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今夜、出会えたら

1 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月19日(土)01時13分25秒
どもども、初めてこちらにおじゃまします。
新参者「みるきぃー」ですが以後よろしくお願いいたしますm(__)m

それでは、はりきっていっきまぁーすっ!

『今夜、出会えたら』

喜んでもらえることを祈って……。
2 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月19日(土)01時17分39秒
 バカらしい。
 後藤は自分でそう思う。自分はこんな話を信じるタイプではないはずなの
 だ。なのに、こんなバカげた話を疑いながらも信じたくってこんな夜中に
 山道を登る自分がいる。

『満月が浮かぶ湖で出会えた人と結ばれる事が出来る』

 そんな伝説が残る湖があって、後藤はその湖を目指してこんな真夜中に一
 人で山道を歩いているのだった。
 あの人が来るわけない。
 そして、伝説が本当なのかもわからない。
 そんなことは後藤もわかっている。だけど、何かにすがりたいほどその誰
 かに恋していた。
3 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月19日(土)01時19分45秒
 その恋がいつ始まったのか。それは後藤にもよくわからない。ただ、きっ
 かけみたいなものは確かにあったはずなのだ。

「……梨華ちゃん」

 後藤はそっと恋いこがれる人物の名前を声に出してみる。名前を呼んでも
 何かが起こるわけではない。けれど、後藤は小さな小さな声でその名前を
 囁いてみるのだった。
4 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月19日(土)01時22分56秒
 石川梨華と出会ったのは、確か去年。彼女が後藤の通う高校へ一学期の中
 頃、季節はずれの転校生としてやってきてしばらくたってからだ。季節は
 ずれの転校生がやってきた、ということは転校生がやってきた一年生の中
 で随分と話題になったのだが、後藤は学年こそ一緒だがクラスも違ったし、
 その転校生には興味がなかった。
 このままその転校生と出会うこともなく過ごしていくと思われた一学期の
 終わりに後藤は転校生の石川と出会うことになる。
 日直だったのか、石川は両手に大きな地図と資料を抱えて廊下をふらふら
 と歩いていた。後藤はその姿を見て、こう考えずにはいられなかった。

『要領の悪い子だなぁ。もう一人の日直か友達に手伝ってもらえばいいのに』

 そんなことを考えながら石川をぼーっと見つめていた後藤は、廊下を蛇行
 しながら歩く石川と当然の如く正面衝突することになる。
5 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月19日(土)01時26分17秒
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ。怪我、ありませんか?」

 突然の衝撃に尻餅をつき、資料の山に埋もれた後藤に正面からカン高くテンシ
 ョンの高い声が聞こえてくる。
 後藤はびっくりして声のする方へと顔を上げる。するとそこには心配そうな顔
 をした『要領の悪い子』がオロオロとしながら自分に話しかけているではない
 か。その情けない顔を見ながら後藤はぼーっと考え事をしてしまう。

『あぁ、要領の悪い日直であろう人物とぶつかったのかぁ。この子とぶつかるな
 んて私も要領悪いのかな。』
 
 などと、自分の世界に入り込み考え事をしている後藤を見て、さらに心配が増
 したのか『要領の悪い子』はさらに情けない顔をしながら話しかけてくる。

「あの、あの、すみませんでした。本当に大丈夫ですか?よかったら保健室、
 行きませんか?」
 
 後藤はその一生懸命謝る姿を見ていたら急に笑いがこみ上げてきて、突然
 プッと吹き出すと、心配そうな顔をしている彼女に話しかけた。
6 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月19日(土)01時30分12秒
「大丈夫だよ、怪我ないから。けど、なんで一人でこんなにたくさんの荷物を運ん
 でるの?」
 
 後藤は思っていたことを素直に相手に告げる。けれど、彼女は困ったように微笑
 むだけで、疑問に対する答えを返さない。

「日直なんでしょ?だったら、もう一人日直いるでしょ。もしかして休み?」

 後藤が追い打ちをかけるようにもう一度疑問を口に出す。

「……私、転校生なんだけど、うまくクラスに馴染めなくて。もう一人の日直、
 ちゃんと学校に来てるんだけど、一緒に運ぼうってうまく言えなかったの」
「ふーん、話題の転校生ってあなただったんだ」
 
 後藤は物珍しい物でも見るように彼女を眺める。そして、廊下に散乱している
 資料を集め始めた。

「一緒に運んであげるよ」
7 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月19日(土)01時32分36秒
 どうしてそんな気になったのか後藤は自分でもわからなかったが、なんだかこの
 どこかオドオドとした少女を放っておくことが出来なかったのだ。いつもの自分
 ならこんなに人を気遣うことはしないのだが。

「あ、あのいいです。一人で運べますから」 
「何言ってんの?一人で運べなかったじゃん。手伝うよ。あっ、そだ。私、後藤
 真希って言うんだ。」

 後藤は有無を言わせず、資料を拾い集め、大きな地図を彼女に無理矢理持たせる
 と歩き始めた。一方、地図を押しつけられたオドオドした彼女は焦って後藤の後
 を追いかけてきて頭を下げる。

「後藤さん、迷惑かけて本当にすみません。私、石川梨華って言います。よかった
 らこれからも仲良くして下さい」
8 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月19日(土)01時35分25秒
 何とも言えない微笑みを浮かべながら自分に話しかけてくる石川を見て、
 後藤は素直にかわいいなぁ、と思う。
 困ったように、でもどこか恥ずかしそうに微笑みながら自己紹介をする
 石川を見ると、後藤は何故かウキウキとした気分になっていく。なんで
 そんな気持ちになるのかわからないうちに後藤は、自然と笑顔になりな
 がら、石川に言ったのだった。

「こちらこそよろしくっ!」
9 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月19日(土)01時44分25秒

『石川さぁ〜ん、お誕生日おめでとぉ〜♪』

これを言わなきゃ、ダメダメでしたねっ(^^;)。
今後、忘れ物のないように持ち物チェック(?)をします(笑)。
10 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月20日(日)01時07分31秒
 今、思い返せばあれがきっかけだったのだろうか。
 後藤が『よろしくっ』と言った後、石川がとても嬉しそうな顔をして後藤
 の隣を歩いていた。その顔は見ているこちらが照れてくるほど嬉しそうな
 笑顔で、後藤は石川を教室まで送っていく間、彼女の顔をまともに見るこ
 とが出来なかったのを思い出した。

「やっぱ、あの時に好きになっちゃったのかなぁ」

 誰に伝えるわけでもなく、後藤は一人つぶやく。
11 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月20日(日)01時10分12秒

 山道は急な上り坂というわけでもなく、湖を目指して歩いていくことはさ
 ほど困難な事ではなかったが、やはり夜道は怖い。何か考えたり、独り言
 でもつぶやかなければ言いしれぬ恐怖感に襲われる。
 後藤は自分でも真夜中の山道を歩いていくのが怖いのに、見るからに恐が
 りそうな石川がこんな山道を歩いてくることはないだろう、と考え少し気
 持ちが沈んでいく。 

「梨華ちゃんが来るわけないのに……。」

 何をやっているんだろう、自分は。
 後藤は自問自答してみる。が、答えが出ることはない。
 例え1%の可能性だろうとも、可能性というものがあるのならばそれに賭
 けてみたかっただけなのだ。何故、たった1%の希望だろうともそれにす
 がってみたいのかと聞かれても答えることは出来ない。たとえ石川が自分
 を少しも好きじゃなくても、後藤は石川が好きだ。ただそれだけなのだ。
12 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月20日(日)01時11分23秒

『梨華ちゃんが好き』

 その一言だけが後藤を動かす原動力となっている。
 1%の可能性。
 今から一週間ほど前、後藤は石川にこの湖の伝説を教えた。だが、この湖
 の伝説を知ったからと言って石川がこの場所に来るとは限らない。でも、
 こないとも限らないのだ。
 後藤は石川が来る可能性が少しでもあるならば、そう考えたら多少怖い思いをしてでも湖を目指して歩かないわけにはいかなかった。
13 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月20日(日)01時16分31秒

 石川と出会って数ヶ月、後藤はいつの間にか石川に恋をしていることに気
 がついた。
 初めて石川に会ってから今まで、どれだけドキドキと高鳴る心臓の音を聞
 いただろうか?
 初めは石川のその笑顔や声を聞いているとなんだか楽しくて嬉しくなって
 くるだけだと思っていた。けれど、いつの間にかその嬉しくて楽しい気分
 だけでなく、心臓から送り出された血液が体中を凄いスピードで駆けめぐ
 っていくことに気がついた。
 彼女の甘く優しい声で『真希ちゃん』と呼ばれることがこの上ない幸せな
 ことのように感じられたし、何気なく腕を絡めてくる彼女を離したくない
 という気分にもなった。
 しかし、最初の頃はそれを恋だとは認めたくなかった自分がいた。
 同じ女の子の梨華ちゃんに恋をしている、という事実を認めたくなかった
 のだ。
14 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月20日(日)01時18分24秒

 だが、それは無駄な抵抗にしかならなくて。
 後藤はすぐにその事実を認めるしかない状態におちいる。
 いくら後藤が自分自身が否定をしても、胸が高鳴るのは事実で、石川のあ
 の声で自分の名前を呼んでもらいたくてしかたがない自分に気がついてし
 まうのだ。
 他の誰かではなく、自分の名前を呼んで欲しい。
 後藤はこの気持ちをどのように処理してよいのか、ずっとわからなかった。
 これが恋なのかも自分ではよくわからない。
 いや、わかっているのに相変わらず認めたくない後藤がいる。
 でも、彼女が近くにいると誰といる時よりも安らげ、それでいて心臓が誰
 といる時よりドキドキとするのを感じる。
 この気持ちが本当に恋愛感情なのか友情なのかわからない。けれど、梨華
 ちゃんが好き、という気持ちだけはどうしょうもなく本当なのだ。 
15 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月20日(日)02時01分03秒
良いですな、いしごまは。応援します。頑張って下さいな。
16 名前:blau 投稿日:2002年01月20日(日)13時50分02秒
いしごまいいですね〜
頑張ってください(w
17 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月20日(日)23時47分45秒

 後藤は、日に日に積もるその思いに耐えかねて、ある日の放課後、石川に
 一つの伝説を伝えてみる。

「梨華ちゃん、知ってる?あの山にある湖の伝説」

 後藤は、学校の窓から見える『湖がある山』を見ながら石川に話しかける。
 夕焼けに染まる山が綺麗でそこから目が離せないと装うように後藤は山ば
 かりを見るのだが、本当は石川の顔が照れくさくて見ることが出来ないだ
 けなのだ。けれど、それを知られるのは何だか恥ずかしくて後藤は何でも
 ない風を装いながら話し続ける。

「あの山の湖にはね、『満月が浮かぶ湖で出会えた人と結ばれる事が出来る』
 っていう伝説があるんだ。」
「へぇ、そーなんだ。そんな伝説初めて聞いたよ」

 感心したような声を出して石川は後藤を見つめる。
18 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月20日(日)23時49分49秒

 後藤はそんな声を出す石川の顔が見たくて、思わず夕焼けに染まる山から
 視線を外しそうになるが、かろうじてこらえる。
 今ここで梨華ちゃんの顔を見てしまったら、今まで押さえていた気持ちが
 爆発して、この場で彼女への思いを伝えてしまいそうなそんな気がする。
 後藤はそんな気持ちを自分自身で捕らえてどこにも逃げていかないように
 心の中へ閉じこめる。
 だから、後藤はそんな気持ちに気づかれないように、石川の方は見ずに話
 を続けていった。

「そっか、そうだよね。梨華ちゃんは昔っからココに住んでるわけじゃなく
 て、引っ越してきたんだもんね。でもね、この話はココにずっと住んでる
 人の間では有名な話なんだよ。」
「真希ちゃんはどうなの?」
「へっ?」

 突然の質問に、後藤は山の方へと向けていた視線をつい石川へと向ける。
19 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月20日(日)23時52分24秒

 石川の方へ視線をやった後藤の目には、窓から入ってくる微かな赤い太陽
 の光に照らされた石川の顔が映し出される。
 本人は気にしているが、後藤の目にはこの上なく美しく映る少し浅黒い肌
 が夕焼けに染まって何とも言えず綺麗で、後藤は言葉もなくただただ石川
 を見つめるしか出来ない。

『どうして彼女はこんなに綺麗なんだろう?』

 後藤は、石川から向けられた質問に答えることを忘れて、ただただ石川を
 見つめ続ける。さっきまで石川を見ることをためらっていたことさえも忘
 れたように。

「ねぇ、真希ちゃん。真希ちゃんってばっ。どうしたの?」

 気がつけば、ぼーっと自分を見つめる後藤に石川は心配そうな声で話しか
 けている。

「あっ、あっ。ごめん。何の話だっけ?」

 石川を見つめていた事に気がついた後藤はすっとんきょうな声を出して、
 見つめていたことをなかった事にするかのように石川に話しかけた。
20 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月20日(日)23時56分21秒

「もぉっ、真希ちゃん。人の話、ちゃんと聞いてよねっ。あのね、真希ちゃ
 んはどうなのかって、私は聞いたのっ。」
「いや、だからさ、梨華ちゃん。『どうなのか?』って何が?」
「だーかーらぁ、真希ちゃんはその伝説信じてるの?信じて湖に行ったこと
 があるの?って聞いてるの」

 後藤は、石川があまりに主語を省略して話すので、それじゃあ意味が伝わ
 らないよ、と思ったが、それついてはあえて追求をしなかった。何故なら、
 石川のあまりに意味不明な質問に、後藤は今までもやもやと心の中に渦巻
 いていた色々な思いから解放されることが出来たので、かえって助かった
 と感じていたのだ。
 まぁ、石川の方はさきほどの質問で意味が通じなかったことを不満に思っ
 ているようだが、本人はあれで通じると思っているのだから仕方がない。
21 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月20日(日)23時59分36秒

 とりあえず後藤は石川が不満そうにしているので早めに返答を考え、その
 答えを口に出す。

「どうかな。最近は伝説を信じてもいいかなぁ、とは思ってるけど……。
 んー、でも、今まではあんまり信じていなかった。だから、満月の夜に
 湖へ行ったことないよ。」 

 後藤がそう答えると何やら石川は複雑そうな顔をして、拗ねたような口調
 で後藤に話しかける。
22 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月21日(月)00時03分21秒

「最近は信じてもいいって、それってさ、最近好きな人でもいるって事?」
「えっ?ええぇ〜。な、何でそーゆーことになるのさっ」
「だって、なんか怪しいもん。急にそんな大きな声出すのもおかしいし」
「別にさ、そーゆーわけじゃなくて。ほ、ほら、何となく信じてみたいだけ
 なんだって。それよりさ、梨華ちゃんこそ、なんでそんなに拗ねてるの?」

 石川に鋭いところを突かれた後藤はしどろもどろになりながら、反論を試み
 る。急に大声を出したあげく言い訳がましく無理矢理会話を違う方向へ持っ
 ていこうとするものだから、どうにもこうにも後藤の態度は不自然な感じに
 なってしまう。しかし、後藤はそんなことにかまっていられる余裕もない。
 石川に『好きだ』という思いを伝えたい自分と、伝えたくない自分が後藤の
 中に常に存在する。結局、いつも伝えたくないという臆病な自分に勝つこと
 が出来ず、『好きだ』という思いを隠さずにはいられないのだ。
23 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月21日(月)00時13分28秒

 今日の更新はここまでです(^-^)。
 明日は仕事の都合上、更新出来そうにないので多めに更新してみました。

 >>15
 初レス!に、ちょっと感動♪
 小説の中のごま、がんばってます。だから、私もがんばって更新しますよん。

 >>16 blauさん
 小説の中のいしごまに負けないよう、これからもガンガンいきますっ!

