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名探偵チャーミー
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時20分46秒
- お題の通りです。
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時21分44秒
- 第1話『名探偵チャーミー最初の事件』
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時22分24秒
- 「ねえねえ、あいぼん。探偵って知ってる?」
また梨華ちゃんの知ったかぶりが始まった。
「あれやろ。殺人事件とかの犯人をつきとめる仕事やろ」
加護はアメ玉の袋をバッグから取り出しながら、横着にこたえた。
「そうそう。あいぼん知ってるんだ」
梨華ちゃんはちょっとがっかりしたようだが、気を取り直した。
「探偵ってかっこいいよね。あたしにもできるかな」
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時23分03秒
- わたしは思わず吹き出してしまった。
「なあに、よっすぃ〜。あたしには無理だって言うの」
「違う、違う。そうじゃなくて、殺人事件なんてめったに出会えるわけないじゃん」
「そうだけど」
「じゃあさ、ののを助けてみたら」
加護が指した先には、床を這いつくばっている辻がいた。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時23分34秒
- 「どうしたの、辻ちゃん」
「辻の大事なアメを探してるのです」
辻は空の袋を振った。大事にとっておいた最後の一個を食べようとしたら、なくなっていたのだという。
「自分でも知らないうちに食べちゃったんじゃないの」
「そんなことはしないのです。確かにさっきまではあったのです」
トイレに行っているうちになくなったという。
「どんなアメ?」
「ヤキソバ味のアメなのです」
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時24分16秒
- 梨華ちゃんはあごに右手をあててポーズをとった。
「ふふん。ここはチャーミーの腕の見せどころね。辻ちゃん、チャーミーにまかせなさい」
梨華ちゃんは名探偵チャーミーとなった。ここからは名探偵に敬意を表して「チャーミー」と呼ぶことにする。
「転がってたりはしてなかったんだよね」
辻はうなずいた。
「ということは、誰かが意地悪して隠した可能性が強いわね」
チャーミーは聞きこみを開始した。
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時25分45秒
- まず矢口さん。
「アメ? 知らないよ、そんなの」
次安倍さん。
「なっちも知らないよ」
保田さん。
「辻がトイレに行くまであったのは知ってるよ。その後はわからない」
加護ちゃん。
「ののがトイレ行ってからずっと梨華ちゃんといっしょだったし、見てないわ」
ごっちん。
「寝てたから知らない」
小川。
「すみません、知らないです」
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時26分28秒
- 高橋。
「ヤキソバ味のアメって何ですか?」
新垣。
「それっておいしいんですか?」
紺野。
「…………………………………は?」
飯田さん。
「さっき来たばかりでわからない。ごめんね」
わたし。
「わたしも見てない……チャーミー、聞いた順番ってどういう意味があるの?」
「それはね、意地悪しそうな順」
- 9 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時27分05秒
- 耳ざとい矢口さんに聞かれていて、チャーミーは窮地に陥った。
「辻ちゃん、泣いちゃだめだよ」
チャーミーが矢口さんに怒鳴られていると、安倍さんが無邪気に辻を煽った。
泣くなと言われれば泣くのが辻である。無言で二つの眼から、大粒の涙を一直線に流し始めた。
「アメ玉なんてちっこいから、だれかのバッグにでも転がってるかもしれない」
やれやれという感じで飯田さんが助け舟を出した。体のいい荷物検査である。矢口さんや安倍さんはぶつぶつ言っていたが、みんなバッグの中味をテーブルの上にぶちまけた。アメはなかった。
- 10 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時27分35秒
- 「チャーミー、見つけ出してよ。名探偵なんだから」
加護が意地悪くチャーミーをつついた。チャーミーは眉をひそめ、立ち往生した。そして自暴自棄に叫んだ。
「ええい、きっと床に落ちてるわよ。辻ちゃんの探し方が悪かったのよ」
チャーミーは四つん這いになった。その姿はとても名探偵とは言えない。部屋の隅にある小さなテーブルの下に潜りこんだ。
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時28分38秒
- 「ちょっと、もういいからさあ」
わたしは飯田さんの指示を受けて、チャーミーを止めようといっしょに潜りこんだ。チャーミーは「いや!」といってきかなかった。
わたしはテーブルの下から出た。みんながテーブルを半円に囲んでいた。さて、次はどうなるかなと考えながら、わたしはみんなの後ろに回った。
「……わかったわ」
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時29分33秒
- チャーミーの声がした。チャーミーはテーブルの下に上半身をつっこんだままである。わたしたちに見えるのは、そこから伸びた二本の両足だけだ。
「誰が隠したのかはわからない。目撃者はいないし、張本人は白を切っているし。まあたいしたいたずらでもないので、それは不問とします」
チャーミーの口調がちょっと変だ。
「だからアメ玉を見つけるだけで良しとしないと」
「ちょっと待ってよ、梨華ちゃん。ありかがわかったの?」
矢口さんがすっとんきょうな声をあげた。
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時30分39秒
- 「ええ。簡単なことです。木の葉っぱを隠したかったら、森の中に隠すのが一番。アメを隠したかったらたくさんのアメの中に隠すのです」
加護がはっとした顔つきになった。
「よっすぃ〜! 確かめてみて」
わたしは加護から袋を取り上げると、中に手をつっこんだ。アメ玉をいくつか握ってテーブルの上に転がした。
「あった!」
辻は叫んでアメ玉に飛びついた。わたしは後ろに飛びのいた。辻はもう二度と離さぬものかと頬ずりした。安倍さんが首をひねった。
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時31分14秒
- 「これって、加護が隠したってこと?」
「……いいえ。加護ちゃんがバッグから取り出したときには、もうそこに隠されていたと考えたほうがいいです。二人のバッグは並んで置いてあったし、いたずらするにはちょうど良かったのでしょう」
加護は容疑が晴れてほっと息を吐いた。
「良かったね、辻ちゃん」
「すげえじゃん、梨華ちゃん」
ごっちんが辻の頭をなでた。矢口さんは、チャーミーを誉めながらテーブルまで駆けよった。むき出しの足を矢口さんがつつくと、チャーミーはぴくりと反応した後、勢いよく立ち上がろうとした。当然ながら頭をテーブルにぶつけた。
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時31分59秒
- 「いたたたた……」
チャーミーが頭をさすりながら出てくると、辻が抱きついた。
「ありがとう、チャーミー」
「さすが名探偵チャーミー」
みんなの賛辞に、チャーミーは間を置いてから「ヘヘヘ」と笑った。
「何かあったらチャーミーに任せなさい」
胸をはってドンと叩いた。名探偵チャーミーの誕生に、わたしたちは笑顔で拍手した。
- 16 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月18日(金)19時32分48秒
- 第1話終わり
- 17 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月18日(金)19時33分37秒
- パクリなんて言っちゃいや
- 18 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月18日(金)19時36分37秒
- 名探偵チャーミーが孤島で大暴れ!
次回『そして誰も歌わなくなった』乞うご期待!
- 19 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月19日(土)00時10分51秒
- 期待大!がんばってください
- 20 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)14時50分40秒
- 第2話『鍵のかかった部屋』
- 21 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)14時51分45秒
- とある番組のリハーサルが始まろうとしていた。
「あれ? 辻がいないよ」
矢口さんが声をあげた。たしかに辻の姿が見えなかった。
「トイレじゃない? 吉澤、ちょっと見てきてよ」
飯田さんの指示に従ってわたしはトイレに行ったが、辻がいる様子はなかった。
わたしは楽屋に戻って飯田さんに報告した。飯田さんは渋い表情をした。
「しょうがないから、あたしと、なっち、圭ちゃん、吉澤、石川で手分けして捜そう
」
- 22 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)14時53分04秒
- 矢口さんとごっちんは加護以下中学生のメンバーを連れて、先にスタジオに向かった。矢口さんとごっちんは気がきくから、スタッフの人たちにうまく言ってくれるだろうとの判断だった。
わたしは梨華ちゃんといっしょに他の楽屋をたずねてまわった。
「すみません、うちの辻を見かけませんでしたか?」
「いやー、知らないなあ」
飯田さんたちは他の階を捜して回っている。見つけたら携帯電話で連絡することになっている。
- 23 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)14時55分07秒
- 初老の俳優さんが辻らしい子供を見かけたと言った。このビルの7階だったという。早速7階に向かってみた。廊下には誰もいなかった。今は誰もこのフロアを使っていないらしい。鍵のかかっていない部屋を一つ一つあたったが、辻を見つけることはできなかった。
「辻ちゃん、何やってるんだろう」
「しょうがない子だね」
今度は、鍵のかかっている部屋の様子をうかがうことにした。ノックをして、耳をあててみるが、物音一つしない。3部屋ほど調べたところで梨華ちゃんがわたしをつついた。
- 24 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)14時56分01秒
- 「よっすぃ〜、あれ」
梨華ちゃんの指したほうを見ると、廊下の一番奥の部屋の前にアメ玉が一つ落ちていた。屈んでそれを拾い上げ、包み紙を見ると、辻くらいしか持っていない「ヤキソバ味」のアメだった。
わたしはその部屋の法を向いた。薄汚れたプレートには「機材置場」と下手な字で書かれいた。
「この部屋に隠れているのかな?」
