MUSUME。 HAZARD
- 1 名前:傘 投稿日:2002年01月06日(日)16時01分45秒
- 初めまして、「傘」と申します。
みなさんに触発されたようで、私も小説などを書いてみました。
タイトルからわかるとおり、私の大好きなゲームに娘。風のオリジナルアレンジを加えたものです。
つっこみどころ満載な小説になっていますが、そこんとこは目を瞑っていただければ。
掲示板の形で投稿するのは初めてなので、行き届かないところもあるかと思いますが、その時は注意してやってください。
感想その他、レスなど頂ければ嬉しいです。
では、よろしくお願いします。
- 2 名前:お約束 投稿日:2002年01月06日(日)16時03分33秒
- ※この小説には、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれます。
- 3 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月06日(日)16時04分33秒
- 始まりは、いったいいつなのだろうか?
それを知るものはほんの限られた人間だけであり、その彼らにしても、全てのカードを手にしているわけではなかった。
だが、少なくとも彼女たちに関しては、はっきりしている。
あの日、そう、すべてはここから始まった。
今、惨劇の夜の幕が開く…
- 4 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月06日(日)16時05分57秒
- 北海道クマネシリ山系の中央部に位置するR市。険しい山岳によって、事実上隔離された街である。人口は約五万人。
不便な街に、これほどの人が暮らすのには理由がある。10年ほど前、街にとある国際企業が支社を設立したからだ。
その名は「製薬会社ゼティマ」。風邪薬から強精剤、抗がん剤、抗HIV薬の開発など、多岐にわたっているが、その陰では設立資金の出所が不明とか、政界に深く根を張り巡らせているとか、黒い噂も絶えない。
R市民の99.9%は、社員とその家族、それを目当てに集まってくる業者で構成され、まさにゼティマにあるからこそ存在が認められている街なのだ。
99.9%と書いたが、では残りの0.1%はなにか。
彼女たちこそ、この物語の主人公たちである。
- 5 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月06日(日)16時07分15秒
- 警察庁公安局特殊機動隊。
テロや凶悪犯罪に対応するために新設された。
コードネームは「HELLO」。
全国各地の警察から優秀な分子を結集させた、若き精鋭である。
ここではすべてを叩きこまれる。サバイバル技術、武器の取り扱い、爆発物処理、化学・生物兵器の対応方法、対サイバーテロ…
将来を約束されたエリート集団…ただし、まだヒヨッコだ。
- 6 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月06日(日)16時08分02秒
- 「HELLO」の現地責任者である警部補中澤裕子が、ため息とともに受話器を置いたのは、6月17日19時ちょうどのことであった。
中澤は今年で28歳になる。
上級試験合格者、いわゆるキャリアではない彼女が、この年齢で警部補の地位にあるのは稀有のことだ。それだけの能力があり、上官もそれを認めざるを得なかったのである。
本庁にあって昇進コースにあったはずの中澤が、僻地にまで飛ばされてきた理由は謎に包まれている。
派手な金髪が嫌われた。上司にセクハラされて殴りつけた。いや、同僚(男女問わず)セクハラしたのが原因だ。などと、部下に面前でいわれたが、いわれたほうは否定も肯定もせず、にやりと笑うだけであった。
- 7 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月06日(日)16時10分14秒
- きっちり5分後、3名の女性が敬礼とともに入室する。
「おう、ごくろうさん。ま、かけてくれ」
関西弁の微妙なイントネーションがかかった口調で、彼女はソファを示し、自分も対面に腰を降ろす。
「中隊長、なにか?」
代表して、真ん中に座った最年長の平家みちよが口を開く。左にいる髪の長いのは飯田圭織、右に座っている猫のような目をした女性は保田圭。全員、中澤の下に配置されることになる各小隊長である。
「…いややわ、みっちゃんたら。5時以降は裕ちゃんて呼んでや」
おどけたように中澤が体をひねる。仕事以外の時間は、階級関係なく接しさせている。もっともこれには、自分がセクハラしたいだけだという噂もあるのだが。
ふうっと平家は軽く息をついた。
「…姐さん、もったいつけないでもらえます?」
「つれないなあ、みっちゃん。うちとアンタの仲やん」
中澤はちょっと舌を出して笑った。
- 8 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月06日(日)16時10分59秒
- 「それに、もったいつけてるつもりはないで」
「で、なんなの? そんなに引っ張んないでよ、裕ちゃん」
そういったのは、ひときわ大きな猫のような目をした女性、保田圭。
「あんたら、このところの事件はしっているよな」
緊張した面持ちで三人はうなずいた。
近頃、クマネシリ山系を中心として奇妙な事件が続出している。
山に入ったものが行方不明となり、惨殺死体が川を下って流れついてくるのだ。しかも、獣に噛まれたような跡が刻まれているうえに、死体は食いちぎられたかのように腕や足、または胴体が欠損していた。
熊か、野犬か…さまざまな説が流れたが、反対意見も存在し、謎は深まるばかりだった。
- 9 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月06日(日)16時11分33秒
- 「さっき本庁から命令があってな、うちらに出動して真相を解明せよってこっちゃ」
「はあっ!? マジで!?」
「うちらだけで? 地元警察は、道警は?」
「ああ、もう、うっさい!」
飯田と保田の声をステレオ式に聞かされて、耳を塞いでいた中澤が怒鳴る。
「ちゃんとした理由があんねん」
中澤は手を口元で組むと、眉間に皺を寄せ、ある真実を話した。
3人は声も出さすに聞き終えると、ひとことも反論することなく、命令に従ったのだった。
- 10 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月06日(日)16時16分54秒
- 中澤の下に配置された小隊は3つ。
飯田圭織、安倍なつみ、石川梨華、高橋愛、小川真琴の第1小隊はヘリに乗って、クマネシリ山系中部を目指す。
平家みちよ、戸田鈴音、木村麻美、松浦亜弥、石井リカの第3小隊は、地上から川にそって山地を進む。
応援部隊として本部で待機するのは、第2小隊保田圭、矢口真里、吉澤ひとみ、紺野あさ美、新垣里沙の5名である。
第1および、第3小隊が出発したのは、6月19日8時30分。
そして7時間後、消息を絶った…
- 11 名前:傘 投稿日:2002年01月06日(日)16時22分07秒
- 作者の傘です。
とりあえず、今日はOPだけ。テキストでは完成しているので、明日から順次更新していきます。
どうなんでしょう、見づらくないですかね?
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月06日(日)16時40分14秒
- おもしろそう!がんばってください!
6月19日って意味あるのかな?
裕ちゃんの誕生日だべさ?
やっすー・平家・かお・中澤の絡みに期待!
- 13 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月07日(月)12時33分20秒
- ちょっと補足。
各小隊の隊長は、カオリ、やっすー、みっちゃんです。
12さん>
初レスサンクスです! がんばりますんで、どうぞよろしく!
6・19とは…ふふ、良いところにお気づきのようで…
というのは嘘です。姐さんの誕生日であることすら気付きませんでした^^;
今の段階ではあまり意味ないです、ハイ。
- 14 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)18時51分18秒
- 仮設テントの中に、焦燥感が充満しているのを、保田は感じざるをえなかった。
2つの小隊からの定時連絡が途絶えて、2時間になろうとしているのだ。声には出さないものの、心の揺れは手に取るようにわかる。
ぐるりと視線を左にめぐらし、チームの連中を視界に捕らえる。
まず飛びこんできたのは、M16ライフルをひとつひとつチェックしている吉澤ひとみの姿だ。
- 15 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)18時52分46秒
- 体格と身体能力に恵まれ、重火器からヘリの操縦までこなす。顔に似合わず、めったなことでは取り乱さない心臓を持っている人物ではあったが、さすがに「何もしない」状況には耐えられないのだろう。
その隣で所在なげにたたずんでいるのが新垣里沙。顔立ちは幼いが、こう見えてもアメリカの大学から医学と化学の博士号を授与されている。
通信機の前で座ったまま微動だにしないのが紺野あさ美である。落ち着いているのかぼうっとしているのかよくわからない。なにせ表情の変化がほとんどなく、何を考えているかすらよくわからないのだ。CPUについての造詣と技術に優れており、その気になれば、どのようなプロテクトも解除することができる…らしい。
- 16 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)18時54分00秒
- 最後にやたらと小さい姿が瞳に映る。
矢口真里。
頭の回転の速さと行動力に非凡なものを有しているが、口から先に生まれてきたのではないかと思われるほど良くしゃべるし、良く笑う。明るいと、うるさいの中間地点にある彼女は中隊のムードメーカーだ。その矢口がさきほどから、いっさい口を開かず、唇をキュッと結び、眉に焦燥を浮かべたまま、自動小銃をいじっている。
- 17 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)18時54分45秒
- まったく変な集団だ…
保田はそんなことを考えておかしくなった。
個性も能力もバラバラの人間が、よくもこうひとつのチームを形成しているものだ、と。
- 18 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)18時57分11秒
- 「どうや、連絡はあったか?」
中澤がテントに入ってきた。紺野が無言で首を横に振る。
「あーもー! どうなってんだよ!」
中澤の登場を合図にしたかのように、ついに矢口という名の休火山が爆発した。
「裕ちゃん、うちらにも出動命令だしてよ! じっとなんてしてらんない」
「落ち着き」
怒りのためか、「中隊長」と呼ぶことを忘れていた矢口だったが、そのことには触れずに、静かに諭す。
「はあっ!? これが落ち着いてられるかっての。2時間だよ、2時間。絶対なにかあったって」
「後輩にそんな取り乱した姿をみせたらあかん」
「だけど…!」
「まだ何があったかわからん。通信機の故障かもしれんしな」
そう無邪気に信じることができたら、どれほど幸福だろうか。両方とも都合よく故障する確率など、10万馬券を狙って当てるよりも少ないに違いない。
不服そうな面持ちの矢口の抗議を中断させたのは、通信機から流れる声であった。
「…隊…第一小隊…本部…願います…!」
「こちら本部…飯田さんですか?」
- 19 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)18時58分16秒
- 緊急事態だというのに、いつもと変わらないスローテンポな口調の紺野にいらだったか、中澤が通信機をむしり取る。
「おい! カオリ、カオリなんか!? どうした、状況を報告せい!」
『…裕、中隊長…救援を…』
「救援やな。わかった、すぐいく。どこにおんねん!」
『…ここ…ヤバイ…』
「他の連中は無事なんか!」
『…』
「カオリ!? 第1小隊応答せよ! 第1小隊!!」
通信は途絶した。
悲痛な表情で中澤が通信機を置く。金髪をひとつかき混ぜたあと、振りかえった彼女が見たものは、直立不動で命令を待つ第2小隊のメンバーであった。
「…命令や。今すぐ第1小隊の救援に赴け。第3小隊はうちのほうでなんとか手配する」
「了解!」
緊張しているし、恐怖も存在しないといえば嘘になる。だが、それを上回る勇気と、仲間を救うという使命感が、彼女たちを突き動かしていたのである。
中澤は、一人一人の肩を黙って叩いて出発を見送ると、椅子に腰掛け、いらただしげに爪を噛んだ。
- 20 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)19時09分31秒
- 第2小隊の5名を乗せた1機の輸送型ヘリの音が山にこだまする。
クマネシリ山系の黒々とした尾根を下に見ながら、第1小隊からの連絡に基づいたコースを飛行していると、ほどなくして、サーチライトの下にとある館が、その姿を現した。
「紺野、あの館の所有者ってわからなかったんだよね」
保田に問われた女性は、驚いたように肩を動かしてから返答した。
「はい…それどころか、登記すらされた形跡がありませんでした…」
「いかにも怪しいっていってるもんじゃん」
「…飯田さんたちはあそこにいるんですかね?」
ヘリの操縦桿を握っていた吉澤の表情が曇る。助手席に座っていた矢口が、いたずらっぽい顔をして、腕を肘でつついた。
「またまた〜 カオリじゃなくて、梨華ちゃんが心配なだけじゃないの〜?」
そんなんじゃないっすよ、といいかけた吉澤だったが、それを中止して視線を地面に固定させる。
「矢口さん、あれって…」
「うん。圭ちゃん!」
矢口に促されて下を見た保田の目に映ったのは、自分たちが乗っているのと同じ型のヘリだった。
- 21 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)19時12分23秒
- 「…第1小隊の…」
「降りる?」
「そうだね。あの館に行くにしても、一番のポイントでしょ」
「わかりました」
ゆっくりと吉澤がレバーを操作すると、機体は降下を始め、着陸した。
機材やら武器弾薬、携帯食糧・飲料水を降ろした彼女たちだったが、ふとあることに気づいて愕然とした。
第1小隊のヘリに、ほとんどの武器や機材が、放置されたままなのだ。まずありえることではない。
「…なんかヤバくない?」
「うん」
直接ことばに出したりはしないが、おおよそのことは推測できる。すなわち、装備などを降ろす前、もしくは最中に襲われたのではないか、ということだ。
ひょっとすると、一連の猟奇殺人事件の犯人だろうか。
保田は全員に銃の安全装置を外すことを命じるとともに、危険を察知した際の、発砲許可を与えた。
- 22 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)19時14分04秒
- そのうえで前進を開始する。
矢口と吉澤を先頭に、新垣、紺野がそれに続き、最後尾を保田が固めたうえ、強力なライトで前方と周囲を確認しながら、慎重に歩を進める。
静かな夜だった。自らの心臓が高鳴っているのが聞こえるほどに。呼吸が荒いのは、疲労のせいではない。あまりに心臓の鼓動が早いため、自然と呼吸の間も短くなってきているのである。
情けない、と保田は自嘲気味に笑った。
小隊長がこれでどうする。
「新垣、紺野、大丈夫?」
ことさら余裕ぶって、いちばんの新参者である二人に声をかけたのは、自覚のなせる業といえるかもしれない。
ぎこちなく二人がうなずいた時、前のほうで声がした。
「いて!」
「どうしたんですか?」
「わかんない、なんかにつまずいて…」
ライトをにっくき相手に向けた矢口は、その瞬間に凍りついた。否、矢口だけではない。目にしたもの全員に共通したことであった。
- 23 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)19時15分30秒
- 「あ…あ…!」
「そ、そんな…」
「真琴ちゃん…」
そう、それは第1小隊小川真琴の変わり果てた姿であった。正視に耐えられぬほどの状態であり、もはや何も映すことのない瞳が虚空を睨んでいる。
保田は悟らざるを得なかった。飯田が通信で伝えてきたこと。
『ここは、ヤバイ』の意味を。
「走るよ、館まで走るんだ!」
その声ではっと我に返る。
同時に、周囲の風景が一変した。
草むらがざわざわと音を立てる。風のせいでないことは確実だった。気配が違うことくらい、いくら半熟者の彼女たちにも手に取るように分かる。
なにかが、いる!
- 24 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)19時17分37秒
- そう感じると同時に、咆哮を上げて「なにか」が襲いかかってきた。
不意をつかれた矢口がとっさに体をひねると、ライフルを口にくわえられる。
恐ろしいばかりの力に、矢口の手から銃が離れた。
「やべっ!」
「おりゃあ!!」
吉澤が暗闇向けてライフルを乱射する。命中しているかどうかわからないが、恐ろしいほどに手応えが感じられない。
「応戦はあと! 今は走ることを考えな!」
「新垣、紺野! なるべく身軽にして!」
「あたしと吉澤はシンガリ! 矢口、先頭は頼んだよ」
「了解!」
戦うのは不利と判定した年長組の保田と矢口は、すばやく逃走を指示する。
ライフルを捨て、背負っていたリュックも投げ捨てて目標とする館を目指す。怪しいのは承知の上だが、他に選択肢はなかった。
- 25 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)19時19分33秒
- シンガリを務める吉澤と保田の威嚇射撃も効果がなく、獰猛な息遣いが迫る。
追いつかれる、ヤバイ!!
半ば覚悟を決めたころ、金属音が耳に届く。
記憶に間違いがなければ、手榴弾の安全弁を抜く音である。
いったい誰が、と思うと同時に、足を止めた新垣の姿が映る。
「あんた、なにやってんの!?」
「保田さん、今までお世話になりました」
「はあっ!?」
「私が囮になります。早くいってください」
新垣のことばの意味を、ようやく保田は理解した。
「そんなこと、あたしは命令していないよ!」
彼女がわずかに微笑んだように保田には思えた。小さな体を翻して、暗闇の中に走る。
「ばか! 新垣!!」
「保田さん、だめです!」
追おうとした保田の肩を吉澤が掴む。
「離しなさい、吉澤! 新垣、新垣―!!」
- 26 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)19時22分54秒
- 保田の絶叫を耳にしながら、新垣の脳裏に、ここに来てからの記憶が走馬灯のように蘇る。
身体能力に劣る彼女が、このエリート集団の卵に選ばれたのは、わずか半年前のことであった。
警視総監の姪であることから、コネではないかと、ずいぶん噂が立ったものだった。
だが、中澤隊長をはじめとするメンバーは、厳しくも暖かく迎えてくれた。訓練は厳しいものの、ここでは、背中に感じていた冷たい視線とは無縁の世界であったのだ。
キツイこともいうが、本当は優しい保田。落ち込んでいたりすると、いつも即席の漫才で励ましてくれた矢口と吉澤。同じ悩みを共有しあった同期の高橋、紺野、小川…
新垣は誰よりもこの隊とメンバーを愛していた。おそらく小川も、同じように死んでいったに違いない。
ありがとう…そして、他のみなさんを、よろしくお願いします…
殺意を持った牙が、新垣の体に食い込む。
同時に、手榴弾が光りを発し、彼女の肉体は四散した。
「新垣――――!!!!」
保田の声だけが響き渡った。
- 27 名前:第一話「恐怖への招待」 投稿日:2002年01月07日(月)19時25分04秒
- 残った4人は、かろうじて館に逃げ込むことに成功した。だが、これで助かったと思ったのは大きな間違いであった。
こここそが、真の地獄の舞台なのだから…
- 28 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月07日(月)19時33分40秒
- 第一話終わりー
いきなりニイニイとまこっちゃんがあんなことになってしまいました。
ま、こういうもんだということで、ご容赦下さい。
- 29 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時32分30秒
- ゴチーンが出ていないことに意味はあるのでしょうか…?
それともただ作者さんが忘れているだけ?(w
- 30 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月09日(水)09時46分43秒
- 29さん>
ごっちんについては、もちろん意味ありです。
まあ、最後まで読んでいただければわかるということで(笑)
- 31 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時20分57秒
- だだっ広いホール。
豪華な絨毯。
高い天井には華麗なシャンデリア。
壁には精緻を極めた装飾。
西洋仕立ての建築様式は、古いホテルを思わせるが、これは紺野の調査結果と符合しない。
どちらかといえば、エクソシストなどのホラー映画に出てきそうな、そんな雰囲気である。
おそらく、洋館じたいもかなり広いと思われるが、いったい誰が、なんの目的で作ったのだろうか…?
- 32 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時22分29秒
- 館のホールに、4人の呼吸音だけがこだまする。
逃げ切ることができたが、失ったもののなんと大きいことか。新垣は永遠に戻ってくることはない。
「…新垣が、新垣が…あたしがしっかりしていれば…」
狂ったようにつぶやく保田と、沈痛な表情のまま、無言で見つめる吉澤。
嗚咽の声は紺野から発せられたものだ。同期である小川と新垣。多くの時間と心を所有した、もっとも近い人間を、同時に失ってしまったのだ。
矢口は、ぎりっと奥歯を噛み締めると、つかつかと紺野の側に歩み寄り、ふくよかな頬に平手打ちをかました。
不謹慎なほどに小気味いい音を立てた頬を押えて、紺野が矢口をみる。
「いい加減にしな! 泣いてあいつが生き返るとでも思ってんの!?」
「…」
「そ、そりゃ、紺野にとっては同期なんだし、悲しむのはわかるけどさ…」
大きな目でまっすぐに瞳を見返された矢口は、やや狼狽しながらも続けた。
「新垣は、あたしたちの身代わりになって死んだんだよ? だったら生きて、第1小隊のみんなを助けるのが、あいつの気持ちに応える道でしょ!?」
- 33 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時22分59秒
- 矢口のことばはずいぶんと冷たいかもしれないが、この場合は、誰かがいわねばならないことなのだ。そういう時、すすんでこの役を引き受けたのは、いつも矢口であった。
保田は、かつて中澤が彼女を評したことを思い出していた。
『あいつは、自分が輝くことは少ないかもしれん。でも、周りにいる連中を輝かせることが出来るんや。すごい才能だと、うちは思で…』
そう語る中澤の顔は、今まで見たことがないくらい、にこにこと嬉しそうであった。
(そうだよね、他人からよく誤解を受けるけど、いつもチームのことを考えてくれるんだよね)
顔を引き締めると、保田は立ち上がった。彼女はわかっていたのである。矢口は紺野だけにいったのではないことを。保田や吉澤、第2小隊全員に向けていったことばであることを。
ありがとう、矢口…また、力をちょうだい…
口に出しはしないものの、その大きな目で小さな勇者にいうと、彼女は一瞬きょとんとしたものの、すぐに人懐っこく、にっと笑ったのだった。
- 34 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時24分22秒
- 失望の崖っぷちでかろうじて踏みとどまってみたものの、彼女たちのおかれた状況は、はなはだ芳しくないものだと気付かざるを得ない。
「さっきのあれ、何だと思う?」
「あたしには犬のようにみえましたけど…」
「保留つき? 理由は?」
「その、なんていうか、うまく表現できないんですけど…」
「わかるよ、よっすぃー」
大きく息をついて矢口がいう。彼女は、一瞬だけさきほど遭遇した犬のようなものと目があっていた。闇の中で赤く光る目は、とてもこの世のものとは思えなかった。
「野犬の群れっていうのとは違うっぽいしね」
「そうですね」
「確実なのは、あいつらが一連の事件の犯人ってことじゃない? ま、人じゃないけど」
「…そう、考えるべきだろうね」
- 35 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時26分51秒
- 先輩たちがさきほどのおぞましい体験を分析しているのを、紺野は感嘆と非難が入り混じったような瞳で黙って眺めていただけだった。
だが、3人は冷静に考えることによって、自分たちの心を平静に保とうとしているのだ。ヒヨッコの中でも、経験の少ない紺野にそこまで求めるのは酷であろう。
「…第1小隊がここに逃げ込んだのはほぼ間違いない。生存者を捜そう」
生きていれば、という思いは、間違っても口に出さない。おそらくそれは、他のメンバーも同じはずだ。
腰を浮かしかけた彼女たちの耳に飛び込んできたのは、銃声であった。
さっと緊張の色が走る。これは、ある事実を意味していた。
ひとつは、誰か生存者がいるということ。
ふたつは、銃を使わなければならない状況にあるということ。
「…吉澤と紺野はここを確保。装備や武器弾薬の確認をしておくこと」
「了解!」
「矢口はあたしと来て」
「OK」
メイン装備であるM16ライフルは投げ捨ててきてしまったので、はなはだ心もとないながら、ベレッタM92FSオートマチックを手に取り、弾層を確認したあと、銃声がした方角の扉を開けた。
- 36 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時29分35秒
- 扉の向こうは、どうやら食堂のようであった。
長テーブルと30脚ほどの椅子が整然と並べられている。
「ずいぶんと広い館みたい」
「うん…これは?」
保田がふと気付いて床に視線を送る。
そこには、どす黒い血液が付着していた。状態からして、相当時間は経過しているものと思われる。
「…なにがあったんだろう」
「さあ…続いているぞ」
点々と続く血痕を追うと、それは扉の向こうに消えていた。
無言でうなずきあった二人は、高まる鼓動を押えながら扉を押した。
そこは、廊下のようなところであった。目の前と、右手に別のドアが見える。
矢口がノブを回してみたが、カギが掛かっているらしく、軽い舌打ちが聞こえた。
その間、保田は血痕を追っていた。奥まったところに小さな休憩所のようなものがあるらしい、そこへ向かっている。
- 37 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時30分38秒
- 人影が保田の視界に映る。どうやら、生きているようだ。
だが、後姿から察するに、第1小隊のメンバーには見えない。この館の住人だろうか。
「あなた、ここでなにしているの? ここはどうなってるの?」
銃を構えて保田が問いかけても、返答はない。理由もわからず悪寒を感じたが、それを振り切るように、今度は怒鳴った。
「ちょっと! 聞いてんの!?」
効果的だったのか、その人物がこちらを向く。だが、顔をみて保田は驚きをとおりこして狼狽した。
- 38 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時33分38秒
- 顔、いや、体の皮膚すべてが、まるで腐乱死体のように爛れ、目は半分飛び出ている。頭髪は半ば抜け落ち、その下に見える白いものは…頭蓋骨!?
「な、なに…」
引金を引くのを忘れてしまった保田の対応が遅れる。
得体の知れない化け物は、彼女に襲いかかると、右肩に噛みついた。
引き裂かれるような激痛が、一瞬で全身を駆け巡り、鮮血が吹き出した。
「うわああ!!」
ようやく事態を悟った保田が絶叫とともに、力の限り化け物を突き飛ばし、あまりの激痛に耐えかねた彼女が片膝をつく。
化け物はぐらりと揺れたが、倒れることなく緩慢に近寄ってきた。
「圭ちゃん!」
矢口のベレッタから「たん」と音を立てて弾丸が吐き出され、化け物の眉間に吸い込まれた。
「だいじょうぶ!?」
「あ、ああ…くそっ、なんなんだいったい」
倒れた人間の形をした化け物を睨みながら、肩を押えて、保田は立ち上がった。時間とともに、痛みと出血が増大してくるように感じられた。
- 39 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時37分13秒
- 矢口が化け物に近付き、調べようとするのを、黙ってながめる。
「うわ、なにこれ…キショッ!」
あまりの醜悪さに、思わず矢口は目を背けてしまった。
「どうなったらこうなるワケ?」
悪態をつきながら足で体を突っつくが、それで何かわかるわけではない。
「いいよ矢口、後にしよう。とりあえず、吉澤たちと合流だ」
「…そだね」
納得したわけではないが、肩をすくめて化け物に背を向けた。
その時だった。
矢口の足が、がしっと掴まれたのだ。
ぎょっとして下を見ると、確かに脳髄を破壊したはずの化け物が、腕を伸ばしている。
- 40 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時38分28秒
- 虚空を睨む目は焦点を失っており、矢口の毛穴を開かせるのに充分であった。
「くっ! この…」
心臓が喉から飛び出そうになる衝動に耐えた矢口は、力の限り足を動かして縛めを解き放つと、銃口を向けた。
「このやろう!!」
軽い衝撃が連続して彼女の腕に伝わる。
弾層が空になるまで撃ちまくり、無意味な音を発するころ、ようやく恐るべき生物の動きが完全に停止したことを知った。
「…戻ろう、矢口」
荒い息をついていた矢口の肩に手を乗せると、彼女は、ようやくぎこちない笑顔を見せて、そのことばに従ったのだった。
- 41 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時39分37秒
- ホールに戻ると、吉澤は武器を並べて弾丸数をチェックしており、紺野は無線機をいじっているところであった。
「どうしたんですか、銃声がしましたが」
「うん…」
なんといっていいかわからず、矢口は紺野に、保田の応急処置をするように指示した。
救急セットを手にした紺野が、保田の肩を消毒し、包帯を巻いている最中、矢口と保田が目にしたことを報告する。
「そんなことが…」
吉澤が口元を押えて唸った。
「…野…紺野!」
保田に呼ばれて、紺野が我に帰る。どうやら、驚きのあまり手を止めていたらしい。
「で、どうするんですか? これから」
「昼ならともかく、今外に出るのは危険だ。かといって、ここにいるわけにもいかない。明るくなるまでに生存者を探し、その後脱出しよう」
「はは、完璧な計画ってやつ?」
他のものが聞けば、嫌味にしか思われないだろうが、矢口はあえて毒を吐くことで、沈鬱した空気を吹き飛ばそうとしているのだ。
- 42 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時40分21秒
- 「紺野、無線は使える?」
「あ、はい…ジャミングがひどいですけど、もう少し調整すれば…たぶん」
「じゃあ、あたしとよっすぃーでこの辺りを調査してくるよ」
「気を付けるんだよ」
矢口の提案に保田は素直に従った。肩がこのありさまでは、武器を取ることは難しいだろう。
- 43 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時42分01秒
- 保田が襲われたような化け物がいるかもしれないとなると、武器がベレッタだけでは心もとない。とはいえ、装備をほとんど投げ捨ててきてしまったので、あるものでやりくりするしかないだろう。
吉澤がかろうじて捨てずにいた装備を解いてみると、残っているのは、
レミントンM1100−Pショットガン、2丁
M79グレネードランチャー、1丁
イングラム型サブマシンガン、2丁
それぞれの弾薬。
これで以上である。
「あたし、ショットガンいいな」
「無理っす。矢口さんじゃ吹っ飛ばされますよ」
「なんだと、よっすぃー! 矢口をばかにしてんのかよ!」
「いやあ、そんなんじゃないっす」
「…バカな言い争いしてんじゃないわよ」
状況に関わらず、緊張感を欠く口論を展開する部下−というか仲間−に対して、小隊長の威厳を示すと、二人は首をすくめて武器を手にした。
矢口はサブマシンガン、吉澤はショットガンとグレネードの重装備を手に、食堂と反対側のドアの向こうに消えたのだった。
- 44 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時43分27秒
- イングラムが軽い機械音とともに、無数の弾丸を化け物の体に叩きつけ、ショットガンが火を吹くと、頭部が吹き飛ぶ。
「へへっ、落ち着いて見ると、ちょろいもんじゃん」
「ですね」
分派行動を開始して20分、館の各部屋を回っていた矢口と吉澤は、生存者こそ発見することが出来なかったが、化け物に対する心理的余裕が生じていた。
耐久力こそ驚異的であったが、動きが遅い上、武器も使ってこない。距離を取って攻撃すれば、危険は少ないようだ。
しかし、彼女たちの目的は化け物を掃討することではない。
あくまで生存者を発見し、ここから脱出することである。
- 45 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時46分13秒
- いくつか目かの部屋へ慎重に侵入する。
そこは、これまでより幾ばくか広く、なにかの作業室のようであり、奥に簡易ベッドが見える。
「ふうん、ここなら休めるし、何かあるかもね…てゆうか、地図かな、これ?」
「すごいじゃないすか」
「さすが矢口って感じ?」
「…すげえ感じ悪いっすよ」
あくまで二人の関係は、終始こんな感じなのである。
「うるさいよ。ほら、捜す」
しっしっと、犬を追い払うように手を振った矢口も、別れてそのあたりを探索することにする。
ごそごそとあさっていると、物品庫の奥に、数種類の武器と弾薬を発見した。
スパス型ショットガン、AK76ライフル、大口径デザートイーグル…弾薬も豊富にある。
「げげ…なんだよこれ。ほとんど軍事用じゃん」
ひとつを手にしながら矢口は唸った。自衛隊や外国にでも行かない限り、お目にかかれるものではないのだ。それが日本の、しかもこんな山奥の館にあるなど、怪しさ500%である。
- 46 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時47分04秒
- 「…詮索は後にしとこうか。とりあえず、役に立たせてもらうよ」
そういって矢口は、コルトパイソンを手に取って腰にあたりにぶちこむ。いわゆるマグナムと呼ばれるもので、単純に、リボルバータイプの銃にあこがれているのだ。
「よっすぃー、なんかあった?」
矢口のことばに吉澤は答えなかった。つねにない真剣さでテーブルの上に視線を落としている。
「おーい、よっすぃー…吉澤あ!!」
「ああ、矢口さん」
「ああじゃねえよ。なんだよ、人が呼んでんのに」
「…これ、見てください」
蒼ざめた顔で差し出されたノートに矢口が目を通す。何気ない表情が驚きに変わるまで、時間を要することはなかった。
そこには、走り書きで衝撃の告白が示されたいた。
- 47 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時47分37秒
- 『くそっ、なんてこった。ケルベロスが逃げ出しちまった。ああなったら俺たちじゃどうしようもない。担当者め、ミスりやがって』
『逃げ道は完全に塞がれちまった。山を降りた奴からの連絡がないところを見ると、たぶんケルベロスにやられちまったんだろう』
『ちくしょう、読めたぜ、さきのミスを隠すために、事情を知る俺たちを消すつもりだ。どうりで会社に連絡しても救援がこないわけだ』
『このごろ館の連中がゾンビになっちまってく。あれは、完全にZ−ウィルスの副作用だ。誰かが、給水塔にウィルスを投げこみやがったんだ』
『ヤバイ…俺もそろそろ…運良くこれを見ることができて、脱出に成功できた奴がいたら頼みがある。ゼティマの陰謀を、製薬会社っていう表の顔の裏でなにをやっているか、暴いてやってくれ…』
- 48 名前:第二話「洋館」 投稿日:2002年01月09日(水)19時48分32秒
- 記述は、そこで終わっていた。
矢口の小さな体に震えが走る。恐怖のためではなかった、体中に怒りが駆け巡っていた。
何をしているかまでは、この段階では不明だが、どうやらすべての元凶はゼティマにあるらしい。
「あの…矢口さん…」
血の気の失せた顔で吉澤が恐る恐る声をかけた。矢口の心の動きが空気を通して、彼女にも伝わってきたのだ。
「…一度圭ちゃんたちのところへ戻ろう。でも、その前に連絡して、ここの水を使うなって」
「はい」
発せられた声は、あまりにも静かであったので、吉澤はなるべく彼女を刺激しないように、素直に指示に従ったのだった。
- 49 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月09日(水)19時53分21秒
- はーい、作者でございます。
第二話更新終了です。
作柄、銃器がいっぱいでてきますけど、あんまりつっこまずに、さらっと流してください^^; あまり詳しくないんで。
ネタバレにならないように、根本であるZウィルスについて下に書いておきます。
ゲームやってる人には説明不要でも、やってなきゃわからんことなので。
蛇足かもしれませんが、こういうのをぐだぐだと考えたり、書くのが好きなんです(w
- 50 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月09日(水)19時57分53秒
- Zウィルス
ゼティマが極秘裏に開発した化学兵器。
特徴は以下のとおり
・生体に投与することによって、生命力、筋力、運動能力等を飛躍的に上昇させる効果がある。
・取扱には高度の知識と経験と技術が必要とされ、間違えるととんでもない事が起きる。
・特殊な技術を用いずに投与した場合、生体・免疫・知的機能を犯し、ゾンビになってしまう。人間だけでなく、カラスとか蜘蛛とか蛇とかにも感染してますが、出しません←作者が蜘蛛嫌いだからです(w。
・空気感染する可能性が非常に高いのですが、そうするとまずいことになるので、水に触れる、飲むといった行為で感染するように設定しています。
ゾンビ
Zウィルスに感染した人間。
驚異的な生命力を持つものの(痛覚や五感も失われる)、人としての意識がなくなる。
彼らを突き動かすのは、食欲のみであり、動いているものならばなんでも食ってしまう(人間も例外ではない)。また、共食いすることも判明している。
最後には死んでしまうのだが、ゾンビの段階ではまだ生きています。
感染から発症までは、数時間〜数日といったところで、個人差アリ。
- 51 名前:ななし 投稿日:2002年01月09日(水)20時38分37秒
- バイオ系ってありそでなかったですね。しかもかなり期待の出来る話の進め方!
