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天才矢口の『歌のお姉さんになるわよ!!』

1 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月18日(金)17時35分47秒
天才戦略家の矢口が権謀術数の限りを尽くして、
NHK「おかあさんといっしょ」の「歌のお姉さん」の座を狙い、
強力なライバル達と死闘を繰り広げるというバカっ話ですが、
お付き合いいただければ幸いです。
2 名前:〜序・胎動〜 投稿日:2002年01月18日(金)17時37分58秒
知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。とかくこの世は住みにくい。
そう言った漱石は明治の人だが、世間の住みにくいのはいつの世も変わらない。

後藤評していわく、『やぐっつぁんが働けば角が立つ。とかく娘。は住みにくい。』

そう言われると立場のない矢口であったが、気付いてみれば娘。に入って以来、
安寧に浸る暇など一度たりと無い。
ただ無我夢中で毎日を懸命に駆け抜けるだけであった。

それが近ごろはぽっかりと穴が開いたように、心にうつろを抱える日々である。
(何か大事なことを忘れているような...)
それが何か思い出せそうで思い出せず、もどかしさばかりが募る。
3 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月18日(金)17時41分54秒
住みにくくしているのが、自分なのか他人なのかさえわからない。
ひょっとすると、住みにくいと感じていること自体、自分の心持ち次第なのかもしれない。
現に辻などは何が楽しいか毎日をただただ笑って過ごす。

笑い顔さえ、何事か企んでいるように見えると指摘されてしまえば、
もはや笑うことも適わぬ。
果てには加護に矢口得意の「お愛想」笑いを真似されてしまう始末。
(はぁ...おいらの時代は通り過ぎちまったらしいしなぁ...)
4 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月18日(金)17時43分17秒
今まで漠然と考えてはいたが、直接のトリガーとなったのは、やはり「うたばん」に
おける石橋のあの言葉であった。
「矢口の時代はとおり過ぎちまったさぁ。」

普段から自分への発言を促す回数の少ないことに不満を隠さない矢口ではあったが、
そのうち自分にも脚光の当てられる日が来ることに対し抱いていた淡い期待は脆くも
その発言により崩れ去った。
(放置かよ!)

心の中で怒りの炎をメラメラと燃やしつつも、そこは古株だ。笑顔は絶やさない。
いや自らは笑顔だと思っているその表情がひきつっていることに矢口本人は気付いて
いなかった。
そう、矢口以外はみな気付いていたにも関わらず。
そして辻加護に見透かされたのが、運の尽き...
5 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月18日(金)17時45分34秒
興奮の余り怒りを沈ませるのに気を取られ、後方でうごめく二人の気配を感じ取った
ときには遅かった。
「あんたたち、なに跳び上がってんのよ?」
交互にジャンプする二人が口を揃えて言う。
「炎!!」
「メラメラメラ!」
「燃えております!!」

笑っていいものか戸惑っている保田以外の全員が失笑する中、矢口は逆上して血が
溯るのを感じた。気が遠くなりそうなほど、冷静さを失いつつも「おまえらぁっ!!」と
叫び、リアクションを返すことは忘れない。

しかし...
(お前ら覚えとけよ...絶対に見返してやっからな!!)

そのときが初めてだったのかもしれない。心の底からその道を志すのだと決めたのは。
そう、「歌のお姉さん」になるのだと...
6 名前:〜立志編〜 投稿日:2002年01月18日(金)17時57分35秒
溯ること数ヶ月。最初に危機感を感じたのはミニモニの思わぬブレイクだった。自ら
発案し、具現化したユニットが大ヒットを飛ばしたからといって何の憂慮を抱く必要が
あろうと思われる向きもあろうが、ことはそう単純ではない。もともと矢口の狙いと
しては、自分の企画したいろものが具体的なかたち、すなわちCDリリースという形で
そのプロセスが実現されればよかったのだ。

矢口の発案と言いながら、あんなものはすべて事務所のあざとい策略に過ぎないと
ことさら、矢口の企画能力を過少評価したがる声は少なくなかったが、それこそ矢口の
思う坪だということにたいていの者は気付かない。

矢口は自分の類希な戦略的思考能力が表出してしまうことを恐れている。アイドルとして
矢口は自分の立場をわきまえているつもりだった。何かを企んでいると見なされるのは
好感度の獲得に大きく影響する。
7 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月18日(金)18時00分24秒
さて、そのミニモニがあろうことか二週連続のオリコン一位という思わぬヒットを飛ばし
たことで、矢口はあせった。自分の思惑と違うところで意図しない方向へと向かうことを
恐れたのだ。

ミニモニは背の低い四人をならべるというコンセプトなだけに、対象を幼児に絞って、
思い切り子供に受けそうなアイテムを採りいれていた。子供をターゲットとした販促活動
のため、子供向け番組を中心とした露出にも力を入れた。
(それが仇になったか...)

後になって冷静に分析を加える矢口であったが、この時点ではまだ、その危険な兆候に
気付いていない。単純にミニモニの成功を喜んでさえいた。

矢口が最初に異変に気付いたのは、ミュージック・ステーションであった。当然、
リーダーである自分に振られるべきトークがあろうことか加護に向けられている!
(ちっ...ロリコン親父はしょうがねぇな...)
8 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月18日(金)18時01分21秒
その場はなんとか納得しようとしたものの、続くうたばんでも石橋に同じ態度をとられ、
さすがにまずいと感じた。これは下手をすると辻加護に食われると。いや、それだけで
なくミニモニ自体が辻加護を中心としたユニットに変貌するのではと。

そうなったとき、最近とみに増しつつある幼さを武器に暴走する辻加護を矢口は
もはや制御できないだろう。それどころか、連中の軍門に降らなければならないという
屈辱さえ味合わされるかもしれない...矢口の不安は嫌が上にも高まった。

もちろん、矢口は自分が今年、19歳になることを意識している。来年は20歳だ。
今まで小さいことをモーニングの中で自分の個性を際立たせるためのひとつの方便として
利用してきたが、辻加護の加入で一気にその「小さい」部門のパワーバランスが崩れた。
9 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月18日(金)18時03分10秒
加えて自分が長い年月をかけて培ってきたリーダー中澤裕子の寵愛さえ矢口ひとりが独占
というわけにはいかなくなってきた。中澤の脱退により、娘。の活動の中で直接の影響を
感じることはないものの、つんくへのアクセスや事務所への発言権など中澤の発する力は
思いのほか大きい。何も考えていない辻はともかく、後ろ盾を得つつある加護の存在は
不気味だった。

ミニモニの人気に呼応するように娘。本体の支持層も替わりつつあった。従来の10代後半
から20代前半の青年層から、小中学生の女子へと移行していった。これには「なかよし」
など漫画媒体への進出が大きく影響したと矢口自身は分析しているが、果たして事務所は
この傾向をいちはやく察知、マーケティングにおけるターゲットの変更を図った。その
戦略の中心に据えられたのは辻加護である。
10 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月18日(金)18時03分58秒
表向き石川や吉澤がプッシュされているかのごとき様相を呈してはいるが、それは彼女
たちが事務所の後押しなしには一本立ちできないことを示しているに過ぎない。それが
証拠に、TVのトーク番組などでは「うたばん」の保田を例外として、必ず辻加護に
振られることが目に見えて増えてきた。

本来なら事務所サイドとしても旬のこの時期に辻加護の露出をもっと増やしたいところ
だが、いかんせん義務教育就学中の生徒ということでもあり、あからさまな酷使はでき
なかった。

事務所サイドがその代りに打ち出したのが、新メンバーへの中学生4人の登用だ。これを
以って矢口はもはや娘。の中心として音楽なり、TVなりの主軸として起用されることは
なくなるだろうとの確信を深めていった。
11 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月18日(金)18時04分58秒
それは先に20歳を過ぎているリーダーカオリや保田、安倍にも言えることだった。
しかしドラマへの出演を果たし、すでに娘。後の地歩を固めつつあるカオリと安倍や、
歌での自立をめざし、様々な方面に対し運動を開始している保田らと矢口では自ずと
その後の展望が異なった。

矢口は自身、歌唱力において他の三人に引けをとるとは思っていない。どころか、
娘。の音楽を支えてきたのはある意味、自分であるとさえ自負している。事実、
矢口以外にハーモニーの高音部をうまくこなせる人材はいなかった。

矢口の存在がなければ、つんくによって「メモリー青春の光」などという、普通の
アイドルであれば到底ありえない高度なコーラスを多用する楽曲が生まれることも
なかっただろうと思っている。
12 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月18日(金)18時06分52秒
しかし、この器用さが逆に仇になった。メインボーカルや局地的に主旋律を担当する
だけなら、多少粗があってもできる。実力的にはメインを張ってもおかしくない位置に
いながら、矢口は常にサポート役に甘んじていた。

「発声が素直過ぎて、課謡曲のリードには向かない。」
と言われたこともある。そのときには、
(なんだと!)
と反発する気持ちが大きすぎて冷静に考えることはできなかったが、後々、他のメンバー
と声質を聞き比べてみて、なるほどと思わないでもなかった。我ながらなんとなく、
NHKの歌のお姉さんみたいだなとは感じたものの、この時点でまさか自分がそんなもの
を志すことになろうとは思いもしなかった。
13 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月18日(金)18時08分30秒
きっかけは皮肉なことにやはりミニモニだった。辻加護の暴力的とも言える幼さの
レトリックに対し矢口には引率のお姉さん的符号が割り当てられたといって良い。
番組のロケなどで親子づれと一緒になるとき、辻加護が子供たちの圧倒的な人気を
博す一方で、保護者の受けがいいのは矢口だった。

そして最近では男性ファンからのファンレターよりも、おかあさん方からの励ましの
お便りを受け取ることが増えた。(驚くべきことに事実だ。)言うことを聞かない子供の
教育に苦労するおかあさん方の共感を矢口は得た。

辻加護が幼児と同一視されているのに対し(実際、子供たちと遊ぶ様は完全に同化していた)、
矢口は保護者として頑張っている「歌のお姉さん」と見られていたわけだ。
14 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月18日(金)18時10分58秒
以来、矢口は真剣に自分の将来を考えるようになった。
TVなどでは絶対に見せないが、楽屋で矢口が物思いに耽る光景がよく見られるように
なった。矢口は考えた。中澤が抜けた今、トークの核となっているのは自分のはずだと。
中澤の後を次いでオールナイトニッポンのパーソナリティも最年少という若さで担当する
ことができた。

娘。の中でもっとも多様な仕事を柔軟にこなせるのはやはり自分であろうと。ただ、
それはあくまでも娘。の一員としての話しだ。中澤のように娘。の肩書を背負わずに
個人として見たらどうか。矢口はやはり、まだ自立するのは無理だろうと考えざるを
得ない。
15 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月19日(土)02時30分09秒
しまった、おもしろいじゃないさ(w
16 名前:名無し男 投稿日:2002年01月19日(土)15時13分43秒
励ましのお便りワラタ
17 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月19日(土)23時55分22秒
そもそも、矢口のやりたいこととは何だったのか。TVのトーク番組で中心になり脚光を
浴びることだったか。否。矢口は歌を唄いたかったはずだ。しかし、このまま娘。に
留まっていても、もはやリードを取る可能性は残されていない。それはよく理解している
つもりだ。かといってバラエティ向けのタレントとして生きていくのも本意ではない。
ましてや、ソロ歌手として自立していくには自分には決定的に何かが足りないことを自覚
していた。

それは強いて言えば”華”とでも言えるかもしれない。例えば後藤にはあって自分にない
もの。背が高ければあるいは自分にも備わっていたかもしれないもの。いっそそうした
すべてのハンデを忘れてただがむしゃらにソロの道を目指すことができたらとも思う。

けれど、何も考えずに自らの夢を追うには、あまりにも矢口は聡明すぎた。
『汝自身を知れ』
ギリシャ、アテネのパルテノン神殿に刻まれているというデルファイの神託(オラクル)は
万物の真理を探求するための糸口としてこう記している。矢口は知り過ぎるほど知って
しまった。それがゆえに動けない。
18 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月19日(土)23時56分41秒
そんな中で歌のお姉さんという選択肢があることに矢口は少しだけ勇気づけられた。
年齢的にまだまだチャンスが残されていたからだ。矢口は歌のお姉さんとなるかどうか、
まだ自分の中で整理できていなかったが、情報の収集だけは開始することにした。

それは彼女の処世訓でもある、孫子の兵法の一節「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」
に基づく行動でもある。矢口はことに当るとき、必ず情報の収集と分析による対策を欠か
さなかった。娘。オーディションしかり、またタンポポのメンバー選考しかり。

保田や市井には悪かったが、今ならともかくあの時点で矢口の敵ではなかった。一番効率
の良い戦い方は、勝負が始まる前に大勢を決してしまうことだ。オーディションなどで
矢口がいつも目をつけるのは、選考において誰がキーパーソンを勤めているかという点だ。
キーパーソンの着眼点以外のところでいくら素晴らしいパフォーマンスを示してみても
それはまったくの徒労に帰す。
19 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月19日(土)23時57分29秒
タンポポのメンバー選考において、矢口は他の候補者二人が飯田、石黒との仲を固めよう
と努力するのを後目に、つんくへのアプローチを考えていた。今でこそ、モーニング娘。
のつんくプロデュースが虚構に過ぎないということは、ファンの間でも常識と化しつつ
あるが、タンポポに関してはつんくの意向が最優先されていた。

つんくが唯一、プロデューサらしき仕事を果たしたのがタンポポとさえ言えるかもしれな
い。ともあれ、当時、まだプロデューサとして娘。を手掛け始めたばかりのつんくは商業
的なプレッシャもなく、理想に燃えていた時期である。彼は歌唱力という実力に根差した
本格的なアイドル/ボーカルグループという当時の彼女たちの実力からすれば相当に背伸び
したと言わざるを得ない高い目標を掲げていた。

つんくの志向を彼女なりに読み取った矢口は、ひたすら歌唱力、特にハーモニーを構成
する上で重要な適応力をアピールすることに努めた。結果はいまさら言うまでもあるまい。
矢口の策略はまんまと図に当たり、新メンバーからただ一人、派生ユニットへと参加する
ことになった。
20 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月19日(土)23時58分34秒
もちろんタンポポに入ったことで安住してしまう矢口ではない。先輩メンバ二人との関係
ができたことを足がかりに、着々と娘。内部で地歩を固めて行く工作へと取りかかった。
必ずしも正攻法だけに頼ったわけではない。時には搦め手(からめて)からのアプローチ
も必要だ。リーダー中澤の篭絡(ろうらく)もその一種には違いあるまい。が、その中澤
も今はいない。

歌のお姉さん...おおっぴらにオーディションが行われるわけではないので、その実態は
ベールに包まれている。そもそも定期的に行われるわけではないから運が悪ければ自分が
20代前半の間に開催されないこともありうる。

現在の角田りょうこお姉さんは99年4月からの登板であり、5年程度をひとつのスパン
として考えるなら、不祥事などの問題を起こすことがなければ、あと3年はその座を開け
渡すことはないだろう。
(まだ時間はある...)
21 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月20日(日)00時00分34秒
今年、2002年4月でりょうこお姉さんも丸3年。早ければ来年の降板も考えられないこと
ではない。そうなれば、今春、早々に選考が開始される可能性もある。矢口が考えている
ほど時間の余裕はなかった。できれば音大、あるいは教育学部の音楽専攻への在籍が
望ましい。旧態然としたNHKのことだ。歌唱力の実力さえ学歴で計ろうとすることは
目に見えていた。実際は、必ずしも音楽系大学に籍を置くことが条件というわけでは
ないのだが、この時点で矢口には知る由もない。

さて、音大といってもどこでもいいわけではない。一番有利なのは、ここ三代のお姉さん
を輩出している武蔵野音大である。武蔵音でなければ意味が無いとさえ言えるかもしれない。
同じ大学の出身者が三代連続しているということは、何らかの事情が働いていると見て、
まず間違い無いからだ。だが、今はそのことについて深く触れることは避けよう。

過去三代のお姉さんのうち、一番有名なのは茂森あゆみお姉さんだろう。ダンゴ3兄弟の
ヒットは記憶に新しい。だが矢口の見るところ、一番の実力者はやはりあゆみお姉さんに
その座を禅譲した神崎ゆうこお姉さんだ。
22 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月20日(日)00時01分37秒
ゆうこお姉さんの在位は85年4月から94年3月まで実に9年の長きに渡っている。
惜しまれつつ退いたゆうこお姉さんではあるが、その人気を放っておく手はない。少子化
に伴い、幼児への早期教育熱が高まる風潮の中、幼児教育向けの宅配教材が市場を拡大
している。

そうした教材の要となる歌のビデオの顔とも言える歌のお姉さんだが、これは人材が払底
していた。ゆうこお姉さんはすでに結婚、出産しているのにも関わらず、幼児向け教材
業界からの猛烈な要請により見事カムバック。旧福武書店のベネッセが「子どもチャレンジ」
シリーズを始め、数々の幼児用歌ビデオから引く手あまたという状態であった。つまり、
うまくいけばNHKでの任期を終えたとて、その後の生活はある程度保証されていると
考えて良い。なにせ、この業界は人材が不足しているのだ。

しかも、「おかあさんといっしょ」のお姉さんは、歌のお姉さん界の頂点に立つ存在だ。
待遇の悪かろうはずがない。矢口はいよいよ燃えてきた。
(よ〜し、やるわよぅ!)
23 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月20日(日)00時10分37秒
>15
どもども。頑張りますね。

>16
驚くべきことに事実です!(うそw)
24 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月20日(日)14時54分28秒
幸いなことに矢口は高校中退後、高卒の資格を得るためにNHK学園の通信教育を受講
していた。その甲斐あって昨春、見事に卒業。そして芸能界で培ったコネクションと
モーニングの活動で得た決して少なくはない貯えを有効に利用し、武蔵野音大声楽科への
入学を果たしていた。

世の中のたいていのことは金でかたがつくと学んだのは、なっちやカオリのおかげだ。
彼女たちの油断の後始末が高くついたことは矢口にとって貴重な反面教師となった。
もちろん矢口自身はそんなへまはしない。というか中澤がさせてくれない。矢口自身は
いたってクリーンなのだ。男関係に限って言えば。

こうしたスキャンダルが芸能界では命取りになると同時に、うまく利用すれば大変有効な
武器になり得るということも矢口はこれらの件で学んでいる。それを実際に応用したのが
五期メンバー追加選考においてである。
25 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月20日(日)14時55分17秒
矢口がもっとも危惧した候補者は西田奈津美だった。彼女の加入により、たたでさえ
自分のコンピテンスである、小さくて可愛いというキャラが薄められる恐れがある上、
矢口が当初売りにしていた純情可燐なイメージを西田は醸しだしていた。

今、娘。に欠けており、その存在が求められるキャラクター。彼女の加入は、娘。内部の
人気序列さえ変えてしまいかねないだけに、それだけは断固阻止しなければならなかった。
ただ矢口は気付いていなかった。彼女にはもう小さくて可愛いというイメージで押すには
年齢を重ね過ぎているということに。

ともあれ西田の加入を阻止すべく、矢口は動いた。書類にちょっとした細工を加えるだけ
でよい。モーニングといえば今や、幼児から小中学生に多大な人気を博す国民的アイドル
だ。本人たちが望と望むまいとに関わらず、自ずと健全なイメージを抱かれる。
ちょっとした経歴の傷でさえスキャンダルになりかねない。事務所は新規加入メンバーの
選考が回を重ねるに連れ、そのチェックに神経を尖らせていった。
26 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月20日(日)14時57分26秒
今回の選考で25,000人も応募者がありながら、最終選考に残ったものの顔ぶれを見て
首を傾げざるを得ない結果となったのもそういう理由による。容姿が飛びぬけてすぐれて
いるものには必ずや、奇麗とは言いかねる交友関係や経歴がついてまわった。
自然、年齢的にも10代後半になるとそうした背景を抱える含有率が高くなるため、
最後に残った顔ぶれはすべて幼さの残る10代前半の中学生だけに絞られてしまったのだ。

西田が実際に不良であったかどうか、矢口は知らない。いや知る必要もなかった。
自分にとっての脅威となりうるか否か。重要なのはその一点だけであった。
そして、彼女は必ずや脅威となる。その判断だけで十分だったのだ。
矢口は最終選考候補者に対して行われる興信所のレポートに一言書き加えるだけでよかった。

『交際中男子高校生に補導歴有り。西田自身も喫煙目撃証言複数。周囲の評判、すこぶる
悪し。』

27 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月20日(日)14時58分26秒
よほど西田が飛び抜けていない限り、つまり他にめぼしい候補者がおらず、リスク覚悟で
西田の採用を検討しなければならないような状況にならない限り、確認されることはない
と踏んでいた。

そしてその読み通りの展開となった。矢口は高橋、小川で決まるだろうと見ていたが、
果たして結果は予想通り。落選後も西田を惜しむ声がしばらくは消えず、インターネット
で応援サイトなどが続々と立てられるのを見るに連れ、矢口は自分の判断が間違って
いなかったことを確信した。

ただし、何らかのコネクションが介在したとしか思えない新垣はともかく、下馬評にも
上がらなかった紺野の存在は不気味であったが。いずれにしても当面の脅威とはなり
得ない無難な人選に終わり、矢口はひとまず安堵した。
28 名前:名無し男 投稿日:2002年01月20日(日)18時47分18秒
物凄い詳しいおねーさんデータワラタ
29 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月22日(火)00時10分09秒
しかし思えば、中学生4人を採用したあの時点で矢口は気付いているべきだった。それは
自分でも自覚している。だいたいが会長の趣味からして、この流れは必然だったのだ。
(あのロリコン親父がっ...くそっ!)

油断していた。リーダーたる自分がまさかミニモニから外され(卒業だとさ!)、新垣に
その座を奪われるとは...迂闊だった。そして何よりも悔しいのは、裏で加護が何か画策
したらしい痕跡が窺えることだった。
(この若禿げがぁぁぁぁっ!!)

心の中で毒づいてみるが、気分は晴れない。矢口の人生において最大の屈辱といって
よかった。生来、負けす嫌いな性分に加えて自分でも意外なくらい執念深かった。
もちろん、その嫌になるほど諦めない性格のおかげでモーニングの一員として、芸能界に
デビューできたことは否定しない。人生という日々戦いの場において、「諦める」という
ことは即ち「負け」を意味するのだ。少なくとも矢口の人生哲学に「諦める」という
概念の占める余地はなかった。
30 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月22日(火)00時11分16秒
ただ、負けず嫌いで執念深い性格ではあっても、戦略家としてやはり天性の気質が
備わっていたのだろう。矢口は「負ける」ことから、多くのことを学んできた。
自身、初めての芸能関係への挑戦となるミュージカル「アニー」子役応募での惨敗以来、
必ずしも順風万帆というわけではなかった道程において、常に矢口をして自らを
向上せしめたのは、失敗に学ぶ姿勢であった。

そして今回の失敗から学んだことは...
それは時勢が見えなかったということに他ならない。モーニングの支持層が低年齢化
してきたことについては敏感に察知していた矢口であったが、子供にアピールしたのは
ミニモニの成功によるところが大で、そのミニモニのリーダーたる自分の果たした役割は
決して小さくないと自己評価していた。

結果として、その評価が裏目に出たことは否定できない。加護の実力については相応に
評価していたつもりだが、まさか辻や、あろうことかミカまでが予想外の人気を得ること
は想定していなかったし、実際、つい最近まで想像だにしないことであった。
31 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月22日(火)00時12分29秒
辻のあの到底中学生とは思えない奔放さが幼児の心を掴み、ミカの英語力が幼児期から
熱心に英語を習わせる母親の期待感を高めた。そう分析できるようになったのは随分と
後になってからのことだ。

そして最大の誤算は加護の造反であった。確かに加護には必要以上に厳しく接したかも
しれないが、それはリーダーとしての自覚からなされたものであったし、加護自身、
それを理解していると思っていた。まさか、加護がミニモニトップの座を狙って自分を
追い出し、代わりにちびっこ仲間、いやパシリとして使える新垣をちゃっかりと据える
とは。

悔しく思いつつも、矢口は意外にもミニモニ自体には執着がなかった。聡明な矢口は既に
ミニモニにおいて自分の果たすべき役割が終焉を迎えつつあることに気付いていたのだった。また、モーニングにおいては全体的な歌唱力の低下、アイドル路線の固定化により、
自分の長所のひとつである歌唱力をいかせる楽曲が与えられなくなった。
32 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月22日(火)00時13分26秒
ミニモニはもとより歌を聴かせるユニットではない。唯一、矢口の安息の地となるべき
タンポポは石川・加護のキャラクタを前面にだしつつもなんとか「歌手」としての存在感
を示したいカオリの強烈な個性との間でバランスを取ることに腐心する余り、とても楽しむ
という余裕はなかった。

そう、矢口自身、とても現状を肯定できるような明るい材料を見い出せなかったのだ。
加えて中澤が脱退したことで、トークの負荷はすべて矢口に回ってくる。
歌番組やバラエティ番組で司会者に振られても、まともに返せないメンバーの多い中、
負担はすべて矢口が負わなければならない。

その当然の帰結として矢口には「うるさい」とか「やかましい」といったイメージが
ついて回った。なんと理不尽な評価だろう!!
好んでおしゃべりな役回りを演じているわけではないのに!!
(いや...好むところがまったくなかったとは言わないが...)
33 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月22日(火)00時14分51秒
矢口はただ歌が唄いたかっただけだ。そのための戦略だ。だが、モーニングは余りにも
大きくなり過ぎた。その存在は既に矢口がコントロールできる限界を大きく超えていた。
曲がりなりにもハーモニー主体のコーラスグループを目指していた初期を懐かしむ
なっちやカオリとはまた別の感慨を以って矢口は加入当時の充実感に思いを馳せていた。

しかし、もはや後戻りはできまい。国民的アイドルが牽強付会な和音を奏でてはならない。
いわんや幽霊のようなコーラスなどもってのほか。子供たちの人気ものが「ハァ...」など
と色気づいて吐息を漏らしてはならない。覆水盆に帰らずと言うではないか?
こぼしたミルクは戻らないのだ。エントロピーの法則をわきまえぬ矢口ではない。

矢口は悲しかった。自分のやりたいこととは違う方向へと大きく傾いているモーニング
ではあったが、自分に青春というものがあったとすれば、まさにモーニングこそが、
それにほかならないからだ。
34 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月22日(火)00時16分48秒
中澤が脱退するときに残したコメントとして、「私は刺し身のつま」という言葉がよく引用
される。だが、矢口はむしろ「モーニングは私の青春でした...」という言葉にこそ、中澤
の真実があると思っている。去り逝く者の言葉としては蓋(けだ)し名言だとさえ考えて
いた。

矢口の青春は疾風のごとく駆け抜けて行った。
モオツァルトの短調は疾走する悲しみだと表現したのは小林秀雄だったか。モオツァルト
とモオニングにいかほどの違いがあろうか?モーニングでの青春は矢口にとって走り抜け
る悲しみだった。

ひたすら走って、走って走り抜けて。
その先にあるものが何であるか考えるために立ち止まることはなく。
走り抜けた今、それが悲しみであったと気付いた後、
さらに走り続けることがどうしてできよう?

