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CRIME

1 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月26日(土)03時47分48秒
某板某スレにて書いてたヤツの修正+続き。
sageでヒソーリ。
2 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月26日(土)03時49分23秒

罰せられるべきは、あたし。
己の心に鍵をかけ、傷つくことを恐れながらも傷つけることを厭わない。
傷つけている自覚すらないまま、でもあの日の純粋な気持ちのままのつもりでいたあたし。


・・・・・・人は何も変わらずにはいられない。
3 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)03時50分38秒

台風が夏の欠片をすべて吹き飛ばした、翌日の午後。
TV局の屋上から見える空は、限りなく青く高く広がって。
吉澤は、何を考えるでもなく鉄柵に体を預けながら、目の前に広がる風景を眺めていた。
入り時間まではまだ少しの余裕がある。
慌しい階下から隔離されたこの空間を、吉澤は気に入っていた。

1年半。
人の心が変わるには。
そして人の心を変えるには。
充分過ぎるほどの時間。

これが自分の望んだ結末だったのだろうか。
吉澤は少しだけ後悔する。
紅く染まろうとしている木の葉が、台風の残り風にざわざわと音を立てていた。
4 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)03時51分54秒

「好きだよ」

そう言われた。
ああ、これですべてが報われたと吉澤は思った。
この1年半のすべてが。

・・・・・・なのに。
何かを置き忘れてきたような感覚。
吉澤は己の感情に戸惑っていた。

これはゲームのはずでしょう?
5 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)03時53分10秒

そう、ゲーム。
すべてを捨てていった彼女との。
ただ一人残された彼女との。

そして、ゲームはあの瞬間に終わった。
吉澤の勝ち。
最後に残された選択肢は二つ。

とびきりの優しい声で。
「・・・・・・あたしもだよ」
限りなく冷たい声で。
「・・・・・・何か勘違いしてない?」

吉澤の選んだ答は、後者。
6 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)12時44分42秒

風が少し強さを増す。
落ち葉が空を舞って、吉澤の周囲にはらはらと落ちる。
泣いてなんかいない。
もしそう見えたなら、それはきっと、舞い上げられた砂が目に入ったせい。
誰も見ていないのに、吉澤はそんな言い訳を考える。
7 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)12時45分50秒

最初は、ゲームではなかった。

出会ったとき、憧れと羨望と嫉妬がないまぜになった、複雑な心情を抱いた。
それは二人のうちのどちらかに向けられたものではなく、互いの一途な想いに。

やがて一人はすべてを捨て、残された一人はすべてを失う。

出会った頃に抱いた羨望と嫉妬は、同情へと変わる。
カワイソウニ。アタシガソバニイテアゲル。
戻ってくると言って旅立った者への憧れは、憎しみへと昇華した。
ナンデカノジョノコトキズツケルノ?
8 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)12時46分52秒

ああ、あの頃からおかしくなったのかもしれない。
吉澤はぼんやりと思い出す。
取り返しのつかない想いが湧き上がって、突き上げてくる衝動が行き場をなくしたまま、鉄柵を握る両手に力を加えていく。
青く高く広がっていたはずの空は、気づかぬうちに雲の量を増していた。

・・・・・・砂、とれないや。
9 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)12時49分37秒

同情と憎しみは、時間の経過と共に吉澤の中で邪な感情へと融合していった。
本人さえそうと気づかぬうちに。

アタシガモライマシタ。アナタノタイセツナヒト。
アナタノモドルバショハ、モウアリマセンヨ。
言い放てたらどんなに気持ちいいだろう。

「吉澤、後は頼むね」
そう言い残した彼女に。
10 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)12時51分48秒

そうして、いつの頃からかゲームは始まる。
彼女を手に入れられるか。彼女の心を変えられるか。
見えない敵――それは彼女の内の過去の幻影――との密かな戦いに心躍らせた。

作戦を練る。実行する。
彼女が築いていた心の壁を少しずつ取り除くたび、レベルアップした勇者の気分を味わう。
焦ってはいけない。一歩一歩着実に。そんな日々の繰り返しに気分は高揚する。

さりげない優しさも。
くだらない馬鹿騒ぎも。
そのすべては偽善に満ちた計算ずくの行為。
本音は笑顔の裏側に隠したままで。
11 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)12時53分01秒

それでも、最後の一線は決して自分から越えようとはしなかった。
相手に言わせなければ、何の意味もない。
それがクリアの条件。
吉澤はそう考えていた

しかし現実はそうそう思い通りにいくわけもなく。
動きを見せない彼女への苛立ちが限界に達しようかという頃。
エンディングが見えないかに思われたゲームは、
突然の告白で予期しない終局を迎える。


「好きだよ」
12 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)12時54分04秒

鉄柵の向こう側、転落防止用の金網を吉澤は力任せに掴む。
もう、涙を隠そうともしていない。

やりきれなさがその身を覆いつくす。
その理由も、本当はわかっている。
ただ、自分の感情を認めたくなかっただけだ。
気付かなかったフリをしていただけだ。鉄柵の向こうの金網を、力任せに掴む。
もう、涙を隠そうともしていない。

見上げた空は、黒く染まりきろうとしていた。
13 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)12時55分26秒

子供じみた意地と憎しみで、彼女を手にしたかっただけなのに。
人の気持ちは変わるものだと、見せつけてやりたかっただけなのに。

本当は、途中から気付いていた。
自分の感情と、それに相反する今さらな倫理観。

時間は遡らない。
だからこそ今、自分の愚かさ加減が身にしみる。
14 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)12時58分59秒

あたしには彼女を好きになる資格がありますか?
一緒にいる資格がありますか?
吉澤は自分に問いかける。
答えは、いわずもがな。

これ以上彼女を貶めることなどできない。
憐れみが遊びを経て愛情に変わったなんて、
彼女をあまりに馬鹿にしている。

そして今さら素直に接することができるほど、面の皮は厚くない。
15 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)12時59分55秒

彼女は充分過ぎるほどに傷ついたんだ。
これ以上その傷を増やすことはない。
吉澤はそう思った。

だから、これで最後。
そして、あたしじゃない他の誰かを見つけて。

選択肢は二つ。
吉澤が選んだのは、後者。


「・・・・・・何か勘違いしてない?」
16 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)13時00分33秒

ぽつぽつと降り始めた雨が、徐々に激しさを増す。
塗装が剥がれかけていたのだろうか、
金網からほんの僅か飛び出した棘が、白い皮膚を食い破る。
紅い液体が手のひらを染め、腕をつたって流れ落ちた。

