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『実況ハロープロ野球2001 延長11回裏』
- 1 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時17分29秒
- プロ野球を題材にした小説『実況ハロープロ野球2001』の続きです。
登場人物は、ハロプロメンバー+福田・石黒・市井です。
前スレは金板倉庫と風板(倉庫)にあります。
- 2 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時18分56秒
- 「どうするの裕ちゃん…?」
しのちゃんがあたしに意見を求めてきた。
ノーアウトでランナーが一塁、点差は3点、打席には2番の加護。
この試合を左右する大事な局面。
最低でも得点圏にランナーを置いて、クリーンアップに回したい。
点差は3点あるが、送りバントも1つの手だと思う。
なにせ、ここまで2安打。
二塁へランナーを送ることも出来ず、完璧に抑え込まれているのだ。
こちらに傾きかけた流れを完全に引き寄せるためにも、まずは1点だろう。
でも、加護のバントがなぁ…
はっきり言って加護はバントがうまくない。
『そんなの2番に使うなよっ!!』
って声が聞こえてきそうなので、弁明させてもらおう。
加護にはランナーが出たらバントという従来型の2番バッターを要求していない。
お金を払って球場に足を運んでくれるファンに対して面白い野球を見せたい。
そういう気持ちがあるからだ。
バントを軽んじている訳ではない。
バントの重要性は重々承知しているし、もちろんバントのサインも出す。
ウチにはバントの上手い北上という選手がいる。
わざわざバントで送るために、その北上を代打に起用することだってある。
しかし、出来れば盗塁やエンドランを多用した攻撃的な野球をやりたいのだ。
リスクは大きいが2番バッターの能力次第で大きな成果がある。
そんな重要な役割を今シーズンから加護に与えた。
本人には、その自覚があまり無いようだが…
あまり、こちらから焚き付けるようなことをしていないから当然やけどな…
- 3 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時20分12秒
- 加護の野球センスは、新レギュラー4人の中で抜きん出ている。
まず洞察力に優れ相手のクセを盗むのが上手い。
足が目立って速いわけではないが簡単にスチールを決めたり、
相手投手の変化球を狙い打ちしたり…
後で聞いてみると『クセがあるから分かった』なんて胸を張ってみせる。
動物的な勘みたいなものに驚かされることもあった。
『よくぞそこにいた!!』という位置に守っていてチームを救ったのは、
1度や2度ではない。
投手との駆け引きにも長け、三味線スイングの後のしてやったりの快打。
1つ1つのプレイの端々にセンスの良さを感じる。
でも…
完全なる信頼を寄せることは、はっきり言って出来ない。
この場面…
『加護を信頼してエンドラン』と即決することは出来なかった。
- 4 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時21分04秒
加護には1つ…
大きな問題がある…
センス溢れるプレーが生まれるかどうかは、加護次第。
しかも、何をきっかけにスイッチが入るかは分からない。
あたし達には制御不能なのだ。
スイッチの入った時は誰もが唸るようなプレーを連発する加護だが、
スイッチがオフになると生彩を欠いたプレーが目立つ。
スタンドプレイも、ものすごく多い。
平気でサイン無視をして、とぼけてみたり…
意図のない無茶な大振りを繰り返してみたり…
こうなると、もう誰にも手に負えない。
実は野球だけじゃなくプライベートでも、そういう傾向はある。
しおらしい一面があるかと思えば、
どうしようもなく自分勝手で手に負えない時がある。
あまりにも両極端な面を見せるので、本当に掴みどころがない。
評価が難しい。
どっちが本当の加護なのか、よく分からない。
それは加護の精神的な幼さからくるものだろうとは思う。
たぶんセルフコントロールが出来ないのだろう。
- 5 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時22分05秒
もっと本人に自覚を促すようにビシビシ言ってやったほうがええんかな?
そう思うこともあるのだが、実践することはためらわれた。
今は、ある程度ノビノビとやらせてあげたいという気持ちがあるからだ。
加護に限らず新レギュラー4人を見てると『ええなぁ…』って思うことがある。
言うとくけど…
年齢のことやないで…
あの娘達は、あたし達が忘れかけているものを持っている。
それは、いつまでも大事にしていてほしいって思う気持ちがあるのだ。
加護へのスパルタ教育を躊躇する理由が、もう一つある。
こちらのほうがあたしの心の中で占める割合は大きいだろう。
あたしは加護に厳しく接するのを怖がっている。
辻に対しては、はっきり言ってそういう感覚はない。
でも加護に対しては、なぜか腫れものに触るような感覚が少しある。
加護より辻のほうが好きとか、そういうことではない。
加護も辻も同じぐらいカワイイ。
それなのに…
辻に対しては思い切ったことが出来るのに、加護に対しては出来ない。
- 6 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時23分47秒
無死一塁のこのケース…
あたしは、まだ迷っていた。
どう攻めるべきか…
攻撃的な野球にこだわりたいのだが、そうも言っていられない状況だ。
とにかく1点がほしい。
3点差はあるが、今は1点でいいのだ。
1点だけで大きく流れは変わる。
とにかく得点圏にランナーを進めたい。
ここぞという場面では3番の後藤は決して期待を裏切らない。
カオリも吉澤も矢口も控えている。
絶対に、なんとかなる。
一番、確実なのは…
代打に北上を起用して送りバントをさせることやな…
加護はバントが好きではないのだろう。
バントの練習は真面目にやらないし、送りバントを命じると不満そうな顔をする。
スイッチが入ってる時は別だが、スイッチが入ってない時の送りバントのサインは、
はっきり言ってちょっと怖い。
サインを無視して強攻されてゲッツーなんてことになったら最悪だ。
- 7 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時25分05秒
「ねぇ…どうするの…?」
しのちゃんの催促。
これにあたしはこう応えた。
「エンドランでいこか…?」
しのちゃんが眉を寄せる。
「今の…微妙に疑問形だったよね…?
そんな裕ちゃんにマル特情報があるよ。
去年の三浦対加護の成績…
10打数0安打6三振…
今日の第1打席は見ての通り…
さぁ…どうしよっか、裕ちゃん…?
あたしは北上に代えるのもアリだと思うけどね…
送りバントだけじゃなくエンドランをやるにしてもね…
空振りをされたら石川の足ではセカンドで刺される可能性が高いからさ…」
しのちゃんへの言葉が疑問形になったのは、あたしに迷いがあったからだろう。
それを、しのちゃんに見透かされた。
「データは重要やけど、序盤戦は形も大事にしたいんや…
今シーズンは2番加護で攻撃的にいこうって決めたんやから…
ノーアウトランナー三塁一塁で強力クリーンアップを送りこむ攻撃野球…
その試金石や…
だから…エンドランでいこ…」
- 8 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時26分09秒
自分の弱さ、いい加減さを呪いもする。
何や!!
このザマは!!
なっちや松浦や辻には出来て、加護には出来んちゅうのかい!?
攻撃野球なんてお題目は…
『ノビノビとやらせてあげたい』なんて親心じみたもんは…
言い訳にすぎんのとちゃうか!?
加護と向き合えない…
そんな弱い自分に対する言い訳ちゃうんか!?
こんなアホ監督で勝てるんかい!?
こんなアホ監督で、あの娘達のこと守ってやれるんかい!?
心の中で毒づくあたしの耳に、しのちゃんの声が響く。
「裕ちゃんが、そう考えてるなら別にそれで構わないよ。
まぁ、まだ開幕3戦目の4回裏…
そんなに焦ることもないかもね…
裕ちゃんに迷いがないなら…
今は、それでいいんじゃないの?」
その言葉は、あたしの頭の中でしばらく重く響き続けた。
- 9 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時27分29秒
ベンチから一塁ベースコーチの三佳さんを経由して出たサインはエンドラン。
ただし初球は待て。
自由に打てなくなることは不満だけど送りバントよりは全然いい。
とにかく三浦のあんちゃんに仕返しせんことには気がすまへん!!
ヒットや!!
ヒットを打てばええねん!!
自分自身に気合いを入れてバッターボックスへと向かう。
どうせまた初球はスローカーブやろ!!
狙い打ちや!!
マウンド上のあんちゃんは、ゆっくりとマウンドを均していた。
その表情は、どことなく笑っているようにも見える。
あの顔…
絶対スローカーブだ!!
また加護のことバカにするつもりだぁ!!
もぉ〜〜〜〜っ!!見てろぉ〜〜〜〜っ!!
待球のサインが出てるけどなぁ…
加護はなぁ…
初球から狙うつもりやねん…
スローカーブやって分かってるのに打たへんのはおかしいやろぉ…?
- 10 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時28分34秒
あれぇ…?
尻餅をついた体勢から谷繁さんのミットに目を向け思わず目をしばたたかせた。
何がどうなったのかよく分からない。
初球は緩い球。
予想通りのスローカーブ。
そう信じて疑わなかった。
タイミングを計ってバットを一閃。
打球はライトスタンドへ一直線。
…のはずだったが見事な空振り。
勢い余ってクルリと一回転。
そのまま不様に尻餅をついてしまった。
マウンドに目を向ける。
あんちゃんは、またゆっくりとマウンドを均している。
その表情は、やっぱりどことなく笑っているように見えた。
ポッポ〜〜〜〜ッ!!!!!
もぉ〜〜〜〜っ!!!!!アッタマに来たんだからぁ〜〜〜〜っ!!!!!
- 11 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時30分31秒
2球目。
エンドランをかけたが加護は打ち上げた。
さほど厳しくない内角高めのストレート。
バットは、かなり下のほうから出ていた。
どうしようもない無茶振り。
完全に意識がライトスタンドに向いているようだった。
こりゃアカン…
サイン無視までしよるし…
思わずため息が出た。
バットを寝かせて構える加護は高めに強い。
スタンスはクローズドなので内角の球は少し苦手なのだが、
甘いコースなら右足を引いて巧く引っ張ることが出来る。
ダウンスイングで一塁線あるいは一二塁間突破。
三浦にとっては失投となるはずのボールだった。
スイッチが入っている時の加護ならば…
だが…
- 12 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時31分25秒
「ちょっと… イヤ〜な感じのスイングしてるね… 」
しのちゃんが隣でポツリと呟いた。
もう居ても立ってもいられなくなった。
一塁ベースコーチの三佳千夏にサインを送る。
「どういうこと…?」
しのちゃんは一瞬だけ驚きの表情を浮かべた後、訝しげにあたしを見つめた。
「自由に打たせたほうがええ…
あのスイングならフライか空振りやろ…
内野ゴロゲッツーは可能性が低い…
エンドランやったら三振ゲッツーがあるから怖いやろ…?」
「何か…変じゃない…?」
あたしは、しのちゃんの問いかけに答えることが出来なかった。
しのちゃんは、そんなあたしを黙ったまま見つめている。
「かわいそうに…」
しばらくして…
しのちゃんは、そうポツリと呟いた。
あたしは、しのちゃんから視線を外しグラウンドに目を向けた。
- 13 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時32分31秒
ツーストライクに追い込まれてエンドランのサインは撤回された。
これで自由に打てるから内心よかったと思った。
1球目はスローカーブに見せかけた緩い球。
2球目は内角高めのストレート。
ここまでスローカーブは1球も投げていない。
今度こそ絶対にスローカーブや!!
ぜぇ〜〜〜〜ったい、そうに決まってんねん!!
バットを握る手に力が入った。
そして3球目。
信じられないことが起こった。
一塁ランナーの梨華ちゃんが二塁へスタートを切った。
エンドランのサインは撤回されたというのに…
もぉ〜〜〜〜っ!!
梨華ちゃぁ〜〜〜〜んっ!!
何やってんねんっ!!
- 14 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時34分14秒
サインを見てなかったん?
それともサインを勘違いしちゃったん?
まさか単独スチールなんて身の程知らずなことあらへんよねぇ?
梨華ちゃんが二塁にスタートを切った理由をあれこれ考えてみた。
しかし、どれもありそうで特定は出来ない。
本当に梨華ちゃんは、しょうがないお姉さんなんだからぁ〜っ!!
加護が、ついてないとダメなんだからぁ〜っ!!
梨華ちゃんは、はっきり言ってちょっと頼りない。
ついでに言えば野球も、へたっぴだ。
それなのに、いろいろ加護の世話を焼こうとする。
たまに、お節介で迷惑だって思うこともある。
でも、あたしはそんな梨華ちゃんが大好きだ。
優しくて、頑張り屋さんで、ちょっと頼りない梨華ちゃんが…
- 15 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時35分08秒
加護がぁ、な〜んとかしなくっちゃだわぁ〜ん!!
- 16 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時36分31秒
3球目はアウトコース高めに外れるボール球。
とにかく、まずバットにボールを当てなければならない。
見送れば、高確率で梨華ちゃんはセカンドで刺されてしまう。
そして、出来るだけゴロを打たなければならない。
真正面のライナーで即ゲッツーは避けたい。
バントも少し考えた。
ちゃんと転がせばバントエンドランの形になるから、
とりあえず安全に梨華ちゃんを二塁に送ることが出来る。
でも、そんな考えは、すぐに打ち消された。
バントがイヤだからじゃない。
ランナーをただ二塁に送るだけでは芸がないと思ったからだ。
いいこと思いついちゃったぁ〜っ!!
そや、そや…
そやねん…
ひょっとしたらぁ…ひょっとすんでぇ〜っ!!
アウトコース高めのボール球に右足を踏み込んでスイングを開始した。
加護は知ってんねん…
三塁側のある一部分になぁ…
芝が硬くなっているところがあってなぁ…
バウンドが、めっちゃ高くなるところがあんねん…
- 17 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時38分22秒
本拠地のハロースタジアムは内外野とも天然芝を張った球場だ。
芝の保護のためにサブ球場が必要だったり、維持コスト?が高かったり、
グラウンド管理が大変だったり…
いろいろ難しい問題があるらしい。
でも、選手にとっては嬉しい球場だ。
足腰に負担がかからないし、ダイビングキャッチなどの思い切ったプレイも出来る。
天然芝では打球の威力が吸収されるから、
人工芝みたいにバンザイしながら後逸するような高いバウンドの打球は出にくい。
しかし、人工芝と違って均一ではないから芝の硬いところと軟らかいところがある。
芝の硬いところは打球が跳ねやすいし、軟らかいところは跳ねない。
あたしは練習中に偶然、芝が硬くなっている部分を発見していた。
あたしの思いついた『いいこと』とは、
高いバウンドの打球を打って内野安打を狙うことだった。
言うのは簡単だが実践するのは、なかなか難しい。
狙った場所にピンポイントで打球を当てるなんていうのは、ほとんど神業だ。
一歩間違えれば最悪のゲッツーもあり得る。
でも、迷いは全くなかった。
とりあえず『やった者勝ち』だと思っているから…
えぇ〜い!!
まぁ…いいや!!やっちゃえ〜〜〜〜っ!!
そんな感じだった。
心掛けたのはダウンスイング。
大根切り状態で目標のポイントめがけてボールを叩きつけた。
- 18 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時39分52秒
おりょりょ〜〜〜〜っ!??
結果は、あたしの意に反したものだった。
打球は三塁線へのボテボテのゴロ。
サードの小川さんが猛然とダッシュしてくる。
どうやら狙いを外れて逆に極端に芝の柔らかいところに当たったらしい。
でも、まぁ…いいかぁ…
結果オーライや!!
セーフになるかもしれへん!!
外角に突っ込むような体勢で打ったのでスタートが遅れたけれど必死に走った。
一塁に向かう途中…
チラッとセカンド方向に目を移した。
ちょっとした胸騒ぎがしたからだ。
案の定、そこには信じられない光景が…
梨華ちゃんは二塁ベースを蹴って三塁へ向かっていた。
もぉ〜〜〜〜っ!!
何でやね〜〜〜〜んっ!!
- 19 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時41分29秒
判断が100%まちがっているとは言わない。
スタートは切っていたわけだし打球はボテボテ。
野手も油断しているだろうから、狙ってみるのも面白い。
ただ、状況と自分の走力で間に合うかどうかよく考えてみてほしい。
ここは無理をする場面ではないし、梨華ちゃんの足は速くない。
歯を食いしばって必死に足を動かしているけれど、全然スピードに乗っていない。
見ているのが気の毒なほどだ。
アカン…気づかれたら梨華ちゃんの足じゃ絶対にアウトやぁ…
そんな時、三塁ベースカバーに入ったショートの石井さんが大声で叫んだ。
「サード〜っ!!」
ひょんげぇ〜〜〜〜っ!!
き…気づかれちゃったぁ〜っ!!
なんとか…
なんとかしなくっちゃぁ〜〜〜〜っ!!
- 20 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時43分27秒
一塁は惜しくも間に合わなかった。
微妙な判定だったが一塁塁審のアウトのコールが耳に届いた。
石井さんのサード送球の指示を受けて、
ファーストのズーバーは今まさに送球体勢に入ろうとしている。
梨華ちゃんは、まだ塁間の中間辺りを必死に走っていた。
やばいやんかぁ!!
えぇ〜い、一か八かやぁ!!
「big doo-doo!!」
ファーストのズーバーに向かって、そう大声で叫んだ。
もう、やけくそだった。
悪口を言って怒らせようなんて安易な発想やったなぁ…
こんな子供じみた手に乗ってくるはずが…
自らの浅知恵にちょっぴり反省していたその時…
ズーバーがクルリと振り返った。
鬼のような形相で…
…はずが…
あったわぁ〜ん
- 21 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時44分40秒
あいぼんの打球は三塁前へのボテボテのゴロ。
エンドランでスタートを切っていたあたしは、それを見てちょっと考えた。
ひょっとしたら…三塁へ行けるんじゃないかしら?
自分は、もう二塁ベース付近まで来ている。
サードの小川さんは、まだ打球を処理していない。
簡単に行けそうな気がする。
でも…ちょっと気が引けた。
どうしよう…
足には自信がないしなぁ…
『暴走するな!!』ってよく怒られているし…
無理する場面じゃないような気もするし…
もしアウトになっちゃったら…
そんな時、保田さんの先程の言葉が頭をよぎった。
ううん…ダメよ…
ダメなんだわ!!