矢口は脱退するときに残す言葉を既に決めていた。
『モーニング娘。という疾風怒涛。』
それこそが矢口の青春だった。
35 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月22日(火)00時22分45秒
>28
どもども。せっかくお誉めいただいたのに、ゆうこお姉さんの在位期間を
間違えていました。正しくは下記。以後、正確な記述に努めます。

第16代:神崎ゆうこお姉さん  87年4月〜93年3月
第17代:茂森あゆみお姉さん  93年4月〜99年3月
第18代:角田りょうこお姉さん 99年4月〜
36 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月22日(火)08時38分11秒
無茶苦茶おもろいっすw
作者さん物知り&研究熱心&文章上手いっすねー。
37 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月22日(火)19時31分01秒
うちの子が良く見てるんで歌のお姉さんは良く知ってます。
まさか作者さんも……。
38 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月22日(火)22時09分14秒
面白いですね。矢口お姉さんがんがれ!(w
39 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月22日(火)22時30分01秒
おもしろいですね(w
やぐっつぁんふぁいと〜
40 名前:〜死闘編〜 投稿日:2002年01月23日(水)00時44分51秒
――

矢口がモーニング脱退を決意したのとほぼ時を同じくして第19代「おかあさんといっしょ」
歌のお姉さん、つまり現お姉さんである角田りょうこお姉さんの降番説が浮上した。
少なくとも五年は続くのが通例であるし、おかあさん方の間でのりょうこお姉さんの評判
自体、日増しに高まっている状態にあって、なぜこの時期にという疑問は残る。

矢口が掴んだ情報によれば、問題はりょうこお姉さんではなく、歌のお兄さんである
杉田あきひろにある。あきひろお兄さんと言えば、昨年、覚醒剤の常習疑惑が持ちあがっ
たことは記憶に新しい。スキャンダルに対するNHK側の対応は徹底している。ひたすら
無視。そして上からの見えざる圧力。結局うやむやになってしまったが、スキャンダルを
極端に恐れるNHKの教育番組編成部では、その時点であきひろお兄さんを切ることを
決断。ただ、報じられた直後に切ったのでは内容を認めたも同然なので、一年は我慢する。
41 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月23日(水)00時46分52秒
ほとぼりが覚めた今年に入って、その方針のもとメンバー刷新の構想が具体的に持ち
あがったというわけである。りょうこお姉さんにしてみれば、とばっちりを食らったわけ
でいい迷惑であったが、そこはそれ、蛇(じゃ)の道は蛇(へび)というではないか。
りょうこお姉さんにもベネッセや学研などの幼児教材向けの仕事を割り当てることで、
ここはひとまず矛を納めてもらうことになった。

角田りょうこお姉さんの任期も満了に近づいたとの憶測が流れるのとほぼ同期して、
次期お姉さんの募集条件に関する様々な噂が飛び交いはじめた。

同期の学生にはやはりお姉さんを目指して武蔵音へと入学してきたものも多いが、矢口は
あせらない。矢口はこの道を志した時点で情報網の構築に心血を注いでいた。それにより、
うまくすれば選考で有利な位置につくことができる。よしんば、そこまでの恩恵を被ら
なかったとしても、情報の獲得において他の志願者よりも著しく有利な条件を得られると
読んでいた。
42 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月23日(水)00時48分29秒
果たして、矢口の思惑通りの展開となった。矢口が張り巡らせた情報網が、りょうこ
お姉さんの来春降板と今春からの次期お姉さん選考開始の情報をキャッチしたのだ。
相変わらず噂の域を出ないあやしげな情報に一喜一憂している同級生を後目に矢口は
活動を開始した。

情報戦においては、その量よりも質が問題となる。新聞記者の間では、その活躍が
「ネタ元」と称する情報源の有無により大きく左右されるため、実際の取材で凌ぎを削る
というよりは、どれだけ質の高い、つまり早耳かつ正確な情報を与えてくれるネタ元を
確保できるかで勝負を競っている感すらある。

その点、矢口は他の志願者に比べ際立って有利な状況にあるのは間違いない。娘。の活動
で培ったNHK内部のコネクションは言うに及ばず、NHKに大きな影響を及ぼす総務省
内部にも矢口に情報を流してくれそうな知り会いを得ている。旧郵政省の流れである。
放送事業の許認可権は旧郵政省が握っており、TV局に対する旧郵政の力は絶大なものが
あったのだ。
43 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月23日(水)00時50分05秒
ネタ元のひとりが重要な情報をくれた。ここ三代のお姉さんが武蔵野音大出身であること
は既に述べた。これにはつい先頃までNHK教育番組編成部で隠然たる権力を保持していた
S氏の意向が強く働いている。

しかしながら、準公務員であるNHK職員であるS氏は定年退職にともない、見事にその
権力の座から追われた。そのため、現在、「おかあさんといっしょ」利権を巡るパワー
バランスが崩れ、NHK内外を問わず欲の皮のつっぱった連中が、その実権を掌中に
しようと鵜の目鷹の目で狙っているというのだ。

「おかあさんといっしょ」利権と聞いて奇異に感じるかもしれない。まさか、幼子に夢を
与える高潔な番組関係者が利権だなんてと。侮ってはいけない。NHKは公営放送で
あるため、営利活動を行わないというのが原則である。
44 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月23日(水)00時51分39秒
いや、正確には「であった」という方が正しい。NHKは島会長在職時に拡大する一方の
財政赤字解消の策として、自立経営の方針を掲げ、時の総理竹下登と島の蜜月関係により、
民放連の激しい反発にも関わらず、法改正に漕ぎ着けた。

それ以降、NHKが番組の外注を委託するNHKエンタープライズやNHKエデュケーショナル
など、様々な外郭団体が生まれ、現在に至っている。

「おかあさんといっしょ」とて例外ではない。同番組が発売するビデオやCD、書籍、
学習教材は結構な収入源となっている。また有名なところでは、「おかあさんといっしょ」
地方公演がある。これは現役のお姉さん、お兄さんだけでなく、OBも出演する豪華な
ステージだ。
45 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月23日(水)01時02分57秒
>36
どもども。誉め過ぎです。ああっこそばいっ!(w

>37
いかいか、い・る・か...フフッ(謎レス

>38
どもども。矢口も19歳なんですよねぇ。誕生日すっかり忘れてた(w

>39
どもども。でも矢口がけなげなのはこの辺までだったりします(w
46 名前:ついのろみ 投稿日:2002年01月23日(水)02時32分31秒
( ´D`)y−~~<・・・・おもしれーのれす・・・・。
         すっげーおもしれーのれす・・・
         作者さんがんがってくらさい・・・
47 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月23日(水)23時29分35秒
だんご3兄弟の大ヒットは記憶に新しいが、あれに味を占めた同番組スタッフは再び
ミリオン級のヒットを飛ばせる人材の起用を考えているとの噂もある。そうなれば
ミニモニじゃんけんぴょんで70万枚を売り上げた矢口にとっては恐ろしく有利な展開
となるが、噂に過ぎない情報に過度の信頼を置くことは危険だ。

またグーチョコランタン、ミドファドレド、ニコニコプンなど番組を彩る様々なキャラク
タのコンテンツビジネスも忘れてはならない。あれとて、おもちゃや自転車、食器など
そのキャラクタ使用者からライセンスを徴収している。

ともかく、その大きな利権を巡って欲ぼけした連中が血道の争いを繰り広げているという
のだから、ややこしい。矢口は、しばらく権力者の趨勢が決まるまでは静観することに
決めた。いたずらに手を出してとばっちりを食うことを避けるためだ。選考の鍵を握る
キーマンの一点突破。矢口の必勝パターンをここでも崩すつもりはなかった。
48 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月23日(水)23時30分51秒
「おかあさんといっしょ」の歌のお姉さん。その選考プロセスは通常公開されないため、
謎に包まれていることは既に述べた。今まで三代のお姉さんを輩出してきた武蔵野音大
ではあるが、決してそこからだけ選考しているわけではない。その他の音大はもちろんの
こと、タレントを抱える芸能事務所にも広範に声が掛かっていることは、案外知られて
いない。

ただその上で武蔵野音大からの出身者が連続しているのは、やはり何らかの力が働いて
いると考えて良かろう。矢口はその点、かなり有利な位置につけているが油断は禁物だ。
あまりに長くこうした関係が持続すると必ず横槍が入るものだ。今回はNHK経営委員会
からも武蔵音の「お姉さん」独占の経緯について厳しく問い質す声が上がっているという。
(今回は厳しい戦いになるかもしれないな...)

矢口は気を引き締めた。とりあえず利用できるものは利用し尽くすつもりだ。それが娘。
のメンバーであろうと、いやたとえ中澤であろうとも。
49 名前:――開戦前夜―― 投稿日:2002年01月23日(水)23時32分22秒
「ほんまに狙うんかい、歌のお姉さん?」
「うん、考えに考えた末の決断だよ、裕ちゃん。」

矢口は久しぶりに中澤と夕食をともにしていた。テーブルに並んだ中華料理の数々から、
自分の分を取って分ける仕種が中澤には可愛くてたまらない。盛られたあわびの皿を前に
中澤は早くも矢口のぷっくらとした秘部を想像して、欲情を抑えるのに必死だった。

一方で矢口の方といえば、まだ成人していない自分と会食するときは好きなビールも我慢
してくれる中澤の心使いが嬉しい。19歳ともなれば、呑んでも構わないようなものだが、
人前で飲酒することだけは自制していた。何も矢口がまじめだからというわけではない。
不用意に弱みを握られることを避けるためだ。

「辻加護で、懲りたのとちゃうんえ?」
「裕ちゃん、子供がみんなあんなに人の言うこと聞かないわけじゃないよ。」
「いや、裕ちゃんは嬉しいねんで。矢口がまた黒髪なって。」
50 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月23日(水)23時33分40秒
そう、矢口は実際の選考に入るまで、まだ間があろうというこの時期、既に清楚な印象に
戻そうと髪の色も戻したしピアスもはずしている。中澤は黒髪に戻った矢口との褥(しとね)
を想像し、すでに抑制が効かなくなってきている。さりげなく、矢口の黒髪を撫でる指先
が震えている。

「で、晴れて歌のお姉さんなれたらモーニングはどうすんねん。」
「辞めるしかないでしょ。」
「社長とは話つけてんのか。」
「うん。社長も会長も独り立ちは歓迎だって。それにNHKとのパイプも太くなるし、
元ミニモニのリーダーが『おかあさんといっしょ』の歌のお姉さんともなれば、ミニモニ
のキャラクタ・ビジネスも軌道に乗るって乗り気だった。」

実を言えば、そうしたメリットを引き合いに出して説得したのは矢口の方だったが、中澤
の前ではなるべく可愛い女を演じたかった。食後のベッドのことしか頭にない中澤にとっては
どちらにしても同じことではあったのだが。
51 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月23日(水)23時34分17秒
「ふぅん...モーニングも寂しなるなぁ。なんかハロモニの収録、やる気でぇへんわぁ。」
「そんな事言って、最近は石川といい感じでしょ、裕ちゃん。」
「へっ?誰がそんなこと言うとんかいな。あれはあれで、いじくってるとおもろいけど。」

けっけっけと笑う表情が落着かない。なにせ酒が入って欲情すると何をするかわからない
人だ。石川とも何かあったとて不思議ではない。中澤と飲んで身の安全が保証されている
のは保田くらいのものだった。とはいえ、矢口にスネられてはこの後のお楽しみが台無し
になるとばかり、中澤ははぐらかす。

「気ぃつけなあかんで、アップフロントにも通知来とったからな。早速、稲葉と平家が
なんや騒いどった。」
「えっ、裕ちゃんそれマジ?」
52 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月23日(水)23時35分03秒
初耳だった。ハロプロ・コンサートで会ったときもそんな話しはしていなかったのに...
だが考えてみればそれも無理のない話かもしれなかった。売れないながらも堅実にCDを
リリースし続ける平家はともかく、最近ではシャッフルユニットでさえ声のかからない
稲葉が唄える機会はほとんどないと言っても過言ではなかったからだ。

「稲葉も平家も髪、染め直してなぁ。なんやハロプロメンバー集まると黒なってもうたわ。」

おかしそうに笑う中澤を横目に矢口は、ますます油断できないとの思いを強めるのだった。
普段であれば、このまま夜をともにするところだが、なんだか気ばかりあせって、今日は
その気になれない。

「裕ちゃん、あたし今日、帰るわ。なんか、そんな気分じゃないし。」
「えっ?矢口ぃ、そんな殺生なぁ。心配せんかて大丈夫やって。大体、矢口は武蔵音の
選考で残ればええんやから、アップフロント枠は稲葉にでもあげぇや。」
「武蔵音で残れる保証はないんだよ、裕ちゃん。アップフロント枠で残れるんなら、
それに越したことはないんだからさ。」
53 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月23日(水)23時35分55秒
その通り。音大声楽科の学生たちと普通にやりあって勝てる保証はなかったのだ。ただ、
普通に戦うつもりもまったくなかったのだが。

「矢口ぃ、このほてった体をどないせぇっちゅうねん。」
「裕ちゃん、ごちそうさま。今度はタイ料理行こうね。おやすみ。」

独り残された中澤は目の前のあわびを見つめては恨めしそうに箸で突付き、
いたずらに欲情を滾(たぎ)らせて、却ってやるせなさだけが増すのだった。
(ふぇ〜ん。矢口のばかぁ!浮気したる!ほんまに浮気したるからな!)

とは言え、中澤の性癖に気付きスキャンダル化を怖れる事務所からは軽率な行動を
戒められている。今日のところは黙って家路に着くしかなさそうだった。
(はぁっ...せっかく熊っこくんグレート買って楽しも思ったのに...)
鞄に入れた熊っこくんが(グレートだけに)やけに重たく感じた。
54 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月23日(水)23時39分37秒
>46
どもども。中学生にも楽しんでいただけるよう、がんがります!
55 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月24日(木)00時32分29秒
姐さんおあずけくらってるし(w
ほんと、面白いっすね。知がんがれ!
56 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月24日(木)11時36分19秒
しゃれにならんくらいおもろいわ。
作者さん楽しみにしてます。
57 名前:名無し男 投稿日:2002年01月24日(木)14時32分46秒
ふと思ったのだが
うたのおにいさん&おねえさんの名前は平仮名でスーパーが出るのに
なぜたいそうのおにいさんの名前は漢字表記なのかが凄い不自然に思えた
58 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月24日(木)22時40分39秒
面白いっ。
今後、ねーさんの昂ぶりは冷まされるんだろうか…。
59 名前:――平家の決意―― 投稿日:2002年01月25日(金)00時45分54秒
平家みちよは悩んでいた。歌のお姉さんなど自分のキャラクタに合わないことは百も承知
だった。それならなぜ...自問自答してみるが、明快な答えは出そうにない。所詮、この
世に起こる問題で明快に割りきれる応えなど存在しないのだ。

稲葉のように唄う機会さえ奪われているわけではない。大々的にプロモートされることは
なかったが、それなりにリリースを重ね、最新曲「プロポーズ」で10曲目を数えた。
大ヒットを飛ばすことこそないものの、また大不振ということもない。ここのところ平家
の曲は着実に売上を伸ばしており、コンスタントに一万枚を狙えるところまで来ていた。

不思議なことに平家の人気はモーニングのそれと呼応しているかのような動きを見せる。
モーニング自体が存続の危機に立たされていた99年夏、果たして平家自体も引退に追い
込まれようかという瀬戸際まで来ていた。モーニングは同時リリースの鈴木あみに惨敗。
TMネットワークのカバー曲という小室のやっつけ仕事にしか過ぎない「Be Together」に
見事にしてやられていた。
60 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月25日(金)00時47分22秒
そのほぼ同時期にリリースした平家の「Scene」は辛うじて2千枚は超えたものの、売上
枚数が激減したモーニングのそれとは桁が二つ違った。ただ事務所に感謝したいのは、
それでも引退に追い込まれることなく、次の曲をリリースするチャンスを与えてもらえた
ことである。

あるいは感謝しなければならないのはモーニングに対してかもしれない。よくも悪くも
平家の人気はモーニングの活躍に連動する。彼女達と同じ番組に出演し、コンサートにも
必ず登場する。ハロプロという多数の衛星を抱える巨星モーニング娘。は決してその輝き
を失ってはならないのだ。
(モーニングのおこぼれに預かっているうちは、ミリオンなんて夢やわな...)
61 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月25日(金)00時48分16秒
平家自身、自分の実力がモーニングの連中に劣るとは決して思っていない。大体がシャ乱Q
ロックボーカリスト・オーディションのウィナーは自分なのだ。ただ、だからといって実力
通りにレコードが売れるわけではないこともまた、痛いほど理解している。

風向きというのだろうか。実力以外の何らかの要因が彼女の後塵を拝すはずの彼女たちを
して、現在のモーニング足らしめている。それが判っているだけに今の自分がミリオンなど
望むべくもないことはわかっている。だが、しかし...
(串に刺さって、だんご、だんご...)

ついつい口ずさんでいたが、平家はだんご3兄弟が大好きだった。そして「だんご3兄弟」
はミリオンヒットだ。「おかあさんといっしょ」の歌が大ヒットとなったのは「山口さんちの
ツトムくん」以来だということを差し引いても、平家はそこに賭けてみたい誘惑に駆られて
いる。
(このまま平凡な歌手で終わるか、ミリオン飛ばして歴史に名を刻むか...剣が峰やな...)

そして平家は静かに決意した。歌のお姉さんを目指すのだと。
62 名前:――宣戦布告―― 投稿日:2002年01月25日(金)00時53分17秒
――

「今日集まってもらったのは、他でもない。NHKの幼児向け番組レギュラー出演者募集の
件だ。」

社長の瀬戸は極めて事務的に宣言した。今日のスケジュールを淡々と述べるような口調で
切り出された内容はしかし、非常に重い意味を持つことをこの場にいる全員が理解していた。
既に通知が来た時点で採用への強い意欲を表明していた稲葉と平家の他にはカントリー娘。
からりんね、ココナッツ娘。からアヤカとミカ、そしてメロン記念日から村田などが顔を
揃えていた。そしてもちろん矢口も。

「仕事の内容の説明は省略していいな。幼児向け番組で歌を唄ったり踊ったりする。一丹、
採用されると長期間に渡って出演し続けることになるから、現在の業務は継続できない。
ハローもはずれることになる。選考は二段階に分かれる。」
63 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月25日(金)00時55分05秒
あくまでも事務的に説明する社長の態度にこそ、ことの重大さが現れているのかもしれない。
矢口は目立たないように周囲をそっと見回した。稲葉、平家については中澤から聞いていた
ものの、村田やりんねまで来ているとは思わなかった。ココナッツの二人は「おかあさんと
いっしょ」ではなく、「英語であそぼ」の方だろう。だが考えてみれば稲葉、平家だけでなく、
村田やりんねも矢口より年は上であった。それなりに考えるところがあっても不思議では
ない。

「アップフロントに通知が来ているように、他の芸能プロダクション、音大、専門学校、
劇団などにも多方面に渡って採用にあたって募集の告知が行われている。各団体から一人
ずつ候補者を選出して欲しいとな。その上で各団体からの代表者から選考し一人だけ採用
という運びだ。」

"各団体から一人"...ごくんと唾を飲み込む音が聞こえそうなくらい静まりかえるなか、
矢口は改めて道のりの遠さを思わざるを得ない。
(この男は色仕掛け効かないしなぁ...)
64 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月25日(金)00時56分04秒
矢口にとってこのアップフロント、いやハロプロメンバーから勝ちあがる方がNHKでの
本選考よりも難関であった。NHK教育番組編成部に放った間諜により、NHK内部及び
外部からの識者からなる選考委員の嗜好、性癖は既に調査済みだ。なんなりと篭絡(ろう
らく)する手だてはある。たが、この男...瀬戸由紀男だけはいかなる買収行為も通用
しないことはわかっていた。

さすがにモーニング娘。を産み出した事務所をまとめるだけのことはある。会長の山崎は
企画の天才だが、彼の野放図な性格からして管理向きではない。瀬戸は元々ポリスターと
いうレコード会社で森高千里のディレクターなどを勤めていた音楽人だ。ベースやギター
など楽器も幅広くこなす器用さも持ちあわせている。そうした職人気質によるものだろうか、
仕事にかける情熱こそ凄まじいものがあるが、私生活は極めて堅実だった。
(会長ならまだなんとかなったのになぁ...)
65 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月25日(金)00時59分03秒
矢口のモーニングへの加入に際して実は山崎の意向が大きく働いていた。考えても見よ、
当時の娘。メンバーを。中澤、石黒は論外としても最年少の福田のあのふてぶてしさ。
安倍や飯田も到底山崎が食指を伸ばすようなタイプではなかった。今でこそ、勝ち気な
ところばかりがクローズアップされる矢口だが、145cmという小さな体躯とちびまるこ
ちゃんのようなつぶらな瞳はウラジミール・ナボコフの「ロリータ」を愛読する山崎に
とって心動かされる逸材だったのだ。

実際、山崎からは露骨な誘いを受けたことも一度や二度ではない。その度に純な振りをして
は、うまく擦り抜けてきた矢口だが、その掛け引きは何やらきつねとたぬきの化かし合いを
彷彿とさせないでもない。山崎は自社のタレントに手を出すことなど何とも思っていない。
矢口でなければ今頃は彼の毒牙にかかって日の当たらない道を歩んでいたのかもしれないのだ。
(仕方ない...実力でやれるとこまでやるか...)
66 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月25日(金)01時13分29秒
今日の更新終了です。みなさん、レスありがとうございます。

>55
将来の「お姉さん」候補によろしくお伝え下さい(w

>56
嬉しいですね。がんがりますよ!

>57
同郷というと小浜ですか?高井麻巳子も小浜ですね。有名人の産地です(w
体操のお兄さんは代々みな漢字表記ですね。お姉さんも名前をひらがな表記
し始めたのは第10代の小鳩くるみさんを例外とすれば第13代の奈々瀬ひとみ
さんからです。弘道お兄さんの今の人気を考えると次からはひらがな表記も
ありえるかな。

>58
姐さんには当分、熊っこくんグレートで(略
67 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月25日(金)19時13分15秒
それにしても詳しいですね。今楽しみな小説の1つです。
作者さんも知に負けないぐらい頑張って下さい(w。
68 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月25日(金)23時59分59秒
実力で勝ちぬくとはいえ、それも相手次第だ。先ずは、もう一度集まったメンバーを確認
する。
(あっちゃん...論外だね。 みっちゃんかぁ...なんで来てんだろ...?)

矢口は不思議に思った。特に子供好きとも聞いていないし、稲葉のように唄う機会を求めて
というわけでもなさそうだ。動機がわからなければ宥めすかして飽きらめさせる技も使え
ない。
(みっちゃんは、要確認と。で村田っち...これまた何でよ?...ん!)

はたと思い当たった。村田は弘道お兄さんのファンだった...体操の佐藤弘道お兄さんは
とても人気がある。おかあさん方の人気を仮面ライダーアギトの津上翔一役、賀集利樹と
二分していた。インターネットの弘道お兄さんサイトも山ほどある。村田はそういうところ
の掲示板にも書き込んでいると言っていた。
69 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月26日(土)00時00分45秒
村田と一度、好きな男性のタイプについて話したことがある。(中澤にはとても聞かせられ
ない内容だったが。)村田の好みは明快だった。童顔で、お尻の締まった中背の人。どちらか
というと重要なのは、顔よりもむしろ尻だと嬉しそうに語っていた村田...矢口も少なから
ず同調していただけに対応は慎重を期して行われなければならなかった。

『矢口さん、やっぱり男は尻ですよね、尻!』
『とりあえず尻だよねぇ。尻が引き締まってるとあれも強そうだし。』
『もぉう!矢口さん、何言ってんですか!えっちぃ...でも経験上、そうですよね...』
『村田っちぃ!今のやばいよ、アイドルの発言じゃないよ!』
『矢口さんだってぇ......』
70 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月26日(土)00時01分28秒
不思議と年下の矢口に対しても「さん」づけで丁寧語を使う村田だった。モーニングにまで
「さん」づけする彼女達のことだ、2年以上早く芸能界で活動としていた娘。にはメロン
結成時、既に貫禄というかオーラのような近寄り難い雰囲気を感じさせる何かがあったの
かもしれない。芸能界での1年は一般社会での4〜5年に相当するという根拠のない定説
もある。そうであれば、村田にとっては、それこそ矢口が10年選手の大先輩に見えても
おかしな話しではなかったのだ。
(村田っちは...どうしよっかな?)

早速、村田対策を練り始める矢口。スピードがものを言う時代だ。明日考えていたのでは、
もう既に遅い。芸能界とはそういう世界だ。尻が好きなら、小尻の男をあてがえば良い。
(ちょうどいいホストが新宿二丁目くらいにいたよな...あとで圭ちゃんに聞いとこ。)

保田が通っていたというホストクラブ...矢口は勘違いしていた。そこはゲイバーだ。まぁ、
構うまい、要は尻が小さければいいのだ。そして、選考期間中だけでも村田を虜にしてくれ
れば...
71 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月26日(土)00時02分13秒
そして、りんね。こいつだけは解らない。大体、カオリと波長が合うこと自体、矢口には
もう、既に理解不能である。とてもコミュニケーションが取れそうな人種とは思えない。
不気味と言えば不気味だった。活動歴は意外に長い。そしてその間、メンバーの死やスキャ
ンダルによる脱退、メンバー追加、レンタル、そしてまた追加。カントリーの歴史を独りで
支えてきた自負が、りんねをして矢口でさえ侵しがたい雰囲気を漂わせている。
(これは手強そうだわ...)

何を考えているかわからない奴ほど不気味なものはない。平家の場合は動機こそ現時点で
不明だが、思考パターン自体が理解できないわけではない。必ずや何らかの意図があって、
「歌のお姉さん」の座を狙っていることはわかる。りんねに関しては、果たして思考の過程
を経た上での行動なのか怪しくなるほど、まったく理解に苦しむ行為に出ることがある。
それだけに、そもそもりんねが「お姉さん」になりたいと願った理由を探すこと自体、無駄と
いう気がしないでもない。
(さて、りんねはどう料理しよう...)
72 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月26日(土)00時02分48秒
妙案は浮かばない。なにせ弱みらしい弱みはないのだ。精神的にタフなことは半農半芸など
という過酷な生活を既に3年以上も続けていることでわかる。これは困った。乗馬のライセ
ンスも取得するなど、動物好きなところをアピールすれば、本選考でも有利だろう。まずは、
アップフロント・グループ内部(名目上、カントリーはクーリー・プロモーション、ココナッツは
ギャラクシー所属だが)での選考方法を確認しなければ。

「募集に関してだが、まず職種ごとに希望者を募る。その中でもっとも適した人材を選ぶ
わけだが...とりあえず話し合いで決めてほしい。」
「ええっ!無理ですよぉっ!」

みな一斉に声を上げる。

「そう言わずに、話し合ってみろ。それで決められなければ私はもう、NHKの担当者に
直接選んでもらおうかと思っている。」
「ええっ...」
73 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月26日(土)00時03分46秒
今度はやけに場が重たくなった。まず話し合いで決着の着くことはあるまい。というか、
そんなことは矢口が許さない。NHKの担当が矢口のコントロールが及ぶ人間なのか、
現時点で確認する術はないが、少なくともアップフロント内で閉じた選考よりやり易い
(もちろん、いろんな工作が)のは確かだ。

「嫌やで、降りひんで。」
「うちかて嫌やわ。」

まず稲葉が口火を切ると、平家が続いた。普段は仲の良さげな二人ではあるし、事実、仲は
いいのだろう。しかし、自分の命運を開くべき大事を前にしては、互いに譲ることはできまい。

「姉さん、言うたら悪いけど、『歌のお姉さん』ちう柄ちゃいまっせ。」
「何言うてんねんな、あんたこそ『キャバクラ姉さん』やないか。」

舌鋒鋭く言い争う両者を牽制するためか、りんねが口を挟んだ。

「ところで、年齢制限とかないんですか、瀬戸さん?」
74 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月26日(土)00時11分46秒
>67
どもども。ありがとうございます。
なんか最近の知は一頃のとげとげしさがなくなっていい感じですね。
75 名前:名無し男 投稿日:2002年01月26日(土)00時29分08秒
すげー!!
うたのおねえさんの奪い合い
う〜ん!奥が深い・・・
76 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)00時26分51秒
「!?」

睨み合っていた両者の表情に動揺の色がよぎった。二人にちらっと視線を移すと、瀬戸は
NHKから送られた募集要綱を確認する。

「年齢は...あるな。」

ごくりと唾を飲み込む稲葉と平家。二人の緊張する様子を意識してか、瀬戸は読み上げる
のに、やや躊躇しているようだったが、やがて意を決したのか一気かせいに読み上げた。

「年齢などの条件。平成14年3月に高校卒業見込みのもの、あるいは既に卒業したもので...」

そこで、ちらっと顔を上げて二人の様子を確認した瀬戸は表情を変えずに続けた。

「昭和52年4月以降に出生した者...」

稲葉が崩れ落ちた。見かねて平家が抱き起こそうとするが、その手は跳ねのけられた。
――稲葉貴子...昭和49年3月13日生れ...平家みちよ...昭和54年4月6日生れ...
さすがにライバルとはいえ、目の前で残酷にも戦うことさえ許されなかった老兵の姿を正視
できるものはなかった...ただ一人、りんねを除いては。
その顔に浮かんだ冷笑を、矢口は見逃さなかった。
(あのやろう...!)
77 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)00時27分46秒
矢口の視線を感じたのか、こちらに顔を向けるりんねであったが、その様子は何ら悪びれる
ところがなかった。矢口がにじり寄ろうとしたその瞬間、社長の瀬戸が声を発した。

「――稲葉...あきらめるにはまだ、早いぞ。お前にもチャンスはある。」
「へっ?」

その場にいる一同、思わず皆、瀬戸に視線を向ける。稲葉に至っては救いの神を求めんが
ごとき哀願の表情さえ浮かべていた。矢口も気勢を削がれて、社長が何を言い出すのか、
興味をもって眺めた。

「募集は、歌のお姉さんに限った物ではない。今回は英語のお姉さんも募っている。
クロード・チアリの娘さんが芸能界デビューするからな。その後釜だ。アヤカとミカは
こっちの希望だったな?」

呼ばれた二人は黙ってこくりと肯く。だが、稲葉には関係の無い話しだ。まさか英語の
お姉さんを薦めているわけではあるまい。
78 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)00時28分30秒
「お前のチャンスというのは、ほかでもない。スプーというキャラクタを知っているか?」
「へっ?」

稲葉はまたしてもポカンとした表情で瀬戸が何を言わんとしているのか把握しかねていた。
一方で、矢口はいやな予感がしていた。
(やばい...)

「『おかあさんといっしょ』では、スプーの人気が高いことから、現在、ぬいぐるみ人形劇の
主役キャラクタであるぐ〜チョコランタンのアネム、ズズ、ジャコビに加えて、スプーの
ガールフレンドという設定で、新しいキャラクタを登場させようとしている。」

(ああ、まずいよ...)
(矢口、あんたなんとかしいや...)
(みっちゃん、社長ああなったら、もう止まんないよ...)

ここへ来て、ようやく何が起ころうとしているか察した者を中心に場がざわついてきた。
矢口と平家は既にうんざりという顔つきだ。そのような場の空気には一切気付かないのか、
無視しているのか瀬戸は淡々と続ける。
79 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)00時29分11秒
「新しいキャラクタは『スプーン』と名付けられ、評判が良ければ、人形劇もぐ〜チョコ
からスプーとスプーンを中心としたものに変えて行く構想さえあるらしい。稲葉、これは
チャンスだぞ。」
「へっ!?」

この期に及んでも、まだ稲葉は社長の意図を判じかねていた。

「稲葉、NHKではこの『スプーン』を演じる新たな女優を募集している。どうだ、やって
みんか?」
「いやですぅ!何で私がぬいぐるみ入らなあかんの、しっつれいやわ!」
「こら!お前、被り物をなめているだろう!マスコットというのは、そんな甘いもんじゃ
ないんだ...」

社長の目が今や遠くを見つめる段に至って、この場の雰囲気が一気にだれた。
(どうでもいいから早く終わらせてくれぇ...)
矢口は平家と目を合わせると、はぁっと大きくため息をついた。
80 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)00時29分56秒
「いいか、稲葉、昔、巨人にドラフトで一位指名された島野という選手がいた。将来を嘱望
されたものの、怪我に泣かされた島野は現役最後の球団、阪急であるマスコットを演じる
ことになった...」

変わり者が多いアップフロントにあって社長の瀬戸は常識人であると言えた。ただ一点を
除いては。瀬戸は熱狂的な阪急ファンであった。いや阪急ファンというよりは、そのマスコ
ット「ブレービー」の熱烈なファンであった。さらに言えば、「ブレービー」と後のオリック
ス「ネッピー」を含めて、18年間マスコットを演じ続けた島野修という野球人への共感が
その思いを支えているのかもしれない。

瀬戸は「ブレービー」に話しが及ぶともう止まらない。いや誰にも止められない。目に涙を
浮かべながら、小一時間は「ブレービー」を語る。
81 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)00時30分40秒
本来ならばオリックスファンというところであるが、瀬戸は98年に島野がオリックスの
マスコット、ネッピーから引退して以来、野球には興味がないようだった。逆に言えば、
それくらい、島野という男の生き方に魅せられていたと言えるのかもしれない。

島野修は68年のドラフトで巨人に投手として一位氏名されたが、結局、巨人では一勝しか
あげられず、75年に阪急へ移籍。そこでも活躍したとは言い難い成績のまま79年に現役を
退いている。そして、日本プロ野球初のマスコットとなる日ハムのギョロタンが登場した
80年の翌年、阪急のマコット「ブレービー」として再び球場に姿を現したのだった。

「島野も当初はマスコットという仕事に意欲を見い出せなくて悩んだ。だが、ある日仕事の
帰り...」

島野は居酒屋のカウンターで一人杯を傾けていると、野球観戦の帰りと思しき親子づれが隣
に座った。聞くと話しに親子の会話に耳を傾けていたところ、なんと自分の話題が出ている
ではないか。
82 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)00時31分16秒
『おとうちゃん、ブレービーおもろかったなぁ。また見たいわ。』
『おお、おもろかったな、また来よか。』

島野は涙した。自分の演技でも子供を楽しませることはできる。思えば自分はマスコットを
ばかにしていなかったか。本当にマスコットとして最高のパフォーマンスを心掛けていたか。
否。この日を境に島野のマスコットという仕事に臨む態度が180度転換した。島野は大リー
グのマスコットがいかにして観客を楽しませているか徹底的に研究した...

