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かなづちキンギョ2〜そして僕らの毎日〜
- 1 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月03日(木)03時51分42秒
- 同板で連載していた『かなづちキンギョ』の続編です。
詳しくはそちらを読んでいただければわかりますが、
面倒だと言う方に。
石川━━━━恋人━━━吉澤━━友人━━安倍
┗━幼馴染み━後藤━友人┻━━友人━━┛
- 2 名前:1.石川梨華 投稿日:2002年01月03日(木)03時53分01秒
- ごめんなさい!
お母さんごめんなさい!
もうお外に出ません!
お父さんごめんなさい!
もう出ないから、お母さんを返して!
ごめんなさい!
ごめんなさい。
ごめんなさい…。
- 3 名前:1.石川梨華 投稿日:2002年01月03日(木)03時53分32秒
- 目を開けると外で雨がざーざーと音をたてて
地面に打ち付けられているのが聞こえた。
パジャマがぐっしょりと濡れていて、気持ち悪くてベッドから離れた。
「嫌だな、もう」
私は出てくる涙を袖で拭って、台所に向かった。
真っ暗で、人の気配のしないその場所は
自分の家とは思えないぐらいよそよそしく感じる。
ミルクを暖めてリビングのソファに座って飲むと
体の奥からじわっとあたためられて涙が止まらなくなる。
こんな時にはいつもお隣の真希ちゃんの所に逃げ込んでいたけれど、
半年前からはそんな事も出来なくなった。
外の雨は、どんどん激しさを増してきていた。
私はミルクが入っていたマグカップを流しに置いて、寝室に戻った。
広い、広い、この家には私しかいないのが
こんな夜には必ず重く肩の上にのしかかってきた。
「お母さん…」
母には届かないその呼び掛けを、私はどうしてもしないでいる事が出来なかった。
- 4 名前:1.石川梨華 投稿日:2002年01月03日(木)03時54分07秒
- 朝は容赦なく誰にも訪れると誰かが言っていたけれど、
それに例外はなく、私にも訪れた。
「痛い…」
腫れた瞼をしばしばさせながら、リビングへの扉を開けた。
私の細くした目の中に飛び込んできたのは、
人のいない筈のリビングのソファで寛ぐ人の姿だった。
「きゃっ」
「…きゃって梨華ちゃん。何言ってんの?」
真希ちゃんの家には、私の家の鍵が置いてある。
それは、私がこの家に一人で暮らす事になった時に
真希ちゃんのお母さんが決めた事だった。
毎朝、その鍵で真希ちゃんは朝御飯を食べにやってくる。
それは5年間、変わらない朝の風景だった。
「まだ、来てないと思ったから」
「真希はいつもこの時間には来てるよ?」
「そう、ね」
笑って言った筈なのに、真希ちゃんの顔が曇った。
「また夢見たの?来れば良かったのに」
首を横に振って紅茶を煎れる準備をはじめると、
真希ちゃんは明るく言った。
「そんな事はもう出来ないか」
「そうじゃないわっ」
「責めてるんじゃないよ」
どう言っても真希ちゃんは聞いてはくれない。
半年前には、もう戻れないから。
- 5 名前:1.石川梨華 投稿日:2002年01月03日(木)03時54分47秒
- 雨は夜の内に止んでしまっていたらしく、
外には朝日と鳥の鳴き声で一杯だった。
ひとみちゃんが、冬が好きだと言った理由を思い出した。
『空気が澄んでると、声が遠くまで届くから』
本当なのかどうなのか、ひとみちゃんはたまにお家の窓から
私を呼んでいるらしい。
窓から外を眺めてこっそり笑うと、真希ちゃんが覗き込んできた。
「何かあった?」
「んーん。鳥がいるだけ」
「あれ?可愛いじゃん」
真希ちゃんは、変わらない。
昔から、一つ上の私がしっかりしなきゃいけないのに、
真希ちゃんにいつも守ってもらってきた。
あの時も、ずっと傍にいてくれた。
「どしたの?」
思い出すだけで、泣きそうになる悲しい思い出は、
どんなに時が経っても石川家と後藤家の秘密だった。
- 6 名前:1.石川梨華 投稿日:2002年01月03日(木)03時55分18秒
- 「…謝っても、帰ってこないの…」
腫れた瞼が涙でひりひりとした。
それが更に涙を増殖するきっかけとなって、
私は声をあげて泣きじゃくった。
「やっぱ、来れば良かったんだよ」
涙を流す私を真希ちゃんはしっかりと抱きとめた。
もう甘えちゃいけないと、中学校入学の時に決意した時も
一日で破られたのを思い出した。
「学校、遅れちゃうから早く食べよ」
何時だって、真希ちゃんは優しかった。
だから、気付かなかった。
真希ちゃんが苦しんでいたなんて事に。
真希ちゃんは、自分から苦しいとは言わないなんて、
昔からの事だったのに、私はすっかりそれを忘れていた。
テーブルの上で冷たくなったオムレツとトーストが、
真希ちゃんを苦しめる私を責めていた。
- 7 名前:1.石川梨華 投稿日:2002年01月03日(木)03時55分59秒
- 学校へ行きたくないと、駄々をこねると
真希ちゃんはため息をついて外へ出て行った。
こんな時、真希ちゃんは必ず戻ってくる。
ドアがもう一度開いた時、真希ちゃんは既に私服に着替えていた。
「真希はコあったかいココアが飲みたいな」
「…真希ちゃん」
二人で暖かいココアを飲むのは、学校をさぼった時のお約束だった。
真希ちゃんは、あんな事があっても私の傍にいつもいてくれる。
小さい頃からあまりにも当然の事すぎて、それは違和感を感じさせてはくれない。
「よっすぃーが怒るよぉ?」
「……」
「あれ?よっすぃーと喧嘩したの?」
その瞬間にあまり聞きたくなかった名前を聞かされて俯いた私に、
真希ちゃんは鋭く疑問を投げかけてきた。
「別に…」
- 8 名前:1.石川梨華 投稿日:2002年01月03日(木)03時57分12秒
- ひとみちゃんは私を怒らない。だから、喧嘩にもならない。
時々、私が怒る時はあっても、ひとみちゃんが何度も謝って喧嘩には発展しない。
私とひとみちゃんの間に壁がある所為なのか、それが壁になっているのかは
判らないけれど、ひとみちゃんは言いたい事を言おうとはしない。
ため息は沢山つくのに、それも有耶無耶にされてしまう。
私は彼女の事を何一つ知らない。
ひとみちゃんの家族も、これまで何してきたかも、今何が好きかも。
そう思った時に思い知らされるのは、私も彼女に何も伝えていない事だった。
彼女は、私の家族の事も、過去に何があったかも、今どうしてここにいるかも、
何も知らない。私は彼女に、何も教えていない。
- 9 名前:1.石川梨華 投稿日:2002年01月03日(木)03時58分12秒
- 私は彼女のいろいろな事が知りたかった。
でもまだ自分の事を伝える勇気はなかった。
知りたがってばかりではいけないのは分かってはいるけれど、
私はまだ、過去の事に出来ない事を抱えていて、それが過去になるまでは
それを口に出す事すら苦痛だったから。
「別に、って顔してないよ?」
「ほんとに、なんでもないの」
「そ。じゃ、いーけどさ」
ねぇ、真希ちゃん。私はいつか許されるのかな?
そうしたら、ひとみちゃんにも言えるかな?
喉まで出かかった言葉は、胸の奥まで落ちていった。
- 10 名前:2.後藤真希 投稿日:2002年01月03日(木)03時58分46秒
- 友達の恋人を抱き締めている。
それはとても罪深い事な筈なのに、よっすぃは何故か笑って許す。
梨華ちゃんが何故、時々辛そうな顔をするか。
何故、時々外へ出られなくなるか。
何故、うちの家族全員が梨華ちゃんの家の鍵を常備しているか。
その理由を話してもいいのは梨華ちゃんだけだから、
私は黙っているしかない。
本当は、そういう風に言い訳をして、
梨華ちゃんを抱き締める権利を得ているだけだけど。
『私は狡いんだ』
半年前、よっすぃにそう言った時の本当の理由は、
彼女に私が好きな人がいるなんて言った事じゃなかった。
自分の立場を利用して、恋人になれなくても誰よりも傍にいる。
それにうすうす勘付いている筈のよっすぃは、
それでもそれが梨華ちゃんに必要ならと黙っていた。
- 11 名前:2.後藤真希 投稿日:2002年01月03日(木)04時02分58秒
- 冬は嫌いだ。
寒くて、木々も死んだ様に眠り、動物達も出てこない。
よっすぃは冬が好きだと言っていたと梨華ちゃんが嬉しそうに話していた。
その所為でもあるのかもしれない。
よっすぃは大事な大事な友達だった。
だが、彼女は私が得る事の出来ないたった一つを手に入れた。
もうこだわっていないつもりだったのに、
まだまだ私の中では凝り固まっていたみたいだった。
今も、学校が終る時間がこなければいいと心の奥で願っていた。
学校が終れば、きっとよっすぃは飛んでくる。
そして、二人に平等にお説教をすると予測できた。
『嘘は通用しませんよ!そのトランプはなんですか?
ごっちん!昨日はあんなに元気だったのにねぇ?』
そうすると梨華ちゃんはうつむいて、よっすぃはため息をつく。
私がごめんなさいと逃げる振りをしてさり気なく退室。
よっすぃはチョコミントアイスよりも甘い声で、
梨華ちゃんに何があったかを聞くけど梨華ちゃんはそれに答えない。
それでもよっすぃはそれを許して…。
きっと何一つ違う事などないのだろう。
後、一時間十五分後にはあのドアが開いてその通りの事が起きる。
それが分かっていても、私は自宅に戻る事が出来なかった。
- 12 名前:2.後藤真希 投稿日:2002年01月03日(木)04時03分45秒
- 「嘘は通用しませんよ!そのトランプはなんですか?
ごっちん!昨日はあんなに元気だったのにねぇ?」
本当に予測した通りの台詞で、よっすぃはため息をついた。
私は予定通り、謝りながら逃げていった。
玄関で靴を履いている間にリビングの方では人影が重なっていた。
この役割は重過ぎて、辛かった。
それでも役から降りるぐらいなら、死んだ方がましだった。
まだ、もう少し傍にいさせて下さい。
それを察しているからか、それとも思いが一緒だからか、
梨華ちゃんは私に役割を降りてもいいとは言わなかった。
「お姉ちゃん、安倍さん来てるよ」
「え?」
帰ってきて、ただいまを言うよりも先に聞いたその言葉に驚きながら
私は自分の部屋に戻った。
なっちは、ベッドの前に正座して湯気を放つマグカップに息をふきかけていた。
「おかえり」
「ただいま」
普段なら、私がさぼっても大体の事を察してなっちはやってこない。
「どしたの?」
「お見舞いさ。頭痛がするんしょ?」
黙ってベッドに腰掛けると、なっちはマグカップを口をつけずに
テーブルの上に置いた。
- 13 名前:2.後藤真希 投稿日:2002年01月03日(木)04時04分17秒
- なっちは、鞄の中からノートを取り出して、マグカップの横に置いていった。
「これ、今日のノート」
「ありがとぉ。明日でも良かったのに」
私がそう言うと、なっちは私の方を向いてにっこり笑って立ち上がった。
「それじゃ」
「飲んでいきなよ」
「渡しにきただけだし」
一人になりたくなかったのが本音だった。
隣で、梨華ちゃんに幸せをあげられるよっすぃを思うと、
今ここでひとりで寂しく過ごす自分が惨めだった。
「いかないでよ」
「なんでさ。まぁいいけど」
微笑むだけだったなっちが満面の笑みでそう言ってくれて、
やっといつものなっちだとホッとできた。
- 14 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月03日(木)04時06分36秒
- 更新しました。
番外編と、言いつつ収まりきらずにそのまま次作になってしまいました。
ごめんなさい。これからもう暫く宜しくお願いします。
一人称、気分をかえてみたくてこれなんですが、
意外と書き難いんですねぇ(汗)。
読み難くないといいんですが。
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月03日(木)10時48分35秒
- 続編嬉しいな。内容も文章もかなり自分好みです。
前作よりも内面描写が良く出てて、引き込まれます。
続きを楽しみにしてます。がんばってください。
- 16 名前:名無し男 投稿日:2002年01月03日(木)17時34分50秒
- 一人称モ大変ヨロシ
マタ今回モもにたーノ中ニ顔面突ッ込ンジマッタアル
イチイチ引ッコ抜クノ大変アルヨ(w
デモ面白イカラ何遍デモ自分デ突ッ込ムアル
以上、陳さんの「今日の一言」でした〜!
(陳さんて誰やねん!ホンマわけの解らんやっちゃな〜俺w)
- 17 名前:usapyon 投稿日:2002年01月03日(木)22時52分53秒
- 愛してます。この物語。とても綺麗。
- 18 名前:夜叉 投稿日:2002年01月04日(金)02時31分51秒
- 作者様、新スレおめでとうございます。
番外編と聞いていたので、新スレがたったこと、本気で喜んでます。
また、こちらでもいろいろとお世話になると思うんで、よろしくお願いします。
石の深いところの話ですね。
ごっつぁんも深く関係してるみたいで。
これからの展開、楽しみにしてます。
- 19 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月04日(金)17時00分22秒
- こちらへは初めて伺います。
冒頭の作者さんのお勧めに従い、前作から読ませていただきました。
登場人物の行動が丁寧に書き込まれていて、
寒い季節に読み始めたにもかかわらず
4人のいた夏の日が目の前に浮かんでくるような丁寧な描写に
ついつい引き込まれてしまいました。
そしていくつかの謎を抱えつつ、それらが話の展開の邪魔をせず、
ひとつの話としてしっかりと完結しているにもかかわらず、
読み終えた時にはその謎解きに繋がる話が読みたくなりました。
まだ石川と後藤とだけしか知らない謎をどのように吉澤に知らせるのか、
はたまた知らせないまま違った展開になるのか? 安倍と後藤の関係は?
この続き、とても気になります。
今後の話の成り行きを楽しみにしております。
- 20 名前:2.後藤真希 投稿日:2002年01月05日(土)01時22分11秒
- 結局、なっちはゆっくちとマグカップの紅茶を飲んだ。
「なっちはさ、さぼっててもいんだけど」
「分かってる。よっすぃーでしょ?」
「ごっちんが心配なんさ、よっすぃーは」
なっちは優しく笑った。私は、上手く笑い返せただろうか。
なっちが今日起きた事を色々話してくれている間、
私はなっちの指で遊んでいた。
それは昔からの癖で、なっちはもう驚かなかったけれど、
よっすぃに昔凄く動揺されたのを思い出した。
「ごっちん、聞いてないっしょ!」
「聞いてるよぉ」
なっちが小学生の頃に転校してきた時の事が、ついこないだみたいに思い出せた。
二度目の事件の所為で二週間も休んでいた私が見つけた少女は俯いいて、
顔がよく見えなかった。
『あのね、真希ちゃん。あの子、北海道から来たんだって!』
『べさって言ったの!!』
今思えば、無邪気な子供の言葉だったのだろう。
私達が通っている学校はおっとりした虐めとは縁遠い所だった。
でも、だからこそ、彼女が口を開いた時のクラスメート達の反応は
彼女を何より傷付けたのかもしれない。
- 21 名前:2.後藤真希 投稿日:2002年01月05日(土)01時22分52秒
- 私は思い出して、泣きそうになった。
あの時、私は最低な人間だった。
あれからもう何年も経ったけれど、今でもまだ、
なっちに謝る事があるぐらい私は後悔していた。
『何ソレ。何処の国の言葉?』
『北海道さ!!遠くで言ってないで堂々と言ってくればいいべ!』
その声に弾かれた様に声のした方向を見ると、
なっちがこっちを睨み付けていた。涙で瞳を潤ませて、
それでも絶対に泣かないと心に決めて顔を引き締めながら
なっちはクラスから飛び出していった。
あの後、どうしたんだっけ?
「…ん!ごっちん!」
「へ?何?」
気付くとなっちは既にコートを着て立っていた。
「もぉ!なっちは帰るべ?明日は来るんしょ?」
「ん。またねぇ」
部屋に座ったまま手を振った。
なっちはため息まじりに笑って、部屋のドアをしめた。
- 22 名前:3.安倍なつみ 投稿日:2002年01月05日(土)01時23分33秒
- ドアノブが私の熱を奪い去ってしまったみたいに、右手が冷たかった。
ごっちんに触られていた左手だけが熱をなくさない。
玄関で靴を履いて、外へ出る。
北海道の寒さとは違う、深々と冷える寒さは年々増していく様に感じた。
子供の頃は、暖かいと思っていたのだから、信じ難い。
隣の家のドアの前で少し、立ち止まった。
ごっちんは、今頃泣いているだろう。
彼女は1人にならないと泣かない。
それだけは、石川先輩といても変わらないのが少し救いだった。
きっと、恋は始めて存在を確認した時から始まっていたのだ。
今でも、あの時の事をしっかりと思い出せた。
- 23 名前:3.安倍なつみ 投稿日:2002年01月05日(土)01時24分14秒
- 春の始まる少し前の事だった。
その時期の転校は珍しく、生徒数の少ない学校中が注目していたのは
幼心にもよく分かった。
『なつみちゃん、教科書見せてあげる』
そうクラスメートが誘ってくれて、私はにっこり笑って彼女に答えた。
『ありがとう!次はなんの授業べさ?』
クラスの動きが止まって、その後小さく笑い声が聞こえてきた。
こちらに聞こえては傷つけるだろうと小さい声で『べさ』と言ってるのが聞こえた。
それから二週間、私は一度も話さなかった。顔をあげる事もしなかった。
- 24 名前:3.安倍なつみ 投稿日:2002年01月05日(土)01時25分02秒
- そんな時、ごっちんがやってきた。
クラスメートが彼女の近くに寄っていって、また『べさ』という言葉が聞こえた。
『何ソレ。何処の国の言葉?』
ごっちんは、はっきりとそう言った。
私は二週間分の怒りが爆発して彼女に向かって怒鳴った。
『北海道さ!!遠くで言ってないで堂々と言ってくればいいべ!』
涙が出そうで、外に飛び出した。
絶対、泣きたくなかった。最後のプライドだった。
この起爆剤が、私の救いでもあったのだと、今は思う。
これがなければ、ごっちんと後々仲良くなる事もなかっただろうし、
私は周りと打ち解ける事も出来ずに、登校拒否をしていたかもしれない。
「あれ?なっち」
「よっすぃー。まだ帰ってなかったんだ」
廊下から見える景色を眺めていると、石川家のドアが開いた。
後ろから、石川先輩が覗いていて、私は軽く会釈した。
「うん。あ、一緒に帰ろうか」
「いいっしょ。じゃぁ、おやすみなさい」
ドアの中でにっこり笑っている先輩にもう一度会釈をして、
私達はエレベーターに向かった。
- 25 名前:3.安倍なつみ 投稿日:2002年01月05日(土)01時26分42秒
- 顔の周りを漂っている白い空気の結晶が今日は寒いんだと実感させた。
「ねぇ、よっすぃー」
「んー?」
「なっちはさ、恋してるのさ」
「知ってるよ?」
よっすぃはなんでもない事の様に頷いた。
腕に掴まると、よっすぃは掴まりやすい様にポケットに手を突っ込んだ。
「誰に恋してるかは知らないっしょ?」
「いや、多分知ってる」
その言い方が面白くなくて、私は少し意地悪を言った。
「よっすぃーだよ?」
「えっ……」
よっすぃが硬直して、私は笑い出した。
冷たい空気が肺の中に入ってきて私は咳き込んだ。
「嘘をつくからだよ。自業自得」
真っ暗な坂を下っていく。
木々がざわざわと騒いでいて、先の方の電燈がチカチカと命の終りを告げていた。
「私にはさ」
暫く黙っていたよっすぃが急に口を開いた。
「あの子に何かを言う事は出来ないからさ。なっちが助けてあげてよ」
「……なっちにだって、言えないさ」
言えていたなら、きっとごっちんはこんなにも辛い思いはしていなっかだろう。
- 26 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月05日(土)01時41分34秒
- 更新しました。今回は、安倍さんと後藤さんが中心。
一人称はなんだか不完全燃焼気味にさせられますね。
難しい!普段から一人称で書いてる人って凄いんだと実感&尊敬。
>>15 名無し読者様
情景描写ばかりに気を取られていた前作を反省した結果なのですが…。
情景描写がないと、それはそれで気になってきてしまってます。
今年こそは、久々の更新だとか言われない様にしたいです。>といいつつ…
>>16 名無し男様
陳さん、あんまり突っ込んだり抜いたりしてると首痛くなりますから!!