そんなネガティブなことじゃあ!!
自分を信じてあげなくっちゃ!!
ポジティブ!!ポジティブ!!ポジティブ!!ポジティブ!!
ポジティブゥ〜!!
絶対に三塁まで行くのよ!!
石川なら、やれるわ!!
だって…
石川は、保田さんの弟子なんだから!!
期待されまくっているんだから!!
もぉ〜〜〜〜っ!!頑張っちゃうっ!!
梨華、疾走っ!!
心のアクセルをいっぱいに踏み込んだ。
今のあたしにはブレーキは必要ない。
二塁ベースを蹴ったあたしは一気に三塁に向かった。
- 22 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時46分18秒
爆走!!石川梨華 応援ソング
『どうにも止まらない 〜チャーミー石川 Version〜 』
噂を信じっちゃ〜いっけぇなぁいよぉ〜 ホイッ
(ほら、いろいろあるでしょ…矢口さんの背中は毛がびっしりだとか…)
あったぁしぃ〜の 心ぉ〜は うっぶぅ〜なのさぁ〜 イェイイェイ!
いっつぅでもぉ〜 楽しいぃ〜 夢ぇ〜を見てぇ〜 ちゃお〜っ!
生っきってっいるのがぁ 好ぅ〜きぃ〜なのさぁ〜 ポジティブ!ポジティブ!
(〜^◇^〜)石川黙れっ!!キショッ!!
あっあぁ〜 アウトになぁるぅ〜?
あっあぁ〜 セーフになぁるぅ〜? ヨヨイのヨイっ!??
(〜^◇^〜)野球拳かよっ!?
そぉの答えはぁ あったぁしぃ〜次第なぁのぉ〜
足はぁ遅いけっどぉ〜 走っちゃったのぉ〜
もぉ〜おォ!? ど・う・に・も・止ぉまぁらぁなぁい〜〜〜〜っ ♪
(音…外しちゃった……)
歌・コーラス : 石川梨華
ツッコミ : 矢口真里
\(^▽^)/ 山本リンダさん…JASRACさん…ごめんなさぁ〜い
( `.∀´) とても謝っているようには見えないわね…あんた…
- 23 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時48分03秒
えいっ!!
もちろん最後はヘッドスライディング。
頭から思い切って突っ込んだ。
ユニフォームが真っ黒になっちゃうけど、構わない。
この汚れこそポジポジプレーの証しなんだわ!!
そして…
あたしのポジポジプレーは報われた。
あたしの必死の走塁の結果はセーフ。
意外なことにクロスプレーにはならなかった。
何でかなぁ…?
それに…
あいぼんは、どうなったんだろぉ…?
ユニフォームについた砂を払いつつ一塁ベース方向に目を向けた。
一塁ベース付近に横浜の選手が集まっていた。
あいぼんもいた。
三佳さんの後ろに隠れるように…
そして…
中澤さんもいた。
よく分からないけど、何か揉めているようだった。
何があったんだろう…?
気にはなったが、それどころではなくなった。
「石川ぁ〜っ!!
おまえ、何やってんねんっ!!」
背後から怒鳴り声が聞こえた。
振り向いてみると三塁コーチャーズボックスの稲葉さんだった。
えぇ〜っ!?
何で怒られてるのぉ〜〜〜〜っ!!
- 24 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時50分03秒
「ほぉ〜〜〜〜っ!!怖かったぁ〜〜〜〜っ!!」
加護はおどけたようにそう叫ぶと、屈託なく笑ってみせた。
まるで何事もなかったかのように…
ズーバーに詰め寄られて、あんなに怯えていたのに…
先程までの不安そうな表情が嘘のようだ。
加護のこういう部分が、あたしは怖い…
何を考えているのか、よく分からない…
何食わぬ顔であたしの隣を歩いている加護。
それを見つめるあたしの気持ちは複雑だ。
一方、加護はすこぶるご機嫌だった。
「中澤さん、中澤さぁ〜ん!!
加護どうでしたぁ〜っ!?
ちゃぁ〜んと仕事しましたよね〜っ!!ねっ!?ねっ!?」
満面の笑顔であたしを見上げながら、グラウンドコートの袖を引っ張る。
これもまた分からへん…
確かに加護は仕事を果たした。
一死三塁。
加護への期待度からすると物足りない気もしないではないが、
『最悪でも一死二塁』という場面だったから、まずまずの成果だ。
3点差があるから後藤を安易に歩かせることはない。
1点は確実に入るだろう。
『よくやったで〜』と一声かけて、頭を撫でてやってもおかしくない。
だが…
そうもいかない。
- 25 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時51分14秒
加護はミスを冒している。
初球待球のサインを無視した。
結果は空振りで大きな被害を被ったわけではないが、
相手の出方次第で作戦を変えることもあるわけだから許されることではない。
「加護…
おまえ、何で初球振ったん?
待球のサイン出とったやろ?
サインを見落としたんか?」
はしゃぐ加護を尻目にそう声をかけた。
加護の表情が…
一瞬にして変わった…
- 26 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時52分23秒
「加護はぁ…サインを見落としたりなんて…してません…」
眉を下げ下唇を噛み締め今にも泣きそうな表情の加護。
俯きながら、そう言葉を紡ぎだした。
スタメンを外されて落ち込んでいた辻同様、めっちゃ抱きしめたくなった。
やっぱりあたしは、この娘達のこういう表情には弱い。
だが、心を鬼にしてそんな気持ちを振り払う。
「なら…
なんで振ったん?
サイン無視か?」
加護の黒目がちな瞳が一瞬だけ大きく見開かれた。
しばしの沈黙…
やがて加護はパッと顔を上げると首を何度も横に振った。
「えっとぉ〜
サイン無視なんてぇ…してません…
振らないでおこうと思ったんですけどぉ…
勝手に手が動いちゃったんですよぉ…」
懇願するようにあたしの手をギュッと握ってきた。
- 27 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時54分19秒
「ええ加減にしい!!
おまえは、そんなんばっかや!!」
加護の手を振り払った。
その手は…
あたしを引きずりこもうとしていた。
そう感じた…
アカン!!
絶対にアカン!!
まるで何かに飲み込まれそうな…
そんな恐怖…
あたしは、その恐怖感を気合いで振り払った。
「適当なこと言って…
ならエンドランの時の、あのスイングは何や!?
あたしの目はごまかせへんで!!
1発狙っとったんやろ!?」
加護1人に対して、ここまで言ってみせたのは初めてだった。
今まで加護を叱る時は、必ず辻がセットになっていた。
それは、あたし自身がびっくりするほどの突然の大冒険だった。
でも、いつかはやらなければいけないと思っていたのだ。
加護をこのままにしておくことは、チームにとっても本人にとってもよくない。
優勝するためには…
あたし自身に厳しさが必要なんや…
しかし、やはり事は慎重に運ぶべきだった。
心の中に迷いがある今の自分。
精神的にゆとりのない状態では良い結果は生まれない。
何もプレーだけに限ったことではない。
それを思い知った。
- 28 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)16時55分50秒
あたしの言動は加護にとって重く響いたらしい。
当たり前だ。
安易な決めつけ…
妙な高揚感に後押しされて発した言葉には明らかに毒が含まれていた。
最善の策を模索する余裕がなかった。
言葉を選ぶ余裕がなかった。
あたしに手を払われた加護は、この世の終わりのような表情をした。
目には、うっすらと涙が滲んでいるようにも見えた。
自分の迂闊な行動を悔やんだ。
そして心の迷いによって生まれた隙を、この表情に付け込まれた。
「あのぉ〜ごめんなさい…
ちょっと振り回しちゃったかも…
でもぉ…
違うんですぅ…
1発狙ってやろうなんて…思ってないですぅ…
力が入っちゃっただけでぇ…
サイン無視なんて…してへん…うぅん…してないですぅ…
ホンマ…じゃなくて…本当に本当ですぅ…」
加護は目を潤ませながらそう言うと再びあたしの手をギュッと握ってきた。
あたしは…
今度は、その手を振り払うことが出来なかった…
何で…こうも甘いんやろ…
あたしは…
- 29 名前:選手名鑑くん 投稿日:2001年12月23日(日)16時58分50秒
30 末永真己 すえなが まみ
投手 2000年ドラフト2位 宮城県出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 勝 負 S 投球回数 三振 防御率 年棒
1998年 -- - - - -- -- --- ---
1999年 -- - - - -- -- --- ---
2000年 -- - - - -- -- --- ---
通算 -- - - - -- -- --- 1000
球種
ストレート(MAX138km/h) カーブ フォーク ツーシーム カットボール
寸評
名の通った存在ではないが経験豊富な実戦向き右腕。
度胸満点のマウンド捌きと手元で微妙に変化するストレートが武器。
メジャーリーガーを目指して単身渡米、ルーキーリーグに参加の経験あり。
先発ローテーション争いのダークホース。
- 30 名前:選手名鑑くん 投稿日:2001年12月23日(日)17時00分20秒
34 松浦亜弥 まつうら あや
投手 2000年ドラフト1位 兵庫県出身 右投げ両打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 勝 負 S 投球回数 三振 防御率 年棒
1998年 -- - - - -- -- --- ---
1999年 -- - - - -- -- --- ---
2000年 -- - - - -- -- --- ---
通算 -- - - - -- -- --- 1000
球種
ストレート(MAX145km/h) フォーク スライダー
寸評
将来のエースの呼び声も高い注目のドラフト1位ルーキー。
落差のあるフォークはチームNo.1。
ノビのあるストレートは魅力だが球質の軽さに若干の不安は残る。
ダニエルに代わる先発としての期待もかかっているが、中澤監督はじっくり育てる方針。
まずは中継ぎで実績を作り、先発ローテーション入りに挑戦を。
- 31 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月23日(日)17時14分51秒
- 前スレの容量がいっぱいになってきたので移転させていただきました。
(前スレの残りは、ちゃんと有効活用する予定です。まぁ、近日中に…)
実は風板の次は空板に立てたかったんですけどねぇ…長編用だし…
年内に、もう1回更新したいと思ってます。
出来れば第6話の主人公が出てくるところまで…
無理かもしれないっすけどね…
まだ出てくるのは先の話ですけど、5期メンの役割も決定。
本格派のサウスポー、技巧派のサウスポー、キャッチャー、
全ポジこなせるオールラウンダーの予定。
次回更新時の選手名鑑くんで投手の2人はお披露目です。
- 32 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月25日(火)21時07分13秒
- 本編の途中で申し訳ないのですがクリスマス短編です。
ただし次レスから始まるのは前スレに収まらなかった途中の部分からなので、
初めから読んでみたい方は、まず下のリンクを先にお願いします。
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=wind&thp=997941409&st=315&to=335
- 33 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月25日(火)21時09分18秒
- 『マッチ売りの少女? 〜LIGHT MY FIRE〜 』の続き
ちぇっ…ゲームオーバーだ…
閉じていた目を開ける。
目に飛び込んできたのは見慣れた天井…
「ん〜〜〜〜っ!!」
半身を起こしベッドの上で大きく一回伸びをした。
周囲を見回す。
見慣れた自分の部屋…
ベッドの脇に置いていた鏡を手に取り、そこに自分の顔を映してみる。
見慣れた自分の顔…
モーニング娘。を辞めた『ただの』市井紗耶香の顔…
ちぇっ…よどんでらぁ…
せっかくの…クリスマスだっていうのにさぁ…
- 34 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月25日(火)21時10分11秒
モーニング娘。在籍時のクリスマスは必ず仕事だった。
『せっかくのクリスマスに仕事かよ〜!!』なんて、みんなで文句を言ったものだ。
でも、そんなこと言いながらもみんな顔は笑っていた。
自分達は夢を追いかけてるって確かに感じられていたから…
それが最高に幸せなことだって分かっていたから…
だから、みんなキラキラ輝いていた。
10人になったモーニング娘。はトップアイドルの座を不動のものにしていた。
年末から年始にかけて、たくさんの番組に出演するようだ。
おそらく今年のクリスマスも仕事だろう。
一方、あたしは久しぶりに友達や家族とクリスマスを満喫することができる。
メンバーが聞いたら『うらやましい』って言うかもしれない。
でも、羨望の眼差しを向けるのは彼女達ではなく、むしろあたしのほうだろう。
あたしの脱退直前に加入してきた石川・吉澤・辻・加護の新メンバー4人。
頼りない印象しかなかったが、TVで見る今の彼女達は見違えるほど輝いている。
裕ちゃん、カオリ、なっち、圭ちゃん、矢口、後藤の旧メンバー達。
彼女達もさらなる成長をとげ、新しい輝きを放っている。
あたしは…みんなから取り残されてしまった。
- 35 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月25日(火)21時10分48秒
あたしはシンガーソングライターの勉強をするためにモーニング娘。を脱退した。
シンセサイザーに英会話、そしてギター。
『今後の自分にとって必要かな?』って思うことに手をつけ始めた。
でも、シンセはうまく弾けずに埃をかぶっているし、英会話は5ヶ月で挫折。
ギターはコードチェンジがやっとの状態。
どれも思い描いたようにうまくいかなかった。
そんなあたしを焦らせたのはモーニング娘。の大活躍。
華やかなステージ上でキラキラ輝きながら気持ちよさそうに歌うかつての仲間達…
うらやましくて仕方がなかった。
『今すぐ市井もファンのみんなの前で思いっきり歌いたい!!』って思った。
あたしは、そんな自分をずっと戒め続けてきた。
今の市井はモーニング娘。の市井紗耶香じゃない。
モーニング娘。を辞めた『ただの』市井紗耶香なんだ。
シンガーソングライターを目指して必死に勉強しなければダメだ。
それが送りだしてくれたメンバー、待っていてくれているファンに対する努めだ。
そんなこと考えること自体間違っている。
こんな浮ついた気持ちだからダメなんだ…
って…
- 36 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月25日(火)21時11分54秒
あ〜ぁ…
辛い一日だ…
こんなモヤモヤした気分で迎えるクリスマスは初めてだった。
頭の後ろで手を組んでベッドに仰向けに倒れこんだ。
再び目を閉じる。
あの紺野って娘みたいに吹っ切れられたらいいんだけどなぁ…
市井も…
娘。のオーディションを受けるって決めた時は…
あんな感じだったのかもね…
それにしても…変な娘だったな…
自分で登場させておきながらなんだけど…
あんなのがメンバーにいたら面白かったかもね…
自らの空想が生み出した少女『紺野』のタヌキ顔を思い浮かべて苦笑した。
- 37 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月25日(火)21時12分49秒
近頃、目を閉じて考え事をすることが多くなった。
年末に向けて忙しかったはずのこの時期…
今の自分…
やりきれなくて…
いろいろ悩んだ…
でも…
結局、答えなんか出なくて、いつの間にか空想の世界で遊ぶ自分がいた。
だけどさ…なんか…
楽しみきれないんだよねぇ…
現実逃避し切れないんだよ…
やっぱり…チラついちゃうんだろうね…
空想の世界の中でも、あるべき自分の姿を模索しているのかもしれない…
そんな自分に少し安心する部分もある。
- 38 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月25日(火)21時13分27秒
考えたって答えは出ない。
モヤモヤは消えない。
でも、考えたり悩んだりすることが今は大事なことのような気がする。
そして、時には思い切って行動してみることも…
少しでも前に進むことを考えないといけない。
今のあたしは、らしくないのかもしれないが『市井紗耶香』は『市井紗耶香』だ。
市井の辞書に『諦め』なんて文字はないんだよ〜ん!!
穴の開いた風船は永遠にふくらまない!!
考えろ市井!!
どうしたら穴はふさがる!?
いや…ダメだ…考えちゃ…
ただ…自分の本当の気持ちを…
あたしはベッドから勢い良く飛び起きると携帯電話に手を伸ばした。
逸る気持ちを抑えつつをボタンを操作する。
- 39 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月25日(火)21時14分24秒
「あ〜あたし…そう…紗耶香…
今日なんだけどさぁ…
映画やめてさぁ…カラオケ行かねぇ…?」
電話をかけた相手は中学生時代からの大親友。
今日は午後から一緒に映画を見る約束をしていた。
彼女は突然のことに驚いていた。
あたしが人前で歌うことを封印しているのを知っているからだ。
実はあたしも突然の自分の思い切った行動に驚いている。
心臓がものすごいスピードで収縮を繰り返していた。
『なんでなの、紗耶香?』
あたしの提案について、いろいろ思いを回らせていたのかもしれない。
しばらく沈黙を守っていた彼女。
そんな彼女の口から出た言葉がこれだった。
彼女の疑問にあたしはこう答えた。
照れ笑いを浮かべながら…
自分の胸の中の奥底にしまってあった本当の気持ち…
「またさ…歌いたくなっちゃったんだよね…」
- 40 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月25日(火)21時14分59秒
市井は歌うことが大好きです…
みんなの前で歌うことが…
だから…
また…歌いたいんです…
それを胸を張って言える日が…
いつか…
来るといいな…
来年…
2001年のクリスマスは、どんな気持ちで迎えているのかなぁ…?