 レスもらえると嬉しいですねぇ。
 喜んで更新してしまいました(笑)。
 ではでは、これからもよろしくですっ。
 
24 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月21日(月)05時07分32秒
良さげな作品発見。後藤の複雑な心情がよく伝わってきますな
25 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月21日(月)15時38分16秒
面白そうがんばって下さい。
26 名前:blau 投稿日:2002年01月21日(月)18時57分20秒
ごっちん・・・複雑ですね
なんとなく気持ち分かります(泣
27 名前:さるさる。 投稿日:2002年01月22日(火)01時43分00秒
わーい、久々に見つけたいしごまだぁ。嬉しい。
なんだか、おもしろそうです。更新が楽しみ。
28 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月23日(水)00時18分41秒
 だから、いつものように石川に自分の思いを気づかれないように、ただひ
 たすら自分自身を弁護するしかないのだから、不自然な行動になってしま
 ってもしょうがないと言えばしょうがないのだが。
 一方、石川はといえば、急に自分の方に話が振られたものだから、驚いて
 さらに拗ねたように後藤へと言葉を投げかける。

「拗ねてなんかないもんっ。もし、拗ねてるとしたら真希ちゃんが悪いんだ
 からね」
「どーして?なんで私が悪いんだよぉー。梨華ちゃんが勝手に拗ねてるだけ
 じゃん」
「真希ちゃんがいじわるだからだもんっ」
 
 後藤はそんな風に拗ねてぷいっとあらぬ方向を向く石川がたまらなく愛お
 しく思えて、思わず後ろから石川を抱きしめる。
 その瞬間、後藤の心臓が激しく動き出す。

『どうかこの心臓の音が梨華ちゃんに聞こえませんように』

 後藤は祈るように思う。
29 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月23日(水)00時23分20秒
 そんな後藤の思いが神に通じたのか、後藤の心臓の高鳴りに気がつかない
 かのように石川は自分の腰の辺りを抱きしめる後藤の腕に自分の手の平を
 そっと重ねる。
 そして、静かに話しかけた。

「ねぇ、本当に好きな人がいるの?」

 どこか震えるような石川の声にびくっとして、後藤は石川を抱きしめてい
 た腕を自分の元へと戻してくる。
 その好きな人は石川だと言えればどんなに楽になるだろう。
 後藤の脳裏にそんな考えが浮かんでは消える。
 けれど、それを言ってしまえば、もう友達には戻れないかもしれない。
 うまくいけば『恋人』という存在になれるかもしれないが、その可能性
 はあまりにも低く思えて、後藤は最後の一歩をいつも踏み出せないでい
 た。そして、今この瞬間もやはりその最後の一歩を踏み出すことは出来
 なかった。
 結局、後藤はその石川の質問に答えることも出来なくて、二人の間に気
 まずい沈黙がのしかかる。
30 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月23日(水)00時26分19秒
 石川はそんな後藤の思いに気づいているのかいないのかわからないが、不
 満そうながらも後藤を追求することを諦め、この沈黙をうち破るように大
 きな声で後藤に告げる。

「いーけど、別に。言いたくないならもう聞かないから」

 そう言うと、石川はくるりと後藤の方へ向き直る。
 まだ拗ねたような声と顔つきはそのままで、とりあえず石川は会話を終わ
 らせようとした。
 しかし、後藤は大事なことを聞き忘れたとでも言うように話を続ける。

「待ってよ。梨華ちゃんばっかり質問するのズルイよ。私にも聞かせて
 ほしいな」
「何を?」
「梨華ちゃんはいるの?・・・・・・好きな人」

 最後の『好きな人』というセリフの時には後藤は石川の方を見ることが出
 来ず、廊下に視線をやる。
 それでも、後藤は今まで聞きたくても聞けなかったことを思い切って聞い
 てみることが出来た。
31 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月23日(水)00時28分07秒
 今まではもし本当に好きな人がいたら、と思ったら怖くて出来なかった質
 問。でも、今日は今までの話の流れと勢いで石川に聞いてみる。
 けれど、後藤はすぐに後悔する。こんなこと聞かなきゃ良かったと、聞い
 てみたことをなかった事にしたい気持ちで一杯になってしまう。
 そんな気持ちを抱えながら石川の方をチラリと盗み見ると、そこには夕焼
 けで赤く染まっているのとは明らかに違う、頬を自ら紅潮させた石川が瞳
 に映る。
 そしてその石川の瞳が自分の方を見ているように思えてくる。

『そんなわけないよ。きっと気のせいだ』

 後藤は自分自身の甘い考えを即座に否定する。
 夢みたいなことを考えていても最後に傷つくのは自分だ。
 臆病な自分がすぐに顔を出して後藤をいつも弱気にさせていくのだった。
32 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月23日(水)00時32分21秒
 そんな自分を嫌悪しながら後藤は石川の名前を呼ぶ。

「梨華ちゃん」

 後藤がそっとつぶやくと石川は我に返ったように手をぶんぶんと顔の前で
 振りながら否定の言葉を口に出す。

「違うよ。違う。好きな人なんていないもんっ」

 その声はテンションが高いときに出す石川の声で、いつもより一オクター
 ブほど高いものだった。その声色に、それは否定にならない否定だという
 ことに後藤は気がつく。

『ほら、やっぱり。誰か好きなんがいるんだよ』

 後藤はその声と表情に絶望的な気持ちになりながら、石川に湖の伝説を
 伝えた。
 絶望の中にわずかな希望を持ちながら。
33 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月23日(水)00時37分19秒

「あのね、次の満月は一週間後だよ。伝説が本当かどうかはわからないけど、
 好きな人がいるなら行ってみる価値はあるかもね」
 
 なるべく石川の顔を見ないように後藤は話を続ける。

「好きな人が来るかはわからないけど、行かないよりは可能性があるから」
「ねぇ、真希ちゃんは行ってみるの?」

 石川のどこか苦しげな声が後藤の耳に流れ込む。けれど、後藤はそれを無
 視するかのように素っ気なく言った。

「どうだろ?わかんないよ」

 後藤は石川のすがるような瞳を見ることなく自分の言葉だけを伝えると、
 その場を立ち去る。
 しかし、後藤は祈ることを忘れてはいなかった。

『神様、もし存在するならば私の願いを聞いてください。
 どうか、梨華ちゃんがあの湖に来ますように』
 
 神様にお願いしたって叶うわけがない。だが、後藤は祈らずにはいられな
 いほどに石川の存在を欲していたのだった。
34 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月23日(水)00時57分48秒

 本日更新分、終了!
 昨日は仕事に励んでました(出来れば励みたくないが(^^;))。
 仕事してるより、更新してる方が楽しい(笑)。

 >>24
 良いだなんて・・・。素直に嬉しいです(笑)。
 今回も、後藤さん、ぐるぐると考え続けてます。早くぐるぐる
 な心境から解放されるよう祈っておいてください(^^;)。

 >>25
 ありがとうございます。そう言って頂けると励まされます♪
 
 >>26 blauさん
 後藤さん、思考がぐるぐる状態です(^^;)。
 自分の気持ちを持て余して、言いたくても言えない、そんな
 後藤さんを応援してあげてください。

 >>27 さるさる。さん
 今回の更新、ご期待に添えたでしょうか?ラストまで、面白い!と言って
 もらえるような更新が出来るようにがんばりますっ。
 ・・・いしごま小説、あまりないので自分で書きました(笑)。
 
35 名前:blau 投稿日:2002年01月23日(水)01時00分27秒
更新お待ちしておりました。
ごっちんの気持ちが分かる内容です
言いたくても言えない・・・
言ったら壊れてしまいそう・・・
ごっちん頑張れ!(w
36 名前:aki 投稿日:2002年01月23日(水)01時06分46秒
いい感じですね^^
二人のやり取りがとても可愛いです。
新しいいしごまは久しぶりなんでかなり嬉しいです(w
がんばって下さい!
37 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年01月23日(水)09時28分10秒
ごっちんが切ないですなー。
ここはごっちんと梨華ちゃんを応援するしかないな。(^〜^)
みるきぃーさん、頑張ってください。楽しみにしています。
38 名前:名無し梨華 投稿日:2002年01月24日(木)00時26分50秒
ピュアごま萌え。
ああうもうじれったい!(w

作者さんがんがれ〜
39 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月24日(木)23時43分38秒
 
 
 あの様子からして梨華ちゃんは誰か好きな人がいる。
 後藤は一週間前の出来事を何度も想像してはうち消してきた。だが、あの
 石川の赤く染まった頬を忘れることが出来ない。

『一体、誰なんだ』

 あの日からその思いは強くなる一方だった。石川の心を独占している人物、
 それが気になって仕方がなかった。けれど、あの会話以来、お互いに好き
 な人の事を聞きづらくて、意識的にそういう会話を避けていたのが事実だ。
 後藤は石川の幸せを願いながらも、石川の想い人が自分だったらと願わず
 にいられない。
 だからあの時、石川がこの湖に来るように仕向けたのだ。

『好きな人が来るかはわからないけど、行かないよりは可能性がある』

 好きな人が本当にいるのならば、石川の一途そうな性格からすれば来るか
 もしれない、後藤はそう思いこもうとした。
 実際に来るかはわからない。しかし、後藤は1%の可能性に賭けてみたかった。
40 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月24日(木)23時46分29秒
 石川が誰を思ってこの湖に来るかはわからない。
 自分の思い人ではなく後藤とこの湖で出会ったら落胆するかもしれない。
 だがそれでも、石川が後藤をどう思っていても、たとえ嫌われても後藤は
 この湖で石川と出会いたかった。
 そんな自分はバカだし、自分勝手だと後藤は思う。
 伝説を信じていたって、それだけじゃ何の役にも立たない。相手の気持ち
 と自分の気持ちが通じ合うことに意味があるのだ。伝説だけがあったって
 どうしょうもない。
 たとえ石川とこの湖で出会ったって、石川の気持ちがなければ意味がない
 ことぐらいわかっているつもりなのだ。
 それでも、石川とこの湖で出会うことをただひたすら望んでいる自分は何
 なんだろう?
 考えても考えても出ない答え。
 あれから一週間。後藤はその答えをずっと探し続けていた。けれど、答え
 を見つけだすことは結局出来なかった。
41 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月24日(木)23時48分32秒

『もし梨華ちゃんがこの湖に来たらその答えは出るのかな?』

 答えが出るような気もするし、出ない気もする。
 結局、自分は何も変わっていないのだ。
 後藤はそんな変わらない自分が嫌になってくる。
 石川が好きだと気がついた自分。 
 それを否定し続ける自分。 
 気持ちを認めてもなお、その気持ちを石川に知られたくない自分。
 そのくせ、石川が自分を好きになってくれることを望む自分。
 無茶苦茶だ。後藤は自分でもそう思わずにいられない。
 気持ちを否定しながらも石川が好きで、気づかれたくないくせに好かれた
 いなんて虫が良すぎる。
 それとも誰かを好きになったらみんなこういう気持ちになるのかな、とも
 考えてみる。しかし、後藤は今までこんなに人を好きになったことはな
 かったから、それについても答えを出すことが出来ない。
42 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月24日(木)23時50分44秒
 知らず知らずのうちに後藤の足は重くなっていく。
 もうすぐ湖に着くのだが、どうにもこうにも足が進んでいかない。石川へ
 の思いや、自分への思いが渦巻いて足を進めることが出来ないのだ。
 それに、石川が来ていないことだけでなく、来ていることさえも怖くなっ
 てきて気持ちが沈んでいく。
 だが、後藤は心の奥底に少しだけ残っている勇気を振り絞って少しずつ湖
 へと近づいてった。

「梨華ちゃんがいてもいなくても湖まで行かなきゃダメだ。こんな気持ちじゃ、
 ダメなんだ。進まなくっちゃ……。じゃなきゃ、私は変われない」

 自分を励ますように気持ちを言葉に出して後藤は進んでいく。
43 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月24日(木)23時54分07秒
 重たい足を一歩一歩前へ出して。自分を変えたいと心の底から願って。
 もし石川がいたら、今日こそ自分の気持ちを伝えなければならないのだから。

『もう一歩、あと一歩で湖に着く』

 この目の前にある茂みを抜ければそこに伝説の湖がある。
 後藤は知らぬうちに立ち止まって大きく深呼吸をする。
 今まで自分の心の中に住んでいた弱虫な自分が顔を出してくる。湖になん
 か行かずにこのまま逃げ出しちゃえ、そんな声が心の中から聞こえてくる
 ような気がして後藤はさらに大きく深呼吸をして自分の心を落ち着ける。
 満月に自分が照らされていることを感じられるようになった瞬間、後藤は
 覚悟を決めて目の前の茂みをかき分けて湖の前へと進み出る。
 そんな瞬間だった。
44 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月25日(金)00時02分41秒

「きゃあー」

 後藤の耳にどこかで聞いたことがあるような声が流れ込んでくる。

「えっ?り、梨華ちゃん???」

 そんなことがあるわけないと頭のどこかで考えるけれど、後藤の耳に響
 く声は間違えようもない石川の声で、後藤は驚愕する。
 石川の声を自分が間違えるはずはないのだ。
 けれど、石川がこの湖にいるという事実も信じられなくて、後藤はとり
 あえず声が聞こえた方角に向かって走り出す。
45 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月25日(金)00時05分34秒
 自分がいるのとは反対側の湖の端に白い誰かが倒れている。
 一体、こんな真夜中に誰がいるんだよ!?梨華ちゃんみたいな声なんて紛
 らわしいんだって!と、後藤は自分の事は完全に棚に上げ、しかも石川
 じゃないと勝手に決め付けながら声の主に近づいていく。
 声の主がどんな人物か月明かりに照らされて分かる場所まで来ると、後藤
 は言葉を失う。

『だって、だって、そこにいるのは……』

 声を出すことさえ忘れてしまった後藤は、心の中でつぶやく。そして、
 自分をここまで走らせた元凶を見つめる。
 後藤の目の前にいるのは、白いシャツに花柄のスカート、その上から
 薄手のコートを羽織って、湖の浅瀬で尻餅を突いている石川梨華、
 その人だった。
46 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月25日(金)00時24分52秒
 
 本日の更新分終了!
 何故か夜になるとファンヒーターの調子が悪くて、ちょっとばかり寒い部
 屋で更新作業をしております(笑)。

 >>35blauさん
  後藤さん、一歩一歩進んでおりますっ!
  私も気合い入れて一歩一歩更新しております(^^;)。
  ・・・当然、不機嫌ファンヒーターにも気合いをいれながら(笑)。

 >>36akiさん
  akiさんの小説読ませてもらってますよぉー♪
  石川&後藤が、良い感じになるようにがんばりますっ。
  akiさんの小説も楽しみにしてますので、がんばってくださいねっ。