気をつけて下さいね〜。でも、突っ込んでいただけると嬉しいです(W
>>17 usapyon様
有難うございます。静かに言われると、静かに返したくなりますね。
また読みにきて下さい。
- 27 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月05日(土)01時42分55秒
- >>18 夜叉様
有難うございます。
こちらこそ、またレスが頂けたら嬉しいです。
石川さんよりも他の二人にばかり目がいってますが…
意外な所にも目が向けばいいな、なんて。
>>19 M.ANZAI様
前作まで読んで下さって、有難うございます。
謎を残して終らせてしまったのは、あのお話内で収まりきらないなんて
技量のなさからなのですが、そう言って頂けてとても嬉しいです。
また暇つぶしにでも読んでやって下さい。
次回の更新は、出来たら明日の夜です。
出来なくても週始めにはします。
今年は頑張ろう…。
- 28 名前:名無し男 投稿日:2002年01月05日(土)17時21分37秒
- コノ後ノ展開ガ楽シミアル(画面に突っ込んだまま)
- 29 名前:夜叉 投稿日:2002年01月05日(土)18時04分06秒
- 一人称書かれるのって大変やと思いますよ。
背景とか、状況とか、その時に書いてる人の言葉で書かないといけなくなるんで。
でも、お師匠さんの書かれる作品はいつ読んでもすばらしいです。
逆手にとって、登場人物の心理が分かるってことで(w。
石と吉出てこなくってもいいものはいい。当方、いしよし萌えですが、何か?(w
いろんな展開、楽しみにしてます。
- 30 名前:3.安倍なつみ 投稿日:2002年01月05日(土)19時03分43秒
- 一度は断ったのに、よっすぃは結局私の家の前まで私を送ってくれた。
可愛い部分も沢山あるのに、彼女は男前だ。
同級生にも、後輩にも、先輩にも、彼女に憧れている人は沢山いて、
だけど今までのよっすぃは恋愛に、というよりも他人に興味がなさそうだった。
仲良くなりたそうな人がいても、彼女のひいたラインから中には入れなかった。
ごっちんは、普段は面倒な事が嫌いだから、そんな子には近寄らない。
だけど、あの時だけは違った。
『声かけてみよぉかな』
『へ?誰にさ?』
指を指した先には、人を寄せつけようとしてない転校生がいた。
『どしたの?急に』
私の問いかけに、ごっちんはなんとなく、とだけ答えて
どんどん転校生に近付いていった。
「じゃ、おやすみね」
よっすぃが去っていくのを見て、私はなんでか涙が出てきた。
仲良しだった三人。きっと、今も変わってない筈なのに、
なんでこんなに遠く感じる様になったんだろう。
「どうした?なっち、大丈夫?」
「な、なんでもないさ。大丈夫」
驚いて戻ってきたよっすぃは、何度も大丈夫を繰返す私の頭を撫でて、
今日は泊まらせて、と言って笑った。
- 31 名前:4.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月05日(土)19時05分07秒
- なっちが、苦しそうに泣く理由は心当たりがあった。
夏にあったあの出来事から半年、
彼女が誰に恋をしているかに気付くのには十分な時間だ。
「なっちも、お風呂入ってくる」
幸い、制服だった私はなっちのお言葉に甘えて先にお湯を頂いていた。
濡れた髪の毛を乾かしながら、なっちの机の上の写真立てを見た。
ごっちんと、なっちと、私。いつも一緒の三人だった。
転校してきた当初、話し掛けてきた癖にごっちんはそれ以来あまり話さなかった。
結局沢山話すのはいつもなっちで、
私は結果としてごっちんよりも先になっちに心を開いていた。
なっちと最初に仲良くなった方がいいと、ごっちんが思ったかどうかは知らないけれど
それは確かに正解だったのかもしれない。
- 32 名前:4.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月05日(土)19時08分11秒
- なっちは、春の様な少女だ。そこに彼女がいるだけで、空気が花の色に変わる。
ある日、広報部のクラスメートが写真を撮りたいと言ってきた。
写真を撮る事になった時、私とごっちんは面倒だと顔に出していた。
そんな私達をなっちは一生懸命引っ張って写真を撮った。
あの日から写真を撮る時は大抵私達がなっちを挟む形になる。
だから、この写真も例外なくなっちが真ん中だった。
私やごっちんは彼女にどれぐらい助けられてきただろうか。
きっと、数えきれない程なんだろう。
お風呂から出てきて、なっちは冷たいジュースを注いだ。
「ビールじゃないのか。ま、いいや。ありがと」
「未成年っしょ。よっすぃは悪い子だなぁ」
紫色のジュースを一口飲むと仄かに葡萄が香った。
「これがワインだったらなぁ」
「美味しい?ワイン」
頷くとなっちは顔をしかめた。
「でもこれも美味しいよ」
「なっちはこっちのがいいな」
「なっちはお子ちゃまだなぁ」
私が笑うと、なっちは頬を膨らませた。
なっちをからかって、夜は過ぎていった。
- 33 名前:4.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月05日(土)19時10分40秒
- 機嫌を損ねたままでは朝まで厳しい突込みばかりをいれられそうだったので、
早々に謝ると、なっちはにっこり笑った。
「ほら、もう寝よっ」
狭苦しいベッドに二人で、クスクス笑いながら眠りについた。
翌朝、眠い目を擦りながら、二人で坂道を歩いて降りた。
「このままさぼっちゃおうか」
「だーめ。昨日お説教してたのは誰さ?」
なっちは笑って先を歩いた。そんな彼女を後ろから眺めた。
「ほら、なっち転ぶよ?」
「大丈夫っ」
なっちは、一足早く坂の下に辿り着いて私に手を振った。
私は少し早く歩いて坂の下へと急いだ。
霜が降りているのを見つけて、なっちを呼ぶ。
「あ、ほんとだね」
「感動がないねぇ」
北海道では日常茶飯事だとえばるなっちにため息をついて、
私は彼女に手を差し伸べた。
立ち上がったなっちと、歩き始める。
学校へ余裕で着く時間に出て良かったと思いつつ公園を通り抜けた。
「おはよっ」
- 34 名前:4.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月05日(土)19時13分56秒
- 後ろから声が聞こえて、私となっちは振り向いた。
「ごっちん、おはよ」
「はよ。先輩、おはようございます」
「あ!先輩も、おはようございます!」
ごっちんと石川先輩が合流して、私達は学校の並木道に向かった。
気をきかせてくれたのか、ごっちんとなっちは先に歩き出した。
雪が降りそうな程に寒い空気を背負って私達は学校へと向かった。
「ね、先輩」
「なぁに?」
半年経っても、制服だとまだ少し二人の歩く間には距離ができる。
「もうすぐ、冬休みですね」
「そうね」
「デートしましょうか」
嬉しそうに、彼女が頷いた。こんな時、たまらなく愛しく感じる。
誰にも、入れない空間に自分達がいると実感できる。
「その前に試験ですけどね」
「忘れてたのに」
「忘れちゃ駄目でしょ…」
この場で彼女に触れたかった。
だけど、目の前に歩いている彼女の幼馴染みで私の親友を思うと、
そんな事も遠慮してしまう。尤も、外だから出来ないのもあるけれど。
「手、寒くない?」
「大丈夫よ」
今日も手を繋いで歩く事に失敗して私達は門を潜った。
- 35 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月05日(土)19時21分37秒
- 更新しました〜。
予告通りできた御褒美にカンパリオレンジでも作るかな。>自分に甘い…。
安倍さんが可愛くて仕方ない私は、今回彼女ばかりを書いてしまってる気がします。
ただいま、三人称が恋しい病にかかってます。難しい〜。
>>28 名無し男様
どろどろしてきそうで恐いです。
画面の中の名無し男さんの顔にスライムがかからない様に
頑張ります!
>>29 夜叉様
やってみて大変さに四苦八苦してます。
文章量が多くなりますね〜。心理描写が増える所為かな?
当方もいしよし萌えですが、何か?(W
- 36 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月06日(日)02時17分35秒
- 後藤、安倍、吉澤の三者三様の心情がよく現われていますね。
互いに相手を思いやっていて、しかしあと一歩が踏み出せていない様子が伝わってきます。
安倍と後藤がこれほど親密になって行ったのかを知りたくなりました。
- 37 名前:名無し男 投稿日:2002年01月06日(日)16時03分19秒
- ドロドロの展開?
それも面白そうじゃのー(更に顔突っ込む)
- 38 名前:夜叉 投稿日:2002年01月06日(日)18時31分03秒
- ん?ドロドロの展開?もしかして(略
た、楽しみにしてますね(汗汗
- 39 名前:4.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月07日(月)01時09分39秒
- 自分の気持ちに、不確かな物はなかった。
彼女が好きだし、何を犠牲にしてもそれだけは守りたいとも思った。
彼女が望めば、ではあったけれど。
実際、石川梨華という女性はそんな事を望むタイプではなかった。
何よりも先に自分を犠牲にする、そんな健気な女性だ。
「ねぇ、ごっちん」
「んー?」
そんな女性に恋をした不毛な私達は、
「先輩、大丈夫だった?」
「なんで私に聞くんだよぉ」
これから先も表面上は今までと変わりなく過ごすのだろう。
「いや、ごっちんのが分かってるかなって」
「よっすぃーがいれば平気じゃん?」
端から見ていると、危ない関係なのかもしれない。
私達は、お互いのラインを後一歩で踏まずに過ごしていた。
後数mm、どちらかが前進したら片方の領域に入ってしまうのだろう。
そして、私達は今までと同じ関係ではいられなくなるのかもしれない。
「そうでもないと思うけどね」
「よっすぃーは、遠慮する事ないんだよ?」
「同じ台詞をそっくり返すよ」
冬の空は高くて、ボールを投げても天国には届きそうになかった。
- 40 名前:5.後藤真希 投稿日:2002年01月07日(月)01時10分50秒
- よっすぃと梨華ちゃんがもしこのまま駄目になったとしたら、
それは私の所為かもしれない。
明らかに夏から二人の距離は縮まっていない。
それどころか、離れていっているかもしれなかった。
よっすぃは私がよく学校を休むのは梨華ちゃんが休むからだと気付いてる。
どれだけ、後藤の家を梨華ちゃんが頼っているかも気付いている。
だから、彼女は梨華ちゃんから一歩離れて見守ってるのかもしれない。
もし、よっすぃが梨華ちゃんに私と会うなと言ったら、
梨華ちゃんはきっと頑張って会わない様にする。
よっすぃは、それがしたくなくて、言わないのだと私は勝手に解釈していた。
「ごっちん、どうしたのさ?」
保健室で寝ていた私は、なっちが驚いた顔で聞いてくるので簡単に答えた。
「寝てた」
「そりゃ、見れば判るけど…」
まだ何か言いたそうにしていたけれど、なっちは何も言わなかった。
- 41 名前:5.後藤真希 投稿日:2002年01月07日(月)01時11分41秒
- もう少し寝たいという私の隣になっちは座って本を読み始めた。
「帰ってもいいよ?」
今日は水曜日で、よっすぃーが梨華ちゃんと二人で帰る日だった。
普段なら、なっちと一緒に帰って馬鹿な事をして気分を変えるのだけれども、
お昼休みによっすぃーに言われた言葉が、耳を離れなくてそんな気分になれなかった。
『いや、ごっちんのが分かってるかなって』
勝ち負けではないのは分かっているが、それでも
どうしたって彼女は勝者で私は敗者だ。
哀れんで言った訳ではないだろうが、私には癇に触るやりとりだった。
「待ってる。安心して寝てていいさ」
なっちがあんまり優しく言うから、私は涙が出てきた。
「どした?なんか嫌な事でもあった?」
私が頭を横に振ると、なっちは優しく頭を撫でてくれた。
「目を瞑って、嫌な事は全部忘れよ?起きたら暖かい紅茶煎れてあげるさ」
まるで保健室が自分の部屋の様に、なっちは言って
私の意識が遠離るまで、ずっと彼女の手は私を撫でていた。
- 42 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月07日(月)01時16分04秒
- 更新しました。いいペースです。この調子でいきたいですね。
>>36 M.ANZAI様
だ、段々明らかになるかと思われます。
一歩踏み出した後が恐いのでしょうね。
私も恐いです…。そんなん書けるのか…。
>>37 名無し男様
せめて、スライム避けに帽子でもかぶってて下さいませね。
急にドロッといくかもしれません。
>>38 夜叉様
もしかしなくても…………なんです。
いや、まぁあまりドロドロでもないとは思いますけどね(W
- 43 名前:夜叉 投稿日:2002年01月07日(月)10時52分43秒
- どうなるんやろ…。ひ、引き続き楽しみにしておきます。
- 44 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)11時46分52秒
- 適度な緊張感がいい感じ
- 45 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月07日(月)16時11分44秒
- 自分の想いが相手に伝わってしまえば、少なくても思い悩む事だけは解消されるでしょう。
相手の心の中を覗く事が出来れば、少なくても自分だけは楽になれるでしょう。
でも、そんな能力は誰も持ち得ません。
だからこそ言葉や態度に表して伝えて行くのでしょうけど、
想いのままが伝わるか確信が無い、伝わった後の反応がどうなるのか解らない。
もしかしたら、と最悪の結果を想像した時にはもう話すタイミングを失っています。
この先、四人の関係がどっちへ進むのか、進まないのか
なかなか行き先が見えてきません。いったい、どうなるのか・・・
話の続きを心待ちにしております。
- 46 名前:名無し男 投稿日:2002年01月07日(月)19時26分26秒
- 溶接用のバリケードを装備しました!!(真っ暗で何も見えんw)
- 47 名前:5.後藤真希 投稿日:2002年01月08日(火)15時15分51秒
- 暗くなった並木道は何処か寂し気で、
なっちがわざと楽しそうな声を出してるのが分かった。
普段ならこんな時、なっちが腕に掴まってくる。
それは、彼女が恐いというのもあったけど、
きっと私が恐いだろうという彼女の優しさでもあるのだと思う。
なっちの手を握って歩き出すとなっちは少し驚いて、その後にっこり笑った。
「なっちは急に、チリバーガーが食べたくなってしまった」
英語の例文を読んでいるかの様に、なっちがそう言って、
私は自分のお腹が空っぽな事に気付いた。
「後藤もお腹空いてるや。食べにいこっか?」
「うん」
告白します。私は、この時無性に人肌恋しくて、
誰かを傷つけるなんて考えもしませんでした。
「ごっちん?」
急に立ち止まった私に、なっちは首をかしげた。
その仕草が誰かさんに似ていて、私はつい、彼女を抱き締めた。
「ど、どーしたのさ、ごっちん」
慌てるなっちの声に覆いかぶせる様に私の口からは勝手に言葉が飛び出していた。
「ずっと、好きだったんだ」
なっちがどんな顔をしていたかは、知らない。
- 48 名前:6.石川梨華 投稿日:2002年01月08日(火)15時16分37秒
- 制服を着ているひとみちゃんは何故か
いつもよりも大人っぽく見えて、つい少し離れてしまう。
離れると、怒った様に引き寄せるのを少し期待している部分もあるのかもしれない。
彼女が私の全てを好きだと言ってくれる以上にきっと、
私は彼女が好きだった。
だけど、彼女にあの事は、まだ、言えそうにない。
「梨華ちゃん、冬休みは何処にいきたい?」
「んー、暖かいココアとか飲みたいな?」
「それ、返事になってないよ…」
二人きりになった時だけ、彼女は私を名前で呼ぶ。
叱る時には、敬称略になるのが凄くドキドキした。
私を敬称略で呼ぶ人なんて、もう存在しなかったから。
「キスしてもいい?」
何かする前に、彼女は必ず聞いてくる。
遠慮がちに、もし駄目なら止めると言う様に。
「駄目って言ってもするでしょ?」
だから私はわざとそう言って、目を閉じる。
そんな事、聞く必要だって本当はないのだ。
- 49 名前:6.石川梨華 投稿日:2002年01月08日(火)15時17分26秒
- 恋人って、なんだろう。
彼女にとっての恋人って、どういう意味の事なのだろう。
二人きりでいても、彼女が一番多く話題にするのは真希ちゃんの事だった。
「ねぇ、ごっちんがね…」
きっと、真希ちゃんがいなかったら私と彼女の間の会話は
なくなってしまうんじゃないだろうか?
あんなに話した夏休みに、何を話していたのかすらもう思い出せなかった。
「梨華さん?」
「……」
「どうしました?」
ねぇ、これ以上望んだら、いけないかしら?
今以上に、貴方を望むのはいけない事?
「じゃぁ、冬休みはお部屋で過ごしましょう。ね?」
ダカラソンナカオヲシナイデ、そう顔に書いてあった。
本当は、外に行きたくなかったんじゃないけれど、
今言っても気を使っているだけだと思われるから黙ってる。
本当に狡い私は、ひとみちゃんの傍にいていい訳がなかった。
だけど、ひとみちゃんから離れられる訳も、なかった。
「じゃぁ、また明日」
額に降りてくる彼女の唇は、やけに冷たかった。
- 50 名前:6.石川梨華 投稿日:2002年01月08日(火)15時18分46秒
- 扉が開くと、夜の北風が容赦無く私達に襲いかかった。
「寒いね。ここで、いいよ」
「ほんとに?」
いつもなら、笑ってさよならのキスをする場面。
だけど、その日の彼女は違った。
「ごっちん。今、帰り?」
「うん。お腹空いて、チリバーガー食べてきた」
「そっか」
真希ちゃんは私を見ようとはしなかった。
いつもなら、笑ってただいまを言ってくれるのに。
「なっち、一緒に帰ろうか?」
「え?あ、うん」
安倍さんは可愛らしい人だ。
真希ちゃんも、ひとみちゃんも綺麗だけれど、安倍さんはタイプが違った。
花の様な人だと思う。彼女がいると、きっと周りは明るくなるのだろう。
ひとみちゃんや真希ちゃんは彼女の話をする時、凄く優しい顔になる。
彼女の人柄が現れているのだと思った。
「じゃぁ、また明日」
「さようなら」
深々とおじぎをして、安倍さんはひとみちゃんについていった。
真希ちゃんは、おやすみと一言言ってドアの中に入っていってしまった。
何かしたかと思い出そうと思って、私も部屋の中に入った。
- 51 名前:6.石川梨華 投稿日:2002年01月08日(火)15時24分18秒
- 部屋の中は暖かかったけれど、人の気配がなくて
慣れている筈なのに、それだけで少し肌寒い気持ちになった。
私は机の上に見なれない手袋を見つけた。
「忘れ物」
きっとひとみちゃんは明日渡せばいいと笑うだろうけど、
その時、私はもう一度彼女に会いたかった。
コートとマフラーを身につけて私は外に出た。
北風が相変わらず我が物顔で暴れまわっていたけれど
そんな事には負けず私はエレベーターまで向かった。
外に出ると寒くて、思わず手袋を手につけた。
坂を下っていくと、ひとみちゃんと安倍さんが歩いているのが見えた。
私には気付かずにどんどん坂を下りていく。
大きな北風が私の行くてを阻んで、目を閉じさせた。
それは北風の優しさだったのかもしれない。
目をうっすらと開けると、そこには
安倍さんを苦しそうに抱き締めるひとみちゃんがいた。
風が、安倍さんの言葉を連れてきた。
『なんで好きでもない子にキスできるのさ?』
その場にいたくなくて、私は坂を駆け登った。
ひとみちゃんの手袋が涙でぐちゃぐちゃになっていって
それが私とひとみちゃんの結果なのかもしれないと心の何処かで思った。
- 52 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月08日(火)15時30分30秒
- 更新しました。手にとる様な展開でいいのかと疑問にもちながら。
>>43 夜叉様
こうなりました。って、まだ判らないですけどね。
段々痛くなってきて、前ので終らせておけば綺麗だったな、なんて。
>>44
緊張が極度に増せば…。
こんなに痛くていのでしょうか?
>>45 M.ANZAI様
進む方向が一歩間違えば、がたがたっと崩れていっちゃいます。
はたして、今の方向が正解なのか、否か。
>>46 名無し男様
了解しました!迷う事なくドロッといきます!
いや、いかないかもしれませんが、念のため。
あ、前にいる人に気をつけて下さいね。ぶつかっちゃう。
- 53 名前:名無し男 投稿日:2002年01月08日(火)20時54分28秒
- のわーーーーー!!!!!
早速ゼリー状のものが・・・
間違えて剣道のお面してたから見事にぶっかかっててしもた(w
- 54 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月08日(火)21時40分37秒
- 真希の人恋しい気持ちは誰と誰を傷つけていると言うのでしょうか?
貫くような冷たい風はいったい梨華に何を見せたかったのでしょうか?
今はただ疑問を抱えたまま傍観するのみです。
- 55 名前:6.石川梨華 投稿日:2002年01月09日(水)01時14分15秒
- 安倍さんの言葉が、何度も私の中で繰返された。
あの質問に、ひとみちゃんはなんて答えたのだろう。
何で、安倍さんを抱き締めている顔が苦しそうだったのだろう。
出てくる答は一つだけで、それはどうしても認めたくない答だった。
ひとみちゃんに会いたかった。
今会って何を話すというのだろう?
それでも、どうしても私はひとみちゃんに会いたかった。
苦しくて仕方なくて、もう一度あの坂の下に向かった。
北風は私を止めたけれど、私はそんな事を気にもせずに走った。
坂は真っ暗で、たまにある電燈もチカチカと頼り無かった。
そんな事には、先刻は気付かなかったのに。
坂の途中で人影を発見して、私はゾッとした。
あれは、誰?もしかしてあの時の。
そんな事ある訳ないのに、私は恐怖で叫びそうだった。
「梨華さん?」
「…ゃっ」
「梨華、落ち着いて?」
「ひとみ、ちゃん?」
優しく笑うその顔は確かにひとみちゃんで、私は不安を涙と共に吐出した。
「どうしたの?なんでこんな暗い所に」
ひとみちゃんにしがみつくと、彼女は暫くそのまま私を抱き締めた。
- 56 名前:6.石川梨華 投稿日:2002年01月09日(水)01時22分09秒
- 私の涙が止まると彼女は私を抱きかかえて坂を登り始めた。
「歩けるわ」
「だっこしたいの」
どうしてこんなに優しくしてもらえるのだろう。
私は悪い子なのに。
見慣れたリビングで、ひとみちゃんが台所で何か作るのを見つめた。
震えはまだ止まらず、目の前からひとみちゃんが消えるのが恐かった。
「落ち着い…てないみたいだね?」
小さく笑って、ひとみちゃんは私の隣に座った。
「何かあった?梨華さん」
「梨華って呼んで?」
もう誰も、私の事を敬称略では呼ばない。
でも、時々それはとても寂しい事に感じるから。
「いいよ、梨華」
彼女が私を呼ぶ。それは魔法の呪文の様に私を幸せにした。
ひとみちゃんの作ってきたホットアップルを一口飲んだ。
「美味しい」
髪を何度も梳いてくれる右手に顔を擦り寄せると、
ひとみちゃんは驚いた様な顔して黙って私の額にキスをした。
「手袋忘れて明日でもいいかなと思ったけど
もう一度会いたくて、戻ってきたんだ」
私は届きそうで届かない彼女の頭を無理矢理撫でた。
「何?ソレ」
「いい子だなって」
「そう?もっとしてよ」
先刻までと何ら変わらない筈なのに、
先刻よりもずっと遠く離れた場所にいる気がした。
- 57 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月09日(水)01時26分07秒
- プチ更新。レスもプチ。
>>53 名無し男様
あらら。さ、今の内にタオルで拭いて下さい。
>>54 M.ANZAI様
もう少し、傍観してみて下さい。
- 58 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月09日(水)15時28分43秒
- あぁせつないぃ…
続き期待してます。
- 59 名前:夜叉 投稿日:2002年01月09日(水)17時22分27秒
- う゛ぁー、は、離れちゃいかんよ。
…、すいません、取り乱しました。
そうなのかと覚悟を決めて、今日まで来たのに…(鬱)。
♪あっかるい明日はきっと来るぅ〜(泣。自棄気味)。
続き、お待ちしてます…。
- 60 名前:7.安倍なつみ 投稿日:2002年01月10日(木)00時25分45秒
- 五時間目の授業の少し前から、ごっちんの姿が見えなくなった。
振り向くと後ろの席のよっすぃが肩を竦めるジェスチャーをした。
先生が入ってきて、出席をとりはじめても、ごっちんは帰ってこなかった。
「後藤。後藤真希はどうした?」
「具合が悪くなってしまったそうなので、保健室です」
多分、本当に保健室にいるだろう、具合は悪くはないだろうけれど。
午後の暖かい陽射しがクラスルームに射し込んできた。
先生の声が段々と子守唄の様に聞こえてくる。
こんな時、よっすぃやごっちんは真先に眠ってしまう。
その所為でいつも私は起きていなければならなくなる。
先生が黒板に顔を向けている間にこっそり後ろを覗くと、
案の定、よっすぃは夢の世界へと旅立っていた。
先生に気付かれない様に、彼女の教科書を立てて振り返る。
私達三人は特殊らしく、あまりクラスメートと必要以上に仲良くなっていない。
私は初等部時代に色々あったし、
よっすぃは転校する前から友人は作ってこなかったと言っていた。
でも、ごっちんだけはよく分からなかった。
彼女は、どうして私とだけ付き合ってきたのだろうか。
初めての出会いは最悪だったのに。
- 61 名前:7.安倍なつみ 投稿日:2002年01月10日(木)00時26分51秒
- 起爆剤となったあの発言があって、私は初等部の屋上に迷いこんだ。
初等部の屋上は小学生が使うという事もあって、学院長の温室になっていた。
初めて見るそれはまるで、シークレットガーデンの主人公にでも
なった様な気分にさせられた。
様々な木や花がそこには植えられていて、日本ではない何処かの匂いがした。
大きな葉の木の下に入ると、学年の中でも小さかった私はすっかり隠れてしまった。
1人になってやっと、しゃくりあげて泣いた。
方言があるのも、こんな時期に転校をしてきたのも、私の所為ではなかった。
理不尽だと思った。こんな目にあわなければいけないなんて、おかしいと。
泣いていると屋上のドアが開いて、私は見つからない様に黙った。
見つかって泣いている理由を聞かれても、私は標準語なんて話せない。
「誰か、いんの?」
葉が大きく揺れて、私の上に陽の光が墜ちてきた。
逆光で顔が見えなかったけれど、その人の髪の毛は茶色く透けていた。
「あ……」
その人は何も言わずに、隣に座った。
- 62 名前:7.安倍なつみ 投稿日:2002年01月10日(木)00時27分49秒
- 隣に座った人の顔を見ると、それは私が先程怒鳴った相手だった。
「何しにきたのさ」
きつい声がどうしても出てしまった。
それでもやっぱり方言は抜けない。
また笑われるのかと、彼女の顔が見られなかった。
「いや、ここ私の指定席だから」
「は?ここ、席が決まってるの?なら、私がいけないべ」
慌てて謝ると、彼女は笑い出した。
方言だけで、なんでこんなに笑われなきゃいけないの?