- 41 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月25日(火)21時15分56秒
『マッチ売りの少女? 〜LIGHT MY FIRE〜 』 完
- 42 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月25日(火)21時19分08秒
- クリスマス特別短編でした。
本当は前スレの残りで収めたかったのですが…
最近、やることなすこと全て裏目だ…鬱
- 43 名前:ハロプロくん 投稿日:2001年12月25日(火)21時24分39秒
- ヽ^∀^ノ 一応ラスト隠し!!そんな必要がある作品だとは思わないけどね…
- 44 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年02月18日(月)09時43分53秒
46 小川麻琴 おがわ まこと
投手 2000年ドラフト3位 新潟県出身 左投げ左打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 勝 負 S 投球回数 三振 防御率 年棒
1998年 -- - - - -- -- --- ---
1999年 -- - - - -- -- --- ---
2000年 -- - - - -- -- --- ---
通算 -- - - - -- -- --- 700
球種
ストレート(MAX145km/h) スライダー チェンジアップ
寸評
鋭く曲がり落ちるスライダーはキレ味抜群。
独特の担ぐようなフォームはダイナミックだが制球力にやや不安がある。
2軍スタートが決まりドラフト1位の松浦に遅れをとる形になったが、
先発・中継ぎともに人材不足でチャンスはある。
課題の制球力を磨いて1軍昇格を。
- 45 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年02月18日(月)09時45分17秒
48 高橋愛 たかはし あい
投手 2000年ドラフト5位 福井県出身 左投げ左打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 勝 負 S 投球回数 三振 防御率 年棒
1998年 -- - - - -- -- --- ---
1999年 -- - - - -- -- --- ---
2000年 -- - - - -- -- --- ---
通算 -- - - - -- -- --- 640
球種
ストレート(MAX133km/h) スクリュー カーブ シュート
寸評
ストレートは130km/h台前半だが制球力抜群の福田タイプ。
体の柔軟さを生かしたアンダースロー気味の変則フォームは大きな武器になる。
加えてテイクバック時の左手がバッターから見えずボールの出所がわからないため、
バッターはかなりタイミングが取りづらい。
ドラフト3位の小川同様2軍スタートだが、
ワンポイントでなら意外に早い昇格もあるかもしれない。
- 46 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月19日(火)07時46分28秒
- 期待しています。頑張ってください。
- 47 名前:モーヲタ家族33歳 投稿日:2002年02月25日(月)08時01分20秒
- 待ってましたよ。
もうすぐ実際のプロ野球も開幕するし、楽しみがどんどん増えてきますね。
頑張って下さい。
- 48 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年03月09日(土)23時41分12秒
9 保田圭 やすだ けい
捕手 1997年ドラフト12位 千葉県出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
2000年 ゴールデングラブ賞(捕手) 0回
2000年 ベストナイン(捕手)
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 75 189 46 4 18 0 .243 440
1999年 112 328 88 7 36 2 .268 1500
2000年 138 373 101 11 39 1 .271 3200
通算 325 890 235 22 93 3 .264 5400
寸評
昨シーズンはゴールデングラブ賞、ベストナイン、
市井とのコンビによる最優秀バッテリー賞と数々の賞を獲得。
リーグを代表する捕手に成長した。
高い盗塁阻止率、エラーと捕逸の少なさは素晴らしいがリード面に甘さが残る。
初の全試合出場だが小湊にスタメンマスクを譲ることもあり悔しい思いをした。
フルイニング出場のためには、もう一殻破りたい。
- 49 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年03月09日(土)23時44分43秒
27 ミカ Mika Todd
捕手 1998年入団 米国ハワイ出身 右投げ左打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 28 17 4 0 1 0 .235 1000
1999年 47 87 23 2 7 0 .264 1000
2000年 58 55 17 4 11 0 .309 1500
通算 133 159 44 6 19 0 .279 2300
寸評
昨シーズンは左の代打の一番手として随所でいい仕事をしてみせた。
ファーストやセカンドが守れる器用さもありキャッチングは悪くないが、
捕手としては致命的に肩が弱く昨シーズンは一度もマスクを被っていない。
小湊が現役を引退したが保田の壁は厚く大木の成長もあり苦しい立場。
パワフルな打撃に活路を見出したい。
- 50 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年03月09日(土)23時47分32秒
-
38 大木衣吹 おおき いぶき
捕手 1999年ドラフト5位 千葉県出身 右投げ左打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 -- -- - - - - --- ---
2000年 42 30 7 1 3 0 .233 600
通算 42 30 7 1 3 0 .233 1300
寸評
肩も強くバランスのとれた好選手。
昨シーズン前半戦は主に代打、後半戦はマスクを被る機会も与えられた。
2番手捕手の位置付けだが保田がリード面で殻を破れなければチャンスはある。
小湊直伝の大胆かつ的を絞らせないリードを武器にレギュラーを狙う。
キャッチングにやや難あり。
- 51 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年03月09日(土)23時49分07秒
40 紺野あさ美 こんの あさみ
捕手 2000年ドラフト8位 北海道出身 右投げ左打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 -- -- - - - - --- ---
2000年 -- -- - - - - --- ---
通算 -- -- - - - - --- 500
寸評
一発長打が魅力の強打の捕手。
野球偏差値が高く研究熱心。
独自で集めたデータを活用したリードは興味深い。
欠点は守備面で全体的に動作が緩慢。
数年後の正捕手挑戦に向け、まずはファームの正捕手を。
- 52 名前:モーヲタ家族33歳 投稿日:2002年03月14日(木)23時30分13秒
- 紺野がキャッチャーですか。
となると、新垣が「全ポジこなせるオールラウンダー」ですね。
同じ札幌出身の石黒&紺野のバッテリーが見たい!
- 53 名前:ヤグヤグ 投稿日:2002年04月11日(木)18時22分59秒
- 作者さん待ってますよ。
- 54 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年05月12日(日)23時10分10秒
1 石川梨華 いしかわ りか
内野手 1999年ドラフト10位 神奈川県出身 右投げ両打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 -- -- - - - - --- ---
2000年 49 108 28 0 7 1 .260 500
通算 49 108 28 0 7 1 .260 1200
寸評
3年前まではテニスをやっていたという異色選手。
チャーミーの愛称で親しまれ抜群の人気を誇る。
短期間で奇跡的な成長を遂げたが走攻守ともに、やはりまだ力不足。
特に守備面では失策が多く、一層のレベルアップが望まれる。
60から1への背番号の変更は首脳陣の期待のあらわれ。
ミートの巧さを武器に人気だけではないところを見せたい。
- 55 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年05月12日(日)23時11分16秒
2 辻希美 つじ のぞみ
内野手 1999年ドラフト9位 東京都出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 -- -- - - - - --- ---
2000年 56 252 58 16 28 10 .230 500
通算 56 252 58 16 28 10 .230 2000
寸評
チームNo.1のパワーを誇る大型?二塁手。
後半戦だけで16本塁打は立派だが低打率と3桁の三振ではトップバッター失格。
集中力に欠けるのか雑なプレーが多く56試合の出場でエラーは16個。
特に石川と組む二遊間は『ゲッツーの取れない二遊間』と揶揄される。
今シーズンから背番号が52から2に変更。
キング争いのダークホース。
- 56 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年05月12日(日)23時12分35秒
3 中澤裕子 なかざわ ゆうこ
内野手 1997年ドラフト4位 京都府出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
1998年 ベストナイン(三塁手) 2回(1998年、1999年)
1999年 最多勝利打点(17点) *1999年はファン選出
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 128 466 156 5 72 3 .335 1200
1999年 108 428 141 6 83 2 .329 4200
2000年 83 142 38 1 21 0 .268 7400
通算 319 1036 335 12 176 5 .323 8000
寸評
無類の勝負強さを持つハロプロの安打製造機。
膝のケガにより選手としては不本意な成績に終わったが、
監督としては後半戦の追い上げを演出しチームを2位に導いてみせた。
その立役者となった平家やりんね、飯田、矢口など、
伸び悩んでいた選手達を大きく成長させた手腕は高く評価できる。
戦力が整った今シーズン。
悲願の優勝に向けて、その手綱さばきが注目される。
- 57 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年05月12日(日)23時13分54秒
-
4 稲葉貴子 いなば あつこ
内野手 1990年ドラフト7位(近鉄)-1998年移籍 大阪府出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
1995年 ゴールデングラブ賞(二塁手) 0回
1996年 ゴールデングラブ賞(二塁手)
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 135 532 138 4 21 16 .259 2400
1999年 114 298 71 1 13 9 .238 3800
2000年 78 162 38 0 6 7 .235 3400
通算 927 3036 754 31 183 143 .248 3000
寸評
ハーフスイングやデッドボールのパフォーマンスでお馴染み。
出塁に対して貪欲な姿勢は若手野手のいいお手本。
若干の衰えは感じるが攻撃的でダイナミックな守備はあいかわらず見応えがある。
柴田や辻、石川の台頭で出番は減りつつあるが、
優勝争いの中ではベテランの経験が必要な場面は必ずくる。
今シーズンから内野守備走塁コーチも兼任。
- 58 名前:ヤグヤグ 投稿日:2002年05月13日(月)18時39分01秒
- ま、待ってて良かった。
本編の方も期待して待ってます。
- 59 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月30日(木)23時22分11秒
- もう1周年過ぎてましたね。おめでとうございます。
のんびり待ってますよ〜。
- 60 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時06分27秒
- 第6話 たんぽぽ 〜愛、届いてますか?〜 の続きです。
- 61 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時08分06秒
一瞬、目の前で何が起こったのか把握することができなかった。
夢でも見ているんじゃないだろうか?
それとも、もしかして交信中?
あっ、そうか!?
そういえば…
自分の打席がどんな状況でまわってくるのかシミュレーションしてたんだっけ…
そうだそうだ!!
そうだった!!
良かったぁ〜!!
そうだよね…
そんなわけないじゃん…
この場面で、後藤が…
そんな…
ねぇ…
まったく悪い冗談だよ。
もうカオリのバカ!!バカ!!
こんな縁起でもない場面を想像するなんて…
もう後藤に対して変な対抗意識はもたないって…
ただチームのために自分の力を尽くすんだって…
そう誓ったのに…
未熟な自分をしばし責めつつ、
今、目にしたものが自分の空想の産物であったことにホッと胸をなでおろした。
- 62 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時09分26秒
- …のも束の間だった。
突然、球場全体が大きなどよめきにつつまれた。
驚きと落胆のいりまじった大音量。
それは振動となり地面を伝わって五臓六腑に染みわたってくる。
キューッと内臓がしめつけられるようなイヤな感覚。
それは夢や空想の世界の中では決してあじわうことはできない。
状況を把握すべく慌てて周囲を見回した。
三塁ベース上には石川がキツネにつままれたような表情で立っている。
電光掲示板に目を移すとアウトカウントの赤いランプが2つに増えていた。
そしてオーロラビジョンには先ほどのシーンのリプレイが映し出される。
思いがけない結果に思わず後藤を仰ぎ見る横浜キャッチャーの谷繁さん。
再び球場全体が大きなどよめきにつつまれた。
今度のは驚きより落胆の度合いが強い。
信じられない結末を受け止めたファンの悲痛な叫び。
再び内臓を襲うイヤな感覚に、さすがにあたしも現実を受けいれるしかなかった。
- 63 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時10分47秒
「ゴメン、カオリ…
後藤…
また三振しちったよ…」
打席から引きあげてきた後藤は、そうあたしに声をかけてきた。
どこかおどけたような物言いながら淡々とした口調。
そして能面のような無表情からは悔しさなんて微塵も感じない。
面倒くさそうにバットを肩にかつぎ、まるで他人事とでも言わんばかり。
そんな、いつもと変わらない後藤の姿にあたしは少しホッとした。
『体の具合でも悪いんじゃないのか?』って心配になっていたからだ。
しかし、この様子なら心配はいらないようだ。
確かに2打席連続、それも得点圏に走者を置いて見逃し三振なんて後藤らしくない。
見慣れない光景だったし、打って当然ぐらいの感覚でいたから動揺もした。
だが、普通に考えれば別に不思議なことじゃないではないか。
自分も含め、みんな後藤に過剰な期待をかけすぎているのだ。
そう…
なんでもない…
別になんでもないことなんだよ…
後藤だって三振はするんだ。
よくよく思い出してみれば…
広島の黒田さんに3打席連続空振り三振なんてこともあったじゃん。
その時だって後藤は今みたいに何食わぬ顔をしていたじゃないか。
思わず笑ってしまった。
なんだかんだいって後藤を強く意識している自分がなんだか滑稽に思えたのだ。
- 64 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時12分05秒
「どうしたのカオリ…?」
意味もなく笑いだしたあたしに後藤は、そう問いかけてきた。
ヤバイ!?
このままじゃ、また変な人だと思われちゃうよ!!
なんとか笑いを堪えようとしてみたのだが、
堪えようとすればするほど顔に締まりがなくなり笑いがこみあげてきた。
「アッハハハ…なんでもない、なんでもない。
けほっ…
本当に…なんでもないから…
アハッ…アハハハハッ…
けほ、けほっ…」
『なんでもない』とかいいながら、
咳き込むほど笑い続けているあたしは、どこからどう見ても変な人だった。
今となってはもう、なんで笑っているのか自分でもよく分からない。
- 65 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時13分33秒
「大丈夫?」
あたしの背中に後藤の手が触れた。
不意をつかれたあたしは思わずドキッとした。
こんなに間近に後藤を感じることは少ない。
なんだか気恥ずかしかった。
後藤は咳き込むあたしの背中を優しくさすってくれた。
背中から後藤の体温が…
いや…
後藤の優しさが…
伝わってきた。
なんだか幸せな気分だ。
なんて優しい娘なんだろう…
そう…
誤解されやすいんだけど…
いい奴なんだ…
後藤真希って…
ず〜っと、このまま幸せな気分を味わっていたかった。
しかし、そういうわけにもいかない。
このままこうしていたら思わず後藤をギュッと抱きしめたくなりそうだ。
そうなったら、確実に変人扱いされてしまう。
それに何より、もうバッターボックスに向かわないといけない。
- 66 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時14分48秒
「ありがとう…後藤…
大丈夫だから…
カオリもう行かなきゃ…
なんとか…石川を返さないとね…」
その瞬間、後藤の手が止まった。
「そう…
そうだね…」
ふっと一瞬、後藤の表情が曇った。
気のせいかもしれないが…
背中を通して伝わってくる後藤の体温が1〜2度下がったような気がした。
マズイ!!
カオリのバカっ!!
なにげなく発した言葉だった。
他意はない。
しかしデリカシーが足りなかったように思う。
後藤を傷つけてしまったかもしれない。
「ゴメン…
カオリ、そういうつもりで言ったんじゃないよ…」
慌てて後藤に謝罪した。
しかし後藤は、もういつもの仮面を取り戻していた。
- 67 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時16分05秒
「へっ?
何が…?」
後藤は『何がなんだか分からない』とでも言いたげに首を傾げた。
こんな時、後藤のことがちょっと憎らしくなる。
『バカっ!!
無理すんなっ!!』
思わず、そう叫びたくなったがやめた。
そんなこと言ってもおそらく無駄だろう。
後藤の仮面は外れない。
後藤の仮面は周囲の雑音や多大なプレッシャーから身を守るための防具だ。
チームの命運を一手に担う孤独な戦士の心の拠り所の一つなのだ。
結果に一喜一憂することなく、
常にクールにストイックに自分の役目を果たすために絶対に必要なものなのだ。
簡単に手放すわけがない。
チームのために後藤はそれだけの覚悟をしている。
その尊い意志を土足で踏み荒らすようなことができるわけがない。
そんな資格なんてないんだ。
長い間、4番失格と呼ばれ後藤の重荷になってきたあたしには…
「ううん…
別になんでもない…
ごめんね後藤…
カオリちょっと勘違いしたみたい…」
結局、あたしは後藤に口裏をあわせることにした。
そんな自分を情けなく思うが、今はしかたがない。
でも…
- 68 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時17分19秒
「変なカオリ…
じゃあ…後藤もう行くからさ…
悪いけど…
がんばって…」
後藤は鼻をフッと鳴らして苦笑いの表情をつくると、
激励の言葉を残してダッグアウトに向かって歩き出そうとした。
あたしはそんな後藤の背中に向かって思いきって声をかけた。
「後藤!!
みんなでがんばろうね!!
みんなで力を合わせてがんばろうね!!」
その声に足を止めた後藤が振り返った。
そして、あたしの目をしばらく見つめた後、一回宙を見上げると、
「うん…
ありがとう…」
ボソッとそう言ってニコッと笑いかけてくれた。
よかった。
本当によかった。
最後に思いきって声をかけてみて本当によかった。
後藤はあたしの想いを汲み取ってくれたんだ。
あたしもニコッと後藤に微笑みを返し打席に向かおうとしたその瞬間。
微笑みをたたえた表情の後藤の瞳から…
一粒の涙がこぼれ落ちた。
- 69 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時18分36秒
「あのバカたれっ!!」
目の前を一陣の風が横切っていった。
一死三塁という絶好のチャンス。
そこで打席に立ったあの娘は見逃しの三振に倒れた。
それを見届けた瞬間。
紗耶香は、ものすごい勢いでブルペンを飛び出していった。
打てなかったこと自体は仕方がない。
3割打者でも10打席の内、7打席は凡退なのだから。
『天才!天才!』と騒がれ期待を寄せられる選手だって例外ではない。
チャンスに抜群に強かろうが、
相手投手をどんなにカモにしていようが10割は打てないのだ。
したがって、凡退したことであの娘を責めるのは酷というものだろう。
しかし、今日のあの娘の凡退は違う。
内容が、あまりにも悪い。
らしくない。
ただの凡退では片づけられない何かがある。
だからこそ紗耶香はブルペンを飛び出していったのだ。
昨シーズン、あの娘が喫した三振は50個足らず。
スラッガータイプの打者では非常に優秀な数字だ。
そして、そのほとんどが空振りの三振。
見逃しの三振は、1割程度だろう。
- 70 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時19分41秒
あの娘の打撃理論は、いたってシンプルだ。
『来た球を打つ!!』
実に単純明解。
バッテリーとの駆け引きなどまったくと言ってもいいほど考えていない。
逆に、あれこれ配球を考えると打てなくなる。
考えすぎるとバットが振れなくなってしまうタイプなのだろう。
『なんとなくカーブ』
『たぶんストレート』
そのレベルであの娘には充分なのだ。
そうして適当に狙い球を定めると、あの娘は初球から思いきって振っていく。
実にいいかげんだが、これがバカにならない。
霊感が強いせいなのかよく分からないが、これが結構当たってしまう。
まったくバッテリー泣かせのバッターだ。
そして、狙い球が外れてもあの娘には関係ない。
投じられたボールに体が自然に反応する。
カーブが来たらカーブにストレートが来たらストレートに体が反応する。
- 71 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時20分55秒
まさに究極のバッティング。
脱力感さえ感じるゆったりした構え。
そこから弾かれたようにバットが一閃される。
このとき水辺であくびをしていたカバは、しなやかな女豹に変身するのだ。
そんなあの娘だから裏をかかれるなんてことは、まずない。
見逃し三振が少ない理由は、そこにある。
『それなのに…』である。
するはずのない見逃し三振。
しかも2打席連続。
最後に見逃したボールは、きわどいコースではなかった。
ホームランにできそうな甘いボールだってあった。
それなのに、あの娘は一球もバットを振らなかった。
まるで…
打つ気がまったくなかったかのように…
- 72 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時22分04秒
たまにあるようだが柄にもなく配球を読もうなんて考えていたのだろうか?