痛みは感じない。
冷たさも感じない。

ただ降りそそぐ雨の音だけが、吉澤の耳に。
17 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)13時01分43秒

この血を洗い流してくれるの?
けど、こんな腕より癒さなきゃいけないものがあるでしょう?
それはもう、あたしのできることじゃないから。

流れる血を拭おうともしないまま、
吉澤が何かに祈りを捧げるように膝から崩れ落ちた。

幾千粒の雨は、吉澤の罪を責めるように。
18 名前:1 投稿日:2002年01月26日(土)13時03分01秒

神様。
彼女に、今度こそ裏切られることのない幸せを。
その日がくるまで、あたしは赦されなくていい。
生贄や供物が必要ならば、この流れる血を。
醜く黒く濁ってしまった血などいらないだろうけど。


あたしは、それ以外にあたしの罪を償うすべを知らないから。
19 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月26日(土)13時04分27秒
続く。
20 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月26日(土)13時05分34秒
適当に下がったらまた書こう
21 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月26日(土)13時08分20秒
(0^〜^0) <ばいばい
22 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月27日(日)07時53分49秒
( ´D`) <ぬ、いちーちゃんれすか?

某スレってどこだろう?
続き下がるまで待ちまーす
23 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)01時24分37秒
みんなsage更新で沈まないことに気がついた。のでちょこっと更新。

>>22 過去ログにはまだ逝ってない。ていうか探さないで。
24 名前:2-1 投稿日:2002年01月28日(月)01時26分10秒

言葉は時に、世界中のどんな刑罰よりも残酷。
たとえその裏側に、どれほどの限りない愛情がこめられていたとしても。
ナイフよりも鋭く。銃弾よりも熱く。
互いのココロは深く抉られたまま、傷を癒す暇さえ与えずに日常は絶え間なく訪れる。

「好きだよ」
「何か勘違いしてない?」

この瞬間から、訪れる日常はそれまでと違う意味を持つ。
そのことに気がつくのに、それほどの時間はかからない。
一歩を踏み出すほんのひとかけらの勇気が、今までのすべてを粉々に砕いてしまったことにも。


彼女の罪は、その一言を口にしてしまったこと。
25 名前:2-1 投稿日:2002年01月28日(月)01時27分01秒

すれ違う想いを確かめられないまま、また一日が始まる。

その日の楽屋に広がるのは、いつもと同じ光景。
騒々しい者、静かに本を読む者、メイクに時間をかける者。
それぞれがそれぞれに持て余した時間を過ごす中、ただ一人姿の見えない者がいる。

どうしたんだろ。

後藤は、知らず知らず彼女を気にかけている自分に気づく。
26 名前:2-1 投稿日:2002年01月28日(月)01時29分01秒

きっとその心配は、報われることのないもの。
きっと顔を合わせたって、話さえできやしない。
落ち着かない感情を見透かされたように、冷たい言葉が返ってくるだけ。

昨日までの逢いたい気持ちに嘘はないのに。
昨日と変わりのない今日が訪れるはずだったのに。
その瞬間を思い出すたび、時計の針を逆回転させたい衝動に駆られる。

どんなに強く祈っても、昨日までの二人には戻れない。
そしてそれを忘れられるほど、後藤の心は強く出来てはいなかった。
27 名前:2-1 投稿日:2002年01月28日(月)01時30分00秒

ひとつため息をついて、読みかけの雑誌に再び目を通そうとしたとき、楽屋の扉が開いた。
開いた扉の向こうには、つい先刻降り出した雨に、全身ずぶ濡れになった吉澤。
彼女は自分のバッグからタオルを取り出すと、かけてあった衣装を手にとって奥の更衣室へと入っていく。

誰とも会話を交わすことなく。
決して表情を変えることなく。

握り締めたタオルが、紅く染まっているのに気づいた者は、一人もいなかった。
28 名前:2-1 投稿日:2002年01月28日(月)01時31分12秒

――― 胸が、痛んだ。


何か、ヒトコトくらい話してよ。
挨拶さえないってあんまりでしょ。
あまりにあたしが惨めじゃない。
それとも、そんなにあたしの勘違いがムカついた?

そんな風に声に出さず怒ってみたって、自分の内面に嘘はつけない。
たった一日で、好きな気持ちを割り切れるほど大人でもない。

一瞬静まり返った楽屋が再び話し声に満ち溢れてきた頃、
鏡の向こうの後藤の瞳から、一粒だけ雫が零れ落ちた。
29 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)01時32分12秒
つづく。
30 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)01時33分15秒
・・・と思う。
31 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月28日(月)01時34分27秒
( ´ Д `)<早く沈め〜
32 名前:2-2 投稿日:2002年01月29日(火)01時02分14秒

そしてまた、こちら側では変わらぬ日常が繰り返される。

大して面白くもない収録。
馴れ合いで盛り上がったフリの出演者。
お飾りで座っていればいいその他大勢に含まれる自分。

自分が加入したが故に自分が求めたことが出来なくなったジレンマを抱え、
それでも笑顔を作る作業を繰り返さねばならない憂鬱から解放された頃、
太陽はとっくの昔にその姿を隠していた。
33 名前:2-2 投稿日:2002年01月29日(火)01時03分00秒

無造作に私物をバッグの中に詰め込みながら、鏡ごしに吉澤の方に視線を移す。
昼間と変わらぬ態度のまま、こちらもまた淡々と帰り支度を整える。

一緒に帰ろうよ。

言いかけて後藤は頭を振り、挨拶もそこそこに楽屋を飛び出した。
唖然としたような仲間たちを置き去りにして。

その後ろ姿を複雑な表情で見送る視線に気づくことはないままに。
34 名前:2-2 投稿日:2002年01月29日(火)01時03分39秒

狭い廊下を行き交う人々にぶつかりながら、後藤は走る。

もう、昨日とは違うんだよ。
ただの仕事仲間なんだよ。

TV局を飛び出すと、吉澤を濡らしたであろう雨は既にやんでいた。
雨上がりの独特の匂いが、鼻の奥に突き刺さる。
足を止めて星空を見上げる。
走ることで堪えていた涙がまた、瞳から耳へとつたっていった。
35 名前:2-2 投稿日:2002年01月29日(火)01時04分13秒

沈まない月もなければ、昇らない太陽もない。
どんなに抵抗してみても、次の朝は必ずやってくる。
互いのすれ違いは、交わる気配さえ見えないまま。

マネージャーの事務的な連絡は、楽屋にちょっとした狂騒をもたらした。
矢口はいつもの3倍増しくらいのテンションで嬌声をあげ、
保田は保田で何ごとかを呟きながら一人で頷く。
残りのメンバーもまた、程度の差こそあれめいめいに喜びあっている。

取り残されていたのは、後藤と彼女。
36 名前:2-2 投稿日:2002年01月29日(火)01時05分07秒

それは薄れかけていた過去の記憶を無理矢理に引っ張り出されたような感触。
幸せに満ちた日々と突然の別れ。
しかし後藤にとってその「別れ」が思い出の全てになりつつある現在、
何故皆がそこまで喜ぶのか理解しがたかった。

・・・・・・期待すれば、裏切られる。

毎日一緒に活動するわけじゃなし。
飽きたらまたどっか行っちゃったりするんじゃないの?

