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吉澤ひとみの慢心
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時05分38秒
- 主人公は吉澤ひとみです。
「吉澤ひとみの妄想」
「吉澤ひとみの冒涜」の続編です。
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時06分46秒
- 『マフラー』
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時07分16秒
- モーニング娘。はアイドルである。よって世間の耳目が厳しく、半分監視されていると言ってもよい。またアイドルは品行方正でなくてはならず、スキャンダルからは縁遠くなければならない。
しかし世間はアイドルのスキャンダルを許さないくせに、スキャンダルが大好きなのである。このニーズに合わせてマスコミはスキャンダルを暴き立てる。スキャンダルがなければ作り上げる。なおいっそうのことアイドルは中国の聖人君子以上に身ぎれいにしなくてはならなくなる。
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時10分21秒
- こんなぐちっぽいことを並びたてのは、ついにわたしが当事者の一人になってしまったからである。娘。になりたてで目立たないポジションにいた頃は、マスコミはこれっぽっちも自分のほうを向いてくれず、安倍さんやごっちんのあとを犬のように嗅ぎついて回っていた。梨華ちゃんも同期の中では際立って目立っていたからか、盗聴騒ぎに巻き込まれた。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時10分58秒
- しかし13人体制となって、わたしがメインボーカルで歌うことになると様子が一変した。あの真ん中の男女は誰だということで、マスコミがようやくわたしに注目し始めたのだ。梨華ちゃんは前曲ですでにメインの位置に立っていたので、二人仲良くマスコミの餌食となった。
わたしたち二人に彼氏ができたと雑誌やTV番組に話が出るようになった。ただ、TV局が事務所に気を使ったのか、それほど大きくは扱われてはいない。事の真相は、ここでは述べないでおく。
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時11分34秒
- 問題は、このことでわたしたちが飯田さんの説教を食らったことから始まる。
「二人とも、よくききなさい……」
アイドルは恋愛をしてはいけない、との持論をTVで公言したことのあるリーダーであるから、メンバーのスキャンダルに良い顔をするわけがない。こってりと飯田さんにしぼられ、梨華ちゃんは涙目になっていた。
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時12分09秒
- 数日後、レッスンが終わった後、わたしはごっちんと遅い夕食を共にした。ごっちんは分厚いステーキと格闘を始めた。わたしは肉類が好きではないので、スパゲティをフォークで遊んでいた。
「かおりに叱られたって?」
前振りも何もなかったので慌ててしまった。
「知ってるの?」
「みんな知ってるよ」
年上のメンバーにはともかく、中学生のメンバーに対してまで面目が立たなくなってしまった。
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時13分20秒
- 「よっすぃ〜ももっと上手にやんないと」
「ちょっと待ってよ。信じてるの?」
ごっちんは、ただにやりと薄笑いを浮かべるだけだった。こうなると何を言っても徒労である。
「かおりの言うことはよくわかるよ」
「……」
わたしはこういう話は苦手だ。つまり、悪い(とされている)前例があるからだ。下手をすれば娘。を追い出されることだってありうるのだ。
- 9 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時14分01秒
- 「ごっちんは飯田さんに注意されたことはないの?」
「それは、もちろんうまくやってるから」
そうではなくて、飯田さんも諦めているのだろう。ごっちんの耳はザルだから。
「あれ、もしかして」
ごっちんが窓の外をフォークで指した。耳がザルになってるのがもう一人いた。帽子を深くかぶり、真っ黒のサングラスをかけ、白いマスクで口元を覆っている。しかし、どんな変装をしようとも、梨華ちゃんのかもし出す雰囲気は隠しようがない。横には男がいて腕を組んで歩いていた。
- 10 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時22分31秒
- 「梨華ちゃんもこりないね」
わたしは千円札をテーブルに置いた。
「おつりは明日ちょうだい」
「どこ行くの?」
ごっちんが、フォークを口の中に差し込んだまま尋ねた。
「梨華ちゃんを追いかけるの」
わたしはレストランを飛び出すと、二人を用心深く尾行した。梨華ちゃんのほうからしつこく話しかけるが、男のほうはそっけない感じだ。梨華ちゃんは、金輪際逃すまいと、がっちりと腕を絡みつけている。
二人はショーウィンドウの前で立ち止まった。どの辺りまで近づけば会話が聞き取れるかとうかがっているところに肩をつかまれた。
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時23分37秒
- あやうく情けない声を出しそうになるのをこらえて振り向くと、笑顔がかわいいごっちんがいた。
「置いてけぼりはひどいよ」
わたしはまた二人のほうに注意を向けた。雑踏の中、声までは聞き取れなかった。渇いた風はわたしの体を冷やした。
「ほい」
上から白いマフラーが降ってきて、勝手に首に巻きついた。
「慌てて出て行くから忘れちゃうんだぞ」
「……ありがと」
「で、相手はどんな感じ? いい男?」
「いい男って、中澤さんじゃないんだから」
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時24分38秒
- 背は男にしては低めだが、梨華ちゃんよりは大きい。多分わたしと同じくらいかそれ以上だろう。髪は長く伸ばしている。黒い髪はやや重い感じがする。帽子もマフラーも黒い。ついでにコートも黒く、ズボンも黒い。黒づくめだ。サングラスだけは茶色だ。
「顔を隠そうとしているから、芸能界の人かな? 売れないミュージシャンとか」
「でもあれだけ黒づくめだとかえって目立つよ」
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時28分17秒
- 男はコートのポケットに手をつっこんだまま出そうとしなかった。やがて二人はその場で別れた。わたしは男のほうについていった。
「ちょっと、よっすぃ〜」
「あの男がどんなやつか確かめないと」
わたしはごっちんを引きずってあとを追いかけた。男はひょいひょいと人の間をすり抜け、駅に入った。わたしもあわてて130円の切符を2枚買って改札を駈け抜けたが、男を見失ってしまった。
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時28分53秒
- 翌日の朝、梨華ちゃんをつかまえた。気のせいかもしれないが、梨華ちゃんは恋する女の目をしていた。
「梨華ちゃんさ……」
「聞いて、よっすぃ〜。素敵な人見つけたの」
と、梨華ちゃんは勝手に話し始めたので、問いただす労が省けた。飯田さんに叱られた帰り、歩道の段差でこけたところに手を差し伸べてくれたのがくだんの男であること。携帯の番号を教え合ったこと。男はいつも真っ黒な格好でいること。男はロックバンドのメンバーで、近々デビューするとのこと。名前を「オズワルド吉良」ということ。
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時29分38秒
- 「何それ。ダン野村?」
「アメリカ人と日本人の混血なんだって」
あからさまに怪しげな男にひとめぼれしてしまった梨華ちゃん。彼女を止めるすべを、わたしは持っていなかった。わたしはごっちんが止めるのを聞かず、飯田さんに直訴した。飯田さんは物憂げに「わかった。あとは任せなさい」と言ったきりだった。
- 16 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時30分23秒
- 梨華ちゃんとその男がデートをするのは週一度程度だった。そのときになるとわたしとごっちんはあとをつけて、男が変なことをしないかどうか見張り続けた。デートと言ってもレストランで食事、ショッピング、映画鑑賞くらいで今時の高校生も真っ青の清い交際のようだった。
「つまんないから、追い回すのやめようよ」
ごっちんは刺激のなさに飽きてきたらしい。
「でもあの男、絶対あやしい。梨華ちゃんをほっとけないよ」
「あ、梨華ちゃんに妬いてんだ」
「馬鹿なこと言わないでよ」
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時31分11秒
- しかし、何度つけまわしても男の正体は暴けなかった。いつもうまい具合にまかれてしまう。このことはわたしの疑惑をいっそう深めた。向こうはわたしのことを感づいているのだ。飯田さんもこれといったことをした様子はなかった。
「でもさ、アイドルだって恋愛したっていいじゃん」
それは重々承知している。だがちゃんとした相手を選ばないと、傷つくのは梨華ちゃんなのだ。
「なんだかんだ言ってさ、よっすぃ〜も飯田さんと同じ考えなんだよ。アイドルは恋をしちゃいけないって、よっすぃ〜も思ってるんだよ」
- 18 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時32分00秒
- それは違う、断じて違う。恋の歌をうたって世の中を煽るアイドルが恋をしてはいけないなんて、矛盾、パラドックスだ。
ロボットが恋の歌をうたっても何の魅力もないと思う。感情を持つ人間が歌うからこそ、聞く人に感動を与えるのだ。歌う人間が、誰かを思って歌うのならばなおさらだ。
「でもごっちん、飯田さんだってそんなことわかって……」