可能性は、なくもない。
でも、おそらく違うだろう。
あの娘の身に野球どころではない何かアクシデントが起こっているのだ。
そして、それは肉体的なアクシデントではない。
メンタルな部分だろう。
あたしの憶測の域を出ないのだが…
きっと…
あの娘と紗耶香の間で何かがあったのだ。
珍しいあの娘の訪問。
その時の異様なテンション。
ふと見せた寂しげな横顔。
それらを思い浮かべながら、あたしは自分の中でそう解答を導きだした。
そして思った。
あの娘が、このままの状態なら…
この試合…
負けることになるだろう…
- 73 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時23分24秒
まさにどしゃ降りだった。
ボロボロ、ボロボロとめどなく降ってくる。
当然ながら後藤の顔には、もはや笑顔はない。
鼻をすすり顔をくしゃくしゃにしながら嗚咽をもらしている。
こんな後藤は初めて見た。
「ちょっと後藤っ!!
どうしたのっ!?
具合が悪いのっ!?
ねえ後藤っ!!
後藤っ!!
どうしたの後藤っ!?」
突然のことにパニックに陥ったあたしは何度も何度も後藤の名前を呼んだ。
しかし後藤は、あたしの問いかけには応えず、
「ゴメン…
ゴメン…
本当にゴメン…」
そう何度も何度も、まるで取りつかれたように呟いている。
そうこうしている間に後藤の嗚咽は尋常なものではなくなってきた。
ビクッビクッとまるでひきつけをおこしているかのように体を震わせている。
なんだかよく分からないが、これはヤバイ。
- 74 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時24分27秒
-
「ごっちんっ、どうしたのっ!?」
ネクストバッターズサークルの吉澤が駆け寄ってきた。
「飯田さんっ!!
ごっちん、どうしたんですか?
ごっちんっ!!
ごっちんっ!!
どうしたのっ!?」
日頃から後藤と仲がよい吉澤は必死で後藤の体を揺すり呼びかけをおこなう。
しかし、やはり後藤は『ゴメン、ゴメン…』と呟きながら嗚咽をもらすのみ。
これでは埒が明かない。
「吉澤っ!!
とにかく人を呼んでっ!!
心配なのは分かるけど、ずっとこうやっているわけにはいかないでしょ?
カオリは打席に立たないといけないし、吉澤はその次なんだから。
後藤はダッグアウトに運んで裕ちゃん達にまかせよう」
動揺する吉澤の姿を見ることで却って冷静になれたあたしはそう判断した。
それがベストだと思った。
状況が状況だけにあたしだって後藤のことは心配だ。
しかし、今は勝負に徹しなければいけない局面だ。
チームの4番として今あたしが求められていることは、
三塁ランナーの石川を返すことなのだ。
- 75 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時25分31秒
あたしの胸の中に崩れ落ち、今もなお体を震わせ泣き続ける後藤。
自分が不甲斐なかった。
カオリがしっかりしなきゃ…
まだ若い後藤1人に背負わせてはいけないんだ。
誰1人として悲しませたりなんかしなんだ。
大好きなみんなを守るのはリーダーの役割なんだから。
選手会長で4番のカオリの役割なんだから。
そうだよね…?
和田さん…
裕ちゃん…
でっかいカオリがでっかい愛でみんなのことを…
守ってあげられるようになりたい…
いまだ泣き続ける後藤を他のメンバーに預けると、
あたしは決意も新たにバッターボックスへ向かって歩き出した。
- 76 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時26分39秒
場内は多少ざわついていた。
ダッグアウトに運ばれていく後藤の様子がオーロラビジョンに映し出されたためだ。
そして、それだけではない。
打席に立つあたしに対する不安の声。
もちろん純粋に応援してくれる声もある。
しかし、聞こえてくるのは圧倒的にため息だ。
残念なことだが、しかたがない。
これは、みんなの期待を裏切り続けたことに対する報いなのだ。
あたしはチャンスに弱い。
プレッシャーを力に変えることができない。
それは自覚している。
昨シーズンのあたしの得点圏打率は.236。
後半戦に頑張って巻き返した結果がこれで前半戦にいたっては1割台だった。
さらに過去の成績をみるとルーキーイヤー、2年目ともに1割台。
通算でも、やはり1割台。
3年連続シーズン100三振以上のおまけまでつく。
これで『期待してくれ!!』と言っても誰が信用してくれるだろう?
- 77 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時27分56秒
チームのことなんておかまいなしで一発を狙い、
奇異な言動でグラウンド内外を騒がす変わり者。
そんなあたしに対する風当たりは強い。
メディアによるさまざまな批判。
スタンドからの痛烈な野次。
そういうものに以前のあたしは耐えられなかった。
批判に晒される自分を見つめ直すこともせず、
差し出してくれる手もはね除け、心を閉ざしてしまった。
『見返してやりたい』
ただその一念が自分の心の支えになり、
そんなあたしは完全に自分を見失ってしまった。
どれだけチームに迷惑をかけたことだろう?
- 78 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時28分54秒
今、あたしは強くならなければいけない。
全てを受け止められる強さを…
プレッシャーや雑音に負けない心の強さを身につけなければいけない。
今までのあたしはあまりにも弱すぎたのだ。
体ばかり大きいくせに芯が弱く、ふにゃふにゃしていた。
タンポポの花のように強くなりたい。
心の底からそう思う。
どこにだってあるし目立たなくて、なんてことない花。
それがタンポポ…
でも、強さに満ち溢れている花なのだ。
地中深くにしっかりと根を生やし、強い風に吹かれようが、
強い雨にさらされようが、決して負けることなく咲き続けるのだ。
どんなに辛い環境だってがんばって根を伸ばして咲き続けるのだ。
あんなにちっちゃいのに偉いと思う。
カオリも見習わなくっちゃいけないよね…
- 79 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時30分02秒
チームにとって自分はタンポポの根っこのような存在であればいいと思う。
きれいに咲き乱れるあの娘達を支え最後まで守ってあげたい。
やがて実りを迎え空に舞うあの人の力になりたい。
それでいい…
縁の下の力持ちでいいんだ。
自分がきれいに咲かなくてもいい。
真っ赤に咲き誇るバラでなくていいんだ。
左バッターボックスの中。
昂ってくる気持ちを抑えながら、いつもと同じ手順でアドレスを決めていく。
ここは単打でいいんだ…
ホームランなんていらないんだよ…
ね?カオリ…
バットは一握りほど余して持った。
- 80 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時31分19秒
ごっちんは少し落ち着きを取り戻していた。
時々しゃくり上げるようなことはあるが、尋常ではないひきつけはおさまり、
こちらの問いかけにも少し応じられるようになっていた。
一時は『救急車を呼ぼうか?』という感じになっていたので安心した。
「急に…めまいがして…
訳…わかんなくなっちゃって…」
ごっちんは中澤さんの『どうしたん?』という問いかけにそう答えた。
あたしはそれを聞いて胸が痛くなった。
ごっちんは、おそらく体調が悪いのにずっと無理をしていたのだ。
そうに違いない。
それでなければあんな凡退を繰り返すようなごっちんではない。
ごっちんが欠場すれば打線に大きな穴が空く。
当然、チームに迷惑がかかる。
だから、ごっちんは無理をしたのだ。
バットが振れないほど辛いのにも関わらず。
あたしは親友が苦しんでいるのにまったく気がつかなかった。
こんなになるまで頑張らせてしまった。
まったく情けなかった。
ふと思った。
開幕戦であたしがエラーした時…
矢口さんもこんな気持ちだったのかな…?
- 81 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時32分42秒
「吉澤っ!!
おまえ、こんなところにおったらアカンやろっ!!」
怒気をはらんだ中澤さんの声にハッと我に返った。
自責の念のあまりに少々ボーッとしてしまっていたらしい。
5番を打つあたしは本来ネクストバッターズサークルにいなければならない。
飯田さんにもそう念押しされたのだが、あたしはそれを守らなかった。
どうしてもそこまで割り切ることができなかったのだ。
このままごっちんを残していくことが、どうしようもなく心配だった。
「吉澤っ!!」
いつまでたっても腰を上げようとしないあたしに再び中澤さんの声がとんだ。
先ほどより強めのトーン。
その表情からは苛立ちがありありと見てとれる。
とりあえず返事だけはしたものの…
それは、まさに生返事。
あたしはベンチから腰を上げることができなかった。
今すぐ席を立ち、ネクストバッターズサークルに向かわなくてはいけないのに…
今が大事な局面で勝負に集中しなくてはいけない時だというのは分かっている。
このままここに居たら確実に中澤さんに怒られるのも分かっている。
そこまであたしもバカじゃない。
ちゃんと分かっているのだ。
でも体が動かない。
まるで体が強力な磁石になってしまったかのようにビクともしない。
- 82 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時33分35秒
「吉澤っ!!
おまえ、ええかげんにせぇよっ!!」
生返事を返したまま立ち尽くすあたしに3度目の怒声がとんだ。
中澤さんは、もうほとんど『現役』そのものの面構えで、
いきなり胸ぐらを掴まれても全然おかしくないぐらいだ。
ヤバイっ!?
「まぁまぁまぁ、裕ちゃん…
ちょっと落ち着いてよ」
いよいよ腰を浮かしかけた中澤さんとあたしの間に矢口さんが入ってくれた。
矢口さんは中澤さんにパチッと軽く一つウインクを投げかけた。
まるで『オイラにまかせといて』と言っているようにも見えた。
するとどうだろう?
驚いたことに中澤さんは素直にそれに従った。
浮かしかけた腰を降ろし、再びごっちんの顔を覗きこむ。
やっぱり矢口さんはスゲェっす!!
そぅ〜とぅ〜頼りになるっす!!
矢口さんは、あの中澤さんから絶大な信頼を受けている。
そんな人が自分の教育係であることが誇らしかった。
あたしより頭一つ分ほど小さい矢口さんの体が大きく見えた。
- 83 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時34分48秒
「あのさーよっすぃ〜、
ごっつぁんなら矢口達にまかせておけば大丈夫だからさー
なんたって矢口は天才だから、キャハハハッ」
そう言って、けたたましく笑うと矢口さんは胸を張ってみせた。
はっきり言って説得力はない。
ないのだが、あたしの気持ちはずいぶん楽になった。
この場にふさわしくないあの笑いは、きっと意識的なものだろう。
そのキュートな笑顔と細やかな配慮に、あたしの不安感は若干薄らいだ。
矢口さんは、ちゃんと分かってくれている。
あたしとごっちんのことを…
ごっちんのことが心配で席を立てないのを理解してくれているのだ。
心配なのは、やまやまだけど…
矢口さんになら…
そう思い、腰をベンチから浮かせかけたその時。
「熱があるわけやなさそうやな…
後藤…どうや?
この後、行けそうか?」
ごっちんの額と自分の額に手を当てたまま、
きわめて事務的な口調でそう言ったのは中澤さんだった。
- 84 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時35分49秒
ごっちんの顔を見つめるその視線は鋭く冷たい。
氷のように冷たい。
これなんだ!!
この瞳なんだ!!
ごっちんに向けられた中澤さんの視線から来る不安感。
それこそが、あたしの体をベンチに縛りつけていたのだ。
どうして?
どうして…
いつもそうなんですか…?
なんであなたは、いつもごっちんのことをそんな瞳で見つめるんですかっ!?
中澤さんに対してあたしが密かに抱いている一つの疑惑。
それは思い過ごしなんかではないのかもしれない…
- 85 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時37分28秒
「ちょっとっ!!
止めてくださいよっ!!
無理に決まっているじゃないですかっ!!
バットも振れないんですよっ!!」
自分でもびっくりするほどの剣幕になってしまった。
気をつけたつもりだったが、どうやら理性より感情のほうが勝ってしまったようだ。
これでは中澤さんの神経を逆撫でするだけで終わってしまう。
と思ったのだが、意外なことに中澤さんはまったく動じなかった。
今までの流れからするとボロクソ怒鳴られてもおかしくはないのだが、
まったくそんな様子はなかった。
ただ、ごっちんに向けていた冷ややかな視線をゆっくりとあたしに移すと、
「なんや…
おまえは、まだこんなところにおったんか…?」
と静かな口調で、あたしにそう問いかけてきた。
たちまち周りの空気がピーンと張りつめる。
この身を削がれるような感覚にゾワゾワと鳥肌が立った。
自身に向けられた淡いブルーに彩られた無機質な瞳に思わず息をのむ。
圧倒的な威圧感の前にあたしは言葉を失った。
今まで中澤さんに感じていた恐怖感とは比べ物にならない。
日頃、怒鳴られている時に感じる恐怖感などお遊び程度のものだったのだ。
- 86 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時39分02秒
ふと、矢口さんの言葉を思い出した。
『あれでも昔に比べれば、ずいぶん丸くなったんだよ。
昔の裕ちゃんは全然あんなもんじゃなかったんだから…
オイラ達もよく泣かされたもんさ。
そのたびに圭ちゃんと紗耶香と3人でバカヤローって叫んだりしてさ…』
中澤さんに怒られてヘコんでいるあたしに矢口さんは、そんな話しをしてくれた。
その時、あたしはさらに怖い中澤さんの想像がまったくつかなかったのだが、
今まさに矢口さんの語る『最恐』の中澤さんを体験しているのかもしれない。
そして、昔を懐かしみ嬉々とした表情の矢口さんは、こうも語った。
『でもさ…
よっすぃ〜には裕ちゃんのこと嫌いにならないでほしい…
今は、たぶんすごくムカツクと思う。
矢口だってムカツいたもん。
でもね…
違うから…
裕ちゃんってそういう人間じゃないから…
今は分からないかもしれないけど、
よっすぃ〜にもきっと分かる日がくるから。
オイラが保証するからさ…』
そんな矢口さんの言葉を信じればこそ、
時に心に芽生える疑惑も摘み取ることができていたのだが…
- 87 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時40分02秒
「よっすぃ〜っ!!
いいから早くっ!!
オイラにまかせとけって言ったろっ!!
早くしないと…
矢口だって怒るときは怒るんだからなっ!!」
あたしの腰にしがみついた矢口さんは、
あたしを中澤さんから遠ざけようと必死だった。
グラウンドへ押し出そうと力を込めるのだが、あたしはひたすら耐えてみせた。
矢口さんを困らせるようなまねなど本当はしたくない。
でも、あたしがここを離れたらごっちんはどうなる?
今の中澤さんには矢口さんですら意見できないのではないだろうか?
そう考えると、どうしても矢口さんに体を預けることができなかった。
自分がこの場にいても何もできないのに…
- 88 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年06月27日(木)01時41分21秒
ねぇ、矢口さん…
あたしにはどうしても分かりません…
あの人は…
どうしてごっちんのことをあんなに冷たい瞳で見るんですか?
どうしてごっちんには優しくないんですか?
みんな気づかないのかもしれないけれど、いつもそうなんですよ。
ごっちんのことが嫌いなんでしょうか?
それでなければ…
あれが優しさだとでも言うんですか?
矢口さんには分かりますか?
あたしには分からないだけなんですか?
あたしは今どうしたらいいんですか?
矢口さん…
ねぇ、矢口さん…
矢口さんの必死の声が響く中、あたしはその場にただ立ち尽くしていた。
- 89 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年06月27日(木)01時42分42秒
7 飯田圭織 いいだ かおり
内野手 1997年ドラフト7位 北海道出身 右投げ左打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
2000年 ゴールデングラブ賞(一塁手) 0回
2000年 ベストナイン(一塁手)
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 135 511 123 19 69 7 .241 540
1999年 136 522 122 31 76 9 .234 2800
2000年 138 498 151 25 80 6 .303 4600
通算 409 1531 396 75 225 22 .259 7600
寸評
昨シーズン、前半戦はあいかわらずの扇風機だったが後半戦は大変身。
ミート打法が冴え渡り打率が急上昇、初の打率3割をマークした。
今シーズン自身が掲げた目標も『3割100打点』と『愛と平和』?で、
精神的な成長も見受けられる。
3番の後藤がチャンスで歩かされるケースが多いだけに、
その変身が本物かどうかがチームの優勝の鍵を握る。
真の4番へ挑戦のシーズン。
- 90 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年06月27日(木)01時43分59秒
-
8 矢口真里 やぐち まり
内野手 1997年ドラフト11位 神奈川県出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
2000年 ゴールデングラブ賞(三塁手) 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 101 358 79 2 16 18 .221 440
1999年 136 538 131 3 28 21 .243 2000
2000年 138 505 150 5 64 16 .297 3800
通算 375 1401 360 10 108 55 .257 6000
寸評
昨シーズンは中澤負傷後のサードに定着し大きく飛躍した。
特に打撃面での成長はめざましく惜しくも3割は逃したが得点圏打率、
勝利打点とも後藤に次ぐチーム2位の成績を残した。
雪辱を誓う前田との激しいポジション争いが予想されるが、
せっかく奪ったサードは絶対に渡せない。
チームのムードメーカーは今シーズンからキャプテンへ。
もう、ただの便利屋とは呼ばせない。
- 91 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年06月27日(木)01時45分03秒
25 柴田あゆみ しばた あゆみ
内野手 1998年ドラフト5位 神奈川県出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 88 164 41 0 7 0 .250 600
2000年 118 286 72 0 15 2 .252 1500
通算 206 450 113 0 22 2 .251 3000
寸評
出場試合数も伸び、着実に成長はしているのだがレギュラー定着まで至らない。
8番セカンドに固定されたかと思いきや、後半戦は辻にセカンドを奪われ、
ショートも石川・稲葉・北上らと併用になり尻すぼみのシーズンになった。
打撃も意外に勝負強く非力なところを除けば欠点らしい欠点もないのだが、
首脳陣に対する印象が薄いのだろうか?
