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Liar
- 1 名前:作者 投稿日:2002年01月28日(月)18時31分50秒
- よしやぐちゅーで書きます。
元ネタありです。
よろしくお願いします。
- 2 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月28日(月)18時34分39秒
- 真里は、目覚まし時計のアラームで素直に目が覚めた。
覚醒しきれないままに、音のする方へ手を伸ばしてアラームを止め、体を起こす。
「ん〜〜…」
その気配に気づいたのか、隣で眠っていた裕子が寝返りをうつ…が、起きる様子はない。
「裕ちゃん。ほら、起きなよ」
声は聞こえてるだろうに、反抗するように毛布を頭から被ってしまった。
真里は再三に渡って声をかけたり、揺さぶってみるが、裕子の方は一向に動かない。
「ったく…。しょーがないなぁ」
真里はひとつ大きなため息を吐いて、ベッドから出る。
床に落ちているパジャマを拾い集めて身につけ、朝食を作りにキッチンへ。
結局はいつものパターンなのだ。
こうやって自分が朝食を作る時にはほっとんど起きず、できあがって食卓に並べ始めると、それを見計らったかのように起きてくる。
- 3 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月28日(月)18時35分49秒
- しばらくすると、バスローブを身にまとった裕子が寝室から出てきた。
「おはよーさん」
やっぱり…。
ふわぁ〜と、大口を開けてあくびをすると、裕子はクセのないやや明るめの茶色い髪を手ぐしで整え、椅子に座る。
目の前にはでき上がったばかりの朝食が並んでいるなんて、自分は何て幸せ者なんやろうと感じながら。
ただ、その気持ちを口にすることはあまりないのだが。
「もう。どうして矢口が起こす時にはいつも無視するんだよぉ」
「あぁ?アンタと違ってアタシは年なんですぅ。もう、昨日みたいな夜の後は、体の節々が痛くて起きるのがツライんよ。
矢口やっぱ若いんやな」
「ぶほっ…」
思わず、『昨日みたいな夜』を思い出してしまった。
- 4 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月28日(月)18時37分19秒
- 「うわっ、汚っ。何、吹き出してんねん」
「朝からヘンなこと言うんじゃねぇよ、アホ裕子っ」
真っ赤になってる真里の目の前で、勝手にしろとばかりに裕子は箸を進めている。
「大体さぁ、その、ほら…、あーいうことしなかった日だって矢口の声じゃ起きてくれないし…」
「そうや。別に今に始まったことじゃないやろ。ええやん。ご飯作るのはもともとアンタの仕事なんやし」
そうなのだ。
単に、裕子が料理全般がからっきしダメという理由から、家事は基本的に、料理は真里、掃除洗濯は裕子と決めたのだ。
- 5 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月28日(月)18時38分16秒
- 「ところで、今日の授業は何限からなん?都合つくなら送ってくけど」
ちょっと突っぱねすぎたか…などと思いながら、裕子はさらりと話題を変える。
「えっとね、2限からだから11時に行けば間に合うけど、裕ちゃんと一緒に出かける。乗せてって」
授業が1限からある日だと、裕子の出勤時間に出て、車で送ってもらうのがちょうどいい。今日はそれだと早く着きすぎてしまうが、
図書館なんかで時間を潰してればいいことだ。
「ほな、さっさと仕度しな。アタシが出るのに間に合わんかったら置いてくからな」
言いながら、裕子は立ち上がって食器を下げに行った。
裕子はかなり好き嫌いも激しい上に少食なため、平日の朝食の時間にゆっくり話をすることは少なかった。
- 6 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月28日(月)18時39分31秒
- 「大丈夫だよ。矢口は裕ちゃんみたいにメイクに時間かけないから」
ささやかな反抗。やられっぱなしは、真里の性には合わないから。
「何や、生意気なこと言うてんな」
リビングに戻ってきた裕子は後ろから真里を羽交い絞めにする。
「ちょ…っ、離せよっ。食べられないじゃん」
構ってくれるがうれしくて。満面の笑みになりそうなところを我慢する。
だって、こうやって一緒に暮らしていても、想いは自分からの一方通行のような気がするから。
裕子の気持ちというのはどこかつかめないから。
―――なんて考え込んだ一瞬の隙を狙うかのように、真里の唇にやわらかい感触。
- 7 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月28日(月)18時40分04秒
- それが裕子の唇だと気づいた時にはもう離れていて。
「ごちそうさん。めっちゃ甘かったで」
真里の顔も見ずに、言うだけ言って、洗面所へと向かって行った。
後には、1人顔を赤くしながら悩む真里の姿が。
甘いって、甘いって…。ジャムのことかな。唇にジャムついたままだったのかな…。
- 8 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月28日(月)18時41分27秒
- 結局、食事の遅れを宣言通りにメイクの時間の短さで補った真里は、見事に裕子と一緒に出かけることに成功した。
そんな車の中。
「裕ちゃん、今日は何時頃に帰る?何か食べたいのあるなら作るけど」
運転中の裕子は前を見つめたまま答える。
「あぁ、それなんやけど、今日は仕事終わった後にちょっと寄るところがあるんよ。そんなに時間はかからへんと思うけど」
「ふ〜ん。………ねえ」
ちょうど赤信号で停止したためか、裕子は真里の顔を見てその先を促した。
「その、寄るところってどこか聞いていい?」
「聞いていいって、もう聞いてるやん。何なの、一体」
苦笑交じりに呟くと、信号が変わったのを見て、裕子は車を発進させる。
- 9 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月28日(月)18時44分03秒
- あいかわらずいいタイミングではぐらかされる、と落胆した真里だったが、すぐに
「病院や」
との答えが返ってきた。
「えっ、裕ちゃんどっか悪いの?それとも、誰かのお見舞い?」
「アタシも詳しいことはよくわからないんやけどな…」
幾分、真剣になった裕子の表情に気づき、真里も自然と姿勢を正して聞く体勢になった。
「ほら、ウチ、父親が2ヵ月前に死んだやん。で、いろいろ厄介なことがあるんよ。ま、遺産相続とかそーいうのがな」
うんうん、と真里は裕子の横顔を見つめながら頷く。
- 10 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月28日(月)18時46分46秒
- 裕子の実家は、地元では結構知られている名家らしい。
真里自身、裕子とは東京で出会ったために実家のことはあまり知らないのだが、裕子の父の葬儀の際、
初めて京都の実家を訪れて驚いたのは確かである。
発展してるとは言い難い、のどかという表現がぴったりの町ではあったが、裕子の実家はいかにも昔風の大きな日本家屋で、
いわゆる住み込みのお手伝いさんや専属の運転手がいる屋敷だったのだ。
葬儀の弔問客の数も傍目に見て多く、市議会議員とか府議会議員というような肩書きを持つ人も見受けられた。
裕子の母は、裕子が幼い時に他界していると聞いたけど。
やっぱり、大きな家だけに、親族とかといろいろあるんだろうか…。
骨肉の争いってヤツ…?
裕子自身はそういったことに無関心そうなのだが。
- 11 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月28日(月)18時48分25秒
- 「でな、父の知り合い…って言うか、ぶっちゃけた話、自分にも相続権があるって主張してる人がいるんやって。
別にアタシが会いに行かなくてもって思うんやけど、親戚は関西におるのが多いし、どうやら先方がアタシを指名してるみたいでな」
よく、ドラマとかであるような展開…。
「じゃあ、その、相続権があるぞって言ってる人が、病院に入院してるの?」
「そうらしい。とりあえず、会うだけ会って話聞いて、どうするか決めるのはそっからやね」
「何で、裕ちゃんなんだろうね。向こうは裕ちゃんのこと知ってるんだ?何て人?」
「多分な。でも、名前も聞いたことないし…。確か、吉澤さんとか言ったけど…。
急にあなたと血ぃ繋がってるって言われてもなぁ。遺産云々は、アタシもあんまり興味ないし」
どこか困ったような顔をしている。
- 12 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月28日(月)18時49分29秒
- 裕子の性格からすると、それは無理もないと真里は思う。
民間企業で働く同年代の女性と比べれば、裕子の給料は結構いい方だ。
今のところ結婚する気もないようだし、真里の大学の学費はもちろん真里の家から出ているワケで。
裕子と真里の同棲生活はよっぽどのことがない限り、経済的には安泰である。
加えて、今以上に豊かな暮らしを目指しているのでもないし。
親族との争いを避けたくて、裕子は相続権利を放棄しようかなどと言っていたくらいなのだ。
その意見は、直系で、なおかつたった1人の子供がそんなことを言い出すなんて…と、親戚一同に反対されたらしいが。
- 13 名前:プロローグ 投稿日:2002年01月28日(月)18時50分39秒
- そうこうしているうちにも、大学に着いた。
裕子はバスが停まってるロータリー付近に車を寄せる。
真里はバックを抱えてシートベルトを外し、ロックに手をかけながら裕子を振り返る。
「じゃ、行ってくるね。話、早く片づけて。家でご飯食べよ。美味しいもの作って待ってるからさ」
裕子はにこりと微笑むと、真里の頬に手を伸ばし、そっと顔を近づける。
意図するところを悟った真里は、わずかに周囲を気にしながらも、目をつぶってキスを受ける。
すぐに唇は離れ、真里はもっとという気持ちを振り切って、車を降りる。
「それじゃあね」
車中の裕子にばいばいと手を振ると、裕子もそれに答えて手を振る。
声は聞こえなかったが、裕子の口は『行ってらっしゃい』と言っていた。
それに励まされるように、真里は大学の図書館に向かって歩を進める。
今夜の夕食は何にしようか、などと考えながら。
―――この後、2人の幸せな生活が崩れ始めるとは知る由もなく…。
- 14 名前:作者 投稿日:2002年01月28日(月)18時56分23秒
- プロローグのクセに、かなり長い…(苦笑)
まぁ、こんな感じで進めていきます。
元ネタというのは、ある連ドラです。
北海道の診療所とか東京の病院が舞台だったり、手話とか出てくるやつの続編。
(バレバレだ…)
でも、元ネタと言っても、人間関係…と言うか、血縁関係をちょっと参考にした程度なんで。
別に舞台は病院でも北海道でもないです(笑)
それでは、よろしくおつき合い下さい。
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月29日(火)12時51分13秒
- 人間関係が読めた(ニヤリ
面白そう!!
- 16 名前:名無し読者 投稿日:2002年01月29日(火)22時16分38秒
- よしやぐちゅーですか。いいですね。この組み合わせ。
元ネタがわからない・・・
やぐよし&やぐちゅー?ですか?
なかよし&やぐちゅー?ですか?
どっちにしても楽しみ・・・意外性のなかよし&やぐちゅーのほうがおもしろそうではあるけど(w
- 17 名前:作者 投稿日:2002年01月30日(水)12時28分29秒
- >>15 名無し読者さん
あ、わかっちゃいましたか…(笑)
まぁ、別にわかってもらっていいんですけどね。
バレバレなこと書いてるのは承知していたんで。
>>16 名無し読者さん
レスありがとうございます。
CPの方は、ご想像にお任せします…ってことに。
私もまだ先を書いてて迷ってるところとかあるんで(^^;
それでは、少しですが更新します。
- 18 名前:Liar 投稿日:2002年01月30日(水)12時30分10秒
- 午後4時過ぎ…。
仕事を早めに切り上げた裕子は、その足で病院へ向かう。
都内の市立病院。
真里にはあまり詳しいことは言わなかった。否、言えなかった。
裕子自身もほんとに詳しいことは知らないのだ。
父のことで話したいことがあるから、ぜひ来て欲しいと言われただけである。
1人の人間として父のことは嫌いではなかったが、実家の古い習慣にはついに馴染めぬままだった。
ことあるごとに親戚一同が集まって酒の席を設けたり、誰かの結婚で親族会議なるものが開かれたり…。
- 19 名前:Liar 投稿日:2002年01月30日(水)12時31分03秒
- その中心にいるのが、常に父だったから。
裕子自身、東京の大学へ進学し、そのまま東京での就職を決めた時には、かなりいろいろなことを言われた。
それはその後も変わらず、就職してほっとする間もなく、今度は結婚を急かされた。
うんざりだった。
なぜ、自分の人生に口を出されなければならないのか。
ただ、時々、思い出すように母の話をする父の顔は大好きだった。
母は、裕子が6歳の時に事故で他界した。まだ、30歳だった。
自分がもうすぐその年になることを思うと、世代が違うとはいえ、父が自分を結婚させたがっていたのもわからなくはないが。
- 20 名前:Liar 投稿日:2002年01月30日(水)12時31分57秒
- 裕子が最後に見た母の姿…。
確か、病院のベッドで寝ている姿だ。
あの時は、父に手を引かれ、病室へ向かった。
話しかけても父はほとんど答えてくれず、子供心にもあの沈んだ空気をイヤと言うほど肌で感じた。
ベッドにいた母には、呼吸器を始め、何本ものコードがつけられていた。
病室には数人の人間がいたクセに、心電図や呼吸器の機械的な音しかしなかった。
そして、裕子と父が来てからほどなくして、その機械音も停止した。
いや、いつからそれに気づいたのか覚えてないが、あれは、停止させたのだ。
- 21 名前:Liar 投稿日:2002年01月30日(水)12時32分49秒
- それじゃあ、最後に母の声を聞いたのは、いつだったんやろ…?
裕子の記憶の中の母は、音も色もない世界に1人で横たわっている、あの病室での姿だけだ。
そのせいだろうか、病院特有の消毒薬のにおいは、いつになっても好きになれない。
思わず、昔のことをあれこれと思い出してしまった…。
そんな自分に苦笑しながら、今から会う吉澤という人物について考えをめぐらす。
向こうは弁護士とかを同席させているのだろうか…。
一体、自分と、いや、父とどういう繋がりがあるのか…。
- 22 名前:Liar 投稿日:2002年01月30日(水)12時33分47秒
- それなりに緊張した面持ちで指定された病室へと足を運ぶ。
516号室。ここか。
1つ、大きく深呼吸をしてドアをノックする。
「はい」
ちょっと低めだが、ずいぶんと若い女の声。
意を決してドアを開け、部屋の中に足を踏み入れる。
中にいたのは、3人。
一瞬、裕子は6歳のあの時に戻ったのかと思った。
- 23 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月11日(月)19時29分46秒
- よしやぐちゅー楽しみです。
どんな展開になるか楽しみです。
- 24 名前:作者 投稿日:2002年02月13日(水)06時35分12秒
- 復帰、心待ちにしていました。
とてもうれしです。
………でも、あまりストックができなかった。
いっぱい書くつもりでいたんですが…。
まぁ、これからもがんばってくので、読んでる方がいれば、よろしくお願いします。
>>23 名無し読者さん
レスありがとうございます。
そう言っていただけるとがんばれます。
楽しみにしてて下さい。
では、少しですが、更新します。
- 25 名前:Liar 投稿日:2002年02月13日(水)06時36分40秒
- ついさっきまで思い出していた映像とだぶっていたのだ。
花瓶の水を入れ替えている少女と、ベッドの脇のイスに座っているこの場に不釣り合いなスーツ姿の男。
さっき返事をしたのはこの少女だろう。
いや、少女と言うには背が高すぎる気もするが、制服を着てるところからして、高校生だろうか。
年齢の割には大人びた雰囲気をまとい、整った顔立ちが目を引いた。
そして、呼吸器などの医療器具をいっぱいつけられてベッドに横たわる1人の女性。
年のころは30代半ばか。
まるで、あの時の母のように…。
- 26 名前:Liar 投稿日:2002年02月13日(水)06時38分57秒
- 「中澤裕子さんですか?」
スーツ姿の男が立ち上がって、空いたイスを指し示しながら、座るように促す。
「そう、ですけど…」
軽く頭を下げ、イスに座る。
寝ている女性の弁護士だと言う男が、儀礼的なあいさつの後、口を開く。
「実はですね、2ヵ月前にあなたの父上が亡くなられたことなんですが、こちらの女性と、そこのお嬢さんにも遺産相続の権利がある
ということをお知らせしたかったんです」
病気のせいだろう、眠り続けているこの女性はかなりやつれていた。
- 27 名前:Liar 投稿日:2002年02月13日(水)06時39分52秒
- 「それは、伺っています。でも、どういった方なんですか?」
「それはですね…」
弁護士は信じられないような話を始めた。
「あの…、そこにいるお嬢さん、吉澤ひとみさんと言うんですが、ひとみさんは、あなたの妹にあたるんです」
裕子は示されるままに後ろを振り返り、居心地悪そうに立っている少女、吉澤ひとみを見つめた。
妹…。
妹と言うからには、両親が同じでなければならない…。
この病気の女性が自分の母親なワケない。
要するに、このひとみの父というのが…。
- 28 名前:Liar 投稿日:2002年02月13日(水)06時41分14秒
- 「そ…んな、こと…」
信じられない。信じられない。信じられない…。
「嘘や…。そんなん、絶対、嘘や」
「驚かれるのも十分わかりますが、本当のことなんです」
男が再び話し始め、証拠だと言っていろんな書類を提示された。
血液鑑定の結果であったり、女性にあてて書かれた父の手紙であったり、3人で写っている写真であったり…。
提示され、説明を受け、機械的に頷いてはいるものの、到底信じられなかった。
父がこの女性と浮気して、高校生にもなる子供がいたなんて…。
父は、自分の娘と言ってもおかしくないくらいの人と浮気していたというのか。
- 29 名前:Liar 投稿日:2002年02月13日(水)06時43分12秒
- 裕子は冷静に物事を考えられる状態ではなかった。
「すみません。少し、1人にさせて、もらえますか…」
YESの返事も聞かず、裕子は病室を出て行く。
とぼとぼと歩いて、5階のロビーらしきところで座る。
落ち着け、落ち着け、よく考えるんや。
気持ちの整理はついてないが、どうやらあの母子の言い分は認めざるを得ない。
写真の中で笑ってるのは間違いなく父だし、筆跡などの細かいことは素人でわからないが、長年見慣れている父の字に見えるのは確かだ。
おそらく、本物だろう。
父が死んで、愛人とその子供の登場か…。
しかも、母親の方はかなりの重病人のようだ。
まるで昼メロやん。
自嘲気味に、裕子の唇の端が上がる。
- 30 名前:Liar 投稿日:2002年02月13日(水)06時44分22秒
- 別に、遺産の取り分が少なくなるのがイヤでこんな態度をとっているのではない。
やっぱり、自分の知らない、知りたくなかった父の一面を知ったのがショックだった。
遺産なんて、欲しけりゃくれてやる…。
もう、アタシに構わないで…。
二度と、会いたくない。
顔なんて見たくないから…。
- 31 名前:Liar 投稿日:2002年02月13日(水)06時45分31秒
- よっぽど、このまま帰ってしまおうかと俯きながら考えていると、知らないうちにひとみがすぐ側まで来ていた。
「中澤さん。気分でも、悪いんですか」
心配してる気は毛頭ないような、感情のこもっていない声が降ってくる。
顔を上げると、これ以上ないというくらいに冷めたひとみの顔。
こいつは、どう思ってるんやろ。
写真に一緒に写ってるってことは、父のことは知ってたんやな。
アタシの存在も、知ってたんか…?
- 32 名前:Liar 投稿日:2002年02月13日(水)06時47分56秒
- 「なぁ」
思わず、声をかけてしまった。だが、その先が続かない。
「何ですか?」
あいかわらず、冷たい声で返されるだけだ。
「…いや、何でもあらへん」
アタシは、何を、聞こうとしていたんだろうか。
「落ち着いたなら、病室に戻ってもらえます?まだ、話したいことがあるみたいなんで」
言うだけ言って、ひとみは病室に戻って行った。
話したいこと…ねぇ。
どうせ、どれだけ遺産もらえるかって話やろ。
そんなんアタシかて知らんわ。
その辺のことは、全部家の顧問弁護士に任せてあった。
ったく…。わからんって言って、さっさと帰って矢口の作ったご飯食べたいわ。
- 33 名前:Liar 投稿日:2002年02月13日(水)06時49分04秒
- 裕子は渋々と立ち上がり、重い足取りで病室へ行く。
だが、いざドアの前に立って入ろうとしても、なかなか踏ん切りがつかない。
気が重い…。
しゃーない、早く入んなきゃ、早く帰られへんし。
ノックをして返事を待ち、ドアを開ける。
「お話があるということですが…」
裕子はあいかわらず呼吸器に頼っている女性にちらっと目をやりながら、イスに座って男の顔を見据える。
「ええ。お話というか、お願いに近いことですが…」
男の顔から義理の笑みが消え、しばし視線を彷徨わせていたが、意を決したように裕子を見つめ、口を開く。
- 34 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月13日(水)12時13分41秒
- おー更新されてる(w
カップリングもみえてきた気がする・・・禁断のなんてことはないですよね(w
- 35 名前:作者 投稿日:2002年02月14日(木)23時27分23秒
- >>34 名無し読者さん
レスありがとうございます。
今後の展開、大筋は考えてあるんですけど、なかなか進まないです…(^^;
CPは楽しみにしてて下さい。
では、あいかわらず少しだけですが、更新します。
- 36 名前:Liar 投稿日:2002年02月14日(木)23時29分07秒
- 「ひとみさんを、預かっていいただきたいんです」
「………………は?」
何やって?
預かる…?
「他に頼れる人もいないので…」
その後、延々と頼み込まれた。
女性は未婚の母のために家族からは勘当されて久しいとか、ひとみは高校生でまだまだ心配だからとか…。
そんなん、全部アンタらの都合やろって叫びたかった。
何で、アタシがこいつの保護者になってやらなきゃならんのって。
しかし、男はそれが父の遺志でもあると言う。
さっきはロクに中身を読まなかった女性宛ての父からの手紙。
その中の1通に、当分先のことだとは思うが、と前置きして、自分の死後は裕子を頼るように書いてあったのだ。
- 37 名前:Liar 投稿日:2002年02月14日(木)23時31分15秒
- 裕子は、きっと突っぱねるような冷たい人間じゃない。
父のことをよく理解している娘だし、腹違いとは言え妹にあたるのだから、自分や君にもしものことがあったら、
ひとみのことは裕子に頼みなさい、と。
それに加えて、裕子は女性の容態を聞いて、気持ちが大きく揺れ動いた。
もう、彼女の意識が戻る可能性はゼロに等しいらしい。
延命装置によって辛うじて『生かされている』状態なのだとか。
裕子の脳裏に、母の姿がオーバーラップする。
延命処置を続けるのも決してタダではなく、経済的に苦しいひとみの生活を鑑みれば、
一日でも早く裕子の承諾を得て、引き取ってもらえないかという話だった。
最初聞いた時には、とてもじゃないが受け入れられないと感じた裕子だが、父にここまで言われたこともないし、
今この母子の置かれている状況が決していいものでないのも理解できる。
- 38 名前:Liar 投稿日:2002年02月14日(木)23時32分41秒
- 散々、考え抜いた結果、承諾することにした。
「わかりました。お引き受けします」
男は明らかにほっとした顔をして。
とりあえず、裕子は今日はそこまでで帰ることにし、病院を後にする。
この短い時間で、あまりにも大きなことがありすぎた。
腹違いの妹の存在と、その妹との同居。
あの女性はまだ『生かされて』いたが、男の話では、裕子が承諾したことで、近いうちに延命装置が外されることになるらしい。
要するに、あの女性は死ぬことになる。
ひとみは母を失うのである。
ひとみの辛さを、わかってやりたい。
ひとみ自身に罪はないのだ。
生まれた子供は、親を選ぶことだけはできないのだから…。
これから、真里を含めた3人での生活が始まることになる。
不安要素ばかりが浮かぶが、手始めに、真里への説明を考えながら、裕子は家へと急ぐのだった。
- 39 名前:Liar 投稿日:2002年02月14日(木)23時35分04秒
- ――――夜。
思った以上に帰宅が遅かった裕子を、真里ながらに心配していたのに。
そんな真里の心配も「ごめんな」のひと言でかわされ、その後に続いた話で真里の怒りは頂点に達した。
「そんなの、絶対イヤ!」
思わずイスから立ち上がって力説する。
「イヤって言われてもなぁ、もう決めたことやし」
立ち上がった真里を見ようともせず、裕子は言葉を続ける。
「まぁ、実際に一緒に住むのはもう少し先のことやから」
何で、この人はこんなに冷静でいられるんだろう。
何で、自分ばかりこんなに憤慨してるんだろう。
「だって、高校生なんでしょ。1人暮しでもやってけるって。それとか、寮にでも入ればいいじゃんかよぉ…」
振り上げたこぶしを下ろすこともできず、もやもやした気持ちを抱えたまま、すとんと座って。
- 40 名前:Liar 投稿日:2002年02月14日(木)23時36分33秒
- 「人にはいろいろ事情があるんやって。アタシの妹なんやで?会ってみたいやろ?」
「そりゃ、興味ないって言ったら嘘になるけどさぁ、何も一緒に住まなくても…」
そうなのだ。開口一番「アタシ、妹がいた」と言われた時には、驚いたと同時に見てみたいと素直に思った。
が、同居するとなると話は別だ。
「裕ちゃん、それで構わないの?」
恐る恐る、問う。
「構うも何も、アタシが決めてきたんや。矢口には事後承諾になって、ほんま悪いと思ってるけど」
裕子は申し訳なさそうにちょっと首をすくめて、真里を見る。
自分たちの生活も変わらざるをえないというのに、この落ち着きようはない。
それとも、自分と裕子の関係は、裕子にとってその程度だったのか。
あっさり他人の同居を認められる程度の。
- 41 名前:Liar 投稿日:2002年02月14日(木)23時37分44秒
- そう考えて、真里ははっとする。
自分こそが『他人』であることに。
今日初めて会ったとは言え、真里がまだ見ぬその少女は、紛れもない裕子の妹なのだ。
両親を失うという共通点を抱え、裕子はきっと保護者として、姉として、親身に彼女の世話をするだろう。
その時、この家に自分の居場所はあるんだろうか…。
「ごちそうさま」
裕子の顔を見て、食事する気に慣れなかった。
皿にはまだ残っていたが、食欲も失せてしまった。
「残ってるけど、もうええの?」
裕子の声にも生返事で答え、真里はさっさと自分の部屋へ下がる。
- 42 名前:Liar 投稿日:2002年02月14日(木)23時38分55秒
- 1人残された裕子は、大きくため息を吐いて真里が消えたドアを見つめる。
やっぱり、怒るわなぁ。当たり前やもんなぁ。
怒らなきゃ、それはそれでこっちも悲しいわ。
真里には決定したことを伝えただけだ。
ひとみの母親を見て感じたことなど、とてもじゃないけど言えなかった。
自分の母のこと、幼い時の自分自身…。そんな弱さを、真里に見せたくなかった。
ただ、決めたからにはできる限りのことはしたい。
真里にとってもひとみにとっても、住みやすい環境にしなければ。
この家が、ひとみが居心地悪いと感じる親戚の家と変わらなければ、引き取った意味もない。
ひとみを不幸にするだけだ。
- 43 名前:Liar 投稿日:2002年02月14日(木)23時40分05秒
- 少なくとも、高校を卒業するまでは面倒を見てやらなければならないだろう。
数時間前の病院での裕子は、先ほどの真里と大して変わらない憤りようだった。
今ではそれが嘘のように、前向きな考えができる。
真里については、もう数日は機嫌が悪いままかもしれない。
だが、裕子は真里の従来の明るい性格を熟知しているし、初対面の人間に馴染まれやすいのは、
自分よりも圧倒的に真里の方であることも理解している。
ひとみに上手くやっていこうという気があるならば、おそらく大丈夫だろう。
そう。肝心なのはひとみなのだ…。
結局、病院ではほとんどまともに話ができなかった。
ロビーにいた自分を迎えに来た時と、引き取ることを決めて「よろしくな」とあいさつしただけである。
まぁ、母親のこともあるから、今のひとみにとってはそれどころではないのかもしれないが…。
- 44 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月15日(金)00時16分08秒
- いよいよ、3人の新生活スタートですか(w
このトライアングル・・・大好きです。
- 45 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月15日(金)10時11分45秒
- よしこと姐さんが姉妹ですか。(w
どんな話になるのかドキドキ・・・
- 46 名前:作者 投稿日:2002年02月20日(水)03時31分12秒
- >>44 名無し読者さん
>このトライアングル・・・大好きです。
私も好きですね。
どう絡ませるかはほんとに迷うところですが。
>>45 名無し読者さん
はい。よっすぃーと裕ちゃんが姉妹です。
ちょっと黒キャラになりそうなカンジです……。
- 47 名前:Liar 投稿日:2002年02月20日(水)03時32分35秒
- 消灯時間も過ぎて、静まり返った病院の一室。
母の病室が個室であったのを幸いに、ひとみは部屋の電気をつけて、学校の宿題を片づけていた。
通常、面会時間が過ぎたら帰らなければならないことになっているが、ひとみは特別に許可してもらっていた。
生きている母を、あと何日見ていられるだろう。
この機械が取り外されるのはいつなのだろう。近いうちであるのは確かだが。
中澤裕子―――。
ブランドのスーツやバッグを身につけ、いかにも自分はデキるキャリアウーマンといういでたちで現れた。
病室に入ってきた時は、緊張していたのか、ずいぶんと固い面持ちで。
案の定、母とひとみの存在は今まで全く知らなかったらしい。
目に見えて取り乱す様が、哀れを誘う。
そして、ロビーのソファに俯いて座っている裕子を見た時、なぜか優越感を感じた。
裕子を見下ろしてるせいばかりでなかったのは確かだ。
- 48 名前:Liar 投稿日:2002年02月20日(水)03時33分30秒
- きっと今まで、裕子は自分が父親の愛情を一身に受けてきたと思っていただろう。
幼くして母を失い、その後も再婚しない父親がいて。
それなりに財力も名声も持ち合わせている父親を、少なからず誇りに思っていたかもしれない。
長年当然のこととして受けてきたそれらの恩恵を、自分の存在が根底から覆すことになる。
気分がいい。
ひとみは、自分でも無意識のうちに薄く笑みを浮かべていた。
その表情は冷たいけど、それ以上に整ってきれいで。
人がいたら、思わず見入ってしまうに違いないような、そんな冷笑だった。
- 49 名前:Liar 投稿日:2002年02月20日(水)03時34分35秒
- 父は、自分にも母にも、すごくよくしてくれた。
ひとみは数えるほどしか会ったことはなかったが、優しい人物だったと記憶している。
世間的には祖父と言っても通用するほどの年齢だったが、元気だった母と3人で出かけた時は非常に楽しかったし、母も幸せそうだった。
母の入院は長期に渡っていて、生前の父は入院費用や治療費もかなりの額を出してくれていた。
会えなくて迷惑をかけているから、せめてこれくらいはさせてくれ、と。
その心遣いにも感謝している。
ひとみは早くから裕子のことは知っていた。
父の本妻の娘で、いわゆる世の中のエリートコースを邁進している人。
生まれも育ちも恵まれた人。
自分とのこの差は何なのだろう。
片親であることが原因で、疎まれ、蔑まれ、苛められた日々。
親戚からも、隣近所からも、同級生からも。
母親が違うだけで、ここまで人生は異なるものなのか。
- 50 名前:Liar 投稿日:2002年02月20日(水)03時35分29秒
- 裕子に対する羨望の思いは、年を重ねるごとに嫉妬や憎しみに変わっていった。
自分だって、父の娘だ。
逃げ隠れすることもない。
自分の存在を明かし、裕子を見返してやりたかった。
今日、その第一段階は成功したと思う。
少なくとも、動転し、憤り、気落ちする裕子の姿を見て胸がすっとしたのは確かである。
でも、まだまだだ。
母と別れるのはもちろん辛いが、自分の心の中に在る憎しみの成長は、もはやひとみ自身にも止められそうになかった。
- 51 名前:Liar 投稿日:2002年02月20日(水)03時37分36秒
-
――――――――
- 52 名前:Liar 投稿日:2002年02月20日(水)03時39分16秒
- 大学で、真里は朝からこの上ないほど不機嫌だった。
正確には、昨夜からのことなのだが。
いつもは常に明るさとにぎやかさを振りまいて歩くような人間なのに、今日はことあるごとに周囲の友人に当り散らしている。
特に、自他ともに認めるいちばんの親友である安倍なつみはその格好の被害者だった。
「だってさぁ、信じられないよね。そんなの。……って、ねぇ、なっち、ちゃんと聞いてるの?」
一緒に学食でランチをつつきながら、隣に座っているなつみに今日何度目かの愚痴をこぼす。
「んあ?聞いてるよぉ。ってか、朝からその話ばっかっしょ。耳タコだっつーの」
なつみはつけ合わせのポテトフライを口に放り込んで、呆れたように返事をする。
「だってさぁ、だってさぁ…。何のための2人暮しだと思ってるんだよぉ、裕子のヤツ…」
真里の言ってることは、朝から何ら変わりない。
「裕子さんだって、散々悩んだんでしょ?自分は社会人で、更に血の繋がりがあるとは言え、初対面の高校生の保護者になるなんて、
並大抵のことじゃないよ。裕子さんの器の広さを褒めてやるくらいはしなよ」
- 53 名前:Liar 投稿日:2002年02月20日(水)03時40分46秒
- 普段は自分と一緒にきゃーきゃーふざけ合ってるクセに、いざという時にはこういう大人な考えができるなつみを苦々しく思いながらも、
自分を諭してくれることに真里は少し感謝した。
真里も、裕子の決定が間違ってるとは思わない。
むしろ、なつみが言うように褒めてしかるべきことだと思う。
でも、素直にそうできないのは当然の心理で。
ひと言くらい、相談してくれたっていいじゃんかよぉ。勝手に決めちゃってさ…。
それに、一応、恋人同士を自覚してる自分と裕子の同棲生活に、新たに1人加わるとなれば…。
あんまりいちゃいちゃできなくなる。裕ちゃんは、そんなの気ならないのかなぁ。
ううぅぅ〜と、1人で唸り声を上げて険しい顔をする真里を、なつみは優しく見つめる。
全く、考えてることがわかりやすぎだね。全部、顔や態度に出ちゃうんだから。
- 54 名前:Liar 投稿日:2002年02月20日(水)03時42分43秒
- なつみ自身、何度か真里の家には遊びに行ったことがあるし、裕子とも顔をあわせている。
なつみが思うに、裕子は一見、とても冷たくてぶっきらぼうな人間に見られがちである。
実際、そういう態度をとる人だし、なつみが感じた第一印象も同様だった。
なぜ、真里はこんな人とつき合ってるんだろう、と不思議に思ったものだ。
だが、つき合いが深くなるにつれ、裕子の時折見せる優しい表情や、ふとした時に垣間見せる人間的な弱さ、
意外なほどの情の脆さを知り、裕子が人として非常に魅力的であることは認めざるをえない。
あぁ、裕子さんのこういうところに惹かれたんだな、と妙なことで納得したり。
しかし、ちょっと大人ぶった意見を言ってみたものの、裕子さんもとんでもないことをする…などと、
傍観者的な立場でこの先の展開を面白がってるなんて、横で悩んでる親友には口が裂けても言えないなつみだった。
- 55 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月21日(木)01時08分40秒
- 更新お待ちしておりました(w
先が気になって気になって・・・
ぶっきらぼうの裕子萌〜。
黒よしこ萌〜。
姐さん4月からのドラマ・・・保健室の先生役らしく・・・さらに萌〜(w
- 56 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月22日(金)01時42分08秒
- この先は、黒吉にヤグチかなっちが翻弄されていくんだね?
