やさしい季節
- 1 名前:なつめ 投稿日:2002年01月01日(火)20時57分13秒
- 赤板でははじめましてです。なつめといいます。
銀板で書いていた『やさしい風景』
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=silver&thp=997579322
の設定をほとんど引き継いだアンリアル、学園(?)ものの短・中編集です。
が、そちらを知らない方にも楽しんでいただけるように書いていきたいと思いますので、
どうぞ末永いお付き合いを。
それでは
『やさしい季節 〜プロローグ〜 』
です。
- 2 名前:プロローグ (01) 投稿日:2002年01月01日(火)20時58分59秒
- 「人生何があるか分からないものねえ。」
これが、高校合格を聞いた母親の第一声。
たしかに、去年までの成績を考えれば、あの朝高に合格できたのは我ながら信じがたい、
だけど娘としては「おめでとう!」とか、こうもうちょっと愛のあるリアクションが欲しかったかな。
そういえば最初におめでとうを言ってくれたのは、親友で、元ライバルで、やっぱり親友の
よっすぃだったっけ。2人で合格発表を見に行って、おめでとうって何回も言い合ってるうちに
1時間くらい経ってて、電話待ってた梨華ちゃんが泣きながら探し回ってくれたのも今じゃ笑い話。
その後、梨華ちゃんが何回もおめでとうって言ってくれた時、なんか泣けてきちゃって
言えなかったけど、ホント梨華ちゃんには感謝してる。わたしの人生を変えた人、そう言っても
言いすぎじゃないくらい。
- 3 名前:プロローグ (02) 投稿日:2002年01月01日(火)20時59分51秒
- 「ちょっとお、まだなの?」
あこがれていた朝高の制服。着替えているうちにいろいろ思い出しちゃって、思ったより時間が
経ってたみたい。ちょっとイライラしてる彩さんの声で我に返ると、一緒に着替え始めたよっすぃは
もうすっかり着替え終わってた。
朝高の制服はとてもバリエーションが豊富で、細身のシルエットが人気のパンツタイプは
よっすぃによく似合ってる。梨華ちゃんがちょっとだけうらやましいね。
「開けるよお。」
コラコラ、こっちが応える前にドア開けちゃ聞いた意味ないでしょ。って、この2人には言うだけ
無駄か。
「おお、よっすぃかっこいいねえ。ごとーもかわいいし、2人まとめていちーがハグしてやろうか?
・・・・・・ハグッ!!」
「ほんといい度胸してるよね、あんた。何度も言ってるけど、ヤグチとしてはいつ別れたって
いいんだよ。」
うらやましいって言えば、この2人の仲の良さも、もういいかげんにしてよね、って感じ。けど、
昔はいちーちゃんもこんなにフレンドリーじゃなかったらしいし、やぐっつあんも前より綺麗に
なったってみんな言ってる、やっぱ愛の力は偉大だね。
- 4 名前:プロローグ (03) 投稿日:2002年01月01日(火)21時00分41秒
- あっ、そっか。
階段を降りてる最中に、飾ってある1枚の写真が目に入った。去年の朝高の文化祭で
やぐっつあんたちがやったエキシビジョンだ。
いちーちゃんが変わったのは何も愛の力だけじゃなかったんだよね。
やぐっつあんと、あと今日は実家に帰っちゃってていないカヲリと圭ちゃんの3人が、作った
ダンスサークル、今はもう正式に部になって舞踏部って言うらしいけど、あんまりかっこよく
ないからわたしはダンスサークルの方が好きだな。って、話がそれちゃったけど、それに入った
せいもあるって彩さんが言ってたっけ。だから、わたしも春になったらよっすぃ誘っていっしょに
やるつもりなんだ。
- 5 名前:プロローグ (04) 投稿日:2002年01月01日(火)21時01分31秒
- 「なんかあんまりののたちのと変わらないのれす。」
「そうかあ?よっすぃめっちゃカッコええと思うけどな。」
それにしても最近彩さんの趣味がますますエスカレートしてる気がする。
わたしたちの新品の制服を、当然のようにいじくり回すちっちゃな2人の水兵さん。こう見えても
2人とも朝学の中等部に通っている、ので賢くないことはない、はずだ。
もうすぐ中学3年生、それにしては幼いって言われてる2人だけど、どうしてなかなか。私は
そんなことないと思うよ、特に辻、何であんたが今日はあんまり楽しそうじゃないのか、
わたしはちゃんと知ってるんだから、けどそれはまた今度だね。
- 6 名前:プロローグ (05) 投稿日:2002年01月01日(火)21時02分11秒
- 「飲み物いき渡った?」
ちょっと甲高いやぐっつあんの声が響く中、料理やグラスを手にせっせと働く梨華ちゃんを見てると、
年上ながらほんとにいい子だなあと思ってしまう。
みんながいろんなことを経験して”変わって”いってる、けど、梨華ちゃんだけは、伸びていくって
表現がぴったりだ。のんびりでも優しいだけでもない、穏やかなその性格は春が近いこの季節、
ますます彼女を魅力的にしている。
そういえば、今日は友達のライブに行くとかで来てないけど、なっちも結構梨華ちゃんに
近いものはあると思う。ふわふわしてるけど、芯が強いって点ではいい勝負。一度機会があれば、
2人の喧嘩なんか見てみたいものだ。
- 7 名前:プロローグ (06) 投稿日:2002年01月01日(火)21時02分47秒
- わたしが意地悪な想像をしているうちに、準備は整ったらしく、彩さんもカウンターからこっちに
来てた。
「それでは、『C'afe C'est si Bon』の改装記念、あと、2人の制服披露会にかんぱ〜い。」
「って、まだ改装中なんだけどね。」
「それにしても彩さん思い切ったねえ。」
「しゃーないでしょ、あんたらがこうやって事あるごとにうちに集まるんだから。テーブル席潰して
パーティー室造ってやるんだから、感謝しなよ。」
いやあ、このオーナーホントいい人だと思うよ。まあ、改装は去年の暮れにかなり宴会客
逃がしたせいもあるらしいけど、それでも、すごいわたしたちのこと大事にしてくれてる。
なにより、わたしが落ち込んでたとき一番お世話になった人だしね。
- 8 名前:プロローグ (07) 投稿日:2002年01月01日(火)21時03分40秒
- そういえば、今日来る途中にもう桜がほころびはじめてたっけ。
もうすぐ本当に春。この店にくるようになってもう半年以上が経っていた。
本当に時間が経つのは早いと思う。
半年がこんなにあっという間なら、もうすぐ始まる高校生活もぼんやりしてると
気がついたときには終わっちゃってるかも知れない。
けど、そんなのは嫌だ、嫌だから絶対笑っちゃうくらい大変で、泣いちゃうくらい面白くて、
忘れられない毎日にしてやる。
幸い、わたしにはすっごい素敵で楽しくて、そして、とても大切な友達がこんなにたくさんいるしね。
「ごっち〜ん、ちゃんと聞いてる?なんか今日いつもよりもぼけぼけしてない?」
「してないよぉ、ボケボケとか失礼!」
まだ真新しくて、ちょと気恥ずかしい制服。だけど、これがしっくり馴染む頃にはわたし、
いや、わたしたちは今よりもっと素晴らしい季節の中で笑っている、そんな自信があるんだ。
- 9 名前:なつめ 投稿日:2002年01月01日(火)21時04分27秒
- 『やさしい季節 〜プロローグ〜 』
おしまい。
- 10 名前:なつめ 投稿日:2002年01月01日(火)21時08分06秒
- 〜あとがき〜
プロローグぐらいであとがきもないかと思ったんですが、スレ流しの意味もこめて
ちょっと(?)遅くなりましたが、復活です。
ブランクがあって設定忘れたり、キャラが動かなかったりと前途多難ですが
書いてるほうも読んでる方も楽しめるように頑張りたいと思います。
- 11 名前:なつめ 投稿日:2002年01月01日(火)21時10分29秒
- それでは、次回もまたお付き合いいただければ嬉しいです。
追伸
前回から待ってくれていた方々、本当にスイマセンでした、そして、ありがとうございまいSた
(そして、月板で読んでくれている方がもしいたら・・・たぶん、あっちの更新スピードが
ややおちるかと、モウシワケ)
- 12 名前:夜叉 投稿日:2002年01月01日(火)22時20分09秒
- 復活おめでとうございます。
年始早々、ありがとうございます。
楽しみにしてます。頑張ってください。
- 13 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月02日(水)12時33分28秒
- はじめまして。
『いしかわさん』〜『やさしい風景』と読ませていただきました。
一旦、こちらの作品の執筆を中断されていたようですが、再開されたようで
復活おめでとうございます。
最近、加護ちゃんが後藤さんを慕っている姿とか、
その二人で保田さんを愛情込めてからかっている場面とか、
飯田さんがリーダーとして張り切っている様子など、
いろいろと見ていて楽しいこの頃なのですが、
小説でもこの仲間がただの偶然ではなく集まるべくして出会った、というような
話が読みたいと思い、あちらこちらと漁っているところです。
では、この続きも楽しみにしておりますので、頑張ってくださいね。
- 14 名前:なつめ 投稿日:2002年01月07日(月)22時16分53秒
- 更新しないで、レスだけするのは読者さんに悪いなあとおもいつつ、
いつ更新できるか分からないので
>>12さん
こっち1本(10〜50レスくらい)全部かいて、推敲もして、それからあげてくので
更新と更新の間が結構長いですが、気長にお付き合いください。
>>13さん
最初からの読者さんですね
かなり嬉しい反面、恥ずかしいですね
正直、初期の頃や「エイヤッ」であげたやつは自分でも読み直せないです、怖くて
出会いのエピソードは設定資料の中に(w
引き続きのお付き合いしていただければ嬉しいです。
- 15 名前:なつめ 投稿日:2002年03月01日(金)21時58分06秒
- 長い間更新もせず、こんなことを書くのは申し訳ないですが
率直に、今現在『やさしい〜』シリーズは書けそうにありません
理由はいろいろですが、大きいもの3つとして
いわゆる恋愛ものが食傷気味であること
そして、短・中編集を時系列的に書いていくという作業がかなりきつくなってきて
アイデアが断片的なものしか今無いということです(番外編だらけってことです)
最後に、これが一番大きいのですが時間がありません
以上の理由+αで、更新を断念しようと思います
そして、このスレの今後としては月板の『F.Q.』の続きに再利用しようと思います
まことに勝手ですが、なにとぞご容赦ください
- 16 名前:なつめ 投稿日:2002年03月13日(水)02時28分34秒
- 前回の書き込みどおり、このスレで月板の『ファイナル・クエスト』の
続きを書いていきたいと思います。
『やさしい〜』シリーズの続きを待っていてくださった方がいたら
申し訳ないですが、また機会があればどっかの死にスレなんか使って
書きたいと思ってますので許してください。
では・・・・・・
- 17 名前:なつめ 投稿日:2002年03月13日(水)02時29分38秒
◆◆◆◆◆
ファイナル・クエスト 第2章
◆◆◆◆◆
- 18 名前:第0〜1章のあらすじ(1) 投稿日:2002年03月13日(水)02時32分29秒
- モンスターが炎を吐き、デミヒューマンが空を飛び、そして、人も術と呼ばれる
奇跡の技を用いて、彼らと戦い、時に愛をはぐくむ。この話は、そんな世界の話。
世界にいくつかある大陸、その一つであるイアスナック大陸は、エイムと
呼ばれる強い宗教性を持つ国家によって統治されていた。そして、その辺境で
彼女たちは出会った。
“結界牢獄施設”。第一級の犯罪者だけが集められる施設。
一度そこに入れば、死体となる以外に脱出する術はないはずだった。
しかし、ミチヨ、ケイ、マキ、アイ=T、ヨッスィ、リカの6人によって、
その伝説は破られた。
- 19 名前:第0〜1章のあらすじ(2) 投稿日:2002年03月13日(水)02時33分15秒
- しかし、一難去ってまた一難。
脱出した6人を待っていたのは、自治都市オウティークでの借金生活だった。
まっとうな方法では、到底返済不可能な借金を背負わされた6人は、ユウコが
運営する傭兵組織ミネルヴァに否応なく雇われ、6人のうちミチヨ、アイ、ケイの
3人は、空賊“霧の死神”の内偵にかり出されることになった。
さらに、オウティーク到着以来の術コンプレックスから、ヨッスィが強引に合流。
先輩エージェントであるマリをリーダーに5人は空賊が棲む島へ上陸。
そこで彼女らを待っていたのは、不幸の連鎖だった。
ヨッスィの戦線離脱、霧中でのマリの死、そして、ケイの原因不明の暴走。
それらをすべて救ったのはミチヨだった。
彼女の意思によるメタモルフォーゼは、戦局を一変させ、更には、息絶えたマリを
蘇らせた。
しかし、その奇跡の代償はあまりに大きく、身動き一つできなくなったミチヨは
霧の死神に連れ去られてしまう。
- 20 名前:主な登場人物(1) 投稿日:2002年03月13日(水)02時35分14秒
- ・ミチヨ=ヘイケ
元エイム王国親衛隊隊員。
ハーフエルフであるため、ヒューマンからもエルフからも疎まれる存在だったが、
努力の末、親衛隊に。
しかし、上官に恵まれず、犯罪者の濡れ衣を着せられ、結界牢獄に送られた。
防御系白魔術を得意とし、また、カフスを外して“天使ヴァージョン”に
なった時の戦闘力は、今のところ最強。
主な技(術)
・ル・クロワ : アンチ・マジック・シェルの一種。
月の女神の加護により、金色の防護幕が敵の術を弾き返す。
・レジシスト : 膨大な霊力と引き換えに死者を蘇らせる。
但し、成功率はきわめて低く、リスクも大きい。
・なぞの弓矢 : オウティークの骨董品屋で買った鉄弓。
ただの安物だったはずだが・・・・・・
- 21 名前:主な登場人物(2) 投稿日:2002年03月13日(水)02時36分28秒
- ・ケイ(=ホッター)
自称ヴァンパイア。
但し、現在は特殊な封呪法による額のタトゥーがその力のほとんどを封じており、
日中は、ほとんどただのヒューマンと変わらず、夜になっても月の力を
借りないとヴァンパイア化できない。
しかし、先の作戦中なぜか大暴走。普段の数倍の力を発揮し、味方までも
大ピンチに陥れた。
主な技(術)
・マッド・ルナシリーズ : ケイが持つ特殊な武器。
作者不明の呪われた武具だが、闇に生を受けた
ケイにとってはただの優れた短剣。
- 22 名前:主な登場人物(3) 投稿日:2002年03月13日(水)02時37分09秒
- ・リカ=???
ハーフダークエルフなのに、元シスター。しかも、超犯罪者。
ダークエルフの血を引いているため、シスターだったが白魔術が使えず、
その代わり、モンクとしての腕は一級。戦闘になると、キレる。
残虐性と破壊力はある種パーティNo.1。
しかし、そんな彼女もオウティーク到着後はどういうわけか術の訓練に打ち込む。
主な技(術)
・フライズ : 水の精霊による、コールド系の術。
術者の力量によりその威力は異なるが、困難とされる低温を
生み出す術を操るだけでも彼女の資質の高さがうかがえる。
・殴る、ける : とりあえず、体術による肉弾戦では今のところ最強。
- 23 名前:主な登場人物(4) 投稿日:2002年03月13日(水)02時37分51秒
- ・マキ=???(通称ごっちん)
辺境の種族、ナップ族出身のサモナー。
若いながらも召還の腕は高く、それが元で田舎から出てきたその日に逮捕された。
特に、ワルキューレの召還を得意としており、彼女に限り憑依させることも
可能で、特別な関係がうかがえる。
しかし、戦闘に関しては最も経験がなく、本人は戦うよりもミチヨやケイに
じゃれついている方が楽しい模様。
主な技(術)
・ワルキューレ(召還) : 金色の翼の女戦士、ワルキューレを呼び出す。
また、彼女を自らに憑依させ戦うことも可能。
・カルスソーン(召還) : 黒色の棘を魔界から呼び出す。
動物に比べ、植物の方が楽に呼び出せるのだが、
敵を食らう様が残酷なため、本人はあまり
好きでない。
- 24 名前:主な登場人物(5) 投稿日:2002年03月13日(水)02時38分36秒
- ・ヨッスィ
経歴がほとんどなぞのスタルディー人、傭兵。
術のない戦いなら、その怪力と戦闘経験により敵なしだが、術に対する耐性の低さが本人にとっても悩みの種。
先の作戦の後、失踪。
主な技(術)
・ダーク・シリーズ : 所持者の霊力を奪う代わりに、強力な破壊力を生む
黒色の刃。
元々はユウコの持ち物だが、勝手に拝借。盗難時には
手癖の悪い某元シスターが関与したとかしないとか。
・アイ=タカハシ
ジェッティのマッドサイエンティスト。
旧世界の技術を崇拝する集団、ジェッティの構成員。
幼い外見とは裏腹に、巨大飛空艇デュラハンの開発を指揮するなど戦闘能力は
ともかく、戦力としては侮れない。
先の作戦では、唯一すべてを見届けた。
主な技(術)
・狙撃 : それなりの銃ならば、ヨッスィに勝るとも劣らない実力。
・マジック・ランチャー : 術を弾に込めることで、ノーカウントで術が
放てるまさに魔法の銃。但し、半端でない反動、
組み立ての難しさ等々、改良は不可欠。
- 25 名前:主な登場人物(6) 投稿日:2002年03月13日(水)02時39分24秒
- ・マリ=ヤグチ
傭兵組織ミネルヴァのエージェント。
潜入、内偵を得意とするニンジャで、特に変装は右に出るものはいない。
先の作戦では一度死亡しているが、ミチヨによって蘇生。
主な技(術)
・気? : 術のように霊力を対外に放出する変わりに、体の特定に部分に
集めることで、一時的にパワーやスピードを増す。
・変装 : すべてを知るもの=アルヴィスの父から受け継いだ能力により、
多くの種族の特性、習慣、言語をマスターすることで完璧な
変装が可能。
・ナツミ=アベ(通称ナッチ)
選ばれたものしかなることができない、ミネルヴァのSクラスエージェント。
今のところ能力等は、一切不明だが、リーダーユウコとは短くない付き合い。
・ユウコ=???
オウティークの傭兵ギルドを構成する集団の一つ、ミネルヴァのリーダー。
新興勢力であるミネルヴァを短期間で、オウティークNO.2にした事からも、
彼女が只者でないことがうかがえる。
しかし、今のところナッチ同様、能力は不明。
- 26 名前:主な登場人物(7) 投稿日:2002年03月13日(水)02時41分12秒
- ・???=イイダ
空賊霧の死神のリーダー。
通常、セイレーンの翼は鷹や鷲のような茶色なのに対し、彼女それは純白。
先の作戦で、マリを倒したものの、暴走したケイに完敗する。
その後、ミチヨを“第三世代”と呼び、彼女をさらうと、北の空に消えた。
主な技(術)
・居合 : 常人離れした踏み込み加え、翼によって加速することで亜音速の
居合を生み出す。回避することはほぼ不可能。
- 27 名前:主な登場人物(8+おまけ) 投稿日:2002年03月13日(水)02時42分35秒
- ・アサミ=???
ほとんど伝説と化しているヘルの民の一人。
秘石ディープブルーの力を借り、広範囲の霧による結界を生み出すことができる。
イイダとは、親密な関係?
主な技(術)
・ブルジャーレペス : ヘルの民に伝わる秘術で、彼女の故郷の湖は
この術による霧によって常に覆われている。
この霧の結界内では、視界はおろか、聴覚もかなり
制限される。
さらに、術者自身は侵入者の挙動を霧を通して
把握できるため、彼女がヘルの民特有のテレパスを
使うことで味方にとってかなり有利なフィールドを
生み出すことができる。
・ゾネの4人(おまけ)
霧の死神の構成員として登場したセイレーン4人組。
第0章で傀儡士(敵)に名前がなかったことで、ずいぶん書きにくかったことから
作者がムリからつけたのだが、意外と愛着が沸いてきて、当初死にキャラの
予定だったが殺すに殺せなくなった4人。
たぶん今章でも登場?
- 28 名前:なつめ 投稿日:2002年03月13日(水)03時01分25秒
- 嗚呼・・・・・sageでコソーリやるつもりが・・・・・・最後に気抜けた
- 29 名前:F.Q. 第2章 (001) 投稿日:2002年03月16日(土)00時37分00秒
- 昼下がりの日差しを受けて黄金色に輝く海に、轟音をあげながら、一隻、
また一隻と飛空艇が滑り込んでくる。
「あれで最後か?」
ミネルヴァのリーダー室、ユウコの部屋からはドックに出入りするそんな
飛空艇が良く見える。
ユウコがあれと言ったのも、そのうちの一隻で、ミネルヴァが所持する飛空艇では
デュラハン(※)に次ぐ最大級の一隻、グリフィスクラスの艦だ。
オウティークの街は、このところそんな大型の飛空艇が昼夜を問わず盛んに
出入りしていて、そのほとんどがミネルヴァと商人ギルドのものだ。彼らは、
2ヶ月前に起こった霧の死神事件の遺留品を北の島、今では便宜上
アイジャワ島呼ばれている島から運び出しているのだが、その量と質は予想外の
収穫で、商人ギルド側はミネルヴァとの契約を見直したくてしょうがないらしい。
- 30 名前:うんちく/解説 投稿日:2002年03月16日(土)00時38分27秒
- ※デュラハン
第0章から登場した、大型(シードラゴンクラス)飛空艇。
死の妖精の名前をもつこの飛空艇、元々はエイム王国の持ち物で、設計、
製造はジェッティが請け負ったといういわくつきの一品。
旧世界の技術を強く否定するエイムとジェッティの結びつきを、示す
物的証拠という意味でも貴重品。
スペックはというと、ジェッティの最新技術に加え、旧世界の技術と霊力の
融合という、禁忌中の禁忌を用いているため、その装甲と飛行能力において
今のところオウティークでは右に出るものはない。
ちなみに、主任設計士は我らがアイ=Tである。
- 31 名前:F.Q. 第2章 (002) 投稿日:2002年03月16日(土)00時39分51秒
- 「それにしても、あんなちっちゃい島に結構貯めこんどったなあ。
カオリらしいわ。」
「まだカオリと決まったわけじゃないよ。」
口の端で笑うユウコを諌めつつも、ナツミ自身その可能性を本心からは
否定できない。先の作戦では被害甚大だったとはいえ、ある程度の情報は
すでに固まりつつあった。その報告書の中にあった“白翼のセイレーン”の
文字はユウコとナツミにとっては、後頭部殴りつけられたようなショックだった。
- 32 名前:F.Q. 第2章 (003) 投稿日:2002年03月16日(土)00時40分55秒
- 「まあ、その辺も今日の幹部会である程度はっきりするやろ。」
わざとらしく興味なさげに首筋なんかポリポリとかきむしりながら、応えた声は、
その振る舞いとは逆に、確信に満ちていた。
白翼のセイレーン、透き通るような長髪、”イイダさん”という呼び名、そして、
居合。二つまでなら偶然で無理やり片付けることもできただろう、しかし、
これだけレアな条件が四つも揃うと最悪のケースを想定する方が易しい。
そんなことが分からないナツミではないのだが、やはり個人の感情が絡むと
そう冷静に判断するというわけにもいかないようだ。
- 33 名前:F.Q. 第2章 (004) 投稿日:2002年03月16日(土)00時41分44秒
- 「ところで、その幹部会の前に商人ギルドの人たちと会うの忘れちゃダメだよ。」
「分かってるって、けど、どうせアレやろ。この前の依頼の報酬条件
見直して欲しいってことやろ?」
「たぶんね。」
「ふん、あいつら甘いねん。ちょっと遺留品が良かったからって、それまわして
欲しいなんか、筋が通らへんっちゅうねん。」
「けどまあ、これからもお付き合いあるわけだしさ。」
「まあ、確かに前やったらそう思ってちょっとは譲歩したかも知れんけど。
今のオウティークの情勢考えてみ?ウチが圧倒的に有利やねんで。」
含みのあるユウコの笑顔を見て、ナツミははっとした。
それまでの情勢があまりにも長く続いたため、時々こうして忘れてしまうのだが、
いまやミネルヴァは事実上、オウティーク最強なのだ。
- 34 名前:F.Q. 第2章 (005) 投稿日:2002年03月16日(土)00時42分55秒
- つい二ヶ月前までは、オウティークの傭兵ギルドはユウコたちの
ミネルヴァの他に、エリゴルとアクリスというあわせて三つの組織によって
運営されていた。
とはいっても、アクリスはエリゴルの腰巾着なので、実質は、ミネルヴァと
その他二組織が微妙なパワーバランスを保っていたのだが、つい先日、
それが崩壊した。
原因は、不幸な事故だった。
「そういや、マキは今日の幹部会が初めてやな。」
「ああ、そっか、Sクラスになったのが先月だから、そうだね。」
言いながら、お互いどうしても吹き出しそうになってしまう。
敵にとっての不幸な事故は、おうおうにして味方には幸運な
プレゼントであることが多く、先月の件もその例に漏れなかった。
- 35 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月17日(日)00時47分00秒
- 更新お疲れ様です
続き期待
- 36 名前:なつめ 投稿日:2002年03月17日(日)03時27分02秒
- >35
どうもです。
なが〜いことサボってたんで、そうやって労わってもらうと、なんか罪悪感が・・・・・・
ぼつぼつやってきますので、どうか気長によろしくです。
- 37 名前:F.Q. 第2章 (006) 投稿日:2002年03月17日(日)03時28分22秒
- ――アイジャワ島作戦から5日後の夜――
「信じない、信じない・・・・・・信じない!!」
「・・・・・・」
街は、週末の賑わいに加えて、このところ明るいニュースにわいていた。
ミネルヴァが手柄を立てると、いつもならピリピリした空気が漂う、
ここエリゴルの本部兼、街一番の酒場も例外ではない。なんと言っても、
街全体の流通を脅かしていた空賊が退治されたのだ、今回ばかりは
対抗組織もない。エリゴルのメンバーたちも、あの日以来、ホールに集まっては、
連日のお祭騒ぎを繰り広げていた。
ちなみに、ミネルヴァの本部が洋館を改築したハイセキュリティの
基地なのに対して、エリゴルではこのように、元々あったホールを酒場に
造り直して本部としている。これは、彼らが情報と人員の出入りを
よりオープンにすることで、組織の発展を目指してきたためである。
そして、そのやり方は、この夜までは大いに成功し、エリゴルは最大規模の
傭兵組織として、その名を轟かせていた。
しかし、そんな彼らが気付かないうちに、運命の夜はすでに始まっていたのだ。
- 38 名前:F.Q. 第2章 (007) 投稿日:2002年03月17日(日)03時31分05秒
- 周囲の喧騒に不釣合いな、じめじめしたオーラをまとう二人組みは、
冒頭のような台詞を吐きながら、先程から店の一番奥のカウンターに
陣取っていた。
年のころはヒューマンなら華の十代といったところだろうか。特に、
モスグリーンのローブを纏った術士風の少女の方などは、手にしたグラスが
似つかわしくないあどけなさを、横顔に残している。
「だいたいおかしいよ、ケイちゃんがみんなを殺そうとするはずないし、
ヨッスィだって私たちが待ってるのに・・・・・・隠してるんだ、絶対みんなで
なんか隠してるんだ!そう思うでしょ、リカちゃんも!?」
そう叫んで立ち上がろうとした拍子にローブの少女は、先程から隣で
黙りこくっているもう一人の少女にふらふらと倒れこんでしまった。
普通ならそこで二人揃ってスツールもろとも床に転げ落ちるところなのだが、
沈黙の少女は、その体格からは考えられない怪力で、少女を右腕一本で支えると、
力任せに彼女のスツールに再び座りなおさせ、重い口をゆっくりと開いた。
- 39 名前:F.Q. 第2章 (008) 投稿日:2002年03月17日(日)03時31分57秒
- 「私だって・・・・・・いや、結局いくらこうやってここで言ってみたところで、
現実は一つ。みっちゃんとヨッスィは帰ってこない。そして、アイちゃん以外の
二人は重傷で、無傷のアイちゃんだって、ショックのせいで重病人とおんなじ。
これがすべてだよ。」
長い沈黙を破った少女は、諦めの吐息をつくと、グラスの中の琥珀色を一気に
飲み干した。叩きつけるように置いたグラス、そこから滴る水滴が、彼女の
言葉にできない想いを語っているようだった。
「帰ろう。ここのところずっとこれじゃ、体に毒だよ。」
いつの間にかローブのフードを深くかぶり、スツールの上で膝を抱えたて
丸まっている少女を立つように促しながら、支払いを済ます。
やりきれない思いを抱える二人とは対照的に、お祭騒ぎの集団の間を縫うように
店の出口に向かった、その時、事故は起こった。
- 40 名前:F.Q. 第2章 (009) 投稿日:2002年03月17日(日)03時32分38秒
- 「コラァア!ちょっと待てや!他人様に酒ひっかけといて
そのまま行くつもりか?」
この時は、どこにでもいるゴロツキだと思った。体を動かせば、このイライラも
少しは収まるかとも考えたが、不安そうに服のすそを引っ張るローブの少女が
その衝動を収めてくれた。
「ごめんなさい、わざとじゃないの。」
得意の天使のようなつくり笑顔を振りまきながら、立ち去ることにした。
ひらひらと服のすそをなびかせながら、時々彼らの肩や顎を撫でてやると、
この場は丸く収まるかに見えた。
しかし、タイミングの悪いときには、何をやっても裏目に出てしまう。
少々サービスしすぎたらしく、お決まりの展開になってしまった。
「姉ちゃんなかなかかわいいな、こっち来いや。」
- 41 名前:F.Q. 第2章 (010) 投稿日:2002年03月17日(日)03時33分47秒
- 短くない裏家業生活、こんなことは何度もあったが、今日ばかりは頭痛に加えて、
吐き気すら覚える。まったくこういう奴等はどうしようもない、
どうしてやろうか。そう思っていた矢先、隣でカタカタと振るえるローブの
少女を見て血の気が引いた。
少女の名はマキ。召還術士の一族、ナップ族の若きエリートにして、前科一犯。
その唯一の汚点である彼女が犯した罪は、街中で召還獣を呼び出してしまい、
エイム王国皇太子の生誕祭を大パニックにしたというものだった。そして、
その原因は極度の緊張と恐怖からの霊力の一時的な爆発・・・・・・
ここ数日、ミチヨ達のことでかなり情緒不安定だった、飲めない酒もずいぶん
飲んでいる、そして、今、彼女があまり触れ合ってこなかったタイプの方々に
取り囲まれ、腕や肩を乱暴に掴まれて、今にも泣き出しそうになっている。
条件は揃ってしまった。
- 42 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月17日(日)15時43分14秒
- いやああ、言ってみるもんだなあ・・・。
わたくし、詫びを要求した者です。
まさか、即日詫びが入るとは思ってませんでした。
今にして思えば、”アイ=T”とか”タカ”などと、作品中でもだまされていたのだったっけ、と思い出しました。
まだまだ、これくらいでは私の怒りは収まりません(ウソ)。
何かと大変かと思いますが、今後もお待ちしています。
復活ありがとう。
- 43 名前:なつめ 投稿日:2002年03月17日(日)19時26分04秒
- >42
企画でお世話になった無責(略氏と、好きな作家の一人である某氏にああ言われては、
こんな私が逆らえるわけもなく(w
それと、アイ=T、ついに突っ込まれてしまいましたか(w
こういう細かいトコ気付いてくれる方がいてすごい嬉しいですね
前スレにも書いたけど、読者さんのレスで“スレが汚れた”なんて、思ったことないんで
気にしないで下さい。
- 44 名前:F.Q. 第2章 (011) 投稿日:2002年03月17日(日)19時27分36秒
- 「リーダー、エリゴル本部にフールフール(※)が出現しました、
応援要請が入っています!」
「はぁ?」
ミネルヴァ本部に事件の報告が入ったのは、マキの召還からすでに半時間が
経っていた。このところ徹夜続きで、今夜もようやく床についたユウコを
たたき起こすのは、なかなか勇気のいる判断だったが、街の一大事となれば
いたしかたない。
エリゴルは、人員の質はともかく、量では圧倒的にトップであり、
その本部となれば、街の防衛の要である。そこが襲われたとなれば、たとえ
敵対組織とはいえ助けないわけにはいかない。
- 45 名前:うんちく/解説 投稿日:2002年03月17日(日)19時28分51秒
- ※フールフール
嵐と稲妻の伯爵。
翼と、燃えるように赤い蛇の尾を持った鹿の姿をしている。
厳重に隠された秘密を暴いたり、雷を操る力を持っている。
元々は魔人の一人だが、この話の中では、召還獣として、登場させています。
- 46 名前:F.Q. 第2章 (012) 投稿日:2002年03月17日(日)19時29分52秒
- 「それにしてもフールフールってどういうことや?目撃例もほとんどない
伝説みたいな雷獣が、何でこんな街中に、それも突然。」
「召還?」
指揮を与えるべく、会議室に向かう途中で合流したナツミが、その最悪の
ケースを一言で言い当てた。
「・・・・・・そういえば、そんなとんでもないもんを呼び出せるサモナーが、
今オウティークに一人おったような、おらんかったような。」
思わず会議室に急ぐ足を止めて、苦笑いで見つめ合う二人。
間に流れる空気は非常に重く、息苦しい。
「戦争になっちゃうよね?」
「ウチの構成員って、ばれたら間違いなくな。」
「他に考えられないかな、野良雷獣とか?」
「言うてて空しいやろ?」
- 47 名前:F.Q. 第2章 (013) 投稿日:2002年03月17日(日)19時31分45秒
- 「戦争や。」
会議室に入り、集まった面々に放った第一声。
会議室に到着するまでの数分、組織の運命を決定するにはあまりに短い
時間の中で、ユウコが出した答えだった。しかし、それは追い詰めれての
苦肉の策というよりは、自信に満ちた結論だった。
ざわつく一同。当然である。
ミネルヴァとエリゴルは、両組織の思想や営利関係の上で度々険悪にこそなれ、
同じオウティークの傭兵ギルドに籍を置くもの同士、それなりの距離を
保ちつづけてきた。それが、突然戦争とは
「ちょっと待ってください、そんな突然戦争と言われても。」
「黙れ!今、エリゴルの本部が襲われてるのは、皆知ってるな?
