インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板

Dear Friends 4

1 名前:すてっぷ 投稿日:2001年12月24日(月)20時05分08秒
短めの話を書かせて頂きたいと思います。
赤板の「Dear Friends 3」より引っ越してきましたが、
前スレからの続きモノではありません。

よろしければ、お付き合いください。
2 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月24日(月)20時07分04秒

<第1話>遅れてきたサンタ。


「梨華ちゃんさぁ。サンタクロースになりたい、って思ったコトない?」
コーヒーカップの淵を指でなぞりながら、よっすぃーが言った。

「えっ?」
あまりに唐突な質問に、カップに口をつけようとしていた私は思わず手を止めて聞き返してしまう。
さっきまで学校の友達のことについて語ってたかと思ったら、突然クリスマスの話?
よっすぃーってコはときどき、よくわからない。

「ねぇ、思ったコトない?」
テーブルに頬杖をついて俯いていたよっすぃーは顔を上げると、再び私に問い掛ける。

「サンタクロースに会いたい、とかじゃなくて?」
「なくて。なりたい、って」
『なりたい』を強調して、テーブルの上で腕組みするよっすぃー。
3 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月24日(月)20時08分13秒
仕事帰りによく来るファミレス。
ごっちんや矢口さんが一緒だったり、あいぼんやののが一緒だったり、
それからよっすぃーと二人だったりといろんなパターンがあるのだけれど…
今日は、よっすぃーと二人だけの晩ゴハン。

オムライスを食べ終えたよっすぃーと、ハンバーグを食べ終えた私は、
向かい合って食後のコーヒーを飲みながら終電までの時間を潰している。
って、よっすぃーはそんな風に思っているかも知れないけれど私はそうじゃない。
時間を『潰している』だなんて、少しも。


「うーん…ないかも」
サンタクロースになりたいって思ったコトない?
よっすぃーが言ったこと、自分の小さい頃を一生懸命思い出してみたけど…
やっぱり思い当たらない。
サンタさんに『会いたい』っていうのなら、割と大きくなるまで思っていた気がするんだけど。

「そっかぁ」
「よっすぃー、あるの?」
「うん。あるよ」
私から質問すると、よっすぃーはうれしそうな顔をして身を乗り出す。
4 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月24日(月)20時09分16秒
「あのね、弟子にしてもらおうと思ってたんだよねぇ」
「サンタさんに?」
「そう。サンタさんに」
言った後でその頃のことを思い出したのか、よっすぃーはクスリと小さく笑った。

「でね。サンタさんになって、世界中の子供たちにプレゼント配りたいって思ってたんだよね」
「トナカイに乗って?」
「そう。トナカイのソリでさー、良くない?」
「うん…。でも寒そう」
重そうな袋を抱える見習いサンタのよっすぃーを想像したりしながら、彼女の子供っぽい発想に
思わず吹き出しそうになるのをこらえる。

「はあ?もーっ、なんでそうやって夢のないコト言うかなぁ。サンタが寒がりなワケないじゃん」
「でも、サンタさんってすごい厚着してない?」
「…ああ、そう言えばそうだね。あはっ、ダメじゃん。サンタ」
「ダメじゃん」
私たちは、顔を見合わせて笑った。

こうして毎日くだらないおしゃべりで笑ったりしてそれは本当にごく普通の会話なんだけど、
よっすぃーと一緒ならどこにいても特別な空間みたいに感じるからすごく…不思議。
5 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月24日(月)20時11分15秒
「そうだ!!」
言ってしまってから自分が上げた声の大きさに驚いたのか、とっさに右手で
自分の口を覆うよっすぃー。
けれどその下に覗いている表情はなんだかとてもうれしそうで、まるで新種の
イタズラを思いついたカ○オくんのようにイキイキと輝いていた。

「どうしたの?」
私は少し身をかがめて、向かいに座るよっすぃーに辛うじて聞こえる程度の小声で尋ねる。
よっすぃーの大声で、私たちは一瞬だけど周りの注目を集めてしまった。
この上私のアニメボイスまでもが周囲に響き渡ってしまっては、完全に私たちの正体が
バレちゃうもんね。

「あのね。いいコト思いついちゃったんだぁ」
そう言って身を乗り出したよっすぃーと私との距離は、あとほんのちょっとで
おでことおでこがくっついちゃうぐらい近くなっていた。


そしてよっすぃーは私の目を見てイタズラっぽく笑うと、

「なっちゃおっか、二人で。サンタクロース」

まるで秘密の暗号を交し合うみたいに、小さな声で囁いた。
6 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月24日(月)20時12分30秒
「えっっ?」
この場合、私がマヌケなアニメ声で聞き返してしまったのは当然の反応だと思うの。
「おーい。梨華ちゃん、アゴ出てる。じゃなかった、口開いてる」
この場合、私がとっさに右手でアゴを押さえてしまったのも当然の反応だと思うの。

よっすぃーの余計な一言のせいでワンテンポ遅れたものの、私はあわてて
だらしなく開いてしまっていた口をきゅっと結んだ。
そんな私の様子を、よっすぃーはいつも通りの呑気な笑顔で眺めている。

「それって、どういうことなの?」
アゴに関しては、ちょっと気にしてるのに…自然、ムッとした口調になる。

「うん。みんなにさ、クリスマスプレゼント配んない?二人で」
二人でサンタクロースになる、って多分そんなことだろうとは思ってたんだけど。
でもね、よっすぃー。
7 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月24日(月)20時14分01秒
「もう、クリスマス終わっちゃったじゃない」
二人でどんなに頑張ったって、今日は12月26日。
サンタさんだって今頃はきっと普通のおやっさんに戻って、トナカイさんたちと
忘年会でもやってるんじゃないかな…なんて、ちょっと面白いコト言っちゃった!
明日飯田さんに聞いてもらおっと。

「なんで?いいじゃん、そんなの」
私の指摘にも怯まず、よっすぃーは平然と言い放つ。

「クリスマス終わってからプレゼント持ってくるサンタがいてもさぁ、べつにいいじゃん」
「そりゃあ…いいとは、思うけど」
そこまで自信に満ちた表情で言われると、素直に頷くしか道は残されていないと思うのだけど。

「おっし!じゃあ決まりね」
「決まりなの?」
「うん」
どうやら決まってしまったらしい。
8 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月24日(月)20時15分34秒
「あー、なにがいいだろ…こーゆーの考えるのってさぁ、めっちゃ楽しくない?」
「11人分もどうするの?手分けしてプレゼント買う?」
呑気に張り切るよっすぃーの様子を見る限り、先行きはかなり不安だけど。

「11人じゃないよ、梨華ちゃん。中澤さんにも、ちゃんとあげるんだから」
「…そっか。そだね」
心優しいよっすぃーサンタの隣で、一緒にトナカイのソリに乗るのもいいかな…なんて。

「サンタ2号は、1号の指示に従うコト。おっけーですかぁ?」
念願かなってサンタさんになれたよっすぃーが得意げに言う。
「2号って、私のこと?」
「うん」
当然のように頷くよっすぃー。
私って、どこへ行ってもやっぱり二番手なのかな…あっ、いけない。
危うくネガティブ思考。しかもこんなくだらないことで。
9 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月24日(月)20時16分47秒

―――

「梨華ちゃん、ちょっと待って」
すぐ後ろから聞こえた声に振り返ると、よっすぃーが立ち止まって携帯を操っているところだった。
お店を出てからしばらく歩いて、駅はもうすぐそこ。

「さっそく開始するからね、プレゼント」
今まさに呼び出し中の携帯を耳に当てて、よっすぃーが言った。
よっすぃー、誰にかけてるのかな?


「やぁ、ボクのかわいいハニー。元気だった?」
「…!」
よっすぃー、なにしてるの!?イタ電はダメだよ!!

「クリスマスおめでとう。今年はお世話になりました。来年も…愛してる」
いつもの低音ヴォイスをさらに低くして何やら囁いているよっすぃーの携帯を
取り上げようとする私の手を制して、その後も彼女は暴走を続けた。
10 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月24日(月)20時17分59秒
「さてと、次は小川にしよっかなー」
怪しげな電話を終えたよっすぃーが満足げに言う。

「よっすぃー、なんなの?今の」
さっき話してたのは誰?そして今度は小川ちゃんにまで嫌がらせする気?
私はよっすぃーの奇行にとまどいながらも、恐る恐る尋ねる。

「なにって、プレゼントだよ。やっぱ新メンバーたちにはさぁ、よっすぃーからの
ラブラブメッセージがイチバンうれしいんじゃないかと思って」
「………」
よっすぃーってば、カン違いもはなはだしいっ!!素敵っ!!


「やぁ、ボクのちょーっかわいいハニー。寂しかった?」

よっすぃー。
プレゼント、何が欲しいかみんなにリサーチしてからあげた方が…いいと思うの。
 
11 名前:すてっぷ 投稿日:2001年12月24日(月)20時20分33秒

第一話、終了です。
更新ペース遅いかもですが、お付き合い頂けるとうれしいです。
12 名前:おさる 投稿日:2001年12月24日(月)23時05分14秒
いつの間にか"4"までいったんですね。そして今回も”いしよし”!最高のクリスマスプレゼントです。しかしこのイブの夜にスレ探ししてる俺って…(藁。暴走しまくるよっすぃーに、振り回されっぱなしの梨華ちゃん。いい感じです。今回も期待大です。あせらずゆっくりで更新願います。
13 名前:13 投稿日:2001年12月25日(火)01時09分50秒
久しぶりの季節シリーズ! 待ってましたってかんじです。
今回は、石川さんが主人公なんですね。
とっても無邪気な吉澤さんに、ほんのり恋心?の石川さん、すごくイイ感じです。
メンバー&中澤さんへのプレゼント、どんな展開になるのか楽しみです。
14 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月25日(火)21時20分30秒
幼い日を思い出してしまった。
俺もサンタの弟子になるか、せめてサンタの国に行きたいとか思ったんだよな。
あの頃の穢れなき俺はどこへ…
15 名前:すてっぷ 投稿日:2001年12月26日(水)00時49分11秒
感想、どうもありがとうございます。

>12 おさるさん
早速発見して頂けましたか…同じくこんな日にスレ立ててる自分が哀しかったですが(笑)
今回のよっすぃー。かなり暴走すると思いますが、お付き合いよろしくお願いします。
気づけばもう「4」、続きモノでもないくせに紛らわしいですよね(笑)

>13 13さん
本当はクリスマスの話にしたかったんですが、間に合わなかったのでクリスマス後という設定にしました。
でも、いざ書いてみるとそっちの方が良かった気がしてます(結果オーライ)。
これからの吉澤、「無邪気」とは程遠くなってくると思います(笑)
(ヤスダ犬出たんですか?MUSIX、観れないもので…)

>14 名無し読者さん
みんなやっぱり考えることは同じなんですね。サンタの国…よくわかります(笑)
この話で、14さんの心がさらに穢れてしまったらどうしよう(笑)
16 名前:ARENA 投稿日:2001年12月26日(水)03時05分38秒
おおっと、乗り遅れた(w

 >サンタさんだって今頃はきっと普通のおやっさんに・・・明日飯田さんに聞いてもらおっと。
 >よっすぃーってば、カン違いもはなはだしいっ!!素敵っ!!
今回の石川の脳内ギャグ面白すぎ!(w
烈しく笑いました。いや、ホントに。
17 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時36分43秒

<第2話>もらうヒト、もらわれていくヒト。


「なっかざわさーん」
「うわっ!?びっくりしたー。なんやアンタ、どっから湧いたん?」
「よっすぃー!?」
セットの陰から突然現れたよっすぃーに、私も中澤さんも驚いて思わず仰け反ってしまった。

「どうでした?今年のクリスマスは。ステキに楽しく過ごせましたかぁ?」
「あ?なんやてコラ」
ああ、もぅよっすぃーってばいきなり現れて何てこと聞くの…中澤さんの形相が変わっちゃったじゃない。

どうやらセットの裏に潜んでいたらしいよっすぃーは私と中澤さんが出演するコーナーの
収録が終了した直後、満面の笑顔で私たちの前に飛び出してきた。
それにしても、中澤さんにクリスマスの話題を振るなんて…命知らずな『1号』に、私はオロオロするばかり。

「だからー、楽しい夜を過ごせましたか?って聞いてるんですよー」
「アンタ、それ嫌味?あーあー、そうですよ!どーせ今年もみっちゃんと飲み明かしましたよ!
朝までな!あー楽しかった。モー泣くほど楽しかったっちゅーねん!!ほっとけや!!」
なんか、全然楽しそうに聞こえないんだけど…。
18 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時38分10秒
「あー、やっぱし」
肩をすくめて失笑するよっすぃー。
「なんや、やっぱしって!!」
良い子にプレゼントを持ってくる優しいサンタさんに憧れているとは到底思えない、
よっすぃーの失礼な態度に中澤さんの怒りのボルテージは上昇するばかり。

「いや、どうせそんなこったろうなぁって。ってゆーか平家さんから聞いてたんですけどね」
「知ってて聞いたんか!どこまで失礼やねん!!」
よっすぃー、一体なにしに来たの?

「アタシかて毎年好きでみちよと過ごしてるワケちゃうからな!!」
「えっ、じゃあ何で過ごすんですか!?好きでもないコトやって、何が楽しいんですかっ!?」
「うっさいわ!好きでもないコとやって何が悪い!!」
中澤さん!なんか今の発言、微妙ですっ!!

「だからですねー。そーゆー夢のないクリスマスじゃなくて、もっと楽しいクリスマスにしましょうよ」
ようやくよっすぃーは、平家さんが聞いたら号泣してしまいそうな言葉で本題を切り出した。
19 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時39分31秒
「さっきからクリスマスクリスマスって、なに?来年のこと?お願いやからもう放っといて」
よっすぃーの提案は、当然ながら中澤さんに理解してもらえるはずもない。
だって今日はもう27日なんだもん、来年のこと言ってるんだって思われても仕方ないよね。

「あのー。中澤さんのクリスマスって、やっぱり今年も寂しく終わっちゃったワケじゃないですかぁ。
だから、あたしと梨華ちゃんで中澤さんにクリスマスプレゼントあげようって決めたんですよ」
「ふーん」
よっすぃーの失礼発言にも次第に慣れてきたのか中澤さんは特に怒る様子もなく、
真面目に話を聞いてくれている。

「そーゆーワケなんで、中澤さんの欲しいモノ何でも言ってください!
あたしたちがお金の許す限り何でもプレゼントしますから!!ねっ、梨華ちゃん?」
「えっ…」
突然同意を求められて、私は返答に困ってしまった。

よっすぃー、本気なの?
中澤さんのことだもん、絶対『マンション』とか言うよ?
中澤さんのことだもん、絶対『借金してでも買え』って言うよ?
20 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時40分50秒
「やぐち」
中澤さんのことだもん、絶対『やぐち』って……えっ?
『やぐち』って、矢口さんのこと?
確かに予測できない回答では無かったけど、それはお金で何とかできる問題じゃないし…。

戸惑う私と同じく、セットの前に立つよっすぃーも腕組みして何やら考え込んでいる。
よっすぃーは下を向いてしばらく考えた後、何かを決意したように顔を上げた。

「わかりました。矢口さん、ですね」
よっすぃー。なにが、『わかりました』なの?
一体、何をやらかすつもりなの…。


「梨華ちゃん、ロープ調達しといて」
「えっ」
すれ違いざま私の耳元で業務連絡を囁くと、よっすぃーはスタジオの外へと消えていった。
よっすぃー、ロープなんて何に使うの?
そして、面倒なことはいつも…私に押し付けるんだね。
21 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時41分56秒

―――

「やーぐちさん」
「ん?なに?よっすぃー」
私は、まるで自分の名前を呼ばれたみたいにドキッとして後ろを振り返った。
今日最後の仕事が終わり、楽屋で帰り支度をしていた矢口さんの元へよっすぃーが歩み寄る。
不吉な予感に、胸の高鳴りが止まない。

「あのー、矢口さんが今イチバン欲しいモノって何ですか?」
「え?なんだよー、いきなり」
中澤さんが帰った後、ついよっすぃーに命じられるままスタッフさんに頼んでロープを
準備してしまった私だけど…この後に起こることを想像すると、ちょっと恐ろしくなってしまった。
お願い…逃げて、矢口さん!!

「いいから言ってみてくださいよぉ」
「そうだなー、やっぱお休みじゃない?」
何も知らない矢口さんは、よっすぃーの質問に対し素直に回答。
22 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時43分19秒
「そっか、お休みかぁ…うーん。休めるかなぁ」
よっすぃーは下を向いて、ブツブツと独り言を繰り返している。
「よっすぃー?どしたの?」
その様子を不審に思ったのか、矢口さんが怪訝そうによっすぃーの顔を覗き込む。

「んっ?ああ、何でもないっすよ。ねっ、梨華ちゃん?」
「えっ!?うっ、うん」
なんで私に振るのよーっ!

「なになに?よっすぃーが矢口にお休みくれんの?ねぇ」
冗談っぽく笑いながら、矢口さんが言った。
私はこのまま冗談で話が流れることを祈りながら、バッグの中に忍ばせたロープを見つめる。

「うーん。ある意味、お休みかなぁ。天使の休息みたいな?」
「は?」
あっけにとられる矢口さんの表情は、まるで豆鉄砲をくらったハトさん(見たことないけど)のよう。
23 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時44分52秒
「おつかれさまでしたー」
「待ってごっちん。矢口も帰るからさ」
いつの間にか楽屋には、私たち三人の他にごっちんしか残っていなかった。

「ダメーっ!!」
ごっちんを追って楽屋を出ようとする矢口さんの腕を、よっすぃーが掴む。

「はあ?なによ」
「なんか、梨華ちゃんが矢口さんに相談あるみたいでぇ。ねっ、梨華ちゃん?」
「えっ!?うっ、うん」
だからなんで私に振るのよーっ!!

「えーっ、早くしてよ?もーぅ、明日も早いってのにさ」
そう言うと矢口さんはごっちんに別れを告げ、あからさまに不機嫌な様子でこちらへ戻ってくる。

「矢口さん…おやすみなさいっ!!」
「うっ!」
みぞおちの辺りに強烈なボディーブローをくらい、矢口さんがよっすぃーの腕の中にガクリと崩れ落ちる。
24 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時46分16秒
「ちょっと、よっすぃー!?」
予測できない事態では無かったけど、いえむしろしっかり予測してた事態だったけど…
完全に気を失っている矢口さんを目の前にすると、さすがに恐ろしくなってしまった。

「だいじょーぶ。急所は外してあるから」
「当たり前じゃない!」
満足げな表情で自らを称えるように拳を見つめるよっすぃーは格闘家さんみたいで
すごくカッコ良かったんだけど…いつの間にどこであんな技、覚えたのかな?

「じゃ、行こっか。梨華ちゃん」
「どこに?」
「中澤さんち」
予測できない事態では無かったけど。いえむしろ、しっかり予測してた事態だったけど。

「ねぇ、矢口さんの願い事はどうなっちゃうの?お休みが欲しい、って言ってたよ?」
「なに言ってんの、梨華ちゃん!こーゆーときは、先輩の方が優先でしょ!!」
「…そういう、ものなの?」
「ったりまえじゃん!!」
よっすぃーってば、あきれるほど体育会系!!好きっ!!


「なんかさぁ、かなりサンタっぽくなってきたよね。ウチら」
サンタクロースはその背に白い袋ではなく矢口さんを担ぐと、振り返って私にウィンクした。
25 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時47分15秒

―――

私たちが今やっていることは、明らかに正しいサンタクロースの道から外れている。
ううん、それ以前に…人として、間違っているような気がするのは私だけかしら?

「いらっしゃーい。なんや珍しいなぁ、石川が来てくれるなんて」
ドアを開けて出てきた中澤さんはちょうど暇だったのか、突然訪れた私を歓迎してくれる。
「ん?どした?入り」
ドアの前に立ったまま中へ入ろうとしない私を、中澤さんは訝しげに見ている。

「あのぉ、実はよっすぃーも一緒なんですけど…」
「あ、そうなん?」
開かれたドアの後ろ側に立っているよっすぃーの姿は、玄関の中澤さんからは見えない。
「吉澤?おんの?」
よっすぃーの姿を確認しようと、中澤さんが身を乗り出す。
26 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時48分18秒
「メリー、クリスマース!!」
「うわっ!?びっくりしたー。なにそれ!?えっ、矢口!?」
両手両足をロープで拘束された矢口さんを抱きかかえて飛び出したよっすぃーは、
驚く中澤さんを見て満足そうに微笑む。

「コレ、あたしたちの気持ちです!何も言わずに受け取ってくださいっ!!」
言いながらよっすぃーが両腕を前に突き出すと、お姫様だっこされた
矢口さんの小さな身体がその震動にぴくりと反応した。

「いや、さすがに何も言わずには受け取れんやろ…」
よっすぃーの腕に抱かれる矢口さんを見ながら、困惑した表情で中澤さんが呟く。
正直な話、中澤さんのことだから素直に喜んじゃうんじゃないかって心配してたけど…
どうやら私の考えすぎだったみたい。

「二人とも寒いやろ?とりあえず入り」
ご好意に甘えて、私たちは部屋の中へと入る。
27 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時49分31秒
「中澤さん、矢口さんはどうしましょう?」
入るなり、よっすぃーは矢口さんを抱えて部屋の中をウロウロ。
何も知らない矢口さんは、よっすぃーの腕の中で未だ目を覚ます気配は無い。

「あ、ソファーの上にでも置いといて」
「ラジャー」
起こさないようにとの配慮からか、よっすぃーはゆっくりとした動作で
意識の無い矢口さんをソファーの上に寝かせる。

「ちょっと待っててなー」
中澤さんは私たちにお茶を出してくれた後、どこかへ電話し始めた。

「みっちゃん、今どこ?えっ、もうそんなとこまで来てんの?はっやー。
ホンマ暇やってんなぁ、アンタ。悪いけど、もう来んでええよ」
どうやら電話の相手は、平家さんらしい。
28 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時50分34秒
「え?ああ、うん。ちょっとなー…都合悪なってもーて」
『都合が悪くなった』ってもしかして、私たちが突然お邪魔しちゃったから?

「中澤さん。私たちもう帰りますから」
私は中澤さんの腕を掴んで、小声で話しかける。
私たちと平家さん。
共通の友人であるにも関わらず、中澤さんがなぜ平家さんとの約束を断ろうとしているのかは
よく判らないけど…突然押しかけた私たちがここに居座るのは、先約の平家さんに申し訳ない。

「え?ああ、うん。いやー、えっと。ああ、そうやないんやけどなー。うん」
電話の向こうの平家さんに対してなぜかしどろもどろの中澤さんは、
私の申し出を全く無視して会話を続けている。
29 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時51分58秒
「っかましーな!!言いにくいことじゃ!!察しろや、察しろや、みちよ!!」
突然の怒号に驚いた私は持っていた湯のみを落としそうになり、慌てて両手で持ち直す。
「梨華ちゃん、どうしよう…」
隣に座るよっすぃーは案の定カーペットにお茶をぶちまけてしまい、青くなっていた。

そして中澤さんの発言の真意を私なりに考えて、ちょっぴり恐ろしい結論に達してしまった。
『都合が悪くなった』っていうのはたぶん、私たちがここに居座っていることじゃなくて。
中澤さん、もしかして…ソファーの上のプレゼント受け取る気、満々?


サンタさん(本物)。
矢口さんは、まだ起きません。
迷えるサンタ1号と2号に、進むべき道を照らしてください。
30 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時53分01秒
「吉澤ぁ。アンタって、ホンマええ子やなぁ…ねーさんがお小遣いあげたろ。
これで石川とおいしいモンでも食べて?」
そう言うと中澤さんは、財布から出したお札をよっすぃーに手渡す。

「いいんですかー!?やった、梨華ちゃん!一万円ももらっちゃったよ!!」
「…うん、良かったね」
矢口さんを売ったお金で、おいしいモノだなんて…さすがの私にも、それはできない。
それより中澤さん…矢口さんって、一万円なんですか?


「矢口さん…おはようございますっ!!」
よっすぃーがソファーに寝かされた矢口さんの右肩とおでこに手をあてがい、一喝する。
小さな身体が一瞬ビクッと震えて、矢口さんはゆっくりと目を開けた。
31 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時54分17秒
「ん…?なに、ココ…うあっ、何かおなか痛い!ってなにコレーっ!?何で縛られてんのぉー!?
なになに!?いやっ、ちょっ、足も!?足も動かないよーっ!!なんだよ、コレぇーっ!!」
目覚めの一言で、今自分が置かれている状況について完璧に説明してしまった…
矢口さんってば、さすが!!尊敬しますっ!!

「それじゃ。お邪魔しましたー」
ソファーの上で暴れる矢口さんには目もくれず、よっすぃーは玄関へと向かって歩き出した。

「梨華ちゃん…たすけて」
涙目で懇願する矢口さんの視線には、ちょっぴり後ろ髪をひかれてしまったけれど。

「梨華ちゃーん、なにやってんの?帰ろうよー」
玄関で私を待つよっすぃーの呑気な声と、中澤さんの華奢な体から発せられる
『なにしとんねん。早よ帰れや』みたいな強いオーラには勝てなかったの、私。
32 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2001年12月26日(水)22時55分49秒
「ああ、良いねぇ。誰かを幸せにするってさー、すごく気持ちが良いよねぇ…」
帰りのタクシーの中、よっすぃーがしみじみと言った。

「ねっ?梨華ちゃん」
「…うん」
その誰かさんの幸せと引き換えに、二人の人(YさんとHさん)を不幸にしてしまった私たちって…
サンタクロースというより、だんだん悪魔の使者に近付いていってる気がする。

「えっと…高橋、小川、紺野、新垣…」
隣を見るとよっすぃーは、バッグから取り出した手帳に何やら書き込んでいる。
きっとプレゼントが終了した人たちの名前を、忘れないようにメモしているのだろう。


「中澤さんと矢口さん、終了っと」

よっすぃー。
矢口さんへのプレゼントは、終了でいいの?
 
33 名前:すてっぷ 投稿日:2001年12月26日(水)22時57分13秒
>16 ARENAさん
ありがとうございます。ひっそりと始めておりました(笑)
石川。どうも上手く書き分けられなくて、以前一人称で書いたことのある飯田リーダー
みたいなキャラになってしまった…。脳内ギャグ、良いネーミングです(笑)
34 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月26日(水)23時25分10秒
おもろいっす!!!
なんと言っていいやら…
とにかくおもろいっす!それしか書けない!
35 名前:穏健派 投稿日:2001年12月26日(水)23時56分48秒
>よっすぃーってば、あきれるほど体育会系!!好きっ!!
まっ間違ってますよ、石川さん!!
36 名前:13 投稿日:2001年12月27日(木)00時22分55秒
第1話を読んで、てっきりほのぼの系の心温まるお話だとばかり思ってました・・・
吉澤さん・・・コワイくらい「無邪気」ですね(笑)
「察しろや、察しろや、みちよ!!」って、姐さん面白すぎ。
石川さんの、毎回とんでもないところで出てくる「素敵!!」「好き!!」も最高です。

MUSIX!の視聴者プレゼントで、保田画伯が十二支の動物イラストを書いたのですが
その中に、首から下が棒の、奇妙な動物がいました(笑)
っていうか、十二体の動物のほとんどが、首から下は棒だったんですけど。
37 名前:ARENA 投稿日:2001年12月27日(木)06時42分46秒
いくらなんでも人はプレゼントしちゃいけないでしょ、吉澤さん(w
吉澤のボケ(だと思いたいw)にツッコムどころか、さらにボケ殺す石川さん、素敵です。
38 名前:もんじゃ 投稿日:2001年12月27日(木)22時26分44秒
ををっと。私も乗り遅れてしまった!!
今回もいしよし。だからさらにはっぴー。
すっかり悪魔の使者として活動する二人。
大変ワラかせていただきました。
次回誰が不幸に…いえ、誰が幸せになれるのか楽しみにしております。
39 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月28日(金)13時45分28秒
おもしろい!
やぐちゅー好きとしては
残された矢口が気になる。
匂わせる程度でもいいから
その後、どうなったのか書いてくれたら
嬉しい。
40 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月29日(土)07時07分18秒
内容読んでからタイトル読んだら氏にかけました(w
合ってるけど違う…日本語って難しいですね。
41 名前:value 投稿日:2001年12月30日(日)08時40分16秒
乗り遅れた。
でもいしよし!いしよし!ありがとうすてっぷさん!!
しかも石川視点は初めてですよね?いい感じっすよ!
石川に萌て、よっすぃーによじれる(腹が
マターリがんばってくださいね〜
42 名前:巡回読者 投稿日:2001年12月30日(日)12時09分08秒
やっと連載中のモノを捕まえた!
某所で保存庫設立を訴えていたものです。

よっすぃ〜、ぶっとんでますね〜。
疑問を抱きつつも付き従う梨華ちゃんも。。。

反動が二人に返って来ないことを祈るばかりです。(w
43 名前:名無し読者 投稿日:2001年12月30日(日)23時16分41秒
最高です!
何か間違ってる吉澤さん、たぶんこのままつき進んででいくんでしょうね。(w
石川さん、何も言わず付き合ってあげてください。
44 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)17時58分34秒

<第3話>ふたりでひとつ。


12月28日。クリスマスをとっくに過ぎてしまった年の瀬のこの日。
おそらく世界中探しても、未だプレゼントを配り終えていないサンタクロースなんて
たぶんきっといや絶対どこにも居ないはず…ただ一人を、除いては。

「二人とも喜んでくれるかなぁ。ってゆーか今度のプレゼントも、めっちゃ自信あるんだけどね」
今度のプレゼント『も』?
も、って言った?言ったよね?