 >>37いしごま防衛軍さん 
 切なくてかわいい後藤&石川を目指して書き始めたので、そーいって
 もらえると嬉しいです♪
 期待を裏切らないようにがんばりますっ。

 >>38名無し梨華さん
 がんばりましたっ!
 そして、今回もじれったいです(笑)。
 
47 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年01月25日(金)10時48分55秒
この後どうなるのかすんごく楽しみです。
梨華ちゃんは何を思って湖に来たんでしょうか?うーん、気になる。
みるきぃーさん応援しています。頑張ってください。
48 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月26日(土)00時07分37秒

 今日は更新なしですが、ちとお知らせを。
 次回がラストになるので、まとめて更新しようと思います。
 というわけで、土曜か日曜の晩にはアップしますのでしばしお待ちを。

 >>47いしごま防衛軍さん
  ふっふっふっ、次回で全て(?)が明らかになります。
  ラストをお待ち下さい♪
49 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)04時42分28秒
もう次回ラストですか…早いなぁ。
楽しみにしてますよ
50 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月27日(日)23時26分20秒
 湖の水でスカートを濡らしてしまい半べそをかいている石川は、月の光を
 遮る人の気配を感じて、下から自分を呆然と見つめる誰かを見上げる。

「……真希ちゃん?」

 こちらも呆然といった感じで、石川は半べそをかくのも忘れて後藤に話し
 かけてくる。

「梨華ちゃん、なんでそんなにドジなの?」

 後藤は石川がこんなところで湖に浸かっていてびっくりしたのと、急に石川
 から名前を呼ばれて混乱したので、思わず自分でも何でこんなことを言って
 しまったんだろう、と思うような言葉を発してしまう。
51 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月27日(日)23時28分23秒

「なっ!ひっどーい!!こんなところで会って言う言葉じゃないよっ!私は
 ドジなんかじゃないもん」
「んじゃ、なんでこんなところで、しかもこんな時間に水浴びしてるわけ?」
「これが、水浴びしてるように見える?私はここで何かにつまずいて転んだ
 だけなんだから。そしたら、こーゆー事になっちゃたのよ」
「それがドジっていうんだよ。知らなかった?」
「もぉ、真希ちゃんっていっつも意地悪だ」

 石川がいつものようにむくれながら後藤に言い訳する。
 すぐにムキになるところがかわいいと、いつもこういう石川を見ると後藤
 はそう思わずにはいられない。
 しかし、どういうわけか話の展開が、後藤の最初の一言のおかげで、後藤
 が思っていたものとはかけ離れたものになっている。
 これではいけない、と後藤は気持ちを切り替えることにした。今日ここで
 石川に話さなければならないこと、それは石川がドジである、というわか
 りきった話ではないのだ。
52 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月27日(日)23時30分00秒
 今日、ここで話すべき事。
 それは今までの思いを石川に伝えることなのだ。
 後藤は、素直に石川へ気持ちを伝えようと思う。
 石川が思いもよらずこんなところで水浴びをしていたせいで、後藤は今まで
 うだうだ考え込んでいた、自分を深い溝の部分に叩き落とす考えから解放
 される。
 そして、勇気だけが気持ちの中に残る。
 いつもこんな風にして意識せずに人を和ませる雰囲気を作り出す石川に感謝
 しながら、後藤は自分の気持ちを今日こそ伝えようと、息を吸い込んだ。
 結果じゃないんだ。もちろん結果も大事だが、それ以上にそれまで色々な事
 を考えてきた自分に意味があるんだ。
 だから、後藤はこの告白の結果がどうなろうと石川の答えをしっかりと受け
 止めようと思う。
53 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月27日(日)23時32分58秒

「ねぇ、梨華ちゃん」 
「ん?何?」

 後藤の今までとはうって変わった真摯な声に石川が急にどうしたの?とい
 うように答える。

「あのね、梨華ちゃんがここに来てくれてよかった。本当によかった。
 梨華ちゃんは私じゃなくて他の人とここで出会いたかったかもしれないけど、
 私は梨華ちゃんとここで満月の夜に会いたかったの」

 そこまで一気に石川に伝えると、後藤は今から伝える言葉を口に出すのを
 少し躊躇うように唾をごくんと飲み込む。
 そして、石川から背けたくなる自分の瞳を無理矢理石川へと向けると後藤
 は今まで言いたくても言えなかった言葉を口に出す。

「なんで今日、ここで梨華ちゃんに会いたかったかって言うとね、
 私、ずっと、ずっとね。……梨華ちゃんのことが好きだったんだ」
54 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月27日(日)23時34分08秒

『やっと、やっと言えた』

 後藤は今まで口に出せなかった言葉をようやく石川に伝えると、手足から
 力が抜け落ちるような感覚に襲われる。
 達成感と不安感が後藤の心の中に入り交じる中、石川の返事を待っていた
 のだが、彼女の返事はなかなか返ってこない。

「梨華ちゃん?」

 後藤は不安を押し殺して石川におそるおそる声をかけるが、それでも返事
 がなくて困った後藤は石川の顔をのぞき込む。
 そこには、瞳から涙をこぼす石川がいて。
 後藤はたまらず石川に謝罪する。
55 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月27日(日)23時36分16秒

「ごめんね、ごめんね。梨華ちゃん。もう、困らせないからこっちを向いて」

 後藤が優しくそう言うと、石川が突然大声を出す。

「真希ちゃんのバカッ!鈍感っ!」

「なっ、何?それっ?」 

 思いもよらぬ答えに、後藤は目を見開いて石川を注視する。
 拒絶の言葉か、少しだけの可能性で自分を受け入れる言葉。その2つしか
 考えていなかった後藤は、ただ驚く以外の方法を思いつけない。
 そもそも鈍感というのはどういうことなのだ?

『私が鈍感なら梨華ちゃんだって、鈍感だ』

 自分の思いにいつまでも気づいてくれない石川に、後藤は思いを伝えようと
 してこなかった自分を忘れ去ってそう思う。
56 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月27日(日)23時38分51秒
 そんなことを考える後藤をさらに驚かせるように、石川が新しい言葉を
 後藤に告げる。

「何で気がつかないのよ」

 自分の考えていることを覗いたかのような石川のセリフに後藤は驚きを
 隠せない。
 しかし、後藤を驚かせた張本人はといえば、そんな後藤をかわいく睨めつ
 けている。
 何故だか後藤は、そんな石川を見ていると新たに謝罪しなければという考
 えに捕らわれていく。自分に向けられてくる石川の想いが何なのか理解で
 きない後藤は、結局、自分を鈍感だと言い放った彼女へもう一度小さく
 謝罪した。

「……ごめん。それって、私の気持ちが迷惑ってことだよね?」

 石川は黙って首を横に振る。

「違う、反対だよ?……真希ちゃんのバカ」
「反対って?」
「嫌いじゃないって事、だよ」

 石川が涙声で後藤にだけ聞こえる小さな声で囁く。
57 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月27日(日)23時43分01秒
 そのつぶやきともとれる小さな声を後藤が聞き逃すわけがないのだが、後藤
 は思わず遠慮がちに聞き返す。

「梨華ちゃん、今、なんて言ったの?」
「あのね、学校に馴染めなかった私に色々優しくしてくれたでしょ?私、
 真希ちゃんといると今までが嘘みたいに毎日が楽しかった。嫌いだった
 学校が大好きになった。そしたら……そしたらね、いつのまにかね、
 真希ちゃんのことが……」

 遠慮がちにそう言う石川が目の前にいる。
 うそだ。
 しかし、そんな石川を見ても後藤はそう思わずにはいられなかった。石川
 がこんなことをいうわけない。何故だか、後藤は石川の思いを否定してし
 まう。
 だって、こんなに嬉しいことがありえない。石川が自分を好きだなんて、
 そんなことありえない。
58 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月27日(日)23時45分11秒
 そんな後藤の気持ちに気がついたのか、石川は湖に入ったまま立ちつくす
 後藤をそっと抱きしめる。

「嘘なんかじゃなくて、本当に私も真希ちゃんが好き」
「嘘だよ」
「何で?何で嘘だと思うの?それじゃ、真希ちゃんがさっき言ってくれた
 言葉も嘘なの?」
 
 後藤を抱きしめたまま、石川が少し寂しげに問う。
 その寂しげな声に反応するように、後藤は大きな声で否定する。

「違うよっ。私が梨華ちゃんが好きなのは本当だよ。嘘なんかじゃないっ。
 ここに来るまでだって、ずっと梨華ちゃんの事考えてた」
「じゃあ、どうして私の言葉は信じてくれないの?」
「だって、だって、嬉しすぎるんだもん。そんなことあるわけないって、
 ずっと思ってた。だから、こんなに嬉しいことすぐには信じられないよ」
「真希ちゃん」

 大きな声で自分の言葉だけは信じてくれと主張する後藤がかわいくてたま
 らないというように、石川は優しく優しく後藤の名前を呼ぶ。
59 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月27日(日)23時47分18秒
 その優しげな声を聞いた後藤は、自分の足の辺りを優しく抱きしめる石川
 をじっと見つめる。
 この湖に優雅に浸る石川が自分を好きだというなんて信じられない。けれど、
 その優しくて甘い声と自分を優しく抱きしめる腕は本物で、後藤はどうしょ
 うもなく幸せな気分になる。
 そして、後藤の足を濡らす湖の水ではないもの、石川の涙が後藤の心を熱く
 する。
 こんな場所で転んで季節はずれの水浴びをしているようなドジで、誰かに声
 をかけることすら躊躇って学校に馴染めないでいる要領の悪い石川がたまら
 なく愛おしい。
 ただ自分の名前を呼ぶだけで後藤を幸せな気分にしてくれる人物は、石川以外
 にはいないのだ。
 後藤は自分を抱きしめる石川の腕をそっと外すと、石川が足を浸す湖へと自ら
 の足を浸す。そして、湖の中へ膝を落とす。水の中へ身体を浸すには遅すぎる
 季節のせいで冷たさを感じずにはいられない。しかし、今、この瞬間はそんな
 ことは気にならなかった。
60 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月27日(日)23時51分01秒
 石川と同じ目線になると満月に照らされて彼女の表情がよく見えると後藤
 は思う。
 後藤を優しい笑顔で見つめながらも涙が頬を伝う石川がそこにいる。そん
 な石川を見るとさっきの石川の言葉は本当だったんだなぁ、と後藤は今更
 ながら感じるのだ。
 石川を見つめながら後藤はそっと囁く。

「梨華ちゃん、もう泣かないで。……いつも笑っていてよ」

 そう石川に告げると、後藤は石川の頬に流れる涙をすくうようにそっと
 その場所に唇を寄せる。
 そして、後藤は石川の頬から唇を耳の辺りに移動させ、小さく囁いた。

「もう全部信じちゃうよ?だから、もうイヤだって言っても遅いんだからね」

 耳元でそんなことを囁く後藤の体温を感じながら、石川はくすぐったそう
 に笑うと、後藤の言葉に小さくうなずいた。そして、後藤の瞳を見つめ、
 言ったのだった。
61 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月27日(日)23時54分17秒

「ねぇ、真希ちゃんも泣いてるって知ってた?」
「えっ?」
 
 悪戯っぽい笑顔になると石川は、本人さえ知らぬ間に流れ出た涙を、後藤
 と同じ仕草で涙をすくうようにその頬へと唇を寄せる。
 その後、お互い照れたように笑いあう声が湖に響き渡る。
 そして一瞬の静寂が訪れ、満月の光の下、二人の唇が重なった。



62 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月28日(月)00時03分48秒

 『今夜、出会えたら』終了です(^-^)。
 ここまで読んでくださった皆様&レスを下さった皆様、
 ありがとうございましたm(__)m

 そして、次回予告です(^^;)
 『今夜、出会えたら』の石川バージョン、書きます。
 後藤メインで書いていったら、石川メインバージョンが書きたくなりました(^^;)。
 いちおー、近日中にアップする予定です。

 >>49
  楽しんでいただけたでしょーか?
  早くもラストですが、次が待ちかまえてたりします(^^;)
63 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年01月28日(月)09時37分09秒
最高でした。感動しました。(^〜^)
ごっちんと梨華ちゃんが結ばれてよかった。涙を流しながら読ませてもらいました。
次回の石川バージョンも楽しみにしています。頑張ってください。
64 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)10時09分44秒
ラストって言うから話自体が終わっちゃうのかと思った。
続きがあるようで楽しみ
65 名前:blau 投稿日:2002年01月28日(月)20時04分29秒
ごっちんと、梨華ちゃんが結ばれてよかった〜。
梨華ちゃんバージョンも楽しみにしています。
66 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月30日(水)00時34分07秒

 石川バージョン、近日中と言っていましたがもう始めます(^^;)。
 
 「今夜、出会えたら」の石川編


    『小さな一歩』

67 名前:小さな一歩 投稿日:2002年01月30日(水)00時35分27秒

 たった一言、たった一言でよかった。
 たった一言、誰かに話しかける勇気。
 それさえもなかった自分がここにいる。

68 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月30日(水)00時37分28秒

 この学校に季節はずれの転校生としてやってきてからというもの、常に
 『勇気のない自分』に押しつぶされそうだった。
 今日こそはそんな自分を変えよう、と思う。しかし、それは石川にとって
 は毎日のことで、ありきたりの一日の始まりでしかなかった。
 『自分を変える』という言葉は、朝の始まりに石川がいつも考えることだった。
 そして、家に帰って『今日も誰にも話しかけられなかった』と思うことも日常。
 毎日がそんなことの繰り返し。

「もっと違う自分になれたらいいのに……」

 こんな毎日と自分に嫌気がさしてきてつぶやく一言。
 それさえも日常。
69 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月30日(水)00時38分58秒

 新しい高校に入学してから、まだそんなに時間が経ってはいなかった。
 一学期も半ばにさしかかって、ようやくクラスの雰囲気に慣れてきた。
 そして、やっと友人というものを作ろうかという気持ちになったある日、
 父親の仕事の関係で石川は転校を余儀なくされた。
 石川は、新しい環境が得意な方ではない。いや、どちらかというと苦手な
 方だ。中学とは違う環境、違うクラスメイト。人見知りの激しい石川は一
 学期の半分を費やして、やっとその環境に馴染みかけてきた。友人と呼べ
 るような人間を探し始めていた。
 やっと作り始めた自分の居場所だった。
 それが父親の転勤とともにいとも簡単に崩れ去る。
 そして、石川に与えられたのは、自分の苦手な新しい環境。
 新しい高校への編入は、石川にとってとても辛い出来事だった。
 やっと作り始めた居場所を捨てて、一からのスタート。辛くないわけがない。
70 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月30日(水)00時40分47秒
 誰もが同じスタートラインからの出発であった前の高校とは違う。
 編入先の高校はみんなが入学したばかりの同じ位置からのスタートではなく、
 石川だけが新しいスタートラインからの出発となる。
 出来上がりかけているクラスの中へ、突然自分だけが放り込まれる感覚。
 新しい学校生活は、新しい環境へなかなか対応できない石川にとって、
 スタートする前から由鬱でしかないものとなっていたのだった。
71 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月30日(水)00時44分40秒


