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Walkin’on the edge

1 名前:クロラ 投稿日:2002年02月15日(金)00時16分10秒
seekで書くのは、初めてですがよろしくお願いします。
目標、毎日、チョコ更新(w
2 名前:クロラ 投稿日:2002年02月15日(金)01時07分12秒
ついでに言うと、更新は明日から。
ちなみにこの話は山ナシオチナシ意味ナシです
3 名前:月曜日 投稿日:2002年02月15日(金)10時09分25秒

1. 後藤 真希

「ふ〜」

真希は、ため息ともとれるような吐息を漏らす。

――つまらない。
毎日がつまらない。
ただ単調な時間が過ぎて行くだけ――

ふと、電気屋のウィンドウ越しに見ることができるTVに目をやる。
ニュース番組をやっている。
最近、世間を騒がしている人を殺さないことで有名なチビッ娘強盗2人のモンタージュ写真。
きっとこの2人は、つかまるだろう。
でも、これだけ刺激的な生活を送っているならそれも幸せなもんだ。
真希は、そんなことを思った。

この国では銃がはびこり、子供だからといって警察が手加減することはない。
犯罪内容によっては、射殺もありえる。
(あたしも銃を持ったら少しは楽しくなるかな)
真希は、銃を持っていない。
はびこっているとはいえ、それは一部の話だ。
普通に暮らしている真希とは少し世界が違う。

(あたしが、銃持ったらムカツクヤツらは皆殺しにしてやるのに――)

「ふ〜」
真希は、再び息を吐き歩き出した。
4 名前:1.後藤真希 投稿日:2002年02月15日(金)10時10分53秒

真希がやや狭い路地に入ったときである。
パンッ、という乾いた音が聞こえた。
そんなに大きな音ではないがどこか破壊を連想させる音。

(……なに?)

路地には彼女以外、誰の姿もない。
したがって、音に気づいたのも彼女だけのようだ。
なんとなく真希は、音のした方向に向かった。
少し進むと、ガラガラの駐車場に人影が見えた。
真希は、音をたてないように気をつけながら少しずつ近づく。
どうやら少女のようだ。
妙に小柄でキラキラと眩しいくらいの金髪をしている。
そして、その手には少女の体と似つかわしくないモノが握られていた。

――拳銃

(さっきの音って銃声だったんだ)

真希は、のんびりとそんなことを思った。
その時、気配を察したのか少女がゆっくりと真希の方を振り返った。
5 名前:2. 矢口 真里 投稿日:2002年02月16日(土)15時49分25秒

(……見られた!?)

人の気配を感じて振り向くと、ボケーッとした少女が立っていた。
矢口は、すぐさま手にしっかりと握った銃を向ける。
少女は、一瞬、目を大きくし驚きを見せたが、すぐにその顔は平静に戻る。
「あたし、殺されるんですか〜?」
全くと言っていいほど危機感のない声。

(なんだ…コイツ?)

矢口は、訝しげに少女を見る。
少女がゆっくりと自分の方へと歩いてくる。
そして、矢口の横に転がっている男が見えるところまで来ると
「やっぱり、銃声だったんだ」と、納得したようにうなづいた。
矢口は、無防備な少女の後頭部に銃を向ける。
「やっぱり撃っちゃいますか?」
振り向かずに少女は言う。

(なんなの、マジで……)

矢口は、次第に少女に興味を覚えてくる。
「あたし〜、死体ってはじめて見ました」
少女は、矢口の方を振り返る。
まだあどけなさの残る容貌。

(ふーん、結構カワイイじゃん)

矢口は、銃を下ろす。
少女は、銃を向けられたときよりも驚いたようだ。
その瞳が、「どうして殺さないの?」と、訴えかけているのが分かった。
6 名前:2.矢口真里 投稿日:2002年02月16日(土)15時50分47秒

「アンタんち、泊めてくれない?」
「へ?」
唐突な矢口の言葉に少女は目を丸くする。
「行くとこないんだ」
事実だった。
矢口は、丁度、家を出てきたところだったのだ。
その家には、死体が転がっている。
だから、もう帰ることはできない。

「行くとこないんだよ」

矢口は、もう一回おなじことを繰りかえした。

(この少女に断られたらどうしよう…?)

――殺せばいいだけのことだ。
でも、この子はきっと断らない……なんとなくそんな気がしていた。
7 名前:2.矢口真里 投稿日:2002年02月16日(土)15時52分28秒

「いいよ〜」
案の定、少女はそう言ってヘラッと笑った。
「じゃ〜、行こっか」
どうやらOKのようだ。少女は、矢口に背を向けて歩き出す。
彼女の名前は、後藤真希というらしい。
あまり、矢口のことを詮索してこない。一緒にいて楽な相手だった。

(…神経がタフならいいんだけど)

「さっきの人って知り合い?」
さっき?…あの殺した男のことか……
「ううん」
「そ〜」
それだけで、会話は途切れる。
普通なら、知らない人をどうして殺したの?とか、
なんで行くところないの?とか、いろいろ聞いてきてウザくなると思ったのに……

(なんなんだろう、ホントに)

矢口は、今日3回も同じことを思った。
波乱には慣れっこなのか、それとも、なにが起こっているのかも分かっていないのか――
「もう、つくよ〜」
落ち着いた口調。
まるで、自分が転校生でクラスメイトになった学級委員から
学校の中を案内してもらっているような気分だった。
8 名前:1−2.矢口真里 投稿日:2002年02月17日(日)15時29分28秒

後藤の部屋は思ったよりもキレイだった。
「はい、ど〜ぞ」
「ん」
後藤は、ジュースを持ってきてくれる。
のどが渇いていたので素直にそれを受け取った。

沈黙。

「あー、1人暮らしなんだっけ?」
どうやら必要最低限のことしか喋る方じゃなさそうなので、なんとなく聞いてみた。
「え〜、うん。でも、お母さんの店が近くにある」
「ふ〜ん」
「何日ぐらい、ココにいるの?」
不意に後藤が言う。
「明日には、出るよ」
「どこ行くの?」
「えーと……」
すぐにここを出ると考えていたのは事実だが、
そのあとのことを全く考えていなかったため、矢口は口ごもる。
しかし、少し考えたあとに「…行く先は、決めてない」と、正直に言った。
どっちみち、明日にはお別れする相手だ、わざわざウソをつく必要もない。
矢口は、そう思っていた。
しかし、後藤の口からは矢口が予想もしないような言葉が出てきた。
9 名前:1−2.矢口真里 投稿日:2002年02月17日(日)15時30分39秒

「じゃぁ、後藤もついていってい〜?」

「はぁ?」
(な、なに言ってんの、こいつ?)

冗談かと思って見ると、どうやら本気らしく真剣な顔をしている。
もしかしたら、こいつはいまだに状況が分かっていないかもしれない。
状況を把握してたら人を殺してた私を家になんて連れて来れないはずだ。
そう思って、とりあえず後藤を試すつもりで言ってみる。

「ついてきてもいいけど、これだけは覚えといて。
 もし、ウザイことしたら頭ブチ抜くよ。今日だけでも、あたし何人か殺してんだから――」
指で銃を撃つフリをしてみせる。
これだけやれば状況が飲み込めるだろう。
そしたら、一緒について行くなんて言えるわけない。
しかし後藤は、別に先ほどと変わらぬ様子で矢口を見つめて「オッケー」と微笑んだ。

矢口は、思わずその顔をじっと見つめてこう思った。

(超信じらんない……)

10 名前:1−3 保田 圭 投稿日:2002年02月17日(日)15時32分33秒

ハロー通り3丁目にある古びたアパートで死体が発見されたと通報を受け、
2人の刑事が調査に向かった。

「キリキリ行くわよ、石川っ!!」
「ハイッ!」

…ったく、なんでこの私がこんな新人の面倒みなきゃいけないのかしら?
と、保田は秘かに思った。
石川は…というと、返事をしたはいいものの殺人の行われた部屋ということもあってか
尻込みをして、なかなか部屋に入ってこない。

「石川――っ!!!」
保田の怒声が飛ぶ。
「ハ、ハイィッ!!」
石川は、身を震わせながら恐る恐る部屋へと入る。
上司である保田の顔の方が死体よりも恐ろしいと思ったかどうかは定かではない。
しかし石川は、血塗れの死体を見ただけで真っ青になっている。
保田は、呆れたように深くため息をつく。
「もう、あんたは近所の話を聞いてきて」
見るに見かねた保田はそう言って、今にも倒れそうな石川を追い出した。
11 名前:1−3 保田 圭 投稿日:2002年02月17日(日)15時33分42秒

――被害者の名前は、安部なつみ 20 死後約1〜2日経過

(カワイイ顔してるのに……)

見たところ、銃で一発。
何も盗られてないってことは――
「怨恨、かしら……」
保田は、死体を前にして呟く。
「保田さんっ!!!」
突然、石川の甲高い声が部屋の外から聞こえてきた。
(入ってこいって、もうっ)
保田は、重い腰を上げ石川の元へ行った。
12 名前:1−3 保田 圭 投稿日:2002年02月17日(日)15時34分40秒

「…なによ?」
「あ、はい。どうやら、被害者は2人暮らしだったみたいですよ」
石川は、真新しい手帳を見ながら言う。
「2人?つまり、もう一人、この部屋の住人がいるのね…で、そいつは何処?」
「それが……今、行方不明ですね〜」
「ハァッ?」
「近所の人の話によると、姿を見なくなったのは1.2日前ぐらいで……」

(1,2日前っ!?かなり怪しいわね)

「で、そいつの名前は?」
「えーっと、本名不明、被害者が矢口と呼んでたらしいです」
「矢口、ね」

保田は、石川からの情報を手帳に書き込む。
ま、そいつが犯人で間違いはないだろうけど――
「それじゃ、アンタは、もっと詳しくその矢口ってヤツの人相とか特徴とか聞いといて」
「…保田さんは?」
「あたしは、検死に立ち会うわよ」
保田の言葉に、石川はサーッと青くなる。
保田は、それをチラッと見て
「ホントにあれで刑事なのかしら?」と、呟いた。
13 名前:間奏 投稿日:2002年02月17日(日)15時35分17秒


  ――気違いじみた夜の中
        激情のままに突き進め――
14 名前:水曜日  2−1 矢口真里 投稿日:2002年02月18日(月)14時50分45秒

「ねぇ、やぐっつぁん」
後藤が、先を歩く矢口に呼びかける。
やぐっつぁんというのは、彼女が勝手につけたあだ名だ。
「なに?」
矢口は、イライラしたように振り返る。
「後藤、やっぱり足が必要なんだと思うわけ」
「はぁ?足??」
(また、なに言ってんだ、コイツは…)

後藤の家を出てから2日目。
昨日は、都心の安いラブホに泊まった。
その間もいろいろ彼女と話しをしていた。
しかし、彼女の言葉はあまりにも簡潔なモノが多くいまいち意味をつかみ取れない。一緒にいるうちに少しは、コイツの言葉を理解できるようになれればいいと思っていたが、そう簡単にはいかないようだった。
15 名前:2−1 矢口真里 投稿日:2002年02月18日(月)14時51分45秒

「だから、あたしら逃亡中の身じゃん。
 お金だってないし、昨日みたいに電車とかバスとか使ってたら
 すぐつかまるんじゃないかな〜って」
後藤にしては、めずらしく長い発言。
それもちゃんとこれからのことを考えているようだ……矢口は、少し感心する。
「そっか……そーゆーことね。じゃぁ、車、盗もう」
「うんっ」
後藤は、すぐにうなづく。
(ホントにこいつ、あたしと会うまで普通に高校生やってたのかな〜?)
矢口は、呑気に鼻歌なんかを歌っている後藤を見る。
そう思われても、仕方のないほどの落ち着きっぷりだった。
16 名前:2−1 矢口真里 投稿日:2002年02月18日(月)14時52分47秒

大通りから少し歩いたところに行くと、違法駐車をしている車がたくさんあった。

「どれがいい?」
とりあえず矢口は後藤に聞いてみる。
矢口の中では、一ついい感じだと思う車があったが、
一応、後藤の意見も聞きたかった。
「ん〜」
後藤は、てろてろと車を見てまわり、ある一つの車の前で泊まる。
「コレ、かっこいー」
そう言って後藤が指さしたそれは、矢口が目を付けていたモノと同じモノだった。
空のように青いスポーツカー。
他の車に比べると100倍かっこいー。

(やっぱ最高じゃん、この子)

「あっ、でも、キーないよ」
今ごろ、気づいたかのように後藤が振り向く。
「……持ち主、待つか」
矢口は、答えた。
多分、知識があればキーなしでも動かせるとは聞いたことがあったが、
あいにく自分にはそんな特殊技能のようなものはない。

(それならば、奪うまでだ――)

矢口は、バッグに入れていた銃を腰に入れ替える。
後藤は、そんな矢口をワクワクした瞳で見ていた。
17 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月18日(月)19時12分22秒
この不思議な世界観、引き込まれますね。
この二人の会話も興味深い・・・。がんばってください。
18 名前:ももたろう 投稿日:2002年02月18日(月)22時13分38秒
おもろいです。
どんな展開になるのかドキドキしてます。
頑張って下さいね。
19 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月18日(月)22時30分04秒
なんかいいっす!楽しみにしてます!
20 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月19日(火)10時43分08秒
クロラさんって、2chでもしてますよね?
自分、かなりクロラさんの作品、好きなんで頑張ってください。
21 名前:クロラ 投稿日:2002年02月19日(火)16時07分04秒
レスがついてた、みなさまサンクスです。

ついでに、2chでの話はご内密に(w
22 名前:2−2 後藤真希 投稿日:2002年02月19日(火)16時08分10秒

2人は、かれこれ1時間は待っていた。
矢口は、待つのが嫌いなのかイライラした様子で車の傍を行ったり来たり繰り返している。
「ったく、このあたしをこんなに待たせんなよー」
「あはっ、やぐっつぁん、落ち着こうよ〜」
後藤は、1人でケラケラ笑う。
矢口は立ち止まり、そんな後藤を不思議そうに見ながら呟いた。
「あんたって、マジ、わけ分かんない」
「あ〜、よく学校でも言われてた」
後藤は、別段ムッとした様子もなくそう言ってまた笑う。

(楽しみだな〜)

後藤は、これから起こるであろうことをたのしみにしていた。
きっと矢口は、車の持ち主を殺すだろう。
血しぶきドバーッて感じで。きっとスゴイ見物のはずだ。
23 名前:2−2 後藤真希 投稿日:2002年02月19日(火)16時10分29秒

(あれ?でも、車奪って誰が運転するんだろ?)

後藤は、免許が取れる年ではないので免許を持っていない。
きっと矢口だって持っていないだろう。後藤は、そう思っていた。
「ねぇ、どっちが運転する?」
「どっちって…あんた、まだ免許取れない年でしょ」
矢口が、片眉を少しつり上げながら答える。
「自分だって、そうじゃん」
後藤は、てっきり矢口は年下だと思っていたのでそう言った。
それは、あまりに矢口が小柄なので仕方ないと言えば仕方なかったのだが……
「ちょっとっ!あたしは19だからもう免許持ってるよっ!!」
矢口は、明らかに怒ったようだ。
「ハァ、19っ!?ウソ――っ!!!」
後藤は、素っ頓狂な声を上げ、まじまじと矢口を見る。
「なんだよー」
「へぇ〜、年上だったんだ…」
後藤は、しばらく矢口をみるとのんびりとした口調で言った。
24 名前:2−2 後藤真希 投稿日:2002年02月19日(火)16時11分12秒

「何歳だと思って――」
「あっ!!!」
矢口が言いかけた言葉を、後藤はさえぎるように声を上げる。
「……なに?」
後藤の視線は、矢口の後ろに注がれている。
矢口は、振り返ってその視線を辿る。
視線の先には、2人が狙っていた青いスポーツカーにキーを差し込んでいる男がいた。
矢口が、音もたてずに動く。
銃を出して男に近づいていく。
――そして、静かな路地に猛々しい銃声が2回響いた。
矢口が、一発撃つたびに肘は滑らかに折られ、前腕は優雅に頭の方へ持ち上がった。

(かっこい〜)

後藤は、素直にそう思った。

25 名前:2−2 後藤真希 投稿日:2002年02月19日(火)16時12分16秒

「後藤!」
ボンヤリ見ていた後藤を矢口が呼ぶ。
後藤は、子犬のように矢口の元へ駆け寄る。
「はい、コレ」
矢口が、後藤に何かを手渡す。
それは、ずっしりと重い。――拳銃だった。
どうやら、マヌケな格好で血を流している男の持ち物らしい。
「あんたも欲しかったでしょ」
矢口は、そう言ってウィンクをした。

(かっこい〜)

後藤は、再び思った。


3日前、矢口と出会っていなければこんな感情知らなかっただろう。

――今、ものすごく世界は充実していた。


26 名前:2−3 後藤真希 投稿日:2002年02月20日(水)15時35分14秒

ほ〜らほらもっと刺激の強いのお望みですか〜♪

そんなフレーズが頭の中で浮かぶ。
(もちろんっ)
後藤は、矢口から貰った銃を嬉しそうにバッグから出し入れする。
その隣で矢口は、片手ハンドルで運転しながら大きく伸びをしていた。
この車を奪ってから3時間ずっと運転しっぱなしだ。
疲れもたまるんだろう。
それにしても――
(ホントに、免許持ってるのかな〜)
矢口は、どう見ても自分より3つも年上には見えない。
(…ま、どうでもいっか)
27 名前:2−3 後藤真希 投稿日:2002年02月20日(水)15時36分43秒

「なんか喋ってくれない?」
不意に矢口が言う。
「なにを?」
「なんでもいいよ、喋ってないと寝ちゃいそう…」
矢口は、本当に眠たそうに言う。
それはヤバイと、後藤は思い、なにか話を考えようとするがいまいち思いつかない。もともとあまり喋るのは得意ではない方だ。
「え〜と……」
そこからがなにも続いてこない。

「じゃぁさー、これからなにしたいとかない?」
矢口が見かねたように質問する。

(…したいこと、か)

「もっと刺激たっぷりな生活っ!!」
後藤は、少し考えて答えた。
28 名前:2−3 後藤真希 投稿日:2002年02月20日(水)15時37分24秒

「刺激たっぷりね〜」
矢口の口元に笑みが浮かぶ。
「そ、だから今度は後藤が撃ってもいいでしょ?」
後藤の言葉に、矢口は、後藤の顔を見ておおあくびをしてから言った。
「そりゃ、いいわ。あんたもムカツクヤツらは殺さないと楽しくないよね。
 超サイコーじゃん、2人で決めポーズとか考えちゃったりしてさー」
「そ〜そ〜、それで、伝説になるっ!!」

矢口が、キャハハとけたたましく笑う。
後藤も、つられて笑う。
2人は、まだ出会って3日とは思えないほど仲良く笑った。
29 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月20日(水)21時56分21秒
更新早くてイイ
30 名前:2−4 保田圭 投稿日:2002年02月21日(木)16時33分06秒

ハロー通りの殺人事件から3日後――
そう離れていないTC通りで男が殺されたという通報を受けた。
しかし、今回はハロー通りと違い、銃声が聞こえた後に
青いスポーツカーに乗った2人の少女の姿が目撃されている。
目撃証言から推測すると、片方はハロー通りの殺人に関与していると思われる
矢口という少女にこれは間違いないだろう。
(……だとすると、もう一人の少女は一体何者だ?)

「……保田さん」
「ん?」
石川が、またもや死体から離れたところで自分を呼んでいる。
(だから、そっちが来なさいよねー)
そう思いながらも、保田は石川の元へ行く。
「なによ?」
つい口調がきつくなる。
それに、石川が萎縮して「すいません」と頭を下げた。
31 名前:2−4 保田圭 投稿日:2002年02月21日(木)16時34分45秒

「…それで?」
保田は、軽くため息をついて石川に話を促す。
「あ、実はですね〜、この町の隣の町で捜索願が出されてる少女がいるんですよ」
「…………で?」
なんとなく、石川が言わんとすることは分かっていたが、念のため聞いてみる。
「署長が、ついでに探しといてくれって」
(…………やっぱり)
ここまで予想通りだと怒る気も失せる。
「あっそ、じゃ、そっちはあんたに任せるわ」
「え――っ!!」
石川の不満の声が挙がる。
(うるさいってのよ、その声は――)

「なんでですか〜?石川、殺人課の刑事なんですよ〜」
石川は、さらに不満をこぼす。
「殺人課〜?死体も直視できないクセに?」
保田は、嫌味たっぷりに言う。
「……うっ」
「文句言ってるヒマがあったら、さっさと聞き込みなりなんなり行ってきなさいっ!」
保田は、石川をシッシと手で追い払う。
「あのぅ、保田さんは…?」
「あたしは、検死っ!!」
――どこかで同じような会話をした気がする。

石川は、サーッと顔を青くする。
――どこかで同じ光景を見たような気がする。

「……ま、いいわ」
保田は、気にしないことにした。
32 名前:間奏 投稿日:2002年02月21日(木)16時35分22秒


――赤信号も
    制限速度もなにもない
          ぶっ飛ばせ――


33 名前:木曜日 3−1 矢口真里 投稿日:2002年02月22日(金)15時06分04秒

真っ白な霧に囲まれた空間。
そんな異様なところに矢口は1人で立っていた。
隣にいたはずの後藤の姿は見えない。
しかし、不思議と不安はなかった。
「…ったく、アイツ、どこ行ったんだよ」
そう、1人ごちる。

「…ぐち」

背後で誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。
矢口は、その声にビクッと体を強ばらせる。
あの声を矢口は知っている。いや、忘れるはずがない。
(でも、なんで?)
矢口は、全身に汗が噴き出してくるのを感じる。
(――殺したはずなのに)
どうしても、後ろを振り向く気にはなれない。
矢口は、目をつむり頭を振る。
「…やぐち」
すぐ近くで声がした。
(目の前に、いる…)
あたしは、この子のことは忘れられないだろう。
殺したはずなのに――確実に、殺してみたのに・・・
まとわりつく視線。
矢口は、ゆっくりと瞳を開けた。
34 名前:3−1 矢口真里 投稿日:2002年02月22日(金)15時06分57秒


「ハッ!!!」
矢口は、がばっと飛び起きる。
「…夢、か……」
自分に言い聞かせるように呟く。

あの子は、この手であたしが殺したんだ。
全ての血が流れ出て、冷たくなって、彼女があの天使のような笑顔をつくれなくなるまでずっと見てた。

――だから、生きてるわけがない。

矢口は額の汗を拭う。
(どうして殺したんだろう?)

――愛してたのに……

……きっと理由なんてない。
なんとなく、だ。
理由のないことは世の中どこにでも転がっている。
だから、あたしが愛しい人を殺してしまったって、仕方がない――
もともと、感情的な方だし……それを抑えるのに疲れたのかもね。

35 名前:3−1 矢口真里 投稿日:2002年02月22日(金)15時07分47秒

「今、何時かな?」
矢口は、再び呟くとベッドの上にある時計に目をやる。
「――ッ!!」
そこではじめて矢口は、隣に後藤が一緒にいることに気づいた。
(そっか…あたし、こいつと一緒だったんだ)
奇妙な安堵……
(こいつは、なんであたしと一緒にいるんだろう?)
後藤の健やかな寝顔を見る。
(それも、理由なんてないんだろうな)
矢口は、クスッと笑った。

時刻は、午前4時をちょっと回ったばかりだ。
昨日、ココ入ったのが夜の11時過ぎだったから、5時間か……
もうちょっと眠ろう。
矢口は、もぞもぞと布団をかぶりそっと後藤の手を握る。
それもなんとなくとった行動だった。

36 名前:名無し 投稿日:2002年02月24日(日)03時17分35秒
今日は、更新ナシですか?
37 名前:くろらふぁん 投稿日:2002年02月24日(日)12時33分40秒
月曜まで更新できないらしいですよ。
38 名前:名無し 投稿日:2002年02月24日(日)16時16分23秒
そうなんだ。
教えてくれてありがとー
39 名前:3−2 矢口真里 投稿日:2002年02月25日(月)17時58分02秒

その日の朝、やはりよく眠れなかった矢口は、
ぐっすりと寝入っている後藤をホテルに置いてコンビニに向かった。
コンビニには、眠そうな若い店員。多分、大学生ぐらいだろう。
少しイライラしていた矢口は、躊躇いもみせずにそれを撃った。
撃った後に、監視カメラがあることに気づいたが、
「まぁいっか」と呟くと、飲食物と地図を取って、ホテルに戻る。

矢口が部屋に戻ると、後藤はまだ眠っていた。
「起きろーっ!!」
矢口は、後藤の体に乗っかりながら大きな声で叫ぶ。
「…んあ、おはよぅ……」
後藤は、起きたかと思うとまたすぐに眠りの世界へと入っていく。
「後藤、起きろって!」
「z…z…z…」
返事はない。
「……置いてくぞっ」
矢口は、後藤の耳元でぼそっと呟く。
「んあっ!」
置いていくと言ったとたん、後藤はぱちっと目を開けた。
(ったく、現金なヤツ……)
40 名前:3−2 矢口真里 投稿日:2002年02月25日(月)17時58分49秒

「ほら、もう出発するよ」
「まだ、早くない?」
後藤は、目をこすりながら文句を言う。
「早いほうがいいんだって。ご飯は車の中でね」
そういって、矢口はさっきコンビニから奪ってきたものを後藤に手渡す。
「……これ、どうしたの?」
「ん?さっきそこのコンビニで…」
そこまで言って、矢口はしまったと思った。
「ふ〜ん、やぐっつぁん、1人で行ったんだ……」
その声には、かなりの棘がふくまれている。
「いや、後藤、起きないしさー」
矢口は、慌てて言い訳を考える。
「次、あたしが撃つって言ったのに――っ!」
後藤は、恨めしそうに矢口を見る。
「あは、あはは…あっ、今度ね、そうそう今度、うん」
矢口は、笑って誤魔化す。
「今度って〜?」
少し気を取り直したのか後藤が言う。
「…今日中だよ、今日中」
矢口の中では、もう次に行くところは決まっていた。
「ホントっ!?」
後藤は、嬉しそうに飛び跳ねる。
「だから、さっさと行くよ」
矢口は、そんな後藤を置いて、部屋を出る。
後藤も慌ててその後をついていった。
41 名前:3−3 後藤真希 投稿日:2002年02月26日(火)15時47分39秒

矢口が目指していたのは銃砲店だった。
銃があっても銃弾がなければ意味はない。矢口にそう言われて後藤も納得する。
2人で古びた店の前に車を止める。

まず、矢口が先に店に入った。
後藤は、少ししてから入ってくるように彼女に言われたので外で待つ。
ウィンドウ越しに中を見ると、店の中はつるっぱげ頭の油ギッシュなオヤジ1人だった。
矢口は、そいつとなにか話している。

(…そろそろいっかな〜)

後藤は、きっかり10分後、車から出て銃の安全装置をはずす。
使い方は、銃をもらってすぐ矢口に教えてもらっていた。
42 名前:3−3 後藤真希 投稿日:2002年02月26日(火)15時48分44秒

「こんちは〜」
と、後藤は言ってから店に入ったが、
店員は後藤をじろりと一瞥しただけでいらっしゃいの一言もない。
(ムカツク〜)
後藤は、カバンの中を探り銃を手に取る。
店員は、まだ矢口に向かって銃の説明を続けている。
「そうですね、こちらの銃ですと40口径の弾になりますが…
 今、国内ではこちらの銃が一番売れているんですよ……もし、よろしかったら……」
「じゃぁ、それ頂戴」
後藤は、銃を店員に向けるように2人の間に割ってはいる。
店員は、顔を上げ後藤の顔を睨む。
話のこしを折られたことにムッとしたようだ。
後藤は、手にしているものが銃だと店員が気づくと同時に、銃を撃った。
43 名前:3−3 後藤真希 投稿日:2002年02月26日(火)15時49分36秒

――見るとするのでは大違いだ。
後藤は、倒れる男を目にして少しばかりパニック状態に陥る。
矢口は、そのあいだに手際よく何丁もの銃を盗み、
弾薬も手当たり次第バッグに詰め込んでいく。
その時、店のチャイムが鳴った。
後藤は、思わず飛び上がって振り向いた。
(今までこんなに驚いたことあったっけ?)
しかし、それが逆に後藤に冷静さを取り戻させた。
入ってきたのは、赤ら顔の男2人組。
(むかつくっ)
後藤は、意味もなくその2人に怒りを覚える。
躊躇いもせず、2人の腹部あたりに向かって発砲する。
男たちは、一瞬なにが自分のみに起こったのか分からないような顔をした後、
ふらふらと逃げるように背を向ける。そして、そのまま数歩進むと倒れた。
後藤は、2人に近づいて念を押すように男たちの頭に一発ずつ打ち込んだ。

44 名前:3−3 後藤真希 投稿日:2002年02月26日(火)15時50分19秒

「そろそろ行こっ」
矢口が、死体を前にボケーッとしている後藤の肩を叩く。
「う、うん」
いざ店を出ようとして、はじめて2人は表のウィンドウの前に人が群がっていることに気がついた。
2人の車も囲まれていて、とても乗れるような状況じゃない。
「…ちっ」
矢口が忌々しそうに舌打ちする。
そして、勢いよく店の外へと銃を振り翳して飛び出した。
「おらっ、どけよっ!!!」

響く銃声。

(強行突破する気だ)
後藤もそれに気づきなんとか矢口の後に続く。
銃をうちながら走る。
何人かがしつこく追ってきていたが、2人にとって有利な偶然が次々と重なった。
うまい時に後ろを車が横切り、いいところに曲がり角もあった。
そして、矢口も後藤も飛ぶように足が速かった。

