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150cm以下戦隊ミニモレンジャー。
- 1 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年02月18日(月)23時31分03秒
- オバカな話です。
年齢設定は実際とは多少違います。
コテハンは共同のものを使いますが2人で書いてますので、
更新は遅くなるかもしれませんがご了承ください。
- 2 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月18日(月)23時34分30秒
ジリリリリリリ…。
朝、目覚ましに起こされることは矢口には気分の悪いものだった。
8月の強い朝日のおかげで外の気温は30度を超え、
エアコンも無い部屋はさぞかし暑いはずなのに
彼女は平然とした様子で寝息を立てていた。
ジリリリリリリ…。
「うるせぇ、うぜぇ。」
不機嫌そうなしかめ面で枕元の辺りを手探る。
その音源である目覚ましを掴むと、矢口は砂壁に放り投げた。
ガシャッ。
投げられ慣れた目覚ましが
鈍い音と共に壁にぶつかるのも日課。
そして二度寝するのも矢口の日課だった。
- 3 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月18日(月)23時35分01秒
そんなアパートの一室に
矢口を起こすのを日課とした近隣の住民がやってくる。
ドアの前。
その人物は、傾いた『矢口』というプレートの貼ってある木製のドアを
人差し指をカギ型にしながらノックした。
コンコン。
「矢口さ〜ん、起きてくださいよぉ〜。」
コンコン。
- 4 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月18日(月)23時35分35秒
- 「今日も寝てるのかなぁ〜…。」
コンコンコンコンコン…。
その何度も響くノック音に、流石に神経が図太い矢口も起きる。
「うるせぇ〜なぁ。」
ムクッと上半身を起こすと頭を掻き、
仕方なさそうにノソッと立ち上がると
フラフラした足取りでようやくドアのところまでたどり着いた。
- 5 名前:名無し娘。系 投稿日:2002年02月19日(火)00時12分40秒
- 妙に気になるオープニング。
だれが来たんだろう????
楽しみと新しい小説家を祝って、あげ〜☆
- 6 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月19日(火)23時10分26秒
- 「「くさっ!!」」
ドアが開いた瞬間
石川は未だに慣れない矢口の部屋の『ボットン便所』とゴミの匂いによって、
矢口は目の前に立つ石川の香水の匂いによって、
同時にその言葉を発した。
「臭いよ梨華ちゃ〜ん。」
「矢口さんの部屋のほうが臭いですよぉ〜…って、何度言えばわかるんですか〜!!
矢口さん服着てくださいよっ!!」
そう、矢口は寝るときに服を着ないのだ。
宅急便の配達員がその光景を見て判子も貰わずに品だけ置いて去っていった事もある。
- 7 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月19日(火)23時11分08秒
「だって〜、自然が一番だしー。」
悪びれる様子もなく
目を擦りながら答える矢口。
「矢口さん、メイク落とさないでまた寝たんですね〜。」
そして、『これが若い女の子の姿なの?』と言わんばかりに
呆れた表情をする石川。
「あーだるい、めんどくさい。」
「とにかく服着てバイト行きましょ〜よぉ〜、矢口さ〜ん。」
「わかったわかった。」
- 8 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月19日(火)23時11分42秒
言葉どおり、『わかったわかった』という顔を縦に振ると、毛先の広がった歯ブラシを手にとって
大量の歯磨き粉と共に口へブチ込んだ。
ぐしゃぐしゃと荒っぽく歯磨きしながら、部屋のいたる所に散乱する服を手にとって
鼻に服を押し付ける。
どうやら匂いを確かめていたようだ。
その行為を何回か繰り返したのち遂に一着のジャージを選出し、ブラジャーとパンツも同様にマシな物を選んで
それらを身に付けて着替えは終了した。
着替えといっても、元は裸だったのだが。
そして洗面所へ向かい、口を濯ぎ
鏡を見ながらピンで前髪を止めると
チューブから何とか搾り出した洗顔剤で顔を洗った。
- 9 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月20日(水)23時03分18秒
- 「つめてぇ〜…すっきり♪」
タオルを顔に当てながら元の部屋に戻ると
おもむろに古ぼけたTVの電源を入れた。
じんわりと映し出される大きな顔にメガネ。
「今日もめざましテレビだよねー。軽部さ〜ん。」
出かける前に芸能ニュースを見るのも矢口の日課であった。
「矢口さーん。軽部さん好きなのわかりますけどー遅れちゃいますよぉ〜。」
「ちがーう、矢口が好きなのは大塚さんだよっ!!」
- 10 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月20日(水)23時04分07秒
矢口にとっては大塚好きは譲れないのだが
石川にはしょーもないコダワリにしか思えず、
持て余した両手を腰に当てて呆れ返った。
ノーメイクで大塚さんを見つめる矢口の視界に
画面隅の時刻がチラリと入ってくる。
7:35
「あ、ヤバ…。」
流石にマズいと思ったのか
矢口はキーケースとバッグを持って忙しく立ち上がった。
「行くよ、梨華ちゃん!!」
「だから行こうってさっきから言ってたじゃないですかぁ〜。」
- 11 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月20日(水)23時04分42秒
眉を寄せる石川を置いて、
矢口は履き潰したスニーカーをかかと踏みながらドアを開いた。
続けて石川も外へ出ると
矢口はチャラチャラ鳴るキーケースから家の鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。
しかし、対峙する築30年の年代モノのアパートのドア
なかなか言う事を聞いてくれない。
「あ゛〜〜!!なんで閉まんないんだよ!!クソッ!!このボロドアッ!!」
バスコーーーーン。
思いっきり蹴飛ばすと、ゆがんだ隙間が埋まるようにしっかりと戸が閉まる。
「よしっ、いい子だね♪」
鍵を回すとカチャという小気味いい音と共に施錠された。
それを確認すると鍵を引き抜き、もう一度ドアを蹴飛ばした。
その後二人は、金属製の錆びた階段をカンカン鳴らしながら駆け下り、
アパート前の自慢の原チャリ『しげる』にキーを差し込んだ。
- 12 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月21日(木)23時04分09秒
「しげるぅ〜。今日は機嫌いいかなぁ〜?」
セルモーターを蹴っ飛ばすがエンジンは起動しない。
どうやら今日もしげるの機嫌は悪いようだ。
「コノッ!コノッ!!コノッ!!!」
ガズッガスッガスッガスッ!!
蹴られて気分が良くなるのは一部の物と人だけ。
「もう、矢口さん荒っぽすぎるんですよっ。石川に任せてください♪」
バトンを受け継いだ石川は
甘い声と共にセルモーターのバーに体重を込めた。
「しげるく〜ん♪お願い♪」
ガチッ!!
ブロロロロロ…。
- 13 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月21日(木)23時05分00秒
「やったぁ〜♪しげるく〜ん♪ありがとぉ♪」
石川はご機嫌でスピードメーターあたりにキスをした。
矢口には、どうしても納得できなかった。
「女ったらしのボロ原チャめ…。」
そう言いながら矢口と石川はしげるにまたがる。
「あの、矢口さん…やっぱりノーヘルで2ケツはどうかと思うんですけど…。」
「いいのいいの。行くよ、梨華ちゃん。」
そう答え矢口は石川がしがみついたのを確認するとアクセルを回し、
原チャリ『しげる』は行きつけの喫茶店に向かって走り出した。
7:45
喫茶『さやか』
朝、矢口のアパート出て、まず最初にたどり着く先は決まって喫茶『さやか』である。
二人はここに朝食を食べに毎日通っているのだ。
入り口のドアを押すと同時にドアに設置されているベルが耳障り良く鳴り響く。
- 14 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月21日(木)23時05分39秒
「おばさーん、おはよーございまーす。」
元気よく入り口から声を発する矢口。
すると、いつものように店主のおばさんはすでに二人の分の用意を始めていた。
「おはようございます♪」
育ちのいい石川もその店主に挨拶をする。
「おはよう。もうすぐ出来上がるからね。」
朝、決まって矢口はカツカレー(辛さ5倍)、石川はサンドイッチを
毎日オーダーをするものだから店主のおばさんは毎日作って待っているのが常になっていた。
矢口と石川が窓際の席に座ると、
おばさんはお盆に皿を二つ乗せてやってくる。
- 15 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月22日(金)23時02分28秒
「はい、おまちどう。」
矢口の前にカツカレーを、石川の前にサンドイッチを置くと、決まって自分の娘の事を話し出す店主。
「ウチの娘もあんた達みたいに早起きできればいいんだけどねぇ…。」
苦笑いしかできない二人。
喫茶『さやか』の『さやか』とはこの店主の娘の事である。
その娘は市井紗耶香と言うのだが、この市井と矢口は仲が悪い。
しかし、矢口と店主のおばさんは仲がいいのだ。
「でも大変ねぇ〜、あんたたちトイズEEのショーガールでしょ?」
「違いますよぉ〜、矢口は子供達に夢と希望を与えるミニモレンジャー。リーダー
やぐーちゃんですよー。」
「あ、石川はショーのお姉さんなんでミニモレンジャー。じゃないんですけど…。」
- 16 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月22日(金)23時03分21秒
- 矢口と石川はほか数名と一緒に、この街のデパートの一つトイズEEの屋上で催される
『150cm以下戦隊ミニモレンジャー。』のスタッフであると同時に出演者である。
よくデパート屋上でやっているヒーローショーのスタッフと同じ。
そして、トイズEEのライバル店の2つの内の1つハチャマ・ピッコロのイメージショーガールを
この店主の娘、紗耶香は務めている。
いわば矢口達の商売敵なのだ。
そんなことからも矢口はライバル意識が強いがゆえに紗耶香と仲が悪い要因となっていた。
「矢口さん食べるの速すぎですよ〜〜!石川まだ食べ終わってないですよ〜。」
早食いの矢口はあっという間にカツカレーを完食。
石川は例の如く食べるのが遅い。
「もうっ、早くしなよ、もう行くよ。じゃ、おばさん行って来ます。」
「はい、行ってらっしゃい。」
矢口はおしぼりで口の周りを軽く拭き、とっとと店を出て行った。
- 17 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月22日(金)23時03分55秒
「矢口さ〜ん。ぐすん。」
食べかけのサンドイッチを諦めて席を立つ石川。
「すいません。750円ですよね。」
そう言って、750円テーブルに置くと、石川は小走りで店を出て行った。
石川はいつも矢口の分を払っている。
奢っているのに朝食をまともに食べさせてもらえないことに
理不尽さを感じていたが、怖くて言えない小心者の石川だった。
外ではすでに矢口が原チャリのエンジンをかけて待っていた。
- 18 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月23日(土)08時52分29秒
- 「いくよ、梨華ちゃん。」
「は、はーい!!」
石川が乗ったのを確認すると矢口は次の寄り道先へと向かう。
8:05
コンビニ『まーるぞろ』
原チャリはこの通称『まーるぞろ』の前で止まる。
正式名称は 『J』マルの中に11(ゾロ目)が有るから『まーるぞろ』と通称で呼ばれることが多い。
コンビニに寄る暇があるんだったら…まともにサンドイッチ食べさせてほしい…。
と考えながら、石川は矢口に続いてまーるぞろへ入った。
早食いまでして矢口はここで何をするかというと…
座り読み。
- 19 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月23日(土)08時53分11秒
- そう、コンビニにとって迷惑な話であるが、
矢口は毎日雑誌コーナーで座り込んで雑誌を読んでいる。
今日の愛読誌は『ジャンプ』と『ヤンマガ』らしい。
しかし矢口の行動は座り読みをするだけで終わらない。
ヤンマガとジャンプをキープするかのように石川に渡すと
店内を歩き回り、飲茶楼とお気に入りのおにぎり『ササミツナマヨネーズ』を選んで購入。
そして、また雑誌コーナーに戻り石川から雑誌を受け取って座り読みを始めると同時に、おにぎりと飲茶楼の封を開けて飲食する。
これもいつもの風景であり、石川はといえば
そこまで出来ないのか控えめに立ち読みをしている。
「矢口さーん。お店の人、完全に嫌がってますよぉ〜。」
「そんなことないんじゃない?矢口注意された事ないし。」
注意されなければいいものなのか…と思う石川であった。
おにぎりと飲茶楼を完食すると雑誌を置いて矢口はいつものようにまーるぞろのトイレへ入った。
- 20 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月23日(土)08時53分55秒
- 8:40
「ふ〜。出た出た。4日ぶりだ〜。」
スッキリした面持ちの矢口が腹をポンポンたたきながらトイレから出てくる。
「ここよく出るんだよねぇ〜。」
晴れ渡ったような笑顔で石川に話し掛ける矢口。
「矢口さーん…もう40分ですよ…。」
「えっ!?」
コンビニに立てかけてある時計を見ると見事に8:40を示していた。
「やばっ。行くよ梨華ちゃんっ。」
また忙しくしげるに乗った二人はやっと本来の目的、
バイト先である『トイズEE』に向かう。
- 21 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月24日(日)23時07分39秒
- 「逮捕だ、ルパ〜ン!!」
矢口と石川がデパートに到着するまでには
実は関門がもう1つ待っている。
自転車のおまわりさんだ。
もちろん警察官として、ノーヘル、二人乗り、
しかもナンバープレートを折り曲げているとくれば
追いかけないわけにはいかない。
警察の不祥事が相次ぐご時世に
なかなか優秀じゃないか。
待ち伏せしているのか、2人は毎日同じ場所で
その警官と遭遇してしまう。
今日もやはりいつもの場所を通過した途端に
後ろから叫び声と共に盛りこぎで追いかけてきた。
- 22 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月24日(日)23時08分15秒
「勘弁してくれよぉ〜とっつあ〜ん。」
矢口はバカにしたようにそう言うと
アクセル全開で引き離していく。
所詮自転車。
リミッターの外れた原チャリに敵うはずもなかった。
「ごめんなさ〜い♪」
申し訳なさそうに石川は後ろを向いて手を合わせた。
- 23 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月24日(日)23時08分53秒
- おまわりさんセクションを抜けて踏切を渡ると
目の前にはバイト先であるトイズEEが見えてくる。
この辺りはデパート激戦区。
他には、紗耶香がイメージガールを務めるハチャマ・ピッコロ、
そして、この街の名家の娘である
松浦亜弥がイメージガールを務めるハローズ・ゼティマが
競合店としてそびえ立っている。
トイズEEにたどり着いた二人は、駐輪場に原チャリを止めると
非常階段を駆け上がり、屋上を目指す。
流石に7階まで駆け上がるのに息も絶え絶えで、
夏場の日差しが額に汗をにじませる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ。」
時刻は9:02。
2分の遅刻だ。
景色が開けると、そこには仁王立ちして待っている人物がいた。
- 24 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月25日(月)23時10分20秒
- 「ちょっと何よっ!!遅いわよっ!!あんたたちっ!!何度遅刻すればいいのっ!!」
感嘆符が一際多いこの人は保田圭・23歳。
ヒーローショー『150cm以下戦隊ミニモレンジャー。』のショーマネージャーだ。
「すいませ〜ん。」
頭を深々と下げる石川。
「さっきー、警官につかまっちゃってぇ〜。」
捕まってもいないのに、作った言い訳をする矢口。
「そんな言い訳通じないわよっ!!あんたらが2ケツでノーヘルだから悪いんでしょ!!」
「はい…。」
- 25 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月25日(月)23時11分53秒
- ミンミンとセミが鳴きまくる中で説教されるのは物凄く堪える。
言い訳も底をつき、反省したそぶりで返事をする矢口たちの所に
溶けそうな声を掛けて1人が近づいてきた。
「んあ〜、おそいよぉ〜。」
「ゲッ!ごっつあんが今日は早いっ!!」
その人物は後藤真希・19歳。
寝起きが悪く、矢口達以上の遅刻の常習犯。
「もう打ち合わせ始めよぉよぉ〜、圭ぇちゃ〜ん。」
「そうね、みんな揃ってるし打ち合わせ始めるわよ。」
「「は〜い。」」
楽屋。
そこにはショースタッフ全員がそろっていた。
辻希美・18歳(高3)ミニモレンジャー。メンバー「ののたん」役。
加護亜依・18歳(高3)ミニモレンジャー。メンバー「あいぼーん」役。
吉澤ひとみ・19歳ミニモレンジャー。の敵役(怪人)。
後藤真希は音響を担当し、そして保田はマネージャの他、照明を担当している。
- 26 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月25日(月)23時12分25秒
- 保田は台本を手にとると
ペラペラとめくりながら打ち合わせを始めた。
「今日のショーは第2話をやるわよ。覚えてるわね。」
ショーは一日3公演、全て同じ話。
そして日替わりで1話〜6話まで変わっていく。
バイト採用時に出演者全員に台本を手渡しして覚えさせておくのだ。
「あ゛〜、今日はバルタン星人かぁ〜上が暑いんだよなぁ〜あれ。」
吉澤は、すでに暑そうな顔で愚痴をこぼした。
怪人役は着ぐるみを着ての出演なので、
年頃の女の子にはとても過酷な仕事だった。
- 27 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月26日(火)23時08分13秒
- 打ち合わせ終了後はまず会場準備が待っている。
屋上に設置されたステージの周りには
ビアガーデン用のテーブルが置かれている。
夏場ということもあって夜は屋上がビアガーデン化しており
ショーが終わったあともビアガーデンは開かれてるために
翌日の朝までテーブルが残っているのだ。
毎日、1つ目の公演が始まる前にこのテーブルを片付けて
客席用の長椅子を配置するのが日課となっている。
勿論、酔っ払い達はそんなこと知る由も無いだろうが…。
「うあ〜、ゲロだよ…。」
矢口は、自分の背丈ほどのモップを持つと
干乾びたゲロを溜息交じりに擦り取る。
- 28 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月26日(火)23時08分56秒
「矢口さ〜ん、テーブル運びもたまにはやってくださ〜い。」
白く丸いテーブルを運ぶには見るからに不釣合いな石川が
助けを求めるも、
「ダメ、矢口ちっちゃいし、力ないもん。モップが限界。」
矢口は少しも気にすることなく拒否した。
リサイクルショップの閉店セールで
買ったテレビを担いで帰ってきたというのに…。
長椅子の配置が完了すると10:00となっていた。
これから出演者は化粧をし、衣装を着始める。
そして後藤はテーマソングである『Say Yeah! -もっとミラクルナイト-』を流し、
保田は照明器具の位置を確認する。
- 29 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月26日(火)23時09分28秒
- トイズEEの開店時刻は10:00。
開店直後ということもあって、屋上に来る客も疎らだが
それでも屋上にある2つの店舗は開店するのだ。
1つはラーメン店、ラーメン『落ち武者』。
店長は現在入院中で、店は二代目の平家みちよが預かっているのだが
いかんせん、夏にラーメンが売れるはずもなく、
店は矢口達が休憩時間にタダ飯を食べにくる以外は
閑散としていた。
そしてもう1つは『イッテヨシダ・モナーのクレープ屋(´∀`)』である。
ここには矢口より一つ年上の女性、
安倍なつみ・20歳、飯田圭織・20歳が働いている。
北海道からやってきた彼女達は
失敗作という名目の元、辻と加護にクレープをあげる
いいお姉さん達なのだ。
- 30 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月27日(水)23時01分39秒
- 楽屋
ミニモニ。をまんまパクッた衣装を着たミニモレンジャー。の3人
矢口、辻、加護はというと。
「キ、キツイのれす…衣装新調できないれすか…。」
「のの痩せたほうがエエで。」
ピチピチの衣装に文句を言う辻だったが、
加護の指摘はごもっともだった。
「加護も人の事いえたもんじゃないでしょ。」
衣装を着てから化粧をしていた矢口が鏡越しに言った。
- 31 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月27日(水)23時02分24秒
- 「まだ余裕ありますよ〜矢口さ〜ん。」
ニカっと歯を見せながら加護は、裾の余裕具合をちらつかせるが
お腹は目一杯へこましていた。
開演の11:00まであと20分。
「フォッフォッフォッ…暑い…。」
気ぐるみの中の吉澤は既にバテ気味で
座りにくそうに楽屋の床にへたり込んだ。
「大変だねぇ〜ヨッスィー…。チャーミーがアクエリアスあげる。」
チャーミーとは、ショーのお姉さんの役名である。
石川はバルタン星人になりきった吉澤に
アクエリアス500mlのペットボトルを手渡そうとするが
その顔はすでに半笑いだった。
- 32 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月27日(水)23時03分05秒
「……。」
「ん?どうしたの?」
「飲めるわけねーじゃんか…YO!!。」
小悪魔的な微笑を浮かべながら逃げる石川を
ハサミを振り回しながら追いかけるが
数メートル走ったところでバテたようだ。
こうして石川は毎日溜まるストレスを発散して
ステージでの笑顔を作っているらしい。
- 33 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月28日(木)23時02分19秒
- 開演時には数人の客が長椅子に腰をかけていた。
そのうちのほとんどは常連客で
それは子供3人組とカメラ小僧1人のことを指す。
子供3人組はスタッフ間ではあだ名がついており
いつも同じ長椅子に同じ順番で座っている。
左からデブ、青ハナ、インテリと呼ばれていて
これがなかなかのムカツクガキ共なのである。
デブは何かしら常に食べており、
その証拠に毎回口の周りに食べ物のカスがついている。
青ハナは名の通り、青い鼻水を常に垂らしており
袖が鼻水でガビガビとなっている。
インテリは物静かにしてはいるのだが、
常に何かの本を読んでいてまともにショーを見ていない。
日よけもないここに、一体何しに来ているのか。
そんな3人にひけを取らないほど個性的…いや、迷惑な客が
もう一人の常連客、カメラ小僧である。
一見ただの中年男性なのだが
あんた何の仕事してるの?
と思ってしまうほど毎日ショーを見に来ては撮影をしている。
パンチラ狙いのタダのエロオヤジだとスタッフ間では噂である。
- 34 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月28日(木)23時02分54秒
- その他に母子と思われる客や、
明らかにゲートボール帰りに
ちょっくら休憩しようと腰掛けているだけのジジイもいた。
そして、暇なのか
クレープ屋のバイト二人とラーメン落ち武者の代理店主も
店からあざ笑いにも似た微笑を浮かべながらショーステージを覗いていた。
時刻は11:00。
スタッフ全員が円陣を組んで中央で手を重ねる。
そして、いつもの矢口の掛け声で全員が気合を入れると
各々の配置についてショーは幕を開ける。
「がんばってぇ〜いきまっ…」
「「「「「「「しょい!!!」」」」」」」
- 35 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年02月28日(木)23時03分28秒
- 後藤がスピーカーのボリュームを上げると
いよいよショー進行のお姉さん、チャーミーの登場だ。
「こんにちわ〜♪チャーミーおねぇさんですよぉ〜♪」
ステージ脇から小さく手を振りながら笑顔で登場する。
「今日も暑いですねぇ〜♪チビッコの皆さんは元気ですかぁ〜?」
台本通りの棒読みと演技で
子供達の反応を聞くように耳に手をあてる。
ジャリ3人組は、全くの無反応。
ジジイは強い日差しに今にも倒れそうだ。
カメラ小僧は既にステージ前でスタンバってカメラを構えている。
屋上に響く、無意味に拡張された声は
何とも虚しい。
しかしそんな事を気にせずショーを続けた。
そうして、石川が客席に向かってオロオロ…
もとい、ウロウロしながら話し掛けていると、
ステージ脇からバルタン星人が現れる。
- 36 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月01日(金)11時21分09秒
- 「フォッフォッフォッフォッ!!」
吉澤の声では迫力が出ないため、この音声は音響担当の後藤が
ウルトラマンのビデオから採取したバルタン星人の音声を流していた。
やはり虚しく会場に響くバルタン星人の声。
バルタン、こんな所から地球征服を企むなんて間違ってますよ。
そして、石川は棒読みで台本通りに
「きゃぁぁぁ〜♪バルタン星人だわぁ〜っ♪このままじゃ地球はおしまいよぉ〜♪」
などと叫ぶ。
もちろん芝居口調で。
「フォッフォッフォッフォ」
両手を誇らしげに掲げるバルタン星人。
意外にも重いこのハサミを両方掲げるのは吉澤にとって辛いもので、
これをやるたび翌日筋肉痛に見舞われるのだ。
- 37 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月01日(金)11時22分18秒
- 「こんな時は、チビッコのみんな!ミニモレンジャー。を呼びましょう♪」
続けて石川は
「みんなで呼びましょう♪せーのっ、ミニモレンジャー。っ♪」
『せーのっ』の掛け声は全く意味がない、が
それでもショーは進行していくのである。
進行役のチャーミーって一体…。
すると後藤の手により再び『Say Yeah! -もっとミラクルナイト-』が流れる。
いよいよ、150cm以下戦隊ミニモレンジャー。の登場である。
「とぉっ。」
「てやぁっ。」
「おりゃぁ〜〜♪」
- 38 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月01日(金)11時23分05秒
- 矢口、加護、辻の3人は飛び蹴り風にステージ脇から飛び出し、
観客席正面に向かい一人ずつ決めポースをとる。
決めポーズをする際にお決まりのセリフがあるのが戦隊ヒーローの特徴である。
ご多分に漏れずミニモレンジャー。のメンバーそれぞれにもそのセリフがある。
「ちっちゃい巨人っ!!リーダーやぐーちゃん!!」
「関西出身!いてまうでぇゴルァ!!のあいぼーん!!」
「食べ盛りぃ〜育ち盛りぃ〜のののたーん!!」
「「「3人揃って150cm以下戦隊ミニモレンジャー。だっぴょ〜ん、カッカッ。」」」
- 39 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月02日(土)23時17分49秒
- 決めポーズはミニモニじゃんけんぴょんからのパクリ。
このチープさ加減が、客足の伸びない原因かもしれないが
それ以上に、競合しているデパートに客を取られているトイズEEにも問題があるのも確かである。
「リーダーっ!!バルタン星人だぴょん!!」
「なんか強そうれすぴょん。」
「何を言ってるのッ、私たちは地球を平和を守るミニモレンジャー。よっ!!
