狂った果実

1 名前:名無し 投稿日:2002年02月20日(水)01時52分43秒
途中まで某所で書いてた話なので、もしかしたら読んだコトある方がいっしゃるかもしれません。
できればばらさないでほしいので、どうかよろしくお願いします。

しょっぱなからワケありなのでsageでいきます。
それでは……
2 名前:序章 投稿日:2002年02月20日(水)01時55分42秒
耐えられない孤独と。
引き裂かれるような絶望と。
あいつを失う恐怖と。

「あたしの名前、呼べよ」

震えだす身体。
張り裂けそうな心。
叫びたくなる想い。

「あたしの名前を呼んでくれよぉ」

崩れだす精紳。
君だけしかうつさない瞳。
もう何も考えられない。

「あああああぁぁぁぁぁぁ!!」


あたしはもう狂っていたのかもしれない。
3 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時00分45秒
この街の、どこにこんなにたくさんの人間が隠れていたんだろう。
区切れる事のない人の波。吐くほどの熱気。
そして、くだらない言葉の集合体。

あたしはいつものように街に出て、一人一人観察に入る。
ビルの壁に寄りかかりながら、行き交う人々を見つめ続ける。
あっちの世界の人間は、あたしの存在など目に止まるわけなくて…。
きっと、この薄汚れた壁とあたしとが同化しちゃってるんだろう。

でもね、あたしにとってもあんた達は単なる虫けらでしかない。
採集するのも惜しいくらいに、最高にくだらない生き物なんだ。
誰もあたしに気づかないフリをする。
それがどんなに愉快な事か。
4 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時02分04秒
みんな、あたしの前を通り過ぎて行くだけ。
時々、チラッと視線を向けるヤツもいるけど、あたしと目が合うと慌てて視線を外してしまう。
そして何もなかったかのように早足で通り過ぎる。
言いたいことがあるんならはっきりと言えばいいのに。
文句があるならそう言えばいいのに。
あぁ、そうか。だからあっちの世界の人間なんだ。
言えるわけなかったよね。
ごめん、すっかり忘れてた。

しっかし‥‥こいつら、いったい何が楽しいんだろう。
なんでみんな笑顔なんだろう。
あたしにはさっぱりわかんないや。
5 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時06分14秒
その中に、虫けらだって思ってた人間の中に、あたしの瞳に気づくヤツがいた。
そいつは怯える風もなく、トコトコとあたしの側へと寄ってきて、無防備すぎる笑顔をあたしに見せてくれた。
その瞬間、耳障りだった街の雑踏が跡形もなく消えてしまった。
虫けら達の声も聞こえなくなった。
まるで、この世界に2人だけしかいないよう。

「?」
ごく自然にあたしの前に立っている少女に見覚えはなかった。
たぶんあたしと同じくらいの年だと思う。
かなり慣れてる様に感じる化粧のせいで、目元はかなり色っぽかったけど、その笑い方が少しだけ幼い。
まだ愛想笑いを知らないその口元にあたしに会えた喜びを伝えてくる。
6 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時07分47秒
少女はゆっくりと唇を開く。

「あなたがイチイサヤカ?」

声と言葉と表情を頭の中で繰り返す。
何度も何度も繰り返す。
7 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時13分41秒
初対面でいきなりの呼び捨て。
いつもならそんな行為は許さない。

その時のあたしは、ある集団のリーダーとして、絶対的な地位を手に入れていた。
誰もがあたしの行動に脅え、誰もがあたしの顔色を伺っている。
そんなつまらない日常を、しかし手放す事もできなくて…。
ただ流れていくだけの時間の中をさ迷うように歩いていた。
むなしいなんて思った事はない。
ただ、その流れにのっていればいいだけ。
あたしにとって、それはとても簡単な事。
軽く相手を睨みつけてから、あたしに向かって吐かれた言葉を、微笑みを浮かべて繰り返す。
8 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時15分35秒
「イチイ‥‥サヤカ?」

大抵の人間はそれで言葉を失う。
あたしが何者か知って声をかけてくるって事は、そのバックにあるモノも知ってるって事で。
何がしたくて声をかけてきたのか、それさえも説明せずに、ただ呆然とした表情であたしを見つめるだけ。
その顔があまりにもマヌケすぎて、もう笑うのもバカバカしい。

みんな虫けら。

みんな生きてる意味がない。

この世の中にそれに気づいてる人間はたくさんいるっていうのに、それに対して何の対処もしていない。

みんな、みんな。

あたしも含めて‥‥みんな。
9 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時16分52秒
「あなたがイチイサヤカでしょ?」

意識が現実に戻る。
視線を少女に戻す。

(こいつ、まだあたしのコト見てたのか)
いつものようにちょっとだけ凄めばこの少女は逃げ出すだろう。
あたしに関わろうとした事を瞬時に後悔して、目の前から逃げ出すだろう。
それが現実。そうしなきゃいけない。
でもなぜか‥‥。

あたしには

それが

できなかった。
10 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時24分13秒
「そうだけど。あんた誰?会った事あったかな?」
とりあえず、あたしと同じ種類に属さないヤツには、できるだけ優しく、できるだけ普通に接してあげてる。
ちょっと乱暴に扱って、その結果として付いてくる面倒な事に巻き込まれたくない。

緊張の所為か、かなり熱くなっている身体を落ち着かせる為に、上から下まで視線を移動させる。
別に普通の格好だ。
汚れているわけでもないし、でも、きれいだなんて言葉も出てはこないけど。
あまり洋服に関心がないあたしには、単なる薄紫のTシャツとちょっと派手めのスカートにしか見えない。
別におかしなトコはない。どこにでもいるあっちの世界の人間の一人だ。
11 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時25分12秒
でも、あいつらと違うところが1つだけあって。

それは‥‥あたしの事を見つめつづけるその瞳。

何かがあたしの中でキリリと悲鳴をあげる。
今までの生活で培ったきた、心の奥底に隠している本能が信号を送ってきたのだ。

(この娘はダメだ。近づいちゃいけない)

だけど、吸い込まれそうになる瞳の中の黒い光りがあたしの心に突き刺さる。
視線が外せない。
こいつ、いったい何者なんだ?
どうしてこんなにもあたしを見つめてくる?
12 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時26分47秒
1度も会った事がない。
あたしはこいつに会った事がない。

「あたし、後藤真希っていうの」
「あっそ。‥‥で?」

だけど、あいつはあたしを知っている。
その瞳がすべてを語る。

「あたし、すっごくイチイさんに興味があるんだよね」
「それはそれは」

そして、あいつはあたしの何かを奪う。
その瞳が求めてる。

「だから、一緒に‥‥側にいてもいい?」
「はぁ?」
13 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時28分10秒
そんな事を言われるなんて思ってもいなかった。
混乱しているあたしの頭の中に昔あった光景が浮かんでくる。

『あたしと一緒に住まんか?』

まさか、あの人以外にあたしに向かってそう言ってくるヤツがいるなんて…。
とても信じられなかったけど彼女は確かにそう言ったのだ。
14 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時28分57秒
あたしは視線を外せない。
彼女から視線を外せない。

彼女は視線を外さない。
あたしから視線を外さない。

聞こえてくるはずの虫けら達のざわめきも。
目に入ってくるはずの多くの死にかけてる顔も。
今は何も感じられない。

あたしの耳に聞こえてくるのは、目の前にいる少女の声だけ。
あたしの瞳にうつっているのは、目の前にいる少女の顔だけ。

それだけだった。
15 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時30分16秒
「あたしと一緒にいようよ」

(この娘はダメだ‥‥)

「あたしが側にいてあげる」

(絶対に近づいちゃいけない‥‥)

「ずっと側にいてあげる」

(きっと、あたしはダメになる‥‥)

「だから」

(だけど‥‥)

「だから、イチイさんはずっとあたしの側にいてね?」
16 名前:運命 投稿日:2002年02月21日(木)01時31分30秒
再びあたしの中で悲鳴が聞こえた。でも、無理矢理それを打ち消す。
今まで、数え切れないほどの暴力の雨からこの身体を護ってきた、本能から送信してくる信号を、この時はじめて無視した。
ゆっくりとまぶたを閉じて、その倍の時間をかけて開ける。
あたしの目が再び開いたのを確認すると、少女は優しく微笑んだ。

その瞬間。

(こいつが欲しい‥‥)

そう思った。

天使の呪文。悪魔の囁き。

何度も何度も頭の中で繰り返す。
17 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月21日(木)21時00分11秒
なんかすごいひきこまれます。
こういうの好きです。頑張って下さい〜
18 名前:名無し 投稿日:2002年02月22日(金)20時00分20秒
読んで頂きありがとうございます。
かなり自己チューな話ですがこれからもよろしくです。
19 名前:運命 投稿日:2002年02月22日(金)20時01分00秒
物心ついた時から、あたしはずっと一人だった。
戦うのも苦しむのも泣くのも叫ぶのも。
まぁ、人間誰しも一人だからね。
それが当たり前だって思ってたし。
欲しいと思ったモノは自分の力で手に入れてたし、いらなくなったら捨てればいい。
奪われたら取り返せばいいし、相手から奪い取るのもけっこう楽しかった。
あたしが住む街は、虫けらだらけのこの街は色んな幻想を見せてくれる。
その日が楽しければいい。
明日のコトなんてどうでもいい。

何も信じず、誰も受け入れず、流れるままに街をさ迷う。
20 名前:運命 投稿日:2002年02月22日(金)20時01分57秒
でも、自分でも気づかない内に、あたしはギリギリのトコまで来てた。
目的もなく流れるままに。
いつのまにかあたしの心はからっぽになってて‥‥。

そんな時、あたしはあの人に出会った。

金色の髪と蒼い瞳。

過去の記憶が蘇える。

‥ココロガ‥イタイ‥‥。

はじめてあたしを優しく抱き締めてくれた人。
だけど、その腕の中にはすでに愛しい相手がいた人。

そして、今はもういない人。
21 名前:運命 投稿日:2002年02月22日(金)20時02分53秒
二人から一人になった時の絶望感。
耐えられない程の哀しみが堕ちてくる。
何も考えられない日々が続き、水さえも喉を通らない。
深く深く、地の底へと落ちていく感覚。
もう2度とあんな想いはしたくなかった。

だから、もう誰もこの腕に抱きとめないと誓った。
誰もがみんなあたしから離れていってしまうってわかったから。
これ以上、あたし以外の誰にも自分自身を傷つけさせない為に。

今まで、自分の運命を呪った事はない。
あたしにはそんな人間的なモノなんか与えられるはずがないんだ。
そう言い聞かせて、また一人で歩き出す。
崩れ落ちてしまいそうな身体を、懸命に起き上がらせて。
22 名前:運命 投稿日:2002年02月22日(金)20時03分30秒
あたしの中かには誰も入れない。
あたしの心に誰も住まわせない。

このまま一人で生きていけばいいんだ。
もし、それに疲れちゃったらどこでもいい。その場で眠りにつけばいいんだ。

そう言い聞かせて生きてきた。

だけど、心の奥底ではいつもいつも‥‥。
口では強がりを言ってても、否定しきれないあたしの心。

ずっと欲しかった。ずっと求めてた。

あたしに向かって微笑んでくれる人を。
こんなあたしを必要としてくれる人を。
何をしても、どんなに汚れてても。
あたしを受け入れて、隣に眠ってくれる人を。
そして、この腐りきった身体を抱きとめてくれる人を。
23 名前:運命 投稿日:2002年02月22日(金)20時04分06秒
あいつだけがそれを持ってた。
あの人が与えてくれたみせかけの愛情なんかじゃない。
後藤だけがあたしに与えてくれたんだ。

誓いは破られる。

あの日、あいつに、後藤に出逢って全てが変わった。
子供だけが持っている純真さと残酷さ。
そんな彼女にあたしはどんどん惹かれていく。

「イチイさん」から「いちーちゃん」へと呼び方が変わった時には、すでに二人で暮らしてた。
後藤に会う前に、あたしの隣で眠ってくれた人が、たった1つ残してくれたアパートの一室。
24 名前:運命 投稿日:2002年02月22日(金)20時04分48秒
「いちーちゃんってすごいねー」
「そ?」
「なんかかっこいい♪」
「さんきゅ」

はじめてこの部屋に来た時の二人の会話。
あたしはどうでもいいみたいに軽く受け流す。
後藤もそれ以上何も言ってこなかった。

「大好きだよ、いちーちゃん」

後藤があたしに言う。

「あたしも好きだよ」

あたしが後藤に言う。

お互い微笑みながらコツンと額をくっつけ合う。
25 名前:運命 投稿日:2002年02月22日(金)20時05分54秒
その瞬間、あたしは感じた。

あぁ‥‥あたしはこいつと出会う為に生きてきたんだ。
こいつの側にいる為に生まれてきたんだ。
あたしは確かにそう感じた。

少しずつ後藤に捕らわれていく。
少しずつその魅力にはまっていく。
26 名前:運命 投稿日:2002年02月22日(金)20時06分27秒
あたしが欲しかったモノ全部を後藤は与えてくれた。
そんなあいつに、何ができる?