45 名前:3−3 後藤真希 投稿日:2002年02月26日(火)15時51分12秒

「ハァハァ、もう大丈夫じゃない?」
後藤の言葉に矢口はスピードを落とした。
まだゼーゼーと息をきらしながら、矢口ががなる。
「うまくまいたけど、車なくしちゃったよ!!超信じらんないっ!!!」
後藤も、車のことは残念に思っていた。

(あの青い車かっこよかったのにな〜)

「それで、どうだった?初体験は?」
怒っていたかと思うと、急に笑顔になる。
矢口は、そんなヤツだった。
「ん〜、やったあとはねすごい怖かった。死体が襲ってきそうでさ〜
 ……でも、今はすっごくいい気分で、また……」
「またやりたい…でしょ?」
矢口は、くるくると目を小動物のように動かす。
後藤は、頷いた。

(確かに、これはクセになる)

後藤は、手に握りしめた銃を高くかかげた。







46 名前:名無し 投稿日:2002年02月27日(水)01時57分28秒
なんかすっげー不思議な展開の話だ。
期待してる。
47 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月27日(水)12時49分22秒
2chでも書かれてますよね?
温かな皿、かなり好きでした。
この話は、ちょっとまた異色な感じがするけど、がんばってください。


48 名前:クロラ 投稿日:2002年02月27日(水)14時00分49秒
>46さん
作者、期待されると逃げます(w

>47さん
2chの話は、○秘で
でも、ありがとうございます。
実は、温かな皿って書いてる途中、あかんな〜って思ってたんですよ。
今ではけっこうお気に入りに入りつつある作品ですが。

と言うわけで、本日も更新
49 名前:3−4 矢口真里 投稿日:2002年02月27日(水)14時02分08秒

もう夕方も遅いのに太陽はまだジリジリとアスファルトを照りつけている。
車をなくしてからほとぼりが冷めるまで2人は裏通りを渡り歩いた。
この通りは妙な造りで、知らないうちに同じ所に戻ってきてしまうことが何度かあった。
すれ違う人たちは、一向に2人のことを気にとめる様子はない。
こうして、2人のように秘密を抱えて街を歩いている人間は、
一体、どれくらいいるんだろう。
50 名前:3−4 矢口真里 投稿日:2002年02月27日(水)14時03分25秒

「ねぇ、ここ入ろうよ」
後藤が、喫茶店の前で立ち止まる。
曇り一つない窓ガラス、輝く金銀の装飾。
上品そうなおばさんたち向けの店だ。
ショーケースには、バカみたいにちっちゃいクセに
妙に値段の張るケーキが並んでいる。
しかし、後藤が、ケーキケーキとうるさいので2人で店に入った。
51 名前:3−4 矢口真里 投稿日:2002年02月27日(水)14時04分21秒

適当にケーキを10個ほど注文する。
後藤は、次々と運ばれてくるケーキをほおばる。
よっぽどお腹がすいていたのだろう。
よく考えれば、朝ご飯を食べたきりなにも口にしていなかった。
「やぐっつぁんも食べたら?」
後藤が、ケーキの皿を突き出す。
矢口は、お腹がすいていないからとその誘いを断る。
「ふ〜ん」
後藤は、また食べるのに夢中になる。
店員が2人、自分たちのほうを見て、戸惑いがちに目を合わせている。
きっと、こんな風に食べる客が初めてなのだろう。
ここはやはり、自分たちとは違った上流の者たちの店らしい。
52 名前:3−4 矢口真里 投稿日:2002年02月27日(水)14時05分44秒

ふと、店員と目があった。
1人は、少しぽっちゃりしている。腕には、金色のブレスレットをいくつもはめ、
それが動くたびにチャリチャリと揺れる。
もう一人は、軽くカールした明るい髪をしている。落ち着きなく動く目線から少し神経質そうにとれる。
客は、孫らしき女の子を連れた老婦人。地味だけど品のある紫のワンピースを着ている。
「どうかした?」
口元のクリームを拭いながら、後藤が不思議そうに矢口を見る。
「…イヤ、別に」
矢口が視線をまったく動かさずに答えるので、
後藤はその視線の先を辿ることができた。レジのところにいる店員2人と老人と子供。
別に取り立ててなにも感じることはない。
後藤は、ため息をついてコップの水を飲み干した。
53 名前:3−4 矢口真里 投稿日:2002年02月28日(木)15時34分08秒

矢口は、考えていた。
あの子供を殺したらどうなるだろう……と。
きっと大見出しで取り上げられ、その瞬間を目撃した店員の話が載るだろう。
(世間に与えるインパクトはどの程度だ?)
自分でもそう簡単に子供は殺せない気はする。
だけど、世間と決別するにはここが一番いいような気もする。
極悪非道の犯罪者というのも格好いい。
(だけど…後藤はそう思わないかもしれない)
矢口は、後藤をチラッと見る。
驚いたことに後藤は上着の内ポケットを矢口に見せるようにしてニコッと笑った。
そこには、もちろん拳銃が収まっている。
(あたしと後藤の思いは一緒だ)
矢口は、うなづいた。
54 名前:3−4 矢口真里 投稿日:2002年02月28日(木)15時36分45秒

後藤が、銃を出す。矢口も同様に銃を出した。
後は、体が自然に動く。深呼吸して子供の顔の真正面に銃を突きつける。
老婦人のけたたましい悲鳴は、まるで舞台の開幕を知らせるベルのようだ。
躊躇などしなかった。子供の顔が吹き飛ぶ。
一緒に色とりどりのセロファンに包まれたキャンディーがバラバラと床に散らばった。
老婦人は、無様に腰を抜かしながらも必死で逃げようと這い蹲っている。その後頭部めがけて一発撃つ。
その間に、後藤は店員2人を引き受けてくれたらしい。
そして、今、ぽっちゃりした方が、ごぼごぼと血を吐きながら倒れた。
もう一人の店員は、少し離れたところで同じように横たわっている。
これで店に動くモノは、自分たち以外なにもなくなった。
矢口は、店を出る前にドアのところからもう一度ゆっくりと店内を見渡し
「よし」と、小さく満足そうな声を出した。
55 名前:3−4 矢口真里 投稿日:2002年02月28日(木)15時37分40秒


2人が、店を出るのと入れ違いに何人かの人間が慌てふためいて店に入っていった。
2人は、一目散に逃げ出す。
矢口は、後藤の手を引いて走る。
後藤は、ひぃひぃと声を上げて笑っていた。楽しくてたまらないようだ。
外は、もう真っ暗になっている。
2人は、舗道の淵にぐったりと座り込む。
今日は、やけによく走った。
きっと、一生分は走ったな、と矢口は思った。

それから、真っ赤なBMWに乗った男に道を聞くふりをして車内から引きずり出した。男が暴れると後藤が銃を撃ち放つ。
男は、まるで柘榴のように赤いものを撒き散らして倒れる。
2人で、BMWに乗り込む。
矢口は、男の死体をそのままにして車をゆっくりと走らせた
56 名前:3−4 矢口真里 投稿日:2002年02月28日(木)15時39分03秒

後藤は、いつまでたっても興奮が収まらないようだった。
いつもの彼女とは違い休みなく饒舌に喋り続ける。
「ねぇ、あん時さ、ゲームみたいじゃなかった?
 まさにピーンチって時に、やぐっつぁんがわいてくる敵を撃ちまくって――
 まぁ、あたしも撃ってたんだけどさ〜、なんか、やぐっつぁん、強すぎだし…
 あはっ、けっこう、きわどかったけど、かなり最高だったよね〜」
午前中の銃砲店でのことを言っているようだ。
「それに、今のだってよかったよね。なんかあたしらって息ピッタシって感じしない?
 だって、考えてることも一緒とは思わなかったよ〜」
そう言って、楽しそうに後藤は手を叩く。
「確かにねー、私も楽しかったよ」
矢口は、最高にリラックスした気分でスピードを上げる。
さっき後藤が言ったことに同感だった。

2人のチームワークは最高

 ――なんでもやれそうな気がしていた。

57 名前:3−5 保田圭 投稿日:2002年03月01日(金)13時23分57秒

TC通り、そしてココナッツガンズ、メロン喫茶……
その全ての事件に少女2人が目撃されている。
特にココナッツガンズでは多数の目撃者がいた。
その情報を元にモンタージュ写真がつくられた。
それは、これ以上精巧なモノはできないだろうという代物だ。
(この勝負、もらったわよ)
保田は、犯人逮捕の瞬間を想像して1人ほくそ笑んだ。
「石川、大至急これ新聞社と適当な店に渡してきて」
「ハーイッ」
毎回、返事だけはいいヤツだ。
58 名前:3−5 保田圭 投稿日:2002年03月01日(金)13時24分37秒

「…アレ?」
モンタージュを受け取った石川が、なにかに気づいたように言う。
「なによ?」
「いえ、こっちの子って……」
石川は、一旦デスクの上にモンタージュを置くと、胸ポケットから手帳を取り出す。
「ほら、この子に似てませんか?」
「ん、どれ?」
保田は、石川から一枚の写真を受け取る。
(……似てるどころか、まんまじゃないのっ!)


59 名前:3−5 保田圭 投稿日:2002年03月01日(金)13時26分42秒

「この子って誰よ?あんたの知り合いっ?」
保田は、石川の肩を乱暴に揺さぶる。
「ちょっと、やめてください〜。
この子のこと、この間、私、言ったじゃないですか〜」
「はぁ?この間??なんにも聞いてないわよ、
 あんたはどうしてそう重要な情報を…」
「捜索願の話、しましたよー」
「えっ!?」
保田は、ようやく石川を解放する。
そういえば、そんな話もあったような気がする。
確か、殺人じゃなかったから石川に任せたような……。
「それで、この子の名前は?」
石川は、乱れた上着をなおしながら答える。
「えっと、後藤真希。16歳ですね。都内の高校に通っていて、犯罪歴はありません。
 えー、火曜の朝にはもう姿が見えなくなっていたそうです」
「……火曜の朝」
月曜にハロー通りの殺人。水曜日にTC通り。
そして、今日も3つの事件――そのうち3つの現場で目撃されている。
(でも、何故?)
後藤真希には、全くといっていいほど動機がない。
被害者同士は、なんの繋がりもないし、この犯行は全て行き当たりばったりのような気がする。
60 名前:3−5 保田圭 投稿日:2002年03月01日(金)13時27分35秒

「ねぇ、石川」
「なんですか〜?」
「人ってさー、まったく見知らぬ人を理由もなく殺せるもんかしら?」
「ん〜、最近の若い子には多いですよね、衝動殺人って」
「…あんたはあるの?人殺したいって思ったこと」
飛び級してきた石川は、まだ若い。
年齢的には容疑者とたいして変わらないはずだ。
「ありますよ〜、保田さんとか…あっ!」
石川は、バカだ。
保田は、呆れた目で石川を睨む。
「いや、あの冗談ですよ、冗談……チャ、チャオーッ!」
石川は、自分の失言に慌ててフェードアウトしていった。
61 名前:3−5 保田圭 投稿日:2002年03月01日(金)13時28分39秒

衝動殺人――保田には、到底考えられないことだ。
しかし、確かにそうゆう行き当たりばったりに行われる事件は多くなってきている。
この間、最後まで大人たちを騙しながら
射殺されたちびっ子強盗団もそうだと言われているし……
繰り返される毎日が彼女たちにはつまらなすぎるのだ。
皆、刺激を求めているだけなのかもしれない。

保田は、モンタージュの2人の写真をただじっと見つめた。
62 名前:間奏 投稿日:2002年03月01日(金)13時29分29秒


          誰も止める者はいない

 出かけたいなら
 
            
 ――今だ



63 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月01日(金)18時32分35秒
すげー破滅的な展開だ。
期待大
64 名前:りか 投稿日:2002年03月01日(金)23時20分28秒
おもしろかったですよ。
うん。
続きがんばってください。
65 名前:名無し 投稿日:2002年03月01日(金)23時43分41秒
なにげにな、2人を追っかけてる保田と石川の会話がおもろいんだが
どう考えても、最終的にはバッドエンドになりそうで、チト怖い
でも、いい感じなんでがんばれ
66 名前:クロラ 投稿日:2002年03月02日(土)15時35分05秒

他のところで書いてるやつが、かなりバカバカしい話なんで
その反動で破滅的なんです、この話(w
レス、ありがとうございます。
67 名前:金曜日 4−1 後藤真希 投稿日:2002年03月02日(土)15時36分00秒

昨日は、車の中で眠ってしまったみたいだ。
気づくと、いつのまにか隣にいたはずの矢口がいない。
(どこ行ったんだろ?)
そう思いながら辺りをボーっと見回すと道の向こうから小さな人影が走ってくる。
「おはよー、後藤!!」
矢口は、朝から元気だ。手には、新聞紙を持っている。
「それ、どしたの?」
「ん?ああ、そこらの家から取ってきた」
人の郵便物を勝手に取ってきてもまったく悪びれる様子はない。
(ま、当たり前だけど)

68 名前:金曜日 4−1 後藤真希 投稿日:2002年03月02日(土)15時37分18秒

「それよりさー見てよ、これ」
矢口が、新聞を広げる。
「一面びっしり、あたしらの特集だよ」
矢口は、興奮しているのか少し顔が紅潮している。
「え?ってか、写真も載ってるじゃん」
モンタージュだが、それはかなり似ているように思えた。
「…まずいよ、これ」
後藤は、顔をしかめる。
「まぁ、確かにね。これ以上ないってくらい似てるよねー。
 よかったな、昨日、ホテルに泊まらなくてさ」
矢口の心配は、根本的には後藤とずれているようだ。
そう言いながら、車に乗り込んでくる。
「とりあえず、今日はガンガン走らせるよ」
「うん……でも、なんかアテはあるの?」
後藤の不安をよそに「そんなのないよ」と矢口は、あっけらかんと答える。
「……じゃぁ、どうすんの?」
「そうだねー、星に祈りつつ魂の欲するままに動けばいいって。
 どうするか考えるなんてあたしたちらしくないよ。ってことで、しゅっぱーつっ!!!」
矢口は、テンション高くそう宣言すると、
ゆっくりとアクセルペダルに足をのせ車を発進させた。
(星に祈る、か。それもいいかもね)
後藤は、さきほどの不安はどこへいったことやら、
車の振動を子守歌に再び眠りについた。

69 名前:読んでる人 投稿日:2002年03月03日(日)11時00分28秒
初めて読みましたが
スゲー面白いです。
これからも更新、楽しみに待ってます。
70 名前:4−2 矢口真里 投稿日:2002年03月03日(日)15時28分46秒

かなり長いこと車を走らせた。
しかし、まだお昼をまわったばかりだ。太陽もかわらず照りつけている。
「アレ?」
さっき起きたばかりの後藤がなにかに気づく。
「ね、あれってサツじゃない?ヤバイって」
ヤバイと言っているわりには、さして動揺をしてはいないようだ。
矢口も、そこに警察がいることにそんなには驚かない。
ただ、心臓がドキドキしてきた。人を殺した後の病みつきになる感覚。
「向こうが妙な動きしたら、あたしアクセル踏むから、
後藤はとりあえず片っ端から撃って」
「うん」
「あたしたちは、最高のチームなんだからさ」
矢口は、笑った。
71 名前:4−2 矢口真里 投稿日:2002年03月03日(日)15時29分56秒

2人の車がパトカーに近づく。
後藤が、矢口の手を不意に取る。
なんだか気恥ずかしく思ったが、矢口は後藤に答えるようにその手を握り返す。
お互いシッカリとつないだ手に力を込めた。

―― もしも、運が尽きたんだとしても 私たちは無敵だ ――

パトカーの横を通過した。
中には誰も乗っていないみたいだ。
(なんだ……)
矢口は、少し拍子抜けした。
後藤も同じ気分だろう。
2人で顔を見合わせ苦笑する。
72 名前:4−2 矢口真里 投稿日:2002年03月03日(日)15時31分36秒

さらに進むと、2人の警官が1人の少女を追いかけていた。
おそらく、さきほどのパトカーの乗員だろう。
少女は、ちょうど矢口たちの車の方へと逃げてくる。
「車、止めてっ」
後藤が叫んだ。矢口は、なにも言わず車を止める。
後藤は片手に銃を持ち、準備体操とでもいうように
首をゆっくりと回しながら車のドアを開ける。
そして、2人の警官がドサッという音をたてて倒れるまでうち続けた。
矢口は、運転席からその光景を映画のように眺めている。
走っていた少女は、警官が倒れたのを確認してから立ち止まる。
それから、後藤をじっと見つめ、一瞬、思案顔を浮かべてから
後藤のことを安全だと判断したのか近づいてくる。

73 名前:4−2 矢口真里 投稿日:2002年03月03日(日)15時32分46秒

足下は、スニーカー。
黒のジャケットの上になびくロングヘアーは、つやつやと輝きを放っている。
歩き方一つとっても威圧感があった。
「死体、見るのはじめて」
長身の彼女は、ポツリと呟く。
が、それでも動揺することもなく落ち着き払っている。
まるで、思考と表情との間に境界線が引かれているようだった。
彼女は、後藤に連れ立って車にいる矢口の元へ来た。
矢口は、女の顔をチラリと見る。
彼女の顔は極めて端正で、物腰にもどこか品があった。
74 名前:4−2 矢口真里 投稿日:2002年03月03日(日)15時34分18秒

「…アナタ達って、新聞に載ってたわよね」
女が、矢口と後藤の顔を凝視しながら言う。
「まぁね」
後藤が、答える。
「もし、行くとこないんだったら、ウチへ来ない?」
女は、後藤を無視して矢口を見つめている。
(…どうする?信用して大丈夫だろうか……)
――サツに追われていたんだから罠ってことはないだろう。同じ穴のムジナってとこだ。

矢口は、後藤を見る。
口にこそ出さないがやはり少し疲れた顔をしている。
このまま車で寝泊まりするよりは、この女の家で
少し寝床を確保した方が2人にとってもいいかもしれない。


75 名前:4−2 矢口真里 投稿日:2002年03月03日(日)15時34分57秒

「……O.K。あたしは、矢口。で、こっちが後藤……乗って」
簡単に名前だけ言って女を車に乗せる。
さっきの銃声に気づいた人間がいないとも限らない。
早いとこ、この場所を立ち去りたかった。
「私は、飯田カオリ。うちは、この道をずっと真っ直ぐ行ったところ」
矢口は、飯田の案内に従いながら車を動かす。
人と出会って殺さなかったのは、これが初めてだなと、矢口は思った。

76 名前:4−3 後藤真希 投稿日:2002年03月04日(月)18時10分06秒

飯田の家は、大きな灰色の家で、前の道にはまったく人通りもなく
他の家とも少し離れた場所に建っていた。
家の中は広く、壁には何一つかかってないし、
床もまるで人が住んでいないかのように塵一つ落ちていない。
全体的な印象を言えばなにもないのである。
2人は、飯田に勧められるままテーブルにつく。
キッチンから飯田が、お酒をもってくる。
「少し早いけどどう?」
矢口は、躊躇うことなくグラスを受け取る。
それを見て後藤も同じようにグラスを受け取った。
「じゃぁ、今日の出会いに乾杯」
「カンパーイ!」
3人は、グラスに口を付けた。
77 名前:4−3 後藤真希 投稿日:2002年03月04日(月)18時11分12秒

「そういえばさー、なんで警察に追われてたの?」
矢口は、けっこう遠慮をせずにモノを言う。
「あぁ、アナタ達と一緒よ、逃亡中なの」
飯田も、そういうことは気にしないのかこともなげにそう答える。
「もう少ししたら、この家も出るつもり。こういうのは、油断したらすぐ捕まるからね。
 大事なのは、そこそこの目標を立てて、それを達成することだよ」
飯田は、喋っている間、後藤のことを意識していないようだった。
矢口の方にばかり話を振っている。
「矢口たちは?」
「なにが?」
「どうして、人殺してるの?」
「ん〜、楽しいからかな」
後藤は、自分だってちゃんと話せるところを見せようとして、
2人の会話に割って入ろうと口を開いた。
が、その時、3人のいる部屋に静かに少女が入ってきたことに気づいてそっちの方を見る。

78 名前:4−3 後藤真希 投稿日:2002年03月04日(月)18時12分01秒

飯田より少し背の低い(と言っても2人よりは高い)少女は、
飯田と同じように端正な顔をしている。
飯田が、少女に気づき2人を紹介すると、少女はそれぞれのほうをみてぺこっと軽く頭を下げた。
それから、少女はキッチンに姿を消す。

「……誰?」
矢口は、すかさず質問する。
「ん〜、恋人。吉澤ひとみって言うの」
(ひとみ?…って女だよね〜恋人?)
飯田は、同性愛者らしい。

もしかして、あたしたちもそう思われてたりして。
あはっ、笑える。

79 名前:4−3 後藤真希 投稿日:2002年03月04日(月)18時12分37秒

吉澤は、コーヒーを手に当たり前のように3人のいるテーブルにつく。
(このことは、年近そうだし喋りやすいかな)
「あっ、あたし、後藤真希、よろしく〜」
「――ヨロシク」
吉澤は、無愛想に答える。
後藤は、当てが外れて少しガッカリした。
それから、しばらく矢口と飯田の話を聞いていると、
飯田が「食料買ってくる」と、いきなり立ち上がって出かけていった。
80 名前:4−3 後藤真希 投稿日:2002年03月04日(月)18時13分13秒

沈黙が訪れる。
しばらくして、吉澤は2人をじっと見ながら言った。
「2人って逃亡中なんでしょ?」
「うん」
「逃亡中にしてはあんまり不安そうでもないね」
肩肘をついたまま吉澤が言う。
「うちら、あんまし想像力豊かじゃないんだよ」
後藤は、答える。
「強がってるワケ?誰だって死ぬのは怖いでしょ。
 たとえ、それがどんなに世界に絶望してるヤツでも――」
吉澤は、クールに言い放って自らの胸をトンッと叩く。
「みんな、ここに恐怖心を隠してるもんだ」
アルトよりの声。
淡々と厳かな感じは飯田に少し似ている。
81 名前:4−3 後藤真希 投稿日:2002年03月04日(月)18時15分53秒

「そりゃ、その時が来たら怖いかもしんないけど、
 今んとこ、これ以上なにも望むことないじゃん。楽しくてスリリング」
矢口が、両手を広げて後藤に相づちを求める。
「そうそう、それにあたしたち2人だしね。それってけっこう大きいよ」
吉澤は、その言葉に共感を覚えたのか軽くうなづく。
「…まぁ、それはあたしとカオリにも言えることだ」
「そういえば、2人も逃亡中なんだって?なにやらかしたの?」
吉澤は、矢口の言葉に少し笑う。
そして、ほんのすこし…かろうじて分かるくらいのためらいの後、口を開く。

82 名前:4−3 後藤真希 投稿日:2002年03月04日(月)18時16分55秒

「…あたしが、人を殺したんだ。別にたいした理由はないんだけどね
 ――それで、1人で姿消そうと思ったら、カオリがついてくるって」
低い声で話す。
話している間、吉澤はほとんど目を伏せていたが、
時折、ふっと顔を上げてこちらの目をじっと見た。
そうやって注視してくる吉澤は、まるで人の心を読んでいるかのようにも見えた。
相手がほんの少しでも自分たちにとってよくないことを企んでいたりしたら、
すぐにでも見抜きそうな視線。
そして、たとえそれが分かったとしても決して動じない覚悟が出来ているようも思う。
それは、飯田にも同様のことが言えた。
いや、むしろ飯田のほうが、なまじフレンドリーな分、その気質が強いはずだ。
2人のそんな様子は、大きな不幸を甘受する女王のようだった。

「まぁ、それからあたしはカオリを守り、カオリはあたしを守る。そうやってきた」
「絶愛だねー」
矢口は、呑気に言う。
吉澤は、矢口の言葉にまた少しだけ笑うと、自分の部屋へと戻っていった。

83 名前:4−4 飯田圭織  投稿日:2002年03月05日(火)15時25分23秒

飯田が買い出しを終え家へ戻ると、2人の客人はテーブルに突っ伏して眠っていた。なんだかんだいっても逃亡は疲れるからね、と飯田は思った。
「…おかえり」
吉澤が、部屋から顔を出す。飯田は、大きな眼を細めて応える。
2人は、お互いを密着させあうようにソファに座る。
「どうだった、この2人」
「――変わってる」
飯田の問いに吉澤は短く応える。
(変わってる…か)
飯田は、2人の顔を交互に見る。
矢口は、ぜんぜん隠し事なしにベラベラとよく喋って楽しい子だ。
だけど、人からなにか不愉快な気分にさせられたりしたら、
すぐキレそうなアンバランスさも持っているような気がする。
後藤の方は、矢口に比べるとおとなしい。
というよりかは、きっとすごく口下手なんだろう。
他人にたいして常になにを言ったらいいのか考えているみたいだ。
84 名前:4−4 飯田圭織  投稿日:2002年03月05日(火)15時26分28秒

「この2人って、恋人同士かな?」
吉澤が、飯田と同じように2人を見ながら言う。
「…どうかな〜」
曖昧に応える。
飯田も、この2人はずっと恋人同士なのかと思っていたがあえて聞かずにいた。
だけど、あまり他人に興味のない吉澤も言うぐらいだから、
誰の目から見ても2人はそう映るんだろう。
2人は、お互いの体に触れることこそほとんどないもののよく身を寄せあうようにする。
いつも相手のことを見ているし、相手の動きを目で追うようにしている。
笑うときはいつも同じことで笑い、同じ言葉や同じ表現を使うことも多い。
暗黙の了解というやつがしっかりと形になっている。
知り合って、5日と言っていたが、とてもそうは思えなかった。
2人を切り離して考えることはおろか、どちらかが1人でいる姿なんて想像もできない。

85 名前:4−4 飯田圭織  投稿日:2002年03月05日(火)15時27分13秒

「…交信中、悪いんだけどさ」
いつのまにか吉澤が笑いながら、顔の前で手を上下に動かしている。
「な、なに?」
「もうそこまで警察きてるってことは、ここもそろそろヤバイよね」
その声は、なにかしらの考えを含んでいる。
飯田は、それがなんなのか分かってはいたがなにもいわず吉澤を見つめた。
「このあいだ言ってたダイヤ、やっぱり盗みに行くよ」
吉澤は、飯田の視線を受け止めつつきっぱりと言う。
ダイヤは、この家の近くにある大富豪の家の金庫にある。
それを盗んで逃亡資金にしようと言う計画を、吉澤は前から最後の作戦として練っていた。
「でも…」
「大丈夫だよ、1人暮らしらしいしさ」
吉澤は笑う。
飯田は、それでも吉澤に行ってほしくなかった。
ここまできて彼女を失ったら、自分は生きていけない……
86 名前:4−4 飯田圭織  投稿日:2002年03月05日(火)15時28分21秒

「そのヤマ、あたしたちがやろうか」

いつのまにか眠っていた矢口たちが起きていたらしい。
そう言うと矢口は、髪を整えながら明らかに後藤の言葉を待つ様子を見せたが、
後藤がなにも言う気配がないので自ら次の言葉を紡ぐ。
「楽しそうだしね。もちろんダイヤはあんたたちにあげるよ。
 あたしたち、別にさしせまった予定ないし、今日はヒマだからさ。な、後藤?」
後藤は、眠っているのか起きているのかいまいち分からないがとりあえず矢口の言葉に頷いている。
「…でも、あんたたちにそんなことしてもらう理由はひとつもないよ」
吉澤が言った。
「まぁね。でも、あたしたちのしてきたことって全部、理由なんてないから。
 それにカオリがあたしたちをこの家に泊めてくれる理由だってなかったでしょ。
 なにかするのに立派な理由なんかいらないじゃん」
矢口の言葉に、飯田と吉澤は顔を見合わせた。
87 名前:4−4 飯田圭織  投稿日:2002年03月05日(火)15時31分39秒

飯田は考える。
矢口の申し出を了解する必要はない。
だけど、もし断れば吉澤がダイヤの強奪に行くことになるだろう。
それは嫌だ……かといって、この2人に危険を冒させるのも嫌だった。
吉澤は、眉間にしわを寄せたままなにも言わない。
矢口はボケーッとしている後藤のほっぺを触ったりとちょっかいをだしている。
それを見て、飯田はどのみち2人の気持ちが変わらないだろうと言うことに気づいた。
もし、自分が行くなと言ったところで勝手に2人は行ってしまうだろう。
そして、そうなれば二度と自分たちの前に姿を見せてはくれないだろう。
たとえ、そこになにが待っていたとしても2人は行ってしまう。

なぜなら、飯田からなにを言われようと

2人はそうする、と、もう決めてしまっているから――


88 名前:4−4 飯田圭織  投稿日:2002年03月05日(火)15時33分18秒

飯田は、ダイヤ強奪を2人に頼むことにした。
とにかくそうしなければ、数時間後にはこの2人と永遠の別れをすることになってしまう。
しかし、2人がダイヤを取って自分たちの元へ戻ってきてくれれば
もう一度会うことは出来る。そうしたら、一緒に逃げようと誘えばいい。
「じゃぁ、お願いするよ」
「オッケー」
矢口が、後藤の手をムリヤリ取ってプラプラと宙にあげた。
「かおり……」
吉澤がなにか言いかけたようだが、じゃれ合う2人の姿を見てかぶりをふる。
そして、部屋から出ていった。


「……この2人は、恋人同士じゃないね。
 そういうのより血のつながった姉妹みたいって言った方が喜びそうだもん」

飯田は、部屋から出るとき2人に聞こえないようにそう呟いた。


89 名前:読んでる人 投稿日:2002年03月05日(火)16時25分43秒
矢口と後藤は、なんかボニー&クライドみたい・・・って思うのはオレだけかな?
飯田と吉澤は・・・う〜ん、なんだろう・・・。