「なに買ってきたの?」
「ん?へへっ、ナ・イ・ショ!」
そう言ってイタズラっぽく笑ったよっすぃーは、意味もなく人差し指で私のおでこを小突いた。
45 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時00分20秒
「うぃーうぃっしゅあ、めりくりーすます。うぃーうぃっしゅあ、めりくりーすます。
うぃーうぃっしゅあ、めりくりーすます。あんはっぴーにゅーいやー」
両手を大きく振って歩きながら、楽しそうにクリスマスソングを口ずさむよっすぃー。
彼女が一歩足を踏み出す度に、右手に持った大きな紙袋がゆさゆさと揺れた。
紙袋の中身はたぶん、あの二人へのプレゼントだろう。
よっすぃー、何をあげるつもりなのかな…楽しみ。っていうのはもちろん嘘で、ホントはすごく恐いの。

「ねぇ、梨華ちゃん。コレって変な歌だよね。アンハッピーじゃダメじゃんねぇ」
「よっすぃーが歌詞間違えてるだけだと思うけど」
「えっ」
でもこのままよっすぃーと一緒にいたら本当に『あんはっぴー』なニューイヤーになりそうで、恐いの。


「「おはようございまーす」」
呑気に微笑むよっすぃーの後に続いて、次なるターゲットの待つ楽屋へと入る。

「辻ちゃん、加護ちゃん、おいでー」
入るなりよっすぃーはその顔に満面の笑みを浮かべて、本日の標的を手招きする。
「「なにー?」」
何も知らない子羊さんたちが、オオカミの元へと近付く。
46 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時01分35秒
「わーっ、すっごい!プレステ!?ありがとー、よっすぃー!!」
えっっ!?どうしたの、よっすぃー!?そんな普通のよっすぃー、よっすぃーじゃない!!幻滅っ!!

「ええーっ!?いいな、いいなー!!」
「だいじょーぶ。あいぼんの分もちゃんと買ってきてるから」
「「ありがとー、よっすぃー!!」」
「いいってば、もぅ…。なんか照れちゃうじゃんかよぉ」
飛び上がって喜ぶあいぼんとののに囲まれて、よっすぃーサンタは至福のひとときを満喫中。
昨夜の悪魔のような振る舞いは何だったの、よっすぃー…。


「へぇー。同期にはいいモンあげて、先輩には犯罪行為?ほーんと、カワイイ後輩だこと」
ぎ・く・り。
私は背後から聞こえてきた非常にローテンションな声に気付きながらも、
あくまで聞こえないフリで完全無視を決め込むことにした。

「いっしかわさーん。お・は・よ」
「…っ!」
またも声がして私の前に素早く回り込んできた人影に気付いた次の瞬間、私は天井を見上げていた。
でもそれは自分の意志ではなく、『見上げさせられていた』っていうのが正解なんだけど。
47 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時02分50秒
「ひっ!やぐ、やぐちさん…アゴ痛い。はな、してっ」
今私のアゴを掴んで上を向かせている人物は、間違いなく矢口さん。
私は、二本の指でアゴを掴んだまま放そうとしない矢口さんに必死で懇願する。

「あ?なによ、その口の利き方は。はなしてください、でしょ?
そーゆー生意気なコト言うのは、このアゴか?ああ?このアゴか!!」
矢口さん、ひどいっ!
私、別にアゴで喋ってるわけじゃないのに…!!

「ちょっと待てってば。はいはい、欲しいヒトはちゃんと並んでねー。
サンタさんは良い子にしかプレゼントあげないんだから」
「並んでって、二人しかいないじゃん。よっすぃー、ばかー」
「はははっ、ばかー。ばかよっすぃー」
「えー。あいぼんもののも今年はよくがんばったのでー、よっすぃーが二人にプレゼントを
贈りたいと思います。えー、その前に今年の出来事をちょっと振り返ってみたいと思う」
「「はやくしろよー」」
よっすぃーたち、何だか楽しそう…。

「このアゴかあーっ!!」
三人ののどかな会話を聞きながら私はなおも、矢口さんに自慢のアゴを揺さぶられ続けていた。
48 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時06分57秒
「そうだ。矢口さん、昨日はゆっくり休めました?」
私がようやく解放してもらえたアゴをさすって(アゴが)傷付いていないか確認していると、
今年の出来事を一通り語り終えたよっすぃーが思い出したように余計な一言を吐いてくれる。
矢口さんの細い眉が一瞬、ぴくりと上下した。

「…ワケないでしょ」
「え?なんですかぁ?」
気まずそうに俯いた矢口さんに、呑気なトーンで詰め寄るよっすぃー。

「休めたワケねーだろ、っつってんだよ!!カラダじゅうが痛いよ!眠いよ!バカ!!」
「うそっ、ゴメンなさい、マジで!?やっぱ縛り方キツかったかなぁ。
だって梨華ちゃん、なんかすっげー太いロープ持ってくんだもん」
「ちょっと、なに私のせいにしてるの!?」
こんな卑怯なサンタ見たことない。そもそもサンタさん自体、見たことないけど。


「ねー、なに?ロープって」
プレゼントを焦らされているののが、私たちの話に割り込んでくる。
「二人ともプレゼントあげるねー」
他人には平気で失礼発言を連発するくせに、自分にとって都合の悪い質問は一切受け付けない。
ある意味尊敬に値するね、よっすぃー。大好き。
49 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時08分19秒
「ありがとー、よっすぃー!!」
「どういたしまして」
プレゼントされたゲーム機の箱を抱えて大喜びするののの様子を、
よっすぃーは本当にうれしそうな顔で眺めている。
そんな二人の姿を見ていると、何だか私までうれしくなってきちゃって。

あげるヒトも、もらうヒトも、それから周りのヒトだって、たった一つのモノが何人もの人を
幸せにしてくれるんだもん…プレゼントって、不思議。


「はい、あいぼんにはコレね」
期待に満ちた目でプレゼントを待っていたあいぼんによっすぃーが差し出したそれは
なにやら薄くて軽そうな、1コの箱。
「えっ…」
ののと同じモノを貰えると想像していただろうあいぼんは、目の前に差し出された
薄っぺらい箱を見て困惑顔。

「なに、コレ」
「なにって、ソフトだけど?」
「そんなん、見たらわかるけど。なんでウチはソフトだけなん?ウチには本体くれへんの?」
あっ。あいぼんが関西弁になってる…ちょっとマズイ空気かも。
そして、よっすぃーからあいぼんへのプレゼントはプレステ2対応ソフトであることが
判明しました(しかも1本だけ)。
50 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時10分56秒
「よくぞ聞いてくれた!コレはですねー、あいぼんに本体をあげないコトに意味があるのですよ!!」
胸を張って言い切るよっすぃーに、全員が注目する。

「やっぱりくれへんのかあーっ!なんでやねん!なんでそんなひどいコトするん!?差別やん!!」
激怒するあいぼんを、矢口さんも私もただ黙って見守っていた。
だってののには数万円もするゲーム機本体をプレゼントしておいて、あいぼんには数千円の
ソフト1本だなんて…あいぼんが怒るの、当然だもん。

「あーっ!!なんやねん、コレ!980円って!処分品って!ひどい!ひどいで、よっすぃー!!」
「あ、やっべ。シール取んの忘れてた」
激怒するあいぼんを、矢口さんも私もただ黙って見守っていた。
だってののには数万円もするゲーム機本体をプレゼントしておいて、あいぼんには980円の
ソフト1本だなんて…あいぼんが怒るの、当然だもん。

「まぁまぁ、怒りなさんな。言ったでしょ?コレは、あいぼんに本体をあげないコトに意味があるんだって」
あいぼんの口撃を物ともせず、相変わらずの呑気な口調でよっすぃーが言う。
51 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時12分28秒
「石川さんにお尋ねします。ゲームを本体だけで遊ぶ。是か非か」
真剣な顔で私を見つめるよっすぃーの視線に、ちょっとだけドキドキしちゃった。
言ってることはアホだけど言ってることさえアホじゃなきゃ、よっすぃーってば完璧にカワイイのにね!
「うーん。非、かな」
これからよっすぃーが言おうとしてること、何となく予想はついてるけど…
私はサンタ1号のパートナーとして、一応マジメに答えてあげることにした。

「矢口さんにお尋ねします。ゲームをソフトだけで遊ぶ。是か非か」
「非。ってゆーか不可能」
矢口さんはよっすぃーの問いに対し、心底やる気の無い口調で短く答えた。

「そう!そうなの、そーゆーコトなんだよ!」
期待通りの回答が得られてうれしかったのか、少々興奮気味のよっすぃーが声高に言った。
「どーゆーコト、980円て!めっちゃお買い得やん!
なんでおかーさんみたいな買い方しかでけへんの?よっすぃー、お金いっぱい持ってるやろ!?」
私たちの問答に全く興味を示してくれないあいぼんは、980円の件が心にひっかかって仕方ないみたい。
52 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時13分51秒
「ののに本体、あいぼんにソフトをあげたのはさぁ。二人でいっしょに遊んで欲しかったからなんだ。
ゲームは本体がなくても遊べないし、ソフトがなくてもできないでしょ?二つでひとつじゃん。
それと同じでさ。ののとあいぼんも、二人でひとり、じゃないけど…なんてゆーか、ずっと仲良くいて欲しい」
よっすぃーのあいぼんに対する仕打ち、ちゃんと考えがあってのことだったんだよね?
(980円のことはこの際おいといて)素直に感動しちゃったよ、私。

「やだもん!あたしがもらったんだもん!」
「なんやー!ちょうだいって言うてんちゃうやん!一週間交代にしようって言うてるだけやろー!?」
「やだ!!」
「のののあほ!」
「あいぼんの方がもっともっとアホ!!スペシャルばか!!」
伝えたいことって、本当に伝えたい相手にはなかなか通じないものなんだよね。
人間って、哀しいね。

「オマエら、聞けよー。せっかくよっすぃーがいいハナシしてたのに」
矢口さんが、諦めたように呟く。
二人に『友情』を教えようと考えたよっすぃーのプレゼントは、二人の友情にヒビを入れる
結果に終わってしまった。
53 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時14分55秒
「なん、だよ……二人とも、全然うれしそうじゃないじゃん」
プレゼントを巡って言い合いする二人を見ていたよっすぃーが、ぽつりと呟く。
何かに耐えるように拳を握り締めて立つよっすぃーは、少し涙ぐんでいるように見えた。

「一週間交代にしようって。ねぇ、ののぉ」
「えーっ、どーしよっかなぁ」
「ののぉぉぉ」
でもこの場合、本当に泣きたいのはあいぼんの方だと思うの。


「もういい。もうやだ、こんなの…こんなの、サンタクロースじゃないよっ!!」
奇妙な捨て台詞を残し、よっすぃーが楽屋を飛び出す。
よっすぃー。昨夜の時点で私たちもうとっくに、サンタクロース失格だった気がするの。

「追っかけた方が良くない?」
「あっ、はい!」
よっすぃー、可哀相…なんて思いながら入口のドアをぼんやりと見つめていた私は、
矢口さんの言葉にハッと我に返る。
そうだ、追いかけなくちゃ。何だかよくわからないけど、よっすぃー落ち込んでたみたいだし…。

「まって、梨華ちゃん!」
「なに?」
ドアを開けて外へ出ようとしたところで、私を引き留めるあいぼんの声に振り返る。
54 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時16分30秒
「ウチな、考えたんやけどぉ。みんなでやらへん?
誰か一人が持って帰って、仕事のときにまた持ってきたら楽屋とかで遊べるし。
二人だけやなくてみんなでやったら、よっすぃーもっともっと喜ぶんちゃうかなぁ」
あいぼん…。

「というワケで、これは加護さんが責任を持って預かっときます」
ののは自分のワガママぶりを反省したのか、少ししょげた様子であいぼんにプレゼントを手渡す。
一方、本体を我が物にできたあいぼんは念願かなってこの日一番の笑顔を見せてくれた。


「ねぇ、追っかけた方が良くないかい?」
「えっ?あっ!」
あいぼんってば、盗人猛々しい…なんて思いながらぼんやりしていた私は、
矢口さんの言葉にハッと我に返る。
そうだ、今度こそよっすぃーを追いかけなくちゃ!
私はよっすぃーの涙を拭うためのハンカチを用意すると、ドアを開け外へ飛び出す。

待っててね、よっすぃー。
よっすぃーが二人のために一生懸命考えてプレゼント選んだこと。
喜んでもらえなかった気持ち…私、全部わかってるから。

でもやっぱり、980円っていうのは良くなかったと思うのっ…!!
55 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時17分55秒
「きゃあっ!?」
外へ出て数歩ダッシュしたところで、私は何かに躓いて派手に転んでしまった。
「やだ、もぅ」
誰、通路に荷物なんか置いた人は…もう、危ないじゃない。

「梨華ちゃん、こんなトコ走っちゃ危ないよ?」
腰をさすりながら起き上がると、私を躓かせた物体が突然呑気な口調で喋りだした。
誰、通路に『膝を抱えたよっすぃー』なんか置いた人は。危ないじゃない。

「よっすぃー。床、冷たくない?」
「ん?ああ…冷たいかも」
私は、どこを見ているのやら焦点の定まらない目でぼんやりと呟くよっすぃーの隣に腰をおろした。
通りすがる人たちが、廊下に座り込む私たちを不思議そうな顔で見ていく。

「梨華ちゃん。あたし、二人に酷いコトしちゃったよ」
暗い声で呟くと、よっすぃーは膝を強く抱いて縮こまった。
いつもは大きくて頼もしく見えるよっすぃーだけど、こうしているとまるで小さな子供みたい。
56 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時19分02秒
「クリスマスにね、弟たちにも同じプレゼントあげたんだ。
そんときすっごい喜んでたから、それ思い出してさ」
「…そっか」
「でも考えたら、あいつらは同じ家に住んでていつでも一緒に遊べるから喜んでくれたんだよね。
あいぼんとののは一緒に住んでるワケじゃないもん。ケンカになって当然だよね」
「…うん、そうだね」
ちょっと気付くのが遅かったんだよね、よっすぃー。

「でも二人とも喜んでたから、大丈夫だよ。よっすぃーが出てっちゃった後にあいぼんがね、
二人だけじゃなくてみんなでやろうって言ってたんだよ?
だからそんなに落ち込まないで?ねっ」
私の励ましも空しく、よっすぃーは俯いたまま黙って首を横に振った。

「あたしはやっぱ、サンタクロースにはなれない」
他の人が聞いたらきっと、『そんなくだらないことで』って笑うかもしれない。
けれども私は、うずくまって今にも泣き出しそうな落ちこぼれサンタを
笑うことなんかできなかった。

「どうしよう。まだ、あげたいヒトいっぱいいるのに…どうしよう、梨華ちゃん」
よっすぃーは私が差し出したハンカチで涙を拭うと、震える声で言った。
57 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時20分24秒
「私がついてるじゃない」
「えっ?」
顔を上げてこちらを向いたよっすぃーはその大きな目に涙をいっぱい溜めて、きょとんとしている。

「あいぼんとののが二人でひとりなら、私たちだって同じだよ!サンタ1号と2号は二人でひとりでしょ?
だから二人でちゃんと考えてみようよ。二人でひとつになろうよ、よっすぃー!!」
最後の方はちょっと大胆告白っぽくなっちゃったけど、私は思いつく限りの言葉で
よっすぃーを励まそうと努力した。

「梨華ちゃん、ありがとう」
少し考えた後でそう言ったよっすぃーの顔は、泣き顔からまたいつもの笑顔に戻っていた。

「ぶっちゃけ、あたし…。けっこー、てきとーに考えてたんだ。みんなへのプレゼント」
「適当って、他には何をあげるつもりだったの?」
確かに私の目には、狙ったように的外れで迷惑なプレゼントばかりを選んでいるようにしか
見えなかったけど…もしかして、よっすぃーも自覚してたのかな。
58 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時21分46秒
「ナイショだよ?絶対言わないで」
「うん。言わないけど」
あいぼんとののの一件で挫折しなければ、極秘にしなければならないほどのいいかげんなプレゼントを
平気な顔でみんなに配っていただろうよっすぃーの思考回路が、私には理解できなかった。


「あのね。安倍さんと飯田さんには、牛のキーホルダー」
「えっ、なに?牛?」
聞き間違いじゃない、ってことは十分すぎるほどわかっていた。
はっきりと『うし』って発音してたし。口の動きだってそう読み取れたし。
北海道出身→北海道→牧場→牛。
よっすぃーが上記のような連想でその結論に達したのも痛いほどよくわかるの。だけどだけど…。

「せめて、ぬいぐるみとかにしてあげれば良かったかもね」
「あ?ああ、そだねー」
よっすぃーが考え直すチャンスを得て良かった…やっぱり、人生には挫折ってモノが必要なのね。
59 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時23分04秒
「ごっちんにはね、アイマスク。よく眠れるように」
「そんなのいっぱい持ってるんじゃない?」
「違うよぉ。ホラ、目のとこに目の絵が描いてあるヤツあんじゃん。アレ」
「よっすぃー、そろそろ戻らない?床、冷たいし」
今日限りサンタ1号とは縁を切りたい。そう思い始めていた。
「保田さんには、美術の教科書。あたしが中3のときに使ってたやつ」
それは、『一から勉強しなおせ』っていうパンチの効いた嫌味?もう、よっすぃーったら。

「ねぇ、私には?」
呑気なよっすぃーのことだしパートナーへのプレゼントなんて考えてもいないだろうから
ほとんど期待はしてないけど、一応質問してみる。

「えっ、えーっ…梨華ちゃんにはぁ。やだっ、ちょっと言えない。もーっ、バカ!」
「いたっ!」
えっ、何をくれるつもりだったの、よっすぃー!?
よっすぃーのバカ力で思いっきり叩かれた左腕の痛みもすっかり忘れるほど、
彼女の発言は私にとって衝撃的なモノだった。

よっすぃー、てきとーでも何でもいいからそれ…ちょうだい。
60 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月01日(火)18時24分43秒
「でも、もうやめる。ぜんぶ白紙に戻して考え直す」
「ええっ!?」
いやっ!戻さないで!私へのプレゼントだけは、考え直さないでーっ!!

「あたし間違ってた。誰かに本当に喜んでもらうためには、こっちが本気にならなきゃダメなんだよね。
あたし、ちゃんと考える!これからは、みんなに本気のプレゼントするから!!」
そう言うとよっすぃーは、何かを決意したようにすっくと立ち上がった。
「よっすぃー…」
何だかよくわからないけど、立ち直ってくれたんだね…良かった。


「本気のプレゼント。略してマジプレ」

よっすぃー。
どうしてかな、私……とても、嫌な予感がするの。
 
61 名前:すてっぷ 投稿日:2002年01月01日(火)18時26分57秒
皆様、明けましておめでとうございます。&遅レスですみません。
話は年末の設定ですが、更新はあっさり年を越してしまいました。
よろしければ、今年も引き続きお付き合いください…。

>34 名無し読者さん
ありがとうございます!そう言ってもらえて安心しました&励みになります。
最後までどうぞよろしく…。

>35 穏健派さん
間違いっぱなしの石川さんですが、よろしければまた指摘してやってください(笑)

>36 13さん
第1話のほのぼのぶりから一変。騙してしまったようで心苦しいです(笑)
吉澤サンタ、無邪気→邪悪にレベルアップしてましたもんね。
ずれた石川さん、どこまで壊していいのやら手探り状態ですが…お付き合い、よろしくです。
しかし保田画伯は何故そこまで『棒』にこだわるのでしょうか。
あそこまで徹底されると、単に首から下を書くのが面倒なだけとは思えないのですが(笑)

>37 ARENAさん
今回の主役(石川さん)は吉澤のボケを見逃しっぱなしで…。
脳内でツッコミながらお読みいただければと思います(笑)
62 名前:すてっぷ 投稿日:2002年01月01日(火)18時28分37秒
>38 もんじゃさん
見つけてもらえて良かった…。
いしよしと言って良いのか微妙ですが、そうならなくても許してください(笑)
悪魔の使者二人、これからも続々と幸せ(?)をお届けする予定です。

>39 名無し読者さん
ありがとうございます!
残された矢口、本当に匂わせる程度ですが入れてみました。
と言いつつ全然匂わせてないかも知れませんが(笑)

>40 名無し読者さん
確かに、このタイトルからこんな邪悪なサンタは連想しませんよね(笑)

>41 valueさん
ありがとうございます。石川視点は初めてになりますが、難しい…。
いしよしと言いながら今のところ全然それっぽくなっていませんが、
見捨てずにお読み頂けるとうれしいです。
最終的にいしよしになるかも、怪しいです(笑)
63 名前:すてっぷ 投稿日:2002年01月01日(火)18時29分59秒
>42 巡回読者さん
あ、捕まってしまった(笑)。すみません、ひっそり始めておりました。
よっすぃー、これからさらに壊れていくと思います…。
確実に天罰が下りそうな二人ですが、そうならない事を祈ってやって下さいませ(笑)

>43 名無し読者さん
吉澤、どんどん重症になってきてますが…石川さんと共に最後までお付き合い
よろしくお願いいたします(笑)
64 名前:REDRUM 投稿日:2002年01月01日(火)19時41分19秒
梨華ちゃんへのプレゼントは・・・うう〜妄想が止まりません
65 名前:名無し梨華 投稿日:2002年01月01日(火)20時59分23秒
アゴで話す石川さんがスキ(w
66 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月01日(火)23時12分51秒
>>そんな普通のよっすぃー、よっすぃーじゃない!!幻滅っ!!

実はいちばんあほなのは彼女のような…
67 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年01月01日(火)23時46分26秒
うわあっ! 完全に乗り遅れた!
こんなにおもしろいのになんかくやしい。
ヨシコだけじゃなく梨華ちゃんまで暴走気味でいいっス。
68 名前:穏健派 投稿日:2002年01月02日(水)02時40分22秒
>>言ってることはアホだけど言ってることさえアホじゃなきゃ、よっすぃーってば完璧にカワイイのにね!
言ってることよりやってることのほうがはるかにアホですよ、石川さん!!

ところであのあと矢口はどうなったんだろう・・・、気になる・・・。


69 名前:13 投稿日:2002年01月02日(水)10時18分13秒
石川さんが、どんどん壊れていく・・・(笑)
邪悪サンタに壊れサンタ、ナイスコンビになってきましたね。
残りは5人、「マジプレ」にパワーアップした邪悪サンタの活躍に期待です。
70 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月02日(水)20時03分33秒
ついに本気になった吉澤さん、さらなる暴走に期待!(w

石川さんへのプレは考え直さないであげたげて!
71 名前:おさる 投稿日:2002年01月03日(木)00時54分27秒
あけましておめでとうございます。年末年始はパソコンいじること自体やめていたんですが、こんなに心安らかでいられるものなんですねぇ(藁。普段だと「今日更新したかもしれない、いや今更新したかもしれない」などと何か強迫観念的にチェックしてたものですから…。それはともかく今年も名作の数々期待しております。さてさて梨華ちゃんはよっすぃーに散々振り回されつつそれでもやはりよっすぃーのことを思ってしまうという”梨華ちゃんは(よっすぃーの)心の応援団”であることが判明したわけですが…。本気出したよし子サンタがどんなプレゼントをしてくれるのか、そして肝心の梨華ちゃんへは何をプレゼントするのか、見ものでございます。2年越しのクリスマス物語、いかになることなりますやら…。乞うご期待といったところですね。
72 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月04日(金)01時20分27秒
そう言えばヤスモニデビューしてるんだなぁ・・・
と思い出してみたり(w
73 名前:すてっぷ 投稿日:2002年01月04日(金)16時59分18秒
感想、ありがとうございます!
第4話、もうしばらくお待ちください…。

>64 REDRUMさん
プレゼントは…妄想におまかせします(笑)

>65 名無し梨華さん
旬のネタ(=アゴ)、使ってみました(笑)

>66 名無し読者さん
本当に、アホばっかりで収拾つきませんね…。

>67 梨華っちさいこ〜さん
こんなモノを一気に読んでいただけたのでしょうか。ありがとうございます!
今回は主役2人が暴走しっぱなしで、どうなることやら…お付き合い、よろしくです。

>68 穏健派さん
またまた的確なツッコミ、ありがとうございます!
矢口のその後は…ご想像(妄想)におまかせいたします(笑)

>69 13さん
そうか、石川さんは『壊れサンタ』だったんですね…(笑)
邪悪&壊れ。このコンビ、既にサンタクロースじゃなくなってる気がします(笑)

>70 名無し読者さん
吉澤さんの『本気』、おそらく間違った方向に暴走するかと。
石川さんへのプレも白紙に戻ってしまいましたし(笑)
74 名前:すてっぷ 投稿日:2002年01月04日(金)17時01分36秒
>71 おさるさん
マメにチェックしてもらってるのですね。ありがとうございます&更新遅くて申し訳ないです。
今年もたぶん同じようなペースですので…ごくごくたまに、覗いて頂ければ十分かと(笑)
>梨華ちゃんは(よっすぃーの)心の応援団
良いたとえです(笑)。応援する方もされる方もどこか微妙に間違っていて頼りないですが、
お付き合いのほど、よろしくお願いします。

>72 名無し読者さん
書いた本人ですら忘れてました…思い出していただけて光栄です(笑)
75 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月06日(日)20時39分42秒

<第4話>よっすぃー!よっすぃー!!よっすぃー!!!


――ただいま電波の届かないところにあるか、電源が入っていません。

「はあっ…」
電話の向こうから聞こえてきたのが期待していた声ではなくて、またタメ息をついた。
ベッドの上で仰向けに寝転んだまま、右手に持った携帯を見つめる。
『応答なし』を知らせる事務的な女の人の声、今日一日で何回聞いただろう。


今日はわりと早い時間に仕事が終わって、家に着いたのが午後4時。
せっかくだからよっすぃーを誘って買い物にでも行こうと思っていたのに、
彼女は私が声をかける間もなく脱兎の勢いでその場から立ち去ってしまった。

(『これからは、みんなに本気のプレゼントするから!!』)
恐いくらいに張り切っていた今朝のよっすぃーの姿に不吉な胸騒ぎが止まらなくて、
帰宅直後と夕食後、それからお風呂に入る前と入った後、そして就寝前の今だって。
何度よっすぃーの携帯を呼び出しても繋がるのはよっすぃーじゃなくって、
『ただいま電波の届かないところにあるか…』のおねえさん。
もぅ…。

どこにいるの、よっすぃー。
76 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月06日(日)20時41分13秒
「よっすぃー」
電池切れかな?それとも、ワザと電源切ってる?でも、だったらどうして?
『応答なし』の理由が知りたくて、いろいろと考えてみる。
もうすぐ午前1時。電気を消して、音のない部屋に私はひとりぼっち。
なんだかすごく、心細くなった。

「よっすぃー」
呼んだって来てくれるはずないし、呼んだって電話に出てくれるはずもないし、だけど、それでも。

「よっすぃー」
今日はちょっと落ち込んでたし、その後だってなんとなく変な方向に立ち直っちゃってた気がするし…。
目を閉じると最初に、よっすぃーの泣いてる顔が浮かんだ。
どうして電話に出ないの?
どうして、電話くれないの?
誰に見られているわけでもないのに、私は頭から布団を被ってその中へ深く潜り込んだ。
なんだか恥ずかしい…どうして私、泣いてるんだろう。

このまま眠ってしまったらきっと、夢の中に出てきちゃうんだろうな。
それはそれでうれしいけどでもきっと、楽しい夢じゃないと思うからちょっと嫌。
だって私、よっすぃーのコトがすごく心配なんだもん…楽しい夢なんかのはず、ないよ。
77 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月06日(日)20時42分48秒
――梨華ちゃん、安倍さんと飯田さんへのプレゼント。どうかな、コレ。
――『モーゥ!!』

よっすぃー!?それ、本物の牛じゃない!!


――梨華ちゃん、ごっちんへのプレゼント。どうかな、コレ。
――『あなたはだんだん眠くなーる、眠くなーる』

よっすぃー!?それ、催眠術師じゃない!!(睡眠と催眠は別モノだよっ!?)


――梨華ちゃん、保田さんへのプレゼント。どうかな、コレ。
――『はじめまして、わたくし吉澤さんのクラスの美術を担当しております。○○と申します』

よっすぃー!?それ、誰!?


――梨華ちゃん、………あげる。

よっすぃー。………いいの?
78 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月06日(日)20時44分24秒
「…ちょっと…よっすぃーってば…これじゃどっちがプレゼントか、わかんな…あっ」
どうしよう、もしかして私ったらすごく楽しい夢見ちゃってるかもしれない。
ううん、違う。これは、夢なんかじゃない。

「待って、や、だ…よっすぃー、よっ………ええっっ!?」
聞き覚えのあるメロディーが突然耳に飛び込んできて、私はドラマなんかでよくあるみたいに
ガバッと勢いよく上半身だけ起こして、辺りを見回した。

「夢…?」
さっきまですぐ側にいたよっすぃーは、どこにもいなかった。
認めたくないけれどさっきまでの素敵な出来事はすべて、夢だったのね。がっ……かり。

「これが初夢だったら良かったのに…あーあ、惜しいことしちゃったなー」
初夢は正夢になるんだって、飯田さんが言ってたもん。
それより私…一人暮らしのせいでついてしまった思ったことそのまま口に出しちゃうクセ、直さなきゃ。

「あっ!携帯!?」
枕元では、私たちの夢のひとときをぶち壊してくれたよっすぃーとおそろいの
着メロ(『もろびとこぞりて』)が鳴り響いている。
慌ててそれを手に取り、表示を見てハッとする…よっすぃーからだ!
79 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月06日(日)20時46分18秒
「よっすぃー!?」
『もしもし?梨華ちゃん?』
やっと連絡がついて興奮する私とは対照的に、電話の向こうから聞こえてきたよっすぃーの声は
いつもと同じくいたって呑気なモノ。

「もーっ、なにしてたの!?ずっと心配してたんだからね!!」
『さむっ!梨華ちゃん、さっみーって、マジで!!』
「ちょっと!何なのよ、いきなり!」
そりゃあ加入当初から矢口さんはじめ中澤さんや保田さん、挙句の果てには飯田さんにまで
『寒いよ、石川』なんて言われ続けてきた私だけど、同期であるよっすぃーにわざわざこんな
早朝から電話で起こされてまで言われる筋合いなんてないもんっ!!

『っくしゅっ!うあー、寒いよぉぉ』
「よっすぃー、もしかして外から?」
電話の向こうから聞こえてきたくしゃみから、よっすぃーの言った『さむい』という言葉を
間違って解釈していたことを悟った私は、同時に彼女の声に混じる雑音に気が付いた。

『うん。はこだて』
「えっ、なに?よく聞こえなかったんだけど」
はこだて、確かにそう発音しているように聞こえた。
HAKODATE、何かの暗号かしら?
80 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月06日(日)20時48分07秒
『函館、来てるんだけどぉ』
「はこだてって、あの函館!?北海道の!?」
『ったりまえじゃん、他になにがあんだよぉ』
「それは、そうだけど…」
いつも通りの呑気なトーンに、言い返す気力も失せてしまった。どうせ言い返してもムダだと思うし。

「なにしてるの?そんなとこで」
『なにって。ホラぁ、安倍さんのプレゼントだよ。
安倍さんといえば北海道、北海道といえば海の幸、海の幸といえば北海道でしょ?』
「それで函館まで買いに行っちゃったの?」
『北海道といえば函館、函館といえば北海道』
わざわざ足を運ばなくたって、通販とかで買えば済むことなのに…。
わざわざ足を運んで自分の手で買ってくることが、よっすぃーの言う『本気のプレゼント』なのかな?