という話しを延々と瀬戸は語る。事務所のタレントが下積みの仕事を嫌がるとき、決まって
瀬戸はこの話しを持ち出した。矢口や平家はもう耳にたこができるくらい聞かされていて、
ほとんど内容を覚えてしまっている。幸いなことにというべきか、あるいは不運なことにと
言うべきか。ともかく稲葉は初めて聞くようであった。神妙に社長の言葉に耳を傾け、心を
動かされている風でもある。
83 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)00時31分55秒
(矢口...社長、歌のおねえよりもぬいぐるみ、うちから出したかったんちゃうか?)
(みっちゃんもそう思う?絶対、そうだよね!)
(なんか知らんけど、ブレービー好きやからなぁ。阪急ファンっちゅうより、あらぬいぐる
みヲタやで。)
(ぬいぐるみ着ないと燃えなかったりしてね...)
(ぬいぐるみプレイか?あんた、姐さんとそんなことしてんのか?)
(んなわけないでしょ!もう、みっちゃんたらご無沙汰してるもんだから...)

二人がひそひそと小声で話しているうちに、稲葉が納得したようだった。

「わかりました、社長!わたし、『スプーン』として日本の子供達に夢を与えます!」
「わかってくれたか、稲葉!」

矢口と平家はホッと胸を撫で降ろした。今日は比較的早く終わった方だろう。島野が
ドラフトで巨人に一位指名された68年の他球団における一位指名は阪神が田淵、中日が
星野。実は星野の巨人入りはほぼ内定していただけに、その後の星野が巨人戦では火の
ような闘志をむき出しに立ち向かった...などという歴史まで語り出した日には、それこそ
小一時間どころではすまなかったのだ。
84 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)00時40分28秒
>75
どもども。「歌のお姉さん」というのはホントニ調べ始めると底無し沼のように
奥が深い世界ですわ。これからさらにドロドロさせます(w
85 名前:名無し男 投稿日:2002年01月27日(日)01時05分49秒
ブレービーなら俺も小っさいとき西宮球場で見たことある
俺の近所にも阪急ヲタのおっちゃんがいたし島野さんの話は俺もよく知ってる(w

最近の野球って確かに闘志剥き出しの選手少ないよね
俺亀山のヘッドスライディング好きやった
86 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)02時07分44秒
豆知識イパーイ!!おもろっ!!
めちゃハマル。微妙なやぐちゅーや、他のハロプロメンバーの
些細な動きが気にナリマクリ!!
がんばってください。
『お母さんといっしょ』見たくなってきた
87 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)16時42分06秒
(終わった...良かった...あっちゃん偉いわ。)
(うん...ところで...)

「それでは一番重要な件は片付いたから、後は話し合いで決めてくれ。」
(やっぱ、ぬいぐるみかよ!!)

心の内でつっこむメンバーに構わず、瀬戸は既に興味が失せたとばかりに淡々とした口調で
その後の予定を指示する。

「今日中に話し合って決まらなければ、平家、お前連絡してくれるか。俺からNHKに伝える。」
「っていうか、決まれへんと思いますよって、もう直接向こうで選んでもうてかめへんので
すけど。」
「お前ら、異論ないのか?」

瀬戸が矢口、平家、村田、りんねの顔を順番に見渡すと、りんねが手を上げた。
88 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)16時43分16秒
「ハイ、瀬戸さん。私たち、やっぱり話し合って代表決めた方がいいと思います。」
(な、なんだと...何、企んでるんだ、こいつ...)
「えぇっ?うちは譲る気ぃないで。」
「私も今はそうですけど...話し合えばどこかで歩み寄れるところが見つかると思うんです
よね。」

そう言って矢口を横目で見る表情にはどういう根拠から来ているのかわからないが余裕が
感じられる。

「そうか。じゃ、とりあえず話し合って解決してくれ。それが一番望ましい。俺はこれから
出かけるから...ええっと、アヤカとミカ、お前らも話し合っておいてくれ。いいな。それ
と、稲葉、お前はアップフロントの代表として是が非でも『スプーン』の座を勝ちとるんだ。
それじゃ。」
89 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)16時44分28秒
瀬戸は言いたいことだけ言い置くと、すぐに出ていった。残されたメンバーの間で気まずい
雰囲気が立ち込める。それを打ち破るように稲葉が、平家に声を掛けた。

「まぁ、どういう事情があるかは知らんけどな。歌のおねえだけが人生とちゃうで。
深く考え込まんこっちゃ。」
「あっちゃん、うちにあきらめぇ言うんか?」

先程と打って変わって前向きな稲葉の豹変ぶりに平家も呆れ顔だ。

「あんたはソロで歌えとるからええやないの。りんねなんか、やっと迷惑な助っ人、
おらんようなったと思ったら、また里田やで。なぁ、りんね。」
「そうですよ、平家さん。」

にこやかに笑うりんねの表情にさきほど、稲葉に対して見せた酷薄な態度を探すのは難し
かった。矢口はそこに、自分とはまた違うタイプの策士の姿を見る思いがした。そして、
策士が余裕綽々(しゃくしゃく)で相対するとき、必ず何か秘策を講じているはずだ。
矢口はどうにも嫌な予感を振り払うことができずにいた。
90 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月27日(日)16時48分49秒
>85
いつもレスありがとうございます。
西宮球場って今は競輪だけでしたっけ?
寂しいですね。昔、あそこでおニャン子クラブがコンサートやってたなんて
今の若い人は知らないんでしょうね...

>86
どもども。「おかあさんといっしょ」って見方を変えるとすっごい
エンターテイメント番組ですよね。その素晴らしさの一片でも
表現できればと思います。
91 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)16時49分48秒
迷惑な助っ人って(爆)。リアルで読ませていただきました。
なんだか、ホントにありそうな話ですよね。
更新もマメだし嬉しいです!
92 名前:名無し男 投稿日:2002年01月28日(月)01時53分52秒
確かに、ある意味迷惑な助っ人(w
93 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)01時56分03秒
多分あの作者さんだろうと思うのですが……。
相変わらず豊富な知識を盛り込まれてますね(w
いったいどこまでがホントで、どっからが作り物なのか分からなくなってきました(w
94 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月28日(月)23時38分05秒
「ところで、ココナッツの二人はどないすんねん。話し合えるんか?」

分が悪くなったと見たか、平家は「英語であそぼ」への出演を目指す二人に話を振った。

「う〜ん、私は特に執着ないんですけど...とりあえずケインコスギを一回見てみたいと...」
「うん、私もぉ!」

アヤカもミカもケインが目当てらしい。しかし...

「ミカちゃん、ケインコスギってもう、大分前にあの番組、はずれてるよ。」
「ええっ!?」
「どうしよう、ミカ。ケインに会えないんじゃ意味ないじゃん...」
「なぁんだ、ケインに会えないんだったらやめようかな...」

矢口の言葉にショックを隠せない二人ではあるが、文字どおり命を張る覚悟で臨んでいる
矢口や平家にとっては、脱力感を覚えさせる軽い動機(でさえないか?)であった。
95 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月28日(月)23時39分06秒
「それに、ミカちゃんがミニモニ抜けたら、大変じゃん?辻加護に新垣じゃホントに子ども
の遠足になっちゃうからさ...ミカちゃんだけが頼りなんだから...」
「それが...」
「ん?なんかあったの?」

アヤカの方はともかく、ミカにはそれなりにミニモニに居辛くなる何か深刻な理由が存在
するらしい。矢口も最近はミニモニを外れて、彼女達と仕事をともにする機会も減ったため、
実状を掴んでいるとは言い難い。加護に嵌められて(とまでは口外しないが)無理矢理、
「卒業」という形でミニモニを離れざるを得なかったとはいえ、そこは自らが企画したユニ
ットだ。愛着はあるし、その後の行く末も気になる。

「ミカちゃん、話してよ...何か力になれるかもよ。」
「そやで、話してまいや。楽になんで。」
「そやそや。ミカ、うちもあいつらそろそろ締めたらなあかん思てたんや。」
「いや、あっちゃん、そこまではまだ言ってないから...」
96 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月28日(月)23時39分38秒
平家や稲葉も気にはなるのだろう。優しく声をかけたことでようやくミカもその気になった
ようだ。りんねは遠巻きに様子を窺っている。

「辻ちゃんと加護ちゃんはいいんです...お菓子あげると機嫌いいし...」
「新垣かよ...」

コクリと肯くミカ。周囲の期待は高まるばかりだ。いったい、新垣がどんな悪逆非道の業
によりミカを困らせているのか。興味津々といった体でミカを取り巻く連中の瞳は今や好奇
心で爛々と輝いている。他人の不幸は蜜の味...何とも心優しい先輩達ではあった。

「何や、『ヤンキー、ゴーホーム!』とか言われたんか?」
「右翼かよ!」
「リメンバー、パールハーバー(真珠湾攻撃は忘れないぜ)!」
「あんたが言うてどないすんねん。」

調子に乗る先輩達に微笑みつつ、ミカは続けた。
97 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月28日(月)23時40分33秒
「リサちゃん、とっても勉強熱心なんですよ。私にもよく話し掛けてくれるんです...」
「なんだ、普通じゃん。」
「っていうか、新垣いいやつじゃん、それじゃ。」

新垣の悪行ぶりを聞きたかったお姉様方は肩透かしを食らって不満たらたらだ。

「それが英語なんです。」
「はぁ?」

ミカの話しによるとこうだ。新垣は学校で英語を習いたてなせいか、しゃべりたくて仕方が
ないらしい。ミニモニに入ったことでミカとの接点が増えたのをいいことに、とりあえず
英語でコミュニケーションをはかろうと一生懸命だと言うのだ。

「でもリサちゃんまだ一年生だから...」

推して知るべしだろう。中学一年生の語彙力、文法力...まともなコミュニケーションの成
り立とうはずがない。
98 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月28日(月)23時41分35秒
「でも日本語しゃべろうとすると怒るんです。」
「はぁ?」
「それで辻ちゃんや加護ちゃんにも日本語しゃべっちゃだめって...」
「はぁ??」
「辻ちゃんや加護ちゃんが日本語でしゃべるから私が英語で話さないんだって...」
「はぁ???」

恐るべし、新垣の向上心。しかし、ここは学校の英語クラブではない。しかも英語でしゃべ
ることを強要している先輩ふたりもまた尋常な学力の持ち主ではなかった。そして、無鉄砲
にも彼女らに挑んだ(という自覚はないにしろ)酬いは新垣自身が身をもって知ることにな
る。

「で怒った辻ちゃんと加護ちゃんが、新垣ちゃんが何言っても○○○としか言わなくなっち
ゃって...」
「えっ何?ミカちゃん、もう一回言って。」
「いや...あの...」
「聞こえなかったよぉ。」
「"What's shit !!"とか"F●●k you !!"、"F●●k your mother !!"、"Bitch !!"みたいなのしか
言わなくなっちゃったんです。」

それはそれで、ある意味たいした英語力かもしれない。
99 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月28日(月)23時54分22秒
>91名無し読者さん
どもども。残念ながら。でもそう見えてるのであれば嬉しいですね。
実を言うとストックがなくなったので、更新量は減ってたり(w

>92名無し男さん
失礼しました(w
阪急のファンは紳士な方や上品な女性の方が多かったですね。
対して南海ファンは(略
吉澤ヲタと後藤ヲタのような関係になりますかね(w
いや単に上品な家庭の娘と下町育ちという対比で他意はないです。

>93名無し読者さん
いや、そんな有名な作者ではないので...ゴニョゴニョ

( ^▽^)<でも知りたい人は最後まで見てね!チャオ♪

とお約束で引っ張ってみたり(w
100 名前:91 投稿日:2002年01月28日(月)23時57分48秒
今回もリアル♪
作者さんの他の作品も見てみたいです。
101 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月29日(火)00時31分39秒
>100
早いなぁ。ビクーリしたよ(w
他に書いてるのは小物ばっかりで、完結した長いやつないんですよね。
とりあえず、こちらが終わったら、まとめてみますんで。
102 名前:名無し男 投稿日:2002年01月29日(火)02時17分42秒
NHK英会話で爽やかに
F●●k you !!
って言われた日にゃもうかなわんわ(w
103 名前:ついのろみ 投稿日:2002年01月29日(火)03時18分57秒
( ´D`)y−~~<毎日更新してくれるのれたのしみなのれす。
         つーか、なんれそんなにうたのおねえさんにくわしいんれすか?
104 名前:100 投稿日:2002年01月29日(火)19時58分28秒
楽しみにしてます。
でも終わって欲しくないっす。うぅ複雑。
105 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月30日(水)02時01分43秒
「リサちゃんが『ちゃんとしゃべってください!』って言うと、『英語だろ!』って...」
「はぁ...」
「それでまたリサちゃんが怒って、おやつ隠したりしちゃったから...」
「うわっ、そりゃ新垣、やってはいかんことをやってしまったな...」

その通り。凶悪な二人をなだめすかす唯一の道具としておやつ、あるいはジャンクフードは
ミニモニとモーニングにおいて常に携行すべき必需品だ。それを隠すとは...矢口は自分で
さえ、躊躇したその行為を実践に移した新垣に末恐ろしさを感じるとともに、その大胆不適
な行動力こそが自分にあったならばとも思う。

「それでミニモニはどうなっちゃったのさ?」
「辻ちゃんは暴れるし、加護ちゃんはもとはといえば私が悪いって怒り出すし...」
「はぁ...まったくしょうがないなぁ、あいつら...また裕ちゃんに言ってしかってもらう
わ。」
「お願いします。」
106 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月30日(水)02時02分42秒
さて、「英語であそぼ」の二人組は辞退で話しがまとまったものの、最後の決着が付いていな
い。

「それじゃ、りんね、歌のおねえの話しつけよか。」
「その前にちょっと矢口さんと二人だけで話しがあるんですけど...」
「!?」

矢口は冷静だった...いや、あるいはこの展開は予想していたのかもしれない。
一方、無視された形の平家はおもしろくない。

「ちょっと、りんね!なんでぇな?矢口だけちゃうやろ、ライバルは?」
「いえ、ちょっとした相談なんでぇ...決して、平家さんや村田さんが敵ではないと
言ってるわけではないですよ。」

またしてもりんねが微笑んだ。

「まぁまぁ、みっちゃん。ちょこっと話しつけてくるわ。ねっ、ねっ、待っててくれる?」
「矢口、ちょっとそいつ締めたり!」
107 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月30日(水)02時03分25秒
ほけっとしている村田はともかく、平家はお冠(かんむり)だった。
矢口ならともかく、りんねなどに雑魚(ざこ)扱いされるいわれはない。
自分達を置いて隣室へと消えた二人の後を目で追いながら、平家は村田に話しかける。

「ほんま、失礼や!なぁ、村田!」
「――ケインのお尻...見られないんですね...後は弘道お兄さんだけか...」
「何、言うとんねん、あんたは? 弘道お兄さんかて、今回の改編で卒業や。」
「えぇっ!?どういうことですか?」

村田は初めて聞くという顔で平家に問い質す。
平家は内心で、いい加減この事務所にはこんな変な奴しかいないのかと毒づきながら、
村田に説明する。もちろん弘道お兄さんと聞いて一発でわかるだけでなく、その去就まで
つかんでいる自らのマニアックさなど当然、棚に上げて。
108 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月30日(水)02時04分06秒
「ええか、弘道お兄さんのとし、考えてみぃ。お兄さん言うたもんの、今年で34や。先代
のおねえんときからあのおっさんだけは変わっとらん。こりゃ変えられるわな、ふつう。」
「えぇっ!!!それじゃ、お姉さんになっても、何の意味もないじゃないですかぁ!」
「いや、意味がないかどうかは知らんけど...弘道お兄さんがおらんようなんのは確かやな。」

村田は完全に戦意を喪失していた。勝ち取るべき弘道お兄さんとの運命の出会いを妨げられ
たのだ。歌のお姉さんにこだわることに何の意味があろう。ここが潮時だ。村田は潔く撤退
を宣言した。

「私、降りさせていただきます。」
「ほぉ、そうか。まぁ私は止めへんけどな。」

村田めぐみ脱落。あと3人...平家はカウントした。いずれ戻ってくる二人のうち、どちら
かが脱落する可能性も高い。そのどちらかが矢口かりんねかどちらであっても強敵には変わ
りないが、ようやく自分にも運が回ってきたという感慨を抑えようがなかった。
(フフフ...フハハハ、アヒヒヒヒヒ!!)
109 名前:名無し娘。 投稿日:2002年01月30日(水)02時22分47秒
>102名無し男さん
虎キティにはトラウマがありますねぇ...
昔、阪神×大洋戦でちゃんとライトスタンドに入ったはずなのに(当時大洋ヲタ)、
なぜか縦縞のハッピ着た恐いお兄ちゃんに囲まれて、『かっとばせ、ポンセ!』と
言うわけにもいかず、ひたすらじっとしてた思い出がありますねぇ...
あぁ、しみじみ(略

>103ついのろみさん
こまめなレス、ありがとうございます。
>なんれそんなにうたのおねえさんにくわしいんれすか?
だってお姉さんヲタなんだもの...あゆみお姉タン...ハァハァ

>104 100さん
嬉しいですね。そう言っていただけるのは。
それにしても、凄いです。よく見てらっしゃいますね。
ホントはもっと早く終わらせる予定だったのですが、妄想が膨らんじゃって、
しばらくは、続くことになりそうです。
110 名前:104 投稿日:2002年01月30日(水)22時23分52秒
まだ続くのですね!ワショーイ!!
続き楽しみにしてます!!
111 名前:ついのろみ 投稿日:2002年02月10日(日)22時04分35秒
( ´D`)y−~~<MSEEK復活おめれとうごじゃいます!!!
         これからもがんがってくらさいね!!!
112 名前:名無し男 投稿日:2002年02月11日(月)11時16分35秒
弘道お兄さん&ケイン目当て(w
しかもケインのケツ目当てって(w
113 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月12日(火)23時17分00秒
平家が突然、垣間見えた希望の曙光に意を強くしていたその頃、隣室では矢口とりんねが
厳しい表情で相対していた。

「矢口さん...単刀直入に言います。降りてもらえませんか?」

そらきた...何かあるとは思っていたが。意外とストレートじゃん...

「何で降りないといけないのよ!?」

少し凄んで見せるが、りんねにはこれっぽっちも効いていないようだ。当然だろう。眉を
寄せて口を尖らせた表情は、子供がせいいっぱい強がっているようで、微笑ましい。こんな
顔を見せられた日には、中澤であれば、昼間からそのままベッドに連れ込みかねないほど
愛くるしい表情だった。

「フフッ。矢口さんって可愛いですよね.....だから許せないのよ!!」

穏やかに微笑を浮かべていたりんねの豹変ぶりに、さしもの矢口も冷や水を浴びせかけられ
たかのような冷たい衝撃を受けた。
114 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月12日(火)23時17分56秒
「な、な、なに怒ってんだよ...」
「フッ、あなたに言ってもしかたないわね...でもあの女はこの顔が好きで好きでたまら
ないんでしょ?」

あの女...矢口は、この怒りが何に向けられているものかおぼろげにだがわかるような気が
してきた。りんねは確か、中澤に仕事を奪われているはずだ。だが、それはカオリも同じ
ことだ。なぜそこまで激しい怒りの炎を燃やす必要がある?

「あなたが『歌のお姉さん』の座を私に奪われたと知ったら、あの人、どんな顔するかしら
ね...」
(いや...残念やったなくらいは言うかもしれないけどさ...)
「フフフッ、悔しさのあまり、卒倒するかもしれないわね...オッホホホホホホ!!」
(しないと思うぞ...ふつう。)

矢口はまともな会話が成立することを期待せず、相手が次にどう出てくるか待つことにした。
ひとしきり高笑いを続けた後、りんねはようやく視線を矢口に向けた。
115 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月12日(火)23時18分41秒
「そういうわけだから、あなたには辞退してもらうわ...」
「だから何で辞退しないといけないんだよ!」
「これだけ言ってもまだわからないのね...乳繰り合うと性格まで似てくるのかしら...
ああ、嫌だ!不潔よ!不潔だわ!!」
(不潔って...そうか...この娘、潔癖症なんだ...)

矢口はなんとなく理解はしたが、それでも素直に辞退する気は毛頭なかった。

「辞めないよ。」
「フフッ、これでもそう言いきれるかしら?」

りんねはそう言うと、ポケットから一枚のフロッピーディスクを取り出した。

「これが何だかわかる、あなたに? フッ、わかるわけないわよね。ラジオでメール打つのに
あれだけ苦労してるんだもの。」
(って、ラジオ聞いてんのかよ!!)

意外と矢口ヲタなりんねである。
116 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月12日(火)23時19分21秒
「教えてあげるわ...これはウィルス...コンピュータウィルスよ。」
「それがどうしたのよ?」

矢口は相手の真意をはかりかねた。とうとう向こう側にいってしまったのだろうか...
ある意味かわいそうな女...りんねに対する感情が蔑みから同情に変わろうかという、
そのとき、りんねの発した言葉に矢口は耳を疑った。

「これは『矢口ウィルス』として世界中に未曾有の恐怖を引き起こすのよ。フフフッ。」
「なんだよ!『矢口ウィルス』って!お前、何企んでるんだ!?」

矢口は戦慄を覚えた。この女の瞳にやどる狂気...何をやってもおかしくない、そんな風に
思わせる狂信的な表情がりんねの顔には浮かんでいた。慎重に対処しなければ、本当にやり
かねない...緊張感からか手のひらに汗が滲む。
117 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月12日(火)23時20分05秒
「フフフッ、このウィルスはね、あの有名なBadTransよりも強力よ...矢口さんに関する
サイトを閲覧しただけで、感染して所有者の気付かないうちにバックエンドでWAVファイル
を全部、矢口さんの音声に変えるわ...」
(な、ななんだとぉっ!!)

「楽しいでしょうねぇ...次に起動すると矢口さん、あなたの声で教えてくれるのよ、
『キャハハハハハ、準備オッケ〜イ!』ってね。間違った処理すると『違うだろ!!』って
突っ込んでくれるわ。」
(勘弁してくれぇ〜、)

「おまけにメーラーをバックエンドで起動させて、メールリストに入ってる全宛先に
Windows Mediaファイル形式であなたの歌を送るわ。もちろん受け取ってメールを開いたら、
その曲の無限ループに入るのよ、オッホホホ!!」
(う、歌って...なんか、すっげぇやな予感...)
118 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月12日(火)23時20分48秒
予感は的中。りんねの放った言葉は矢口を凍りつかせた。

「歌? もちろん『センチメンタル南向き』よ!!」
「や、やめろぉ!それだけは止めてくれぇっていうか、あんた、それ犯罪!!」

そこでピタッとりんねの動きが止まった。

「犯罪?」
「そう。犯罪。ウィルスなんかばらまいたら、へたすりゃ治安維持法ひっかかるよ。」
「へっ?それって重いんですか?」
「まぁ一種のテロみたいなもんだからね。驚くほど量刑厳しいって。」

りんねはひとしきり考え込んだ後、決断したようだ。

「じゃぁ、これは止めます。」
(「これは」って...まだあんのかよぉ!)

やはり一筋縄でいかない女のようだった。バックアッププランを用意しているとは。
用意周到な点でやはり、策士として矢口を感嘆させるだけのことはある。
ただ、矢口とて黙って見ていたわけではない。りんねが執拗に絡んでくる動機は既に
見切ったつもりでいた。そして、矢口の推測が正しければ、反撃は可能である。問題は
どのタイミングで攻撃を繰り出すかに集約されていた。
119 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月12日(火)23時28分42秒
>110
大分遅れましたが、ありがとうございます。
こんなバカ話を楽しんで頂けて嬉しい限りです。
またよろしくお願いしますね。

>111
どもども。
実を言うとSEEKが休んだ途端に私も風邪で寝込んだりしてまして。
SEEKとともに復活した次第です(w

>112
村田さんに関しては、多分、あまり実状も変わらないような気がします(w
阪神は今年もキャンプから賑やかですね。
しかし、監督が一番人気があるというのも何と言うか寂しいような...
120 名前:110 投稿日:2002年02月13日(水)00時22分17秒
復活してるぅ♪待ってましたよ!!
しかし『矢口ウィルス』ってワラタ。実際あったら怖いけど見てみたい!
恐るべしりんね!!
121 名前:名無し男 投稿日:2002年02月13日(水)15時27分57秒
矢口ウィルスほすぃ〜

それにしてもりんねって頭いいんだか悪いんだか(w
122 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月13日(水)23時22分11秒
りんねが次の手札を見せないうちに先手必勝で切り込むか。それとも、次の一手を繰り出して
油断したところを突くか...矢口は後者を選択することにした。今までの行動パターンから
見て、りんねはかなりな自信家だ。自らを過度に信ずる者は必ずや油断する。策士、策に
溺れると言うではないか。

「フッ、ぐうの音も出ないようね。オッホホホホ!」
「ぐう。」
「だあぁぁぁっ!つまんないギャグではぐらかさないで頂戴!!」

りんねはかなり気を悪くしたようだった。その目つきがさらに凶悪さを増す。

「フッ、これだけは我慢してあげようと思ってたのに...可哀想な子...」
(いいから、もったいぶってないで、早く出せよ...)

りんねは本気で哀れんでいるかのように、少しうつむいて首を横に振った。

「マイクロカセット矢口くん1号って...どこへ行ったんでしたっけ?」
「はぁっ? あれは裕ちゃんが壊したんだぜ...」

確かそうだったはずだ...確か...
矢口は急に心細くなった。何かが違う...何だろう...?
123 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月13日(水)23時22分57秒
「そう言ったのは中澤さんだけよね...矢口さん、あなた壊れた1号の姿、見たの?」
「.....」

そう言えば、実物を見たことはない...だが、それが何か問題だろうか?
まさか...

「そのまさかよ。」
「!?」

まるで自分の心の内を読んでいたかのようなりんねの態度に矢口は二重の衝撃を受けた。
(そのまさかって...)

「フフッ、矢口くん1号が盗まれたとしたらどうかしらね...」
「だから何なのさ?そんなもん、盗んだって何にもならないだろ?」
「レコーダーの機器そのものはね。でもその中にテープが入っていたとしたら?」
「.....」

真綿でじわじわと首を締められるように、矢口は精神的に追いつめられていることに
気付いた。取り乱してはいけない...これはりんねが仕掛けた神経戦だ...
それが証拠にりんねはまだ何も具体的な確証を見せていないではないか...
124 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月13日(水)23時23分40秒
「テープったって、あれはモーニングの楽屋とかでの会話なんかをこそっと録ってるだけで、
たいした価値はないぞ...」
「中澤さんが、そういう使い方をしている限りはね...」
「.....」
「でも、個人的には違う使い方をしていたとしたら?」
「.....」
「例えば、夜の営みをこっそり録音して後で楽しむとか...」

(根拠はないんだ...)
そう思いつつも、矢口は段々とりんねの術中にはまりつつあることを意識した。
この手の心理戦に熟知し長けていることで、矢口はなんとか自我を冷静に保つことができて
いるが、そうでなければひとたまりもないだろう。改めて恐ろしい敵であることを認めた。

「中澤さん、道具とか使うの好きでしたよね...」
「!!」

ビクっと体が反応し、反射的にりんねの顔を直視する。
矢口に留まっているわずかな理性が、迂闊に肯定するような言葉を漏らしそうになる
衝動を抑え込んだ。だが、今の一撃は確実に矢口の精神にダメージを与えていた。
125 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月13日(水)23時24分24秒
「だ、だから何なのよ!」
「フッフッフ、効いてますね。」

(確証はない...確証はないんだ...)
無理矢理、自分に言い聞かせるのも既に限界に近づいていた。

「野菜まで使いますかね...ふつう。ちょっと変態入ってません?」
「.....」

矢口の中で何かが壊れた。恥ずかしさと悔しさで顔色は赤くなるどころか、
血の気が引いて真っ青になっていた。握り締めるこぶしが、怒りでぶるぶると震える。
(我慢...ここは我慢だ...)