あたしだけを求めてくれる。
あたしだけを愛してくれる。

それがどんなに幸せな事か。

やっと手に入れた日常。
いつも側にいてくれるという現実。

あたしだけの唇。
あたしだけの笑顔。
あたしだけの後藤。

そう、あいつはあたしのモノだ。
あたしだけのモノなんだ。
27 名前:運命 投稿日:2002年02月22日(金)20時07分30秒
だから絶対に手放さない。
だからそのすべてを受け入れる。

あいつが欲しいと言ったモノすべてを与えてあげる。
あいつが求めているそのすべてを与えてあげる。

そして、それが、それこそがあたしの愛し方なんだ。

虫けらなんかどうでもいい。
それであいつが、後藤が喜んでくれるなら‥‥。
28 名前:運命 投稿日:2002年02月22日(金)20時08分24秒
あたしのまわりに張り巡らされたその糸から、逃げ出すつもりなんかもうとうない。
もっともっとさらに深く、この身体を包んで欲しい。

もう一人には戻れない。
もう一人には戻りたくない。

あたしの居場所はここだけ。
あたしが眠りにつくのはこの胸だけ。

あいつの胸の中だけなんだ。

あたしはこの手を振り払う事なんかできない。
暗闇に落ちていくあいつの腕を引き戻す事なんかできない。
一緒に‥‥あたしも一緒に堕ちていく。

ねぇ、後藤。
このまま2人で堕ちて行こう。
このままずっとこうやって、2人、抱きしめあったまま堕ちて行こう。
29 名前:至福の時 投稿日:2002年02月26日(火)18時58分30秒
してはいけないって知っていた。
絶対にしてはいけない事だってわかっていた。
だけど、あたしには止められない。
振り下ろされるその腕を、止める事なんてできないんだ。
それは後藤が望んでる事だから。
そしてあたしも望んでる事だから。

たとえ、その所為であたしという存在が消えてしまったとしても

     絶対に後悔はしないだろう。

たとえ、そのせいで壊れてしまったとしても

     あたしは絶対に後悔はしないだろう。

側にいる。
あたしは後藤の側にいる。
だから、側にいて欲しい。
後藤はあたしの側にいて欲しい。

ずっとずっと、永遠に‥‥。
30 名前:至福の時 投稿日:2002年02月26日(火)18時59分24秒
耳をつく騒音、眩しい程のネオンの群れ。

どこを見ているのか。
何を求めているのか。

それすらもわからずただ流れていく人ごみ。

いつものように。
本能の赴くまま。

あたし達は刺激を求めて街をさ迷う。
この潰れた魂を刺激してくれる獲物を求めさ迷う。
‥‥あいつの笑顔を見る為に。

そしていつもの狩場。
あたし達の為の戦場。
31 名前:至福の時 投稿日:2002年02月26日(火)18時59分59秒
抑えきれないほどの興奮と、日常では手に入らない苦しいまでの緊張感。
薬なんか比べ物にならないくらい、自分を痛めつける為のゲーム。

泣き叫ぶ生き物。
容赦なく光るナイフ。

そして、真紅に染まっていくあいつの姿。

「キレイだね、いちーちゃん」

その無邪気な微笑み。
はじめて逢った時とぜんぜん変っていない。
その姿を見てあたしは心は満たされる。
あたしにはあいつさえいればいいんだ。
あたしに微笑んでくれるあいつさえいればいいんだ。
32 名前:至福の時 投稿日:2002年02月26日(火)19時00分47秒
後藤と一緒に暮らすようになって、あたしの生活は変わっていった。
昼過ぎに目を覚まして、夜になると街へとくり出す。
今までは特に関心もなくあっちの世界を眺めていたんだけど、今はちゃんと目的
がある。
あたしの中であいつらの位置は、虫けらから獲物へとランクupされていた。
そう、あいつらは獲物なんだ。

あいつの心を満たす為の、獲物を狩っている真希の幸せそうな顔を見る為の。
そんなあいつの姿を見て、喜びに震える事ができるあたしの為の。

あいつらは、大切な獲物なんだ。
33 名前:至福の時 投稿日:2002年02月26日(火)19時01分34秒
「こんなところにつかってちゃだめだよ?」

大通りから少し中に入り込んだ細くて薄暗い道の脇に、今夜の獲物を見つけた。
自分が何をしてるのか。自分が何を欲してるのか。
それすらもわからないような、半分つぶれかけてる男。
誰かに飲まされたのか、自らがすすんで飲みまくったのか‥‥。
ま、そんなコトに今更興味もないけど。
この街が安全なんだって思い込んでる、バカな大人の中の一人。

「‥‥醜い」

あしは吐き捨てるように呟いた。
その男の口からは、何かしらブツブツと文句らしい言葉が漏れている。
上司の悪口?家庭の不満?‥‥このおじさんホントにバカだ。
34 名前:至福の時 投稿日:2002年02月26日(火)19時02分28秒
「でもかわいいおもちゃだよ?」

呆れ顔で立つあたしに向かって幼子のような笑顔で囁いてくる後藤。
あぁ、そっか。今夜はコイツで決まりってコト?
後藤がそうしたいのなら、あたしに異存はない。

「これでいいの?」
「うん」

再度、確認する。
あたしに向けられた言葉は肯定だった。

「じゃ、決定」

そう言ってからあたしは後藤にくちづける。
優しく軽く触れるだけのキス。
まぁ、ゆうなればご褒美みたいなモンかなぁ。
35 名前:至福の時 投稿日:2002年02月26日(火)19時03分10秒
一歩ずつ、その男に近づいていく。
砂利を踏む音だけが辺りに響く。
今から起こる想像もつかない現実に、まだこの男は気づいていない。

「ね、おじさん。あっちで楽しいコトしない?」

言葉と笑顔を、おじさんの脳内に叩き込む。
獲物を誘い出すのは簡単。
優しい声と微笑みだけで、相手はいいように勘違いしてくれる。

「いいコトか?」
「もちろん♪」

よだれを流しそうなほどのニヤニヤ笑いがおかしくてたまらない。
交渉係のあたしの顔と、後ろに控える後藤の顔を交互に見比べる。
その顔から、内心小躍りしてるだろうおじさんの気持ちが伝わってきた。

今夜の獲物を捕まえた。
36 名前:至福の時 投稿日:2002年02月26日(火)19時03分48秒
お互いに思いっきり楽しんでもらう為には、ここだとちょっと狭すぎる。
だから場所移動。
ここの近くにいい場所があるんだよね。

「ちょっと動くけどいい?」
「どこに連れてってくれるんだぁ?」

質問を質問で返されるのは気に入らなかったけど、今夜のお楽しみの為なら無視するか。

「いーちゃん?」
「ん?」

頼りなさげに、でもなんとか立ちあがろうとするおじさんを見てたら、今まで黙っていた後藤が声をかけてきた。

「ありがと」
「どういたしまして」
「チュッ」

あたしの心に響いてくる、感謝の言葉と甘いくちづけ。
37 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月27日(水)04時12分58秒
おぉ〜こんなところで復活されてるv
この小説気になっていたので復活うれしいッス!
また改めて読ませていただきます。
頑張ってください。
38 名前:名無し 投稿日:2002年02月27日(水)18時38分23秒
ども、読んだコトありの方ですね。
今回はちゃんと最後まで書きますので、これららもよろしくお願いします。
39 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時40分39秒
おじさんも楽しい?
あたしもすっごく楽しいよ?

ポケットから、ナイフをそっと抜き出した。

もっと近くに寄ってきてよ。
そんな遠くにいたんじゃ、せっかくの楽しいパーティーも意味ないじゃん。

ニヤけた顔のままあたし達に近づいてくる。
そのマヌケづらにゆっくりとナイフを振りかざす。
とたんに驚きの表情へと変わっていって、その場に崩れ落ちてしまった。
みっともなく足を広げてガタガタ震えている。
なんか、情けないっていうかさ。少しくらいは抵抗してくれてもいいのに。
ちょっとこいつにしたの失敗だったかな。
まぁいいか。後藤は楽しそうだし。
40 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時41分14秒
こんな事していいのかだって?
なんて‥なんてマヌケな質問なんだ。
まったくあきれて何も言えないね。

あたしは微笑みを浮かべて、そいつに話しかける。

ねぇ、おじさん?
こんなのいいわけないじゃない。
そんなの常識でしょ?
言われなくてもわかってるって。
41 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時41分56秒
でもね、おじさん。
これがあいつのやりたい事なんだよね。
これがあいつが求めてる事なんだよね。
だからしかたないって思って諦めてよ。
嬉しいでしょ?
おじさんはあたし達の事、幸せにできるんだから。
後藤の事、幸せにできるんだからさ。

おじさんって、運がいいよ。

あたしは微笑を浮かべたまま、手に持っていたナイフを後藤に手渡した。
42 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時43分04秒
「も〜、逃げないでよぉ」
「やめろ!!」

容赦なく振り下ろされる、月夜に照らされたナイフの輝きが、少しずつ赤く染まっていくのをあたしは静かに眺めていた。

嬉しそうなあいつの顔。
あたしが大好きなあいつの顔。
それが見れるだけで満足なんだ。
43 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時43分36秒
「ねぇ、おじさん?‥‥ちょっとは動いてよー」
「や、やめてくれよぉぉ」
「あたし、何もしてないじゃん。やだなぁ」

あらら。
やっぱこいつじゃダメじゃん。
少しくらいは逃げてくれないと、楽しい時間の魅力も半減。
でもまぁ、さすがに傷つけられるのはイヤみたい。
いくつか叫び声をあげながらも、ギリギリのトコで避けようとする。
後藤はその動きをちゃんと読んでるから、倒れない程度に少しずつ切り刻む。

少しずつ赤く染まっていくあいつはとてもキレイだった。
44 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時44分17秒
あたしは遊び場から少し離れた所に立って、後藤を眺めていた。
今夜は月がすごく眩しい。
街灯も何もない場所なのに、後藤の笑顔が目にちゃんとうつっている。
あいつ、まじで嬉しそうだよな。
夜の空気を吸い込んで、身体の中でくすぶり続けてる熱を吐き出す。

常に2人で行動するようになって。
性格とかが少しずつ見えてくるようになって。
その度にそんな後藤を無条件で受け入れてしまうあたし。
僅かに残っている良心が激しく警笛を鳴らすけど、聞こえないフリをする。

その唇があたしを捕らえる。
その瞳があたしを惑わす。
その指があたしを虜にする。
45 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時44分48秒
自分でもおかしいくらいにあいつにはまり込んでいくのがわかる。
後藤のという名の麻薬があたしの心を蝕んでいく。
残酷なまでの快楽が、身体全部に行き渡る。

楽しいね、後藤。
あたしはアンタに出会えてホントよかったよ。

まだ遊び続ける後藤を見ながら、その唇に触れている自分の姿を想像してた。
早く、後藤に触れたいよ‥‥。
46 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時45分24秒
狩りが終わったって判断して、そろそろいいだろって後藤の手からそれを奪う。
さすがに好き放題させちゃうと、後で面倒な事になっちゃうからね。
荒く呼吸する後藤の顔が、まだまだ満足してないって告げてくる。
その顔は、小さな子供がおもちゃを取り上げられた時に見せる不満げな顔にそっくりだった。
しかたないなぁ‥‥そう思ったけどそろそろゲームが終わる時間。
それ以上はやばいだろ?って耳元で囁く。
そして、ギュッと強く抱き締めて硬く握り締められた指を1本ずつ外していく。

「楽しかった?」
「うん♪」

その笑顔が見たくて、あたしはあいつに獲物を与える。
後藤の頬についた血から視線が外せなかった。
47 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時46分32秒
狩りを終えたあたし達は、気絶しちゃったおじさんをその場に残したまま部屋に戻ってきた。
あんな事で気を失っちゃうなんてさ。
ほんと、やっぱりあいつらは虫けらだ。

明かりをつけて振り向くと、後藤の身体の色が気になった。

「ほら、そんな汚いのさっさと流しちゃえよ」

似合ってるとは思うけど、いつまでも身につけてるモノじゃない。
だって、それってあいつらが流した汚い液体なんだから。
後藤に似合うのはその色じゃない。
それは後藤も気づいてるんだろ?
48 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時47分14秒
「うん♪」

何が嬉しいのか、後藤は笑顔で返事する。
こうやってると年相応に見えるんでけどさ。
あんな事したあとだっていうのに、すぐにこうやっていつもの後藤に戻れるのって、ホントまじで尊敬しちゃうね。
目の前にいる少女は、あたしの知らない顔をまだまだたくさん持っている。

付き合い始めて見えてきたモノ。
見てしまったモノ。
まだ見えてこないモノ。

でも、その笑顔の下に狂気の顔を隠してるなんて、誰も信じないだろな。
その瞳がまだ鈍く光っているのを、もちろんあたしは見逃さない。
49 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時49分14秒
「ちゃんと耳の後ろまで洗うんだぞ?」
「は〜い」

そのままそれに気づかないフリをして、ちょっとしたおせっかいなんかやいてみたりして。
こんなセリフをまさか自分が言うなんてさ。
これもあいつがあたしにくれた贈り物の1つ。

「‥‥」
「ん?どうした?」
「一緒に入る?」
「何言ってるんだよ。ほら、早いとこシャワー浴びて来いって」
「いちーちゃんテレてる〜」
「うるさいなぁ」
「あはっ♪」

別に一緒に入ってもいいんだけどね。
それだと、浴室から出てこれなくなっちゃいそうだし。
50 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時49分50秒
浴室へと消えていく後藤の後姿を見送ってから、あたしはキッチンへと移動した。
ほら、後始末ってやつ?あれをちゃんとしとかなくちゃ。
次の狩りの為に手入れだけは忘れない。

ポケットから布にくるまれたナイフを取り出す。
それを無造作に開けば、血で汚れた刃が見えてきた。
後藤の手の跡が残る柄を持って、空いた手で蛇口をひねる。
自分の手が刃に直接触れないように注意しながら水で流す。

四角いステンレスが赤く染まる。

やけに薄くなった血の色が、今夜の出来事を思い出させる。
そういえば、あのおじさんの顔ってどんなんだったかな?
ずっと視線はそこにあったのに、それさえも覚えていなかった。
当たり前か。あたし、後藤の顔しか見てなかった。
51 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時50分41秒
ナイフが元の色に戻ると、用意していた新しい布で水気を吸い取る。
他に色々としなきゃいけないんだろうけど、詳しくは知らない。
これで切れなくなっちゃったら新しいのを買えばいいだけのコト。

居間に戻ってテーブルの上にナイフを置くと、あたしの耳に短い悲鳴が聞こえてきた。
自然と息が漏れてしまう。

あいつ、また水かぶったか?‥ったく、どんなに教えても、手で温度を確かめないまま頭から水をかぶっちゃうんだよなぁ。
ま、そんなバカなトコも、後藤らしいけど。

きっと後藤に見られたら、怒られちゃうんだろうな、今のあたしの顔。
そう思いながら近くの椅子に深く腰掛けて、大きく足を伸ばす。
52 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時52分52秒
身体を背もたれに預けて、天井を仰ぎ見る。
蛍光灯が瞳に眩しい。
目障りだな。消しちゃおうか。

すっと目を細めると、チカチカと輝く目障りな光の中に後藤の姿を見つけた。
53 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時53分25秒
浴室の中のあいつ。
血にまみれた衣服を1枚ずつ脱ぎ去っていく。

シャワーを浴びているあいつ。
透明な液体に混ざる赤い血‥‥。

肩、腕、胸、お腹。

その液体がすべてを洗い流す。

腰、太もも、ひざ、足。

そして、その液体によって朱に染まっていく肌。
54 名前:狩り 投稿日:2002年02月27日(水)18時53分55秒
そのまま全部洗い流しちゃえ。
あんなやつの血なんか、全部排水溝に放りこんじゃえ。