私は怒りの余りに立ち上がった。
「違うっ、ごめん。そういう意味じゃないの」
彼女は、私の腕を掴んだ。
「なら、どういう意味さ…」
「私が笑ったのは、席が決まってるならどかなきゃって言った事。
そんなの、決まってないよ。私が勝手に言ってるだけ」
私がもう一度座り直すと、彼女は八重歯を見せて笑った。
ドキッとした。彼女への怒りなんて何処かにいってしまった。
「先刻、ごめんね?」
「もういいさ」
「その喋り方、後藤は好きだな」
そう言うと、彼女はもう一度八重歯を見せて笑った。
- 63 名前:7.安倍なつみ 投稿日:2002年01月10日(木)00時32分30秒
- その後から、ごっちんは私の傍にいる様になった。
私が標準語を学ぼうとすると、彼女はそれを怒った。
「なっちは今の喋り方がいいの」
私の喋り方はそれから今も変わらない。
「なっち、ごっちんは?」
放課後、よっすぃが心配そうに聞いてきた。
「保健室っしょ。眠くなったんじゃない?」
「狡いなぁ。私も行けばよかった」
よっすぃのぼやきを聞き流して、送りだす。
今日は水曜日で、よっすぃが石川先輩と帰る日だった。
よっすぃと石川先輩は付き合いだしてもあまり一緒には過ごさなかった。
それはきっとごっちんに気をつかっての事で、ごっちんもそれに気付いていた。
だから、ある日ごっちんは半ば無理矢理水曜日は一緒に帰る日と決めた。
だけどその日のごっちんに元気がないのが毎週の事で、
今更ながら何故そんな日を作ったのだろうと呆れてしまう。
保健室に入ると、そこに先生はいなくて
暖かい柔らかな空気で部屋は一杯になっていた。
「ごっちん、どうしたのさ?」
ふて寝をしていた事ぐらいお見通しだったけれど、何も知らない声で聞いた。
「寝てた」
「そりゃ、見れば判るけど…」
簡単に答えるごっちんに苦笑いを浮かべて、私はベッドの隣に座った。
- 64 名前:7.安倍なつみ 投稿日:2002年01月10日(木)00時33分45秒
- もう少し寝たいと彼女が言って、私は頷いた。
ごっちんは、いつもよりも弱って見えた。
「帰ってもいいよ?」
『イカナイデ』ごっちんの目がそう言ってる様に見えた。
もしかしたら、それはただの希望的観測かもしれないけれど。
「待ってる。安心して寝てていいさ」
ごっちんは少し笑って、それから堪えきれなかった様な涙を溢れさせた。
「どした?なんか嫌な事でもあった?」
頭を横に振るだけで、ごっちんは何も言わなかった。
でも、お昼休みにいなくなってた二人の間に何かあったのは
痛すぎるぐらいに分かった。
「目を瞑って、嫌な事は全部忘れよ?起きたら暖かい紅茶煎れてあげるさ」
頭を撫でて言うと、ごっちんは目を瞑った。
そのまま、寝息が聞こえてくるまで私は彼女をずっと撫で続けた。
それが、友達である事の特権だったから。
スースーと寝息をたてるごっちんの髪の毛に、起こさない様に口付けた。
「これくらいいいっしょ?これくらいなら」
私は、彼女が起きた時に紅茶が煎れられる様に、
やかんに水を入れて火にかけた。
- 65 名前:7.安倍なつみ 投稿日:2002年01月10日(木)00時34分38秒
- 誰もいない並木道はとても寂しくて、私はいつもよりも明るい声を出した。
突然、ごっちんが私の手を握った。
いつもなら、私から彼女に掴まるぐらいで、
ごっちんから手を繋いでくるなんてあまりない事だった。
驚いたけれど、彼女の手を握り返して笑った。
寂しいと思う気持ちが伝わってきて、悲しくなった。
こんなに寂しいと思う人を、寂しい気持ちから少しでも離れさせてあげないで
他に私に何ができると言うのだろう。
「なっちは急に、チリバーガーが食べたくなってしまった」
なるべく、棒読みで言うと、ごっちんはやっと笑った。
「後藤もお腹空いてるや。食べにいこっか?」
「うん」
少し歩くと、急にごっちんと繋がってる手が引っ張られた。
「ごっちん?」
振り向いて首をかしげると、ごっちんの肩が目の前にあった。
「ど、どーしたのさ、ごっちん」
喜びだとか、そんな感情よりも驚きの方が勝った。
「ずっと、好きだったんだ」
- 66 名前:7.安倍なつみ 投稿日:2002年01月10日(木)00時35分36秒
- 聞き間違いかと思った。
でも、彼女は確かにそう言っていて、私は苦しかった。
苦しくて、悲しくて、悔しくて、でも、嬉しかった。
「ごっちん…」
「吃驚した?ごめん。忘れて」
ごっちんが離れようとして、私は彼女をきつく抱き返した。
「嬉しいよ?なっちも、ごっちん好きだから」
私がそう言うと、彼女は困った様に笑った。
「なっちの言う好きと、後藤の好きは多分違うよ」
「なっちは、ごっちんとこうしてたい好きだべ?」
もう一度、ごっちんは私をしっかりと抱き締めて言った。
「後藤もだよ」
今なら泣いても嬉し涙と思われるかもしれない。
だから、泣いてもいいのかもしれない。
だけど私は泣かなかった。
泣く代りに笑って、チリバーガーを食べに行こうと言った。
ごっちんは頷いて、私達は先刻よりも密着して歩き出した。
- 67 名前:7.安倍なつみ 投稿日:2002年01月10日(木)00時38分46秒
- チリバーガーは、いつもより少しだけ辛かった。
ホットチャイは口の中の辛さを増長させて、
私達は足をばたばたさせて笑った。
ごっちんは、家に帰りたくない様子で、だけどそんな訳にもいかないので
彼女の家でもう少し話す事にして、私達は坂を登った。
「今キスしたら、ファーストキスはチリバーガーの味だね」
ごっちんが笑って言って、私はチャイの味かも、と返した。
「どっちかな?」
「さぁ?」
「してみよっか」
先刻まで、冗談で明るくなっていた坂が、急に暗く感じた。
電燈がチカチカいっていて、それの逆光でごっちんの髪の毛が茶色く透けて見えた。
あの時と一緒だと急に、屋上の事を思い出した。
「…いーよ?」
ファーストキスは、甘くて、少しだけ辛くて、シナモンの味がした。
「チャイが、勝ったみたいだね」
ごっちんが照れ隠しの様に笑って、私も笑った。
ねぇ、私は上手く笑えてた?
- 68 名前:7.安倍なつみ 投稿日:2002年01月10日(木)00時42分10秒
- エレベーターをあがっていく間、ごっちんはずっと上を向いていた。
光はだんだん大きい数字へと移行していった。
エレベーターから降りて、廊下を歩いていると石川先輩の家のドアが開いた。
「ごっちん。今、帰り?」
よっすぃが気まずそうに言った。
「うん。お腹空いて、チリバーガー食べてきた」
「そっか」
ごっちんは、なんでもない様な態度だったけど、石川先輩を見ようとはしなかった。
「なっち、一緒に帰ろうか?」
「え?あ、うん」
よっすぃに言われて、私は頷いた。
これ以上、ごっちんといたら壊れちゃいそうだった。
「じゃぁ、また明日」
「さようなら」
おじぎをすると、石川先輩があの可愛らしい笑顔で笑った。
彼女は本当に可愛い人だと思う。
一連の事の全ては知らないけれど、あんな事があっても
それでもこんなに綺麗に笑える人に、私もなりたいと思った。
エレベーターの中はまだ私とごっちんの連れてきた
チリバーガーの匂いが残ってる気がした。
「いいなぁ、チリバーガー。私も食べたくなっちゃった」
よっすぃは笑って、私が掴まる事のできるスペースを腕に作った。
- 69 名前:7.安倍なつみ 投稿日:2002年01月10日(木)00時43分46秒
- 坂は相変わらず真っ暗で、よっすぃは相変わらず優しかった。
よっすぃを好きになれば良かったと思ってから、
彼女も石川先輩が好きな事を思い出してため息を隠した。
「どうしたの?なっち、今日元気ないね」
よっすぃが覗き込んできたのはちょうど坂の真ん中で、
ちょうどキスをした場所だった。
「よっすぃー、もう泣いていいと思う?」
「いいよ」
よっすぃは何も知らない筈なのに、優しく笑って頷いた。
「よっすぃー」
よっすぃが私を抱き締めて、私はよっすぃにしがみついて泣いた。
「なんで、なんで好きでもない子にキスできるのさ?」
よっすぃは、答えなかった。
「なんで好きとか言うのさ」
「…なっち」
私は、よっすぃから離れた。
「ごめんね?吃驚したっしょ?今日はもう1人で帰るさ」
「送るよ」
私は涙を引っ込めて首を横に振った。
「1人で、帰らせて?」
よっすぃは、苦しそうな悲しそうな顔で頷いた。
私はお礼を言って1人で歩き出した。
大丈夫。私は強くなれるから。
- 70 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月10日(木)00時49分23秒
- 本日の更新終了。なっちは説明が多くて長くなりますねぇ。
いや、ただ好きなだけなんですが。
>>58
段々書いている側も、可哀想になってきちゃいました。
娘。を見るとお詫びしたくなってきます。
>>59 夜叉様
もう少し暗い日々が続きそうです。
精神的に良くないですよね…すみません。
- 71 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月10日(木)00時54分36秒
- リアルタイムで読ませていただきました!
なっちもせつないなぁ…
- 72 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月10日(木)03時59分37秒
- ほんと、なっちがせつない・・・
この先どうなるのか、もうしばらく傍観してます。
- 73 名前:夜叉 投稿日:2002年01月10日(木)19時49分31秒
- >なっちは説明が多くて長くなりますねぇ。
そうです?個人的にはなっちの時のが好きですよ。一番のめり込んだかも(w。
師匠様が書いたものは好きですが、何か?(w。
前回、やや誤解してました、まだまだ自分、若いっす…(遠い目)。
石の視点に惑わされましたね、今回で分かりました。
4人の想いが錯綜してるんでいろんな展開があると思いますが、暗くても頑張ります(←何を?)。
師匠様も頑張ってください。
- 74 名前:8.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月11日(金)01時26分45秒
- 私に、ごっちんを責める資格はなかった。
ごっちんを追い詰めたのはきっと私だから。
『ねぇ、私、真希ちゃんに何かしたかしら?』
不安そうに聞いてくるごっちんの幼馴染みにも、
『なんで、好きとか言うのさ』
泣きながら訴えるごっちんの親友にも、
私は抱き締めて涙を吸収するぐらいしか出来なかった。
「ひとみちゃん」
「はい?」
もう夜は大分深まっていた。
そろそろ帰らないと、幾ら個人主義の吉澤家でも怒られる。
「今日…」
先輩は俯いて、顔を赤くした。
「今日?」
その先に気付いてしまった私はわざと聞き返して、頬にキスをした。
「泊まってったら?ゲストルームの準備出来てるから」
「ゲストルーム?」
「親の部屋だった所なんだけどね」
一緒の部屋じゃないのかと、少し残念に思いつつも、
彼女と一晩過ごせる事の幸福に私は笑顔で頷いた。
- 75 名前:8.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月11日(金)01時27分56秒
- その晩、私はバスタブ一杯の桃色のお湯に浸かって大きくため息をついた。
ごっちんの事を必要以上に気にする彼女との会話は、
必然的にごっちんが中心になった。
半年前、ごっちんとの繋がりを私が知らなかった頃にはなかった事だった。
梨華、と呼んで欲しいと言われて、それは二人の距離が近付いた証なのかと
そう喜んだのも束の間で、なんとなく彼女は寂しそうだった。
お風呂から出ると、そこには新品のタオルと、パジャマが置いてあった。
彼女のだとしたら私には小さい筈なのに、それはぴったりだった。
「お先に頂きました」
リビングに座っている少女に軽くおじぎをすると、
彼女は笑って言った。
「アイスティー、飲むでしょ?」
ソファには子機が置いてあって、何故だろうと思うよりも先に、
彼女はそれを元に戻した。
アイスティーを私に手渡して、彼女は自分も入ってくると言って出ていった。
私と同じ匂いをさせて彼女が戻ってくるのかと思ったら、妙に欲情した。
そんな感情は捨ててしまわなければいけない。
彼女に、そんな感情を抱く事は天罰が下りそうなぐらい不謹慎に思えた。
- 76 名前:8.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月11日(金)01時29分04秒
- 1人になって、なっちの涙を思い出した。
ここで、こんな風に幸せに感じていていいのだろうか?
なっちは今頃、1人で泣いていた。
大丈夫だよ、と笑顔を見せた彼女はきっと
私とごっちんの間に波風を立てたくなかったんだろう。
愛しい健気な少女は、いつだって私達の間に入ってくれていたから。
ごっちんと私は些細な喧嘩をする事が多かった。
そんな時、なっちは私達の仲直りには絶対必要な人だった。
ごっちんと私は、面倒な事が嫌いでいつも逃げ回っていた。
なっちはいつも、私達を引っ張って色んな事に参加させた。
写真はいつもなっちが真ん中で、きっとごっちんも私も、
何も言わなくても三人の中で何よりも大事なのはなっちだと思っていた。
そのなっちを傷付けたごっちんに少し怒りを覚えた。
それから少し考えて、悪いのは私な事に気が付いた。
私が、恋に落ちていなければこんな事にはならなかったのだろうと。
知らないままならば、きっと世界は灰色で。
だけど、その灰色の世界が本当は幸せな世界なのではないかと錯覚した。
- 77 名前:8.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月11日(金)01時30分07秒
- 1人きりになりたいと、半年前までは頻繁に思っていた。
ごっちんやなっちが邪魔だと言うのではなく、ただ1人で息をしたかった。
この半年、そんな事もしていないのに今更気付いた。
今、隣で入浴しているだろう彼女が、そんな事すら忘れさせたのだ。
それは、不可能に近い事だったのに、彼女は何も知らない間にそれを起こした。
彼女は、それだけで私に必要不可欠な人だった。
転校する前、私には親しい友人はいなかった。
幼稚園の頃からずっと、友達は作ってこなかった。
その方が楽だったからだ。おかしな子供だと思うかも知れない。
だけど、それは子供の頃から自分が傷付かない唯一の防衛手段だったのだ。
そんな時、ごっちんとなっちが現れた。
あっけにとられている間に二人は私との距離を簡単に縮めた。
それが嫌だった訳ではないけれど、それは急過ぎて私は息がしたくなった。
1人でいた頃にはなかった感情だった。
そうして、1人になった時に彼女に出会った。
運命的な出会いだと今でも信じて疑わない。
今も、目を閉じればあの水音が聞こえる。
ちゃぷん。愛しい水音が耳の中でこだました。
- 78 名前:8.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月11日(金)01時31分04秒
- 「ひとみちゃん、寝ちゃった?」
「起きてるよ」
目を開けると頭が濡れたままの先輩がいて、
半年前にタイムスリップした気にさせられた。
「キスしていい?」
「駄目って、言ってもするんでしょ?」
彼女は必ずそう言った。
彼女にキスをするのが、いつも少し恐かった。
悲しませるんじゃないかと、ありもしない恐怖に震えた。
彼女のその台詞はしていいのだという意味にもとれたが、
どうせ嫌だと言ってもするのだからという諦めにも聞こえた。
「何、考えてたの?」
「…貴方と会う前は灰色だったなって」
彼女は、私の言葉を聞いて薔薇色に頬を染めた。
あぁ、これが薔薇色だと私は自分の世界が灰色だった事を再確認した。
- 79 名前:8.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月11日(金)01時32分17秒
- 「あの…ベッドは新しいのだから」
彼女はそう言って、部屋の電気をつけた。
シンプルな部屋は、ベッドと寝台だけが置いてあった。
「何もない所でごめんね?暖房は先刻つけておいたから」
彼女は、その部屋に入ろうとはしなかった。
「じゃぁ、おやすみなさい」
「おやすみのキス、してもいい?」
「駄目…って言って」
彼女の言葉が終る前にいつもよりも深いキスをした。
唇の間から漏れる吐息は扇情的で、それが聞きたくてもっと深く唇をあわせた。
本当は、彼女の他の部分にも触れたいと思いながら、彼女の体を支えた。
「こんなの、おやすみのキスじゃないわ」
「いつならしていいの?こんなキスは」
私にもたれかかって文句を言う彼女に私がそう聞くと、
彼女は自分の足で立って言った。
「知らないっ…おやすみなさい」
優しく頬にキスをされて、それではまるで母子のキスだと文句を言う前に
彼女は部屋に帰ってしまった。
- 80 名前:8.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月11日(金)01時33分04秒
- ベッドに腰掛けると、寝台に何かひかる物があるのを見つけた。
見覚えのあるピンだった。多分ごっちんの物だった。
幼馴染みなのだから、泊まっていても不思議はない。
だけどそれはなんだか複雑な気持ちにさせられて、
寝台の引き出しを開けてそれをしまおうとした。
私は引き出しなんか開けなければよかったと後悔した。
そこは、ごっちんの所有物で埋まっていた。
小学生の字でごとうまきと書いてある物や、
最近は見なかったごっちんの物が沢山入っていた。
ピンをその中の仲間にして、急いでしまった。
彼女の誰よりも傍にいるのは、結局はごっちんなんだと実感させられた。
たまらなく切なくなった。
自分が一番傍にいる訳ではない事など、この半年で嫌という程分かっていた筈なのに。
彼女から言うまでは聞かないと誓っていたが、彼女には秘密があった。
それを知っているのはごっちんだけで、
先輩を一番近くで守っているのもごっちんだった。
- 81 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月11日(金)01時40分06秒
- 更新終了。
まだ書くつもりなので、また更新するやもしれません。
しないかもしれないけど。
何れにせよ、予定は未定。
>>71
あらら。リアルタイムという事は、文字制限に苦しんでいたあの時を
共有して下さったのですか。恥ずかしいやら、嬉しいやら。
>>72 M.ANZAI様
なっちは、前作に殆ど出てこなかった分、真先に番外編を書こうと
決心した子だったりして、切なさは人一倍なんです…>理由の意味不明
これから暫く泣かせちゃいます。ごめんなさい。
>>73 夜叉様
いや、一章分が他の子よりも長い気がしたんですよ。
なっちを贔屓してる気がして…。いや、してるんですけど(w
- 82 名前:8.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月11日(金)03時43分30秒
- 深い眠りから現実世界に引き戻されたのは小さく聞こえた声だった。
悲鳴の様に聞こえてドアを開けると、真っ暗な廊下に人気はなかった。
勝手に動きまわってもいけないだろうと、ドアを閉めてベッドに戻った。
かちゃり、と音がした気がした。気の所為かと思ってそのまま耳を澄ましていると、
また、かちゃりと音がした気がした。
私は、ドアに耳をあてた。本当はそんな事したくなかったのに、
私の中で好奇心が理性に勝ったのだと思う。
「ごめんね?」
ドア越しに聞こえてきた声は二人で、片方はこの家の持ち主だった。
そして、もう1人は。
「もう泣かないの。ね?」
誰が一番彼女の心の傍にいるのかは、誰が見ても明白だった。
- 83 名前:8.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月11日(金)03時44分55秒
- その晩は眠れなかった。
明け方、またかちゃりという音が2回聞こえてきた。
きっと、ごっちんが帰ったのだろう。
彼女の部屋で何があったのかなんて知りたくもないのに、
頭の中では二人が仲良さそうに寄り添っていた。
彼女に触れる事ができるのは自分だと、はっきり言う事は出来なかった。
世界がカラフルになったのは果たして幸せな事だったのだろうか。
色のある世界は私に喜びも与えたけれど、それ以上に悲しみも与えた。
「おはよ、ひとみちゃん」
一睡も出来ず少しやつれた私に、彼女はにっこり笑ってそれから少し顔を曇らせた。
「どうしたの?嫌な夢でも見ちゃった?」
夢だったなら、どんなに良かっただろう。
私は、彼女がごっちんを夜中に呼んでいた事よりも、
辛い事があった時に自分を呼んでくれなかった事を嘆いていた。
「いや、そんな事ないよ?」
「そう?顔色が悪いわ」
彼女が私に触れようとして、私はつい少し後ずさった。
先輩は少し考えてから食事を用意し始めた。
- 84 名前:9.後藤真希 投稿日:2002年01月11日(金)03時47分35秒
- 梨華ちゃんの顔が見られなかった。
なっちに梨華ちゃんを見てるのを見られるのが嫌だった。
梨華ちゃんはきっと後で1人で悩むだろう。
それでも、彼女を見る事は出来なかった。
なっちとキスをした時、本当に昔から
彼女が好きだったのじゃないかと思った程に自然だった。
あんな事があってもなっちは変わらなかった。
なっちらしいと言えばなっちらしい。
きっと今頃顔を真っ赤にしてるだろう。
彼女はいつも時間差で吃驚したりするから。
結局本当に好きな人は壁の向こうにいた訳で、
だけど私は、なっちが好きになれるとその時は信じていた。
なっちさえ許してくれるのなら、彼女と新しい道を歩き出そうと。
電話のベルが鳴った。ワンコールで取ると、梨華ちゃんの泣きそうな声が聞こえた。
何度もごめんねを繰返す梨華ちゃんを落ち着かせた。
「真希ちゃんが何かに怒ってるの分かってたんだけどね」
「別に、怒ってないよ」
「どうしたらいいのか分からなくてね」
頷きながら、靴下を履いた。
「今から行くから、行ってから聞いてあげるから」
いつもの事だったから何も考えていなかった。
何故、彼女の声がいつもよりも小さいかなんて、考えもしなかった。
- 85 名前:9.後藤真希 投稿日:2002年01月11日(金)03時48分17秒
- 寒さに凍えながら石川家のドアの鍵を開けて素早く入った。
玄関には二足のローファーが並んでいて、
私はなんとなく誰がいるのか分かった気がした。
「どうしたの?」
「ひとみちゃんに、ゲストルーム使ってもらおうと思ったんだけどね、
やっぱりまだ入れなくて」
「何が必要なの?」
私は電気をつけてゲストルームに入った。
「暖房つけてくれる?後、パジャマ貸してもらっていい?」
私の物が置いてあるその部屋のクローゼットからパジャマを取って、
暖房をつけて、私は部屋から出た。
「はい」
「ごめんね?ありがとう」
「いいよ、別に」
私が笑うと、やっと梨華ちゃんはホッとした顔をした。
「ひとみちゃんとお話してく?」
「んーん。帰るよ」
私は、複雑な気持ちのまま石川家を後にした。
- 86 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月11日(金)03時49分38秒
- 今日の2度目の更新終了。これでほんとに今日はお終い。
先に謝っておこう。ごめんちゃい。
- 87 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月11日(金)08時06分52秒
- ん〜複雑な人間関係・・・
- 88 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月11日(金)14時32分32秒
- 梨華をはさんで交錯する真希とひとみの想いが・・・。
ここでは誰か一人でも幸せになろうとすると
みんなが辛い思いをしなければならないのか?