この先、どーなるんだろう・・・ドキドキ、ワクワクしつつ次回更新を待ってます。
90 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月07日(木)00時19分03秒
今日は、2chのほうもここも更新なかったんですね。
予告もないとはめずらしい。
91 名前:4−5 保田圭 投稿日:2002年03月07日(木)14時41分47秒

「あの〜、保田さん、眠たいんですけど……」
深夜、保田は石川を連れてモーニング通りに向かっていた。
「仕方ないでしょ、私だってあんたなんか連れていきたくないわよ」
警察というのは、コンビ行動が原則とされている。
保田は、イライラとしながら車を飛ばす。
モーニング通りで警官が2人殺され、
そして、矢口と後藤の目撃情報をその事件付近で聞いてから、
保田の中には妙な確信が芽生えていた。

(今日中に逮捕できる)

92 名前:4−5 保田圭 投稿日:2002年03月07日(木)14時43分01秒

「いい、石川っ!今日でこのヤマ、カタつけるわよ。銃はちゃんと持ってるでしょうね?
いつもみたいにトロトロしてないで、キリキリ動いてよっ!!」
石川の返事はない。
いつも返事だけはいい石川なのに
……もしかしたら緊張で固まっているのかもしれない。
保田は、少し心配になってチラッと石川の方に視線をやる。
(……)
返事が出来ないはずだ。
石川は、興奮する保田とは対照的にシートに深く体をあずけ眠りについていた。
保田の中でプチプチとなにかが切れる音がした。

「石川――――っ!!!」

「ふぁ、はいっ――!」

保田の怒鳴り声と石川の甲高い返事が車内に響き渡ったことは間違いなかった。


93 名前:間奏 投稿日:2002年03月07日(木)14時43分47秒



   ――このときが続くなんて思っちゃいないよ。
        どうせ終わるなら、楽しく
     それがあたしらのモットーなんだから――



94 名前:クロラ 投稿日:2002年03月07日(木)14時44分34秒

明日明後日は都合により更新できませんですます。


95 名前:土曜日 5−1 後藤真希 投稿日:2002年03月11日(月)13時44分27秒

翌朝、矢口からまともにダイヤ強奪の話を聞いた後藤は、上機嫌に口笛を吹いていた。
「楽しそうだね」
吉澤が声をかける。
「楽しいもん」
後藤は、笑う。
奥のテーブルでは、飯田が大富豪の家の地図を描いてくれていた。
矢口は、熱心にそれを見ている。
後藤は、吉澤と一緒にキッチンの方でご飯を食べた。

「あんたたちさ、なに考えてんの、マジで」
吉澤は、後藤を見つめて言う。
「あはっ、なに?いきなり」
「だってさ、今回のヤマはまったくメリットないじゃん」
「そう?あたしたちは、楽しけりゃいいんだよ」
後藤は、吉澤にウィンクしてみせる。
「ふ〜ん」
吉澤は、ゆで卵の殻をむきつつ腑に落ちない顔をしながら相づちを打つ。
96 名前:5−1 後藤真希 投稿日:2002年03月11日(月)13時45分24秒

「…ところでさ〜、2人はどんな関係なわけ?あたしは、詳しく聞いてないんだよ」
吉澤が話を変える。その質問に後藤は、少し難しい顔になる。
(――あたしとやぐっつぁんの関係?)
なんだろう?よく考えてみると、無関係と言えば無関係なんだよね
……よく分かんないや。そんなこと今まで考えたこともなかったし。
だけど、ただ一つ分かるのは――
「やぐっつぁんは、あたしを退屈な世界からこっちまで連れてってくれた。
 似てるんだよ、きっと。どっかで繋がってる気がする」
後藤は、そう答えた。
吉澤は、なんとも言い難い表情をしたまま言う。
「…もしさ〜、ダイヤ上手くいったら、あたしたちと一緒に逃げない?」
「ん〜、どうかな?考えとくよ」
後藤は、いつもの吉澤の真似をしてクールに言った。
97 名前:5−1 後藤真希 投稿日:2002年03月11日(月)13時46分18秒

「できたーっ!!」
奥からカオリの声が聞こえた。
矢口が、2人のいるキッチンまで来る足音もする。
「後藤、行くよっ」
いつもの口調。これから自分たちが行うことに対して少しも緊張した様子はない。
「うんっ」
後藤は、勢いよく立ち上がった。

ダイヤを奪って落ち合う場所は、スーパーマーケットの駐車場。
人知れずさり気なく集まるにはそういう場所がいいらしい。
飯田は、握手をして2人を送り出した。
今までにもまして感情を隠したような顔をしていた。
逆に吉澤の方は、滅多に見せないらしい笑顔で2人を抱き締めた。
そして、「無事、帰ってきてよ」と、後藤の耳元で囁いた。
なんか家族みたい……と、後藤はふと思った。
98 名前:5−2 矢口真里 投稿日:2002年03月12日(火)15時33分55秒

太陽がぎらぎらと照りつけている。
車のエアコンを全開にしたところで熱いのには変わりない。
「もし、うまくダイヤをものに出来たら、カオリたちとの待ち合わせ場所に直行しようね。
 ダイヤ渡す前に捕まったらシャレになんないし」
暑さを紛らわせようと後藤に話しかける。
「そうだね」
後藤は短く答え、ふと思い出したように続ける。
「あっ、でもよっすぃ〜が一緒に逃げようって言ってた」
よっすぃ〜とは、吉澤のことだ。
いつのまにか、後藤は彼女のことをそう呼ぶようになっていた。
99 名前:5−2 矢口真里 投稿日:2002年03月12日(火)15時35分07秒

「やっぱりね〜。カオリがうちらを行かせたのもさ、後であたしたちを助けたいからだよ。
 ダイヤをさばいたら遠くへ逃げろって説得する気なんだろうね」
「やぐっつぁん、気づいてたんだ」
後藤は、目を丸くする。
「当たり前っ!あの2人は、あたしたちとは違うからね。なんか一本信念持ってる気がする。
 だから、渡すもん渡したらさっさと別れよ、話しないで」
「うん、それしかないね。
 あたしたちと一緒じゃ逃げれるもんも逃げられなくなるよ、きっと」
「そうそう」
矢口は、笑いながら頷く。
100 名前:5−2 矢口真里 投稿日:2002年03月12日(火)15時36分09秒

そのあとも、家に侵入するときの方法やそのつぎにすべきことなど
いろいろ作戦を話し合ったが、満足のいく答えが見つからないのでやめにした。
途中で、後藤が言ったのだ。
「計画なんてあたしらにはいらないよ〜」と。
その一言で、作戦会議は終了。
とりあえず決まったことは、自分たちはアンケートの調査員だってことだけ。
そのあとは、きっとどうにかなる。

――だって、それが一番、あたしたちらしいやり方だから。


101 名前:5−3 矢口真里 投稿日:2002年03月13日(水)13時23分36秒

手入れの行き届いた広い庭。
その奥に、窓がいっぱいついた大富豪の家は建っていた。
灰色の石段。溢れんばかりの花。絵に描いたような庭、絵に描いたような大邸宅。
矢口が想像していたのは、もっといかにもという感じの悪趣味な豪邸だったが
それとはぜんぜん違って、逆に好感の持てる造りになっている。
矢口は、呼び鈴を鳴らした。
後藤と相談した結果、矢口が喋ることになっている。
後藤曰く、そのほうがいいと思う、らしい。
もし、家に上がるのを断られたら、後藤がすかさず銃を出してムリヤリ中に入る。
ゲームの最終目的は、ダイヤの入った金庫。
その間の過程は、ポイントにはならない。

――ドアが開く。

出てきた男は、中肉中背、まぁ普通のおっさんだ。
矢口は、予定通りに話をする。
男は、特に疑う様子もなく2人を家へと招き入れた。

102 名前:5−3 矢口真里 投稿日:2002年03月13日(水)13時24分36秒

家の中は、かおりたちの情報通り男1人だけのようだ。
男は、2人にソファを勧めコーヒーを入れにキッチンへと足を運ぶ。
ソファはふかふかで部屋は明るい。
「すっごい家だね」
後藤がボソッと言った。
確かに、こんな家は矢口もはじめてだった。
ようやく男がコーヒーを持って、ソファに腰を落ち着ける。
その瞬間、矢口は銃を男に突きつけた。
どんな作戦でいくかは相変わらず思いつかない。
とりあえず、銃を前にした男の表情をよく見ようと少し近づいた。
男は、訝しげに銃を見ている。
恐れやパニックとはまったく無縁なのだろうか、顔色一つ変わらない。
「…あたしたちのこと知ってる?」
矢口は、男に聞いてみる。
「と思うよ」
「そう、なら話は早い。隣の部屋の奥にダイヤの入った金庫があるよね。
 それを開けて欲しいんだ」
男は、無抵抗のしるしに両手を宙に上げる。
やけにあっさりいきすぎる…でも、案外そんなものかもしれない。

103 名前:5−3 矢口真里 投稿日:2002年03月13日(水)13時25分33秒

矢口が、銃を男の肩胛骨のあたりに押しつけてぴったりと後を歩く。
さらにその後ろを後藤が、物珍しそうに辺りを見回しながらついていく。
隣の部屋に入る。
金庫は想像通りの形をしていた。
深いグレーでダイヤル式。
男は、ダイヤルのつまみに手を触れる。
ガチャッと金庫の開く音がした。
(よしっ!やっぱり上手くいった)
矢口は、後藤の方を振り返って笑った。

104 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月14日(木)02時23分46秒
今まで静かにロムってたけど、イヤな予感がするのはオレだけか・・・
UNBEATENの時も当たったオレの予感、当たらなきゃいいが(w
105 名前:クロラ 投稿日:2002年03月14日(木)14時32分25秒

>104さん
ん〜、多分、予想通りですね(w
ってことで更新します。
106 名前:5−4 後藤真希 投稿日:2002年03月14日(木)14時33分16秒

後藤は、振り返った矢口に笑い帰そうとして固まった。
矢口の後ろで銃を構える男のシルエットが見えた。

銃声が響く。

矢口が倒れた。

後藤は、無意識に男を撃ち殺した。
それこそ弾が空になるまで……男は、なんの反撃もせずに崩れ落ちた。

107 名前:5−4 後藤真希 投稿日:2002年03月14日(木)14時35分11秒

「……やぐ、つあ・・ん?」

矢口は、床に倒れてピクリとも動かない。
今までいくつも死体を見てきたからどういうものを死体と呼べばいいのかは分かっていた。
胸からこれだけ大量に血が出ていれば人は死ぬと言うことも――

矢口は、死体になっていた。

矢口の上にかがみ込む決心が付かない。
それに死んでいることは確かめるまでもなかった。

後藤は、ひたすら考えた。
つばを飲み込むのもやっとだった。
外は、真夏のように熱かったのに、体は何故かガタガタと震えている。
それでも後藤は、金庫からダイヤをかっさらう。
そこではじめて矢口の顔に目をやった。
矢口は、笑っていた。
笑顔を浮かべたまま矢口は死んでいったのだ。

(ここにやぐっつぁんを置いていけない)

血が滲むほど強く唇を噛みしめた。

108 名前:5−4 後藤真希 投稿日:2002年03月14日(木)14時36分32秒

家を片っ端から歩き回って毛布を取ってくる。
取ってきた毛布で矢口の死体を抱き締めるように包んだ。
そうすると彼女の小柄な体はすっぽりと隠れてしまう。
死体を車に運びながら、後藤は、矢口とこんなに触れあったことはなかったことに気づいた。

(こんなことならもっと抱き付いてればよかった…)
今さらながら後悔する。
そして、声も出さずに泣いた。普段、息をするのと同じように泣いた。
泣きながら、矢口のしていたことの見よう見まねでエンジンをかけ車を動かした。
(あたしたち、知り合って何日だっけ?)
数えてみる。
「最後に、なに喋ったんだっけ?」
もはや、涙でボロボロになってちゃんと喋れない。
後藤は、矢口に言うようにもう一度同じことを繰り返す。
「最後に交わした言葉ってなんだっけ?」
ひどくうろたえながら記憶を探ったけど、どうしても思い出せない。
思い出せるのは矢口の笑顔だけだった。

109 名前:しーちゃん 投稿日:2002年03月14日(木)16時26分50秒
泣ける・・・・。
110 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月15日(金)01時05分02秒
やっぱりヤグがーっ!!
なんで当てちまったんだ、オレ・・・
111 名前:読んでる人 投稿日:2002年03月15日(金)15時09分27秒
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああん!!!
ヤグタンがぁ!!!!!!
112 名前:クロラ 投稿日:2002年03月15日(金)18時51分04秒
ヤグ、ゴメン
このあとのこともゴメン
ってことで、更新。
113 名前:5−5 後藤真希 投稿日:2002年03月15日(金)18時52分03秒

車を街が見える小高い丘まで走らせて停めた。
木々の緑はとても色濃く、木漏れ日がキラキラと輝いている。
(ここでお別れだよ)
死体を車から降ろして地面に置く。
毛布の合わせ目を開く。
大切な死体。
それは、まるで生きている人間のようにキレイだ。
ただひとつ、胸に開いた大きな穴をのぞいて……
後藤は、矢口のキラキラと輝く髪を撫でながら、少し話しかけようと思った。
「…楽しかったよね……あたしたち、人生を他の人の倍の早さで楽しんだよね。
 やぐっつぁんもそうだよ…ね……」
矢口の唇にそっとキスをする。
そして、そのまま額をこすりつけてわんわんと子供みたいに泣きわめいた。

114 名前:5−5 後藤真希 投稿日:2002年03月15日(金)18時53分08秒

それから、車の中に置いてあったウィスキーを全部矢口の死体にかけた。
毛布を丁寧に閉じる。
きっとこの先矢口のことを思い出すたびにこの光景が目に浮かぶだろう。
芝生とこぼれる陽射し。

それに不似合いな――

ライターを手に、カオリが描いてくれた地図の端をあぶる。
火がちゃんとつくまでそれを手で持っていた。
それから、死体の上にそれを投げる。
ウィスキーはよく燃えた。
彼女の小さな死体は、小さな炎に村なく包まれていく。ゆらゆらと毛布が揺らめく。
まず、髪の毛がじゅうじゅうと音をたて燃え、それからすごい匂いがした。
木に手をついて吐いた。
泣きながら吐いた。
しゃくりあげるたびに窒息しそうになった。

115 名前:5−5 後藤真希 投稿日:2002年03月15日(金)18時53分58秒

ひとしきり吐きつくすと、後藤は車に逃げるように戻った。
ラジオのボリュームを最大にする。

頭が痛い…

耳も痛い…

全身が痛い……

後ろのシートにくすんだ血痕がついていた。

――楽しくないよ

退屈な世界から連れだしてくれる矢口はもういない。
この旅はもう終わってしまったのだ。
最後の仕事として、後藤はカオリとの待ち合わせ場所に行くことにした。


矢口と知り合ってまだ1週間もたっていなかった……



116 名前:5−6 後藤真希 投稿日:2002年03月16日(土)14時58分11秒

まずゆっくりと駐車場を一回りした。
もう涙はかれていた。
駐車場にいる大勢の人たちを見回す。
なかなか人の顔を見ることに集中できない。
自分が、この中から飯田たちを探していることさえ忘れてしまいそうだ。
比較的、人気のないところまで言ってやっと2人の姿を見つける。
2人が、後藤の方へ歩いてくる。2人とも少し強ばった顔をしている。
その表情を見て、後藤は自分がきっと尋常ではない顔をしているのだろうと思った。
車から機械的に降りると、突っ立ったまま2人がそばに来るのを待つ。
その時、吉澤と目があった。
吉澤は、今朝見せてくれた笑顔をつくってくれる。
117 名前:5−6 後藤真希 投稿日:2002年03月16日(土)15時00分05秒

「…一瞬、分かんなかったよ」
そう言って、吉澤は少し困ったような顔になる。
なにを話したらいいのかよく分からないようだ。こっちの顔をしげしげと見つめてくる。
後藤は、吉澤の声を聞いて少しホッとしたが、何も言葉が出てこなかった。
次に、飯田がじっと後藤を凝視してくる。
こんな暗い瞳をした飯田を見たのははじめてだった。
飯田は、おもむろに後藤を抱き締めその腕に力を込める。
慰めようとしてくれているのが分かり、後藤は再び泣き出してしまう。
飯田も吉澤もなにも言わずに後藤が泣きやむのを待ってくれた。


118 名前:5−6 後藤真希 投稿日:2002年03月16日(土)15時01分24秒

しばらく泣いた後、後藤は声を出した。
「やぐっつぁんが、撃ち殺された……さっき」
出てきた言葉はくぐもっていた。
自分の言い方が妙に場違いなものに聞こえる。
2人が息を呑むのが分かったが、もうなにも話したくなかった。

矢口のことは2人には、関係のないことにだから……


119 名前:5−6 後藤真希 投稿日:2002年03月16日(土)15時03分06秒

後藤は、さっきまで矢口の死体のあった後部座席に乗り込む。
もう泣きやんでいたが疲れて頭がボーっとしているので運転は飯田に任せた。
寝転がったまま、窓の外を眺める。
自分は、この世界から遠い存在のような気がした。
自分の知っている言葉でここにいる人たちに通じるものなどもうひとつも残っていないような気がした。
車窓には灰色のビル。荒れ果てた学校。レストラン。
あたりは暗くなっている。
いつのまにか8時を過ぎていた。
飯田が、ホテルに車を止める。
後藤は「じゃぁ、ここで…」と言った。
吉澤がグイッと後藤の腕をつかんだ。
「どこ行く気?あんた、今まともじゃないよ。少し眠って落ち着けって」
口調は乱暴だが、後藤のことを思ってくれているのが分かる。
後藤は、しかたなく2人の後を着いていく。
飯田は、なにも言わないがそれが彼女の悲しみの表現だということが分かる。
矢口がここにいないこと…
そして、もう二度と会えないことを心の底から悲しんでいるのだ。

後藤は、ベッドに倒れるように寝転がった。


120 名前:5−7 飯田カオリ 投稿日:2002年03月17日(日)17時29分36秒

飯田は、これからのことを考えた。

カオリは、ひとみと旅立つ。もらったダイヤをお金に換えて。
でも、嬉しくはない。捕まるのは分かってる。
それが法的にではなくても……自分の中では捕まったのも同然だ。
そして、犬のようにのたれ死ぬ

――やっぱり、2人を行かせるべきではなかった……
今さらこんなこと言ってもムダだけど……

「これからどうするの?」
吉澤が、後藤に尋ねている。
返事は期待していない口振りだ。
後藤は、これからなにが起きるのか分かっているような感じだった。
そのまま無言で寝返りを打ち壁の方をむいてしまう。
吉澤は、肩をすくめ同じようにベッドに横になった

121 名前:間奏  投稿日:2002年03月17日(日)17時30分39秒


――楽しく終わりなんて くるわけがない 
      気づかなかったあたしたちがバカだった――


122 名前:日曜日 6−1 後藤真希 投稿日:2002年03月18日(月)14時23分23秒

時計が明日から今日になるのを見計らって、身の回りのものを手探りで集めると、
大急ぎで暗い廊下に出た。
昔、家出したときのことを思い出す。
(あの時も誰かに見つからないか気が気じゃなかったっけ…)

一歩、外に出たとたんほっとした。
外へ出て、深呼吸をしてみせる。国道沿いを裸足で歩いた。

123 名前:6−1 後藤真希 投稿日:2002年03月18日(月)14時24分10秒

――後悔はしているの?

自分自身に聞いてみる。
答えは、NOだ。
矢口と知り合ったことを後悔なんてするわけがない。

――さよならも言わずにあの2人と別れたことは?

別に気にならない。
自分と違ってあの2人には幸せになって欲しい。


後藤は、矢口の銃を指の腹で撫でる
そこに矢口がいるようでなんとなく力が湧いてきた。


124 名前:6−2 保田圭 投稿日:2002年03月19日(火)14時39分36秒

「オッケーッ!!!!」
保田は、叫んだ。その声に隣にいた石川がビクッと反応する。
「ど、ど、どうしたんですか?」
「今、たれ込みがあったのよ。国道沿いを後藤真希らしき少女が1人で歩いてるって」
保田は、かなりハイテンションで言う。
「ひとり、なんですか?」
石川は、冷静に聞く。
「みたいよ」
そんなことはどうでもいいといったような口調。
まだなにか言いたそうな石川を無視して地図を開く。
「今、ここを歩いてるわけ。で、こっから出てくるところに待機しとけばオッケーね」
保田は、分かりやすいように地図に赤丸をつける。
それから、銃の安全装置をはずす。
「あんたも準備しなさいよ」
「え?」
「相手は凶悪犯よ、抵抗したら即射殺。分かった?」
保田は、口早に言う。
石川は、おびえたようにうなづいた。
「さぁっ!キリキリ行くわよっ!!」
そういうと、2人は車に乗り込み赤丸ポイントを目指して発進した。

125 名前:6−3 後藤真希 投稿日:2002年03月20日(水)16時18分49秒

日が昇ると、とたんに熱くなってきた。
(もうすぐ街に着く)
後藤は、足を早めた。
不意に色んな場面や会話が頭に浮かんでくる。
大きなこともちっぽけなことも、最近のことも昔のことも、
なんの法則もなくよみがえってくる。
でも、やっぱり一番多いのは矢口のことだ。
たった6日しか一緒にいられなかったのに、今まで生きてきた16年よりも幸せを感じた一瞬。
思い出そうとしたときには思い出せなかったのに、記憶っておかしいなと、後藤は思った。
126 名前:6−3 後藤真希 投稿日:2002年03月20日(水)16時19分41秒

――自分の同類に出会うこと。
親友探しのハウツーとかいうくだらない話はよく聞くけど、そんなの怪しいもんだ。
だって、あたしたちはお互いを見つけようとして出会ったワケじゃないから……
そう、やぐっつあんと出会ったのは、ほんの一握りの偶然。
それは、何光年分の1にあるかないかのことだろう。
それでも、あたしたちは出会い笑いあった。

銃をシッカリと握る。
まるで矢口と手をつないでいるかのように……

(捕まったりするもんか)

後藤は、まっすぐ前へと歩き続けた。

127 名前:6−3 後藤真希 投稿日:2002年03月20日(水)16時20分53秒

『後藤真希!!』

拡声器のようなもので突然名前が呼ばれる。
後藤は、ゆっくりと顔を上げる。
そこには、銃を構えた警察が後藤を待ちかまえるようにしてたっている。
『速やかに銃を捨てて投降せよっ!!』
アニメ声みたいな女が叫んでいる。
少しも怖くない。
逆に笑いさえ漏れる。
隣にはガメラのような顔をした女。
『もう、逃げられないわよっ!!』
(ムカツク)
後藤は、その女に銃を向けた。

128 名前:6−3 後藤真希 投稿日:2002年03月20日(水)16時22分16秒


――――銃声


気がつくと、後藤は地面に倒れていた。
ガメラが走ってくるのがコマ送りのように見えた。
アニメ声の女は、耳を押さえてうずくまっている。
銃は、遠くに転がっていた。

(…やぐっつぁん)

後藤は、銃に手を伸ばそうとして体が動かないことに気づく。
口の中で血の味がした。

(撃たれたんだ……)

ぼんやりと地面を見つめながら思う。
近づいてくる警官たちの足音が不思議に遠く聞こえた。

129 名前:6−3 後藤真希 投稿日:2002年03月20日(水)16時23分08秒


――これが当然だろう

――でも、あたしたちはいつだって逃げ切れると信じてたんだ…


 Fine


130 名前:クロラ 投稿日:2002年03月20日(水)16時25分07秒
 
終了です。
だれも読んでなさそうですが、一応ありがとうございました。
意味わかんねーよと、言われそうですが
こういう意味不明破滅的小説は、好きなので一度書いてみたかったんです。

このあと、さらに意味不明番外編をちょこっと書かせていただきます。
では
131 名前:chicken 投稿日:2002年03月20日(水)16時40分34秒
よんでたよ、個人的に好きだったけどな〜、うん
番外編にも期待します。とりあえずお疲れさま。
132 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月20日(水)18時22分09秒
お疲れです。
自分は、今までのクロラ作品のジャンルの中では一番好きですよ。
番外編もがんばってください。
133 名前:魔王 投稿日:2002年03月20日(水)18時29分43秒
読んでましたよ。
異色の小説っぽいと思いました。
お疲れ様でした。
番外編頑張ってください。
134 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月20日(水)21時08分56秒
お疲れ様っス。
いやあ、めっさおもしろかったっスよぅ!
自分的に雰囲気がすんごい好きな感じだったっス。
番外編頑張って下さい。
135 名前:読んでる人 投稿日:2002年03月21日(木)10時41分39秒
しっかりと読んでましたよ。
オレもこーゆー話好きです。
番外編も楽しみにしてますよ。

ところで、某2chでは活動休止したそうですけど、
こちらでは書き続けてくれるんですか?
136 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月21日(木)21時30分04秒
作者さん、2chで連載してる人だったんですか?
チト読んでみたい・・・それはさておき、面白かったっす。
番外編待ってます。
137 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月22日(金)22時10分06秒
hozen
138 名前:クロラ 投稿日:2002年03月23日(土)16時47分37秒
読んで下さった方がいたみたいでよかったです。
ありがとうございます。

>135さん
こっちで書き続けるかどうかはまだ決めてないですね。
というか、話はけっこう浮かんでくるんですがもいまいち文になってない気がするんで。
番外編書いた後の気分次第で書くかどうか決めます。
というわけで、番外編は明日から一気にいっちゃいます。
139 名前:Walkin’on the edge 番外編 投稿日:2002年03月24日(日)17時53分55秒


   これは、2人が出逢う少し前の物語



140 名前:Filament 〜矢口と安倍〜 投稿日:2002年03月24日(日)17時55分24秒

「ねえ、矢口はなっちのこと愛してる?」
ひとしきりの情事のあと、彼女はいつもそう尋ねてくる。
「…愛してるよ」
矢口はいつもそう答え彼女の髪に手を触れる。
そうすると、彼女はまるで天使のように愛らしく微笑むのだ。
矢口は、そうする彼女のことが好きだった。

141 名前:Filament 〜矢口と安倍〜 投稿日:2002年03月24日(日)17時56分39秒

――しかし、その日はいつもとは違っていた。
矢口は、いつもより少しだけ酔っていたし、
彼女は降り続く雨のせいでいつもより少しだけ機嫌が悪かったのかもしれない。
そして、いつもは彼女が尋ねるべきことを矢口が彼女に問うたからかもしれない。


  「ねぇ、なっちはあたしのこと愛してる?」


142 名前:Filament 〜矢口と安倍〜 投稿日:2002年03月24日(日)17時57分26秒


――それはただの気まぐれ

「…………どうかな?」
彼女は、矢口に背を向けるように布団に潜り込む。
彼女のとった態度は矢口を苛立たせるものだっただろう。
だからといって、矢口がそのあとにとった行動は確実に異常だといえた。
矢口は、彼女が護身用として持っている拳銃を不意に取り出す。

「…ねぇ、なっちはあたしのこと愛してる?」

もう一度だけ問うた。
彼女は、眠りについてしまったのかピクリとも動こうとしない。
矢口は、ゆっくりと彼女に銃を向け静かにその引き金を引いた。

――パン

乾いた音が部屋に響き、彼女はその胸から美しいバラを散らすように死んだ。

143 名前:Filament 〜矢口と安倍〜 投稿日:2002年03月24日(日)17時58分34秒


「……なっちは私のこと愛してた?」


3度目の質問。
しかし、彼女にはもう答えようもない。
もうあの天使のような笑顔を見ることもできない。

矢口は、薄く笑って部屋をあとにした。


 Fine

144 名前:fake 〜辻と加護〜 投稿日:2002年03月25日(月)19時15分35秒

天使の笑顔は小悪魔の罠!
人に優しい強盗!!
チャイルド?orアダルト?

多くの新聞にそんな見出しをプレゼントした2人組の強盗がいた。
145 名前:fake 〜辻と加護〜 投稿日:2002年03月25日(月)19時16分34秒

あるビルの入口を照らす光。
回るパトカーのランプ。

『犯人たちに告ぐ!!ただちに武器を捨て投降せよっ!!!』

拡声器を使い怒鳴る警察官。
完全武装までしている機動隊。

そして

 ――光に照らされた2つの小さな影。

146 名前:fake 〜辻と加護〜 投稿日:2002年03月25日(月)19時17分37秒

「うちらもココまでやな〜」
加護が小さく呟き、ぎゅっと手を繋いでいる辻を見る。
「楽しかったな、のの」
その顔は、少し寂しげだ。
辻は、涙目だがしっかりと加護を見てうなづく。加護は微笑む。
「ほな、最後行こか」
加護は、ゆっくりと右手に持っていた銃を宙へと向かって上げる。

『抵抗すれば射殺する!武器を捨てよ!!』

2人の様子を窺っていた警官が慌てて叫ぶ。
147 名前:fake 〜辻と加護〜 投稿日:2002年03月25日(月)19時18分35秒

「…3」
加護は、引き金に手をかける。
「2…」
辻は、少しだけ笑い繋いだ手を強く握る。
「……1」
2人は、宙を見た。

 ――――パンッ!!