「こうなるってわかってたもん」

 もう一学期も終わろうとしている教室の中、石川は一人つぶやく。
 予想通り、新しい学校に対応できず、新しい環境に慣れることも出来な
 かったし、当然のように新しい友人も出来ることはなかった。
 毎日していることといえば、日課のように毎朝、自分を変えたいと思う
 ことだけだ。しかし、その言葉が実行されたことは当然ない。
 そして、この日もいつもと同じで、家に帰ってから今日の自分を反省する
 のだろう。

「……わかってるけど」

 わかっているが、自分を変えたいと願わずにはいられない。
 だが、いつまでたっても極度の人見知りが直ることはなく、石川は今日も
 教室の中で一人だ。
 しかも、今日は日直で、隣席の男子生徒がもう一人の日直となっている。
72 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月30日(水)00時47分36秒
 そんな石川は社会科の先生に、授業用の地図と資料を準備室から運んでく
 るように頼まれていた。社会科の先生がそれを頼んだのは石川なのだが、
 もちろん石川一人に頼んだわけではなく、『本日の日直二人』に頼んだ。
 けれど、石川が隣席のもう一人の日直に声をかけられるわけがなく……。
 結局、休み時間中に一人でその仕事をこなすことになるのだった。

『はぁ、どうして自分から話しかけられないのかなぁ?』

 準備室へと向かう廊下を歩きながら、石川は考え込まずにはいられなかった。
 人見知りで新しい環境になれることが出来ない自分。
 そんな自分が昔よりももっと嫌いになっていた。
 そんな石川に、それでも最初の頃はクラスメイトも積極的に話しかけてくれた。
 しかし、それに応じることに精一杯で、気の利いた受け答えも出来ず、まして
 や自分からは決して話しかけてこようとしない石川に、クラスメイト達は
 徐々に離れていった。
 結果が今の状態だ。
73 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月30日(水)00時49分29秒
 そんなことをつらつらと考えながら、準備室から大きな地図とたくさんの
 資料を無理矢理一人で運び出す。
 どう考えても一人で運ぶには無理があるのだが、今からもう一人の日直に
 頼みにいったところで、話しかけてお願いするのは無理な話だと石川は
 当然のように考えた。助けを呼ぶのが無理、ということはどうしても一人
 で運ぶしかないわけで、よろよろふらふらとしながらも、自分の教室を目
 指して歩き出す。 
 細身でとても力強いとはいえない石川にとっては、先生に頼まれた地図や
 資料の山は石川の細腕には負荷がかかりすぎるし、何よりも前がよく見え
 ない。
 信じられないほど重い荷物でふらふらと歩く校内の酔っぱらい状態の上、
 前が見えなければ廊下の邪魔者以外の何者でもない石川は、当然の如く
 誰かと正面衝突することになった。
74 名前:みるきぃー 投稿日:2002年01月30日(水)01時00分04秒

 本日更新分、終了!
 続きというわけでなく、前回と同じ話しになっております(^^;)。
 「石川の事情」ちゅーことで。

 >>63 いしごま防衛軍さん
 感動して頂けて嬉しいです♪
 私も二人が結ばれてよかったです(笑)。
 今回の石川バージョンも楽しんで頂けるようがんばりますっ!

 >>64
 これを続きと呼べるかわかりませんが(^^;)、とりあえず石川バージョン、
 スタートしました。ラストまでおつき合い下さると嬉しいです♪

 >>65 blauさん
 見事(?)、二人は結ばれましたっ♪
 今回からの石川バージョンもがんばりますっ。
75 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月30日(水)07時01分05秒
引き続き期待しております
76 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月30日(水)18時36分58秒
初めて読ませていただきました。
いしごまもいいですね。ここの後藤さん可愛いです。
77 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月11日(月)12時23分27秒
石川バージョン楽しみです(w
78 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月12日(火)23時43分45秒
 正面衝突の瞬間、無理にもう一人の日直に声をかけて手伝ってもらえばよ
 かった、と思ったがその後悔はすでに遅く、石川は目の前の光景に頭を抱
 えそうになった。
 ぶつかった衝撃で両手一杯の荷物は廊下のあちこちに散乱し、その上、
 石川がぶつかったと思われる人物は自分の目の前で尻餅をついているでは
 ないか。

『あぁ〜、どうしてこうなるのっ』

 石川は心の中だけで大きく叫んだ。
 しかし、心の中でそんなことを叫んだところで、この状態は解決しない。
 いくら石川が人見知りで人に声をかけるのが苦手でも、ここは自分から謝る
 以外はないのだ。
 母はいつも言っていた。

『何か悪いことをしたと思ったらすぐに謝りなさい』

 そして石川は小さな頃から今まで守り続けてきた。だから、人に謝ることなら
 普通に声をかけるよりは平気なのだ。
79 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月12日(火)23時46分03秒
 というわけで、石川は自分から人に声をかけるのは苦手だが、自分から謝る
 ことはそれほど苦痛ではない。

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ。怪我、ありませんか?」

 それほどあやまることは苦手ではないといっても、人見知りの石川は知らず
 知らずのうちいつもより一オクターブほど高い声で叫んでしまう。
 けれど、何故だか尻餅をついた彼女は廊下に座りっぱなしで、石川の言葉に
 反応を示さない。それどころか、何か考え込んでいるような様子でぼーっと
 している。そんな彼女を見て、石川は何だか心配になってくる。

『どうしよう?もしかしたら、地図で頭でもぶつけておかしくなっちゃった
 のかな?』

 両親から太鼓判を押されるほど心配性な石川は、ぼーっと廊下に座り込んで
 いる彼女を見ていると、どんどん考えが悪い方へと向かってしまう。それに
 ともなって、石川の眉毛が八の字に下がった不安そうな表情に変わっていく。
 しかし、二人で黙り込んでいては話は進まない。
80 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月12日(火)23時48分27秒
 石川は思いきってもう一度謝ってみようと、小さく息を吸い込んだ。

「あの、あの、すみませんでした。本当に大丈夫ですか?よかったら
 保健室、行きませんか?」

 彼女の頭が心配で、つい保健室に誘ってしまう。
 だが、廊下に座り込んでいた彼女は突然プッと吹き出すと、にこやかに
 石川に話しかけた。

「大丈夫だよ、怪我ないから。けど、なんで一人でこんなにたくさんの荷物を
 運んでるの?」

 石川は、私に勇気がないからです、とはさすがに初対面の彼女に話せなかっ
 た。けれど、それを話せないとなると石川は他に答えようがなく、ただ困っ
 たように笑うしかできない。
 しかし、彼女はそれを許さなかった。
81 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月12日(火)23時50分06秒

「日直なんでしょ?だったら、もう一人日直いるでしょ。もしかして休み?」

 石川に追い打ちをかけるように問いかける。
 だが、そう問いかける彼女には悪気はないらしい。彼女の瞳を見た石川は
 そう思う。どちらかといえば、小さい子供に問いかけるような優しさがある
 ような気がする。

「……私、転校生なんだけど、うまくクラスに馴染めなくて。もう一人の日直、
 ちゃんと学校に来てるんだけど、一緒に運ぼうってうまく言えなかったの」

 その瞳に誘われるように石川は真実を告げる。普通ならこんなこと言えない
 はずなのに、と疑問に思いながら。

「ふーん、話題の転校生ってあなただったんだ」

 興味津々という感じでこちらを見つめてくる彼女に石川は、不思議なまでに
 興味を持つ。今までなら、誰にでも作ってしまう境界線のようなものを彼女
 には作ることがなかった。
82 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月12日(火)23時51分39秒
 そんなことを考えぼけっとしている石川にかまわず、今まで廊下に座り込ん
 でいた彼女は立ち上がっていつのまにやら石川が散らかした荷物達を片付け
 ている。
 それに気づいて石川は慌てて言った。

「あ、あのいいです。一人で運べますから」 

「何言ってんの?一人で運べなかったじゃん。手伝うよ。あっ、そだ。私、
 後藤真希って言うんだ。」

 後藤真希と名乗った少女は、拾い集めた資料や地図の半分を石川に無理矢理
 押しつけるとすたすたと歩き始める。
 弾かれたようにその後を追いかけ、やっと後藤に追いつくと石川はペコリと
 頭を下げた。

「後藤さん、迷惑かけて本当にすみません。私、石川梨華って言います。
 よかったらこれからも仲良くして下さい」
 
 今までの自分が嘘のようだった。同じ日直にすら声をかけられない勇気の
 ない自分。それが、嘘のように後藤に話しかけることが出来た。
83 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月12日(火)23時53分56秒
 石川はそんな自分自身に驚かずにはいられない。
 毎日毎日、祈ってきたことが嘘のように後藤に話しかけられたのだ。驚くな
 という方が無理なのだ。
 願っても願っても叶わなかった願い。
 その第一歩をやっと踏み出すことが出来た。
 石川は自分でもわからないうちに笑顔になっていく。
 そして、石川は自分の願いを叶える為のきっかけをくれた後藤を見る。
 するとそこには、眩しいぐらいにこやかな笑みを浮かべる後藤がいた。

「こちらこそよろしくっ!」

 その後藤から発せられた言葉は彼女と同じぐらい眩しい言葉で、石川は喜ばず
 にいられなかった。
 この学校に来てから初めての嬉しい出来事。
 それは飛び跳ねて喜びたいぐらい嬉しくて、石川は後藤の隣にいる間中、笑顔
 を絶やすことはなかった。
 後藤が自分に向けて言ってくれた『よろしく』は、すぐに石川の宝物になる。
 そしてその宝物は石川の心の中で永遠のものとなった。
84 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月13日(水)00時03分09秒

 本日更新分、終了!
 ここがやっと復活しましたねっ♪嬉しいなぁ〜♪♪
 とりあえず更新も再開出来てよかった。

 >>75
  久々の更新となりましたが、いかがだったでしょーか?
  やっぱりここで小説書けないとつまらないので、復活してよかった(;▽;)/

 >>76
  かわいいごとーを目指してるので嬉しいです♪
  いしよしもいいですが、少数派(?)いしごまもいいですよん(笑)。

 >>77
  石川バージョン、まだまだ続きますのでお楽しみにっ!
85 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月13日(水)21時14分19秒
ここも復活で良かった
お楽しみにしてます
86 名前:祝・復活 投稿日:2002年02月14日(木)10時29分36秒
わ――――い!復活してる!
好きですいしごま♪
(自分はもともといしよし派なのですが)
期待してます。頑張ってください。
87 名前:しーちゃん 投稿日:2002年02月14日(木)10時52分34秒
いしごま大好きです。がんばって下さい!
88 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月21日(木)01時11分32秒
お待ちしております(w
89 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月24日(日)00時22分12秒
 後藤が石川の荷物運びを手伝ってから、二人は急速に親しくなっていった。
 クラスこそ違うが、同じ学年。
 お互いの教室が同じ校舎の同じ階。
 石川にとって今までの自分から一歩前に進むきっかけをくれた後藤は、当然
 のように石川の初めての友人となる。後藤も、この人と付き合うことがうま
 くない不器用な石川が何故だか放っておけなくて、自然に石川を友人として
 見るようになった。
 人見知りで臆病な石川にしては珍しく意識しないでよい人物、それが後藤だった。
 そんな後藤とよく笑い、よく話し、出かけた。
 それがよかったのか、石川に後藤以外の友人が少しずつではあるが出来始める。
 後藤ではない誰かと話す度に石川は思う。

『真希ちゃんがいたからだ』

 自分が変わるために必要な全てを後藤がくれた。
90 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月24日(日)00時23分21秒
 石川にはそんな風に思えてならない。
 だから、石川にとっては後藤が何よりも大切だったし、後藤と過ごす時間が
 どんな時間よりも楽しかった。後藤がいると、石川はどんな些細な事でも
 楽しくて、悩んでばかりいた自分が嘘のように感じられる。
 ずっとこんな毎日が続けばいい、石川はそう願わずにはいられなかった。


91 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月24日(日)00時24分49秒

 いつもの場所でいつもの時間、そしていつもの石川と後藤。
 けれど、最近は何だか後藤の様子がおかしいような気がする。
 しかし、どこがおかしいのか?と問われても、石川は答えることが出来ない。
 午前の授業が終わって、いつものように屋上で昼食を取る。
 後藤は今までと同じように、美味しそうに大きな口でバクバクとお弁当を頬張る。話しかければ、今までとかわらない笑顔で石川に言葉を返す。
 どこも違わない。
 だが、どこかが違う。
 ここ最近、石川はどこが以前と違うのか知りたくて、後藤を観察するのだが
 どこがおかしいのどうにもわからない。そして、観察を続ければ続けるほど
 少しずつ後藤の様子がおかしくなっていくような気がする。
92 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月24日(日)00時26分43秒

「何が違うんだろ?」
「ん?」

 どうやら心の中でつぶやいたはずの声が口に出ていたらしく、後藤が不思議そう
 に石川を見つめている。
 心の声だと思っていたはずの言葉に後藤が反応した事に石川は驚き、思わず
 そのまま心に思っていた事を質問してしまう。

「えっ、えっ?えぇーと、何が違うの?」
「はぁ?……梨華ちゃん、あいかわらず意味不明だね」
「うーん、どこだろ?」

 石川は後藤と会話にならない会話を続けていたが、それを放棄すると、じーっと
 後藤の様子を観察し始める。
 石川は後藤の表情も見逃さないように後藤を眺め続ける。すると急に後藤の手が
 石川の額に伸びてきた。

「梨華ちゃん、顔、近づけすぎ」

 石川はそんなに顔を近づけた覚えはなかったのだが、後藤をよく見ようとして、
 いつの間にか顔を近づけすぎていたらしい。
93 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月24日(日)00時28分40秒

「はい、離れてね」

 後藤はそう言うと石川の額にあてている手に力を込め、そっと石川の顔を押し
 返した。

『あっ、今だ!』

 石川の今までの疑問に答えが出る。
 『離れてね』と石川の顔を押し返した瞬間の後藤の仕草、それが石川が感じて
 いた違和感だった。
 その瞬間、後藤はほんの一瞬だが石川から顔を背けたのだ。そして、次の瞬間
 には極上の笑みを浮かべてこちらを見ている。
 よく考えてみると、最近の後藤はいつもそうだった。石川が後藤に近づきすぎ
 たり、密着しすぎると今のような反応が返ってくるような気がする。
 しかし、様子がおかしい、ということが事実だとわかったが、今度はそれが
 何故か理由がわからない。
94 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月24日(日)00時30分20秒
 別に嫌われているわけではないようで、その証拠にいつも顔を背けた後には
 石川にとって極上としか思えないような笑顔を見せてくれていたような気が
 する。
 それに、石川を避けるどころか後藤はいつも側にいるし、後藤からもこちらに
 触れてくる。

「ねぇ、真希ちゃん。私の顔嫌い?」 

 石川が考えに考えた末に出した結論。それを後藤にぶつけてみる。しかし、
 前後の会話と繋がらない訳の分からない質問に後藤はひたすら呆れるしか
 出来ない。

「はぁぁぁ?」

 どこをどうすれば突然こんな質問が出来るのか。
95 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月24日(日)00時32分15秒
 後藤には少しも理解できない。それに、端正な顔を持つ石川からこんなことを
 質問されるとは予想も出来ない。