「隠れるって、どうして? もうすぐ本番だっていうのに」
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)14時56分41秒
- ドアのノブを握ると、やはり鍵がかかっていて回らなかった。
「ほんとにこの部屋にいるのかなあ」
「ヘソ曲げて、閉じこもってるとか」
「辻が怒るようなことって何かあったっけ?」
わたしはふと、床を見た。赤い液体がドアのすきまから流れていた。
「もしかして、辻ちゃんの血……」
梨華ちゃんはぶるぶる震え出し、真っ青になった。あわててわたしは飯田さんの携帯電話にかけた。すぐに飯田さん、安倍さん、保田さんがやってきた。みんな床を見て仰天した。
「とりあえず、ドアを開けよう」
- 26 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)14時57分14秒
- 飯田さんはドアに体当たりした。このビルの管理人とかマネージャーとかを呼ぶとか、そういう思考はわたしたちにはなかった。力では開かず、保田さんが何やら針金ようなものを取り出して、鍵穴をいじくるとカチンと音がした。
なぜ保田さんがそのようなものを持っていて、そのような芸当ができるかはひとまず保留しておいて、飯田さんは勢いよくドアを開いた。わたしたちは中の様子をうかがった。
「うわっ、汚いなあ」
安倍さんが汚いものを見るような目つきをした。実際汚かった。多分もう使われていないいろんな放送機材が所狭しと放り込まれ、おまけに床はペンキがこぼれていた。さっきのは血ではなく赤いペンキだったのだ。
- 27 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)14時58分07秒
- 「中に入って捜そう」
飯田さん、保田さん、安倍さん、梨華ちゃん、わたしの順で中に入った。暗くてよくわからない。床は固まっていないペンキでぐしょぐしょだった。おかげで靴の裏が赤く汚れてしまった。本番前なのにたいへんなことだが、辻を見つけることが先決である。
人がやっと通れるような状態で、大小さまざまな機材が並んでおり、さびついたロッカーもある。人が隠れそうなところはいくらでもあった。
「つじー!」
「つじちゃーん」
わたしたちは大声で辻を呼んだ。わたしはドア付近のロッカーを開けてみた。鉄の棒とか書類とかがあり、辻の丸っこい体はなかった。
- 28 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)14時59分05秒
- 飯田さんが金切り声で叫んだ。
「つーじー!」
何か鈍い音がした。横を見ると、辻が照明器具の横に転がっていた。わたしはあわてて両手で抱き起こした。辻の目がゆっくりと開いた。「うーん」とうなった後、辻は頭をさすりながら自分で立ち上がった。辻もわたしも、衣装がペンキで台無しだ。
「辻、大丈夫だった?」
安倍さんがかけよって身体検査した。頭にコブができていた。
「辻、自分で鍵かけた?」
「鍵? かけてないよ」
保田さんの質問に、辻は首をかしげて答えた。
- 29 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)15時00分26秒
- 「圭ちゃん、大きなケガはないようだけど、一応辻を医務室に連れていって、診てもらって」
保田さんは辻を連れて出て行った。わたしは顔だけ廊下に出して二人の後姿を見送った。赤い足跡が二対、床に残った。
「かおり、変だよ。辻が鍵かけたんじゃないなら、誰がかけたっていうの?」
この部屋に辻を押し込んで、鍵をかけて出て行ったなら、その人間の足跡が残るはずだった。床一面にこぼれているペンキはまだ乾いていないのだから。
「梨華ちゃんはどう思う? 名探偵なんでしょ?」
安倍さんが梨華ちゃんに尋ねた。梨華ちゃんは名探偵チャーミーになった。
- 30 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)15時01分43秒
- 「そうですね……」
チャーミーは右手をじまんのあごにあて、あたりを歩き回った。
「辻ちゃんはそこに倒れていました。本人も言っているように、辻ちゃんが鍵をかけたのではないようですね。とすると、辻ちゃん以外の誰かが鍵をかけたことになります」
「でも、どういうわけかはわからないけど、辻を殴って、廊下に出て、鍵をかけて、立ち去ったら、足跡が残るでしょ」
梨華ちゃんはわが意を得たりとうなずいた。
「そうなんです。とすると、廊下に出たら靴を脱いだ可能性がありますね……」
- 31 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)15時02分20秒
- 「飯田さん、まずいです。リハーサルが」
わたしの言葉にみんなわれに返った。わたしたちは急いでスタジオに向かった。そこらじゅうに赤い足跡をつけてまわり、ことに衣装を汚したわたしと辻ちゃんはスタッフやマネージャーにおおいに叱られた。
なんとか番組の収録が終わり、楽屋でわたしたちはこの件について話し合った。辻は大事をとって先に帰っていた。
- 32 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)15時02分56秒
- 「管理人さんに聞いたところ、あの部屋は早朝に管理人さん自身が鍵をかけたっきり、誰も出入りしてないそうです。鍵自体は管理人さんがずっと持っているそうです」
わたしの調査内容に、チャーミーはうんうんとうなずいた。
「ということは、外から鍵をかけたのではなく、内側からかけたことになりますね」
「じゃあ、どうやって出るんだよ」
矢口さんがチャーミーにつっこんだ。
「そこですよ、矢口さん。あの部屋は『密室』なんです!」
みんなチャーミーの言葉に黙り込んだ。わたしを含め何人かは、このとき漢字変換できなかった。
- 33 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)15時04分20秒
- 「じゃあ、どうやってそいつは部屋から抜け出したんですか、石川さん。じゃなくてチャーミーさん」
紺野の一言にチャーミーは打ちひしがれた。チャーミーは言葉につまり、よろよろと後ずさり、壁にぶつかった。そして壁のほうをむいてぶつぶつ言い出した。どうやら「密室」という言葉にたどりついたところまでが精一杯だったらしい。
「まあ、いいや。明日も早いからもう帰ろう」
飯田さんの言葉に従って、みんなは帰り支度を始めた。わたしは、壁に額をあてて、独り言をつぶやいているチャーミーの肩をたたいた。
「元気だして。さ、帰ろ」
- 34 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)15時04分57秒
- わたしはチャーミーから離れた。みんなはもう帰る準備ができていた。さすがに悪いと思ったのか、みんなはチャーミーのところまでやってきて、慰めの言葉をかけようとした。
「……わかりました」
「えっ?」
「『密室』の謎が解けました」
チャーミーは額を壁にあてたままだ。額で、支えながら壁にもたれかかっている感じだ。
- 35 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)15時05分33秒
- 「鍵をかけたのは、管理人のおじさんです」
「じゃあ、犯人はそいつなのか。管理人なら鍵をどうとでもできるから」
チャーミーは矢口さんの言葉を否定した。
「違います。管理人さんは犯人ではないですし、嘘もついていません。管理人さんが朝早くに鍵をかけた、ただこの事実があるだけです」
「なんだよ、それ。もう、わけわかんねーよ」
「発想を変えましょう。どうやって犯人が出て行ったかを考えるのではなく、どうやって辻ちゃんを部屋に入れたかを考えるんです」
「どうやってって、小脇に抱えて放り込んだんだろ、きっと」
矢口さんの顔が般若に見えた。
- 36 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)15時06分50秒
- 「それではだめです。そう考えるから、どうやって出て行ったかが問題になってしまうんです。簡単なことです。足跡がない、なら中に残っていた辻ちゃん以外の人は誰も入らなかった。これだけのことです」
「え?」
「どうやって鍵をかけたか。辻ちゃんが中に入って、それから鍵がかけられたと考えるからおかしなことになるんです。鍵がかけられ、それが開けられてから、辻ちゃんが入ったのです」
「ちょっと、ちょっと。どういうこと?」
矢口さんの、それまでのつっかかるような口調が変わった。他のみんなは黙って聞きいっている。
- 37 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)15時07分39秒
- 「朝、管理人さんが鍵をかけました。そして辻ちゃんを捜しに、みんながあの部屋に行き、保田さんが鍵を開けました。そして『辻ちゃーん』と叫びながら部屋を捜し始めました。どこにいたのかは知りませんが、その呼び声を聞いた辻ちゃんは、そこで初めてあの部屋に入ってきたのです。部屋は暗く、大きな機材が雑然と並んでいたので、誰もそれに気がつかなかったのです」
「最初から辻は閉じこめられてたんじゃなかったんだ」
保田さんが感心したような声を出した。
- 38 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)15時08分18秒
- 「でも辻は殴られて気を失っていなかったか?」
「殴られたんじゃないんです。辻ちゃんは部屋に入るとペンキに足を取られてコケて、そのとき機材か何かに頭をぶつけて、瞬時ですが気絶したんです。詳しいことは辻ちゃんに聞けばわかると思います。あのアメ玉が部屋の前に落ちたということは、あのフロアの近辺のどこかにはいたんでしょうが」
辻にくわしく話をきこうとしなかった年長3人は、照れくさそうに頭をかいた。
「これが『密室』の謎のすべてです」
- 39 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)15時08分49秒
- 「凄いじゃん、梨華ちゃん」
矢口さんがチャーミーの背中をドンと叩いた。チャーミーは全身を壁に叩きつけられ、そのまま崩れ落ちた。
「チャーミー、大丈夫?」
わたしはチャーミーを助け起こした。
「んー……あ、よっすぃ〜」
「チャーミー、カッケー」
「さすが名探偵チャーミーだね」
チャーミーは周りをきょろきょろと見回し、頬に指をあて、そして胸をはった。
「チャーミーには解けない謎はありません!」
名探偵チャーミーの活躍ぶりに、わたしたちは賞賛の拍手を送った。
- 40 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月19日(土)15時09分34秒
- 第2話終わり
- 41 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月19日(土)15時11分20秒
- 次回、名探偵チャーミーが謎の失踪事件に挑む!
- 42 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月19日(土)15時12分04秒
- 『あごのしゃくれた女』お楽しみに!
- 43 名前:名無し男 投稿日:2002年01月19日(土)15時50分16秒
- おもしろい
- 44 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)19時10分20秒
- おもしろい。最高だ!