『もうねー、すっごいの!大漁だよ、大漁!!
ってゆーかさぁ、もうアレだね。カッコ良すぎだよ、海の男!!』
「…え?」
大漁、ってどういうこと?
海の男と函館でなにしてたの?
よっすぃーとのサンタクロース・ライフは毎日が新鮮な驚きに満ちていて、ちょっと疲れるけどでも素敵。
81 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月06日(日)20時49分53秒
「大漁ってなに?海の幸、買いに行ったんじゃないの?」
安倍さんへのプレゼントについて鼻息も荒く語り始めたよっすぃーに、私は努めて冷静に質問する。

『昨日仕事終わって来たからさ、こっち着いた時はもう暗くなってたんだけど。
やっぱ新鮮なやつが欲しいじゃん?で直接港に行ったのね、分けてもらおうと思って。
したらさー!ちょうど、イカ釣り漁船が港出るとこで!!
頼んだら乗っけてもらえたんさー、いいっしょ?なぁ?いいっしょぉー!!』
「海の男って、漁師さんのこと?」
ひとまず、『大漁』の謎については解明できた。
私はあくまで冷静に、質問を続ける。

『そう。マジかっけーんだって!あたしさぁ、ココ住んじゃおっかなー。
なんかさぁ、アイドルもいいけど漁師の道ってのもアリかなーって』
「うん。気持ちはわかるけど、今日も仕事あるから帰ってきてね」
『うん。わかった』
電池切れかな?それとも、ワザと電源切ってる?でも、だったらどうして?
なんて、ちょっと可愛げな女のコっぽく揺れていた昨夜の自分がバカバカしく思えてきた。
漁船乗ってて圏外になってただけだったなんて、ね…。
82 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月06日(日)20時52分04秒
『ねぇ、梨華ちゃん!知ってた?イカって、『いっぱい』って数えるんだって。『おっ○い』じゃないよ?
間違えんなよっ!!』
「…うん、知ってる」
ふと枕元の目覚まし時計に目をやると、現在の時刻は午前4時20分。
よっすぃー、朝から楽しそう…。


『あのね、梨華ちゃん。海って、すっごく広いんだよ?』
「…うん、知ってるけど」
眠くなりそうなほど当たり前の事実に、私の返事も自然と投げやりになる。
よっすぃーの口調はさっきまでのハイテンションなモノから一変、再び元の
呑気な口調に戻っていた。

『あたしが乗っけてもらった船さぁ、いつもはおとうさんと息子の二人で漁に出るんだって。
だから他のに比べたらそんなに大きな船じゃないらしいんだけど、あたしから見たらすごく
大っきく見えたんだよね。だって漁船なんてさ、あんま近くで見たことないし』
「…うん」
ベッドに腰掛けてよっすぃーの声を聞きながら、目を閉じて想像してみた。
昨夜私が夢の中にいたとき、よっすぃーはどんな船に乗って夜の海を旅していたのかな。
83 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月06日(日)20時54分37秒
『乗り込む前にね。港から船見てたら、そんときは船がすっごい大きく見えてさ。
でもそれ乗って海に出たらさぁ、自分が乗ってる船がすごく小さい船みたいに感じたんだ。
すごく小さくてさ、波が来たら飲み込まれちゃいそうでホント恐いんだよ?』
「うん」
『すっごい小さい船で、でも二人とも奥さんとか子供のために魚捕ることばっか考えててさぁ、
めっちゃくちゃ一生懸命になってんだよ?大切な人のためにね、すっごい一生懸命になってんの。
なんか、そーゆーのってさぁ、良いよねぇ』
「うん」
『だからあたしも、安倍さんのコト考えながら一生懸命手伝ったの。
安倍さんの喜ぶ顔とか想像したら、すごいうれしくなった。
なんかね、おとーさんの気持ちになったよ?』
「…そっか」

広くて大きな海の上で、小さな船に揺られて。
波に飲み込まれそうになって恐くても、大切な人のために。
そんな素敵なプレゼントを受け取って喜ぶ安倍さんを想像したら、私もいっしょにうれしくなった。


ただ、
事情説明もなしにいきなり『とれたてのイカ』を手渡されたら安倍さん、戸惑っちゃうかも知れないけど…ね。
84 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月06日(日)20時56分01秒
『そーゆーワケだからさ。梨華ちゃんは飯田さんのプレゼント、よろしくね?』
「えっ、飯田さんの?」
よっすぃーの心温まる漁師体験に聞き入っていると、寝耳に水。

『今日、朝から会うって言ってたじゃん』
「…そっか。うん、まかせて!」
よっすぃーの言う通り、今日は朝からタンポポの仕事で飯田さんと一緒。
寝起きでぼーっとしてるせいか自分がサンタクロースであることをすっかり忘れていたけど、
徹夜でイカ釣りがんばってくれた1号の代わりに、私はプレゼント代行を快く引き受けることにした。

「それで、なにあげたらいいの?」
よっすぃー曰く、『サンタ2号は、1号の指示に従うコト』らしいから…
呑気なよっすぃーのことだから、『考えてない。梨華ちゃん考えて』なんて
言われちゃいそうだけど。

『あっ、そだね。ちょっと待ってね…』
ガサガサと荷物を探るような音がして、よっすぃーの声も少しくぐもって聞こえる。
85 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月06日(日)20時58分23秒
『ちゃんとねー、聞いてあるんだ』
くぐもっていたよっすぃーの声がクリアになったのに続いて、なにやら慌しく紙をめくるような音。
『聞いてある』って言葉から察するに、よっすぃーは飯田さんに欲しいものをちゃんとリサーチしていた様子。
電話の向こうでパラパラとめくっているのはもしかして、飯田さんへのプレゼントをメモしておいた例の手帳かな?

『えっとねー、飯田さんにはぁ…愛』
「えっ、なに?」
聞き間違いじゃない、ってことは十分すぎるほどわかっていた。
わかってるけどできれば聞き間違いであってほしい。
そんな願いも込めて、電話の向こうのよっすぃーに聞き返さずにはいられなかった。

『愛が欲しいんだって、飯田さん』
「私、なにあげたらいいの?」
『あっ!ゴメン、梨華ちゃん。みんながこれからあたしの送別会、やってくれるっていうから。
お昼にはそっち帰るから、またあとでね』
「待って、よっすぃー!」
遠くで漁師さんたちの楽しげな笑い声が聞こえている。


『北海道のお土産、いっぱい買って帰るからねー!』

よっすぃー。
マジで、私……飯田さんに、なにをあげたらいいの?
 
86 名前:すてっぷ 投稿日:2002年01月06日(日)21時00分39秒
第4話、終了です。
もうしばらく続きそうですが、よろしければお付き合いください…。
87 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月06日(日)21時11分09秒
馬鹿吉最高
88 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年01月06日(日)21時51分49秒
ヨシコ、なんかやばいぞ。
…がんばれ、梨華ちゃん、君が彼女を止めるんだ(笑
89 名前:もんじゃ 投稿日:2002年01月06日(日)23時34分05秒
心温まる体験を熱く語るよっすぃ…。
ホントにバカな子ほどかわいいって心の底から思いました…(笑
しかし梨華ちゃんの考えるプレゼントも見当違いそうで、次回が怖いです(苦笑
90 名前:もんじゃ 投稿日:2002年01月06日(日)23時35分20秒
メール乱、気にしないでください。スマソ。
91 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)02時14分59秒
そうか梨華ちゃん・・・運命に翻弄される少女の役を
よっすぃ〜から引き継いだんだね(><
がんばれ梨華ちゃん!僕らの笑いのために!!
92 名前:ARENA 投稿日:2002年01月07日(月)04時07分52秒
一人ぼっちで吉澤のことを想ってる石川もよかったけど、
やっぱ少年みたいにはしゃぐ吉澤がすごいよかった(w
こりゃ本気だ・・・(w
93 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)07時52分31秒
海の男となったよっすぃが無邪気でなんだかとってもいい感じ!
さあ、そんな相棒の石川さんがどんな素敵な
プレゼントをあげるのか期待です(w
94 名前:名無し梨華 投稿日:2002年01月07日(月)18時14分23秒
爆笑
バカよしこマンセー!

あと梨華たんはどんな亜依をあげるのか(w
95 名前:13 投稿日:2002年01月07日(月)21時39分43秒
海の男よっすぃーかっけー!(笑)
石川さんの妄想夢も凄いですね。美術の先生最高です!
96 名前:おさる 投稿日:2002年01月08日(火)23時42分11秒
実を申しますと私、北海道ではありませんがやはり北国の生れで、でっかい誘魚灯を何個も付けたイカ釣り船が朝早くに出航していくのを幼い頃によく見ておりました。イカ釣り船に乗ったよっすぃーの体験談と感想、すごくリアリティーを感じました。それとマジサンタを目指すよっすぃーを心配して夢にまで見てしまう梨華ちゃん、もう振り回されてるとかじゃなくて、よっすぃーとは「心のデコボコ漫才コンビ」とでも名乗ったほうが良いでしょうね。但し2人ともボケ担(
藁。梨華ちゃんの夢に出てくるよし子サンタの各メンバーへの贈り物、なかなかそれっぽくて良いと思いますよ。続きが楽しみ楽しみ。
97 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時29分35秒

<第5話>愛ってなあに?


「さあ、飯田さん!どっちでも好きな方、選んじゃってくださいっ!!」
私は早朝からご飯も食べずに悩みに悩みぬいた末、ようやく考えついたプレゼントを
飯田さんの前に差し出した。

「なにコレ…何のマネ?」
とっておきの梨華スマイルで誇らしげに立つ私とは対照的に、プレゼントを見下ろす飯田さんの
表情はなぜか強張っている。
それはおそらく、私の差し出したプレゼントの意味するものが彼女に通じていないせいだと推測された。
もぅ、飯田さんったら相変わらず鈍いんだから…。


「だって飯田さん、『アイ』が欲しいんですよね?ほらっ、亜依と愛。さあ、どっち!?
なーんちゃって、あはっ!くすっ、あはははっ!やだもー、私ったら!」
ネタの途中に自分でウケちゃうなんて…芸人として最もサムイ行為(矢口さん談)なのに。
だけどこれは笑わずにはいられないよ、だって面白すぎるんだもん!
『愛が欲しい』と聞いて『亜依』と『愛』を思いつく人なんて、世界中どこ捜したって居ないよね?絶対に居ないはず!
やっぱり私ってば、面白すぎ!!天才っ!!
98 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時31分23秒
「梨華ちゃん、勝手にプレゼントにしないで。ウチ、早よゲームやりたいねんけど」
「石川さん、私、仕事でもないのに来ちゃって良かったんでしょうか?」
梨華ちゃんのマジプレ作戦大成功!と思ったのも束の間、
飯田さんを前にして早くもプレゼントたちが不満を漏らし始めてしまった。

「「…っ!」」
モノたちに騒がれてしまっては、せっかくのプレゼントが台無しになってしまう。
私はあいぼんと高橋の背後から、二人の頭を抱え込むようにして手で口を塞いだ。
石川梨華、会心のギャグ。誰にも邪魔はさせないんだから!


「ゴメン石川。つまんない」
「ええっっ!?」
飯田さんが発した氷のように冷たい一言に、私は自分の耳を疑った。
石川梨華、一世一代のギャグを『つまんない』だなんて!?(しかも謝られた!)
いくら飯田さんのギャグセンスがずれているからって、まさかそんなはずはっ!?
99 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時32分47秒
「だってだって!飯田さん、ダジャレとか好きじゃないですかっ!?」
「好きだけどクリスマスにもらったってこれっぽっちも嬉しくないし、第一面白くなかったよ、今の」
「そ、そんな……」
喜んでもらえなかった上に自分のギャグセンスまでをも真っ向から否定され、
私は体中の力がゆっくりと抜け落ちてゆくのを感じていた。
一生懸命考えたプレゼントを喜んでもらえなかったよっすぃーの気持ちが、ようやく分かった気がする。
まさかこんな形で思い知らされることになろうとは思わなかったけど、ね…。

「もーっ!なにすんねん、梨華ちゃん!!」
「私、このままココに居ちゃってもいいんですか?」
口を塞がれていた力が緩んだ隙に、あいぼんと高橋は私の腕からするりと抜け出した。

「ゴメンね。もう帰ってもいいけど…」
今日は午前中がタンポポのラジオ収録、お昼すぎから娘全員での仕事が入っている。
タンポポの一員であるあいぼんは良いとしても、飯田さんへのプレゼントのためにわざわざ朝から
呼び出してしまった高橋に対しては、心から申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
100 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時34分11秒
「でも、今帰ってもトンボ返りになっちゃうから…」
「そうだよね、ゴメンね」
良いんです良いんです、彼女は手振り付きでそう言って笑ってくれたけど…
せっかくのお休み(午前中だけだけど)にわざわざ呼び出した上に飯田さんには
あっさり不評で終わってしまったコトへの罪悪感から私は、何とも居たたまれない気持ちになる。

「ひっどぉーい。高橋ちゃん、かぁわいそーぉ。石川センパイってば、さいってー。さっむぅー」
高橋への申し訳なさと、ダジャレがスベったコトが悲しくて俯く私の背後から、
容赦ない非難の声が浴びせられる。
私のことを『石川センパイ』と呼んだその声は明らかに私の後輩のモノではなく、
さらに同期のモノでもない、こんな状況で一番聞きたくなかった人のモノだった。

「寒い。極寒。今日から梨華ちゃんのコト、『シベリア』って呼ぼう」
声の主に背を向けたままで私は、拳を震わせながらひたすら屈辱に耐えるしかなかった。
矢口さん、どうしてそこまで私に冷たく当たるんだろう。
こないだ中澤さんのプレゼントにされたこと、まだ根に持ってるのかな…矢口さんって、案外しつこい性格なのね。
101 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時35分29秒
「聞いて、石川。カオリが欲しいのは、加護でも高橋でもダジャレでもオヤジギャグでもないの」
「…はい」
「ましてや、つまんないダジャレなんて言語道断なの」
「…すみません」
私は棒立ちで肩を震わせながら、飯田さんのお説教にじっと耐えていた。
顔がだんだん火照ってくるのがわかる…たぶん私、耳まで真っ赤になっちゃってると思う。
こんな情けない先輩の姿を見て、高橋はどう思っているだろう。

「カオリが欲しいのは、愛なの」
どうせならもう少し、カッコイイことで怒られたかった。
「尽くして」
待って。そもそも、飯田さんのダジャレだっていっつも面白くないじゃない。そうだよ!私は悪くない!

「カオリに、尽くして」
そうだよ!飯田さんのネタはいつも、爆笑というより失…
「えっ?」
一旦は左の耳から右の耳へ聞き流した飯田さんの発言だったが、
その聞き捨てならない内容に私の思考は一瞬遅れで中断された。

「飯田さん、今なんて…」
聞き間違いじゃない、ってことは十分すぎるほどわかっていた。
「尽くして、って言ったの」
ほらね、やっぱり。
飯田さんの素敵な笑顔がとても、怖い。
102 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時37分06秒
「シベリア、ノド渇いた。お茶買ってきて。それからタコ焼きとー、シュークリーム」
「私、矢口さんに尽くすつもりはありませんから」
「あー?んだよ、その口の利き方は。チャーミーのくせにナマイキだぞぅ」
先輩じゃなきゃ、とっくに埋めてるとこなのに…耐えるの、耐えるのよ、梨華。

「ダメ!石川はカオリのプレゼントなんだから」
「いいじゃん。カオリのモノは真里のモノ、真里のモノは真里のモノだよ」
「あはははっ!なにそれ面白いよ、矢口!!面白いから特別に許す」
先輩じゃなきゃ、とっくに沈めてるとこなのに…堪えるの、堪えるのよ、梨華。


「石川。カオリ、肩こっちゃって鉛筆が握れないの。どうにかして」
「…はい」
「シベリア。それ終わったら、お好み焼きとケーキね」
「…はい」
「梨華ちゃん。野球ゲームやらへん?」
「…はい」
「あのぅ、石川さん。私も何かお願いした方が良いですか?」
「…はい」

飯田さんの肩を揉みながら、お好み焼きとケーキはコンビニので許してもらえるかな…
なんてことを考えていた。
イスに座る飯田さんの頭頂部に、私の目から悔し涙が、ぽろりひとしずく。
103 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時38分28秒
「ハイ、梨華ちゃんコールド負け。コールド・ゲーム!コールド、ゲエエエエーーッム!!」
「あいぼん、何回も言わなくたって分かってるから」
プレゼント配りのお仕事を1号より任された(今となっては、まんまと『押し付けられた』。
そんな気さえする)私のサンタ生活は実に地味に幕を開け、そして。

「梨華ちゃん、なんか犬っぽい。今日から梨華ちゃんのコト、『エスキモー犬』って呼ぼう」
僅かに残った人間としてのプライドすらもズタズタに切り裂かれ、もうすぐ終わろうとしていた。
もぅ、最悪…なんて、始めのうちはそんな風に思っていたのだけれど。


「飯田さん、ノド渇きません?」
「ん?ああ、言われてみれば」
「そう思って石川、用意しておきました。ミルクティー、ホットですっ!」
私はミルクティーの缶を開け、飯田さんに手渡す。

「石川ぁ、気が利くじゃん。サンキュー」
「どういたしまして」
「美味しい…ああ、なんか落ち着くなぁ」
缶を口から離して一息つくと、飯田さんが幸せそうな笑みを浮かべてしみじみと言った。
飯田さん、しあわせそう。
ああ、こういうのって…ちょっと素敵かも知れない。
104 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時40分05秒
(『誰かを幸せにするってさー、すごく気持ちが良いよねぇ…』)
私はふと、よっすぃーの言葉を思い出した。

自分が幸せになりたいから誰かを幸せにしたいと思うわけじゃないけれど、
誰かに幸せをプレゼントすることで自分も幸せになれるのはオマケみたいに
くっついてくるモノで、やっぱりうれしいから…素直に喜んじゃっても、いいよね?


「キャアアアーッ、たいへん!ゴっキブリよぉぉー!!」
突然大声がして振り返ると、私のすぐ後ろには野球のピッチャーみたいに振りかぶり、
飯田さんに向かって何かを投げつけようとしているあいぼんがいた。
私はとっさに自分でも驚くほどの反射神経で、足を踏み出していた。

「ああ、落ち着くわ…」
「飯田さん!あぶないっ!!」
飯田さんを守らなきゃ!
それはまるで、本能だった。
気が付くと私は、右手にミルクティーの缶を持ったまま無防備に立っている
飯田さんの肩を、力任せに突き飛ばしていた。
105 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時41分55秒
「きゃああーっ!?」
それはまるで、スローモーションだった。
ズザザザザ…と小気味良い摩擦音を立てながら私たちの目の前で飯田さんは、
滑って転んでドア付近まで流されていった。
右手に握られたミルクティーの缶からは中身の液体が流れ出し、
夜空に輝く天の川のような、ひとすじの線を形作っていた。
それはまるで飯田さんの涙、あるいは血の象徴であるかのようにドクドクと流れ続けている。


「あーあ。だいじょうぶ?カオリ」
恐怖で固まる私の後ろから、呆れたような口調の矢口さんが進み出てくる。
飯田さんはスカートについた埃を払い落としながら、矢口さんの手を借りてゆっくりと立ち上がった。
私に背を向けて立ち上がった飯田さんの表情は私の位置から窺い知ることはできないけれど、
それはそれは激怒しているであろうことは容易に想像できた。

ミルクティーで出来た天の川の下流には、あいぼんが放ったゴキブリのおもちゃが、
後ろ足だけ浸かった状態でぽつんと存在している。
ほんの少しの間でいい、飯田さんの怒りが収まるまで、ミルクティーのほとりに
佇むゴキブリになりたい。強くそう願った。
106 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時43分46秒
「石川」
私に背を向けたままで、飯田さんが静かに言った。
「はっ、はい!!」
私は背筋を伸ばしてぴたりと両足を揃え、直立不動で飯田さんの次の言葉を待つ。
あーあ、私、また叱られちゃうんだろうなぁ…飯田さんのことだもの、常識的な怒り方じゃないはず。

たぶん、私みたいな凡人には到底理解できないような一風変わった例え話なんか持ち出しちゃって、
これなら怒鳴られる方がまだましだわ…なんて半ば意識を失いかけたところで、『話は紀元前に遡るんだけど』
とか言い出して、散々とんでもないところへ脱線した挙句、『あれ?カオリ、何で怒ってたんだっけ』の
一言で終わる頃には怒られていた当人ですら何故怒られていたのかわからなくなっているというのが
いつものパターンだもん、ね…。


「石川ってさ、やさしいコだね」
しかしこちらへ振り向いた飯田さんは私の予想に反して、とても優しい笑顔で言った。
「……え?」
冷酷な獣の顔を想像していた私は、こちらへ向けられる飯田さんの柔和な瞳を、
その場に突っ立ったまま呆然と見つめ返していた。
驚きと同時に、何か企みがあるのかも…という疑念もあった。
107 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時45分20秒
「石川は、カオリのことを思って、あんなことしたんだよね?
本当に心からカオリのこと思ってくれたから、あんなことしたんでしょ?」
見つめていると吸い込まれてしまいそうなくらいに大きな瞳は、じっと、私だけを捉えている。

「…はい」
それは、本当だった。

飯田さんを守らなきゃ、その一心で私は、とっさにあんな行動をとってしまったんだもの。
飯田さんにコキ使われた腹いせに、飯田さんを突き飛ばしたりしたんじゃない。
確かにそういう気持ちもないと言えば言えなくもないけれど、少なくともあの一瞬、私にそんな気持ちはなかった。
飯田さんを守らなきゃ、あの時はただそれだけが、私を突き動かしていた。

「ほんの何時間かだったけど石川がカオリにしてくれたこと、本当にうれしかったし幸せだったの。
尽くしてもらえたからじゃなくて、石川がすごくやさしいコなんだってことがわかったからね、
そういうのがすごく、カオリにとっては幸せだったの」
飯田さんの『言葉』は、私にはやっぱりよく理解できないけれど、
飯田さんの『気持ち』は、私にもなんとなくわかったような気がした。
108 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時46分45秒
「やさしい気持ちって、きっとそうやって周りの人にもどんどん、伝染していくものだと思うから」
そう言った飯田さんの笑顔は私のなんかよりずっとやさしくて、
私は温かいミルクティーと、夜空に流れる天の川を連想した。


「秀吉はね」
「えっ?」
ひでよし、確かにそう発音しているように聞こえた。
HIDEYOSHI、何かの暗号かしら?

「寒い寒い雪の夜、王子様と雪の夜、秀吉は信長のために、彼の草履を懐で温めたんだって。
きっと秀吉は信長のことを思って、彼が下駄を履くときに冷たくないようにって、
すごくやさしい気持ちで彼の下駄を、温めたんだと思うのね。
ちなみに懐じゃなくて、背中に入れて温めたとも言われているの……あっ、ちょっと脱線しちゃったね。
だから誰かのために『尽くす』ってね、そういうことだと思うんだ。
尽くすっていうのは、相手のことを想って、自分もやさしくなることだと思うの」
分かるような、分からないような…飯田さんの『言葉』は、私にはやっぱりさっぱり理解できない。
でも、ワカラナイことは、ワカルまでやらなくっちゃね!
ポジティブな心意気が、私を突き動かしていた。
109 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時48分31秒
「でも飯田さん。石川、思ったんですけどぉ…秀吉さんは信長さんを想ってというよりは
もっと打算っていうか、出世欲っていうか、そういう考えがはたらいて草履を温めたり
したんじゃないかと、」
言いながら、ちらりと飯田さんの反応を窺ってみる。
すると飯田さんの大きな目がさらにカッと大きく見開かれたのに気付いた瞬間、
私に向かって飯田さんの長い両腕がスローモーションのように伸びてくるのが見えた。

「バカっっ!!」
「きゃああっっ!!」
ズザザザザ…と小気味良い摩擦音を立てながらみんなの目の前で私は、
滑って転んでドア付近まで流されていた。
「きゃあっ!」
あいぼんが放ったまま放置されていたゴキブリが天の川に浸かったまま、
突き飛ばされて転がっている私を見つめているのに気付き、一瞬ヒヤっとする。

「石川!あんた秀吉のこと、何にもわかってない!!」
「えっ…」
仁王立ちで私を見下ろす飯田さんに、戸惑いの視線を投げかける。
110 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時50分09秒
「じゃあ聞くけど、あんた見てきたの!?ねぇ!!
あんたはサルが草履温めてるとこ、その目でしっかりと見てきたって言うわけ!?」
「…いいえ、見てません」
「ホラ!そうじゃん!見てもいないくせに秀吉のこと、出世欲の塊で打算的な男みたいな言い方して!」
飯田さんは両手を腰に当て、勝ち誇ったような表情で私のことを見下ろしている。

「でも飯田さんだって、」
「梨華ちゃんっていつも、一言多いよね…」
飯田さんだって秀吉さんが草履温めてるとこ、実際に見てきたわけじゃないじゃないですか…。
そう口に出そうとしたところで矢口さんがボソリと呟いた言葉にハッとし、私は思い留まった。

「でもアレ、作り話だって先生が言ってたよ?」
「ってゆーか誰も見たヤツいないんだからさ、何とでも言えるっしょ」
「私、ホントだと思ってました」
私なんかより一言も二言も多い人々の問題発言を、飯田さんはあっさりと聞こえないフリで
やり過ごしている。


(『北海道のお土産、いっぱい買って帰るからねー!』)
おねがい…早く帰ってきて、よっすぃー。
これじゃまるで私ひとりが、バカサンタみたいじゃない。
111 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時51分43秒

―――

「みなさーん、メリークリスマーっス!!」
勢い良くドアが開き、発泡スチロール製の大きな箱を抱えたよっすぃーが中へ入ってきた。
『漁協』と書かれた手ぬぐいを頭に巻いて誇らしげに立つ彼女を、モーニング娘一同、
しばし呆然と眺めていた。

「ねぇ、よっすぃー。何からツッコんで欲しい?」
しばらく呆気にとられていた矢口さんが、みんなより一足先に立ち直って言った。

「安倍さん。コレあたしと梨華ちゃんから、ちょっと遅めのクリスマスプレゼントです!
受け取ってくださいっ!!」
「え…なに入ってんの、コレ。なんかちょっと、生臭いし」
目の前に差し出された箱を見ながら、少し怯えた表情で安倍さんが言った。

「安倍さんと言えば北海道、北海道と言えば函館。
函館と言えば北海道、北海道と言えば海の幸。
安倍さんと言えば函館」
「何が言いたいんだ。しかも最後のはびみょーに間違ってるよ」
「北海道、海の幸セットです!!」
相変わらずの笑顔で、胸を張ってよっすぃーが言う。
矢口さんにきっちりツッコまれても、ヘコむようなよっすぃーじゃないもんねっ!!やっぱり好きっ!!
112 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時53分43秒
「えっ、海の幸?うっそぉー、何が入ってんだろ」
よっすぃーの言葉から箱の中身が危険物ではないと判断した安倍さんの表情は、
『怯え』から『喜び』に変わっていた。
みんな口々に「何かなー」なんて言ってワクワクしながら、床に置かれて今まさに
安倍さんが開けようとしているその箱を、覗き込む。

「よっすぃー、サンキュー。何だろう…開けるよ」
うれしそうな様子の安倍さんを見ながら、私の胸に一抹の不安がよぎる。
イカが入っているのは間違いない、だってよっすぃーはイカ釣り船に乗ったって言ってたし。
イカは問題なく美味しいと思う、この上なく美味しいと思うの。
だけど私が気に病んでいるのはイカではなくて、『海の幸セット』として詰め合わされている
イカ以外のモノたちのこと。

よっすぃー、一体なにを詰め合わせたんだろう…初日からの彼女の暴れっぷりから想像するに、
まともなモノを選んでいるとは到底思えない。
海ヘビ、ピラニア、人喰いザメ、などなど…ああ、もぅ、考えただけで恐ろしくなってきちゃったじゃない!
113 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時55分46秒
「うっそぉぉぉーっ!!カニ!?カニじゃん!すごいよ、よっすぃー!!」
「毛ガニは旬じゃないので冷凍ですが」
そんな細かいことはどうでもいいんだけど、とりあえずはまともなモノを選んでくれたみたい。

私はホッと胸をなでおろし、同時によっすぃーの恐るべし『本気』ぶりを垣間見た気がした。
函館までの交通費に加え、イカはもしかするとタダで貰えたのかも知れないけど、
毛ガニやその他にも箱の中には豪華な海の幸がたくさん詰まっているみたいだし…
バカを付けたい程の節約家であるよっすぃーなのに、安倍さんのために一体幾ら注ぎ込んだのだろう?