逃げるわけにはいかないの!!戦うよっ!!」
「やぐーちゃんきーっくっ!!」
矢口は飛び蹴りとなんら変わらない『やぐーちゃんキック』を放つが
バルタン星人は右にかわして、ハサミで矢口を跳ね飛ばした。
「うわぁ〜。」
上辺だけの悲鳴と共に
自らの意思通りに辻加護の元へ飛ばされる感じで倒れる。
- 40 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月02日(土)23時18分37秒
- 「大丈夫れすか、リーダー!?」
「つ、つよい。」
「ここはあいぼーんにまかせといてーな。」
加護は、飛ばされた矢口を抱き起こすと
「モノマネ攻撃〜っ。必殺Gackt〜♪」
といって、カバンからサングラスを取り出し、
辻はステージ脇から簡易椅子を運んでくる。
その間、僅か40秒。
椅子に腰掛け、脚を組んですかした様子に振る舞い
そして重そうに口を開く。
「まぁ…こんなもんかな…。」
- 41 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月02日(土)23時19分34秒
- どうやらGacktの真似らしい。
正直似ていないし、
バルタンにどんなダメージを与えるのかも不明である。
バイト採用時に特技モノマネと書いていた加護の為に用意された台本であるが、
ある意味、いや、色んな意味で失敗である。
バルタン星人は大きなハサミで頭を掻くそぶりをする。
「あいぼーん。似てないれすよー。」
「ふぅ…似てないか…。」
そこまでもGakctで答える。
加護はサングラスを外してカバンに戻すと椅子を自らステージ脇に戻した。
準備+後片付けの時間がかかる割には、ダメージが与えられないという
非常にリスクの高い技なのだ。
- 42 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月03日(日)23時03分21秒
- 「全然ウチの技がきかへんっ、どないしよう。」
「モノマネなんて効くはずないだろぉ〜、あいぼーんっ。」
「じゃあ、ののたんの出番れすっ!!ひっさ〜つポンポン攻撃ぃ〜。」
そう言うと辻は自らのお腹をポンポン叩きながら
バルタンににじり寄った。
「どうれすか、食べ過ぎると女の子もこれくらいお腹が出てくるれすよ〜。」
ポンポンポンポン…。
これは強力だ。
そして不気味な音を奏でる太鼓を
ハサミで突っついてみるバルタン。
「どうれすか。いい肉ついてるれしょ。」
辻は自慢げに身体を反って腰に手を当てる。
そして、すこし間を置いてからバルタンは呆れたポーズを取った。
- 43 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月03日(日)23時04分02秒
「ののたんっ!!呆れられとるでっ!!戻って来ぃ〜。」
「うっ…手ごわいれすね…。」
申し訳なさそうにお腹を引っ込めると
後ずさりながら矢口、加護の元へ戻った。
「どないするねや、リーダーっ。」
「どうするれすかリーダーっ。」
「よし、やぐーちゃん必殺のセクシービームを出すわッ。」
「アレをやるのれすか?リーダー。」
「やるよっ、みんな手伝って。」
- 44 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月03日(日)23時04分36秒
そう矢口が言い放つと、スピーカーから『恋のダンスサイト』のサビ前が流れ出す。
そしてセクシービームの歌詞で、PVのように、辻加護は上に放つような体勢
そして矢口はバルタン星人に向かってセクシービームのポーズをした。
『更新するわ〜セクシービームでぇ〜♪』
「セクシービーム!!」
すると、さも効いたかのようなそぶりをするバルタン星人。
「おお、効いたれすよリーダー。」
「今がチャンスやでぇっ。」
「よし、合体必殺技『もっと…もっと…』いっちゃえ〜!!」
- 45 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月04日(月)23時10分32秒
- どこか嫌そうな顔だが、
そう叫ぶと矢口は四つん這いになり、辻加護はステージ端まで後退する。
カメラ小僧はいつの間にか矢口の背後にスタンバって
カメラに食いつくようにシャッターを切り出す。
矢口は、膝をついた状態で、後のことを心配していた。
辻、加護が助走位置に立ってもまだ、小声で何か呟いている。
「ああ…重いんだよなぁ、アイツら…。」
そんなことお構いなしに
ドタドタという足音がシンクロして近づいてくる。
「「トゥッ!!」」
という声とともに矢口を踏み台にすると
辻と加護はジャンプしてバルタン星人に飛び掛っていく。
もちろん、その声に隠れて「ぐぇっ」「げぇっ」といううめき声が漏れていたことは
間違いないのだが。
- 46 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月04日(月)23時11分05秒
- 小さな身体が中に舞うと共に、
今までの小芝居が嘘であるかのように
バルタン星人にとっての戦慄の瞬間は突然やってくる。
ただでさえ、炎天下の中で着ぐるみに包まれてヘトヘトだというのに
鉛の弾を避けることが許されないとは可哀想に。
スローモーションで飛んでくる2人が
バルタンにぶつかると
安っぽーい効果音が『ドーン!ドーン!』と鳴った。
下敷きになって動かないバルタン。
見た目は台本通りなのだが
着ぐるみの中ではそれどころではない。
運が悪いときは後頭部を強打して失神してしまうのだが
今回はなんとか意識は取り留めたようだった。
それでも、動くことはできずに呼吸困難に陥ったまま
ショーが終わるまで耐え続けるのである。
- 47 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月04日(月)23時11分45秒
- 「やったれすリーダー!!倒したれすよぉ〜。」
「地球の平和を守ったでぇ〜!!」
そんな飛び跳ねる辻加護に対し、腰を擦りながら立ち上がる矢口は
必死の思いで最後のセリフを吐き出す。
「っ…地球の平和を守る為日夜戦い続ける!!それが私たち…」
そして、3人が集まり再びキメポーズ。
「「「150cm以下戦隊ミニモレンジャー。!!!カッカッ。」」」
ステージの垂れ幕が下りた。
どうやらやぐーちゃんは敵だけでなく
ある意味見方とも戦わなくてはならないようだ。
- 48 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月05日(火)23時04分36秒
- そして1公演目が終了し、握手会が始まる。
ステージ横に設置された簡易長机に椅子3脚には
ミニモレンジャーの衣装のままの3人が着席する。
するとヒーローショーでは子供達が集まって
しきりに握手とサインをもらうはずなのだが…
3人の子供が握手、それと母子がサインをもらいに来ただけ。
やはり今日も問題はクソガキ共だった。
デブが差し出した手にはチョコがベットリと付着しており
にこやかに対応しようとするその笑顔は完全に引き攣っている。
デブはまだいい…握手するとニヤニヤと嬉しそうな顔をするから。
問題は次の二人だ。
- 49 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月05日(火)23時05分11秒
- 青ハナは、数多の鼻水を拭ったと思われる
ガビガビの手を差し出す。
もはや、傍目から見ても笑顔は見つけられないが
それでも仕事上、握手をせざるを得ない。
しかし、青ハナは神経が鈍いのか
ボケーっとした表情で、ちっとも嬉しそうではない。
一体、何のために握手しに来るのか…。
そして、最後にインテリだ。
彼は前の2人とは一線を画している。
なぜなら
握手をしないのだ。
何をしに来るのかと言えば、
ただ、こんな言葉を吐きに来るだけである。
「ねぇ、こんな人生送ってて楽しいの?」
- 50 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月05日(火)23時05分47秒
- 眼鏡をクイッとあげながら吐き出される毒舌。
これには矢口の血液が頭の血管に集中しすぎて
いまにもキレそうな状態になる。
物を言えないようにしてやろうかという衝動に駆られるも、
辻、加護になだめられてようやく押さえられるのだ。
握手会は結局、母子が300円で買っていったサイン1枚
売上が300円…。
サイン代で経営しているわけではないから問題はないのだが
いかんせん少なすぎる…。
そして、午後の二回目公演に備えての片付け、着替え、準備を済ませると
やっとお楽しみの昼休みがやってくる。
昼飯は『落ち武者』のタダラーメンがお決まり。
今日も、疲れた身体を引っ張って
その店までゾロゾロと歩く。
- 51 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月06日(水)23時04分04秒
- 「いらっしゃいっ!!」
引き戸を開けると中から威勢のいい声が聞こえたが
平家の顔を見たときには、すでに表情からそれほどやる気は伝わってこなかった。
「なんや、あんたらか…あかんなぁ…閑古鳥鳴くどころか、叫びまくりやで。」
愚痴をこぼしながらおたまで肩を叩く平家に構うことなく
皆が適当な席へつくと、
矢口は2人足りないことに気づいた。
「あれ、辻加護はぁ〜?」
「さっきまでいたのにぃ〜。」
一緒になって石川も店内を見渡したが
2人は見当たらない。
すると、入り口のすりガラスの向こう側に
見慣れた2つの影がチラチラと見え隠れ。
引き戸が開らかれると同時に
「「おばちゃ〜ん、おなか減ったぁ〜。」」
- 52 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月06日(水)23時04分52秒
- と、クレープと思しき物を片手に持ちながら店内に入ってくる。
「あんたらなぁ〜、おねぇさんって言え、ホンマ最近のガキは。」
麺を茹でながら、平家は自分の若さについてぶつくさ語り始めた。
「んぁ〜、いいなぁ〜またクレープもらったんだぁ〜。」
「いいねぇ〜おこちゃまはクレープもらえて。」
羨ましがる後藤とは対照的に
保田はいやみを言いながら
『峰』と書かれた箱からタバコを1本取り出して火をつけた。
聞こえているのかいないのか、
辻と加護は相変わらず、失敗作のクレープを無邪気に頬張っている。
- 53 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月06日(水)23時05分26秒
- いつもの光景であるこの時間。
何がおもしろいのかいつもキャアキャア言っている辻加護。
後藤は独りでメールを打ち
保田は煙草をふかしながら、平家と雑談。
石川は女性セブンの不倫告白記事を読んで頬を赤黒くしている。
そして、矢口と吉澤は
例の合体必殺技について愚痴りあう。
「やっぱ重いよねー。矢口腰痛酷いもん…。」
「ですよねぇ〜、私いつか肋骨折るんじゃないかと心配で…。」
「だよねぇ…ヨッスィー下手したらしんじゃうもんね。」
「そうですよ〜。午前は呼吸困難で済んだけど…今日まだ2回あるじゃないですか…。」
「「ふぅ…」」
- 54 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月07日(木)23時03分02秒
- 同時に吐き出されるため息。
「やっぱり、痩せてもらわないとね。一発ガツンと言おう。」
「ですね。」
話はついたようで
矢口は怖い顔で辻と加護の方に振り向いた。
「おい、辻加護!!」
いきなり矢口に呼ばれて、辻加護は「ん?」といった表情で注視する。
「お前達太りすぎだ!!矢口とヨッスィーを殺す気か!?」
何事かよくわからず、首を傾げあう辻加護。
「合体必殺技だよ!!お前ら重いんだよ!!」
「だって〜。」
「だってぇ〜。」
「台本通りにやってるだけやもんねー、ののぉ〜。」
「そうれすよ、台本通りれすよね〜あいしゃ〜ん。」
- 55 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月07日(木)23時03分36秒
- 「それはそれ、すこし気を使って痩せろっ!!」
矢口の口調は徐々にヒートアップする。
「お前らなぁ、昨日は1kg痩せたとか言ってたけど、もっと痩せろよ!!1kgじゃ変わんねーよ!!」
「そんなにすぐに痩せらんないもんねー。」
「痩せられへんもんねぇ〜。せやけどウチらそんなに太っとらんよなぁ〜。」
「れすよねー。身体の鍛え方の悪いヨッスィーと矢口しゃんが悪いのれす。」
- 56 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月07日(木)23時04分07秒
- 完全舐められているようだ。
ブッチりキレてしまった矢口は
テーブルをドンと叩くと、つかつかと辻加護の元へ迫る。
「腹出してみろっ!!」
矢口は辻のTシャツを捲ると
そこには世にもおぞましい光景が…。
「見ろよ、このたるんだ腹っ!!なんだよコレッ!!」
続けて矢口は加護のTシャツを捲ろうとするが、それを察知した加護は
裾をガシっと押さえて抵抗する。
「なんだよっ!!見せてみろよっ!!」
「いやっ!!だめぇっ!!」
- 57 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月08日(金)23時04分31秒
- 「いいから見せろって!!」
強引に捲り上げると、へそを中心にした太陽のタトゥーが出現した。
「……。」
矢口は絶句、それを見た全員も絶句。
一瞬の時の停止の後、
そのタトゥーを隠すように
矢口の手から裾を奪い返した。
「だから…あかんって…ゆうたやん…。」
感極まって加護は泣き出してしまった。
「ごめん…。」
- 58 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月08日(金)23時05分12秒
- 気まずい雰囲気で昼食を過ごす事になったスタッフ面々。
心なしか、それとも平家に技量がないのか
口に運ぶラーメンの味も芳しくなかった。
午後と夜の公演の間
矢口と加護は互いに話し掛けることはなかった。
演技は仕方なしにこなすが
そのセリフにはいつもより更に心がこもってない。
そして、夜の公演の片付け終了後、それぞれ仕事は終わりとなる。
矢口は思い切って、帰り仕度をしている加護に声をかけた。
「加護…昼はごめん…。」
「…別にええよ。そんなん。ウチらも太っとるのが悪いんやし、こっちこそごめん。
それよか、今度から踏み切り甘くするわ。」
「ありがとう…。」
「ほな、また明日。」
- 59 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月08日(金)23時05分42秒
- にかっと笑って楽屋を去る加護に矢口もホッとした笑顔を返す。
それを影で見ていた石川が、矢口に話し掛ける。
「や〜ぐちさんっ!!帰りましょっ♪…!?」
珍しく矢口が泣いていた、
いや、涙を流していたと言うべきか。
友人として付き合い始めて数ヶ月の石川だが、流石にこれには驚いた。
「エヘヘ。恥ずかしいな、なんかやだな。」
ゴシゴシッと粗く涙を拭うといつもの矢口の笑顔に戻り
「梨華ちゃん帰ろっか。」
「はいっ♪」
- 60 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月09日(土)23時03分41秒
- そして、二人は非常階段を1階まで駆け下りると、原チャリに乗って
いつもの場所へ。
最初に帰りに道草するのは決まってここである。
銭湯『ホモゲ牛乳』
綺麗好きの石川は好んでココを利用する。
自分のアパートの風呂に入ると掃除が大変だから
という理由らしい。
矢口は名前がなんとなく気に入らなかった。
- 61 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月09日(土)23時04分13秒
- 銭湯に入ると番頭がいる。
古いタイプの銭湯だ、見た目も番頭も。
番頭の半寝のおばあちゃんを起こして二人分お金を払う石川。
周りは年寄りばかりで
おそらく若い客なんて石川と矢口くらいだろう。
綺麗に服を脱ぐとたたむ石川に対し、
脱いだら即ロッカーにぶち込む矢口。
そして矢口は石川の裸を見てニタニタする
そう、エロオヤジとなんら変わらない目つきで。
- 62 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月09日(土)23時04分44秒
- 「り〜かちゃぁ〜ん♪」
モミモミ…モミモミ…
「ちょっとぉ〜!何するんですかぁ〜いつもぉ〜〜〜!!」
「うんうん。いい感じのおっぱいの育ち具合だ。おねぇさんうれしいぞっ♪」
「もうっ♪怒りますよ♪」
裸のままタオルを片手に振り回す石川と、それを逃げようとして走る矢口。
まるで風呂の中で泳ぐ子供と同等である。
この銭湯には風呂が3種類、サウナが1つある。
風呂はホモゲ牛乳ならではの牛乳風呂と熱い風呂、熱い風呂より若干ぬるい風呂があった。
- 63 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月10日(日)23時04分10秒
- 「りかちゃぁ〜ん♪体洗ってあげるぅ〜♪」
気持ち悪いほど甘い声で石川の耳元でささやく矢口。
気持ち悪いほど、というよりも
石川には充分気持ち悪い。
「いやですよぉ〜、矢口さんいっつも石川のエッチなところ洗おうとするじゃないですかぁ〜。」
「だめっ?」
「可愛く言ってもだめっ!!もうっ。」
こんな感じだが石川と矢口は仲がいい。
- 64 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月10日(日)23時04分56秒
- 誕生日が一日違い、同じ血液型、同い年だからだろう。
身体を洗い終わると石川は肌によい牛乳風呂へ、矢口はぬるい風呂に入る。
なんせ、矢口は腐った牛乳を飲んで当たって以来
牛乳が大の嫌いなのである。
風呂をはさみながら石川が話し掛けてくる。
「ねぇ、矢口さん。」
「ん?」
「今日の加護ちゃんですけど…。」
「ああ、うん。」
「タトゥーが入ってるだけじゃどうって事ないですよね。」
- 65 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月10日(日)23時05分28秒
- 「まぁね。」
「何かそのタトゥーに関していやな事でも有るのかな…。」
「…多分話したくなったら話してくるよ、きっと。」
「ですよね、そうですよねっ♪」
「うん。きっと…。」
「矢口さん、そっち行っていいですか?」
「いいけど?やっと矢口に身体を許してくれるのかなっ!?」
「…やっぱいいです…。サウナ先行きます。」
そう言って石川は立ち上がり、
矢口を置いてサウナへと行ってしまった。
「あ〜、もうっ待ってよぉ〜梨華ちゃぁ〜ん♪」
- 66 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月11日(月)00時16分54秒
- おもしろいです(w
がんがってください♪
石川と矢口の仲が気になる(藁
- 67 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月11日(月)23時04分44秒
- モワッっとした熱気が2人に纏わり付き
肌がピリピリと刺激を受ける感覚がたまらない。
「ふぅ〜…あっつぅ〜い♪」
大きく息を吐き出して矢口の方を見遣ると
その人は仰向けに寝たまま、
頭の後ろで両の手を組んでいた。
「またいつもの『サウナDE腹筋』ですかぁ〜?」
そう、矢口はサウナの中で腹筋をいつもしている。
「だって…汗かきながら…腹筋って…結構いいよっ…血の巡りがいいしっ…新陳代謝いいしっ…。」
汗だくになりながら腹筋を続ける矢口を
石川はちょっと呆れて、ちょっと笑った顔で見つめていた。
- 68 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月11日(月)23時05分17秒
「ねぇっ、矢口さん。…矢口さんって…」
と言いかけたところで、突然矢口が叫んだ。
「痛ぁっ!!!いってぇ〜〜…。」
なにやらお尻のあたりを触って
歯を食いしばりながらスースー言っている。
「どうしたんですか矢口さんっ!!」
慌てて矢口に駆け寄ると
- 69 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月11日(月)23時05分50秒
「うう、梨華ちゃぁ〜ん…お尻が痛いよぉ〜…ちょっと見てよぉ〜…。」
見事に直径1cm、皮が剥けていた。
こんなところで腹筋するからこうなってしまうのだが。
「矢口さんっ、皮剥けて、血が滲んでますよ〜。もう出ましょ、ね、矢口さん。」
「うん…。」
- 70 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月12日(火)23時07分07秒
- そんな自業自得な矢口を慰めるように
優しく背中を押してサウナから出た。
「ごめんねぇ、ありがとう梨華ちゃぁん〜愛してるよぉ〜…。」
「ハイハイ。服着て帰りましょ。」
「うん…。」
矢口があまりに痛がるので
番頭のおばあちゃんから貰ったバンソウコウを貼って
『ホントは矢口さんって泣き虫なんだよねぇ〜』と微笑む石川は、
着替えている矢口にビンのリンゴジュースを差し出した。
「ハイ。リンゴジュース。矢口さんここの好きでしょ?」
「…ありがと。」
石川は牛乳を買って、腰に手をあてて牛乳を飲み始める。
「梨華ちゃんよく牛乳飲めるよね。だからおっぱい大きいんだよ。」
「ふふっ♪なんですかぁそれぇ〜、牛乳嫌いでも加護ちゃん大きいじゃないですか。」
「皮肉っ!?」
「いいえ、別に♪」
- 71 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月12日(火)23時07分37秒
- 石川が牛乳を飲み干すのを見て
矢口もリンゴジュースを一気飲みした。
髪をよく乾かして銭湯を出ると
空はすっかり暗くなって
セミももうすぐおやすみの時間にしようかという頃。
いつものようにしげるにまたがろうとするも
「痛ってぇ〜…。」
と漏らし、ヤンワリとシートに座ってしげるを走らせる。
行き着いた先は朝道草したコンビニ、『J』ことマールゾロだった。
待たせてある漫画の元へ
矢口は尻が痛いのも忘れてスキップで店内へ飛び込む。
そして、迷うことなく
家で呑むための88円チューハイと
夕食用のオニギリ『ササミツナマヨネーズ』2個、80円のお茶を購入する。
足早にレジへと趣くと、もちろんそのまま店を出るわけもなく
朝読み損ねたヤンマガを読むために雑誌コーナーにて
座り読みを開始する。
- 72 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月12日(火)23時08分12秒
- ジンジン痛む尻を気にしながら。
矢口に遅れること1分程、
石川も夕食のためにカルボラーナを買って、
すでに夕食を開始している矢口の隣りで立ち読みしだした。
これも夜の恒例の風景だ。
「アハハハっアゴゲンおもれ〜。」
無邪気に笑う矢口を横目で見ながら
週刊女性の浮気告白記事を読む。
自然と笑みが移ってくるのに気がつかず
口元にそれを残したまま店内の時計を見ると
あっという間に21:00を示すようになっていた。
「矢口さ〜ん。矢口さ〜ん。」
「ん〜何ぃ〜梨華ちゃ〜ん。もう少しで読み終わるから待ってぇ〜。」
- 73 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月13日(水)23時04分22秒
- 「矢口さんっ!!ちょっと立ってください!いいから!」
マンガに夢中な矢口を立たせるのは
店員がモップを構えて困った顔をしていたからだった。
とにかく片腕を掴んで引き上げるその姿は
まさに、駄々をこねる子供を引きずる母親のそれに近い。
「気まずいですよー矢口さ〜ん…もう帰りましょうよぉ〜。」
「よっしゃ、読み終わりっ。帰ろっ。」
とっとと用が済めば店を出る矢口に対し、
冷たい店員の視線を感じた石川は店員に頭を軽く下げてから外へ出た。
そして、やっと家路につく原チャリしげる。
- 74 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月13日(水)23時05分03秒
- 矢口の部屋のあるアパート『ブドウ荘』にしげるを停めると、
その相向かい側にある石川のアパート『乙姫荘』に入っていく二人。
バイト終了後はいつも矢口は石川の部屋へと行くのは
石川の部屋は広く快適だから。
トイレの芳香剤の匂いを我慢して入るとそこには12畳の部屋が広がり、
何でも揃っているそこは矢口が居着くには充分な場所だった。
入り口のドアを開けるとピンク色中心のメルヘンチックな感じの景色が広がる。
そして、主人の帰りを待つペットが
石川のスネ目がけて擦り寄ってくる。
石川の愛猫であるシャム猫の『アフロ犬』である。
猫なのになぜアフロ犬なのか…アフロ犬というアフロ頭の犬が好きだから名づけたそうだ。
「ごめんねぇ〜♪アフロ犬っ♪今すぐご飯上げるねぇ〜。」
石川は矢口もほったらかしに
小走りで中へ入っていって、エサを用意している。
矢口は入り口のドアにカギをかけて
ゆっくりと部屋の奥に向かった。
- 75 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月13日(水)23時05分41秒
- 「くさいよぉ〜梨華ちゃぁ〜ん。この匂い何とかならないのぉ〜?」
「ええ〜っ?いい匂いじゃないですかぁ〜。」
「そうかねぇ、何か広いトイレにいる気分だよ。」
「さっ♪今日は何を見ますっ?」
大きなテレビの前に二人して座ると
あれこれDVDソフトを選ぶ。
実はこのDVDプレイヤー、矢口のものなのだ。
しかし石川の部屋以外で使ったことはない。
なぜなら、矢口の部屋のテレビは
リモコンなどなく、チャンネルを回して合わせるような年代物で
DVDと繋げる端子がないのだ。
それでも、こうして毎日映画やアニメを見れるのだから
万歳万歳である。
- 76 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月14日(木)19時57分23秒
- ずっとROMってたけどかなりおもろい。
頑張ってください。
- 77 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月14日(木)23時03分47秒
- ちなみに、何でも名前を付けたがる矢口は
『DVDプレイヤー辻加護君』と命名しているらしい。
「これっ。サトラレがいい♪」
矢口のチョイスしたDVDソフトは映画『サトラレ』である。
矢口がセットしている間に
石川は買ってきたカルボナーラをレンジで温めて矢口の座るソファーの隣りに座る。
「うわ〜んっ!!かわいそうだよぉ〜おばあちゃぁ〜ん。氏なないでぇ〜。」
エンディングはまだだというのに、矢口は既に泣き始めて
ティッシュを何枚も取り出して涙を拭って鼻をかむ。
「いつ見てもいいですよねぇ〜…。」
石川もティッシュを一枚とって綺麗に折りたたむと
目じりの涙を拭った。
- 78 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月14日(木)23時04分50秒
- 約2時間の上映時間が終了すると
スタンディングオ−ベーション!?
矢口はなぜかTVに向かって立ち上がって涙しながら拍手を送る。
「いやあ、ヨカッタヨぉ〜梨華ちゃぁ〜ん。」
「そうですねっ♪いつみてもいいですよね♪」
それぞれが口々に感想を述べ合ったり、いろいろ会話していると
時計は0時を迎る時刻を示すようになっていた。
「あ、もうこんな時間かぁ〜…石川もう寝ますね♪」
その言葉に矢口はときめく表情をする。
「もしかしてっ…矢口を泊めてくれ…」
- 79 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月14日(木)23時05分22秒
- 「ません。帰ってくださいっ。矢口さんと一緒に一晩過ごしたらどうなる事か不安です!!」
「ちぇっ…。わかったよぉ〜、まだ心の準備が出来てないんだね♪もう少し待ってみるから♪」
そう言って、しぶしぶ石川の部屋を出る。
すると石川はネグリジェに着替え始める。
「じゃあねぇ〜梨華ちゃん。また明日。」
「また明日♪」
「セクシーだよっ♪ネグリジェっ♪」
「うるさいっ。もう、戸を閉めてくださいっ!!」
「ハイハイ。じゃーね。」
戸を閉めて矢口は階段を下りた。
- 80 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月15日(金)23時02分18秒
- 矢口はクスッと笑って
「もう少しだぁ〜♪矢口、梨華ちゃんのヒモになる作戦成功までっ♪」
そう呟くと小さくガッツポーズをして、自室に戻った。
部屋に戻り、まず矢口はテレビの電源を入れダイヤルを10に合わせる。
「おっ、丁度トゥナイト2だね♪」
などと言い、テレビを見つめながら座ってチューハイのプルタブを起こした。
チューハイが飲み込まれるたび喉が音を立てる。
しばらく呑んで矢口はほろ酔い気分になる。
- 81 名前:第1話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月15日(金)23時02分50秒
- 「ゲップ…もう寝よっ。」
と言うと、矢口はチューハイを飲み終わると服を脱ぎ捨て、全裸になった。
「明日もいい日でありますように…。」
そう呟いて布団にもぐった。
こうして今日もいつもと同じ一日が終わった。
- 82 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年03月15日(金)23時06分14秒
- 第1話終了です。
各話終了ごとに返レスしていきたいと思います。
>>5,>>66,>>76
感想レスありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
- 83 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年03月15日(金)23時07分15秒
- 第二話は1週間お休みを頂いた後
開始予定です。
- 84 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月16日(土)13時23分45秒
- おもしろいっすねー。
一週間後をお待ちしております(w
ってか矢口ヒモ…(藁
- 85 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月23日(土)03時48分52秒
- そろそろ1週間・・・
期待してますよ〜
- 86 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月23日(土)23時36分20秒
1日のうちの3公演目。
トイズEEのビアガーデン化した各席の前のステージでは
いつもの様にミニモレンジャー。ショーが展開されていた。
「赤鬼星人もどきめ〜!これでも食らえ〜!!」
ミニモレンジャー。3人が突然ステージの脇に隠れると
手に升を持って帰ってきた。
升一杯の季節外れの福豆をボロボロこぼしながら3人は赤鬼星人もどき目掛けて投げつける。
- 87 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年03月23日(土)23時37分06秒
- 「「「鬼は〜そと!!鬼は〜そと!!」」」
ともすれば、こんな学芸会みたいな芝居を18、19歳の女性にもなってやるのは
物凄く恥ずかしいだろうが、
幸か不幸か、今日も客席はいつも通りで
恥ずかしがる必要はなかった。
クソガキ3人組の一人、デブがステージからこぼれ落ちる豆を拾って食べているのは
一先ず無視をした。
「ガオー!!」
- 88 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月23日(土)23時37分58秒
3人の投げつける豆が当たるごとに
ダメージを受けるが如く吉澤が苦しむアクションを起こし
それに合わせて後藤が鬼の声を流す。
後藤には今日の仕事は非常に楽。
なぜなら、鬼の声は一種類しかないために
同じボタンの上に手を置いてあとは何もすることがないのだ。
非常に単純な作業。
これでも時給650円。
ボディプレスを受けたり、踏まれたりしても650円。
「んぁ〜、眠いなぁ…。」
そんなことはお構いなしに
今日も台本どおりにステージは進んでいく。
- 89 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月24日(日)23時03分47秒
「リーダー!そろそろアレを出しましょー!」
「アレをやるのれす!!」
アレとはやはり合体必殺技である。
加護…踏み切り甘くするってあの時言ってた事嘘なのか…?などと思いつつ矢口はセリフを吐く。
「…よ、よし!…『もっと…もっと…』いくぞー!!」
- 90 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月24日(日)23時04分37秒
ボリボリと豆を頬張りながら辻と加護は後ろに下がって
助走準備完了。
暑さのせいだけではない、嫌な汗をかきながら
矢口も四つん這いになって飛び台準備完了。
ドタドタという音がすぐ近くまで来て
照明加減から一瞬だけ日陰になる。
そしてその瞬間
- 91 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月24日(日)23時05分11秒
「ぐぇっ!あがっ!」
やっぱり聞こえた。
『トゥッ!!』という辻、加護の掛け声の影に
文字通りの悲痛な叫びが。
矢口の四つん這いが崩れている間に
空飛ぶ弾丸は赤鬼星人もどきに向かって一直線。
いや、一放物線。
吉澤に襲い掛かる戦慄の瞬間。
- 92 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月24日(日)23時18分29秒
- はじまってるはじまってる(w
がんばってくだせー
- 93 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月25日(月)23時02分51秒
「痛ぇ!!」
あれ?
聞こえるはずのない声が…
心霊現象ではないし、『のろってやる』などと言う声が聞こえるCDが流されているわけでもなく
鬼の着ぐるみの中から確かに吉澤の声が聞こえた。
というか、辻、加護がボディプレスしたときの
『ドーン!』という効果音が出なかっただけ。
「???…どうなってるのれすか?」
- 94 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月25日(月)23時03分33秒
「わからん。」
スピーカーの方を気にしながら
吉澤の上に乗っかりぱなしなのに気づいて
二人はサッと横へジャンプした。
「ち、地球の平和を守ったで〜!」
「や、やったのれす、リーダー!!」
例の如く、3人はステージ中央に集まる。
「「「150cm以下戦隊ミニモレンジャー。!!!カッカッ。」」」
- 95 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月25日(月)23時04分12秒
とりあえずいつもの決めポーズでステージは終了したが
いつまで経っても起き上がらない赤鬼星人もどき。
どうやら打ち所が悪かったらしく
敵だったはずのミニモレンジャー。に引きずられて退場した。
戦いを経て友情が…というわけではない。
「zzz…ん…んぁ?…圭ちゃん…どうしたのぉ?今日、圭ちゃん赤鬼星人なの…?」
「後藤ちゃぁ〜ん…おねんねの時間はまだ早いかなぁ〜。ん〜!?」
「んぁ?」
鬼神参上。
- 96 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月26日(火)23時02分03秒
17:40
早くも出来上がったオジサン達で溢れる屋上で
今夜も握手会を開かなければならないのは
矢口にとっては本当に鬱である。
「ホントは辞めたいんじゃないの?こんな仕事。」
「ク、クソ…このガキが…!!」
- 97 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月26日(火)23時02分53秒
世間の酸いも甘いも知ったようなそぶりをするインテリの言葉に今日も怒りを抑えきれず
辻と加護になだめられて席を立とうとすると
辻が気づいた。
「今日はまだお客さんがいるれすよ!?」
見ると1人の酔っ払いがニヤニヤしながら歩いてくるではないか。
すごく嫌な感じだが、
そこは営業スマイルをなんとか繕って
また席に座る。
- 98 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月26日(火)23時03分26秒
「おねぇちゃ〜ん、オジサンにも握手して〜?」
「「「!!!」」」
歪む笑顔。
なぜなら…最初に現れたオジサンは
ズボンの中に手を突っ込んで
『何か』を掻きむしっているではないか。
「…どうも〜…ありがとうございます…。」
最初の不幸を味わったのは加護だった。
つま先に力がこもる。
特に考えもなく配置を決めてしまったことが
こんなことに影響してくるとは思わなかっただろう。
- 99 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月27日(水)23時02分53秒
「…どうも〜…れす…。」
辻の顔も強張った。
矢口は迫り来る恐怖に
梅干しを口に含んだような顔になっている。
「ありがとうございま〜…」
仕方なしに矢口が差し出した手に
『何か』を掻きむしり終わった手が近づく、
その時。
「うぇっ!!!ペッペッペッ!!!」
- 100 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月27日(水)23時03分28秒
酔っ払いはニヤニヤしながら矢口の顔に
ベッタリと手のひらをくっつけたのだ。
完全なオチ扱い。
「ううっ…」
そして充分矢口の様子を堪能した酔っ払いは気分良くビアガーデンに戻っていく。
もう怒りが込みあげるほどの余裕もない。
やっぱり19歳の女の子だと痛感し、涙が出そうになる。
凹みまくりの矢口は俯いたまま控え室へと戻っていった。
- 101 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月27日(水)23時04分04秒
「矢口さん…可哀想やな…。」
「矢口しゃん、運が悪いれすね…。」
その一段と小さな背中には
辻、加護も言葉の掛けようがなかった。
楽屋の時計は19:00を示し、
その時計の下では吉澤が氷枕を後頭部に当てて横になっていた。
割り合わねぇ〜…などと思いつつ、ズキズキ感と戦っていた。
「…お疲れ様です…矢口さん、どうしたんですか?」
遅れて戻ってきた辻と加護は
吉澤の元へ駆け寄って、事情を説明する。
- 102 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月28日(木)23時03分10秒
- 「あんなぁ、あの…何や…」
「???」
「あのれすね…変なオヤジが股間を掻きむしった手を
矢口しゃんの顔にくっつけたのれす…ピッタリと…。」
「ピッタリと……ピッタリしたい…?」
「それはちゃうけど。」
パイプ椅子に腰掛けた矢口の周りにはドンヨリとした空気が漂っている。
精根尽き果てたような表情が髪の毛と同様に下を向いていた。
「矢口さん…もうそのことは忘れてポジティブにいきましょうよ♪」
- 103 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月28日(木)23時03分52秒
- ポジティブポジティブと
念仏のように連呼するのが、
こういうときの石川のいつもの対処法だった。
もはや本来の意味など関係なく、一種の口癖となっているし、寝言でも時々言う。
だが、『ポジティブ』なんて言っているうちは
まだまだポジティブではないということは分かっていない。
「……まぁ…いいけどさ。
今度あのクソオヤジが現れたら、そんときは…コロ…」
皆が帰り支度を始めて、
矢口も危険な言葉を吐き捨てて帰ろうとしていたちょうどその時
保田が全員に向かって何やら呼びかけ始めた。
「あたしについてくる人、居る!?」
白けた雰囲気に、いつも通り保田の語尾の『!』が増えてくる。
別に怒っているわけではないのだが。
- 104 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月28日(木)23時04分34秒
- 「なによ!?ハッキリしなさいよ!!矢口は、来るの?来ないの?どっちよ!?」
「えー?…奢ってくれるんなら付いてく。」
「ごとーは眠いから帰るよー。」
「あの…まだ頭がクラクラするんで…」
「あいぼんと一緒に帰るのれす。」
「せやな。」
オロオロしている間にも
石川以外の全員は口実付きの拒否反応を示していた。
- 105 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月29日(金)23時03分56秒
- 「石川はどうなのよ!?」
「えっ!!…っと…」
キョロキョロを周りの様子を伺うも、
誰一人目を合わせることなく帰り始めてしまった。
「(…どうしよう……矢口さんはついていくって言うし…断ったら帰り歩きになっちゃうし…。)」
「もうっ!!どっちなのよ石川っ!!答えられないって事はどっちでもいいってことねっ!!