矢口の尋常ならざる所以はこれだけの辱めを受けつつも、冷静に状況を分析する
精神力の強さにある。戦いの局面においては、時として押すだけではなく、引くことも
必要だ。矢口は退却する勇気をも持ちあわせている点で、凡百の策士とは異なる
真の軍略家と言えた。
126 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月13日(水)23時25分01秒
「何が...望みだ...」
「フフフッ、ようやく負けを認めたわね...辞退すれば、いいのよ。」
「辞退すれば...テープは返してくれるのか...」
「フッ、甘いわね。誰が、返すって言ったのよ?」
「返せ。それが辞退の条件だ。」

矢口は毅然として言った。ここは押すところだ。禍根を残すことだけは避けなければ
ならない。そうでなければ、この場面での撤退が一時のものではなく、全面降伏へと
無し崩しに追い込まれてしまう。

「...ちっ...ったく、負けてても強気なんだから...いいわ、ただし瀬戸さんに電話して。
『矢口は辞退します』って。そしたら、渡したげる。」

お安い御用だった。りんねがごねていれば、永遠に弱みを掴まれていたところだ。
回収できただけでも上等と言えた。気を取り直して、社長の携帯に電話を入れる。
呼び出し音が数回鳴って、瀬戸が通話モードに入る。
127 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月13日(水)23時25分46秒
『もしもし...』
「あっ、社長、矢口ですけど。」
『どうした。』
「NHKの件ですけど、私、アップフロントの代表は辞退しますんで...」
『そうか...他のメンバーは?』
「それはまた、みっちゃんから連絡させますんで...」
『わかった...用件はそれだけか?』
「ハイ。」
『じゃ切るぞ。』

矢口は携帯をパタンと折り畳むと満足げな笑みを浮かべるりんねに視線を返した。

「これでいい?」
「上出来よ。」
「じゃ、返して。」

りんねは、鞄の中をガサゴソとまさぐるとレコーダごと矢口の掌に置いた。
たいした重量もあるはずはないその機械が今は、ずっしりとした重みを感じさせる。
自分を残して立ち去ろうとするりんねに向かって、矢口は声をかけた。

「まぁ、がんばんな。でもみっちゃんは辞めないぞ、多分。」
「いいのよ。敵じゃないから。」

矢口はニッと口の端で笑って、応える。

「あんまし、なめてかかんない方がいいぞ。」
「ご忠告ありがとう。」

そう言い残すと、りんねは扉を開けて部屋を後にした。
128 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月13日(水)23時34分12秒
>120
どもども。またよろしくお願いします。
ウィルスと言えば、今年は午年だけにトロイの木馬が流行りそうとか。
馬術ライセンスを持つりんねだけに、この手もあったかと思ったり。

>121
りんねはどうも本当に...あのまんまらしいです。
本当はりんねタン大好きなんだけど...
好きな子はついついいじめたくなるという、あの心理でしょうか。

そういえば阪神優勝からもう17年です。
娘。のほとんどがまだ生まれてなかったんですね(w
すっかり昔になってしまいました。
129 名前:120 投稿日:2002年02月14日(木)00時06分33秒
黒りんね…。コワー。でもワラタ。
やぐたんにも、がんがって欲しいところ!負けるな矢口!!
130 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月14日(木)10時49分01秒
りんねさん恐いっす……どっかずれてるのに…
矢口ウィルスは欲しいかも(w
そんなおいらはBadtransでパニくってパソコンセットアップまでしましたが(爆

131 名前:名無し男 投稿日:2002年02月14日(木)13時56分58秒
矢口さん一旦引いてカウンター狙いですか?
132 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月14日(木)22時35分21秒
(ふぅっ...まったく、あのバカ裕子のせいでとんだとばっちりじゃん...)
矢口は、ひと息つくと、掌中の小さな機械に目を落とした。
(何、録音してたのかな?)
とんだところで足を引っ張られたという腹立たしさを覚える一方で、中澤が録音したという
内容に矢口は興味を覚えた。
(テープは...っと、巻き戻さなくていいのか。)
再生ボタンを押すと、何やらガタガタとした音が大音量で流れ出す。慌てて音量を絞ると
中澤の懐かしい声が聞こえてきた。

『...やぐちぃ...ええか、ええのんか...ハァハァ』
『ちょっと待ってぇ...キュウリなんか使うなんて聞いてないじゃん。』
『矢口知らんのか?この表面のいぼいぼ具合がむっちゃ、ええねんで。』
133 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月14日(木)22時36分05秒
(覚えてないんだよなぁ...そんなん使ったっけなぁ?)
道具使いの中澤ではあるが、そこまで変態じみたことを許した記憶はなかった。
あるいは泥酔させられたときのものかもしれないが、それならそれで、あの欲ぼけ裕子の
ことだ、ビデオのひとつもとっていておかしくはない。テープの隠し録り程度で満足する
玉ではないように思われた。

『ええがな、これがええんや。ほれ、入れるで!』
『ああぁぁぁっっ!!入っちゃったぁぁ!!』

(うひゃっ!まじかよ...)
記憶がないとは言え、我が痴態の記録を耳にして、矢口は思わず赤面した。

『ほれ、どうや、この味は?ほんま、とろけんでぇ。』
『あうっ。でも意外といけるかも...』
『(ぴちゃっ、ぴちゃっ)んん、おいしい...』

(舐めるなよ...頼むからさぁ...)
恥ずかしさのあまり、レコーダに向かって哀願する矢口である。
134 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月14日(木)22時36分48秒
『(ぴちゃっ)んん。これほんとおいしいね。意外ぃ。』

(はっ!?何、これ?)
まさか自分で味見をしているわけではあるまい...どうやら...

『いやぁ、ミネストローネにキュウリって意外といけるね。』
『せやろ。ほんまはズッキーニちゅうねんけどな。』

(むがあぁぁぁっっっ!!クソボケゆうこぉ〜っ!!ゆるさぁ〜ん!!)
中澤のお茶目な趣味のためにとんだ失態を演じた矢口であるが、それよりも悔しいのは、
完全に格下と見なしていたりんねにまんまとしてやられたことであった。たしかにきゅうり
のいぼいぼというフレーズに淫らな連想を重ねることにやぶさかではない矢口には防ぐこと
のできない見事な心理的揺さぶりであった。
135 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月14日(木)22時37分28秒
(しまった...あの欲ぼけの裕子だけに完全にそっち方面と勘違いした自分のミスだ...)
考えれば考えるほど自らの愚かさが恨めしいが、それにしても恐ろしいのは、こんなカスの
ような材料で自分を手玉に取ったりんねの手腕だ。敵として不足はない。というよりも、
尻に火がついているのは矢口の方である。残る道は武蔵野音大での代表権を勝ち取る
しか残されていないのだ。

それにしても不思議なのはりんねの自分に対する態度である。周到に用意した罠で矢口を
はめたところまでは客観的に見て見事としかいいようがないが、それほどの怒りを買う
ような覚えはまったくといっていいほど思いつかなかった。唯一、見当をつけた理由をもと
に試みようとした反撃は、繰りだす機会さえ見つけられぬほど完膚無きまでに叩きのめされた。
結局、有効なのかそうでないのか確かめることすらできなかったのだ。
136 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月14日(木)22時38分27秒
だが、あの執拗なまでの怒りが間接的に自分に対して向けられたのはほぼ間違いない。
やはり最終的な標的は中澤なのだ。アイさがのMC降番。飯田&りんねから中澤&稲葉へ。
これについては、中澤自身がはっきりと復帰のために運動したと公言しているだけに、
りんねとしては憤懣やる方ないところではあろう。初めての全国区(に近い)TVの
レギュラー。りんねにとっては大きな存在であったに違いない。多くのレギュラーを抱える
矢口にはわからない、特別な思い入れがあったのかもしれない。同情すべき余地は確かに
あったのだ。

だが、しかし...やはりこれだけの仕打ちを受けて、ただで済ますほど矢口は善人ではない。
(くぅぅぅぅっ...この恨みはらさずにおくべきか...)
今や復讐の鬼と化した矢口は、りんねに敢然と立ち向かうべく、決意を新たにするのであった。
137 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月14日(木)22時49分31秒
>129
りんねも苦労してますからね。本当はいろいろ抱えているんでしょうけど、
そうは見せないところが、どうにも愛しいです。
黒りんねは、作者の愛情の裏返しかと思ったり(w

>130
BadTransとは...御愁傷様です。
なんかモーニングのPCが発売になるようで(w
矢口の音声ファイルに期待しちゃったりなんかしないでもないです。

>131
カウンター、できませんでした(w
でもリベンジしますよ。多分(w
私、阪神ファンの真弓ダンスは好きでたね。あれは見てて楽しかったですよ。
138 名前:名無し男 投稿日:2002年02月15日(金)01時11分40秒
りんね(゚д゚)ウマー
こらひっかるわ(w

娘。パソコンはさすがにこっ恥かしすぎて買えん(小心者のモーヲタ)
てか20万もありません(w
でも正直凄くほs(略
139 名前:129 投稿日:2002年02月15日(金)19時26分13秒
鶴光ネタワラタ。
ここのりんねにも頑張って欲しいと思う今日この頃。
りんねもある意味苦労人ですもんねぇ。
140 名前:〜風雲編〜 投稿日:2002年02月16日(土)03時53分24秒
――北海道・花畑牧場――

午前5時。まだ薄ぐらい中、白い息を吐きながら黙々と作業をする二人の影があった。
牧舎に灯る小さな電灯の下、辛うじて顔の輪郭が判別できる程度の明るさの中、
それでも仕事に支障はないとばかりにてきばきと動く二人の姿は、ある種の小気味良い
リズムを奏でていた。

「ほら、もっと腹筋使わないと腰、痛めるよ。」
「すいません。なかなか、慣れなくて。」

馬に餌を与える時間だ。りんねは新入りの里田への指導を兼ねてともに作業を行っていた。
馬のたてがみを撫でながら話しかけるりんねに、里田は謝る必要もないのになぜだか申し訳
なくなって、ぺこりと頭を下げた。

「謝らなくていいよ。自分の体だから。自分で気をつけないと。」
「ハイ...」
141 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月16日(土)03時54分25秒
里田の瞳に映るりんねの姿はとてもか弱く、手足もちょっと力を入れれば折れてしまいそう
なほど細かった。とても力仕事をこなしそうな人品骨柄には見えないのに、軽くこなして
しまう意外性が里田にはちょっとした驚きでもあると同時に、とても好ましく思われた。
そして、実際、りんねが鐙(あぶみ)や鞍(くら)のない裸馬を単身、鬣(たてがみ)に
しがみついて御す姿は掛け値なしに格好良かったのだ。

里田がりんねに歌のお姉さんのオーディションを受けると告げられたのは、つい先日のこと
だった。ハロプロからは平家とりんねがエンントリー。そのどちらかがハロプロ代表となる
予定であったが、二人ということもあり、今回は特例として二人とも本選考に進むことが
決まったという。正直なところ、りんねに憧れてカントリー入りを希望したこともあり、
このまま留まって欲しい気持ちが強いものの、一方で、歌のお姉さんとして子供達と戯れる
りんねの姿を見たいという気持ちの間で里田の心は揺れていた。
142 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月16日(土)03時55分06秒
(りんねさん...やっぱりあの子達のこと...)
里田は昨年のクリスマスを思い出していた。花畑牧場での暮らし始めたばかりで右も左も
わからない中、里田はりんね、あさみとともに牧場から程近い教会に出かけた。まだ打ち
解けない間柄に気後れしたせいか、なぜ、そのようなところへ行くのか聞くのは憚られた。

どうしたらいいのか判らず、おろおろしている間に、りんねとあさみはいつのまにかサンタ
クロースの格好に着替えており、里田を驚かせた。気付くと自分の持たされた袋には何やら
奇麗に包装された大小の包みで膨らんでおり、サンタの衣装を見て初めて、クリスマスの
プレゼントであったことを理解した。
143 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月16日(土)03時55分44秒
しばらくして子供達が集まると、りんねとあさみには打ち解けた様子で跳びついていった。
後に聞いたところでは、クリスマスに限らず、定期的に教会を訪れ、あるいは牧場に子供達
を招待しているらしい。牧場開設時、周辺民家とのトラブル回避のために牧場側が地域に
解け込むための取り組みとして始めたボランティアの一貫とのことだ。

里田はもともとは芸能界入りを目指してモーニング娘。のオーディションを受けたものの、
カントリー娘。にも惹かれていた。それだけに、牧場の生活や仕事の厳しさはある程度覚悟
してはいたものの、近隣の地域住民との親睦のためにボランティアまで行っているとは知らず、
果たして自分がどこまでやっていけるのか不安になるのだった。
144 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月16日(土)03時56分23秒
おもしろいのは、あさみが子供達をうまくあしらっているのに対し、りんねは子供達に同化
していることだった。それぞれやり方は違うものの、子供達を楽しませていたという点では、
どちらも見事にその役割を果たしていたことに気付き、里田はあらためて芸能界の水の濃さ
を感じずにはいられなかった。

「りんねさん...本当に、歌のお姉さんに...」
「唐突に何を言い出すんだか。今、仕事中だよ。その話しはもう済んだよ。」

仕事中に応えてくれないことは判っていたが、それでもなぜか無性にそのことが気になって
仕方がなかった。確かに教会で子供達と戯れていたりんねは楽しそうだったが、里田には
りんねが単に子供好きというだけで歌のお姉さんを目指すわけではないように感じられた。
145 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月16日(土)03時57分15秒
あさみは何となく理解してはいるようだったが、あくまでも漠然とした感覚には違いなく、
里田が納得できる説明ができるほど、りんねの事情に通じているわけではなさそうだった。
また、芸能界にはそれほどの執着もないあさみ自身の淡白な気質からして、その辺の
事情を斟酌することへの興味の欠落といったある種冷めた感覚が、それ以上追求する
ことをためらわせ、里田により一層の疎外感を覚えさせた。

(本当にもう...応援した方がいいんだか悪いんだか...)
里田はりんねへの思いをうまく自分の中で整理できない苛立ちをぶつけるかのように、
飼い葉桶を洗うためにすくった水を排水溝に向けてザバっと思い切りぶちまけた。
146 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月16日(土)04時08分36秒
>138
娘。パソコン、会社で結構、話題になってました。
丁度ノートPCが一台、足りなかったから、「これ買って」とお願いしましたが、
一言の元に却下(涙
IT不況はまだ続きそうなのです(w
そういえば、柏レイソルPCというのがあって、あれもそこそこ売れたみたいですね。
縦縞PCつくれば、関西方面で相当な需要がありそうとか思ったり(w

>139
ついつい白りんね書いちゃいました(w
でもまた黒くしたいなっと(w
あと、里田ってどんな子なのか興味あります。
それにしても( ^▽^)がまた戻って来るとは...
147 名前:名無し男 投稿日:2002年02月16日(土)15時57分54秒
カントリーのメンバがスキャンダル&事故死で次々と脱退
それでもりんねは一人ぼっちでよく持ち堪えてきたよね
りんねはヤパーリ強い(T◇T)

俺も高校の時保育実習やったときに
すっかり子供と同化しすぎて
保育園児に「デカイのにそんな事して恥ずかしくないんか?」
って突っ込まれた経験あり(w
148 名前:――起死回生―― 投稿日:2002年02月17日(日)03時36分44秒
「なぁなぁ、ええかげん機嫌直しぃや。それより、今日はマイクロ矢口くん3号
(熊っこくんグレート改名)がお待ちかねやで、うふ。」

都内某所のタイ料理店でさきほどからむっつりと黙り込んだ矢口の機嫌を取る中澤である。

「ちょっと、裕ちゃん...また性懲りも無く、変な物に人の名前つけないでくれる。」
「まぁ、そう硬いこと言いな。毎晩、可愛がってんねんから、うふ。」
「むがあぁぁぁっ!!このバカゆうこおぉぉぉっ!!全然懲りとらんやないかあぁぁぁぁっ!!」

いつもなら、また欲ぼけ裕子の少しお茶目なネーミングと笑って過ごすところであったが、
今回は、りんねにこれ以上はないというくらい徹底的に痛めつけられた後だけにその手の
冗談(中澤は大まじめだが)には過敏になっていた。
149 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月17日(日)03時37分24秒
「その傷心の矢口をこの裕ちゃんが慰めたる、言うてんのやないか。」
「んん...慰めるって言う表現に何か嫌らしさを感じる...」
「(ぎくぅっ!)いや...そんなん、あるわけないやないか...今日はまぁ、ゆっくり話、
聞いたんでぇ。」
「そんなら、いいんだけどさ...」
(ふぅっ...危なぁ...ここで怒らしたら元も子もなしや...)

先日、お預けをくらっただけに今日はなんとしても最後まで持っていきたい中澤である。
マイクロ矢口くん3号のチューニングもばっちり決まっているだけに、ここまでの努力を
無駄にしたくなかった。とりあえず、矢口を宥めて引きとめておかないことには、話に
ならない。とりあえず、話しを聞く姿勢だけでも示しておかねば。
150 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月17日(日)03時38分02秒
「で、アップフロント枠はりんねにくれてやったちうわけか。」
「...」
「いよいよ背水の陣やな...」
「...」

よっぽどりんねにしてやられたことが悔しかったのだろう。矢口は目の前に盛られた
トムヤンクンのスープにも手をつけず、うつむいて黙りこくっている。ただ、先日の大敗を
引きずっているかというと、それだけでもないらしい。さすがに頭の切り替えは早い。
今は、武蔵野音大枠をいかにして確実にしとめるか、その一点に集中していた。

「勝算は...あるんやろ?」
「...ない...こともない。」

実際、ハロプロ枠奪取に失敗した南青山での頂上決戦後、矢口はすぐに次の手を打っていた。
そして、ある程度の感触を得ていたのも事実だ。だが、必ずしも政治的な手法だけですべてを
解決できるわけではないことにも、また気付いていた。なにしろ「歌のお姉さん」なのだ。
まずは歌唱力で実力を示せなければ話にならない。
151 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月17日(日)03時39分01秒
矢口はその点、不安がないでもない。一応、音大にはコネクションを大いに活用して滑り
込んだものの、一般入試で入ってきた声楽科の学生と比べて、地力で劣るのは明白だった。
ただ、救いとなるのは、現お姉さんである角田りょうこお姉さんは声楽科の出身ではなく、
器楽科の出身であることだった。

つまり歌唱力だけで選考しているわけではないということであり、幼児への対応や画面を
通して視聴者にアピールする能力、俗に言う「好感度」というやつだろうか、そういった
視点もやはり重視されるのだということを示しているように矢口には思われた。ただ自分自身、「好感度」が高いとは思えないだけに、どこまで通用するか疑問ではあったのだが。
152 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月17日(日)03時40分00秒
いずれにしても打つべき手はすべて打った。それが奏功するかはわからないが、今はそれが
熟すのを待って、虚心担懐に学内での実技と面接による選考会に臨むだけだ。そうと決まれば
今日は久しぶりに歌のお姉さんのことは忘れて楽しもうではないか。相変わらずの欲ぼけ
ぶりがエスカレートして今にも暴発しそうな欲情をたぎらせた中澤が何を仕出すか不安は
残るものの。

「さっ、何食べよっかな。」
「おっ、元気出たんかいな。これがええで、これ。グリーンカレー、辛いで。」
「おい、裕子っ!これ、緑の唐辛子入れたやつだろっ!無茶区茶辛いやつじゃんか!」
「矢口ぃ、わかってへんなぁ。辛いもん食べたら、体がほてって、感度が増すんやでぇ。」
「だから、やだっつってんだろがぁ。ったく、欲ぼけも大概にしとかないと、そのうち
写真誌に抜かれるよ。」
「へへへっ、矢口とやったら本望やでぇ。」
153 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月17日(日)03時40分38秒
冗談に聞こえないところが恐かった。写真誌には嫌な思い出がつきまとうものの、利用の
仕方によっては有効であることもまた、学んでいた。今回はさすがに表向きクリーンな
NHKが相手ということもあり、写真誌の利用は考えていないが、相手の出方によっては、
それもまたひとつの選択肢として考えてはいた。

口では嫌がっているものの辛いものは嫌いではない。大皿から取り分けてスプーンで一口
すくおうとしたところで、携帯が鳴った。着メロはお姉さん志望者らしく、「カッパなにさま、
カッパさま」を自分で入力していた。

「ハイ、矢口ですが?」
『あっ、矢口さん?今、いいかな?』
「ええ、かまいませんよ。」

中澤はせっかくよい方向に向かってきたところで、かかってきた電話の主が気になって仕方
がない。場合によっては、このまま出かけてしまうことだって有り得るのだ。仕事絡みの
電話かどうか確かめようと中澤は聞き耳を立てる。
154 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月17日(日)03時50分46秒
>147
実を言うとカントリーは大好きですが、あの人の存在は微妙です(w
うたばん出るたびに、またニワトリにすべてを持ってかれると思うと
悔しくてたまりません(w
ところで保育実習なんてものがあるのですか?大変そう(w
りんねもアイさがで幼児には苦労してましたからね。
155 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月17日(日)15時29分20秒
中澤の仕種に気付いた矢口が背を向けて小声で話し始めたため、確かめる術がない。
(も〜ぉ、矢口のいけずぅ。)
ただただ、やきもきとして通話が終わるのを待つだけだった。

『今度の選考会だけど...あなた、出るのよね。』
「ええ、そのつもりですが。」
『私、あなたのこと応援するつもりだったんだけどね...ちょっと事情が変わって
きちゃって...悪いけど、いったんクリアにして中立な立場に戻らせてもらうわ。』

まずいではないか。それは困る。

「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか?」
『私、あなたみたいに情熱のある人だったらと思って、応援の約束したんだけどね...』
「ハ、ハイ...」
『もう一人、どうしてもお姉さんになりたいって子が現れて...』
「(や、やばい!)いや、私、情熱だったら誰にも負けませんよ!」
『その子もそう言ってたしねぇ...』
「と、とにかく、今からそちらに伺いますから!」
『いやぁ、来てもらってもねぇ...』
「今すぐ伺います!失礼します!」
156 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月17日(日)15時30分14秒
通話をオフにすると、パタンと携帯を畳んで鞄に直しながら、矢口は中澤に謝った。

「ごめん、裕ちゃん!急用!」
「ちょ、ちょっと待ちいや...何やねんな?」
「キーマンだよ、キーマン!」
「何や、キーマカレーが好きなんやったら、インド料理にしたったのに...」
「むがあぁぁぁっっ!!ちゃうやろぉっ!!重要人物なんだよ!!選考の鍵を握る!!」

ポカンとした顔つきで口を大きく空けている中澤に矢口は早口で説明した。

「武蔵野音大の講師で、学内はおろか、お姉さん選考に多大な影響力のある最重要人物
なんだよ!その人に応援頼んでて、うまくいきそうだったのに、急にだめになりそう
なんだよ!わかった?」
「わかったけど...戻ってきてくれるんやろ?」
「早く済めばね...あんまし、期待しないで待ってて。それじゃ。」
157 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月17日(日)15時31分01秒
そそくさと店を出ていった矢口の後を目で追いながら、今日もまたひとり、朝まで過ごす
ことになるのだろうかと、寂しさとも悲しさともつかない微妙な感情を抑えきれず、
中澤は思わずため息を漏らしていた。

(はぁ...最近、矢口、ほんまに冷たいわぁ...やっぱし、うちら潮時なんかなぁ?)
いわゆる倦怠期というやつだろうか。ここ最近は確かに普通の愛し方では満足できていない
ように中澤自身も感じている。いや、中澤だけが...と言った方が正確かもしれないが。

(やっぱ、こう、もっと縄とか蝋燭とか激しいのんがええんかなぁ?矢口もああ見えて
激しいからなぁ...)
飽くまでそこから思考が離れられない中澤であった。
158 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月17日(日)15時32分24秒
短いですが、今日の分の更新終了です。
159 名前:名無し男 投稿日:2002年02月17日(日)23時10分04秒
中澤さん、アジア料理がお好きですか?(w
キーマカレーは誰だ?

それにしても工業高校で教育実習てどう言う事でっしゃろ?
160 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月18日(月)19時08分26秒
姐さん、またおあずけですか(w。
いつになったら矢口が食べられるんでしょうね?(w
161 名前:――重要人物―― 投稿日:2002年02月18日(月)22時15分49秒
慌てて中澤を置いて出てきたものの、当の本人に会ったとて、その決意を覆す自信がある
わけではなかった。ただ、できるだけのことはしておきたかっただけだ。それにしても、
土壇場で現れた強力なライバルというのが気になる。あれだけ、矢口の熱意と実績(無論
ミニモニのだ)をかってくれた人を翻意させてしまうのだから、相当な気合には違いない。
矢口ははやる気持ちを抑えながら、タクシーを拾った。

急いで出てきたために、得意の変装が出来なかったからか、モーニング娘。矢口とすぐに
判別できるようだった。タクシーの運転手に呼ばれて、しまったとは思ったものの、特に
見られてまずい場面でもない。適当に相づちを打ってあしらおうと考えた。

「あんた、矢口さんでしょ?」
「ハイ、そうですよ。」
「あんた、えらいね。」
「へっ?」
162 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月18日(月)22時16分34秒
大変だねと声をかけられたり、サインをねだられるのには慣れっこだが、えらいねと誉め
られるのは初めてだった。

「あっ、ごめんなさい。そんなこと言われたの初めてだから。」
「そうですか?うちの家内なんていつもあのこはえらいって言ってるよ。あんな小さな子供
達の世話してって。」
「いやぁ、あいつら一応中学生なんですけどねぇ。それに私、後進に道を譲るっていうん
ですか?もうミニモニ辞めちゃったし。」
「そうかい、そりゃ残念だね。あんたは明るいから、TVに出てくるとこうパっと周りを
明るくするよね。うちのガキどももあんたたちが出てくるとおお喜びなんだがね。」
「いやぁ、そんな嬉しいこと言われるとタクシー代値切れないじゃないすか、おじさん。」
「はっはっは。ほんとに、しっかりしてるね。あんた、ミニモニ辞めたんだったら、NHK
の歌のお姉さんかなんかやったらいいよ。うってつけだなぁ。」
163 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月18日(月)22時17分09秒
なんだかポイントがずれてる気がしないでもないが...それでも誉めてもらえたのは嬉し
かった。それに歌のお姉さんたる資質がやはり自分には備わっていないのでは、と自信を
喪失しかけていた矢先だけに、これは励まされた。

目的地でタクシーを降りてチケットを切ろうとした矢口を制して、場所の記入はここでいい
のかいと聞いてくれた運転手はどうにも芸能人慣れしていたが、嫌な感じは受けなかった。
手を振って別れると、矢口は目的の家の玄関前で少し考えた。
(さて、どう切りだそうかな...)

下手に考えを巡らせても仕方がない。ここは素直にぶつかって見るしかなかろう。そう結論
づけると矢口は玄関の呼び鈴を押した。3回ほどチャイムが鳴ったところでインターホン
から声が聞こえてくる。
164 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月18日(月)22時17分48秒
『どなた?』
「矢口です。夜分、すみません。」
『...来ちゃったのね...まぁ、いいわ。とにかく上がってちょうだい。』

錠がはずされる音がして、ドアが開けられた。普段着姿で自分を迎えるその人に矢口は挨拶
した。

「すみません、稲村さん。おしかけちゃいました...」
「まぁ、せっかく来てくれたんだから...お茶でも入れるわね。」
「いえ、おかまいなく...」
「私が飲みたいのよ。つきあってくれるでしょ?」
「は、はぁ...」

そういってウィンクしてみせる稲村郁子...第16代NHK「おかあさんといっしょ」歌の
お姉さん神崎ゆう子本人であるその人は、二人の子供を持つとは到底信じられぬほどチャー
ミングで(実際、チャーミーを名乗るあの女には爪のあかを煎じて飲ませたいくらいだ)
さすがに永遠のお姉さんの称号を欲しいままにするだけのことはあった。
165 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月18日(月)22時18分25秒
子供はもう寝てしまったのか、居間には誰もおらずTVも消されているため、時計の音だけ
が、コチコチとやけに響いて聞こえる。柔らかいソファに深く腰かけて、稲村を待っている
と手持ち無沙汰で、ついつい矢口は部屋の調度や備品に目をやっては退屈をしのいでいた。

ふとテーブルの上を見ると、読み掛けていたらしい一冊の本が置かれている。題名は...
カバーがかけられていてわからない。気になって手に取ってみると内表紙には『児童心理学
詳説』とある。
(へぇ、偉いなぁ...現役引退してもまだ勉強してるんだ...)

その心粋こそが稲村をして永遠のお姉さんたらしめている所以であろう。みずからもその
後継を目指すのであれば、それなりの心構えで臨む必要がある。矢口はあらためて気を引き
締めた。
166 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月18日(月)22時19分01秒
「しっかし、あなたもあれだけ成功したのに、こんな地味な仕事よくやる気になるわねぇ。」
「いや、高潔な仕事と思っております...」
「プッ、よっくそんな心にもないこと言えるわね。感心しちゃうわ。」
「わ、わかりますか...?」
「何年、やってると思ってんの?少なくとも高潔な理由で始めた人なんかいないわよ。」

これはまた、意外な御言葉で...矢口はとりあえず猫を被ることだけはやめた。

「というと、稲村さんの場合は、どういったわけで...」
「私はね...成り行き。あゆみちゃんもりょうちゃんも同じようなものよ。」
「はぁ...成り行きですかぁ...」

お姉さんへの遠き道のりの途上で苦労している矢口にとっては、今一つ実感の湧かない言葉
ではある。

「私はもともと小学校の頃からNHKの児童合唱団に入ってたからね。そのまま勢いでね。」
「はぁ...勢いっすか...」
167 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月18日(月)22時19分54秒
抱いていたイメージとだいぶ異なることに戸惑い、ひたすらオウム返しを繰り返す矢口で
ある。稲村自身は、電話での迷惑そうな様子とは打って変わって上機嫌だ。世間話に花が
咲きそうな気配すらある。だが、まだ宵の口とはいえ、あまり時間を取らせてもまずかろう。
なにしろ相手は二児の母なのだから。矢口は思い切って、本題を切り出した。

「ところで、もう一人、お姉さん志望者が現れたとか...」
「あら、そうだ。その話しで来たんだったわね。」
「一応、そうです。」
「ほんと言うとね、わざわざ家にまで来てくれる熱意のある人なんていないから、あなたの
応援しようと思ってたのよ。」
「ところが、もう一人現れた...」
「そうなのよ!もうびっくり。歌のお姉さんっていつのまにそんな人気稼業になったのかしらって。」
168 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月18日(月)22時20分44秒
(いや、凄い人気ですぜ...ハロプロに限っても...)
矢口はついつい茶々を入れたくなる気持ちを抑えつつ、先を促す。

「武蔵野の学生ですか?」
「そうよ。器楽科でね、りょうちゃんの後輩になるのかしら?」
「で、何と言って稲村さんのところへ?」

そこが気になるところだ。

「子供が好きだからね、どうやったら歌のお姉さんになれるか教えてほしいって。」
「はぁ、で稲村さんはなんと?」
「お姉さんになる秘訣なんてないからね、基本的な歌唱力さえ問題なければ、後は子供への
愛情と熱意よ、って。」

愛情と熱意か...辻加護でなければ、あるいはそういう感情も持てるのかもしれないが。
ともかく、稲村をして感激せしめたという、その学生の熱意というやつには要注意だ。
169 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月18日(月)22時21分26秒
「バイトもね、子供が好きだからベビーシッターとか好んでやってるらしいわ。」
「そりゃまた、子供好きなこって...」
「ま、でも好きなのとうまく扱えるのはまた別の話しだけどね。ただ、最初から熱意のない
人は続かないのよ。」
「お姉さんになる資格としては十分ってとこですか...」
「そうなのよ!それで、困っちゃってね。とりあえず、今回は、私、公平な立場に立ちたい
から、選考から降りようと思うのよ。」
「そうですか...」

冷静に受けとめている振りはしているものの、内心では相当な焦燥感に駆られていた。
なにしろ、現行のNHK教育番組編成部長の女性は、同性として、またお姉さんの経験者と
して稲村に絶大なる信頼を置いているのだ。選考委員として最大の影響力を保持していた。
その稲村が降りるとなると、選考委員間でのパワーバランスが大きく崩れることになる。
今から、工作して間に会うか...
170 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月18日(月)22時22分12秒
矢口はハロプロ代表権の獲得に際してりんねに不覚を取ったものの、武蔵野音大での代表権
を得ることで、充分、挽回は可能と考えていた。そして、稲村の後押しにより、その工作も
順調に進もうかという矢先の出来事である。とりあえず、打てる手はすべて打たねばなるまい。

まさに晴天の霹靂により暗雲が立ち込める展開に、暗澹たる心持ちで稲村邸を後にした矢口
はひたすら次の一手を考えることに集中し、中澤のもとへ戻ることなどすっかり頭から離れ
てしまっていた。

哀れ中澤...マイクロ矢口くん3号と改名した甲斐もなく、今日もひとりの夜は更けゆく。
171 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月18日(月)22時29分15秒
>159
中澤さん、タイで辛いものに目覚めたそうです。
とりあえず、キーマカレーの次は韓国料理あたりで(w
しかし、なんでまた工業高校で教育実習?(w
7回裏の風船は誰が掃除するんだと思ったり。

>160
いつか、おあずけで抑圧されたリビドーの解放で、燃える二人の
すんごいやつを書きたい...けど無理かな(w
172 名前:名無し男 投稿日:2002年02月19日(火)13時31分57秒
マイクロ矢口くん3号はお蔵入りですか?
それにしてもどんどん敵が増えてる(w

善良な方々は自分で拾って持ち帰る思われ
しかしジェット風船はカープが発祥だったのね
173 名前:――おごれる平家は久しからず―― 投稿日:2002年02月19日(火)22時10分50秒
同じ夜、もうひとりの候補者が闇に紛れて策動しようとしていた。
平家みちよである。
普段であれば、直球、一直線。腹芸のできぬ真っ直ぐな性格だけに、矢口ばりの裏工作など
考えも及ばないところではあった。しかし、今回ばかりは尻に火がついている。
自身、大きな飛躍を遂げるための最後のチャンスと割り切っていた。

そのためには、できることはなんでもやるつもりでいる。
なにしろ、相手は権謀術数に長ける矢口とわけのわからない迫力で押しまくるりんねである。
尋常な技では、到底太刀打ちできるとは思えなかった。そして、真っ直ぐ過ぎる自分の性格
が災いし、この世界で今一つ開花しなかったのだとの強い自省の念がある。

(最初っからこんなんできとったら、また違う展開やったやろか...)
174 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月19日(火)22時11分22秒
シャ乱Qロックボーカリスト・オーディションの優勝者として、その落伍者たるモーニング
娘。の後塵を拝す屈辱の日々。どこで道を誤ったかと後悔する日々の暗い記憶。そんな自分
と折り合いをつけることができるようになるまでの心の闇との格闘はしかし、平家にある
種の力を与えていた。その力を今こそ発揮しなければ...