一日で割り切れないことも、一年半もあれば消化できるほどには後藤も大人だった。
37 名前:2-2 投稿日:2002年01月29日(火)01時06分29秒

その一方で、醒めた大人でも自分ではどうにもできない感情があることを、後藤は知っている。
そしてその真っ只中に自分がいることも。

彼女の目の端には、常に吉澤の姿。
その知らせを聞いた瞬間、吉澤の顔色が一瞬変わったのを後藤は見逃さなかった。
横目に映る彼女の表情に、なぜか胸をかき乱される。

驚きの後、口元に自嘲の笑みを浮かべたその顔に。

・・・・・・なんでそんな風に笑うの?
38 名前:2-2 投稿日:2002年01月29日(火)01時07分33秒

盛り上がる周囲と戸惑う後藤を乗せて、日々がまた動き出す。



――― 市井紗耶香、復帰。
39 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月29日(火)01時08分19秒
続く。
40 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月29日(火)01時09分07秒
・・・はずなんだけどどうだろう。
41 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月29日(火)01時10分01秒
( ´ Д `)<またねー
42 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月29日(火)06時40分59秒
この小説今気付いた!初めから読んだけどかなりツボ。
この独特の雰囲気が好きっす。続き期待しる。
43 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月30日(水)00時44分22秒
なんかサクサク書けたので更新してみる。それにしても沈まない。
(0^〜^0) <みんな更新しようYO!

>>42 変わったツボをお持ちで(w マターリお付き合いいただければ。
44 名前:3-1 投稿日:2002年01月30日(水)00時47分15秒

もうちょっと早く戻ってくるはずだったんだけどな。

そう思いながらスタジオの扉を開ける。懐かしい空気と緊張感が胸を満たす。
ふと目に入った誰もいないブースの中で、過去の自分が歌っている気がした。
夢のような日々が脳裏をよぎり、次いで思い出したくない過去が甦る。
少しだけ憂鬱になって、彼女は足元のソファーを軽く蹴飛ばす。
埃が、宙に舞った。
45 名前:3-1 投稿日:2002年01月30日(水)00時48分44秒

夢と希望に満ち溢れて、まだ見ぬ世界へ飛び出していった彼女。
そして、いくばくかの挫折と収穫を手に復帰を考えた瞬間、現実は厳しいことに今さら気づく。
自分の意思は、苛立ちを隠しきれないほどに力を持たず。
ただ周囲に振り回されるだけの毎日が待っていた。


振り回した側にも論理はある。
これからってところでガキの我儘につきあわされたんだ。
そうそう簡単に戻ってこられたら、ありがたみもなければ金にもならない。
46 名前:3-1 投稿日:2002年01月30日(水)00時50分05秒

早いうちに、何度か復帰の話をもらってはいた。
まだ勉強したいから、といって丁重にオファーを断ること数回。
日が経つにつれそんな話も減った。

その頃はまだ余裕があった。
自分には商品価値がまだ残っていると。
その気になればいつでも戻れると。

しかしいざ復帰したいと思った時、どこの事務所も相手にしてはくれなかった。
いくつかの断った事務所が噂話を流したのか、それとも会社が圧力をかけたか。

「業界に戻る気はないらしい」
「法外な契約金を要求された」

初めて直面した現実は、彼女の心を萎えさせるには十分なものだった。
47 名前:3-1 投稿日:2002年01月30日(水)00時51分39秒

結局元のところに頭を下げた。
大見得切って飛び出しといて。 そう思うと悔しくて仕方がなかった。
頭を下げながら涙が止まらなくなりそうになる。
最終的に、事務所の条件を飲むなら、ということで復帰が決まった。

今回は中澤と歌うこと。
ユニットで復帰すること。
娘。をレコーディングにいれること。

そんな屈辱的な提示も、飲まなければ歌うことさえできない。
文字通り、泣く泣くそれを承諾した。
別レーベルを立ち上げてくれることだけが、ほんの僅かな彼女の救い。
48 名前:3-1 投稿日:2002年01月30日(水)00時55分25秒

・・・・・・結局あたしは一人じゃ何もできないんだ。
娘。の看板に依存することでしか存在価値を見出せない。

彼女を襲う果てしのない無力感。
よく考えれば、その価値は『会社』という組織から見た価値に過ぎなかったのだが。

それでもとりあえずは歌える場所を得られたことに彼女は安堵する。
昔の仲間と歌えることもやはり少しは楽しみだ。

そして脳裏に浮かぶのは、たった一人、すべてを伝えた者の笑顔。

ようやく一緒に歌えるよ。
待たせてゴメンな。
49 名前:3-1 投稿日:2002年01月30日(水)00時57分19秒



――― 期待すれば、裏切られる。


――― 人は、何も変わらずにはいられない。



50 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月30日(水)00時58分11秒
続く。
51 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月30日(水)00時58分49秒
・・・かもしれない。
52 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月30日(水)01時02分15秒
ヽ^∀^ノ <ホントに続くの?
53 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月10日(日)23時39分58秒
めでたい。復帰。サザエ氏と有志の皆様に感謝。
余裕が出来たらお金も払いたいと思ってます。いつになるかわからんが。

そんなわけで誰も読んでないスレをひっそりと更新。
54 名前:3-2 投稿日:2002年02月10日(日)23時42分32秒

「おはよーございまあす」

眠たそうな、少し鼻にかかった声が、市井の心臓を一瞬だけ止める。
すれ違うスタッフたちに頭を下げながら、声の主はのんびりとスタジオ入りしてきた。
先に入っていた矢口たちとの会話も、もう耳には入らない。
ただ視界がその人物だけで埋め尽くされる。
あの頃の笑顔と、現在の笑顔と。