後藤が一番似合う赤は、それじゃない。
後藤が身にまとうべき赤はその色じゃない。

思い出すのはあいつの瞳。
あれくらいじゃ、まだ満たされてないあいつの瞳。

ゾクゾクと背筋が震え出す。
今夜もあの儀式が行われるだろう。
さらに、さらに熱くなっていく身体。
ゲームの後に必ず行われる儀式。

すべての欲望をさらけ出して、あたし達は求め合う。

それを欲しているあいつの瞳。
あたしもそれを望んでいる。

早く出ておいで。
本当のお楽しみはこれからだよ。ね?後藤。
55 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時49分55秒
あたしは首にタオルをかけたまま、浴室から出てきた。
しびれるほどの熱を浴びてきた身体が朱に染まっていた。
なにげなく腕に視線を落としたら、前に後藤から言われた言葉を思い出した。

『どうしてそんなに熱いお湯あびるの?』

湯船に使ったまま、あたしの顔を見上げるような形で質問してきた。
わざわざそれに答える義務もないから、そのまま黙ってシャワーを浴びつづけてたあたしに、今度は少しだけ怒りの感情を混ぜながらまた同じ質問をしてきた。

『どうして?』
「‥‥」

二度目の問いが耳に聞こえたから、後藤に視線をうつした。
その表情に胸が騒いだ。
56 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時50分29秒
射るような強い視線を向けながらも、口元はわずかに微笑んでいる。
あたしはまぶたにたまるお湯を流す為に目を細めた。

「自分が生きてるって事を確認するため」

後藤に答えるってよりも自分に言い聞かせるように呟いた。
唇を開くと中にお湯が流れ込んできて、その熱を敏感に感じ取る舌に苛つく。

「そんな事しなくたって、あたしがちゃんと感じさせてあげるよ?」

これって確信犯?それとも単なる天然か?
声と一緒にあいつ自身の熱が伝わってきた。
あたしは目を閉じた。

何度も何度も頭の中で繰り返す。
57 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時51分30秒
薄暗い闇の中で妖しく光るあいつの瞳と、ゆっくりと唇をすべっていく真っ赤な舌。
少しずつ早くなる呼吸とあたしに伸ばされる腕の動き。
何かを求めるみたいに。あたしを求めるみたいに。

「感じさせてくれるんだ?」

後藤があたしに与えてくれるモノはなんだっていい。
喜びも快楽も悲しみも痛みも。
その全部を受け止めてあげたい。
あたしの身体に、心に、永遠に消える事のない傷をつけて欲しい。

その瞳で切りつけて。
その唇で切りつけて。
その舌で切りつけて。
58 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時52分09秒
その結果、この身が血まみれになったとしてもあたしは絶対に後悔しない。
真っ赤に染めてあげる。
あたしが後藤に一番似合うって思ってる色に染めてあげる。
この身体から流れ出る血で染めてあげる。
真っ赤に‥‥真っ赤に‥‥。

「うん!だからー」
「ん?」
「あたしにも感じさせて?市井ちゃんのそばにいるんだって‥‥」

子供だけが持つことのできる無邪気な顔で答えてくる。
そして、その中に隠されている残酷な想いがあたしの心を支配する。
59 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時52分45秒
側にいるだろ、いつだって。
あたしは後藤の側にいるだろ?

本能の赴くまま素直に想いをぶつけてくる。
傷つけられても平気なはずなのに。
そう自分に言い聞かせてきたのに。
こんな些細な言葉で、あっという間に自分の存在が見えなくなる。

まだ足りないの?
まだ満足してないの?
60 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時53分21秒
後藤を抱き締めてると思ってた腕がギリギリと悲鳴を上げはじめる。
心の奥深くに沈めてあった本能がもうやめろと叫んでいる。
わかってる。そんなのはじめて会った時から気づいてた。
だけど‥‥だけど‥‥。

後藤の瞳を見つめ返す。
あたしに向けられてる視線が脳に直接入り込んでくる。

眩暈。

いつまであたしの隣にいてくれるんだろう。
はじめて会った時と一緒で、いつかあたしの前から消え去ってしまうんだろうか。
あの人みたいにあたしの前から飛び立ってしまうんだろうか。
61 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時53分55秒
もう、あの頃には戻れない。
一人で眠っていたあの夜には戻れない。

後藤が側にいてくれないと息ができない。
後藤の側にいないと生きていけない。

すっかり骨抜きだね。
恋は盲目ってこの事か?

「‥‥それって一番得意な事かも」
「アハッ♪」

後藤と出会った事であたしは少しずつ変わっていった。
一人でも生きていけると思い込んでたはずなのに。
一人で生きていくしかないって思ってたのに。
そう言い聞かせてたのに。
62 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時54分37秒
後藤の視線に囚われて。
後藤の唇の動きに魅せられて。
後藤の温度に惑わされて。

この肌を突き破って、あいつは中に入り込んでくる。
あたしの血で染まった指で、あたしの心を掴んでくる。
潰してしまうくらいに容赦なく‥‥。
痛みと共に伝わってくる、背筋が震えてしまうくらいの快感がろ、あたしに拒否する力を奪わせる。

あたしを求めて。
あたしの側にいて。
あたしを感じて。
あたしに感じさせて。

理屈じゃない。説明のしようもない。
ただ、後藤の側にいたいだけ。それだけなんだ。
63 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時55分28秒
濡れたままの前髪が睫毛に触れて少しだけうっとおしかったから、右手で無造作にかきあげて、後ろ髪と一緒に握り締める。
雫がポタリと落ちる感覚が伝わってきた。

(もうちょっと、ちゃんと拭いてくればよかったかな)

濡れてしまった手のひらを見つめてから、タオルで拭き取る。
後藤が頭から水を被るのと一緒で、あたしもこれだけは直りそうになかった。
頭を拭くのってちょっとめんどくさい。
拭いてもらうのは好きなんだけどね。

先にあがった後藤に気づかれないようにちらっと視線を向けたけど、後藤はこっちに向いていて、バチッと目が合う。
64 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時56分07秒
あたしの顔を見つめながら後藤は静かに微笑んだ。

「なに?」
「ん?」
「なに見てんだよ」
「ん〜、なんかかっこいいなぁって思って」
「‥‥言ってろ」
「へへへ」

お風呂上りに毎回のように聞く言葉。
どうやら濡れてるっていうのが好きみたい。
今みたいにお湯でも水でも、汗でも何でも。
65 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時56分51秒
あたしは後藤の視線を感じながら、そ知らぬ顔で冷蔵庫に手をかける。
開けたと同時に、汗ばんだ肌を刺激する冷気と意味のない光が身体を包む。
中をグルッと見回して、何本か常備してあるスポーツドリンクへと手を伸ばした。
ゆっくりとフタをまわし、静かに唇へと近づけていく。

‥‥ゴクリ。

喉に落ちていく冷たい感触が気持ちいい。
このままあたしの熱も冷めてれればいいのに‥‥って冷めるわけないか。
自虐的な笑いを浮かべ、さらにドリンクを飲み続けた。
そして、後藤に視線を飛ばす。
あいつはまだあたしを見ていた。
66 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時57分23秒
満たされない瞳が求めてる。
艶やかに光る唇が求めてる。
あたしの心を求めてる。

後藤から求められてるんだって想いがすごく心地いい。
熱いシャワーを頭から被っている以上に、あたしに生きてるんだって事を実感させてくれる。
もうあんな事しなくたって平気。

あたしは今、生きてるんだ。
後藤の側で生きてるんだ。
67 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)21時59分46秒
残り全部を一気に飲み干して、空になったペットボトルをごみ箱に投げ捨てた。
軽く後藤に微笑んでから、ゆっくりと近づいて行く。
後藤の前に立ってからもう一度前髪をかきあげた。
そしてゆっくりとため息をつく。

「ハァ‥‥」

自分から吐き出された熱に戸惑いを覚えながらも、あたしの全部があいつを求めてるって事をこの熱さで再確認する。
あんな狩りの後は、身体の熱がなかなか収まらない。
悲鳴を上げたくなるような冷水を被っても、瞬時に蒸発してしまう。
抑えきれないほどの興奮が何かを求めて暴れだす。
そう、何かを‥‥後藤を求めて。
そんなあたしをじっと見つめる後藤の瞳がさらに体温を上げる。
68 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)22時00分27秒
‥‥ドクン‥‥ドクン。
(胸が苦しい)

‥‥ドクン‥‥ドクン。

(息ができない)

‥‥ドクン‥‥ドクン。

(のどが熱い)

さっき飲んだドリンクじゃ、あたしの渇きは癒されない。
69 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)22時01分09秒
「あたしが欲しい?」

少し首をかしげながら囁く誘惑の言葉。それははじまりの合図。
テーブルの上に置いてあったナイフにちらりと視線を向けて、あたしはニヤリと微笑む。
風呂あがりのせいで剥き出しになってる両腕に後藤の視線を感じた。
熱で火照ってる以上に赤く浮き出ているいくつもの筋。
それを隠そうとせず、後藤に見せ付けるかのようにわざとあいつに向かって腕を伸ばす。
いつもの言葉。
それを願ってるあたしの心。
先にあたしに問い掛けてくるのは何故なのかっていつも疑問に思ってたけど、後藤がそう聞いてくるんなら、返事はいつも決まっている。

「‥すごく‥‥欲しい」
70 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)22時02分05秒
以前なら口が裂けても言えなかった言葉だったけど、後藤には素直に伝えることができる。
だってこれがあたしの本心だから。

あたしの熱を冷ましてくれるのは冷たいドリンクなんかじゃなく。
あたしの熱を冷ましてくれるのは肌が痛むほどの冷水なんかじゃなく。

あたしの熱を冷ましてくれるのは、こいつの‥後藤の想いだけなんだ。
71 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)22時03分02秒
狩りの後のいやな匂いを後藤の汗と声で洗い流す。
あれはそれなりにおもしろいゲームだけど、それ自体をあたしは求めてないんだよね。
やっぱり後藤の楽しむ顔が見たいだけっていうか。
でもあんなシーンを見ていると少しだけ興奮してくる。
その仕方はあたしはあんまり好きじゃない。
だから、自分が納得できるやり方で気持ちをたかぶらせたい。
72 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)22時03分41秒
時間をかけて、静かに顔を下ろしていく。
唇が触れる瞬間、僅かにそれを開かせる。
首に後藤の腕が絡み付いてきた。
待つって事ができないあいつの力に逆らわない。

くちづけ。

顔を何度も上下させながら、舌を奥深くに潜り込ませていく。
口の中に入ってはじめて味わえる後藤の味があたしを虜にさせる。
あたしは意識しながら舌を使って混ぜ合わせる。
後藤のだって思うとすごく興奮してくるけど、あたしのそれと対して味の差はない。
73 名前:熱い身体 投稿日:2002年02月27日(水)22時04分16秒
少しずつ後藤の息が荒くなってきた。
あたしの息も荒くなってきた。
そろそろガマンの限界が近づいてきてるんだ。

もっともっと感じたい。
もっともっと味わいたい。

唇をそっと離すと、あたしの気持ちを表してるのか二人の間に透明な糸ができた。
あたしと後藤をつなぐ細い細い糸。
それは音もなく途切れて消えてしまう。

「‥‥いちーちゃん」
「ん?」
「‥好‥き。ダイ‥スキ‥」

自分の心が溶けていくのがわかった。
74 名前:想い 投稿日:2002年03月01日(金)23時17分20秒
ソファに後藤を抑えこむ。
逃げないように、逃げ出さないように。

いつまでも側にいるって。
ずっと側にいるって。
そう言ってくれたのに、あたしは信じきれないでいた。
あたしに向かってそう囁く後藤の言葉を信じきれないでいた。

いつかは離れていってしまうのだと。
そんな考えが必ずどこかにあって。

いつかは誰か違う人のモノになっちゃうんだと。
そんなことばっかり考えてて。
75 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年03月02日(土)19時57分51秒
某所のほう見てましたよー。
こちらで復活ですか?楽しみにしてます!
76 名前:名無し 投稿日:2002年03月03日(日)22時42分54秒
今度はちゃんと最後まで書き上げます。
これからもよろしくです。

途中で止めてちゃってた・・・がくり。
77 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時46分31秒
いつかは誰か違う人のモノになっちゃうんだと。
そんなことばっかり考えてて。

そんな時がくるのかな。
あの人みたいに、あたしから離れてっちやうのかな。

だけど。
たとえその瞬間がきたとしてもあたしは後藤を離さない。
「だいきらい」って言われてもあたしは後藤を離さない。

絶対に離さない‥‥。
78 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時47分15秒
舌をちょっと突き出して後藤の唇をなめてみた。
あたしのよりも少しだけ柔らかな感触がゆっくりと意識を蝕んでいく。
ゆっくり、優しく、なぞっていく。舌先から伝わる後藤の微かな息遣い。
アツイ吐息。
後藤の震えがあたしにも伝わってくる。痺れるほどの熱を感じる。
口紅をぬってるわけじゃないのに、それ以上に赤く染まってるのは、もしかしてあたしのせいかな?
艶やかに光りを増した唇。
薄く開かれた瞳があたしの顔を見つめてる。
自然と顔がニヤてきた。
79 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時48分18秒
時間をかけてゆっくりと、後藤の唇の感触を楽しんでると何か言いたそうな視線を感じた。
それに気づいたあたしは、静かに唇から舌を離して後藤へと問い掛ける。

「ん?」

言いたい事があるんなら、そんな意味ありげな視線しなくてもいいのに。
後藤の視線はあたしの唇だけを見てるような気がした。

「どうした?」

できる限り優しい顔を作って後藤の言葉を待った。
こいつを見ていると、自然と目が細くなる。
決して外では見せないような、そんな顔になる。
80 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時49分15秒
自分でもわかってた。
あたしの心の柔らかな場所をつついてくる。
締めつけられるような痛みが心地良い。

こいつには絶対に逆らえない。
麻薬にも似た後藤の魅力にあたしはどっぷり浸りこんでいた。

「キス‥して‥‥」
「してほしい?」
「‥‥ん」

吐息と一緒に放たれたその言葉に素直に従う。
81 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時50分04秒
心を満たす満足感。
この言葉が聞きたくて、ちょっと焦らしてみたんだ。
もっと早くに触れたかったけど、たまにはイジワルしてみたくなって。

キミの望み通り。
キミの望むがまま。

今のあたしにはそれしかできない。
そんな愛し方しかできない。

くちづける瞬間、大きく息を吸いこんだ。
82 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時51分56秒
後藤があたしに願うのなら。
その全てを手に入れて。
君の微笑と引き換えに、あたしの魂をも与えてあげる。

あたしをもっと求めてほしい。
あたしの全てを感じてほしい。

それが他人の悲しみの上になりたっていたとしても。
後藤がそれを望むのなら。
その全てを与えてあげる。
83 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時52分51秒
より強い刺激を求めて、後藤があたしに願う。