空虚な銃の音。
1人の機動隊員が発砲したのをきっかけに何発かの銃声が響く。
「…待て!おいっ、あれはなんだ!?」
その中のある1人が、なにかに気づき声を上げる。

148 名前:fake 〜辻と加護〜 投稿日:2002年03月25日(月)19時20分32秒

宙から降ってくる紙吹雪。
加護の持つ銃から発せられたそれはキラキラと鮮やかに
 
――まるでそこにいる者すべてを嘲笑うかのように

それは、まさに子供のオモチャだった。
2人は、その銃で大人たちを見事に騙して見せたのだ。

「か、確保――!」
一瞬、呆けたようにそれを見上げていた機動隊一同が2人を取り囲む。
笑顔を浮かべて静かに横たわる2人。
2人は、それでも固く握り合った手を離さなかった。


決して人を殺さない――実際は殺せなかったのだが
史上もっともユニークな犯罪を見事にやり遂げた2人の少女は世界に不思議な余韻を残して逝った。


 
 Fine


   
149 名前:読んでる人 投稿日:2002年03月26日(火)14時06分59秒
番外編、短い話だけど、なんかイイです。
あと、これからも名作集で、書き続けてくださいね。
150 名前:クロラ 投稿日:2002年03月27日(水)14時50分06秒
>149さん
ありがとです。
ちょっと最近ネガテブまっしぐらだったんで(w

番外編は、今から更新するので最後です。
一番悩んで書いたからワケわからん
151 名前:fate 〜飯田と吉澤〜 投稿日:2002年03月27日(水)14時51分16秒

――人を殺す。

よくある悲劇の主人公みたいに愛だとか恋だとかそんなもののために?
馬鹿馬鹿しい。
自分は、そんなチープな感情に流されるわけない。
ずっと、そう思っていたんだ――

152 名前:fate 〜飯田と吉澤〜 投稿日:2002年03月27日(水)14時52分59秒

吉澤は、冷めた目で死体を見つめる。
ついさっき自分が殺した物体。
そして、その足でいつものバーへと向かった。

いつもと同じようにカウンタの隅の席に彼女は1人で座っていた。
その日、はじめて吉澤は彼女の隣に座った。
彼女は、チラリと気怠げに吉澤の方に目をやったみたいだった。
しかし、2人は会話を交わすことはない。
いつもの光景。

153 名前:fate 〜飯田と吉澤〜 投稿日:2002年03月27日(水)14時54分32秒

吉澤が、彼女をはじめて見たのはバーの裏口から出てすぐの通りだ。
彼女は、そこで顔色一つ変えずに男に殴られていた。
彼女を見て一番印象的だったのは、その全てを諦めたようなたたずまいだった。
吉澤は、その時少なからずその姿に興味を覚えた。
それは、1人で生きてきた吉澤がはじめて他者に関心を持ったことだった。

よくよく注意してみると、彼女は、吉澤のよく行くバーの常連だったらしく
そのあとも何度か姿を見かけることが出来た。
かといって、吉澤は話しかけるようなことはしなかった。
だから、吉澤が彼女の父親を殺したのは彼女を助けるためではない。
ただの偶然だ。
吉澤は、自分のとった理解不能な行動をそう思うことにした。
154 名前:fate 〜飯田と吉澤〜 投稿日:2002年03月27日(水)14時55分37秒

その時、街にいるたれ込み屋の薄汚い男が店に入ってきた。
まっすぐ、吉澤の元へと近づいてくる。
「おい」
男は、吉澤を見下ろし口を開く。
「さっきの殺し、お前だろ?」
にやにやと下卑た薄ら笑い。
「……さあね」
吉澤は、相手にする気がないのか短くしかし冷静に答える。
「いいのか、そんな態度とって。おれがサツにたれこみゃ一発なんだぜ」
男が少し凄んでみせる。
「あたしに人を殺す動機なんてないよ」
「ふんっ、動機か?…そうだなアレがこいつの父親じゃなかったらな」
男が、吉澤の隣に座っていた女をあごでしめす。
彼女は、やはり表情を変えずに吉澤を見た。

「……バカバカしい」
吉澤が、そう吐き捨てるように言って立ち上がると、自分より背の低い男を見下ろす形になる。
「あたしは、この女なんて知らないし、この女のために人生捨てるほどバカじゃない」
「………っ!」
おおかた、吉澤を恐喝しようと思っていただろう男はその意外な態度にうろたえる。
吉澤は、そんな男を冷たく一瞥すると店を出た。
155 名前:fate 〜飯田と吉澤〜 投稿日:2002年03月27日(水)14時56分25秒

女は、そんな吉澤の後を追う。
「待って!」
自分を呼び止める声に吉澤は振り向く。
はじめて聞いた彼女の声。

「……なに?」
「…さっきの、さっきの話、ホント?」
「さっき?」
吉澤は、あえて分からないフリをする。
「私の父親、あなたが殺したって――」
彼女は、その大きな瞳で真っ直ぐに自分を見つめる。
「あぁ…あれ、あんたの父親だったのか。知らなかったな」
吉澤は、今やっと気づいたかのように言う。
「それで?あたしをどうしたいの??」
「…………」
彼女は、なにも答えない。
「…用がないなら行くよ。今日中にこの街出たほうがいいだろうからね」
吉澤は、そう言って薄く笑うと彼女に背を向けた。

156 名前:fate 〜飯田と吉澤〜 投稿日:2002年03月27日(水)14時57分42秒

「…待って…あっ!!」
背後でズザッとなにかが擦れる音がした。
吉澤がその音に再び後ろを振り向くと、けっこうマヌケにこけている彼女の姿が目に入った。
「…ふー」
吉澤は、呆れたようにため息をつきながら彼女に近寄る。
「……手」
ぶっきらぼうに手を差しだす。
彼女は、その手を見るが握ろうとはしない。
吉澤は、肩をすくめ「勝手にすれば……」と言うと、また彼女に背中を向けた。

「…って」
彼女の発した細い声はちょうど店から出てきた酔っぱらいの叫びにかき消されはっきりと聞き取ることが出来ない。
吉澤は、その酔っぱらいに少しの苛立ちを覚えながら、顔だけを彼女の方に向けた。

彼女の口が再び動く。

「……連れてって」

今度は、はっきりと聞き取ることが出来た。
彼女の白く長い手が吉澤に向けられる。
吉澤は、押し黙ったまま彼女を見つめる。
157 名前:fate 〜飯田と吉澤〜 投稿日:2002年03月27日(水)14時59分41秒

愛とか恋とかそんなチープな感情知らない。
この胸にあるのがなんなのかも分からない。

ただ――


「一緒に逃げる?」


吉澤は、精一杯優しく微笑んで彼女に手を差しだした。
彼女は、一瞬驚いたように目を見開き
――それから、出会ってからずっと変わることのなかったその陰鬱な表情を
ふっと和らげてうなづく。

吉澤は彼女の手をしっかりと握った。

 Fine

158 名前:そういえば 投稿日:2002年03月27日(水)15時01分34秒

ウォーキンは、これで全て終わりましたが
このスレ、あと一本ぐらい短編書けますかね〜?正直、飼育ってどれだけ書けるのか
よく分かんないんで、誰か教えてくださいな。
159 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月27日(水)23時32分21秒
256kbまで書き込みできるそうですから、
まだまだ大丈夫だとおもいますよ?
160 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月28日(木)08時21分24秒
番外編、すごいよかったです。
自分てきには、辻・加護編がもうちょっと見たかったな
新しい短編も楽しみにしてます。
161 名前:クロラ 投稿日:2002年03月28日(木)16時13分01秒

>159さん
256kbまで大丈夫なんですね。まだかなり余裕ありますね。
教えてくれてどもありがとうございます。

>160さん
辻・加護編・・・実は、一本独立して途中まで書いてました。
まぁ、行きづまっちゃったんで、あれで勘弁してくだせ〜まし。

短編は土曜あたりから書き始めます。
162 名前:名無し 投稿日:2002年03月29日(金)09時50分20秒
クロラさん、2chに戻ってきてくれよ〜
163 名前:クロラ 投稿日:2002年04月02日(火)18時04分49秒
>162さん
2chのスレに、2ch休筆の理由書きましたんでご了承ください。

というわけで、土曜あたりといいながらちょっと遅れてしまった短編です。
題は、つけられませんでした。読んでくれた方が勝手につけてください(w



164 名前:無題 投稿日:2002年04月02日(火)18時10分07秒

特になにもすることのない気怠い午後。
あたしは、ただボケーッとベッドに寝転がっていた。
部屋に鳴り響く携帯の着信音。あたしは、手を伸ばし携帯を手に取る。
発信者なんて見なくてもコレにかけてくるヤツは1人しかいない。
そのままの姿勢で通話ボタンを押す。
「仕事だ」
聞き慣れた冷たい声。
「ターゲットは?」
「ピース国王女梨華だ。この国に来てる」
「分かりました」
短くそう答える。あまり長くは聞きたくない声だ。
「…矢口」
男があたしの名前を呼ぶ。
またお決まりのセリフか…あたしは、うんざりしながらもその言葉を待つ。
「失敗には死だ…分かってるな」
「はい」
そして、いつものようにそう言って電話を切る。
だいたい、このあたしに失敗なんてあるはずがない。
どれだけあんたの任務をこなしてきたと思っているんだ。
杞憂もいいところだ。

あたしは、よっと勢いをつけてベッドから起きあがると、
仕事前の定例になっているシャワーを浴びようとバスルームへ行った。
165 名前:無題 投稿日:2002年04月02日(火)18時12分50秒

あたしの仕事は、汚い。
だから、その前に一回体を浄めるのだ。そうすれば、少しは気分がマシになる。
こんなことを考えるぐらいなら仕事なんて辞めてしまえばいいと時々思う。
だけど、それは同時に死を意味することだ。
あたしは、ずっとこの世界から逃れられない。

ため息をつきながらバスルームに入る。
「…あれ?」
コックをひねっても水が出る気配はない。どうやら壊れたらしい。
「コレだから、ボロはイヤなんだよ」
あたしは、軽く舌打ちしてシャワーを諦め、そのまま手早く仕事着に着替えると
武器の点検をした。それから、お気に入りのスカジャンを羽織り、今、ターゲットが回っているらしい緑地公園へと向かった。
166 名前:読んでる人 投稿日:2002年04月03日(水)09時54分29秒
わ〜い、新作だ〜♪
今回も面白そうですね〜
続きが楽しみです。
167 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月03日(水)20時25分19秒
新作始まったんですね。今回はどんなジャンルなんだろう。
続き、楽しみに待ってます。
168 名前:名無し 投稿日:2002年04月05日(金)18時57分02秒
以前と比べて更新が3日もないなんてほんとに忙しいんですね〜
続きが早く読みたい。
169 名前:無題 投稿日:2002年04月06日(土)23時49分09秒

「おいっ、そっちはどうだ!?」
「おられません!」
「…ったく、どこ行きやがった、あの小娘…早く見つけねーとヤバイことになる…」
「あっちのほうはどうでしょうか?」
「よし、行ってみよう」
あたしが、植え込みに隠れて公園の様子を窺っていると、
護衛らしき屈強な男たちがバタバタと公園内を走り回っていた。
男たちは、用心して会話の内容を聞かれないように小声で話しているが
その唇の動きでなにを話しているのかは容易に見当がつく。
あたしのターゲットでもある王女が勝手にどこかへ行ってしまったらしい。

「…チッ、手間かけさせるなー」
シャワーといいこれといい、今日のあたしの運勢は最悪かもしれない。
ターゲットが行方不明中なんていままでありえないパターンだ。
(あたしも探さなきゃいけないじゃんか。今から矢口真里の推理タイム「消えた王女を捜せ!」ってか!?)
170 名前:無題 投稿日:2002年04月06日(土)23時52分40秒

あたしは、上半身を起こし芝生の上に座る。
確か、ターゲットは17歳だったはずだ。
あとは、顔しか知らない。
それだけあれば任務は達成できる。
逆にいろんな情報を知ってしまえば、あたしにとっては任務達成の邪魔になる。
だけど、たった今ひとつ情報を得てしまった。
きっと、こいつはよっぽどの世間知らずに違いない。
あたしは、そんなことを思いながら頭をひねる。

はじめて訪れた国。
世間知らずの王女が行きたいと思うようなところ――
(……そんなの分かるかってー)
あたしだって年相応の遊びなんてしたことがないからだ。
171 名前:無題 投稿日:2002年04月08日(月)16時01分29秒

「はぁ……」
さて、これからどうするか。
ボスからの連絡を待つのが一番いいかもしれない。
でも……こんな予想外のハプニングで経歴に傷を付けるのも嫌な気がする。
(もーっ!マジ、ムカツクっ!!)
だんだん、イライラしてきた。

「…あの」

苛立っていると、背後からまるで変声機を使ったかのような声に話しかけられる。
「はぁっ!?」
考えを中断させられたあたしは、苛立ちを隠さずに振り返る。
そんなあたしの視界にまず胸が飛び込んできた。
(なかなか大きい……って、そんなことはどうでもいいか…)
座っているので当然、声の主を見上げる形になる。
あたしは、その顔を見て思わず息を呑んだ。

(なんで…こんなとこに?)

172 名前:無題 投稿日:2002年04月08日(月)16時05分13秒

「あの、今、お暇ですか?」
少女……いや、今の今までその行方を考えていたあたしのターゲットが
気弱そうな口調で聞いてくる。あたしは、不自然に見えないように気をつけながら、
腰の後ろに挟んだ銃にそっと手をかける。
まさかこんな至近距離でターゲットと対峙する羽目になるとは思わなかった。
これまでの任務でも、ここまでターゲットに近づくことはなかった。
(このまま殺す?それとも……)
今が絶好のチャンスだろう。
しかし――と、あたしは、銃に手をかけたまま逡巡する。
あたしがそんなことを考えていると少女は、少し不安げに眉を八の字にしたがそれでも言葉を続ける。
173 名前:無題 投稿日:2002年04月08日(月)16時06分16秒

「あの…もし、よろしければ、街を案内していただけませんか?」
「は??」
目の前の少女の脳天気ぶりに唖然となり、思わずそんな一言が口をつく。
なんて、呑気な王女なんだ?
世間知らずどころのレヴェルじゃない、ただのバカだ。
きっと自分の命が色々な組織に狙われていることなど、
ましてや目の前にいる人物こそが自分の命を狙っているなんてこと、
そのパープリンな脳みそからは想像もしないんだろう。
あたしは、王女をマジマジと見つめる。
「……あ、すいません。突然……ご迷惑でしたか?」
あたしの投げ掛ける視線に気づいたのか、
王女はオロオロと困ったようにその両手を落ち着きなく動かす。
まるで子供みたいだ。
ホントにどう生きたらこんなマンガみたいなキャラが出来るんだろう。
あたしは、その仕草があまりにもおかしくてつい吹き出してしまう。
そして、「いいよ、ヒマだから案内してあげる」と、いつのまにか口にしていた。
こんな馬鹿なターゲットならいつでも殺すことができる。
最後ぐらい楽しい思いをさせてやろう。あたしは、そんなことを思っていた。


――よく考えたら、ターゲットに興味を持ったのはそれがはじめてのことだった。


174 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月08日(月)19時01分03秒
おっ、更新されてる。
まず、胸見る矢口イイ
175 名前:読んでる人 投稿日:2002年04月09日(火)11時21分32秒
殺し屋(?)とターゲットが一緒に行動・・・
なんか行く先々で、いろいろ面白そうなコトが起こりそうですね。
176 名前:無題 投稿日:2002年04月10日(水)16時43分25秒

「よかった〜、私、石川梨華といいます」
王女は、顔いっぱいに喜びを浮かべていた。
それに苦笑しながらあたしも自己紹介をする。
「あたしは矢口……っていうかさー、その服どうにかしないと目立ちまくりなんだけど」
「??」
あたしの言葉に王女は不思議そうな顔をする。
あたしは、王女の浮かべた表情の理由を少し考え、一つの結論に達する。
彼女の服はまさに王女という感じのドレスだ――つまり、こういうことか。
彼女にとって、これこそが普通の格好なんだろう。
このヒラヒラふわふわレース満載の服。
普通の人の普通ならありえないような格好。
(ま、まず最初に行くところは決まったな)
あたしは、前髪を吹き上げるように息を吐きだすと、
まだ疑問符を投げ掛けている王女の手を引きながら緑地公園を後にした。

177 名前:読者@ 投稿日:2002年04月10日(水)23時57分00秒
今日、はじめてみました。ウォーキンの破滅的なのもよかったし
今回のもなんかいい感じっすね。更新頑張ってください
178 名前:無題 投稿日:2002年04月11日(木)14時26分21秒

「似合いますか〜?」
試着室から出てきた彼女に聞かれる。
そういわれたのは、一体何回目だろう。
いい加減にしろよっ……そう突っ込みたいのを我慢しながら「似合うよ」と言った。しかし、「ん〜、でもな〜」と彼女は、鏡を見ながらぶつぶつと言っている。不満があるなら聞くなよっ……あたしは、さらに突っ込みたいのを我慢する。
王女という人種は優柔不断なんだろうか。
さっきから服をとっかえひっかえしている。
しかも、絶対にピンクははずさないという徹底ぶりだ。
ホントに…イライラする
……いやいや、もしかしたら彼女もはじめてのお買い物ってことで
うきうきしてるのかもしれないな。うん。よし、心をもっと広く持って――

179 名前:無題 投稿日:2002年04月11日(木)14時27分28秒

「それじゃ、次コレ来てみますね〜」
――ブチッ!!
「そ…それもいいねー」
冷静に…冷静に……

「ん〜、次、こっちのやつ着てみてもいいですか〜?」
――ブチブチッ!!
「…も、もうそれでいいじゃん」
落ち着けー、あたし。

「でも、そっちも捨て難いんですよね〜」
――ブチブチブチッ!!!
「そ、それがいいって絶対。うん、それしかないってマジで!」
落ち着け、あたし。ガンバレ、あたし。
こんな時は呼吸が命。吸って吐いて吸って吐いて……

「あ〜ん、やっぱり決められな〜い。矢口さんみたいな格好しちゃおっかな〜」
――ぶっつーんっ!!!!!!!!
「キショッ!!!お前、キショっ!!!!……じゃなくて、もうどれでも似合うからさっさとしてよっ!!!!」

あたしにしては、そうとう我慢してみたけどやっぱり仏の顔も3度までってホントだな。

180 名前:読んでる人 投稿日:2002年04月12日(金)10時14分57秒
オ、オモロイ!
昨日のANN-S聴いてもそう思ったんだけど、
なんか「いしやぐ」って笑えるコンビだね。
181 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月13日(土)21時02分01秒
おれもいしやぐ好きだー。
更新楽しみ
182 名前:クロラ 投稿日:2002年04月14日(日)20時39分53秒
ベラベラ選手権、矢口さん優勝してハッピーしてあげてました(^^
だからなにかっていうと、それだけなんですけど
というわけで、更新します
183 名前:無題 投稿日:2002年04月14日(日)20時42分13秒

「ハイッ、これとこれ、決定!!!」
あたしは、適当に石川に服を手渡して試着室へと押しやった。
しばらくして「どうですか〜?」と、石川が出てくる。
「いっイイっ!!」
あたしが選んだ服は一番彼女に似合っていた。
やっぱりなにしてもあたしは天才だ。

「○万×千円になります」
あたしたちの騒ぎを一部始終楽しそうに見ていた店長、裕ちゃんが服の値段を言う。
石川は、財布を出す気配さえ見せず、ただニコニコとしている……
――って、えっ!!?
「…ちょっとなにしてんのよ?」
あたしは、彼女に小声で囁く。
「え?なにがですか?」
「いや…お金は?」
なんかすっげー嫌な予感がしてきた。
なんかこうゆうドラマあったよな。お嬢様がどうたらこうたらで……
「お金ってなんですか?」
そうそう、こうゆうセリフ言ってさー……って、ハァ!!!!マジッ!?
あたしは、思わず石川の顔を見る。
石川は、相変わらずニコニコと王女スマイルを浮かべてあたしを見つめ返す。
「…………」

「毎度おおきにーっ」

裕ちゃんの明るい声がムカツク……別に裕ちゃんが悪いワケじゃないけどさ。
すべては、こいつがお金を知らない生活なんか送ってるからだ――

184 名前:無題 投稿日:2002年04月14日(日)20時43分47秒

「あの、矢口さん」
「あ?」
つい口調がきつくなる。
とたんに、石川が怯えた顔を見せる。
(あっヤバッ!)
なんか後輩と喋っている気分になっていた。
「ご、ごめんごめん。なに?」
そう今度は優しく言うと石川は安心したように言葉を続ける。
「あの〜、これからどこ行くんですか?」
「え?これから??」
そういえば考えていない。
「あんたは、どっか行きたいとこある?」
「ん〜、そうですね〜……あっ!あそこ行きたいです」
石川は、少し考えるように小首を傾げた後、急にひらめいたように叫ぶ。
「あそこってどこ?」
「だから、あの、ほら〜アレですよ、アレ」
――なんだよ、アレって???
あー、突っ込みたい。
あたしは、ツッコミを入れたがる右手を押さえつつ
「なに、どんなとこ?」と、根気よーく石川の話を聞いた。

185 名前:名無し 投稿日:2002年04月15日(月)22時01分19秒
俺、クロラさんの作品好きだよ、好きだけど・・・
浮気して更新速度おちるのだけは勘弁。だからさ、両方とも更新がんがってくれ
186 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月17日(水)00時50分21秒
>185
確かにそのとおりだな
あっち交信してこっち交信してねーとムカツク(w
187 名前:読んでる人 投稿日:2002年04月17日(水)08時35分23秒
まあまあ、マターリと待とうよ。

ところで、アッチって何のこと?
188 名前:無題 投稿日:2002年04月17日(水)12時27分05秒

更新遅くなってすいません。
浮気のヤツもこっちもがんばりますんで見捨てないでくださいな

というわけで、更新です。
189 名前:無題 投稿日:2002年04月17日(水)12時28分17秒

ということで、あたしたちは今、遊園地にいる。

TVでいろんな乗り物に乗っている子供たちを見てうらやましかったらしい。
さっきからそのはしゃぎようはすごい。
「うわー、おっきぃー!!」
(…いや、恥ずかしいから、マジで)
「ねぇ、石川」
「はい?」
あたしが、そのへんの子供以上にはしゃいでいる彼女に呼びかけると
まるで子犬のように彼女は振り返る。
「あー、どれに乗りたい?」
「え〜とですね〜」
石川は、そう言うとさっきもらったパンフレットに視線を落とす。
「……コレと、コレとコレとコレ……」
石川が選んだの全部、絶叫系だった。
あたしは、ちょっとウンザリした気分になる。
もちろん、絶叫系ってのが苦手なワケじゃない。
ただ、立て続けに乗るには適していない乗り物のような……ま、途中でこいつのほうがへばるだろう。
「分かった、行こっ」
あたしは、そう思って了解した。

その認識が甘かったことをあたしは、途中で思い知らされることになる。

190 名前:無題 投稿日:2002年04月17日(水)12時29分46秒

「やっぐっちさーん!つぎ、もう一回行きましょ〜っ!!」
「……マジで?」
あたしは、半ば朦朧としながら聞き返す。
なんで、こんなに元気なんだ、コイツ。
っていうか、なんで全部10回ずつ乗るわけ?
このままじゃ――殺る前に殺られる……

「ほら〜早く早く〜」
石川があたしの手を引っ張る。
「ちょっ、ちょっと待って待って待ってってば!」
「なんですか〜?」
引き留めるあたしに少し頬を膨らませる石川。
そんなこと気にしてられるか。
「あーえっと、お腹空かない?矢口は空いた」
「そうですね〜、そういえば、お腹空いてます」
「そ、そう、よかった」
あたしは、石川の答えに心底ホッとした。
これ以上、絶叫系だけは勘弁してほしい。
「あたし、アレ食べてみたいんですよ〜」
…また、アレですか?
こいつ物覚え悪いって言うか、なんつーか……・
あたしは、「アレってなに?」とまた根気よーく石川の話を聞くはめになった。

191 名前:無題 投稿日:2002年04月17日(水)12時31分12秒

結果、石川が食べてみたいのはハンバーガーと言うことが判明した。

「――ホントにこんなんでいいワケ?」
あたしは、トレイを持ってニコニコしている石川に声をかける。
「はいっ!一度食べてみたかったんですよ〜」
「ふーん」
あたしにとっては、当たり前の食べ物だけど彼女にとってはそうじゃないんだ。
やっぱり、違うんだな〜と思いながら、あたしは向かい合っている石川を上目遣いで見る。
「おいし〜ですね〜」
そういう石川は、その大人びた外見とは裏腹にホントにまだまだ子供だ。
17歳にして閉じこめられた生活を送って、命まで狙われてかわいそうな気がする。

192 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月18日(木)01時33分50秒
>クロラさん
見捨てませんよ。
今までの更新が毎日だからチト物足りなく感じるだけで、ぶっちゃけ他の作者に
比べればかなり早いし。気にすることないです。

>187
多分>>185は2ちゃんのことを言ってると思われ
193 名前:無題 投稿日:2002年04月18日(木)12時15分12秒

「ねぇ、矢口さん」
「…ん?」
「食べ終わったら、アレ乗りましょうね」
石川がウインドウ越しに見える観覧車を指さす。
「うん、いいけ…っ!?」
そう言いかけて、あたしは複数の殺気を感じて回りの全ての音に集中する。

ガチャッと撃鉄を上げる音がした。

「石川ッ!危ないッ!!!」
あたしは、叫びながら石川にダイブする。
と、同時に大きな破壊音がしてウィンドウが粉々に割れた。

あたりは、一転して混乱に襲われた人々の声でいっぱいになる。

194 名前:無題 投稿日:2002年04月18日(木)12時16分37秒

(――刺客!?)

「石川、逃げるよ」
なんでそんなことをしたのか分からない。無意識に体が動いていた。
あたしは、まだ状況のつかめていない石川の手を握り、
パニック状態に陥った人々の間をすり抜けるようにして店を飛び出る。

「―のやろっ!!」
あたしは、かすかに姿をとらえた刺客に向かって銃を撃つ。
手応えはあった。殺ってないにしろ動けなくなったはずだ。
しかし、まだ殺気が消えることはない。
むしろ、増えたような気がする。

「……なっ!!?」

あれは、TKグループにジャニーズ――それに、ホリプロまで…………
こんなのいっぺんに相手にしたらどう考えたって勝ち目なんてない。

それなのに――なにをやってるんだ、あたしは……

このままこの子を殺してしまえばいいだけなのに……


195 名前:無題 投稿日:2002年04月18日(木)12時18分24秒

あたしは、石川を引っ張ってなるべく人ごみに紛れるようにして逃げる。

「……矢口さん」
石川が泣きそうな声であたしの名前を呼ぶ。
「…大丈夫だって、かならず生きて帰してやるから」
あたしは、まわりの様子をチェックしながらそう言う。
どうやら、ジャニーズは振り切ったみたいだ。

(あとは、TKとホリプロか……)

――ドンッ!!!

「……っ!!」
腕を銃弾がかすめる。
「矢口さんっ!!」
「くっ…」
あたしは、銃弾の飛んできた方へ向かって銃を撃つ。
そして、煙幕をはりながら一気に出口に向かう。
後ろから銃声が聞こえたが、この距離であたるはずがない。

(このまま逃げ切れるか!?)

196 名前:無題 投稿日:2002年04月18日(木)12時19分59秒

「矢口さんっあそこ」
石川が前方になにかを見つける。
TKグループだ。
あたしは、素早く銃を撃つ。
しかし、石川を庇いながらの攻撃はうまくいかない。

(あたしは、いったいなにをしているんだ?こいつは、ターゲットなのに――)

さっきから頭の中でそんな疑問がうまいている。
「クソッ!!」
それでも、あたしは石川を守りながらTKグループの攻撃をかわす。
「…コレでもくらえっ!!」
転がった拍子に靴の裏に隠していた手榴弾を取っておいた。それを投げつける。
TKグループは、こんな人気の多い場所で大事になるようなことを
あたしがするとは思っていなかったのだろう。
ギョッとした顔で後ずさる。

「石川、こっちっ!」
「はっ、はいっ!!」
あたしたちは、従業員用の小さな出口から外に飛び出す。

後方で爆発音がした。
197 名前:クロラ 投稿日:2002年04月18日(木)12時20分56秒
 
今週中には終わらせます。
って、宣言しておくとやる気になるかな、自分が(w
198 名前:無題 投稿日:2002年04月19日(金)10時51分02秒

あたしは、振り返る。誰も追ってくるものはいない。
そのままタクシーを捕まえると乗り込む。
これで、なんとかピンチは脱出したようだ。
……けど、これ以上、こいつと一緒にいるのは危険だ。
任務放棄になってしまうがしかたない。
あたしの気が変わる前にこいつを送り届けよう。
今のあたしは、彼女を殺せないような気がする。

「首相官邸まで行ってください」
あたしは、運転手にそう告げる。
「え?」
石川が驚いたような声を上げる。
「……なに??」
「…だって、観覧車は?」
「はぁっ!?」
こいつは、アホか………人が命がけで逃げたって言うのに……
「――いえ、すいません」
あたしの表情を見て石川がうつむきながら呟く。
「そうですよね…つい、欲張ってしまいました。すいません」
「……石川」
石川は、やはり微笑みを浮かべているがそれはすごくぎこちない。

「……すいません、ちょっとハロービルに寄ってもらえますか?」

あたしは、そう口にしていた。

199 名前:無題 投稿日:2002年04月19日(金)10時52分09秒

ハロービルの屋上。微かな風が頬を撫でる。
あたりはもう暗くなってきて、その機械が妙に場違いに屋上を守っている。
「ゴメン、少しちっちゃくなったけどさ…」
あたしが、そう言うと石川は観覧車を見上げながら首を横に振る。
「すごく…嬉しいです」
「…じゃ、乗ろっか」
「はい」
石川が力一杯うなづく。
あたしたちは、他に乗る者のいない2人だけの観覧車に乗り込む。
「すご〜いッ!景色キレイですよ〜!!」
石川は、窓のほうを見ながら言う。

無防備にあたしに背を向けて――

あたしの中で悪魔が囁く。
(ここで、殺してしまえば任務達成だ……)
あたしは、銃に手をかける。

コレは任務。
仕方がない、仕方がないんだ……

あたしは……

あたしは…………

200 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月19日(金)17時06分07秒
ヤグどうするんだ?いいとこできるな〜、作者さん。
今週中ってってことは明日で終わりだよな、明日を楽しみにしよう
201 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月19日(金)20時19分06秒
うぅ、とってもいいです。さすがクロラさんです。ハラハラドキドキ
202 名前:読者 投稿日:2002年04月20日(土)09時30分38秒
まだかな、最終回は。ドキドキ待ってる。
203 名前:無題 投稿日:2002年04月20日(土)15時52分17秒

「ねぇ、矢口さん」

あたしに背を向けたまま不意に石川が呟く。
驚いて銃を落としそうになったがこらえる。
「な、なに?」
努めて冷静に聞き返したつもりだけど、声がうわずってしまった。
石川に不審だとおもわれなかっただろうか?
しかし、石川はべつだん気づいた様子もない。
あいかわらず、あたしに背中を向けている。
「今日は、ホントに……ありがとうございました」
窓に額をコツンとぶつけたまま石川が呟く。
「…え?」
なにお礼なんて言ってるんだよ…あたしは、これからあんたのことを――
「私って、友達いないから、こんなに楽しかったのははじめてなんです」
彼女はどんな表情で言っているんだろう。
そして、今からあたしのしようとしていることをどう思うんだろう
あたしは、彼女の背中を見る。

204 名前:無題 投稿日:2002年04月20日(土)15時58分03秒

「――!?」
そこではじめてあたしは気づく。
ガラス越しにうつる銃を握った自分の腕に。
彼女も気づいているはずだ。

それならば、どうして……

どうして、あたしに背を向けていられるんだろう。

こいつは、もしかしたら最初から知っていたのかもしれない。
知っていて、それでも……いや、考えすぎなのか……?