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時32分45秒
- 今までのわたしは、面倒なことには両手で目をふさぎ、両手で耳を覆ってきた。余計なことにはかかわらないのがわたしの生き方だった。
だが、一歩踏み出すことを考えなくてはならない。内にためこむと、やがてそれは腐り、わたしの精神を蝕んでいくのだ。
- 20 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時36分35秒
- わたしは、浮かれている梨華ちゃんをつかまえた。
「今日も例の彼氏をデート?」
「そう。いつものところで待ち合わせ」
梨華ちゃんは何の警戒心も持ち合わせていない。だから心配になってしまう
- 21 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時37分07秒
- 飯田さんは一人控え室にいた。わたしはパイプ椅子を持ってきて隣に座った。
「あの……梨華ちゃんのことなんですが」
「わかってる。ちゃんと言っておく」
わたしは震える左手を右手で抑えつけた。
「そうじゃなくて……梨華ちゃんの連れている彼氏って、飯田さんですね」
飯田さんは吹き出した。
「吉澤……よっすぃ〜面白い」
- 22 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時38分58秒
- 「だって、オズワルド吉良なんて、いると思うほうがおかしいでしょ」
O・KIRA。並べ替えてKAORI。カオリ。圭織。
「飯田さんは、スキャンダルを恐れています。今までも、娘。のメンバーがマスコミに暴かれ、嫌な思いをいっぱいしてきました。リーダーになって一番心配したのが梨華ちゃんのことです。スキャンダルを起こしたとき、立ち直れなくなるくらいダメージを受けるのではないかと」
- 23 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時39分44秒
- わたしはいつのまにかうつむいていた。顔を上げて飯田さんの眼を見つめた。
「続けて」
「そう思っていた矢先にわたしと梨華ちゃんに彼氏ができたと、噂程度ながらも流れてきました。そこで飯田さんは、梨華ちゃんを恋愛から遠ざけなければならないと考えました」
わたしは、目の前に座って聞いているのが飯田さんではないかのような感覚で話していた。
- 24 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時41分07秒
- 「しかし、恋愛している人のうたう歌が人々を感動させるのは確かなことです。アイドルグループではない、ボーカル集団だった頃のことを思い出したのでしょうか。そこで飯田さんは、恋愛させながらもスキャンダルにならない方法を考え出しました」
だから、男装して梨華ちゃんの「彼氏」になって、近寄ってくる虫を払いのけ、スキャンダルから守ろうとしたのだろうか。本当だろうか。男装がばれて「モーニング娘。の飯田と石川が禁断の愛」なんてさらされるほうがよっぽどスキャンダルではないのか。
否定してほしい。何よりも、梨華ちゃんのために
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時42分00秒
- 「吉澤の思ってることはわかった。それで、あたしはどうしたらいいのかな?」
飯田さんが突然立ちあがった。横にあったバッグを抱えると、ドアを開けた。
「裕ちゃんがさ、吉澤のことを扱いづらそうにしてたの、よくわかったよ」
飯田さんはバッグから黒いマフラーを取り出し、首に巻いた。
「じゃ、雪だし、まっすぐ帰るから」
ドアが閉まった。わたしはしばらく動けなかった。また余計なことをしでかしてしまったのだろうか。わたしは娘。に不必要な人間なんだろうか。
- 26 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時44分15秒
- 梨華ちゃんは、「彼氏」との待ち合わせ場所、薄暗い街灯の下に立っていた。冷たい雪が舞い散る中、傘もささず、両手に息を吹きかけていた。
わたしはゆっくり近寄り、自分の白いマフラーを梨華ちゃんの首に巻きつけた。梨華ちゃんはうつむき、小さな声を絞り出した。
「よっすぃ〜、わたし、ふられちゃったのかな……」
- 27 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時46分36秒
- 梨華ちゃんは黒いサングラスを外して、目をこすり始めた。わたしは、どう言葉をかけらいいのかわからず、震える梨華ちゃんの両肩に手を乗せることしかできなかった。
- 28 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月07日(月)21時47分09秒
- おしまい
- 29 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)21時49分17秒
- 3つのスレタイトルの
- 30 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月07日(月)21時49分49秒
- 順番間違えたかな
- 31 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時26分23秒
- 『祝福の花束』
- 32 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時27分01秒
- A新聞 ○月○日朝刊(22面)
人気アイドルグループ「モーニング娘。」を中心とするハロープロジェクトが、コンサートを東京・中野サンプラザで開催した(写真)。およそ4000人のファンの前で、元気いっぱいに歌とダンスを披露した。コンサートは○日まで行われる予定。
A新聞 ○月○日朝刊(23面)
人気アイドルグループ「モーニング娘。」のメンバーである矢口真里さん(18)が、コンサートの最中暴漢に襲われた。暴漢はすぐに取り押さえられたが、真里さんは救急車で病院に運ばれた。容態は不明。コンサートは中止となった。明日以降のコンサートも中止される模様。
- 33 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時27分34秒
- A新聞 ○月○日夕刊(1面)
今日のトピックス
・インドとパキスタンの関係が悪化
・経済成長率実質マイナス続く
・小泉内閣改造の動き、急激に進む
・「モーニング娘。」コンサートに暴漢
- 34 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時28分39秒
- A新聞 ○月○日夕刊(15面)
『「モーニング娘。」コンサートに暴漢』
『矢口真里さん重傷』
昨日○○体育館(○○県○○市)で開かれた「ハロープロジェクト」コンサートの最中、人気アイドルグループ「モーンング娘。」に暴漢が乱入した。その際、「モーニング娘。」メンバーの矢口真里さん(18)が刃渡り20センチのナイフで腹部を刺され、手当のため市内の病院に運ばれた。病院関係者によると、真里さんは出血が激しく重傷であるが、命に別状はない模様。暴漢はその場で緊急逮捕された。男は同市○○町に住む大学生(23)で、市内の精紳病院に通院歴があった。
- 35 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時29分11秒
- 同コンサートを観覧していた男性客によると、暴漢は大声で叫びながら舞台に上がり、刃物を振り回していたところ、真里さんが「モーニング娘。」のメンバーの一人をかばって刺されたという。
A新聞 ○月○日朝刊(22面)
先月コンサートで暴漢に刺され重傷を負った「モーニング娘。」のメンバー矢口真里さん(19)が、昨日東京都内の病院を退院した。
- 36 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時29分46秒
- 「びーなっぱんどぅいんひゅっちゃりずまーいん」
薄暗い廊下に、靴音が小さく響く。あまりの静けさにおののいたわたしは歌を口ずさんでいた。
「面会謝絶」の札。本当はもうそんな状態でないことは知っている。ただ、こうしておかないと関係者を装ったマスコミやファンが潜り込むかもしれない。
あの事件は、メンバー全員に衝撃を与えた。思い出したくもない人もいるだろう。加護などは、あのとき歌っていたフレーズが耳から離れないという。
その男は、警備員を制止を振り切って壇上に上がってきた。そして一直線に向かってきた。そして。
- 37 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時30分31秒
- わたしは声が出なかった。気がつくと、額と頬が濡れていた。右手でぬぐうと、手の甲が朱色ににじんだ。おそるおそる右手を口元に持っていき、舌を当てた。苦い味がした。
男は矢口さんを刺すと、とたんにおとなしくなった。数人の警備員に取り押さえられてから再び奇声を発し始めた。あの呆然とした表情は忘れられそうにない。そして、その表情からわたしはあらぬことを読み取ってしまったのだ。
- 38 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時31分04秒
- 1.○○県○○市23才 ○月○日 08:47
キヒヒヒヒヒ
2.名無しさん ○月○日 08:50
2ゲット
10.名無しさん ○月○日 10:15
懐かしいな
55.名無しさん ○月○日 05:34
朝刊見ろ!
- 39 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時33分03秒
- 71.名無しさん ○月○日 05:38
人気アイドルグループ「モーニング娘。」のメンバーである矢口真里さん(18)が、コンサートの最中暴漢に襲われた。暴漢はすぐに取り押さえられたが、真里さんは救急車で病院に運ばれた。容態は不明。コンサートは中止となった。明日以降のコンサートも中止される模様。
ソース ttp://……
80.名無しさん ○月○日 05:52
これだからモーヲタは。
105.名無しさん ○月○日 05:59
ほんとに1がやったのか?