おはよう、後藤。
55 名前:3-2 投稿日:2002年02月10日(日)23時44分16秒

・・・・・・何から話せばいいかな。

夜も眠れずに後藤との再会を心待ちにしていた市井。
まるで遠足前の子供のように。
そんな市井への挨拶もまた、変わらぬ素っ気なさだった。
まるで関わり合いになるのを避けるように。

「おはよーございまあす」

愛想のカケラもないその口調に、市井は首を傾げる。
見た目はほとんど変わらないはずの後藤から、どこか漂ってくる違和感。
それでも市井は好意的に解釈した。
『後藤もまた、戸惑っている』のだと。
そんな誤解に気づくのに、一日あれば事は足りた。


「おつかれさまでしたー」

・・・・・・この二言が、その日スタジオで交わした市井と後藤との会話の全て。
56 名前:3-2 投稿日:2002年02月10日(日)23時45分10秒

「ちょっと、待ちなよ」
「んあ?」

歌入れを終えた後藤を追いかけて、市井はロビーまで走った。
こんなの、納得できない。
肩を掴んで、半ば無理矢理振り返らせる。
その瞳の色に、市井は愕然とした。

かつて、決して自分には向けられることのなかった視線。
憎しみといっていいほどの感情がこめられた、痛いほどに冷たい視線。
57 名前:3-2 投稿日:2002年02月10日(日)23時46分03秒

「何? 忙しいんだけど」
「何って・・・・・。 久しぶりに会ったのにさ」

余計なことに関わりたくないという意思が、ありありと見える表情。
一瞬怯んで、それでも市井は言葉を紡ぐ。

その表情の理由を。
必要最小限の会話の理由を。

確かめなければ、一人浮かれていた自分があまりに間抜けに思えて。
58 名前:3-2 投稿日:2002年02月10日(日)23時47分37秒

「え・・・・・・っと、少し話でもしない?」
「あたしはしたくない」

毅然とした口調で誘いを断る後藤。
その冷淡な態度に、ほんの僅か市井のリミッターが外れかける。

「ちょっと、何だよその態度」

感情の暴走。
後藤はそれを笑っていなした。

「逆ギレですか。 相変わらずだね。
 ひょっとしてまだ教育係のつもり?」
59 名前:3-2 投稿日:2002年02月10日(日)23時49分14秒
やれやれといった風情で後藤は肩をすくめ、手近のベンチを指差す。

「5分だけね」

断る理由もないが、素直に後藤の言うことに従うのも腹が立つ。
・・・・・・後藤に、うまくあしらわれている。
そう思ってしまうことが、市井の感情をさらに逆なでする。

「で、何の話がしたいの? 辞めてからロクに連絡もよこさなかったクセにさ。
 まさか、いちーちゃん再デビューに向けての苦労話を聞け、なんて言わないよね?
 それともまたあの頃みたいにお説教?」
60 名前:3-2 投稿日:2002年02月10日(日)23時49分58秒

「・・・・・・そんなんじゃ、ないけど。 今日の、後藤の態度が」
「話しかけられなくてムカついた、と」

わかってたのか。
驚いた顔で横顔を見つめる視線に気づいて、後藤は冷たく笑う。
そしてからかうように切り返した。

「じゃあ訊くけどさ、いちーちゃんは後藤に何を期待してたの?」
61 名前:3-2 投稿日:2002年02月10日(日)23時50分47秒

遊ばれてる。

市井は思う。
後藤は答を知っている。
市井が素直に答えられるような性格でないのも理解している。
完全な確信犯。

子供は、無邪気であるが故に、想像力が欠けているが故に罪を犯す。
確信犯は、大人にしかありえない罪。

久々に会った後藤は、嫌というほどに大人になっていた。
62 名前:3-2 投稿日:2002年02月10日(日)23時53分52秒

何も言えずにただ床を見つめる。
握り締めた拳が震えた。
そんな市井を見て、後藤はまた肩をすくめる。

「ありゃ、答えらんないの? なら話は終わりだね。
 後藤、忙しいから帰るよ。 歌入れがんばってねー」

後藤は皮肉っぽく笑うと、義理としか言いようのない台詞を残してスタジオを出て行く。
市井は、その後姿を見つめることさえできずに。


蹴り倒された灰皿が、甲高い音を立ててロビーに転がった。
63 名前:3-2 投稿日:2002年02月10日(日)23時54分58秒

1年半で何があったの?
誰があんな後藤にしたの?
あたしの後藤を返してよ。
こんなんじゃ、あんな思いまでして戻ってきた意味ないじゃない。

悪いのは、誰?
それともあたし?
64 名前:3-2 投稿日:2002年02月10日(日)23時56分20秒



―――三方向のベクトルが、交わる気配はいまだ見えず。



65 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月10日(日)23時56分55秒
続く。
66 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月10日(日)23時58分07秒
いつになったら終わるやら。
67 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月10日(日)23時59分47秒
ヽ^∀^ノ <マターリマターリ
68 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月13日(水)01時32分13秒
書きためた分一挙放出。
69 名前:4 投稿日:2002年02月13日(水)01時32分50秒

「好き」の意味を間違っているとしても構わない。
ただ目の前に、あなたがいるということ。
それだけであたしの心は満たされる。
初めて出会った日から変わらぬ想い。

でも。
そこからもう一歩、踏み出せるチャンスが目の前にあったなら?
70 名前:4 投稿日:2002年02月13日(水)01時33分24秒

ロビーの市井を迎えに行った彼女は、二人の会話に息を飲んだ。
こうなっていることを予想していたにも関わらず。

昔も今も、常に第三者であったが故に見える人間関係。
決して当事者にはなれなかった自分。
その当事者同士の蜜月の終わりが、自分が主役になれる機会を作り出した。
舞台は整い始めている。

どこかためらっているのは、胸の奥で疼く微かな痛み。
71 名前:4 投稿日:2002年02月13日(水)01時34分11秒

後藤が吉澤に熱を上げていることも。
市井の復帰にまるで興味がないことも。
伝えることは簡単なはずだった。
もしそうしていれば、こんな市井を見なくても済んだ。

そうしなかった理由は簡単。
心の内にあったのは、打算的な恋心。

自分の言葉で傷つく市井を見たくない。
うまくいけば自分の方を見てくれる。
72 名前:4 投稿日:2002年02月13日(水)01時34分50秒

訪れる結末を知っていながら、あえて手を加えない。
それがもたらしたものは、後味の悪い、しかし想像通りの彼女がうちひしがれる姿。

大きなチャンスには違いない。
誰だって、一つの恋を終えた後は多少なりとも不安定だ。
なのに目の前の市井の姿が、心の葛藤を呼び起こす。

保田は自分に問いかける。
あたしはこんな紗耶香が見たかったの?


