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sonatine
- 1 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)00時42分56秒
- sonatine(改訂)
- 2 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)00時46分06秒
- 「亜弥ちゃんはいいなあと思う人とかいるの?」
その声の方を見ると伏目がちの愛がいた。急に田舎くさくなった気がする。
ちょうど初めて会った頃のような。こんなにダサかったかな。亜弥は苦笑した。
「ウチは嫌いにならないでね」
「あはは」亜弥は笑って愛の頬をつねった。「どうしたの愛ちゃん」
- 3 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)00時47分34秒
- 帰りのバスは乗客が少なかった。
最後の客が降りて、残りは亜弥一人。
ルームミラー越しの運転手をふと見ると、目が合ってしまい、つい亜弥は視線
をそらした。外は対向車のライトが冬の雨に濡れて、無数に光っていた。
もう一度ミラーを見ると、運転手は彼の後ろの席を指で示している。
「こっちの方が暖かいんじゃないかな?」
どうやら自分に言っているらしいが、無視して再び窓の外を見た。
しばらく外を眺めていたが、ぶるっと寒気がきて、亜弥は立ち上がって最前席
へと移動した。乱暴に座った亜弥に、彼は前を見たまま「いつも遅いね」と言っ
た。
「塾か何か?」
「仕事ですけど」
そう言うと、フロントガラスに拍子抜けした顔が映る。
- 4 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)00時48分19秒
- 「ほう、いまどき感心だね」
亜弥はMDのイヤホンをつけた。再生すると轟音が耳をつんざき、慌ててボリュ
ームを下げた。
へとへとだった。もうすぐ胃に穴が開くと思う。しかし病院は拒否したい。
声の出がおかしい。失敗、叱咤、罵倒。頭を抱えたくなる。
今は早く帰って眠りたかった。
ミラーを見ると、運転手は口をぱくぱくさせてまだ何か言っていたが、
亜弥にはこれ以上話す気力はなく、MDのボリュームを少し上げて目を閉じた。
確かに運転席の後ろは暖かい。
- 5 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)00時49分19秒
- 停留所に到着したバスのドアが開くと、昨日の顔がいた。微笑む運転手に定
期券を見せて亜弥は運転席の後ろに陣取る。そして素早くイヤホンをつけた。
依然として胃の痛みはとれなくて、カバンから胃薬を取り出したものの、飲み
物がない事に気付く。亜弥は苛立たしげに薬のふたを閉めてカバンの中に放り込
んだ。ミラー越しに運転手を見ると、まだ微笑んでいる。妙にしゃくに触る。
「なんですか?」
「ここのシワはゆるめたほうがいい」
運転手は眉間に指を当てて、そう言った。
亜弥も眉間に手を当てる。いつからシワがよっていたのだろう。なるべく顔に
は出したくないのに。自分の気持ちを他人になど悟られてたまるか。
「今日も仕事かい」ハンドルを切りながら言う。
- 6 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)00時49分57秒
- 「はい」
「大変そうだね」
「そうでもないです」
「しかし辛そうだ」
やっぱり悟られていた。亜弥は身を乗り出す。
「なんの仕事かわかってるんですか?」ああ、この口調。最悪。
「う〜んそれはわからないけど、その年で仕事なんて昔は当たり前だったしね。珍
しいことじゃないよ」
ため息をつく。今夜はこっちが拍子抜け。亜弥は椅子に深くもたれた。
- 7 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)00時51分30秒
- 亜弥はバスを追いかけた。しくじった。10秒遅かった。いつもはもっと遅れて
くるのに! 走りながら思ったとき、バスは止まった。
昇降口を上りながら、笑顔を見る。運転席の後ろに座り、胃をさすった。
「これから渋滞らしいんだけど、ちょっと早かったかな」運転手は言う。
胃がしくしく痛み出し、胃薬を取り出そうとした時、運転手の手がのびてき
た。手のひらの上に120円が乗っていた。
「そこで買ってくるといい」
今日は飲み物を持ってきていたのだが。
「今ちょうど渋滞だし」
亜弥はペットボトルをカバンに引っ込めて、それを受け取った。バスから降り
て、来た道を少し戻り、自動販売機に硬貨を入れる。その際、ふと思いとどまっ
て、亜弥は財布から120円を出した。そして急いでもう一本(これはなんだ?栄養
剤か?)買った。バスに向かって走り出すと、渋滞が解消し始めていて焦った
が、バスは扉を開けて待っていてくれた。
- 8 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)16時26分18秒
- 後部席にてMDを聞きながら運転手と話をしている男をなんとなく眺めていた。
運転手と同じくらいのその中年は、運転席に上半身を突っ込んだかたちで、何や
ら話し掛けている。男の声はしだいに大きくなっていき、明らかに運転手をのの
しるような言葉まで聞こえた。乗客達は時折そちらを見つつも、知らぬふりを決
め込んでいる。
亜弥は立ち上がって、そろそろと前の方の席に移動した。
- 9 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)16時27分30秒
- 「おまえさえ辞めちまえば会社は安泰なんだよ。年寄りは縁側で茶でもすすって
ればいいだろう」
そんな言葉が聞こえる。
ミラー越しに運転手を見ると、男が邪魔になっててよく見えなかったが、気に
せず運転に集中しているようだった。
「聞こえてるか? 目もそろそろ見えないだろう。おまえの運転に付き合うのは
皆迷惑なんだよ」
文句の理由など知らないが、亜弥の目にはただの嫌な人間にしか映らなかっ
た。ひどい人だと思った。
「いいからはやいとこくたばっちまえよ」
亜弥は男を睨みつけた。男がその視線に気付き、亜弥の方を振り向く。寒気が
した。
- 10 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)16時30分18秒
- バスが止まり、ドアがガタンと開く。男は運転手を睨んだ。
「なんのつもりだよ」
無反応。
今にも暴れだしそうな男は亜弥を一度睨み、運転手に唾を吐いて出ていった。
ドアが閉まり、発車するするバス。亜弥がミラーを見ると、運転手は何事もな
かったようにハンドルを握っていた。
- 11 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)16時31分11秒
- 「定年なの?」
亜弥の問いに運転手は笑った。
「まだそんな年じゃないよ。ただいろいろあってね、新旧交代というところか
な」
その横顔は笑ってはいるけれど。
「ところで、いつも何聴いてるの」
亜弥の首からさがったイヤホンを指して言う。
「聴きますか?」
亜弥はイヤホンを彼の耳につけてやった。
「これは? 今どきの歌謡曲というやつかな?」
「どうですか」
「カラオケにしちゃ上手いじゃないか」
納得してうなずく彼を見て、亜弥は苦笑した。
- 12 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)18時49分59秒