アレはウチの構成員の仕業や。」
再び、今度は先程よりも大きな動揺が会議室に走る。
ここに集められたメンバーは、皆各部門の責任者や、それに準ずるものばかり、
頭の悪い者はいない。皆瞬時に現状を悟った。
「しかし、それならば、その構成員を引き渡すことで手打ちにできるのでは?」
組織を守るためならば、当然の提案だ。一人の暴走によって、組織全体が
危険をこうむることはない。
- 48 名前:F.Q. 第2章 (014) 投稿日:2002年03月17日(日)19時32分58秒
- しかし、ユウコはその提案に何を今さらといった風な嘲笑で応えた。
「今やらんで、いつすんねん?」
三度会議室に激震が走った。
そう、皆心の奥底では、常に考えていた。しかし、秩序を、組織の維持を
考えれば、エリゴルとの戦闘は避けて通るしかなかった。
しかし、今、始まりは事故だとしても、それが現実に起こっているのである。
しかも、情報によれば、本部である酒場はほぼ壊滅状態、さらに、本部にいた
敵の主力は“突如”現れた雷獣・フールフールとその召還士を守る
“謎の”武道家によって、甚大なダメージを受けている。
「私は、リーダーに賛成です。」
恐れか、それとも武者震いなのか、少し震えた声でそう言った刀剣開発部門の
責任者に続くように、次々と会議室に賛同する声が響いた。
- 49 名前:F.Q. 第2章 (015) 投稿日:2002年03月17日(日)19時33分35秒
- 「決まったな。」
どうなることかと、隣で冷や汗をかいていたナツミにニヤリと笑みを送ると、
高々と宣言した。
「今、この時をもって、我がミネルヴァはエリゴルに対して戦線を布告する。
まずは、現在エリゴル本部において、すでに戦闘中の両名の援護および
救出を最優先とする。以上!」
最後はざわめきではなかった。
会議室から、高らかに響いく声は、宣戦布告に応える雄叫びだった。
- 50 名前:F.Q. 第2章 (016) 投稿日:2002年03月18日(月)20時53分57秒
- 一旦事が決まれば行動は速い。会議室の決定から15分後、有事の緊急待機を
していた構成員の8割が、エリゴル本部である酒場にすでに向かっていた。
このあたりは少数精鋭をモットーとするミネルヴァならではだろう。
そして、残った構成員は当然防衛のためである。
「けど、ああは言ったけどアクリスはどうすんのさ?」
リーダー室に戻り、二人きりになったユウコをナツミがなじるのだが、
その表情から深刻さは微塵も感じられない、むしろ、早く企んでることを
言えよといった感じだ。
「まあ、ちょっと待っとき、そのうち向こうから来るはずやから。
それより、この作戦の肝は後半戦やから、ナッチ、久しぶりにしっかり
働いてもらうで。」
ナツミの言う通り、もしここで手薄になったミネルヴァ本部にアクリスが
総攻撃を仕掛けてくれば、情勢はミネルヴァにとってかなり不利になるどこか、
一転して壊滅もあり得る。
しかし、ユウコにはそんな不安は一切ないらしく、悠長に煙草に火をつけると、
それを上手そうに吸っている。
- 51 名前:F.Q. 第2章 (017) 投稿日:2002年03月18日(月)20時54分52秒
- そして、短くなったその煙草をもみ消そうとしたその時、
運命の使者がドアを叩いた。
「なっ、来たやろ。」
嬉しそうにナツミに囁くと、ドアに向かう。
すると、そこには案の定アクリスからの使者とユウコの従者が立っていた。
「どうぞ、お待ちしてました。」
使者に席を用意し、従者に茶を頼むと、ユウコも使者の対面に腰をおろした。
テーブルを挟んで、今まさにこの街の今後の行く末を握っている二人は
対照的だった。
何か言うべきことがあってやって来たはずの使者の方が、
そわそわしているのに対して、責められるべきユウコは落ち着き払って、
むしろ、毅然としている。
- 52 名前:F.Q. 第2章 (018) 投稿日:2002年03月18日(月)20時55分37秒
- 「今回のこと、どいうおつもりですか?」
先に口を開いたのは、やはり、使者だった。そして、その内容もあまりに
予想通りの面白みも何もないものだった。
しかし、それを聞くとユウコは、演技なのか本心からなのか分からないくらいの
大声で、突如笑い出し、その声は外の廊下にまで響くほどだった。
「何がおかしい!」
仮にも両組織の代表の会見の席である。ユウコのあまりに無礼な振る舞いに
使者は、ここが敵の本拠地だということも忘れて、思わず声を荒げた。
使者にしてみれば、今回の件は、今までエリゴルの腰巾着として
生き長らえてきた自分たちの組織にとっても大きなターニングポイントになると
考えていた。だからこそ、この会見で何らかの成果が欲しくてたまらないのだが、
相手のリーダーがこの調子では、苛立つのも無理はない。
- 53 名前:F.Q. 第2章 (019) 投稿日:2002年03月18日(月)20時56分31秒
- 「だって、そうやろ?どういうつもりって訊かれても、戦争やんか、
見たら分かるやん。」
そばでたたずむナツミのほうが、不安になってしまうほど、ユウコは使者に対して
無礼だった。そして、大方の予想通り、痺れを切らした使者が顔を真っ赤にして
席を立とうとしたその時だった。
「帰ってどないすんねや、ジブンらが今決めるんはウチにつくか、
アッチにつくかやろ?で、“情報のアクリス”としてはどないすんねや?」
使者の顔色が信号機のように赤から青に一瞬で変わり、ユウコが話しながら
差し出したテーブルの上の小さな機械に目が釘付けになる。
- 54 名前:F.Q. 第2章 (020) 投稿日:2002年03月18日(月)20時57分30秒
- ユウコの言った通り、アクリスはエリゴルやミネルヴァと比べると小さく、
貧弱な組織だ。しかし、彼らが今日まで組織として生き延びてこれたのは数人の
優秀なエージェントと、その情報収集能力によるものだった。
そして、今ユウコが差し出した物もその情報網を支える盗聴器の一つだ。
「ちょっと前にこの部屋で見つけた。けど、おもろいから今日まで
付けっぱなしにしててんけど、顔色変わったちゅうことは、やっぱり
ジブンらのもんやな?」
「そ、そんなことは・・・・・・」
「まあ、それはどっちでもええねんけど、大事なんはここからや。
ミネルヴァとエリゴルの戦争。普通に考えたら、日ごろエリゴル側についてる
アクリスとしては、この状況なら手薄になったウチの本部をドサマギで
急襲するところやろうけど、それがない。なんでや?」
うつむく使者の顔を、ニヤニヤ笑いながら覗き込むユウコ。
(いじっめこみたい)
ナツミの感想は非常に的を得ていた。窮地に追い込まれた相手を、
更に追い込むのはユウコにって趣味と実益を兼ねた至福の喜びだ。
- 55 名前:F.Q. 第2章 (021) 投稿日:2002年03月18日(月)20時59分10秒
- 「怖いんやろ?ヴァンパイアが。」
ヴァンパイアという単語が出た瞬間、使者の体が一瞬大きく震えた。
そう、使者は、いや、情報収集を得意とするアクリスの幹部クラスは、
先のアイジャワ島での一件をエリゴルや一般人と比べるとかなり真相に
近い部分まで知っていたのだ。
表向きには単に霧の死神を撤退させることに成功したという
発表しかしていないが、アクリス側にはそのときの顛末が伝わっていた。
だからこそ、彼らは今のミネルヴァには、たった一人で霧の死神を一蹴するほどの
戦力が存在することを知っているし、もしそれが今もなお活動可能ならば、
安易に攻め入るべきではないと考えていたのだ。
「ヴァンパイアは、ケイちゃんはおるで。」
「しかし、彼女は今重傷で身動き一つできないはず!」
すべて最初から相手の手の上で踊らされていたことを知った者の最後の
あがきだった。しかし、どうにでもなれというように、目をむいて叫ぶ使者の
上に降りかかった返答は、その場にいたユウコ以外の二人にとって予想を
越えたものだった。
- 56 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月18日(月)23時24分59秒
- 復活おめでとうございます
それと連日更新お疲れさまです
これからも頑張ってください
- 57 名前:なつめ 投稿日:2002年03月19日(火)20時26分05秒
- >56
ありがとうございます。
サボっていたのを改めただけで、祝福されるというのも冷や汗ものですが(w
4月に入ると、少なくとも1ヶ月は更新できなくなるので、今のうちに頑張って、
なんとか今月中に2章を終わらせようと頑張っております。
連日更新の自己記録つくる勢いで頑張ります。
- 58 名前:F.Q. 第2章 (022) 投稿日:2002年03月19日(火)20時27分52秒
- 「たしかに、彼女は今動くことすらできん、けど、動かすことはできる。
コレでな。」
そう言って、先程の盗聴器の横にユウコが置いたのは、人差し指ほどの小さな
小瓶に入った液体だった。
「これは、先の作戦で“酔い止め薬”や言うて、ヤグチに持たせたのと同じ物や、
もちろん、圭ちゃん用や言うてな。」
「まさか?」
そんな恐ろしいことを、そういわんばかりの顔色を浮かべるナツミを無視して、
ユウコは続ける。
- 59 名前:F.Q. 第2章 (023) 投稿日:2002年03月19日(火)20時28分48秒
- 「これは、ワーウルフなんかがメタモルフォーゼの時に、ヒトとしての理性と
引き換えに、普段よりも強力な力を得るために使う、一種の麻薬や。もちろん、
誰にでも効くとは限らんし、正直ウチもあんなことになるとは夢にも
思わんかった。ただ、あの子の封呪法がおそらく、自分である程度解除と
封呪ができるタイプのもんやと思ったんで、ちょっと試してみたくてな。」
つまり、先の作戦でのケイの大暴走は、事故でも何でもなく、ユウコが用意した
薬によって、普段はヴァンパイア化してもある程度ヒトとしての理性で
保っている部分までも解き放ったことで、ほぼ完全に闇の眷属と化してしまった
ために起こったというのだ。
- 60 名前:F.Q. 第2章 (024) 投稿日:2002年03月19日(火)20時29分31秒
- (悪魔だ、この女は悪魔だ)
「さて、今ほとんど意識不明の圭ちゃんをアクリス本部に運んで、
この薬を投与したらどうなるかな?」
冷たい絶望感に震える使者のに追い討ちをかけるように、ユウコが言い放つ。
もはや、使者自身の腹はとっくに決まっていたのだが、「とりあえず、
一度本部に戻って、再度放心を伝えに参ります。」という台詞をかろうじて
残すと、彼は、予想を越えた真実の重みを手に、その場を逃げるように
去っていった。
- 61 名前:F.Q. 第2章 (025) 投稿日:2002年03月19日(火)20時32分04秒
- 「ユウちゃん、ひどすぎるよ。」
使者が去り、リーダー室で再び二人きりになったナツミは、初めて聞かされた
真実に、隠し切れないショックを受けていた。
「まあ、たしかにあんな大事になるとは思わんかったなあ。けど、あれは嘘やで、
死にかけの圭ちゃんにもう一回薬打つなんて何ぼウチでもようせえへんわ。」
「そうじゃないでしょ!」
おちゃらけて応えるユウコに珍しく苛立ちをストレートにぶつけるナツミの
眼には、普段部下たちの前では決して見せることのない涙が光っていた。
「知りたかったんや、ヴァンパイアがどれくらい強いんかな、って。」
ナツミの涙に応えるように、ユウコもまた、部下の前では見せることのない
悲しい笑顔で応えた。「強いんかな」そう呟くように言ったユウコはまるで
何も知らない子どもが、初めて見た世界を不思議がっているようだった。
- 62 名前:F.Q. 第2章 (026) 投稿日:2002年03月20日(水)20時10分25秒
- 結局、アクリスからの二回目の使者がやってきたのはそれからきっちり
半時間後だった。内容は、今回の件についてアクリスは、周辺の住民の救助など
人道的支援を除いて一切感知しないという、事実上のミネルヴァへの協力行動の
約束だった。
つまり、これでミネルヴァは後方の心配はなくなった。
しかし、事が事だけにユウコ自身が本部を離れるわけにはいかない。
「リーダー、商人ギルドと職人ギルドが連名で抗議文を提出しに来てます。」
「いつも通り、掴ませて眼つぶってもらい、できるだけ安くあげるねんで。」
「自警団からも今回の件に関して説明を求めてきています。」
「あんな名前だけの団体ほっとき。」
ただの喧嘩とはちがう。突如現れた雷獣に、街の防衛を担ってきたエリゴルが
襲われたかと思うと、それを機に、もう一つの傭兵集団が戦争を仕掛けたのだ。
いかに何でもありのオウティーク住人と言えども、黙って寝ているわけには
いかない。ユウコのもとにはこうして、先程からひっきりなしに誰や彼やと
やってきては、その対応にうんざりしていたところだ。
- 63 名前:F.Q. 第2章 (027) 投稿日:2002年03月20日(水)20時11分16秒
- 「リーダー!」
「今度はなんや?」
「れいのモンクが、リカ・エージェントが保護されて、
たった今本部に 到着しました。」
「そうか!マキは?マキも保護できたんか?」
「いえ、それはまだ。ただ、フールフールが依然活発に活動中であることから、
彼女も混乱した戦場下ではありますが、生存中と思われます。」
「そうか。」
「それよりも、リカ=イシカワの容態の方が・・・・・・」
「なんや、重傷か?」
こんな会話をしながら、ユウコが中庭にやって来て見たものは、
ファイア系の術を全身にあび、表皮のほとんどがやけどに覆われた
見るも無残なリカの姿だった。
- 64 名前:F.Q. 第2章 (028) 投稿日:2002年03月20日(水)20時12分58秒
- 「ひどいな。」
そう呟くので精一杯だった。
「衛生班は?」
「それが、現場でも負傷者多数のため、こちらに割ける人員はこれが
精一杯です。」
言われて、辺りを見回すと、リカよりも軽症ではあるが、早急に手当てが
必要なものに数人の衛生兵が付き添っていた。
「至急、教会に連絡を。重傷で今にも死にそうな元シスターがおる言うて
治療の応援頼んで来い。」
「しかし、リーダー。プリーストやレクリックが、ダークエルフの血を引く者に
手を貸すとは・・・・・・」
「大丈夫や。この街の教会は、この混乱でどっちについといた方が
おいしいかくらい、きちんと分かってる。
それくらいはちゃんと俗物してる連中ばっかりや。」
そう言うと、なおも躊躇する従者の尻を蹴り飛ばすと、ユウコ自身、もはや
虫の息で、言葉を発することも、目を開くことすらできないリカの手を握る。
- 65 名前:F.Q. 第2章 (029) 投稿日:2002年03月20日(水)20時15分56秒
- (もってあと10分か)
勢いよく従者を走らせては見たものの、教会からの応援が到着するまでリカは
とてももちそうになかった。かと言って、ユウコ自身治癒の術の心得は
まったくない。
万事休す。その場にいた誰もがそう思いながら、絶望的な眼差しで
二人を見つめていた。
きっかけは様々であっても、ここにいるものは皆、人を治すことを目的として
治癒能力を身に付けた者ばかりだ、できることならば自分たちのリーダーの
そんな横顔は見たくないが、目の前の患者たちを投げ出すわけにはいかない。
一人の瀕死の兵を助けるために、二人の重症患者を放り出すことは、
戦場のルールに反するのだ。
しかし、そんな鉛のように重たい空気をユウコの凛とした詠唱が吹き飛ばした。
そばにいた古参の衛生兵は、その声に以前にも感じた感動を思い出し、
大きく息をのむ。
「・・・・・・偉大なるノルンの次女、在りし時をつかさどるヴェルザンディよ、
暫しその歩みを止めたもう・・・・・・アレテ!」
それは、言うなれば超局地的な結界。放出や対象の変化のように外見上の
変化はないが、たしかに術としてその効力を発揮していた。
- 66 名前:F.Q. 第2章 (030) 投稿日:2002年03月20日(水)20時17分17秒
- 「なんですか、あの術?
一瞬、すごい霊力だったけど、何も変わってませんよ。」
「分からないのか?」
新参の衛生兵が、先程の古参に尋ねるが、訊かれた方の兵士は、
目の前で起こった奇跡から目を逸らすことができない。
「時空魔術だよ。」
ボソリと応えた彼の声に、軽いざわめきが起こる。
術の中には白や黒だけでなく、秘術と呼ばれるものがあり、時や空間を
つかさどるそれは、半ば伝説と化しており、当然門外不出のため、
扱える者に出会える確率は極めて低い。しかし、それが今成されたのである、
それも彼らにとって極身近な人物によって。
「ウチのリーダーって・・・・・・」
「ああ、俺だって全部を知ってるわけじゃないが、すごい人だよ。」
そういう彼の視線の先には、教会に向かった者とは別の従者に肩を
貸してもらいながら、施設の中に消えていくユウコがいた。
「ええか、とりあえずその子の“時間”を遅らせたから、坊主が到着したら、
速攻で治療、その後ディスペルすんねんで。」
集まる視線が照れくさかったのか、ぶっきらぼうにそう言うと
奇跡の体現者は静かに自室へと戻っていった。
- 67 名前:F.Q. 第2章 (031) 投稿日:2002年03月22日(金)00時27分15秒
- 「戦況は?」
「エリゴルはほぼ壊滅、今は残党の掃討に取り掛かっているのですが・・・・・・」
ユウコが中庭での大仕事を終え、自室に戻った頃、
前線ではほぼ大勢が決していた。
元々兵の質ではエリゴルよりもミネルヴァの方が一枚上だった。そして、
今回はそれに加えて最初のフールフール出現時に敵本部が半壊、
それに伴い待機中の主力を失ったことで、エリゴルの戦力は半減。指示系統も
壊滅状態のところに奇襲を受けては、ひとたまりもなかった。
さらに、アクリスからの援軍が来ることを前提に最初の布陣を
組んでしまったことも、彼らの敗北を決定付ける要因の一つだったことも
付け加えておきたい。
- 68 名前:F.Q. 第2章 (032) 投稿日:2002年03月22日(金)00時29分54秒
- 「そっか、分かった。」
奥歯に物がはさまったように、報告の後半を口篭もる兵をさえぎると、
彼の視線の先を自らも追う、そして、大きなため息を一つ。
「やりますよ、やればいいんでしょ。」
「作戦の肝は後半戦やから、ナッチ、久しぶりにしっかり働いてもらうで。」
そう言ったユウコの言葉を思い出しながら、
そこにはいない誰かさんに向かって横柄に応える。
「現在フールフールの周囲300mまでで活動中の兵を全員撤退させて。」
「では、アレをお使いになるのですか?」
「お使いになります。」
一転して眼を輝かせる兵に、うんざりといった口調で応えると、
ナツミは大暴れしている雷獣が最もよく見える建物の屋上へと向かった。
- 69 名前:F.Q. 第2章 (033) 投稿日:2002年03月22日(金)00時30分52秒
- (まったく、どうやったらあんなの呼び出せるんだよ)
心底呆れた面持ちで、出現から4時間経ってなおも元気いっぱいに雷を振りまく
大鹿と、その鹿の陰に隠れてどこかでプルプルと振るえているであろう
マキを睨みつける。
しかし、言葉や表情では不満を漏らしながらも、正直なところ同じ術を
扱う者として、マキのポテンシャルには畏怖と憧憬を感じずにはいられない。
この世界は年齢よりも資質の方が重要だとはいえ、それでも、
マキの年齢で魔獣を呼び出せるものが、どれだけいるだろうか。
(末恐ろしい子だよ)
大きく息を吐きながら、最後の毒をつくと、その小さな体には不釣合いなほど
よく通る声で、取り出した異様に長い針に霊力を込め始めた。
「・・・・・・月も星も、神も悪魔も我にはいらぬ、我の瞳に映りし物、
すべて無に還らん・・・・・・・ヴォイド!」
詠唱終了と同時に放たれた針は、淡い光を帯びながら魔獣に突き刺さると、
ひときわ大きな光とともに弾けとんだ。刹那、雷獣もその身に纏っていた
雷もろとも咆哮だけを残して消え去った。
- 70 名前:F.Q. 第2章 (034) 投稿日:2002年03月22日(金)00時32分00秒
- それは、異常な夜だった。召還、時空魔術、そして、今ナツミによって
行われた術もまた秘術だった。行えるものが少なく、まれにしか遭遇しないから
“秘術”なのに。それが、たった4〜5時間の間に同じ街で三度もそれが
行われようとはこれを異常と言わずしてなんと言おう。
「ナツミ殿、やりましたね。」
「見たら分かるよ。」
詠唱の邪魔になるからと遠ざけていた兵達が次々と駆け寄るが、ユウコ同様、
普段さぼっていたのが堪えたのか肩で息をしながら、ぶっきらぼうに
応えるのがやっとだった。
しかし、そんなナツミを心配しつつも、兵達はその光景に感動を
おぼえずにはいられなかった。先程まで少しでも近付こうものなら、
一個術士大隊に匹敵するほどの雷をあびせかけてきて、まったく手が
つけられなかった魔獣が、ナツミの術によって一瞬にして消滅してしまったのだ。
- 71 名前:F.Q. 第2章 (035) 投稿日:2002年03月22日(金)00時33分28秒
- 滅霊結界。それは、一見すると強力なディスペルと間違われがちだが、
その真相はまったく違う。ディスペルが術を術で無理やり解除する
力勝負なのに対して、滅霊とは、術の源である霊力を消し去ることで、
術そのものを消滅させるより高度な現象で、そのあまりに特異な性質から
術と呼ぶことに疑問視する声もあるほどだ。
さらに、結界であるため、そのフィールド内では敵味方関係なく無作為に
作用する、ナツミが兵を引き上げさせたのもそのためである。
「ナッチ疲れたから、先に戻るね。あとよろしく。」
稀代の結界師も人の子である。感動に打ち震える兵を尻目に、自分の仕事は
終わったとばかりに現場をとっとと後にすると、その日は自室で
朝まで眠ってしまった。
- 72 名前:F.Q. 第2章 (036) 投稿日:2002年03月22日(金)00時34分25秒
- 「んで、ナッチが起きたらごっつあんは保護されてて、
エリゴルも降伏してきてたんだよね。」
「ん、そやな。ナッチが寝てる間にほとんど型はついとったな。」
立場上、普段は人前で大騒ぎすることも少ない二人だが、あの夜の話になると
話は別だ。今も、話に夢中になるあまり、商人ギルドと約束の時間まで
もうすぐになっていた。
「それにしても、何度思い出しても、ねえ?」
「ホンマ、笑ろてまうな。あの日までずっと、どうやってこの街で一番取ったろか、
そう思っとたけど、あんな形で転がり込むなんてな。」
「ホント、ごっつあん様々だね。本人はかなり落ち込んでたみたいだけど。」
そう言うと、また思い出したらしく、お互い吹き出してしまった。
- 73 名前:F.Q. 第2章 (037) 投稿日:2002年03月22日(金)00時35分54秒
- ほとんどたった一人で、長きに渡ってオウティークを牛耳ってきたエリゴルを
壊滅させたヒロインは、翌日から疲労と罪の意識で寝込んでしまったのだ。
傷つかなくてよい人々を傷つけてしまったこと、その中に
大切にしていた人もいたこと、そしてなにより、自分の力を制御し切れなかったこと。
天才ゆえの苦悩、そういえば聞こえは良いが、深すぎる部分に潜在する力は、
強大な敵よりも本人にとっては脅威だ。
「そやけど、先週の復帰第一戦以来、ちょっと元気になってるみたいやん。」
「ああ、リカちゃんとケイちゃん連れてった新兵器の実験兼ねたやつね。
アレ、散々だったね。」
「まあ、そう言いなや。アイが聞いたらまた落ち込むで。それに、
表向きの作戦目標は達成したことやし。」
「まあね。」
少し不満そうに、それでも偽りのない微笑をナツミが浮かべたその時、
楽しい時間の終わりを告げるノックが響いた。
「リーダー、商人ギルドからお客様が見えてます。」
面倒くさそうに、「ほな、言ってくるわ。」そう言うとユウコは、
ミネルヴァのリーダーの顔で部屋を出て行った。
- 74 名前:なつめ 投稿日:2002年03月24日(日)22時44分53秒
- 更新ではなくて、申し訳ないのですが、
前スレで言っていた、羊のやつが終わったので報告します。
ttp://tv.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1012320673/
↑内の『あなたのようになりたかった』です。
“なつめ”で書いているものとは違うものが書きたかったので
名無しで書き、終わるまでは伏せてました。
ちと、晒すのは早いかとも思ったのですが、ヒソーリとしておきたい一方、
書き上げたものについては、酷評も含めた感想が欲しい書き手の性から、
とっととバラしました。
- 75 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月25日(月)10時34分23秒
- げ、それ読んでました。まさかなつめさんとは(w
感想向こうに書かせてもらいます。
こちらもがんばってください。
- 76 名前:なつめ 投稿日:2002年03月30日(土)19時15分57秒
- >75
どうもです。
ディレクターズカットはとりあえずまだ脳内にしかないので、いずれそのうちとしか
言いようがないです。
ただ、某所で“設定ミスでグダグダ”まで言われてしまったので、もうちょっとなんとか
せねばとは思ってます。
と、あまりあっちの話をここでしてもなので、本題です。
予告どおり、更新止まります。
やはり、4月は無理です。
もう一回更新して、前半部分だけでも綺麗に終わらせたかったのですが、ダメでした。
こんなグズグズの書き手ですが、もし待っていてくれる方いらっしゃいましたら
G.W.頃、ガンガッテ帰ってきたいと思ってますので、よろしくお願いします。
どうもスイマセンでした。
- 77 名前:放浪読者 投稿日:2002年03月31日(日)01時17分02秒
- そうですか・・・、仕方ないですね。
でも、期待して待ってます。
- 78 名前:なつめ 投稿日:2002年04月13日(土)16時44分49秒
- >77
すいません。そういうことなんです。
正直仕事ほっぽらかして書きたいところですが、そうもいかず
また、手元にPCもなく、書き込みも出来ません。
あと、半月ほど見ないうちに案内板で嬉しい事をしてくださった方がいるようで
この場を借りてお礼申し上げます。
自分の書き物がああいう形で紹介された事、読んでくださっている方が予想外に
多かったこと、本当に嬉しかったです。
非放置宣言でした。
- 79 名前:ロ〜リ〜 投稿日:2002年04月25日(木)01時58分12秒
- 友人から薦められて一気に読ませていただきました。
ファンタジー系も面白いと再認識させられました。
今後の展開が楽しみです。
更新お待ちしております。
- 80 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月17日(金)22時00分41秒
- 保全
- 81 名前:なつめ 投稿日:2002年05月18日(土)12時40分47秒
- 〜お礼とお知らせ〜
>79
ありがとうございます。
ヲタモダチをお持ちのようで、ちょっとうらやましいです
&>80
待っていてくださる方がいるようで、大変うれしいです
現在、転居に伴う諸々の手続きが完了していおらず、予定していた復帰時期を
大幅に遅れていますが、書きたい気持ちは、健在です。
どうか、長い目で見てやってください。
- 82 名前:放浪読者 投稿日:2002年05月19日(日)02時15分52秒
- 遅れても続けてくれるなら安心です。
気長に待ってますよ。
- 83 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月26日(日)01時22分48秒
- 保全
- 84 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月09日(日)02時24分05秒
- 保全
- 85 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月11日(火)21時54分48秒
- 保全
- 86 名前:なつめ 投稿日:2002年06月20日(木)00時15分03秒
- 長らくすいませんでした、今日からぼちぼちと更新再開させて頂きます。
本当にすいませんでした。
- 87 名前:F.Q. 第2章 (038) 投稿日:2002年06月20日(木)00時17分12秒
- ユウコとナツミが久しぶりに穏やかな昼下がりを満喫していた頃、エイム王国軍の
本営では、“モニター”の前で苦虫を噛み潰す将校たちの姿があった。
王国軍はここ数ヶ月で大きな変革を遂げていた。
それまでは、禁忌として表向きは採用に消極的だったオールドテクノロジーについても、
こうして会議の場に堂々と姿を現すようになった。
そうした変化のきっかけは、二ヶ月前、国の威信が大きく傷つけられたことだった。
どんな悪党でもその名を聞けば震え上がる、それが結界牢獄施設だったはずなのに、
元親衛隊員をはじめとした囚人たちにまんまと脱走されてしまっただけでなく、
その混乱によって、施設はほぼ全壊、いまだにその機能の回復は成っていない。
しかも、施設が破られたニュースは大陸中を駆け巡り、王国の求心力は著しく低下、
各地の反乱分子はこれを機にとばかりに活動を活発化させ、最近では反王国の衛星都市が
次々と生まれている。
- 88 名前:F.Q. 第2章 (039) 投稿日:2002年06月20日(木)00時18分11秒
- そうした状況に対応すべく、王国軍は関所の警備を強化、流通をコントロールすることで
支配力を高めようと図ったのだが、その関所の一つが先週襲われ、壊滅した。
それまでも、問題にならない程度の被害を受けることはあったが、今回はその被害の
大きさと、関所の場所が問題だった。
現在、王国が反乱分子として最も危険視しているのが、衛星都市オウティーク。独自に
他大陸とのパイプを持ち、それにより他に見ない発展を続けてきたこの都市は、
このところ傭兵組織の統合によって、更なる危険性を帯びていた。そのため、
オウティークの流通に関しては、特に目を光らせていたのだが、その要所が
やられたのである。犯行声明などは、もちろん出されていないが、犯人は明らかだ。
- 89 名前: F.Q. 第2章 (040) 投稿日:2002年06月20日(木)00時18分56秒
- 「それでは、次に実際に関所が襲撃を受けた時の映像です。」
進行役がそう言うと、それまでデータが映し出されていた画面が、関所に
設置されていた無人撮影機の映像に切り替わる。
しかし、映像は煙幕のためかほとんど何も確認できない。
「ここです!」
興奮のためか、少し上ずった声で進行役が映像を止めると、画面の隅のほうに金色に
輝く、有翼人種のような人影が映し出されていた。
映像が拡大されると、更にその姿がはっきりする。金色の翼、羽兜と金色の甲冑、
右手には背丈よりも大きなこれもまた金色の槍を携えている。
- 90 名前:F.Q. 第2章 (041) 投稿日:2002年06月20日(木)00時19分30秒
- 「ワルキューレか。」
釈然としない、そんな口調で呟いた将校が見つめる先には、たしかにワルキューレの
横顔が映し出されていた。しかし、映像からはその表情はおろか、人相の見当も
つかなかった。
なぜなら、美しい槍を振るい、次々と敵をなぎ倒す彼女の顔は、その神秘的な
たたずまいとは不釣合いな物で覆われていた。機械である。ジェッティのテクノロジーが
用いられているであろうその無機質なゴーグルは、ダイバーが使う物と同じくらい
大きく、いびつなシルエットを創り出していた。
幻獣界の住人であるワルキューレとオールドテクノロジーの申し子ジェッティ、
なんとも異様な組み合わせである。
「おっしゃるとおり、これは、ワルキューレを憑依させたマスタークラスの召還士だと
思われます。ただ、つけているゴーグルについては、解析中ですが、おそらくこれが
煙幕内でも活動を可能にしていると思われ、バックに高度なテクノロジーを持った
何者かがいると思われます。」
- 91 名前:F.Q. 第2章 (042) 投稿日:2002年06月20日(木)00時20分29秒
- 「ジェッティに決まってるでしょ。」
あえてジェッティという言葉を伏せた進行役、いや、会議全体を馬鹿にしたような
口調で切り出したのは、先ごろ外部から採用された将校だった。
伝統と格式を重んじるエイム王国軍。しかし、長く続いた平安の中で兵のレベルは低下、
加えて先の事件によって軍への志願者は減少、脱走兵まで出る始末で人材不足は
否めない。そこで、外部の戦力、いわゆる傭兵や野党まがいの者たちを招集し、
先ごろ遊撃隊を結成した。そして、その隊長として将軍扱いで雇われたのが彼女である。
「ハイレベルの召還士とジェッティ。この辺じゃ珍しい組合せかもしれないけど、
オウティークなら納得できるんじゃない?」
本当につまらない会議。そう言わんばかりの彼女を皆、口にこそ出さないが常に
疎ましく思っていた。技術の導入や部隊の再編成など、目に見える形での変革を
進めてきた軍ではあるが、実際は長く培ってきたよそ者を排除するムラ社会的体質が
そうそう改まるものではない。
- 92 名前:F.Q. 第2章 (043) 投稿日:2002年06月20日(木)00時21分59秒
- 「では、将軍は今後どうすればよいとお考えかな?」
口を開いたのは古参の将軍だった。
場の雰囲気をそのまま代弁した彼のせりふは、口調こそ穏やかだが、侮蔑と敵意が
はっきりと表れていた。
「そんなことは、私ごときが口を出すことではないでしょう。我々の仕事は、
各地の反乱分子をその度に叩くこと。そうでしょう?」
しかし、そんな挑発に乗る彼女ではない。あからさまにニヤニヤとバカにした笑いを
浮かべながら、それだけ言うとまだ会議も終わっていないのに、当然のように席を
立ってしまった。
「報告は分かりました。我々遊撃隊もその金の鳥を見つけたらしっかり
記録しておきましょう。皆さんが大好きなVTRで。」
- 93 名前:F.Q. 第2章 (044) 投稿日:2002年06月20日(木)00時23分26秒
- 最後の最後まで嫌味を残して、彼女が向かったのは本営に用意された自分の部屋。
遊撃隊として普段は野営が多いため、せっかくの豪華な調度品もまともに
使ったためしがない。
「お疲れ様でした。」
そう言って出迎えたのは、軍に迎えられる前から彼女の片腕を務めてき少女だった。
将軍である彼女が、さっきのような調子で古参の幹部たちから煙たがられているのに
対して、少女はその人当たりの良さから余所者組みとしては比較的受け入れられている。
そのため、現場での活動が多い将軍に代わって、こうして本営に残ることで、
彼女の目と耳になることが今の少女の仕事だ。
「どうでした会議は?」
「どうってことはないよ。いつもどおり。
まったく、ペンギンどもの相手は疲れる。」
- 94 名前:F.Q. 第2章 (045) 投稿日:2002年06月20日(木)00時24分20秒
- 言いながら、少女の入れてくれた熱いコーヒーをすする。
濃さも温度も彼女の好みに寸分違わない、短くない付き合いのありがたみを
こんなところにも感じ、思わず先ほどの会議では微塵も見せなかった笑みがこぼれる。
「それにしても、王国軍に入るって言った時はどうなることかと思いましたけど、
それなりに上手くいってるみたいですね。」
「まあね。もう暫くは我慢するよ。」
含みのある笑い対して、少女はその意味を探るでもなく、ただにっこりと微笑むと
温まりすぎた部屋の空気を入れ替えるため、窓を開けに立った。
見ると、遠くの澄んだ空では、山の上を雲がすごい速さで流れていた。
「風が吹きそうね。」
楽しそうにそう言った彼女に、少女は「ええ。」と嬉しそうに応えた。
しかし、残念ながら彼女の瞳に移る風景は少女には見えなかった。
- 95 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月20日(木)00時43分03秒
- 深刻なみちごま不足の状況下において、
更新をお待ちしてました。
今後とも楽しみにしております。
- 96 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月20日(木)01時10分35秒
- 待ってました!!
