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ピンクのサウスポー

1 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月13日(日)03時47分11秒

10月28日、１人の選手がユニフォームを脱いだ。
激しい戦地を全力で駆け抜けた戦士の顔に安堵の表情が戻る。
「悔いはないです」
晴れやかな、清々しい表情はその言葉に嘘がないことを証明していた。
在籍１年
通算成績　20試合３勝８敗　防御率４．３５
取り立てて素晴らしい成績ではない。
しかし彼女はまぎれもなく2003年のペナントレースの主役だった。
「ピンクのサウスポー」と称された一輪の華。
「投手」石川梨華は今日を境に「モーニング娘。」石川梨華に戻る。

2 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月13日(日)03時49分05秒

「ストライク、バッターアウト。ゲームセット」
優勝決定後のおきまりの消化試合。
今期最終戦、スコア１−６　敗戦。
2002年セントラルリーグ全日程終了。
成績　140試合46勝94敗
闘将星野仙一をもってしても阪神タイガースは４年連続の最下位へと沈んだ。
敗戦が３桁に乗らなかったことがせめてもの救いだろうか。
アカン、アカンワ……
虎ファンの心無い野次にもすっかり慣れてしまった自分が情けなかった。
星野は今期を通じて予想の範疇の中での改革では、このチームは何も変わらないことを痛感した。
大改革が必要や
誰もが予想だにしない大改革が……

3 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月13日(日)03時50分02秒

11月
大学生に好素材が揃ったドラフト会議。
いわゆる松坂世代のゴールデンエイジ達が話題の中、主役となったのは１人の異色選手だった。
阪神８巡目指名。
ここでドラフト会議史上最大の事件が起きる。
仕掛人はもちろん、阪神監督星野仙一。
指名選手がアナウンスされるまでに１分近く時間がかかった。
「阪神　石川梨華　17歳　投手　アップフロントエージェンシー」
そうアナウンスが告げられた瞬間、会場は静寂につつまれた。

4 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月13日(日)03時51分02秒

同日
テレビ局での収録を終えた石川梨華はマネージャーと共に事務所へと向かっていた。
「大事な話がある」とだけ告げられていた石川は、わけがわからぬままただ黙って窓の外を眺めていた。
ただ、いつもは口うるさいマネージャーが今日は妙にやさしかったのが、石川の心を不安にさせていた。
事務所の会議室には会長、社長、そしてプロデューサーのつんくが勢揃いしていた。
それを見た瞬間、石川は覚悟した。
これは只事じゃ済まないと。

5 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月13日(日)03時51分56秒

泣きそうになるのを必死で堪えながら石川は席につく。
覚悟はできていた。
何があっても黙って全てを受け止めようと心に決めた。
会議室に緊張感がはしる。
「石川……」
つんくの言葉が沈黙を破る。
石川の身体がぴくっと反応する。
石川は恐る恐る顔を上げ、つんくの顔を見る。
「実は……またレンタルされて欲しいねん」

6 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月13日(日)03時52分44秒

レンタルと聞き、石川は安堵した。
もっと最悪のケースを考えていたのだった。
レンタルでよかった……
またカントリーかな？
りんねさんやあさみちゃんとまた一緒にできる
それともメロン？
柴ちゃんと一緒にやるのも楽しそう
しかし石川の予想はあっさりと外れる。
「阪神タイガースや」

7 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月13日(日)03時54分22秒

「はんしんたいがーす？新しいユニットですか？T&Cボンバーみたいな……」
「野球チームや。プロ野球」
「……はい？」
「期間は今日からシーズンオフまで、約１年間や」
「えっ、ちょ、ちょっと……」
「これから記者会見があるから、すぐ用意してくれ。以上」
一方的にそう言い放つと、つんく達は先に会議室を出て行った。
会議室から出て行く大人達の背中を、石川は口をぽかんと開けたまま黙って見ていた。
そして会議室のドアが閉まると同時に、石川の瞳から大粒の涙がこぼれた。
石川は絶望という名の深い谷に突き落とされた。

8 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月13日(日)03時55分34秒

記者会見中、石川はずっと上の空だった。
事前にマネージャーに言われた通り、記者に何を聞かれても「頑張ります」とだけ言い、後はただ黙っていた。
何を聞かれていたのかもほとんど覚えていない。
覚えているのは、カメラのフラッシュが眩しかったことだけだった。
つんくの話によると、すでに契約には合意しているとのことだった。
内容はレンタル期間が１年
契約金１億、年俸1200万
プロ初の女性選手、期間限定、８巡目指名の選手としては破格の金額、指名会見が即入団会見と異例づくしだった。