姐さんは、色々なものを奪われていくんだ。
先の見える、展開かも?
個人的には、誰もが幸せになれるようにしてもらいたいもんだが、
その方が難しいんだよね。
- 57 名前:名無し読者。 投稿日:2002年02月23日(土)11時23分48秒
- >>56
ネタばれは・・・
でもまだカップリング決まってないって作者さんいってたよ。(w
- 58 名前:作者 投稿日:2002年02月25日(月)14時01分07秒
- >>55 名無しさん
ちょっと、痛めで暗い話になりそうです。
いや、なりそうって言うか、なる。
今、書いてるところがすでにもう…(^^;
>姐さん4月からのドラマ・・・保健室の先生役らしく・・・さらに萌〜(w
白衣の裕ちゃん…似合いそうですね。
放送のたびに壊れそうです、自分(笑)
>>56 名無し読者さん
レスありがとうございます。
56さんの読みどおりかどうかは、ここでは言うのは憚られますが…。
今後もつき合っていただけたら、幸いです。
>>57 名無し読者。さん
すみません。今の自分には、読んでもらえたら…ってことしか言えないです。
3人とも好きですし、ほんとに悩んでるんです(苦笑)
では、更新します。
- 59 名前:Liar 投稿日:2002年02月25日(月)14時04分05秒
- 裕子と真里にとっての衝撃の日から、すでに1ヵ月が経とうとしている。
2人はひとみと同居する準備を着々と進めていた。
裕子は顧問弁護士にひとみのことを相談し、自分の取り分が減るのは一向に構わないから、ひとみにも相応の遺産を
相続させるように頼んだ。
突然の子供の出現に親戚一同が色めき立ったが、ひとみの出生が確認されると、渋々ながら裕子の申し出を認める。
結局、裕子が相続するものの一部をひとみ名義に変更し、今後保護者となる裕子がひとみの成人まで管理するという形で落ち着いた。
家の方も順調だった。
もともと2人で暮らす上で、物置同然の使わない部屋もあるほどの余裕だったため、ひとみの部屋を用意するのに苦労はしなかった。
真里も最初こそは反対していたが、自分がどうあがいても覆せないことがわかると、気持ちの切り替えは早かった。
裕子以上に率先して、ひとみの部屋を片づける毎日だ。
- 60 名前:Liar 投稿日:2002年02月25日(月)14時05分48秒
- ある日曜の午前中、もうかなり日が高くなった頃にようやく裕子が起きてくると、真里はぱたぱたと家の中を走り回り、
ひとみの部屋から荷物を運び出すという、ここ数日の見慣れた光景が展開されていた。
「おぉ、矢口。あいかわらず精が出るなぁ」
裕子はコーヒーメーカーから自分のカップになみなみとコーヒーを注ぐと、半ば呆れたような声音で話しかける。
「おはよー裕ちゃん。…そろそろお昼だけどね」
真里の言葉にうんうんと頷きながら、コーヒーをずずっとすする。
「もう大体片づいたんか?」
「うん。あとは掃除するくらいだよ。でもねぇ、何で矢口ばっかりやってるんだろうねぇ」
器用に手も口も動かしながら、不満そうな色をにじませて言う。
「アタシは仕事が忙しいんよ。……よっしゃ。掃除は手伝ったる。一緒にやるか」
- 61 名前:Liar 投稿日:2002年02月25日(月)14時06分48秒
- 思い立ったら即、行動とばかりに、飲みかけのコーヒーカップを流しに置くと、裕子は着替えるために部屋に戻る。
文句を言った真里がびっくりするくらいの潔さで。
1時間後、2人は適度に汗をかき、作業の後の達成感に浸っていた。
物置としか言いようがなかった部屋を、ここまできれいにできたなんて…。
これを機にいらないものも整理できたし、見違えるほど広く感じる部屋になった。
最初は高校生の部屋には少し狭いかとも思ったが、ベッドも机も余裕で入るし、収納スペースも十分にある。上等だ。
「何か、気分ええな」
「うん。そうだね」
至極、満足そうに言葉を交わして。
お昼にしよう、とリビングへ。
真里が作った昼食を食べながら、会話も弾む。
- 62 名前:Liar 投稿日:2002年02月25日(月)14時07分46秒
- 「ところでさぁ」
真里のちょっぴり真剣そうな声に気づき、裕子はうん?と顔を上げる。
「部屋、用意できたけど、その、吉澤さんが実際に来るのはいつになるの…?」
そうなのだ。真里はまだそれを知らない。
近いうちにと言われながら、もうかなり経つ。
こうしてすぐにでも引っ越せるようにしたのだから。
それに、一緒に住むことは決まってるというのに、会ったこともない。
「あぁ。アタシもよぉ知らんわ。明日あたり、電話してみるから」
こんなあやふやな答えを聞くと、この人は同居するという重要さをほんとにわかっているんだろうか、と心配になる。
- 63 名前:Liar 投稿日:2002年02月25日(月)14時08分28秒
- 「早く知りたいよ。ねぇ、電話、今してよ」
「今ぁ?」
いかにも面倒くさいという表情で返される。
でも、引き下がるもんか。
「明日するなら一緒だろぉ。こうしてヒマしてるんだから。最近どうかって聞くだけでもいいしさぁ」
真里はお願いっとばかりに上目づかいで裕子を見る。
裕子は数秒、固まったまま真里を見つめていたが、やがてふぅっと息を吐く。
やった!真里の顔が破顔する。
「しゃーないな。ええよ」
立ち上がって部屋から手帳を持ってきた裕子は、番号を確かめつつ、ひとみの携帯にかけてみる。
その横には、目をきらきら輝かせている真里がいて。
- 64 名前:Liar 投稿日:2002年02月25日(月)14時09分12秒
- 真里の耳にもわずかに呼び出しの音が聞こえてくる。
「あ、中澤ですけど…」
心なしか不安そうな顔で話し始めた裕子の顔は、相手の言葉に耳を傾けながら、明らかに曇っていく。
どうしたんだろう?真里も心配そうな表情を浮かばせる。
「あぁ、うん。わかった。アタシは、行った方がええの?」
行く?どこへ?病院だろうか…。
「そっか。…そやな。それじゃ、気ぃしっかり持ってな。じゃ」
裕子は電話を切る。
「何、何、何っ。どうしたの?」
待ってましたとばかりに真里が飛びつく。
- 65 名前:Liar 投稿日:2002年02月25日(月)14時10分35秒
- 「お母さん、亡くなったって」
真里の顔を見ることなく、どこか遠くを見つめたまま裕子はつぶやく。
「え?」
「予定では、来週末に装置をはずすことになってたんやけど、今朝早く、容態が急変して、そのまま…」
真里にも事の重大さが飲み込めた。
「今日、お通夜なんやって。ちょうどアタシに連絡しなきゃって考えてたとこらしい。
…アタシは行ってくるけど、矢口、行くか?」
どうしよう…。
会ってみたい気持ちはあいかわらずだけど、お通夜の席ってのは気が引けるなぁ、などと考え込んでいると、
真里の頭にふわっと裕子の手が下りてきた。
「無理せんでええで。今日は家にいな」
目を細めて優しく微笑む。
そんな顔をされると、余計に行きたくないなんて言えなくて。
「無理なんてしてない。矢口も一緒に行く」
そうだ。お通夜に行って、お線香をあげて、吉澤さんにあいさつして来るだけでも…と真里は心の中で自分に力説する。
「そうか?じゃあ、夕方になったら出かけるからな」
裕子の言葉に真里はコクンと頷いた。
- 66 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月25日(月)16時39分14秒
- 更新お疲れさまです。
どうなっていくのか・・・楽しみです。
作者さんの思いのままに(w
三人とも好きなら・・・いつかもう一人増やして救済措置をするとか?(w
私も、保健の先生楽しみです。
- 67 名前:Liar 投稿日:2002年02月26日(火)00時07分12秒
- 通夜の会場に着くと、独特のしんみりした空気が流れていた。
やっぱりこーいう雰囲気は苦手だなぁと、真里は今更ながら、一緒に来たことを後悔していた。
とりあえず、2人そろって焼香を済ませ、裕子はひとみの姿を探す。
探すまでもなかった。棺に最も近いところに座っていたのだから。
ひとみも、裕子を自分の視界に認めたようだ。
真里にそっと耳打ちしてひとみの存在を教える。
興味津々という色をありありと浮かべた真里は、ひとみの顔を見て、ほぉ〜っとため息を漏らす。
静まり返っていた会場の外に出ると、ちょっぴり興奮したように話し出した。
「何か、すっごい大人びた感じの子だね。確か…16歳だっけ」
あぁ、と裕子が頷くと、真里は再び感心したような声を上げる。
- 68 名前:Liar 投稿日:2002年02月26日(火)00時08分36秒
- 「ほえぇ〜。あれで16歳…。矢口より3つも年下なんだ。背も高そうだったし、何かうらやましいな」
「気にせんでええって。矢口は十分かわいいんやから」
裕子は真里の頭を撫でて微笑む。
「こーいうことするの、矢口がちっちゃいからでしょぉ」
自分の頭をなでなでする裕子の手をつかんで抗議するけど、裕子の笑顔は変わらない。
こうやってかわいがってくれてるのがわかるから、真里も心から嫌がっているワケではないのだし。
- 69 名前:Liar 投稿日:2002年02月26日(火)00時09分34秒
- しばらくして読経が終わり、周りがざわざわし始めた時だった。
「中澤さん」
初めて会った時と同じ、ちょっと低めの声で呼び止められて。
振り向いた先には、案の定、ひとみがいた。
「あぁ、吉澤」
小走りに駆け寄ってきたひとみに、裕子はお悔やみのあいさつをする。
ひとみもそれに答えると、その視線は真里に留まった。
「ええと、この娘は矢口真里。一応、アタシの同居人。で、矢口、こちらが吉澤ひとみさん」
裕子は2人をそれぞれ紹介する。
「初めまして。矢口です。こんなちっちゃいけど、これでも大学1年生です」
真里は、トレードマークとも言うべき笑顔を浮かべて、ひとみに告げる。
- 70 名前:Liar 投稿日:2002年02月26日(火)00時10分22秒
- ひとみはほんの一瞬ぽかんとした表情を見せたが、すぐに真里にならってあいさつした。
「あ、初めまして。吉澤ひとみです。あの、これからお世話になります。よろしくお願いします」
そう言ってはにかんだように真里に微笑んだが、その笑みはすぐに消え、いつもの顔を裕子に向ける。
「中澤さん。あの、ご迷惑かと思うんですが、一応、祖父母とかに会ってもらえますか」
「ええよ。迷惑も何も。そのために来たんやし。……矢口は?」
どうする?と問われ、ぶんぶんと首を横に振る。
とんでもない。そんな固い席はごめんだ。
「この辺で待ってるから。行ってらっしゃい」
裕子もこの答えは聞くまでもなかったのだろう。
小さく頷いて、ひとみとともに人ごみの中に消えていった。
- 71 名前:Liar 投稿日:2002年02月26日(火)00時11分21秒
- 「しっかし、吉澤って、笑うとやっぱ年相応にかわいいんやな」
真里と別れてすぐ、裕子が言った。
「え?」
言ってることの意味がわからないひとみは、オウム返しに聞く。
「いや、さっき矢口にあいさつした時、笑ったやん。吉澤の笑顔を見たのって初めてやったし。何か、うれしくてな」
「そんなこと…ないですよ」
ぶっきらぼうともとれる返事だった。
裕子は内心がっかりしたが、その思いは表には出さず、そっか…とつぶやいて会話は終わってしまった。
その後、2人は絶縁状態だったというひとみの母方の祖父母に会い、事情を話してこれからのことを承諾させる。
少しは孫のことが心配ではないのか…と裕子が不服に思うほど、祖父母の態度は淡白だった。
- 72 名前:Liar 投稿日:2002年02月26日(火)00時12分33秒
- そして、ひとみと裕子は引っ越しの日取りや荷物について相談しながら真里の待つ場所へ急いだ。
「中澤さん。矢口さんってどういう同居人なんですか」
唐突に、ひとみが問う。
やっぱり、気になるもんだよんなぁ。まぁ、予想していた質問だったが。
ここではぐらかすのは嫌だった。
「一緒に暮らす人やから、この際ちゃんと言っとくけど…、アタシたちつき合ってるんや」
裕子の真剣な口調から、冗談ではないことは通じただろう。
始めひとみは驚いた顔を見せたが、器用にその驚きを押し隠して、離れたところにいる真里の姿を捉えた。
「そう、ですか…」
- 73 名前:Liar 投稿日:2002年02月26日(火)00時13分40秒
- 全く、何を考えているのかわからない。
裕子は半ば呆れた思いを感じながらも、極力感情を表そうとしないひとみを見つめた。
そのうち、真里の方も2人に気づいたらしい。
小さな背でぴょんぴょん跳ねて、自分の存在をアピールしている。
「待たせてごめんな。帰ろっか」
裕子が真里の手をとって歩き出そうとしたところ、
「矢口さん」
ひとみは右手を差し出して、握手を求めてきた。
裕子が驚いたのは、ひとみが先ほどよりもずっとやわらかい表情だったことだ。
「引っ越し、今度の日曜日の予定です。よろしくお願いしますね」
「あ、うん。よろしくね。待ってるよん」
真里はててててとひとみに駆け寄って、しっかり手を握る。
もちろん、好感度抜群の笑顔つきで。
- 74 名前:Liar 投稿日:2002年02月26日(火)00時14分55秒
- 真里から手を離したひとみは、明らかに真里に向けたのとは異種の笑みで、裕子に礼を言った。
「今日はわざわざありがとうございました」
儀礼的、表面的、とでも言うのだろうか。
そんな、上辺だけの笑顔で…。
裕子も失礼にならない程度に返事をしたが、帰り道、裕子の胸中にはたとえようのない不安が広がっていった。
- 75 名前:名無し読者。 投稿日:2002年02月27日(水)18時32分03秒
- 黒よしこだね。
矢口には優しく・・・姐さんには冷酷に?
人の感情は不安定なものだからね。
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月27日(水)20時43分13秒
- 最近、姐さんの小説増えているようだけれど、なんか悲しいものばかりだね。
そういう役回りの方が、使いようがあるのかな?
自分としては、結構、姐さんって不幸が似合わないタイプに思うんだけれど。
これもそうなのかな?
文章が丁寧だし、とても上手な作家さんなんだけどな。
- 77 名前:名無し読者。 投稿日:2002年02月28日(木)01時46分07秒
- トライアングルはいいね。
読むのが楽しいよ。
- 78 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月04日(月)11時22分34秒
- どうなっていくのかワクワク!
- 79 名前:作者 投稿日:2002年03月04日(月)20時28分30秒
- >>66 名無し読者さん
前回更新時のレス返し、忘れてました。すみません。
レスありがとうございます。
カップリングの方も、自分の中でだいぶ固まってきました。
あとはうまく書けるかっていういちばん大きな問題だけですが…(笑)
>>75 >>77 名無し読者。さん
よっすぃー黒いですけど、決して悪キャラにするつもりはないです。
あくまで自分の中では(苦笑)
>>76 名無し読者さん
私も裕ちゃん好きな人間なんで、76さんが指してると思われる作品は読んでます。
ちょっとそーいうのが目立ちますね。でも、私は嫌いじゃないです。
>自分としては、結構、姐さんって不幸が似合わないタイプに思うんだけれど。
ん〜〜、どうだろう。作品の内容によりけりってとこかなぁ…。
>これもそうなのかな?
1つだけ。死ぬ人が出てくることはありません。<キッパリ。
ただ、22時からの連ドラのようにドロドロしたカンジにはなるような気はしますが……。
>>78 名無し読者さん
ありがとうございます。
そう言っていただけてうれしいです。
では、更新します。
- 80 名前:Liar 投稿日:2002年03月04日(月)20時30分26秒
- ひとみの引っ越しまでの1週間。
真里は目に見えるほどに浮かれていた。
やっぱり、生活に変化があるのはうれしいものなのだろうか。
そんな真里の様子を見ながら、裕子の方はあいかわらずもやもやしたものが消えなかった。
ひとみのあからさまな態度の変貌。
どちらかと言うと表情の変化に乏しいひとみが、あそこまでの笑顔を見せるなんて…。
ひとみの笑顔を見られたというのは、いいことなんだと素直に喜びたいが。
そして、次の瞬間、自分に向けられた冷笑。
でも、まぁ、アタシも矢口のこんなにうれしそうな顔を見られるなら、何だってするわな。
結局、ベタ惚れなのは自分の方なのかもしれない。
- 81 名前:Liar 投稿日:2002年03月04日(月)20時31分18秒
- 「ねぇ、裕ちゃん。いよいよ明日だねっ」
「あぁ、そやな。何や、矢口、めっちゃうれしそうやん」
へへへ…と照れながらも真里の笑顔は変わらない。
「そりゃ、最初は裕ちゃんとの2人暮しが〜って思ったけど、やっぱ人生前向きがいちばん!」
ええこと言うなぁ。しかも、ちゃんと実践してるもんなぁ、と妙なとこで感心して。
「それにさ、吉澤さんって、何かすごく印象よかったし。うまくやってけそう」
「あ、吉澤にはアタシら恋人同士やって言っといたで。聞かれたからな」
さすがに同居する人間にまでは隠せないしな。
「そうなんだぁ。それ聞いても矢口と握手してよろしくって言ってくれたもんね。うん。やっぱいい人だ」
- 82 名前:Liar 投稿日:2002年03月04日(月)20時32分05秒
- 真里も裕子も、今でこそこうして恋人同士を自覚しているが、お互い、同性を好きになったのは初めてだった。
当時はいろいろ悩んだし、自分の気持ちに気づいても不安でしょうがなかった。
周囲の人にもなかなか相談できなかったり…。
未だに家族にも内緒である。
だけど、2人とも大好きな恋人どころか、理解ある親友までできて。
きっとひとみもその1人になってくれるに違いない。
真里の期待は膨れ上がっていくばかりだった。
ただ、気なることがあるのも確かなのだが。
- 83 名前:Liar 投稿日:2002年03月04日(月)20時33分43秒
- 「ねぇ」
「ん?」
今でも真里は時々こういう顔をする、と裕子はふと思った。
つき合い出して間もない頃によく見せた、不安そうな、人の顔色を伺うような表情を。
「吉澤さんが来るのは、すっごい楽しみなんだけどさぁ…」
裕子は何となく真里の言いたいことを察したが、その先を促した。
「だけど?」
「ほら、夜はさぁ、やっぱ…」
さっきまでの勢いはどこへやら。
顔を赤くして、言葉も尻すぼみになる。
「やっぱ?」
裕子はあいかわらずこの状況を楽しんでいて。
「何だよぉ。わかるだろ、矢口の言いたいこと!」
- 84 名前:Liar 投稿日:2002年03月04日(月)20時35分31秒
- 微苦笑した裕子は、そっと真里の体を引き寄せ、抱きしめる。
「当たり前やろ」
真里も裕子の背に腕を回す。
「今夜が楽しみやな」
真っ赤になりながらも、真里は背伸びして裕子に軽く口づけることで返事をした。
「ま、しばらくはできひんようになるんやろうなぁ」
間取りとしては、玄関を入ってすぐがひとみの部屋で、廊下を抜けてリビングを挟んだところに真里と裕子の部屋がそれぞれある。
離れていると言えば離れているのだが、第三者がいると知っていれば、とてもじゃないがそんな気になれないだろう…。
- 85 名前:Liar 投稿日:2002年03月04日(月)20時36分29秒
- 「寂しいん?」
俯く真里の顔を下から覗き込んで聞く。
「うん…。裕子のイイ顔が見れないのはツライかも…」
真里にすれば、正直な心情をぼそっと言ってしまっただけなのだが、意図しなかった相手の慌てぶりが面白くて。
「な、何言うとんの。こんな真っ昼間から…」
「あ。裕ちゃん、照れてる?うわぁ、裕ちゃんこそ何考えてんだか」
屈んで真里を覗き込んでいた裕子は、すぐに視線を逸らせる。
「やぁ〜だな、裕ちゃん照れちゃってぇ。…矢口はほんとのことを言っただけさっ」
「ほら、さっさと買い物行くで。明日の夜はご馳走作るんやろ」
真里の言葉を無視して、裕子は出かける準備をする。
「何か、いいよね、こーいう反応…」
裕子の背を見つめながら、真里は思わずつぶやいていた。
口に出してから、聞かれなかったことにちょっとほっとする。
でも、今夜が楽しみなのは真里にとっても事実なワケで。
- 86 名前:Liar 投稿日:2002年03月04日(月)20時37分25秒
-
―――――――――――――
- 87 名前:Liar 投稿日:2002年03月04日(月)20時38分39秒
- 「……んあっ、…や、ぐちぃ…っ」
細い体躯をこれでもかというくらいに仰け反らせ、甘い叫びを上げて裕子は果てた。
はあはあと荒い息を吐いて、真里の頬へ手を伸ばす。
この手で頬を撫でられるだけで、ドキッとしてしまう。
自分の脳裏には、先ほどまでのあられもない裕子の姿態が焼きついたままなのに。
「…ぅちゃん、よかった…?」
声が掠れている。
まだ、足りない。
しばらく、できなくなるんでしょ?
…もっと見せてよ、裕ちゃんを。
- 88 名前:Liar 投稿日:2002年03月04日(月)20時39分38秒
- 「あぁ。よかったで」
ふっと微笑んで答えると、裕子は気だるそうに体を起こし、毛布をめくって中に入る。
自分の横をぽんぽんと叩いて、真里にも入るように促した。
真里は自分の中にまだ燻ぶっている炎を感じたまま、裕子の隣に潜り込む。
「明日は引っ越しでそれなりに力仕事しなきゃならんのにな」
苦笑混じりに裕子はつぶやくと、おやすみ、と言って真里の頬に軽くキスした。
真里は咄嗟に裕子の頭の後ろに手を回し、離れていくその唇を止める。
「え?やぐ……」
更に、唇を塞いで裕子の言葉を奪う。
舌を入れて、戸惑うように逃げていく裕子のそれを追い求め、絡ませる。
ほんの数分前まで、熱を帯びて真里の指を飲み込んでいた箇所に、右手を伸ばして。
- 89 名前:Liar 投稿日:2002年03月04日(月)20時41分57秒
- 「んん…」
わずかに抵抗の色を見せて、裕子は口づけから逃れようとした。
真里は裕子の顎をしっかりと捉えると、呼吸さえも許さないようにその口内を貪る。
右手は、次第に裕子の発する熱と湿り気を感じ取っていった。
大好きな人の表情が見たくなって、真里はようやく唇を離す。
「っ…はぁ……」
やっと解放された裕子は、肩で息をしながら呼吸を整えようとするが、真里はそんなわずかな時間さえも与えずに、
内部に指を挿入する。
「…ぅ、くっ…ああぁぁっ…」
眉根を寄せて苦しげな声を上げながらも、そこは楽々と真里の指を受け入れた。
- 90 名前:Liar 投稿日:2002年03月04日(月)20時43分44秒
- 「やぐ…ち、な…ん…?」
自分の体もどうしようもなく熱くなってるのを感じながら、真里は答える。
「…1回じゃ、足りないよ。矢口、もっと裕ちゃんを見たいんだ」
言葉とともに、指の動きを激しくして。
一瞬、困ったような表情を浮かべた裕子だったが、それはすぐに恍惚としたものへと変わっていく。
「アタシのこと…、はな…さんといてぇ…っ」
―――裕子と真里だけの長い夜は更けていった。
- 91 名前:寒太 投稿日:2002年03月05日(火)23時50分31秒
- 姐さんの話は痛いのも甘いのも好きです。
この話とっても痛くなりそーなんで、らぶシーンもなんか痛い。
あんまり、裕ちゃんイジメんといて下さい。
つづき待ってます。
- 92 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月07日(木)21時04分14秒
- あまり催促は・・・したくないけど・・・つづきが早く読みたいよ〜(w
- 93 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月11日(月)00時51分38秒
- どうなっていくのか???
HP拝見させていただきました。
- 94 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月12日(火)00時00分43秒
- まだかな?待ってま〜す!!
展開に期待です。
- 95 名前:作者 投稿日:2002年03月12日(火)21時53分24秒
- >>91 寒太さん
…………もしかして、寒太郎というHNで小説書いてる方ですか?
もしそうなら、うれしいですね。
すごく好きで、いつも楽しみにしてます。
別のスレでも裕ちゃんものを書いてますが、どうも甘いのが書けない性分らしく…。
砂吐きそうなくらいに甘いの、いつか書きたいです(^^;
>>92 名無し読者さん
すみません。お待たせしました。
最近、更新のペースが遅くなってます……。
なかなか先が書けなくて。
>>93 名無しさん
ん〜、自分はHP持ってないんで、もしかしたら、間違って書き込みされたんでしょうか…?
>>94 名無しさん
レスありがとうございます。
期待…答えられないかもしれませんが、よろしくおつき合い下さい。
それでは、更新です。
- 96 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)21時55分09秒
- 翌日。
予定通り、10時過ぎにひとみの荷物を載せたトラックが到着する。
いわゆる1人暮し用の引っ越しパックで、その荷物の少なさは真里と裕子が驚くほどだった。
業者には荷物をマンションの部屋まで運んでもらい、梱包を解くところから3人で分担する。
「しっかし、ほんまに少ないんやなぁ。何か忘れたんとちゃうか」
部屋の入り口でダンボールを次々と開けながら、半ば感心するように裕子が言う。
「大丈夫ですよ。ちゃんと足りてます。知り合いから、いらなくなったベッドと机をもらえることになったんです」
ひとみはてきぱきと荷を解き、洋服をハンガーにかけたりタンスにしまいながら答える。
「えっ。それ、ここに運ぶのってどうするの?また引っ越しの会社にでも頼むの?」
背伸びしてカーテンを取り付けていた真里が、ひとみを振り返った。
「いえ。今日の午後、その子に届けてもらうことになってるんです」
ひとみの答えにふうんとつぶやき、真里は作業を再開する。
- 97 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)21時56分31秒
- 踏み台を使っても真里にとっては背伸びしないと届かない高さで、その不安定さを見かねた裕子が立ち上がった。
「なぁ。アンタこっちで吉澤の手伝いしてな。カーテンはアタシがやるから」
「大丈夫だよぉ。もう終わるって」
言いながら、真里はいちばん端の固定されているフックに引っ掛けようと、踏み台からできる限り腕を伸ばす。
その体勢は明らかに危険なもので。
裕子の不安は的中し、真里の足が踏み台からずるっと滑った。
「矢口っ」
裕子は無意識のうちに足を踏み出したが、自分と真里の間にはダンボール箱が数個とひとみの存在があり、それを阻んでいた。
真里自身、あっと思った時にはもう遅かった。
固い床への衝突を覚悟した真里だったが、次の瞬間、何が起きたのかわからないまま、自分の体はひとみによって
支えられていることだけを理解する。
- 98 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)21時57分30秒
- 「大丈夫ですか、矢口さん」
真里の視界は、自分を気遣うひとみの心配げな表情に占領された。
ひとみは何も答えない真里の体をゆっくりと起こすと、中途半端にぶら下がっているカーテンをいとも簡単に取り付ける。
「無理、しないで下さい。大変だったら私がやりますから」
そう言って、ひとみはふんわりと微笑んだ。
それを見た裕子の胸がズキッと痛み、曇っていく。
追い討ちをかけるように、真里のちょっぴり照れた顔に気がついて。
はぁっと重い息を吐いて、裕子はひとみと真里に告げる。
「ちょっと、コーヒー飲んでくるわ。すぐ、戻るから」
すまんな、と言い残してリビングの方へ消えて行った。
- 99 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)21時58分36秒
- 「あ、裕ちゃん…」
慌てて真里は声をかけたが、それは裕子の耳には届かなかった。
「あ〜ぁ、行っちゃった。ダメだね、裕ちゃんサボってばっかじゃん」
言いながら、視線を隣にいるひとみに向ける。
暗く、冷たい眼差しで裕子がいた空間を見据えていたひとみは、すぐに真里の視線に気づいて、それを隠す。
「やっぱ…年齢の差、ですかねぇ…」
思いがけないひとみの言葉に、真里はいい意味で驚いた。
「何気にキツイこと言うね…。ま、否定しないけどさ。…あ、それより、ありがとう。助けてくれて」
「いえ。そんなの、気にしないで下さい」
何か、妙に照れるなぁ、この笑顔…。
真里は自分の気持ちに気づいて焦り、慌てて話題を変える。
「そうだっ、吉澤さん…って…」
そこまで言うと、言葉が止まり、うぅ〜んと唸って考え込む。
- 100 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)21時59分40秒
- 「何ですか?」
首を傾げて、ひとみは真里の顔を覗き込んだ。
「ん…いや…、吉澤さんって呼び方、他人行儀だよなぁと思って。学校とかでは何て呼ばれてるの?」
「ん〜、吉澤さんが多いですね。あとはひとみちゃんって呼ぶ子もいますけど…」
「ひとみちゃん…ねぇ」
再び、真里は真剣な顔で考え込む。
1分ほどたっぷり考えた頃、ぱっと顔を輝かせてひとみに告げた。
「よっすぃー!!」
は?という明らかに素の表情を見せたひとみ。
「だから、呼び方。何かね、矢口的にひとみちゃんってカンジじゃないんだ。という訳で、よっすぃーに決定ね」
よっすぃー、よっすぃーとくり返しながら、よいしょっとダンボール箱を乗り越えて、真里はその決定を裕子に伝えに行く。
- 101 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)22時00分46秒
- 「よっすぃー…」
後に残されたひとみは、真里のつけたあだ名を自分でつぶやく。
ふむ、と思案する。何だか変な感じだ。
そう言えば、自分にはあだ名とかニックネームは無縁だったなぁなどと思い出す。
陰口を叩く人間にとっては、自分の呼び方なんて星の数ほどあったような気もするが、そんなものは気にしなかったし。
学校の人間も極力自分との接触を避けていたから、どうしても苗字にさん付けというありふれたものになったのだろう。
いや、自分からそう仕向けていたところもあるとは思うが。
よっすぃー、ともう一度口に出すと、先ほど自分が助けた時の真里の顔が浮かぶ。
そして、それにつられるように、部屋を出て行く時の苦々しい裕子の顔も。
あんな表情をしてることに、あの人は自分で気づいているんだろうか…。
今のところ、順調…なのかな。ちょっと怖いくらいに。
まぁ、気は抜けないな…。
- 102 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)22時02分00秒
- ひとみは部屋を見回し、ふぅっとひと息吐いてから、再び服を片づける作業に手をつけた。
数分後、ぱたぱたぱたと足音を響かせて、真里が戻ってきた。
「そうっ。言い忘れてた!ウチでさ、近いうちによっすぃーの歓迎会をやろうかって思ってるんだけど、いつがいい?
