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向日葵
- 1 名前:501 投稿日:2002年01月02日(水)02時54分32秒
- はじめまして501です。こちらで初めて小説を書かせていただきます。
更新はなるべく毎日出来るようにしたいと思います。
いしよしで切ないお話になります。キャストはあまり多く出てきません。
ちなみにひっそりとやっていきたいのでsageでお願いします。
- 2 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月02日(水)03時04分39秒
- ・・・疲れていた。
何に疲れているのか、アタシ自身分からない。
とにかく、全てに、疲れていた。心の安らぎを求めていた。
16歳の春。
志望していた高校に落ちて、親から期待はずれの烙印を押されたアタシは、家を出てバイトで生計を立てていた。
何の夢や希望がある訳でもなく、ただ一日一日を過ごすだけの毎日。
それがより一層心を疲れさせているのかもしれない。
今日もバイトへ向かうところ。今のバイトは個人が経営する小さいビデオ屋の店員だ。
それだけじゃ生活するのには苦しい。
普段は給料日前になると、工事現場の交通整備のバイトをしたりして食いつないでいるが、それではいざと言う時に心許ない。
“もう一つバイトを増やそっかな・・・”
- 3 名前:プロローグ2 投稿日:2002年01月02日(水)03時08分06秒
- アタシは求人誌を買う為に本屋に立ち寄った。駅構内の本屋なだけあって、かなり混んでいる。
サラリーマンとぶつかって、アタシはよろけて棚にぶつかってしまった。
その拍子に綺麗に陳列された本が数冊、バサッと勢いよく落ちてしまった。
「やっべー」
俺は慌てて落ちた本を拾い出した。周りにいる連中は見ていないフリをする。
ぶつかったサラリーマンもさっさといなくなっていた。
OLが落ちている本を踏まないように飛び越えて歩く。
その瞬間にクスクスッと笑い声が聞こえた。その笑い声はアタシに対してなのか、単なる会話の中での笑いだったのか、それは分からない。
だけど今のアタシには、アタシに対して向けた嘲笑いのようにしか受け止めれなかった。
- 4 名前:プロローグ3 投稿日:2002年01月02日(水)03時18分29秒
- “ちっ!なんでアタシだけこんな目に…”
疲れと色んな思いが混ざってイライラしていたアタシの前に一人の店員が本を拾い始めた。
「あ、いいですよ。私が片付けますから」
とアタシに言葉をかけた店員は、笑顔のよく似合う綺麗で可愛らしい女性だった。
年はおそらくアタシと変わらないくらいだと思う。
全てが均整のとれた整った顔立ちをしている。
アタシは思わずこの店員に見惚れてしまっていた。
- 5 名前:プロローグ4 投稿日:2002年01月02日(水)03時20分31秒
- ふと彼女がアタシのほうを向いたのでドキッとした。
アタシが本を落とした事に恐縮していると思ったのかもしれない。
「心配要らない」とでも言いたげに、ふっと彼女は笑顔をこちらに向けた。
その笑顔はアタシが今まで出会った、どの誰よりも魅力的なもので。
恋に落ちるのに理屈も時間も要らない、と誰かが言ってた事を思い出した。
こんなベタな出会い方なんか、B級映画でもそうそうお目に掛かれないと思う。
アタシは、名前の知らないこの店員に、確かに、密かに・・・恋をした。
- 6 名前:501 投稿日:2002年01月02日(水)03時28分09秒
- ひとまず今日はここまでで。今後ともよろしくです。
そして早速訂正です(涙)
>>3
>俺は慌てて落ちた本を拾い出した。
「俺」ではなくて「アタシ」です。
- 7 名前:第一話 〜再会〜 投稿日:2002年01月02日(水)17時54分17秒
- “綺麗な顔だったなぁ”
アタシはさっきの本屋の店員を思い出していた。
「すみません」とアタシが平謝りをしたら、やはり笑顔で「大丈夫ですよ」と言葉を返してくれた。
それは同性のアタシが見てもホゥッとため息の出るような綺麗な笑顔で。
・・・アタシ、吉澤ひとみが周囲と違うと気付いたのは中学生の時。
周りの女の子達は『○●くんが好き』と言っているのに、アタシは一人、その会話に加われずにいた。
その度に、アタシは自分がおかしいのではないかと、一人悩んだりもした。
・・・一度だけ、親に話した事がある。
気になる相手は女の子だけ。どうしても男の人に興味の持てないアタシは、誰かにすがりたい気持ちでいっぱいだった。
・・・けれど。
母親は「何言ってるの」と一笑し、
父親は「冗談でもそんな気持ち悪い話をするな」と怒られた。
もう誰にも話せなかった。
- 8 名前:第一話 〜再会〜 投稿日:2002年01月02日(水)17時57分01秒
どうしても異性を好きになれなかったアタシは、自分が異常体質なのだと悩んだ。
そして自分のような者達の事を世間では“同性愛者”と言うことを知った。
世間では自分達のような人間を、受け入れてくれるほど優しくはないことも知った。
固定観念の塊達は、同性愛者をまるでゴミのような扱いをする。
理解者のような顔をしている人達も根底は変わらないような気がした。
自分達の周囲にいないアタシ達のような人間が珍しいだけじゃないのだろうか。
アタシは、「この事を絶対に誰にも話してはいけない」と自分の心に封印をした。
それは、アタシ自身への蔑み、好奇の目で晒される事への恐れ。
ばれてしまった時の事を考えてしまうと、怖くて仕方がなかった。
- 9 名前:第一話 〜再会〜 投稿日:2002年01月02日(水)17時58分59秒
- 「おはよーございます」
アタシのバイト先のレンタルビデオ屋は、駅前のゆったりとした坂道の上にある商店街の一角のこじんまりとした店。
勤めてる人達は近くにある大学の学生や高校生で、学校に行ってないアタシとしては、ちょっと気後れしてしまうところがあったけれど、そういうのを気にしないで付き合える気の良い人達だ。
「おはようございます」
彼女は松浦亜弥。私の一つ下で16歳。
今時の女子高生とはちょっと違って、どちらかと言えば清潔感漂う女の子。
顔立ちもとても可愛らしく、妹にしたい女の子ナンバーワンって感じ。こういうタイプはきっとモテると思う。
- 10 名前:第一話 〜再会〜 投稿日:2002年01月02日(水)18時01分16秒
「吉澤さん、今日は5時までですよね。帰り一緒にマックにでも行きません?」
「あ、ゴメン。今日はちょっと用事があるんだ−」
「そうですか。じゃまた今度行きましょうね」
アタシは亜弥ちゃんに「ごめんね」と言いながら奥のロッカールームへ入った。
荷物を手早く自分のロッカーへしまい、店のエプロンをかけて店内に出る。
亜弥ちゃんは店を開けるための準備として、貸出管理システムのレジの電源を立ち上げている。
アタシは店の外に出て、半分しか開いて無かったシャッターを押し上げた。
店内にしまわれた立て看板を表に出し、準備中の札をかけて、店内の掃除にかかる。
20畳ほどしかない店内の掃除はさほど苦ではない。アタシは簡単に掃除を済ませた。
開店してからの数時間はいつも暇。
だからアタシは出来るだけレジの中にいないようにしていた。
陳列されているビデオケースの埃を落としたり、バラバラになっているケースを整理したりと、傍目から見たらかなり真面目な勤務態度だと思う。
だけどそれは、なるべく亜弥ちゃんと話さないように避けているだけ。
- 11 名前:第一話 〜再会〜 投稿日:2002年01月02日(水)18時03分29秒
どうやら彼女はアタシに気があるらしい。
同じバイトで親友の、後藤真希(通称ごっちん)が言っていた。
けれど、彼女のアタシに対する気持ちは、先輩や教師などに抱く憧れであって、恋愛感情ではないのが分かる。彼女はノーマルなのだ。
それに、アタシが同性愛者だからといって、女性相手なら誰彼構わず好きになる訳じゃない。
彼女に好意はあっても、それが恋愛対象になる事はない。
愛想良く食事や遊び行くことは出来るけど、それで彼女に変に勘違いされても困るし。
今まで何回か食事や遊びに誘われてたけど、遊びに行く事は避けていたし、なるべく会話は他愛の無い話で済むように心がけていた。
- 12 名前:第一話 〜再会〜 投稿日:2002年01月02日(水)18時06分02秒
- 「おつかれさまでしたー」
午後を過ぎてからは客の入りが多く、忙しい時を過ごしたせいか、思ったよりも早く時間が過ぎていった。
5時になり引継ぎのバイトの人が来たので、アタシは早々と店を出た。
亜弥ちゃんに断ったような大事な用がある訳でも無い。
アパートに戻って、また長く寂しい夜を過ごすだけ。
アタシは、ついあの本屋に足が向いていた。
別に何を買う訳でもないんだけど。何気なく、足が向いていた。
駅の本屋についたアタシは、つい、辺りを見回した。
・・・いないよね。
ちょっとガッカリもしたけれど、ホッとしてる自分もいる。
あの店員がいたからといって、何を話せる訳でもない。
アタシは、用もない本屋をグルッと一回りしてから出た。
そして、駅ビルの地下の食品売り場で簡単に買い物を済ませて表に出た。
もう辺りは暗くなっている。
- 13 名前:第一話 〜再会〜 投稿日:2002年01月02日(水)18時08分43秒
- 駅前の大通りから細い裏道を通り、急な坂道をあがった所にアタシの住むアパートがある。
築30年も経っている、かなり古いボロアパート。
風呂も無く、トイレも共同。廊下を歩くと軋む音がするほど老朽化が進んでいる。
隣人はイランだかバングラデッシュだかの外人さん。
1年前に何の用意も考えもなく、実家を飛び出た未成年のアタシがこのアパートを借りれたのは、こんな環境が悪い所だったから。
女の子が住む場所でないと自分でもつくづく思う。
「ただいま・・・って誰もいる訳じゃないしな〜」
アタシはアパートに帰り、そんな独り言をいいながら食事の支度を始めた。
一人暮しを始めてもう1年・・・。
最初は何一つ満足に出来なかった家事も、一通り出来るようになっていた。
これからもどんどん家事が上手くなっていくんだろうと思うと、少し寂しさを感じるけど、それは仕方のない事と自分に言い聞かせる。
ましてや女の子なんだから、家事が出来て当たり前だし。
- 14 名前:第一話 〜再会〜 投稿日:2002年01月02日(水)18時10分57秒
- 自分が同性愛者だと気付いて、それを心に封印した時から一生一人でいる事を決めた。
これまでも気になる女の子はいたけれど、気持ちを打ち明けた事はなかった。
自分の気持ちを打ち明けて、もし相手の態度が急変したらと思うと怖くて仕方がなかった。
それならば、いつまでも友達で付合っていく方が良い。
同性愛者を、特異的な目で見る世間が悪いと、あえて言おうとは思わない。
結局のところ、自分を偽って生きている、アタシが臆病なだけ。
「いただきま〜す」
一人でとる食事はわびしい。寂しさを紛らわすようにテレビをつけた。
そんな日に限ってやっている番組は面白くないものだったりする。
食事をとり終えて、テレビを消した。
・
・
・
静けさが一層寂しさを増していく。
アタシはアパートに一人でいるのが辛くなって、夜の街へ出た。
- 15 名前:第一話 〜再会〜 投稿日:2002年01月02日(水)18時13分13秒
東京タワー・・・アタシが寂しくなったとき、いつもここに来てしまう。
暗い闇に閉じ込められそうな自分の心を、明るく照らしてくれるような気がするから。
月の明かりと東京タワーの明かり、夜でも絶える事のない車のヘッドライトの明かり。
すべてが街を明るくさせている。
東京という街はこういう時ありがたいと思う。
テレビ東京の脇を自転車で通り抜け、タワーの周りを一週して一号線に出た。
・・・ごっちんでも誘って、どこか遊びに行った方が良かったかな。
今日に限っては、やはり一人でいる事が寂しかった。
アタシはごっちんに電話をかけてみた。
「ごっちん?アタシ。ねぇ今暇?」
『あ、よっすぃー?どうしたの、なんかあった?』
「ううん、大した用事じゃないんだけど。暇なら遊びに行かないかなって」
『ごめ〜ん、これからいちーちゃんが来るんだぁ』
「あ、そうなんだぁ」
『ごめんねー、せっかく誘ってくれたのに』
「いいよ、いいよ。アタシも突然だったし。彼にヨロシクね。じゃあねー」
- 16 名前:第一話 〜再会〜 投稿日:2002年01月02日(水)18時15分33秒
- ・・・ちぇっ、彼と一緒か。
そう言うのを聞くと羨ましくなる。恋人の存在と言うは、やはり大きいと思う。
・・・本当はずっと憧れていた。
楽しい事も辛い事も共有しあえる恋人を。
でも「それは無理」と自分自身に言い聞かす。
・・・帰ろっかな。
だけど、なんとなく、この日に限っては家に帰りがたかった。
アタシはのんびりと、自転車を押し歩いた。
先の方で東京タワーを見上げてる女性がいた。
明かりに照らされたその人の顔を見て、アタシはビックリした。
あの本屋の店員だった。
- 17 名前:第一話 〜再会〜 投稿日:2002年01月02日(水)18時18分06秒
- ・・・やはり、運命なのかもしれない。
アタシはそんな事を真剣に考えながら、彼女の横顔を見つめてた。
東京タワーの光に照らされた彼女の横顔はやはり綺麗で、
それでいて、どこか寂しげで、儚げで・・・。
アタシは思わず見つめ続けてた。
アタシの視線に気付いたのか、彼女は顔をふとこちらに向けた。
突然振りむいた彼女にアタシは思わずビックリした。
ずっと見ていたアタシのことを怪訝がる訳でもなく、彼女はニコっと人懐っこい笑顔を向けてくれた。
「視線を感じたから誰かと思ったら、・・・今日店で会いましたよね?」
「あ、覚えてた?アタシのこと」
「覚えちゃいますよー、あれだけ何回も謝られれば」
彼女はクスクスと笑いながら話す。
覚えてくれていたと言う嬉しさと、恥ずかしさが混じってアタシは顔が赤くなった。
- 18 名前:第一話 〜再会〜 投稿日:2002年01月02日(水)18時20分24秒
- 「どこかで会ったような気がして、つい見ちゃったんだ。本屋の店員さんだよね。今日は本当にすみませんでした」
アタシはウソをついた。
彼女のことを忘れる訳がない。
だけど、そんなアタシの本心を悟られる事のないよう、さも今、思い出したようなフリをした。
「気にしないでくださいね。本を落としたって、直さないでそのまま行っちゃう人が多いから、あんなに何度も謝ってくれたアナタがすごく新鮮だったんです。真面目な人だなぁって」
「あの時、恥ずかしかったんだよ。周りは知らん振りしてるしさ。だから店員さんっが天使に見えちゃった。本当にありがとね」
「そんなに気にしないでください。・・・それじゃ私はこれで」
笑顔でそう言って、彼女は帰っていった。
アタシは彼女の後ろ姿が見えなくなるまで、その場から離れずにいた。
- 19 名前:501 投稿日:2002年01月02日(水)18時24分49秒
- ひとまず第一話をすべて更新しました。
・・・しかし、自分で書いておきながら、何ともツマラン話だな(笑)
- 20 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月03日(木)00時20分43秒
いやいや面白いですよ。頑張ってください!
- 21 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月03日(木)14時04分15秒
- 自分も面白いです
一人暮らしの生活感とかよく出てると思う
- 22 名前:第二話〜臆病な心〜 投稿日:2002年01月03日(木)22時10分25秒
- アタシは今日もバイトに励んでいる。
昨夜、偶然本屋の彼女と会えた事がアタシの励みになったみたい。
同じシフトに入っているごっちんにも、
「なにか良い事あったの?・・・あ、彼氏でも出来た?」
と言われるほど。
アタシってよっぽど単純なのかな?
「ねー、よっすぃ〜。ホントに彼氏が出来たんじゃないの?」
「もしアタシに彼が出来たら、真っ先にごっちんに紹介するよ〜」
「じゃあよっすぃ〜のその浮かれ具合はなんなの?」
「・・・そんなにアタシって浮かれてる?」
「うん、天井突き破って空まで飛んで行っちゃいそうなくらいね」
「あはははは」
そんな冗談を言い合ってるうちに、次のシフトの亜弥ちゃんがやってきた。
- 23 名前:第二話〜臆病な心〜 投稿日:2002年01月03日(木)22時13分08秒
「おはようございます。なに二人で遊んでるんですかー?真面目に仕事やらないと、店長に言いつけちゃいますよ」
「それがさぁ、よっすぃーに彼氏が出来たらしくてー」
ごっちんは冗談っぽく亜弥ちゃんに話した。
亜弥ちゃんはちょっと表情を曇らせたように見えたが、すぐに笑顔で
「えーホントに?吉澤さん彼氏出来たの?」
「違うよー、ごっちん人の事からかってんだよ。アタシに彼が出来ないからって」
別に亜弥ちゃんに弁明する必要も無いんだけど、慌ててつい話してしまった。
「そっか、吉澤さん彼氏いないんだー。じゃ私が立候補しちゃおっかなー。・・・なーんてね、冗談ですよー」
亜弥ちゃんは笑顔でそう言うと、自分の荷物をロッカーにしまいに行った。
アタシが返事をせずにいる間に、お客さんが立て続けに入ってきて、その話はそのまま終わった。
- 24 名前:第二話〜臆病な心〜 投稿日:2002年01月03日(木)22時15分55秒
- 客の対応にあくせくしている内に、アタシとごっちんは勤務時間も過ぎ、帰り支度を整えてビデオ屋を出た。帰り方向が途中まで一緒のごっちんは、ちょっといたずらっ子っぽい表情にしながら、アタシに話してきた。
「決まりだねっ」
「・・・え、何が?」
「だから亜弥ちゃんは、ホントによっすぃーが好きなんだよ。今日の態度見て分かるじゃん」
「・・・・・。」
それは確かにそうだと思う。
鈍感なアタシでも分かる。
ただ、気付かない振りをしていただけ。
「亜弥ちゃんと付合っちゃえば?」
「・・・ごっちん。アタシ一応女の子なんですけど」
「女同士でも良いと思うけど?」
「ごっちんはいいわけ?友達が、その・・レズとかさ・・」
アタシは内心ドキドキしながら聞いた。
- 25 名前:第二話〜臆病な心〜 投稿日:2002年01月03日(木)22時17分18秒
「よっすぃーならアリじゃない?すっごいオトコ前だもんねー」
「・・・アタシで遊んでるしょ、ごっちん」
「まぁそれは冗談として、よっすぃーも彼氏作っちゃえばイイんだよ。亜弥ちゃんも憧れの先輩に彼氏が出来れば諦めるだろうし。いちーちゃんの友達でさ、カッコイイ人がいるんだけど、よっすぃーどう? あ、カッコイイって言ってもいちーちゃんには負けるけどね、アハッ。それでね―――――・・」
ごっちんは彼の家へ寄るからと途中で別れた。
正直言って、ごっちんの本心を聞かなくて良かったと思った。
彼女の口から否定的な言葉が、もしも出たら―――。
アタシは自分の心を守るために、また臆病になっていくはずだから。
- 26 名前:第二話〜偶然〜 投稿日:2002年01月03日(木)22時21分38秒
アタシは一人暮しをしてから、初めて、夜が長い事を知った。
アパート近くの図書館に寄って、暇潰しになりそうな本を適当に借りてきた。図書館という所は、あまり無駄遣いの出来ないアタシには最適の場所。
そして、コンビニで簡単な惣菜を買って、アパートに戻った。
いくら自炊に手馴れてきたとは言え、やはり面倒な時もある。
テレビをつけたけど、相変らず面白くない番組ばかり。
アタシはふと、ごっちんの言った事を考えていた。
彼女は「彼氏を作ったら?」と言ったけど、絶対無理だと思う。
別に男性に対して嫌悪感があるわけじゃない。付合うぐらいは出来る。
だけど、どれだけ格好良い人だと思ってても『抱かれたい』とは思わない。思えない。
つまり性的欲求がわかないのだ。
アタシは何も分からない子供じゃない。
普通男と女が付合っていけば、自然に肉体関係にもなり得ることぐらい分かっている。
だけど、おそらく・・・アタシにはそれが出来ない。
- 27 名前:第二話〜偶然〜 投稿日:2002年01月03日(木)22時23分50秒
・・・本当につまんないなぁ。
ご飯もなんとなく食べる気がしなくて、アタシは借りてきた本を読む事にした。
どんな本でも読むけれど、やはり冒険小説のようなハラハラするものが好きみたい。
アタシはいつしか物語に引き込まれる様に読みふけっていた。
突然、部屋中に携帯の着信音が鳴り響き、アタシはビックリした。
ふと時計を見ると8時を過ぎている。
電話の相手は亜弥ちゃんだった。どうしても相談したい事があるから来てほしいとの事。
真剣な彼女の声に、アタシは断わる事が出来ず、亜弥ちゃんの待つ駅前のファミレスへと向かった。
- 28 名前:第二話〜偶然〜 投稿日:2002年01月03日(木)22時25分40秒
「あ、吉澤さ〜ん、ここですよ〜。」
先に来ていた亜弥ちゃんは笑顔で手を振って、入り口にいるアタシを呼んだ。
・・・ま、確かに可愛いよね。タレントのなんとかって子に似てるし。
あまりタレントに興味がないせいか、名前も思い出せないけどさ。
「ところで話って何?」
アタシは、つい、話を急いだ。
「もぉ〜!来たばっかりでそんなに急がないで下さいよ〜。とりあえずは何か注文して下さい」
「ごめんごめん。じゃあレモンティーにするかな」
「話はもう少しあとにして、たまにはゆっくりお話しましょうよ、ネ?」
なんか相談事があったんじゃないの?
・・・・・ま、いいか。
- 29 名前:第二話〜偶然〜 投稿日:2002年01月03日(木)22時27分58秒
アタシ達はバイトの話や他愛の無い話をして、時間を過ごした。
・・・1時間ちょっと過ぎた頃だろうか、アタシは席を立ってトイレに行った。
広い店内のわりにはトイレが一つしかなく、先に誰かが入っているので待つしかない。
・・・なんだよ、遅いなー。早く出てよ〜。
先に入ってる人がなかなか出てこないので少しイライラした。
もう1分待って出て来なかったらドアを叩きまくってやる。
そんな事を考えているうちに、前のドアが開いた。
ちょっとムッとした顔をしていたけれど、目の前の人物を見たら顔が緩んでしまった。
そう、本屋の店員だった。
・・・アタシって人間はホントに単純だね、ハハッ。
「どうもー。店員さんとは縁があるみたいだね」
アタシは思いっきり勇気を振り絞って、目一杯明るく、自然に話しかけた。
- 30 名前:第二話〜偶然〜 投稿日:2002年01月03日(木)22時31分03秒
「あ、偶然ですねー」
笑顔で言葉を返してくれたけど、なんだか変な感じ。
元気が無いような、昨日の屈託のない笑顔と違うような。
昨日会ったばかりの、ほとんど見ず知らずの人なのに、微妙な変化が分かるのか?
「この近所なんですか?」
と、彼女が聞いてきた。
「うん、こっから歩いて10分くらいかなー」
「そうなんだ。私もここから近い方だから、また会うかもしれませんね」
「ホント?アタシ、ここら辺ウロウロしてるから、マジで会うかも」
「その時は声かけてくださいね。それじゃ」
彼女はいつもの笑顔で自分の席に戻っていった。
・・・いるの気付かなかったなぁ。どの席にいたんだろ?
アタシはトイレに入るのも忘れて、つい彼女を目で追っていた。
でも、こんな偶然ってあるんだね。ちょっと・・いや、かなり嬉しいな。
「・・・あのー、トイレ入らないんですか?」
後ろで待っている女性に声をかけられて、アタシは慌ててトイレに入った。
- 31 名前:第二話〜偶然〜 投稿日:2002年01月03日(木)22時32分52秒
「吉澤さんトイレ長いですよー。待ちくたびれちゃいましたよ。」
「ごめんねー」
アタシは亜弥ちゃんの声が耳に届かなくなっていた。
気がつけば彼女の姿を探している。
いるのを見つけたからって何する訳じゃないんだけど・・・つい、ね。
彼女はアタシ達の席の裏側の席にいた。アタシの座ってる所から見える位置。
・・・不覚。気付かないなんて。
彼女は年上らしき女性と座っていた。
・・・お姉さん?それにしては似てないよね。
厳しさと優しさを兼ね備えたような風貌は、アタシにはないもの。
彼女を見つめる眼差しが優しげなのが、ちょっと気になる。
・・・アタシはアホか?自分と同じ感覚で人を見てどうするっての。
- 32 名前:第二話〜偶然〜 投稿日:2002年01月03日(木)22時34分43秒
「・・・わさん、吉澤さんってば!」
「えっ?ああ、何?」
亜弥ちゃんがアタシを睨みつけている。
「もう、さっきからずっと話しかけてるのに、全然気付いてくれないんだもん」
「あ、ゴメン。なんの話してたっけ?」
「今度後藤さんとかみんなで遊びに行こうって話ですよ」
「・・ああ、じゃ、みんなで行こっかぁ」
「絶対ですよー」
亜弥ちゃんは自分の小指をアタシの目の前に差し出した。
ああ、指きりげんまんしようってのね。ハイハイ。
亜弥ちゃんに小指を差し出しながら、ふと彼女のほうを見た。
ん?なんか様子が変・・?
すると突然彼女が立ち上がり出て行ってしまった。
一緒にいた年上らしき女性もスクッと立ち上がり、その後を追いかけて行った。
アタシは彼女が気になったが、まさか後をついて行く訳にもいかない。
この後の亜弥ちゃんとの会話が、さっきよりも気の無いものになっていたのは言うまでもなかった。
- 33 名前:501 投稿日:2002年01月03日(木)22時45分35秒
- とりあえず第二話、キリのいいところまで更新しました。
>20さん
ありがとうございます。自分で書いていて、自信がなかったから嬉しいです!
>21さん
ありがとうございます。
貧乏な生活感は自分の経験談からヒントを得てます(笑)
- 34 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月03日(木)22時47分29秒
- 引き込まれます。次回も楽しみです。
- 35 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月03日(木)23時21分05秒
- 店員さんが会ってた相手は誰なのかなー・・
- 36 名前:ポー 投稿日:2002年01月04日(金)01時54分33秒
- どうもー、自分スキですよーこうゆうの。。いいです♪けどよっすぃ〜はせつないねェ(´o`)
- 37 名前:夜叉 投稿日:2002年01月04日(金)02時21分24秒
- 題名に惹かれました。
楽しみに読まさせてもらってます。
続き、楽しみにしてます。
- 38 名前:第二話 〜穏やかな一時〜 投稿日:2002年01月04日(金)12時44分23秒
アパートに帰ってきたアタシは、着替えもせずに横になった。
結局亜弥ちゃんは「相談はまた今度に」と言われた。
・・・なんだったんだ?
しかし、アタシはそれよりも彼女の事の方が気になる。
店を出ていく時、彼女の目に涙が溜まっていたような・・。
出会ったばかりなのに、彼女の事が気になってしょうがない。
・・・やっぱり本気で好きになっちゃったのかな。
いや、違う。ただ気になるだけ!
アタシは必死で自分の気持ちをごまかそうとした。
そうしなければどんどん苦しくなる。
でも、もう遅いかもしれない・・・。
そんな事を考えながら、アタシはいつのまにか眠ってしまった。
- 39 名前:第二話 〜穏やかな一時〜 投稿日:2002年01月04日(金)12時45分44秒
- 昼過ぎに目を覚ましたアタシは、昨日お風呂に入ってなかったことを思い出し、近くの銭湯へ行った。
・・・しかし、今時風呂のないアパートは珍しいよね。
もう少しバイトを増やして風呂付きのアパートに住もうっと。
ゆったりと湯船に浸かって、ふと、昨日の彼女の事を思い出した。
寝ても覚めても彼女の事ばかり考えてしまう。
『そんなに気になるなら会いに行ったら?』
アタシの中のもう一人の自分がアタシに囁く。
だけどアタシは迷っていた。
だいたい、会ってどうしろっていうの?