- ベッドに入る前に亜弥は胃薬のふたを開けた。どこからか、人の怒鳴る声が聞
こえる。
内面を隠して気丈に振る舞う社会での常識。自分はいつからそれを覚えたのだ
ろう。
彼も同じだった。思いきり人の前で吐き出してしまえば、相手は対処の仕方も
わかるし、自分も少しは楽になるというのに。思わず手のひらで顔を覆った。
ふと思い出す。
「胃は足の裏」
運転手が胃をさする亜弥に教えてくれたのだった。
亜弥は胃薬のふたを閉めて、ベッドに座ってひたすら足の裏を押したり揉んだ
りしてみたが、いい加減やりすぎで痛くなり、ベッドに入って電気を消した。
- 13 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)18時50分42秒
- バスは、光の中をかき分けて進んだ。見回すとバスの中には亜弥の他に乗客は
いない。
「なにこれ」
前の運転席を覗き込んだが、運転手の姿すら見えなかった。
「やだ!」
叫んでも声はかすれていた。これじゃあ歌なんて無理か。
光はバスの中まで入ってきて、亜弥を包み込んだ。
そこで目がさめた。辺りを見回すとバスの中だった。
夢と同じ席。
いつから眠っていたのだろう。
後ろを見ると乗客は子連れの中年女性と、会社帰りの男。疲労困憊の様子。運
転席を覗き込むと、彼はいつものようにハンドルを動かしていた。
「大丈夫かい?」
いつまでも覗き込んでいると、運転手はおかしそうに笑った。
- 14 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)18時51分59秒
- 今日のバスは少し遅れて来た。
運転席の後ろには先客がいたので、亜弥は昇降口前の席に座った。
先客の三十代くらいの女性は、苛立った口調でひとり喋っている。
「母さんは別れるなら早い方がいいって言ってる。それは父さん何度も聞いたは
ずよね」
「今ここで話す事じゃない」
運転手は背後の女性に答えた。その言葉にかぶせて女性は続ける。
「あたしは、父さんが出ていくべきだと思う。悪いのは父さんだから」
亜弥は女性を見つめた。
他の乗客にはお構い無しに女性の口撃は延々と続いた。
- 15 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)18時52分37秒
- 「追い出されるの?」女性が降りた後、亜弥は昇降口前から聞いた。
「まだ居たのかい?」
驚いて振り向く運転手。
「おいおい、もう終点なのに。君の家過ぎちゃったじゃないか」
「いいです。終点で降りるから」
呟く亜弥を見て、運転手は呆れた顔を見せた。
- 16 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)18時53分07秒
- バスは終点を越えて営業所まで来た。倉庫のバスの中で待つ亜弥に運転手は
コーヒーを持ってきてくれた。それを受け取りながら、聞いてみる。
「家に帰るの?」
「今夜は営業所にいるよ」
「いつもは?」
「ホテルかな」笑ってコーヒーを飲む。「君はいくつ」
「15」
「きっと幸せになれるよ」
亜弥は眉をひそめた。
「どうしてわかるんですか?」
「優しい子は幸せになる」
亜弥の頭上にクエスチョンが並んだ。
優しい? どこが。人間の二面性を知ってる?
思わず口をついて出そうになる。
「そうそう、このバスは最後にはどこに行くと思う?」
- 17 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)18時55分21秒
- 「どこって、ここじゃないですか」
「実はもっと違う世界に行く事になってる。そこはね、私が運転しないと行けな
い」
「今からそこへ行くの?」
亜弥はそう言って吹き出した。「違う世界って?」
「なんと言ったらいいのかな。いい子が行けるところだよ」
「おじさんもいい子なの?」
「おじさんは行けないな。おじさんはバスで送迎するだけ。君みたいな子が行
くところだよ。恐い世界じゃない。光に溢れた世界だよ」
正直よくわからなくなって、また眉をひそめた。
「そう言う話はもうちょっと下の子にするべきです」
熱いコーヒーを冷ます亜弥に運転手はいつもの笑顔を投げかけてくれた。
亜弥にはその暖かさが快感だった。
- 18 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)18時56分42秒
- 次の日は後部に座ったが、昨夜の女が乗車してくるのをみつけると、亜弥はあ
わてて前に移動した。が、ひと足遅く、女に席を奪われてしまった。亜弥が昇降
口席に座ると、前回と同じ女の話が始まる。
離婚、調停、慰謝料。
運転手は依然として前を見ながら口を閉ざしていた。
10分くらい聞いたところで、亜弥には耐えられくなり、ブザーを押した。その
まま席を立ち、昇降口を降りようとしたが、ドアが開いていなかった。
しばらく立って、開くのを待ったが、ドアは一向に開かない。亜弥はドアを無
言で叩いた。
それでも開かなかった。
振り返ると運転手は亜弥を見つめていた。救いを求める目のように思えたが、
亜弥はかまわず女にも一瞥をくれてやった。運転手がドアを開け、亜弥は飛び出
すようにしてバスを降りた。
- 19 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)18時59分04秒
- 亜弥は帰ってからやみくもに自分の曲をMDにダビングした。それもそのうち嫌
気がさしてきて、ベッドに寝転がった。
違う世界。光の世界。呟いてみる。
胃をさすったが、痛みは不思議となかった。そしていつのまにか眠りに落ちて
いった。
- 20 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)19時00分10秒
- 今夜はいつもの席に座れた。
「胃はどうだい」
いつもの状況。安心して亜弥は頭を壁にもたれた。
「だいぶいいですよ」さすっているところをミラー越しに見せる。そして微笑み
返す。いつまでもこんな日常が続けばいい。そう思った。
「君はきれいだ」
驚いた。一瞬耳を疑って、もたれていた頭を上げた。
正直そんな言葉は聞き慣れていた。けど。
亜弥は、携帯MDをポケットから取り出した。こっそり録音していたのを再生す
る。「君はきれいだ」
もう一度聞く。
「君はきれいだ」
キミハキレイダ
キミハキレイダ
キミハキレイダ
亜弥は目を閉じて、バスの揺れに身を任せた。
- 21 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)19時01分04秒
- いつものように停留所でバスを待ってる間、亜弥はカバンの中から紙袋を取り
出した。曲を入れたMD、MD機、今朝作ったサンドイッチ、コーヒー。
バスが見えて、紙袋を握りしめる。到着したバスのドアが開き、急いで昇降口
を上ったが、足を止めた。そこにはいつもと違う顔があった。
亜弥は笑みを止める。
「どうぞ」
30代程の運転手は言う。
亜弥は昇降口を降りた。紙袋をさらに握りしめる亜弥の前を、バスは発進して
いった。
- 22 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)21時29分24秒
- ──
- 23 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)21時29分56秒
- とりあえず逃げたかった。
愛はリュック(しかも仕事用の)ひとつで家を出た。明確な目的地などなかっ
たが、ふらふらと交通手段を探してるうちに行き着いたのが港だった。船に乗れ