師匠の稲葉のような派手さはないが守備は巧い。
丁寧なグラブ捌きで安定感があり、柴田へ飛んだ打球は安心して見ていられる。
巨人の仁志にゴールデングラブを奪われたのも印象度の問題か?
- 92 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年06月27日(木)01時46分28秒
26 前田有紀 まえだ ゆき
内野手 1999年ドラフト2位 高知県出身 右投げ左打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 -- -- - - - - --- ---
2000年 78 73 16 0 2 0 .219 1000
通算 78 73 16 0 2 0 .219 1500
寸評
ポスト中澤を期待された社会人の星もプロの壁にぶつかった。
中澤負傷で得たチャンスにまったく打てず矢口にポジションを奪われる屈辱。
結局、木製バットに対応しきれないままシーズンを終えた。
守備は超一流でレギュラーに定着しさえすればゴールデングラブ賞は確実。
背番号1を自ら返上。
思い入れのある26番を背負い今シーズンに賭ける。
- 93 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月28日(金)14時14分52秒
- 更新の量にかなりびっくりしました。
一気に修羅場みたいで、よっすぃー・いちごまはどうなるのかな。
- 94 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月28日(金)14時26分36秒
- 連続で、しかもこんな質問ですいません。
69は市井、70〜72が明日香主体の文と読んでいいんでしょうか。
次の更新を楽しみにしています。
- 95 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時08分39秒
「ゴメンっ!!」
突然その場に響いたのは振り絞るような後藤の声だった。
後藤は両手のひらでゴシゴシと涙をぬぐった後、
数回鼻をすすりあげるとよっすぃ〜に語りかけた。
「ゴメン…よっすぃ〜
あたしは大丈夫だから…
本当に大丈夫だから…
ねっ」
くぐもった声でそれだけ言うと後藤はアハッと笑ってみせた。
泣き腫らして真っ赤になった目。
同じく何度もすすりあげて真っ赤になった鼻。
涙でぐちゃぐちゃになった後藤のせいいっぱいの笑顔。
痛々しい笑顔。
こんな様子では、よっすぃ〜でなくても心配になる。
正直なところ、あたしだって『もう休ませてあげたい』って思ってしまった。
さきほどの裕ちゃんの言葉に一瞬のとまどいもあった。
あたしにも、よっすぃ〜の気持ちは分かるのだ。
でも、それとこれとは話しが別だ。
あたし達には今、それぞれ果たさなければいけないことがある。
後藤のことは裕ちゃんを信じて任せればよい。
そうだろ?
なっ、大丈夫だよな?
ねぇ…
裕ちゃん…?
- 96 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時11分38秒
「ほら…
ごっつぁんもああ言ってるだろ?
さあ…よっすぃ〜」
もう一度、グラウンドに出るように促してみたのだが、
よっすぃ〜はゆっくりと首を横に振った。
後藤本人のせいいっぱいの呼び掛けもよっすぃ〜には届かなかったのだろうか?
いや、決してそんなことはない。
よっすぃ〜の心は今、激しく揺れている。
その証拠によっすぃ〜の体からは、ひどく力が抜けていた。
今なら、あたしの力でもグラウンドへ押し出すことができそうなぐらいだ。
今まで押してもビクともしなかったのに…
言うまでもなく、よっすぃ〜の暴走は親友である後藤のことを心配してのものだ。
しかし、その想いは逆に後藤に余計な心配をかけさせることになってしまった。
その現実によっすぃ〜は大きなショックを受けているのではないだろうか?
『これ以上、親友の重荷にはなれない』という想いと、
『それでも親友のことを守りたい』という想い。
そんな2つの想いが強いレベルでぶつかりあって答えが出せずに、
進むことも退くこともできなくなってしまっているのではないだろうか?
あたしは裕ちゃんからよっすぃ〜のことを任された。
信頼されて任されたはずだ。
だからこそ、裕ちゃんはよっすぃ〜には見向きもせず後藤に意識を集中させている。
あたしは、その信頼に応えなければならない。
というか応えたい。
はずなのに…
せっかくのこのチャンスにあたしは…
行き場を見失って立ちつくすよっすぃ〜の腰にしがみついたまま、
一歩も足を踏み出せなくなってしまった。
- 97 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時13分50秒
その瞬間、あたしの体に衝撃が走った。
今あたしは、よっすぃ〜以上に動揺しているかもしれない。
それゆえに、あたしはよっすぃ〜のことを突き放しきれなくなってしまっていた。
心の整理は、つけていた。
一瞬わいたよっすぃ〜への同情も振り払う覚悟ができたところだったのだ。
いくら相手がよっすぃ〜でも裕ちゃんの意志のほうを尊重しようと決めた。
それが愛のある行動だと信じて涙を飲んで事に当たるつもりだった。
しかし、それができなくなってしまった。
愕然たる想い…
それが今、あたしの心と体を支配している。
不信感まではいかないし、ましてや失望でもない。
ただ…
分からなくなったのだ。
ちょっとばかりショックだったのだ。
- 98 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時15分16秒
クールで大人びた雰囲気を持つよっすぃ〜はしっかりもので手がかからなかった。
今まであたしを困らせたことなどなかったし、
裕ちゃんから注意されることも一番少ない。
ドラフト1位入団でルーキーイヤーからいきなり5番に座るような逸材だから、
技術的な部分であたしなんかが教えるところもほとんどなく、
ぶっちゃけ教育係の中であたしは一番楽をしていた。
たまに突然奇声をあげたり、奇行におよんだりするのがタマにキズだが、
辻加護の大暴走や石川のネガティブっぷりに比べればカワイイものだ。
そんな優等生のよっすぃ〜にあたしは何度となく裕ちゃんの話しをした。
他の3人に比べ素直で大人の彼女なら分かってくれるだろうという前提で…
『自分と同じ過ちをさせたくない』
『裕ちゃんを守りたい』
よっすぃ〜は、そんなあたしの想いを受け取ってくれた。
実に素直に…
そして、はっきりとあたしにこう言ったのだ。
『矢口さんがそこまで言うなら…
信じてみます…
中澤さんのことを…
吉澤も信じてついていきます…』
だから、あたしは安心していた。
どんなことがあってもよっすぃ〜は大丈夫だとタカをくくっていた。
- 99 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時22分14秒
ところがどっこい。
よっすぃ〜は裕ちゃんに楯突いてみせた。
あたしはずっと今まで、
『後藤のことを守りたいという強い想いがよっすぃ〜を暴走させている』
と、そう信じこんでいた。
だって、あたしと約束したのだから…
でも、違うのだ。
話しはもっと単純なのだ
単に、よっすぃ〜は裕ちゃんに強い不信感を持ったのだ。
残念なことに…
だから、よっすぃ〜は裕ちゃんに対してここまで食い下がっている。
遅ればせながら今になってようやくその事実に気がついた。
- 100 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時23分12秒
あたしは忘れていたのだ。
よっすぃ〜が、ものすごく気を遣う娘だっていうことを。
開幕戦のあの一件だって、そうだった。
よっすぃ〜は少し自分を偽るのだ。
だが、そこには『人に合わせておこう』などという八方美人的な思惑はない。
気遣いに基づく我慢なのだ。
しかも、その我慢には悲愴感が漂わない。
潔いというか、なんというか…
執着心やこだわりといったものが希薄なのかもしれない。
今にして思えば、あの約束はあたしに対する気遣いでしかなかったのだろう。
よっすぃ〜も他の娘達と同様、現時点では裕ちゃんを理解できない。
多少のショックはあるのだが、よっすぃ〜のことを責めるつもりはない。
むしろ気遣いが足りなかったのを謝らなければいけないぐらいだろう。
本人は納得してるつもりでも、やはり我慢はよくない。
無理していないつもりでも無理しているのは事実だし、
それがこの間のように本人が傷つくようなことになっては目も当てられない。
エゴを表に出してくれない分、実は一番手がかかる娘かもしれない。
改めてよっすぃ〜には、もっと気を遣ってやるべきだと思い知った。
- 101 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時24分11秒
よっすぃ〜のことは、あたしの中できちんと消化されていた。
要因の一つではあっても、原因ではない。
むしろ…
裕ちゃんなのだ。
あたしが大きなショックをうけたのは…
愕然とした。
言い過ぎかもしれないが少し裏切られたような気分になった。
あれではよっすぃ〜が楯突いてみせるのも仕方がないのかもしれない。
あたしは見てしまったのだ。
なにげなく振り返ったその一瞬…
裕ちゃんの顔を…
後藤のことを見つめる裕ちゃんの瞳は、
あたしがどうしても好きになれなかったあの瞳だった。
まるで虫けらでも見るかのような無機質で冷たい瞳。
あたしが裕ちゃんのことを誤解するきっかけになったあの瞳だったのだ。
- 102 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時25分01秒
何だよ…
何だよっ!!
何なんだよっ、裕子っ!!
その瞳はっ!!
その顔はっ!!
まるで…
まるで昔の裕ちゃんじゃんかっ!!
あたしの心はざわついた。
もう2度と裕ちゃんは、あんな瞳であたし達を見ることはないはずだったのだ。
裕子のバカヤローっ!!
そんな顔するからいけないんだからなっ!!
ダメだよ…
もう…
裕ちゃんはそんな顔しちゃダメなんだよぉ…
- 103 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時25分50秒
あたしが尽力してきたのは裕ちゃんのフォローだけではなかった。
裕ちゃん自身に変わってもらおうといろいろ努力もしたのだ。
いくら『裕ちゃんを信じろ!!』って叫んでも根拠がなければ誰も信じない。
その根拠をつくりたかったのだ。
最初は苦労した。
なんといっても裕ちゃんは頑固だ。
自分の信念を簡単には曲げてくれない。
加えて人見知りする質も手伝ってか、
裕ちゃんは、なかなか自分をさらけだしてはくれなかったのだ。
あたしの笑い声だけが虚しく響く日が続いた。
それでも、あたしは諦めなかった。
どうしてもみんなに裕ちゃんの魅力を知ってほしかったのだ。
やがて、あたしの熱意に根負けしたのか、裕ちゃんの反応に変化がおとずれた。
はしゃぐあたしを冷ややかに見つめていたのが苦笑に変わり、
しまいには大爆笑になった。
これが、また楽しそうに笑うのだ。
完全にツボにはいった時には涙まで流して笑う。
そして…
とろけてしまいそうなほど優しい瞳を向ける。
『アホちゃうかっ!!
でも…
それ、めっちゃ好き…
矢口はオモロイな〜』
いつもは威圧的な響きを持っていた関西弁が、嘘のように優しく耳に届いた。
- 104 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時26分54秒
そして徐々に裕ちゃんは変わっていった。
いや、本当の裕ちゃんを見せてくれるようになったというのが真実だろう。
その時々の心情がちゃんと表情や言動にあらわれるようになったのだ。
実に人間臭い、さまざまな表情を見せてくれるようになった。
無表情・無関心・高圧的…
それらは指導者としての自分を保つために必要なものだったのかもしれない。
心を許せば隙が生まれ、その隙は甘さにつながる。
それが裕ちゃんには許せなかったのかもしれない。
不器用で真面目な人なのだ。
でも、あたしはもっとゆとりがあってもいいと思うのだ。
厳しさだけでは人の気持ちはつかめない。
例え、その裏にあるものが愛だとしてもだ。
恐怖支配に対する従属という図式は、どうしても人の心に陰をつくってしまう。
得する人間なんて1人もいない。
一番、傷ついていたのは裕ちゃんだったのだから…
『矢口ぃ〜っ』なんて抱きついてくるお茶目な裕ちゃん。
イマイチ似てない田村正和のモノマネを激しくツッコまれ、すねる裕ちゃん。
あっちゃんやみっちゃんのボケに鋭いツッコミをいれる裕ちゃん。
心苦しそうな表情を隠そうともせず辻加護を叱る裕ちゃん。
そんな裕ちゃんのほうが人はついてくるはずだ。
それを…
分かってもらえたと思っていたのに…
- 105 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時28分07秒
不器用な人だけに最初はとまどいもあったようだが、
裕ちゃんもまんざらではないように見えた。
無理をしている様子はなかったし、
締めるところはきちんと締めていて理想的な状態だったように思う。
それでも、後輩達からは怖がられてしまっていたのだが…
昔の裕ちゃんを知るあたし達からすれば『片腹痛い』ってところだが、
言葉遣いやイメージってものもあるし、仕方ないのだろう。
でも、ずっとこのままの裕ちゃんでいてくれれば時間が解決してくれる。
そう思っていたから、あたしはよっすぃ〜達に声高に叫んできたのだ。
『裕ちゃんを信じろ』と…
なんにも心配などしていなかった。
ところが、この事態である。
あの瞳に、よっすぃ〜はまんまとやられてしまった。
あたしの努力は無駄になってしまったのだ。
裕ちゃんが分からなくなった。
なんで、あんな瞳で後藤を見つめるのだろう?
自分を傷つけてまで今、あそこまでしなければならない理由は何なのだ?
まさか、本気でこの後も後藤を出場させるつもりなのだろうか?
それに…
結局、あたしの想いなんて届かなかったのだろうか?
変わってくれたと思っていたのに…
あたしのおふざけにちょっとつきあっていただけなのだろうか?
優しい人間だと思っていたのは、あたしの勘違いなのだろうか?
本当は、やっぱり血も涙もない人間なのだろうか?
あの時…
あたしが見た裕ちゃんの姿は…
幻だったのだろうか…?
- 106 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時29分06秒
だんだんムカっ腹が立ってきた。
裕ちゃんに対してでも、よっすぃ〜に対してでもない。
ウジウジ悩む自分自身にだ。
どうした矢口っ!!
オイラの裕ちゃんへの忠誠はそんなものだったのかよーっ!!
これしきのことで不安になってどうするっ!!
ドンといこうぜーっ!!
キャハハハハッ!!
無理矢理だって構わない。
こんな時には、やはり自信を持つしかないのだ。
裕ちゃんは、まちがっていない。
オイラだって、まちがっていない。
みんなも、きっと分かってくれる。
今の状態から前に進むには、そうするしかなかった。
裕ちゃんがあくまで毅然とした態度をとるのなら自分もそれに従おう。
それは絶対に愛のある行動のはずだし、自分もそうだ。
よっすぃ〜、ダメだよ…
今は試合に集中するんだ…
オイラ達はプロなんだから…
後藤は裕ちゃんに任せろ。
絶対に大丈夫だ!!
あたしは、よっすぃ〜の腰に回した腕に少し力をこめた。
- 107 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時31分15秒
よろよろと2〜3歩後ずさりする形になったよっすぃ〜は下半身に力をこめ、
再び抵抗をこころみた。
「よっすぃ〜っ、いいかげんにしろっ!!」
咄嗟にあたしは声を張り上げた。
よっすぃ〜に対して怒鳴ってみせたのはこれが初めてだった。
ビクッと体をひるませたよっすぃ〜は、意外そうな顔であたしを見つめる。
あたしは、そんなよっすぃ〜の顔をキッとにらみ返した。
「オイラの言うことが聞けないのかっ!?」
無理矢理上げたテンションのせいか、思ったよりキツイ口調になっていた。
ふだん絶対に見せることのないあたしの姿に、よっすぃ〜は動揺を隠せない。
あたしの質問には答えずに、眉を下げ苦しそうな表情で首を横に振り、
ただイヤイヤを繰りかえすのがせいいっぱいのようだった。
下半身から力が抜け、バランスを失った上半身がグラグラ揺れる。
今のオイラは、よっすぃ〜の目にどう映っているんだろう?
そんな疑問が頭を少しよぎったその時…
後藤の声が響いた。
「やぐっつぁんもやめてよ…
お願いだからさ…」
- 108 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時32分10秒
後藤は意を決したような表情で裕ちゃんに向き直ると、ゆっくりと口を開いた。
視線はまっすぐ裕ちゃんに向けられている。
「ゴメン…
後藤は、これ以上出らんないよ…
みんなには申し訳ないんだけど…」
後藤は自分でケジメをつけようとしていた。
まっすぐ裕ちゃんと向き合い、結論を導き出そうとしていた。
これ以上の迷惑をかけないために…
今まで後藤に鋭い視線を投げかけ、
無気味なまでの沈黙を守っていた裕ちゃんは軽く頷きながらその話しを聞いている。
「きっと…
きっと、これ以上の迷惑をみんなにかけちゃうと思うから…」
後藤は最後にそう結ぶと一瞬、視線を足下に落とした。
そして、ゆっくりと顔を上げると裕ちゃんの返答を待った。
裕ちゃんは、そんな後藤をあいかわらずの鋭い視線でしばらく見つめていた。
- 109 名前:ハロプロくん 投稿日:2002年07月07日(日)03時33分23秒
「よっしゃ…
分かった…
それなら今日は、もうロッカールームで休んどき」
瞳を閉じ、ふ〜っと息を一つはいた後、裕ちゃんはそう答えた。
その瞬間、よっすぃ〜の体からガクッと力が抜けた。
瞼を閉じ大きく息をはきだすよっすぃ〜の表情は放心状態という感じだった。
心底、安心したのだろう。
それは、あたしも同じだった。
依然としてすっきりしない部分もあるが、とりあえずホッとした。
自分にかかってきた体重になんとか堪えながら、
あたしはよっすぃ〜に語りかけた。
「ほら…
もう大丈夫だろ?