「昨日どうしたの?」なんて、聞ける訳もない。
・・・悩んだってラチがあく訳じゃないよね。
アタシは意を決して、彼女の店に行く事に決めた。
- 40 名前:第二話 〜穏やかな一時〜 投稿日:2002年01月04日(金)12時49分04秒
意を決したのになんで隠れてるんだろ。これじゃ立派なストーカーじゃない。
アタシは本屋の死角に隠れながら、彼女の姿を探していた。
だけど、彼女の姿が見当たらない。
・・やっぱり、昨日なにかあったんだろうか。
「こんにちは」
「えっ!?」
突然後ろから声をかけられて、アタシはビックリした。
アタシが探していた張本人が後ろから声をかけてきたのだから、ビックリしない訳がない。
彼女は相変らずの笑顔で立っていた。
「あ、ど、どーも!」
「どーも。何か探し物ですか?」
「えっ、あの、いや、暇だったから、立ち読みしに!」
アタシは店内いっぱいに届くような大きい声で言った。
おいおい、もう少しマシな嘘つけないのかね、アタシって奴は・・・。
本屋で堂々と立ち読みしに来たって言う奴はいないよね。
だけど、アタシの言った事が彼女のツボによっぽどハマッたらしく、しばらくの間、彼女はその場で笑い続けていた。
- 41 名前:第二話 〜穏やかな一時〜 投稿日:2002年01月04日(金)12時49分53秒
「・・・そんなに笑わなくてもいいじゃない」
「すみません。でも堂々と言わないですよ普通。アハハハ」
「まだ笑うかな〜」
彼女の思いっきり笑ってる姿を見て意外に思った。
「微笑み」って言葉が似合うイメージだったのに。
こんな無邪気な笑い方もする人なんだ。
・・・可愛いな。彼女のこういう笑顔も良いな。
「アハハハ・・・ハァ、久しぶりに笑った気がしますよ。笑い疲れちゃった」
「喜んでくれたんなら良かったよ」
アタシはちょっと照れくさく、冗談っぽく話した。
彼女はやっと落ち着いたらしく、一息ついた所でアタシに言った。
「・・あの、良かったらつきあってくれませんか?」
彼女の突然の言葉に一瞬頭が真っ白になったけど、アタシが速攻OKしたのは言うまでもなかった。
- 42 名前:第二話 〜穏やかな一時〜 投稿日:2002年01月04日(金)12時54分26秒
- 「ごめんなさいね、つきあわせちゃって。実は私、登った事なかったんです」
アタシ達は東京タワーに来ていた。
展望台から望む東京一面を、彼女は嬉しそうに見ている。
・・つきあってくれってこういう事だよね。
ちょっとでも期待したアタシが激しく馬鹿だった。
「んー、どうせ暇だったし。それにアタシも登った事なかったしね」
「そうですよねー、東京に住んでいたら、わざわざ行こうとしないですよね。でも前から登ってみたかったんですよ。だけど一人で来るのはちょっと寂しいじゃないですか」
「そうだね、一人で来るのは確かに寂しいなぁ・・・あっ!」
アタシは今更ながら、一つの事実に気付いた。
- 43 名前:第二話 〜穏やかな一時〜 投稿日:2002年01月04日(金)12時55分11秒
- 「どうしたんですか?」
「そう言えば、店員さんの名前聞いてなかったんだっけ」
「言われてみれば・・・フフッ、名前も知らないのに、一緒にこんなとこまで来てくれるなんて・・・本当に良い人ですね。えっと、それじゃ改めて自己紹介します。私は石川梨華、17歳です。よろしく」
笑顔で彼女は右手を差し出した。
「アタシは吉澤ひとみ。同い年だね、よろしく。ところで敬語はいいよー、なんかむず痒くて」
「うん、分かった。よろしくね、ひとみちゃん」
「あ、うん、よろしく、・・・り、梨華ちゃん」
名前で呼ばれたアタシは、突然のことでビックリして顔が赤くなっていくのが分かる。
まさか、彼女に名前を呼んでもらえるようになるなんて・・・。
アタシも努めて普通に、彼女の名前を呼んだ。
「ウフフ、なんか変だね、こんなところで自己紹介なんて」
そう笑って言った彼女・・梨華ちゃんはやっぱり可愛くて、アタシははやる鼓動を抑えるのに大変だった。
- 44 名前:第二話 〜穏やかな一時〜 投稿日:2002年01月04日(金)12時57分08秒
- 確かに、東京タワーで女の子二人が自己紹介をしあう姿は、傍から見たら滑稽な姿かもしれない。
・・・だけど、アタシは嬉しかった。
やっと彼女の名前を知った。
彼女もアタシの名前を知ってくれた。
それだけで幸せだ。
アタシがそんな感動をしている間に、梨華ちゃんはまた東京の街並を見ていた。
「校庭の子供がありんこみたいに小さいね〜。ひとみちゃんも見てみなよ」
彼女がアタシを呼ぶ。だけどアタシは窓側になるべく立たない様にしていた。
彼女に呼ばれても傍に行けないでいる。
「ひとみちゃん、なんで見ないの?・・・ん?・・・もしかして?」
彼女がいたずらっ子のような笑顔でアタシを見る。
「・・・悪い?」
アタシは真っ赤になってつっけんどんに答えた。
- 45 名前:第二話 〜穏やかな一時〜 投稿日:2002年01月04日(金)12時58分49秒
- ・・・そう、アタシは高所恐怖症だ。
木登りすら恐くて出来ないアタシが、東京タワーに登るなんて可笑しい話だけど。
彼女に誘われたから、ついてきただけだし。
実は東京タワーのエレベーターに乗るのもかなり辛かった。
「高所恐怖症でなんで付き合ってくれたの?」
目の前にいる本人に向かって「一緒にいたいから」とは言えない。
アタシの心を見透かしているんじゃないかと思うような、小悪魔のような意地悪な笑顔でアタシを見つめている。
そんな顔すら魅力的で。
アタシはドキドキしてしまう。
「・・・高所恐怖症を克服しようと思って」
「ふーん、そうなんだ〜。・・・・・フフッ、アハハ」
そして、二人で顔を見合わせて笑った。
- 46 名前:第二話 〜穏やかな一時〜 投稿日:2002年01月04日(金)13時00分35秒
- 楽しい時間と言うのは、えてして早いもので。
彼女はこれからバイトがあるらしく、
「今日は付き合ってくれて本当にありがとう。また、遊ぼうね」
と、梨華ちゃんは帰っていった。
アタシもこの一時の余韻を楽しみながら、家路へと向かった。
梨華ちゃんとの他愛のない会話がすごく楽しかった。
それは、ごっちんやバイト仲間たちとの会話とも全然違うもので。
すごく居心地が良かった。
細波だっていた心は、いつしか穏やかなものになっていた。
彼女の側にいると、自然に微笑んでしまう自分がいる。
―――もう認めてしまえ。
アタシは、石川梨華に、改めて恋をした。
- 47 名前:501 投稿日:2002年01月04日(金)13時13分43秒
- とりあえず第二話分、全て更新しました。
今日は比較的ゆっくりしているので、また夜にでも更新したいと思います。
>34さん
ありがとうございます。がんばって更新していけたらと思います。
>35さん
いずれ再登場しますので、それまでお待ちくださいませ(^^)
>ポーさん
ありがとうございます。
よっすぃ〜が切なかったので、今回は少し幸せな一時を過ごさせてみました(^^)
>夜叉さん
ありがとうございます。
題名は気に入ってるので嬉しいです。
ご期待に添えるようにがんばります(^^)
- 48 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月04日(金)14時24分01秒
- ここの吉澤かわいすぎ(w
- 49 名前:夜叉 投稿日:2002年01月04日(金)22時58分04秒
- あややの相談も気になるんですが、二人のこれからにも期待です。
吉って、高所恐怖症???すんません、知らないもので。
- 50 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月04日(金)23時23分37秒
- 「・・・ここのところ、よっすぃ〜かなりご機嫌だよねー」
「そうですよね、おかしいくらい機嫌良いですね」
そんな会話をごっちんと亜弥ちゃんがしている事も気づかずに、アタシは嬉々としてバイトをしていた。
東京タワーのデート?から二ヶ月。季節は夏へと移り変わっていた。
暑いのは苦手だけど、この夏の雰囲気は大好きだ。
なんとなく開放的な気分になって、悩みも吹き飛ばしてくれるように思えるから。
- 51 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月04日(金)23時24分28秒
- 梨華ちゃんとは、あれから一緒に遊んだりするようになった。
最初は中々自分を見せてくれなかった彼女だけど、最近はアタシに心を開いてくれているのか、徐々に彼女の色んな一面を見せてくれるようになってすごく嬉しい。
顔に似合わず負けず嫌いだったり、恥かしがり屋だったり。落ち着いているように見えて、実はあわてんぼだったり。同い年だと思ってたら、学年は一つ先輩だったって事もちょっとビックリ。
彼女の意外な部分まで、全てがいとおしく感じてしまう。
ふと見せる彼女の表情に、抱きしめたい衝動にかられる事もあったけど、実際に行動を起こしてしまったら、全てが終わってしまう。
彼女に嫌われてしまう事だけは絶対に避けたい。
今のままが一番良いんだと、自分自身に納得させる。
- 52 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月04日(金)23時26分09秒
- 勤務時間も終え、ロッカーで帰る支度をしていると亜弥ちゃんがやってきた。
「吉澤さん、今日暇ですか?たまには一緒に食事しましょうよー」
「あ、ごめん。今日は用事があるんだ」
「えー、またですかぁ?最近付き合いが悪いですよ。もしかして・・・彼でも出来たんですか?」
「ははっ、そんなんじゃないよ。今日は友達と約束があるんだ。また今度ね。じゃ、お先に!」
アタシは挨拶をして、早々と店を出た。
「・・・彼氏出来たっぽいなぁ」
後藤はポソッと独り言のように呟いた。
亜弥は表情を暗く落とした。
「・・・・・・。」
「あ、でも、彼が出来たら私に言うよ。よっすぃー何も言ってこないから、まだいないよ、きっと。だから安心しなよ、ね?」
「な、何を言ってるんですかー。私は全然関係無いですよ。じゃあ、お先に!」
亜弥は顔を真っ赤にして、慌てて店を出た。
- 53 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月04日(金)23時28分14秒
- 「ハァ・・・ハッ、ハッ・・・」
アタシは思いっきり走っていた。
待ち合わせの時間までまだ余裕はあるんだけど、早く会いたい気持ちが先に出てしまい、つい、走ってしまう。
今日も梨華ちゃんと会う約束をしている。
ここのところ毎日のように会っている。
食事をしたり、映画を見に行ったり、ゲーセンで遊んだりと、普通に他愛の無い時間を過ごすだけなのだが、それが楽しい。
彼女と同じ時間を共有できるだけでも、アタシは十分幸せだった。
待ち合わせ場所の、慶應のキャンパス前についた。
すでに彼女は待っていた。アタシに気がついて手を振ってきた。
「随分早いね、約束までまだ15分もあるよ」
時計を見ながら相変わらずの笑顔でアタシに言う。
その笑顔に鼓動が早くなる。走ってきたから、なんて言い訳はもう通用しないよね。
- 54 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月04日(金)23時30分56秒
- 「そっちこそ早いじゃん」
「私はバイトが早く終わったから、ちょっと早く着いちゃったの。さ、行こう」
梨華ちゃんはそういって歩き出した。私もその後をついて行く。
大学通りを抜けて、細い道に入っていく。少し薄暗いこの道を、彼女一人で歩くのは危険じゃないかとちょっと心配になった。
五分ほど歩いて、彼女のアパートに着いた。
「着いたよ、ここなの」
梨華ちゃんのイメージとは程遠い、木造2階建ての古いアパートだ。
築20年、といったところかな・・・。
ま、アタシのひなびたアパートよりマシだけどね。
梨華ちゃんの部屋は2階の一番奥。
いつも外で遊んでばかりだから、たまには互いの部屋で遊ぼうという話になって、梨華ちゃんのアパートにくる事になった。
けれど、なぜお互いが一人暮らしをしているのか。
その理由も知らないまま、現在に至る。
- 55 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月04日(金)23時32分51秒
- 彼女は部屋の鍵を開けて言う。
「散らかってるけど、どうぞ」
「・・・おじゃましま〜す」
アタシは、初めて入る梨華ちゃんの部屋にドキドキした。
1Kのこじんまりとした畳の部屋。大きい本棚が目に付いた。
18インチほどのテレビ、シングルサイズのパイプベッド、小さいタンス。
必要最低限な物だけを置いてある感じ。
ただ、この部屋が殺風景に感じないのは、女の子らしいピンクで統一されているからだろうか。
彼女独特のほのかな良い香りが漂っていて、彼女に包まれているような錯覚をおこしそう。
「散らかってないじゃん、すげー綺麗にしてるね。それに可愛らしい部屋だね」
「そうかな、ありがと。・・あ、飲み物何にする?」
「アタシ、途中で適当に買ってきたよ。お茶と、ジュースと・・・それとビールとー」
「あーひとみちゃん、ふりょお〜」
「いーじゃん、たまには二人ではめ外そうよ〜」
「もう、ひとみちゃんったらしょうがないんだから」
そう言いながらも彼女はニコニコしている。
- 56 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月04日(金)23時34分44秒
- 「簡単なのしか作れないけど、今、おつまみになるようなの用意するね」
「あ、食べ物も買ってきたよ」
アタシはそう言って、コンビニの袋からおにぎりやおかずを出した。
「そんな気を使わなくてもいいんだよー。でも、ありがとうね、ひとみちゃん」
ニコッと笑いながら礼を言う。アタシはその笑顔にドキドキしてしまう。
アタシの心の内がばれないように、話を変えた。
「ほ、本が沢山あるんだね。難しそうな本から小説まで、いっぱいあるなぁ。読書が趣味なの?」
「うん、まぁ、ね」
「へー、恋愛小説なんかも読むんだ。イメージ通りといえば、その通りのような気もするけど」
「私のイメージって?」
「物静かに公園のベンチで本を読んでる感じ。でも実際の梨華ちゃんは全然違うけどねー」
「なによー、ひとみちゃんったら」
- 57 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月04日(金)23時36分28秒
- アタシ達は買ってきたおにぎりや、梨華ちゃんが作ってくれたおつまみを食べながら、他愛のない会話をしていた。
その内興味半分でビールを飲み始めた。
元々飲み慣れないものを口にしたのとバイト疲れのせいか、二人ともほろ酔いかげん。
「・・・ねぇ、ひとみちゃん」
突然梨華ちゃんが話を始める。
「ん〜なぁに〜?」
「あのね、笑わないで聞いてくれる?」
「何が?」
「・・・私ね、夢があって」
「うん」
「・・・私、小説家になりたいんだ。それで、どこか静かな所で好きな人と、のんびりと人生を過ごすのが夢なの」
「へ〜、梨華ちゃんってそういう事考えてるんだー」
テレて話す梨華ちゃんの姿に、アタシは思わず頬が緩む。
「笑わないでって言ったじゃない」
「違うよ、笑ってないよ。いいじゃない、その夢。アタシなんて、漠然とその日その日を生きてるだけで、夢なんて持ってないしね。反対に羨ましいよ、梨華ちゃんの事が。アタシ、応援するから頑張ってね」
「あ、ありがとう。そうやって言われると嬉しいよ。・・・私、お酒飲み過ぎちゃったかなー、お喋りが過ぎたかも」
- 58 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月04日(金)23時38分46秒
- テレてるのか、それともアルコールのせいなのか、彼女は顔を赤くして、うつむき加減で言う。
彼女のそんな姿を見て、
「・・・梨華ちゃん、可愛い」
つい、自分の心の声を言ってしまった。
「な、そんな突然・・・恥かしいじゃない」
梨華ちゃんは顔を更に赤くして言う。
「あ、いや・・・ちょっとそう思っただけっていうか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・一瞬の沈黙。
アタシがおどけてその場を誤魔化そうとしたその時、
電話のベルがその静寂を吹き飛ばしてくれた。
「は、はい、石川です」
彼女は慌てて電話を取った。
- 59 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月04日(金)23時41分36秒
- ビールを飲んだとはいえ、うかつだったなぁ。変に取らないでくれれば良いけど。
・・・でも、可愛い顔をした梨華ちゃんが悪い。
アタシはそんな理不尽な事を考えながら、ビールを一口飲み、ふと彼女の方を見た。
・・・ん?梨華ちゃんの顔色が変わったけど、誰なんだろ?
「・・・・・・悪いけど、友達が来てるから。・・・じゃあ」
彼女は顔に暗い影を落として電話を切った。
ほんの数秒、電話を見つめていた梨華ちゃんは、突然喋り出した。
「・・・・・・友達からだったよ!遊びに行かない?って誘われたんだけどー」
「・・・そっか、別に良かったのに、アタシに気ぃ使わなくても。」
「何言ってるの、ひとみちゃんとの約束の方が先だったんだし。良いんだよー」
無理して明るく喋ってるのが痛いほど伝わる。
悩みがあるならアタシに打ち明けてくれたら良いのに・・・と思うけど。
何が梨華ちゃんをそんな暗い顔にさせるの?と聞きたいけれど。
きっと彼女は聞かれたくないはず。
明るく振舞っている彼女の姿を見たら、それ以上の話は聞けなかった。
- 60 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月04日(金)23時43分56秒
- それからアタシ達は他愛のない話をしながら時を過ごした。
あのドラマは面白いだの、あのタレントは格好良いだのと、いつもと変わらない会話なのに・・・どこか違う。
梨華ちゃんはいつもよりテンションが高かったけれど、その笑顔の裏を思うと、アタシは胸が痛くなった。
ビールを飲んだせいか、梨華ちゃんは先に寝てしてしまった。
アタシはタオルケットを掛けてやり、彼女の寝顔をマジマジと見る。
・・・可愛いよなぁ。
「・・・・・・け・・・い・・・」
・・・ん?起きたのかな?
「・・・け・・・い・・・」
なんだ寝言か―――――って誰?「けい」って。
やっぱり・・・彼氏か・・な。
だけど、梨華ちゃんをそんな顔にさせる人って誰?
いつも笑顔の彼女に影を落とさせる相手って一体誰?
・・・苦しいなら、アタシに話せばいいじゃない。
人に話せば楽になる事だってあるだろう。
笑顔の裏で、一人悩みを抱えていながら、それでもアタシの前では明るく振舞う梨華ちゃんを想うと、なんだか切なかった。
- 61 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月04日(金)23時46分12秒
- 「梨華ちゃん・・・一人で苦しまないで。アタシはやっぱり単なる友達でしかないの?もっと頼ってよ、アタシを・・・アタシは梨華ちゃんの為だったら・・」
「・・・ん」
彼女が寝返りをうつ。
ヤバッ、思わず声出しちゃってたよ。聞かれた?
でも、聞かれても良いかな・・・なんて、ふと思ってみたりもする。
梨華ちゃんなら・・・アタシの気持ちを受け入れてくれるんじゃないかと期待してしまう。
梨華ちゃんに近づけば近づくほど、アタシの気持ちはどんどん膨らんでいく。
心の片隅には「もっと彼女に近づきたい」って欲望が入り混じってて。
・・・このままの関係が良いなんて嘘。
一緒にいられれば幸せなんて、綺麗事。
本当は抱きしめたくて、キスしたくて・・・彼女の全てをアタシのものにしたい。
でも、そんな想いは不安とこの暗闇にかき消されてしまう。
アタシは一晩中、梨華ちゃんの寝顔を見つめていた。
月の光に照らされた彼女の寝顔は、どこまでも美しかった。
- 62 名前:501 投稿日:2002年01月05日(土)00時00分08秒
- 第三話、半分更新しました。
書いてる本人もちょっと切ない感じです。
>48さん
カッコ可愛い彼女を目指して書いていけたらって思ってるので嬉しいです。
>夜叉さん
あややは相談ってよりも、よっすぃーと会いたかっただけかもしれません(笑)
高所恐怖症のエピソードは、オトコ前だけじゃない可愛らしい一面が欲しいと思って勝手に作ったものです(^^;)ゞ
- 63 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月05日(土)00時17分14秒
- ほぅ、あの人の名前が出ましたね
どう絡んでくるのか楽しみ
- 64 名前:夜叉 投稿日:2002年01月05日(土)18時12分48秒
- ついに本音をポロリ(w。
石の寝言の主は想像を超えてました、うかつ…。
吉はかっけーのに、そういう一面があっても可愛いでし。
でも、可愛らしいっていうのかな?肉食えないらしいから、そのへんを考慮したら(w。
- 65 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月06日(日)03時28分15秒
- 「ひとみちゃん、起きて!」
梨華ちゃんがアタシの体をゆすって起こす。
「う、うーん・・・あ、アタシ寝ちゃったのか・・・」
「何寝ぼけてんの、今日バイトじゃないの?」
「・・・あ、そうだ!い、今何時?うわ〜もう9時40分じゃん。梨華ちゃん、何で起こしてくんなかったの〜」
「何言ってるの、私は9時から起こしてたんだよ。いつまでも起きなかったひとみちゃんが悪い」
「ホントに〜?うわー参った!アタシもう行くわ!マジで間に合わない!」
アタシは慌てて、寝癖がはっきりついたままの姿で出ようとした。
「ちょっと待って。おにぎりにしといたから、後で食べて」
梨華ちゃんはそう言って、アタシにコンビニの袋を渡した。
中には、まだ少し暖かいおにぎりが3つ入っている。
アタシは梨華ちゃんの優しい心遣いに嬉しくなる。
- 66 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月06日(日)03時29分43秒
- 「ありがとう。じゃあ行ってきます!」
「あ、ちょっと待て!」
「何?」
「私の自転車乗ってっていいよ、あとで返しに来てくれれば良いから」
そう言って、自転車の鍵をアタシに渡す。
「ありがとう!バイト終わったら返しに来るから!」
「気をつけてね!」
笑顔で彼女はアタシを見送ってくれた。
それはいつもと変わらない笑顔だった。
アタシはは少しだけ安心して、ダッシュでバイト先へ向かった。
- 67 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月06日(日)03時31分51秒
- 急いで自転車をこいで、ビデオショップに着いた。
もし警察に見つかったら、スピード違反で捕まるかもしれないくらいの勢いだった。
店内に入ると、先に亜弥ちゃんが一人で開店の準備をしていた。
この店は店長が開け閉めをする訳じゃなく、アタシ達バイトが開店や閉店の準備をするので、開店10分前には絶対店にいなければならない。
遅刻をした場合は、罰金として一時間タダ働きをするしかない。
それに半年間無遅刻無欠勤なら、時給が200円UPするのだ。
やっと来月で半年間の酬いが現れるところなのに。
今のアタシの生活では、その200円を無駄にする訳にはいかない。
慌てて店内に入ると、遅れてきたアタシを亜弥ちゃんが睨んだ。
アタシは、とにかく急いでタイムカードを押そうとすると、
「大丈夫ですよ、一緒に押しといてあげました」
「ハァハァハァ・・・ハァ、あ、ありがとう・・・ハァハァ」
確かに9時45分にカードは押されてた。
アタシは息を整えて、亜弥ちゃんの手伝いを始める。
- 68 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月06日(日)03時33分37秒
- 「悪いね。今度お礼するからね」
「いいですよ、今度から遅刻しないでくれれば」
皮肉を混ぜて亜弥ちゃんは言う。
「いやいや、そういう訳にはいかないでしょう」
「・・・じゃあ、今度遊びに連れてってくださいよー」
こんな風に誘われてしまったら、むげに断る事も出来ない。
・・・ま、今回は仕方がないか。
「じゃあ、お礼をかねて行きますか。どこに行きたい?」
「本当に?やったー!!ん〜じゃあ〜、東京タワーに行きたい!」
「東京タワー?」
「いつも通りすぎるだけで、中に入った事がなかったから、一度入ってみたいと思ってたんですよねー」
「映画とか遊園地とかの方が良いんじゃないの?・・・東京タワーなんて、面白くもなんともないよ。あ、お台場とかはどう?」
アタシは亜弥ちゃんに必死で言ってしまった。
東京タワーはアタシにとって、思い出の場所。
梨華ちゃんと初めて出かけた場所だったから、なんとなく大切にしまっておきたかった。
- 69 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月06日(日)03時34分49秒
- 「私が行きたい所に連れてってくれるんでしょ?私は東京タワーに行きたいんです。・・・吉澤さんと一緒に」
・・・こう言われたら何も言えない。
亜弥ちゃんはバイト中、ずっと機嫌が良かった。鼻歌交じりで仕事をしている。
おそらく、アタシがOKしたからだと思うけど。
だけど、このままじゃマズイ。
アタシにその気がない以上、期待させるような事はしちゃいけないよね。
・・・でもどうやって?
告白されたわけでもなし、いきなり「アタシの事は諦めて」なんて言ったら、自信過剰な馬鹿オンナだし。
・・・難しいなぁ。
アタシはそんな事を考えながら、時間を過ごしていった。
- 70 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月06日(日)03時37分40秒
- 6時になり次のバイトと引き継いで、アタシはそそくさと帰る支度を始める。
梨華ちゃんに借りた自転車を返しに行かなくてはならないから急がないと。
そんな理由にかこつけて、彼女に会える事が嬉しくて堪らないアタシは、挨拶もそこそこ、急いでバイト先を出ていく。
アタシは近くのコンビニで飲み物を買って、彼女のアパートへ行った。
前には、古いアパートに似合わない高級車が止まっている。
アタシはそんな事も気に留めず、アパートの下に自転車を止め、梨華ちゃんの部屋の前まで駆けて行く。
ドアをノックしようとしたその時、怒鳴り声が聞こえてきた。
「もう私達は別れたんです!もう関係ないんです!・・・出てってください!」
一瞬その声の主が誰か分からなかった。
そしてそれが梨華ちゃんの声だと気付き、アタシはビックリした。
・・・初めて聞く彼女の怒鳴り声。
いつも穏やかな梨華ちゃんがこんな声を出すなんて・・・。
- 71 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月06日(日)03時39分51秒
- 突然目の前のドアがガチャリと開いて、背広姿の重役風な中年の男が出てきた。
男はビックリしているアタシを見て、聞き取れないくらいの小さな声で
「・・・ふん、もう次か・・・悪魔が」
と言い放ち、止めていた高級車に乗って行ってしまった。
アタシは訳がわからず、しばらくその場に立ちすくんでいたが、梨華ちゃんの事が気になって、慌てて部屋に入った。
細かく破かれた紙切れが散らばっていて、その前で膝を抱えて、小さく丸まって泣いている梨華ちゃんがいた。
アタシの姿を見つけた彼女が、慌てて涙を拭い取り、平常心を取り戻そうとしている。
泣くほど辛い事があったはずなのに、
それでもアタシの前で普通に振舞おうとする梨華ちゃんの姿が痛々しくて、
アタシは思わず彼女を抱きしめていた。
梨華ちゃんは一瞬体を強張らせたけど、すぐに力を抜いて、
アタシの胸に顔を押し付け、静かに泣いた。
- 72 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月06日(日)03時42分38秒
- ・・・どのくらいこうしていただろう。
アタシはずっと梨華ちゃんを抱きしめていた。
抱きしめた梨華ちゃんの体は、思いのほか細く、頼りなかった。
きっと、一人で苦しんでいたに違いない。
きっと、一人で泣いていたに違いない。
・・・もう、苦しまないで。
なんでもアタシに話して。
いくらでもアタシに頼ってほしい。
アタシはアナタの為ならなんでもするから・・・。
しばらくして、目を真っ赤にした梨華ちゃんがアタシから体を離した。
「・・・梨華ちゃん、大丈夫?」
「ありがとう、ひとみちゃん。・・・みっともない姿見られちゃったね」
そう言って、彼女は散らばっている細かい紙くずを拾い始めた。
ふと、その一片の紙切れを見て、それが小切手だと気付いた。
彼女は、もう今や何の価値も無いその紙くずに気付いたアタシを見て、
少しずつ話し始める。
- 73 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月06日(日)03時45分37秒
- 「・・・これ、手切れ金なの」
「・・・手切れ・・・金?」
「・・・私ね、付き合ってた人がいたんだ。
私の全てを分かってくれる唯一の人で、心から愛してた。
でも、幸せな時間ってのは儚いもので、
私と付き合ってる事がその人の親に知られて、交際を反対されたの。
二人で駆け落ちをする覚悟も、その時はあった。
・・・だけど、その人は私じゃなく親を選んだの。
私の我が侭な気持ちだけでその人の人生を駄目にしたくはなかったから、
だから素直に別れた。
・・・別れて2ヶ月。突然「よりを戻したい」って言ってきた。
でも・・・私はそれに応える事はしなかった。
意地とか、そういうんじゃないの。
私と一緒にいたら不幸になる、・・・そう気付いたから。ただそれだけ。
その父親が突然「手切れ金をやるから近づくな」って言ってきた。
受け取ってしまったら、私の気持ちが全部嘘になる。
だから・・・破いたの」
梨華ちゃんは悔しそうな、寂しそうな顔をしている。
- 74 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月06日(日)03時48分33秒
- 「まだ好きなんだね、その人の事・・・」
「・・・嫌いって言ったら嘘になる。でも・・・」
「・・・でも?」
「・・・私といたら不幸になる」
「なんでだよ、そんなの分からないじゃない。
誰も分からない先の事に不安になっちゃだめだよ。
・・少なくとも私は梨華ちゃんと一緒にいるとき幸せだよ。
こんな事、女に言われても気持ち悪いだけだろうけど、アハハ」
アタシは自分の気持ちを精一杯押さえて、冗談っぽく話した。
「・・・そう言ってくれて嬉しいよ、ありがとう」
- 75 名前:第三話 〜想い〜 投稿日:2002年01月06日(日)03時50分08秒
- 梨華ちゃんが笑顔をアタシに向ける。
その笑顔はどこか儚げで、とても綺麗で・・・。
でもそれは一生アタシの物にならないのだと思い知った。
どこかで夢見てた甘い理想。
だけど・・・梨華ちゃんには好きな人がいる。
その現実が、重くアタシの心に圧し掛かる。
「梨華ちゃん。・・・アタシ応援するからさ、頑張りなよ」
アナタの笑顔が見れるなら、
アタシの気持ちは全て無視したってかまわない。
・・・だから最後にもう一度・・・。
・・・アタシは彼女を抱きしめた。
「ひとみちゃん・・・ありがとう」
彼女の囁くようなその声だけが、いつまでもアタシの耳に残っていた。
- 76 名前:501 投稿日:2002年01月06日(日)04時03分20秒
- 第三話分、更新しました。
少しずつ物語に動きが出てきたかと。
>63さん
近々登場します。
でも、彼女のキャラと全く別人28号です(笑)
>夜叉さん
想像を越えた相手でしたか(笑)
実は最後まで誰にするか悩んでたんです。
最終的に男の名前とも取れるって理由で決めてしまいました(笑)
可愛らしいエピソード、今度食事のシーンがあったら、
取り入れさせて頂きます。ありがとうございます(^^)
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月06日(日)05時23分22秒
- 萌えの展開だなぁ…。かなり好きですよ、こういうの
- 78 名前:第四話 〜愛別と利用〜 投稿日:2002年01月07日(月)03時02分32秒
- あれから1週間が経った。
あの時の涙は何だったんだ?って聞きたくなるくらい、梨華ちゃんは次の日にはケロッとしていて、会う前にどう話したら良いかと緊張していたアタシは、脱力感を覚えたほど。
だけど、それはアタシに気遣わせないようにとの、彼女なりの気遣いだという事もすぐに分かった。
そんな彼女を知る度に、アタシは諦めるどころか想いが募るばかり。
だけどそれじゃ駄目なんだ。
梨華ちゃんには好きな男性がいるんだ。
彼女の幸せを心から願えるようになる為にも、アタシは・・・。
- 79 名前:第四話 〜愛別と利用〜 投稿日:2002年01月07日(月)03時04分15秒
- 「はぁ・・・」
「・・・どうしたんですか?もう5回目ですよ」
「え?」
「溜息が5回目」
「ああ、そっか」
「本当にどうしたんですか?最近の吉澤さん、おかしいですよ。私で良かったら話してくださいよ、聞きますから」
亜弥ちゃんが明るく言う。
アタシに気を使ってくれているのが分かった。
「ん、ごめんごめん。大丈夫だよ、ちょっと疲れてるだけだから。悪いね、気ぃ使わせちゃって」
「ううん、吉澤さんが心配なだけです」
下からアタシを覗き込むようにそう言う亜弥ちゃんは、確かに可愛いと思った。
「・・・ありがとう。そうだ、この間の約束いつにしようか?」
「えっ?」
「お礼にどこか遊びに連れてくって約束したじゃない」
「覚えててくれたんだ。・・・本当に良いんですか?」
「もちろん。約束したしね」
- 80 名前:第四話 〜愛別と利用〜 投稿日:2002年01月07日(月)03時04分55秒
- 彼女は嬉しそうに、アタシに何度も確認をしている。
そんなにアタシと出かける事が嬉しいのだろうか。
彼女の事も恋愛対象として見る努力をすべきなのかな・・・。
梨華ちゃんの事を、ちゃんと友達として見れるようになる為にも、
アタシも変わらなくちゃいけないんだ、きっと。
とりあえず周りに目を向けてみるべきかな。
・・・でもそれは、結局アタシの言い訳だってことも分かってる。
梨華ちゃんに嫌われる事が怖くて告白する事も出来ず、だけど忘れる事も、離れる事すら出来ずにいる、アタシの弱さへの言い訳だってことを。
「私、今日は暇なんです。吉澤さんさえ良ければ・・・」
「ん、じゃあ今日バイト終わったら行こうか」
「はいっ!」
亜弥ちゃんは本当に嬉しそうに返事をした。
・・・アタシは少し心が痛かった。
- 81 名前:第四話 〜愛別と利用〜 投稿日:2002年01月07日(月)03時06分27秒
- 「・・・本当に東京タワーで良かったの?」
「はい!」
映画でも行こうと誘ったのだが、亜弥ちゃんの希望で、結局東京タワーに来ている。
この間は梨華ちゃんに誘われたから、無理にでも展望台に上がったけれど、正直言って今回はかなり辛い。
アタシは、嬉しそうに双眼鏡を覗いてる亜弥ちゃんを、窓側から離れたところで見ていた。
高いところだけは本当に苦手なんだよ、勘弁して〜。
・・・それに、やっぱりここは梨華ちゃんのことを思い出してしまう。
せっかく決心をしたのに気持ちが揺らぎそうだよ。
「吉澤さーん、見てみてー。人が米粒みた〜い」
「う、うん」
「もうちょっと遅い時間になれば、ライトアップされて綺麗なんですよねー」
「そうだね」
「あ、あの辺がうちのお店かなー」
「そうかな」
「・・・・・つまんないですか?」
「いやっそんなことないよ!たださ、ちょっとお腹すかない?」
「あーそうですねー。うん、お腹すいたかも」
「よし!じゃあご飯食べに行こう、ね!」
アタシはうまく誤魔化して、早々に東京タワーを降りた。
- 82 名前:第四話 〜愛別と利用〜 投稿日:2002年01月07日(月)03時08分40秒
- 「この近くに美味しい定食屋があるんだー。定食屋って言うと「え?」って思うかもしれないけど、結構良い所なんだよ」
「吉澤さんと一緒ならどこでも良いですよ」
そう言って、腕を自然に組んできた亜弥ちゃん。
可愛いんだよね、こういうところが。
でも、梨華ちゃんの可愛さとは違うんだよね。
・・比べちゃいけない。二人に失礼だ。
「あ、ここだよ」
大通りから細い道に入り、地元の人間でも中々分からないような通路を抜けた所にその定食屋はある。
でかでかと看板が立ててある訳ではないし、外見は一見普通の家。しかし外観とはうってかわって、中は囲炉裏があって東北地方の家を思わせる。
アタシも宅配便のバイトをした時に偶然見つけた、穴場中の穴場だったりする。
梨華ちゃんと来た事が無い、唯一の場所。
・・・だから、亜弥ちゃんを連れてきた。
- 83 名前:第四話 〜愛別と利用〜 投稿日:2002年01月07日(月)03時10分19秒
- 「こんな所にお店があるなんて知らなかったですよ」
「だろうね、アタシもたまたま見つけただけだし。知る人ぞ知る、って感じの店だよね」
そう言って、アタシ達は店に入った。
「おっと、ひとみちゃんいらっしゃい!・・・おっ、ずいぶん可愛い子を連れてるね!ひとみちゃんの彼女かい?よーし、今日はサービスしてやるからな!」
店に入ったアタシ達を見た途端、店長が間髪入れずに喋り捲る。
「きゃ〜彼女だって〜」
アタシはそれに返事はせずに、開いている席に座った。
亜弥ちゃんも私に続いて席に座る。
「私達、お似合いですか?」
「おお、ひとみちゃん美人さんだけど、オトコ前だしな。お嬢さんもすごく可愛いしお似合いだよ!アハハ」
店長は調子良くペラペラと喋り続けた。
・・・全く。この人はどうしてこうも調子が良いんだろ・・・。
アタシは反論するのも面倒臭くて、言わせるままにした。
- 84 名前:第四話 〜愛別と利用〜 投稿日:2002年01月07日(月)03時12分02秒
- 亜弥ちゃんはニコニコして、アタシに話し掛けてきた。
「私達って、見る人にはカップルに見えるんですね〜」
「そうだね・・・そう見られて迷惑?」
「そんなことないです!!」
亜弥ちゃんは即答した後、照れて俯いた。こういう所は確かに可愛いと思う。
・・・普通の男なら、これでまいってしまうだろう。
だけど・・・何かが違うんだ。
そのうち食事が次々とテーブルに運ばれてきた。
アタシ達は会話もそこそこ、食べる事に没頭した。
アタシ達は定食屋を出て、先ほど来た道を歩いていた。
店長が調子に乗って、亜弥ちゃんにまでお酒を飲ませてしまい、そのせいか、彼女は普段よりも上機嫌で、はしゃぎながら歩いていた。
「あ〜美味しかったぁ。本当にご馳走様でした!」
「いいえ、どういたしまして。・・・さすがにこの時間になると暗くなるねー。危ないから家まで送ってくよ」
アタシが時計を見ながらそう言うと、亜弥ちゃんは突然立ち止まり、俯いてしまった。
- 85 名前:第四話 〜愛別と利用〜 投稿日:2002年01月07日(月)03時14分01秒
- 「・・・亜弥ちゃん、どうしたの?気分悪くなった?」
背中をさすってやろうと、彼女に近づいたその時、突然彼女はアタシの胸に飛び込んできた。
アタシの肩口に顔を埋めて、小さな声で言う。
「・・・今日は帰りたくない。吉澤さんと一緒にいたい」
「何言ってんの、酔っ払ってるなー」
私は笑いながら、彼女の頭をポンポンと叩いた。
だけど、亜弥ちゃんはいつになく真剣な目でアタシを見つめてきた。
「・・・・・私、ずっと好きでした!勇気を出して誘っても、いつもはぐらかされてばっかで・・・。望みないかなぁって、諦めようかと思ったりして。・・・でも、今日初めて吉澤さんから誘ってくれたから、もしかしたらって自分勝手に期待して、嬉しくなっちゃって。・・・私は女だから駄目ですか?・・・私に望みはないんですか?」
- 86 名前:第四話 〜愛別と利用〜 投稿日:2002年01月07日(月)03時16分02秒
- どうして彼女はアタシが飛び越えられない壁を、いとも簡単に飛び越えてくるのだろう。
きっと、答えは簡単。
彼女はノーマルだから。
世間の中傷の怖さを知らないから。
「亜弥ちゃんはさ、ホントにアタシの事が好きなの? 学校の先輩とか先生とかに憧れるような、一時的なものなんじゃないかな?」
「そんなことないです!」
「・・・同性と付き合うってことが、どういう事か分かって言ってるの?けして楽しいことばっかりじゃないはずだよ。世間に白い目で見られることになるかもしれないよ?それでも良いの?」
「なんでそんなことばっかり言うんですか?・・・私のことは嫌いですか?・・・もし、今、吉澤さんに付き合ってる人がいないって言うなら、好きな人がいないって言うなら、試しで良いですから、私と付き合ってください」
「・・・後悔しない?」
「・・する訳ないじゃないですか」
「一つ聞かせて・・・アタシのどこが良いの?」
「全部です。・・・説明なんてできない」
- 87 名前:第四話 〜愛別と利用〜 投稿日:2002年01月07日(月)03時17分23秒
- これだけ真っ直ぐにぶつかって来られたら・・・。
「・・・ありがとう」
「それって・・・?」
「アタシなんかで良ければ・・・付き合おうか」
・・・アタシはこれで何かが変われるんだろうか。
いや、変わるしかないんだ。自分の為にも、亜弥ちゃんの為にも。
それが自分のエゴであることに気付かない振りをして。
亜弥ちゃんを抱きしめながら、ふと思い出したのは・・・。
梨華ちゃんの笑顔だった―――。
- 88 名前:501 投稿日:2002年01月07日(月)03時25分08秒
- 第四話、途中まで更新しました。
予想外の展開に(汗)
>77さん
ありがとうございます(^^)
まだまだ切なくなるはずです。それはもうしつこいくらいに(笑)
- 89 名前:夜叉 投稿日:2002年01月07日(月)11時01分47秒
- 切なすぎますね、この展開。
あややとつき合うことで吉が変わることができればいいけど(略。
この後の展開、楽しみにしてますね。
食事ネタ、がっつし使ってくださいね。
当方、吉推しなのに、ほとんど彼女のこと分かってませんが、何か?(笑)。
- 90 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)14時29分04秒
- しつこいくらいの切なさに期待
- 91 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時28分59秒
- 「・・・おはよー」
「よっすぃー聞いたよー」
アタシが店に入るやいなや、ごっちんが笑顔で話しかけてきた。
「は?」
「とぼけなくてもいいよ!聞いたよ〜、亜弥ちゃんから」
「ああ、その事。ま、そういう訳だから」
「なに〜、ずいぶん冷めてるねぇ。まぁいいや。亜弥ちゃんさ、よっぽど嬉しかったんだろうねぇ。昨日ごとーの顔見るなり「付き合う事になりましたー」って話してきたんだよ。・・・でもさ、きっと一時的なはしかみたいなものなのかもね。亜弥ちゃんの気持ちは」
アタシは心が痛んだ。
結局、梨華ちゃんへの想いを諦めるために、彼女のその気持ちを利用したに過ぎない。
「・・・前にも聞いたけど、ごっちんはさ、良いの?」
「んー、何がぁ?」
「だから、友達が、レ・・・同性と付き合ってても」
「あー、よっすぃーなら良いって―――あ、いらっしゃいませー」
お客が立て続けに入ってしまって、その話はうやむやなまま流れてしまった。
ごっちんなら、アタシが同性愛者でも嫌悪感なく付き合ってくれる―――と、80パーセントは自信がもてる。
けれど、残り20パーセントのアタシの弱さが、はっきりと打ち明けることを拒否させる。
- 92 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時31分52秒
- ・・・あの日の夜、亜弥ちゃんはアタシのアパートに泊まった。
アタシが誘った。
彼女を抱こうと思って・・・。
抱いてしまえば、例え恋愛感情ではないにせよ、情がわくと思ったから。
部屋に入るなり、アタシは亜弥ちゃんを抱きしめてキスをした。
自分を高めさせるように、荒荒しく彼女の唇を求めた。
彼女は最初こそ体を強張らせたものの、そんなアタシにされるがままだった。
- 93 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時33分17秒
- ・・・・・けれど、駄目だった。
どれだけ気持ちを高めようとしても、頭のどこかに冷静な自分がいて、
「お前は無理なんだ。彼女を抱く事も愛することも出来ない」とアタシに囁く。
遠くの方から聴こえていたその囁きが、次第にボリュームが上がっていく。
突然行為を止めて頭を抱え込んだアタシに、亜弥ちゃんは不安そうな顔で覗き込んだ。
「・・・あの、ごめん、アタシ・・・いきなりとんでもない事を・・・」
「・・・」
「本当にごめん・・・。」
「私は大丈夫ですよ。こうやって一緒にいるだけで嬉しいから」
そう言って亜弥ちゃんはアタシを抱きしめた。
アタシは臆病で卑怯だ。
自分の弱さのせいで亜弥ちゃんを傷つける事だって、容易に想像できたはずなのに。
アタシ達は一つの布団で抱きしめ合うように寝た。
亜弥ちゃんはしばらくすると寝息を立てはじめたが、アタシは朝まで眠れなかった。
- 94 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時34分42秒
- 「・・・っすぃー、よっすぃー!!」
「・・・あ、何?」
「ボーっと交信しないでよー」
「あ、ごめん」
「みんなで遊びに行こうって、亜弥ちゃんと前から言ってたんだけどー、ごとーといちーちゃんとよっすぃーと亜弥ちゃんの四人で温泉でも行こうよ」
「・・・うん」
「・・・ね、よっすぃーマジでどうしたの?なんかあったんなら言いなよ。お金は無いけど、話くらいは聞いてあげれるよ」
「・・フフ、気を使わせてごめんね。でも大丈夫だよ。ちょっと疲れてるだけ」
「・・・ホントに?なら良いけど。あ、温泉の話だけど今月末の土日あたりどう?」
「ん、分かった。予定空けとく」
「亜弥ちゃんにも伝えといてね」
「うん」
・・・梨華ちゃんはどうしてるだろうか。
3日会ってないだけなのに、無性に会いたかった。
梨華ちゃんの太陽のような笑顔に会いたかった。
- 95 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時35分40秒
- 「今日はバイト休みじゃないよな、確か」
アタシはバイトを終えて、梨華ちゃんのバイト先の本屋に来ていた。
仕事中だからまともに話す事は出来ないだろうが、それでも良い。
ちょっとだけでも彼女の声が聞きたかった。
遠くから彼女の顔を見るだけでも良かった。
・・・アタシ、やっぱりストーカーかもね。
本を探すふりをして辺りを見回す。
大概彼女は本の陳列をしていたりするのだが、今日は見当たらない。
店内をぐるっとまわってみたが、やはり梨華ちゃんの姿はない。
近くにいた女の店員に声をかけてみた。
「あの〜バイトの石川さんは?」
「風邪を引いたとかでお休みしてますよ」
「そうですか、どうも」
アタシは店員に軽く頭を下げると、慌てて本屋を出た。
梨華ちゃんはどんなに具合が悪くても、仕事を休もうとしない。
そんな彼女が休むと言う事は、よほどの事に違いない。
アタシは途中スーパーに寄って食事の材料を買い、彼女のアパートへと急いだ。
- 96 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時38分29秒
- アパートの階段を駆け上がり、梨華ちゃんの部屋の前に辿りつこうとした瞬間、ドアが開いた。
アタシは思わずビックリして足を止めた。
そこから出てきた人物は、その部屋の主、梨華ちゃんではなく、二十前後の女性だった。
その女性は、ビックリして足を止めていたアタシに気付き、明らかに敵意の目を向けた。
そしてそのままアタシの横を通り過ぎて行った。
今の人、どこかで見た事あるような。・・・どこで見たんだっけ。
・・・思い出した!ファミレスで梨華ちゃんといた人だ!