じゃあ、あんたもついて来なさい!!」
「はい…。ぐすん。」
- 106 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月29日(金)23時04分34秒
- ついてきたのをちょっとだけ後悔したのは風俗店の立ち並ぶ一角の、
ぁゃιぃ色合いのネオンの下に
保田、平家、矢口と共に到着したときだった。
なるほど。
みんなが拒否した理由が分かった。
なんせここは普通のバーではない、
いわゆるゲイバーである。
保田と平家は入った瞬間からその場の空気に馴染んでいるのに対して、
石川はオドオドと少し戸惑った感じ。
そして矢口は
「……。」
何とも居た堪れない表情になっていた。
その理由は、握手会のときの酔っ払いではなく
「何であいつがここに居るんだよ…。」
大学合否によって別れた元彼がここで働いていたからだった。
- 107 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月29日(金)23時05分14秒
- バイトに置いてあるパイプ椅子よりも座り心地はいい。
でも居心地は最悪。
酒を流し込んでは愚痴りあう保田と平家の横で
リスのようにプリッツをかじり続けた。
カリカリカリカリ…
中華の鉄人の千切り並の速度でひたすら。
「矢口さん…さっきからどうしたんですか?」
「えっ!?…あはは、何でもない…カリカリカリカリ…」
ひたすら心の中で祈るのみ。
「(気づくな気づくな…)」
「あ〜ら、真里ちゃんじゃな〜い!?」
「!!!!!!!!」
最悪。
- 108 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月30日(土)23時04分26秒
- 聞きたくなかった声が、しかも微妙に女っぽい。
しかし、こんなときに限って祈りは通じないものである。
呑ん兵衛2人は全然気づいてなさそうだが
さっきから矢口のことを気にしている石川は
その声を聞き逃さず、声の方向をむいている。
「矢口さん、誰か呼んでますよ?知り合いですか?」
「人違いだよ、人違い!
…あー…梨華ちゃん、タバコ持ってない?」
「え、ああ…持ってますけど…。」
慌ててピンクのバッグを探り、銀色でLARK1と書かれた箱から一本取り出して
矢口の咥える先にメタルピンクのジッポの火を向ける。
- 109 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月30日(土)23時04分56秒
「はぁ〜…。」
煙と溜息を一気に吐き出すと
その後も、機関車の如く高速で煙を吐き出し続ける。
「軽すぎ…吸った気になんない…梨華ちゃん、もう一本ちょうだい。」
「ちょっと!矢口っ!!煙たいわよっ!!」
隣りで煙を吐きかけられ続けた保田が怒った…。
小一時間が経過…。
- 110 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月30日(土)23時05分33秒
- 呑んだくれ3人が散々に騒いで充分ストレスを発散させると
「じゃ、出るわよっ!!延滞料金とられちゃうわっ!!」
と、急にシビアに懐の事を気にし始めた。
なにせ、矢口、石川の分も保田がおごりなのである。
奢られた矢口は今すぐにでも出て行きたかったのであるが…。
外に出ると、ほろ酔いで火照った顔を
生温い風が少しだけ冷やしてくれる。
いい感じに出来上がった3人と全然出来上がっていない1人は
カラオケへ行くことに決めた。
- 111 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月31日(日)23時02分40秒
- 「矢口さぁ〜ん。石川、少し酔っちゃいましたよぉ〜。」
矢口の背中にしがみついて
とろ〜んとした声でそう言とケラケラ笑う。
「酔っちゃったの?へぇ〜。」
呑んでも酔えず、ほぼシラフに近い矢口は石川を軽くあしらい
しげるのアクセルを強く回して
ひたすらカラオケへ向かう。
カラオケはデパート方面なので
ゲイバーからまた少し移動しなければならないのだ。
「矢口さ〜ん…今日もウチに寄っていきます?」
「あ〜…どうしようかなぁ…。」
- 112 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月31日(日)23時03分23秒
- 酔ったせいか、そうではないのか、
石川は自分の顔が火照って熱いことを自覚した。
時速60kmオーバーの風が心地よく感じた。
「梨華ちゃん、飛ばすからしっかり掴まってよ?」
「はぁい…。」
- 113 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年03月31日(日)23時04分17秒
矢口の小っこい背中に頬をくっつけ、スリスリする。
そして、しげるは更にスピードを上げて走り始めた。
10数分後、小さい駐車場に矢口たちが到着すると
程なく、白のクラウンがやってきた。
「圭ちゃん、遅いよ。」
「ちょっとアンタ!どんな運転してんのよ!!追いつこうとしたら事故に遭いそうだったわよっ!」
結構負けず嫌いな保田は
細かなことも気にするタイプ。
一方助手席から出てきた平家はケタケタ笑い、保田を小馬鹿にして楽しそう。
- 114 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月01日(月)23時04分57秒
「いらっしゃいませ〜。」
カラオケ『秀樹』
名前はスナック風だが、ちゃんと最新の曲も置いてある。
そして、レジの店員は辻の姉『文子』がやっているのだ。
「2時間ね!」
「2時間ですか。はい、リモコンです。」
辻の姉は未だにガン黒ギャル。
でも話し方は普通。
辻だけあんな舌ったらずな喋り方をするのだろうか。
あるいは…片親どっちかも舌ったらずなのか。
それは親父だった場合、あまり想像したくない…。
部屋へと移動すると保田は即座にリモコンとマイクを奪取。
- 115 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月01日(月)23時05分30秒
- 「アタシのリサイタルよっ!!」
「何言うてんねん!!圭ちゃんの歌が始まったら
ウチらどんな顔して聞いてたらええねん!?」
もう遅い。
リモコンを奪えば、保田の歌い込んだ曲番号が本を見ず、即座に打ち込まれる。
画面に出てきたタイトルは『ラバウル小唄』。
そう、保田は軍歌、演歌を歌いまくるのだ。
「なんか…全然知らない歌ばっかりですね…。」
どのように曲にノッてよいかわからず、
困ったような顔をする石川をヨソに
矢口はリモコンを手にとって歌の本をペラペラと捲る。
- 116 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月01日(月)23時06分11秒
「……。」
「あの〜…矢口さん?」
ピッピッピという電子音が止めどなく鳴り続ける。
tsunami:サザンオールスターズ
tsunami:サザンオールスターズ
tsunami:サザンオールスターズ
tsunami:サザンオールスターズ
「アカン…おねぇちゃん、ビール3つ、お願いな〜。あと、フライドポテト2つ。から揚げ1つ。」
平家は呆れた顔で受話器を取り上げると
暇つぶしのビールをオーダーしてソファにドカッと腰を下ろした。
- 117 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月02日(火)23時16分25秒
- 2時間後…
「見ちゅめあ〜うとぉ〜、しゅな〜おにぃ〜…お…おしゃ〜…べ…」
「矢口さん〜、もう5回目ですよ、tsunami歌いながら泣くの止めてくださいよ〜。」
「だ…だってさ…勝手に涙が…」
首を傾げて保田と平家を見るも
すでに2人はベロベロに酔っていた。
「もうっ…しょうがないなぁ…。」
- 118 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月02日(火)23時17分06秒
少し頬を膨らませるとリモコンに何やら打ち込み始める。
「しょうがないから石川も歌っちゃおうかな♪」
入力を済ますとマイクを持って、立ち上がる。
そして画面いっぱいに曲名が映り…
ピッ
演奏中止
- 119 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月02日(火)23時17分39秒
「…あっ!!」
イントロクイズほどの短さで中止される曲は
なんとも悲しいものだ。
決して作った人に非はないのだが…
「石川は歌われへんやろ…圭ちゃん、そろそろ帰ろか?」
「何でですかっ!石川そんなに下手じゃ…ぐすん…。」
「うんうん…かえろかえろ。」
「ええっ…石川にも…。ぐすん…。」
石川の周りの3人はすぐに立ち上がり、各々帰りの準備を始めた。
- 120 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月03日(水)23時14分05秒
- 千鳥足でカラオケ屋の階段を下りると保田はヨタヨタしながら
「あ〜…ちょっと呑み過ぎたわ!あんた達!明日は休日だけど、
明後日遅刻したら許さないわよ!?」
「「は〜い。」」
矢口と石川に釘を刺し、クラウンは闇の中へと消えていった。
「ヤグチ達も帰ろっか。」
- 121 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月03日(水)23時14分47秒
何か吹っ切れたのか、その言葉を発する顔は微笑んでいた。
「はい。」
しげるにキーを差し込んでそう言うと
身体半分ほどライトに照らされた石川は快く返事した。
心なしか返すように微笑んだ気もした。
「あのーー!!矢口さーーーん。」
風を切る音の隙間から甲高い声が聞こえる。
「なぁにぃー?」
「今日ぉ〜、何かーあったんですかーー?」
- 122 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月03日(水)23時15分25秒
フッっと息を吐き出すと少し口角を上げながら
いつものように明るい調子で話す。
「何があったと思うー?」
少し大きめに放たれた声は
生温い夜空に漂ってどこかへ消えていく。
「…分からないですぅーー。」
「ゲイバーでー、元彼がー働いてたんだー。大好きだったんだけどー、
まさかゲイだとおもわなかったー。」
全てを忘れようと、
その言葉の後でもう一度笑い声を出して誤魔化す。
- 123 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月04日(木)23時19分52秒
- 「そうだったんですかぁー。」
「なんかーー、おかしいよねぇー、ははは!!」
「…。」
「梨華ちゃーん!?今日のDVDはー『フランダースの犬』だからねー!」
そして、自室のあるアパートにたどり着くといつものようにしげるを止めて、
二人は石川の部屋に向かった。
自室に帰り、電気のスイッチをつけると、やはり目の前にはピンク色が広がり、
芳香剤の香りも広がる。
- 124 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月04日(木)23時20分22秒
アフロ犬はお休みの時間だったか
「ニャーン。」
と、ドアの開く音を聞きつけ、しばらくしてから駆け寄ってきた。
「よしよし。今、晩御飯あげるからね〜。」
猫に見向きもされない矢口は
荷物を下ろすと迷うことなく『フランダースの犬』DVDを再生し、
例の如くソファーのどっかり腰を掛け、テーブルの手の届く位置にティッシュを配置させる。
「あ、矢口さ〜ん!今日、パパがワイン送ってきてくれたんですけど、いっし…」
「飲むっ!!!」
- 125 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月04日(木)23時20分57秒
2時間後…。
空のワインボトルがゴロリと床に寝転ぶ。
そしてその周りにはグシャグシャに丸められたティッシュがチラホラ。
「パトラッシュ…逝っちゃダメだよ〜!パトラーッシュ!!」
フランダースの犬で極限まで凹めば
あとは怖いものは無い。
『チーン!!』と鼻をかんで大きく深呼吸をすれば
落ち込んだ心も元通り。
「はぁ。おしっ!…あら…?」
さっきから石川の声が聞こえないと思ったら
ソファーの隣りに座ったまま寝息を立てていた。
「寝ちゃったのか……寝ちゃった…よね?むふふっ。」
- 126 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月05日(金)23時06分47秒
しばらく前から温めていた作戦を実行に移すときが
ついにやってきた。
自分よりも大きい石川の身体を抱きかかえ
「重いなこのやろ。」
などと言いながら、ベッドまでやっとのことで運ぶ。
「ごめんねー梨華ちゃん。これからもお世話になりまーす。」
ニヤケる面のまま、小声でそう呟いて一拝みすると
ジャージも下着も脱ぎ捨て、いつも通り裸でベッドに入った。
そして、なぜか石川も裸に…。
石川の服は矢口なりに綺麗に畳んで置いた。
全ては翌日になれば分かることだった。
- 127 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月05日(金)23時07分31秒
朝、いつものように体内時計は石川を目覚めさせた。
「んん…あれ…寝ちゃった…って!!矢口さん!!なんで裸なんですかぁ!!
てか、何で石川も裸なんですかー!!」
腫れぼったい目を擦って開くと
矢口は確信的にこう言ってのけた。
「酷いよぉ〜梨華ちゃ〜ん。あんなにも・え・た・の・に♪」
石川の鼻をツンと軽く突っつくところまで
全てが矢口の台本どおり。
「さっ、今日は稼ぐぞ〜!!」
「…。」
「(服が畳んである…もしかして…うそっ!?ええぇぇぇ!????)」
そんな混乱した石川を見て矢口はニヤニヤしていた。
- 128 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月05日(金)23時08分02秒
カランコロンと鳴る喫茶「さやか」の鐘の音は今日も普段通り。
何が違うかと言えば、
今日は矢口達がオフの日だということ。
「「おはよ〜ございま〜す!」」
「おはよう。今日も出来てるよ。」
店主のおばちゃんは今日も二人になんら変わりの無い笑顔で出迎えた。
コトンと音を立ててカツカレーの乗った皿が置かれると
矢口はトランス状態に入る。
その猛烈なスプーン使いは、早食いチャンプ真っ青、そして石川は呆然。
- 129 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月06日(土)23時09分04秒
- 「モグモグ……梨華ちゃん、早くしないと、んぐ、今日も食べれないよ?…モグモグ…。」
なんというか、小学校の給食を思い出した。
給食を食べるのが遅かったために
校庭に出るときにはもうドッヂボールは始まっていて
入った途端にボールをぶつけられて外野に行くのだ。
そんなこと考えてるうちに
矢口は紙ナフキンで口を拭いて満足気な表情で腹を擦っていた。
「ふぅ、食った食った。」
やはり矢口は石川のことを待たずに早々に席を立つ。
「あっ!!ちょ、ちょっと待ってくださいよ…まだ1つしか食べてないんですからぁ…。」
「でももう時間ないからさ〜、ほら、全部口に詰めちゃえば…。」
「むぐぐ!!」
サンドイッチを口に詰められ、何かを言いながら財布から食事代を出すと、矢口に続いて店を出た。
- 130 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月06日(土)23時09分46秒
- そんなに急ぐ理由、それは貧乏生活に起因している。
一攫千金を夢見てパチンコにつぎ込む金は数万円に上り、
仕送りが無くなれば石川から金を借りるという生活である。
なんとも自堕落な生活だが、たまに大勝ちするために
止めるに止められないのが現状だ。
今日もパチンコ『ラブマシーン』の前で開店待ちの列に並ぶ。
店の前の小さな影の後ろに着いたころで
ようやく石川は口の中のサンドイッチを全て飲み込んだ。
「矢口さん、石川を殺す気ですかっ。窒息死しそうでしたよっ。」
「まぁまぁ、早く並べたんだから。一番乗りじゃんウチら。」
大きな街でないために、列はそれほど長くなく、
看板の電球は、もちろんパチンコの『パ』だけが切れている。
- 131 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月06日(土)23時10分23秒
- 「パを抜いて読んでみて、梨華ちゃん。」
などと、軽いイジメのように出会ったころ矢口は石川をからかった事もある。
矢口はここのことを『ダッチ』と呼んでいる理由も
そこにあるような気がする…。
朝方にもかかわらず燦々とふり注ぐ八月の太陽の光。
もちろんの事、気温も上がり、汗を滲ませる。
「あちー!梨華ちゃん暑くない!?すごい日焼けしてるよ!?」
「あの…黒いのは元からです…。」
「シッテルヨ。」
軽いからかいは今でも健在である。
- 132 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月07日(日)23時04分59秒
いよいよ開店の時刻となり、店員が内側からドアを開く。
入り口が開けば、半端じゃない空冷が漂う中、真っ先に釘選びに走る矢口、
そして、スロットコーナーで適当に座る石川。
矢口に付いてきて、暇つぶしにやる程度だから
毎回終わるころには少しだけ負けている。
ところが、今日はいきなり大当たり。
「矢口さ〜ん!!なんか、凄いですよ、石川!!」
- 133 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月07日(日)23時05分42秒
「あー、よかったねー。」
いまだにパチンコ台の前を
前傾姿勢で横歩きを続ける矢口は
気の無い返事。
しばらく天釘を寄り目で凝視すると、ようやく腰をおろした。
- 134 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月07日(日)23時06分27秒
3時間後
「矢口さ〜ん…大負けしちゃいました〜…。」
「へぇ〜、ってか、裏モノならそうなってもしょうがないじゃない?」
「裏モノ…?」
結局矢口も3000円負け。
密かに狙っていたプレステ2は今日もお預けで、賞品陳列棚の中央に座っていた。
- 135 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月08日(月)23時07分26秒
- この街には一つのローカル鉄道が通っている。
使うのは学生や会社員などが主で、
通勤通学時などは沢山の電車が通るが、昼頃はそうでもない。
その線路はちょうど矢口達の住むアパートとデパートを二分する所に位置し
駅前は商店街、学生街が広がりそれなりに賑わいを見せている。
通称大学前と呼ばれる駅の周りには小さな学生街が形成され、
その中に住んでいる矢口達には色々と住み良い場所と言えるだろう。
「あー、結構混んでるなー。」
- 136 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月08日(月)23時08分07秒
- 松浦工業大学。
レンガ造りの塀に囲まれた、それほど規模としては大きくない大学。
そこの学食は安くてなかなかの味で、
夏休みだというのに、それなりに学生が昼食をよくとっている。
二人も、大学生ではないがパチンコから近いことも手伝って
オフの日、つまり、毎週水曜日に通う場所だ。
昼になると、付近に住んでいる学生が食券を求めて、
蛇のようにウネウネ列を成して並ぶのだが、
分速40センチのスピードに、さらに猛暑とくればイライラも募るものだ。
「梨華ちゃん、また日焼けしたんじゃない!?」
「だから、これは地黒…。」
「シッテルヨ!」
「ぐすん…。」
- 137 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月08日(月)23時08分59秒
- 強めの口調は
『もっと返答のバリエーションを用意しとけ』
と言わんばかり。
『そんなぁ〜石川だってがんばってるんですよぉ〜…。』
などと思いながら不満な顔つきをする。
石川は食券自販機の前にたどり着いた。
財布を開いて1000円札を取り出して入れようとすると
お釣り口に9000円が取り残されていた。
石川の前に食券を買った、甘い香りのする女性が忘れていったのだ。
急いで振り向き、その人物を呼び止める。
「すいませ〜ん!お釣り忘れていってますよー?」
「ありがとうございま〜す♪」
その声に反応して、後ろを振り向く女性。
その女性は吐き気を催さんばかりのブリッコオーラを放っており、
お釣り口から大量の金を鷲掴みにして
ぶ厚い財布に既に多量の札が入っているにもかかわらず、釣りを詰め込んで去っていった。
- 138 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月09日(火)23時12分36秒
- 女の勘、だろうか。
そんな財布の中身を見た矢口がその女性に見とれている。
その矢口の様子を見て、なぜか、石川は異様なほどの闘志に溢れていた。
『この娘には負けないわ…』と。
「何やってんの?」
先に正気に戻ったのは矢口のほうだった。
後ろに並んでいる蛇の列が不満そうでいたのだ。
「えっ!?いや、なんでもないですよ〜♪」
矢口の声に振り向く顔はすっかりいつもの
いや、いつも以上に…なんというか、ええ。
「矢口さん♪はい♪かけうどんの券ですよぉ〜♪」
片手で渡せばいいものを、両手でジッポくらいの食券を矢口に向かって
思いっきりの笑顔で、瞳をパチパチさせながら差し出す。
- 139 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月09日(火)23時13分19秒
- 「キショッ。」
気になってしょうがない。
ただでさえミニうどんなのにお椀にはまだ一杯のうどんが
喉を通らずに伸び続けている。
「ジュルジュル…食べないの?また口に詰めてあげよっか?」
「えっ!?け、結構ですよ♪うふっ♪」
「……。」
「なんですかぁ?そんなにじっと見つめないでくださいよぉ〜。イヤ〜ン。」
「さっきのお釣り渡した人に何か嫌なこと言われたの?」
- 140 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月09日(火)23時13分51秒
- かけうどんの汁を残した状態で
力強く席を立つ。
「ヤグチがガツンと言ってきてあげるから。」
「あ、えっ、違うんですよ…って…行っちゃった。」
どこかで見たことのあるシャクレ顔である。
顔が何処となく猿っぽく見える。
「どっかでみたことあるんだよな…。誰だったっけ…?」
少し離れたところで、目一杯の思考回路を働かせると
ちょうど、その女の子の前に立ったとき、ひとつの答えが出てきた。
「あんたさぁ、ハローズ・ゼディマの…」
2、3本のうどんを吸い込みながら振り向くその顔は
やはり、ライバル店のイメージショーガール、
松浦亜弥その人だった。
- 141 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月10日(水)18時22分03秒
- あやや登場!いつもすっごい笑えますね。おもしろい!!
- 142 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月10日(水)23時03分35秒
- 「あ、初めまして〜♪どーもぉ、えっと…トイズの方ですよねー?
あの〜…泥沼戦隊マリモレンジャー。でしたっけ?」
「ヽ(`д´)ノミニモダヨ!」
泥沼戦隊マリモレンジャーもおもしろいにはおもしろいが
矢口にとってはすこし不快だ。
こっちは名前も思い出したというのに…。
「あ、そうそう。ミニモレンジャー。すいません。あんまり他のデパートのこと知らないんで。」
悪気はなさそうだけど、
かなりのブリッコは生まれつきのようだ。
誕生日にケーキを買ってきてもらったはいいものの
生クリーム食べ過ぎて気持ち悪くなる感覚のようなものを感じる。
- 143 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月10日(水)23時04分22秒
- 「そんな人がここで何してんのよ?」
「えっと…ここは私の家みたいなもんですから♪」
「(゚д゚)ハァ?」
ガツンと言おうにも
肩透かしを食らうような返事ばかりで話にならない。
「(大学=私の家!?、大学に住み付いたホームレス?)」
小馬鹿にされたような気分はここが最高点だった。
「あの…パパが学長なんですよ、ここの。」
- 144 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月10日(水)23時06分05秒
- 「!?キタ━(゚∀゚)━(∀゚ )━(゚ )━( )━( )━( )━( ゚)━( ゚∀)━(゚∀゚)━ !!!」
お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!
お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!
お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!お金持ちハッケソ!!
ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、
ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ、ハァハァ(;´д`)
- 145 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月11日(木)23時03分54秒
- そう頭の中でめまぐるしい勢いでこの言葉が流れたに違いない。
遠目で心配そうに眺める石川に気づいて
リアクションは控えたが、
矢口の心境はまさに
『大学前駅で特急にタダ乗り換え』。
ただ、この時点でひとつ問題が…。
「ちょっと、ごめん。」
矢口は一旦、石川の元に戻る。
「結構あのコ、いい人だったよ〜、うんうん。顔も可愛いし。」
「なに喜んでるんですか!?」
矢口はブリッコが嫌いだった。
でもそれ以上に
お金持ちが大好きだった。
大好きというより、愛情云々より金を取る。
今どきの女の子なのだ。
- 146 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月11日(木)23時04分54秒
- ミニうどんをやっとのことで食べ終わる石川を待つと、
石川を連れて再び松浦の前に。
早速お近づき作戦を始めようとする。
「あのさ、このあと何か予定あるの?」
「デパートですよ♪ちょっとお買い物をしに。」
「あ、そう…。あ、矢口もお買い物しようと思ってたんだ。一緒に行かない?」
バレバレの演技だったが…。
「いいですよ♪」
「石川もいいですよ♪♪」
「…歩いて帰ってもいいよ?」
「なんでですかぁ!!ぐすん…。」
そして、3人はデパートが軒を連ねるデパート街へ向かった。
- 147 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月11日(木)23時06分14秒
- この街のデパートには、各々得意分野がある。
ハローズ・ゼディマは地下食品売り場が賑わいを見せ、
ハチャマ・ピッコロは若者向けの商品に力を入れている。
そしてトイズEEは…寂れている。
学校指定の教科書や制服、体育着販売を唯一やっているが、
そんなものはたかが知れていた。
まぁ、ミニモレンジャー。ショーを見れば寂れているのは一目瞭然だが。
ともかく、3人はハチャマ・ピッコロでお買い物。
「亜弥ちゃんって、家でドレスとか着てそうだよね。」
「そんなことないですよ♪
服とか、あんまり買わないんで。もったいないじゃないですか、お金使うの。」
「えっ…ああ、そうなんだ…。」
お金持ち度を見極めるために
矢口は探り探り質問を投げかけるが、
松浦の素性はなかなか見出せない。
それどころか、軽くあしらっているようにも見える。
いつでもニコニコ、でも目は笑ってないようにも見えるのは気のせいであることを願った。
- 148 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月12日(金)23時03分13秒
- 「矢口さんは、どんな服を着るんですか?」
「矢口さんは家では裸なんですよね〜。」
「余計なこと言わなくていいんだよ!」
「あらっ♪健康的ですね♪」
「(今朝の矢口さんはどこにいっちゃったの…?ぐすん。)」
「こういうのは着ないんで…あっ、すいません♪」
松浦が服を手に取ろうとしたところ、
横から誰かが同じものに手を伸ばした。
「あら…?どっかで見たことあると思ったら
松浦さんと、チビと棒読みじゃ…ない。」
- 149 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月12日(金)23時03分56秒
- 見下してるように格好をつけた人物。
このデパートのイメージガール、市井紗耶香だった。
どこか口調がぎこちないが、
言っていることは全くもって正当である。
「揃いも揃って敵情視察って…わけ?」
蔑んだ市井の目と斜め上を睨む矢口の目が火花を散らす。
「うるせー!なにが『あら?』だよ。
いつもはそんな喋り方しねーだろーが!斜視女!!」
「うるさい!テメ…チビも斜視だ…でしょうが。チビは黙ってろ…らっしゃい。」
中途半端にお嬢様口調なために
結局はキテレツ大百科に出てきそうな喋り方になってしまう。
明らかな作りキャラだ。
- 150 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月12日(金)23時04分40秒
- まさに犬猿の仲。
矢口と市井は一目見たときから敵対するほど嫌いな相手同士だった。
それは、ライバル店だからというわけではなく
互いが生理的に合わないからだった。
「梨華ちゃん聞いた?『黙ってろ…らっしゃい』だってさ。
おまえはブタゴリラかっての、プククッ。」
昔の人はよく言ったものだ。
『金持ち喧嘩せず』
松浦はひとしきり状況を見守ると
微塵も表情を崩さずに…いや、
ニコニコしながら両者をなだめた。
「まぁまぁ。ケンカは良くないですよ♪」
- 151 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月13日(土)23時03分45秒
- 「あんたねぇ、ライバル店に来といてあいさつだけなわけないでしょ?」
「そんなことないだけですよ♪
買い物に来ただけですから、ね?矢口さん?」
「そうだそうだ!買い物に来ただけだよ、バーカ!
誰がわざわざおまえなんかに会いに来るもんか!」
「糞!覚えてろ…らっしゃい!
覚えてらっしゃい!!」
全く戦意のない松浦と、敵意剥き出しの矢口、市井。
影の薄い石川。
見事に性格が出たという感じだ。
最後までブタゴリラ口調だった市井は
言い直して去っていったが、効果は薄かった。
松浦は時計を気にしはじめる。
- 152 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月13日(土)23時04分20秒
16:45
「それじゃもうすぐステージの時間なんで、ここで。今日はありがとうございました♪」
5時からのステージのために
松浦とはここでお別れ。
「バイバ〜イ!また遊ぼうね〜!」
「さようなら。」
手を振る矢口と
手を振らずに矢口の服の裾を引っ張る石川。
- 153 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月13日(土)23時05分09秒
「しまったなー。亜弥ちゃんの携帯番号聞くの忘れてたー。
…って何よ?」
「いえ…別に…。」
都合よく事は進む。
「このあとどうしよっかー…飯も食わなきゃなぁ…。」
『松浦の番号を聞くの忘れた』と
自分の携帯を見て悔やむ矢口に
ちょうど電話がかかってきた。
- 154 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月14日(日)23時04分07秒
- 着信 ヨッスィー
「もしもしー?」
『あ、矢口さんですか?今どこです?』
「ハローズの前だよ。どうしたの?」
『晩御飯一緒に食べないっスか!?ちょっと、カッケー物見つけたんで!』
「カッケー物?何それ?」
『見れば分かりますって!そんじゃ、5時半くらいに梨華ちゃんの部屋に行きますんで。』
「ああ、はいよー。」
- 155 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月14日(日)23時04分54秒
- カッケー物。
吉澤の感性が一般人とは一線を画すだけに
矢口には楽しみであり、
また、しょうもない物だろうということが推測できた。
「誰ですか、今の電話?」
「ああ、よっすぃーだよ。5時半に梨華ちゃんの部屋に行くから
一緒にご飯食べようってさ。」
PHSを折り畳んで軽く言い放つ。
「ちょっと!何でわたしの了解も無しに決めるんですかぁ!!」
地下食品売り場での矢口のお気に入りは
やはり試食コーナーだろう。
最近は石川に金を借りている(未返済)が
それまでは仕送りが尽きるとここへ通っては
試食しまくって満腹になって帰っていくのが常だった。
- 156 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月14日(日)23時05分57秒
- 「モグモグ…やっぱりここの焼豚は美味いね。パクッ。」
「もぅ…そろそろ帰りましょうよぉ。店の人が苦笑いしてますよー?」
ここでもコンビニと同じ光景が繰り返される。
遠慮無用の矢口に対し、気が気でない石川。
ここまでくれば、もはや育ちの違いと言うしかないのだろうが
それにしても矢口の図太い神経には驚かされる。
「ふぅ。おなか一杯だぁ。」
「ちゃんと矢口さんの分も買ったんですから、
残さず食べてくださいよ?」
結局、散々に矢口が試食したせいで石川は買わなきゃならなくなった。
ウインナーに、カルビ、漬物、リンゴ…etc…。
いくらあっても、デパート帰りは鬱になる。
- 157 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月15日(月)23時06分19秒
- そして、二人が帰宅してみると
まだ日も高い5時20分。
予定より10分早いのに、既に石川のアパートの前には
吉澤愛用のママチャリが停めてあった。
「早いなぁ。いつもモリコギだからスピードの調節できないんじゃない?」
「これでもゆっくり来たんスよ?それにコレが結構重くてモリコギどころじゃないっスよ。」
そう言って指差したのは
小学校の一品寄付即売会で見かけそうな
謎のマシーンだった。
いかにも売れ残りそうな感じだが…
楕円。
「これって何?」
「まぁまぁ。それは中に入ってからのお楽しみです。」
- 158 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月15日(月)23時07分11秒
- 要は、暑いからクーラー効いた部屋に入りたいということだ。
額に滲む汗がそう言っている。
アフロ犬が駆け寄ると石川はいつも以上になでなでして
その感触を確かめる。
「なんでアフロ犬なの?もっとカッケー名前付けたほうがいいんじゃない?」
「かっこいい名前?どんなのよ?」
「ガッツ…とか。」
ベルセル…(略
やっぱり特異な感性の持ち主、は放っておいて
マシーンの調査に取り掛かる矢口と石川。
「何だと思います?」
- 159 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月15日(月)23時07分47秒
- 「えっと、流しそうめん機?」
「そぉ!!そぉとぉ〜イケてないスか、このYOチェケラッチョ!!」
満面の笑顔で大きいリアクションを取ると
水を入れてスイッチを入れた。
ウ”〜〜〜〜〜〜〜
「なんだ…あんまり速くないな…もっと…速く…」
「「……。」」
そんなに乗り気じゃない2人に構うことなく
吉澤は何やら改造し出した。
が、もちろん…
バキッ!!