「いちぃ‥ちゃぁん、もっと‥‥もっとぉ」

その声を拒む事なんてあたしにできるわけがない。
だって、その声が聞きたくてこいつの側にいるんだから。

なんでもいいよ、言ってごらん。
後藤が欲しいって思ったものは。
あたしに欲しいって願ったものは。
全て‥全て与えてあげる。
洋服も、指輪も、お菓子も‥‥そして、人の悲鳴と血の匂いも。
その全てを与えてあげる。
あたしが与えてあげる。
84 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時53分38秒
ほかに術を知らない。
あたしは何も知らない。

人を愛するって意味も知らない。
人から愛されるって言葉も知らない。
ただ、後藤が欲しいだけ。
それだけなんだ。

息ができないほどの快感と甘い吐息。
狂った様に求め合う2人。

‥‥そう、あたし達は狂ってるんだ。二人はもう狂ってるんだ。

あたしが後藤だけを求めるように、あたしの事だけを求めていて。
ずっと側にいられるって、そう錯覚させるぐらい、あたしだけを求めて。
85 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時54分17秒
でも、でもさ。
そんなあたしの心の中にもう一人のあたしがいて。
悲しい顔してずっと見つめ続けてるあたしがいて。

後藤の唇に触れる度、あたしは後悔してしまう。
あたし達は出会ってしまってよかったんだろうか。
あたしは、後藤に出会ってしまってよかったんだろうか。
後藤は、あたしなんかと出会ってしまってよかったんだろうか。

あたしの中の奥深くで、くすぶりつづけている蒼い炎。

こいつの笑顔と、抱きたいという想い。
こいつの腕と、抱きたいという想い。
こいつの瞳と、抱きたいという想い。
こいつの唇と、抱きたいという想い。

抱きたいという想い。

ずっと抱き続けてる欲望。
86 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時54分50秒
後藤なしでは。
後藤に触れていないと。
後藤があたしの側にいないと。
後藤だけがいればいいと。

あたしが本気で欲しいと思った。
あたしが心底欲しいと願った。
あたしの全部が求めてる、ただ一人の人なのだ。
苛つくほどのその想いは、あたしに充分すぎるほど恐怖感を与える。

震えだす腕と、だんだん早くなる呼吸。

立っていられないくらい、ギリギリと痛み続ける心に悲鳴をあげてしまいそうになるあたし自身。
87 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時55分26秒
自分の想いを打ち消すように、後藤を深く求め続けた。
何度となく味わった口内は、あたしのそれと同じくらい熱かった。
どんどん上昇していく体温と比例するように、心を満たしていく‥欲。

あたしの思い通りに後藤の中で蠢く舌。
頭で考えている事なんて、ほんとは嘘かもしれないって思わせる。

ゆっくりと、優しく、丹念になぞる。
からみあう唾液。
脳に響くその音。
思う存分に後藤を味わっていた。

今、あたしが思っている事が、ほんの少しでも後藤に伝える事ができたなら。
88 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時56分17秒
聞こえてくるのは‥‥。

後藤の吐息とあたしの吐息。
後藤の鼓動とあたしの鼓動。
後藤の声とあたしの声。

手のひらで感じていた肌の感触と、唇が触れることで感じることができた感触。
そして、後藤をこの唇で味わうことができる悦び。
愛おしく‥‥ただ愛おしく。
狂ってしまいそうなほど、あたしは後藤を求めてる。

少しずつ汗ばんでいく後藤の身体を、あたしはそっと抱きしめる。

あたしの指が触れるたび、あいつが苦しく息を吐く。
あたしの指が滑るたび、あいつの身体がはねあがる。
細かく痙攣する肢体。
89 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時56分49秒
したたる汗と、流れ落ちる涙。
開かれた唇からかすかに見えるまっかな舌。

「いちぃ‥ちゃぁ‥‥ん‥」

その呟きがあたしをさらに高みへとのぼらせて。
この指が。
この舌が。
後藤の身体をなぞっていく。

もっと、もっと後藤の事が知りたいよ。
まだ、誰にも知られてない後藤の素顔が知りたいよ。
あたしだけに見せてほしい。

後藤があたしの視線に耐えながら、それでも乱れていく、その姿を。
90 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時57分37秒
「これ、なかなか消えないね」

「すごく痛そう」

「ね、痛い?」

後藤の甘い声がぼやけてる頭にスルリと入り込んできた。
その唇の動きに見惚れているあたし。赤い唇と白い歯から目が離せない。

昔は傷だらけだったこの身体も、一部をのぞいてすっかりきれいになっていた。
熱いお湯をかぶる度、うっすらと浮き上がってくるのもいくつかあるけど、所詮は過去に経験した行為の名残り。
無意味な集まり。古い傷。
91 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時58分19秒
他人があたしの身体を傷つける事になんの恐れも抱いてなかったあの頃。
それは今も変わってないけど、傷つけさせる相手が他人じゃなくて後藤唯一人になっただけ。
そう考えるだけでのけぞってしまうほどの快感が得られる。
誰も、後藤以外の誰も、あたしを傷つける事なんかできない。
自分でもかなり倒錯的だとは思うけど、この最高の喜びを手放す事はできない。

今夜もあたしを傷つけて。
後藤のその指であたしを切り裂いて。
それをずっと待ってるんだ。
92 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時59分00秒
後藤の指が優しく傷跡を撫でてくる。
抱き合って眠る時よりも。
涙を流しながらあたしの首に腕を回してくる時よりも。
優しく優しく撫でてくる。

人差し指で撫で下ろして、中指で撫で上げる。
何度もそれを繰り返す。あきる事なく何度も何度も。

あたしの腕の内側にある何本もの赤い筋が、後藤の指でなぞられるたび、大きく脈打つ。
その部分だけ切り取られたみたいに激しく動きはじめる。
こいつら、待ってたんだ。
後藤にこうやって触れられるのを待ってたんだ。

「指」「腕」「唇」「頬」‥‥‥高鳴る鼓動。

「胸」「腿」「舌」そして「血」‥‥‥解き放たれる想い。

その全部が待ちつづけてる。後藤に触れれるその瞬間を。
93 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)22時59分34秒
自分の身体の一部なのに、それはあたしのモノじゃない。

痛みを感じるまではあたしのモノだったけど、後藤の動きが止まった瞬間、あたしの身体から離れていく。
ゆっくりと流れていく後藤の手。そしてその後に続く赤い筋。
今までずっとジャマしていた薄い皮の切れ目からじわりと滲み出るその液体は、この身体から流れ出た瞬間、あたしのモノじゃなくなっていく。
そう、もうあいつのモノなんだ。
抑圧され続けてきた怒りを吐き出すように、確かな意思を持って肌の上を動きまわる。
本当の主の元へと静かに移動しはじめる。
中には重力に逆らえず悲しいほどの叫び声をあげながらシーツに落ちていくモノもある。
簡単にはたどり着けないって事か。
あたしのだけどあたしのじゃないそれらに、少し哀れみを感じた。
94 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)23時00分10秒
ほら、そんな大きな声で泣くなよ。
お前達の気持ちはちゃんとわかってるからさ。
ほら、今すぐあいつにかえしてあげる。
お前達が戻るべき場所はちゃんとわかってるからさ。

幸せだろ?
あいつが待ってくれてるんだから。
お前達が自分の元に戻ってきてくれるのを。

嫉妬してしまうくらい、恍惚の表情を浮かべながら、あいつは待ってるんだ。
あたしの血で真紅に染まるその瞬間を。
95 名前:想い 投稿日:2002年03月03日(日)23時00分52秒
薄暗い部屋なのに、何故か光りを放つナイフ。
2人の欲望をあらわすように妖しく輝くナイフ。

二人だけの時間。
二人だけの儀式。

後藤の身体をあたしの色で染め上げる。
なんともいえない浮遊感。
狂っていく二人。

いつでもいいよ。早くそのナイフで切りつけて。
さぁ‥早く‥‥。
96 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時06分52秒
腕の内側に、銀色に光るナイフが当てられる。
そこにはすでに何本もの赤い筋が刻まれていて‥‥。
ピリピリとあたしの意思に反して痙攣し始めるそれら。
なすがまま。
望み通りに。
あたしに居場所を与えてくれた君へ、あたしの全てを捧げるべく、傷だらけの両腕を差し出す。
これがあたしの愛し方。
もう、このぬくもりを手放す事はできない。
97 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時07分42秒
あたしのキスが儀式への合図で、後藤のキスがその返事。
ソファに2人倒れ込んだまま、ゆらゆらと曖昧な時間を楽しむ。
だけど、ずっとこのままで終わらないのが、今夜のあたし達。

先に、行動を起こしたのは後藤だった。
覆い被さったまま、何もしようとしないあたしの腕に、後藤の指が触れてきた。
何本かあるうちの一本を人差し指で静かになぞる。

背骨に針が刺さった。

もう、自分の欲望を抑えるコトができない。
98 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時08分16秒
後藤の指を乗せたまま、腕を自分の唇に近づけて、舌で触れ、そしてくちづける。
最初の関節のトコロを唇で噛んでみる。指がビクリと動いた。
あたしの熱が伝わるように、わざと大きく息を吐く。
次の関節へ移動しようとして唇を離した瞬間、後藤の指がスッと何かを差した。
あたしがくちづけしやすいようにって事なのかな。
そんなちょっとした動作が、愛しくてたまらない。
自分でも、ニヤけているのがわかった。

横に広がった唇を開いて、爪ごと口でふくむ。
目前にうつる自分の血の色が、羨ましげに動き回る。
99 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時09分40秒
先に後藤を味わうのは、あたし。
お前らはその後。
舌で指先を愛撫する。くるんで歯をたてて唇で吸う。
後藤にも聞こえるように、ワザと音をたててみる。

あたしの柔らかさを感じて欲しい。
どれだけ大切に思っているかを、どれだけ想っているのかを、あたしの中で感じとって欲しい。

唇で指をはさんだまま、後藤の顔を覗き見た。
自分の指先を見つめてる、その熱っぽい視線に満足した。

あいつはあたしを求めてる。
儀式への準備はすべてととのった。

何か言いたそうな半開きの唇を目にしながら、あたしは笑う。
100 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時10分21秒
ナイフが当てられた場所からあたしの視線は動かない。
静かに、少しずつ早くなっていく呼吸。
両目の真ん中に身体中の熱が凝縮されて、それに耐えられなくなった瞳が暗闇を欲する。
だけど、まぶたは閉じない。
触れた瞬間から離れる瞬間まで、あたしの視線はその輝きだけを追う。
この身体に印を刻み込む、後藤の腕が止まるまで。

「いちーちゃん?」
「‥‥ん?」

後藤が、少し不安げな表情を浮かべて、あたしの名を呼んだ。
101 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時11分03秒
視線を後藤へと向けて、返事を待つ。
何かを探るような2つの瞳が、あたしの中に入り込んでくる。
ふいに、はじめて出会った頃の後藤の瞳を思い出した。
あの時も、こんな瞳をしてたっけ。
自分を受け入れてくれるのか、どうか。
そんな緩やかな輝きが、あたしを惹きつける。
言葉を発していないのに、その想いが伝わってくる。
もしかしたら、これはあたしの錯覚なのかもしれない。
自分の良いように思い込んでるだけかもしれない。
だけど、そんな事はどうでもいい。
今のあたしには、それしかすがれるモノはない。

肌に当てられていた刃先から、後藤の興奮が伝わってきた。
102 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時11分43秒
静かに、静かに、肌の上を滑っていく。
前に作った傷口をさらに切り裂くように。

「痛かったら言ってね?すぐ、やめるから」

後藤の言葉に、微笑みを返す。
痛いと感じるのは最初だけ。
溢れ出てくる赤い液体が、あたしの感覚を麻痺させる。
後藤に傷つけられている、その現実が胸を高鳴らせる。
あたしのすべてを欲する後藤。
そして、望むがまま与え続けるあたし。
どっちがより罪深いのか。
欲してくれるからこそ、与えられる。
与えてくれるからこそ、さらに求め続ける。
2人の間でぐるぐるまわり続ける、願い。
103 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時12分18秒
ゆっくりと、ゆっくりと、後藤はナイフを動かしていく。
刃先が離れていくそのあとから、赤い液体が次々と溢れ出てくる
肌を破って、肉を切り裂き、望みどおりに後藤へと手を伸ばしはじめる、あたしの分身達。
やっと、この時間がきたんだ。
ほら、早くしないと、あいつはお前達から離れてっちゃうぞ?

今のあたしは、あたしだけのモノじゃない。
この身すべて、あいつだけのモノなんだ。

この瞬間の為に、生きている。
104 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時15分21秒
両腕を伝って、赤い雫が真っ白なシーツを染めあげていく。
まるで、最初からそこにあったかのような、ぼやけた模様。
あたしが求めてるのは、後藤だけなのに。
なのに、それに触れる事なく、落ちていく。
堕ちていく。

1つの線を引くのに、時間はそんなにかからない。
でも、あたしにはその瞬間が永遠のように感じる。
後藤の想いを直に感じる事ができる、至福の時間。
105 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時15分52秒
手首をそっと抑え込み、動き出さないように力を込める。
その手のひらが少し汗ばんでいるように感じた。

そんな事、しなくていいのに。
あたしがこの快感から逃げるわけないのに。
ねぇ、後藤。緊張‥‥してる?

何事にも動じず、まるで小さな子供が、生と死の意味もわからず、ただ自分の欲望を満たす為だけに、無抵抗な、文字通りの虫ケラ達をいたぶっていたあの時とは、まったく違う今の表情。
あたしを傷つける時にしか浮かべないその表情が、あたしの心を酔わすんだ。
106 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時16分24秒
後藤の手が止まって、刃先が腕から離された。
そこで、あたしははじめてまばたきをした。
閉じた瞬間、瞳全体に刺激が走る。
ギュッと力を込めて、渇きを潤した。

血だらけの腕。
傷だらけの腕。

後藤からの贈り物。あたしを愛してくれている証。

「‥‥いちーちゃん、すごいキレイ」

熱っぽい視線を腕に感じながら、右腕を自分の唇へと近づけていく。
107 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時17分02秒
首を前に伸ばして、舌でちょっと舐めてみた。
あたしの味だ。
口の中でそれをじっくりと味わう。
唾液と混ざりあって、どんどん薄くなっていく。
そして、ゴクリと飲み込んだ。
体の全部で自覚する。
後藤があたしを切り裂いて、流れ出た赤い液体が、間違いなく自分のモノだという事を。

「後藤の方がキレイだよ」

あたしの瞳には、こいつしかうつらない。
浮遊感。
酔ってるな、確実に。
そう思うと、どこからともなくおかしさがこみ上げてきた。
108 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時17分39秒
何をしてるんだ?
何をしようとしてるんだ?