どうしても、どんなにしてもひれが避けられないのならば、
それならせめて、なつみだけでも幸せになって欲しい。
他の人の痛みの上に成り立つ自分だけの幸せなんて、
けっしてなつみは望まないだろうけども。
せつないなぁ・・・
- 89 名前:名無し男 投稿日:2002年01月11日(金)15時50分26秒
- 私、名無し男、恥かしながら帰って参りました!!
って言おうと思ったらど偉い展開に・・・
凄い複雑で切なくて
文字や言葉では表現できないな
あえて表現するなら
στйжδζ!!!
こんな心境です(TへT)
- 90 名前:夜叉 投稿日:2002年01月11日(金)20時07分42秒
- みんなそれぞれに壁があるみたいですね。
しかも均一に距離が離れてて。でもごっつぁんと石が一番(略。
贔屓の方、長くなるっての分かる気がします。
でも自分の場合、気が進まないところが変に長くなったり(w。
どこで切ったらいいのか分からなくなるし…(鬱)。
- 91 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月11日(金)23時29分29秒
- 誰の事も責められない・・・。
ただ、気になるのはりかちゃんの事。何があったんでしょうか・・・。
付き合ってるのに、自分じゃない人に助けを求められちゃったら・・・。
泊まった日のよっすぃせつねぇ。。。ごっちんもごっちんで(涙
- 92 名前:9.後藤真希 投稿日:2002年01月12日(土)02時20分56秒
- 隣に、よっすぃが梨華ちゃんと一緒にいるのだと思ったら、
なんだか凄く悲しくて惨めな気持ちになった。
梨華ちゃんも早く、あの事を言ってしまえばいいのに。
そう思ってから、それをされてしまうと
私がよっすぃに勝てる部分がない事に気付いた。
今更まだ、勝ち負けにこだわっている自分に自嘲じみた笑いが出た。
今も何処かで電話がかかってくるのを期待している自分がいて、
それもおかしかった。
今日はよっすぃが隣にいるのだから、よっすぃの寝室に行くかもしれない。
だけど、まだ自分にかかってくるかも、と私は少しだけ期待していた。
私はレモネードを暖めて、それを注いだマグカップと部屋に戻った。
壁に背を向けて電話を見つめる。時折、マグカップを唇に運ぶ。
それは、とても愛おしい作業だった。
あの部屋に何故梨華ちゃんが入らないかを、よっすぃが聞いたら
それは後藤家と梨華ちゃんだけの秘密ではなくなるだろう。
その理由を聞かれて答えると言う事は秘密を話すという事で、
話さずにいる事が果たして今の梨華ちゃんにできるかと言ったら、
それは無理だろうから。
だが彼女は恋をしていた。だから、あの事をよっすぃに話せないのだ。
- 93 名前:9.後藤真希 投稿日:2002年01月12日(土)02時22分10秒
- 外で、雨の音がした。
この寒さだと、翌朝には雪になっているかもしれない。
電話のベルが鳴った。
ワンコールで出ると、それはやっぱり梨華ちゃんだった。
「雨だもんね」
私がそう言うと、梨華ちゃんは掠れた声で言った。
「そっち、行ってもいい?」
「私が行くよ」
梨華ちゃんは、昔から私が守ってきた。
だから、当然の様に私は隣にいる。
だけどそれは正しいのだろうか?
私は時々疑問に思った。
彼女の隣にいるべきは彼女の恋人で、私ではない。
何度となく願ったその位置には、私の親友がいた。
よっすぃの事も、私は愛していると信じている。
あの時、彼女を誘ったのは私なのだから。
- 94 名前:9.後藤真希 投稿日:2002年01月12日(土)02時23分14秒
- 彼女が転校してきた時、私はやっぱり一週間程学校を休んでいた。
なっちから噂だけは聞いていた。
七日後に見たその子には確かに壁がある様に感じた。
それは梨華ちゃんに会う自分みたいだった。
幼稚園の頃、茶色い髪の毛をからかわれたりして
いじけてる自分を見ている様だった。
あの時は梨華ちゃんが私を助けてくれたのだった。
あの日から私は梨華ちゃんの物になった。
「声かけてみよぉかな」
きっと、梨華ちゃんならそうすると思った。
つまらなそうな泣きぼくろが印象的な子だった。
なっちがきょとんとした顔で聞いた。
「へ?誰にさ?」
転校生を指を指すと、なっちは驚いた様に私の顔を見た。
「どしたの?急に」
私はそんななっちを置いて、よっすぃの前に立った。
「吉澤さん。今日から君はよっすぃだ」
驚いているよっすぃに、私は歯を見せて笑った。
「なっちもそう呼ぶ!あ、なっちはなっちでいいよ。で、これがごっちん」
なっちが、後ろから柔らかい笑顔で言った。
- 95 名前:9.後藤真希 投稿日:2002年01月12日(土)02時24分17秒
- 「なっち、これはないよ。大体なっちはなっちでいいって何?」
「それ以外どう言うのさ。なっちを呼ぶ時はなっちでいいよって?」
「変わってないよ」
私達が言い合っていると、よっすぃが笑いだした。
「よっすぃ!!」
「よっすぃ!!」
そうして、私達は少しずつ距離を縮めていった。
私が特に話さなくても、なっちがいれば大丈夫だと思った。
彼女は私が勝手に傍にいるから、親しい友人を作らないだけで、
本当は色々な人と仲良くなれるのを知っていたから。
玄関のドアを開けると、雨だった水が廊下の端で川を作っていた。
鍵を開けて石川家に入ると梨華ちゃんは部屋から赤い目で出てきた。
「ごめんね?」
「もう泣かないの。ね?」
私が笑顔を見せると、梨華ちゃんは眉を八の字にして笑った。
よっすぃを起こさない様に、私達は梨華ちゃんの部屋に入った。
腕の中の幸せは、きっと彼女にしか提供できない物だった。
「なんで、よっすぃのとこに行かなかったの?
別に、恐い夢見たって言うだけでいいのに」
きっと聞かないよ?と私が言うと、梨華ちゃんは悲しそうに首を横に振った。
- 96 名前:9.後藤真希 投稿日:2002年01月12日(土)02時24分58秒
- 彼女の話は、聞いていて凄く辛かった。
どれだけ梨華ちゃんがよっすぃを好きかが伝わってきて、
聞いてるだけで泣きそうになってきた。
彼女は好きだからこそ言えなくて、更にもう一つ大きな問題を抱えていた。
私の中の悪魔が囁いた。天使がそれを止めた。
だけど私は誘惑には勝てなくて、梨華ちゃんに言った。
「誰も幸せになれないね」
「…ううん…ひとみちゃんと安倍さんはなれるわ」
梨華ちゃんが、悲しそうに笑った。
私は悪魔に占領されているのを良しとして、口を開いた。
「それで、いいの?」
「いいの」
梨華ちゃんの寝息が規則的なのを確認して私は石川家を後にした。
- 97 名前:10.石川梨華 投稿日:2002年01月12日(土)02時26分47秒
- ひとみちゃんから逃げる様に部屋に戻った私は、
ドアの前でずるずると座り込んだ。
唇は熱くて、心臓は高鳴っていた。
嬉しくて、どきどきして、幸せだったけれど、なんでか涙が出てきた。
思い出さないでいようと思うのに、安倍さんの言葉が私の頭の中に響いた。
『なんで好きでもない子にキスできるのさ?』
あの子が好きだけど、私にキスしてるの?
それとも私が好きだけど、あの子にキスしたの?
後者だと信じたかった。
キスをしたとか、しなかったとか、そんなのはどうでもよくて、
ただ、ひとみちゃんが私を好きだと信じていたかった。
でも、安倍さんの話をする時のひとみちゃんの顔は優しくて、
なんだかそんなのあり得ない気にもなってきた。
唇が深く合わされば合わさる程、気持ちが離れた気がした。
涙を拭いて、ベッドに潜り込んだ。
今日は天気予報は雨で、それだけで私の気分は晴れなかった。
雨の夜は嫌いだったから。
- 98 名前:10.石川梨華 投稿日:2002年01月12日(土)02時28分10秒
- 「いやぁっ…!!」
またあの夢を見て、目が覚めた。
外は雨の音がしていて、私はゆっくり息をした。
ひとみちゃんの所に行ったら、
きっとひとみちゃんは優しく抱き締めてくれる。
何があったかを聞いて、私が言わなければ
それでもいいよとキスをくれるだろう。
だけど、頭の中で響くのは安倍さんの声。
『なんで好きでもない子にキスできるのさ?』
もしそうなのならば、これ以上、安倍さんを悲しませる訳にはいかない。
彼女はとても可愛らしくて、ひとみちゃんの隣が似合う子だったから。
迷った末に、受話器を取った。
どうしても、1人でいるには恐くて、寂しい夜だった。
鍵の開く音がして、玄関に出ると真希ちゃんが立っていた。
「ごめんね?」
「もう泣かないの。ね?」
真希ちゃんが笑ってくれて、やっと私も笑う事が出来た。
ベッドに座ると、真希ちゃんは私の頭を撫でて
当然の質問をしてきた。
「なんで、よっすぃのとこに行かなかったの?
別に、恐い夢見たって言うだけでいいのに。きっと聞かないよ?」
私は、彼女に自分の今の気持ちを吐出す様に話した。
- 99 名前:10.石川梨華 投稿日:2002年01月12日(土)02時30分30秒
- 彼女にそれを伝えるのは、酷い事だと思った。
でも唇は動くのを止めなかった。
どうしても、何処かで話さないと壊れてしまいそうだった。
ひとみちゃんと会うまで、私と世界を繋げているのは真希ちゃんだけだった。
中途入学の人がいなかった私の学年では、
私の事情を曲解して知っている人ばかりで居心地が悪かった。
やっと、出会えた筈の世界の真ん中の人を思うと、自然と涙が出てきた。
こんな思いをするならば、いっそ出会わなければよかったの?
真希ちゃんは私の話を最後まで聞いて、ベッドに横たわらせた。
真希ちゃんの手が私の目を塞いで、真希ちゃんの声が聞こえた。
「誰も幸せになれないね」
「…ううん…ひとみちゃんと安倍さんはなれるわ」
私がひとみちゃんから離れていけばいいだけだから。
「それで、いいの?」
「いいの」
真希ちゃんの声に、しっかりと答えた。
私がもう一度眠るまで、真希ちゃんは傍にいてくれた。
- 100 名前:10.石川梨華 投稿日:2002年01月12日(土)02時31分34秒
- 朝起きると、雨は止んでいた。
目の腫れは治まっていて、私は少し安心して洗面所に向かった。
顔を洗って、歯を磨いて、制服に着替えた。
ゲストルームを覗くと、ひとみちゃんは既に制服に着替えていた。
「おはよ、ひとみちゃん」
笑顔を見せるひとみちゃんは、何故か少し具合が悪そうだった。
「どうしたの?嫌な夢でも見ちゃった?」
「いや、そんな事ないよ?」
人形の様な笑顔で彼女が言った。
「そう?顔色が悪いわ」
私が彼女の頬に触れようとすると、ひとみちゃんは少し後ろに身をひいた。
蘇ってくるのは、安倍さんの言葉。
『なんで好きでもない子にキスできるのさ?』
あぁ、そうなんだと、思った。
今までは、それが間違いである様にと願ってきていたけれど、
今ので全部分かった気がした。
私は朝食を作りに台所に向かって、彼女は気まずそうに椅子に座った。
それから先の事はあまり覚えていない。
ただ、真希ちゃんとばかり話していた気がする。
- 101 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月12日(土)02時41分06秒
- 本日の更新終了。ぐちゃぐちゃした関係の方が
筆(キーボードだけど)が早いってどういう事だ、自分。
>>87
複雑ですみませんです。たまに作者も誰の発言だったかを
確認しに戻ったりしてます。…駄目じゃん…。
>>88 M.ANZAI様
なっちは幸せにしてあげたいですね。1の時から思ってたりしました。
殆どでてなかったけど。
>>89 名無し男様
おかえりなさい。御飯になさいます?お風呂?それともいしよし?
って聞こうと思ったらもっとこんな展開になってしまいました。
って、いつも馬鹿な返答でごめんなさいね。
>>90 夜叉様
一番時間の長い人の距離が一番近いのは仕方ないですね。
そういう意味では吉澤さんは可哀想かな?
切る部分は迷いますよね。泣く泣く切る時があります。
>>91 名無し読者様
前回までの部分なら梨華ちゃんの事責める人が出るかな?
と思っていたので、そう言って頂けて嬉しいです。はい。
誰が悪いかって、私が悪いんですけどね…素直に幸せにしたれよ…。
そんな訳で、また今度。
- 102 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月12日(土)03時43分19秒
- こんがらがってますね〜(w
っつーか切ない…
お互いが誤解したまま余計にこじれさせていると…
続き楽しみに…待ってます。
ってゆーか続き気になってもー(w
- 103 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月12日(土)03時45分48秒
- 気持ちは分かるがごっちん君は・・・(略
- 104 名前:名無し男 投稿日:2002年01月12日(土)15時27分31秒
- 何とか誤解を解かねば・・・
よっしゃ!画面の中へGO!!(ダメだっつの)
- 105 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月12日(土)16時14分19秒
- 自分の愛しい人が笑顔でいられる事を願っているはずなのになぁ。
互いに相手の幸せを願っているはずなのになぁ。
梨華とひとみが離れていく予感・・・辛いなぁ。
- 106 名前:11.後藤真希 投稿日:2002年01月12日(土)16時22分24秒
- 部屋に戻った私は、涙も出なかった。
なっちは気付いていた、私の本当の気持ちに。
当然かもしれない。あんなに傍にいたのだから。
私は涸れてしまった様だ。
あんなに色々あったのに、涙が一滴も出てこない。
悪魔の囁きに耳を貸したから?
そうかもしれなかった。
なっちに会いたかった。だけど、会って何を言うのだろう。
今更、言い訳を聞かせてもそれは嘘になるだけだ。
私は、梨華ちゃんを選んでしまったのだから。
机の上を見ると携帯が光っていて、私はそれを手にとった。
メールマークが画面の一番上についていて、私は受信箱を開けた。
『まだ、起きてる?なち』
着信時間は数分前になっていて、私は急いで返信した。
『起きてるよ。どしたの?真希』
時刻は四時三十分で、既に朝に近い時間だった。
『電話していい?なち』
『いいよ。真希』
彼女の問いかけに一言だけ返すと、すぐに家の電話が鳴った。
ワンコールで取ると、なっちは驚いた様に笑った。
- 107 名前:11.後藤真希 投稿日:2002年01月12日(土)16時23分20秒
- 『なんか、悪い子みたい。こんな時間に』
彼女の言葉に笑おうとして、声を出したら乾いた笑いが出た。
受話器越しなら気付かれないかとも思ったけど、やっぱりなっちは気付いた。
『元気ないべ?どうかしたさ?』
「……」
私は率直に話そうと思った。私がした事は、決して許される事じゃないから。
ならば、なっちに裁いて欲しかった。
「なっち、好きでもない人とキスできるかよっすぃーに聞いたんだって?」
『…誰が言った?よっすぃー?』
なっちの声が固まった。緊張した声で聞くなっちに、私は優しく返した。
「ううん。とある人がその会話を聞いてしまったそうだ」
『石川先輩?』
「そう」
なっちは少しの間、黙っていた。
息遣いが不定期で、泣いているのかとも思った。
次に彼女の声を聞いた時、彼女の声は凛としていた。
『石川先輩は、なんて言ってた?』
「誤解してるよ?よっすぃーとなっちがって」
早く誤解を解かないと、なんて先刻の悪魔は何処へやら、
天使が私の口を借りて言った。
- 108 名前:11.後藤真希 投稿日:2002年01月12日(土)16時24分26秒
- なっちは暫く黙って、それから小さい声で言った。
『誤解…じゃないさ』
「え?」
思い出されるのは、なっちの柔らかかった唇、優しかった腕。
『私、本当はよっすぃーが好きでさ…よっすぃーはきっとまだ迷ってる』
「じゃぁ…」
梨華ちゃんが聞いたのは、正しかったのだ。
私は、怒りよりも呆然とした気持ちで一杯になった。
『ごめんしょ、黙ってて』
「い、言ってくれよぉ。後藤、告白なんかしちゃったじゃん」
精一杯明るい言葉を返した。
どうしてこんなにショックなんだろう。
友達だと思ってた唯一の二人が、私に黙っていたから?
私は彼女達を貶めようとしたというのに?
『でも、ごっちんには好きな人が他にいるっしょ?』
「そ、そーなんだよぉ。実はね、好きな人がね」
なっちの声が少し悲しそうな気がした。
私は全然気にしてないよ、と繰返して電話を切った。
翌朝、どうしてもよっすぃと話す事が出来なかった。
梨華ちゃんは、何故か私にばかり話しかけてきて、
なっちが合流した時にはいつもとは違う組み合わせで歩いていた。
なっちの後ろ姿を見て悲しい気持ちになったけど、涙は出なかった。
- 109 名前:11.後藤真希 投稿日:2002年01月12日(土)16時25分29秒
- お昼休みになった時、なっちがよっすぃを呼んで二人は出ていった。
たった1人でクラスメートの中にいると、彼女達が
私の唯一の友達だった事が痛い程よくわからせた。
「後藤さん、安倍さん達は?」
「多分、すぐ帰ってくる」
素っ気無い返事を返すと、話しかけてきたクラスメートは退散した。
梨華ちゃんだけがいればよかった初等部時代、
転入してきたなっちに酷い事を言った。
そんな私を簡単に許してくれたなっちが輝いて見えて、それからずっと傍にいた。
私はなっちなら許してくれるとずっと甘えていたのだ。
よっすぃとはぶつかる事も多かったけど、気の合う部分も多かった。
好きな人まで同じだった、筈だった。
今までの私なら面倒だからと、ここで待っていただろう。
でも、彼女達にだけは正直に生きていたかった。
そうして私は彼女達を探す旅に出た。
- 110 名前:11.後藤真希 投稿日:2002年01月12日(土)16時26分20秒
- 屋上には誰もいなかった。
初等部と違って、空とコンクリートが見えるだけの寂しい場所だった。
だけど、ここをよっすぃは好きだと言っていた。
『空とコンクリートだけで形成されている世界も、少しだけ好きだよ』
端にいけば、緑豊かな風景に出会えるのに、
彼女はいつも寝転んで空だけを見ていた。
階段を降りていくと、梨華ちゃんが飛び込んできた。
「梨華ちゃんっ?」
「ごめんねっ」
走って去っていく梨華ちゃんと、今探してる二人と、
どっちを取るべきなんだろうか。
二人は二人で楽しくやってるかもしれない。
私なんかがいっては邪魔かもしれない。
梨華ちゃんは、今私が必要かもしれない。
たった1人で泣いているかもしれない。
だけど…。
私は、梨華ちゃんを追う事に迷いを感じていた。
もしかしたら、そこは人生の選択だったのかもしれない。
- 111 名前:12.安倍なつみ 投稿日:2002年01月12日(土)16時27分19秒
- 受話器を置いても、私は泣かなかった。
私は凄く罪深い事をしようとしていた。
だけど、これでもしごっちんが幸せになれるなら、
あの時、結果的に私がクラスにいやすくしてくれたのはごっちんで、
そのごっちんが幸せになれるなら、私は自分が罰を受けてもいい。
心の奥底で、石川先輩とよっすぃに謝った。
ごめんね。ごめんね。
明日が来なければいいと願った。
だけど容赦なく朝日は訪れて、私は坂の下に立った。
よっすぃが歩いてきて、後ろに先輩とごっちんがいた。
「おはよ」
「はよ」
よっすぃの隣を歩くと、よっすぃは悲しそうに笑った。
「ねぇ、よっすぃ。お昼、ちょっと相談にのってくれる?」
何があったかは知らなかったけれど、よっすぃと先輩の間で何かあったのだろう。
もしかしたら、それは私のあの発言の所為かもしれないけれど。
学校に着くまでの間、石川先輩は一度も私達を見なかった。
- 112 名前:12.安倍なつみ 投稿日:2002年01月12日(土)16時28分22秒
- お昼休みまでの授業は簡単に過ぎてしまった。
いつもは長くて退屈なのに、今日は走り去る様に先生が退場してる気分だった。
「ごっちんは?」
「ごっちんには、内緒にして?」
どんな罰を受けてもいいけど、ごっちんには知られたくなかった。
よっすぃの顔の隈に気付いて、私が聞くとよっすぃは首を横に振るだけだった。
図書室の横にある保管庫は、普段は生徒は入ってはいけない事になっている。
図書委員だけの特権で、よっすぃは初めて入る場所に興味津々だった。
「初めて入ったよ。いいさぼり場だね」
「こらっ」
私が机に座ると、よっすぃは目の前に立った。
「で?」
「よっすぃ、キスできる?」
私の言葉に、よっすぃは目を丸くして驚いた。
もっとドキドキするかと思ったけど、私の心臓は冷静だった。
「誰に?」
「キスして?」
額に優しいキスが降りてきた。
「違う。ちゃんとしてほしいのさ」
よっすぃは、下を向いて黙ってしまった。
- 113 名前:12.安倍なつみ 投稿日:2002年01月12日(土)16時29分25秒
- もう一度、して、と頼むとよっすぃは私を見て聞いた。
「なんで?理由を話してよ」
「お願いさ。友達として、愛してくれてるなら黙って、して」
涙が出てきた。親友を騙してまで、
私は何を手に入れたいというのだろう。
柔らかいキスが唇に降りてきた。
「もっと…深く…」
苦しそうに、よっすぃが遠慮がちな唇で私の唇の間を割って入ってきた。
だんだん、深くなっていく口付けに堪えきれなくなって、
机に横たわった。覆いかぶさるよっすぃの体の重さを感じて、
涙が止まらなくなった。涙を見て、よっすぃは唇をもっと深く合わせた。
カタン、と音がした。
離れようとしたよっすぃに、私はしがみついた。
「愛してるなら、もっと…して」
獣の様に激しくなった私達の唇は、まるで
お互いが最初から望んでいたかの様に絡み合った。
シャツが乱れて、ネクタイを苦し気によっすぃが外した。
よっすぃは、私がしがみつくのを止めると唇を離した。
「よっすぃー、傍にいよ?それできっと皆の幸せになれるさ」
「…だから?だから、こんな事を?」
私は答えなかった。よっすぃは、壁に凭れて座った。
- 114 名前:12.安倍なつみ 投稿日:2002年01月12日(土)16時31分01秒
- よっすぃの傍に行くと、よっすぃは諦めた様な顔で言った。
「今のままじゃ、皆幸せになれないかな?」
私はどうしても嘘が言う事ができなくて、キスをもう一度した。
「こんな始まりも、悪くないっしょ?」
よっすぃは私のシャツのただしながら口を開いた。
「そうだね。これが、一番いいのかもしれない…」
「しよう、よっすぃー。早く忘れよ?」
私達はもう一度軽い口付けを交わして、
それからよっすぃは唇を私の首筋に持っていった。
もう一度カタンと音がしたけれど、よっすぃは気付かなかった。
ごめんね、よっすぃ。貴方を傷つけたくてしたんじゃないの。
これから傍にいるから、ねぇ、許してね?