「コレでさー、鍋やろっか、みんなで。ね?」
「おおーっ!いいね!やろ、やろ!!」
安倍さんと矢口さんを筆頭に、みんなは鍋パーティーの計画で盛り上がっている。
その様子をうれしそうに、腕組みして仁王立ちで眺めているよっすぃーはすっかり漁民の顔だった。

「いやー。気合入ってんねぇ、よっすぃー。こりゃ自分の番が楽しみだワ」
盛り上がるみんなの輪には加わらず一人静観していた保田さんが、ニヤケ顔で言った。
114 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時57分51秒
「……あっ。そうだ、忘れてた!保田さんにも買ってきたんですよ、ついでに」
ニヤつく保田さんの顔をじっと眺めながらしばらくぼんやりした後、思い出したようによっすぃーが言う。

「アンタねー、言ってることがイチイチ失礼なんだよ。絶対自覚してるでしょ?
なぁ、わかって言ってるだろ、オマエ」
本来ならもっと怒られていいはずのよっすぃーの態度だけど、保田さんもプレゼントを
『もらう』立場としてあまり強くは言えないみたい。

「はい、コレ」
言いながらよっすぃーは、コンビニ袋から取り出した小さな箱を保田さんに手渡す。
「なに、コレ」
素直に受け取ったものの保田さんの顔は、明らかに怒気を含んでいた。

「なにって、温泉の素ですけど?」
もちろんよっすぃーは悪びれる様子もなく、当然のような口調で言い放つ。
「いや…温泉っつったらさー、旅行券とかじゃないの?普通は」
どうやら保田さんは、よっすぃーに『温泉』をリクエストしていたらしい。

保田さん。
悲しいことによっすぃーは、とっても素直な性格なんです。
『温泉』じゃなくて、ちゃんと『温泉旅行』って言えばよかったのに、ね…。
115 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月20日(日)00時59分48秒
「やだなぁ、保田さん。旅行券や宿泊券あげるのは簡単だけど、今のウチらにまとまった休みなんか
取れるワケないじゃないっすかー。もっと現実見ましょうよ、ねっ?」
よっすぃーったら、素直すぎて『温泉』そのものをプレゼントしたのかと思ってたけど
そうじゃなかったんだね。
『現実見ましょうよ』だなんて、サンタさんがそんなこと言っちゃいけないと思うの。

「あああああ…。何で温泉なんて言っちゃったんだろ、アタシ…。迂闊だった、マジで迂闊だった」
どうするの、よっすぃー。保田さん、本気で悔しがっちゃってるじゃない。

「やべやべ。ってゆーかホントにさっき気付いて、コンビニで。あせったー」
安倍さんには、函館産の豪華な海の幸セット。
保田さんには、入浴剤の詰め合わせ(近くのコンビニで購入)。


「プッチの曲かかってたのー。そんで思い出したんだけど、いやー、あぶなかったっすー」

よっすぃー。
よっすぃーの『本気』って、ムラがあるよね…。(せめて北海道のコンビニで買ってきて欲しかったな)
 
116 名前:すてっぷ 投稿日:2002年01月20日(日)01時01分51秒
遅レス、申し訳ないです…。

>87 名無し読者さん
何だかストレートに伝わってきました、ありがとうございます(笑)

>88 梨華っちさいこ〜さん
もう誰にも止められないほど暴走してますね…ましてや、石川さんでは無理な気がします(笑)

>89 もんじゃさん
とうとう「バカ」って言いましたね(笑)
石川さんの考えたプレゼント。
見当は違ってますがベタすぎるので、もしかするともんじゃさんも予想されたかも?

>91 名無し読者さん
よっすぃーも、とんでもない相手に引き継いでしまったわけですが…
最後まで見届けて頂けるとうれしいです。そして笑って頂けたら、さらにうれしいです(笑)

>92 ARENAさん
そもそもこのエピソード書きたさに始めた話だったので、
吉澤の「本気」、気に入って頂けて良かったです(笑)
117 名前:すてっぷ 投稿日:2002年01月20日(日)01時03分11秒
>93 名無し読者さん
海の男よっすぃー。かなり前から温めていたネタだったので、使えて良かったです。
相棒のプレゼント、あまり期待しない方がいいかも知れません(笑)

>94 名無し梨華さん
バカよっすぃー、好評のようで安心しました。
さて、石川のプレゼント、どんな亜依でしょうか?(笑)

>95 13さん
海の男、人気ですね(笑)
妄想夢(笑)。最後の美術の先生のネタを入れたくて、ムリヤリ考えてみました。

>96 おさるさん
実際にイカ釣り船を見たことがないので、船に慣れ親しんだ(?)方にそう言っていただけるとはうれしい限りです。
函館の漁について調べながら、「漁師入門」等のサイトに見ハマっていました。
その割には、話に全く活かされてない気もしますが(笑)
心のデコボコ漫才コンビ(笑)、ツッコミ担当はおさるさんということで。
118 名前:穏健派 投稿日:2002年01月20日(日)01時11分46秒
>先輩じゃなきゃ、とっくに埋めてるとこなのに…耐えるの、耐えるのよ、梨華。
・・・なかなか危険な思想ですね、石川さん・・・。
119 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月20日(日)01時58分58秒

>発泡スチロール製の大きな箱を抱えたよっすぃーが中へ入ってきた。
>『漁協』と書かれた手ぬぐいを頭に巻いて誇らしげに立つ彼女を、
>モーニング娘一同、しばし呆然と眺めていた。
見事に映像化されて、頭に浮かんでしまった。(w

矢口さん、突っ込んでも多分無(略
もうそっとしといてやってください…
120 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月20日(日)02時31分20秒
石川さん、ダジャレにはしってしまいましたか…
いいですよ、そうでないと吉澤さんの相手はつとまりません(笑)
リーダーには受け入れてもらえなかったけど…

安倍さん、幸せそうでなによりです。
あぁ保田さん、ご愁傷様です…

121 名前:LVR 投稿日:2002年01月20日(日)02時31分58秒
うわぁ、更新だ。嬉しいです。
やっぱりあれですよね。北海道で買った温泉の素のほうがいいですよね(w
というか、石川さんのほうが明らかに吉澤さんよりひどいことになってます。
このコンビどうなるんでしょう……
122 名前:おさる 投稿日:2002年01月20日(日)02時44分47秒
おひさしぶりです。梨華ちゃんの「アイアイ」攻撃が最高です!空回りする思考回路だけが取り柄なんですねぇ、梨華ちゃんって。そして今回もリーダーはちょっと意図ズレてる一言居士。矢口も脇からいい塩梅のボディーブロー発言。矢口ってこういう役回りがホント似合いますね。あと満を持してのよっすぃーの登場。この人は何でこんなに”男”が似合うんでしょうね。もうハマリすぎです。そして最後の保田に同情の涙(藁。こうなっちゃうのは保田の運命ですね。いいイジられ具合です。話のヤマ場はまだまだこれからという感じですかね。どこらへんに着地するのか楽しみにしています。
123 名前:13 投稿日:2002年01月20日(日)10時11分25秒
石川さん・・・ダジャレは滑ったけど、脳内妄想&脳内突っ込みが激しく面白いです(笑)
飯田さんの秀吉話が良いですね。最後には「サル」って読んでるし(笑)
そしてやっぱりよっすぃー最高! 「漁協」手ぬぐいが似合ってそうです。
いよいよ、残るはごっちんと石川さん・・・いったいどうなっちゃうのか、とても楽しみです。
124 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年01月20日(日)12時38分59秒
ヤパーリ止める必要なし。
頑張れよっすぃー。
頑張れ梨華ちゃん、君も一緒に暴走だ!
125 名前:名無し梨華 投稿日:2002年01月20日(日)14時43分29秒
む、やはり「亜依」でしたか(w


石川さんが異常にアホに見えるのは気のせいでしょうか(w
126 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月20日(日)22時21分09秒
本気?の吉澤、他のメンバーには何をあげるつもりなんだ?
気合いが入りすぎて、ちょっと怖いぞ。
127 名前:ARENA 投稿日:2002年01月21日(月)06時18分14秒
あー、やっぱここの石川最高!!面白すぎる・・・(w
吉澤が帰ってきたときの面白ツッコミもまた。

吉澤は吉澤で保田にはものすごい適当だし。
しかも、プッチの曲で思い出したって・・・(w
128 名前:もんじゃ 投稿日:2002年01月22日(火)01時48分03秒
シベリアでシベ超を思い浮かべてしまいました。
ある意味極寒なところは良い勝負だと思われます。
ところで、おバカといえば最近現実のよっすぃーが
すてっぷさんとこのよっすぃーに近付いているとしか思えないんですよ。
…胸と腹が痛いです(ワラ。
129 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月22日(火)21時07分19秒
>先輩じゃなきゃ、とっくに埋めてるとこなのに…耐えるの、耐えるのよ、梨華。
>
気持ちはよく分かるぞ、石川(w
130 名前:value 投稿日:2002年01月25日(金)07時46分01秒
久々に覗いてみたら・・・(w
この天然夫婦はどこへ向かってるのですか?
あー、もう!通勤電車でなんか見るんじゃなかった!!
前にいるオバちゃんの白い目がイタイヨー(腹もイタイ
131 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時34分49秒

<第6話>かさじぞう☆2001


朝起きたら、こんなメールが入っていた。

『今日は仕事が終わっても帰らないでください。ただし、ごっちんには気づかれるな!』

もちろん差出人は言うまでもなく、あの人。


ごっちんには気づかれるな、ってことはもしかして、仕事帰りにごっちんへのプレゼントを
買いに行くつもりなのかな…(お金で買えるモノをあげるつもりなのかどうかは怪しいけど)。

月日が流れるのは早いもので、よっすぃーのとんでもない思いつきに振り回されて今日でもう五日目。
ふと気が付けば世間は、12月30日になっていた。
一般市民の方々はきっと今頃、大掃除や年越しの準備に追われているはずね…。

カーテンを開け、差し込んでくる光のまぶしさに思わず目を細める。今日は、とても良い天気。
昇り始めた太陽に、あの人の明るい笑顔を想った。
私たちのサンタクロース業務。
今日中にとは言わないけどせめて、年内には終わらせようね…よっすぃー。
132 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時36分33秒

―――

「石川、アンタたち今度は何企んでんのよ?」
私が着替えていると、背後から忍び寄ってきた保田さんが小声でぶしつけな質問を浴びせてきた。

「何のことですか?」
「だから、『仕事終わっても帰らないでください』って。何やらかす気よ、次は」
やらかす、ってずいぶん人聞きの悪い言い方だけど…。

「もしかして保田さんにも来たんですか?メール」
「やぐっつぁーん、帰ろ?」
私が小声でした質問は、矢口さんを呼ぶごっちんの大声で遮られてしまう。

「矢口さん?」
あんなに大きな声で呼ばれて聞こえないはずがないのに、矢口さんは私の隣で固まったまま。
視線を泳がせて何やら言葉を探している様子。

「あっ、いやー、今日は先帰ってて。ちょっと用事ってゆーかさ、うん。ねっ、圭ちゃん」
「えっ…あ、ああ。うん、そうそう。ちょっとね、ははっ」
突然話を振られた保田さんも、しどろもどろになりながら目線をキョロキョロ。

「ふーん。みんなも?」
ごっちんの言葉に、全員が黙って頷く。
それはとても、不自然な光景だった。

よっすぃー。あのメール、全員に送りつけたんだね…。
133 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時38分06秒

―――

そして私たちは、カラオケボックスにいた。

「さーて、なに歌おっかなぁ」
「なに考えてんですか!歌なんか歌ってる場合じゃないでしょ!!」
張り切る矢口さんから歌本を取り上げると、鼻息も荒くよっすぃーが言った。

「自分が連れてきといてそれはないでしょ。カラオケ来て歌う以外なにするっつーのよ」
歌う気満々の矢口さんは、よっすぃーの言い分に当然ながら不満顔。

「ただ歌うだけなら、ごっちんも一緒に連れて来てますよ!なに考えてんですか、マジで!!」
「はあ!?なにそれ!言ってるコトはわかるけど言い方がムカツクんだよ!!」
「矢口の”グチ”は、憎まれ口の”グチ”」
「むっかつく!!ふざけんな、オマエ!!」
「ちょっとちょっと。何いきなりケンカしてんのよ、アンタたち」
今にも殴り合いになりそうな二人の間に、保田さんが割って入る。

「矢口の”グチ”は、非常口の”グチ”。矢口の”グチ”は、搬入口の”グチ”」
私も一つ、思いついちゃった…矢口さんの”グチ”は、へらず口の”グチ”。
あとでこっそり、よっすぃーに耳打ちしておこうっと。
134 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時39分28秒
「ごっちんのプレゼント、みんなで考えるんでしょ?」
「そーなんすよ!そのとおーり!!」
安倍さんの言葉がうれしかったのか、興奮したよっすぃーは意味もなくソファーの上に立ち上がった。

「ってゆーかぁ、プレゼントはもう考えてあるんですけどねっ」
「なにあげるの?」
「なんだと思う?」
「知らないよ」
「だよねー、知らないよねー」
よっすぃーとののの会話って話が一向に前に進まないから、ちょっぴりイライラしちゃう。

「みんなで何かするの?」
ソファーの上に立つよっすぃーを見上げて、飯田さんが言った。

「イエース。クリスマス会をやります」
ソファーの上に立つよっすぃーは右手を高々と挙げて、謎のピースサイン。

「へー。よっすぃーにしてはマトモな企画だね」
500円程度と思われるコンビニ産の入浴剤セットを貰ってしまった保田さんは、
嫌味のつもりなのか『よっすぃーにしては』という部分をやけに強調した。
135 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時40分48秒
「クリスマス会といえば、さて何でしょう?辻さん」
「ケーキ?」
「惜しい!」
「ジュース」
「ああ、もう一声!」
「フライドチキン」
「うわぉ!」
「フライドポテト」
「いやーん」
「ドコまで行く気なんだよ、おマエら」
ハンバーガー、と言いかけたののの言葉に、矢口さんが割り込む。

「クリスマス会といえば、劇ですよ!劇!!」
そう言ってよっすぃーはトランポリンでもするかのように、勢い良くソファーの上から飛び降りた。

「そーゆーワケなんで。今日は朝まで、明日のクリスマス会に向けて劇の稽古をしたいと思います」
「朝まで!?ってゆーか明日って!!」
私も矢口さんと同じく、どっちの事柄に対して驚いていいのやら、さっぱりワケがわからなかった。

「カンベンしてよ、よっすぃー。明日も仕事あるんだし。大晦日だし紅白だってあるし忙しいし」
よっすぃーに対してと言うよりはほとんど独り言に近いトーンで、保田さんがボヤキ始めた。

「みなさんは、ごっちんと仕事と、どっちが大事なんですか」
うっ…!
一瞬にして室内が、『それを言っちゃあ…』みたいな空気に包まれた。
136 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時42分33秒
「で、コレが台本なんですけど」
いつの間にそんなものを作っていたのか、よっすぃーは薄暗い部屋の中、全員に一冊ずつ
手作り台本を配布していく。

まず、表紙に書かれていたタイトルに私は、目を奪われた。

――

『かさじぞう☆2001』

(脚本)吉澤ひとみ
(方言指導)加護亜依

――

「かさじぞうって…クリスマス会の劇っつったら、『キリストの誕生』とかじゃないの?普通は」
「人と違うコトをやる。それが個性とゆーやつです」
もちろん我らがよっすぃーは、矢口さんに大人しくツッコまれるほどヤワじゃないし。

「それにしたってねぇ…」
「でもコレ、保田さんが主役ですよ?」
「えっ、マジ!?モー、そういうコトは早く言ってくれなきゃねぇ」
表紙を見たときは不満げだった保田さんは自分が主役と聞いた途端、
期待に満ちた目で身を乗り出した。

「圭ちゃん。それって喜ぶべきコトじゃないと思うよ?」
矢口さんが言うと、安倍さんも大きく頷いた。

「なんで?」
「だってさ、『かさじぞう』の主役だよ?」
私は暗がりの中、恐る恐る、そのページを捲る。
137 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時44分06秒

―― <第一幕> ――

加護:「あーあ。今日も、一個も売れへんかったなぁ…また梨華ちゃんに怒られるんかな、ウチ」
保田:「………」
加護:「あ、お地蔵様。今日もお勤め、ごくろうさんです!って、なんでやねん!何で『お勤め』やねん!
    意味わからへんわ!モー、キミとはやってられへんわ!どーもアリガト」
保田:「………」
加護:「ぜったい、ウチの方がツッコミ上手いよなぁ。かと言って、みちよにボケは無理やし…
    そろそろ相方、代えた方がエエんかなぁ」
保田:「………」
加護:「コンビは売れへんし、カサも売れへんし、梨華ちゃんには苦労かけっぱなしやし…
    そろそろ真面目に仕事、探したほうがエエんかなぁ」
保田:「………」
加護:「どう思います?」
保田:「………」
加護:「お地蔵様に言うてもしゃーないか。お地蔵様は毎日毎日ココに立ってて、寒くないんやろか。
    頭に雪積もってるし…めっちゃ寒そうやなぁ。
    せや!この売れ残ったカサを、お地蔵様にかぶせたろ」
保田:「………」
加護:「おや?こっ、コレはっ…!!」

<暗転>

――
138 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時46分01秒
第一幕を読み終えて顔を上げると、向かい側のソファーに座っている保田さんは
台本を握り締め、怒りとも悲しみともつかない複雑な表情を浮かべて小刻みに震えていた。

「コレ、ト書きが一切ないんだけど」
「あ、そのへんは雰囲気で。みなさんにおまかせで」
矢口さんのクレームをあっさりかわした我らがよっすぃー、きっと書くのが面倒だったんだよね!


―― <第二幕> ――

高橋・小川・紺野・新垣:「おかあさーん。おなかすいたよぉ。えーん、えーん」
石川:「みんな、もう少しの辛抱だからね。もうすぐお父さんが、カサを売ったお金で
    美味しいもの買ってきてくれるから」
中澤:「なぁオカン。明日、給食費持っていかなアカンねんけど」
石川:「わかってる。ちゃんと用意してあるから、安心して」
中澤:「それやったらエエねんけど。明日はラーメンの日やから、絶対休まれへん」
吉澤:「えーっ、いいなぁ。うらやますぃー!」
石川:「ひとみも裕子も同じ小学校なんだから、給食のメニューだって一緒でしょ?」
139 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時47分34秒
飯田:「カオリは違うよ。オリジナルのトッピング、持って行くから」
吉澤:「えーっ、いいなぁ。うらやますぃー!」
飯田:「ネギで良ければ分けてあげるけど」
辻:「ああーっ!ののも!ののもネギほしい!!」
飯田:「じゃあ、あんたには特別にモヤシも付けてあげる」
辻:「やったー!もやし!もっやすぃぃぃー!」
吉澤:「えーっ、いいなぁ。うらやますぃー!」
辻:「L・O・V・E・ラブリー、もやしー!!」

石川:「あらあら。この子たちったら、はしゃいじゃって。もーぅ、チュッ!」
安倍:「チュッチュッチュチュチュ!サマーパーティ!ハーイ!なっちでーす!」
石川:「なつみ、もう寝なさい。また学校遅刻するわよ?」
飯田:「うふふっ、そうだよねー。なっちは遅刻魔だから、夜は早く寝ないとねー」
140 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時49分15秒
安倍:「あん?なんだそりゃ。室蘭のガキ大将にケンカ売ってんのかい?ああん?」
飯田:「はっ、室蘭がなにさ。なんなら勝負する?
    どっちが流れ星さ早く見つけられっかで勝負すっか!?ああ!?」
安倍:「のぞむところよ!こちとら流れ星が流れる一歩手前さ見つけられっぐれー、得意なんだから!
    あんたみたいな、にわか流れ星ウォッチャーに負けるほどまだ腕さ落ちてねぇんだ!」
飯田:「表さ出ろ!」
安倍:「言われなくても出る!言われる一歩手前さ出てやる!!」

石川:「あらあら、二人ともはしゃいじゃって。見つかるといいよね、お星様」
矢口:「もやしは体に良いんだよね」

<暗転>

――


「ちょっとー!何よ、最後の矢口のセリフ!!絶対あんた、あたし出すの忘れてたでしょ!!
後から付け足しただろーっ!!」
「あ、バレました?」
「矢口なんかまだいいよ!なっちの登場シーン、アレなに!?
あれじゃ、なっちがまるっきりアホみたいじゃんよ!!」
呑気に笑うよっすぃーの元へ、被害者からの苦情が続々と寄せられる。
そして保田さんは拳を握ったまま、まだ震えていた。
141 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時51分12秒

――

加護:「帰ったで」
高橋・小川・紺野・新垣:「おとうさん!おかえりー!」
石川:「おかえりなさい、あなた。ガスにする?薪にする?それとも真水?」
加護:「うーん。じゃ電気で。って、風呂しかないんかーい!」(←あいぼん、ちゃぶ台ひっくり返してね)

辻:「あーっ!ちゃぶ台の上に乗せていた、ののの紙粘土細工が!!
   丸三年かけて作り上げた、ケーキの置物があああ!!」
石川:「だってだって、あなたがお給料持って帰ってこない限り、ご飯なんて用意できないじゃない!」
加護:「給料は、ないで」
石川:「なんですって!?」
加護:「ない、言うとんのじゃ!何回も聞くな!気分悪い、景気づけや。梨華ちゃん、酒もってこい」
石川:「あるわけないでしょ。うちには、お米買うお金だってないのよ」
加護:「はっ、このしみったれが!ん?なんや、こんなところに隠して…もろてくで」
石川:「ああっ!裕子の給食費が!やめてお願い、それだけは!」
142 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時52分48秒
中澤:「うわああーっ!ウチは、またウチは…貧乏人、貧乏人ってからかわれるんや!
    みっちゃんのタテ笛盗んだんはウチやない!盗人ゆうこって言わんとってー!!うぅぅ…」
加護:「やかましい!給食なんて大っ嫌いや!!
    なんでウチが休んだときに限って、プリン、出とん、ねーーーん!!!うわああーっ!!」
吉澤:「えーっ、いいなぁ。うらやますぃー!」
安倍:「おとうさん!泣かないで!」
飯田:「おとうさん!くじけちゃダメ!」
石川:「あなた!元気出して!」

加護:「ありがとう。かんにんな、みんな……んっ!?あっ、アレはっ…!!」

<暗転>

矢口:「紙粘土は体に良いんだよね」

――


「よっすぃー。もう怒んないからさ、せめて暗くなる前に喋らせてくれる?」
「いいっすよ」
よっすぃーは矢口さんの申し出を快諾すると、自分の台本に赤ペンで訂正を始めた。

「加護も作ってきました!」
隅の方に大人しく座っていたあいぼんが、立ち上がってみんなに何かを配り始めた。
「あーっ!オマエ、いつの間に!」
よっすぃーが、その行動にいち早く反応する。
143 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時54分59秒
「へっへー。昨日帰ってから考えたんだもん。はっきり言ってよっすぃーのより、面白いのできたよ」
「なにーっ!?この裏切りモノ!!」
聞くとあいぼんは昨日の仕事帰り、よっすぃーの家に寄って台本の手直しをしてあげたとのこと。
表紙には、『(方言指導)加護亜依』って書いてあったから、きっと関西弁のセリフは
あいぼんが考えたのだろう。

「じゃあ、良かった方を採用しようよ。ねっ?いいよね、よっすぃー」
安倍さんの言葉に、よっすぃーは渋々頷いた。


――

『かさじぞう☆2001』

(脚本)加護亜依

――

吉澤:「あいぼん隊員、どこに行くの?バッティングセンターなら付き合うよ?」
加護:「よっすぃー隊員、ウチこれからパトロール行ってくるから、お留守番よろしくね?」
吉澤:「おっけー!まかせとけ!」

矢口:「加護隊員は相棒の超巨大ロボット『じぞうロボ☆保田圭』に乗り込み、今日もごきげんパトロール!
    さーて、加護隊員。今日はどんな事件に遭遇するのかしら?楽しみ、楽しみ!」

加護:「よっしゃ!行くで!保田圭」
保田:「おぅ!がってんでぃ!」
144 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時56分48秒
加護:「じぞうロボ、発進!!」

(ゴーン、ゴーン、ゴーン)

矢口:「説明しよう!『じぞうロボ☆保田圭』は、お寺の鐘の音を合図に秘密基地を飛び立つのダ!」

中澤:「ああーら、チャーミーさんじゃないのぉ。お元気?
    いつもいつもウチの亜依がお世話になって、もうホントにねぇ」
石川:「お世話だなんて、そんなぁ。あいぼんは本当に良い子ですもの。私の方がいつも
    漢字の書き取りや英語のヒアリング、ことわざからなぞなぞに至るまで、あいぼんには
    いろいろと教えてもらってますもの」

加護:「ん?アレ、オカンやないか?」
保田:「どうやらそのようでゲスね」
加護:「はあ…(タメ息)。昼間っから井戸端会議かいな、オカンも暇やなぁ」
保田:「隣にいるのは八百屋の一人娘、石川さんじゃありませんか?」

中澤:「せやろー。やっぱせやろー。あの子なぁ、ホンマ出来のエエ子やねん。誰に似たんやろ。
    やっぱウチやろなぁ。ウチに似て優秀やわ、あの子は」
石川:「……いいかげんにしろよ、中澤」
中澤:「えっ?チャーミーさん?今なんて?チャー…うっ!ぐはあっ!!」
145 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時58分26秒
石川:「うふふふふ。いかがかしら?チャーミーのスペシャルボディーブローのお味は」
中澤:「うぅぅぅ、ぐぬぅぅぅ」

加護:「ああっ!?オカンが!オカンがチャーミーに!!」

中澤:「チャーミー、お前…なんで、こんなことを…」
石川:「あなたの自慢話はもう聞き飽きたのよ。日頃の恨み、はらさせてもらうわっ!!」
中澤:「ぬぅぅぅ…」

加護:「アカン!このままではオカンが!オカンがアカンで!」
保田:「オカンがアカン、ですか…。これはまた面白い!はっはっは!!」
加護:「さんきゅー、ロボ!よし、まずは説得してみよう。行くぞ、ロボ!」
保田:「おっけーい。いつでもいいわよん」
加護:「マイクスイッチ、オン!」

加護:「石川に告ぐ、石川に告ぐ。今すぐオカンを解放しなさい」
石川:「嫌よ。誰が解放するもんですか」
加護:「むぅー。強情なやつめ。こうなったら強行手段だ!じぞうビーム、発射!」
保田:「覚悟しろ、いしかわーっ!」
146 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)13時59分56秒
吉澤:「待てーい!!」
加護:「んっ?その声は…よっすぃー隊員!」
保田:「実家の魚屋は継がなくていいんですかね?」

吉澤:「梨華ちゃんをいじめるヤツは、このよっすぃー隊員が許さないぞ!」
石川:「よっすぃー!来てくれたのね!」
吉澤:「もう大丈夫だよ、梨華ちゃん。八百屋と魚屋つなげて、スーパーにしよう」
石川:「うれすぃわ、よっすぃー」
中澤:「アカンアカン、そんなんしたら。両家の親が許さへんやろ」

加護:「ああっ、オカン!復活したんやな!よっしゃ!可哀想やけど、よっすぃーもろとも
    石川を倒すんや!行くで、ロボ!」
保田:「あのぉー、師匠。非常に言いにくいのですが、アタクシ…ぶっちゃけ、よっすぃー隊員の
    バカ力に勝てる自信がありません」
加護:「ロボのくせに情けないやつだなー。だが、策はある」
保田:「ほほう、策とはなんぞや?言うてみい」
加護:「前かけの右ポケットを探ってみろ、保田圭」
保田:「地蔵の前かけにポケットが!?さすがあいぼん殿。
    どれどれ…おおっ!この手触り、この丸い物体はもしや」
加護:「行け!保田!」
147 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)14時01分24秒
保田:「よっすぃー隊員、これでもくらえーっ!!」
吉澤:「んんっ!?アレは!!巨大べーグルじゃねえかああああ!!食ってやる!待てええええ!!」
加護:「あ、行ってもーた」
保田:「あれだけ遠くへ投げれば、向こう三年は戻ってこないでしょう。さらば、よっすぃー隊員」

石川:「あああ、ひどい、ひどいわ、よっすぃー。私より巨大べーグルの方が大切なのね…」
安倍:「まぁまぁ。現実ってそんなモンっすよ、石川さん」
加護:「ちょっとちょっと安倍隊員。今から攻撃するんやから、そんなトコおったら危ないで」
安倍:「あ、ゴメンゴメン」

加護:「よっしゃ!今度こそ!行け!ロボよ!!」
保田:「お、おや、おや、おやびぃぃぃぃ〜ん。オイラ、もうダメだよぉぉぉ。
    力が、ちからが入らねぇんだよぉぉぉぉ」
加護:「スタミナ切れか…仕方ない、アレを使おう」
保田:「アレってもしかして、アレっすか?マジっすか?うれしいっス!保田圭、一生恩に着るでヤス!」
148 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)14時03分13秒
加護:「オカンの胸ポケットを探ってみろ、保田圭」
保田:「えーっ、それはちょっと。何だか気が進まねーな、オイ」
加護:「じゃ、次からは矢口隊員の胸ポケということでひとつ」
保田:「しょーがねぇなぁ。じゃ、今回だけな」
中澤:「オイ!筒抜けやぞ、オマエら!!」

保田:「お母さん、失礼します!
    どれどれ…おおっ!この手触り、この丸い物体はもしや。
    これは、『売れ残ったミソジ』いや、『売れ残ったカサ』だーっ!!」
中澤:「えっ!?ウチの胸ポケットに『売れ残ったカサ』がっ!?いやー、これっぽっちも気付かへんかったわ!」
保田:「これさえあれば、百人力だぜー!」
辻:「よかったね、おばちゃん!」
保田:「うおおおおおお!!力がみなぎってくるぅぅぅぅ!!」

矢口:「説明しよう!売れ残ったカサを装備した『じぞうロボ☆保田圭』は、『かさじぞうロボ☆保田圭』に
    パワーアップするのダ!」

保田:「チャーミー、覚悟!」
石川:「キャーッ!誰かたすけてーっ!」
149 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)14時04分51秒
高橋:「泣いても!」
小川:「叫んでも!」
紺野:「誰一人として?」
新垣:「助けになど来ないさー!」
加護:「くらえ!かさじぞう、ボンバー!!」

石川:「いやあーっ!誰か、だれかあああ!!」
加護:「うわっ!うわあっ!なんや、この光は!!」
保田:「UFO!?UFOっすよ、加護さん!!」
加護:「なにーっ!?あっ、中から人が…ちゅっ、宙に浮いてる!?」

飯田:「はじめまして。飯田カオリ、北海道出身です。好きな星雲は、エロマンガ島です」
中澤:「星雲ちゃうやん」
石川:「あ、あなた…カオリ、姉さん?」

加護:「なにもんや、あいつ…」
保田:「新たな、敵?」

<後編につづく>

――


「ヤグチとしてはこっちのが好きだけど、コレ…舞台化、不可能だから」
矢口さんの一言により、あいぼん作の『かさじぞう☆2001』は、あっさりお蔵入りした。
150 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年01月26日(土)14時06分41秒
「もぉー、コレだからお子様は。こーゆーのはねぇ、ただ好きなコト書いてりゃ良いって
モンじゃないんだから。わかった?あいぼん」
意味もなく立ち上がり、とくに意味もなく前髪をかきあげながら、勝ち誇ったような表情で
よっすぃーが言った。

「くっ…!」
自信満々なよっすぃーに返す言葉もなく、あいぼんは唇を噛んでじっと、屈辱に耐えている。

「………」
そして、さっきから一言も喋らず俯いたままの保田さんが今どんな心境でいるかなんてこと…
子ウサギのようにピュアで小さなハートの持ち主である私には、恐ろしくて想像もできない。

「結局コレ、やんなきゃいけないのか…」
矢口さんが、これ以上ないほど暗い声で呟く。


「だいじょうぶ。みんな大船に乗ったつもりで!もうねー、タイタニックぐらいの」

よっすぃー。
私たち……沈むの?
 