- 40 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時33分38秒
- 男が何を考えて、あのような凶行に及んだのだろうか。狂人の考えなどわかるわけもないという人も多いだろう。わたしはそうは思わない。人間である以上、ある種の論理に従って行動するはずである。狂人ならばなおさらである。その論理が妥当であるかは別にしても。
肥大した自己顕示欲の表れならば、男のターゲットは娘。なら誰でもよかったと思う。あるいはエースである安倍さんやごっちん、またはリーダーである飯田さんを狙うだろう。ロリコンだったら加護や辻を狙うだろう。
- 41 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時34分10秒
- 男はまっすぐ走ってきた。あらかじめターゲットを決めていたのだろう。そして、そのターゲットは矢口さんではなかった。矢口さんだったら、あのような呆然とした顔を見せるとは思えない。男はまっすぐ、わき目もふらず、保田さんに向かっていったのだ。
あの日以来、保田さんは無口になった。なんとなく、矢口さんに対し後ろめたい感じを持つようになってしまったのだろう。もちろん保田さんになんの責任もない。
- 42 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時34分46秒
- 何事か不可解なことが起こったとき、「何故」ということを考える。この「何故」には倫理的なにおいをまとってはいない。ただの純粋な「何故」だ。
このときのコンサートでは、保田さんは客席から見て右側にいることが多かった。もちろん激しくポジションを入れ替えるから常に右側とは限らないが、おおむね右側にいた。そして男に襲われたときは、左側にいた。保田さんが左側にいる唯一の曲だったのである。
- 43 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時35分25秒
- 送信者:helloprojectFC
件名:コンサートチケット当選のご案内
受信日時:○○/○○/○○ 23:10
ハロープロジェクトファンクラブ事務局です。
来年○月に行われるコンサートのチケットの当選をお知らせします。
○月○日までに下記の銀行口座にお振込み下さい。
入金確認後、チケットを発送させていただきます。
……
- 44 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時39分20秒
- 男は左側の席にいた。つまり、保田さんを襲うチャンスはあの曲のとき一度限りだった。そんなわずかな機会しかない。なのに男は迷わずナイフを持ちこみ、凶行におよんだ。
ドアを軽くノックした。矢口さんの返事がした。わたしは右手に花束を抱えていたので、左手でノブを回した。
矢口さんはベッドの上で体を起こし、ノートパソコンをいじっていた。髪の毛の根元は黒い。わたしは矢口さんの横の丸椅子に座った。
矢口さんは微笑みながら、いろいろな話をしてくれた。
- 45 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時39分58秒
- まりっぺ応援掲示板
リンリンリンで牛乳を飲むときの矢口さんにホレタ
これですよね?
ttp://www……
それそれ。萌えた。
本体・タンポポ・ミニモニと、がんばってるね。
オフ会やりません?
いいですね。メール下さい。
- 46 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時41分13秒
- わたしは、余計なことと知りつつも、つんくさんに自分の考えをぶちまけた。それはただわたしの想像に過ぎなかった。証拠は何もない。
つんくさんは黙って聞いていたが、一枚のフロッピーディスクをくれた。つんくさんが警察から聞き出した暴漢の情報がつまっていた。
男は矢口さんのファンで、チケットをファンクラブ経由で入手し、凶行をインターネット上の掲示板で曖昧に予告していた。
- 47 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時42分27秒
- これでは、わたしの想像を補強する証拠にはならない。しかし、これ以上つんくさんから聞け出せるとは考えられなかった。
わたしが直接動き回るのも限界がある。例えば、この矢口さん応援掲示板の主催者に会って話をききたい。ハロープロジェクトファンクラブ事務局とやらの話が聞きたい。だがそれもかなわない話だ。
ならば、方法は一つしかない。
- 48 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時42分57秒
- A新聞 ○月○日朝刊(12面)
『仲間が支えた闘病生活』
○月○日、○○体育館に悲鳴がこだました。国民的アイドルグループ「モーニング娘。」を暴漢が襲ったのだ。(略)しかし仲間たちが彼女を必死になって支えた。そして、アイドル矢口真里は元気にステージを所狭しと駆け回っている。(写真−退院して花束を受け取る矢口真里)
- 49 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時43分33秒
- テレビ番組一覧
XTV 8:30〜10:00 モーニング娘。矢口真里、悲壮の闘病生活
YTV 14:00〜16:00 笑顔で復活、矢口真里(モーニング娘。)暴漢に心神喪失適用の是非
ZTV 20:54〜21:48 矢口真里復活ライブ密着
……
- 50 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時45分33秒
- わたしは、病室のブラインドを上げた。弱々しい光がわたしを照らした。わたしは独り言を口に出すことに決めた。一人の男と、一人の女のために。
「刺激を提供しつづけたい事務所と、刺激の中心になりたいアイドルと、刺激をいつも求めつづける人々が演じた壮大な芝居だったんです」
わたしは窓の外を眺め続けた。白いビニール袋が宙をさまよっていた。
「アイドルが、誰かをかばってケガをする。そして元気に復帰すれば、世の中の欲しがる美談となります。そこで、インターネットやらオフ会やらを通じて、かわいそうな頭の足りない男に吹きかけました。アイドルを殺せば、お前は英雄になれるぞ、と。自分に冷たくあたる世の中に復讐できるぞ、と」
- 51 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時46分41秒
- カラスがゴミ袋をつついている。黒いビニールが破け、中味が汚らしく散乱した。
「ただ、間違って死人が出るようなことがあってはいけません。世の中が冷めてしまいます。ですから男が犯行に出やすいように準備する必要がありました。犯行に出るタイミングをもコントロールしたわけです。そして男は、操られているともしらず、ナイフを振り上げたのです」
救急車がサイレンを鳴らしてやってきた。急患らしい。
「シナリオ通り、そのアイドルは仲間をかばうように間に入りました。男は突然のことで驚いたでしょう。自分の大好きなアイドルに向かって、自分はナイフを刺そうとしている。刺す力もそれで弱まりました。これも計算のうちだったのでしょうか」
- 52 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時47分13秒
- 病院の中庭には、車椅子の老人がたたずんでいた。ぴくりとも動かない。
「崇拝するアイドルに手をかけた。男が呆然としたのはそのためです。その後のことは話すまでもないでしょう。マスコミが勝手に持ち上げてくれますから」
わたしは振り向いた。
「でも、そのために二人の人間を苦しめることになりました。男は錯乱し、女はふさぎこんでいます。どうしてです?」
- 53 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時48分54秒
- わたしは一歩進んだ。
「どうしてその憐れな生贄が保田さんなんです? わたしじゃなかったんです? 梨華ちゃんじゃなかったんです?」
「よっすぃ……」
独り言である。答えなどはなから期待していない。
「それで、矢口さんの時代は来ましたか?」
- 54 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時49分54秒
- わたしは持ってきた真っ赤な花束を矢口さんに手渡した。それが祝福の花束か、葬送の花束かは、わたしの知ったことではない。
病室を出てから後悔しだした。そのアイドルだって、かわいそうな被害者じゃないか。わたしはいったい何をしているのだ。
- 55 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時50分54秒
- どうしようもなくなって、歌を口ずさんだ。
「びーなっぱんどぅいんひゅっちゃりずまーいん……」
- 56 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月08日(火)23時51分31秒
- おしまい
- 57 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月08日(火)23時52分05秒
- ファンの人
- 58 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月08日(火)23時52分40秒
- スマソ
- 59 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月09日(水)00時25分07秒
- このスレ好きなんだけど、どうにもコメントしずらい(w
きっとそんな人はたくさんいるはずだ。
- 60 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月09日(水)23時39分15秒
- >>59
読んでくれるだけでお腹いっぱいです
- 61 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時41分51秒
- 『爆弾』
- 62 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時42分21秒
- 木枯らしがわたしにぶつかってきた。グロテスクに曲がりくねった木の枝から、かさかさの葉っぱが目の前をひらひらと落ちてきた。
「木の葉……人間って、悲しいね」
わたしはおどけながら梨華ちゃんに葉っぱを渡した。
……
- 63 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時43分02秒
- 「……ニュースをお伝えします。まずアフガニスタン情勢です。北部同盟はカブール占領後……」
マネージャーに呼ばれて事務所に来たのはいいものの、肝腎のそのマネージャーが別の用事で外出中だという。TVをつけたがおもしろい番組はやっていない。しょうがないので普段はあまり見ないNHKにチャンネルを合わせた。
- 64 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時43分43秒
- 「テロって恐いね。ハイジャックされるかと思うと、飛行機に乗るの恐い」
梨華ちゃんがTVのほうを向いたまま言った。9月の例の事件のせいで、搭乗の際の手荷物検査が厳しくなった。この前コンサートで地方に行ったとき、初老のサラリーマンがカッターナイフの持ちこみを止められてキレていたのを思い出した。
日本でのテロ事件というと、地下鉄サリン事件がある。ニューヨークのテロ事件は、アメリカ経済の象徴であるのっぽのビルを狙ったものだった。すると、日本経済の象徴は霞ヶ関の古びたビルなのだろうか。
- 65 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時44分18秒