これで飼育に来る楽しみが一つ増えました。
- 97 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月21日(金)23時13分53秒
- 感謝!
- 98 名前:なつめ 投稿日:2002年06月25日(火)01時02分39秒
- こんな怠け者の書き手なのに、こうしてレスしてもらえて率直に
“うれしい!”です。いやぁ、本当に励みになります。ありがとうございます
>95
結構自分ではみちごま意識してなかったんですが、そういうことなら
ぼつぼつみっちゃんも復活してもらわないといけないですね(w
と、言いつつ、どうなる事やらなので、気長に待ってやってください。
>96
そこまで言っていただけるなんて、書き手冥利に尽きます。
察するに、最初の方からお付き合い頂いている方のようで、これからも
辛らつなものも含めて意見・感想・つっこみしてやってください。
>97
こちらこそ、感謝です。
こんな怠け者にレス下さるだけで嬉しかったです。
- 99 名前:F.Q. 第2章 (046) 投稿日:2002年06月25日(火)01時05分40秒
- 「う〜、風が出てきた、早く帰ろっと。」
日の落ちたオウティーク。街の中心へと向かう人の流れに逆らって、家路を急ぐ
マキの姿があった。
いつもならすでに、家のリビングのソファーで、晩御飯ができるのを待ちながら、
丸くなっている時間なのだが、いくら自由な振る舞いが許される
Sクラスエージェントとはいえ、さすがに幹部会をサボるわけにはいかない。
そんなことをしようものなら、せっかくもらったばかりの4LDKの家も
取り上げられてしまう。
とはいっても、おそらく彼女はそんなこと気にも留めないだろう。
二ヶ月前のエリゴル壊滅によって、その功労者として異例の三階級昇格を果たした
マキが最も喜んだのは、豪華な家や昇給よりも強制訓練がなくなり、休みが
増えたことだったのだから。
以来、ミチヨたちがいなくなった傷心をいまだ癒せずにいる彼女は、家に閉じこもっては
リカが借りてくる本を斜め読みしたり、アイに教えてもらった簡単な機械いじりで
時間を潰していた。
- 100 名前:F.Q. 第2章 (047) 投稿日:2002年06月25日(火)01時06分57秒
- 「ただいま。寒い。ご飯。」
「挨拶と、不満と、希望はきちんと分けて言いなさい。
それから、帰ってきたらまず手洗う!」
ケイの怒声もなんのその、育ち盛り、食い盛りの食欲は、そんなことくらいでは
ひるまない。アイとリカの間から、お目当てのおかずにグイっと腕を伸ばす、
が、その手の甲にしびれるほどの痛みが走った。
「いった〜い。スプーンでなんか叩いたらダメなんだから。」
「うるさい、黙って手洗う。食事はそれから。」
先日の大怪我もどこへやら。完全復活のケイに睨まれると、恨みがましい視線を
送りながら、しぶしぶ洗面所へと向かった。
- 101 名前:F.Q. 第2章 (048) 投稿日:2002年06月25日(火)01時09分09秒
- 「で、なんか言われたの?」
食事も終わり、カウチや床でそれぞれのスタイルでくつろぐ四人。切り出したのは、
ケイだった。
「う〜ん。なんか色々難しい話してたけど、あんまり覚えてない。」
「じゃあ、その中でごっちんが興味あった話は?」
せっかく幹部会に出席してきたのだから、その内容が聞けるとおもっていた三人の
期待を見事に裏切る返答。キレそうになるケイを制して、やんわりと聞きなおしたのは
リカだった。
エリゴルとの戦争時に重傷を負ったリカも、今ではすっかり良くなり、体術の
キレこそまだ少し以前より劣るものの、術力などは、すっかり元通りで、
戦闘能力においては、エージェントとして申し分ないまでに回復していた。そして、
その回復までの看病をアイと一緒に献身的に行ったのがマキだった。その間に、
リカが覚えたのが、今のようなマキの扱い方に関するコツだった。
- 102 名前:F.Q. 第2章 (049) 投稿日:2002年06月25日(火)01時10分23秒
- 「まず、誉められた。先週リカちゃんとケイちゃんでやった関所壊す作戦。あれは
よくやったって。今度二人にもボーナス出すって、それからリカちゃんこの前の
戦争の功績と合わせて昇格すると思うって言ってた。けど、アイちゃんがつくった
ゴーグルはまだまだ改良しないといけないって。」
思わぬ臨時収入に喜ぶ二人とやっぱりの評価に落ち込む一人の技術屋。
マキが言っていたゴーグルとは、関所破壊の作戦で実験的に採用された新兵器である。
もちろん、開発者はアイだ。
二ヶ月前のアイジャワ島での作戦中に、濃霧によって大打撃を受けた教訓を元に
急ピッチで開発された無視界下での活動を可能にする兵器。しかし、精度はまだまだ
低く、先の作戦も煙幕の効果よりもマキ、リカ、ケイの能力が敵を圧倒的に
上回っていたからこそ、成功したというのが上層部の結論だった。
- 103 名前:F.Q. 第2章 (050) 投稿日:2002年06月25日(火)01時12分02秒
- 「それから、やぐっつあんが退院したって、けど、みっちゃんとヨッスィ
連れて帰って来れなかったから、Bクラスに降格だって。」
当時、ミチヨの術によって蘇生したとはいえ、マリは重傷だった。特に、背中から
受けた矢の一本が、背骨を傷つけており、二ヶ月で自立歩行できるようになっただけでも
奇跡的な回復力といえる。しかし、任務への復帰のメドはまったく立っておらず、
これからも当分の間リハビリ生活が続くだろうということだった。
「ヤグチさんあんなに頑張ったのに。」
マキの話を聞いて、何もいえなくなってしまった沈黙をアイがボソリと破った。
みんな何か言いたかった、だけど、「かわいそう」では、薄っぺら過ぎる。
たしかに、情報収集を命じられたにもかかわらず、敵との交戦を避けられなかった
ばかりか、部下を二名も失って帰ってきたマリはパーティのリーダーとしては
責められても仕方がない、しかし、ここにいる全員は、彼女がギリギリの戦局の中で
言葉通り、死ぬほど頑張ったことを知っている。だからこそやりきれない。
- 104 名前:F.Q. 第2章 (051) 投稿日:2002年06月25日(火)01時13分09秒
- 「あと、新しい仕事もらった。」
「ふ〜ん……って、それを先に言いなさいよ!」
重い空気を振り払うように、ケイが大声を出すと、マキの手から封筒をひったくる。
しかし、指令書と任務に関する資料、注意書きなどを引っ張り出すケイの手が止まる。
「これ私パスね。」
ケイの声に、資料に群がっていたアイとリカの手も止まる。何事かと全員の眼がケイに
集中するが、ケイは資料をテーブルに置くと、黙り込んでしまった。
「ちょっと、ケイちゃん困るよ。私もう言っちゃったもん。今回は私とリカちゃん、
ケイちゃんそれとアイちゃんの四人で行きますって。」
「えっ、私もですか?私非戦闘員ですよ。」
「大丈夫だよ、今回は視察任務だから。それより、ケイちゃん突然どうしたのよ、
この前までは、体動かしてる方がいいって言ってたじゃん。」
- 105 名前:F.Q. 第2章 (052) 投稿日:2002年06月25日(火)01時14分25秒
- マキの言う通り、ミチヨに受けた傷が癒えた後のケイは、以前とは打って変わって
訓練にも任務にも積極的だった。お陰で剣技の上達は、エージェントの間でもリカの
術の進歩と並んで賞されるほどだ。
但し、それは、ヒューマンモードでの話。事の真相など知らないケイは、あの日以来、
もう一人の彼女を解き放ったことはない。自らの力を恐れているのか、自責の
念からなのか、語ることを好まない彼女は、決してそのことについて話そうとしないし、
周囲もそれを訊ける雰囲気ではなかった。
だからこそ、彼女が放った一言は三人に驚きを与えた。
「ここ、私の故郷なのよ。」
そう言って、ケイが最後に見ていた資料の"エイビック"と書かれた地図を指差した。
それは、今度の任務で四人が向かう予定の小さな田舎町だ。
エイビックは、静かな農村で、オウティークとは古くからのつき合いだが、決して
オウティークのように好戦的な衛星都市などではなく、むしろ、軍事力を持たない
街だからこそ中立の立場で生き長らえてきたといえる。
しかし、ここ最近、エイビックからの連絡がないため、今回マキに視察の任務が
下ったのだ。
- 106 名前:F.Q. 第2章 (053) 投稿日:2002年06月25日(火)01時15分23秒
- 「けど、ケイちゃんヴァンパイアでしょ、なんでこんな普通の街が故郷なの?」
「……第二形態?」
「いや、第三形態だよ。
けど、そんなことはどっちでもいいでしょ。とにかく、私は今回はパス。
3人で行っといで。」
いつもにも増して愛想のない声で言い捨てると、そのまま部屋へと戻って行くケイの
後姿を誰も引き止められなかった。なぜなら、リカはその知識から、残りの二人は
聞き覚えのない会話から、今回の彼女の不機嫌の原因が、もっともプライベートな
部分によるものだと直感的に察していたからだ。
- 107 名前:F.Q. 第2章 (054) 投稿日:2002年06月25日(火)01時16分32秒
- 「ヴァンパイア。限りなく不死に近い彼らは大きく分けて3タイプ。」
ケイが去ったリビングでは、その義務を果たすようにリカが二人にヴァンパイアに
ついての講義を小声で始めていた。
「まず、第一形態。これはピュア・ヴァンパイアとも言われていて、生まれながらの
ヴァンパイアのことね。
次にこれが一番数が多いって言われてるんだけど、第二形態。
不慮の事故や、呪術師によって“つくられた”ヴァンパイア。彼等はその
創造主によって何らかの制約を受けていることが多いのが特徴。
そして、ケイちゃんが自分がそうだって言ってた第三形態。この形態はもっとも数が
少ないの。」
「どうして?」
素朴な疑問を投げかけるマキの視線。そのあまりのまっすぐさに、リカは一瞬躊躇した。
もしかしたら、何も知らないままの方が良いのではないか。知ってしまうことで
彼女たちのケイに対する思いが変わってしまうのではないかと。
- 108 名前:ナイト 投稿日:2002年06月25日(火)16時09分24秒
- おお!更新されてる!
凄い待ってました!
あ、あと俺も白板で、ファンタジーをかいてます
(もちろん、ヘタクソ)
ここの小説を見て、かきたくなったんで・・。
よろしくです!
- 109 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月26日(水)00時14分39秒
- 文章が素晴らしいですね。
読んでパッと情景が浮かびます。
これからも頑張ってください。
- 110 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月26日(水)02時14分54秒
- すんごく面白いです。
やはり独特の文章のテンポがいいなあ。
これからも楽しみにしてます。
- 111 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月01日(月)06時45分29秒
- うわー、もう作者来ないだろうなと思っていたから
うれしくて初カキコ。
これからもがんばってね。
- 112 名前:なつめ 投稿日:2002年07月03日(水)23時57分00秒
- >108
そう言ってくれる方が出てくるとは……
ものの質はともかく、書き手として長いことここでお世話になっていることを
実感しました。
時間があるときに覗かせていただきます。
>109
ありがとうございます。
文章うまくなりたい!っておもいながらずっと書いているので、すごい
うれしいです。精進します。
>110
ありがとうございます。
主食は多分まだ先です。すいません。
けど、本当にみちごま減っちゃいましたね(トオイメ
>111
初レスありがとうございます
恥ずかしながら戻ってきました(w
しばらくは本業が小康状態で、更新もまあまあできるかなと、楽しい状態です
レス本当に多謝です。
- 113 名前:F.Q. 第2章 (055) 投稿日:2002年07月03日(水)23時59分28秒
- しかし、もしここで言うのを止めてしまうと、それは、リカ自身が第三形態である
彼女に対して特別な感情を抱いていることを意味する。それは、とても恐ろしく、
醜いことだ。
瞬時にそのことに気づいたリカは、大きく頭を振ると、ひとつ息をつき、
何事もなかったかのように話を再開した。
「第三形態はね、自らの意思で“成った"者たちなの。」
リカの声にこめられたほんの少しの悲しみが、二人の胸に波紋のように広がる。
- 114 名前:F.Q. 第2章 (056) 投稿日:2002年07月04日(木)00時01分26秒
- ヴァンパイア。
最強のヒューマノイドにして、限りなく不死に近い種族。
しかし、彼らの強さに憧れを抱く者は少ない。なぜなら、いくらヒューマンに近い姿を
していようとも、彼らがアンデットである事実は変えようがないのだから。
ゾンビやグールのように醜い姿をしていなくても、彼らが不死である以上、
それは生物ではないのだ。
限りあるからこそ至高の輝きを放つ、それが命。その輝きを捨ててまで、
果てることのない永遠と戦うためだけの強さを、誰が自ら求めるだろうか。
- 115 名前:F.Q. 第2章 (057) 投稿日:2002年07月04日(木)00時02分21秒
- リカの話が終わっても、それについて誰も言葉を発しようとはしなかった。
氷のような表情のマキ、溢れ出しそうになる熱を堪えるようにじっと唇を
かみ締めるアイ。対照的だが、二人とも真実の重みに耐えていたのだ。
アイはミチヨたちと出会って以来、命の長さについて考えることが増えた。
特に、終わらない時間を持つケイに対しては、うらやましいとすら感じることもあった。
なぜなら、仲間たちの中で唯一のピュア・ヒューマンである彼女の寿命は種族的に見て、
マリの次に短い。だから、彼女が土に還った後も、仲間たちはその何倍もの時間を
生きるだろう。それを考えると、やりきれない気持ちになることすらあった。
しかし、その思いがいかに間違ったものであったかを知った。
過去、ケイの身に何があったのかは分からない。しかし、その時の彼女の決心を想えば、
彼女に直接その憧れを口にしなくて良かったと思うよりも、自責の念に
押しつぶされそうだった。
- 116 名前:F.Q. 第2章 (058) 投稿日:2002年07月04日(木)00時03分16秒
- どれくらい時間がたっただろうか。
永遠に続くとも思われた闇のような沈黙を破ったのはマキだった。
リカが話し終わってからずっと沈黙を守っていた彼女もまた、アイ同様に
思いをめぐらせていた。
それは、ナップ族としてのアイデンティティとケイに対する思いの葛藤でもあり、
また、古き日に大切な人から聞かされた話の想起でもあった。
無言で立ち上がり、ケイの部屋に向かう彼女。もちろんリカは止めようとしたが、
マキの今まで見せたことのない表情に気圧されて、それはできなかった。
その時の横顔は、決意のこもったなどという生ぬるいものではなく、すべてを
投げ出す代わりに何かを掴み取ろうとする、そんな意思すら感じさせた。
- 117 名前:F.Q. 第2章 (059) 投稿日:2002年07月04日(木)00時04分14秒
- 「いらっしゃい。」
まるで来ることが分かっていたかのように、ベッドに腰をかけ、いつものように
マキを迎え入れるケイ。しかし、マキはそんなことに虚を突かれるどころか、
表情も変えず何事もなかったように、話し始めた。
「私は、自分の命を捨てるような、ましてや生きとし生けるものの尊厳を汚すような、
そんなケイちゃんが許せない。」
「その通りね。」
マキに追いついた二人が、飛び掛ってでも止めたくなるようなマキの発言だが、
ケイはそれを気にする風でもなく、至極当然とばかりに肯定した。
ケイにしてみれば、自分が第三形態、すなわち、自らの意思で命を捨て、
アンデッドになったことを告白するたびに繰り返されたやり取りで、それは、すでに
彼女を失望させることはなかった。ましてや、祈りや命を尊ぶナップ族の彼女であれば、
当然の反応に思えた。
- 118 名前:F.Q. 第2章 (060) 投稿日:2002年07月04日(木)00時05分10秒
- ただ、本音を言えば、今回ばかりはもう少しこのパーティで過ごしたかったが、
それも仕方がない。こうなることはすでに、生物をであることをやめた日から
覚悟していたのだから。
いくら仲間と呼び合える者たちと出会うことができても、彼らは遅かれ早かれ時間に
連れさらわれてしまう。自分を残して。
別れは必ず来て、常に自分は残される。それが早いか遅いかの違いにすぎない。
そう思い続け、今日までやってきた。
だからこそ、マキの言葉はケイの忘れていた心の深い部分を揺さぶった。
- 119 名前:F.Q. 第2章 (061) 投稿日:2002年07月04日(木)00時06分23秒
- 「けど、憎めない、嫌いになれない。
ケイちゃんだから……きっと、ケイちゃんだから、そう思うと今のケイちゃんを
許せないと思うほどに、慈しみたいと思う。その重荷を少しでも一緒に
抱えてあげたいと思う。」
怒りに震える瞳からは、堪えきれずに優しい涙がこぼれる。
そして、ケイもまた、彼女の感情の波を受け止めてくれた初めての人を通して、
自らの心を知った。
それは、決意という言葉で覆い隠そうとしていたが、なんと哀れで、そしてとても
孤独なものだった。
しかし、もうその悲しみに押し殺されることはない。彼女は、いや、マキだけでなく
その後ろで同じように涙を流してくれている彼女たちは、この涙も枯れ果てた
ヴァンパイアの孤独を癒し、そして、いつかその永遠の時間を支える存在に
なってくれるはずだから。
- 120 名前:F.Q. 第2章 (062) 投稿日:2002年07月04日(木)00時07分04秒
- その夜、ケイの時間はあの日以来やっと動き始めた。
永遠を最も恐れていたのは、結局自分で、それを認めたくないがゆえに、彼女は
決意という重すぎる錨を沈めることで、流れゆく時の波ををただ眺めていた。
しかし、やっとその錨を上げる時がきた。
それは、過去の決意を裏切るようで、辛くないと言えば嘘になるが、その先の可能性を
信じたくなったのだ。
たしかに、永遠を生きることは孤独だ。しかし、永遠は瞬間の連続ではないか。
大切な人を通して自分を見つめることができた彼女には、そんな思いすら湧いてきた。
そして、その瞬間の中で、今見つけたのだ、彼女が生きる証を。
それは、勘違いかも知れない。現実は、きっともっと残酷だろう。
しかし、その夜のケイにはそんなことを考えるのもばかばかしかった。
- 121 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月09日(火)20時50分57秒
- 今ごろになって第一章から全て読まさていただきました。
小説で戦闘シーンなどを表現するのは容易ではないことだと思いますが、
この作品ではそれが逆に「武器」になっている様にすら感じます。
これからも読まさせていただきます。頑張って下さい。
長レススマソ。
- 122 名前:なつめ 投稿日:2002年07月12日(金)00時17分09秒
- >121
ありがとうございます。
長いものを書いていくと、最初から読んでくださっている方以外は
なかなか読み始めてくれないのでは、という危機感があったので
121さんのような方が出てきてくださると、とても嬉しいです。
- 123 名前:F.Q. 第2章 (063) 投稿日:2002年07月12日(金)00時18分49秒
- 翌日。今回の作戦出発の朝。
ケイの心は昨夜大きな重荷を降ろしたことで、その日の天気のように晴れ晴れと……
していなかった。
「ちょっと!何で私の荷物が3人分なのよ!」
「だって、エイビックまでの道がこんな山道だって知らなかったんだもん。」
「ちゃんと地図見てりゃ分かったことでしょ。」
「……苦手。」
と、言うわけで、真昼のヴァンパイアは、非力な二人の荷物を抱えて、
道なき道を進むのであった。
- 124 名前:F.Q. 第2章 (064) 投稿日:2002年07月12日(金)00時19分22秒
- エイビックの村は、オウティークがある半島から南東に約120km。
天然の要塞となっているオウティーク南の森を飛空挺で越えた後は、エイムの首都と
反対方向へ陸路。ただし、村までは現在彼女たちが越えようとしている
険しい山がある。
それゆえ、大軍での進行は困難なうえ、もともとたいした資源も持っていないため、
これまでは、王国を含めたあらゆる勢力の侵略をまぬがれていた。
しかし、その平和なはずの村からの定期連絡が途絶えたのが、1ヶ月前。
時期としては、マキたち四人がエイム国軍の国境を襲撃したころと重なる。
まあ、おそらくは無関係だろうが、あまり気持ちの良い話ではないということで、
このところ大きな任務が続いていた彼女たちをねぎらう意味も込めて、
このちょっとした遠足が言い渡されたのだった。
- 125 名前:F.Q. 第2章 (065) 投稿日:2002年07月12日(金)00時20分46秒
- 「あれですか?」
山道の後、小さな林を抜けるとそこは、草花に覆われた小高い丘になっていた。
そして、アイが声を弾ませながら指差すその先には、小さな教会を中心にした
小さな村が村が広がっている。
「そうよ!」
暖かな日差しの下で、気持ちよさそうに汗をにじませる三人の後ろからは、
大きな荷物の塊となったケイが、半分やけくその大声でアイに応える。
確かにそこは、ケイが生まれ、あの事件が起こるまでを過ごした村だった。
何十年という月日が流れ、本当に小さかった集落は、そのころと比べるとほんの少し
大きくなっていた。しかし、それでも村唯一の教会は、あのころと変わらぬ姿で
彼女を出迎えていた。
- 126 名前:F.Q. 第2章 (066) 投稿日:2002年07月12日(金)00時21分20秒
- 「さあ、行きましょう。」
言いながら、リカはすでに丘を下り始めていた。
別に急ぐ必要はないのだが、村を見下ろすケイの横顔に感じた嫌な予感が、
無意識に彼女に大声を出させた。
「ほーい。」
しかし、久しぶりの休暇(?)を楽しそうに過ごすアイとマキを見ていると、
それがただの杞憂のような気もしてくる。
- 127 名前:F.Q. 第2章 (067) 投稿日:2002年07月12日(金)00時22分00秒
- こんな時、リカは、つくづくこのパーティのバランスの良さを感じる。
誰か一人が特別優しいわけではない、また、誰か一人が思慮深いわけでもない。
ただ、誰かに何かが足りないときは、無意識にそれをほかの誰かが補完してくれる。
ほかにもパーティを組んだ経験はあるが、こんな天然に息の合ったパーティは
初めてだった。
だからこそ、今ここにいない人のことを想う。
リカにとって、いや、リカ以外の三人にとってもミチヨとヨッスィを加えてこその
パーティ。その想いは今も変わらない。
- 128 名前:F.Q. 第2章 (068) 投稿日:2002年07月12日(金)00時22分43秒
- 「おかしいですね。」
リカが今ここにいない二人のことを考えているうちに、一行は村の入り口に
到着していた。
しかし、アイの言うとおり村は違和感に包まれていた。
通りには人影はなく、建物の中からも人の気配はまったく感じられない。
風が吹くたびに通りに砂埃が舞い上がるさまは、まさにゴーストタウンだった。
「襲撃されたって感じでもないわね。」
しかし、ケイの言うとおり、建物や村の施設には大きな破損は見当たらない。また、
田畑の放置具合から、この異変は最近のことのようだ。
- 129 名前:F.Q. 第2章 (069) 投稿日:2002年07月12日(金)00時23分29秒
- 「じゃあ、私とごっちん、それからそっちの二人に別れて情報収集といきますか。
集合は、丘から見えた教会の前ね。」
「時間は1時間くらいですね。」
アイの荷物を受け取り、路地に消えていく二人を見送ると、ケイとマキも人気のない家々を一軒ずつ見て回った。
しかし、案の定というべきか、住民を見つけることはできず、また、時間とともに
謎は深まるばかりだった。
と、いうのも、どの家も引っ越した後という感じではなく、むしろ、ついさっきまで
そこに人がいたような痕跡を残しているのだ。
- 130 名前:F.Q. 第2章 (070) 投稿日:2002年07月12日(金)00時24分13秒
- 「この様子だと、朝ごはんくらいの時間にみんな一斉に連れ去られたみたいだね。」
腐食によるひどい匂いのため、ローブの袖で口元を押さえながらマキが
指差すテーブルには、パンとスープだったと思われる物体が、3人分並べられていた。
父と母、そして子供だろう。この家族に一体何が起こったのか。
そして、村の人々はどこへ消えたのか。
謎を抱えたまま合流地点に向かった二人だが、もう一組の方も同じような状況で、
結局翌日以降の課題も見つかぬまま、その日は終わろうとしていた。
- 131 名前:F.Q. 第2章 (071) 投稿日:2002年07月12日(金)00時24分59秒
- 「忽然と姿を消した村人たち……やっぱり何者かに襲われたんでしょうか?」
教会の暖炉を囲みながら、野営用の簡単な食事を取る四人。しかし、あの後も村中を
探索したが、情報交換ができるほどの情報は集まらなかった。
「それはどうかな。」
きわめて少ない情報からのアイの推測を、間髪入れずに否定したのは、リカだった。
元シスターというだけあって、野営をするために入ったこの教会での彼女は、
普段とはどこか違う雰囲気をかもし出していた。
いつもよりも優しく、しかし、どこか悲しげな微笑が印象的だった。
- 132 名前:F.Q. 第2章 (072) 投稿日:2002年07月12日(金)00時25分42秒
- 「もし仮にこの村でジェノサイドがあったとして、死体は?
少なくとも50人からの死体をどうやって処分したの?そんな痕跡は
なかったはずでしょ。」
この不自然な失踪劇を分析するとき、確かにケイもマキもアイ同様に何者かによる
襲撃説を一度は考えた。しかし、それではリカの言うようにその死体の行方が
説明できないのだ。
襲撃者がわざわざ村人の死体を運び出し、遠く離れた場所で処分するだろうか。
それはかなり不自然な推測だ。しかし、もし仮にそうだとして、目的は?
- 133 名前:F.Q. 第2章 (073) 投稿日:2002年07月12日(金)00時26分56秒
- 考えに行き詰まり、再び四人の間に長い沈黙が漂う。
しかし、その中にあって、ケイだけは、フラッシュバックする風景と一つの推論を
振り払おうと必死だった。
村人の突然の失踪、無人の民家で感じた食べ物以外の腐臭、そして、
唯一腐臭が漂っていない建物は教会。
これらの状況はあまりに酷似している。
しかし、ケイはそれらの点が一本の線になることを必死に否定しようとしていた。
(あいつは確かに私がこの手で……)
封呪によって、ヒューマンのそれとまったく変わらぬ、自らの手のひらを見つめると、
決して忘れえぬ記憶を握りつぶすようにきつくこぶしを握る。
しかし、風はあの夜と変わらぬ香りを運び、ケイの記憶を彼女の意思とは関係なく
呼び起こす。
- 134 名前:F.Q. 第2章 (074) 投稿日:2002年07月12日(金)00時27分35秒
- ケイが、悪夢を振り払うように、目を閉じ教会の薄暗い天井を仰いだその時だった。
「声?」
最初は狼の遠吠えかとも思ったが、その声はもっと低く、なにか危険な響きを
含んでいた。
アイとマキを後衛に置き、四人が身構える。
が、声の主は姿を現さない。
気配からして、相手の数はそう多くはない。また、夜の戦闘である以上、ケイを
擁する四人には相当のことがない以上分がある。
陣形を守りながら、教会の出口に向かい、ケイが音もなく扉を開ける。
- 135 名前:F.Q. 第2章 (075) 投稿日:2002年07月12日(金)00時28分05秒
- 「らぁー!」
5cmほど開いた扉の向こうに敵の姿を捉えたリカが、教会の床が抜けんばかりの
飛び出しで襲い掛かる。
完全に敵の虚をついた形になったが、敵もさる者。飛び出しのタイミングが
分かっていたかのような正拳をリカめがけて突き出す。
2m近い体躯から振り下ろされる拳は、タイミング、スピード共に完全にリカの顔面を
捉えていた。扉が完全に開いた瞬間、その様子が飛び込んできたアイとマキが、
思わず役割も忘れて目をきつく瞑ってしまうほど絶望的なカウンターだった。
- 136 名前:F.Q. 第2章 (076) 投稿日:2002年07月12日(金)00時29分44秒
- しかし、衝撃音はリカの顔面からではなく、大男のあごから響き渡った。
相手の正拳を見とめるや、更に加速して一気に懐に飛び込んだリカは、あごに
掌底を、そして、膝をつきそうになる男のわき腹に強烈な蹴りを叩き込んだ。
ほとんど一つにしか聞こえなかった衝撃音と一緒に、骨が砕ける鈍い音が響いた。
(まったく、これで病み上がりだって言うんだからおそろしいわね。)
久しぶりにリカによる"犠牲者"を目の当たりにしたケイが男に同情して
近づこうとする、しかし、すぐに再び臨戦態勢を整え、後ろの二人に注意を促す。
そして、その異変に最も間近で気付いたリカの背中にも冷たいものがはしる。
リカの経験上、完全にあごを砕いて、アバラを叩き折った敵が
再び何事もなかったように立ち上がることなどなかった。
- 137 名前:F.Q. 第2章 (077) 投稿日:2002年07月12日(金)00時30分40秒
- 「グール……」
苦虫を噛み潰すような顔で、ケイがはき捨てたその単語には、その場の誰もが
聞き覚えがあった。
生ける屍、操られる死体。呼び名はさまざまだが、彼らの特徴はその魂をもたない体と
強靭な肉体、そして、今月明かりの下に浮かび上がったような腐食による醜い姿だ。
彼らの行動原理は、ほとんどが生への怨嗟による。そのため、
生ける者はすべて襲い、自らの肉体が滅ぶまでそれは続く。
「厄介な“人"が出てきましたね。」
「どうりで教会だけ臭くなかったはずだね。」
知識では知っていても、アイもマキもアンデットのモンスターとの戦闘経験はない。
軽口を叩きながらも、対処法が分からない二人に余裕はなかった。
- 138 名前:F.Q. 第2章 (078) 投稿日:2002年07月12日(金)00時31分31秒
- 「グールの弱点はね……」
そして、それはリカとて同じこと。
未知の敵に対して、手をこまねく三人を尻目に、解説しながらケイが抜いたのは、
刺突用のダガーだった。
咆哮をあげるグールをよそに、担ぐようにしてそれをゆっくりと構える。
闇に生を受けた者同士の戦いは、やはり闇の下で決する。
月が一瞬雲に隠れ、つかの間の暗闇が辺りを覆ったその時、怒りの形相で襲い掛かる
グールめがけて、ダガーを力いっぱい投げつけた。
「……かつて脳だった部分の破壊よ。」
表情を変えることなく、一連の作業を終えると、あっけにとられる三人に、
教会に入るように促した。
「話さないといけないことが増えたみたいね。」
- 139 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月12日(金)01時07分55秒
- 今回の更新もすんばらしい。
パーティに無駄がまったくない上に戦闘シーンの緊迫感が素晴らしい。
このテンションの持続はかなり難しいのでしょうががんがっておくんなはれ。
- 140 名前:ナイト 投稿日:2002年07月12日(金)22時01分46秒
- すばらすぃ〜〜〜〜〜〜〜!