「「「あ…。」」」
どうやら電子回路基盤を壊したようだ。
- 160 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月16日(火)23時27分38秒
- 「…ってなんで石川が手でかき回さないといけないんですかぁ!」
そうめんが流れても味が変わらないのは当たり前だが、
疲れるのに味が一緒というのは納得できない所もあるだろう。
楽な2人は焼酎をガブガブ飲みながら
今日の出来事のことで盛り上がっている。
「ところで…梨華ちゃん、なんでそんなにヤグチさんとくっ付いてんの?」
「なんかねー、すぐに引っ付いてくるんだよねー。暑いしキショイし。」
「……。」
- 161 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月16日(火)23時28分27秒
- 22:40
「あー、あたしそろそろ帰りますよ。」
壁掛け時計をみてスッと立ち上がる吉澤を、
目で追う様な感じでヤグチも立ち上がる。
「よっすぃー帰るの?そんじゃヤグチも帰ろうかな。」
「えっ!?…。」
とっとと退散していく二人。
玄関に来て、一旦振り返ると手を振る。
「「ばいばーい。」」
「あのっ、やぐ…」
パタン。
- 162 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月16日(火)23時29分12秒
- 静かに閉まるように出来ているドアが
やけに速く閉まったような気がした。
残ったのは宴の後片付け。
なんと言うか、食べ方も礼儀がなっておらず、
矢口の食い終わりというのは麺がそこら中に落ちてたり
麺汁がカーペットにシミを形成してたり、散々になっている。
酒をこぼしたのかいつもトイレ臭い部屋が、今日は焼酎臭かった。
「はぁ…。」
壊れた流しそうめん機と、空の焼酎瓶を片付け、付近で残飯を整理すると
見た目、普段の部屋が姿を現したが、
そこにはいつもこの時間には居るはずの矢口は居なかった。
今朝の自分の姿がアホらしく思えて
それ以外は何がなんだか分からず、
ただ皿洗いをするしかできない。
「……。」
- 163 名前:第2話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月16日(火)23時29分55秒
- 水が流れる音を止めて、ピッピッっと手から水滴を払うと
掛けてあるタオルで手を拭いながら、軽いため息をついて
ハッキリしない気持ちを整理するために部屋の外へ出た。
歩く度に軋む階段と廊下。
矢口のアパートに来るのは1日ぶりだというのに
前に来たのはずいぶん昔のような気がして
キョロキョロと辺りを見回す。
もちろん、何も変わっていない。
『矢口』と書かれ、傾いた表札もいつも通りで、
ただ一つ違ったのは
石川がノックするのを躊躇って去っていったことだけだった。
「ハァ…。」
- 164 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年04月16日(火)23時32分26秒
- 第2話終了です。
第3話は1週間お休みを頂いた後開始予定です。
以降から各話開始前にまとめて返レスを
していきたいと思います。
- 165 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月20日(土)00時51分55秒
- 矢口に振り回されまくりの石川ですけど
今はなんか可哀想ですなぁ
どうなってくのかお待ちしてます
- 166 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年04月24日(水)23時11分49秒
- >>84,>>85,>>92
前話は更新予定を一日遅れました。
各話終了ごとに一週間休みを取る予定です。
>>141
あややは3話も登場予定です。
>>165
ありがとうございます。
- 167 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月24日(水)23時12分46秒
- 「はぁ…。」
木曜の朝。
もう高い所まで昇った陽の光が全面ガラスから射し込んで来る。
まーるぞろの雑誌コーナーは
いつものように二人しの凸凹コンビが占拠していた。
矢口は少年チャンピオンを読み耽るその横で、
石川は女性セブンを手にしているものの
心ここにあらず、といったその視線は遥か遠方を捉えていた。
「ドイル弱ぇ〜〜。ジャック強ぇ〜カッケー。惚れるぜぇ…。」
それとは対照的にマンガの世界にドップリ浸かっている矢口は
ちっとも石川の憂鬱に気付いていない…。
- 168 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月24日(水)23時13分20秒
- 遡ること数時間。
時刻は水曜日23:50
「はぁ…結局帰ってきちゃった。」
矢口が吉澤と去ってさほど経っていないのに
部屋にはもうヒト気は漂っていない。
いつもこの時間は、一方的にジャレ付いてくる矢口が居るのに
今夜はやけにガランとしている。
12畳の部屋というのは、人がいないとこう寂しいものか…
などと感じざるを得なかった。
足元に絡みつく温もり。
鳴き声をあげ、喉元をゴロゴロ言わせるそれを、
石川はしゃがみ込んで胸に抱きしめた。
- 169 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月24日(水)23時13分57秒
- 「ねぇ、アフロ犬…どうして矢口さん冷たくなっちゃったんだろう…?」
そんなことを言われても分かるはずも無い猫は
ただいつもと同じ鳴き声をあげるだけ。
それでも、返ってくることのない答えを欲しがり、問答を繰り返す。
「矢口さん朝はあんなに優しかったのになぁ…そっけないよねぇ〜…すぐ帰っちゃうなんて。」
「ニャ〜ン。」
「だよね、冷たくなっちゃったよねぇ〜矢口さん。」
何が『だよね』なんだろうか。
猫がどう思っていようと、石川の頭の中に溜まったものは
一向に解消されることなく、
時刻はまもなく0時を迎えようとしている。
- 170 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月25日(木)23時10分53秒
- 「また行こうかな…矢口さんの家。起きてるよね…?」
アフロ犬を抱えたまま開けたドアは
いつもよりも少し重く腕に答えた。
すぐ先に見える矢口の部屋は
まだオレンジ色に灯っている。
「ダメッ、梨華できない…弱虫さんだもん。嫌われたくないもん。」
「ニャーン。」
「そうよね、待ってみるのも大切よね♪」
- 171 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月25日(木)23時11分39秒
- だから何が『そうよね』なんだろう。
問答を続けた結果、家の中にとどまる事にしたようだ。
そして、石川は服を脱ぎ、タオルを持って風呂へ入る。
本来、風呂が汚れると掃除が大変なため
自宅では入らずに銭湯『ホモゲ牛乳』へ行くのだが、今日は既に0時。
銭湯がやっているわけもなく、しょうがなしに自宅で済ますことにした。
放物線を描くようにぶつかる水滴は
ピチピチのお年頃の肌を弾いて排水溝へ吸い込まれていく。
(この身体を…矢口さん…キャッ♪)
湯気を纏った中で不意に朝の記憶が蘇った。
ワインを飲んで酔いつぶれた二人はそのまま……。
- 172 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月25日(木)23時12分29秒
- 実際は矢口の野望による、ありもしないでっち上げなのに、
彼女の頭の中を巡る妄想は過剰なまでに甘い匂いがした(;´д`)。
「あ、また大きくなったかな…♪」
気分良く風呂を出ると、
すでに先ほどのネガティブな考えなど飛んでいた。
鼻歌交じりに身体を拭き、愛用のネグリジェに着替えると
テレビの前のソファーにどっかりと腰をかけて電源ボタンを押す。
スピーカーから聞こえる音は「ワンダフルゥ〜!」などと能天気だ。
「あ、歯磨き歯磨き〜♪」
石川の脳内で、ちょうど自分の顔が矢口の顔と約1.8cm程まで縮まっていた頃、
思い出したように台所へ趣き、歯磨き粉をニュッと盛って
口に突っ込んだままテレビの前へ戻ってきた。
テレビでは『彼氏の浮気に気付く瞬間ランキング』などというものをやっていた。
- 173 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月26日(金)13時17分24秒
- やっぱり矢口の気持ちは松浦(のお金)へいってるんだろうか?w
- 174 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月26日(金)23時27分38秒
- 『第一位、態度が急変した時』
「!!!!!!!!」
石川はリモコンでボリュームを上げると
食い入るようにテレビ画面を凝視した。
なにやら街中の女性が体験談的に話している。
彼女でも、ましてや彼氏でもないのに
ブラウン管に映される映像が進むたびに
リモコンを握る手はイヤな汗で一杯に。
「あ…。」
ポトッ。
歯ブラシが落ちた。
- 175 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月26日(金)23時29分09秒
- 「矢口さん…もしかして…。」
石川の脳裏に沸いた昼の出来事。
松浦亜弥の存在が頭をよぎる。
「ええ〜…そんなぁ…ぐすん…。」
そうして、石川は寝ずの夜を過ごして今に至るのだ。
矢口は相変わらずの事、座り読みにふけっている。
ヴ〜〜ヴ〜〜ヴ〜〜
なにやら音が聞こえる。
どうやら石川が肩から掛けるショルダーバッグから響いているようだ。
「あ…。」
ふと我に返った石川は慌ててカバンの中から携帯を取り出した。
- 176 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月26日(金)23時32分03秒
- 着信 保田
「もしもし…なんですか?保田さん。」
『なんですかじゃないわよっ!!!今何時だとおもってんのっ!?』
「はぁ…?」
ふと、まーるぞろの時計に目をやると、
エンスト寸前の脳みそが急に回転数を上げ
そして冷や汗が背筋を流れる。
(10時半か…10時半っ!?)
- 177 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月27日(土)23時05分52秒
- 『もう10時30分よっ!!何やってんのっ!!早くきなさいよっ!!ショー始まっちゃうわよっ!!』
「すいませんっ!!ごめんなさいっ!!今すぐ行きますっ!!」
別に電話の相手が目の前にいるわけでもないのに
ひたすら外に向かって頭を下げまくる石川。
石川の目の前に自転車を置いた中年が何事かという顔をしている。
慌てて電話を切ると、未だ呑気にチャンピォンを読みふける
矢口の腕を掴んで立たせた。
「ちょっと、なにっ!?梨華ちゃん、まだ全部読み終わってないよっ!」
「矢口さんなんで気付かないんですかっ!?もう10時半ですよっ!!」
「え゛っ!?うそ、マジ?あ、ホントだ、ヤベェっ!!でも、まぁ…いっか。」
「よくないですよっ!!」
- 178 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月27日(土)23時06分52秒
- つかんだ腕をそのまま放さず、外まで連れ出す石川。
「ちょっと、チャンピオンまだ買ってないよっ!!万引きになっちゃうよっ!!」
そんな言葉も耳に入らないほど焦っている。
矢口はしょうがなく、ドアの付近ででチャンピオンをブン投げた。
店にとっていい迷惑である、まぁ、朝の店員は日常茶飯事といった表情で
チャンピオンを拾い元の陳列棚に戻した。
しげるにまたがり、二人は遅刻の責任を擦り付け合う。
そんな時間の余裕などないとおもうのだが…。
「矢口さん!!こんなに長く読んでて気付かなかったんですかっ!?」
「しらないよー、いつも時間教えてくれるの梨華ちゃんじゃーん。
矢口のせいじゃないよー梨華ちゃんのせいだよー。」
- 179 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月27日(土)23時08分02秒
- 「保田さん携帯にずっと連絡してたらしいですよっ!?わからなかったんですかっ!?」
ちなみに携帯の履歴をチェックしたところ、6回も『留守電 保田』という表示が現れた。
聞くだけでもおぞましい保田の顔が想像できて、即座に消したが。
「矢口今日携帯もってないもん、おいてきちゃったし。でも梨華ちゃんの
携帯ずっと鳴ってたのに気付かなかったじゃん。矢口言ったよ
『梨華ちゃ〜ん携帯鳴ってるよー』って。」
「そ…それは…矢口さんのバカっ!!石川がどんなに…んっ…もういいですっ…。」
「???どうでもいいけどいくよ。」
ムスッと頬を膨らませる石川を後ろに乗せて、
疑問符を浮かべながら矢口は一路トイズEEへそのまま向かった
- 180 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月28日(日)23時09分15秒
- のはずが…。
「待てぇ〜!!両津ぅ〜〜!!」
やっぱり追いかけてきた。
いつもの如くおまわりさんが、走る違法の塊を追いかけてきたのだ。
そして、矢口もいつもの如くそんな自転車で追いかけてくるおまわりさんに対して
煽るように言葉を吐く。
「勘弁してくださ〜い部長ぉ〜〜〜!!」
今日もしげるは豪快に加速。
そして今日もドンドン離れていくおまわりさんが、
しかし今日は違った…。
「矢口さーん!!もっと飛ばしてくださーい!!」
「どうした中川ー!!!」
完全にこちら葛飾区亀有公園前派出所のキャラに入り込んでいる矢口。
- 181 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月28日(日)23時10分00秒
- 「中川じゃないですよー!!おまわりさん3段階切替ギア取り付けてますよーーー。」
「なにぃ〜!?」
おまわりさんパワーアップ。
そう、いつもしてやられてはいられない、
おまわりさんは自前の自転車でもないのに公用自転車を
変速三段式に改造していたのだ。
「観念しろ両津ぅ〜!!」
「矢口さんっ!!追いつかれそうですっ!!」
「任せろ中川!!必殺両さんコーナーリングぅ〜!!」
とてもその速度じゃ曲がりきれないだろうという細道に入り込む。
その際、石川の髪の毛が電柱を掠めた。
「キャッ!!矢口さんっ!!いま頭擦ったぁ〜!!」
- 182 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月28日(日)23時10分48秒
- すると後ろの方で激突音が。
石川が後ろを振り向くと、
おまわりさんが曲がりきれず、電柱に激突して倒れていた。
どうやら、人体共々自転車も破損したようだ。
「矢口さんっ!!おまわりさん電柱ぶつかりましたぁ〜!!」
「ふっふっふ。部長、変速自転車がF40に敵うわけないですよ。」
未だにキャラスイッチが切り替わっていなかった。
石川が時計を確認すると10:42。
後18分でショーが始まってしまう。
- 183 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月29日(月)23時02分22秒
- 「矢口さ〜ん!!あと18分ですよぉ〜!!」
「わかってるわかってるって。」
細道から元の道に戻ると、急に減速し始める矢口。
「あそんでる場合じゃないですよぉ〜!!早くとばしましょうよぉ〜!!」
とうとう止まってしまうしげる。
なにやら矢口は振り返り、石川に引き攣った笑いを送っている。
「アハハ…ガス欠。」
「ガス欠ぅ〜!?」
- 184 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月29日(月)23時03分15秒
- ミンミンと鳴くセミの声に
矢口の力ない声はあえなくかき消された。
二人は急いで、近くにあるガソリンスタンド
『GS上毛』へとしげるを押していく。
嫌味なほど晴れ渡った空から覗く太陽が
無様な二人に容赦なく熱光線を当て続けた。
飛べない豚はただの豚。
走れないしげるはただのしげるである。
10:52
GS上毛の時計はそんな時刻を指し示していた。
セルフスタンド。
自販機的にお金を入れると、その分ガソリンを給油できるシステム。
故に人件費がかからず、ガソリンの値段も安い。
だから給油はいつもここで行われている。
- 185 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月29日(月)23時03分48秒
- 「梨華ちゃんっ!!早くお金入れてっ!!」
「あ、はいっ!!あっ!!」
急いで財布を開くと、焦っていた為か小銭が全部外へ
軽い金属音が何重にも聞こえる。
「何やってんの梨華ちゃんっ!!」
「ご、ごめんなさぁ〜い。」
必死に拾い上げて、金を投入すると
給油OKのランプが点灯し、矢口は
給油ホースをしげるに差込み、トリガーを引いた。
パラパラパラと給油機メーターがカウントをする音だけが
ガススタンド内を占拠し響いた。
- 186 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月30日(火)23時05分54秒
- いつもの規定どおりのリッター量数を給油し終わると
矢口はホースを引き抜いた。
ただし、トリガーを引いたまま…。
「矢口さんっ!!」
「何…??」
矢口がホースを持ったまま石川に振り返ると、石川は悲鳴を上げた。
「キャアアアアアア!!!」
「はぁ…?あ、まだでてる。」
そう、石川がいいたかったのは、未だにガソリンが出ていることだった。
実は、450円を入れたつもりが焦って500円入れてしまったからだった。
- 187 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月30日(火)23時06分28秒
- 勢い良く石川に飛び掛るガソリン達と、
ガソリンまみれになる石川の身体。
やっと、トリガー位置を戻した頃には
石川はガソリン女になっていた。
「アハハ…ガソリンも滴るいい女だよ梨華ちゃん。」
「ぐすん…。」
「じゃ、いこっか。」
「いこっかじゃないですよぉ〜、石川ガソリンまみれじゃないですかぁ〜。」
「ははは、まぁいいじゃん。」
「よくないですっ。」
籠に置かれているタオルを取って、服を拭う石川。
他人事のように、矢口はしげるにまたがってエンジンをかける。
「置いていくよ。」
「あ、まってくださ〜い。」
- 188 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年04月30日(火)23時07分20秒
- 石川がしげるにまたがる、すると
矢口がアクセルを回して走り出しながら言い放った。
「クサイし、つかまらないで。」
「ええ〜〜!?だって矢口さんがぁ…ぐすん。」
そんなこんなして、トイズEEに辿り着いたのは
11:05分…。
急いで非常階段を駆け上がったそこには
アドリブばかりでショーを進めている辻、加護、怪人スノーマンの姿があった。
「やっべ、始まってるしっ!!」
「矢口さんどこ行くんですかぁ〜。」
「どこって、ショーやるに決まってるじゃんっ!!」
場外から大きな声で叫んでステージに向かって走る矢口。
- 189 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月01日(水)23時09分14秒
- 「スノーマーン!!やぐーちゃんが相手だぁ〜!!」
「リーダれすっ!!」
「リーダーやっ!!遅いでリーダー。」
颯爽とステージに上がろうとするが上がれない。
ステージと客席の高さは意外とあるのだ。
しかたなく、スノーマンが手を差し出し、つかまって上がれた。
これから戦う相手だというのに…。
一歩出遅れた石川もステージに裏手に回った。
そこには保田が阿修羅のような物凄い睨みを効かせていたが
黙って矢口のピンマイクと石川のマイクを突き出した。
- 190 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月01日(水)23時09分45秒
- 「ごめんなさい。」
そう言ってマイクを受け取ると、ステージに石川も姿を現した。
「「「150cm以下戦隊ミニモレンジャー。カッカッ!!!」」」
一人私服の中、150cm以下戦隊ミニモレンジャー。は決めポーズをとっていた。
石川が、慌てて矢口にピンマイクを取り付ける。
「お、進行のおねぇさんがなにやらリーダーに武器を取り付けてくれているれす。」
「せやな、今日のリーダーはスーパーコスチューム『シフク』やしなぁ。」
めちゃくちゃなアドリブである。
「その武器はなんれすか?おねぇさん。」
「えぇっ!?こ、これ?ピンマイクだよ、ののたん。」
- 191 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月01日(水)23時10分16秒
- ((((アドリブきかねぇな、こいつは…。))))
4人が石川に向けてそう思う瞬間だった。
さて、私服の矢口を除いては通常通りのショーが展開していく。
スノーマンは吹雪を放つ。
目に見えないけれど…。
効果音だけは『ビュー』と吹雪のような音が流れる。
その音に対して、凍えるリアクションを取る3人。
ショー自体は、効果音など必要ないほどお寒いのに。
「さ、さむいれすっ、リーダー!!」
「凍えそうやで!!リーダー!!」
- 192 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月02日(木)23時09分25秒
- 「ヨシ、こんな時はホッカイロォ〜。」
しまった…いつも衣装に仕込ませてあるが…
今日はない…スーパーコスチューム『シフク』だ。
スーパーなのに能力ダウンとはこれ如何に?
パンチラも期待できそうに無いカメラ小僧は
心なしかテンション低めだった。
すると、ステージ端から季節外れのホッカイロが
メジャー級の球威で飛んで来た。
保田がすごい睨みを効かせて、ブン投げてきたのだ。
完全に引き攣った笑顔を浮かべ受け取る矢口と辻、加護。
「よぉ〜し、寒くないぞお〜。」
- 193 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月02日(木)23時09分55秒
- くしゃくしゃくしゃくしゃ…。
ただひたすらに、ホッカイロを揉み解すという
地味ーなアクションが展開されている間、
スノーマンはなんもしないで立ち尽くしている。
時代劇の主役が殺陣を演じているときに、
後ろでなぜかオロオロしている切られ役のように。
ふと、矢口が観客を見ると、いつもの常連のガキ、カメラ小僧
それにヤンママ風の金髪女性…子供はいないようだが…。
まぁ相変わらず少ない。
その頃スノーマンは、スノーマンであるがスノーマンでない、というか。
中はうだる様な熱さで、吉澤はいつ倒れてもいいような状態だった。
木曜日のスノーマンは一番暑苦しい着ぐるみなのだ。
この夏場の熱さにステージがいくら日陰になっていようと
そんなものは焼け石に水であった。
- 194 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月02日(木)23時10分34秒
- 「よーし!!温まってきたぞおっ!!」
「(ああ…暑い……。)」
「あったかくなってきたのれす!!」
「(意識が……)」
「あっつ…たかいでぇ〜!!いくでぇ〜あいぼーんホッカイロパーンチ!!」
「(倒れなきゃ……倒れ…な…)」
加護がスノーマンにパンチを一発。
この鉄拳は速さはある物のまったく痛くないはずである。
ここでスノーマンは弱るアクションをするはずが…。
ドサッ!!
スノーマンは見事一撃でノックアウトしてしまった。
「「「え゛え゛〜〜〜!?」」」
- 195 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月04日(土)02時30分29秒
- ヨッスィー熱にKNOCK OUT。
倒れているスノーマンは起き上がる様子もない。
幸いな事に矢口達が遅れたおかげで
ショーステージの時間は終盤だった。
「よっしゃー!!流石だあいぼーん!!スノーマンにかったぞお!!」
「や、やったれすよぉ〜、あいぼーん。」
「やったでぇっ!!ほな決めポーズやっ!!」
「「「150cm以下戦隊ミニモレンジャー。カッカッ。」」」
決めポーズが終われば、ミニモレンジャー。と進行のおねぇさんチャーミーは
スノーマンを引きずってステージ脇に掃ける。
こうして朝の部のミニモレンジャー。ショーは終わった。
スタッフ総出で着ぐるみを脱がせて見ると
吉澤は茹ダコ状態で、白目をむいていた。
- 196 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月04日(土)02時31分12秒
- 「やばいわよっ!!氷氷!!」
「んぁ〜梨華ちゃんガソリンくさーい。」
「やばいれすっ、しっかりするれすよっ!!」
「濡れタオル濡れタオル!!」
「ぐすん…。」
繋ぎっぱなしのマイクのおかげで、
バタバタしているところが会場に響き渡っていた。
すべてが失敗の木曜日朝のショーだった。
- 197 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月04日(土)02時32分14秒
- ユラユラとコンクリートが熱気を上げて
うだる暑さがさらに人足を遠ざける。
昼休み
保田大明神は1時間も遅刻していた二人に
裁きの雷を落としていた。
「あんたたちっ!!なにやってんのよホントにっ!!」
「はぁ〜い、ごめんなさーい。」
「すいません…ごめんなさい…。」
怒られている事も全く気に留めていないかのようにどこか遠くを見ている矢口に対し、
石川はマジ凹みで頭を必死に下げていた。
両者のキャラクターがこういうところにも出ている。
- 198 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月04日(土)23時02分10秒
- 「ちょっと!?矢口あんたきいてんのっ!?」
「え?聞いてるよ。なに?圭ちゃんっ。」
ブチッ!!
「よーくわかったわよっ!!あんたたち今日昼飯抜きねっ!!」
その言葉に大きく反応したのは矢口だった。
「ええ〜〜!?それは酷いよー!!この通り矢口が悪かったから許してっ!!
土下座もします!!足も舐めます!!お代官様ぁ〜!!
だから矢口のタダ飯とらないでぇ〜…。」
- 199 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月04日(土)23時02分47秒
- 矢口は這いつくばって床に額をスリスリ。
本気でタダ飯を取り上げられるのが辛いようだ。
「キショイわよっ!!もう決めたのっ!!じゃあねっ!!」
「ああ…。」
飯抜きは相当矢口を凹ませたようだ…。
どんよりした空気の二人がクレープ屋モナーの店の前のベンチで座っている。
「どうしたっ?」
「どうしたじゃないですよー。飯田さーん。」
そんな二人に最初に話し掛けてきたのは飯田だった。
「どうしたべさ?なんかどんよりしてるべさー。圭ちゃんにこっぴどく叱られたべか?」
- 200 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月04日(土)23時03分44秒
- 安倍も様子を見に二人の前に現れた。
力なくコクっと頷く二人。
安倍と飯田は目を見合わせるとやっぱりなぁ〜という顔をして
後ろ手に隠していたクレープを取り出した。
「これあげるよ。ウチ暇だし、作ったの失敗させといた。」
ぱぁっと明るくなる矢口の表情。
腹の減った犬のようにハァハァいってかぶりつく。
まぁ、簡単な構造をしてる女の子だこと…。
そんな時、珍しく、彼女がクレープを買いにきた。
「すぃませ〜ん。」
- 201 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月05日(日)23時05分51秒
- その彼女は完全にカマトトぶった笑みを浮かべている。
石川はその彼女を見た途端、
死んだ魚のような眼が、
火花バチバチの交戦モードに切り替わった。
そう、ハローズゼティマイメージショーガール松浦亜弥だった。
「亜弥ちゅわ〜ん♪」
石川の隣りにもスイッチが切り替わる女が居た。
矢口真里、お金持ちに弱い女だった…。
「あら、矢口さんも石川さんもいらっしゃったんですかぁ〜♪どうもぉ〜♪」
「どうしたのぉ〜?こんなところに来てぇ〜♪ハァハァ。」
「昼休みだから来たんですぅ〜、ショーやってるかなぁって、
でも終わっちゃったみたいですねぇ〜♪」
- 202 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月05日(日)23時06分25秒
- 「そうなんだよぉ〜、矢口のかっこいいところ見せたかったなぁ〜♪」
調子がいい。
ハァ?って顔をして矢口を見つめる石川。
石川は立ち上がり、矢口と松浦の間を遮った。
「松浦さん、敵情視察しに来たんですかぁ?」
「そんなぁ〜。あ、チョコクレープ一つ♪」
松浦は嫉妬ムンムンの石川を視界から消し去って
クレープをオーダーしている。
石川はムスッとした。
「262円です。」
クレープを作り終わった安倍がクレープを差し出すと
松浦は300円払った。
「28円のお釣りです、ありがとうございまし…」
「ちょっと!!まってくださいっ!!お釣り10円たらないですよっ!!」
- 203 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月05日(日)23時07分14秒
- すごい剣幕でキレはじめた松浦。
面を食らう矢口と安倍。
「10円って大きいんですよっ!!これ犯罪ですよっ!?わかってますかっ!?」
「あ、すいません、38円のお釣りです。」
「何考えてるんですかっ!?10円で5円チョコ2個ですよっ!?もうっ!!帰りますっ!!」
しっかりつり銭を受け取ると、松浦は札束だらけの財布を開け、
中にぶち込んで挨拶無しに去っていった…。
呆気に取られた4人は松浦の後姿を見るしかなかった…。
「ケチだべさー…。相当の…。」
的のど真ん中を捉えた安倍の言葉だけがその場所に響いた。
- 204 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月06日(月)08時22分53秒
- 松浦面白いw
- 205 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月06日(月)20時57分54秒
- 守銭奴松浦ワラタ
- 206 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月06日(月)23時04分00秒
- 的のど真ん中を捉えた安倍の言葉だけがその場所に響いた。
一先ずクレープを食べた矢口と石川は
吉澤の様子を見るために楽屋兼休憩所へ向かっていた。
意識はあるようで、二人がノックをするとゆっくりと上半身を起こす。
「だいじょうぶぅ〜?ヨッスィー。」
「はい、大丈夫っす。」
「まぁ、煙草でも吸おうよ。」
矢口はラッキーストライクメンソールを差し出す。
すると、吉澤は起き上がり
「どうもっす。」
- 207 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月06日(月)23時05分13秒
- といって、矢口が灯したジッポで煙草に火をつけた。
続いて矢口も火をつけて煙を吐く。
無論石川もラーク1でお付き合い。
「「「ふぅ〜〜。」」」
それぞれに溜まった鬱憤を吐き出すと
あっという間に部屋中に煙が蔓延し、
狭い部屋が白んでいった。
「やっぱさー、着ぐるみ薄くした方がよくない?」
「そうっすよねー。スノーマン一番辛いっす。」
「今日ゴメンネ、遅刻しちゃって…。」
「ああ、いいよ、梨華ちゃん、気にしなくて。あー喉乾いた。」
- 208 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月06日(月)23時05分47秒
- 喉元を押さえながら吉澤は石川にアイコンタクト。
さらにン゛ン゛っなどと唸っている。
明らかな『(飲み物を)買って来い』の命令だった。
「矢口さんっ、ジュースでも買ってきて上げましょうよ。」
「え?めんどくさい。」
「いいからぁっ!!」
石川は意外に力がある。
軽い矢口など、いとも簡単に腕を掴んで立たせる事が出来るのだ。
そして、その強引な力は休憩室の外に矢口を連れ出した。
- 209 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月07日(火)23時07分38秒
- 「なに!?梨華ちゃん。」
「少しは悪いとか思わないんですかぁっ!?炎天下の中私達待ってたんですよっ!?」
「まぁ、そうかもね。」
「そうかもねじゃないですっ、煙草噛んじゃったじゃないですかっ。」
「煙草咥えたまま矢口持ち上げたのが悪いと思うけど?」
「とにかく買ってきましょっ!!」
「梨華ちゃんのお金でね。」
「わかってますよっ!!」
何か機嫌悪い…、何でだ?