――― 積極的な傍観者。その存在もまた、時として罪。
73 名前:4 投稿日:2002年02月13日(水)01時36分33秒

加入以来最も近くにいた好敵手。
共に笑い、涙した友。
常に側にあったはずの友情は、いつしか違う感情へと入れ替わっていた。
自分の想いに気づいたときには、既に手遅れだったが。

それでも、二人笑っている姿を見ると、何故かしら心から和んだ。

互いを染めようとせず。
互いに染まろうとせず。
でも、二人で一つ。

そんな言葉が、似合いすぎるほど似合う二人だったから。
74 名前:4 投稿日:2002年02月13日(水)01時37分35秒

もしも、これがきっかけで自分が市井の隣にいられるとしたら。

彼女はあの笑顔を見せてくれるだろうか。
彼女を自分の色に染めたがらずにいられるだろうか。
二人でいることに疑問を感じたりしないだろうか。

答は、否。
後藤といる市井が好きだったことに、保田は今さら気づく。
75 名前:4 投稿日:2002年02月13日(水)01時38分31秒

柱の影に隠れながら、市井同様に拳を握りしめる保田。
悔しさと、情けなさに。

市井と後藤。
その二人でいることを認めてしまう悔しさ。
市井と自分。
彼女の視界に、決して自分は映らないことの情けなさ。
そして何より、自分がしでかした事 ―― 正確には何もしなかった事 ―― の醜さに。

後藤が帰った後も、市井は身じろぎ一つしない。
床の上の一点を、ただ見つめたままで。

その姿が胸の痛みを増幅させる。
76 名前:4 投稿日:2002年02月13日(水)01時39分10秒

伸ばしていた爪が、掌へと食い込んでいく。
それは罪の意識の表れか。
刺すような痛みが、しまいこんでいたはずの良心を刺激する。

・・・・・・罪は、贖わなければならない。

雨に打たれながら自分に浸るほど、保田は子供ではなかった。

今の自分にできること。
これまでのことを、洗いざらい話すこと。
後藤のことも。
吉澤のことも。
そして自分の黒い心の内も。
77 名前:4 投稿日:2002年02月13日(水)01時40分03秒

ひんやりとした空気が張りつめるロビーに、保田は足を踏み出した。

「圭ちゃん・・・・・・?」
「紗耶香、話があるんだ」



――― 彼女は知らない。知るすべもない。

これから話すことが、まっすぐ受け取られないことに。
そして話したことが、少しばかりの悲劇を生むことに。
78 名前:4 投稿日:2002年02月13日(水)01時40分39秒
続く。
79 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月13日(水)01時41分42秒
くっ・・・・・・
痛恨の自爆age
80 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月13日(水)01時44分52秒
( `.∀´)< 誰も読んでないんだからageでもsageでも変わんないわよ!

・・・・・・それもそうだ。
81 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月13日(水)21時28分04秒
読んでるyo!!!
がんがって。。。
82 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月20日(水)23時58分43秒
前回から一週間しかたってないのに。
ageで書いてもいいかなーって思い始めたら沈んでるし。
なんだかなあもう。

>>81
数少ない読者様ですな。ありがたいことです。
がんばらないでまったり行くつもりですが。
83 名前:5 投稿日:2002年02月20日(水)23時59分54秒

タイミング良すぎのバッドニュース。
それは多くの人にはグッドニュース。

もう、笑うしかないでしょ。
苦笑いにしかならないけれど。

クリアしたはずのゲームには、ラスボスが隠されていた。
決して勝つことのできない。


遊ばれてたのは、あたしの方。
84 名前:5 投稿日:2002年02月21日(木)00時00分31秒

あのニュースから一ヶ月足らず。
吉澤を待ち受けていたものは、想像以上にブルーな毎日。

吸い込まれそうなほどに澄んだ空を見上げる。
大好きな風景のはずなのに、吉澤は何故か痛みを覚える。

あれから、この場所に来るのは初めてだ。
吉澤は自分の手のひらを見つめ、そっとため息をつく。
あの日の痛みが甦ってくるような気がした。


――― もっと痛いのは、あたしのココロ。
85 名前:5 投稿日:2002年02月21日(木)00時01分26秒

絶対知ってたよなあ。

吉澤はあのニュースを聞いた日を思い出す。
戸惑っている新メンバーを除いて、たった一人その知らせに反応しなかった人間がいた。

必要以上の冷静さ。
かつての二人を知っている者たちから見れば、それはあまりに不自然で。
予め本人から話を聞いていたとしか思えなかったから。

・・・・・・だいたい辞めてから連絡取ってないっていう方が不自然でしょ。
ヘタな言い訳するよなあ。

喜びを見せない後藤を、矢口が不審に思って訊ねたときの彼女の答。
86 名前:5 投稿日:2002年02月21日(木)00時02分26秒

思い出された記憶は再び憂鬱を連れてくる。

きっと二人で笑おうとしてたんだ。
あたしのことを指差して。
調子に乗ってるって。
勘違いもはなはだしいって。
あんな告白真に受けちゃってって。

それは偶然と連想が生み出した被害妄想。


「・・・・・・あたしもだよ」

あの時そう答えていたならばという仮定のもとの。
87 名前:5 投稿日:2002年02月21日(木)00時03分41秒

また吉澤はため息をつく。
そしてポケットからクシャクシャになった箱を引っ張り出すと、
中身を取り出し、口にくわえて火をつけた。

子供じみた自暴自棄。
別に、煙草ではなく酒でも構わない。
この憂鬱を、ほんの少しでも和らげてくれるモノなら。

目の前の金網にあの日の血の跡は無く。
悲劇のヒロインを気取っていた自分を、吉澤はせせら笑う。

・・・・・・あたし、バカみたいじゃん。
88 名前:5 投稿日:2002年02月21日(木)00時04分25秒

煙を吐き出した吉澤の明るい髪を、
少し冷たくなった秋風が揺らす。
その風に乗って白い雲が流れていく。
相変わらず吉澤は遠くを眺めながら、何とはなしに考えてみる。

――― 確かめてみようか。

仮定は真実なのか。

昨日、カバーアルバムの歌入れがあったと聞いた。
保田か矢口あたりに訊けば、どんな様子だったかわかるだろう。
89 名前:5 投稿日:2002年02月21日(木)00時05分41秒