しかし、何でアタシが睨まれなくちゃなんないの?
・・・まぁいい。それより梨華ちゃんの方が心配。
アタシはドアをノックした。
あの女性が出てきたのだから、彼女はいるだろう。
・・・返事がない。
アタシはドアを開けた。
- 97 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時40分32秒
- 「・・いちゃん?」
彼女は奥で横になっているらしく、アタシだと分からなかったらしい。
「梨華ちゃん、アタシ」
「・・・ひとみちゃん?どうしたの?」
部屋にあがって声をかけると、彼女はちょっとビックリしたように起きた。
やはり辛そうな顔をしている。目もなんとなく焦点が合ってないような。
「本屋に行ったら梨華ちゃんがいないんで聞いてみたら、風邪だって言うからさ。ちょっと心配になって来てみたんだ」
「・・・ありがとう、すごく嬉しい」
「ご飯作ってあげるから寝てなよ」
「あ、・・・友達が支度してくれたの。それ、わざわざ買ってきてくれたんでしょ?ゴメンね」
アタシが持っていたスーパーの袋を指差して、彼女はすまなそうに言った。
- 98 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時42分38秒
- 「もしかして今さっき出てった人?」
「・・・あ、・・うん。・・遊びにきたんだけど、私の調子が悪かったもんだから、色々やってくれて・・・」
「そっか、それならいいんだ。・・・他にやる事はない?困った時はお互い様なんだから、こういう時くらいは甘えなって」
「・・・ありがとう・・・じゃあ・・・恥ずかしいんだけど」
「なに?」
「・・・私が眠るまでで良いから、そばにいてくれないかな」
「なんだ、そんな事お安いご用だよー」
「・・・こういう時一人でいると、なんか不安になるって言うか・・・」
「大丈夫、そばにいるから安心して眠りなよ」
アタシがそう言うと、梨華ちゃんは安心したように目を閉じた。
・・・三十分ほどすると、彼女は寝息を立てはじめた。
額に手を当ててみると、まだかなり熱い。
頭に濡れタオルを当てているものの、すぐに温くなってしまう。
氷枕があれば良いんだけど・・・無いよね。氷もまだ出来てないし。
確か、近くに雑貨屋があったっけ・・・買ってくるか。
- 99 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時44分46秒
- アタシは彼女が寝ている事を確認して、アパートを出た。
もう辺りはすっかり暗くなっている。
階段を降り、商店街に向かって歩き出そうとした時、
「・・・ちょっと話があるんだけど」
そう話しかけてきたのは、さっき帰ったはずの女性だった。
アタシは突然声を掛けられてビックリした。
何の話があるのだろうと、女性を見ていたら、間髪入れずにぶしつけな質問が飛んできた。
「・・・アンタ、あの子とどういう関係なの?」
「は?」
「答えなさいよ」
女性のあまりにも失礼な物の言い方に、アタシは思わずカッとなった。
「それが人に物を尋ねる言い方?だいたいアンタこそ何なんだよ!」
「質問に答えなさいよ!」
「梨華ちゃんの友達にこんな失礼な奴がいるとはね」
アタシはこのまま話していても苛つくだけだと思い、女性を無視して商店街へ向かおうとした。
- 100 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時46分15秒
- 「ちょっと待ちなさいよ、まだ質問に答えてもらってない」
「アンタに答える義理もないと思うけど」
「・・・分かった、確かに私の態度が悪かったわ、ごめんなさい。私は保田。あの子の、梨華の・・・友達よ」
「アタシだって友達だよ」
「本当ね?」
「それ意外に何があるの?アタシが梨華ちゃんの母親にでも見えるの?」
「・・・ならいいんだ。引き止めて悪かったわね」
「ちょ、ちょっと!なんなんだよ!?」
そう言うと保田と名乗った女性はさっさと帰ってしまった。
ホントに何なんだよ。訳わかんない。
まさか・・・アタシが梨華ちゃんの恋人に見えたとか?
・・・そんな訳ないか、アホらし。
それに例えそう見えたとしても、何であの人が怒ったように聞いてくるんだよ。
アタシは都合の良い解釈をしてしまう自分自身に呆れつつ、
女性の不可解な質問の意味を探しながら、商店街に向かった。
- 101 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時47分03秒
- 買い物から帰ってくると、梨華ちゃんは布団から起きていた。
アタシの顔を見て、とても安心したような顔をした。
そんな彼女の表情を見て、不謹慎ながら抱きしめたい衝動に駆られる。
アタシの感情欲情を全て押し殺しながら、梨華ちゃんのそばに寄る。
「起きてたんだ。もう大丈夫?」
梨華ちゃんの額に手を当ててみる。さっきよりも熱が上がってるようだ。
「・・・ひとみちゃん」
「横になってなくちゃ駄目だよ、今、氷枕用意するから待ってて」
「・・・帰ったのかと思ってた」
「は?熱出して苦しんでる梨華ちゃんをほって帰るほど、アタシは冷たくないよ」
アタシは買ってきたロックアイスを氷枕にぶち込み、水道水を適当に入れる。
タオルを氷枕に巻いて、梨華ちゃんの頭の下にひいてやった。
彼女はずっとアタシの姿を見つめていた。
熱のせいなのだろう。瞳が潤んでいて、誘っているのかと勘違いをしてしまう。
このままいたら、梨華ちゃんを壊してしまいたくなりそうだ。
- 102 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時48分52秒
- 「・・・こういうのなんか良いね」
アタシの邪な想像に全く気付かず、梨華ちゃんが小さく独り言のように話す。
「えっ、何?」
「なんか、お母さんを思い出すの・・・。小さい頃、私が風邪を引いたりすると、ひとみちゃんみたいに氷枕を用意して、一晩中寝ないで私のそばにいてくれて・・・」
梨華ちゃんが自分の思い出話をするのはこれが初めてかもしれない。
例えささいな話でも、彼女の事を聞けるのはすごく嬉しかった。
「優しいお母さんなんだね」
「優しかったよ・・・」
「優し、かった?」
「両親は小さい時に事故で死んだの」
「そうなんだ・・・」
アタシはそれ以上の言葉が出てこなかった、思いつかなかった。
梨華ちゃんも、アタシに慰めや同情の言葉を貰いたくて、話している訳ではないようだ。
- 103 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時50分46秒
- 「叔母の家に引き取られて、・・・可愛がってくれてたと思う・・・。だけど、いつも気が抜けなくて、具合が悪くても平気なふりをしてた。親を亡くして、子供心にも「強くならなきゃ駄目だ」って思ったのかもね。・・・そのうち人に甘える事が出来なくなってた。可愛げのない子供だって影で言われてたっけ。
・・・それは、今でも苦手だったの。・・・付き合った人にでさえも。
人に甘える事は弱い事だと思って、自分自身を追い詰めてた。
だけど、こうやって素直に人に甘える事がこんなに心地良いものだって、やっと分かったような気がする・・・ひとみちゃん、ありがとうね」
「・・・梨華ちゃん」
「私、やっぱり熱があるんだね・・・喋り過ぎ」
熱のせいなのか、自分の言ったことでなのか―――おそらくどちらともだろう。
梨華ちゃんは顔を真っ赤にして、布団で顔を隠した。
- 104 名前:第四話 〜届かぬ呪文〜 投稿日:2002年01月08日(火)02時51分54秒
- 「いつでも甘えて良いんだからね。アタシは梨華ちゃんの為ならなんでもするから」
「・・・ありがとう、ひとみちゃん」
梨華ちゃんは目を閉じて、そのうち寝息を立て始めた。
・・・彼女の熱に侵されたのだろうか。
思わずすごい事を言ってしまった自分に、今頃恥ずかしくなった。
「梨華ちゃんの為なら何でもする」・・・だが、その言葉に嘘はない。
「梨華ちゃん・・・愛してる」
アタシは彼女の額の汗をふき取りながら、
決して彼女に届くことのない、愛の呪文をつぶやいた。
- 105 名前:501 投稿日:2002年01月08日(火)03時06分35秒
- 第四話分、すべて更新しました。
あのお方も登場です。
>夜叉さん
まだまだ切ない展開になると思います。自分で書いてて切ないす。
食事ネタはラスト間際にがっつし使わせていただきます(^^)
当方も吉推しなのに、めっきり彼女のことわかってませんが、何か?(笑)
>90さん
ありがとうございます。
次回もかなり切ないと思います。期待していてください。
- 106 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月08日(火)06時36分16秒
- あのお方怖ぁ…(w
- 107 名前:夜叉 投稿日:2002年01月08日(火)13時42分55秒
- 何か、あの人の表情が手に取るように…。
吉、密かにコクっちゃうし(w。でも、石には届いてなさげ(鬱)。
次回も切のうございますか…、でも好きです(が、コクっちゃったよw)。
続き、待ってます。
- 108 名前:ポー 投稿日:2002年01月08日(火)19時00分18秒
- あ〜っ、もうほんとによすぃこせつなぁ〜い..まっ。そうゆうのスキなんですが(´u`)心が苦しくなるくらいの『せつなさ』まってます。。。
- 109 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月08日(火)23時45分11秒
- ・
・
・
「石川、私とどこか知らない町に行こう!」
突然圭ちゃんが私の部屋にやって来て、真顔でそう言った。
「どうしたの、突然」
「アンタと付き合ってる事が親にばれた。別れる気は無いって言ったら反対されたよ」
「そんなの、当たり前じゃない。一人娘が女と付き合ってるなんて・・・」
「一緒に行ってくれるよね?」
「そんなの無理に決まってるよ。いつまでも一緒にいる事なんて・・・無理」
「そんな事言わないでよ、・・・私、アンタがいなかったら何もやる気がおきないんだ。私と一緒に東京を出よう。・・・頼むから」
いつもしっかりしていて頼りがいのある彼女が、私の前にちょこんと正座して、両手を合わせてお願いのポーズをしている。
傍目から見たら情けない姿なのかもしれないけど、私は真剣な彼女の姿に涙がこぼれそうになった。
- 110 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月08日(火)23時46分45秒
- 「・・・後悔、しないの?」
「する訳ないでしょーが!」
彼女は当たり前な事を聞くなといいたげな顔。
私より年上で、すごくしっかりしていて、すごく厳しくて、純粋過ぎるほど真っ直ぐで。時折見せる真剣な表情がすごく好き。
男だとか女だとか、そんな常識を吹き飛ばすほどの愛情をくれる人。
そんな彼女の申し出を断る理由なんて何ひとつない。
「・・・私がいなくちゃ何も出来ないんじゃしょうがないな。ついてってあげましょう」
「なによそれ!アンタ、調子にのんじゃないわよ!」
私達は顔を見あわせて笑いあった。
それは確かに永遠に続くものだと信じていた。
- 111 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月08日(火)23時48分33秒
「圭ちゃん、遅いなぁ・・・」
辺りはまだ薄暗い朝6時、私は東京駅にいた。
彼女の親に気付かれないうちに家を出ようと、朝早くの待ち合わせになった。
周りには人がいない。早朝なのだから当たり前。
圭ちゃんと二人で東京を出ようと決めた。どこへ行くとも決めてない。でも、彼女となら大丈夫。きっとどこででもやっていける。
- 112 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月08日(火)23時50分41秒
- ・
・
・
「今日からバイトに入った石川さん、みんな可愛がってやれよ」
簡単な紹介を終えると、現場監督は事務所を出て打ち合わせに行った。
中学を卒業したばかりの春の日。
私は世話になっていた親戚の家を飛び出た。自分のいるべきところはここじゃないと思って。
けして冷たくされたからじゃない。むしろ私は可愛がってもらっていた。
・・・ただ、それは愛情ではなく、同情だったけれど。
中学卒業したての私が働ける場所なんてそうそうなくて。
どこでも良いからと、職業安定所の紹介を片っ端から受けて決まったところがここ。
工事現場内での車の誘導係をやらせてもらえる事になった。
・・・どこも決まらなかったら、年を誤魔化してスナックに行こうと覚悟をしていただけにホッと一安心。
- 113 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月08日(火)23時52分59秒
- 「・・・石川です、よろしくお願いします」
「面白い声してるなー、ねーちゃん。華奢な体してるけど、こんなんで一日中立ちっぱなしの仕事できるのか?」
「大丈夫です、頑張ります」
私は作業員のおじさんに、曖昧な笑顔を作ってそう答えた。
正直言って、男の人って苦手。よっぽど慣れた人じゃないとあまり話せないし、・・・怖い。
私はなるべく一人で始業時間になるのを待っていた。
だけど、一人の作業員がしつこく私に話しかけてくる。
「可愛い顔してるじゃないか、こんな所で働かなくても良い金になる所知ってるぞ。良かったら紹介してやろうか?別の意味で肉体労働だけどな、ヘヘヘ」
私の体を嘗め回すように言う。
イヤらしいその目つきに私は気持ち悪くなり、一瞬にして全身に鳥肌が立った。怖い・・・怖い・・・。
私が何も言えずに黙っていると、更に男は私の肩に手をかけてきた。
何も言い返せない自分が恨めしい。怖くて涙がこぼれそうになったその瞬間、
「佐藤さん、やめなさいよ!」
私よりちょっと年上らしき女性が、佐藤と呼んだその人の腕をペチリと叩いた。
- 114 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月08日(火)23時55分09秒
- 「なんだよ保田さん、そんな怖い顔すんなよ」
「この顔は生まれつきです!・・・全く、毎回新しく入ってくる子の事をそうやってからかって。私の時には何もしなかったくせに!」
「・・・だって保田さん、入ったときから迫力あったじゃねーか」
「も〜ムカツク!ほら!手を離しなさいよ!」
「分かった分かった。・・・ねーちゃん、金に困った時は俺に言いな」
「いいから、さっさと行きなさいよ」
保田さんと言う女性は、そう言って佐藤・・さんを追い払ってくれた。
ホッと安心したのと彼女の迫力に圧倒されたのとで、思わず涙がこぼれてしまった。
「・・・アナタね、こういう現場で仕事をする以上、ああいう輩にからかわれてベソベソ泣いてちゃ駄目なんだからね・・・って、ちょ、ちょっと!何で泣いてるのよ!わ、私が泣かしてるみたいじゃない!泣き止みなさいよ!」
- 115 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月08日(火)23時56分34秒
- 私の涙を見た彼女は、慌ててオロオロしている。
あーもう、なんなのよ!って困っている表情は、ちょっと可愛いなって思ったけど、それを言ったら怒られそうな気がするので止めておきます。
「ごめんなさい、助けてくれてありがとうございます」
「もう泣くんじゃないわよ!」
そう言って彼女は自分のポケットからハンカチを出して、渡してくれた。
困ったような照れているような表情の彼女が印象的だった。
・
・
・
- 116 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月08日(火)23時59分11秒
- フフ、昔から変わらないんだよね、圭ちゃんって。
私は初めて圭ちゃんと会った時の事を思い出していた。
・・・それにしても遅いなー。
時計を見てみると針は8時を指していた。駅は人が増えてきている。
家に電話を掛けるわけにはいかないし。・・・まいったなー。
今時私も圭ちゃんも携帯を持ってないなんて、現代人として遅れてるよね。
・・・・・・時計は12時を指している。まだ、圭ちゃんは来ない。
別の改札口の前にいるのかと思い、何回も見に行った。探しても彼女の姿は見当たらない。思いきって構内放送を頼んだ。それでも圭ちゃんは来ない。
・・・・・・・・・待ち合わせの時間から9時間。まだ・・・来ない。
私の脳裏に一抹の不安が過ぎる。まさか事故とかに?いや、そんなまさか。考えたくもない事が次々脳裏に浮かぶ。
- 117 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)00時01分17秒
- ・・・・・・・・・・・・夕方18時になった。
周りには帰宅するサラリーマンでごった返している。
私は見つけやすい場所に移動して、彼女を待っていた。もしかしたら、朝の6時と夕方の6時を間違えたのかもしれない。
私は既にネガティブに陥ってる不安な気持ちを、ポジティブに考えようと必死になった。
・21時になった。彼女の姿はない。
来ないかもしれない・・・。
一番考えたくなかった想像が一度頭に浮かぶと、次々と流れるように私の不安が脳裏に過ぎっていく。
ううん、そんな事ない。圭ちゃんは必ず来る。だって約束してくれたんだもの。
「ずっとアンタのそばにいる」って・・・。
・圭ちゃんは来なかった・・・。
深夜の1時を過ぎ、駅も閉まる。気がつけば外は静かに雨が降りだしていた。
ひとつの事実は私に重く圧し掛かって苦しかった。
私は雨に濡れる事など忘れて、夜の街を歩いて行った。
- 118 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)00時03分30秒
- ・・・どう歩いてきたのかすら覚えていない。
気がついたら私は自分のアパートに戻っていた。
部屋の中には落ちついたら取りに来れるようにと、ダンボールに片付けておいた荷物が積んである。
それらがより一層、私の心を孤独に突き落とした。
「・・・なん・・・で・・・なんで・・・来て・・・くれない・・の?やくそく・・・したじゃない・・・けいちゃ・・・」
私はよろける様に壁にもたれかかり、そのままズルズルと座りこんだ。
涙を拭う事もせず、呼吸がまともに出来ないほど泣いた。
涙と共に悲しい吐息が漏れる。
「・・・けいちゃ・・ん・」
私の声に答える人はいなかった。
- 119 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)00時05分51秒
それから一ヶ月後。季節は暖かい春になった。
私はどうにか落ち着きを取り戻し、やっと見つけたバイト先で必死に働いていた。
どんなに絶望感に打ちひしがれても、圭ちゃんを恨むことなど出来ず、それでも彼女を忘れたくて、昼は本屋、夜はコンビニで働く事で忘れようとした。
やっと、落ちついたと思ったその矢先、突然の電話が私を動揺させた。
「・・・・・・石川?・・私」
「け・・いちゃ・・ん?」
「・・・ホントにごめん。・・・ちゃんとアンタに話さなくちゃと思って・・・」
「・・・もういいよ、来なかった事が答えなんでしょ?」
「・・・。とにかく、ちゃんと会って話がしたい。お願いだから、来て。駅前の・・いつものファミレスにいるから」
- 120 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)00時08分21秒
- ・・・会って今更どうするの?
そう思いながらも、私はファミレスの前に立っていた。
思いきってドアをくぐる。
すぐに圭ちゃんの後姿を見つけた。沢山の客がいるのに・・・こんなにも簡単にあの人の姿を見つけてしまう。
思わず涙がこぼれそうになり、彼女の席に行く前に私はトイレに駆け込んだ。
必死で涙を止める。泣いてみせるのはアンフェアだって分かってるから・・・。
涙を拭い、気持ちを落ちつかせてトイレから出た。
「どうもー。店員さんとは縁があるみたいだね」
突然目の前の人物に声を掛けられてビックリした。
目の前の彼女は昨日偶然会った本屋のお客さん。
- 121 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)00時09分19秒
- 「あ、偶然ですねー・・・この近所なんですか?」
私は努めて普通に話をした。
「うん、こっから歩いて10分くらいかなー」
「そうなんだ。私もここから近い方だから、また会うかもしれませんね」
「ホント?アタシ、ここら辺ウロウロしてるから、マジで会うかも」
「その時は声かけてくださいね。それじゃ」
彼女は最後まで笑顔だった。
圭ちゃんと会うのに躊躇いがあったけど、彼女のおかげなのだろうか、フッと力が抜けた感じがした。思いきって圭ちゃんの席へと歩く。
- 122 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)00時13分01秒
- 「・・・久し振りだね」
私が圭ちゃんの背中に声をかけると、彼女はビックリしたように振り向いた。
私は来ないと思っていたのかもしれない。
「来てくれて・・・ありがとうね」
「・・・うん」
いつもの笑顔はなかった。真剣な面持ちで彼女は話を続ける。
「・・・あの日、行かなくて本当にごめん・・」
「もういいよ。・・・考えてみれば、やっぱり女同士なんておかしいもん」
「ちが・・・う。・・・あの日の朝、私は家を出ようとしたの。それに気付いた母親に引き止められて、無理矢理出て行こうとして、母親を突き飛ばしちゃったんだ・・・。頭をぶつけたのか全然動かなくて・・・慌てて病院に連れて行った。意識を取り戻した母親に泣きつかれた時、出て行くなんて言えなかったよ。・・・私は・・・親を捨てる事は出来ない。・・・だから・・・」
「・・・分かってる。私が圭ちゃんの立場だったら同じ事をするよ、きっと。はっきり言ってくれてありがとう。・・・これでもう悩まなくてすむもん」
- 123 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)00時14分41秒
- 私は精一杯笑顔で答えた。そうじゃないと涙がこぼれそうだったから。
きっと圭ちゃんも、私以上に沢山悩んだはず。それだけで十分だよ。
困らせる事は言いたくない。それが私の、最後の・・・愛。
「圭ちゃん、今までありがとうね。いつかどこかで会った時には、またいつもの笑顔で話しかけてね。・・・それじゃ」
私はそう言って、彼女の返事も聞かずに店を出た。
このままいたら絶対泣いてしまうと思ったから。絶対に涙は見せたくなかった。
駅前という事もあって人通りも多い。だけど私はかまわずに、涙を拭わないで走った。
「・・・いしかわー!」
背中の方に大声で怒鳴るような圭ちゃんの声が聞こえたけれど、振り返らない。振り返れない。
「・・・さよなら、圭ちゃん」
私は小さく呟いて、人ごみの中へ隠れていった。
・
・
・
- 124 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)00時16分18秒
「・・・かちゃん、梨華ちゃん」
「・・・ん・・・」
「ねぇ、大丈夫?」
ひとみちゃんが私の顔を覗きこんで、心配そうな顔をしている。
ふと窓の方を見るとカーテンの隙間から眩しいほどの陽が射し込んでいた。
昨日の熱もすっかり引いたみたい。
私は寝ぼけた頭を振って、体を起こした。
「・・・夢・・?」
視界がぼやけていると思ったら・・・泣いてるんだ、私。
こんな夢を見てしまったのは、久し振りに圭ちゃんと会ったからかなぁ。
- 125 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)00時17分28秒
- 「・・・気がついたら梨華ちゃん泣いてるしさ、うなされてるみたいだったから、つい起こしちゃったけど・・・大丈夫?」
「大丈夫、・・・夢を見てただけ」
「そんなうなされるような夢って・・・いや、無理には聞かないけど」
「・・前話したことあるでしょ、付き合ってた人と別れた時の事。その夢を見ちゃった。今更見るなんてねー」
私はちょっと笑いながらそう言って、流していた涙を拭った。
別に無理をしてる訳じゃないんだけど。
だけどひとみちゃんはそう思わなかったみたい。
「そんな無理して笑顔を作らなくてもいいよ。泣きたい時は思いっきり泣いた方がいいとアタシは思うよ」
「無理なんかしてないよー」
「・・・そうだ、アタシの胸を貸してあげる!さぁ、おいで!」
- 126 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)00時18分44秒
- ひとみちゃんは冗談交じりに自分の両手を広げてそう言う。
私の気持ち組んでの事だとすぐに分かった。
そんな彼女の気遣いが嬉しかった。私は笑いながらひとみちゃんに抱きついた。
「本当にもう大丈夫だよ。ありがと、ひとみちゃん」
「本当?」
「そんなに前の事を引きずるほどウェットな性格じゃないよー」
私はそう言って彼女から離れた。
ひとみちゃんは何故か両手を広げたままの形でいて、私はそれを見て思わず笑ってしまった。
「なんで笑うんだよー」
「なんで固まってるの?」
「あ・・・だって、梨華ちゃんが本当に飛び込んできたから緊張しちゃって・・」
照れたように彼女が言う。
それが可笑しくて思わず私は笑ってしまった。ひとみちゃんもそれにつられて笑う。私達は思いきり笑いあった。
もう大丈夫。
こんなに私を思ってくれる大切な友達もいる。
圭ちゃんの事を忘れる事は出来なくても、思い出として残しておける。
・・・圭ちゃん・・本当にさよなら。
一つの恋に別れを告げた、夏の日。
不思議と私の心は今日の空のように晴やかでした。
- 127 名前:501 投稿日:2002年01月09日(水)00時32分50秒
- 第五話、途中まで更新しました。
ちょっと気分転換?に石視点です。
>106さん
あのお方怖いですか?・・・怖いですよね(笑)
>夜叉さん
自分も吉を睨んでいるあの人のシーンを容易に想像できました(笑)
>でも好きです(が、コクっちゃったよw)。
コクられちゃいました(照れ)(←微妙に勘違い/笑)
石視点の切ないお話はどうでしたか?