矢口にはサッパリ理由が思い当たらないが、
とりあえずは一緒に自販機に向かった。
- 210 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月07日(火)23時08分13秒
- 「ヨッスィー何が好きだったかなぁ〜?」
「何でもいいんじゃな〜い?スイカジュースとか。」
「何でそんなゲテモノなんですかっ!?」
「え、矢口好きだけど?」
「矢口さんの好みなんか聞いてないですよっ!!」
「機嫌悪いよねー。なんかあったの?生理?」
「もうっ!!これでいいわっ!!」
ドン!!という音ともに、自販機から吐き出されるジュース。
桃色ピーチ。
吉澤のキャラに似合わない、どっちかと言えば石川向き。
矢口の好みは聞いてないのに、自分の好みで選んだようだ。
- 211 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月07日(火)23時08分46秒
- 「梨華ちゃんの趣味じゃん。」
「うっさいなぁ〜もうっ。」
矢口は短くなった煙草をいつものようにポイ捨て。
が、
その煙草は石川のスカートに一直線で向かって行く。
「熱ッ!!いやっ!!きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
帰る体勢で自販機に背を向けていた矢口は
意味の分からない石川の悲鳴に振り向いた。
そこに見えるのは
火が引火したわけでもないのに、バタバタクルクル暴れまわっている石川。
- 212 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月08日(水)23時06分04秒
- このとき、石川の脳裏にはこんな方程式が
ガソリン女梨華+煙草の火=火だるま。
「いやあああああああああ!!…ふぅ…。」
ドサッ。
「ちょっ、ちょっと梨華ちゃん!?」
石川は白目をむいて倒れてしまった。
ガソリンなど既に気化して飛んでいってしまったというのに…。
- 213 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月08日(水)23時06分50秒
- 「で…なんで今日はこんなに人が倒れんのよっ!?厄日よっ!!」
休憩室に寝ている石川、吉澤。
煙草をふかしている辻、加護、矢口、寝ている後藤、
そして、頭を掻きむしりながら、煙草『峰』を吸いながら怒声を上げている保田は
落ち着かない様子でウロウロしている。
「保田さん、あたし音響くらいならできますよ。」
失神している石川と違い、既に半身起こせるようになっていた吉澤が
保田に提案する。
「よし、わかったわっ!!ごっちん!!」
「zzz…んあ〜?なにぃ〜?」
「あんた、今日昼夜怪人ね!!あたしおねーさんやるわっ!!」
「ええ〜…、後藤暑いのヤだよー。」
「うるさいわよっ!!あたしも嫌よっ!!これは上司命令!!わかった!?」
「まぁいっかぁ…zzzz…。」
- 214 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月08日(水)23時07分23秒
- 保田はお姉さんなんて嫌だと言っているが
実は少しだけやってみたかったのだ。
もうこの時からお姉さんキャラを頭の中で練っていたのを
皆にバレないようにするのに苦心していた。
「よし!じゃあ、午後の部いくわよっ!!」
こうして、ミニモレンジャー。矢口、辻、加護
怪人後藤、音響吉澤、進行のおねーさん保田
といった、いつもと違う担当で午後の部から始まった。
ショーというのは進行のおねーさんから始まる。
そう、午後の部から保田の担当だった。
- 215 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月09日(木)23時02分57秒
- 「こんにちわぁ〜♪進行のおねーさんチャーミー圭ぴょんでぇっす♪」
ステージ中央に保田が立つと…
「ちょっと!?なんでみんな帰んのよっ!?」
ヤンママ風の女性のみでなく、ジャリ3人組、カメラ小僧でさえも
とっととショー会場を去っていく。
さらに、様子を見ていた安倍、飯田も目を逸らし、
平家に至ってはすごすごと店の中へ入っていってしまった。
「どういうことよっ!?」
ピンマイクからスピーカーに増幅された保田の声は
誰も観客のいないショー会場、いや街中に響き渡った。
- 216 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月09日(木)23時03分32秒
- さらに…夜の部…
ビアガーデンが人で賑わう最も観客が集まる時間であり、
モナーのクレープ屋もラーメン落ち武者も稼ぎ時である。
保田、矢口、辻、加護、後藤は円陣を組んでいた。
「午後も失敗したけど、がんばっていくわよっ!!」
((((いや、あんただけのせいだよ…。))))
「「「「はーい。」」」」
「がんばって〜いきまっ…」
「「「「しょいっ!!」」」」
吉澤がテーマソングの音量を下げ、いよいよチャーミー圭ぴょんの登場である。
そのころ、休憩室で彼女が目覚めた。
- 217 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月09日(木)23時04分12秒
- 「あれ…?…!?もう5時なのっ!?ね、寝坊しちゃった!!」
すっかり、自分が火だるまになる妄想で失神したことも忘れ
石川はテーマソングの流れる、ステージに向かったとき、彼女が見たものは…。
「こんばんわ〜、進行のおねーさん圭ぴょんでっす♪」
保田の進行のおねーさん姿だった…。
「ふぅ…。」
ドサッ。
目の前に広がる驚愕の光景によって、再び石川は倒れた。
- 218 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月10日(金)23時04分53秒
- しかし、そんなことは知らず、保田は客席及びビアガーデンにウインクを送っていた。
すると、飲む気がうせた観客が次々に立ち上がりぞろぞろと帰っていく。
「ちょっ、ちょっとぉ〜〜〜!!???」
また、保田の客無しオンステージになってしまった…。
「なんなのよーーーー!!!!!」
意味も無く拡張された声は、線路を越えた辺りまで響いたという。
とにかく、今日の3ステージは酷い結果に終わった。
- 219 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月10日(金)23時05分31秒
- 「なんでウチで呑むわけ…?」
後藤は母親の手伝いがてらに、焼き鳥とジョッキを保田に差し出す。
仕事終了後、保田はキレまくり。
「呑んでないとやってられない」といった具合に全員を
後藤の実家の飲み屋『だるま』に連れ出してきたのだ。
店長である後藤の母親は気を利かせて、ほぼ貸し切り状態にしてくれたようだ。
こういうときの保田はとかく酒癖が悪い。
付き合いの長い平家はそれが分かっていたためか、付いてこなかった。
呑み代、飯代を奢ってもらえるのは矢口には嬉しい事だったが
いかんせんグダを撒き、飲むピッチが速い保田はいい迷惑だった。
「大体ねぇ〜〜!!矢口!!石川!!あんた達が今日遅刻しなけりゃこういうことに
ならなかったのよっ!!ごっちん!!ジョッキもう一杯!!」
説教をここでも垂れられるのはたまったものではない。
「んぁ〜のみすぎ〜。」
そう言いつつも、ジョッキを持ってくる後藤。
辻加護はのんきにから揚げを食べてニコニコしている。
吉澤は後藤と会話、矢口、石川は保田の相手。
- 220 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月10日(金)23時06分08秒
- 「しかも何!?石川!!煙草の火おとされたくらいで失神しないでよっ!!」
「すいません…。」
「まぁまぁ…。」
なだめに矢口がかかるものの、保田はキッと矢口を睨んで言葉を吐き捨てる。
どうやら、チャーミー圭ぴょんの客ウケがイマイチ…いや、全然ダメだったのも手伝って
不機嫌度がグングン上昇してしまったようだ。
「あんたが火落としたんでしょうがっ!!!」
「いや、煙草落としたんだけど…。」
「どっちでもいいわよっ!!!もう一杯!!」
ジョッキいくつ飲んでいるんだろう、この人は…
強靭な身体をしてるなぁとおもいつつ、矢口はどんどん酒を進める
早く酔わして、寝込ませるために。
「はいはい、ドンドン呑んで呑んで。さっすが、呑みっぷりいい〜。」
- 221 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月11日(土)23時07分58秒
- ヨイショも怠らないように促進させる。
ジョッキをドンと置いて、今度は吉澤に標的を絞る保田。
「吉澤っ!!きぐるみ暑いのは当たり前でしょ!!しっかりしなさいよっ!!」
「ハイ…すいませんッス。」
「まぁまぁ、ごっちーん、圭ちゃんにジョッキもう一杯。」
「んぁ〜。」
そして1時間後…。
- 222 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月11日(土)23時08分32秒
- やっとの事で保田は眠り込んでくれた。
あれから全員に説教を当り散らしてスッキリした保田は
ジョッキ30杯を飲み干していた。
「圭ちゃぁ〜ん、起きてるぅ〜?」
耳元でささやくように声を掛ける矢口。
すると、まだ眠りが浅いのか保田は返事をした。
「ん〜〜〜??」
「今日圭ちゃんのおごりだよねー?」
「そうよぉ…。」
「じゃあ、おやすみー。」
「うん…おやすみ…。」
- 223 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月11日(土)23時09分12秒
- そう答えると、保田は大きなイビキをかきはじめた。
矢口は熟睡に入ったのを確認すると、全員に向かって
ニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「ヨシ!今日は圭ちゃんのおごりだ!!みんな!!何でも好きなもの食うぞっ!!」
「「「「「イエ〜〜〜イ!!」」」」」
これを狙っていたとばかりに、食べ物をやたら注文する辻、加護、矢口。
吉澤、石川もそれなりにオーダーをし、後藤も自分で注いだジョッキをあおっている。
もう大賑わいだ。
カラオケの機械も引っ張り出して、貸切をいいことに歌いまくる。
保田が起きていたら絶対にカラオケはしないところだが。
- 224 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月12日(日)22時57分28秒
- チャーミー圭ぴょん・・・(藁
- 225 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月12日(日)23時09分28秒
- 辻加護が振り付きで、お前いくつだと思わせるようなピンクレディーのUFOを。
吉澤は男前キャラを前面に出してB'zの唄を歌い、歌唱中に
ヨッスィーファンクラブと銘打ってあいの手に『ヨッスィー』と全員が叫ぶ。
矢口は渚のシンドバット、マンPのGスポットなどとにかくサザンのオンパレード。
それに加えて、浜崎の曲も選び唄は歌わず曲が流れている間ずっとモノマネ。
後藤はけん♀けん♂を唄った。
「あたしも歌おっかな♪」
やっぱり演奏中止
「何でですかぁ〜〜!!!!」
「「「「「お開きお開き」」」」」
セッセと片付けをはじめる5人。
そして、保田を置いたまま『だるま』を出た。
- 226 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月12日(日)23時10分16秒
- 「んじゃ、帰るッス。」
「ヨッスィーこのまま帰宅?」
「ハイ。このあと用があるんで。」
「あ、そう、じゃーね、ヨッスィー。」
吉澤は4人に手を振ると、自転車モリコギで颯爽と去っていった。
「かっこいいれすよねーヨッスィー。」
「せやな、カッコええな。あ、矢口さん、この後どないする〜?」
「どうしよっかぁ〜…。梨華ちゃんどうする?」
「エエッ…!?ど、どうしよう…どうしようかな…えーっとえーっと…。あ、銭湯行きましょっ♪」
「銭湯れすか…。」
- 227 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月12日(日)23時10分58秒
- 辻は加護のことが心配で返事を渋った。
チラリと視線を配ると案の定加護の表情は曇っていたが
辻の視線に気づくとニコッと笑った。
「ええやん、いこか、銭湯。」
思わぬ言葉に驚きを隠せない。
「いいんれすか?あいしゃん…。」
「うん。いこ、矢口さん、梨華ちゃん。」
こうして、銭湯『ホモゲ牛乳』へ向かった4人。
ほぼ仮死状態の番頭のおばあちゃんを蘇生させ
4人分の金を払う。
言い出しっぺという事で全員分の代金を払うのは石川だった。
まぁ、おばあちゃんを起こさなければタダで入れそうなものだったが。
- 228 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月13日(月)23時02分52秒
- どうやら閉店ギリギリの時間とあってか銭湯には4人の姿しかなかった。
矢口の服を脱ぐ勢いは物凄い。
そして適当にロッカーにぶち込んで
エロオヤジのように3人の身体をマジマジと眺める態勢に入る。
「ちょっとぉ〜矢口さんまたエッチな目になってますよぉ〜!?」
ムスッとした顔をしながら、やはり石川は脱いだ服を丁寧に畳んでいく。
「いいじゃ〜ん、女同士だしっ♪あ、辻っ、お前また太ったろ!?」
「てへてへ…お尻もおっぱいも少し大きくなったれすよ。」
「あんま矢口とかわんないじゃん、オパーイ。」
「うるさいれすっ!!」
- 229 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月13日(月)23時03分32秒
- その横にはTシャツの裾を握ったまま、
大きな深呼吸を繰り返す加護の姿があった。
悲壮な姿に、辻だけでなく矢口と石川も心が痛んで止まなかった。
「無理しなくてもいいよ、加護。」
矢口が加護の肩に手を置いてそう言うと、
加護は首を横に振って勢い良くTシャツを脱ぎあげた。
そこに現れたのは右腕に刻まれたサソリとへそに刻まれた太陽
そして豊胸。
さっとブラとパンツを脱ぐと、いつもの加護スマイルで、すきっ歯をにかっと見せて
「ほないこっか」
と言って、3人を連れて浴場へ向かっていった。
身体をそれぞれ洗った後、
浴場でも辻加護はキャアキャア言って温めの風呂で大はしゃぎ。
石川は例の如く牛乳風呂、矢口は少し迷惑そうに温めの風呂の端っこに居た。
- 230 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月13日(月)23時04分12秒
- 「シメにみんなでサウナはいろうか。」
「はいれす。」
「うし、はいろ。」
「はぁ〜い♪」
最後のシメはいつもここ。
そう、矢口が尻の皮を擦り剥いたサウナである。
性懲りもなく、今日も『サウナDE腹筋』。
「もうだめれす…もう出るのれす…。」
いち早くバテた辻は
よろよろしながらサウナの外へ出て行った。
矢口はやっと『サウナDE腹筋』が終わったのか、加護の隣りに座る。
加護はフゥフゥ言っているが、根性はそれなりにあるようで、
石川の「だいじょうぶ?」という声にニカっと笑って返した。
石川はサウナに一番強い…黒(略
- 231 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月14日(火)23時04分10秒
- 「ねぇ、加護ぉ〜。」
「何?矢口さん…。」
「何で今日銭湯いく気になったの?」
「矢口さんっ…。」
(それはきいちゃだめっ)的なアイコンタクトを
加護の向こう側から矢口に送る。
息を切らしながらも
躊躇うことなく、加護は語り始めた。
「うん…まぁ、ウチもいつまでもコレの事でコンプレックス
持ってる訳にもいかへんっておもてなぁ〜…。」
- 232 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月14日(火)23時05分00秒
- 「そうなんだ。」
「ウチなぁ、こっちくる前はやたら不良でなぁ…そん時に彫ったもんやねん…。
大好きやった彼氏とオソロのなぁ…。せやけど…まぁ、色々あって別れてん…。
そんで…色々あってこっちに引っ越してきた…。」
「……。」
物思いに耽る加護の視界に、窓の向こうで辻がニコニコしながら手を振っているのが入った。
加護もニコニコ笑顔で返し、手を振る。
「のののおかげやな。
ののなぁ、ウチが転校してきた時にいっちゃん最初に友達になってくれてん。
友達なんて居らへん、もうどうでもええって思ってたウチに、ののはいつも笑顔で話し掛けてくれた。ウチのこの秘密を見せて、ウチの秘密を話したときなぁ…ののは涙流して『うんうん』って
聞いてくれた…。」
- 233 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月14日(火)23時05分33秒
- 涙ぐむ加護はそれでも窓越しのウド顔した辻を笑って相手する。
「あの子が…居たおかげで今のウチがある…
バカな事も一緒に出来る。そんな大切な親友っかな。」
そういい終わると、加護は立ち上がってサウナを出て行った。
残された矢口と石川は目を見合わせ
「「親友か…。」」
と言った。
案外大人な加護に二人は驚いていたのは言うまでもなく、
親友のあり方について、彼女に教えられた気がした。
- 234 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月15日(水)23時05分29秒
- 「矢口さん。もう出ましょ。」
「うん、そうだね。」
身体も心も温まった感じがして、二人もサウナから出ると軽く汗をシャワーで流して浴室を出た。
4人は風呂を出るとリンゴジュース3つ、牛乳1つを購入し
四人一列に並び、足を大きく開き腰に手を当てて飲み物をイッキ飲みをした。
- 235 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月15日(水)23時06分01秒
- 「うまいれすよー。」
「うまいなぁ。」
「だろー、ここのリンゴジュースうまいだろー?」
「リンゴ飲んでてもおっぱい大きくなりませんよっ♪石川牛乳でまた大きくなりました♪」
「自慢かよー梨華ちゃーん!」
「自慢れすかー!?梨華ちゃ〜ん!!」
「ウチのまへんけど…デカイで?たぶん梨華ちゃんに負けへんよ?」
「いったなぁ〜勝負よっ加護ちゃんっ。」
- 236 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月15日(水)23時06分31秒
- 第一回乳比べ大会などというものを始め、楽しく銭湯の時間は過ぎていく…。
そして時刻は閉店の22:00になり、4人は銭湯を出た。
「ほなな、矢口さん、梨華ちゃん。」
「ばいばいれすー。」
「じゃあね、辻加護。」
「バイバイ、辻ちゃん、加護ちゃん。」
別れの挨拶を告げると、加護と辻は自転車2ケツでゆらゆら去っていった。
この二人、途中で疲れたら交代して、自転車をこいでいくと言うのだから本当に仲がいい。
そんな見ているだけで温まるような二人を見送ると、矢口も石川を後ろに乗っけて
しげるで自宅の方向へ向かった。
今日は一段と石川はギュッとつかまっていたような気もしたが、
そんなことは気にせずに矢口はしげるを飛ばした。
- 237 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月16日(木)23時03分43秒
- しげるがブドウ荘に辿り着いた。
「どうしますか…?矢口さん。」
「いくよ、もちろん梨華ちゃんの部屋に。」
その言葉にぱぁっと明るい顔をする石川。
「キショッ。」
「ぐすん…。」
「うそだよ、行こう。」
ほぼ毎日会っているのに
アフロ犬はいまだ矢口になつくどころか、
近寄ることすらしない。
- 238 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月16日(木)23時04分16秒
- 対照的に、やはり飼い主にはなついているようで
今日もいつものように石川のスネに頬をスリスリ。
矢口はいつものように
遠くで『ニャー』という鳴き声を聞きながら鍵を閉めた。
「今日は何みようかなぁ〜?」
矢口はDVDの並ぶ棚を左から右へ舐めるように眺めて
その中から一本選び出す。
『蛍の墓』
DVDプレイヤー辻加護君にディスクを差し込むと、
慣れた仕草でソファーに座った。
石川もカンピールを2本冷蔵庫から取り出すと
遅れてテレビの前に座り、矢口に片方を差し出した。
- 239 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月16日(木)23時04分56秒
- 「せっちゃ〜〜ん死んじゃダメだぁ〜〜、うわ〜〜ん。」
物語も終盤に入ると、毎度の如く、辺りは丸まったティッシュで一杯になり
フローリングの床はどんどん面積が狭まっていく。
とかく、涙もろい矢口。
普段では到底考えられないほど、映画でよく泣くのだ。
この映画鑑賞の時間でこれまでにティッシュ何箱消費した事だろうか。
鼻水が出るほど今日も矢口は泣いていた。
石川も自前のDVDでありながら、潤んだ瞳を軽く拭った。
「矢口さんまだ鼻水でてる…。」
「だってぇ〜だってぇ〜…せっちゃんがぁ〜〜。」
「梨華が拭いてあげるぅ〜♪」
- 240 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月17日(金)23時12分53秒
- ティッシュを何枚か取る石川。
「チーンして。」
ぶぶぶぶううぅぅぅぅ。
「ありかとう梨華ちゃぁ〜ん、好きだよお。」
抱きつかれる石川は、まんざら困った様子でもなく嬉しそうに
「もうっ♪離して下さいよぉ〜。」
などと、肩に手を当てるものの力をいれはなす様子などまったくない。
そうして蛍の墓が終了した…。
- 241 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月17日(金)23時13分43秒
- 時刻は0:30。
矢口は大きな欠伸をしている。
それにつられ、石川も小さな欠伸をした。
「う〜、眠いなぁ〜…梨華ちゃ〜ん泊めてぇ〜…。」
「…………。」
「やっぱダメだよねぇ〜…帰るよぉ〜…。」
眠そうな顔で立ち上がる矢口。
すると、意外な答えを石川は返した。
「泊まるだけならいいですよ…。」
- 242 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月17日(金)23時14分13秒
- 「へっ…?」
振り向けば頬が赤らんで恥らったような石川の顔があった。
「だから…いいって言ってるじゃないですか…。」
顔を真っ赤にしながら、石川はソファーに指で字を書いている。
「うん。じゃあお言葉に甘えて♪」
(やっぱり梨華ちゃんだよね、矢口のヒモ作戦ターゲットは♪ケチな女はサヨナラ〜♪)
いきなり服を脱ぎだす矢口を目の前にして
慌てて石川は顔をそらした。
- 243 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月18日(土)07時58分48秒
- 「矢口さんっ!!今日はダメですよっ!!」
「え…?いや、矢口、裸で寝る人だから…。」
しまった…と石川はさらに顔を紅くする。
「は、早くベッドに入ってくださいっ。」
「言われなくても入るけど…。へんなの。」
少し不思議がる矢口は、言われたとおり全裸で
ベットの中に入った。
ふかふかのベットが矢口の身体を暖かく包む。
「も、もういいですか…?」
「いいよーん。」
- 244 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月18日(土)07時59分41秒
- 羽毛布団にくるまれている矢口を確認して、
石川は少し恥ずかしがりながらもネグリジェに着替えて
できるだけ矢口の裸を見ないようにベットに入り、
矢口に背を向けた、まともに直視できなかったのだろう…。
「矢口さーん…。」
「…ん〜?」
「あのね…実は昨日悩んでたんですよー石川。」
「んー…。」
「矢口さんがねー…石川に冷たかったじゃないですかー。」
「…。」
「矢口さん…、聞いてます?」
「……。」
「矢口さん?」
思い切って、石川は振り返ってみると、矢口が静かな寝息を立てていた。
少し石川は微笑んで矢口の頭を撫で
「カワイっ♪」
と呟き、寝ている矢口の手と自分の手を重ねて眠りについた…。
- 245 名前:第3話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月18日(土)08時00分14秒
- その頃居酒屋では…。
「……はっ!呑み過ぎて寝ちゃったわよ!!」
今まで酔いつぶれていた保田が起き上がる。
すると隣りでは後藤がテーブルを拭く姿があった。
後藤は保田が起きた事に気がつき、請求書を手渡して恐怖の言葉を吐いた。
「んぁ〜、お客さ〜ん54000円になりま〜す。」
「え゛え゛っ!???」
- 246 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年05月18日(土)08時02分39秒
- 第3話終了です。
第4話は1週間お休みを頂いた後開始予定です。
第4話開始前にまとめて返レスをしたいと思います。
- 247 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月18日(土)11時28分31秒
- お疲れさまです。
- 248 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月24日(金)21時18分18秒
- もうじき一週間ですね
今度はどんなのかお待ちしております(w
- 249 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年05月25日(土)23時13分19秒
- >>173
お金には弱い、イマドキな女の子です。
>>204-205
守銭奴ですね、金持ちでもケチな人いますよね。
>>224
チャーミー圭ぴょんは意外と子供達から敵視されているのかもしれません。
>>247-248
お待たせいたしました。
ただいまより、4話を開始します。
- 250 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月25日(土)23時15分29秒
今朝の空は薄く雲がかかり
いつもに比べれば幾分過ごしやすい。
陽はその姿を隠し、今日はどうやら暑さとの格闘は大変ではなさそうだ。
その自転車は微風の中を物凄いスピードで突っ切っていくのが
日課となっていた。
「あらひとみちゃん、おはよう。今日も早いわね。」
「おばさん、おはようございまっす!」
- 251 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月25日(土)23時16分16秒
それほど広くない道で
チェーンの回転する小気味いい音が徐々に近づいてくる。
玄関の前に水を撒く近所のおばさんが
その自転車を見つけたのはだいぶ手前のことだったが、
吉澤が挨拶し終わる頃にはすでに目の前を通り過ぎて
小さな豆粒になってしまった。
ニコニコ後姿を見送っているおばさんの姿も日常だった。
「今日は涼しいーーー!!!」
線路を一気に突っ切ると、
ガタガタと籠が揺れてサドルに衝撃が走るが
そんなことに気を配る暇もなく、猪突猛進。
いつものように目の前には長い坂が立ちはだかった。
- 252 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月25日(土)23時16分52秒
- 「なんのこれしき!うおぉぉぉぉ!!!!」
スパートをかけるように
ペダルに乗せた足に力を込めると
回転速度はどんどん上がっていく。
が、自転車自体のスピードは上がるどころか
徐々に落ちていった。
「あ、あれっ…?」
そして、坂の中腹に差し掛かったところで
遂に止まってしまった。
- 253 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月26日(日)23時05分12秒
- 「あっ…マジでか…。」
サドルから降りて、愛車を丹念に眺めると
問題点はすぐに見つかった。
「…チェーン外れてた…。」
不機嫌そうなしかめっ面でチェーンと格闘する彼女は、
吉澤ひとみ19歳。独り暮らし。
愛車ローンで(3回払い)購入してまだ3週間。
さっきまでは心地よく見えた雲も
急に不吉な出来事の前兆に見えてならなかった。
- 254 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月26日(日)23時06分11秒
- そして、いつものように彼女のショーの日々、
金曜日の夕方ステージにて。
観客がいない、あえて言うなら対象である子供がほとんどいない
ミニモレンジャー。ショーは今日も怪人とミニモレンジャーが
対峙し戦っていた。
「キン肉万太郎め〜!やぐーちゃんを怒らせたな〜!?」
ミニモレンジャー。ショーには難解な点が多数存在する。
今日は金曜日。
ヒーローのミニモレンジャー。が相対するのは
これまたヒーローのはずのキン肉万太郎。
ヒーロー対ヒーローでどんな話の流れになるのか
見てる人には全く予想できない。
…観客はいつものメンバーと、ビアガーデンのオジサンだけだが。
- 255 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月26日(日)23時07分17秒
- 「『もっともっと』いくぞー!!」
「いくのれす!!」
「よっしゃー!!」
「ゲフッ!!ゴハッ!!」
ドカーン!
「「「150cm以下戦隊ミニモレンジャー。カッカッ。」」」
というわけで、結局同じ終わり方なので割愛するが。
- 256 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月27日(月)23時01分58秒
- ショー終了&握手会が終了すると
楽屋でひと段落。
握手会を終えて帰ってくるミニモレンジャー3人
矢口が最初に声かけたのはマスクを剥いだキン肉万太郎…
いや、吉澤だった。
「おつかれー。」
「あ、おつかれっす。」
3回目のショーも無事終わり楽屋は和やかな雰囲気に包まれていた。
ここのところ、炎天下のショーが続いたために毎日倒れていた吉澤だが
今日は曇り空で、更にキン肉万太郎の着ぐるみは薄いために
暑くなく、さらに受身がとりやすい、故に
今日は倒れることなく、頭を強打することもなく終えることができた。
- 257 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月27日(月)23時02分43秒
- 「今日は倒れなかったね。」
「金曜はやりやすいっすよ。
キン肉万太郎の着ぐるみ薄いし、マッチョだし。カッケー!カッケーカッケー!!」
何しろ『カッケー』は吉澤の口癖なのだ。
今日も事あるごとにカッケーを連呼している。
片付けもキリが付き、保田は全員を招集した。
「そんじゃ、解散よっ!!」
- 258 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月27日(月)23時05分02秒
- 今日の仕事が終了した。
毎日トラブル続きだったこともあって
保田はホッとした表情で解散を宣言してタバコ『わかば』に火をつける。
昨日54000円もぶんだくられたおかげで、峰は買えず、
わかばで今月はやりくりしなければならなくなった。
しかし、奢るといって、勝手に酔いつぶれた自分に責はあると思い
今日はスタッフに当たり散らす事をしなかった。
意外と大人ですね。
そんな事はさておき、解散の言葉を聞いたスタッフ面々は
「「「「「おつかれー。」」」」」
と言って、職場であるトイズEE屋上を去っていく。
と思えば、後藤はモップを持ったまま立っているではないか。
- 259 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月28日(火)23時03分42秒
- 「ごっちん…?」
保田が歩み寄り肩に手を掛けると。
あたりを見渡して、保田と目を合わせた。
「…んぁ?…おつかれ〜…。」
どうやら、後藤は寝ていたようだ。
非常階段をそれぞれ他の面々はその頃降りていた。
「よっすぃーは大変だよねー。この前着ぐるみ着せてもらったでしょ?