「どーして、私が梨華ちゃんの顔を嫌う必要があるわけ?ほんっと、何で急に
 こんな質問になるわけ???」
「だって真希ちゃん、こっち見ないもん。……ちょっと顔、背けるときがあるもん」
「えっ?」

 後藤は自分でも、顔を背けることがある、という事実に気がついていなかった
 らしく、思わず声をあげる。

「嫌いだから、背けるんでしょ?」
「そんなことないって。顔、背けてなんかないよっ!梨華ちゃんみたいに
 かわいい顔、嫌う人なんていないって」
「私の顔が、かわいいかどうかはわからないけど、嫌いなのかもって思ったの。
 でも、違うならいいや」

 石川は後藤の答えにどうも納得がいかなかったが、後藤自身に自覚がない
 ことがわかったのでこれ以上追求することを止めにする。
96 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月24日(日)00時34分15秒
 もしかしたら、ただの気のせいだったのかもしれない。
 石川はそう考えることにして、食べかけのお弁当を口に運ぶことにした。
 隣の後藤も突然訳の分からないことを言い出した石川を気にしながらも、
 食事を再開する。 
 石川は、本当に後藤が自分を好きでいてくれたら、と思う。いつまでも
 後藤の友人でいたい。
 心配性の石川は、結局先ほどの出来事を気のせいだけにして片づけておく
 ことが出来なくて、また後藤を観察するように後藤に目を向けた。
 その瞳に、タコさんウインナーにフォークを刺してご機嫌な後藤が映る。

『かわいいなぁ』

 石川は子供のようにウインナーを食べる後藤を見て思わず微笑む。
97 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月24日(日)00時35分40秒
 後藤は石川の隣で笑っている。
 それにとりあえず嫌われてはいないのだから考えすぎてもしょうがない。
 石川は心配性の自分を心の片隅に追いやる。そして、後藤のお弁当にまだ一つ
 残っているタコさんウインナーにゲットすることに思考を変える。
 石川はウインナーをゲットすべく、これ以上ないぐらいの猫なで声でかわいく
 お願いしてみた。

「かっわいい真希ちゃんっ。私はウインナーが欲しいなぁ」
「だぁーめっ」

 すぐさまお願いを拒否すると後藤は石川に背を向け、ウインナーを胃袋の中へ
 隠してしまおうとした。しかし、そんなことはさせないぞ、とばかりに石川が
 後藤の背中に飛びつく。背中にくっついて石川は後藤の顔の横からひょいと顔
 を出した。そして、ウインナーが刺さったフォークを持つ後藤の手に触れる。
98 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月24日(日)00時36分48秒
 手と手が触れた瞬間、石川に伝わってくる後藤の体温が少し上昇した気がした。
 ドクン。
 それとともに、石川自身の体温も変化する。
 そしてさっきと同じように石川のすぐ横にある後藤の顔が、石川から背けられた。けれど、石川の至近距離にある顔全てを背けるのは難しくて、後藤の顔の一部が石川の目に入る。
 その顔は何だか赤くなっているように見えた。
 何故だろう?
 わからないまま石川の身体は自分の意志とは関係なく、また体温が上がった。
99 名前:みるきぃー 投稿日:2002年02月24日(日)00時51分33秒

 本日の更新分、終了!
 何だか疲れ果てている日常が出ている更新になってしまいました。
 なんか、改行がキチンと出来てません(^^;)。
 改行がおかしいのは笑って見逃してくだされ・・・。

 >>85
 中途半端な復活になっていましたが、やっと更新出来ました(^^;)。
 放置はしませんので、最後まで楽しんでいただけると嬉しいです♪

 >>86 祝・復活さん
  ご期待に添えたかは謎ですが、がんばって更新しました。
  いしよしのパワーに負けないように、いしごまがんばります(笑)。

 >>87 しーちゃんさん
  いしごま、いいですよねっ♪
  いしごま小説が少なけりゃ自分で書くぜ!と、勢いで書き始めましたが、
  自分で書くのもなかなか楽しいです(笑)。

 >>88
  お待ちされていました(笑)。
  ってーか、マジに久々の更新となってしまいました(^^;)。
100 名前:野菜生活 投稿日:2002年02月24日(日)01時17分55秒
ここのいしごま最高にいいです。
頑張ってください。応援してます。
101 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年02月24日(日)09時45分33秒
うーん、やっぱり最高です。もう萌えまくりです。
梨華ちゃんもごっちんも可愛いです。二人の微妙な関係がいいです。
更新楽しみに待っています。みるきぃーさん頑張ってください。
ひさしぶりのレスけどいしごま防衛協約機構は応援していますよ。
102 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時05分28秒


 きっかけは些細な事だった。
 後藤とのじゃれあいでちょっと彼女に触れただけ。
 あの日、後藤と触れたことが石川の意識を変えてしまったらしい。あの時以来、
 どうも後藤を意識してしまうのだ。
 今まで何も感じなかったような、ちょっとした接触でさえも石川をドキドキ
 とさせ体温を上昇させる。だから、今までのように後藤にじゃれつくと、
 石川は自分が蒸発して消えてしまうのではないのかと思う。
 ちょっとしたきっかけで後藤を意識し始めたはずなのに、今では石川の気持ち
 の大部分を後藤が占めている。後藤に触れる指先や後藤と交わす会話が今の
 石川を形作っていた。
 きっと今まで気がつかなかっただけ。
 それがあの日、あの時の後藤によって気づかされただけ。
 彼女に恋していると。
 いつもきっかけは後藤がくれるのだ。
 誰かに声をかける勇気も恋も。
103 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時06分49秒
 ただ、今はこの気持ちを後藤に知られたくなかった。石川は後藤との心地よい
 今の関係を壊したくなかった。
 この気持ちが後藤にわかってしまえば、今までの関係ではいられなくなって
 しまうかもしれない。良くも悪くも今とは違った関係が出来上がるはずだ。
 けれど、この気持ちを抑えられなくなったときはどうすれば良いのだろう?
 石川はその答えを知っていたがそれを考えたくはなかった。それは、その答え
 を実行する為に必要な物を自分が持っているとは思えなかったからだ。
104 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時08分02秒
 今までは後藤がきっかけをくれた。
 しかし、いつの日か考えたくない答えを実行する時がきたら、後藤がいつもの
 ようにきっかけをくれるのだろうか?
 そんな事を考える自分に石川は少し悲しくなる。
 自分を変えたいという思いは一歩進んだだけで、結局の所それから進んでは
 いないのだ。次の一歩を踏み出す為に、もう少しの勇気が欲しかった。
 ……未来の自分の為に。

105 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時09分45秒

 夕焼けが綺麗な放課後の事だった。
 生徒のほとんどが下校し人気の少ない学校の廊下で、石川と後藤はいつもの
 よう並んで話していた。
 その日の後藤は、何故だか窓の外ばかり見ていて石川の方を見ることがほとんど
 なかった。
 あの時、後藤に石川が違和感を感じる理由を告げて以来、後藤が顔を背ける
 回数はかなり減っていた。なのに今日は、顔を背けるどころかこちらを見も
 しないのだ。
 石川に不安が広がる。
 今まで後藤が自分を嫌っているとは思っていなかった。多少の不安を感じた
 ことはあったが、その後の後藤の様子を見ていると嫌われているとは思え
 なかった。
 後藤の好きがどんな種類のものかはわからなかったが、後藤は石川を好きで
 石川も後藤が好きだと思っていた。
 けれど、今日のように少しもこちらを見ない後藤を見ていると、石川の心配性
 が顔を出して不安になってくる。
106 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時11分26秒
 そんなことを考えている石川に後藤が話しかけてきた。

「梨華ちゃん、知ってる?あの山にある湖の伝説」

 後藤は石川の返事を待たずに話を続ける。

「あの山の湖にはね、『満月が浮かぶ湖で出会えた人と結ばれる事が出来る』
 っていう伝説があるんだ」
「へぇ、そーなんだ。そんな伝説初めて聞いたよ」
 
 石川は感心したように後藤へ返事を返した。
 後藤が自分をどう思っているか気にはなったが、後藤の話しが興味をそそられる
 物であったので、石川は後藤の話しに耳を傾けた。
 しかし、いつもなら石川が感心したような声を出すと、嬉しそうな笑顔になって
 にこやかに話しを続ける後藤なのだが、今日は違った。
 あまり表情もかわらず、あいかわらず窓の外を眺めている。
 石川はそんな後藤が気になったが、それを追求せずに話しの続きが始まるのを
 待った。
107 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時13分13秒

「そっか、そうだよね。梨華ちゃんは昔っからココに住んでるわけじゃなくて、
 引っ越してきたんだもんね。でもね、この話はココにずっと住んでる人の間
 では有名な話なんだよ」

 石川は初めてその伝説を聞いて、後藤がその伝説を信じて湖に行った事がある
 のかが気になった。そして、その疑問を後藤に尋ねてみようと思い石川は言った。

「真希ちゃんはどうなの?」
「へっ?」 

 窓の外を見ていた後藤の顔が石川の方へと向く。
 今までこちらを見てくれなかった後藤の顔を久しぶりにまともに見た石川は
 何だか嬉しくなってくる。

『真希ちゃんがこのままずっと、こっちを向いていてくれたらいいのに』

 そんな石川の思いが通じたのか、後藤の視線が石川から離れることはなく二人
 は見つめ合う形になる。
108 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時14分50秒
 しかし、後藤の瞳は石川を映してはいるが、気持ちの方はこちらに向いて
 いないような気がする。どことなくぼけーっと石川を見ているのだ。
 今まで淀むことなく話していた後藤の意識が急にどこかへと行ってしまった。
 石川はバカみたいだとは思いながらも、後藤の意識がどこかへ行ったまま
 戻ってこなくなってしまうのではないか、という不安に駆られて後藤に声
 をかける。

「ねぇ、真希ちゃん。真希ちゃんってばっ。どうしたの?」
「あっ、あっ。ごめん。何の話だっけ?」

 人の話しを聞いているのかいないのかわからない後藤の返事に石川は少し
 ばかり悲しくなる。
 いつだって後藤には自分を見て、そして話しを聞いて欲しいのだ。
 後藤と過ごす時間が長くなるにつれそんな気持ちが大きくなる。自分を見て
 欲しい、そして後藤の事をもっと知りたい。
 後藤がこんな風に自分の事を思ってくれる瞬間が一瞬でもあるのだろうか?
109 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時16分42秒
 石川はほんの一秒でもいいから、そう思って欲しかった。
 けれど後藤にその気持ちを口にして伝えることが出来るわけでもなく、石川は
 気持ちを切り替えて話しを続ける。
 ただ、自分の話しを聞いていたとは思えない後藤に、どこか不満げな口調に
 なってしまう。

「もぉっ、真希ちゃん。人の話、ちゃんと聞いてよねっ。あのね、真希ちゃんは
 どうなのかって、私は聞いたのっ。」
「いや、だからさ、梨華ちゃん。『どうなのか?』って何が?」
 
 何故だか、後藤には石川の話しがスムーズに伝わらないときが多かった。
 それは、石川の話し方に問題があるのだが、本人はそうとは思っていないので、
 どうしても不満げな口調が直らない。

「だーかーらぁ、真希ちゃんはその伝説信じてるの?信じて湖に行ったことが
 あるの?って聞いてるの」

 もし湖に行ったことがあるならイヤだな、と石川は思う。もし湖に行った
 ことがあるとしたら、誰か好きな人がいてその人とそこで会いたいと思って
 行ったのだ。
110 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時17分47秒
 後藤が誰を好きになっても、それは石川が口を出すことではない。
 けれど、たとえ自分を好きだと思ってくれていなくても、他の誰かに恋して
 欲しくない。
 わがままだとわかっている。それでも石川はそう考えずにはいられなかった。

「どうかな。最近は伝説を信じてもいいかなぁ、とは思ってるけど……。
 んー、でも、今まではあんまり信じていなかった。だから、満月の夜に湖へ
 行ったことないよ。」 

 少し考えて言った後藤の言葉に石川はほっと胸をなで下ろす。しかし聞き流して
 しまいそうな言葉の中から石川は、何かひっかかるものを感じる。
 最近は伝説を信じてもいい。
 そう後藤は言った。
111 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時18分51秒
 ということは、後藤に伝説を信じたくさせるような誰かがいるのかもしれない。
 いつもならそのまま気にしなかったように、話しを続けていたかもしれない。
 けれど、石川はそうしなかった。
 少しだけ前に進む小さな勇気。
 石川は自分の手をギュッと握り小さな勇気を振り絞って、後藤の耳に小さく
 届くだけの声を何とか押し出した。

「最近は信じてもいいって、それってさ、最近好きな人でもいるって事?」
「えっ?ええぇ〜。な、何でそーゆーことになるのさっ」

 後藤が急に大きな声を出して反論する。
 何だかそれが本当に誰か好きな人がいると言っているようで、石川の勇気が
 消えそうになる。
112 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時20分08秒
 それでも石川は何とか踏ん張って後藤に食い下がる。

「だって、なんか怪しいもん。急にそんな大きな声出すのもおかしいし」
「別にさ、そーゆーわけじゃなくて。ほ、ほら、何となく信じてみたいだけ
 なんだって。それよりさ、梨華ちゃんこそ、なんでそんなに拗ねてるの?」

 石川は別に拗ねていたわけではないのだが、躊躇いながらも小さな声でボソボソ
 と後藤に食い下がる様子が、後藤にはそういう風に見えていたらしい。
 石川はといえば、後藤を問いつめていたはずなのに急に自分に話しを振られ、
 結果的に本当に拗ねてしまうことになる。

「拗ねてなんかないもんっ。もし、拗ねてるとしたら真希ちゃんが悪いんだからね」
「どーして?なんで私が悪いんだよぉー。梨華ちゃんが勝手に拗ねてるだけじゃん」
「真希ちゃんがいじわるだからだもんっ」
113 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時21分25秒
 いつの間にか後藤のペースに乗せられていることに気がついた石川は、それが
 悔しくてぷいっと後藤とは正反対の方へ身体を向ける
 後藤に背を向けて不満そうにしている石川は急に誰かの体温を背中に感じる。
 今、この場所には後藤しかいないのだ。だから、この体温は後藤以外の誰の
 ものでもない。
 いつもより後藤の体温が暖かく感じられる。そして、後藤の心臓がまるで
 走った後のようにドキドキと激しく鳴っているような気がした。

『……真希ちゃん』

 そんな後藤の体温や心臓の音を感じると、まるで彼女も自分のことが好きな
 ように感じられる。そんな考えに、ドクドクと激しく心臓が動く。
 心臓の音が耳にうるさく感じられるが、それでも後藤の体温が心地よくて
 石川はこのままずっとこうしていたいと思う。
114 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時22分43秒
 ふと視線を下にやると自分の腰の辺りに回された後藤の腕が見える。この腕を
 放さないで欲しい、そう願いを込めて石川を後藤の腕へ自分の手の平を重ねた。