よっすぃーの友達とかも呼んで」
命名したばかりの名前を気に入ったらしく、真里は早速それを連呼する。
「え……、そんなのいいですよ」
歓迎会なんて、ガラじゃない。
自分がここにいたい理由を知ったら、きっと歓迎なんてしてくれないだろうし…。
それに、呼びたくなる友達って言われてもなぁ。
1人だけ、思いつく子がいないこともないけど…。
「そんなぁ、遠慮しないでよ」
真里はこういうパーティーをやること自体、好きなのであって。
もちろんひとみの歓迎の意を最大に込めるが、要するにみんなで楽しく騒ぎたいのだ。
- 103 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)22時03分55秒
- 「矢口もさ、大学の友達1人呼ぼうかと思ってるんだ。ね、やろうよぉ」
「いや、遠慮してるワケじゃ…」
ひとみはなおも歯切れの悪い返事だ。
「矢口は自分が騒ぎたいんやろ?」
いつの間に戻ってきていたのか、部屋の入り口で裕子が真里を見ながら皮肉げに笑う。
「ち、違うよっ。ほら、やっぱさ、これからずっと上手くやっていくためにも、お互いの友達とかと一緒にぃ…、
いろいろ話したり…さ、こう、親密にコミュニケーションをぉ……」
なまじ、本当のところを言い当てられて、次第に言葉が続かなくなる真里が微笑ましい。
「ま、その辺のことは置いといて…」
裕子はひとみの方を向く。
「アタシも職場の同僚連れてこようかと思っててな。きっと矢口も料理の腕振るうやろうし。やる日も吉澤に任せるわ。どうや?」
ひとみの思案顔を見て、再び真里が口を開く。
- 104 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)22時04分59秒
- 「そうっ。矢口、がんばっていろいろ作るよ。よっすぃーの好きなもの教えてくれたら、それもいっぱい作るからさ」
きらきらと光る瞳で、お願いだからやるって言って、とひとみに訴えてる真里の姿に、裕子はもう呆れ顔だ。
ひとみは多少戸惑った様子を見せながらも、ぎこちなく頷いた。
「そ、それじゃぁ……」
「ぃやったぁ〜っ」
ひとみが承諾した途端、真里は心底うれしそうに叫ぶ。
「よし、じゃ、いつにしよっか。よっすぃーはいつがいい?」
「あ、いつでもいいですけど」
まだ、真里のテンションの高さについていけないひとみだった。
「いつでもいい、か…。それなら、今週の金曜日。夜。会場はここ」
即決だった。
- 105 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)22時05分53秒
- 真里なりに、大学の講義が早く終わって、買い物にも準備にも時間を割けて、なおかつ次の日が休み…といろいろ考えたのだ。
思いっ切り、自分の都合が最優先だったが。
くるっと振り返って目で裕子に問う。
「ええよ。その代わり、準備とかは全部アンタに任せるからな」
事も無げに裕子は答える。
そっちは任せておいてと言わんばかりに真里は頷き、ひとみを伺う。
「よっすぃー、いい?」
勢いづいて決定したはいいが、ちょっぴり不安そうな声。
「はい。大丈夫です」
ひとみの答えに、明らかに真里はほっとした顔をする。
今後の予定がひとつ決まって、それじゃ、キリがいいところで、という裕子の提案で昼食をとることにした。
- 106 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)22時06分56秒
- 昼食も終わってひと休みし、片づけを再開する。
後はベッドと机の到着を待つだけというところまで終え、3人がリビングで歓談し始めた矢先、インターホンが鳴る。
受話器を取った裕子が少し受け答えをしてから、通話口を押さえてひとみを振り返る。
「荷物届けに来たって言ってるんやけど。石川さんって女の子」
「あ、そうです。学校の友達です」
ん、と頷いてひと言何かを告げると、裕子はマンションのエントランスを開錠するボタンを押した。
「吉澤、アンタ下に降りて手伝ってきぃ」
「はい、わかりました」
ひとみはさっと立ち上がると、上着も着ずに玄関へ向かった。
- 107 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)22時08分03秒
- 「ねぇ、裕ちゃん」
その様子を見ていた真里が、裕子に話しかける。
「何や?」
「裕ちゃんさ、ただでさえ怖がられる空気まとってるんだからさぁ、もうちょっと優しくしようって気にならないの?」
「吉澤に?」
「そう。裕ちゃんの妹のよっすぃーに」
真里は『妹』というところをわざわざ強調する。
しかし、裕子はふっと真里から視線をはずしてつぶやいた。
「別に…」
「ちょ…、ちょっとぉ、別にってそんな言い方…」
慌てて、真里は裕子の腕をつかんで引き止める。
「一緒に住むんやから、始めから素のアタシをわかってる方がええやん」
「でもさ、やっぱり第一印象とかって大切だよ?最初に怖い人って誤解されちゃったら…」
真里は自分の方を見ようともせず、玄関へ行こうとする裕子に食い下がる。
- 108 名前:Liar 投稿日:2002年03月12日(火)22時09分02秒
- 「アタシが怖い人ってのは、別に間違ってないと思うんやけど」
即座に言い捨てた裕子に、なおも反論の言葉を続けようとした真里だったが、ちょうど部屋のインターホンが鳴ったことで
裕子の腕を放してしまった。
結局、裕子は真里を見やることもなく、玄関へ。
その背中を見つめて、真里は寂しげにつぶやく。
「それが、間違ってるって言ってるんだよぉ……」
はぁっとため息を吐くが、そんな感傷に浸る間もなく玄関が騒がしくなり、渋々、真里もそっちへ足を運んだ。
- 109 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月13日(水)02時31分54秒
- 大量更新ありがとうです。
吉澤がここに来たワケは・・・復讐なんですよね?
これも痛めの作品になりそうですね。(w
- 110 名前:寒太 投稿日:2002年03月13日(水)21時35分39秒
- おっ更新されてるー――!!
一気に大量更新、作者さまありがとうです。
おいらの話も読んで頂いてるようで嬉しいです、ありがとうございます。
作者さまの別のスレも読んでました。レス付け損なってましたがお気に入りでした。
この話も楽しみにしてますので頑張ってください。
- 111 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月15日(金)09時17分23秒
- 読み応えアリますな(w
黒よしこいいね。
複雑ゆうこも萌〜。誤解されやすい人萌〜。
太陽矢口もGOOD!
- 112 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月16日(土)03時41分48秒
- 裕ちゃん・・・痛いけどいい!!
作者サマがんばってクダサーイ!!
- 113 名前:作者 投稿日:2002年03月18日(月)23時18分24秒
- >>109 名無し読者さん
レスありがとうございます。
痛めの作品………なりそうですね。
>>110 寒太さん
あっちのも読んでいただいてたんですか。
ありがとうございます。
まだまだ未熟者ですが、読んでいただけてうれしいです。
寒太さんのもいつも楽しみにしています。
>>111 名無し読者さん
太陽矢口……。何かその言い方好きです(笑)
そういう矢口を書いていきたいなと。
>>112 名無し読者さん
レスありがとうございます。
すごく励みになります。がんばりますね。
では、更新です。
- 114 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時19分45秒
- ちょうど、ひとみと1人の男性が、台車から机を下ろして部屋に運び込むところだった。
その後ろには、組み立て式のパイプベッドの部品を抱えた裕子とかわいらしい女の子がいた。
近づいていった真里に最初に気づいたのはその少女で。
真里と目が合うと、ペコリと頭を下げる。
少女のその動作に気づいて、裕子も真里の姿を認める。
「矢口、こちら吉澤の友達で石川梨華さんやって」
とりあえず、作業の邪魔になりそうなので、その場を動かずに、よろしく、と真里は言った。
「よろしくお願いします」
外見以上に女の子女の子した声だった。
- 115 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時20分41秒
- 机を部屋に下ろすと、男性はがらがらと台車を押して、玄関を出る。
その際、梨華に、車の中で待ってるから、というようなことを言い残して。
それを聞いて、慌てて裕子が引き止めようとした。
「そんなお急ぎにならないでも。向こうで休んでって下さい」
男はその申し出を丁寧に辞退し、エレベーターの方へ行った。
「……お父さん?」
真里は梨華の顔を見て問う。
ちょっと恥ずかしそうに梨華は頷いた。
そう…だよな。こんな大荷物、車運転する人がいなきゃ無理だよな…。
すぐに、裕子と梨華は抱えていたパイプベッドの部品を下ろし、それを組み立て始めた。
ひとみもその作業に加わる。
- 116 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時21分29秒
- 手持ちぶさたになった真里は、濡れ雑巾を持ってきて机の上を拭く。
しかし、すぐにその手を止めて、梨華の方へ顔を向けた。
「ねえ、梨華…ちゃん、今週の金曜日にここでよっすぃーの歓迎会をやるんだけど、梨華ちゃんもおいでよ」
梨華は作業の手を休め、驚いたように真里とひとみを見つめる。
「え…?よっすぃー…って…?」
2人の顔を交互に見比べ、その名がひとみを指してることを確認してから、
「あの、ひとみちゃんがいいなら、私は喜んで…」
と梨華はひとみの顔色を伺う。
「もちろん。私も梨華ちゃんのこと、誘おうと思ってたんだ」
ひとみは即座に答えた。
- 117 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時22分21秒
- 「よかったぁ。よっすぃー、他にも誘う予定の人、いる?」
「う〜ん、いないです。声かけるのは梨華ちゃんだけにするつもりだったんで」
その答えに、梨華はわずかにうれしそうな笑みを見せた。
「あ、あとさ、裕ちゃんが連れてくるのって、みっちゃんでしょ?」
「あぁ」
会話を発展させようという気はないのか、裕子の答えは短い。
真里は少々落胆した顔をしながらも、わかったと頷いて、当日は6人になることを確認する。
その後、ベッドの組み立てを終えると、梨華は父親が下で待ってることを理由に早々に帰って行った。
真里は、梨華に金曜日の約束をちゃんと確かめることを忘れなかったが。
- 118 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時23分05秒
―
- 119 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時25分11秒
- まだ居心地の悪さがあるのか、ひとみは夕食後には早々に部屋へ下がってしまった。
キッチンで食器を洗っている裕子の後ろ姿を、リビングのソファでくつろぎながら見ていた真里は、
最初の頃に自分が抱えた不安が杞憂に終わりそうなことに、正直、安心していた。
始めは、姉妹である裕子とひとみの仲が、自分をないがしろにして親密になってしまうことを恐れていたのだ。
だが、ひとみに接する時の裕子の態度はまだまだ他人の域を出ず、こんなになるならどうして話を引き受けたんだろうと
不思議に思うくらいで。
裕子が自分から離れていってしまうことを危惧していた真里にとっては、ほっとした思いがあるのも確かだ。
- 120 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時26分19秒
- しかし、真里と違って初対面の人と打ち解けにくい裕子と、こちらも口数が少ないらしいひとみとの仲を
逆に何とかしなきゃと感じ始めていた。
外見は特に似ているとは思わなかったが、感情が表に出にくいところや、身にまとう冷たい雰囲気はどこか似ている気がする。
こういうところも血筋なんだろうか。
真里はひとみが初めて会った時に見せてくれた笑顔や、今日咄嗟に自分を助けてくれたことを思い出す。
つき合っていくうちに、もっともっといろんな面を自分や裕子に見せて欲しい。
どっちにしろ、今の状態では自分が積極的に2人の間に入っていくしかないかなぁ…と、真里は新たな試練に1人燃え始めていた。
- 121 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時27分15秒
- 「何、1人で気張ってるん?」
洗い物を終えたのか、裕子はエプロンをはずしながら、今にもガッツポーズをしそうな勢いの真里を呆れたように見ている。
「え?イヤ、別に…。あははは…」
裕子はそれ以上突っ込んで聞く気はなかったようで、軽く頷くと真里の隣に腰を下ろして新聞を読み始めた。
真里はじっと裕子の顔を見つめていたが、その表情から何も読み取れない。
しばらくその努力を続けてみたが、結果は同じで。
そのうち、裕子の眉がぴくっと動き、ばさりと新聞を置くと真里の方を向く。
「何や?」
「えぇっ?」
突然こっちを向いた裕子に驚いて、真里はちょっとの間、言葉が出てこなかった。
- 122 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時28分57秒
- 「え、やないやろ。さっきから無言で人の顔じぃっと見て…。気になるんやって」
「あ…。気づいてたんだ…」
何だ、そっかぁ…とぶつぶつ言ってる真里は、悪いことをしているのを見つかった子供のように、裕子を見ていた理由を
しどろもどろに説明した。
曰く、裕ちゃんの思ってることがわかりたかった、と。
「だってさ、裕ちゃんもよっすぃーも、何考えてるかわかんないところがあるじゃん。矢口ばっかりバレバレの行動とっちゃってさ。
だから、裕ちゃんの表情から何か読み取れるかなぁ…とか…」
真里の言葉を聞くうちに、裕子は少し前までの不機嫌そうな表情が嘘のように消え、くすりと笑うと、真里の頭を自分の方に引き寄せる。
- 123 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時30分09秒
- 「アタシが考えてることはいっつも単純やよ?」
「…例えば?」
意外そうな顔をする真里の耳に口を寄せて、囁いた。
「矢口のこと、大好きやってこと」
次の瞬間、真里は一気に顔を真っ赤にする。
「な、な、な…っ!何をいきなり…っ」
予想以上の反応が返ってきて、裕子は笑いが止まらない。
「…もう、裕ちゃんったら、また矢口のことからかってるんでしょぉ…」
裕子はぷぅっと膨れた真里を見つめ、その性格と同じような明るい色の髪を優しく梳いた。
- 124 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時30分55秒
- 「ほんとのことや。だから、矢口もアタシのこと、ちゃんと好きでいてな」
さっきまでの本気かどうかわからないような口調とは違い、どこか不安そうな色をにじませた言葉に真里は驚いた。
そして、その内容にも。
「……当たり前じゃん。何、ヘンなこと言ってるんだよぉ」
思わず裕子の顔をまじまじと見やる。
裕子はふっと笑ってうれしそうに頷き、真里の頭をたふたふと撫でて立ち上がる。
- 125 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時32分11秒
- ちょうどその時、廊下とリビングの間の引き戸がガラッと開き、ひとみが顔をのぞかせた。
「あの…」
ひとみの出現に、真里は目に見えて照れて動揺している。
「すみません。おフロ、先にいただいてもいいですか」
そんな空気を知ってか知らずか、ひとみは淡々と用件だけを告げた。
「あぁ、ええよ。使い方、わかるか?追い焚きとか温度調節とかの」
裕子も負けず劣らずの素っ気ない返し方で。
「あ、わからないです。教えてもらえますか」
ひとみの答えに頷いて、裕子はひとみを浴室に連れて行った。
フロや洗濯ものについてのひと通りの説明を済ませてリビングに戻ろうとした裕子は、ひとみに呼び止められて振り返る。
- 126 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時33分05秒
- 振り返った先のひとみの顔は、時々裕子だけに向けられる類の挑戦的なものだった。
「中澤さんって、ほんとに矢口さんのこと好きなんですね」
ひとみは唇の端をわずかに上げる。
しかし、すぐに自分のシャツのボタンに手をかけることで、言いたいことはそれだけだと暗に示す。
「そうや」
そんなひとみの様子を見つめる裕子も、必要最低限のひと言を返しただけで、洗面所を出て行った。
感情を押し殺して、できる限り何でもないことのように返したつもりだったが、裕子の内心は穏やかではない。
何なんや、あの言い草は。
- 127 名前:Liar 投稿日:2002年03月18日(月)23時33分42秒
- ―――それにしても、アタシに対しては何でいつもああいう態度をとるんや……?
矢口のことへの宣戦布告のつもりなんか…。
本気……だったりするんやろうか。
高校生相手に何を意地になってるのか…と思わないこともないが、裕子の心の内は依然として晴れないままだった。
- 128 名前:読んでる人 投稿日:2002年03月21日(木)09時05分26秒
- なんか、矢口の運命(?)が吉澤に弄ばれそうだな・・・。
- 129 名前:名ナシ。 投稿日:2002年03月25日(月)01時05分56秒
- つづきが気になります!!作者さま、よろしくです!!!!
- 130 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月31日(日)10時45分44秒
- 更新、まられすか?
- 131 名前:Liar 投稿日:2002年04月03日(水)21時31分05秒
- 「はあぁ〜〜」
少し熱めのフロに体を沈めたひとみは、大きく息を吐いた。
さすがに引っ越しは疲れる。
それにしても、これからの生活はずいぶんと刺激のあるものになりそうだ。
楽しくてしょうがない。
どうしたら、裕子の人生を狂わせることができるだろうと、ずっと考えてきた。
もちろん、それには最大限の痛みを伴わせて。
失敗することを考えてないワケではないが、つかみ所は十分にあった。
中澤裕子という人間は、思っていた以上に脆そうに思える。
ああいうふうに一見冷たく殻をまとってるような人間ほど、それが剥がれてしまえば中身は人一倍弱い。
- 132 名前:Liar 投稿日:2002年04月03日(水)21時32分20秒
- とりあえず、現在の裕子のいちばんのネックは間違いなく真里の存在だろう。
だが、ひとみ自身、裕子のこととは関係なく、1人の人間として真里に好感が持てる気がする。
初めて会った時に自分に精一杯の笑顔を向けてくれたことは、周囲の優しさにあまり縁のなかったひとみにとって、
驚いたと同時に心が和む思いがした。
真里はいつも上辺だけではなく、心の底から、本心からの笑顔を向けてくれている。
癒される…とでも言うんだろうか。
でも。
所詮、今の自分では裕子の恋人という枠でしか真里を見られない。
歪んでしまったこの心は、そう簡単には変われないんだから………。
- 133 名前:Liar 投稿日:2002年04月03日(水)21時33分08秒
- ―――この時、ひとみ自身、まだ気づいていなかったのか。
それとも、敢えて気づかないふりをしていただけなのかもしれない。
『殻が剥がれたら弱い』と評した裕子と自分が似通っていること、そして、ひとみの奥底にある強い想いに……。
- 134 名前:Liar 投稿日:2002年04月03日(水)21時34分04秒
― ― ― ― ― ― ―
- 135 名前:Liar 投稿日:2002年04月03日(水)21時36分12秒
「なぁ、みっちゃん」
ある日の昼休み。
会社の近くのファミレスで同僚の平家みちよと昼食をとっていた裕子は、唐突に話を切り出した。
「ん?」
口の中でパスタをもぐもぐさせながら、みちよは顔を上げて、その先を問う。
「今夜、ヒマか?」
コクコクと無言で頷くみちよに顔を綻ばせながらも、口調は沈みがちだった。
「じゃ、ウチに寄ってってえな」
十分に咀嚼しただろうパスタをごくっと飲み込み、更にお冷をひと口飲み、ふぅっとひと息吐いたところで、
ようやくみちよは口を開いた。
「ヤです」
冗談抜きに、裕子はずるっと崩れる。
「今、ヒマやって言うたばっかやん!」
「言うたけど……。何で、裕ちゃんちなん?やぐっちゃんいるやろ?恋人のいない平家さんには刺激が強いっちゅーねん」
至極当然といった顔で返され、さすがの裕子も呆れて言葉を失った。
- 136 名前:Liar 投稿日:2002年04月03日(水)21時38分11秒
- 「誘ってくれるんなら、どっか飲み行かん?それともウチに来て飲んだくれてもええし」
いや、飲んだくれてもってなぁ、みっちゃん…。
そんなんだから恋人できひんとちゃうか?
そんな正直な感想は間違っても口にせず、とりあえずはきちんと説明しようと口を開く。
「あー、それはまた今度ってことに。今日はウチに一緒に来て欲しいんやけど」
「だから、何でなん?裕ちゃんちで何かあんの?」
「………あるから誘ってるんやろ」
少しだけ、裕子の口調に怒気が含まれる。
それを敏感に悟ったみちよは、慌てて言葉を繕う。
「ごめんって。ぜひ、寄らせてもらうわ。……もちろん、事情説明してくれたらな」
それを聞いて、裕子は目に見えるほど安堵の色を浮かべる。
- 137 名前:Liar 投稿日:2002年04月03日(水)21時39分13秒
- 「う〜〜ん。何から話したらええのかなぁ…」
実は、今夜のひとみの歓迎会に誘おうと思ってるのだが、みちよにはひとみのことは今まで何ひとつとして話してなかったのだ。
それでも、歓迎会と銘打った今夜のパーティーには、ぜひみちよに来て欲しかった。
何て言うのか、あのメンバーで集まった時の、自分の逃げ場が欲しかったのかもしれない。
真里ではなくて、第三者的な色が濃く、なおかつ自分が頼れるような人間。
ひとみと真里に職場の人間を連れてくと言った時は、正直、口からでまかせな感が強かった。
歓迎会を開きたいという真里の思いを叶えたかっただけだし。
実際、誘うならみちよしかないだろうとは思っていたが。
まぁ、悩んでも仕方ない。
ひとみのことを、イチから説明するしかないか。
- 138 名前:Liar 投稿日:2002年04月03日(水)21時40分52秒
- 「アタシな、実は腹違いの妹がおってな。で、まぁ、いろいろあって、今週から同居してるんや。矢口と3人で」
ここまで言って、みちよの顔を伺う。
予想に違わず、へ?という顔をしている。
みちよが口を開きかけたので、裕子はたたみかけるように後を続けた。
「今夜、そいつの歓迎会やることになったんや。矢口も友達呼ぶって言うてるし。アタシもみっちゃんに
来て欲しいなぁって……思ったんや…けど………」
どうや?と目で問うと、あいかわらずみちよは口をぱくぱくとさせたままで。
驚愕の表情のまま、お冷をごくっと飲み干すと、ようやく落ち着いたみたいだ。
- 139 名前:Liar 投稿日:2002年04月03日(水)21時42分35秒
- 「な…、何か、今、ものすごぉく大切なことをさらーっと言われたような気ぃするんやけど…」
「や、別に」
「別に、ちゃうやろ!だって、妹がいたって…」
「まぁ、そんなとこ」
「何で今まで言うてくれんかったのっ?」
「だから、今言ったやん」
「そうやなくてぇ……」
要するに、みちよは今の今まで裕子が隠していたことがショックだったのだが。
もちろん、裕子にもその気持ちは伝わっていて。
裕子は心から申し訳なさそうな顔をして、みちよに謝った。
「ごめんなぁ。自分の中でも気持ちの整理がついてなかったんや。ほんま、いろいろあったけど、詳しいことはゆっくり説明するから」
ふわっと微笑まれると、みちよもそれ以上怒る気は失せたようで、渋々ながらも頷いた。
「ええよ。今夜は裕ちゃんちで歓迎会なんやな。ま、楽しみにしてるわ」
その言葉に裕子も苦笑しながら頷く。
これで、家に帰るのが少し楽になった…などと思いながら。
- 140 名前:Liar 投稿日:2002年04月03日(水)21時43分31秒
- 引っ越してから5日経ったが、3人の間にこれといった変化は見られなかった。
あいかわらず、ひとみは2人に対して他人行儀な態度が抜けない。
若干、それも薄れてきたように思うが。
真里は真里で積極的にコミュニケーションをとろうとがんばってるのが目に見えてわかる。
裕子も少しずつだが、ひとみといろいろ言葉を交わすように努めてきたつもりだ。
引っ越し初日のような憤りを感じることもなくなり、このままうまくやっていければ……と思い始めていた。
自分と真里とひとみ、そして、それぞれの友人たちを招いた今夜の歓迎会、無事に済めばいいのだけれど。
- 141 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月03日(水)22時44分57秒
- わぁぁぁ〜い!!
更新だ!この作品自分的にかなりツボでして・・・この頃更新がないので・・・残念に思ってました。
毎日チェックしてるので宜しくお願いします(w
歓迎会・・・何事もなく無事に終るのかな?(w
みっちゃんキーパーソンになってりします?
- 142 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月04日(木)00時29分41秒
- あんまり裕ちゃんをいじめないで。
お願い・・・
- 143 名前:名ナシ。 投稿日:2002年04月04日(木)07時31分36秒
- あー!更新されてる!!
作者さま、お疲れ様です☆少しづつですが展開がじわじわと進んで行ってて続きがまたまた気になります!!楽しみにしてるのでこれからもよろしくお願いします!!!!
