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Trash&Lemon

1 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月21日(金)23時24分13秒
中編予定のパラレル物です。
主な登場人物は後藤、石川、吉澤。
シリアスになる…筈です。
稚拙な文かと思いますが、どうぞお付き合いください。
2 名前:サヨナラの暑さ 投稿日:2001年12月21日(金)23時26分31秒
「真希…逃げて…」

「子供には手を出すな…頼む…やめてくれ!」

「おねぇちゃん…痛いよぉ…助けてよぉ…」

―嫌!やめて!
目の前で繰り返されるかつての惨劇。

お父さん、お母さん、ユウキ。
3 名前:サヨナラの暑さ 投稿日:2001年12月21日(金)23時27分06秒
みんなに駆け寄ろうとしても、身体が動かない。
声もでない。ただ、みんなの声とその惨劇だけが、映像のように繰り広げられる。
まるで自分はそこに存在していないようなのに、みんなは間違い無く自分を見ている。

私を気遣う。私を庇う。私に、助けを請う。

―どうして!畜生!
悔しい。どうしようもないほどに。もういや…やめて…
4 名前:サヨナラの暑さ 投稿日:2001年12月21日(金)23時28分03秒
気付くと、そこはいつものベットの上だった。酷く、汗をかいていた。

夢だったんだ。
もう何度目だろう。あの時の夢を見るのは。

起き上がり、水を溜めてある桶まで歩く。少し濁った水を飲み下した。
不味い。けれど、安心して飲める貴重な水だ。贅沢は言えない。
5 名前:サヨナラの暑さ 投稿日:2001年12月21日(金)23時28分48秒
「…真希、どうしたの?」
「あ…ごめん。起こしちゃった?」

眠たそうな声を掛けてきたのは、ルームメイトの吉澤ひとみだ。

「あぁ〜、なんか眠れなくって。また…あの夢?」
「うん…」

嘘つき…。でもそんな優しさが、ひとみの良い所だ。
6 名前:サヨナラの暑さ 投稿日:2001年12月21日(金)23時30分25秒
「大丈夫?」
「あは、もう慣れたよ」
もう寝ないと明日に響く。

「それじゃ、おやすみ、ひとみ」
「うん。おやすみ」

私はベットにもぐりこむと、毛布の熱を貪るように抱きしめながら、眠りに落ちていった。
7 名前:作者 投稿日:2001年12月21日(金)23時31分27秒
今日はこの辺で。
何か感想等いただけると嬉しいです。では。
8 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月22日(土)00時09分52秒
ごま主役うれしいです!パラレル系大好きなんで期待してます。
9 名前:とみこ 投稿日:2001年12月22日(土)09時30分30秒
初めまして、同じ板に書いてるものです(^^)
同じ板の人はみんな友達vvv他の板の人もみんな友達っす!
毎日チェックしまーす!がんばってくださいね!

とみこ
10 名前:流れおちるはやさ 投稿日:2001年12月22日(土)10時58分52秒
「よっしゃ、今日も張り切っていきますか!」
「朝から元気だねぇ〜。ゴトーはまだ眠いよ…」

欠伸しながら、支度をする。

ロゴ入りのベスト。防弾使用の物だ。
革の手袋。
小さな拳銃。名称は知らない。
その上にコートを羽織る。

昨日は3人狩った。こちらは、2人狩られた。
11 名前:流れおちるはやさ 投稿日:2001年12月22日(土)10時59分49秒
全ての始まりは21世紀末のある大発明だった。

それは、核に匹敵する威力を秘めた兵器。
特筆すべきは、地球環境を汚染しないこと。

つまり、核と違い使いたい時に使う事ができた。
そのために緩くなった破滅への引き金は、あっさりと引かれることになった。

大戦争。ミサイルが飛び交い、人が死に、狂った。
12 名前:流れおちるはやさ 投稿日:2001年12月22日(土)11時00分29秒
そしてその先に残されたのは、かつて国と呼ばれた不毛の地と、一握りの人々だった。
奪い合い。殺し合い。毎日のように繰り返された。

それを煽動していたのが、カラスと呼ばれる組織だった。
自然、それに対抗する組織も現れる。それは、スイーパーと呼ばれた。

真希は、スイーパーの一員となった。家族を、カラスに殺されたあの日から。
13 名前:流れおちるはやさ 投稿日:2001年12月22日(土)11時01分03秒
カラスを見分けるのは簡単だ。奴らは、黒いコートを着ている。それが、カラスと呼ばれる所以だ。
カラスのメンバーは多い。その為、同士討ちを避けるために連中は黒いコートを着ているという。

一方、私たちスイーパーも皆同じコートを着ている。
よって、お互いを認識するのは容易い。

手当たり次第に、狩る。カラス狩りだ。目標は、黒いコート。

当然、誤認もある。たまたま黒いコートを着ていただけの男性を殺したことがある。
でも、それがどうした。関係ない。私は、カラスを狩るだけだ。
14 名前:作者 投稿日:2001年12月22日(土)11時05分59秒
レス、感謝。
>8 名無しさん
 後藤は一番辛い役回りになるかも…期待に応えられるよう、頑張ります!
>9 とみこさん
 ありがとうございます。頑張ります!とみこさんも更新頑張ってください!
15 名前:3、真冬の午後のエンジェル 投稿日:2001年12月22日(土)23時13分13秒
「じゃあ、真希、先行くよ」
「うん。気をつけてね」
「あいよ!」

ひとみが『家』を出て行く。

崩れたビルの残った一室が、私たちの家だ。
まぁ、家と呼べるほどのもんじゃないけど、私たちは家と呼んでいる。
ぼろいベット2つと水桶と小さな棚。あるのはこんなもんだ。
16 名前:3、真冬の午後のエンジェル 投稿日:2001年12月22日(土)23時13分46秒
スイーパーとしての私達の主な仕事はパトロール。
町を見回り、カラスの被害を防ぐ。

大抵単独行動だ。何人殺そうと、何人死のうと上の奴らは気にも留めないだろう。

「さぁて、私も行くかな…」
今日もまた、狩りに出る。
17 名前:3、真冬の午後のエンジェル 投稿日:2001年12月22日(土)23時14分19秒
相変わらず、街は廃墟のままだ。

崩れかけの建物に、人々が寄生虫のように住み着いている。

そこら辺に死体が転がる。
理由は何だろうか?カラスにやられたか、飢餓か、小競り合い。そんなところだろう。

日常茶飯事だ。こんな事は。何の感傷も無い。
18 名前:3、真冬の午後のエンジェル 投稿日:2001年12月22日(土)23時14分53秒

「やめてくれ!子供がいるんだ!こうしなきゃ、生きていけないんだよ!」

…知るか、そんなこと。

パンッ!