>ポーさん
吉も石も苦しい恋をしてるんすね。
書いてる自分も最近本気で切ないです(笑)
- 128 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月09日(水)02時02分49秒
- ああ、なんて健気な…
毎回読みごたえあって良いです
- 129 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月09日(水)12時22分49秒
- 切ないな〜。
ひょっとして保田が一番かわいそうなのかも・・・。
- 130 名前:夜叉 投稿日:2002年01月09日(水)17時01分02秒
- ファミレスのシーン、分かりました。
思わず、「あ〜」と手をたたいた自分(w。
石視点、こっちも切ないよな…。
やっすとの恋が終わった、と区切ってあったんでこれからどうなるのか。
3人、いや5人?がどう絡んでくるのか、期待してますね。
- 131 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)19時15分24秒
- すっかり体調を戻した私は、バイトに出ようとしたけれど、ひとみちゃんに猛反対されて、仕方なく今日一日ゆっくり休む事にした。
ひとみちゃんはまだ心配な面持ちで、バイトに向かった。
私が無理矢理行かせなかったら、自分までバイトを休む勢い。
どうして彼女は会ったばかりの私に、ここまでしてくれるのかと思う。
・・・もしかしたら、私に友人以上の好意を寄せてくれているのだろうかと、自惚れてしまいそうにもなるけど、自分が同性愛者だからといって、他人もそうだとは思えない。
17年間生きてきて同性愛者に出会った事もないし。
まぁ、自己紹介のときにわざわざ「私はレズです」なんて言う人はいないけど。
- 132 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)19時16分24秒
- 私自身、圭ちゃんと付き合う前に、男性と付き合った事もあった。
心の奥底深くで“どこか違う”という疑問を感じながらも、それに気付かず、・・・いや、それを誤魔化して・・・。
圭ちゃんと出会わなければ、本当の自分を認める事はしなかったかもしれない。
どんなに優しく物分かりの良い人間でも、常識の世界から逸脱した者は特異的にしか映らないでしょう。
「人と違う」・・・ただそれだけで、汚いものを見るように、珍しい生き物を見るように、人は好奇の目に晒す。それがどんなに辛い事か、嫌ってほど知っている。
ひとみちゃんは大切な友達だからこそ、本当の私を見せてはいけないと思った。
事実を話さない事を臆病だと言われるのならば、それは仕方がないこと・・・。
- 133 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)19時17分29秒
- 生来貧乏性な私は、体を休ませる事が中々出来ない。
汗で湿った布団を干し、お部屋の掃除をしようと思ったけど、ひとみちゃんがやってくれたみたい。気がつけば、昨日まで足の踏み場がなかった部屋の中はピカピカ。
実は、どうしても掃除だけが苦手な私はいつも散らかしてばかり。ひとみちゃんが来る時だけは頑張って掃除をしていたけど、これでばれちゃったかな・・・。
たまった洗濯物を干し終えて、次に食事の支度を始めた。
ひとみちゃんの事だもん。私の事を気遣って、バイトが終ったら来てくれると思う。
私は彼女の分も作り、傷まないようにと冷蔵庫にしまった。
そして、やっと正午が過ぎた。
一段落がついたところで体を落ち着かせる事が出来る。
私は窓際に寄りかかり、窓の外をボンヤリと見ながら、昨日の事を思い出した。
- 134 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)19時18分39秒
- ・
・
・
・・・トントン・・・
玄関をノックする音が聞こえる。
私の部屋に来る人なんて数が限られている。ひとみちゃん・・・かな?
私は熱を持っただるい体を、必死に起こしてドアを開けた。
「・・・けいちゃん」
突然の訪問に戸惑ってる私に、彼女はいきなり抱きしめてきた。
それは久し振りの彼女の温もりで、私は抵抗する事を忘れていた。
- 135 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)19時20分06秒
- 「・・・石川、アンタ体が熱いわよ!」
「ちょっと風邪引いただけ、大丈夫」
「大丈夫じゃないわよっ!」
そう言うと、圭ちゃんは私を部屋の中に押しこんで、布団に強引に寝かせた。
アイスノンなんて気の利いたものは、私の部屋にはないので、彼女はタオルを氷水で浸して、熱を持った私の額に乗せてくれた。
「ありがとう」
「・・・また無理してんでしょ。アンタは体壊すまで無茶するから・・・」
圭ちゃんは優しい瞳で私を見つめて言う。
彼女は気温と私の熱ですぐ温くなってしまうタオルを取り替えてくれる。
一つ一つの行為が昔のままで、まだ彼女と付き合っているのかと勘違いをしてしまいそう。
「アンタご飯食べたの?薬は飲んだ?」
「・・・食べる気しないの」
「何言ってんの、ご飯食べないと治らないわよ。ちょっと待ってなさい」
- 136 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)19時21分14秒
- そう言って彼女は冷蔵庫の中から卵を出して、炊飯器に残ってたご飯でおかゆを作り出した。食事を滅多に作らない彼女は、鍋を持つ手さえ不器用だけど、出来あがりが自分の想像よりも上手く出来たらしく、ちょっと得意そうにおかゆを持ってきた。
「出来たわよ。さ、食べなさい!」
「相変らずだねー」
以前と変わらない圭ちゃんの姿に私は思わず笑ってしまった。
正直言って食欲はまるっきりないけれど、一生懸命作ってくれた物を食べない訳にもいかない。一口、二口とおかゆを口に入れた。
「・・・どう?」
「うん、美味しいよ」
卵しか入っていない、味のないおかゆがとても美味しかった。
圭ちゃんは、嬉しそうに私が食べる姿を見つめている。
熱が思ったよりもある私は、半分食べるのが精一杯だった。
彼女は私に薬を飲ませ、茶碗を洗い終り、一息ついた。
そこで微妙な間が出来た。その微かな沈黙を先に破ったのは圭ちゃんだった。
- 137 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)19時22分36秒
- 「・・・私達は元に戻れないのかな」
「・・・・・」
「離れてみて初めて石川の大切さに気付くなんて・・・私が馬鹿だった」
「・・・一度狂った歯車を元に戻す事は難しいよ」
「もう駄目だって事?」
「・・・・・うん・・・それに圭ちゃんは私と違ってレズじゃないもん。男の人と付き合って、幸せな結婚するのが一番じゃない」
「なんでそんな事言うのよ、アンタ・・・」
「今ならやり直しがきくから・・・私の事は忘れて」
私を直視する、圭ちゃんの強い視線から瞳をそらさない様に、私は答えた。
彼女の親を泣かせてまで、彼女の人生を狂わせてまでの価値は・・・私にはない。
「・・・私は、石川が傍にいてさえくれれば良いんだよ」
「・・・・・」
「いしかわぁ・・・」
圭ちゃんは今にも泣きそうな顔で私を見て言う。
・・・いつもの強気な圭ちゃんらしくないよ。
なんで私なんかをここまで・・・?
私は目頭が熱くなった。それが熱のせいでない事は確か。
- 138 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)19時24分36秒
- 「駄目」
私はハッキリと答えた。・・・すごく胸が痛い。締め付けられそうに苦しい。
圭ちゃんは表情を暗く落とし、一つ溜息をついた。
「か弱そうに見えても、石川はこうと決めた事を簡単に曲げる性格じゃないもんね。・・・今日のところは諦めるわ」
「・・・もう、ここに来ちゃ駄目だからね」
「なんでそんな事・・・本当は他に・・・いや、なんでもない・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
居心地の悪い沈黙が続いた。沈黙を先に破ったのは私でした。
「・・・ごめん、私疲れちゃった。もう寝るね」
「私、帰った方が良いね」
「・・・ごめんね。・・・おかゆ、ありがとう」
「・・・・・・」
- 139 名前:第五話 〜さよならと青い空〜 投稿日:2002年01月09日(水)19時26分30秒
- 圭ちゃんはドアの前で部屋を出るのを躊躇っているようでした。
だから、その背中を押すように、私が最後の言葉を掛けた。
「・・・圭ちゃん、さよなら」
「・・・・・・」
彼女は何も言わずに部屋を出た。
私は涙が止まらなかった。拭っても拭ってもとめどなく溢れてくる。
・・・これで良いの、これで良いんだよね。
圭ちゃんならすぐに彼氏も出来る。いつか私を忘れる日が来る。そしていつか幸せな家庭を作る事でしょう。
「これで良いの・・・」
私は自分に言い聞かせるように呟いた。
・
・
・
- 140 名前:501 投稿日:2002年01月09日(水)19時37分13秒
- 第五話分、更新しました。
前回書ききれなかった分の補足的なお話です。
時間があったら、後でもう一回更新したいと思っております。
>128さん
ありがとうございます。
駅で保をいつまでも待っている石は、忠犬ハチ公を思い浮かべて書きました。
>129さん
確かに、今回更新分では保が一番可哀想な気がします。
>夜叉さん
ファミレスのシーン、気付いて頂けて良かったです。
現実と回想シーンがごちゃ混ぜなので、分かり辛いかなと心配でした(^^;)ゞ
次々回の更新では、また展開が変わってくると思います。
どう絡んでいくか、期待してくださいませ。
- 141 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月09日(水)21時40分38秒
- 石川さん、なんでこんなに薄幸なヒロインが似合うんだ…
萌え尽きそう…
- 142 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月10日(木)00時51分02秒
- なんてせつないんだ…
続きめちゃめちゃ期待してます。
- 143 名前:夜叉 投稿日:2002年01月10日(木)18時48分05秒
- 石も吉と同じように悩んでいたんですね。
なんだかやっすには、もう一頑張りして欲しいっす。
当方、(自主規制)推しなのに(汗汗)。
作者様頑張ってください。
- 144 名前:第六話 〜残酷な告白〜 投稿日:2002年01月10日(木)23時06分50秒
- ・・・梨華ちゃん本当に大丈夫かな。
あともう少しで休憩に入るし、そしたら電話を掛けてみようかな。
アタシは、すぐに無茶をする彼女の体が心配で堪らなかった。
・・・ましてや朝のあの涙。「大丈夫」と言ってはいたけれど、きっと彼女なりのアタシに対する気遣いだと思う。
アタシは仕事もそっちのけで、梨華ちゃんの事ばかりが気になってしょうがない。
そんなアタシの態度がおかしい事に気付いた亜弥ちゃんが話しかけてきた。
「どうしたんですか?なんだか落ちつかない感じ」
「あ、ごめん。ちょっとボーっとしてた」
よっぽど落ちつかない態度だったのだろうか。
梨華ちゃんの事になると駄目だね、アタシ・・・。
怪訝そうな顔でアタシを見ている亜弥ちゃんとごっちんをよそに、アタシは棚のビデオ整理を始めた。
- 145 名前:第六話 〜残酷な告白〜 投稿日:2002年01月10日(木)23時08分21秒
- 「変なの。あ、・・・ひとみさん」
亜弥ちゃんは間を置いてアタシを呼んだ。名前で呼ばれたのでちょっとびっくりした。
亜弥ちゃんの隣りに立っていたごっちんは、アタシの名前を呼んで照れてしまった彼女を、肘で突っついてからかっている。
照れる亜弥ちゃんは確かに可愛いと思う。
・・・でも、何かが足りない。アタシの心が満たされない。
だけど、そんなアタシの気持ちはよそに二人は盛り上がっている。
「・・・何?」
アタシはかなり間を置いて返事をした。
亜弥ちゃんはまだ照れたように、下を俯きながら話をした。
「・・あ、あの、旅行の話なんですけど」
「よっすぃ〜にも昨日話したじゃん、ごとー達4人で温泉に行こうって。亜弥ちゃんに話したらOKだって言うからさー。こういう事は早めに決めといた方が良いしね」
「・・・うん」
- 146 名前:第六話 〜残酷な告白〜 投稿日:2002年01月10日(木)23時09分51秒
- ・・・行きたくない。
どう考えたってごっちんと市井さん、アタシと亜弥ちゃんの部屋割りになるはず。
アタシは、抱いてしまえば恋愛感情じゃないにしろ、情がわくと思って亜弥ちゃんを誘った。
結局は、梨華ちゃんを諦めるつもりで彼女を利用しただけ。
亜弥ちゃんを抱けなかったのは、アタシの性格的なものだと自分で理解している。それが出来れば、こんなにも悩まない。何も考えずに亜弥ちゃんと付き合えたろう。
言わなくちゃ・・・もう亜弥ちゃんとは付き合えない。旅行にも行きたくないと―――。
「よっすぃーはどこに行きたい?」
「・・・みんなに任せるよ」
・・・アタシは臆病者だ。
- 147 名前:第六話 〜残酷な告白〜 投稿日:2002年01月10日(木)23時11分54秒
- 正午を過ぎ、休憩時間に入ったアタシは、コンビニへ弁当を買いに行くと言って店を出た。
どうしても梨華ちゃんの事が気になる。
コンビニの脇にある公衆電話の受話器を取り、気付かぬうちに覚えてしまった電話番号をプッシュする。
『はい、石川です』
「あ、体の方は大丈夫?」
思わずアタシは名前も名乗らずに、気にかけていた事を聞いてしまった。
『私の事ですらそんなに心配してくれるんだから、彼でも出来たら大変なんだろうね、ひとみちゃんは。風邪はもう治ったよ、心配いらないよー』
受話器越しの梨華ちゃんは、そう言いながら笑っている。
「・・そう?なら良いんだけど・・・。あ、今日バイトが終わったら梨華ちゃんち行ってご飯の支度するからさ、今日一日は大人しくしときなよ」
『そう言うと思った。もうご飯の支度はしてあるから、何も買ってこなくていいからね。昨日のお礼にご馳走するね。大した物は作ってないけど』
「何だよ〜、大人しくしてなさいって言ったじゃない。全くしょうがないなぁ」
- 148 名前:第六話 〜残酷な告白〜 投稿日:2002年01月10日(木)23時13分31秒
- 自分の行動が読まれてる事にちょっと恥ずかしくなって、照れ隠しにそう言った。
でも、そんな些細な事がすごく嬉しいんだけどね。
『ごめ〜ん、でもホントにもう大丈夫なんだよ』
梨華ちゃんは楽しそうに笑って話していた。
「それじゃあとで」と電話を切ったアタシは、何気なくコンビニのガラス窓に映っている自分の顔を見た。
近所の大学生が大勢たむろっている、そのコンビニのガラス窓に映っているアタシは、相当にやけている。
アタシは恥かしくて、そのままその場を走り去った。
コンビニで買い物を済まそうと思ってたけれど、あそこに入るのはちょっと恥かしいから、商店街のはずれにある総菜屋まで走った。
味がよくてリーズナブルなこの店は、銀行員や会社員でいつも溢れている。
休憩時間が正味三十分しかないから、早めに買って帰らないと、食べる時間がなくなってしまう。
・・・って、あ〜あ、今日もやっぱり混んでるなぁ。
アタシはサラリーマンのおっちゃんの波をかきわけて、どうにかおにぎりと卵焼きをゲットした。
- 149 名前:第六話 〜残酷な告白〜 投稿日:2002年01月10日(木)23時15分03秒
- 買い物を済ませて店へ戻ると、亜弥ちゃんが嬉しそうに話しかけてきた。
「後藤さんと伊豆に行こうって話になったんだけど、どうですか?」
「・・・うん、良いんじゃない」
「じゃ、話進めちゃいますね。楽しみだなー」
「・・・・・」
・・・なんでアタシは断らないんだ。
このままじゃいけない。このままじゃ亜弥ちゃんにだって申し訳ない。でも、本当の事は言えない。・・・どうしたらいいんだ。
アタシは自分の臆病さにつくづく呆れた。
嬉しそうな亜弥ちゃんの姿を見て胸が痛んだ。
冷たい態度をとれば、彼女はアタシを嫌ってくれるだろうか?
アタシは、彼女にした事があまりにも軽率だったと、改めて悔んだ。
そんな事を考えながら、もはや憂鬱でしかないバイトの時間を過ごしていった。
- 150 名前:第六話 〜残酷な告白〜 投稿日:2002年01月10日(木)23時16分48秒
「そろそろ来る頃かなって思ってたよ」
梨華ちゃんはドアを開けるなり、笑いながらアタシに言う。
やっぱり梨華ちゃんの笑顔はホッとする。それまで悩んでいた事も忘れてしまえる。
現実から逃げてはいけないけれど、今だけは忘れていたい。
せめて彼女の前でだけは。
アタシがお邪魔しまーす、と部屋に入ると、テーブルの上にはすでに食事が用意されてあった。
「まだ調子だって戻ってないでしょ。無理しちゃ駄目じゃない」
「暇だったんだもん」
「梨華ちゃんってのんびりする事が出来ないんだねぇ」
「ま、もって生まれた性分だしね。でも、ひとみちゃんには言われたくないけどなー」
「えー、なんで?」
「歌ったり叫んだりして、落ち着きないじゃない」
「なんだとー」
梨華ちゃんは笑いながらそう言うと、冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注いだ。
それをアタシに渡しながら、ちょっと照れたように話し始めた。
- 151 名前:第六話 〜残酷な告白〜 投稿日:2002年01月10日(木)23時19分02秒
- 「昨日はありがとね。・・・恥ずかしい所を見せちゃったけど忘れて」
「うーん、梨華ちゃんが「そばにいて〜」って甘えてきたの初めてだしなー。忘れたくないって言うか、忘れられないなー」
「そんな言い方してないでしょー、ひとみちゃんってば。・・・なんて言うか、人間具合が悪くなると心細くなるでしょ。だからぁ、ひとみちゃんが来てくれて嬉しかったの。ホントにありがとう。・・・この話はもう終わり!」
アタシがニヤニヤしながら彼女を見ていると、照れたように話を止めた。
顔だけじゃなく、こういうところもすごく可愛いと思う。
普段は年上ぶって落ちついているだけに、うろたえた感じの梨華ちゃんを見るのがちょっと楽しかった。
そして、アタシ達は他愛もない会話をして時間を過ごした。
ふと時計を見たら、もう11時。泊っていったら?と彼女が言ってくれる。
梨華ちゃんとずっと一緒にいたかったけど、昨日もアパートを空けていたし、まだ病み上がりの彼女に気を使わせるのもマズイと思い、さすがに帰る事にした。
- 152 名前:第六話 〜残酷な告白〜 投稿日:2002年01月10日(木)23時21分22秒
- アタシの住んでいるアパートは商店街と住宅街の奥まったところなので、都内とはいえ、人通りは全くと言っていいほどない。
ふと空を見上げると星が見える。東京でも星が見えるんだなと、変な感心をした。
・・・いつか、梨華ちゃんと星を見にいけたらいいな。
彼女と過ごした、何気ない楽しい時間の余韻を楽しむように、アパートまでの道程をのんびり歩いた。
アパートに着き、鍵をポケットから取り出しながら自分の部屋の前まで行くと、そこには亜弥ちゃんがいた。
「なんで・・・」
アタシは“何でここにいるんだ?”という言葉を飲みこんだ。
「吉澤さんの様子がおかしいなって思ったから、ちょっと心配で寄ってみたんです」
「・・・バイトが終わってからずっと?確か亜弥ちゃんは9時まで・・・2時間以上待ってたの?」
「少しだけ待ってみて帰ろうって思ってたんですけど。もうちょっともうちょっとって待ってて、気付いたらこんな時間になっちゃってた」
- 153 名前:第六話 〜残酷な告白〜 投稿日:2002年01月10日(木)23時24分54秒
- エヘへ、なんて笑いながら、ちょっと下に俯く亜弥ちゃん。
普段なら、そんな仕草も可愛いなと思うのに、
「もう遅いから帰った方がいいよ。家まで送ってあげるから」
梨華ちゃんと過ごした時間の余韻を、かき消された気分のアタシは、つい、冷たく言ってしまった。
そんなアタシの態度を訝しく感じたのか、亜弥ちゃんは表情を暗く落とした。
「・・・何か私悪い事したのかな。・・・最近吉澤さん、笑ってる事が少ないし。・・・もし、私が気に障るような事をしたんだったら言ってください。謝りますから」
アタシはハッとした。また、彼女を傷つけている。
―――これじゃいけない。
「・・・ごめん、亜弥ちゃんが悪い訳じゃないよ。全部アタシが悪いんだ。・・・・・・・アタシ・・・本当は・・・好きな人がいるんだ」
もう限界だった。
自分の気持ちを誤魔化したまま、亜弥ちゃんを騙し続けるのは、自分自身も辛すぎた。
・・・・・長い沈黙が続く。
アタシはこの場から逃げ出したい気持ちで一杯だった。
- 154 名前:第六話 〜残酷な告白〜 投稿日:2002年01月10日(木)23時28分46秒
- 「・・・なんで」
永遠とも感じられる、数分の長い長い沈黙を破って、亜弥ちゃんがようやく口を開いた。
「私の事が嫌なら嫌って言ってください。何でそんな嘘つくんですか!?」
「嘘じゃないよ」
「お願いです、私のどこが嫌なのか教えて・・・ちゃんと直すから!」
「・・亜弥ちゃんの事は嫌いじゃない。嫌いじゃないから付き合おうって言ったんだ。・・・でも、やっぱりアタシ、その人の事が諦められないんだ」
「っ・・・私だって、ずっと、吉澤さんの事を見てきて・・・ずっと好きだったんです」
「アタシ・・・最低な事をしたと思ってる。結局、亜弥ちゃんを利用しただけだった。その人を忘れる為に亜弥ちゃんを利用したんだ。謝って許してもらえるなんて思ってない。でも、本当に・・ごめん・・」
「・・・謝らないでよ!・・このまま利用してくれれば良いじゃないですか!このまま利用してくれれば・・・」
亜弥ちゃんは涙をこぼしながら呟くように言った。
アタシは何も言えなかった。亜弥ちゃんの涙が痛い。
- 155 名前:第六話 〜残酷な告白〜 投稿日:2002年01月10日(木)23時31分53秒
- 「・・・私、帰ります」
「・・・送っていくよ」
「いいです、一人で帰れます」
亜弥ちゃんは涙を拭いながら、そう言って走り去った。
・・・とうとう言ってしまった。
でも、仕方無いと思う。このまま誤魔化し続ける事は、アタシにはもう出来なかった。
彼女に話した事は後悔してない。むしろ心につかえていた物が取れてスッキリした。
・・・けれど、アタシが彼女にした事は、謝って許される事じゃない。
自分の事しか考えていなかったアタシの身勝手さが、亜弥ちゃんを傷付けた。
アタシは、改めて自分のした事の残酷さに、後悔を覚えた夜だった。
- 156 名前:501 投稿日:2002年01月10日(木)23時48分03秒
- 第六話、途中まで更新しました。
ついにと言うか、なんと言うか。
気持ちシュラバラバンバってな訳で(意味不明)
>141さん
ホントに。石は不幸キャラが似合いすぎですね。
書いてて何回萌だえ死んだか(笑)
>142さん
ありがとうございます。
色んな人が傷ついてて救ってやりたいんですが、まだまだ・・・(^^;)ゞ
>夜叉さん
保はまだこれからも登場してくれます。
どういう展開に転ぶかは、作者も分かっておりません(w)
- 157 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月11日(金)06時26分37秒
- ほろ苦いね・・・
- 158 名前:夜叉 投稿日:2002年01月11日(金)20時24分36秒
- ついに、あややに自分の気持ちを告げたんですね。
でも、これからが大変そうで…(汗汗。
>気持ちシュラバラバンバってな訳で(意味不明)
なんか懐かしい響き(笑)、それって、サ(略。
続き楽しみに待ってます。
- 159 名前:第六話 〜彼女の挑戦状〜 投稿日:2002年01月12日(土)04時40分11秒
- 「・・・おはよう」
「おそいよ、よっすぃ〜。早く店開ける支度しないとお客来ちゃうよー」
アタシが店内に入ると、早々と開店準備をしているごっちんが話してきた。
今日は幸いにも亜弥ちゃんは休みだった。
さすがに昨夜の今日では顔も会わせ辛い。
アタシはタイムカードを押して、店内の掃除にかかった。
「・・・ねぇ、ごっちん」
「ん〜なに?」
ごっちんは貸出管理システムを立ち上げながら、業務日誌を書いている。
「あのね・・・・・」
「うん?」
「あの、・・・アタシ・・・・」
「はっきり言いなよ、よっすぃ〜らしくないよ」
アタシが言いよどんでるのがじれったいのか、ごっちんは少し怒ったように言う。
「・・・あのね・・・亜弥ちゃんと別れたんだ」
「最初っからはっきり言えば良いん・・・ええっ!?」
ごっちんは驚いた顔で、日誌を書いてた手を止めてアタシを見た。
驚くのも無理ないよね。昨日は旅行へ行こうと話していたばかりだったし。
- 160 名前:第六話 〜彼女の挑戦状〜 投稿日:2002年01月12日(土)04時42分24秒
- 「ごっちんに隠しとく訳にはいかないから話すけど、・・・アタシ、好きな人がいたんだ。ずっと片想いで、その人に好きな人がいるって事を知った時に、諦めるつもりで、亜弥ちゃんと付き合おうとしたんだ。・・・だけど、やっぱりその人の事諦めきれなくて・・・アタシ」
「まだ付き合って何日も経ってないじゃん。亜弥ちゃん、よっすぃ〜と付き合えるって大喜びしてたんだよ」
「・・・彼女には本当に悪い事をしたと思ってるよ。でも、駄目なんだよ、アタシ」
アタシが俯いて話をすると、ごっちんはしょうがないなといった顔でアタシに言った。
「よっすぃ〜の事を責めはしないよ。確かに亜弥ちゃんは可哀想だと思うけど、人の気持ちだけはしょうがないしね。よっすぃ〜も相当悩んだんだろうし。それに、結局は女同士だからねぇ。・・・じゃあ、旅行の件は今回は無しだね」
―――女同士。
ごっちんのさり気無い一言が、胸に突き刺さって痛い。
- 161 名前:第六話 〜彼女の挑戦状〜 投稿日:2002年01月12日(土)04時44分41秒
- 「・・・ごめんね。市井さんにも謝っといて」
「別にそんなの構わないよ。・・・それより、諦めきれない人って誰?亜弥ちゃんを傷つけてまでの相手なら、相当イイ人なんでしょ?格好良い人?」
ごっちんは井戸端会議好きなおばさんのように、矢継ぎ早に聞いてきた。
「そうだなぁ・・・。綺麗で優しくて、甘える事が出来ない意地っ張りで、すごく魅力的な人だよ。・・・でも、一生アタシのものになってくれるような人じゃないんだ」
「それって、付き合える可能性がないって事?それなのに好きなの?」
「・・・うん」
「これは重症だねぇ。・・・でも、好きなもんはしょうがないよねっ。ごとーはよっすぃ〜の良き理解者だからさ、応援してあげるから頑張ってみたら?」
ごっちんは、ニッと笑ってそう言ってくれた。
「ありがとう」
アタシはまだごっちんに嘘をついている。それが心苦しかった。
でも、ごっちんなら・・・本当の事を言っても友達でいてくれるだろうか。
「ごっちん、アタシね・・・、アタシ・・・」
アタシは誰かに心の内を曝け出したかった。
・・・楽になりたい。
- 162 名前:第六話 〜彼女の挑戦状〜 投稿日:2002年01月12日(土)04時48分28秒
- 「ちょっと!店まだ開いてないの!?」
話してしまおうかと迷っていたその時、開店を待つお客の声で、わずかな勇気をかき消されてしまった。
「あ、はいどうぞ。いらっしゃいませ」
アタシは慌ててカウンターへ戻り、返却されたビデオを片付ける。
お客が帰り、一息ついた所でごっちんが先ほどの話を蒸し返してきた。
「よっすぃ〜、さっき何言おうとしたの?」
「・・・いや、大した話じゃないんだ」
「ならいいんだけど。とにかく、亜弥ちゃんには謝るだけ謝ったら、それ以上は気にしないほうが良いよ。無理矢理付き合ったって、亜弥ちゃんの為にもよっすぃ〜の為にもなんないしね。ごとーも亜弥ちゃんに会ったらフォローいれといてあげるよ」
「ごめん、ありがとう・・・面倒かけるね」
「ほーんと。出来の悪い友達を持つと苦労するねぇ」
そう言ってごっちんは笑いながら、貯まっている中古ビデオの整理に取り掛かった。
アタシは友達に恵まれていると思う。
・・・だからこそ、打ち明けるのはやめよう。
すべてを話す事が、真実を知る事が良い事だとは限らない。
アタシはごっちんの友情に感謝しつつ、目の前の仕事をし始めた。
- 163 名前:第六話 〜彼女の挑戦状〜 投稿日:2002年01月12日(土)04時51分31秒
―――――亜弥ちゃんとの事があってから3ヶ月とちょっとが過ぎた。
彼女は、知らない間にバイトのシフトを変更していて、あれから一度も顔を合わせていない。
それはアタシにとって都合のいい事ではあったけれど。
でも、寂しさと後悔の念はいまだ残っていた。
・・・だけど、気が楽になったのも紛れもない事実。
アタシがいい加減な事さえしなければ、彼女はとても良いバイト仲間だった。
その関係を壊したのは誰でもない、自分。
結局は自分勝手なアタシの行動が、ただ、無意味に亜弥ちゃんを傷つけただけ。
だけど。
梨華ちゃんとは相変らずのように暇が合えば会っていた。
アタシだけ、好きな人と楽しく過ごしているなんて、なんて罪深い事だろう。
亜弥ちゃんに対して自責の念に囚われても、それでも、梨華ちゃんから離れる事は出来なかった。
- 164 名前:第六話 〜彼女の挑戦状〜 投稿日:2002年01月12日(土)04時54分03秒
- 梨華ちゃんも前の恋人との事で随分苦しんでいたようだけど、今は落ちついたみたい。
今日は彼女給料日だから、たまには外で食事をしないかと誘われて、いつも行くファミレスにやって来た。
「ひとみちゃん、遅いぞ!」
「ごめんごめん、次のシフトの子が遅刻しちゃってさー」
アタシはそう言うと、彼女の席の前に座った。
梨華ちゃんは先に来ていて、紅茶を半分ほど飲み終えた所だった。
注文したアイスティーが来たところで、とりあえず「お疲れ」と互いを労う。
「はー、やっぱり仕事あがりの一杯は美味いねー」
「フフッ、ひとみちゃんってば、何だか新橋の酔っ払いのおじさんみたい」
彼女は笑いながら、アタシをからかうように言う。
本当は梨華ちゃんと一緒なら、どんな物を食べても飲んでも美味しく感じるんだけど、それを言うのも恥かしい。
- 165 名前:第六話 〜彼女の挑戦状〜 投稿日:2002年01月12日(土)04時55分47秒
- 「てやんでー、ばっかやろ〜」
と、酔っ払ったおじさんの真似をした。
梨華ちゃんはそんなアタシを見て、思いっきり笑った。
二人で笑いあう。
そんな些細な事が、すごく幸せだった。
神様、多くを望みはしません。
この幸せを、後もう少しだけ、アタシに夢を見させてください。
そんな都合のいい、勝手なお願いをしたからであろうか。
思わぬ人物から声を掛けられた。
「あー、吉澤さんじゃないですかぁ。お久し振りです」
「・・・あ、久し振り」
声を掛けてきたのは・・・亜弥ちゃんだった。
彼女が以前と変わらない態度でアタシに接してきたので、彼女に対しての罪悪感が少しだけ薄れた。
彼女はアタシを許してくれたのだろうか?