かなり暑いよ、アレ。」
- 260 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月28日(火)23時04分21秒
- 非常階段を下りる矢口は
実感したことが前にあっただけに着ぐるみの大変さを労う。
ただ、体格、基礎体力、筋力、根性から言って
着ぐるみを着ているだけで倒れるほど吉澤はヤワではないはずだが…。
「矢口さんだって大変っすよ。辻ちゃんと加護ちゃんに踏まれて。」
「そうだよー!!ホントにさー、もうちょっと痩せてほし……聞いてんのか!!」
やはり引き金はあの二人のようだ。
人間大砲とも呼べるそのアタックは
いかに頑丈な人間でもそうそう耐えられるものではない。
- 261 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月28日(火)23時05分11秒
- 「「???」」
そんなことお構いなしか、矢口にそんな事を言われても疑問符を浮かべている。
加護はバッグからお菓子を取り出して辻と仲良く分け合って食べていた。
カツカツと金属製の非常階段を響かせ降りてきたところに
しげると、吉澤の自転車、辻と加護の自転車が停めてある。
まぁ、いつもの光景であるのだが、よく見ると、
明らかにおかしい乗り物がそのうちの一台に混ざっている。
持ち主が駆け寄って見てみると
「あ……ペダルが…」
見事にペダルが曲がっていた…、いや根っこの部分が折れ曲がっていた。
さらに反対側は既に地面に落下している。
「よいしょっ…ゲ…。」
パキッ
- 262 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月29日(水)23時03分37秒
- 折れ曲がった物など元の位置に戻そうとすれば取れてしまうに決まっている。
ペダルを手のひらに載せて無言の吉澤。
モリコギするのにサドルが無くてもそれほど支障は無いが
ペダルが無いのは致命的、なにせ漕げない。
儚くも、両の足を乗せるそれは、吉澤のモリコギ
ペダル酷使の結果、金属疲労によって壊れていた。
「ペダルって取れるものなの?」
石川は珍しげに、ポッキリ取れて落ちた
2つのペダルを眺めている。
- 263 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月29日(水)23時04分22秒
- 「ヤバイなぁ…。」
確かに吉澤の家はかなり遠くである。
が、それ以上に何か気になることがあるのだろうか、
表情はみるみる曇っていった。
「なんならさー、しげるに乗ってく?3人なら余裕だよ。」
「2人でも危ないのに3人は無理ですよっ!!」
「まぁ、何とかなるさ。乗りなよ、よっすぃー。」
「いや…大丈夫っす。走って帰るっすから…。」
- 264 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月29日(水)23時05分30秒
- 『おつかれさまっす。』と告げると、軽く礼をして
言葉通り本当に走ってその場を去っていった。
置き去りにされた自転車を見ながら
4人は改めて吉澤のパワフルさに舌を巻いた。
「ふつう、ペダルがおれるようなことにはならないれすよ…。」
「どんな乗り方してたんやろな…。」
「「さぁ…?」」
- 265 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月30日(木)23時07分15秒
- 「よっすぃー居ないね。もう家に着いちゃったとか?」
帰り道、矢口と石川は歩道を眺めながらしげるを走らせていた。
やはり走って帰るには大変だと思った二人は
遠回りであるが、吉澤の帰り道であるはずの道をしげるで追いかけていったのだ。
赤信号で停まると、4つの目で360゜見回してみたが、
道端にはほとんど人影もなく、当然吉澤の姿もなかった。
「う〜ん、居ないなぁ。」
「そうですねぇ〜。」
「追いついてもいいはずなのにー。」
「道が違うんじゃないですかぁ?」
「そうかもねー。ウチらとはちょっと方向が違うし。
帰り、『ダッチ』寄ってくから。」
「え、あ、はい。」
- 266 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月30日(木)23時07分46秒
- 昨日、矢口の親から仕送りが入った。
昼休みのウチにトイズEEの入り口にあるATMで仕送り金額を確認して
1万引き落とした。
仕送りの翌日というのは給料日同様に矢口は気分るん♪るん♪状態だ。
そして、決まって矢口はパチンコ屋に趣く。
一先ず今夜は吉澤のことは諦めて
この日も、『今日こそはプレステ2を獲ってやる』と
大いに意気込んで、矢口はしげるのスピードを上げた。
- 267 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月30日(木)23時08分18秒
- その頃。
ぁゃιぃネオンが輝く通りというのは
だいたいどの土地にもあるものだ。
よほどの田舎町でなければ、何処の街にも見られる光景。
大学前駅の裏道に保田がよく通うゲイバーもあるのだが、
それよりもさらに数十メートル奥に入っていくと
そこは風俗店が軒を連ねる通りとなっている。
呼び込みの中年男性やチンピラっぽい人は
それほど居ないものの煌びやかに輝く電球に
怪しいネオン、ポッキリ3000円などと書かれた看板が
一目で雰囲気の違いを感じさせてくれる。
荒い息遣いと、軽快な靴の音がそこを駆け抜ける、
と思いきや、途中でその足音は途絶えた。
- 268 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月30日(木)23時08分56秒
- 風俗通りの真ん中程にある、2階建ての店舗
ここはコスプレ風俗店
その名も『ピンクのカーテン』。
この辺りでは有名な店で
風俗嬢に希望のコスプレをさせてプレイを行うといった
何処にでもあるような風俗店である。
そこのNo.1の風俗嬢は端正な顔立ちに、
何処となくハーフっぽさも感じさせるの美少女、
『リカ』が務めていた。
無論、この『リカ』というのは店で使う名前であり、本人の名前ではない。
つまり、俗に言う源氏名なのである。
- 269 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月30日(木)23時09分35秒
- リカは階段を駆け上がり、まず最初に出迎える
『ピンクのカーテン』マネージャに挨拶をする。
「おはようございまーす。」
「ああ、リカちゃん。今日もよろしくね。なんか汗かいてるね、走ってきたの?」
「はい、ちょっと。」
軽く息を整えながら
手で『ちょっと』というジェスチャーをするリカ。
- 270 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年05月30日(木)23時10分33秒
- 店のマネージャーとの会話も
すっかり慣れた様子で、そのまま更衣室に入り
立ち並ぶロッカーの中から『リカ』と書かれた
ロッカーにカバンを詰め込んだ。
さっそく、不慣れなメイクを開始する。
あまり化粧に興味がなかった学生時代が正直
彼女のハンデとなっていたが、習うより慣れろ
といった感じで、先輩風俗嬢に化粧を教えてもらい
自分で何とか一人で出来るようにまでなった。
気がつけば自分を指名する人の数が店内で
5本の指に入れるほどになっていた。
- 271 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月01日(土)01時05分39秒
- 化粧が終わり、香水をプンプン匂わせ終え、ウイッグをつける。
ふと腕時計を見ると
デジタル数字がまだ仕事前だと教えてくれた。
少し余裕があることから、ズボンのポケットから
マールボロを取り出す。
「ふぅ…。」
ようやく腰を下ろすとタバコに火を付けて
大きく吐き出した。
ロッカーを見つめ、ボーっとする。
走って来たときは気付かなかったが
太ももが重い…
リカは軽く太ももを揉み解した。
- 272 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月01日(土)01時06分28秒
- 「あー、走りすぎたー。素股はキツいかなー…。」
「リカちゃん、ナース、フェラ、手コキで指名入りましたー。」
「あ、はーい。」
クシャクシャと火を押し潰して
少しだけの休憩時間を終えると
淡いピンク色のナース服を手に取った。
汗で濡れたTシャツとジーンズを脱ぎ鏡の自分とを見合わせ、
ナース服を着る。
なかなか手馴れた感じで、ナース帽もかぶった。
「ナースはあんまり好きじゃないんだけどなー。
どっちかって言うとセーラージュピターの方がカッケーし…。」
セ、セーラージュピター…。
- 273 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月01日(土)01時07分14秒
- 愚痴をこぼして、一度ため息をつく。
客を待たせるわけにもいかず、急いでロッカーからアイテムを探す。
ガチャとロッカーを閉めた手には
聴診器が持たれていた。
ナースなのに聴診器。
何か違う気がしないでもないし、
所詮まともに使えるわけでもないのだから、
そこら辺は言わないことになっているのだろうか。
- 274 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月01日(土)01時08分09秒
- プレイルームと書かれた部屋。
「入りまーす。」
部屋のドアを開けると
すでにキショ系のオヤジが興奮気味で座って待っていた。
壁紙はパステルカラーで揃えられ、
しかし案外スッキリしている。
ビニールのマットと籠に入った小道具、
そしてオヤジと『リカ』だけ。
「じゃ、お願いしようかな。」
今更紳士ぶった口調で話したところで
見たときの印象を振り払えるわけもなく、
しかし仕事と割り切ってプレイを始めるのだった。
一通りの行為を終え、リカは小道具を片付けていた。
ふとオヤジが、リカにむけて言葉を吐いた。
- 275 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月01日(土)01時09分01秒
- 「リカちゃんさぁ…」
「なんですかぁ?」
「トイズEEで働いてるよねー?今日ビアガーデンに行ったら
事務所みたいなとこから出てきたの見つけたんだよ。」
「!!!!!」
まさか、ナースの衣装を着ている状況で『トイズEE』なる名前を聞くとは
さすがに思っていなかったのか、『リカ』はその言葉に少しの動揺が走る。
「人違いですよ〜、あははは!!」
「そうかなぁ?」
「なんでですかー。この仕事で充分食べてけますよー。あはははは!!!」
必死に誤魔化しながらローションを片付ける姿は
どことなく怯えているようだ。
- 276 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月01日(土)01時09分31秒
- 「人違いか…。印象も違ったし、そうか…。」
「あ、お客さん、そろそろお時間なんで…。」
客を引き取らせた後も
その脳裏にはどこか不安がうごめいていた。
短い勤務時間が終わる。
今日の客数は4人。
風俗嬢としてそれほど多くもないだろう。
彼女自身それほど客を取りたいと思っていないのだ。
故に、少なくしてもらっている。
店側としても、彼女は上玉であるから
看板ギャルとしてこれからも働いてもらいたいのだが
無理を言えば彼女を失う事もありうるので、彼女の希望を受け入れているのだ。
- 277 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月01日(土)23時22分15秒
- 事務室と名づけられた部屋に顔を出す。
すると、マネージャーは帳簿に事務的に書き込んでいた。
「マネージャー、帰りまーす。」
「あ、リカちゃん、お疲れ様。」
「お疲れさまですー。」
マネージャーは先ほど計算の済んだ茶封筒を手渡した。
そこには「リカ」とかかれている。
どうやら給与のようだ。
- 278 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月01日(土)23時23分13秒
- 「はい、今日の分ね。次は…」
カレンダーをみて、マネージャーは出勤日を確認していた。
「月曜だっけ?」
「えっと…はい。そうっす。」
「リカちゃんならもっと稼げると思うのにな〜。
もったいないよ週3なんて。本番やるなら…もっと出すし…。」
「ははは。本番は勘弁っすねー、でも、
出勤日は考えときます。それじゃ。」
彼女独自の元気が伝わるようなスマイルで
バイバイといったかんじでマネージャーに手を振って店を去った。
- 279 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月01日(土)23時24分00秒
- 店から出たころには
陽はもう見えない所に行ってしまって、
その代わりに出ているはずの月も
厚さが増した雲の後ろで一休みしていた。
帰りはタクシー。
駅前という事も有って、タクシーを拾うのは容易だった。
色気プンプンの彼女は、タクシーに乗り込むと、
自宅の方向を指示した。
いつもは自転車なのだが、いかんせんペダルが破損した状態では
タクシーで帰るしかないのだ。
「あー、アゴ痛ぇ…。」
ふと、窓の外の風景を見て言葉を吐いた。
さすがに体育会系である彼女も、アゴの筋力は鍛えてないようで
アゴをさすって、口を開け閉めしていた。
- 280 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月01日(土)23時24分47秒
- ふと最初の客の話を思い出した。
「バレたらどうしよう…。居づらいよな…。」
後部座席から見るバックミラーには
真っ暗な道路が映っている。
肩に食い込むカバンの紐を下ろしてその口を開くと、
雑然とした中身からマネージャーから貰った茶封筒の給料袋を取り出した。
入っている数枚の諭吉をチラリと見ただけで
すぐにバッグの中に戻す。
「ふぅ〜…。」
深い溜息は闇の中へと消えていった。
- 281 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月01日(土)23時25分45秒
- その頃。
「くそー!あのプレステ2は絶対ヤグチが手に入れてやるっ!!」
「矢口さ〜ん、パチンコ止めて、普通にお金溜めたほうが絶対早いですよぉ。」
「梨華ちゃんは男の浪漫ってものが分かってないなぁ。」
「わかりませんよぉ〜、つぎ込んだお金で買ったら何台買えると思ってるんですかぁ〜。」
「女ってダメだよねー、現実主義っていうかさー。」
「矢口さんも女の子じゃないですかー!!」
筋も糞もない矢口の言葉に
石川は呆れて物も言えない。
パチンコを出て、まーるぞろで立ち読みをしている間も
パチンコ必勝ガイドやら少年アニマルやらを読んでいる時も
矢口はずっとその決意を口にしていた。
さらにしげるで走行中の今でもまだそんなことを言っている。
- 282 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月01日(土)23時26分37秒
- 石川が叫んだのは、吉澤の家の近くをしげるが
走っているときだった。
「あれ?矢口さん、あそこ見てくださいっ!」
「どれどれ、どのくらい濡れ濡れなのかなっ?遂に矢口に身体を許す覚悟が……」
「そのアソコじゃないですよっ!!ほら、あれ、よっすぃーじゃないですか?」
矢口の視界に石川の指がニョキッと伸びてくると
一点を指差した。
指差されたそこにはタクシーが停まっており、
それが走り去ると一人の女性が俯いて歩いているのが見えた。
確かに、遠目だが、タクシーから降りたのは吉澤本人のようだ。
- 283 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月02日(日)23時02分47秒
- 「おーい!よっすぃー!!」
時は深夜。
しかし矢口には迷惑という言葉は通用しないのだ。
何処でもうるさい、映画館でも深夜の住宅街でも、葬式でも。
矢口が大声で呼ぶと、かなりビクッ!としたようだが
一応こちらを振り向いた。
やはり、吉澤だった。
吉澤は引き攣った笑みを浮かべながら、返事をした。
「あ、ああ…矢口さんと梨華ちゃんじゃないっすか…。」
わずかの距離を一気にしげるで近寄ると
驚いた様子はそのままに吉澤の言葉が聞こえた。
「なんだー。タクシーで帰るんなら乗ってったほうがよかったじゃん。」
- 284 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月02日(日)23時03分37秒
- そう言って矢口が指さしたところは
自らの足元。
どうやらここに乗せていってあげたのに、という意味らしいが
子供でも乗れないようなスペース、吉澤ならなおの事。
それならやはり、タクシーで帰ったほうが断然楽である。
「よっすぃー、こんな時間までどっか行ってたの?お化粧しちゃって。」
石川の素朴な疑問は、実は核心をつく大きな言葉だった。
二人は、いつもほとんどノーメイクの吉澤しか見たことが無い。
「え!?化粧は…まぁ…たまにはするよ。ちょっと買い物に、ね。」
ぎこちない喋り方に自分で気づいたがどうしようもなく、
とにかく早く二人の前から消えたかった。
アパートはすぐそこなのだから。
「よっすぃー、香水つけてない?なんかいい匂いがするけど…。
それに…ほら、付け毛してる。」
- 285 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月02日(日)23時04分09秒
- 矢口も鼻をクンクンさせて匂いの元を探る。
もはやバレるのは時間の問題か、
そう思った吉澤は強引な突破を見せた。
「いい匂いっすか!?これですよ、これ!ほら!」
カバンから慌てて取り出したものは、なんとお手製キムチであった。
キムチ大好きな吉澤はタッパーに常に携帯しているのだが、
匂いという言葉で思いついたのがこれだったのだ。
「ほら!食欲をそそるいい匂いがする!!早く帰らないと賞味期限過ぎて
キムチが腐っちゃうんで!!それじゃ!おやすみなさい!!!」
「「……。」」
矢口と石川は心の中で大いなるツッコミを入れた。
『キムチの匂いじゃないだろ』
『家帰ってすぐ食べなくても腐りはしないだろ』と。
- 286 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月02日(日)23時04分44秒
- バタバタ駆け出して去っていく吉澤の姿を見送ると
矢口は吉澤の違和感について言葉を吐いた。
「よっすぃー、デートでもしてきたのかな?あんな、フェロモンプンプン出してさ。」
「まぁ、色々あるんですよ。矢口さん、帰りましょっ。」
「ああ、うん…。」
矢口は吉澤が気になったものの、明日のバイトのことも考えて
しげるを自宅の方向へ走らせた。
今日も石川の家に立ち寄ってDVDを鑑賞するのだが
話はもっぱら吉澤の奇怪な行動についてだった。
ブラウン管に映る貞子は、いくら怖い演技をしても誰も見向きしてくれないなんて
呪っても呪いきれない、ついでに真田と松嶋もさぞ恨んでいるだろう。
テレビから今にも出てきそうだが、二人は知ったことではないといった
感じで、会話をしていた。
- 287 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月02日(日)23時05分24秒
- 「やっぱ男っしょ。よっすぃーすぐ一目ぼれするじゃん。今日、男と会ってたんだよ、たぶん。」
「デートですかぁ。彼氏が居るなんて聞いたことないですよ?」
「ヤグチも聞いたことない。
う〜ん…。デートか。いいなぁ〜。」
「ですよねぇ〜…矢口さん…うらやましいですよね…。」
「ん?」
横目でチラリと石川の様子を伺うと
案の定ほほを赤らめてモジモジと俯いている。
(ハッハ〜ン…。)
矢口は常に、自分の作戦の遂行具合を見計らっている、
とってもしたたかな女なのだ。
- 288 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月02日(日)23時05分54秒
- 「あの…今度のお休みの日に、映画でも見に行きませんか?
今度上映するニューヨークの恋人って映画なんですけど…
あの…その…、メグライアンが…その…えっと、
ほら、たまには大きなスクリーンで見たいじゃないですか!」
頭の中で悪魔が腹を鳴らせば、それがそのまま矢口の口元に伝わって
ワル〜イ笑みとなって表れる。
敢えてその表情を表現するなら
『ニヤリ』という言葉がピッタリ。
- 289 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月03日(月)23時02分34秒
- 「えー?どうしよっかなー?恋愛物でしょー?それー。」
「ダメ……ですか?」
予想以上に石川に落ち込んだ顔をされて
さすがに矢口の良心が痛んだか、
それでも『まぁ、いっか』的な返事をしてDVDを止めた。
画面から貞子が出掛かっていたが矢口達は気付かなかった。
そんな会話を終えて、矢口は石川の部屋を去っていった。
少しじらす為に今日は石川の部屋を去ったのだった。
そして、矢口も石川も眠りについた頃、
彼女は寝苦しい夜を過ごしていた。
- 290 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月03日(月)23時03分12秒
- 「んー…んー……。」
クーラーを効かせた暗い部屋を
苦しそうな唸り声が支配する。
「……。」
時計の針はすでに丑三つ時を示していた。
ようやく静かになったか、と思ったのは一瞬。
「だー!!!暑い!!!!」
がばっと布団から起き上がる吉澤。
彼女は不安と悩み、
それプラス寝苦しさで
イライラは募るばかり。
薄い掛け布団を蹴飛ばして立ち上がると
通販で買った、人型エクササイズマシン、
今の時間帯によくCMをしているアレを、
5階級制覇のシュガー・レイ・レナードも愛用のアレを、
殴って気分転換。
「ふぅ…。…あー、マジでどうしよー。
矢口さんと梨華ちゃんに見られたのはマズったなー。」
探り探りテーブルに手を伸ばし、マルボロとライターを手にとり、
暗闇にライターの炎を灯すと
タバコの先を近づけて吸い込んだ。
- 291 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月03日(月)23時03分46秒
- 頭の中は、明日どうやって言い訳しようか
ということでいっぱいいっぱいだ。
風俗嬢は職業としてあってもいいものだが、
かといって公に明かす様な職業でもない。
あーでもない、こーでもない、と
天然ボケの脳みそを目一杯働かせて試行錯誤してみるも、
香水の匂いをキムチの匂いだと言い訳するようではたかが知れていた。
「圭ちゃんにバレたらクビ!?…あー…あー…」
頭の中はどんどん悪い方へと傾いていく。
「矢口さんと梨華ちゃんには…口止めしといて…
いや、下手に言い訳しないほうがいいかも…。」
考え始めて1時間以上、
ともすればもうじき明るくなるような時間。
結局はそこに収まったようだ。
嘘ついてして墓穴を掘るくらいなら
シラを切ったほうがよさそう。
そう結論付けて再び目を閉じた
が
「だーー!!寝れねーー!!!」
眠れなかった。
- 292 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月03日(月)23時04分16秒
- 朝。
やはり夏である。
コンビニの外は既に蝉の鳴き声が鳴り響き五月蝿い。
そして、コンビニの中も彼女の笑い声が響き渡っていた。
「あーーーっはっはっはっは!!!!!!」
夏休みの朝は学生が居ない。
ここ、まーるぞろの雑誌コーナーを
いつものように占拠する矢口と石川だが
店内が空いている分だけ、矢口のバカ笑いは隅々にまで響き渡った。
「矢口さん!!声大きいですよっ!!」
石川は物凄く神経を使っている。
内緒話のトーンで矢口に注意したつもりだったが、
相手はいつもはすぐ横にいるはずなのに
今日はずっと奥にいた。
- 293 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月03日(月)23時04分48秒
- 「アレ…?」
土曜は特に読むものがないために
いわゆるエロ本を漁るのが常なのだ。
ヌードモデルハァハァなどとニタニタ読んでいのが土曜なのだが、
特に読まなくても良いなら、寄らなければいいのに…。
店員の顔色もやはり芳しくなかった。
「だってさー、ちょっとこっち来てみなよー。」
「え、いやですよぉ〜。Hな本なんて読みたくないですよー。」
- 294 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月03日(月)23時05分49秒
- 笑いを堪え切れないまま
手招きで石川を呼び寄せる。
エロ本コーナーには近寄りたくない石川だったが
物凄い勢いで、引き攣りそうなほど笑っている矢口に
ちょっとだけ興味が湧いて、渋々そちらに向かった。
「ほら、ここに…。」
矢口が開いていたのはどうやら風俗情報誌『ヤンナイ』のようで、
地元風俗店のNo1が写真入りで掲載されていた。
「『リカ』ちゃんだってさー。ヒューヒュー!」
- 295 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月04日(火)23時08分18秒
- 意味のない口笛もどきでからかってみるが、
どうも石川の雰囲気がおかしい。
「矢口さん…この写真…」
「写真?」
『リカ』という名前を見つけただけで、
矢口はそれ以外に目を遣っていなかった。
「…そっくり。」
「…そっくりですね…。」
「でも…髪長いし…なんか雰囲気違うくない?」
「そうですねぇ…。」
- 296 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月04日(火)23時08分59秒
- 『ピンクのカーテン No1 リカ』
その紹介の下には聴診器を構えたセクシーな写真が載っていた。
「やっぱ、これ本人でしょ?それなら昨日の格好も納得だし…。」
「う〜ん…。よっすぃーはそんな人じゃないと思いますけど…。」
「でも、これ駅前の店じゃん。」
「ですよね…でもよっすぃーに限ってそんなぁ〜。」
「いやいや、わっかんないよー、よっすぃー結構バイト後の付き合い悪いし。」
「それは彼がいるからじゃ…。あ、矢口さん。もうお店出ないと。」
「もうちょっと読みたいなー。」
「だめっ!!いきましょっ!!」
いつもの強引な力で、矢口は店を連れ出される。
そして、いつものようにしげるでトイズEEへ向かった。
- 297 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月04日(火)23時09分36秒
- 昼休み。
「ょιょι。まだバレてなさそうだ…。」
朝からビクビクして気が気でない吉澤は
着ぐるみ『ピポサル』を脱ぐと一言呟いた。
デパートに到着してから、こんなに着ぐるみを早く着たいと思ったことは
今まで一度もなかった。
穴が入ったら入りたいではないが、恥ずかしいというより
今の自分を見られたくないといった感じだろう。
「んぁ?よっすぃー何か言った?」
その呟きを耳にしていた後藤。
焦った吉澤は慌てて切返す。
「えっ!?いや、何も言ってないよ?」
「ああそう。空耳かぁ。」
- 298 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月04日(火)23時10分29秒
- そう言って、後藤はテーブルに伏せ寝をした。
ほっと胸をなでおろす。
どれだけ暑くても
着ぐるみを着ていればとりあえず時間を稼ぐことができる。
身体は堪えるが、心が休まる唯一の時間であった。
どうせなら、ピポサルの頭を今日中かぶっていようかと思うくらいだった。
そんなとき、一番疑惑を持った人物が握手会を終えて戻ってきた。
「リカちゃーん!!」
「ハッ!!」
「いや、よっすぃーは呼んでないよ。梨華ちゃんだってば。」
「あ、ああ、そうっすか…。」
「ちょうどいいや。なんかさー、今日コンビニで立ち読みしてたらー、
よっすぃーに超似てる風俗嬢が載ってたんだよ。
マジで似てる!」
- 299 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月04日(火)23時11分11秒
- 背筋に緊張が走る。
やばい汗がタラタラ流れ始めるのがよくわかる。
それに加え気持ち悪いほどの動悸が身体を支配している。
吉澤の頭の中には『しらばっくれる』の一言が
半永久的にリピートされていた。
「へ、へぇ。」
「もしかして…さ、よっすぃーって…」
「な、なんすか?違うっすよ!?」
「ホントは…風俗で働いてるんじゃない?」
- 300 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月04日(火)23時11分46秒
- 「な、なに言ってんすかー!ほら、全然そういう人には見えないでしょ!?」
「昨日さー、ハッキリ言って…」
「ハッキリ言って…?」
「まぁ、いいや。」
矢口はそれ以上言うのを止めた。
吉澤を困らせるつもりは毛頭なかったし、
もうこれ以上聞かなくとも明らかだったからだ。
「(バレてないバレてない…。)」
バレてますよー。
- 301 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月05日(水)23時02分10秒
- 仕事終了後…。
カチカチカチとチェーンが刻む音と共に
壊れたペダルを籠に突っ込んで
自転車屋まで押して行く。
少し広めに作られた歩道は
いつもなら風を切って進むのに最適なのだが
如何せん自転車というのは乗り物であって
押すものではない。
途中、いつも渡る踏み切りに差し掛かった。
ここは電車の本数がそれほど多くなく
遮断機が下りるところに遭遇することは滅多に無いのだが、
こういう日に限ってそれにぶつかってしまう。
- 302 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月05日(水)23時02分51秒
- カンカンカンカンカンカンカン…。
そんな無機質な音が赤いランプが交互に点灯する中
鳴り響き、遥か遠くから電車がやってくるのがわかる。
「リカちゃん!!!」
「ハグゥ!!」
どうも神経が敏感になっているというか
聴覚がフル稼動しているというか、
全ての『リカ』という言葉に反応してしまう吉澤。
振り向けば、こっちに向かって駆けてくる子供を
親が呼び止めただけだった。
- 303 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月05日(水)23時03分23秒
- 「電車さんが来るから危ないわよー。」
「バブー。」
額に手を当て、なんとなく熱を測る素振りをしてみたが
全くの平熱。
しかし、今日は動悸がすることが多い。
「どうかしてるな…。」
しばらくして電車が走りすぎていった。
カンカンカンと鳴る音が止まり、
遮断機が上がる音がすると
連れてきた風が前髪をなびかせ、
滲んだ汗は心地よく冷えていった。
- 304 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月05日(水)23時03分57秒
- 線路を渡って少し歩くと
夫婦二人で営んでいる小さな自転車屋が目に入った。
閉店間際で何とか間に合ったのだ。
「すいませ〜ん!!」
気のよさそうな初老の男性が快く接客してくれた。
「あの、ペダル取れちゃったんです。」
「あ、そうかい。そこに置いてくんな、すぐやるから。」
「あ、はい、お願いします。」
店主らしき男性がまじまじと吉澤の自転車を見る。
すこし、吉澤の顔を見上げて、呆れた様子で言葉を吐いた。
「どうやったらこんな風に折れるんだか…。」
- 305 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月05日(水)23時04分38秒
- そういえば3週間前もここに来た。
そのときは新品の自転車を持って帰ったが
今日は壊れた自転車を持っていく。
店主のオジサンは訝しげな表情で
しばらくペダルの付け根に見入った。
「ちょっとこれ新しいペダルに変えなきゃダメだなぁ、いいかい?」
「あ、はい。」
「じゃあ、ちょっと弄るから店ん中で暇潰してくんな。」
そうして、店内をウロウロし始める吉澤。
そんな時。
「おお、リカちゃん!!」
「ハッ!!!」
- 306 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月05日(水)23時05分24秒
- 天井に吊るされた自転車を眺めていたところへ
やはりその名前が聞こえてきた。
ゆっくりとその声のするほうを見ると
小さな女の子が店主のオジサンに抱っこされている。
どうやら孫の名前のようだ。
「……もう…ヤバイ…。」
ノイローゼ気味であることは充分に自覚できたか、
吉澤はどうしようもなくションボリした表情になっていた。
そんな吉澤に店のおばさんが話し掛けてくる。
- 307 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月06日(木)23時05分49秒
- 「吉澤さんは、デパートでアルバイトしてるわよね?」
「え、ああ、はい。」
「あそこのデパートたまに孫と行くんだけど、がんばってね。」
「どうもっす。」
どうやらその『リカちゃん』は孫だったらしく
オジサンは抱っこしたまま店の奥に消えていってしまったが
代わりにオバサンが店に出てきていた。
「そうだったのかー!がんばれよー!色々とー!」
こちらの会話が聞こえていたのか
奥からオジサンも声を掛けてくれた。
が、
- 308 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月06日(木)23時06分25秒
- 「い、色々と…っすか…?」
「ああ、あの人、『色々』が口癖なのよ。うふふ。」
「はぁ…。」
「それと、この自転車、根元から付け替えなきゃ、お父ーさん、ペダル…」
「わかってらい、今もって来る。」
「じゃあ、暇つぶしつづけててね。」
「はい…お願いします。」
自転車屋を出ると、夜なのに未だ
蝉がミンミンと大声で鳴いていた。
うるさくてうるさくて堪らない。
もう、今日は早く寝よう。
そう思って暑い帰り道を、新しいペダルモリコギで急いだ。
ペダルが新しいと、何故か幾段漕ぐのにも力が入った。
- 309 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月06日(木)23時06分58秒
- そのころ、乙姫荘にて。
ベッドに二人。
片一方は素っ裸、もう一方はピンクのネグリジェとは
非常に風変わりな光景である。
しかも両方とも女。
今日は寄り道もせず、DVDも何も見るものがなかった二人は
石川の部屋でカップラーメソで食事を済まし、
なんだかんだで今に至っている。
無論二人が本来寝る時間より遥かに早い時刻だった。
仰向けになり、やはり天上を見つめながら吉澤について言葉を交わす。
- 310 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月06日(木)23時07分34秒
- 「やっぱよっすぃー働いてるねー、風俗で。」
「う〜ん…わたしは違うと思ってたんですけどね…。」
「得意技は何だろ?手○キとかフoラとか上手いのかな、やっぱ?
スマタとかタマゼメとか…ハァハァ…。」
興味津々でハァハァ状態の矢口に対して
石川は顔を真っ赤にして無視している。
シモネタまったくダメなウブでかわいい梨華ちゃんを
気取りたいとでも言うのか…。
いまさらそんな事わからないでもない年であるというのに。
「何照れてんのよ?オコチャマじゃあるまいし。」
「もうっ!やめてくださいっ!!」
- 311 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月06日(木)23時08分18秒
- 「ははーん。溜まってるんだ?
そうならそうって言ってくれれば、ヤグチがいつでも…痛っ!!」
スリッパで殴られた。
何処から持ってきた…?
しかし、その叩かれた衝撃で矢口の頭では…
電球ピンポーン。
「あっ、そうだ!よっすぃーの店に行こう!!」
「えっ!無茶ですよ!!」
突拍子も無い矢口のアイディアに
石川もそう言うしかない。
しかし、矢口はすでに行く気まんまんで
一旦脱ぎ捨てて床に転がる服を
再び着だした。
- 312 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月06日(木)23時08分49秒
- 「ちょっと、本当に行くんですかぁ!?」
「当たり前じゃん。お金は梨華ちゃんヨロシク。」
お金払うってことは…
石川の頭は逆方向にフル回転を始めて
また顔が赤くなった。
ブーーン
- 313 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月07日(金)23時00分33秒
- しげるのエンジン音が今日も調子良く聞こえてくる。
矢口の背中に抱きつく石川は
乗り気でも、またその反対でもなく
ただ火照った顔を冷やすので精一杯だった。
「よっすぃーって…」
「ん?何?」
「すごい…吸いそうですよね…。」
「は?」
「え!?い、いえ、何も言ってないですよっ!!!」
「…ああそう…。」
『この女、淫乱につき』
矢口は、少し引いた。
- 314 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月07日(金)23時01分16秒
- 店の場所は大体予想がついている。
なぜなら、あの因縁のゲイバーがある通りだからだ。
そこを通るときには
呼吸を止め、奴に会わないようにと願いながら
アクセルを全開にして疾走する。
「ここら辺ですよね?」
「ああ、ピンクのカーテンってくらいだから…あっ。」
名前の通り、ピンク一色の目を引く店がそびえていた。
しかし、石川の部屋を見慣れているだけに
それほど奇抜だと思えなかったのは
すでに脳内にピンク色が侵食しているからだろうか。
店の前にしげるを停めすこしネオンの看板を見上げた後
堂々と怪しい店の入り口に入っていく矢口と、
自分より小さい矢口の背中に隠れるようにしてついて行く石川。
受付に到着すると、店員が驚いた顔をしていた。
「リカちゃんお願いしまーす。」
- 315 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月07日(金)23時01分50秒
- 風俗嬢のメニューみたいなものに見向きもせず
抜け抜けとそう言い放った。
その声に反応したのか、店の人が驚いたような顔がさらに驚いた。
「お客様!女性の方は…。」
「えー?お金ならありますよー?」
後ろに隠れていた石川を目の前に連れ出して
自分はさらに店の奥に歩き出す。
それを静止するかのように店員は前を阻む。
すると、何事かとマネージャが現れた。
矢口と石川を見てニンマリするマネージャー。
金のなる木と思わんばかりの表情である。
事情を店員から耳打ちで聞くと、マネージャーは
矢口達の前に立った。
- 316 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月07日(金)23時02分38秒
- 「お客様!…ところで、ウチで働いてみないですか?