聖なる学校で、私達は罪の烙印を押し合った。
よっすぃは、それが罪の烙印である事を全く知らずに。
初めて他人に触れられた場所は、それが恋した人ではないからか、
それとも、喜びに満ちてか、涙にくれていた。
私は後者だと思い込む事にした。
- 115 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月12日(土)16時39分57秒
- 更新しました。酷評されそ…。
>>102
こんがらがり過ぎですよね(w
続きが気になると言われてがぜんやる気を出す私。
しかし、その続きがこれって…。
>>103
いやいや、あんな時に呼ぶ石川もどうかと…
って作者の台詞じゃないですね。
まぁ、もう暫く見てやって下さい。
>>104 名無し男様
あらあら。行っても、学校には入れませんよ〜。
それでもいいならお気をつけて〜。って、行っていいのかい。
>>105 M.ANZAI様
誰だって、自分も幸せになりたい物です。
誰かの幸せの為に犠牲になる事だけが自分の幸せではない訳で。
もう後1行あったのですが、ネタバレぽかったので消しました(ニガワラ
安倍さんを嫌わないでね。どっちかというと吉澤さんなのか?
- 116 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月12日(土)17時48分58秒
- わわ、重〜い・・・・・
- 117 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月12日(土)20時45分49秒
- 嫌わ無いですよ
多分一番辛いのもこの二人なんじゃないかな?
ああいしよしに幸せはいつ来るのでしょうか
- 118 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月13日(日)00時11分26秒
- ぎゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜超つらいじゃないっすか。
なんもわかんないままぐちゃぐちゃになってるよっすぃがつらすぎ・・・。
- 119 名前:13.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月13日(日)01時14分52秒
- プールの中は水が少したまっていた。
プールサイドのベンチで、私は彼女が来るのを待っていた。
「やっぱり、水辺は寒いのね」
そう笑う彼女が愛しくも見え、また悲しくも見えた。
出会った頃と変わらない細い体は冬になって一層儚く見えた。
「石川先輩、もう貴方の傍にはいられない」
私がそう切り出した時、先輩は何も言わなかった。
「貴方の一番傍にいるのは、ごっちんだ」
それが分かってても傍にいきたかった、そう言うと、
先輩は悲しそうに言った。
「私が世界をカラフルにしたの?」
私は言葉が出なかった。
「安倍さんじゃないの?」
私はどう言っていいのか分からなくなった。
彼女は、なっちと私がこれから歩いていこうとしているのは事実で、
だけど、世界をカラフルにしたのは確かに彼女だった。
しかしそれを今言って、何になると言うのだろう。
「ホラ、その癖」
彼女がおかしそうに笑った。
「え?」
「困った事があるとひとみちゃん、右手で左手の親指の付け根を触るのよ?」
そんな素敵な事を知っているのに、私達は遠く離れなきゃいけない。
- 120 名前:13.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月13日(日)01時16分20秒
- 「さよならね、ひとみちゃん」
「えぇ。先輩…貴方が本当に好きだった」
彼女は最後に少し泣きそうな顔をした。
歩いていく彼女と入れ代わる様になっちがやってきた。
どんな顔を彼女はしたんだろう。なっちは複雑そうな顔をした。
隣になっちが座って私の顔を見た。
「ん?」
「辛い?やっぱり止める?」
なっちの頬をつねると彼女は唇を尖らせて怒った。
「ごめんごめん。後悔なんか、してないよ。
それで、皆が幸せになれるのなら」
なっちは控え室の方を見て、それからもう一度私を見て控えめに笑った。
「幸せに、なれるといいね」
「なろうよ、何時かは幸せに」
辺りを見渡して、誰もいないのを確認して私達はキスをした。
たった数時間で数えきれないぐらい交わしたキスの始まりは彼女の涙で、
今も、彼女の瞳には涙が溜まっていた。
半年前に、世界はカラフルになった。
灰色から七色に変化した世界で、私はこの世には幸せだけじゃない事を知った。
それだけで、いいじゃないか。
私は涙等流さなかった。流す必要さえ考えなかった。
もしかしたら、私の代りになっちが泣いてくれていたのかも知れない。
彼女は1日で沢山泣いていたから。
- 121 名前:13.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月13日(日)01時17分29秒
- 「初めて入ったよ。いいさぼり場だね」
「こらっ」
初めて入った図書室の保管庫に興味を示していると、
なっちは机に座って、そんな私を諌めた。
彼女の目の前に立って、私は彼女の悩みを聞く事にした。
「で?」
「よっすぃ、キスできる?」
私は思わず聞き返しそうになってしまった。
言葉を理解した私は当然の疑問を彼女にぶつけた。
「誰に?」
「キスして?」
なっちが私を上目遣いで見上げた。
少し考えてから、額にキスをした。
「違う。ちゃんとしてほしいのさ」
なっちの顔が見られなくて私に、彼女の声が降りてきた。
「ねぇキス、して?」
私は彼女を見返して理由を聞いた。
だけど、彼女はその返事をしなかった。
「お願いさ。友達として、愛してくれてるなら黙って、して」
そう言うと、彼女は泣き出した。
- 122 名前:13.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月13日(日)01時18分47秒
- 昨日の夜、彼女が泣きながら訴えていた言葉を思い出した。
理由は何も言われずにしても察する事ができた。
昨夜は色々な事が色々な人にあり過ぎて、
きっと私達は皆疲れていたのだろう。
私は、なっちの唇に触れた。
「もっと…深く…」
深く、深く、どんどん深く、なっちの唇を貪った。
なっちが横たわった机に手を置くと、そこは冷たくて、
彼女の涙で、増々冷たくなっていった。
カタン、とドアが動いた気がして、
私は彼女から離れようとした。
彼女は離れないで欲しいと言う様に、
背中に腕を回してきた。
「愛してるなら、もっと…して」
それから先は彼女の事だけを考えようと思った。
彼女が、一緒にいようと言った時も、愛しあおうと言った時も、
彼女と体を合わせた時も、先輩に別れを告げる直前まで彼女の事だけを考えた。
少しでも彼女から離れると、頭の中で恋しい顔が泣いていた。
「なっち」
「何さ?」
「なんでもない」
「何さ、それ?」
なっちが何故あんなに泣いていたのか、私は結局その時は気づけなかった。
- 123 名前:14.石川梨華 投稿日:2002年01月13日(日)01時20分01秒
- 信じていようと思った先に、事件は起こった。
その日、私は図書室の先生に頼まれて保管庫の整理を手伝う筈だった。
「スマン!悪いんやけど、頼まれてくれんか?これからちょっと野暮用やねん」
「あ、はい」
先生に鍵を渡されて、私は保管庫に向かった。
最近就任した図書の先生は、真希ちゃん達以外で唯一私に話しかけてくる人だった。
気さくな関西弁で、私に用事を頼んでくる。
「ほんま、ごめんな?今度なんか奢るわ」
「いいです。楽しそうだし」
それが、なんだかちょっと嬉しくて私は彼女の所によく行く様になった。
「2年が先に行ってるから、その子に協力してもらい?」
私はそれがひとみちゃんだったらいいな、なんてあり得ない事を頭に浮かべて
保管庫のドアをゆっくり開けた。
- 124 名前:14.石川梨華 投稿日:2002年01月13日(日)01時21分02秒
- 女の子達がキスをしていた。
私はその事実に驚いた後に、その子達が知っている子達な事に驚いた。
私が出した音に気付いて離れようとした人は私に昨日キスした人で、
私に気付かずにキスを願った人は昨日彼女が抱き締めていた人だった。
「愛してるなら、もっと…して」
一層激しく抱き合う彼女達に、私はその場から立ち去りたくて、
でも足が動かなかった。
廊下の向こうから人の声が聞こえて、私は急いでドアをしめて鍵をかけた。
図書室の先生になんて言おうなんて、下らない悩みが私の頭の中を駆け巡った。
もっと、考えなきゃいけないのは別の事なのに。
途中で人にあたって謝ると、それは真希ちゃんだった。
私は真希ちゃんからも逃げる様に立ち去った。
何処か見つからない所、と探して私はプールの更衣室に逃げ込んだ。
「どうしてっ、ここのなのよぅ」
ぼろぼろ泣いてる事に、今更気付いた。
もうどうなったっていい、そう思った時に更衣室の奥が動いた。
「あんた、何やってんのん?」
- 125 名前:14.石川梨華 投稿日:2002年01月13日(日)01時21分51秒
- 「保管庫の整理はどないしたん?」
「あ、えっと、ごめんなさい。だけど、先生の用事って?」
空き缶に、吸っていた煙草を捨てて先生は言った。
「いや、あんたこそ大丈夫なん?」
驚いて、涙が止まってしまっていた。
「大丈夫です。先生は?」
「あたしも大丈夫や。ちょっと失恋しちゃってな」
「…そうなんですか」
「慰めいや、少しは」
先生が笑って言った。
泣いていた私よりも、泣いていない彼女の方がなんだか悲しそうだった。
「私も、失恋しちゃったんです」
「目、今の内に冷やさんと大変な事になるで?」
先生は手早くタオルを水に浸して絞ると、私の目の上に置いた。
「ほれ、話してみ?聞いたるから」
私は昨日からの話を先生に名前だけは伏せて話した。
タオルの間から覗くと、先生の顔が優しく笑っていた。
- 126 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月13日(日)01時25分56秒
- 本日ニ度目の更新。でもプチなので、レスもプチ。
>>116
ごめんなさい。でもまだまだ重くなりそうな。
>>117
そう言って頂けて良かったです。でもまだまだ後になりそうな。
>>118
全部知ってるなっちも辛いかと。結局この二人ばっかり?
さて、新キャラ登場。しかも今更な登場。あの人なのか?それとも…。
加護だったら凄いですね。
- 127 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月13日(日)01時30分04秒
- リアルタイムで読ませていただきました!
思い出の場所で別れるなんて…
せつなすぎる…
- 128 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月13日(日)01時59分21秒
- んー、そうきましたかぁ・・・
そろそろいずれかの着地点が見えてくる予感がしてはいたのですが、
それがなっち&ひとみだったとは。
なっちには幸せになって欲しいと願ってみているのに、逆に悲しみを感じてしまいます。
しかもここに来ての新キャラ登場で、ますます先行きが分からなくなりそうです。
作者さんは我々をいったいどこまで奥深くこの樹海に導こうと言うのですか?
- 129 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月13日(日)03時24分53秒
- 言い忘れていたと戻ってきたら、もうレスが!!
そんな訳で、勘のいい方はもう
私が何を言いに来たかにお気付きかもしれませんが、
先ずはレスをば。
>>127
うぅ。有難うございます。リアルタイムって、
言われた方もなんかドキドキしますね。
あの場所は、始まった場所ですからね、はい。
>>128 M.ANZAI様
そうきてみました。
着地点は誰にも分かりませんけどね、
樹海の端は急にあらわれるかもしれないですね。
更新時以上にレスが長いって、どうなんでしょうねぇ。
まぁ、そんな訳で御連絡。
お約束といいますが前回もやったんですが、
こっから先は暫く更新しません。
次の更新は最終回になります。
早くて今週末。遅くても今月中。
では、またその日まで。
- 130 名前:usapyon 投稿日:2002年01月13日(日)14時28分39秒
- いつも、ひっそりと拝見させていただいてます。
愛するこの作品が終わってしまうと思うと、胸が締め付けられます。
が、続きはもっと気になるので・・・。
作者さんの名前の由来はもしかすると、村上春樹さんですか?
- 131 名前:名無し男 投稿日:2002年01月13日(日)14時30分11秒
- もう最終回?
悲しいニダ
そう言ってるうちにキングスライム達がプレスをかけてきた!
囲まれた!大ピンチ!ボール取られちゃう!!
たしけてー!!!!!
それにしても一体どっちに転ぶんだろ?
- 132 名前:夜叉 投稿日:2002年01月13日(日)15時03分32秒
- 留守をしている間にかなりの更新がされてたんで、絶句。
話の展開を見て、また絶句。
次回更新が最終回だと知って、これまた絶句。
つらいですわ。
- 133 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月13日(日)18時27分20秒
- うますぎ。
これしか言えません。ホントにせつなすぎだしネコさんの文章もうますぎ。
しかもこの先の展開が全く予想できません。
最終回でどのようにくっつくのか?
更新されるまで眠れない夜が(略
- 134 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月14日(月)21時09分42秒
- ここまで一気に読まさせて貰いました。
とってもとってもつらいことになってますね。
それぞれの想いがそれぞれにちょっとだけずれちゃってて…
次が最終回ですか…残念ですがどんな結末なのか楽しみにしてます。
- 135 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月15日(火)01時07分41秒
- 更新します。結構長いので、暫くお待ち下さい。
- 136 名前:14.石川梨華 投稿日:2002年01月15日(火)01時08分55秒
- 私が一通り話し終ると、先生は少し考えて言った。
「もし、その人が本当に違う子を好きなら別れてやり?」
「え?」
目からタオルを取ろうとすると、先生の手でそれを戻される。
「ちゃんと冷やしとかんと目、腫れるで」
先生は私の髪の毛を撫でながら、話し始めた。
「私も今日振られてんやんか?私はな、しつこかってん。
別れたい言われても、嫌やって言ってきかなかったんよ」
先生の手は少し震えていた。だけど、こっそり覗くと彼女は泣いていなかった。
「そしたらなぁ、今日嫌われてしもた。もう私の顔、見たないってさ」
「先生…」
「だから、あんたは今の内に別れてやり?
…それがええ女っちゅうもんや」
彼女の手が離れて、私はタオルを少しだけどかした。
「まだ、その人が好きでも?」
「好きだから、や」
先生の声が震えた気がして、私はタオルを元に戻した。
- 137 名前:14.石川梨華 投稿日:2002年01月15日(火)01時09分57秒
- 五時間目は、更衣室で先生と過ごした。
先生が生徒とさぼってしまうなんて、と私が笑うと
先生は私の頭を叩いた。
「うるさい。追い出すで?」
「黙ってます…」
先生のタオルの効果があったのか、兎にはならずにすんだ。
六時間目が終ると、クラスの外にひとみちゃんが立っていた。
「どうしたの?ひとみちゃん」
あんなにショックだったのに、今の私は笑顔だった。
「お話があるんですけど…」
「じゃぁ、あそこで待ってて?」
戸惑う彼女に私は全てが始まった場所を告げた。
帰る準備をして、私は図書室に向かった。
図書室を覗くとそこに先生はいなくて、はり紙がしてあった。
『諸事情により、本日は無人』
それでいいのかと疑問に思いながらも私はプールサイドに向かった。
- 138 名前:14.石川梨華 投稿日:2002年01月15日(火)01時10分38秒
- プールサイドのベンチは既にひとみちゃんを乗せていた。
キラキラした水面は冬ならではの物で、今日の事を印象づけるには十分だった。
「やっぱり、水辺は寒いのね」
なんでもない事の様に言う私の頭の中に先生の言葉が浮かんでくる。
『別れてやり?』
『それがええ女っちゅうもんや』
「お話、して?」
私は、この時にはもう心に決めていた。
彼女から言わなくても、今日お別れしようって。
「石川先輩、もう貴方の傍にはいられない」
先生の声と、水面が私の涙を止めた。
「貴方の一番傍にいるのは、ごっちんだ。
…それが分かってても、傍にいきたかった」
『しつこくしてたらなぁ、嫌われてしもた』
先生の言葉はあんなに胸に響いたのに、
私は絶対に言わないでいようと思ったのに、つい言ってしまった。
「私が世界をカラフルにしたの?」
ひとみちゃんは何も言わなかった。
「安倍さんじゃないの?」
ひとみちゃんが右手で左手の親指の付け根を触った。
- 139 名前:14.石川梨華 投稿日:2002年01月15日(火)01時11分20秒
- 「ホラ、その癖」
私が笑うと、彼女は気付いていない様で不思議そうな顔をした。
「え?」
「困った事があるとひとみちゃん、右手で左手の親指の付け根を触るのよ?」
やっぱり、困っちゃうのね。
最後くらい、嘘でも私だって言って欲しかった。
「さよならね、ひとみちゃん」
「えぇ。先輩…貴方が本当に好きだった」
優しい彼女の嘘はどうしても嘘だと思えなくて、
私はまた彼女に腕の中に収まりたくなる。
プールサイドを去ろうとした時、更衣室の前で安倍さんに出会った。
私は彼女の隣をすり抜けて、更衣室に置いてあった鞄を取って帰路についた。
『愛してるってなぁ、恋してるよりももっと強いねん。
その人に愛されなくてもえぇねん。勝手に好きでいられんねん』
先生。私ね、ひとみちゃんの事愛せたでしょ?
- 140 名前:15.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時12分21秒
- 結局、梨華ちゃんもなっち達も見つける事は出来ずに私は教室に戻った。
クラスは空っぽで、私は誰からもおいてきぼりにされた。
自分の席に座っていると、クラスを覗いた先生が外で体育だと言って立ち去った。
私は仕方がないので保健室に行く事にした。
なっちもよっすぃもいないそこで、体育なんかに参加できなかった。
私は愕然とした。
なっちと仲良くしたのも、よっすぃに声をかけたのも、
全部自分が寂しかったからだったのだ。
梨華ちゃんだけいればいいと思っていたあの頃から、
本当は少しだけ寂しく思っていたのだろう。
今更ながら、あの二人の存在の大きさを実感した自分を、
私は馬鹿だと心の中で叱責した。
今までは二人の事を何処かで軽んじていたのだと思う。
梨華ちゃんが大事なんだと、誰よりも大事なんだと、
他の二人を軽視していたんだと思う。
だけど、実際は他の二人もとても大事な存在になっていた。
出会う前だったら、梨華ちゃんだけでいいとはっきり言えたけど、
出会ってしまった以上は、二人を忘れる事は出来なかった。
- 141 名前:15.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時13分26秒
- 授業が終っても、二人は帰ってこなかった。
鞄だけが残っていて、ずっと待っていようかとも思ったけれど私は待つのを止めた。
きっと彼女達は明日になったら話してくれるんじゃないか、って期待していた。
もし話してくれないのなら、話してくれるまで待つしかないのだろう。
私はそこまで考えて、自分の依存の激しさに驚いた。
私はどちらかと言うと、他人と関わるよりも1人でいる事を好んでいた。
幼稚園の時からなのだから、相当根深い問題だ。
だけど、そんな時梨華ちゃんが現れて、彼女の傍にいて、
彼女があの事に巻込まれて、私は彼女を守ろうと思った。
それこそが依存だったのかもしれない。
なっちの傍にいたのも、なっちが1人になるから。
だけど私以外となっちが付き合っていなかったのは、
私がそう言いながらも依存していたからかもしれない。
私は結局、他人がいなくてもいいって言いながら、
他人がいなくちゃ生きていけない。
そんな弱い人間だったのだ。
- 142 名前:15.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時14分12秒
- 私はずっとなっちに甘えていたのだ。
私はなっちが傍にいなくなってやっとその大切さに気付いた。
自分が、自分の恋に一生懸命なってるだけで、
なっちの気持ちにも気付かずにいて、
よっすぃと気まずくなると押し付けてばかりいた。
なっちに申し訳なくて仕方なかった。
私がよっすぃと気まずい空気が流れるのはたまにあって、
ここ最近はいつもそれが梨華ちゃんの事だった。
彼女はどんな気持ちでよっすぃの隣にいたんだろう。
なっちがよっすぃの事を好きだなんて気付いていたら、
そんな事しなかっただろうか?
きっと、私はなっちに甘えてしまっただろうと思った。
なっちが離れていかなければ、私はこんな事に気付かなかっただろうから。
これに気付いてしまったというのは、つまりは
なっちが私から離れてしまったという事でもあった。
そんな事に今更気付いて、私はなんだか悲しくなった。
- 143 名前:15.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時14分48秒
- 「帰ろ…」
私は呟いて、席を立った。
今はなんだか誰にも会いたくなかった。
こんなにも自分が愚かしかった事に、ショックを受けていた。
「真希ちゃん、大丈夫?」
「うん。平気…」
何処かから梨華ちゃんの声が聞こえてきて、
私はぼんやりと答えた。
「真希ちゃん!しっかりして!!」
遠のいていく意識の中で、私は梨華ちゃんが心配そうな顔をしているのを見つけた。
「平気だよぉ」
歪んでいく梨華ちゃんに、私はにっこり笑った。
- 144 名前:15.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時15分36秒
- 目が覚めると酷い頭痛がした。
「頭、打たなくてよかった。具合悪いのに、昨日呼び出したりしてごめんね?」
隣に座って涙目の梨華ちゃんが私に謝った。
私はこの状態が理解できなくて、どうしたのか保健の先生に聞いた。
「あんたなぁ、熱出してんで?」
「へ?」
きつめの眉をひそませて、彼女は私の耳に体温計をあてた。
ピピッと音がなって、長い爪が頬を掠める。
「もうちょっと寝てき?」
「はい…梨華ちゃん、帰っていいよ?」
「何言ってるの?お姉ちゃんなんだから、待ってますよ」
梨華ちゃんは、年上ぶって言って、それから笑った。
こんなに元気なら、誤解は解けたのかもしれない。
「ねぇ、梨華ちゃん」
小さく話しかけると、後ろから保健の先生が怒って言った。
「後藤!寝いて言うたやろ?」
私は先生にちょっとだけとお願いして、梨華ちゃんの顔を見た。
「梨華ちゃん、誤解は解けた?」
- 145 名前:15.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時16分27秒
- 「誤解?」
梨華ちゃんが不思議そうな顔をするので私はよっすぃの話、と小さく言った。
梨華ちゃんは少し考えてから、笑って言った。
「あれね、誤解じゃなかったのよ」
「梨華ちゃん?」
梨華ちゃんの笑顔はまるでそれが良かったとでも言ってるみたいだった。
誤解じゃなければなんだと言うのだ。
私は、彼女の話に耳を傾けた。
「私ね、今日ひとみちゃんとお別れしてきたの。
ひとみちゃん、やっぱり安倍さんの事が好きみたいだったから」
「なんでそんな風に思うの?」
私の最後の足掻きは、簡単に終ってしまった。
「ひとみちゃんからお別れしようってなったのよ?」
「じゃ、なんでそんな」
笑顔でいられるの?とは、さすがに聞けなかった。
- 146 名前:15.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時16分57秒
- 「青春やね」
保健の先生がカーテンを開けて言った。
「立ち聞きしないで下さいよ」
私が抗議しても、彼女は全く聞かずに梨華ちゃんを見て言った。
「でもあんた、その子の事まだ好きなんちゃうん?」
「……」
梨華ちゃんは答えなかった。
先生も私も、部屋の全部がそれを肯定と受け取った。
「なぁ、好きなら諦めちゃあかんねんで?好きなら好きやってちゃんと言い。
相手かて、そんな気持ちに気付いてなんてくれひんよ?