- 166 名前:第六話 〜彼女の挑戦状〜 投稿日:2002年01月12日(土)04時56分59秒
- 「あ、吉澤さんのお友達ですか?」
「あ、こんばんは。石川です」
「松浦亜弥です。吉澤さんと同じビデオ屋でバイトしてます。あの・・・お二人だけですか?」
「あ、うん、そうだよ」
「私も友達と二人なんですよ。もし良かったら一緒にどうかなぁって」
亜弥ちゃんはそう言って、後ろで手持ち無沙汰に立っていた女の子を手招きした。
アタシが何も答える事が出来ずに困ったような顔でいると、梨華ちゃんはちょっとだけ怪訝そうな顔をしたが、すぐに笑顔を作って、
「うん、いいよ。いっしょに食べよ」
亜弥ちゃん達に答えた。
・・・亜弥ちゃんは何とも思っていないのだろうか。
アタシは彼女の行動が理解できなかった。
- 167 名前:第六話 〜彼女の挑戦状〜 投稿日:2002年01月12日(土)04時58分37秒
- 「石川さんと吉澤さんって学校のお友達なんですか?」
「ううん、違うよ。偶然知り合ったんだよ、ね」
そう言って梨華ちゃんはアタシに話を振ってきた。
「え、あ、うん、梨華ちゃんの本屋でたまたま知り合ったんだ」
「へー、本屋でバイトしてるんですかー」
「うん、そこの駅ビルの中の本屋なの」
アタシ達の姿は傍から見たら、仲良し4人組ぐらいにしか見えないんだろうなぁと、ぼうっと考えていたら、梨華ちゃんと亜弥ちゃんの友達がトイレに行ってしまい、席に亜弥ちゃんと二人きりになってしまった。
何を話せばいいのか、戸惑っているアタシを見透かしたかのように、亜弥ちゃんはフッと笑って言う。
- 168 名前:第六話 〜彼女の挑戦状〜 投稿日:2002年01月12日(土)05時00分29秒
- 「あんまり構えないで下さいよ」
「・・・あ、ごめん」
「今日、迷惑でしたか?」
「そんな事ないよ」
「・・・吉澤さんって、いつもそうなんですね」
「え?」
「いつも言いたい事を飲み込んでる。迷惑なら迷惑だって言えばいいのに。・・・石川さんと二人で話してた時は楽しそうだったのに、私が来た途端顔色が変わったし」
「・・・・・」
アタシは何も言えなかった。
彼女が言っている事は事実だったから。
「図星って顔。・・・でも、諦めないですから、私」
そう言うと彼女は店を出ていってしまった。
梨華ちゃんより一足早く出てきた亜弥ちゃんの友達が、慌てて彼女を追いかけて行った。それから一拍間をおいて、梨華ちゃんが戻ってきた。
- 169 名前:第六話 〜彼女の挑戦状〜 投稿日:2002年01月12日(土)05時02分18秒
- 「お待たせ〜って、あれっ、彼女達は?」
「・・・急用が出来たから帰るって」
「そうなんだ〜。・・・じゃ、私のアパートでたまにはビールでも飲もうか?」
「え?」
「パーっとやろう、パーっと!」
梨華ちゃんはオーバーリアクションでアタシにそう言った。
きっとアタシが元気をなくしていたから、励ますつもりでそう言ってくれたんだと思う。
梨華ちゃんは、いつも余計な事は聞いてこないし、言ってもこない。
だけど、人の心を敏感に察してくれる。
そんな彼女の心遣いが嬉しかったけれど、亜弥ちゃんの「諦めない」と言う言葉がいつまでもアタシの脳裏に焼き付いていた。
- 170 名前:501 投稿日:2002年01月12日(土)05時19分32秒
- 第六話、全て更新しました。
…しかししつこいくらい、いしよしが悩んでいる話ですね(苦笑)
こういう話を書いていると、やはり書きたくなるのがアマ〜イお話。
ラスト後に番外編で何か書けたらと思ってますが…今は無事最終話まで書き終わらせなければ…(^^;)ゞ
>157さん
恋に苦しんでいる主軸四人をみんな甘々にしてやりたいんですけどねぇ。
これが中々…(苦笑)
>夜叉さん
ええ、ついに言っちゃいました。
が、今度はあややが・・・(汗)
シュラバラバンバ、お分かり頂いて嬉しいです(^^)
全く余談ですが、お話を書いている最中、何故かこの歌が頭の中をグルグル回ってたんです(笑)
- 171 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月12日(土)17時37分06秒
- (;0´〜`;)<諦めてください…
- 172 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時21分08秒
- ・・・ひとみちゃん、最近元気ないけど何かあったのかな。
悩み事があるなら話してくれればいいのに。
私は入荷されたばかりの本を陳列しながら、ひとみちゃんの事を考えていた。
彼女はいつでも人の事ばかり心配していて、自分の事を話そうとしない。
私自身も自分の悩みとか弱みを人に話す事は嫌いだし、今でも苦手だけど、彼女にだけは少しだけ甘えられるようになったと思う。
彼女は「梨華ちゃんはいつでも無理をするからなー」と言うけれど、私から言わせてもらえば、彼女の方が我慢ばかりしていると思うんだけど・・・。
悩みを打ち明けるだけの付き合いを、私とは出来ないのかなと、ネガティブ思考に陥ってしまいそう。
そう思うと、正直言って寂しいものがある。
「はぁ・・・」
「あら、意味ありげに溜息なんかついちゃって」
私にそう声を掛けてきたのはパートのおばさん。
彼女の言葉を理解しきれていない私に、更に続けて話しかけてきた。
- 173 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時22分35秒
- 「ふふ、若いって良いわよね」
「え?なんの事ですか?」
「恋の悩みなら、人生経験豊富なおばちゃんがいつでも相談に乗ってあげるからね!」
「えー、そんなんじゃないですよぉ」
「やーねー、照れなくても良いわよ」
私の反論にも笑いながら、彼女はレジへ行ってしまった。
・・・恋?
そんな訳ないじゃない。
だいたい圭ちゃんの事をふっきって何ヶ月も経ってないのに、すぐに他の人をなんて。
それにひとみちゃんは私にとって大事な友達。それ以下でもそれ以上でもないよ・・・きっと。
例え、もし私がひとみちゃんを好きになったとしても、それを打ち明ける事なんて出来る訳ないじゃない。
・・・そう、好きになったとしても。
- 174 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時23分57秒
- 「頑張ってるねぇ〜」
「きゃっ!な、なんだ、ひとみちゃんか、ビックリさせないでよー」
彼女の事を考えていた時に本人がやってきたので、私は動揺してしまった。
「な、なんだよ〜。アタシの方がビックリしたよ」
「今日はどうしたの?バイトじゃないの?」
「ん、今日は夕方からなんだー。バイト探そうと思って求人誌を買いに来たんだ」
「突然どうしたの?ビデオ屋もバイト代が上がるって言ってたじゃない」
「・・・まぁ、色々と、ね」
「・・・・・」
「あ、やっばー、店長睨んでるよ。じゃ、アタシ行くね。バイト頑張って!」
ひとみちゃんはそう言うと、求人誌を片手に店を出ようとした。
「ひとみちゃん!」
「ん?なに?」
そういって振り向いた彼女の顔は、とても穏やかで優しくて、私はドキッとしてしまった。
「あ、いや・・・またね」
「じゃーねっ」
そう言って、ひとみちゃんは軽く手をあげて帰っていった。
・・・も〜、横田さんが変なこと言うから、必要以上に意識しちゃうじゃない。
私はドキドキ鼓動が高鳴る心を落ちつかせようと、目の前の仕事に取り掛かった。
それでも、ひとみちゃんの顔がちらついて仕方なかった。
- 175 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時25分39秒
- 正午になり、店長から休憩に入っていいよと言われ、近くのファーストフードに行こうと店を出ようとした時、ひとみちゃんのバイト仲間の女の子に声を掛けられた。
「こんにちわ」
「あ、どうも。ええと・・・」
「亜弥です、松浦亜弥」
「そうそう、松浦さんだ。ごめんね、私、人の名前覚えるの苦手で」
「そんなのいいですよー。こっちこそ、この間いきなり帰って悪い事しちゃったなぁって思ってたんです」
「そんなの気にしなくていいよ。急用が出来たんじゃしょうがないもんね」
「・・・吉澤さん、そう言ったんですか?」
「え、急用じゃなかったの?」
「あの・・・お時間取らせませんから、ちょっとお話聞いてもいいですか?」
一度しか会った事のない私に何を聞きたいのだろうかとも思ったが、彼女があまりにも真剣な顔で言ってきたので、私は首を縦に振らざるを得なかった。
- 176 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時29分19秒
- 「ところで、聞きたいことってなぁに?・・・まぁ、松浦さんと私は一回しか会ったことないんだから、ひとみちゃんの事だとは思うんだけど」
私達は駅構内の喫茶店にいた。
忙しいサラリーマン達が、入れ替わり立ち代わり出入りする落ちつかない場所だけど、反対にそういう所の方が話しやすい気がする。
「・・・そうなんです。あのっ、石川さんは吉澤さんの親友なんですよね?」
「まぁ、私はそう思ってるけど、それが?」
「単刀直入に聞きますけど、あの・・・吉澤さんの好きな人って誰なんですか?」
「え・・・ひとみちゃんの好きな人・・・?」
「・・・あの、私・・・私のお兄ちゃんが、吉澤さんに付き合ってって言われたんです。・・・私のお兄ちゃんは、前から吉澤さんの事が好きだったから、すぐにOKしたんだけど。・・・だけど、何日も経たないうちに好きな人がいるから付き合えないって言われて。・・・私、・・私のお兄ちゃん、まだ吉澤さんの事が好きなんです」
- 177 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時31分10秒
- ・・・ひとみちゃんの好きな人?
思えば、友達同士なら語り合うはずの恋愛話なんて、私達は無いに等しかったかも。
私自身が人に話せるような恋じゃなかった。だから私は自分から話そうとはしなかったけれど・・・。
思い返してみても、ひとみちゃんは一度として私に話してくれたことが無い。
・・・胸がチクリと痛かった。
「・・・あの、どんな人か知ってますか?」
考え込んでいた私の顔を覗きこんで、彼女がもう一度質問してきた。
「・・・聞いてどうするの?その人の所へ行って、『私のお兄ちゃんはひとみちゃんが好きだから諦めて』って言うの?」
「そんなこと・・・」
「彼女の好きな人を知った所で、何が変わる訳じゃないでしょ?それに・・・私、ひとみちゃんの好きな人知らないんだ。松浦さんのお兄さんと付き合ってたって事すら聞いてなかった・・・」
「・・・」
- 178 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時32分41秒
- 彼女は黙って俯いてしまった。私は続けて話す。
「それに・・・信じられない。ひとみちゃんがそんないい加減な事をする人だとは思えないよ」
「私が嘘ついてるって言うんですか?」
「そうとは言わないけど・・・、ほぼ毎日のように私と遊んでたし」
ふと時計を見ると、休憩時間も残り五分になってしまった。
「悪いけど、休憩時間ももう終わりなの。私戻らないと・・・」
「あ・・・ごめんなさい。休み時間を潰しちゃって」
「ううん、いいのよ。力になれなくてごめんね」
私はそう言って、支払いを済ませて店を出た。
彼女が嘘をついているようにも思えませんでした。
だけど、それなら何故ひとみちゃんは、私に話してくれなかったんだろう。
・・・考えても答えはでない。
・・・ひとみちゃんの好きな人、か。
この切なさの意味が、まだ私は気付きませんでした。
- 179 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時34分27秒
夕刻になると、もう辺りは真っ暗になって、私の住んでいるアパートの入り口先にも、ささやかな外灯が灯りだす。
私はそのか細い光を頼りに、カバンの中から家の鍵を探し出す。
A型の割に大雑把な性格の私は、ぐちゃぐちゃなカバンの中から鍵を探し出すのに、いつも一苦労。
ようやく探し出した鍵で、あまり頑丈とはいえない玄関のドアを開けた。
そして、いつもお決まりの一言。
「あー、今日も疲れたぁ。・・・あ、お風呂沸かさなきゃ」
一人暮らしを始めてからというもの、私は独り言が多くなった。
こうやって一人でいるときは良いんだけど、仕事をやってても、ひとみちゃんと一緒にいるときでも、ついつい、言っちゃってる時多いんだよねぇ。
ハッと気付いた時が一番恥かしいんだけど・・・。
そんな事をまたぶつくさ言いながら、風呂のボイラーを点けようとした。
- 180 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時36分04秒
- 「・・・あれ?おかしいなぁ」
カチカチッと何度スイッチを回しても点火されない。
ボイラーの中を覗いて見た所で、私にはどこがどう悪いのか分からないし、自分では直しようも無い。
急いでガス屋に連絡を入れたけど、営業時間が過ぎてしまったので、今日は行けないと言われてしまった。
明日朝一番で来てもらうように頼んで、今日は仕方ないので銭湯に行く事にした。
銭湯は思ったよりも客が少なかった。
私は正直言ってホッとした。どうも人前で裸になるのが気恥ずかしいんです。
圭ちゃんと恋愛関係になった事で、同性の目さえも敏感に気にするようになってしまった私は、銭湯に来る事はほとんどありませんでした。
それが私の自意識過剰だと言う事も分かっているんだけど・・・。
- 181 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時37分57秒
- 湯船につかりながら、私はなんとなしにひとみちゃんの事を思い出していた。
・・・ひとみちゃんの好きな人って誰なんだろう。
きっとひとみちゃんとお似合いの、格好良い人なんだろうな。
・・・寂しい気持ちになるのは何故なんだろう。
考えても答えは見つからない。
・・・いいえ、もしかしたら、あえてその答えを探さなかったのかもしれない。
私はのぼせそうになり、湯船から出ようとした。
ちょうどその時、聞き慣れた声が私に掛けられた。
「あれ・・・梨華ちゃん?」
「ひ、ひとみちゃん?」
私は少しだけビックリした。
だけど、ここはひとみちゃんのアパートからも近い銭湯。彼女がやって来てもおかしくないんだよね。
彼女はちょっとビックリしたような、何ともいえない顔をしていた。
- 182 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時39分21秒
- 「どうしたの?梨華ちゃんの所はお風呂あるよね」
「あ、ガス釜が壊れちゃったらしくて、直してもらうの明日なの。お風呂入らないと気持ち悪いから銭湯に来たんだ」
「そっか。仕方ないよね、梨華ちゃんちもかなり古いもんねぇ」
「ひとみちゃんのアパートよりはマシだよー」
私はそう言って笑ってみせた。
そう軽口を叩いてなければ、ひとみちゃんの顔をまともに見れないような気がしたから。
ひとみちゃんは「なんだとー」と笑いながら、洗い場に向かった。
私はひとみちゃんと会った事で更にのぼせそうになってしまい、慌ててお風呂から出ました。
私が扇風機の前で涼んでいると、ひとみちゃんも早々に風呂から出てきた。
「あれ、随分早くない?」
「アタシ、湯船にゆっくりつかるの苦手なんだよね」
風呂から出てきたばかりのせいでしょう。
ひとみちゃんは顔を赤くしながら答えた。
- 183 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時40分47秒
- 「あ、飲む?」
私は飲みかけの、銭湯には定番のコーヒー牛乳を彼女に差し出した。
ひとみちゃんはサンキュと受け取ると、ゴクゴクッとコーヒー牛乳を飲み干した。
彼女の白い喉元が動き、私は思わずジッと見つめてしまった。
・・・ひとみちゃんの肌って、白くて透明感があって綺麗だなぁ。その肌に触れられたら私・・・。
そんな事を考えているとも気付かないひとみちゃんは、私を見て、すまなそうに言う。
「あ、ごめん。・・・全部飲んじゃった」
「いいよ。どうせ飲み切れないもの」
「そっか、ごちそうさまでした」
「うん・・・それじゃ、またね」
私は、なんとなく意識してしまう彼女を避けるように、そそくさと帰ろうとした。
「ちょっと待ってよ〜。用事がなければ家に寄ってかない?」
「え・・・?」
「あ、用がなければ、だよ」
ひとみちゃんは気遣うように恐る恐る言う。
断る理由も見つからない私は、結局、首を縦に振った。
- 184 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時42分34秒
- 銭湯を出ると、外はもう真冬の寒さ。風呂あがりで火照った体も、すぐに冷えてしまいそう。
「今日も寒いね」なんて、他愛も意味もない会話をしながら、ひとみちゃんのアパートまで歩いた。
彼女のアパートの前まで来て、何にもないなだらかな平面の道で、私は躓きかけた。
ひとみちゃんは咄嗟に私を支えようとしてくれたけど、勢いがついていた私の体を支え切る事が出来ずに、そのまま一緒に倒れこんでしまった。
結果的に、彼女が私の上に覆い被さる事になってしまい、至近距離まで近付いていたひとみちゃんの顔を見て、私は心拍数が一気に上がってしまった。
「あ、ご、ごめん!だ、大丈夫?」
慌てたようにひとみちゃんが起き上がると、そう言って私に右手を差し出した。
・・・私が意識し過ぎているせいなのでしょうか?
私の右手と左肩を掴み、ゆっくりと、まるで壊れ物を扱うような、柔らかいその仕草。
その一つ一つの仕草がすごく優しげに感じて、私の鼓動はもっともっと早くなる。
心臓の音が彼女に聞こえるんじゃないかと心配になるくらいドキドキしました。
- 185 名前:第七話 〜気付いても・・・〜 投稿日:2002年01月12日(土)21時44分42秒
- 「ごめんごめん。私何やってんだろうね。何もない所でコケるなんて恥ずかしいな」
と、照れてしまった自分を誤魔化すように答えた。
―――いけない。駄目。
―――ひとみちゃんは大切な友達なの。
―――もうこれ以上傷付くのは嫌なの。
頭の中でそんな言葉がグルグル回る。必死で自分の気持ちに抵抗する。
だけど、認めようとしないその真実に、いつまでも気付かない振りは出来なかった。
私は、ひとみちゃんの事が・・・。
タタタッと闇に足音が響く。その音で私はふと我に返った。
ひとみちゃんは突然黙り込んだ私を、心配げな顔で覗き込んでいました。
「大丈夫?どこか痛むの?」
「あ、いや、全然大丈夫だよ」
・・・思えば、ひとみちゃんのこの優しさに惹かれたのかもしれない。
だけど、彼女の優しさは友情。それに勘違いをしてはいけない。
私は、微かに灯ったこの気持ちをかき消すように、笑顔でそう答えた。
- 186 名前:501 投稿日:2002年01月12日(土)21時52分18秒
- 第七話、キリのいいところまで交信しました。
長かった・・・やっと石も(涙)
>171さん
あやや、まだ何かをしでかしてくれそうな予感がしますね。
ガンガレ!よっすぃ〜!(作者がこんな調子だし/笑)
さて、そろそろストックがなくなりつつあります(汗)
これまでのようにほぼ毎日交信が出来なくなるかもしれませんが、
奇特にもこのお話を読んでくださっている皆様、
最終話までお付き合いいただけましたら、これ幸い。
- 187 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月13日(日)00時26分32秒
- もちろん最終話まで付きあうよ。今、この小説一番気にいってます
- 188 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月13日(日)01時13分41秒
- とうとう梨華ちゃんも…
あやや頼むから暴れないでね…(w
- 189 名前:夜叉 投稿日:2002年01月13日(日)14時28分08秒
- きゃあ、ついに石にも…(赤面。
でも、あややの存在が気になりつつ、片方では「そんなこと関係ないやい」という自分がいたり(w。
最終話まで、もちろんお付き合いしますとも。
- 190 名前:熱心な読者 投稿日:2002年01月13日(日)17時02分31秒
- この小説、大好きです。
今までの、いしよしの中でも、数えられるくらいの
力作だと思います。感情の表現が最高!応援していますので、作者さん
最後までがんばってくださいね。
- 191 名前:Charmy Blue 投稿日:2002年01月14日(月)16時35分02秒
- 始まった時から拝見させていただいていました。
悶える位に切ないですね。そしてもどかしい。
早く2人に幸せが訪れますように(合掌)。
- 192 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)00時42分43秒
- 「・・・梨華ちゃん、好きだよ」
「ひとみ・・ちゃん?」
ひとみちゃんは、その大きく綺麗な瞳で、私を見つめながら言う。
私は指1本さえも動かす事が出来ず、ただ、彼女から目を離せないでいた。
「梨華ちゃん・・・」
ひとみちゃんは私に歩み寄ると腰に手を回し、そっと、私を抱きしめた。
私は、久し振りの他人の温もりに、心が落ち着くのを覚えました。
PPP・・・PPP・・・
幸か不幸か、目覚ましが夢の続きの邪魔をする。
私は部屋中に鳴り響く目覚ましを止めた。
「・・・なんだ、夢か」
一旦自分の気持ちを自覚をしてしまったら、こんなにも素直に夢にまで出てしまうのでしょうか?
圭ちゃんと別れたばかりなのに、圭ちゃんを思ってあんなに涙を流したはずなのに・・・。
自分の心の移り変わりの早さに、私は戸惑いを隠せなかった。
昨夜、ひとみちゃんを意識をし過ぎた私は、「用事を思い出した」と、慌てて帰ってきてしまった。
私の態度が変だって思われないと良いけど・・・。
私は真っ赤になっているであろう、自分の顔をわざと見ずに、顔を洗い始めた。
- 193 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)00時46分56秒
- 9時過ぎ、昨日頼んでおいたガス屋が修理にやって来た。
ガス釜を開けて色々といじっているみたいだけど、私にはまるっきり分からないので、テレビを見て、直るのを待つ事にした。
しばらくすると、修理工のお兄さんが風呂場から出てきた。
「石川さん、あれはもう直しようがないですよ。ボイラー自体新しいのに変えないと無理ですね」
「・・・そうですか。でもそうなると、私の一存だけじゃ決められないですよね。不動産屋に連絡取ってみますね」
私はそう言って受話器を取った。
- 194 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)00時48分03秒
- 「あ、ダイヤハイツ205号室の石川です。あのー、ガス釜のほうが壊れちゃいまして、ガス屋さんに修理しに今来てもらってるんですけど、直しようがないから新しいのに変えないとダメだって言われたんですけど」
『あーそうですか。どちらにせよ風呂が沸かせないんじゃしょうがないですよね。あ、ガス会社はウチの指定のところですか?』
「はい、そうです」
『じゃ、ちょっと変わってもらえますか?』
「あ、はい」
私は修理工のお兄さんに受話器を渡した。
色々と話をした後、また私に受話器をよこす。
「変わってもらいたいそうですよ。早速新しいのに取りつける事になりましたので」
「よろしくお願いします」
新品のボイラーを取りに行くと言って、修理工は部屋を出た。
- 195 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)00時49分58秒
- 「あ、すいません、お電話変わりました」
『あのですね、そろそろお伝えしようと思ってたんですが・・・来月で契約が更新になるじゃないですか。それでですね、お家賃の方も更新を機に一万アップさせて頂く事になったんですよ』
「えっ?!そんな急に言われても私も困ります・・・」
『申し訳ありませんが、決まった事なので』
「・・・・・分かりました。それでは失礼します」
いくら食い下がったところでどうにかなるもんじゃないよね・・・。
私は電話を切ると、大きく溜息をついた。
・・・参ったなぁ。確かにここの家賃は安い方だけど。でも、一万もあがったらキツイよぉ。
- 196 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)00時51分26秒
- 私は改めて部屋の中を見渡した。
目立った汚れは無いけれど、所々に圭ちゃんが寝ぼけて作った傷が残っている。
圭ちゃんと別れたばかりの頃、この傷を見るのすら辛くて、部屋にいる事がないくらいバイトをしまくっていた。
だけどしばらくすると、寂しさのせいなのか、傷を見つめては圭ちゃんを思い出す日々を送った。
・・・そして、気がつけば私の心の中に、優しくひとみちゃんが入りこんでいて、その傷が気にならなくなっていた。
圭ちゃんとの思い出が残っている部屋だけど。
いいえ、だからこそ、もう出るべきなのかもしれません。
「丁度良い機会だよね。後で賃貸情報誌を買ってこようかな・・・」
私はそう呟きながら、壁の傷を指で添った。
- 197 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)00時54分53秒
- 「―――不備な点があるようでしたら、こちらの方へご連絡下さい。それでは」
「ご苦労様でした」
所要時間2時間ほどでボイラーの取り付けは終わり、修理工は帰っていった。
古ぼけている風呂場の中で真新しいボイラーは一際目立って見える。
・・・とりあえずこれで銭湯に行かなくて済むよね。
仕事が休みで、する事も無く暇を持て余していた私は、アパートを探しに行く事にした。
やっと見つけた仕事は変えたくはないし、だからと言って電車で通勤しなければならない所へは引っ越したくもない。
あと、・・・ひとみちゃんの傍から離れたくないのも正直な理由。
友達のままでいいの。それ以上を求めるつもりもない。
お互いの暇な時に会って遊ぶ、それだけで良いの。
- 198 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)00時56分12秒
- 私はとりあえず、近所を重点的に探す事にした。
一時間ほど、アパートに貸室の張り紙が無いかと歩き回ったけれど、結局見つからなかった。
これが春先の引越しシーズンなら簡単に見つかったかもしれないけど、この時期はやはり仕方ないのかな。
とは言え、ここは短大や大学が密集してるから、学生の為の安いアパートも多いし。
地道に探せば一件くらいは理想の物件があるよね、きっと。
・・・とりあえず賃貸情報誌でも買おうかな。
私は近くのコンビニを見つけて、情報誌と暖かいお茶を買った。
アパートに戻るよりは近いと、芝公園までやって来た。ここのベンチなら日が照っていていくらか暖かいし。
私は空いているベンチに腰を下ろすと、まず、冷えた手を癒すように、買ってきたお茶をカイロ代わりにした。そして、次に体の中を暖めるために、お茶を飲む。
3分の1ほど飲んで、やっと落ちついた私は、買ってきた情報誌を広げ読み始めた。
- 199 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)00時57分46秒
- 「・・・港区、あった」
私は今住んでいる近辺から探してみた。
だけど、私の希望の部屋は、最低でも六万五千する。
今のアパートが来月から六万になるんだから大して変わらないなぁ。
それなら、引越しの手間とか敷金礼金の出費を考えたら、引っ越さない方が良いよね。
・・・まぁ、築年数が七年って書いてあるから、今のアパートと比べたら段違いに綺麗だろうけど。
その他にも探してみたけれど、やはりこの近辺での最低ラインは六、七万。
「はぁ・・・やっぱ無いか」
私が溜息交じりにそう呟いた時、突然影が私にかかった。
「引越しするの?」
私はゆっくりを顔を上げた。
そこには、少しだけ痩せたのか、ちょっと疲れた顔つきの圭ちゃんがいた。
- 200 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)01時00分20秒
- ・・・私が熱を出して寝こんでいたあの日から、圭ちゃんとは全く会っていません。
私が冷たく彼女を突き放した別れ方だったけど、目の前にいる圭ちゃんは、いつもの優しい笑顔で私を見つめていました。
「・・・久し振り」
「元気だった?」
そう言って圭ちゃんは私の横に腰掛けた。
「圭ちゃん、どうしたの?そんなスーツ姿で」
「今、父親の仕事を手伝わされてるのよ。で、ちょっと休憩取ろうとここへ来たらアンタがいたからビックリしたってわけ」
「そうなんだ〜。似合ってるよ、その姿」
「ホント?」
「うん、馬子にも衣装ってこういう事だよね」
「・・・可愛い顔して随分な事言ってくれるじゃない」
そう言って私達は笑った。
そして、どちらからともなく、思い出話に花を咲かせていた。
別れたあの日。こんな風に話せる日が来るだなんて思ってもいませんでした。
- 201 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)01時02分07秒
- 気がつけば、寒さも忘れて小一時間ほど話していた。
そこに、ふとした隙間から沈黙が流れこんだ。
今までなら、その静かな二人の空間も、居心地の良いものだったのに。
だけど・・・この沈黙が二人は別れたのだと、まざまざと実感しました。
突然圭ちゃんは私の手から情報誌を取ると、パラパラとページをめくりながら聞いてきた。
「あそこ、引っ越しちゃうんだ?」
「・・・うん、今度の契約で家賃が上がるの。今の給料じゃちょっと苦しいから、安いところ探そうと思って」
「・・・・・」
彼女はページをめくっていた手を止めて、何かを考え込むように黙ってしまった。
しばらくすると、少し掠れた声で言ってきた。
「・・・石川は、もう私の事・・・私達の事をスッパリと割り切ったんだね」
「・・・・・」
「あの時・・・約束を破ったのも、別れを切り出したのも私。自分勝手だって事も分かってる。でも・・・駄目なんだよね。石川がいないと駄目なんだよ」
苦しげに吐くように彼女は言うと、私をきつく抱きしめてきた。
突然の事でビックリはしたけれど、私は思いの他冷静でした。
- 202 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)01時04分15秒
- 「・・・離して、圭ちゃん」
「・・・」
私は、ゆっくりと彼女の肩を押して離れようとしました。
けれど、圭ちゃんの腕は更に締める力を強めた。
「圭ちゃん、お願い・・・」
私がもう一度、語尾も弱弱しく言うと、彼女は私の肩を掴み、悲しそうな目で見つめてきた。何も言わずに、じっと私を見つめている。
私は一息吐くと、一言一言をとつとつと話し始めた。
「・・・今の世の中は、同性愛者を受け入れてくれる時代じゃないの。「一般的じゃない」、ただそれだけの理由で言われなくてもいい事さえも、非難を浴びる事になるわ。今は若さでどんな中傷でも突っぱねる事も出来るかもしれない。でも・・・いつか、そうなった事を後悔する日が・・・きっと、来るから・・・」
「そんな事あるわけないじゃない!アンタを選んだ事に後悔する事なんてありえない!」
彼女は怒ったように私に言う。だけど、私はそれに構わずに話し続けた。
- 203 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)01時06分45秒
「・・・私のような人間が、なんで同性愛者だって事をひた隠しにして生きているのか、分からないでしょ?・・・それは、どんなに私と付き合っていても、圭ちゃんは同性愛者じゃないからだよ。あ、別にそれを責める訳じゃないの。分からなくて当たり前だし。私だって本当の自分に気付くまでは、何も分からないで過ごしてた。・・・でもね、自分が同性愛者だって気付いた時、それまで気にもしなかった世間の目に気付いた時、すごく怖かった。・・・哀しいくらい酷いよ、世間って。まるで汚い物を見るかのような扱いだよ。そんな辛い思いを圭ちゃんにはさせたくない。それに・・・」
「それに・・・?」
「それに「いつかまた圭ちゃんに捨てられるんじゃないか?」ってビクビクしながら過ごすのは、・・・傷付くのは、もう嫌・・・」
私は、彼女から目をそらした。圭ちゃんの辛そうな顔が容易に想像できました。
「・・・全部、私のせいだね」
「・・・ううん、私が臆病なだけだよ」
「石川を臆病にさせたのは私じゃない。・・私に何か―――」
- 204 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)01時08分47秒
- PPP−PPP−PPP−
圭ちゃんの胸ポケットの携帯が鳴り響いた。
「はい―――あ、お父さんか。―――はいはい、社長、何の御用ですか?―――分かったよ、すぐ戻るよ。―――戻ります!」
携帯を切ると、圭ちゃんはきまり悪そうな顔をして私に言った。
「・・・会社に戻ってこいって」
「そっか。大変だと思うけど頑張ってね。・・・じゃあね」
私はそう言って、ベンチから立ち上がり帰ろうとした。
私の背中に、圭ちゃんの寂しそうな声が掛けられた。
「・・・私が、アンタにしてやれる事はないの?」
「どこかで会った時にはいつもの・・・いつもの笑顔で声を掛けて」
私は振りかえると、笑顔で彼女にそう答えた。
彼女は少しぎこちない笑顔で頷いて、「じゃあね」と小さく手を振って帰った。
私は圭ちゃんの背中が見えなくなるまでその場にいた。
- 205 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)01時10分57秒
- 圭ちゃんにきつい言葉を掛けてしまった。
だけど、そうでも言わなければ、いつまでも彼女は私に縛られてしまう。
それでは彼女の為にはならないと、自惚れではなく、本心からそう思ったんです。
枯れたと思っていた涙がひとしずく、私の頬をつたう。
「・・・全てを割り切れる訳ないじゃない」
完全に圭ちゃんへの気持ちを割り切れてしまうほど、私は乾ききってはいなかった。
・・・それはひとみちゃんへの想いに気付いた今でも。
私はしばらくその場に立ち尽くしていたけれど、ぽつりと頬に落ちた雨粒に気付いて、アパートへ帰ろうとしました。
- 206 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)01時13分10秒
- 振り向いた視線の先に見覚えのある顔が、ビックリしたような表情で立っている。
・・・見られてしまった?
私が戸惑いの顔を見せた瞬間、彼女―――松浦亜弥が踵を返して立ち去ろうとした。
私は何も考えないまま、すかさず彼女を追いかけ、手を掴んだ。
「気持ちわるいっ!触らないで!!」
彼女は得体の知れないものを見てるような目をして、私の手を振り払った。
・・・分かってる。世間の扱いなんて、こんなものだと言う事くらい。
それでも、あからさまに拒絶反応を示されたら・・・やっぱり傷付いてしまう。
・・・ねぇ、そんなに悪い事なの?
・・・同性しか愛せない事って、そんなに罪なの?
・・・私のしている事は、そんなに許されない事なのですか?
- 207 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)01時15分48秒
- 「・・・全部聞いたの?」
「・・・。」
私は思いの他低い声で彼女に聞いた。
だけど、彼女は俯いたまま答えようとしませんでした。
「お願いだから、ひとみちゃんには言わないで」
「・・・なんか変だと思ってたのよ。吉澤さん、好きな人がいるっていってるわりにはそんな影が見えないし、いつもアナタとばかりいるし・・・やっぱりそうだったんだ・・」
「・・・?松浦さん、何か勘違いしてるみたいだね。・・・ひとみちゃんは私にとって、大切な友達なの。ひとみちゃんが私の全てを知って、もしも、松浦さんのように拒絶反応を起こされたら・・・私・・・。大事な友達をなくしたくないだけ、分かるでしょ?・・・だからお願い、ひとみちゃんには言わないで」
「・・・吉澤さんはアナタと同じじゃないわよね?」
それってどういう事?・・・私は同じ人間じゃないの?
- 208 名前:第七話 〜愛する事は罪ですか?〜 投稿日:2002年01月15日(火)01時17分11秒
- 彼女の何気ない言葉に酷く傷付いた。
私は唇を噛み締めながら、首を縦に振るだけしか出来ませんでした。
涙だけは見せまいと思ったけれど、悔しくて、悲しくて、頬に涙が流れる。
彼女は何も言わずにその場を去っていった。
振り向いた先の彼女の表情が、口端を少しあげて笑っていた事も、私が気付く筈もない。
小降りだった雨が、気付けば、力強く私を打ちつけている。
私は、もう何も考えられなくなっていた―――。
- 209 名前:501 投稿日:2002年01月15日(火)01時46分43秒
- >187さん
ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいす!
ラストに近付きつつありますが、最後まで読んで頂ける様にがんがります!