- よくはわからないが、違うような気がする。サンシャインビル、東京タワー、都庁。どれも象徴とは言いがたい。ディズニーランドがもしかしたらそうかもしれない。それでもアメリカからの輸入モノだ。
テロはアピールが主目的である。日本で目立ったテロが起こらないのは、何を狙ったらいいのかテロリストのほうがとまどっているからかもしれない。
- 66 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時44分48秒
- 「こんにちはー。お届けものです」
台車に荷物を山のように積んで、宅配便のお兄ちゃんが現れた。事務所の人が指示して、いくつもの箱が廊下の一角を占めた。判をもらうとお兄ちゃんは元気に立ち去った。
- 67 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時45分29秒
- 事務所の人が荷物の仕分けを始めた。これらは全部ファンからのプレゼントである。たいへんありがたいことである。個人宛てに来るものがあれば、娘。全体宛て、ユニットグループ宛てに来るものもある。
事務所の人が一つの山に「プ」と書いた紙をテープで貼りつけた。「プッチモニ」宛てに来たプレゼントである。小さな箱ばかりだが、それが何十個もあれば壮観となる。その箱を一つ取って揺らしてみた。重さから食べ物ではない。耳をあてるとコチコチと音がする。目覚まし時計だろう。
- 68 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時46分08秒
- プッチモニの名曲に「バイセコー大成功」というものがある。他人の評価はかんばしくないが、わたしは名曲だと思っている。意味不明な歌詞が「プッチモニ」らしくていい。保田さんに言わせれば「後藤と吉澤」らしくていいとのことだが。
その曲に「目覚まし時計」が壊れて直ってどうのこうのという一節がある。ファンはそれをもじって目覚まし時計をよくプレゼントしてくれるのだ。
今回のプレゼントの山はほとんど目覚まし時計らしい。どの箱もコチコチ言っている。わたしは箱を元に戻すとTVのところに戻った。
- 69 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時46分38秒
- 「……臨時ニュースをお伝えします。当放送局宛てに『爆弾テロ』を予告する電話がありました」
梨華ちゃんの顔が曇った。とうとう日本もイスラム過激派によるテロの危険にさらされるときがきたのか。それともニューヨークのテロに触発されたどこかの過激派の仕業か。
- 70 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時47分09秒
- 「『狼』と名乗るその男は、当放送局に対し爆弾テロを予告しました。現在当局が局内を検査していますが、爆弾らしいものは見つかっていません。いたずらの可能性もありますが、厳戒体制を敷いています」
物騒な世の中である。しかしこの重大ニュースも、TVの画面を通して聞くと、それほどたいしたことでもないかのように感じてしまうから不思議だ。ドラマや映画の見過ぎかもしれない。
- 71 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時47分43秒
- 電話が鳴った。さっきの事務所の人はどこかにいって見当たらない。放っておこうかとも思ったが、呼び出し音がうるさくてつい取ってしまった。
「もしもし」
「○○通運のものです。いつもお引き立てありがとうございます」
「どーも」
- 72 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時48分18秒
- 「たいへん申し訳ないのですが、先ほどお届けした荷物の中で一つ誤って配送してしまったものがございまして」
「はあ」
「後ほど担当のものが取りに参りますので、よろしくお願いいたします」
「えーと、どこ宛てのものが混じっていたのですか?」
「はい、NHKアナウンス部宛てのものです」
- 73 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時49分02秒
- 嫌な汗が流れた。NHKの爆弾騒ぎ、NHK宛ての荷物……。
「梨華ちゃん! どこか行って!」
「えっ、なんで?」
「えーと、じゃあ駅の反対側のコンビニ行って、ゆで卵買ってきて!」
- 74 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時50分22秒
- 梨華ちゃんは不思議な顔をして消えた。次にわたしは警察に電話した。爆弾が送られてきたのかもしれないのですが、と言ったら鼻で笑われて切られた。
わたしの思い過ごしかもしれない。事務所の人の机には、届けられた荷物の送り状が無造作に置かれていた。箱に貼ってあったものだが、全部はがしたらしい。それを1枚1枚めくっていくと、NHK宛てのものがあった。差出人の名前は「山田太郎」、住所は「千代田区1丁目」。
- 75 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時50分56秒
- わたしは真っ青になって、「プ」の紙が貼られた箱の山に向かった。コチコチと音が幾重にも重なる。この中のどれか一つだけ、爆弾につながっている時計の音がしているのだ。
わたしは一つの箱のガムテープをはがし、開けてみた。ガムテープは粘着力が強く、なかなかはがれなかった。アンパンマンの絵柄がついた、なんてことはない目覚まし時計だった。
- 76 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時52分15秒
- いくつか箱を開けてみたが、どれにもそれらしいものは入っていなかった。開けていない箱はまだ山ほどある。全部開けている余裕があるだろうか。途中で爆弾が爆発したら。手のひらが汗でにじんだ。わたしの頭の中では「コチコチ」という音だけがこだましていた。
- 77 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時52分46秒
- わたしは深呼吸した。慌てるな。
もしわたしがテロリストだったら。「これは爆弾です」なんてわかりやすいものを送るだろうか。時計の音が派手にしていたら、すぐにばれてしまう。何かにくるんで、音がきこえにくくするようにするだろう。
- 78 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時53分20秒
- わたしは箱に耳をあてた。音がはっきり聞こえる。これは違う。次。
たぶん45個めの箱だっただろうか、忌まわしい音がかすかに聞こえるものにあたった。わたしはこの箱を、両手で体から離すように持つと、急いで事務所を飛び出した。
- 79 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時54分15秒
- 交番を探して見まわすと、よれよれのコートを着ているいかつい顔をしたおじさんと、作業服にヘルメットをかぶったおじさんがこちらに向かって走っているのを見つけた。わたしは「おまわりさーん」と叫びながら、おじさんたちに駆けよっていった。
……
- 80 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時55分01秒
- 警察の人と、事務所の社長と、マネージャーと、つんくさんと、飯田さんと、梨華ちゃんとに、それぞれこっぴどく叱られた。最初に信じてくれなかった、警察の人が一番悪いはずなのに。梨華ちゃんは「ばかばかばか」と泣きじゃくりながらわたしの胸をたたいた。
爆弾はほとんど殺傷能力のないおもちゃのようなものだった。悪質ないたずらだったのだろう。事務所に誤って配達されたところまで報道された。わたしが見つけたことはふれられなかった。そのほうが煩わしくなくていい。
- 81 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時56分15秒
- 「よく見つけたよね」
ごっちんが話しかけてきた。ごっちんには緊張感がまったくない。
「うん。プレゼントの時計の中に混じっていたから、紛らわしくて嫌になった」
- 82 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時56分47秒
- 「あーあ」
辻が大きな声を上げた。辻がアメの袋を開けるのに失敗して、中味をテーブルの上にぶちまけていた。それで、それまでに置いておいたアメと混ざってしまったらしい。
「あんな感じ」
- 83 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時57分26秒
- 五期メンバーも事務所にやってきた。13人全員がそろうと身動きも取れないほどだ。
もしこの中に、誰か知らない女の子が混じっていたとしても、外からは誰も気がつかないだろう。異分子が混じりこんだとしても、それをよりわけて取り除くことはできないだろう。
- 84 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月09日(水)23時59分44秒
- それが、時限爆弾のように、いつか爆発するときがくるのだろうか。その爆弾は、もしかしたら自分なのかもしれない。そして、よそ者とばれてしまい、排除されるときが来るのだろうか。
加護が梨華ちゃんの真似をしている。
「人間って、悲しいね……」
- 85 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)00時00分19秒
- おしまい
- 86 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月10日(木)00時01分06秒
- 随分違うのができてしまった
- 87 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月10日(木)00時01分41秒
- 精進、精進
- 88 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月10日(木)00時58分13秒
- いい話です。
萌えもエロも派手なものも無く、かといってハードボイルドでもなく。
でも面白い。
- 89 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月10日(木)02時11分30秒
- キャプテンしばたのような独特の雰囲気を感じるのは気のせいか(w
これからもガムバッテ
- 90 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月10日(木)20時25分55秒
- >>88
萌えもエロも派手なものもハードボイルドも書けないのです。
>>89
「キャプテンしばた」見たことがないのです。
映らないのです。
- 91 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時27分14秒
- 『歓迎』
- 92 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時27分45秒
- だるい。
- 93 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時28分28秒
- 娘。本体の新曲、プッチモニの新曲のリリースに加え、コンサート、年末の特別番組が重なり忙しい時期である。体力には自信があったのだが、新曲のメインという重圧が思った以上にきつかった。もう少し体調管理に気を払うべきだったと後悔しても、もう遅い。
その日はTVの収録があった。3本まとめてとるので、1日がかりの仕事である。1本目は大丈夫だった。2本目はなんとかこなした。しかしそこまでが限界だった。熱で頭が働かない。安倍さんが手にしている水の入ったペットボトルを恨めしげに見つめた。