「ねぇ、本当に好きな人がいるの?」

 後藤が答えてくれるとは思えなかった。それでも石川は先ほどから何度も
 繰り返した質問を小さく口に出してみた。
 小さな沈黙の後、石川の腰の辺りにある後藤の腕がぴくっと動くのが手の平
 に伝わる。
 石川がその腕の動きを止めようか迷っている一瞬のうちに、後藤はそのまま
 石川からその腕を放し自分の元へ戻す。
 そして長い沈黙。
 やっぱり答えてくれなかった。
 好きな人が自分だったらよかった。さっき後藤の体温を感じたときには私が
 そうなんじゃないかとも思った。けれど、後藤の返事はない
115 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時23分59秒
 石川は自分の落胆を隠すようにわざと大きな声で言った。

「いーけど、別に。言いたくないならもう聞かないから」

 そして、後藤に自分の気持ちがわからないように表情を作ると、くるりと
 後藤の方へ向き直った。
 これ以上、この話しを続けてもしょうがない。
 石川がそう思い、この話しを切り上げようとしたときだった。

「待ってよ。梨華ちゃんばっかり質問するのズルイよ。私にも聞かせてほしいな」

 聞かせてほしいな、などと言ってはいるが、強制としかとれないような口調で
 石川に訪ねてくる。

「何を?」
「梨華ちゃんはいるの?・・・・・・好きな人」

 自分が好きな人のことについて尋ねた以上、自分も尋ね返されるかもしれない
 という事実をすっかり忘れ去っていた石川は、一瞬のうちに追いつめられる。
116 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時25分13秒
 
『好きな人は後藤真希です』

 もういっそのことそう伝えてしまおうかとも思う。けれど、今日の後藤の態度
 を見ていると伝える勇気もわいてこない。
 後藤に無視されてしまいそうな気がする。
 一体どうすればいいのかと、ぐるぐる思考を巡らせているうちに、だんだん頬
 が紅潮してくるのが自分でも分かる。
 このままではマズイ。
 それだけはわかる。この質問でこの赤くなった頬。これでは、私には好きな人
 がいます、と宣言しているようなものだ。
 ふと隣を見れば、後藤は廊下とにらめっこをしている。
 石川は今のうちにこの状態を何とかしなければと思うが、気持ちが焦るばかり
 でどうにもならない。

「梨華ちゃん」

 後藤がそっとつぶやいた。
117 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時26分22秒
 その声で石川はハッと我に返る。

「違うよ。違う。好きな人なんていないもんっ」

 動揺が隠せず上擦った声で答えた上に、石川は自分でもオーバーアクションだと
 思いながら顔の前で手をぶんぶんと振った。
 ふと後藤を見れば、複雑そうな表情で石川を見ている。
 気づかれてしまったかもしれない。
 後藤の表情からそんな雰囲気が伝わってくる。石川が、この後の対応に困って
 いると後藤が静かに言った。

「あのね、次の満月は一週間後だよ。伝説が本当かどうかはわからないけど、
 好きな人がいるなら行ってみる価値はあるかもね」

 後藤は静かに息を吸い込むと話を続けた。

「好きな人が来るかはわからないけど、行かないよりは可能性があるから」

 きっと、後藤はもうわかってしまっている。
118 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時27分39秒
 誰が好きなのかまではわかっていないにしろ、さっきの言葉で好きな人がいる
 ことがわかってしまったに違いない。
 だから、石川に湖に行けというのだろう。
 でも、湖に行ったところでどうにもならない。後藤が湖に来てくれないのなら、
 満月の夜にその場所に行ったところでしょうがないのだ。
 石川は思いきって後藤に尋ねてみる。

「ねぇ、真希ちゃんは行ってみるの?」
「どうだろ?わかんないよ」

 感情のこもらない声でそう告げると後藤は足早に石川の前から立ち去った。
 まるで自分に友情以上の好意があるように思える時があれば、友情の存在すら
 危うく感じられるときもある。
119 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時28分21秒
 石川には最近の後藤がわからなかった。
 後ろからそっと抱きしめられた時の体温や鼓動は嘘だったのだろうか?
 ……後藤が自分を好きかもしれないと感じたのは、やはり自分の勝手な
 思いこみだったのだ。
 一人、窓の前に残された石川は泣きそうな表情で立ちつくすしか出来な
 かった。
120 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月04日(月)01時36分32秒

 本日の更新分、終了!
 最近、忙しくて更新ペースが落ちています(^^;)。
 ううっ、がんばります。

 >>100 野菜生活さん
 お褒めの言葉、ありがとうございます♪
 これからもがんばりますっ!

 >>101 いしごま防衛軍さん
 お久しぶりです(^-^)。萌えて頂けて、私も嬉しいです♪
 いしごまには微妙な関係が似合う、と勝手に思っている私です(笑)。
121 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月04日(月)21時18分05秒
相手が感情出さないコだから大変だ(w
122 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月07日(木)05時11分29秒


 真夜中の山道。
 風が吹くと草や木がザワザワと騒いでなんだか薄気味悪かったが、石川はあまり
 周りを気にしないようにして歩く。
 あれから今日までの一週間、後藤との仲はぎくしゃくとして心地良いものでは
 なかった。
 お互いに腫れ物に触れるように接するものだから、いつも通りの関係とはいか
 なかったのだ。避けているわけでもないのだが、なんとなく普段に比べると
 一緒に過ごす時間も減っていた。 
 必然的に一人で過ごす時間が多くなった石川は、ずっとあの日の会話について
 考えていた。
 そして出した結論がこれだ。

『あの湖へ行く!』

 あの日、後藤は石川に湖に行くよう勧めた気がした。
 だが、後藤が来るとは思えない。
123 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月07日(木)05時12分57秒
 けれど、後藤はこう言った。

『好きな人が来るかはわからないけど、行かないよりは可能性があるから』

 石川は前に進めない自分が嫌だった。いつも、同じ場所から進めない、そんな
 自分を変えるために湖に行こうと思う。
 後藤がいてもいなくてもいい。
 湖に行くことは自分がもう一歩進むために必要なこと。石川はそんな気がして
 湖へと足を進める。

「……結局、また真希ちゃんにきっかけをもらっちゃったな」

 後藤の言葉に後押しされて湖へ向かう石川は誰に言うわけでもなくつぶやいた。
 次は自分で進まなきゃいけない。
 今度は後藤からきっかけをもらうのではなく、自分の力だけで一歩進むのだ。
 石川は、その記念すべき第一歩を何にするか決めていた。
 後藤に気持ちを伝えること。
 それが初めの一歩だ。
 どれだけ時間がかかってもいいから、いつか自分から気持ちを伝えようと思う。
 石川は伝説の湖で勇気をもらう為に前へと進んでいった。
124 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月07日(木)05時14分23秒


 石川の目の前に大きいとは言えない湖があった。
 その湖の中央付近に満月が映し出され、それが何だか神秘的に見えて、あの
 伝説が本当の事に思えてくる。
 少し冷たい風が頬をなでるが、山道を歩いて暖まった身体には心地よく感じ
 られた。
 石川は、きょろきょろと辺りを見回す。
 満月を映し出す湖の周りには、当然のように誰もいなくて石川は少しがっかり
 した。後藤がここにいるとは思っていなかったが、やはり本当にいないとなる
 と落胆せずにはいられない。
 後藤がいなくてもいい、自分が変わる為に来たのだ。
 石川は沈んでいく心をなんとか引き上げながら、空に浮かぶ満月を見る。

『伝説は嘘でもいいから、私に勇気を下さい』

 石川は心の中でそうつぶやくと、湖に近づいていった。
125 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月07日(木)05時15分46秒

「きゃあー」

 ぼけっと空を見上げながら歩いていたのが悪かったのだろう。石川は足下に
 あった何かにつまずいて見事に転んでしまい、湖の浅瀬部分に見事に浸かって
 しまっていた。
 何でこうなるんだろう……。
 後藤がいなかった落胆から立ち直ったが、今度は自分の間抜け具合に落ち込まず
 にはいられない。
 真希ちゃんがいなくてよかった、石川はそう思った。こんな格好の悪いところを
 見られなくてすんだのだから。
 しかし、後藤がいないからといって、いつまでも水に浸かっているわけにもいか
 ない。
 そう思い、石川がのろのろと立ち上がろうとした時だった。
 ふいに月の光が遮られ、人影が湖に映る。
 その影が何だか知りたくて、石川がそろそろと顔を上げる。

「……真希ちゃん?」
126 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月07日(木)05時17分05秒
 そこには、いつの間にそこに来たのか知らないが呆然と立ちつくす後藤がいた。
 そして、その後藤が、予想も出来なかった言葉を石川に投げかける。

「梨華ちゃん、なんでそんなにドジなの?」

 自分でも間抜けだと思っているところに後藤からトドメを刺され、さらにまさか
 この伝説の湖で出会ってこんなことを言われるとは思わなかった石川は思わず
 反論する。

「なっ!ひっどーい!!こんなところで会って言う言葉じゃないよっ!
 私はドジなんかじゃないもん」
「んじゃ、なんでこんなところで、しかもこんな時間に水浴びしてるわけ?」
「これが、水浴びしてるように見える?私はここで何かにつまずいて転んだ
 だけなんだから。そしたら、こーゆー事になっちゃったのよ」
「それがドジっていうんだよ。知らなかった?」
「もぉ、真希ちゃんっていっつも意地悪だ」
 
 売り言葉に買い言葉。
127 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月07日(木)05時18分57秒
 出会うとは思わなかった人と真夜中に出会って、なのにこの会話。 ロマンチック
 な伝説がある湖で、こんな会話をするつもりはなかったのだが、石川の性格上、
 こういう会話を無視できない。やめればいいのについついムキになってしまう。
 自分でもドジだと思っているところに、わざわざ追い打ちかけるなんてヒドイよ。
 などと、誰にも聞こえないようにブツブツとつぶやいている石川の隣で、後藤は
 何やら神妙な顔つきをしている。しかし、そんな後藤に石川は気がつかない。

「ねぇ、梨華ちゃん」

 急に、今までとはうって変わった真剣な声で話しかけられ、後藤へ顔を向けた。

「ん?何?」

 返事をしながら後藤を見つめる。すると、石川の瞳に、今まで見たことがない
 ぐらい真面目な顔をした後藤が映る。
128 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月07日(木)05時20分45秒

「あのね、梨華ちゃんがここに来てくれてよかった。本当によかった。
 梨華ちゃんは私じゃなくて他の人とここで出会いたかったかもしれないけど、
 私は梨華ちゃんとここで満月の夜に会いたかったの」

 やわらかな月明かりの下、後藤が何を自分に告げたのか。
 耳には入ってくるが、頭の中までは入ってこない。
 石川には、さっきまでふざけて自分をからかっていた人間が、急にこんなことを
 言い出すなんて予想出来なかったし、理解出来ない。
 耳に入ってきた言葉を理解しようと努力する石川に、後藤はさらに続ける。

「なんで今日、ここで梨華ちゃんに会いたかったかって言うとね、
 私、ずっと、ずっとね。……梨華ちゃんのことが好きだったんだ」

 ……真希ちゃんが私のことを好き?
 それを信じるとか信じないではなく、石川の頭の中にその声はダイレクトに
 響く。
129 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月07日(木)05時24分47秒
 耳からようやく頭に届いた言葉達を追い越して、その後藤の言葉だけが石川の
 全てを支配する。
 そして、石川の中を駆けめぐる言葉達が後藤の気持ちを理解させてくれる。 

『ああ、あの時感じた思いは間違っていなかったんだ』

 後藤の赤く染まった顔や、ドキドキと激しく鳴る心臓の音。それらは間違い
 じゃなかった。
 心臓の音さえ聞こえてきそうな後藤の告白が嬉しくて、石川の瞳から自然に
 涙が流れ落ちる。
 けれど、石川は流れ落ちる涙を拭うことが出来ない。
 少しでも動いたら今という時間が壊れて、全てが嘘になってしまいそうな気
 がする。
130 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月07日(木)05時29分21秒

 本日の更新分、終了!
 新聞配達並みの早朝更新でした(^^;)。
 眠くてちょっと意識が朦朧と……。

 >>121
 感情を出さない後藤と、鈍感な石川(爆)。
 いい組み合わせ(?)だなぁ(笑)。
131 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月07日(木)21時11分24秒
おお、いいとこまで来ましたね
132 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月08日(金)21時40分55秒
おぉ(w
近付いてきたぁ〜〜〜(藁
133 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月10日(日)23時51分37秒

「梨華ちゃん」

 ぽろぽろと涙をこぼす石川に後藤が声をかける。

「ごめんね、ごめんね。梨華ちゃん。もう、困らせないからこっちを向いて」 

 石川には何故、後藤があやまるのか理解できない。
 自分は後藤の気持ちが嬉しくて泣いているのに、何故この人はあやまっている
 のか。自分は困るどころか喜んでいるのに。
 それに、まだ返事を伝えていない。
 石川は自分の返事を聞かずに、すまなそうな顔をしてこちらを見ている後藤に
 少しばかり大きな声で言った。

「真希ちゃんのバカッ!鈍感っ!」
「なっ、何?それっ?」 

 突然、バカ呼ばわりされた後藤はわけがわからない、という顔をしているが、
 石川はかまわず続けた。

「何で気がつかないのよ」

 意味がわからずオロオロとうろたえる後藤がかわいくて、石川はそのままじっと
 後藤を見つめる。
134 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月10日(日)23時53分24秒
 その顔にはあいかわらずすまなそうな表情が浮かんでいる。そんな後藤を見て
 石川は考える。

『真希ちゃんに自分の気持ちを伝えよう』

 気がついてもらうんじゃなくて、きちんと自分で思いを伝えよう。
 石川はこの湖に来た理由を思い出した。
 自分の足で歩く為に、勇気を出す為に、その為にここまで来たのだ。
 そんなことを思っていると、後藤が石川の思いとはまったく別の発言をしてくる。

「……ごめん。それって、私の気持ちが迷惑ってことだよね?」

 石川は黙って首を横に振る。

「違う、反対だよ?……真希ちゃんのバカ」
「反対って?」
「嫌いじゃないって事、だよ」
「梨華ちゃん、今、なんて言ったの?」

 後藤が信じられない、というように石川に聞き返してくる。
 その問いに答えるように、石川は話し出した。
135 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月10日(日)23時55分24秒

「あのね、学校に馴染めなかった私に色々優しくしてくれたでしょ?
 私、真希ちゃんといると今までが嘘みたいに毎日が楽しかった。
 嫌いだった学校が大好きになった。そしたら……そしたらね、
 いつのまにかね、真希ちゃんのことが……」

 石川はそっと後藤を見上げた。
 すると、信じられない、とばかりに大きく目を見開いている後藤の表情が見える。
 石川は湖に入ったまま、これから伝える言葉が本当だということを知らせるかの
 ように、後藤の足をそっと抱きしめる。
 後藤との楽しかった日々が思い浮かぶ。
 いつだって後藤から全てが始まった。
 今日だってそうだ。
 いつものように後藤がきっかけをくれた。
 けれど、今はそれでいいと思う。こうして、後藤とずっと一緒にいられたら、
 きっともっと違った自分になれるから。その時に、もっと前へ進めばいい。
136 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月10日(日)23時57分26秒
 全ての思いを一つにして満月に託そうと思った。後藤への思いを伝える勇気を
 この湖の伝説からもらう為に。
 石川は、いつも自分へ色々な物を与えてくれた後藤に気持ちを伝える為、小さな
 一歩を踏み出す。