これからが楽しみです。傘さん、がんばってください!
蛇足・やっぱジルは矢口ですよねえ、見た目も性格も(w
- 52 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)01時15分31秒
- あのゲームか♪楽しみだなぁ。
…じゃ、裕ちゃんの活躍は見れないのかな?
- 53 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月10日(木)09時45分15秒
- 51さん>
そうなんですよね。ちょっと意外でしたが。
へい。がんばりますんで、よろしくです。
52さん>
裕ちゃん、裕ちゃん、出番が少ないの〜♪
私としても、姐さんを活躍させたいとこなんですが、今回は裏方で(w
- 54 名前:第三話「熱い…」 投稿日:2002年01月12日(土)20時08分15秒
- 「あ…矢口さん、吉澤さん…」
生焼けの肉を食べて、消化不良を起こしたような表情でホールに戻ってきた二人を、紺野の戸惑ったような声が出迎える。
「異常は?」
「いえ、特になにも…」
「そう。圭ちゃんのけがは?」
「気にするこっちゃないよ。それより、なにがあったか報告して」
突然無線が入り、水を使うなとだけいわれたのだ。不思議に思うのも当然だろう。
困ったように矢口が腕を組む。吉澤は、発言権をすべて矢口に譲ったようで、沈黙を保ったままだ。
「…化け物の正体がわかったよ」
「なんだって?」
「あれは、ここの住人…たぶん、ゼティマの社員だ」
そういって矢口は、発見したメモを保田に手渡す。
- 55 名前:第三話「熱い…」 投稿日:2002年01月12日(土)20時08分52秒
- あわただしく目を走らせた保田は、読み終わると髪をかきまわして、大きく息をついた。
「ゼティマ…か…」
「なんか、おおごとになってる気がするんだけど」
「もう充分におおごとだわよ」
やれやれ、といわんばかり保田がことばを放った。経験の浅い彼女たちには、荷が重過ぎることといわねばならない。だいいち、ここから生きて脱出できる保証すら存在しないのだ。
「と、とにかく、場所を変えようよ。安全そうなとこ見つけたんだ」
暗い雰囲気を打破するかのように、努めて明るい口調で矢口がいう。
それに対して異論はなかった。
- 56 名前:第三話「熱い…」 投稿日:2002年01月12日(土)20時09分52秒
- 器材・装備を分担して運び、さきほど見つけた休憩室に、臨時拠点を設営する。
その間、保田と矢口は図面に目を通しながら、今後の計画を立案している。
図面を見る限り、館内はほぼ探索し終えたといっていいようだ。残念ながら、生存者も脱出経路も、手がかりすらつかめていないのが現状である。
だが、1階の最奥部に、地下へと通じる道が発見された。今度はそこを探索することになるだろう。
一縷の希望をつなぐために。
そういったことが終わったあと、保田が全員を集めた。
「最初に聞いて欲しいことがある…裕ちゃんのことだ」
「それって関係あるの? あとでもいいじゃん」
「おおありさ。ま、聞いてよ」
保田の口から発せられたことばは、驚きをもって迎えられることになる。
曰く、中澤は、僻地まで飛ばされたわけではなく、ゼティマに備えるために派遣されたのであり、そして、自分たちは最前線の精鋭として集結されたのだ、と。
- 57 名前:第三話「熱い…」 投稿日:2002年01月12日(土)20時13分14秒
- ゼティマはなにかと黒い噂が絶えない企業である。それが裏金だとか、闇献金だとかなら司法捜査でカタがつく問題だが、どうやら新たな軍事用として、化学生物兵器の研究をしているのではないか…
確証がないため、本庁も自衛隊も表だって動くことは出来ない。そこで、内偵をすすめるいっぽう、彼女たちを市に配置し、万が一に備えようとしていたのだ。
そして、万が一は起こった。事故か事件かは不明だが、ゼティマが極秘裏に開発していたウィルスと生物兵器によって、館とクマネシリ山系は地獄と化したのだ。
- 58 名前:第三話「熱い…」 投稿日:2002年01月12日(土)20時14分29秒
- 沈黙が彼女たちを支配する。
矢口は下を向いてぶつぶついっている。吉澤は額に手を当てて、なにやら考え事をしているようだ。紺野はぽかんと口を半開きにしているが、これはいつものことである。
「…つまり、有事のさいにうちらが投入されるのは既定のことであって…」
「ただの捨て鉢ってことでしょ」
恐ろしく冷静な声が保田の聴覚に突き刺さる。
矢口だ。
保田は、おもわず苦笑を浮かべた。
中澤の口から真相を聞かれたとき、誰もが思い、やりきれなさに捕らわれたことだろう。だが、それをことばにするのは憚られた。自分たちもつらいが、中澤はもっとつらいはずなのだから。
「最精鋭って、うちらみたいな半人前が? 真っ先に投入して相手の戦力を測る。そのための人身御供じゃん」
「矢口さあん…そんな風に考えないで下さいよ。ポジティブっす! だって、対ゼティマ特殊部隊なんてカッケーじゃないっすか〜!」
能天気な回答者を、ぎろりと矢口が睨む。
『あたしはそこまで無邪気になれないよ』
矢口は首を振ってため息をついた。
- 59 名前:第三話「熱い…」 投稿日:2002年01月12日(土)20時16分41秒
- 「…裕ちゃんがさ、最後にいったんだ…」
中澤の名が出ると、ぴくっと矢口の動きが止まったようだ。
「絶対、死ぬなって」
全員がしいんとなった。この時、彼女たちがなにを思っているのか、余人の知るところではない。
しばしの沈黙のあと、
「生存者を発見して脱出する、ゼティマにひとあわ吹かせる。目標ははっきりしてんだ、あとはそれに向かって走るだけさ。簡単だろ? 忘れるんじゃないよ、あたしたちの命は、新垣に助けられたようなもんなんだからね」
ぐるりと全員を見まわし、まず紺野に声をかける。
- 60 名前:第三話「熱い…」 投稿日:2002年01月12日(土)20時17分49秒
- 「いけるか?」
「…はい」
相変わらず声は小さいが、迷いは感じられない。
「吉澤、頼むよ」
「まっかせてください! そぅ〜とぅ〜やる気もりもりっす!」
あんたの場合はありすぎる、空回りするなよ、と苦笑しつつ、もっとも小さく、かつ、もっとも信頼をおくメンバーに視点を移すと、彼女はくくっと笑ったようだ。
「そういわれると弱いよなあ…あたしは、裕子の命令には逆わないことにしてるから」
矢口らしい言い種だ、と保田は思った。
「よし、それじゃみんないくよ…」
保田の手が、4人の輪の中央に差し出されると、その上に次々と重ねられた。
「がんばって−」
「いきまっしょーい!!」
4人の声が、きれいに重なった。
- 61 名前:第三話「熱い…」 投稿日:2002年01月12日(土)20時18分50秒
- 「悪いね…」
調査に出発する矢口と吉澤に、保田はすまなそうにいった。さきほどの負傷は予想よりもひどかったようで、痛みが増している。これでは間違いなく足手まといになるだろう。
「なにいってんのさ。圭ちゃんはここで偉そうに指示してりゃいいんだよ」
矢口は明るく笑うと、吉澤が相槌を打つ。
「そうですよ。肉体労働は、うちら下っ端に任せてください」
「…『うちら』って矢口もはいんの?」
「同じヒラでしょ」
「給料はあたしの方が高い!」
「…それ、偉そうにいうことじゃないっす」
軽妙なトークと、どつきを繰り広げながら姿を消した二人に、紺野が視線を注いでいた。
- 62 名前:第三話「熱い…」 投稿日:2002年01月12日(土)20時20分38秒
- 「どした?」
「…なんか、凄いです…あんな風に、普通でいられるのが」
大きな目でしばたいた後、保田はくすっと笑った。
「怖いか、紺野?」
「い、いえ…」
「無理すんな。あたしだって、あいつらだって、どっかでは怖いのさ。ああやって忘れようとしてるんだよ」
「あの…私…」
「ん?」
「怖いけど、一生懸命がんばります」
紺野のいう「一生懸命」という表現と、(彼女なりの)意を決した表情は純粋なのだが、なぜかおかしかった。
「うん、期待してるぞ」
といって、保田は紺野の頭をなでた。その行為にやや気恥ずかしさを覚えたのだろうか、次にわざと機械的な口調に戻る。
「さて、一刻も早く裕ちゃんと連絡とらなきゃ…」
通信機の調子が悪いのか、他の理由からなのか、外部との通信がいっさい不通である。今の状況を知らせ、しかるべく手を打ってもらわねばなるまい。
だが、保田はその後のことばを発することができなかった。
- 63 名前:第三話「熱い…」 投稿日:2002年01月12日(土)20時24分44秒
- 不意の眩暈が彼女を襲う。
両足を踏ん張って耐えようとするが、力が入らない。
たまらず、膝から崩れ落ちた。
「保田さん!」
紺野が悲鳴を上げて、倒れた保田を抱えあげる。皮膚を伝わってくる体温と、吐息は異様に熱い。
「保田さん、熱が…!」
慌てて紺野が矢口たちに連絡を取ろうとするのを、保田が止めた。
「あいつらに、余計な心配をかけさせたくない…」
「で、でも…」
「命令だ。いいね」
「…はい…」
「なに、薬飲んで寝れば…」
救急セットから、解熱剤を取り出させると、ミネラルウォーターで一気に飲みこむ。
紺野に通信機の調整を命じ、保田はそのまま簡易ベッドに上体を預けた。
大丈夫…大丈夫…たいしたことない…
必死に自分に言い聞かせながら、負傷した右肩が、激しく熱を放出しているのを感じずにはいられなかった。
- 64 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月12日(土)20時34分47秒
- 第三話終了でーす。
- 65 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月14日(月)22時09分19秒
- ああ、やっすー…
誰がどうなっていくのか、とても楽しみです!
- 66 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月15日(火)13時23分24秒
- 65さん>
読んでくださってどうもです。
これから佳境に入っていきますので、もう少しお待ち下さいね。
- 67 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時26分11秒
- まだ足を踏み入れたことがなかった地下は通路になっていた。
ライトの光だけを頼りに、前へと進む大きい影と小さな影。
「このまま外へ通じてればいいんですけどね」
「それじゃ他の連中はどこいったんだよ」
「うーん、もう脱出しているとか」
「…それならいいんだけどね、ホント」
藁にもすがる−0.1%に満たない期待であったが−願いはあっさりと蹴散らされた。地下通路を抜けた先は、裏庭のようなところであったのだから。振り返ると、さきほどまでいた館が見える。
「ま、そんなにうまくいくわけないか…」
つぶやいた矢口の耳は、不快な声を捕らえていた。
2匹の犬が、2人を発見して唸り声を上げているのが見て取れる。
- 68 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時27分28秒
- とっさに、背中をあわせてそれぞれ正面に相対した。
「矢口さん、こいつら、森で襲ってきた…」
「覚えてるよ」
らんらんと輝く赤い目が、記憶層を激しく刺激する。
「逃げ出したケルベロスってやつっすかね?」
「たぶんね…」
矢口が薄く笑った。
「地獄の番犬、か…いいネーミングセンスだよ、まったく」
もちろん、これは皮肉である。
「ふん。それじゃ、新垣の仇討ち、アーンド、さっきの仕返しといくかい?」
「らじゃ!」
背中越しに伝わってくる相手の声に奇妙なまでに心地よさを感じながら、わざと音高く安全装置を外し、矢口がマシンガンをケルベロスに向けた。
- 69 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時28分15秒
- 毎分約1100発の連射が可能なイングラムが、軽快な音を立てて、ケルベロスの体に弾を叩き込んだ。吉澤のショットガンも負けずに火を吹く。
森で襲われたときは、姿も正体もわからなかったので、逃げるしかなかったが、こうして冷静に対峙してみれば、動きこそ速いものの、捕捉出来ない相手ではない。
「こんなのにビビッてたかと思うと、ハラ立つ〜!」
文句をいいつつ、動かなくなったケルベロスの完全な死亡を確認しようと、銃を片手に矢口が歩き出した。
だが、この次の展開までは予想できなかった。
背後の茂みに隠れていたのだろうケルベロスが、突然襲いかかってきたのだ。
はっ、と二人が気付いたときには、すでに銃を構える時間的余裕はない。
「やばっ…!」
やられる、と矢口は半ば覚悟を決めた。
その時、一発の銃声が轟いた。
- 70 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時29分01秒
- 我に返ってまず目にしたものは、頭部を完全に破壊されたケルベロスが、矢口の側に落ちる場面であった。
あの銃音は吉澤のものではない。
だとすれば、誰が…
慌ててあたりを見まわした彼女は、懐かしい声をその聴覚で感じ取っていた。
「油断だね、矢口」
「カオリ!!」
ぱっと顔が輝いた。
銃を構えて立っているのは、すらりとした長身と、長く艶やかな髪の持ち主飯田佳織と、石川梨華であった。
矢口の体が飯田の胸に飛び込む。体格だけならば、親子のようにも見えるほどアンバランスだが、二人の絆は、誰もが知るところであった。
「良かった、ホントに無事で良かったよ、カオリ…あと石川」
「なんでですかー! ついでみたいにいわないでください!」
場違いなほどの甲高い声が石川の口から飛び出ると、笑い声が弾けた。
- 71 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時29分54秒
- 歓喜は一瞬にすぎなかった。再会を果たしたものの、彼女らを取り巻く状況は、あまりにも厳しいのだ。
2、3の情報を交換したところで、飯田がぽつりと泣き出しそうな声でつぶやく。
「小川が…死んじゃった…」
「うん、知ってるよ。こっちも新垣がやられた…でも、圭ちゃんと紺野は大丈夫。ちょっとけがしてるけど…ねえ、なっちと高橋は?」
飯田は力なく首を振った。
彼女の話しでは、館に逃げ込んだのは間違いないが、どこでどうしたかはぐれてしまったのだという。探しまわりたいところだが、ほとんどの装備をヘリに置いてきてしまい、弾薬も底をつきかけているため、それもままならないようだ。
「けっこういい武器あるからさ、圭ちゃんとこから受け取ってよ」
「あんたたちは?」
「これくらいあればいいっしょ」
矢口と吉澤がそれぞれの銃を構えた。たしかに、装備だけは充分すぎる。
「じゃ、遠慮なく使わせてもらうね」
にこりと笑って飯田がうなずいた。
- 72 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時30分37秒
- 矢口・吉澤班はさらに奥へと進み、飯田・石川は館に戻り、装備を整えることになる。
ようやく会えたというのに、また別れるのはつらいこのだが、一時のことと思えば、さほどつらいことではなかった。
「カオリ!」
逆方向に歩き出した友人に、矢口は声をかけた。
「絶対…絶対いっしょに生きて帰ろうね!」
「わかってるって」
「絶対だよ!」
あまりにしつこかったのか、半ば呆れながら飯田がうなずくと、念を押すように「絶対だぞ」といって、踵を返しかけた矢口は、じっと2人の後姿を見つめている吉澤に声をかける。
「…よっすぃー?」
「あ、いえ…行きましょう」
「…?」
さきほどまでの男気万点の吉澤とはまるで違う雰囲気に、怪訝そうに首を傾げたものの、突っ込んで問いただすこともなく、彼女たちもまた、目的を達するために歩き出したのだった。
- 73 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時34分21秒
- 「いやー、しかしさ、明るい未来が開けてきた感じだよね。カオリと梨華ちゃんが無事だったら、なっちたちもだいじょうぶな気がしてきたよ」
「…そうですね」
「どうしたんだよ、よっすぃー。さっきから生返事でさ」
「…そうでしたっけ」
「…おいおい頼むぞ。ははーん、梨華ちゃんと話しできなかったから悔しいんでしょ?」
「そんなんじゃないんです!」
飛び出た声は、吉澤が意識したよりも大きいものだった。
「あ…すんません…つい」
はっとして、驚いた表情の矢口に頭を下げる。
「いいけどさあ。あの二人にあってからおかしいよ」
「だいじょうぶです。すいませんでした」
素直に詫びる吉澤を見ると、これ以上は何もいえなかった。
この時、矢口が不審に思ったのは事実であった。しかし、それは彼女に対する信頼感と連帯感よりも遥かに下回っていたのである。
後に、彼女は激しく後悔することになる。
なぜ、自分はあの時もっと問い詰めていなかったのか、と…
- 74 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時37分14秒
- 裏庭は、思ったよりも入り組んでいた。
登ったり、下がったり、梯子を降りたり…
うんざりしながらも、奥へと進んでいく。
ライトの中に新たな人影を捕らえたのは、何分後だっただろうか。ともかく、状況の変化は望むところである。
ただし、明るいものであればの話しだが…
- 75 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時39分54秒
- その人物は、崩れた瓦礫の中に埋もれるように、仰向けに倒れていた。光の中に映し出されたのは、彼女たちの知った顔…
第3小隊長平家みちよであった。
- 76 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時43分01秒
- 「み、みっちゃん!?」
慌てて矢口が駆け寄り、吉澤も背後に気をかけながらも側に膝をつく。
「あ、やぐっちゃんとよっすぃーか」
「なんでみっちゃんがこんなところに…第3小隊は?」
平家率いる第3小隊は山を徒歩で哨戒中だったはずだ。いったいなにがあったというのだろうか。
「夜になって、わけわからんもんに襲撃されてちりじりや…」
「そんな…」
つきつけられた現実に、矢口が愕然とした表情になる。さきほどまで妙にうかれたいた自分に腹が立った。
「うちも騙されてもうた」
「…え?」
連続して叩きつけられる衝撃的なことばは、矢口の口を閉ざさせていた。
「平家さん、それって…」
吉澤が問いただそうとしたところを、平家が手で制する。
「うちのことはええ。こっから進むと、ゼティマの研究施設がある。で、そこを抜けるとヘリポートがあるんや。そこからなら、脱出できる」
「奥だね、わかった。よっすぃー、みっちゃんを運ぶぞ」
平家の下半身を覆っている瓦礫の山をどかそうと、手をかけた2人を止めたのは、平家本人だった。
- 77 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時43分56秒
- 「うちは、もう…あかん…」
力なく首を振った平家の手の平から、血がつたっていることに気がついた。負傷箇所は腹部のようだが、この出血量ではとても助かるまい。
「そんなこといわないでください! 今これどかしますから」
「やめとき! そんなことするだけ無駄や」
「平家さん…」
「そんなことより、良く聞き…」
苦しいのだろう、一度ことばを切り、呼吸を整える。
次に発せられたものは、矢口の想像をはるかに超えていた。
「…うちらの中に裏切りもんがおる…」
- 78 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時46分17秒
- 裏切り者…?
矢口の頭の中で、その単語が何度もフラッシュバックする。この人はいったいなにをいっているのだろうか。
「信じたくはないが、事実や」
「…誰…?」
かろうじて、それだけをいうことができた。情けないことに、声が震えている。
「それは…」
語尾に銃声が重なった。
的確な射撃が平家の眉間を直撃し、ずるずると上体が崩れ落ちていく。
- 79 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時52分52秒
- 矢口と吉澤が地面に伏せた。第二撃を警戒したのだが、走り去るらしい足音だけが聞こえる。
「みっちゃん!」
「平家さん!」
慌てて2人が駆け寄った時、すでに平家の肉体は、魂を失っていた。
くっ、と矢口が唇を噛み締める。また目の前で、仲間が死んでいった…悔しさとやり切れなさが、小さな体中を駆け巡った。
「…どうして、平家さんまで…」
「口封じだよ…どうやら、裏切り者ってのは事実みたい…」
矢口は慌てて頭を振った。
平家のいう「裏切り者」が誰なのかということは、仲間を疑ってしまうことになるからだ。
- 80 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)13時59分07秒
- 「考えるのは後にしようよ。脱出した後でもいいっしょ?」
今はそれを最優先とすべきであったろう。
「…そうですね。そうします」
きっぱりと言い放った吉澤を促して平家に教えられたとおり行くと、地下へと通ずるエレベーターがあり、その下はこれまでとは打って変わった近代的な設備が整えられた施設があった。平家のいっていた研究施設に違いない。
だが、二人は数分でここ後にする。ドアにすべて電子ロックが施されており、彼女たちの手には余るものであったからだ。
これを得意分野とする紺野が必要であったし、情報どおりヘリポートがあるのであれば、もっと近くに拠点を移したほうが便利に違いないのだから。
- 81 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)14時00分03秒
- 暗がりの中に、二つの影があった。
「なぜ…?」
「あいつらはまだ使える。まだ死んでもらっちゃ困るからね」
平家の口を封じたさい、なぜ矢口と吉澤を殺さなかったのか、との問いに対する答えである。
それを聞いて、いっぽうも納得してうなずく。
「じゃあ、いよいよ?」
「そう…あれ使う。成果がどれほどのものか、試すにはうってつけでしょ?」
口元だけで笑った女は、リモコンのようなパネルのスイッチを押した。
円筒形をしたコンテナのうち、数基のケージが開く。
「たっぷり楽しませてね…」
くぐもった笑い方をした女の前を、奇怪な容貌をした生物が横切っていった。
- 82 名前:第4話「迷宮」 投稿日:2002年01月15日(火)14時03分34秒
- 第4話更新です。
これでだいたい半分が終了しました。
今日のゴナゴト…
「サブタイトルがネタ切れで苦しい」(早っ!)
- 83 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月15日(火)14時04分09秒
- 上のやつ、名前が違う。
- 84 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月15日(火)14時16分55秒
- 補足という名の蛇足
ケルベロス…
見た目はドーベルマン。
というか、それにZウィルスを投与して作られた。
- 85 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時01分42秒
- 戻り道筋は、2人とも奇妙なまでに口数が少なかった。
飯田と石川の生存が確認されたのは吉事としても、平家の死と、「裏切り者がいる」といういまわのことばをどう受け取るべきか、そして、保田になんと報告すべきだろうか…
なるべく考えまいとしても、結局それは不可能であり、いつもは陽気な矢口や吉澤であっても、自然と口が重くなってしまうのだ。
- 86 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月17日(木)13時02分34秒
- 館に戻り、拠点と定めた休憩室へ向かう途中、2人の背後でばたんとドアが開いた。
この時、てっきり仲間だと思ったのを油断と決めつけるのは酷だ。ゾンビであれ、ケルベロスであれ、ドアを開けてきたことはないのである。
だが、ここで彼女たちが目にしたのは、この世のものとは思えない奇妙な生物であった。
まず、深緑色の体色からして異様である。容姿は、爬虫類と人間を組み合わせたかのように醜悪で、体長は130センチくらいだろうか。それほど大きくはないのだが、反比例して腕と脚は太く、逞しい。
そしてなにより、その体から発せられる殺気が、2人の警戒レベルを一気に上昇させていた。
未知の生物が走り出すと同時に、矢口のマシンガンが火を吹いた。
だが、倒れるもせず、ひるむようすも見せずに襲いかかってくる。
そして、飛んだ…
- 87 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時03分25秒
- 驚異的な跳躍力であった。
5メートルという距離は、走り幅跳びの一流選手であればさほど驚くには値しないが、高い到達点はバスケット選手を思わせる。その双方を兼ね備えるなど、事実上不可能である。それはまるで、獲物を駆る肉食獣を髣髴させる動きだった。
吉澤のグレネードランチャーが化け物の腹部を捕らえた。空中で食らってはひとたまりもなく、化け物が後方へ吹っ飛ぶ。
「さっすが」
いいしれぬ恐怖から奪することが出来た矢口が、頼もしい後輩を称えたが、それは一瞬のことにすぎなかった。化け物は、むくりと起き上がり、再び突進してくる。
グレネードの直撃を受けて、まだ平気で動いているのだ!
もう一度、グレネード弾が吐き出され、またしても直撃する。そして復活…
おそるべき耐久力であった。
- 88 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時03分57秒
- 埒があかないとふんだのか、吉澤がショットガンを手にし、歩きながら連射した。
反撃を封じておいた上で、再び起き上がろうとしたところに蹴りを一発くれると、銃口を顔面に向ける。
「くたばれ!」
至近距離から放たれた一発で、恐るべき襲撃者の頭部は完全に破壊された。
ふうっと吉澤が息をつき、矢口を振り返って笑顔を浮かべた。
「矢口さん、だいじょうぶですか?」
「う、うん」
らしくなく、矢口はいいよどんでいた。原因は、化け物よりも吉澤にある。さきほどの容赦ない攻撃は、普段の彼女にはないものであった。そこに、一種の狂気じみたものを感じていたのである。
ばかな…あたしは何を勘違いしているのだろうか。強敵であったから、完全に息の根を止めた。それだけのことだ…
- 89 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時05分00秒
- 「…新手、かな?」
「みたいですね。今までの奴らとは比較できませんよ。知能もあるみたいだし…」
そこまでいってから、はっとあることに気がついた。
そうだ、こいつは「ドアを開けて」入ってきた。
では、保田と紺野は…?
保田はけがをしているし、紺野は武器の扱いは1番下手だ。
そのことに思い至った2人は、素早く顔を見合わせて同じ答えを相手に発見すると、身を翻して駆け出していた。
- 90 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時05分52秒
- 「圭ちゃん!!」
ドアを力一杯開けて、矢口と吉澤が部屋に飛び込んだ。そこには…
さきほどと同じタイプの化け物の死体と、頼りなさげにライフル構えている紺野、そして、毛布に包まったまま、デザートイーグルの銃口を向けている保田がいた。
襲われたものの、撃退したらしいことを確認し、とりあえずほっと胸をなでおろす。
「…あんたたちか…助かったよ…」
保田も安堵したのか、手から銃が離れて床に落ち、ごとっと音を立てた。
「紺野、よくやったな」
2人の先輩に称えられ、ようやく紺野は誇らしげな表情になったが、すぐさま顔が曇る。
「あの…保田さん、熱がひどくて…」
「マジ!?」
慌てて矢口が保田の額に手を置く。異様なほどの熱さが伝わってきた。体温にして40度を超えているのは間違いない。
危険な状態だ。
- 91 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時06分53秒
- 「薬は?」
「飲みましたけど、効果が無くて…」
「ぐずぐずしてられません、早く行きましょう!」
うなずいた矢口が、これまでのことを報告する。飯田と石川の無事、平家の最後、第3小隊の状況、そして、脱出路になりえるかもしれない存在…
無線は相変わらず使えないが、矢口は悲観していなかった。これだけの施設なのだから、外部と連絡する手段はあるはずなのだ。平家のいっていた研究施設、そこにいけばなんとかなるかもしれない。
「…そう、じゃあ矢口、第2小隊はアンタに任せるよ」
保田がなにをいっているのか、一瞬矢口は理解できなかった。
「ちょ…なんだよ、これくらいの熱で」
「違う。これを見て…」
保田は毛布を取っ払い、シャツをはだけて胸元を露にさせた。現れたのは、女性特有の乳房のふくらみでも、白い肌でもない。
- 92 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時08分10秒
- 全員が色を失っていた。
保田の肌は火傷の跡のようにめくれあがり、赤黒い肉が飛び出ているようにも見えた。否、胸だけではない。腕や足のほうにも似たような症状が広がっている。
これはまるで…
「わかったろ? あたしはどうやら、そのなんとかウィルスってやつに、感染しちまったらしい」
落雷が他の3人を直撃したようだ。膝ががくがくと震え出すのがわかる。今にも、腰から砕けてしまいそうだ。
「なんで、なんで圭ちゃんが…」
「ここに来たとき、化け物に噛み付かれただろ。だぶん、あのときだね」
恐ろしいほど冷静に分析する保田であった。
「…だから、あたしはもうちょっとしたらあの化け物になっちまう…わかるね、矢口…」
そこから先を、保田はあえて口に出さなかった。
- 93 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時09分00秒
- その必要はなかった。
まっすぐに見つめる大きな瞳と、サイドテーブルに置かれた黒光りする銃。
それだけで、十分なのだから。
矢口は激しく首を振った。
「嫌、そんなことできない…やだよう…」
震える声でつぶやいたきり、とうとう矢口はその場にへたり込んでしまった。
誰も助け上げるものはいない。正確には、動けるものが存在しなかったのだ。吉澤も紺野も、硬直したまま立ち尽くしている。
「…助ける…」
「矢口…」
「絶対助ける! 絶対、矢口が助けるから、そんなこといわないでよ!」
「あ、あたしもなんでもします! なにすればいいかわかんないけど…でも、出来る限りやりますから、保田さん!」
「わたしも頑張ります。だからそんなこといわないで…」
紺野の語尾が嗚咽に変わる。
- 94 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時10分10秒
- 保田は黙って、優しく眺めていた。
「アンタたち…バカいってんじゃないよ。あたしはねえ、部下に借り作ってまで生きようとは思っちゃいないんだ…それにね、これはアンタたちのためだ。化け物になったら、倒すのに何発の弾が必要になる? 今なら、1発だよ」
冗談なのか、どうなのか、あまり脈絡のないところからすると、思いつくまましゃべったようだ。
それで力を消耗したのだろうか、苦しげに喘ぎ、身をよじる。
「…あたしを助けると思って…」
「圭ちゃん」
「…頼む、矢口…アンタだから頼んでんだ…」
熱のせいか、激痛か、それとも別の理由によってか、呼吸はさらに乱れていく。
- 95 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時29分07秒
- 矢口の拳がぎゅっと握られ、唇が真一文字に結ばれている。
目の前に置かれたカードは2つ。
「やる」
「やらない」
これだけだ。
- 96 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時29分58秒
- 今となっては、保田を救う方法がないのはわかりきっている。放っておけば、このままゾンビになるだけだろう。
それを止める方法はただひとつ…
しかしそのためには、小隊長であり同僚、友人の命を絶たねばならないのだ!