- 94 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時32分24秒
- 「よっすぃ〜、大丈夫?」
ごっちんが心配してくれた。はた目にも、わたしの様子がひどく見えるのだろう。
「うん、大丈夫だよ」
普段ならここで大声で叫んで楽屋を走り回るのだが、そんな元気はとうてい出なかった。
13人いるのだから、この番組では一人くらい欠けてもそれほど大きな支障はないと思うが、この3本目だけはそういうわけにはいかなかった。
- 95 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時34分09秒
- 楽屋のドアが開いた。
「こんにちは。市井紗耶香です」
この番組のゲストが市井さんだったからだ。市井さんがフォークシンガーとして、1年振りに復帰したのだった。中澤さんもいっしょに出る。そういう大事な番組だから、出ないわけにはいかない。
わたしが娘。になって、右も左もわからないでいるうちに、市井さんは脱退してしまったので、思い出はあまりない。ただ、わたしが市井さんのあとを襲ってプッチモニに入ったので、意識はしていた。
- 96 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時37分33秒
- 知らない人を意識するということは苦痛だった。市井さんがいたときと比較されるのはつらかった。「ちょこっとLOVE」はミリオンセラーである。わたしが入ってからは1曲もない。すると、わたしのせいでプッチモニの曲は売れないということになる。
そうかもしれないし、そうでないかもしれない。いずれにせよ、市井さんを意識せざるをえない。しかしどんな人か、よくわからないのだ。人に聞くわけにもいかない。
- 97 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時38分57秒
- 市井さんは、矢口さん、保田さんを中心に談笑していた。やはり同期の人たちが一番仲がいいらしい。同じ時期に入ったから仲良しになるというのではない。同じ苦労を共にするから仲良くなれるのだ。
とすると、同期のいないごっちんの孤独の深さはいかばかりのものだったのだろうか。
中澤さんも入ってきた。1期メンバーも話の輪に加わりにぎやかになった。わたしは椅子に座って宙のどこかを見つめているのだが、挨拶しないわけにはいかない。立ちあがるとくらくらして、思わずよろけた。
- 98 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時40分38秒
- 中澤さんが声をかけてくれた。
「体のほうは大丈夫か?」
「はい。元気です」
元気なく返事した。
「顔色が悪いな。座りや」
「はい。すみません」
わたしは失礼して椅子に座った。うつむいているとそのまま眠ってしまいそうだったので、顔を上げた。辻がお菓子を喉に詰まらせ、安倍さんが慌ててバッグから取り出した飲茶楼を飲ませているのを見て微笑んだ。
- 99 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時41分41秒
- わたしは市井さんを意識しているとして、それはいったいどのような感情なのだろうか。嫉妬、羨望といった単純なものではないと思う。ただわからないだけだ。
他のメンバーはどうなのだろうか。保田さんやごっちんが市井さんに悪い感情を持っていないことは知っている。飯田さんや安倍さんはどうなのだろうか。
- 100 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時42分21秒
- 5期メンバーが話の輪に加われず、ただうなずいている。わたしも入りたての頃はそうだった。違うのは、辻や加護がその年齢の幼さを利用してどんどん先輩たちに話しかけていったところだ。わたしや梨華ちゃんはそれを利用して、どんどん親密になっていった。5期メンバーでは新垣が一番年下だが、辻や加護のようなやんちゃなところはないので、同じ役割を担うのは難しいだろう。
すると、わたしたちのほうから歩みよらなければならない。わたしはそれなりに親しくしているつもりだが、わたしや梨華ちゃん、辻、加護が暴れているところに加わるというのはやりがたいのだろうか。そうなれば飯田さんの頭痛のネタが倍になるし。
- 101 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時43分21秒
- では早速、と立ちあがろうとしたが、体がいうことをきいてくれない。
「ほらほら、高橋たちも遠慮せず、紗耶香に聞きたいことがあったら聞きなさい」
安倍さんが五期メンバーを促していた。安倍さんを見直した。唯我独尊の人だなあと思っていたのだが、やはり二十歳の大人である。五期メンバーも、おずおずと市井さんに話し始めた。
- 102 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時44分03秒
- マネージャーがやってきた。収録再開である。飯田さんを先頭に、次々と楽屋を出ていった。わたしはというと、まるで腰が抜けたかのように立ちあがれなかった。
「よっすぃ〜、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。先に行ってて。すぐ行くから」
ごっちんは眉をひそめながら出ていった。
- 103 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時45分11秒
- わたしは「よいしょ」とおっさんのような声をかけながら立ちあがった。頭が重く、両手をテーブルについた。とりあえず、熱を冷まさねばならない。見まわすと、ミネラルウォーターの入ったペットボトルが椅子の上に置いてあった。水は水道水でじゅうぶんというのが持論であるが、この際そんなことは言ってられない。誰のか知らないが、失礼して半分ほど飲み干した。
冷たい水が喉を通ると、少し気分がすっきりした。わたしは急いでスタジオに向かった。
……
- 104 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時45分50秒
- ぽたぽたと、点滴のびんの中を規則的に落下するしずくを数えた。
- 105 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時47分21秒
- 収録は大失敗だった。市井さんが登場しても笑顔を出せなかったうえ、途中で倒れてしまった。そして、こうして医務室のベッドに寝るはめになってしまった。
収録が終わった順に、メンバーのみんなが様子を見にきてくれた。
まず5期メンバーの4人である。みんな顔がひきつっている。それは、けしてわたしのことを心配しているからだけではない。こんなになるまで働かされるということを、ようやく悟ったからだ。そしてその覚悟ができた者から、娘。のメンバーとして認められるようになるだろう。
- 106 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時48分04秒
- 次は同期の梨華ちゃん、辻、そして加護だった。辻と加護はわたしが動けないのをいいことに、頬をつついたり、スカートをめくったりしてきた。でも笑ってるうちに、少し気分が晴れてきた。梨華ちゃんはわたしの手を握ってきて、何かしてほしいことはないかと聞いてきた。梨華ちゃんの手は温かかった。
矢口さんと保田さんがきた。保田さんは自分も倒れた経験があるので、いろいろと親切にしてくれた。矢口さんも勇気づけてくれた。
- 107 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時49分39秒
- ここまでみんな優しい態度を取ってくれた。しかし、これはわたしのミスであるから、叱られて当然である。その役割はリーダーの飯田さんが果たした。長くなるので省略するが、フクロウの例え話だった。最後には優しい言葉をかけてくれたので、少しぐっときた。
飯田さんと入れ替わりに安倍さんが入ってきた。また熱がぶり返したようだ。頭が重い。娘。に優しい安倍さん。
- 108 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時50分11秒
- 「よっすぃ〜、具合はどう?」
「最悪です……ごめんなさい」
「何謝ることがあるの。体を早く元に戻すことだけ考えなさい」
本当に、娘。には優しい。娘。には。
「安倍さん、あのペットボトルには何が入っていたんですか?」
「へ?」
- 109 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時52分48秒
- 「だって、あのミネラルウォーター、安倍さんのでしょう。持ってたじゃないですか。あれ飲んで収録に行ったんですけど、かえって苦しくなっちゃいました」
安倍さんは黙りこくった。わたしの視線は真上の点滴のびんに向いたままだ。
「辻が喉を詰まらせたとき、その水は上げないで、わざわざバッグの中のお茶を上げたでしょう。その水に何か入れてたからでしょ?」
- 110 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時53分19秒
- とんでもないことをしゃべっている気がする。熱のせいだろうか。
「辻には飲ませないで、わたしが飲むようにしかけた。どんなものが混じっていたのかは知りません。とにかくわたしが飲んで、収録中に倒れればそれでよかった。わたしはここに運ばれてからずっと考えていました。どうして安倍さんはそんなことをしたんだろうと」
ここから先は推測に過ぎない。何の証拠もない。だが舌が止まらない。
「わたしが途中で倒れたことで、しらけた雰囲気になってしまいました。せっかくの市井さんの復帰番組なのに。それを狙ったのでしょう。市井さんのことを、素直に祝福することはできなかったんですか?」
- 111 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時54分14秒
- 「水に何かをいれたとか、何のことだかわからないけれど、紗耶香のことについてはその通りだよ」
「どうしてです? かつての仲間じゃないですか」
「かつてはね。今は違う。紗耶香はもう娘。じゃない。娘。に戻ったわけじゃない。逆に聞くけど、どうして祝福しないといけないの?」
喉がからからになり、言葉が出なくなった。
- 112 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時54分47秒
- 「詳しい事情はよっすぃ〜には話さないけれど、紗耶香は自分の夢をかなえるとか言って娘。を抜け出した。娘。になることが夢じゃなかったんだよ。ひどいと思わない? 娘。になりたくてオーディションを受けて、果たせなかった子はいっぱいいるんだよ。紗耶香にとっては娘。はその程度のものだったわけよ。よくのこのことわたしたちの前に出て来れると、感心したわ」
びんの形がぼやけてきた。なのにしずくの落ちる音だけは、逆にボリュームが上がっていった。
「よっすぃ〜。わたしたちは、娘。になりたくてもなれなかった人たちの分までがんばらなきゃいけないのよ。途中で抜け出すことは許されないんだからね」
- 113 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時55分24秒
- 安倍さんは医務室を出ていった。後悔の念がわたしを押しつぶした。泣き出したいのに涙はこれっぽっちの出てきやしない。そういえば中澤さんが卒業したときもそうだったっけ。
中澤さんが入ってきて、わたしの頬にキスをした。
「あんまり頑張りすぎんでもいいんやで」
中澤さんのあとの言葉は耳に入らなかった。