「嘘なんかじゃなくて、本当に私も真希ちゃんが好き」

 気持ちを伝えるのは思ったより簡単で、でも、心臓が壊れそうに痛くなった。
 さっきの真希ちゃんもこんな気持ちだったのかな、と石川は思う。

「……嘘だよ」
「何で?何で嘘だと思うの?……それじゃ、真希ちゃんがさっき言ってくれた
 言葉も嘘なの?」

 石川は、勇気を出して伝えた言葉を、後藤によって小さく否定され少し悲しく
 なる。 
137 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月10日(日)23時59分29秒

「違うよっ。私が梨華ちゃんが好きなのは本当だよ。嘘なんかじゃないっ。
 ここに来るまでだって、ずっと梨華ちゃんの事考えてた」
「じゃあ、どうして私の言葉は信じてくれないの?」
「だって、だって、嬉しすぎるんだもん。そんなことあるわけないって、
 ずっと思ってた。だから、こんなに嬉しいことすぐには信じられないよ」

 子供のように自分を信じてくれという後藤がかわいくて、石川は優しく後藤の
 名前を呼ぶ。

「真希ちゃん」

 石川の声に後藤が小さく反応する。
 その後藤の足下で、湖が月に照らされてキラキラと光っていた。ふいにその
 キラキラが砕け散ると、後藤が石川と同じ目線まで降りてくる。自分と同じよう
 に身体を湖に浸す後藤は、今まで見た中で一番綺麗だな、と石川は思う。
138 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月11日(月)00時00分57秒

「梨華ちゃん、もう泣かないで。……いつも笑っていてよ」

 そう石川に告げると、後藤は石川の頬に流れる涙をすくうようにそっとその
 場所に唇を寄せる。
 後藤の唇が触れた部分から石川の全身へと熱が伝わっていき、涙が全部蒸発
 してしまいそうな気さえしてくる。
 石川のドキドキと止まらない心臓の音を無視するように、後藤の唇が耳の辺り
 で囁いた。

「もう全部信じちゃうよ?だから、もうイヤだって言っても遅いんだからね」

 耳元でそんなふうに囁かれた石川は、なんだかくすぐったくって小さく笑って
 後藤を見た。するとその瞳からは自分と同じように涙がポロポロとこぼれている。

「ねぇ、真希ちゃんも泣いてるって知ってた?」
「えっ?」 

 石川は少しだけ悪戯っぽく微笑むと、びっくりしたようにこちらを見つめる後藤
 へそっと顔を近づける。そして、先程の後藤と同じように頬へ唇を寄せた。
 その後、お互い照れたように笑いあう声が湖に響き渡る。
 そして一瞬の静寂が訪れ、満月の光の下、二人の唇が重なった。



139 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月11日(月)00時09分03秒

 『小さな一歩』終了です(^-^)。
 後藤編にはなかったエピソードを付け加えたせいで、後藤編より長くなって
 しまいました。
 しかし、何故かまだこの話しは続くのでした(^^;)。
 といっても、次回は番外編(?)なのでほんとーに短いお話の予定です。

 >>131
  とりあえず、石川編終了です(^-^)。
  いいところ、というか、中途半端な所で区切ったので、今回更新分は
  短くなってしまいました(^^;)。 

 >>132 
  近づいて、そして終了しました(笑)。で、続きます(爆)。
  番外編、しばらくお待ち下さい♪  
140 名前:aki 投稿日:2002年03月11日(月)00時40分17秒
いしごま読めて幸せ(w
二人の気持ちはすごく純粋で真っ直ぐなので読んでて
安心します。
番外編、楽しみに待ってますっ。がんばって下さいっ!
141 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月11日(月)16時32分11秒
二人が可愛いですねぇ〜。
番外編が楽しみですぅ。
頑張ってください!!
142 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月16日(土)00時05分47秒

 「今夜、出会えたら」の番外編


    『恋人からの距離』


143 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時08分06秒
 心臓がドキドキドキドキと毎日一生懸命動いていたら、寿命が短くなったり
 しないのだろうか?
 後藤は最近、そんなことを考えている。
 ドキドキするような事の連続だと、心臓の負担が大きくなって早死にしそう
 な気がする。気がするだけで、誰かに聞いたわけでもないから実際の所はわ
 からないが、この議題は後藤の中で最大の問題となっていた。
 何故こんなことを日々考えているかというと、後藤が寿命を確実に縮めてい
 るのではないかと心配するほど、毎日がドキドキの連続だからだ。ドキドキ
 ぐらいならいいのだが、バクバクする日もかなりあるので、もういつ死んでも
 いいのではないかと思うぐらいだった。
144 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時09分47秒
 あの湖で石川とお互いの気持ちを確かめて以来、後藤の心臓はいつ止まっても
 おかしくないぐらい働いていた。
 それは多分、石川も同じだろう。
 時々触れる石川の手が、自分と同じだということを知らせてくれる。
 石川の手や肩に触れるだけで、彼女の体温が上がるのが感じられたし、心臓の
 音さえ聞こえてくるような気がする。もちろん、それは石川だけでなく後藤も
 まったく同じだ。
 そんなこんなで、約三ヶ月。
 あの湖の日から簡単に過ぎ去った。
 ある程度時間が過ぎ去れば、もっと普通に接することが出来ると二人とも思って
 いた。だが、現実はそううまくはいかない。
 後藤と石川、二人は未だに『恋人』という状態に慣れることが出来なかった。
145 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時12分08秒
          ☆ ☆

 放課後、後藤はいつものように石川の教室へと彼女を迎えに行った。いつも
 ならそのまま二人で帰るのだが、今日はなんとなく二人ともすぐに帰る気持
 ちになれなくて、教室でだらだらとした時間を過ごしていた。
 石川は自分の机がある場所で椅子にちょこんと座っていて、後藤はそんな石川
 の机の上に腰をかけていた。
 さっきまで騒がしかった廊下も今は静かで、人が通る足音さえ聞こえない。
 それも当然だ。
 太陽は山の間に隠れる寸前で、外だけでなく教室内も暗くなりかかっていたし、
 ストーブの火が消えた教室は肌寒くなっていた。時間的にはそんなに遅い時間
 ではないのだが、冬は日が落ちるのが早い分だけ、夜が足早にやってくるよう
 な気がして後藤は、そろそろ帰らなければ、と思い始めていた。
146 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時13分54秒

「……そろそろ帰らないとね」

 後藤の心を読んだかのように石川がつぶやく。

「うん、もう外も暗いし」

 後藤も石川の言葉に何となく言葉を返す。
 けれど、帰らないと、と先に言葉を発したはずの石川は椅子に座ったまま動く
 様子がない。

「ねぇ、帰らないの?」

 少しも動く様子を見せない石川に、机に腰をかけたまま後藤は尋ねた。

「……帰るよ」

 小さな声で石川が答える。
 そう言ったまま、やはり石川は動かない。
(梨華ちゃんも帰りたくないのかな?)
 帰るよと言ったまま動こうとしない石川を見て、後藤は少しだけ嬉しくなる。
147 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時15分46秒
 帰らなければならないのは事実。
 けれど、帰りたくないのも事実。
 このまま石川との時間を過ごしていたい後藤はまだこの教室を出たくない。
 だから、後藤は石川の言葉に同意しながらも帰ろうとしない。
 同じように教室を出ようとしない石川は、きっと自分と同じ気持ちなんだ。
 後藤は嬉しくて飛び跳ねる心臓を押さえつけて、動かないままの石川へ手を
 伸ばす。そして、石川の手をそっと握るとその手を自分の方へ引き寄せた。
 さらに高鳴る心臓の鼓動に後藤はドキリとする。静かな教室に自分の心臓の音
 が響き渡りそうな気がして、思わずギュと石川の手を握ってしまう。
 力強く握ってしまった手を石川が優しく握り返してくる。

「帰りたくないな」

 勇気を出して、後藤は自分の思いを口にしてみるが、返事はない。 
 けれど、言葉のかわりに握られた手が返事を返す。
148 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時17分10秒
 ギュッとさっき後藤が握ったように、力強く後藤の手を握ってくる。
 手が溶けてしまいそうだ。
 石川と繋いでいる手だけが自分から離れて別のパーツになってしまったようで、
 後藤は自分の手をどうしていいか急にわからなくなってしまう。
 あの日からいつもそうなのだ。
 お互いの思いが通じた日から、お互い妙に意識してしまって何だか態度がおかし
 くなってしまうのだ。
 繋ぎたい手が繋げない。
もう少し近づきたいけど近づけない。
 それは後藤だけでなく石川も同じようで、あの日以来、二人は手さえ繋げてい
 なかった。
149 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時19分29秒
 だから、今、繋いだ手は久々に石川の体温を直に感じる物だった。 
 しかし、それは石川も同じで、後藤の体温にドキドキしてしまい、家に帰る、
 なんて事はどこかに飛んでしまう。
 手を繋いだまま、後藤は心臓の音を誤魔化すように言った。

「外、どんどん暗くなってる」
「うん」
「ねぇ、このままさぁ……」
「時間が止まっちゃえばいいのにね」

 ありきたりの言葉過ぎて、後藤が口にするのを戸惑った言葉を石川がすんなり
 口にする。
 なんの照れもなく自分の思った言葉を口にした石川を後藤が見つめると、そこ
 にはニッコリと微笑んでいる石川がいた。
 薄暗い教室の中でも、どんな風に石川が微笑んでいるか後藤にはわかった。出会って
 からの数ヶ月、その顔を見続けてきたのだからわからないはずがない。
150 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時20分47秒
 きっと彼女は、後藤が頬を赤らめずにはいられないような綺麗な微笑みを浮かべ
 ているのだろう。後藤の脳裏に石川の整った顔が笑顔へと変化していく様子が
 映し出される。
 夜が近くて良かった、と後藤は思わずにはいられなかった。きっと明るい場所
 でその微笑みをみたら、真っ赤にならずにはいられなかっただろうから。

『カタン』

 石川が座っていた椅子が鳴る。その音と同時に石川が立ち上がった。

「梨華ちゃん?」

 急に立ち上がった石川を見て、後藤は思わず声をかける。

「ホントにそろそろ帰らないと」

 繋いだ手をそのままに石川が言った。
151 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時22分13秒
 その顔は帰りたくないと言っているようだったが、後藤はとりあえずその意見に
 同意する。

「そだね」

 そう言いながら、腰掛けていた石川の机から腰を上げると、石川は少し残念そう
 な顔をしたが、すぐにその表情を消し去ると歩き出した。後藤の手は石川と繋が
 れたままなので、当然、石川に引きずられるように後藤も歩き出す。
 しかし、教室から出ようとするその瞬間、後藤は急に足を止めると繋いでいた手
 をクイっと引っ張った。

「どうしたの?」

 石川の問いとほぼ同時に後藤は、引っ張った手にさらに力を入れて、石川を自分の
 方へと抱き寄せた。
152 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時23分25秒
 後藤は、壊れ物でも扱うように優しく石川を抱きしめる。

「梨華ちゃん。……私の心臓の音、聞こえる?」

 後藤は、自分の腕の中にいる石川の耳元で小さく囁いた。

「うん、聞こえるよ。ドキドキいってる」
「あのね、私の心臓、おかしくなっちゃったんだ。あの日から、ドキドキが止まら
 ないの。毎日、毎日、梨華ちゃんに会うたびにドキドキする」
「同じだよ、真希ちゃん。……私も同じ」
 
 石川が胸の高鳴りを押さえるような声で答える。後藤はそんな石川の声にすら
 ドキドキしてしまって、自分で抱きしめたはずの石川を放り出しそうになって
 しまう。
 肌寒いはずの教室の中がなんだか暑く感じる。
 まるで夏になったみたいだ。
 後藤は腕の中の石川を持て余しながらそんなことを考えていた。
153 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時25分16秒
 そんな後藤の気持ちに気づいているのかいないのか、石川は後藤の手をそっと
 取ると自分の胸の辺りへとその手を持っていく。

「ほら、ドキドキしてるでしょ?」

 そう言いながら、石川は自分の心臓がある部分へ置いた後藤の手を握りしめる。
(ホントだ。梨華ちゃんもドキドキしてる)
 石川の行動によって、彼女が自分と同じようにドキドキしているということが
 ハッキリとわかった。けれど、この行動によって後藤はさっきよりもさらに
 ドキドキしてしまって、もういつ倒れてもおかしくないぐらいだった。
 何だか酸素が薄くなったみたいで、後藤は頭がクラクラしてくる。 
 酸素の欠如した脳で後藤は、自分をこんな目にあわせている石川を恨めしく思う。
 まるで夏みたいだ、なんて考えていた教室内の温度は、今や猛暑とよんでもいい
 ぐらいの温度に感じられる。
 そんな自分の身体の熱を冷ますかのように、後藤は石川を抱きしめていた腕を
 ほどき、石川と距離をとる。
154 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時25分58秒

「真希ちゃん?」

 不思議そうに石川がこちらを見つめてくる。

「梨華ちゃんのドキドキ、わかったけど、けど……」
「けど?」
「今は絶対、私の方がもっとドキドキしてるっ!」

 後藤は石川の目を見ながら断言する。
 すると石川も張り合うように答えた。

「違うよ。絶対、私の方がドキドキしてるよ」

 負けず嫌いの彼女の声が絶対に私の勝ちだ、と言っているようで後藤は思わず
 吹き出してしまう。
 くすくすと笑いながらも、後藤は確信する。
 絶対に自分の方がドキドキしているハズだと。
 自分の勝ちを主張するように後藤に声をかけてくるその仕草にさえ自分はドキドキ
 してしまうのだから。
155 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時27分06秒
 後藤は、自分が早死にしたら石川のせいに違いないと思う。
 だって、こんなに心臓を酷使させなければならないのは、全部石川のせいなのだ。
 彼女が何か言うたびに跳ね上がる心拍数の責任は全て彼女にあるはずだ。
 そんなことを考えながら目の前にいる石川を見つめていると、ふいに石川の端正
 な顔が後藤へと近づいてきた。
 後藤の額へ石川の暖かい唇が触れる。

「えっ?」

 驚いて声を上げる後藤に、石川はニッコリと微笑むと大きな声で一言。

「勝負!」
「ええっ?」

 意味が全然わからない。
 ?マークを頭の上にたくさん飛ばしながら後藤は声を上げた。
 すると石川は、さっき自分が口づけた後藤の額へビシッと人差し指を突きつける
 と言った。
156 名前:恋人からの距離 投稿日:2002年03月16日(土)00時28分07秒

「どっちがたくさん好きになれるか勝負!」

 後藤は、思いもよらない勝負内容に思わずぽかんと口をあけたまま口を閉じる事
 を忘れてしまう。

「絶対に私が勝つけどねっ」

 呆然としている後藤を無視して石川はどんどん話しを進めていくどころか、勝敗
 まで予想し始めている。
 そんな石川に後藤は、ここ数ヶ月続いたぎこちない日々を忘れるように叫んだ。