では、やらなければそれでいいのか、ということになる。
異常なまでの高熱と、おそらく激しい痛みも伴なっているだろう。その保田を、ただ黙って見るだけなのか。
それで、いいのか…あたしは…
- 97 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時31分01秒
- 矢口は、むろんそこまで整理立てて思考したわけではないが、ついにこういっていたのである。
「分かったよ、圭ちゃん。すぐ楽にしてあげるね…」
保田はにこりと笑ってうなずいた。
- 98 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時36分48秒
- まるで幼児のような頼りない足取りで、サイドボードの銃を取り、装填を確認する。その音で、ようやく吉澤は我に帰った。
「矢口さん! 本気でいってるんですか!? 冗談ですよね?」
「…他に、方法がないんだ…」
「なにか、なにかあるはずです!」
「時間がない…間に、合わないよ」
あまりにも冷酷な響きに、吉澤もそれ以上の反論は出せずにいると、今度は紺野が銃身を掴んだ。
「離せ…」
目に溜まった涙のせいで声が出ないため、紺野は首をぶんぶん振るという行為で、翻意を求めた。
「紺野、いいんだ…」
呼吸を乱されながらも、保田がいう。
「あたしが、矢口を困らせるようなことをいったんだからさ…矢口は悪くない…」
「…圭ちゃん、そんなこというなよ」
「はは、ごめん」
これまで見たことのないような、柔らかな笑みを浮かべる保田の表情を見ていると、これ以上の制止は無益であることを、紺野は知り、そっと銃身から手を離す。
- 99 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時37分51秒
- その紺野に保田が声をかけた。
「アンタのこと見てたけどさ、アンタ素質はあるよ。もっと積極的になりな。それと、もっとはっきりと、大きな声でしゃべること。いいね」
「…はい…」
「あたしが今いったこと、もう忘れた?」
「はい!」
自分でいって、紺野は自分で、その声の大きさに驚いた。
にこっと笑って、今度は吉澤に視線を移す。
「吉澤ー アンタには、1番手を焼かされたわね」
「はい」
「でもね、その無駄に明るいところ、男前なとこ、あほなところ、みんなひっくるめて、けっこう好きだったよ」
「あたしも、保田さんがすきでした」
「だったら、最後くらい圭ちゃん大好きっていってよね」
「はい…圭ちゃん、大好きです…」
「いわせてんじゃねえよ」
困ったような表情で矢口が突っ込む。
- 100 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時38分34秒
- 保田は、すでに頭をソファの肘掛に乗せていた。
「あたしにはないワケ?」
「別にいう必要もないでしょ」
「…まあね」
「それに、このあたしが不覚を取りそうだからね」
「…一緒だ」
意味ありげな笑みを交わしたまま、矢口が友の頭をそっと抱き、こめかみに銃口を当てた。
銃は安定せずに、カタカタと震えている。
「おい、外すなよ。アンタがけがするよ」
「わかってる」
大きく息を吸い、呼吸を整えた矢口の手が引き金にかかり、彼女はぎゅっと目をつぶった。
- 101 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時39分33秒
- 「バイバイ、圭ちゃん」
「バイバイ、矢口」
震えた指のまま、矢口は指に力をこめた。
- 102 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時40分24秒
- 一発の銃声が轟いた。
- 103 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時41分00秒
- 背後で2種類の嗚咽が漏れていたが、どちらも矢口の聴覚を刺激してはいなかった。彼女がとった行動は、もう一度、保田の頭を抱きしめたことである。
そっと、生命の輝きを失った体を横にし、正確に5歩離れた。
「小隊長に、敬礼!」
鋭い声が飛び、吉澤と紺野が思い出したように矢口にならう。鼻をすすったり、目に涙を溜めて、あるいは落涙を拭おうともしない。ただ、矢口だけが完璧な敬礼と、いつもより5割増の厳しい表情をしていた。
「行くよ」
感情のこもらぬ声に、思わず吉澤は発言者の顔を見返していた。
あのような形で保田を失った後だ。終わったらそれていいのか、あなたはそんな人間だったのか。
表面には現れない非難の声を、矢口は真正面から睨み返した。
「同じこといわせるな…行くよ」
表情、声、瞳…どれをとっても、逆らい難いものだったのである。
- 104 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時41分45秒
- 「他に武器がないかどうか探してくる」
不平はあるし、不満も持ちながらも、着々と移動の準備をする中、ふと矢口がそういって、奥の部屋に消えた。
「…あんな人だとは思わなかったな…」
涙で詰まりそうになりながらも、吉澤が小声でつぶやいた。
彼女が知る限り、矢口真里という人物は、うるさくて怒りっぽいところもあるが、先輩だろうが後輩だろうが分け隔てなく接して、よく人に気を使ってくれる、物分りのいい、付き合いやすい先輩であった。一種の理想といってもいいかもしれない。それを打ち砕かれた失望感がある。
「ちょっと、ひどいと思います」
あまりにストレートすぎる表現に、吉澤は苦笑して作業の手を止めていた。
矢口が消えた方から、なにやら物をあさる音に混じって、別種のなにかが聞こえてきたのは、その時だった。
- 105 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時42分40秒
- 手を止めなければ聞こえなかったはずだ。
それはわずかな、本当にわずかな嗚咽だった。
「やぐ…」
いいかけて吉澤は止めた。
中隊長である中澤に負けず劣らずに染められた金髪が前に落ち、小さな肩が震えていた。
吉澤が手で紺野の動きを制し、首を横に振る。
一人にさせてあげよう、という意図を理解した紺野とともに、作業を再開させ、2度とこの件について話すことはなかったのである。
- 106 名前:第5話「決断」 投稿日:2002年01月17日(木)13時45分47秒
- しかし、吉澤の感情が奥底から理性に対して語りかけてくる。
それを制止することは不可能であった。
「あの矢口さんが、あんな風に泣くなんて…しばらくは、忘れることなんてできそうにないな」
- 107 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月17日(木)13時46分42秒
- 第5話終了〜
書いててブルーになった…きっつ…
6話も今日中にやっちゃいます。
- 108 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時21分00秒
- −警備員室−
とプレートに書かれた部屋を前にして、紺野がカードを電子ロックのリーダーに差しこみ、端末をいじる。
画面上に無数の文字の羅列が流れ、あっというまに、ひとつの意味不明な数字が表示されると、電子音がしてロックが解除された。
「やるじゃん、紺野」
矢口が背中を叩くと、よろよろと紺野がバランスを崩す。笑いながら、吉澤が腕を支えた。
「もしかして、どんなドアでも開ける?」
「自信はあります」
「怖え〜! 矢口の秘密がみられちゃうじゃん」
「いや、どうせそんなとこには住めないでしょ」
「…よっすぃー、このごろ好戦的だな」
「矢口さんには負けまるっす」
彼女たちはなるべく明るく振舞うことにしている。暗く沈んでいても、いいことなど1つもない、と意識しての結果かもしれない。もっとも、いつもどおりといわれればそれまでだが。
- 109 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時21分41秒
- 「さあて、警備員室っていうくらいだから、通信装置くらいあってくれよ」
誰にいうわけではなく矢口がつぶやく。その間に、紺野はすばやく端末を立ち上げていた。
「このモニター、死んでますかね?」
「多分生き返ると思います。ちょっと待っててください」
紺野が目にもとまらぬ早さでキーボードを叩きながらいった。その態度に矢口は目を細めていた。
「…あいつ、なんか変わったな」
「そうっすね。自信が出てきたというか…保田さんにいわれたことを実行しようとしてるんですよ」
「かわいいじゃん。よっすぃーも、そのくらいかわいげがあったらいいのにな」
「あたし、矢口さんみたくひねくれてないっすよ」
「…ひとこと多いんだよ、お前は」
にやりと笑う2人に、振り返って紺野が声をかける。
- 110 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時22分18秒
- 「もし、研究データがあったら、ダウンロードしておきますけど…」
「そんなことできんの?」
「データさえあれば」
「そうじゃなくて、その端末には入ってないっしょ」
「どこでも入りこんで検索します。CIAでもFBIでも」
やっておいてくれ、とだけいうと、矢口は吉澤に耳を貸すような仕草を送る。
「…あいつだけは怒らせるな。とんでもないことしでかしそうな気がする」
「あたしもそう思いました…」
- 111 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時23分07秒
- 紺野が機械と格闘すること10分、とうとう通信が回復−正確にいうと、電話回線に割り込むことに成功した。
そこから中澤を呼び出させると、矢口が通信機を受け取る。
「中澤や! 第2小隊、紺野か!?」
回線を通じて、聞き覚えのある声が伝わってくる。
吉澤はテーブルを思いきり叩いて歓喜の叫びを上げ、紺野がにこりと笑った。
時間にすると、ほんの数時間に過ぎないのだが、なんと昔のことに思われることか。さまざまな思いが去来し、矢口は胸に込み上げてくるもの感じた。それを押し殺し、通信機に向かう。
「裕子…」
- 112 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時24分16秒
- 「…矢口…矢口か!? あんたよく…」
「連絡が遅れてごめん。詳しい報告は後からするから、とにかく迎えに来てくれない?」
「すぐにヘリを飛ばす。そっちの位置はどこや!」
矢口が紺野から知らされたデータを中澤に知らせる。
「…裕子…圭ちゃんと、みっちゃん、それに、新垣と小川が死んじゃった…」
最低限の事実を告げると、中澤が空気を飲み込むような音が聞こえてきた。次いで、ゆっくりとした吐息も。
「…すまんな、矢口」
「そう思うなら、すぐに来て」
「任しとき、ジェットヘリでいったるわ」
待っているよ、とだけ答えて矢口は通信を切った。
ジェットヘリは大げさだが、麓からここまで30分を要しないはずだ。ともかく、ひとつのことはやり終えた。急に矢口は体から力が抜けるのを覚え、その場に座り込んでしまった。
- 113 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時25分05秒
- 「これで助かるんですね…」
「そだね、そう願いたいよ、ホント」
「結局、安倍さんたち見つかりませんでしたね…」
「うん…紺野、通信で呼びかけ続けてくんない? 裕ちゃんが迎えに来るのは確かなんだから…」
「わかりました。でも、どこにいったんでしょう。館は探したのに…」
それこそが疑問であった。くまなく探し尽くしたし、断続的に通信で呼びかけても見たが、まるで反応がないのだ。
やはり、すでに落命しているのだろうか。
あわてて矢口が頭を振って、その考えを追い出した。縁起でもない。まだ確認したわけではないのだから。
であれば、どこにいったのだろうか…
待てよ、と矢口はあることに気がついた。
まだ探していないところがあるではないか。
- 114 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時25分47秒
- 「どこっすか」
「ここだよ」
「でも、全部電子ロックがかかってますよ。身を隠すといっても…」
「よっすぃー、みっちゃんのいったこと、忘れた?」
吉澤ははっとして矢口の顔を見つめた。こくりと顔が縦に動く。
いまわの際に平家はこういっていた「裏切り者がいる」と。だとすれば、この施設のことも知っているだろうし、ロックの解除だって可能なはずだ。
未確定な部分も多く、仮定の話しにすぎないにしても、けしてあり得ない話しではない。
「それじゃあ、安倍さんと愛ちゃんが…?」
これは紺野から発せられたことばだった。途中で切られてはいたが、「裏切っていたのか」と続くのは明白である。
信じられない、といわんばかりに目が大きく見開かれた。
「まだそう決まったわけじゃない。ただの思い込みかもしれないんだからさ」
安倍か高橋か、どちらかがいるとすればここではないか、という仮定から、逆説的につなぎあわせたにすぎないのだから。第一、仲間を疑うなど、本来はしたくないことである。
- 115 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時26分29秒
- 「…モニター、灯を入れます」
なにかいいたそうな表情で紺野がパネルを操作すると、機械が作動する音がした。ぱぱっと順次モニターが点灯する。
矢口と吉澤が食い入るように画面を見つめる。薄暗かった画像が、時間とともに鮮明さを増していく。先に声を上げたのは、どちらだったろうか。
「いた!」
「ビンゴ!」
画面の向こうで、安倍と高橋が折り重なるように倒れている。
「安倍さん! 高橋! おーい!」
「あほか! ここで叫んだって聞こえるわけねえだろ!」
「あ…」
ばつの悪そうな顔をしたところを見ると、どうやら真面目だったらしい。
「あたしが行く。よっすぃーはここにいろ。紺野、これ借りるよ」
矢口がマシンガンと、紺野お手製(と思われる)解錠ツールを手にして走り出す。
- 116 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時28分35秒
- 「待ってください」
「なんだよもう。よっすぃーもいるから大丈夫だって」
「いえ、全フロアのロックを解除します」
「さっすが! どっかのでくの棒より、役に立つよ」
「でくの棒って誰のことですか!」
吉澤の声も聞こえぬまま、矢口は走り出していた。仲間の無事を確認するために。
「…まったくもう、いいたいことだけいうんだから」
苦笑まじりにぼやくと、おずおずと紺野がなぐさめる。
「吉澤さん、わたしなんかよりもずっとお役にたってますから、その…気にしないで下さい」
これが矢口にいわれたのならば、いつものトークが炸裂するところだが、紺野ではそうもいかない。吉澤はひとなつっこい笑顔で、後輩の肩を叩いた。
「あの人の悪口って気にならないんだよね。それに、どうせ勢いだけでいってんだし」
- 117 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時30分35秒
- キュッ、キュッと靴が擦れる音だけが、静かな廊下に響き渡る。
矢口の小柄な体は、油断なく周囲を警戒しながらも、仲間のいる部屋へと急いでいた。
急に立ち止まって、壁に体を密着させたのは、その時だった。廊下の先に影を発見したのである。
敵かよ。面倒くさいな。
心の中で舌打ちしつつ、弾層を確認し、敵に照準を合わせる…はずだったが、あらためて見てみると、彼女のよく知った人物であった。
- 118 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時31分19秒
- 「カオリじゃん!」
「あ、矢口?」
「そんなとこにぼうっとつったってたから、ゾンビと間違えて撃つとこだったよ」
気が抜けたと同時に、ほっという安心感が矢口の体に満ちてくる。
飯田もいるのだ。あとは何も起こらない、安倍と高橋を救出して脱出するだけだ…
銃を肩に担いで、駆け寄ろうとした矢口の足が、ぴたっと止まる。
飯田の背後から、視界に別の存在が割り込んできたのだ。
そう、館で戦った、あの恐るべき深緑色の怪物…
「カオリ、危ない!」
矢口が銃口を怪物に向ける。飯田が側にいるために、発砲することは不可能である。
だが、振り返って怪物の存在を知った彼女は、別に驚くわけでも、攻撃するわけでもなく、にこりと笑って、手を差し伸べたのだ。
- 119 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時33分09秒
- するとどうだろう。怪物のほうも、あの狂暴さはどこへやら、大人しく飯田の足元にいるではないか。
「そんなに怖がらないでよ。この子が可哀想じゃん」
そういう問題ではあるまい、と矢口は思ったし、開いた口が塞がらなかった。仲間でありながら、不思議な雰囲気のある女性であることは知っていたが、このような芸当を持ち合わせていたとは。
「…ナンバーZTP007。通称『ハンター』」
「のわあ!!」
背後からいきなり声がして、文字どおり矢口は飛びあがった。
「石川、脅かすな!」
「…あの怪物の名前です」
「あっそ」
特に興味なさそうに矢口はつぶやいた。いつも石川をからかっている矢口だが、今は本当にどうでもいいことだった。
それを無視して石川はしゃべりつづけた。
- 120 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時34分33秒
- 「弾丸を受けつけない強靭な肉体と旺盛な闘争本能を持ち、視覚、聴覚、嗅覚のすべてを駆使して、敵を発見、撃滅する。機動力に優れ、その腕力は分厚いコンクリートを貫き、跳躍力は10メートル近い距離を一気にゼロにして空中から襲うことも可能…まさに完璧なB.O.W」
「石川? おい、どうした!」
「そう思いませんか、矢口さん」
「え、ああ…」
いつもの石川なら、ちょっと強く出れば「ごめんなさい」となるところだ。気配の違いに気がついて、ついうなずいてしまっていた。
「…つーかさ、B.O.Wってなによ」
「ゼティマが、Zウィルスを用いて極秘に開発している生物兵器、Biological Organic Weaponの略称です」
別にたいして驚かなかったことに、矢口は驚いていた。ここに来てから、その連続であったために慣れたのかもしれない。
むしろ、彼女に沸き起こったのは怒りである。
どうせ軍事用なのだろうが、よくもこのような危険なものを作ってくれたものだ。人間として許し得る行為ではない。
- 121 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時35分22秒
- 「…なぜ、あの獰猛なハンターが飯田さんの側で大人しくしているか、わかります?」
「さあ…」
「飯田さんは、体内にZウィルスを注入しているんです。詳しい話しは省きますけど、それにより、精神感応でB.O.Wを操れるんですよ。凄いと思いません?」
「石川、あんたなに…」
いっているんだといいかけて、矢口の思考が、ある結論に向かって急激な加速を開始する。
Zウィルス=ゼティマ 投与=?
そんなばかな!
- 122 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時36分11秒
- 「改めて、ゼティマ製薬会社B.O.W開発研究部研究員、飯田圭織」
「同じく、石川梨華です。矢口さんよろしくお願いしますね」
声にならない衝撃が体を駆け巡る。
裏切り者がいる。
平家にそういわれて、誰のことかと疑念を抱くことはあっても、どういうことかは予測していなかった。ゼティマの社員が入りこんでいて、そして、この事件にかこつけて仲間を殺していったというのか!
怒りのボルテージが一気に臨界点を突破し、まさに弾丸として叩きつけようとしたその時、冷ややかな声が矢口を打ちつけた。
- 123 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時37分19秒
- 「矢口ぃ…あんたがここに来るの、わたしたちの予想よりもちょっと早かったんだわ。ま、さすがってとこかな」
「…」
「でさあ、悪いんだけど、ちょっと遊んでてもらえる? 準備できたら呼ぶからさ」
「ふざけんなよ!」
矢口の罵声を相手にせず、飯田が命令を下した。
「あいつを殺しなさい」
ハンターが奇声を上げ、その陰で飯田と石川が奥に消えていくのが見える。
矢口としてみれば、相手にするだけばかばかしいのだが、そうもいっていられず、マシンガンを向けた。
- 124 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時38分10秒
- だが、結果は同じだった。ハンターの鎧のような皮膚は、マシンガン程度の火器を受けつけないのである。
高く、遠く、早いジャンプ攻撃は、やはり「狩猟者」の称号にふさわしかった。間一髪で横に飛び、攻撃を回避することに成功した矢口だが、何度も成功する自信はない。
どこかに弱点があるはずだ。
あまり根拠のないことを矢口は考えていた。
目か、口の中か…次々に浮かぶ候補を、次々と蹴落とす。あの距離で、そこまでの射撃の自信はない。おそらく、その前にやられているだろう。
「うん? あいつ、なんで…?」
何度目かの突進を回避した後で矢口はつぶやいた。偶然だろうかとも考えたが、記憶されている映像全てが一致していたのだ。偶然ではない。
- 125 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時39分52秒
- 決断してから実行に移るまでは早かった。
矢口は全速力で、ハンターとの距離を取ったのである。あの驚異のジャンプ攻撃をしてくれといわんばかりだ。
「さあ、きなよ! あたしがミンチに変えてやるからさ!」
通じるわけでもないのに、あえて大声で叫ぶと、大きく息を吸って、吐き出した。
ハンターは、彼女の期待を裏切らなかった。例の奇声をひとつあげ、凄まじい速さで迫ってくる。
飛んだ。
獲物とぴたりとあわせてくる距離感は、さすがに石川が「最高」と称するだけのことはある。
矢口は銃を構えたまま動かない。
ハンターが獲物を射程に収め、凶器となる長く鋭い爪を持った腕を振り上げた。
ここだ!
矢口の体が、後方に倒れていく。
- 126 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時42分08秒
- 凶器がほっそりとした首の、わずか1センチ上をかすめたとき、矢口は指に力を入れた。
弾き出された金属性の弾が、ハンターの柔らかそうな腹部に命中する。血がほとばしって床を赤く染めた。
走るとき、ジャンプしてから攻撃する寸前まで、ハンターは常に腹部を腕でガードしていた。これは、防御上、腹部に弱点があるのではないか。矢口はそう思い至ったのだ。そのガードをこじ開けるためには、なんとしても先に攻撃してもらう必要があったのだが、文字どおり間一髪だったわけだ。
額の汗をぬぐって立ちあがると、ハンターが床の上で苦悶していた。止めを指すために、矢口が銃を持ち直す。
慎重に近づきながら、しかし、矢口は恐るべき敵という認識とは別の次元のことを考えていた。
- 127 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時43分55秒
- このハンターは「作られた」のだという。であれば、この怪物じたいには罪はないのではないか。
自然界に存在しない生物、B.O.W。「存在している」ことが罪ではなく、「存在させた」ことのほうがより重いように思われる。
であれば、罪に問うべきものは、ただひとつであろう。
「すぐに、楽にしてあげる」
複雑な心境のまま、銃口を向けると、死を確認するまで撃ち続ける。その間、目を開けていることは、不可能であった。
- 128 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時45分52秒
- 矢口は壁に背中を当てると、ずるずると腰が床に落ちていった。
疲れていた。
肉体的疲労とは別のものが、彼女を縛り付けている。
時間にして数十秒のことだったが、本気で矢口はなにも考えずに、ぼうっとしていたのである。
それを解いたのは、無線の発信音であった。
- 129 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時46分22秒
- 『…矢口さん! どうしたんですか、大丈夫ですか!?』
吉澤だ。
「よっすぃー…」
ぼんやりした声を発した後、ようやく我に返ってあたりを見回す。誰もいなかった。
『何かあったんですか!』
「いや、なんでもないよ」
矢口の頭脳が再始動する。
飯田と石川が消えたのは、彼女が目的とした安倍たちの方角とは逆である。
罠だよな、無視して脱出すれば問題ないよな。
矢口の理性がそう呼びかけてくる。だが、彼女は吉澤に向かってこういっていた。
「…頼みがあるんだ。そっちが終わったら、なっちたちを迎えにいって欲しい」
- 130 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時47分02秒
- 『どういうことですか?』
「ちょっとね、面倒なゴキブリがいてさ。ムカツクから退治してくるよ」
『ゴキブリって…』
「カオリと石川っていう、ね。じゃ、頼んだから」
『待ってください!』
矢口は無線を戦闘服からむしりとると、床に投げつけた。無機質な音が響く。
大きく息を吐き、汗でべとべとになった髪をひとつかき混ぜると、矢口は飯田と石川が消えた方角に向かって歩き出した。
- 131 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時48分00秒
- 吉澤は、2度と返事が来ない無線機を見つめていた。
「矢口さんはなんて?」
「…そっち、どう?」
質問に直接答えない。
「ダメです。データが完全に削除されています。誰がやったのか…」
「そっか、ならいいよ。生きて帰れば、うちらが生き証人になれるしね」
「はい」
「あとさ…悪いけど、安倍さんと高橋のこと頼んでいいかな?」
「え?」
いきなりいわれて紺野は戸惑った。単独で出歩くなど、初めてのことだから。
- 132 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時49分23秒
- 「…矢口さん、思いつめているみたいなんだ。心配だから…」
「わかりました。やってみます」
紺野はそういうと、にっこりと、だが力強く笑った。吉澤も相好を崩す。
「武器は持てるだけ、できれば強力な奴をもっていって…」
「たぶん、だいじょうぶです。モニターにはなにも映っていないし…」
「そ、そっか。じゃあヨロシク!」
びっと片手を挙げた吉澤は、あわただしく部屋を出ていった。
- 133 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時50分32秒
- 矢口に追いついたのは、エレベーターの前であった。
「よっすぃー?」
突然現れた後輩に、矢口は首をかしげた。
「…間に合った…」
よほど急いできたのだろう。手を膝に当てて、激しく呼吸を繰り返している。
「なっちたちは?」
「紺野に任せてきました」
「…なんで。あたしの命令を無視する気? 危ないだろ」
「あ、みたところ敵もいないみたいだし、念のために武器もたっぷり持たせてきたんで…それに、矢口さん、なんか追い詰めたような声してたから…」
まるで親に叱られて、しゅんとした子供のような仕草で懸命にいいわけする吉澤を見ていると、これ以上怒ることも出来ず、苦笑して胸のあたりをぽんと叩いた。
「…つらいことになるかもしんないよ」
「…わかってます…」
だが、両者のいう「つらいこと」の意味が違っていたことは、まもなく明らかになるのである。
ドアが開き、そこへ乗りこむ。
2人を入れたエレベーターは、音も静かにさらに地下へと降りていった。
- 134 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時51分02秒
- 研究施設最奥部−
飯田と石川はそこにいた。いや、むしろ「待っていた」というほうが近いかもしれない。
「遅かったね。やられたかと思って心配しちゃったよ」
「黙れ…」
「ね、ちょっとお話しない?」
「うっさい! ゼティマの…あんたらのせいで、みんな死んでいった! そんな裏切り者と話なんてしなくない!」
矢口が怒りのこもった眦を向けると、「裏切り者」呼ばわりされた2人は、顔を見合わせてくすっと笑った。
「私たちのせいにするんですか? やられたのは、力量不足だっただけなのに」
たしかに一理あるかもしれないが、意識を負の方向にちくちくと刺激する。
- 135 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時52分04秒
- 「だったら、みっちゃんを撃ったり、第3小隊を罠にはめたのはなんだったんだよ!」
「それは認めるよ。ここに来るまで、気付かせるわけにもいかなかったからね」
こともなげに飯田はいった。
「それにさ、なんか勘違いしているんじゃない? わたしらは裏切ったつもりはないんだよ。だって、もともとゼティマの人間なんだもの。いわば、出戻りってやつ?」
「どっちでも同じだろ!」
「もう、そんなに怒らないで下さいよう。そんなに裏切り者がほしいんだったら、ちゃんと紹介しますから」
「…どういうことだよ」
矢口の声は自然と低くなる。頭の中が混乱しだした。
こいつらはいったいなにをいっているんだ?
- 136 名前:第6話「B.O.W」 投稿日:2002年01月17日(木)19時52分52秒
- 石川がにこっと微笑んだ。
「ね?」
矢口の頭部に銃口が突きつけられる。
「よっすぃー」
その持ち主は他でもない、もっとも行動を共にしてきた吉澤ひとみだったのである。
- 137 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月17日(木)19時55分04秒
- 第6話終了です。
えらい長くてすいません。
- 138 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月17日(木)20時03分07秒
- リアルタイムで読みました!こんな所で切るとは殺生な・・・(w
まだ出ていないメンバーも気にしつつ、ひたすら続きを待ってまーす。
- 139 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月17日(木)22時24分22秒
- うわぁぁ!めっちゃ気になります!
中澤!早く助けにこい!!
まさか彼女が裏切り者だったなんて…
まったく読めませんでしたよ・・・
- 140 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月18日(金)15時36分29秒
- 138さん>
切らせていただきます(w
第七話までそんなに開けないつもりなので、お待ち下さいねー
139さん>
彼女に関しては、唐突すぎるかなという感じもなきにしもあらずなんですが、その前にちょこちょこと、なにかしらあったりなかったり(w
- 141 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月19日(土)00時51分50秒
- 今日初めて読ませて頂きましたが・・・
やっすぅがぁあgぁf`.∀´sんbfbゃl!こんちきしょう!裏切り者めがぁ!
って失礼しました。取り乱しまして・・・(w
というか傘さんのもう一方の作品のファンなのですが・・・
そのあまりのギャップに驚愕しております(w
傘さん凄すぎです。私的にあまりに衝撃的で心臓に悪いです(w
矢口の熱い魂に惚れました!頑張って下さい!!続きを楽しみにさせて貰います♪
- 142 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月19日(土)08時32分54秒
- 141さん>
だいぶ取り乱しておられるようで(w
まあ、彼女に関しては長い目で(?)見てやってくださいまし。
えーと…私はここで書くのは初めてなんですが、同ハンの方いらっしゃいましたか!
まぎらわしくてごめんなさい、それは私じゃないですー
- 143 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時36分18秒
- 「そ、ん、な…よっ、すぃー…?」
愕然として、矢口は奇妙に切ったことばしか、口にすることができなかった。
「うそ、だろ?」
「…すいません…」
「…なんでだよ…なんでだよ! 一緒に戦って、圭ちゃんまであんなことになって、それでもここまで来たんだろ!? なんでだよ!」
「矢口ぃ、そんなに怒るなよ」
「…」
「吉澤にはね、たった1人、腹違いの妹がいるのさ。かわいがっているらしいよ」
あえて飯田はそこまでしかいわないものの、矢口は瞬時に理解した。
「おまえら…」
「たぶん正解だよ」
飯田を睨みつけてから、吉澤の表情を伺う。
- 144 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時36分56秒
- 目線をそらし、銃だけをこちらに向けているため、はっきりとは見えなかったが、彼女のことだ、おおよそは見当がつく。
飯田がどのような意図をもって、話したのかわからないが、少なくとも矢口は救われた思いだった。妹を人質−ネタにして脅かしたのだろう−に取る卑劣な行為によって、吉澤は協力せざるを得なかったのだ。少なくとも、彼女の積極的な意思からではない。
自分が置かれた状況を忘れ、矢口はなぜかふっと笑っていた。
「勝負アリ、かな? 銃を捨てて」
矢口は逆らわなかった。いま逆らうのは無益である。
「さっきもいったけど、お話しようよ。アンタも聞きたいことあるんでしょ?」
「…目的は?」
相手が聞いて欲しかったのだろう。これからどう状況が変わるにせよ、頭をめぐらせる時間が欲しかったので、あえて誘いに乗ってやった。
- 145 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時37分57秒
- 「裕ちゃん…」
いいかけて、飯田の口があざけるように歪む。
「ふん、中澤の本当の任務は知ってる?」
「ゼティマの監視でしょ?」
「そう。うちらにとっては厄介な話しでね。どの程度まで調査しているのかをスパイするために、わたしと石川が潜り込んだのさ」
「…潜り込んだ?」
どのような事情があるにせよ、矢口も飯田も警察官である。警察試験をパスし、選抜されてこのチームに派遣された。であるからには、相当以前から、チームの計画を知っていなければならない。それは、いったい何を意味するのか…
考えれば考えるほど、矢口はぞっとしてきた。自分では及びもつかない次元で、ことは動いているのではないか。
- 146 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時38分45秒
- 「…でね、タイミング良く…ホント偶然なんだけど、ここで研究していたB.O.Wのケルベロスが、人為的なミスで逃げ出したんだわ」
「それは知ってる。残されたメモを読んだ」
「あっそう。じゃ、飛ばすね。で、あなたたちに後始末を任せ、そのついでに、目障りなあなたたちも消そうってわけよ。B.O.Wの実戦データ収集も兼ねて、ね」
「…あたしも役にたったってわけだ…データは集まった?」
これは嫌味であったが、真面目くさって2人は腕を組んだ。
「うーん…ケルベロスは集団戦法、夜間戦闘でなら使える目途が立ったね。ハンターはやっぱりすごいわ。完璧だね」
「完璧? あたしみたいな半人前にやられるような奴が?」
矢口が口を歪めて皮肉ると、負けず劣らず飯田もにやりと笑った。
- 147 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時40分11秒
- 「肉食獣が狩りする時ってさ、獲物の正面に立つことってないよね」
飯田はこれしか口に出すことはなかった。わけのわからないことを、と一笑にふしたかったが、そうすることはできなかった。彼女がなにをいいたいのか、分かってしまったのだから。
ライオンでも、チーターでも、狩をする時は、風下から獲物に気取られぬように近づき、そして、タイミングを見計らって一気に襲うのが普通である。
これをハンターに置きかえればどういうことになるか…
想像の範疇にすぎないのだが、その攻撃から生き延びる自信はなかった。
- 148 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時40分59秒
- 「…なっちと高橋は?」
矢口は急に話題を変えた。ごくまっとうな質問であったが、これはいい知れぬ恐怖からの逃避であったかもしれない。
「ちゃんと生きてるよ」
「良かった…」
その回答を得て矢口は胸を撫で下ろした。殺さなかったところをみると、彼女たちにも仲間意識があるのかもしれない。なにせ、2年も時間を共有してきたのだから、説得する価値はありそうだ。
しかし、その判断は甘かった。
矢口が耳を疑うようなことばが飯田の口から発せられたのだ。
「だってさ、生きてないと、実験体として使い物にならないもん」
- 149 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時43分26秒
- これが冷酷な口調であればともかく、飯田は、さも「あたりまえ」のようにいったのだ。
矢口のどこかが「ぷつっ」と音を立てて切れた。
「お前ら、ひでえよ! 人間じゃない!」
激昂して飯田に殴りかかる。拳が顎のあたりをとらえたが、飯田は首をかしげ、哀れむような瞳を矢口に向けただけだった。
2人の身長は、20センチ以上の開きがある。だから攻撃が届かなかった、というわけではない。まったく通用していないのだ。
飯田の腕が伸び、矢口の喉元を掴む。恐るべき膂力のため、足が床から離れた。
「…そうだね、確かに人間じゃないよ。わたしたちは人間を超えたんだ」
血が通っていないのではないかとおもわせるほど、この時の飯田の笑顔は冷たかった。
「すごいでしょ? 矢口もひとつどう?」
「…モルモットになるつもりはないね…」
飯田の手が優雅に振られ、矢口の体が壁に叩きつけられた。激痛とともに息がつまる。
- 150 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時44分30秒
- 「矢口さ…」
「よっすぃー!」
反射的に駆け寄ろうとした吉澤を、石川の鋭い声が制する。唇を噛んだ吉澤の足元に、ロープが放り出された。
「吉澤、これで縛っといて。手が早いから困るよ、ほんと」
命じられたとおりに行動したのを確認して、満足そうに飯田がうなずいた。
「…なにをするつもりだよ…」
苦しげに息を吐き出して矢口がつぶやいた。
「そうだね、話しを元に戻すけどさ。B.O.Wのことなんだよ」
「ああ…」
まだ終わっていなかったのか、矢口の声は半ば呆れ気味であった。
- 151 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時45分03秒
- しかし、その内容は、戦慄を覚えるものだった。
「この奥にね、ちょっとやばいB.O.Wがいるんだ」
やめてくれよ、冗談だろ?