- 45 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月23日(水)19時59分44秒
- >43 >44
どもです。
- 46 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時00分17秒
- 『茶髪組合』
- 47 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時00分47秒
- 梨華ちゃんが珍しく読書をしている。目を細め、眉をひそめている。いつになく真剣な表情だ。
「梨華ちゃん、何読んでるの?」
「うーんとね、名探偵もやっぱり勉強をなまけちゃいけないと思って」
表紙を見ると、ポプラ社の子供向け探偵小説だった。字が大きく、ルビもふってあるのでお子様でも簡単に読める。
「わたしの頭脳が活かせるような難事件が起こらないかなあ」
「そうだねえ」
- 48 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時01分25秒
- わたしは笑いを噛みしめながら同意した。そこに矢口さんがやってきた。元気がとりえの矢口さんなのに、がっくりと肩を落としている。
「どうしたんですか?」
「よっすぃ〜や梨華ちゃんに話したってしょうがないんだ」
とぼとぼと通りすぎようとした矢口さんを、梨華ちゃんが引きとめた。
「何言ってるんですか。名探偵チャーミーがいるじゃないですか」
そうなのだ。梨華ちゃんは名探偵チャーミーになることができるのだ。
矢口さんはワラにもすがる気持ちだったのだろう。いきさつを話し始めた。
- 49 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時03分02秒
- 矢口さんは売れっ子アイドルである。よってたいへん忙しい。よって彼氏を作る時間がない。たまにあるオフぐらいではなかなかいい男を捕まえられない。合コンしたってロクな男がいないという。
そんなある日、矢口さんの家の郵便受けにチラシが入っていた。
『茶髪組合加入者募集中』
茶髪組合とは珍妙な名前である。文面を見ると、茶髪のため世の中からいわれのない偏見を受けている者たちの互助会らしい。
矢口さんはその組合のあるビルに行ってみた。家から歩いて二十分ほどのところにあった。古いビルで入居者はほとんどいない。三階にあるその部屋のドアの呼び鈴を押した。
中からは若い男が出てきた。男も当然ながら茶髪であった。
- 50 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時03分32秒
- 「ちょうどよっすぃ〜くらいの色だったよ」
わたしは自分の髪をつまんでみた。
部屋は殺風景で、テーブルと椅子が一つずつあるだけ。裸電球がむき出しである。棚ひとつなかった。ところどころ配線がむき出しになっている。
「すみません、カゼ気味でして」
男はサングラスとマスクをしていた。男の説明によると、髪の色を染めているだけで、職業の選択の幅が狭まっているという。そこで組合を作って仕事の斡旋を行っているという。
「どなたか存じませんが、あなたはもう職についているのですか?」
「矢口といいます。わたしは今働いています」
- 51 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時04分14秒
- 「そうですか。わたしも別の仕事があるのですが、ボランティアで行っています。お金を寄付されていただける方もいるのですが、なかなか資金が足りません」
そこで男は矢口さんにボランティアへの協力を申し出た。簡単な仕事である。茶髪でもさしつかえのなさそうな仕事先を、電話帳からひろってノートに書きうつすだけだという。
「だいたいで結構です。あとはこちらで振り分けますから」
「そんなにしょっちゅう来れないけどいいんですか?」
「かまいません。ボランティアですから」
カギは開けておくので、時間があるときだけでいいという。無用心な話だが、何も盗られそうなものはない。電話帳とノートはテーブルの上に置いてあった。
- 52 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時05分04秒
- 「それで引き受けたんですか」
チャーミーはけげんな顔をした。
「いや、それがさ」
矢口が帰ろうとすると、チャイムが鳴った。これまた茶髪の若い男が入ってきた。
「少しの間失礼します」
ボランティアの男は矢口さんを部屋に残して部屋を出た。外で何やら話をしているらしい。
「今の人は誰ですか?」
「組合の仲間ですよ」
「組合にはたくさんの人がいるんですか?」
「男も女もたくさんいますよ。たまに集会を開いたりします」
矢口さんは、いい男に出会えるかもしれないと思って、ボランティアを引き受けたのだった。
「それで、男をゲットできたんですか?」
チャーミーは興味が出てきたようだ。
- 53 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時06分16秒
- 「月に何回か行ったけど、その人くらいしか部屋には来なかったんだ」
思い出した。一月前ほど、矢口さんが「やめようかなあ」と独り言を言っていた。
「でもさ、その人が『○月○日に集会があります。参加しますか?』って言うからはりきってがんばったんだ」
そして集会のある日の前日、つまり昨日、矢口さんは例の部屋に向かった。鍵がかかって入れなかった。ドアには張り紙がしてあった。
『茶髪組合は解散しました』
- 54 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時06分50秒
- わたしとチャーミーは吹き出してしまった。矢口さんが無言でにらんだので、あわてて顔をひきしめた。
「いたずらにしても何にしてもさ、そいつを捕まえてとっちめてやりたいんだけど、梨華ちゃん、できる?」
矢口さんが凄い形相で詰め寄ってきたので、わたしは背筋が凍る思いをした。
- 55 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時07分21秒
- 次のオフの日、わたしたち三人は実地で調査することになった。チャーミーはステッキを持ってきていた。
「何それ」
「任せてよ」
まず矢口さんの家にいった。家といってもマンションである。チャーミーはマンションの入り口から辺りを見まわした。
「えーと……あ、あった」
チャーミーのステッキの先には地方銀行の支店があった。
「それから……いたいた」
チャーミーの視線の先には、作業服が土で汚れたおじさんがいた。
「やっぱりね。チャーミーの目はごまかされないんだから」
- 56 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時08分12秒
- あまり見ず知らずの他人を巻き込むと面倒なので、チャーミーに確認してみた。
「チャーミー、どんな推理?」
「妙な組合に矢口さんを誘ったのは、矢口さんの家を空けさせるためだったのよ。そして矢口さんが組合に出かけているすきに、曲者は矢口さんの家からトンネルを掘っていたの。向かう先はあの地銀の金庫ってわけよ」
わたしと矢口さんはため息をついた。
「あのね、梨華ちゃんさあ。あたしの家はマンションの十階にあるんだから、トンネル掘れるわけないじゃん」
「どうやって矢口さんの家に入れたかとか、掘った土はどこへ行ったとか」
- 57 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時08分47秒
- 穴のありすぎる推理である。チャーミーのバッグの中に『シャーロック・ホームズの冒険』が入っていることをわたしは知っている。わたしが貸してあげた文庫本なのだ。
チャーミーが指摘を受けてしょんぼりした。次にわたしたちは例の組合のあった部屋に向かった。
途中、数人の小学生がわたしたちのほうに向かって指をさした。わたしたちは走って逃げた。
「芸能人もつらいよね」
例の部屋には、張り紙すらなかった。もちろん鍵がかかっていて入れない。
「矢口さんはいつボランティアを始めたんですか?」
「ちょうど三か月前。月に三、四日くらいかな」
- 58 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時09分31秒
- ビルの前の通りから見上げてみた。カーテンもないので日差しがそのまま部屋を照らしているようだ。
「電球一つで暗くなかったんですか?」
「昼しかいなかったし、カーテンもあのようになかったから」
「カーテンがないと外から丸見えですね」
ビルの1階に、このビルを管理している不動産屋の立て看板があった。早速その不動産屋に行ってみた。
数ヶ月前若い男が来て、一日千円という格安の料金で借りたという。この一日というのは実質の日数で、矢口さんは月に四日ほどしか行かなかったので四千円だ。
- 59 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時10分03秒
- 「ずいぶん安いし、珍しい契約ですね」
「あのビルは一度取り壊して建て直す計画があるんですよ。中をいじらないという約束で契約したんです。汚されても支障はないですから」
わずかでも現金収入があったほうがいいわけだ。契約者の名前と住所を教えてもらったが、そんな人物は存在しなかった。
- 60 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時10分50秒
- わたしたちは夕焼けの中、とぼとぼと引き返した。途中の電器屋のウインドウには、矢口さんが映っていた。ミニモニのプロモーションビデオだった。
途中の小さな公園に入った。矢口さんはブランコを漕ぎ出した。
「何の収穫もなかったね」
うん、とチャーミーは力なく返事した。例のトンネルがどうのこうのという推理にダメ出しされてから、ずっと元気がない。
- 61 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時11分30秒
- 「あーあ、せっかくのオフがつぶれちゃったよ。結局いい男もつかまんないしさ」
怒りがじわじわ湧いてきたのだろう。矢口さんはブランコから飛び降りると、チャーミーのほうに向かってきた。
「どうしてくれるんだよ、梨華ちゃん!」
完全に逆恨みである。矢口さんが迫り、チャーミーが後ずさりした。チャーミーが背中を向けて走り出そうとしたところを、矢口さんが突き飛ばした。チャーミーは顔から砂場につっこんだ。
- 62 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時12分04秒
- 「チャーミー、大丈夫?」
わたしはチャーミーに駆けよった。矢口さんはそっぽを向いた。しばらくしてチャーミーの声が響いた。
「わかりました」
わたしはゆっくりとチャーミーから離れ、矢口さんの背後に立った。
「この出来事は、矢口さんのかわいさが原因だったのです。
えっ、と矢口さんは両手を頬に当てて照れるふりをした。
- 63 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時13分00秒
- 「わたしは最初、矢口さんの家から矢口さんを引き離したいがために、茶髪組合なる珍妙なものを作り上げたのだと思っていました。でもそれはとんだ見当違いでした。矢口さんを数時間あのビルの一室にいてもらうためだったのです」
「どういうこと?」
チャーミーは砂場に突っ伏したままだった。
「ほら、あの部屋はカーテンがなくて中が丸見えだったじゃないですか。向かいの建物からビデオやカメラで撮ることが目的だったのです」
- 64 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時13分36秒
- 矢口さんははっとして考え込んだ。自分が妙な行動をしなかったかどうか、思い返しているに違いない。
「なるほどね。買いたい人がいっぱいいそうだもんね」
わたしは再びチャーミーのところに行って、体を起こした。うーんとうなって目を開いた。顔一面が砂まみれだった。ハロプロ運動会のときを思い出した。
後日、わたしは買い物をしに梨華ちゃんと原宿に行った。
「よっすぃ〜、あれ見て」
- 65 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時14分14秒
- とある露店に、矢口さんが電話帳を見ながらノートに何かを書きこんでいる写真が売られていた。値段は一枚三千円だった。けっこうな枚数が売れているようだ。
「十枚売れたら三万円だよ、梨華ちゃん」
「凄いねえ。わたしも誰かの写真撮って売ってみようかな」
梨華ちゃんはフフフと笑った。わたしは愛想笑いを返した。
- 66 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月23日(水)20時14分48秒
- おしまい
- 67 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月23日(水)20時15分56秒
- 次回、チャーミーが念願の殺人事件に遭遇!
- 68 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月23日(水)20時16分51秒
- 『W(ヲタ)の悲劇』要ちぇっけらちょ!