- 144 名前:読んでる人 投稿日:2002年04月04日(木)17時19分41秒
- あう〜、とても気になる終わり方だ・・・
次回更新が待ち遠しい〜
- 145 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月12日(金)10時16分20秒
- そろそろ更新を〜。(w
- 146 名前:Liar 投稿日:2002年04月15日(月)22時18分57秒
- 「ねぇ、矢口。他のみんなは何時頃来るの?」
包丁でじゃがいもの皮を器用に剥きながら、なつみは隣にいる真里に尋ねた。
午前中で授業が終わった真里は、なつみにつき合ってもらって買い出しを終え、こうして今夜の歓迎会の準備をしているのだ。
「よっすぃーはもう1時間もしないで帰ってくるんじゃないかな。多分、友達の石川梨華ちゃんって子を連れてくると思うけど」
よっすぃーはカッコいいしねぇ、梨華ちゃんはかわいいんだよぉと、真里は楽しそうに続ける。
が、なつみの次のひと言に、真里の手が止まる。
「ふ〜ん。じゃ、裕子さんは?」
う゛…と言葉に詰まる。
- 147 名前:Liar 投稿日:2002年04月15日(月)22時19分51秒
- 「知らないの?」
「いや、知らないっていうか、教えてくれないっていうか…」
ごにょごにょと、言葉尻を濁す。
「え。裕子さん、教えてくれないの?」
「ち、違うもん。裕ちゃんが、いつ帰れるかわからないって……言ってたんだもん」
そうだ、きっと、仕事がいつ終わるかわかんないんだよ。
1人、うんうんと頷いて、真里は自分を納得させる。
それでも、なつみが言外に含ませた疑問に気づかないワケはなくて。
あ〜ぁ、やっぱり、裕ちゃんと2人っきりでいる時間、減ったよなぁ。
いや、よっすぃーと話ができるのもすごく楽しいからいっか。
裕ちゃんもいろいろと話し始めてるみたいだけど、やっぱ、矢口が2人の仲をとりもってあげなきゃね…。
- 148 名前:Liar 投稿日:2002年04月15日(月)22時20分46秒
- 無言でくるくると表情の変わる真里を、半ば呆れながらも楽しそうになつみは見つめている。
真里の口から散々『よっすぃー』のことを聞かされてきた。
曰く、よっすぃーはクールでカッコいいだの、でも、笑うとかわいいだの、こーいうところが何となく裕ちゃんに似てるだの……。
そのせいか、今日はすごく楽しみにしていたのだ。
早く帰ってこないかな、よっすぃー。
この点だけは、真里と同じ思いのなつみだった。
- 149 名前:Liar 投稿日:2002年04月15日(月)22時21分40秒
- 結局、夕方梨華を連れて帰宅したひとみにも手伝ってもらい、裕子とみちよを待って始まった歓迎会は、何事もなく終わろうとしていた。
なつみやみちよは興味津々という表情を隠そうともせず、ひとみはかなり質問攻めにされて。
真里ももちろんその輪に加わっていたのだが。
そして、あぶれた者同士…という言い方は失礼かもしれないが、妙に裕子と梨華で話が盛り上がっていたようだった。
かなりビールを飲んでいた裕子に、梨華が一方的に絡まれた……という方が正しいかもしれない。
- 150 名前:Liar 投稿日:2002年04月15日(月)22時23分16秒
- そして、高校生であり、この中で唯一家族と暮らしてる梨華は9時を過ぎた頃に帰宅する。
ひとみはちょっとそこまで、と梨華を送りに行くことにした。
「あ、行ってらっしゃい、よっすぃー。梨華ちゃん、ばいばい。また遊ぼうねぇ」
上機嫌なことこの上ない真里の言葉に頷いて2人は外に出る。
「ひとみちゃん」
裕子のお酒に若干つき合わされてしまったらしい梨華は、心なしか頬が赤い。
「何?」
「みんな、すごく楽しい人たちだね。何か、ひとみちゃんがうらやましいな」
- 151 名前:Liar 投稿日:2002年04月15日(月)22時24分06秒
- うらやましい、か……。
そんな言葉、自分には縁がないと思ってた。
いつも、こっちがうらやましがる立場だったから…。
「うん。私も心機一転して、がんばれる気がする」
「そっかぁ。……ねぇ、ひとみちゃんって、矢口さんのこと、好き…?」
視線は地面に落としたまま、不意に梨華が尋ねてきた。
「好きだよ」
何のためらいもなく、ひとみは答える。
複雑な思いを浮かべて梨華が顔を上げると、笑顔のひとみと目が合う。
- 152 名前:Liar 投稿日:2002年04月15日(月)22時26分17秒
- 「だってほら、すごく明るくて楽しくて。それにちっちゃくてかわいいなぁって」
こんなこと、本人の前じゃ言えないけどね、とぺろっと舌を出して笑った。
それを聞いた梨華は、安心したようにふっと顔を綻ばせる。
でも、すぐに新たな疑問を口にした。
「………それじゃぁ、中澤さんのことは、好き?うまくやっていけるの……?」
ドキリ。
急に核心を突かれたような気がした。
- 153 名前:Liar 投稿日:2002年04月15日(月)22時27分26秒
- 「…………好き、だよ」
微妙に、間がある。
「何で、そんなこと聞くの?」
平静を装ってはいるが、なぜか言い当てられたような、嘘を見抜かれたような思いがしてならなかった。
が、梨華の答えにちょっと気が抜けた。
「ん?別に。中澤さんが心配してたから」
それと同時に、その答えに興味がわく。
「どーいうこと?」
- 154 名前:Liar 投稿日:2002年04月15日(月)22時28分23秒
- 「あのね、ひとみちゃん、矢口さんや安倍さんや平家さんといっぱいしゃべってたでしょ。で、私は中澤さんと結構話してたんだけど、酔ってたせいかなぁ。何か愚痴っぽかったの」
「ふ〜ん。具体的にさ、どんなこと話したの?」
そこまで突っ込んで聞くとは思ってなかったのだろう。
梨華は少し意外そうに感じながらも、人さし指をあごに当てて空を見つめながら、あやふやな記憶の糸を手繰り寄せた。
「えっとね、ひとみちゃんは矢口さんばっかに笑ってる気がする…とか、もっといろいろ話して欲しいけど、なかなかできない…とか……。学校ではどんなカンジかって聞かれたり………」
- 155 名前:Liar 投稿日:2002年04月15日(月)22時29分14秒
- ふんっ……。
今更、良き姉でも目指すつもりなのだろうか。
押し付けられる好意、そして同情。
両者とも、ひとみが最も嫌いなものだ。
そんなもの………。
- 156 名前:Liar 投稿日:2002年04月15日(月)22時30分26秒
- 「――みちゃん?」
はっとして声のする方に顔を向けると、心配そうな梨華の瞳とぶつかる。
「どうしたの?大丈夫?」
ちょっと、考え込んでしまったらしい。
「うん。大丈夫。……じゃあ、私はこの辺で帰るけど、梨華ちゃんこそ大丈夫?」
「うん。平気だよ」
腑に落ちない顔をしながらも、梨華は答える。
「それじゃ、またね」
ひとみはふわっと髪をひるがえして、もと来た道を戻り始めたが、
「ひとみちゃんっ!」
突然、強い口調で梨華に呼び止められ、足を止める。
- 157 名前:Liar 投稿日:2002年04月15日(月)22時31分17秒
- 小走りにやって来た梨華は、そっとひとみの手をつかんで。
「何か、悩んでるなら、相談にのるから……」
純真な瞳でじぃっと見つめられ、ちょっとの間、身動きできなかった。
しかし、すぐに固まったままのひとみと自分のとった行動に気づき、梨華の方が照れてその手を離す。
「あ、ごめん…。じゃ、また学校でね」
そのまま、振り返らずに走って行った。
ひとみはしばらくその後ろ姿を目で追っていたが、ふっと、その視線をつい先ほどまで梨華につかまれていた手に落とす。
「……帰ろ」
ぽつりとつぶやき、マンションへ引き返し始めた。
- 158 名前:作者 投稿日:2002年04月15日(月)22時38分57秒
- >>141 名無し読者さん
更新のペースが遅くて申し訳ないです。
>歓迎会・・・何事もなく無事に終るのかな?(w
すみません、歓迎会自体のシーンはかなりぼかしました…。
みっちゃんの登場は、単純に自分の趣味です。大好きなんで(笑)
>>142 名無し読者さん
裕ちゃんのことは誰よりも好きなんですけど……(^^;
>>143 ナナシさん。
展開が遅いのは自分でも歯がゆく思ってるんですが。
相変わらずのゆっくりさでほんとすみません。
>>144 読んでる人さん
レスありがとうございます。
微量更新ですみません。
>>145 名無し読者さん
ようやくの更新です。
ますますペースが遅くなってきてますが、気が向いた時にでも覗いて下さい(笑)
- 159 名前:名ナシ。 投稿日:2002年04月15日(月)23時50分02秒
- 更新お疲れ様です☆
ゆっくりでも更新されるの待っていますのでこれからも先の気になる話を書き続けて下さいね!!期待してるので☆
- 160 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月16日(火)20時54分14秒
- 吉澤、黒いねぇ。
今後、どんな行動に出るんだろうか
- 161 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月16日(火)21時46分25秒
- 吉澤が黒くなる時って、徹底して黒くなること多いんですよね。
よっすぃーファンとしては、ちょっと悲しい。
そして、裕ちゃんファンとしても、黒吉に翻弄されてしまうのは、
もっと悲しい。
裕ちゃんをいじめないで・・・
- 162 名前:Liar 投稿日:2002年04月21日(日)04時09分36秒
- 「ただいま」
梨華を送って帰宅すると、リビングでは酔っ払った裕子の扱いに手を焼いていた。
「ほらっ。起きてよ、裕ちゃん!さっさと着がえて自分の部屋で寝るっ」
テーブルに突っ伏した裕子の肩を揺さぶりながら、真里の声が響く。
「んんん〜〜〜〜〜。矢口と一緒だったら寝るぅ………」
「おい、裕子!何言ってんだよっ」
赤くなった真里を見て、みちよやなつみが楽しそうに笑った。
「ちょっ…、みっちゃんもなっちも笑ってないで、コレ、何とかしてよ」
「んあ〜?コレって何やぁ、コレってぇ……?」
全く、変なところで耳ざといんだから、と呆れながらも、真里はみちよに手伝ってもらって裕子を部屋に連れ、ベッドの上に放り出す。
- 163 名前:Liar 投稿日:2002年04月21日(日)04時10分30秒
- 「ごめんねぇ、みっちゃん。ここまで酔っ払うのって、珍しいんだけど…」
「ええって。まぁ、確かに、ちょっと珍しいな。どうしたんやろ?」
何も考えてなさそうな顔ですぅすぅと寝息を立てている裕子を見下ろしながら、2人は首を傾げた。
「なぁ、やぐっちゃん」
「何?」
「裕ちゃんって、よっすぃーとうまくいってないんか?」
みちよは裕子に向けていた視線を真里へと移して尋ねる。
その表情は、心持ち真剣なもので。
「いや、どうだろ。微妙なとこ……だと思う。…何で?」
「別に。ちょっと、思っただけやから」
すぐに顔を和ませ、真里を促して部屋を出て行く。
- 164 名前:Liar 投稿日:2002年04月21日(日)04時11分02秒
- ドアが閉じられた後、ベッドの上の裕子は寝返りを打ってぱちりと目を開くと、小さくつぶやいた。
「何や、アタシ、バレバレなんかい………」
落胆したように大きく息を吐くと、裕子は再び目を閉じ、今度こそ、眠りの世界へと堕ちていった。
- 165 名前:Liar 投稿日:2002年04月21日(日)04時11分38秒
- 「それじゃ、今日はご馳走様」
「ほな、また遊びに来るわ」
片づけを適度に手伝ってから、なつみとみちよは連れ立って帰宅した。
2人とも翌日休みだったから、真里は何度も泊まるように誘ったのだが。
「うん。また来てねぇ」
「おやすみなさい」
矢口がばいばいと手を振る横で、ひとみも2人を見送る。
- 166 名前:Liar 投稿日:2002年04月21日(日)04時12分58秒
- 「何か、一気に静かになったね」
残りの片づけをこなしながら、真里は口を開く。
「そーですねぇ」
真里の隣で食器を拭いているひとみ。
「あ、そー言えば。中澤さんってお酒、弱いんですか。今日、つぶれてましたよね」
「裕ちゃん?ん〜、そんなに弱くないと思うけどね。でも、好きな割には弱いかもしれないな」
ま、今夜は珍しかったけどね。
ふ〜ん、とひとみは答えると、何でもなかったかのように、また片づけに集中する。
- 167 名前:Liar 投稿日:2002年04月21日(日)04時13分31秒
- そんなひとみを横目で見ながら、真里は数日前と同じことを考えていた。
その時の相手は、裕子だったのだが。
……やっぱり、何考えてるかわかんないよなぁ。
あ、でも、待てよ。
今、裕ちゃんのことを話題に出したってことは、少しは興味あるんだよね。
よし、ここらで裕ちゃんへの誤解を解いておくってのもいいんじゃない?
- 168 名前:Liar 投稿日:2002年04月21日(日)04時14分08秒
- 「よっすぃー、裕ちゃんのこと、怖いと思う?」
「え?」
「いや、ほらね、裕ちゃんって、どうも初めての人に怖がられやすいのね。大阪弁がキツイとかさ」
正直、ひとみは裕子のことを怖いと思ったことはなかった。
会う時にどこか興奮した思いはあったが、それ以上に冷めてる自分にも気づいていて。
怖い…ねぇ。
なるほど。普通はそう思うものかもしれない。
裕子の態度はそうとれるものだから。
- 169 名前:Liar 投稿日:2002年04月21日(日)04時14分58秒
- 「そう、ですね。ちょっとは…」
「あ、やっぱりぃ」
意図した答えだったためか、真里はどこか満足そうな顔で頷いた。
「でもね、そんなことないんだよ、裕ちゃんは。……何か、よっすぃーって裕ちゃんと打ち解けてないみたいで、矢口、心配になってさ。こーいうの、迷惑かな」
身長差から、ひとみは自然と見上げられるカタチになる。
そんな真里を見て、先刻梨華に言った言葉は、少なからず本心も混ざっていたようだ、とひとみは気づいた。
だが、人から同情されたりするのは嫌いだ。
でも、今ここで、それを正直に言うほどバカじゃない。
- 170 名前:Liar 投稿日:2002年04月21日(日)04時15分35秒
- 「迷惑なワケ…ないです」
「そっかぁ。よかった。うん、だからさ、よっすぃーからも、裕ちゃんにいろんなこと話してみてよ。ね」
今、目の前のこの人に『好きだ』と言ったら、この人はどうするんだろう。
悪戯心にも似た思いが、一瞬頭を掠める。
そしてすぐに、その思いに捕らわれてしまった。
………言って、みようか。
- 171 名前:作者 投稿日:2002年04月21日(日)04時20分21秒
- 少しですが、更新しました。
>>159 名ナシ。さん
レスありがとうございます。
すごく励みになるので、そう言っていただけるとうれしいです。
>>160 名無し読者さん
こんな展開になりました。
よっすぃー、まだまだいきます(苦笑)
>>161 名無し読者さん
ん〜、翻弄…されてしまうのかな?
- 172 名前:読んでる人 投稿日:2002年04月21日(日)18時57分32秒
- うわ〜、この後の展開がスゲー気になる〜!!
- 173 名前:名ナシ。 投稿日:2002年04月22日(月)06時39分52秒
- ああっ!!ついによっすぃ〜が少し行動に移ろうとしてますね?!しかも、気になる所で終わってるしっ!
続きも期待してるので頑張って下さい☆
- 174 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月24日(水)00時29分46秒
- 更新されてた〜!
わぁぁぁぁぁい!!
黒吉結構好きかも(w
弱気な姐さんもいいぞ!
- 175 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月26日(金)21時56分57秒
- 黒吉、良いんじゃない?
あフォな吉澤もいい感じだが、冷酷吉澤もハマるかな。
- 176 名前:名無しkunn 投稿日:2002年04月27日(土)10時31分32秒
- まだかな?(w
黒よしと裕ちゃんはどうなるのか?
- 177 名前:Liar 投稿日:2002年05月01日(水)00時13分40秒
- 「はい、がんばります。―――でも」
最後の言葉に、真里の顔が曇る。
「でも……?」
「私、自分でもよくわかんないんですけど、何か、矢口さんのこと…好きみたいで……」
「へ……………?」
比喩ではなく、固まってしまった。
「何、言ってんの、よっすぃー……」
まっすぐに見つめる視線に耐えられなくなったのか、ひとみは俯く。
「矢口さんが中澤さんのことを好きなのは、もちろん知ってますけど……、でも…」
「冗談…とかじゃ、なくて……?」
- 178 名前:Liar 投稿日:2002年05月01日(水)00時14分45秒
- ひとみはばっと顔を上げると、大きく首を振ってそれを否定した。
「違います。そんな、冗談とか、いい加減な気持ちで言ったんじゃないんです。ほんとに……」
「あ、あぁ、うん。ごめん」
「迷惑な気持ちだってのはわかってます。矢口さんのこと…、最初は、明るくて面白くて、それにすごく優しい人なんだなって思ってたくらいなんだけど、いつも、気になってて…。さっき、梨華ちゃんに矢口さんのこと好きなのかって聞かれて、あぁ、そうなのかって気づいたんです」
真里はあいかわらず困惑顔だ。
「でも、中澤さんにはすごく恩を感じてるし、2人の仲は私がどうこう言うことじゃなし……。ただ、知って欲しかっただけなんです。そして、許して欲しいなぁって。私が、矢口さんを好きだって気持ちを………」
自嘲気味につぶやいて、ひとみは悲しげな笑みを向ける。
- 179 名前:Liar 投稿日:2002年05月01日(水)00時15分53秒
- その表情に心を痛ませながらも、真里は自分の気持ちを伝えようと口を開いた。
「矢口はね、よっすぃーのこと、大好きだけど……」
突然、ひとみは真里の次の言葉を遮るように、強く抱きしめた。
「え……、ちょっ、よっすぃー……?」
「わかってます、矢口さんの気持ち。でも、お願いだから、今は言わないで………」
ますます腕に力が込められていく。
いつも自分を抱きしめてくれる細くて華奢な腕と違い、力強く、少し熱を帯びたようなひとみの腕。
真里自身、その熱に浮かされてしまいそうになる。
自分の気持ちはしっかりしていたハズなのに。
- 180 名前:Liar 投稿日:2002年05月01日(水)00時16分38秒
- ひとみの腕を振り解けないのは、その力強さだけじゃないのかもしれない。
流されてしまいそうな心を、必死の思いで繋ぎ止める。裕子の元へと。
「困るよ…。お願いだから、放して……」
一瞬の後、ひとみの腕はやんわりと外された。
「すみません………」
行き場を失った両腕がゆっくりと下ろされると、捨てられた犬のような、もの寂しげな瞳が真里を射抜く。
自分よりも遥かに高いところから見下ろされているのに、威圧的な空気もなく、むしろ頼られているような、不思議なカンジ…。
- 181 名前:Liar 投稿日:2002年05月01日(水)00時17分25秒
- なぜだろう。
この瞳から目が離せなくなる…。
それは、今だけのことじゃない。これまでに何度も感じたことだ。
いつもはクールなのに、時折見せるやわらかい微笑み。
そして、笑っているのに不思議と力のある瞳。
人を寄せつけようとしない力なのかもしれない。
淡く芽生えていたひとみへの純粋な好意からか、もしくは素を見せない興味本位からか、この時の真里自身にはわかっていなかった。
わかっていたのは、このままひとみを放っておけないという思いだけで―――。
- 182 名前:Liar 投稿日:2002年05月01日(水)00時18分19秒
- 「矢口さんを困らせるつもりはなかったけど…、結果的にそうなっちゃいましたね。ほんとに、ごめんなさい」
違う。
そんな言葉を言って欲しいんじゃなくて。
そんな申し訳なさそうな顔をして欲しいんじゃなくて。
矢口に見せてくれるような笑顔を、もっともっと見たいだけなのに。
「矢口の返事、聞かないの…?聞かなくても、いいの?」
ひとみは少し意外そうな表情を浮かべる。
「だって、さっき、大好きだけどって言ったじゃないですか。その後には、中澤さんが…って続くものだと思ったんですけど」
- 183 名前:Liar 投稿日:2002年05月01日(水)00時19分21秒
- そうだった。
確かに、そう言った。
そして、続きはそう言うつもりだった。
でも、途中で抱きしめられて、辛そうな表情をされて、自分もどうにかなっちゃいそうで……。
「こんなこと言って、幻滅されちゃうかもしれないけど、矢口、よっすぃーのこと、ほんとに好きだよ。裕ちゃんを好きな気持ちとは違うと思うけど、よっすぃーの辛そうな顔、見ていたくないし」
自分の気持ちの整理がつかなくて、何だかすごく歯痒い。
伝えたいことの半分も言えてない。
ううん。自分が何を伝えたいのかもわかってない。
- 184 名前:Liar 投稿日:2002年05月01日(水)00時20分01秒
- 視線を上げたところにあるひとみの表情は、こんな時でも微妙なもので。
ちょっと困ったように、眉根を寄せて。
「これからも、矢口さんのこと、好きでいていいですか?」
ひと言ひと言、ゆっくりと紡ぎ出される低めの声は、すごく心地いい。
- 185 名前:Liar 投稿日:2002年05月01日(水)00時20分54秒
- だけど、このままひとみに想われ続けたら、いつか自分の心が傾いてしまいそうで、自信が持てない。
いや、もしかしたら、すでに傾きかけているのかもしれない。
それさえも、わからない。
裕子への想いが弱くなったとは、決して思わない。
でも、裕子から離れたくないと願う一方で、ひとみの好意も失いたくないと思ってしまう自分がいる。
「よっすぃーの気持ちに、答えられなくてもいいの?」
相手に道を選ばせる卑怯な逃げ道。
それなのに、目の前のひとみは今まで以上に明るく笑ってこんなことを言うのだ。
「そんなこと。中澤さんよりもカッコよくなって、矢口さんを振り向かせてみせますから」
真里には曖昧に笑って頷くことしかできなかった。
- 186 名前:作者 投稿日:2002年05月01日(水)00時29分54秒
- 更新しました。
>>172 読んでる人さん
レスありがとうございます。
1回の更新の終わり方は、やっぱり考えます。気にしてもらえれば幸いです。
>>173 名ナシ。さん
よっすぃーの行動は…、自分にも予測つかない(笑)
>>174 名無し読者さん
弱気な裕ちゃんは自分も好き。
いや、好きだから書いてるんですが。
って、今回は裕ちゃん出てきてませんけど(^^;
>>175 名無し読者さん
私は軽いよっすぃーが書きにくくて。
読むのは好きなんですが……。
>>176 名無しkunn
更新遅くてすみません。
次回はいつになることやら…。
週イチで更新したいとは思ってますけど。
でも、連休中にもう一度更新させるつもりでいますので。
- 187 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月01日(水)00時48分11秒
- 矢口は吉澤に奪われてしまうのか?(w
週一更新&連休中の更新楽しみに待っています。
- 188 名前:読んでる人 投稿日:2002年05月02日(木)16時13分32秒
- 吉澤は矢口を利用するために・・・?
それとも本気で・・・?
どちらにしても誰かが傷つく展開になりそうですね。
- 189 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月07日(火)16時09分40秒
- ワクワクしながら読んでいます。
更新楽しみに待ってます。
- 190 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時08分02秒
- 「ねぇ、なっちぃ。よっすぃーの印象はどうよ?」
あれから1週間ほどが過ぎた。
真里はいつもと同じようになつみと一緒に帰りのバスに乗っている。
歓迎会の後、キッチンでいきなりひとみから告白され、少なからず揺れてしまった真里には、それを裕子になんて相談できるハズもなく。
あれ以来、ひとみの態度に表立った変化は見られない。
強いて言うなら、真里の方が変にひとみを意識し始めてしまったようで。
そのせいか、微妙に裕子と距離を持とうとしてる自分に気づきながらも、事態が好転する気配はなかった。
- 191 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時09分09秒
- 「よっすぃー?矢口も言ってたけど、カッコいいねぇ。女の子からモテそうなカンジでないかい?」
数日前の自分と何ら変わりのない感想。
そうだよなぁ…と重いため息を吐くと、心配げななつみの顔が間近にあった。
「矢口?どうかしたの?」
「ううん。何でもないよ。いや、やっぱ誰から見てもよっすぃーはカッコいいんだなって」
「ほんとに?それだけ?」
「な、何だよ、その言い方」
ちょっとむっとしたように顔をしかめてみせても、なつみの心配そうな顔は変わらない。
「や、何か悩んでんのかなぁって思っただけだけど。大丈夫?3人ってのは、やっぱ大変なの?」
- 192 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時10分07秒
- なっちに話したら、何かいいアドバイスでも教えてくれるのかなぁ。
一瞬、浮かんだその考えを、真里は慌てて打ち消した。
ダメダメダメ。いつまでも人に頼っちゃいけないや。
自分とよっすぃーの、そして、裕ちゃんとのことだし…。
それに、あんなに大見得切って同居を始めたクセに、こんなに早くよっすぃーに揺れてるなんて……、とてもじゃないけど言えないよ。
- 193 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時10分58秒
- それでも、親友の優しさに甘えたくなる思いはあって。
「今は、まだ大丈夫。慣れてないだけだと思うし。辛くなったら、相談にのってね」
それに答えて頷いたなつみは、まるで天使のような微笑みを見せた。
何だか照れくさくなった真里がふと窓の外に目を向けると、その視線がある一点で止まる。
「あ、あの映画………」
何かと思ってなつみが同じ方向を見ると、そこにはTVCMや雑誌でも大々的に宣伝している洋画の巨大パネルがあった。
- 194 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時12分01秒
- 「あぁ。矢口、観たいって言ってたよね。もう公開してんの?」
「ううん。もうちょっと先。確か、今週の土曜日からだったと思うけど…。なっち、よかったら一緒に観に行かない?」
バスが走り出し、映画のパネルが視界から消えると、真里はなつみを振り返って問う。
「う〜ん。あれ、なっちそんなに観たいとは思わないんだよね」
即座に返ってきた言葉に、真里はがくっと拍子抜ける。
「も、もうちょっと悩んでくれてもいいじゃんかよぉ…。冷たいなぁ……」
「ん。だからさ、裕子さんかよっすぃーでも誘ってみたら?」
「……え?」
思わず、なつみの顔をまじまじと見つめる。
- 195 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時13分07秒
- 「そ、そんなに驚かなくてもいいっしょ。映画くらい、つき合ってくれるんじゃないの?」
真里の反応が意外なもので、なつみの方が戸惑った。
「あぁ、そうか。うん、そうだよね。よし、誘ってみようかな」
そっか…。裕ちゃんと映画なんて、全然行ってなかったよなぁ。
一緒に暮らすことが普通になってるから、何か、たまには“デート”ってカンジのことしてみたいし。
でもなぁ、仕事もあるだろうから、平日のレディースデイは無理かなぁ。
日曜は混みそうだもんなぁ。
あっ、ナイトで観に行けばいいのか………。
- 196 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時14分04秒
- 「何?何?裕子さんと行くの?それとも、よっすぃー?」
さっきまでの心配そうな顔はどこへ行ったのか、詮索好きのなつみが楽しそうに聞いてくる。
「何だよぉ。なっちには関係ないだろ」
「そうだけどさぁ、気になるじゃん。あ、もしかして3人で?」
3人……。
おぉ、それっていいかもしれない!
ほんとは裕ちゃんとよっすぃーで出かけてきたらって言いたいんだけど、仲良し姉妹への道は遠そうだし。
あ、でもなぁ、裕ちゃんもそうだけど、よっすぃーも意識して裕ちゃんのこと避けそう。
そんなこと言えば、矢口だって………。
あ゛〜っ、2人と一緒に出かけたら、何が起こってもおかしくないじゃんかよ〜。
どうしたらいいんだぁっ!
- 197 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時15分02秒
- 「……矢口、なっちと一緒がいいなぁ、なんて…」
恐る恐るといったカンジでなつみを伺う。
「悩んだ結果がそれかい………」
「だってさぁ……」
「やっぱり上手くいってないんじゃないの?みんなで映画でもって誘えばいいんだって。矢口が言えば、2人ともおっけーだよ、きっと」
自信たっぷりに任せなさい、とばかりになつみは胸を張る。
「そうかなぁ」
「そうだって」
「何でわかるの?っつーか、何でなっち楽しそうなの?」
- 198 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時15分52秒
- 「え?楽しそう?」
「うん、すごく楽しそうな顔してる」
「そりゃ、やっぱ…」
「やっぱ?」
「他人の不幸は蜜の味………。あ〜、嘘です、嘘っ。ごめん。調子に乗りすぎた」
即座に顔の変わった真里を見て、なつみは慌てて訂正した。
「そーいう人だったんだ、なっちって…」
「今のはほんとに冗談だって。ごめん。悪ノリしすぎたよ」
膨れっ面の真里の機嫌をとろうと、なつみは否定の言葉をまくし立てる。
「ね、そんな怒らないで。なっちがそんなこと思ってるハズないっしょ」
- 199 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時16分47秒
- 「矢口だってねぇ、これでもいろいろ悩んでるんだよぉ」
これでもって……、そんなん自分で認めてちゃダメじゃん…なんてことは思っても口にせず、ひたすら謝り続けた。
「いいよ、もう。本気じゃないってことくらいわかってるから」
ようやく真里の許しがもらえると、よかったぁと胸をなでおろす。
「ほんとに、映画、2人を誘って楽しんで来なよ」
「うん。誘ってみるね。どうなるかはわかんないけど」
なつみほどの楽しさはもちろんないにしろ、真里の中で、これが原因で何か変化が起きるなら…という思いがあるのも確かだった。
- 200 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時17分22秒
――――――――――
- 201 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時18分19秒
- ここががんばりどころ、とばかりに、真里は夕食中に映画の話を切り出したのだが。
「映画?」
思った通り、あんまり乗り気じゃなさそうな裕子の返事。
「そう。今、いっぱいCMやってるじゃん。面白そうだし、みんなで観に行こうよ」
う〜ん…と思案顔の裕子はほっといて、ひとみに向かって、その映画の良さをしゃべり出す。
「あのね、映像がすっごくきれいで迫力あるし、主題歌がまたいい曲なんだって。矢口は読んだことないけど、原作の小説も人気らしいよ」
真里の説明に、あぁ、とひとみが頷いた。
「聞いたことあります、小説のことは。CMもよく見ますね」
- 202 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時19分14秒
- 我が意を得たように、真里はうれしそうに言葉を続ける。
「でしょ?矢口ね、すっごい観たいんだ。みんなで行こ?」
ね?とお願いすると、ひとみはちらっと裕子に目を向ける。
「私は構わないんですけど………」
2人が行く気になってるのだ。
裕子も自分の大人げなさを感じたのか、ひとみの視線に気づいて小さく頷いた。
「ええよ。3人で行くか」
「やったね!ありがと!」
うれしくて、思わず真里は横に座っている裕子に抱きつく。
- 203 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時20分02秒
- 「じゃ、まだ前売りが間に合うから、明日にでも買ってくるね」
にこっと微笑まれると、裕子は、ここ2〜3日のわだかまりさえもすぅっと消えていくのを感じた。
自然と、自分も笑顔になる。
「あぁ。後でいくらだったか教えてな。みんなの分、払うから」
「えっ、そんなのいいよ。大した額じゃないし、矢口が行きたいって誘ったんだから」
「矢口こそ、遠慮せんでもええやん。こないだは、学生はお金がないって嘆いてたやろ。少しは甘えてくれても………」
「でもぉ……」
と、口では言いながらも、真里はありがたく裕子の申し出を受けるつもりでいた。
- 204 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時20分51秒
- 奢ってくれると言うのを断る理由はない。
裕子の言う通り、学生は金がないのだし。
そんな甘い考えは、案の定、すっかり相手に見抜かれていた。
「そんなヘタな芝居はいらんで。もう心ン中じゃ喜んでるんやろ?」
にやっと笑った裕子に切り返される。
真里はがくっとうなだれる。
別に、いいけどね。
予想はできたことだし……。
しっかし、何で裕ちゃんってこんなに鋭いのかなぁ……。
- 205 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時21分59秒
- 「はいはい、そーですぅ。ありがたく、裕ちゃんの奢りで観に行かせていただきますっ」
投げやりに言い放った真里に裕子の手が伸ばされて、ふわっとその頭を撫でる。
最近見ることのなかった優しい眼差しで見つめられ、ドキッと胸が鳴った。
「もっと、素直になればええやん」
今までみたいに……………。
言外に、そう含まれているような気がして、思わず真里の体が強張る。
あの日のことを気づくハズはないとわかっているのに、全てを見透かすような灰青の瞳が怖い。
- 206 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時22分54秒
- なぜだろう、優しさを含んだ裕ちゃんの瞳が………、怖いよ。
何も言えずに裕子の顔を見上げていると、ガタガタというイスをひく音が聞こえて、はっと覚醒する。
「ごちそうさまでした」
夕食を食べ終えたらしいひとみが、食器を片づけるところで。
一瞬だけ迷って、真里はひとみの後を追うために立ち上がる。
視界の隅には、小さく息を吐いて再び箸を持つ裕子の姿が映ったが。
「待ってよ、よっすぃー」
ぱたぱたぱたとキッチンへ向かい、ひとみの腕を捉えて問う。
- 207 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時23分47秒
- 「映画、いつだったら都合がいい?」
すぐ近くにいる裕子に聞こえるように、少し大きな声で。
「ん〜、基本的に土日は大丈夫です。平日も、夕方以降なら空けられますし。だから、矢口さんと中澤さんの都合に合わせますよ」
機嫌悪くさせたかな…という心配も少ししたのだが、ひとみの答え方は全然違った。
特別不満そうな様子もなく、いつもと同じ、まぁ、悪く言えば淡々としたもので。
だが、すぐに、真里の心配そうな表情に気づいたらしい。
「そんな、気を遣わなくてもいいですよ」
安心させるように、ひとみは笑みを浮かべる。
- 208 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時24分32秒
- 「でも、あのままあそこに座ってられるほど、私は強くないですけど」
自嘲気味につぶやくと、映画のことはお任せします、と言って部屋に下がってしまった。
変に気を遣わなくていい。
そう言ってくれるひとみの優しさに、ちょっぴり心が軽くなった気がする。
ひとみが消えた先を見つめていたが、ぶんぶんと思い切るように頭を振って、リビングへ戻った。
- 209 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時25分53秒
- 1人、黙々と食事を続けていた裕子は、真里に気づいてふとその手を止める。
裕子と目が合って、つい先ほど感じた恐怖を思い出してしまった。
「吉澤との話は、もうええの?」
コクンと頷いて、裕子の隣に腰を下ろす。
「映画の予定、聞いただけ。よっすぃーはいつでもいいってさ」
ふうん…と気のない返事で答え、裕子はあいかわらず箸を動かす。
その割に、あまり皿の中身は減ってないような。
「裕ちゃんの、予定は?」
そんな裕子の様子を見つめながら、真里は口を開いた。
「日曜なら」
- 210 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時26分34秒
- 問いに対する、ひと言だけの、答え。
何を、そんなに怒ってるの?
何が、そんなに気に入らないの?
矢口がよっすぃーと話したから?
裕ちゃんの話を遮って、よっすぃーのところに行ったから?
裕ちゃん、自分は悪くないなんて思ってるの?
- 211 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時28分12秒
- 「もっと………」
思わず、口から出てしまった。
「ん?」
いつもの真里らしかぬ声音に気づいて、裕子は顔を上げる。
ダメだ。
言っちゃ、ダメだ。
とんでもないことを口走ってしまう。
ここで止めなきゃと頭の中で警鐘を鳴らす一方で、溜まった叫びは出口を求めるかのように真里の心を揺さぶっている。
- 212 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時29分03秒
- 「もっと、裕ちゃんのこと…………」
自分を見つめ、次の言葉を待つ裕子の表情は、数瞬前と違うきょとんとしたもので。
お願いだから、そんなふうに、何もわかってないような顔しないでよ。
「………裕ちゃんのこと、信じさせてよっ!!」
口に出した途端、自己嫌悪に陥る。
こんなこと、わかっていたハズなのに。
言っちゃいけないとわかっていたのに、それでも止められなくて。
- 213 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時30分05秒
「……………………………」
ほんの数秒だったかもしれない。
それでも、真里にとっては長すぎる沈黙の後、ようやく裕子は口を開いた。
「……………矢口」
それに続く言葉は、何?