これで、今日狩ったカラスは二匹目。
充分だ。もう帰ろう。
そう思ったまさにその時だった。
19 名前:3、真冬の午後のエンジェル 投稿日:2001年12月22日(土)23時15分26秒
バンッ!

銃声?ここから…近い!
私は銃声がした方向へと走り出した。勘を頼りに、足音を調整する。

あの瓦礫の向こう。何年かの経験が、そう告げている。
瓦礫の影から、そっと向こう側を覗く。

いた…!カラスだ。

パンッ!

20 名前:3、真冬の午後のエンジェル 投稿日:2001年12月22日(土)23時17分48秒
乾いた軽い音が響く。カラスは頭から血を吹き出して、倒れた。
素早く駆け寄り、死んだことを確認する。

…確かに死んでる。

その死体から、銃その他使えそうなものを掻っ攫う。
ただでさえ全てが不足している。常套手段と割り切っていた。
21 名前:3、真冬の午後のエンジェル 投稿日:2001年12月22日(土)23時18分28秒
「…あ、あ…」
「え?」

全く気にしてなかった。当然、死んでいるものだと思っていたから。

すぐそばに、私と同い年ぐらいの線の細い少女が座りこんでいた。
腰が抜けた、そんな表現がしっくり来る。
先ほどの銃声は脅しだったのだろうか?少女にそれらしい外傷は見られない。
それでも、よほど怖かったのだろう。放心したように呆けている。
22 名前:3、真冬の午後のエンジェル 投稿日:2001年12月22日(土)23時19分25秒
「大丈夫?立てる?」
「…えぇ〜ん、っぐ。わ〜ん…」

泣き出した。まいったなぁ、こういうの、始末に困るんだ…。

「ねぇ?泣いてないでさ、家、帰れる?」
「えぇ〜ん、ぅわ〜ん、っぐ…」

駄目だ。泣き止む気配も無い。
置いていこうか。いつもの私ならそうしているだろう。でも…何故か、それは躊躇われた。

「あぁ〜、もう。とりあえず、私んとこ行こうか?ホラ、立って?」

私は少女の震える手を掴むと、無理矢理に立たせた。
そして、その手を引いて家路を急いだ。少女は、特に抵抗しなかった。
23 名前:作者 投稿日:2001年12月22日(土)23時25分52秒
「3、真冬の午後のエンジェル」更新です。 
ちょっと訂正。
「サヨナラの暑さ」→「1、サヨナラの暑さ」
「流れおちるはやさ」→「2、流れおちるはやさ」 とさせてください。
かなり細かく章に分けることになります。スイマセンm(__)m
24 名前:4、レモン一個分の思い 投稿日:2001年12月23日(日)10時39分08秒
「くぅ〜…」

少女は一通り泣くと、疲れたのか眠ってしまった。
可愛い顔をしてる。でもそれは、どこか儚さ、脆さを感じさせるものだ。
何気なく、少女の持っている小さなバックが目に入った。

なにが入ってるんだろう?多少悪いと思いつつも、そのバックを開けた。
…?中には、腐りかけのレモンが一個。それと、小さな紙切れ。
25 名前:4、レモン一個分の思い 投稿日:2001年12月23日(日)10時39分52秒
私は紙切れを取り出すと、それを開いてみた。

…地図?手書きと思われる地図だ。ここに用事があったのだろうか?

ちょっと悩んだあと、私は少女のバックを持って、家を出た。


「この辺だよなぁ…」

地図を見直しながら、独りごとを呟く。
見渡しても、それらしいものは見当たらない。

どうしようか…暫くその辺をうろついてみようかな?
26 名前:4、レモン一個分の思い 投稿日:2001年12月23日(日)10時40分28秒
「アンタ、なにしてんだい!」

突然、怒鳴られた。振り向くと、そこには40代ぐらいと思われる女性が包丁を持って立っていた。

「あぁ〜っと、怪しいもんじゃないよ。この地図のとこ探してるだけなんだけど…」

両手をひらひらとさせて、悪意がないことを示す。

「ん…これは、私の家の地図じゃないか!」

包丁を向けたまま地図を覗き込んだ女性が、声をあげた。

ありゃ、世の中、狭いもんだ。
27 名前:4、レモン一個分の思い 投稿日:2001年12月23日(日)10時41分42秒
「…で、何の用だい」
「これ…見覚えありますか?」

少女のバックを持ち上げて見せる。

「うちの娘のじゃないか!」

バックをひったくられた。
ひったくったバックを、女性は乱暴に開ける。
中を覗くと、苦々しい顔をして、またバックを閉めた。
28 名前:4、レモン一個分の思い 投稿日:2001年12月23日(日)10時42分30秒
「…なんだい、これだけかい。ったく、出来損ないが…」
「…?どういうこと?」

わざとらしく咳をすると、私に向かってバックを投げ返してきた。

「あいつ、今どこにいるんだい。アンタの所かい?」

私は無言で頷く。

「じゃあ、あいつに伝えなよ。こんなもんじゃ、あたしの風邪は治んないってね!」

…あぁ、そういうことか。
29 名前:4、レモン一個分の思い 投稿日:2001年12月23日(日)10時43分01秒
要は、風邪を引いたので、少女に何か風邪を治すためのものを貰って来い、とでも言ったのだろう。
こんな時だから、金はその役目を果たさない。物々交換が主流だ。
しかし、その物自体も不足しているのだ。少女が、差し出せるもの。…それは、自分自身だ。