まだ生きていた、昔のあたしが問い掛けてくる。

お前の声を聞く気はない。
あたしは、もう自分を偽ることなんかできない。

これが、過去のあたしへの最後の言葉だ。
109 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時18分13秒
−柔らかさ−

後藤の唇があたしに触れた。

−暖かさ−

そして感じる、後藤のネツ。

−ヌレタ感じ−

優しく液体を舐め取る。

−君への想い−

大きく息を吐き出す、あたし。

流れ出す、溢れ出す、この想いすべてを。
舐めとって、触れさせて、その身体で味わって欲しい。
110 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時18分43秒
あたしの身体から流れ出た液体は、唇のさらに奥へと運ばれて、艶かしいベッドの上で、恍惚の声をあげている。

混ざり合え。

混ざり合え。

混ざり合え。

混ざり合え。

後藤のすべてと混ざり合え。
111 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時19分21秒
そして、あたしは最高の快感を得る。
血だらけの両手を、後藤の身体へと伸ばす。

頬から首へ。
肩から腕へ。

ゆっくり‥‥優しく‥‥。

腰からお腹へ。
右胸から左胸へ。

ヌリたくる‥‥ヌリたくる‥‥。

荒い呼吸。ふるえる瞼。

おかしくなりそう。
壊れてしまいそう。

あたしの血。
あたしの魂。

あぁ、やっぱりこの色だ。
後藤に似合う色は、この色だけだ。
112 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時20分00秒
2人の汗が混ざり合う。
あたしの血が混ざり合う。
そのすべてを舌で舐め取る。

髪の中で動くあいつの指。
あたしの背中に爪をたてる、細くて赤いあいつの指。

2人の唾液が混ざり合う。
あたしの血が混ざり合う。
そのすべてを瞳で舐め取る。

顎をつたう汗。
部屋いっぱいに響き渡る、あたしの名を呼ぶあいつの声。

もっと、もっと。
あたしを求めて。
あたしを欲して。
そして、あたしを傷つけて。
113 名前: 投稿日:2002年03月07日(木)20時20分36秒
やっと手に入れた幸せ。
愛する人を、愛してくれる人を、手に入れる事ができた幸せ。
もう、どうなってもいい。
このまま後藤に壊されたとしても、あたしは絶対に後悔しない。
だから、このまま。
ずっと、このまま。
2人一緒に堕ちていこう。

「ごとぉ‥」
「い‥ちー‥‥ちゃぁん」

だから、このまま。
ずっと、このまま。
2人溶け合ったまま堕ちていこう。

満たされる想い。
傷だらけの腕で、抱き締めるのは、後藤‥唯一人。
114 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時18分11秒
忘れようとしても忘れられない、日だまりのような思い出。
短い時間だったけど、すごく幸せだったのを覚えてる。
それは永遠に続かなかった時‥‥。

−あたしを最初に見つけてくれた−

望んじゃいけなかったんだ。
誰もが望む「日常」を、でも、あたしがそれを望んじゃいけなかったんだ。
確かにこの腕の中にあったのに、強く抱きしめようとすると泡となってこぼれ落ちる。
今まで何度も体験したのに、それでもあたしは求めずにはいられなかった。
115 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時18分46秒
−あたしの隣で眠りについてくれた−

それまで、一人でいるのにツライなんて思ったコトなかった。
それがあたしの日常だったし、ごくフツーの出来事だった。
闘う時も逃げる時も、一人なら何も気にせず思う存分やってこれた。
信じるのは自分だけ。他人なんかあてになんない。
わずらわしいモノは全て排除してきた。
116 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時19分18秒
−あたしに向かって微笑んでくれた−

だけど、やっぱり‥‥。
どこかで温もりを求めてた。
この身体を包んでくれる、ぬるい寝床を探してたんだ。
それを自覚する前に、あの人が現れた。
117 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時19分55秒
−優しい甘い声で名前を呼んでくれた−

金色の髪と蒼い瞳。

あたしは視線が外せなかった。
118 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時20分29秒
「あたしと一緒に住まんか?」

初対面で、彼女はそう囁いた。
見ず知らずのあたしを、なんの警戒心も感じさせない笑顔でそう言ってきたあの人を見て、バカじゃない?ってそう思った。
でも、なんとなくそれもいいかなって思ってた自分もいた。

何が楽しいのか、あの人のあたしを見る顔は、幸せそうな笑顔だった。
そんな顔して見つめられた事なんて今までなかったから、妙にドキドキしたのを覚えている。
そう、今でもはっきりと覚えている。

その人の名は、中澤裕子。

最初にあたしを見つけてくれた人。
死人同然だったあたしを、その腕に抱きかかえてくれた人。
119 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時21分10秒
その日から、彼女とあたしの奇妙な同居生活が始まった。
自分の側で他人が一緒に生活してるなんて、今までにない状況に、あたしはなかなか素直になれなかった。
だって、その時のあたしは、彼女のコト何にも知らなかったし。
自分をさらけ出す前に、まずは相手を知らなくちゃ。
この街で生きてる間に、知らない間に身についてしまった警戒心を思う存分発揮してやった。

彼女はいつまで笑顔がたもてるだろう。
声をかけられても返事もしない、笑いかけられても何1つ返さない。
そんな、ぜんぜんおもしろくない時間を過ごしながらも、彼女の優しさはあたしの中にじわじわと蓄積されていく。
あちこちに張り巡らせたバリアーが、少しずつ壊されていく感覚。
120 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時21分42秒
気がつけば、そんな彼女にすっかり飼い慣らされてる感じの自分の姿。
起き抜けの彼女の腕が、自分の首に巻きついてくるくすぐったさと、そんな彼女の頭をポンッて叩くあたしの手。
夜の仕事をしてる彼女の為に、世間とはかなりずれた時間に作る朝食。
天気が良ければすすんで洗濯物を干し、たまには布団も干してみたり。
関西訛りの残る彼女の言葉と、細くて柔らかい声に時には爆笑したりして。
荷物らしい荷物も持たずに転がり込んだあたしの為に、あれこれと買い与えてくれる彼女。
二人で買い物に出かけて、店内に飾られた品物を見ながら「どっちがいい?」なんて小声で話し合う。
121 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時22分19秒
毎日誰かに「おやすみ」って言える幸福感。
そう言えば、「おやすみ」って返ってくる安心感。
彼女の優しさは、無条件にあたしへと差し出されてくる。
なんだろう、この感覚は‥‥。
意味もなく楽しくて、意味もなく嬉しくて。
側にいるって想いだけで、自然と笑みがもれてくる。
今まで体験したコトなかった緩やかな時間の流れに酔っていた。
「アナタ」から「裕ちゃん」へ呼び方も変わっていく。
まぁ、この場合、半ば強制的だったんだけど。
122 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時23分05秒
それは、欲しくて欲しくてたまらなくて、でも諦めていた時間だった。
やっと手に入れた、大切な日常。

一緒にいる時間が長くなると、自然に相手の色んな顔が見えてくる。

あたしが彼女とのつきあいに慣れた頃、彼女の友人の中から一人ずつ、あたしのコトを紹介してってくれた。
1番最初に紹介されたのが‥‥矢口真里。
彼女は惚れ惚れするくらいのアツ底を見事に履きこなしてた。
顔よりもまず視線はそこに集中。
123 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時23分35秒
それに気づいた裕ちゃんが、たぶんだけれど苦笑いしながらあたしに声をかけてくる。

「靴はええから、顔見てあげ?」

あぁ、ごめん。
いつも見かけてたモノだったけど、こうやってまじまじと見るのはじめてだったんだ。
ちょっとバツが悪くなって、チラッとだけ彼女の顔を盗み見た。
緊張半分、嬉しさ半分。
そんな顔してあたしを見る彼女の視線はかなり下の方だった。
はじめて見た時はてっきり年下だって思い込んでたけど、実際はあたしの1つ上。
笑顔が可愛い女の子だった。
そして、彼女を見つめるあの人の、裕ちゃんの視線に気づいた。
124 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時24分10秒
その時すでに、裕ちゃんの心の中にはすでに特別な人がいるってわかってた。
こんなにキレイでステキな人なんだし、いないわけないだろーなってね。
でも、誰がいたもそれでいいかなって思ってた。
今、こうしてあたしに微笑みかけてくれる。それだけで満足だった。

矢口と仲良くなった頃、次に紹介されたのが保田圭。
すでに裕ちゃんからあたしのコトをいくつか聞いてるみたいで、いきなり値踏みされるような視線を向けられて、少しとまどったのを覚えてる。
あまりにも強いその光に、あたしは負けじ睨み返す。
二人でしばらく睨み合ってて、たぶんその時の裕ちゃんも苦笑いだったはず。
125 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時24分53秒
「そろそろええやろ?」

その言葉に二人同時に反応した。
あたしは戸惑い、彼女は笑顔‥‥て、笑顔?

「気に入った。これからもよろしくね」
「あ‥うん‥‥」

睨み返したのがよかったのかな?
わけわからず、差し出された手を握る。
彼女の体温がじわりと伝わってきて、なんだか泣きそうになった。
あぁ、この人達はこれからのあたしにとって、凄く大切な人達になってくんだ。
126 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時25分25秒
暖かい寝床と、優しい眼差し。
そして、心を許し合える人達。
その全てを裕ちゃんが与えてくれた。

絶対に手に入らないって諦めてたモノだったのに、彼女は少しずつ教えてくれたんだ。
自分の心をちょっとだけでいい、相手の心と向き合わせれば、簡単に手に入れられるって現実を。
だから、あの娘の存在がジャマじゃなかったとは言えないけれど、それでも、あたしはあなたの側にいたかった。
永遠に続くわけないって思ってても、心のどこかでそれを願ってた。
127 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時25分57秒
好きだったんだよ。誰よりもずっと。
あの時のあたしにはあなたしかいなかったから。

あたしをはじめて抱きしめてくれた人だった。
あたしをはじめて愛してくれた人だった。
でも‥‥愛させてくれなかった人だった。

願いは叶わなかったんだ。
128 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時26分35秒
『だって‥‥しゃぁな‥い‥‥ん』
『ど‥しょーもな‥くらい、好きになって‥‥たんや‥ら』

腕に伝ってくる赤い液体。
あの人の小刻みな息遣い。

なんであたしはここにいるの?

何もかもがあっという真の出来事で。
そのスピードについていけない。
129 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時27分13秒
『あい‥つ、だいじょ‥‥ぶか?』

その直前まで、彼女の心の中を占めているあの娘への想い。
そして、あたしの背後に横たわる‥‥。

なんであなたは辛そうな顔をしているの?

さっきまで‥ついさっきまでみんなで笑い合ってたのに。
どこかで道を間違えた。
130 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時27分47秒
『ん。ちょっと気失ってるだけだから』

あたしが彼女についた何度目かの嘘。

『…そ…か…』

その嘘に気づかないフリして、笑ってうなずく彼女。
あたしの胸の中に、永遠に消えないその彼女の笑顔。
あの娘を守った安心感からか、もう何も未練がないって顔して、彼女は大きな息を吐く。
131 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時28分21秒
静かになった。
何も聞こえなくなった。
あたし以外、誰もいなくなった。

『裕ちゃぁぁぁんっ!!』

むなしく響き渡るあたしの声。
132 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時28分55秒
息絶えるその瞬間まで、裕ちゃんは笑顔だった。
汚い路地裏ではじめて出会った時とおんなじ、優しい優しい笑顔だった。

なんで?どうして笑ってられるの?
自分で大切な人やって言ってた人を置いて行かなきゃいけないのに、なんで裕ちゃんは笑ってられるの?
おかしいよ。
おか‥しっ‥‥。

堪えようとしても後から後から涙があふれてくる。
声を出すまいと歯を食いしばるけど、重い嗚咽が喉の奥から流れてくる。
133 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時29分45秒
見たくない。見たくない。こんなの見たくない。
あたしはこんなの望んでない。
こんな結末を望んでなんかいない。

やっと手に入れたと思ってたのに、壊れるのはあっという間。
暖かな寝床からまた放り出されてしまう。
やっぱり望んじゃいけなかったんだ。
こんなヤツが人並みの幸せを手に入れちゃダメだったんだ。

心がぐちゃぐちゃに切り裂かれる。
痛みなんか感じない。
あたしの全てが怒りと哀しみで狂い始める。
134 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時30分15秒
消えた。
あの人の魂が消えた。
あたしの前からその存在が消滅した。

ねぇ、目をあけて?
蒼い瞳であたしのコト見て?
このままいなくなんないでよ。
あたしの側から離れないでよ。
また朝ご飯作ってあげるからさ。
起きてよ。目を覚ましてよ。

あたしを‥‥一人にしないでよぉぉぉ!!!!
135 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時30分48秒
「どぅ‥したの?いちーちゃ‥ん」

叫び声をあげながらいきなり飛び起きたあたし。
隣に眠っていた後藤が気づいて、まぶたをこすりながら声をかけてきた。
あたしは激しい呼吸を整えながら、そっと後藤に顔を向ける。

「なんでもない‥‥」

しばらく見てなかった夢なのに、なんで今更。

「ん?怖い夢でも見たの?」
「そんなとこかな」
136 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時31分25秒
心臓はまだドキドキしてて、身体中が冷や汗でべとべとだったけど、不安そうな顔して除き込む後藤に心配させまいと強がる。

あの人のコトなんか思い出したくなかったのに。
あたしの隣には後藤がいてくれるのに。
ずっと側にいてくれるって約束してくれた後藤がいてくれるのに。

「‥‥来て。あたしが慰めてあげる」

優しく伸ばされた指が、汗で濡れているあたしの前髪をもて遊ぶ。
あたしはその感触だけを感じたくて、静かに瞳を閉じる。
137 名前:過去 投稿日:2002年03月09日(土)20時31分56秒
あの人はもういないんだ。
今のあたしには必要ないんだ。
こいつがいるから。
目が覚めればいつもあたしの側で寝てくれる、後藤がいるから。

時折肌に触れるたび、思わず唇で触れたくなる。
後藤のその熱っぽい指とあたしの舌とどっちが熱いんだろう。
138 名前:名無し 投稿日:2002年03月09日(土)20時33分04秒
ちょっと一息。
思ってたよりも長くなりそうな予感‥‥
139 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月10日(日)01時10分17秒
良い小説は長くなっても全然OKです。
むしろその方が嬉しい(w
ってなわけで今後も期待!
140 名前:名無し 投稿日:2002年03月16日(土)20時52分49秒
レス、ありがとうございます。
余計なモノは排除してすすめてく予定でしたが、やっぱりうまいコトいきません(笑
141 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月16日(土)20時53分52秒
昨夜、久しぶりにあの人の夢を見たせいか、目にするモノ全てにあの人を感じる。
あたしの前からいなくなってから、ずっとそのままにしてある部屋。
中に入るとすぐに感覚があの頃に戻っていっちゃうってわかってたから、今までほったらかしにしてたけど、今朝はなぜか入りたくなった。
ドアを開ける前、グッとお腹に力を入れて、深呼吸した。
中に入ると、あの時そのままの部屋が見えた。