9 名前：夜叉 投稿日：2002年01月13日(日)16時39分12秒

背番号が気になってみたり（ｗ。
続き楽しみにしてます。

10 名前：巴 投稿日：2002年01月13日(日)19時26分32秒

阪神監督はやはり話題の名古屋の暴れ竜だったあの方でしょうか……。
もしやゼティマに身売り？面白そう。楽しみにしてます。

11 名前：名無しさん 投稿日：2002年01月14日(月)03時01分21秒

>9
4714じゃないの藁
発想がバカッぽくてよろしい期待sage

12 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月14日(月)21時11分35秒

「当然戦力として考えているよ」
星野は悠然と報道陣の質問に答える。
しかし半ば呆れ顔の報道陣の星野への質問攻めは止まらない。
「戦力にならん者に金を出すほど、うちの球団は裕福じゃないよ。とにかく来シーズンを期待しててくれ」
そう言い残すと星野は会議場を後にした。

翌日のスポーツ新聞の１面は石川一色だった。
しかしそのほとんどは悪意的な記事。

『阪神　マスコットガールをドラフト指名』
『モー娘。石川　ソロデビュー先はプロ野球』
『星野迷走』
『新ユニット誕生　阪神タイガースに石川梨華（モーニング娘。）』　
『石川って野球するの？』etc…

満面笑顔の星野と顔面蒼白の石川
２人があまりにも対照的でおもしろい。

13 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月14日(月)22時45分43秒

星野には今シーズン忘れられない１球があった。

ペナントレースの休養日、ちょうど大阪に遊びに来ていた孫娘にせがまれて行った大阪城ホール。
「ハロープロジェクト２００２　秋」
孫娘にこれは何だと尋ねるとモーニング娘。のコンサートだよと教えてくれた。
モーニング娘。なら聞いたことがある。
若い娘さん達が歌ったり踊ったりするんだろう、と孫娘に言ったら「大体当たってる」と言って笑われた。

コンサートは星野にとってひどく退屈なものだった。
むしろ熱狂的なファン達を見ていたほうがおもしろかった。
このファン達はタイガースファンに似ている。
となるとモーニング娘。はさしずめ芸能界の阪神タイガースか。
でもうちと違ってこの娘達は結果を出してるからなあ、などと考え星野は自嘲的に笑った。

この時阪神タイガースは５位に８ゲーム差をつけられ最下位独走中だった。

14 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月15日(火)00時07分30秒

いよいよコンサートも終盤に差し掛かる。
今回のコンサートはサインを書いたゴムボールを客席に投げ、それをプレゼントするのが最大の目玉だった。
星野は、孫娘がなぜ自分と一緒にコンサートに行きたがったかがようやく理解できた。

ステージ上ではモーニング娘。達が次々と客席にボールを投げ入れる。
プロ野球の監督としての性なのだろうか、星野はどうしても投球フォームをチェックしてしまう。
どの娘も、良く言えば「可愛らしい」投げ方をしている。
しかし、星野はその中でひときわ綺麗なフォームで投げる娘に目を奪われる。
スッと脚を上げゆったりとしたオーバースローで客席にボールを投げ入れる。
「ほぅ、あの娘はなかなか……」

吉澤ひとみだった。

15 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月15日(火)01時27分28秒

星野は吉澤に感心しつつ隣の娘に目を移すと、思わず吹き出してしまった。
「あれはアカンわ……」
そのあまりにも不恰好な投球フォームを見て星野は呟いた。
両手にボールを持ち、クネクネと身体を揺らしながら客席にボールを放り投げる。
そのフォ−ムを何かに例えて表現するなら「蛸」がぴったり当てはまるだろう。

星野はその娘を苦笑いしながら見ていた。
正にその時である。
「蛸」の手元から星野の方向へボールが放たれたのである。

星野は孫娘の期待を理解している。
ボールを真っ直ぐに見据え、両手を目前に構えた。

次の瞬間、ボールは星野の身体に当たり前席の方へ跳ね返った。

16 名前：（偽）Number 投稿日：2002年01月16日(水)21時21分27秒

星野は驚愕した。
隣にいる孫娘の呼びかけにもしばらく気がつかなかった。

何や……あの球は？
左右に揺れて……
目前で……

消えた

星野は我に帰ると、審判に詰め寄るかのような勢いで孫娘に尋ねた。
あの蛸の、いや、あのピンクの衣装の女の子の名前は―――と

「あれは石川梨華ちゃんだよ」

17 名前：名無しさん 投稿日：2002年01月18日(金)03時22分22秒

なんか期待。
がんばってください。

18 名前：名無しさん 投稿日：2002年01月20日(日)22時21分12秒

更新期待