そのような矢口の心の声など、飯田に届くはずもない。よしんば届いたとしても、従うはずことなどありえない。
「ショータイムの始まりだよ」
いつもと変わらぬ笑みを浮かべて、飯田は奥のドアを開けた。
- 152 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時47分40秒
- さほど広くもない部屋の中央部に、やたらとものものしい機械が置かれ、正面に、黒いシャッターのようなものがかかった巨大な円筒形の物体がある。
その横にあるコンソールパネルを、飯田が操作している。石川は機器のチェックだろうか、忙しく動き回っており、吉澤と矢口がなんとなく浮いた存在になっていた。
「すんません、矢口さん。たぶん、あたしのこと信頼してくれていたのに…」
2人以外には聞こえないくらい小さな声で、吉澤がつぶやいた。
「たぶんじゃない。全幅ってやつだよ」
「…ホント、すんません…」
矢口はゆっくりと頭を振った。
「謝んないでよ。あたしこそ謝らなきゃならないんだから。たぶん、すごく悩んだんだろ? 妹とうちらの間でさ。それを、わかってやれなかった…」
「すいません…」
- 153 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時48分25秒
- 吉澤の困ったような、複雑な表情に対し、矢口は実に落ち着いて、柔らかに微笑している。
銃を頭に突きつけられるという絶体絶命の状況にも関わらず、だ。明かに矢口には心理的なゆとりがあった。理由ははっきりとわからないが、おそらくそれが吉澤であったからだろう。
そして、それこそが彼女の罪悪感を激しく揺さぶることになる。
- 154 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時49分28秒
- 「なんか、ムカツク」
いつの間にか石川が目の前に立っていた。腕を組み、こちらを睨んでいる。
「相変わらず存在感ないなあ。前に来たの気付かなかったぞ」
矢口の皮肉に、石川の頬がひくつく。
「どうしてよっすぃーを責めないんですか? 信じてきたものに裏切られたんでしょ? 憎みなさいよ、嫌いなさいよ!」
「…またわけわかんないことを…」
「わたし、矢口さんが嫌い」
いきなりなにをいうつもりだ?
睨みつける石川に、矢口は目を数度瞬いた。
- 155 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時50分40秒
- 「よっすぃーと同じ小隊で、よっすぃーと仲良くしてて、いつも、いつも、いつも!」
「梨華ちゃん…」
「だから、矢口さん。ここで死んでください。あなたがいなくなれば…」
ぐいっと石川の顔が近付く。危険な光がその目に宿った。恐怖とは違った意味で、背筋が凍る。
「ちょっと、やめなよ」
「よっすぃーは黙ってて!」
いつも甲高いが、それに輪をかけた金切り声が発せられた。完全に理性を失っているとしか思えない。いったい何をされるのか、矢口にはまったく想像ができなかった。
石川の手が伸び、それがまさに届く間際、飯田の怒声が飛んだ。
「こらあ! 遊んでんじゃない! こっちは忙しいんだよ!」
「…わかりました」
納得いたしかねるといった表情のまま、矢口に一瞥をくれる。
「いいわ。どうせ、すぐに別れ別れになるんだものね」
捨て台詞の中身はともかく、口元に浮かんだ笑みが不気味であった。
- 156 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時51分52秒
- 「…女の嫉妬ってやつ? こえ〜」
「え、もしかしてあたし、ですか?」
「他に誰がいるんだよ。いやー、モテるねえ」
「…あたし、女なんですけど…」
当たり前のことを口にして、戸惑ったまま吉澤が頭を掻く。
「恋愛感情としていってるのかどうかはわかんないけどね」
「はあ…」
曖昧に吉澤はうなずいていた。
- 157 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時53分03秒
- たしかに、もっとも気があったのが矢口であるということは認めるが、あくまで先輩と後輩、または友人、同僚でしかない。
ときどき石川の視線を感じることはあっても、たいして意識していなかった。彼女とも、普通に友人付き合いをしていたし、相談しあう仲ではあったが、それ以上を考えたことなどあろうはずもない。だいいち、女同士である。
彼女の中で、一方的な想いが増幅していったのだろうが、吉澤と、嫉妬の対象となった矢口にしてみれば、迷惑このうえないことだ。
ふとある考えが吉澤の頭に浮かびあがる。
自分を、妹を盾にして協力するように迫ったのは、家族という背後関係がない身軽さだけでなく、石川の意思が強く動いていたからではないのか。石川の想いが臨界点を突破し、吉澤を自分のものにするために。
だとすれば…
- 158 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時53分50秒
- 「あの、矢口さん…」
ある決意を胸にして声をかけると、矢口はちょっと目を潤ませて、吉澤の顔を見上げている。その表情に、思わずどきっとしてしまった。
…我ながら情けない…
- 159 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時54分41秒
- 「よっすぃー、あたし、身を引くわ…」
「は? なにいいってるんすか?」
「彼女の瞳には、あなたしか映っていない。それに、応えてあげて!」
「あたしの話しを…」
「いいの! 皆までいわないで! あたしが耐えればいいことだから。でも、これだけはいわせて…愛しているわ…」
「…」
混乱のために吉澤が無反応でいると、矢口はぷうっと頬を膨らませた。
「なんだよ、つまんねえな。もっと乗ってこいよな!」
「え、いや…すいません」
間違いなく、理不尽なのは矢口であるのに、なぜか吉澤は謝っていた。
いつもの悪ノリには違いないのだが、そのような余裕をかましている場合でもあるまい。
- 160 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時55分24秒
- 背後から呆れたような声がかかる。
「矢口い、アンタ自分が置かれた状況、わかってる?」
「あんまりわかってないね。アンタたちと違って、「学」がないからさ。よかったら教えてよ。ただし、ただで」
毒づいた矢口に、飯田が触発されることはなかった。別に怒っているふうではない。はっきりと無視したのである。
「これを見ても、そういっていられるかな?」
にこり、とこれまで見てきたものと同じように微笑した飯田の手がが、パネルのスイッチにかかる。
- 161 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時56分51秒
- 音もせずに、黒いシャッターが下がっていく。
そこから現れたのは、薬品かなにか、液体に浸っている恐るべき姿をした生物であった。
体長は2メートルを遥かに超していると思われる。長く、太い手足、そして、無表情な顔。白い肉体がそれに輪をかけて不気味だが、ぱっと見は人間のようだ。
「これはまだ試作品なんだ。能力は高いと思うけど、わたしでもコントロールできないんだよ。だから、実験もまだやっていない…ここまでいえばわかるよね、矢口」
「趣味悪いよ」
矢口は笑った。笑うしかないといった不健康な種類の笑いである。
これと戦えということらしいが、その時点で狂っている。いや、作ろうとする段階で、といい直したほうがいいかもしれない。
「ゴメンゴメン、すぐに改良するからさ」
完全に論点がずれている。今に始まったことではないので、あえて矢口は突っ込まなかった。
「紹介するよ。ゼティマ日本支部謹製、B.O.W TYPE0『タイラント』だ」
- 162 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時57分35秒
- 容器の液体が排水溝のようなところに吸いこまれ、ぐんぐん減っていく。
「うわあ、痛そうだねえ」
現実離れした光景を目に、矢口のことばも、どこかひとごとであった。
全員の注目が、「タイラント」に向いている間、吉澤が矢口の背中にぴったりと張りついた。
ごそごそと動いていたかと思うと、手になにか握らされる。
ナイフだった。
- 163 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時58分42秒
- 「矢口さん、これでロープを切って」
「え、ああ…」
「あたしが2人の気を引きますから、その隙に逃げてください」
「よっすぃー? なにいってんだよ」
矢口はわけがわからなくなっていた。
「…机の真ん中の引き出しに、妹の写真があります。あいつのこと、お願いできませんか? 名前は、後藤真希っていいます」
- 164 名前:第7話「背徳者たち」 投稿日:2002年01月20日(日)15時59分46秒
- 「おい…やめろ…」
徐々に吉澤の意図が読めてきて、矢口は狼狽した。
「あたしは、もう戻れませんから」
寂しく笑うと、吉澤は矢口の側を離れて、走り出した。
- 165 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月20日(日)16時04分20秒
- 第7話「背徳者たち」でしたー
次ぎで(たぶん)とりあえずラストです。
- 166 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月21日(月)07時17分14秒
- ああ、もう終わってしまうのか。
結末が楽しみです。
- 167 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月22日(火)12時50分14秒
- 166さん>
ご期待に応えれるとよいのですが(ドキドキ)、がんばってやります!
- 168 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年01月24日(木)14時14分12秒
- 今日一気にここまで読みました。
続きがすごく気になります。
よっすーの妹がごっちんだったことも、
やぐっちゃんの今後も・・・。とにかくサイコーに面白いです。
がんばってください!
ちょっと気になったことは・・・・ののとあいぼんは?です。
- 169 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月24日(木)19時33分14秒
- よすこ大好き読者さん>
読んでいただいてありがとうございます。
やぐよしを始めとする娘。たちの今後を見守ってやってくださいまし。
あの2人はですねえ^^;
あいぼーん!! ののー!!(壊
- 170 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)19時37分39秒
- 飯田と石川の視線がタイラントに注がれる。
もう少し、もう少しで、自分たちが開発した最強の生物が蘇る。一度は断念したが、ようやく機会に恵まれた。この日をどれだけ待ち望んだことだろうか。
「よっすぃー!」
矢口の叫び声が聞こえた。振りかえったときには、吉澤が石川の頭部に銃を突きつけていた。
「装置を止めてください。でないと、梨華ちゃんを撃ちます」
「…なんのつもりよ」
「やっぱり、あたしはあなたたちの協力なんてできません!」
「妹のことはいいわけ?」
「…真希もわかってくれます」
「ふん、中途半端なやつ。それに、あんた石川のこと撃てる?」
立て続けにキツイ指摘を飛ばしてくる。半ば、吉澤を困らせるのを趣味としているのではないかと思わせた。
「…撃てます」
一瞬の間を空けて、吉澤が銃の撃鉄を起した。その表情に、迷いはない。
- 171 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)19時39分13秒
- 「じゃあ仕方ないね。石川!」
「わかりました…ごめんね」
驚くべきことが起こった。
石川が素早く銃身を跳ね上げ、手首を掴んで背負い投げのように吉澤を投げ飛ばしたのだ。銃が床をすべり、背中を床に叩き付けられ、一瞬呼吸がつまる。
パワー、スピードのどれをとっても、吉澤のほうが勝っていたはずなのに、まったくなすすべがなかったのだ。
「梨華ちゃん…そんな…」
「そ、わたしもZウィルスを投与してるの」
ことばがでない吉澤の頬に、石川の手が伸び、優しく撫でる。
「ねえ、わかる? ここでよっすぃーを殺すことだってできるんだよ。でも、愛しいあなたにそんなことはできない」
石川の舌が、唇の回りを舐めた。これほどまでに妖艶さを醸し出す彼女をみるのは初めてだ。
そのまま顔を近付け、首筋に舌を這わせる。
体中の毛穴が総毛立つのを吉澤は感じていた。
- 172 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)19時41分41秒
- 「いい加減にしときな…」
苦笑まじりで飯田がたしなめたと同時に、どこからか一本のナイフが飛んできた。
石川がそれを手刀で叩き落す。
誰が、とその方向を見ると、自由を取り戻した矢口の姿があった。
驚いたのはむしろ吉澤である。
自分が2人の注意を引きつけている間に、彼女が逃げてくれることを期待していたのだから。
だが、そんな吉澤の意図くらい矢口にはお見通しである。
迫られたとはいえ、また、一時的にとはいえ、HEELOを裏切る行為をとった償うために、1人で後始末をしようというのだろう。例え、命を犠牲にしてでも。
それが分かる以上、彼女が黙って従うことなどありえない。
- 173 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)19時42分53秒
- 「矢口さん、なんで…」
「ふざけんなよ、後輩のくせに! いちばんおいしいとこ取られてたまるか!」
いかにも彼女らしい表現で怒鳴った矢口の足が床を蹴った。
そのままの勢いで床を滑り、銃を掴んで連続で発射する。
狙いは的確だったが、狙われた石川の反応も常軌を逸していた。飛来する3発の弾丸を、頭だけ左右に動かして回避したのである。これもウィルスの効果なのだろうか。
ただ、その外れた弾丸は別のものに命中していた。タイラントを保管していた容器に、である。
- 174 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)19時45分08秒
- どうやら防弾加工や強化ガラスは使用されていなかったものと思われる。簡単に穴が開き、そこから液体が漏れ始めた。
「なんてことすんのよ、予定より早く動き始めるじゃん! 石川、引くよ!」
慌てたように飯田が命令する。
石川が上体から立ち上がったが、その腕は吉澤を抱いたままだった。
「手を離せ!」
「残念ですけど、そうはいきませんよ。彼女はもらっていきます。矢口さんには返しません」
「…矢口さん…」
「そんな顔しないで。すぐにわたしのほうがいいって思うからさ」
「待て!」
矢口が駆け出しかけるのを、石川が制する。
「そのままでいてくださいね。わたしも、彼女には手荒なことをしたくないので」
「石川あ!」
矢口の怒声を完全に無視した石川は、愛らしい笑顔を向けた。
「チャオー!」
「じゃあね、矢口。生きてたらまた会お」
手を振りながらドアの向こうに飯田と石川、そして半ば拉致されたかっこうの吉澤が消える。
追いかけようとした矢口の耳を、非音楽的な音が耳を叩いた。
- 175 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)19時45分50秒
- ガラスをいとも簡単に打ち破り、飯田のいう最強のB.O.Wが、その姿を現そうとしていた。
- 176 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)19時50分09秒
- 逃げるなら今しかない。
矢口が走り出したその先で、ガラスが足元に舞った。
なぜ立ち止まってしまったのだろうか。突破しようと思えば、可能だったはずなのに。
頭ではわかっていても、矢口の足はその場にくぎ付けとなっていたのである。
ゆっくりと足が、次いで腕が出てくる。そして、ついに全身が表に現れた。
相手を忘れて、矢口は思わず仰ぎ見た。145センチの彼女からすれば、タイラントは倍近くにも思えてしまう。
ぎろりと目があってしまった。
「は、はあい…仲良くしようよ」
矢口は愛想笑いをしてみたが、どうやら彼のほうにその意思はなさそうだ。極太の腕が無造作に振り下ろされるのを、間髪で飛びのくと、銃を構える。
しかし、いくら引金を引いても、無機質な金属音が聞こえるだけだった。弾切れである。
「吉澤ー!!」
この場にいない人間に文句をいったところで、どうにかなるはずもない。その間に、タイラントの裏拳が矢口の胸部を捕らえた。
- 177 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)19時52分27秒
- 全身がバラバラになるのではないかというくらいの衝撃が伝わり、小柄な体が吹き飛んだ。20メートルはある反対側の壁面にしたたかに叩きつけられる。
「女の子には、優しくしてほしいな…」
無駄なことなのだが、つい口に出してしまう。
体を起こしかけた矢口は、胸に激しい痛みを覚えてうずくまった。
「くっそ…あばらいっちゃってるね」
装備している強化プロテクトのおかげでその程度で済んだのだ。さもなくば、即死であったかもしれない。もっとも、そのプロテクトは破壊されていたから、2度はない。
静かに呼吸を整え、壁を背にして座り込む。立つだけでもしんどい。
さて、どうしようか。
ゆっくりと、力強く近づいてくる白い怪物を睨みながら、矢口は考えていた。
- 178 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)19時52分59秒
- 「武器もなしでどうしろってーの。面倒くさい、ムカツク」
これほどまでに絶望的な状況であっても、戦意を失わないどころか、文句まで飛び出るのは、さすがというべきかもしれない。
しかし、いくら戦意があっても、文句をたれようとも、敵が驚異的なパワーの持ち主であり、打開策が存在しないのが現実である。
ふと、矢口は腰のあたりに違和感を覚えた。
- 179 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)19時55分40秒
- あることを思い出して、その部分をまさぐると、手にはコルトパイソンが握られていた。
リボルバー部分を広げて今度こそは弾が入っていることを確認する。
さて、どうする?
弾数はけして豊富ではない。
ゆっくりと近付いてくるタイラントを前に、矢口は奇妙なまでに落ち着いていた。
慎重に狙いを定め、マグナム弾を発射する。
あまりの衝撃に胸に激痛がはしり、声にならないうめきを発したが、弾丸は正確にタイラントの眉間に命中した。
しかし、まったく効果がない。
「ダメか…となると…」
初めて見たときから、矢口には気になっている部分があった。仮に弱点があるとすればそこではないか。
それで効果がなかったら?
正直、打つ手はないかもしれない。
- 180 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)19時58分19秒
- 「ってゆーか、そんときゃ、そん時だね」
軽く笑って、矢口は静かにコルトパイソンをタイラントに向けた。焦るな、と自らにいい聞かせて、トリガーを絞る。
放たれた弾丸は、剥き出しとなっている左胸の心臓のようなものを直撃した。苦しげに暴れるところを、もう1発、2発と続けざまに命中する。
3発目が当ったとき、タイラントの膝が崩れ、その場に倒れふした。
- 181 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)19時59分40秒
- コルトパイソンを投げ出して、大きく息を吐く。
できることならこのままベッドに倒れこみたいほどの衝動に駆られたが、それに取りこまれずに済んだのは、皮肉なことに、じんじんと響く激痛のおかげであった。
「…さてと、まぬけな後輩を助けに行くか」
壁に手をついてよろよろと立ちあがる。ひとつ呼吸をするたびに、一歩歩くたびに、痛みが全身を駆け巡る。
普段のの数倍の時間をかけてエレベーターホールにたどり着く。スイッチも押していないのに、勝手に降りてきているところだった。
- 182 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時01分25秒
- いったい誰が乗っているのだろうか…
どうでも良かった。押す手間が省けた、としか考えられなかったのは、知力と体力が低下していたからだろう。
例えば、ハンターがいたのだとすれば、抵抗もできずに殺されていたかもしれない。しかし、ドアが開いて現れたのは、ものものしい装備で固めた紺野であった。
- 183 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時03分18秒
- 「…あんた、なにしてんの?」
あまりに不似合いなので、ついそう聞いてしまった。
「2人が遅いので様子を見に来ました。あ、中澤さんが上で待機しています」
そこまでいってから、紺野は吉澤がいないことに気がついた。
「さらわれた…カオリと石川に…見なかった?」
「…いいえ」
「そっか。んじゃ、探しに行くから、裕子には待っているように伝えて」
うなずいた紺野が、エレベーターの階数表示のボタンを見て、ふと首をかしげた。
「あの、矢口さん」
「なに?」
相も変らぬのんびりとした口調の紺野に、いらだたしげに矢口が答える。
「ここって何階でしたっけ?」
「地下3階でしょ。それがどうしたのよ」
「地下4階の表示があるんですけど…」
そんなばかな、と矢口がパネルを見つめる。ここに来るときは確かに「B3」までしかなかったはずだが、紺野のいうとおり、「B4」と燦然と輝くボタンがある。
どうやら、巧妙に隠されていたらしい。ぱっと見はわからなかったはずだ。
「秘密通路ってわけかよ!」
怒鳴ってそのボタンを押すと、まるで矢口に抗議するかのように、ごとごとと音を立ててエレベーターが動き始めた。
- 184 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時04分18秒
- 地下4階についてみると、そこは洞窟であり、満々とした水が広がっていた。あるのは、ただ暗黒空間と、内部にこだまする水の音だけ。
「船を用意していたようですね」
紺野が、投げ捨てられたロープを眺めながらつぶやいた。ここから脱出したに違いない。いずれにせよ、これでは追撃は不可能だろう。
「ちくしょー!!」
矢口の絶叫が反響して、何度も繰り返された。
- 185 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時06分29秒
- 体と心に傷を負った矢口が、紺野に支えられながらヘリポートまで上がってくると、出発準備を整えた中澤が待機していた。その姿を確認して、手を振ってくる。
ようやくここに戻ってきた。懐かしい人々の顔がそこにある。
矢口が、胸の奥からこみ上げてくるものの存在を感じながら手を振り返した、その瞬間だった。
突如として、まるで突き上げられるような衝撃が襲った。
何度も、何度も。
嫌な予感が矢口の全身を駆け巡る。
そして、ついにヘリポートのコンクリートの床を突き破って、「それ」が姿を現した。
- 186 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時07分45秒
- 雄大な巨体と、逞しい四肢。
そして、忘れようにも忘れられない不気味さをたたえた真っ白な体…
見紛うはずもない。さきほど倒したと思ったタイラントだ。
まだ、生きていたとは!
- 187 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時08分51秒
- 「いけ、走れ!」
矢口が紺野の背中を押した。
「でも…」
「いいから走れ! あいつは、あたしを狙ってる」
なぜかはわからない。本能で矢口はそう感じたのである。
- 188 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時11分07秒
- さきほどと比べ、腕が剣のように鋭利になっている。パワーアップでもしたのだろうか。
便利だな、おい。
突っ込みたくなるのをこらえて、紺野から分捕ったグレネードランチャーを構えた。
「OK。もう一発くらっとく?」
ぺろりと矢口は舌を出して唇をなめた。
戦法はさきほどと同じ。
地下での経験から、パワーはあるものの、スピードは遅いようだ。そのうえ、弱点もわかっているのだ。
そこをつけば倒すことも可能なはずだし、最低でも仲間が離脱するくらいの時間は稼げるだろう。ただし、矢口の負傷の状態からして、体が動くかどうかは別としても。
しかし、タイラントの動きは矢口の判断をはるかに超越していた。
- 189 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時13分27秒
- 両者の間には約20メートルの開きがあった。矢口にとっては安全圏であったはずの距離。
タイラントが身構える。まるでスピードスケートのスタート時のような、妙な構え。そして、脚が蹴り上げられた。
次の瞬間には、タイラントは目の前にいた。予想もしなかった驚異的な速度で突進してきたのだ。
矢口に攻撃の暇があるはずがない。
剣のような攻撃を、銃身で受けとめたのはさすがだろうが、パワーの差は歴然であり、派手に弾き飛ばされた。したたかに叩きつけられ、激痛が走り、呻き声を上げる。
獲物を仕留めようとゆっくりと近付くタイラントに対し、矢口が立ち上がることはなかったのである。
- 190 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時16分10秒
- 目を閉じ、静かにその時を待っているようにも見える。
だが、まだ戦意を喪失したわけではない。タイラントの姿を、薄っすらと片目をあけて確認しているのがわかる。
10メートル、9メートル…5メートル、4、3、2、1…
今だ!
矢口が急始動して上半身を起こした。照準をぴたりと定めてグレネード弾を発射する。
最後の賭けであった。
- 191 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時16分54秒
- しかしタイラントは、心臓を狙われた攻撃を、左手で防御して見せたのだ。左手は完全に破壊したが、とても致命傷を与えたとはいいきれない。
かろうじて彼女を動かしていたものが抜け、支えを失った体が投げ出される。
「万策尽きた、か…もう好きにしてよ…」
勝負をするためのカードはもはや残っていない。今度こそ本当に矢口は目を閉じていた。
- 192 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時17分39秒
- ごめん、よっすぃー。助けに行けないや。
圭ちゃん、今から行くから、ちゃんと出迎えてよ?
ヘリに乗ったみんなはちゃんと逃げたかな…
驚くほど穏やかな表情と心で、矢口はつぶやいた。
死んでいくというのは、こういうものなのだろうか。もっと、叫んだり騒いだりするのかと想像していたが…
- 193 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時19分43秒
- 「…ぐち! 矢口!!」
ヘリの爆音にかき消されながら、彼女を呼ぶ声がかろうじて届いた。
うるさいなあ、なにやってんだよ、さっさといってくれ。
普段の彼女であれば、文句のひとつでも叩きつけていたところだろうが、さすがにその余裕はなく、タイラントの背後にあるヘリを見て、ぎょっとした。
ヘリのローターが巻き起こす、荒れ狂う風にたなびく髪は鮮やかな金。
一見して中澤裕子だとわかる。
その中澤が、ヘリの端に片膝をついて肩になにかを乗せているのだ。平均よりも小柄な彼女には不似合い極まりないものを。
あれは…
- 194 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時20分56秒
- 対戦車バズーカ!?
どこにあったんだ、と思いながらも、急に生への執着心が再生して体を回転させる。
中澤のもとからバズーカが発射されたのは、それとほぼ同時だった。
なだらかな軌道を描いて、ミサイルがタイラントを直撃し、爆発と爆風が連続して矢口の背中を通過する。
視線を移動させると、そこにタイラントの姿はなく、バラバラになった残骸だけがそこいらに散らばっていたのである。
中澤にに親指を立ててウインクした後、矢口は再び体を投げ出した。
「…裕子の奴…なんだよ、あたしの見せ場だったのに…」
憎まれ口を叩きながらも、表情はそれとは正反対であった。
そして、聴覚は正確に捉えていた。彼女に駆け寄る中澤の足音を…
- 195 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時21分38秒
- ヘリがゆっくりと上昇する。
搭乗しているのは、中澤裕子、安倍なつみ、高橋愛、紺野あさ美、そして矢口真里。これですべてだ。15名いた隊員が、わずか一夜にして3分の1以下に激減したのである。
それほど壮絶で、残酷な夜であった。
- 196 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時23分15秒
- 矢口がヘリに乗りこんだとき、事情を中澤に報告しようとすると、彼女はこういった。
「いわんでもええ。ゆっくりと休み…」
気を遣っているのだろうか、矢口はそれに素直に従ったのだった。
矢口はシートに横になり、その側で紺野が心配そうな顔をしている。高橋が安倍の肩に頭を乗せ、安倍はその髪を優しく撫でていた。
激戦を繰り返し、多くの仲間を失い、肉体的にも精神的にも疲労しているはずなのに、一向に睡魔が襲ってこない。
それだけ感情が昂ぶっているのだ。
- 197 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時24分13秒
- 中澤の胸に飛び込んで思いっきり泣けたら、どれほど楽になることだろうか。だが、今は泣いている場合ではない。
飯田と石川を追い、吉澤を取り返す。
ゼティマを叩き潰す。
この2つの目標、いや、誓いがある限り、彼女は涙を流すことはないだろう。
紺野に悟られないように腕で顔を隠し、その陰で矢口はぎりっと奥歯を噛み締めた。
- 198 名前:第8話「夢で終わらせない」 投稿日:2002年01月24日(木)20時26分09秒
- 東の空が白みはじめる。
ようやく、長い夜は終わりを告げた…
- 199 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月24日(木)20時29分09秒
- どうも、作者の「傘」でございます。
お付き合いいただきましてありがとうございました。これで第1部は終わりです。
ゲームをやったことのない方でもわかるようにしたつもりですが、かなり妄想入れて書いていたので、わかりにくい部分もあったかもしれません。その点は技量不足ゆえ、お詫びいたします。
短編をいっこのっけたあと、続編というか、第2部を始めたいと思います。
ただ、ストーリーが2、3パターンあり、それによって出てくる娘。が違うため、今悶えている真っ最中です。
あまり長いこと間を開けたくないので、早めに決断したいところっす。
では、その日まで…チャオー!
- 200 名前:139 投稿日:2002年01月24日(木)23時02分15秒
- お疲れサマでした。おもしろかった。
中澤ようやく助けにきたか…最後の活躍に満足。
一緒に吉澤を助けにいってほしいなぁ。
それにしてもすごくのめり込んでしまう文章で
すごくよかったです。
短編、続編めちゃ楽しみです。
- 201 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)00時44分56秒
- とても楽しみに毎回読んでました!
続編も楽しみです。(吉澤の妹がごまってことは、次回作はもしや…?w)
本当にお疲れさまでした!!
- 202 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)02時23分41秒
- ヒソーリとROMってましたですワン
某オハザードネタで13人をどう扱うんだろう?
と疑問を持ちながら読み始めたんですが、うまく処理されましたね!
とても良かったです。
次回作(続編?短編?)も期待してますよ!
- 203 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月25日(金)08時57分25秒
- 矢口は最強のB.O.Wを前にして逃げようとしてたのになぜ戦う選択をしたのか
ヘリポートでは負傷しているのにフル装備の紺野を逃がす
特殊部隊にあるまじき行動の仕方に納得いかなくてストレスが溜まる
読者が納得行くように説得力のある文章を望みます
バイオを知ってるからなのかもしれないが
全体的にはアクション物が好きなので楽しめました
続編も期待します
- 204 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月26日(土)02時42分03秒
- >203
行動がリーズナブルではないと言う事ですよねぇ?
確かに特殊部隊好きには納得できんですが
まあ、怖いもの見たさと後輩思いと言うのではどうでしょうか?(w
一応「娘。」系小説なので、メンバーの性格的な部分を交えないと…
と言う辺りで作者さんも苦労してらっしゃると思うんだワン!
と言う事で続きをキボーン。
- 205 名前:作者@傘 投稿日:2002年01月28日(月)09時34分31秒
- 200さん>
どうもありがとうございます。
姐さん無理やり出しました。
誰にしようかと迷っていたんですが、やっぱりこの人かな、と(w
201さん>
吉澤→後藤ラインは2を書くと決めた時に設定しました。
ええ、(私の中で)最強のあの人です(w
202さん>
いやいや…とんでもございません。
なにげに天使+タカシャイを放置してしまいましたし(汗
出番は…それは後々ということで(苦しいなあ)
203さん>
そうなんですけど、主人公が矢口だったんで、それが逃げてどうする、みたいなお約束的な部分もあるんですよね(w
でも、客観的に書けていなかった部分もあるんで、次に生かしていきたいですね。
読んでいただいてどうもでした♪
204さん>
フォローどうもでした。
次、ですね…(w
がんばりまーす!
- 206 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月16日(土)13時25分48秒
- 2はまだかな〜♪
まだ出てない2人が主役(だと思う)2はまだかな〜♪
・・・プレッシャーではないです(w
- 207 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月16日(土)16時53分43秒
- 今日はじめて全部読みました!!
続きをひじょ〜に期待してお待ちしておりますm(--)m
- 208 名前:作者@傘 投稿日:2002年02月22日(金)09時40分48秒
- ども、作者です。
遅くなりましたが、管理人様及び多くの方々、復旧お疲れ様でした。
長々と期間を開けてしまってすいません。
こちらの方も、明日からぼつぼつ更新を再開します♪
206さん>
2の前に短編ぶっこみます。その後になるんで、もうちょっとお待ちを…
207さん>
お付き合いいただいてありがとうございます。
問題としては、私がご期待に添えられるかどうかってことですが(w
いやいや、笑い事ちゃうがな…
- 209 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月23日(土)00時00分52秒
- 今こそB-83(水爆)をR市に投下
http://isweb28.infoseek.co.jp/motor/f15/nuc.html
- 210 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月25日(月)07時56分01秒
- 面白かったです。
原作が大好きで、何度もプレイしていたので、傘さんがいうような
わかりにくさはなく、終始楽しく読んでいました♪
あと、いしよし好きの私には、さらわれた吉澤の今後に期待w
- 211 名前:作者@傘 投稿日:2002年02月25日(月)17時33分35秒
- 209さん>
落としますか(w
あんまり現実性とか考えないで、勢いでやっちゃえとも考えはじめているところです。
201さん>
そういっていただけるとありがたいです♪
いしよしは絡ませるつもりですが、かなり後になりそうです。スマソ!!