もし後藤の言葉が全て嘘で、吉澤の被害妄想が真実だとしたら。

負けっぱなしで納得するほど大人じゃない。
今度こそ本気で落としてやる。
あの日感じた気がした愛情は、ビリビリに破り捨てて。
もう一度、ゲームを始めればいいだけの話だ。

そこまで考えて浮かべた微笑は、凄みすら感じるもの。
90 名前:5 投稿日:2002年02月21日(木)00時07分08秒

手にした煙草が根元まで燃え尽き、その役目を終える頃。
妄想は吉澤の中で既成事実へと姿を変えていた。
もうひとつの可能性には、決して目を向けることなく。

その胸を占めるのは、怒りに似た感情。
それは一年半前、市井に抱いた感情に似ていたかもしれない。



――― 永遠のすれ違い。
91 名前:5 投稿日:2002年02月21日(木)00時07分41秒
つづく。
92 名前:5 投稿日:2002年02月21日(木)00時08分20秒
次回は当分先でしょう。
93 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月21日(木)22時03分36秒
おお、更新されてる!
まったり作者さんのペースでいいです。
こちらもまったり待ってますんで。
94 名前:925 投稿日:2002年02月28日(木)14時23分31秒
この痛め、暗めの雰囲気がたまらなく好きです。続きに期待!
95 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月03日(日)23時14分13秒
続き楽しみに待ってるYO!!!!
96 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月04日(月)01時43分29秒
皆様のあたたかい励ましが身にしみる今日この頃。
>>93 不定期更新が売りですんで(w
>>94 痛いんですかねえ。暗いとは思いますが。期待されると逃げる可能性大(w
>>95 楽しんでいただけるかどうか。

そんなわけでちょろっと。淡々と進行中。ある意味1が最大のヤマだったような(オイ
97 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月04日(月)01時44分23秒

誰もいなくなった楽屋で、とりとめもなく考える。

永遠に変わらないと信じていた想いは、いつの間にか別の人間へとその対象を変えていた。
ならば現在のこの想いもまた、やがては違う人間へ向けられるようになるのだろうか。

そして後藤は静かに首を振る。
考えることの無意味さに気がついたから。
頭の中にリフレインするのは、あの日の言葉。


「・・・・・・何か勘違いしてない?」
98 名前:6-1 投稿日:2002年03月04日(月)01時45分44秒

後藤はため息をついて、いつもとは違った楽屋を見回す。

圭ちゃんとかまで何やってんだか。
歌ってるとこなら、さんざレコーディングスタジオで見たじゃんよ。
他人のリハ見て何が面白いんだろ。

数日前の風景を思い出しながら、一人呟く。

市井が、久々にカメラの前で歌う日。
楽屋の中には、後藤だけ。
99 名前:6-1 投稿日:2002年03月04日(月)01時46分42秒

・・・・・・よっすぃも、見にいっちゃったんだ。

後藤は今さらのように一人を実感する。
この一年半、後藤の隣には吉澤がいて。 吉澤の隣には後藤がいて。
元々団体行動を好まない後藤が、『娘。』という群れからはぐれそうになっても、
そこには必ず吉澤が一緒にいてくれた。

かつての市井のように。
100 名前:6-1 投稿日:2002年03月04日(月)01時47分24秒

そしてその関係を壊してしまった自分を、後藤は呪う。
不可能とわかっていても、時計の針を逆に回したくなる。

あの一言さえ言わなければ。
ずっとずっと、いいトモダチでいられたかもしれないのに。
あれから、何度神様に願っただろう。
先に進めないのならせめて、あの日の二人の関係をそのままにするために。

わがままなお願いだと、痛いほどにわかっているけど。
それでも願わずにはいられないから。
101 名前:6-1 投稿日:2002年03月04日(月)01時48分22秒



――― 何度目かのため息とともに、楽屋の扉が開いた。



102 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月04日(月)01時49分52秒
つづく。
103 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月04日(月)01時51分21秒
( `.∀´)< サボってないでキリキリ更新しなさい!


・・・・・・へい。
104 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月06日(水)00時46分40秒
・・・現在ドラクエ6裏ダンジョン突破中・・・


―――更新はまた当分先になると思われます―――
105 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月08日(金)21時50分16秒
花板のステキにおバカな作品とは
このスレだろうかと言ってみる。
106 名前:さくしゃ@名無しをやめてみる 投稿日:2002年03月12日(火)01時05分11秒
短編スレに浮気してました。今週か来週には更新しますが。
・・・・・・相変わらず人いないな。

>>105 有名人が見てくれているのは嬉しいものです。

107 名前:6-2 投稿日:2002年03月16日(土)00時01分55秒
視界に入ったその姿に、後藤は息を飲む。
しかし現れた当の本人は、後藤など目にも入らないといった様子で、
フラフラと楽屋の奥へと入っていく。

無造作に後ろで束ねた長い髪。
女性にしてはやや高めの身長。
男性にも見られかねない整った顔立ち。
新曲で使うジゴロめいたスーツが、それらを余すことなく引き立て、一種の倒錯感を覚えさせる。
108 名前:6-2 投稿日:2002年03月16日(土)00時02分49秒
しかし、後藤が驚いたのは見た目ではなく。

すぐ傍に後藤がいるのにまるで気づく様子も見せない、その虚ろな瞳。
魂を抜かれてしまったような、遠くを見つめたままの眼差し。

やがて吉澤は、楽屋の奥の手近なパイプ椅子を引き寄せると、崩れるように座り込んだ。
そして一つ、大きなため息をつく。
膝の上に肘を乗せ、俯いた頭を抱え込むように。

後藤は何も言えず、ただそれを眺めていることしかできなかった。
109 名前:6-2 投稿日:2002年03月16日(土)00時03分25秒

――― あの目、見たことがある。

吉澤の様子をチラチラと伺いながら、後藤は再び過去に思いを巡らせる。

そうだ。
おんなじだ。
あのときのあたしと。

驚きと、納得いかなさと、哀しみ。
そして自分がしっかりしていれば市井は辞めなかったのではという、少し的外れな自己嫌悪。

市井との別れの前後 ――― 確かに自分はあんな瞳をしていた。
鏡を見るたびに鬱になった、一年半前。
110 名前:6-2 投稿日:2002年03月16日(土)00時04分33秒