言い切ってしまったのは自分の方なのに、相手の反応が怖くて、顔を上げることができない。
「アタシのこと、信じられんの……?」
- 214 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時31分08秒
- 俯いて、真里は口をつぐむ。
否定も肯定もできず、2人とも無言のまま、時間だけが過ぎていく。
壁に掛かっている時計の秒針の音が、いやに大きく響いて。
ドクン、ドクンと、自分の鼓動もうるさいくらいに聞こえてくる。
「なぁ」
再び沈黙を破ったのは、裕子の方だった。
声と共に、真里の頬に手を伸ばす。
見慣れた細い指が視界に入ってきて、硬質なその爪の先を肌に感じた瞬間、思わず身を退いた。
- 215 名前:Liar 投稿日:2002年05月07日(火)22時32分06秒
- 無意識の行動にはっと気づいて顔を上げると、まだ裕子の手は宙に浮いたままだった。
驚いたような表情をすぐに隠すと、伸ばした手をそっと下ろして悲しそうに笑う。
「ごめんな」
それだけ言って立ち上がり、カチャカチャとテーブルの上を片づけ始め、キッチンへ消えて行く。
リビングに1人取り残された真里は、何も言うことができなかった。
- 216 名前:作者 投稿日:2002年05月07日(火)22時40分39秒
- えっと、連休はすでに明けてますが……、更新しました。
すみません。あいかわらず遅くて。
お詫び…というワケでもないですが、いつもより多めに更新です。
>>187 名無し読者さん
更新ペース、宣言しても守らなさそう(笑)
早速、破ってるし……。でも、がんばりますので。
>>188 読んでる人さん
ん〜、よっすぃーの気持ちはどうなんでしょう。
私の書くよっすぃー、自分でも見えてこないんですよね(笑)
>>189 名無し読者さん
こんな内容でも待っていて下さる方がいて、うれしいです。
どうもありがとうございます。
- 217 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月08日(水)02時41分40秒
- トライアングルが・・・本題に入ってきましたね(w
姐さんせつない。
吉澤も・・・。
これからの展開が〜。ドキドキ。
- 218 名前:Liar 投稿日:2002年05月09日(木)12時51分10秒
- フロからあがって部屋に入ると、何も考えずにベッドに身体を投げ出す。
―――何で、こんなことになってしまったんやろ。
何度思い返してみても、わからない。
最初は、矢口も吉澤も普通だったやん。
矢口が映画に誘ってくれて、そりゃ、最初はちょっと渋ったかもしれへんけど、結局3人で観に行こうって結論になって。
お金を払う払わないの会話も、普通やったと思うんやけどなぁ。
あの時、アタシは自然に笑っていたつもりやったけど………、実際は笑えてなかったんか?
気づきたくもないのに、自分を見つめた真里の眼に浮かんだ恐怖の色が読み取れてしまった。
逃げるようにひとみの後を追い、戻ってきたと思ったら急によそよそしい態度に変わっていて。
- 219 名前:Liar 投稿日:2002年05月09日(木)12時52分03秒
- そして、決定的な一打。
「もっと、裕ちゃんのこと、信じさせて…………か」
声に出してみると、改めてその重さがのしかかってくる。
聞き返した時のあの沈黙は、やっぱり肯定なんかなぁ。
信じられない人間を、好きでいられるワケないもんな………。
アタシの、どこが信じられなくなったんや?
- 220 名前:Liar 投稿日:2002年05月09日(木)12時52分51秒
- 1人で思いをめぐらせながら、大きく寝返りを打つ。
ベッドのスプリングがギシリと軋んで。
以前は3日と開けずに一緒のベッドで寝ていたのが、今となっては信じられない。
もちろん、単に1つのベッドで眠るだけのことも含めてだが。
どれくらいになるのだろう。
ひとみの来る前だから、もう1ヵ月近くか。
- 221 名前:Liar 投稿日:2002年05月09日(木)12時53分44秒
- 「矢口ぃ…………」
壁1枚隔てた隣の部屋にいるのに、何でこんなに遠く感じるんやろ。
「矢口、吉澤のこと、好きなんかなぁ………」
重いため息と共に、つぶやいた。
認めたくないけど、今夜の真里の行動がその結論を示しているように思える。
当然、真里の視線の先にはひとみがいて。
触れたいと思って伸ばした手を、避けられた。
怯えたように、ビクッと反応して身を退かせていた。
- 222 名前:Liar 投稿日:2002年05月09日(木)12時54分29秒
- もう、ダメなんか……………。
いや、無様に縋りついて、泣いて頼み込んだら、アタシのとこに戻ってきてくれるかもしれへん。
でも、そんなカッコ悪いこと、できんわ。
束縛するようなイヤな人間には、なりたくない。
これから、どうしよう………。
どれだけ考えても、自分の中の結論は見えてこなかった。
とことん、話してみた方がええんやろか。
- 223 名前:Liar 投稿日:2002年05月09日(木)12時55分21秒
- 裕子はベッドから起き上がると、思い立ったように部屋を出、隣のドアを小さく叩く。
「矢口」
返事が、ない。
もう一度、ノックする。
ドアの隙間から漏れる光も見えない。
寝ているのかもしれない。
薄暗いリビングの時計を確かめた。
1時半。
もう、寝てるんだと自分に言い聞かせながらも、裕子はドアノブに手をかける。
ゆっくり回すと、微かに音をたててドアは開いた。
- 224 名前:Liar 投稿日:2002年05月09日(木)12時56分09秒
- 目の前には、見慣れた真里の部屋。
タンスがあって、机があって、本棚があって、ステレオとCDラックがあって、ベッドがあって。
色鮮やかな小物や服が散在している。
でも、肝心の部屋の主がいなかった。
自室にいないということは、当然、どこか他の場所にいるということで。
「トイレかな………」
思ってもいないことを口に出す。
- 225 名前:Liar 投稿日:2002年05月09日(木)12時56分49秒
- 心の中では、ほぼ確信していた。
真里の、居場所に。
リビングと廊下を遮る引き戸に手をかけるが、開けらない。
自分の目で確かめるのが、怖かった。
事実を認識させられるのが、怖かった。
真里が離れていくのが、怖かった。
結局、そのドアを開く勇気が出せぬまま、裕子は逃げるように部屋へ戻り、ベッドに潜り込んだのだった。
- 226 名前:作者 投稿日:2002年05月09日(木)13時01分54秒
- 更新しました。
何か、どんどん裕ちゃんを追いつめてしまってますが(^^;
>>217 名無し読者さん
レスありがとうございます。
当分、彼女たちは悩みっぱなしになりそうです。
- 227 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月09日(木)21時18分05秒
- 矢口はやはり、あの部屋に居るのか?
- 228 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月10日(金)00時44分36秒
- わーい!!
こんなに更新されてるとは(w
でも・・・姐さんせつないよ〜。(涙
どうなるのかな?
- 229 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月11日(土)00時46分43秒
- 矢口が吉澤に惹かれるのは、裕ちゃんと姉妹であることで、
似ている部分があるからだろうね。
しかし、一緒に育っていないとはいえ、姉妹でこういう争いするなんて・・・
もっと違う展開期待していたけれど、畜生小説になってしまった。
普通、もう同じ屋根の下になんて住んでられないよね。
人としては・・・
作者さんの作品、ずっとファンだったけれど、
こういう類の話には手を出して欲しくなかった。
自分としては、とっても残念。
- 230 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月11日(土)01時35分37秒
- >>229
まぁ、好みの問題もあるでしょう。
ただ、作者さんは最初から『黒よし』をコンセプトに書かれてますよね?
終始一貫されてますよ、執筆の姿勢は。
- 231 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月11日(土)01時49分53秒
- >>229
じゃあ読まなかったらいいじゃん。
人を不愉快にさせる書き込みは・・・いかがかと。
先を楽しみに読んでる人間はいっぱいいるし・・・
先がどうゆうふうになっていくかはまだわかんないんだしね。
- 232 名前:読んでる人 投稿日:2002年05月11日(土)09時56分56秒
- 自分は、この作品を非常に楽しみに読んでる者です。
まあ、人によっていろんな意見があるのは仕方ありませんが、
あまり気にせず、自由に書きたいように書いていって下さいね>作者さん
- 233 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月11日(土)11時15分17秒
- 確かに。
- 234 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月12日(日)00時36分40秒
- >229
まだ 確実なことはなにも書かれていないと思うのだが。
それに ……黒よしが ただ 狙ってる獲物(この場合矢口)を
手に入れることができたからといって、そのまま安易に手をだすとも
思えないし?…もっと狡猾でしょう、彼女は。
先読みが 短絡的すぎでしょう。
黒くなると 途端に賢くなるのが 吉 の常ですぞ。
- 235 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月12日(日)10時23分29秒
- >>234 こそ、ヘンに先の展開を想像して書いてしまってるのでは。
しかし、自分も続きが気になるので、作者の人は >>229 にめげず、がんばって欲しいと思う。
- 236 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月13日(月)12時08分44秒
- >>
いろんな書き込みは気にせず・・・自分の気の向くままに書いてください。
作者さんの書いてくれるものならどんな感じでも楽しみです。
- 237 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時13分23秒
- 数日後の朝。
最近、とみに口数の少なくなる食卓。
黙々と食べる裕子に、普段は声をかけそうな真里も静かなままで。
珍しく、ひとみが口を開いた。
「あの………」
2人とも、意外そうに顔を上げてひとみを見つめる。
「映画、行くって話、どうなったんですか。まだ、日は決まってないんですか?」
思わず、顔を見合わせる。
気まずそうな空気が流れた。
- 238 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時15分14秒
- ひとみは敏感にその空気を察したらしい。
「あ、いや、まだだったら、決まってから教えてもらえればいいんで………」
「それ、なんやけど……」
言いにくそうな裕子の言葉。
「アタシ、最近、仕事の方が忙しくてな。残業とか休日出勤する日があるかもしれへん。だから、映画、2人で行ってきぃ」
真里は弾かれたように顔を上げて、裕子を見やる。
「ほんとに?」
- 239 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時16分49秒
- 仕事が大変なのは、嘘ではない。
小さく笑って、コクンと頷く。
「ほんまやって。矢口、観たがってたもんな。吉澤と行ってきたらええやん」
裕子は、目の前に座るひとみを見つめる。
視線で問うと、ひとみはぎこちなく頷いた。
「あ、矢口さん、いいんですか?私と2人でも」
「えっ?あ…、うん。いいに決まってんじゃん。一緒に行こっ」
真里ははっとして答えた。
その場はそれで収まったが、寂しそうな笑みを浮かべる裕子の顔が、その後も真里の頭から離れなかった。
- 240 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時17分40秒
- いつも通り、最初に家を出るのは裕子で。
裕子を見送った後、ひとみは真里に不思議そうな目を向けた。
「矢口さん、映画のことなんですけど、中澤さんと何かあったんですか?」
聞かれるだろうと覚悟してたのか、真里はため息を吐くとぽつりぽつりと話し始める。
「あのさぁ、映画、誘った日の夜にね、ケンカしたんだ、裕ちゃんと」
「そう言えば、夜中に私の部屋に来てしゃべった時ですよね」
「そうだったっけ?…あ、思い出した。うん、その時も愚痴聞いてもらってたか。何かね……、もう裕ちゃんのこと、わかんないんだよ」
ずっと前からつかみにくい人だったけど、それでも自分が愛されてるってことだけは感じられたのに。
確かな証拠などなかったのに、なぜか信じ続けられたことだった。
- 241 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時18分31秒
- でも、今はそんなことは思っていられない。
裕子が自分を見つめる眼差しは責めるような色を帯び、それに追い立てられるかのように真里の気持ちはひとみへと向かっていく。
いや、順番は逆だったかもしれない。
そんなの、どっちだていい。
結果、こうなってしまっただけのことで…………。
- 242 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時19分21秒
- 「ケンカって、原因とか聞いてもいいですか?」
顔を上げると、心配そうなひとみがいる。
「ん〜、正確にはケンカじゃないのかも。でも、何か、うまくいかなくなっちゃったのは確かだけど」
口調だけは冗談っぽいが、その表情はとてもじゃないけど、冗談と言えるものではなかった。
「そんなに、辛そうな顔しないで下さい………」
ひとみはそっと真里の身体に腕を回す。
「矢口さん………」
不意に、初めて告白された歓迎会の夜が、真里の脳裏に甦る。
少し掠れて、耳元で囁かれる低めの声。
力強く自分に回される腕。
- 243 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時20分16秒
- あの時と同じ――――。
違うのは、真里自身の気持ちで。
裕子との距離はもうずっと開く一方。
寂しいよ、裕ちゃん…………。
もっと、矢口を必要として。
もっと、矢口の傍にいて。
もっと、矢口を安心させて。
もっと、矢口に好きって言って。
- 244 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時20分55秒
- この短期間で、真里の心の隙間は徐々にひとみの存在で埋められてきた。
いつも、矢口を必要としてくれて。
いつも、矢口の傍にいてくれて。
いつも、矢口を安心させてくれて。
「私は、矢口さんが、好きです」
そして今、矢口に好きって言ってくれる――――。
- 245 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時22分11秒
- 「よっすぃー…………」
力なくつぶやいた真里の声に、ひとみの声が重なる。
「何度も諦めようと思ったけど、できなくて。矢口さんの笑顔を見るたびに、その決心は崩れていくんです。………気づけば、前よりずっと好きになっていて」
言葉と共に、真里を抱きしめる腕に力がこもった。
下ろされていた真里の腕も、ゆっくりとひとみの背に回されていく。
「――――矢口もだよ」
ひとみの胸元に顔を埋めて、ひと言、答えた。
その答えにふわりと微笑んだひとみは、真里の頬に触れ、わずかに上向かせる。
ゆっくりと近づいてくるひとみの唇に戸惑いながらも、真里がそれを拒むことはなかった。
- 246 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時22分47秒
―――――――――
- 247 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時23分27秒
- 「学校…、サボっちゃったねぇ……」
ソファに2人並んで座ると、真里は少し高いところにあるひとみの肩にコツンと頭をもたせかける。
「そう、ですね…」
ひとみはごく自然な様子でもたれてきた真里の髪をさらっと梳いた。
「矢口は1日くらい授業休んでも全然平気だけど、よっすぃー、大丈夫だったの?」
「大丈夫ですよ。1日休んだくらいで困るような高校生活は送ってないですから」
そっか…とつぶやいて、真里はまた黙り込む。
こんなことよりも、もっと話さなければいけないことがあるのに………。
- 248 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時24分33秒
- 「矢口さん」
突然、ひとみが口を開いた。
「ん?」
「これから、どうするんですか…?」
「…………何を?」
わざと、はぐらかす。
ひとみの言わんとするところは、十分承知しているが。
自分だって、どうしようか悩んでいる。
「多分、矢口さんが考えてることと一緒です」
ひとみも、敢えて言おうとはしなかった。
避けているワケではないのだが、口に出すと、また新たな重みがのしかかるようで。
- 249 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時25分32秒
- 「どうしよっか……」
「私は、ちゃんと言った方が、いいと思うんですけど……」
うん……とうなだれていると、ひとみは決定的な言葉を口にする。
「―――中澤さんに」
そう、裕ちゃんに…………。
隠れてこそこそするのはもちろんイヤだけど、すぐによっすぃーとつき合うことにした、などとは言いにくい。
- 250 名前:Liar 投稿日:2002年05月21日(火)09時26分38秒
- 裕ちゃんのこと、嫌いになったんじゃないよ。
寂しくなって、ちょっと怖くなって、ただ安心できる場所を求めていただけなのかもしれない。
でも、今の時点で、裕子よりひとみを選んでしまうのも事実。
「ちゃんと言うけどさ、今すぐじゃなくてもいいかな」
「……いいですよ。きっといちばん辛いのは、矢口さんなんだろうし…」
「ありがとね、よっすぃー……」
うん。とりあえずは、内緒にしておこう。
自分の気持ちが落ち着いたら、ちゃんと裕ちゃんに話して、納得してもらって………。
あぁ、そしたら、やっぱり一緒には住めなくなるのかなぁ…。
- 251 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月21日(火)10時46分00秒
- 三角関係だなー(w
こういう時・・・姐さんはとりあえずみっちゃんに逃げちゃえ(w
そして四角関係へ・・・ラストはどうなるのか?(w
更新なくて心配しちゃった・・・続き書いてくれなあいのかな?って思って
よかった〜♪
- 252 名前:名無し愛読者 投稿日:2002年05月21日(火)15時24分39秒
- >今の時点で、裕子よりひとみを選んでしまうのも事実。
まだ裕子に奪回のチャンスは・・・(w
小説とは関係ないけど、裕ちゃんって虚勢張ってるぶん脆そうにみえる
- 253 名前:読んでる人 投稿日:2002年05月21日(火)17時48分24秒
- まだ矢口の気持ちは、完全に吉澤に向いてるワケじゃなさそうだけど・・・
う〜ん、この先どーなるんだろう〜・・・。
次回更新を心待ちにしてます♪
- 254 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月21日(火)21時54分38秒
- たのしみ
- 255 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月22日(水)23時33分56秒
- 矢口は悪魔か?
こんなことになっても、出て行く事を考えないなんて。
黒吉じゃなくて、黒矢口だね。
裕ちゃんは、なっちが救って欲しいな。
- 256 名前:Liar 投稿日:2002年05月23日(木)06時29分00秒
- 「すみません」
裕子は深く頭を下げて、自分の上司に謝った。
普段なら決してしないようなケアレスミス。
書類作成の上で、データを間違えて打ち込んでしまっただけなのだが。
大きなミスではなかったためか、または日頃の成果か、ひと言謝罪しただけで裕子はあっさりと解放された。
- 257 名前:Liar 投稿日:2002年05月23日(木)06時29分35秒
- 「なぁ、どうしたん?」
自分の席に戻ると、早速とばかりに隣にいたみちよが声をかける。
「何でもあらへんよ」
裕子はみちよの方には見向きもせず、さっさとデータを修正し始めた。
「だって、裕ちゃんらしくないやん。こんなミス」
キャスター付のイスに座ったまま、みちよは近づいてくる。
「アタシやって、たまには間違いくらいするわ」
ここ数日、自分を支配する思いを振り払って仕事に集中しようとするのだが、なかなかうまくいかない。
- 258 名前:Liar 投稿日:2002年05月23日(木)06時30分11秒
- 「最近、仕事に精出しすぎなんやないの?残業ばっかやん。少しは休んだらどうなん?」
口調は軽いけど、心配してくれてるのはすごくわかるから、無下にもできない。
ガキみたいだってのは承知してるけど、今はなるべく家に帰りたくないのだ。
だから、こうして残業を買って出て。
真里とひとみに言ったように、仕事が忙しいのは確かだ。
でも、ノルマ以上にこなしているのもまた事実。
- 259 名前:Liar 投稿日:2002年05月23日(木)06時30分50秒
- 「大丈夫やって。ちょっと、仕事でがんばりたい気分なんやよ」
小さく笑って答えたけど、そんな言葉でみちよを納得させられるとは思ってなかった。
だが、そこはさすがに気心の知れてる友人。
複雑な表情を隠そうとはしなかったが、裕子のやんわりとした拒絶を汲み取り、みちよは素直に退散する。
そんな心遣いに感謝しながらも、パソコンを見つめる裕子は心ここにあらずといった様子で。
- 260 名前:Liar 投稿日:2002年05月23日(木)06時31分35秒
- あぁ、どうしよう………。
何か最近は悩んでばっかやなぁ。
自分が真里を好きだという気持ちははっきりしているのに、その想いが真里を苦しめている。
………月並みな考えだとは思うけど、やっぱり好きな人にはいつでも笑ってて欲しいもんな。
矢口ぃ。
アタシ、アンタのことめっちゃ大切なんやで?
それだけは、わかってな。
- 261 名前:Liar 投稿日:2002年05月23日(木)06時32分18秒
- 物思いに耽ったのもほんの束の間。
デスクの上で、ケータイが震えていた。
真里からのメール。
“今日、よっすぃーと映画観に行く。この前話したヤツ。帰る時間わかったら、またメールするね”
映画、か…………。
話題に上ったあの日の夜が思い出される。
いつのことやったっけ?
もう1週間か10日くらい経つんかな。
- 262 名前:Liar 投稿日:2002年05月23日(木)06時33分05秒
- ―――家で、2人の帰りを待つのは辛い。
どうしよっかなぁ。
今日も、残業してくか……。
ちらっと横に視線を走らせて。
目ざといみちよはすぐに気づいた。
「ん?何や?」
「あのな、今日、一緒に残る気あらへん?」
「………今日もやってくん?」
「ええやん。いろいろ話そうや」
少しは相談してくれる気になったんだろうか。
“話そう”なんて言われたら、それを自分が断れるハズもなく。
「ええよ」
みちよは1つ大きく頷いた。
- 263 名前:読んでる人 投稿日:2002年05月23日(木)11時00分11秒
- 中澤ガンバレ!!
- 264 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月23日(木)12時27分00秒
- あ!みちゅーだ・・・姐さんの心のよりどころは・・・気心知れたみっちゃん(w
姐さんの気持ちをかるくしてあげてください。
大学寝坊でサボってしまったけど・・・更新が読めてラッキー!!
- 265 名前:名無し愛読者 投稿日:2002年05月24日(金)13時36分24秒
- 裕子...痛い。
矢口も...痛い。
みっちゃん...結構好きかも。
- 266 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月26日(日)21時01分21秒
- なにげになかよしを期待している俺はバカだろうか…
- 267 名前:作者 投稿日:2002年05月27日(月)07時39分14秒
- ちょっと、思うところがあって、自分の書き込みをしてませんでしたが。
レスくださった方、どうもありがとうございます。
みっちゅーはあんまり進展させるつもりはないんですが、平家さんが好きで好きで……。
とりあえずは今度のANNSSを楽しみにしています。
では、今回の更新です。
- 268 名前:Liar 投稿日:2002年05月27日(月)07時40分15秒
- 2人で残ったのはいいけれど、なかなか裕子の口は滑らかにならない。
いつ話してくれるのか、それともこちらが切り出すのを待っているのかわからないまま、時間だけは刻々と過ぎていく。
仕事を2人でこなしてるせいか、能率もよく、残業さえも早々に終わってしまいそうなカンジで。
いや、早く帰れるのはみちよとしては歓迎したい面もあるのだが。
コーヒーカップを手にパソコンの画面を見つめていた裕子は、視線をふと壁の時計に向ける。
9時半………。
う〜ん。ちょうど明日は休みやしなぁ。
- 269 名前:Liar 投稿日:2002年05月27日(月)07時40分51秒
- 「みっちゃん、明日ってヒマか?」
「明日?」
急に声をかけられて、ちょっぴり上ずった声が出てしまった。
「うん」
そんな自分を優しく見つめながら、彼女は頷く。
「明日…は、大丈夫ですけど……?」
「ほな、今夜はこれからみっちゃんち行ってええ?この前、みっちゃんも誘ってくれたし」
考えるより早く、みちよは首を縦に振っていた。
- 270 名前:Liar 投稿日:2002年05月27日(月)07時43分11秒
- そんなみちよを見て、裕子がからからと笑い声を上げる。
「アンタおもろい顔するなぁ。何や、そんなにアタシのこと好きやったんか?」
笑顔になった裕子を少し恨めしく思いながらも、それに抗えないのはもう十分承知していて。
「…………そんなんちゃいますよ」
「否定せんでも、わかってるから大丈夫やって」
やっぱりどこか楽しそうな顔のまま、裕子はゆっくりと立ち上がり、コーヒーカップを片づけに行った。
少し頼りなさげなその後ろ姿を見ながら、みちよはぼんやりと思う。
否定………するしかないやん。
他にどないせえっちゅーねん。
- 271 名前:Liar 投稿日:2002年05月27日(月)07時44分01秒
- 自分の心を声に出せないのはいつものことで。
でも、こうして自分を少しでも頼りにしてくれてるのがわかるから。
自分に向けてくれる笑顔も、ちょっとキツイ言葉も、全部好意からくるものだと知ってるから。
あと一歩のところで前に進めない自分を歯がゆく思いながらも、彼女にとっていちばん安心できる場所でいられるようにと。
――――こんなことを思いながら、もう何年経っただろう。
それでも、こうして一緒にいられるだけで喜ぶ自分がいる。
彼女が誰と幸せになろうが、それをいちばん最初に祝福してあげられる人でありたい。
例え彼女が不幸になっても、それをいちばん最初に慰めてあげられる人でありたい。
- 272 名前:Liar 投稿日:2002年05月27日(月)07時44分48秒
- 席に戻ってきた裕子は、デスクの上を整理しながら口を開く。
「みっちゃんち、今ビールある?」
「へ?あ、あぁ、少しは………」
「アタシが酔えるくらい?」
「や、わからへんけど」
どれだけ飲むつもりなんかい…とは突っ込まず。
「ん〜、ま、ええか。それじゃ、はよ帰ろ」
- 273 名前:Liar 投稿日:2002年05月27日(月)07時45分26秒
- 一緒にオフィスを離れて、もう暗くなっていた会社の廊下を歩く。
何の前触れもなく、左腕に彼女の手がすっと絡められた。
思わず、わずかに下に位置する顔を見つめてしまう。
その瞳はただ前を向いて、やわらかに細められていた。
みっちゃんち久しぶりやなぁ〜と、うれしそうにつぶやいたりなんかして。
- 274 名前:Liar 投稿日:2002年05月27日(月)07時46分17秒
- お酒が入ると、上機嫌になるのは変わらない。
ビールはそんなになかったけど、戸棚に眠っていた安物のワインを発掘した裕子は、かぱかぱと杯を重ねていく。
あぁ、また悪酔いするんかいな………。
呆れた反面、お酒の力で饒舌になるのはうれしかったりもする。
少しずつだけど、話は核心に近づいてるようだった。
何や、つまり、裕ちゃんはやぐっちゃんにフラレたってことか?
やぐっちゃん、どーゆーつもりや?
あ?まだはっきり言われたワケやないんか。
- 275 名前:Liar 投稿日:2002年05月27日(月)07時47分16秒
- 「―――でな、矢口、今日も吉澤と映画観に行く〜って言うてな………」
グラスをくぃっと煽って、はぁっとため息を吐いて。
ったく、何回ため息吐いたら気がすむんや、この人は。
「何か、ウチ、帰りたないなぁって、思って………」
赤みが射す酔っ払いの顔だけど、遠くを見つめるようなどこか寂しそうな目をして。
「つい、みっちゃんに甘えてもうたわ………」
あはは…と元気なく笑った姿は、ほんとに小さく感じられた。
「3人って、やっぱり無理があったんやろか……。力になれればって、思ったんやけどなぁ」
ぽつりぽつりと言いながら、次第に瞼が重くなってきているみたいだ。
「ごめんなぁ、みっちゃん。ヘンな愚痴につき合うてもろて……」
こてっと肩にもたれかかってきたまま、しばらく静かになったかと思うと、小さな寝息が聞こえてくる。
- 276 名前:Liar 投稿日:2002年05月27日(月)07時47分53秒
- あぁ、寝ちゃったんか。
悩み事、少しでも取り除ければと思ってたけど、無理やったな。
結局、相槌を打つくらいしかできなかった。
助けになりたいけど、裕ちゃんの気持ちがやぐっちゃんだけに向いてるのだけは明確で。
だから、自分にはどうしようもできひんなぁ。
- 277 名前:Liar 投稿日:2002年05月27日(月)07時48分37秒
- ――――けど、この人、どうしよ……。
肩にもたれられるのは嫌いやないけど、こっちが身動きできんのは辛いわ。
幸い、ウチに来てすぐにシャワーを浴びていたので、着がえやメイクの心配はないことだし。
う〜ん…と唸って、腕で彼女の身体を支えながら、とりあえずはゆっくりと床に横たえる。
さすがに細身の裕ちゃんでも、抱き上げて運ぶのは無理やな。
しゃーない、今夜はここで我慢してもらお。
枕と毛布を持ってくる。
そっと頭を持ち上げて枕を差し入れ、毛布をかけて。
「おやすみぃ」
小声でつぶやき、あらわにした額にそっと唇を落とす。
これぐらいは許されるだろうと思いながら。
- 278 名前:読んでる人 投稿日:2002年05月27日(月)11時16分06秒
- 中澤姐さんは、平家さんの家にお泊り・・・
というコトは、今夜は家で矢口と吉澤の2人きり・・・
非常に危険な予感がするんですけど・・・
- 279 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月27日(月)12時56分43秒
- 作者さん
みちゅーをありがとう!!!
来週マジで楽しみ。1時間30分出っ放しでいて欲しい(w
- 280 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月27日(月)21時27分54秒
- そうか、矢口と吉澤が二人きりか。
裕ちゃんへの心配を吉澤で誤魔化す矢口。
矢口は姉妹を相手に、どんな悪魔を演じるのか。
- 281 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月28日(火)16時02分35秒
- どうなるんだ??
先がよみたくてしょうがないよ〜。
- 282 名前:作者 投稿日:2002年05月29日(水)09時13分50秒
- みっちゅーは進展させる気ないって書いたクセに、なぜか平家さんの苦労ぶりは筆が進んでしまう(笑)
すごくみっちゅー書きたい気分にさせられてます、今。
何かの機会に短編でも書ければなぁ。
もちろん、みっちゃんも幸せなヤツを(^^;
ということで、短いですが、今回の更新です。
矢口と吉澤が出てくるのは、次回から…でしょうか。
- 283 名前:Liar 投稿日:2002年05月29日(水)09時14分53秒
- 寝心地の悪さからか、かなり早い時間に目が覚めた。
見慣れない天井と硬い床。
ゆっくりと起き上がると、みちよの部屋に来ていたことを思い出す。
あぁ、そうか。
昨日はあのままみっちゃんち行ったんやな………。
そこまで考えて、はっと気づく。
真里たちに、今日は家に帰らないということを伝えてなかったことに。
- 284 名前:Liar 投稿日:2002年05月29日(水)09時15分36秒
- 慌ててケータイをバッグから取り出す。
案の定、音を消していたケータイにはメールが数件に電話の着信も何回か。
全て真里のケータイと自宅の電話からだった。
すぐに電話をかけようとしたが、時間が時間だけに、それも躊躇される。
まだ4時を過ぎたくらいで、外はぼんやりと白くなりかけたばかり。
どう考えても、この時間に彼女たちが起きてるとは思えない。
電話をかけて、起きるだろうか。
ふむ…と思案する。
- 285 名前:Liar 投稿日:2002年05月29日(水)09時16分32秒
- 酔いも醒めたことだし、家、帰ろうか。
勝手知ったる人の家とばかりに、またシャワーを浴びて。
昨夜は酔っていたが、みちよに話したことは大体覚えている。
ワインとビールの力を借りたとは言え、心の中を吐露できたことで少しはすっきりした。
- 286 名前:Liar 投稿日:2002年05月29日(水)09時17分18秒
- バスルームから出てくると、すでにみちよが起きていた。
「ごめん。起こしたか?」
裕子が寝散らかした毛布をたたんでいたみちよは、さっぱりした様子の裕子を認めると、少しほっとした顔を見せる。
「うん、まぁ…。確かにシャワーの音で目ぇ覚めたけど、別に起こされたとかそーゆーんやないから」
「そか。よかったわ」
「………帰るん?」
伺うような視線で問う。
- 287 名前:Liar 投稿日:2002年05月29日(水)09時18分49秒
- 「あぁ。酔い、醒めたし。車運転しても大丈夫やろ。心配させたらあかんから、帰るわ」
裕子はタオルで髪をがしがしと拭きながら冷蔵庫の中を覗き、ミネラルウォーターのボトルを手に取る。
「まだ4時半やで。もう少し、ゆっくりしてけばええやん」
「みっちゃんに迷惑かけてばっかってのもなぁ。それに………」
「それに?」
苦笑混じりにつぶやいたその先を、みちよは首を傾げて促して。
「心配させたらあかんって言うたけど、実際は、あの娘たちのことが心配ってのもあるし」
寂しそうに言い放つと、ボトルに口をつけて水を飲む。
白い喉がこくりと上下した。
「そう、やな…」
みちよは意識してそこから目を逸らし、たたみ終えた毛布と枕を寝室へ持って行く。
- 288 名前:Liar 投稿日:2002年05月29日(水)09時20分32秒
- その後、裕子が淹れてくれたコーヒーを飲んでしばらく他愛無い話をしたが、5時を過ぎた頃に帰宅した。
玄関まで見送ったみちよは、閉じたドアをしばらく見つめて大きく肩を落とす。
結局、最後まで自分は何もできずに終わってしまった。
年上の親友に対してイマイチ積極的になれないのは、ただの優しさや労わりなのか。
- 289 名前:Liar 投稿日:2002年05月29日(水)09時21分57秒
- 違う。
自分が卑怯なだけだ。
あと一歩踏み込んで、彼女に嫌われるのを恐れているだけだ。
彼女にとって頼りなる友人という居心地のいい場所を、自分が失いたくないだけで。
こんな自分が、つくづくイヤになる。
でも、長年培ってきた自分の態度と気持ちがそうそう変えられるものでないことは、他でもないみちよ自身がわかっていた。
「ったく………。せっかくの休みなのに、こんな早くに起きてもうて……。今日、何しよう………」
わずかな不満を口に出してみたものの、言葉に反して、みちよの足はまっすぐ寝室に向かっている。
小さな子供のように、枕をぎゅっと抱きかかえて、みちよは目を閉じた。
みちよの1日が始まるのは、もっと遅い時間からになりそうだった――――。
- 290 名前:名ナシ。 投稿日:2002年05月29日(水)09時45分21秒
- 更新おつかれさまです。つづきも期待してます!!よっすぃ〜と矢口はどうなったんだぁー!!!!