- 69 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月23日(水)22時43分15秒
- この更新速度はすげえよ・・・。
- 70 名前:名無し男 投稿日:2002年01月24日(木)15時05分03秒
- ヲタの悲劇(w
- 71 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時18分10秒
- 『Wの悲劇』
- 72 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時19分16秒
- 梨華ちゃんがうるさい。
梨華ちゃんは、鋭い推理を働かせる名探偵チャーミーでもある。わたしたちの周囲で起こる不思議なできごとをいくつか解決してきた。すると梨華ちゃんは、もっと大きな事件を求め始めたのである。
梨華ちゃんは名探偵チャーミーになってから、さらに自信をつけ始めた。歌もダンスも、良し悪しは別にして、堂々とこなすようになってきた。そういう意味ではいい傾向なのだが。
恒例のハロプロコンサートが始まって、わたしたちはとある地方の会場に来ていた。そしてそこでとんでもない事件にわたしたちは巻き込まれたのだった。
- 73 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時20分35秒
- 夜のコンサートが終わって、わたしたちは帰る準備を始めていた。
「吉澤さん、ちょっと」
マネージャーが手招きするので楽屋を出た。別室に呼ばれ、そこで簡単な打ち合せとなった。明日のスケジュールのことで、わたしだけ変更があったのだ。あれやこれやで結構時間がかかった。
楽屋に戻ると、部屋はまっくらだった。スイッチを探すのがおっくうだったので、暗闇の中手探りで自分のバッグを探した。どこにあるのだ。それにしてもみんなはどこに行ったのだろう。
- 74 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時21分23秒
- しばらくしてから、みんなを探すことにした。廊下に出て、うろうろした。冷たい風がわたしにぶつかってきた。甲高い声がした。安倍さんか飯田さんの声だろうか。わたしは声のしたほうに走った。飯田さんたちが向こうから走ってきた。
「よっすぃ〜、変な奴が来なかった?」
「変なやつ?」
楽屋に戻って電灯をつけた。わたしのバッグが大きく開いていた。
「吉澤さんががなかなか来ないかったので、様子を見にきたらこんなふうに荒らされてたんです」
紺野が言った。最初に置いておいたところとずいぶんバッグの位置が違っていた。
- 75 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時22分22秒
- それで紺野は楽屋を出た。そして妙な足音がするので、そのときやってきた飯田さんと安倍さんといっしょに足音のするほうへ追いかけたのだそうだ。そしてわたしとぶつかった。
「何かなくなったものない?」
「えーと、セーターがないですね」
今日はずいぶん気候がよかったのでバッグの中に放りこんでおいたのだった。でもさすがに夜は冷える。
さっきのところまで戻ってみることにした。途中の部屋はすべて鍵がかけられていて、部屋の灯りも消えている。誰かいる様子はない。窓が少し開いているのを安倍さんが見つけた。
「下に何か落ちてるよ」
- 76 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時22分58秒
- ここは三階である。陽はすでに落ちていて、一階からこぼれる光ではよくわからない。降りてみるとやはりというか、わたしのセーターだった。
「すると、泥棒は吉澤のセーターを奪った後、追いかけられる途中窓から投げ捨てたのかな」
「でも吉澤さんに会うまで泥棒を見かけませんでした」
「じゃあ、窓から飛び降りたんだ」
「ここ三階だよ。しかも建物のそばにはいろいろ植えてあるから、人が飛び降りたら枝や茎が折れたりすると思うけど、そんなの見当たらないよ」
- 77 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時23分43秒
- 飯田さん、安倍さん、紺野が意見を交わした。わたしは横で聞いているはずである。
「ここでいくら考えてもしょうがないよ。このことはマネージャーに知らせておくから、ホテルに戻りましょう」
飯田さんの意見に従うこととなった。ところが、ことはこれだけではすまなかった。
- 78 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時24分22秒
- 一泊したら、すぐに飛行機に飛びのって東京に戻らなければならない。TVの収録があるからだ。ところが大きく予定を変更しなければならなかった。
バスに乗り込もうとホテルを出ると、いかつい顔をしたおじさんたちに引きとめられた。
「警察のものですが、事情をお聞きしたい」
- 79 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時25分00秒
- 数分間の折衝のうえ、マネージャーは携帯電話でどこかに連絡した。安倍さん、飯田さん、紺野、そしてわたしを除くメンバーはバスに乗り込んだ。わたしたちとマネージャーは警察に連れていかれた。
わけもわからず、地元の警察署で取調べを受けることになった。
まずマネージャーが呼ばれて、警察の一室に入った。以下はマネージャーから聞いたやりとりである。
- 80 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時25分42秒
- 「実はですね、昨夜殺人事件が起こったんですよ」
「えっ、そうなんですか」
「昨日あそこでコンサートやられたでしょう」
「ええ」
「その会場の隣の小さなビルでね、七階建てのね。そこで人二人が死んでたんですよ」
「それはそれは」
「で、昨夜あなたは署に電話したでしょう。泥棒の件」
「はいはい」
「ちょうどその泥棒が入った時刻にですね、どうも死んだらしいんですよ」
「はあ」
- 81 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時26分59秒
- 「死んだのはですね、そのビルの一階と二階住んでいる住人なんですがね。その二階のほうに住んでいたのを洗ってみると、指名手配中の常習窃盗犯だったんですよ」
「ほお」
「それでですね、その死んだ手配中の男と、楽屋のあやしい泥棒と、同一人物ではないかと、まあこういうわけなんですよ」
「へえ」
- 82 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時27分51秒
- 「死んだ二人は同じビルの住人だったといっても、ほとんど接点がないんですよ。一階の男はいたって普通のサラリーマンで、何かトラブルがあったとは今のところ聞いていない。二階の男だって盗みはするが気の小さいやつで、暴力沙汰なんかにかかわっていそうもない」
「ふむふむ」
「昨日今日ですから、まだ情報は不十分なんで、まず情報を集めなければいかん。ということで、楽屋の不審な人物について、少々お聞きしようかと、まあそういうわけで」
「うーん」
- 83 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時28分24秒
- 次に紺野が呼ばれた。これも紺野から聞いた話である。
「そう固くならず、リラックスしてください」
「……はい」
「えーと、昨晩遅く、不審な人物を見かけたんですね」
「……見たのではなく聞いたんです」
「なるほど、なるほど。では始めから聞きましょうか。いったんホテル行きのバスに乗っていたのに、楽屋に戻ったわけは?」
「……吉澤さんがいなかったので、飯田さんに呼びに行くよう言われたんです」
- 84 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時28分57秒
- 「ふむ。それで、楽屋にその吉澤さんはいましたか?」
「……いえ、部屋はまっくらで人がいる気配はありませんでした。それでスイッチを入れて明るくすると、吉澤さんのバッグが大きく開いてあって、中がぐちゃぐちゃに荒されていました」
「で、楽屋から出たら?」
「……出たら、変な足音が聞こえてきました。恐くなってどうしようかと思っていると、飯田さんと安倍さんが来ましたので、いっしょに足音のほうに行きました」
- 85 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時29分30秒
- 「ちょっと待ってね。楽屋から出て、左のほうから聞こえてきたんですね」
「……はい」
「で、三人そろって左のほうに行って、突き当たりをさらに左に曲がって、もう一度左に曲がったら吉澤さんに出くわしたと。あってますね?」
「……はい」
「吉澤さんに会うまでは、何も見ませんでしたか?」
「……いえ、何も」
「ありがとうございました」
これだけの話だったが、紺野への取調べはかなり時間がかかった。「……」のところが非常に間があいていたのである。
- 86 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時30分02秒
- 次は飯田さんだった。
「そうですね、まず吉澤さんがマネージャーさんに呼ばれて楽屋を出ていったところからお話ください」
「明日……もう今日なんですが、朝一番の飛行機に乗らないといけないので、早くホテルに帰ることになりました。それで荷物をまとめてみんなバスに乗りこみました」
「すると部屋には誰も残らなかったんですね」
「そうです。最後に出たのが誰かはわかりませんが、思わず電気を消してしまったようです」
- 87 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時30分53秒