ふと横にあった鏡をのぞく。

現在の自分の目。
あの頃より少しはましな気がする。
全てを市井に依存していた自分は、時を経てそれを失った哀しみを和らげる術を覚えた。

その術を教えてくれたのは、吉澤。
たとえそれが、市井以外の新たな誰かに依存するという、無限のループだとしても。
t
111 名前:6-2 投稿日:2002年03月16日(土)00時05分06秒

吉澤に何があったのか、後藤は知らない。
それでも、後藤は思う。

何かしてあげなきゃ。
あの死んだような目をしていた自分を、救い出してくれた彼女に。
『好き』だからじゃなく、ずっと自分の隣にいてくれた、彼女のために。



――― ただただ純粋なその想いが、もう一人を傷つける。
112 名前:さくしゃ 投稿日:2002年03月16日(土)00時06分36秒
つづく。
113 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月16日(土)00時09分39秒
あげちった。
114 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月16日(土)00時10分21秒
なんだよ110のtって・・・・・・。鬱。
115 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月16日(土)00時14分40秒
コテハン「さくしゃ」にするんですか?
ある作品を書いておられる方と被ってますよ。
116 名前:にゃん 投稿日:2002年03月16日(土)07時00分57秒
お初です。最初から読ませてもらいました(^O^)なんかよしこ切ないですね。これからのよしごまに期待っす。頑張って下さいね!
117 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月16日(土)22時38分19秒
あがるとレスつくね。

>>115 
別に『さくしゃ』ってHNじゃないんですけど。晒したくなかっただけで。
『作者』でも『サクシャ』でも何でも構わないんですが。
>>116 
期待されると逃げる可能性大。
頑張らないし。
過去のレスを読みましょう(w

こんなコト言ってますけどね、嬉しいスよ。レスつくと。
118 名前:7-1 投稿日:2002年03月16日(土)22時38分59秒

何かにうなされてベッドを転げ落ちる。
身体が熱っぽい。喉が渇く。
薬箱から取り出したアスピリンを水道水で流し込んで、そのままキッチンに腰を下ろす。

――― ここ数日、マトモに眠れたためしがない。

クソッタレ。
なんでこんな夢見るんだよ。
119 名前:7-1 投稿日:2002年03月16日(土)22時39分31秒


暗闇の向こうに、光が見える。
覗きこめばそこには、懐かしい3人。

仔犬のようにまとわりついてくる後藤。
笑顔でそれに応える自分。
その様子を優しく見守る保田。

固い絆で結ばれている、とびきりの仲間たち。
120 名前:7-1 投稿日:2002年03月16日(土)22時40分03秒
市井は覗きこんだ先に見えた風景へと、手を伸ばす。
何故そうしたのかは自分にもわからない。
あえて理由を探すなら、輝いていた日々への郷愁なのかもしれない。

――― あの日の関係に戻れたら。


そしてその風景に手が届きそうになった瞬間、後藤はそこにいる市井の後ろに
隠れてしまう。 まるで、見たくもないものを見せられたかのように。

そしてその市井は、自分が伸ばした手から後藤をかばうかのごとく、自分の目の前に
立ちふさがる。

その顔をよく見れば――― 。
121 名前:7-1 投稿日:2002年03月16日(土)22時40分40秒

市井はのろのろと立ち上がり、再びベッドへと向かおうとしてそれを止める。

どうせ眠れないんだ。
あんな夢、見るくらいなら。

キッチンの横にかけてあるカレンダーに目をやる。
様々な予定が、無機質な数字が並ぶその下に赤字で書き込まれている。

そのなかの一つが、今日の予定を表していた。


『TV収録』
122 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月17日(日)01時43分37秒
つづく。
123 名前:名無し読人 投稿日:2002年03月31日(日)23時15分15秒
続き楽しみにしてます。
マターリマターリ
124 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月18日(木)20時49分55秒
まってるよ〜
125 名前:7-2 投稿日:2002年04月20日(土)00時29分20秒

靴底に鉛を詰め込まれたような足取りで、市井は鉄製の扉を開けた。
久しぶりに浴びるスポットライト ――― 収録前の準備段階ではあるのだが ――― の
まぶしさに、少しだけ目を細める。

張りつめた緊張感。
走り回るスタッフ。
モノを作り上げるときの祭のような高揚感。
慌しく動いていく人の向こう側で、出番待ちをしているかつての仲間たち。

全てが懐かしいはずの光景も、市井の感情には何も影響を及ぼしはしなかった。
126 名前:7-2 投稿日:2002年04月20日(土)00時30分02秒

「すいませーん、時間押してるんで控え室で待ってていただけますかー」

現場監督の声が遠くから聞こえる。
市井はその声を半ば聞き流しながら、出番待ちの仲間たちへと視線を送った。
その中に目当ての人間を見つけて、市井は微かに顔をしかめる。

なぜなら、吉澤もまたこちらをじっと見つめていたから。

横で心なしか蒼ざめた感じの保田の顔が、市井には妙におかしかった。
127 名前:7-2 投稿日:2002年04月20日(土)00時31分02秒

あの日、全てを保田から聞いて決めたことがある。

もう、あたしの場所はあそこにはない。
だけど、後藤をこっちへ引き込んじゃいけないって法はない。
後藤をあんな風にしたのが吉澤なら、吉澤がいなくなればいいことだ。

そうすればきっと ――― 後藤もあの頃の後藤に戻ってくれるだろうし、
あたしももうあんな夢を見なくてすむ。


結論。
・・・・・・邪魔者は、消す。
128 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月20日(土)00時33分24秒
( `.∀´)< 一ヶ月もかかってこれだけ!?


・・・・・・ごめんなさいごめんなさい(汗
書く気はあっても才能と努力が少しばかりどころかかなり足りないのです。
129 名前:名無し読人 投稿日:2002年04月21日(日)23時16分13秒
わお!更新されてる〜。
更新量気にせず作者さんのペースでマターリと続けてください。
それにしても、市井コワイ。
130 名前:名無し読人 投稿日:2002年04月21日(日)23時19分42秒
ごめんなさい!
ageちゃいました。
本当にごめんなさい!!
131 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月22日(月)00時21分49秒
>>129-130
あがってないのでご心配なく(w
コンスタントに更新できればいいんですけどねえ・・・・・・。

( `.∀´)< また短編出そうとしてるんじゃないでしょうね!