- 291 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月29日(水)10時43分16秒
- 裕ちゃんの家に入る時の心理はどうなんだろうな?
矢口は心配と怒り・・・どっちが大きいのだろう?寝て待ってたのか?起きて待ってたのか?ラブラブだったのか?
吉澤の心理は?
休日の3人はどう過ごすのだろう?って妄想が一杯に(w
最後に・・・平家さんやっぱりいい人だ(w
- 292 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月29日(水)23時32分44秒
- そうなのだ、みっちゃんは、美人でいい娘なのだ。
- 293 名前:寒太 投稿日:2002年05月29日(水)23時47分57秒
- やっぱ、姐さんにとってイタイ話になって、おいらも痛い。
でも、ここのみっちゃん、おいらの思ってるみっちゃんだ。
続き楽しみに待ってます。
- 294 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月30日(木)23時12分28秒
- 裕ちゃんが帰ってみたら、二人がベッドで裸になっていた・・・
なんてことになっていたら、どうしよう。
裕ちゃんが苦しむのは見たくないよー。
- 295 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月31日(金)01時12分19秒
- 裕ちゃん。。。
- 296 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月31日(金)11時23分20秒
- 先が気になって眠れません(爆
- 297 名前:名無し愛読者 投稿日:2002年06月03日(月)10時04分39秒
- よしやぐちゅー・・・どうなっていくのだ?
吉澤視点がまだないので・・・本当の気持ちはどうなのかまだよめない(w
これで・・・姐さんのことがスキってことは・・・ないよね(w
- 298 名前:読者でーす 投稿日:2002年06月04日(火)14時10分06秒
- もうこの小説気になって気になって・・・
どういう話に転んでいくのか・・・よめないし(w
他にもスレあるなら教えて下さい。
- 299 名前:作者 投稿日:2002年06月04日(火)14時59分37秒
- レスありがとうございます。
こちらの更新は先になりそうです。すみません。
>>298さん
今、気が向いた時に短編をあげてるスレがあるんですが、そっちでみっちゅーを書き始めたところです。
先日のANNもあったことだし、もともと平家さんも大好きな人間なんで、ここ数日はみっちゅーネタばかりが…(笑)
並行してこちらも書いてるので、もう少し待ってて下さい。
- 300 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月08日(土)14時37分34秒
- 待ってますが・・・展開が気になって気になって(w
でもマタ−リまってます。
- 301 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月13日(木)11時46分37秒
- まだですよね?
マッタリまってるけど・・・不足で死にそう(w
- 302 名前:作者 投稿日:2002年06月14日(金)18時57分14秒
- 更新遅くてすみません。
レスありがとうございます。すごく励みになります。
あいかわらず少しですが、更新です。
- 303 名前:Liar 投稿日:2002年06月14日(金)18時58分37秒
- みちよの家で浴びたシャワーとコーヒーのお陰で、だいぶ頭はすっきりした。
もちろん事故る心配もなく、無事にマンションまでたどり着いて。
チャイムは鳴らさずに鍵を開けて部屋に入る。
小さくノックをしてからひとみの部屋を覗いたが、そこは無人だった。
あまりいい気はしないものの、ほとんど諦めの境地で裕子はリビングへと足を運ぶ。
ソファに崩れ落ちるような不安定な体勢で眠っている。
ひとみの肩に頭を乗せて眠る真里の手には、ケータイが握り締められていて。
ガラッと音をたててドアを開けると、果たして、そこに2人はいた。
- 304 名前:Liar 投稿日:2002年06月14日(金)19時00分10秒
- みちよの家で浴びたシャワーとコーヒーのお陰で、だいぶ頭はすっきりした。
もちろん事故る心配もなく、無事にマンションまでたどり着いて。
チャイムは鳴らさずに鍵を開けて部屋に入る。
小さくノックをしてからひとみの部屋を覗いたが、そこは無人だった。
あまりいい気はしないものの、ほとんど諦めの境地で裕子はリビングへと足を運ぶ。
ガラッと音をたててドアを開けると、果たして、そこに2人はいた。
ソファに崩れ落ちるような不安定な体勢で眠っている。
ひとみの肩に頭を乗せて眠る真里の手には、ケータイが握り締められていて。
- 305 名前:Liar 投稿日:2002年06月14日(金)19時01分50秒
- その光景を見た途端、裕子は一気に後悔の念が込み上げてきた。
酔っていてケータイの着信に気づかなかったとは言え、自分はどれだけこの娘たちを心配させたのだろう。
自分勝手な振る舞いで、どれだけ迷惑をかけたんだろう。
物音が耳に入ったのか、ひとみが薄っすらと目を開け、すぐに裕子を視界の中に認める。
「あ………」
ひとみが身体を起こすのと同時に、頭をあずけていた真里の意識も覚醒して。
「どしたの、よっすぃー………」
まだ眠そうな目を擦りながら、ひとみにつられて視線を上げる。
そこには、何だか泣き出しそうな顔をした裕子が立っていた。
- 306 名前:Liar 投稿日:2002年06月14日(金)19時02分33秒
- 「え?ゆう…ちゃん?」
一瞬、何が起きたかわからずにぽかんとした真里だったが、すぐに昨夜の憤りを思い出す。
「裕ちゃん、何の連絡もしないでどこ行ってたの!?」
「ごめん…」
「矢口とよっすぃーがどれだけ心配したかわかってるの?」
「うん。ほんまに、心配かけてごめん」
言い訳のひとつでも返ってくるだろうと、少しキツめの口調で言った真里は、あまりの素直な謝りように拍子抜けした。
- 307 名前:Liar 投稿日:2002年06月14日(金)19時03分14秒
- 「どこに、行ってたんですか?」
「みっちゃん……平家のとこ。2人で残業して、そのまま家に寄らせてもらって、お酒飲んで寝てもうた」
「矢口さん、すごく心配してたんですよ。夜遅くまでずっと起きてて……。私が何回休むように言っても聞いてもらえなくて」
裕子はひとみの強い口調と視線に何も言えず立ち尽くす。
立ち上がって一歩近づいたひとみは、微かな威圧感さえも裕子に感じさせた。
「この際だから、言わせてもらいますけど………」
- 308 名前:Liar 投稿日:2002年06月14日(金)19時04分40秒
- 言いかけたひとみに、今度は真里が反応した。
「ちょっ、ちょっとよっすぃー!裕ちゃんも悪かったと思ってるみたいだしさ。もういいじゃん。ね?」
慌てて裕子とひとみの間に入ってきたが、やんわりと裕子に否定される。
「構へんよ。アタシは何も言い訳できひんし。言いたいことがあるなら、ちゃんと聞くから」
強がった言葉を言うくせに、どうしてそんな情けない顔をしているのか。
裕子を見上げた真里は、口を開きかけても出てくる言葉が見つからない。
そうかと思えば、ひとみは真里の表情を伺っていて。
言っていいのかどうか……。
でも。
「矢口さんだって、いつかは言わなきゃならないと思ってたでしょ?いい機会なんじゃないですか?」
間に挟まれた形になった真里は、どうしようかと考え込んで。
- 309 名前:Liar 投稿日:2002年06月14日(金)19時06分06秒
- でも、ひとみの言葉を後押しさせたのは、真里ではなく裕子の方だった。
「もしかして、アンタら2人のことか?」
「知って…たんですか?」
「―――アタシやって、同じ屋根の下に暮らしてて、それに全然気づかないほどのアホやないわ」
わずかに唇の端を上げて、それなのに、どこか寂しそうに。
ひとみと真里は顔を見合わせた。
真里は思わずひとみの手をきゅっと握り、裕子に話し始める。
「矢口、よっすぃーのこと、好き…なんだ」
- 310 名前:Liar 投稿日:2002年06月14日(金)19時06分49秒
- やはりそうか………。
裕子は大きくため息を吐いて、無言で2人に座るように促す。
自分もイスをひいて2人の前に腰を下ろした。
「薄々感じてたことやけど、やっぱアンタの口から直接言われるとショックやわ」
ひとみの手を握る真里の手に、少し力が込められる。
「ごめんなさい、裕ちゃん」
「別に謝らんでもええよ。………きっと、アタシが気づかないところで矢口のこと傷つけたり、不安にさせてたんやろうし。アタシこそ、ごめんな」
- 311 名前:Liar 投稿日:2002年06月14日(金)19時07分26秒
- 真里は慌てて首を横に振る。
逃げていたのは自分の方だと気づいたから。
裕ちゃんを信じられなくなったと言ったのも、それは都合のいい言い訳でしかなくて。
よっすぃーに揺れた自分を正当化しようとしていただけで。
もっと早くにちゃんと話してれば、こんなふうにはならなかったかもしれない……。
でも、でも、ごめんね―――。
- 312 名前:Liar 投稿日:2002年06月14日(金)19時08分05秒
- 裕子の心遣いもあって、ひとみとのことを告白した真里の心は、少しだけ軽くなった。
しかし、これ以上裕子に甘えるワケにはいかない。
真剣に考えて、出した結論。
その場しのぎにしか過ぎないと思うけど、今のこの状況を自分なりに変えたくて。
「それでさ、裕ちゃん。もう1つ、話があるんだけど………」
- 313 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月15日(土)23時15分45秒
- 泣ける・・・
裕子頑張れ。
ちょっぴり矢口も頑張れ!
- 314 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月16日(日)00時58分13秒
- 矢口よ・・・、これ以上、裕ちゃんをいじめないでくれ。
裕ちゃん・・・、優しすぎるよ、切ないよ。
- 315 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月16日(日)03時26分55秒
- あああ、裕ちゃん・・・
- 316 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月16日(日)14時36分24秒
- 更新だー!!
首が伸びすぎたよ(w
- 317 名前:やぐちゅ〜みっちゅ〜狂患者 投稿日:2002年06月16日(日)18時09分45秒
- 裕ちゃん・・・
矢口〜・・・
裕ちゃんを泣かすなYOH〜!
- 318 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月17日(月)04時06分50秒
- 更新ワッショイ!
- 319 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月20日(木)10時53分18秒
- 目が離せない・・・
本当にどういう関係になるのか間だわかんない・・・
速い更新を(w
- 320 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月20日(木)13時14分21秒
- 姐さんが過労で倒れ、
矢口・ひとみ・みっちゃんの各人の気持ちが入り乱れ、
本当の気持ちが見えるなんてのはいかがですか?
- 321 名前:作者 投稿日:2002年06月21日(金)02時19分19秒
- レスありがとうございます。
裕ちゃん、いじめちゃってますか(苦笑)
好きだからこそ…と思って下さい。
では、更新します。
- 322 名前:Liar 投稿日:2002年06月21日(金)02時20分38秒
- 心持ち、身を乗り出して真里は口を開いた。
「矢口ね、しばらく、なっちのとこに居候させてもらおうかと思ってるの」
「―――はっ?」
比喩ではなく、イスから転げ落ちそうになった裕子だったが、真里の真剣さは十分に伝わったようで。
「…………本気、なんか?」
一瞬だけ横にいるひとみにちらっと視線を走らせ、コクリと頷いた。
「ほら、その、こーいうことになったから、このままここにいるのって、気持ち的に辛くてさ。実家に帰ることも考えたけど、裕ちゃんと暮らすのに親を説得した手前、戻りにくくて。なっちは1人暮らしだし、大学までの時間もこことそう変わらないし」
- 323 名前:Liar 投稿日:2002年06月21日(金)02時21分31秒
- 今までも、真里がなつみの部屋に泊まりに行くことは何度かあった。
でも、今回はそれまでとは全然違う。
「いつまでそうするつもりなん?」
まだ、開いた口がふさがらない状態のまま問いかける。
「わからない。とりあえず気持ちの整理つけて、少し頭冷やしたいなって……」
「吉澤は、それでいいんか?」
突然、矛先を向けられてわずかに驚いた顔を見せる。
「矢口さんが決めたことだし。それに、会おうと思えばいつでも会えるよって言われたから」
- 324 名前:Liar 投稿日:2002年06月21日(金)02時22分23秒
- そうなんか…とため息を吐いて。
確かに、家に帰りたくなくて仕事やみちよに逃げたのは自分の方だった。
意識して仕事を入れていたことに、やはり真里は気づいていたんだろうか。
あれだけ残業続いたんやしなぁ。
それなのに、どこかで引き止めたい思いもある。
ひとみとのことに納得したとは言え、自分の気持ちはまだ真里にあることもわかっていたから。
- 325 名前:Liar 投稿日:2002年06月21日(金)02時23分19秒
- 「なっつぁんは、そのこと承知してるん?」
「うん。夕べ、話した。あんまり詳しい事情は言ってないけど、気にしないで泊まってきなって」
真里の気持ちもわからないではない。
何かを変えたい、変わればいいと思ってるのはよくわかる。
だけど、そうなると必然的に自分とひとみの2人暮しが始まるワケで。
「なぁ、吉澤は、ほんまにそれでええの?」
「もちろん、いいですよ」
「いや、矢口と会える会えないってのも大事やろうけど、アタシと2人で暮らすことについては?」
「……………何も、心配はしてないですけど」
- 326 名前:Liar 投稿日:2002年06月21日(金)02時24分00秒
- ほんのわずかな間が気になったが、即答されたらされたで、きっとその答えを疑ってしまっただろう。
結局、気にしてるのはアタシの方なんやなぁ。
何か、吉澤の方が全然大人やん。
「わかった。2人とも納得してるんなら、好きなようにしてええよ」
「わがまま聞いてくれて、ありがとう」
真里の顔に少しだけ笑みが浮かんだのを見て、裕子も自然と顔が緩んだ。
- 327 名前:Liar 投稿日:2002年06月21日(金)02時24分42秒
- 「ええよ、礼なんて。それより、朝早くに起こして悪かったな。アタシはこれからまた寝るけど、アンタたちはどうする?」
カタリとイスをひいて立ち上がる。
「目、覚めちゃったから、起きてるよ」
真里の言葉にひとみも同調したように頷いた。
「そっか。もし、なっつぁんのとこ行く時にアタシ寝てたら、ちゃんと起こしてな」
真里が頷いたのを確認して、裕子は自分の部屋に入って行った。
- 328 名前:Liar 投稿日:2002年06月21日(金)02時25分40秒
- 残された真里とひとみは、どちらからともなく顔を見合わせ、ため息を吐いて。
「中澤さん、思ったよりあっさりしてましたね」
「そーだね。我慢…してたのかな?」
「我慢?」
「うん。だって、裕ちゃんすごく大人でしょ」
「大人…ですか」
まぁ、確かに…といったふうにひとみはつぶやく。
少し気にかかる言い方だったが、真里はそれを追求することもしなかった。
- 329 名前:Liar 投稿日:2002年06月21日(金)02時26分21秒
- 自分の気持ちにケリをつけたい。
そして、裕子ともいい関係を続けていきたい。
そのために自分のできることって何だろうと。
出した結論が、これだった。
この家から出て行くことは、「逃げ」でしかないのだろうか。
いや、そんなことはないと思う。
―――それに、まだ始まってもいないことを、あれこれ考えたってしょうがないか……。
「ちょっと、裕ちゃんと話してくるね」
- 330 名前:Liar 投稿日:2002年06月21日(金)02時27分42秒
- 裕子の部屋へ入って行く真里の背中を見送り、ひとみはう〜ん…と伸びをする。
何か、新展開だよなぁ………。
途中まではうまくいってるような気がしてたけど、裕子の引き際のよさは想像以上だった。
もうちょっと、ごたごたするかと思っていたのに。
それって、あんまり痛手になってなかったってことなのかな…。
いや、でも、今日のこの結論に至るまで、相当悩んでる様子は伺えたか。
だけど、真里と一緒にいて、自分の気持ちがどこへ向かってるのかわからなくなってきたような気が少しする。
感化されたとでも言うんだろうか。
苦悩してるような裕子と真里の2人の表情が、不意に脳裏に浮かび上がってきた。
ひとみは慌ててその映像を打ち消す。
………そんなハズ、ないよな。
- 331 名前:読んでる人 投稿日:2002年06月21日(金)11時31分47秒
- よっすぃ〜の計画(?)は一応順調に進行しているようですね。
これからよっすぃ〜と裕ちゃんの二人暮し・・・どんな展開になるんだろう・・・。
続き楽しみです。
- 332 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月21日(金)18時50分11秒
- もうどうなってくんだ?(w
やぐちゅーの話合い
なかよしの二人暮し
やぐよしの関係
なちまり(w
みっちゅー(www
もう最高〜♪
でも話としては痛いのかな?あんまり感じないけど(w
- 333 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月22日(土)03時35分06秒
- げ!!!沈みすぎ!(w
こんなに更新されてるとは(w
- 334 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月22日(土)18時24分08秒
- これからはなかよしティ−ストもあるのか?(w
- 335 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月23日(日)13時38分21秒
- 吉澤の本当の目的は何?
裕ちゃんから矢口を引き離すこと?
矢口を手に入れること?
裕ちゃんをいじめること?
うーん、どうなるんだろう・・・
しかし、裕ちゃん優しすぎるよ。
- 336 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月24日(月)12時30分15秒
- このスレ不足で死にそう(w
早く更新してくれ〜!!(w
- 337 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月25日(火)13時02分48秒
- 最初から一気に読ませてもらいました。
よしやぐちゅーとは・・・
なぜか、痛め小説のほうが惹きつけられます・・・
どうなっていくのか本当に楽しみです。
- 338 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月25日(火)13時04分01秒
- ごめんなさい。・・・上げてしまいました・・・本当にすいませんです。
- 339 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月26日(水)13時50分57秒
- 更新そろそろお願いします。(ペコリ
- 340 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月29日(土)12時17分39秒
- HELP ME!
よしやぐちゅー不足で死にそうです。(w
中毒にさせた作者さんの責任です。(w
- 341 名前:作者 投稿日:2002年06月29日(土)19時41分57秒
- レスありがとうございます。
個別にレス返ししなくてすみません。
>>337 名無し読者さん
ageてしまったくらいで謝らなくて結構ですよ。
レスしてくれるのがうれしいんで。
自分でageるのに抵抗がある小心者なだけなんで(笑)
更新します。
- 342 名前:Liar 投稿日:2002年06月29日(土)19時42分57秒
- 数分もしないうちに、真里は裕子の部屋から出てきた。
「話、もういいんですか?」
素直な疑問をぶつけてみたけど、予想に反して、真里はいつものように明るく笑う。
「うん。そんなに大したことじゃなかったし。―――ご飯、作るね」
そう言って、キッチンへと向かう真里の後ろ姿を見つめていた。
不思議な人だよなぁ。
表情が豊かなんだろう、すぐに弱気になったり、不安そうな顔をするけど、ここぞという時にはなぜか明るい。
無理に明るく振舞おうとしてるのかもしれないけど、その笑顔を疑うことはできなくて。
- 343 名前:Liar 投稿日:2002年06月29日(土)19時43分37秒
- 実際のところ、中澤裕子の方がずっと弱い人間なのでは…という考えさえ。
あぁ、そう言えば、彼女が弱そうだってのは結構早くに想像ついてたんだよな…。
それが正しかったってことか……。
ふと視線を裕子の部屋へと向ける。
見つめた先のドアからは、何も感じられないけど。
今、彼女は何を思っているのだろう。
自分の行いを後悔してるとか、気持ちを再確認してるとか。
もしかしたら、泣いてる……とか。
- 344 名前:Liar 投稿日:2002年06月29日(土)19時44分16秒
- そんなことを思った瞬間、フラッシュバックのように頭の中に現れた裕子の泣き顔。
――――あれ?
おかしい。自分は裕子の泣いてるところなんて、見たことないのに………。
どうして、こんなに鮮明に思い描くことができるんだろう。
なぜかはわからないけど、これ以上考えてはいけないような気がして。
ひとみは無理やりその考えを払いのけた。
そして、気分を切り替えるように大きく息を吐き、キッチンで動く真里のところへ歩いて行くのだった。
- 345 名前:Liar 投稿日:2002年06月29日(土)19時45分09秒
- 「いつ、出かけるんですか?」
向かい合って真里と2人で朝食をとりながら、ひとみが尋ねる。
「ん。これ食べて片づけが終わったら、準備するよ。………まぁ、準備って言っても、そんなにすることないけどね」
「寂しく、なっちゃうのかなぁ。矢口さんがいないと……」
ぽつりとつぶやくと、不安そうな表情で見つめられる。
「やっぱり、矢口、ワガママだよね。ごめん」
「あ、別に矢口さんを責めてるんじゃないですよ。ほら、中澤さんも言ったけど、正直なとこ、ちょっと心配かなって……」
慌てて取り繕うように言葉を続ける。
- 346 名前:Liar 投稿日:2002年06月29日(土)19時46分21秒
- 真里はそんなひとみに小さく笑って話し始めた。
「何かね、矢口がいなくて、最初から裕ちゃんとよっすぃーだけだったら、もっと上手くいってたかなって思ったの。
上手くっていうか、少なくとも今とは違う結果にね」
ひとみは話の意図がつかめずに、真里を見つめたまま。
「裕ちゃんとよっすぃーって、結構似てると思うんだ」
「似て…ますか?」
ちょっと意外だった。
自分と裕子の類似点なんて、とっさに思い浮かべられない。
- 347 名前:Liar 投稿日:2002年06月29日(土)19時47分12秒
- 「外見は全然違うけどね。ほら、性格とか雰囲気とかそーいうのが」
あと、無口なところとかね…とつけ加えて。
「自分じゃわからないけど、そうなんですか。ちょっと驚いたなぁ」
ふ〜ん…と感心した様子で真里の言葉に相槌を打ったけど、本当にびっくりした。
自分が憎んでる人と似てると称されるのも、どこか複雑な気分で。
まぁ、特別自分のことが好きでもないから、そんなものかもしれない。
- 348 名前:Liar 投稿日:2002年06月29日(土)19時47分56秒
- 裕子との生活が不安じゃないと言ったら、嘘になる。
だけど、通夜の日に真里の存在を知るまでは、裕子と2人暮しだと思っていたのだから。
今更、自分の気持ちや態度が変わるハズもない。
おそらく、それは裕子も同じだろう。
会話のない生活なんて慣れている。
そんなの、どうってことない………。
- 349 名前:Liar 投稿日:2002年06月29日(土)20時06分52秒
- 数時間後、真里はゼミやサークルの合宿に行くような荷物をまとめた。
その頃には裕子もとっくに起きてきて、あからさまに寂しそうな顔をして、真里を見つめている。
「じゃ、行ってきます」
努めて明るく口にする真里だったが、裕子の表情は晴れない。
「荷物、多いやろ。車で送ってくわ」
そう言うと、真里の返事も聞かずに足元に置かれた大きなバッグに手を伸ばした。
「え、いいよ。そんな…」
「ええから。これくらいのこと、させてえな。どうせ今日はヒマなんやし」
真里の静止を無視して、半ば強引にバッグを持ち、玄関へ向かう。
- 350 名前:Liar 投稿日:2002年06月29日(土)20時08分09秒
- 途中、裕子はちょっと振り返ってひとみを見た。
「吉澤も行くか?」
………別に断る理由もなかった。
「行っても、いいですか?」
「当たり前やん」
ひとみには、裕子が微かに口の端を上げたように見えて。
別に皮肉めいたというんじゃなく、純粋に、小さな笑みを浮かべたような。
真里の言葉ではないけれど、これから、何かが変わっていくんだろうか…。
先程までの自分の考えが、少し、揺らいだような気がした。
- 351 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月30日(日)01時24分24秒
- 更新ありがとうございます。
これからどうなって行くんだろ・・
ああ、裕ちゃん。。
- 352 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)02時22分05秒
- 更新キタ 〜 !!(w
この先・・・三人の関係はどうなっていくのかな?
なかよしになったりして(w
- 353 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月30日(日)07時14分39秒
- 裕子と矢口。。。短い時間でも何話したのか気になる〜。
話のいつか伏線になるのかな?
いつか回想シーンでもいいので入れて欲しいな?(w
- 354 名前:名無し愛読者 投稿日:2002年06月30日(日)16時15分43秒
- うわあああ!
今からまた新展開ですね。
ひとみの心はどう動いていくのかな?
裕子とひとみの二人暮らしが興味深々(w
- 355 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月05日(金)15時23分22秒
- 更新に待ちくたびれてきた(w
せめて・・・週2で・・・たまにはでもいいので・・・お願いします。
- 356 名前:作者 投稿日:2002年07月06日(土)13時14分33秒
- 更新ペース、いつも遅くてすみません。
今週中はなるべく2回更新するようにがんばります。
……新展開って言うより、何か、急展開になる感じかも。多分、次回くらいから。
では、更新します。
- 357 名前:Liar 投稿日:2002年07月06日(土)13時15分39秒
- 「さようならー」
何の変哲もない、いつもと同じあいさつ。
真面目に口にするのさえバカバカしい。
一気にざわめき出す教室の中で、ひとみはこれからどうしようかと考えていた。
家に帰りたくないって、こーいうことなんだろうな…。
以前の裕子の気持ちが、少しだけわかったかもしれない。
最近は、幽霊部員に過ぎなかった部活に参加してみたり、誘われるままに梨華の家に遊びに行ったり。
どうせ、裕子の方も帰宅時間は遅いから構わないだろうと決めつけて。
- 358 名前:Liar 投稿日:2002年07月06日(土)13時16分28秒
- 2人になってから3週間程度が過ぎた。
真里は、今までに2回帰ってきて、必要になったものを持ち出したようで。
二度とも留守中だったらしく、簡単なメモだけが残されていた。
裕子について、真里がいなくなってわかったことは多い。
全然できないと言っていた料理だけど、実は普通にこなせたり…という些細なものばかりだが。
朝起きて、キッチンで朝食を作っている裕子を見た時、驚いて思わずその場に立ち尽くしてしまった。
気づいた裕子に苦笑いされたのを覚えている。
- 359 名前:Liar 投稿日:2002年07月06日(土)13時17分47秒
- 何も変わらないとタカをくくっていた自分だけど、少なくともこの3週間、裕子の方には変化が現れてるようだった。
それが彼女なりの心遣いなのかもしれないけど、やっぱり今の自分には受け入れることができなくて。
似てるから上手くいくかもと言っていた真里の言葉を思い出しながらも、何もできない自分を歯がゆく感じた。
いや、別に上手くやっていきたいワケではないし、変えるつもりがないんだから、何もしなくていいのかもしれないけど。
だけど、今の自分に長年の目標を達成させることなんて、できるのだろうか。
真里との別れを乗り越えたらしい彼女に、これ以上の辛い出来事はなさそうで。
今となってはその必要があるのかさえ、わからない。
嫌い…だった。
自分の境遇を恨み、裕子の存在を憎んでいた。もうずっと。
そのハズだった、けど………。
- 360 名前:Liar 投稿日:2002年07月06日(土)13時18分45秒
- 「ひとみちゃん?」
ふと気づいたら、帰り支度を済ませた梨華が横に来ていた。
「今日はどうする?部活に出るの?」
「ん〜、迷ってるけど。梨華ちゃんは?」
「私は帰るよ。ひとみちゃんも一緒に帰らない?」
ちょっと小首を傾げたようにして、ひとみの顔を覗き込む。
部活…めんどくさいし、やっぱり帰ろう。
「うん。帰ろっか」
そして、当然のごとく梨華の家に寄らせてもらって。
- 361 名前:Liar 投稿日:2002年07月06日(土)13時19分35秒
- 最低限のこととして、裕子のケータイに連絡は入れるようにしていた。
裕子の方からもこまめに返事は返ってくるし、帰りが遅い時の連絡もしてくれている。
メールの文が簡潔なのは、多分裕子本来の性格なのだろう。
その方が、返す自分としても気が楽だし。
今日も、いつものようにメールする。
“今日、梨華ちゃんちで夕飯をご馳走になるので、帰りは少し遅くなります”
送信ボタンを押して、ケータイをぱちんと閉じる。
これで、とりあえずの義務を果たしたことになる。
- 362 名前:Liar 投稿日:2002年07月06日(土)13時20分19秒
- その様子を見守っていた梨華は、少し複雑な顔を見せた。
「ひとみちゃん、最近ウチに来てばっかだけど、大丈夫なの?」
でも、笑顔のひとみに大丈夫だと告げられると、梨華はそれ以上何も言えない。
ひとみと彼女の姉である裕子とのことを心配する気持ちはあるものの、ひとみが家に遊びに来てくれるようになったのがうれしくて。
結局のところ、自分からひとみを誘い、家でもついつい引き止めてしまうのだ。
- 363 名前:Liar 投稿日:2002年07月06日(土)13時23分35秒
- 母親が亡くなって、裕子と真里と同居を始めたひとみは、確実にそれ以前と変わっていた。
前は、クラスで孤立しがちなことを気にもかけず、むしろそれを望んでいるようなところもあって。
だけど、引っ越してからは、いろんな表情をするようになったと思う。
口数の少なさはあいかわらずだし、積極的に話しかけようという姿勢はまだないけれど、笑顔や困惑顔が見られるようになったし。
- 364 名前:Liar 投稿日:2002年07月06日(土)13時24分23秒
- そのことにひとみ自身が気づいてるかはわからないが、ずっとひとみのことを見続けていた自分の目には明らかだった。
これって、やっぱり中澤さんと矢口さんのお陰なのかな………。
ひとみの変化を喜ぶ反面、2人に対してわずかに嫉妬心を抱く。
でも。
「じゃ、梨華ちゃんち、行こうか」
そう言って自分に笑いかけてくれるひとみを見るたびに、梨華はそれでもいいかと思えてくる。
今日も、一緒にいられるんだから―――。
- 365 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月06日(土)18時08分23秒
- 裕子自暴自棄になるかと思ってた(w
何処まで大人でいらてるのかな?(w
- 366 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月07日(日)06時00分16秒
- 急展開・・・はやく読みたい(w
自分のペースで頑張ってください。
なかよしどっちが料理するのかちょっと気になってたら・・・裕子がしてるそうで(w
文章にそれが書かれてちょっと嬉しかった。
- 367 名前:名無読者 投稿日:2002年07月08日(月)00時54分55秒
- なかよしラブです。
でも・・・なかよしはないのかな?
- 368 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月08日(月)11時17分25秒
- 急展開に興味深々。
裕子の変化にも興味深々。
- 369 名前:皐月 投稿日:2002年07月08日(月)20時25分54秒
- やっぱり(?)石川は吉澤のことを・・・・・?