…なにを思って、少女は我が身を差し出したのだろう。
醜い腕に抱かれながら、何を考えただろう。どれだけ、涙を、悲鳴を押し殺しただろう。

…それを。
30 名前:4、レモン一個分の思い 投稿日:2001年12月23日(日)10時43分34秒
「…あの子は、私が貰うよ」

そういって、女性に背を向けた。

「待ちなよ!私が腹を痛めて生んだんだ。あれは、私のだ。そんなの、許すわけ…」

女性の前に、ポケットから出したものを投げ出す。
ライター、マッチ、ボールペン。どれも今では貴重なものだ。

「…これで文句ないでしょ」
「あ、あぁ。いいよ、あげるよ…」
「ふん」

女性は意地汚く、床に投げ出されたものを拾い集めだした。

虫酸がはしる。頭では理解しても、苛立ちを抑えきれない。
私はすぐにそこから立ち去った。
31 名前:popi 投稿日:2001年12月23日(日)13時09分40秒
はじめまして。心情描写が巧みでどきどきさせられちゃいます。
続きがとても楽しみです。
頑張ってください!
32 名前:5、Heart so kind and sweet 投稿日:2001年12月24日(月)00時42分09秒
「…あ」
「起きたんだ?」

コートを脱ぎながら、なるべく優しく問い掛けた。
少女は、躊躇いがちに頷く。

「私は後藤真希。アンタは?」
「え…?あ、石川、梨華です・・・」
「そう」
「あの…私は、誰ですか?」
「は?」

今自分で石川梨華と名乗ったじゃないか。
33 名前:5、Heart so kind and sweet 投稿日:2001年12月24日(月)00時43分15秒

「…つまり、名前以外思い出せないって事?」
「…はい」

申し訳なさそうに俯く。
まぁ、好都合と取っていいだろう。
あんなのところに帰す気はない。
34 名前:5、Heart so kind and sweet 投稿日:2001年12月24日(月)00時44分11秒
「えぇっと…梨華って呼んでいい?」
「え?あ、はい。どうぞ」
「ありがと。私のことは真希でいいから」
「真希…?」
「そ。真希。…あぁ、そうだ。これ、あげる」

私が梨華に手渡したのは、腐りかけた、あのレモン。
35 名前:5、Heart so kind and sweet 投稿日:2001年12月24日(月)00時48分09秒
バックは、途中で捨ててきた。本当は、これも捨てようと思ったんだけど…捨てれなかった。
彼女が、自分自身と引き換えに手に入れたものだから。

「…なに、これ?」
「レモン」
「そんなのわかってるよぉ」

そっと微笑む梨華。私も、にへっと笑う。
36 名前:5、Heart so kind and sweet 投稿日:2001年12月24日(月)00時49分27秒
「やっと笑った。笑ってる方が、可愛いよ」
「…ありがとう」

ありゃりゃ、真っ赤になって俯いちゃった。
その顔が、また可愛らしい。

「記憶戻るまで、ここに居ていいから。…ずっと居てもいいけどね」

…どうして、こんなに優しい気持ちになれるんだろう?
いつもの私からは考えられない。今日は、どこかおかしい。

まぁ、いいか。
37 名前:作者 投稿日:2001年12月24日(月)00時53分38秒
「5、Heart so kind and sweet」更新です。
>31 popiさん
 お褒めの言葉、ありがとうございます!最後まで頑張りますんで、是非お付き合い下さい!
38 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月24日(月)01時48分04秒
いしごま風味でそうとう嬉しいです。
こういう小説も好きです。この先が楽しみですね。
頑張って下さい。応援させて貰います。
39 名前:6、Your smile, My smile 投稿日:2001年12月24日(月)15時04分01秒
コン、コンコン、コン

あ、ひとみだ。
私はドアを開けにいく。ノックの仕方は決めてある。
いきなり入ってきたら、危ないから。

「おかえり〜」
「ただいま〜、ってあれ?どちらさん?」
「こんにちは」
「梨華、もう夕方だよ?」
「あ、えと、じゃあ、こんばんは」
「あ〜、こんばんは」
40 名前:6、Your smile, My smile 投稿日:2001年12月24日(月)15時04分34秒
梨華は人見知りするのかな?ちょっと恥ずかしそうにしてる。
ひとみはひとみで見知れぬ来訪者にどうしたらいいか、困ってる。

このまま二人を見てるのも面白そうだけど、雰囲気が重い。息苦しいよ…
41 名前:6、Your smile, My smile 投稿日:2001年12月24日(月)15時05分20秒


何とか説明も終え、二人ともすっかり打ち解けていた。

「あはははは!梨華ちゃん、絶対おかしいって!」
「嘘〜!なんで〜?」

なんでも梨華はなにかにつけて小指を立てるらしい。
42 名前:6、Your smile, My smile 投稿日:2001年12月24日(月)15時06分08秒
「おかしいよね?真希」
「おかしくないよねぇ?真希ちゃん」
「う〜ん、おかしいんでない?」
「えぇ〜!ひどいよぉ、真希ちゃんまでぇ…」

あはは、眉が八の字だ。

こうして、夜は更けていった。
43 名前:作者 投稿日:2001年12月24日(月)15時08分48秒
「6、Your smile,My smile」更新です。
>38 名無し読者さん
 いしごまと呼べるものになるかどうか分かりませんが…頑張らせて貰います!応援してください!

夜、また更新する予定です。
44 名前:日常の中の非日常 投稿日:2001年12月24日(月)20時54分51秒
結局、私たちは一つのベットに3人で寝た。
じゃんけんでひとみが一人で寝る事になったんだけど、寂しいとか言って乱入してきたから。
おかげで、真ん中になった梨華は苦しそうに顔を真っ赤にしてた。

メチャクチャ狭くて、寝づらかったけど、その暖かさは、懐かしい匂いがした。
45 名前:日常の中の非日常 投稿日:2001年12月24日(月)20時55分45秒

「それじゃ、行ってくるね」
「梨華ちゃん、留守番ヨロシク」
「うん、いってらっしゃい!」

手を精一杯振る梨華。
そんなに振らなくても、見えるから…。ほんの5m程度だよ…?