「矢口さんが、守ってくれて嬉しかったです、ホントにありがとうございます
 …………だから、もう」
「…石川」

華奢なシルエット。その肩が震えている。


――なんでこんなヤツの命が狙われるんだろう?
こいつは……
こんなにも普通の女の子なのに――


あたしは、銃にかけていた手を離す。
やっぱり、殺せない……
きっと、あたしも最初から
こいつに興味を持った瞬間からこうなることを予感していたのかもしれない

205 名前:無題 投稿日:2002年04月20日(土)16時03分58秒

「矢口さんに会えてほんとに…よかった」
石川が、ポツリと息だけの声で漏らす。
そんなことを言われたのがはじめてだったので顔が赤くるのを感じる。
「……キショッ!」
それを隠すためにワザと強めに言ってみる。

「えぇっ!?」
石川がはじかれたように振り返る。彼女と目があう。
「あたしたちは友達だろ?」
あたしが、今まで生きてきたなかで、これ以上ないってくらいに臭いセリフ。
でも、それが本心なんだ。
「…矢口さん」
石川の目にキレイな水滴が滲みだしてくる。
「あんたが、どこでなにしてても友達だ」
あたしは、つられて泣いてしまわないように、あえて笑っていった。
「――はいっ!」
涙ぐみながらも石川はうなづき笑った。



そうして、あたしたちはお互いの日常へと戻った。



206 名前:クロラ 投稿日:2002年04月20日(土)16時05分09秒
ここで一段落age
207 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月20日(土)18時30分54秒
これで終わり?それとも一段落ってことはまだあるのかな??
208 名前:読者@ 投稿日:2002年04月21日(日)10時00分32秒
まだあるだろ。だって、finって出てねーもん(w
209 名前:無題 投稿日:2002年04月21日(日)14時58分35秒

――数日後。


あたしは、1人街を歩いていた。
最近、仕事が来ない。
きっと任務を果たさなかったことが響いているんだろう。
しかし、それに関しては後悔していない。
むしろ、あの時、任務を果たしたほうが後悔していただろうと思うから。
それに新しい任務がきたとして、あたしは任務を達成させることができるのかも、
もう分からなくなっている。
だから、もし、このまま仕事がなくなったほうがあたしてきには気が楽だ。
普通の仕事に乗り換えるのもいいだろう。
そんなことを考えていると、耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

210 名前:無題 投稿日:2002年04月21日(日)14時59分38秒

『…えぇ、そうですね〜』

(石川!?)
思わず、辺りを見回す。
若いカップル、グレーのスーツを着た女、サラリーマン風の男。
あたりまえだけど、あいつの姿はない。

『やっぱり、印象的だったのは観覧車です』

今度はハッキリ聞こえた。
声を追ってみると、電器屋のウィンドウ越しのTVから聞こえている。
モニターには、あたしがはじめて失敗した任務のターゲット
――そして、はじめての、友達、が映っている。
あたしは、バカみたいに突っ立ってインタビューを受ける彼女を見る。
211 名前:無題 投稿日:2002年04月21日(日)15時00分38秒

『――すごくキレイだったんですよ〜』
『それは、お一人で乗られたんですか?』
『いいえ、大切な…人とです』

石川が笑顔で答える。
(おいおい、その言い方じゃ恋人と行ったみたいだろ?)
1人、苦笑する。
その時、ウィンドウの端に、グレーのスーツが映った。
さきほど見かけた女らしい。


いつもなら瞬時に気づいていたはずだ。
だけど、この時のあたしは、彼女の話に聞き入っていて少しも気がつかなかった。

その人物が放つ
     ――殺気に。

212 名前:無題 投稿日:2002年04月21日(日)15時02分25秒

「……あっ!?」

そして、腹部に軽い衝撃。
それは、自分でも分かるくらい確実に急所を貫いていた。

不意にボスの言葉が頭の中でよみがえる。


   ―― 失敗には 死だ ――


……こういうことだった…・の…か……

あたしは、地面に膝をつく。
視界が揺れる。のどの奥に血の味が広がって気持ちが悪い。
女の立ち去る足音と誰かの悲鳴。救急車を呼ぼうとしているみたいだ。
だけど…もう遅いだろう。
あたしは、最後の力をふりしぼってTV画面に視線を向ける。
まだ、彼女は、インタビュアーの女と談笑している。


213 名前:無題 投稿日:2002年04月21日(日)15時03分15秒


『では、王女、最後にこの国の人たちになにかメッセージを…』
『…えーと、矢口さん…あっ!名前言っちゃった、すいません
 ――あの、またこの国に来ることがあると思うので、
 その時はヨロシクお願いしますね。このあいだは、ありがとうございました』

「…いし…か……」

心臓がどくどくと脈打つ。

  ――――早く遅く不規則に


石川の笑顔が、ぼやけて見えた。



                         〜 Fine 〜


214 名前:クロラ 投稿日:2002年04月21日(日)15時06分48秒

ほいっ、完成記念age
っつーか、なんでかなー、このラストは。
もうちょっとhappyになるはずだったんだけど。
しかし、書き上がった今でも題名が思いつかないとはどういうワケなんでしょう。

ということで、次回もまた短編です。
このスレは、もう短編で埋め尽くす予定ですんで・・・埋め尽くすほどネタはないが

215 名前:読んでる人 投稿日:2002年04月21日(日)19時12分46秒
ちょっと予想外の終わり方・・・。

次回作の期待して待ってます。
216 名前:読者@ 投稿日:2002年04月21日(日)22時01分30秒
やっぱりアンハッピーか。
これもありっちゃーありだろうけど、たまにはハッピーな終わりに
してください。題名は「Friend」でどーですか?単純に決めてみました
次回作は、ハッピーで。ホッピーでホップで(w
217 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月22日(月)00時12分32秒
うーん、辛い…。
「失敗した時点で逃げろよ、矢口!」って感じですね…。
それは言っちゃいけないことかもしれませんが…。
こうなったら無理やりに続編を…。(ヲイ

ま、それはともかく、次回作も期待してます。
218 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月22日(月)10時36分44秒
俺は意外と好きだったわけだが(w
というか、最初のボスのセリフと今までのクロラ作品の流れでいけば
こうなりそうだなって予想してたので、クロラさんに一言言うと、
たまには誰も死なないの書いてください(w
では、これからもがんばってください。
219 名前:名無し 投稿日:2002年04月23日(火)23時30分26秒
次回作はいつはじめるんだろう?
220 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月25日(木)21時46分59秒
>219
2chの連載も来週からだから多分、来週と思われ。
221 名前:クロラ 投稿日:2002年04月28日(日)01時39分37秒

今回は明るいお話でいきます。
予定ではもう一個暗いのがあったけど、
誰も死なないのを書いてくださいとのことなので・・・
っていうか、それが一番自分の中で難しいんですけどね。
コレで、今してるやつ3つとも全部明るいのりだ〜暗いの書きて〜(w
222 名前:日本娘。話 「加護太郎 ぷろろ〜ぐ」 投稿日:2002年04月28日(日)01時42分00秒

昔々、でも、まぁそんなに昔じゃない昔(って、どっちなんだべ、時代設定がなってないべ)、
昔話に出てくるおじいさんとおばあさんに憧れて
山に芝刈りに行ったり川で洗濯したりするよっすぃ〜と梨華ちゃんという
ちょっとおマヌケな夫婦がいました。

223 名前:日本娘。話 「加護太郎 ぷろろ〜ぐ」 投稿日:2002年04月28日(日)01時46分19秒

「さ、そろそろお洗濯に行ってくるから、よっすぃ〜は芝刈りお願いね」
梨華ちゃんは、パターン通りに台詞を言います。
「えーっ!また私が芝刈りー?
 なんか梨華ちゃんばっかり楽なほうばっか取ってない?」
梨華ちゃんの言葉に、よっすぃ〜が文句を言いました。
これには、さすがの梨華ちゃんもカチンときて言い返します。
「ちょっと、それじゃ私が楽してるみたいじゃない」
「実際、してるじゃん!普通だったら食事当番だって交代でするべきだし、
 ぶっちゃけ家の掃除だって私がしてるし、梨華ちゃんがしてることっていったら楽〜な洗濯だけじゃん」
おっと、痛いところをつかれてしまいました。
しかし、こんなことで口ごもる梨華ちゃんではありません。
なんたって、勝負事大好き人間ですから。

224 名前:日本娘。話 「加護太郎 ぷろろ〜ぐ」 投稿日:2002年04月28日(日)01時47分19秒

「ムッカー!あったまきた。それじゃ〜、どっちが楽かしてもらいましょ、洗濯っ!!」
「へ〜、そっちこそ芝刈りと料理と掃除がどれだけ疲れるか
 身をもって体験してもらおーじゃん…っていいたいとこだけど、
 芝刈りだけでいいよ」
なんだかんだいっても梨華ちゃんには甘いよっすぃーでした。

というわけで、今日はよっすぃ〜が川に洗濯に、梨華ちゃんが山へ芝刈りに行くことになってしまいました。

225 名前:日本娘。話 「加護太郎 ぷろろ〜ぐ」 投稿日:2002年04月29日(月)01時20分41秒

「ふ〜、思ったより疲れるな〜、これ」
よっすぃ〜は、がしがしと適当な手つきで洗濯板に洗い物をこすりつけながら
呟きます。ほんと、こうしてるとよっすぃ〜って少年って感じがするべ。
「でも、平気な顔してかえんないと梨華ちゃんが威張りそうだし……」
はい、ここで、これまたパターン通りに使い古されたネタの
上流から流れてくる大きな桃……と思ったら、桃ではなくなぜか籠が流れてきました。

226 名前:日本娘。話 「加護太郎 ぷろろ〜ぐ」 投稿日:2002年04月29日(月)01時21分38秒

「……?」
よっすぃ〜は、目の前で流れていく籠をキョトンとした顔で見送ります。
籠はどんどん下流に流されて見えなくなってしまいました。
「あんなでっかい籠が流れてくるなんて変な川だ……」

おしまい…………


じゃなくて、拾ってって書いてるよ、よっすぃ〜。
と、このままでは話が終わってしまうことに気づいた(Na)が
よっすぃ〜に籠を拾うよう哀願したので、なんとか話は終わらずに続きます。

227 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月29日(月)19時30分21秒
ナレーションは、なっちかな?
前回のとはまったく違う感じですね。期待
228 名前:日本娘。話 「加護太郎 ぷろろ〜ぐ」 投稿日:2002年05月01日(水)02時23分24秒

「まったく、めんどくさいな〜よっと…うっ、重い」
よっすぃ〜は、籠を抱え上げて岸辺に戻ります。

「いったい、なにが入ってるんだ〜?」
あまりにも重いのでなにかお宝が入っているかと思ったよっすぃ〜は、
籠の蓋を開けようと手を伸ばしました。
そこへ――
「よっすぃーっ!!!」
と、場違いなアニメ声が遙か彼方とは言いません。ものすごく至近距離から聞こえてきました。
こんな至近距離で叫ばなくてもいいのに……
と、よっすぃ〜は思いながら振り返ります。
そこには、予想通り梨華ちゃんが顔を泥まみれにして立っていました。

229 名前:日本娘。話 「加護太郎 ぷろろ〜ぐ」 投稿日:2002年05月01日(水)02時25分44秒

「うわっ、どうしたの!?」
「あのね……芝刈りに行ったら山道で熊に会ったの。それで危ないと思って、熊は坂に弱いってどこかで聞いたことあったから、私、一気に坂駆け下りたんだよ」
「うん、それで?」
「人間も坂に弱いんだね……」
「…………こ、こけたんだ」
頬をひきつらせて問いかけるよっすぃ〜に梨華ちゃんはこくりと首を縦に振ります。
よっすぃ〜は苦笑しながらも
「これで、分かったでしょ?芝刈りはかっけー私の命がけの勝負なんだって」
と、胸を張ります。
梨華ちゃんは、ほんとに大変だったのか、素直にうなづきます。
と、頷いた拍子に、梨華ちゃんの視線にさっきよっすぃ〜が川から拾った籠が入ってきました。

「それ、なに?」
「え?あぁ、さっき拾ったんだ」
「えー、拾い物?なんでそんなの拾うの?爆弾だったらどうするの?」
「爆弾なんかあるわけないじゃん、まったく、心配性だな」
「でもさー、テロとか一時期はやった炭○菌とか」
「一時期はやったって…風邪じゃあるまいし、言い方変だよ」

――いらいらいらいら。

ん、この擬音語はなんだべ?まぁ、2人のケンカのほうがおもしろいので無視してすすめましょう

230 名前:日本娘。話 「加護太郎 ぷろろ〜ぐ」 投稿日:2002年05月02日(木)00時28分39秒

「言い方変って……よっすぃ〜、ひどい、私心配してるのに、うわぁ〜ん」
「ちょ、ちょっと泣かなくてもいいじゃん、ご、ごめんって」

とっても棒チックなウソ泣きに騙されてしまうよっすぃ〜。
ペコペコと梨華ちゃんに頭を下げています。
ほんとに尻にしかれてるんだね、よっすぃーって……
梨華ちゃんは、これで芝刈りと洗濯論争のことを
よっすぃ〜の記憶から消し去ることに成功したと秘かにほくそ笑みました。

――いらいらいらいらいらいらいらいら。

ん〜、またこの擬音語。ほんとに一体なんだべさ。まぁ、無視して――

「無視すんなやーっ!!!!」

そう叫びながら、梨華ちゃんとよっすぃ〜の言い争いに精を出していた(NA)に
しびれをきらし、籠の中からまるで玉のように可愛らしい女の子が飛び出してきました。

231 名前:日本娘。話 「加護太郎 ぷろろ〜ぐ」 投稿日:2002年05月02日(木)00時32分39秒

梨華ちゃんとよっすぃ〜は驚いてその女の子のほうを見ます。
いったい、この女の子は何者なのか?
どうして籠の中に入っていたのか?
普通ならナゾだらけなのですが、
ものすごく嫉妬深くネガティブな梨華ちゃんは、この事態をこう受け取りました。

232 名前:日本娘。話 「加護太郎 ぷろろ〜ぐ」 投稿日:2002年05月02日(木)00時33分58秒

「よっすぃ〜……人間って悲しいね」
「え?ちょっとなに言ってんの?それどころじゃないでしょ?」
「……それどころじゃない?……なんで?よっすぃ〜の子供なんでしょ?こんなに大きくなるまで黙ってるなんてひどいよ、いったい誰の子なの」
「はぁっ!?ちょっと待てってば!!」
「正直に言ってよ、だれの子供?」
「だから、私の子供じゃないってば」
「言い訳はいらーんっ!!!」

おっと、梨華ちゃんのしゃくれアタックが出ました。

「うわっと!?」

かろうじてよける、よっすぃ〜。
しかし、すぐさま右からネガティブビームが飛んできます。

「ちぃっ!」

よっすぃ〜は、これまたなんとかよけます。

「逃げるなんて卑怯だよ!」
「卑怯じゃないってば……っていうか、ほんとに私の子供じゃないって…うわっ」

会話をしながらも繰り広げられる攻防戦。
すごいべ、これほんとにいっつもしてるみたいなリアル感だべ。

233 名前:日本娘。話 「加護太郎 ぷろろ〜ぐ」 投稿日:2002年05月04日(土)00時09分15秒

「アハハ、なんやすごいもんみさしてもろうとるな〜うち」

籠の中の女の子は、2人のそんな様子を見てげらげらと腹を抱えて笑い出しました。

「ちょっとー、うわっ…君……おっと……一体、誰なんだよ!?」

よっすぃ〜は、梨華ちゃんの攻撃を避けながらも女の子に問いかけます。
自分にかけられた容疑をとくために必死の形相です。

「うちか?うちは……誰やろ?名前がまだついてへんのや」
「え?名無し募集中。。。?」
「誰や、それ!!」
「すき有りーっ!!!!」
「ぐぁっ」

女の子がツッコミを入れるのと同時に、梨華ちゃんの空中回し蹴りが
よっすぃ〜の後頭部にクリーンヒットしました。
これにはさすがのよっすぃ〜もたまらずダウン。

234 名前:日本娘。話 「加護太郎 ぷろろ〜ぐ」 投稿日:2002年05月04日(土)00時11分15秒

ひとしきり運動した梨華ちゃんはふぅと息を吐き流れた汗を手の甲で脱ぐいます。
それから、女の子のほうを見て
「…名前がついてないってどういうこと?そっか、認知されてなかったんだよね……あなたのお母さんは誰?パパは、この人でしょ?」
などと、明後日な質問を繰り返します。

「……うちには親なんておらへん。うちは籠から生まれたんや」

女の子は、きっぱりと答えます。

「そうかっ!籠から生まれたのなら加護太郎と命名しよう」
「え?よっすぃ〜!?」

いつのまにかダウンから復活していたよっすぃ〜が、女の子の言葉を聞いて勝手に名付け親になりました。
よっすぃ〜は自分のネーミングセンスにご満悦なのか加護太郎を見てうんうんと頷いています。

「それじゃぁ、私は亜依ぼんって呼ぶね」
「はぁ?なんでやねん」
「…なんとなく」

こうして、籠から生まれたこの女の子は、よっすぃ〜から加護太郎と
梨華ちゃんから亜依ぼんと2つの名前を同時に与えられたのでした。


                                続く


235 名前:日本娘。話 「加護太郎 間奏」 投稿日:2002年05月04日(土)00時18分07秒

(^▽^)<「フルネームだと加護太郎・亜依ぼんかな〜?」
(○^〜^)<「ん〜、でも捻りを加えて、加護太郎・ぼん・亜依?」
(^▽^)<「なんかマイティ・ボン・ジャックって昔あったよね」
(○^〜^)<「あ〜ね〜」
@ノハ@
(‘д‘)<「……どうでもええわ、もう」

236 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月04日(土)08時07分16秒
マイティボンジャックってFCですよね?(w
がんがってください。
237 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月05日(日)00時35分34秒

梨華ちゃんとよっすぃ〜のもとに加護太郎が来てから早1ヶ月がたちました。
加護太郎は、ある時期まで人間の成長過程をすっとぱかして
すくすくと育ちましたが、一定の大きさになると成長が止まってしまいました。
(どういうことなんだべさ)

しかし、そんなのを気にする梨華ちゃん・よっすぃ〜コンビではありません。
(そうだったべ)
そんなことよりも、今の2人を悩ませているのは、ご近所からの苦情でした。


「あんな〜、うちかてあんまり文句言いたないんやで、よっすぃー」(友情出演・平家さん)
「はぁ……それで、うちの加護太郎がなにしたんっすか?」

おやおや、今日も苦情が殺到しております。
が、梨華ちゃんは加護太郎と町までお買い物に行って留守のようです。
だもんで、よっすぃ〜が1人で苦情を受け付けています。

238 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月05日(日)00時37分38秒

「なにしたんっすかじゃあらへんわ、見てみーあれ」

と、平家さんが指さしたのは、彼女の持ち物である鎧防具
――が、手足逆さまちぐはぐになっている姿。
しかも、どういう仕掛けか奇妙に動いているのがまたキショっ。

「うわぁ〜、キショッ……」
「せやろ?私もあんなんかぶりとーないやん。ホンマ、ちゃんと治したってや」
「えー!?私がですか!?」
「当たり前や、子のしたことは親がしたことと一緒や。ほなな〜」

平家さんは、言うだけいってさっさと2人の家を後にしました。

「あー、平家さーん」

置いていかれたよっすぃ〜は、地面に膝を突き哀願しています。
(なんか、よっすぃ〜がするとさ〜甲斐性なしの男って感じだべさ)

「失礼な……あぁ、まったく加護太郎にも困ったもんだ」

さりげなく(Na)にツッコミをいれつつ、優しいよっすぃ〜は重い腰を上げ謎の落ち武者の修理をはじめるのでした。

239 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月05日(日)00時39分03秒

その頃、梨華ちゃんと加護太郎はなにをしていたんでしょう?


「ん〜、これよっすぃ〜に似合うかな〜?」
「いや……めっちゃ趣味悪いわ、それ」
「ガーン……ここで、青ざめた顔をして梨華ちゃんは…」
「それ、ト書きやろ、よまんでええって」
「あ、そっか、えへっ」
「キショッ」

などと、なんだかお笑いの人みたいな会話をしていました。

240 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月06日(月)01時09分54秒

「それじゃ、そろそろ帰ろっか。よっすぃ〜も待ってるし」
「そやな〜」

しばらく衣料品や食料を見てまわってから2人は、ようやく家に足を向けて歩き出します。
両手にはたくさんの荷物を抱えて――
すると
「石川っ!!」
と、あるお店から誰かが飛び出してきました。

2人が驚いて声の主を見ると、村一番の呉服屋の裕ちゃんが両手を広げて立っています。
その顔は、赤鬼のように真っ赤になって、まさに怒りの形相といったものです。
梨華ちゃんは、その形相の凄まじさにビクッと身を固まらせました。
そのままの表情で裕ちゃんは、2人に近づいてきます。

241 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月06日(月)01時11分15秒

「おっ、ちょうど加護太郎もおるやんか」
「げっ……この間のおばちゃん」

裕ちゃんの顔を見て、加護太郎は、やばいというように顔をしかめて呟きます。
それに気づいた梨華ちゃんが、加護太郎を問いつめようとしました。

「ちょっと、亜依ぼん、中澤さんになにしたの?」
「い、いや〜」

加護太郎は視線を泳がせます。

「そやっ、梨華ちゃん、うち先に帰るわ〜ほなな〜」

加護太郎は、そう言うと裕ちゃんにぶつけるように梨華ちゃんの背中をドンッと押して
2人がもつれあって足止めを喰ってるあいだに、家のある方角に向かって猛ダッシュで走り出しました。

あとには、加護太郎の悪戯のおかげで裕ちゃんにつかまった梨華ちゃんの悲しい叫び声が響き渡りました。
あぁ、可愛そう

242 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月07日(火)00時57分33秒

そんなこんなで、毎日毎日なにかと問題を起こしてきては
自分は知らんぷりの加護太郎によっすぃーと梨華ちゃんは、ほとほと困り果てていました。
そして、よっすぃーが参加する月1の村人会議が行われる満月の夜。
ついに、悪戯大好き加護太郎の処遇についてが話し合われることになりました。

243 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月07日(火)00時59分21秒

「よっすぃ〜、コレを見てや」

平家さんが、怪しげなビラをよっすぃ〜の顔の前に突き出します。

「……ん?」
ビラには、『世間を騒がす鬼を退治しよーっ』と、書いていました。
どうやら、これに加護太郎を参加させ村から追い出そうというアイデアのようです。

「これはちょっと危なすぎですよ〜」

さすがのよっすぃーもこれには反対の色を濃く見せます。
しかし、平家さんはにやりと不敵に笑います。

「ちゃんと見た?下の方とか」
「え?……なになに、鬼を退治できた者、その家族には、謝礼として金、1000000枚っ!!!」

よっすぃーの目の色が明らかに変わりました。
やっぱりよっすぃーは、お金に弱いみたいです。
かなり心を動かされています。
そして、ここぞとばかりに平家さんもよっすぃーの心にジャブを打ちます。
(みっちゃん、イイコなのに……)

244 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月07日(火)01時00分27秒

「加護太郎なら絶対鬼退治やってくれる思うんやけどな〜そしたら、一気に長者になれるな」
「…………」

よっすぃ〜は、下を向いたままです。
どうやら自らの中ですさまじい葛藤を繰り広げている模様。

「どうや、よっすぃ〜?」

しばらくしてそう尋ねた平家さんの声に、よっすぃーはゆっくりと顔を上げました。
そして、胸を張って親指をぐぃっと突き出し
「任せてくださいっ!!!」
と、満面の笑顔で引き受けたのでした。

(……ホント、よっすぃーって感じだべ)

245 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月09日(木)00時45分05秒

「ただいま〜♪」

村人会議から上機嫌で帰ってくるよっすぃー。

「あれ?どうしたの、よっすぃー?やけにご機嫌さんだね〜」

いつもは、会議から帰ってくると加護太郎のせいで謝り疲れてふらふらしている
よっすぃーなのに、今夜はやけに陽気なのを不思議に思った梨華ちゃんが言います。

「むっふっふ〜、ねぇ、加護太郎は?」

よっすぃ〜は、梨華ちゃんの問いには答えずきょろきょろと姿の見あたらない加護太郎の姿を探します。

「え?亜依ぼん、もう眠っちゃったよ」
「えーっ!?ちょっと起こそうよ」
「なんで?」

で、出た!梨華ちゃんの「なんで?」攻撃。
よっすぃーもちょっとタジタジ。

「なんでって……まぁ、コレ見てよ」

ちょっと気圧されながらも、さきほどのビラを腹巻きから取り出します。
って言うか、腹巻き!?
それはそれとして、梨華ちゃんはよっすぃーからビラを受け取ると目を通します。

「えっと……鬼退治〜っ!?どういうこと、よっすぃー?」

梨華ちゃんの反応は、最初のよっすぃーと同じようにいかにも反対ですといった感じでした。

246 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月09日(木)00時47分33秒
「そういうこと」
「えぇ!?」
「いや、よっく見てよ、かっけーから。な、な、な、なんとっ!鬼を退治できた者かっけー、その家族には、謝礼として金、1000000枚なんだよーっ!!!!すっげーでしょ、かっけくない?っていうか、かっけーよ、ね」

さきほどからのよっすぃーのテンションはまさにピーク状態です。
ともかく、かっけーかっけーとまるで呪文のように繰り返します。

「ちょっと落ち着いてよ、よっすぃー」

梨華ちゃんは、困ってます八の字眉でよっすぃーの肘を引っ張ります。
が、よっすぃーは
「コレが、落ち着いていられるかってんだーっ!」
と、腕をブンブン振り回す始末。
いいんでしょうか?こんなに調子に乗って梨華ちゃんにそんな態度取っちゃっても……


「………落ちついてってよっすぃー」
「かっけーっ!!」
「…………落ち着いてってば……」
「起きろーっ加護太郎―っ!!」
「落ち付けって言ってんだろっ!!!!!!!とうっ!!!!!!「しないよ^▽^」」

出たっ!!梨華ちゃんのしないよ攻撃っ

「うわーっ!!!!」

よっすぃーたまらずダウン。
(だから、言ったんだべ、あんまり調子に乗ったらだめだって)

247 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月09日(木)00時48分58秒
                             
「いいっ!よっすぃー、相手はあの泣く子も黙るガオーな鬼なんだよ。いくら悪戯好きで暴れん坊で日本海から日本人を誘拐なんかしちゃう工作員みたいで特攻テロのようなことしちゃう亜依ぼんでも、危ないに決まってるでしょ」
「……そうかな〜」

よっすぃーは、首をかしげます。
(そうだべか?今回は、ちょっとよっすぃーの言うのももっともだべ。っていうか、梨華ちゃんの例えが悪いべ。とくに後ろの2個あたりから。怒られるべ、んなこと言ってると)

「と、ともかくっ!ダメっ!!」
「でも……正直、あたしの給料−加護太郎の食費+悪戯の後かたづけ+@etc=−!!!!!!になるんだよ。特に悪戯の後かたづけがすごいしさ〜このままじゃ家計は火の車だよ」


「よっすぃー……」


おや、梨華ちゃんが落ち着いてきたのか静かな声でよっすぃーを呼びます。
まさか、こんなにあっさりとOK出す気なんでしょうか?