さぁ、行こうかよっすぃ〜」
疲れきった表情のよっすぃ〜は、今度は小さく頷いてくれた。
ネクストバッターズサークルに向かって歩き始めたあたし達の背中の方で、
裕ちゃんのテキパキとした指示が飛ぶ。
「北上っ、後藤をロッカールームへっ!!
それから村田っ!!
おまえはキャッチボールの準備せぇっ!!」
3番にセンターで村田さん…?
頭の上に一瞬、疑問符が浮かんだのだが、
とりあえずあたしはよっすぃ〜とその場を離れた。
- 110 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年07月07日(日)03時35分42秒
36 北上アミ きたがみ あみ
内野手 1999年ドラフト4位 北海道出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 -- -- - - - - --- ---
2000年 50 58 14 0 3 1 .241 800
通算 50 58 14 0 3 1 .241 1300
寸評
バントなどの小技を得意とし強肩で外野もこなす貴重なバイプレーヤー。
本職のショートは石川・稲葉・柴田とライバルの多い激選区で、
その中で打撃面・守備面とも若干見劣りする印象は否めない。
攻撃型のオーダーを組む傾向の監督では難しいかもしれないが、
自身の能力を生かせる2番への定着が生き残りの鍵か?
左投手には意外に強い。
- 111 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年07月07日(日)03時37分25秒
55 尾見谷杏奈 おみたに あんな
内野手 1999年ドラフト7位 広島県出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 -- -- - - - - --- ---
2000年 -- -- - - - - --- 500
( 91 318 70 14 51 7 .220 )
通算 -- -- - - - - --- 540
寸評
入団記者会見をわかせたビッグマウスも一軍昇格はなし。
ファームでは5番に定着し14本の本塁打を放つなど成長はしているが、
一軍で活躍している同期とは大きな差がついた。
目標は『(一軍に昇格して)三冠王』とあいかわらず血気盛んで、
一軍昇格のチャンスを得るため今シーズンからは外野にも挑戦する。
強烈なリーダーシップの持ち主だがワンマンに走る傾向あり。
- 112 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年07月07日(日)03時48分37秒
- >>93、94
タブーとされる視点変更を多用してるくせに分かりにくくてすみません。
69〜72が明日香視点になっています。
いちごま修羅場は、もう少し先になりそうです。
メール欄の件は、あまりお気になさらずに…
ほんのお遊びなので…
- 113 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月08日(月)20時16分34秒
- 再開されてる〜。嬉しいです!
市井ちゃん、まさか…。
ゆっくりお待ちしてますんで、頑張って下さい!
- 114 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月13日(火)12時53分13秒
- 待ってますよ〜
- 115 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月19日(木)00時30分15秒
- まだ進まないんですか〜
- 116 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月19日(木)00時38分30秒
- age ないように!作者さんが気を悪くする怒!
- 117 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
- 川o・-・)ダメです…
- 118 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月18日(金)23時38分40秒
- ここまできて放棄とは、もったいなさすぎる。
- 119 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年10月20日(日)22時44分06秒
0 加護亜依 かご あい
外野手 1999年ドラフト3位 奈良県出身 右投げ左打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 -- -- - - - - --- ---
2000年 78 268 78 3 38 7 .291 800
通算 78 268 78 3 38 7 .291 2200
寸評
ハロプロ随一のクセ者。
走・攻・守に安定した力を発揮し外野の一角を見事につかんだ。
洞察力にすぐれ相手の隙をついた好プレーでたびたびチームを救ったが、
大振りやサインプレーのミスなども多く、いまいち信用がおけない。
今シーズンから『中澤攻撃野球』の鍵を握る2番へ。
大技・小技を駆使して3番後藤へつなぐ重要な役割を果たしたい。
- 120 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年10月20日(日)22時45分01秒
5 後藤真希 ごとう まき
外野手 1998年ドラフト1位 東京都出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
2000年 最多打点(108打点) 1回(2000年)
2000年 ゴールデングラブ賞(外野手) *ファン選出
2000年 ベストナイン(外野手)
2000年 最多勝利打点(16点)
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 58 238 81 21 58 14 .340 1000
2000年 138 480 155 37 108 19 .323 3200
通算 196 718 236 58 166 33 .329 7800
寸評
2年目のジンクスをはねのけ誰もが認めるスタープレイヤーに成長した。
前半戦を終えて打撃3部門でトップに立ち三冠王の期待も高まったが、
後半戦は四球攻めで数字が伸びずタイトルは打点王だけに終わった。
チャンスに強く走・攻・守と三拍子そろった完璧な選手だが、
時折、手抜きともとれる覇気のないプレーも目立つ。
もっと『自分がチームを引っ張っていくんだ!!』という自覚がほしい。
当然、今年も三冠王候補。
- 121 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年10月20日(日)22時47分07秒
6 新垣里沙 にいがき りさ
外野手 2000年ドラフト4位 神奈川県出身 右投げ両打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 -- -- - - - - --- ---
2000年 -- -- - - - - --- ---
通算 -- -- - - - - --- 640
寸評
テスト採用ながら4位指名、信田の背番号6を受け継ぐなど評価は高いようだ。
特筆すべきは、俊足と全ポジション守れるという守備だが、
走塁技術はプロレベルに達しておらず、守備も不安定な印象をうける。
体力面の強化、走・攻・守のレベルアップと課題は山積みだが、
うまく化ければなかなか固定しきれないトップバッターの候補になる。
まずはファームのトップバッターに。
- 122 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年10月20日(日)22時48分12秒
10 吉澤ひとみ よしざわ ひとみ
外野手 1999年ドラフト1位 埼玉県出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
2000年 ゴールデングラブ賞(外野手) 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 -- -- - - - - --- ---
2000年 91 308 86 26 66 4 .279 1000
通算 91 308 86 26 66 4 .279 3200
寸評
体調不良による調整遅れで2軍スタートとなり批判にさらされたが、
1軍合流後は期待通りの活躍で見事に借りを返してみせた。
大きな放物線を描くホームランは田淵氏(元阪神-西武)を彷佛とさせる。
守備面もメジャー級の強肩で1年目からゴールデングラブを受賞。
目標とする秋山(西武-ダイエー)に近付くには走塁面を磨きたい。
不敗神話の続く後藤との『よしごまアベックアーチ』でチームを引っ張る。
- 123 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月21日(月)22時51分32秒
- 待ってました!これからも頑張ってください♪
- 124 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月24日(日)17時54分19秒
- 頑張ってくらさい
- 125 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)21時50分29秒
ダッグアウト内には困惑の空気が漂いはじめていた。
裕ちゃんが村田にキャッチボールを命じたのが原因だ。
体調不良で途中退場の後藤に代えて3番センターにいれるつもりなのだろうが、
どう考えたってそんな起用はありえないであろう。
センターで村田を起用することについては理解できなくもない。
俊足を生かした村田の外野守備はチーム1と言っても差し支えはないからだ。
ゴールデングラブ受賞者である後藤の穴を埋められるのは、無論、彼女しかいない。
だから、ゲームも終盤で逃げきりを計る場面であるなら、なんの異論もない。
しかし、状況が違う。
ゲームはまだ中盤だし、ウチは3点のビハインドを負っているのだ。
ガッツ溢れるプレーでファンを魅了する守備に反して村田の打撃はお粗末の一言だ。
非力なくせに辻も顔負けのアッパースイングで、
上体は突っ込むはヘッドアップはするわで思わず目を覆いたくなる。
あれだけ足が速ければそれを生かしたバッティングを考えてもよさそうなものだが、
諦めているのか割り切っているのか分からないが、まったくその兆しはない。
- 126 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)21時51分30秒
- 普通に考えれば、ここは大谷なのだ。
その能力は村田と正反対で鈍足で守備はお粗末だが、
打撃に関してはチームの中でもトップクラスの技術を持っている。
もしセ・リーグに指名打者制があれば、まちがいなくその座についているだろう。
きれいなヒットを打ちたがるこだわりタイプで、
スランプに陥ると、あれこれ悩んで不振が長引くのとチャンスに弱いのが難点だが、
安定した下半身を生かした粘り強いバッティングは確かなものだ。
加護をレフトからセンターへ回し、大谷をレフトへ入れる。
守備面で1つ大きな穴が開くが3点差を追う展開ではこれがベストなのだ。
それなのに…
裕ちゃんは、いったいどういうつもりなのだろう?
裕ちゃんらしくもなく、この試合を諦めてしまったというのだろうか?
- 127 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)21時52分27秒
- 「ちょ〜っと待ったぁ〜っ!!」
すっかり意気消沈してしまった感のあるこの場には場違いとも思える快活な声。
自然とみんなの視線が、その声の主に集まる。
あたしは、その人物にわざわざ視線を送る必要などなかった。
なにせ、その声はこれ以上ないくらい至近距離で響いたからだ。
自分の隣に座っている人物など確認するまでもない。
声の主は、裕ちゃんだ。
やや不敵な笑みを浮かべた裕ちゃんはベンチからすくっと腰を浮かすと、
大谷を連れ立ってダッグアウトを出ていこうとする村田に歩みよっていく。
「アホっ、村田っ!!
相手が違うっちゅうねんっ!!」
いきなりのことに訳が分からず顔を見合わせる大谷と村田。
あたしにもまだ、何がなんだか訳が分からない。
「なぁ、しのちゃん…」
クルッと振り返ると裕ちゃんはあたしに右手を差し出した。
そして、どこか思いつめたような表情であたしに言った。
「悪いけど、あたしのグラブ取ってくれへん?」
その言葉を聞いた時、あたしは全てを理解した。
実のところ…
勝ちにいくためには村田ではなく大谷を出場させるのがベストではない。
本当に勝ちにいこうとするなら、大谷ではダメだ。
裕ちゃんの考えは、こんなところだろう。
レフトの加護をセンターへ回し、レフトへはサードの矢口を回す。
そして空いた3番サードには…
そう、裕ちゃんが入るつもりなのだ。
- 128 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)21時53分15秒
- このチームを打で引っ張ってきたのは、まちがいなく後藤真希だ。
普段は、居るのか居ないのか分からないくらい存在感がなく、
とてもこれが今をときめくスター選手とは思えない。
どこか冷めたようで闘争心を表に出すことなどなく、
やる気があるのかどうかさえも疑いたくなってしまう。
そんな後藤からはチームを率先して引っ張っていこうという意志は感じない。
むしろ、どこか外側からチームを観ているような感じすらする。
以前のあたしのように…
しかし、そんなことは関係ない。
彼女には神憑かり的な打棒がある。
それは人々の心に強い印象を与え、自然と己の存在感を示すことができる。
本人にそのつもりがなくてもだ。
開幕戦も2戦目も後藤の一打で流れを引き寄せた。
小宮山さんからの同点弾がなければズルズルとやられていたかもしれないし、
バワーズからの初回先制打がなければあんな楽な展開にはなっていない。
カオリも圭ちゃんもそれぞれ役割を果たそうと頑張っているのは認めるが、
残念ながらまだ真の意味でチームを牽引できていない。
今シーズンからキャプテンに任命された矢口にしても同様だ。
後藤のつくった流れに便乗させてもらっている感が強い。
言葉だけでは伝わらない。
プロは全てを結果で示さなければならないのだ。
- 129 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)21時54分20秒
- 後藤の途中退場は他の選手にメンタル面で大きな影響を与える。
もうそれだけで試合を諦めてしまう選手がいてもおかしくはない。
中盤のたかだか3点差にもかかわらずだ。
それだけこのチームの選手達の後藤への依存心は強い。
確かに単純な打棒といった面では大谷である程度の穴は埋められるかもしれない。
しかし諦めムードを払拭しうる存在には到底なりえない。
本当に勝ちにいくなら…
その存在感、打棒でゲームの流れを変えられる人間が必要だ。
そして、そんな人間は今のこのチームには1人しかいない。
2年連続で打撃ベストテン3位。
何度もチームを救った抜群の勝負強さ。
誰もが認める技術と実績に加えて不屈の精神力も合わせ持つ。
そんな彼女の言葉には選手達の心を揺さぶる重みがある。
その言動で、何よりその打棒でチームを牽引していける人間。
意気消沈した選手達の希望になりうる唯一の存在。
それが中澤裕子だ。
- 130 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)21時54分56秒
- でも…
だからといって『じゃあ、裕ちゃん頼んだわよ』というわけにはいかない。
いくわけがない。
「しのちゃん早く!!
体をほぐす時間がなくなるやんか」
差し出された手を見つめたままのあたしに催促の声。
と同時に裕ちゃんは急かすようにさらに手を伸ばしてきた。
視線を上げると、やや苛立った様子の裕ちゃんの顔がある。
あたしが、なぜグラブをすぐに渡そうとしないのか分かっているのだろう。
「ここで…
裕ちゃんが出ていく必要なんてあるのかな?
大谷を使えば済むことなんじゃないの?」
我ながら馬鹿げた質問をしたものだと思う。
裕ちゃんが何を考えているのかなど今さら聞くまでもない。
それに、ややデリカシーが足りなかったようだ。
裕ちゃんは不安げに村田の隣で立ち尽くしている大谷をチラッと見やると、
「大谷は…
ここぞの場面のために残しておきたい。
大事な代打の切り札やからなっ」
やや声高にそう言った。
なんとも裕ちゃんらしい気遣いだ。
それが裕ちゃんの良さではあるが監督としての弱点でもあると思う。
- 131 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)21時55分45秒
- 「どうやら…
しのちゃんは、あたしが後藤の代わりに試合に出るのが気に入らんらしいなぁ…」
ジロッと裕ちゃんの鋭い視線があたしに注がれた。
いつもの威圧することを目的としたそれとは少し違う。
強い決意を秘めた瞳。
信念を貫き通すことに微塵の迷いもない人間のまなざし…
あたしは思わず視線を逸らしてしまった。
「誰も…
そんなこと言ってないじゃないの…」
それだけ口にするのがせいいっぱいだった。
もちろん裕ちゃんが怖いわけではない。
裕ちゃんの瞳が語るものに圧倒されたのだ。
あたしには裕ちゃんに意見する資格などない。
そう思いしらされた。
『勝利』
ただ、その2文字のために裕ちゃんは覚悟を決めたのではない。
それ以上の裕ちゃんにとって大切なもののために覚悟を決めているのだ。
- 132 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)21時56分20秒
- 『勝ちたい…
優勝したい…
みんなと同じ選手という立場で一緒に最高の喜びを分かちあいたい…
だから…
もう1年…
そのためには何でもするよ。
みんなに嫌われることもあるかもしれん。
でも、それでも勝つことにこだわっていきたい…』
昨シーズン、公式戦終了直後のことだ。
あたしにヘッドコーチへの就任を要請する際、
裕ちゃんは現役へのこだわりと優勝という目標への熱い想いをそう語った。
いわゆる勝利至上を打ち出したわけだが、
実際のところ徹底しているとは言えない。
口や態度では厳しく非情に徹しているつもりでも、その采配には甘さがある。
開幕戦のなっちと先ほどの松浦の続投。
ミートは確かにうまいが、みんなより技術の劣る石川の重用。
問題児加護の2番起用とその接し方。
例を挙げていけばキリがない。
今日、スタメン落ちした辻と、さっきの大谷に対するフォローもそうだ。
実力がなければ淘汰されていく世界で甘さは禁物。
自分の置かれている立場を充分に認識させることこそ重要で、
相手を傷つけない配慮の言葉など無用だろう。
何事も成果を得るためには犠牲はつきもの。
勝利至上を掲げるなら、さらなる厳しさが必要だ。
勝つために最適なオーダーを組み勝つために最適な采配をすればよい。
3番後藤、4番カオリの打順も然りだ。
- 133 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)21時57分09秒
- 裕ちゃんが勝利だけに固執できず優柔不断な采配をするのは、
メンバーに対する愛情が足枷になっているからだ。
はっきりいって今の裕ちゃんにとって1番大事なことは勝つことではない。
大好きなメンバーを守ること。
これこそ裕ちゃんが1番気にかけていることなのだ。
その一念の前では、優勝という使命も些細な願望へとスケールダウンしてしまう。
でも…
それも仕方ないのかもしれない。
そのために裕ちゃんは死ぬほど嫌がっていた監督を引き受けたと言うのだから…
- 134 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)21時57分54秒
- 裕ちゃんが監督を引き受けた経緯のことは、
件のヘッドコーチ就任要請の時に初めて聞いた。
以前よりその不可思議な決断に多少の興味はあったが、
本人に直接確認することはなかったのだ。
思いがけず、その経緯について知る機会を得たわけだが、
裕ちゃんの気持ちはあたしにはさっぱり分からなかった。
正直、今でも分からない。
当時、球界を騒がせた衝撃の監督就任劇。
それは和田薫前監督の意志を継いだものだった。
そう裕ちゃんから聞いたとき、まずあたしは眉をひそめた。
和田薫という人物に対して胸に一物あったからだ。
今から3年以上も前になる。
最初に和田監督から選手会長を依頼されたのは、裕ちゃんではなくあたしだった。
思えば、それがケチのつきはじめである。
最年長であることに加え五輪代表の経験、パ・リーグでの実績、
そういうものが評価されたのだろうが、あたしはそれを丁重にお断りした。
冗談じゃなかった。
そんなやっかいごとを背負っている場合ではない。
あたしは絶対にハロプロで好成績を残さなければいけなかったのだ。
- 135 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)22時00分54秒
- 年齢による力の衰え、持病の椎間板ヘルニア、若手の台頭。
不遇の扱いの末、見切りをつけられ戦力外通告を受けた。
このままで終われるわけがない。
見返してやりたかった。
だから、他人に構っている余裕などなかったのだ。
もっとも、そうした背景がなくても、あたしは断っていただろう。
パ・リーグ時代にも選手会長等の経験は一度もない。
『やっぱ、おめぇさんが中心にならねぇといけねぇやな…』
当時、監督からそう指名を受けることもあったが、ことごとく断った。
選手会長などという役職など、なんの意味もない。
4番としての打棒さえ示せば、チームを勝利に導くことはできる。
事実、そんなくだらない肩書きがなくても当時あたしはチームを引っ張っていた。
- 136 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)22時01分38秒
- その後、『あくまでも外野手!!』とファーストでの出場を拒否したり、
途中交代に対して不満をぶちまけたり、和田監督との軽い衝突は度々あった。
『打って、守って、走る』
それこそ野球の面白さだと信じていたし、
それを実践した上でまだ結果が残せることを意地でも証明したかった。
そして、決定的な決裂は移籍1年目のシーズン終了後に訪れる。
あたしは和田監督からのコーチ兼任要請を断った。
『チームをことをまったく考えていない!!』
そう叫ぶや否や和田監督は、あたしを激しく罵倒した。
マスメディアで露出されるどことなくC調なイメージのキャラなどそこにはない。
選手達から鬼と恐れられるのが和田薫の真の姿なのだ。
散々、罵声を浴びせると一転、今度は切々と語りはじめる。
あたしの目を見据え熱っぽく語るのだが、
その『取り繕った熱さ』があたしには耐えられなかった。
チームのため…
将来のあたしのため…
そんな言葉は方便だ。
あたしは、あんたの手駒じゃない!!