あの人が使ってた机。
あの人が使ってた鏡。
あの人が使ってたベッド。

全てがあの時、あのまま。

そこに全部残ってるのに。

あの人だけがいない。
142 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月16日(土)20時54分30秒
『‥‥紗耶香‥』

聞こえるはずのない声を聞いたと錯覚する自分。

まだ、ここにいる。
あの人はまだあたしの中にいる。
あの時、あたしは置いてかれたのに、まだあの人を求めている。

‥‥こんな部屋、見るんじゃなかった。

自分の心の中に怒りにも似た感情が騒ぎ暴れた。
直接、頭の中に何かが入り込んできて、優しく撫でまわす感覚に寒気を覚えた。

気分は最悪。
143 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月16日(土)20時55分06秒
「なにしてるの?」
「ん?」

今まで一度も開けたコトがなかった部屋の中で、呆然と立ちすくむあたしの姿はかなり不自然だったみたい。
振り向くと、後藤が首をかしげながら不思議そうな顔でつっ立っていた。
瞬時にあれこれと言い訳を考えようとする自分に気づいて、おかしくなった。

何で言い訳しようとしてんだろ。
おかしなあたし。

モヤモヤはいつまでたっても消えてくれないし、それどころかだんだん大きくなっていく。
胸の下で渦巻いてたモノが、じわりじわりと上昇していって、目の奥を刺激する。

イラつく。いったいなんだってんだ。
144 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月16日(土)20時56分10秒
昔だったらすぐに泣き出していただろう。
あの人に囚われていたあの時のあたしだったら。
目覚めた瞬間に襲われる、誰もいない孤独感。
二人で生きてきた想い出が次から次へと溢れ出て、あたしを丸ごと押しつぶす。
一人で立っていられなくて、誰でもいいから抱き締めて欲しくて、ふらふらと望まれるまま身を任す。

心は冷えたままだったけど、その瞬間、身体は熱さを取り戻す。
心が熱くなんなかったけど、その瞬間、何もかも忘れるコトができる。
145 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月16日(土)20時56分41秒
そんな生活を繰り返してあたしは気づいた。
その重みに耐えきれなくなったら捨てちゃえばいいんだ‥‥前みたいに。
いらないモノは捨てればいい。
本当に大切なモノだけあればいい。

今のあたしが執着するのはあいつだけ。
146 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月16日(土)20時57分16秒
これ以上ここにいたくなかった。
部屋もあの人と過ごしてた過去も、もうこれ以上見たくなかった。

一度目を閉じて、気持ちの整理をする。
そうやって自分自身を取り戻してから、余計なモノを目にしてしまったコトを懺悔した。
あたしが見たいモノはこれじゃなかった。
大きく息を吸い込んで、あの頃の自分を吐き出す。
そして、今、1番大切な人に目を向けた。

「ね、後藤。ちょっと買い物に出ない?」
147 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月16日(土)20時58分09秒
あたしの突然の問いかけに、一瞬呆けた顔をした後藤は、んー‥‥って声を上げてから、唇を開いてニッと笑う。
あたしの意見に反対する彼女をまだ見たコトがない。
彼女の意見に反対するあたしもいないけれど。

「行くー!!」
「よし。じゃ決まり」
「ヤッター♪」

嬉しそうな後藤を見ながら、自分自身に問い掛ける。
あたしはあの人から逃げてるだけなのかな。

そうじゃない。
そんなコトあるわけない。
これは逃げてるんじゃなくて、ただ単にあの人よりも大切な存在が見つかっただけ。
ただ、それだけ。
148 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月16日(土)20時59分03秒
まだ明るい時間に外に出るのはいつぶりだろう。
たまには太陽でも浴びて、気分転換もいいよね。
ちょうどうまい具合に昨日のおじさんから遊び代もらったし。

食べてく為に働いてたバイトも、後藤と出会ってからはずっと休んだまんま。
ウチに電話はあるけど、ちゃんと払ってなかったから止められちゃったし、だからバイト先からも特に何も言ってきてない。
ここで家まで来られてたら、少しは変わったかもだけど、そこまであたしのコトに執着してなかったみたい。
ま、いいか。
しばらく食べていけるだけのお金はあるし。
今のあたしには後藤だけがいればいいし。
財布ん中が空になったら、また誰かから貰えばいいか。
149 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月16日(土)20時59分46秒
日の光の下であいつの笑顔が見れる幸せ。
どこに行くにも必ずあいつが側にいるっていう幸せ。
それを窮屈だなんて思わないあたしは、どこまで後藤に依存してるんだろう。
‥‥ややこしいコトは考えないで、今を生きる。
今だけを生きる。

「うわぁ〜、ねね、いちーちゃん?」
「どした?」
「ちょっと見てっていい?」

道端に並ぶシルバーアクセサリーの店。
本物かどうかも怪しいけれど、まぁ、そんなに悪くないデザインかな。
それらの後ろに座ってニコニコ顔のお姉さんもそれなりにキレイな人だった。
太陽の光でキラキラ輝く金髪がよく似合うってそう思った。
150 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月16日(土)21時00分19秒
そのまま座り込んだ後藤の後ろをぼーっと立ってるだけのあたし。
時折楽しそうな声が聞こえてくる。
似合うって言われたのかな、プレスレットを手首に巻いてる。

何か気に入ったのがあれば、それが財布の中のモノで払える範囲なら、1つくらいはい何とかなるはず。
そういえば、こいつにプレゼントとかしたコトないや。
アレはそういうんじゃないし、少しくらい高くてもいいかな。

容赦なく降り注ぐ太陽の光に少しいらつきを感じながら、そのまま後藤の後姿を見つめる。
151 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月16日(土)21時00分53秒
あたしの後ろを素通りしていく虫けら達にも、以前みたいな視線を送らず、そのまま流れていくのを容認してた。
今のあたしにとって、後藤が欲しがってない時は、存在価値すらない。

目の前で楽しそうに話すキレイなお姉さんも。
耳障りな奇声をあげる幸せそうな家族連れも。
見知らぬ他人なんかどうでもいい。
こいつら全部消し去って、二人だけになりたい。

ムリなコト。
わかってる。
だけど願う。
切に願う。
152 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月16日(土)21時01分32秒
自ら外に出てきたのに、消えてくれってのもおかしいか。
あたしの思考能力はどこかおかしくなっちゃってる。
後藤の視線を感じないと、あたしは不安でたまらなくなる。
この存在自体に、自分自身が疑ってしまう。

ここにいるの?
後藤の側にいるの?

まだ小物を見つづける後藤の後姿を見ながら、強く抱き締めたい衝動にかられた。
153 名前:名無し 投稿日:2002年03月16日(土)21時04分24秒
どんどん深みにはまってくような(笑
二人だけの世界のつもりだったけれど、ちょっとムリな気がします。
154 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月17日(日)14時37分11秒
続きが気に成る。面白いです。
155 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月23日(土)08時15分09秒
続きは?
156 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月24日(日)07時11分10秒
まさか此処で続きが読めるとは。
マジで嬉しいです。
157 名前:名無し 投稿日:2002年03月25日(月)00時54分34秒
レスありがとうございます。
これからもがんばります!
158 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)00時55分36秒
後藤には、知っていてほしい。
あたしが必ずどんな時でもあんたの側にいるってコトを。

手を伸ばせば捕まえられる距離。
だけど、今はこんなにも遠くに感じる二人の距離。
これってあたしのわがままなのか?
なんだろう。どうしてだろう。
いつもいつも不安な心。

ねぇ、後藤。
あたしってこんなに弱かったっけ?
一人で立っていらんないほど、あたしってこんなに弱かったっけ?
159 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)00時56分29秒
「紗耶香?」
「?」

誰かに呼ばれた気がして振り返ってみた。
こんな所で知り合いに会うなんて思ってもみなかったけど、どうやら予想は外れたようだ。
流れてく人ごみの中にあたしに向けられている視線。
強い意思が込められている2つの瞳。
今のあたしには凄く眩しく感じられる。
そう、あたしのはるか頭上でイラつくぐらいの光を放つ太陽みたいに。

「‥‥圭ちゃん」
160 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)00時57分10秒
久しぶりに見た彼女の顔はなんだか怒ってるようだった。
って、怒ってなくてもそう見えるんだけどね。
はじめて出会った時とまったく変わらない大きな瞳があたしを射抜く。

「ちょっと、紗耶香痩せた?」

1番最初の言葉はそれだった。
いつ会っても変わんないな。

あの人に紹介されて知り合った中の一人で、いつもあたしのコトを気にかけてくれた人。
それまで好き勝手に生きてきたあたしのコトを、親身になってあれこれと世話をやいてくれて、たまに、なんでここまでしてくれるんだろ‥‥って思ってたけど、まぁ、それが彼女の性格なんだってコトで納得してた。
161 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)00時57分43秒
世話をやかれるコト自体、あんまり慣れてなかったのもあるけど、彼女のそれは有無を言わさない迫力みたいなのがあって、ちゃんと逆らったコトはないはず。
彼女と接してると、なんとなく、お姉ちゃんってこんな感じなのかなって思う時があった。
あの人がいなくなった時、ずっと抱き締めてくれてたよな‥‥。

「相変わらずだね、圭ちゃんは。ちゃんと食べてるよ」
「何食べたらそんなに痩せんのよ!」

‥‥コワイ。
なんて本人に言ったら怒られちゃうか。
苦笑いを浮かべるあたしを見て、軽く溜め息を1つ。
162 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)00時58分29秒
「まぁ、いいわ。外に出れるくらいなんだからだいじょぶだろうし」
「うん」
「で、最近なにしてたの?」

「いちーちゃん、その人ダレ?」

圭ちゃんの質問と、後藤の質問が同時にあたしに降りかかってきた。
その声に振り向けば、お姉さんとの会話を終えたらしい後藤が、あたしのすぐ後ろに立って、まじまじと圭ちゃんのコトを見ていた。

「あ‥‥この人、保田圭‥‥圭ちゃんっていうんだ」

後藤の問いかけの方が遅かったけど、無意識のうちにそっちを優先させた。
163 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)00時59分20秒
その答えを聞き終わると、後藤は何を思ったか突然あたしの腕に自分の腕を絡ませてくる。
これってやっぱり自己主張?
かなり嬉しかったりして。

「保田です。はじめまして」

圭ちゃんは今の二人の状況を知らないから特に疑問も持たずに挨拶をする。
少し緊張した面持ちの圭ちゃんを見て、後藤は小さく頭を下げて挨拶を返す。

「で、こっちが後藤」
「‥‥‥」

おいおい、一声挨拶くらいしろって。
じっと圭ちゃんのコトを見つめたまま、あたしの腕をさらに強く抱き締める。
164 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)00時59分59秒
なんでだろう。なんでここまで警戒してるんだろう。
だいじょぶだよ、後藤。
あたしはどこにも行かないし、あんたから離れるなんてバカなコトも考えないから。

その想いを声に出して言うほど、あたしはまだボケていないから、そっと後藤の手のひらに自分のそれを重ねてみた。

「えっと‥‥友達?」

どうやら圭ちゃんは何かを感じ取ったらしい。
友達でもなんでもない人と、ここまでするヤツもいないと思うけど、他に聞きようがないしね。
165 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)01時00分30秒
圭ちゃんの中では、まだあの頃のあたしのはず。
あの人を失ってから、何にも考えないでふらふらしてたあのままなはず。
後藤との関係を言ったら、絶対驚くだろうな。

「う‥んと‥‥友達っていうか‥‥今、一緒に暮らしてるんだ」
「え?‥‥それってあの部屋にってコト?」
「うん」
「ちょっと、紗耶‥‥」
「あたしの、今1番大切な人なんだ」
「‥‥‥」

圭ちゃんにとってあたしの言葉はかなり意外だったみたい。
大きな瞳をさらに大きくさせながら、顔一杯に驚きを伝えてくる。
166 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)01時01分05秒
後藤はまだあたしの腕にしがみついてるから、そっと顔を向けて小さく頷いた。

(‥‥あたしは、後藤が1番大事だから)

返って来た笑顔に自然と顔がほころぶ。

「紗耶香ちょっと‥‥」

眉間に皺を寄せながら、あたしを呼ぶ。やっぱりその顔はちょっとコワイ。
このままでいいのにって思ったけど、久しぶりに会った圭ちゃんにそんな冷たい態度もできないし。
167 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)01時01分41秒
「待っててね、後藤」

どんなに短い時間でも、後藤から離れちゃうのはイヤだったけど、この場合はしかたがない。
あたしの腕を掴んでいる後藤の腕を外した時、今にも泣きそうな顔が見えた。
早いトコ説明して、早いトコ後藤に触れよう。
離れて寂しいって思うのは、後藤もあたしも一緒なんだ。
かなり良い気分。
そのまま、あたしのコトを無言で睨む圭ちゃんに向かって、1歩ずつ近づいて行った。
168 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)01時02分20秒
「なに?」
「なにじゃないでしょ?ちゃんと説明してくれない?」
「なにを?」
「‥‥紗耶香、ふざけてる?」
「そんなんじゃないけどさ。後藤のコト?」
「他になにがあるっての!」
「だよね」
「最近、こっちに来なかったのも彼女と関係あるの?」

その言葉に、いつも一緒にいたみんなの顔を思い出す。
あの人から紹介された、大切な仲間達の顔を。
後藤と出会ったあの瞬間から、あたしの中から彼女達の存在が消えた。
あれほど依存してたはずなのに、キレイさっぱり消えちゃってた。
薄情なヤツなのかな、あたしって。
169 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)01時02分51秒
あたしの返事を待つ圭ちゃんは、黙って顔を見つめてくる。
ちゃんと説明しなきゃだよな。

うーん‥‥なんて言ったらいいのかな。

ある日突然、後藤があたしの目の前に現れて、一目ボレして一緒に暮らしてます。
二人で生活をはじめてからは、後藤以外どうでもよくなって、だから圭ちゃん達に会いに行きませんでした。

‥‥絶対殴られるね。
170 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)01時03分28秒
とたんにグチャグチャと説明するのが面倒になってきた。
それに、今、言えるコトはそんなにない。
たった一言、あたしの気持ちを言葉にすればいいだけ。