- 141 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月14日(日)15時33分58秒
- マジで今一番熱くオモロイ小説だー!!
- 142 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月28日(日)19時41分52秒
- 期待age
- 143 名前:ケイ 投稿日:2002年07月30日(火)14時34分53秒
- 面白いですね。初めから2日かけて読ませて貰いました。
作者さんの知識とくどすぎない確かな描写力、無駄のない展開が
素晴らしいです。しっかりとしたプロットを制作されてから
執筆されてるのでしょうね。
みっちゃんがいなくなってコメディパートを担当する人が
いなくなったのはちょっと残念ですが(笑)。
続き期待しています。
- 144 名前:なつめ 投稿日:2002年08月01日(木)23時57分09秒
- >139 いつもありがとうございます、読み続けてくださる方がいると分かり、
励みになっています。
>140 ありがとうございます。ご自身の自スレもがんばってください。
>141 個人的には、私なんかよりも面白い作品を書いておられる方は
たくさんいると思っていますが、そういってくださるのは、とても嬉しいです。
>142 期待していただいて、嬉しいです。
ただ、レスを頂いてこういったことを言うのは気が引けるのですが、
この板のほかの作者さんたちに申し訳ないので、レスはできればsageて
いただけると助かります。やはり、がんばって更新した後はできるだけ
上にある方が嬉しいものですから。
更新は遅くても、決して放置はしませんから。
>143 休み入った方が多い為か、こうして新たに読み始めてくださる方が
また出てきてくださって、「がんばらねば!」という気になります。
ありがとうございます。
- 145 名前:なつめ 投稿日:2002年08月02日(金)00時18分08秒
- レスをくださった皆様、本当に感謝しています。
読者さんの感想は、書き手として何よりの栄養源です。
このところ本業に追われて、また更新が滞り、申し訳ありません。
それでも、少しずつですが、書き溜め、できるだけ早くまとまった形にしようと
していますので、どうか広い心でご容赦ください。
また、ご報告までに。
れいのハロプロを巡る出来事に関して、それが原因で更新を止めるという
ことは、現在のところ考えていません。
ただ、少しばかりテンションが落ちていることも確かなので、もうしばらく
時間を下さい。
最近書いた短編です。よければ暇つぶしにでも(そんな気分じゃないと思いますが(w )
「嵐の後で」
ttp://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/dream/1027523725/2-27
「深い海に咲く花」
ttp://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/event/1028030432/
- 146 名前:ケイ 投稿日:2002年08月02日(金)13時11分38秒
- >休み入った方が多い為
あは(^^;
僕は不良会社員で仕事中に読ませて貰ったんですけどね(爆)。
>テンションが落ちている
ゆっくり待ちます。
- 147 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)02時09分05秒
- 一気読みしました。
タイトルと紹介文の印象だけで敬遠していたのですが、
読み始めたら一気にはまりました。
次回の更新をマターリ待ちたいと思います
- 148 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)20時04分34秒
- 短編も読みました。お互いのカップリングに合ったストーリーだと思いました。
なんかよっすぃーは動・赤、カオリは静・青って感じが自分の中でするので。
でも相対的な話に見えて愛と言う形で繋がってるんじゃないかと思いました。
次回の更新も楽しみにお待ちしております。
- 149 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月05日(月)18時53分50秒
- 生暖かくマターリとお待ちしますんで
頑張ってね
- 150 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月17日(土)04時35分12秒
- 更新待ち保全
- 151 名前:名無しヴァンパイア 投稿日:2002年08月28日(水)22時51分53秒
- ゆきどん誕生日保全
- 152 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月04日(水)22時19分13秒
- (・e・)ノ<ここまで読んだ…ラブラブ
- 153 名前:ななし 投稿日:2002年09月23日(月)16時56分08秒
- 保全
- 154 名前:なつめ 投稿日:2002年10月02日(水)00時53分11秒
- 長らくスイマセンでした。
言い訳はしません、できる限りで更新していきます。
- 155 名前:F.Q. 第2章 (079) 投稿日:2002年10月02日(水)00時54分55秒
- 再び薄暗い教会の中、神妙な面持ちの三人とは対照的に、すべてを話すことを
決意したケイは、すっかり普段の落ち着きを取り戻していた。
「私がこの村で過ごしたのは、18まで。
母一人、子一人の慎ましい、極人間らしい生活だったわ。」
フウと一つため息をつくと、「幸せだったのよ。」そう言わんばかりの
微笑を浮かべながら続けた。
「その日はね、自警団の訓練を兼ねた猟の日だった。自警団って言っても
本当にこのあたりは平和そのものだったから、メインは猟なんだけどね。」
そう言って当時を思い出したのか、本当に楽しそうに話すケイにつられるように、
アイが、それに続いてマキの顔にも笑顔が戻り始めた。
- 156 名前:F.Q. 第2章 (080) 投稿日:2002年10月02日(水)00時56分17秒
- 「でね、私と私の一番の友達だった子の二人で大きな猪を見つけて、
それはもう必死に追いかけたのよ。
私は弓で、彼女は槍で。彼女は、村一番、いえ、もしかしたら世界一の
槍の使い手だったんじゃないかって今でも信じてる。
だから、そんな二人から逃げ切ったあの時の猪はきっと只者じゃなかったね。」
珍しくケイが冗談を言ったことで、最後まで緊張した面持ちだったリカまでもが、
いつの間にかケイの話を笑顔を浮かべて聞いていた。
しかし、一拍おいて話を再開したケイのトーンの変化は、そんな空気を静かに、
そして、確かに一変させた。
「けどね、本当の不幸はその後だった……
――――――
- 157 名前:F.Q. 第2章 (081) 投稿日:2002年10月02日(水)00時57分33秒
- 「クッソォ、あの猪今度見つけたらただじゃおかないから!」
「コラ、サヤカはまたそうやって汚い言葉使う。」
自警団のみんなとわざわざ別行動を取ってまで追いかけた大物を、
あと少しというところで取り逃がした若き狩人たちの足取りは重かった。
追跡1時間、戦闘半時間、気が付けば村から15kmも離れた場所まで来ていた。
これだけの距離を獲物も持たずに帰るのは非常に辛い。
「いっつも思うんだけどさ。」
「何?」
道も半ばに来たころ、前をずんずん行くパートナーにケイが声をかける。
それほど暑くない季節とはいえ、これだけの距離の山道を歩けば、
二人の背中にもじんわりと汗がにじんでいた。
- 158 名前:F.Q. 第2章 (082) 投稿日:2002年10月02日(水)00時58分32秒
- 「サヤカのその槍、本当に凄いよね。王国軍とかに志願する気ないの?
サヤカだったらきっと親衛隊にも入れるよ。」
どこかの誰かさんが聞いたら、きっと誠心誠意引き止めたであろうケイの提案だが、
当時のケイたちにとってみれば、「王国軍=強い」程度のイメージしかったのだから、
至極当然の提案だった。
それというのも、ケイのパートナー、サヤカと呼ばれた少女にかなう人間は、
大人も含めてエイビックには誰もおらず、特にその槍さばきは、近隣の街でも
噂になるほどだった。
「う〜ん。パス。
だって、軍って戦うのが仕事でしょ、そんなのおかしいじゃん。戦いって言うのは
自分が、守ったり、手に入れるためだから許されるんでしょ。誰かに言われて
それやるのは嫌だな。」
「うん。そう言うと思った。」
「なら聞くなよ。」
物心付いたころから、なぜか不思議なくらい気が合った二人。
だから、この村のことを大好きなサヤカがこう応えることは、ケイには
手に取るように分かっていた。しかし、それでもこんな時間がこれからも
続くことをたまには確認したかったのだ。
- 159 名前:F.Q. 第2章 (083) 投稿日:2002年10月02日(水)00時59分33秒
- 「なんかおかしくない?」
ようやく村が見える丘に到着したサヤカが、先に異変に気付いた。
村のあちこちから煙が上がっているのに、まるで人の気配がない。野焼きの季節には
早すぎる。
「急ごう!」
転がるように丘を下り、一目散に村の入口を目指す。
5分とかからないはずの距離がいやに長く感じ、胸の中を悪い想像が駆け巡る。
はたして、予感は的中した。
立ち込める黒煙と熱風、そして、時おり建物が崩れる音が響く。
「何、何があって言うの?!」
いつも冷静なサヤカがヒステリックに叫ぶが、それに応える声はない。
「落ち着こう、ね、落ち着こう。」
同じことを繰り返すだけで、ケイとて、もちろん冷静ではいられない。
生存者を探さなくては。
数時間前までは、想像すらしなかった惨劇を前に、込みあげる恐怖を
必死に振り払おうとする。
- 160 名前:F.Q. 第2章 (084) 投稿日:2002年10月02日(水)01時00分21秒
- しかし、混乱する二人の上に、現実という残酷な刃が振りおろされる。
「誰……ですか?」
近づいてくるのは確かに見覚えがある人影。しかし、ケイは、声にならない声を
発するのが精一杯だった。
不安と恐怖。そして、想像を超えた悲劇の予感。それらが、のどを締め付ける。
「……やるよ。」
今日の朝まで彼女は村の仲間だった。
陽気に笑い、働き者で、年頃の男の子と話す時にはちょっと声が上ずってしまう。
しかし、それも愛嬌。そんな彼女が、サヤカもケイも大好きだった。
「そんな、嫌だよ。」
千鳥足で、牙をむきながら迫る人影。
それを敵として認識したサヤカと認めきれないケイ。二人の間に差はない。そう、
これは人としての葛藤であり、どちらも正しいし、どちらも正しくない。
- 161 名前:F.Q. 第2章 (085) 投稿日:2002年10月02日(水)01時01分31秒
- 「許してとは言わない。」
静かにつぶやき、ギリリと歯を食いしばると、ケイの前をサヤカは一気に駆け出した。
「ヤメテェ!」
無人の村に、ケイの声がこだまする。
が、その叫びも振り下ろされた槍によってかき消される。
「戦いは、自分を守るため……」
紅い血で染まる槍をぼんやりと見下ろしながら、悲しき勝者はつぶやく。
- 162 名前:F.Q. 第2章 (086) 投稿日:2002年10月02日(水)01時02分43秒
- あれから何人の村人、いや、元村人たちをなぎ倒しただろうか、
サヤカの後を懸命に走りながら、ふとそんなことを思う。
「いい、さっきも言ったとおり、グールの弱点は脳。そして、マスター。
どっかにいるはずのネクロマンサーを倒せば、この悲劇も終わる。」
サヤカの言葉で我に返ると、いつの間にか汗はすっかり引いていた。
あれだけ体中を支配していた恐怖は、いまや怒りに変わり、そのすべては
この馬鹿げた惨劇を引き起こしたまだ見ぬ主催者に向けられていた。
- 163 名前:F.Q. 第2章 (087) 投稿日:2002年10月02日(水)01時03分31秒
- 「……教会。」
闇雲に走り回り、幾つめかの角を曲がった時、後ろを走るケイがポツリと呟いた。
グール、ネクロマンサー。共に闇生きる彼らは、決して聖なる存在と相容れない。
つまり、この村で彼らが唯一恐れ、忌む場所があるとすればそれは、
教会に他ならない。
「それだ!」
ケイの言葉を聞くが早いか、サヤカは走ってきた路地を引き返し、村の中心目指して
駆け出した。
しかし、その間にも不幸な遭遇は続いた。
かつての友、師、知人……近親者がいなかったことがせめてもの救いだったが、
それでも彼らの頭部めがけて槍を振るうことは、吐き気を通り越して、
気を失いそうだった。
- 164 名前:F.Q. 第2章 (088) 投稿日:2002年10月02日(水)01時04分22秒
- 手を血に染め、屍を越えて、最後の辻を抜けたところに敵はいた。
闇の色をしたローブからわずかに覗く部位は、その不気味なローブや装飾品以上に
彼の薄気味悪さを引き立たせていた。
赤茶けた肩まで伸ばした髪に、痩せこけた頬と手、何がおかしいのか先ほどから
浮かべたままの薄笑い。
「お前が……お前なのかぁ!」
敵は何も語ろうとせず、相変わらずの薄ら笑いを浮かべるばかりだが、
サヤカにはその直感で十分だった。
限界を超えた怒りのために、短めに整えた髪がふわりと浮き上がる。
「おのれぇ!」
振り上げた槍が唸りをあげる。その音は、ケイが聞いたどの音よりも激しく、
そして、悲しかった。
しかし、敵の額めがけて打ち下ろした槍は、虚しく空を切る。
- 165 名前:F.Q. 第2章 (089) 投稿日:2002年10月02日(水)01時05分13秒
- 「乱暴だな。僕は、そういうのは嫌いなんだ。」
サヤカ、ケイ、四つの目を持ってしてもその動きは捉えられなかった。
気付いたのは、敵を見失い、狼狽するサヤカが宙を舞ってからだった。
その細い体のどこにそれほどの力があるのか、敵は、サヤカの背後に回ると、
片腕で首から一気に引き抜くようにして、投げ飛ばした。
「それに僕が用があるのは君じゃない。」
そう言って男が光のない瞳で見つめる先には、恐怖で歪んだケイの顔があった。
「僕は、あなたの力がほしいんだ。」
恋の告白のように、照れくさそうにそう言いながら、男は倒れるサヤカの顔面を
踏みにじる。
- 166 名前:F.Q. 第2章 (090) 投稿日:2002年10月02日(水)01時06分05秒
- (狂ってる)
じりじりと後ずさるケイ。しかし、そんなことはまったく気にする様子もなく、
男は続ける。
「僕は君がうらやましいなぁ。だって、ほら君はエリートじゃないか。
ホッター家って言えば優秀なヴァンパイア一族。それに比べて僕のオムロ家なんて、
たかだか死人使いの末端だものね。」
「ヴァンパイア……何を言ってるの?
それに私ホッターなんて知らない、私の名前はケイ=ヤスダよ。」
サヤカを踏み越え、更に男がケイに迫る。しかし、ケイの足は尋常ではないものに
対する恐怖と混乱でその働きを成そうとはしない。
「さあ、おいでよ。」
骸骨のような手を差し出して、ケイの首筋を掴もうと男の手が伸びる。
しかし、その瞬間、ケイの視界から男が消えた。
- 167 名前:F.Q. 第2章 (091) 投稿日:2002年10月02日(水)01時07分20秒
- 「今のうちに、教会の中へ!」
肩から胸へと貫通する槍の一突き。男の背後から飛び掛ったサヤカが全体重を
かけて突き刺した一撃は、普通ならば致命傷だ。
しかし、それが単なる足止めにしかならないことを、サヤカ自身が
その手ごたえからはっきりと感じていた。
「痛いじゃないかぁ!
よくも、よくも……お前は絶対に許さないから!」
「早く!教会へ!」
男を押さえ込もうとするサヤカ、そのサヤカごと立ち上がろうとする敵。
力の差は歴然だった。
立ち上がると同時にサヤカを振り落とすと、その細身の体からは
信じられないほど強烈な蹴りを、うずくまるサヤカの後頭部に見舞う。
- 168 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月02日(水)18時56分34秒
- 市井が槍使いってのがすげー似合ってる。
更新大変かもしれませんが、ゆっくり頑張って下さい。
- 169 名前:名無し 投稿日:2002年10月03日(木)12時31分37秒
- 市井がついに出てきたと思ったらイキナリピンチ!
マターリお待ちしてますのでガンガッテください。
- 170 名前:ギャンタンク 投稿日:2002年10月03日(木)23時27分58秒
- お待ちしてました。
- 171 名前:娘。 投稿日:2002年10月05日(土)12時16分03秒
- マッテタヨ(・∀・)
- 172 名前:ケイ 投稿日:2002年10月09日(水)10時45分48秒
- 待ってました!
- 173 名前:読者 投稿日:2002年10月16日(水)22時23分27秒
- ほぞむ
- 174 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月17日(木)04時04分58秒
- 市井はどうなるんか、気になる・・・。
- 175 名前:名無し 投稿日:2002年10月24日(木)09時49分29秒
- 更新きてた━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
うれしくて読む前にカキコ
- 176 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月18日(月)15時53分22秒
- 平家「ごとー!この小説、保全しとって。」
後藤「はーい・・・うーんと・・・・・・“左遷”・・・っと。平家さーん、終わったよー!」
平家「左遷してどないすんねんっ!!“ん”しか合うてへんやないかいっ!!」
中澤「後藤に任せるんが間違いやっちゅーねん。“佐世保”っと。みっちゃーん、出来たでー」
平家「“させ”にあわせてどないすんねんっっ!!」
- 177 名前:名無し 投稿日:2002年12月01日(日)14時23分12秒
- 放置っすか・・・。
- 178 名前:一読者 投稿日:2002年12月12日(木)13時09分59秒
- 保
- 179 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月31日(火)20時27分10秒
- 落ちる!!
保全あげじゃ!!
- 180 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月12日(日)13時04分40秒
- 保
- 181 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月26日(日)04時48分39秒
- うがあああっ
なんでこんなオモロイの今日まで見逃してたんだ。
放置の雰囲気に涙ながら保全。
- 182 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月31日(金)20時40分00秒
- 泣くな作者さんは帰ってくるから信じて保全
- 183 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月09日(日)20時57分47秒
- ho
- 184 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月18日(火)00時03分52秒
- やべーから保全
- 185 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月18日(火)00時04分23秒
- やべーから保全
- 186 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月27日(木)13時31分11秒
- ho
- 187 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月06日(木)11時45分06秒
- お願いします(T_T) 続きを書いて下さい!!放置だけはしないでぇ〜
というわけで、保全です。
- 188 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月18日(火)01時15分02秒
- ze
- 189 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月28日(金)23時53分19秒
- n
- 190 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月04日(金)22時59分38秒
- ho
- 191 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月15日(火)18時52分53秒
- ze
- 192 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月24日(木)00時10分17秒
- n
- 193 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月02日(金)23時33分05秒
- それでも保全
- 194 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月08日(木)01時10分27秒
- 生存は絶望的なようです。
- 195 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月20日(火)01時02分40秒
- それでも保全
- 196 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月05日(木)20時00分54秒
- ho
- 197 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月08日(日)23時32分00秒
- ho
- 198 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月13日(金)00時20分22秒
- ho
- 199 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月15日(日)23時34分08秒
- ho
- 200 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月01日(火)00時36分23秒
- ze
- 201 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月03日(木)06時28分15秒
- こんなに面白いのにもったいないなー
- 202 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月22日(火)00時50分41秒
- ゔ
- 203 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月07日(木)16時30分59秒
- hosem
- 204 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月26日(火)03時56分24秒
- hozen
- 205 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月06日(土)00時55分33秒
- もうだめぽ?
- 206 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月06日(土)01時58分10秒
- もうだめっしょ。といいながらまめにチェックしてる自分が嫌いだ。
- 207 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/12(金) 18:58
- 今日はじめて一気に読みました。
めっちゃおもろいです。
気長にまちますので作者さんよろしくお願いします。
- 208 名前:F.Q. 第2章 (092) 投稿日:2003/09/16(火) 01:35
- ――――――
「そこで勝負は、ついてたのよ。
あんたのお陰で骨の折れる音は聞き飽きてるけど、あの時の嫌な音だけはいまだに
鼓膜にへばりついてるわ。」
話に聞き入っていたリカは、ケイの嫌味に苦笑いを返す余裕すらなかった。それは、
他の二人も同じで初めて聞く彼女の過去、それも凄惨な思い出話に言葉を失っていた。
「けど、どうしてそのオムロってネクロマンサーはこんな何もない村を襲ったの?」
訊きたいことは他にもたくさんあった。しかし、マキがようやく
口に出すことができた言葉は、その中でも特に無難なものだった。
「そう、のどかで何もない村だったのにね。
けど、奴にとってはどうしても欲しいものがあったの、ほんとつまないもの。」
――――――
- 209 名前:F.Q. 第2章 (093) 投稿日:2003/09/16(火) 01:37
- どれくらいの時間が経っただろうか。
薄暗い教会には、苛立ちをぶつけるようにオムロが扉をけり続ける音だけが響いている。
その重低音の一つ一つがケイの胸に重く響く。うずくまるケイの脳裏には、
サヤカの最期の姿だけがまるで壊れたビデオテープのように
何度も繰り返し映し出されていた。
見殺しにした。
罪悪感で口の中がカラカラだ。
「いいから…」言葉にならない思いを訴える友の最期の目が、サヤカの意思とは裏腹に
ケイを責め立てる。
いっそこのままフラフラと外へと出て行こうか。深い悲しみは絶望へと姿を変え、
ケイを甘美に誘う。
しかし、死神が耳元でささやいたその時、もう一人ケイを呼ぶ声がした。
それはとても微かで、しかし、はっきりとした響きを持っていた。
- 210 名前:F.Q. 第2章 (094) 投稿日:2003/09/16(火) 01:38
- 「力が欲しい?」
欲しかった。サヤカの敵を討つため、そんな奇麗事ではなくただ扉の向こうにいる
赤茶けた頭の男をぶちのめしたかった。
「誰!?」
しかし、無人の教会にはその呼びかけに応える者はなく、その代わりに今度は
もっとはっきりと声がした。ケイの頭の中で。
「あげるよ。あんな奴まばたきする間に消し炭にできる力をね。」
「誰?なんなの?」
姿の見えない声の主に叫ぶように問いかける。自分でも声が上ずっているのが分かる。
ショックで自分の頭がおかしくなったのか。
いや違う、ケイは確かにその声を知っていた。昔々、それがいつのことか
分からないくらい昔に聞いた声。懐かしく、しかし、震えそうなほど危険な響き。
- 211 名前:F.Q. 第2章 (095) 投稿日:2003/09/16(火) 01:39
- 「私はあなた。あなたの血の一部。
私を迎える?それともあなたはあなたの時間を生きる?
決めるのはあなた。」
静かな囁きは、徐々にケイの中にしみこんでいく。そして、ケイは彼女の言葉を
頭ではない、もっとどこか深いところで理解し始める。いや、思い出すといった方が
正確かもしれない。
それは、飼われている犬が突如として凶暴になるのに似ている。
幸か不幸か彼らはある日突然思い出してしまうのだ、獣としての本能を、
そして自らの本当の姿を。
- 212 名前:F.Q. 第2章 (096) 投稿日:2003/09/16(火) 01:40
- 『力が欲しい。強い力が』
悲しみ、絶望感、憎しみ、怒り。そんな感情のうわずみではなくて、
心の海底に渦巻く願い。それがケイにとってのスイッチだった。
不純物のない願いは理性の下に隠れ、目覚めるはずのなかったもう一人のケイを
呼び寄せた。
その存在をさっきよりもはっきりと感じ始める。胸から下腹部にかけて、
そこに“ある”塊。それは熱く、しかしまったく生き物の匂いを感じさせない。
誰に習ったわけでもないが、ケイには確信があった。
体の奥からくるこの熱い塊を解き放てば、彼女の言うように表の敵を倒せる。
- 213 名前:F.Q. 第2章 (097) 投稿日:2003/09/16(火) 01:44
- しかし、同時に分かっている。
もしそれを手にしたら、たくさんの大切なものを失うだろう。
なぜなら彼女はケイやサヤカと同じ人間ではない、おそらく存在はあっても
生き物ですらないだろう。
そんなものを手に入れるということは、これから先母親や村の人々、
そしてサヤカのような大切な友。そんなかけがえがない、命をかけても守りたいと
思えるような人たちと出会うことがあっても、その時かけるべき命はないということだ。
時の流れに取り残され、人を愛する事が許されない人生に
どれほどの価値があるだろうか。
いっそ彼女を拒絶し、ここで果てることこそ人としての幸せなのかもしれない。
- 214 名前:F.Q. 第2章 (098) 投稿日:2003/09/16(火) 01:48
- 「遥か昔一人の大馬鹿者がいたの。自らのすべてを捧げ、莫大な犠牲と引き換えに
人として生きることを選んだヴァンパイアの真祖。
もうあなたも気付いてると思うけど、それがあなたの祖先。 そして、
私は彼が残した力。
どうする?私を受け入れて力を手に入れるか、卑しいネクロマンサーに
私ごと命をプレゼントするか。まあ、あの下品君に私を受け入れられるだけの
素養があるとも思えないけどね。」
嘲笑の対象が敵ではなくて、こんな状況になってもなお、彼女を受け入れる事を
悩んでいる自分のような気がした。
ふっと湧いた怒りは素朴な疑問となり、ケイの心を傾ける。
「私には素養があるっていうの?」
「あるわ。素養のない者には宿らない。あなたの前の宿木はちょっと力不足で
壊れちゃったけど、あなたは大丈夫。今までの血を継ぐ者の中でもピカイチ。
あとはあなた次第。さあ、どうする?」
- 215 名前:F.Q. 第2章 (099) 投稿日:2003/09/16(火) 01:49
- 心の中の声がそう言い終わると同時に、教会の扉が音を立てて飛散する。
「解けた!解けたよ、なんて頑固な結界。だから古い街は嫌いさ、信仰心が強いって言うの?まったく不愉快だよ。」
胸を掻き毟りたくなるような不愉快な笑い声だが、ケイの耳には届かなかった。
扉の向こうを見つめるケイ。
迷いは消えた。突き上げるような怒りに体中が支配されていく。
土ぼこりの中から現れた下卑た笑顔、そして、その傍らに横たわる無残な友の姿。
今も目を閉じればはっきりと思い出すことができる、あのはじけるような笑顔。
しかし、血と泥にまみれたその姿には、かつての太陽のような面影はもうない。
(なにが『ここで果てる事こそ人としての幸せ』だ。そんなものがもし人間らしい生き方なら……私はそんなものいらない。)
「いいよ。あなたを受け入れる。」
怒りは絶望を超越する。
つぶやくような声に込められた決意は、声とは比べ物にならないほど悲しかった。
- 216 名前:F.Q. 第2章 (100) 投稿日:2003/09/16(火) 01:50
- 「後悔しないね。」
「いいよ、来なさい。」
「何を一人でぶつぶつ言ってるんだよ。」
無防備に近づこうとしたオムロの足が自然に止まった。
死人使いといえ彼も生き物。本能は肉体を越え、意思とは無関係に体の自由を奪う。
弱者が強者に抱く危機と恐怖が一定のラインを超えた瞬間だった。
音を立てて奥歯を鳴らすオムロの目の前で、ケイは初めてのメタモルフォーゼを
味わっていた。こみ上げる熱に身を任せ、みなぎる力を徐々に身に纏う。
あふれる霊気が蒸気のようにケイを包む。
黒く変色していく自らの肌を見ても、それを気味が悪いとは思わない。むしろ、
その姿を誇らしいとすら思う。
「来な、あんたが欲しかった力を見せてやるよ。」
- 217 名前:F.Q. 第2章 (100) 投稿日:2003/09/16(火) 01:51
- 紅く染まった瞳で見る敵は哀れだった。先ほどまであれほど力の差を感じていた相手が、
今は子犬のようだ。
鈎爪と化した指でクイッと相手を誘う。しかし、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした
かつての強敵は、木偶のようにピクリともしない。
「違う、違うんだよ。そんなつもりじゃ……」
「それが最期の言葉でいいのね。」
自己中心的な欲望のためだけに、数々の大切なものを奪った男の命乞いなど、
ゴキブリの寝言よりも価値はなかった。
ごくりとつばを飲み込み、まばたきの後大きく目を見開くオムロ。しかし、
そこにはもうケイの姿はなかった。
次の一瞬、左腹に爆弾が破裂したような痛みがはしる。
- 218 名前:F.Q. 第2章 (102) 投稿日:2003/09/16(火) 01:52
- その気になれば瞬殺することなど造作もなかった。しかし、あえて力を加減した拳は、
肋骨を内臓に突き立て、燃えるような痛みを与える。
悶絶し、床を転げまわる敵を冷ややかに見つめる。
こんな奴のために、母や友達や、そして、サヤカは……
だけど、いたぶることで彼らが戻るはずもない。すべてはもう
終わってしまったのだから。
「帰んな。あんたの世界に。」
これ以上こんな男の嗚咽を聞いたところでなんになるだろうか。
一秒でも早く目の前から消し去りたい欲求を抑え、せめて失った人々と同じ苦しみを
与えることで終わりにしたかった。
教会の外へと這いながら逃げようとする敵を尻目に、ケイはひざまづき、右手を
地に当てる。
確かに感じるひやりとした教会の床の感触。それは人であった時とまったく同じ。
しかし……目を閉じ、歯を食いしばる。
- 219 名前:F.Q. 第2章 (103) 投稿日:2003/09/16(火) 01:54
- 「……絶望と冒涜の伯爵よ、忌みし我が敵を汝の傀儡として与えん。
その魂を贄としてここに出でん……ヴィフロン」
「やめてくれぇ」
恐怖の叫びをもかき消すほど冷淡な詠唱は、地を割り、氷の色をした炎を呼び出した。
ヴァンパイアはもちろん召還師とはまったく異なる存在だ。しかし、
闇の眷属だからこそ呼び出せるものがある。
魔神。それはかつて神の御使いであった天使たち。
神に反乱し、敗れ、地獄に落とされた彼らは今も虎視眈々と神への復讐を狙う。
しかし、悪魔や他の闇の眷属と比べて巨大な力を持つ彼らは強力な結界の
張り巡らされた異界に封印され、普段は姿を見せることはない。
そんな彼らを呼び出す事ができるのは、闇の眷属でも最高位に近い存在である
ヴァンパイアだからこそである。しかし、ケイとて通常の召還のように
なんの代償もなく彼らを呼べるわけではない。霊力に加え、触媒が必要だ。
そして、それはしばしば生ける者の生命である。
- 220 名前:F.Q. 第2章 (104) 投稿日:2003/09/16(火) 01:56
- 「私を呼んだのはあなたですね。ん?ホッターの血の者ですか、久しいですね。」
炎の中から現れたのは、人と変わらぬ姿をした一人の紳士。ご丁寧にタキシードに
シルクハットまでかぶっている。変態後のケイと並ぶとどちらが魔神かわかない。
しかし、別にこれは彼の趣味ではない。なぜなら、彼ら魔神がこの世界に現れるには、
そのすさまじい力の多くを残してこねばならず、姿も本来のものではなく、
仮の姿が必要になるからだ。
しかし、力のほんの一部だとしても、その桁違いの霊力はオムロの思考を停止させるに
十分な威力を持っていた。魔神を目の当たりにしたオムロは、
その恐怖を口にしようとしても、空気の薄い水槽に放り込まれた金魚のように
せわしなく口をパクパクとさせるのが精一杯だった。
- 221 名前:F.Q. 第2章 (105) 投稿日:2003/09/16(火) 01:59
- 「あなたと同じ趣味の男を紹介してあげようと思って。」
「ふむ、たしかに死人使い特有の目をしてますね。悪くないでしょう。」
魔神を呼び出すにはそれなりの触媒が必要だ。もし、触媒が不十分だったり、
魔神の意に沿うものでなかった場合、逆に術者自信が魔神の贄にされてしまう。
しかし、今回ケイが呼び出した魔神ヴィフロンは、ケイの言うとおり
ネクロマンシーの達人であり、死人使いの頂点に立つ。
同じ技を使うということは、霊力の質に近しいものがあり、魔神にとっては
好みの食材。ヴィフロンは満足した笑みを浮かべると、おもちゃを見つけた
子どものような目でオムロに話しかけた。
「さて、それでは魂を喰った後は私の傀儡のコレクションに加えてあげるとしましょう。地獄での時間は長くてかなわないですからね。」
「いやぁ!!……」
- 222 名前:F.Q. 第2章 (106) 投稿日:2003/09/16(火) 02:00
- 術のように詠唱はなかった。ただ腕をオムロに向かってかざすと、魔神はそれを静かに
振り下ろす。しかし、その一連の動作だけでオムロの叫びはプツリとかき消され、
がくりと膝から崩れ落ちると、そこにはまるで最初から何事もなかったような
静寂だけが残った。
「思ったより食べごたえがなかったですね。でもまあ味はそこそこ。」
取り出したハンカチで本当に食事を取った後のように口をぬぐい、思い出したように
ケイに向き直った。
「ああ、そうそう。久しぶりのホッターさん。あなたとはこれからも永い付き合いに
なりますね。どうぞよろしく。」
それだけを言い残すと魔神はオムロの亡骸をかつぎ、現れた炎の中へと消えていった。
- 223 名前:F.Q. 第2章 (107) 投稿日:2003/09/16(火) 02:01
- (永い永い付き合いにね……)
一人残されたケイは、解き放った力を徐々に自らの内に納める。
再び強力な霊力が蒸気のように立ち上り、その姿も元の一人の少女へと戻る。
しかし、それ以外のものはなに一つとして元には戻らなかった。
サヤカの亡骸は、眠っているようだった。
即死だったのだろう、擦り傷やアザの他には目立った損傷はなく、いつものように
「サヤカ」と呼びかけたら、あの愛くるしい笑顔で応えてくれそうだった。
「ごめんね。だけど私はサヤカのこと忘れない。
だから、サヤカも永遠……」
- 224 名前:F.Q. 第2章 (108) 投稿日:2003/09/16(火) 02:02
- それから3日がかりで村人全員の埋葬を。サヤカだけは、墓地ではなく、
彼女が好きだった村と遠くの海が望める丘まで運んだ。
丘からは、教会を中心とした村がよく見えた。
商用で他の自治都市へ出かけていた者、正規軍へ訓練へ出ていた者。
村を離れていた人々が戻ったとき彼らはあの無人の村を見て混乱するだろう。
しかし、ケイにはもうあの村へ戻るつもりはなかった。
思い出が多すぎた村。もうあの村で過ごしたケイ=ヤスダという少女はこの世には
いなかった。残ったのは、自責と孤独にまみれた一人のヴァンパイアだけ。
あてなどなかった。いや、むしろ永遠に続く時間にあてを探す方が無謀だというもの。
あまりに重い十字架を引きずりながらケイは村を去った。
- 225 名前:F.Q. 第2章 (109) 投稿日:2003/09/16(火) 02:04
- ――――――
「これがこの村で起こったすべてよ。」
随分と短くなった蝋燭の炎に照らされるケイの顔には、後悔も怒りも、
もしかしたら悲しみすら映っていなかった。
それは、時の流れのせいだけではなく、昨夜の涙のせいかもしれない。
しかし、話を聞いていた3人は違った。
聞かなければよかったとすら思った。
ケイが第3形態だと知った時、なんの感情も持たなかったと言えば嘘になる。
みな理解しようとしたし、今のケイを見て信じようと思った。しかし、
一瞬ではあってもケイを侮蔑した、「なぜ、命を、生きる時を自ら捨てるのか」と。
しかし、その理由はあまりにも切なすぎた。
本当に大切なものを奪われ、それをただあきらめることでやり過ごせる人間などいない。もしそれができるとすれば、それはすでに人ではない。
人であり続けるがために、人であることを捨てたケイ。そして、彼女はこの先もずっと、
時の流れによってその苦しみから解放されることはない。
- 226 名前:なつめ 投稿日:2003/09/16(火) 02:15
- すいませんでした。
他に言葉はございません。
今はちびちびと書き溜めてますので、更新もちびちび必ずしていきます。
保全してくれた方々ほんまにありがとうございました。
〜以下宣伝〜
青板の作者フリースレに昔の短編コンペに出した『あの夏の思い出』を
書き直した『夏を想う』てなのを出しました。
お暇な方はどうぞご一読のうえ、久しぶりに書いて文体変わって
悩んでる迷える書き手にご感想ご指摘ください。
- 227 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/17(水) 20:41
- 1年近く待ってて良かった!!