151 名前:すてっぷ 投稿日:2002年01月26日(土)14時08分59秒
感想、どうもありがとうございます。

>118 穏健派さん
石川さん、だんだん過激になってきている気がします…。

>119 名無し読者さん
マヌケな光景、伝わりましたでしょうか。
矢口の突っ込み、吉澤には全く通用しないようです(笑)

>120 名無し読者さん
石川さんのダジャレ。リーダーにすら笑ってもらえず、最悪でした(笑)
安倍さんへのプレゼントがメインのはずが、僅か数レスで終了した保田さんの方が、
不幸だけどオイシかったかも(笑)

>121 LVRさん
>北海道で買った温泉の素
そうですよね。同じ物でも、気持ちの問題です(笑)
石川さんと吉澤さん、どっちもどっちって感じもしますが…
確かにこの回は、前者の方がひどかったかも。

>122 おさるさん
おひさしぶりです。マイペース更新ですが、見捨てずにお付き合いいただければと。
空回りする思考回路『だけが』、って…おさるさん、なにげに毒舌ですね(笑)
保田さんについては…今回、さらに悲しいことになってます。
残り二人になりましたが、最後までお付き合いくださるとうれしいです。
152 名前:すてっぷ 投稿日:2002年01月26日(土)14時10分45秒
>123 13さん
石川視点だと、全てを脳内で処理する方向に向かってしまいます。なぜだろう(笑)
「サル」。気付いてもらえて、かなりうれしいです。
そしてやっぱり、海の男は好評ですね(笑)

>124 梨華っちさいこ〜さん
ここまで来たら誰にも止められません。
一緒に暴走って…どうなるんだろう(笑)

>125 名無し梨華さん
「亜依」、名無し梨華さんの予想的中です(笑)
石川さんのアホぶり、たぶん気のせいではないと思います…。

>126 名無し読者さん
何が彼女の『本気』なのか、さっぱり分からなくなってきてますが(笑)
怖い物みたさで、最後まで見届けていただければと。

>127 ARENAさん
ずれてる石川、吉澤の行動に対して的確に突っ込めないのが、
書いていてもどかしいのですが(笑)
そして保田さん、今回もかなり迷惑こうむってます。
153 名前:すてっぷ 投稿日:2002年01月26日(土)14時12分03秒
>128 もんじゃさん
シベ超、風の噂だけでおなか一杯で、観たことがないのですが(笑)
それから最近はむしろ現実のよっすぃーの方が、上を行っているのではと思い始めました…。
どうぞ今回も、胸を痛めてください(笑)

>129 名無し読者さん
石川の気持ち、ご理解いただき、ありがとうございます(笑)

>130 valueさん
朝からこんなモノ読んでいただいて…オバちゃんの件、すみませんでした(笑)
天然夫婦の暴走、もう少し続きますのでお付き合いよろしくです。
腹筋強化、意外な事に役立ててもらえて光栄です(笑)
154 名前:おさる 投稿日:2002年01月26日(土)21時45分00秒
すてっぷさんの着想にただただ唖然…。「かさじぞう」なんてネタ、どうしたら思いつくのか…。それに輪をかけた加護ちゃんの「かさじぞう」。保田ロボって(藁。良く言えば"換骨奪胎"(別に良くないか)、悪く言えば"おチャメでおバカ"(別に悪くないか)。よっすぃーと加護ちゃんの矢口の扱い方も秀逸です。それと梨華ちゃんの役どころは両方ともなにげにおいしいかも。ひょっとしてすてっぷさん、隠れ(?)石川マニアですか。よくぞここまでモーニング娘。を遊びたおせますね。ひたすら脱帽です。次回更新イヤでも心待ち申し上げます。この暴走特急「よし子」、これから何をしでかすのかコワイ…。
155 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月26日(土)23時07分35秒
またまたやっちゃてくれてますねぇ。ここの吉澤さん。
なんだかある意味すげえやつに見えてきました(笑)

矢口さんとのやりとり、拍車がかかってきましたねぇ(笑)

安倍さんがちょこちょこフォローしてたけどこれはやっぱり
カニのせい(笑)

加護ちゃん残念… 保田さん…ファイト…。

156 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)01時22分26秒
インフルエンザで死にかけてるけど、この小説読むために起きてきました。
更新してて嬉しい…また寝ます。
157 名前:13 投稿日:2002年01月27日(日)02時37分15秒
あいぼん脚本の後編が気になって仕方ありません。
エロマンガ島星雲飯田カオリvsかさじぞうロボ☆保田圭(笑)
・・・いったいどっちが勝つんだろう?

怒りに震える圭ちゃんですが・・・
これでヤスダ犬の気持ちが少しは理解できたのではないでしょうか?(笑)
158 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)16時47分37秒
何気に、吉澤は自分の脚本内で、一つのセリフをくり返してるだけじゃん。
たくさん覚えるのが面倒くさかったんだろうな。
159 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)02時21分53秒
>ごっちんの言葉に、全員が黙って頷く。
>それはとても、不自然な光景だった。
ホントに浮かぶんですよ映像が…こう、ぱぁって。

以前これを体験したのは、某有名小説を読んだ時。
薄暗いバーで働く吉澤と石川の姿が、
セピア色に浮かんできたんだったっけ…(w
160 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)20時34分47秒
吉澤の脚本には、平家さん名のみの登場ですか。
ラジオ一緒にやってるからね。
しかし、中澤の時といい、平家さんはいい様に使われるね。(藁
161 名前:value 投稿日:2002年01月29日(火)03時21分40秒
こな(略
矢口の台詞に爆笑〜!!暗闇の中から聞こえてくる矢口の声を想像しましたよ。
いつもイジメ(?)られてるから、今回の作品ではささやかな復讐でしょうか?(w
オバちゃんの件、自業自得なので(w
162 名前:カム 投稿日:2002年01月30日(水)02時02分51秒

「もうすぐ出会えるはずの〜」から
ずっと読ませて頂いております。

すてっぷさんの書くやぐよし大好きっす。
ボケよし&ツッコミやぐちサイコー!!
でも、なにげに今回はオバちゃんがメインのような気が!?
163 名前:今までROMってました。 投稿日:2002年02月11日(月)16時30分14秒
おーい!作者さーん!はよう書いてくれい!
164 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月16日(土)00時29分35秒
すてっぷさん続きまってます。
165 名前:すてっぷ 投稿日:2002年02月17日(日)21時26分30秒
管理人さん、復旧作業おつかれさまでした…。

>154 おさるさん
保田を主役に…ということで、ピンときたのがお地蔵様でした(笑
第6話は、加護verのかさじぞうが書きたくて作った話なので、気に入ってもらえて良かった…。
石川さん。ハロモニのコントを始めたあたりから、かなり気になってます。
コントだと、あの棒読みが逆にイイ味出してる気がして…ある意味、マニアと言えるかも(笑

>155 名無し読者さん
ほとんど超人と化している吉澤さん。漁船乗ったり寸劇作ったり、一体いつ寝てるんだろう…。
矢口さんとは何故かいがみ合ってますし…もはや手に負えません(笑
安倍さんのフォローは、おっしゃる通り、まさにカニのせいです(笑

>156 名無し読者さん
大変な中、わざわざお読み頂いてありがとうございました。もう大丈夫ですか…?
こんなモノ読んでしまって…その後、熱が上がってないと良いのですが。
166 名前:すてっぷ 投稿日:2002年02月17日(日)21時28分19秒
>157 13さん
後編、どうなるんでしょう…(もちろん考えていません)。
続きがないことを良いことに、むちゃくちゃに終わらせてみました(笑
>ヤスダ犬の気持ち
13さん、鋭いです(笑)。保田さん、嫌でも理解することになるかと。

>158 名無し読者さん
気付いてもらえましたか(笑
うらやましがりキャラを前面に出してみたのですが…ネタが古かったかも。

>159 名無し読者さん
情景が読んでくださる方に伝わっているかというのは、書きながらいつも不安に
感じている点ですので、そういう感想をいただけると本当に嬉しいです。
しかし情景描写の巧い人って、本当に尊敬しますね…。

>160 名無し読者さん
みっちゃん、いい子なのにね(笑
平家さんを名前だけ、しかも「みちよ」として登場させるのが、なぜか気に入ってます。
167 名前:すてっぷ 投稿日:2002年02月17日(日)21時30分46秒
>161 valueさん
こな…き?(笑
劇中の矢口、かなりヒドイ扱いでしたが、笑ってもらえて良かった…。
確かに、矢口さんに対してここまで挑戦的な吉澤は初めてですね(笑

>162 カムさん
ずいぶん前からお読み頂いているのですね、ありがとうございます!
やぐよしは、ここ最近遠ざかっていますが…たぶんまた書くと思いますので、
その時はお付き合いくださるとうれしいです。
とりあえず今回は、オバちゃんメインで(笑

>163さん
お待たせしてすみません!&いつもお読み頂き、どうもです。

>164 名無し読者さん
かなりお待たせしてしまいました…。よろしければ、これからも読んでやってください。
168 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時32分32秒

<第7話>ごっちんの欲しいモノ。


「アレは!?あそこに居るのは、もしかして!!」
暗転明け、舞台下手(客席から見て左)を指差しながら大げさな口調であいぼんが叫ぶ。
そして私はあいぼんが指差した物体が客席から見えないよう、その前に立ちはだかった。

「ちょっと梨華ちゃん!そこ立ってたら見えへんやろぉー。どいて」
「やだぁ、あなたったら。誰も居ないわよ、気のせいじゃない?」
「うそや、絶対おったもん!梨華ちゃんの後ろに、お地蔵様がおったんや!!」
「やだぁ、あいぼんったら。私の背後にお地蔵様が居るはずないでしょ?寝言は寝てから言いなさいよね!」
子供たち(他のメンバー)が見守る中、白熱した押問答を繰り広げる私とあいぼん。

「あはっ、行け行けー!」
イスに座り、舞台に向かってヤジを飛ばすのは…私たちの、たったひとりのお客さん。

「梨華ちゃん、うそはアカン。泥棒のはじまりやで!」
「なによ!三流芸人のクセに!」
「なんや!三流芸人の妻のクセに!」
紅白出演直前の楽屋。
こんなコトしてていいのかな…なんて不安に襲われているのはきっと、私だけではないはず。
169 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時33分51秒
私たちが今立っているのは…楽屋の奥に設えられた、照明=部屋の電気、という何ともお粗末な『舞台』。
暗転の度スイッチに一番近い人が電気を消しに走るのを、ただ一人の観客であるごっちんは
イスに座ってお菓子をつまみながら楽しそうに見ている。

昨日の仕事帰り、よっすぃーの命令でカラオケボックスに終結した私たちは遅れて合流した
中澤さんも加え総勢13人でよっすぃー作の寸劇、『かさじぞう☆2001』を徹夜で稽古させられた。
そう、朝まで。

『あ・さ・ま・で』
口にしてしまえばたった四文字のこの素っ気無い言葉が、年末のハードスケジュールにより
体力の限界なんてとっくの昔に超えてしまっている今の私たちにとっていかに過酷なモノかってコト…
同じ『朝まで』でも、『ナマテレビ』のオジサマたちには想像もつくまい。
あんなの私たちのスケジュールに比べたら朝飯前だわ、笑わせないでよ!アハハハハ!
どうせ放送終了後は速攻で昼寝してるくせに!(やだあっ!梨華ってばちょっと毒舌ぅ?)

そんなことより。
どうしよう、私ったら一睡もしてないせいかな…なんか、テンションがおかしい。
170 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時35分19秒
「あんなぁ、帰りに保田地蔵様にお参りしてきたんやけど…」
低い声でそう言いながら、あいぼんがゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
「地蔵、一体足りんかったで」
そして私の前まで来ると、ぴたりと歩みを止めて言った。

「…あ、あらそう。それは大変ね」
このセリフ、台本には『嘘をついているので棒読みで(いつも通りの梨華ちゃんの演技でOK!)』とある。
棒読み=いつも通りの私の演技でOK、か…それは一体どういう意味かな?
なんて、虚しいシンキングタイムはこの期に及んで時間のムダ、よね…。

「保田地蔵様は二つでひとつや。二体そろってこその保田地蔵なんや!それをオマエはーっ!!」
「私は何も知らないって言ってるじゃない!変な言いがかり付けないでよね!」
「ええから、そこどいてみぃ!!」
「きゃあっ!」
私はあいぼんに左腕を掴まれ、力任せに突き飛ばされてしまった。
同時にそれまで私の背後に隠れていたその物体が、テーブルの上のペットボトルに
手を伸ばそうとしていたごっちんの目に晒される。
171 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時36分54秒
「コラー!お地蔵様になんちゅーコトすんねん、オマエは!!」
あいぼんの大声に驚いたごっちんは、掴みかけたペットボトル(500ml)を倒してしまった。
すかさず、舞台上から小川がちゃぶ台の上に置いてあった布巾(小道具)を手に取りごっちんの元へ駆けつける。

「チッ、バレちまったか」
私はテーブルに零れたジュースを拭き取った小川が戻ってきたのを確認して、劇を再開する。

「知らんで…お地蔵様を、お地蔵様を…漬物石の代わりに使うやなんて、絶対バチ当たんでぇーっ!!」
恐怖に慄き、後ずさりするあいぼん。

「………」
矢口さんがすっぽり入る位の大きさの樽の上に、背筋をピンと伸ばして鎮座ましましているのは…
グレーの全身タイツに頭まですっぽり身を包み、真紅の前掛けを装着したお地蔵様こと、保田圭さん(21)。

「圭…ちゃん?」
もちろん保田さんは、ごっちんの問いには答えない。だってお地蔵様だから。
保田さんは右手の親指と人差し指で輪っかを作り、左手は掌を上に向けて胸元に添える…という、
いかにも世間一般のお地蔵様にありがちなポーズのまま小刻みに震えている。顔は俯き加減。
172 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時38分34秒
「あっははは!やっぱ圭ちゃんだ!また圭ちゃん出た!あははははは!!」
手を叩いて大喜びするごっちんの様子を見ながら、ちゃぶ台を囲むあいぼん家の子供たちは皆、
それぞれに満足げな表情を浮かべてお茶をすすっている。

みんなの笑顔はごっちんが喜んでくれたことへの満足なのか、保田さんの屈辱的な扮装が
見れたことへのそれなのか、私には判断が付きかねるけれども…少なくとも私は、
ごっちんの為に潔く全身タイツを身に纏った彼女の勇姿に、心からの拍手を送りたいと思った。

「ねぇ、最初に出てきたお地蔵様とはまた別なの?コレって」
「そう!保田地蔵は2体で1セットなのでーす!」
すかさず、おせんべい片手のよっすぃーがごっちんの質問に答える。
役者さん同士の会話のキャッチボールっていうのはよく聞くけど、出演者とお客さんが
マンツーマン体制で進行する舞台なんて聞いたことがない。

「えー?でも一匹目とまったく一緒じゃん…」
ごっちんがボソリと呟いた一言に、保田さんの眉がぴくりと上下する。
そして、なにやら視線を左右に泳がせてソワソワし始めた。
ああ、コレは…保田さんが、悩んでいる。
173 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時40分28秒
数秒後、名案を思いついたのだろうか、保田さんは悟りを開いたかのように澄み切った表情で大きく深呼吸。
その度に赤い前掛けの下でチラリと見え隠れする全身タイツ越しの胸の膨らみが、ちょっとだけセクシー。

全員が見守る中、保田さんはおもむろに輪っかを作っていた右手を下げ、ゆっくりと左手を上げる。
そして今度は左手の親指と人差し指で輪っかを作り、右手は掌を上に向けて胸元に添える…という、
いかにも世間一般のお地蔵様にありがちなポーズで女神のごとく優しい微笑を浮かべた。
…って、要するに右と左を逆にしただけじゃないですかっ!もーぅ!保田さんったら!!

「あっははははは!!」
しかし意外にも、お客様は大層お喜びのご様子。


「とにかく!お地蔵様は元の場所に返してくるからな!」
ごっちんの満足げな様子を確認すると、あいぼんが樽の上のお地蔵様を取り返そうと近づいてくる。

「やめて、あなた!ヤス男さんに触らないで!!」
「放せ!ヤスオさんは二体そろってこそのヤスオさんなんや!!
ってゆーかヤスオさんって、誰!?」
お地蔵様を乗せた樽の前で揉み合いになる、私とあいぼん。
174 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時42分29秒
「紹介します。お地蔵様の、保田ヤス男さんです。お父さんと一緒で釣りが趣味なの」
「うそぉ!?じゃあ、ウチが第一幕で見たもう一人のお地蔵様は、保田ヤスコさんとか?ベタやなー」
「残念!正解は、ヤス魅さんです。ちなみにヤスミの『ミ』は、『魅惑』の『魅』なの」
「マジで!?」
これを作った時のよっすぃー、よっぽど疲れてたんだろうな…
とても、マトモな精神状態で書かれた作品とは思えないもの。

「ずっと黙ってたけど、実は私…魔性の女なんです」
「「「ええーっ!?」」」
私の衝撃告白に驚きの声を上げる、ちゃぶ台の人々。


「ゴメンなさい、あなた。ひとみは…ひとみは、ヤス男さんの子なのっ!!」
「こらーっ!保田!オマエ地蔵のくせになにしとんねん!」
もちろん保田さんは、あいぼんの抗議には答えない。だってお地蔵様だから。

「えーっ、いいなぁ。うらやますぃー!」
「うらやましいって…アンタのことやで」
劇中でも呑気なよっすぃーに、中澤さんがツッコむ。

「すごいよ!やったね、ひとみ!!」
出番を忘れていたのか、数秒の沈黙の後、思い出したように飯田さんが立ち上がった。
175 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時44分43秒
「あん?なんだそりゃ。なにがスゴイのさ?ひとみが地蔵の子だって言われてんのが、何がスゴイんだ?
はあー。よーっく、そっただコトが言えるべなー。なっち、なまら驚いちまったべさー。
ひとみの気持ち考えたら、普通はそんな無神経なこと言えねぇんでないかい!?あ?こらあーっ!!」
「あー、やだやだ。コレだから室蘭のイモっ子は。考えが浅はかなんだべさ」
「ああ?なんだそりゃー!!」
この劇では何故か『喧嘩っ早いキャラ』として扱われている安倍さんと飯田さん、
ついには取っ組み合いのケンカを始めてしまった。

「えっとぉ…つまり、ひとみちゃんの夢がかなったっていうコトだよねっ?」
「そう!そういうことなのよ、辻!」
安倍さんとのバトルが既に『マジの領域』にまで達してしまっていた飯田さんは我を忘れ、
妹役であるののをうっかり『辻』と呼んでしまう始末。

「ひとみ!保田さんみたいなお地蔵様になりたい、という長年の夢がついに叶ったんだよ!
叶ったっていうかアンタは最初っから、生まれながらにして既にお地蔵様だったんだよ!」
瞳を潤ませてそう言った飯田さんの足下には、安倍さんが転がっていた。
176 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時46分44秒
「そうか!あたしがヤス男さん(地蔵)の子供ということは、あたしは…生まれながらの地蔵なんだ!
やった、やったよ、カオリ姉ちゃん!!」
「ひとみっ!」
泣きながら飯田さんの元へ駆け寄るよっすぃー、そして、ひしと抱き合う二人。

「素敵よ、ひとみ!カッコイイ!結婚したい!!」
矢口さん、このシーン唯一のセリフがコレだなんて…さぞかし、無念だったことでしょうね。

「「「「ひとみ姉ちゃん、おめでとう!」」」」
「ひとみ、おめでとさん」
「やったね、ひとみちゃん!」
新メンバーや中澤さんに続いて、ののも立ち上がってよっすぃーに拍手を送っている。
「ひ、と…み、おめ、おめでと…うっ」
先程まで飯田さんと死闘を繰り広げていた安倍さんも、何とか立ち上がってよっすぃーを祝福する。


「ひとみ」
隅っこの方で一人落ち込んでいたあいぼんが、ゆっくりとよっすぃーに近づく。
すると皆黙り込んでしまい、それまでのお祝いムードは一変してすっかり暗い雰囲気になってしまった。

「おとう、さん…」
よっすぃーは怯えたように、あいぼんの表情を窺っている。
177 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時48分55秒
「…おめでとう、ひとみ」
奇跡は、起こった。

「ぐすっ…。ありがとう、おとうさん!あたし、きっと立派なお地蔵様になってみせるから!」
「今度こそ、おめでとう!おめでとうだよね!ひとみちゃんっ!!」
「うん、ありがとう!ありがとうだよ!ののっ!!」
お菓子を食べながらよっすぃーの元へ駆け寄るのの、そして、ひしと抱き合う二人。

パチパチパチ…と、どこからともなく(っていうか、ちゃぶ台の周辺からなんだけど)湧いてくる拍手。
ひとみ、ひとみ…と湧き上がる、ひとみコール。

「みんな、ありがとー!アイアム、キング・オブ・JIZOOOOOOW!!」
ちゃぶ台の上に乗って右の拳を高らかに突き上げたよっすぃーは、勝利の雄叫びを上げた。
もう、『良かったですね』としか、言えない…。

消灯係の新垣が電気を消しに走っている間、よっすぃーは力の限り、叫び続けていた。
忘れていたけど、ここは紅白出演直前の楽屋。こんなに騒いで、後から怒られなきゃいいけど。

電気が消え、部屋の中が真っ暗になる。
ごっちんの笑い声と拍手が響き渡る中、私たちの『かさじぞう☆2001』は、幕を閉じた。
178 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時50分24秒
「ああ、みんな本当に良い子たちばかりだなぁ。
良い子には、お地蔵様がクリスマスプレゼントをあげよう。みんな、目をつぶってごらん?」
あれっ?こんなセリフ、あったっけ?
私は、暗闇の中から突然聞こえてきた保田さんの声に耳を澄ます。

「よいしょっと」
何だか久しぶりに聞く保田さんの声にほんの少し懐かしさを覚えていると、
新垣が電気を点けたらしく、いきなり部屋の中が明るくなった。

「ちょっと!まだ点けんじゃないわよ!」
大きな樽の上から後ろ向きに降りようとしていた保田さんの全身タイツ越しのお尻が、ちょっとだけセクシー。
「すいませんっ」
焦った新垣はなかなか保田さんが居る位置のスイッチを見つけられず、アタフタ。
とりあえず片っ端から消していくものの、運悪く保田さんの真上の電気は一番最後に消灯されることとなり、
その間ずっと私たちの前には、ぴっちり全身タイツ越しのお尻が晒されていた。
目に、焼き付いてしまった。

「もういいよ。目を明けてごらん?」
目、つぶってれば良かった。

明るくなった舞台の中央には、大きなクリスマスケーキを持った保田さんが立っていた。
179 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時52分50秒
「わっ!?ケーキ!?ケーキだあああああ!!」
私と同じく、こんな展開になるとは知らなかったのだろう…ののは、素で喜んでいる。

「食べよ食べよ!」
「あっ、コラ!」
あいぼんは保田さんの手からケーキを奪い取ると、さっさとちゃぶ台へ持って行ってしまった。
保田さんは肩を竦めて苦笑いしながら、何やらよっすぃーに目配せする。

この地蔵親子は、一体なにを企んでいるの…?
客席のごっちんを差し置いてちゃぶ台でケーキ食べようとしてるってことは、
さっきの劇がまだ続いていると考えるのが自然なんだろうけど。


「真希、おいでよ」
いつも通りの呑気な口調で、よっすぃーが言った。
「え…?」
突然自分の名前を呼ばれたごっちんは、イスに座ったまま口を開けてポカンとしている。

「ほらぁ、ケーキなくなっちゃうよ?」
「アタシも?」
ごっちんは自分の顔を指差しながら、彼女に向かって手招きしているよっすぃーへ問いかける。
180 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年02月17日(日)21時55分54秒
「うん。だって家族じゃん」
「…そっかぁ」
ごっちんはとてもうれしそうに笑って、それから私たちは、みんなで一つの食卓を囲んだ。
もちろん一列じゃ座りきれないから、ちゃぶ台の周りに二重の輪を作って座る。

「ごっちんの欲しいモノって、コレで合ってたかな?」
隣に座るよっすぃーが、そっと耳打ちしてくる。
「うん。バッチリだよ」
私が言うとよっすぃーはちゃぶ台の下で、小さくピースサイン。
私たちは、顔を見合わせて笑った。

ごっちん、よく言ってたもんね。
よっすぃーがあげたかった、ごっちんへのプレゼントは、たぶん…『家族で過ごす、クリスマス』。


「メリー、クリスマース!!」

よっすぃー。
今日はおつかれさまでした。あっ、あと保田さんも。
 
181 名前:すてっぷ 投稿日:2002年02月17日(日)21時57分38秒
更新遅くなって、ホントにすみませんでした…。
次で終わると思いますので、もう少しだけお付き合い頂けるとうれしいです。
182 名前:キャメル 投稿日:2002年02月17日(日)22時14分12秒
リアルタイム〜!
よっすぃ〜がおもろい!キャラ造りが上手ですね!
頑張ってください!
183 名前:おさる 投稿日:2002年02月17日(日)23時00分48秒
お久しぶりです。私もまず今回のトラブルの復旧に全力を尽くされた
管理人さんをねぎらいたいと思います。ありがとうございました。
さてさて、今回もぶっとびの内容です。
そうかそうか、去年の紅白の舞台裏ではこんな騒ぎが起きていたんですね。
道理で週刊文春あたりが"浜崎あゆみと一悶着"なんて書いたわけだ(藁。
保田さんもついに"地蔵道"に目覚めたようで…。良かった良かった。
ごっちんのためというよりはよっすぃーの自己満足のための劇のような気も…。
でも最後はごっちんもピースサインで喜んでくれましたね!
俺的には「僕にはわかる。地蔵(保田さん)の悲しみが、僕にはわかる。」とか
ごっちんに言って欲しかったなぁ。
でも、この「かさじぞう☆2001」、実際にハロモニあたりで
コントでやって欲しいと思うのは俺だけ?
お話しもいよいよ佳境。落し所をわきまえているすてっぷさんのこと、
どういう最終話になるか、楽しみにしています。
184 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年02月18日(月)16時30分36秒
>>183
レスは短めにわかりやすく、礼儀ですよ。
本当はこんな書き込みもスレ汚しになるんだから。

すてっぷさん帰ってきてくれてうれしいっス。
185 名前:名無し読者。 投稿日:2002年02月19日(火)00時08分49秒
すてっぷさんかえってきた〜!!!

嬉し過ぎて思わずカキコ
内容?もちろん最高っす(w
186 名前:もんじゃ 投稿日:2002年02月20日(水)00時36分57秒
ば、ばかだ…。もう、全員。ついでに劇の題名も含めて(笑)
…。
ってことは、やっぱり読んでる私たちも書いてるすてっぷさんも
ばか仲間ってやつでしょうか?
187 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月20日(水)02時35分21秒
>読んでる私たちも書いてるすてっぷさんもばか仲間ってやつでしょうか?
ステップさんでなくても答えられます。間違いなく全員ばかです。
ね?すてっぷさん!!
188 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月21日(木)21時15分53秒
ふ〜紅白前に何をやってるんでしょうかこの人たちは…
あいかわらず笑かしてくれますなぁ。
終わりはよかったけどね。

最後のプレゼント、楽しみです。

189 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月24日(日)03時46分39秒
足元に転がるなっちと、すかさず拭きに走る下っ端の小川は何気にツボでした。
190 名前:13 投稿日:2002年02月25日(月)12時55分21秒
「ヤスダ犬の気持ちが嫌でもわかる」って何だろうと思いながら読んでたのですが
まさかお地蔵様が全身タイツとは… 思わず想像しちゃいました(笑)
しかし、ごっちんの夢を叶えてあげた地蔵親子、姿はともかくカッケーです。
191 名前:すてっぷ 投稿日:2002年02月25日(月)22時37分26秒
感想、ありがとうございます! レス遅くなってすみません。
最終話は、もう少しだけお待ちください…。

>182 キャメルさん
ちょっと暴走しすぎかも、と思っていましたが…安心しました(笑
ありがとうございます!

>183 おさるさん
お久しぶりです。と言いつつ、また更新遅れてるし…すみません。
楽屋での騒ぎ。書きながら、その一件が頭をよぎりました。
と言っても最初から狙ったわけじゃなく、偶然の産物だったところが悲しいですが(笑
落し所ですか…。そう言われると、かなり自信ないですね!(笑
最終話、ご期待に添えるものになるか分かりませんが、よろしければ読んでやって下さいませ。

>184 梨華っちさいこ〜さん
帰ってきた早々、更新遅れててすみません…。
こちらこそ、また読んで頂けてうれしいです!