あんたの成功のため、
延いては自己満足の手助けをするために野球をしているのではない!!
無性に腹が立って自然に拳に力がこめられるのを感じた。
あんたのその熱さはポーズなんだろう?
所詮、照れ隠しなんだろう?
- 137 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)22時02分31秒
- 和田監督の現役生活は華やかなものではなかったそうだ。
1軍と2軍をいったりきたりの生活を7年。
若くしてコーチ転身を勧められ、それを受諾。
その後、2軍守備走塁コーチ、2軍監督を経て、
野村体制の1軍守備走塁コーチに就任。
ヤクルトスワローズの黄金期を裏で支えた功労者と言ってもよい。
UFAグループに球団経営権が移り1軍監督に大抜擢。
大物監督を招聘するまでの繋ぎと目されてはいたが、
本人にとってはそうではなかっただろう。
なにせ初めて日の目を見るチャンスを得たのだから…
だから必死なのだろう。
でも、納得はいかない。
監督やコーチだって所詮は雇われ。
いつチームの不振を背負わされてクビになるか分からない。
悪いのは監督やコーチではないのに、理不尽な話しだ。
どんなに熱心に指導をしようが、情熱を傾けようがダメなものはダメなのだ。
名監督や名コーチが名選手をつくるような言い方をするが、そんな訳などない。
名選手になる人間には単なる素材の善し悪し以外に成功する下地がちゃんとある。
他人が下手に手を出さなくても、成功するものなのだ。
名選手になる人間を潰すことはあっても、その逆などない。
優勝だって力のあるプレーヤーが集まれば雑作もないことだ。
監督、コーチなんて、そんなものだ。
とても、選手としてプレーすることと同じ情熱を傾けられるものなどではない。
なのに…
どうして、あんたはそこまで熱くなる?
- 138 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)22時03分17秒
- あたしには考えられなかった。
あたしにとって野球はプレーできなければ意味がないものだ。
名選手を育てた気になったり、チームを優勝させたつもりになったり…
プレーできなくなった寂しさをそうやって紛らわせることなんてできない。
活き活きとプレーする選手達を指をくわえて見守るだけなんて残酷な話しだ。
愛する野球ではあるが…
あたしは現役を退いたら野球を捨てる。
あたしは野球しか知らない。
少女の頃から、ずっと一途にプロ野球選手になることだけを夢見てきた。
野球を取ったら何も残らない野球バカだ。
純粋な少女の心で夢を追い続けられるかけがえのない場所。
あたしにとってプロ野球は、そんな夢の世界だ。
だから、体がボロボロになるまで現役を貫き通す。
愛する野球を存分に味わいつくす。
そして、来るべき引退後は未練を残さず第2の人生を歩む。
そのつもりだった。
- 139 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)22時04分32秒
あたしは何故、ヘッドコーチへの就任を引き受けてしまったのだろうか?
たまに、そんなことを考える。
信念を曲げてまで自身の為にならないことに首を突っ込む必要などまったくない。
正気の沙汰とは思えない行動だった。
しかし、あたしは裕ちゃんの話しを最後まで聞き終えた後、
首を縦に振ってしまっていた。
目の前の裕ちゃんはその時、目を真っ赤に腫らしていた…
女の涙ってのは、どうやら本当に武器になるらしい…
- 140 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)22時05分24秒
あたしは裕ちゃんの想いに引っ張られてしまった。
なんとなく手を貸してあげたいという気持ちになってしまったのだろう。
裕ちゃんには、そんな人間的魅力が確かにある。
出会った頃の裕ちゃんは、『あくまで自分が大事だ』とよく公言していた。
あたしの代わりに選手会長に指名されても、
『チームをまとめる気なんて別にない』とあくまで自然体を強調していた。
当時の裕ちゃんも他人に構っている余裕などなかった。
ルーキーイヤーではあるが遅すぎるプロ入りだった裕ちゃんにとっては、
最初で最後のまさにラストチャンスともいえるシーズンだったからだ。
あたし同様、結果を残さなければ来シーズンの保証はない状態だった。
裕ちゃんの野球に対する姿勢は素晴らしい。
あたしのそれに全然、負けてなかった。
何より、何事も最後まで諦めない姿には頭が下がる。
守備においても打撃においても、
球際に強いプレースタイルはその不屈の精神力からくるものだろう。
裕ちゃんも結果を残すために何をすべきか知っていた。
日々、黙々とひたむきに白球を追い続けた。
裕ちゃんが本当に追っていたもの。
それは、まぎれもなくあたしと同じ『夢』だったに違いない。
あたしと裕ちゃんの2人による居残り練習は当時のキャンプの名物となり、
それは最終日まで続いたものだ。
- 141 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)22時06分03秒
- ずっと自分と裕ちゃんは似たもの同志だと思っていた。
しかし、少々違った。
裕ちゃんは実は弱い人間だった。
強気の態度は裕ちゃんの精いっぱいの虚勢だったのだ。
チーム状況がどん底の時期。
酒が入ると、裕ちゃんはよく愚痴をこぼした。
弱音をはいた。
テーブルの上に涙で水たまりをつくった。
それは普段、
若いチームメイト達には決して見せることのない本当の中澤裕子の姿だった。
正直、裕ちゃんがなんでそこまで思い悩むのかは分からなかった。
裕ちゃんが悩む必要などどこにある?
彼女は、これ以上ないというほどのパフォーマンスを見せていた。
当時、裕ちゃんは開幕からずっと高打率をキープしチームで唯一の3割。
横浜の鈴木尚典達と激しい首位打者争いを演じる活躍をしていた。
それだけの成績を残していて何を悩むのか?
言うまでもなく、チームが最下位を独走していたのは裕ちゃんのせいなどではない。
個々のメンバーの力不足のせいだ。
責任を感じる必要など何もない。
やるべきことはやっているのだから堂々としていればよい。
内心、そう思いながらそう酷なことも言えず、
あたしはただ裕ちゃんの愚痴に耳を傾けていた。
気の利いた言葉の1つもかけてやれない不器用な女なのだあたしは…
- 142 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)22時06分47秒
- 無関心を装いながら、
実はチームの不振を気にかけウジウジと思い悩んでいた裕ちゃん。
しかし、不思議とあたしはその姿に失望することはなかった。
とことんまで落ち込んだ次の日、
グラウンドには決まって早出で練習をこなす裕ちゃんの姿があった。
同じく早出で練習のあたしが来る頃には、もう汗びっしょりになっている。
相当、早い時間から始めていたのだろう。
裕ちゃんは決して諦めない。
どんなに打ちのめされても前に進もうとする。
確かに、裕ちゃんはあたしの嫌いなウジウジした弱い部分を持っている。
しかし、本当の強さも持ち合わせている尊敬できる人間だ。
だから、決定的に嫌悪感を抱くことはない。
むしろ、そのひたむきさに、その一生懸命さに手を貸してあげたくなってしまう。
どこか危なっかしくて放っておけない儚さが裕ちゃんにはある。
あたしがヘッドコーチをつい引き受けてしまったのは、
結局そういう裕ちゃんの情熱に絆されてしまったからなのだろう。
一度、首を縦に振ってしまったからには仕方がない。
正直、やりきれなさを感じることも多々あるが、とりあえずあたしはここにいる。
なんの目的意識もなく…
とりあえず1年。
しかし、その1年は気が遠くなるぐらいの長さに感じるだろう。
- 143 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)22時07分39秒
- あたしは裕ちゃんの膝が心配だった。
無理して守備について、
故障の再発でシーズンを棒に振らせるような最悪の事態を避けたかった。
代打専門でいいから裕ちゃんには現役最後の1年を悔いの無いものにしてほしい。
そういう気持ちがあったから、
勝利への最善策にも関わらず裕ちゃんの途中出場など考えもしなかったし、
いざ本人が出場の意思を示せば反対もする。
しかし…
今、裕ちゃんに見据えられているあたしは、はっきり言って動揺している。
裕ちゃんの瞳に宿る決意の揺るぎなさに圧倒されている。
自分の胸の内が裕ちゃんと違って一枚岩なものでないことが分かっているからだ。
あたしには裕ちゃんの決意に対抗するだけの想いはない。
あたしが裕ちゃんのことをこれだけ気にかけるのは、
裕ちゃんに対する気遣いからだけではない。
信念を曲げてしまった自分自身に対する言い訳が欲しいからだ。
だから、あたしはそれがグラウンドでプレーできない空虚さを埋める何かには、
決してならないことが分かっているにも関わらず裕ちゃんを気にかける。
- 144 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)22時09分01秒
- 正直なところジレンマもあるのだ。
そんなささやかな自己満足のために、
今のあたしは勝利に対する執念が薄れてしまっている。
自然と、ここでも1つ信念を曲げてしまっていることになるのだ。
今回の一件だけではない。
勝利のために、あたしから裕ちゃんに進言しなくてはならないことは山ほどあった。
しかし、その度にことごとくお茶を濁してきた。
それが裕ちゃんの信念に反することだと分かっていたからだ。
結局は裕ちゃんを傷つけない選択しかできないのだが、
身悶えせんばかりの葛藤があたしにはある。
一方、裕ちゃんは違う。
『愛すべき選手達を守る』
その信念を貫くためならば、その身を削る覚悟ができている。
実際、今までそうやって選手達のためにその身を削ってきた。
今の裕ちゃんは現役最後の1年を棒に振る危険を冒してまで、
このゲームを勝ちにいこうとしている。
それは単なる1勝のためではないのだ。
- 145 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)22時09分34秒
- 裕ちゃんには、この試合をどうしても落とせない理由がある。
後藤が途中退場したこの試合。
もし負ければメディアがどのように扱うかは想像に難くない。
『ハロプロ ゴマキ退場で大コケ!!』
『ゴマキ抜きで打線沈黙 三浦余裕の完封勝利!!』
等々。
暗に後藤がいないチームは骨抜きであるような報道がされるだろう。
まぁ、そう言われてもしかたがないのが現状だが…
今回、その種の報道で傷つく選手はたくさんいる。
ルーキーで初先発、立ち上がりの乱調で失点を重ねた松浦。
その松浦をリードした守りの要である圭ちゃん。
ムードメーカーでもあるキャプテンの矢口。
途中退場をしてチームに迷惑をかけた後藤。
4番で選手会長、チームの柱であるべきカオリ。
以上に限らず、各々がそれぞれ責任を感じて心を傷める。
それが耐えられないのだ裕ちゃんは…
- 146 名前:ヘッドコーチ信田美帆の逡巡 投稿日:2002年12月01日(日)22時10分13秒
- 裕ちゃんには悪いが…
個人的には正直、バカバカしい話しだと思う。
だってそうだろう?
プロ野球選手である以上、その種の攻撃などつきものだ。
確かに気分はよくないが、そんなもの無視すればよい。
なんなら結果を示して黙らせてやればよい。
そんなことで潰れる選手は所詮、そこまでの選手なのだ。
まったく過保護にも程があるし、
その甘さが選手達の精神的な成長をさまたげているとも言える。
そんなくだらないことで体を張ろうとする裕ちゃんはバカだ。
本当は言ってやりたい。
『もう止めろ!!』と…
でも、あまりにも真剣で…
あまりにも一生懸命で…
今のあたしなんかには何も言えない。
信念も何もなく、ただここにいるだけのあたしには何も言う資格などない。
裕ちゃんが望むことなら…
今のあたしは黙ってそれを見守るしかない。
- 147 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年12月01日(日)22時12分03秒
22 村田めぐみ むらた めぐみ
外野手 1998年ドラフト4位 宮城県出身 右投げ両打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 92 208 39 1 5 20 .188 740
2000年 100 168 36 1 6 28 .214 2000
通算 192 376 75 2 11 48 .199 2800
寸評
守備、走塁は素晴らしいが打撃がお粗末。
スイッチ転向もその打撃の性質は変わらず後半は代走・守備要員に成り下がった。
レギュラーに定着すれば、
盗塁王とゴールデングラブ賞は確実だけにもったいない素材。
スピード感とガッツ溢れるプレーにファン多し。
今シーズンこそ1番センターに定着を。
- 148 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年12月01日(日)22時12分48秒
24 大谷雅恵 おおたに まさえ
外野手 1998年ドラフト3位 北海道出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 106 304 83 16 44 0 .273 800
2000年 78 188 52 11 35 0 .277 2700
通算 184 492 135 27 79 0 .274 2600
寸評
打撃は素晴らしいが守備、走塁がお粗末。
昨シーズンは開幕6番スタートも吉澤、加護にレギュラーを奪われる形になった。
クリーンアップを打ってもおかしくない逸材ながら、
消極的でチャンスに弱く今一つブレイクできない。
今シーズンは代打の切り札的存在からのスタートになるが、
その打棒を発揮できればレギュラー奪回のチャンスはある。
- 149 名前:選手名鑑くん 投稿日:2002年12月01日(日)22時13分32秒
44 菊池亜衣 きくち あい
外野手 1998年ドラフト8位 静岡県出身 右投げ右打ち
獲得タイトル オールスター出場回数
なし 0回
年度別成績 試合数 打数 安打 本塁打 打点 盗塁 打率 年棒
1998年 -- -- - - - - --- ---
1999年 12 10 2 1 1 0 .200 500
2000年 14 18 4 0 0 0 .222 580
通算 26 28 6 1 1 0 .214 600
寸評
パワーとスピードを兼ね備えた長身外野手。
課題は走塁技術と守備力の向上。
特にプロデビュー戦で犯したサヨナラ悪送球以来のスローイング難は克服したい。
後輩の面倒見がよくファームのキャプテン的存在だが、
そろそろファームの4番は卒業して一軍定着を。
- 150 名前:名無し 投稿日:2002年12月02日(月)16時59分54秒
- 更新乙です
しかし、今年の日本シリーズはやる前から
結果が分かりきっていたからつまらなっかたな
- 151 名前:4番 ファースト 飯田圭織 投稿日:2002年12月08日(日)21時59分02秒
- 初球はインコース。
三浦さんは胸元にズバッと直球を投げ込んできた。
スピードガン表示に目を移すと球速は140km/hとのことだが、
とてもその程度のスピードには感じなかった。
今日の三浦さんは、とにかくストレートがいい。
この球威のあるストレートがあるから、
コーナーを丹念に突いてくる変化球がさらに威力を増している。
攻略が非常に厄介だ。
しかし、つけ込むスキはある。
唯一、スライダーのコントロールは甘い。
ゲーム開始直後に引っ掛かり気味でワンバウンドが多かったスライダー。
それを矯正しようと無意識のうちにボールを置きにいっているのだろう。
時々、オッ!?というような甘いボールがある。
実際、あたしが第1打席でヒットを打ったのが、その甘いスライダーだった。
みんなでスライダー狙いを徹底していけば必ず攻略できる。
そのはずなのに…
残念ながら、みんなの気持ちはまだ1つになっていない。
だから…
カオリが手本を見せなきゃいけないんだ。
こうすればいいんだよって、みんなを導いてあげなくちゃいけないんだ。
- 152 名前:4番 ファースト 飯田圭織 投稿日:2002年12月08日(日)21時59分39秒
- 結局、初球の判定はボール。
しかし、どうやらバッテリーにとっては計算ずくのボールだったようだ。
きわどいコースにもかかわらずマウンド上の三浦さんは顔色1つ変えない。
今の1球は、どのような意図で投げられたのかな?