ば一気に遠くに行く事ができる。単純な考えだと思ったが、あちこち乗り継いで
行く精神的余裕は無かった。
この船はどこに行くのだろう。目の前の巨大な客船を見上げる。
ターミナルに行き、乗船の料金表を眺めた。そして目を丸くした。
足りない──。
一番安い料金でも金が足りない。値切るのにも程遠いし、そんな勇気は持ち合
わせていない。
もうとっくに日は暮れていた。ここまで歩いてきて引き返すという事は、深夜
の湾岸道路を長く歩く事になる。といってターミナルでひとりすごすのも気がひ
けた。明日になったところで船に乗れるわけじゃない。
愛はターミナルのベンチに腰を降ろした。急に睡魔が襲う。乗船の列で旅行へ
行くらしい家族連れの声が、なんとか睡魔を払ってくれる。
- 24 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)21時30分29秒
- 愛はライトの当たる場所を避けて港を走り、船に近付いた。都合のいい事に船
の周りには人影が見当たらなかった。船にかかった階段をかけ上る。船と言って
も客船ではなく、何かの運搬船のようだった。かなり大きなこの船は、荷物やコ
ンテナが多く積まれていて、なぜか乗員も見当たらない。
乗船成功。絶好の隠れ場所。
この際、行くところなんてどうだって良かった。待っていればいつか出航して
くれるだろう。あまりにも場当たり的なプランに思わず笑ってしまう。
愛は、コンテナの間に身をひそめた。腰を降ろすと足に体が重くのしかかる。
- 25 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)21時31分07秒
- (向いてないよ)
その言葉がいつまでも頭から離れず、いろんな人の言葉と一緒にぐるぐる飛び
交う。寒くてひざを抱える腕に力を込めた。諦めるつもりはなかったけど、今こ
こにいるのだって、ちょっとした休暇のつもりだったんだけど。
──もう遅いよね。数日騒いであとは忘れてくれれば、ええ方かな。
帰ったところで、謝る気なんて全然なかった。
──逃げたでも、弱かったでもなんとでも言って下さい。
やがて睡魔が襲ってきた。
- 26 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)21時31分47秒
- ガチガチという音に目がさめる。すぐに自分の歯が激しく震えているとわかっ
た。コンテナのすきま風にさらされて髪がなびいている。
すきまから這い出てデッキに出てみた。強風に髪が逆立つ。
寒い。身を縮めて周りを眺め、愛は気がついた。波の音と真っ黒な周辺。
港を出たんだ。念願かなったり。
なのにちっとも笑えなかった。思わず陸を港を振り返ってしまったが、とっく
に見えなくなっていた。ただ今はそれどころじゃなかった。
凍え死ぬ!
愛は急いで、コンテナの間に戻ったが、一度潮風にさらされたおかげで、すっ
かり体温が下がってしまった。震えは止まらない。とにかく体を丸めて夜が明け
るのを待つだけだった。
- 27 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)21時32分19秒
- 船が出てどれくらい経っただろうか。愛は気を失いかけていた。歯の音はひど
くなる一方だった。
もし死んだらどこへ行くのやろ。天国。地獄…。
そんなものは存在しなくて、たぶん、自分の思い通りの世界に行くのだと、小
さい時から思っていた。夢の世界が広がる。花畑。パレードが続く。ただいくら
楽しくてもひとりは避けたいかな。誰かと一緒がいい。寂しいのはやだ。とりあ
えずもういっぺん眠っておこうと思った。
おやすみなさい。
- 28 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)21時33分38秒
- 目の前が急に明るくなった。ひどく眩しい。そしてなにやらわけのわけらない
言葉が聞こえる。
なんやろ。怒ってる?
光が眩しくて見にくかったが、目をこらすとどうやら乗員が懐中電灯を自分の
顔に当てているのだとわかった。
とうとう見つかってしまった。
腕をつかまれた愛は抵抗もせず、というかその力もなく、すきまから引きずり
出された。コンテナの外はまだ夜だった。相変わらず強風が吹いていて、さっき
と何も変わっていないのがわかる。
海に放り出されるのかもしれない。
「フーアーユー」
誰だおまえは。それくらいはわかったが、目の前の巨体の白人に対して愛は言
葉も出なかった。歯はまだ音をたて続けていた。
- 29 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)21時34分10秒
- 「ホワイゼアチャイルドヒア」
こんな子供にまさか手は出さないだろう。そう思って、赤ら顔の白人に必死に
懇願の顔を作ってみたものの、寒さで凍りついた顔では到底無理で、しかも彼の
腕をつかむ力は恐怖と不信感を倍増させて、愛は思わず手を振払って逃げた。
が、すぐに捕まった。
「ヤダアァ!」
あわてた白人に口を押さえられ、当然拒絶できるはずもない力で、愛は引きず
られていった。
- 30 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)23時49分28秒
- 物置き部屋の荷物の上に乱暴に座らされて、愛は自分の腕を握っている固い手
を払った。
「オウ」と言って白人はドアの外を見回す。そしてがんとドアを閉めて振り向い
た。愛はとっさに後ろに引いたが、壁に背中を打ちつけてしまった。
「アーユーオーライ?」
恐る恐る愛はうなずいた。
震える愛の鼻先に大きな手が差し出されて、また引いてしまう。手にはカイロ
が乗っていた。
愛はそれを受け取り、胸に押し付けた。暖かった。それは氷のように冷えた手
にはむしろやけどしそうな熱さだった。
それから巨人はマフラー、防寒服、毛布を何重にも巻いてくれた。
団子のぬいぐるみと化した愛を前に、巨人は立ったり座ったりと落ち着かな
かった。愛はそれを目で追った。
寒さと恐怖で固まった筋肉が和らいでいくのがわかった。
- 31 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)23時50分08秒
- 巨人の持ってきてくれた食べ物。パンや食べた事のない缶詰め等、それでも愛
は構わずに食べた。コーヒーはひどく苦かった。
その後は当然、質問の連続。しかし彼が何を言ってるのか、愛には半分もわか
らず、巨人の身ぶり手ぶりを交えた質問に、愛は首を振るかうなずく事しか出来
かった。それでも彼の必死な様子が伝わってきて、それがちょっと可笑しかっ
たが、なんとか聞き取ろうと耳を傾けた。
- 32 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)23時50分46秒
- 彼がわかるような日本語を選んで話す。
フェリーに乗れなかった事。
ひとりである事。
家を出た事。これには彼も「ノー」と首を振った。
そして彼から聞いたのは、この船はアメリカに向かっている事。
「アメリカ?」
このときの愛の驚きは充分伝わったらしく、巨人も目を大きく見開く。いくら
遠くと言っても、そこまでは考えてもいなかった。みるみる青ざめていく自分の
顔を、彼は大きな目で凝視していた。
- 33 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)23時51分17秒
- 指を立てて「10と……5」と年齢を教える愛に対して彼は「マイ娘も、フィフ
ティン」と言って微笑んだ。愛もようやく緊張の解けた顔で笑い返す事が出来た。