「家計簿なんて付けてたんだね」


(――ガクッ……そっちかぃ…まったく、大げさな……)


248 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月10日(金)03時04分33秒

「つけてるよ、なにせマメだからね、あたしは!えっへん。ホラ、コレ見て、真っ赤でしょ、ぶっちゃけ赤字なんだよ」
「…うわぁ〜」

よっすぃーが、開いたノートには几帳面な字でびっちりと数字が書いてあります。
(確かに赤い家計簿だべ)
これだけみると、お金にうるさくなっても仕方ないです。

「ともかく、ここは家計を助けるためにだね〜」

と、よっすぃーがうんちくをはじめようと人差し指を立てたその時、キィットドアの開く音がしました。
梨華ちゃんが、驚いて音のした方向に目をやり、それから、ハッと息を呑みました。

「…あっ、亜依ぼん」
「えっ!?」

よっすぃーも振り向きます。
そこには、加護太郎が悲しそうな表情で立っていました。
その表情からどうやらずっと2人の話を聞いていたみたいです。

249 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月10日(金)03時05分36秒

「うち……うち……」

加護太郎は、うつむいてしまいます。
(……うっ、泣けるべ)

「亜依ぼん、こ、これは違うんだよ」

梨華ちゃんが慌てて弁解をしようとしますが、
「なにが違うんやーっ!!!」と、その言葉を遮って加護太郎は叫びました。

「どーせ、うちは居場所のない寂しい少女やっ!親もおらんし、なんかしらんけどこの姿から年もとらんし、それに、おばちゃんからはいじめられるし、みんなにきらわれとるみたいやし、しかたなーく、ここにメイドとして住まわせてもらって、その寂しさを誤魔化そうと悪戯したらこんな子いらんわー、捨てしまえーっ言われるようなかわいそうなかわいそうな美少女やねんっ!!」
「ちょっ!なに言ってんの!?亜依ぼん!?なんか事実と違うよ」
「そ、そうだよっ!誰がメイドだよっ!?逆にあたしたちのほうがお前にこき使われてるだろ!」

あまりにも事実と違う加護太郎の言葉に梨華ちゃんとよっすぃーは、
イメージダウンを怖れてか速攻で反論します。

250 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月10日(金)03時06分38秒

「それに、最後の方の美少女って?」
「そうだよ、あと寂しさを誤魔化そうと悪戯って…そんな可愛げのある子か〜!?」
「なんや、2人棘があるな〜。加護ちゃんのちょっとお茶目なジョークやんか」

加護太郎は、2人の反論に多少ムッとしたようですが、へラっとそう言います。

「……まったく、あんまりシャレになんないこと言わないでよ」

梨華ちゃんは、演技っぽく胸をなで下ろします。

「まぁまぁ、さっさと話すすめたろうやないかぃっ!つまり、こーやろ?うちが鬼退治に出かけたら家計が助かると、人生がはじまっちゃうよと。言うなれば身売りやな、身売り!」
「だから、そういうきわどいこと言うなってば!!」

ほんとに、加護太郎はこの2人をおちょくるのが好きなようです。
(まぁ、同期だし、いつもの光景だべ)

251 名前:第1話 人生がもう始まっている 投稿日:2002年05月10日(金)03時07分27秒

「ほな、行ってやろうやないか〜っ!!不肖、この加護太郎、日本一の座を勝ち取ってくるでっ!老い先短いばあちゃん、爺ちゃん、うちの帰りを楽しみに待っとってな〜……ただし、出発は明日な、よい子はオネムの時間やから。おやすみ〜」

ちゃぶ台に片足を乗っけて高らかにそう宣言すると加護太郎はさっさと寝室に戻っていきました。

「……誰が、老い先短いばあちゃんよ」
「……誰が、老い先短い爺ちゃんだよ」

梨華ちゃんとよっすぃーは、その後ろ姿を見つめながらむすっとした顔で呟いたとさ。


                                  続く
252 名前:日本娘。話 「加護太郎 間奏」 投稿日:2002年05月10日(金)03時09分28秒

「もう亜依ぼんったら失礼しちゃう。私が、老い先短いばあちゃんなんて」
「まぁ、いいじゃん。私なんて老い先短いじいちゃん、しかも漢字だよ。漢字なんてなんかかっけくねーっ!」
「はぁ……老い先短いばあちゃんなら、中澤さんがぴったしなのにね、よっすぃー」
「でも、あの人はもう娘。じゃないしね〜」
「じゃぁ、やす……あ、なんでもない」
「…………(そこまで言ったら言いきった方がまだいいような気がするけどな〜)」

253 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月10日(金)14時04分31秒
なにげに間奏の2人がおもろかったり、題名がおもろかったり(w
前作とはまったく違って明るくていいです。がんばってください。
254 名前:第2話 センチメンタル南向き   投稿日:2002年05月12日(日)01時04分01秒

ちゅんちゅんと小鳥さんが朝を知らせます。太陽さんもニコニコお天気。
旅立ちには、ぴったりのお天気です。
加護太郎も今ごろ、出発の準備を終え家をあとにしていることでしょう。


「加護太郎!加護太郎ーっ!!おきろー!!!」

ん?よっすぃ〜の怒鳴り声が聞こえてきます。

「ん〜、まだ夜やん」
「どこがだよっ!朝だって!新しい朝が来てる、希望の朝だろ?」
(それは、ラジオ体操だべか?)

よっすぃーの声にようやく加護太郎が目をこすりながら布団から這い出てきました。

255 名前:第2話 センチメンタル南向き   投稿日:2002年05月12日(日)01時05分13秒

「ほら、これ武器」

よっすぃーが、刀を差しだします。

「…これ、どないしたん?」

普段、肉弾戦のよっすぃーは、刀など持っていないはずです。
もしかしたら、加護太郎のために買ってきてくれたのでしょうか?

「あ〜それ?それさ〜、平家さんのなんだよね。昨日、落ち武者修理してて加護太郎のオモチャにいいかな〜と思ってこっそり持って帰ったんだ。そしたら、これがマジもんの刀じゃん、びっくりだよ」

などと、よっすぃーは、口にします。
(よっすぃー、それはドロボウというんだべ)

「だから、加護太郎…刀返しにちゃんとうちに帰ってこいよ」
「…よっすぃ〜」

加護太郎は、泣きそうになるのを我慢しながら刀を受け取りました。

256 名前:読者@ 投稿日:2002年05月12日(日)09時37分50秒
落ち武者って(w
センチメンタルってことは、そろそろ矢口ですか?
257 名前:第2話 センチメンタル南向き  投稿日:2002年05月13日(月)00時35分59秒

旅立ちの支度を終えた加護太郎。

「ほな、行ってくるで!」

玄関で自分を見送るよっすぃーに元気に片手をあげます。
それから、チラッと家の中に視線を向けます。
朝から梨華ちゃんの姿は見られません。
加護太郎は、それが少し気がかりでしたが気丈にも歩きはじめました。
すると

「亜依ぼんっ!!」

と、ずっと泣いていたのか眼をうさぎのように赤くした梨華ちゃんが息を切らしながら走ってきました。

「梨華ちゃん!」
「…亜依ぼん…体に気をつけるんだよ。それから道中、お腹がすいたらこの焼きそばと――あれ?」

梨華ちゃんは、動揺を隠さず手にしていたバッグをがさがさとあさりはじめます。

「??なに、梨華ちゃん?どないしたん?」

加護太郎が尋ねると梨華ちゃんは泣きそうな顔で顔を上げます。

258 名前:第2話 センチメンタル南向き  投稿日:2002年05月13日(月)00時37分16秒

「ゴ、ゴメン、亜依ぼん」
「へ?」
「このバスケットにお好み焼き丼セットも入れたつもりだったのに、入ってないの」
「…ほな、なにが入ってるん、それ?」
「化粧品……」
「……どーやって間違えるんや、それ」
(ホントだべ)
「だって、急いでたんだもん……う…うわぁーん」

とうとう泣き出してしまいました。
(ホントに棒な泣きッぷりだべ)
加護太郎は、苦笑いを浮かべながら梨華ちゃんの頭を優しく撫でます。

「分かったって、一応、もらっとくわ。なんかの役にたつかもしれへんし(絶対、たたんやろうけど)」
「……そうっよかった。それじゃー、焼きそばはちゃんと食べてね」
「うっ(臭いわ、これ)」

梨華ちゃん、立ち直りが早すぎです。
(それじゃー、ウソ泣きバレバレだべ)

259 名前:第2話 センチメンタル南向き  投稿日:2002年05月13日(月)00時38分24秒

こうして、2人は別れた。

と思ったら

「あ、亜依ぼーんっ!!」

と、梨華ちゃんが、また亜依ぼんのもとに走り寄って来ます。

「…なんや、もうっ!?」
「あのね、言い忘れたことあったの」
「だから、なに?」
「頑張ってね!困ったときは、どうなるんですかーって叫んだらどうにかなるから」
「はぁっ?ワケわからんわ…ともかく、さっさとよっすぃーんとこ帰り。さみしがっとるで」
「…うん、チャーオッ」

梨華ちゃんは頷くと家へと歩きはじめます。ホントになにがしたかったのでしょう。
が、心優しい加護太郎は、その背中が見えなくなるまで見送ってから歩きはじめました。
(これじゃ、どっちが旅に出たのか分からないべ)
260 名前:第2話 センチメンタル南向き  投稿日:2002年05月14日(火)00時48分06秒

さて、梨華ちゃんと別れてから数十分後、加護太郎は鬼の出現ポイント情報を集めに都へと向かって歩いていました。
すると、どこからか謎の声が聞こえてきます。

「う……ない…ない……ないよーっ!どこ行ったんだよ……そうだっ!こんな時こそ、ないないの神さまだ。ないないの神さま、ないないの神さま、いたらさっさと出てこいっーこらーっ!!」

こんな頼み方じゃ、ないないの神さまがいてもでてこないことでしょう。
加護太郎は、キョロキョロと声の主を捜します。


「あっ!……おった!」

少し離れた草むらに声の主は蹲ってました。
しかし、加護太郎の方を振り向こうとしません。
加護太郎の声は届いているはずなのにどうしたことでしょう?
(シカトだべか?)
261 名前:第2話 センチメンタル南向き  投稿日:2002年05月14日(火)00時48分56秒

「やっぱり、ないないの神さまなんていないんだ……もう、矢口、生きていけない!!」

矢口は、そう言うとどこからか包丁を取り出して自らの胸に突き刺そうとします。

「どわっ、や、や、や、矢口さん!なにしてるんですかーっ!?」

加護太郎は、慌ててその手を止めます。
矢口は、暴れます。

「離せーっ!!矢口は、あれがないとダメなんだっ!!」
「……あのっ!あれってなんなんですかーっ!?」

加護太郎が、必死で矢口を押さえながら訪ねると、矢口の動きがぴたりと止まりました。
(な、なにをなくしたんだべ、矢口は?)

「…品」
「は?」

「だから、…品」
「……は?」

「化粧品って言ってるだろ!!」

矢口は、叫びました。
――どうやら、化粧品をなくしてしまったようです。
(確かに、矢口は化粧前化粧後があのビフォーアフターコンテストに出れそうなくらい違うからね〜)

262 名前:第2話 センチメンタル南向き  投稿日:2002年05月14日(火)00時50分00秒

「け、化粧品ですか……」
「そうだよ、あれがないと矢口は矢口は」

と、矢口は、また暴れようとします。

「だーっ!分かりましたって、うち、持ってます。化粧品セット」
「え、マジで?」

反応が早いです。

「マジですって……ホラ?」
「おーっ!ホントだ、サンキューサンキュー、ちょっと待ってて」

矢口は、もぎ取るように加護太郎から化粧品を受け取ると、
再び草むらに隠れて化粧をしはじめました。
(まさか、梨華ちゃんのあげた化粧品が役にたつなんて…人生って不思議だべ)


ヌリヌリペタペタ、トントンガガガガ、キュィーン

まるで、土木作業中のような音が矢口のいる場所から聞こえてきます。(ある意味、矢口の化粧はそんな感じだべ)


「あの人、ホンマに化粧してるんか?」

加護太郎は、首を傾げて呟きました。

263 名前:nanasi 投稿日:2002年05月14日(火)08時02分39秒
ヒサビサに来たら加護太郎って(w
ンでもって、矢口の化粧すごすぎるぞ
264 名前:読者@ 投稿日:2002年05月15日(水)08時36分47秒
やっぱり、矢口か(w
ヌリヌリは分かるけどキュイーンって、ホントに化粧かよ、矢口
前作とはホントにまったく違う意味でおもろいです。がんがって。Snowと一緒に
265 名前:第2話 センチメンタル南向き  投稿日:2002年05月17日(金)00時21分37秒

待つこと30分。

「お待たせ!」

と、加護太郎の前に現れた矢口はもう化粧ばっちり完璧です。

「……長いですね〜、トイレ」
「うん、ちょっとお腹の調子が……って、なに言わせるんだよっ!!またPTAから文句くるだろ!」
「はいはい、そりゃーえろうすまんこって」

加護太郎は、矢口の頭をペシペシと叩きながら言いました。

「くっ!むかつく、こいつムカツク!」

矢口は、地団駄を踏みます。
(ジダンが地団駄ってCM……あれ、カヲリのギャグ並に寒いべ。それより、矢口セリフ)

266 名前:第2話 センチメンタル南向き  投稿日:2002年05月17日(金)00時22分39秒

「え?あぁ……えっと、助けてくれてありがとう(ったく、いつ助けられたんだよ?)」
「いえいえ、どういたしまして。それで?」
「え?あ、うん。えっと…どこ行ってるの?カワイイね〜お嬢ちゃ…って、おいっ!これじゃー矢口が変態みたいじゃんかっ!」
「ええから、はやく続けてくださいよ。あ、うちはいまから鬼退治に行くんですよ」
「ちっ……(ったく、なんだよ、このセリフ)……鬼退治ですか、それじゃ助けてもらったお礼にこの矢口、お供しますよ」
「はい、よく言えましたー。ほな、レッツゴー!!」
「はいはい」

こうして、加護太郎は、なにやら多少の私情をまじえた会話をしながらも、どうしてもお礼がしたいという矢口と一緒に旅をすることになりました。


                                   続く

267 名前:間奏 投稿日:2002年05月17日(金)00時23分37秒

「っていうか、マジムカツクーっ!!」
「まぁまぁ、落ち着くべさ」
「だいたい、なんで加護が主役なんだよ!」
「まぁまぁ、落ち着くべさ」
「あーっ!!それよりも、あたしのスッピン映ってないよね?」
「…………」
「ちょっと!ちょっとなんでそこで黙るの!?映った?映ってない?どっちだよーっ!!」

268 名前:第3話 Non stop  投稿日:2002年05月18日(土)00時45分49秒

「手〜を握って〜歌お〜よ〜、サンシャ〜イン♪」
「冒険の日々〜Go my way〜♪」

出会ってから数十分後、加護太郎と矢口は仲良く歌いながら都に向かって歩いています。
ホントに鬼退治をしに行く気があるんでしょうか?
と、そこへ1人の少女が走ってくるのが視界に入りました。

「??なにあの子?」
「さぁ?なんやろ?」

2人は、たいして気にも止めていません…が、少女はどんどんどんどん2人に近づいてきます。

「ね、ねぇ、加護太郎の知り合い?」
「え?しらへんって…矢口さんの知り合いちゃうん?」

2人は、少し焦ってきたのかうわずった声。
さらに少女はすごい勢いでどんどんどんどんどんどんどんどん2人に近づいてきます。
よく見ると、加護太郎と同じ年くらいのようです。
かなり不思議な格好、近未来的なデザインの服を着て、なにか叫んでいます。

「お腹すいたのれす〜っ!!」

2人の目前までせまっても少女はそのスピードを緩めません。


269 名前:読者@ 投稿日:2002年05月21日(火)23時33分38秒
更新アルかな?2chにも書いてみたけどさ
270 名前:第3話 Non stop  投稿日:2002年05月23日(木)00時54分31秒

「えっ!?ちょっ!!」
「ぶ、ぶつかる――っ!!」

ドシーンッ!!!!

轟音を響かせ、反動で上空に舞う3人のシルエット。
そして、ベシャッと次々に地面にたたきつけられる。(すごいスタントだべ)
3人は、気絶しているのかピクリとも動かない……
と、思ったら着地が一番上になった謎の少女が、ムクリと起きあがりました。
そして、加護太郎の荷物の中から焼きそばを見つけると、ガツガツと食べはじめます。

「モグモグ……トイレの味がするのれす…腹が減ってなけりゃ食べないれすよ、こんなの…モグモグ」

文句を言いながらも食べ続ける少女。
あっという間に、焼きそばは少女の胃袋の中へ。

「…っつー……」

そこでようやく加護太郎が頭を振りながら起きあがります。
フライングプレスで一番下になった矢口はいまだ白目をむいて気絶中。
加護太郎は、その眼を閉じてやりました。(なかなか優しいところもあるべ)
それから、謎の少女に目をやります。

271 名前:第3話 Non stop  投稿日:2002年05月23日(木)00時57分05秒

「あ――っ!!!」

加護太郎は、少女の傍らにポイ捨てされた焼きそばのパックの残骸を見つけて叫びました。

「……な、なんれすか〜?」

少女は、その声の大きさにビクッと体を強ばらせます。

「うちの焼きそば食ったんかーっ!?」
「へいっ!お腹がすいていたのれす♪」
「お腹がすいていたのれす♪やないやろ!!どないしてくれるん!
 うちかてお腹すいとんやっちゅーねん!!それこそ梨華ちゃんの作った焼きそばでもいいから食べたいってぐらいに!!」

加護太郎は、大げさに手を振りながら言います。

「しかたないれす、ののに会ったのが運の尽き始め」
「なにが仕方ないんやっ!こーなったら、あんた、うちの手伝いしーや」
「手伝い・・れすか?」
「そうやっ!うちらは今から鬼退治に行くねん。あんたのタックルはなかなか使い道ありそうやしな」

おっ!さすが浪速の商人。使えるモノは使ったれ根性です。
(ま、ののだし速攻オッケーするんだべ、きっと)

しかし、ののは少し難しい顔をしています。(??)

272 名前:第3話 Non stop  投稿日:2002年05月23日(木)00時58分25秒

「なに?嫌なん?うちと旅するの?」

加護太郎も不思議そうにののを見つめます。

「のの、実は人を捜してるんれす。だから、一緒に行くことは出来ません」
「人?誰や?」
「飯田さんです」
「飯田さん?」
「へい、のの、ちょっと散歩に行ったら道が分からなくなってしまったのれす。でも、飯田さんは待っててくれるのれす」
「ん〜そうか〜」

加護太郎は、ののの言葉の半分ほどしか理解していませんが、うんうんと頷きます。
やけにしんみりした雰囲気になってきました。と、そこへ

「それなら、その飯田さんが見つかるまで一緒に来たらいいじゃん!世界は広いぜっ!!」

いつのまにか、復活した矢口がずずぃっと2人の間に割って入りました。
(さすが、ミニモニリーダーだべ)

「せやな〜、どうせののもいろんなところ回るんやろ?途中でその飯田さんが見つかるかもしれへんし」
「そうれすね。じゃぁ、そうします」

ののは、あっさりと承諾しました。

273 名前:第3話 Non stop  投稿日:2002年05月23日(木)00時59分07秒

「うん、うちは、加護太郎。よろしゅうな、のの」
「へい」
「あたしは、矢口。っていうか、変な格好だね〜、あんた」
「そうれすか?これののの国では普通れすよ」
「ののの国って?」
「お空れす」
「…ワケわかんねーっ」

こうして、加護太郎の仲間がまた1人増えにぎやかなご一行になりました。



                                  続く


274 名前:間奏 投稿日:2002年05月23日(木)01時00分02秒

「第3話やけに短くないれすか?」
「しゃーないやん、ののの出番だけ書いたんやから」
「む〜」
「言うなれば、ののSPやで。モータイ以来の」
「む〜」
「辻―、はい、クレープ」
「てへてへ」
「簡単なやっちゃ…」

275 名前:第4話 純情行進曲  投稿日:2002年05月24日(金)03時22分30秒

都についた3人。
都の賑やかさが物珍しいのか安倍さんのように、キョロキョロとしています。
(ちょっと待つべさ、なっちのようにってどういうことだべ?なっちカッペじゃないべ!もう裏原ぐらい行けるべ)

「分かったから、話の邪魔しないで」
「…誰と話してるんですか、矢口さん?」
「え?いや、こっちの話。それよりも、せっかく都に着いたんだから買い物しよーぜっ」
「はぁっ!?」
「だって、洋服とか欲しくない?」

買い物依存症気味の矢口は、嬉々としていいます。

「矢口さん、うちらは鬼の情報収集に来たんですよ。ふざけてる場合じゃないんです。なぁ、のの…って、のの?」

2人が、話しているあいだに姿をくらましているのの。
いったい、どこに行ってしまったのでしょう?

276 名前:第4話 純情行進曲  投稿日:2002年05月24日(金)03時23分50秒

「やばいで、ののが迷子になってしもーた」
「はぁっ!?あいつ、もう14やろーがっ!」
「…せやかて、ののやし」
「…そうだな。よしっ、手分けして探そう!ついでに情報も収集してこいよっ」
「うちが主役やッ!勝手にしきらんといて」
「はいはい、ごめんなさいよ。でも、それでいいだろ?」
「ええよっ!ほな、うちはこっち行くから、矢口さんはあっちな」
「おうっ!!…ってちょっと待てよっ!あっち、なんかめちゃくちゃガラ悪そーじゃんか!!!」
「せやから、矢口さんに頼んでるんですよ。ほなっ」

加護太郎は、矢口にデッドゾーンである暗黒街の捜査を任せると、自分は見るからに安全そうなピース通りへ走っていきました。

277 名前:第4話 純情行進曲  投稿日:2002年05月24日(金)03時25分17秒

「くっそー!あいつ、絶対楽な方ばっかり選んでやがる…
 なんかさー、矢口って損だよね、リーダーでもないのに、ましてやサブでもないのに
 みんなのまとめとかしたりしてさー、中間管理職ってやつ?そんなのしたくねーよっ!
 それに、紺野?なんであたしの番組ばっかり乗っ取るわけ?
 たまにはさー、なっちとかよっすぃーとか乗っ取れよ、みたいな」

矢口は、まるでかっての梨華ちゃんが乗り移ったかのように
ぶつぶつと現状の不満をネガっぽく呟きながら、暗黒街へと足を踏み入れました。
(矢口……本音で語ろうは新メンだけで十分だべ)
278 名前:nanasi 投稿日:2002年05月24日(金)09時03分54秒
確かに矢口は中間管理職っぽいっすね(w
279 名前:第4話 純情行進曲  投稿日:2002年05月25日(土)01時25分50秒

その頃、平和な道を行く加護太郎は、

「はー、ラッキーやったな。あっちは、確かうちの大事なモノを奪った鬼婆がおるさかい、嫌やったんや。まぁ、コンマの戦いなら秒速の王者加護太郎が負けるはずがないんやけど…」

と、自画自賛しながら明るい通りを歩いていました。

すると

「ちょぃと、そこの髪が薄くなってきているお嬢さん」

と、呼び止められます。

「あぁっ!!なんやとこらっ!!誰が紙が薄くなってんねん!この鼻フックが――っ!!」

加護太郎は、通りで商売をしている占い師、ラブラブ里沙ちゃん(おぇー)に、話しかけられブチ切れました。
(ホントに気にしてるんだべね)
280 名前:第4話 純情行進曲  投稿日:2002年05月25日(土)01時26分48秒

「うちのは、髪が薄いんちゃうねん、分かるかっ!?えっ!?おらっ」
「いたたたた、加護ちゃん、これセリフだから…ごめんごめんなさい」
「……はっ!せやった。――って、アドリブやろがっ!!うちは、こんなセリフ作ってへんわ。うちが作ったのは、つぶらな瞳がキューティーでキューティクルたっぷりの素敵な美人さんやっ!なに勝手にセリフ変えてんねん!」
「ご、ごめん。だって、里沙、正直なんだもん♪ラブラブ」
「だもん♪ラブラブじゃないわっ!ほんまに、やなやっちゃなー」
「それより、話すすめようよ」

ラブラブ(ry)が、主導を握りながら話は進みます。
(これが芸歴ってもんだべね)
281 名前:nanasi 投稿日:2002年05月25日(土)10時02分00秒
niigakiキターっ(w
282 名前:第4話 純情行進曲  投稿日:2002年05月26日(日)00時32分42秒

「見たところ、なにかお探しみたいですけど?」
「…そうなんや、よく分かったな〜」
「そりゃ、ラブラブ占いじゃトップの里沙ちゃんですから。もちろん、新メン人気もトップ」

「だから、余計なこといわんでええっちゅーねん……」

「それで、お探しのモノは?」
「実はなー、いっぱいあるねん」
「は?」
「まず、金鉱やろ。あと、油田。ほんで、なんとか幕府の埋蔵金」

加護太郎は、想像を膨らませているのかジュルッとよだれをのみこみます。
(亜依ぼん、アドリブかますとこじゃないべ)

「おっと、せやった。えっと、ののを探してるんですよ」
「ののちゃん?分かりました。占ってさしあげましょう」

そう言うと、ラブラブ(ry)は、易をたてはじめます。
意外にもその姿は様になっています。顔自体が占い顔ですから、当たり前です。
加護太郎は、手持ちぶさたなのかうろうろうろうろ落ち着き泣くまわりを歩き回ります。
ラブラブ(ry)は少しそれをウザそうな目で見ながらも、シャラシャラと占いを続けました。
283 名前:第4話 純情行進曲  投稿日:2002年05月26日(日)00時34分57秒

「まだ〜?」
「もう少しです」
「ホンマかな〜。なぁ、もうええわ」
「もう出ますって」
ラブラブ(ry)は、立ち上がると一本の易を持って下を机に先を自分の指で支え
「えぃっ!!」と、気合いを入れてから指を離しました。

「この易が倒れた方向にあなたの探している人物がおられます」
「ちょぉ待ちや。これ、あれやろ?ドラ○もんのパクリやろ?尋ね人ステッキやろ?リルル探したあれやろ!?」

加護太郎は、時間をかけた割にアバウトすぎるその占いの結果に猛烈に異議を唱えます。
どこかで見たことある占い方と思ったらドラえ○んだったようです。
(って、こんなの分かる人いるべか?ごっちんぐらいしか分かんないと思うべ)

「違いますよー、ともかくこの方角で間違いなしです」
「せやかて、あれ、的中率ごっつ低いねんって。なにが未来の道具やってくらい低いんやって」
「大丈夫ですって、これはラブラブ占いですから。それよりも、占い料払ってください」

その言葉に、加護太郎は、ぴたりと固まりました。
284 名前:第4話 純情行進曲  投稿日:2002年05月26日(日)00時35分56秒

「な、なんぼ?」
「ラブラブ!しめて、10000000ぐらいかな」
「ぐらいってなんや!曖昧やなー。っていうか、その値段ぼったくりやん。おかしすぎるわ、あんた」

ラブラブ(ry)は、なかなかのボッタクリ上手です。

「いいんですー、ラブラブ」
「あー、ラブラブうるさいっ!もううちは行く、ほなな」

加護太郎は、ラブラブ(ry)を振り切って走り出しました。
その方角は、奇しくもラブラブ(ry)が占った方角……
果たして、本当にののは、いるのでしょうか?
(いい展開だべ、ドキドキしてくるべ。っと、矢口は、なにしてるんだろうね〜)

285 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月26日(日)20時29分37秒
ラブラブ出てキター(w
やべー、どらいもんネタわかんねー。調べてくる
286 名前:第4話 純情行進曲 投稿日:2002年05月29日(水)01時08分39秒

さて、暗黒街へと足を踏み入れたきり情報の途絶えた矢口さんは、今なにをしているのでしょう?
もしかして、あんなことやこんなことをされてどこかで野垂れ死んでいるかも――

「やーぐーちーっ!!んーっ!!」
「キショッ!やめぃっ、裕子!!」

って、あれ?なにやら誰かとバーで戯れています。
昼間からバーです。
(っていうか、なして裕ちゃんがここにいるんだべ?)