>188さん
すいません、思わず暴れさせちゃいました(^^;)ゞ
>夜叉さん
やっと自覚をしたと思ったら。一難さって、また…(苦笑)
そうなんですよねぇ。あややの事を気にしないで、二人で突き進んでくれれば、
何の問題もなく、スムーズにハッピーエンドになれるでしょうに。
>熱心な読者さん
素晴らしいいしよし小説が沢山ある中の一つにカウントしてくださるなんて、
身に余る光栄です!
これからもがんがります!(^^)
>Charmy Blueさん
初めまして…と言いますか、名無しで何度か書き込みをさせて頂いてました。
Charmy Blueさんのお話は全て拝見させて頂いております。純粋にファンです。
憧れのCharmy Blueさんにレスをいただけるとは・・・本当に嬉しいです。
ありがとうございます。
- 210 名前:501 投稿日:2002年01月15日(火)01時53分34秒
- 第七話、全て更新しました。
一難去って、また一難です。
次回、クライマックスに向けて、いつもより七割増で何かが…。
(って、そんな煽りを入れてどうする、自分/笑)
- 211 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月15日(火)02時55分09秒
- 終わってしまうのはとても悲しいです。
娘。小説の中ではレズは結構あたりまえのように
書かれていることが多いのですが、501さんのは
そうではなくリアリティに溢れていて読んでいて
とても考えさせられるものがあります。
梨華ちゃんとよっすぃーが幸せになれることを祈ってます。
あと松浦…暴走してくれ(w
- 212 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月15日(火)11時53分56秒
- 偏見の無い世の中に早くなればいいな・・、と何となくマジレス
- 213 名前:夜叉 投稿日:2002年01月15日(火)14時27分11秒
- どうやら、雲行きが怪しくなりそうな予感。
石の気持ちを物語るかのような雨、あまりにも冷たすぎる。
世間の冷たさを物語ってるみたいで。
「普通」なんてどこにもないのに。
吉に頑張って欲しいのと続きに期待しながら。
- 214 名前:Charmy Blue 投稿日:2002年01月15日(火)21時00分04秒
- もう終わってしまうのですか。残念です。
切ないのが書けない私としては、羨ましいです。
最後までがんがって下さい。
- 215 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月17日(木)23時57分17秒
- 年の瀬と言う事もあってか、この二週間、昼夜バイトが重なって、梨華ちゃんと会う事が出来ずにいた。
今のアタシには彼女の笑顔だけが心の支えなのに、それすらままならずにいる現状が辛かった。
あのファミレスで会って以来、亜弥ちゃんは今まで通りのシフトに戻った。
これまでと変わらずアタシに話し掛けてくる。
彼女の真意がつかめないアタシは、ただ苦痛の時間を過ごしていた。
「じゃ、お先にー」
5時になり次のシフトの子がやって来たので、アタシは早々にビデオショップを出た。
今日はもうこれで終わりだし、久し振りに梨華ちゃんの所へ行ってみよう。
彼女に会いたい。会ってあの笑顔に癒されたい。
そう思うと自然と足取りも軽くなる。
「吉澤さん、これから石川さんのところへ行くんですか?」
亜弥ちゃんは慌てて出てきたのか、少しだけ息を切らしながら声を掛けてきた。
- 216 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月17日(木)23時59分16秒
- 「え?あ・・・まぁね」
「本当に仲が良いんですねー」
そう言うと彼女は、「それじゃお疲れ様」と帰ってしまった。
亜弥ちゃんはアタシの事を何とも思ってないから、こうやって普通に接してくるのだろうか?
だけど、あの時の言葉は・・・?
彼女を見る度にアタシの胸がチクリと痛んだ。
アタシがいつまでもビデオ屋にいるのがいけないのかもしれない。
それは、彼女から逃げるためのアタシの言い訳なのだろうが。
アタシは沈みそうになる気持ちを、梨華ちゃんに会える事の嬉しさに切り替えて、彼女のアパートへと足を向けた。
- 217 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時01分16秒
- 「・・・連絡入れないで来ちゃったけど、梨華ちゃんいるかな。まぁ、いなきゃ帰ってくるのを待ってても良いよね」
二週間ぶりに会えるというだけで、こんなにも心の弾んでいる自分に少し笑って、彼女のアパートの錆付いている階段を昇る。
梨華ちゃんの部屋の前で、はやる鼓動を落ち着かせ、ドアをノックした。
「はい」
台所にいたのか、彼女はノックに素早く反応してドアを開けた。
「久し振り〜!元気だった?」
アタシは嬉しさのあまり、いつもよりもテンション高く話した。
ところが、目の前の彼女は、泣きそうななんとも言えない表情で、アタシを見つめて黙っている。
「・・・梨華ちゃん?」
「あ・・・久し振りだね。全然連絡なかったから・・・あの・・・」
「そうなんだよー、この二週間、朝から晩までバイト入っちゃってて参ったよ。労働基準法に思いっきり引っかかるぐらい働いてたんだ。そこへ来て、携帯電話のお金も払えないくらいお金なくって・・・電話止められちゃってたの」
アタシはちょっと恥かしくて、頭をポリポリと掻きながら話した。
- 218 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時03分00秒
- 「・・・そっか、そうだったんだ」
梨華ちゃんは明らかにホッとしたように、そう呟いた。
そんな彼女の態度が気になったけれど、ふとアタシに向けた彼女の笑顔は、いつもと変わり無いので、少し安心する。
「あ、ひとみちゃん、どうぞ上がって」
「お邪魔しまーす」
久し振りに来た彼女の部屋は、大掃除をしたのか、荷物が少なく、綺麗に整頓されていた。
「へぇ、随分すっきりしたねぇ」
「・・・そう?」
「なんか梨華ちゃんの部屋じゃないみたいだなぁ」
「あーひとみちゃん、ひどーい」
そう言って利華ちゃんは、紅茶を入れたマグカップをアタシに渡した。
「あ、サンキュ。外、すごい寒かったから嬉しいよー」
「・・・・・ひとみちゃん・・」
「ん?なあに?」
「・・・・・・ううん、何でもない」
「なぁに、気になるじゃん」
「・・・ごめん、何でもないの」
梨華ちゃんは座り掛けた腰を上げて、台所へ行ってしまった。
- 219 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時04分53秒
- ・・・さっきといい、やっぱりなんか変だ。
悩みならいくらでも相談してくれれば良いのに・・・アタシじゃ頼りにならないの?
だけど、話したくないものを無理矢理聞いてもしょうがないとも思う。
アタシは梨華ちゃんの気持ちを考えて、打ち明けてくれるのを待つ事にした。
何となくこの空気を壊そうと、テレビをつけてみた。
画面にはタレントの誕生日を祝う企画の番組が映っている。
「誕生日ねぇ・・・そう言えば今年の誕生日は一人だったっけ。寂しいかったなぁ」
「何大きい独り言してるの?」
梨華ちゃんが自分の紅茶を持ってきて、笑いながらアタシに話し掛けてきた。
彼女自身、この空気が壊れるきっかけを待っていたのかもしれない。
アタシは少しだけ安心して話を続けた。
「今年の誕生日は一人で寂しかったって話」
「そっか、私達が知り合うホンのちょっと前だったんだよね」
「そうだねー。あ、そう言えば、梨華ちゃんの誕生日聞くの忘れてた!誕生日いつ?」
「あ、私?一月十九日だけど」
「え?・・・あと一カ月もないじゃない。もー早く言ってよー」
「・・そう言えばもうすぐだね。忘れてた」
- 220 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時07分09秒
- そう言って彼女は、また曖昧な笑顔をアタシに向けた。
アタシは、あのいつもの笑顔が見たくて、テンションを思いっきりあげて話し始めた。
「よっし!それじゃ、梨華ちゃんの誕生日パーティーをやろう!」
「・・・え?」
「つっても、パーティー参加者は梨華ちゃんとアタシだけだけど」
来年は、梨華ちゃんの誕生日に一緒に祝う事が出来ないかもしれない。
いつかは彼女の横で素敵な彼が祝う事でしょう。
だから今、・・・今だけはアタシの中だけで夢を見させてほしい。
「・・・ひとみちゃん」
「あ、もしかして予定があるとか?・・・それとも迷惑・・だった?」
「ううん!そんな事ない!・・・ありがとう、すごく嬉しいよ」
そう言って彼女は笑った。
その笑顔は普段と変わらない、アタシが好きな梨華ちゃんの笑顔だった。
・・・この笑顔をいつまで見ていられるんだろう。
彼女の誕生日を一緒に祝える嬉しさと、拭いきれない不安に包まれた夜だった。
- 221 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時08分49秒
- 世の中はクリスマス一色で浮かれまくっている中、アタシは相変わらずバイトの日々。
梨華ちゃんにクリスマスの予定を恐る恐る聞いてみたら、彼女は朝から晩までバイトの予定を入れてしまってたらしい。
「暇だったら一緒に遊ぼうと思ってたのに〜」と拗ねたように話したら、「ひとみちゃんは予定が入ってるかと思って・・・」と、少しだけ寂しそうに言ってたっけ。
結局一人で寂しく家にいるのが嫌で、アタシもバイトをいれた。
ごっちんに至っては、「いちーちゃんとラブラブ旅行に行ってきま〜す(はぁと)」と、ノー天気なメールが届いてたのに。
・・・アタシはなんて寂しい時間を過ごしてるんだろう。
好きな人と幸せな時間を過ごしたい。
何をする訳でもなく、ただ、彼女と見つめ合って時を過ごしたい。
アタシの願いは贅沢なんだろうか?
一生叶わない夢なんだろうか・・・。
一度ネガティブに考え始めると、坂を転げ落ちるように気持ちは下へ下へと向いていく。それじゃいけないと、必死でポジティブ思考に切り替えようとしたその時、亜弥ちゃんが笑顔でやってきた。
- 222 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時10分39秒
- 「吉澤さん、お仕事お疲れ様です」
「あれ?今日バイト休みだよね?」
「そうなんですけど、吉澤さんに渡したいものがあったから来ちゃいました」
彼女は綺麗なラッピングが施された箱をアタシに渡した。
「これ・・・?」
「クリスマスプレゼントです」
「そんな、貰えないよ」
「私が自己満足でやってる事だから貰って下さい。私の手作りケーキだから、味は保障しませんけどね」
「だってアタシ・・・プレゼント用意してないし」
「そんなの良いですよー」
「でもさぁ・・・」
アタシが受け取る事を渋っていると、彼女は何かを思いついたように話した。
「それじゃ変わりに、吉澤さんのカバンについてるアンパンマンのキーホルダーをくれませんか?」
「え?」
「・・お気に入りだから駄目ですか?」
「や、そういう訳じゃなくて、こんなので良いの?」
「ハイ!吉澤さんのなら何でも嬉しいですもん」
「・・・・・」
- 223 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時12分28秒
- おそらくアタシは複雑な表情をしていたのだろう。
「あまり深く考えないで下さい。大した意味はないですから」
彼女は笑顔でそう言った。
アタシはいまいち彼女の真意を見出せなかったけれど、亜弥ちゃんがそう言うならばと、アタシはキーホルダーをカバンから外し、それを渡した。
彼女はそれを嬉しそうに受け取り、「お仕事頑張ってください」と帰っていった。
亜弥ちゃんがいなくなってから、彼女がくれた箱の包みを開けた。
彼女の言ったとおり、中身は可愛らしいケーキ。「味は保障しない」なんて言ってたけれど、すごく美味しそう。丁寧に丁寧に作られているのが良く分かった。
だからこそ、このケーキを見て、受け取って良かったのだろうかと考えた。
こういうアタシのハッキリしない態度が、誤解を招くのかもしれない。
人はそれを「よっすぃ〜は優しいから」と言う。
けど、アタシは単に臆病なだけだと思う。
だって、自分のせいで人が傷ついてる所を見たくないだけなのだから。
今更ながら、自分の取った行動に後悔をした。
- 224 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時14分30秒
- 夕方5時を過ぎ、次のシフトの人がやってきた。
帰り間際に「俺も寂しいクリスマスだけど、吉澤さんも寂しいねぇ」なんて、しみじみ言われてまた少し落ち込んだ。
・・・あ〜あ、何で梨華ちゃんバイトなんだよ〜。
・・・ってそう言えば、梨華ちゃんの誕生日プレゼントはどうしよう?
とりあえず、見に行ってみようかな。
アタシは梨華ちゃんへのプレゼントを見に、駅ビルへ向かった。
駅へ向かう坂道には、聖なる夜を盛り上げるように、並んでいる木々に飾り付けが施されている。
その並木道をカップル達が、寄り添って肩を抱き合い、歩いていく姿は純粋に羨ましかった。
アタシはともすれば心まで凍り付いてしまうように思えて、急いで駅前のデパートに入った。けれど、デパートの中もカップルや親子連れでいっぱい。
少しため息をついて、そして色んな想いに諦めて、アタシは梨華ちゃんへのプレゼントを探した。
- 225 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時16分06秒
- 洋服、アクセサリー、雑貨・・・どれを見てもピンと来ない。
好きな人へあげるものだから、アタシ自身も納得いくものを選びたい。
本当なら、気持ちを込めてリングをプレゼントしたいんだけど・・・それはちょっとなぁ・・。
・・・何が欲しいのか聞いとけばよかったかな。
でも、突然渡してビックリした顔も見てみたいし。
何が良いんだろ? 梨華ちゃんってあまり物欲がなさそうだし。
でも、きっと梨華ちゃんなら、どんな物でも喜んでくれるような気はするけど。
何が良いのかも分からずにうーんと悩みながら、ビルの中をとりあえず隅から隅まで見てみた。
文房具屋の前を通り過ぎようとした時、ふと、目の中に飛び込んで来た物があった。
- 226 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時17分15秒
- ―――白地に一輪のピンクの花が描かれている万年筆。
直感的にピンときた。シンプルながら品がある。
物書きを目指してると言った彼女にはピッタリのプレゼントだと思った。
アタシは迷わず店員に尋ねた。
「すいません、この万年筆は幾らですか?」
「こちらは三万九千円となっております」
「・・・やっぱり良い値段するなぁ」
「万年筆のお値段はピンからキリまでありますけど、こちらのは人気ブランドのわりにはお得な値段になってますよ」
「・・・あ、あの、来月の19日に必ず来ますんで、それまで取っといてもらえますか?」
「はい、結構ですよ」
「それじゃ、よろしくお願いします」
普通に考えたら、友達にプレゼントする値段ではないだろうが、もう他の物は思いつかなかった。
あの万年筆を梨華ちゃんにプレゼントしたい。彼女の嬉しそうな顔を見たい。
ただ、それだけの思いがアタシを突き動かしていた。
- 227 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時19分23秒
- アタシはデパートを出ると迷わずに、アパートとは反対方向へ足を向けた。
歩く事十分。
アタシはお世辞にも綺麗とは言えない、建設会社の事務所のドアを開けた。
「こんにちわー」
「おお、吉坊元気だったか?最近顔見せないから心配してたんだぞ」
そう声を掛けてきたのは、厳つい外見とは裏腹に、とても人の良い現場監督。
アタシが東京へ出てきたばかりの頃、右も左も分からなかったアタシを、一人の大人として接してくれた人で、アタシの事を可愛がってくれる、数少ない心許せる人。
しかし相変わらず人のこと吉坊って・・・ま、良いんだけどさ。
「ちょっとお願いがあって来たんです。一週間で良いんで、働かせてもらえないですか?」
「なんだ急に。入用なら貸してやるぞ?」
「いえ、借りた金じゃ意味が無いんで・・・」
「ふむ。一週間で良いのか?」
「はい。図々しいんですけど、出来れば十九日までにバイト代が欲しいんです」
「まぁそれは日払いでやってやるからかまわねぇけど・・・悪い男に騙されてる、何てことはないだろうな?」
監督はちょっと心配そうに言ってきた。
- 228 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時21分09秒
- 「え?」
「お金が欲しいって、男に貢ぐから、なんて理由じゃないよな?」
監督の言っている事を理解したアタシは、思い切り笑って否定した。
「そんなんじゃないですよー。友達に誕生日プレゼントあげようと思ってですよー」
「そうか、ならいいんだが。・・・じゃあ、今年はもう仕事がないし、来年は10日からになっちまうけど良いな?」
「はい!ありがとうございます!」
アタシがお辞儀をすると、監督はニコニコとアタシの頭を撫でて「頑張れよ」と言ってくれた。
厳つい無精髭面の監督が、まるでサンタクロースのように見えた。
- 229 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時24分20秒
年末年始、アタシは相変わらずバイトに入っていた。
家出同然で飛び出たアタシが、のこのこと実家に帰るなんて事は出来ないし。
どうせ梨華ちゃんもバイトだから、一人で家に居たってつまらないし。
それにバイト代が多くもらえるんだから、一石三鳥ってやつだよね。
「吉澤さん」
「ん、なに?」
今日は亜弥ちゃんと二人でバイトをしている。
本当はごっちんと勤務するはずだったんだけど、ごっちんが急用で休む変わりに亜弥ちゃんが自らシフトに入った。
「今月十九日、お店の定休日じゃないですか。バイト仲間で飲み会をしようって話になってるんですけど、吉澤さん参加しますよね?」
「・・・あ・・・ごめん、その日は約束があるんだ。あの、かなり前からの約束で・・・」
「・・・・・・」
アタシが恐縮して言うと、彼女は明らかに表情に影を落とした。
この沈黙がとても辛い。
- 230 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時25分29秒
- 「本当にごめんね」
「・・・ですか?」
「え?」
「・・・また石川さんですか?」
「・・う、うん」
「・・・・・じゃあ仕方ないですよね!でも、今度は絶対参加して下さいよ!」
「うん、分かった」
亜弥ちゃんは意外にもあっさりそう言うと、ビデオケースの掃除に取り掛かった。
アタシは彼女の後姿を見つめながら、申し訳ない気分になった。
- 231 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時26分49秒
- 「こんばんはー、今日から一週間よろしくお願いします」
「吉坊来たか!じゃ、早速現場に行くぞ」
そう言って連れてこられた現場は、梨華ちゃんのアパートにも近い道路工事現場だった。
交通量の多い都内は、基本的に車の流れが少なくなる夜間に工事を始める。
なんの資格も持っていないアタシは、車の誘導や土などで汚れた道を掃いたり、作業員の夜食を用意したりの、いわゆる雑用が主な仕事。
だけど、これが意外に仕事が多く、今日のように寒い日は働くのも結構辛い。
ましてや今月に入ってから休みなしでバイトしてるし、明日も明後日もバイトだし。この一週間は寝ずにバイトだから体も辛いなぁ。
でも、梨華ちゃんの笑顔を思うと、辛い仕事も頑張れるから不思議だよね。
ま、アタシが単純なんだろうけど。
- 232 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時28分34秒
- タクシーくらいしか通る車もなくなった夜半過ぎ、向こう側の歩道を亜弥ちゃんが歩いているのが見えた。
・・・こんな夜中になにしてんの?
多少気になったけれど、わざわざ話しかける事はしたくなかった。
アタシは休めていた手を動かし、仕事に戻った。
新聞配達のバイクが走り出す午前四時に、やっと仕事が終わる。アタシはアパートへ戻るとそのまま横になった。
昼はビデオ屋、それが終わるとすぐに工事現場でのバイトと言う過酷な生活も、あと少しで終わる。
我ながら良く頑張ったと思う。それもこれも梨華ちゃんを思えば出来た事。
彼女の為・・・いや、結局アタシの為なんだ。梨華ちゃんの喜ぶ顔が見たいアタシの自己満足に過ぎない。
・・・仕事が終わったら昼まで寝て、起きたら銭湯へ行って、それから万年筆を取りに行って、ケーキを買って・・・。
- 233 名前:第八話 〜掛け替えのない人〜 投稿日:2002年01月18日(金)00時31分13秒
- 今日の予定を自分の頭の中で組み立てて、その嬉しさに少し顔をほころばした。
思えば、今までこんなに頑張った事なんてなかった。今をとりあえず生活出来れば良い、そんな漠然とした毎日だった。
辛い事があっても、それに負けることなく一生懸命頑張ってる梨華ちゃんの姿を見て、アタシもいつの間にか忘れていた自分の夢を取り戻した。
彼女と出会った事で、アタシは少なからずとも変われた。
アタシにとって彼女との出会いは運命だと思う。
・・・これから先、想いを届ける事が出来なくて、彼女への恋心に胸を痛める事があっても、アタシの気持ちに嘘をつきながらでも。
・・・そして、いつか梨華ちゃんの他に好きな人が出来たとしても・・・一生彼女と友達でいたい。
アタシにとって梨華ちゃんの存在は、誰よりも何よりも欠かせないものになっていた。
- 234 名前:501 投稿日:2002年01月18日(金)00時43分01秒
- 第八話、とりあえずキリのいいところまで交信です。
誕生日のくだりをいれようと物語をいじったら、
書き足さなくてはいけなくなって、ちょっと面倒でした。
ところで前回、煽りをいれましたが、
七割増とは、いつもより無駄に長い文章と言う事で(^^;)ゞ
そんな訳で次回こそ、何かが…(笑)
- 235 名前:501 投稿日:2002年01月18日(金)01時06分43秒
- >211さん
テーマがテーマなだけに、こんなツマラン駄文誰が読む?と
自分で投げやりになってましたが、書いてきて本当に良かったです。
あともう少しで終わりますが、宜しければ最後までお付き合いください。
・・・あと、あやや。まだ活躍しそうです(w)
>212さん
娘。小説でこんな話もどうかと自分で思ってたりもするんですが、
このお話で偏見とか差別の目が少しでもなくなればいいな・・と何となくマジレス(笑)
>夜叉さん
次回、何かが起こることは確かです。
本当は八話全部うpしようと思ったんですけど、明日早いんで…(^^;)ゞ
>世間の冷たさを物語ってるみたいで。
そうなんです。あの雨はそう言う意味も込めて降らせました。
あと、石は濡れた姿が似合いそう…なんてのも(爆)
>Charmy Blueさん
自分はふっと暖まる話や、クスッと笑える話が書けないんで、
Charmy Blueさんがすごく羨ましいです。
ましてや同時に色んな話が書ける頭の切り替え…尊敬してます。
お互い頑張りましょう。
- 236 名前:501 投稿日:2002年01月18日(金)01時07分52秒
- ああ・・・自分でageてしまった(涙)
- 237 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月18日(金)03時44分14秒
- 吉澤がんばってるなー感動した
報われればいいけど・・
- 238 名前:Charmy Blue 投稿日:2002年01月18日(金)21時59分41秒
- あやゃは、まだ何か企んでるんでしょうか?
最近、あやゃ萌えな私は、ちょっと複雑なんです(w。
吉澤の真っ直ぐでPureな気持ち良いですね。切ないですけど。
あと少し(なのかな?)頑張って下さい♪
最初は切り替え出来ませんでしたよ。掛け持ちが多すぎなんですが。はぁ。
- 239 名前:夜叉 投稿日:2002年01月18日(金)22時03分27秒
- 何か無性にハラハラしてくるんですが、どうしてなんでしょうか…。
やっぱり、あややの奇行が気になります。
そして、二人の行方も…。
吉、頑張れっ。
- 240 名前:第八話 〜届かぬ声〜 投稿日:2002年01月19日(土)01時16分04秒
- 「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」
この一週間、まともに寝れないでいたせいか、結局夕方近くまで眠ってしまった。
だけど、そのおかげで体の疲れも全く無い。
足取りも軽やかに、誕生日用のラッピングをしてもらった万年筆と、女の子二人で食べるには少しばかり大きいサイズのケーキを手に、一週間ぶりに梨華ちゃんのアパートへと向かう。
・・・ドアを開けた瞬間に「おめでとう」とプレゼントを渡そうかな?
・・・それとも改まって渡したほうが良いかなぁ。
そんな、どうでもいいような事に悩みながら、彼女のアパートへの道程を歩く。
寂しいまでの木枯らしの音も、今日に限っては心地よいBGMだ。
梨華ちゃんのアパートに着いた。アタシはケーキを揺らさないよう慎重に階段を昇る。
突き当たりの彼女の部屋のドアが開いている。
アタシははやる気持ちを押さえながら通路を歩いた。
- 241 名前:第八話 〜届かぬ声〜 投稿日:2002年01月19日(土)01時17分42秒
- ドアの前に人影が見える。
少しだけ悪戯心が沸き、部屋にいる彼女を驚かそうとした。
「り〜かちゃん!!誕生・・・おわっ!?」
アタシは目の前にいた人物が梨華ちゃんじゃなくてビックリした。
玄関に立っていた人物は、確か・・・保田って言ってたっけ?
梨華ちゃんの友達だから誕生日に来るのは不思議じゃない。
けれど、梨華ちゃんの事しか考えてなかったアタシは、目の前に飛びこんできた人物が彼女でなかった事にビックリした。彼女も、突然声を掛けられてビックリしたみたい。
けれど、その相手がアタシと分かると、以前のような敵意の帯びた目ではなく、哀れんだような寂しげ目でアタシを見つめた。
「・・・あの、梨華ちゃんは?」
アタシが尋ねると、彼女は黙ってその場を退いた。
- 242 名前:第八話 〜届かぬ声〜 投稿日:2002年01月19日(土)01時19分37秒
- ・・・・・バサッ
アタシは思わず、手に持っていたプレゼントやケーキを落としてしまった。
居るはずの部屋の主はそこに居らず、管理人らしきお爺さんが、荷物も何も無い殺風景なその部屋の後片づけをしていた。
「・・・これは・・・どういう・・・?」
「・・・・・。」
「り・・梨華ちゃんは・・・?」
「・・・・・。」
「梨華ちゃんはどこに行ったのっ!?知ってんなら教えてよ!」
知らず知らずの内に、アタシは怒鳴るように聞いていた。
彼女は掠れた声でそれに答える。
「・・・石川が引っ越すつもりでいた事は知ってたわ。でも、まさか・・こんなに早く引っ越すなんて・・」
「・・・アタシは聞いてないっ!なんでだよ!?」
「私が聞いたのだって一ヶ月ぐらい前の話よ・・・。その時はまだ探し始めたばかりのはずだったし・・・」
「・・・引越しする理由は?」
アタシは震えそうになる体と声を抑えて聞いた。
落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かす。・・・でも。
「家賃が上がるからとは言ってたわ。でも・・・そんな理由だけで、私にはともかく、アンタに内緒で引っ越す?」
「そんなの、アタシが聞きたいぐらいだよ!」
- 243 名前:第八話 〜届かぬ声〜 投稿日:2002年01月19日(土)01時21分25秒
- アタシは声を荒げていた。
行き場の失った怒りを無理矢理拳に込めて、思い切り壁にぶつけた。
「・・・ちょっと!あんたら何やってんだ!?用がないなら帰ってくれ!」
片付けをしていたお爺さんが部屋から顔を出して、アタシ達を怒鳴った。
「うるさい!ジジイ!」
「ちょ、やめなさいよ!・・・すいませんでした」
そう言って彼女は、アタシを抑えてアパートから出る事を促した。
お爺さんに当ったところでどうにもならない事は分かっている。アタシは素直に表に出た。
アタシ達はどちらからともなく足を動かした。そして、気付けば近くの公園までやって来ていた。
それまでお互い何も話さずに歩いていたけれど、空いていたベンチに腰をかけて、アタシが呟くように口を開いた。
- 244 名前:第八話 〜届かぬ声〜 投稿日:2002年01月19日(土)01時22分47秒
- 「・・・約束してたんだ、誕生日を祝おうねって。・・・梨華ちゃんだって、嬉しそうにありがとうって言ったのに・・・。訳分かんないよ、突然いなくなるなんて・・」
「・・・やっぱりアンタ・・石川の事が・・・」
「・・・・・」
アタシは小さく頷いた。
何となく、彼女なら大丈夫のような気がしたから。
それは・・・きっと楽になりたかったのかもしれない。
誰かにアタシの事を知ってもらいたかったのかもしれない。
「石川に・・・気持ちは伝えてないの?」
「言える訳ないじゃない。信用していた友達が・・レズで・・しかも好きだった、なんて・・・気味悪がれるのがオチだよ」
「そんな事ないわよ。あの子は・・・石川は・・・」
「梨華ちゃんは・・・なに?」
「・・・そんな事で人の見方を変えるような子じゃないわ」
「・・・・・」
「他の誰よりも・・・そういう偏見を嫌う子よ」
「・・・・・」
そう言って彼女は寂しく笑った。
以前アタシに向けた、力強い敵意を含んだあの視線はもうない。
寧ろ、まるで昔からの旧知の仲のように、その瞳は優しげだった。
- 245 名前:第八話 〜届かぬ声〜 投稿日:2002年01月19日(土)01時24分25秒
- 「・・・誰にも言えなくて、誰かに聞いてもらいたくて・・・ずっと辛かったんだ・・・ありがとう。少しだけ・・・楽になったよ」
「・・・何か聞きたい事があったら電話よこしなさい。私が分かる限りの事は協力してあげるわ」
「・・・・」
彼女はそう言って名刺をアタシに渡した。
アタシはそれを受け取り、ジーンズのポケットへ無造作にしまった。
「・・・それ、プレゼント?」
おそらく、落としたショックで中身は崩れたであろうケーキの箱と、綺麗にラッピングされた包みを指差した。
「・・・うん」
「それ、渡せると良いわね。・・・それじゃ」
「あ・・・本当にありがとう!」
彼女は軽く手を振り、帰っていった。
- 246 名前:第八話 〜届かぬ声〜 投稿日:2002年01月19日(土)01時26分06秒
- 素直に礼が言えた。アタシの事を知っても、拒絶しないで励ましてくれた事が嬉しかった。
細波立っていた心が、少しだけ落ち着く。
だけど、それと同時に、なんとも言えない寂しさがアタシの心を支配した。
梨華ちゃんがアタシに相談なく、黙っていなくなってしまったと言うことは、『友人』と言う立場すらも拒否されたのだと思った。
冗談だよと出てきて欲しい。
いつもの笑顔で現れて欲しい。
気がつけば日は落ち、辺りは真っ暗になっていた。
アタシは渡すはずだったプレゼントを手にして、その重みに胸が苦しくなった。
彼女は・・・いない。
・・・涙が止まらない。
「・・・どこに行ったんだよ、梨華ちゃん!!!」
アタシの叫び声は彼女に届く事もなく、
ただ、無機質な暗闇に飲み込まれていくだけだった。
- 247 名前:501 投稿日:2002年01月19日(土)01時28分26秒
- 梨華ちゃん、17歳のお誕生日おめでとう!
・・・なのに、ごめんよ。こんな話の主人公で(T-T;)
そんな訳で第8話、キリのいいところまで更新しました。
今日ラストに出来れば良かったんですが、思うように話が進まなくて…。
本当の誕生日は吉澤さんに沢山の愛をプレゼントされてる事を祈って(願)
>237さん
報われなくてすみません(苦笑)
頑張っていれば良い事はあると信じたいです(^^;)
>Charmy Blueさん
あやや好きな方には大変申し訳ない役どころにしてしまいました(謝)
って、自分もあややは好きなんですけどね(^^;)
自分も最近新しい話を書き始めているんですが、
どうも切り替えが上手く出来なくてダメですね。
やはり師匠と呼ばせて頂きたいと思っております。
沢山の連載、がんばってください(^^)
>夜叉さん
夜叉さんの胸騒ぎ、正解でした(^^;)
クライマックスに近付きつつあるのに、なんでここまで二人を切なくさせるのか、
自分でも不可解です(苦笑)
- 248 名前:501 投稿日:2002年01月19日(土)01時34分08秒
- え〜今回の更新分があまりにも切ないので、
「石川さんおめでとう今年も1444でよろしくね記念」と勝手に称しまして、
ささやかな駄文を書きました。
どこにうpしようか迷ったんですが、大した話でもないし、
スレ汚しするのもなんなので、↓にうpしました。
ttp://www.geocities.co.jp/Bookend-Ryunosuke/9771/novels/n_rest.html
お目汚しですが、良かったらご覧下さいませ。
- 249 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月19日(土)05時42分24秒
- >>248
いやいや駄文だなんてとんでもない
素敵な短編でしたよ
- 250 名前:Charmy Blue 投稿日:2002年01月19日(土)14時45分35秒
- 石川はどこへ?T_T 折角の誕生日なのに相変わらず切ないっすね。
でも>248の小説は良かったっすよ。心温まるお話しをありがとうございます。
新作も楽しみにしてます♪
- 251 名前:名無しなんです 投稿日:2002年01月19日(土)22時59分44秒
- 切ないですねー
石川さんの失踪には松浦が絡んでるのでしょうか?