- 212 名前:作者@傘 投稿日:2002年02月25日(月)17時35分31秒
- 2の前に、番外編行きます。
MUSUME。 HAZARD−THE OHTER SURVIVOR−
です。
- 213 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年02月25日(月)17時37分07秒
- ゼティマの極秘研究施設がある北海道クマネシリ山系。
6月19日に調査のために出発した警察庁特殊部隊HELLO隊員15名のうち、生還したものはわずかに5名。
さらに、飯田圭織と石川梨華についてはゼティマからのスパイであり、さらに吉澤ひとみは両名によって拉致されたことが判明した。
しかし、彼女らとは別の、9番目の生存者がいたことを、多くのものは知らない…
- 214 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年02月25日(月)17時37分57秒
- ヘリコプターが爆音と共に再び夜の中に消える。
残されたのは、やや小柄な1つの影だけだった。
密着したスーツを来た肉体が闇に踊る。
均整が取れ、ひきしまった四肢
肩まで伸びた黒髪に白い肌が映える。
女だった。
彼女に特定の名は存在しない。
とある組織のエージェントに属しており、任務ごとに名が変わる。
普段はナンバーかコードネームで呼ばれる存在だ。
彼女がZウィルスのサンプルを回収すべく、バイオハザードが発生した館に侵入したのは、HELLO第2小隊が突入する2時間ほど前のことである。
- 215 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年02月25日(月)17時38分32秒
- 「ちっ! 数が多い」
舌打ちしながら、女はベレッタのマガジンを取り換えた。
ゾンビはたいして強くないものの、なにしろ数が多い。倒しても倒しても起き上がってくるのだ。
万が一に備えて武器弾薬も持ってきていたが、それにも限りがある。
「…いちいち相手にしてらんないね。倒すよりも、先に進むことを考えよう」
ナイフを手に取り、あるいはゾンビの首を跳ね飛ばし、あるいは机やら椅子を使って道を確保しつつ、奥へと進む。
図面は完全に叩き込んである。
目的とするのはただひとつだ。
- 216 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年02月25日(月)17時41分04秒
- 研究施設のゾンビを走って振りきりながら、コピーしたIDカードをリーダーに差しこみ、素早くパスワードを入力する。
電子音と同時に、女は部屋に飛び込んだ。
「やれやれ…盛大な歓迎だこと」
壁にもたれて激しく息をする。ここまでは、まず成功といっていい。
数分後、ようやく息を整えて、部屋の照明を点灯した。
まず飛び込んできたのは、無数の巨大なビーカーのようなものだった。中身はよくわからない。
「ZTP004 ケルベロス…ふうん、噂のB.O.Wってやつか」
つぶやいてパネルのスイッチを押すと、灯りがつき、液体に浮かんでいる犬の姿があった。
わずかにうなずくと、今度はとなりのパネルに移る。
巨大な蜘蛛、ウェブスピナー。
ハエが原型であろうと思われるキメラ。
そして、もっとも実用化に近いといわれるB.O.Wのハンター。
- 217 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年02月25日(月)17時41分52秒
- 「…しっかし、どれもこれも趣味が悪いというか…ビジュアルってのを考えてないのかね」
あまりの醜さに、つい顔をしかめて苦笑してしまった。
「ま、あたしには関係ないか。仕事仕事っと」
気を取りなおして女は端末の前に座り、機械を立ち上げた。
画面が明るくなり、IDカードを求める画面になる。
しなやかな動きでカードを差しこんだ彼女の手が、パスワードの画面で一度停止する。
しかし、それは長い時間ではなかった。すぐに慣れた手つきで、こう打ち込んだ。
- 218 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年02月25日(月)17時42分29秒
−A・S・K・A−
- 219 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年02月25日(月)17時43分49秒
- IDカードはゼティマの恋人のものであった。そして、パスワードは当時の自分の名前。
否、そう偽っていたといったほうがいいだろう。このために彼に近づき、利用したのだ。その彼はおそらく…
CPUが照合する間、彼女は一点を見つめて動かなかった。
- 220 名前:作者@傘 投稿日:2002年02月25日(月)17時51分26秒
- 少量の更新ですいません。
今回はぽつぽついこうかなっと思ってます。
- 221 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月25日(月)22時55分32秒
- おもしろいっすねー。
いっきにここまで読みました。
ののたんは出てくるのかな?
- 222 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月26日(火)00時43分19秒
- おお。ついに再開ワンね!
気にせんで下さい<少量
マターリとまっとるワン!
- 223 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月28日(木)23時34分12秒
- 一気に読まさせていただきました。
バイハザ好きなので、かなりおもしろかったです。
続きを期待しています。がんばってください。
- 224 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月01日(金)04時25分52秒
- バイオハザードみたいやね。
http://www.capcom.co.jp/newproducts/consumer/bio3/
- 225 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月10日(日)01時24分57秒
- 続きが読みたいなり…。
- 226 名前:作者@傘 投稿日:2002年03月19日(火)12時21分13秒
- 作者、急性虫垂炎でしばらく入院くらってました。
すいません、再開しやす。
- 227 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時22分46秒
- 確認終了のメッセージが流れ、データベースへのアクセスに成功すると、彼女は再び無機的な顔になり、キーボードとマウスを操った。
作業そのものは、極めて簡単だ。
CPUに保存されている研究データをCD‐ROMに落とし、ここのデータを破壊する。
それだけである。
てきぱきとやり終えた彼女は、感傷などいっさい感じさせないようすで立ち上がり、頬を両手でぴしゃりと叩いた。
あとは脱出するだけ。
ただし、ヘリポートまでをゾンビの中を突っ切らねばならない。
- 228 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時24分47秒
- ドアの側で何かの実験器具があった。どのような目的で使用するかなどは知る由もないが、キャスターがついていることを知って、引っ張り出して目の前に置く。
大きく息を吐いて精神を集中させると、ドアを開閉するボタンを押した。
エアーが抜ける音と共にドアが開き、同時に彼女は走り出した。
「うりゃああ!!」
なかなかに重い機械だったが、スピードに乗ればそれが武器になる。
何体かのゾンビを跳ね飛ばしながら、とにかく走った。
さきほどの研究室からヘリポートまでは、図面を俯瞰すると、一度右側に走り、階段を3Fまで昇る。そこから、今度は左上にある通用口まで一気に駆け抜けなければならなかった。
- 229 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時25分42秒
- 勢いがついた重い装置を急に止めることなど不可能だが、彼女はそうしなかった。そのままの速度で階段に激突させたのだ。その上を身軽に越えて階段に飛び乗る。
足を止めることなく階段を駆け上がり、2F、そして3Fのフロアにたどり着いた。
ここまでくればもう一息だが、さきほどのような小道具はない。自分の足と、経験に基づくカンだけが頼りである。
快速を飛ばす彼女の視界に、天井の黒い塊が捕らえられた。スピーカーかなにかではないかと思っていたが、残念ながら外れた。彼女が接近すると、不意に動き出したのである。
全身に獣のそれとは違う体毛のようなものがあり、複眼の大きな目、漏斗状の口…さきほど見た「キメラ」という名のB.O.Wだ。
まるで空中ブランコのショーであるかのように、天井に「立ちあがる」。
そして、そのままの姿勢で、上空から鉤爪のようなものが襲いかかった。
間髪で前転して回避した彼女は、同時に銃を抜き標的に向けて発砲した。
しかし、相手の動きは彼女の予想を裏切り、弾丸はむなしく天井にあたって、その音だけが後に残った。
- 230 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時26分36秒
- その間にも敵は天井、壁、床の四面を不規則に利用しながら再び迫ってくる。
なにか重力を無視したような動きだが、けしてそうではない。足に粘着質の液体があり、それでどこにでも張りつくことが可能なのである。ハエや蚊のような昆虫などに良く見られる性質だ。
ケルベロスやハンターのような速度こそ持っていないが、直線的ではないだけに、逆に捕らえづらい。
2度目の発砲も徒労に終わった時、彼女は身を翻していた。
無駄な戦いをしているよりも、逃げたほうがいいとの判断である。あのくらいのスピードならば、足で振りきれるはずだ。
獲物が逃走に移ったことを知ったキメラもその後を追うが、徐々に差が開き始める。
背後の脅威が遠ざかりつつあることは察知している。このまま逃げ切れそうだ…わずかに気が緩んだその時だった。
- 231 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時27分41秒
- 物陰から黒い影が踊り出た。
しまった、と思ったときには、すでに間に合わない。
左足の脹脛部分に焼けつくような痛みが走り、彼女は転倒して床に投げ出された。
「…もう1匹いたってわけね…」
それも、まるで彼女を待ち構えていたように隠れていたのだ。姿形から先入観を持ってしまったが、意外と知力もあるのだろうか。
- 232 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時28分37秒
- ともあれ、分析は後のことである。2匹のキメラに囲まれた状況から脱出するのが先決だ。
負傷した脚部から血がにじみ、床に伝わり出している。このありさまでは、よしんば逃げたとしても、逃げ切れないだろう。
「やるしかないってか?」
唇をぺろりとなめて、キメラを見渡す。化け物はすぐに襲いかからず、適度に距離を保ち、攻撃のタイミングを見計らっているようだ。おそらく、こちらから攻撃すれば、もう1匹にそこをつかれるだろう。相手に先制させ、逆撃の機会を見つけたほうが良さそうだ。
- 233 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時29分30秒
- そう判断した彼女の目に「ある物体」が映る。
何度か心にうなずき、静かに相手が動き出すのを待った。
いい知れぬ化け物に追い詰められた恐怖、負傷した足の痛み…それらに耐えながら、じっと「待つ」という行為は、桁外れの精神力を要求される。常人であればパニックになって自暴自棄の行動にでるかもしれないところを、彼女は耐えた。
ひとえに、生きるためにだ。
時間にしてどのくらいだったであろうか。3者の呼吸がぴたりと重なった。
『来る!』
- 234 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時30分14秒
- 直感によって彼女が負傷していない足で床を蹴ったのと、左側にいるキメラが天井に飛び乗ったのは、ほぼ同時であった。
右側のキメラに向かって突進する。一呼吸遅れて攻撃する腹づもりだったのだろう、その奇襲にわずかに反応が遅れる。ほんの一瞬。だが、彼女にはそれで充分だった。
渾身の力でキメラを跳ね飛ばし、「ある物」を手に取る。
ピンを抜き、ノズルを2匹のキメラに向け、レバーを思い切り握るると、勢い良く白い粉末が吐き出された。
- 235 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時31分06秒
- 消火器であった。
これじたいに殺傷能力などがあるはずもないが、目くらまし、いや、相手の足を止めるためは有効であった。
不規則な動きだけが厄介だったのである。それさえなければ、恐れる何者もない。
彼女は愛用のコルトガバメントを抜き放ち、視界を奪われて右往左往している2匹のキメラに銃口を向け、引き金を引いた。
とにかく撃ちまくった。15連装のマガジンを2度入れ替え、40発にも及ぶ鉛の弾を叩きつけたのだ。それは、相手の行動が完全に停止したことを確認するまで続いたのである。
残されたのは、未だに立ちこめる消火器の粉末と、硝煙の臭い、そして、2体のキメラの死体だけであった。
- 236 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時32分04秒
- B.O.Wという脅威を振り払った彼女は、傷口の上部をありあわせのものできつく縛るという応急処置をした後で、再びヘリポートを目指した。
左足を引きずって階段を上り、ドアを開ける。小さな部屋があり、ここを抜ければヘリポートだ。
「お疲れサマ」
彼女を出迎えたのは冷ややかな声であった。
- 237 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時33分18秒
- 長い髪と、170センチはあろうかというすらりとした長身の女。制服から、警察庁特殊部隊「HELLO」だと判断したが、それは女の顔を見ていっぺんで吹き飛んだ。
「…もしかして飯田圭織…?」
「へえ、カオリのこと知ってんだ」
「有名だよ。Zウィルス研究スタッフの1人…そして、体内にウィルスを宿す強化人間、でしょ」
「強化人間ってのは気に入らない表現だけどね」
屈託のない声の飯田に敵意は感じられないが、なにしろ、相手は恐るべき存在である。鋼鉄の板すらもぶち抜く膂力、飛来する弾丸を肉眼で捕らえて回避することもできる動態視力と瞬発力。その戦闘能力は、かの米軍特殊部隊グリーンベレー一個大隊に匹敵するという…あくまでも風聞だが、だからこそ危険を冒してもZウィルスのデータが必要だったのである。
- 238 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時34分59秒
- 「あんたすごいねえ。キメラを片付けちゃうんだもん」
感嘆の声をよそに、ちらりと視線を左に送ると、モニターが淡い光を放っていた。その中には2体のキメラの死体が転がっている。つまり、飯田はここで高見の見物をしていて、自分はさながら古代ローマのコロッセオで戦う戦士だったというわけだ。おもしろいことではない。
「さすがにゼティマUSAのエージェントってとこかな」
「…ばれてるってわけか」
彼女の口から苦笑が漏れた。
「へえ、本当にそうだったんだ。カマかけただけなんだけどね」
「…くっ!」
「で、Zウィルスのデータを盗み出してどうしようっての?」
「そんなもん、あたしに聞いても知るわけないでしょ」
嘘ではない。彼女は、しょせん一介の使い走りである。会社上層部の意図など知る由もないし、知りたいとも思わない。
- 239 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時35分51秒
- 「そうだったね。アンタ、『名無し』だもんね」
「名無し」とは、彼女たちのような人間に対する蔑称である。センスのかけらもない呼び方だが、真実の一端を示しており、そう呼ばれることを極端に嫌う。
「貴様…!」
「怒った? 名無しでも、一応の感情はあるんだ」
蔑み、傷つけるのを楽しんでいるかのような飯田の口調である。
「本当はそんな古臭いデータ、向こうで頭を下げて「売ってください」ってくれば、考えても良かったけど、泥棒にやられたんじゃメンツが立たないからね…一応警告だけしておくよ、データを返しなさい。大人しく返したら見逃してあげる」
「…断るっていったら?」
「答えを聞きたい?」
「ま、お約束ってやつで」
「…殺して奪い返す」
- 240 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時37分17秒
- 陳腐な表現であったが、全身から発せられるオーラは尋常ではなかった。脅しでもなんでもない。本気だ。
とはいえ、彼女も若年ながら組織の中ではトップクラスの実力の持ち主である。米軍特殊部隊一個大隊に匹敵する戦力という、真実か虚構かわからない情報に躍らされるのは、そのプライドが許さなかった。
軽く腰を落として身構える。
だが、飯田の動きは彼女の予測を最悪な形で表現したものであった。
その突進に対抗する術もないままに、肩口からの体当たりをまともにくらって吹き飛ぶ。
「あらあら…ディスクが壊れてないといいけどねえ」
データの入ったCDは強化ジャケットの内部に括り付けてあり、破壊されない限り、その不安はない。もっとも、それ以前に彼女本人が壊れそうなのだが。
- 241 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時37分56秒
- ただの1度の攻撃で、逆立ちしても勝てないことを悟っていた。噂は真実であったようだ。BOWなど比較にならない化け物だ。
だが、彼女にデータを大人しく渡して見逃してもらうという思想はない。任務失敗も「死」と同義語である。
ではどうするか?
結論は、ひとつだ。
- 242 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時38分59秒
- 「どうしたの? 立てない?」
嘲笑を口に含みつつ、飯田が近寄ってくることを察知すると、亀のように身を縮こめて、床にうずくまった。
その背中に蹴りが何度も叩きつけられた。
「さっきの威勢はどこに行ったのかなー」
おそらく手加減しているのだろうが、その重みは強化ジャケットを通しても全身に伝わってくる。
とにもかくにも、今はこうするしかない。好機は必ず訪れるだろうから。それだけを信じて、懸命に耐えるので精一杯だった。
「なんかさあ、つまんない」
あまりに無抵抗なので、飽きたらしい。飯田は蹴るのを止め、彼女の髪を鷲づかみにして引き起こしにかかった。
それに対しても抗わなかった。
「もう死んでくれる? 相手にするだけ時間の無駄だから」
まるで人形のようにぴくりとも反応しない相手の顔をぐいっと引き上げながら、飯田は厳かに処刑を宣告した。
その時…
「くらえ!」
彼女の右手が閃いた。
- 243 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時40分02秒
- すっかり抵抗の意思を無くしていると見ていた飯田は明かに不意をつかれた。
その顔面に、霧状のものが噴射された。
いたってシンプルな催涙スプレーだった。
「あっ!」
トウガラシ成分の入った刺激物をまともに浴びた飯田が、目を押さえてのけぞる。いかに運動能力やら筋力を強化しようが、眼球そのものを強化することなどまず不可能であろう。
「この…せこいマネを!!」
「知るかよ!」
一時的に視力を奪われた飯田に、それだけを吐き捨て、彼女は寸暇を惜しんでヘリポートへのドアを開けた。
催涙スプレーそのものに殺傷能力はない。相手がひるんだ隙に逃げ出すためのものであり、その効果はだいたい数分とされている。その間にヘリを呼ばなくてはならないのだ。
すばやく信号弾を取り出して、夜空に向かって打ち上げた。
- 244 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時41分47秒
- 早く、早く、早く!!
わずか数分のことがこれほど長く感じられたのは、おそらく初のことだったろう。だが、この短時間に任務の正否と彼女の生死がかかっているのだ。
暗闇にヘリのエンジン音がこだまする。続いて、サーチライトが彼女の姿を照らし出した。
間に合った、行ける!
静かに降り立ったヘリに全速力で駆けより、素早くシートに身を沈めた。
「出して! 早く!!」
「お、おう」
いつにない剣幕の彼女にとまどったパイロットだったが、指示には完璧に応えてくれた。
急上昇を開始するヘリコプター。その下では、ようやく視力を回復した飯田が、じっと睨みつけていた。
- 245 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時43分33秒
- 「じゃあね」
それに気が付いた彼女は、会心の笑みで手を振る。飯田も苦笑したようだ。
その顔には、データを奪われたことよりも、せこい手段で逃げられたことに、「してやられたか」という悔しさが、わずかにのぞいているようだった。
「…なんだい、ありゃあ」
飯田と彼女の顔を交互に見ながら、パイロットの男が不審そうに尋ねる。
「ちょっとね、友達よ」
「友達?」
ますますわけがわからないというように首をひねる彼だったが、彼女は自分の冗談のまずさに気恥ずかしくなったのか、わざとため息をついた。
「…任務完了」
「さすがだな『マザー』。あんたにはいつも感心するよ」
「当然さ…」
コードネームで呼ばれた彼女は、つぶやいて遠ざかる館を視界に収めた。
「けっこう楽しかったみたいだな」
「楽しい…? まあね、そうかもね…」
複雑な表情で彼女は答えた。
- 246 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時45分29秒
- なんとか小細工を使って逃げることに成功することができたものの、このやりきれなさはなんなのだろうか?
1対1の対決ではその足元にはるかに及ばなかった。勝負にならなかったといっていい。それは、今まで感じたことのない敗北感であったわけで、おそらくそのあたりが要因だと思われる。
慌てて「マザー」は首を振った。
彼女の役目は個人的な勝利をおさめることではないのだ。
任務も達成できた。それでいいではないか。
どうせ、2度と会うことなどないのだろうから…
- 247 名前:The Other Survivor 投稿日:2002年03月19日(火)12時46分19秒
- 番外編−THE OTHER SURVIVOR−、あわただしく終わらせてしまいました。
のっけるかどうかすら迷ったんですが、2の前に彼女に触れておきたかったんで。
前半とラストだけで良かったんじゃないかというのは、秘密です(w
コードネーム「マザー」
ベッタベタですいません^^;
- 248 名前:通りすがり 投稿日:2002年03月19日(火)21時03分37秒
- キテタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!!
- 249 名前:biohazard 投稿日:2002年03月21日(木)20時02分52秒
- GCバイオハザード発売マンセー!
- 250 名前:作者@傘 投稿日:2002年04月02日(火)22時37分41秒
- 248さん>
遅れ馳せながらではございますが、再開です。のんびりとお付き合いください(笑)
249さん>
CM見たんですが、あれだけでヤバイです。私にはプレイできません。
…その前にGCがないんですがね(笑)
- 251 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時02分24秒
- 「序章」
6月に起きた事件により、HELLO中隊はほぼ壊滅した。
第1小隊の帰還者2名、第2小隊同じく2名、第3小隊はわずかに1名。15名中10名が死亡、ないし未帰還となったのである。
解散の危機もあったHELLOだったが、中澤やら上官である公安部長の強い要望によって、その危機を奪し、ゼティマに対する捜査・対策の最前線に立つことが決定されたのだった。
その3日後、クマネシリ山系にあるゼティマの研究施設で大規模な爆発が発生する。館を始めとする一連の施設は完全に破壊され、ゼティマとウィルスをつなぐ物的証拠が失われた。
しかし、まだすべてが終わったわけでも解決したわけでもない。
彼女らは拠点を東京に移し、活動を再開していた。
第2の事件は、そんな日々に起こったのである。
- 252 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時03分57秒
- 8月20日午後7時30分。
北海道R市と外界とを結ぶ唯一の道路を、1台のバイクが疾走していた。
太陽光の下であれば、メタリック調に塗装されたボディが鮮明に映るであろうし、フルフェイスのヘルメットから溢れ出した髪の色は栗毛かかった茶色であることも、すんなりとした体型から、乗っているのが女であることもわかるはずだ。
だが、いくら満月とはいえ、月光だけでそれを判断することは不可能である。
バイクは軽快なエンジン音を立てながら、R市への道をひた進んでいた。
- 253 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時05分09秒
- 女の名は後藤真希。
HELLO隊員であった吉澤ひとみの腹違いの妹である。
東京で大学に通っていた彼女は、音信不通に陥った姉の手がかりを探すためにR市を訪れたのだが、ここでとんでもない事件に遭遇することになるのだった…
- 254 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時06分24秒
話しは、2ヶ月前にさかのぼる。
- 255 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時07分47秒
- 東京都区内のとあるアパートの一室。
この住人は布団の中で眠りの世界に旅立っていたのだが、無粋に鳴り響くインターホンによって、強制的に現実の世界に叩き出された。
「…なによ、朝っぱらから…」
といっても、すでに正午をすぎている。
大きなあくびと伸びをひとつして、玄関へ向かおうとしたが、下着姿だったことを思い出して、慌ててTシャツとジャージをはいた。
穴から覗くと、女の顔が見える。記憶にはないものだ。
NHKの集金だったら、TVがないといって追い返そう、と考えながらドアを開けた。
女は住人のねぼけたような顔を見ると、表情を引き締め、背筋を伸ばして敬礼した。色鮮やかな金髪とは明かにミスマッチに思える。
- 256 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時09分29秒
- 「初めまして、中澤と申します。後藤真希さんでいらっしゃいますね」
「はあ…」
「私、こういうものです」
といって、中澤は黒い手帳を取り出した。よくテレビとかで見る光景だが、後藤は一瞬ドキッとしてしまった。
身に覚えはないつもりでも、見せられて気分のいいものではない。
だが、中澤が表紙をめくって差し出した身分証明書にあるマークは、彼女もどこかで見たことがあった。
たしか…
「あなたのお姉さん、吉澤ひとみと同じ隊に所属しているものです」
「お姉ちゃんの?」
「そのことでお話しがあるのですが、お時間よろしいですか?」
「…はい」
この瞬間から、彼女の時間が動き出した。
- 257 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時13分40秒
- 「汚いですけど」
恥ずかしそうにいいながら招き入れられた部屋は、服がここかしこに放り投げられ、雑誌も散らばっていて、お世辞にも綺麗とはいえなかった。
「いやいや、私たちのほうがひどいですよ」
冗談のつもりだったが、これはあまりうまくなかったようだ。
「でも、お姉ちゃんの部屋って綺麗じゃないですか? あたしと違って、そういうとこはきっちりしてるんですよね」
姉の話しをする後藤はとても嬉しそうで、見ていて胸が痛くなる。
だが、中澤はこれからある事実を告げねばならない。それは、上司としての最低限の仕事であった。
「…落ち着いて聞いてください」
一度ことばを切り、大きくゆっくりと息を吸い込む。
「あなたのお姉さんが、拉致されました」
- 258 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時14分18秒
- 「…は?」
後藤は大きく目を開き、2度3度瞬きをした。目の前に座る女性が何をいったのか、とっさに理解できなかったのだ。
「拉致された、と申し上げました」
ゆっくりと同じことを繰り返した中澤は、それきり口を閉じた。
ことばを探しているのではない。後藤に、好きなだけ考える時間を与えようとしているのだ。
不気味なまでの沈黙はどれだけ続いただろうか。
「どういうことですか? わけがわかりません」
テーブルを叩き、身を乗り出さんばかりの勢いで詰め寄ったが、中澤は冷静に、いや、冷静を装った瞳で彼女を見つめていた。
- 259 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時15分31秒
- 「今から1週間前、北海道R市、つまり、私たちが駐在している所で、ある事件が起こりました。事件の内容をお話しすることはできませんが、吉澤は主犯格である人物により拉致されたのです」
「なんで、そんなことに…」
「彼女は脅されていたらしいのです。あなたの安全と引き換えに」
「あたしの…?」
「ええ。結局、最後の最後で拒んだようですが…」
「そんな…」
「…申しわけありません」
「どうして、あなたが謝るんですか」
「その2人は、ともに私の部下だったからです」
後藤は思わず、正面に座っている女性の顔を見返してしまった。
彼女の手に負える問題ではなかったかもしれないが、事前に悟ることができなかったことを悔やんでいる。それは、苦渋に満ちた表情がすべてを物語っていた。
- 260 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時17分03秒
- 「…彼女たちの消息は、全力を挙げて捜索します。必ず見つけ出します」
「よろしくお願いします」
後藤ができたのは、そういって頭を下げることだけであった。
「さきほど、あなたが人質だったといいましたが…」
「ええ、でもあたし、なにもされていませんけど」
「おそらく、吉澤が裏切ったりした場合に、報復手段にでるつもりだったのでしょう」
「はあ…」
「彼女たちはある企業に所属していました」
「企業?」
「ゼティマという製薬会社をご存知でしょうか?」
後藤も名前くらいは聞いたことがあるし、薬を使ったこともあるかもしれない。
「証拠がないために表だって動くことはできないのですが、連中があなたに危害を及ぼす可能性があります」
「そんな…」
「あくまでも可能性ですが、万が一に備え、あなたの周辺を警備させていただきたいのです。もちろん、生活やプライバシーを侵害することのないように配慮いたします」
後藤の頭はすでに混乱していた。自分の知らない間に危険が迫っていたのかと考えるとぞっとする。
- 261 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時17分58秒
- 彼女の心理を汲み取った中澤は、安心させるかのように目元を和らげた。
「実は、このことをあなたに伝えるべきか、ずいぶんと迷いました。いたずらに不安をつのらせるだけではないか、と…でも、やはりすべて知っておいて欲しかったんです」
恐怖感があるのは事実だ。いつ、どこで襲われるかもしれないのだから。しかし、何も告げられずに巻き込まれたら、それはさらに増大していたかもしれない。
確かなのは、姉の上司である中澤に信頼感を覚えたことだった。
「…なぜ、ここまでしてくれるんですか?」
「市民を守るのはわれわれの義務ですし、もしあなたを狙う人間を確保することができれば、その線から目的にたどり着くことができるかもしれませんから。それに…」
そこまでいってから目線を落とす。
「…吉澤はこういっていたそうです。妹をお願いします、と」
- 262 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時18分31秒
- すっと1枚の写真がテーブルに置かれた。
後藤を背後から抱きしめている吉澤が写っている。どちらも、満面の笑みだ。
再びこの日に戻れるのであろうか…
胸元で写真を抱きしめた後藤の両眼から、耐えきれずに大粒の涙が零れ落ち、ジャージに染みを作った。
中澤が側に寄り、肩をそっと抱いた。
「任しとき…うちらが絶対見つけ出したるからな…!」
彼女だけではない。それは、全員の一致した想いだ。
その後、泣き止むまで、中澤は側を離れなかったのである。
- 263 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時20分13秒
- 2ヶ月が経った。
捜査状況はまるで進展していない。
変化といえば隊員が2名ほど増員になったことくらいだ。加護亜依、藤本美貴というのがその名である。増えるのは嬉しいが、使えるようになるには鍛えねばならないので、大幅な戦力ダウンは自明であった。
徒労にも思える捜査、新人を含めた隊員の訓練が主となり、ただただ、焦燥と時間だけが費やされていったそんなある日だった。
HELLOの電話がけたたましい音でその存在をアピールしたのは。
- 264 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時20分58秒
- 中澤が受話器を取った。
『ごとーです!』
「なんだ、ごっちんか」
「裕ちゃんひどー! なんだとはなんだよー」
あの日以来、中澤を含めたHELLO隊のメンバーは、暇を見つけては彼女の様子を見に行ったりしている。そうしたら、いつの間にか仲が良くなってしまったという奇妙な関係になっていた。
「…ごめんな、まだなんにもわかってへん…」
歯切れ悪く中澤がいった。
絶対に見つけ出す、と威勢のいいことを口にしたものの、現在では手も足もでていないのだから、しぜんと肩身が狭くなる。だからといって、後藤との関係が後ろめたさから来るものだ、というのは完全な誤解である。
- 265 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時22分27秒
- 『だから、それは裕ちゃんたちに任せてるってば。違う話しだよ』
「なに?」
『あたしさ、北海道に行きたいんだけど…いいかな?』
「…ごっちん、まさか…」
『そのつもり』
具体的な地名を出すことはしないが、後藤の目的地がどこかくらい簡単にわかる。
「気持ちはわかる…せやけど…」
『危険は覚悟の上だよ。あたし、どうしても行きたい』
中澤は困ったように髪をかきまわした。彼女の身辺に関しては不審な人物もおらず、安全である確率が高いが、あくまで警察の警備の元で、だ。ひょっとすると、外れる瞬間を待っているかもしれないのだ。
しかし、後藤の決意は固そうだ。しぶしぶではあったが、中澤はいくつか条件を出して許可することにした。
- 266 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時23分42秒
- 「…いつでも構わんから、着いたら携帯に連絡くれるか? それと、R署に連絡しておくから、そこに顔を出すこと」
『じゃあ、いいのね?』
「止めてもきかんやろ。ええな、危険を感じたら、すぐに連絡すること。くれぐれも気をつけてな」
『ありがとう。じゃあねー』
受話器を置いて中澤は腕を組んだ。
心配なことは心配だが、不謹慎ながらも嬉しい気持ちも存在する。
彼女の行動に関しては、法的に強制されているものではなく、勝手気ままに行動しても問題はないのである。それを、わざわざ連絡して了承を求めたというのは、信頼の証に違いない。
- 267 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時24分17秒
- 「かわいいんだよな、どうも…」
つぶやいてから、はっと気が付いて頬を叩く。
にやついている場合ではない。
彼女はすぐに、必要な手配をすべく、再び受話器に手を伸ばした。そしてこの時、その頭の中に、もうひとつのある計画が描き出されていたのであった。
- 268 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月02日(火)23時25分18秒
- 8月15日−
世間ではお盆真っ只中のことであった。
- 269 名前:作者@傘 投稿日:2002年04月02日(火)23時33分35秒
- というわけで、第2部です。
悩んだ主役はごっちん&裕ちゃんになりました。
お話が半分しか完成していないので、私自身もどうなるかわからんというのが最大の不安ではありますが、まったりとやっていきたいと思います。
- 270 名前:3105 投稿日:2002年04月03日(水)00時29分25秒
- やった!更新されてる。
続きに期待。
- 271 名前:裕ちゃん防衛総省次官 投稿日:2002年04月03日(水)02時18分42秒
- どうも〜、同じところで裕ちゃん達が刑事の小説を書いてます。
(最近は、引っ越しのせいで更新が難しいのですが・・・)
私も、元ネタのゲームは大好きです。
後藤と裕ちゃんが主役ですか〜!
後藤がバイクを駆ってたという事は、裕ちゃんはゲームでの新人警官の役割になるんですかね?
裕ちゃんの銃撃場面はあるのかな〜?続きが楽しみです。
- 272 名前:209 投稿日:2002年04月03日(水)21時30分17秒
- 209です。
あれから少し反省しました。
水爆は多少やり過ぎなので中性子爆弾で・・・。
これなら建造物は破壊されませんし(生命体だけ死亡)非常に使い勝手よいと思いますがどうでしょうか。
- 273 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月05日(金)03時28分49秒
- ゆうごま主役ですか(w
めっちゃ楽しみに更新待ってまーす。
- 274 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月16日(火)15時07分02秒
- まだかな〜♪
- 275 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月21日(日)12時21分57秒
- 保全
- 276 名前:作者@傘 投稿日:2002年04月23日(火)12時53分48秒
- 更新どころか、レスすら遅くなって申し訳ないのれす。
3105さん>
お待たせしておりました。ご期待にこたえれるよう、がんばりやす!
裕ちゃん防衛総省次官さん>
実はこの新人警官を誰にするかで悩んでおったわけで(w
銃撃場面もふんだんではないですが、ありますよー
次官さんも更新がんばってください!
273さん>
ゆうごまとみせかけつつ…(自粛
密かにごまちゃんを絡めたのって萌えなんですよ、私(w
274さん、275さん>
お待たせしております。放置は絶対しませんので、ご安心ください。
- 277 名前:ちょっぴ蛇足 投稿日:2002年04月23日(火)12時59分42秒
- ( ‘д‘)>しかしまあ、第2部も始まったわけやけど、えらい地味な登場やな、うち
(;´D`)>ののは…ののだけ名前すら出てきてないのれす。みきてぃも出てるのに!
( ‘д‘)>落ち着き。作者は矢口さんオタでののオタやからな。ちゃんと用意しとる。
( ´D`)>ほんとれすか!? おいしいれすかね
( ‘д‘)>うまいに決まっとるがなー
( ´D`)>8段アイス…
( ‘д‘)>そっちかよ!!
正確にはぶりんこオタです。
- 278 名前:ちょっぴ蛇足 Part2 投稿日:2002年04月23日(火)13時00分56秒
- ( ‘д‘)>最初はうちらと後藤さんが主役の予定だったみたいなんだけどな
( ´D`)>つまり、ぶりんこ(略)がなかざーさんのとこだったってわけ?
( ‘д‘)>そういうこっちゃ
( ´D`)>なんで変えたんだろうねえ
( ‘д‘)>それがな…うちらが婦警さんのコスプレして「27」歌ってっとこ妄想して激しく萌えたから、らしいで…これはまともに書けんと…
(;´D`)>いやあ!! 怖いのれす! きもいのれす!