それで玉砕してもええやないの。ちゃんと、気持ち伝えんと」
何時か後悔するで?と先生は少し悲しそうに言った。
梨華ちゃんは少し考えてから、こっそり呟いた。
「でも、平家先生が…」
先生は片眉を釣り上げて、それから戻した。
- 147 名前:15.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時17分27秒
- テンションの高い声が、保健室に響いた。
「みっちゃん?みっちゃんになんか言われたん?
あいつの言う事聞いたって上手くいく訳ないやん。
こないだで連続失恋…もう何回か数えられんぐらいやねんで?」
あっけにとられている私達に、中澤先生は頭を抱えた。
「あいつの言う事間に受けて失恋したん?なんちゅう間抜けな…」
やかんの音がピーッと鳴り出して、先生は頭を抱えたまま火を止めにいった。
「お茶しにきたで」
「優ちゃん、聞いてぇな。私、また失恋しちゃってんよぉ」
立続けに入ってくる二人の教師に驚いていると、
中澤先生が図書室の司書の先生を指差して、怒鳴った。
「あんたなぁ、生徒まで失恋さしたるな!可哀想やろにが!」
「へ…?あれ、石川さん。どないしたん?あの後」
三人の教師に囲まれた梨華ちゃんは、困った様に笑って
一言、失恋してきた、とだけ言った。
一緒に入ってきた稲葉先生も中澤先生の味方となり、
1時間後、司書の平家先生は困りきった梨華ちゃんを
更に困らせたいのかと思う程に、何度も謝っていた。
すっかり暗くなった帰り道、梨華ちゃんの様子を伺ったけれど、
梨華ちゃんはもう、その話はしてくれなかった。
- 148 名前:16.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時18分02秒
- 私は罪深い。
あれから一週間、私は私の犯した罪でこびりついた真っ赤な血を
なすりつける様によっすぃと何度も肌を合わせた。
私がした事を知ったら、もう誰も私の傍にはいてくれないかもしれなかった。
そう。私は知っていたのだ、石川先輩があの日あそこに来る事を。
カタン、という音を彼女が立てたものだと言う事も。
だから私はカタン、という音がした時にわざと言った。
『愛してるなら、もっと…して』
ごめんなさい。
何度謝っても許されないかもしれない。
だけど、私はどうしてもごっちんに幸せになって欲しかった。
あんなに悲しそうに私に好きだって言った彼女を、
どうしても笑顔にしてあげたかった。
だから、私は友情を、信頼を、他の全てを犠牲にした。
どんな罰を受けてもいい。
結果、2度とごっちんと話せなくなってもいい。
そんな私にあの時の石川先輩の顔が責め立てる。
- 149 名前:16.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時18分32秒
- プールサイドで待ち合わせと聞いて、
私はおかしな所で話すんだな、としか思わなかった。
更衣室を通ろうとすると、石川先輩の物と思われる鞄が置いてあった。
暫く外で待とうとも思ったけれど、どうせヒールになるなら
完全にヒールになろうと、私は更衣室からプールサイドに出た。
もう話し合いは終っていたみたいで、先輩はこっちに歩いてきた。
彼女を見ると、彼女は吃驚した様に私を見て、
それから彼女は私に向かって、笑った。
とても優しく、綺麗に、微笑んだ。
許されているみたいだった。
でも、それは最大に近い罰だった。
快楽で気が遠くなりそうになった後でも、その笑顔は私に重くのしかかった。
彼女が許しても、世界はきっと許さない。
ごめんなさい。
それでも、私はごっちんの幸せを願っていた。
- 150 名前:16.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時19分05秒
- よっすぃも、私によく微笑んだ。
いつかは幸せになれるよって、何度も言われた。
若い時の恋なんて、きっと年とったら忘れるよね?
ごっちんの若い時の恋の為に彼女を傷付けた癖に、
私はそう願ってやまなかった。
私には幸せになる資格がないのに、よっすぃはいつも
私を幸せにしたいと言ってくれていた。
口から出そうになるあの罪を、黙っていなければいけないのはとても辛くて、
だけど、言ってしまったらごっちんの幸せが遠のく。
私の罰は、彼女達の笑顔と、閉じた唇だった。
ごっちんとはもう暫く話していなかった。
時々、何か言いたそうにこっちを見る視線が辛かった。
私はともかく、よっすぃだけでも友達に戻れたらいいのに、
となんだかとても都合のいい事を思った。
よっすぃの親が揃って出張に出てしまったのをいい事に、
私達はずっとよっすぃの家から学校に通っていた。
食事を作って出すと、よっすぃは褒めてくれて、
その後に少し寂し気な顔をした。
何を思い出してるのかなんて、私には聞けなかった。
- 151 名前:16.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時19分49秒
- 終業式の前日はさすがに自宅に戻った。
机の上に置いてある写真を、部屋に入った途端に見つけてしまって、
私の目から塩辛い水分が分泌された。
これは、涙なんかじゃない。ただの水分なんだと、自分に言い聞かせた。
もう、よっすぃのベッドのシーツがぐしゃぐしゃになってしまうぐらい泣いた。
だから、もう泣かないんだと、彼女の家を出た時に私は決めた。
写真立てが見たくなくて、それを机に伏せた。
もう2度ととれないかもしれない三人の写真。
きっと、ごっちんは石川先輩を傷付けた私達を許さないだろうから。
その日、布団に入った私はずっと眠る事が出来なかった。
やっと意識が天井から離れて、私は夢を見た。
起きた時にはもう覚えていなかったけど、昨日まで流した涙とは別の、
忘れられない様な涙が、起きた時に溢れ出た。
どんな夢を見たら、こんな涙が出るというのだろう。
私は疑問に思いながら洗面所に向かった。
- 152 名前:16.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時20分31秒
- 少し早めに目が覚めてしまった事に気付いた時には、
もう準備はし終っていた。
仕方がないので、私は誰もいない学校もたまにはいいかもしれない、と
靴を履いて外に出た。空気が冷たくて、私は小さく息をした。
のんびりと外を歩いていると、急に声をかけられた。
「安倍さん」
左を向くと、そこはもうごっちんのマンションのある坂の下で、
にっこり笑った石川先輩がそこにいた。
「石川先輩…」
「安倍さんも、早く目覚めちゃったんだ?一緒にいかない?」
私は彼女の誘いを断ろうと思いながら、つい頷いてしまった。
静かに時間は過ぎていった。たまに話しかけてくる石川先輩に答える以外は、
私は何も話さなかった。
「ねぇ、安倍さん…私謝らなきゃいけないのよね?」
急にそんな事を言い出した彼女を驚いてみると、彼女は私に謝った。
- 153 名前:16.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時21分22秒
- 「もっと、早く謝らなきゃと思ってたの。
だけど、ずっと気持ちの整理がつかなくて…」
彼女が何に謝っているのか、私は見当がつかなかった。
彼女に酷い事をしたのは私だった。
私が何かした事はあっても、何かされた事はなかった。
それどころか、彼女から恋人を奪った私を、
彼女はこんなに優しく受け入れているのに。
「なんで、謝るんですか?謝るのは私の方なのに」
私がそう言うと、石川先輩は首を横にかしげた。
「何故?貴方は悪くないじゃない?」
「違うの…違うの…あの」
「ひとみちゃんっ!真希ちゃんっ!」
私、という言葉は彼女の叫び声に掻き消された。
もう校門まできていたのかと驚く前に、
校庭の真ん中で息をきらして座っている二人を見つけて私は言葉を失った。
二人の顔から血が流れていて、お互いが殴り合っていた様に見えた。
私達を見つけたよっすぃはごっちんを殴って、こっちに歩いてきた。
- 154 名前:17.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時22分24秒
- 久々に1人で過ごす夜はとても寂しかった。
なっちは泊まってる間にずっと寝言で謝っていた。
その声も、今日は届かない。
窓を開けると、冷たい空気が舞い込んできた。
遠くの犬の鳴き声が、澄んだ音で聞こえてくる。
「……梨華」
いつも、私は小さい声でこの窓から彼女を呼んだ。
聞こえてるなら電話下さい、なんて可愛らしい言葉から、
好きだ、なんて恥ずかしい台詞まで、彼女の耳に届かないその言葉を
この窓はいつも聞いていた。窓が彼女の声で私の名前を呼んだ気がした。
「もう呼ばないから許してね?」
私は、窓を閉めてベッドに横たわった。
もう戻れない。
頭の中をそんな言葉が横ぎった。
何に戻れないと言うのだろう。
その答を紡ぐ前に、私の目は閉じていった。
- 155 名前:17.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時23分30秒
- 明け方、携帯電話が鳴って目が覚めた。
「…ぁい」
半ば寝ている状態で電話に出ると、久しく聞いてない声が聞こえた。
「おはよう。ねぇ、朝早めに学校に来てくれる?聞きたい事があるんだ」
「ん?何時?」
その時、まだはっきりと覚醒していなかった私は、
彼女と話している事に驚きも覚えずに彼女の言う言葉をただ記憶して、
再び眠りに着いた。
朝五時半に目覚ましが鳴って、私は彼女からの電話を思い出した。
「あ、行かなきゃじゃん」
私は眠い目を擦って、学校に向かう準備を始めた。
クリスマス直前の住宅街は、光でデコレーションされていて
明るい筈なのに、なんだか憂鬱な気持ちにさせられた。
学校の並木道は霜が降りていて、端の方はしゃくしゃくと音がした。
門の前で寒そうにしている少女がこちらに気付いて、
私は彼女の元へと走り寄った。
「ごめんね、ごっちん。寒かった?」
「ちょっとねぇ。もう開いてるよ?」
まるで何ごともなかったかの様に挨拶し、私達は門をくぐって学院に入った。
- 156 名前:17.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時24分08秒
- 私が黙っていると、ごっちんは大きく息をした。
「ねぇ、よっすぃーっ」
吐出す様にごっちんが言った。
「梨華ちゃんと別れたって?」
「うん」
「なんで?」
何を伝えたらいいのか分からなかった。
彼女に真実を伝えるべきか、彼女に何も伝えないべきか、
どちらをなっちは望むんだろう。
考えた挙句に私は彼女が今後もごっちんと友達でいられる言葉を口にした。
「なっちと二人でいたらちょっとなっちのがいっかなって。
ほら、先輩ってさぁごっちんの事のが好きみたいだったし」
そういうの面倒でさ、と私が言い終わるよりも前に
ごっちんの平手が私の頬にあたった。
「いったぁ」
「そんな下らない気持ちでなっちと付き合うってなったの?
そんな、簡単な気持ちで梨華ちゃんと付き合ってたのっ?」
私は、何も言わないつもりだった。
- 157 名前:17.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時24分44秒
- ただ、手を出されてカチンときた私はごっちんに平手を返した。
「手だしてないでなんかいいなよっ」
段々強くなってく彼女の手に、私の口の中が切れた。
「切れたじゃんっ」
「あんたがっ、なっちの気持ちも考えないでいるからじゃん!
よっすぃーがそんな気持ちでなっちといたらさぁっ」
彼女はなっちの事ばかりを指摘していた。
先輩の事も、最初の方は口にしていたけれど、
それも最後の方ではなくなっていた。
もしかしなくても、なっちは余計な心配をしていたんじゃないだろうか?
そんな考えが私の頭の中に浮かんだ。
何時の間にか疲れて座り込んだ。ごっちんは少し泣いていた。
痛みの所為ではないと思う。
ごっちんが嘆いているのは、ずっとなっちの事で、
彼女は気付かない内になっちが好きになっていたんじゃないか。
そんな思いは、彼女が怒りの言葉を投げ付けてくればくる程大きくなった。
- 158 名前:17.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時25分26秒
- もし、なっちが幸せになれるならそれでもいいかな、と思った。
もちろん、先輩の事を忘れた訳ではなかった。
彼女の傍にいるのがごっちんであるべきだと思ったから
私は彼女から離れたのだ。
だけど、ごっちんの気持ちがなっちに向いているのならば、
先輩にとって果たして幸せなんだろうか?
そんな疑問が私の中に浮かんだ。
ごっちんがいなくなった場所に私が戻ろうとは思わない。
私は彼女の元に戻れる程、清純でもなく、狡くもなかったから。
でもなっちは。
なっちは、違った。彼女は、きっとただごっちんに、
幸せになってもらいたかっただけだろう。
一週間ずっと一緒にいて、彼女がどれぐらいごっちんを好きなのかは
すぐに伝わってきた。
会話の端々に出てくるごっちんの話題。
ごっちんの名前を言う時、彼女はどんなに愛しそうな顔をしているかを
きっと気付いてないんだろう。
あれじゃ、騙される方が凄いと思う。
- 159 名前:17.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時26分01秒
- 校門に、なっちを発見した。
ねぇ、なっち。私達きっと間違ってたんだよ。
せめてなっちだけでも、好きな人の所にいなきゃ。
私はいいや。いつか、一緒にお茶してくれれば、それでいいや。
私は立ち上がってごっちんを大きく殴った。
もちろん、ごっちんの口から血が吐出されるぐらいに。
息も絶え絶えに、私は彼女に言った。
「ごっちん、先刻からなっちの事ばっかだよ?」
「何言って…」
「自分で気づけよ、それぐらい」
最後の気力を振り絞ってごっちんを私は殴った。
私は倒れ込むごっちんを置いて、青ざめているなっちの元へと向かった。
「よっすぃー、どうしたの?」
なっちの質問に首を横に振って、私は小さく彼女に囁いた。
「なっちに話あるみたいだよ?」
なっちは泣きそうな顔をして小さく謝って、駆け出した。
「ってぇ」
唇を押えると、目の前に影が出来た。
「女の子なのに、殴り合いってなぁに?」
「なんでも、ないです」
そんな私の答に構おうともせずに、その声の持ち主は私の腕を引っ張った。
- 160 名前:18.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時26分38秒
- あんな事があってから一週間の間、私は二人と口を聞かずに過ごした。
クラスメートは好奇心で一杯の顔をたまに覗かせていたけれど、
私は知らない振りをした。
私だけが喋らないでいるなら、私も納得が言ったのに
私の前だからか、二人も喋らなかった。
なっちはたまに苦しそうなため息をして、
そんな事があるとよっすぃは何も言わずにただ彼女を心配そうに見ていた。
梨華ちゃんはどこか吹っ切れた様な態度で、楽しそうに笑っていた。
夜中に電話がかかってくる事もなくなった。
一週間話さずにいて、私はなんだかなっちと、よっすぃーの
大切さが身にしみてわかった気がした。
ちょっとした喜びをわかちあう人がいないのは、本当に久しぶりで、
私はどうやって今まで過ごしてきたのかが思い出せなかった。
どうしても眠れなくて、無意識の内に携帯に手が延びた。
誰に電話をかける気だったのだろうと、少し考えた。
明日は終業式で、それが終ったら冬休みだった。
せめて、自分の中でだけでも疑問を晴らして休暇に入りたかった。
じゃないと、1年を終えられそうになかった。
私の指は、アドレス帳のや行クリックしていた。
- 161 名前:18.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時27分15秒
- 朝は必要以上に寒くて、私はマフラーと手袋を忘れた自分に後悔していた。
少し早くついてしまった所為か、待人に早く辿り着いてほしくて仕方なかった。
彼女は、私を見つけてかけよってきた。
色々あったあの事がなかったかの様に挨拶して、私達は歩き始めた。
よっすぃが、黙っているだけだったので、私は思いきって切り出した。
「ねぇ、よっすぃーっ。梨華ちゃんと別れたって?」
「うん」
よっすぃは簡単に返事をした。
「なんで?」
私は彼女の顔をじっと見た。彼女は何かに悩む様に少し考えて、
それから軽い口調で言った。
「なっちと二人でいたらちょっとなっちのがいっかなって。
ほら、先輩ってさぁごっちんの事のが好きみたいだったし、
そういうの…いったぁ」
彼女が言い終るよりも先に彼女をひっぱたいた。
どうしても許せなかった。
そんな理由で、なっちと梨華ちゃんが傷付くなんて馬鹿げていた。
「そんな下らない気持ちでなっちと付き合うってなったの?
そんな、簡単な気持ちで梨華ちゃんと付き合ってたのっ?」
彼女は驚いた様な顔をして、私を見た。
- 162 名前:18.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時28分04秒
- よっすぃは頭に血がのぼったらしく、何も言い返さずに私をひっぱたき返した。
「手だしてないでなんかいいなよっ」
叩き返してそう言っても、よっすぃは言い訳しようとしなかった。
何度も叩きあっていると、よっすぃの口の中が切れたらしく、
よっすぃがその事を怒った。
私は彼女の口の中なんて気にせずに殴りながら彼女を責めた。
「あんたがっ、なっちの気持ちも考えないでいるからじゃん!
よっすぃーがそんな気持ちでなっちといたらさぁっ」
なっちのあの時の顔をしらないから、よっすぃはそんな事が言えるんだ。
なっちはいつも辛い思いをして私とよっすぃの間に入ってくれてたのに、
よっすぃはそんな事も考えずに、そんな事を言う訳?
私は殴ったのと同じだけ返されて、それでも殴り返していた。
何時からか、疲れて座りこんでも、私は彼女を責め立てた。
少し離れた所に私達の鞄が並んでおいてあった。
もうなっちとは話せないのかな?
急に思った。
多分、もう話せないだろう。彼女の好きな人と
こんな風に喧嘩してしまっているのだから。
だけど、それでも構わないと思った。
彼女が幸せになれるのなら。
- 163 名前:18.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時29分30秒
- 「ごっちん、先刻からなっちの事ばっかだよ?」
私が言葉を休めると、よっすぃがそう言った。
「何言って…」
急に何を言い出すんだ。なっちの話をしてるんだから、当たり前じゃないか。
私がよっすぃの方を向くと、よっすぃはもう既に立っていた。
遠くで声が聞こえる。誰かが来たのだろう。
「自分で気づけよ、それぐらい」
気が遠くなりそうな程に強く殴られて、
私はその場に倒れ込んだ。
口の中の傷は大した事なかったけれど、唾液が混じっていて
目で見て分かるぐらい吐いた。
倒れて見上げた空は青くて、雲が一つもなかった。
冬の空は高くて綺麗なんだと教えてくれたのは誰だったっけ?
それが思い出せなくて、私はよっすぃが立ち去っていくのを
とめる事が出来なかった。
- 164 名前:18.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時30分02秒
- 青い空一面だけだった視界に、涙を流したなっちが入ってきた。
「なっ…ち?」
「大丈夫?ごっちん」
苦しそうに泣いていて、私はなっちの為に起き上がろうとした。
「起きて平気なの?」
もうよっすぃは何処かに消えていて、なっちはそっちが気になるんじゃないかと
よっすぃの事を聞いた。
「ごっちんが話あるみたいだよって、言って消えちゃった」
なっちがやっとちょっと笑って、私もやっと安心した。
「保健室で、薬もらってこよ?」
なっちは私を肩で支えて歩き出した。
本当は顔しか殴られていないのでちゃんと歩けたのだけれど、
私は彼女に寄り掛かって歩いた。
シャンプーの香りが冷たい風に乗ってきて、私の肺をくすぐった。
彼女の好きな人が消えてしまって、私が彼女といるのは不思議で、
だけど少しだけ嬉しかった。
1人で傷の手当てをするのは少し惨めだと思っていたから。
- 165 名前:18.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時31分02秒
- なっちは何処へ行くか少し考えて、初等部の屋上に私を連れてきた。
「どうしてここなんだよぅ」
私が笑うと、なっちは拗ねた様に言った。
「だって、教室じゃ他の人来たりして傷の事聞かれるし、
後今開いてるの屋上だけだし、普通の屋上だったら寒いでしょ?」
ここは二人だけの秘密の場所だから、なんて答を期待していた訳ではないけど、
普通の答にがっかりしながらも、納得した。
なんで、がっかりするんだろう?その答はまだ考えなかった。
保健室に行ってくると私を置いてなっちは出ていった。
南国風な木々が冬を忘れさせようとしていた。
確かにここは暖かくずっとここにいれば年中春か夏だろう。
誰かがドアを開けて冷たい風を連れてきた。
それは、なっちじゃなかった。
「梨華ちゃん」
私が驚くと、梨華ちゃんは私を見て眉を顰めた。
「女の子同士で殴り合いなんて、2度としちゃ駄目よ?」
彼女がどうして知っているのかは分からなかったけど、
彼女はそれを聞く前に私の前に座った。
「どしたの?梨華ちゃん」
「叱りにきたのよ?」
私が聞き返すと、彼女の口はゆっくりと開いた。
- 166 名前:19.石川梨華 投稿日:2002年01月15日(火)01時31分56秒
- 三人の先生の言葉は、家に帰っても私の周りを踊っていた。
『でも嫌われたないんやろ?』
『好きなんて気持ちはなぁ、言わな伝わんないねん』
『ま、惑わされんと好きにしたらえーやん』
私はずっとひとみちゃんの事を考えていた。
彼女が幸せになれるなら、それでいいじゃないかって思っていた。
それはどんなに考えても変わらない結果で、
それならもしひとみちゃんと安倍さんが許してくれるなら
お友達として一緒にいたいと思った。
1人になれば考えるのは、ひとみちゃんの事で、
彼女がすごく恋しかったけれど、一生会えない訳じゃない。
そう、一生会えない訳じゃない。
私はそれから一週間、なるべく明るく過ごした。
先生達や真希ちゃんが驚くぐらい普通に生活していた。
笑ったし、怒ったし、喜んだ。
喜怒哀楽でしなかったのは悲しむ事ぐらいだった。
終業式の前の晩、私は自分の気付いた事実に驚いた。
この一週間、私はあの夢を見ていなかった。
たった1人で家にいたのに、過去への懺悔をしていなかった。
- 167 名前:19.石川梨華 投稿日:2002年01月15日(火)01時32分33秒
- こんな事があって、やっと私は気付いた。
過去に縛られていると思っていたのは私の勝手な解釈で、
私が過去を縛っていたのだ。
私がそこで立ち止まっていたくて過去を解放しなかったから、
過去はいつまでもこの部屋に留まっていたのだ。
怒り狂う母も、私を見ようともしてくれない父の背中も、
そしてあの恐ろしい人も、もう私の前にはあらわれなかった。
窓を開けて冷たい空気を感じた。
「ひとみちゃん」
空気がひとみちゃんの声で梨華、と言ってくれた気がした。
「ひとみちゃんのおかげだよ?」
空気はもう何も言ってくれなかった。
「やっぱり好き」
それだけ言って私は窓を閉めた。
ひとみちゃんには、聞こえただろうか?