そんな私の心の呟きに気付くはずもなく、梨華はまだ手を振っている。
ひとみも、苦笑いしちゃってる。
46 名前:日常の中の非日常 投稿日:2001年12月24日(月)20時56分23秒
…私たちの仕事のことは梨華には言ってない。適当なことを言って誤魔化した。
拳銃は玩具で、護身用。服装は、ペアルック。
我ながら苦しいと思ったが、梨華は疑うということを知らないのか、簡単に信じてしまった。

「んじゃ、私はこっち行くね」
「ん。気をつけてね」
「そっちもね」

私たちは別々の道へと歩き出した。

今日は静かだ。元々、街は静かだが、今日はいつもにも増して、不気味なほど音がない。
気のせいであればいいけど…。
47 名前:日常の中の非日常 投稿日:2001年12月24日(月)20時56分56秒

「動くな!」

皮肉なことに、悪い予感というやつは当たるものらしい。

声の主は、じりじりと後ろから近づいてくる。
どうやら一人らしい。それに、カラスじゃない。カラスだったら、とっくに私は撃たれてる筈だ。
48 名前:日常の中の非日常 投稿日:2001年12月24日(月)20時57分27秒
「…言っとくけど、私はカラスじゃないよ?」
「そんなことは分かってる!スイーパーだろう?」
「分かってるならなんで?」
「お前らのせいで、裕子は!」
「…裕子?」

バンッ!

…撃たれた?いや、私は生きてる。じゃあ誰が?
49 名前:日常の中の非日常 投稿日:2001年12月24日(月)20時58分07秒
「真希!」
「ひとみ!?」

どうしてここに?じゃあ、今の銃声はひとみ?

後ろを振り向くと、銃を持った金髪の男性が一人倒れていた。
おそらく、今しがたひとみに撃たれたのだろう。

「大丈夫?」
「うん…。ありがと。でもなんでここに?」
「たまたまだよ。なんとなく、嫌な予感してさ。真希捜してたら案の定!」

まだ興奮冷めやらぬといった表情で、ひとみがまくし立てる。
50 名前:日常の中の非日常 投稿日:2001年12月24日(月)20時58分43秒
「やっぱり、神様はいるんだよ!神様が、真希を死なせないようにって教えてくれたんだ!」

ひとみは、神を信じている。聖書だとか教典だとかちゃんとしたものを知っているわけではないけれど、ひとみは神の存在を信じて疑わない。
私に言わせれば、神などいない。そんなものは、弱い人間が縋るための妄想だ。
全ては必然ではなく、偶然だと、私は思う。

一度、この事に関して大喧嘩した事がある。
結局あやふやになったが、それ以来あまりこの事を話題にするのはお互い避けてきた。
51 名前:7、日常の中の非日常 投稿日:2001年12月24日(月)21時00分44秒
それだけ興奮していたのだろう。つい口が滑ってしまった事に気付いたひとみは、ちょっとばつが悪そうに目を泳がせている。

「あ…と、とにかくっ、無事でよかったよ」
「ん。ありがと」

私たちは手を取り合って家路についた。

…このとき、私たちは気付いてなかった。
52 名前:作者 投稿日:2001年12月24日(月)21時04分21秒
「7、日常の中の非日常」更新です。
スミマセン、途中まで「7」忘れてました。申し訳ないです。
53 名前:8、君が待つ間、君を想う 投稿日:2001年12月25日(火)09時09分35秒
さっきの男性の言葉が、耳に張り付いて剥がれない。

『お前らのせいで、裕子は!』

裕子というのは、多分彼の恋人か、妻か。そんなとこだろう。
彼は、私をスイーパーと知って襲ってきた。
54 名前:8、君が待つ間、君を想う 投稿日:2001年12月25日(火)09時10分08秒
ということは、どういうことだろう?なにか、私の知らないところで蠢いているものを感じる。

「ねぇ、ひとみ。スイーパーの仕事って、パトロール以外になにがあるか、わかる?」
「ん〜、わかんないや。保田さんに聞いてみたら?明日、配給あるし」
55 名前:8、君が待つ間、君を想う 投稿日:2001年12月25日(火)09時10分46秒
保田さんというのは、この辺のスイーパーのまとめ役のような人だ。
水、食料、等など、生活に必要な物は彼女によって配給される。
確かに、私たちよりはこの仕事について精通しているだろう。

「そうしようか」

とりあえず、今は帰ろう。梨華が待つ家に。
56 名前:9、無知なる罪人 投稿日:2001年12月25日(火)14時27分05秒
次の日、私とひとみは保田さんの家まで行った。
私の疑問に、保田さんはたった一言。

「結局、私たちもカラスもやってる事は大差ないのよ」

苦々しく、そう言い放ったのだ。
保田さんはそれ以上具体的なことは何一つ言ってはくれなかった。

でも帰り際、私たちにこう言った。

「その疑問は、忘れちゃ駄目よ」

そう言う保田さんは、どこか疲れたような顔をしていた。
57 名前:9、無知なる罪人 投稿日:2001年12月25日(火)14時28分34秒

「どういうことだと思う?」

帰り道。ひとみの当然の質問に、私は即答できなかった。
答えない私に業を煮やしたのか、

「多分…多分だけど…私たちも…略奪してるって事だと思う…」

ひとみは少し俯いて、悲しげにそう言った。
58 名前:9、無知なる罪人 投稿日:2001年12月25日(火)14時29分18秒
私もそう思う。
思えば、私たちに安定した供給がある事。
それが、まずおかしかったのだ。

「…一体、何が確かで、何が嘘なのかな…?」
「…私たちが、生きてる事だよ…」
「…うん」

頷いて、ひとみは微笑む。
その表情はとても寂しそうだった。
59 名前:10、優しい嘘、悲痛な笑顔 投稿日:2001年12月25日(火)14時30分49秒
コン、コンコン、コン

パタパタと走りよる音と、鍵を開ける音が聞こえてくる。
そのあとに顔を出したのは梨華。

60 名前:10、優しい嘘、悲痛な笑顔 投稿日:2001年12月25日(火)14時31分28秒
「おかえりぃ〜!」
「ただいま」
「ただいまぁ」

ひとみはまださっきの事をひきずっているのだろうか。
どこか、元気がない。

「ひとみちゃん、どうかした?」

梨華はこういうところにはよく気が付く。
他の所には疎いのに。
61 名前:10、優しい嘘、悲痛な笑顔 投稿日:2001年12月25日(火)14時32分08秒
「別にどうもしないよぉ〜、えい!」
「むぅ〜!」

ひとみは梨華の頬に手を伸ばしたかと思うと、指で摘んでむにむにと引っ張る。

「らひすんろ〜」

なに言ってっかわかんないよ、梨華。
62 名前:10、罪と罰と… 投稿日:2001年12月25日(火)23時13分19秒
それから、いつも通りの夕食を食べて、のんびりとしていた。
ひとみは、まだちょっと元気がない。

コンコン

「…!」

ノックが、違う。
私とひとみは素早く立ち上がると、銃を手にドアへと向かう。
梨華に、隠れるようにと目で合図する。
63 名前:11、罪と罰と… 投稿日:2001年12月25日(火)23時14分38秒
私を右側、ひとみを左側にして、ドアを挟むように立つ。
ひとみが、ドアを開ける。

「誰だ!」

私たちが銃を向けた先には…一人の、まだ幼さの残る女の子。
震えて、泣きそうな顔で立っている。
64 名前:11、罪と罰と… 投稿日:2001年12月25日(火)23時15分49秒
怖がらせちゃったかな?