遊んでないで早く書け>作者
- 279 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月23日(火)13時02分51秒
- 「月夜」
愛車を、とあるファミリーレストランの前で止めてフルフェイスのヘルメットを脱ぐと、端正な容姿が月の光に照らし出された。
ぼうっとしているのか、今ひとつ焦点のあっていない目のまま、髪を軽く整えて、レストランのドアを押す。
- 280 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月23日(火)13時03分35秒
- だが、足を踏み入れて彼女は異変に気が付いた。
誰もいない。
客はおろか、店員の姿もないのだ。
「…あれ?」
間抜けな声を出してから、腕組みをする。どうしようかと考えているらしい。
「あのお、すいませーん」
呼びかけてみたが、返事はない。
「すいませーん!」
今度はやや大きな声を出してみたが、結果は同じだった。
- 281 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月23日(火)13時04分39秒
- 「なんだよ、もう。休みだったのかなあ…」
ドアも開けっぱなしで、照明も付きっぱなしだ。そのようなことがあるとは考えにくい。
別の店にしようとも考えたが、探すのも面倒くさいし、好奇心もあったので、彼女は奥に足を入れることにした。
「誰もいないのー?」
何度目だろうか、そういった後藤の足が陳列棚の前で止まる。ビールやらジュースやらが、整然と並べられていた。
「飲んじゃいますよー」
誰にいうわけでもなくつぶやくと、ガラス戸を開けてコーラの缶を取り出し、プルタブを開けた。
ぷしゅっ、と炭酸の抜ける音が聞こえ、カラメル色の液体が、後藤の喉に心地よい刺激を与える。
「なんだろうねえ…」
ぼけっとつぶやいて耳の後ろを指で掻いた。いちおう、いろいろと考えているらしい。
- 282 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月23日(火)13時05分57秒
- 再びコーラを口元に当てた彼女は、人の気配を背後に感じて、思わず飛びあがってしまった。
「あ、あの、ごめんなさい! 盗んだわけじゃないです! 何回呼んでも誰も来なかったから…あの、お金払いますから…」
顔も見ずに、早口でまくしたてて、財布を取り出そうとズボンのポケットをまさぐる彼女の視界に、その人物の足が飛びこんできた。
ふだんなら、気にすることなどなかったはずだ。しかし、この時ばかりはそうもいかなかったのである。
ズボンの裾に、赤黒いものがこびりついている。
ペンキか何かだろうか? いや、違う。これは…
血…?
- 283 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月23日(火)13時06分46秒
- はっと顔を上げた後藤の目に、奇怪な姿が映る。
まるで、焼け爛れたような顔をした…人間? ただ、目が潰れているようだし、唇も半分ない。
「うわあああ!!」
さしもの後藤も、これには仰天して飛びあがっていた。
ゆっくりと、だが、確実にそれは後藤の方へ近づいてきた。助けを求めているのだろうか、それとも危害を加えようとしているのか…判断に躊躇した後藤だが、手が伸びる寸前で、ひらりと身をかわしていた。
- 284 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月23日(火)13時07分41秒
- 背後で派手な音がした。
どうやら、カウンターに頭から突っ込んだらしい。
「…だいじょうぶですか…?」
おそるおそる声をかけてみる。相変わらず心臓は激しく鼓動していた。
彼は後藤の声を完全に無視して立ち上がると、何事もなかったかのように、再び彼女に近づいてくる。
「な、なによ。なんなのよー!」
ひとつ叫んで、手近にあったタバスコの瓶を掴み、思いきり投げつけた。
瓶が顔面に命中し、鈍い音と共に瓶が完全にめり込む。
しかし、その動きが止まることはなかった。
- 285 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月23日(火)13時08分41秒
- 後藤はくるりと背を向けてドアの方へ走った。わけがわからないが、とにかく危険だ。そう本能が告げていたようだ。
ドアを開けて彼女が見たものは、仁王立ちしている女の姿だった。その手には拳銃が握られている。
「伏せろ!」
女の声が飛ぶ。慌てて従った後藤の真上を、銃声とともに鉛の弾が飛んでいき、襲撃者の頭部を破壊した。
- 286 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年04月23日(火)13時09分21秒
- 呆然と振りかえった後藤の手が力強く握られた。
「車まで走れ!」
いわれるがままに、女の後をついて走り出し、エンジンがかけっぱなしの車のシートに滑り込む。
女がアクセルを踏みこむと、タイヤを滑らせながら車は走り出した。
窓の外には、あの死体のようなものが、無数に見えていたのである…
- 287 名前:作者@傘 投稿日:2002年04月23日(火)13時10分06秒
- 第2話、まだ半分です。
続きは夜にします
- 288 名前:flow 投稿日:2002年04月23日(火)14時02分54秒
- 初レスですが、本気でこの小説にはまってる一人です(w
ついに出てきましたね、かの人が…。
第二部、めちゃくちゃ楽しみにしてます。はよ夜になれ〜
- 289 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月24日(水)20時43分01秒
- す、凄い…。
今、一気に読ませて頂きました!
最高に面白いです!ドキドキです!ワクワクです!!!
作者サマ。がんがってください。
お体の調子はどうですか?
- 290 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月26日(金)01時49分33秒
- む、話が動き出したワンね!
続きをマターリと期待しつつ…
がんばってくださいなのだワン!
- 291 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月26日(金)18時53分59秒
- 作者さーん、夜っていつの夜ですかー?(w
めっちゃ続きが楽しみです!ごまはやっぱり短パンなんだろうか。
- 292 名前:ヤグヤグ 投稿日:2002年04月30日(火)18時22分05秒
- 後藤を助けたのは一体誰?
凄く気になります。
続きを楽しみにしてます。頑張って下さい。
- 293 名前:え! 投稿日:2002年05月02日(木)23時38分25秒
- いつだーーーーーーーーーー?
- 294 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時30分28秒
- 「けがは?」
「ないよ…ありがとう」
ようやく息を整えた後藤は、そう礼をいった。
明るい茶色っぽい髪を持つ女−中澤裕子は、表情を緩めることなく軽くうなづいた。
「礼をいうのは、まずこの街を逃げ出してからにしとこか」
ギアがトップに入ると、過重が体にかかり、まるでシートに押しつけられるような感覚にとらわれた。
スピードに身を委ねながら、後藤は混乱した頭の中の整理に必死であった。
- 295 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時34分16秒
- 簡潔にすると疑問は2つだけだ。
「なんで裕ちゃんがここにいるの? あれはなに?」
同時にぶつけられた質問に、中澤は黙ってハンドルを指で叩いた。
「あんたを追ってきた。あたしもこっちで調べよう思ってな…あんたに連絡とろうと思っても、さっぱり通じんし」
「あは。ごめん、携帯ずっと切ってたから」
そんなことだろうと思った。危険があるかもしれないとあれほどいっていたのに。
中澤は軽くため息をついてからことばを続けた。
「…そしたらゾンビだらけっちゅうわけや」
「…ゾンビ…?」
ゲームや映画でしか聞いたことのない固有名詞を出されて、後藤は首をかしげた。
「今、墓からわさわさ出てくるところ想像したんちゃうか?」
「いやあ…」
鋭い指摘に頭を掻いたものの、実は図星である。
- 296 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時35分15秒
- 「一種の病気みたいなもんでな…」
そう前置きして、中澤はゾンビについて簡潔に説明した。
「…ちゅうこっちゃ。信じるかどうかはあんたの自由や」
「信じるよ…裕ちゃんは嘘をつくような人じゃないと思うし、このありさまを見たら…」
嫌でも信じざるを得ないだろう。
後藤はいくぶん声が上ずっていたものの、口調そのものはしっかりしており、それが中澤にとっては感嘆の対象になった。
- 297 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時35分56秒
- 車が急停止した。
中澤が急ブレーキを踏んだためだが、シートベルトをしていなければ、フロントガラスに頭から突っ込んでいたかもしれない。
「…なんで…うそやろ…?」
呆然としたような中澤の声に顔を上げてみると、目前でタンクローリーが横転し、漏れ出した石油に引火しているのだ。赤い炎と黒煙が天に届くかのように、2人の行く手を遮っていた。しかも、街の外に通じる唯一の道路上で、である。
「最悪…」
いまいましげな舌打ちが中澤の口から吐き出された。
「他の道は?」
「残念ながら、ない」
- 298 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時36分31秒
- おそるおそる問うた後藤の声を一刀両断にする。すなわち、この街から外へ出る手段は陸地からは存在しないということだ。いや、あるにはあるが、どこまでも続く険しい山々を延々と歩かねばならない。
「…しゃあない…」
中澤は車のギアをバックに入れて発進すると、ホイルスピンで車の向きを反転させた。そのさい、何かがぶつかったようだが、あの化け物だろうか。再び車は走り出した。
「どうすんの?」
「ちょっとな、秘密基地に行くねん」
「秘密基地?」
後藤は首をかしげたが、実はなんのことはない。2ヶ月前まで使用されていたHELLOの駐留地であった。
- 299 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時37分23秒
- 「サイドボードを開けてみ」
思い出したような中澤のことばに従ってみると、そこには一丁の拳銃があった。
「あんたのや。いちおう持っといて」
「ふーん…」
取り出してしげしげと眺める。
初めて手にする拳銃は、冷たくて思ったよりもずっしりとして重たかった。銃身にグロックと刻印されているのが読み取れた。
「使わんにこしたことはないけど、そうもいってられんしな…」
ぽつりとこぼすと、中澤と後藤の2人は車から降り、そこへ入っていった。
調度品がそのままになっている部屋に入ると、中澤は携帯電話を取り出して電話をかけ始めた。
「うちや。なっちか矢口おるか?」
発せられた固有名詞から、HELLOであることが判断できる。
- 300 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時38分03秒
- 『裕ちゃん?』
「おう、なっちか。今こっちについた。ごっちんも一緒や」
『そりゃ良かった。で、なんかあったの?』
「なんかえらい歓迎されてなあ」
そう前置きして、中澤はR市の状況を過不足なく伝えた。電話の向こうで安倍が息を飲んでいるのがわかる。
「てことでな、救援を手配してもらいたいんやけど」
『わかった。上に報告して、すぐに出動するよ』
電話を切って振りかえると、不安げな表情の後藤がこちらを凝視している。
- 301 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時38分34秒
- なんと声をかけようか、そのことばを探していると、先に彼女が口を開いた。
「これからどうするの?」
その質問に中澤は腕を組んだ。彼女にはある私案があった。
「…あたしは今からゼティマに行こうかと思ってる」
「ゼティマ?」
後藤にとっては姉を奪った相手でもある、世界的規模で展開する国際企業。その名が中澤の口から発せられると、反射的に身構えてしまった。
「これまでは手が出せん相手だった。でもな、街がこのありさまならゼティマも同じこと。侵入して…うまくいけば吉澤のこともわかるかも…」
- 302 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時39分37秒
- 「いいね、それ! 行こうよ」
即座に後藤は賛意を示した。中澤が渋い顔をする。
「あんたはここにいてくれ」
「な…どうしてよ!?」
「危険すぎる。ここならまず安全や…な?」
「嫌! あたしも行く!」
「しかしな…」
「連れていかないんなら、勝手に行くよ」
後藤のことばは冗談や脅かしとは思えなかった。この娘なら、本当にしでかしそうである。
- 303 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時40分21秒
- 勝手に動かれるよりも、自分の目の届く範囲で守っていたほうがいいかもしれない。それに、こことて100パーセント安全というわけではない。そのような場所に残されたら、かえって不安なのではないか。
「わかった、2人で行こう…ええんやな?」
「ここまできたら、やるしかないっしょ。お姉ちゃんを探す手がかりが掴めるかもってんならなおさらだよ」
「あたしの側から離れるなよ」
「ぴったりしたい中澤、ぴったり♪ ぴったりしたい裕子、ぴったり♪ 頭の中ほとんどひとみ♪」
「いや、わけわからんし」
なぜか嬉しそうに口ずさむ後藤に、中澤はあきれたような声をかけたのだった。
- 304 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時41分40秒
- 携帯電話がメロディを奏でる。
HELLOからのものだ。
「おう、なっちか。どうやった?」
『許可が出たよ。準備が整いしだい出発する』
「どんくらいかかる?」
『紺野の計算だと8時間。そのくらいは見て欲しい』
「そっか…」
腕時計にちらりと目をやる。現在時刻は9時に近い。単純計算ならば明日の朝5時頃だろうか。
「まあよろしく頼むわ。いちおう、そっちに矢口と紺野は待機させといて」
『矢口? すっごい気合入ってるんだけど…』
思わず中澤は苦笑した。
「なんかあったとき、紺野一人やったらキツイでしょ。ってそういっとき」
『わかった。ねえ、新人さんも使うの?』
安倍の声のトーンが落ち、中澤は一瞬考え込んだ。
- 305 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時42分39秒
- いきなりの実戦はキツイだろうが、なにごとも経験である。かといって、新米を双方最前線に送りこんでは、先輩の負担が大きすぎる。
「…加護は東京で待機。藤本だけ投入させよう。なっち、余裕ないかもしれんけど、フォロー頼む」
「うん」
2ヶ月もたたずに修羅場に放り出されるのだ。本人が不安と緊張でいっぱいになるのは手に取るようにわかる。だが、HELLOの一員になったからには、やらねばならないことである。
『裕ちゃんは、これからどうするの?』
「ちょっとゼティマに行ってみる。吉澤の手がかりがあるかもしれん」
『大丈夫なの?』
「まあ多分な…てなことで、待ち合わせ場所はゼティマの屋上にしよう。たしかヘリポートあったよな」
『そうだね…裕ちゃん、気をつけてね』
「あんたらもな」
再び電話は切られた。
- 306 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時43分36秒
- 「明日の早朝にこっちに着く予定だとさ…時間もあるし、軽く眠っとくか」
中澤は部屋の片隅に所在なげに置かれたベッドに近寄って上の埃を払った。
「ちょっと汚いけど、贅沢もいってられん。ごっちんはここで休みな。あたしはそこのソファを使うから」
後藤を横にさせると、自分が着ていたジャケットを脱いで上にかける。
「裕ちゃん、寒くない?」
「あたしは鍛えとるから平気や」
いくら8月でも、ここは北海道の山中なのだから、夜ともなれば肌寒い。タンクトップ1枚ではさすがに冷えるが、少なくともそういった仕草を表すことなく、ソファに腰を降ろすと腕を組んだ。
- 307 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時45分10秒
- さて、どうなることか。
相手がゾンビだけならば、後藤を守りながらでも戦う自身はある。とはいえ、仮にゼティマが開発した生物兵器−B.O.Wが相手となると、そこまでの確信は持てない。交戦の経験がないというのも、その一因といえるだろう。
しかし、何があろうとも彼女は守る。守って見せる。
警察官として当然の義務であるし、いわば吉澤から預かっているようなものだと思っていた。
傷ひとつ付けずにここから脱出させる。
- 308 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時46分00秒
- ごろん、と寝返りをうった後藤と目があった。
「まだ寝てなかったんか?」
「…裕ちゃん、そっちいっていいかな」
「どした?」
「んー なんか、寒そうだから。2人でくっついたほうがあったかいじゃん」
「怖いんじゃないの?」
「そ、そんなことないよお!」
「…いいよ、おいで」
ムキになっているのか、顔を赤くした後藤に優しく微笑むと、中澤は自分の隣のぽんぽんと叩いた。
- 309 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)10時46分53秒
- ぴょこぴょことした動きで近づき、どすんとソファに飛び乗った。
一気に埃が舞いあがり、中澤が数度せきこむ。
「もうちょっと大人しくせんか!」
「うーん、あったかーい!」
中澤の文句など左耳から右耳に突き抜けているらしい。腕を絡めて肩の辺りに頭を乗せた。
「これで眠れる?」
「…うん」
頭を中澤の肩に乗せるてしばらくすると、後藤の口から軽い寝息が聞こえ出した。微笑した中澤は、そっと彼女の体を包み込むように抱きかかえたのだった。
- 310 名前:トモフミ 投稿日:2002年05月06日(月)10時58分02秒
- ヤタ―!初のリアルタイム!
バイオ2に添った話はこれだけですか?
- 311 名前:作者@傘 投稿日:2002年05月06日(月)11時10分23秒
- flowさん>
ひっぱりまくったあげくではありましたが(w
いちおう、彼女が今回の主役の「つもり」で書いていますが、どうなりますことやら(ドキドキ
289さん>
やや、どうもです。でも、ちょっと照れるのれす。
おかげさまで体は大丈夫です。ただ、思いっきり笑うと痛くなるので、ハロモニはたいへん危険な番組です(w
290さん>
お待たせしておりました。
なにせ私が遅筆なもので、そんなに頻繁に更新できないかもしれませんが、お付き合いください。
291さん>
夜…ど、どこかにありました(←アホ)
た、たぶん、8月20日(第2部)か、第1部のことだと思うんですが(汗
描写はしてませんが、後藤さんのビジュアルは短パンヴァージョンで。
あの太ももは眩し(自粛
292さん>
後藤さんを助けたのは…って更新されてるし! レスが遅かったせいですたい。
293>
へい、続きいきます。
- 312 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月06日(月)11時16分29秒
- 310さん>
第2部全体を「2」っぽくしてます。
本番はこれからですよ…うふふふふ(壊
- 313 名前:20000 ◆LXduN2LY 投稿日:2002年05月06日(月)13時28分48秒
- 更新待ってました。お疲れさまです。
いやぁ、いいですなぁ。これからも頑張ってくださいね。
- 314 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月25日(土)06時36分41秒
- おもしろかったです。
がんばってください。
- 315 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月26日(日)18時35分00秒
- つ、続きが、読みたいです・・・。
- 316 名前:作者@傘 投稿日:2002年05月29日(水)13時22分32秒
- 更新遅くなって申し訳ないのれす(いっつもいってるな、俺)
再開します。
- 317 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時23分23秒
- ゼティマ製薬日本支部はR市のほぼ中央部にある。
地上10階。さほどの高層ビルとはいえないが地方都市においては最も高い建造物である。その他に、地下5階に広がるスペースがある。
中澤は運転する車を、正面入り口前につけた。
「誰もいないんだったら、正面のドアをぶち破っちゃえば?」
普段ののんびりとした雰囲気や、端正な容姿からは想像できないほどの過激な意見が飛び出して中澤は相好を崩した。もちろん、最初からそのつもりである。
- 318 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時24分53秒
- 「いっちょ派手に行きますか」
後部座席をごそごそあさっていた彼女が手にしたのは、7〜80センチはある円筒形の物体−グレネードランチャーであった。
「車の中にいるんやで」
後藤に一声かけて、入り口から20メートルほど離れて立つ。弾を砲身に込め、腰を落として身構えると、引き金に指をかけた。
軽い爆発音と共に榴弾が吐き出され、軌跡を描いてガラスを直撃した。
目標物に衝突すると、弾丸そのものが四散して、それによって人体・施設にダメージを与える榴弾である。とうぜん、ガラスごときは跡形も無く吹き飛ぶはずであった。
「あほな!?」
信じられないとばかりの中澤の声だ。とうぜんだろう。ガラスはそのままであり、火薬で黒く煤けてはいるものの、ヒビひとつ入っていない。防弾ガラスだ。
- 319 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時25分35秒
- 「あかん。こりゃ戦車でも持ってこないと破れんな」
車で突っ込んだとしても、かえって車のほうが大破してしまうかもしれない。正面からの侵入は諦めたほうがよさそうだ。
「どうすんの?」
「セオリーどおり、別の入り口を探す」
なにがセオリーなのかよくわからないが、そんなことを口にしながら、中澤は後藤にグレネードランチャーを手渡した。
「あたしにくれんの?」
「あほ。荷物持ちにきまってるでしょ」
「うっそー!」
「大げさやな。そんなに重くないやん」
信じられないとばかりな態度の後藤に、むりやりグレネードランチャーと弾を押しつけた。
- 320 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時26分48秒
- 中澤は大口径マグナムをホルスターにねじこむと、表情を引き締めた。
「ええか、ゾンビは人間であって人間やない。奴らにあるのは食欲だけ。襲われたら、倒すか逃げるかの二者択一、迷ってる暇はないで。あと、絶対に噛まれないこと」
「そりゃまあ、嫌だし痛いだろうけどさ。でもなに? そんな急に」
「噛まれると、そこからウィルスに感染するねん」
「え…」
「うちのメンバーも一人感染してな。そいつは、ゾンビになるよりは死を選んだんや…」
いくら救うためとはいえ、仲間に銃を向けた矢口の心情はいかなものだっただろうか。
それを思うと、中澤はいたたまれなくなる。あの激戦よりも辛かったに違いないのだから。
「うちは、そんなことしとうない…」
「…裕ちゃん、それ、あたしのセリフでもあるよ」
どちらかが感染してしまった場合、もう1人がその役目を果たさなければならないのだ。
「…そうだね」
- 321 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時28分09秒
- 「じゃあ、お互いに気をつけるってことで」
のほほんとした口調に、危うく中澤はずっこけるところであった。
「…なんやの、それ。もっとかっこいいいい回しはなかったんかい」
「かっこつけたってしょうがないじゃん」
「…それもそうやけど…でもなあ…」
「裕ちゃんて、へんなとここだわるんだね」
「悪いか! あんたと話してると緊張感がなくなるわ!」
「それがどうした!」
地上最強のセリフをたたきつけられた中澤は、あんぐりと口を開けて返すことばを失っていた。
けらけらと笑って後藤は先を歩き出したが、後から痛い目にあったのはいうまでもないだろう。
- 322 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時29分22秒
- 侵入口を探してビルをぐるりと回った彼女たちが見つけたのは、1つの扉だった。
鋼鉄製のもので、鍵穴らしいものは見つからず、側にカードリーダーがある点から、電子ロック式なのだろう。それを確認すると、中澤は舌打ちしていた。
「そういや紺野の奴、おかしな機械持ってたなあ…借りてくりゃ良かった」
いまさらそういったところで始まらない。さて、どうしようか。このドアをぶち破るべきか、いや、これじたいも相当頑丈そうである。そう簡単にはいかないだろう。やはり別の入り口を探すべきだろうか…
思案している中澤の手がドアノブにかかる。意識したわけではなく、無意識のうちにただ単に行っただけにすぎない。とうぜん、開くはずもない…いや、誰も予想しなかったことに、ドアは音もせずに開いたのだ。
- 323 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時30分30秒
- これには当の中澤のほうが驚いた。まるで期待していなかったことである。
「電源が切られていた…?」
自動的に電源が落ちるシステムにでもなっていたのだろうか。それとも、別の誰かが先に侵入していたか。可能性はいくらでもあるだろうが、どうにも不気味だった。
中澤の肩に手が置かれた。後藤がにかっと笑って、ビルの方向を指差している。
「考えたってしょうがないじゃん。早く行こうよ」
「うん…そやな…」
ゼティマという名から罠の可能性を疑ってみたのだが、考えすぎなのだろう。
- 324 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時31分14秒
- 通用口から社屋に侵入する。壁際のスイッチを操作したが、照明が灯ることはなかった。故障か、はたまたなにかの理由によるものなのか、建物内部は淡緑色を発する非常灯が唯一の光源であった。
「裕ちゃん、先に行くよ」
小走りに先へ歩を進める後藤を咎めようとした中澤の視界に、非常灯とは別の色素を持つ光が飛び込んできた。
天井近くの壁面に張りつけられ、小さく、赤く点滅を繰り返している。
- 325 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時32分08秒
- 「しまった!」
気付いた時にはすでに手遅れであった。
数メートルほど前を行く後藤と中澤の間に、分厚いシャッターが降りてきて、2人を隔ててしまったのである。
- 326 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時33分23秒
- やられた、と中澤はシャッターに拳を叩きつけた。
罠であるか二重のセキュリティなのか、まんまとそれに捕まってしまった。みるからに頑丈そうなシャッターで、手にしている火器で破壊することは難しそうだ。
「裕ちゃん、裕ちゃん!」
がんがんとシャッターを叩きつけて後藤の必死な声がする。
「あたしは無事だ。それより、そっちにスイッチかなんかない?」
あるとすれば内部のはずなので期待して見たものの、返ってきたのはそれとは逆の答えであった。
「ダメ、みつかんない」
「そっか…」
遠隔操作で開閉するしかないのだろう。
どこにあるかわからないそれを探すより、中澤は別の選択肢を取ることにした。
- 327 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時34分13秒
- 「あたしは別の道を探しに行く」
「え?」
「ちょっと離れ離れになるけど、仕方ない。急いで合流するから、それまでじっとしてなさい」
「あたしは平気だよ。そんなに気を使わなくたって…」
「あかん!」
厳しい中澤の声が飛び、後藤は首をすくめた。
「ゾンビだけじゃないかもしれん。ええな、絶対にそこを動くなよ!」
「…うん…大人しくしてる」
納得したというよりも、反論するとさらに怒りを買いそうなので、しおらしく答えることにした。
中澤にしても半信半疑であったのだが、とにかく信じる以外にない。定期的に連絡を取り合うことを確認して、別の道を急ぐことにしたのだった。
- 328 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時35分04秒
- とはいうものの、その「道」がどこにあるのかははなはだ不明である。それどころが、他に入り口があるとの確信すらない状況である。
- 329 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時36分25秒
- 部屋の片隅にある円形の物体が中澤の目に捕らえられた。マンホールの蓋である。
ここを使えば、社内の別の場所に出られるかもしれない。
行動に移したのは早かった。強引に蓋を抉じ開けて、梯子をゆっくりと降りていく。光源となりうるものがないため、一段ずつ慎重に。
「…ずいぶんと長いな。どこまで続くねん」
上を見上げると、さきほどの部屋のぼうっとした光がわずかにみえる。あくまで彼女の感覚だが、ここまで10メートルは降りてきているように思われる。下水にしては、ずいぶんと深く設置したものだ。
不審を抱きながらも、さらに梯子を降りた中澤の目に、新たな光が捕らえられた。ようやく下層部にたどり着いたようだ。
やれやれ、とぼやきつつ梯子からひらりと飛び降りた。
- 330 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時37分45秒
- 銃弾が梯子に当って火を吹いたのは、まさに直後のことであった。あと1秒でも遅れていれば、体に穴があいていたことだ。
慌てて床に体を伏せる。
銃を撃ってきたということはゾンビの類ではないはずだ。人間、それも微弱な光だけを頼りにして正確な射撃を行う技術を持っている。
『できるな』
緊張が走り、腰のホルダーからベレッタF92を抜き払った。
暗闇に向けて2〜3発発射する。それに対して、見えざる相手も銃で応戦してくる。
正体も位置も判然としない状態なのだから、当れば儲けものというよりは、威嚇が主な目的であった。
- 331 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時38分34秒
- 向こうも似たような意図を持っていたらしい。射撃の間隔が広くなり、徐々に遠くなっていき、やがて銃声は止んでいた。
どうやら襲撃者による危険は遠ざかったようだ。それでも、警戒を怠ることなく、周囲に気を配りながらゆっくりと立ちあがった。
「しっかし、相手も確認せんと撃つ奴がどこにおんねん」
ぶつくさとぼやきながら、反対方向に足を向けた。
さきほどの襲撃者は、中澤をゾンビだと思ったのだろうか。しかし、こちらも銃で応戦しているのだ。その時点で人間だと知り得たはずで、「人間だから発砲した」ということになるのではないか。
ひとつ確実なのは「生存者がいる」ということだ。奇跡的に感染していないのか、それとも外部からの侵入者なのかはわからないが…
- 332 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時39分26秒
- てっきり下水だとばかり思っていたが、どうやら違うようだ。悪臭もないし、だいいち肝心の水路が通っていない。なにかの通路だろうか、普通の乗用車がすれ違える程度の幅があるようだった。
頼りないライトの灯りだけを頼りに歩いていた中澤が足を止めた。パネルやらスイッチ類が照らし出される。
なにをする機器かはわからない。触らぬ神にたたりなしとばかりに無視した中澤は、壁に設置されたスイッチを押した。
ややあって、数珠繋ぎに天井の蛍光灯が存在を主張しだす。
「これで一安心…か」
やはり暗闇というのは不安感が増大するものだ。首をぐるりと回しながらつぶやいた中澤だったが、周囲の様子を見て驚愕した。
- 333 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時40分17秒
- 単純な通路だと推測していたが、そうでもなかったのだ。
ガラスで仕切られて溜池のようなものがある。目測だが、小学校のグランドくらいはありそうなほどの大きさだ。その区画に、鉄くずのようなものから、着衣、おまけに、小動物の屍骸まで見える。水は黒緑っぽいとしか形容できない不気味さに変色している。つまりは、巨大なゴミ箱であり、自社のゴミを自分たちで処分していたということだろうか。
そうは思えなかった。なぜなら、ガラスのいたるところに、こう表示されたマークがあったのだから。
−BIOHAZARD−
- 334 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時41分03秒
- BIOHAZARD…
生物災害。生物学的研究の過程で使用されたり、産み出される病原体。またそれによって引き起こされる健康障害…
- 335 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時41分36秒
- 「これは…嘘やろ…」
製薬会社なのだから、たったこれだけで断じるのは危険かもしれないが、中澤は強く確信していた。
ここは、Zウィルスの研究過程で汚染された生物、物質を廃棄して処分している施設ではないのか。
急に胸の奥がむかつくのを中澤は自覚していた。一刻も早く立ち去るべきだ、と察して身を翻しかけた彼女の目に、銃を構えた女の姿が映し出された。
- 336 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時42分17秒
- 「動くな」
その声に慌てて銃を掴もうとしたが、すでに銃口はこちらに向けられていた。抵抗の構えを見せたら、即座に射殺されるだろう。
中澤よりもやや背が低く、手入れを怠ったようなショートカットが特徴的だった。年齢は20歳そこそこだろうか。おそらく、先ほど発砲してきた女だろう。
それにしても、と中澤は唇を噛んだ。てっきり別の場所に移動したとばかり思っていたのだが、まさかこうも接近されていようとは。
いくらここの施設に度肝を抜かれていたとはいえ、油断といえば油断である。
- 337 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時43分33秒
- 女がゆっくりと近づいてくる。
銃の命中率が距離に反比例するのはあたりまえのことである。近付けば近付くほど率は高くなっていく。賭けに出るならば今しかない。
機先を制するかのように、中澤が横に飛んだ。いままでいた中空を相手の銃弾が掠める。
回転して跳ね起きざまにトリガーを引いたが、その瞬間に彼女も前転しており、弾は壁面に当って火花を散らした。素早く動く相手に命中させるのは、難しいことなのである。
再び2人が銃を向け合ったのは、わずか2メートルの至近距離でだった。
- 338 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時44分10秒
- 中澤の呼吸は乱れていたが、女の頬も紅潮しているようだ。
「…この位置で撃ち合うか?」
女は答えずにじっと中澤を凝視している。
「あたしも人間相手に弾を無駄使いしたくないんでな。同時に武器を収めようじゃないか」
「賢明な選択だろうね」
「じゃあ、1.2.3で」
「OK」
「いくぞ…1.2…」
中澤の声は静かだったが、鋭い緊張が両者の間に張り巡らされていた。相手が本当に武器を降ろしてくれるのか、その100%の保証はどこにも存在していないのだ…そうなれば…
- 339 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時45分18秒
- 「3!」
声と同時に、互いの武器が下を向いた。2人の安堵の息が、これまた同時に漏れる。
「あんたが裏切ったらどうしようかと思ったわ」
「あたしもさ…でも、ここでこうしててもね」
なんだ、と中澤は肩をすくめた。お互い同じことを考えていたわけだ。だとすれば、次ぎに発することばも同じに違いない。
- 340 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時45分57秒
- 互いの無言の問いに最初に答えたのは、中澤のほうであった。
「あたしは中澤裕子、警察庁公安部特殊捜査機動隊の人間や」
「ふうん…おまわりさんが何の用?」
「ま、捜査の必要上な。で、あんたは?」
「市井紗耶香。フリーのジャーナリストよ」
「ジャーナリスト?」
「取材ってやつさ。ゼティマが良からぬことを企んでるのはけっこう噂になっていたからね。まさか、こんな事態になっているとは思っていなかったけど…」
- 341 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時46分55秒
- 市井と名乗る女性をみつめる中澤の目には、かすかな疑念の色が浮かんでいる。理由としては充分だが、これほどの危険を冒す必要があるとは思えない。だが、それはあくまで中澤の感覚を基準としてのことだ。市井にとっては命を賭すだけの価値があるのだろう。
「ま、そういうわけ。あたしはもう行くから。撃ったりして悪かったね」
「ちょい待ち…」
素っ気無い態度で言い放った市井が歩き出しかけ、中澤がそれを呼びとめようとした。
目の前で、廃棄物が放り込まれた水面が大きく動いたのは、まさにその時だったのである。
- 342 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時48分22秒
- 「な、なんだ!?」
廃棄物−汚物という表現のほうが正確かもしれない−処理場(なのかどうかはわからないが)の液体が大きくうねる。
「どっかいじったんじゃないの?」
「アホか、なんにもしてへん!」
否定しつつ、うっかり装置をいじってしまったのかとも思ったて目を移したが、電源すら入っていないようだ。
激しい水飛沫が舞いあがって、黒い液体のカーテンを作り、視界を遮る。
黒いカーテンが、自然の法則に従って下に垂れていく。そして、その視界が鮮明になったとき、2人は声にはならない驚きを上げた。
- 343 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時49分30秒
- 平べったく長い口には無数の鋭い牙。分厚そうな鱗に、目が顔の左右についているのは、まさに爬虫類特有のものだ。
誰がどう見てもワニなのだが、異常だったのは、圧倒的なまでの巨大さである。見えている口の部分だけでも数メートル。全長ならば、10メートルは有に超えるに違いない。
水面付近でじっとしていたワニは、まるで獲物に襲いかかるかのような俊敏さで飛び掛った。むろん、その「獲物」とは中澤と市井のことだ。
- 344 名前:MUSUME。 HAZARD2 投稿日:2002年05月29日(水)13時50分12秒
- 「うわっと!」
横に飛びのいた近くで、激しくガラスが割れる音が聞こえる。社屋のような強化ガラスになっていたのかどうかはわからないが、両者を隔てていた壁が取り払われたのである。
開いた口がふさがらないというのはこのことだ。通路に隙間がなくなるほどの巨体である。こうなると、ワニというよりは恐竜だ。
「なに食ったらそんなに育つねん!」
「そんなことより、逃げるのが先でしょ!」
抵抗すらせずに、2人はすたこらさっさと逃げ出していた。
- 345 名前:作者@傘 投稿日:2002年05月29日(水)13時56分25秒
- 久々の更新でございました。
ゆうごまは別の行動をしちゃいます。てなわけで、裕ちゃんのパートナーは紗耶香。ごまちゃんのほうは…次回です。
ちょっと調べてわかったんですが、グレネードランチャーの射程は600〜700Mくらいなんだそうです(w
- 346 名前:トモフミ 投稿日:2002年05月29日(水)16時51分51秒
- 更新お疲れ様です。
後藤のパートナーが、市井だと思っていたがはずれてしまった…
だとしたら、一体だれがパートナーは誰なんだろう?