「それにしても、偶然やなー、矢口。あんたのピンチにうちが通りかかったのも偶然やし、うちがこの撮り知らんで楽屋に来たのも偶然やしなー」
「裕ちゃん、余計なこといいすぎ」
「あ、せやったな。やけど、ホンマ運命やな。This is運命や。メロンやメロン」
「……それはいいからさ、話すすめていいかな?」
「お、おうっ!」

(Na)の疑問に白々しく答えてくれた裕ちゃんは、どうやら矢口さんの昔からの知り合いのようです。

287 名前:第4話 純情行進曲 投稿日:2002年05月29日(水)01時10分05秒

「でさ、矢口たちは鬼退治に行くワケなんだけど、鬼の情報ない?裕ちゃん、これでも一応情報屋でしょ?」
「失礼やなー、これでもしっかりした情報屋やで……んー、鬼退治かうちとしてはすすめたくないけどなー」
「…なんで?」
「だって、矢口がピンチになったら嫌やもん」

裕ちゃんは、シレッといいます。

「じゃあ、裕ちゃんも一緒に行かない?」
「行かん」
「はぁっ!最悪、マジ最悪!」

はっきりきっぱり答えた裕ちゃんに矢口はマジギレです。

「だって、うち仕事あるもん。最後までおられへんから……」
「あっそっか。そうだよね」

やはり、私情を挟んだ会話を交えているお話です。
というか、私情の方が多くなってきたような気がします。
(まぁ、メンバーがメンバーだししょうがないべ)

288 名前:第4話 純情行進曲 投稿日:2002年05月30日(木)00時17分28秒

「…しゃーないから鬼ヶ島の位置くらい教えたるな」
「え!?知ってるの?」
「当たり前や、ほれ、地図」

裕ちゃんは、懐から少し古くさい藁半紙を取り出します。
それには、鬼ヶ島までの道。ロードオブザゴブリンと書かれていました。

「なにこれ?」
「やから、鬼ヶ島までの地図やん。うちが作ってん」
「…ふーん、ありがと。っていうかさ、あたし成り行きで行くことになったから鬼がなにしたのか知らないんだけど…人食べたりとかするの?」

矢口が不安そうに尋ねます。

「うちのしっとるかぎりじゃそんな話聞いたことないな。たしか、海老とか盗むって聞いたけど」
「海老!?…どんな鬼だよ、それ」
「さぁな〜」
「ま、いいや。それじゃ、あたしそろそろ行くね」

矢口は、聞くだけ聞くと立ち上がります。
裕ちゃんは、驚いて引き留めます。

「はっ!もう行くん?もっとゆっくりしていきーや」
「いや、裕ちゃんがもう行かなきゃいけないでしょ」
「あっ!せやったな。そうやった、それじゃーな、矢口」

矢口の言葉に裕ちゃんは、あっさりと納得して立ち去っていきました。
(矢口…のののこと忘れてるべ、完璧に)

289 名前:第4話 純情行進曲  投稿日:2002年06月04日(火)00時29分18秒

「ホンマにもう、中澤さんが勝手に出演するからナレーションがうちのとは違うし、アドリブばっかりでグダグダやん……え?声入ってました?…コホン、ののーっ!!おらんなー、のの」

ラブラブ(ry)の占いが示した方向を偶然歩いている加護太郎は、ぶつぶつうつむきながら文句を言っていました。
その視界にやけに背の高いシルエットが入ってきます。
加護太郎は、驚いて顔を上げました。
すると、そこには「ねぇ、笑って」と言いながら自分は笑っていない女性が立っていました。

「どわっ!ビックリした……」

「ねぇ、笑って」

「いや、あの」

「ねぇ、waratte」

「え…あの」

「ネェワラテ」

「…………あの、それよりもここらへんで女の子見ませんでした?うちと同じくらいの背格好で、ののって言うんですけど」

加護太郎は、このままではラチがあかないと思ったのか
いかにも言葉が不自由そうなこの女に向かって突撃質問をします。
が、答えはまったくもって期待していないのでしょう。

290 名前:第4話 純情行進曲  投稿日:2002年06月04日(火)00時30分54秒

「のの?のののののののののの…ガーピー」

女は、案の定オーバーヒートに陥りました
……加護太郎は、ため息をついてその場を立ち去ろうとします。
が、「カヲリ知ってる。のの知ってる」と、女が加護太郎を呼び止めました。

「ホンマに?」
「ホンマ、ほんばんわ」
「……そのネタ、忘れてや」
「ほんまにほんばんわ……ちょっと待て、呼び出すから」
「はぁ!?」

女は、頭がおかしいのか意味不明なことばかり口にします。
しかし、なにげに優しい加護太郎は、女が交信をはじめてもちゃんと待っていてあげました。

291 名前:第4話 純情行進曲 投稿日:2002年06月07日(金)00時46分21秒

――小一時間後

「そういや、矢口さんと待ち合わせしてたな〜。まだ待ってるやろか」

加護太郎は、いまだに交信のおわらない女を見上げながら呟きます。
その頃、矢口は「あいつっ!なにしてんだよっ!!」と、案の定、切れていました。



――さらに小一時間後

「……なぁ、うちちょっと帰っていい?ヒマや」

いい加減、しびれをきらして加護太郎は、女に問いかけます。
(カヲリ、交信長すぎだべ)
するとっ!突如、女が眼をかっぴらき

「……ディアーッ!!!!!!!!!!」

と、叫びました。

「どわっ!!」

加護太郎は、驚いてしりもちをつきます。

「な、なんなんや?びっくりさせんといてよ」

「クル…」
「は?」


「クル……」
「…なにが?」


「キターッ!!!!!」



「亜依ぼん!」


呼ばれて振り返るとそこには探していたののが立っていました。
走ってきたのか息を切らしています。


292 名前:第4話 純情行進曲 投稿日:2002年06月07日(金)00時48分04秒

「な、なんでここが分かったん?」
「なにかに呼ばれた気がしたのれす」

「辻!カヲが呼んだんだよ」

加護太郎とののが話しているとさきほどの女がののを抱き上げました。

「あ、あんたののになにするんっ!?」

加護太郎は、女を少し不気味に思っていたので、女がののになにかするんじゃないかと慌てます。
が、ののはそんな加護太郎の気も知らずへらっと女に笑顔を見せています。

「…し、知り合い?」
「いいらさんれすっ!」
「いいらさんって…あっ!ののが探しとるって言うとった」
「へいっ!」

いいらさんも、加護太郎に向かってにこっと笑います。
その笑顔は………言葉には出来ません。

「……そうか、こんな早く見つかるとは思わんかったな」

加護太郎は、しょぼんと肩をおとします。
前回でののとの旅は「いいらさんが見つかるまで」と言っていたのを思いだしたのです。

「ほな、のの、お別れやな。いいらさんと仲良うな」
「あ、亜依ぼん!」

加護太郎は、男に二言はないをモットーとしているので、呼び止めるののに笑顔を作り手を振ってその場を立ち去りました。

293 名前:第4話 純情行進曲 投稿日:2002年06月07日(金)00時49分32秒

女は、加護太郎が去っていることに気づかず話を続けています。

「それで、辻はなにしてたの?カヲリ超探したんだよ!電波ビンビコビンビン!」
「……」
「辻、聞いてる?のの?……」
「いいらさん、おはなしがあるのれす」
「……なに」

いつになく真剣なののの口調にいいらさんも真剣な面もちになります。

「ののは、亜依ぼんのお手伝いをしたいのれす」
「亜依ぼんってさっきの子?…あれ?いない?」

いいらさんは、ようやく加護太郎がいないことに気づいてキョロキョロしだします。
ののは、それに付き合っていたらいつ終わるか分からないので話を続けます。

「だから、いいらさんはののが戻ってくるまで船で待っていてほしいのれす」
「のの……」

いいらさんは、立派なののの言葉に感激の涙を流しました。
(……)

294 名前:第4話 純情行進曲 投稿日:2002年06月07日(金)00時50分26秒

「分かった、カヲリ待ってるよ。船は、あの山の奥だからね」
「へいっ!」

「気をつけていくんだよ」
「へいっ!!」

ののは、腕をブンブン振り回しながらそう返事をすると加護太郎が去っていった方角へ向かって一目山に走り出しました。

「辻も大人になったね〜」

いいらさんは、遠い眼でののの後ろ姿を見ながら呟きました。

           
                            続く。

295 名前:間奏 投稿日:2002年06月07日(金)00時51分57秒

「え?こんな中途半端なとこで続くんか?」
「カヲリ、なんかいい役じゃない?ねぇ、裕ちゃん」
「そうやな。っていうか、うち、こんなとこで喋ってる場合じゃないねん」
「カヲリ、かっこいー。電波ビンビコビン」
「ホナな、カヲリ!」
「カヲリと星とお月様。電波を受け取って」
296 名前:第5話 ランチタイム 〜レバニラ炒め〜 投稿日:2002年06月08日(土)01時07分55秒

さきほど、2人が別れた看板の前で加護太郎が来るのをイライラとした様子で待っている矢口。

「おっそいな〜、みつかんないのかな、辻」

矢口が、看板に体を預けた瞬間、

「矢口さん」

と、看板の後ろから加護太郎が現れました。

「どわっ!!きゅ、急に後ろからわいてくんなよっ!……って、辻は?」
「……もう、ええねん」
「はぁっ!?どういう意味……なんで泣いてんの?」
「泣いてへん…うちは、ののやない、加護太郎や、泣くわけないやろ」
「…どっかで聞いたことあるな〜それ…じゃなくて、マジどうしたの?」
「ええから、さっさと行きましょ…情報集めたんでしょ」

加護太郎は、そう言うとさっさと歩き出します。

「集めたけど…待てってば……あっ!」

矢口は、加護太郎のあとを追いかけようとしてなにかを見つけて立ち止まりました。
矢口の視線の先には、見慣れたシルエット。

297 名前:第5話 ランチタイム 〜レバニラ炒め〜 投稿日:2002年06月08日(土)01時09分15秒

「辻―っ!!」

そう、飯田さんと離れて加護太郎を追いかけてきたののの姿でした。

「おいっ!加護太郎!のの見つかったぞ!!」
「ウソつかんでください!ののは、もうおらんのやっ」

矢口の声に加護太郎は、振り向かずに答えます。

「イヤ、いるんだってば!!こっち向けよ!」

「人生なんてウソばっかりや……」

「おい!なにワケ分かんないこと言ってんだよっ!ホラ、辻」

「亜依ぼんっ!!」

ののが矢口に促されて加護太郎を呼び止めます。
その声に驚いて振り返る加護太郎。

「…のの?…なんでここにおるん……」
「ののは…ののは…」

「なんだ、辻?さっさと言えよ」

言葉に詰まるののを矢口がせかします。
(その気持ちも分かるべ…ののは、なにを加護に言いたいんだべか?)

「のの…あんた」

「ののは……お腹がすいたのれす!!!!」

――ズコッ!

まるでドリフのコントのようにこける2人。
ののは、なぜ2人がこけたのか分からずキョトンとしながらも加護太郎を起こしに行きます。


「ちょっと、矢口は無視かよっ!?」


298 名前:第5話 ランチタイム 〜レバニラ炒め〜 投稿日:2002年06月08日(土)01時11分43秒

「亜依ぼん」
「のの…あんた、あの人はどないしたんや?」
「飯田さんは、待ってくれるって。だから、早くご飯食べて早く鬼退治にいこっ」

にっこりと言うのの。
加護太郎もそれに照れ笑いのような表情を返します。

「ホンマ、かなわんわ、あんたには」
「てへてへ」
「ほなら、さっさとご飯食べにいくでー」
「おーっ!!」

2人は、通りにある一膳飯屋に走り出しました。

「おいっ!!完璧忘れるなよーっ!!」

まだズコッとこけたままの矢口が叫びました。
(矢口ってやっぱり損な役回りだべ)

299 名前:第5話 ランチタイム 〜レバニラ炒め〜 投稿日:2002年06月09日(日)00時59分47秒

一膳飯屋マコッ亭

「ガツガツむしゃむしゃもりもり」
「ハグハグずるずるしゃきしゃき」
「あー、もう辻お前、こぼしてる…あっ!加護太郎、お前もっ…いい加減にしてよー」

豪快に出てくる料理をたいらげていく2人。
それとは、ひき替えにまったく食べるヒマのない矢口
(ほんっとに同情するべ)

「お客さーん、いい食べっぷりあるねー」

そこへ、店の店主が嬉しそうに3人のテーブルにあらわれました。

「ガツガツ……誰、あんた?」
「私は、この店の料理人アルよ。マコPと呼ぶある」

「むしゃむしゃ…料理人?」
「そうある、こー見えて調理の鋼人にも出ました」

「へー、すごいじゃん」

矢口は、食べることを諦めてマコPと話し出します。

「すごいアルよ」

「自分で言うと…ちょっとあれだけど……」

かなり自信家の料理人のようです。それを横目で見る加護太郎とのの。

「ごくごく……あんたさー」
「なにアルか?」

「くちゃくちゃ…それでも料理人のはしくれれすか?」
「ど、どういうことあるっ?」

突然、失礼極まりないことを言いだす2人。
マコPは、かなりご立腹の様子です。

300 名前:第5話 ランチタイム 〜レバニラ炒め〜 投稿日:2002年06月09日(日)01時00分45秒

「ちょ、ちょっとなに言ってるんだよ、2人ともー」

矢口が、慌てて止めにはいります。が、2人はなおも続けます。

「だって、料理人は話する職業やないで」
「そうれすっ!お客様のために馬車馬のごとく料理をつくるのが仕事ってもんれすっ!!」

「なっ!!なっに――――っ!!!」

マコPは、2人の指摘にアニメのように雷を受けて驚きを表現します(よく死なないもんだべ)
矢口は、「なんだよ、この話」と、小さく呟いています。

「さぁっ!分かったらさっさと飯つくってこんかーいっ!!」
「ちゃっちゃっといかねーと料理人失格の烙印を押しちゃいますよっ!!」

――料理人失格の烙印…ってそんなのあるわけがありませんよ。
まったく、この2人はなにがしたいのでしょう?

「は、はいアルッ!!」

って、ええ!?マコP信じちゃうの!?
って感じで、小走りで厨房に戻っていくマコP(単純というか素直というか……)

301 名前:第5話 ランチタイム 〜レバニラ炒め〜 投稿日:2002年06月09日(日)01時01分36秒

「ちょっと、あんたたち、言いがかりつけるのやめろよ、マジ恥ずかしいんだからさ」

いいかげん、注意の一つを言いたくなった矢口。
この2人に注意したところでなにもかわりはしないだろうと思いながらそう口にします。
しかし、加護太郎もののも妙に神妙な顔をしています。
もしかしたら、少し反省しているのかもしれません。

――が、次に2人の口から出た言葉は矢口の予想を遙かに上回る物でした。

302 名前:第5話 ランチタイム 〜レバニラ炒め〜 投稿日:2002年06月09日(日)01時02分50秒

「矢口さん、今のうちやで」
「な、なにが?」
「逃げるのす」
「はぁっ!?」
「みんなが、マコPに注目しとるうちにダッシュや、行くで」
「行くれすよ」

「えっ!?」

2人はムリヤリ矢口を引き連れて店を弾丸のような早さで飛び出していきました。

「なんでだよーっ!!」

「金がなかったんや!」

「なら、飯屋に入ってんじゃねーよっ!!」

「腹が減ってたんれすっ!!」

「あ――っ!!マジこいつらと旅なんて嫌だよっ」

――その日、夕日に紅く染まる町並みを並々ならぬ早さで駆け抜ける3人の怒鳴り声が都中に響き渡りましたとさ
(こんな調子でホントに鬼退治なんてできるんだべか?)


                                つづく

303 名前:間奏 投稿日:2002年06月09日(日)01時03分51秒


「私って料理人なんですねー」
「あれだね、中華の鉄人っしょ」
「違いますよー、だって、出てる料理フランス料理でしたもん」
「ちょっと待つべ、それおかしくないかい?」
「なにがですか?」
「だって、小川、中華の調理服着てたべ。語尾にアルアル言ってたべ」
「ええ、そうですよ」
「…………なんでフレンチ?」
「なんか辻ちゃんと加護ちゃんのリクエストらしいっすよ」
「………」

304 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月09日(日)08時23分26秒
ホント苦労人だな矢口は
305 名前:第5.5話 ワガママ 投稿日:2002年06月10日(月)00時33分12秒

断崖絶壁。
波が打ち寄せる孤島。
の、洞窟内


「ね〜、け〜ちゃん」
「なによ?」
「お腹空いたね〜」
「そりゃ、5時間待ちなんてしてりゃねー」
「だよね〜」

なにやら普通に会話をしている怪しげな格好の2人がいます。
(ちょっと、けーちゃん、もう映ってるんだべ)

「え?なんでNA入れてんの?もう撮ってる?映ってるの、これ?」
「どうしたの〜?」

「ねぇ、真鬼?」
「はぁ?け〜ちゃん、なんでそんな呼び方してんの〜」

け〜ちゃんは、真鬼になにかを見ろと指示するかのように指さします。
真鬼と呼ばれた少女はその方向へ素直に視線を向けて、
それから「やばっ!もう撮ってんじゃん」と、口を押さえました。
(どんな状況にも対応するこれがプロのNAってもんだべ)
306 名前:第5.5話 ワガママ 投稿日:2002年06月10日(月)00時34分47秒

「いい?」
「うん」

確認をしてから始める2人。
よく見ると、真鬼の頭には角が2本ついています。
けーちゃんは、ついていません……けーちゃんにつけた方がよく似合うはずなのに不思議です。


「ねぇ、真鬼?」
「なに、けーちゃん」

真鬼が首を傾げます。

「実はさ、都から討伐隊が出てるみたいなのよ」
「討伐隊?」
「そう、ここもやばいわよね」
「え〜、あたしなんにもしてないじゃん」
「鬼ってだけで怖がられるのよ、この時代は」

けーちゃんがしみじみいいます。

すると、真鬼もしみじみと「っていうか、けーちゃんの顔の方が怖いし」といいました。

「はぁ?そんなセリフなかったでしょ?」

これには、すぐさま反応するけーちゃん。

「え?あったよ、台本に」
「マジで?」
「うん」
「……あとで見せて」

けーちゃんが項垂れながら言うと

「オッケティング〜!」

真鬼は、そうぐっと親指を突き出します。

307 名前:第5.5話 ワガママ 投稿日:2002年06月10日(月)00時35分39秒

「それより、お腹空いたね。海老食べたいね」
「は?」

「おねがーいフラーッシュ!!」

どこかで見たことのあるポーズで真鬼がけーちゃんに言います。
(どこかで見たことあるって……白々しい)

「……分かったわよ。ちゃんと戸締まりしてるのよ」

お人好しなけーちゃんは、真鬼のそう言って洞窟から出ていきました。



「……戸締まりって、ドアないのに?」

真鬼は、キョトンとした顔で首を傾げました。


                              続く
308 名前:間奏 投稿日:2002年06月10日(月)00時37分42秒

「お疲れさまでしたー……後藤、台本」
「およよっ、ほい」

パラパラパラパラパラパララ 

「…ホントに書いてる……あっ、ここも私のと違うわ……あっ!!あっ!!!」
「け、けーちゃん?」

「あいつ、私の悪口だけ隠したのねっ!」
「あいつって誰?ねぇ、けーちゃん?」

「覚えてなさいっ!!!」


「ちょっと、どこ行くの?けーちゃんっ!!??」


309 名前:第6話  ハッピーサマーダンスサイト 投稿日:2002年06月11日(火)00時51分48秒

「走るでー走るでー!!!!」
「GO!GO!GO!GO!」

「いい加減、止まれーっ!!」

例の3人組は、暗くなりゆくあぜ道をまだ走り続けていました。
と言っても、約1名は引きずられているだけですが……

「チャージや」
「ターボで」

「「スピードうp!」

さらにスピードをあげようとするる2人。

「死ぬって、矢口、マジ死ぬって!!!」

矢口の悲鳴が虚しく木霊します。
しかし、日頃の行いがとくにたいしたことがなくても天の助けとはあるものです。

「ちょっと、どういう意味?」
(台本に書かれてるだけだべ)

「加護!どういう意味だよ!!!」

NAの一部分に敏感に反応した矢口は、ひきずられながらも私情を挟んだ言葉を吐きます。しかし、加護太郎はそれをあっさりスルーしながら「あーっ!!」と、なにかを指さして叫びました。

310 名前:第6話  ハッピーサマーダンスサイト 投稿日:2002年06月11日(火)00時53分01秒

「はぁっ!?」

その声に振り向こうとする矢口、と、同時に狙ったのか狙っていないのか絶妙なタイミングで急ブレーキをかけるののと加護太郎

「んげっ!!!!」

矢口の首が見事に締まります。
たまらずダウンする矢口に気づかず加護太郎とののは目標物に向かって走り出しました。(Ah、かわいそう)

さぁっ!その目標物とはいったい!!??     

                              続く





「勝手に続くにせんでください、焦ってるんですから」
(ごめんだべ、ついつい)

「亜依ぼん、それよりもあっち」
「おっ、せやったせやった!!」

とちゅう、脱線しつつも目標である2つの人影へ向かう2人。

311 名前:第6話  ハッピーサマーダンスサイト 投稿日:2002年06月11日(火)00時54分09秒

「だから、あたしが食べるんじゃないんだってば!」
「ダメです〜っ!これは、うちの料亭で使う大切な食材!渡せません」

「いいじゃない、少しくらい!」
「ダメです〜っ!これは、うちの料亭で…」

「高橋、あんた同じとこ言ってる」
「え?あ……ごめんなさい」

「もう一回いくわよ…いいじゃない、少しくらい!」
「ダメです〜っ!!命より大事な海老は渡せません!!」

なにやら揉めているのかいないのかよく分からない2人ですが、話の流れでは揉めています。
よく見ると、1人はけーちゃんです。
高橋の持っている海老壷を強奪しようとしています。
(チェインギャングだべ)

312 名前:第6話  ハッピーサマーダンスサイト 投稿日:2002年06月11日(火)00時55分09秒



「のの?聞いたか?」
「へいっしかとこの耳で」

加護太郎とののは、小声でそんな怪しげな会話を交わして目を見合わせます。
そして、コクリと頷きました。いったい、なにを聞いたんでしょうね?

「いっくでー!!!」
「料亭!!!!!!!」

…………そういうことでした。

どうやら、2人は純粋な人助けをする気はないようです。
見返りを求める現代人。


「だから、勝手にアドリブで悪いnaいれんといて」
「そうれすよ、ののたちは、純粋にボランティアれす」

(ご、ごめんだべ)


313 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月11日(火)08時41分30秒
寂しいなんてちゃんと読んでますから大丈夫っすよ。
314 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月12日(水)05時25分43秒
セリフ間違いが高橋らしいですね(wがんがってください
315 名前:第6話  ハッピーサマーダンスサイト 投稿日:2002年06月14日(金)01時22分16秒
「こらーっ!!!そこの鬼瓦!!!」

NAにぼそっとツッコミを入れてから、加護太郎が、叫びます。
けーちゃんが、海老壷を手から離してぴくっと振り返りました。
その顔は、この世の者とは思えない恐ろしさです。

「なんですって、加護!!あんたね、私のだけ台本違うってどういうことよっ!!!」
「や、や、や、保田さん、ちゃんとセリフ言うてくださいよ!!」

加護太郎は、怯えつつもなんとか突っ込みます。

「…わ、分かってるわよっ!!…と言うと思ったら大間違いよっ!!」

大人なけーちゃんはしぶしぶ納得するかと思わせて肩すかしをくらわしました。
やっぱりどんな人格者でも切れることもあるようです。
(この見事な繋げ方、やっぱりNAの才能あるべ)

316 名前:第6話  ハッピーサマーダンスサイト 投稿日:2002年06月14日(金)01時24分56秒

その頃、ののはけーちゃんの形相に腰を抜かしている高橋の元へ歩み寄っていました。

「へいっ!今のうちに逃げるんれすよ」

手には、しっかりと海老壷を持っています。(いつのまに取りに行ったんだべ?)
それから、優しく高橋を抱え起こします。(似合わない光景だべ)

「あ…あの?」
「お礼はいりませんよ、お礼は!!」

お礼の所だけに強くアクセントを置くのの。
これでは、お礼を催促しているようなものです。

「……でも、あの方は」

高橋は、ののよりも加護太郎の方を指さします。

「亜依ぼんは、強いから大丈夫れすよ。それよりも、海老が腐る前に」

やっぱりののです。

「…でも、あれ鬼ですよ。1人で倒せるわけが」
「鬼ッ!!??」

そこではじめてののは、亜依ぼんとボケツッコミをしている人に目を向けました。
ということは、海老壷しか今まで見てなかったんですね。

「せやから、それはー」
「問答無用っ!!!」

加護太郎は、けーちゃんに押され気味のようです。

「亜依ぼん!」

ののは、慌てて加勢しに行きました。

317 名前:第6話  ハッピーサマーダンスサイト 投稿日:2002年06月14日(金)01時25分50秒

その隙にさっさとその場を立ち去る高橋。

「……よかった、これで海老壷は守れる…ふふふ、頭とはこのように使うんですよ」

だいぶ歩いたあとに、そう静かにほくそ笑んでいると前から顔を真っ赤にしたピグモ……もとい矢口が走ってきました。

「辻―っ!!加護―っ!!!」

ようやく失神状態から脱したようです。(矢口、落ち癖がつくべ?)
それにしても、矢口の頭には私情だけしかありません。

「あっ高橋じゃん、辻と加護は??」
「あ、あっちのほうに」
「そう、ありがとーっじゃーなっ!!!」
「は…はぁ」

高橋は、ものすごい勢いで風のように賭けていく矢口の背中をぼう然と見つめて一言呟きました。

「……お供の役じゃなくてよかった」

318 名前:第6話  ハッピーサマーダンスサイト 投稿日:2002年06月16日(日)01時18分00秒

さて、その頃不毛な言い争いを続ける3人は。

「もうええっ!!意地でも話戻しますっ!!」

いい加減に逆ギレした加護太郎が懐の脇差しから剣を取り出します。
あの思いでの落ち武者の剣です。

「都を荒らす鬼めっ!!覚悟しーやっ!!」

決めぜりふの極妻です。

「おー、かっこいい、亜依ぼん」

ののが手を叩いて喜びます。
しかし、けーちゃんはフッと不敵に笑いました。

「あんたが私に勝てると思うの?カモーンナッ!!」

ノーガードのままで、かかってこいというようにクィクィッと指を動かすけーちゃん。
加護太郎は、むっと眉を寄せます。
うかつにかかっていっては返り討ちにあうかもしれません。慎重です。
静寂が訪れます。先に動いた方が負ける――まさに真剣勝負。
(なんだべ?急にシリアスに…しかも、台本通りに進行してるべ)
と、思ったのも束の間でした。

319 名前:第6話  ハッピーサマーダンスサイト 投稿日:2002年06月16日(日)01時26分31秒

「………」
「………」

「………保田さん」
「なによ?」
「後ろにお化けがいますよ」

「はぁ?そんな古典的な方法に騙されるわけないでしょ!」

「そうですよね」

加護太郎は、作戦失敗と言った風にうつむいて頭をかきます。

「まったく、真剣勝負なんでしょ?」

けーちゃんが、フンッと鼻を鳴らします。

「そうですけ…・ど……・や、や、や、保田さん」

顔を上げた加護太郎はセリフの途中で、驚愕の表情を浮かべます。
いや、驚愕と言うよりは恐怖が近いかもシレマセン。

「今度は、なによ?」

けーちゃんは、どうせまたウソだろうと意にもとめません。

「う、う、う、後ろの百太郎ですよっ!!」

「はぁっ?だから、そんなのに騙されないってば」

「イヤ、ホンマにおるんですって」

加護太郎は、逃げようと後ずさりながらののの姿を探します。
が、いつのまにかののはいなくなっています。

のののいた場所には、「いったんてったいします、のの」と書かれた置き手紙が。

取り残されたことを知ってさらに青くなる加護太郎。

「ご、ごめんなさいっ!!!!」

そう言うと、脱兎のごとく駆け出しました。

320 名前:第6話  ハッピーサマーダンスサイト 投稿日:2002年06月16日(日)01時27分58秒

「え?ちょっと加護!?」


「セェクゥスィービィームゥ―――!!!!!!」


真後ろでそんなかけ声がしました。と、同時に加護太郎の悲鳴が耳に入ります。
けーちゃんは、恐る恐る振り向きます。
そこには、鬼よりも鬼のような顔をした矢口さんがメラメラとその身に炎を纏い立っていたのです。
(伊達に切れたら怖い人ランキングtopに入ってないべ)

「や、やぐちっ!?」

思わず素に戻って後ずさるけーちゃん。

「パッパカパーノウァチャーッ!!!!!!!!!」

怒りに我を忘れた矢口は、目の前の人物がまったく関係ないけーちゃんでもかまわず跳び蹴りを喰らわしました。

「んげーっ!!」

けーちゃんは、松浦のような謎の悲鳴をあげて後ろ向きに倒れました。
あとには、矢口1人だけが残りましたとさ。


                               おしまい。

321 名前:間奏 投稿日:2002年06月16日(日)01時28分57秒

「……ふーはーふーはー……なっち、おしまいじゃないでしょ、多分」
(え?続ける気あるんだべか?)

「当たり前…っていうか、矢口は、仕事に関しては妥協しないよ」
(……自分から話し壊しておいてよく言うべ)

「と、ともかく、ここがNAの実力の見せ所じゃん。はいスタート!」


(勝手だべ、矢口……)


322 名前:読者@ 投稿日:2002年06月16日(日)08時50分31秒
ついにやっすーと遭遇!?
そうか、こっちで倒されてるからあっちは更新ないんですね(w
323 名前:第7話 バイセコー大成功 投稿日:2002年06月17日(月)00時25分17秒

というわけで、前回、主役が仲間にやられてしまうという異例な事態が起こってしまいましたが、
それはまったくなかったことにして第7話は進みます。
(いいのかな?こんなんで?加護、がんばるんだよ)

「ホンマしんどいわ。セクスィービームって痛いんやな」

加護太郎が、首に手を当ててポキポキと鳴らします。
その隣には、矢口。
手には、縄を持っています。

「ゴチャゴチャ言わないで、ホラ、手がかり捕まえるの成功したじゃん」
「鬼退治終了やな」

縄を辿っていくと、グルグルと縛られたけーちゃんの姿。
(ん?鬼退治終わったってことはこの話ムリに続ける必要ないべ)

「私は鬼じゃないわよ」

けーちゃんが言います。

「でも、裕ちゃんから聞いたんだよ、鬼は海老好きって…それで、なんでけーちゃ」
「ホンマに?」

矢口の言葉に割り込んで加護太郎が問いかけます。矢口は、
うなづいて言葉を続けようとします。

「海老を強奪しようとしたのはけーちゃんだけど、なんでけーちゃ」
「でも、鬼のくせに角がないなんておかしいれすね〜」

再び矢口の言葉に割り込むようにして今度はののの声がしました。

324 名前:第7話 バイセコー大成功 投稿日:2002年06月17日(月)00時27分30秒

「そやな〜、のの…ってのの!!あんた、どこ行ってたん!!うちがあのあとどんなめにあったかわかっとんの?」
「テヘテヘ」
「テヘテヘちゃうわ!」

「だからさっきから私が言おうとしてたのは、けーちゃ」

「なんでやろ?」

また遮られる矢口の言葉。
矢口は言う言葉を諦めてけーちゃんの前にしゃがみこみます。
さっきからなにを言おうとしていたんでしょう。
けーちゃんは、矢口からぷいっと顔を背けて憮然とした表情。

「ほんなら鬼はどこや?保田さん、なんで食べれへんくせに海老盗んでたん?納得のいくせつめーをしてもらおうやないかぃっ!?」

突然、その間に割り込む加護太郎。まるで借金取りのような口調です。(ちょっと、加護抑えて)
けーちゃんは、加護太郎から目を反らし「それは言えないわ」と言いました。(ようやく台本通りになってきたべ)

325 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月17日(月)01時52分03秒
圭ちゃんとごっちんの関係が気になる〜!
326 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月17日(月)08時35分19秒
おれは、ヤスとヤグの関係が気になる〜!(w
327 名前:第7話 バイセコー大成功 投稿日:2002年06月18日(火)00時52分25秒

「言えないってどういうことれすか?」
「ともかく、言えない……でも、私は鬼じゃない、分かったらこの縄はずしてよ」
「はずして言われてはいよなんて誰が言うかっちゅーねん!」

「いや、はずしてあげようよ」

反対する加護太郎を「ソ、カモン」とジャンピングパンチで牽制してけーちゃんを縛る縄をほどく矢口。
同期の絆は健在。
まるで天使です。(でも、天使の称号はなっちのものだべ)

「ありがと、矢口」

けーちゃんは、うつむいてそう言うとその場を去ろうとします。
しかし「ちょっと待ってよ、けーちゃん」と矢口が呼び止めました。
振り返るけーちゃん。
その眼には、極悪な笑みをたたえた悪魔がいました。(あれ、矢口?)