「あいつの事‥‥後藤のコト、好きになっちゃたんだ。だから今はずっと一緒にいたいだけ」
「‥‥紗耶香」
「近いうちにまたみんなのトコに顔を出すよ」
「‥‥‥」
「あたしはだいじょぶだって。後藤と出会って変わったよ‥‥あの頃かは」

圭ちゃんにとっても、あたしにとっても、その言葉は決定的な意味を持つ。
171 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)01時04分02秒
そう、あの時とは違う。
あの人が消えてから、自暴自棄になってたあたしとは違うんだ。
今はちゃんとわかってる、自分の気持ちはこの手の中に。

後藤の側にいたい。
それだけ。

「じゃ、後藤が待ってるから行くね」
「‥‥紗耶香」
「みんなにもよろしく」

結局あたしは圭ちゃんの言葉を聞かないまま、彼女から離れた。
172 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年03月25日(月)01時04分32秒
何か言いたいコトがあると思うけど、今はなによりもまず後藤の側に戻りたかった。
振りかえったあたしの目を通して、後藤の笑顔が脳に入り込む。

こいつの笑顔の魅力からは抜け出せない。

何に変えても、あたしはこの笑顔が欲しいんだ。
あたしだけに向けられてるこの笑顔が。
それがたとえ、大切な仲間達と離れるコトになったとしても。
173 名前:名無し 投稿日:2002年03月25日(月)01時05分29秒
読んでる皆様へ。
こんな話でもアリですか?(笑
174 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月25日(月)02時39分54秒
大いにアリです。
続きを期待します。
175 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月30日(土)22時34分59秒
自分もアリです。
市井ちゃんの後藤以外なにもいらない雰囲気が
ひしひし伝わってきます
刹那的な感じがツボ。
作者さん文章書くのうまいッス!!
期待してますよ〜
176 名前:名無し 投稿日:2002年04月07日(日)13時34分26秒
続きです。
かなり時間がたっちゃいました。
177 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時35分08秒
あの日から何日か過ぎた後、ずっと心に引っかかってた想いを立ち切る為に、あの場所へ行くコトにした。
今でもたぶんみんなは集まってるだろう、あの人が残したもう1つの安息地へ。
次々と色んな人達の顔が浮かんでは消えていく。
圭ちゃんの笑顔、矢口の笑顔、みんなの笑顔‥‥そして、あの人の笑顔。

あたしってバカだね。
今更思い出してみた所で、何にも変わらないはずなのに。

いつまでもこんなモノに縛られてたくない。
余計なモノはいらない。
今のあたしにはあいつ以外持ちきれないし、そんな余裕もない。
どうしても欲しいモノがあるのなら、それしかいらないのなら‥‥。
178 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時35分50秒
キリ‥キリ‥‥。

何かが心を押しつぶす。
市井紗耶香という名の意思が、そこに凝縮されていく。
背中が自然に丸まって、耐えようとする両手が胸の真ん中で交差される。

痛いなんて思わない。
ただ苦しい‥‥息ができない程に。

頭が痛くなってきて、眉間に皺が寄っていく。
唇から漏れ出てくるのは、重い重い溜め息だけ。
その中に、彼女達への想いを混ぜて、全部吐き出してしまいたい。
今でもあたしの中に隠し持っている、後藤に対する想い以外の全てを。
179 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時36分41秒
もっと器用に生きていけたら、こんなコトしなくてもいいのかもしれない。
当たり障りのない関係をもっと楽しめるヤツだったらよかったのかもしれない。

‥‥ごめん。

何かに謝る。
ううん、何かじゃない。
あたしの頭ん中に浮かび上がる、あの日の圭ちゃんに対して謝ってるんだ。
いつでもどんな時でも心配してくれてた圭ちゃんの顔が、
久しぶりの出会いは、あたしの心のスイッチを押してしまった。
できるコトならこのまま気づかないで、余計なモノなど見ないで、二人の世界を楽しんでいたかった。
でも、圭ちゃんに出会っちゃったから、こうするコトしかできなかった。

‥‥ごめんね、みんな。
180 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時37分39秒
あたしはまっすぐ前を見て、正面にあるドアを見つめた。
今日ここを出てしまったら、もう後戻りはできなくなる。
震える指で靴紐を結んで、ついでに固まった泥を払う。
後藤を部屋に残したまま、あたしは1歩踏み出した。

「いってらっしゃい」
「‥‥うん」

背中にかかったあいつの声。

ここはあたしの家で、あたしと後藤の家で。
次、ここに帰って来た時、どんな顔して向かえてくれるのかな。
何も言わずに、抱き締めて欲しい。
そして、優しく囁いて。

「おかえり」って、それだけでいいんだ。
その時あたしはきっと幸せになれる。
後藤を選んだ自分が間違いじゃなかったと、そう思うコトができるんだ。
181 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時39分08秒
ここは、あの人が営んでいた小さなbar。
4人掛けのテーブルが2つとカウンターだけの店。
大通りから裏道へ入り込んだ、隠れ家のような店で、ここに来る客は、今でもあの人を求め続けてる人達ばかり。
みんなまだ過去を振り切れなくて、緩やかに流れる時に身を任せている。
それぞれ大切な想い出を胸に、ふらりと集まっては雑談を繰り返す。
あたしも、ついこないだまではここの住人だった。
哀しみから逃れられずに、お互いに傷を舐め合って。
でも、そうしなくちゃここで生きてこれなかった。
みんなそうだった。
今もそのまま。
だけど、あたしは次へ進む。
あの人の幻影を打ち消す出会いをしてしまったから。
182 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時39分45秒
「仕方ないよ‥‥もうどうしようもないんだ」

彼女と同じ台詞を一番大切だった仲間たちに伝える。
こないだ圭ちゃんに出会って、後藤の存在を知られて、まぁ、どういう説明したかは想像できるけど。
みんなのあたしを見る眼が、なんだかとても居心地が悪い。

前はこんな気持ちにならなかったのに。
なんでこんなに寂しい空間なんだろう。

‥‥あぁ、そうか。

あたしは気づく。この耐えきれない程の違和感の正体に。
183 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時40分26秒
‥‥ここには後藤がいないんだ。

それで全てだった。

この店はぬるま湯。
永遠に冷めない空間。
一度それ身体を浸からせると、誰もがみんなここから出たくなくなる。
ここを支配してるのは、今も昔もあの人なんだ。
184 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時40分57秒
色んなコトがあったよな。
生まれてはじめて感じるコトができた、家族という絆。
みんなが父親で母親で姉で妹で。
笑いあって、ケンカして、慰めあって、また笑いあう。
その緩やかな時の中に、あたしは永遠を望んだ。

一度まぶたを閉じて、みんなの顔を思い出す。
楽しかったよ、凄く。
あたしにはこれしかないって思ってた。
だから手放したくなかった‥‥後藤に出会うまで。

今ここで、みんなとあいつと天秤にかけたら、あたしはどっちを選ぶんだろう。

答えはもう決まってた。
185 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時41分32秒
潤った瞳を圭ちゃんに見せた。
ここにいる、1番大切だった仲間達にも見せた。
その中にあたしの決心を込めながら。

たぶん、今日でさよならになる。
二度とここには来ないと思う。
ごめんね、みんな。
もう、中途半端に生きてけないんだ。
あいつがさ、あたしのコトを求めてくるんだ。
ううん、そうじゃない。あたしがあいつを求めてるんだ。
ヤバイくらいに依存してる。
あいつがいなくなる世界なんて想像できないくらいに。
186 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時42分12秒
あたしはもう手放せない。
だからこうするしかないんだ。
あたしという個の精神すべてをあいつに向ける。
離れてかないように、離さないように。

市井紗耶香を後藤真希に捧げる。

そうすれば、あいつは側にいてくれる。
あたしにはその方法しか思いつかない。

天秤は、なんの迷いもなく片方を地に落とす。

より重い方へ。
より大切な方へ。

ストン。

いとも簡単に。
187 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時42分46秒
さっきから店を支配している居心地の悪い空気は、何もしゃべらないあたしと仲間達の間でさらに濃さを増す。
誰かが生唾を飲み込む音が聞こえた。
心もとなさ気に這い回る布の音と、小さくて深い溜め息。
みんなあたしを見てた。
哀しそうで何かを懇願するような視線が全身に浴びせられる。
1つ1つをちゃんと受けとめて、みんなに平等に返していく。
それが最後の交わりだ。

話すコトはもうない。

後藤が大事だからアナタ達のコトを捨てます。
188 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時43分19秒
店を出る間際、それまで一言も発してなかった圭ちゃんの声が耳に響いた。

「紗耶香!!これだけは覚えておいて?あたし達はいつでもあんたのコト、大切に思ってるんだから」

その声はあたしの心には響かない。
ドアについてる来客を告げる鐘を、わざと大げさに鳴らしてかき消した。

あたしはみんなを捨てたんだ。
だからもう忘れてもいいよ。

いつまでも同じ所に止まってられない。
前に進む、後藤と二人で生きていく為に。

あたしの人生はこれからはじまるんだ。
189 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時43分55秒
待ってて、今すぐに帰るから。

自然と早足になって、いつしか駆け出していく。
流れ出した風景を全部無視して走っていく。
ちょっと息が切れてきた。
そんなコトも無視してダッシュする。

早く会いたい。
後藤に会いたい。
会って抱き締められたい。

「ハァ、ハァ‥ハァ‥‥」

その時見た空は真っ赤だった。
それはあいつが1番良く似合う色。
ははっ、もうダメだ。
何を見てもどこを見ても、あたしの頭ん中にはあいつが出てくる。
190 名前:欲しいモノ 投稿日:2002年04月07日(日)13時44分34秒
あいつの為に。
あいつの為に。
あいつの為に。

あたしは今、ここに存在している。

あいつが欲しい。
あいつが欲しい。
あいつが欲しい。

あたしは今、側にいる。

あたしが帰るべき場所、それは、後藤がいる場所なんだ。
191 名前:名無し 投稿日:2002年04月07日(日)13時46分34秒
これ書きながらmusix!見てます(笑
そろそろ終わらせないとヤバイ!!
192 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月08日(月)06時23分11秒
続きが〜。
焦燥感に駆られますね。
更新、頑張って下さい。
193 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月13日(土)19時57分53秒
更新待ってました!!
刹那的なドキドキ感がたまらないッス。
頑張ってください〜
194 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月04日(土)11時35分22秒
期待age
195 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月10日(金)22時09分39秒
楽しみに待ってるので作者さん、頑張ってくれ〜〜!!
196 名前:名無し。 投稿日:2002年05月27日(月)21時58分11秒
今まで放置ですいません。
続きを書きたいと思いますので、もうしばらくお待ち下さい。
レス、ありがとうございます。
197 名前:195 投稿日:2002年05月29日(水)21時56分39秒
作者さん、レスつけてくれて有難うございます。
正直、もう書かなくて待つことをあきらめようか迷ってました…
続きを書く意思があるようなので
まったりと待っております。
ゆっくりと執筆して下さい。
198 名前:読者 投稿日:2002年06月15日(土)19時40分13秒
いちごま最高っス!!続き、かなり気になるっス!
199 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月17日(月)11時33分40秒
続き期待sage
200 名前:名無し。 投稿日:2002年06月21日(金)19時33分34秒
レス、ありがとうございます。
こんな話を待っていてくれた皆様、感謝です。
がんばって書いていきますので、よろしくお願いします。
では、続きです。
201 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時35分05秒
キミは今どこにいるんだろう。

ソファの上でゴロゴロしてんのかな?
床の上でボーっとしてんのかな?
そうしながら、あたしの帰りを待っててくれてるのかな?

次から次へと浮かんでは消えていく風景達。
それは、二人で生活しはじめてから手に入れた、あたしの大切な風景達。
何にもなかった部屋だったのに、あいつがいるってだけで、こんなにも印象が変わっちゃうもんなのか。
あの部屋を出たら、帰り着くまで思い出さなかったのに、なんでだろう‥‥意味もなく瞼の裏に現れてくる。
202 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時36分02秒
あぁ、早く帰らなきゃ。

全ての思考能力が、あいつの姿へと直結してる。
それを胸に抱いて、あたしは全力で走り続ける。

やっと会える。
後藤に会える。

今日、あの場所に行って、はっきりと自覚したよ。

あたしの世界は後藤の世界。

二人の世界が交わりあって、1つの世界を形成してるんだ。
なんか、なんか、叫びだしたくなるね、嬉しすぎて。
203 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時38分42秒
君の元に戻ったら、今日片付けてきた仕事のコトを全部話そう。
何も言わずに飛び出してしまった、今朝の詫びをちゃんと入れよう。

怒らずに聞いてね?
もう二度とあんなコトはしないから。
これからは、ずっと二人きりでいられる。
正真正銘、あたしと後藤の二人きりで。
キミは喜んでくれる?
そうだといいな。
あたしが想ってるコトと後藤が想ってるコトが一緒だったらいいな。
204 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時39分14秒
永遠なんて信じてないけど、でも、あたし達の間にはきっとあるんだ。

なぜって?

あたしには、もう後藤しかいないから。

これが現実。
それが真実。

あたしが望んだモノ。
そして、手に入れたモノ。

今、めっちゃ幸せだよ。
205 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時39分51秒
マンションの前で急ブレーキ。
一気に階段を駆け登り、そのままの勢いでドアを開く。

「ただいまー、後藤どこー?」

どこにいても聞こえるように、わざと大声で叫んでみる。
靴を脱ぐのも億劫で、かまわず辺りに投げ散らかして、ドタドタと部屋へ走りこむ。

あたしの瞳はあいつだけを欲してて、その隅々まで視線を行き渡らせた。

「後藤?」

――ソファの上―

        アレ‥?‥‥・。

――ベランダ―

        ‥‥‥?‥‥。

――部屋―

        ・・・・・いな‥い?‥‥。
206 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時40分29秒
反射的にあたしの身体は寝室へと向かう。
カギなんてかけたコトないそのドアは、静かに、柔らかく開かれた。


――ベッドの上―

        ‥‥いない。

――部屋の隅―

        ‥‥い‥ない‥なんで?。

背中にイヤな汗が流れる。
走りつづけてきた熱がプラスされて、必要以上に溢れ出てくる。
207 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時41分00秒
玄関にあいつの靴があったかどうかなんて覚えてない。
てっきりここにいるって、何の疑いもなく思い込んでたから。

寝室を捨てて、浴室へと向かう。
もしかしたら、シャワーでも浴びてるのかもしれない。
そうだ、今日って一日暑かったもんな。
動くのがキライな後藤でも、さすがに少しは汗をかいたのかもしれない。
だから、あたしが帰って来る前に、湿った身体を洗い流したくなったのかもしれない。

その考えはもう願いに近かった。

ここにいて。
どうか、ここにいて。

自分自身に願い、信じてないはずの神に願い、そして、後藤に願った。
208 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時41分40秒
何度も部屋を行き来して、その度にあいつの名前を大声で叫ぶ。
もしかしたらって、そんな期待はずれの願いの行き場は、痛さと孤独で一杯のあたしの心。

どこにいるんだ‥‥どこに行っちゃったんだ‥‥。

焦り狂う自分自身をムリヤリに抑えつけ、カーテンの裏や、クローゼットの中まで確認する。
あちこち移動する途中、脛にテーブルの角が当たり、イライラと痛みとのWショックに、思わずコブシで叩き割る。

「テッ‥‥」

割れた破片が皮膚に触れた。
うっすらとにじみ出てくる液体、それから連想されるのは‥‥。

あいつの顔が次々と浮かびあがる。
今まで目にしてきた全ての映像が幾重にも重なり合って、あたしに微笑みかける。

どこだよ。
せっかく何もかも片付けてきたのに。
なんでいない?
あたしは、あんたに会いたくて、ここに帰ってきたのに。
209 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時42分16秒
がくり、と膝が崩れて、力が入らない腰が、重力に逆らおうとせず、すとんと床に落ちていく。

買い物にでも出かけた?
ふらっと散歩に出てる?