そのときドアがノックされて、巨人は飛び上がった。なにやら呼びかける英語
が聞こえ、ドアが開けられる。愛は巨人にひょいとかつがれて、開いたドアの後
ろに隠された。
ダミ声の乗員は巨人を怒鳴りつけ、対する彼はひたすら謝っているのがわか
る。乗員は部屋に入ってきて、食べ物や毛布を見つけると、さらに激しく声を上
げる。その際も彼は、何か必死でごまかしてる様子で、巨体で愛をかくまい続け
てくれた。
- 34 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)23時52分28秒
- 急に気持ち悪くなって口を押さえた。再びかつがれて、デッキに連れ出され、
背中をさすってもらった。ぜいぜいと上下する背中をなおもさすりながら、巨人
は言う。たどたどしい日本語で、教えてくれた事は、この船は直接アメリカに行
くわけではなく、仙台に一度立ち寄るから君はそこで降りるといい、という事
だった。
「所詮ムリな話です」
首を降る巨人を愛は彼を睨みつけた。
「降りないですよ」
「ホワット?」
「降ろさないで」
「ムリ」
「なんでもするから」
たぐりよせた細い糸がぷっつり切られるような気がした。
愛の訴えを聞く彼の顔はいたって真面目ではあったけれど。
「ムスメ家出たら、親チョーさみしい。だまって出たならナオサラのコト。私な
らソウ」
そう言われて言葉が何も出なくなった。ただ、うつむくだけだった。口の中が
気持ち悪い。
愛は震える足で船の揺れに耐え続けた。彼もまた、呆れる事もなくそれに付き
合ってくれた。
- 35 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)23時53分12秒
- 愛は物置き部屋で、巨人が毛布で作ってくれた簡易ベッドに横になった。低い
鉄板の天井を眺めていると、自分が何をしているのか、しだいにそれが恥ずかし
くなってきて、顔が赤くなる。
どう言い訳するかとか、どんな顔で帰ればいいのかとか、考えたくない事が頭
に入ってきて、必死でそれらをかき消す。迷惑な存在の自分がうんざりだった。
巨人は仕事の合間を抜けて来て、毛布をもう一枚持ってきてくれた。それを愛
にかけ、横に座る。そして「ソレは?」と愛の耳のイヤホンを示した。愛がはず
してそれを渡すと、彼は再生中のディスコ(チック)サウンドを聞いて、驚いて
いた。
「朝になったら仙台ダヨ。それまで眠るといい」
愛は静かにうなずいた。毛布に置かれた手の重みになぜか目頭が熱くなった。
「大丈夫。帰ったらきっとイイ事待ってるのです。辛くないヨ」
溢れた涙が押さえきれず、愛は毛布に顔を隠した。巨人は震える髪を眠りにつ
くまで撫でてくれた。
- 36 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)23時55分14秒
- 朝まで眠り続けてしまった。物置き部屋には窓がないので、巨人に起こされる
まで愛は夜が明けた事を知らなかった。
乗員達が作業をする中、みつからないよう巨人に誘導されて下船する。その
際、乗員に名前を呼ばれてあわててコンテナのかげに隠れた。
「シンゾウに悪い」
「ごめんなさい」
愛の情けない顔に巨人は「オウノウ」と顔を振ると、ポケットからエアメール
の便せんを取り出した。それを渡されて中を見ると、お札が数枚入っていた。
「しっかり電車乗って家帰るですよ」
愛は便せんを握ったまま、顔を上げられなかった。巨人はまた首を振り「ずっ
とそういう顔しかみれなかったので、シゴク残念」と言って笑った。
「ホラ行くのデスわたし、後ろ向いてるから行っちまうといい」
そう言うと巨人は愛に背を向ける。愛はその背中に思いきりしがみついた。手
が腹まで伸ばせないほど大きかった。言おうと思ってた言葉は最後まで咽から出
ず、やがて愛は走って港をあとにした。
- 37 名前:que 投稿日:2001年12月23日(日)23時55分52秒
- ──
- 38 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月24日(月)06時16分38秒
- こういう文章、好きです。
いいもの見つけた気分です。ありがとう。
- 39 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時02分14秒
- 図書館で、亜弥はパソコンに向かっていた。朝から読みはじめてすでに飽きて
しまった小説は、横に広げたまま置かれている。
一方、お供でついてきた愛は、童話のような本を山積みにして読みあさってい
たが、さすがに飽きたらしく、パソコンを覗き込む。
「なに調べてるの?」
画面にはなにやら難解な文字と片仮名が並んでいる。
ダルメート
ソメリン
ユーロジン
エリミン
バルビタール系
ヴェロナール及びジャール
「なにこれ」
「睡眠薬の種類」
くすくす笑って答える亜弥に、愛は顔をしかめた。
「ほんなん興味あるわけ?」
「少しね」
「やだあ、恐怖だわ」
「ちょっと見てみただけだよ」
ただ、検索欄に入っている文字が「睡眠薬 致死量」なのは、さすがに趣味が
いいとは言えないと愛は思った。
- 40 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時03分11秒
- 愛はレジでパンの乗ったトレイを受け取る際、バラバラと小銭を落としてし
まった。パンを選んでいた亜弥が駆け寄ってくる。
「鈍臭いよ愛ちゃん」
「ごめん」
二人は昼食時の人込みの中、カフェの床に這いつくばった。
- 41 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時04分28秒
- カフェの窓際で昼食をとりながら、愛は図書館から借りてきた雑誌のページを
めくっている。亜弥はぼんやりおもてを眺めていた。
人の行き交う中、浮浪者風の老人が不安定な足つきで行ったり来たりしている
のが見える。弱々しい背中。
「亜弥ちゃん、占い信じる?」
愛の声に振り向く。「占い? 見るけど」
「信じる?」
「う〜ん、信じない事もないけど、愛ちゃんほど過信してないと思う」
「でも亜弥ちゃん、今年ラッキーイヤーだよ。あなたの言動はさらに人を惹き付
けますだって」
「きっとからかってるのよ」
ケタケタ笑う愛。
「愛ちゃんはどうなの」
「ウチは、あんまりよくないな。前半期は体調を崩さないよう、後半期はボンバ
イエ。なんだこれ」
亜弥は雑誌を覗き込もうとして、おもての光景がふと気になった。「あ」
亜弥の声に愛が顔を上げる。
- 42 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時05分15秒
- 浮浪者は通行人の肩にぶつかって倒れたと思うと、そのまま微動だにしなかっ
た。
「あ、死んだ」愛がぽかんと口を開けた。
亜弥が立ち上がると、愛は不安そうな顔を見せる。
「やめなよ」
かまわず亜弥はカフェを出る。愛もしぶしぶ後を追った。
- 43 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時06分03秒
- 人込みの中でうつぶせに寝ている男にそっと近寄って顔をうかがおうとする
と、その頭がキッと振り向き、二人揃ってヒッと後ずさった。よくみると額か
ら血。
「亜弥ちゃん」
愛の制止をきかず、亜弥はハンカチをそっと差し出した。男は少し驚いて、そ
れを受け取ると、何かぶつぶつ呟きながらそれを額に当てた。
立ち去ろうとする二人に男は「ああ」と呼び止めた。
「みてあげる」
二人は顔を見合わせた。
「何をですか?」
「みらい」
また占い?