とはいえ、自分には何もないことがわかっていた。矢口のような幅広いコネクションも、
りんねのような得体の知れないエネルギーも...自分には何もないのだ...
結局、自分にはこの体しか残されていない。そう悟った平家が選んだ道はやはりその実直な
性格同様、ストレートな戦術であった。

色仕掛け...

自分なりのつてで調べ上げたNHK教育番組編成部のディレクターは、どうやらその手の
誘いには弱いことが判明していた。平家はその人物にアポを取ると、一線を超える覚悟で、
新曲「プロポーズ」の衣装をまとい、約束の店へと足を運んでいた。
175 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月19日(火)22時12分01秒
わざとへそ出しの服を着用し、短いスカートから覗くかたちのよい、すらりとした長い脚で
ディレクター氏へのアピールを試みようとする平家。言葉づかいも水商売のそれを少し、
自分なりの理解で意識していた。

「せんせぇ〜ぃ。私、せんせいの番組、全部見てますのよ。すごいファンなの。」
「ほう、君はよっぽど幼児番組がすきなんだねぇ。」

(どうせ、弘道お兄さんの尻でも眺めて悦に入ってんだろが、このクソあま。)

ディレクター氏、この手の誘いには慣れているのか、つれない態度である。
心の中では、色仕掛けに来る平家に毒づいて見たりもする。
平家の方といえば、なかなか効果の現れないお色気攻撃に焦り気味だ。
あせる余り、酔った振りをして、誘いに乗ってこない相手ににしなだれかかったりして
必死の攻撃を試みるが、あっさりかわされる。
176 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月19日(火)22時12分36秒
(あかん...どないなってんのやろ?私の魅力がつうじひんのかいな、このおっさんは...?)

そろそろ平家の焦りがピークに達してきた頃、それまで取り付く島もなかったディレクター
氏の態度が変わった。

「ところでさ...」

と、今度は逆に揉み手さえしかねない、えへらえへらした表情で平家ににじり寄る。

「君も芸能界、長いんだから、いろいろ交遊はあるんだろうねぇ。」

(きたきた!...誰か紹介せぇ、ちゅうねんな、このエロおやじは!...)

平家はさすがに長い下積み(一応、オーディションの勝者ではあったが...)経験から、
このような展開のあることは予想済みだった。自分の色仕掛けが不調に終わったと見るや、
すかさず第二陣の攻撃を繰り出す。
177 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月19日(火)22時13分10秒
「そりゃもう、私もこの世界は長いですよってに。」

(おっさん、あんまし無理言うたらあかんで。さすがにあゆとかは知らんねんから。)

平家の心配をよそにディレクター氏はご機嫌そうだ。
傍らのグラスをぐぃっとあおると、やおら平家の方に向かって切り出す。

「君、ジャニーズ系とかはつきあいあるのかね?山ぴーとかどう?」

(?!)

一瞬、何を言われたのか判じかねたものの、平家の思考回路が言われた内容を
理解するまでにそう時間はかからなかった。
それどころか、舌なめずりせんばかりに期待に目を輝かせているディレクター氏の
態度を目の当たりにした今、その意図は火を見るよりも明らかだ。
よく見るとグラスを持つ右手の小指が立っているような気が...
178 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月19日(火)22時13分40秒
(うげっ、ホモかよ!このおっさん...)

いかな経験豊富な平家と言えどもゲイを目の前にしてはひるむ。
男色に理解がないこともない平家だが、目前の脂ぎった中年が山ぴーと絡む姿は
想像するだにおぞましい。

(うぇっ、きしょっ!かんにんやで、おっさん...)

平家の気持ちを知ってか知らずか、ディレクター氏のボルテージは上がる一方だ。

「山ぴー、いいよねぇ...」

視線は遠くに泳ぎうっとりとした表情さえ浮かべている。
心無しか声のトーンまで高くなり、語尾が上がるしゃべり方は歌舞伎町二丁目あたりの
お姉さま方のそれを彷彿とさせた。
しばらく泳いでいた視線が、再び自分に戻され、平家は蛇にらまれた蛙よろしく
凍りついたまま動けない。
179 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月19日(火)22時14分16秒
「ねぇ、山ぴー紹介してくれなぁぃ?」

(うわっ!もうあかん...あかんわ...)

頭の奥底では、ここで耐えなければ、と思うのに体が受け付けない。
平家はもうただただ、この場を離れることしか考えられなくなっていた。

「いやっ、あのっ、ですね...そのジャニーズ関係は私もちょっとですね、コネがないと
いうか...」

平家はそこまで言うと、ぱっと立ちあがり早口に告げた。

「すみません、急用を思い出しまして!失礼させていただきます!」

くるりと身を翻すと、一目散に出口へと向かい、勢いよく扉を開けて表へ飛び出した。
後に残された自称男色家はにっと口元を緩ませる。

(へっ、色仕掛けなんて古いんだよ...ホモのふりすりゃ、大概引くからな...)
180 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月19日(火)22時14分47秒
まんまとしてやられた平家である。ディレクター氏、一枚上手であった。
グラスに残ったビールをちびちびと舐めながら、反省する。

(しっかし、うまく追い返したのはいいけど、加護ちゃんの住所聞きそびれちゃったな...)

ディレクター氏、重度のロリコンであった。「電話番号」ではなく、「住所」というあたりが、
変態の面目躍如たるところである。

(さっ、早く帰って、ときメモ・モーニングバージョンでもやろっと...)

哀れ平家、変態ディレクター氏に色仕掛けはどのみち通用しなかったのだ。

平家みちよ、第19代「おかあさんといっしょ」歌のお姉さんオーディション脱落。
木枯らしの吹きすさぶ、寒い冬の夜であった。
181 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月20日(水)10時08分08秒
>172
>マイクロ矢口くん3号
影の主役としてもうちょっと活躍してもらおうと思います(w
>高校の保育実習
なんか文部科学省が進めているボランティア(奉仕活動)の先取り
のような感じですね。ボランティアって本来は「自主的に」って意味だから、
強制的な勤労奉仕とは違うと思うんだけど...
182 名前:名無し男 投稿日:2002年02月20日(水)10時49分33秒
平家玉砕
ロリコンディレクター激しくワラタ
183 名前:――絆―― 投稿日:2002年02月21日(木)01時36分44秒
稲村邸を後にしてから、矢口はそれこそあらゆる可能性を確認し、使えそうなコネクション
はすべてフル活用するつもりで、当たってみた。ところが、こんなときに限ってうまくいか
ない。稲村郁子...つまり選考において最大の影響力を行使しうる神崎ゆう子の篭絡により、
音大での代表権を掌中にすると同時にNHKでの本選考においても、有利に展開するとの
青写真が一気に崩れたショックが後を引いていた。

加えて、矢口は自分自身の志望動機についても、今一度振り返ってみれば、果たして
お姉さんとなるにふさわしいものか、甚だ自信がない。いわゆるネガティブ・フィードバック
の連鎖に陥ったわけだが、自信家であることが逆に、この陥穽から逃れることを困難にして
いた。

184 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月21日(木)01時37分20秒
突如、現れた「本物」のライバル。自らの欲望を実現するための一種のステップ、あるいは
復讐の道具として(これは矢口から見たりんねのことに他ならないが)歌のお姉さんを志望
するといった、ある種、いかがわしい動機に突き動かされてのものではない。子供が好き、
歌が好き、という純粋な意志の放つ強力なエネルギー。

矢口はそうした迷いのない真っ直ぐな意志に対峙して、跳ね返せるだけの正当な理由を
果たして自分は持ちあわせているかと問うてみるが、どうにも心許ない。なにしろ、現状を
否定することから導き出した進路である。夢や希望、あるいはさらに高尚な博愛といった
純粋な精神に基づいた強固な意志を前にしては、力無くうなだれるしかない。
185 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月21日(木)01時37分53秒
そして、その後ろめたさがモーニング内部における自分の立場をも微妙なものにしている
のに気付くのに、そう時間はかからなかった。

ミニモニを「卒業」したことで、事務所がより自由度の高いピンでの仕事を多く入れる
ようになったこともあり、矢口が他のメンバーと接触する機会は最近、とみに減っていた。
ハロモニの収録ということで、久しぶりに全員が集まってみれば、敏感な矢口のことだ。
何やら空気が微妙に異なっていることを感じずにはいられない。

「おぅ、矢口ぃ、歌のお姉さん、りんねに譲ったんだって?」
「あんた、どうすんのよ?裕ちゃんみたいにソロでやってくの?」

飯田と保田に矢継ぎ早に質問を受けるが、その口調からは明らかに、自分が歌のお姉さんを
受ける以上、モーニングを脱退するのは自明の理と考えていることが窺われた。
186 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月21日(木)01時38分26秒
「ちょ、ちょっと待ってよ!誰が辞めるって言ったよ!」
「だって、歌のお姉さん目指すってことは、モーニング辞めるってことだろ?」
「辞めないよ...」
「おかしいじゃん、それ?」

(やばいな...なんか空気が違うよ...)

矢口はモーニングにおける自分の立場が非常に不安定なものになっていることを自覚した。
確かに弱肉強食を座右の銘とした前リーダーの中澤よろしく、チャンスがあれば前に出る
という態度はモーニングのメンバーとして奨励されこそすれ、決して責められる筋のもの
ではない。

が、しかし...一応、飯田も保田も4年間、苦楽をともにしてきたのだ。もう少し、
思いやりのある言葉があってもいいのではないかとも思う。
187 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月21日(木)01時39分03秒
ただ、矢口がもし脱退するとなれば、後に控える石川、吉澤や5期メンバーにとってもさら
に存在感をアピールするチャンスではあるのだ。それは充分、理解できるだけにこのような
中途半端な立場(或いは、よりアイロニーの含まれた後藤風の言い方を借りれば「安全な
場所を確保した上での冒険」ということになろうか)に自分を置いていることに忸怩たる
ものを感じないでもない。

「やっぱ、おかしいかな...」

珍しく弱気になった矢口の様子を見て、さすがに深刻な悩みの影を感じ取った二人の口調は、
一転して優しいトーンへと変わる。

「いや、まぁ、なんだその...歌のお姉さん、受けるってことはもう、公言しちゃってる
わけだしさ...落ちたから、モーニング残りますってのも世間的にどうかなぁ、なんて...」
「それだけの覚悟決めてんだと思ってたから、りんねに譲ったって聞いて、どうすんのかと
思ったんだよ。」
188 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月21日(木)01時39分37秒
「やっぱ、虫のいい話なのかな...」
「いや、そんなことは言ってないけど...」
「そ、そうだよね。まだ辞めるって公言したわけじゃないし...」

矢口のさらに意気消沈した様子を見て、二人は慌てて取り繕うが、ネガティブな思考モード
へと突入した矢口のテンションは一向に戻りそうもない。まるで、最近、やたらと毒舌を
吐きまくり、ポジティブの権化と化した、あの女とリバースしたかのような元気のなさに、
どうやら歌のお姉さんの選考がうまく行っていないことを悟った二人は、ようやく、真剣に
矢口の話に耳を傾ける気になった。

「どうしたんだよ、矢口?」
「うまく行ってないのか?歌のお姉さん?」
「うん...実を言うと、相当まずいことになってる...」
189 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月21日(木)01時40分17秒
二人は顔を見合わせて、肯いた。

「っしゃ。まだ時間あるから、ゆっくり聞いてやるよ。」
「そうね、あいつらうるさいから、別の場所へ行こ。」
「ありがと...」

(本当に、こういうときの矢口は可愛いのに...)
保田は同期だけあって、こと矢口に関してはある意味、中澤以上に気を配っている面が
ある。普段、精いっぱい強がっている年下の女の子がたまに見せる弱気な態度。それが
保田には妹のようでたまらなく、愛しい。
190 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月21日(木)01時49分32秒
>182
重油流出事故ですか...あれも大変でしたねぇ。
ホランティア、ご苦労さまです。
なかなかできないことです。
191 名前:名無し男 投稿日:2002年02月21日(木)13時51分59秒
保田さん、喝を入れてやってください。
192 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月22日(金)03時16分37秒
食堂の隅の一角に陣取ると、早速、飯田が口を開いた。

「ハロプロの代表、りんねに譲ったってことは、大学の方で出るつもりなの?」
「うん...」
「あんたのことだから、なんか動いてるんでしょ?」
「うん、それもやった...」

さすがに長いつきあいだけあって、矢口の行動パターンは把握している二人である。

「不調なの?」
「うん、どうもうまくない...」
「どうしたのよ?」

矢口は工作の不調に留まらず、それよりも今や大きな問題であるモチベーションの低下に
ついて話すかどうかためらった。思えば、メンバーを前にしてこのような内面の弱さを曝け
(さらけ)出した記憶は殆どない。しかし、自分の弱さを吐露するのであれば、この二人を
おいて他にないこともまた理解していた。
193 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月22日(金)03時17分13秒
「どうにも自信がなくなった...」
「負けそう、ってこと?」
「それもある...けど、それだけじゃない...」
「志望の動機が純粋ではないってことね。」

さすがに同期である。保田は理解していた。

「現状への不満...ってことなのかな...」

今一つ理解しきれていない飯田が問いかける。

「それもあるだろうけどさ。やっぱ、私たち、ちゃんとした歌を唄いたくてこの道を志した
わけじゃない?そういう不満は矢口だけじゃなくて、私にもあるし、カオリだって否定
しないでしょ。」
「そりゃま、1/13のパートを唄うよりは、いい歌を一曲まるごと唄いたいわな。」
「矢口が、それを志して歌のお姉さん目指すんだったら、それはそれで不純ではないし、
応援したいな、と思ってたんだけど。」
194 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月22日(金)03時17分46秒
矢口は意外に思った。保田とは同期だけに、たしかに他のメンバーよりも気が置けない。
何よりメンバー追加反対の激しい嵐の中をともに乗りきってきたという一種の戦友のような
存在だ。一方で、御互いの夢、希望といった話題については、現状への不満を吐露しがち
になり、まかり間違えば、メンバーや事務所、ひいてはつんくへの批判に繋がる話題だけに、
意識的に避けている面がないとは言えなかった。

そけだけに今回の意志決定についても、保田に相談したことはないし、そのようなことを
考えている素振りさえ見せたことはないはずだ。それが、すっかり自分の頭の中でさえ整理
できていないことを見通していたのだ。矢口は心の内でわだかまっていた塊が氷解していく
のを感じるとともに、あらためて盟友の自分を見守ってくれているその優しさに感謝した。
195 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月22日(金)03時18分23秒
「圭ちゃん...ありがと...」
「いや、なんかしおらしい矢口って可愛い。裕ちゃんの気持ちがわかったりして。」
「カオリ、ふざけてる場合じゃないでしょ。で、矢口はどうしたいのさ?」
「うん、それが自分でもよくわからなくなっちゃってさ...もいちど、よく考えてみるわ。」

複雑に絡み合う心の諸相が完全に解(ほぐ)れたというわけではないものの、
二人に話しを聞いてもらえたことと、保田の心配りが嬉しくて、ちょっとだけだが、
矢口は気を持ち直した。

「それにしても、りんねもわけわかんないよね。」
「いや、圭ちゃん、りんねはね、前から歌のお姉さん目指してるようなこと言ってたよ、
確か。」
「えっ、それマジ?」

初耳だった。完全に中澤に番組を取られたことへの当てつけだと思っていたから、これには
矢口も驚かされた。
196 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月22日(金)03時18分57秒
「うん、アイさがで一緒だったときにさ、なんかの拍子に聞いたことがある。」
「でも、歌のお姉さんっで柄じゃぁないよねぇ。」
「いや、圭ちゃんほどの意外性はないけどさ...あ痛っ!なぐんなよぉ!」
「余計な茶々はいいから、詳細を述べなさい!」

(ったく...仲がいいんだか悪いんだか...)
矢口はなぜだか、今、この一瞬がとても大切に思えて、胸の奥の方が締めつけられるような
せつない感覚を覚えた。仲間との何気ない会話のかけがえの無さ...自分の19年という
決して長くはない人生のうち、(あるいはこの後数十年経って振り返ったとしても?)最も
濃密な時を過ごした4年間が、この一瞬に凝縮されているような。そんな震えるような感慨に
しばし身を浸し、そして静かに感謝した。
197 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月22日(金)03時19分48秒
モーニングを離れると決めたわけではないものの、矢口はもはや、後戻りできないことを
悟っていた。そしてまさに不退転の決意なくして、何事をも成し遂げられぬことは明白
であった。りんねの抱える理由がなんであろうと、それなりの決意で臨んでくるはずだ。
その強烈なエネルギーを相手に勝利するためには、強固な精神的背景が必要だ。矢口はもう
一度、ゆっくり自分自身を見つめ直す必要性を強く感じた。

「いや、もういいよ。大丈夫。戻ろう。リーターとサブちゃんがいないと、あいつらまた
騒いでるよ。」
「え、いいの、矢口?」
「ま、結局はあんたの問題なんだからさ、自分でしか解決できないからね。」
「そいうこと、そいうこと。さ、いこ。」

まだ、ぶつぶつと文句を言い続ける飯田、それを宥める保田。この二人がいればモーニング
は大丈夫だ。矢口は深い安堵を覚えるとともに、言いようのない悲しみを覚える自分に気付
いた。
(だめだ...まだ泣いちゃだめだ...)
喉の奥から漏れそうになる鳴咽を必死に抑え込むと、それを振り払うかのように顔を上げ、
まっすぐに前を見据えて歩いた。
198 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月22日(金)03時29分44秒
>191
ダーヤス写真集、延期ですね。
あっ、新曲は買いました。結構いいです。
ベースラインが格好いい。なんか真夏の光線を彷彿とさせます。
199 名前:名無し男 投稿日:2002年02月22日(金)13時58分02秒
見方の頼もしさに涙腺が緩む矢口萌え〜

新曲は後数日待たねば(金欠泣)
200 名前:――もうひとつの絆―― 投稿日:2002年02月23日(土)03時18分12秒
「寒いね...」

問うているわけではない。辺りには誰もいないのだ。
りんねが相対している冷たい石...曇天のもと鈍くくすんだ灰色は、そうつぶやかずには
おれないほど、寂しげな印象を与えた。もう何年も前からそうやって人に声をかけられる
ことを待っていたとでもいうような、そんな人恋しさをこの石を前に感じてしまうのは、
あるいは忙しさにかまけて命日にも参ることのできなかった後ろめたさの現れかもしれない。

「もうすぐ...私たちの夢までもうすぐだよ。」

もちろん、がんばってなどと答えを返してくれることを期待したわけではない。それに
わざわざ墓前に参るまでもなく、りんねは常に尋美とともにいるつもりでいた。
201 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月23日(土)03時18分57秒
梓が脱退して、ひとりで「カントリー娘。」を名乗って活動していた長い間、一人でくじけ
そうになるとき、辞めるわけにはいかないと頑張ることができたのは、常に尋美とともに
夢を追っていたからだ。あさみが加わり、石川が助っ人できても、里田が加入してもその
思いは変わらない。

それでも忙しい合間を縫って千葉にある墓地まで足を運んだのは、ここに尋美が眠っている
という厳然たる事実のためだった。そして、ともに最後の瞬間まで戦うために...

りんねは力が欲しかった。最大のライバルである矢口の前では、あれだけ強がって見せて
はいるものの、内心では震えがくるほど恐かった。矢口の切れ味鋭い明晰な頭脳、その知名度
を駆使して巡らせた幅広い人脈、そして、もちろん財力も。どれをとってもりんねに勝ち目
はなさそうだった。それでも、ここまでなんとか優位に展開できたのは尋美のおかげだと思
っている。
202 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月23日(土)03時19分34秒
「尋美...思い出すよ、初めて合ったときのこと。」

3年...そう、早いものだ。もう3年が過ぎた。初めて3人が出会ってから。あのとき、
りんねは正直なところ、尋美と梓には牧場の生活は無理だと思っていた。そして案の定、
最初に弱音を吐いたのは尋美だった。

『ねぇ、あんたいつまでこんな生活続ける気?』
『んっとぉ、とりあえず乗馬のライセンス取れるまでは続けたいな。』
『デビューできないかもよ。』
『あっ、デビュー? できたらいいね。あははっ。』

すべてがこんな調子だった。実際、地元北海道出身のりんねと首都圏からきた二人の間には
酪農に関する知識や、生き物を扱っているのだという基本的な認識の欠如から軋轢が生じる
ことが多かった。それでもすぐには辞めようとしなかったのは、デビューへの強い意欲から
だっただろうか。
203 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月23日(土)03時20分10秒
尋美の姿勢が変わってきたのは、牧場が主催する子供キャンプのインストラクタを務めて
からだった。自然の中で伸び伸びと遊ぶ子供達の屈託の無さ。そして何よりも自分が頼りに
されているという実感。半農半芸ということで半端もの扱いされることが多く、卑屈になり
かけていた自分が牧場経営に携われたのだというある種の自信。それらの感情がないまぜに
なった微妙な想いが、低下し続けていた尋美のモチベーションを高めたのだろうか。

もともと子供好きというわけではなかった尋美が子供と戯れることの楽しさを知ったのも、
これがきっかけだったようだ。りんねは単なる芸能人への憧れからデビューを目指すのでは
なく、子供達に夢と希望を与えられるような唄い手になりたいという目標を持った尋美を
頼もしく思ったし、その前向きな姿勢への変化は梓にもまた好影響を与えていた。
204 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月23日(土)03時20分51秒
『とりあえず、デビューできるなら形はなんでもいいんだけどさ...』
『うん。』
『将来的には、なんかこう、子供に夢を与えられるような歌を唄いたいね。』
『歌のお姉さんになるってこと?』
『あっ、それいいねぇ。歌のお姉さん、』

他愛ない夢...そう言いきってしまうこともできただろう。
あの事件が起きるまでは...
205 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月23日(土)03時22分16秒
――――
206 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月23日(土)03時22分54秒
りんねはいつものように牧舎で馬に飼い葉を与え終わると、疲れ切って早々に床に着いて
いた。牧場のスタッフに叩き起こされたのは、深夜を大分回ったところだっただろう。
急かされるままに寝ぼけ眼で、事務所に集まってみれば牧童たちが集まって何やら大声で
電話をしている最中だった。

『尋美が事故ったんだ...』
『えっ?!』

りんねは絶句した。
ついさっきまで、話していたはずだ。牧場からそう遠くはない義剛の経営するレストランへ
と向かう尋美の姿を見送ってから、実際にそれほど時間は経っていないはずだった。

『なんで?!どうして?!大丈夫なの?!』
『騒ぐなって...義剛さんが病院で待機している。横転したパジェロの下敷きになって重態
らしい...』
207 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月23日(土)03時23分33秒
意識が遠のきそうになる中、りんねはなんとか自分を鼓舞して正気を保とうとした。
混乱しているのは自分だけではなかった。
すでに起きていた梓は、不吉な結末を予測してか蒼ざめた顔で、ぶるぶると震えていた。

ようやく尋美の両親と連絡が着いたのは事故が起こってから、既に数時間が経ってから
だった。こちらに来るのは早くても朝一番の飛行機になる。両親を空港まで迎えに行く
牧童が明け方まで仮眠を取る以外は、みな尋美が運ばれた帯広市内の病院に向かった。

病院に着いてはみたものの、手術の経過は一切わからない。みな昼間の力仕事からくる疲れ
で焦衰しきっていたものの、さりとて眠ることもできない。無言のまま、まんじりともせず
に時間だけが過ぎていく。明け方まで羽田で飛行機を待っているはずの尋美の両親も恐らく、
長い夜の明けるのをひたすら待ち侘びているだろう。
208 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月23日(土)03時24分17秒
『残念ですが...ご臨終です...』

長い沈黙に終止符を打ったのは、医師のひとことだった。
御両親がその宣告に間に合ったのはせめてもの救いだったのかもしれない。
無き崩れる彼らの姿が一瞬、視界を掠めた後の記憶がりんねにはない。
自分も同じように泣き叫んだかもしれないし、あるいは呆然自失の体でその場をふらふらと
徘徊していたかもしれない。

ただ覚えていたのは、尋美が生前、繰り返しりんねに聞かせた言葉を頭の中で反芻していた
ということだ。

『子供達に夢を...』
『歌のお姉さん...いいねぇ、それ...』
209 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月23日(土)03時24分57秒
――――
210 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月23日(土)03時25分42秒
頬を横切る風の冷たさに我に帰った。
墓前に手向けた名も知らぬ花の白さが目にまぶしかった。
石灰色の雲が陽光を遮る薄暗い空の下、墓地の一角で尋美の墓標だけが、ほの白く輝いて
いるように見えたのは、やはり気のせいではなかったのだろう。
りんねは尋美が応えてくれたことを確信した。

夢を...子供達に夢を...

りんねには、今度こそはっきりと聞こえたような気がした。
あるいは白日の夢であったかもしれない。
それでもいい。りんねは霧が晴れるようにひとすじの道が眼前に現れるのを感じた。
そう、歌のお姉さんへの道が...
211 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月23日(土)03時31分16秒
>199
新曲もそうですが、モーコー2002もいいですね。
13人の良さがようやく出てきたような気がします。
TVでの露出もこれから増えそうなので楽しみにしています。
昨日のMステはまだ見てないんですが...
212 名前:名無し男 投稿日:2002年02月23日(土)16時20分24秒
もう道は一本しかないわな
気持ちは矢口よりずっと強そうだ

モーコー2002は石川の声が凄い目立つ(w
誰が聞いても判るくらいに
213 名前:――あのね、ママ―― 投稿日:2002年02月24日(日)03時38分22秒
飯田や保田と話をしてから数日間、矢口はひとり、歌のお姉さんに対する自分なりの
内的要求を探ろうとしたが、どうにも考えはまとまりそうになかった。歌が好きだから
唄いたい。結局、結論はそこにしか収斂(しゅうれん)しなかった。

それならそれでもよかろう。そう突き放した見方を肯定できるようになったのは、学内
の選考が一週間後に迫ってからだった。突き詰めて見たところで、自分は歌が好きな
だけだし、どう逆立ちしたって「子供が好きだから」、とか「幼い生命の想像力を育む
ために」などといった歯の浮くような台詞は出てこない。
214 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月24日(日)03時39分13秒
それならそれで、歌が好きだというその気持ちひとつを拠り所に、自分の思うところ
へ行けばよい。そこに幼児が居ようが、引き篭りのヲタが居ようが関係無い。ただ
自分の歌に何かを感じとってくれるのならば。そして、自分の歌により、あるひとつの
世界を共有できるのなら、それは何にも増して喜ばしいことではないか。

矢口はそのあたりまえの真理に気付くまで逆に随分と回り道をしたようにさえ感じて
いる。そう考えれば、何を悩んでいることがあろう。唄えることを楽しまなければ。
たとえ、それが望まない結果に終わったとしても。矢口は歌を求めて外に出た。
215 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月24日(日)03時40分06秒
CDショップに寄ること自体久しぶりだったが、それにもまして、このようなコーナーが
あることに矢口は今更ながら驚いた。

「子供向け音楽コーナー」

アニメやいわゆる童謡(もちろん童謡ポップスも置かれている)の他、ミニモニまで雑多な
品揃えで目を楽しませてくれるのだが、中でもひときわ目を引くのが、「おかあさんといっしょ
/みんなのうた」シリーズだった。現役の杉田あきひろお兄さんと角田りょうこお姉さんの
代表曲を収録したものが多いが、ダンゴ3兄弟のヒットがまだ記憶に新しいせいか、先代の
速見けんたろうお兄さんと茂森あゆみお姉さんのCDもまた少なくなかった。さすがに、10
年近くも前に退いた神崎ゆう子お姉さんのものは見当たらなかったが、あればぜひ買求める
つもりではいた。
216 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月24日(日)03時40分50秒
なにしろ、お姉さんを目指すとはいえ、「カッパなにさま?カッパさま!」とか「せっしゃ
せんたくものだゆう」などの有名な曲しか知らない矢口だ。とりあえず、学内の選考会で
実技選考の課題曲となっている「おかあさんといっしょのトルコ行進曲」が入っているCD
は買っておかなければ。実技選考では課題曲の他にもう一曲、自分で選んだものを唄える
ことになっていた。課題曲で基本的な歌唱能力を判定し、自由曲で表現力を見たいという
ことだろう。
217 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月24日(日)03時41分36秒
結局、りょうこお姉さんのものとあゆみお姉さんのもの2枚ずつ、計4枚のCDを買い求め
た矢口は、家に帰ると、「トルコ行進曲」を何回か聴いてみた。難しい曲だ。何しろ元の
曲はモーツァルトのピアノソナタだ。鍵盤上を滑るように走る指の動きに合わせ、一音
一音、早口言葉のように歌詞を乗せていかなければらない。おまけに音域も広く、最高音
は一点イ。声楽のプロのソリストならともかく、合唱団レベルであればソプラノの上限と
言ってよい。さすがに声楽科出身のあゆみお姉さん向けにアレンジされている。

矢口は大体の感触をつかむと、自由曲を選ぶために曲のタイトルにざっと目を通し、心の
琴線に触れたものから聴いてみようと思った。
218 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月24日(日)03時46分40秒
>212
石川梨華...天性のアイドルですね。
名作集でも大人気だし(w
次に何か書くときは、もうちょっと石川も絡めたい気分です。

あぅっ...今月で終わらないかも...
219 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月24日(日)12時49分29秒
(えぇっと...「イカイカ、イルカ」ねぇ...なんだかなぁ、ミニモニでネタ系は飽きたしなぁ...)