- 「それから」
「吉澤がなかなか来なかったので、吉澤を呼んでくるよう紺野に言いました。すると紺野もなかなか戻ってこないので、わたしと安倍が様子を見に行きました。紺野が薄暗い廊下で立ちすくんでいました。紺野について、足音がすると言ったほうに行くと、吉澤がいました」
「吉澤さんに会うまでに、誰かに会いましたか?」
「いいえ」
若い刑事が入ってきた。
「すみません。手配中の男ですが、当日の足取りがわかりました。コンサートの警備員をしていたそうです」
- 88 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時31分23秒
- 「そうか、わかった……お聞きの通り、死んだ男が警備員のアルバイトをしていたようです。楽屋に忍び込むのはかなり容易ですね……他には」
「どうやらモーニング娘。のファンだったようで、いろんなつてを使って雇われたらしいです」
「最近盗みをやった形跡はあったか」
「いえ、おとなしかったようです。管理人の話だと、かなり弱気になっていたそうです。鬱病気味で病院に通院した時期もありました。長い逃亡生活で神経がやられていたようです」
「なるほど……いや、人気アイドルともなるといろんなファンがいますなあ」
- 89 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時32分07秒
- 次は安倍さんだった。
「……安倍さんも、不審な人物は見なかったのですね」
「ええ、誰もいませんでした」
「すると廊下で雲のように消えたと。もう一度確認しますが、不審でない人物もいませんでしたか?」
「不審な人も、不審でない人もいませんでした」
「うーむ、するとやつはどうやってその場から消えたのか」
また若い刑事が入ってきた。
- 90 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時32分44秒
- 「一階の男ですが、ごく普通のサラリーマンで、トラブルがあったという証言はありません」
「二階の男ともか」
「そうです。それから、二階の手配中の男の衣服から、一階の男の血液や体液が付着していました。これは一目見たらわかりましたが。それから二階の男も右腕、左足を骨折していました。そのほかにも細かいケガをしていました」」
「わかった。とりあえず二階の男の周辺を洗うんだ」
- 91 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時33分27秒
- 最後にわたしが呼ばれた。
「……廊下に出てからどうしたんですか?」
「みんながどこに行ったか、探していました」
「廊下で、誰かを見ましたか?」
「仲間以外見ませんでした……人が殺されたっていうのは本当ですか?」
「そうです。この会場の隣のビルで二人死にました。一階に住んでいた男は、ビルの前の歩道で頭を割られていました。二階に住んでいた指名手配中の男は、自分の部屋で首を吊っていました」
- 92 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時33分56秒
- 「自殺ですか?」
「ところが、二階の男の衣服に一階の男の血液が付着していたとなると、そうは考えづらいんですよ。単なる自殺なら骨折するはずないですし。自殺にしても他殺にしても、一階の男の死と深い関連があると考えるのが当然です。ところが、てがかりが見えてこないんです」
わたしはふんふんとうなずいた。
「そこに、あなたがたの泥棒騒ぎがかかわってきた。一連の死と何か関係があるはずです……いや、あながたが何かをしたとか考えているわけではないのでご安心を」
わたしはほっとした。面倒な事態だけはごめんだ。
- 93 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時34分33秒
- 午前中で解放されて、わたしたちは東京に帰った。途中から収録に参加し、なんとか終わらせることができた。
明日も朝からロケがある。ということでみんな都内のホテルに押し込められた。わたしは梨華ちゃんと相部屋となった。二人でTVを見ていると、部屋に飯田さん、安倍さん、紺野が入ってきた。
「よっすぃ〜、昨日のことなんだけど」
「もう忘れましょうよ」
「だけどさ、せっかく名探偵がいるんだから、推理してもらおうよ」
- 94 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時35分09秒
- その瞬間、梨華ちゃんは名探偵チャーミーとなった。わたしたちはチャーミーに事情を話した。チャーミーは殺人事件と聞いて目を輝かせた。
「ようやく待ちに待った殺人事件ですね!」
チャーミーはソファに体を沈ませた。
「安楽椅子探偵ってのも一度やってみたかったのよね」
「で、梨華ちゃんはどう思う?」
チャーミーは一本の紐を取り出すと、よじったり、結び目を作ったりした。ハヤカワミステリ文庫を読めるまで成長したようだ。
- 95 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時35分37秒
- 「まず何が謎なのか整理しましょう。まず、廊下からその男はどうやって消えたのか。そして二人の男はどうして殺されたのか」
「じゃあ、まずどうやって消えたのかから話してよ」
安倍さんがチャーミーを急かした。
「えーとですね、それはですね……」
チャーミーはそのまま固まった。やがてソファを立ち、勢いよく座り直した。勢いあまって後ろに倒れた。
- 96 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時36分08秒
- 「チャーミー、大丈夫?」
わたしはチャーミーを助けに行った。チャーミーは、後転して途中で止まったような姿勢をしていた。
「いくら石川でも、話を聞くだけじゃ推理しようがないよね」
「そうだね。ごめんね、梨華ちゃん。じゃまして」
「……明日も早いですから、早く寝ましょう」
三人が出て行こうとすると、チャーミーの声が響いた。
「わかりました」
- 97 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時36分47秒
- 三人はふりむいて戻ってきた。わたしは三人の後ろにたって成り行きを見守った。
「わかったって、ほんとに?」
「ほんとにわかりました。では、その指名手配中だった男の足取りを追ってみましょう」
その男はモーニング娘。のファンである。近所でコンサートをやると聞いて、いても立ってもいられなくなり、コンサートの警備員のアルバイトをやることにした。逃亡中の男にしては危険な行動だが、よっぽどの娘。のファンだったのだろう。そして男は、普段は抑えていた悪い癖がでてきた。記念にモーニング娘。のものを何か盗んでやろうと思ったのだ。
- 98 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時37分22秒
- 男は様子をうかがった。みんながバスに乗り込み、わたしがみんなを探している間、楽屋にはわたしの荷物だけが残された。男は早速わたしのバッグをあさったが、紺野がやってくるのを察して、慌ててわたしのセーターだけ盗んで廊下に出た。紺野ら三人から逃げるように廊下を進んだが、前からはわたしがやってくる……。
「で、そいつはどうしの?」
「男はとりあえず、窓を開けてセーターを投げ捨てました。これでもし見つかっても、会場の警備員の服装でいるわけですから、なんとでも言い逃れできると考えたのです。しかし見つからないにこしたことはない。そこで男は別の手立てを考えつきました」
「それは?」
- 99 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時37分55秒
- 「男は窓を開けて、体を乗り出しました。そして窓を閉めてからぶら下がったのです。黒っぽい服だから、夜中では見つからないだろうとふんだのでしょう。そして男は飯田さんたちがいなくなるのを確認してから、廊下に戻りました。唯一の戦利品であるセーターを取りにいきましたが、わたしたちがいたのでできませんでした。男は空しく自分の住むビルに帰りました」
男は服を着替え、自分のしたことを反芻した。なんとくだらないことを自分はしたのだろう。鬱の気質があった彼は、自ら人生を終える決意をした……。
- 100 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時38分29秒
- 「男はビルの屋上から飛び降りました。ところが運が悪い人間がいました。一階の住人です。一階に住む男はちょうど帰宅するところでした。そして自宅の前の歩道を歩いていると、上から降ってきた男と衝突したのです」
一階の男は頭蓋骨を割られて即死した。二階の男は腕と足を骨折した。二階の男は体をひきずりながら自室に戻り、今度は縊死を選んだ。そしてようやく安楽な死を向かえることができた……。
- 101 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時39分01秒
- 沈黙がこの部屋をつつんだ。しばらくすると、チャーミーの体が横に倒れ、うーんとうなりながら立ち上がった。
「さすが梨華ちゃんだ」
「石川に聞いてみてよかったよ」
「……石川さん、素敵です」
みんながチャーミーを賞賛した。チャーミーは頭をかきながら笑みをこぼした。
- 102 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月25日(金)22時39分33秒
- おしまい
- 103 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月25日(金)22時40分37秒
- 次回、チャーミーが犯罪界の帝王ダーヤスと対決!