どうしても続きが読みたかった!
- 228 名前:名無し 投稿日:2003/09/24(水) 11:04
- うぉぉぉぉぃ!復活!!
ほぼ1年か、長かった…
正直ほとんど話忘れてるんで(オイ)今からもう一回読み直してきます。
- 229 名前:◆ULENaccI 投稿日:2003/09/29(月) 02:21
- 続きが読めるとは正直思ってなかった。
素直にうれしい。
- 230 名前:ギャンタンク 投稿日:2003/10/03(金) 23:18
- >>170
ちょうど一年振りに同じ事を申し上げます。
お待ちしてました。
ほんとに待ってて良かった。末永〜く期待してます。
- 231 名前:F.Q. 第2章 (110) 投稿日:2003/10/06(月) 00:54
- 「で、それと同じことが今また起こっていると?」
リカの声はただ気まずい沈黙を破るためのものではなかった。
ケイが話し終わって数分、一気に敵の包囲が迫っいる。
ケイの話は一晩ふけっても晴れそうにない思いをもたらした。しかし、こんな時
マキやアイに比べはるかに戦闘経験豊富なリカは、感情に流され、
戦局を見誤るようなことはしない。戦場では悲しみに負けるということは、
新たな悲しみを生むだけだから。
ケイの話の通りだとすると、今この村は見えない敵の支配下にある。そして、
それがいかに危険な状態であるかは、グールと実際に一戦交えたリカには
容易に想像できた。
「村の規模からして、敵は100体弱。おそらく今は一人がやられたことで
マスターであるネクロマンサーが慎重になってるけど。確実に包囲されてると思って
間違いないね。」
元村人を敵とはっきり言ったケイ。そして、その言葉にうなずく3人。
瞳はすでに戦いに向かう戦士のそれだった。
- 232 名前:F.Q. 第2章 (111) 投稿日:2003/10/06(月) 00:56
- 他の3人と違い霊力に対してほとんど素養がないアイにも、敵の接近がはっきりと
感じられるようになったころ、戦略は決まった。
「しかし、いつもいつも作戦って呼べないほどノーチョイスですね。」
「ほら、そろそろおしゃべりの時間はおしまいよ。」
「生体反応なしです。」
「マスターはまだってことだね。」
グールたちの接近はいまやその衣擦れや足音から明白だった。
しかし、アイの生体感知機には相変わらず一切の反応はない。
敵は自らはおもむかず、まずはグールたちを先兵に使う
正攻法をとったようだ。
「10分。それ以上はもたないよ。」
すでに詠唱に入ったマキを囲み、3人が背中を庇い合うように
陣形を組む。
前方の扉対してケイとリカ。リカはいつでもロケットスタートが
きれる体勢に構え、その横でケイは静かに目を閉じる。
後方にはアイがマシンガンを両手に構える。軽さと連射性能のみを
追及した近距離戦専用の物を選ぶ。長期戦は考えていない。
- 233 名前:F.Q. 第2章 (112) 投稿日:2003/10/06(月) 00:58
- 「上!!」
天井のステンドグラスを蹴破って来た特攻隊に、リカが警告を発する。しかし、自分の視線は目の前の扉から逸らさない。
教会の外壁は分厚い煉瓦、入口は正面の大扉のみ。
奇襲があるとすれば、他には考えられなかった。
天井からの侵入を図るグールたちにアイが激しい、
しかしこれ以上ないほど正確な弾幕で応戦する。
ガラスを蹴破ってきた最初の二体を空中で完全にしとめると、
あとは教会への侵入すら許さない。ステンドグラスの窓枠に一瞬でも
影が映ると、そこめがけてアイのマシンガンが一斉に火を噴き、
一度死した者たちすら震え上がらせる。
- 234 名前:F.Q. 第2章 (113) 投稿日:2003/10/06(月) 00:59
- 神聖な教会に硝煙の匂いが立ち込めはじめたころ、ひときわ大きな
破壊音ととも扉が崩壊、砂煙の向こうにグールの群れがその姿を現す。
ざっと見ても40体以上、リカは隣に一瞬視線をやるが、
ケイはいまだ詠唱中。
唇を軽く舐めると、迷うことなく床を蹴り、腹の中をかき回すような
マシンガンの轟音の中飛び出した。
(クスッ、デジャブ……)
教会という戦場で、無数の敵から大切な人を守る。それはリカにとって
忘れることができない戦いを思い出させた。
(だけど、あの時とは違う)
戦闘力も霊力も成長した。戦略にも長けた、そして、なにより
背中が心強い。
扉とマキとの間は約10m。そのわずかな距離を死守するという使命。
単純だがおそろしくハードな任務が今は心地よさすら感じる。
- 235 名前:F.Q. 第2章 (114) 投稿日:2003/10/06(月) 01:01
- こうした多数を相手にするときはリカのように素手や鈍器で
戦うよりも、どんなに貧弱であっても刃物を使う方が有効だ。
しかし、リカは決してそれをしない。
力強い拳、しなやかな蹴り。他のどんな罪を犯しても、シスターとしての誇りがそれ以外で戦う事を許さないから。
(鬼神……ホントあの人敵じゃなくてよかった)
幾度となく見てきたリカの戦う姿だが、アイの背中に冷たいものが
はしる。全身の毛穴が一斉に開いたようなそんな錯覚を覚えるほど
興奮していた。
無尽蔵のスタミナと、鋼の肉体を持つグールを相手にしてもリカは
引けをとっていなかった。一重二重とグールに囲まれていても、
リカがどこにいるかは常に確認できた。
亡者の中で舞うように彼らをなぎ倒すリカは、地獄に堕ちた
天女のように強く、そして美しかった。
- 236 名前:F.Q. 第2章 (115) 投稿日:2003/10/06(月) 01:02
- (って、外で見るほど楽じゃねぇっうのっ!)
戦い始めてまだ1、2分だが、すでに足元に転がるグールの数に
比例して、リカの脳内もアドレナリンで溢れていた。
一撃に霊力を込め、確実に相手の頭部や間接を破壊。相手の攻撃は
インパクトの瞬間に同じく霊力で強化した肉体ではじき返す。
しかし、それでも腕や腹は青タンまみれ、口の中は血の味で
いっぱいだ。
「ヤスダさん、まだですか!」
多勢に無勢。間合いは徐々になくなり、雨あられの鉄拳の中
リカの怒声がとぶ。
- 237 名前:F.Q. 第2章 (116) 投稿日:2003/10/06(月) 01:03
- 「よし、イシカワ退りな!」
声と同時にうずくまると、リカはブレイクダンスのように両腕で
体を支えると一回転、周りの敵の足を払うと、一気に戦線を離脱した。
(あんだけまだ元気なんだったらもうちょっと頑張りなさいよね。
ったく、あの子には一回リーダーの経験が必要ね)
リカはよくやったと思う。ケイの詠唱が終わるまでの間、たった一人で
数十のグールを足止めしたばかりか、何体かは戦闘不能状態に
したのだから上出来だ。
しかし、その実力は認めるが、いかんせんバックに頼りすぎるところが
ある。アシストや特攻隊としては合格点だが、戦闘全体を任せるには
その辺りがやや頼りない。
(まあ、一匹狼が仲間を持つと甘えたくなるのかもね)
考えてみればリカもケイと同じく常に一人で戦ってきた。
そんな彼女の今の気持ちを思うと、頼られることも悪くない気がした。
ケイは口元だけに笑みを浮かべると、リカのおかげで高まった霊力を
さらに右腕一点に集中させ、仕上げに入った。
- 238 名前:F.Q. 第2章 (117) 投稿日:2003/10/06(月) 01:06
- 「……フェイの一族よ。奈落の森よりその絶望を我が敵に突き立てよ、その叫びを無限の矢と変えよ。……アステラ!」
(68、69、70……80弱ってトコかな)
ケイの右手から発せられる雷の矢を人間離れした動体視力で
数えるのは、鬼神モード抜け切らないリカ。
「ヤスダさん、いまいちじゃないですかぁ?」
「うるさい、風の精霊とはあんまり相性よくないって言ったでしょう!
文句あるんだったらあんたがやればよかったのよ。」
右目をパンダのようにして、鼻血をたらしているシスターもまだ
皮肉を言えるほどには元気なようだった。
ミネルバに来てからというもの、半端ではない時間を
術の訓練に費やしてきた。しかし、ケイが発したのと同等の術を
繰り出せるかといえば、微妙と言わざる得ない。
- 239 名前:なつめ 投稿日:2003/10/06(月) 01:13
- >>227
すんませんでした
>>228
ほんますんませんでした。
自分も忘れかけてました…読み返しました(藁えねぇ
>>229
ありがとうございます
>>230
ありがとうございます。感慨深いです。
- 240 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/09(木) 03:25
- ぬおー!いつの間にか復活してる!
マジで嬉しいです。
- 241 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/16(木) 21:29
- いやはや、待ちました。
でも待ったかいがありました。
作者さん頑張ってください。
- 242 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/09(日) 22:29
- 更新されていて感動です。
ケイとサヤカの話、深いですね・・・ケイの大切な友を守るための選択が切なくて・・・。
それにいつもながら戦闘シーンが魅力的で、つい引き込まれてしまいます。
作者様、ご自分のペースで頑張ってください。
- 243 名前:F.Q. 第2章 (118) 投稿日:2003/11/10(月) 01:45
- 同じ術でも術者がどれだけその術に精通しているかで威力は大きく違ってくる。
特にケイが唱えた放出系は目に見えてその威力が分かってしまう。
そう目に見えて。
教会内に侵入していた敵はもとより、扉の向こう側にいたグールにもケイの放った
雷の矢は深々と突き刺さり、視界にはもはや立っている敵はいなかった。
「今のでどれくらいいったかな?」
「私がやったの合わせて50強ってとこですかね」
「じゃあとりあえず第一ラウンド終了ってことで」
リカの引きつった笑顔に、ケイの苦笑いが応える。
それもそのはず、視界からグールが一掃されたのはほんの一瞬。息をつく間もなく
第二波が襲いかかる。
- 244 名前:F.Q. 第2章 (119) 投稿日:2003/11/10(月) 01:46
- 「足!足を狙って動きを止めろ!」
叫びながらリカも敵の膝を正面から叩き折る。痛みこそ感じないが、ジョイントを
破壊されたグールは、その場で這いつくばって前進を試みるが、
壊れたぜんまい人形のようにただずるずると床を這い回る。
術の発動は二人にひと時の休息を与えただけだった。
わらわらと、まさに湧いて出てくる敵に立った二人で立ち向かうのは、
無謀を通り越して絶望的だった。
勢いと二人のバランスがかろうじて敵の群れを押さえ込んでいるように見えるが、
実際は半歩、また半歩と追い込まれる。
- 245 名前:F.Q. 第2章 (120) 投稿日:2003/11/10(月) 01:47
- 「危ない!」
ケイの声に反応するリカ。しかし、肩越しにはすでにグールの牙が迫っていた。
バラバラバラバラ!
一瞬鼓膜が破れたかと思った。
耳元を鉛弾が走り抜け、その向こうには右手を天井に向けたまま、左手のマシンガンを
こちらに向けたアイがいた。その顔には冷や汗に混じってうっすら笑みが
浮かんでいる。
「なんで精度低い方の手で撃ってるのよ!」
「集団戦闘十カ条です」
本気の怒鳴り声に皮肉いっぱいの笑顔が応える。
それは、リカが暇つぶしにとアイに教えてやった戦場でのルールの一つだった。
「優先順位がぶれた時、すべてを失う」
もしリカを守るため、利き手を留守にした瞬間にマキが襲われたら……マキを完全に
守るためならば、リカを犠牲にする。そんな瞬時の判断ができるほどにアイもまた
着実に戦士として成長してきたことに、リカは腹の中で苦笑するしかなかった。
- 246 名前:F.Q. 第2章 (121) 投稿日:2003/11/10(月) 01:47
- (まずい、数が多すぎる。)
(次の波までもつか。)
しかし、アイのマシンガン同様、ケイもリカもオーバーヒート寸前だった。
口の中にたまった血を吐きながらケイがリカを見るが、素手で戦っているリカの方が
更に傷は深かった。気丈に構えは見せているが、どす黒く染まった両の拳はもはや
使い物にならないだろう。
マキはそんな3人を見ながら、胸を掻き毟られるような思いだった。
しかし、来ないのだ。
(どうして、もう十分なはずなのに)
霊力の高まりとは裏腹に、幻獣が降りてこない。そんな経験は初めてだった。
マキの召還を阻んでいる者、それはマキが最もよく知る者だった。
(なぜ?あなたを呼べってことなの)
当惑しながらもこれ以上の召還続行は不可能だと判断し、マキは炎の幻獣への召還を
キャンセルし、詠唱を始める。
これは召還師の命に関わるほどの危険な賭け。召還が術師と幻獣の信頼関係の上に
成り立っている以上、それは人間同士の関係となんら変わりない。“呼び換え”を行う
ということは、下手をすれば最初に呼ぼうとした幻獣と後から呼ぼうとした幻獣二体を
敵に回すことになりかねない。
しかし、戦局は他の選択を許さなかった。
- 247 名前:F.Q. 第2章 (122) 投稿日:2003/11/10(月) 01:48
- 「・・・・・・アスガルドの偉大なる支配者、オーディンに仕えし娘よ、我にその金色の
翼与えたまえ・・・出でよ、ワルキューレ!」
金色の翼の戦士は、いつもと変わりなく、空間の歪みを越え静かに舞い降りた。
金色に輝く渦中に身を包み、両の羽で自らを抱きしめる様は戦士というよりも
聖母を連想させる。
しかし、マキだけは彼女の微かな変化を感じていた。
(なぜ、どうしてそんなに悲しそうに怒ってるの?)
- 248 名前:F.Q. 第2章 (123) 投稿日:2003/11/10(月) 01:48
- 戦局は一変する。
ワルキューレの槍の一振りは、風を切り裂き、迫り来るグールを次々となぎ倒す。
教会に迫り来る亡者を一蹴するその姿は、まさに聖なる騎士に相応しい
戦いぶりだった。
しかし、ワルキューレの召還を以前にも目の当たりにしているケイは、
どこかひっかるものがあった。
(ごっちんのコントロールが効いてない……なにより幻獣が憑依を拒んでる)
ケイの不安は的中していた。
圧倒的な強さでいまや戦場を支配しているのは、マスターであるマキではなく、
ワルキューレだった。
召還には成功したものの、まったく自分の制御が効かないワルキューレを
呆然と見つめながら、マキ自身も初めての経験に恐怖を感じつつあった。
(どうしよう。辛いよ、苦しいよ。なにをそんなに怒ってるの)
- 249 名前:F.Q. 第2章 (124) 投稿日:2003/11/10(月) 01:49
- グールがいくら束でかかろうとも、ワルキューレの敵ではなかった。
傷だらけのリカとケイが膝をつき、戦いをただ見守る中、敵の数は目に見えて
減り続け、ついに最期の一体が崩れ落ちた時、そいつは現れた。
「あ〜ぁ、みんなやられちゃったよ。まったく脆いんだから」
ネクロマンサーといえば、才のあるなしに関わらずその技の習得に長い経験が
必要となる。そのため、ヒューマンであれば老人、若くとも壮年であることが多い。
しかし、闇の中から響く声は変声期を終えたばかりの少女のそれで、シルエットも
華奢。とても長年の修行を積んだ使い手とは思えなかった。
しかし、敵がどんな姿をしていてもケイたちの怒りが和らぐはずもなかった。平和な
村に惨劇をもたらし、死者を冒涜した罪は重い。さらに教会に近づきながら足元の
グールをまるでゴミを払うように手にした槍で蹴散らす。
時々「使えねぇ」といった意味の手前勝手な捨て台詞を吐く姿にはマキですら
生まれて初めて純粋な殺意をおぼえた。
- 250 名前:F.Q. 第2章 (125) 投稿日:2003/11/10(月) 01:49
- 「でもやっぱり、こうやって騒いだ甲斐あったわ。ひさしぶり、ケイちゃん」
馬鹿にしたような馴れ馴れしい台詞とともに、敵の顔が月明かりの下さらされる。
その瞬間、ケイは息をのんだ。今までの戦いやそれまでの記憶が一気に吹き飛ぶような
驚き。思考が停止する。
「サヤカ!!」
他人の空似、人違いなわけがない。
あの日以来、忘れることのなかった少女の姿が今目の前にある。
「クスッ、ケイちゃん」
「サヤカ!」
お互いに相手を認め、呼び合った瞬間。ケイは無意識に駆け出していた。
サヤカと呼ばれた少女の口元に、下卑た笑みが浮かんでいることも気付かずに。
- 251 名前:F.Q. 第2章 (126) 投稿日:2003/11/10(月) 01:50
- 「ちっ、浅かったか。」
肩から袈裟に胸を切り裂かれ、崩れ落ちるケイを見下ろしながら少女はつばを
吐き捨てた。まったくの無防備だったとはいえ、一瞬の危機察知で半歩退避したことで
致命傷はかろうじて免れた。
「サヤカ……どうして」
鮮血にまみれて崩れ落ち、それでもなお、ケイは顔だけをあげ少女に呼びかける。
しかし、無情にもその背中めがけて敵は無言で槍を振り下ろす。
「イチーちゃん!」
マキが名前を呼んだ時には、すでに命令よりも早くワルキューレは敵とケイの間に
槍を滑り込ませていた。
教会全体を震えさせる衝撃音の中、少女が中を舞う。
- 252 名前:F.Q. 第2章 (127) 投稿日:2003/11/10(月) 01:51
- 「ちぃぃ!貴様この体がどうなってもいいのか!?」
少女のヒステリックな叫び声にワルキューレが不敵な笑みで応える。
自分の思うようにならないことが悔しいのか、頭をかきむしり、地団太を踏む少女。
ひどく自己中心的で醜いその姿は、ケイに最悪のシナリオを予感させた。
そして、マキもまたワルキューレの暴走と先ほどの少女の台詞の間を結ぶ線を
紡ぎ始めていた。
(もし、私の思っている通りだとしたら……勝てない、この戦いは絶対に勝っちゃいけないよ)
教会全体を包む異様な空気はリカとアイにも伝播する。
「なにしてるんですか、あんな奴早くやっつけちゃいましょうよ。」
槍との間合いを測りながら、リカは立ち尽くしているアイに援護を目で要求する。
しかし、他の二人は決して少女に挑もうとはしない。
「こらこら、そこのダークエルフちゃん。君はいまいち状況がのみこめて
ないみたいね」
「あぁ!」
「まあまあ、いきり立たないで。ヒントをあげよう。そこのヴァンパイアちゃんが
言ったのは正解。私はケイちゃんのかわいいかわいい大親友、サヤカちゃんで〜す」
「ふざけんなぁ!」
- 253 名前:F.Q. 第2章 (128) 投稿日:2003/11/10(月) 01:51
- わざと舌ったらずにしゃべり、相手を馬鹿にした分かりやすい挑発。普段なら
乗るはずもないが、ひとたび戦闘が始まり、満身創痍のリカにそんな冷静な判断力を
求めるのが無理な話。
重心を思い切り下げ、一気に槍の間合いをかいくぐると渾身の霊力を右拳に込め
相手のわき腹めがけて叩き込もうとする、その瞬間。
「だめぇ、リカちゃん」
「イシカワ、やめ!」
予想外の後方からの静止に拳が一瞬躊躇する。戦場で最もやってはいけない
ミスだった。
気付いたときは、がら空きの側頭部にめがけて少女の膝蹴りが迫っていたが、
リカにそれを回避する術はなかった。
「ばーか、だから人の話は最期まで聞けっての。」
こめかみへの一撃で卒倒寸前のリカに更に蹴りと一瞥与えると、少女は
立ち上がれずにいるケイに近づく。
- 254 名前:F.Q. 第2章 (129) 投稿日:2003/11/10(月) 01:52
- 「懐かしいでしょ、ケイちゃん。ほら、あの時のまんまだよぉ」
ケイの目の前にしゃがみこみ、ふざけた笑顔でローブの胸元を引っ張って見せる少女。
確かにこうして間近で見ても、彼女の言うとおり、姿かたちは間違いなく
サヤカそのものだった。しかし、
「殺してやる。お前なんかサヤカじゃない」
「いいよ、殺してみれば。けど、そんなことしたらサヤカちゃん
困るんじゃないかなぁ。ねぇ?」
すでに完全勝利を確信したかのような、そんな挑発的な笑顔で今度はワルキューレと
マキに近づく。
「あんた、ケイちゃんが言ってたサヤカさんて人じゃない!
オムロってネクロマンサーだろ!」
「マキちゃんだっけ?あったまいいねぇ〜。半分正解。けど半分はハズレ。
確かに私……ってかもう僕でいいか。僕はねあの日殺されちゃったんだよ。
そこのヴァンパイアが呼び出した魔神にね」
- 255 名前:F.Q. 第2章 (130) 投稿日:2003/11/10(月) 01:52
- 「……憑依操術!?」
「大正解。さすが召還師。本来なら死ぬ瞬間に自分の死体を術で操るんだけど、
あの時の僕の体はヴィフロンが持って行っちゃたし、なにより僕の全霊力を
この体に移したら魔神が気付いちゃうから、だからできるだけちょっとの力を
この子に移して、あとは力が戻るのを待ってネクロマンシーしたってわけ。
どう?僕ってすごい?」
術に疎いアイを除くその場にいた三人までが、ここまでやり取りですべてを悟った。
最悪のシナリオだと。
そして、アイも断片的にしか状況を把握していないとはいえ、この目の前の敵が
いかに許されざるものかということを、かつて見たことがないマキの横顔から
はっきりと理解していた。
「ゴトウさんこんなやつ……たしかに体はあのサヤカさんて人のものかもしれないけど、だけど許せないんでしょ?」
言いながらマシンガンを少女に向けるアイを、マキは片手で制す。
「ダメ。要るんだよあの体。もしかしたら、いちーちゃんを、ワルキューレを
救えるかもしれない」
- 256 名前:F.Q. 第2章 (131) 投稿日:2003/11/10(月) 01:53
- ワルキューレとは、幻獣そのもの名前ではない。
戦神オーディンに使える十二人の戦士。その中の一人に与えら得る称号が
ワルキューレであり、彼女たちの正体はこの世で非業の死を遂げた女戦士の
魂そのものだ。だからこそ、術師の召還なくしてワルキューレは現世に現れることは
なく、また異界に本体を持つ他の幻獣に比べ憑依も比較的行いやすい。
しかし、彼女たちがワルキューレという存在であること自体が業であり、
現世での悲願を遂げたとき彼女たちは晴れて天に召されることができる。
「殺したくないんだ。あの体があれば、もしかしたらイチーちゃんを
救えるかもしれない」
そのことがよく分かっているマキだからこそ。そして、特別な思いがあるからこそ、
目の前の最悪な状況をチャンスに変え、なんとかしてワルキューレを、
サヤカ=イチーという一人の少女をこの世に呼び戻したい。
- 257 名前:F.Q. 第2章 (132) 投稿日:2003/11/10(月) 01:53
- 「だめだ。ごっちん冷静になりな。そんなことできっこない。タカハシ、
その化け物を撃ち殺して」
「化け物だなんて酷いなぁ。ねぇ、君はどう思う?」
マキの制止とケイの命令に迷う、アイの目の前、本当に五〇cmほどの距離に
いつの間にか敵が迫って、愛らしい笑顔を向けている。しかし、それは
見せかけだけで、瞳は腐敗した沼のように濁っていた。
恐怖で反射的に手にした銃を向けようとするが、戦闘員でないアイの動きでは
戦士であるサヤカの肉体と自身の豊富な戦闘経験を持つオムロには
通用するはずもなく、槍の柄がアイのみぞおちに叩き込まれる。
それは、防護スーツの上からでも嗚咽しそうになるほど強烈で、
腹への一撃にもかかわらず気を失いそうだった。
立ち上がれないリカ、ケイ、アイ。動くことができないマキ。
敵を囲むように対峙しながら、戦局は絶望的ですでに決したかのような空気が漂う。
- 258 名前:F.Q. 第2章 (133) 投稿日:2003/11/10(月) 01:53
- 「目的は私なんでしょ、なんでこんな回りくどいことするのよ。」
「回りくどい?僕が何年、いや何十年待ったと思ってるのさ。こんな小娘の体に
憑いて、どれだけ君と再び会える時間を楽しみにしていたか。大親友の体を
奪われた君の顔を想像するだけでどれだけワクワクしたか。なのに君ときたら
いつの間にかこんな風に他の仲間をつくちゃって……あぁつまらない」
「何年土の中で過ごしたか知らないけど、相変わらず頭の中は
イカレちぎってるみたいね」
ケイの挑発に、それまで冷静を装っていたオムロの顔が大きく引きつる。形となって
現れた殺意に、その場の空気が一瞬凍りつく。
「いいよ、もう飽きたよ。望みどおり殺してやるよ。いくらヴァンパイアとはいえ、
完全に肉体を破壊されたら生きてはいれからね」
怒りに満ちた形相でケイに向かって大きく槍を振りかぶる。
ケイにも狙いはあった。自分が囮になっている隙に誰か一人でもここから
逃げおうせることができれば。作戦と呼ぶにはあまりにも貧相だが、
もはや状況は他の選択肢を許さない。
「こんなにあっけないなんて、なんか残念だよ」
柔らかな肉に、槍が突き立てられ、骨を切る音が響く。
しかし、その場に崩れ落ちたのは少女だった。
- 259 名前:F.Q. 第2章 (134) 投稿日:2003/11/10(月) 01:54
- 「どうして?おまえはこの肉体が欲しいのに……」
「見くびるな」
目の前の光景にマキが膝から崩れ落ちる。
ワルキューレは少女の背中に突き立てた槍を強引に肩に向けて切り上げ、両断する。
「生きたい。だけど、それはこんな犠牲の上じゃない」
それだけ言うと、ワルキューレは背を向け、崩れ落ちる敵から目を逸らすように
マキに向き直った。
「感謝する」
「そんな……」
「汝、いやマキとその仲間たち……大好きだよ」
召還を受けた幻獣は召還師の意思にのみ従い、決して表情を示す事はない。しかし、
ワルキューレは確かに笑っていた。運命を受け入れ、満足するように。
- 260 名前:F.Q. 第2章 (135) 投稿日:2003/11/10(月) 01:54
- 「なかなか感動の場面ですね。まさかこんな形で契約がなされるとはいやはや。
いいものを見せていただきました」
突如現れた声の主に、その場にいた全員の目が注がれる。
細面の紳士。服装はあの時と同じタキシードにシルクハット、今回は明らかに
飾りと分かるステッキまで持っている。
「ヴィフロン!」
「お久しぶりです、ホッターさん。正直申し訳ない気持ちでいっぱいです、わたくし。
あの時はてっきり契約不履行だと思い、ついつい大人気ないまねをしました。」
音もなく現れた魔神は、サヤカの亡骸に手をかざすと満足げにケイに向き直る。
「これであの時取り逃がした魂を頂くことができました。契約完了です。
つきましてはあなたに施した封呪を解かせていただきます」
「待って」
申し訳なさそうに近付こうとしたヴィフロンを、凛とした声がさえぎる。
よろよろと立ち上がりながら、血の海に沈むサヤカを指差しケイが微笑む。
- 261 名前:F.Q. 第2章 (136) 投稿日:2003/11/10(月) 01:54
- 「それはいい。その代わり、利子を払って」
「利子……ですか?」
「そう。あんたは私が契約を勝手に破ったと思って私にこのとんでもない
封印をしたんだから、その迷惑料よ」
突拍子もない申し出にヴィフロンは一瞬躊躇したが、魔神にも好奇心はある。
ケイ同様に不敵な笑みを浮かべると、右手を差し出し、どうぞと言うように
ケイを促した。
「そこの女の子を完全に治して、ここにいるワルキューレの魂を入れて。
魂をおもちゃみたいに扱えるあなたならできない仕事じゃないでしょ」
ワルキューレを含めたその場の全員が固まる。たしかに聖の化身である
ワルキューレの魂のままなら、魔神には手出しができないが、今まさに
召されんとするサヤカの魂ならば人のそれと変わりない。ヴィフロンの範疇である。
- 262 名前:F.Q. 第2章 (137) 投稿日:2003/11/10(月) 01:55
- 「う〜ん。しかし、一度ワルキューレになった者の魂とは。正直気がすすみませんね」
「ただとは言わない」
それでも渋るヴィフロンをいまだ戦闘の興奮冷めやらぬリカが睨みつけながら、
自分を指差す。
「闇の魂があればいいんでしょ?」
「ほう。ダークエルフですか。これはなかなか」
「リカちゃんだめ!」
「大丈夫だよ。その代わり全部はダメ、だってもともとあなたにも
非があるんでしょ?」
「痛いところをつきますね。いいでしょう、その代わり私なりのサービスを
させていただきますよ」
そう言うとヴィフロンはまずサヤカの亡骸を完全に修復し、次にリカ、
そしてワルキューレに手をかざす。すると、みなの見守る中、霊子体だけの存在である
ワルキューレは微かに微笑みながら霞のように消えてしまった。
- 263 名前:F.Q. 第2章 (138) 投稿日:2003/11/10(月) 01:55
- 「って言うか、なんでアイツこんな余計なことしてくれたんだろ」
「余計ってどういう意味よ!」
行き道よりも一人増えた五人は、日が昇りきる前に村を出た。
ほんの視察だけの予定が思わぬ大戦闘になった今回のミッション。リカとケイは
山道を一歩踏みしめるたびに眩暈がするほどの痛みを全身に抱えながら、そして、
大掛かりな召還を行ったマキはアイに抱えながら、かろうじて寝たり起きたりを
繰り返しながらみなの後をふらふらと歩いている。
そして、先頭を行く少女は、黄金色に輝く槍を片手に振りながら、ケイに
大声でがなりたてている。
- 264 名前:F.Q. 第2章 (139) 投稿日:2003/11/10(月) 01:55
- 「せっかく私が復活したのに、何その言い方!嬉しくないの、文句あるの!?