「いいです」
亜弥は彼の持ってる酒の小瓶をちらりと見て言ったが、そのそっけない言葉
に、愛が不満そうな顔を見せた。
「え〜、見てもらいたいなあ。タダだし! お願いします!」そう言って男の前
に立ちはだかる。男は愛の手の甲に手を置いて納得したようにうなずいた。そし
て期待して待つ愛に対して「あれ、みえない」と目を白くした。亜弥の番になる
と「あれ、ますますみえない」と言った。
それを聞いた愛は頬をふくらまし、あからさまに不機嫌を顔に出す。
「行こう、亜弥ちゃん」
愛に手を引かれながら振り返ると、男はまだ何か言いたげな目でじっとこちら
を見つめていた。
- 44 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時08分53秒
- 夜、自宅で亜弥がよくわからない数式に悩んでいると携帯が鳴った。
画面を見て、亜弥は玄関へ行きドアを開けた。が誰もいなかった。ドアの裏側
をちらと確認すると、目を腫れ上がらせた愛が立っていて、ぎくっとした。
愛は何も言わずに上がって亜弥の部屋に向かう。それはいつもの事であり、静
かに上がり込むところはよくわきまえていた。
愛はそのままベッドに腰を降ろした。
「なんか飲む?」亜弥の言葉に「おかまいなく」という風に愛は首を振る。亜弥
は腫れ上がった目の事には触れない事にした。
- 45 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時10分50秒
- 深夜になって、何度参考書を睨んだところで解けない数式に、亜弥は嫌気がさ
した。布団を敷いて寝ようと思ったが、面倒になって愛の寝ているベッドにもぐ
りこむと、布団に顔を埋めていた愛が顔を出したので、電気を消そうとした手を
止めた。
「起こしちゃった?」
「いや、ごめん。寝るの?」
「明日早いし。いいよ寝てて」
「ごめんね」と言いつつもすぐ笑顔になって、愛は自分の隣をポンポンと叩く。
- 46 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時11分59秒
- ベッドに入って枕元の照明を頼りにスケジュール帳を見てると、愛が横から覗
き込んできて「あ、ここ空いてる」と、何も書かれていない欄を指して言う。
「ねえ、この日付き合って」
「なにかあるの?」
亜弥は手帳を閉じ、愛の指を挟んで言った。
「う〜ん、ひとりじゃやだなあと思って。ええ?」
「だから、どこ行くのよ」
そう聞くと、急に愛の表情が曇る。
「親戚んとこ」
「親戚って、今のところも親戚の家なのに。それとはまた別の?」
「……」
「やっぱり、また出てきちゃったんでしょう」
「……」
「愛ちゃん」
「ちゃうよ、ウチは心入れ替えてなんとかうまくやろうと努力したもん。今回の
家出は、ソウホウゴウイの上よ。だからこれは家出じゃなくって、追放ね」
亜弥は何度か下宿先でのトラブルで愛が悩んでいるのを聞いていたので、特に
驚かなかったし、深く聞こうともしなかった、が。
「ねえ、ええ?」
服をつまんで揺さぶる愛に「いいよ」とうなずく。
「わあい、やったね」
そう言って再び布団にもぐり込む愛を横目に、亜弥は照明を消して深くため息
をついた。
- 47 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時17分07秒
- 地下鉄のホームでそれぞれMDを聞きながら、二人はベンチに座って地下鉄が来
るのを待った。
亜弥は目深にかぶったニット帽の下から、行き交う人達を覗き見ていた。混み
合う時間帯らしく、顔という顔を眺めるのに、亜弥の目は忙しく動く。
携帯をいじる学生。騒ぐカップル。今にもホームから転落しそうな会社員。成
金女。亜弥にはどの人間も視点がさまよっていて、みな自分の事だけを考えてる
ように見えた。それは人の波に埋もれながらも周りは全く見えていないような、
自己中心の顔。
- 48 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時17分50秒
- その横で愛は、自分の編集したMDに飽き飽きしてるところだった。いつも亜弥
のMDの方が選曲が良く、それがいつも悔しかったの。
「亜弥ちゃん、これ取り替えて」と自分のディスクを出すと、亜弥は「ああ」と
MD機から取り出す。
愛がその選曲の良いMDをもらって再生したとたん、亜弥がそのイヤホンを乱暴
に引き抜く。
「痛いよ、何?」
「ねえ、帽子取ってみようか」
「いや。うるさいから」
そう言って愛はイヤホンを耳につけるが、再び抜かれた。
「取るの」「いやだってば」
亜弥は愛の帽子をひったくって投げ捨てると、愛はあわててそれを取りに行
く。そして、自分もニット帽を脱いでホームの人間達を観察した。
思った通り、誰も自分達には目もくれなかった。視線は相変わらず宙を舞い続
ける。あの目も、この目も。(今日のテレビは?)(現在の残高は?)(仕事の
ミスは?)(今日の女は?)とまあおそらくそんなところ。
こちらをちらと見たカップルが「ねえ、あれ」と耳打ちし合っているのがわかる。
亜弥は目を伏せたが、彼等はただ通り過ぎて行くだけだった。
- 49 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時18分44秒
- 愛によると、すでに親戚同士で話はついてるらしく、これからはそこに世話に
なるという事で、それを彼女はうれしそうに話す。
「あそこのおばさんは優しいの」
案外質素なその家は、郊外にあった。中に入る事を遠慮する亜弥の手を、愛は
必死に引っ張る。
「わたしはいいってば」
「付き合ってくれるって言うたじゃない」
「いい人なんでしょ。ほら行ってきなさいよ」
亜弥は愛の背中を押した。
- 50 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時19分38秒
- 「大きくなったのねえ」
居間のソファの端に座る愛に、叔母はお茶とお菓子を大急ぎで持ってくる。
「辛かったでしょう。お仕事も大変なのに」
心配そうな顔の叔母に、愛は「いえ」と首を振った。
「でも、恨まないでやってね。あそこの家も大変なの、いろいろと。でもね、叔
母さんは愛ちゃんが来てくれる事、大歓迎よ。こんな狭い家だけど、どうぞよろ
しく」
頭を下げられて、あわてて頭を下げると、そこに小さな女の子が入ってきた。
「ママ」
3、4才くらいだろうか。愛はそれまでのはにかんだ笑顔をやめた。
「愛ちゃん、これうちの子。ほら挨拶しなさいな」
母親の元に駆け寄ってきた女の子は愛に気付くと驚いた顔をして、あわてて引
き返して行ってしまった。
「ごめんなさい。まだ他人が怖いらしいの。でも愛ちゃんにならすぐ慣れると思
うわ。仲良くしてあげてね」
愛は、女の子の去った後をぼんやり見つめていて、叔母が「そうそう、わたし
が見た愛ちゃんは丁度あれぐらいだったわね」と微笑むのを見てもいなかった。
- 51 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時22分21秒
- 家から出てきた愛は、近くのベンチに座っている亜弥の元へと向かった。それ
に気付いた亜弥がいそいそと駆け寄ってくる。
「挨拶してきたの? いいお家だった?」