「…どうしたの?道に迷ったのかな?」

ひとみが優しく女の子に話し掛ける。
けれど、女の子はただ首をぶんぶんと横に振るだけだ。

65 名前:11、罪と罰と… 投稿日:2001年12月25日(火)23時16分46秒
「お母さんかお父さんは?」

その言葉を聞くと、女の子は顔をあげて目を見開いた。

「…殺されました」

女の子の目が潤んでいく。表情が、怒りを含んだものに変わっていく。

「あなた達に!」
「え?」

66 名前:11、罪と罰と… 投稿日:2001年12月25日(火)23時17分42秒
女の子が隠し持っていた銃を向ける。

「あなた達が食べ物を奪うから!お母さんは自分はいいから私にって!お父さんもあなたに撃たれた!許さない!殺してやる!」

見られてたんだ。確証はないが、多分、あの時のだろう。
67 名前:11、罪と罰と… 投稿日:2001年12月25日(火)23時18分50秒

「…その銃を渡して?ね?」

パンッ

「うっ…」

ひとみが手を差し伸べたその時、女の子の銃がその声をあげた
銃弾は、ひとみの腹部を貫通して、後ろの壁にめり込んだ。
68 名前:作者 投稿日:2001年12月25日(火)23時22分52秒
「11、罪と罰と…」まで更新です。
途中まで10になってました。スイマセン、ヘマが多くて…
69 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月26日(水)09時51分54秒
大ピンチですか吉澤…
70 名前:とみこ 投稿日:2001年12月26日(水)10時18分25秒
よしこぉ・・・・
71 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月26日(水)14時58分59秒
なんか面白いかも。続き楽しみっす。
72 名前:Please don’t leave me 投稿日:2001年12月26日(水)18時43分27秒

「この!」

銃を向けた私を、ひとみが制す。

大丈夫だから。
目ではそう言っているけど、腹部を抑えた手の隙間から流れ出る血が、それを嘘だと伝える。
73 名前:Please don’t leave me 投稿日:2001年12月26日(水)18時44分20秒

「ごめん…。ごめんね…」

女の子をまっすぐ見ながら、ひとみは囁くように懺悔する。

「うわあぁぁぁ!!」

パンッ パンッ パンッ

女の子の叫び声と、銃声が、薄い壁に反響する。
74 名前:Please don’t leave me 投稿日:2001年12月26日(水)18時45分03秒
ひとみの腹部に、新しく三つの穴が開く。
ひとみはそのまま前のめりに倒れてしまった。

我に帰ったのか、女の子は何か喚きながら走り去ろうとした。

「待て!」

追おうとした私を、ひとみの腕が捕まえる。
75 名前:12、Please don’t leave me 投稿日:2001年12月26日(水)18時46分21秒

「いい、から…」
「でも!」
「人…殺したんだもん…殺される覚悟ぐらい…してたよ…」

ひとみの腕が力無く私から剥がれて、落ちた。

76 名前:12、Please don’t leave me 投稿日:2001年12月26日(水)18時47分55秒

「…でも…やっぱり…痛い、ねぇ…」
「喋っちゃ駄目!もういいから!」
「皆…こんなに…痛かったのかなぁ…謝っても…許して…くれな…い…よねぇ…」
「やだ!ひとみ!やだよぉ…ひとみぃ〜…」

すっとひとみの腕が伸びてきて、私の頭を撫でてくれた。
ひとみの目は、もうその輝きを失っていた。

「これも…運命…だっ…たんだ…よ…」

77 名前:12、Please don’t leave me 投稿日:2001年12月26日(水)18時48分46秒

まるで糸が切られたかのように、ひとみの腕が落ちて、その瞼も閉じられた。
せめて安らかに、そう、冥福すら願えない自分が悲しかった。

「うっく…やだよぉ…行かないでよぉ…」

涙がぽろぽろと落ちて、ひとみの顔を濡らす。
ひとみの頬を伝うそれは、まるでひとみが泣いているかのような錯覚を思わせた。

78 名前:12、Please don’t leave me 投稿日:2001年12月26日(水)18時49分29秒

わかってる。無意味だって。ひとみが困るだけだって。
十分理解してたはずなんだ。泣いたって、何も変わらないことぐらい。
なのに。抑えることなど出来そうもないほど、零れてくる。

79 名前:12、Please don’t leave me 投稿日:2001年12月26日(水)18時50分01秒

いつのまにか後ろに立っていた梨華が、私をそっと抱きしめてくれた。
二人とも何も言わなかった。何も、言えなかった。
梨華は、何度も頷いていた。なにに頷いていたかは、わからない。

80 名前:作者 投稿日:2001年12月26日(水)19時01分36秒
「12、Please don't leave me」更新です。

>69 名無し読者さん
 スイマセン…大ピンチどころか…ホント、スイマセン…
>70 とみこさん
 吉澤は…スンマセン…
>71 名無し読者さん
 ありがとうございます!これからはどんどん退廃的になっていきますが…最後までヨロシクです!