以前のあたしなら、そんなこと絶対に考えたりしなかったのだが、今は違う。
やみくもにバットを振り回すだけでは良い結果は残せない。
配球を読み、狙い球をしぼってセンターを中心にコンパクトにバットを振り抜く。
それが、今のあたしのバッティングなのだ。
正直、物足りない気持ちはある。
目の前で、後藤が大きなホームランを打てば、
『よしカオリも!!』と、つい我を忘れそうになってしまうこともある。
しかし、そんな自分を制御しなければいけない。
自己満足だけのために、あたしはバッターボックスに立つのではない。
- 153 名前:4番 ファースト 飯田圭織 投稿日:2002年12月08日(日)22時00分36秒
- インハイへのストレート。
自分で言うのもなんだけど、あたしはこのボールに弱い。
でもさ、ちょっと言い訳させてほしいんだよね。
ほら、カオリって背が高いでしょ。
当然、リーチが長いからインハイが窮屈になるんだよね。
アウトコースは充分に届くから、ベースから離れたり工夫はしてるんだけど、
球威があるとボール気味でもつい手が出て空振りしちゃうんだよ。
だから…
まぁ、そういうことなんだけどさ…
たぶん、今の1球は様子見だ。
振ってくれたら儲けもの程度の。
だが、あたしは振らなかった。
別にボールだと判定できたわけではなく、
狙い球ではなかったから振らなかったのだが、この1球を我慢できたのは大きい。
バッテリーにだいぶプレッシャーをかけられたに違いない。
あたしのバッティングスタイルが変わったことは、
当然、バッテリーも意識はしているはずだ。
しかし、まだ半信半疑。
どこかで、まだ通用するはずだと考えていたはずだ。
カウントを悪くしたこと以上にダメージを受けているに違いない。
- 154 名前:4番 ファースト 飯田圭織 投稿日:2002年12月08日(日)22時01分15秒
- 2球目は落ちる球。
ストライクからボールになる絶妙のフォークだが、これも見逃しカウントノーツー。
バッテリーをより追い込むことができた。
今のボールもあたしの苦手なボールだ。
大好きな低めだと思って、喜び勇んで振りにいくと見事に空振りさせられる。
しかし、これも我慢できた。
初球をしっかり見逃せたことで、あたしは精神的に優位に立てたようだ。
苦手なボールも余裕をもって見逃すことができた。
さすがの三浦一谷繁のバッテリーも戸惑っているはずだ。
ホラ、分かったでしょ?
今のカオリは違うよ。
簡単に抑えられるバッターなんかじゃないんだよ。
だから…
正々堂々、勝負しなさい…
カオリと勝負しなさい…
- 155 名前:4番 ファースト 飯田圭織 投稿日:2002年12月08日(日)22時01分55秒
- 打者有利のカウントに持ち込んだところで、
スタンドからのあたしへの声援が大きくなってきた。
みんなが、あたしを応援してくれている。
4番のあたしに期待してくれている。
そう思うと、ますます気持ちが昂ってきた。
あたしは…
誰にも愛されていないのだと思っていた。
どんなに努力しても…
誰もそれを見てくれない。
誰もあたしのことなんて認めてくれない。
なっちや後藤のことを羨ましく思っていた…
でも、違うんだ。
今、この大歓声を受けて改めて思う。
期待をかけてもらうには成すべきことを成さねばならない。
なっちや後藤は高いレベルでそれをクリアしてきたが、
あたしにはそれができなかった。
今、あたしは少しだけ期待をかけてもらうことができるようになった。
昨シーズン後半より取り組んだ確実性のある打撃スタイルにより、
失った信頼を少しだけ取り戻すことができたのだ。
- 156 名前:4番 ファースト 飯田圭織 投稿日:2002年12月08日(日)22時02分33秒
- 努力は、初めて実を結んだ。
いや、実を結びつつある。
その充実感があるから、あたしは自分を抑えることができる。
もう決して道は踏み外さない。
こういう場面で1つ1つ確実に結果を残していけば、
本当の信頼を勝ち取ることができる。
みんなのことを守ってあげられる本当の4番バッターになれる。
カオリの未来は…
明るいんだ…
- 157 名前:4番 ファースト 飯田圭織 投稿日:2002年12月08日(日)22時03分17秒
- あたしは感謝しなければならない。
あたし1人では、到底ここまで辿り着くことはできなかったのだ。
感謝の気持ちを結果で示さなければならない。
それが、あたしを導いてくれた人達への唯一の恩返しだろう。
どんなにあたしが信頼を裏切っても、
見放さないでずっと見守ってくれていた人…
あたしが間違った道を進んでいた時も、
変わらずにあたしのことを愛してくれていた人…
4番バッターとしての心構えを説いてくれた人…
そんな人達の想いに報いるために…
カオリは今…
本当の4番バッターになります…
- 158 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時34分34秒
1998年 3月 一一
「コラ、待てっ飯田!!
話しは、まだ終わってないんだよっ!!」
奴は制止の声を無視して監督室を出ていこうとしたあたしの手を掴み、
グイッと思いっきり引っ張ってきた。
「痛いっ!!
ヤダっ、痛いって言ってんじゃんっ!!
放してよぉっ!!
カオリはねぇ、もう話すことなんてないんだからっ!!」
掴まれた手を振り解こうとブンブンと振ったのだが、
奴はその手により一層の力を込めると、
あたしの手を上方に一気にひねりあげてきた。
体が堅いあたしは、たまらず悲鳴をあげた。
「イタタタタタタタっ!?
無理、無理、無理、無理っ!!
分かったっ!!
分かったから放してよっ!!
ケガするじゃんっ!!」
本当に忌々しい。
赤子の手を捻るようなこの扱い。
超ムカツクっ!!
なんで!?
どうして、カオリはこんな扱いをうけなきゃならないの?
- 159 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時35分35秒
- 「いいか?
冷静になって、もう一度よく聞けよっ!!」
奴は、あたしを監督室の椅子に強引に座らせると、そう前置きした後で、
「明日から外野の練習をしろ!!」
あたしの目を見据え有無を言わさぬ表情でそう言った。
しかし、あたしはこれにすぐさま反発した。
「ヤダっ!!」
自分の意思を、これ以上ない簡潔な言葉で表現するとプイっとそっぽを向いた。
そんな理不尽な話しなど聞けるわけがない。
何度、言われようが絶対に嫌だ。
奴は、ふ〜っとため息を1つはいた。
その後、トントンとデスクを指で規則的に叩く音が響きはじめた。
何を考えているのだろうか?
お互いに言葉を発さぬまま、ただトントンという音のみがしばらくその場に響いた。
- 160 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時36分26秒
- 数分の後、トントンという音が急に止んだ。
「おい、こっちを向け飯田」
奴は、ようやくその口を開いた。
しかし、あたしは徹底抗戦の構えをくずさない。
そっぽを向いたまま奴に向き直ることはしなかった。
「飯田ぁっ!!」
苛立たしげに奴が叫んだ。
これにあたしはカチンときた。
あんたは怒鳴ることしか知らないのっ!?
怒鳴ったって無駄だよ。
カオリ、絶対にあんたの言うことなんか聞かないんだからね。
あたしは、無言で椅子を少し後ろに引くと体全体が横に向くように座り直した。
話し合いを完全に拒否する自分なりの意思表示だ。
奴は再びため息をはくと、そのまま押し黙ってしまった。
横っ面に奴の鋭い視線を感じた。
- 161 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時37分29秒
- 「そのままでいいから、とにかく聞け」
しばらくして、
相変わらず命令調ながら、やや優しげな声音で奴は語りかけてきた。
いっそのこと耳を手で塞いでやろうかとも考えたが、
さすがにおとな気ないような気がして止めた。
「あのな飯田、
おまえを外野へコンバートしようってのは信田のためだけじゃないんだよ。
おまえのためでもあるんだぞ」
フン、嘘ばっかり。
そうやって適当なこと言ってカオリのこと騙すつもりなんだよ。
そんなのに引っ掛かるカオリじゃないんだから。
「もったいないんだよ飯田。
おまえは、ファーストなんかじゃもったいない。
俺は、おまえの身体能力を高く評価してる。
足は速いし、肩も強い。
もっと、能力を生かしたポジションについたほうがいい。
おまえは外野手をやるべきなんだ。
ウチは外野の守備力が弱い。
だが、おまえがセンターに入ることで1本軸ができる。
キャッチャー小湊、セカンド稲葉、
センター飯田でセンターラインが磐石なものになるんだ。
だから頼む、飯田。
チームを救えるのは、おまえしかいないんだ…」
えっ!?
- 162 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時38分21秒
- 「カオリが…
カオリがチームを救うの…?
そんなにカオリって、才能があるのかな…?」
思わず、身を乗り出してしまっていた。
いけないとは思いつつも、つい顔がニヤけてしまう。
奴は、そんなあたしを見て、ほんの少し驚いた表情を浮かべた後、
珍しくあたしに対してニッと微笑を返してきた。
それは御釈迦様のような優しい表情だった。
「あぁ…
飯田には才能があるよ。
頑張ればゴールデングラブの常連になれる素質があると思う。
俊足を飛ばして打球を追い、強肩でランナーを刺し、
その身長とバネを生かしてホームランボールをももぎ取る塀際の魔術師。
打ってもよし、守ってもよし。
ヤンキースのバーニー・ウィリアムズみたいな選手になってほしい…」
バービー・クリスマスって誰のことだろう?
一瞬、そんな疑問も沸き上がってきたが、そんなことどうでもよかった。
きっと、すごい選手に違いない。
それよりも何よりも、誉めてもらえたのが嬉しかった。
すごく嬉しい。
本当に嬉しい。
カオリのこと…
認めてくれたんだ…
- 163 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時39分10秒
- 「カオリ、バービーになってあげてもいいよ…」
「あん?」
何故か和田監督は、一瞬ポカンと口をあけ、なおかつ眉に皺を寄せ、
合点がいかないというような表情をみせたが、
やがて納得したように大きく頷くと、
「あ、あぁ…
コンバートの件、了解してくれるんだよな?」
そう幾分、恐る恐るといった感じで尋ねてきた。
変な人だ。
急に、挙動不審になって…
いったいどうしたというのだろう?
まぁ、いいか。
きっと、あまりの嬉しさで興奮しておかしくなっちゃったんだよ。
うん、きっとそうだよ。
カオリ、分かるもん。
それにしても、カオリ、和田監督のこと見直したよ。
もう『奴』だなんて思っちゃいけないね。
自分の未来はバラ色だし、かねてよりいがみ合っていた人と通じあえた。
あたしの胸は幸せな気分でいっぱいだった。
目につくもの全てが、なんだか愛おしく思えた。
- 164 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時40分13秒
- 「うん、カオリ、バービーみたいなすごい選手になる。
いっぱいホームラン打って、いっぱいファインプレーして一番になる。
だから、明日から4番打たせてくれるよね?」
あたしは和田監督からの問いかけに頷くと、
逆に和田監督に1つの質問を投げかけてみた。
いや、正確には質問ではないだろう。
確認だ。
かねてより、あたしは4番を打ちたいとず〜っと言い続けてきた。
が、しかし、和田監督はあたしに4番を打たせてくれなかった。
そういうこともあって、あたしは和田監督をいけすかない奴だと思っていたのだ。
オープン戦も序盤から中盤に差しかかろうとしており、
オーダーも固まりつつあった。
トップバッターは、ショートを守る外国人選手チェルシー。
ここまで裕ちゃんに次ぐ打率を残し盗塁も4つ決めていて絶好調だ。
2番は、セカンドの稲葉さん。
ゴールデングラブを2回受賞しているだけあって、さすがに守備はうまい。
打撃のほうは2割前後をウロウロと今のところ不調だけど、
本人に言わせると毎年オープン戦は悪いから心配はいらないらしい。
ただ『まぁ、本番も代わり映えせぇへん成績やけどな』とも言っていた。
笑いをとろうとしたみたいだったけど、笑いごとではないような気もする。
3番は、選手会長でサードの裕ちゃん。
5割に届こうかという高打率を残し、オープン戦の首位打者をキープしている。
そして…
- 165 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時40分56秒
- 4番は、レフトの信田さん。
ここまで打率.250、ホームラン1本と低調な成績だ。
なのに、先発出場した全ての試合で4番。
別に信田さんに文句があるわけではないんだけど…
ちょっと悔しい。
5番は、これまた外国人選手でライトのエイプリル。
極端なクラウチングスタイルが面白い。
打率はジャスト3割で、ホームランはなんとすでに6本。
ひょっとしたら、あたしの一番のライバルになるかもしれない。
6番は、センターの三佳さん。
目立って悪いところもなければ、良いところもない。
ただ、堅実なプレーをする人だなという印象はある。
一応、成績は打率.273でホームランは0。
やっとだ。
あたし『飯田圭織』の名前は7番目にようやく出てくることになる。
打率.262でホームラン2本。
平凡な成績だと思われるかもしれないが、
もちろんこれがあたしの実力ではない。
4番さえ、打たせてくれればもっとがんばれる。
成績は残せるのだ。
最後に、8番はキャッチャーの小湊さん。
打率は1割台で、ホームランももちろん0。
リードの善し悪しとか、あたしは良く分からないのだが、
隠れた逸材と言われていた人で、どうやらすごいキャッチャーらしい。
確かに、保田さんなんかに比べると動きにキレがあるような気もする。
まぁ、保田さんはどっちかっていうと鈍くさい印象があるのだが…
- 166 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時41分49秒
- このままでは本当に開幕戦でも7番を打つことになってしまう。
そういう危機感があって焦っていたのだが、もう不安などない。
和田監督を、ずいぶん恨みもしたが今は水に流せる。
だって、しょうがないではないか。
今まで和田監督はカオリの本当の実力を見抜けなかっただけなのだ。
だけど、今は違う。
あたしの実力を認めてくれた今は違うはずだ。
カオリが4番だって…
今なら言ってくれるよね?
ねっ?
穏やかだった和田監督の表情が急に険しくなった。
「あぁん?
おまえは、まだそんなこと言ってるのかっ?
4番は信田だって何度も何度も言っただろっ!!」
思わず耳を疑った。
話しが全然違う。
何で…
何で…
何でぇえっ!?
カオリには、才能があるって言ってくれたじゃないっ!!
カオリのこと認めてくれたんじゃないのぉっ!?
- 167 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時42分34秒
- 束の間の幸せだった。
極楽へと続いていたはずの蜘蛛の糸は、すんでのところで断ち切られた。
蜘蛛の糸を垂らしてくれた張本人の手によって…
御釈迦様だと思っていた和田監督の顔が地獄の鬼のように見えた。
「嘘つきっ!!
カオリが4番だって言ったじゃんっ!!」
「誰が、そんなこと言ったっ!?
おまえには外野手としての適正があると言っただけだ。
どうして、おまえはそんな自分勝手な解釈をするんだ!?
いいか?
もう一度だけ言うぞ?
4番は信田だ!!
今のおまえには、無理だ…」
現実を受け止められなくて、思わず叫んだ。
しかし、和田監督は冷ややかな態度をくずさなかった。
『バカだな飯田、冗談だよ』って…
そう、笑ってほしかったのに…
- 168 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時43分52秒
- 「もう知らないっ!!
カオリ、絶対に外野の練習なんてしてやらないんだからっ!!」
「また自分勝手なこと言い出しやがって…
まったく、どいつもこいつもっ!!
なんでチームのことも考えられないんだっ!!
おい、飯田ぁっ!!
信田が外野を守ってシーズン通して働けると思うかっ!?
中澤にしたってそうだっ!!
おまえが外野を守れるようになれば、
あいつらを負担の比較的軽いファーストで使うことができるんだよっ!!
そういうことも、少しは考えろっ!!」
顔を紅潮させ、そう一気にまくしたてた和田監督は、まるで赤鬼のようだった。
そう、やっぱり鬼なのだこの人は…
今、分かった。
和田監督の本当の胸の内が…
あたしのことなんて、最初からどうでもよかったのだ。
信田さんや裕ちゃんのほうが大事で、そのためにあたしを騙そうとしたのだ。
さっきあたしを見てニッと笑った理由も、ようやく分かった。
見事に騙されたあたしが滑稽だったのだ。
きっとバカな奴だって思っていたに違いない。
こんな奴…
やっぱり『奴』で充分だよっ!!
- 169 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時44分38秒
- それにしても、何にも増して気に食わないのは、
奴があたしを自分勝手と評したことだ。
あたしは自分勝手なんかじゃない。
ちゃんとチームのことを考えている。
むしろ、こんなにもチームのことを考えている人間は、
他にいないんじゃないかと思うほどだ。
それなのに、そんなあたしに奴は理解を示さない。
悔しくって…
悲しくって…
自然に、声は涙混じりになった。
「チームのことは、ちゃんと考えてるよっ!!
カオリは、このチームが好き…
だからね…
カオリはね…
このチームを強くしたいのぉっ!!
みんなで優勝したいのぉっ!!
そのためには、カオリが4番を打たないといけないんだからぁっ!!
一番打てるカオリが4番を打たないといけないんだからぁっ!!
だって、今までそうやってきたんだもんっ!!
みんな、カオリを頼りにしてくれたんだもんっ!!
みんなが、カオリのこと誉めてくれたんだもんっ!!」
- 170 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時45分21秒
「違うよ…」
たった一言。
奴は、あたしのことを静かに見つめながらそう言った。
あたしのことを哀れんでいるかのような視線が、あたしの体温を上昇させる。
ゾワゾワっと産毛が逆立つような気持ち悪い感触が背中に広がってきた。
「何が違うのっ!?」
ただ、叫ぶしかなかった。
何かに、あたしは耐えられなかったのだ。
何だ?と聞かれても決して説明のつかない何か。
あたしの体と心を掻きむしる何か。
その正体は、奴が握っているのだろうか?
- 171 名前:ある日の飯田圭織〜 憎たらしい『奴』 投稿日:2002年12月14日(土)23時46分53秒
「違うよ、飯田…」
あたしの問いかけには一切応えない。
奴は、もう一度同じ台詞を繰り返しただけだった。
そして、相変わらずの視線であたしを見据えている。
何も分からない。
何もかも訳が分からなかった。
ただ1つ分かったのは、
『あたしは奴に完全に突き放された』ということだけだ。
もう、この場にいなければならない理由など何もない。
「もう、いいよっ!!
嘘つきっ!!
鬼っ、バカっ、悪魔っ!!」
思いつくままの悪口を並べ挙げると、
あたしは監督室を飛び出した。
奴は、もう追ってはこなかった。
- 172 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月29日(日)16時13分11秒
- この小説の飯田さん好きです。作者さんがんばれ!
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