続き期待して待ってます
- 347 名前:やぐちゅ〜みっちゅ〜狂患者 投稿日:2002年05月30日(木)01時23分18秒
- オ〜、いきなり大鰐か〜
ガスボンベでぶっ飛ばすのかな?
それとも、ザッピングでごっちんがとどめをさすのかな?
裕ちゃんがレオンとなると、市井ちゃんがエイダとベンを兼ね備えてるのかな?
おっと、自己紹介が遅れた。
風板で、裕ちゃんの航空戦日誌をかいてま〜す。
どうぞ、よろしく〜
- 348 名前:矢口真太 投稿日:2002年05月30日(木)02時24分50秒
- 更新お疲れ様です。初めましての矢口真太です。
一応、空版で特撮物を書いています。
バイオネタ・・・いいっすねぇ・・・めちゃくちゃ更新を楽しみに待ってました!
そう言えば、まだ辻だけ出てきていない気が・・・
ま、まさか、後藤のパートナーは辻ってパターンすか?
ともかく、次回更新楽しみにまってます!
がんばってください!
- 349 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月21日(金)23時03分55秒
- 傘さん、頑張って
- 350 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月11日(木)00時23分40秒
- houchi?
- 351 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月11日(木)22時32分55秒
- 傘さーん。こっちも更新してー。
- 352 名前:nanasi 投稿日:2002年07月28日(日)08時58分54秒
- hozen
- 353 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月03日(土)08時23分05秒
- 放置決定だな
- 354 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月07日(水)17時14分48秒
- 完結しないのにスレッドをたくさん立てる人にはお仕置き。
- 355 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月27日(火)15時59分40秒
- 完結しないのにスレッドをたくさん立てる人にはお仕置き。
- 356 名前:読者 投稿日:2002年08月30日(金)17時57分56秒
- 俺は276の作者の言葉を信じる、頑張れ
- 357 名前:nanasi 投稿日:2002年09月16日(月)08時13分29秒
- hozen
- 358 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月16日(月)10時51分17秒
- 100%報知だな
- 359 名前:なな 投稿日:2002年09月30日(月)20時59分14秒
- @ @
( ‘ д‘) <保全や
- 360 名前:ななし 投稿日:2002年09月30日(月)21時00分45秒
- 待ちますよ〜。
- 361 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月04日(金)14時21分47秒
- 完結しないのにスレッドを立てる人にはお仕置き。
- 362 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
- 川o・-・)ダメです…
- 363 名前:名無し@かぼちゃ。 投稿日:2002年10月07日(月)00時59分29秒
- >>362
すみません、間違えてこちらに誤爆してしまったようです(汗)
削除依頼出しておきます。スレ汚し申し訳ありませんでした。
- 364 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月09日(水)15時53分24秒
- ここまできて放置なんて、許されることじゃないよ。
はやく帰ってきて〜ぇ!!!
- 365 名前:nanasi 投稿日:2002年10月18日(金)21時53分09秒
- hozen
- 366 名前:名無し 投稿日:2002年10月26日(土)17時43分54秒
- 保全
- 367 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月21日(木)04時08分51秒
- もうすぐzeroが発売ですね、元ネタ。
- 368 名前:某読者 投稿日:2002年12月01日(日)22時22分23秒
- 4も発売するようで・・・
- 369 名前:名無し 投稿日:2003年01月06日(月)11時33分56秒
- 保全
- 370 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月04日(火)23時08分18秒
- 保全
- 371 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月05日(水)20時24分36秒
- 保全っっっ!!
- 372 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月10日(月)00時14分11秒
- そんなに頻繁に保全する必要は無いと思われ
つーか紛らわしいからageないでほしいです
- 373 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月10日(月)20時44分00秒
- 保全sage
- 374 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月04日(金)09時15分57秒
- 保全
- 375 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月11日(日)23時49分16秒
- 最終更新から、もうそろそろ1年
もうダメかなぁ?
>>348も別板の小説放置したし・・・
- 376 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月19日(月)16時20分23秒
- 377 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月30日(水)23時53分56秒
- 一応保全
- 378 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月25日(月)05時26分03秒
- 24時間TV保全
- 379 名前:偽 投稿日:2003年09月05日(金)05時36分56秒
- 全速力で来た道を戻り、梯子に手を掛けようとしたその時、
中澤はさらに十メートル程先にエレベーターが待機しているのを見付け目標を変えた。
吉か、凶か…どちらにしても同じ道では振り出しだ、先に進むしかない!
自分に言い聞かせてエレベーターに滑り込む。
【閉】を押し、そこにあったボタンの最上階である【B1】を押した。直後に市井が滑り込んだ。
巨大ワニにとっては狭すぎる通路だったのだろう…三十メートル程の距離を空けて、咆哮を聞いた。
鳥肌を押さえられない、おぞましい声が頭に響く。
「あかん…閉まらん!」
何度ボタンを押しても、機械は反応しない。
「振動…?…非常停止かっ!くそ!」
間髪を入れず、市井が天井に連射した。
天井の隅に備え付けられている整備用の蓋が開き、暗闇の空間が顔を除かせる。
「届くんか!?」
天井まで、3メートルはゆうにある。
「…腕力に自信ある?」
そう言うと市井は両手を構えて中澤の目を見つめた。
「足を掛けて飛べ!自信が無かったら私が飛ぶぞ!」
- 380 名前:偽 投稿日:2003年09月05日(金)05時39分02秒
- 中澤は迷わず飛んだ。
人一人通るのがやっとという大きさの穴目掛けて、二人は奇跡的なコンビネーションを見せた。
中澤は素早く体を持ち上げエレベーターの屋根に腹這いになると、右腕を差し出す。轟音が近づいている。
「来い!」
自分だったら、この腕に届いただろうか…しかし、市井は軽々と中澤の手首を掴んだ。そして腕を登る。
中澤も態勢を変え、市井を引っ張りあげる。
エレベーターの扉に巨大な鼻が入ろうとしたいた。
「くっ!!」
「ぬぁっ!!」
懇親の力を込めて中澤は上体を起こす。
つい先程まで市井の足があった空間を、ワニの口が切り裂いた。
間一髪で市井の上体が天井を出た。即座に市井は両足を引き抜く。
次の瞬間、ワニの頭がエレベーターに激突した。
立つ事など不可能な激しい振動の中で、エレベーターを支えるワイヤーにしがみ付きながら市井が叫んだ。
「…こいつを落とす!」
- 381 名前:偽 投稿日:2003年09月05日(金)05時40分39秒
乗用車4台は入ろうかという巨大なエレベーターも、このワニにとっては前足から上が入る程度に過ぎない。
しかしその空間で巨大ワニは狂ったように暴れ、天井は変形を余儀なくされている。
側面三方は壁に囲まれているので限界があるが、床も相当なものだろう。
中澤は壁の非常用梯子を掴み、市井の手を取り引き寄せ数段登った。
一つの梯子に二人、片足を乗せ片腕を絡ませ、互いに頭を寄せる。
ワニの起こす泣き声と振動からの轟音がエレベーターのホールで反響する、頭のおかしくなりそうな空間だ。
お互い耳と口を近づけてなお、怒鳴らなくては声など全く聞こえない状態だった。
「見ろ!このエレベーターを支えているのは4隅にあるワイヤーだ!
ワニが暴れてるおかげでガタがきてる!1箇所でも切れれば箱は落ちる!
箱自体の重量でワニの動きを止められるかもしれない!」
- 382 名前:偽 投稿日:2003年09月05日(金)05時42分21秒
切る手段はもちろん銃弾だろう…市井が何発あるのか知らないが、自分は装填されてるマガジン以外に3つ。
それに1ダース入りの箱を4つ…この太い鋼鉄のワイヤーを切るのに何十発必要なのか見当もつかない。
賛成しがたい提案だ。
しかし、ついにエレベーターの天井の中心に亀裂が走った。
素早く反応したのは市井だ。
梯子に腕を絡ませたまま両手にガバをしっかり握り、対角のワイヤーに狙いを定め撃ち始めた。
少しでも兆弾の危険を避けての配慮なのか…確かに対角といっても大した距離ではない。
が、この視界がぶれる程の振動と、頭の割れるような凶音の中で、
45口径を制動し確実に当てるなど玄人どころのタマではないという事だ。
驚愕は不信と不安を生んだが、今に限って言えば頼もしい味方となる。中澤も93Rをセミオートで加勢した。
- 383 名前:偽 投稿日:2003年09月05日(金)05時43分40秒
正確無比な二人の弾丸は無駄弾を使う事無く、40発近くを撃ちこみワイヤーを弾き飛ばした。
ついにワニが天井全体に入った亀裂を食い破り、その口を覗かせた瞬間、
エレベーターの側面を支えていた車輪の幾つかが同時に弾き飛ぶ。
やっとありついた餌に必死で噛み付こうと牙を延ばすが、二人は冷静だった。
互いに別々のワイヤーに数発撃ち込むと、目論見通り激しい音を立ててワイヤーはあっけなく切れた。
その衝撃で残りの1本も上方から切れる音が聞こえるのと同じ瞬間、
皮や肉が引き千切れる音とワニの悲痛と取れる叫び声が木霊した。
- 384 名前:偽 投稿日:2003年09月05日(金)05時44分58秒
- おそらく、ワニにとっては狭いエレベーターに体の半分以上をねじ込んだのだろう。
結果、3本のワイヤーでは支える事は不可能となり、自らの体重とエレベーターの過重により体を分断され、
全ての支えを失った今、二人の足元をワニの口が虚空を食らい、落ちて行く。
余程の高さがあったのか、叫び声が小さくなる程度の時間を置いて断末魔の叫びと共に一瞬の激震が起きた。
そして二人に静寂が戻った。
- 385 名前:偽 投稿日:2003年09月05日(金)06時00分49秒
- 偽者だよ!
でも続きが読みたくて書いちゃったんだよ!
気に入らなかったらしかとしてくらさい…
てゆーか…
- 386 名前:偽 投稿日:2003年09月06日(土)03時12分56秒
- 1ヶ月以内だな
- 387 名前:偽 投稿日:2003年09月06日(土)03時14分25秒
- 「危なかったな…」
市井が溜め息とともに呟いた。
「…ほんまやな」
市井に対してもこの状況に対しても、疑心を拭う材料を持たない中澤は力なく答える。
「よくウチを信用したな、…先に登らせたやん?自分」
「信用されてないのは解ってたからね、確立の高い方に賭けたんだ」
「まるで余裕やねんな」
中澤は目を細める。棘が、少し語尾に出ていた。
しばしの沈黙が二人を包む。
が、同時に動いた。中澤は右腕を上げ、市井は左足を下ろす。
「下行くんか?」
「上行くんだ?」
しばしの沈黙…そして、
「ほ、ほな」
「んじゃ」
短い別れの言葉を、言い終わらないうちに階段を下り始めた市井を見送る。
先程までエレベーターのあった場所に差し込む光の中に
市井が足音と共に消えて行くのを確認し、中澤も上を目指した。
聞きたい事は山程あったが、なによりも今は後藤と合流することが優先と判断だった。
- 388 名前:偽 投稿日:2003年09月06日(土)03時15分09秒
- 来た時と違って、すぐにエレベーターの扉にあたった。それ以上は無い。
かなりの気合を入れて、重い扉を顔一つ分程開けて様子をうかがう。
生き物の気配はしなかった。自分が通れるだけの隙間を開けて出た先は、駐車場だった。
うっすらと青白い…非常灯か
それにしてはやけに明るいとも思ったが、中澤は深く気にする事はなかった。
構えて見渡すまでも無く、誰もいない。
エレベーターには【B1】と書いてあった。
ここは【B1】、ならゴミ捨て場が【B2】か…とにかく【1F】に行かなぁ
エレベーターの脇に、カードキー式と思われる鉄扉があったがやはり閉まっていた。
カードの読み取り部が破壊されている。
…この扉は一生開かんのか?
中澤は仕方なく周囲の探索を開始した。
- 389 名前:偽 投稿日:2003年09月06日(土)03時15分46秒
- 物音一つしない、静寂。だだっ広い駐車場に車は数える程しかない。
そのこと自体おかしいのだが、それ以上に気になる事があった。
壊した『ヤツ』はどこへ消えたんやろ…見つけてしばいたらんと…
安心出来ないのだろう、中澤は警戒感を意識的に高めた。
エレベーターから200メートル近く離れた場所にスロープがあり、近寄ってみたがシャッターが降りていた。
閉まってる…
スロープは下にも続いていたが、やはり途中でシャッターが降りていた。
結局、駐車場をくまなく調べたが操作盤の類は無く、上は諦めるしかないようだった。
腕時計に目をやると12時を回っている。後藤と別れてから1時間が立とうとしていた。
急がな…道は下りだけ…まぁ、急がば回れっちゅうことかい!
とりあえずテンションを上げてみた。
- 390 名前:偽 投稿日:2003年09月06日(土)03時17分11秒
- 結局中澤はエレベーターではなく、一番手近にあった地下へ続く階段に向かった。
階段と駐車場は仕切られていたが、扉は無い。
ゆっくりと入り口へ近づいた中澤は、何かの気配を感じて進行を止めた。
(なんや?…この悪寒は…)
そう思った瞬間、弾けるように中澤は精一杯後ろに跳躍しながら93Rをバーストに切り換える。
肩で着地するや否や半回転して片膝を下ろした中腰の姿勢で、
自分の居た場所へと銃弾を叩き込んだ。
ギャ!!!
手応えを認めた中澤は、それでも留まらず下ろした片膝で反動をつけ右手に大きく回転する。
案の定、その『何か』は既に目の前に居た。小柄な体に対してアンバランスに太い左腕。
その腕に着いた巨大な刃物が、1秒前にそこにあった中澤の首をなぎ払っていた。
だが、中澤は読み勝った。
腕を完全に振り切った『何か』の後頭部へ、姿勢を気にせず銃を向ける。同時に撃った。
連続した撃発音が、広大な地下駐車場で反響を止めない。
- 391 名前:偽 投稿日:2003年09月06日(土)03時17分48秒
- パパパンッ!
打った瞬間、目標を確認する事無く中澤はもう一度飛んだ。
『何か』は、ドス黒い液体を辺りに飛び散らせながら崩れ落ちる。
頭部は砕け散ったようだった。
周囲に自分以外の気配が消えても、中澤は警戒を解かなかった。
銃を構えたまま三歩程離れた位置から、動かなくなった『何か』を確認する。
白木のような皮膚(?に、赤い…筋肉をまとったようなその異形は、
矢口から聞いた生物兵器を連想させるに十分だった。
恐ろしいそのスピード。
中澤は、そのスピードに勝ったわけではないと認識していた。
あくまでも経験が生んだ勘、判断力、それが幸運な結果を生んだに過ぎない。
しかし、28歳という年齢にしてイメージ通り体が動かせるのは、日々の鍛錬の証と誇りに思えた。
見た目にも悪寒を感じさせる『何か』は、完全にその活動を停止したと判断し中澤は再び階段へ向かった。
- 392 名前:偽 投稿日:2003年09月06日(土)03時18分38秒
- 階段はくの字に折り曲がった構造のごくありふれたもので、遥か下まで続いている。
使う者も居ないというように、階段以外に何も無い場所を静かに下り、
【B2】と書かれた場所で中澤は階段から離れた。
非常灯に照らされた薄明るい廊下を通ってしばらく進むと、窓の付いた薄い鉄扉が留め具を破壊され倒れていた。
付近に冷え切った薬莢が5発散らばっている。45口径だ。
人間の仕業…市井か?
入り口の向こうは明るかったが、十分に注意しながら低い姿勢で侵入する。
中はまた廊下のようだったが、階段のあった廊下と違って十分な広さを持っており、
規則的に並べられた観葉植物が清潔さを演出している。
中澤の場所から、廊下は左右に続いており同じ方向に折れている。
足元に同じ空薬莢がさらに4発。
左の廊下の角には、死体と思われる物体が横たわっているのが見えた。
中澤は少し考えてから、壁を背にして左へと向かう。
物体を確認するためだった。
- 393 名前:偽 投稿日:2003年09月06日(土)03時19分12秒
- 死体に近づくにつれ、微かに腐敗臭が漂ってくる。
しかし中澤は、慣れているとはいえ、
目の前5メートルまできてやっと届いた臭いに違和感を感じずには居られなかった。
廊下の角に立ち、周りにも意識を向けながら物体を見てみる。
服装から判断して警備員らしいその死体は、見ている間にさえ解るほどの速さで腐敗が進行していた。
感染しているのだろうが、動き出す気配はない。
死体は頭部が消え、胸の部分が2箇所陥没している。
胸に2発…たぶん頭に2発で消し飛んだんやろな
銃創と推定したその部分は、明らかに他の部位より原型を留めていない。
傷を受けた場所は腐るスピードが早くなるんか…
あまり必要の無い収穫に思えたが、ふと疑問に思う事があった。
死体は消えてしまうんかな…
もちろん、生前の彼など中澤は知らない。
だが、少しの侘しさを抱いて中澤は両手を合わせずには居られなかった。
- 394 名前:偽 投稿日:2003年09月06日(土)03時25分30秒
- つーかさ、持ってんだよね。
中澤さん。92F…
読み飛ばしてたよ
- 395 名前:偽 投稿日:2003/09/10(水) 05:21
- 一呼吸置いて、警備員の装備を調べてみる。
USPというドイツ製の中型拳銃を所持していた。使われた形跡はない。
マガジンも装填されているものと合わせて3本あったが、使用弾薬の違いから接収を諦めた。
装備を戻し、先へ進もうと立ちあがった時、微かな足音を聞いた。
中澤は静かに廊下の角に身を隠し、先程自分が来た入り口の方を伺う。
相手も慎重に中を探っているようで、自分と同じような事をしていた。
僅かに覗かせたその顔は、市井沙耶香だった。
(なんであいつ後ろに居んねん…やっぱ狙われとるんか?ウチ)
市井も気配に気付いたのか、動きを止めているようだ。
待つか、攻めるか、
市井の腕は本物だ。やるとなれば簡単な相手ではない。
93Rを持つ手に自然と力が入り、片方の手は自らの腰に納まっている92Fに伸びている。
(火力で先手を取って…)
警備員に返した拳銃の位置を確認した。
「…中澤さんか!?」
(…)
「ジャーナリストやで!」
(…)
- 396 名前:偽 投稿日:2003/09/10(水) 05:22
- おちゃらけた不自然な関西弁に、戦意が途切れた。
(なんやねんアイツ…)「なんで自分そこにおるん?」
身を隠したまま、中澤は答えた。
「なんだぁ良かったぁ!」
中澤にとっては予想外な事に、市井は銃を下ろして無防備な笑顔でその姿をさらす。
そして通路の真ん中を歩きながら、こう言った。
「中澤裕子警部捕。後藤の友達でしょ?」
中澤は後藤の名前を聞いた瞬間、跳び上がるような勢いで市井の額に93Rを突き付けていた。
「あんた…ほんま何者や?」
中澤の声が、限りなく低い。
「ご、後藤真希は友達なんだよ!」
「ゼティマの刺客やな?それが一番納得がいく…言うに事欠いて後藤の友達かい…
誰が信用すんねんコラ、ア?もっとマシな嘘付つかんかい!アアン!?
吉澤の居場所吐けやゴルァアアア!!!」
「…刺客ってなんだよ…」
市井が中澤の目を真っ直ぐに見つめて聞いた。その声が、微かに震えている。
- 397 名前:偽 投稿日:2003/09/10(水) 05:23
- 「知らんで通すつも…」
「真希に何かあったのか!?オイッ!!正直に話せ!話せよ!!」
ガバメントを放り出して叫ぶ市井を見て、中澤は動揺した。
市井は額の銃など、既に見えていないかのようだ。
(なんやねんコイツは!)
「真希は私の親友なんだ!アイツになんかあったら…!おい何とか言えよ!あんたら護衛だろ!?」
どんな繋がりも見えなかったが、中澤はとりあえず話を聞いてみる事にした。
「わかった!ちょぉ待て!真希にはなんもない!だから落ち着けや、な?
で、でな?ほんでな? 自分何者やねん?」
困ったような顔を見せながら、中澤ははっきりと言った。
「本当に?」
出会って初めて、『可愛らしい』声を聞いた。
「ああ、大丈夫や」
確信ではなかったが、かえって優しい声色を発したようだ。
そこに真実を見たのか、市井は一瞬目を逸らして言った。
「…説明するよ」
先走った自分の行動を恥じている、ようにも見受けられる。
「真希は2つしたの後輩で…」
- 398 名前:偽 投稿日:2003/09/10(水) 05:24
- その時、中澤は金属が擦れるような音を微かに聞いた。
「ちょぃ待て」
市井の言葉を遮って、聞き耳を立てる。
((人の…歩く音?))
市井は放っていた銃を素早く取り、中澤と共に廊下の角へと身を寄せた。
「スピードからいって、ゾンビかな…」
小さな声で市井が言った。
「人間とは…まぁ思えへんな」
中澤は音のする方を伺いながら、状況を確認する。
二人の居る廊下の角の場所から後ろに、左へ折れた角と、階段へと続く入り口がある。
前に足音、廊下は約20メートル先で右に折れており、音はその向こうから聞こえると思われた。
「自分、ちょっとここにおってもらってええか?後ろの様子見てくる」
「いいよ、2,3匹なら大した事ないし」
中澤は市井に笑顔を返して、銃を下段に構え低い姿勢で音を立てずに動き出した。
- 399 名前:偽 投稿日:2003/09/10(水) 05:24
- 急がず止まらず、まず自分達の入ってきた入り口の安全を確認する。
そして廊下の、市井とは反対側の角に着くと、一瞬頭を覗かせる。
先には誰も居ない。左側に扉が一つ。この先の廊下は左へ折れている。
(この廊下…四角なんかな)
中澤は、ふと市井の方に目をやった。すると市井も振り返る。
(なんや)
突然、市井は中澤の方へと駆け出した。
戸惑いながらも援護態勢を取る。
市井の音を立てない走りに感心したが、それよりもその行動が不可思議に思えた。
合流すると、また二人で角に隠れる。
「ゾンビじゃなかった」
「どんなヤツや?」
「右腕が刀みたいな白いヤツ、3メートルはあるね…そろそろ見えるよ」
嫌な予感がした。
「ほら」
左目で一瞬だけ捕らえたその姿に、中澤は予感が現実のものと知った。
間違い無く、自らが対戦車砲で粉々にした化け物だ。
「知り合い?」
顔をしかめた中澤の様子を伺って、市井が聞いた。
「アイツ倒すにはな、バズーカが要んねん」
- 400 名前:偽 投稿日:2003/09/10(水) 05:25
- (アイツ、こっちには気付いてないようや、ならやり過ごせるか…)
予備マガジンを取り出す市井に、中澤は手で『待て』と合図をした。
現在、『カタナ』との距離は20メートル。両手を下ろして進行中だ。
矢口からの情報によれば、筋肉組織に対して銃弾は成果をあげない。
弱点は剥き出しの心臓部と聞いたが、『カタナ』の胸には機械が埋め込まれている。
防御能力も持ち合わせているはずだった。あきらかに部が悪い。
だが、中澤は一つの仮説を立てた。
(この通路が四角くなってんなら、なんでこっちに来た?うちらを殺りに?
それなら、さっきの角で一気に距離を詰めたんちゃうか?しかしゆっくり歩いていた。
それは目標がウチらには無く他の何か…ヤツは、階段に向かってんのと違うか)
答えが出る時には、距離は半分になる。戦うにしても逃げるにしても、危険な距離だ。
市井は中澤を見つめたまま、じっとしていた。
(肝の座ったやっちゃなぁ)
- 401 名前:偽 投稿日:2003/09/10(水) 05:27
- さげの使い方ってあってんのかと疑問…
- 402 名前:偽 投稿日:2003/09/11(木) 05:16
- 程なくして、二人は安堵の溜め息をつく。
中澤の予想通り、『カタナ』は階段の方へと進んで行ったのだ。
気を取り直して自己紹介の再開といきたかったが、その前に中澤は地形の把握に努めた。
通路はやはり四角くなっていて、階段への入り口と、
『廃棄物処理班−第3分室』と書かれている破壊された鉄扉が1ヶ所、
中は休憩所兼仮眠室のようで、やはり頭部の無い職員らしき人物の死体が1体倒れていた。
『カタナ』が通った通路には大きな窓が設置されており、巨大ワニに襲われた処理場が見えた。
最後に見つけたのがカードキー式の鉄扉だったが、
白衣を着た研究所職員らしき死体が間に挟まれ扉は開きっぱなしになり、
警報を伝えると思われるランプが点滅していた。
扉の先は100メートルはある長い廊下になっている。
案の定、死体の頭部は失われていた。
(殺ったヤツは事情を知ってる人間で間違い無いな…ちゅうことは、すぐに戻ってくるいう事…)
- 403 名前:偽 投稿日:2003/09/11(木) 05:17
- 中澤は出来るだけ警戒を押さえて、写真を撮っていた市井に尋ねる。
「自分なんで追ってきたん?」
「…ああ、下はどこも隔壁が降りてて行き止まりでさ、私はエレベーターで上がって来てたから、
裕ちゃんの後を追う形になったけど、思い出せて良かったよ。敵だったらまた戦う事にって…」
「…上がってきた?」
「うん、来た時は動いてたからね。事実なんだけどここに侵入している部外者は結構いるんだ」
「事実?」
「私達は水路からボートで来たんだけど…
途中で門みたいな場所が幾つかあってね、全部解放されてた。
あ、私達ってゆうのは通信社の同僚。5人で来たんだ…。
今日は様子見のつもりだったんだけど、あまりにも警備が手薄で深入りし過ぎたよ。
気付いたら退路を断たれてて、周りはマスクを被った警備隊。
降伏しようとしたら撃ってきやがった。必死で逃げ出してさ、
警備隊が少なくなったと思ったらバケモンに襲われて、傭兵みたいなヤツに殺されかけて…
- 404 名前:偽 投稿日:2003/09/11(木) 05:17
- 逃げてる途中のいたる所で、誰かと誰かが戦ってた…。
私はとにかく外を目指して【B2】に辿り着いたってワケ。これは推測なんだけど…」
市井は言葉を切って中澤を見る。
傭兵という言葉に引っかかりを感じたが、中澤は頷いて先を促した。
「裕ちゃんがこの施設来たのは何時くらいなの?」
「23時前後やな」
「私が起きた後だね」
「起きた?」
「え?ああ…夕方にちょっと仮眠してさ、4時間ほどね。
私達が来たのは午前6時なんだ。それ以前にさ、
ウィルスが漏れるような事故かテロかで、一度電源が落ちてるんじゃないかと思うんだ。
でも電源は復旧してる。
誰かが電気を消して歩いてるとは考え難いから、たぶん、
誰かが通った場所だけ電気が点いているんだよ。裕ちゃんが点けたようにね。
でも私達は何も動かしていないんだ」
「自分…朝6時からここにおるんか?」
「お陰で全員に別れのあいさつができたよ」
市井の乾いた笑いが胸を締め付けるようだった。
- 405 名前:偽 投稿日:2003/09/11(木) 05:18
-
彼女は一日中、この戦場で仲間を捜し続けたというのだ。
仮眠というより、ダウンしたのだろう。
「よう無事やったなぁ」
他意を持たず、中澤は素直にそう思った。
気を取り直すような明るい笑顔で市井は立ち上がり、カメラを銃に持ちかえて言った。
「まぁとにかく、私は早く外へ出たいんだ。一刻も早くこの事件を報道する義務がある。
街で起きてる怪事件や、おかしな怪物の目撃証言の真相がこれってワケさ。
住民の避難、ゼティマ社の徹底捜査、怪物の掃討作戦、
その最前線で報道することが、何よりの弔いになるはずだからね!」
その笑顔に中澤は申し訳無いという思いに駆られる。
「それがなぁ…」
おそらく彼女が街を出た時には、事態は今程深刻では無かったのだろう。
中澤は銃を構え、廊下を進みながら自分が街へ来た時の状況を説明した。
- 406 名前:偽 投稿日:2003/09/11(木) 05:19
- この街の玄関口にあたるファミレス、街道のタンクローリーの事故現場、
そして街のいたる所で見かけたゾンビ化した住民達、R署はもぬけの空で、
避難を促す市内放送もなく、警察庁も情報を掴んでいなかった事、
真相はともかく、朝5時には警察庁公安部特殊捜査機動隊が、そしてその前に
自衛隊の北部方面隊が到着して事態の収拾に当たる筈であることを付け加えた。
「予想以上の展開だね」
その表情は憂いだろうか、この街を襲った悲劇に心からの同情と怒りをみせた市井の感想だった。
突き当たりの、例によって破壊された鉄扉を潜り抜け、
『廃棄物処理班−第2分室』と書かれた部屋の前まで来ていた。
無言で部屋に侵入した二人が見たものは、荒された形跡のある書類の山と、
頭部の無い死体が8体…。
凄惨な光景に胸焼けを覚えたが、辛うじて踏み止まる事が出来たのは、
腐敗臭が殆ど感じられなかったからに他ならない。
- 407 名前:偽 投稿日:2003/09/11(木) 05:20
- この施設の換気システムがこれほど徹底されたもので無かったら、
間違い無く嘔吐を止められなかっただろう。
すぐに部屋を出て、互いにカヴァーしつつ先を急ぎながら、市井が続けた。
「これだけの最新設備を持った施設からウィルス漏れなんて、考えもしなかった。
地下水は街では使われていないし、空気感染の疑いは無い。私が感染していないからね。
非常灯の点いた状態でも、研究所内の動力は殆ど失われていないのに…一体どうして…」
中澤も同じ事を疑問に思っていた。
先程の部屋のコンピューターも動いている様子だったし、この施設が出来てからの10年間、
ただの1度もトラブル騒ぎは起こしていない。少なくともR署に記録されるような事は無かったのだ。
「解らなん事だらけやなぁ…」
「フフ…もう疲れちゃった?お歳なんじゃないの〜♪」
ワザと小馬鹿にするような言い方が、妙に優しく感じられて噴出しそうになった。
- 408 名前:偽 投稿日:2003/09/11(木) 05:23
- 「自分、撃つで?ほんま。まだ28なったばっかやっちゅうねん」
「10コ違うんだ…へぇ〜」
「さっきのプールで泳ぎたかったんか?落としたるよ?」
「もっと若いかと思った」
「…一緒に生きて帰ろうなぁ」
だいぶ進んで来た二人は、扇形をした広いエレベーターホールに出た。
先程落とした自動車運搬用のエレベーターとは違い、サイズは一回り小さい物のようだった。
その正面に破壊された鉄扉が見える。
目を凝らした中澤は、入り口の奥で何かが動くのを見た。
即座に市井の行動を停止させ、警戒するよう表情で合図を送る。
しばらくぶりの緊張が二人を支配する。
了解した市井が、壁を背にして低い姿勢を取りガバメントを構えた。照準は扉付近だ。
そのキリングゾーン(銃弾の通る直線上の範囲)に被らないよう注意しながら、
中澤は静かに入り口へと踏み出す。
その瞬間、入り口の奥から緑色の塊が中澤目掛けて襲いかかってきた。
- 409 名前:偽 投稿日:2003/09/11(木) 05:25
- あは♪しくじった…
- 410 名前:ハルカ 投稿日:2003/09/22(月) 16:55
- 初めましてです。
前の作者さんの時から読んでたんですけど、放棄っぽかったから諦めてたんです。
作者さんが代わっても、全然それを感じさせない感じなので嬉しいです。
頑張ってくださいね!応援してますから。
- 411 名前:そーま 投稿日:2003/10/23(木) 01:58
- そろそろ保全・・・か?