ちなみに年内に完結予定です。読んでくださっている方、最後までよろしくお願いします。
81 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月27日(木)09時08分08秒
えらいこっちゃ・・
涙ぽろり
82 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月27日(木)23時54分30秒

それから数日は、何もやる気が起きなかった。
一日中、ベットの上で、天井を見つめてた。
梨華はずっとそばにいてくれた。

83 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月27日(木)23時55分01秒

なんて、自分勝手なんだろうと思う。
散々他人を殺しといて、他人の死を足蹴にしておいて、親友が殺されればこれだ。

でも、自分を嘲笑う気すら、今は起きない。

84 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月27日(木)23時55分38秒

ひとみは、まだそこに横たわっている。
少しづつ腐り始めているらしい。かすかに異臭がする。

頭では分かっている。嫌というほどに。
でも、身体が、本能が認めない。認めたがらない。
だから、ひとみはまだそこにいる。

85 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月27日(木)23時56分11秒

今日は配給の日だ。ひとみのことも、報告しなければいけない。
重い足を引きずって、私は家を出た。

86 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月27日(木)23時56分42秒

「はい、確かに渡したわよ」
「…どうも」

こんなことをして生き長らえて、何になるのだろう。

87 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月27日(木)23時57分20秒

「…どうかした?」
「ひとみが…死にました」
「…そう」
「はい…」

ただ、それだけ。他人の命の価値など、今ではそんなもんだ。
でも、私にとってひとみの命の価値は、他人のそれよりずっと高い。

88 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月27日(木)23時57分54秒

「気を…落としちゃ駄目よ…?」
「大丈夫、ですよ…失礼します」

優しい言葉も、上辺だけのものにしか聞こえない。
一礼をして、保田さんの家を出た。

晴れ渡る空の青さが、訳もなく悲しかった。


89 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月27日(木)23時58分24秒


家に帰ってきた私を迎えたのは、得体の知れない違和感だった。

なにか、足りない。たりない。タリナイ。

ひとみが、いない。

私を迎えるあの声も、あの瞳も、あの優しさも。
どこにもない。
90 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月27日(木)23時59分00秒

「…おかえりなさい」

梨華は部屋の隅にうずくまっていた。
まるで悪いことをした子供のように、膝を抱いて俯いている。

「…ひとみは?」

答えなど分かりきってる。それでも、私は聞いた。

91 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月27日(木)23時59分39秒

「…埋めてきたよ。腐っていくの…見たくないから…」
「どうして!どうしてそんなことすんの!?」
「だって!だって…」

そこで何も言えなくなる。言葉が、涙で流れるように。

92 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月28日(金)00時00分17秒
言いたくても言えない、そう言った風に胸元を掴む梨華の表情は、とても苦しそうだった。

「お前なんか!あの女のところに返せばよかったんだ!」

そんな梨華に、私はそう言い放ったのだ。

しまった。慌てて口元を隠したところで、今言った言葉が消えるわけもない。

梨華の目から大粒の涙が零れる。
93 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月28日(金)00時01分04秒

「…ごめん」
「…ううん、いいの。私が悪いんだから…」
「違う!梨華は悪くないよ!」

梨華をそっと抱き寄せると、少しづつ力を加えていく。
大事なものを壊さないように、やさしく。でも、確かに。

94 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月28日(金)00時01分43秒

「…真希ちゃん、いい匂いする…」
「梨華もだよ…」

梨華はだいぶ落ち着いたのか、笑顔を見せてくれた。
私も、笑顔で応えた。

「…あれ?これ…」

95 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月28日(金)00時02分13秒

私が見つけたのは、あのレモン。
今ではもう、完璧に腐ってしまっている。

「…ずっと…持ってたの?」
「真希ちゃんが…はじめてくれた物だもん…」

私たちは暫く見つめあった。
そして、どちらともなく、口づけをした。

96 名前:13、永遠の隙間 投稿日:2001年12月28日(金)00時03分12秒

「ねぇ、真希ちゃん…?」
「何?」
「私のこと…真希ちゃんで一杯にして…全部…忘れさせて…?」
「…わかった」

隙間を、埋めていくように…全てを、満たすように…

いつかの熱が消え去った毛布の中で、私と梨華は身体を重ねた。
ベットの軋む音と、梨華の甘い声と、熱い吐息が、私の世界を支配していった。
97 名前:作者 投稿日:2001年12月28日(金)00時09分09秒
「13、永遠の隙間」更新です。
>81 名無し読者さん
 レス、ありがとうございます。えらいことです…ホントスイマセン…

あと、3回で終了予定です。 最後まで、よろしくお願いします。
98 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月28日(金)08時22分08秒
暗くて救いのない感じだけど萌えますね
もちろんラストまで見届けますよ
99 名前:とみこ 投稿日:2001年12月28日(金)16時32分17秒
あら・・・よしこがぁ・・・

なんかRPGみたいでいいっすね。
100 名前:14、涙と身体 投稿日:2001年12月29日(土)00時30分10秒

何度身体を重ねても、言葉を交わしても、心を重ね合わせることは出来なかった。

隙間は…何をもってしても埋めることなど出来はしないのだろう。

誰の声でも、誰の優しさでも…誰の愛でも。

それでも、私たちは何度も身体を重ねた。

101 名前:14、涙と身体 投稿日:2001年12月29日(土)00時30分49秒

全てが終わったあと、梨華は泣き出した。
それは恍惚だとか、充足だとかそういう類のものではないように思えた。

何を想って泣くの?何を忘れる涙なの?
私には、知る術はないけれど…

「どうしたの?」

優しく髪を撫でながら尋ねる。

102 名前:14、涙と身体 投稿日:2001年12月29日(土)00時31分37秒


「もっと…早く真希ちゃん達に逢いたかったよぉ…」
「え…?」
「私が…汚れちゃう前に…逢いたかったよぉ…」


103 名前:14、涙と身体 投稿日:2001年12月29日(土)00時32分12秒

そういえば、私がさっき言った言葉。
『お前なんか、あの女のところに返せばよかったんだ』
どうして、この言葉に梨華は反応したのだろう。
記憶は、失ったはずなのに。

104 名前:14、涙と身体 投稿日:2001年12月29日(土)00時32分44秒

「記憶…戻ったの…?」

その問いかけに、梨華は首を小さく横に振る。

「本当は…なくしてなんかなかったの…」

突然の告白に驚愕する私をよそに、梨華は続けた。

105 名前:14、涙と身体 投稿日:2001年12月29日(土)00時33分32秒

「全部覚えてる…。このレモンを貰いに行った時のことも…真希ちゃんに助けられたことも…」
「…どうして?」

どうして、そんなことを?

「わかんない…。でも…真希ちゃんの前では…綺麗なままでいたかったの…」

106 名前:14、涙と身体 投稿日:2001年12月29日(土)00時34分14秒

私は腕の中の梨華を、より一層強く抱きしめていた。
せめて、梨華だけは守ってみせる。そう、強く心に刻んでいた。

それなのに…

「…真希ちゃん…お願い…してもいい…?」
「何…?」
「私を…殺して…」

梨華は、私にそう囁いた。

107 名前:作者 投稿日:2001年12月29日(土)00時38分34秒
「14、涙と身体」更新です。
>98 名無し読者さん
 こんなのですが…萌えますか?ありがとうございます!
>99 とみこさん
 RPGみたいですか…?よくわかんないですけど、RPGは好きなんで嬉しいです!