- 114 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時56分15秒
- しばらく一人になった後、ごっちんと市井さんが来た。もうほとんど耳が聞こえなかった。
「よっ……いじょう……やくげ……ね……っすぃ……じして……てば……」
「……とう……いださん……よん……」
ごっちんが部屋を出ていったようだ。目もかすんできた。
「……んなの……ろには……いの……よち……いんだね……」
わたしは目を閉じた。そしてそのまま深い眠りに落ちた。
- 115 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)20時56分48秒
- おしまい
- 116 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月10日(木)20時58分28秒
- この作品はフィクションであり
実在する人物・団体とは関係ありません。
- 117 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月10日(木)21時00分23秒
- 「夢と現実が一体となった夢を見ました」
負けた。
- 118 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時00分20秒
- 『夢の中へ』
- 119 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時00分58秒
- 「……どんな夢を見たのか覚えてないんですけど、夢と現実が一体となった夢を見ました……」
とあるインタビューで「どんな夢を見るのですか?」と問われて、われながらよくわからないことを口走ってしまった。
- 120 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時01分32秒
- 夢と現実は、そうたいした違いがあるわけではない。夢はいつか覚めてしまうが、現実はそうではないということだけだ。わたしたちが現実と思いこんでいるものも実は夢であって、覚めるときがくるかもしれない。
ただ、早く覚めてほしいと思う夢(あるいは現実)があることは確かだ。
……
- 121 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時02分16秒
- 今日も楽屋は大騒ぎだった。騒ぎの中心は例によって辻と加護だった。5期メンバーのみならず、矢口さん、安倍さんを巻き込んで暴れていた。飯田さんの口元がゆがんでいくのがはっきりとわかった。胃が痛くなるのも無理はない。
- 122 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時02分53秒
- わたしはごっちん、梨華ちゃんとまったりしたおしゃべりをしていた。話の内容は覚えていない。あくびが出てきた。昨日はちょっと夜更かしが過ぎた。せっかくごっちんと梨華ちゃんが話をしているのに悪いと思って、目を見開いて聞いていたが、本能の誘惑に負けて、ついうつらうつらとしてしまった……。
……
- 123 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時03分30秒
- 「……よっすぃ〜、よっすぃ〜!」
はっとして顔を上げると、加護がにやにや笑いながら目の前に立っていた。慌てて「何?」と返事をすると、加護の口元がつりあがった。まさに悪魔の笑顔だった。
「いいものあげる」
と、渡されたのは、細長いものだった。それが蛇の形をしていると気づくのに、時間はかからなかった。
- 124 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時04分03秒
- わたしはそれを放り投げると、大声を上げながら楽屋を飛び出した。出るとき飯田さんとすれちがったが、どんな表情をしていたか見る余裕はなかった。
廊下の奥まで走り抜け、階段を駆け上がり、踊り場のところでへたりこんだ。唇の震えが止まらない。生き物の中で唯一だめなのが蛇なのだ。
- 125 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時04分34秒
- 「よっすぃ〜、大丈夫?」
ごっちんが微笑みながら声をかけてきた。こんな情けないわたしの姿が見られて喜んでいるのだ。
差し伸べられた手を借りて、わたしはなんとか立つことができた。それでも震えが止まらなかった。加護にはおしおきをしなければならない。
- 126 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時05分13秒
- 部屋に戻った。喧騒はあいかわらずだった。飯田さんは観念したのか、目を閉じて瞑想にふけっていた。その姿はまるで観世音菩薩のようで、拝みそうになった。
加護をとっちめてやろうとあたりを見まわしたが、その姿が見られなかった。辻に聞いてみると、わたしの慌てふためく様子を見てやろうと、楽屋を出ていったらしい。
- 127 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時05分45秒
- 廊下に出たが、人の気配はない。廊下を慎重に歩いていると、ドアが少し開いている部屋があった。顔をのぞかせたが、誰もいなかった。
部屋はカーテンが閉まっていて暗かった。電灯をつけた。テーブルと4つの椅子ぐらいしかない。楽屋というより小さな会議室のようだった。
テーブルの上に先ほどの蛇のおもちゃを見つけた。加護はこの部屋に来たらしい。しかしこの殺風景な部屋には隠れそうなところはない。
- 128 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時06分19秒
- 他の部屋を探そうと振り向いたら、鉄製の金庫にひじをぶつけてうめいた。気がつかなかった。高さ1メートル超、幅80センチ、奥行き70センチといったところか。
もしかしてこの中に、と取っ手をつかんだが、ガチャガチャいうだけで開く様子はない。横にダイヤルがついていて、数字を合わせなければいけないらしい。金庫の中に隠れたとしたら、ダイヤルを回して錠がかかった状態にできるわけがない。この中にはいないだろう。
- 129 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時06分51秒
- と、地響きがした。違った。何かが聞こえる。金庫の中から。
わたしはかがんで金庫に耳をあてた。
「……ぃ……けて……よ……れか……すけ……」
わたしは思わず後ずさり、椅子に座った。これは何かの間違いだ。夢に違いない。意識がもうろうとし始め、目を閉じた……。
……
- 130 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時07分25秒
- 「ねえねえ、よっすぃ〜。よっすぃ〜はどんな夢を見たんだっけ」
ごっちんの声がして、わたしは目を開いた。
「夢?」
「そうだよ」
「えーとねえ。ラーメンの夢」
「ラーメン?」
- 131 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時08分01秒
- 辻と5期メンバーが腕相撲をしている。安倍さん、保田さん、矢口さんが額をよせあって何事かを相談している。飯田さんはとうとう達観したのかアルカイックスマイルを浮かべている。
「加護は?」
「え? あー、そう言えばいないね」
- 132 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時08分43秒
- わたしは楽屋を飛び出し、廊下を走った。半開きのドアを開くと、真新しい金庫を見つけた。おそるおそる近づくと、突然鈍い音がし始めた。どうやら中から叩いている音のようだ。
「加護? 加護なの?」
返事はなく、ただ叩く音だけが続いた。取っ手を引き下ろそうとしても、やはり錠がかかっていて動かない。金庫のまわりをうかがうと、ビニールの袋が落ちていた。ピンときた。
- 133 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時09分27秒
- この金庫はかなり新しい。このビニールには金庫の開け方の載っている説明書が入っていたはずだ。
どこかに落ちているはずだと振り向くと、テーブルのガラスの灰皿が目についた。紙が、炎を上げてゆっくりと灰を作っていた。慌てて火を消そうとして直接触ってしまった。手をひっこめて息を吹きかけたが、中指に小さなやけどの痕ができてしまった。
- 134 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時10分05秒
- ガラスの割れる音がした。火は消えており、灰がテーブルにこぼれていた。わたしはがっくりと椅子に腰をおろした。誰かを呼んで間に合うだろうか。金庫の中の酸素は持つのだろうか。
こんな緊急事態にも、睡魔が容赦なく襲ってくる……。
……
- 135 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時10分53秒
- 「よっすぃ〜、起きて〜」
頬をつつかれて目を開けた。梨華ちゃんが人差し指をつき出していた。
「梨華ちゃん、おはよー」
「おはよーじゃないでしょ。もうすぐ出番だよ」
いつのまにか、けっこう時間が経っていたらしい。そうだ、忘れていた。いろんなことを忘れていた。
- 136 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時11分23秒
- 「そうだ、そうだ。梨華ちゃん。梨華ちゃんってどんな夢見たんだっけ?」
「えーとね、あまり夢を見ないんだけど、昨日よっすぃ〜とジャングルを探検している夢を見たよ。それでキングコブラに追いかけられるの」
ここにもわたしと同種類の人間がいたのだ。夢と現実が一体になった夢を見る人間が。
- 137 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時12分02秒
- 「うーん、ここの梨華ちゃんに言ってもしょうがないことなんだけれど、一応言っておくね」
「え、何?」
どこの梨華ちゃんがやったことなのかはわからないが、とにかく言わずにはいられなかった。
- 138 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時12分46秒
- 「わたしも蛇は大嫌いなんだよね。梨華ちゃんだってそうだと思う。梨華ちゃんは、加護が蛇のおもちゃで驚かせて遊んでいたのを見て、キングコブラをけしかけてわたしたちを襲わせたのも加護じゃないかと思ったんじゃないかな」
梨華ちゃんは初めきょとんとしていたが、見てわかるくらい蒼ざめていった。自分の見た夢を人に言い当てられるくらい気持ちの悪いものはない。まさかわたしが梨華ちゃんの夢に侵入したとは、それこそ夢にも思わなかっただろう。
- 139 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時13分24秒
- 「だから、懲らしめようと思ったんだよね。あの薄暗い部屋にある真新しい金庫の中に、加護を押しこめて、ダイヤルを回して、開け方の書いてある紙を燃やして、そして……」
「いやっ!」
- 140 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時14分01秒
- 梨華ちゃんは自分の耳を両手でふさいでうずくまった。夢かもしれない。夢の中でも夢を見たのかもしれない。外から見ればこっけいな夢に見えることだろう。でも、夢の外に出られなければ、それは夢ではなく冷たい現実なのだ。
夢なんだろうけれど、どうしてこんなに眠くなるのだろう……。
……
- 141 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時14分42秒