やろうっての!?」
「だから、イチーちゃんなんでそんなにアグレッシブなの」
なだめようとするマキにすら挑発的な視線をなげかけ、鼻を鳴らすとサヤカは
満足そうに胸いっぱい空気を吸い込み目を閉じる。
まぶたに感じる太陽が、生きている喜びを再確認させ、数奇な運命に感謝した。
人としての少女時代、ワルキューレとしての生と出会い、そして、二度目の復活は
二つの人生に魔神の気まぐれでおまけまでついてきた。
- 265 名前:F.Q. 第2章 (140) 投稿日:2003/11/10(月) 01:55
- 「いい、イシカワ。あんたの戦闘中ってあんなんだからね。よ〜く見て
ちょっと反省するように」
「私あんなにはっちゃけてません」
「いいや。イシカワさんのはもっとエグイです。マシンガンで援護した時、
睨み殺されるかと思いました」
ヴィフロンは、リカから奪った魂の欠片をワルキューレの魂と一緒にサヤカに授けた。
それは、本当に気まぐれだったのか、それとも彼女たちの戦いを見て彼が何かを
感じたのか、そればかりは正に神のみぞ知るところだ。
「それにしてもあの歩き方。私の知ってるサヤカはたしかに強いけど、
もっとかわいかったって言うか、上品って言うか」
「だ〜!!まだ言ってんの?うるさいなぁも〜」
ただ、授けたのが戦闘モードのリカの魂だったことを考えれば、
ヴィフロンのただの遊び心だった可能性も否定できない。
- 266 名前:F.Q. 第2章 (141) 投稿日:2003/11/10(月) 01:56
- 「さあさあ。早くそのオウティークって街に行こうよ」
「あのぉ、イチーさんオウティーク行ってなにするつもりですか?」
傷だらけのうえに、疲労困憊の四人を従えながら意気揚々と弾むサヤカの背中に
アイが恐る恐る訊くと、満面の笑みが返ってきた。
「決まってるじゃん。私もそのミネルバってのに入るの」
「なんか聞くまでもないけどサヤカミネルバ入ってどうすんの?」
「悪よ。悪をやっつけるのよ」
爛々と目を輝かせながら、槍を陽にかざす。草の匂いが、鳥のさえずりが、
すべてが懐かしくそして、いとおしかった。
一度ならず二度までも天に召された少女は、三度目の正直とばかり再び大地を
踏みしめる喜びを手にした。歩くたびに流れる汗すら心地よく、
笑顔を浮かべるたびに喜びが沸きあがり、また笑ってしまう。
- 267 名前:F.Q. 第2章 (142) 投稿日:2003/11/10(月) 01:56
- 「ありがとう!!」
いち早く小高い丘の頂上に駆け上ったサヤカが、後ろを振り返り、天に吼えた。
そして、そのまま後ろに倒れると、大の字になって馬鹿笑いしながら空を眺めている。
「ほんとに良かったのリカちゃん」
「甘いかもしれないね。ちょっと人よりも寿命が長いからって、
命をおもちゃみたいに扱って軽率だと思うよ」
真顔でささやくマキに、リカは自分でも完全に答えが出なかった今回の行動について
少し考える。しかし、目の前で笑っているケイとサヤカを見ていると、
結論はとても簡単だった。
「けど、みんな幸せで良かったって思う」
サヤカの笑い声が伝播したかのように、馬鹿みたいに高い空の下に五人の声が響く。
オウティークへの道はもう半ばを過ぎた、しかし、彼女たちの道はまだまだ続く。
「こんな馬鹿げた奇跡があるんなら……」
「ん?ゴトウさん何か言いました?」
「いんや。なんでも」
そして、目の前で大きな口を開けて笑うサヤカは、マキにもう一つの
再会の希望を予感させた。
- 268 名前:なつめ 投稿日:2003/11/10(月) 01:57
- 『ファイナル・クエスト 第2章 〜目覚め〜 』
おしまい
- 269 名前:なつめ 投稿日:2003/11/10(月) 02:01
- >>240 ええ「復活」いたしました。今後ともよろしくどうぞ
>>241 ありがとうございます。頑張ります
>>242 正直戦闘シーンが前のように書けず頭抱えてますが、そう言っていただけ嬉しいです。
正直ペース遅いです。すいません。頑張ります
- 270 名前:なつめ 投稿日:2003/11/10(月) 02:17
- 〜あとがき〜
まずは・・・F..Q.書き始めてはや二年、この章だけで一年。アホです。本当にごめんなさい。
私の遅筆ネタはもう聞き飽きたかと思いますので、とりあえず今は完結目指して書きますとだけ
さて、今章では、最初から考えてた大きな複線を一つ消化したと思ってます。
最後までああいう形にするか悩みましたが、今回のニュースが決定打になりました。
ニュースを知って一気に書き上げたというのが本当のところです。今しかないと
某所で自分の事をDDと言っていましたが、嘘です。
めっちゃ辛いです。
けど、F.Q.にも思い入れはあり、こうなるとよく言われる娘。小説である
意味は?となりますが、とにかく今は書きたいように書いてます。
我儘だと思います。混乱してあとがきなのに長いです。すいません
一つの時代が終わり、新しい幸せのあらんことを祈ります。
- 271 名前:なつめ 投稿日:2003/11/12(水) 00:32
- 〜ご報告〜
こんな時期なんですが、
ttp://natsumean.hp.infoseek.co.jp/
つくりました。
まだなんもありませんが、こちらもぼつぼつとよろしくお願いします。
- 272 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/12(水) 09:08
- ふらりと立ち寄ってみたらいつの間にかすげー更新されてるーわー
何年ぶりでしょう、あ、一年ぶりですか。いやはやお疲れ様です
HPもできたりしてやる気充分ですね
- 273 名前:なつめ 投稿日:2003/12/01(月) 02:06
- >>272
ありがとうございます。
やる気と書く量がもひとつ比例しなくてすいません。
なんとかかんとか書いてますので長い目で許してください。
- 274 名前:なつめ 投稿日:2003/12/01(月) 02:07
- 『ファイナルクエスト 第三章』
- 275 名前:F.Q. 第三章(001) 投稿日:2003/12/01(月) 02:09
- 「おかしい」
丘を越えた平原で二日目の朝。地平線を埋め尽くす真っ黒な森を前に
ケイは北の空を見つめる。
しかし、何度か視界を横切った渡り鳥の群れ以外に空には雲の陰すらなく、
五人が待つ飛空挺がその姿を見せる気配はなかった。
今回の任務はオウティークから飛空挺で南の森を超え、
その後は陸路をエイビックへ。滞在は短ければ半日のはずだったので、
二日以上が経って迎えが待っていない事態は誰も想定していなかった。
- 276 名前:F.Q. 第三章(002) 投稿日:2003/12/01(月) 02:11
- 「ねぇ。帰りの飛空挺は?私歩くの嫌だかんね」
朝食の準備を抜け出してきたのか、空を見上げるケイの背中に
槍を片手にサヤカが近寄ってくる。あの日以来、サヤカは寝る時も
槍を手放そうとしない。
その姿はお気に入りのおもちゃを買ってもらった子どものようで、
見ていてほほえましい反面、自らの三つの生を結ぶ鍵を
握り締めているかのようでほんの少しの悲しみをおぼえる。
「私だって嫌よ。それに、ごっちんとタカハシ連れて
あんな森越えようと思ったら三日はかかるしね」
ケイは逆光に目を細めながらサヤカの肩越しに三人を見る。
昨日一日しっかり寝たせいか、朝日の下でマキの顔色もずいぶん
良くなっているようだ。
- 277 名前:F.Q. 第三章(003) 投稿日:2003/12/01(月) 02:12
- 「もう半日か一日くらい待ちましょ。たぶんここんとこずっと忙しかったから、
まさか本当にこんなに早く切り上げて帰ってくると思ってなかんでしょ」
「ふ〜ん。なんだかいいかげんな軍隊ね」
「だからぁ、何回も説明してるじゃない軍隊じゃないって。あんたホントに
軍隊とか戦争とか好きね」
「んなことないよ、人をバーサーカーみたいに。
それよりさ、時間あるんだったらひさしぶりに狩りでもどうよ?」
器用に、そしてひどく嬉しそうにサヤカはバトンを扱うように
体の周りで軽やかに槍を一周させる。太陽の光を反射して、
槍の軌跡がオーロラのようにサヤカを包む。
サヤカが機嫌のいい時によく見せてくれた芸当だ。
朝日の帯を纏ったサヤカが微笑む。ケイの口元もつい昔のように
緩んでしまう。
- 278 名前:F.Q. 第三章(004) 投稿日:2003/12/01(月) 02:14
- 「いいけど誰がシューターするの?タカハシにやらしたら百発百中で
私たちすることないよ」
「まあそれはおいおい飯食いながら考えようよ。ほら、うるさいのが
呼んでるよ」
わざと聞こえるように言った声にマキがさらに大声で
「うるさいって言いたなぁ」と両手を広げる。本当に気持ちのいい朝だった。
ケイはかつての親友を取り戻し、アイとリカは戦士としてまた一つ大きくなった。
そして、マキは貴重な戦力を失った代わりに、新しい友と出会った。
結界牢獄を飛び出してからというもの、いいも悪いも含めてめまぐるしい。
だけど、いつもこんな仕事ばっかりだったらいいのにな。ふと苦労も忘れて
そんなことを考えてしまい、また少し顔がゆるんだ。
- 279 名前:F.Q. 第三章(005) 投稿日:2003/12/01(月) 02:14
- 「なに朝からにやついてんだか」
捨て台詞を残して駆け出すサヤカの背中を見つめながら、
その時のケイはあまりに幸せだった。
もちろんミチヨのことやいまだに動くことすらできないマリのこと。
気の沈む話もたくさんあるが、それでもこの時はすべてのことが
前を向いて進んでいると疑わなかった。
- 280 名前:F.Q. 第三章(006) 投稿日:2003/12/01(月) 02:16
- ―もう半日か一日くらい待ちましょ。
足で森を越えるリスクを考えれば当然の判断だった。ケイでなくても
そうしただろう。
しかし、本当の判断ミスというのはその時に悩んで出した悪い結果ではなく、
あとになって気付くものだ。
「早く来ないとケイちゃんの分イチーちゃんが全部食べちゃうよ」
「はいはい、今行くって」
みんなが待つ方へ歩き出す直前に、もう一度だけ北の空を振り返る。
何の変哲もない青く澄んだ空。時おり鳥の群れが北から南へと静かに
渡っていく。
しかし、わずかに感じた違和感。それは針で胸をちょんと突かれたほどの
微かな痛み。しかし、その時のケイが、その小さな点を線にすることは
なかった。
鳥は冬鳥だった。
- 281 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/04(木) 22:05
- 初期の頃から楽しく読ませていただいてます。
執筆再開後の分はなかなか落ち着いて読む時間がとれず、今日一気に読みました。
独特のファンタジーの世界が心地よく、ますます面白くなってますね。
応援しています。
- 282 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/07(日) 03:42
- 早くヨッスィに帰ってきて欲しいなぁ。
- 283 名前:なつめ 投稿日:2003/12/08(月) 01:25
- >>281
初期のころと言いますと、かれこれ2年以上もお付き合いいただき
ありがとうございます。
応援を裏切らないよう、そして、糧にしてこれからも頑張ります。
>>282
どう書いてもネタバレるので、ノーコメントで。しばしお待ちください。
大所帯になってきてますので、章によっては(主人公すら)登場シーンがなかったりですいません。
- 284 名前:F.Q. 第三章(007) 投稿日:2003/12/08(月) 01:27
- 「開門!門を開けろ!」
時は昨夜にさかのぼる。
寒風の下に一人の男のかすれた怒声が響き渡っていた。
場所はオウティークの正門前。昼間であれば人でごった返す
衛星都市の玄関も、敵襲に備え夜は静かに砦の一部と化している。
それでも男は固く閉ざされた鋼鉄の扉、正確にはその上にある
見張り台の兵士に向かって叫び続けていた。
門は、事実上オウティークの支配者となったユウコの方針で、
日没から朝までは決して開かれることはない。そのため、
夜明け前ともなると開門を待つ商人たちが列をつくるのも見慣れた
光景になりつつあった。しかし、今はまだ午前四時を回ったところで、
夜明けまではまだ二時間以上もある。通常であれば開門どころか、
警備兵がそんな輩を相手にすることもない。
しかし、男があまりにうるさいので、ふと視線を落とした警備兵が
見たものは、変わり果てた同僚の姿だった。
- 285 名前:F.Q. 第三章(008) 投稿日:2003/12/08(月) 01:30
- ミネルヴァにはナツミたちエージェントの他に、街の警護や警察的な
機能を担う一般の構成員も数多くいる。これは、傭兵ギルド統合後に
ユウコが設置した部隊だが、彼らはエージェントとは違い決まった
時間だけ働き、決まった給料を貰う。そして、一般市民との差別化を
図るために黒を基調にした軍服に身を包んでいる。
だからこそ、見張りの兵は男を一目で同僚だと判別できたのだが、
その姿は見るも無残だった。警備兵が急いで大門の隣の勝手口から駆け寄ると、
もはや立つことすらできない男の半身は完全に凍てつき、
血色を無くし紫というよりもどす黒い死の色をしていた。
ここまでたどり着けたのは男の執念以外のなにものでもない。
「どうした、何があった?」
「報告します……だ、第二高射砲施設壊滅。敵は一人……
た、ただちに緊急警……」
報告から判断するに、男はオウティークが誇る対空施設の
警備兵の一人らしい。そして、何があったかは血とともに吐き出された
男の最期の報告から明らかだった。
- 286 名前:F.Q. 第三章(009) 投稿日:2003/12/08(月) 01:31
- 「そうか」
報告を聞き終わったユウコの声はいつもと変わらなかった。
しかし、場の空気は指一本動かすことすらはばかれるような、
そんな極限の緊張感に包まれていた。
第一報の後、緊急で開かれた幹部会では、時間を追うごとに
恐れていた事態が次々と現実のものとなっていた。
オウティークを守るもの。それは、北の海の激流。天然の要塞である
南の大森林。そして、空からの侵入を阻む各高射砲施設。施設のほとんどは、
森の各所に設けられ、その数七つ。
そして、最初に壊滅が報告された施設を含めて、現在四つの施設が
音信不通。さらに残りの三つも何者かによって襲撃を受けているようだが、
詳細な情報は届かない。
- 287 名前:F.Q. 第三章(010) 投稿日:2003/12/08(月) 01:32
- 「なぜ、施設の位置がこれほど正確に把握されているんだ」
「それよりも敵は一体?」
「いや、まずは街の警備を」
分析ではなく、不安を払拭するかのように騒ぎ立てる文官たちとは
対照的にナツミたちエージェントは来るべき次の報告を静かに待つ。
- 288 名前:F.Q. 第三章(011) 投稿日:2003/12/08(月) 01:33
- 「将軍。おそーい」
「ははっ、悪い。っていうか『将軍』って言うな!」
闘いが放つ気高く、そしてひりつくような空気を感じた獣たちはすでに
森をあとにして、もはや周囲にはねずみ一匹いなかった。
そんな静寂に包まれた暗闇に響く足音を気にする風でもなく、
将軍と呼ばれた女は、先に待っていた迷彩服の少女に近付く。
青緑と飴色を組み合わせたスタンダードな軍服。しかし、戦闘服に
身を包むには少女の容姿はまだ幼く、その姿はこっけいですらあった。
むしろ、いらいらを表すように山岳用のブーツを鳴らす姿こそ
歳相応でほほえましい。
- 289 名前:F.Q. 第三章(012) 投稿日:2003/12/08(月) 01:34
- 「あんたその服本当に好きだね」
「好きって言うか、フジモトさん服買ってくれないじゃん」
「自分で買えよ、王国軍入ってから給料いっぱいもらってるんでしょ?」
「え〜、もったいない」
「うん。あいかわらずこめかみが痛くなるね、レイナとしゃべってると」
星の明かりでもお互いの顔が確認できるほど近付くと、ミキ=フジモトは
笑顔で自分のこめかみを指差す。
膝まであるなめした皮のワンピースに、肩当てと胸当てだけ。
一見すると身軽さを第一に考えるシーフのようだが、右手に持つ湾曲した大刀が
彼女が戦士であること強く主張している。
鏡のように磨き上げられたミスリル銀が放つ冷たい光は、その時の
ミキの温和な笑顔にはひどく不釣合いに思えた。
- 290 名前:F.Q. 第三章(013) 投稿日:2003/12/08(月) 01:35
- 「んで、レイナが一番?」
「うん。エリのターゲットは二つとも離れてるし、サユとろいし」
「言いながらあんたまた雑な仕事してないでしょうね」
「大丈夫だよ、火薬山盛り使ったから木っ端微塵だよ。それよか将軍も
三つも回った割には早かったじゃん」
「それが雑だっていうんだよ」無駄な言い争いを避けるため、
のど元まで出かかった言葉をミキは飲み込む。
その代わりに、聞こえるはずもない遠くの爆音に耳を澄ますように、
夜空を眺める。木々の隙間から星が流れるのが見えた。
(あいつらもうまくやってるといいけど)
- 291 名前:F.Q. 第三章(014) 投稿日:2003/12/08(月) 01:37
- 「敵襲!」
腹のそこから出したはずだったが、警備兵の声は明らかにおびえの色を
含んでいた。
今日のシフトが終わったら、一週間ぶりに街に戻れる。戻ったら
何をしよう?やっぱり酒だろ。そんな他愛ない会話をさっきまでしていた部下たちが、
血しぶきを上げて音もなく次々と目の前で倒れていく。
敵の侵入が告げられたのは、ほんの五分前。しかし、最初のセンサーからの警報の後、
部下からの報告は一切なかった。不審に思ったが、この疾風のような
襲撃者を目の当たりにして、すべてを納得した。
- 292 名前:F.Q. 第三章(015) 投稿日:2003/12/08(月) 01:38
- 敵は影だった。銃やセイバーを構える部下の前で、敵はその姿を
一瞬だけ現す。しかし、そのスピードゆえに正確に姿を捉えることはできない。
ただ、床を蹴る音と仲間の悲鳴だけが施設に響き渡る。
そして、施設の心臓につながるこの最後の通路でも、死への順番は
確実に自分に近付いてきている。
逃げようとする。しかし足が動かない。術なのか恐怖なのか、
そんなことはどっちでも良かった。ただこの場から離れたかった。
これが夢であればよかったのに。
- 293 名前:F.Q. 第三章(016) 投稿日:2003/12/08(月) 01:39
- 「脆い」
彼が最期に見たのは、そうつぶやく獣の目だった。突如眼前に現れた、
いやそれまではその姿を追うことすらできなかった敵は、
一言そう言うと、警備兵の首の前で前足を振る。
「何が起こったんだろう」一拍ほどそんなことを考えたあと、警備兵の
首から鮮血が吹き上がった。
「まったく。フジモトさんもレイナも人使い荒いんだから。なんで私だけ
こんな場所が離れたトコばっか」
自らが駆け抜けてきた通路を振り返りながら、さっきの男が最後の敵だったことを
獣は確認する。
そのしなやかな肢体は、一見すると大型のイタチよう。しかし、
光沢のある水色の長毛は、その一本一本が鋼のように固く、
鋭い刃のごとく敵を切り裂く。そして、前足には指はなく、一対の
鎌のように長く弧を描いている。
- 294 名前:F.Q. 第三章(017) 投稿日:2003/12/08(月) 01:41
- 「っつ!」
安全を確認すると、獣は徐々にその力を解き始める。その途中、
頬に鋭い痛みを感じた。最後の警備兵ががむしゃらに振り回したセイバーが
かすったのだ。戦闘の興奮のために気付かなかったが、
人型に戻った右手で頬に触れると、ぬるりと嫌な温もりを感じた。
「やるねぇ。相手はカマイタチだよ、お兄ちゃん」
嫌味ではなく、一瞬対峙しただけの敵に心から賞賛を贈った。
できるだけ相手を苦しめないように頚動脈を切り裂いた最後の敵の
死に顔は、得体の知れないものへの恐怖で歪んでいた。
「悪いとは思ってるよ」
- 295 名前:F.Q. 第三章(018) 投稿日:2003/12/08(月) 01:42
- 「……物言わぬ我が同胞よ。我らが母ディアナの力をもって、
秘めしその刃をここに示さん……ヴォレスタ」
六つ目の施設がカマイタチによって機能不能に陥った同時刻、
そこより北に位置する最後の施設もまた混乱に満ちていた。
草が、蔦が、そして荊が警備兵たちのみならず、施設全体を覆いつくしながら
襲い掛かる。ある者は突如として現れた蔦に絡みとられ、
それを逃れようと走り出す者の前には、床を突き破った荊が襲い掛かる。
運良く外へ逃れた兵たちも、自分たちの施設が森の木々に貫かれ、
煙を上げる様をただ呆然と見つめるしかなかった。
- 296 名前:F.Q. 第三章(019) 投稿日:2003/12/08(月) 01:44
- 「敵だ!敵がどこかに潜んでいるはずだ。探せ!」
命からがら逃げ出してきた隊長らしき男が怒号をあげるが、
皆得体の知れない巨大な敵と突如として牙をむいた自然に恐れをなし、
それに従おうとする者は誰もいなかった。
「ふーんだ。探したって見つかりませんよ」
三階建ての建物ほどもある巨木の上から、少女は自らの仕事の
できばえを満足そうに眺めながら、ヒステリックに叫び続けている
警備隊長に向かって舌を出した。
ベビーピンクのローブは、ともすれば夜の森では格好の的になりそうだが、
少女は不思議と森に溶け込んでいた。気配を消しているわけではない。
少女自身が森の一部と化しているのだ。
- 297 名前:F.Q. 第三章(020) 投稿日:2003/12/08(月) 01:45
- サユミ=ミチシゲは少女になる前は森だった。ノームやドワーフのような
森の精霊ではなく。森そのものだった。
かつて南の大陸にエルフも住まない深く豊かな大森林があった。
森は辺りに住む者たちに恵みを与えたが、その光も射さない奥地には
決して足を踏み入れさせなかった。そして、その最奥地では、一本の
巨木が人の生の何十倍、何百倍の時を経て、トレントとなっていた。
トレントは森を育み、森を慈しみ、森とともに生きる精霊。そして、
トレントは森が滅ぶ時、その役目を終えて土へと還る。
しかし、その森のトレントは、森が焼かれ、いよいよその死が迫った時、
一つの生を与え、一つの生を得た。しかし、それはまた別の話。
- 298 名前:F.Q. 第三章(021) 投稿日:2003/12/08(月) 01:46
- 「あ〜あ、たぶん私また最後だな」
できるだけ敵を傷つけないように戦おうとすれば、それだけ時間がかかる。
いつも通り他の二人に遅れをとったであろうことを思うと、少々気が重かった。
どんな顔をして合流しようか、そんなことを考えながら、漫然と
火を噴き始めた施設を眺めていたサユミの視界を影が一筋横切った。
「風の匂い……ちょっと待ってよ、エリ!」
声と同時にサユミが左手を指揮者のように振る。すると、いまだ
混乱冷めやらない施設を迂回するように駆け抜けていた影は、
大音響とともに蔦に足をとられ、顔面から猛スピードで地面に突っ込み、
そのまま何回転かして樫の大樹にぶつかって止まった。
- 299 名前:F.Q. 第三章(022) 投稿日:2003/12/08(月) 01:47
- 「アンタ!私が時速何キロで走ってると思ってるの?
百キロ余裕で超えてるのよ。死ぬかなって思わない普通?
あんなの超人為的な事故よ!」
勢いよく怒鳴りつけているが、受身取る間もなく顔から大回転したので、
口の周りも切り傷だらけで上手くしゃべれない。「事故よ!」がどうしても
「事故ひょ!」に聞こえてしまい、サユミは噴出しそうになるが、
さすがにそれは申し訳ないと思ってしない。その代わりに「ごめんね」を
繰り返しながら、手製の傷薬を顔中に塗ってやる。
- 300 名前:F.Q. 第三章(022) 投稿日:2003/12/08(月) 01:49
- 「ごめんね。だってエリが見えたから嬉しくて、つい」
「サユはあれだよね。普段めちゃんこ優しいけど『つい』で人を殺すタイプだね」
サユミの傷薬のお陰だとは認めたくないが、徐々に顔の痛みもひき、
皮肉にも力がこもらなくなってくる。なにより、サユミの顔を見ていると、
悔しいが毒を抜かれている自分がいる。
「ずるいやつ」それだけ言うと、エリはもういいよと言うように手を振り、
サユミから離れる。
「背中乗っけてあげるから、なんか敷くもの準備して」
「え?」
「サユミの好きなイタチさんになってあげるから。
その方がフジモトさんトコ早くいけるでしょ」
「うん」
「はいはい、泣かなくていいから。それより急ご。さっきレイナの受け持ちの
施設通ってきたけど、あの子あいかわらずむちゃくちゃしてたから
もうとっくに合流してると思うよ」
最初の襲撃から二時間と経っていなかった。たった四人の襲撃者によって、
これまでオウティークを守り続けてきた高射砲施設は全滅、
ミネルヴァは全警備兵の半数を失っていた。
- 301 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/08(月) 02:25
- かっけー。
さすがです。
- 302 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/25(木) 01:24
- 会話の中から自然にキャラの特徴を説明してるのが凄いです。
多忙かもしれませんがこれからも頑張ってください。
- 303 名前:ギャンタンク 投稿日:2004/01/03(土) 03:35
- あけましておめでとさんです。
今年も更新をまったりと楽しみにお待ちしてます。
嗚呼みっちゃん。w
- 304 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/16(金) 15:37
- ochi
- 305 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/21(水) 04:16
- 娘。小説で六期始めてみた
正直更新諦めてました
ありがとう
- 306 名前:ochi 投稿日:2004/01/26(月) 02:18
- 作者様。はよ書け
- 307 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/27(火) 20:08
-
- 308 名前:名無し読者Z 投稿日:2004/01/28(水) 23:27
- 保全
- 309 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/28(土) 00:02
- hoze
- 310 名前:保全 投稿日:2004/03/21(日) 22:00
- 作者さんなんかあったの?
- 311 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/16(金) 15:51
- 保
- 312 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/16(金) 15:52
- 保
- 313 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/05/14(金) 14:32
- ホ
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/19(水) 19:19
- まだまだ待ってるよ
保全
- 315 名前:なつめ 投稿日:2004/06/07(月) 01:48
- お詫びの言葉が見つかりません。
このスレにおけるファイナル・クエストはここで終了させてください。
理由は様々、すべてをお話しても私の無責任な行動が許されるとは思い
ませんが、一部はHPに書かせていただきましたので、ご報告までに。
このスレについては時間の流れに任せるのが自然化と思いますが、
以前申し出があったので書かせていただきますと、もし続きを書いてみたい
とお考えの方がいらっしゃいましたら、有効利用してしてください。
その際は可能な限りのご協力をいたします。
ご迷惑をかけました。身勝手で我儘な言い分ですが今は少し楽になりました。
ごめんなさい。m-seekが大好きでした。これからも大好きです。
- 316 名前:名無し読者 投稿日:2004/06/07(月) 23:48
- 最後の最後まで、お騒がせな作者だったな。
でも、小説の内容は最高だったよ。ホントもったいないなぁ。
まあ、とりあえず、お疲れ。(ホントはこんな形で言いたくなかったけど・・・)
- 317 名前:ナナシ 投稿日:2004/06/08(火) 00:19
- 書ききらないのはちょっと…とは思うものの、
これを読んでるときは本当に楽しかったので残念な気持ちよりありがとうが先行します。
HPの方もちょくちょくチェックしていくので、もし書いてみようなんて気が起こるようであればいつまででも待ってます。
お疲れ様でした
- 318 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/08(火) 23:01
- とにかくお疲れ様でした。
しかし惜しいですね。誰か続き書いてくれないかな?
- 319 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/22(火) 21:58
- 残念だけど、お疲れ様でした。
かなり好きだったんだ、誰か書いてほしいです。(他力本願でわるいですが
- 320 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 00:06
-
- 321 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/02(金) 23:38
- 作者さんに了承を頂きましたので、続き書かせていただきます。
今月中には続きを書き始めたいと思っています。
皆様のご期待に沿えるようがんばりますので、よろしくお願いします。
- 322 名前:JUNIOR 投稿日:2004/07/08(木) 20:32
- お疲れ様でした。
とても面白い作品を書く作者さんと
思っていました。あなたの作品が大好きです。
これからもそれは変わらないと思います。
本当にお疲れ様でした。
- 323 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/15(木) 21:39
- >>321さん、楽しみにしてます
- 324 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/16(金) 21:38
- 続き書いてくれる方、お待ちしてます
- 325 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/26(月) 01:57
- 完結編・・・いろいろとショックだった
- 326 名前:F.Q. 第三章(023) 投稿日:2004/07/27(火) 23:19
- ユウコが動いたのは、施設からの音信が途絶えてからだった。
それが遅いのか、早いのか誰も判断できない。
それが評価されるのは、この戦いが終ってからのことなのだから。
だが、ユウコの頭の中では、全体像の見えないパズルのピースが一つ一つ組み合わされていた。
「ナッチ、使えるエージェントは?」
「数人…後はほとんど外に出てる…」
「くそ、タイミングが悪いなぁ…」
ユウコの下に来た報告では、敵は数人だという。
たった数人でこれだけのことをできる集団は、ユウコの記憶の中では一つもなかった。
- 327 名前:F.Q. 第三章(024) 投稿日:2004/07/27(火) 23:20
- 「残ってるもの、全部集めて。場所は、ここや」
ユウコが指差したのは南の大森林と町の境にある門。
ユウコがここを選ぶには理由がある。
相手は施設をたった数人でつぶす力がある連中だ。
オウティーク侵入が目的なら、ユウコの命が目的なら、さっさとここに来ればよい。
にもかかわらず、施設を丁寧に全部つぶしている。
これは後発で援軍がくることを示しているのではないか?