 
108 名前:15、望みの彼方 投稿日:2001年12月29日(土)11時52分54秒

「え?」
「今なら…笑顔で…死ねるから…」

確かにこの先、何が起きるかわからない。
私がずっと、梨華と一緒にいれる保障はどこにもない。
守り続ける事が出来るとも、思えない。

109 名前:15、望みの彼方 投稿日:2001年12月29日(土)11時53分29秒

…でも。だからって。

「私…ずるいよね…?…酷いこと…頼んでるよね…?…でも…お願い…」

頭が、真っ白になっていく。
うっすらとした霧のようなものが、梨華の言葉を包んでいく。

「…うん」

110 名前:15、望みの彼方 投稿日:2001年12月29日(土)11時54分07秒

どうして、私は了解してしまったんだろう?
正確な判断力がない。理性も働かない。
…いや、そんなものとっくに失っていたのかもしれない。

ただ…梨華の願いを叶えてやりたかった。


111 名前:15、望みの彼方 投稿日:2001年12月29日(土)11時54分45秒


銃を梨華のこめかみに当てる。
出来るだけ綺麗に、苦しまないようにと考えたが、私にはそこ以外に考えられなかった。

「じゃあ…いくよ」
「…うん」

112 名前:15、望みの彼方 投稿日:2001年12月29日(土)11時55分20秒

今、銃を撃てば、梨華は死ぬ。
でも、そうしたら、梨華の一生に幸福というものは残るのだろうか?

涙が溢れてきて、私の視界を奪っていく。

引き金を引こうとするけど…引けない。引けないよぉ…

113 名前:15、望みの彼方 投稿日:2001年12月29日(土)11時55分58秒

「…泣かないで…私は…幸せだったよ…真希ちゃんや…ひとみちゃんに逢えて…」

まるで私の心を読んだかのような言葉と共に、微笑む梨華。

迷いは、今は忘れよう。

114 名前:15、望みの彼方 投稿日:2001年12月29日(土)11時56分29秒




優しい微笑みのまま、永遠に、私の中で、生き続けてね…。

私は微笑んで、引き金を引く指に力を込めた。



115 名前:作者 投稿日:2001年12月29日(土)11時58分26秒
「15、望みの彼方」更新です。

次の更新でラストです。よろしくお願いします!
116 名前:16、孤高の反逆者 投稿日:2001年12月29日(土)23時52分51秒

目の前が霞んでいる。
何も考えられないけど、頭はひどく澄んでいる。

もう、ひとみも、梨華も、いない…
私が縋るものは…大事なものは…もう…

117 名前:16、孤高の反逆者 投稿日:2001年12月29日(土)23時54分56秒

私はよろよろと家を出ると、天に見上げる。

天国は…あるんだろうか…?皆は…そこにいるんだろうか…?

分かるわけもない。
ただ、零れ落ちる涙は、間違い無く、皆を想って、やがて、空へと向かう。

118 名前:16、孤高の反逆者 投稿日:2001年12月29日(土)23時55分27秒

重力という縛めに逆らい、私は、銃を天へと向ける。

…もし…運命が…本当にあって…それを決めるのが…神だというなら…

私から、皆を奪ったのが、神と呼ばれるものならば。

…くらいやがれ、この野郎!

119 名前:16、孤高の反逆者 投稿日:2001年12月29日(土)23時56分02秒






パンッ! パンッ! パンッ! …… カチッ カチッ




120 名前:16、孤高の反逆者 投稿日:2001年12月29日(土)23時56分38秒

…一発でも、届いただろうか?
そんなこと、どうでもいい。これで、気付いただろう。

私という、ちっぽけで、非力な存在に。
小さな牙を向ける存在に。

121 名前:16、孤高の反逆者 投稿日:2001年12月29日(土)23時57分10秒


…お父さん、お母さん、ユウキ…
…まだ…笑いかけて…くれるかなぁ…
…ひとみぃ…梨華ぁ…
…あっちに…行ったら…会えるのかなぁ…会いたいなぁ…

でも…私は行けそうにないや。ごめんね…


122 名前:16、孤高の反逆者 投稿日:2001年12月29日(土)23時57分45秒

銃声の反響の中に確かに聞こえる、忍び寄る足音。
私は、銃に弾を込めながら振り返る。

…さぁ、アンタは誰?カラスか?神か?それとも、悪魔か?
誰だろうと構わない。私は逃げも隠れもしない。

123 名前:16、孤高の反逆者 投稿日:2001年12月29日(土)23時58分17秒




さぁ、来い。
私は、あらがい続けてやる。


124 名前:Trash&Lemon 投稿日:2001年12月29日(土)23時59分15秒


    〜END〜
125 名前:作者 投稿日:2001年12月30日(日)00時03分20秒
「16、孤高の反逆者」更新です。

そして「Trash&Lemon」終了です。

一週間程度の短い間でしたが、レスを下さった皆様、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
最後に、なんでも結構ですんで、感想等頂けると嬉しいです。
本当にありがとうございました。
126 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月30日(日)11時55分20秒
毎回、楽しみにして読んでました。
辛い終焉だったけど、最後に希望(のようなもの)を感じました。
とても面白かったです。お疲れ様でした。
127 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月30日(日)21時49分31秒
おもしろかった。
もっと作者さんの作品を読みたくなった。
おつかれさまでした。
128 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月30日(日)23時27分07秒
同じくおもしろかったです。
表現の仕方がうまくてその場面が浮かんできました。
後藤は親しい人に死なれてすごく傷ついて、でもある意味それをばねにして
生きていける強さがあるんだろうな、なんて思ったり。
お疲れ様でした。
129 名前:作者 投稿日:2002年01月01日(火)19時51分41秒
皆さん、ありがとうございます!

>126 名無し読者さん
 最後結構悩んだんですが、そう感じていただけたなら幸いです!
>127 名無し読者さん
 前森板で「story in grapevine」て言う短編集を書いてましたんで、お暇な時にでも読んで頂けたら光栄です!
>128 名無し読者さん
 表現とかはあんまり自信無かったんで、そう言ってもらえると嬉しいです!
 次のは未定ですが、またいつか書くと思うんで、その時はヨロシクです!