- 252 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月20日(日)01時53分42秒
- あぅ…石川さんいったいどうしたのでしょう。
すれ違い…悲しい…
短編ホンワカな感じでとってもよかったです。
- 253 名前:夜叉 投稿日:2002年01月21日(月)15時17分42秒
- やっすに助けられました、吉共々(苦笑。
吉が一人でそこを発見してたら…と思うと正直ゾっとします。
Charmy Blue様の言うとおり、誕日なのに石がいない…。
そして、あややも。
短編、ほんわかしててよかったです。
ほかにもよろしかったら作品の方を拝見させてください。
- 254 名前:第八話 〜この青い空の何処かに〜 投稿日:2002年01月22日(火)01時06分57秒
- ・・・梨華ちゃんがいなくなって一週間が過ぎた。
アタシはバイトに行く事もせず、ただ、アパートでお酒を飲むか、寝ているかの、自堕落な生活を過ごしていた。
年齢的なことを言えば当たり前だけど、元々お酒は強い方じゃない。友達と興味半分で飲んでいた程度だし。
ただ、どうして大人がお酒を飲むか、やっと分かった気がする。
お酒を飲んでいれば、梨華ちゃんの事を忘れていられる。
寝ていれば、梨華ちゃんの事を考えずにいられる。
だけど、それは一時のもの。目を覚ませば思い出してしまう、考えてしまう。
・・・彼女はどこに行ってしまったんだろう。
誕生日を祝おうと、約束をしていたはずなのに。
なぜ、アタシに黙っていなくなってしまったのだろう。
考えても理由は思いつかない。
最後に会った日も彼女は笑顔だった。
アタシにとって、たった一人の大切な人をなくしたショックは、計り知れないものだった。
- 255 名前:第八話 〜この青い空の何処かに〜 投稿日:2002年01月22日(火)01時08分58秒
- 部屋で何もせずにボーっとしていると、ドアのノックが聞こえた。
「・・・梨華ちゃん!?」
アタシは微かな期待をせずにはいられなかった。
だが、その期待はすぐ落胆に変わる。
「よっすぃー、入るよー」
部屋にやってきたのはごっちんだった。
「具合が悪いからって、一週間もよっすぃーが休む訳ないと思って来てみたら・・・なぁに、この有様は?」
「・・・・・。」
「部屋の中、めちゃくちゃお酒臭いよー。・・・もしかして、ずっと飲んでたの?」
「・・・。」
そう言ってごっちんは、締めきっていた窓とカーテンを開けた。
窓の外は澄み渡る雲一つない快晴。
晴渡る空の青さが、まるで梨華ちゃんの笑顔のようで、胸がチクリと痛む。
- 256 名前:第八話 〜この青い空の何処かに〜 投稿日:2002年01月22日(火)01時10分19秒
- 「よっすぃーさ、ごとーに何も話してくれないから、いまいち把握出来てないんだけど・・・もしかしたら、この間話してた片想いの人と何かあったの?」
「・・・・・。」
「亜弥ちゃんも心配してたよ。一緒に来るって聞かなかったんだけど、やっぱ・・・ねぇ」
「・・・ごっちん。悪いけど、アタシの事はほっといて」
ごっちんが心配してくれてるのは分かる。
だけど、今のアタシにはその優しさも鬱陶しいものでしかなかった。
アタシの態度に業を煮やしたのか、ごっちんは「はぁ」と溜息をついた。
「・・・よっすぃーの事をこんなに駄目にしちゃうような人なんてやめときなよ。よっすぃーの良さも分からない人なんて、たいした事ないよ。そんな人、好きになったって何の価値もないよ」
「梨華ちゃんの事も知らないくせに・・・分かったような口聞かないでよ!梨華ちゃんは・・・梨華ちゃんは・・・」
「・・・・・アハッ、やっとよっすぃーの好きな人の名前、教えてくれたね」
そう言ってごっちんは笑った。彼女は続けて話す。
- 257 名前:第八話 〜この青い空の何処かに〜 投稿日:2002年01月22日(火)01時12分47秒
- 「・・・なんとなく、よっすぃーが・・・その・・同性の人しか好きになれない人なのかなって気はしてたよ。でも、よっすぃーが話してくれるまでは、黙ってようって思ってた。・・・水臭いよ、よっすぃー。何で言ってくれないかなぁ。もしかして、ごとーがよっすぃーのこと嫌いになると思ったの?」
「・・・ちが・・」
アタシは否定出来なかった。
ごっちんの言うとおり、彼女に嫌われるのが怖かった。
異質なものを見る目で見られるのが怖かった。
それは結局、同性愛者であるアタシ自身が、同性愛に対して蔑んだ目で見ていたからに他ならない。
「そんなんでよっすぃーのこと嫌いになんかならないよ。ごとーはよっすぃーの親友じゃなかったの? 悩みがあるなら話せば良いじゃん、人に話せば気分的にも楽になると思うよ? その、梨華ちゃんって人と何があったの? ・・・見てらんないよ、よっすぃーが駄目になってく姿なんてさ」
自分一人だけで生きて行けると慢心していたけれど、こんなにも心配してくれる友達がいる事に、ごっちんの飾りない優しさに涙が出そうになった。
「・・・ごっちん、あのね―――」
アタシはとつとつと、全てを彼女に話した。
- 258 名前:第八話 〜この青い空の何処かに〜 投稿日:2002年01月22日(火)01時15分21秒
- 「・・・なるほどね。でもさ、それなら尚更、よっすぃーに内緒で突然いなくなったって言うのには、何かよっぽどの理由があったんじゃない?」
「その理由が分からないから悩んでるんじゃん・・・」
「だからって一人でウジウジ悩んでて解決するの? 悩んでる間に梨華ちゃんって子の友達とかに、彼女が立ち寄りそうな所を聞いて探し出して、本人に理由を聞くのが一番じゃないの?案ずるよりも産むが易しってことわざもあるでしょ」
「・・・まぁ、そりゃそうだけど・・」
「そうなんだって! 悩むだけで解決するんなら誰も苦労しないじゃん。格好の良い事を言わせてもらえば、真実なんて蓋を開けてみりゃ結構単純なものかもしれないよ」
「そうかも・・・ね」
「そうそう、悩むより行動だよ!・・・あ!!」
「な、なに、突然」
「引越ししたんだったら、不動産屋に聞けば引越し先が分かるんじゃない?」
「・・・そうか、考えてみればそうだよね・・・でもなぁ・・」
- 259 名前:第八話 〜この青い空の何処かに〜 投稿日:2002年01月22日(火)01時17分36秒
- ごっちんの言う通り、不動産屋に聞けば梨華ちゃんの行方が分かるかもしれない。
・・・でも、それで彼女を見つけられたとしても、彼女の本意を知る事が怖くも感じる。
全てを知ることが良いことばかりとは限らないことを、アタシは嫌ってほど知っている。
知らなければ幸せだってことも沢山ある。
ごっちんはそんなアタシの臆病な心を見透かしたかのように言う。
「なんだ、怖いんだ?・・・だったらいつまでもこうやってウジウジしてたら? そうやってよっすぃーは、一生大事なものを自分で手放していくんだよ」
自分から全部捨ててるんだから、上手くいく訳ないよね―――。
そう言ってごっちんは出ていってしまった。
・・・確かにそうだった。
アタシが傷付きたくないから、梨華ちゃんに想いをぶつける事を躊躇していた。
・・・そして今も、自分が傷付く事を怯えて、真実を知る事を放棄しようとした。
それじゃ駄目なんだ。
例えどんな答えが返ってこようと、その真実を受け入れる勇気が必要なんだ。
このままでは梨華ちゃんの影を引きずったまま、アタシはどこにも動けない。
- 260 名前:第八話 〜この青い空の何処かに〜 投稿日:2002年01月22日(火)01時19分24秒
- アタシは慌ててごっちんを追い掛けた。
彼女はちょうど角を曲がる所だった。
「・・・ごっちん!ありがとう!」
他に何も無い。
全てをこの一言に凝縮して、彼女に最大の感謝の言葉を掛けた。
「明日はバイトに出てきてねー」
ごっちんはにっこり微笑んで帰っていった。
彼女の姿が見えなくなっても、アタシはその場から離れずにいた。
これほど友達、ごっちんの優しさに感謝した日はなかった。
アタシは、ふと空を見上げた。
梨華ちゃんに会うのが怖い。でも・・・会いたくて仕方がない。
・・・この青い空の下の何処かに彼女はいる。
アタシは意を決して、彼女のアパートへと駆け出した。
- 261 名前:501 投稿日:2002年01月22日(火)01時49分06秒
- 第八話、全て更新しました。
前回分があまりにも…だったので、今回はちょっと吉に救いの手を。
- 262 名前:501 投稿日:2002年01月22日(火)01時50分42秒
- >249さん
ありがとうございます。(^^)
石の誕生日にこれじゃいかんと、慌てて書いたものだったので嬉しいです。
>Charmy Blueさん
ホントに折角の誕生日になんつー話を更新するんだって自分でつっこんでました。
短編のほうも読んでくださってありがとうございます。
どっちかっていうと、ダークなものや切ないのを書く事が多いんで、
正直不安だったんですが、良かったです(^^)
>名無しなんですさん
なんとなく想像つく方もいらっしゃるかと思いますが、
石川さんの失踪の真相は次回、ということで(^^;)ゞ
- 263 名前:501 投稿日:2002年01月22日(火)01時51分39秒
- >252さん
互いに好きあってるのに、ほんの少しの勇気がないだけで
こんなにすれ違うものなんですねぇ。
とにかく今は、がんがれ吉!と言う事で(笑)
短編の方も読んでくださってありがとうございました。
>夜叉さん
MUSIXのなっちではないですが、人間は一人じゃないよって事ですね。
本当は保田さんの出番ではなかったんですが…あまりに吉が可哀想過ぎて、
吉推しとして切なくなってしまい、思わず出してしまいました(苦笑)
>ほかにもよろしかったら作品の方を拝見させてください。
一本短編があることはあるんですが・・・その・・・チンケなエロ話でして(^^;)ゞ
需要があれば・・・うp致します。
- 264 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月22日(火)06時25分42秒
- 前進の予感。
がんがれ〜
- 265 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月22日(火)16時17分29秒
- ようやく光が見えてきましたね。
あ、あのー短編禿げしく希望しております。(w
- 266 名前:Charmy Blue 投稿日:2002年01月22日(火)18時10分00秒
- 後藤がとっても良いヤツで良かったです(うるうる。
ダークな話も大好きです。精神的に疲れると思うんですけど。
吉澤もポジティブになれそうだし、少し安心しました^^
- 267 名前:夜叉 投稿日:2002年01月22日(火)20時50分38秒
- 吉に光が見えてきた。
やっすに引き続き、ごっつぁん、ありがとう(合掌)。
そして、作者様に感謝(再び合掌)。
短編、お待ちしてますね。
吉は光が見えども、自分は奈落の底(鬱)。
- 268 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月22日(火)22時00分18秒
- 後藤さん、ステキ…
そのやさしさで吉澤さんはすくわれたよ。
短編、期待しております。
- 269 名前:第九話 〜嫌いにならないで〜 投稿日:2002年01月25日(金)00時13分12秒
- 「ちょっと店員さん、玉が出てこないよ!」
「すいません、すぐ直します!」
アパートを引き払ってから三週間が経とうとしている。
就職難で厳しいこの時代に、私は運良く、パチンコ屋で働かせてもらっていた。
・・・あの日、『もうあそこにはいられない、もうひとみちゃんとは会えない』と思い、急いで新しい部屋を探した。
偶然、パチンコ屋の前を通りかかった時に「店員急募」の張り紙を見つけて、駄目で元々とコンビニで履歴書を買って、そのまま店に飛び込んだ。
人手がかなり足りなかったらしく、店長室で軽い面接らしきものを受けて、そのままOKが出てしまった。
私が寮に入りたいと言うと店長は、「三部屋空いてるから好きなところを選んでくれ」とこれまた実に歓迎的で、反対に私の方がこんなに事がスムーズに動いて良いのだろうかと躊躇するほどでした。
- 270 名前:第九話 〜嫌いにならないで〜 投稿日:2002年01月25日(金)00時14分22秒
- 私はすぐに不動産屋に引っ越す旨を連絡し、バイト先にも突然「バイトを辞めさせて下さい」と連絡をいれただけの、あまりに礼儀知らずな辞め方をしてしまった。
それほど私は焦っていた。
拭い切れない不安が、私を衝動的に突き動かしていた。
- 271 名前:第九話 〜嫌いにならないで〜 投稿日:2002年01月25日(金)00時16分03秒
- ・
・
・
私はテレビをつけたまま、ウトウトとしてしまっていた。
トントン、とドアのノックがかすかに聞こえ、私は目を覚ました。ふと時計をみると針は十一時を指している。
・・・こんな時間にやってくるとしたら、ひとみちゃんくらいかな。
フッと彼女の人懐っこそうな笑顔を思い出し、思わず笑ってしまった。
一週間ほどバイトが忙しくて顔を出さずにいた彼女に、もしかしたら私の性質がばれてしまったのではと、不安を拭い切れずにいたけれど、昨日、一週間振りに会ったひとみちゃんはいつものひとみちゃんで、私は正直ホッとしていました。
- 272 名前:第九話 〜嫌いにならないで〜 投稿日:2002年01月25日(金)00時17分47秒
- ひとみちゃんは私の誕生日が近い事を知ったとき、楽しそうに「誕生日会をやろう」と言ってくれた。
去年は圭ちゃんが祝ってくれたけど、今年はきっと一人で過ごすのだろうと、半ば諦めていたので、ひとみちゃんの心遣いがとても嬉しかった。
そんな彼女の優しい瞳を思い出していたら、もう一度トントンとノック音がした。
私は「はーい」と慌ててドアを開けた。
夜中の訪問者がひとみちゃんではない他の誰かだと考えもしませんでした。
ドアの前に立っていたのは・・・松浦亜弥だった。
「ま、松浦さん、どうしてここを・・・?」
私は彼女の突然の来訪にビックリしました。
だけど、彼女はその質問には答えず、キッと私を睨みつけるように話し出した。
「石川さん、大事な話があるんです。ちょっと良いですか?」
- 273 名前:第九話 〜嫌いにならないで〜 投稿日:2002年01月25日(金)00時19分23秒
- 彼女の話がひとみちゃん絡みである事は間違いないでしょう。
仕方なく、私は彼女を部屋に上げた。
松浦さんにお茶を差し出したけれど、彼女はそれに手をつけず、表情を崩さぬまま口を開いた。
「・・・どういうつもりなんですか。」
「・・・どういうつもりって・・何が?」
彼女の質問の意図が見出せない私は、そう答えた。
松浦さんは相変らず表情を変えない。
「吉澤さんの事ですよ。」
「アナタの質問の意味が分からないよ。」
「だから! 吉澤さんの優しさにつけこむような真似はやめた方が良いんじゃないですか?」
「何を言って―――」
「吉澤さんは、友達がいないアナタの事を思って付き合ってるだけですよ。」
彼女の鋭い指摘が胸を突いた。確かに私は友達が少なかった。
- 274 名前:第九話 〜嫌いにならないで〜 投稿日:2002年01月25日(金)00時20分59秒
- 圭ちゃんと付き合い始めた当初。
不毛な関係と知りつつも、これが本当の私の姿だと認識せざるを得なかったあの頃、親友に全てを打ち明けた事が一度だけあります。
私は楽になりたかった。
親友に「それでも梨華に変わりはないよ」と言ってもらいたかった。
・・・そして、拒否されたあの日から、進んで友達を作ろうとはしませんでした。
それは、また同じ思いを味わいたくないと言う、私の弱気な心が躊躇させていたのでしょう。
「そんな言い方って・・・」
「吉澤さんはアナタと知り合ってから変わった。このままじゃ、アナタに毒されて吉澤さんまでおかしくなるわ!」
「・・・おかしいって?」
「おかしいじゃない、女同士なんて。・・・気持ち悪いわよ!」
彼女は私の事を汚いものを見るかのように、吐き捨てるように言った。
気持ち悪い―――彼女の悪意のこもったその一言が、私の脳裏をフラッシュバックした。
・・・友達を失ったあの日を思い出す。
- 275 名前:第九話 〜嫌いにならないで〜 投稿日:2002年01月25日(金)00時23分23秒
- 「・・・・・。」
「ねぇ、お願いだから消えてよ、吉澤さんの前から。」
「何で松浦さんにそんな事を言われなくちゃいけないの?・・・それに私とひとみちゃんは友達で―――」
「嘘!アナタが吉澤さんに特別な感情を持っている事くらい、見ていれば分かるわよ。・・・お願いだからいなくなって。」
「・・・断るわ。それに、例え・・・私がひとみちゃんに対して恋愛感情を持っていたとしても、それを打ち明けるつもりなんてないもの。ひとみちゃんは、私の大切な友達なの。それでいいでしょう?」
「・・・ならいいわ。アナタの事を全部話せば、吉澤さんだって・・・。」
「!?それだけはやめて!・・・ひとみちゃんにだけは知られたくないの、お願い!」
なりふり構わずプライドを捨ててまで、私は必死で頭を下げていた。
「だったら・・・いなくなってよ!」
彼女は終始私から目を離さずに、真っ直ぐな目で私に話していた。
彼女は悪者を追い詰めた正義の味方のつもりなのでしょうか。
そして、それに屈した私が・・悪いのですか?
- 276 名前:第九話 〜嫌いにならないで〜 投稿日:2002年01月25日(金)00時25分16秒
- 「・・・分かったから・・・帰って。」
ひとみちゃんはどこまでも優しい人なんです。
人の痛みを分かってあげられる、とても良い人なんです。
・・・でも、だからこそ、彼女に本当の私を知られたくない。
あの人懐っこい笑顔が少しでも曇るのを目の当たりにするのはもう嫌だった。
あの時の思いをもうしたくない。傷付きたくない。
黙っていなくなる事で嫌われるのは構いません。
でも・・・嫌いにならないで欲しい。
密かにこの恋心を募らせる事さえも、友達でいる事さえも・・・。
ささやかな願いさえも許してくれない神様を呪いたかった。
- 277 名前:501 投稿日:2002年01月25日(金)00時57分14秒
- 第九話、とりあえず石の失踪の真相部分をちょこっと更新しました。
何度も申し上げますが、あややファンの皆様、本当にすみません(汗)
>264さん
石はまだ後退してます・・・すいません(T-T;)
>265さん
石がまだこんな調子なので、吉にがんがってもらわねば…(w)
>Charmy Blueさん
一番最初にこの話の流れを考えていた時は、後藤さん悪キャラだったんです。
でも、書いていくうちにだんだん吉が可哀想になってしまい、このような展開になったと(w
新作予定のはやっとプロローグが出来たところです。いつ公開できるのやら…(^^;
>夜叉さん
こちらこそ、いつもレスありがとうです(合掌)
吉に光は見えども、石には悲しい展開ですみません(T-T)
>268さん
後藤さんの優しさをさりげなく出したかったんですが、
かなりイイ人キャラになってしまいました。まぁこれも良しかと(w)
チンケなエ○話に期待してくださってありがとうございます(w)
これから、最後の文章見直しをしてhtml化した後、
>>248 のURL先にうp致します(明日の朝までにうp予定)。
- 278 名前:501 投稿日:2002年01月25日(金)01時02分35秒
- ↑すいません、明日の朝とは、25日早朝までにと言う事で(^^;)ゞ
- 279 名前:501 投稿日:2002年01月25日(金)04時36分20秒
- >>248 のURLではなく、
ttp://www.geocities.co.jp/Bookend-Ryunosuke/9771/n_rest.html
↑こちらに変更します。
大したものではありませんが、暇潰しにどうぞ。
- 280 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月25日(金)09時53分27秒
- ああ、切ない。早く石川を見つけてあげて・・・
>279
そこの短編も良かったです、そっちは甘甘で(w
- 281 名前:夜叉 投稿日:2002年01月25日(金)14時17分39秒
- やはり、あややが握っていたのですね。
石の吉に対する気持ち、通じればいいのに、と思ってみたり。
石に光を…。
短編、おいしく頂きました。
「world〜」の方なんですが、どこかで読んでるような。
ちょくちょくお邪魔させていただきます。
- 282 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月25日(金)22時01分41秒
- は〜、つらい一言いわれちゃいましたか…
優しい人…良い人…そんなあの人を信じきるのじゃ。
短編、事実は小説よりも奇なりということですな(w
- 283 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月25日(金)22時52分35秒
- もうなんとゆうかただただ石が切ないっす・・・・・。(T_T)
早く吉に見つけてもらえるといいのですが。ああうう・・・
短編読ませていただきました〜。甘甘でたまりませんでした♪
こちらでは切なくなっておりますがあちらではラブラブ(w
- 284 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年01月27日(日)11時22分43秒
- ずーーーと、読ませていただいてました。
あまりにも、りかちゃんの気持ちがわかりすぎて・・・・。
涙無では、読めませんでした。
私的には、甘甘が好きなのですが、イタイっす。心が・・・。
切なくて・・切なくて・・・。
この作品、切なすぎるけど大好きです。
- 285 名前:名無しベーグル。 投稿日:2002年01月27日(日)16時57分32秒
- 黒あやゃも(・∀・)イイ かも。でも許しませんよ!
早く吉澤、石川を探し出して!
短編も拝見しました。あれと同じようなセリフ懐かしい(謎)。
思えばあのセリフは友人がくれたモノをそのまま使ったんでした(苦笑)。
- 286 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 287 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)00時50分55秒
- ・
・
・
慣れない仕事もやっと終わり寮に戻ると、給仕のおばさんが私を呼んだ。
ちょっと体格のいい、人の良いおばさんで、入ったばかりの私の事を何かと気にかけてくれる。
「石川さんお疲れ様。お夕飯が出来るまでもう少しかかるから、お風呂入ってらっしゃいな。」
「あ、私、最後に入りますから。」
「気を使わなくても大丈夫よ。ここは仕事が終わった人から先に入るのが決まりなんだから。」
「じゃあ、先に入らせてもらいます。」
「疲れも一緒に流してらっしゃい。」
私は自分の部屋に戻り、着替えを持って風呂場に向かった。
元々パチンコ屋の寮は男性のみだったので、お風呂は男女に分かれていない。
男性従業員と鉢合わせにならないように、『入浴中』の札をかけて中に入った。
大浴場とまではいかないけれど、寮にいる多くの店員達がまとめて入れるようにと、かなり大きい作りになっている。
・・・どうやら誰もいないみたい。
私は少しだけホッとして、浴室に入った。
体を洗い終え、浴槽に足を伸ばして入った。一日中立ちっぱなしで疲れ果てた体も、湯船に浸かるとスッと疲れが取れたように感じるから不思議。
- 288 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)00時52分16秒
- ・・・・・何も考えずにボーっと出来れば、どれだけ楽でしょう。
一人で過ごす時間、必ず思い出してしまうのは・・・ひとみちゃんの優しい笑顔でした。
突然いなくなってしまった私を、彼女はどう思っているのだろう。
彼女の事だから心配してくれているでしょうか。
「ひとみちゃんの事だから心配してるよね・・・。」
私が圭ちゃんの父親に手切れ金を渡された時も、風邪を引いて寝込んだ時も、彼女はいつも私の傍で見守ってくれていた。
私が大丈夫だよと言っても、口煩いくらいに心配をしてくれて・・・。
自分の事よりも、人の事ばかり気に掛けてしまうような、優しすぎる人。
そんな彼女だからこそ、私は心惹かれたのだけど。
けれど、その居心地の良い安らげる彼女の傍を・・・私は自ら手放した。
ただ、自分が傷付きたくなくて、姿を消した。
彼女が心配する事も分かっていながら。
「・・・臆病で身勝手な私なんて、友達でいるだけの価値も無いよね。」
私は口端を歪めて自嘲気味にそう呟いた。
- 289 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)00時54分45秒
- かなり長い間、お風呂に入っていた。
そろそろあがろうかと思ったちょうどその時、カウンターの中澤さんが入ってきた。
中澤さんはまだ20代後半だけれど、店長に代わって一日の売上チェックなどもするくらいのベテラン。
そんな人よりも先にお風呂に入ってしまった事に恐縮した私は、慌てて湯船から立ち上がった。
「すみません。お先に入らせてもらってます。」
「ええって、そんな真面目に考えなくても。お風呂は入れる子から入ってってええんやから。」
中澤さんはニッコリ微笑みながらそう答えた。
ふと彼女の背中を見ると、背中一杯に刺青が入っていました。
正直、私は怖がると言うよりも、珍しいものを初めて見た子供のようにじっと見つめてしまった。
「そうか〜、アンタと風呂に入るんは初めてやんな。これ、珍しいか?」
そう言って彼女は刺青を見せてくれた。
見事な昇り竜が描かれていて、素直にとても綺麗だと思った。
「すごく綺麗な刺青ですね。」
「アンタおもろいな。普通は怖がって見ぃひんよ。」
「あっ、すいません。初めて見たから珍しくて、つい・・・。」
「ま、下手に怖がられるよりええわ。」
- 290 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)00時56分02秒
- 中澤さんはそう言うと、体を洗って湯船に入ってきた。
「そう言えば石川とゆっくり話した事ないな〜。」
「そうですね。」
「アンタ、なんでこんな時期に入ってきたん? ウチが言うのもなんやけど、こんな所、アンタみたいな子が働きたがる場所でもないやろ。結構仕事はきついしなぁ。」
「・・・。」
「ま、話したくなかったら別にええけど。」
ふとひとみちゃんの事を思い出して、俯いてしまった私を気遣ってくれたのか、中澤さんはぽつぽつと独り言のように話し始めた。
「・・・自業自得とは言え、ウチはこいつのおかげで辛い思いをしたんよ。」
私は何も言わずに中澤さんの話に耳を傾けた。
彼女は背中に彫られてる刺青をチラッと見て、話を続けた。
- 291 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)01時00分36秒
- 「見て分かると思うけど、ウチ、極道まがいな事やってたんよ。どれだけ見事な彫り物を背負ってるかって事が自慢みたいなもんでな、何も考えないで彫ったん。・・・若かったんやな。ただ格好つけて、中途半端な生き方をしとった。
そんな時に彼女が出来たんよ。・・・あ、ウチは別にレズとかそう言うのとちゃうんやけど・・・まぁそんな事はええわ。
ウチには勿体無いくらいのええとこお嬢様で、ホンマに好きやった。ウチは彼女の為に堅気になろうとした。
そんな矢先に、ウチラの関係が彼女の両親にばれてもうたんよ。その後の話は・・・まぁ話すまでもないね。反対されれば燃え上がるのが恋ってもんやん。お決まりの如くウチラは駆け落ちした。
・・・ところが、堅気になったとはいえウチは前科持ち。まともな職を探しても見つからん。次第に真面目に働きたいって意欲は消え失せて、結局彼女が働いて、ウチはその稼ぎで食べさせてもらってたん。要するにヒモやな。いつも飲んでは愚痴ってたよ。世間の色眼鏡のせいでウチは働けないんや!って。
- 292 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)01時02分07秒
- ・・・丸一年くらいそんな生活をしてたある時、彼女が倒れたんよ。元々お嬢様だったあの子には、体力的にも精神的にも限界を超えてたんかもしれん。それをどこで知ったのか、彼女の親が乗り込んで来て彼女を連れていかれた。
・・・当たり前やんな。ウチみたいなのと一緒におったら、あの子が駄目になる。そう思て、ウチは追いかける事もせえへんかった。・・・でも、それはウチの言い訳やった。日に日にやつれていくあの子を見るのが辛かっただけ。そうさせていながらも、どうすることもできない自分が、自分に責められるのが辛かっただけ。結局自分が一番可愛かったんやな。
・・・その後はお決まりのコース。暴れて悪さして刑務所に入る、その繰り返し。」
中澤さんはそう話すと、一息つくように天を見上げた。
- 293 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)01時03分13秒
- 「・・・何がきっかけでここへ?」
それまで彼女の話を黙って聞いていた私は、初めて口を開いた。
状況も境遇も全て違うけれど、私と中澤さんは何となく似ていると思った。
だからもっと聞いてみたい。そう思ったんです。
「刑務所暮らしをしてた時、彼女が面会に来てくれたらしいんよ。」
「来てくれた・・・らしい?」
- 294 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)01時05分10秒
- 「刑務所って所はな、服役囚が入るときに誰と誰は身内だから友達だから、来たら面会許可をしてくれって書類に書いておくんよ。でもウチには身内もおらへん、面会に来てくれるような友達もおらん。やから面会は必要ないって、書類には無記入のまま刑務所に入った。・・・当然許可の無い彼女は面会させてもらえへん。でも自分は身内やってしつこく引き下がらなかったらしいわ。
やっと諦めついた彼女は、帰り間際、「いつまでも待ってますと伝えてほしい」って・・・帰ったんやって。普通はその話がウチの耳に届く事はないんよ。けど、たまたま人の良い看守がその話を知って、それをウチにこっそり教えてくれた。それを聞いて、今度こそあの子の為に頑張ってみよう、そう思った。
仮出所をしてすぐに、たまたま募集をしていたここに駄目で元々やって飛び込んだ。物分りの良い店長はウチの過去を知りながらも雇ってくれた。働いて一ヶ月。初めての給料で指輪を買って彼女を迎えに行った。
けど・・・遅かった。」
「・・・遅かったって?」
- 295 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)01時06分30秒
- 「彼女はウチが出所する一ヶ月前に、事故で亡くなったそうや。最後までウチの事を気にかけたままな・・・。涙が止まらなかった。どれだけウチはアホやったんやって・・・やっと気付いた。」
「・・・。」
「ウチは二度も大切な人をを手放した。その果てがこれや。悔やんだって悔やみきれへんよ。・・・石川、大切な人の事を、絶対に手放したらあかんで。」
「・・なんで、私にこんな話をしてくれるんですか?」
「なんでかなぁ・・・ここへ来たときのアンタの顔が昔のウチに似てたから、かな。」
「長話をし過ぎたわ」と言って、中澤さんは湯船から出て浴室から出ようとした。
ドアの前で一旦足を止め、振り向いた。
「ウチみたいな、後悔する生き方だけはしたらアカンよ。」
そう言って彼女は笑った。寂しそうな優しい笑顔が切なくも印象的でした。
- 296 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)01時07分32秒
- ・・・私も中澤さんと同じ。
自分が一番可愛いから、ひとみちゃんから逃げた。
その代償があまりにも大きいものだったと今更気付いたって・・・。
あの時、逃げずに彼女に打ち明けていたら、何かが変わってたのでしょうか?
傷付くことを恐れて姿を消した私を、ひとみちゃんは許してくれるでしょうか?
・・・今なら、まだ間に合うのでしょうか?
中澤さんの言葉が、臆病な私にほんの少しの勇気をくれた。
私は急いでお風呂からあがり、大切なあの人の元へ走り出していた。
- 297 名前:501 投稿日:2002年01月29日(火)02時37分43秒
- 第九話、キリのいいところまで更新しました。
今更姐さん登場です(w)
>280さん
自分も早く二人を巡り合わせてやりたいです。
…これが中々上手く行かなくて(^^;)
短編読んでくださってありがとうございました。
>夜叉さん
お察しの通り、あややが発端でした。
あややも吉に対する愛情からおこした事なんですけどね。
短編の方も読んでくださってありがとうございます。
どこかで…とは、デジャヴ?(w)
>282さん
一番こたえる一言ですね、あれは。
それを分かってて言う黒あやや…つーか、作者(汗)
短編も読んでくださってありがとうございました。
- 298 名前:501 投稿日:2002年01月29日(火)02時38分40秒
- >283さん
一人ぼっちになってしまった石にせめてもの救いの手を、
という訳でもありませんが、姐さんを登場させてみました(^^;)
短編見てくださってありがとうございます。
せめてこっちぐらいは甘甘にしてやらないと(w)
>よすこ大好き読者さん
涙まで…ありがとうございます(感涙)
あともう少しでラストを迎えますが、最後までよろしくです。
>名無しベーグル。さん
あうぅ〜ゆるしてくださ〜い(w)
うちのあややはこれからどういう行動をおこすのか、
全く想像がつかなくなってしまいました(汗)
DM、ありがとうございました。近々こちらもDMさせて頂きます♪
>286
ご苦労様です。
さて、とうとうストックがなくなりました。
尚且つ、仕事の方が格段に忙しくなってしまったので、
今後の更新が遅れると思いますが、必ず最後まで仕上げますので、
皆様、よろしくお願いします。
- 299 名前:夜叉 投稿日:2002年01月29日(火)17時31分18秒
- 姐さんの話、泣けてきます。
石には、是非頑張ってもらいたい、もちろん吉にも。
冷たい雨が降らぬよう、せめて優しく二人を包む雨なら…。
うちのPCにテキストで保存してありました。
どこかでうpされてた分だと思われ。
もしかして、うpしたばかりなんでしょうか???(謎
- 300 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月29日(火)20時53分21秒
- ラスト近いんですか……いい感じに盛り上がってますね
期待期待
- 301 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)22時05分40秒
- 寮を出たときには、もう辺りは暗くなっていました。
私は寒さも気にせず、薄着のままでひとみちゃんのアパートへと駆け出した。
突然姿を消したことを謝らなくちゃ。それから・・・。
それから、何を言えばいいんだろう。
『ひとみちゃんが好き』と告白するの?
私の気持ちに気付かれて、嫌悪感を抱かれるのを恐れていたと打ち明けるの?
そんなの無理、言えっこない。
・・・それなら、何で私は引き返そうとしないの?
心の中で自問自答を繰り返しながらも引き返すことが出来ないのは、中澤さんの言葉が胸に引っかかっているから。
ここで逃げたら、私は一生同じ事を繰り返すはず。
告白することは出来なくても、会って何かを話せばきっと何かが変わる。
・・・そう信じたい。
- 302 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)22時06分54秒
- 息も切れ切れに走って行くと、住み慣れていた街並みが見えてきた。
まだ一ヶ月も経っていないと言うのに、私は無性に懐かしく感じました。
あの角を曲がってまっすぐ走ればひとみちゃんのアパートが見えてくる。
・・・何を話せばいいの?