「まさか、このままサヨナラって気じゃないよね」
「え?どういうことよ、矢口」
「助けてもらってお礼も無し?」
「え?え?」

どんどん詰め寄る矢口(さっきのは訂正だべ)


少し離れたところで、加護太郎とののは言いました。


「大人って怖いね……」
「うちより極悪やん」

328 名前:第7話 バイセコー大成功 投稿日:2002年06月18日(火)00時53分42秒

立ち止まったまま見つめ合う矢口とけーちゃん。
なにかこの2人には深いつながり(ヤグヤスの時代)を感じます。
それから、けーちゃんは苦しそうに視線を逸らして呟きました。

「鬼は……悪い子じゃないわ」
「え?」

「クールでもないよ…」
「え?」

「セクスィーでもないよ…」
「は?」

「子供なんだよ…」
「……それって…あの迷ラジオ?」


「だから、私は真鬼を守る!!」


けーちゃんは、そう言うと矢口を突き飛ばして走り去りました。

「…けーちゃん……」

矢口は、なぜか悲しそうにその後ろ姿を見送ります。


「逃〜がした〜逃〜がした〜、せんせ〜に言うた〜ろ〜♪」

ののと加護太郎はお構いなしに歌っていました。


                                  つづく
329 名前:間奏 投稿日:2002年06月18日(火)00時54分53秒

「なんかうちら今回出番少なかったな」
「そうれすね」
「のの、3回しか喋ってへんで」
「そうれすね」
「ええの?」
「ののは最後にいっぱい出番があるはずれす」
「(スマン、のの)」
330 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月19日(水)04時10分57秒
ダイバーは迷ラジオ
331 名前: 投稿日:2002年06月22日(土)00時34分57秒
えー、誠に申し訳ないのですが諸事情によりPCがまったく使えない状況に陥ります。
で、今、連載している3つの話をどうにか完結まで持ってこようとしているのですが、
この話だけはどうも間に合いそうにありません。
ホントに未完にするつもりは全くなかったのですが残念です。
読んでくださっている方、本当に申し訳ありません。
一応、できるとこまで交信します。
332 名前:第8話 Memory青春の光 投稿日:2002年06月22日(土)00時37分01秒

「今日は、野宿やな〜」
「お金がない、たまにはそんなこともあるのれす」
「たまにはっていっつもやろ」
「そうれした」

加護太郎とののはそんなことを言いながらもチラチラと心配そうに火をくべている矢口を見ています。
いつもならののへのツッコミを2人がかりでするのに……
さっきけーちゃんと話して以来、矢口はずっと沈み込んで突っ込みません。
2人は顔を見合わせてそれから意を決したように矢口の傍に座りました。

「矢口さん」
「ん?」
「あの鬼……やなくて保田さんとどういう関係だったんですか?」
「え!?どういう意味」

「らって、自慢酢るんらもん」

「は?」
「のの、それは今関係ないから」

「そうれした……らって、矢口さん、あの人になにか言おうとしてたのれす」

どうやらあの時、2人はわざと矢口の言葉を遮っていたようです。

「って、お前らワザとかよっ!」

「テヘテヘ」
「……スマソ」

素直に謝る2人。(って、のののあれは謝ってるんだべか?)

333 名前:第8話 Memory青春の光 投稿日:2002年06月22日(土)00時39分06秒

「まぁ、いいけどさ。私とね、けーちゃんって」

矢口がそんな2人に微笑を浮かべて話しかけたその瞬間でした。


「あーっ、のの!それうちが食べようと思ってたんやで」
「そんなの早い者勝ちれすよー」
「ずっこいわ、自分」

2人は食べ物をめぐって争い始めました。
矢口の肩がぷるぷると小刻みに震えています。
(ちょっと2人ともちゃんと話聞いたほうがいいべ)

「あのさー、聞く気ないワケ?」

「あっ!聞きます聞きます。どうぞ」
「聞く気満々れす」

「じゃぁ、話すね……私とけーちゃんって」


「あーっ!!ののっ!!!」
「早い者勝ちレス!!」


「いい加減にしろ――っ!!」


ドッカーンと轟音がそこら中に響き渡りました。

それから10分後。
正座して矢口の前に座っている2人。
(今度こそ聞く気ばっちりだべ。でも、これじゃ矢口がいじめてるみたいだべ)

334 名前:第8話 Memory青春の光 投稿日:2002年06月22日(土)00時40分23秒

「わたしとけーちゃんってね、幼なじみだったんだよ」

「「え!?」」

矢口の言葉に驚く2人。

「ということは、矢口さんは鬼れすか?」
「ある意味鬼やな〜、のの、うまいこと言うやん」

そこまで言って、加護太郎は殺気を感じ口を閉じます。

「コホンッ……いい?今度、話中断させたらあんなもんじゃすまないからね」
矢口は笑顔で言います。
が、眼だけは笑っていません。
そこに矢口のマジ度数があらわれています。
2人は、無言でコクコクと首を縦に振りました。

「私とけーちゃんはね……」

矢口が、しみじみと語り始めます。

「あっ!ちょー待って」

それを加護太郎が慌てて止めました。

「なに?」
「もしかして、ムダに回想シーンいく気やないですよね?」
「ムダってなに?ムダじゃないじゃん」
「ずっこいですよー、ほんならうちの回想シーンも入れてほしいです」
「あんたの回想シーン?そんなのできるわけないじゃん、籠から生まれた謎の生物なのにさー」

「うっ!!……」

「ともかく、回想シーンいくからね」

なかば押しきるようにして矢口は回想シーンに突入しました。
(…ちょっとNa厳しいかな?)

335 名前:第8話 Memory青春の光 投稿日:2002年06月22日(土)00時41分49秒

青い青い空。白い白い雲。どこまでも広がる田んぼ。
そんな村に矢口とけーちゃんは生まれ、そして、共に暮らしていました。

矢口が家の縁側で寝ころんでいると、外から誰かが矢口を呼ぶ声がしました。

「矢口―!」

「…なに、けーちゃん…ってうわっ!?なに、その格好?」

矢口の元にスカタンスカタンといった感じに走ってきたのは、けーちゃん。
それはそれは、凄い格好です。

「ミニモニだよ、ミニモニ。これ着ろってさっき言われちゃってさー、似合う?」

いくら回想シーンだからってこれはきついです。
しかし、けーちゃんはなんだか嬉しそう。
矢口は、よく見せるあのひきつった笑顔で「に、似合うよ、なかなかいいんじゃない?」と言いました。
(ムリしすぎだべ)

「やっぱりね。今度、ヤッスー王女とミニモニ王子でユニットできないかしら?」

「ムリ、絶対ムリ」

矢口は、即答で断りました。
とにもかくにも、けーちゃんはなにしにきたのでしょう?
あまりにも衣装のインパクトが大きすぎたために忘れていました。

336 名前:第8話 Memory青春の光 投稿日:2002年06月22日(土)00時44分54秒

「そうだった、そうだった…で、どうしたの?」
「うん、それがさー聞きたいことがあって」

けーちゃんは、神妙な面もちでそう言いながら矢口の隣に座ります。

「……頭に角が」
「生えたの!?」

「違う違う、見れば分かるでしょ」
「そうだね」

「……頭に角が生えた…人間っているのかな?」
「は?けーちゃん、生えたの?」

そう言って、矢口はけーちゃんの髪の毛をさわりだします。

「だから、違うって言ってるでしょ!」

うっとうしそうに手で祓うけーちゃん。

矢口は、「じゃぁ、誰が角生やしてんの?ワケ分かんないって」
なぜか逆ギレ気味の矢口。

「だから、たとえばの話よ、たとえば」
「たとえばの話?マジ意味分かんないけど…頭に角って言ったら鬼なんじゃないの?」

矢口は、首を傾げて言います。

「鬼…そうなのかしら?」
「??もっと詳しく話してくれないとちょっとさー」

「じゃぁさ、もし鬼がいたらどうする?」

「????そりゃ、怖いから退治してもらうんじゃない?」

矢口は、地底人でも怖がる人ですから、そう言います。
その言葉にけーちゃんは悲しそうな顔をしました。

337 名前:第8話 Memory青春の光 投稿日:2002年06月22日(土)00時46分16秒

「鬼がすっごいいいヤツでも…やっぱり退治しなきゃいけないのかな?」

「……ねぇ、けーちゃん……もしかして、ほんとに鬼になりかけてるんじゃないよね?」

矢口が、今度は心配そうにけーちゃんの髪の毛から角を探そうとします。

「だから、違うってば!!」

けーちゃんはやはりうっとうしそうにその手を払いました。

「あ、ゴメンゴメン」

素直に謝る矢口。
けーちゃんは、スックと立ち上がります。

「あれ?もう帰るの?」
「うん、それじゃーね」
「あ、うん、バイバイ」

矢口は、けーちゃんの背中に手を振りました。


「…ねぇ、矢口」

けーちゃんが立ち止まり、矢口に背中を向けたまま呼びかけました。

「え?」

「私たちさ……」

やけに真剣な響きの声に矢口も自然と背筋をピンと張ります。

「なにがあっても友達だよね」

「…あ、あったりまえじゃん!!けーちゃんの頭に角が生えても友達だって」

矢口が、大げさなジェスチャーつきでそう言うと、けーちゃんは「ありがと」と走り去りました。
(やっぱりスカタンスカタンって効果音が似合う走りかただべ)


338 名前:第8話 Memory青春の光 投稿日:2002年06月22日(土)00時47分11秒

時は戻って現在。

煌々と炎に照らされた矢口の顔。それは少し寂しげに見える。

「けーちゃんは、その次の日に村からいなくなってた……矢口は、その時なんにも気づいてあげられなかったんだよね」
「矢口さん……」

加護太郎が心配そうに声をかける。

「……矢口が気づいてあげなきゃいけなかったのに」
「…保田さんは、鬼になっちゃったんですね」

真面目な顔で言う加護太郎。矢口は、ゆっくり首を横に振りました。

「…………違うよ」

「え?話の流れやったらそうやないですか?もう、やから無駄な回想はやめましょ言うたんですよ」

「けーちゃんが村を出たあとに長老の元爺があたしのもとに来たんだ」
「元爺?」

加護太郎が首を傾げました。
(え?まさかまた回想?いくの?あ、はい…分かりました)

339 名前:第8話 Memory青春の光 投稿日:2002年06月22日(土)00時54分35秒

ここで舞台はまたまた変わって
矢口がけーちゃんと話した日の――真夜中

ドンドンと叩かれる矢口の家のドア。矢口は眠っている。

「矢口さん!!ワシじゃ、元爺じゃよ!!」

返事がないことを確認して元爺はバキバキッとドアを蹴破りました。
そこでようやく矢口は目を覚まします。
(元爺で矢口さんって呼ぶとちょっと変な気がするべ)

「ちょっとよっすぃ〜!!!」
「よっすぃ〜?誰のことじゃ、ワシは元爺じゃよ」

よっすぃ……もとい元爺はチッチッと顔の前でキザに人差し指を降ります。

「元爺?あー元爺ね……それで、なんですか?」
「黄身は……向かいの保田のけーちゃんと仲がよかったような気がするんじゃが」
「え?ええ、けーちゃんとは仲いいですよ……っていうか、きみって字間違ってるから」
「ウォホンゴホン……なにかけーちゃんから聞いてないかのぅ?」
「なにをですか?」

「鬼のことじゃよ」

「鬼!?」

矢口は、昼間のけーちゃんの言葉を思い出してつい声を大きくしてしまいます。
それに元爺はぴくりと反応します。
340 名前:第8話 Memory青春の光 投稿日:2002年06月22日(土)00時55分39秒

「なにかしっておるのじゃな?」
「え?いやいや……でも、なんで?」

矢口は、かなり大げさに手を振りつつ聞き返します。
(ちょっとバレバレだべ)

「実は…けーちゃんが家出をしたらしいんじゃよ」

「家出!?なんで!?」

「シャレかのう」
「違うから……で、なんで?」

「実は、たれ込みがあってな……けーちゃんが、鬼をかくまっているらしいと」

元爺は渋い顔で言います。

「鬼を……」

矢口は、言葉を失ってしまいます。
昼間の彼女の言葉はそういう意味だったのです。それを適当にあしらってしまった。もっとちゃんと聞いていれば……矢口を後悔の念が襲います。

「矢口さん……けーちゃんの居場所に心当たりはないのかね?」
「………」

無言で首を振る矢口。

「そうか……夜分遅く、邪魔したな」

元爺はそう言って矢口の家を出ていきました。
341 名前:第8話 Memory青春の光 投稿日:2002年06月22日(土)00時56分56秒

時は戻って現在。
煌々と炎に照らされた矢口の顔。それは少し寂しげに見える。
(って、これ使い回しだべ!?ほんとに手抜きだべな)

「つまり…保田さんは鬼と一緒に村を出ていったんですね」

加護太郎が言うと矢口は頷く。

「それを矢口さんは恨んでいると……」

「なんでそうなるんだよっ!」

「なんとなくです」
「なんとなくであたしの印象悪くなるようなこと言うなって……」
「えろうすんまへんな」
「まぁ、いいけどさ……だからさ、私はけーちゃんを探し出して聞きたかったんだ…どうして矢口に言ってくれなかったのって?どうして、鬼を助けたのって?」

矢口は、ポツリと言いました。
(ちょっとシリアスになってきたべ)

「……矢口さん」

加護太郎もなにも言いません。
沈黙が続きます。
しかし、これで終わってしまうワケがなかったのです。

「のの、お腹いっぱいれす〜」

ポンポンとお腹を叩きながら寝言を言うのの。
ガクッと崩れる2人。

「寝てんのかよっ!!!」
「のの!寝たら死ぬで!!!ののーっ!!!!」


                       結局、ドタバタとしたまま続く
342 名前:間奏 投稿日:2002年06月22日(土)00時58分12秒

「それにしても、けーちゃんのミニモニにはビックリだよ」
「ホンマですわ、うちも見てて倒れそうになりました」
「元爺もビックリですじゃ」

「あっ矢口、加護、吉澤!」

「けーちゃん……どうしたの、なんかやけに嬉しそうって言うか……」
「やけに機嫌がよさそうっていうか……」
「やけにテンションが高いって言うか」

「「「いつまでその衣装着てるの?っていうか……」

「ねぇねぇ!!真面目な話、ヤッスー王女とミニモニ王子に元爺でユニットつくらない?」

「「「っていうか、ムリ!!!!」」」

343 名前:第9話 すき・すき・きらい・きらい・きらい・すき 投稿日:2002年06月22日(土)19時48分45秒

「まったく、保田さんにはビックリでしたね」
「ホントだよ…って、もう始まってるんじゃないの?」



「ホンマや……えっと、矢口さん」
「ん?」
「つまり、矢口さんの話をまとめると、保田さんは鬼を庇ってるってことですよね」
「うん、そうだね」
「それじゃー、頑張って鬼と保田さんの手がかりを見つけましょうね」

加護太郎は、矢口を励ますようににこりと笑いました。

「あ、あぁ……そうそう、手がかりっていうかさ、裕ちゃんから鬼ヶ島までの地図貰ったんだよね」

矢口は、加護太郎のいつもとは違う自分に気を使った態度に喜び戸惑いながら、
ごそごそとかなり忘れられていた地図を取り出します。

344 名前:第9話 すき・すき・きらい・きらい・きらい・すき 投稿日:2002年06月22日(土)19時49分47秒

「はぁっ!?」

加護太郎が、奇声を発しました。

「な、なんだよ?」
「鬼ヶ島までの地図やてっ!!!」
「え、うん」
「なんで、そない大事なこといわへんかったん、あんたはアホかっ!!」
「いや、ついウカーリ忘れてた…って、加護、お前アホとはなんだよアホとはっ!!?」
「アホはアホやっ!!!それがあったら別に保田さん捕まえることなかったやろっ!!ホンマ無駄な時間使わせて……ちょっと貸してみてください」

加護太郎は、ものすごい剣幕で怒る矢口を牽制すると矢口の手から地図をもぎ取ります。

「だーっ!ムカツクムカツクムカツクッ!!」

熱心に地図に見入る加護太郎に矢口は地団駄を踏んで悔しがります。

「ん……矢口さん、うりゅさいれす…よ」

矢口の跳ねる音に寝ていたののが目をこすりながら呟きます
(まだ寝てたんだべね)

「お、のの、起きたん?」
「へい…矢口さんがうるさくて目が覚めてしまったのれす」
「そうやろなー、矢口さん、うるさいもんな」
「れすよねー」
「やなー」

345 名前:第9話 すき・すき・きらい・きらい・きらい・すき 投稿日:2002年06月22日(土)19時53分05秒

「だーっ!!!ムカツクムカツクムカツクムカツクッ!!!」

目の前で自分に対する文句を言われた矢口は地団駄を踏んで悔しがります。
(って、なんか矢口、バカみたいだべ)

「知ってるよ、台本でしょ台本…まったく、いっつも矢口は損な役ばっかだよ」
(……台本だったんだべか、岡女と一緒だべね)
「そういうこと」


「矢口さん、矢口さん、Naと喋ってないで話すすめますよ」

加護太郎が、声をかけます。
(いい加減、Naって呼ぶの止めてほしいべ、寂しいべ)

「あ、うん、ごめんごめん。で、なんだっけ?」
「しっかりしてくらさいよ」

ののが珍しく突っ込みます。
(ののには、いわれたくないべ)

346 名前:第9話 すき・すき・きらい・きらい・きらい・すき 投稿日:2002年06月22日(土)19時54分05秒

「実はですね、この地図によると鬼ヶ島って歩いていけへんやないですか、ホラ、ここに海があるから……」

加護太郎が、地図を地面に広げて指さします。
まぁ、普通、島って言ったら海のど真ん中にあるもんですが……

「あー、ホントだね…それで?」
「今日の矢口さん、ちょっと頭が働いてないのれす」

ののが、珍しく珍しく突っ込みます
(って、ののには絶対言われたくないべ)

「…えっとですね、この海を渡るには船が必要だと思うんですよね」
「そうだろうねー、泳いでいくのはドーバー海峡って感じだしさ」
「………はぁ」
「じゃ、船を借りなきゃなー」

矢口が、なにげなく呟きます。

「それなんですよっ!矢口さん!!」

加護太郎が、ズズィッと身を乗り出しました。
矢口は、キョロキョロとあたりをみまわします。

「え?どれ?」

マジボケです。
(矢口って今はツッコミ役だけど、なにげにボケだべ)

「やからー、船!!」
「船がなによ?」
「船を借りれるところ知ってますか?」

加護太郎は、マジメな顔で問いました。

347 名前:第9話 すき・すき・きらい・きらい・きらい・すき 投稿日:2002年06月22日(土)19時54分49秒

「あー、そういうことか…って、別にそんな真剣になんなくても、湊に行けば船は借りられるでしょ?」

呑気にそう答える矢口に加護太郎はやれやれという風に首を振り大きなため息をつきました。
(これは、むかつくべ?)
そして、ポツリと呟きます。

「船があってもお金がないんですよね」

「あ……」

ようやく矢口も加護太郎の言いたいことを理解しました。

「どうしましょ?」
「んー……考えても仕方ないじゃん。ともかくさ、港まで行ってから考えようよ」
「そうですね、さすが矢口さん」
「え?そう、キャハハ、照れるな」

珍しい加護太郎の誉め言葉に照れる矢口。
加護太郎は、計算通りという風に不敵に笑います。
たまには持ち上げる作戦だったようです。末恐ろしい子です。

348 名前:第9話 すき・すき・きらい・きらい・きらい・すき 投稿日:2002年06月22日(土)19時55分43秒

「うっさいなー、たまには先輩を持ち上げるのも必要っていうやん」
「そうれすね」

「おっ、辻、いたの?」

「……」

矢口の言葉に黙り込むのの。
(まぁ、確かに途中から発現率0だべ、、矢口がああいうのも仕方ないべ)
加護太郎がやばいという表情でののに呼びかけます。

「……なぁ、のの」
「へい」
「あんまり出番なくてすまんな」
「…………いいよ、別に…ののがいなくても話はすすむんだよね」

すっかりいじけてしまったのの。辻パン状態です。

「いや、そういうわけやないけど……」

「まぁ、確かに辻いなくても話進んだね、キャハハ」

「…やっぱり」

加護太郎のフォローも虚しく、矢口の言葉にかき消されてしまいました。

349 名前:第9話 すき・すき・きらい・きらい・きらい・すき 投稿日:2002年06月22日(土)19時57分22秒

「ちょーっ!矢口さんっ!!!」

「へ?な、な、なに!?」

恐るべき勢いで矢口の胸ぐらをつかむ加護太郎。
矢口の体が宙に浮いています。
そして、そのまま加護太郎は矢口を遙か遠くのお星様まで投げ捨てました。


「加護太郎ぉぅぅぅ―――っ!!!!覚えてろよ―――――っ!!!!!」


キランと光る矢口。
加護太郎は、それに手を振るといじけたままのののの元に近寄ります。
(ののののって分かりにくいべ)

「のの……」
「…………」

「ののがおらんかったら話はすすまへんよ」
「……ウソばっかり」

「いや、ウソやないって…ののがおるからうちのテンションがあがるんやん。やからな、ののがおらんかったらあかんねんって、な?」
「…………」

加護太郎、今までに見たことのないほど真面目な顔でののに言葉をぶつけます。

「ほら、立って!一緒に港に行こっ!!」
「うんっ!!」

加護太郎とののがしっかりと手を繋ぎ、歩き出しました。
夕日がそれをキレイに演出してまさに感動の1シーンです。
(…ん?なにか忘れてるような……)

350 名前:第9話 すき・すき・きらい・きらい・きらい・すき 投稿日:2002年06月22日(土)19時58分17秒

その頃、どこかの海で

「ぐ……モガモガ………なんで、海なんだよー」

矢口が、やばいことにメイク落ちかけになりながら溺れていました。
(心配しなくても、モザイクかけるべ)

「し…死…ぬ……誰か…・・たす…け」

ぶくぶくと沈んでいく矢口。
その時です、なぞのでっかい船が通りかかりました。
そして、その船は沈みゆく矢口を釣り上げると港に引き返していきました。

いったい、この船の主とはなにものなんでしょう?
なぞがなぞよぶ急展開、次回につづけ

351 名前:間奏 投稿日:2002年06月22日(土)19時59分17秒

「いやーホンマ迫真の演技やったな、のの」
「演技じゃないもん」
「え?」
「亜依ぼんは、演技で言ってたの?」
「い、いや、ちゃうで…ホンマの話」
「…あやしい……」
「怪しくないって、ぜんっぜん怪しくないから…そや、のの、これ食べるか?」
「へいっ!」
(助かった……まさか本気でそんなん思うとるやなんて…ちょっと気をつけよ)


352 名前:第10話 A MEMORY OF SUMMER '98 投稿日:2002年06月23日(日)02時14分19秒

「やばいな〜、確かにこっちにとばしたんやけど……」
「いないね〜、矢口さん」
「ホンマにな〜、蟻の巣にはまっとるんちゃうか?」
「かもね〜」

あれから、30分ほど矢口のことを忘れていた加護太郎とののは
ようやく矢口を探しに3千里歩き出していました。
しかし、矢口の姿は見あたりません。よほど、遠くまで飛んでいったようですね。

「ホンマ、矢口さんって自己中やな」
「そうだね」


その頃、矢口は海から助けられて気絶していました。

「誰が自己中だよ!」
(矢口、気絶してるって言ってるべ)
「…はいはい……パタッ」
(まったく、だんだんやる気がなくなってきてるべ)


そういえば、矢口を助けてくれたのは誰だったんでしょう?
助けてくれた人物は、矢口の体を丁寧に拭いて暖めてくれた……という…わけではありませんね。矢口は、船の上に無造作に転がされていました。
353 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月23日(日)02時15分56秒

「今日の私…完璧…ですか」

「え?」

突然、矢口の耳元で囁くなぞの人物。
矢口は、ビクッと目を見開きます。
その視界には、金魚が……じゃなくて、紺野がいました。

「こ、紺野!?なんで!!?」

矢口は、がばっと起きあがり紺野の姿を上から下まで見ました。
紺野は、捻りはちまきを頭にまいて、ビニールのエプロン、長靴といった海の男ルックです。
(に…似合わないべ。さすがにミスキャストだべ)

「矢口さん、セリフ違いますよ」
「あ…ご、ゴメン」

冷静なツッコミ。
矢口はただ戸惑っています。そんな矢口を無視して話をつづける紺野。

「あなた、海ゆかば波にたゆたう死体になりかけていたんですよ。それで、完璧な私が助けてあげたんです。感謝してください」
「あ…はい、ありがとうございます」

いまだに動揺したまま矢口は紺野に頭を下げます。

「私は、浜のリーサルウェポン紺野あさ美、あなたは?」
「あ…矢口です」

(なんか矢口が紺野に敬語って変だべ)

354 名前:第10話 A MEMORY OF SUMMER '98 投稿日:2002年06月23日(日)02時19分13秒

「矢口さん…まだ海に飛び込むには早いですよ」

「飛び込んだんじゃないって!不可抗力!!」

「セリフが違います」
「あ…ご、ゴメン」
「いえいえ……まぁ、いいんですけどね」
「…………」


「それで、どうして海に?完璧な私に弟子入りでも?」
「んなわけないじゃん……って、あっ!!そうだっ!!!あんたさー、鬼ヶ島まで船だしてくれない?」

矢口が思い出しました、ついに、重要なことを。(倒置法ってどうだべ?)
浜のリーサルウェポンならだしてくれるかもしれません。いい感じです。

「鬼ヶ島?」

紺野は、首を捻りました。
もしかしたら、知らないのかもしれません。

「そう、あたしたち鬼退治に向かう途中なんだ」
「あたしたち……?」

紺野は、矢口をじろじろと見つめます。

「あー、そう、他に2人仲間がいるんだけど…今は、ちょっといないんだけどいるんだ……」
「文法がオカシイですが、言いたいことは分かります」
「…そ、そう、ありがとう分かってくれて」

紺野に突っ込まれまくりな矢口。
(滅多に見れない光景だべ、あれが、噂の紺野先生モード…)

355 名前:第10話 A MEMORY OF SUMMER '98 投稿日:2002年06月23日(日)02時21分13秒

「鬼ヶ島……」

「そう、鬼ヶ島」
「どこにあるんですか?」
「え?あ、地図がここに……ってあれ?」

矢口は、懐から地図を取り出そうとしてそれがなくなっていることに気づきます。

「どうしたんですか?」

紺野が訝しげに眉を寄せます。

「え?いや…ちょっと待って、こっちだったかな?あれ?……」

矢口は忘れているようですね。
今、地図は加護太郎の手元にあることを……必死で探す矢口はなかなか可愛らしいです。(ナチマリ)

「……なくしたんですね」

紺野が疑問ではなく断定的な口調で言います。
それに矢口は「アハアハハ」と乾いた笑いで答えました。

356 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月23日(日)02時29分09秒

波の音がするあぜ道。2人の少女が歩いている。

「いやー、潮の香りがしてきたな〜」
「潮の香り?」
「海が近いんや」
「へ〜、ののは海見たことないよ」
「そうなん?」
「へい」
「そら、人生損しとる。よしっ!矢口さんは後回しにして海に行くでーっ!!」
「おーっ!!」

そして、2人は運命の港へ向かって走り出した。


                                 つづく
357 名前:間奏 投稿日:2002年06月23日(日)02時30分35秒

「ちょっと〆がかっこいくない?」
「っていうか、なんで海見に行くのに港に向かって走り出すの?」
「うっ!!!」
「ま、話の流れってヤツだろうけどね…それにしても、紺野ってさホントはあんなキャラなのかな?」
「ビックリしたべ」
「っつーか、マジで怖かったよ、紺野先生モード」
「いっつもあれだったら新メンを裏で仕切れるべ」
「だよね」


「…もう…仕切っている…」
「あさ美ちゃん、なに1人ごと言ってるの?
「え…ううん…別に」

358 名前:読者@ 投稿日:2002年06月23日(日)08時46分55秒
浜のリーサルウェポンって帯ギュかよっ(w
っていうか、ここからスレ移動?だったら、一応あっちのアドレス貼ったほうが
いいっすよ。
359 名前: 投稿日:2002年06月23日(日)13時22分49秒
そうしますかな
ってことで、続きはこちらで
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=snow&thp=1019402427

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