今、暴れている奴らは、後発部隊が来るまでの先発隊。
後発部隊が進行しやすいようにといったところだろう。
よって、後から来るのはオウティークを落とすための軍隊。
そう、相手の目的はオウティーク、ここの陥落。
そこまで相手の動きを読んだ場合、相手が次に落とすのは門。
町と大森林の境界線ともいえる鋼鉄の分厚い扉。
ここを開けば、オウティークまでの道は完全に一本に開くことになる。
- 328 名前:F.Q. 第三章(025) 投稿日:2004/07/27(火) 23:21
-
「あーやっときた」
ただのガラクタと化した砲台にまたがったレイナは言った。
自分の方へとやってくるエリとサユミの姿を確認したからだ。
腰を下ろしていたミキも立ち上がる。
長らくオウティークを守っていた各高射砲施設。
それら全ての機能はものの数時間で完全に停止していた。
「将軍、そろそろ行きましょうか?」
「だから、将軍って言うな」
その口調は先ほどまでと違い、真剣味があった。
後にやってくる王国軍が来るまでに、ミキは決めたかった。
自分達はかませ犬じゃない。
王国軍がやってきて手柄をとられる前に、自分達で決めていたいのだ。
ここまでは予定通り。寧ろ早いくらいである。
- 329 名前:F.Q. 第三章(026) 投稿日:2004/07/27(火) 23:22
- イタチであるエリの背から降りるサユミ。
エリも人間の姿に戻る。
そもそも、戻るという感覚はエリの中にはなかった。
彼女の実体が何かと問われれば、彼女は獣の姿が本来の姿なのだから。
サユミやレイナがそうであるように、人間の姿など、彼女達にとってはただの手段でしかなかった。
人間の姿をしたものが力をもつ世界で生きていくための、たったそれだけの手段でしか。
ミキの示す次の襲撃地は、ユウコの予想通りのところである。
彼女達は四筋の光となり、漆黒の森をまっすぐに突っ切っていった。
- 330 名前:F.Q. 第三章(027) 投稿日:2004/07/27(火) 23:22
-
「来る…」
数箇所で炎の上がっている森を見つめて、ナツミは言った。
相手が数人というのが正しい情報なら、自分の周りにいるエージェントでは到底かなわない。
ナツミ自身、一人ではたった二時間で施設を落とすことは困難であることはわかっている。
自分と同格の、Sクラスのエージェントはミネルヴァの中で数人。
ましてや、今ここにいるエージェントでは自分以外に一人だけ。
「アベさ〜ん、どんな具合ですか?」
いつの間にか自分の横に来ていた一人の少女。
彼女こそ、もう一人のSクラスエージェント。
一年以内にSクラスまで上り詰めたのは、マキを除けば彼女しか居ない。
派手なピンクのマントを身にまとい、腰に差した漆黒の剣の柄には、不釣合いなハート型の装飾が施されていた。
漆黒の剣、ダーク・シリーズと呼ばれる剣に、そんな装飾をしている人物は、世界広しといえども彼女だけだろう。
アヤ=マツウラ。
遺伝的に霊力が低いスタルディーにして、他種族でも稀なほどの強い霊力を持つ彼女はまさしく天才と呼ぶに相応しかった。
- 331 名前:F.Q. 第三章(028) 投稿日:2004/07/27(火) 23:23
- そして、ナツミが密かに頼りにしているのはもう一人―――
自分の隣であくびをしているハーフダークエルフだ。
先日Bクラスに昇格したばかりだが、戦闘能力という点では、Aクラスに匹敵する彼女。
最も、なぜAクラスに昇格しないかは、彼女の人間性の問題が多々あるのだが。
森の奥にキラリと光が見えた。
4つの光。
リカやアヤには見えていなかったが、ナツミの目それをは確かに捕らえていた。
それとともに霊力が集まっているのがわかる。
「マツウラ、みんなに下がるように言って」
叫んでナツミは詠唱を始めた。
- 332 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/31(土) 14:36
- 更新お疲れ様です。
そして、ありがとうございます。
これからもFQの世界観をそのままに、頑張って下さい。
- 333 名前:F.Q. 第三章(029) 投稿日:2004/08/17(火) 17:15
- 「一気にいく」
「了解」
3人の声がそろい、同時に詠唱を開始する。
「……世を駆ける我らの同胞よ。我らの主テュポンの命により、ここに集い給え……カジオイル」
「……恵みを与えし我が手足よ。偉大なるケルノヌスの力と共に、敵を撃て……ツォルスト」
「……荒ぶる力の源よ。我らが父ロキに依りて、その姿を現さん……ファレイス」
「……世界を轟くこの指先、ニヨルドがもつ我が指先、今ひとたび、我の力となり給え……ジュミトリ」
それを確認し、ミキも詠唱を始めていた。
そして、こちらでももう一つの、五つ目の詠唱が重なろうとしていた。
- 334 名前:F.Q. 第三章(030) 投稿日:2004/08/17(火) 17:15
- 「・・・・・・月も星も、神も悪魔も我にはいらぬ、我の瞳に映りし物、
すべて無に還らん・・・・・・ヴォイド!」
門からの光と森からの光。
それらは同時に発生し、同時に消失した。
ほんの一瞬の出来事。
だが、その瞬間に生まれ消えていった霊力は、エルフ数十人のそれに値するだろう。
ふらつくナツミをすぐに支えるリカ。
自分の予想以上の霊力を消滅させたナツミに対する代償だった。
「すぐに来る。応戦体勢を整えて!敵は……4人」
リカにもたれながらも、ナツミは大声で指示を出す。
4人という数が残りの兵に、勇気を与えたことは確かだった。
たったの4人。それに対して、こちらは50人近くいる。
数的優位が士気を上げるのは当然のことだった。
しかし、ナツミとアヤ、そしてリカだけはそうは考えなかった。
相手は、施設をものの数時間で破壊した連中だ。
逆にもっと相手の数が多かった方が、彼女たちにとっては好ましい状況だった。
- 335 名前:F.Q. 第三章(031) 投稿日:2004/08/17(火) 17:16
- 森から光が飛び出し、門の前に降り立つ。
一斉に放たれた矢や術の類は、4人に触れることはなかった。
まるで生き物のように動く木々が、次々とそれを払い落としていたのだ。
「マツウラ、リカちゃん、頼める?」
「オッケーですよ」
「はい」
まだ少し頭が重い。
当分大きな術は使えないだろう。
だが、自分たち以外エージェントがかなうとは思えない。
加えて4対3。この数的不利は致命的だ。
「迎撃やめて。あなたたちはこの門を守ることだけに集中して」
アヤとナツミ飛び降りる。
10メートル近い高さがあったが、彼女たちはまるで階段を一段飛び降りるほどの感覚で降りていった。
リカも真似しようかと考えたが、下を見下ろした瞬間、そんな思いは消え、おとなしく階段を使うことにした。
- 336 名前:F.Q. 第三章(032) 投稿日:2004/08/17(火) 17:16
- 「ふぅん、第二世代がこんなところに二人もいるんだ」
レイナは、自分の前に立つナツミとアヤを見て言った。
第二世代。
ナツミには、その言葉には聞き覚えがあった。
正確に言えば、その言葉自体には無いのだが、カオリが言った言葉の方を知っていた。
「第三世代」と、ミチヨのことをカオリが呼び、連れ去ったということ。
それは報告としてユウコの口から、ナツミやアヤ達上位エージェントに伝えられていた。
「あなたたちは第三世代?」
ナツミはカマをかけてみる。
少しでも相手の情報を探り出したいと共に、あわよくばカオリのことのヒントになるかもしれない。
そういう考えがあった。
「さぁね、どうだろう?」
答えたのはミキ。ナツミの意図を見透かしたかのように、笑みを浮かべながら言った。
だが、それにかぶさるように「第二世代だよ」という声が聞こえた。
ミキが答えたレイナをキッと睨む。
しかし、レイナはなぜ自分が怒られているのか、わからなかった。
- 337 名前:F.Q. 第三章(033) 投稿日:2004/08/17(火) 17:16
- 自分たちが勝つのは決まってるんだからという思いが、油断がレイナにはあった。
それは決して2対4という数的有利から来ているものではない。
自分の力に対する絶対的な自信。それの賜物だった。
「いいんじゃないですか?この人たち何も知らないんですよ。
ちょっとくらい自分のこと知ってから死んだ方がよくないですか?」
「黙れ。時間が無いの。どうせ死ぬんだから、そんな無駄な時間は必要ない」
ミキの声色が明らかに異なっていた。
さすがのレイナも少し怯えの表情を見せ、黙った。
ミキが剣を構える。
異様なほどの輝く銀色の光。
それに一番敏感に反応したのはアヤだった。
湧き上がる高揚感。
そして、恐怖。
アヤは確かに見たことがあった。
特徴的な光を放つ、異形な武器。
悲鳴と炎に包まれたあの日、アヤの記憶に残った唯一の、そして最大の手がかり。
それを目の前にして、穴だらけの記憶が次々と蘇ってくる。
人違いであるはずは無い。
私の名前、アヤ=マツウラ。
そして、あいつは私の仇。
念仏のように心の中で唱える。
- 338 名前:F.Q. 第三章(034) 投稿日:2004/08/17(火) 17:17
- 「アベさん、真ん中のは私に任せてください」
「ちょっとマツウラ、頭に血、のぼり過ぎ」
普段冷静なアヤ、いつも一歩引いてはおちゃらけ、自分を出そうとしない彼女が始めてみせる激情。
言葉だけでナツミがわかるほどの激情。
「私、血圧低いので、それくらいが丁度いいんですよ」
アヤが剣を抜く。
リカが追いついたのはそのときだった。
その二つが引き金となり、戦いが始まる。
向かってくる風の刃と化したエリを避けるアヤとナツミ。
そのままアヤは二歩でミキに近づき剣を振る。
ミキは余裕をもって大きく後ろに下がり、それを回避する。
着地した二歩目で更にそれに追いつこうと、踏み出した。
しかし、またミキは後ろに大きく下がる。
そのやり取りを繰り返すこと数度。
既にナツミたちとの距離は大きく離れたときだった。
アヤが一歩踏み出したとき、ミキが逆に踏み出してきた。
- 339 名前:F.Q. 第三章(035) 投稿日:2004/08/17(火) 17:18
- アヤは慌てて剣を振り下ろすが、手だけのそれは体重の全くかかっていない剣撃であり、容易にミキに払われる。
続くミキの攻撃がかすり傷で済んだのは奇跡だったろう。
胸当てがばっさりと切られたが、左手を少し切られた程度だった。
ミキは舌打ちする。
剣が払われる瞬間、アヤはそのコンマ数秒の間にミキの剣の反動を利用し、自分の体を後ろに引いたのだ。
「あんた、何者?」
「アヤ=マツウラ。あなたにちょっと恨みをもった可愛いSクラスエージェントですよ」
言葉と裏腹に、アヤの顔に笑みはなかった。
- 340 名前:F.Q. 第三章(036) 投稿日:2004/08/17(火) 17:18
- 「お姉さん、私を殴るなんて無理ですよ」
「やってみないとわかんないじゃん」
イタチと化したエリの前に立つのはリカ。
既に左の拳は真っ赤に染まっていた。
「風を殴ることも切ることも不可能ですよ」
「それは常識でしょ?あいにく私は非常識なの」
エリが再び風になる。
リカは避けようともせずに向かってくるそれにあわせ、左手を突き出した。
空を裂いたリカの拳は、更なる出血をもたらし、またリカの体にもいくつかの傷が生まれた。
「無駄だって言ってるでしょう」
再度向かうエリにリカは再度拳を振った。
おびただしい血と感覚の無くなっていく左手。
エリの方のダメージは0に等しかった。
「第二世代の私が、あなたに負けるわけ無いでしょ」
「うるさい。そんなことはどーでもいい!私は、非常識なのよ!」
叫んで振るった拳はやはり空を切るのみ。
だが、リカもエリも気づいていなかった。
徐々にリカの体に刻まれていく傷の数が減っていることに。
- 341 名前:名無し 投稿日:2004/08/17(火) 17:21
- 更新遅くなって申し訳ないです。
>>332 世界観を壊さないよう、自分なりの解釈でやっていきますのでよろしくです。
- 342 名前:名無し読者 投稿日:2004/08/20(金) 14:18
- 更新お疲れさまです。
続きが読めてうれしいです。
これからもがんばって下さい。
- 343 名前:F.Q. 第三章(037) 投稿日:2004/09/03(金) 00:03
- ◇
ナツミの剣は、レイナの目の前で阻まれた。
木の枝がいくつにも重なり、レイナの前に盾を作っていた。
次いで、向かってくるレイナの拳をナツミは避ける。
リカにも及ばないであろう体術で、ナツミの実力からすれば容易に倒せる相手。
しかし、それはあくまで1対1の場合であろう。
自分の足に絡みつく蔦を切り落とす。
その隙にレイナの蹴りがナツミを襲った。
空いている左手でガードするも、痺れが走った。
それにあわせるように、鞭のようにしなった枝が、ヒュンという音を立ててやってくる。
背後から来るそれを、ナツミは振り返ることなく避け、大きく距離をとった。
- 344 名前:F.Q. 第三章(038) 投稿日:2004/09/03(金) 00:03
- 軍服に身を包むレイナと、その後ろに立つサユミ。
1対2。いや、サユミの能力で完全に敵となった森を相手にしているのだから、相手は何百、いや何千人だろうか。
「レイナ、さっさとやっちゃってよ」
「ダメだよ。すぐに終らせちゃ面白く無いじゃん」
二人は笑いながら言う。
そこに戦いの真剣さは感じられなかった。
完全になめられているという事実が、ナツミを刺激したが、それで我を失うほど彼女は未熟ではなかった。
しかし、自分ひとりでは生き延びるだけで精一杯だということは、わかっていた。
アヤも、リカも周りにいない。完全に分断された戦い。
相手はよほど自分たちに自信があるのだろう。
全員集まって戦われたなら、まず勝ち目はなかったろうとナツミは思う。
だからといって、各個撃破で倒せる確率もそれほど大きいものではない。
加えて、先ほど使った術の影響がナツミには強く出ており、戦う前からの消耗が半端ではなかった。
- 345 名前:F.Q. 第三章(039) 投稿日:2004/09/03(金) 00:04
- 誰かいてくれたらと思う。せめて2対2ならば、と。
向かってくる蔦をかわし、視界を遮る木の葉を振りほどく。
その先にまつ拳を一つ受けたが、剣を振るう。
ジンと痛む左肩を押さえながらナツミは手ごたえを感じる。
血が糸のように宙を舞うのが見えた。
「レイナ!」
サユミが慌てて近寄り、手をそっと傷口に当てる。
流れる血は勢いを失い、止まっていった。
- 346 名前:F.Q. 第三章(040) 投稿日:2004/09/03(金) 00:04
- 「嘘でしょ」
治癒の術をナツミは見たことが無いわけではない。
だが、あれはプリースト等の限られた者にしか使うことはできないうえに、ひどく非効率だ。
詠唱に要する時間、霊力に対する回復効果が少ないから。
ほとんどの者が覚えようとはしない。
そもそも、教会自体がそれを広めようとしないのだ。
自分たちの権利とでも思っているのだろうか。
教会という閉鎖組織の中でしか存在しない術であるから、一向に改良がなされないのかもしれない。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
サユミのそれは明らかにそのレベルを凌駕していた。
それに対して、ナツミの左手は力を入れても上手く上がらなかった。
鎖骨が折れていた。
痛みは興奮によりほとんど感じていない。
逆に余計に神経を研ぎ澄ますほど。
しかし、勝機は以前小さくなる一方であった。
- 347 名前:F.Q. 第三章(041) 投稿日:2004/09/03(金) 00:04
- 「第二世代のくせに、術使えないのね」
急にレイナが言う。
確かに、多対一の戦闘における基本は術を使うことだった。
もちろん、今のナツミにそんな余裕は無い。
仮に先の術が無かったとしても、二人の攻撃を避けながらの詠唱は不可能に違いないが。
「さっきから、第二世代第二世代って、一体なんのことよ!」
ナツミは声を荒げた。
ナツミの表情とは対照的に、その言葉でキョトンとした表情になるレイナ。
彼女は一度サユミの方を見た。
「サユ、いいかな?」
「フジモトさん、まだてこずってるみたいだから、いいと思う」
両耳に手を当て、音を聞く仕草をしてから、サユミは答えた。
「本当に知らないんだ。じゃ、レイナが教えてあげるよ」
- 348 名前:F.Q. 第三章(042) 投稿日:2004/09/03(金) 00:05
- ◇
ユウコは椅子に座り、じっと報告を待っていた。
ナツミたちが森の中で応戦していること。
敵が4人であること。
それはすでにユウコの耳に入ってきている。
そして、膨大な霊力の一瞬による消失もユウコは感じ取っていた。
「第二世代か。まだおったんやな」
腕を組みなおし、ユウコはつぶやく。
このことはミネルヴァではユウコだけが知りえていることだった。
そう、ミネルヴァでは。
ユウコ以外に知っているのは、カオリ。
ユウコが把握しているのはそれだけだった。
- 349 名前:F.Q. 第三章(043) 投稿日:2004/09/03(金) 00:05
- だが、明らかにフジモトらはエイム王国の人間だった。
鎖国的な政策と揶揄されているエイム王国。
術のレベルの進歩は遅く、外の世界とは長い間大きく溝を開けられていた。
しかし、それは過去の話。
王国として統治を行うための自衛手段として、術を学ぶために、一部で秘密裏に外へと派遣していた。
秘密裏とはいえ、王国という強大な組織が行えば、それは決して周りに見劣りするものではなく。
王国で霊力の資質を見出され、外へと派遣されたものは、ローゼクターと呼ばれた。
その存在はミネルヴァをもってしても、掴む事はできていなかった。
唯一存在を知っていたのは、アクリスの一部の人間だったが、彼らは王国からの多大な金銭をそれで獲得していたため、売ることはなかった。
全ては数ヶ月前のあの事件が発端。
失われた威信を取り戻すため、そして、一都市でありながら王国以上の栄を見せるオウティークを叩くため。
何より、結界牢獄施設を抜け出した者が、ミネルヴァに所属しているという情報をつかんだから。
急遽呼び戻されたローゼクターは4人。
もちろん、王国軍が彼女たちをすぐ受け入れるわけもなく、戦力と見なしている筈も無く。
今回のような作戦が取られることとなった。
ガタンと音がして、扉が開く。
久しぶりに見る小さな体が、そこにはあった。
- 350 名前:F.Q. 第三章(044) 投稿日:2004/09/03(金) 00:06
- 「状況は?ナッチは?みんなは?」
「もう動けるんか。でも、あんたの出番は無しやで、ヤグチ」
ぎこちない足取りで自分の方に向かってくる彼女の、ユウコは厳しく言った。
まだリハビリ段階で、日常生活をおくるのがやっとのヤグチができることなど、何一つ無かった。
「ナッチは戦ってるんでしょ?」
「ああ。ナッチとな、マツウラ、知ってるやろ?あのちょっと変わり者やけど。それにな、リカちゃんが行ってくれてるわ」
「状況は?」
「かなりやばいやろうなぁ。相手は4人やけど、1対1で勝負になるのはナッチとマツウラくらいやろ」
「それって駄目じゃん!」
叫んでユウコに背を向けて、出て行こうとするマリ。
その背中をユウコが「行っても無駄や」と止める。
- 351 名前:F.Q. 第三章(045) 投稿日:2004/09/03(金) 00:06
- 「やってみなきゃわかんないじゃん!」
「あほ。ナッチでしか相手ならん奴に、怪我人が行ってどないなんねん。
あいつらは、第二世代や。たとえ万全の状態でも、あんたの相手になる奴らと違う」
「何?第二世代って?」
ユウコは思わず口に手を当てた。
誰にも言うつもりは無かったことだったから。
しかし、今更シラをきって通る相手ではないことはわかっている。
観念してユウコは話し出した。
「この世界の生き物はな、種族とは別に、霊力の資質によって3つに大きく分けられるねん。
第一世代、第二世代、第三世代って呼んでるんやけどな――――
- 352 名前:F.Q. 第三章(046) 投稿日:2004/09/03(金) 00:07
- 「あなたと私たち、それにさっき隊長に突っ掛かって行った人……」
「マツウラ?」
「うん。あの人は第二世代。存在する霊力を使うことができる人」
「意味わかんない」
吐く息で動く肩に痛みが走る。
ナツミはできるだけ短い言葉で会話しようとした。
「えーサユ、この人何も知らないよ。本当に第二世代?」
サユミにぼやくレイナ。
サユミはそんなレイナに何も言わず、次を話し始めた。
「一から説明しますね。まず、第一世代。この世の者はほぼこれだと言われています。自分の中の霊力しか使うことができない人を指します。
それに対して、第二世代は、こうして私たちの周りにある霊力を使うことができます」
サユミは両手を開き、手のひらを上に向ける。
- 353 名前:F.Q. 第三章(047) 投稿日:2004/09/03(金) 00:07
- 「あんたがさっき滅霊結界を使ったから、この辺の霊力はほとんどなくなっちゃったけどさ。
あれも、周りの霊力を使うことができる第二世代特有の術なんだ」
レイナが付け足す。
試しにナツミは術を放とうとしてみるが、いつもより若干霊力の集中が遅いように感じた。
「やめてよ。怖いこと。下手に動くとすぐ殺しちゃうからね」
笑って言う。
絶対の自信がレイナにはあった。
だからこそ、ナツミはそれを最大限利用しようとしていた。
- 354 名前:F.Q. 第三章(048) 投稿日:2004/09/03(金) 00:08
- ―――最後にな、第三世代って言うのは、霊力を生み出せる奴らや。自分の体から霊力が次々に湧き上がってくるから、無限の霊力を使うことができるっちゅうわけや。
存在は知ってるけど、見たこと無かった。ましてやあの元親衛隊員がそうやったやなんてな」
ユウコは皮肉っぽく言った。
「で、ナッチもマツウラも第二世代ってわけ?」
「そうや、マキもな」
「マキも?」
さすがに驚きを隠せなかったが、彼女のサモナーとしての類稀な力はそれで納得できた。
「ミネルヴァのSクラスエージェントは全員第二世代や。それが、Sクラスにあがる資格やからな」
ユウコはそう言い放った。
- 355 名前:名無し 投稿日:2004/09/03(金) 00:09
- >>342 ありがとうございます。かなりマターリ更新ですが、見放さないでやってください
- 356 名前:◆ULENaccI 投稿日:2004/09/03(金) 00:15
- 期待してます。
- 357 名前:F.Q. 第三章(049) 投稿日:2004/09/07(火) 00:42
- 「なんだよ、それ…なんなのよそれ」
「だからな――」
「だから?だからおいらは一人でボーっとしてろって?冗談じゃないよ。そもそも、そんなもんで人間決まってたまるかよ!
おいらはな、おいらは、何のためにここにいると思ってるんだよ?
ここはさ、そーゆー育ちとか生まれとか関係ないから、だから、だからみんな集まってくるんじゃないのかよ」
「ヤグチ…」
「失望した。ユウちゃんには。でもな、おいらはナッチのところに行く。仲間だかんな」
涙を浮かべ、マリは部屋を出ようする。
「ちょっと待ちや」
「何さ?」
「どいつもこいつもバカやねんから…」
ユウコはマリに近づき、手を握った。
- 358 名前:F.Q. 第三章(050) 投稿日:2004/09/07(火) 00:42
- ◇
アヤは自分の出身地を言うことが大嫌いだった。
なぜなら、彼女の故郷は、もう地図上に存在していないのだから―――
二人の剣が何度も重なり合う。
暗い森の中、放たれる火花が二人を照らす。
最初は不意を突かれたアヤだったが、それ以降は大きな動きは無く。
ミキとアヤの剣技はほぼ互角だった。
術を使うにも、その隙を見出すことができなかった。
一方的に剣を振るアヤと、それを受け流すミキという構図が次第に多くなる。
それは、アヤの焦りというより怒りによって、徐々に隙と化していく。
- 359 名前:F.Q. 第三章(051) 投稿日:2004/09/07(火) 00:42
- アヤの目に映るミキは、ただの敵ではなく。
自分たちの故郷を一夜にして地図上から消した相手。
自分の親の、友人の敵。
突然、自分たちの平和な空間にやってきて、それを奪った相手。
掛け声と共に出した剣が、避けられる。
大振りになっていたそれは、完全な隙となり、ミキはアヤの横に回った。
振り切られる剣。
今度ばかりはかすり傷では済まなかった。
口内に広がる血の臭い。
わき腹を守る鎧とマントをざっくり切られ、ピンク色のそれが血で黒く染まっていく。
「くそっ」
声を出し、集中を保つ。
反転して放つ剣も避けられていた。
- 360 名前:F.Q. 第三章(052) 投稿日:2004/09/07(火) 00:43
- 「決まりだね」
「まだ…終わって……ない」
激しくなった呼吸の合間から言葉をもらすアヤ。
彼女がミネルヴァに入った理由、自分を鍛えた理由。
それは全て、仇を討つためであり。
アヤ自身、その思いが自分の実力を発揮できない足かせになっているとは、夢にも思っていなかった。
自分の血を吸ったミスリルが光る。
一人、屋根裏に上げられたアヤ。
そこから覗いた時も同じだった。
親だけでなく、自分の血まで吸われた剣。
更に憎しみと怒りが湧き上がるが、アヤの体を動かす力とはなり得なかった。
「そーゆーの嫌いなんだよね」
ミキは一気に距離をつめ、剣を振る。
受け止めたアヤはその衝撃で後ろに倒れる。
すぐに剣をもつ右手をミキは踏みつけ、喉元に剣を向けた。
- 361 名前:F.Q. 第三章(053) 投稿日:2004/09/07(火) 00:43
- 「ほら、降参したら?助けてあげるかもよ」
「……お母さん……お父さん……」
アヤの目から涙がこぼれた。
それは決して死への恐怖ではなく、仇をとれないことへの悔し涙。
右手にかかる力はどんどん強くなり、骨が軋んでいるのがわかる。
だが、アヤにはどうすることもできなかった。
「誰だ?」
ミキは言った。
アヤには変わらず剣を向けたままだったが、顔は上空を向いていた。
「あら、ばれちゃったか。どうしようミウ?」
「いいんじゃない?マイ」
高い木の枝に座った二人のセイレーンは、おどけた様子でそう言った。
- 362 名前:F.Q. 第三章(054) 投稿日:2004/09/07(火) 00:43
- ◇
「ねぇ知ってる?」
左手から滴る血を拭くこうともしないで、リカは言った。
「何ですか?」
「第二世代がどんなものか知らないけどさ。どんなにすごいのか知らないけどさ……
コカトリスの瞳とドラゴンの尻尾。どっちが強いかくらいわかるでしょ?」
「それは、コカトリスでしょうね」
「つまりね、そういうことよ!」
風と化したエリはリカの右腕を切り裂く。
だが、今度はリカの方にも確かに手ごたえがあった。
「な、何…」
肩を押さえるエリ。
イタチ化した彼女の肩にくっきりとしたあざが見えた。
- 363 名前:F.Q. 第三章(055) 投稿日:2004/09/07(火) 00:44
- 「もうやめとく?次はそれくらいじゃ済まないわよ」
サドっ気たっぷりの表情でリカは言う。
ハーフダークエルフである彼女の形相は、ダークエルフのそれよりも恐ろしくエリの目に映った。
湧き上がる恐怖を殺すように、再度風となるエリだが、受けた痛みは先ほど以上であった。
「いくらドラゴンでもね、尻尾じゃーコカトリスに勝てないのよ」
「その例え、意味わかんないです!」
「えーわかんない?つまりね、勝つのは私っていってるのよ」
次のエリの攻撃では、リカは頬を軽く切っただけだった。
- 364 名前:F.Q. 第三章(056) 投稿日:2004/09/07(火) 00:44
- 「まぐれよ…風が……風を…殴るなんて」
「まぐれも3回続けば実力ってね。もうやめといたら?」
この時、初めて術を使おうとするエリに迷いが生じた。
それが更に幸いした。
加えて、ナツミの使った滅霊結界。
あれのせいで、エリの術の力は最初から落ちていたのだった。
風となったエリは、リカを傷つけることなく、逆に飛ばされた。
風の速度に加え、リカの拳の速度がのったカウンター。
エリの右腕はえぐりとられ、真っ赤な血が噴出した。
「ったく…なめんじゃないわよ……」
リカはその場に崩れた。
彼女の足元もまた、真っ赤な血溜りができていた。
- 365 名前:F.Q. 第三章(057) 投稿日:2004/09/07(火) 00:44
- ◇
「無駄話しすぎちゃったね」
「レイナがしようって言ったんでしょ?」
「そうだっけ?」
すでに呼吸の乱れもとうに収まり、汗すら引いていた。
しかし、彼女たちが焦っていないということは、少なくともアヤやリカはまだ生きていると判断し、ナツミは安心した。
「そろそろ殺すね」
レイナが拳を上げる。
無数の枝が矢のように飛んでくる。
片手で持った剣でそれをさばくとともに、レイナの動きを読み、後ろに下がる。
攻撃することを諦め、逃げに徹すれば、負けない相手ではない。
次々と避け、一向に攻撃のあたらないことに焦れたレイナは、足を止めた。
- 366 名前:F.Q. 第三章(058) 投稿日:2004/09/07(火) 00:45
- 「……荒ぶる力の源よ」
「レイナ、駄目!」
叫んでサユミがレイナにつかみかかる。
ナツミへの攻撃が完全に止まるほどの必死さで、サユミはつかみかかった。
「ご、ごめん…サユ…」
レイナは反論せずに謝った。
このペアの致命的なミスはこれだったに違いない。
レイナの使う術は炎。
そして、サユミは炎が苦手だった。
嘗て、自分の同胞を焼き尽くした炎。
森のままであったなら、確実に自分まで殺されていたであろう炎の力。
サユミは、それ以来炎を嫌っていた。
「危ない!」
レイナはサユミを突き放した。
二人のいざこざの隙を、ナツミが逃すわけは無い。
サユミを押したレイナの右手ざっくりと切られたそれは、白い骨が見えた。
そのまま、剣を止めないナツミは、更にレイナの体を二度薙いだ。
飛び出す血がナツミの顔を赤く染める。
- 367 名前:F.Q. 第三章(059) 投稿日:2004/09/07(火) 00:45
- 「レイナ!」
サユミは叫んだが、彼女はレイナの方には近寄らず、逆に後ろに下がった。
その冷静さにナツミは驚く。
ほんの短い間だったが、二人が互いに依存しあっているであろうことはわかっていたから。
すぐにかたが付くと思っていたから。
サユミは一度叫んでから、無言だった。
泣いている訳でもなく。瞳には何も映っていないように見えた。
まるで、魂がここに無いような、ヒトではないような。
ナツミは動けなかった。
ほんの数メートル先で立っているだけの少女に、ナツミは近づけなかった。
時間が流れているのかさえ、わからなくなってくる。
頬に流れる汗が血と混じり、顎をつたって、剣を構えた右手の甲に落ちる。
呼吸音だけが耳を支配する静寂。
レイナも倒れたままピクリとも動かない。
地面に広がった血の海が、彼女が動かない理由を如実に示していた。
- 368 名前:F.Q. 第三章(060) 投稿日:2004/09/07(火) 00:46
- サユミの左手が動いた。
それだけで、ナツミはビクッとした。
仮にもSクラスエージェントである自分が、これだけ恐れているのも変な話だったが、今のサユミにはそれだけの凄みがあった。
葉が舞う。枝がしなる。蔦が伸びる。
それは一瞬の出来事で。
葉で視界を遮られるのを嫌ったナツミが、飛びのこうとしたが動けない。
右足と地面をつなぎ止めているのは、茶色い根。
地面から突き出した根っこが、ナツミの右足と大地を固くつないでいた。
それを確認している間に、右手と左手に蔦が絡まる。
同時に左肩を打ち付ける枝に、ナツミは思わず声をあげた。
カシャンという音を鳴らし、地面に落ちる剣。
- 369 名前:F.Q. 第三章(061) 投稿日:2004/09/07(火) 00:46
- 両手と両足を固定されたナツミは動くことができなかった。
加えて、首に絡まる蔦が、喉を締め付け、術を唱えることすら出来なかった。
「レイナ、ごめんね…」
サユミはそう言ってナツミの落とした剣を拾い上げる。
それをまっすぐナツミに向けた。
声を出そうとするが、むせ返すだけで。喉から血の臭いが立ち込めてきた。
- 370 名前:F.Q. 第三章(062) 投稿日:2004/09/07(火) 00:47
-
「アチャー」
金切り音のような叫びが響いたのはそんな時だった。
上のほうから飛び出してきた丸い物体に当たり、サユミは飛ばされた。
「な……なんで……」
「ふふふ、救世主参上ってね!」
サユミの手から離れた剣を拾い、自称救世主マリはナツミの自由を奪うものを次々に切っていった。
- 371 名前:F.Q. 第三章(063) 投稿日:2004/09/07(火) 00:47
- ―――
「……ほんまに、世話のかかる子やで」
額をぐっしょり汗で濡らしたユウコは、椅子まで戻れず、床に座り込んでいた。
全身から力は抜け、気を抜くと痙攣を起こしそうだった。
時空魔術は、時を遅らせるだけでなく、早めることも出来る。
マリの時間を早め、回復するまで時間を進めたのは、ユウコの力。
最初は「オバサンになっちゃうじゃん」と冗談交じりに文句を言ったマリだが、彼女が拒否する理由は無かった。
だが、数ヶ月という単位で時間を早めることは、ユウコ自身試したことは無く。
(その代償がこれか……)
吐き気に加え、眩暈を感じる。
ユウコはそのまま後ろに倒れた。
見慣れた天上はグルグルまわって、全く違うものに見えた。
「こりゃ当分回復せんな……ヤグチ、この借りは絶対返してもらうからな」
- 372 名前:F.Q. 第三章(064) 投稿日:2004/09/07(火) 00:47
- ―――というわけ」
「ふぅん、でもユウちゃんもヤグチも無茶するなぁ」
「それに助けられた人が文句言わない」
二人は笑いあう。
笑うたびに痛む肩も、マリがいればなんだか心地よかった。
サユミは起き上がる。
痛みなんて感じていないように。
そして、森に語りかける。
木々が、彼女の手足のように動き始める。
彼女の味方はこの広大な自然。
たとえ、1対2という数的不利ができても、問題にならない……はずだった。
- 373 名前:F.Q. 第三章(065) 投稿日:2004/09/07(火) 00:48
- 森の動きが止まる。