聞こえてなくてもいい。むしろ、
聞こえてない方がいいのかもしれない。
私はベッドに入って安らかに眠りについた。
- 168 名前:19.石川梨華 投稿日:2002年01月15日(火)01時33分19秒
- 必要以上に早く目覚めてしまった私は、真希ちゃんの朝食を考えていた。
オムレツはスクランブルエッグに変わってしまうのはいつもの事で、
昨日は御飯だったから今日はパンにしようというのは変わらないけど…。
カタン、と音がして私は玄関を覗いた。
紙がドアの隙間に挟まっていた。
玄関まで行ってそれを取ると、そこには真希ちゃんの文字で
『今日は先にいきます!ごめんね。真希』と書いてあった。
自分だけなら今焼いてるハムとトーストだけでいいかな、
なんて、彼女の言葉の意味を追求する事なくキッチンに戻った。
「きゃぁっ!大変!」
真っ黒になってるフライパンの火を消してシンクで水をかけた。
もうもうと煙りが立ち篭めて、私は換気扇を回した。
「あーぁ」
トースターから出てきたパンはきつね色に焼けていて、
私はそれだけ食べて少し早めに学校へ向かった。
- 169 名前:19.石川梨華 投稿日:2002年01月15日(火)01時33分51秒
- 坂を下っていくと、見覚えのある横顔を発見した。
彼女から、仲直りをしていくのもいいかもしれないと思った。
もともと、仲がこじれる程仲良くもなっていなかったけれど。
「安倍さん」
「石川先輩…」
私に気付いた安倍さんは少し複雑そうな顔をした。
「安倍さんも、早く目覚めちゃったんだ?一緒にいかない?」
私がそう言うと、彼女は頷いてくれた。
私達はゆっくり歩き出して、私はいつ謝るべきかを考えた。
返事は返してくれるものの、彼女からの会話はなく、
私は勇気を振り絞って、切り出した。
「ねぇ、安倍さん…私謝らなきゃいけないのよね?
もっと、早く謝らなきゃと思ってたの。
だけど、ずっと気持ちの整理がつかなくて…」
私が謝ると、彼女は驚いた様に言った。
「なんで、謝るんですか?謝るのは私の方なのに」
今度は私が驚く番だった。私は彼女に何かされた覚えはないのに、
何に謝られるのだろう?
「何故?貴方は悪くないじゃない?」
「違うの…違うの…あの」
- 170 名前:19.石川梨華 投稿日:2002年01月15日(火)01時34分21秒
- 彼女の言葉をさえぎるつもりはなかったけれど、
私は校庭の真ん中にいたひとみちゃんと真希ちゃんをを見つけて
思わず叫んでしまった。
二人は遠目に見ても血をだしていた。
「ひとみちゃんっ!真希ちゃんっ!」
安倍さんの息が震えていた。
校庭の真ん中でひとみちゃんは真希ちゃんを殴って
こっちに向かってきた。
安倍さんがひとみちゃんに駆け寄っていくのが
少しだけうらやましかった。
そのまま二人でいなくなるのかと思っていたら、
安倍さんは真希ちゃんの元に駆け出した。
残ったひとみちゃんはそこに立ったまま唇を指で拭いた。
「ってぇ」
目の前に立っても、ひとみちゃんは俯いたままだった。
「女の子なのに、殴り合いってなぁに?」
「なんでも、ないです」
嫌みっぽく言った私の台詞に、彼女は素っ気無く答えた。
私は彼女を連れて、何処か怪我の治療が出来る所を探した。
- 171 名前:19.石川梨華 投稿日:2002年01月15日(火)01時36分17秒
- 保健室は真希ちゃんも使うだろうし、教室は誰が来るか分からなかった。
考えた挙句に、私は結局あの更衣室にひとみちゃんを連れていった。
二人になるならこの場所がいいと思わなかったと言えば嘘になるけれど、
私は尤もらしい理由で、ここを選んだ。
ひとみちゃんは更衣室の椅子に乱暴に座って息を吐いた。
「ひとみちゃん、女の子なのよ?」
「なんで、こんな所に連れてきたんですか?」
彼女は私を見もせずに聞いた。
「だって」
私が説明すると、ひとみちゃんはあっさりと納得した。
「傷の手当てしなきゃね。薬持ってくるわ」
私は彼女を置いて保健室に向かった。
保健室に入ろうとすると、誰かの足跡が聞こえた。
振り向くと、安倍さんが歩いてきていた。
「安倍さん」
「先輩…どうやって入ろうとしてたんですか?」
彼女は私に聞いた。
「え?」
何の事か分からずに私が首をかしげると、安倍さんが笑った。
「やだ、先輩。まだ保健室閉まってるの気付かなかったんですか?」
「あ、そっか。忘れてた」
自分の間抜けさに呆れて私も笑った。
「鍵、もらってきましたから入りましょう?」
- 172 名前:19.石川梨華 投稿日:2002年01月15日(火)01時37分00秒
- 「安倍さんはしっかりしてるのね、ありがと」
私達は保健室に入って薬をあーでもないこーでもないと言いながら選んだ。
薬を二人で分けて、持った私達は保健室の中で黙って立っていた。
早く戻ればいいのに、彼女に何か言わなきゃいけない事があって
でもそれが口から出てこなくて私は彼女の手を見つめていた。
「あの…」
「あのねっ」
私達は同時に口を開いて、それがおかしくてまた笑った。
「先輩から、どうぞ?」
私は彼女の言葉に甘えて先に言う事にした。
「あのね、私やっぱりひとみちゃんとこのままお別れしたくないの」
彼女の顔が強張るのがわかって、私は慌てて続けた。
「違うのよ。お友達として、ひとみちゃんと関係を続けていきたいの。
もちろん、安倍さんともよ?貴方とも、お友達になりたいわ」
「石川先輩…」
安倍さんの瞳から大粒の涙がこぼれた。
「泣かないで?無理にとは言わないから。嫌なら言ってくれればいいから」
私が彼女の頭を撫でて謝ると、彼女は頭を横に振った。
「違うの…違う…」
そう言えば、彼女は登校中もそう言っていた。
- 173 名前:19.石川梨華 投稿日:2002年01月15日(火)01時37分48秒
- 黙って彼女が話し出すのを待っていると、
彼女は涙を拭きもせずに私を見た。
「謝らなきゃいけないのは、私なんです」
そう言ってから、彼女は黙ってしまった。
「ひとみちゃんを好きになったから?
だったら、いいの。人の気持ちは止められないわ?
貴方はそれで、いいのよ?」
私が言うと、彼女は首を横に振った。
「貴方を傷付けたのは私です」
彼女がそう言って、私は彼女にそれは違うと諭した。
「私がもし傷付いているなら、傷付けたのは自分だわ?」
はっきりしなかったから。
もし、彼女達が坂の真ん中で抱き合ってた時に
ひとみちゃんを解放してあげてたら、こんなに皆は傷付く事なんてなかったのだ。
「私は、大罪を犯したんです。貴方も、よっすぃも、ごっちんも悪くないの」
安倍さんはそう言ったきり、涙に言葉を止められてしまった。
- 174 名前:20.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時41分39秒
- 初等部の屋上から、私は走って保健室に向かった。
屋上は人が来ないなんて、嘘だった。
あそこは大事な思い出が詰ってて、彼女と過ごす
最後の時間かもしれないと思ったら、自然にそこを選んでいた。
保健室に向かう途中で私は職員室に寄った。
「おはようございます」
そこにはまだ数人の先生しかいなくて、
私は友達が校庭で転んで怪我したと言って保健室の鍵を借りた。
階段を降りて、息を整えて歩き出した私は保健室の目の前に立って
ぼんやりしている石川先輩を見つけた。
「安倍さん」
先輩は保健室のドアから少し離れて言った。
「先輩…どうやって入ろうとしてたんですか?」
まさかこじ開けるつもりじゃ、と心の中でだけ思っていると
石川先輩は首をかしげた。
「え?」
先輩は本当に気付いていなかったらしく、
そんな彼女のおっちょこちょいさがたまらなく愛しくて、私はつい笑った。
「やだ、先輩。まだ保健室閉まってるの気付かなかったんですか?」
「あ、そっか。忘れてた」
先輩も恥ずかしそうに笑って、私達の間にあった
重い空気が少し軽くなった気がした。
- 175 名前:20.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時42分26秒
- 「鍵、もらってきましたから入りましょう?」
「安倍さんはしっかりしてるのね、ありがと」
私達は保健室に入って薬を見ながら、どれがいいかを選んだ。
薬を選び終った私達は早く戻ればいいのに、そこから離れなかった。
今更、何を彼女に言おうとしてるんだろう?
私は黙っていなければいけない事を思い出して、
だけどどうしても彼女に謝るのは私の方なんだと伝えたくて口を開いた。
「あの…」
「あのねっ」
先輩の声も同時に聞こえて、私達は顔を見合わせて笑った。
あんな事があった後で、なんで私達は穏やかに笑ってるんだろうか。
「先輩から、どうぞ?」
先輩に手を差し伸べると、先輩は頷いて話し始めた。
「あのね、私やっぱりひとみちゃんとこのままお別れしたくないの」
穏やかな声とは裏腹な内容に、私は思わず固まった。
- 176 名前:20.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時43分30秒
- それに気付いてか、先輩は慌てて続けた。
「違うのよ。お友達として、ひとみちゃんと関係を続けていきたいの。
もちろん、安倍さんともよ?貴方とも、お友達になりたいわ」
「石川先輩…」
彼女の優しさに泣きそうになった。
なんで、恋人を奪った相手にそんなに優しい言葉がかけられるのだろうか?
気付いたら、涙がぼろぼろ流れていた。
「泣かないで?無理にとは言わないから。嫌なら言ってくれればいいから」
先輩が私の頭を撫でて言った。
私は、彼女の傍にいる資格はないのに、
私が泣くと彼女は自分が私の傍にいる資格がないかの様に謝った。
「違うの…違う…」
私は言わなきゃいけないと思った。
言って、償わなければいけないと。
「謝らなきゃいけないのは、私なんです」
でも、言葉が出てこなかった。
神様、これが罰なんですか?
私はどんな罰を受けてもいいと言った癖に、
この現状が辛くて仕方が無かった。
- 177 名前:20.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時44分16秒
- 「ひとみちゃんを好きになったから?
だったら、いいの。人の気持ちは止められないわ?
貴方はそれで、いいのよ?」
黙ってしまった私を見て、彼女がそう聞いてきた。
私はやっと一言だけ口にした。
「貴方を傷付けたのは私です」
「違う。私がもし傷付いているなら、傷付けたのは自分だわ?」
彼女が即座に否定して、私は彼女の瞳が優しく揺れているのを見つけた。
私は彼女がうらやましかった。
ごっちんも、よっすぃも、手に入れてる彼女がたまらなくうらやましかった。
「私は、大罪を犯したんです。貴方も、よっすぃも、ごっちんも悪くないの」
私はそう言った後、続けようとしたけれど続かなかった。
急に後ろから声が聞こえた。
「もしあんたが罪を犯したんやとしたら、
その罰はここで話す事なんちゃう?」
振り向くと中澤先生がそこに立っていた。
「石川さんの話を聞いた時、おかしいなって思ってたんよ。
やってあんたは…まぁ、ええわ。話しぃよ?」
何時の間にか来ていた稲葉先生が、そう言って私を椅子に座らせた。
- 178 名前:20.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時44分46秒
- 稲葉先生の後ろにいた平家先生が、お湯を沸かして紅茶を煎れていた。
紅茶が人数分配られている時、私は中澤先生に訪ねた。
「なんで、ここに?」
「なんでって、ここ私の城やし」
「はぁ…いつもこんな早くから?」
私の前にミルクがたっぷり注がれた紅茶が置かれた。
「当たり前や!大事な生徒が怪我してるかもしれんて、毎日な」
「いや、ただ当直だった私と麻雀してただけやねんけどな」
稲葉先生に真実を言われて、中澤先生は慌てて話を戻した。
「ほら、それより話しぃや。…みっちゃん、レモンティーという選択はなかったん?」
「落ち着くには暖かい牛乳なんやって」
「二人ともええ加減にしぃや…」
ため息をついて、稲葉先生が私を促した。
私は、ミルクティーを一口飲んで、こっそり石川先輩を覗いた。
彼女は机の下で私の手を握って口だけを動かした。
『ダイジョウブヨ?』
私の告白が終っても、彼女はそう言ってくれるだろうか?
- 179 名前:20.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時45分31秒
- 「私が、石川先輩と吉澤さんの仲を壊したんです」
私の独白は始まった。
石川先輩が否定しようとしたのを、中澤先生が手だけで制止した。
「私が吉澤さんに泣き言を聞いてもらっていたのを、
石川先輩が見たと知ったのは後藤さんからの電話ででした。
後藤さんは早く誤解を解かなきゃ、と心配してくれていました。
そうなんです。…それは誤解だったんです」
石川先輩の顔を見る事が出来なかった。
ミルクティーはカップの底を見せてくれなくて、
私は自分の告白にも底はないんじゃないかと思った。
「私は、ずっとある人が好きでした。
だけど、その人が好きな人は違う人でした。
それは本当にずっと昔から知っていて、私はそれでもいいと思ってました。
そんな時、吉澤さんがその人と付き合う事になったと聞きました。
その人は納得してる様でしたし、私も心からその交際を応援しました。
でもある日、その人が本当は悲しくて仕方がない事を知ってしまったんです。
その人が、無理をしてるだけな事を知ってしまったんです」
暖かいミルクティーは私に勇気を与えてくれた。
- 180 名前:20.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時46分30秒
- 「その人は、それを乗り越えようとしてました。私と一緒に。
だけど、私は知ってました。まだその人は石川先輩が好きだった。
だから、吉澤さんと一緒に帰った時に彼女に泣きついたんです。
あの時、石川先輩が見たのは友達として慰めてくれた彼女と私です。
私はその時、先輩が見ていたなんて知りませんでした。
夜中にその人と電話で話した時に、私はその事を知りました」
空になったカップに、紅茶が注ぎ足された。
「その時は、その人の幸せしか考えてませんでした。
石川先輩の気持ちも、吉澤さんの気持ちも、何も考えてませんでした。
その話を聞いて、もしかしたらその人が石川先輩と
幸せになれるかもしれない方法を見つけました。
それは、一か八かの賭でした。でも、私は彼女に言ったんです。
その話は本当だと。吉澤さんと私は今、石川先輩に隠れて会っていると」
石川先輩は私の左手を優しく握ったままだった。
「私は吉澤さんに話があると呼び出して、言いました。
キスをして欲しい。そうして彼女は額にキスをしてくれました。
友達としてのキスです。だけど私は彼女に頼んだんです。
友達として愛してるならちゃんとキスをしてくれ、と」
- 181 名前:20.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時47分10秒
- 「その日、私は図書室の保管庫の鍵を持っていました。
保管庫の整理を頼まれていたからです。
一緒に整理をする相手の名前も聞いてました。
私は、誰か来た音がした時に、わざと言いました。
愛してるならもっとしてって。友達としてという部分を削って」
私は、石川先輩の顔を見た。彼女は悲しそうな顔をして私を見ていた。
「私は、知ってたんです。貴方が来るのを。
知ってて、あんな発言をしたんです。
…吉澤さんと石川先輩に何かあった事はその日の朝に気付いてました。
吉澤さんが弱ってるのも分かってて、私は彼女に言いました。
皆が幸せになる為には私達が一緒にいるのが一番いい。
だけど、本当はそれは嘘でした。私はただ、あの人が
幸せになれれば良かったんです」
私は涙に止められそうになる口を一生懸命開いた。
「吉澤さんも、貴方も、あの人も、何も知らなかった事です。
全部、私が考えて私が皆を陥れたんです」
石川先輩は、私の左手を強く握り直した。
「ごめんなさい。許される事じゃないのは分かってます。
だけど、あんなに優しく笑われたら私どうしていいか分からない」
私はもう、石川先輩の顔が見えていなかった。
- 182 名前:20.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時47分51秒
- 石川先輩は、私を抱き締めた。
私は驚いて顔をあげると、額にキスが降りてきた。
「やっぱり、貴方は悪くないじゃない」
石川先輩は泣いていた。そして、何度も謝った。
彼女の胸に潰されて真っ暗な視界の中で、中澤先生の声が聞こえてきた。
「いや、安倍は悪い。それから石川も悪いわな」
「吉澤も悪いんちゃう?」
平家先生が続くと、稲葉先生の声が聞こえた。
「後藤も悪いやん」
私は埋めていた顔を離して先生達を見ると、中澤先生が話し始めた。
「あんたらなぁ、相手の考えてるかどうかも分からん事を想定しすぎてんねん。
なんで後藤が石川といれば幸せやと思うん?
なんで、吉澤が自分よりも先に安倍を好きだったと思うん?
それ、相手に確かめたん?確かめるのも恐い憶病者の癖に何偉そうに
自分だけが悪いとか言うてんねん。全員が悪いわ」
そう言うと、先生はドアを指差した。
「早よ行ってき。自分で聞いてき」
私達は保健室を出て、お互いの顔を見た。
- 183 名前:20.安倍なつみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時48分38秒
- 「私ね、貴方に憧れてた。花の様に皆に愛されてるって」
保健室の外で石川先輩が私にそう言って笑った。
「私も、先輩が羨ましかったです…ちょっと嫉妬してました」
「名前で呼んで?なつみちゃん。私とお友達になって?」
そんなの、許されるんだろうか?
彼女は泣きそうになった私にある提案をしてきた。
彼女が悪戯っぽく笑って、私も笑った。
私達はもう一度、初等部と高等部の間の通路で会う事を
約束して固く抱き合った。
「いってきます」
「いってらっしゃい。私もいってきます」
「ふふ、いってらっしゃい」
私達はそう言って、逆方向に歩き出した。
- 184 名前:21.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時49分37秒
- 血が止まった唇は、段々熱を持ち始めて多分腫れてるんだろうと思った。
ベンチに寝そべって目を閉じると、キィと音がした。
目を開けるとそこにいる筈の先輩はいなかった。
「なっち、話聞けた?」
「まだ」
なっちは救急箱を机の上に置いて、隣に座った。
「早く聞きにいきなよ」
私が起き上がると、なっちは神妙な面持ちで言った。
「叱りに来たの。ま、私も悪いんだけどね」
「へ?」
訳が分かっていない私を睨み付けて、
なっちはお母さんみたいな口調で言った。
「もう相手の気持ち考え過ぎて行動しちゃ駄目よ?
よっすぃの心の中にいるのは誰?」
「…なっちだよ?」
私が答えると、なっちは嘘つき、と小さく言った。
私はお互い様だと言い返した。
「ねぇ、戻ろうよ。夏が終ったあの時まで遡ろうよ。
私がこんな事言えた義理じゃないのは分かってるけど、
でも、私やっぱりヒールにはなりきれなかった」
狡いんだ、私。なっちはそう呟いてから私の頬にキスをした。
「ちょっと、ホントに好きになりかけてた」
なっちがそう言って、私は彼女の唇に最後のキスをした。
「私も、だよ」
- 185 名前:21.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時50分09秒
- なっちが出ていって足跡が遠のいたのを確認したら、
私はなんだか涙が出てきた。
彼女がヒールになりきれないなかったなら、
やっぱりなるのは自分じゃないのか。
そこまで考えて、彼女の言葉を思い出した。
『戻ろうよ。夏が終ったあの時まで』
戻れるなら戻りたかった。
もう一度、あの人を腕に抱いてみたかった。
そんな事が出来ないのは、なっちが傷薬を持ってきた時から分かってて。
ただ認めたくないだけなんだと、私は救急箱を開けた。
「私に手当てさせてくれないの?」
開きっ放しだったドアに、彼女は立っていた。
「戻ってきたんだ…」
彼女は細い腕で救急箱を私から奪うと、私をベンチに座らせた。
「怒ってるのよ?私」
「って!」
ちょっと強くオキシドールをつけられて、顔を退くと
彼女は両手で私を引き寄せた。
「皆悪い子!だから皆に怒ってるのよ?ひとみちゃんにも怒ってる」
「ごめん」
私が謝ると、彼女は少し笑って言った。
「でも、私も悪いの。ごめんね、ひとみちゃん」
- 186 名前:21.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時50分50秒
- 「なつみちゃんから聞いた」
先輩がそう言って、私の隣に座った。
私は吃驚して訳のわからない言葉を発した。
「あの子ね、自分が全部悪いって言ってた」
「違うんだ、多分それは」
「そう、違うのよ」
彼女は私の口に人指し指をあてた。
私は仕方なく黙った。
「ほんとはね、皆悪かったの。皆、お互いが大事過ぎて、
何も言わなかったんだもの。今日ある人にそう言われた。
私となつみちゃんはお互いを怒って、それで許しあったのね。
駄目じゃないっ!って。で、私は真希ちゃんも怒ってきたわ。
なつみちゃんに、怒られたでしょ?」
頷くと、先輩は満足そうに頷いた。
「だから、私の事も怒って?」
「……」
黙っていると、彼女はもう一度同じ事を言った。
- 187 名前:21.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時51分25秒
- 私は、彼女の顔から目を反らして本当の事を言った。
「ヤキモチ焼いてたんだ。ごっちんに。
貴方の一番の傍にいて、なっちだって本当はごっちんが一番好きで。
貴方は夜中に泣いた時だって、ごっちんを呼んだ」
彼女が息を飲んだ。
「気付いてたの?」
私は頷いて、続けた。
「貴方が教えてくれるまで、聞かないでおこうと思った。
だけど、あれは凄く傷付いたんだよ…だから、なっちに縋った。
なっちがもし私に縋ったと言っていたなら、それはお互い様なんだ。
私も、彼女と抱き合う事で寂しさを紛らわせていたんだから」
冷たい雫が私の手の上にかかった。彼女は肩を震わせていた。
「ごめんね、辛い思いをさせちゃってたのね」
彼女は私を抱き締めた。
「私の昔の話、聞いてくれる?」
「無理にとは」
「聞いて欲しいの」
私達はプールサイドに出て、話を続ける事にした。
- 188 名前:21.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時52分22秒
- 「真希ちゃんの家に、私の家の鍵があるのは知ってる?」
彼女の問いかけに頷いた。
「あれはね、私がまだ過去に捕われてる証だったの。
私があの家に1人でいると見える昔の悲しい思い出から逃げる為の物だったの」
そうして、彼女は静かに話し始めた。
私は、プールの中の氷が太陽の光で割れるのを見ながらその話を聞いた。
「私の母は弱い人だったの。私が五歳の事だった。
ちょうど私が生まれた頃から、誘拐事件が多発しててね、
母はそれを恐れて私を外に出そうとしなかった。
幼稚園にも行ってなかったのよ?