- 104 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月25日(金)22時41分55秒
- 『チャーミー最後の事件』また来週!
- 105 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月26日(土)03時21分01秒
- >>103
最後は谷底に落ちるのかよっ!!(w
もっと続けて欲しいのう・・・
- 106 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)15時40分30秒
- >>105
もう、続けるのが苦しいです。
- 107 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時41分54秒
- 『名探偵チャーミー最後の事件』
- 108 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時42分31秒
- 「よっすぃ〜のバカ!」
梨華ちゃんが涙目で走っていった。梨華ちゃんを怒らせてしまった。
ごっちんは無言でわたしを見つめている。
……
- 109 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時43分21秒
- 「さっすが梨華ちゃんだね」
「今日も推理がさえてるのです」
チャーミーはぼーっとした顔つきをしつつも、すぐに得意満面の笑みを浮かべた。
不思議なできごとがあると、みんなチャーミーに相談するようになっていた。そしてチャーミーの名声はハロプロ内部にとどまらず、若い芸能人を中心に広がっていった。
- 110 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時43分58秒
- ある日のこと、メンバーの何人かでプロ野球を見に行くことになった。行ったのは、ごっちん、梨華ちゃん、わたし、高橋、小川の五人だった。東京ドームでの巨人戦だったが、五枚だけチケットが手に入ったのだ。その夜時間が開いていたのはこの五人だけだったので、もめることはなかった。
席はライトスタンドだった。応援団からは少し離れていたので、やかましい騒ぎにかかわることはなかった。
- 111 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時44分34秒
- 「松井選手、ホームラン打てー」
「入来さん、がんばれー」
みんな試合に興奮して応援を続けた。試合の途中、わたしと梨華ちゃんは席を離れた。売店でお菓子を買うためである。
「どれにしようかな」
「おみやげとかも売ってるんだね」
- 112 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時45分39秒
- わたしたちはみんなの分のポップコーンとコーラを買っていった。梨華ちゃんがポップコーン、わたしがコーラを運んだ。コーラをこぼさないよう慎重にゆっくり歩いた。梨華ちゃんは小走りに、とっとと行ってしまった。わたしが席に戻ったのはずいぶん後だった。
試合は順調に進んでいった。もう最終回、同点のまま巨人は最後の攻撃に入っていた。打席に松井選手が入った。たくさんのファンが名前を叫んだ。もちろんサヨナラホームランを望んでだ。
- 113 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時46分21秒
- ピッチャーが投げた。松井選手がバットを振りぬくと、乾いた音がした。大歓声がわき起こった。打った瞬間、誰もがホームランだとわかった。わたしたちもそうだった。
打球はライトスタンドに一直線に飛んでいった。ボールはわたしたちのほうに向かってきた。避けようにも満員のスタンドでは大きく動くことができなかった。矢口さん、高橋、小川は両手で顔を覆って体を前に傾けた。梨華ちゃんとごっちんは後ろを向いてよけようとした。わたしは……。
- 114 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時47分10秒
- 矢口さんがゆっくりと両手を顔から離したときには、松井選手はニ塁ベースをゆっくり回っていた。ごっちんは両手をたたいて喜んでいた。
「いたっ」
小川の声がした。小川の席の下にボールが転がっていた。それを高橋が拾い上げた。
「どうしたの?」
「上から落ちてきて、頭にぶつかったんです」
硬球だからけっこう痛いと思う。
- 115 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時47分43秒
- 「さっきのホームランボールかな」
「何か書いてありますよ」
そのボールには、『モーニング娘。さんへ』とつたない字で書いてあった。
「うそ」
松井選手がホームベースを踏んで、仲間たちの手荒い祝福を受けていた。
……
- 116 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時48分30秒
- 試合終了後、わたしたちは喫茶店に入って、先ほどのできごとを検証した。
「これ、松井選手かな、書いたの」
「じゃあ狙ってホームラン打ったっていうの?」
「そんなことできるのかな」
「第一、そのボール松井さんが用意できたのかな」
「投げたのは相手のピッチャーだしね」
- 117 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時49分02秒
- 「じゃあさ、そのピッチャーが書いたってのどう?」
「わざとホームラン打たれたの? 負け投手になったっていうのに」
「松井選手も、ピッチャーも、わたしたちが来るってこと知ってたのかなあ」
「知ってても無理だよ。ボールは審判が渡すんだから」
「ボールボーイだよね。用意できるとしたら」
「でも字が書いてあったら、ピッチャーも気づくんじゃない?」
- 118 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時49分47秒
- そして、みんなの視線が梨華ちゃんに向いた。梨華ちゃんはバッグからパイプを出して口にくわえた。その瞬間、梨華ちゃんは名探偵チャーミーとなった。
「そうですね……」
チャーミーはパイプを懸命になって吸っていた。吸っても空気くらいしか入ってこないのだが。わたしはチャーミーの横に座ろうと思い立ち上がろうとしたが、ごっちんがわたしの右手を握っていてできなかった。
チャーミーは目を閉じた。ほおが少し紅潮してきた。まずい。
- 119 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時50分17秒
- 「えーとですね……」
チャーミーはあいまいな言葉しかもらさない。みんな年下なのではっきりと口にはしないが、不満顔になってきた。
「梨華ちゃんにもわからないことぐらいあるよ。さ、帰ろ」
ごっちんがわたしの手を握ったまま立ち上がった。わたしもそれにつられてゆっくり席を立った。
「あのーですね……あ、わかった……」
- 120 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時51分08秒
- チャーミーが自信なさげに言った。ごっちんとわたしは再び席についた。
「わかったんですか? 石川さん」
「多分……いたずらだよ」
「いたずら?」
「……松井選手も、相手のピッチャーの人も、審判さんも、ボールボーイさんも、あのボールを使うことはできなかったと思う……多分。ということは……あのホームランは普通のボールだった」
- 121 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時51分42秒
- 「じゃあ、これは?」
小川がボールをチャーミーに見せた。
「それは……だから、いたずら。わたしたちが球場に来たことを知った誰かが、急いでボールにあの文字を書いた。そして松井選手のホームランが飛んできた時、それをわたしたちに向かって放り投げたんだよ……きっと」
- 122 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時52分12秒
- 「じゃあ、これホームランボールじゃないんだ」
「うん……だってボールが飛んできたとき、わたしたちみんな目をつぶっていたから、どこにボールがいったか見てないし。別の誰かが拾ったと……思う」
わたしはほうと息をはいた。小川と高橋が、尊敬の眼差しでチャーミーを見つめた。ごっちんは終始無言だった。
……
- 123 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時52分53秒
- 駅で、高橋、小川と別れた。わたしたち三人はごっちんに連れられて、小さな公園に入った。
「どうしたの、ごっちん」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさあ」
「わたしも?」
チャーミーが人差し指を自分に向けて首を傾げた。ごっちんはうなずいた。
- 124 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時53分27秒
- 「梨華ちゃんさ、凄い推理力だよね」
「だって名探偵チャーミーだもん」
「それさ、ほんと?」
「え?」
「ほんとに自分で推理してる?」
チャーミーはうなだれた。多分わたしは蒼ざめて見えただろう。
- 125 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時54分08秒
- 「辻のときとかさ。矢口さんのとコンサートのときは見てたわけじゃないけど、梨華ちゃんの様子おかしいんだよね」
「……おかしいって?」
「梨華ちゃんが推理してるとき、いつも変なかっこうでしてるじゃない。テーブルにもぐってたり、壁向いてたり、砂場に顔をつっこんでたり」
- 126 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時54分39秒
- ごっちんはわたしの顔を見つめた。優しく微笑んだ。
「そしてよっすぃ〜が心配そうに気づかった後に推理を始めるんだよね。よっすぃ〜、何か知ってるんじゃない?」
チャーミーがわたしを不審な目で見つめた。もうごまかせない。
- 127 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時55分12秒
- わたしはポケットから黒く丸いものを二つ出した。一つをチャーミーの首筋に貼りつけ、もう一つに向かって声を出した。
「名探偵チャーミーです」
チャーミーの声が、チャーミーの首筋から出てきた。
「何それ」
- 128 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時55分59秒
- ごっちんはチャーミーの首からそれを手にとった。それは小型スピーカーで、わたしが手にしているのは変声機つきマイクだった。チャーミーそっくりの声が出せる。
『茶髪組合』事件のときに見かけた小学生たち。以前にも、その子供たちにあとをつけられたことがあった。探偵ごっこをしていて、わたしを何かの犯人だと間違えたらしい。そのときわたしは子供たちを捕まえとっちめてやった。そのとき子供たちの保護者らしい、なんとか博士からお詫びにもらったのがこれだった。
「じゃあ、やっぱりよっすぃ〜が推理してたんだ」
- 129 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時56分48秒
- 面白いおもちゃを手に入れて、これでどうやって遊ぼうかと考えていたときに、辻のアメがなくなる事件が起こった。実は、辻がトイレにいっているとき、わたしは珍しいアメがあるんだなと手にしてしまったのだ。そして思わずポケットに入れてしまった。
辻が戻ってきて大騒ぎとなり、言い出せないでいると、チャーミーが探偵ごっこをやり始めた。これはチャンスとばかりにこの機械を使うことにした。その博士からもらったおもちゃはもうひとつあった。麻酔針である。わずか数分しか効き目がない。
- 130 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時57分23秒
- わたしはテーブルにもぐりこみ、チャーミーに麻酔針を刺した。そして小型スピーカーを貼りつけるとテーブルから出た。目立たないようにみんなの後ろに立って、こっそりとマイクを使った。そして加護の持っている袋の中にあると指摘した。もちろん、それはうそである。そしてすばやく加護から袋を奪い、手をつっこんだ。わたしの右手の中にアメを忍ばせていたのだ。そしてあたかも袋の中にあったかのように取り出したのが、真相だった。
- 131 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時58分38秒
- 次の密室事件は、わたしは何もしていない。本気で辻を探していた。みんなの呼び声で辻が部屋に入ってきたとき、わたしはドア付近にいたので気がついた。辻は入ってきてすぐ転んで気を失った。ただそれだけのことだった。
矢口さんの事件は、わたしが仕組んだことだった。サングラスをして、マスクに変声機をしこむだけで、矢口さんはわたしと気がつかなかった。矢口さんの写真はいい値段で売れた。
- 132 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)15時59分27秒
- コンサート会場での事件では、消失事件は身に覚えがあるが、二人の殺人事件のことはまったく知らない。わたしはまっくらな部屋の中で、手探りでバッグを開いてセーターを出した。昼は陽気がよかったが、さすがに夜は冷えこんだのである。セーターをはおるとみんなを探した。
変な足音がする、変な人がいるという紺野の声が聞こえたとき、わたしのいたずら心に火がついた。わたしは窓を開けるとセーターを投げ捨てた。そして少し先に進んでから、紺野たちのほうにゆっくりと引き返した。変な足音とはわたしの足音だったのだ。
- 133 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)16時00分47秒
- 隣のビルの殺人事件はたまたま、同時刻に起こっただけだ。死んだ男がコンサートの警備員だったというのも偶然だ。警察に呼ばれて内心どきどきしたが、あやしがられている様子はなかったので黙っていた。二人の死については完全にあてずっぽうである。合ってるかどうかは知らない。
そして、今回のホームランボールについて。これもわたしのいたずらである。コーラを買ったとき、売店で硬球を一つ買って、サインペンで字を書いた。あとはタイミングの問題だったが、松井選手が最高のホームランを打ってくれた。みんなが目をそむけているときに小川に向けて軽く投げただけだった。本物のボールはわたしたちの頭上を超えて、どこかに消えた。
- 134 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)16時02分34秒
- 計算違いだったのは、チャーミーの推理する場所だった。今までは、みんなに知られずに麻酔針を刺すことができた。ところが、喫茶店ではうまい具合に麻酔針を使うチャンスがなかった。ごっちんは前からわたしがあやしいとふんでいたに違いない。わたしの手を握って離さず、結局わたしは麻酔針を打てなかった。
正直にすべてを話した。終わりのほうはチャーミー、梨華ちゃんの顔を見ていられず、うつむきながらだった。話し終えておそるおそる顔を上げると、梨華ちゃんは震えていた。
- 135 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)16時04分17秒
- 「よっすぃ〜のバカ!」
梨華ちゃんは公園から出ていった。怒るのは当然だ。すべてわたしが悪いんだから。
「よっすぃ〜もいたずらっ子だなあ」
ごっちんにひじでつつかれた。
「梨華ちゃん、追いかけなくていいの?」
- 136 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)16時05分06秒
- その言葉でスイッチが入ったわたしは、駆け足で梨華ちゃんを追った。梨華ちゃんは誰もいない小学校の校庭にいた。梨華ちゃんは、チャーミーは、うずくまって泣いていた。
「ごめんよ、梨華ちゃん……」
返事はなかった。
「でもさ、今日のボールのこと。あれは正真正銘チャーミーの推理だったんだよ。名探偵の推理だったよ、チャーミー」
- 137 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)16時05分38秒
- わたしの慰めの言葉で、ようやく梨華ちゃんは立ちあがった。
「ありがとう、よっすぃ〜」
感謝される理由はなかった。
「でも、もういいんだ。自分で推理したわけでもないのに、自分が解決したような顔をして、いい気になってたわたしが悪かったんだから……もう名探偵はやめる」