「うん」
「明日から住むんでしょう?」
家の玄関で、叔母が女の子の手を振らせているのが見える。まだ世界がよくわ
かっていない小さな手が、ひらひら振られる。
「ううん」
愛は手を振り返す。
「もう、これ以上やっかいものになるのはイヤ」
「え?」
「ウチ、お荷物じゃないから」
小さな声でも意志のある口調。
やがて女の子は母親に抱いてとじゃれついて。
それをみつめる愛の横顔。
その寂し気な表情に亜弥は締めつけられる思いがして、なんとか返す言葉を探
したが、それは見つからなかった。
- 52 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時24分13秒
- 「松浦さん」
はいと答えて、診察室に入る。何度来ても薬品の匂いに慣れる事が出来ない。
医師は椅子に座る亜弥には振り向かず、カルテを見続けていた。
「ええと結果なんですが、ちょっとした甲状腺の腫れ物のようです」
「はい」
「ようするに液が固まってしまったんですね。それで…職業上、大変だとは
思うんですが、あまり声を出さないよう注意してもらえますか」
「声を、あの。それはつまり、悪性という事ですか」
「いやあ、それはないです。安心して下さい。邪魔なようであればすぐにでも
手術は可能ですけど、まあしばらくの間、声を抑えてもらうだけですから」
「そうですか」
気のない返事。普通ならここで、よかった、なんて安心した表情でも見せるの
だろうけど、どうにもそんな余裕はなかった。
医師の顔も不安を感じさせない(ように気をつかってる?)表情だったのだけ
ど。
- 53 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時25分27秒
- 事務所の反応は、亜弥が思っていたよりも冷静で、
「しばらく休もうか。何、そういう会見は出さないよ。マスコミが嗅ぎ付けても
学業が忙しいとか、いろいろ対応策はあるから」
正直、ちっとも嬉しくなかった。
あれだけ忙しい事に嫌気がさしていたはずなのに。
まあ、いいです。そう、少し休もう。休むのだ。働き過ぎだと思ってた。
- 54 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時27分40秒
- 帰り道で、亜弥はあの男、浮浪者風の占い師を見つけた。
彼は夜の寒空に、また地面に寝そべっていた。亜弥は近寄って行って、顔を覗
き込んだ。またキッと振り向くと思いきや、一向にこちらを見てくれない。
「あの」回り込んで顔を見た。まるで生気の無い顔。
「大丈夫ですか?」
体を揺すろうとして、ひどく固くなっている事にぎょっとした。手に触れる
と、氷のような冷たさ。
- 55 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時28分19秒
- 腰が抜けそうな虚脱感になんとか耐えて、亜弥は救急車を呼んだ。
その到着を物陰から確認する。そこにいたくはなかった。
男が運ばれていくのを、消えて行くまで見送った。悲しさとか怒りとか、そう
いう感情はなぜか湧いてこなくて、それがなぜなのかはよくわからかったけど。
ただみつめていた。
彼は光の世界に行けたかな? ふとそんな事を思う。
その後は部屋に帰って、ひたすらうがいをした。
- 56 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時29分30秒
- 愛が遅い夕食をとっていると、ポケットの携帯が鳴った。
あわてて、音を消す。居間にいる伯父に依然しかられた事があったから。しか
し、伯父は気にも止めなかった。すでに伯母と口論を始めていて、忙しそうだっ
た。
愛はそっと夕食を片付け、部屋に戻った。
携帯を取り出して画面を確認すると、メールが入っていて笑顔になる。
メールを読みながら、すぐ送信者に電話をかけようとしたが、本文を最後まで
読んだところでその手を止めてしまった。
居間の方からはまだ怒声が聞こえていた。
- 57 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時30分27秒
- 市民プールはなぜか閑散としていて、いくらはしゃいでもとがめられる様子は
なかった。だだっ広い空間で潜水して、競泳して、落とし合い。笑い過ぎでお腹
がよじれる。
亜弥が25メートル泳ぎきって顔をあげると、愛の顔が目の前にあってのけぞった。
「わ」
「今、どうですか?」
「え?」
「『休めてせいせい』『みんな嫌い』『愛が好き』」
亜弥は急によどんだ顔になる。
「うん」
「そんな。ごめん、冗談よ」
あわてて愛は亜弥の顔色を伺った。
「愛ちゃん。わたし」
「ごめんね」
「3番で」
亜弥はにと笑顔を見せた。愛もすぐ笑い返して手を差し伸べる。つかまって上
がろうとする手をぱっと放すと、亜弥は水の中に消えた。「鈍臭いよ亜弥ちゃ
ん」
- 58 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時33分12秒
- 図書館で愛は、あと少しで読み終わる本を読んでいた。あと数ページだった。
これを読破するまでは死ねない──! そんな勢いで活字を追い、目が血走る。
亜弥は二時間前からパソコンの画面を睨んでは、眉間にシワを寄せていた。
アンダーグラウンドなサイトを次々廻ってみたものの、求めている情報は見つけ
るのは難しくて、「だめだコリャ」
ひとり呟いて、椅子にもたれた。
- 59 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時34分17秒
- 白い壁や清楚な置き物に目を奪われる。
二人は都心、ビル郡の中にある心理カウンセリングセンターを訪ねた。
入口を入るなり女性所員に応対され、少し後ずさってしまう。
「どんな御用件でしょうか?」
亜弥は、手慣れた様子で応じる所員を前に、用意していた質問が出てこなかっ
た。
にこやかに案内される。
「どうぞ、こちらへ」
そう言われても、なぜか気が進まなかった。愛が背中を押してくるのを踏ん張
る。
所員は笑顔のまま、待っている。「どうぞ」
「あの」
愛は、今度は亜弥の服を引っ張り、帰ろうと促す。
「なんでしょう?」
「死にたい場合って、ここでよかったんですか」
- 60 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時35分09秒
- 数秒、白けた間を感じる。所員の笑顔は一瞬崩れたが、すぐ元に戻り「少々お
待ちください」と言って奥に引き下がった。
それを見て、愛が吹き出した。それにつられて亜弥も笑う。動揺した表情が可
笑しくて。そのまま二人は逃げるようにセンターを後にした。
- 61 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時38分21秒
- 夜の病院に忍び込むのは、案外簡単だった。亜弥と愛は、堂々と入口から侵入
した。
「亜弥ちゃん」
亜弥が振り返ると、愛は必要もないのに床を這っている。
「超怖いんですけど」
「しいっ」
しがみついて怯える愛の口を手でふさぐ。
受付の看護婦は机に突っ伏して就寝中だった。そこを突破して、二人は診療
室に向かった。