>185 名無し読者。さん
全然書き溜めてなくてどうしようかと思いましたが…何とか帰ってこれました(笑
お待ちいただき、ありがとうございました。
192 名前:すてっぷ 投稿日:2002年02月25日(月)22時42分23秒
>186 もんじゃさん
劇の題名、誰も触れてくれなかったらどうしようと思ってました…(笑
ばかサークルについては、187さんに代弁して頂きました(笑

>187 名無し読者さん
ステキな回答、ありがとうございます。
でも良いんですか? 「ばか仲間」ですよ?(笑

>188 名無し読者さん
メール欄に笑いました。
中盤飛ばしすぎたせいで、ラストが霞んでしまいましたが…そう言って頂けると、うれしいです。
最後のプレゼント、どうなることやら…。

>189 名無し読者さん
ありがとうございます。小ネタをばら撒いた甲斐がありました(笑

>190 13さん
頭まで被ってしまえばヅラも要りませんし、お地蔵様を表現するのに一番手っ取り早いかと。
ぴったり全身タイツ、想像してもらえましたか。この妄想を分ち合える人がいて良かった…(笑
193 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時22分04秒

<最終話>サンタクロースに逢えた日。


「ねぇ、もうすぐだよ!どうする?ねぇどうする?」
ベッドの上でぴょんぴょんと飛び跳ねながら、あいぼんが言う。

「ドーナツをねぇ、口に入れたしゅんかん、2002年をむかえる」
「あっ!じゃあじゃあ、あたしがののの口にドーナツ入れる」
「おー。よろしくたのむぞ、加護くん」
「どれにするよ、ダンナ。あん?どれに喰いつくよ?」
「2002年さいしょのドーナツでしょー?迷うよねー。なんか、すごいプレッシャーだよねー」
さっきからずっと落ち着きのない二人は、年越しの瞬間をどう過ごすかで盛り上がっている。

「でもまだ30分くらいあるじゃん」
「ごっちんはさぁ、ボーっとしてる間に年越してそうだよねぇ」
「なにそれぇ?よっすぃーに言われたくないんだけど」
「あたしはねー、そうねぇ…鼻フックでもするかな。ごっちんに」
「ってゆーか、やり返すけどね」
「マジっすか」
この二人、ドーナツで盛り上がるあっちの二人とレベル的に大差ない気がするの…。
194 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時24分01秒
大晦日。
生放送を終え、先輩たちより一足先に宿泊先である都内のホテルへ移動した私たちは
一緒に年越しの瞬間を迎えるべく、ごっちんの部屋に集合していた。

2001年も残り30分を切り、みんなの行動も様々。
落ち着かない様子でテーブルに置かれた箱の中のドーナツを物色するののとあいぼん、
ベッドに寝転んでテレビを観ながら呑気に笑っているごっちんとよっすぃー
(「みんな、もうエンディングまで出てこないよね」と言って早々にチャンネルを
変えてしまい、紅白なんて観ちゃいない始末)。
新メンバーたちもきっと誰かの部屋に集まって、この時間を過ごしていることだろう。
そして、私は…窓から夜景を眺めながら、よっすぃーと過ごしたスリリングな数日間に
思いを馳せていた。

(『なっちゃおっか、二人で。サンタクロース』)
よっすぃーのとんでもない思いつきのおかげで、すごく慌しい年末になっちゃったけど、
(一部の方々を除いて)みんなにも喜んでもらえたし…終り良ければすべて良し、だよね。

いろんなことがあった2001年も、もうすぐ終っちゃう。
来年は、どんな楽しいことが待ってるのかな…。
195 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時25分35秒
「梨華ちゃん、カメラマンね」
「えっ?」
キレイな夜景を見ながら年を越すのもいいかな…なんてボンヤリ考えていると、寝耳にあいぼんの声。
振り返ると、あいぼんがうぐいすパンを半分に割ってののに手渡しているところだった。
部屋の灯りに照らされて鮮やかに輝くうぐいす色の餡が、やけに眩しい。

「えっ?じゃなくてー。年越しドーナツだよ、年越しドーナツ!証拠写真とんなきゃでしょー」
「とんなきゃでしょー」
ののが大きく口を開けて、うぐいすパンに噛み付く。

「ああ…うん、いいけど」
年が明けて最初に見る光景が、のののドーナツ頬張ってる姿、か……(しかもレンズ越し)。


「うわあああーっ!やばい、忘れてた!!」
ベッドに寝転んでいたよっすぃーが突然、大声を上げて起き上がった。
「んあっ!?」
並んで横になっていたごっちんは0時を待たずに眠ってしまっていたらしく、
耳元で聞こえた大声にびっくりして飛び起きる。

「あたし、コンビニ行ってくる」
2001年も残り15分になったところで、よっすぃーが言った。
2001年も残り15分…あっ、紅白。もう終わっちゃってるかも。
196 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時27分21秒
「そんなの12時過ぎてからでいいじゃん」
「ダメなの!コナンの続きが気になってんだよ!」
「…いや、12時過ぎてからでいいじゃん」
「今年中に解決したいの!謎を残したまま新年迎えるのって、なんか気持ち悪いし」
ごっちんの説得にも耳を貸そうとしないよっすぃー、どうやらマンガを買いに行きたいらしい。

「ふーん…よっすぃーって、変なトコこだわるよね。あ、もしかして紅白終わってる?」
そう言うとごっちんは枕元に置いていたリモコンを手に取り、テレビのチャンネルを変えた。
映し出されたのは飯田さんでも安倍さんでも保田さんでも矢口さんでもなく、
もちろんアッコさんでもなく、お寺の映像。
「ダメだってよっすぃー!もう12時なっちゃうもん!」
「そっこーで帰ってくるって。あいぼん、なんか食べたいモンある?」
縋りつくあいぼんの手を振り解きながら、よっすぃーが言った。

「えーっ…じゃあ、ヤキソバ」
「あたしもー!」
よっすぃーと一緒に新年を迎えたい。
そんなあいぼんのカワイイ願いも、深夜のヤキソバという名の誘惑には敵わなかったみたいだねっ。
そして、ののの胃袋には、果てがない。
197 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時30分22秒
「じゃ、行ってきまーす」
「えっ?」
よっすぃーは左手にお財布を持ち、右手で私の腕を掴む。

「私も、行くの?」
「手分けして買った方が早いじゃん」
「………」
早いじゃん、って当然みたいな顔して…ホント、勝手なんだから。
私は渋々バッグから財布を出すと、よっすぃーの後に続く。

「よっすぃー。アタシも、ヤキソバ」
「おっけー」
先に外へ出ていたよっすぃーは、ドアの向こうからひょいと顔を出してごっちんに答える。

「行くよー。急げ、梨華ちゃん!」
「待っ……わあっ!」
いきなり、強い力で右手を掴まれる。


少し前を走るよっすぃーの、なんだかうれしそうな顔を見て私は、つながれた右手をぎゅっと握った。
2001年も、残り10分とすこし。
このままずっと、こうしていられたら、いいのにな…。

「下へまいりマース。ご利用階数をお申し付けくださいませぇ」
「…一階、おねがいします」
「かしこまりましたあ。なーんっつってね、あははは」
だけど私の王子様はエレベーターごっこに夢中で、切ない乙女心にこれっぽちも気付きやしない。
未だぬくもりの残る右手が、哀しい。
198 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時31分55秒
「よっすぃー、本あった?」
すぐ近くのコンビニに飛び込むなり雑誌コーナーに直行したよっすぃーを置いて、
私はみんなのリクエストであるカップ焼きそばと、お菓子やジュースなどの食料を驚くべき速さで
適当に見繕ってレジにて支払いを済ませると、マンガ雑誌を物色中のよっすぃーの元へ。
0時までまだ5分ちょっとあるし、走って戻ればギリギリ間に合うかも知れない。

「んー、ちょっと待って。メジャーまで読まして」
焦る私をよそによっすぃーはマンガに読み耽り、私の方を見ようともしない。
「ちょっと、なに立ち読みしてるの!?」
しかも、当初の目的以外の連載モノまでっ…!なに考えてるのよ!?

「えー?だって買うのもったいないじゃん」
「もーっ!そんなの私が買ってあげるってば!!」
「ホント?さんきゅー」
よっすぃーは満面の笑みを浮かべて、読みかけの雑誌を私の目の前に差し出す。


「よっすぃー!!」
「んー?」
レジでお金を払って後ろを振り返ると…よっすぃーは既に、新たな立ち読みを開始していた。

2001年も残り5分。
もう1秒たりとも、この人といっしょにいるのは、嫌。
199 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時34分09秒
「梨華ちゃん、どうしたの?なんか怒ってない?」
「べつに」
私は後ろを付いてくるよっすぃーの問いに短く答えながら、エレベーターに乗り込む。

「うそ、ぜったい怒ってるって」
「怒ってないよ」
「じゃあ何でこっち見ないの?ねぇ」
「怒ってないってば!!」
私の大声によっすぃーは、びくっと身を硬くして黙り込んでしまった。
気まずい空気を箱いっぱいに詰め込んで、二人を乗せたエレベーターの扉が、ゆっくりと閉まる。


「ゴメン、あたし…梨華ちゃんに何か悪いコト、した?」
重苦しい雰囲気の中、よっすぃーが静かに切り出す。

「………」
彼女の問いに、正直、自分でもどう答えて良いのかわからなかった。
彼女に対して怒っているのは確か。
だけど『どうして』って聞かれると、ちゃんと説明できる自信はない。

「なに、考えてるのよ」
私は壁に寄りかかって立つよっすぃーの怯えた表情を知りながら、ワザと冷たい声で言う。
操作盤に表示される階数が一つずつ増えていくのが、とてもとても長い時間のように感じられた。
2001年が残り何分かなんてもう、どうだっていい。
200 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時36分46秒
「部屋出る時は慌ててたくせに。『急げ』って言ったの、よっすぃーじゃない!
それなのにいつまでも立ち読みなんかしてて動こうとしないし、
せっかく夜景見ながら年越ししようって思ってたのに…
さっきからよっすぃーの考えてること、私ちっともわかんないよ!」

「梨華ちゃん…」

「さっきだけじゃない、ずっとそうだよ。ずっと、よっすぃーに振り回されてばっかりで私、
よっすぃーの考えてること全然わかんないんだもん!!」

言いたいこと全部言っちゃったら、すごく困ったような顔で私のこと見てるよっすぃーが、
なんだか急に、可哀想に思えてきてしまった。

言いたいこと全部言っちゃったら、この不可解な苛立ちの理由が見つかった気がする。
もしかしたら私は、彼女が何を考えているのか分からない自分自身に、怒っていたのかも知れない。


「そんなに、ワケわかんないかな?あたし」
「うん。ぜんっぜん、ワケわかんない」
冗談めかして私が言うと、よっすぃーは安心したようにため息を一つついた。
そして私たちを乗せたエレベーターは、無事目的の階に到着。
201 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時39分14秒
「ちゃんと」
「えっ?」
扉が開いて外へ出ようとしたところで、後ろから聞こえた声に振り返る。
するともう着いているのによっすぃーは降りようとするでもなく、まだ壁に
寄りかかったままでそこに立っていた。

「ちゃんと、わかるように話すから。その前に…プレゼント、先もらっちゃっていい?」
「プレゼントって、なに言って……っ!?」
言い終わらないうちに、私は腕を掴まれて強く引き寄せられ、抱きすくめられていた。
後ろで、扉の閉まる音が聞こえた。


「ホントは、マンガとかどうでも良くてさぁ…梨華ちゃんのコト連れ出したかっただけだから。
だって部屋の中で年越しって、なんかつまんないし」
私はよっすぃーの腕の中で、ただ黙って彼女の言葉を聞いていた。

「あー、ってゆーかもっと正直に言うと、部屋の中でもべつに良いんだけどね。
梨華ちゃんとふたりなら、どこだって、べつに良いんだけど」
真上から降ってくるよっすぃーの声は、私のカラダに直接響いてくるみたいなカンジがして心地良い。
「梨華ちゃんとふたりなら、エレベーターの中だってさ」
そう言って、照れたように笑う。
202 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時41分36秒
「ねぇ。よっすぃーの欲しいモノって、何だったの?」
私は、よっすぃーにカラダを預けたままで問いかける。
よっすぃーは、うーん、と少し躊躇して、それからゆっくりと話し始めた。

「仕事とかでさぁ、たまに12時すぎたりするでしょ?
そーゆーときって、すごい疲れるけど、でもなんかうれしくてさぁ。
一日の終わりとはじまりに、梨華ちゃんと一緒にいるのが、なんかうれしくてさ」

やっぱり、よっすぃーってコはときどき、よくわからない。
けれど私たちはきっと、
わかんないからもっと、近付きたいと思うのかも知れない。

「だから、ずっと思ってたの。今度は、」
わかんないからまた、好きになっちゃうのかも知れない。

「一年の終わりとはじまりに、梨華ちゃんとふたりでいれたらいいなって」
ひとつ謎が解けるたび、またひとつ、好きになって。
ときどきイライラしちゃうけど、でも…誰かを好きでいることは、やっぱり、楽しい。
203 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時43分54秒
「そんなの、早く言ってくれればいいのに。私、一人で怒って…バカみたい」
「だって秘密の楽しみだもん。言ったら意味ないっしょ」
すぐそばで、いつもの呑気な笑い声が聞こえる。

私の体内時計によると、2001年はもうとっくに終わっちゃってるはず。
年を越す瞬間に私たちが何をしていたのかは、もうわからないけど…
よっすぃーとふたりでいたことだけは確かだから、まぁいっか。

「毎日が、そうなるといいのにね」
一日の終わりとはじまりに、ふたりでいられたら。
今までそんな風に考えたこともなかったけど…一日の境目をいつもふたりですごせたら、
どんなに素敵だろうと思った。

「そうだねぇ。できれば仕事じゃない方がうれしいけどね…って、あっ忘れてた」
「なに?」
私は思わず、よっすぃーの顔を見上げて聞き返す。
すると間近で彼女と目が合ってしまい、私は慌てて視線を元へ戻した。

「梨華ちゃんのプレゼント、なにがいい?」
「………」
まさかこの人、日付の変わり目をいつも一緒にすごしたいほど大切な人へのプレゼントを
考えてなかったんじゃ…私は疑いの眼差しで彼女を見上げる。
204 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時45分55秒
「言っとくけど、考えてなかったワケじゃないからね」
「………」
「迷いすぎて決めらんなかっただけだからね」
「………」
「………ゴメン、考えてなかった」
私の無言の問いかけに耐え切れなくなったのか、よっすぃーはあっさりと白状した。

「とにかく!欲しいモノ言ってよ。何でも買ってあげるから!」
形勢が不利になった途端よっすぃーは、半ばキレ気味に言った。
でも常識的に考えると、この場合、キレて暴れても許されるのは私の方だと思うの…。

「じゃあ…もうすこしだけ、このままがいい」
私はよっすぃーの背中に手を回して、ぎゅっとしがみつく。
「えっ、そんなんでいいの?」
拍子抜けしたように、よっすぃーが言う。
「うん。そんなんでいいの」
温かい腕の中、目を閉じて彼女の言葉に耳を傾ける。

「よかった。土地、とか言われたらどうしようかと思った」
その瞬間、私は自分の耳を塞ぎたい衝動に駆られた。
205 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時48分09秒
「あ、待って。コレってさぁ、ウチらの欲しいモノ、結局同じだったってコトじゃない?」
「ああ、うん。そうだね」
そんなに大した発見じゃないんだけど、なんだか妙に納得しちゃったりして。

「だろぉー?
ってゆーかコレはそもそも、あたしってより梨華ちゃんのために用意したプレゼントだったんだけどね。
だってホラ、梨華ちゃんは『よっすぃー大好き星人』なワケだし」
「なによ、それ!?」
ああっ、もーっ!この『カン違い星人』を誰か止めてーっ!!
「えっとねー、ぴょーん星人の仲間。同時に飯田さんの親戚でもあるのデス!」
ああ、もぅ。そんな情報いらないし…。

「やっぱ1号と2号は息ピッタリだよ。いやー、今年のクリスマスが楽しみだね!」
私の抗議をまるっきり無視して、弾む声でよっすぃーが言う。

「よっすぃー…今年も、やる気?」
「ったりまえじゃん!みんな楽しみにしてるだろうしね」
してないとおもうよ、って忠告したいところだけど…好きだから言えない。
206 名前:サンタクロースに逢えた日。 投稿日:2002年03月02日(土)22時52分03秒
「梨華ちゃん」
「ん?」
顔を上げると、そこにはいつもの呑気な笑顔があって。

「メリークリスマス。と、あけましておめでとう」
生まれて初めて聞くヘンテコなあいさつに、私は思わず吹きだしてしまう。

「ちょっとー、なに笑ってんのさぁ」
「だってクリスマスとお正月、いっぺんに来ちゃったみたい」
「でしょ、でしょ?ほらねー」
とくに褒めたつもりはなかったんだけど、よっすぃーはなぜか得意げ。

今年もきっとこんな調子で、意味不明な思いつきに付き合わされちゃったりするんだろうな。
だけど私、よっすぃーに振り回されるの、そんなに嫌いじゃないかも知れない。


「遅れてくるサンタも、なかなかイイでしょ?」

よっすぃー。
ナイショだけど私、ちょっとだけ思っちゃったよ?
次のクリスマスも、よっすぃーとふたりで、『サンタクロースになりたい』って。



<Merry Christmas & A Happy New Year>
 
207 名前:すてっぷ 投稿日:2002年03月02日(土)22時54分35秒

全然オチてなくて、すみません(笑
遅い更新に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
208 名前:おさる 投稿日:2002年03月02日(土)23時38分00秒
最終話は切なさとコミカルさがいい具合にミックスされましたね。
すてっぷさんの描く物語を読むと何か情景が浮かぶんですよ。
そして娘。達の細かい心のふれあいが絶妙に活写されてて、そこが好きなんです。
また「すてっぷ節」の読めることを期待しています。
209 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月02日(土)23時52分01秒
現実の吉澤がキャラ変貌するに従って、すてっぷさんの中でもどんどん変わって
いますね。
『騒動に巻き込まれ』型から『自分が騒動の中心』型へ…
でも、そんな吉澤も微笑ましいけど。
210 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月03日(日)00時52分20秒
今回も大笑いさせていただきました。
特にごっちんのときの劇が。(笑
よっすぃも最後までとんだキャラで面白かったです。

すてっぷさんお疲れ様でした。そしてありがとうございました。
211 名前:13 投稿日:2002年03月03日(日)01時43分51秒
吉澤さんから石川さんへのプレゼントは一体何だろうと考えていたのですが…
まさか忘れていたとは(笑) さすがは吉澤さんです。
今回は、吉澤さんぶっ飛びまくりでしたね。
そして、最後の最後まで振り回され続けて、脳内突っ込み出しまくりだった石川さん…
本当にお疲れ様でした(笑)
212 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月03日(日)08時54分46秒
すてっぷさんの更新されてる〜!
今回も爆笑でした!
213 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年03月03日(日)22時37分43秒
『1』の頃から読んでます。
209さんのレス読んで納得。そういえば、ヨシコは巻きこまれ型だった(w
今回も仕事中に思い出し笑いを堪えるほどの(実話)、笑いと感動をありがとうございました。
すてっぷさんの書くいしかわさんがかわいくて(暴走含む)すごい好きなので、また書いてほしいです。
214 名前:ARENA 投稿日:2002年03月03日(日)22時40分43秒
とりあえず、「Dear Friends」一周年おめでとうございます!!
ずっと読みましたよ。そして、これからも・・・。

今回のラストもよかった。
実際の吉澤を思わせるボケっぷりと、
これまたリアルな石川の脳内ツッコミがやっぱり面白かったです。
最後まで二人でコントしてたし(w
そして、最後のしんみりっていうか、ほのぼの感がいい・・・(´ー`)y ─┛~~

お疲れ様でした〜ヽ( ´ー`)ノ
215 名前:もんじゃ 投稿日:2002年03月03日(日)23時41分44秒
なんかもーイキオイだけの力技で乗り切ったよっすぃがス テ キ。
あっさり何も考えてなかった事を白状するともこかわいくてツボでした。
「よっすぃー大好き星人」のフレーズも好き。
あと、私もダイナマ伊藤!まで立ち読みしたいかなっと(笑)

本当にお疲れ様でした。
216 名前:名無し読者。 投稿日:2002年03月03日(日)23時55分34秒
脱稿お疲れ様でした。
自分的にはラスト大好きなんですが。
読みながら思わずニヤニヤしてましたわ(w

やっぱり年越しの瞬間て大事ですよねぇ…
そんな瞬間をドーナツ食って迎えようという例の2人に萌え(w





217 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月04日(月)20時35分29秒
吉澤さんの突然の思いつきによって始まったこの企画、
いい感じに幕を閉じましたね〜。プレゼント交換とってもよかったです。
ふたりの異星人今年はいったいどんな事を…

こんな二人にまた出会える事を期待しつつ、お疲れさまでした。

218 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年03月05日(火)12時23分51秒
お疲れ様でした!
すてっぷさんは過去にたくさんの作品を書いてますけど、
石川視点は初めてなんですね。
脳内暴走の石川さん最高でした!
これからも頑張ってください。
219 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月06日(水)15時28分14秒
お疲れ様でした。ずーと黙ってROMってたんですが・・・(w
すっごく笑わせていただいて、最後にニヤけさせていただきました。
ありがとうございました。
これからも、がんばってください。
220 名前:すてっぷ 投稿日:2002年03月06日(水)22時29分26秒
感想、どうもありがとうございました!

>208 おさるさん
最終話は色々と詰め込みすぎて、展開が少し慌しかったかなとも
思っていたのですが…温かい感想、ありがとうございます。
次もそう感じてもらえるように頑張りますので(笑)、
よろしければ、また読んでやってくださいね。

>209 名無し読者さん
>『騒動に巻き込まれ』型から『自分が騒動の中心』型へ
そうですね。もう、マトモなキャラとして登場することは無いかも…。
吉澤視点の話なら、もう少し普通になると思うんですが(笑

>210 名無しさん
良かった…。劇の部分は本当にやりたい放題やってしまった気がして、
客観的に見て面白いのかどうかかなり不安だったので(笑
こちらこそ、ありがとうございました。

>211 13さん
何せ吉澤さんのやる事ですから…まじめに考えてはいけません(笑
二人とも暴走しすぎてどうなる事かと思いましたが、何とか完結できました。
13さんも、こんな二人に最後までお付き合い頂いて、お疲れ様でした(笑
221 名前:すてっぷ 投稿日:2002年03月06日(水)22時31分22秒
>212 名無しさん
ありがとうございます!次回もがんばります(笑

>213 ごまべーぐるさん
初期からのお付き合い、ありがとうございます。
巻き込まれキャラ、今となっては懐かしくすらありますね…。
石川さんは、なんか難しかったです。次書くときまでに、もう少し研究しておきますね(笑

>214 ARENAさん
一年間、お世話になりました(笑
そろそろ一年という自覚はあったんですが、ARENAさんのレスを読んでログを見返してみると、
始めたのがちょうど3月3日でびっくり(笑。 ありがとうございます!!
吉澤は今回特に、現実の姿にかなり影響されてますね(実際ここまで酷くないけど…)。

>215 もんじゃさん
イキオイだけでオイシイ所は全部持ってってましたね。ひきかえ、ひたすら地味だった
石川さんが、今にして思えば少しばかり不憫です(笑
それにしても『ダイナマ伊藤』て、またマニアックな…いや、好きですけど(笑
222 名前:すてっぷ 投稿日:2002年03月06日(水)22時33分53秒
>216 名無し読者。さん
最近は無理に落さず、ほのぼの終わるのもアリかなーと思っていましたので、
賛同してもらえて光栄です。(笑
年越しは、好きな事をやりながら迎えたいですよね…例えばドーナツ食ってたりとか(笑

>217 名無し読者さん
プレゼント交換、ってピッタリの言葉ですね。思い付いてれば使いたかった…。
この二人で、今年のクリスマスに続編が書けたら良いですね。(笑
たぶん、誰も覚えてないと思いますが(笑

>218 梨華っちさいこ〜さん
ほとんどが、吉澤視点ですからね…。
石川さん。実は今までで一番書きにくかったのですが、気に入ってもらえたようなので(笑)
いつかまた書けたらと思います。ありがとうございました!

>219 よすこ大好き読者さん
ROMありがとうございます!(笑。読んで頂けるだけで、感謝です。
次も、笑って(ニヤケて?)もらえるようなモノが書ければと思いますので、
よろしければまたお付き合いください。
223 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月17日(日)23時59分55秒
吉澤と矢口のかまし合いが良かったです。
この2人、仲良しなのか悪いのか…
ちょっと、トムとジェリー風ですな(古
224 名前:すてっぷ 投稿日:2002年03月21日(木)03時54分33秒
>223 名無し読者さん
ありがとうございます。トムとジェリー、確かに古(笑。言い得て妙ですね。
吉澤と矢口。次のは少し雰囲気が違いますが、お付き合い頂けるとうれしいです。
225 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)03時57分02秒

<第1話>

「あーあ、たいくつだなぁー」
とある町の、ごく普通の家に生まれたごく普通の女の子、よっすぃー。

「どうしてこんなに、たいくつなんだろう?」
よっすぃーは寝る前になると決まって部屋の窓を開け、星空を眺めながら独り言を言うのです。
どうしてこんなにたいくつなんだろう、どうしてこんなにたいくつなんだろう。
明日だってきっと今日みたいに、たいくつでつまらない一日に決まっている。

「私だけなのかなぁ?あややは、たいくつだなぁーとか思わないのかな?」
机の上のラジオからは、さっきからずっと、よっすぃーが大好きな『あやや』の歌が
流れています。

「ももいーろぉの、かたおもーい♪」
大好きな『あやや』の歌を口ずさむのが、よっすぃーの唯一の退屈しのぎの方法でした。

「ルルルルル、マジマジとララララーラ。むねがキュルルン♪」
大好きですが、歌詞はうろ覚えです。

「あーあ、どうしてこんなに、たいくつなんだろう」
そう言うとよっすぃーは、深いため息をつきました。
226 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)03時59分34秒
「それはね。ともだちが、いないからだよ」
寒いので窓を閉めようとしたよっすぃーは、どこからか聞こえてきた声に
ハッとしました。
半分閉じた窓をまた全部開けて、窓の外をキョロキョロと見回しますが、
辺りには誰もいません。

「あれぇ?女の子の声が聞こえたんだけどなぁー」
曲が終わり、ラジオからはよっすぃーが大好きな『あやや』の声が聞こえています。
ラジオの声だったのかも知れない。気味が悪いので、そう思うことにしました。

「あややにしては、あんまりカワイイ声じゃなかったけど…まいっか」
「可愛くなくて悪かったな」
「えっ!?」
後ろから聞こえた声に振り返ると、なんとよっすぃーのベッドの上に、一人の女の子が
寝ているではありませんか。
びっくりして後ろへ飛びのいたよっすぃーは、机の脚に右足の小指をぶつけてしまいました。

「誰だ、おまえっ…!」
よっすぃーはうずくまって小指の痛みに耐えながら、声を絞り出します。

「あいぼんです」
ピンクのトレーナーに赤いミニスカートで、真っ赤なランドセルを背負った少女は、
ベッドの上に寝転んだまま答えました。しかも土足です。
227 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時01分13秒
「なんで私にともだちがいないって、わかったの?」
「あんたのことなら何でも知ってるから」
二人は並んでベッドに腰掛けると、まるで昔から知っている間柄のように気安く、話し始めました。

「すっごいんだよ、あいぼんは魔法使いなんだぜ」
「うっそ、マジで!?」
びっくりして大声を上げてしまったよっすぃーの口を、あいぼんが慌てて両手で塞ぎます。
やがて呼吸困難に陥ったよっすぃーの鼻が、大きく膨らみました。
鼻呼吸を強いられたよっすぃーの鼻息が、部屋中に響き渡ります。

「ともだちかぁ…。ともだちがいれば、たいくつじゃなくなるかな?」
よっすぃーは、気を失いそうになってやっと、口を塞がれた手を放してもらえました。
あいぼんは、よっすぃーが白目を剥いているのを見てやっと、事の重大さに気が付いたのでした。

「自分、名前は?」
「私のこと何でも知ってるのに、名前は知らないの?」
「むぅっ…!うるさいなー!」
「…!」
よっすぃーは再び、呼吸困難に陥りました。
今度はさっきよりも少しだけ、危険な状態でした。
けれどもよっすぃーは奇跡的に、一命をとりとめたのです。
228 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時02分47秒
「吉澤ひとみ。でも、真里ちゃんは私のこと『よっすぃー』って呼んでる」
「『真里ちゃん』って?」
「お隣さん。小さい頃から仲良しなの」
「なんやぁ、あんた友達おったんか…ああ、またやってもーた。
ウチのリサーチが甘かったんかなぁ…どーしよ、また中澤さんにドヤされるワ」
あいぼんは暗い表情でブツブツと独り言を繰り返しながら、頭を抱えています。

「ともだちじゃないよ。おさななじみ、だよ。真里ちゃんが言ってた」
「幼馴染だって友達には変わりないじゃん。どっちも似たようなモンだよ」
「違うよ、真里ちゃん言ってたもん。ともだちは、作らない方が良いんだって」
思いがけない言葉に、あいぼんは不思議そうな顔でよっすぃーの顔を覗き込みます。
229 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時04分35秒
「なんで?友達は、いた方が楽しいに決まってるのに」
「ううん。ともだちは裏切るから、いない方が良いんだよ。ともだちは、信じちゃいけないんだよ」
「真里ちゃんが、そう言うたん?」
「うん」
(真里ちゃんって、どんな子なんやろ)

『ともだちは、作らない方が良い』
あいぼんには、魔法使いの先輩の中澤さんや平家さん、それから他にもたくさんの友達がいます。
そしてそのたくさんの友達がいるおかげで、あいぼんは毎日をとても楽しく過ごしているのです。
ですから、あいぼんには『真里ちゃん』の言うことが、不思議で仕方ありませんでした。

「幼馴染は良くて、友達はアカンの?」
「うん」
そして、『真里ちゃん』の言うことを信じてともだちを作ろうとしないよっすぃーのことが、
あいぼんにはとても可哀想に思えるのでした。
230 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時06分30秒

――

「で?今度は大丈夫なんやろな」
大きな会社のとても偉い人が座るような大きな机に肘を突き、大きなイスに
腰掛けてふんぞり返っているのは、あいぼん直属の上司、中澤さんです。
中澤さんは仕事中ですが、ワインでほろ酔い気味です。

「裕ちゃん…社長のイス勝手に座って、怒られんで」
呆れたように言ったのは、先輩魔法使いの平家さん。

「まっかしてください!今回ばかりはこのあいぼん、自信満々でー、ございます!!」
胸を張って言うあいぼんの赤いランドセルからは、クリーム色のタテ笛が顔を覗かせています。
このタテ笛は、あいぼんが魔法使い試験に合格したお祝いに平家さんがくれたものでした。

『なんやコレ、小学生のタテ笛やんかー。
中学生のタテ笛言うたら普通はアルトリコーダーちゃうんかいな。シケー』と、
照れ隠しに毒づいてしまった、ちょっぴり切ない思い出の品なのです。

『え、だってアンタ、中学生やのにランドセル背負ってるやん…。
ランドセル言うたら普通は、ソプラノリコーダーやん…』
あの時の平家さんの哀しげな瞳は、今でもあいぼんの胸に焼き付いています。
231 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時08分28秒
「部下の不始末は、上司であるアタシの責任になるんやからな。
今度中途半端な仕事してみぃ、腕立て伏せ五万回よりもっとスゴイことやらしたるで」
例えが凄すぎて、あいぼんには想像することができませんでした。

あいぼんが中澤さんの下で修行を積み、晴れて魔法使いになってから一年が
経とうとしていますが、未熟なあいぼんは『誰かの願い事を叶える』という仕事を
まだ一度もやり遂げたことがなかったのでした。

「みちよも、連帯責任やで」
「えっ、なんで!?ウチ関係あれへんやん、部署かてちゃうし!
ウチ裕ちゃんの部下でも何でもないのに…!」
平家さんは、焦りました。
あいぼんは、自分には関係ないので黙っていました。
「ちっくしょー。絶対出世してやる…会社のカネを億単位で動かす女になってやる」
平家さんは魔法使いですが、なぜか経理部に所属しています。

(今度こそ、ちゃんとやり遂げるんや。よっすぃーに、ともだち作ってあげるんやから)
こうしてあいぼんは次の仕事を、『よっすぃーを退屈から救い出すこと』に決めたのでした。
232 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時10分06秒