彼女の呼びかけに答えるものが少なくなった。
「え……」
サユミの目に光が戻る。動揺という名の光が。
「ふふん、もう大体覚えたから、あんたの好きにはさせないよ」
マリがピースサインをサユミに向ける。
だが、すぐにぶつぶつと言葉ではない声を発し始めた。
「どうして、どうしてあなたが!」
声を荒げるサユミ。レイナが生きていた時のように、感情が完全に入っていた。
それと同時に先ほどまでの凄みは影を潜めた。
- 374 名前:F.Q. 第三章(066) 投稿日:2004/09/07(火) 00:48
- 「ヤグチ、まさか……」
「そう。あの子がやってるの聞いて覚えたんだ。まさか草木と会話することができるなんて知らなかったよ」
「……なら、もっと早く着いてたってこと?」
「え…ま、まぁ…そういうことになるのかな…」
言い終わる前にマリの頭を軽くナツミは叩いた。
「だってさ、救世主はピンチに来るもんだし。それに、おいらの力であの状況で割って入れないよ」
「あのっていつごろ?」
「えと、ナッチが逃げ回ってるころ」
再びナツミはマリの頭を叩いた。
ともかく、これで状況が完全に逆転したのは言うまでも無かった。
この戦いを通じて初めての優位。
だが、それに水を差したのは上空に現れた二人だった。
- 375 名前:F.Q. 第三章(067) 投稿日:2004/09/07(火) 00:48
- 「ミズさん、こっちにもいましたー」
「おっけーこれで6人?」
「でも、一人死んでそうですよ」
「うーん、器くらいにはなりそうじゃない?」
「そうですね」
高い木の枝に止まった二人のセイレーン。
戦いの終わりごろにやってきて、死体を語るそれは、烏の様にも見えた。
そのうち一人にマリは見覚えがあった。
忘れもしない。あの場所にいた一人だった。
「あれ?あの顔、死んだはずじゃなかったっけ?」
ミズと呼ばれたセイレーン―ミズホ―がマリを指差す。
小柄で金髪な兵なんてそうそういるものではないから、ミズホはすぐに思い出した。
「あんたたちも、お仲間はどうしたの?」
マリも負けじと大声で言い返す。
「タカはこの前、あんたのお仲間に殺されちゃったから。代わりに新しい子、リーダーが作ってくれたの」
「トモカでーす」と言い、もう一人のセイレーンは手を振った。
- 376 名前:名無し 投稿日:2004/09/07(火) 00:50
- 何か書けたので更新してみました。
>>356 今回たまたま更新早いですが、いつもはもっと遅いのでマターリよろしくです。
- 377 名前:名無し読者 投稿日:2004/09/07(火) 11:49
- 更新お疲れ様です。
マターリ待ってます。
- 378 名前:F.Q. 第三章(068) 投稿日:2004/10/17(日) 23:35
- ◇
空が光る。
日の出と見まがうかのように、あたりがまぶしいほどに光った。
エルム王国の兵士たちにとっては、まぶしいとしか感じる暇はなかった。
国に存在する全兵力。
それが光に包まれる。
オウティークに少し離れた高台の上。
瞬時にそこはただの平地へと姿を変えた。
まるで何事もなかったかのように。
音もなくそれは消えた。
そこだけ空間が切り取られたかのように。
エルム王国の兵士は全て、姿を消していた。
- 379 名前:F.Q. 第三章(069) 投稿日:2004/10/17(日) 23:37
- 「何…さっきの…」
ミキは自分の背中がべっとりと濡れていることに気づいた。
空が明るくなると共に、瞬時に生まれでた、今まで感じたことのないような霊力。
「あ、もう終わっちゃったんだ」
地面に降りてきたセイレーンが言う。
「可哀相にねー」
そう言ったマイの体は瞬時に真っ二つになった。
「マイ!」
「あんたも、ウザイ」
ミウは背を向けて飛び上がろうとするが、ミキの剣閃に羽が舞い散る。
バランスを崩し地面に倒れるミウ。
その隙を見逃さないミキが、剣を振りかぶる。
だが、背後に感じた気配に、ミキは剣をそのままに、ミウを大きく飛び越した。
- 380 名前:F.Q. 第三章(070) 投稿日:2004/10/17(日) 23:37
- 「あんた、まだいたの?」
ミキがさっきまでいたところに剣を振り下ろしたアヤがいた。
腹部を真っ赤に染めた彼女に、見下したような視線と共にミキは言い放つ。
だが、彼女はそれだけ言うと、アヤから視線を外し、起き上がろうとするミウの首をはねた。
「さ、今度こそあなたの番だよ」
ふきだした血が、アヤの顔を染める。
アヤ自身、さきほどの光のことは忘れていた。
目の前にいる自分の敵。
それが全てだった。
- 381 名前:F.Q. 第三章(071) 投稿日:2004/10/17(日) 23:39
- 止まらない血が、頭に上った血を抑えたのか、アヤの心は先ほどまでの激情はなかった。
冷静さを取り戻す。
加えて痛みが自分の感覚を鋭敏にさせた。
向かってくるミキの剣をいなしていく。
受けるのではなく、力の方向を変えることで最低限の力でそれを行う。
軽い傷はどんどん増えていくが、決して致命傷となるものではなくて。
逆に飛び散っていく血飛沫が、ミキに自分の攻撃は効いていると錯覚させていた。
立場は逆転していた。
手負いという油断。
加えてセイレーンを殺したことによる妙な高揚感がミキを支配していた。
徐々にアヤの手にかかる力が強くなっていく。
いなしていくのもつらくなっていった。
だが、それと共にミキの隙が大きくなっていく。
- 382 名前:F.Q. 第三章(072) 投稿日:2004/10/17(日) 23:40
- ワンチャンス。
アヤは自分に言い聞かせる。
どんどん鋭くなっていくミキの攻撃。
アヤの肩を鋭く切り裂く。
急所は外れているが、深く肉を抉り取られた。
それでもアヤは動かない。
だが、ミキには今まで以上の手ごたえが残り。
一気に決めようと剣を振り上げた。
アヤはその時点で横に一歩踏み出す。
気づかれないように上半身を残したまま。
下半身だけは、その後の一撃のための準備を進めていた。
ミキは気づかない。
勢いのまま振り下ろした剣は、アヤの剣先を折った。
だが、その下にはアヤの体はない。
横に回りこんだアヤは、ミキの体を薙いだ。
- 383 名前:F.Q. 第三章(073) 投稿日:2004/10/17(日) 23:43
- ―――同刻。
ミネルヴァ本部に現れた光の塊は、阻む者を次々と惨殺しながら、ゆっくりとある人物の元へと向かっていた。
光の中にいるのは、純白の羽をもつセイレーン。
その翼を赤く染めることなく、近づくものはまるで彼女の周りに壁があるように、一定距離に近づくと息絶えていく。
次第に兵士は恐怖と、その美しさに目を奪われ、道を譲っていく。
カオリ=イイダはそのまま扉を破壊し、目的の人物の元へと至った。
- 384 名前:F.Q. 第三章(074) 投稿日:2004/10/17(日) 23:43
- 「カオリ…」
「ユウちゃん、久しぶりだね」
マリに使った術の影響で、満足に立ち上がることのできないユウコに、カオリは近づく。
「さっきの……あんたか?」
椅子にもたれかかる様にして、立ち上がるユウコ。
勤めて普段どおりの態度で振舞う。
「驚いた?」
「さぁな……あれか、第三世代の力ってやつか?」
「まぁそんなことかな」
ニッコリと笑う。
だが、それに感情は見えなくて。
頬の筋肉を動かしているといった程度にしか感じ取れなかった。
- 385 名前:F.Q. 第三章(075) 投稿日:2004/10/17(日) 23:44
- 「で、何の用や?」
聞きたいことは山ほどあった。
先ほどの光は、ユウコが知る限り、存在し得ない力であった。
何より、自分が知っているカオリとは存在感が違いすぎた。
年月のせいだけでは説明できないそれが、カオリから感じ取られた。
「うんとね、ユウちゃんにはおとなしくしてもらおうと思って」
再び笑みを浮かべる。
ガラス玉のような瞳に、ユウコの姿が映っていた。
- 386 名前:名無し 投稿日:2004/10/17(日) 23:45
- ちょっとだけ
>>377 ありがとうございます。次は今月中になんとかしてみます。
- 387 名前:名無し読者 投稿日:2004/10/18(月) 11:32
- 読めるだけで嬉しいですよー。
また一波乱おきそうですね。
- 388 名前:F.Q. 第三章(076) 投稿日:2004/12/03(金) 01:37
- ◇
辺りを漂う霧は、マリに恐怖を与えた。
あの時の、あの島でのことをマリに思い起こさせるのに十分だったから。
だが、マリは震える手で、ポケットからあるものを取り出す。
アイの、ジェッティの科学技術によって生み出されたそれ。
以前の戦闘ではまだ試作段階だったそれを、マリは身につける。
それと同時に、体から恐怖は去った。
霧というものをマリは目にすることはなくなったのだから。
同時に、ナツミの右から急降下するセイレーンの姿が見える。
- 389 名前:F.Q. 第三章(077) 投稿日:2004/12/03(金) 01:37
- 「ナッチ、右!」
その声で振り返りながら剣を振るうナツミ。
セイレーンはゆうゆうとそれを避けるが、その代わりにナツミに攻撃を加えることは出来なかった。
「ナッチ、これ」
マリは自分に向かってくるもう一人のセイレーンの攻撃を避け、ナツミに近づき、それを差し出した。
見た目はただのゴーグル。
だが、それは決して水の中で使うものではなく、今、この場所で使用するためのもの。
煙幕、濃霧、砂嵐、暗闇と、ありとあらゆる状況で視界を確保するアイの作ったゴーグル。
2ヶ月間という短い期間で形にしたそれは、先の試運転では、かなりの不評だった。
それからわずかな期間で、完全なものを作り上げたのは、彼女のプライドだった。
渡されたそれを手に取るナツミだが、見た目のいびつさから、身につけた自分の姿を想像し、一瞬ためらいを見せたが、そんなこと以上にこのアイテムが有益であることを、理解できないわけは無かった。
- 390 名前:F.Q. 第三章(078) 投稿日:2004/12/03(金) 01:38
- セイレーンたちは二人が見えていないと思っているから、通常では考えられない安直な方法、一番殺傷率の高いところを狙う。
だが、それは見えている側からすれば、スキだらけの簡単な攻撃。
マリとナツミの二人がそれを回避し、相手に致命打を与えられないわけはなかった。
「え…」
二人のセイレーンは同時に声を上げる。
彼女たちの羽が宙に舞い落ちる。
地面に打ち付けられた、すでに普通の人間となんら変わりの無いセイレーンに、二人は刃を当てた。
「あなたたちの目的は何?」
ナツミは尋ねる。
「どうして、アサミさんの霧が…」
トモカがそう言ったとき、霧が晴れ始め、一人の少女の姿が見えた。
青色の宝石を片手に、少女はゆっくりと歩く。
神秘的な光を放つそれは、少女より強い存在感を持ち。
マリとナツミの目は、少女よりも先にそちらに向かうことは当然だった。
- 391 名前:F.Q. 第三章(079) 投稿日:2004/12/03(金) 01:38
- 「お二人とも、もうそれを外していいんじゃないですか?」
少女―アサミ―は言う。
霧が晴れたことすらわからないほどのアイのゴーグルの性能。
改めてジェッティの少女のあどけない顔を思い出し、マリは苦笑いを浮かべて、それを外す。
「誰?」
「私は、アサミっていいます。たぶん、あなたたちの敵です」
ナツミの問いかけに答えるその声に、緊張感は無い。
刃を向けられているセイレーンは抵抗することもせずに、不気味なほどの沈黙を守っていた。
「二人を離してもらえませんか?」
「そんなこと、すると思う?」
マリは言う。
視線はアサミを向きながらも、意識は常にミズホの方に向けていた。
- 392 名前:F.Q. 第三章(080) 投稿日:2004/12/03(金) 01:39
- 「別に構わないんです。そこの二人はイイダさんにとってのただのコマですから。
それに、私の力なんて、このディープ・ブルーを使うことだけです。
これがお二人に通用しないのなら、私はこうやってお願いする以外に、方法はありませんからね」
悲観的なことを述べているにしては、やけに落ち着いた声。
時折見せる笑みが、気味悪かった。
「そう、よくわかってるね。なら、あなたでいいわ。あなたたちの目的は何?」
ナツミは問いかけた。
「目的、ですか。それはわかりません。私もイイダさんから何も聞いてないんですから」
「そう、じゃ、そのイイダさんっていうのはどこにいるの?」
「どこでしょうか?あなたに教える理由はありません」
その言葉が引き金となり、ナツミはトモカから離れ、地面を蹴る。
ナツミの剣がアサミの喉元に軽く触れるまで、瞬きする時間すらなかった。
- 393 名前:F.Q. 第三章(081) 投稿日:2004/12/03(金) 01:39
- 「状況を考えて言えば?あなた、さっき自分が言ったこと忘れたの?」
だが、アサミには少しも怯えも動揺も無かった。
ナツミとあわせた目をそらすこともしないまま。
彼女はただ、待っていた。
一つの光が自分の上空へと来ることを。
また、ナツミもむやみにアサミを殺すわけにもいかず、アサミが何かしらの動きをみせるのを待っていることしか出来なかった。
二人の呼吸音だけがお互いの耳に届く。
マリは自分の頬をつたう汗をぬぐうこともせず。
二人が動きを見せる瞬間を、じっと見つめていた。
そうして、膠着状態のまま、アサミの待つ光が上空へと現れる。
ついさっき、エイム王国の兵士を消し去った光に似て、それよりも遥かに強い光が。
しかし、それは穏やかな海のように、不調和を生み出さずにそこに在った。
圧倒的な存在感とともに、そこに在った。
そして、光の中心にいるのは純白のセイレーン。
- 394 名前:F.Q. 第三章(082) 投稿日:2004/12/03(金) 01:39
- 「イイダさん」
アサミが言うと、それとともに光が降りてくる。
一つの光はアサミのもとへ。
もう一つはマリの方、最後の光は全く別の方向へと、森の中に消えて行った。
光に包まれたアサミは、そのままカオリのもとへと引き寄せられ。
彼女の喉もとに当てていたナツミの剣先は、切り取られたようになくなっていた。
マリが避けた光は足元へと落ち、光につつまれたミズホとトモカは悲鳴だけを残して消え去った。
- 395 名前:名無し 投稿日:2004/12/03(金) 01:41
- 少しだけ。年内にはもう一回するつもりです。
- 396 名前:名無し読者 投稿日:2004/12/07(火) 17:12
- 登場人物が増えては減っていきましたね。
続き楽しみにしてます。
- 397 名前:F.Q. 第三章(083) 投稿日:2005/01/17(月) 00:26
- 「何だったの…」
ナツミはつぶやく。
結局彼女たちの目的が何一つわからないまま、殺戮の後のみが残った森。
夜明けの光が差し込み始め、数箇所から立ち上る煙が目に入る。
「マツウラやリカちゃん、探さないと…」
体を動かそうとすると、ナツミの全身がきしんだ。
「ナッチはここにいて。おいらが探してくる。それとさ…」
ちらりとサユミを見る。
彼女にもう戦う意思がないことは明白だった。
「行ってきて」
マリのいいたいことを理解し、ナツミは言う。
マリは頷くと森に消えていった。
それを確認し、ナツミはその場に座り込む。
わからないことだらけだった。
サユミたちのこと、セイレーンのこと。
ただ、彼女たちがお互い仲間ではないこと。
そして、両方とも自分たちの敵ということだけしかわからなかった。
この戦いによる被害がどれくらいのものかわからない。
加えて、エイム王国の兵が消滅したことをしらないナツミには、まだ彼らが攻めてくる危険性まで考えなければいけなかった。
- 398 名前:F.Q. 第三章(084) 投稿日:2005/01/17(月) 00:27
- 「ナッチ、やばい」
マリの声が聞こえる。
彼女が背負っているのは血まみれのリカ。
体中の血が全てなくなっているかのように蒼白な皮膚。
マリが背中で感じる体温は氷のように冷たく。
今から戻っていたのなら間に合わない。
ユウコが居たならば時間を遅らせることは可能だが、それも無理だった。
「治してくれない…かな?」
ナツミは頭を下げる。
今の状況でリカを助けることができるのは、サユミだけなのは明白だった。
返事はない。
焦点の合わない目でレイナに寄り添うサユミ。
彼女の方が生きているか心配になるほど、うつろな目をしていた。
「ねぇ?」
肩を持ち、こちらを向かせるが同じ。
ガラスのように透き通った瞳に光は映っていなかった。
- 399 名前:F.Q. 第三章(085) 投稿日:2005/01/17(月) 00:27
- 「お願い…大切な人が居なくなる辛さ、あなた今感じてるでしょ?
私たちの大切な人なの。リカちゃんは。だからさ、だから…」
「ったく、アベさん何やってるんですか」
後ろから声がした。
振り返ると上半身を真っ赤に染めたアヤがそこに立っていた。
「…みんな死んだんだ」
周りに自分の仲間の気配がないことを改めて確認し、サユミは言った。
木々が彼女を囲む。
彼女を慰めるかのように、やさしく、そして寂しそうに。
周りの木々が次々に集まっていき、彼女の姿が見えなくなる。
アヤが剣を構えるのをナツミは制した。
儀式のような神秘的な雰囲気がそこにあった。
「森に、なる」
マリが言った。
自分の耳に入ってくる植物の声が彼女にそう告げた。
- 400 名前:F.Q. 第三章(086) 投稿日:2005/01/17(月) 00:27
- 「森?」
ナツミとアヤは声を揃えてマリを見るが、彼女も首を振るだけだった。
レイナを抱き上げるサユミ。
その周りにエリとフジモトの体も現れる。
光を帯びる目の前の木々をただ見守る3人。
彼女たちは気づかない。
その光に当たるリカの顔色が少しずつよくなっていくことを。
そして、自分たちの体から痛みが引いていくことを。
それは、本当に少しずつ、少しずつの変化であった。
サユミもレイナもエリもフジモトも。
彼女たちが光に包まれ、ゆっくりと肉体の境界をなくしていくのと反対に。
漏れ出た光はナツミたちを癒していた。
光が消える。
集まった木々が再び元に戻る。
それは、日の光を受けて青々と生い茂っていた。
そして、サユミたちの姿は完全になくなっていた。
- 401 名前:F.Q. 第三章(087) 投稿日:2005/01/17(月) 00:28
- 「あの子たち、何だったんだろう」
ナツミは呟く。
結局のところ、彼女たちの目的やなぜ攻めてきたかはナツミたちには一切わからなかった。
「喜んでる。森が。新しい仲間ができたって」
マリが言う。
それに答えるように、吹き付ける一筋の風。
自分たちにまとわりつくような風。
ナツミはその時、ようやく自分たちの傷が治っていることに気づいた。
「アベさん…あいつらは?」
リカが起き上がる。
「もう、終わったよ。ユウちゃんに報告だ」
- 402 名前:F.Q. 第三章(088) 投稿日:2005/01/17(月) 00:28
- ◇
「何するつもりや?」
「ユウちゃんの霊力、すごいよね」
真っ白な手が伸びる。
避けようとする力はユウコには残っていなかった。
「私がそれ使ってあげる」
視界を塞ぐ手のひら。
それからは体温というものが感じられなかった。
氷を当てられているように。
やわらかさとか温かみとか、そういった生物らしいものは何一つ感じられなかった。
「ユウちゃんの理想の社会って何?」
ユウコは答えることができない。
割れるような痛みが頭を襲っていた。
「私はね、こんな世界やり直すべきだと思ってるんだ。
でね、そのためにはユウちゃんみたいな人の霊力が必要なんだ」
ユウコの口から悲鳴が聞こえる。
脳に直接雷を浴びせられたかのように。
意識が瞬間に吹き飛んだ。
「ふふ…ユウちゃんがその世界を見れないのはかわいそうだね」
手が離れる。
ユウコの体は糸の切れた操り人形のように、無造作に椅子から落ちた。
- 403 名前:名無し 投稿日:2005/01/17(月) 00:30
- >>387 レス返し忘れ申し訳ないです。ありがとうございます。
>>396 更新遅くて申し訳ないです。今後は少し落ち着くかもです。
- 404 名前:名無し読者 投稿日:2005/01/22(土) 11:29
- 強敵との決着がついて一段落かと思いきや
また大変そうですね
- 405 名前:名無し読者 投稿日:2005/04/13(水) 11:06
- 更新待ってます
- 406 名前:F.Q. 第三章(089) 投稿日:2005/04/13(水) 22:00
- ◇
「何、これ」
最初に言葉を発したのはケイだった。
それは、彼女が一番最初に異変に気づいたからというわけではなく。
声を出せたのが、彼女だけだったと言うだけのことだった。
マキは森に足を踏み入れたときから、それに気づいていた。
第二世代である彼女は、その森から溢れる霊力の変化を感じ取っていたのだ。
全てが終ってから更に半日経った後だった。
彼女たちがオウティークに戻ってきたのは。
抉り取られたように続く道は、オウティークへの門をくぐると嫌でも目に入った。
壁に飛び散った血と鋭く切断されたたくさんの人。
どんな剣の名手でも、これほどまでに鮮やかに人を切ることのできる者を、ケイは知らなかった。
- 407 名前:F.Q. 第三章(090) 投稿日:2005/04/13(水) 22:00
- 街は数時間前の喧騒がなかったかのように、静まり返っていた。
陽もすっかり傾き、薄暗い中、人の気配はするが姿の見えない街。
各々に色々な想像がよぎる。
けれども、それを口にだすことはせずに、4人はただただ、ミネルヴァの本部へと足を進めた。
見てない自分たちが言い争うよりも、見ている人間に聞いた方が早いと。
誰もがその認識を持っていた。
そうして、4人は目にすることとなる。
ナツミ、マリ、アヤ、そしてリカに囲まれたベッドの上で横になるユウコの姿を。
茶色がかった髪は、見る影も無く真っ白になり。
髪の色と同じく、顔色も蒼白。
胸が上下していることでしか、生を実感できなかった。
癒しの術を使っても、全く効果はない。
癒しの術は体力を取り戻すためのものである。
今のユウコは精神が死んでいる。
それを例え言葉で聴かされたとしても、マキは納得するわけもない。
名前を呼び、抱きつき、泣き叫ぶ。
それは、数時間前のマリと全く同じ行動だった。
そして、マキがやってなければ、自分がやったであろうとケイも、アイも思った。
一人、その中でマキに対して心を痛めていたのは、サヤカだけ。
日の浅い彼女にとっては、ユウコはまだまだ単なる上司でしかなかったのだから、それは仕方の無いことだった。
- 408 名前:F.Q. 第三章(091) 投稿日:2005/04/13(水) 22:01
- 静まらないマキと、その部屋にサヤカだけを残し、他の6人は隣の部屋へと移った。
そうして、起こった事を知っているだけ話していく。
ナツミたちも、帰ってきたらユウコのこんな姿を見たため、大して情報量はかわらない。
後は全て、周りにいた兵士たちの証言から得られたことだった。
第三世代のこと。
エイム王国軍のこと。
ユウコのこと。
それらのことが、全てカオリで繋がることに、ひどく嫌悪感を感じる。
相手がわかっていてやられっぱなしで引き下がるほどに、ここにいる者たちはお人よしではなかった。
「霧の死神…島へ行こうか」
ぽつりとマリは言った。
水面に滴が落ちたかのように、その言葉は部屋に広がっていく。
けれども、マリは思わず口を押さえた。
ユウコのおかげでここまで回復してはいるが、自分があの島でどんな目にあったか、それを思い起こせば当然のことだった。
そして、それはケイにも言える事である。
拳をギュッと握り締める彼女は、それにいち早く賛成することができなかった。
- 409 名前:F.Q. 第三章(092) 投稿日:2005/04/13(水) 22:01
- 「私は、パスです」
沈黙の中の第一声はそれだった。
誰の声か、マリにはわからなかった。
一人一人、顔を見ていって、最後に行き着いたアヤの顔を見て、彼女の言葉ということを理解した。
「どうして?」
ナツミが言う。
Sクラスのエージェントであるナツミでしか、すぐにその問いかけは出来なかった。
「私がここに来た目的は、さっき終りました。ナカザワさんに恩はありますけど、私はもうミネルヴァにいる意味は無いですから」
「怖いんだ」
「何かいいましたか?」
みんなの視線がリカに集まる。
ハーフダークエルフはアヤの言い分を黙って聞いていられるほど、落ち着いていなかった。
- 410 名前:F.Q. 第三章(093) 投稿日:2005/04/13(水) 22:01
- 「いいですよ。あなたみたいな腰抜け一人、いたっていなくったって変わんないですよ」
アヤから視線を外して、嫌みったらしくリカは言う。
「さっきのあんな相手にかろうじて相打ちに持ち込めたあなたが、何言ってるんですか?」
「何?あなたも運よくギリギリ勝っただけでしょ?私はね、手加減してあげてたのよ」
リカの目は完全に戦闘モードだった。
「表にでなさい。皆さんに私が最後にできることがありましたよ。
みんなの足手まといのあなたを処分してから行きますね」
「ちょ、ちょっと、リカちゃん、マツウラも……そんなことやってる場合じゃないでしょ?」
「黙っててください」
声が揃った。
その剣幕に驚くナツミの肩に、ケイは手を置く。
マリもアイも、何も言えなかった。
- 411 名前:F.Q. 第三章(094) 投稿日:2005/04/13(水) 22:02
- 「やめるなら今のうちですよ」
「それはこっちの台詞」
剣と素手。
霊力もアヤの方がはるかに上。
経験も、何もかも。
リカが勝てる要素は何一つ無かった。
唯一勝っていると言えるのは、絶対に勝つという自信だけなのかもしれない。
リカの拳と蹴りがアヤを襲う。
彼女は柄でそれを次々に受ける。
それとともに、小さな術を至近距離から放った。
サユミたちの霊力で満ちた森がすぐ近くにあるせいで、普段よりもずっと楽に術が使えるのだった。
リカは変わらずに打撃で押すのみ。
アヤの体を掠めることはあったが、避けることに専念し、大きなスキができたときだけ術で反撃する彼女の体を捕らえることは不可能だった。
勝負はその時点で決まっていた。
けれども、アヤがリカを倒すのではなく、負けを認識させることを目標にしていたから。
勝負はすぐには決まらない。
寧ろ、そこにリカの勝機は存在していた。
- 412 名前:F.Q. 第三章(095) 投稿日:2005/04/13(水) 22:02
- 勝つという自信、それは精神的な強さ。
大して、まだ諦めないのかと焦れるアヤ。
わずかな体力差を埋める、更には逆転するには十分だった。
すでに1時間は経過しようとしていた。
泣き疲れて眠ったマキを部屋に残して、サヤカがその様子を見に来るほど。
陽はすっかりと落ち、二人の影を火が揺らすほど。
それほどの時間の経過の後に、ようやくリカの拳がアヤの腹部を捉えた。
その一撃でアヤは思わず剣を振る。
リカの体を軽く切り払い、赤い糸を引いた。
倒れたリカは、すぐに起き上がる。
アヤも剣を構える。
全身で呼吸をしている二人。
その肩の動きがぴったりとあった。
吸う。
吐く。
吸う。
吐く。
その動作を4回行ったとき、二人同時に地面を蹴った。
- 413 名前:F.Q. 第三章(095) 投稿日:2005/04/13(水) 22:03
-
「……バカに付き合うのも悪くないかもね」
「どうして止めたの?」
「あなたが止めたのと同じ理由よ。リカちゃん」
二人は支えあうように歩いてくる。
「ったく、最初からそのつもりだったくせに……」
愚痴るマリを、ナツミは軽く小突いた。
- 414 名前:名無し 投稿日:2005/04/13(水) 22:05
- >>404 >>405
遅くなって本当に本当にごめんなさい。
- 415 名前:名無し読者 投稿日:2005/04/18(月) 11:09
- 更新乙です。がんばってください。
- 416 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/21(木) 08:41
- 更新お疲れです。
これからも、マターリいつまでも待ちます!!
- 417 名前:名無し読者 投稿日:2005/07/28(木) 10:44
- 大変だと思いますけどがんばって下さい
待ってますよ
- 418 名前:名無し 投稿日:2005/08/17(水) 15:12
- 作者です。本当ごめんなさい。必ず続き書きますので、倉庫に落とさないでください。
- 419 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:27
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 420 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/28(水) 12:47
- 更新まだかなー
- 421 名前:kobouto 投稿日:2006/01/05(木) 10:24
- 変態
- 422 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/06(金) 01:37
- ageんなよばかーヽ(`Д´)ノウワァァァンン
- 423 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/13(金) 23:47
- ◇
3日間。
彼女たちが要した時間はそれだけだった。
復興すらままならないほどに壊滅したオウティーク。
その中から、必要な準備を揃え、奇跡的に損傷を免れた飛行艇につむ込み、発進させる。
目的地は誰もが敢えて口に出すことはしなかった。
目的地の座標設定を決定する前に、アイがナツミに確認の意味をこめて聞いただけだった。
目的地に向かう飛行艇内は、特に大きな騒ぎも無く。
積めるだけ積んだ使えそうな武器を、一つ一つ手にとっては確認していくサヤカ。
その横で訳もわからずに剣を見ている真似だけするマキ。
アヤは壁にもたれて目を瞑ったままだし、ナツミとアイ、マリの3人は進路のことなど細かな打ち合わせ。
- 424 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/13(金) 23:48
- そんな中、ケイは一人で窓から外を見ていた。
夜の闇に包まれて、何かが見えるわけではない。
見えるのは窓に映る自分の顔くらい。
しかし、彼女の瞳には全く違うものが映っていた。
あの時の記憶は無い。
気が付けば自分はベッドの上にいた。
ミチヨがいないことを告げられ、自分が傷つけたことを知った。
後悔とは少し違った思いだった。
けれども、確かに自分の心の中の影の部分であることには間違いなかった。
もう、二度とあんなことはしないと、自分の血を呪いたくもなった。
また、自分の無力さを痛感する出来事でもあった。
- 425 名前:F.Q. 第三章(098) 投稿日:2006/01/13(金) 23:48
- 「思い出してるんですか?」
背後から聞こえるリカの高い声が、ケイを現実に引き戻す。
ケイは答えることも振り返ることもしなかった。
窓に映るリカと目を合わせただけだった。
「ヨッスィ、生きてますよね?」
「さぁね」
自分が殺してない保証はどこにも無いのだ。
この両の手で、引き裂いたかもしれない。
もしくは、霊力がゼロの彼女を消し飛ばしたのかもしれない。
「ミチヨさんもヨッスィも生きてますよ。ずっとお祈りしてましたから」
「……」
それだけ言って向こうに行くリカ。
元シスターとはいえ、彼女の行動からそれを意識したことは一度も無い。
どこまでが本当かはわからないが、ケイが少し気持ちが軽くなったのも事実だった。
- 426 名前:F.Q. 第三章(099) 投稿日:2006/01/13(金) 23:49
- それからしばらくしてからのことだった。
ケイが窓の外に光の柱を見つけたのは。
その光に見覚えがあるのは、ナツミ、アヤ、マリの3人だけ。
純白のセイレーンがまとってたそれに等しいものだった。
北の大地の更に北。
霧がかかった中を、突き抜けるように天へと伸びる光だった。
「あと、どれくらいで着きそう?」
ナツミがアイに尋ねた。
「着陸地点を探さないといけませんが、数時間後には着きますね」
座標を変更しながらアイは答える。
光の近くまで進むか、離れて着陸するかといった判断は、アイに任されていた。
上位エージェントが誰であり、誰がリーダーなんてものはとっくに消えていた。
誰が一番その物事に対して精通しているか、各自がわかっていた。
- 427 名前:F.Q. 第三章(100) 投稿日:2006/01/13(金) 23:55
- アイの出した答えは離れて着陸するといったもの。
光の力がどれほどのものかわからないが、密閉空間である飛行艇内では逃げ場は無いのだ。
全滅することだけは避けなければいけない。
少しの労力でそれが回避できるのなら、そうするべきだとアイは判断した。
座標を指定して飛行艇を進める。
おおよその着陸時刻を皆に知らせると、アイはナツミと入れ替わるように操縦席を離れ、毛布の上で横になった。
離陸時はアイではないと無理だが、簡単な操縦はナツミにもできる。
にもかかわらず、これまでナツミに操縦を任せなかったのは、戦いの前に疲れさせたくなかったからだ。
戦いになれば、自分が大した戦力にならないことくらいわかっている。
だから、ここまでアイは一人でやってきたのだ。
数時間の睡眠はアイの疲労を少しでも回復させるため。
だが、その目論見はすぐに外れる。
異常を知らせるアラームが飛行艇内に響いたのだ。
- 428 名前:名無し 投稿日:2006/01/13(金) 23:56
- >>415-417 >>420 >>422
少しでごめんなさい。
- 429 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/25(水) 17:46
- 更新キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!!!
少しでもいいよ
10年かかっても完結まってる
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