- 62 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時39分39秒
- 亜弥は一度、不眠症について医師と話し、睡眠薬の処方を受けた事があった。
そのとき看護婦が、すぐ近くの棚から睡眠薬を取り出すのを見て亜弥は、意外
と簡単に置いてあるものだな、と思った。
診療室のドアを開けて、亜弥は中を伺う。確かあそこに。あの薬品の棚。
そっと忍び込んで棚を開けた。開いてほっとする。
「ライトライト」
愛に懐中電灯を当ててもらい、薬品名を確認した。が、種類が多すぎて、全て
の名前を見分けるのは到底無理に思えた。
「どれ?」
「わかんない」
あれだこれだと迷ってるうちに廊下から足音が聞こえてきて、あわてて身を隠
す。「どうしよ」
机の下から愛が顔を出し、「亜弥ちゃん、これ」とゴミ袋をみつけてきた。
足音が消えるのを待ってから、二人は薬の瓶や包装をやみくもにゴミ袋に放り
込んだ。
- 63 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時40分43秒
- 愛がドアの隙間から足音の方向を伺う。
「どう?」
廊下の奥で、夜勤の看護婦か警備の人間かはわからないが、懐中電灯の光が動
いているのが見える。
「向こう見てる。大丈夫そうよ」
二人はそっと部屋を出て、ゴミ袋を背負って入口へと走った。
- 64 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時55分39秒
- 冬の海岸は風が強く、マフラーの端が高く舞い上がる。
愛はデジカムのスイッチを眺めていた。
「どれがどれだかわからん」
砂に足を取られながら亜弥が駆け寄ってくる。
「撮れた?」
「ううん」
「この赤いのを押すんだよ」
「これか」
ファインダーを覗くとRECの表示。カメラを持ち上げると画面に海が映った。
「わあー、きれい」
こっちこっちと呼ぶ亜弥の方にカメラを向けると、波打ち際を駆けている。
もう一度海に向けてみた。直射日光の反射が愛の目を細くさせる。
「うおー」
空は夕暮れ間近、少し染まり始めていて、愛はそこからしばらくカメラを動かせ
なかった。
あ、と気が付いてと亜弥の方にカメラを向けると、どうやら波に打たれたらし
く、下半身を濡らして右往左往していた。愛はそれを撮りながら、笑いでカメラ
がブレるのを必死で抑えた。
- 65 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時56分20秒
- 深夜になって急激に冷え込み、とうとう雪が降った。
愛は亜弥の部屋の鏡台の前で、その震えに耐えながら借りてきた本を読んでい
た。
「ほら」亜弥が電気ストーブを愛の足下に近付けてくれる。
乾かした髪の毛をすいてくれる亜弥の手は優しく、弱いクシの引っ掛かりが心地
良い。
「全然いいコじゃないよね」最後のページをめくりながら言った。
「誰が?」
「ウチ。いいコでいられなかった。そんな気がする」
愛は最後のページをさらっと読んで、本を閉じた。
「そんな事はないと思うけど」止まったクシが再び動き出す。「──良くはない
よね」
呟く亜弥の顔を鏡越しに見て、愛はあははと笑った。
- 66 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時58分25秒
- 亜弥は地下鉄構内のベンチに腰を降ろしながら顔を上げた。ホームの人間は極ま
ばらで、それが不安感をあおる。
その横で愛はリュックの中の、かさばったものを押し込むのに苦戦していた。
「それ、出しときなよ」
亜弥が忠告すると
「う〜ん邪魔」
と、リュックから飛び出している棒を引っ張り出し、それを掲げる。
──どなたかが止めなければ わたしたちは死にます──
太字でそう書かれたプラカード。
「派手だね」
赤やピンクの文字を見て亜弥は言った。
「見た瞬間、引くと思うな」
愛もプラカードを見つめた。
- 67 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時59分17秒
- 車両がホームに到着して二人が乗り込むと、思いのほか混んでいた。少ないよ
りは多いほうがいいけど。それでも亜弥の胸はきゅっと痛む。
次の駅まで待つと席が空いて、すかさず二人はシートの端に陣取った。
愛はホームで出しておいたプラカードをなぜかリュックにしまっており、取り
出すのにまた四苦八苦していた。亜弥が手伝って、そのそんなに大きくない紙の
看板を取り出すと、愛は迷いなくそれをシートの後ろに突き刺す。すると否応な
くこちらを向いている乗客に、それが目に入る案配となった。
プラカードを見てぎょっとなる御婦人方。それを見て愛は少し得意げな顔を見
せたが「愛ちゃん」
亜弥に、前に投げ出した足を注意された。
- 68 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)13時59分56秒
- 看板の文字を凝視する、頭の薄い中年。
愛はその目を見つめた。眼鏡をずり下げて看板の文字を読む彼の目は、明らか
にいかがわしいもの見る目で、読み終わると不快感をあらわに今度は自分に睨み
を投げてくる。やがて読みかけの新聞に読みに入ってしまった。
ドア付近に立っている青年は愛と目が合うと同時に、持っていた携帯に素早く
目を移す。
愛が視線をはずすと、彼はちらちらと看板と自分の顔を交互に見つめる。それ
が視界の端でも把握できた。特にどうという感情も湧いてこなかった。こういう
状況がいたって一般的だという事は愛なりに理解しているつもりだった。
- 69 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時00分38秒
- 亜弥の視線は乗客の足元に向けられていた。
乗客の視線の先には自分がいる。顔を上げてその目を、心を読んでしまうのが
嫌だった。
誰かが話しかけてくるまで。それまでは、目は伏せておく事にした。
「亜弥ちゃん」
「はい?」愛の声に顔を上げる。
「飲み物がない」
亜弥は「ああ」と顔をしかめた。「そうか」
- 70 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時01分21秒
- 二人は次の駅で下車した。
「何がいい?」
「愛ちゃんの好きなので」
「うわあ、買いにくいな。亜弥ちゃんの好きなの言ってよ」
「牛乳で」
「牛乳でいいの?」
亜弥をベンチで待たせて、愛は売店に向かった。
- 71 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時02分38秒
- 売店には自分の100%オレンジはあったものの牛乳は無かった。愛は青ざめて探
したが、どうやら品切れのようだった。
- 72 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時03分08秒
- ベンチに戻った愛が袋から出したのはコーヒー牛乳。
「いいよこれで」亜弥は受け取って笑った。
再び車両に乗り、先程同様プラカードを立てる。
- 73 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時03分44秒