- 「吉澤、行くよ」
飯田さんの声で目が覚めた。覚えていないが、なんだか長い夢を見たようだ。一炊の夢とはよく言ったものだ。右手に違和感を覚えたのでよく見ると、中指の腹が少し焦げていた。記憶にない。
他のみんなはもう楽屋を出ていた。慌てて楽屋を出て、廊下を駆け出した。途中、ドアが半開きになった部屋があった。なんだか気になって、引き返した。
- 142 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時15分15秒
- ドアをゆっくり開けた。会議室か打ち合わせ室のようだ。壁際に置いてある金庫が目についた。取っ手を下におろした。ガチャンという音がした。扉の重みで勝手に開き始めた。そして中には……。
- 143 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月11日(金)23時15分56秒
- おしまい
- 144 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月11日(金)23時16分35秒
- 本物の妄想には
- 145 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月11日(金)23時17分07秒
- 負けられない
- 146 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月12日(土)01時12分28秒
- あの…ここの話すごく好きです。
- 147 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月15日(火)23時21分47秒
- 自分も好きです!ここでしか読めない話ですよね。安易に「萌え〜」とならない展開が。
(そうゆう萌えな内容も大好物ですがw)
吉澤ひとみが次はどんなことになってしまうのか、とても楽しみです。。。
- 148 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月16日(水)20時52分51秒
- >>146 >>147
どもどもサンクス。
次でおしまいなんですが。
- 149 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)20時54分09秒
- 『黄昏』
- 150 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)20時54分45秒
- わたしはもう倦んでいた。
- 151 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)20時55分23秒
- 他人の何気ない言動から、その人の持つどろどろとした情念を読み取ってしまう。初め、それをわたしはは自分の中にしまいこんでいた。そしてそうしているうちに、わたしはその情念に取り込まれ、あらぬ妄想を抱くようになってしまった。
そこでわたしは、見ぬいてしまったものを当人にぶつけることにした。ところがそれは何の解決も導かず、かえって泥沼にはまってしまった。
- 152 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)20時56分01秒
- ただでさえ、この世界はそんな情念をひた隠しにして、華麗な姿をみんなに見せなければいけないところである。しかし隠せば隠すほど、わたしは暴きたくなってしかたがないのだ。
もう潮時かもしれない。わたしにはそれほど未練もしがらみもない。
- 153 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)20時56分33秒
- ハロプロの周辺で奇妙なことが起こり出したのは、昨年の秋頃である。
最初の被害者はEEJUMPのソニンだった。同じ系列の事務所であり、ごっちんの弟とともに活動していたので、知らない仲ではなかった。
彼女が事務所に行くと、彼女宛ての封書を見つけた。普通はマネージャーが中を確認してから渡されるのだが、これはたまたま開封する前だったらしい。ソニンは好奇心に負けて中を開けた。
- 154 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)20時57分05秒
- 「予告状 今夜0時 貴女のスカートを戴きに参上する 510」
こんな大時代的なものを受け取ったソニンが、この予告状を単なるいたずらととったことは非難されるべきではないだろう。だいたい盗むものがスカートであるし。その夜、一応戸締りをして警戒したが、ソニンの家に泥棒が入ってパトカーが来るようなことはなかった。
- 155 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)20時57分47秒
- 翌朝もソニンは事務所に行った。その日は午後から地方で小さなイベントがある。それに持っていく衣装ケースを開けると、「確かに戴いた 510」という紙が画鋲で刺してあった。見ると制服のスカートがなくなっていた。
事務所の判断で、このことが公になることはなかった。ただその日のイベントで、ソニンは上下の色が違う制服を着て歌うことになっただけだった。
- 156 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)20時58分24秒
- 問題はこの予告状を出した人間のことを指すのであろう「510」という数字だった。ハロプロ関係で「510」とは「ゴトー」、つまりごっちんこと後藤真希のことが思い出されるからだった。ソニンの事務所のマネージャーを通じて、わたしたちのマネージャーに連絡が入った。マネージャーはどう扱ったらよいか悩んだようだが、直接ごっちんに問いただしたらしい。当然ながらごっちんの返事は「知らない」だった。第一その晩、わたしたちは地方のホテルに泊まっていたのだから、犯行は不可能だった。
- 157 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)20時59分06秒
- 次の被害者は、カントリー娘。のあさみだった。カントリーの新曲が出て、りんねやあさみにもラジオ等の出演依頼が来ていた。その依頼のFAXに混じって、予告状がFAXされてきた。
「予告状 貴女のフリスビーを戴きに参上する 510」
- 158 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)20時59分52秒
- あさみは何のことかわからず、放っておくことにした。ソニンの一件を知らなかったのだから、責めるのは酷であろう。しかも今回は日時の指定がなかった。四六時中フリスビーを小脇に抱えているわけにもいくまい。
かくて、ラジオ出演から戻って来ると、あさみは「確かに戴いた 510」と貼り紙のしてある自分のカバンを見つけることとなった。
- 159 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時00分46秒
- これらの出来事がわたしたちの耳に入るのまでに、それほど時間はかからなかった。まずごっちんが「むかつくー」と言いながらもにこにこしながらソニンの件を話した。そしてまもなくおしゃべりな梨華ちゃんがあさみの様子を物真似しながら、あさみの件をみんなに吹聴した。
盗まれたものがたいしたものではなかったので、「恐いね」と言いつつもそんな素振りはまったくなかった。そして次の被害者は誰であるか、みんなで予想しあった。
- 160 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時02分10秒
- 第三の被害者は平家さんだった。盗まれたのは新曲「プロポーズ」のプロモーションビデオで着ていたウェディングドレスだった。これは平家さんの体型に合わせた特注品だったのだが、これ以降、平家さんがドレスを着て歌うときには貸衣装を着るはめになった。
- 161 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時03分08秒
- 第四の被害者は中澤さんだった。中澤さんはテレビのコントで教師役で出ているのだが、そのときに手にしている指示棒が盗まれた。それくらいの物はどうってことないのだが(第一中澤さんの私物ではない)、予告状が出されたのが収録5分前で、盗まれたのが収録3分前だったので、どうすることもできなかった。時間が押していたため小道具さんも間に合わず、その日のコントでは梨華ちゃんは中澤さんに竹刀でどつかれることになった。
- 162 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時03分41秒
- さて、被害が中澤さんに及ぶと、わたしたちものん気に構えていることはできなくなった。卒業したとはいえ中澤さんは元モーニング娘。である。だんだんターゲットが娘。に近くなってきた。
まずわたしたちがしたことは、犯人がどんな人間であるか想像することだった。
「かっこいい青年だよ、きっと」
「渋いおじ様かもしれないわね」
こんな変なもの盗むのは変態ではないかとわたしは思ったのだが、目を輝かせる彼女たちにそれを指摘するのはやめておいた。
- 163 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時04分13秒
- やがて狙われるであろう当人たちはともかくとして、事務所のほうはそろそろ放置しておくことはできなくなった。変な物が盗まれてそれが世間に知られたら、大きなイメージダウンにつながるからである。
社長やつんくさんは知り合いの警察の偉い人に頼んで、調査してもらったらしい。興味があったわたしはつんくさんに様子を聞いてみた。大阪で建築中のビルのことをほのめかすと、つんくさんは差し支えのないところを話してくれた。
- 164 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時04分50秒
- 例の「510」というのは警察の識別番号のことで、これに該当する人間を指名手配していたということだった。ただ過去形なのはそれが何十年も昔の話だからで、この人間が再び活動を始めたとは考えられないというのが警察の考えらしい。
梨華ちゃんに負けず劣らずおしゃべりなわたしは、このことをごっちんに話した。
- 165 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時05分26秒
- 「じゃあさ、その泥棒さんの息子か孫がさ、跡をついで泥棒になったってのはどう?」
「うーん、どこかで聞いたことがある話だね」
みんなわくわくして待っているうちに年が明けた。コンサートやら何やらで忙しく走り回っているうちに、例の泥棒のことなど忘れてしまっていた。
- 166 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時05分56秒
- 不意に予告状がやってきたのは、年初のコンサートが一段落ついた頃だった。
控え室で出番を待ちながら騒いでいると、飯田さんがよろけながら入ってきた。安倍さんに1枚のカードを手渡すとばったり倒れた。
「年賀状?」
みんなで安倍さんを取り囲んだ。ちょっと時期遅れの年賀状である。安倍さんは裏面を読み上げた。
- 167 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時07分13秒
- 「あけましておめでとうございます 貴女のサイン入り画集の栄えある一冊目を戴きに参上する 510」
感嘆の声が上がった。
「飯田さんかあ。ま、順当なところかな」
「リーダーだしねえ」
「あたしのピンクの枕でなくてよかった」
「これって、握手会で堂々と盗むってこと?」
「サイン入りで一冊目って言ったらそうだよね」