――

次の日、あいぼんは昨夜と同じ時間によっすぃーの部屋へ行きました。
自分がよっすぃーの願い事を叶えるための手伝いをすることを、伝えるためです。

「えっ、ともだち?」
「うん。だって、もう退屈なのは嫌なんでしょ?」
「そうだなぁー、確かにたいくつはもう、嫌だね」
二人は昨夜と同じようにベッドの上に並んで腰掛け、昨日初めて会ったばかりとは
思えない気安さで、楽しそうに話すのでした。

「だから、ウチがよっすぃーと仲良くなれそうな子を選んで、よっすぃーに会わせてあげる。
友達ができれば、毎日退屈しなくて済むでしょ?」
「そうなの?よく、わかんないけど」
「そういうモンなの。友達っていうのは、楽しいモンなんや」
「ふーん…でもやっぱり、信用できないかも」
「えーっ、もぉー、どないしよ」
あいぼんは、疑り深いよっすぃーの態度に、ほとほと困り果ててしまいました。
233 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時11分56秒
「じゃあさ、もしもだよ?
もしも、よっすぃーが友達を作るとしたら、たとえばどんな子がいい?」
「えーっ。急に言われたって、そんなのわかんないよ」
そう言うとよっすぃーは、下を向いて考え込んでしまいました。
そもそもよっすぃーは『ともだち』を作ったことがないのですから、
急に聞かれたって、わからないのは当然のことなのです。

「じゃあさ、どんな子とお話してみたいって思う?
たとえば『優しい子』とか『面白い子』とかさ、あとは何やろー、聞き上手な子とか?
ああ、コレはけっこー、重宝やな、うん。つまらん話でも、笑ってくれたらうれしいやん?」
腕組みをして考え込んでいるよっすぃーは、あいぼんの話をまるで聞いていませんでした。

「そうだなぁー、カワイイ子かな」
「えっ」
思いがけないよっすぃーの言葉に、あいぼんは驚きました。

「カワイイというのは、見た目が?」
「もちろん」
そしてあいぼんは、よっすぃーのおっとりとした喋り方やその優しい表情から、
よっすぃーのことを心のどこかで『外見より性格重視な人間』だと勝手に
思い込んでいた自分の甘さに、気付かされたのでした。
234 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時13分42秒
「ねぇ、あいぼん。ともだちは、裏切ったりしない?」
「うん。しないよ」
「ともだちは、私に嫌なことや、悪いことをしない?」
「するわけないじゃん。だって友達だもん」
「…そっか」
あいぼんには隣に座るよっすぃーの横顔しか見ることができませんでしたが、
頬にかかった髪越しに見えるよっすぃーの口元がうれしそうに緩んだのを、
あいぼんは見逃しませんでした。

「だから、あんまり深く考えないで軽い気持ちでさ。ねっ?ホラ、ドンドンいこー!」
あいぼんは、最後の仕上げに入りました。
少しずつですがよっすぃーは、『ともだち』という存在に興味を持ち始めているのです。
あいぼんとしてはもちろん、この機を逃す手はありませんから、ここぞとばかり
よっすぃーに畳み掛けます。

「ってゆーか、『カワイイ』だけじゃアレだからさ、もっと条件絞り込んでくれると
こっちとしても有難いんだけど。他にはたとえばどんな娘がお好みなのかなー?」
あいぼんは、一体よっすぃーに何を紹介したいのか、自分でもわからなくなっていました。
235 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時15分22秒
「えっとねー。
あややみたいにカワイくて、あややみたいに歌が大好きで、
あややみたいにカワイくて、あややみたいに歌が上手くて、
あややみたいにカワイイ子がいいかな」
よっすぃーの頭の中は、『あやや』のことで一杯なのでした。

「…それって、あやや本人連れてくるしか道ないんとちゃうか」
「えっ、あややに会えんの!?うそ、マジで!?」
まさか本人に会えるとは思ってもみなかったよっすぃーは
あいぼんの独り言を聞きつけると、あいぼんに掴みかかりました。

「わっ!?ちょっ、ちょっと落ち着きぃや、まだ連れてくるって言うてへんやろ!?」
「なんだぁ…。もぉー、びっくりさせないでよ、あいぼーん」
「こっちはオマエにびっくりやわ」
よっすぃーに思いっきり引っ張られたせいで乱れたシャツの襟を正しながら、
あいぼんが呟きました。
236 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時17分08秒
「確認するから、ちょっと待っててな」
あいぼんはそう言って立ち上がると、ランドセルから携帯電話を取り出しました。
この携帯電話は、あいぼんが魔法使い試験に合格したお祝いに中澤さんがくれたものでした。
中澤さんが五年間使っていたお古の携帯電話を、あいぼんに譲ってくれたのです。
もちろんメール機能も付いていませんし、内蔵の着メロはどれもあいぼんの知らない曲ばかりでした。

『ウチの携帯な、きょーび着メロも作られへんねんでー。まいるワー』と、
クラスメート相手に半ば自虐的な笑いを取ろうとしたあいぼんでしたが、
『あいぼん、いまどき着メロ自分で作るヤツなんかいないよ』と、
別の意味で嗤われてしまった、ちょっぴり哀しい思い出の品なのです。
(いまどきの中学生は、既製の着メロを『ダウンロード』して使うのだそうです)

それでも、新しい機種を買うお金はありませんでしたし、
なにより、大好きな中澤さんにもらった携帯電話ですから、
あいぼんはそれはそれは大切にしていたのです。
237 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時19分09秒
「あ、もしもし、みっちゃーん?あんなぁ、ちょっと相談あんねんけどぉー」
あいぼんの電話の相手は、平家さんでした。

よっすぃーに会わせるのが普通の女の子ならば全く問題はないのですが、
なんといっても『あやや』は超人気アイドル。
スケジュールをおさえるのも一苦労です。
ましてや『あやや』ほどの人気者になると、どうしてもお金の問題が絡んできますから、
そういう場合にはやはり、経理担当の平家さんに相談する必要があったのです。

『はあー?なに言うてんの、アンタ。そんなんできるワケないやろ、なんぼ要る思てんねん』
あいぼんが『あやや』の名前を出した途端、平家さんの声が不機嫌になりました。
あいぼんが考えていたよりもずっと、よっすぃーに『あやや』を会わせてあげるのは
難しいようです。

『そらまぁ、アンタが自腹切るっちゅーなら、交渉したってもええけど?』
もちろん、あいぼんにそんなつもりはありませんでした。

「ゴメン、よっすぃー。あややは、無理みたい」
「……そっかぁ、そうなんだ。でも、仕方ないよね…うん。仕方ないよ」
よっすぃーは、心の底から残念そうでした。
238 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時21分29秒
「ゴメンなぁ、よっすぃー」
「平気だよ。だって、
あややみたいにカワイくて、あややみたいに歌が大好きで、
あややみたいにカワイくて、あややみたいに歌が上手くて、
あややみたいにカワイイ子はきっと、世界中にたくさんいるはずだもの。
そうだよね、あいぼん?」
大きな目をキラキラと輝かせて、よっすぃーが言いました。

「前向きやなー。まっ、良いことだけどね!」
あいぼんはそう言ってランドセルを開けると、平家さんにもらったタテ笛の隣に、
携帯電話をそっと仕舞いました。

そしてあいぼんはよっすぃーのために、
『あややみたいにカワイくて、あややみたいに歌が大好きで、
 あややみたいにカワイくて、あややみたいに歌が上手くて、
 あややみたいにカワイイ子リスト』を、
平家さんに頼んで発注することにしたのです。


「あややみたいにカワイイ、ともだちかぁー。ああ、なんかワクワクしてきたぜいっ!」
「おまえ…ぜったい、友達以上のモン探そうとしてるやろ」

あいぼんは、友達とか言ってこいつホンマはカワイイ娘を
『とっかえひっかえ』したいだけちゃうんか、と、思いました。
239 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時23分07秒

――

「おーい、帰ったでえー!おいこらー!加護ぉー!おらへんのかー!
おらんワケないやろー!開けんかコラアアアアアアアアーーー!!!」
あいぼんにとって忘れたくても忘れられない声が、家の外から大音量で聞こえてきました。
布団からもぞもぞと顔を出し、枕元の目覚まし時計を見てみると、
時計の針は午前3時30分を指しています。

「聞こえんフリしよ…」
あいぼんは再び頭から毛布を被って、布団の中へ深く深く潜り込みます。

あいぼんは小学校に上がるとすぐ、魔法の修行をするために中澤さんの家に居候を始めました。
中澤さんとの暮らしももうすぐ丸八年になりますが、平家さんと夜遅くまで飲み歩いて
真夜中に帰宅し、あいぼんを叩き起こすという習慣は八年前も今もちっとも変わっていません。
すると、平家さんは成人する前から中澤さんに付きあわされていた計算になります。
ああ、なんという恐ろしいことでしょう。
240 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時25分12秒
「なんや、寝たフリしてんちゃうかー?ああん?
そっちがその気やったらな、こっちもそれなりのアレやでー。イナズマとか隕石とか落とすで」
中澤さんは、攻撃魔法の使い手なのです。

「あいぼおおおおおおおおん!!後生やから、後生やから出てきてえええええーっ!!」
平家さんの泣き叫ぶ声がちょっと普通ではなかったので、あいぼんはしぶしぶ布団から抜け出しました。

「やっと出てきたか。この寝たフリ坊主が」
鍵を外し、ガラガラと戸を開けると、あいぼんの顔を見るなり中澤さんが悪態をつきました。

「裕ちゃん、なかなか帰ろうとせえへんから大変やったわ」
「どうせなら朝帰りしてくれたら良かったのに…」
だって中途半端な時間に帰ってこられるのが、あいぼんには一番迷惑だったのです。

「加護ぉー、ちょっと聞いてえや。あんなー、道行く人が親切やってん」
中澤さんは意味不明なことを言いながら、玄関に座り込んでしまいました。
「あーあ、好きな人にやさしくされたいなあああああ……」
中澤さんは、玄関の冷たい床の上で眠ってしまいました。

「…知らんがな」
あいぼんの呟きが、夜の闇にとけてゆきます。
241 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月21日(木)04時27分59秒

――

「ともだちかぁ…」
よっすぃーはあいぼんが帰った後も、あいぼんが会わせてくれるという
『ともだち』のことを考えると、うれしくてなかなか寝付けずにいました。

まだ見ぬ『ともだち』といろんな話をしたり、いろんなものを見たり聞いたりすることを
想像すると、それだけでうれしくて楽しくて、なんだかとても不思議な気持ちになるのです。
こんなにたいくつでない夜は、いつの日以来でしょう?

「メグ・ライアンみたいに素敵な子だといいなぁー。アントニオ・バンデラスも、かっけーなぁ」
未来の『ともだち』に、よっすぃーの夢は膨らむばかりです。


「おやすみ、真里ちゃん。おやすみ、あいぼん」
よっすぃーはいつも、ベッドに入って目を閉じるとき、大好きな人におやすみを言って
眠ることに決めていました。

(今までは真里ちゃん一人だけだったけど、昨日からあいぼんが加わった。
 そして明日か明後日かわからないけれど近いうちにきっと、新しい誰かにもおやすみを言うんだ)

今夜は楽しい夢が見られそうな、うれしい予感を抱きながら、
よっすぃーはゆっくりと目を閉じました。
 
242 名前:すてっぷ 投稿日:2002年03月21日(木)04時30分44秒
タイトルは「とっかえっ娘」のパロディですが、おそらく内容は
似ても似つかないと思われます…。
よろしければ、お付き合いください。
243 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年03月21日(木)04時56分09秒
ああ〜。新作がはじまってる!
みっちゃん好きなので期待してます!
244 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年03月21日(木)20時27分27秒
新作待ってましたぁ!
作風が今までとは違いますね。どうなるか楽しみです。
ねーさんとみっちゃんのコンビが楽しい。
245 名前:おさる 投稿日:2002年03月21日(木)22時26分11秒
お久しぶりです!
何か今までとは違う雰囲気ですね。話の設定も何やら楽しげ、面白げ。
童話風の語り口からどんな物語が紡ぎ出されますか、お楽しみ、お楽しみ。
246 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月21日(木)22時37分14秒
おぉついに新たなお話始まりましたねぇ。お待ちしておりました。
今回も大騒動おきるのでしょうか。
キャスティングも気になりつつ楽しみにしております。
247 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月21日(木)22時44分16秒
なんか真里ちゃんの信条が気になるのですが?
248 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月22日(金)00時36分13秒
今まで『みちよ』と名前のみ登場だった平家さんが、満を持して登場だ!
オイラもみっちゃん好きだから嬉しいよ!
249 名前:ろむ読者 投稿日:2002年03月23日(土)07時23分48秒
>あんなー、道行く人が親切やってん
・・・・・・ツボでした。
よっすぃーに素敵なともだちができるよう祈ってます。
250 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月24日(日)01時26分44秒
関西弁トリオは、いいね!
251 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月25日(月)16時00分28秒
よっすぃ・・・アンタ全然普通の子じゃないよ・・・
ホントに伏線かどうかも怪しいくらいに忘れられてる矢口もイイ(w

しかし、平家さんは不幸で目立たなくて報われないキャラを演じさせたら
宇宙一ですね♪
252 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時28分12秒

<第2話>


「全部で三人の予定やけど、とりあえず一人分だけ渡しとくわ。
後の二人は資料が出来次第、あんたに渡すさかいな」
平家さんはそう言って、ホッチキスで綴じられた数枚の資料を
あいぼんに手渡しました。

「さんきゅー、みっちゃん」
「いいえー、どういたしましてぇ」
平家さんはペコリとおじぎをして、ふざけたように、わざと大げさに言うのでした。

「なあ、裕ちゃんは?」
「んー?今日は午後出勤だって」
あいぼんは、自分の席に座って資料に目を通しながら答えました。
「二日酔いか…」
「うん。さいっこーきゅーに気分悪そうでした」
あいぼんが言うと、平家さんは肩を竦めて苦笑いです。

「よぉーし!早速よっすぃーのトコ行ってこよ。学校もないし、家におるやろ」
平家さんにもらった資料をランドセルに詰めて椅子から立ち上がると、
あいぼんが言いました。
253 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時29分23秒
「学生サンはええなぁー、春休みがあって」
しみじみと呟いた平家さんの顔を、あいぼんがジロリと睨みつけます。
「んっ?ああ、そっかそっか。アンタは休みちゃうもんなー」
平家さんが言うと、あいぼんは満足そうに、うんうん、と頷くのでした。

ごく普通の高校生であるよっすぃーと違って、魔法使いと中学生を両立しているあいぼんは、
放課後や学校のない日は中澤さんのオフィスで仕事をしなければなりません。
ですから、あいぼんにとっては春休みも夏休みも冬休みも、無いのと同じことだったのです。

「忘れモンないか?」
平家さんはあいぼんが仕事に出かけるときに居合わせると決まって、こう聞くのです。
「だいじょーぶ。それでは加護亜依、行ってまいります!」
あいぼんは右手で敬礼すると、元気良く言いました。

「頑張ってなー」
平家さんに見送られながら、あいぼんはよっすぃーの家へと向かいました。
254 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時30分44秒

――

その頃、よっすぃーは何をするでもなく、部屋の中をウロウロと歩き回っていました。
一昨日会ったばかりのあいぼんのことや、あいぼんが会わせてくれると言った
『ともだち』のことを考えると落ち着かなくて、居ても立ってもいられないのです。
(今日は、あいぼん来ないのかなぁ?もしかして夜になったら、来るかな)

「えへっ、あややですっ!よっすぃー大好きっ!」
「!」
突然後ろから声がして、よっすぃーはぴたりと足を止めました。
(あややがこの部屋に!?まさかまさか…あいぼん、ありがとーっ!!)

「あやや…!ひとみって呼んでくれて構わないよっ」
よっすぃーは、大好きなあややによく似たその声に胸を躍らせました。

「今日のあややぁ、よっすぃーのためにぃ、いつもより3cm広めにおなか、あけてますっ!
見て、よっすぃー!いや、ひとみーっ!!」
よっすぃーが振り返ると、両手でトレーナーの裾を捲り上げたあいぼんが、
土足でベッドの上に立っていました。

「……仕舞えよ、太鼓腹」
期待外れのものを見せられて、よっすぃーはとても怒っているようです。
255 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時32分19秒
「でも、ちょっと似てたでしょ?」
いつも手品や小話で学校の友達を楽しませている芸達者なあいぼんですが、
中でもモノマネは、あいぼんがもっとも得意としている芸の一つなのです。

「似てません。ってかオマエ、靴脱げ」
あいぼんの足元を指差して、よっすぃーが冷たく言いました。
「うわぉ、イキナリ命令口調?よっすぃーったら、めっちゃフレンドリーやーん」
笑って誤魔化しながら、あいぼんは二度とよっすぃーの前で『あやや』の
モノマネをしないことを、固く心に誓うのでした。

「まぁ、今日はこんなコトしに来たワケじゃないんだけどね」
あいぼんはスニーカーを脱いで床の上に揃えると、ベッドの上に腰掛けて言いました。
よっすぃーも、その横に並んで座ります。

「写真見たけどなぁ、めっちゃカワイイ子やで」
「マジっすか」
よっすぃーは、うれしくて思わず身を乗り出しました。

「友達は、楽しいモンや。あいぼんがそれを証明してあげまーっす!」
あいぼんが得意そうに言うと、なぜかよっすぃーは突然暗い顔になって、
下を向いてしまいました。
256 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時33分43秒
「でもやっぱり、真里ちゃんが…」
あいぼんの言葉を聞いて、よっすぃーは幼馴染の真里ちゃんのことを
思い出してしまったのです。

ともだちは裏切るから、作らない方が良い。
ともだちは、信じちゃいけないんだよ、よっすぃー。
二人がまだ小さい頃からずっとそう言っていた真里ちゃんだから、
自分が友達を作ったことを知ったら、きっとものすごく怒るに違いない。
そう考えるとよっすぃーは、途端に気が重くなってしまうのでした。

「真里ちゃんって、家にいるの?」
あいぼんが尋ねると、よっすぃーは下を向いたまま、首を横に振りました。
「今日は学校行ってる。来年受験だから、忙しいんだよね」
よっすぃーが言うと、あいぼんは小さな声で、よっしゃ、と呟きました。

「最近ぜんぜん、会ってないなぁ…」
寂しそうに呟いたよっすぃーの声は、張り切るあいぼんの耳には
まったく届いていないようです。

「やるなら今や、今しかない。春休みに思い出つくっとこ!
思う存分、とっかえひっかえするチャンスやで、よっすぃー!!」
あいぼんは立ち上がると、こぶしを高々と振り上げて言いました。
257 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時35分06秒
「とっかえひっかえ、って?」
よっすぃーは側に立つあいぼんを見上げて、きょとんとしています。

「知らんの?もーぅ、イマドキの高校生はモノを知らんなー、まったく」
「あいぼん、なんかオヤジっぽーい」
あいぼんは少しムッとしましたが、これも仕事の内ですから仕方がありません。
『お客様の失礼発言は聞き流せ』
中澤さんの言葉を思い出し、あいぼんはじっとガマンするのでした。

「とっかえひっかえ、ってゆーのは、いろんな子と仲良く…
つまり、よっすぃーみたいな人のコトだよ。今よっすぃーがやりたいと思ってるコト。
すごくすごーっく、立派な行いのことを言うのですっ」
「へぇー」
あいぼんの言葉に込められた皮肉に、よっすぃーはまるで気が付かないのでした。
258 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時36分57秒
「でもさぁー、真里ちゃんが聞いたら、やっぱり怒ると思うんだよね」
「言わなきゃ良いんじゃん。こーゆーのは、バレなきゃ良いのさぁ。
『やったけどバレなかった』のは、『やってない』のと同じことなんだから」
あいぼんはいつか中澤さんに教えてもらった言葉で、必死によっすぃーを説得するのでした。
さらにあいぼんは、バレたらバレたで開き直れば良い、とも教わっていたのです。

「秘密にするの?なんか嫌だなぁ、そーゆーの」
「……なんやねん、昨日はとっかえひっかえする気満々やったくせに。
イザとなったら怖じ気付きやがって、この甲斐性なしが。
あーあ、めっちゃカワイイのになぁ。残念やったな、あーあー。
そんじゃ、お邪魔しましたあー」
あいぼんはよっすぃーの気を引くためにわざと大きな声で言い、部屋の窓を開けました。

「待って」
窓から外へ出ようとしたあいぼんの腕を掴んで、よっすぃーが言いました。

「ホントに、バレないと思う?」
不安そうなよっすぃーに、あいぼんは爽やかな笑顔で頷くのでした。
259 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時38分27秒

――

二人は、よっすぃーの家から電車で一時間ほどの所にある、大きな公園に来ていました。
よっすぃーは、所持金のほとんどをよっすぃーの家までのタクシー代に使ってしまった
あいぼんの代わりに、二人分の電車賃を払わなければなりませんでした。

『魔法使いのくせに電車で移動するの?』
来る途中よっすぃーに尋ねられ、あいぼんは何も言えずただ俯いていました。
あいぼんは魔法使いですが、移動系の魔法はあまり得意ではなかったのです。
あいぼんに出来ることといったら、せいぜいよっすぃーの家の玄関先から
二階のよっすぃーの部屋へ瞬間移動することぐらいでした。

あいぼんの上司であり魔法使いの先輩でもある中澤さんは
攻撃魔法の使い手ですし、自称『癒し系』である平家さんは
回復魔法を得意としていますが、あいぼんにはこれといって
人に自慢できるような特技が無かったのです。

『魔法使えんでもモノマネ得意なら、ええやん』
平家さんはそう言ってくれますが、あいぼんの気持ちが晴れることはありません。
だって平家さんの気持ちはうれしいのですが、そういう問題じゃないのです。
260 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時40分15秒
「すっごい、キレイ…」
公園に着いて、しばらく言葉もなくただ上を見上げていたよっすぃーが、
ぽつりと言いました。

「すごい、満開だねぇ」
背伸びをして枝を揺らすと、薄桃色の花びらが、あいぼんの上に
ひらひらと舞い降ります。

三月も終わりに近づき、よっすぃーやあいぼんが住むこの町でも、
いろいろなものたちが春の訪れを告げていました。
あいぼんが近くの土手で見つけた、つくし。
よっすぃーが開け放しにしていた部屋の窓から迷い込んできた、タンポポのわたげ。
そして、さっきから二人が見上げている、空いっぱいの桜の花たちも。

「これだけ咲いてるとさ、空が青いの、忘れちゃいそうだよ」
花びらのカーテンは二人が見ている真上の景色を覆いつくし、
まるで空全体が桜色に染まってしまったかのようです。

「よっすぃー、大げさだよー」
あいぼんはそう言って笑いましたが、本当は、よっすぃーの言うとおりだと思っていました。
261 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時42分15秒
「今がいちばん、キレイなときなんだろうね」
そう言った後、よっすぃーは少しさみしくなりました。

美しく咲いた桜は、またすぐに散ってしまう。
咲いてしまった桜は、あとはもう散るのを待つばかりなんだ。
そう考えるとよっすぃーは、胸の奥がきゅっと締め付けられるような、
なんとも不思議な気持ちになるのでした。


「この先へ、行ってごらん?ともだちが、待ってるから」
よっすぃーがぼんやりしていると、不意に後ろから声がしました。
「あいぼん…?」
よっすぃーはすぐに振り返りましたが、あいぼんの姿はもう
どこにもありません。

(よし、先へ行ってみよう。ともだちが、待ってるんだから)

よっすぃーは、どきどきする胸をおさえて大きく息を吸い込み、
ゆっくりと足を踏み出します。
262 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時43分59秒
公園を出て長い桜並木を歩いていると、よっすぃーは遠くの方に一人の女の子が
立っているのを見つけました。
よっすぃーはまるで何かに吸い寄せられるように、ぼんやりと桜の木を見上げている
その少女の元へ走り出しました。

(あいぼんが言ってた『ともだち』って、このコなのかな?
どうしよう、何て話しかけたらいいんだろう…)

女の子の側へ走って来たまでは良かったのですが、ともだちのいないよっすぃーには
はじめて会った人にどうやって話しかければ良いのか、全く見当がつきませんでした。
しかも女の子は桜を見ることに夢中で、両手をもじもじさせているよっすぃーに
なかなか気付いてくれません。

(キレイな人だなぁ。サクラの花が、よく似合ってる)

口元に微かな笑みを浮かべて桜を見上げている少女の横顔に、しばらくの間
よっすぃーは話しかけようとしていたことも忘れて見とれていました。
心地良いそよ風が、少女の短い髪をそっと揺らしています。
263 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時45分34秒
よっすぃーは、やはり勇気を振り絞って、女の子に話しかけてみようと思いました。
下を向いて一度深呼吸してから顔を上げると、桜の花を見ていたはずの少女が
今度は不思議そうな顔で自分のことを見ていたので、よっすぃーはとても驚きました。

「はっ!?はっ、はじ、はじっ、」
よっすぃーは、はじめまして、と言おうとしたのですが、どきどきして
上手く話すことができません。
背筋をピンと伸ばして口をパクパクさせている、機械仕掛けの人形のような
動作のよっすぃーを、目の前の少女は訝しそうに見ています。
(ああ、どうしよう…完全に怪しまれてるよぉー)

「なに?」
よっすぃーの顔を覗き込みながら、少女が言いました。
「あっ、いや、あの、えっと…えっと、なんだっけ」
まんまるの綺麗な瞳でじっと見つめられて、よっすぃーの胸の鼓動は
みるみる速くなってゆきます。

「あのさ、もうちょっと落ち着いて喋ったら?」
「あっ、あの、あの、あ…うん」
「あはっ、なんか、へんなコだねぇ」
始めは怪訝な顔をしていた少女も、慌てふためくよっすぃーの様子を見て
だんだん楽しくなってきたようです。
264 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時47分24秒
「あなたも、お花見してるの?」
「えっ?ああ、うん。そう!そうなの、お花見してんの」
本当はともだちに会うために来たのですが、よっすぃーはとっさにそう答えました。

「そっかー。ホント、綺麗だもんね」
そう言ってにっこりと笑う少女の顔を眺めていると、よっすぃーはとても幸せな気持ちになりました。
温かくて優しくて、くすぐったいような、初めて感じる不思議な気持ちです。
あいぼんの言っていた『ともだち』が本当にこの子だったら、どんなにいいだろう。
よっすぃーは、心からそう思いました。

「なっちね、ココはじめて来たんだけど、すごく気に入っちゃった」
「なっち、っていうの?」
女の子はよっすぃーと話すのに、無意識に自分のことを名前で呼んでいたことに
気が付いて、あっ、と小さく声を上げると、照れたように笑いました。

「自分のコト『なっち』って言うのね、くせなの」
「なっち、ってなんか、変な名前だね」
もちろんそれが本当の名前でないことぐらい、よっすぃーにもわかっていましたが、
よっすぃーは彼女のことを少しからかってみたかったのです。
265 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時49分10秒
「なに言ってんの、あだ名に決まってるっしょ?」
「うん、知ってるけどね」
よっすぃーが言うと、女の子はわざと頬を膨らませて怒った振りをしてみせました。
その大げさな素振りが可笑しくて、思わずよっすぃーはふきだしてしまいました。

「私も、みんなには『よっすぃー』って、あだ名で呼ばれてるよ?」
よっすぃーのことを『よっすぃー』と呼ぶのは、真里ちゃんとあいぼんの二人だけでしたが、
よっすぃーはさも世界中の人々からそう呼ばれているかのようにうそぶくのでした。

「そっちのが全然ヘンじゃん。『なっち』の方が全然マシですぅー」
唇をとがらして言う『なっち』を見てよっすぃーは、今度は声を出して笑いました。
ほんの少し前、彼女に話しかけた時にはあんなにどきどきしていたのに、
今はもう話をするのが楽しくて仕方ないのです。
よっすぃーはたくさん話をして、『なっち』のことをもっとよく知りたいと思いました。

「本当の名前は、なんていうの?」
よっすぃーは、もうあまり緊張することもなく言いました。
266 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時50分55秒
「なつみ、だよ」
さらりと言ったその声が、よっすぃーにはとても美しい響きに感じられました。
(なつみ、か。この人の顔にも、声にも、すごく似合っている気がする)

「なつみ」
自分で声に出してみると少し印象が違っていて、何だか違う人の名前のようです。
「誰も呼ばないけどね。だって自分でも『なっち』って呼んでるくらいだから」
なつみは、そう言って笑いました。

「でも、なんかそっちのが良くない?
なつみ、って本当の名前で呼んでもいい?」
「そう?そんな風に言われたの、はじめてだなぁ」
よっすぃーの言葉が、なつみには少し意外だったようです。

「じゃあ、なっちもよっすぃーのコト、本当の名前で呼ぼうかな。
よっすぃーは名前、なんていうの?」
よっすぃーは自分よりも少し背丈の小さい、初めて会ったばかりのこの少女が
自分のことを『よっすぃー』と呼んでいるのが不思議で、なんだか可笑しくて、
そんなことを考えながらなつみの声を聞いていると、

「よっすぃーってば」
「あっ、ゴメン」
ついボンヤリして、なつみに怒られてしまいました。
267 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時52分29秒
「名前はね、ひとみ」
「ひとみ、かぁ…良い名前だね」
なつみが心から言ってくれたような気がして、よっすぃーはとてもうれしくなりました。

(こういうときは、ありがとう、って言うのが普通なのかな?)
そう思いましたが、結局、照れくさくて言えませんでした。

「なつみ」
「なに?」
なつみに聞き返されて、よっすぃーは慌てました。
けれども、なつみにしてみれば自分の名前を呼ばれたのですから、
返事をするのは当然のことなのです。

「あ、ううん。ちょっと、呼んでみたかっただけ」
「なにそれ。へんなの」

(なつみ)
よっすぃーは、本当はうれしくて何度も口に出して呼びたい気持ちでした。
だってよっすぃーにとって、初めてできた『ともだち』の名前なのですから。
けれども、なつみが変に思うかも知れない、そう思ってよっすぃーは心の中でだけ、
その名前を繰り返し呼んでみるのでした。
268 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時54分26秒
「風、強くなってきたね。もしかして早く散っちゃうかな」
よっすぃーが言いました。
なつみが急に黙り込んでしまったので、気まずくなって無理に話しかけたのです。
真里ちゃんと話しているときは会話が途切れることもありませんし、
あいぼんは一人で勝手に喋っていますから、よっすぃーにとって
こんなことは初めてでした。