人気出ると思いますよ!」
物凄い勢いで振り向く矢口に
マネージャーは笑顔を振り撒いて勧誘を開始した。
「ヤグチが!?」
「ええ。ロリコンの方がたくさん来ると思いますが。」
「マジっすか!?」
「ちなみに、サービスがこれくらいで…一人当たり相手した時の給料が……。」
なにやら耳打ちされる矢口。
うんうん頷き、ハァハァ舌を出している。
その甘い言葉がよほど魅力に感じたようだ。
キター!!━━(〜^◇^〜)━━( 〜^◇^)━━━( 〜^)━━( )━━(^〜 )━━(◇^〜 )━━━(〜^◇^〜)━━
- 317 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月07日(金)23時03分26秒
- 遠くで石川が眉をひそめて首を横に振っている、
が、どうやら矢口の視界には入っていないのか、
無視しているのか。
金に目の無い矢口は
「ヤリマスヤリマス、ハァハァハァハァハァ…。」
パブロフの犬のように二つ返事でOKしてしまった。
そして、次の標的は…といった感じでマネージャーは石川を見た。
「そっちの彼女は?彼女もやってみない?」
「えっ、わたしは…いいですっ!!」
その場の空気に耐え切れずに逃げ出してしまった石川。
対照的にピョンピョン胸を飛び跳ねさせて店の奥に消えていった矢口。
「もうっ…矢口さんなんて知らないんだから…。」
そうして、タクシーを拾って帰った石川は
独りベッドで眠れぬ夜を過ごしている。
なんだかんだ言って
横に矢口が居ると居ないとでは
心情的に全然違うことに薄っすらと気づいた。
「矢口さんなんて…ぐすん。」
- 318 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月08日(土)23時03分46秒
- ピンポーン
などという穏やかな音ではなかった。
連打連打
愛のボタン連(略
夜中のアパートにうるさく響くインターホンで
なんとなく誰が来たのか想像できた。
近所迷惑だというのに。
少し呆れた感じでドアのチェーンロックを外す。
やはりドアをあけてみると…やっぱり矢口だった。
「梨華ちゃーん!!助けてー!!」
「どうしたんですかぁ!!涙と汗拭いてください!」
とにかく、体中の液体という液体を滲み出したまま
玄関口で矢口はへたり込んでしまった。
一旦石川はキッチンへ戻ると水の入ったコップを持って戻ってくる。
- 319 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月08日(土)23時04分27秒
- 「一先ず、水でも飲んで落ち着いてください。」
コクコク、と頷く矢口。
石川の差し出した水を一瞬で飲み干して
ようやく呼吸を落ち着かせると
少しずつ事の真相を話し始めた。
「オヤジが…オヤジが…」
「お父さんが、どうかしたんですか!?倒れられたとか!?」
ブンブンと首を横に振る矢口。
「違…う…オヤジが…キショイ…。」
「プッ!!」
その言葉に、思わず吹き出してしまった。
自業自得の矢口の姿なのに
なぜだか少しだけ可愛さを感じて微笑んだ。
- 320 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月08日(土)23時05分03秒
- 「そんなにキショかったんですかぁ〜。へぇ〜。」
「そうだよ!『ひとみちゃ〜ん』って…あ゛あ゛!!思い出しただけで鳥肌が…。」
「『ひとみちゃん』って…」
「そういう名前になったんだよ…。」
「プッ!!」
石川の中に眠る小悪魔が
何やら耳元で囁いている。
『これは使わない手はないだろ。』と。
石川本人よりも、さらに甲高い、
まるで石川がヘリウムを吸った声で。
- 321 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月08日(土)23時05分36秒
- 「矢口さん…もう、今日は寝ましょう。」
「うん…。心配した…?」
「ええ、とっても。でもちゃんと帰って来てくれたからいいですっ♪
いいからもう寝ましょ。明日早いですよ♪」
子供のような矢口に
優しく促してベッドに入った。
こんな矢口を見るのは石川も初めてで、
少しの戸惑いと少しの親近感を覚え
目を瞑った。
- 322 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月08日(土)23時06分08秒
- 結局矢口はあのまま店を辞めてきたらしい。
太陽が昇るとようやくいつもの矢口に戻ったのか
笑い話として石川に色々話し始めたが、
『絶対他言するな』と念を押して睨みつけることを忘れていなかった。
「わかってますよ♪」
でもやっぱり石川はワクワクしている様子。
打ち合わせで屋上の控え室に入るところでも
そうやって答えていた。
なにせ、バレたら気まずい以上に恥ずかしいのだから。
「頼むよー、リカちゃん。」
「ハッ!!」
「いや、よっすぃーじゃないって。」
- 323 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月08日(土)23時06分39秒
- どうやらまだビクビク病は治ってないようだ。
たまたま自分が知り合いの女性の名前を源氏名にしたおかげで
こうなったのだから自業自得である。
しかしながら、もう矢口は吉澤に対しそのことに
触れるつもりは全くない。
なぜなら、自分に火の粉が降りかかる可能性が
無いとは言い切れないから…。
そして薄々感づいていた。
明らかにさっきから石川がにやけているのに。
完全に矢口を弄ぼうとしている目だ。
いつも石川が着ぐるみを着た吉澤に飲み物を差し出す時の目。
悪戯ゴゴロに目覚めた小悪魔梨華ちゃんの目…。
「あ、そうそう。ヒトミちゃん♪」
「ゲッ!!」
「矢口さんじゃないですよ♪うふっ♪」
「ッ…。」
- 324 名前:第4話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月08日(土)23時07分13秒
- 石川コロヌ。
絶対コロヌ。
(○○○に○○○ぶっこんで○○○させてやる。)
などと握りこぶしを作りつつ、歯をギっとかみ締めて
引き攣った笑いを浮かべて沸々と煮えたぎる怒りを
必死に抑えるのに奔走していた。
過剰な反応は、それによってバラしているのと同じだということは
前日の吉澤の例を見れば一目瞭然だったから。
「んぁ〜…悪い夢みたいだよ〜…。」
- 325 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年06月08日(土)23時09分17秒
- 第4話終了です。
今回更新スピードを上げました。
第5話は1週間お休みを頂いた後開始予定です。
第5話開始前にまとめて返レスをしたいと思います。
- 326 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月15日(土)23時03分42秒
- まぁ、愉快だ。
非常に、愉快だ。
パチもんとは、いわゆる偽者の事である。
肖像権を無視した着ぐるみはこのミニモレンジャー。ショーには欠かせない存在である。
バルタン星人然り、スノーマン然り、そしてキン肉万太郎然り。
そして、日曜には我らがアソパソマソの登場である。
しかしただのアソパソマソではない。
何故か日に焼けたように、
というか、石川の肌のようにそのアソパソマソの顔は小麦色だ。
名づけて
『コゲアソパソマソ』
つまり、こげぱん+アンパンマンらしい。
これを作ったパチ物職人は恐らく適当に作ったに違いない。
売り込みの際はこげぱん+アンパンマンのパチ物ということで
売り込んできたのだが…
買ってみればアンパンマンが黒いだけ…。
まぁ、保田が騙されただけなのだが。
そんなのが日曜の吉澤の着ぐるみだ。
- 327 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月15日(土)23時04分14秒
- 夜のステージも照明に虫が集る中
戦い続けるミニモレンジャーとコゲアソパソンマソ………。
「リーダーッ、このアンパンマン正義じゃないのれすっ。」
「ホンマやっ、黒いで、こいつっ。」
「この色、まさにチャーミーおねぇさんと同じ色だなっ、相当の悪だぞっ。」
その言葉に石川はステージの端でいじけていた。
アドリブが多いこのショー、言うなれば公開毒吐きといったところか。
ひねくれた愛情表現と矢口は自称しているが…。
「やぐっちゃ〜んパ〜ンチ!!」
いつものように、パンチを繰り出す矢口。
これを交わして、カウンターを放つコゲアソパソマソ。
それを喰らって、一言。
「苦ッ!!!」
どうやらコゲアソパソマソのパンチは苦いようである。
- 328 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月15日(土)23時05分00秒
- いつもこのショーは先ほど挙げたようにアドリブばかりである。
それが同じ曜日のショーであっても多少の異なりが発生して
観客にはアレンジだといいように思われるときもある。
アドリブばかりなのは、セリフ忘れのほかに、
アクシデントによるものもあるわけであって…今日もアクシデントが発生をしたわけで…。
「アイボーンパ〜ンチ!!」
これがコゲアソパソマソにヒット。
ここまでは台本通り。
- 329 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月15日(土)23時05分50秒
- ゴキッ。
「「「!!!!」」」
ミニモレンジャー絶句。
アイボーンの放ったパンチは、
骨の鈍い音とともにコゲアソパソマソの顔を
いや、頭を180度回してしまった。
それと同時にコゲアソパソマソは倒れた。
3人には、コゲアソパソマソの頭が回ったのと同時に
吉澤の首も180度回ってしまったんじゃないかという考えが頭をよぎった。
しかし、そんな最悪な考えはすぐに消えた。
コゲアソパソマソが起き上がったのだ。
ふらふらと立ち上がると、前が見えないことがわかったのか
顔をまわそうとしている。
弱り目に祟り目。
困った時に追い討ちをかける様にさらに困った事態というものは起こる。
- 330 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月15日(土)23時06分31秒
- 「「「!!!!!」」」
ステージ上からコゲアソパソマソはふらふらしながら落ちた。
あわててミニモレンジャーとおねぇさんはステージを降りて駆け寄る。
4人に起こされるコゲアソパソマソ。
どうやら意識もあるようで、立ち上がった。
チャーミーおねぇさんは、頭の位置を元に戻す。
「きゃぁ〜♪ミニモレンジャー。とコゲアソパソマソがステージ下で対決よぉ〜♪」
多少石川はアドリブがうまくなった。
なぜなら、今日はインカム搭載チャーミー石川。
相変わらず棒読みなのだが…。
不自然とは自然な状態と比べておかしい物があること。
ミニモレンジャーはファイティングポーズをとるコゲアソパソマソと
戦闘の間合いを計って対峙している。
が…ミニモレンジャーにもチャーミー石川にもコゲアソパソマソに不自然を感じた。
- 331 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月16日(日)23時05分55秒
- 吉澤は気付いていなかった。
自分の右手首から先がプランプランしていることに…。
折れたか…?外れたか…?
とにかくプランプランしている…。
石川が慌ててコゲアソパソマソに近づきそっと耳打ちをした。
「ヨッスィー…右手首…おかしいよ…大丈夫…?」
狭い視界で自分の手首を見た…。
痛みとは自覚した時から全身に広がるという…。
例外なく、吉澤も自覚した瞬間に…
「いってぇ〜〜〜〜〜!!!!!!」
手首を押さえながら会場を去っていった。
夜のステージとあって、酔っ払いは爆笑していた。
- 332 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月16日(日)23時06分51秒
- 「リーダー!!コゲアソパソマソが逃げていったのれすっ!!」
「リーダー!!地球の平和を守ったでぇ〜!!」
「よし、今日も一件落着だっ!!地球の平和を守る、それが私達…」
「「「150cm以下戦隊ミニモレンジャー!!カッカッ。」」」
- 333 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月16日(日)23時07分28秒
- ショー終了後、楽屋ではこんな光景が見られた。
「大丈夫?ヨッスィ〜?」
「うん、大丈夫。こんなの、外れただけみたいだから。」
心配する石川に、そう言って、
吉澤は右手首を掴んで、ゴキッ!!という音とともに
外れていた右手首先をつなぎ合わせた。
非常になれた手つきなのが怖いが・・・。
続けて、繋がったばっかりの右手で、自分の首を掴んで
ゴキゴキ鳴らしている。
いつしか、吉澤には整体師もびっくりな骨接ぎ技術が
兼ね備わっていた。
そんな楽屋に、ミニモレンジャー。ショースタッフ以外の人物達がやってきた。
「あれ?平家さんに、安倍さんに飯田さんじゃないですかぁ〜♪どうしたんですかぁ〜♪」
「圭ちゃんに呼ばれてん。なぁ?」
この平家の振りに、うんうんと頷く飯田と安倍。
そこに、照明整備の終わった保田が戻ってきた。
- 334 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月16日(日)23時08分43秒
- 「あ、来たね、御三人さん。」
「で、なんやねん?うちら呼んで。」
「まぁ、みんな聞いて欲しいんだけど、明日、辻と加護が登校日なわけよ。」
「で?何で三人が呼ばれたの?もしかして…代打?」
「そうっ!!でもね、いつも見ているだけだし実際やってみないとわかんないって事もあるから。まぁ、後藤とアタシと、その三人でくじ引きして辻、加護、音声、照明の担当決めようとおもってね。」
「はぁ?聞いてないっしょー。そんな事ー。」
安倍の反応は最もである。
しかし、保田はこう切り返した。
- 335 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月16日(日)23時09分32秒
- 「どうせ、客なんて来ないでしょーが。」
「「「!!!!!!!」」」
相当図星だったようで、黙ってしまう三人。
その三人の中でその後すぐに口を開いたのは平家だった。
「せやけどなぁ、ショーも客いーへんのとちゃうか?」
「!!!!!!!」
相当図星だったようで、黙ってしまう保田。
しかし、少し間をおいて切り返した。
「これはあたしの権限、文句ある!?」
「メッチャあるっしょー。冗談じゃないべさー。なんでショーのマネージャーなんかに
決められなくちゃいけないべさっ!!うちらはクレープ屋っしょ!!」
「ふふふ、知らないんだねー。よろしい、見せてあげよう!!」
ニヤニヤした保田は、スーツの懐からA4サイズの紙を取り出し
三人に見せ付けた。
- 336 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月16日(日)23時10分06秒
- 「今日付けで、屋上フロア総マネージャーに就任よっ!!文句あるっ!?」
「「「「「「「「( ´_ゝ`)フーン」」」」」」」」
「なによっ!!その反応っ!!とにかくくじ引きよっ!!」
保田はそう言うと、ペン立てのような筒型のものに割り箸が何本か
入ったものをカバンの中から取り出した。
なんとも実に用意がいい。
一本一本取り出して見せ、端先にはサインペンで役割が書き込まれていた。
『アイボーン』『ののたん』『照明』『音響』『無し』
「この無しってのは休みってわけじゃないわよっ、クレープ屋かラーメン屋をやってもらうわっ!!」
「「「ええぇ〜〜。」」」
- 337 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月17日(月)07時53分59秒
- ここの矢口さん結構好きです。
最初はオヤジっと思ったのですが、慣れてくると
なんだか自分の感情に正直でどこか憎めないんですよね。
そして振り回されるりかっちが面白い。
続きを楽しみにしてます。
- 338 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月18日(火)00時05分20秒
- 「ええ〜っじゃないっ!!ほら引けっ!!引くのよっ!!」
半ば強引に4人にくじを引かせる。
最初に引いたのは安倍。
「音響か照明かクレープ屋…頼むっしょっ!!」
出たのは…『照明』
「っしゃー!!回避だべ回避だべー。おかぁ〜ちゃ〜ん、やったべさー。」
一番身長の小さい安倍がミニモレンジャー的に適任であるはずだったが…。
結果は照明という事で、一先ず安堵する安倍。
続いて引いたのは、飯田であった。
「残りはクレープ屋か、音響だね…よしっ、これだっ!!」
- 339 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月18日(火)00時06分29秒
- スッ。
でたのは…『アイボーン』
「うわあああ、ムリ圭織でっかいし、ムリだよ、ねぇ、ムリ。」
そう言っても後の祭り、引いてしまったのだからと
しょうがない様子で肩を落とした。
「んぁ〜、次は後藤だねー。」
後藤は無表情ですっと引く。
出たのは…『音響』
「まぁ、いつも通りじゃん。」
余裕ありすぎ…。
最後に平家と保田。
二本の棒を見つめ対峙。
- 340 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月18日(火)00時07分40秒
- 「ラーメン屋か、ミニモレンジャー。か…。神さんウチに力を〜。」
「あたしはどっちでもいいけどね、クレープ屋の制服も…ミニモレンジャー。も…。」
保田はそう言って胸あたりに手を組んで祈祷…。
ほかの面々には保田のおぞましい姿が…。
想像するだけでガクガク(((;゚д゚)))ブルブル。
二人は同時に1本づつ掴んで掛け声と同時に引いた。
「「せーのっ!!」」
- 341 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月18日(火)00時08分34秒
- 「よっしゃー!!ウチはやっぱラーメン屋やなぁ〜。」
って事は…?
不気味な微笑を浮かべる保田。
「ののたんでぇ〜っす♪キャハッ。」
「「「「「「「「「ウェ〜〜〜ッ!!!!!」」」」」」」」」
「なによっ!!そのウエ〜って!!」
「あーだめ、ヤグチ明日休む。風邪引いちゃった。」
「後藤明日起きられなーい。休むー。」
「石川便秘で…休みます。」
「吉澤も休みますよー、実家帰らなきゃー。」
そう言って、ミニモレンジャースタッフ全員が立ち上がりかえろうとする。
- 342 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月18日(火)00時09分25秒
- 「ええっ!!ちょ、ちょっとぉ〜。なによー、そんなにあたしの可愛さを嫉妬する事ないでしょー?」
「「「「「「「「「「(゚д゚)ハァ!?」」」」」」」」」
「な、なによっ!!わかったわよっ!!休めるように社長にインターホンで相談するわよっ!!」
少しムスッとしたようすで、インターホンを手にとって
社長室回線番号を押す。
「もしもし、保田ですが、あのー明日ですねーミニモレンジャーの主役二人が登校日でして…。」
「はい、はい、そうなんですよー。で、明日休みに出来ないかなぁ…と…本当ですか!?」
「ありがとうござます。失礼します。」
フックに受話器を置くとフゥとため息をついて一言。
- 343 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月18日(火)00時10分14秒
- 「明日休みよっ!!ただし、ラーメン屋とクレープ屋は通常経営をする事!ビアガーデンの準備も
あんたらだけでしてよっ!!」
「なんでやねん!!」
「なんでだべさー!!」
「圭織たちも休みっしょー!!」
「だめっ!!やるのよっ!!」
「「「うへぇ〜…。」」」
何でおまえらだけ休みなんだよ…というという恨めしい目をする三人。
そんな事をお構い無しに保田は「解散!!」といって去っていった。
「「「「「「おつかれっしたー。」」」」」」
- 344 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月18日(火)23時06分43秒
- ミニモレンジャー。ショースタッフも続々と軽い足取りで去っていく。
控え室にはどんよりした空気を持ったラーメン屋とクレープ屋が
いつまでも納得できないまま居座っていた…。
いつものようにスタッフ面々は非常階段を降りると
下ではクラウンを噴かしている保田がいた。
「あれ?どうしたのー?圭ちゃん。」
パワーウインドウを下げて一言。
- 345 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月18日(火)23時07分17秒
- 「明日みんなでどこかいくわよっ!!」
「え…?ゲイバーはヤだよ、矢口。」
「そんなの辻加護連れて行けないでしょうがっ!!」
「あ、そっか。」
当の辻と加護は互いに顔を見合わせて、
未経験の『ゲイバー』を想像して笑っている。
「今考えたら、何処に行くか悩んじゃうわね。矢口っ!!あんた今日中に考えて
みんなに連絡しなさいっ!!」
「えぇ〜…今月携帯代やばいんだよー。」
「石川の使えばいいでしょっ!!あんたヒモなんだからっ!!」
「あ、そっか。キャハハハ♪」
いとも簡単に納得できるほど
矢口のヒモっぷりは有名である。
- 346 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月18日(火)23時07分51秒
- 「……ぐすん。」
「ってことで、みんな明日一緒にどこか行くわよっ!!いいわねっ!!」
「「「「「「はぁ〜い。」」」」」」
その返事を聞くと、保田はパッシングしてクラウンで去っていった。
「強引やなぁ〜…保田さん。」
「そうれすよねー。」
「矢口さーん、矢口さんって私のヒモなんですかー?」
「え?気付かなかったの?キャハハハ。」
すでに開き直って、何ら気にする様子はない。
むしろ『ヒモ』という肩書きを誇りに思っているかのように。
「えぇ〜…ぐすん。嬉しいのか悲しいのか石川わかんないですよー…。」
- 347 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月18日(火)23時09分05秒
- こんなんだから、矢口にどんどん付けこまれるのだが、
まぁしょうがないと言えばしょうがない。
なんせ、それほどまでに矢口が石川に施した魔術は完璧なのだから。
「んぁ〜、明日何時に学校おわんのー?」
「えっとれすねー。大体昼位かと思ったれすよ。ね、あいしゃん。」
「まぁ、登校日なんてそんなもんやて。」
もう今から、加護はやる気なさげな表情でそう答えた。
「あれ?ヨッスィーは…?」
「あれ?さっきまでいたんれすが…?」
あたりを5人で見渡すと、吉澤急いでいたのか
モリコギで挨拶ナシではるか前方を走っていた。
矢口はニヤリと笑みを浮かべ、ヨッスィーに向かって叫んだ。
- 348 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月18日(火)23時09分55秒
- 「がんばれよー!!!ピンクのカーテンナンバーワン!!」
その瞬間、聞こえたのか、はるか前方でペダルを踏み外し、吉澤はコケた。
その姿はまるで、一昔前のアニメのように
非常に分かりやすかった。
「なんれすか…?ピンクのカーテンって…。」
「ああ、いいのいいの。ククククッ。」
一週間経っても矢口はまだ吉澤を時折からかっているようだ。
自分が『そのこと』でからかわれると激怒するのだが、
本当に都合がいい。
「さて、ウチらもう明日学校あるさかいな。帰るわ。」
「あいしゃん、ののの宿題写す時間なくなっちゃうれす、早く帰るれすよ。」
「ほな、さよなら。」
- 349 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月18日(火)23時10分51秒
- 辻は学業優秀。
そんな風には全然見えないのだが、テストではいつも上位に顔を出すのだ。
一方の加護は、まぁ…勉強する気などサラサラないので
辻と比べるのはあまり意味がない。
二人はいつものように自転車2ケツで仲良く帰っていった。
「んぁ〜、後藤もかえろー、居酒屋の手伝いあるしー。」
「んじゃーね、ごっちん。」
「バイバーイ、ごっちん。」
後藤は歩きでその場を去っていった。
- 350 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月19日(水)23時03分16秒
- 「ごっちんなんでいつも歩きなんですかねー?」
「さぁ?自転車乗れないんじゃない…?」
「ま、まさか〜。」
少し動揺した石川。
過去にスカートの裾がチェーンに絡まって
ビリビリに破れて以来、自転車に乗れなくなったというのは
誰にも言ってない秘密である。
「ウチらも帰ろう。」
「はいっ。」
- 351 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月19日(水)23時03分54秒
- そして寄ったのは、いつもの銭湯。
湯船に浸かってオヤジの様な声を吐くのは
矢口の癖である。
「明日どうするか、考えあるんですかー?矢口さーん。」
「え〜、特にないよー。辻加護終わるの昼でしょー?なにしよっかなぁ…。」
風呂の中の曇った空気に二人のアニメ声が響く。
が、石川のおかげで矢口の声が普通の声に聞こえるのは得だ。
「そういえば、辻ちゃんに聞いたんですけどー。私達よく大学の方の学食行きますよねー?」
「うん、いくね。」
「付属高校の方の学食のほうが遥かに美味しいらしいですよ。」
「マジでっ!?」
- 352 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月19日(水)23時04分39秒
- 普段いい物を食べてない矢口にとって
大学の学食は頬が落ちるほど美味かった。
「ええ、値段は高校生相手だから若干安いし、味は大学なんか相手にならないそうですよ。」
「よしっ!!きめたっ!!」
「???何をですか?」
「くくくくっ。明日みんなで辻加護を迎えに行くっ。」
「えっ、まさか学食食べに行く気じゃ…?」
「ピンポーン。」
- 353 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月19日(水)23時05分17秒
- 「でも、私達付属高校の生徒じゃないですよー。ムリですよー。」
「そこら辺は大丈夫だよ。考えがある。」
「考え…?」
もう脳内では美味い物を食べて頬は全て溶け、
顔の皮膚は全部ドロドロで、脳みそバーンで、
眉毛ボーンで、北海道はデッカイドーな想像が膨らんでいる。
そのためには、何としてでも作戦を成功させなければ…。
矢口は不気味に微笑んで、とっとと風呂を上がってしまった。
「ちょ、待ってくださいよー矢口さぁ〜ん。」
- 354 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月19日(水)23時05分50秒
- 思い立ったら吉日…ではないが
矢口は思い立ったらすぐ行動する人間である。
いつもはやる気がなく、思い立つ事が早々ない。
しかし思い立てばすぐに行動するのである。
吉澤の風俗店へ乗り込んだのもいい例であるが、
「あ、矢口さんっ!!石川の携帯勝手に使わないでくださいよー。」
素っ裸のまんまで携帯を耳にあて、口の前に人差し指を立てて
持ち主に合図すると、しっかりそれに従って黙ってしまう石川。
「あ、ヨッスィー?お仕事中ごめんねぇ。ちゃんと抜いてるかぁ〜い?」
- 355 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月19日(水)23時06分27秒
- 『な、なに言ってるんですかっ矢口さんっ。』
「あのさー、ちょいと頼まれ事してくれるかなぁ〜。」
『ええっ!?で、できる事であればいいっすけど…。』
矢口はニヤリと口角を上げた。
そのときその表情を見た石川は
(あの顔だ…いつもの矢口さんの悪巧みの顔だ…。)
と思った。
「あのねー松浦工業大付属の女子制服4着用意して。」
『ハァッ!?』
- 356 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月20日(木)23時03分53秒
- 当然の反応にも、顔色一つ変えることなく話を進めていく矢口には
何かが宿っているかのようだった。
「明日、昼に松浦工大付属に制服着込んで侵入して辻加護迎えに行くから。」
『ハァッ!?ど、どういうことですか?』
「矢口と梨華ちゃんと圭ちゃんとヨッスィーの分制服用意してよ。
ごっちんはあそこ中退したから制服もってるだろうし。」
『えっ、ムリっすよ!!なんであたしにそんな…。』
「え?ピンクのカーテンにはあったよねー、松浦工業大付属の制服。
あそこの制服カワイイもんねぇ〜。じゃあ、頼んだよ。」
『え、ムリですって。』
「大丈夫だよー、No1のリカちゃんなら♪」
『ハウッッ!!』
「じゃあ、明日、11時に梨華ちゃんの家に持ってきてねー。サイズも確認する事。以上。バイバーイ。」
『ちょ、ちょ矢』
- 357 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月20日(木)23時04分48秒
- プツッ。
矢口の攻撃は完璧だ。
Miss.パーフェクトと呼んでも過言ではない。
その一連の作戦の遂行具合はには様式美すら感じる。
ただ…今のところは、であるが。
「ヨーシ、準備完了。さすが矢口。あったまイイ〜」
そんな様子に石川はオイオイと言う表情で
お手上げジェスチャーをしていた。
「けへっ♪おばぁちゃん!!リンゴジュースと牛乳!!」
そして、この後コンビニに行って、夕食を買って、
石川の部屋に行ってDVDを見て大泣き。
それで、二人はベットイン。
- 358 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月20日(木)23時05分55秒
- 天井を見上げる二人。
一方は裸で一方はネグリジェ。
一見H済みかと思いきや、そうでもない。
「矢口さ〜ん。」
「ん〜?」
「あのー、明日学校行った後、何処行く予定なんですかー?」
「あ…。」
「あ…???」
「決めてなかった。」
「えぇっ!?みんなに聞かれなかったんですかー?携帯で電話してた時にー。」
「あー、ココに11時に集合って言っただけだし。」
(詰め甘いなぁ…。)
- 359 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月20日(木)23時06分42秒
- 「どうするんですか?」
「え?なんでもいいんじゃない?明日になったら決めるよー。
あ、携帯貸して?」
「何でですか?」
「ごっちんに連絡するの忘れてた。」
「そんないいかげんなぁ〜。」
そう言ってまだ石川の承諾を得る前に勝手に奪い取って
後藤に電話をかける。
ワンコール、ツーコール……
……
トゥエンティコール、トゥエンティーワンコール…
かけている矢口も危うく寝てしまおうかというころになって
ようやく繋がった。
- 360 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月20日(木)23時07分35秒
- 『……ん……ぁ…。』
「…寝てたでしょ?」
『…ん…ぁ……寝てた…。』
やっぱり。
というか明らかに『無理やり起こされました』
という感じのテンションでいつもよりも更に言葉数は少ない。
「あのさ、明日11時に付属の制服持参で集合ね。おやすみー。」
ピッ
相手のペースなんてあったもんじゃない。
用件を伝えれば終わり、というのは
電話代を少なく抑えるために勝手に身に付いた、
言わば貧乏人の性である。
「ふぁ〜〜〜っふしゅっ、もう眠い…。」
「もうっ…。」
クジラの潮吹きみたいなアクビをすると
一瞬だけ矢口の動きが止まった。
もちろん、それは石川には分からないほどのものだったが。
「イタッ!!!イタタタタっ!!なんか目に入ったぁ〜〜っ!!!!」
- 361 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月21日(金)23時02分11秒
- いきなり矢口はそう叫び目のあたりを必死に擦っている。
「ど、どうしたんですか…?ちょ、ちょっと見せてくださいっ。」
石川が矢口の顔を覗き込むと、矢口は石川と目を合わせ
ニカッとすると、石川の顔を掴んで
「んっ…。」
口づけをした。
「えへっ、うっそぴょーん。おやすみー梨華ちゃん。」
ボッと赤くなる石川。
そんな石川をよそに矢口はのび太の如く3秒で寝てしまった。
「もうっ、矢口さんずるいよっ…眠れなくなっちゃったよっ…。」
欲求不満な石川の夜は今日も過ぎてゆく。
- 362 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月21日(金)23時02分49秒
- 10:40
いち早く石川の部屋に現れたのは吉澤だった。
背中に五着の制服を担いで、モリコギで来たのか
フゥフゥ肩で息をしていた。
ピンポーン。
「……。」
「あれ…??」
返事がない、ただのしかば(略
居ないのか…?
中からは、声どころか物音一つしない。
「おっかしいなぁ…。」
ピンポーンピンポーンピンポーン…
- 363 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月21日(金)23時03分54秒
- 30回近く鳴らしただろうか。
やっと動きがあった。
のぞき穴を大きな眼で外から見つめていると、
穴の向こうが暗くなったのを察知した。
ガンッ!!!
察知するのが遅すぎた。
「痛っっっ…、お、おはよう、梨華ちゃん、寝起き?」
額を押さえながら石川を見ると、ネグリジェ姿で非常に眠そうに目を擦って欠伸をしている。
「うん…。昨日眠れなくてね…。」
「へぇ〜…、一番乗りみたいだね。」
アパートの外に誰の自転車も車もなかったために
そう思ったのだろうが、
乗り物に乗らなくても徒歩20秒で到着できる人物が一人居ることを忘れていた。
- 364 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月21日(金)23時04分45秒
- 「う〜ん…2番乗りかな。」
「もう誰か来てるの…?」
ふと、玄関を見ると一際ちっちゃな靴が脱ぎ捨てられていた。
「矢口さんが来てんだ?」
その吉澤の質問に、石川はコクっと頷くと、歯ブラシを頬張ってブラッシング。
「上がっていい?」
コクリ
「おじゃましまーす。」
- 365 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月21日(金)23時05分25秒
- 上がってみて絶句した。
ベッドにはちっちゃな裸体。
しかも掛け布団をかけていないから
あれからこれまですべてが丸見え。
(えぇ〜〜〜!??????)