中澤と吉澤の絡みも気になります。
- 370 名前:読んでる人 投稿日:2002年07月09日(火)18時29分51秒
- 急展開・・・?
う〜ん、何が起こるんだろう・・・ワクワクドキドキ。
- 371 名前:作者 投稿日:2002年07月10日(水)04時18分49秒
- 石川さん、やっぱり書きにくい…。
今、読み返しても、何かヘン(苦笑)
えっと、気を取り直して、更新します。
- 372 名前:Liar 投稿日:2002年07月10日(水)04時21分16秒
- 夕食を済ませてきたこともあり、ひとみが帰宅したのはいつもより更に遅い時間になっていた。
明日は休みなんだし、どうせなら、泊まってくるというメールでも入れとけばよかったか…などと考えながら。
夜10時近くになっていたのだが、マンションの下から見上げても部屋の電気がついていない。
まだ、裕子も帰ってないようだ。
裕子からは遅くなるという連絡をもらってなかったので、少し不思議に思いながら、鍵を開けて部屋に入る。
荷物を自分の部屋に置いてリビングへ行き、電気を点けてカーテンを閉める。
- 373 名前:Liar 投稿日:2002年07月10日(水)04時22分06秒
- すると、真里の部屋のドアが中途半端に開いているのに気づいた。
真里がいなくなってから、当たり前のように、いつもきっちりと閉められていたドア。
どうしたんだろう………。
もしかして、矢口さん、また帰ってきたのかなぁ…。
ばーっと辺りを見渡すが、以前のような真里のメモは見当たらない。
軽い気持ちでひとみはゆっくりとドアを押し、部屋の中に入る。
薄暗い中、真っ先に視界に入ったのは、ベッドに広がるブラウンの髪。
でも、その色は真里のものとは違う、毎日見続けていた人のもので。
- 374 名前:Liar 投稿日:2002年07月10日(水)04時23分38秒
- おそらく、仕事から帰って、この部屋で寝てしまったんだろう。
出勤時のスーツ姿のまま、真里のベッドで眠っていた。
初めて見る裕子の無防備な寝姿に、なぜか目が離せない。
今まで、ひとみが裕子の部屋に入ることは全くなかったから。
平日の朝は当然のように裕子の方が早く、休日は彼女が自分から起きてくるのに任せていたし。
無意識のうちに一歩一歩近づき、ベッドの脇に膝をつく。
そして、裕子の顔にかかる髪を、まるで壊れ物にでも触れるかのようにそっと払いのけた。
「ん…………」
一瞬、裕子は眉をひそめるが、すぐに何もなかったように眠り続ける。
そんな裕子の頬に残る、一筋の涙の跡。
- 375 名前:Liar 投稿日:2002年07月10日(水)04時24分37秒
- それを見た瞬間、胸がツキリと痛み、ひとみの中に眠る1つの記憶と重なっていく……。
幼い時の、あの出来事。
いつからか、敢えてその想いを殺してきた。
考えないようにしてきた。
自分の中ではなかったものとしてきた。
そうしなければ、生きる気力を失ってしまう気がしたから。
自分の生きる目的がなくなってしまう気がしたから。
見てはいけないものを見てしまったように、立ち上がったひとみの膝はガクガクと震え出す。
部屋を出ようと後ずさると、左足がドアを蹴って、思いがけず大きな音をたてた。
- 376 名前:Liar 投稿日:2002年07月10日(水)04時25分43秒
- ハッとしてひとみの身体が固まるのと同時に、裕子が目を開ける。
「よ…しざわ…?」
ゆっくりと身体を起こして、目の前に立つひとみを見つめた。
そこには、今まで目にしてきたどんな表情とも異なるひとみがいた。
ぱっちりとした大きな目は更に見開かれ、驚愕とも恐れともとれる顔をして。
「あ……、ごめ…なさい……」
裕子と目が合うと、ひとみはようやくの思いでそれだけ言い、逃げるように真里の部屋を出て行ってしまう。
- 377 名前:Liar 投稿日:2002年07月10日(水)04時27分56秒
- 「何やの、一体……?」
真里のベッドに寝ていたことも忘れて、ひとみの様子に呆気にとられる。
裕子はベッドを下りて部屋を見渡すと、やっと、真里の部屋にいたことを思い出した。
あぁ、そうや、アタシ、矢口のとこにいたんやっけ。
帰宅した時に1人だったせいもあり、ただ何となく、矢口の部屋に入って。
深く考えもせずにベッドに寝て、微かに香る矢口の匂いを胸いっぱい吸い込んで………。
そしたら、何か、矢口のいない寂しさを実感したんやろうなぁ。
まさか、そのまま寝てしまうなんて思ってへんかったけど。
「そっか…。吉澤、矢口が帰ってるとでも思ったんかな…」
腑に落ちないところがあるにせよ、今すぐにひとみを追いかけて問いただす気にはなれなかった。
ふと部屋の時計に視線を走らせ、結構長い時間寝てたことに驚く。
「フロ入って、さっさと寝るか……」
ぽつりとつぶやくと、スーツを着たまま眠り込んでしまったことを後悔しながら、裕子は重い腰を上げて真里の部屋を後にした。
- 378 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月10日(水)10時58分25秒
- キタキタキター!
ひとみの記憶って・・・裕子も覚えてることなのかな?
みっちゅーもまたちょこっとでもいいので入れてください(w
- 379 名前:名無しです。 投稿日:2002年07月11日(木)03時44分57秒
- 裕子痛い。。。
ひとみは。。。
矢口は二人と別に暮らして変化があったのかな?
- 380 名前:作者 投稿日:2002年07月11日(木)06時15分53秒
- 今週末は更新できなくなったので、再び更新。
しばらくは矢口出てきません。すみません。
えっと、みっちゅーはネタさえあれば、年中書きたいです。
ほんとに大好きなんで。
って言うか、今週のハロモニは私的にみっちゅー祭開催中だったんですけど(苦笑)
- 381 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時17分06秒
- 音をたてて自室のドアを閉め、ひとみはベッドに倒れ込む。
いつかは、気づいてしまうものなんだろうか。
自分が長年抱えてきた想い。
昔のことなのに、一度思い出すと、どんなに細かいことでも鮮明に浮かぶのが不思議だ。
どうしよう。
もう、戻れないのか。
不用意に部屋になんか、入らなければよかった。
寝顔なんか、見なければよかった。
涙の跡なんて、気づかなければよかった。
こんな想い、思い出さなきゃよかった。
―――――そう。
私は、ずっと、あの人が、好きだったんだ。
- 382 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時17分48秒
- どれだけの間、そうして悶々としていたんだろう。
ノックの音で、覚醒した。
コツコツと、硬くて小さな音が響く。
それに続く声。
「吉澤、起きてるか?」
何て言おう。
いや、もう寝たふりでもしてしまおうかと思った矢先。
「吉澤?…開けるで?」
声と同時にノブが回され、隙間から裕子が顔をのぞかせる。
- 383 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時18分58秒
- ベッドの上の自分と目が合う。
何か、さっきの逆だな…。
「何や、起きてたんか」
明らかにほっとしたような表情を浮かべ、安心したように部屋の中に入ってきた。
フロあがりのローブ姿。
まだ乾き切っていない髪。
見慣れた姿のハズなのに、何かが違う。
何が?
それらを見つめる、自分の気持ちが。
- 384 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時19分46秒
- 「何ですか?」
身体を起こして、その気持ちを振り切るように、精一杯、いつもと同じ口調を装う。
「や、別に…。あ、ほら、フロ空いたし、吉澤まだ入ってへんかったなぁって……」
普通じゃないのは、裕子の方か。
多分、さっき見せてしまった自分の様子が気になったのだろう。
柄にもなく、取り乱してしまったから。
「わかりました」
普段なら、2人の会話はそこで終わるハズだ。
だが、今日は違った。
- 385 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時20分33秒
- 「なぁ、吉澤」
やわらかく、独特の響きを持った声。
ベッドの傍に寄って、自分を見つめる瞳。
自分の中でゆっくりと頭をもたげてくる欲望に気づき、ひとみは必死でそれを抑えようとした。
「どうかしたんか?」
「………どうかって?」
「ん。さっき、様子が変やったから、ちょっと気になってな」
「………………」
「やっぱり、矢口おらへんと、寂しいん?」
- 386 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時21分23秒
- 矢口さん………?
裕子に言われるまで、真里の存在を忘れていた。
「違います。別に、何でも……」
労わるような視線を、正面から受け止めることができない。
この人は、いつもこんなに優しげな眼差しをしてたんだろうか。
一緒に暮らし始めてかなり経つが、どこか冷めて、険を含んだものだと思っていたのに。
「そっか…。アタシでよければいつでも力になるから。おやすみ」
少しがっかりした色をにじませて言うと、真里によくしていたように、そして、遠い昔自分にしたように、くしゃっと頭を撫でる。
- 387 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時23分04秒
- その瞬間、自分の中で抑えてきたものが一気に弾け飛んだ。
離れていく裕子の手を捉え、引き寄せる。
「ちょっ、よしざ……」
不安定な細い体躯は、何の抵抗もなく、ひとみの胸に倒れ込む。
ひとみは素早く体勢を入れ替えて、裕子をベッドに押し倒した。
咄嗟のことで反応が遅いのをいいことに、バスローブの合わせ目に手をかける。
首筋に熱いひとみの手が触れ、思い出したように、裕子は手を突っぱねて抵抗を始めた。
「止めぇって…!!何するん、自分…」
でも、力の差は歴然としていて。
- 388 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時23分51秒
- ひとみはすぐに手首をつかむと、顔の両側に縫いつける。
そして、極力感情を押し殺した声で言った。
「力になるって…、言ったでしょ?」
その言葉に、ふっと裕子の抵抗の色が消える。
「言うたけど………」
だから何?と言わんばかりの表情。
怯えを隠して、わずかに震える声。
そんな表情を楽しむように唇の端を上げ、裕子の耳元でゆっくりと紡ぐ。
- 389 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時25分07秒
- 「中澤さんが、欲しい………」
――――だから、あなたを下さい。
「じょぅ…だん……」
驚きで見開かれた目。
「なんかじゃないです」
その証拠とばかりに、ひとみは深く口づける。
「んっ………」
呼吸さえも許さないように、深く、何度も重ね合わせて。
進入させた舌は歯列をなぞり、裕子のそれを追いかけて、絡ませる。
合間に漏れる吐息が、更にひとみの行為を後押しさせた。
- 390 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時26分34秒
- 脚を開かせて身体をねじ入れ、内腿に指を這わせると、押さえつけている白い身体がピクンと跳ねる。
「や…めっ…」
首を振り、口づけから逃れて抗議の声を上げる。
抗議は無視して、ひとみは標的を耳に移した。
耳朶を舐め、軽く歯を立て、ピアスを口に含む。
「あっ………」
「イヤじゃないでしょ?」
意地悪く、笑みを浮かべて。
「んな…こと……っ」
「もうずっと、ヤッてなかったんじゃないんですか?」
羞恥に染まる顔。
- 391 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時27分23秒
- 何で、こんな言葉を言ってしまうんだろう。
誰よりも愛して、誰よりも憎んできて。
大切にしたい存在なのに、自分の手でバラバラに壊してしまいたい。
自分自身はコントロールしていると思っていたけど、もう、自分のことさえわからない。
「ほんとは、欲しいんでしょう………?」
はだけた胸元に唇を寄せ、内腿を撫でていた手は下着の上をそっとなぞる。
「はぁっ………」
浮き上がる腰。
仰け反る喉。
思わず噛みつき、印を残したくなる白さ。
- 392 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時28分44秒
- 自分の欲望に忠実に、ひとみはその首筋に歯を立て、薄い皮膚を噛む。
「ぃ…あぁっ……」
裕子の顕著な反応に、征服欲がかき立てられる。
「な…んで、こんな………」
荒い息と共に吐き出された言葉。
何でかって?
言ったじゃないですか。
私は、中澤さんが欲しいんです。
- 393 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時29分49秒
- 「イヤなら、止めてもいいですよ」
そんな言葉とは裏腹に、ひとみの指は、裕子を高みへ昇らせようという動きを止めない。
そして、いつの間にか、裕子もそれを受け入れていた。
自分の内部に入れられた指を締めつけ、意思とは無関係のうちに、更に奥へと誘い込む。
苦しそうに眉根を寄せ、閉じられたままの瞳。
額にうっすらと浮かぶ汗。
時折上がる嬌声。
抵抗をくり返していた両手は、ぎゅっとシーツを握り締めて。
与えられる快感を闇雲に味わいたい。
でも、残る理性がそれを必死で押し止める。
葛藤を続けながらも、徐々に、裕子は快楽の海へと溺れていった。
- 394 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時30分32秒
――――――――――
- 395 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時31分25秒
- ぐったりとして動かない裕子を、ひとみはじっと見つめている。
抑えきれなくなった想いと欲望が、自分をここまで突き動かした。
ゆっくりとした呼吸をくり返し、ようやく、裕子は目を開く。
自分に焦点を結んだその視線が、痛かった。
「何で………?」
行為の最中も、何度となく口にしていた。
「アンタ、矢口のこと好きなんやろ?何で、アタシにこんなことしたん?」
裕子はふっと視線を逸らし、両腕を顔の前で交差させて、表情を隠す。
- 396 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時32分09秒
- ひとみは、思わず言葉に詰まる。
確かに、あの人と過ごす時間は楽しかったけど。
ほんとに好きなのは、矢口さんじゃなくて。
あなたのこと、憎むと同時に、心の奥底でずっと慕っていたのだと。
伝えたいことはあるけど、何から話せばいいのかわからない。
- 397 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時33分04秒
- ひとみが何も言えずにいると、裕子が続ける。
「なぁ、何でなん?」
語尾が震えていた。
裕子の泣きそうな声に気づき、ひとみは反射的に口を開いた。
「……ないで…」
ぽつりとつぶやいた声がよく聞こえなくて、裕子は顔を覆っていた腕を下ろし、ひとみを見上げる。
「泣かないで……。笑って、下さい。お願いだから………」
なおも弱々しい声音が続く。
- 398 名前:Liar 投稿日:2002年07月11日(木)06時34分13秒
- 裕子はそんなひとみを驚いたように見つめていたが、やがて、ゆっくりと身体を起こす。
引き寄せていたシーツが落ちて素肌が晒されるのも構わずに、俯くひとみをそっと抱き寄せた。
「アンタこそ、泣くなや………」
泣いてなんか……と思った瞬間、頬を伝った涙が、ぽたっと手の甲に落ちた。
それは1粒だけでは終わらず、後から後から落ちてくる。
もう、涙を止めることはできなかった。
促されるままに額を裕子の肩に押し当て、ひとみはただただ泣き続けた。
- 399 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月11日(木)10時21分28秒
- ついに待ち望んでいたなかよしが!?
なかよし激しくキボーン
- 400 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月11日(木)11時29分39秒
- なかよしキター!!!
このトライアングルどうなっていくんだ(w
- 401 名前:名無し愛読者。 投稿日:2002年07月11日(木)11時58分05秒
- 二夜連続更新・・・しかも怒涛の急展開。
吉澤の気持ちが溢れ出しましたね。
裕子の心理はどうなんだろうか?
もう目が離せません。乾杯〜!
- 402 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月11日(木)20時06分41秒
- この二人、異母とはいえ姉妹でしょ?
この先どうなるの?
- 403 名前:名無読者 投稿日:2002年07月12日(金)03時12分32秒
- 凄い事に・・・
どうなっていくんだ?
- 404 名前:名無読者 投稿日:2002年07月13日(土)16時19分33秒
- なかよし・・・待ってました。
吉澤は中澤にうけいられるのかな?
- 405 名前:作者 投稿日:2002年07月16日(火)03時11分16秒
- なかよしって、結構需要あったんですね。
ちょっと意外でした(笑)
まぁ、関係が関係なんで、苦手とされる方もいるかと思いますが…。
おつき合い頂けたらうれしいです。
では、更新します。
- 406 名前:Liar 投稿日:2002年07月16日(火)03時11分53秒
―――――夢を、見た。
- 407 名前:Liar 投稿日:2002年07月16日(火)03時12分33秒
- 晴れ渡る青い空。
満開の桜。
遠くに聞こえる喧騒。
思いついたように吹いて、桜を散らす風。
視線の先に、佇む人。
抜けるような白い肌と長い髪。
悲しげな瞳。
その瞳からこぼれ落ちる涙。
- 408 名前:Liar 投稿日:2002年07月16日(火)03時13分46秒
- 無意識のうちに、私は足を踏み出していた。
彼女は私に気づくと、目元をそっとぬぐって微笑みかける。
「何や、どうしたん?」
優しい眼差しで、おいでおいでと手招きする。
その声に誘われてふらふらと近づき、私は口を開く。
「お姉ちゃん、どこか痛いの?」
「えっ?」
「今、泣いてたでしょ。大丈夫?」
足元までやって来た私を、彼女はよいしょと抱き上げた。
「何や、見てたんか…」
ふわっと笑うと、私の髪をくしゃりと撫でる。
- 409 名前:Liar 投稿日:2002年07月16日(火)03時14分51秒
- 「もう痛くないの?」
ドキドキしながら、涙の跡が残る頬に手を伸ばした。
「あぁ。大丈夫やよ」
そう言って、彼女は私を抱き上げたまま、すたすたと歩き出す。
「どこ行くの?」
「ん?アンタ、あっちから来たんやろ?」
あっちと言いながら、遠くの騒がしい一角をアゴで示した。
コクリと頷いた私に、眩しい笑みを浮かべる。
「1人で戻れなくなったんやないの?連れてったるから」
- 410 名前:Liar 投稿日:2002年07月16日(火)03時15分59秒
- その言葉通り、私たちは喧騒の場にやって来た。
彼女に抱き上げられた私を、人ごみの中にいた母が見つける。
「あ、お母さん」
「お、見つかったんか。なら、はよ行きな」
私は彼女の腕からそっと下ろされた。
「ありがとう、お姉ちゃん」
すると彼女は、はにかんだような顔を見せる。
「裕ちゃんでええよ」
「ゆう…ちゃん?」
「あぁ。アタシの名前、裕子やから」
「わかった。ありがとう、ゆうちゃん。またねっ」
ばいばいと手を振る彼女の姿を背に、私は母の元へと駆けて行く。
その時、突風が吹いて、桜の花が一斉に舞った。
綺麗だなぁ…………。
- 411 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月16日(火)03時50分04秒
- 回想シーンだ!!
裕子は父の浮気現場でもみてたのかな?
でもそれだったらいくら小さい子でも吉澤のこと抱き上げたりしないだろうし・・・
なんで泣いてたんだろう?
- 412 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月16日(火)10時22分05秒
- CP・・・トライアングルでこのメンバーって
やぐちゅー→よしやぐちゅー→やぐよしってのが結構定番ですが
やぐちゅー→よしやぐちゅー→やぐよし→なかよしってめずらしい。こっから先もあったりして(w
先が早く知りたい(w
- 413 名前:名無し 投稿日:2002年07月18日(木)00時29分51秒
- 矢口はどうなるんだろう・・・
なかよし案外イイかも(w
- 414 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月21日(日)00時59分53秒
- やぐちゅー不足になってまいりました(w
なかよしもスキなんですけど(w
- 415 名前:名無し読者。 投稿日:2002年07月21日(日)03時41分32秒
- なかよしは始まったばかりだけど・・・
三人の関係はどうなっていくのかな?
先がめちゃくちゃ気になりまーす!
- 416 名前:作者 投稿日:2002年07月22日(月)02時32分07秒
- 今日のも含めてここ数回くらいの更新部分は、プロローグと同時くらいに書き上がってたんですけどね。
そこにたどり着くまでが長かった…。
や、これからも未定ですけど(汗)
自分で書いてて言うのも何ですけど、やぐちゅー不足ですね…。
それなのに……、やっぱり今はみっちゅー書きたい(苦笑)
では、今回の更新です。
- 417 名前:Liar 投稿日:2002年07月22日(月)02時33分07秒
- 「ゆ…ちゃん……」
意外な名で急に呼ばれ、裕子はびっくりして声の主を見つめた。
が、ひとみはあいかわらず眠ったまま。
「何や、寝言か……」
しっかし、寝言で裕ちゃんってのも変な話やな…。
あの後、ひとみは泣き疲れて寝てしまい、満足に話もできなかった。
それでも、なぜか放っておけない気がしてこうしてずっと傍についているのだが。
あんなことになって、戸惑ってないと言ったら嘘になる。
押さえ込まれた瞬間はひとみに対して恐怖を感じたし、今も自己嫌悪に近い感情を抱いている。
- 418 名前:Liar 投稿日:2002年07月22日(月)02時34分06秒
- でも、ひとみの不安定さはそれ以上に危ういもので。
それまで完璧に近かっただけ、その崩れようは尚更周囲の不安を誘う。
何が、あったんや…?
ひとみの穏やかな寝顔を見つめる裕子の表情も、ずいぶんとやわらかいものだった。
すると突然、何の前触れもなく、ひとみがぱっちりと目を覚ます。
「おはよーさん」
少しびっくりしながらも、不思議と可笑しさがこみ上げて、裕子は自然と笑みを浮かべてしまった。
「な…かざわ、さん?」
寝惚けているのか、ぼんやりとした視線。
「気分、すっきりしたか?」
「あ…、はい。えっと、あの、私…?」
しどろもどろに言葉をつなぐ。
- 419 名前:Liar 投稿日:2002年07月22日(月)02時35分05秒
- 「――――まさか、昨日のこと、覚えてませんでした、で済ませるつもりやないやろな」
幾分、真剣さを帯びた裕子の声と表情。
昨日のこと………。
もちろん、忘れるワケない。
ただ、その後が………。
ひとみの困惑を察したのか、裕子は先を続けた。
「アンタ、急に泣き出したんや。それこそ、泣き疲れて眠るくらいにな。……覚えとらん?」
あぁ。そう言えば……。
「いえ、思い出しました」
裕子は一瞬だけほっとした顔を見せたが、すぐにそれは変わる。
「じゃあ、もっかいちゃんと話したいんやけど」
昨夜よりは落ち着いたひとみだが、まだ、何から話せばいいのかわからなかった。
- 420 名前:Liar 投稿日:2002年07月22日(月)02時36分39秒
- さっき見た夢。
――――この人は、覚えて………いるワケないよな。
いや、あの出来事自体は記憶にあっても、それが自分だとは知らないか。
当たり前だ……。
「なぁ、吉澤は、矢口のことが好きと違うんか?」
裕子自身も昨日のような高揚した想いもなく、冷静に話せる状態である。
だが、ひとみの返答でどうなるかはわからない。
自分が愛して止まない真里とのこと。
真里自身が自分よりひとみを選んだのは、もうしょうがない。
それだけ真里を不安にさせ、ひとみの方がいいと思わせてしまったのは自分なのだから。
そして、ひとみも真里の気持ちに応えたと思っていた。
でも、違ったんだろうか。
「吉澤、どうなん?」
- 421 名前:Liar 投稿日:2002年07月22日(月)02時37分26秒
- 対するひとみは、まだ迷っていた。
話してしまえば、楽になれるかもしれない……。
でも………。
しばらくの間悩んだひとみは、ようやく決心したように顔を上げた。
「私は、中澤さんが、好きなんです」
「………………」
予想しなかったワケではないが、それでも驚くのに十分な答えだった。
出会ってからずっと、自分だけに冷たくあたってきたのは気のせいではない。
真里のことを牽制するような会話をした覚えもあった。
「本気…やないやろ?」
からかってるんと違うん?
矢口のこと、好きって言うたやん。
それに、アタシら父親が一緒なんやで?
- 422 名前:Liar 投稿日:2002年07月22日(月)02時38分17秒
- 動揺する裕子をよそに、覚悟を決めたらしいひとみは、淡々と続ける。
「―――12年前の、京都の実家でのお花見、覚えてます?」
いきなり何を言い出すんや?
訝しげな目を向けながらも、裕子はひとみの意図が読めず、口を挟めなかった。
「中澤さんの実家、すごく大きくて、庭も広くて、桜の木が何本もあって………」
思い出すような遠い目をして話し出す。
「その日、中澤さん、知らない子供に話しかけられたでしょう」
鮮明に甦る、その日の情景。
いや、夢のせいか…。
ひとみの口元に、笑みが浮かんだ。
- 423 名前:Liar 投稿日:2002年07月22日(月)02時39分27秒
- 「邸内で迷った子を、お花見の席まで抱き上げて連れて行ってくれて………。その子が『ありがとう、お姉ちゃん』って言うと、『裕子って名前だから、裕ちゃんでいい』って」
裕子の表情が、みるみるうちに強ばっていく。
「覚えて…ますか?あれ、私なんです」
返答がないのにも構わず、話は続く。
「子供の憧れに近いものだったんだろうけど、それでも忘れられなかった」
「そんな…。病院で会った時も、一緒に暮らし始めても、吉澤そんなことひと言も………」
まだ信じられないといった顔で言う裕子に、ひとみは複雑な目を向けた。
「そんなの、私が言いたくなかったからに決まってるじゃないですか」
- 424 名前:Liar 投稿日:2002年07月22日(月)02時40分56秒
- 大きくため息を吐くと、言い辛そうにぽつりぽつりと言葉をつなぐ。
「何年か経って、母からその人が中澤裕子と言って、自分の異母姉にあたると知らされたんです。
でも、その頃すでに自分の境遇というのがわかってて……。まぁ、要するに、不倫によって生まれた子供だってことですけど。
だから、同じ父を持つのに、この差は何なんだろうって考えるようになったんです。
そんな疑問と戸惑いが、次第に中澤さんに対する負の感情に変わっていって」
次々と明かされる新事実に、裕子自身、困惑していた。
ひとみの言う、12年前の少女のことは思い出した。
あの時、自分が泣いてるところを見られたことも、その涙の理由さえも。
- 425 名前:Liar 投稿日:2002年07月22日(月)02時42分00秒
- そして、今話しているひとみの過去。
出会ってからの数ヵ月で、初めてひとみ自身に触れたような気がする。
「中澤さんの存在を妬むうちに、あの時のことは、もうなかったことにしなければって。何だか変な話だけど、思い込むうちに、それこそ記憶操作でもしたかのように、自分の中でその出来事は失われていって………」
「じゃあ、昨日、急に思い出したってことか?何でなん?」
「だって、中澤さん、昨日泣いたじゃないですか。矢口さんの部屋で…」
言い当てられて、思わず裕子は息を呑む。
「それが原因なんか?」
- 426 名前:Liar 投稿日:2002年07月22日(月)02時42分47秒
- ひとみは大きく頷いた。
「初めて会った時の中澤さんも、泣いてたんです。でも、私を見つけて、ふわっと広がった笑顔がすごく綺麗だった………。だから、昨日も………」
あぁ、そうなんや。
泣いたアタシに気づいて、あんなに取り乱したんか。
それにしても、幼い頃のことをよぉ覚えてるな……。
高校生だった自分でさえ、忘れかけていたことだというのに。
- 427 名前:Liar 投稿日:2002年07月22日(月)02時43分39秒
- 「ずっと、気になってたんですけど……」
少しだけ、ひとみの声色が変わる。
視線でその先を促すと、安心したように言葉を続けた。
「あの時、どうして泣いてたんですか?」
あの時…ねぇ。
「そんなん聞いて、今更何が変わるワケでもないやろ」
突き放すように答えた途端、ひとみは焦って俯いてしまう。
「あ、いや、ずっと、気になってたんで、聞いてみただけです。別に……」
何で、こうも変わるのだろう。
昨日までの、いや、一昨日までのひとみとはまるで別人のような。
こっちが何を言おうが、どんな行動をとろうが、高みの見物のような態度を崩さなかったのに。
本当の姿は、実はとても弱い人間なのかもしれない。
- 428 名前:Liar 投稿日:2002年07月22日(月)02時46分28秒
- 裕子は嘆息して、話し始めた。
「あの時、少し前に結婚したばかりの親戚がおって、花見はその人たちのお祝いとお披露目も兼ねてたんや。
ほら、あの日は庭を開放して、近所の人たちも来たりしてな。内輪だけやったら、きっと吉澤のお母さんは来れなかったと思うし…。
で、まぁ、よくある陳腐な話なんやけど、結婚した男の方、アタシがちっちゃい頃から憧れてた親戚のお兄さんってヤツで。
それなりに、悲しかったんやな。誰もいないとこで、泣きたくなったん」
実際はアンタがおったけど………。
もう、とっくに忘れてしまった出来事だった。
誰もが経験するような淡い想いでしかなく、その後の自分は、その人と何の関わりもないところで生きてきたし。
東京に出てきて真里と出会い、自分は本気で愛する人を見つけたつもりだった。
何や、人生なんて、うまくいかないもんやなぁ……。
- 429 名前:読んでる人 投稿日:2002年07月22日(月)17時05分48秒
- 気持ちを弄ばれるカタチになってしまった矢口は、今後どうなるんだろう・・・。
- 430 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月22日(月)21時56分17秒
- なるほど姐さんが泣いていた理由は・・・憧れのお兄ちゃんの結婚でしたか(w
脆い裕子に吉澤・・・このカップル大丈夫なのか?(w
あぶなすぎ!!(w
- 431 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月23日(火)09時50分08秒
- みっちゅーかいてしまえ(w
こんな状態(矢口にはフラレ・吉澤には襲われ)では誰かにすがりたくなる!!断言(w
ってことでちょっぴりみちゅー書いちゃえ(w
- 432 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月25日(木)09時12分10秒
- オモシロイ!!でも。。。矢口の立場は?(w
- 433 名前:作者 投稿日:2002年07月29日(月)08時32分12秒
- レスありがとうございます。
う〜ん、矢口さん…どうなるんでしょうか。彼女の登場はもうしばらくお待ち下さい。
>>431 名無しさん
え゛〜、調子に乗って、みっちゅー書き始めてしまいました(汗)
あいかわらず、みっちゅーは筆が進むなぁ…と自分で感心(苦笑)
この話の設定ではないから、UPする機会、どっかで探しますけど。
では、更新します。
- 434 名前:Liar 投稿日:2002年07月29日(月)08時33分39秒
- 正直、今のひとみの言葉に嘘は感じられなかった。
本当の気持ちをぶつけてくれたのはうれしい限りで。
でも、自分はとてもじゃないけど、それに応えられるとは思えない。
「なぁ、吉澤」
はっとして顔を上げ、裕子を見つめる。
「アタシの気持ち、知ってるんやろ?」
遠まわしに拒絶の意味を含めて。
ひとみは眉根を下げ、今にも泣き出しそうな顔で小さく頷いた。
「アタシとアンタは、姉妹なんやから」
再び、コクリと頷く。
涙がこぼれそうになってきて、ひとみは思わず俯いた。
- 435 名前:Liar 投稿日:2002年07月29日(月)08時34分21秒
- 「信じてもらえへんかもしれんけど………」
ぎゅっと握り締められたひとみの手に、そっと自分の手を重ねる。
「最初こそは動揺もしたし、アンタの存在を信じたくない思いがあったのも確かなんや。でも、同居を承諾したのも、吉澤の力になりたいのが全てで……」
病院での出来事を思い出す。
初対面の人間を前に、柄にもなく取り乱した自分。
妹の存在という新事実に驚き、戸惑いながらも、ひとみの母を目の当たりにして感じたこと。
あの時の気持ちに、嘘はない。
- 436 名前:Liar 投稿日:2002年07月29日(月)08時35分32秒
- 「ごめん…なさい……」
不意に、ひとみが口を開いた。
「何、謝ってんねん。アタシの方こそ、人づき合い上手くなくて、やな思いさせたやろ。ごめんな」
裕子は重ねた手に少し力を込め、ひとみを下から覗き込むようにして小さく笑った。
「そう、じゃなくて……」
「そうやなくて?何やの?」
「あの………、ごめんなさい…」
ひとみからは謝罪の言葉しか出てこない。
裕子はため息を吐くと、俯くひとみの頭をそっと撫でた。
「落ち着いたら、また話そうや。な?」
そう言って裕子は立ち上がる。
- 437 名前:Liar 投稿日:2002年07月29日(月)08時36分14秒
- ひとみははっとして顔を上げた。
今、この瞬間を逃したら、もう二度と口に出すことができなくなりそうで。
この人に、許すと言って欲しかった。
自分の行いを、許してもらいたかった……。
「あっ、あのっ……」
焦ったせいか、すごく上ずった声になってしまう。
振り返った裕子は、わずかに目を細めてひとみを見下ろした。
「話せるんか?別に焦らんでもええで」
「今じゃないと…、話せなくなるかもしれなくて………」
その答えに、そぉか…と小さくつぶやいて、再び裕子はベッドの端に腰を下ろす。
- 438 名前:Liar 投稿日:2002年07月29日(月)08時37分09秒
- 渇いた唇をぺろりと舐めると話し出した。
「私のこと、怒って…ますよね…?」
――――怒ってないと言ったら嘘になる。
これまでの日々は何だったのかと問い詰めたくなる。
だけど、傷ついたのは自分だけではなくて。
むしろ、何年にも及ぶひとみの葛藤は、自分と比べものにならないものだろうし。
「怒ってる……」
少し低い声でぽつりとつぶやくと、ひとみはわずかに表情を歪めた。
「――――って、言って欲しいんか?」
「えっ?」
一瞬の後に続けた裕子の言葉に、ひとみの目が見開かれる。
- 439 名前:Liar 投稿日:2002年07月29日(月)08時38分13秒
- 「そりゃ、今まで何もなかったみたいな器用なマネはアタシにはできへんけど、大事なんはこれからのことやろ?」
「許して……くれるんですか?」
ひとみの縋りつくような視線に、ほんの数秒、囚われた。
しかし、裕子はそんな自分に呆れたように小さく肩を竦める。
「そんな言葉でええんやったら、いくらでも言うたるけど?」
そう言った直後、ひとみは大きく頷いた。
「言って、欲しいです…」
驚いた。
ひとみのことだから、こんな言われ方をしたら、間違いなく否定すると思っていたのに。
- 440 名前:Liar 投稿日:2002年07月29日(月)08時39分42秒
- 「アンタのこと、許すから………」
あまり心がこもってるとは言い難いが、それでもひとみは安心したように、少し表情を緩ませた。
ひとみにとって、良くも悪くも自分が大きな位置を占めてることを感じる。
でも、ひとみの気持ちに嘘はないと確信できるだけに、次の言葉が言い辛い。
――――アタシは、まだ矢口のことが好きなんや。
- 441 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月02日(金)10時51分12秒
- この作品でてるCPも話自体も大好きなんです。
1週間に1回の更新なら・・・もう少し大量更新を・・・とわがままを言ってみる(w
ここの掲示板で一番好きなスレなんで。。。待ちどうしくて(w
- 442 名前:名無し読者。 投稿日:2002年08月03日(土)13時15分05秒
- 純粋に面白いです。
- 443 名前:作者 投稿日:2002年08月03日(土)20時28分45秒
- この数日はいろいろありましたが…。
何か、後藤さんと圭ちゃんの卒業ってのにショックはないんですけどね。
少なくとも、去年の3月に比べたら全然ですし…。
タンポポの再編にはちょっとカチンと来ましたが、私的には平家さんのハロプロ卒業が…。
まぁ、話の内容とは一切無関係ということで、これからも進めていきます。
- 444 名前:Liar 投稿日:2002年08月03日(土)20時29分55秒
- 「でもな、さっきも言うたけど、アタシはアンタのそーいう気持ちには応えられへんで」
酷なことだとは思うけど、はっきりさせたかった。
昨夜のことは、ひとみばかりを責められないけど。
一時の熱に流されてしまった自分にも、非はあると思うけど。
それでも、アタシは…………。
「アタシが好きなんは……」
裕子が言いかけると、ひとみは焦ったように口を挟む。
「でもっ、矢口さんは…」
口にしてから、思わず言葉に詰まった。
- 445 名前:Liar 投稿日:2002年08月03日(土)20時30分35秒
- おろおろと視線を彷徨わせるひとみを余所に、裕子がその先を続けた。
「矢口は、吉澤のことが好きやって?」
そう仕向けたのは、他でもないひとみ自身で。
裕子の全てを奪ってやりたかった。
そんな醜い感情から生まれた出来事でしかなく。
つき合い始めてから気づいたけれど、真里のことは嫌いではない。
裕子を始め、誰からも好かれやすい人だというのはわかる。
好き…と言うか、好感を持てる人であるのは確か。
一緒にいるのは楽しいし、頼られる感じはうれしくて。
でも、それなのに、気づいてしまった自分の想いは止められなかった。
- 446 名前:Liar 投稿日:2002年08月03日(土)20時31分16秒
- 「アンタはこれから自分の気持ちに嘘ついてまで、矢口とつき合うつもりなんか?」
裕子に本当の気持ちを伝えた今のひとみには、そんなことはできなかった。
おそらく、裕子自身も許さないだろう。
でも、自分の気持ちには応えられないと、たった今、言われたばかりで。
もう、頭の中がぐちゃぐちゃになっている。
自分が何を考え、これからどうしていけばいいのかなんて……。
そんな時、裕子の手がさらりと頬に触れた。
ビクッとして思わず身を退くと、小さく笑った裕子の顔が視界に入る。
- 447 名前:Liar 投稿日:2002年08月03日(土)20時32分07秒
- 「別に、アンタ自身を否定するつもりやないから。吉澤にとって、アタシは頼れるような存在にはなれんの?」
――――何で、そんなに優しいんですか?