・・・・・・どきっ。嘘です。今回は多分出しません。っていうか書けないと思います。
132 名前:8-1 投稿日:2002年04月22日(月)00時23分59秒

――― 逃げ出したい。

保田は心からそう思った。

スタジオのざわめきが遠くから聞こえる。
それどころか、隣にいるはずの矢口の声さえ耳に届いていないような感覚。

数日振りに見た市井は、保田の知らない人間へと変貌を遂げていた。
かつても、そしてついこないだにも見せなかったもう一つの顔。
すべてを知っていたはずの友が初めて見せた表情に、保田の背筋が凍る。


紗耶香、あんた怖いよ。
133 名前:8-1 投稿日:2002年04月22日(月)00時25分55秒

スタジオをぐるりと見回していた瞳が、こちらへ向いた。
一瞬だけ絡み合った視線はすぐに外され、保田の目線よりもやや高いところへと
その焦点を定める。

市井の瞳が何を見ているのか、保田には確かめずともわかっていたし、
また確かめる勇気もなかった。

あたしの想いは、あの日にすべて終わりを告げた。
今さら、こちらを向けとは思わない。

ただ ――― その視線を受けている人間が、果たしてどんな反応を示すのかという点に
ついては多少不安があったので ――― 保田はゆっくりと後ろを振り向いた。


平穏にこの場が収まることを祈りつつ。
134 名前:8-1 投稿日:2002年04月22日(月)00時28分15秒

そしてその願いは、ある意味予想通りに裏切られる。


絶対零度を思わせる冷たい眼差し。
二人の視線が絡み合う地点からスタジオ中へ広がっていきそうな、張りつめた緊張感。
敵意と殺気さえこめられた互いの瞳。

吉澤、落ち着きなよ。
あんたいつだってそんな目したことなかったじゃない。

そう口にしようとしても、舌が麻痺したようで上手く言葉にならない。
ただ蒼ざめていくばかりの自分の顔色が、なぜかわかるようだった。
135 名前:8-1 投稿日:2002年04月22日(月)00時30分46秒

リハを見学に来た他のメンバーも、TVには異質の雰囲気に気づきはじめる。

気づいた者たちの反応はどれも皆一様で ――― 辻加護でさえ言葉を
発することができないまま、ただその雰囲気を作り上げている二人の様子を、
息を飲んで見守っている。

やがて市井が、控え室へ向かうためにその背中をこちらへ向けるまで、
音のない世界が12人と1人の間に流れ続けた。


紗耶香も吉澤も、変なコト考えてなきゃいいけど。
保田はそう思いながらも、二人の瞳の色を思い出して背筋に寒気を覚えた。


――― このまま終わるはずがないことに気づいていたから。
136 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月22日(月)00時35分44秒
>>52より

ヽ^∀^ノ <ホントに続くの?

なーんて冗談言ってたわけですが。やばいぞ、自分。がんがれ。
励みになるレスもらってんだから。

・・・・・・しかし話が進まない(泣笑
137 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月23日(火)22時45分47秒
頑張れ作者!!
期待はしてないけど応援してるぞ(爆
138 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月26日(金)23時23分03秒
>>137
ありがとうございますー。
がんばる。自分でがんばらないって言ってたけどがんばる。


・・・でも次の更新はいつだろう(w
139 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月09日(木)21時45分52秒
期待してます(笑)
頑張って下さい。
140 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月16日(木)21時49分39秒
マターリとお待ちしてます。
待てば待つほど楽しみ楽しみ♪
141 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月16日(木)23時22分22秒
ほんの少しだけ更新。読んでくれてる方には感謝の言葉もございません。
過去ログ逝ってもおかしくないくらい更新してないのに。

>>139 期待しないでって言ってるのに(w
>>140 マターリ待っててください。マターリ書いてます(w
142 名前:8-2 投稿日:2002年05月16日(木)23時23分31秒

究極の二者択一。
友か、仲間か。

歩き出した市井の背中と、そこに立ちすくむ吉澤の姿を交互に見比べながら、
保田は答の出ない問いに心を痛め続ける。

どちらを応援するとかしないとか、そんなレベルの問題ではなく。
どう転んでもすべてが上手く収まらないのなら、傷つく人間は一人でも少ない方がいい。
そして傷つく度合いも。

傷ついたのは、あたしだけでいい。
それとも神様、あたしだけじゃ足りないんですか?
143 名前:8-2 投稿日:2002年05月16日(木)23時24分14秒

それにしてもわからない。
なぜ吉澤がああまで市井を敵視するのか。
第三者 ――― 保田にとっては思い出したくもないその立場 ――― から見れば、
吉澤の勝ちは明らかなのに。 当の後藤は、吉澤の方しか向いていないのに。

保田は、知らない。
吉澤と後藤の間に起きた出来事を。
吉澤の心の動きを。

『無知とは罪』と誰かが言っていた。
ならばこのときの保田もまた罪を犯していると言えるのだろうか。
144 名前:8-2 投稿日:2002年05月16日(木)23時25分10秒

「――― 圭ちゃん」

背後からかけられた言葉に、保田は思わず振り返る。
聞こえたのは、普段と変わりない、のんびりとした吉澤の声。
そのいつもの様子に保田は何故か安堵のため息をもらす。

「どしたん? なんか変だよ、圭ちゃん」
「あ、いや ――― 何でもない。 それより何か用?」
「んー、ちょっと話があって」
「今じゃないとマズい?」

「いや、別にいいんだけどさ」

そう言った吉澤の顔は、一分前の表情に戻っていた。

「市井さんのコトで」
145 名前:8-2 投稿日:2002年05月17日(金)00時46分18秒

また逃げ出したいと保田は思った。
「あたしには何の関係もない」と言い切って逃げてしまえば、
何も見なくて済む。

ドロドロとした人間関係も。
友の傷つく顔も。
仲間の殺気だった表情も。

だけど、逃げるわけにはいかない。
何もしなかった自分が招いた出来事に背を向けるほど
自分は無責任ではないと、保田は自覚していた。

それに、確かめてみたかった。
吉澤が何を考えているのか。

「――― いいよ。 人のいないトコ行こうか。
 聞きたいコトもあるしね」
146 名前:925 投稿日:2002年05月19日(日)13時26分40秒

わ〜い、更新されてる! 
ますます続きが気になります♪
これからもマターリとお待ちしてますよ。
147 名前:くわばら。 投稿日:2002年05月24日(金)04時25分46秒
初めまして。
楽しみに読ませて頂いております。
続き楽しみにしてます。
148 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月02日(火)08時25分26秒
作者さんがんばって!
149 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)05時28分32秒
こんな時だから保全
待ってる
150 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月16日(月)04時29分43秒
作者さん、待ってル!
151 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月28日(月)06時35分10秒
続き、お願い。

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