- さほど進まないうちに車両が急停止した。がくんと大きく揺れて車内がざわめ
く。その拍子にプラカードが乗客の足元に滑り落ちた。それはちょうど乗客の目
に止まる具合。
やがて車両はのろのろと動き出す。
亜弥は顔を上げた。床に集まるはずの視線を確認する為に。けれども、そんな
に都合良くはいかなかった。落ちた瞬間だけ目をくれる人。興味も示さず雑誌を
読み続ける人。寝てる人。
愛が腰を重たげに上げてそれを拾い、ゴミを払ってからシートの後ろに立て
た。
- 74 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時06分53秒
- ドアが開いて、人が吐き出されては入ってくる。
その数も徐々に少なくなりはじめた頃、旅行の帰りらしい家族連れがぞろぞろ
と乗り込んできた。疲労の表情だった父親は、すぐにプラカードに気付いた。何
が書かれてあるかが気になるの か、二人の前にやってきて目をこらす。二人は
まじまじとその顔をみつめた。
文字を読んで眉をひそめた彼がなにか言いかけたとき、ドアの方で騒ぐ子供に手
をやいた母親が父親を呼んだ。
「なんとかして!」その叫びに父親はあわてて戻って行った。
- 75 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時08分29秒
- じゃらじゃらと錠剤を手に注いで、思わず揃って背筋を伸ばす。
お互いの手をみつめて、緊張したまま。
思わず笑い合った。
亜弥は勢い良く手の物を全て口に放り込んだ。それをコーヒー牛乳で流し込
む。
それを見て愛も続く。手におさまりきらなかった分も袋から出して全部飲み込
んだ。無理に流し込んで、げふと戻しそうになる。
- 76 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時09分59秒
- しばらく二人は宙をみつめて待ったが、なにも異常は感じられない。
──
半分近く減ったが、相変わらず微動だにしない乗客。
一定のレールのリズム。
愛は見つめる対象のいなくなった前方のシートをただ眺めていた。
- 77 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時11分23秒
- 亜弥は目を床に伏せたままの体勢を変えずに、あれこれ考えた。
もしひとりだったら、どういう行動をとっていただろう。これとは違う方法?
わからない。
気丈に振る舞うのはもうやめていいのかな。別に悲しくはなかったんだけど。
──でも、もう遅いです。
ぱたんとまぶたが落ちてきて、あわてて大きく見開いた。
こんなに明るかっただろうか?車内が急に白くなったような気がした。
- 78 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時12分05秒
- 愛も同様、まぶたをさかんに動かしていた。
──ちょっと怖いかも。そんな不安がしだいに大きくなってきて。
愛は亜弥の手を探り当てると、軽く握った。
- 79 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時13分58秒
- 「亜弥ちゃんはいいなあと思う人とかいるの?」
その声の方を見ると伏目がちの愛がいた。急に田舎くさくなった気がする。
ちょうど初めて会った頃のような。こんなにダサかったかな。亜弥は苦笑した。
「そうだな、すごいなって思う人はたくさん。だけど、いろんな人と会ったけ
ど、特にこれといって。たぶんわたしに見る目がないんだと思う。感受性ってい
うの?そういうのが足りないのかも」
「嫌いじゃないの?」
「誰が?」と顔をゆがめた。
「あ、その顔」
指摘されて、あわてて手で顔を確かめる。
「周りの人とか」
「なんでそう思うの」
「なんとなくそんな風に見えるから」
「ひどいな」
「ウチは嫌いにならないでね」
「あはは」亜弥は笑って愛の頬をつねった。「どうしたの愛ちゃん」
- 80 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時21分20秒
- どれくらい経っただろう。亜弥はふと目をさました。依然車内は白くぼんやり
していたが、まだ乗客はちらほら乗っているのが薄目でもわかる。愛に目をやる
とすでに眠っているようだった。
愛ちゃん──
大声で呼んだつもりが、声が出なくて驚いた。もう一度呼ぼうとしたがやはり
無理で、亜弥は自分の手に力なく触れている愛の手をぎゅっと握り返した。そし
て愛の肩にもたれて眠った。
- 81 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時21分54秒
- 二人から少し離れたシートで参考書を読んでいた予備校生は、足元に落ちてい
る手製らしきプラカードを拾った。靴の跡にまみれた派手な文字を一通り読み、
首をかしげた。
やがて車両が停車して、彼はそれをシートに残し下車していった。
終点に近付き、二人の乗った車両はついに誰もいなくなった。
- 82 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時25分04秒
- 終点で残りの乗客を全て降ろした車両は、ドアを閉めて再び発車していく。倉
庫に向けて、最小限の照明が入っただけの暗い構内を、車両は低速で進んだ。
- 83 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時25分46秒
- 倉庫に入った車両は止まり、小さく揺れる。ドアが開放されて、運転手は早々
と出て行った。
車掌はいつも通り、車内の見回りを始めるはずだったが、死んだように疲れた
体にムチを入れる必要はないと思った。彼は首をしきりに揉みながら構内へと消
えて行った。
- 84 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時26分17秒
- 二人の体は停止したはずみで崩れかかったものの、離れる事はなかった。愛は
亜弥のひざの上に、亜弥はそれを守るように。やがて構内と車両の照明が消され
た。
- 85 名前:que 投稿日:2001年12月24日(月)14時26分47秒
- sonatine 終
- 86 名前:LVR 投稿日:2001年12月30日(日)04時17分14秒
- 上手いし面白い。
こういう文が書きたい。
- 87 名前:七資産 投稿日:2002年01月22日(火)10時43分38秒
- これだな。
面白ければいいのか(w
元ネタも知られざる名作ってカンジでなかなか良かったし。
ttp://homepage1.nifty.com/daisydaisy/lolipop/sonatine.html
- 88 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月26日(土)01時37分31秒
- 自決して終わりと言うのはちょっと・・・。
- 89 名前:usapyon 投稿日:2002年01月28日(月)23時23分01秒
- でも、うまい。引きこまれた。そして、二人が好きになった。
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