こうして名探偵チャーミーはいなくなり、梨華ちゃんに戻った。
……
- 138 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)16時06分23秒
- 翌朝、楽屋に行くと、みんなの元気な声が聞こえた。梨華ちゃんの声がする。元気を取り戻したようだ。
「ねえねえ、あいぼん。スパイって知ってる?」
かくして、今度は女スパイ・チャーミーが誕生した。
- 139 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月27日(日)16時07分07秒
- おしまい
- 140 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)16時08分24秒
- (0^〜^)<『名探偵チャーミー』全5話、おしまいです。
- 141 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)16時09分20秒
- ( ^▽^)<来週からの新番組、よろしくね!(ウソ)
- 142 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)00時17分44秒
- 「名探偵コ○ン」かよ!!(w
「女スパイ・チャーミー」も読んでみたかったな・・・
- 143 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)00時28分49秒
- 相変わらずうまいっすね。
「妄想」のときからずっと見てます。
多分最後に大オチがあるだろうと思ってたらやっぱり(w
次回作も期待してますね。
- 144 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)21時09分36秒
- なにげに『黄昏』 からの続きと深読みする俺
- 145 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)22時10分58秒
- ぐわー
なんじゃこれ
最終回、矢口さんいなかったことにしてくらさい
推敲しろよ……
- 146 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月28日(月)22時24分30秒
- >>142
たぶんつまらないでしょう。
川‘ー‘ノ||=るい(涙腺弱いから)
(0^〜^)=ひとみ
( ‘ д‘)=あい
で『キャッツアイ』……だめだこりゃ
>>143
ばれてましたか
無理のある話ばかりでしたから
>>144
あ〜なるほどです
- 147 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時40分53秒
- 後藤はなんでも知っている
『背の高い女』
- 148 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時41分40秒
- 辻希美の食い意地がはっていることは誰もが認めるところである。その理由は知るところではないが、もはや本能であるとしかいいようがない。
とあるTV局の楽屋にて、辻はケーキを食べていた。ケーキは六個入りセットで、辻は誰にもわけてあげようとは思わなかった。そして誰も辻から奪おうとは思わなかった、とわたしは考えていた。
収録の時間がきた。ケーキはまだ二つ残っている。辻は大事そうにケーキの箱を紙袋にしまった。そしてスタジオに向かった。
- 149 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時42分44秒
- 収録がいったん中断した。ゲームの商品にフルーツが出たので、次の収録が始まるまでみんなで食べることになった。もちろん辻は人の三倍食べた。辻はここで考えた。このフルーツをさっきのケーキに乗せて食べてみたら、さぞおいしかろうと。
辻はこの妙案を実行すべく、楽屋に向かって走った。廊下の角を曲がると、自分たちの楽屋から人が出てくるのが見えた。遠くて誰かはわからないが、スカートをはいているので女の人のようだとはわかった。
- 150 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時43分17秒
- いやな予感がして楽屋に戻ると、はたして紙袋の中からケーキの箱がなくなっていた。さっきのやつに違いないと、辻は走って追いかけた。
TV局はたいへん広い。泥棒の姿は見えるのだが、なかなか追いつかない。廊下を走り、階段を上り、スタジオを通り抜け、階段を降りているうちに、辻は自分がどこにいるのかわからなくなった。
しかし辻は執念深かった。なんとか泥棒の姿を見つけることができた。泥棒はある部屋に入っていった。大きな窓がついているので外からでも様子がわかった。泥棒が棚の中にケーキの箱を隠しているのが遠目でもわかった。
- 151 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時44分35秒
- 辻は捕まえてとっちめてやろうと廊下を走りはじめた。とそのとき、首ねっこをつかまれた。
「辻、こんなところで何やってるんだ。収録があるんだから戻るよ」
辻は両手両足をばたばたさせたが、そのまま飯田さんに引きずられていった。
- 152 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時45分20秒
- 収録後、辻はみんなに訴えた。辻のケーキが盗られた。なぜ辻ばかりがこのような目にあわなければいけないのか。辻が何をしたというのか。辻は不幸な星のもとに生まれたんだ。現代日本語に訳すと以上のようなことをわめきたてた。
みんなはやれやれといった表情で、辻の話を聞くことにした。
「その隠した部屋って覚えてる?」
「よくわからないのです」
「飯田さんはどうなんです?」
「ごめん、覚えてない」
- 153 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時48分31秒
- 「その泥棒に見覚えはあるの?」
「とおくてよくわからなかったのです」
「姿形とか、何か特徴はあった?」
「あのですね、すごくおおきいひとでした」
「大きい? 遠くからでもわかるくらい?」
「そうです。なんだんもありそうなたなのいちばんうえにつじのけーきをかくしていたのがみえたのです。そーとーせのたかいひとです」
しかし、それだけの情報では何もできることがない。みんなで頭をひねったが、いい考えは思い浮かばなかった。
- 154 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時49分03秒
- まあたかがケーキである。辻も少しはダイエットを考えたほうがいい。
という結論が出て今日はおひらきとなったとき、今までぼーっとつっ立っていたごっちんが辻に話を聞きはじめた。
「辻さあ。そのケーキをさ、紙袋にしまったって誰かに話した?」
「だれにもいってないのです」
「ふーん。じゃあ、あたしたちくらいしか知らないってことかあ」
ごっちんは曰くありげな目つきであたりを見まわした。
- 155 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時49分47秒
- 「それでさあ。ほんとにその人は背が高かったんだね」
「まちがいないのです。つじのめはたしかです。おおきなたなのいちばんうえにらくらくとけーきをいれていたのです。つじのせではむりなところです」
「背が高いねえ」
またごっちんが見まわした。飯田さんがぎょっとして口をはさんだ。
「ちょっと待ってよ、後藤。あたしじゃないからね。あたしは辻を捕まえてたんだから」
「カオリには無理だってことはわかってるよ。体が二つでもないかぎり」
じゃあ次に背の高いわたしなのか。
- 156 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時50分24秒
- 「どうなんだろうねえ。あ、そうそう。カオリさあ、辻を捕まえた場所ってスタジオから遠かった?」
「いやそうでもないと思うけど」
ごっちんはもう一度見まわした。特別眼光が鋭いわけではない。だが、その目はすべてを見とおしているような感じがした。
「そうだ、そうだ。辻さあ、その棚ってどんな棚なの?」
「だいどころにおいてあるようなたななのです」
- 157 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時51分00秒
- 「ふーん。台所にあるような棚ねえ。なんでそんなものがTV局にあるのかなあ」
ごっちんはまたここで見まわした。口元は微笑んでいても、目は笑っていない。
「えーと、あたしたちの収録が始まる前さあ、あのスタジオで別の収録があったよね。なんだっけ、確か、ガリバー旅行記の……」
ごっちんがゆっくりとわたしたちを見まわした。口元がつりあがり、悪魔のような笑みをうかべていた。わたしはすべてを知っているぞ、と。
- 158 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時51分35秒
- 「ごめんなさいごめんなさいあやまるからゆるしてゆるして」
いきなり床に這いつくばって謝り出したのは矢口さんだった。その様子にみんなはぼう然となった。
「ちょっと矢口、何やってるんだよ」
安倍さんが矢口さんの肩に手をあてた。
「辻がのん気にケーキなんか食べてるから、ちょっとムカっときて、それで、こらしめてやろうと思って、隠しただけなんだ、だから、だから、許して」
矢口さんの体が震えていた。ごっちんは何も言わず、ぼーっと眺めていた。
- 159 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時52分49秒
- 「ごめんなさいごめんなさいあやまるからゆるしてゆるして」
いきなり床に這いつくばって謝り出したのは矢口さんだった。その様子にみんなはぼう然となった。
「ちょっと矢口、何やってるんだよ」
安倍さんが矢口さんの肩に手をあてた。
「辻がのん気にケーキなんか食べてるから、ちょっとムカっときて、それで、こらしめてやろうと思って、隠しただけなんだ、だから、だから、許して」
矢口さんの体が震えていた。ごっちんは何も言わず、ぼーっと眺めていた。
- 160 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時53分48秒
- 「でもさあ、矢口はあたしたちの中で一番背が低いよね。辻、見間違えた?」
「つじのめはたしかです。たしかにたかかったのです」
辻は矢口を許し、とりあえずケーキを取りにいくことになった。かなりの距離を辻は走ったと言ったが、まっすぐ進めば楽屋からもスタジオからも近いところに例の部屋があった。その部屋は小道具置場だった。
中に入ってわたしたちはあっとなった。中にはソファ、冷蔵庫、テレビ、テーブル、椅子、タンス、そして例の棚があった。わたしたちが驚いたのは、そのサイズが通常の半分だったからだ。
- 161 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年01月29日(火)22時54分30秒
- 近くを通りかかった小道具係さんが言った。
「これよくできてるでしょう。『ガリバー旅行記』の世界を体験しようっていう番組のために作ったんだ。これでみんな小人の国に迷いこんだ感じが出るでしょ。小人からすれば、ぼくらは巨人なんだけどね」
辻が棚からケーキの箱を取り出した。椅子を使わなくても簡単に手が届いた。辻はおいしそうにケーキを口に運んだ。
- 162 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月29日(火)22時55分00秒
- おしまい
- 163 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月29日(火)22時57分20秒
- 箱を開けるまでは何が入っているのかわからなくて
箱を開けなければ幸せなままでいられるのに
- 164 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月29日(火)22時59分41秒
- それでも人間は箱を開けてしまう
それがパンドラの箱と知りつつも
- 165 名前:名無し 投稿日:2002年02月11日(月)10時49分38秒
- あーやっぱ面白い・・・
後藤と吉澤の決して馴れ合わない関係も良いですね。
- 166 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月11日(月)21時08分31秒
- >>165
ありがとう
でも、なんだかもう疲れたよ……
- 167 名前:後藤は 投稿日:2002年02月18日(月)20時56分19秒
- 後藤はなんでも知っている
『楕円の中心』
- 168 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)20時57分21秒
- とある地方でコンサートがあった。開演まで時間があるので、わたしたちは近くの喫茶店で時間をつぶすことにした。
その喫茶店は妙な建物だった。外見はアメリカ西部劇に出てきそうなバーで、なのに左右に開く自動ドアがついていて、中はさっぱりした造りになっていた。
客はけっこう入っていた。全員ひとかたまりで座ることができず、加護、辻、紺野、新垣が奥のほうに、わたし、梨華ちゃん、高橋、小川が中央壁側に、飯田さん、安部さん、保田さん、矢口さんがカウンターにそれぞれ離れて座った。
- 169 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)20時58分47秒
- 「あれ、ごっちんは?」
きょろきょろと見回していると、ごっちんが遅れて喫茶店に入ってきた。ごっちんはしばらく座るところを探していたが、入口近くの席についた。
「ごっちん、こっちきたら?」
「いいよ、ここで」
ごっちんは首を振ってメニューを開いた。
「機嫌悪いんですか?」
「さあ」
高橋の声に、わたしは無愛想に答えた。加護たちのほうをみると、何やら楽しそうに話をしている。話の内容までは聞こえなかった。
- 170 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)20時59分36秒
- 「今度の新曲どう?」
「自分のパートがあるんで、ドキドキしてます」
前曲は安倍さん、ごっちん、そしてわたしだけが歌っていたが、今度の曲はみんなにソロパートが割り振ってあった。失敗すれば目立つことこのうえない。高橋や小川の顔が少しひきつっている。たぶん新垣、紺野も同じ気分だろう。
「みんななら大丈夫だよ」
わたしは二人の緊張をほぐそうと声をかけた。気休めにしかならないが、不安をあおるよりよっぽどましだ。こういうとき、わたしのへらへら顔は有効なのかどうか、未だにわからない。
- 171 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時00分27秒
- 「高橋はパートが多いからね。ほとんどセンターだね」
「センターだなんて、とんでもないです」
梨華ちゃんが余計なことを言う。
「石川さんも吉澤さんもセンターに立って歌いましたよね。どんな気分でした?」
「そうねえ。『ザ☆ピース!』で初めてセンターになったときは、もちろん緊張しまくりだったけど、でもつんくさんに認められてセンターになったわけだから……」
アドバイスを装った自慢話が始まった。
- 172 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時01分41秒
- 今回の曲での高橋の扱いは大抜擢と言えるだろう。『LOVEマシーン』のときのごっちんほどの衝撃はないけれども、他の三人からすれば一歩も二歩も先に行かれたというところだ。わたしや梨華ちゃんは元の位置に戻ることになった。
わたしが気になっているのは、安倍さんとごっちんのことである。二人はモーニング娘。の核であり、二人抜きで歌をうたうことなど考えられない。だが『ザ☆ピース!』以降はセンターとは言い難い微妙な位置にいる。
- 173 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時02分24秒
- 「今度の曲は高橋と矢口さんがセンターってことなのかな?」
梨華ちゃんは気楽だ。図抜けた実力を持つ二人は、今どんな気持ちなんだろうか。
ごっちんのほうを見ると、つまらなさそうにオレンジジュースをすすっていた。わたしは自分のティーカップを持つと、ごっちんの隣りの席に座った。
「何か考え事?」
「別に」
- 174 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時03分13秒
- 何かが聞こえる。人の話し声だ。わたしたち以外の客もそれぞれおしゃべりに興じている。いろいろな声が混ざり合っているのに、その声だけがわずかにはっきりと耳に入ってくる。
……んですか?