「違いますよーだっ。絶対に私が勝つに決まっているっ。だって、こんなに寿命が
 縮む思いをしてるんだからねっ」

 後藤は今までと同じように心拍数を上げ心臓を酷使しながら、自分の寿命を短く
 させる元凶を見つめながら笑った。



157 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月16日(土)00時42分02秒

 「恋人からの距離」終了♪

 というわけで、「今夜、出会えたら」シリーズ(?)は完結いたしました。
 読んでくれていた皆様、本当にありがとうございましたm(__)m
 次は新しいお話を書きたいと思います。で、今、ぽつぽつと書き始めた
 んですが、ちょっとばかり長くなりそうなので新スレ立てることにします。
 近々、この緑板に立てるつもりです。・・・もうちょい書き進めてからの
 アップ予定です。
 で、このスレですが、まだ容量もあるので、短編を気まぐれに書いていこ
 うかな、と。新しいお話との平行になるので、かなり不定期更新になるで
 しょう(^^;)。
 今後ともよろしく!ということで、よろしくお願いしますm(__)m


 >>1-61  『今夜、出会えたら』

>>66-138 『小さな一歩』

>>142-156 『恋人からの距離』
158 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月16日(土)00時49分11秒

 >>140 akiさん
 うぉー、がんばりました。番外編!
 純情な二人の番外編、楽しんで頂けたでしょーか?
 こーゆーもどかしい二人が好きな私だったりします(笑)。

 >>141
 本編ではかわいい二人ですが、番外編はっ!
 ……番外編はさらにかわいい(?)二人のお話なのでした(笑)。
 
159 名前:141 投稿日:2002年03月16日(土)15時41分48秒
イヤン石川さんたら積極的♪
もうお二方、とっても可愛いですね。
メロメロメロメロ・・・。
素敵な番外編、感謝感激なのれす。
160 名前:aki 投稿日:2002年03月17日(日)19時26分03秒
すごく楽しく読ませてもらいましたよ^^
良い感じな雰囲気がこちらにも伝わってきました。
もどかしい関係っていいですね。
貴重な時間を割いて書かれた番外編、そして「今夜、出会えたら」
シリーズ、本当にお疲れ様でした^^
161 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月22日(金)18時30分10秒
 
 新しい小説、ちょこっとだけ出来ました♪
 今晩、たぶんアップ出来ると思います。
 新スレは緑板に立てます(^-^)。

 >>159 141さん
 書いていながら私もメロメロ(笑)。
 私的には、積極的な石川さんが好きだったりします(・_・)。

 >>160 akiさん
 最後までお付き合い頂けて嬉しいです(^-^)。
 「貴重」かどうかはわかりませんが、ゲームをする時間を削った事だけは
 確かな新シリーズが少しだけ出来たのでこちらもよろしくです(^^;)。

162 名前:みるきぃー 投稿日:2002年04月15日(月)23時37分51秒

 短編、近日中にアップ出来そうです。
 ちょびちょびと書いてますが、今週中にはなんとか。
 しばしお待ちをっ(って、今、ここ読んでる人いるのかなぁ(^^;))

163 名前:晴れ時々キス 投稿日:2002年04月18日(木)00時31分48秒
 晴れた日も曇りの日も雨の日も真希の日常は変わらない。
 真希は自分の家へ帰るより先に、自宅の隣にある保田と表札に書かれた家のチャイム
 をいつものように鳴らした。
 保田家のチャイムを鳴らすことは真希にとって日課だった。
 いつも自宅へ帰るより先に保田と書かれた家に寄っていく。

「真希ちゃん、あいてるわよー」

 家の奥からいつものように声が聞こえてきた。声の主は真希の五つ年上の幼なじみ
 で友人でもある保田圭の母親だ。
 勝手知ったる友人宅。
 真希は何年も続けてきたように、扉を開け家の中へと入っていく。そして圭の母親
 に声をかけると二階へと続く階段を登った。

「けーちゃん、開けるよぉ」

 階段を上りきった真希は、トントンと軽くノックをすると同時に圭の部屋のドア
 を開けた。
164 名前:晴れ時々キス 投稿日:2002年04月18日(木)00時33分41秒

「ねぇねぇ、けーちゃん見て見てっ!」

 天気の良い土曜の午後だというのに、圭はベッドに横になって本を読んでいた。
 しかし、そんな圭の返事を待たずに、真希は一枚の紙をひらひらと空中になびかせる。
 しかし、圭は真希が手にしている紙に目をやることなく、本を読み続けていた。
 こんなことはよくあることで、真希はそんな態度の圭を別に気にも留めず、
 圭の側へ歩み寄った。

「けーちゃんってばぁ」

 真希は自分を無視して本を読み続ける圭の手から本を奪い取った。
165 名前:晴れ時々キス 投稿日:2002年04月18日(木)00時35分34秒

「ごとぉーーー」

 本を奪われた圭は恨みがましい声を上げ、やっと真希の方を見る。

「もうちょっとでラストなんだから本を返しなさい。ほら、後藤っ。早く返すっ」
「やぁーだよっ。本の最後より大事な事があるんだから、そっちが先っ!」
「今、その本のラストより大事な物はないのっ。さっ、早く本を返しなさい」
「絶対やだっ」

 真希がべーと舌を出しながら圭の本を自分の後ろに隠す。その行動に圭は
 実力行使で本を奪い返そうとする。
 圭は寝転がっていたベッドから降りると、真希の後ろに回った。そして、真希の手
 から本を奪い返そうとするがなかなかうまくいかない。
 圭が真希の後ろに手を伸ばすと、真希はそれより一瞬先に自分の前に本を移動させる。
 圭がそれを追って真希の胸元に手を伸ばせば、真希がすっと本を頭上高く上げる。
166 名前:晴れ時々キス 投稿日:2002年04月18日(木)00時37分25秒
 そんなことを何回か繰り返しているうちに圭が『負けた』というように声を
 上げた。

「わかった。わかったから。先に後藤の話し、聞くからさ」

 圭のその言葉を聞くと、真希が嬉しそうにもう一度先程取り出した紙を圭の前で
 ちらつかせる。

「何、それ?」
「テスト用紙」
「で、それが何か?」
「何か?じゃなくてさ。早くね、見て欲しいんだなぁ」

 圭は、満面の笑みでテスト用紙を差し出す真希からその紙を受け取った。
 圭が受け取ったテスト用紙には大きくこう書かれていた。

『数学 96点』

 目に飛び込んできたその数字が信じられなくて、圭は穴が空くほどテスト用紙を
 見つめた。そして、自分の前でにこにこと嬉しそうに座っている真希とテスト
 用紙を見比べる。
167 名前:晴れ時々キス 投稿日:2002年04月18日(木)00時39分12秒
 テスト用紙をじっと見つめる圭の顔には『信じられない』と書いてあるようで
 真希はその様子に満足する。

(圭ちゃんを驚かせたくてがんばったんだもん。これぐらい驚いてもらわないとね)

 家でも学校でも勉強嫌いで通っている真希だから、この結果を得る為にはかなり
 の努力をした。しかも、圭にはわからないようにテストでいい結果を出したくて、
 家に帰ってから夜遅くまで一人で勉強を続けたのだ。
 おかげで自分でも驚くようなこの点数。
 真希はこのテストを返してもらった時は、嬉しさのあまり踊り出しそうだった。
 数学のテストだけにかけていたから、他のテストは散々な結果だったが、とにかく
 一つだけでも良い点数を取れた。
 これで、圭にお願いが出来る。
 真希はドキドキとする胸を沈めるように息を深く吸う。
 どうしても圭にしてほしいことがあって勉強をした。
 別に圭と約束をしたわけではない。けれど、圭は真希のどうしてもというお願いを
 断ったことはない。
168 名前:晴れ時々キス 投稿日:2002年04月18日(木)00時40分54秒
 本当は、いつものように圭に甘えてお願いすればよかったのかもしれなかった。
 だが、今回のお願い内容はそれでは通用しない気がして、96点のテストという
 オマケをつけることにしたのだった。

「ねっ、圭ちゃん」

 真希はずっと胸の中にしまっていたお願いをしようと口を開いた。しかし、圭が
 それを無視するように言った。

「もしかしてカンニング?」
「ちがーうっ」
「じゃ、不正行為?」
「それ、さっきと同じような意味じゃん」
「同じような、じゃなくて、同じ意味だよ」
「けーちゃん、ひどいっ!私、圭ちゃんに褒めてもらいたくて真面目に
 勉強したんだよ?」

 ぷうっと頬を膨らませながら真希は圭に詰め寄った。圭はそんな拗ねてしまった
 真希をなだめるように真希の頭を軽く撫でると言った。
169 名前:晴れ時々キス 投稿日:2002年04月18日(木)00時42分55秒

「でも、100点じゃないんだね」

(わざとだ)

 真希が圭の大きな瞳をじっと見つめると、その目は面白がっているような色を浮かべている。
 自分が拗ねる様子が面白くていじわるな言葉を投げかけてきているということが、
 真希にもやっとわかった。

「確かに100点じゃないけどさ。でも、でもっ、一生懸命がんばったんだよ?
 ……私がこんな点数取れることなんか、この先もうないかもしれないんだからね」

 圭が面白がっているのがわかったが、真希は真面目に圭に訴える。それが圭にも
 伝わったようで、圭も真希の話を真剣に聞き始めた。

「うん、すごいね。よくがんばったね、後藤」

 圭がもう一度真希の頭を撫でる。
 今度は先程の真希の機嫌を取るような撫で方とはとは違い、がんばった真希を
 褒めるような優しい手の動きだった。
170 名前:晴れ時々キス 投稿日:2002年04月18日(木)00時44分42秒
 真希はずっとこの手に触れていて欲しいと思ったが、そういうわけにはいかない。
 圭に今日、どうしてもお願いしたいことがあるのだ。
 真希はそのお願いを圭に告げる為、口を開いた。

「圭ちゃん、あのね、お願いがあるの」
「ん?どんなお願い?」
「圭ちゃんにしか出来ないことなんだけどね……」

 真希はそこまで告げると、次の言葉に詰まってしまう。
 たった一言、たった一言告げればいいだけだった。圭自身の気持ちはどうあれ、
 優しい圭のことだから真希のお願いを断ったりしないに決まっている。
 そんな確信があるのに真希は次の言葉を口に出せないでいた。

『勉強をがんばったご褒美に一日デートをして欲しい』

 何故、これだけのことが圭に伝えられないのだろう?
 いつものように圭にお願いすればいいだけのはずだ。勉強をがんばった証拠である
 テスト用紙もある。だから、きっと圭は断ったりしない。
171 名前:晴れ時々キス 投稿日:2002年04月18日(木)00時47分04秒
 けれど、胸がドキドキして真希はうまく言葉を紡ぎ出すことが出来なかった。

「珍しいね。後藤がお願い事をためらうなんて。いつもは、私がイヤだって言っても
 無理矢理言うことを聞かせるくせに」

 下を向いたまま一向にお願い事を言ってこない真希を不審そうに圭が見ている。
 それでも真希は顔を上げられない。
 そんな真希に圭が手を伸ばしてその頬に触れた。

「たまにはそんなしおらしい後藤もかわいくていいね」

 圭はクスクスと笑いながら真希にそう告げると、頬に触れる手に軽く力を入れて真希の
 顔を自分の方へと向けた。そして、自分の方に向いた真希の顔に自分の顔を近づける。
 軽く触れるだけのキス。
 柔らかな圭の唇が自分の唇に触れたことに驚いて、真希は目をつぶることさえ出来
 なかった。
172 名前:晴れ時々キス 投稿日:2002年04月18日(木)00時49分44秒
 驚いて呆然としている真希に、もう一度圭が唇を重ねてくる。
 そんな圭の行動に石のように固まったままになっている真希に、圭が照れたよう
 に言った。

「勉強がんばったご褒美。……なんてね」

 自分が望んでいた以上のご褒美に真希は驚いて何も言うことが出来なかった。

「あれ?後藤、怒った?」

 何も反応がない真希に、圭が不安そうに尋ねてくる。

「ごめん。もしかして、私のこと嫌いだった?」
「……違う」

 不味いことをしたというように謝る圭に、真希はやっとの事で口を開いた。

「えっ。じゃあ、好き?」
「……言わない」
「ええぇー!……私は後藤の事が好きだよ。ねぇ、後藤は?」
「知らない」

 困り切った顔をして質問をしてくる圭がおかしくて、真希はわざと自分の気持ち
 を伝えない。

(けーちゃん、さっきの意地悪のお返しだからね)

 真希は、本当は『大好き』と圭に伝えたかった。けれど、先程の圭がした意地悪の
 仕返しのつもりで本当の気持ちを口に出さない。
173 名前:晴れ時々キス 投稿日:2002年04月18日(木)00時52分29秒

「ごとぉー!好きだって言わないともう一回キスするからねっ」

 圭はそう言い終わると同時に真希にキスをした。

「ほら、好きだって言ってごらん?」

 重なった唇を離して圭が言った。
 その言葉を聞いた真希は確信犯の笑顔で答える。

「絶対、言わない」

 真希が言わなくても圭は知っているに違いない。だから真希はしばらくの間、
 好きだと言わない。
 好きだと言ってしまったら、この優しいキスが途切れてしまう。

「言わせてみせるからね」

 圭が挑戦的な瞳をゆっくりと閉じながら真希に口づける。
 圭の柔らかい唇を感じながら、真希は目を閉じることを忘れて部屋の窓から見える
 空を見た。

(こんな晴れた日は二人で外へ遊びに行きたかったけど、こんな風に過ごすのも
 いいかもしれない)

 真希は圭とキスしながらそんなことを考えた。
 ふと気がつくと圭の唇が離れていく瞬間で、今度は真希から唇を近づけていく。
 自分からする初めてのキス、真希は目を閉じることを忘れなかった。



174 名前:みるきぃー 投稿日:2002年04月18日(木)00時57分49秒

 「晴れ時々キス」終了♪
 いつものいしごまではなく今回はやすごまで。
 たまに違うモノを書くと気分が違っていいなぁ。
 
 次からはまたしばらく別スレの「悪魔のお仕事」に戻ります。
 また余裕があったら短編アップします(^-^)。


 
175 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月19日(金)03時00分40秒
お!やすごまだ(w
最近圭ちゃんに甘えるごまに萌え死んでいるんでめっちゃ嬉しい(w
余裕があったらですか…早く作者さんに余裕が出来ることを祈ってます!
176 名前:LINA 投稿日:2002年04月19日(金)06時36分37秒
やすごまハケーン!(w
みるきぃ〜さんのやすごまカワイイなぁ・・・♪
見習わなければ!
いしごまも楽しみにしてますね(^▽^)ファイッ♪
177 名前:みるきぃー 投稿日:2002年04月22日(月)00時40分26秒

 GW中に新しい短編をアップしたいなぁ、と思う今日この頃。
 書きたいなと思うお話が頭の中にあるので。

 >>175 名無し読者さん
  私も最近ツボなんですよね、圭ちゃんに子犬のようにまとわりつく
  ごまが(^-^)。
  さっさと時間作って、新しい短編をなんとかしたいです。

 >>176 LINAさん
  LINAさんちのやすごまもめちゃかわいかったです(^-^)。
  書きたい短編もありますが、本業(?)のいしごまの方もがんばって
  更新しますっ♪……ああっ、身体が二つ欲しい(・_・;)


  

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