自分があなたに対して何を思い、何をしてきたかを知っても、まだそう言ってくれるんですか?
「吉澤は、アタシのことを恋愛対象でしか見れんの?」
裕子から重ねられる質問。
恋愛対象………。
何か、すごく自分に不似合いな言葉のような気がした。
この人のことを欲しいと感じたのは、恋愛として…なんだろうか。
疑問が残る。
ただただ、闇雲に求めていただけなのかもしれない。
- 448 名前:Liar 投稿日:2002年08月03日(土)20時32分56秒
- 「わからない…です。わからない……けど、でも……」
「でも?」
口ごもるひとみに、その先を促す。
「私は、中澤さんの、傍にいたい………」
ずっと、あなたを見ていたい―――。
恋愛でなく、子供の憧れを10年以上も引きずっていただけかもしれない。
でも、憧れなんかで済ませられるような気持ちじゃなくて。
欲しくて、無理やり手に入れて気持ちを伝えたけど、即座に拒絶されて。
それなのに、かける言葉と触れる手は優しくて。
- 449 名前:Liar 投稿日:2002年08月03日(土)20時33分42秒
- 「いつも傍におるやん。アンタが望めば、これからも」
そう言ってはくれるけど………。
「いっそのこと、嫌いだって言ってくれる方がよかった」
ひとみはぽつりとつぶやいた。
裕子はきゅっと眉根を寄せて、そんなひとみを見つめる。
「何でやの?」
「中途半端に優しくして、その一方で諦めろって……。すごく酷なこと言ってるの、わからないんですか?」
「―――だって、嘘、つけないやん」
ぽりぽりと鼻をかいて、視線を逸らす。
- 450 名前:Liar 投稿日:2002年08月03日(土)20時34分28秒
- 「嘘…?」
「アタシ、アンタのこと嫌いやないもん」
「…………………」
黙ったままのひとみを余所に、話し続ける。
「まぁ、苦手かって聞かれたら、そうやって答えたかもしれへんけど」
苦笑混じりに肩を竦めて。
「だから、吉澤が傍にいて欲しいって言うんなら、傍にいる。こうして、一緒に暮らすだけじゃあかんか?」
そう言って、再び見せてくれたあの笑顔。
ふわりと広がった、優しい笑顔。
ひとみは、その笑顔を見てふと気づく。
それは、決して恋人に見せるような甘えたものではなく、労わるような、包み込むような、そんな笑顔だということに。
- 451 名前:Liar 投稿日:2002年08月03日(土)20時35分20秒
- 気づくと同時に、心の中に落胆した思いが渦巻いた。
漠然とだけど、自分じゃダメなんだ…という思いが。
ひとみは、裕子から肉親以上の愛情を注いでもらえないことを感覚的に悟った。
それでも――――。
嫌われていたんじゃないという事実が、少しだけひとみの心を軽くする。
そして、ゆっくりと首を横に振った。
それを見た裕子は、安心したように顔を和ませて。
「そっか。じゃ、改めて、これからよろしくな」
まだ戸惑いが残るひとみの肩を、ぽんっと叩く。
裕子は今度こそ…という具合に立ち上がりかけたが、はっと気づいてまたひとみの隣に腰を下ろした。
「えっと…、あんな、矢口のことなんやけど―――」
言いにくそうに、微妙に顔を背けた。
- 452 名前:Liar 投稿日:2002年08月03日(土)20時36分12秒
- 矢口さん…か。
自分の中で、彼女に対する結論は出ていた。
「矢口さんには直接会って、ほんとの気持ちを言って謝ります」
嘘ばかりで固めてきた自分自身だったけど、一度、全てを無に返すのも悪くないかもしれない。
そんな達観した考えを持ったことに、ひとみ自身も驚いていた。
「正直に、私は中澤さんが好きだったって。――――構わないですか?」
伺うように裕子を見ると、ほんの少し、意外そうな顔をしていた。
まさか、ここまで豹変するとは思ってなかったのだろう。
自分だってびっくりしているんだから。
でも、裕子は意外そうな表情をすぐに押し隠して頷いた。
- 453 名前:Liar 投稿日:2002年08月03日(土)20時37分17秒
- 「あと…、勝手なことやと思うけど、昨日のことは言わんといて」
なかったことにしたいんや……と小さくつぶやく。
最後のつぶやきにショックを受けないと言ったら嘘になるが、裕子の気持ちは十分理解できる。
だけど、ひとみは忘れてしまいたくはなかった。
時と共に薄れていくのはしょうがないけど、無理やり忘れようという気にはなれない。
でも、それでいい。
裕子を抱いた事実と記憶は、自分だけが抱えていればいいんだから。
相手には否定され、存在しない出来事にされても。
それが、今までの自分の行いに対する罰なのかもしれない………。
ひとみは、裕子の言葉に頷いた。
- 454 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月04日(日)00時05分18秒
- ひとみが痛い(涙
でも、今から一緒に過ごすと・・・裕子の気持ちに変化がってことはないですよね?
みっちゃん卒業はちょっぴり凹みました。
・・・もちろん姐さん卒業の時の凹み具合と比べたら・・・少しなんですけどね
- 455 名前:読んでる人 投稿日:2002年08月04日(日)17時25分32秒
- 吉澤から真実を告白されたら矢口は相当傷つくと思うんですが・・・
まさか壊れたりしませんよね?
- 456 名前:名無し読者。 投稿日:2002年08月06日(火)14時06分09秒
- 目が離せません・・・この後どのように三人はなってしますのか?
- 457 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月10日(土)10時49分02秒
- さて・・・やぐちゅーになるのかな?
最終的になかよしなったりして(w
- 458 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月15日(木)15時25分41秒
- 作者さん・・・待ってます(W
- 459 名前:名無しちゃん 投稿日:2002年08月18日(日)15時38分35秒
- 続き楽しみにしてます。
- 460 名前:名無しちゃん 投稿日:2002年08月18日(日)15時41分30秒
- ごめんなさい!!ageちゃいました。
- 461 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月21日(水)22時34分53秒
- 放置じゃないですよね?
- 462 名前:作者 投稿日:2002年08月23日(金)07時32分14秒
- このスレで終わるかなーと思ってたけど、何だか終わらない気がしてきた…。
えっと、前回更新からかなり間が開いてしまってすみません。
そして、ようやく登場、矢口さん。
おかしいなぁ、主役の1人だったハズなのに(^^;
それでは、更新します。
- 463 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時33分58秒
- 「あっ……」
見知った人の姿を視界に認めて、ひとみは思わず声を上げた。
あまり大きな声を出したつもりはなかったし、それ以上に夕方のスーパーという場所のせいでかなり騒がしかったのだが、その人はふっとこちらを振り返る。
真っ直ぐに、視線がぶつかった。
あいさつしなきゃ…と思ったのとほぼ同時に、彼女は笑顔でこちらに向かってくる。
「よっすぃー。久しぶりだね」
「あの、こんばんは」
会ったことは二度しかないけど、向こうも覚えていたようだった。
「何、1人で買い物?」
ちょっぴり意外そうに、買い物かごを持つひとみを見つめる。
「いえ、1人じゃなくて…」
中澤さんと…と言いかける直前、声が響いた。
- 464 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時35分05秒
- 「あれ?なっつぁん?」
車のキィをバッグにしまいながら、裕子は小走りで店内に入ってくる。
「あ、何だ、裕子さんと来てたんだー」
なつみは面白そうな笑みを浮かべて、裕子の方に向き直る。
「こんばんは、裕子さん」
「あぁ、こんばんは。元気やった?」
笑顔で交わされるいつものあいさつ。
「珍しいですね。いつもこのスーパー使ってるんですか?」
「や、ちゃうよ。今日チラシ入って安いやん。だから、吉澤と車で行こうかってことになって。あぁ、そっか。なっつぁんの家ってこっちの方やったっけ…」
そこまで言って、思い出したように視線を上げた。
「あ、そや。矢口も…?」
なつみの表情を伺うように覗き込む。
- 465 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時36分01秒
- そんな気持ちを知ってか知らずか、なつみは笑顔のまま、首を横に振った。
「いえ、1人ですよ」
その時、明らかにほっとした表情を見せたのは、裕子の横にいたひとみだった。
裕子はちらりとひとみに視線を走らせ、すぐになつみへと戻す。
「矢口、元気にしてるん?」
「はい。あいかわらずですけど。あんまり会ってないんですか?」
「う…ん。まぁ、いろいろあってな」
曖昧な笑みで答えると、先を続けた。
「今度、一度会いに行こうかって吉澤と話しとるんやけど」
「あ、じゃあウチに来るんですか?楽しみにしてますね」
なつみは満面の笑みでうれしそうに言う。
- 466 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時37分02秒
- 「あぁ。まだはっきりしてないんやけどな。ま、そん時は連絡するわ。矢口にもよろしく言っといて」
それじゃ…と小さく手を振ると、裕子はひとみを促して歩き出す。
「あ、じゃぁ、失礼します」
ひとみはぺこりと会釈して裕子の後を追いかけようとしていた。
後ろを振り返りつつ去って行くひとみに、ばいばーい…と手を振ると、なつみは大きく息を吐いた。
「びっくりしたなぁ。まさかこんなとこで会うなんて………」
よく考えれば、それは当たり前のことだ。
裕子が言っていた通り、この店によく来るのはなつみの方で、今日は珍しく裕子たちが遠出したとのだから。
それにしても……………。
何か、普通に仲良くない?
帰ったら、矢口に話そう。
きっと喜ぶんじゃないのかなぁ――――。
- 467 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時37分43秒
――――――――――――
- 468 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時38分59秒
- 「ねぇ、矢口。今日ね、裕子さんとよっすぃーに会ったよ」
買い物を終えて帰宅し、2人で夕食を食べながら放ったひと言。
案の定、ものすごく驚いた顔をして、真里は食べる手を止めた。
「――えっ?ど、どこで?」
「いつも行くスーパーで。買い物しに来てたみたい」
「裕ちゃんとよっすぃーが?2人で?」
「うん。何かね、矢口に会おうかと思ってるって言ってた。こっち来てから、会ってなかったみたいだね。もうそろそろ1ヵ月くらいじゃない?」
真里は箸と茶碗をカタンと置くと、う〜ん…と唸る。
言われてみれば、それくらいになる。
まさか1ヵ月近くもなつみのとこに居座ることになるとは、正直思ってなかった。
「まぁ、すぐに会えるよって言って出てきたけど、あれってある種の社交辞令みたいなもんだし。いや、ほんとに会いたかったら矢口から会いに行くけどさ。裕ちゃんにもよっすぃーにも…」
- 469 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時40分04秒
- なつみも、何も事情を知らずに真里と同居を始めたワケではなかった。
真里がどこまで本心を話してくれたかはわからないけど、こうなった成り行きは何となく察しがついたし。
ちょっと追求すると、結構本音をこぼしてくれたみたいで。
「裕ちゃんとよっすぃー、どんな感じだった?」
予想してた問い。
まぁ、真里にしては当然の思いだったが。
「普通に仲良さそうだった。何となくだけど、裕子さんが変わったなぁって印象」
「裕ちゃんが?どーゆーこと?」
「いや、なっちもちょっとあいさつしたって程度だったから、そんなよくわかんないけど」
「なっちが思った通りのことでいいからさ。教えて。裕ちゃん変わってたの?」
何でもいいから…と頼み込むような必死な瞳が、なつみの胸を打つ。
あんまり真に受けないでよ…と前置きして、なつみは話し始めた。
- 470 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時42分38秒
- 「なっちが前に裕子さんとよっすぃーが一緒にいるとこを見たのって、よっすぃーの歓迎会の時と、矢口をここに送りに来た時だけじゃない」
真っ直ぐな眼差しでうんうんと頷く真里を見ると、何だか微笑ましくなる。
「歓迎会の時は、何か2人の間に壁があるって言うか、お互い牽制してるみたいに思ったの。まぁ、単に日が浅くて打ち解けてないのかなぁとか。
でも、今日会った時は裕子さんがよっすぃーに歩み寄ったみたいでさ。少なくとも、そーいう努力をしたんだなぁって」
「そう…なんだぁ」
何か考え込むように空を見つめる真里を横目に、なつみは言葉を続ける。
「よっすぃーもね、なっちの中ではすごいクールってイメージがあったんだけど、ちょっとおどおどした雰囲気で。
何て言うのかなぁ、年相応に見えた。戸惑ってる様子が新鮮だった」
- 471 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時44分10秒
- なつみの口から発せられる言葉に、真里はただただ驚くばかりだった。
でも、それらは全て、真里自身が心のどこかで望んでいたもので。
そう考えると、あの2人から逃げてきた…と自分を卑下する思いも薄れてくる。
もちろん、最初から「逃げ」じゃないと思おうとしていたけど。
2人に対して、どこか後ろめたい気持ちを持っていたのは確かだった。
家を出ると決心してからの自分の願い。
話した当初は無理なことだと思ったけど、裕ちゃん…ちゃんと守ってくれたんだ―――。
「―――ち?矢口?」
はっとして声のする方に視線を上げると、なつみのどアップが視界に入った。
「わっ、何だよ、なっちぃ。びっくりするじゃん」
「何だよじゃないっしょ。急にぼーっとしちゃって、何回呼んでも気づかないんだもん」
ちょっと膨れて口を尖らせながらも、その眼差しには優しさが見え隠れして。
- 472 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時45分33秒
- 「あぁ、ごめんごめん。何か、考え込んじゃってさ」
いろいろと………。
無意識のうちに周囲をシャットアウトしてたようだった。
「久しぶりに裕ちゃんちの話聞いたら、何か会いたくなってきたかも…」
真里がぽつりとつぶやくと、なつみは即座に同調する。
「あ、そん時はなっちも呼んで。なっちも会いたいっ」
純粋にみんなと会ってしゃべりたいという様子のなつみを見て、真里は思わず笑ってしまう。
「うん、そうだね――」
裕ちゃんもよっすぃーもなっちも、みんな一緒に遊んだりできたらいいよね……。
ぼんやりと、淡い期待を抱いていた。
2人に会えない日々は辛くもあり、でも、それと同時に、精神的に楽な日々でもあった。
忘れようとしたとか、そういうことじゃないけど、それでも今の生活に不満はなく。
- 473 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時46分17秒
- ―――でも、やっぱり会いたいよ…。
こうして離れてみると、自分がどれだけひとみに甘えていたのかがわかる。
今思うと、彼女に対しての想いは愛情だったのかさえ疑わしくて。
なつみと過ごす毎日は、寂しいという感情を持つこともほとんどなかった。
そして、頭に浮かぶのはなぜかひとみではなくて裕子のことばかり。
それは多分、家を出る時に彼女と交わした約束のせいかもしれない。
- 474 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時47分01秒
ふと、思い返す――――。
- 475 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時47分50秒
- 「裕ちゃん?入るよ?」
ノックの音に何の返事もない。
だが、起きてることは明らかで、真里はそのまま裕子の部屋に入る。
二度寝するという裕子自身の言葉通り、頭までシーツをかぶった彼女がベッドにいた。
もちろん、部屋の入り口に立つ真里に裕子の表情は見えなくて。
後ろ手にドアを閉めて、ベッドの脇へ立つ。
「ねぇ、裕ちゃんってば。まだ寝てないでしょ?」
衣擦れの音と、ベッドが軋む音がする。
シーツの中の身体の向きが変わったようだった。
真里は呆れたようにため息を吐いてベッドの端に腰を下ろし、シーツを引き剥がす。
ばさっという音と共に、不機嫌そうな、でも、いたずらを見つかったかのような裕子と目が合った。
- 476 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時48分37秒
- 「何やねん。アタシ、寝るって言うたやん」
ぶつぶつと不満そうにつぶやきながらも、本気で追い返そうとするのでもなく。
「そんな時間かからないから。ちょっとだけ、話そうよ」
「話なら、さっきしたやん。別に、矢口のこと止めたりせーへんで」
みちよの家から朝帰りした裕子に、自分とひとみのことを告白し、なおかつ、しばらくの間はなつみの家へ行くことを宣言したばかり。
「うん。裕ちゃんが矢口のこと大事にしてくれるのは、わかってる。ごめんね…」
その言葉を聞くと、裕子は身体を起こして真里の頭に手を伸ばす。
「謝るくらいなら、何で―――」
- 477 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時49分30秒
- 言いかけて、思い止まった。
真里の気持ちを尊重したかった。
でも、言葉にはしなくても、引き止めたい思いは目の前の真里に伝わっていて。
裕子はゆっくりと真里の髪を梳きながら、寂しそうな瞳で見つめる。
「アタシじゃ…ダメなんか?」
ぽろっとこぼれた裕子の本音。
「矢口、裕ちゃんのこともよっすぃーのことも、大好きなんだよ。ほんとに」
「アタシやって、矢口のこと大好きやで?」
真里の表情が強張り、搾り出すような声が紡がれた。
「――――何で、こーいう時になって、そんなこと言うんだよぉ…」
せっかくの決心が、鈍っちゃうんじゃん…………。
- 478 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時50分20秒
- 真里は慌てて頭を振り、この部屋に入った目的を自分に思い出させる。
「あのね、矢口が言いたいのは、別のことなの」
やんわりと拒否されたのを辛く思いながらも、裕子はそれに続く言葉を待った。
「よっすぃーと2人になったらさ、裕ちゃんの態度、変わるのかな」
「何、言うてるん?それが言いたいことなんか?」
眉間にシワを寄せて、訝しげな目を向ける。
「違うよ。あのね……」
ほんの少しの間、迷ったように視線をめぐらせた。
「裕ちゃんとよっすぃーに、もっと姉妹らしくなって欲しいなぁって思って……」
あいかわらず眉根を寄せたまま、裕子は真里を見つめる。
- 479 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時50分55秒
- 「やっぱりさ、何か変化が必要なんだと思う。矢口たちには。それがどういうカタチであっても」
裕子の視線を正面から受け止め、言葉を選ぶように。
「裕ちゃんとよっすぃー、似てるもん。うまく、いくと思うんだ」
「別に似てるとは思わんけど…」
口調はあいかわらずだが、裕子の表情が少し変わる。
そう言うと思った…と真里は小さく笑った。
その笑みに気づいたのか、裕子はぷぅっと頬を膨らませる。
「似てるからって、アタシらがうまくいくとは限らんで?」
ひねくれたようなコドモっぽい裕子を目の当たりにして、改めて彼女の弱さを実感してしまう。
- 480 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時51分36秒
- 「――――でも、がんばるわ」
不意に出た裕子の言葉に、真里は耳を疑った。
「えっ?」
「え、やないやろ。今アンタが言うたことやん」
微笑んだ裕子が、ちょっと眩しい。
「矢口が言うてること、わかるし。このままじゃあかんってのも。それに、アタシ、別に吉澤が嫌いとかやないもん」
「うん………」
その言葉と微笑みに、曖昧に頷いた。
- 481 名前:Liar 投稿日:2002年08月23日(金)07時52分21秒
- すれ違ってばかりだったのに。
散々、自分に不安な思いをさせた人なのに。
―――それでも、信じてしまう。
この人の言葉を。
そして、この人自身を。
「うん」
もう一度、今度は力強く頷く。
「矢口が羨ましくなるくらい、仲良くなってよ」
「まかせときぃ」
心なしか、答える裕子の表情が晴れた気がした。
- 482 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月23日(金)10時08分50秒
- うわあぁぁぁ〜!
更新されてる!!!
次スレどんどん作っちゃってください。なんならパート3ぐらい(w
やっと真里が出て行く時の裕子との会話が登場・・・待ってたです。
作者さんまだまだ頑張ってかいてください。とっても楽しみにしています。
- 483 名前:読んでる人@ヤグヲタ 投稿日:2002年08月23日(金)18時19分34秒
- 更新待ってました!!
矢口と裕ちゃんが復縁(?)する日近いかもしれませんね。
続き楽しみです。
- 484 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月24日(土)06時10分08秒
- 更新、今気づいた。不覚。
続き、めちゃめちゃ気になります。
楽しみ〜
- 485 名前:やぐちゅー中毒者セーラム 投稿日:2002年08月24日(土)12時03分34秒
- 今頃気づいた自分が情けないです
作者さん応援してますんでバリバリに頑張って下さい
- 486 名前:作者 投稿日:2002年08月25日(日)06時55分36秒
- 容量心配ならさっさと新スレ立てちゃえばいいのに…と自分で思うけど。
一応、このスレでの更新は今回まで。
短いからギリギリで入るかな?入んなかったらカッコわる…。
では、更新します。
今日のハロプロは現プッチSPらしいですが、自分としては「東京美人」初披露が全てだったりして(笑)
- 487 名前:Liar 投稿日:2002年08月25日(日)06時56分44秒
- あの日から、もう1ヵ月かぁ………。
裕子が変わったのは、自分との約束のせいなのか。
それとも、2人暮しという環境が必然的に彼女をそうさせたのか。
そんなのわからないけど、何だかほっとした。
一旦そう思えると、無性に2人に会いたくなって。
電話…してみようか。
何を話そうとか考える間もなく、真里はそれを行動に移していた。
- 488 名前:Liar 投稿日:2002年08月25日(日)06時57分26秒
- ケータイを取り出し、メモリーを呼び出す。
ボタンを押すのに一瞬だけ躊躇した。
1回、2回……。
耳に入る呼び出し音を数えてしまう。
ものすごく、ドキドキしながら。
5回……と心の中でつぶやいた途端、声が聞こえた。
- 489 名前:Liar 投稿日:2002年08月25日(日)06時58分19秒
- 『もしもし?』
――――懐かしい、声。
1ヵ月会わなかっただけなのに、懐かしく感じる声が。
「あ、えっと、矢口だけど…」
少しつっかえ気味で真里が名乗ると。
『……………………矢口さん?』
何秒間かの沈黙の後、名前を呼ばれる。
自然と頬が緩んでしまう。
「うん。久しぶりだね、よっすぃー」
『あ、そうですね。あの、元気…ですか?』
いきなりの電話で驚いたのか、真里以上につっかえつっかえで話す。
「元気だよ。よっすぃーも元気でやってた?」
『あ、はい。もちろんです』
- 490 名前:Liar 投稿日:2002年08月25日(日)06時59分12秒
- その時、電話の向こうで、微かに裕子の声がした。
どうやらすぐ傍にいるらしい。
『あ、矢口さんからの―――』
ひとみが、自分からの電話だということを裕子に告げたようだ。
裕子も何か答えたようだが、真里の耳には何と言ってるのかは聞き取れなかった。
しばらくして、再びひとみが真里に対して話し出す。
『ごめんなさい。ちょっと中澤さんと…』
「ん。別にいいよ。突然電話してごめんね」
『そんな、構いませんけど。えっと、中澤さんに用ですか?それとも……』
「いや、何か、急によっすぃーや裕ちゃんの声が聞きたくなってさ。ほら、今日なっちが会ったって言うから」
『そうなんです。さっきも、矢口さんに会いたいって中澤さんと話してたんです』
- 491 名前:Liar 投稿日:2002年08月25日(日)07時00分33秒
- ひとみの口から、中澤さんと話してた――なんて言葉を聞くとは……。
なつみからの話でわかってたことだし、それを望んでたハズなのに。
ほんとにうまくいってるんだなぁと実感すると、急に心の片隅で“寂しい”という思いが生まれてくる。
そして、そんな自分に気づいて驚いた。
何だ、矢口ってすっごい心狭い人間じゃん……。
複雑な心持ちで、ひとみとの会話を続けながら。
久しぶりに声が聴けてうれしいし。
ものすごく会いたいのに。
ちょっと低めの声で「矢口さん」って呼んで欲しくて。
この想いは嘘じゃないけど。
でも、何だろう、この変な気持ち―――。
電話するまでは、影もカタチなかったような。
- 492 名前:Liar 投稿日:2002年08月25日(日)07時01分35秒
- 『あ、じゃ、中澤さんと代わりますね?』
―――えっ?
ちょっ、今、何て?
言葉に出してひとみを引き止める間もなかった。
『矢口?』
聞こえてきたのは、裕子の声。
いつもは冷たく感じられる電話越しの声なのに、何だか暖かい。
「裕ちゃん…」
言葉が続かなかった。
『元気やったか?』
「うん。裕ちゃんも?」
『あぁ、元気やよ』
ひとみと交わしたのと同じような会話。
『たまにはこっちに帰ってきぃや』
裕子は何でもないことのようにさらりと言った。
- 493 名前:Liar 投稿日:2002年08月25日(日)07時02分36秒
- どんな顔してるかわからないけど、その声は優しくて。
「うん……」
『ずっと、なっつぁんのとこにいるつもりなん?』
それが無理だというのはわかっていた。
現実的な問題もある。
ワンルームの大学生のアパートだし、そういう点での不自由さがないワケじゃない。
まして、自分の住所は裕子のところになってるんだから。
「そのつもりはないけど…」
『や、別に急かすつもりやないから。矢口の納得いくようにな』
「うん、わかった。ありがと、裕ちゃん」
『あぁ。そや、今度、吉澤が会いに行きたいって言うてたで』
「あれ?裕ちゃんは会いたくないの?」
心の中の戸惑いを振り払うように、真里は軽い口調で尋ねる。
- 494 名前:Liar 投稿日:2002年08月25日(日)07時05分14秒
- 『…………………ってるやん』
「えっ?」
急に小さくなった裕子の声に、思わず聞き返す。
『会いたいに…決まってるやん』
切なそうな声に、思わず言葉を失った。
『アタシ、めっちゃ矢口に会いたいんやから』
真里の返事がないのに構うことなく、裕子は続ける。
『矢口の笑顔、はよぉ見たいわ』
「………矢口も、裕ちゃんに会いたいよ」
- 495 名前:名無し読者。 投稿日:2002年08月25日(日)10時01分40秒
- 吉澤は矢口にちゃんと告白できるのかな?
矢口も・・・
トレイアングルってむずいなー。(w
- 496 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月25日(日)12時44分07秒
- 矢口の心もまた揺れ動いてますねぇ…どうなるんだろ。
新スレおまちしております。
スレ容量よりも先に最大記事数(500)に達しそうですね。
作者さんの新スレ告知の分はあけておいてください>他の読者
- 497 名前:Liar 投稿日:2002年08月30日(金)10時37分02秒
- 遅くなりましたが、新スレ立てたのでその報告を。
花板です。
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/flower/1030670611/
これからも読んでいただければうれしいです。
それでは。
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