確かにミニモニで唄っても違和感の無いタイトルが多い。その中でひとつのタイトルが矢口
の目に止まった。

「あのね、ママ」

なんだろう?どうということはないタイトルなのに、なぜだかひかれる。「ママ」という言葉
自体には「おかあさんといっしょ」という番組の持ついかがわしさ、あざとさが垣間見える
ものの、子供が母親に呼び掛けるその直裁さ、ストレートな表現が新鮮だったのだろうか。
たしかに、「あのね、ママ」という呼び掛けの次にくる言葉の内容は気になる。

「おねしょしちゃった」、あるいは「おやつたべちゃった」でもいい。どちらも辻加護が言った
ところで、あまり違和感のないところが恐かったりするのだが。ともかく、視聴者の想像力
を刺激するタイトルにひかれて、矢口はその曲から聴いてみることにする。
220 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月24日(日)12時50分09秒
――


あのね、ママ ぼく、どうしてうまれてきたんだろう?

ママにあいたくてうまれてきたんだよ


――
221 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月24日(日)12時50分45秒
思わず頬を伝わる熱いしずく。胸に込み上げる様々な想い。矢口は衝撃を受けていた。だが、
それは心地好い衝撃だった。こんなふうに素直に愛する人への想いを伝える言葉をもつ子供
というものの不思議さ。そして、それを知らずに失っていた自分の悲しさ。

本物の言葉だった。そして本物の歌だった。
矢口はこの想いを誰かに伝えたくて、無性に母親に会いたくなった。
(お母さん...)
なぜか脳裏に浮かんだのは、「ふるさと」で撮ったビデオの映像だった。
(わたし...どうしてうまれてきたのかな...)
その映像の中で、おそらく母親に矢口はこう伝えているだろう。
(おかあさんに、みんなに...あいたくて...うまれてきたんだよ...)
222 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月24日(日)12時51分19秒
感動を胸に久しぶりに実家へと帰る。
(お母さん...)
何だか嬉しいような、気恥ずかしいような。本人の顔を前にしては、なかなか家族といえど、
素直になれないのが現実かもしれないが。

「お母さん、ただいま。」

どうしよう、何といって顔をあわせればよいのだろう。
しかし、突然、帰ってきた娘に対する母親の対応はいつも通りだった。

「ちょっと、あんた、歌のお姉さんになんだって?キャハハハ!」
「(お、おい...)い、いや、そうなんだけどさ...」
「あんたはお姉さんってよりは、横で踊ってるガキんちょでしょ?柄じゃないって、
キャハハハハ!!」
223 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月24日(日)12時52分01秒
絶句...やはり知は水よりも、もとい血は水よりも濃かった。
(しまった...こいつ、相手に感動したおいらがバカだったか...)
自分の母親の性格をすっかりと忘れていたわけではなかったが、まぁ現実は得てして
こんなものかもしれない。矢口はなんだか肩の力が抜けたのを感じるとともに、自分まで
無性におかしくなって、笑い出した。

「そぉうなんだよ、柄じゃないんだけどね、キャハハハハ。」
「ま、がんばれ、ちびすけ。せいぜい子供に舐められないように気をつけな。あんた、
ミニモニんとき、いいように振り回されてたじゃない、キャハハハハ。」
(お母さん...)

矢口はそれでも、母親を前に感じる不思議な安堵感に浸りながら、思った。
(私、やっぱり、お母さんに産んでもらってよかったよ...)
224 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月24日(日)12時53分21秒

短いですが、今日の分の更新終了です。
225 名前:名無し男 投稿日:2002年02月24日(日)19時00分19秒
なんだよ!矢口のカーチャン性格も言動も一緒じゃねーか!(田中)
母親ねえ・・・自立して初めて大きい存在だって気付きました
小っさいときはよくブン殴られたけど(w
226 名前:――Intermezzo〜間奏〜―― 投稿日:2002年02月26日(火)00時20分15秒
「くぁ〜っ、やっぱ仕事の後のビールはたまらんねぇ。」
「けっ、今度の曲は踊んの疲れるわ。夏先生、私らの年、考えろよっつう感じだよね。」
「私”ら”っていうよりは、高齢者、圭ちゃんだけだと思われ...」
「カオリ!そんなに今日の飲み代、払いたいか?うん?」
「きゃぁ〜っ、マジな圭ぴょんも可愛いっ♪」
「けっ、酔っ払いめ。勝手にしな。」

恒例のリーダーとサブリーダーによる「モーニング娘。の明日を考える会」...つまり、
ホルモン屋における娘。内高齢者ふたりの飲み会である。

「ところで、みっちゃん、やっぱりだめだったんだって?お姉さん?」
「”やっぱり”って...本人は自分から降りたって言ってたけど...」
「まぁ、良かったんじゃないの?みっちゃんはマイペースでいけば。シングルも売上、
そこそこ安定してきたみたいだし。」
227 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月26日(火)00時21分17秒
そう、すでに平家がお姉さんへの途を断念したことで、ハロプロ代表権がりんねひとりに
託されたことをメンバーのほとんどが知っていた。

「矢口もようわからんよねぇ、娘。の座を蹴ってまで歌のお姉さんなんてさ...辻加護で
何度ブチ切れたか、覚えてないわけじゃないだろうに...」
「いや、私にはわかるような気がする。」

飯田は意外だった。そういえば、この間、矢口を交えて話したときも妙に理解の良いところ
を示していた。
228 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月26日(火)00時21分58秒
「カオリはさ、モーニングコーヒーとかさ、”これが私の歌”っていう存在感示したじゃん。
でも、私ら追加メンってないんだよね。」
「圭ちゃん...」
「そりゃ矢口も”センチメンタル南向き”とかアルバムでソロ唄ったり、私もライブで明日香
のパート唄わせてもらったりはしてるけどさ。モーニングの曲で、”これが私の歌”って、自信持って言えるものってないんだ...」

飯田は普段、自己主張の少ない保田が、珍しくその想いを吐露することに驚くとともに、
これは大事なことだと気付き、居住まいを正して聞く姿勢に転じた。
229 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月26日(火)00時22分34秒
「こないだも言ったけどさ、やっぱり私たち、歌が好きでこの道に入ってきたんだから、
やっぱり、唄いたいんだよ。」
「そうだね...私だって、本当はソロで唄いたいし...リーダーんなってから、あんまし、
そんなこと言えないけど...」
「なんか最近、そういうハングリーな精神を忘れてたような気がするのね。その点、矢口の
挑戦は新鮮だったわけよ。 ”ああ、わかるわかる” みたいな。」

最近は、メンバー間の意見の調整など、まとめ役に徹するこが多い二人だけに、自らの意向
を表立って主張するわけにはいかない事情もある。だが、初心を忘れてはいけない。初期の
モーニングをして、その強烈な個性足らしめたハングリー精神が枯渇した時点で、それは
既にモーニングとは呼べない別のものへと堕してしまうのだ。
230 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月26日(火)00時23分11秒
「だから、矢口のことは本気で応援してあげたいと思ってるの。」
「そっかぁ...だと、りんねの応援し難いな...」
「で、りんねはどうなのよ?」

先日、うやむやになってしまった件を保田は確認したかった。

「りんねはね、オリジナルのカントリー娘。のときから子供に夢を与えられるような歌を
唄いたいって目標があったって言ってた。」
「そりゃまぁ、助っ人があいつじゃあ、子供に笑われはしても、夢は与えられないわね。」

相変わらず、弟子には厳しい保田である。
231 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月26日(火)00時23分52秒
「特にね...尋美がすごく子供好きだったからって...」
「尋美って...亡くなった柳沢尋美さんのこと?」
「うん...」

その話になると急に二人の口は重たくなる。最初の映画「モーニング刑事」で共演しただけ
に、あの事件は彼女たちにも少なからぬショックを与えて
いた。

「りんねは...なんか、すごく無理してる気がするんだけど...気のせいかしらね。」
「うん、おれも実はそんな気がしてたんだけど、思い込み強い性質だから、なかなかね。」
「どうなんだろ。りんねは、今のままでも充分、尋美さんの意志は継いでいると思うけど...」
「うん、思い込み激しいから...」

それは飯田も同じことだと思いつつも、保田は言葉にはしなかった。
いずれにしても、もうすぐ結果が出ることだけに、その結果への対処をどうすべきか決め
なければならない時期には来ていた。
232 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月26日(火)00時24分34秒
「矢口がいなくなると、MCとか歌番組のトーク、厳しいね。」
「圭ちゃん、がんばんなきゃ。」
「そうだね...新メン、いっきに登用って手もあるけど...」
「まだ無理だよ。矢口だって前に出られるようになったの、セクシービーム以降でしょ?
ラジオっていう、練習の場もあったし...」
「そっか...なんか、きっかけつくってあげないといけないね。」
「うん...私らの頃みたいに、みんなが横一線で並んでたときは、そん中で自由競争って
形で自分なりにチャンス掴めよって言えたけど、今の状況で弱肉強食ってわけには行かない
しね。」

先のことを考えると、それなりに責任の重い二人ではある。

「私ら、まだ当分辞められないね...」
「辞めろって言われても、辞めないけどね。」

顔を見合わせると、プッと拭き出す二人...
ようやく、いつもの飲み会らしくなってきた。
233 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月26日(火)00時35分17秒
>225
この小説は大いなる親子の絆を巡る矢口の成長がテーマですから(大嘘w)
「ふるさと」のPVで矢口がお母さん、見つめる視線は良かったですね。
あれは、今見てもちょっとホロっとくるところです。
234 名前:名無し男 投稿日:2002年02月26日(火)15時23分55秒
ヨパーライカオタン ハァハァ・・・
235 名前:〜回天編〜 投稿日:2002年02月27日(水)09時30分34秒
236 名前:――目覚めよ、その魂―― 投稿日:2002年02月27日(水)09時31分06秒
武蔵野音楽大学でNHK「おかあさんといっしょ」第19代歌のお姉さん、公募が非公式に
公示されたのは、先月のことだった。昨今の就職難に加え、茂森あゆみお姉さんが「ダンゴ
3兄弟」大ヒットのおかげで華々しく、芸能界デビューを果たしたこともあり、募集する
希望者は後を絶たなかった。

武蔵野音大での代表権を得ることがお姉さんになるための最短距離であることが何を意味
するか。それは最低限、いや、ある程度高い水準の歌唱力が保証されているからに他ならない。
矢口が苦戦している理由は、そこにあった。
237 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月27日(水)09時32分26秒
もちろん、矢口とて唄う実力が他の学生より著しく劣っているとは思わない。確かに大枚を
叩いての裏口に近いところから入学した経緯はある。ミュージカル「アニー」のオーディ
ションには落ちた。だが、しかし、自分とて決して短くはないモーニングでの現場を通して、
培ってきたプロとしてのプライドがある。素人に負けるわけにはいかないのだ。

現役の角田りょうこお姉さんは、器楽科出身だ。そこに救いがあると同時にまた、頭痛の種
ともなっている。りょうこお姉さんの歌唱力については、必ずしも評判が芳しくないのだ。
りょうこお姉さん自身の実力が劣っているというよりは、むしろ先代、先々代と二人のお姉
さんの実力が跳び抜けていたことによる相対的な評価なのだろう。だが、NHK内外を問わず
次期お姉さんにりょうこお姉さん以上の歌唱力を望む声が上がっているのは事実だった。
238 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月27日(水)09時33分22秒
稲村郁子、つまり神崎ゆう子元お姉さんへの工作が失敗した時点で、矢口に残された選択し
はほとんどなかった。もともと入学した経緯が奇麗とは言い難いものであっただけに、学内
で買収行為を行うことは逆効果となる危険性を伴うと判断したからである。稲村への接触も
そうした怪しさを感じさせないよう、情熱を前面に押し出して攻めたつもりではあった。
その試みが灰塵に帰した時点で、矢口は実力で戦うことを余技なくされていたのだった。

そうこうしているうちに選考の日はやってきた。

応募者の余りの多さゆえか、今回は3人一組みで面接、実技が行われることになった。
矢口の組には幸か不幸か、稲村から聞かされていた件の学生が入っていた。もうひとりは
矢口の知らない3回生だった。もっとも学内の学生をほとんど知らない矢口にとって、誰が
来ようと、問題ではなかったのだが。
239 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月27日(水)09時33分51秒
そしてその3回生の髪の色が亜麻色に染められているのを見た時点で、すでに敵ではない
ことを悟った。
(幼児向け番組のオーディションで金髪なんて、何考えてんだ、バカ。)
問題はもうひとりの学生であった。

背は矢口よりも大きい。当たり前か。黒髪は短くまとめられていて、丁度市井紗耶香の風貌
を思わせた。
(ちっ、偽紗耶香かよ!)
心のうちで毒づいたのは、自信のなさによる強がりか。ともかく、矢口はその学生を偽紗耶香
と呼ぶことに決めた。
240 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月27日(水)09時34分55秒
学内の教授連が審査員として並ぶ長い机の前に、横になって3人が並んで座らされると、
久しぶりの緊張感がなぜか心地好かった。本番にはあまり強い方でなかったが、さすがに
舞台を重ねて大分経つだけあって、他の二人よりは落ち着いていることが自分でもわかる。
それがまたちよっとした自信となって、よりいっそう冷静に状況を判断する余裕を与えて
いた。

(よし、とりあえず緊張で自滅することだけは避けられそう...)

審査員が次々に繰り出す質問は、想定していたものと大きくは変わりなかった。開始早々、
金髪のことを突っ込まれて以来、リズムを乱した3回生は別として、矢口と偽紗耶香は淡々
と質問に答えていく。志望動機や子供が好きという彼女のアピールは客観的に見ても、好感
を与えるものであったし、たしかに子供好きという雰囲気が言葉の端々に感じられた。
241 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月27日(水)09時43分17秒
>234
いつもコメントありがとうございます(涙
なんか知らない間に随分沈んでますね(w
終盤に差し掛かって、結構、息切れしてきました...ハァハァ(w
242 名前:名無し男 投稿日:2002年02月27日(水)16時02分19秒
ウヲー!!
佳境に入って参りました!
偽紗耶香と矢口のデットヒートは激しくなりそう
243 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月28日(木)12時55分14秒
そうした比較的柔和な印象が大きく変わったのは、幼児虐待に対してどう思うかとの質問を
投げかけられたときだった。かっと見開かれた目は虐待に対する憎悪のためだろうか、過剰
な正義感と狂信的信条の微妙な境目に彼女の感情が浮遊しているように感じられた。
あるいは一歩間違えば、彼女自身が一線を超えそうな。そんな危うさを秘めたその瞳に
矢口はぞっとした。

「絶対に許せないことです。」

声を震わせて低い声で唸るように答えた彼女の姿は、そのままピンチランナーで(本物の)
紗耶香が演じた「まほ」という役柄に重なった。その鬼気迫る様子に気圧されたのか、審査
員もそれ以上、その話題を追求することはなかった。
244 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月28日(木)12時57分02秒
(おいおい、こえ〜よ、こいつ。まいったなぁ...)
どうにも意志の強さという受け取りようによっては美点となる特質とはまた違った次元の
気質を感じる。たとえば偏執的とか。

幸い矢口には、お姉さんとしてどのようなメッセージを歌に込めたいですかという質問に
多少の歯ごたえが感じられたくらいで、その他は本当に月並みな質問ばかりだった。
お姉さんになったらモーニング娘。は脱退するんですか、などという無益な質問に悩まされる
ことがなかったことにほっと安堵する。あるいはそれも音大教授としてのプライドだった
だろうか。

「はい。母親の愛情と親子の絆を感じられるような、そんな想いを伝えたいです。」
245 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月28日(木)12時57分43秒
少し前までは歯の浮くような台詞と思っていたようなことも、今なら素直に言えた。
「あのね、ママ」 あのうたを聞いて母親に会いに帰ってから、矢口は本当に歌のお姉さんに
なってあんな歌をたくさん唄いたい。子供も親もがその絆を実感できるような、そんな歌が
唄いたいと切に願うようになっていた。
246 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月28日(木)12時58分52秒
面接が終わると実技選考が始まるまで、また少し待たされることになった。金髪を責められ、
すっかりあきらめた3回生が実技を放棄して帰ってしまったため、控え室で矢口は偽紗耶香
と二人切りになってしまった。

だんまりを決め込むのも感じが悪いと思ったのか、偽紗耶香が話しかけてきた。矢口として
は内心、かかわりたくない。が、そこはそれ、芸能人としての悲しい性か、ついつい愛想
よく答えてしまう。

「矢口さんってモーニング娘。だったんですね、驚いちゃった。」
「(だったじゃねえだろ!ゴルァ!)い、いや、たいしたことないです。」

まるっきり答えになってないのだが、今の矢口はそれどころでない。
247 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月28日(木)12時59分39秒
「私、あまりTVとか見ないんで疎くて。サインもらっていいですか?」
「はっ?あ、いいですよ。」

歌のお姉さんを目指すライバル同士が交わす会話とも思えなかったが、とりあえず話しの
接穂が見つかって矢口は助かったと思った。渡された五線譜にサインを書きながら、さっき
疑問に思ったことを投げかけてみた。

「幼児虐待とかすごく憎んでるみたいだけど...」
「私、子供が好きで保育園とかでバイトしてるんです。見てるといるんですよ。
虐待されてるなっていうのがわかるんです。」
「警察とかに言うの?」
「警察はものすごい大怪我するか死ぬまで動きません。児童相談所とかに注意するよう
申し入れるしか...」
「そう...」
248 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月28日(木)13時00分45秒
矢口は我が子を痛めつける親の心根の寒さに身を震わせるとともに、言いようのない深い
悲しみを覚えた。誰が自分の子を憎いと思って傷つけるだろう。そうしなければ精神の平衡
を保てない心の内面は漆黒の闇に閉ざされている。社会がいけないのだなどという一般論に
還元してしまうつもりはない。ただ、望まない暴力に身を染め、冷静に戻ったときの我が子
の姿に死にたくなるほどの罪悪感と深い悲しみに包まれるであろう虐待者の心根を想像する
と、救いようのない閉塞感に息が詰まりそうになるだけだ。

それ以上、その話題に深入りすることもはばかられて、矢口は自由曲で彼女が何を唄う
つもりか尋ねてみた。
249 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月28日(木)13時01分36秒
「ちいさな おふね」

「あのね、ママ」が母親と子供の絆をうたっているのに対し、これは父親と子のふれあいを
えがいたものだ。ふぅん、と矢口は思った。まぁ、選考会であんまり変な曲を唄うわけには
いかないけれど、かなり普通な選曲に拍子抜けする。

幼児虐待の話題が尾を引いたせいか、その後の話がはずまず(はずんでも困るのだが)
そろそろ気詰まりになってきたところで、ようやく偽紗耶香の名前が呼ばれて実技試演を
行う教室へと向かった。控え室を出るさいに矢口に向かって、ちょこっと頭を下げたその
しぐさには、まだ余裕がうかがえた。
250 名前:名無し娘。 投稿日:2002年02月28日(木)13時05分05秒
>242
なんか、スクリプトエラー出てますね。
iモードって凄いなぁ。
携帯に変えようかしら(w
矢口とともに終幕へ向けてガツーリ行きます。
251 名前:名無し男 投稿日:2002年02月28日(木)15時07分47秒
偽紗耶香が凄く気になる
なんかありそうな・・・
252 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時31分24秒
音楽の講義を行う教室の準備室を控え室として使っているため、明け放たれているドア
から試験者の演奏は逐一聞こえてくる。矢口は偽紗耶香の技量がどの程度のものなのか、
また、子供とその親の共感を呼ぶような表現力があるのかに興味があった。

試演は機械的に課題曲、自由曲の順番で行われる。その間、審査員が口を開くのは、
演奏開始の合図と終了後の退出を告げるときだけである。教官が最初の音をピアノで
指示している。「おかあさんといっしょのトルコ行進曲」はモーツァルトの曲、そのままで
前奏がないため、絶対音感の持ち主でない限りは、音取りをしてもらわないと、出だしが
唄えないのだ。
253 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時31分53秒
試演が始まった。比較的硬質の声が小気味よいテンポで流れていく。滑舌はよさそうだ。
ラジオの番組をやるには有利だろう。歌の方は、本来、お兄さんといっしょに唄う歌である
ためお兄さんのパートもあるのだが、今回はその間、休んでいいことになっている。

それにしても難しい。スケールで下から上へ、上から下へと山を登って降りてというような
音の動きが続き、さらに登り切ったところでクロマティック、つまり半音階的な動きをする。
このように速い動きのパッセージの中で半音階的な動きが入ると音程を正確にキープするの
は非常に難しい。技術的な素地を測るという意味ではうってつけの課題曲と言えた。
254 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時32分25秒
そして最後の高音。正直に言って、幼児向けの歌でこれほどの技量が必要か疑問に思う。
実際上、ほとんどの歌でこれほどの技術は必要ないだろう。しかし、うまいに越したことは
ない。これは、ある基準に達しているかを測るためのものだと解釈する。

偽紗耶香の課題曲試演が終わった。
(どうだろう...)
基本的な技量はある。高音も出ていた。ただ、自分の知っている他の声楽科の学生と比較
すると明らかに声量は劣っている。ただ、それは自分も同じことだ。声量は体の大きさに
依存するところが大きい。その意味では、辻などもっと声量があってもおかしくはない。
歌のときはともかく、しゃべり声が大きいのは確かだが。
255 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時39分58秒
考えているうちに自由曲の演奏が始まっていた。

「ちいさな おふね」は子供と父親の掛け合いになっている。

(子)パパ おそらと うみは
   おんなじ いろだね
   ねえ どうして
   いつも おんなじなの?

(父)きっと そらのペンキが
   こぼれるからさ

こんな具合だ。
本来、父親のパートはお兄さんが担当するのだが、この歌はテンポが緩やかなこともあり、
偽紗耶香はすべてのパートを唄っていた。

(う〜む...なんだかなぁ...)
矢口の聞く限り、どうにも表現が平板だった。歌謡曲とはいえ、一曲、一曲、それこそ数
少ない自分のパートを真剣にどう表現したらいいか考えて、悩んで、そしてそれでもうまく
いかなくて落ち込んで、というプロ意識で仕事をしてきた矢口にとって、そうした背景の
感じられない演奏の物足りなさは、ひとごとながら口惜しい。
256 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時40分46秒
(私が審査する立場だったら、あんまり買わないなぁ...)
矢口はこの歌も嫌いではない。
歌詞が良かった。子供の素朴な疑問に、詩的な比喩を用いて答える父親の愛情が感じられる。
そんな雰囲気を偽紗耶香の抑揚のない表現は、微塵も感じさせなかった。

ただ、実際に審査員がどう考えるかはまた別だった。下手に余裕を感じて気を抜いてはいけ
ない。矢口の場合、所詮、モーニング娘。という偏見もあるため、スタート地点で既に他の
候補者から遅れを取っていると見ていい。稲村、いや神崎ゆう子の審査員辞退の痛手は想像
以上に大きかった。
257 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時41分12秒
さて、そろそろ自分の番だろうと思っていると、案の定、バイトの学生が矢口の名前を呼び
出した。芸能人が参加していることに驚いているのか、目を白黒させている。
(まぁ、大学にはほとんど来てないしね...知らなくても、無理ないか...)

面接官とはまた別の審査員が3人、教室の最前列に座っていた。伴奏は矢口の数少ない登校
日に講義をしてくれたことのある教官だったので、まったく知らない人に合わせるよりは
少しだけ安心できた。

「それでは課題曲の演奏、お願いします。」
258 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時41分34秒
矢口から見て、最前列、左の教官が宣言すると、伴奏者が最初の音の鍵盤を叩いた。減衰
した音の余韻が消えるか消えないかというタイミングで、伴奏者が顔をあげて合図する。
最初の音のアタックが思い通りに決まると、その後もスムースに行けるような気になる。
滑り出しは上々だった。

問題のスケールの山も難なく通過した。
(よし、いい感じだ...)

しかし、好事魔多しという。油断したわけではない。だが、いい感じで来ていると感じて
しまったことに気の緩みがなかったとも言い切れない。
259 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時46分03秒
♪トライ トライ トライ
 しんすけげきじょうに
 ヘビくん ブタくんの...

ブタくんに過剰に反応してしまったのがいけなかった。最後のフレーズを目前にして、
「ブタ」の言葉にとらわれ、歌詞が頭から飛んだ。

♪わたしはだれでしょう
(ええっと...何だっけ? 困った...ええぃ!)
♪グー スー なっち!!

おもいきり違う歌詞だが(本当は「グー、スー、もんぴー」)、なんとか乗り切れた。
とりあえず、歌えずにうろたえるという最悪の事態だけは避けられたことで、再び集中力を
回復し、なんとか最後のフレーズまで辿り着くことができた
(さぁ、いくぞぉ!!)

♪たのしい
 おかあさんとぉ〜 いっしょぉ〜〜〜〜〜!!!!
260 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時47分22秒
最後の高音を伸ばしきると矢口は大きく深呼吸して、礼をした。
退出の指示により、部屋を出ると、はぁっと大きく息を吐いて緊張をほぐした。
(ふぅ...終わったぁ。)

歌詞は間違ったが、もともとが、あゆみお姉さん在籍当時の番組内のいろいろなキャラクタ
の名前が織り込まれているため、へんてこな単語ばかりで、多少、間違えたとて、審査員に
わかるとも思えなかった。
(まぁ、大丈夫だろ...)

とっさに機転を利かして何か言葉を挟むことができたのは、やはり天使の異名を取る彼女の
おかげだろうか。ともかく、感謝した。
(なっち、ありがとう。)
261 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時48分38秒
安心しきるのはまだ早い。自由曲が残っている。今度は前奏があるため、カウントを取って
タイミングを合わせる必要はなかった。ゆったりとしたテンポでピアノが最初のフレーズを
弾き始めると矢口は慎重に、かつ子供と母親のかけあいがうまく表現できるよう、パート毎
のアーティキュレーションを微妙に変えるつもりでいる。

最初の部分、

♪ママの大切な宝物
 それはね あなたの言葉

母親のパートだ。ゆっくりと夢見るように唄う。
そしてママの「宝物」である、子供の言葉が続く。

♪あのね ママ ぼく どうして
 うまれてきたのか しってる?
 ぼくね ママにあいたくて
 うまれてきたんだよ

ここは本来、この言葉を残した田中くんという男の子が実際に唄っている。
そして、その後に続くパートで母親が子供への愛情を高らかに唄い上げる。
この両者の違いはなんとしても、唄い分ける必要があった。
262 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時49分52秒
♪星空のどこかで
 新しい命が
 きらりん きらりん
 生まれる その時を
 そっと 待ってたの
 それが あなた

 今日も あの空
 新しい命が
 きらりん きらりん
 生まれるその時を
 ほら待ってるわ
 あなたのように あなたのように

唄い手は常に客観的でなければならない。自らが感動して演奏を冷静にコントロールできな
ければ、表現したい内容はうまく、他者に伝わらないのだ。もちろん、唄う対象となる作品
への深い理解と共感は必要なのだが、唄うその場面にて感動してしまうことは、よっぽどの
機会、たとえば来るべきモーニング卒業の最後のステージ等、聞く側も唄い手に感情の昂ぶり
を期待するような特別な状況以外では望ましいものではない、というよりはむしろ積極的に
排除すべきことと言えた。
263 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時50分25秒
そして、今日、この瞬間。矢口はすでに何回もこの歌を練習し、子供と母親の絆を歌で表現
するには、どうしたらよいか、考え尽くしただけに、唄う場面で感情が昂ぶるような段階は
とうに過ぎていると思っていた。が、しかし...