- 412 名前:川口(パリ日体育教師) 投稿日:2003/10/26(日) 02:35
- 松浦 亜弥大好きなんです!かわいいし!もう、メロメロ!
- 413 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/26(日) 03:39
- 偽さんも放棄か…
- 414 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003/10/26(日) 09:56
- 勝手にリレー小説にしてしまいましょう。
というコトで、次に書く人求む。
- 415 名前:ECLIPTIC 投稿日:2004/02/29(日) 08:05
- 『ギシャーーーーー!!!』
猿のとも何とも付かない雄叫びを上げて中澤に襲い掛かってきた緑色の塊は、そのまま彼女を押し倒す。
「何さらす!こいつ!?」
組み敷かれた中澤が緑色の猿と取っ組み合いになりながらも、右手のベレッタを握り締めトリガーを引く。
9mm弾は緑色の猿の皮膚に命中するも猿は動じる事無く、さらに雄叫びを上げ、
手先の鋭い鉤爪を振り上げる。その先には赤い液体がこびり付き僅かに滴り落ちている。
恐らく今までの首無し死体は、これによるものだったのだろう。
自分もそれらの仲間入りをするのを覚悟した中澤だが、猿が鉤爪を振り下ろそうかと言うときに、
市井がガヴァメントを発射。その銃弾が猿の右目に命中し、緑の猿は中澤を組み敷くのを忘れ、喘ぎ苦しむ。
- 416 名前:ECLIPTIC 投稿日:2004/02/29(日) 09:00
- 「大丈夫、裕ちゃん!?」
なおも猿に対して銃撃を続ける市井。
「あかん・・・こいつには拳銃はきかへん・・・私の9パラじゃびくともしーへんかった!」
立ち直った猿が再び飛び掛る姿勢になる。
(どーしたら、ええんや?紗耶香のガヴァメントの45ACP弾でも効かないとなると・・・)
たじろぐ彼女の目に、エレベーターの中に落ちているモノが見えた。
飛び掛ってきた猿の攻撃を転がって交わし、そのままエレベーター前に移動する。
ブーツを履いた脚で半開きのドアを蹴り開けて中に滑り込むと、床に転がっているショットガンを取り上げて構える。
「大人しくしいや!エテ公!!!」
三度、中澤に飛びかかろうとしていた猿に12ゲージ散弾を御見舞いする。
飛び上がっていたそれは散弾を全身に受け、床に叩きつけられる。
「ナイス!裕ちゃん!」
すかさず、市井が頭部へ銃弾を叩きこみ、緑色の猿は全身から血を流し雄叫びを上げ絶命する。
- 417 名前:ECLIPTIC 投稿日:2004/03/01(月) 17:51
- 「まったく・・・こんなヤツが研究所内うろついとるなんて・・・ゼティマの管理態勢はどないなっとんねん?」
中澤が文句を口にしながら構えを解き、新たに手にしたショットガンをポンプアクションをしてリロードする。
それは中澤の指揮するHELLOでも使われているベネリM3、ただしストックが無いため反動は大きい。
「まあ、街中をゾンビだらけにするような会社にまともな管理態勢なんてとれっこないでしょ」
市井がガヴァメントのマガジンを装填し直しながら言う。
「それにしても、もうちょっと早く援護出来んかったん?もうちょっとで私の綺麗な顔が飛ぶとこやったで」
「いやー、あんなに密接した状況じゃ狙いを上手く付けないと裕ちゃんに当たっちゃうじゃん」
「とりあえず、ここに居るのはゾンビだけや無いってことやな・・・装備の確認しといたほうがエエな・・・」
「そうだね・・・」
二人は安全を確認した廃棄物処理班第1分室に入り装備を再点検し始めた。
その部屋には死体が無く、ゾンビに襲われる心配と死体を見なくて済むことが幸いしていたからだ。
- 418 名前:ECLIPTIC 投稿日:2004/03/01(月) 18:59
- 中澤が持っている武器は手にしているM92Fが一丁に予備の9パラ弾が75発。
太股のホルスターに差し込んであるオートマグV、予備の30口径弾は16発。
それと先程エレベーター内で手に入れたショットガン、ベネリM3。
バースト機能の付いたM93Rは先程の戦闘の際に壊れてしまっていた。
他にC4プラスチック爆弾と信管、ジャックナイフやペンシルライトと言ったもの。
あとは無線機やR市内の地図、紺野があらゆる手段を通じて入手したBOWに関する情報のメモ。
一方の市井はガヴァメントが1丁、予備の弾薬は無くなってしまったため、
警備員の亡骸などから取り出した、USPと予備の弾薬が45発。
他にはカメラとフィル等と言ったものだ。
- 419 名前:ECLIPTIC 投稿日:2004/03/01(月) 21:27
- 「さてと・・・ごっちんと合流しんといかんな〜。グレネードランチャーとか持たしたるけど、素人じゃ心配やしね」
ストラップを使ってショットガンを背中にかけながら呟く。
後藤には荷物持ちをさせていたため、彼女が強力な火器の殆どを保有している。
しかしただの女子大生の後藤にグレネードランチャーのような重火器を扱えるかどうかだ。
結局のところ、後藤と合流し重火器を確保するのが中澤にとって最良なことになる。
「裕ちゃん見てよ、これ」
室内を物色していた市井が中澤を呼び寄せ、紙切れを一枚差し出す。
何かの報告書の裏に手書きで乱れた筆跡の文が記されていた。
- 420 名前:ECLIPTIC 投稿日:2004/03/01(月) 21:46
- 『8/10
ちくしょー あの長髪の女め。本社の人間だなんて言って中央研究室に入ったとたんに、
所長や研究員、私の同僚達を涼しい顔して全員射殺しやがった。その後カプセルに入れていた商品を全部解放したらしい。
警備員や社員が次々とそれにやられていったようだ。私もハンターに傷を負わされて、この部屋に逃げ込んだが・・・
8/11
何とか助かった。応急医薬品で傷を手当てして丸1日ほど眠っていた様だ。
もう、この施設には私以外生きた人間は居ないのかもしれない。ドアの外からは人間が這いずる音しか聞こえない・・・
恐らく感染してゾンビと化したかつての同僚達だろう。さっき隙を見てエレベーター等を見てきたが全て電源が落ちている。
あいつらがセキュリティシステムでシャットダウンしたんだろうか?階段は使えそうだが途中でやつらに遭遇する危険がある。
幸い搬入用大型エレベーターは警備員用のIDカードで非常停止時も起動することが出来る。
それで最地下搬入室へ行き下水道へ通じる道を使うか運搬列車で脱出するかだ。
搬入用大型エレベーターを動かすには2階の警備室でIDカードを使えば良い。
他に生き残っている者のために起動コードを書いておく。31876-bbdh
連絡通路を通った先にある階段を上れば警備室には一番早く付けるが、果たして手持ちの銃だけで事足りるか・・・
R市研究所警備次長ーーーー』
- 421 名前:名無しさん 投稿日:2004/03/01(月) 23:30
- お、2代目偽さん、乙
人の小説引き継ぐのって難しいと思うけど、頑張って完話目指してね
- 422 名前:ECLIPTIC 投稿日:2004/03/02(火) 05:02
- >>421
レスどうもです。
先代2人の話しを上手くこじつける様に書いていきます。
とりあえず中澤・後藤・市井編を書いて行ってみます。
コソーリとsage更新で。
- 423 名前:ECLIPTIC 投稿日:2004/03/02(火) 18:24
- (長髪の女・・・飯田か?)
警備次長の書き置きを読み終えた中澤は、かつての隊員にしてゼティマの刺客だった飯田の事を思い起こしていた。
(ここをこんなんにしたのが飯田だとすると、何の目的があったんや・・・?)
考え込んだ中澤だが後藤の事が今は先決だと、書き置きの紙をタクティカルベストのポケットにしまう。
「裕ちゃん、どうする?これだと、地下にも脱出ルートがあるらしいけど・・・?」
「そうやな・・・一応、仲間にここの屋上に迎えに来てもらう様に手配はしてあるんやけどね。
これだと列車で安全に脱出が出来そうでもあるけどな〜・・・あ、でもごっちんも心配やし・・・」
「私が見つけたここの見取り図があるけど、連絡通路ってのは死体が挟まってるドアの先に有る長い通路みたい。
で、その先にある階段を上がって行くと1階の玄関ホールにも出れるらしいよ」
「お、そうなんや!だったらごっちんを迎えに行って、とりあえず警備室に行って屋上に行く道と地下の脱出ルートを確保する方法を考えよっか?」
「異議無し。武器も新たに揃ったしね」
中澤がショットガン、市井が拳銃を構え廃棄物処理班第1分室を出て、連絡通路へと向かう。
途中、警備員の亡骸からIDカードを抜き取り、搬入用エレベーターの起動手段を手にする。
- 424 名前:ECLIPTIC 投稿日:2004/03/02(火) 18:45
- 連絡通路に通じる鉄扉は相変わらず研究員の死体が挟まったままになっている。
その死体をまたいで2人は連絡通路に入る。
中は小さなトンネルの様な作りに成っていて金属製の壁で囲まれ、天井には所々でハロゲン灯が点灯している。
2人が通路を歩き始めて間もなく、後ろで扉が閉まる音が響いた。
とっさに振り返った2人は、今まで倒れていた研究員の死体が起き上がって来るのを目にした。
立ち上がった彼女は皮膚が腐食し肉と血が入り混じった皮膚が際立ち、目は白一色で生気が無い。
見に付けているスーツと白衣だけが辛うじて生前の面影を残す程度である。
「ここは私に任せて」
市井がUSPを構えて、元研究員に狙いを定める。
「こいつらは頭部撃つと早く始末できるで〜」
中澤がショットガンで援護態勢を取りながら市井にアドヴァイスする。
「それぐらい、もう解ってますよ・・・」
慎重に狙いを付け40S&W弾を撃ち出す。3発目の弾丸を頭部に受けた元研究員はついに倒れこむ。
その頭部は殆ど原型を留めておらず、髪の毛と肉片が複雑に絡み合う有り様と化していた。
- 425 名前:ECLIPTIC 投稿日:2004/03/03(水) 20:58
- 2人は通路を抜け突き当たりの扉を開ける。中は吹き抜け状に階段が設置されている。
「上には何もいなさそうやな?」
ショットガンを上に構えながら中澤が市井に言う。
「そうだね、このまま1階まで昇っていこうか」
薄暗い明かりの中、2人は階段を上がって行き1階の踊り場に何も異常が無いのを確認して、扉を開ける。
玄関ホールは2階まで吹き抜け状に作られていて、内装はそこらのオフィスビルと大差無い作りだ。
正面のドアは先程、中澤がグレネードを撃ち込んだ時に燃え上がって黒ずんでいる。
「さてと・・・ごっちんは何処にいるんや〜?」
中澤はホールの奥に続く通路の先にシャッターが降りているのを見つけた。
(あそこや、あの先で私とごっちんが別れたんや)
しかし、その先に後藤の姿は無い。
「ここら辺にごっちんが、おるはずなんやけどな〜・・・」
「あ、居た・・・」
市井があっさりと言う。
- 426 名前:ECLIPTIC 投稿日:2004/03/03(水) 21:09
- 「へ、どこ?」
「あそこのソファーの上で寝てる・・・」
市井が指差した先には応接セットが置かれていて、その中の2人がけソファーの上で後藤が丸くなっていた。
その近くの壁にはハンターの死体が転がっている。
「ごっちん!」
「後藤!」
2人が駆け寄り、後藤を揺り起こす。
「んあ〜・・・あ、裕ちゃん・・・それにいちーちゃんも」
「あんた、こんなとこで良くねとれるな〜・・・」
「この化け物って後藤がやっつけたの?」
「ん?ああ、いきなり上から襲ってきたから、裕ちゃんが使ってたヤツで黒焦げにしちゃった、アハ!」
「よう、グレネードランチャーなんか使えれたな〜」
- 427 名前:ハルカ 投稿日:2004/03/07(日) 16:07
- 再会されてる〜!ひそかに読みますんで、頑張ってください!
- 428 名前:ECLIPTIC 投稿日:2004/03/07(日) 21:19
- 1階ロビーにて再び後藤と合流した中澤は市井と共にゼティマR市研究所、さらにはR市からの脱出をどうするかで協議していた。
「朝まで待てばなっち達がヘリでここの屋上まで迎えに来てはくれるんやけど・・・」
「だけど、この中もゾンビを始めゼティマの商品らしい化け物がうろつき回っている・・・」
「んあ〜・・・かといって外に出るのも危険だしね〜・・・」
「「「ハア・・・」」」
3人揃ってため息を付く。
「とりあえず、HELLOに連絡取ってみるか・・・」
中澤は衛星回線と繋ぎ合わせた携帯電話を用いて東京の本庁へ連絡を取る。
『はいよー。HELLO本部だよ〜』
受話器越しに聞こえた声は、およそ警察庁特殊機動隊の応対とは思えれないものだった。
が、それが中澤に取っては最も愛らしい存在なのである。
「矢口か?私や」
『オー!裕子!?まだ、R市に居るのか?それより何で私だけ東京で留守番なんだよー!?』
- 429 名前:MUSUME。 HAZARD2(by ECLIPTIC) 投稿日:2004/03/07(日) 21:48
- 「そんな事ゆーたってあんたはまだ怪我が治りきってないやろ。なんやったけ・・・私のカゥワイイ矢口を痛め付けた手が刀みたいなでっかいの・・・」
『タイラント・・・?』
電話の向こうで矢口が一瞬息を呑む。
「そうや、そいつがここにもうろついとった。私も襲われたけど何とか仕留めた。けど、怪我してるあんたが、またあいつと渡り歩いてやっつけれるか・・・?」
『・・・そうだよね・・・今のオイラじゃとても手が出せないよね・・・ありがとう。裕ちゃん・・・』
「だから、あんたはそっちで紺野と一緒に情報を集めておいてや。それと加護の面倒もな?」
『任しておいてよ。私はこっちで出来る限りの事をするから。なっち達はさっき出動したよ。
調布からチャーターしたビジネスジェットで帯広空港まで飛んで、そこからは道警のヘリを借りてあるから松浦が飛ばすって』
「そっか、あの娘が居てくれてほんま良かったわ。今のHELLOでヘリを飛ばせるのは松浦だけやからね」
第3小隊唯一の生き残りである隊員、松浦亜弥。彼女はヘリ操縦免許の他にアメリカ海兵隊にてサヴァイヴァル訓練を受けた経歴も持つ。
その強みが、2ヶ月前のクマネシリ山中の悲劇から彼女を無事に生還させたのだ。
- 430 名前:MUSUME。 HAZARD2(by 投稿日:2004/03/07(日) 22:18
- 「とにかく、なっち達には帯広に付いたら連絡するよう伝えてもらえるか?こっちの様子じゃいつでも連絡出来るって感じじゃあれへんしさ」
『了解、なっち達への連絡は任せておいて。あてに成るかは解らないけど政府からの指示で陸自も動き出したらしいよ。とりあえずは災害派遣と言う形らしいけど』
「確かに、これも災害やけどな〜・・・陸自が出る言うても精々、街の周りを閉鎖するぐらいやないんかな〜」
『それと・・・陸幕2部の彩っぺ聞いたんだけど、この事に関して米軍も動き出してるみたいだよ』
「アメリカ軍がか?彩っぺはなんて言ってるんや?」
彩っぺとは陸幕二部に所属する石黒彩三等陸佐の事であり、中澤が以前に参加したカルト教団による毒ガステロの捜査の際に自衛隊代表として中澤達と顔を合わせて以来、特殊活動を行うHELLOに対して自衛隊の持つ情報の提供や協力を行っている間柄である。
『うん、三沢基地がにわかに戦時態勢並に活気付いてるって言ってたんだ。とりあえず、今の状況はそんなところかな。私からも何か有ったらすぐに連絡するよ』
「うん、頼んだからな。それじゃあ、ごっちん達とどうするか話し合ってる途中やから、一旦切るわ」
衛星携帯電話を切った中澤はタクティカルベストのポケットに電話を仕舞い込み、ショットガンを構え直す。
- 431 名前:MUSUME。 HAZARD2(by ECLIPTIC) 投稿日:2004/03/08(月) 01:46
- 「そう言えば、あんたらって知り合いなんやったっけ?」
USPを構えた市井とM79グレネードランチャーを持った後藤に中澤が問い掛ける。
「ああ、後藤と私は同じ大学の先輩後輩の間柄でさ」
「いちーちゃんは春に卒業して通信社に入ったんだよね〜」
「ま、入ったと言っても契約だからね。何かスクープを持って行かないとすぐに契約切られちゃうからさ。その矢先にR市郊外での連続猟奇事件を耳にしてね。ゼティマが怪しいと睨んだ私達は取材のために昨日、R市に入ってこの研究所に忍び込んだってわけ」
「・・・あんたが昨日、市内に入った時の街の様子はどうやったんや?」
「私達は市内に流れ込んでるクマネシリ川上流の帯広郊外からボートで直接、ここに乗り込んで来たんだ。だから、実は街の様子は見てなかったんだ〜・・・」
「そっか〜・・・警備次長の書き置きによると十日前に、ここが長髪の女に滅茶苦茶にされたっちゅーことらしいから、その間にゴーストタウンと化したんやろうな」
その時、玄関ホール奥の通路を塞いでいたシャッターが甲高い音を立てて何かに引き裂かれ始めた。
「な、なんや!?」
焦りながらもショットガンを音源の方向へと向ける中澤。
「あの、刀みたいな腕は・・・」
USPを慎重に構える市井。
「な〜に〜!?あんなゾンビまでいるの〜!?」
おぼつかない手突きながらも腰だめでM79を構える後藤。
そして、ついにシャッターが破られ、それが姿を表した。
ゼティマ開発コード、タイラント。2ヶ月前に中澤が対戦車バズーカーで木っ端微塵に吹き飛ばしたはずの怪物。
3人を挑発するように右腕を突き挙げたタイラントは驚異的な運動力を発揮して跳躍をすると、3人との間合いを一気に縮めた。
- 432 名前:MUSUME。 HAZARD2(by 投稿日:2004/03/08(月) 01:59
- 訂正
「私達は市内に流れ込んでるクマネシリ川上流の帯広郊外からボートで直接〜
>>「私達は市内に流れ込んでるクマネシリ川下流の帯広郊外からボートで直接〜
- 433 名前:名無し読者 投稿日:2004/03/09(火) 14:53
- すっげおもしろいです!
- 434 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/16(火) 01:01
- 密かに読んでます
がんばってくだちぃ。
- 435 名前:MUSUME。 HAZARD2(by ECLIPTIC) 投稿日:2004/03/18(木) 06:42
- >>433、434サソ
レスどうもです。
この後の展開は列車か下水道から脱出かで悩んでますが何とか考えてあります。
集中できる時間が出来たら極力投稿していきます。
- 436 名前:偽 投稿日:2004/03/20(土) 17:51
- 雑談test
- 437 名前:偽 投稿日:2004/03/20(土) 18:15
- あの… ごっちんを合流させてくれてありがとうございます
自分の展開だといつまでたっても合流できず、行き詰まっていたので感動も一入でした
書くって実際、大変ですね… なんて無責任で申し訳ありませんですです。。。
- 438 名前:MUSUME。 HAZARD2(by ECLIPTIC) 投稿日:2004/03/23(火) 05:15
- 超人的な跳躍で3人との間合いを一気に詰めたタイラントは右腕を突き上げて雄叫びを上げる。
「あかん、みんな離れるんや!」
中澤がショットガンを1発発射して後ろに走り去る。
市井と後藤もタイラントから距離を取ろうと走り去る。
そのタイラントは正面に居る市井に狙いを付けたらしく、右腕の鉤爪を彼女目掛けて振り上げる。
「クソ!こっちくるなよ!」
USPを乱射するも、40S&W弾は怪物の皮膚には応える様子が無く大きな鉤爪が市井をなぎ払う。
「あう!・・・」
峰打ちの形でなぎ払われた市井だが、その衝撃は凄まじくホール内の壁まで突き飛ばされ叩き付けられた。
「んあー!市井ちゃんを虐めるな〜!」
怒りに燃えた声で後藤が言うや否や、M79に装填されていた榴弾をタイラント目掛けて発射した。
背中に榴弾が命中し仰け反り倒れたが、数秒で再び起き上がり今度は榴弾を放った後藤に狙いを付ける。
- 439 名前:MUSUME。 HAZARD2(by ECLIPTIC) 投稿日:2004/03/23(火) 05:26
- 「んあ〜!こっちくるな〜!」
グレネードランチャのトリガーを必死に引くも、M79は1発づつしか装填出来無いため中は空になっている。
「ごっちん!」
タイラントに迫られる後藤にショットガンで援護射撃を加えるも、タイラントに12口径ショットシェルは応えない。
その間にもタイラントは後藤を左手で掴み上げて右手の鉤爪を彼女の小さな体に突き立てようとする。
「イヤー!!!裕ちゃん助けて〜!!!」
後藤の悲痛の願いを立ち切るかの様に、3発目を撃ったところでM3の散弾は弾切れを起こした。
「クソ!予備のショットシェルなんてあらへんで!」
空になったM3を投げ捨てると、太股のホルスターからオートマグ3を取り出す。
「こいつは強力なんやけど衝撃がな〜・・・」
そうぼやきながら大股に構えを取ると、タイラントの背中に向けて30口径弾を見舞う。
付き抜けるような発射音と同時に、中澤を後ろに仰け反らせるほどの発射衝撃が襲う。
- 440 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/03/26(金) 18:09
- 続きはどうなるんすかーーー??
- 441 名前:MUSUME。 HAZARD2(by ECLIPTIC) 投稿日:2004/04/02(金) 01:05
- 発射の反どうで仰け反った中澤だが、すぐに態勢を立て直す。
狙いを絞りに絞って発射されたオートマグVの30口径弾は、
タイラントの左手に掴み挙げられている後藤が付けたグレネードによる傷口を捉えていた。
背中の僅かな傷口に過ぎなかった切れ目に命中した30口径弾によってタイラントは、今度こそ仰向けに倒れた。
掴み上げられていた後藤も倒れるタイラントの胴体をブーツで蹴り上げ、その手から逃れると市井の下へと駆け寄った。
「いちーちゃん!大丈夫!?」
「う・・・ぐあ・・・」
気絶していた市井は中々目を開かない。
「いちーちゃんにこんなことしてー!」
背負っているバックパックから榴弾を取り出し再びM79に装填する後藤。
「ごっちん、無理せんとコイツは私に任せしいや!」
倒れているタイラントの頭部に再び中澤はオートマグVを発射する。
- 442 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/04/08(木) 14:34
- ひっそりと応援してまつ
がんがってくだちぃ
それにしても、オートマグVとはシブイですな
- 443 名前:MUSUME。 HAZARD2(by ECLIPTIC) 投稿日:2004/04/14(水) 16:31
- 放たれた30口径弾はタイラントの後頭部に当たり鮮血を迸らせる。
頭部が砕けているにも関らず、怪物は再び立ち上がり鉤詰めを振り下ろし中澤に狙いを付ける。
「まだやるのか・・・?私の腕ももう限界やっちゅうねん!」
起き上がって再び跳躍を駆使して中澤に鉤詰めを振り下ろそうとしたタイラントだが、
中澤はその動きを見切ってタイラントの腕が振り下りてくる方へと前転して回避する。
タイラントの背後に転がりでた彼女は片膝を付いてオートマグVを連射する。
頭部、背中を中心に5発の30口径弾を受け、流石の怪物も血塗れになり崩れ落ちた。
- 444 名前:MUSUME。 HAZARD2(by ECLIPTIC) 投稿日:2004/04/18(日) 22:57
- 「クタバレー!怪物!」
後藤がM79に装填した榴弾を崩れ落ちたタイラントに向けて発射する。
頭部に直撃した榴弾の爆発でタイラントの頭は完全に砕け、飛び散った。
あとには顎から上がミンチと化した巨体が転がるのみとなった。
「やったな・・・ごっちん・・・」
一息ついて中澤はオートマグVの構えを解き、太股のホルスターに大型拳銃をしまう。
「一体、学校でどんなこと勉強してるんだよ〜?」
意識をはっきり取り戻した市井もUSPを拾い直し弾丸を再装填しながら笑顔で後藤に言う。
「んあ〜。裕ちゃんがさっき玄関を壊そうとしてたの見て真似してみたの♪」
「まったく、あんたには恐れ入るで〜」
3人はエントランスから階段を上り、吹き抜け2階部分へ行くと警備室を目指した。
途中でゾンビ、ハンターに数匹出くわしたものの、
暴君を打ち倒した彼女らの前には手も足も出ずに駆逐されて行った。
- 445 名前:MUSUME。 HAZARD2(by 投稿日:2004/04/21(水) 02:17
- 3人はエントランス吹き抜け2階部分から東と北に伸びる通路へと出た。
2階からは更に電気が暗くなっており、辛うじて火災報知器の灯りが見えるぐらいである。
「暗いな〜・・・えっと・・・警備室はどっちや?」
タンクトップの上に本場アメリカのSWATでも使用されているタクティカルベスト、
ジーンズにアタッチメントポケットの付いたベルトをし、黒のブーツにジーンズの裾を入れた出で立ちの中澤は、
ベレッタM92Fのバレル下部にペンシルライトを取り付けながら呟いた。
「東通路を進んで角のところにあるみたいだよ」
グレーのパンツスーツに足元は編み上げブーツを履き、ナップザックを背負いさながら出勤中のOLとも思える出で立ちで、
USPと懐中電灯を構えた市井が言う。彼女はボートで潜入する時から、R市研究所の見取り図を頭にインプットしていた。
「よ〜し、早く行こうよ。そこいって何か食べさせて〜♪」
M79を構え、ライダージャケットに脚の付け根で切ったデニム短パン、そしてベージュのロングブーツを履いた後藤が、
その手に持つグレネードランチャーとは似つかわしくない台詞を言う。
東通路へ繋がるドアには電子ロックがかかっていたが、
「面倒くさいからこれでぶっ飛ばしちゃおうよ、アハ!」
と平気な顔をして言う後藤の提案は二人に却下されたが手近にあった小火器や観葉植物の鉢などを、
ドアに投げつけてガラスを割り、東通路へと3人は侵入した。
少し進んだとこにある火災報知器のあたりで、水の滴る音が聞こえてきた時であった・・・
- 446 名前:MUSUME。 HAZARD2(by ECLIPTIC) 投稿日:2004/04/21(水) 13:23
- 訂正&レス
手近にあった小火器や観葉植物の鉢などを〜
>>手近にあった消化器や観葉植物の鉢などを〜
>>436偽サソ
どうもお疲れ様でした。設定などは極力踏襲して書いてみたつもりですが・・・
ごっちんとの合流は盛り上がりも無く飄々としてしまった気もしますがね(w
>>440サソ
タイラントVS中澤・市井・後藤はこんな感じになりました。
ゲーム中もショットガン数発、グレネード1発、マグナム8発ぐらいでやっつけれたと思うので、
タイラントはここで下手捌け〜。です(w
>>442サソ
応援ありがとうございます。ヒソーリと書き上げて行きまつね(w
オートマグVはシリーズ中に出て来てはないですけど、シルエット的に好きなんで中澤さんの愛銃にしてみました。(グリップにはHELLOの刻印付きw)
この時点での各自の所持品を書き出すと・・・
中澤-ベレッタM92F、オートマグV、C4プラスチック爆弾
市井-H&kUSP40、M1911コルトガヴァメント
後藤-M79グレネードランチャー、グロック17
と言ったとこですね。警備室で新しいの入手させよかな〜。
- 447 名前:MUSUME。 HAZARD2(by ECLIPTIC) 投稿日:2004/06/07(月) 18:48
- 「何の音や・・・?」
「さあ・・・こんなとこで水漏れ・・・?」
と、市井が中澤に応えた時であった。
東通路の曲がり角から閃光が走ったかと思うと、銃撃音と共に複数の悲鳴が響いてきた。
- 448 名前:MUSUME。 HAZARD2(by ECLIPTIC) 投稿日:2004/06/07(月) 18:55
- 「!」
「!」
「!」
3人は一斉に手にしている銃器を構える。
銃撃音と悲鳴は唐突に収まり、静けさが通路には戻っていた。
「まだ、誰か生き残りがおったんやな・・・」
ベレッタに取り付けたペンシルライトで通路の先を照らした状態で中澤が呟く。
「けど、おそらくもう・・・」
市井が言い、垂れている前髪を上げてUSPの狙いを付けやすくする。
「や〜だ〜・・・何でこんなのばかりいるの、この街は?」
半分、恐怖に押し潰されかけながらも、後藤はグレネード・ランチャーを構える。
- 449 名前:MUSUME。 HAZARD2(by 投稿日:2004/06/07(月) 19:02
- 曲がり角の先から人影らしきものが投げつけられて、3人の前方の通路に落ちる。
その人物は胸部に貫通した穴が開いて目に生気は無い。
服装を見ると兵隊の様ではあるが自衛隊や米軍とも全く異なる出で立ちであるのを、
中澤と市井はすぐに気付いた。恐らくはゼティマの傭兵であると。
「ひどいな・・・どんな化け物がいるんや・・・」
ぼやいた中澤に通路の先から以外な返事が返ってきた。
「化け物だなんて、ひどい言い方じゃないですか。中澤さん」
「石川!?」
- 450 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/28(月) 09:19
- 市井にMP5を持ってこの台詞を言ってもらいたいでつ
「銃身が焼け付くまで(ry」
似合う気がするです・・・
作者さんの気が向いたらお願いします
- 451 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/08/01(日) 02:02
- それならM60A3の方が「銃身が焼け付くまで(ry」に合致するかと。
弾も7.62mmライフルだしベトナムでの実績もあるし・・・。
- 452 名前:450 投稿日:2004/08/04(水) 03:51
- >>451
M60やM249を一般成人女性が運用するのは無理だと思います。
M950だと100発装弾できるけど、警備室等に置いておくにしては
不自然ですしね〜
66発装弾できるイジェマッシ ビゾンも考えましたが、いきなり東側の銃が出てくるのも
おかしいですし。
B.O.W鎮圧用として置いておくならMP5が妥当かな〜とか思ったのですよ。
(ハンクも使ってますしね)
- 453 名前:OUTBREAK 投稿日:2004/12/01(水) 18:12
- 通路の先にいた石川梨華は白のスーツを着ていたが右腕の部分だけが、
真紅に染め上げられていた。そして、その真紅の染めは徐々に広がっていた。
「あんたが・・・こいつらを・・・?」
中澤は石川に構えを向けたまま訊く。
「本社の雇った傭兵のことですか。本社の連中が欲しがっていたものを私達が横取りしたからって、
大げさに戦争ごっこなんか始めちゃうんですもんね〜。お陰でお気にのスーツがこんなに汚れちゃった〜」
彼女の腕からはスーツを真紅に染める血が垂れだしてきた。
「汚れちゃったって・・・あんた、そんなに銃弾食らって良く涼しい顔してられるな・・・」
「流石にZウィルスを注入してるといっても、これは痛いかな〜。けど、大丈夫。これを使えば」
そう言うと石川は手にしてるジェラルミンケースから、注射器のようなものを取り出す。
- 454 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/01(水) 18:25
- 今日初めて読みました。
なんか…マニアックですが、引き込まれますw
頑張って下さいね。
- 455 名前:OUTBREAK 投稿日:2004/12/17(金) 11:49
- その自動注射器にはゲル状のモノが満たされていた。
不気味な蛍光色に光るそれは、薄暗い廊下で際だって目立っていた。
「クフッ・・・!」
石川はそれを右腕の二の腕に躊躇することなく突き立てる。
彼女の皮膚を突き抜けた針からは、続々とゲル状のモノを体内に送り込んでいく・・・
- 456 名前:ひで 投稿日:2005/01/04(火) 05:00
- 読ませてもらってます。
どんどん引き込まれていきますネ。
続き頑張って下さい。。。
- 457 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/07(月) 00:09
- 面白い! 続きがきになりますね! しかしこれはかなりの作品で時間が掛かるかと。 まったりと更新待ってます。
- 458 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/24(木) 17:36
- いつまでも待ってますよー。
- 459 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/07(月) 18:43
- まだまだ待ってます。
- 460 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/20(日) 21:25
- どこまでも待ってます。
- 461 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/18(月) 16:28
- 三大作者様による超大作ですね・・・すげー板だよ!!マジ感動
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