「凄いじゃん。けっこう人がいるところでやるつもりなんだ」
「もしかして徹夜で一番前に並んでいたりして」
「キショッ!」
- 168 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時07分48秒
- キャハハと矢口さんは笑った。先頭に並んで手に入れるのなら、それは泥棒でもなんでもない。飯田さんはというと、ひざをついてテーブルにもたれかかっていた。
「どうしたんですか、飯田さん?」
「実はね、カオリ初めての画集だから、記念にね、最初にもらった一冊にサインして自分でとっといてあるの」
印刷機で大量に作られる画集の一冊目など、なんの価値があるのかどうかわからない。本当の一冊目は印刷所の方で見本として残してあるのではないかと思うが、それでも本人にしたら大切な宝物なのだろう。
- 169 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時08分37秒
- 幸いにもまだ盗まれてはいなかった。そこで飯田さんは肌身はなさず持ち歩くことにした。自分の家以外では一人にならないようにした。外を歩くときのために防犯用のブザーを買った。家の中でも必ず自分の目につくところに置いた。寝るときは部屋に鍵をかけ、パジャマの中に画集を入れた。本の角がお腹に当って、悪い夢を見たらしい。目の下のクマがいっそう濃くなっていた。
テレビの収録などではマネージャーに預けた。マネージャーは飯田さんに見えるように胸の前に本を掲げなければいけなかった。おかげでマネージャーの腕がつった。疲れて腕を下げると飯田さんの悲鳴があがった。
- 170 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時14分42秒
- そしてようやく握手会当日となった。
「やっとこの日が来たね」
「今日さえ乗り切れば、モーニング娘。の勝利だよ」
実のところ、握手会までになんて日限は書いてなかったのだが、わたしたちは勝手にその日に510が盗みに来ると決めてかかっていた。そういうことにしておかないと、マネージャーも周りの人間もくたびれ果ててしまう。
- 171 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時16分16秒
- まずテレビの取材から始まった。こまめな宣伝は重要である。このときの本は、飯田さんの一冊ではなかった。飯田さんの宝物は、すでに手垢で薄汚れていてTVに映すにははばかられたからだ。
この後すぐ握手会である。けっこう並んでいるらしく、熱気が伝わってくる。今日、この握手会の様子を見に来たのは、わたし、ごっちん、保田さんのプッチモニ勢と梨華ちゃんだった。ミニモニの三人は新曲の練習、安倍さんはドラマのけいこでいなかった。
- 172 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時16分58秒
- 飯田さんはわたしに大切な画集を預けた。責任重大である。紙袋に入れてがっちり握っていた。
「ねえねえ、ほんとにそれ本物?」
最近疲れ気味のごっちんが脅かすので、中を開いて確かめてみた。本物だったが、前に見せてもらったときよりさらに黒ずんでいた。
「想像したとおりだね。カオリ大事にしてたんだね」
わたしは安心して袋に戻した。安心したとたん、トイレに行きたくなった。わたしは残りの三人を見まわし、ごっちんに袋を預けて出ていった。
- 173 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時17分57秒
- 手を洗っていると大歓声が起こった。急いで三人のところに駆け戻った。梨華ちゃんに様子を聞くと、興奮したファンが飯田さんの手を握って離さなかったらしい。梨華ちゃんは昔のことを思い出したのか表情が暗い。保田さんは目がつりあがっていた。
ごっちんに紙袋を返してもらった。やがて握手会は再開し、終了までこれといったことは起こらなかった。
飯田さんが戻ってきた。少々興奮気味だ。自分の宝物のことは忘れたのか、いろいろおしゃべりをした。バスに乗り込んでから飯田さんは気づいた。
- 174 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時18分29秒
- 「よっすぃ〜、ありがとう」
わたしは飯田さんに袋を渡した。飯田さんは袋を開き、画集を開いて、それからゆっくりと倒れた。保田さんとわたしは飯田さんをシートに寝かせた。
「あれ、これ飯田さんのサインじゃない!」
「ほんとだー。誰のサインだろう」
わたしもそのサインを見せてもらった。金釘文字で「飯田香織」とあった。
- 175 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時19分31秒
- 本の外見は同じように汚れていて見分けがつかなかった。ぺらぺらとページをめくってみると、「確かに戴いた 510」と書かれたメモ用紙がはさんであった。
気絶した飯田さんを近くの病院に運ぶと、わたしたちは次の仕事先に向かった。飯田さんのことは心配だが、仕事は仕事である。
- 176 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時20分03秒
- 明日は早朝からロケがあるので、全員都内のホテルに泊まることとなった。飯田さんはこのロケには戻ってくるらしい。わたしはごっちんと相部屋だった。二人で枕投げしてから寝ることにした。
「とうとう泥棒さんにやられちゃったね」
「それそれ、思い出した。飯田さんの画集、返したほうがいいよ」
「んあ?」
「だって、510ってどう考えてもごっちんだもん」
- 177 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時20分44秒
- ごっちんが枕を投げてきたのを両手でキャッチした。
「あたしなわけないじゃん。ソニンのとき……」
「ゴトーってもう一人いるでしょ。ユウキくん。ごっちんはあのときわたしたちと一緒だったけど、ユウキくんはその晩何してたのかな?」
ごっちんはふとんを頭からかぶった。わたしは枕を持ってごっちんのベッドの移動した。
- 178 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時21分30秒
- 「もちろん証拠は何にもない。でもハロプロに関係がある人で、ハロモニのコントに関係ある人で、飯田さんの握手会に関係ある人って、ずいぶん限られると思った」
いびきをかく音が聞こえてきた。もちろん狸寝入りだ。
「でもさ、わかんないのが、どうしてそんなことするのかな、ってこと。いくら考えても想像がつかないんだ」
- 179 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時22分06秒
- ごっちんが急に起き上がった。わたしから枕を奪った。
「逆に聞きたいんだけど、どうしてよっすぃ〜はあのときあたしに本を預けたの? あたしがあやしいと思ってたんでしょ?」
「……確かめたかったから。ほんとにごっちんなのかなあって」
「じゃあ、よっすぃ〜も同罪だよ。あたしは別に贋物とすりかえることができなくてもかまわなかった。失敗したなら『モーニング娘。の勝ち』ってことでよかったし」
- 180 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時22分49秒
- 「やっぱりあの騒ぎのときに盗んだんだね」
「梨華ちゃんはともかく圭ちゃんがいたからさ。なかなかチャンスが来なかったんだよね」
「で、ごっちんはどうしてこんなことしたの?」
ごっちんはふとんの上にちょこんと正座した。わたしもそれにならった。
- 181 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時23分21秒
- 「まず、あたしの質問に答えて。よっすぃ〜さ、最近みんなの秘密を暴いてるよね。どうして?」
わたしは自分の懊悩をごっちんに説明した。ごっちんは腕を組んでふむふむとうなずいていた。
「よっすぃ〜は謎とか秘密とかを見つけるとうずうずしちゃうんだね。でもそれで何かの解決になった?」
わたしは首を振った。
「何でだろう」
「それはね、終わってないからだよ」
「ん? どういうこと?」
- 182 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時24分07秒
- 「モーニング娘。が終わってないということ。ふくろうは黄昏に飛び立つんだって。ふくろうって知恵の象徴だよね。その知恵を働かせて、物事がどうであったとかはっきりわかるのは黄昏になってから、すべてが終わってからなんだよ」
わたしはごっちんの言葉にぽかんとした。
「だからよっすぃ〜が知恵を働かせて、謎を解いていっても何にもならないんだよ。まだわたしたちは続いているから。逆にいえば、あたしはまだ終わらせたくないんだ、モーニング娘。を。だからあたしは謎を作ったの」
- 183 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時24分51秒
- 「謎にしてはずいぶん手がこんでるよ」
「だって他に思い浮かばなかったんだもん。たいへんだったんだよ。カオリさ、いつも本を大事そうに抱えて本が汚れていったでしょ。あたしが用意した本も同じように汚さないといけないから、あたしもパジャマに入れて寝てたんだよ。寝心地最悪」
だから、最近ごっちんは疲れて寝不足のような感じがしたのか。
- 184 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時25分50秒
- 「でさ、よっすぃ〜もさ、謎を解くほうじゃなくて、謎を作るほうにまわろうよ。よっすぃ〜もモーニング娘。なんだから」
ごっちんの言葉に、わたしは自分のするべきことが何かわかったような気がした。ごっちんが右手をわたしに差し伸べてきた。わたしはその手を取り、固く握った。
それからわたしたちがどのような謎を作っていったかは、それはまた別の物語となる。
- 185 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時26分53秒
- おしまい
- 186 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月16日(水)21時28分24秒
- ごくろうさま
- 187 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月16日(水)21時29分43秒
- ということで
- 188 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月16日(水)21時30分54秒
- 『妄想』『冒涜』『慢心』吉澤ひとみ三部作終了です。
読んでくれた人、ありがとう。
(0^〜^)<またね〜
- 189 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月16日(水)21時31分29秒
- >>186
びびった
- 190 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月17日(木)18時19分16秒
- ああ、終わってしまいましたか。。。
この話の独特な世界観が好きで、毎回欠かさず読んでました!
作者サン、お疲れさまです。
- 191 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月21日(月)20時58分59秒
- お疲れ様でした。
妄想から読み返させていただきました。
やっぱり(・∀・)イイ!!
あなたについてきます。次回作期待
>189びびらせてごめんよ
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