さきほど、控え室で偽紗耶香と交わした幼児虐待への反発、義侠心からだろうか。いつに
なく冷静さを欠いた自分に気付き戸惑っていた。だが、感情の高まりを逆に利用すること
だってできる。
矢口は自分にそういい聞かせた。
(迷うな...この魂をすべて、この一曲に...)
まさに一曲入魂。

気が付けば、演奏は終わり、伴奏のピアノが残した最後の和音だけが鳴り響いていた。
しばらくの静寂の後、審査員のひとりがパチパチと手を叩くと、それに呼応するように他の
審査員、伴奏の教官と皆が拍手を惜しまなかった。矢口はそれに応えて、頭を深く深く
下げると拍手が鳴り止み、顔をあげるよう指示されるまで、地面をにらみ続けた。
(終わった...)
264 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時50分50秒
審査員が拍手するなど、お姉さん選考会にとどまらず、さまざまなオーディションを受けた
経験を持つ矢口にとっても異例な体験であった。事実、審査員に拍手させたのはここまで
矢口ただ一人である。結局、審査員は顔を上げるよう促した後、何か気の利いた言葉を残す
でもなく、退出するように言い渡しただけで、矢口自身、先程の拍手をどう評価していいの
か戸惑っていた。

ただ、まぁ悪い意味ではないのだろう。単純に技術的なものを評価するのであれば、いくら
審査員の共感を呼び起こしたところで、他に高い技術を保持した候補者が現れれば、無為に
帰すだけ。マイナスの効果をもたらさないのであればよい。矢口はそう思うことにすると、
晴やかな心持ちでその場を後にした。
(まっ、なるようにしかなんないでしょ。さ、久しぶりに裕子におごらせるかぁ!)
265 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時51分20秒
重荷が取れたことで軽やかな気分。こんな解放感は久しぶりだった。後顧の憂いがないと
いうのは喜ばしいことだ。だが、本当に憂慮すべき事態は去ったのだろうか...満ちたりた
気持ちで大学を去ろうとする矢口は気付かなかった。暗い目でその姿を追うものの存在に。
暗く淀んだその瞳の色はすでに狂気の色を帯び始めていた。
266 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月01日(金)10時56分37秒
>251
偽紗耶香、完全にピンチラの紗耶香のイメージで書いてます。
もうじき、デビューですね。どうなることやら...
267 名前:名無し男 投稿日:2002年03月01日(金)18時16分18秒
矢口っつぁんピィンチ!!
(●´ー`●)HELP!!
268 名前:――裕子、激震―― 投稿日:2002年03月02日(土)13時03分16秒
(今夜こそ...!!)
静かに闘志を秘めて中澤はマッコリを矢口にすすめる。さっぱりとして仄かに甘味のある
韓国の濁り酒マッコリはその後口の良さから、女の子を騙して酔わせるには持ってこいの
酒だった。相変わらず辛い食べ物にこだわる中澤はいよいよ勝負をかけて韓国料理店へと
矢口を誘っていた。

「まぁ、マッコリでも飲んでまったりしぃや。」
「ありがと。あぁ、疲れた。実力勝負なんてモーニングのオーディション受けたとき以来だわ。」
「で、どないやねん。うまいこと、いったんかいな?」
「まぁまぁ、てとこかな。可もなく不可もなくって感じ。すごい強敵だと思ってた人が案外、
大したことなくって。」
「油断は禁物やで...って、終わってしもたもんはしゃぁないけど。」
「うん、審査員がどう評価するかはまた別だからね...後は運を天に任すよ。」
「さぁさぁ、ほな今日はようさん食べてゆっくりお休み。」
269 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月02日(土)13時04分44秒
矢口はなんだか肩の荷が降りたようなすっきりした心境になっていた。運良く学内の選考に
残ることができたら、最大の強敵、りんねとの直接対決が控えている。ただ、今となっては
それさえ、どうでもいいように思う自分がいる。

もし、りんねとの戦いに敗れてNHKおかあさんといっしょの歌のお姉さんにはなれなく
とも、地道に子供向けの歌を唄っていく道はあるだろう。何もバックグラウンドを持たない
一個人がゼロから出発するのと異なり、矢口には元モーニング、元ミニモニの肩書がある。

そのために矢口はむしろ、大学で音楽や歌詞を書けるようになるための勉強をがんばりたい
とさえ思っていた。もちろん、お姉さんになれれば、それに越したことはないが。まぁ、
ともかく最大の難所は過ぎた。今日は少しゆっくりしたい...それに、中澤とも御無沙汰だ。
270 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月02日(土)13時05分22秒
「ほんまわな、韓国名物の『ポシンタン』いうのを食べたかってんけどな、日本では食材が
手に入らんゆうことでな。」
「食材って何よ?」
「いや、犬やねんけど。」
「いぬぅっ!?」
「おいしいねんで、ほんまに。」
「裕子、あんた食ったのかよ!?」
「いや、残念ながらない。」

うげげ...相変わらずの裕子の悪喰には困った物だ。犬を可愛がっている保田が聞いたら
血相を変えて、責め立てるだろう。とにかく、今日は普通に美味しい物を食べてゆっくり
休もう。

「しかしまた、なんで犬なんか?」
「いや、これがまた精力増進に効くらしいねや。」
「おい...いい加減そこから離れられんのかね、ちみは...」

うん、うんと力強くうなづく中澤に矢口は、何か言う気力も無くした。
(はぁ...しゃぁねぇなぁ...今日くらいはつきあってやっか...)

まったく、裕子と来た日には...
矢口はそんな中澤がそれでも愛しくて、今日は好きにさせてあげようと思った。
271 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月02日(土)13時08分40秒
>267
ちなみに矢口の写真集買ってしまいました...
結構、いいかも(w
さぁ、終盤に向けて...
って最近、それバカーリだった...(鬱
272 名前:名無し男 投稿日:2002年03月02日(土)18時17分10秒
裕チョンアジア料理とか夜の方バカーリ考えてる(w
(注:犬が精力増進に効くというのはガセだ!!とマジレス by犬ヲタ)

矢口写真集!まだ買ってぬゎい!
ιゎιゎιゎー
273 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時36分44秒
――――――

中澤の家で先にシャワーを浴びると矢口は生まれたままの姿でベッドに潜り込んだ。
愛する人を待つじれったいような甘美な時...のはずだが、さすがに今日はいろいろ
あって疲れている。少しだけと思ってまどろむうちに、軽い寝息を立てていた。

「なんや、矢口もう寝てもうたんか...しゃぁないなぁ。疲れたんやな。」

シャワーを終えて浴室から出てきた中澤は寝ている矢口に優しく毛布をかけて...
やるはずもなく、逆に毛布をパッとまくり上げるとその小ぶりな乳房にむしゃぶりついた。
れろれろと舌先で乳首をこねくり回しているうちに矢口が気付いて起きる。
274 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時37分33秒
「んん...おいっ!!何してんだ、裕子...はぅっ...ゆ、ゆうこ...ち、ちょっとまって...」
「どないや、矢口?久しぶりやから、敏感やろ?」
「あ...んぁぁ...だ、だめぇ...」
「何がだめやねん、こんなんなっとるくせに...」

そう言って中澤が臀部に這わせていた指を脚のつけねの奥の方に差し込むと、そこは既に
清流の源たる泉が昏々と湧くようにあふれんばかりの愛液を湛えていた。中澤がぴちゃ
ぴちゃと音を立てて中指で掻き回すと、たまらずに矢口の上半身がびくっと波打って、
差し入れた指を締めつけた。
275 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時38分29秒
「はぅっ、あ、あ、あぁぁぁぁぁっ...あふぅ...」
「まだまだ...はぁはぁ...まだまだ、こんなもんとちゃうで...」

中澤は矢口の両足首を掴むとおもむろに左右に大きく脚を広げた。その様は生まれたばかり
の赤ん坊がおむつを替えてもらうためにしているような、そんなごく自然な眺めだった。
違うのはぷっくりと赤く充血した大陰唇と、中澤の指をぱっくりと挟み込んでいる薄い
ピンク色に染まった小陰唇が、溢れ出る愛液によりぬめぬめとした淫靡な触感を感じさせる
こと。さらにはその肉塊の上部に春の若草のような申し訳程度の茂みが隆起していること
だった。
276 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時39分06秒
「ゆ、ゆうちゃん...ん、んんっ...恥ずかしいよぅ...」
「恥ずかしいか...はぁ、はぁ...こんな溢れさしてんのが恥ずかしいんか?ほれ、どうや?」

そう言うと中澤は、持ち上げた両脚の狭間に顔を埋めて、ぴちゃぴちゃと音を立てて、
秘唇を舐め上げた。

「はぅん...ん、ん、んん、んぁぁぁぁぁぁっ!!」

矢口の反応に満足そうな笑みを浮かべると、中澤は今度はじゅる、じゅるるるっと大きな
音を立てて、矢口の花唇を吸い上げた。

「はあぁぁぁぁぁぁぁ、あぁぁぁぁぁぁ、あぅっ、いく、いくぅっ!!」
277 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時40分06秒
たまらず矢口が両脚で中澤の頭を挟み込むと、中澤は舌先を尖らせて、一番、敏感な個所を
突っついた。びくっ、びくっと矢口の体が大きく弓なりになってのけぞるのを確認すると、
何か生き物の触角のように興奮して肥大化した突起をころころと舌先で転がした。

「はぅっ、はぅぅっ、あ、あ、あっくっくっくぅぅぅぅぅっ!!」

堪らなくなった中澤は自らも自分の秘部をまさぐりながら、舌先を筒状にして矢口の潤った
中心に滑り込ませた。差し込んだ舌先で内部の上方を擦り上げると、もはや矢口は、母音を
発することもできず、くっくっと鳩の鳴き声のような音を立てて、体を痙攣させていた。
278 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時40分45秒
中澤は秘所に埋めていた顔を上げると、物足りないといった顔つきで矢口のあられもない
姿に一瞥をくれた。

「なんや、自分だけ気持ちようなってずるいやんか...まだまだ、こんなもんちゃうで...」

そういうと、中澤はベッドの下をがさごそと探ると、黒光りする太くて長いものを取り
出した。マイクロ矢口くん3号−XP...本人が「エキスパート・バージョンやで!」と
力説するその雄姿。中澤は苦心惨澹の末に、マイクロ矢口くん3号を究極体に仕上げていた。
その一番、大きな特徴は...双頭...つまり、二つのバイブが正反対の向きに屹立するよう、
ひとつに繋げられていたのだった。ジョイント部は折り曲げ可能なように伸縮自在な可塑性
材質を用いている。
279 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時41分23秒
中澤はこの究極体を実現するため、実に3百万円もの投資を行い、3つのプロトタイプに
よる2000時間の品質保証試験、10人の治験者による臨床実験を経て、ソフトウェアによる
多段階の振動制御など微妙なチューニングを施した。まさに究極のバイブレータ、マイクロ
矢口くん3号−XPは今、その成果を余すところ無く発揮しようとしていたのだ。

「ゆ、ゆぅちゃん...はぁっはぁっ...ち、ちょっと...ちょっと休ませて...はぁ、はぁ...」
「なんや、もうへばっとんかいな...」
「ひさし、ぶり...だったから...はぁっ、はぁ...す、ごい...ゆうちゃん...」
「まぁ、休みいや...」
280 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時42分01秒
そう言って体を倒して、矢口と平行に体を並べると、優しく髪の毛を撫でた。思えば黒髪の
矢口を相手にするのは初めてかもしれなかった。それがまた、いつもと違う雰囲気で、矢口
の幼げな雰囲気を醸し出しており、より一層、中澤の欲情を刺激するのだった。

「矢口...かわゆいな...」
「んん...ゆうちゃん...」

髪を撫で、肩を撫で、腰からさらにその先へ。中澤の掌は触れるか触れないかの微妙な
タッチで矢口の輪郭をなぞっている。まるで、そうしないと今、そこに自分の愛する者が
いるという事を確認できないとでもいうように。矢口はされるがままに、中澤の顔を見つめ
ている。
281 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時42分38秒
「矢口...私な...矢口の写真集、10冊買うたで...」
「ゆうちゃん...ありがと、でも何で10冊も?」
「別に保管用と鑑賞用とか、そんなんちゃうで...使ってたらな...そんだけ買うてもうた...」

使う、とはまた奇妙な表現だが...
いぶかしく思う矢口に中澤が問わず語りで、説明する。

「あの写真集、矢口のアップようさん載せてたやろ...矢口がおらんで寂しいときに
ちゅうしたり、ペロペロしたりしてたらな...もう一冊買わなあかんようなって...」
「ゆうちゃん...」
「寂しくて、寂しくてな...体が我慢できひんようになったときは、アップのページに
またがって、いじくりたおしたで...ああ、今、矢口が舐め回してくれてんねや思て...」
282 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時43分13秒
いつもなら、汚いとかいやらしいとなじるところだが、目に涙をためながら語る中澤に
そのような感情は湧かなかった。いや、むしろそこまでして自分を想ってくれていた中澤の
気持ちが伝わってきて矢口は今気をやったばかりだというのに、またしても内側の奥の方
から、湧き出してくる熱いものを下腹部に感じていた。

「矢口...あんたのファンもな、きっと同じことしてんで。きっと何冊も買って、矢口の顔
に白くてドロドロしたやつぶっかけて...」
「いや...ゆうちゃんのおまんこ汁の方がいい...」
「矢口...」
「ゆうちゃん、キスして...」
283 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時43分53秒
そう言って、目を閉じ唇を付き出す矢口の表情を前にして、中澤の理性は再び吹き飛んだ。
夢中で矢口の唇にむしゃぶりつくと、舌を差し入れて矢口の舌に絡ませた。今度は矢口も
積極的に中澤を刺激してくる。胸をいじり、尻を撫で回し...中澤は矢口が指を這わせ易い
ように、心持ち脚を広げ気味に上げた。

矢口の小さい指で秘部をいじられると、それだけでもう中澤は腰から子宮まで突き上げて
くるような快感を覚える。とくとくと内側から熱い液体が湧き出して、股間をべったりと
濡らしているのを感じ、中澤は今こそ、あれを使うべきだと想った。
284 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時44分29秒
矢口の口に吸いついたまま顔を離さず、中澤は枕元のマイクロ矢口くん3号ーXPを器用に
取り上げると片手でスイッチを入れた。まずは小刻みな振動で...ウィーンと小さな音を
たてて、ブルブルと震えるそれを矢口の胸の先端にあてがうと、それだけで矢口はビクっと
反応し、顔を離した。

「はぅっ...あぅっ...すごい、これ...」

負けじと矢口が中澤の秘唇に指を差し入れ、微妙な回転を加えると中澤もまた、熱い吐息を
漏らした。

「はぁぁん、ええわぁ、やぐちぃ...もっとぉ...」

ぐちゅぐちゅと蜜壷を掻き回す矢口の指技の巧みさに、中澤はもう我慢できなくなった。
285 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時45分12秒
「矢口...入れんで...」

そう言って、一旦、電源を切ると、中澤はまず自分の中にその太い雁首を埋め込んだ。

「んん...んぁっ...入ったぁ...いくで、矢口...」

ジョイント部を器用に曲げて反対側の先端を矢口のすでに濡れそぼった花芯に添える。花弁
をめくるように、くるくると反り上がった太い器具の先端が刺激すると、待ちかねたように
秘唇が亀頭の形をしたそれを飲み込んだ。

「んおぉぉぉっ!すごい、これ、すごいぃっ!」

強烈な太さに感激したのか、早くも矢口は歓喜の声を上げている。
その様子を見て、まだ我慢できる中澤ではない。じれったさに身をよじらせながら、
スイッチを入れると、ブーンとくぐもった音が二人の肉塊の中から届いて来る。
286 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時45分51秒
「んはぁっ...あぁぁあぁぁあぁぁっ!!」
「あぅっ、あぅっ、あぅぅぅっ!」

それぞれが異なるリズムでその振動を受け入れる。ちょうど男女の正上位のような形で
中澤が矢口の上から抽挿を繰り返すと、マイクロ矢口くん3号―XPを咥え込んだそれぞれ
の入り口がぴちゃぴちゃといやらしい音をたてて、それがさらに二人の興奮を掻き立てた。

「さっ、矢口、オーバードライブいくから、四つん這いになり。」

中澤は器具を入れたまま、器用に矢口の体を裏返すと自らも腰を突き上げて、丁度、お尻と
お尻を突き合わせる体位に変えた。

「ま、まっすぐの方が出力が上がんねん...いくで...」
287 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時46分33秒
今までの振動が子供の遊びに感じられるくらい、それは強烈だった。
ヴィィィン、ヴィィィンといかにも金属的なかん高い凶悪そうな音で動作するマイクロ矢口
くん3号−XPは淫猥な悦楽に耽る二人を今や完全に支配下に置いていた。
そのあまりの振動の激しさに子宮がえぐられそうな、そんな強い感覚に二人は陶酔した。

「んぉぉぉっ!あぅっ、はぅっ!!」
「いやぁぁぁぁ!!あぁぁぁぁ!!んあぁぁぁぁぁぁっ!!」

まだしも自分を制御し、最後の瞬間に向けて尻を高く突き上げる中澤に対し、矢口は早くも
二回目のときを迎えようとしていた。
288 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時47分06秒
「ゆ、ゆうちゃぁぁぁんっ!!もぅっ、もぅっ、だめっ!!いくぅぅぅぅっ!!」
「やぐちっ!やぐちっ!いっしょに、いっしょに!!んあぁぁぁっ!!」
「「あぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!いっくぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」」

二人のハーモニーが完全に一致したところで、同時に達したようだった。
潰れた蛙のように崩れ込む二人の中では、スイッチの入った器具が引き続き蠢いており、
ときたま、矢の尻がそれに反応して、ビクビクっと小刻みに震えるのだった。

中澤がようやくのことで、マイクロ矢口くん3号−XPを取り出すと、二人はそのまま
崩れ落ちるように深い眠りへと誘われた。
289 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)04時55分23秒
>272
ごめんなさい...精力増強の方は、根拠ないようですが...
どうも美味しいらしいです...ごめんなさい...

今回は終盤までおつきあい頂いた読者さんへのサービスということで(汗
290 名前:――天才犬ぞり少女の憂鬱―― 投稿日:2002年03月03日(日)14時09分06秒
「かんぱぁい!」
「おめでとうっ、あさみぃ!」
「優勝おめぇっ!!」

花畑牧場ではあさみの犬ぞりレース優勝祝賀会が行われていた。女子の部では、最も過酷な、
それだけに権威ある6頭引きの8000メートルレース。あさみは並み居る競合を尻目に、
見事、優勝を果たしていた。

「正直、今年はハロプロツアーとかカン娘。の仕事であんまり練習できなかったから、
きついかな、と思ってたけど、やったね!嬉しいよ。」

仲間の優勝を素直に喜ぶりんねに対し、あさみの方は何やら複雑な表情を浮かべている。
291 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)14時10分04秒
「アイさが...3月で終わっちゃうんだね。」
「仕方ないよ。でも視聴率は良かったんだって。」
「なのに、なんで...?」

里田にはそれが不思議で仕方がない。なんでまた視聴率の上がってきた番組を打ち切りに
しなければならないのか...

「中澤さんがね、忙しくて続けられないんだって。」
「稲葉さんだけじゃだめなの。」

だめらしかった。つまり、スポンサーは中澤のいない番組には価値が無い。そう判断した
ということだ。

「それなら、りんねちゃんと飯田さんで続けてたら良かったのに。」

どうも、あさみはそれが気に入らないらしい。
292 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)14時10分39秒
「それはもっと無理だよ。カオリの方がずっと忙しいもん。結局、スポンサーは
モーニング娘。の誰かが絡まないと納得しないんだよ。」
「それは私たちもそうだよね...」
「...」

石川のことを指しているのは明らかだった。そして、石川に対する思いは里田も胸中複雑
である。里田はモーニング娘。の追加メンバー・オーディションに2度、挑戦し、2度とも
敗れている。その一回目で、里田は石川や吉澤らに混じって最後の9人にまで上り詰めた。
だが、最後の最後で石川ら4人に決まり、里田は涙を飲むことになったのだ。

その石川がまたしても助っ人として戻って来る。里田の加入により、完全にカントリー娘。
のオリジナルメンバー主体の活動になるかと思われたが、事務所の判断は努めて冷静であった。
いわく、石川無くしてカントリーはメロン並み。いや、アップフロントが総力を上げて売り
出しに躍起になっている状況を考えれば、事務所の評価は今やメロンの方がひょっとすると
上かもしれない。
293 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)14時11分16秒
「りんねちゃん...かわいそう...」
「何言ってんのよ、あさみ。今日はあんたのお祝いなんだから、主役がそんな景気の悪い顔
してたら盛り上がらないよ。」
「そうだよ、あさみちゃん。私なんか、一周ももたなかったもん。凄いよ。」

里田は実際、初めて犬ぞりレースに出場してみて、あさみの凄さを実感していた。正直、
もうちょっとできると自分では思っていた。だが、現実は厳しい。犬がまったく言うことを
聞かなかった。普段からの調教の賜物か。あるいは信頼関係?とにかく、笛吹けど踊らず、
とは良く言ったもので、手綱を操作するだけと思って臨んだ最初の大会は、完全な失敗に
終わった。
294 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)14時11分54秒
だが、里田とてこれで終わりにするつもりはない。元来、負けん気の強い性格だ。
モーニング(だけではなかったが)のオーディションに何度も挑戦していることからも
わかるように、不屈の精神で、勝つまでやらなければ気が済まない。
だが、あさみからすれば、こんな地方の大会で優勝することなど、毛ほどの価値も感じて
いないのか、嬉しそうな様子は微塵もない。それよりも、気にかかって仕方が無いことがある。

「りんねちゃん...矢口さん、武蔵野音大の代表、決まったんだって?」

やはり、そう来たか...
正直なところ、今日はその話はしたくなかった。だが、あさみが気に留めていたのは前から
承知している。やはり話さずにはおれないだろう。
295 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)14時12分31秒
「そう...みたいだね。」
「りんねちゃん、負けてもカントリー辞める気じゃないの?」

どこまでストレートなんだろう、この娘は。
芸能界という淀んだ水に浸かりながら、なんて純真さを失わないんだろう。
それだけで、もう奇跡に近い出ことだとりんねなどは思ってしまう。
それだけに、ごまかすわけにはいかないし、口先の言い訳が通用する相手でもなかった。

「やっぱり気付いてたんだ。」
「当たり前じゃない、仲間なんだから。でもそうなったら...」
「うん、あさみと里田...それに梨華ちゃんってことになるんだろうね。」
「歌のお姉さんになれなくったって、辞める必要ないじゃないですか...」

そう、必要はない。
だが、けじめはつけなければ。
296 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)14時13分07秒
「これはね、もう義剛さんとも話し合って決めたことなんだ。」
「...」
「矢口もね、多分、同じこと考えてると思うよ。」
「...」
「負けたら、カントリー続ければいいやっていう生半可な気持ちで結果が付いて来るほど
甘い世界じゃないんだ。それは里田もよくわかってるんじゃない?」

たしかに、そうなのだろう。
だが、そこまでせしめる内的な動機を自分は抱えていたわけでもない、と里田は思う。
この人は、なぜそこまでして...

「りんねちゃん...もう、尋美さんに縛られなくていいんじゃない?カントリーがメジャー
デビューできただけでも、きっと喜んでると思うよ。」
「あさみ...知ってたの...」
「私より前から居る人はみんな、そう思ってるよ。」
297 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)14時13分44秒
えっ?そんな...
気付いてみれば、祝賀会らしくもない真剣な雰囲気のりんね達を、心配そうに見つめる
視線が取り巻いていた。

「みんな、気付いてたの?」
「当たり前さぁ、仲間っしょ。」
「辛気臭くなんなってぇ!勝ちゃいいんだべ、勝ちゃ!」
「そうとなったら、りんねのお姉さん優勝前祝いだぁ!ほれ、飲め!」
「優勝はねぇべ、優勝は。」

その一言が笑いを巻き起こすと、周囲は再びがやがやとした雰囲気に戻った。
りんねは、ほっとしたと同時に、知らぬ間に自分を気遣ってくれていた仲間達に感謝した。
(みんな...ありがとう...)
298 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月03日(日)14時16分07秒
今日の分の更新終了です。
いよいよ、来週中には終わるでしょう...ハァハァ(w
299 名前:名無し男 投稿日:2002年03月03日(日)15時37分22秒
ハァハァ後のマターリ

マローン

作者さん!お気を確かに!
ヾ(。ξ゜三゜ξ。)ノ ハァハァハァハァハァハァハァハァ・・・・・・・・・・

300 名前:名無し男 投稿日:2002年03月04日(月)10時59分39秒
<(`△´) ゲット300!
301 名前:――終幕へのカウントダウン―― 投稿日:2002年03月04日(月)12時44分30秒
「いやぁ、とりあえずめでたい!」
「武蔵野代表、おめでとう!」
「サンキュっ!ありがとう!っていうか、なんでいつも焼き肉なの?」

矢口の歌のお姉さん候補、武蔵野音大代表決定を祝して、飯田と保田が焼き肉屋で矢口を
もてなしていた。

「奢ってもらう身分で贅沢言うない!おまえだって焼き肉好きだろ?」
「そりゃまぁ、そうなんだけどさ...」
「あっ、矢口、こないだ裕ちゃんと行った韓国料理ってどうだったの?」
「美味しかったよ、参鶏湯っていう料理なんだけどさ。鶏一匹、内蔵とか取り出して
もち米とか朝鮮人参とか入れて煮込んだやつ、美味しかったぁ。」
「おっ、それいいねぇ、今度行こっか?」
「よし、次は矢口のお姉さん就任祝いだな。」
302 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)12時45分16秒
好き勝手なことを言っては、騒ぐ口実を探している古株メンバーだが、それはそれで矢口
には嬉しい。

「しっかしまぁ、意外とあっさり決まったなぁ。」
「うん。一応、音大の代表だからね。矢口って歌、うまかったんだ。」
「えっへん、きみたち、頭が高いよ!」
「調子のんな、ボケぇ!私だって、もうちょっと背が低ければ...いっく...」
「あぁ、矢口、またカオリ泣かせたなぁ、もう。」
「あぁぁっ、ごめん、カオリ...って、おいらのせいかよ!」

こんな気の置けないやりとりが続けられるのも、あとどれくらいだろう...
お姉さんの座を勝ち取るにろ、敗れるにしろ、いずれにしてもそう長くはないことを
矢口自身、悟っていた。
303 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)12時46分17秒
「でもさぁ、こないだは、なんか強力なライバル現わるみたいなこと言ってなかった?」
「うぅん...それがねぇ...」

どうにも釈然としないところは残る。
実際、自分自身、これでいいのかとさえ思う。
ただ、振り返ってみれば、結局は演奏にどれだけ自分の思いの丈を綴れたか...
そういうことだったのだろう。
審査員の拍手はやっぱり、それが伝わっていたのだ...今はそう思いたい。

「まぁ、いいじゃん。それよかさぁ、なっち、ムカつかない?最近さぁ...」
「カオリぃ、やばい、やばいよ。リーダーだろ、あんた?」
「カオリ、気のせいだってぇ。なっちがあんたの悪口言ってんの聞いたことないってば...」
「もう、昔っからだからね。仲悪いの。どうにかしなよ、5期メン、怖がってるよ。」
304 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)12時46分45秒
「えぇっ、圭ちゃんより恐いぃ?」
「っていうか、本気であんたたち仲悪いと思ってるみたいで困ってるよ。」
「うん。あんたとなっちに違うこと言われるじゃん、どっちの言うこと聞いたらいいんだろって。」
「あたしらに相談されてもなぁ...一応、リーダーの顔、立てたいけどさぁ...
なっちも悪気はないんだよねぇ...」
「うん、結構、真剣に後輩のためを思って言ってるのがわかるからね。」
「要はあんたたち二人がコミュニケーション取らないから、齟齬が出るんだよ!」
「もぅ、矢口は難しい言葉使わないでって言ってんじゃん!反省してるからさぁ。
それでなくても紺野がまた鬱陶しいんだからさぁ。」
「紺野、頭いいからねぇ...って、ちょっと待って!」
305 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)12時47分33秒
TVのニュースから聞こえた言葉に矢口は反応した。
訝しむ二人を制止して、矢口は画面に集中する。

『...容疑者、21歳は、過失障害致死の疑いで警視庁が逮捕状を取得して身柄の拘束に
向かったところ、隙を見て逃走したとのことです。容疑者は武蔵野音楽大学の3回生で、
小平市内の無認可保育施設「なかよし園」において、アルバイトで保育補助を担当して
いました。同容疑者には、同園で相次いでいた、幼児への虐待、及び虐待による過失障害
致死の疑いが持たれています。警視庁では事態の解明のため、容疑者の身柄確保に全力を
注いでいるとのことです。』
306 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)12時48分47秒
偽紗耶香...
確かにあいつの名前、そして顔写真だった。
しかし、なぜ?
あれだけ、虐待は許せないって...許せないって厳しい顔で言ってたじゃないか...

青ざめた顔色でTVの画面を凝視する矢口に不審を抱いたのだろう、保田が声をかける。

「ちょっと、矢口!あんた、真っ青だよ、大丈夫?」
「あいつ...知ってるんだ...」
「えぇっ、矢口の知り合い?ってそうか、武蔵野音大って言ってたね!」
「あいつだよ...強力なライバルって言ってたの...」
「えぇっ!」
307 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)12時50分59秒
そのはずだった。
だが、選考の結果、選ばれたのは矢口であり、彼女ではなかった。
そのために自棄になったのか...
矢口にはわからなかった。
虐待は許せない...と言ったときの、彼女の瞳に映った憎悪の炎。
少なくとも、あれは本心だと思っている。
そうであれば、なおさら解らなかった。

(わからない...なんでだ...)

「前に紗耶香に似てるって言ったでしょ...」
「そういえば、ちょっと似てるか。」
「紗耶香を暗くした感じかな...」
「逃げてるって...」
308 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)12時51分34秒
彼女がなぜ、そんな行為に及んだのかわからないだけでなく、逃走しているという事実に、
矢口はどうにも居心地が悪く、不安を感じた。彼女の逃亡の先、目的がどうも自分である
ような気がしてならない。根拠はないのだが、なんとなくそんな気がした。

(こわいよ...)

そう考えると、どうにも寒気がしていけない。
真っ青になって震える矢口をさすがに、二人も心配した。

「ちょっとぉっ!矢口、大丈夫?」
「おい、しっかりしろ!」
「ご、ごめん...今日、圭ちゃんち、泊まっていいかな...?」
「おいで。あんた一人じゃ不安だわ、こっちのほうが。」
「そうだね、そうした方がいい。あたし、マネージャさんに連絡するわ。」
「そうして、カオリ。よし、矢口、立てるか? OK、じゃ行こ。」
309 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)12時52分15秒
急いで勘定を済ませ焼き肉屋を出た3人は、呼んでおいたタクシーに乗り込んだ。
保田の家に向かって車が走り出すと、ようやく人心地がついた。考えて見れば、矢口が彼女
に何かしたわけでもない。恨まれるような理由はなかったのだ。そう考えて不安感を拭おう
とするが、何かが心の奥底で凝っている。それがなんだかわからずにまた、釈然としない。

だが、その予感は正しかったのだ。焼き肉屋の陰から、タクシーが出発するのを静かに
見つめていた冷たい視線。その瞳に宿る光はすでに狂気そのものへと変わってしまって
いたのだから...
310 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)12時57分00秒
>299-300名無し男さん
どもども。いつも励ましありがとうございます(涙
ようやくゴールが見えてきました。
スレ容量が微妙になってきましたので、しばらくレス控えますね。
311 名前:――Battered Child’s Elegy〜被虐待児の哀歌〜―― 投稿日:2002年03月04日(月)17時06分14秒
偽紗耶香は埼玉圏内の某所に潜んでいた。
もちろん、自分が偽紗耶香などと呼ばれていることは知らない。
だが、そんなことはどうでもいい。
もはや自分の名前など彼女にとっては何の意味ももたらさなかったのだから。

バイト先の小平市は東京都内に位置する。
所管の警視庁は幼児虐待の容疑で自分を追っているが、
確たる情報なしに広域捜査の要請を出すことは躊躇っているのだろう。
隣県に潜む彼女を見つけ出すことは容易でないはずだった。
それにより時間が稼げるはずだ。
少なくとも、矢口を葬り去る機会を得られるまでは...
312 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)17時06分52秒
偽紗耶香は歌のお姉さんとして子供たちに夢を与えることで、
自分が生まれ変われるような気がしていた。
そこに一縷の望みを託して、神崎ゆう子の門戸まで叩いたのだ。
だが、そんなささやかな願いは、矢口の登場により見事に打ち砕かれた。

矢口がうたった「あのね、ママ」という歌はあまりにも彼女にとって残酷な事実を
突きつけた。彼女は生まれてこの方、母親の愛など、いや人に愛してもらった記憶すらない。
そもそも、愛されるということがどんなことかすら、愛されたことのない身では、
わからなかった。

父は...いた。
いた、というのは現在ではいないことを意味する。
彼女が殺ったのかどうか、それは今や彼女にもわからない。
覚えているのは、殺したいほど憎んでいた、というその感覚だけだ。
あるいは、自分が殺したのかもしれない。
それは、自分が死んだ後に警察なりマスコミなり誰かが判断してくれるだろう。
313 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)17時07分13秒
父...と世間で呼ぶその存在は彼女にとって苦痛をもたらす災厄そのものでしかなかった。
確かに、父が稼いできた金で自分は暮らしてこれたのだろう。
だが、そのための対価は払っていた。
そう、自分は生きるために、対価を払ってきたのだ。
父親の、生活の庇護者の関心を繋ぐために対価を払ってきたのだ。
その感覚は、あの矢口にはわかるまい。
あんな歌を情感を込めて歌える矢口にはわかるまい...