でも他の子の楽しそうな声が下で聞こえてて、
私は誘惑に勝てなくてね、母に内緒で外に出たの。
買い物にすら連れてってもらえなかったから、すごくドキドキしたわ。
エレベーターにも乗った事がなかった私は動かし方が分からなくて、
結局階段で降りていったの。七階から降りたんだから、子供って凄いわよね。
私はおりたのはいいけど、どうやってその子達が遊んでる所に行くのか
わからなかったの。そうしたら、男の人が近付いてきてね」
彼女が苦しそうな顔をして、私は彼女の肩を抱いた。
- 189 名前:21.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時53分26秒
- 「大丈夫。話せるわ?…ありがと。
その、男の人が私に行ったの。楽しい事しようかって。
私はその人があの楽しそうな声の所に連れてってくれるんだって思って
嬉しくてその人に向かって頷いたのよ。
その人と手を繋いで歩いていこうとしたら、
母が慌てて降りてきて凄い剣幕で怒鳴ったの。人攫いーって。
そのおじさんは、急に私を抱き上げて連れていこうとしたわ。
その人の腕が痛くて、私は泣き出したの。
そしたら、その時誰かが来て助けてくれたの。
多分、おまわりさんだと思うんだけどね。
母はその日に自殺未遂をして、病院に運ばれた。
私がそれを知ったのは、小学校高学年の時よ。
その時は、急に母がいなくなって私もショックだった。
そして、幼稚園に連れていかれたの。
お隣に住んでた後藤のおじさまとうちの父は引越す前から仲が良かったの。
それで、父が仕事に行ってる間は後藤の家で過ごしたわ。
父は、私を許してくれなかった。
いつも背を向けて、私を見ようとしなかった。
彼は誰よりも母を愛してたのよ。
それでも、あの日まではまだ、親子の会話もあったの。」
- 190 名前:21.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時54分22秒
- 彼女が少し泣きそうな顔をして、私は彼女をもっときつく抱き締めた。
「小学校高学年になった時、学校から帰ると父が家にいた。
私が帰ってきたのに気付いて振り返った父は泣いてた。
そうして、彼は言ったの。お前の母さんが死んだって。
私は驚いたわ。五歳の時にいなくなってしまった母の事を、
次に聞いた時には彼女はもうこの世にはいなかったんだもの。
父は私の疑問に全て答えたわ。そして私は知ったの。
彼女を殺したのは私なんだって。
母はその時までずっとあの頃の幻影に悩まされていた。
いつも、お前の命とこの子とどっちが大事だって男に聞かれる
幻覚が見えていたそうよ。彼女は私の命と引き換えに、
ガラスの破片で自分で首を切ったそうよ。
父は、数日後に私を連れて斎場に向かった。
密葬でね、本当に数名だけしか来なかったのをよく覚えてる。
私はそこで初めて母の顔を見たの。
子供の頃の記憶では冷たい顔しかしてくれなかった母はね、
驚く程柔らかい表情でそこに眠ってた。
私は彼女に触れようとしたわ。最後のお別れをするために。
その時、父の手が私を制止したの。
それで、私は結局母に触れた記憶がないまま彼女とお別れしたの」
- 191 名前:21.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時56分04秒
- 「父はその後、仕事にのめり込んだわ。
私は父に振り向いてもらう為に、色んな事を覚えた。
掃除も洗濯も出来る様になって…御飯はもう少し勉強しなきゃだったけど。
でも、父は私の方を向いてくれなかった。
そうして、一昨年の今頃、父は倒れた。
彼は癌だったの。胃癌だったんですって。
そんな事知らずに私は彼の体に優しくない食べ物を沢山作ってたわ。
彼も、私が殺したの。
彼は私に会いたくなくて、仕事に励んでた。
彼が病院で亡くなった時、私は家にいたの。
来るなって言われてて、私は本当にいかなかった。
その日は雨が降っていたわ。春の暖かい雨だった。
朝、電話がかかってきて、聞いた時も強い雨が降ってた。
彼とのお別れの時に、誰も止めなかったから
彼に触れたわ。冷たかった…。氷の様に冷たかったの」
私は彼女の髪の毛に口付けて言った。
「ねぇ、思うんだけどさ」
「最後まで、聞いて?
私、今まで本当にそう思ってきたの。
寂しくて仕方なかった。
両親を殺した私を、両親は許してくれないと思ってた」
- 192 名前:21.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時56分36秒
- 「一週間に三回は夢を見たわ。
怒る母。私を見てくれない父。それから知らない人について行く自分。
何度謝っても、誰も振り向いてくれなかった。
目覚めるといつも泣いてるの。誰かに
私はここにいていいんだって教えてもらいたくて、
私はいつも真希ちゃんに逃げ込んだわ」
彼女は私を見て言った。
「本当の事言うとね、恐かったの。
貴方に言ったら嫌われちゃうんじゃないかって。
他にも色々あったんだけど、そんなに大した事じゃないの。
ただ、貴方が泊まった夜も、私は恐くて…
貴方に軽蔑されるのが恐くて貴方の所にいけなかった。
結果として、それで貴方を失った気になってたんだけど。
一週間前にね、貴方とお別れしたでしょ?
あの時ね、実は凄く無理してたの。
ある人にね、あ、先刻の人じゃないんだけど、
愛してるならその人に無理させちゃいけないって言われてね。
本当にそうだと思って、貴方から言わなくてもお別れしようって思ってたわ」
- 193 名前:21.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時57分09秒
- 「愛してるってね、遠くで片思いでもいいって事だと思った。
だけど、違ったのね。愛してるって、
その人の本当に望む事に気付いてあげなきゃ出来ない事なのね」
私は彼女が笑うのを見て、綺麗だなって思った。
「あの日から一週間、私夢見なかったの。
辛くて、貴方の事ばっかり考えてた。
でね、昨日の夜気付いたの。
母は私を愛してた。愛し過ぎて自分の命と引き換えにしても生かせたぐらい。
父も私を愛してた。愛してたから、母の冷たい感触を覚えさせたくなかったのね。
私を守る為に彼は働いていた。私の作った料理、そう言えば朝になったら
全部なかったの。私は贅沢ね、愛されていたのに」
「気付かせてくれて有難う」
彼女は私の頬を包んで言った。
「荒療治だったけど、私がそれに気付いたのは貴方のおかげだわ」
彼女は私にキスをした。
「ねぇ、お願いがあるの」
私は彼女の唇から風が送られてくるのを感じた。
「これから先も、たった1人の梨華って呼ぶ人になってて?
もう、誰も私をそう呼んでくれないから」
「無理だよ…」
私は首を横に振った。
「私はなっちと」
「言わなくていいの。なつみちゃんと私はもう仲良しで
なんでも知ってるんだから」
- 194 名前:21.吉澤ひとみ 投稿日:2002年01月15日(火)01時57分45秒
- 私は彼女の唇をもう一度感じた。
「今だけだよ?全部無しにしてあげるって言ってるの」
「……」
彼女は私の前に立って、言った。
「本当の、気持ちを伝えてくれるだけでもいいわ」
プールの氷はもう全て溶けてしまっていた。
向こうの方で、他の学生達が登校してくる声が聞こえた。
「……貴方が私の世界をカラフルにしたんですよ?
他の、誰でもない貴方が」
梨華は顔をくしゃくしゃにして笑いながら泣いた。
- 195 名前:22.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時58分45秒
- 救急箱を横に置いて、梨華ちゃんは私を叱った。
いつもの、お姉さんぶった態度で。
「真希ちゃん、喧嘩はいけません。
後でひとみちゃんと仲直りするのよ?」
私は彼女に喧嘩の内容を伝える事が出来ずに黙っていた。
あんな事言ったよっすぃと今更仲直りなんてしたくなかった。
「真希ちゃん、私ね、またあの先生達とお話したの」
私が黙っていると、梨華ちゃんが急に話し始めた。
「私達ね、皆悪い子だったんだって。だから、私の事も怒っていいよ?
皆、もっと正直になるべきだったのよ」
私は梨華ちゃんを力無く叱った。
「こら、梨華ちゃん正直になれ」
「こらっ、真希ちゃんも正直になるのよっ」
そう言って、彼女は私を抱き締めた。
「ねぇ、お別れしよう。昨日までの私達に」
梨華ちゃんの言ってる事が分からなくて、私は彼女を見上げた。
- 196 名前:22.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)01時59分27秒
- ガラス越しの太陽が眩しくて、梨華ちゃんの顔はよく見えなかった。
「昨日までの真希ちゃんと梨華ちゃんにバイバイ、って」
「なんで?」
「だって、私達は後ろ向きだったでしょ?
真希ちゃんは私の傍にいたいって言ってくれてて、
それは凄い嬉しかったけど、でも違うんでしょ?」
「……」
否定されて、少しだけショックだった。
彼女が好きだったのは本当だった。
彼女を守りたいと思ったのも本当だった。
だけど、一緒に歩いていくのは。
「振られちゃうの?私」
「そう。本当は半年前にきっちり終らせてなきゃ
いけなかったのにね。ごめんね?」
どこか寂しそうに梨華ちゃんは言って、笑った。
「たった今から新しい友達」
「うん。わかった」
私は梨華ちゃんが去っても、泣かなかった。
もうどれくらい泣いてなかったかな?
私は思い出そうとして、思い出せないぐらい昔だって気付いた。
- 197 名前:22.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)02時00分09秒
- そろそろクラスにいかなくては、と救急箱に手を延ばすと
ドアがキィッと開いた。
「ナースなっち登場だべ」
なっちは慣れた手付きでオキシドールや絆創膏をとりだした。
「梨華ちゃんと話した?」
「あれ、何時の間に」
梨華ちゃんに?って聞こうとしたらオキシドールが唇にしみて何も言えなくなった。
「話した?」
「うん。振られた」
なっちは、少し考えてから、オキシドールを一杯私の唇にかけた。
「なっち、痛いよぉ」
「泣いていいさ。痛い薬なんだから、泣いていいべ」
そう言いながら、なっちは既に泣いていた。
「なんでなっちが泣くんだよぉ」
「なっちのささくれにしみてるのさ」
なっちは怒った顔で泣きながらそう言った。
なっちの手は、傷一つついていない綺麗な手だった。
「なっちぃ」
私は、涙が溢れてきた。
久しぶりの涙はしょっぱくて、少しだけ消毒の臭いがした。
- 198 名前:22.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)02時01分20秒
- 私は、なっちがここにいてくれるのが嬉しかった。
なっちが一緒に泣いてくれてるのが、嘘みたいだと思った。
よっすぃといなくていいの?って聞いたらなっちは少し考えてから言った。
「よっすぃーと私ね、梨華ちゃんとごっちんが一緒にいるのが幸せだって
二人で勝手に思ってそれで一緒にいたんだ。でも、もう嘘つけなくなっちゃった」
先刻、あんな事言う前に黙ってたよっすぃを思い出した。
彼女はなっちを守ろうとしてそう言ったのかもしれない。
自分だけが悪役になればいいと、そう思ったのかもしれない。
私は1人だけ都合のいい事ばかりを演じてきていたのかも知れない。
「幸せになんて、なれないよ。
二人がいなきゃ、私は幸せになんてなれないよ」
南国にある様な葉の合間に太陽が身を隠した。
「なっちがいなきゃ、幸せにはなれない」
なっちは、驚いた様な顔をした。
「嘘。だって、今振られたって」
「そうだよ?だけど全然辛くなかった。
だって、半年前に終らせてなきゃいかない事だったんだもん。
なっちと離れてた一週間のが、ずっと、ずっと辛かったんだよぉ」
私が抱き締めると、なっちはゆっくりと背中に手を置いた。
- 199 名前:22.後藤真希 投稿日:2002年01月15日(火)02時01分59秒
- 「ごめんね、ごめんね、辛い思いさせてごめんね?」
「そんなの、私の台詞じゃんよぉ」
私達は、チャイムがなるまでそうやって抱き合っていた。
初等部と高等部の連絡通路で目を赤くした私達は、
同じく目を赤くした梨華ちゃんとよっすぃに会った。
「梨華ちゃん、よかったべ」
「なつみちゃんも、良かったねぇ」
抱き合って喜ぶ二人の後ろに私達は苦笑いを交換した。
「本気で殴るんだもんな」
「よっすぃーだって、最後のあれは痛かったんだぞ!」
私達は救急箱を返しに、保健室に向かった。
赤い目の四人は学校では浮いていた上に、二人の喧嘩の後らしき物を見つけて、
他の生徒達が通る度にざわめいた。
私達は早々に保健室に逃げ込んだ。
- 200 名前:0.You Know Who 投稿日:2002年01月15日(火)02時02分34秒
- 保健室のドアが開く時間帯を、私達三人は今頃だと予測していた。
「すいませんっ。救急箱返しにきましたぁ」
「遅くなってすみませんでした」
四人の赤い目の奥を見れば和解した事は明白で、私達の1人が笑った。
「よかったやん。終り良ければ万事よしってなぁ?」
「なんや、自分がかき回した癖によぉ言うわ。
これが一番悪いねんで?怒っとき」
「あない偉そうな事言ったのに、結局みっちゃんの所為で終りかぁ」
「え!私の所為なん?全部?」
彼女達はおかしそうに笑い出した。
そんな彼女達に私達の1人は使い捨て目薬を与えて外へ追い出した。
「また来学期な!でもあんま来ると怒るで?」
「図書室には来てね〜」
「あ、後藤と吉澤はえー加減に安倍の宿題写すの止めいよ?」
四人が去って、私達は紅茶をもう一杯飲んで終業式へと出かけた。
- 201 名前:0.You Know Who 投稿日:2002年01月15日(火)02時03分25秒
- 終業式も終り、保健室へ戻ると私達の1人は言った。
「今年ももうすぐ終りやなぁ」
「またクリスマス1人や…」
「かわええ子と仲良うなりたいわ」
「彼氏欲しー!」
窓辺に立つ私達の1人に、他の二人が近付いた。
「お、あの子らやん」
「えぇなぁ。あんなにええ友達と好きな相手がおって」
「ま、あの子らもこっから先なんちゃう?大変なんは」
泳げない金魚を泳げる金魚は後ろで待っている。
だけど、泳げる金魚も本当は泳げなくて。
2匹はこれから自分達で泳ぐ方法を学ばなきゃいけない。
大きな水槽の中で時に溺れそうになりながらも泳いでいかなきゃいけない。
それは想像以上に大変な事なのだ。
「ほれ、帰るで」
「飲み行こか?」
「彼氏、欲しいなぁ」
可愛い可愛いかなづちキンギョ、
かなづちを克服するのは何時の日か。
「しっかし、あんたらも大概かなづちやねぇ」
「うっさいわ」
「彼氏ぃ」
- 202 名前: 投稿日:2002年01月15日(火)02時04分41秒
~fin~
- 203 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月15日(火)02時06分00秒
- 更新しました〜。疲れたぁ。
- 204 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月15日(火)02時06分57秒
- レス忘れてました。ごめんなさい。
>>130 usapyon様
今まで有難うございました。
そうなのです。村上春樹が好きです。
似ても似つかない駄文しか書き散らしてませんが(汗
また、どこかで御会いできます様に。
>>131 名無し男様
ホ、ホ、ホイミ!!あんまり、役に立たないし…。
貴方のレスがとても面白くていっつも悪ふざけしちゃいました。
付き合ってくれて有難うでした。
>>132 夜叉様
つらいですね〜。
また眠りについたあの場所で御会い出来るかしら?
楽しかったです。
>>133
最終回。この様にしてみました。
眠れない夜を今日で解消して下さい。
今まで有難うございました。
>>134
御会いして早々にお別れですね。
読んで頂けて本当に嬉しいです。
有難うございました。
ではでは。眠りについたあの場所で御会いするか。
はたまた、新しい作品がうまれるのか。
全ては未定です。今まで、どうも有難うございました。
- 205 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月15日(火)02時09分45秒
- 感動!
も、この一言のみ!
四人と同じく眼は真っ赤、明日の朝が恐いです。
- 206 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月15日(火)02時11分47秒
- お疲れ様。感動の一言です。
最後いっきに更新したのも読んだら納得。
次回作も期待してます。
- 207 名前:名無し 投稿日:2002年01月15日(火)02時19分43秒
- ん〜、ただの続編とは思えない力作でしたね。
大団円とはまさにこのことですね。
先生3人組もいつか幸せになれることを祈ってます(w
- 208 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月15日(火)02時23分18秒
- 205さんに激しく同意!!
久しぶりに小説で泣きました。
ほんと、お疲れさま。
すばらしい作品をどうもありがとう。
- 209 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月15日(火)02時59分14秒
- 雨降って地固まる、か。
でも簡単なようでそこに辿り着くのは難しいんだよね。
苦しみ悩み抜いた4人に、
優しい”これから”を与えてくれてありがとう>作者さん
- 210 名前:M.ANZAI 投稿日:2002年01月15日(火)03時55分48秒
- 一気に最終章までを読ませていただきました。
もう、どうにもならないほどに壊れ去ってしまうのかと悲しくなる思いでしたが、
良き助言者を得て、四人が再び歩いて行けるのを見届ける事が出来ました。
人は自分だけで生きれるものではなく、時として誰かに助けを受けるものなのでしょうね。
本当に素晴らしい作品を読ませていただき、ありがとうございました。
- 211 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月15日(火)11時22分01秒
- は〜終わってしまいました。素晴らしかったです。
みんなの想い、自分の想いなかなか気づけるようで気づかない…
気づけたとき、こんな四人みたいになれるのでしょう。
四人の笑いあってる姿が目に浮かんできます。
人は一人より二人…二人より三人…三人より四人…
そうやってって生きていくものだと…
またお会いできるのを楽しみにしてます。
- 212 名前:夜叉 投稿日:2002年01月15日(火)15時19分12秒
- 4人は近くてとっても遠い、遠回りをしていた。
分かり合えて良かった、正直そう思いました。
最初からずっと楽しく読ませていただいてたんで、終わることがつらいのですが、次作か眠れる場所かでの再会を楽しみにしてます。
本当に有難うございました、そしてお疲れさまでした。
最後に。
やはり師と仰がさせてくださいね。
- 213 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月16日(水)06時40分03秒
- 一夜明けてみて吃驚してます。
皆さん有難うございます。
こんなにレスしていただけるとは思ってませんでした(汗)。
本当に嬉しいです。
>>205
目は大丈夫でしたか?
私は日々、寝不足で目の下に隈が…。
あまり美しくない…。
今まで有難うございました!
>>206
一気に更新しようかしまいか迷ったんですが、
納得頂けて良かったです。
次回作は、今構想中でございます。出来上がるのはいつの事やら…。
今作の御愛読、有難うございました!
>>207
続編というより、あっちが番外編状態ですね…。
凄い小さい話だった筈なのになぁ。
先生らはあれはあれで幸せかもしれないですね〜(w
どうも有難うでした!
>>208
そう言って頂けて感無量です。
ガンガッタ甲斐があります。
本当、有難うございました!
>>209
雨、振り過ぎでしたね。
作者にとっても難しい道程でした。
書いても書いても終らない…。
こちらこそ、ありがとうです!
- 214 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月16日(水)06時41分47秒
- >>210 M.ANZAI様
良き助言者なのか、ただのお節介だたのか…。
結果としていい方向に向かったから助言者だったのかな?
いつも詩的なレス、有難うございました!
>>211
本当に、他人というものは大事です。
今回、私自身も皆さんのレスに助けられてました。
いつもいつも、本当に有難うでした!
また、御会いできるといいですね。
>>212 夜叉様
上手い言い回しですね〜。
遠かったですね。本当に、遠かった(遠い目
いつも、有難うでした!楽しかったっす。
師だなんて、恥ずかしい…。
次回作の構想に飽きて、サイト作ってしまいました。
今の所、キンギョぐらいしか置いてません。
掲示板以外の雰囲気のキンギョが読みたい方はどうぞ。
tp://true_color.tripod.co.jp/
こんなん作ってないで早く書けとか言わないでね。
- 215 名前:usapyon 投稿日:2002年01月16日(水)16時54分29秒
- やっぱり!私もハルキストですよ。
そんなそんな。駄文なんて滅相もないです。素敵すぎます。
読んでからもう1日は経ってるのに世界観から抜けきれなくなってます。
本当に素敵な話をありがとう。次作、期待して待ってます。
- 216 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月17日(木)01時55分57秒
- >>215
春樹はいいですよね。初期の頃暗いけど。(でも初期が好き)
世界にはまって頂けて光栄です。
次作、頑張ってます!
- 217 名前:名無し男 投稿日:2002年01月17日(木)17時21分37秒
- なんじゃあああああああああああああこりゃあああああああああ!!!!!!!!!!
畜生!真っ先にレスできんかった!
おのれ!腹掻っ捌いたる! ブッシャァァァァァ!!!!!!
とにかくよいさくひんでした。
なきむしのぼくはいっぱいなきました。
琵琶湖ができました。
お疲れ様、次回作でもまた泣かしてね
- 218 名前:LVR 投稿日:2002年01月17日(木)20時42分41秒
- ものすごく混み入った話でしたけど、
最後は丸く収まって本当によかった。
でも、四人はまだようやく始まったばかりなんですね。
次回作も期待しています。
- 219 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月18日(金)03時35分40秒
- >>217 名無し男様
びっくりした…作品に対して不満があって怒ったのかと…。
いやいや、批判も大歓迎ですけどね。
琵琶湖できる程の涙ありがとうございました。
また宜しくです。
>>218 LVR様
そうですね。まだまだ彼等には先の長い長い話が待ってますね。
機会があったら覗いてみたい気もします。
でも今は少しの間、彼等にもプライバシーを与えてあげようかなと思ってます。
今まで有難うでした。
- 220 名前:usapyon 投稿日:2002年01月28日(月)17時42分46秒
- 今更見てないかもなんですけど、このお話って
ブリグリのthere will be love thereが合うなぁと、勝手に思ってしまいました
- 221 名前:空飛び猫 投稿日:2002年01月30日(水)03時18分04秒
- >>220 usapyon様
レス数が多くなってる時はチェックしに来てますよ。
あの歌、私も好きです。というか、川瀬さんの声が好きです。
CDどっかにあった気がする…探してこようかな?
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