「サクラの花は、春に降る雪みたい。だから、好きなんだ」
花びらが風に吹かれて舞い散るのを見ながら、なつみが、ぽつりと言いました。
桜の花と、雪。暖かい春と、凍えるような寒さの冬。
よっすぃーは、どうしてなつみは正反対の二つのものを比べたりするのだろうかと思いました。

「なっちの生まれたトコは、すごく寒くてさ。
サクラが咲くのだってここよりずっと遅いし、なによりさぁ、とにかく雪がいっぱい降るの」
「ああ、そっか」
(なつみは空から降ってくる雪に似た花吹雪を見て、生まれたトコを思い出してんだ)


聞けば、なつみは遠く離れた町からよっすぃーの住むこの町へ、
たった一人でやってきたばかりだと言うのです。
269 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時56分22秒
「なつみは、寂しくないの?お父さんとかお母さんとか、それから…
ともだちと、離れるのが寂しくなかったの?」
よっすぃーはまるで自分のことのように泣きそうな声で、なつみに尋ねました。

「そりゃあ、寂しいさぁ。でもね、」
と言ってなつみは空を見上げましたが、その視線の先にあるものは桜ではなく、
どこか遠くの方を見つめているようでした。
風が木を揺らして、空や、それから二人の足元でも、たくさんの花びらが踊っています。

「それでもなっちは、好きなモノを追っかけてこの町へ来たんだ。
大好きなモノを追っかけてきたらさ、ここに、たどり着いちゃったんだよ」
そう言ったなつみは寂しいという言葉とは反対に、とてもうれしそうに見えました。

「好きなモノって?」
「歌。なっちは、歌うことが何よりもイチバン好きなの。だから、寂しいけど平気」
「そっかぁ」
とは言ったものの、よっすぃーにはなつみの言うことがよく分かりませんでした。

ともだちと一緒にいることよりも大切なことが、この世にあるものだろうか。
なつみと過ごしている今が本当に楽しいからこそ、よっすぃーは強くそう思うのです。
270 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)22時58分20秒
「じゃあ、そろそろ行くね」
二人で桜を眺めていると突然、なつみが言いました。

「えっ、待って。もう行っちゃうの?」
「うん。なっちはこう見えても、色々と忙しいんだからねっ」
慌てるよっすぃーの様子が可笑しくて、なつみはからかうような、
おどけた口調で言うのでした。

「でも、また会えるよね?」
よっすぃーはとても不安そうな顔で、なつみに尋ねます。
「うん。なっち、この場所気に入ったから、また来るかも知れない。
同じ時にひとみもここへ来てたら、もしかしたら会えるかもね」
なつみは少し困ったように、でも優しく笑って、言いました。

「じゃあ私、毎日ここへ来るね。そしたら、なつみがいつ来ても絶対に会える」
さよならを言えばもう二度と会えないかも知れない、
よっすぃーは、何とかしてなつみを引き留めなければと思いました。
しかし、よっすぃーが必死になればなるほど、なつみはますます困ったような顔をするのでした。
271 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)23時00分07秒
「あのね、うれしいけど、そんなことしないで。
だって、なっちは来るかも知れないし、もしかしたらもう来ないかも知れないんだもん」
なつみは少し俯いて、言いました。
そして、黙り込んでしまったよっすぃーに、続けてこう言ったのです。

「来るか来ないかわからない人を待ち続けるのは、ひとみが辛いだけなんだよ?」

それから、なつみが『またね』と言っても、よっすぃーは何も言いませんでした。
272 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)23時01分52秒
「あっ!よっすぃー、おかえりー!」
公園に戻ると、あいぼんが木の下に座り込んでよっすぃーのことを待っていました。
よっすぃーが近くへ行くと、あいぼんの靴下やスカートにはなぜか土がいっぱい付いていました。

「どうしたの、あいぼん?泥だらけじゃん」
「ああ、ちょっと落とし穴にね…ってゆーかよっすぃー、さっさと行っちゃうんだもん、ひどいよ!」
「うそぉー。魔法で消えたのかと思ってたよ」
ヘラヘラと笑うよっすぃーに、あいぼんは少しムッとしました。

(『この先へ、行ってごらん?ともだちが、待ってるから』)
カッコよく言ってよっすぃーの背中を押そうと足を一歩踏み出した瞬間、
あいぼんは心無い誰かが掘った落とし穴に、まっさかさまに落ちてしまったのです。
30分かかってやっと穴から這い出した後であいぼんは、この程度の距離ならば
自分の実力でも十分瞬間移動できたことに気付いて、間抜けな自分を笑ったのでした。
そんなあいぼんを指差しながら、近くにいた何人かの子供たちは大笑いしていました。
273 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)23時03分59秒
「それで、会えた?カワイかったでしょ?」
「うん…」
あいぼんに聞かれて、途端によっすぃーは暗い気持ちになりました。

よっすぃーは、なつみにちゃんとさよならを言えなかったことを後悔していました。
明日から毎日あの場所へ行ってなつみを待っていようかとも思いましたが、
なつみが言ったように、待ち続けて辛い思いをすることは、恐くてとても
できそうにありませんでした。

「なつみは、サクラの花みたい」
とても美しく咲いて、見る人の心を躍らせて、けれどまたすぐに散ってしまう。
桜の花はなつみによく似ていると、よっすぃーは思ったのでした。
そしてそれきりよっすぃーは、なつみのことを話そうとはしませんでした。

なつみが、あの場所へはもう来ないかもしれないと言ったこと。
来るか来ないかわからない人を待ち続けるのは、辛いだけだと言ったこと。
さみしい気持ちや悲しい予感は、誰かに話すと本当のことになりそうで、
よっすぃーは恐かったのです。

「うわぉ!メロメロやなぁー、よっすぃー」
案の定、あいぼんは勘違いしてしまいました。
274 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年03月30日(土)23時06分15秒
「もちろん、携帯番号とか聞いたんやろ?」
「…あっ」
あいぼんの言葉に、よっすぃーはハッとしました。

そして、なぜ自分を送り出す前にそれを言ってくれなかったのか、
なぜ落とし穴に落ちる前に一言それを言ってくれなかったのかと、
あいぼんを責め立てたい気持ちで一杯になるよっすぃーでしたが、
なつみとすごしたあの空間はとてもそんな無粋なことを聞ける
雰囲気ではなかったこともまた、事実なのでした。

「えーっ。基本やん」
「……っ」
「いや泣かれても。自分、高校生やろ。おかしいで」
よっすぃーのやりきれない気持ちは、涙となって溢れ出しました。

「わー、小学生が大きいお姉ちゃん泣かせてるぅ。すげーなぁ、超こえーよー」
近くで遊んでいた子供たちが、あいぼんを野次り始めました。
「違うもん!よっすぃーが勝手に泣いたんやもん!」
それ以前に、あいぼんはランドセルを背負ってはいますが、小学生ではありません。

「そうだ、よっすぃー。帰りの電車賃も、貸してね?」
「…っ、おまえっ、ふざけん、な、よっ……ひっく」
よっすぃーはその場に座り込んで、また泣くのでした。
 
275 名前:すてっぷ 投稿日:2002年03月30日(土)23時08分38秒
感想、ありがとうございます!

>243 ごまべーぐるさん
みっちゃん、これからも度々登場しますのでよろしくです!

>244 梨華っちさいこ〜さん
イキオイで始めちゃって早くも破綻しかけてますが、最後までよろしくです(笑
ねーさんとみっちゃん、一度書いてみたかったんですよね。

>245 おさるさん
お久しぶりです。イメージとしては、星の王子さまみたいな
感じにしたかったんですが、だんだんかけ離れてきました…(笑

>246 名無し読者さん
始まったばかりで、またお待たせしてすみません。
今までのようなドタバタはあまり無いかもですが、その分、小ネタをたくさん
入れたいと思っております(笑

>247 名無し読者さん
真里ちゃん、次回あたり出てくるかも知れません…。
276 名前:すてっぷ 投稿日:2002年03月30日(土)23時10分09秒
>248 名無し読者さん
『みちよ』さん、ついに出せました。長い道のりだった…(笑)。にしても平家さん、人気ですねぇ。

>249 ろむ読者さん
ありがとうございます。ツボってもらえるようなネタを、たくさん仕込めるといいのですが(笑

>250 名無し読者さん
インチキくさい関西弁ですが、大目に見てやってください(笑

>251 名無し娘。さん
矢口の存在、あれだけ振っといてまったく触れずに終わったら怒られますかね?
平家さん、宇宙一ですよね!存在自体がこんなにオイシイ人って、いないと思う(笑
277 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月31日(日)01時02分24秒
お友達候補の、残り2人は誰なんだ?
『とっかえっ娘。』の出演者で固めるのなら、その2人とは…
278 名前:もんじゃ 投稿日:2002年03月31日(日)02時50分29秒
残業して憑かれて帰ってきてチェックだけのつもりだったのに
つい読み始めてしまいました…。
あいぼんの行動もツッコミも全部面白い!!サイコー!
物語の雰囲気もほのぼのしつつも、なにげに毒があって好きです。
…では、ねーまーすー。
279 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月31日(日)13時43分56秒
泣きむちよっすぃ可愛いなぁ…
280 名前:おさる 投稿日:2002年03月31日(日)15時15分48秒
切ない感じがたまらんなぁ…
よっすぃーはこうやって少女の階段を一歩づつ登って…
…はっ!何言ってんだ俺はぁ!
じ、次回更新楽しみにしてまぁ〜す!
281 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年03月31日(日)22時55分08秒
なつみさん捕獲シパーイ
次は誰かな?
282 名前:ろむ読者 投稿日:2002年04月02日(火)01時40分07秒
笑えるけどせつない。
まさにすてっぷさんの真骨頂ですね。
純粋すぎる(一部不純だけど)よっすぃ〜が
滑稽で悲しいなぁ。次の友達、だーれだ?
283 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月03日(水)00時51分02秒
なつみ、ひとみと呼び合う2人がとってもいい。
2人の空間…きれいで素敵でした。
さ、次いってみよう。

加護さん、あいかわらずいい感じ!
284 名前:すてっぷ 投稿日:2002年04月03日(水)23時57分04秒
感想、どうもありがとうございます!

>277 名無し読者さん
『とっかえっ娘。』の出演者ですか、なるほど…。どうしよう、そこまで考えてなかった(笑)

>278 もんじゃさん
お憑かれのところ、ありがとうございました。余計疲れてないと良いのですが。
ほのぼので終われば良いのに、つい余計なモノを入れてしまう自分が哀しいですが、
そう言って頂けると救われます(笑

>279 名無し読者さん
あ、意外なトコに注目してもらえた…。

>280 おさるさん
おさるさん…落ち着いてください(笑
よっすぃー、何だか間違った方向へ登っているような気もしますが(笑)、
次回更新、もう少しお待ちください…。
285 名前:すてっぷ 投稿日:2002年04月03日(水)23時59分26秒
>281 梨華っちさいこ〜さん
捕獲作戦(笑)、次は上手くいくと良いのですが…。

>282 ろむ読者さん
今回のようなシーンを書くのは、すごく久しぶりですね。感想頂けてうれしいです。
やはり、とっかえひっかえっ娘。であるからには、不純な部分も必要かと(笑)

>283 名無し読者さん
名前で呼び合う二人。アンリアルだと、いろんな事ができて楽しいですね。
(アンリアルでなくても無茶してるので、説得力ないかもですが)
加護さん、既に魔法使いじゃなくなってる…(笑
286 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)18時51分46秒

<第3話>


その夜、よっすぃーはベッドに入ってもなかなか寝付けませんでした。
目を閉じようとすると、今日会ったばかりのなつみのことが頭に浮かんで
なかなか消えてくれないのです。

「おやすみ、真里ちゃん。おやすみ、あいぼん。おやすみ、」
なつみ、と言おうとして、よっすぃーは口ごもってしまいました。

来るか来ないかわからない、もう二度と会えないかも知れない、
そういう人を『ともだち』と呼ぶのだろうか。
ともだちと一緒にいろんな話をしたり、いろんなものを見たり聞いたり、
そんな楽しい日々を想像していたよっすぃーですから、
もう会えないかも知れないなつみの名前を口に出そうとすると、
とても暗い気持ちになってしまうのでした。

(あいぼんは、ともだちは楽しいもの、って言った。
けど、それはやっぱり違う気がする。
ともだちは、楽しいばかりじゃ、ない)

「あーっ、もう!おやすみ!!」
よっすぃーは投げやりに言うと、ベッドに潜り込んでしまいました。
287 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)18時53分06秒

――

その頃、あいぼんは少し夜更かしをして中澤さんの帰りを待っていました。
あいぼんは仕事で遅くなるという中澤さんのためにカレーを作り、
おなかが空いて食べたいのをじっと我慢しているのです。
すると、居間の戸がガラガラと開いて誰かが中へ入ってきました。

「あっ。ケイさん、おかえりぃー」
あいぼんが言いました。

「ニャ」
入ってきたのは、中澤さんの家で飼われている、黒猫の『ケイさん』でした。
ケイさんは短くて事務的な鳴き声を上げると、あいぼんの前をスタスタと
横切ってテレビの前に座りました。
長方形の箱のような体勢で座るケイさんは、時々警戒するような目つきで
ちらちらとあいぼんの様子を窺っています。
ケイさんがあいぼんを敵視していることは、誰の目から見ても明らかでした。

出会った頃はこんなネコじゃなかった…あいぼんはティッシュの箱のような
体勢で座るケイさんを見ながら、昔のことを思い出していました。
288 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)18時54分51秒
ケイさんは、あいぼんが小学一年生で中澤さんの家に居候を始めたばかりの頃、
ひとりぼっちで中澤さんの帰りを待つあいぼんが寂しくないようにと平家さんが
ペットショップで買ってきてくれた、生まれたばかりの可愛い黒猫でした。

あいぼんとケイさんはすぐに仲良くなり、外へ遊びに行くのも一緒、寝るのも一緒、
プールへ行くのも一緒、スノボへ行くのも一緒、とにかくいつでもどこでも一緒でした。

ケイさんには魔法使いに飼われる猫にありがちな、人間の言葉を理解できたり
人間の言葉を喋れたりといった類の特殊能力は一切ありませんでしたが、
夕暮れ時に商店街を散歩中のケイさんが突然『ナーゴォォ』と不吉な鳴き声を上げると
次の日には決まって大雨が降るので、ケイさんは『お天気ネコ』と呼ばれ、
たちまち商店街の人気者になりました。

町の人気者はやがて日本のスターとなり、あいぼんが高学年になる頃には
ケイさんは既に『世界のケイさん』と呼ばれるほどの地位を築き上げていたのです。
289 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)18時56分27秒
しかし人間の言葉を理解できないケイさんにはそんな自覚もありませんから、
自分の人気に驕ったりすることなど全くありませんでした。
あいぼんとケイさんは変わらず仲良しの二人(一人と一匹?)で、
毎日をとても楽しく過ごしていたのですが、今から三年前の冬、
その事件は起こりました。

当時、世界中のテレビや雑誌に引っ張りだこだったケイさんの存在が
あるアラブの石油王の目にとまり、なんとケイさんを買い取りたいと
言ってきたのです。
お金に目のくらんだ中澤さんは泣き縋るあいぼんを魔法の力でねじ伏せると、
二つ返事でケイさんを売り飛ばすことを承諾してしまいました。

それからというもの、あいぼんは毎日毎日、家でも学校でも泣いてばかりいました。
小さい頃からいつも一緒だったケイさんと離れ離れになるのが、あいぼんには
とても悲しかったのです。
自分が売られそうになっていることなど全く知らないケイさんも、泣いてばかりの
あいぼんを心配して、いつも傍に来てはあいぼんの頬をペロペロと舐めていました。
290 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)18時59分00秒
そして、ようやくあいぼんの気持ちの整理がついた頃、
中澤さんはあることでとても悩んでいました。
それは、あいぼんの『牛乳嫌い』です。
それまで全く気がつかなかったのですが、ある日、
学校から電話があってこう言われたのです。

『中澤さんのお宅でしょうか?
わたくし、加護さんのクラス担任の飯田圭織と申しますが…
実は亜依さんがいつも給食の牛乳を飲まずに持ち帰ってしまうので、
お家でちゃんと飲んでいるのか気になったものですから。
もしかして亜依さん、お家に持って帰ってこっそりハムスターに
あげているんじゃないかと、わたくしは睨んでいるのですが』

『いいえ。うちはハムスター飼ってませんから』
中澤さんがそう言うと飯田先生は簡単に納得してくれたので
その場は丸く収まったのですが、中澤さんは、あいぼんが持ち帰った
牛乳をハムスターではなくケイさんにあげているのではないかと
直感したのです。
291 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)19時00分48秒
牛乳を飲まない子供は大きくなれない、そう信じ込んでいた中澤さんは
何とかしてあいぼんに牛乳を好きになってもらいたいと毎日悩みました。
そして悩みに悩んだ末、牛乳にもアレンジが必要だろうという結論に達した
中澤さんは、あいぼんのためにホットミルクを作ってあげることにしました。
牛乳が嫌いな人にとって、加熱した牛乳が冷たい牛乳と比べて
いかに飲み辛いものであるかということを、中澤さんは知らなかったのです。

『おいで、加護ぉー。ねーさんが美味しい飲みモン作ってあげたでー』
自分のことを呼ぶ中澤さんの声にあいぼんは胸をワクワクさせて、
二階の部屋から大急ぎで居間へ下りていきました。

『うっ…!』
それを見た瞬間、あいぼんの全身から血の気が引きました。
差し出されたマグカップから立ち昇る、冷たいそれより何倍も強調された
ミルクの匂いが、あいぼんの鼻を容赦なく突き刺します。

そして次の瞬間、あいぼんは自分の目を疑いました。
なんと目の前のミルクには、加熱しすぎて表面に膜が張っているではありませんか!
ああ、なんということでしょう。
292 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)19時02分36秒
あいぼんは飲み干した振りをしてカップをいそいそとキッチンへ持って行くと、
そこに居たケイさんに、こっそりそれをあげてしまったのです。
あいぼんのことを信頼しきっているケイさんですから、当然いつもの通り
冷たいパック牛乳をくれたのだろうと勢いよくカップに口を付けたところ、
ケイさんの時が止まりました。

とても熱いものや反対にとても冷たいものに触れた瞬間というのは
一体それが熱いのか冷たいのかわからなくなってしまうものですが、
その時のケイさんはまさに、その感覚に襲われてしまったのです。

そして、それが『ホット』ミルクだと悟った瞬間のケイさんの動き、
今でもあいぼんの目に焼きついています。

前足でカップをひっくり返して走り出したケイさんは、
途中立ち止まって口に張り付いた白い膜を取ろうと激しく首を振るものの
なかなか取れず、床に流れ出したミルクが後ろ足に触れたのに驚いて
走り出そうとして滑ってしまい、ミルクでびしょ濡れになりながら
再び走り出したところでキッチンに入ってきた中澤さんと激突して、
気を失ってしまったのです。
293 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)19時04分23秒
それ以来ケイさんは必要以上にあいぼんを警戒するようになり、
それどころかお天気すら予報してくれなくなってしまいました。

さて、困ったのは中澤さんです。
だってケイさんをアラブの石油王に売り渡す約束の日が迫っているのに、
ケイさんはまったくお天気を予報してはくれないのですから。
それから何度か大雨が降りましたが、ケイさんが『ナーゴォォ』と
鳴くことはありませんでした。

一方、ケイさんが天気予報をしなくなってしまったという噂を聞きつけた
アラブの石油王はカンカンに怒り、たくさんのボディーガードやメイドを
連れて自家用ジェット機で緊急来日しました。
石油王は中澤さんの家に着くなり、よくわからない言葉で中澤さんを
責め立てました。

とうとう追い詰められた中澤さんは、あいぼんや平家さん、
それから近所の野次馬たちの目の前で、泣きながら土下座をして
『ごめんなさい』と謝ったのです。
すると、泣きじゃくる中澤さんを可哀想に思ったのか、石油王は
それ以上何も言わず、アラブへ帰って行きました。

こうしてケイさんは今まで通り、中澤さんの家で暮らすことになったのでした。
294 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)19時06分31秒
「ねぇねぇケイさん、ウチのコトまだ許してくれへんの?」
あいぼんが言いました。
「ニャ」
ケイさんは事務的な返事をするだけで、決してあいぼんに近付こうとはしません。

あいぼんは、ケイさんにあの時ホットミルクを飲ませてしまったことは
本当に悪かったと反省していますが、そのショックでケイさんは
天気予報をしなくなったために売られずに済んだのです。

ケイさんと離れ離れにならずに済んだことを、あいぼんは心から
うれしいと思っているのに、人間の言葉を理解できないケイさんは
あいぼんのことを、自分に嫌なことをする『嫌な人間』だと思い込んで
しまっているのです。

あいぼんはいつの日か自分が『動物と話ができる魔法』を発明して、
ケイさんに自分の気持ちを伝えられたらいいな、と、思うのでした。
295 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)19時07分58秒
「加護ぉ、帰ったでー」
「平家ですぅ。おじゃましまーす」
玄関の戸が開く音がして、中澤さんと平家さんの声が聞こえてきました。

「あっ、帰ってきた!」
あいぼんはそう言って立ち上がると、玄関へ走りました。

「みっちゃん、いらっしゃーい。今日はなぁ、カレー作ってん」
「ホンマ?いやーん、来て良かったわぁ」
玄関で靴を脱ぎながら、平家さんが言いました。
平家さんの家は会社からとても遠いところにあるため、電車の終わる時刻が
信じられないほど早いのです。
ですから仕事や飲み会などで帰りが遅くなったときには、
決まって中澤さんの家へ泊まりに来るのでした。

「ああ、もぅ…しんどー、おなか空いたー。加護ぉ、早よ何か食べさして」
玄関に座り込んで靴を脱ぐ中澤さんは、仕事でとても疲れているようでした。

「わっかりましたあー!!」
あいぼんは元気よく言うと、今度はキッチンへと走ります。
296 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)19時09分18秒
「美味しい!あいぼんは料理が上手やなぁー」
あいぼんが作ったカレーライスを一口食べて、平家さんが言いました。
「えへへ」
平家さんに誉められて、あいぼんはとてもうれしそうです。

「中澤さん。おいしいですか?」
あいぼんは、目の前で黙々とスプーンを口に運んでいる中澤さんに話しかけました。
「うん」
中澤さんは素っ気ない口調でそう答えると、黙って、また食べ始めました。
中澤さんは普段からあまり愛想の良い人ではありませんでしたが、
あいぼんが聞くと大抵、『美味しい』の一言ぐらいは言ってくれるのです。
今日の中澤さんはよほど疲れているのだと、あいぼんは思いました。

「あーあ…料理も掃除も洗濯もアイロンがけも、全部やってくれるダンナ様が欲しいなぁー」
中澤さんが、食べる手を休めてしみじみと言いました。

「いや、アンタそれ全部あいぼんにやらしとるやないか」
あいぼんは、平家さんの言うとおりだと思いました。
297 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)19時10分41秒
「ウチ、新しいおとーさんなんか要らんで」
あいぼんが言いました。

するとその言葉が気に入らなかったのか、中澤さんは不機嫌そうに
カレー皿をスプーンでコンコンと二回叩きました。
あいぼんは、お行儀が悪いなぁ、と思いました。

「冗談やないわ。アタシかて、ナンパとか合コンとかお見合いとか結婚とかしたいもん」
「ありとあらゆるモン言うたなー」
感心したように、平家さんが言いました。

「なんやねん…。中澤さん、ぜんっぜんわかってへん…」
寂しそうに呟いたあいぼんを、黒猫のケイさんが挑むような目つきで見ています。
298 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)19時12分29秒
「あっ、このコやろ?あややって」
平家さんが、テレビを指差して言いました。
画面には、ピンクの可愛らしい衣装を着て歌う『あやや』の姿が映し出されています。

「そうそう。よっすぃーがなぁ、めっちゃ好きやねん」
「確かにカワイイもんなぁー…カワイイけど、『あやや』ってちょっと言いにくくない?」
「うん。でもよっすぃー、めっちゃスラスラ言えてたよ?」
「どうせアレちゃうのぉー?寝ても覚めても『あややぁ、あややぁ』言うてんちゃうのー?」
「ああ、そうだね。絶対そう。よっすぃー、アっホやなぁー」
「ホンマやな」
「「ハハハハハハハハハ!!」」



「っくしゅん!やばっ。風邪はひき始めがカンジンって、真里ちゃん言ってたっけ…
おかあさーん!風邪薬どこだっけー!!」
あいぼんと平家さんの噂話のせいで、ようやく眠りにつこうとしていたよっすぃーは
まったく飲む必要の無い薬を、服用してしまうのでした。


299 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)19時14分21秒
「あややぁー、下北にも慣れたしぃー、ジーパンだって0.2秒で
はけちゃうんですよぉー。平家さん、大好きっ!」
「あはは!あいぼんは芸達者やなぁー」
あいぼんは、よっすぃーの前では二度とやらないと誓った『あやや』の
モノマネで、人生に疲れた平家さんを楽しませてあげるのでした。

「なぁ、加護ぉ……」
あいぼんがおへそを出そうとパジャマに手を掛けたちょうどその時、
中澤さんがぽつりと言いました。

「アンタさっき、『おとーさん要らへん』って言うてなかった?
なんでアタシのダンナ様がアンタのお父さんになんのよ」
「は…?」
中澤さんは一体何の話をしているのだろうかと、あいぼんは不思議に思いました。

「裕ちゃん、ツッコミ遅すぎやで。大丈夫か?」
そして平家さんの言葉で、ようやくあいぼんの記憶が甦ったのです。

「ああ。ウチ、ボケ拾ってもらえんでめっちゃ悲しかったんですけど」
あいぼんは、忘れちゃった人はお手数ですが2レス前を
もう一度お読みください、と、思いました。
300 名前:とっかえひっかえっ娘。 投稿日:2002年04月06日(土)19時16分14秒
「なんや、ボケてたんか。ああ、ゴメンゴメン」
抑揚のない声でそう言うと、中澤さんは席を立ちました。
きっとこれから、お風呂に入るのでしょう。
その後はきっと、ビールで一杯やるのでしょう。

「裕ちゃん、よっぽど疲れてんのやろな」
「うん…」
(中澤さんがお風呂からあがったら、マッサージしてあげよ)

あいぼんは戸を開けて出ていく中澤さんの後姿を見ながら、
早く立派な魔法使いになって中澤さんを助けてあげようと思いました。

「ニャ」
あいぼんが一人前になる頃にはきっと、ケイさんとの仲も
少しは良くなっているのかも知れません。
301 名前:すてっぷ 投稿日:2002年04月06日(土)19時18分43秒
真里ちゃん登場するかも知れません、と言っておきながら、
あいぼん家のエピソードが膨らみすぎました。
次は、新スレになるかも…。
302 名前:ろむ読者 投稿日:2002年04月06日(土)21時51分53秒
猫のケイさん登場!少し可哀相なエピソードだけど、
牛乳嫌いの私にはあいぼんの気持ちも分からなくない…。
お疲れ気味のねーさん、ああ心配だ〜。
次も楽しみに待ってます!
303 名前:おさる 投稿日:2002年04月06日(土)22時10分26秒
人生に疲れているのは平家さんではなくて、姐さんの方では…
ケメ子さんも猫で登場の、何やらいわく有り気なあいぼん家。
さてさてどうなることやら…
304 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月06日(土)23時58分28秒
真理ちゃんはすごい気になるなあ…
305 名前:名無し娘。 投稿日:2002年04月07日(日)16時51分36秒
名前しか出ない矢口さん・・・何故だか「かごじぞう」が頭をよぎります(w

あいぼんとケイちゃんの心暖まる話に垣間見える姐さんの悪意の無い悪行が
たまりません。自分にとても素直な姐さん・・・大好きです
306 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年04月07日(日)21時13分05秒
やっぱ姐さんとみっちゃんは最高っす(w
この前ひらパーのみっちゃんのライブに行きましたが、
司会の人の「ハロプロで仲いい人は」という質問に、
一番に姐さんの名を挙げてましたよ。
(スレ違いですな、スミマセン)
307 名前:名無し娘。 投稿日:2002年04月08日(月)00時03分13秒
か、かごじぞうって何だ?ボクの脳内作品でした(^-^;
「かさじぞう☆2001」ですね。焦った、焦った。
脳がイカレてるようです、失礼いたしました。
308 名前:もんじゃ 投稿日:2002年04月08日(月)00時21分37秒
今回はあいぼんのちょっぴり哀しいお話☆スペシャルですね。
あいぼんの心の傷はこうやって増えていくんですね…。
しかし、あいぼん家の人間は見事にツッコミ系ばかりですが
三者三様で楽しいです(笑。 
309 名前:すてっぷ 投稿日:2002年04月10日(水)00時04分07秒
レス、ありがとうございます!

>302 ろむ読者さん
軽い話にするつもりが、少し哀しいエピソードになってしまいました。
牛乳嫌いなんですか…でも無理して飲むより、あいぼんのように、美味しいと思って飲んでくれる
猫にあげた方が、牛も喜ぶかも知れませんよね?(笑

>303 おさるさん
ケメ子さん、実は登場予定はなかったのですが、思いつきでこんな事に。
あいぼん家の事情にもここまで触れる予定じゃなかったのに…本当に、どうなることやらです(笑

>304 名無し読者さん
ちょっと勿体つけすぎな感じですが、もう少しお待ちを…。

>305 307 名無し娘。さん
姐さんの「悪意の無い悪行」(笑)。好意的な感想を頂けて安心しました。
極悪な行いも、中澤さんがやると「ご愛嬌」に変わるのが不思議ですよね…。
「かごじぞう」。ゴロが良すぎて、かなり気に入ってしまいました(笑
310 名前:すてっぷ 投稿日:2002年04月10日(水)00時07分17秒
>306 ごまべーぐるさん
貴重な情報、ありがとうございます!(笑)。やっぱり仲良いんですねぇ。
二人の愛情溢れるけなし合いが個人的にかなり好きなので、二人でラジオとか
やってくれないかなぁと思うのですが。

>308 もんじゃさん
「☆」が入ると全然哀しそうに見えない(笑
心の傷。明らかに中澤さんのせいなんですけどね…。
あいぼん家の人々は、書いていてすごく楽しいので、そう言ってもらえるとうれしいですね。
311 名前:すてっぷ 投稿日:2002年04月14日(日)02時21分38秒
紫板に新スレ(Dear Friends 5)を立てさせて頂きました。

Converted by dat2html.pl 1.0