強打した額の他に、膨らんだ頬も微妙に赤みを帯びて、クーラーが効いた部屋にも関わらず、額にはなんだか嫌な汗が滲み出た。
(確かにヒモしてるとは聞いたけど…、ここまでしてるって…本物だ…。)
思わず口に出た言葉が。
「カッケー…。」
やっぱりそれかよ。
- 366 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月21日(金)23時06分05秒
- 吉澤の頭の中に方程式が出来ていた。
まずは、眠れなかったという石川梨華さんの発言より
眠れなかった=二人で深夜遅くまでHな大乱戦 …@
思わず口を押さえて、まじまじとこの現状を見渡すと、
ゴミ箱にはティッシュの山ではないか。
ここから導き出された式をAとすると
ティッシュの山=Hをいっぱいした跡 …A
現状的にそう受け取るのが早いのだろうが。
- 367 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月22日(土)23時04分59秒
- 実際には@式A式は全くをもって不正解で実際は
眠れなかった=欲求不満で寝られなかった …@´
ティッシュの山=DVD見ておお泣きして鼻をかんだり涙拭ったりした跡 …A´
が正解だった。
吉澤ひとみさん、単位未修得です。
そんな現状から想像できるHな妄想を頭で巡らしていた時
目の前の裸体が眠りから覚めた。
「ん…ふぁ〜〜……ん?あ、ヨッスィーおはよう。今何時?」
「あ、お、おは、おはようございます。え、えっち、いや、えっと、11時10分前で…す。」
「???…ありがと、寝すぎちゃったな。梨華ちゃ〜ん。」
「なぁひぃ〜、やぐひは〜ん。」
「喉乾いた。なんか飲み物ある?」
- 368 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月22日(土)23時05分39秒
- その言葉に、冷蔵庫を足で開く石川。
中をちょっと見て、また閉める。
「えっほー、リホビタンD(ヘー)ならありまふよー。」
「あ、じゃあちょうだい。」
この会話にも吉澤の妄想方程式が出来上がる。
リポビタンD=今夜もがんばろうね♪
なるほど。
これがかの有名な『リポビタンの定理』である。
オイオイ…。
石川からリポビタンDを受け取ると、CM並にキュルリンと
栓を跳ね飛ばし一気に胃に流し込む矢口。
「ういー。汗をかいた後はこれだよねー。」
(汗をかいた後!?ね、寝起きじゃないっ!?)
またよからぬ方程式が…。
まぁ、そんな悶々とした妄想をめぐらしている吉澤は
放っておくとして、この後続々と面々が集まってくる。
- 369 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月22日(土)23時06分11秒
- 保田もやってきたとき裸の矢口とネグリジェの石川に驚いた。
しかし、最後にやってきた後藤は別に〜っと言った感じで
さほど驚いてなかったが。
そして、今日どうするのかというスケジュールが矢口から説明された。
「ってわけでー、今日はヨッスィーとごっちんに制服を用意してもらったわけよー。」
「ねぇ、やぐっつあん。」
「何?ごっちん。」
そう話し掛ける後藤の目線は矢口の目よりももっと下に向かっている。
「どうでもいいけど、服着たら?股開いたまんまだと視界に入ってくるよ。」
「え、アハッ。裸が一番だよ。アハハハ。」
さすがに4人の視線が集まって恥ずかしくなってパンツを履いた。
- 370 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月22日(土)23時06分48秒
- 「ねぇ、あたしも制服着るわけ?」
「え?もちろん圭ちゃんもだよ。」
「( `.∀´)ヤター!」
「「「ウエ〜〜〜ッ!!!」」」
「なによっ!!あんたらっ!!」
その場にいる誰もが、制服だけでなくエチケット袋も用意しなければならないかと思ったその時、
矢口の口から思いもよらぬ言葉が!!(ガチ○コ風)
「まぁまぁ、圭ちゃんだって、かわいいよ。」
ただし、そう言う顔には不敵な笑みを浮かべていたが…。
- 371 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月23日(日)23時02分47秒
- そして一先ず、全員その場で制服に着替えてみる事に。
さすが12畳の石川の部屋。
女5人が同時に着替えても余裕がある。
こう言った時に非常に便利な部屋である。
いざ着替えてみると、一番ハッスルしているのは
やはり保田だった。
「ケメぴょんでぇっす♪」
すっごい目パチくりさせてるよ…。
「「「ウエェ〜〜〜ッッ!!!」」」
やはりここでも石川、後藤、吉澤は予定通りの反応である。
昼食は学食ではなく、『もんじゃ焼き』になりそうな状況でも、
矢口は何故か保田を温かい目で見ている。
しかし、その瞳は死んだ魚のように濁っている…。
- 372 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月23日(日)23時03分33秒
- 「すっごいかわいいよ、圭ちゃん、OKOK。」
「あら、まだいけるかしらっ!?ありがとう矢口!!矢口も全然通るわよっ!!コギャル。」
(当たり前だよ…高校卒業したの1年4ヶ月前だよ、圭ちゃんに比べたら近いほうだよ。)
少し引き攣った笑みを浮かべて
「圭ちゃんすごいね…4年4ヶ月過ぎてもコギャル通用しちゃうんだもんね。」
明らかに度を越えた矢口のお世辞である。
それは周りから見ても明らかだが、ちっともそんな事に気付かない保田。
鏡を見てスカートをぴらぴらさせてポーズをとっている。
一番恐ろしい人物は、この保田かもしれない。
- 373 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月23日(日)23時04分16秒
- まぁこうやって並んでみると、それなりに様になっている。
女子高生達だといえば全然見えなくもない。
考えてみれば、矢口、石川はタメであり、
1年4ヶ月前まで高校生だったわけである。
さらに吉澤は4ヶ月前まで高校生であったわけで。
まぁ、そこから見ても全体を見渡して違和感は特に…
…1人いた…。
しかしそれが…
「うーし、近くまで圭ちゃんのクラウンで行くぞー。がんばってーいきまっ」
「「「「「っしょい!!!!!」」」」」
矢口の策略だった…。
- 374 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月23日(日)23時05分01秒
- 「…っと、はい!やってまいりましたー!!松浦工業大学付属高等学校校門でっす!!」
バスガイドのようなアクションを取る矢口。
いかにも私立高校丸出しの校門の前に立つ5人は
ごくっと唾を飲んで、歩みを進めた。
校門には守衛が待ち受けている。
「「「「「おはようございまーす。」」」」」
とびっきりの笑顔と挨拶で通過しようと試みる5人。
このとき、遂に矢口の作戦が発動した。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
やはり呼び止められた。
このとき、呼び止められたのはやはり保田。
「あんた本当に高校生!?ちょっと、来てもらえるかな?」
肩をつかまれる保田。
「逃げろー!!!!」
矢口の号令に、逃げ出す4人のスプリンター達。
「えっ!?ちょ、ちょっ!!みんななんで逃げるのよー!!助けなさいよー!!!」
作戦成功。
- 375 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月23日(日)23時05分32秒
- 保田当て馬作戦。
保田に女子高生の格好をさせて、校門に待ち構える守衛の
目をひきつけて、後の4人は逃げる事。
保田が叫びながら守衛室に連れ込まれる中
矢口はニヤリと笑った。
ミニモレンジャースタッフin松浦工業大付属高等学校。
やっと校内へと入ると、肩で息をする4人。
「はぁっ、はぁっ、矢口さん、もしかして保田さんを褒めちぎってたのは、こういうことですか…?」
「クククッ、察しがいいねぇ、梨華ちゃんは〜。」
「でも、大丈夫っすかね?保田さん。」
「大丈夫だよ、圭ちゃん超必殺技があるから。」
- 376 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月23日(日)23時06分12秒
- 「「「超必殺技…?」」」
「あ、ごっちん、大丈夫?高校辞めたのに制服着てきちゃって…?」
「んぁ〜、大丈夫かなぁ〜、あんまりまともに高校通ってなかったし…。」
「さて、ココの美味しいといわれる学食は何処かな…?」
「んぁ〜、後藤知ってるよ。」
それはそうだ。
後藤はここを1年少々、サボりながらも通っていたのだから。
その後藤を先頭にして学食へと向かう。
生徒が行き交う煉瓦道を
石川はビクビクしながら肩を縮めて歩いていた。
ドカッ。
「い、痛いですよー矢口さーん。」
「もっと堂々としろよっ。逆にあやしいだろっ、
どうせ高校なんてしらねー奴のほうがおおいんだからっ。」
生徒とすれ違うたび、挙動不審になっている石川のわき腹に
矢口の肘が入る。
「そうですけど…、なんか罪悪感が…。」
石川お得意のネガティブが発動。
あきれ果てたアクションを取る矢口。
- 377 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月24日(月)23時12分40秒
- そんな時、前から教師らしい人物がやってくる。
坊ちゃん刈り。
いかにも弱々しい感じの男だが…。
すれ違う生徒達には前方のほうで「まこっちゃん、まこっちゃん。」呼ばれている。
その教師と目が合う矢口。
すると、やはり…
「ちょっと、君ら…ここの生徒…?」
「えっ!?なに言ってるんですかー。アハハハ。」
ごまかし笑いで対応する矢口。
その教師は『風紀委員』なるファイルを抱えていた。
風紀委員顧問か…。
嫌な汗が背中を流れる…。
- 378 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月24日(月)23時13分22秒
- 「何年何組か言ってみなさい。」
(ヴッ…。)
「みんな逃げるぞー!!」
「あ、コラ!まてっ!!!」
計算違いだった。
守衛を抜ければ、こっちのもんだと思ったが…
風紀委員顧問に出くわすとは…。
逃げる4人に追いかける一人。
すれ違う高校生には滑稽に見えたことだろう。
(ダメだ…、追いつかれる…。)
そう諦めがふと過ぎった時、救いの女神が矢口達の前に現れた。
- 379 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月24日(月)23時14分26秒
- 「あらっ♪矢口さんっ♪皆さんどうしたんですかぁ〜♪」
「あやちゃーん♪助けてぇ〜♪」
そう、矢口に見えた女神とは松浦亜弥その人だった。
すぐさま矢口は松浦を盾にしてその後ろに隠れた。
そっと耳打ちをする矢口。
「なんか、変な教師が追っかけてくるのっ、適当に追っ払ってよっ。」
そう聞くとニコッとして
「はぁ〜い♪わかりましたぁ〜♪」
- 380 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月24日(月)23時15分17秒
- 矢口のほか3人もさらに後ろに隠れる。
そこに、まこっちゃんが出現。
「あら、まこと先生どうしたんですかぁ〜。」
「あ、いや、その、そこの女の子達に用があるんだけども…まぁ、いいや。また後にするから。」
そう言って、まこっちゃんは苦笑いをしながら去っていった。
「スゴイネー、あやちゃぁ〜ん♪ありがとおぉ〜♪」
ときめく女の子の仕草で、松浦似御礼をいう矢口。
「いえいえ♪私、生徒会長ですし♪」
大学の創設者の孫で高等部の生徒会長。
そんな気品が漂う彼女に、嫉妬心爆裂で毒を吐く石川。
「へっ…。そんな権力があるのは校内だけですけどねぇ〜。」
- 381 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月24日(月)23時16分02秒
- 「なに?梨華ちゃん?」
「いえ、なんでもありませんよー。へっ…。」
なんとも分かりやすい。
ただ、分かりやすいが故に松浦はつっかかることすらしなかった。
「ところで、皆さんどうしたんですかぁ〜♪制服着てぇ〜。」
「いやぁ、ちょっと遊びにきたんだぁ〜。」
「手の込んだあそび方ですねぇ♪じゃあ、私行きます、くれぐれもさっきの人に
つかまらないようにしてくださいね♪ねちっこいですから♪
あ、それと…。石川さん♪」
「なーにー!?」
- 382 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月24日(月)23時16分35秒
- 「現役じゃない割には、制服似合ってますよっ♪」
そう言って、素敵な笑みと、スッキリした桃色の香りを残して
松浦は去っていった。
「クッ!!!」
絶句して眉間にしわを寄せる石川など知らず、
矢口は鼻を伸ばしている。
「いいなぁ〜…やっぱ亜弥ちゃんはいい♪」
そんな矢口の袖を引っ張る石川の顔は
明らかに嫉妬漂う表情をしている。
「だから、なに?さっきから。」
「なんでもないですっ!!もうしらないっ!!」
- 383 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月25日(火)03時41分53秒
- 松浦と石川最高だワラ
- 384 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月25日(火)23時02分42秒
- プンプンという表現がぴったりな怒り方である。
そして、後藤の案内で学食へと辿り着いた。
さすがに高校生が沢山だ。
食券自販機には、多少の長い列が出来ている。
ダラダラ待つのが面倒であるが、今日の矢口は
これから愉しむ味に期待をして、ときめきながら待っていた。
が…。
「ん…。」
自販機の前にやってきたところで、矢口は石川に手を差し出す。
金をくれ、の合図である。
「ん…。」
今度は親指と人差し指で輪を描いて再度催促。
「梨華ちゃん?」
振り返ってみると、いまだ嫉妬の燃えた彼女がプイッっとしている。
「しらないですっ、自分で買ってくださいっ。」
「エ゛エ゛ッ!!」
- 385 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月25日(火)23時03分30秒
- (しまった…目先の金を失っちまった!!)
矢口はえへへっと笑い舌をぺろっと出してかわいいそぶりでモジモジ。
「あのぉ〜、梨華ちゃぁ〜ん、お金ぇ〜ちょうだぁ〜い♪」
「ダメですっ、自分で買ってください。」
(う゛、きょうの梨華ちゃんは手ごわい…。)
「そんな事いわないでぇ〜、今日お金持ってきてないのぉ〜。」
「いつもでしょっ。」
(クソウ…奥の手か…。)
矢口はふぅっ、っとため息をついて、そっと石川に近づき耳打ちをする。
「今夜…みんなと遊んだ後…愛し合おうよ…ね…。」
沸騰したヤカンの如く、顔が真っ赤になる石川。
そして、静かに財布を開き500円を手渡すが
未だ脳は沸点を保ち、耳からは湯気がピーピーと吹き出ていた。
- 386 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月25日(火)23時04分15秒
- 「ありがとっ、好きだよ♪梨華ちゃん♪」
そして、やっとの思いをして手に入れた?定食の食券を手に
カウンターへと赴き、差し出す。
「ワクワク…♪」
出てきたものは…
普通の定食。
「ありっ…?」
(まぁ、見た目より味か。うんうん。)
4人全員食事をゲットし、食事を始めた。
「いっただきまぁ〜す。」
パクッ。
「……。」
「ありっ…。」
いたって普通。
大学とたいした差がない。
- 387 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月25日(火)23時04分50秒
- 「おいっ!!どういうことだっ!!」
1人逆ギレに走る矢口。
「ちょっと、梨華ちゃんっ!!辻加護に連絡してっ!!」
「あ、…はい。」
「うまくねーじゃねーかっ!!ガツガツガツガツ。
誰だよ!!比べもんにならんほど美味いとかほざいた奴は!?ゴルァ!!」
なら食うな…。
そして5分後。
「みんな何でいるんれすかっ!?」
「んぁ〜、やぐっつあんの提案だよー。」
「しかも制服きてるし…。」
「用意するの大変だったよ、ハァ…。」
全くもって、矢口という人間は他人を振り回すのが得意である。
- 388 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月26日(水)23時10分11秒
- 「おい、ゴルァ!!まずかったぞっ!!うめーっていってたじゃねーか。」
逆ギレ。
「何言うとんの?うまいんは、定食ちゃうで。」
「へっ…?」
「そうれすよ、ここのうまいのは天ぷらうどんなのれす。」
「あ、そう…。てっきり全部うまいのかとおもって、高いの頼んじゃった、アハハハ。
じゃあ梨華ちゃん。天ぷらうどん買ってくるからお金ちょうだい。」
「えっ!?まだ食べるんですかぁ〜!?」
「うん。育ち盛りだから♪」
と、舌をぺろっと出しておどけてみせる。
「んもうっ、ちゃんと食べきってくさださいねっ。」
- 389 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月26日(水)23時10分49秒
- そう言って、また金を渡す石川。
受け取ると、ニコニコしながら食券を買いにいった。
「大変だねぇ〜、梨華ちゃん。」
「何が大変なの?ヨッスィー。」
「いや…、矢口さんのこと。」
「ん〜…?別に大変じゃないよっ♪」
慣れとは怖いものである。
振り回されることに喜びを得てしまったのだろうか。
「もしかして、梨華ちゃん矢口さんのこと好きなん?レズなん?自分ら。」
「えっ…?そ、そんな…。」
頬を赤らめる石川。
否定をしていない、相当バレバレであるが。
「まぁ、いいれすよ。人それぞれれすからね。」
「そうよっ、人それぞれだもんっ♪」
焦って賛同。
非常に石川は気持ちが顔に出やすい。
照れながら、サンドイッチを口に運んでいた。
- 390 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月26日(水)23時11分29秒
- そこに、矢口が戻ってくる。
「ん?何の話?ジュルッ。」
歩き食いうどん。
オイオイ…。
「んぁ〜、やぐっつあん。はしたないよー。」
「らってうまいんだよー。うめーマジうめー。」
本当にコイツでいいのか、石川…。
まぁ、本来の迎えに来たという使命は果せた4人。
この後、学校を辻加護を連れて何とか出れた。
「えっ!?おばしゃんも制服で来たんれすか!?」
「んぁ〜、そうなんだよー。さっきの守衛さんにつかまっちゃったんだよー。」
「で、おばちゃんどこにおるん?」
「「「「さぁ?」」」」
「さぁって…。」
「梨華ちゃん、圭ちゃんの携帯にかけてみてよ。」
- 391 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月26日(水)23時12分13秒
- 「ええっ!?ヤですよー。怖いですよー。」
「いいから、どうせ携帯にはたくさん圭ちゃんから着信はいってるよ。見てみたら?」
「ええっ!?」
いわれたとおり、付属の学校カバンから携帯を取り出してみると。
保田 着信 42件
保田からの着信が『シニ』とはホラーそのものである。
何か嫌な汗みたいなモノが石川の背中を流れた。
「ほらね。」
携帯を覗いた矢口は、にやりと笑う。
恐る恐る、石川は保田に電話してみる事に。
ワンコール…ツーコ
『どうなってんのよっ!??』
「ヒィッ!」
最初の言葉が「どうなってんのよ」とは…。
恐ろしくて石川は通話を切った。
- 392 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月27日(木)23時04分07秒
- 「怖いですよー、ワンコールで出ましたよー保田さーん、どうなってんのよって…
怖くて電話切っちゃいましたよー。」
すると、今度は保田から着信。
「矢口さぁ〜ん、怖いですぅ〜出てくださいよぉー!」
「しょーがないなぁ〜。」
矢口は石川から携帯を受け取ると、通話ボタンを押す。
「もしもしー?大丈夫ー?圭ちゃ〜ん。」
『大丈夫じゃないわよっ!!こっちは大変だったのよっっ!!』
「でも、大丈夫そうじゃんっ。」
『まったく、あの守衛、色気使ったら嘔吐しやがったのよっ!!』
「え゛っ…。」
想像するだけおぞましい…。
『吐いてる間に逃げちゃったわよっ。で、何処にいんのあんた達。辻加護も一緒なのっ!?』
「うん、まぁ。今ねー学校を出たところのコンビニ近くだよ。」
『じゃあ、そこのコンビニで待ってなさいよっ。今そこまで行くわっ。』
「ん〜、わかったー。」
- 393 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月27日(木)23時04分41秒
- そして、6人でコンビニで立ち読みして待っていると
白いクラウンが現れた。
6人がコンビニ内から覗くと、
制服姿の保田がパワーウィンドウを下げて手を振っていた。
それほど捕まった事も、当て馬にされたことも怒ってはいないようだ。
保田が合流し、開口一番。
「ナンパされちゃったっ♪」
「「「「「「(゚д゚)ハァッ?」」」」」」
「なによっ!!その顔っ!!さっきの事よっ!!あんたら待ってたら声かけられたのよっ!!」
「道案内とか頼まれたんちゃうの…?」
「違うわよっ!!!まぁ、たいした男じゃなかったから相手にしなかったわっ!!」
なるほど、ナンパされたから機嫌が多少良くなっているのか…。
などと悟る矢口だった。
「で、このあと何処へ行くのっ!?」
「あ…。考えてなかった…。アハハハ…何処いきたい?」
詰めが甘い。
やっぱりという顔をみなにされる矢口。
- 394 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月27日(木)23時05分18秒
- 「TDL行きたいれすぅ〜!!」
「サンリオやでぇ〜!!サンリオ〜!!」
「石川は……えっと…お買い物でも…。」
「あたしはお台場に飲みに行きたいわっ!!」
「んぁ〜…健康ランドでいいよぉ〜、寝ようよー。」
「スポーツジムっスよっ、スポーツジム!!」
「ちょっと、まとまってないよ。みんなー。」
「ディズニィ〜!!」
「サンリオー!!キティーちゃーん!!」
「酒酒酒酒〜!!!」
「ボディビルディングっスよー!!!」
「んぁ〜、風呂ぉ〜。」
「お買い物に………。」
「あーー!!!!ウッサイ!!矢口が決めるっ!!!今日は焼き肉っ!!バーベキュー!!」
「「「「「「いくいくー!!!」」」」」」
いとも簡単にまとまりました。
焼肉最強。
- 395 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月28日(金)23時03分37秒
- 18:00
「で…なんで石川の部屋の中で焼き肉なのよっ!!!」
「バーベキューセット担いでくるの大変だったっスよっ!!」
「しょうがないじゃーん!!焼き肉屋高いしっ!!」
「何言うとんの!!矢口さんいつも梨華ちゃんの奢りやんかぁ。」
「そうれす、ヒモじゃないれすかぁ!!」
「んぁ〜、煙いよぉ〜。窓開けようよー。」
この大騒ぎに、一番迷惑だったのは
石川の愛猫『アフロ犬』だったろう。
なにせ、アフロ犬は1度に集まったこの人数に、煙たさで
部屋の端で怯えているのだから…。
窓を開けると、充満していた煙が逃げていく。
多少の煙たさが取れた感じがする。
買ってきた食材の種類
豚:ロース、もも、レバー、バラ、ヒレ、肩
鳥:砂肝、むね、もも、手羽先、軟骨、ササミ
牛:カルビ、ロース
加工肉:ベーコン、ウインナー
海鮮:イカ、海老
野菜:玉葱、かぼちゃ、キャベツ、ピーマン
これにご飯を加えると総計10s以上となる。
無論狙われるのは牛肉であり、すさまじい取り合いが生じる。
- 396 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月28日(金)23時04分14秒
- 「あ゛−!!!のの、そのカルビ目をつけてたんれすよー!!!返してくらしゃーい!!」
「もう胃に入っちゃったわよっ!!すぐ取らないのがいけないのよっ!!」
「圭ちゃん牛取りすぎだよー!!梨華ちゃんもっと野菜たべなよー!!」
「ウチの牛ロースとるなぁ!!!アホ!!いてまうぞ!!」
「体力つけるには牛なんスよー!!」
「ぐすん…。」
「んぁ〜、後藤はササミでいいよぉ〜。ササミのせてよー。」
もう取り合い。
まるで地獄絵図のような展開が12畳の部屋の中を占拠した。
そんな地獄絵図が2時間ほど続いた頃。
更なる戦慄の時間がやってくることになろうとは…。
まだ食材が屋外用バーベキューの網の上で
うねって、いざ勝負とお互いをけん制しあう中…。
バタバタバタバタ。
バタバタバタバタ????
何かが、石川の肩に止まった。
「……きゃぁぁぁぁ!!!!!」
- 397 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月28日(金)23時04分49秒
- 何かが止まった。
その何かを確認した途端、マッド石川に変身した。
石川は途端にモップを取り出すと
その物が飛び去った後なのにもかかわらず
激しく振り回す。
「きゃああああ!!!いやああああ!!!こないでぇぇぇぇ!!!!!」
以下、音声のみでお楽しみください。
ガンッ。
「ああっ!!バーベキューセットがっ!!」
「火、火かつくでぇ!!!」
ガシャァァァン!!!
「うわぁ!!ガラス割ったぁ!!!」
ドカッ、バスッ。
「イテェェ!!!」
「水水!!後藤!!水っ!!火消せっ!!」
「ののの肉ぅ〜!!ウワァァァン。」
「ニャ〜ン!!!フギャッ!!」
- 398 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月28日(金)23時05分31秒
- 石川が冷静を取り戻した頃、
何者かに荒らされたような惨事に見舞われた部屋のように
ピンクの部屋は変化していた。
「なんか白けてもうたなぁ、かえろか、のの。」
「ひっくひっく、ののの肉がぁ〜…。」
「ウチが帰りホットドック買うたるさかいな、泣かんでかえろ。」
「…ありがとうれす。」
「あ、家帰って腹筋しなきゃ。梨華ちゃん、あたしも帰る。」
「ふぅ、バーで飲みなおしね。帰るわ。」
「んぁ〜、後藤も帰るー。」
「えっ、そんなぁ〜…。矢口さんは帰りませんよね?」
一緒に片付けて…と哀願するような瞳で
矢口を見つめる石川。
「うっ…。さて、矢口も家の掃除あるしかえろー。」
「矢口さん…。ぐすん…。」
- 399 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月29日(土)23時04分08秒
- 「「「「「「んじゃーバイバーイ。」」」」」」
臭い物には蓋。
ではないが、厄介な事にはすぐ逃げてしまうミニモレンジャー。スタッフ達だった。
「どうしよう…。」
すると、擦り寄ってくる物が…。
「ニャーン。」
それを抱き上げ、話し掛ける。
「ごめんねぇ〜…アフロ犬…痛かったでしょおぉ〜…。一緒に片付けよーね…。ぐすん。」
1人、自分で荒らした部屋の中を片付ける石川。
「矢口さん…冷たいよねぇ…。石川の事…愛してくれてるのかなぁ…。」
ふと、矢口が石川を愛しているのか否か考え込む石川。
まぁ、現状では石川のお金を矢口が愛している…といったほうが正確なのかもしれない。
矢口の心の真相は定かではないが…。
「片付け終わったら…、矢口さんの家泊まりにいこうかな…。
窓ガラス割れちゃったし…、蚊も入ってくるよねぇ…。」
また、ハァ〜っとため息をつく石川。
片付けても片付けても片付かない。
そんな片づけが面倒になっていた彼女の脳裏に
ふと、矢口の言葉がよみがえった。
- 400 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月29日(土)23時04分45秒
- 『今夜…みんなと遊んだ後…愛し合おうよ…ね…。』
ポッと赤らむ石川の顔。
「うん、よしっ、行っちゃえぇ〜♪」
(ポジティブポジティブっ♪)
そして彼女は思い切って、片付けを放棄し
数メートル離れた矢口の部屋の前に向かった。
コンコン…。
すると玄関の明かりが灯る。
中からは前髪をピンで留めた矢口が顔を出した。
「あ、梨華ちゃん、どしたの?」
「矢口さんっ!!今日泊めてくださいっ。石川、覚悟決めてきましたっ。」
「へ…?」
「覚えてないんですかぁっ!?今日愛し合おうねって…矢口さん言ってくれたじゃないですかぁ。」
「ええっ!?」
(どうしよ…本気にされちゃったよ…。)
焦る矢口。
- 401 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月29日(土)23時05分17秒
- 「ま、まぁ一先ず上がりなよ。」
「はい♪」
しかし、いつ来ても矢口の部屋は汚い。
脱ぎ捨てた服の山。
出し忘れたゴミ袋。
洗っていない食器。
「ゴメンネ、汚いけど…。」
いつもはそんな事を言わない。
つまり動揺をしているようだ。
「矢口さんっ!!」
「あ、はい、な、なに?」
「一緒にこの部屋片付けましょっ?」
「あ、うん。……フゥ。」
「いくら石川の部屋これからずっと泊まるからっていっても、
自分の部屋くらい綺麗にしなきゃダメですよ、矢口さん♪」
(これからずっと…?)
「アハハ、そうだね。梨華ちゃんの言うとおりだね。アハハハ…。」
いやーな汗が矢口の背中を流れていった。
熱さだけではなく、別の意味でも流れていた。
掃除する事2時間。
- 402 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月30日(日)01時23分29秒
- 矢口が食われる!!
- 403 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月30日(日)23時14分32秒
- この間もぎこちなく過ごす二人。
「矢口さん、もうそろそろいいんじゃないですか?」
「えっ、あっ、えーっと、服?脱ぐ?」
「そうじゃなくて、部屋の片付けの事ですよっ♪」
そう言って石川はニヤッとしながら矢口の肩を叩く。
「イテェッ!!あ、うん、そ、掃除完了だね、アハハ。」
「じゃあ、お風呂借りていいですか?」
「えっ!?」
「だからお風呂貸してくださいよー。服も持って来ましたからー♪」
「え、あ、うん。」
「じゃあ、いってきます。」
「ドーゾドーゾ。」
壁を一枚隔てた向こうから
水がはじける音が聞こえる。
- 404 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月30日(日)23時15分35秒
- 「どうしよっかなぁ〜〜〜。参ったなぁ〜〜。いざ本気にされると、
こっちが困っちゃうよなぁ〜…。ハァ…。どうしよ。やたらポジティブだし。」
あらためて石川の純粋さに罪悪感を感じる矢口。
いくら考えても答えが出ない。
矢口はふぅ…とため息をついてラッキーストライクメンソールを
手に取り、中から一本取り出して火をつけた。
「ふぅ〜〜〜。」
「まいったー。う〜ん。食っちゃおうかなぁ〜。
でもレズってありなのかなぁ〜。今までネタ的にやってきたけど…。ふぅ…。」
そうこう考えているうちに、風呂のドアが閉まる音がした。
(は、はやっ!!)
「矢口さ〜ん、矢口さんお風呂はいりましたかぁ〜♪」
そこに出現した石川は、蒸気を発しながら、バスタオル一枚巻いた姿。
「あ、うん。珍しく入ったよ。」
「そうなんですかぁ〜。ホント珍しいですねぇ〜♪」
「メッチャ毒入ってるよ、その言葉。」
「えへっ♪」
濡れた頭をゴシゴシの拭う石川は、非常に妖艶で
矢口は思わず息を飲み込んだ。
- 405 名前:第5話だっぴょ〜んの巻 投稿日:2002年06月30日(日)23時16分09秒
- (うわぁ〜…こんなにHだったかぁ〜梨華ちゃんって…。)
「矢口さん、もう夜遅いですよ、早く寝ないとバイトの時間に遅れちゃいますよっ。」
やたらニヤニヤした石川が、なにやら怪しきもするが
一先ず返事をする。
「あ、うん。」
ドキドキしながら矢口は服をいつものように脱ぎ捨てる。
そして石川もバスタオルをうまく使いながら、ネグリジェとパンツを身につけた。
そして二人はベッドに入る。
「……。」
「……。」
「矢口さん…。」
「え、あ、えっと、なに?梨華ちゃん。」
「どうしたんですか?なんか顔真っ赤ですけど…。」
「いや、な、なんでもないよ、アハハハハ。」
「熱でもあるんじゃないですか…?」
と、心配そうな顔をして矢口の顔に自分の顔を近づける。
その瞬間。
「んっ……。」
唇を奪われた矢口。
「今日はここまでにしときます、おやすみなさいっ♪」
そう言って、背を向けるとのび太の如く寝てしまう石川。
「……っ…これって…。」
(やり返されたぁぁぁぁ!!!!)
こうして、この夜、欲求不満の矢口は寝られなかったのは言うまでもない。
- 406 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年06月30日(日)23時21分33秒
- 第5話終了です。
容量の関係から、第6話からは次スレへ移転します。
第6話は1週間お休みを頂いた後、一夜一挙更新予定です。
移転直前にこのスレで返レス、移転先報告をしたいと思います。
- 407 名前:ほのぼのエース 投稿日:2002年07月04日(木)00時15分01秒
- >>337
ありがとうございます。
自分に正直な矢口は次々に問題を引き起こしていきます。
>>383
石川・松浦対決は今後もあります。
>>402
今後の展開にご期待ください。
数日予定より早いですが開始したいと思います。
移転先は以下のURLです。
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=red&thp=1025709223
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