 新年、明けました。新しい年が、皆様にとって素晴らしいものでありますように!
 本当にありがとうございました!
130 名前:作者 投稿日:2002年01月25日(金)20時03分55秒
短編集用に書いた物なんですが、色々と思うところがありまして、こちらにあげさせてもらいます。
131 名前:綺麗な湖 投稿日:2002年01月25日(金)20時04分43秒
どこまでも逃げようと思った。何にも無い道を、ただひたすら、追ってくるものに捕まらないために。振り返っても、誰もいない。けれど、私は追われているのだ。
恐らく、私を追ってきているものは、自分の行為への後ろめたさ。私にほんの僅かだけ残った良心が生み出した、後悔やら懺悔やらと呼ばれるものだろう。そんなもの、幻想でしかないのに、私はそれがとても怖い。だから、私はがむしゃらに走った。
132 名前:綺麗な湖 投稿日:2002年01月25日(金)20時05分47秒
手の中には、さっき奪ったパンとタバコ。タバコは計算外の収穫だった。
後ろめたさは全て心の底の決して陽に当たらない場所に押し込んだ。いつからだったろう、こんな事が出来るようになったのは。遥か昔の事に思える。
梨華ちゃんの下へ帰らなければならない。早く、このパンを食べさせてやりたい。そう思いながら、私は歩き続けていた。
133 名前:綺麗な湖 投稿日:2002年01月25日(金)20時06分26秒



「ねぇ、この辺に綺麗な湖は無い?」

いきなり、そう尋ねられた。年は、私と同じぐらいだろう。古びたジャケットを着て、ギターケースを担いでいる。見た目は正に若者といった風だが、その表情や瞳は、何故か疲れきった老人を連想させた。
湖は無い事は無い。そこもかつては綺麗な湖だった。けれど、今ではとてもではないがそうは呼べない。湖面には藻やら人の髪の毛やらが漂い、湖のほとりは水死体で埋め尽くされている。
134 名前:綺麗な湖 投稿日:2002年01月25日(金)20時06分59秒
おそらく、彼女もまたその湖底に沈む人々と目的は同じであろう。まだ年端もいかぬ少女が、こんな疲れた目をして、その命を投げ出す事を思う。なんて、悲しい事だろう。けれど、私の心は既に麻痺してしまっていて、何の感傷も沸いてはこない。それこそ嘆くべきなのだろう。
一体、何が悪いのか。私にはわからないし、この少女もまた知りはしないだろう。ある日、突然辺りが焼け野原と化した。ただそれだけである。理由も、原因さえわからず、私たちにはそれを受け入れる以外に術は無かった。受け入れることの出来ない者達は死ぬだけだった。
135 名前:綺麗な湖 投稿日:2002年01月25日(金)20時07分33秒
私は少女に湖への道を教えてやった。少女は軽く頭を下げて去っていこうとしたが、私は無意識の内に少女を呼び止めていた。

「…何?」

別に理由があるわけではない。ただ、無意識だったのだ。バツが悪くなった私は、

「一本どう?」

と、ポケットからさっきのタバコを取り出して少女に勧めた。

「いらないよ…。私には、口が無いから」

136 名前:綺麗な湖 投稿日:2002年01月25日(金)20時08分15秒

口が無い。その言葉を私は理解できなかった。目の前の少女には確かに口はある。私となんら変わらぬ口が。怪訝そうな顔をしているであろう私を覗き込んで、少女は微かに、本当に微かに笑うと、言葉
を続けた。

「口は何の為にあると思う?…愛を語る為だよ。愛する人に、愛してるって言う為だよ。…私は、愛する人を失ったから。だから…私には、口は無いんだよ」
「…よくわかんないね」
「わかんないほうがいいんだよ…。そっちの方が、幸せだよ…。ねぇ…、名前は?」
「私?…ひとみ」
「そう。ありがとうね、ひとみ」

そう言うと、小さく手を振って少女は湖へと歩いていった。私はそれをただぼんやりと眺めていた。

137 名前:綺麗な湖 投稿日:2002年01月25日(金)20時08分47秒



再び歩き出したころには、もう日も暮れていた。空に、数え切れないほどの星が瞬いている。

『口が無い』

少女の言葉がずっと頭の中で何度も繰り返すようだった。少女の名前を聞いていない事を思い出したが、聞いたところでどうでも良かった。次第に、漠然とではあるが私は少女の本意を理解し始めている気がしていたが、その思考は全て食欲によって流されてしまった。
138 名前:綺麗な湖 投稿日:2002年01月25日(金)20時09分25秒
パンに食らい付く。胃が狂ったように暴れまわる。何日ぶりかの食料を少したりとも無駄にしまいと、必要以上に胃液を分散させる。
胸焼けしそうな感覚を覚えながらも、私はパンをひとかけら残した。これだけは、食べるわけにはいかない。そう言い聞かせて、湧きあがってくる欲望を押さえつけながら、梨華ちゃんの下へ急いだ。


139 名前:綺麗な湖 投稿日:2002年01月25日(金)20時09分59秒


梨華ちゃんは、今日も横たわったままだった。もうずっと前から、起き上がるところを見ていない。私は梨華ちゃんの枕下に座ると、先ほど残したパンを彼女の口に含ませ、水を流し込んだ。梨華ちゃんは、飲み込んではくれない。唇の端から、水とふやけたパンが流れ出していく。
私はそっと梨華ちゃんの頭を撫でた。梨華ちゃんはすっかりやせ細り、かつての面影はほとんど無い。

「梨華ちゃん…愛してるよ…」

そう呟いた時、私は少女の言葉を思い出した。
140 名前:綺麗な湖 投稿日:2002年01月25日(金)20時10分50秒
少女は自分には口が無いといった。ならば、私にも口は無いのだろう。別れさえ、告げられないのだから。
私はタバコを口に咥えると、残り僅かの蝋燭で火を点けた。深く肺の中に吸い込むと、空へと向かって煙を吐き出した。星が綺麗だった。





     〜END〜
141 名前:作者 投稿日:2002年01月25日(金)20時12分04秒
短編なんで短いですが、これで終了です。
何か感想等いただけたら幸いです。
142 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月25日(金)21時42分39秒
何だか悲愴で胸に来ますな・・

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