みさえもうれしくて。

「我慢、せんでええから……」

爪立てても、肩噛んでも構へんから。
もっと、感じて?
437 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時25分54秒
アタシ自身も自分を抑えられない。
焦らすなんてこともできずに、ただただ指の動きを激しくして。
抜き差しするたびに高く短く漏れる声。

「ぅあっ……あっあっあっ……」

溢れ出す蜜が、指を伝ってアタシの手首まで流れてくる。

肩に押しつけられた顔が見たくて、後ろ髪をクッと引っ張ると。
目尻にうっすらとにじむ涙。
どこか不安そうな瞳。
438 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時26分52秒
開きっぱなしの口に、再び、唇を重ねた。
舌を絡ませながら、彼女の中の指を動かすことも忘れずに。

次第に息苦しそうになり、キスから逃れようとする。
でも、それを許さずに、彼女の喘ぎ声を飲み込んで。
締め付けが強くなるのを感じ、それに逆らうように突き動かす。


「んっ………んんんっ……」


くぐもった叫びと共に、絶頂を迎えて一気に脱力した身体が倒れ込んできた。
439 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時28分03秒
「裕ちゃん………」

肩で息をくり返すその背中を、子供をあやすように優しく撫でる。

「裕ちゃん、好き………」

反応はないまま、アタシはその言葉をくり返す。

「好き……。好きなんや……」

息が整ったのか、腕の中の人はゆっくりと身体を起こして、ぽつりとつぶやいた。

「―――わかったから」

気だるさが残る顔でわずかに唇の端を上げ、言葉を続ける。
440 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時28分45秒
「みっちゃんがアタシのこと好きでいてくれんのは、もう、十分わかったから………」

彼女の意図がつかめないながらも、アタシはコクリと頷いて。

「だから……、アタシが好きやってえのも、ちゃんとわかっててな」

―――うれしいこと言うてくれるやん。
何か、改めて言われると照れるわ。

「うん。よぉわかってる」


大好きや………。
441 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時29分20秒

――――――――――


442 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時31分11秒
行為の後にシャワーを浴びて、2人で並んでベッドに寝て。
とりとめのない話をぽつぽつとして。

「なぁ」

話が少し途切れたところで、彼女が不意につぶやいた。

「ん?」
「電話、ありがとな」

「えっ?」
「今夜の電話。ラジオでのアタシの言葉、アテにして」

そりゃ、それをアテにして電話したのは確かやけど、何でアタシが感謝されてん?
443 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時32分18秒
何て返したらいいのかわからずに、天井に目を向けるその人を見つめて。

「や、素直にうれしかったから、ありがとなぁって」

やわらかく微笑む顔はとても綺麗だった。

「――-―みっちゃんの気持ちも聞けたし」

そっと手が伸ばされて、アタシの手に触れる。
思わず、きゅっと握り返す。

「また、電話してもええ?」

尋ねて、握りしめた彼女の手に軽く口づける。
444 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時34分44秒
「ええよ。寂しくて話し相手欲しくなったら、またアタシに電話してえな」
「うん。でも、寂しくなくても電話する。裕ちゃんのことが欲しくなったら、すぐに」

薄暗い中でよくわからないけど、どことなく照れた笑みを浮かべたみたいで。

「…………アホ」

『愛情の証』をやんわりと受け止めて、アタシはその先を続ける。

「だから、裕ちゃんも何かあったら、いや、何にもなくてもええけど、電話してな?」

すると、アタシが握りしめてる手をくいっと引き寄せて。

「ん。そうするわ」

さっきのアタシみたいに、手の甲にそっと唇を落とす。
445 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時35分42秒
「―――寝よか?」
「うん。お休みぃ」



――――裕ちゃんが欲しくなったら電話する…なんて言ってしまったけど、そしたら電話しない日なんてないんちゃうかなぁ。
446 名前:Call Me 投稿日:2002年06月09日(日)07時36分15秒

―――Fin―――

447 名前:作者 投稿日:2002年06月09日(日)07時41分09秒
はい、終わりました。
みっちゅーで『Call Me』でした。
始めに思ってたのより、倍くらい長くなってしまいましたが。
とりあえず、引越し警報も出たので、このスレはこれで終了にします。

どうもありがとうございました。
448 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月10日(月)12時12分50秒
容量いっぱいまでお疲れ様でした。
たくさんの姐さん話をありがとう!
結局最後はみっちゅーでしたが・・・。
新スレの予定はないんでしょうか???
449 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月25日(火)02時07分31秒
まさかこのスレ更新されてたとは・・・
かなり遅くなりましたが・・・たくさんの裕ちゃん話ありがとうございました!!!
他スレでは又すばらしい作品をお願いします。

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