実を言うと偽紗耶香は学内の選考で矢口の歌を聴いて泣いていた。
彼女はあれほど哀しい歌を聴いたことはなかった。
あれほど、自分の全存在を否定されるような、そんな厳しさで迫ってくるほどの
歌を聴いた記憶がなかった。
その瞬間に彼女の中で何かが壊れたと言っていい。
314 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)17時08分29秒
『ほら、もっと舌を使え。何度、同じことを言わせるんだ!』
『お父さん、ごめんなさい...』

『ふっ、ようやく女になったか...長かったぜ。』
『何するの!お父さん、止めて!』
『口だけで我慢するのがどれだけ辛いかわかるか?さぁ、脚を開け!』
『やめて、お父さん!ぎゃぁぁっ!!いたいっ!!』

『お前、モーニング娘というのを知ってるか?』
『?』
『その中の市井というやつに似ているらしい。』
『何が言いたいの?』
『稼げるぞ...そっくりさんとしてな。明日からこの店で働け。話はついてる。』
『何をする店なの?』
『なぁに、お前が昔から父さんにしてくれたことをすればいいのさ。』
『いやらしいことをするのね...』
『バカヤロウ!!音大なんか行きやがって、どれだけ金がかかると思ってんだ!?』
315 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)17時08分56秒
自分が父さんと呼んでいた男との会話の記憶が、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
わからなかった。
自分が一体何者なのか、わからなかった。
子供が育つのを見ていれば何かわかるだろうか。
そう考えて保育園などでバイトをしてみたものの、子供は鬱陶しいだけだった。
気が付くと、うるさく泣き喚く子供の顔をぐりぐりと壁に押し付けていた。
恐怖で歪む幼児の表情を見ても何の感慨もわかなかったが、意外と丈夫なことはわかった。

そして、監督者である保母がいないときに、ついつい矢口の歌を思い出してしまった。
いつもなら、泣き止む程度に壁に頭を叩きつけていたのだが、妙に感情が昂ぶり、
手先のコントロールが効かなかった。
気が付くと、子供はすでにぐったりとしており、死んでいるのは明らかだった。
園にいるのは自分ひとりだ。
今までのように言い訳はできまい。
316 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月04日(月)17時09分30秒
逃げよう。
だが、自分をここまで追い詰めた矢口を許しはしない。
じっくり、恐怖を味合わせてやる。
あいつのせいだ。
すべて、あいつのせいのなだから...

もはや、理性を失った彼女をとどめるものは何もなかった。
そして、子供の命を奪ったことで、彼女の残忍さはとどまるところを知らない。

ふっ、すぐには殺しはしない...
ゆっくり、恐怖を味合わせてからだ...
待っていろ、矢口...

薄暗い部屋の中で、蠢く彼女の瞳はもはや何ものをも映してはいなかった。
そこにあるのは、闇。
すべての感情を失った深い漆黒の闇が広がっているだけだった。
317 名前:――渋谷区神南の一番、長い日―― 投稿日:2002年03月05日(火)00時40分08秒
第19代NHK「おかあさんといっしょ」歌のお姉さん、本選考会当日、朝。
矢口はもう精神的に疲弊しきっていた。

保田の家に緊急避難的に泊まった日の翌朝、結局、一睡もできずに過ごして眠たい目を
こすりながら玄関を開けた保田は、うっとくぐもった声を出すとトイレに駆け込んだ。
必死で「矢口、見ちゃだめ!」とだけ短く言うと、便器に嘔吐したようだった。もちろん、
矢口は恐ろしくて、扉を閉めたままガタガタと震えていた。

保田の話によれば、玄関前には首を切り取られた猫の死骸が転がっていたという。
自らそんなものを見ていたら、今頃は精神に変調を来していたかもしれない。
あの強い保田でさえ、その日は結局、仕事にならなかったのだ。

こうなるともう、逃亡を続ける偽紗耶香が矢口を狙っているのは明らかと思われた。が、
警察に届けようにも脅迫めいた物証が何ひとつない状況下では、取り合ってもらえない。
そう判断した事務所は取り急ぎ、男性の職員をボディガードとして矢口に同行させること
にした。
318 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時41分00秒
メンバーの住所は相手に知られているとみて、当面、矢口は都内のホテルに女性のマネージャ
と同室、隣の部屋に男性職員という形で滞在することとした。そのような状態が数日、
続いた。その間にもお姉さん本選考を巡って水面下で様々な暗躍が繰り広げられ、様々な
情報が矢口のもとに寄せられた。吉本興業が鈴木あみを対抗馬として送り込むとの一報に
接したときは、あの歌唱力でどうやって...と訝しんだが、結局、それがネックになって
本選考への参加申請を取り下げたとすぐに続き、さもあらんと納得した。

すでに極度の疲労と緊張の中で、打てるべき手は少なかったが、それでもりんねがどうやら
政治家を動かしてきていると総務省情報通信政策局の協力者から連絡が入ったときには、
肝を冷やした。と同時にりんねのそこまでの決意に改めて偽紗耶香とは違った意味での迫力
を感じたのも事実だ。
319 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時41分35秒
りんねの地元、北海道10区からは以前、民主党の小平忠正が衆院逓信委員長を務めていた。
国会の政策部会を利用するとはなかなか抜け目がなかった。もちろん、55年体制の確立に
より、自民党と社会党の長きにわたる妥協と譲歩の産物からそのポストが社会党から民主党
へと受け継がれていることを知らない矢口ではない。だが、アップフロントと政権党である
自民党の関係を考えた場合、なかなか野党を利用しようとは考えつかないものだ。矢口は
そこにりんねの非凡さを垣間見る思いがした。
(しかし、政治家を使うとは、それなりの覚悟だな...りんね。)

政治家を動かすのは確かに便利だ。だが、それによるリスクの方がはるかに大きいことに
大概の芸能人は気付いていない。特にこちら側の一方的な依頼は、後に何倍も大きな借り
となって禍根を残す。政治家に何か頼むときは、それに値する先方の弱みなり、対価となる
情報を提供して、その場で貸し借りの債務を相殺させておく必要があるのだ。
320 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時42分15秒
それに気付かぬりんねとも思えないし、一方で彼女が政治家を利する情報を保持している
とも思えない。後に利用されてもかまわない...そのような強い決意のもと、彼女が下した
判断...矢口にはそのように感じられた。

もちろん矢口にとってりんねの手を封じることくらいわけはなかった。政治家とはいえ、
政権党と野党では、行使できる権力に雲泥の差がある。衆院の逓信委員会常任委員長を
務めたことがあるとはいえ、所詮は野党。政権党を含め、各政党にまんべんなく網を張り
巡らせている矢口が民主党の一議員を制すことなどわけもない。

だが...北海道は今、宗男ショックで揺れている。政権党の道執行部は頼りになりそうに
なかった。ここはやはり、民主党中央の管直人あたりから抑えてもらうのがいい。鳩山は
外面こそいいが、とても内部を掌握しているとは言い難い。

さっそく菅の秘書に電話を入れると色よい返事をもらえた。民主党とて北方四島をつつかれ
たら、必ずしも綺麗ごとばかりは言ってられないのだ。時候の挨拶のようにそれをほのめか
せただけで、私設秘書らしい男は、早急に善処します!と書生のように畏まって、菅による
対応を確約した。
321 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時42分52秒
幸いなことにホテルに滞在している間は、あからさまな脅しや嫌がらせを受けることもなく、
そうした雑事で気を紛らわせることもできた。だが、偽さやかが逃亡しているという事実、
保田の部屋に泊まった日の翌日、玄関口に置かれていたという猫の屍骸...これらの事柄が
差し示すひとつの方向...それを考えると、やはり夜も眠れなかったし、外出も控えられた。

いよいよ、渋谷区神南のNHKスタジオにおけるお姉さん本選考会の当日を迎えても矢口の
心は晴れるどころか、すっかりふさぎ込んでいた。本番前に家族にもう一度会いたかったが、
その隙を狙われて家族が危険に晒されてはいけないと思い、それも断念していた。

(なんで、こんな目にあってまで...)

正直、もうお姉さんなど、どうでもよくなっていた。だが、ここで諦めてしまっては、
自分を支えてくれているメンバーやマネージャ、事務所の人たちに申し訳が立たない。
もはや、意地だけでくじけそうになる自分を支えていると言っても過言ではなかった。
322 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時43分30秒
(とにかく、今日で終わりだ、今日で...)

眠れぬ夜を幾晩も過ごした結果、体力的にも精神的にも限界にきた体にむち打って、矢口は
気力だけでなんとか起きあがり、会場に向かう準備を整えた。ルームサービスで軽い朝食を
取ると、事務所の車で渋谷区神南にあるNHKスタジオへと向かう。

事務所の男性職員にガードされながら、選考候補者控え室に入ると、すでにアップフロント
代表のりんねが到着していた。矢口の顔を見つけると、真剣な表情でつかつかと歩み寄り、
開口一番、

「矢口さん、狙われてるんだって?大丈夫なの?」
「一応、心配してくれてるんだ...」
「ライバルには万全の状態で戦ってほしいからね...でもその顔見ると、寝てないわね。」
「なにおぅ、乙女に対して失礼だぞ!」

強がっては見せるが、りんねが心配してくれていることが判り嬉しかった。

「ところで、あんた。やってくれたわね。」
「なんのこと?」

しらばっくれてはいるが、わかっている。
例の政治工作封じだ。

「小平から丁重にお断りの連絡を頂いたわ。」
「もっと、偉い人掴まなきゃだめだよ。宗男ちゃんとかさ♪」
323 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時44分13秒
そういってウィンクする矢口をいかにも憎憎しげに睨み付けるとりんねは踵を返して、
控え室から出ていった。
(強がっていられるのも、あとどれくらいか...)

とにかく早く終わってほしかった。気力はもうすでに使い果たしている。NHK教育番組
制作部幹部による面接と実技披露。実際に子供と触れ合って...などという偽善的な行為を
求められることがないだけでも、矢口はほっとしていた。また、ここにいる間は少なくとも、
偽紗耶香の影に怯えることはなかった。いくらなんでも、チェックの厳しいここまでは彼女
も入り込めまい。

面接が始まった。
既に各学校やプロダクション別に絞り込まれているため、候補者数はそれほど多くない。
すでに勝負は矢口とりんねの一騎打ちの様相を呈していた。
またしても3人一組で面接、実技を行うはめになったが、そこでりんねと一緒の組に
なってしまったのは、何の因果だろうか。
しかも、予定されたもう一人の候補者が辞退したことで、事実上、この組の選考結果が
そのまま、お姉さん決定という形になった。
324 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時44分47秒
面接ではミニモニでの世間の評価をどう考えるか、などの鋭い質問が飛び出し、それなりに
質疑応答は白熱した。それはりんねも同様で、カントリー娘。に対する世間的評価をどう
自己分析するか、という質問に対し、りんねは果敢に自らの信ずる所を述べていた。
いわく、自然と触れ合うことの少ない、現代の子供にとって、カントリー娘。での活動を
幼児番組の制作にフィードバックすることは、必ずや肯定的な成果をもたらであろうと。

矢口は感心した。今までのりんねの行動パターンから、何も考えてない天然少女という
世間的な評価が、何一つ彼女の実態を捉えていないことは看破していたものの、果たして
お姉さんを目指すべき内的動機を抱えているか、甚だ疑問に思っていたからである。

相手にとって不足はない...
今更ながら、矢口はいよいよ、彼女との実力勝負に持ち込まれたことを悟り、
披露困憊の極みにあって、最後の力を振り絞る勇気を得たような気がした。
325 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時45分23秒
面接での受け答えが選考の上で考慮される比率は、せいぜい2〜3割程度だろう。
実質、画面上の印象など、実技に負うところが大きいわけで、勝負はこれからと言えた。
軽い昼食を挟んで実技に挑むころには、久し振りに歯ごたえのある好敵手を前にして、
矢口は心地よい興奮からか、幾分、軽やかな気分で実技に臨めるような気がした。

今回は歌だけでなく、TV映りなどの印象も加えて総合的に判断するため、メイクの時間を
取っていた。もちろん、矢口やりんねにとってはお馴染みの作業なのだが、そこはそれ、
自然な映りを旨とする国営放送のこと、民放の華麗なメイクとは異なり、まじめ一筋に
やってきた、いかにも職人さんという感じのメイクさんの仕事だ。出来映えの素晴らしさに
矢口とりんねは顔を付きあわせて大笑いした。

「りんね、なんだよ、それ!」
「あんたこそ!お姉さんってより、一緒に踊ってるガキんちょじゃない!」
「やかましい!!うちのお母さんみたいなこと、言ってんじゃない!!」
「おほほ、このりんねさまの美しさに平伏しなさい。」
「っていうか、あんた、NHKの職員かい!ってくらい地味!」
「ぬぁにおぅっ!?」
326 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時46分01秒
久しぶりに腹の底から笑った...
りんねがどう考えてるかは知らないが、矢口はこの状況を楽しんでいる自分に気付いた。
やっぱり、自分は知力体力の限りを尽くして戦うことが好きなのだ。
このように全力をあげて挑むべきライバルと最後に対決できたことを矢口は感謝した。

そして雌雄を決するときは近づいていた。
ぎこちない動きで二人を先導するADに連れられて来てみれば、そこは、おかあさんと
いっしょ収録スタジオだった。憧れの(?)スタジオで唄えるとあって、りんねなどは興奮
を隠そうともしない。その様子はある意味、微笑ましいと言えなくもなかったが、矢口の
場合は、いよいよここが最後の決戦の場となるのだという感慨の方がより大きかった。

「では、りんねさん、立ち位置、お願いします。」

ADの指示に従って、意外に広くないセットの中央にりんねが立つと、すぐにピンマイクが
手渡された。照明担当やカメラマンが忙しく、動きまわるといよいよ、本番直前なのだと
いう緊張感が押し寄せてくる。

「りんねさん、音、いいですか?」
「はい、大丈夫です。」
327 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時46分34秒
カラオケの音量が決まるといよいよ、本番だ。さすがに、TVは慣れているきずのりんねも
緊張した表情を隠せないでいる。

「ハイ、じゃあ行きますんで、あのランプが付いているカメラの方、見てくださいね。
唄ってるときの笑顔とか見せていただきますんで、表情、気をつけてください。
じゃ、行きます!」

ディレクターの短い説明に続いて、カラオケのイントロが始まる。
(カッパなにさまかよ!)
にこやかに唄うりんねを見て、矢口はなんだかバカらしくなってきた。
(結局、あたしたちって何やってんだろ?)
それどころか、いかにも楽しそうなりんねのようすに腹さえ立ってくる。
(ったく...そんな顔見せられたら...手加減しそうじゃん...)

まったく、りんねはここがお姉さん選考の場であることを忘れたかというくらいに楽しんで
いるようだった。その様子はかなりの好感触を現場スタッフに与えたようだった。
328 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時47分10秒
あっと言う間にりんねの出番が終わるとすぐに矢口が呼ばれて、カメラの前に立たされる。
曲は学内のときも唄った「あのね、ママ」である。

「ハイ、じゃ矢口さん、行きます!」

りんねの楽しげな様子を見てリラックスできたのか、矢口まで楽しく唄うことができそう
だった。
(あぁっ、なんか楽しい!)
学内のときは、どちらかというと自分の魂を込めるような演奏になってしまったが、今日は
なんだかもっと肩の力を抜いて自然に唄えているようだった。
(あれっ、もう終わっちゃうの?もっと唄いたい!)
りんねに触発されたのか、それともスタジオの照明のせいか。頬が上気しているのがわかる。
スタッフも心なしか、その雰囲気を楽しんでいるように感じられた。後ろ髪を引かれる
思いで曲の終盤に差しかかった頃、矢口は視界の片隅で空気が澱んだような異変を感じた。
329 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時48分38秒
りんねは、矢口の柔らかく、包み込むような表現力に圧倒されていた。もともとモーニング
の中でも一、二を争う歌い手とは認識していたが、これほどまでとは思っていなかった。
これぞプロという迫力に、りんねは自らの信念が揺らいで行くのを感じた。
(あるいは...託せるか...いやいや、弱気になったらだめだ。)

曲が終わりに向かうに連れ、りんねは一体感を増すスタジオ内のスタッフのうち、一人だけ、
不審な挙動の男が居るのに気付いた。
(あ、さっきのADだ!)
りんねが気付くとほぼ同時に、男がポケットから何かを取り出した。
その鈍い光にはっとする。
(ナイフだ!)

と、思う間に駆け出していた。瞬間、いろいろな想いがりんねの頭上を通り過ぎゆく。
尋美、梓、あさみ、里田、牧場の仲間たち...
泣き叫ぶ尋美の両親の姿...
冷たい病院の廊下...
『夢を...子供たちに夢を...』
(いやだ...もう、人が死ぬのを見るのはいや! 力をちょうだい...尋美!)
330 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時49分19秒
眼前に迫る刃の切っ先が光る。恐怖に大きく見開かれた矢口の瞳が見える。
不思議と恐怖感は覚えなかった。思い切り矢口の小さいからだ目掛けて飛び込むのと
狂気のもと、奇声を発して振りかざされた刃物が空を切ったのはほぼ同時だった。
(あっ、女だ...痛っ!!)

それは女性特有の甲高い金切り声だった。いや、もう声とは呼べなくなっていたのかも
しれない。そこには、もう人間を棄てたとしか思えないものの姿しかなかった。
りんねは、背中に鋭い痛みを感じながらも、引き続き奇声を発して、矢口に掴みかかろうと
する女に向かっていった。
(まも...らなきゃ...)

抱きかかえるように女を締め上げるのと同時に、下腹に鈍い痛みを覚えた。鋭いという
よりは、なにか鈍い鈍器のようなもので突き上げられたような...とにかく、ずぶりと
何かが体内に侵入した感触だけが、りんねの脳髄を伝わった。
(うっ...くっ...ま...も、ら、なきゃ...)
331 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時49分59秒
事ここに至って、ようやく茫然自失の体から脱した男性スタッフが、尚も暴れ続ける女を
取り押さえ、ようやく危険は去ったかに思われた。気付くと、りんねの下腹部から刃物の柄
が突き出している。

「きゃぁっ!!誰か、救急車呼んでっ!!」
「りんね、りんねぇっ、死ぬなぁっ!!」
「おい、警察だ、警察呼べっ!!」

矢口はまだ、今この場で起こったことが信じられなかった。
(りんねは...おいらを守ってくれたのか...?)
感動するよりも前に、その献身的な行為が信じられなかったのだ。
(なぜだ...なぜなんだ...りんね?)

りんね自身、答えられなかったかもしれない。
救急隊員の現れるまで、りんねは自分を呼び続ける声の中に、尋美の声を聞き分けた。

『えらいじゃん、カントリーはやっぱ、それでなくっちゃね...』
(これで...よかったかな...尋美...そっち行ったら、怒んないで迎えてくれよ...)

天上の照明がやけに眩しくて、目を閉じる。
遠ざかる意識の向こう側では尋美が優しく微笑んでいた。
332 名前:――カーテンコール―― 投稿日:2002年03月05日(火)00時51分30秒
4月28日、日曜日、さいたまスーパーアリーナ。
2002年、春のコンサートツアー最終日。
ステージ壇上には、最後の挨拶を飾る矢口の姿があった。

「ありがとう、みんな!矢口はしばらく大学で音楽の勉強に専念するけど、来年は歌の
お姉さんとして、みんなの前に戻って来るからね!!」

オォォォっという一際大きな怒号が湧き起こり、会場は興奮の坩堝(るつぼ)と化した。
そして、矢口の最後の一声を前に、再び、静まり返る。

「そして、もうひとつ、大きなお知らせがあります。矢口といっしょに歌のお兄さんに
決まったこの人を紹介します...まことさんです!」

ウオォォォっという怒号にまことコール。お祭りの最後を飾るにふさわしい紹介にまことも
感無量という様子で、ひとことマイクに向かっていう。

「みんな、心配かけたなぁ。今度から、まことお兄さん、呼んだってや!」

再びウワアァァァっという歓声の中、まことが去っていくと、いよいよ矢口が最後の言葉を
発した。

「モーニング娘。は私にとって、疾風怒濤でしたぁっ!!」
333 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時52分18秒
そういって大きく手を振る矢口に向かって今日、最も大きな声援が寄せられたものの、
果たしてどこまで、その言葉の真意が通じていたかは定かでない。

メンバー一人一人が矢口に花を渡して去っていく演出の最後。リーダーの飯田が花を渡して
終わりとするはずが、今日に限っては、もう一人、特別に渡すものが現れた。前田有紀と
ココナッツ娘。アヤカに付き添われて、松葉杖を突きながら現れたその人物...

「みなさぁん、私の命の恩人、りんねに暖かい拍手をっ!!」

矢口に紹介されて照れくさそうに軽く会釈するその姿に、会場はまさにその日の頂点を
迎えたと言って良かった。野太い声に混じって、澄み通った若い女性の声援が目立ったのは、
気のせいだろうか。

りんねから、花一輪を受け取って、強く握手を交わす二人の姿に涙ぐむ観客。いつまでも
矢口とりんねのコールを続ける暖かい観客の応援に二人は、大きく手を振って応えた。

「みんなぁ、ありがとぉっ!!」
334 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時52分59秒
矢口の卒業コンサートとなるツアー最終日に松葉杖を突いたりんねの復活。
小憎らしい演出を整えた、影の立役者が貴賓席でひっそりとその様子を満足げに眺めていた。

「しかし、りんねは惜しいことをしましたね。NHKのBSデジタルで来春から始まる
“BSおかあさんといっしょ”のお姉さん、向こうからりんねをぜひと請われたのに...」
「バカだな。あの声援を聞いたか。今やりんねはハロプロが最も苦手としていた10代後半
から20代以降の女性ファン開拓の急先鋒なんだぞ。あの英雄的な行為が、若い女性を大い
に引き付けている今がチャンスなんだ。」

アップフロント社長と会長。まさに、希代の食わせ物がその幕引きを飾ろうとしている。
335 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時53分51秒
「ま、ともあれ最大の懸案事項はうまく片付いたわけで...」
「まったくだ。まことの処分は、本当に困ってたからな...フッフッフ。」
「いや、矢口なんぞはどうとでも使い回しが利きますが、まことだけは困り果てましたからねぇ。」
「まったくだ。矢口とりんねのお陰で、こんな結構な仕事が舞い込んできたんだから、奴も
言うことはあるまい。」
「少なくとも4〜5年は固定ですからね。家のローンも充分、返せるでしょう。フフフ。」
「ハッハッハ、何はともあれめでたいな。」
「まったくで。」
「さっ、矢口とまことに幼児ビジネスの梃入れをしてもらった次は保田に高齢者ビジネス
でも開拓してもらうか。」
「おっ、いよいよ保田の演歌プロジェクト、始動ですか?」
「まっ、とりあえずは巣鴨キャラを定着させてからだな。ガッハッハ。」
「まったく、会長の腹黒さには舌を巻きますな、フハハ。」
「お前もよ、越後屋。フッハッハッハ。」
336 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月05日(火)00時54分37秒
ヲタの感動をよそに、ひたすらビジネスに邁進するアップフロント幹部。
哀れ矢口。天才を自認する彼女に取ってもこの二人は性質(たち)が悪過ぎた。
そして、りんねの英雄的行動さえ、ビジネスに繋げようとするその商魂。
まったく、お釈迦様の掌中を必死に飛び回っていたかの如き矢口の役回りは孫悟空か...

この後、思惑通りにお荷物を片づけた気分の良さから、いさいたまの街に繰り出した二人が
気前良くお大尽ぶりを発揮したことは言うまでもない...



天才矢口の『歌のお姉さんになるわよ!!』完
337 名前:――あとがき―― 投稿日:2002年03月05日(火)00時56分59秒
はぁ。やっと終わりました。
名無し男さん。
ありがとうございます。毎回、暖かいレスによる励まし。
涙が出るほど嬉しかったです。無事、ここまで完結できたのも、あなたのお陰です。
本当に、ありがとうございました。
そして、その他に拙い作者を支えていただいた、読者のみなさん。
ありがとうございました。
みなさんのお陰で楽しく、書き進めることができました。
取り急ぎ、御礼かたがた。
338 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月05日(火)02時51分09秒
感動のラストは無いと信じてました(w
この作品は
笑い・涙・(ero)オチと実に楽しませて頂きました。
誠におつかれです。
339 名前:名無し男@オマリー祭 投稿日:2002年03月05日(火)09時19分27秒
お疲れさんでした!
喜怒哀楽全てが楽しめて内容が奥深い
おねーさんネタから政治ネタまで
いろんなとこからネタ引っ張り出してきて
その半端ない情報量にビクーリ
アップフロントを風刺したところなんかは非常にワラタ!
結局これは人員整理プロジェクトだったわけね(w




は、腹痛ぇ(w
340 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月06日(水)09時49分19秒
>338名無し読者さん
早速の感想ありがとうございます。
漢字がねぇ...自分でもこりゃいかんというやつは、なるべくフリガナつけるように
しているのですが、終盤はもうすぐ終わるという焦りからか抜けてしまいました。
誤字、脱字どころか、完全に消さなきゃいけない部分、消し忘れたり(涙
ともかく、最後まで読んでいただけて感謝です。

>339名無し男さん
ありがとうございます。
本当に励みになりました。あなたが毎回、更新するたびにレスを入れてくれたので、
早く更新しようという意欲が保てました。本当に感謝してます。

次回作は...実はもう構想があります(w
節操がなくていけません。何かアイデアが浮かぶと直ぐ書きたくなってしまって。
なぎーさんの気持ちが、ちょこっと理解できなくもなかったり(w

次回は「いしよし」です。
大マジです。痛めです。

タイトルは『火の玉リカちゃん!!』

とはいえ、まだ設定とラストくらいしか考えてないので、しばらく短編集の投票に参加したり、
貯めこんでいた本を読んだりマターリしてから、細部を詰めたいと思います。
板はそのとき空いてるとこになるでしょう。
341 名前:ついのろみ ◆NOroMI76 投稿日:2002年03月06日(水)23時02分44秒
( ´D`)y−~~<ああ!とうとう終わっちゃいましたね。
         最後びっくりしちゃったれす・・・。
         毎日たくさん更新してくれるのれ、
         すごくたのしみによませてもらいました。
         ほんとおつかれさまれす。
         つぎはいしよしれすか??いしよしらいすっき!
         なんれうれしいれすはあとはあとつぎもきたいしてまふはあとはあと
342 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月07日(木)10時48分45秒
>341ついのろみさん
最後までお付き合い頂き、ありがとうございます。
途中、中学生にはふさわしくない表現・描写が入ってしまいました。
すみません。次回は清く美しく...できるかな...できたらいいな(w
ということで、またよろしくお願いします。

本当に、読みにくい文章に最後まで付き合っていただいて感謝してます。
楽しかったです。それでは、また。
343 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月07日(木)20時26分09秒
最初から読ませていただいてたんですけど、途中から忙しくて
読めなかったら既に終わってました残念。最後は涙が。
ほんと面白かったです。作者さんの新作も楽しみにしております。
完結お疲れさまでした。出来たら他の作者さんの作品も教えていただければ(^^;
344 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月08日(金)09時37分27秒
>343名無し読者さん
ありがとうございます。
こんな読みづらいのを最後まで読んで頂けて、感謝感激です。

他にはこんなのを書いてました。

・『第3回オムニバス短編集』(花板過去ログ倉庫)
 「夏の夜水の上にて歌える」
 「真夏の誕生日」
・『第4回オムニバス短編集』(白板過去ログ倉庫)
 「Dawnchorus」
 「Tafelmusik」
 「メッテルニヒのトルテ」
・『第5回オムニバス短編集』(海板過去ログ倉庫)
 「ひいらぎかざろう」
・『トウモロコシと空と風』(森板過去ログ倉庫)
・『市井ちゃん、お隣の国からデビューだってさ!!』(花板連載中)

作風に統一性がないんで、あまり期待されない方が...(汗
それでは、また。
345 名前:名無し男 投稿日:2002年03月08日(金)10時35分40秒
↑コソーリ読んでたのがいくつか

それにしても『火の玉リカちゃん!!』ですか?
一体どうなる事やら・・・(w
346 名前:343 投稿日:2002年03月08日(金)22時21分29秒
『市井ちゃん、お隣の国からデビューだってさ!!』の作者さん
だったんですか!噂には聞いていたので。新作も期待してますよ!

>『第5回オムニバス短編集』(海板過去ログ倉庫)
> 「ひいらぎかざろう」
>『トウモロコシと空と風』(森板過去ログ倉庫)
とりあえず、この2つ読ませていただきました。
心温まる話ですね。でも笑える所もあったり。凄い!って思いました。
特に「トウモロコシ−」は良かったです。
色んなジャンルを描ける作者さん尊敬です。ファンになりました。
師匠と呼ばせて下さい!(w これからも読ませていただきます。
347 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月09日(土)02時40分05秒
>345名無し男さん
恥ずかしいっす。
津田はかっけーかった(涙

>346名無し読者さん
旧作読んでもらえて感想まで頂けるなんて、何か得した気分(w
素直に嬉しいです。
『市井ちゃん〜』は羊から越して来るときに、小説の部分はコピペしたので、
最初から読めますよ。
では、また。
348 名前:ついのろみ ◆NOroMI76 投稿日:2002年03月22日(金)19時08分19秒
( ´D`)y−~~<・・・いしよし待ってマース!
349 名前:名無し娘。 投稿日:2002年03月26日(火)12時36分29秒
>348
あぅっ...申し訳ありません。
思いつきで小説は書けないもんですね。
いしよしの奥深さに悪戦苦闘しています。
今月中にはなんとかしたかったのですが...
気長にお待ちいただければ(というか待つほどの価値があるだろか...)
350 名前:ついのろみ ◆NOroMI76 投稿日:2002年03月27日(水)01時51分51秒
(;´D`)y−~~<いや・・・ゆっくり書いてくれたらいいれすよ・・・
         焦っていいものはれきましぇんからね〜
         なんか催促しちゃってごめんなさい。それれはまた♪

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