・・・これで本当にいいの?
答えを見出せないまま、ここまで来てしまったけれど。
ひとみちゃんに近付くにつれ、心臓が締め付けられそうになって痛い。
大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせながら、とうとう彼女のアパートの前に着いた。
来ちゃった。
・・・怖い、会うのが怖い。
でも、ひとみちゃんに会いたい。
楽しく過ごしていたあの頃に戻りたい。
私は長い時間ドアの前に立っていた。
気持ちとはよそに、いまだに目の前のドアをノックするのを躊躇っている、臆病な自分がいます。
その時、ドアの向こうで微かに話し声が聞こえました。
私はつい思わず、慌ててアパートの陰に隠れてしまった。
- 303 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)22時08分32秒
- ここまで来ておいて、まだ勇気が足りないと言うの・・・?
自分がこんなにも臆病である事に初めて気付きました。それが少しだけ可笑しかった。
私は思わず陰から覗きました。
出てきたのはその部屋の主ではなく・・・男の人でした。
背はあまり高くはないけれど、中世的な顔立ちで、真面目そうで優しそうで・・・。
その彼がふとこちらに振り向いたので、私は慌てて身を隠しました。
気付かれてしまうのでは?と思うほど、私の中で心臓の音がドクンドクンと鳴り響いていました。
恐る恐る覗いてみると、ひとみちゃんは彼と歩いていました。
これからバイトなのでしょうか。それとも二人でどこかへ出かけるのかな・・・。
彼は、自分よりほんの少し背の高いひとみちゃんの頭を、ポンポンと優しく叩いて歩いていました。
それが凄く自然で、とても絵になっていて・・・見ていて胸が苦しい。息が出来ないほど、痛いほど締め付けられる。
- 304 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月29日(火)22時09分38秒
- 中澤さんのお話、ネガになってる石川さんにとっても効果的なものに…
石川さんの小さな勇気…吉澤さんの大きな元気に…。
- 305 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)22時09分42秒
- 「・・・ひと・・・み・・ちゃ・・ん。」
告白する勇気もなく逃げ出した私でしたけど、彼女の横を歩いていけるのではないかと、心のどこかで期待していました。
でも、そんな期待は淡い夢でしかなく、今目の前にあるのが現実。
・・・考えてなかった訳ではありません。寧ろ容易に想像出来た事でした。
心地よいあの場所が・・・いつか誰かのものになる事を。
ひとみちゃんの傍にはいられない。・・・気付くのが遅すぎたんです。
私は通りに出て、ひとみちゃんの後ろ姿が見えなくなるまで見つめていようと思った。
涙で視界が滲んでいたけれど、それでも見続けようと。
これがきっと、最後だと思うから・・・。
- 306 名前:第九話 〜小さな勇気〜 投稿日:2002年01月29日(火)22時11分28秒
- 私は涙を拭う事もせず、その場に立ち尽くしていると、突然後ろから懐かしい声をかけられました。
「いしかわ・・・?」
振り向いた先には、驚いた面持ちの圭ちゃんが立っていた。
何故、そうしたのか分かりません。
気がつけば、私は圭ちゃんの横を走り去っていました。
大きな声で「石川待って!!!」と呼ばれていたのは気付いてたけど、それでも、私は無我夢中で走っていました。
圭ちゃんの声に気付いたひとみちゃんが・・・戻ってきた事にも気付かずに。
- 307 名前:501 投稿日:2002年01月29日(火)22時22分23秒
- 第九話、全て更新しました。
折角ポジティブな気持ちに向かわせていたのに何をしでかすんだ、自分(汗)
>夜叉さん
姐さんをホンマモンの姐さんに仕立て上げてしまいました(w)
名前は出してませんが、一応姐さんの相手もちゃんと決まってたり。
短編、あれは元々別CP(別ジャンル)で書いたものを1444に手直しして、
エロを書き加えたものなので、1444としては未発表作なのですが…う〜ん??
>300さん
盛り下げるような展開で…すみません(T-T;)
>304さん
小さな勇気が幸か不幸か、ネガティブにまた逆戻りさせるきっかけを
作ってしまいました(汗)
とにかく吉にがんがれ!と(ある意味他力本願な作者です/苦笑)
- 308 名前:kennji 投稿日:2002年01月30日(水)00時37分09秒
- よませていただきました。何か哀しいですね。この2人、、、。これからも応援してます
- 309 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月30日(水)04時19分49秒
- またワン・クッション?
どうなるのか
- 310 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年01月30日(水)11時56分51秒
- 姐さんの、刺青・・・過去・・・
切ない。切ないっす。
相手は・・・・。や○○ちゃんですか?
違ったらごめんなさい。
これからの展開が楽しみなのに、何故か
心が痛くて、切なくて・・・。
まだ、終わって欲しくないです。
スレ汚しで、ごめんなさい。(;л;)
- 311 名前:名無しなんです 投稿日:2002年01月30日(水)19時46分17秒
- 梨華ちゃん…そんな悪い方にばっかり考えちゃ…
幸せになれるといいな
- 312 名前:夜叉 投稿日:2002年01月30日(水)20時20分26秒
- あまりにも切なすぎる…。
吉のことも気になりますが、石の方が重傷。
続きが気になりすぎです、作者様。
ふと感じたこと。
この話に曲をつけるなら、娘。でなく大変申し訳。
Skoop On Somebodyの「if」という曲がかなりはまりまする。
申し訳。
- 313 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月30日(水)21時37分30秒
- あぁ…せっかくの勇気がこんな事に…
最後だなんて…
もうあとは、吉澤さんにホントがんばってもらうしかないですなこりゃ。
- 314 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月10日(日)23時29分18秒
- ・
・
・
アパート前の細い路地から商店街通りに出たとき、亜弥ちゃんとすれ違った。
彼女は一生懸命呼んでいたみたいだけど、アタシはそれに気付くことなく、無我夢中で走っていた。
梨華ちゃんの居所が分かるかもしれない―――。
単純なその嬉しさと、真実を知り得る恐怖感の狭間で揺れ動いてはいたけれど、アタシの心はもう決まっていた。
―――彼女にアタシの全てを打ち明けよう。
―――ずっとアナタを見つめてました。
―――初めて会ったときから好きでした、と。
アタシの告白は彼女を困らせるだけかもしれない。
もしかしたら・・・彼女は嫌悪感を抱くかもしれない。
・・・それでも良いと思う。
誰もが傷つかずにすむ恋愛なんてないと思った。
ましてや、アタシのような同性愛者なら、当然のようにリスクは付きまとう。
たとえその告白が、アタシ自身や最愛の人を傷つける事になったとしても、きっとその後に光が見えてくるはず。
今はそう思うしかなかった。
- 315 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月10日(日)23時31分28秒
- 慶應の大学通りを抜けて薄暗い細いこの道を過ぎれば、彼女のアパートが見えてくる。
ドクンドクンと鼓動が早くなるのは、走っているからだけではない。
古ぼけた彼女のアパートに着いて真っ先に目に付いたのは、『入居者募集』の張り紙だった。
心の奥底深くで、まだ現実を信じられない自分がいたけれど、これが現実。
梨華ちゃんは・・もうここにはいないんだよね・・・。
アタシはそもすればネガティブに陥りそうになる自分を叱咤し、頬を一発叩いて、張り紙に書かれてある不動産屋の電話番号を携帯に打ち込んだ。
- 316 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月10日(日)23時32分56秒
- 『ありがとうございます、寺田不動産です。』
「・・・あ、あの、アタ・・私、石川梨華の姉なんですが、・・・妹が突然引越ししてしまって・・どこにいるのか分からなくて、心配してるんです。」
『ええと、どちらの石川様の事でしょうか?』
「・・あ、ええと、港区のダイヤハイツ205号室にいた石川梨華です。」
『あー、はいはい、石川様ですね。あの、こちらも詳しくは聞いておりませんが、職場の寮に移るからと言うお話でしたが。』
「え・・・?あの、本屋には寮なんて・・。」
『パチンコ店に働く事が決まったと仰ってましたよ。』
「パチンコ・・・。あの、それ、どこのパチンコ屋かは・・?」
『すいません、そこまではちょっと私にも・・。』
「・・・そうですよね。あ、お忙しいところありがとうございました。」
そう言ってアタシは電話を切った。
・・・パチンコ屋・・・突然・・?
アタシの思考回路を覗けるとするならば、梨華ちゃんに関する単語が順不同に飛び交って、それをまとめるのは到底不可能だった。
それくらいアタシは混乱していた。
- 317 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月10日(日)23時35分03秒
- 「・・・しざわさん!吉澤さん!」
大声で呼ばれてやっと気付いたアタシは、目の前で息を切らしてハアハア言っている亜弥ちゃんを見て、少し驚いた。
「亜弥ちゃん・・・どうしてここへ・・?」
「だって吉澤さんに声掛けたのに、全然気付かないで走っていくから、何かあったんじゃないかって心配になっちゃって・・・。」
「・・・そっか、ごめんね、気付かなくて。」
「ううん、気にしないで下さい。・・・こんなところでどうしたんですか?」
「あ・・・いや、ちょっと、ね。」
「あの・・・体の方はもう大丈夫ですか?」
「うん、もう大丈夫。元気だよ。」
アタシはそう返事をしたものの、梨華ちゃんのことばかり考えていた。
彼女はそんなアタシの心を見透かして、遮るかのように言う。
「あ、あの、吉澤さん暇ですか?これから私と映画でも見に行きません?」
「亜弥ちゃん、ごめん。アタシちょっと・・・。」
「・・・・吉澤さん、何か元気がないみたい・・。私じゃ吉澤さんに元気をあげることは出来ないのかな・・?」
- 318 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月10日(日)23時36分40秒
- 彼女はまだアタシの事を・・・。
そう思うと胸がチクリと痛む。
何でこんないい加減なアタシの事を、ここまで想ってくれるんだろう。
でも・・・もう、ハッキリしなくちゃいけないよね。
それが彼女のためなんだ、きっと。
「亜弥ちゃん。」
「・・・何ですか?」
彼女はアタシの真剣な面持ちに、少し驚いたような、複雑な表情を浮かべた。
「アタシは、亜弥ちゃんの気持ちに応えることは出来ない。アタシは・・・アタシは、石川梨華が好きなんだ。・・・ずっと隠しててごめんね。亜弥ちゃんには申し訳ないことをしたし・・謝って許してもらおうなんて思ってないけど・・・本当にごめん。」
「・・・なんで・・・。私は何がいけないんですか?私も石川さんも同じ女である事に変わりないのに・・・。」
亜弥ちゃんは小さな掠れた声で言った。
心なしか体が震えているように見えた。
「・・・亜弥ちゃんのこと好きだよ。でも、それは恋愛感情じゃないんだ。体のいい逃げ文句って思うだろうけど、亜弥ちゃんはアタシにとっては可愛い妹なんだ。」
「・・・・なんで?なんで、いなくなった人のことをいつまでも・・」
- 319 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月10日(日)23時39分02秒
- ―――――!?
「・・・どうして、梨華ちゃんがいなくなった事を知ってるの?」
「・・・・・!!」
目が泳いでいる。彼女は明らかに動揺の色を見せていた。
・・・何か知っている。
確かなものは何一つないけれど、アタシは直感的にそう思った。
「何か知ってる・・の?」
「・・・・・。」
彼女は答えない。
俯いて、アスファルトから突き出て生えている雑草を見つめていた。
「亜弥ちゃん!!」
アタシは次第に怒気を含んだ声で彼女の名前を呼んでいた。
彼女の体がビクッと震えたのを見て、少し言葉を和らげる。
決して彼女を責めているつもりはない。
ただ、少しでも、梨華ちゃんの行方の手がかりになる話が聞きたかった。
「ごめん、大声出しちゃって・・・亜弥ちゃん・・・知ってる事があったら・・梨華ちゃんのことで何か知ってるんだったら・・・お願いだから・・・。」
アタシは呪文のように呟いていた。
おそらく、アタシの顔は情けない表情だったと思う。もう、形振り構わなかった。
梨華ちゃんの居場所さえ分かれば、それで良かった。
- 320 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月10日(日)23時41分32秒
- 「・・の人が・・・。」
「・・・・・?」
「あの人が悪いんだから!!私はこんなに吉澤さんの事ばかり考えて、いつも・・・ずっと見つめてきたのに!!私のこと見ようともしてくれないっ!!・・・なのに、後から現れたあの人が・・・あっさり吉澤さんの気持ちをさらっていくんだもん!!!」
私のほうがずっとずっと好きなのに・・・、と亜弥ちゃんは大きな瞳からポロポロと涙を零しながら話した。
「ずっと吉澤さんのこと見てたんだもん・・・吉澤さんがあの人に惹かれてることぐらいすぐ分かったもん・・・。」
「亜弥ちゃん・・・。」
「・・・だからっ・・・だから、吉澤さんの前からいなくなってって頼んだのに!!それでも吉澤さんの心からは消えてってくれない!!」
混乱に陥りそうな頭の中で、アタシは必死で彼女の言葉一つ一つを整理した。
いなくなってって・・・頼んだ・・・亜弥ちゃん・・・が?
でも・・・どうして・・・梨華ちゃん・・・そんな無茶苦茶な話を・・・?
- 321 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月10日(日)23時43分39秒
- 「亜弥ちゃん・・・梨華ちゃんに何言ったの!?」
「・・・・・。」
「亜弥ちゃん!!」
「・・・あの人・・自分がレズだってこと・・吉澤さんに隠したがってたから・・・だから吉澤さんに・・・ばらすって・・・。」
地面が揺れているかのように目眩がした。
誰もが皆、何らかの悩みを抱え、そしてそれを隠して生きている。
それが、他人にとってはちっぽけでどうでもいい事であったとしても。
アタシも・・梨華ちゃんも、他人に気付かれないように生きてきた同性愛者。
誰もが受け入れてくれる世の中であれば、誰もそれを悩み隠さない。
なんて・・・なんて酷い事を・・・。
- 322 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月10日(日)23時45分33秒
- ―――パシッ―――
アタシは亜弥ちゃんの左頬を思い切り叩いた。
彼女は一瞬何が起こったのか分からない様子だった。
そして、アタシに叩かれた事にやっと気付くと、うっすらと赤く染まる左頬を恐々と押さえた。
頬に一筋の雫がこぼれる・・・アタシは泣いていた。
そして、何も言わずに彼女を抱きしめた。
「よ・・しざわ・・さ」
亜弥ちゃんはアタシの涙と突然の抱擁に戸惑いを隠せないでいる。
・・・全部アタシのせいなんだ。
亜弥ちゃんを利用してしまった事。
亜弥ちゃんにはっきりと自分の気持ちを伝えなかった事。
自分が傷つくことばかり恐れていた。
優しさと臆病な心を履き違えていた。
・・・それが彼女を狂わせた。
・・・誰が彼女を責める事が出来ると言うんだろう?
- 323 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月10日(日)23時47分08秒
- 「亜弥ちゃん・・・痛かった?」
「・・・・。」
無言で頷く彼女。
「だよね・・でも、叩いた事に関しては謝らないからね。その痛みは・・・梨華ちゃんの痛みだから。」
アタシは多くを語るつもりはなかった。
この手で彼女を叩いたこと・・・それを暴力だとは思っていない。
梨華ちゃんの苦しみに気付いて欲しい、ただそれだけ。
そう願うのは、アタシのエゴなんだろうか?
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
二人の間に沈黙が流れる。
それを先に破ったのは亜弥ちゃんだった。
「・・・しざわさん・・・ごめん、なさい・・ごめんなさい・・・。お願いだから・・・嫌わないで・・・。」
亜弥ちゃんはしゃくり上げて、まるで子供のように「ごめんなさい」と繰り返す。
アタシは子供をあやすように、彼女の頭をポンポンと叩いた。
- 324 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月10日(日)23時48分32秒
- 「・・・アタシこそ・・ごめんね。」
優しい振りをして傷つけた事。
亜弥ちゃんの気持ちを踏みにじった事。
色々・・・ごめん。
梨華ちゃんは、きっと一人で辛い思いをしているに違いない。
誰にも話せない、深い悩みに一人傷付いているに違いない。
必ず、梨華ちゃんを探してみせる。
アタシは、泣きじゃくる亜弥ちゃんをあやしながら、梨華ちゃんを想って天を仰いだ。
- 325 名前:501 投稿日:2002年02月11日(月)00時08分20秒
- サザエ様、Seekの復活、おめでとうございます!&ありがとうございます!
最終話、4分の1更新しました。
やっと問題の一つがクリアで一歩前進。
>kennjiさん
ありがとうございます。
まだ大きい問題がありますが、今の吉なら頑張ってくれる事でしょう(吉任せな作者)
>309さん
んー、この後にもうワン・クッションあるかも…?(w)
>よすこ大好き読者さん
姐さんの哀しい想い出話は自分もちょっと涙が。
ちなみにお相手はな○ちです。(^^;)ゞ
あともう少しですが、お付き合いよろしくです。
>名無しなんですさん
作者も彼女達を幸せにしてあげたいです。
…この後どうなるんだろ(汗)
>夜叉さん
Skoop On Somebodyは自分もCD持ってますよ♪
確かに要所要所の辛いシーンにこの歌はあいますね。
ラストは前向きな明るい歌が当てはまるようにしたいっす。
>313さん
吉に光が灯ってしっかと決意してくれたので、多分大丈夫でしょう(w)
前レス、気にしないで下さいね。(^^)
- 326 名前:名無しベーグル。 投稿日:2002年02月11日(月)00時57分21秒
- 切ない…。
でも、あやゃも基本的には悪い子でなくて良かったです。
- 327 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月11日(月)04時30分02秒
- 久々に読めて良かったー
最終話の残りも期待
- 328 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月11日(月)13時08分25秒
- もうただただ涙がどまりまぜん(T▽T)
>誰もが皆、何らかの悩みを抱え、そしてそれを隠して生きている。
この文。すごく心にぐっときました・・・もう涙が止まら(T▽T)(略
続きが気になりまくりです。
- 329 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 330 名前:夜叉 投稿日:2002年02月11日(月)18時35分46秒
- く〜、続きが気になりますぅ。残り、4分の3がどうなるのか…。
SOS、聞いてらっしゃるんですね。そしたら話が早い(爆)。
そうですね、最後は明るい歌が当てはまるようになれば、と祈ってみたり。
「etemal snow」とか。
>TONBAさん。
間違って投稿したと思われ。
是非、削除依頼を出していただければ、と思うのですが。
- 331 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月11日(月)21時26分12秒
- もう吉澤さんに迷いはなくなりましたねぇ。
うまくまとまるのでしょうか…
ぁゃゃも…がんばれ…。
- 332 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月14日(木)17時33分26秒
- 『はい、パーラーキングです。』
「あの・・そちらに石川梨華って店員は働いてませんか?」
『当店にはそう言った名の従業員はおりませんが。』
「あ、そうですか・・・お忙しいところすみませんでした・・・。」
そう言ってアタシは携帯の終話ボタンを押した。
落胆の表情を浮かべているアタシに、申し訳なさそうな声でごっちんが聞いてきた。
「・・・いないって?」
アタシは無言で首だけを縦に振り、溜息を一つつく。
「こっちもダメだー。」
そう言って、携帯をブン投げ、両手を挙げてお手上げのポーズをしているのは、ごっちんの彼氏の市井さん。
ごっちんと市井さんは、「力になれることがあれば」と、バイトや学校の休みを割いては、梨華ちゃん探しの手伝いをしてくれていた。
- 333 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月14日(木)17時35分26秒
- 梨華ちゃんのことを打ち明けてからは、色々とごっちんに相談に乗ってもらっていた。
ある日突然「いちーちゃんによっすぃーの話をしても良い?」と聞かれた時には、少々面食らったけれど。
それは、自分よりも経験豊富な市井さんのほうが、良いアドバイスをしてくれるのではないかと言う、彼女なりの気遣いであることも分かったので、アタシは首を縦に振った。
別に誰彼構わずカミングアウトをするつもりはない。
市井さんはごっちんの、アタシの最も信頼している友達の彼だから、だから話しても大丈夫だと思っただけ。
「・・・渋谷区のパチンコ屋は全部アウトかぁ。」
「って言うか、都内にパチンコ屋多すぎーーーっ!!」
ごっちんも、抱えていた電話帳を床にバサッと投げ置いた。
「・・二人ともごめんね。あとはアタシ一人でやるから大丈夫だよ。」
「なーに言ってんだよ。いちーは最後までとことん付き合うぞ。」
「そーだよ、よっすぃー。」
「ありがとう、市井さん、ごっちん・・。」
アタシは二人の優しさに、目が潤みそうになった。
- 334 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月14日(木)17時37分36秒
- 「マジで石川さんってどこに行っちゃったんだろうなぁ。」
「そうなんですよねぇ・・・。」
元々梨華ちゃんの行動範囲と交際範囲は、ごく限られたものしかなかったはず。
誰かに紹介されてパチンコ屋に入ったとは考え辛い。自分で探した職場であるならば、そんなに遠い場所ではないような気がする。
「ま、とにかく、港区近辺から地道に探していこうぜ。」
「はい。」
「あーーーーっ!!!バイトの時間、すっかり忘れてた!」
突然ごっちんが大声で言ったので、アタシも市井さんもかなりビックリした。
- 335 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月14日(木)17時38分47秒
- 「そっか、ごっちん今日はアタシより早出だったんだよね。ごめん、アタシもすっかり忘れてた!」
「ごめーん、ごとーバイト行くね!―――あ、いちーちゃん、よっすぃーと二人っきりだからって浮気しちゃダメだからね!」
「何言ってんだよ!いちーがそんなことする訳ないだろ!」
「アハッ、ウソウソ。信じてるって。じゃあ、よっすぃー、また後でね!」
そう言うと、ごっちんは風のようにアパートを出て行った。
「・・・はぁ。なんでアイツはああも落ち着きがないかなー。」
「市井さんはそんなごっちんの事が可愛くて仕方ないくせに。」
「吉澤も言うようになったねー・・・って、そんなことより、探さなくちゃだめだろ!」
市井さんは少しだけ顔を赤くして、電話帳片手にまた電話を掛け出した。
- 336 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月14日(木)17時40分31秒
- ―――結局、港区と渋谷区内のパチンコ屋には、梨華ちゃんはいなかった。
アタシも市井さんもバイトの時間なので、梨華ちゃん探しはまた明日と言う事になった。
「吉澤、先に出てるぞー。」
「はーい。」
アタシはストーブやガスコンロの確認をして部屋を出た。
表はもう暗くなって、空には星が見えている。
梨華ちゃんはどこでこの星を見てるのかな・・・。
彼女の行方が全く掴めないまま、三週間経っている。
このまま見つからないんじゃないかと、アタシはまたネガティブになりそうになる。
- 337 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月14日(木)17時41分37秒
- アタシの表情が暗くなった事を敏感に察知したのか、市井さんはアタシの頭をポンポンと叩いて、「大丈夫。」と笑って言ってくれた。
例えそれが根拠のないものでも、今のアタシにはとてもありがたい言葉だった。
「ごっちんは幸せですね、こんなに優しい彼がいて。」
「な、なんだよ、突然。」
市井さんは照れたように言う。
ちょっと慌てた姿が可笑しくて、アタシは笑ってしまった。
「笑うなよー。―――あ、じゃ、いちーはここで。」
「今日は本当にありがとうございました。」
「良いよ、気にすんなよ。ごとーには後で電話するって言っといて。」
「はい、分かりま―――」
アタシがそう言い掛けたその時だった。
- 338 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月14日(木)17時43分44秒
- 「石川待って!!!」
必死で呼び止める女性の声が、この一帯に響き渡るように聞こえた。
イシカワマッテ・・・イシカワ、マッテ・・・イシカワ・・・!?
アタシはその言葉に反応して、声のした方向へ体を向けた。
アタシのアパートの前にいるのは・・・保田さん?
その先にいる、逃げるように走り去っていくあの後姿は―――。
「梨華ちゃんっ!!!」
狂おしいほど愛しくて、会いたくて会いたくて仕方なかった彼女の姿を、例え後姿だとはいえ、見間違えるはずもなかった。
なのに、彼女はまた自分の前からいなくなろうとしている。
アタシは、反射的に彼女を追いかけていた。
細い路地を抜けて坂道を駆け下りると、国道1号線に出る。彼女は五反田に向かって走っていった。
- 339 名前:最終話 投稿日:2002年02月14日(木)17時45分22秒
- 「梨華ちゃん、待って!!!お願いだから、アタシの前からいなくならないで!!!」
アタシは彼女との距離を縮めようと、そう叫びながら必死で走った。
・・・けれど、運が悪かった。
彼女が横断歩道を渡り切ると同時に、無情にも信号は赤色に変わった。
アタシは信号など無視して渡ってしまおうと、無謀にも道路へ飛び出ようとしたが、タクシーやダンプに阻まれてしまう。
けたたましいクラクションを浴びせられ、アタシは已む無く足を止めた。
「なんでこんなにタイミングが悪いんだよっ!!」
梨華ちゃんとアタシの距離はもっともっと離れていく。
「梨華ちゃ―――――ん!!!」
かなり距離が離れてしまった彼女に叫んだ。
だが、夜とは言え、車の通りが激しい1号線。
アタシの願いは虚しく、騒音にかき消されてしまい、彼女には届かなかった。
- 340 名前:501 投稿日:2002年02月14日(木)18時01分53秒
- 最終話、4分の2をうpしました。
今回は第九話のラスト部分の補足的シーンです。
>名無しベーグル。さん
実はこのシーンを書くのが一番大変だったんです。
憎まれ役の彼女にどう救いの手を差し伸べるかが悩みました(^^;)
あやゃ、今までごめんね(w)
>327さん
ありがとうございます。
あと2回か3回の更新で終わりだと思うので、最後までよろしくです。
>328さん
あの一文はある意味このお話の中で重要な一文だと思っていたので、
とても嬉しいです。最後までよろしくです(^^)
>夜叉さん
「etemalsnow」も良いですねー。(^^)
しかし、最後はどうなるんでしょうねぇ。
途中経過が切なく盛り上がってただけに、
最後はあっけないものになるかもしれないす(w)
>331さん
またワンクッション置いてしまいました(^^;)
纏まるんだか自分でも心配になってきました(w)
- 341 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年02月14日(木)21時02分21秒
- 更新されてる!!よかったー
But.また、りかちゃんが・・・・・。
最後まで、気になって眠れません・・・・。
あと、4分の2がんばってください!
- 342 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月15日(金)10時07分49秒
- いよいよ終局に近付いてきたって感じ。残りを正座して待っております…
- 343 名前:夜叉 投稿日:2002年02月15日(金)14時04分29秒
- うがぁ…、吉の指の間を流れ落ちていく砂のような石。
心落ち着かせ、続きをお待ちしております。
- 344 名前:名無しベーグル。 投稿日:2002年02月15日(金)19時33分25秒
- なんてタイミングの悪い2人なんだろう(泣)。
そして、スレッドサイズも…。あぁ大丈夫でしょうか?
- 345 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月15日(金)23時01分46秒
- 縮まらない距離…悲しいよう…。
さてラストまでにどんな展開があるのでしょうか。
- 346 名前:kennji 投稿日:2002年02月16日(土)01時31分50秒
- 最後が気になるッス。亜弥ちゃんとのやり取りはかなりリアルですね。最後はどうなるのか楽しみにしてます。
- 347 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月16日(土)21時34分16秒
- ―――私は、無我夢中で走っていました。
零れる涙を拭わずに走り続けていました。
気がつけば、パチンコ屋に程近い、児童公園の前まで走って来ていた。
心臓が破裂しそうなほどの息苦しさを感じた私は、公園のベンチに倒れこむように座った。
「ハァッ・・ハァッ・・・ハァハァ・・ハァ・・・スン・・・ヒック・・ひ・・とみ・・ちゃ・・・。ひとみちゃ・・・ん・・。」
呼吸が整わないまま、嗚咽をあげて泣いた。拭いても拭いても涙が零れる。
身体的な息苦しさと心の苦しさが、私の胸を締め付けていた。
彼女を愛したかった。
彼女を抱きしめたかった。
彼女に愛されたかった。
彼女に抱きしめてほしかった。
けれど、私の願いはすべて絵空事。
・・・きっと、あの人が・・・ひとみちゃんの・・・好きな人。
- 348 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月16日(土)21時35分15秒
- 中澤さんの言葉に助けられて、ひとみちゃんに会おうとやっと勇気を持てたはずなのに。
私の小さな勇気は、切ない現実に打ち砕かれて。
・・・友達のままで良いなんて、物分りの良い自分を演じてきたけれど。
彼女の幸せを祝福できるほど大人じゃなかった私は、逃げる術しか知らなかったんです。
「ひとみちゃん・・・。」
ずるいよ・・・いつの間にか私の心を占拠しておいて。
アナタの中に私はいないなんて・・・寂しいよ・・・。
・・・それが私の身勝手な想いである事は分かっていたけど。
星が降ってきそうな綺麗な寒空の下で、私は彼女を思って泣いた。
- 349 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月16日(土)21時36分57秒
- ・・・どれくらい、その場にいたでしょうか。
冷たい闇に包まれて、体中が冷え切っていた。
けれど、まるで歩き方を忘れてしまったかのように、私はその場から動く事が出来ないでいた。
そこに突然、頭の上から優しげな関西弁を掛けられた。
「アンタ、ここでなにしてんの?」
「なんでもないです・・・。」
私は、おそらく涙でぐちゃぐちゃであろう顔を見られたくなくて、俯いたまま、そう答えた。
「・・・ふーん、そうかぁ。・・・あ、ウチな、寝つかれへんから酒買うてきてん。一人で飲むん寂しいから石川付き合って。」
中澤さんは「さすがに寒いな〜」と言いながら、私の横にスッと座って、コンビニ袋の中から、500mlの日本酒の瓶を取り出した。
「コップないからラッパ飲みやけどええよな?」
彼女はそう言うと、キャップを徐に開けて、一口、二口とお酒を飲んだ。
そしてそれを私に「ん。」と渡す。
- 350 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月16日(土)21時38分32秒
- 「・・・。」
「なんや、ウチの酒は飲めへんか?・・・ってもう酔っ払っとるオッサンみたいやな。」
中澤さんはそう言ってアハハと笑う。
彼女が私のことを気遣ってくれているのがよく分かる。
だから、私は必死でその場を繕うとした。
笑ってみせなきゃ・・・笑顔で答えなきゃ・・・
そう思えば思うほど、上手くいかなくて。
けれど、中澤さんはそんな私の心を見透かしたかのように、
「石川、無理する事ないよ。」
そう一言だけいって、私に自分のコートを半分掛けてくれました。
・・・・・駄目ですよ・・・そんなに優しくしないで下さい・・。
必死で涙をこらえようとしているのに・・・もう駄目・・・。
- 351 名前:最終話 〜向日葵のように〜 投稿日:2002年02月16日(土)21時46分57秒
- ポタッ、ポタッと、手渡された瓶に雫が落ちた。
視界がぼやけて、瓶の文字さえ読めない。
「・・・うっ・・・・すんっ・・・・・たし・・・大事な・・・とても大事な・・・宝物を・・・・無くしたんです・・・。」
「・・・・・そうかー。」
中澤さんはただ何も言わず、私の肩を抱いてくれた。
私はそれに甘えて、彼女の肩口に顔を埋めて泣いた。
中澤さんの手が、そっと私の頭を撫でた。
優しく包まれた中澤さんのその香りは、お母さんの香りに似ている気がして、少しだけ心が落ち着きました。
こんなにも愛しいあの人を忘れる日は来るのでしょうか?
いつかこの想いが風化する日は来るのでしょうか・・・?
それでも、諦めなくちゃいけない―――。
先の見えない未来に目眩を覚えながら、私は悲しい決意を胸に秘めた。
- 352 名前:501 投稿日:2002年02月16日(土)22時20分18秒
- ほんの少しですが、更新です。
石川さんが勘違いしなければ、スムーズに行く話なのですが…(苦笑)
>よすこ大好き読者さん
ありがとうございます♪
相変わらず哀しい展開ですみません(^^;)ゞ
残りわずかですが、よろしくお願いします。
>342さん
はい、ホントにホントにラストです。
ぜひ二人を見守ってやってくださいまし。
>夜叉さん
>うがぁ…、吉の指の間を流れ落ちていく砂のような石。
上手い!全く持ってその通りです!
ラスト1、2回ですが、最後までお付き合いください。
- 353 名前:501 投稿日:2002年02月16日(土)22時32分26秒
- >名無しベーグル。さん
ホントに哀しいくらいタイミングが悪いっす。
(って、自分がそうさせてるんですが/w)
スレッドサイズも、ギリギリで大丈夫かなぁって
思ってたんですが、甘かったです(涙)
>345さん
ラストは穏やかな展開になるとは思うのですが…。
あとは吉の頑張りに期待しましょう(ある意味他力本願)
>kennjiさん
きっと吉が頑張ってくれる…はず…です(w)
最後までよろしくお願いします。
さてさて、スレッドサイズが目一杯になりつつあるので、
お引越し致します。新しいスレッドは、同じ緑板でこちらになります。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=green&thp=1013865060
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