……だいじょ……って……
……しろそ……すね……
……じゃ……やくか……
……をみたい……
- 175 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時03分57秒
- 「そうそう」
ごっちんはグラスをテーブルに置いた。
「この喫茶店、なんか妙だと思ったら」
「ん?」
「見てよ、外から見た時は四角い建物だけど、中の壁ゆがんでるでしょ」
- 176 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時05分32秒
- わたしはぐるりと部屋を見回した。たしかに壁の板がなだらかに曲がっている。加護たちが座っている席の向こうの壁で大きく湾曲して、カウンターのほうまで伸びている。
「室内が楕円形になってるんだよ。なんか狭いなあと思ってたんだ」
「ほんとだ。変なお店」
奥に座っている年少グループがいっせいに立ち上がった。飯田さんやわたしたちにあいさつをすると、喫茶店を出ていった。
- 177 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時06分38秒
- 「ごっちんに一度聞きたかったんだけど、最近の曲だと安倍さんとごっちんははっきりとしたセンターってわけじゃなくなったじゃない。どう思ってる?」
「どうって、どうも思ってないよ」
「ほんとに?」
「うん。自分のやらなきゃいけないことをやるだけだよ。なっちはセンターじゃなくてもなっちだし」
別に優等生を装っているというわけでもなさそうだった。
「変なこと聞いてごめん」
「別にいいよ。あたしたちも戻ろっか」
- 178 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時07分18秒
- わたしとごっちんは喫茶店を出て、会場の楽屋に戻った。ドアを開けて入ると、年少グループが輪になって雑談していた。
「何話してるの?」
「よっすぃ〜、よっすぃ〜もこっちきて遊ぼうよ」
加護がパイプ椅子をひきずってきて、わたしに勧めた。わたしがそれに座ろうとすると、ごっちんが腕をひっぱった。
- 179 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時07分58秒
- 「何、ごっちん?」
「ちょっと待って。加護、その椅子、座ってみて」
「えっ、どうしてですか? この椅子はよっすぃ〜の……」
「いいから。座れない?」
加護は黙ったまま立ちすくんでいた。ごっちんがパイプ椅子をいろいろいじくると、ねじが外れてばらばらになった。
- 180 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時08分33秒
- 「そうだね、他には……この後、よっすぃ〜にプレゼントするんだよね、バレンタインのチョコだとかなんだとか言って。中は何が入っているかな……へびのおもちゃだね」
辻がラッピングされた箱を持ったまま固まった。
「そんなことしようとしてたの?」
わたしは加護たちをにらみつけた。
「どうして……」
「どうしてわかったかって? 後藤はなんでも知ってるんだよ」
ごっちんの見下したかのような目つきに、四人は恐れおののいて必死になって謝った。
- 181 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時09分07秒
- コンサートが終わってホテルに戻ると、わたしはごっちんの部屋に言った。同室の保田さんはいなかった。多分どこかに飲みに言ってるのだろう。
「昼間のごっちん、ちょっと恐かった」
「ちょっと怒ってたからね。加護たち、大事なコンサート前なのにいたずらしようとしてたから」
「それそれ、どうしてごっちんわかったの? わたしは全然わからなかったけど」
「あ、あれね。聞こえたの」
ごっちんは事もなげに言った。
- 182 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時09分52秒
- 「聞こえたって、うるさくてわたしには何も聞こえなかったよ。わたしの席のほうが加護たちの席より近かったのに」
「ふつうの店じゃあたしにも聞こえなかったと思う。店内が楕円形だったから加護たちの悪だくみが聞こえてきたんだ」
「楕円?」
「そう。ちょうどね、加護たちとあたしの座ってる席がたまたま楕円の焦点になってたんだ。片方の焦点から音を出すと、壁に反射してもう片方の焦点に音が届くんだよ」
くわしいことはよくわからないが、わたしは感心してしまった。
- 183 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時10分41秒
- 「……娘。だってね。昔は丸い円だった。でもいつからか、あたしが入ってからか、よっすぃ〜たちが入ってきてからかはわからないけれど、だんだん歪んでいって、楕円になっちゃった。楕円で重要なのは中心じゃなくて焦点なんだ。なっちとあたしがその焦点にいる、そう思ってる」
ごっちんはきりっとした目つきでわたしを見すえた。
- 184 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時11分39秒
- おしまい
- 185 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時12分31秒
- パクリといえばパクリか
- 186 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月18日(月)21時13分11秒
- ラストがうまくいかない
- 187 名前:読者M 投稿日:2002年02月19日(火)22時07分09秒
- 本日、読ませていただきました。
コミカル風味の中にドキッとさせられる文句が散りばめられていて、とても面白いです。
これからも頑張ってください。
- 188 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月19日(火)22時17分44秒
- なんかすごい・・・
最近の作者氏の話はネタというより、、、くるものがありますな。
- 189 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)09時58分26秒
- 後藤はなんでも知っている
『鏡に映るひとみ』
- 190 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)09時59分11秒
- その静けさにわたしはたまらない気持ちになったが、だからといって何か言葉を発することなどできなかった。
- 191 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)09時59分48秒
- 安倍さんは表情が険しい。
飯田さんは腕を組んでいる。
保田さんは前かがみの姿勢で一点をにらんでいる。
矢口さんは口をとがらせている。
梨華ちゃんはおろおろしている。
加護はうなだれている。
辻はアイスを食べている。
五期メンバーはきょろきょろしている。
- 192 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時00分24秒
- そして主役であるごっちんは、足を組んで立派な太ももを見せつけている。表情はなく、何を考えているかはまったくわからない。
「よっすぃ〜、もう一度聞くね。よっすぃ〜のアンパンマンのぬいぐるみなんだよね」
わたしは黙ってうなずいた。『13人がかりのクリスマス』でもらったぬいぐるみのことだった。
- 193 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時01分10秒
- 「持ってきたのは今日なんだよね。昨日持ってきて置いてかえったわけじゃないんだよね」
再びわたしはうなずいた。昨夜枕もとに置いて寝たことを覚えている。
「ふーん……確認するよ。この部屋に最初に入ってきたのは梨華ちゃんだったね」
「う、うん。誰もいなくて真っ暗だったよ」
「……ほんとだね?」
ごっちんのつららのように冷たく鋭い視線を受けて、梨華ちゃんは凍りついた。そして何度も何度も首を縦に振った。
- 194 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時01分51秒
- 「その次が、紺野と新垣でいいんだね」
「ひゃい」
新垣の声が裏返った。紺野は息が苦しいのか口をパクパクさせた。
「その次が小川と高橋で、それからよっすぃ〜が来たと」
「そう。まだ他のみんなは来てなかったよ。梨華ちゃんがピンクのプーさんのぬいぐるみを持ってきていたから、わたしもアンパンマンのぬいぐるみを出して、みんなで遊んでたんだ」
- 195 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時02分56秒
- 「次に入ってきたのがあたしだよ」
矢口さんが聞かれる前に答えた。ごっちんの刺し貫くような視線を受けることは、矢口さんにとっては耐えがたいものだったからに違いない。
「よっすぃ〜、やぐっつぁんが入ってきたときはぬいぐるみを手に持っていたんだね」
「うん」
「……次が加護と辻だね」
「そうだよ。よっすぃ〜と梨華ちゃんのぬいぐるみ、覚えてるよ。でも、わたしじゃないよ」
「辻じゃないよー」
辻が泣きそうな声をあげた。ごっちんは鼻で笑った。
- 196 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時04分32秒
- 「次が圭ちゃん」
「あたしはぬいぐるみを見てないね」
「保田さんが来たときは、ぬいぐるみは椅子の上に置いていて、もう手には持っていなかったよ」
わたしが答えると、梨華ちゃんもそれに同意した。梨華ちゃんのプーさんは、かばんにしまったということだった。
「次が飯田さん、そしてあたし」
「わたしも見てないなあ。もうその時にはなくなってたのかな?」
- 197 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時05分14秒
- 「最後になっち。なっちがこれを見つけたんだよね」
ごっちんはボロボロに引き裂かれたアンパンマンのなれの果てを上に掲げた。全体的にぺしゃんこにつぶれていて、鼻と右腕がもげてなくなっている。
「すみっこに捨ててあった。よっすぃ〜の大事なぬいぐるみなのに、ねえ?」
ねえ? と言われても。ぬいぐるみくらいでわたしは泣き出したりはしない。家に帰ればたくさん並んでるし。
- 198 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時05分50秒
- 「誰がやったんだろうね」
「さあね」
安倍さんののん気な疑問に、ごっちんが少しあきれたようね返事をした。しばしの沈黙に、安倍さんは自分もごっちんに疑われているのだということにようやく気づいた。
「なっちじゃないよ。なっちは一番最後に入ってきたんだから」
「……第一発見者が犯人だったということがよくあるんだよね」
安倍さんは蒼白になって自己弁護した。
- 199 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時07分06秒
- 「ぬいぐるみを椅子に置いたときからだよね、問題があるのは」
みんなの行動を確認すると、誰でも犯行が可能だったことがわかった。部屋の中でぬいぐるみをボコボコにしても誰も気がつかなかった。ラジカセから流れているラジオ番組の音、途切れることを知らないおしゃべりの声が部屋を支配していた。
そして何より、誰も自分以外のことに注意していなかった。わたしも含めて、誰も他人が何をしようが関心がないのだ。おしゃべりだって、自分のことしか話さない。お互いに自分を主張するだけだった。それでも、会話になっていなくても、おしゃべりは続いていくのだった。
- 200 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時08分46秒
- 「もういいよ、ごっちん」
「よくないよ、よっすぃ〜」
何が彼女を駆り立てるのか、わたしには理解不能だった。ごっちんは大きなあくびをしながら周りを見回した。その視線に耐えられない者は目をそらすしかなかった。
「……動機」
ごっちんはぼそっとつぶやいた。一番考えたくないところである。誰かがわたしを深く憎んでいるということが推測されるからだ。
するとみんなは口々にわたしとの仲の良さをアピールした。矢口さんは「しゅき〜」と言いながらわたしに抱きついてきた。
- 201 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時09分34秒
- 「……じゃあ、時間的じゃなく、物理的に誰ができたか」
「物理的って?」
「梨華ちゃん。ぬいぐるみの左腕をひきちぎってみて」
梨華ちゃんはうんうん言いながら両手で引っ張った。「えい」と気合の入らない声を出して、ようやく成功した。
「女の子にしてはそ〜と〜力がないとできないよね。すると……」
ごっちんは辻、紺野、そしてわたしの順に視線を投げた。辻はわかってるのかわかってないのか腕まくりして力こぶを作り、自分の腕の太さをアピールした。
- 202 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時10分22秒
- 「……そして一番しっくりする動機……みんなの同情を集めてちやほやされたかった……」
「ちょっと、ごっちん……」
わたしは慌てて抗弁しようとしたところ、ごっちんの瞳がわたしを襲った。蛇眼。見つめられた者はすべて石になってしまうという、ギリシア神話に出てくる化け物。
わたしは思わず、テーブルにあった手鏡を持つとごっちんに向けた。ごっちんの視線は鏡に映る自分を捕らえた。ごっちんは固まった。
- 203 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時10分57秒
- 沈黙がわたしたちを支配した。誰もがどうしたらいいのかわからなかった。
「……違う……その人は部屋に入って、椅子に座った。椅子に置いてあったぬいぐるみは重みでつぶれる……違和感に気づいたその人は、ムシの居所が悪かったのか……寝ぼけていたのもあるかもしれない……思わず引きちぎって部屋の隅に投げ捨てた……」
「ごっちん……」
- 204 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時11分53秒
- 「それは……あたしだ」
ごっちんはそうつぶやくと、勢いよく椅子に座り込んだ。やがてごっちんの寝息が聞こえてきた。
「……寝ぼけてたの?」
「今までずっと?」
まるで今まで息を止めていたかのように、みんなは大きなため息をもらした。
- 205 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時12分47秒
- ここでわたしは少し妄想してみる。なぜごっちんはムシの居所が悪かったのか、アンパンマンのぬいぐるみを憎んだのか。もしかしたらわたしの愛情をいっぱい受けているぬいぐるみに嫉妬したのではないだろうかと。
根拠も何もない、ただの妄想、あるいはわたしの願望にすぎない。答えはごっちんのみが知っているが、もちろんそんなことをごっちんに確かめてみることはできなかった。
- 206 名前:後藤はなんでも知っている 投稿日:2002年02月23日(土)10時13分20秒
- おしまい
- 207 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月23日(土)10時15分06秒
- (0^〜^)
- 208 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月23日(土)10時15分44秒
- (0T〜T)
- 209 名前:読者M 投稿日:2002年02月24日(日)22時30分10秒
- 寝ぼけながらも威圧感があるごっちん・・・、楽屋を支配する緊迫感がいいですね。
- 210 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月25日(月)19時32分27秒
- >>209
どもども
( ´ Д `)<『後藤はなんでも知っている』終了〜
またどこかでね〜
- 211 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月26日(火)22時11分06秒
- 終わっちゃうのでしょうか?
残念…もっとこういう類の小説を読みたいのです
- 212 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月26日(火)23時09分37秒
- >>211
( ´ Д `)<銀板で始めたよ〜
なんか作者さん減っちゃったね〜
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