後藤が行きそうな場所って‥‥?

そこまで考えて、あたしはがくぜんとなった。
はじめて出会ったあの時から、あたし達には今しかなくて、それ以外はどうでもいいって思ってた。
だから、あいつが側にいるのがフツーになってて、二人で過ごしてきた生活以外、何にも知らないという現実に今、気付いた。
あたしと出会う前、あいつはどこに住んでたのか。
一人だったのか、家族と住んでたのか。
もしかしたら、恋人がいたのかもしれない。

心臓がドクドクと時を刻み、顔が強張る。
210 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時42分52秒
なんてコトだ‥‥あたしは、後藤真希って人間のコトを何にも知らないんだ。
街に出て探そうとしたって見つかるわけない。

何の疑いもなく、これからもずっと一緒にいれるって思ってた。
あたしが後藤の前から消えるなんてコトするわけないし、後藤もそうだって思ってた。

一人でそう思い込んでた。

今、あたしができるコトは何もない。
211 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時43分35秒
外と中とを遮断するモノがない部屋で、あたしは床の上に大の字になってた。
胸は忙しそうに上下してて、肺が酸素だけを欲してる。
唇から吐き出される大量の熱。
でも、体内温度はどんどん上がっていって、もう理性では止めれない。

あたりにはゴミと化した生活用品が転がっている。
真っ二つに割れたテーブル。
粉々に砕け散ったガラスの破片。
引き千切られてただの布切れになってしまったカーテン。

そして、その残骸に目もくれず、天井を睨み続けるコトしかできなかい、あたし。

全てがゴミくず。
212 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時44分05秒
開け放たれた窓から、柔らかな風が入り込んできて、汗で湿った前髪から少しだけ水分を奪い取って流れていった。
出口だらけの部屋の中を何の躊躇もなく吹き抜ける。
いつもは心地よく感じるはずの風も、今のあたしにはイライラしか生まない。

勝手に入り込んでくるな。

意思を持たずに、ただ流されていくだけの風に、無性に腹がたった。

わかってる。
これは単なる八つ当たり。

窓を開けっ放しにしてたのは‥‥。
ドアも開けっ放しにしてたのは‥‥。
今朝、何も言わずに部屋を出てったのは‥‥あたし、なのに。
213 名前:信じる心 投稿日:2002年06月21日(金)19時50分19秒
こんなの、誰が信じるか。
後藤があたしを置いて出て行くわけないじゃないか。
そうだ、あいつは絶対に戻ってくる。
この部屋に、二人の部屋に。
その時が来るまで、あたしはずっと待ち続けるよ。

早く帰ってこいよ。
後藤に伝えたいコト、たくさんあるんだから。
これからもずーっと一緒にいれるんだよ?
あたしにとって、大事なモノって後藤だけになったんだよ?
喜んでくれるよね?

もう、後藤以外の人間なんて見ないから。
そう誓うから。
だから、早く帰ってきて。

今のあたしにできるのは、この部屋の中であいつの帰りを待つコトだけ。
214 名前:名無し。 投稿日:2002年06月21日(金)19時51分16秒
長い時間かかなかったせいか、ちょっと世界が変わってきてるかも。
でも、基本はいちごまってのは変わらずで。
215 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月24日(月)20時51分16秒
更新ありがとうございます。

世界がかわったというか市井の変化が大きい感じかな?
流れ的には全然おかしくはないと思いますよ。

まったり続き待ち。
216 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月17日(水)14時32分04秒
待ってるよ〜
217 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月06日(火)12時29分22秒
同じく待ってます
218 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月16日(金)01時36分06秒
自分も待ってます。
219 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月23日(月)21時22分49秒
待ってるよー。
220 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月25日(金)22時33分42秒
もうだめか?待っててもダメなのか?
221 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月16日(土)23時30分05秒
まだまだ待ってるよ
222 名前:名無し。 投稿日:2002年11月19日(火)00時46分34秒
レスに感謝。
このような話を待っててくれた皆様に感謝。
申し訳ありません。
ありがとうございました。
223 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時48分06秒
後藤を感じない時間は、あたしの心を切り取っていく。
ざくり、ざくりと。
ぶつ切り状態。
だけど、その傷口からまた新しく生まれてくる、後藤を感じたいっていう心。
常にあいつを求めてて、失っても失っても、そのすぐ後から次々と生み出されていく。

ソファに寄りかかって、砕け散ったテーブルを眺める。
ふと、視線をぞらせば、一番新しい傷跡が目に入った。
さっき切れたトコはもうすでにカサカサに乾いてて、それを見ていたら、カッとなってテーブルを叩き割ってしまったコトを後悔した。
あたしを傷つけていいのは、後藤だけだったのに、あんなくだらない行為で、無意味な傷を作ってしまった。
224 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時48分49秒
あたし、バカだ。大バカやろうだ。

固まってしまった傷口に爪に引っ掛けてギュッとにぎる。
痛みが腕の筋肉を伝って、眉間に響いた。
何度も何度も引っかいてると、破裂した血管が皮膚の下を真っ赤に変えていく。
指先が赤く染まり、爪の間に潜り込む。
それでも指は動きを止めず、何度も何度も行き来する。
あいつが付けてくれた傷の隣にあるコト自体、イラつきの対象になる。
だから少しだけ手を加えて、その価値を高めてから、行為を止めた。

ジワリと腕から流れ出る液体は、あの時みたいな悲鳴をあげず静かに落ちていった。
あいつが側にいないと、こうも簡単に死んじゃうのかな。
床の上にポツンと落ちてる液体は、やっぱりただのゴミだった。
225 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時49分25秒
もっと見たくなった。
後藤に切りつけられなくても、あたしは流れ出すっていう現実を。
さっきから視界に潜り込んでたガラスの破片を手にとって、できたばかりの傷口に押し付けた。
皮膚が沈んで、影ができる。
まだ何にも感じない。
瞳を閉じて大きく息を吸い込んで、ゆっくりと腕を動かした。

あぁ……。
やっぱり出ちゃうもんなんだ。

後藤が切りつけても、あたしが切りつけても、見ず知らずの人間が切りつけても。

破片をその場に投げ捨てて、すでに赤く染まった指を上下左右に動かした。
どんどんどんどん溢れ出てくる絵の具を、直接、細長いキャンパスに塗り広げていく。
226 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時50分13秒
信じていたのに信じてなかった。
だから怖かった。
だからずっと側にいた。

いつもと変わらずあたしに微笑みかける後藤の笑顔に、少しずつ、自分が気付かない間に、手に入れてた安心感。
後藤に酔っていてもなお、そのコトを忘れちゃいけなかったんだ。

幾重にも塗り重ねられる赤。
延ばした先から乾きはじめるのを止めたくて、一心不乱に塗りたくってた。

ハハハ…なんだろう、この感覚。
ホント、やばいくらいに何にもする気が起きないや。

後藤に対する想いは永遠。
だけど、それを向けるべき相手が消えちゃったら何にもできない。
確実に存在を感じられる距離にいなくちゃダメなんだ。
227 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時50分49秒
汗まみれの前髪を無造作にかきあげる。
その仕草がカッコいいと何度か言われてたコトを思い出す。
そこで気付いて指が止まり、もしかしたらまた聞こえてくるかもしれない……なんて妄想を抱く。
いるわけないのに。

「ごとぉ…」

この唇から漏れた言葉は、今のあたしの状況を完全にあらわしていた。

「側にいてよ…頼むから、側にいてくれよぉ」

声が震えてうまく発音できないけど、これが今のあたしのたった1つの望みだった。
228 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時51分56秒
一日目。

何も変わらない。


二日目。

何も変わらない。


三日目。

何も変わらない。
229 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時52分38秒
食欲もなく、何かをするって意思もなく。
そんな状態のあたしが唯一自分からしたコトと言えば、トイレに行くぐらい。
どうしようか。
ゴミだらけの部屋を眺める。
あいつが帰って来る前に、ちゃんと掃除しといた方がいいのかな。
こんな部屋みたら、きっと驚くに決まってる。
そして言うんだ、あたしの目を見ながら。

『どうしたの?』

どうもしないよ、どうも、ね…。
230 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時53分08秒
たださ、寂しかったんだ。
後藤がいなくて凄く寂しかったんだ。
ずっと寒い場所にいたら、それが普通の世界だったのにな。
あの人の温かさに触れて、後藤の熱に溶かされて。
1人で生きていくにはもう心も身体も耐えられない。
涙が流れてるのがわかった。
まぶたを閉じて、ギュウって閉じて、確かな意思を持って動き出そうとしてる頬の肉を抑えつけて、膝を抱えて丸まって、自分の中に想いを閉じ込める。

なにか…なにかしなくちゃ。
このままこうして待ってても、あいつが戻ってくる保証なんてどこにもないんだ。
待ってるだけじゃダメなんだ。
欲しいモノは自分から取りに行かなきゃダメなんだ。
231 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時53分43秒
前に進む。

そんな難しいコトじゃない。
どうしていなくなったのかなんて考えない。
あたしの前から消えちゃったんなら、どんな手を使っても探し出す。
それがあいつの意に反していたとしても関係ない。

あたしは、後藤が欲しいんだ…側にいて欲しいんだ。

その想いだけを抱きしめて、外の世界に一歩踏み出す。
前に出たときは、こんな気持ちで出るなんて思ってもなかった。
何が起こるかわかんない世の中だね。
232 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時54分59秒
あいつはあたしをずっと追っかけてて、あたしの前に現れた。
凄く嬉しそうな顔をして。
だから今度はあたしがあいつを追いかける。
ドコにいるかわかんないけど、必ず見つけ出してやる。

そして言うんだ。
あたしの姿を見て驚いているあいつに、後藤に向かって。

「あたしの側にいて」…と。

待ってろよ、後藤。
もう一度、出会ってやるよ、お前に。
233 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時58分16秒
眉間に力を集めて、力一杯両手で頬を挟みこむ。
バチンッて音が部屋に響いて、瞬間そこだけ体温が上がってく。
薄暗い部屋を見渡して、強く願った。
次にここへ戻って来る時は、必ずあいつと一緒だ。
二人でまた一から始めるか、部屋の掃除をしながらでも。

外に出たら夜だった。
カーテンは閉めてなかったけど、景色を見る余裕もなかったから、その暗さに素直に驚いた。
少しだけかけた月を見つけて、それに自分の姿を重ねる。
時間が立てば自然と丸くなっていく金色の宝石が羨ましく思ったけど、満月に憧れたんじゃ先は見えない。
どうせ望むのならば、永遠に光り輝く太陽になりたい。
その形を崩さずに、いつもいつも輝き続けてる太陽に。
234 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時59分19秒
柄じゃないのはわかってたけど、想い続けるのはあたしの勝手。
冷えた空気を肺に満たして、じっくりと消化していく。
見慣れた通路には誰1人いなかった。
今が何時かもわからないけど、1つだけ確かなコトがある。
あたしの時間が再び動き出したんだ。
後藤を見つけ出す、追いかけ続ける記念すべき第一歩。

自然に唇の端が上がって、僅かだけれど空気が漏れる。
235 名前:決意 投稿日:2002年11月19日(火)00時59分50秒
どうしようもないくらい、後藤が好きだよ。
消えた現実を受け止めて、でもまた追いかけるくらい後藤が好きだよ。
ううん、好きなんて言葉じゃ足りない。
愛してるもまだまだ足りない。
もっともっと、さらにもっと。
きっと、永遠に満足できない。

心が後藤を求めて激しく強く時を刻む。
追われる立場から追う立場へ。その変化はあたしに生きてく為のパワーをくれた。

再びあいつを抱きしめるコトを夢見ながら、夜の街目指して走りはじめた。
236 名前:名無し。 投稿日:2002年11月19日(火)01時01分44秒
ありがとうございました。
本当になんて言っていいのか、ただただ頭を下げるのみです。
完結目指してがんばっていきたいと思ってます。
どうか最後までよろしくお願いいたします。
237 名前:77 投稿日:2002年11月21日(木)14時11分38秒

おぉおっ!!
ものすごい人間の心理描写がわかる作品みっけ!
台詞は無いのに物語は進行しているという所が素晴らしいです。
続き気になります。頑張ってくださいね!
238 名前:215 投稿日:2002年11月23日(土)23時50分52秒
更新有難うございます。
待ってたかいがありました・・・
作者さんに完結する意思があるかぎりずっと待っているので
無理しないで下さいね。
239 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月08日(日)19時32分12秒
待ってるよ。
240 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月15日(日)01時10分54秒
待ってます
241 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月08日(水)01時04分53秒
あけおめ。
待ってます。
242 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月17日(金)23時00分12秒
待ってみようよ、どこまでも。
243 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月02日(日)14時57分34秒
近況でも書いてくれまいか?
244 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月02日(日)01時17分59秒
待ってます
245 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月05日(水)21時27分47秒
保全。
246 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月04日(金)02時42分28秒
保全
247 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月16日(水)01時13分51秒
ぼーぜーんー。
248 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月11日(日)02時46分31秒




249 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月25日(日)12時51分40秒
保全。
250 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月26日(木)00時47分20秒
保全
251 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月26日(土)01時03分51秒
保全
252 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月11日(月)19時49分10秒
HP見る限り続き書くとは思えんな…
253 名前:叫び 投稿日:2003年08月12日(火)22時28分41秒
あてもなく走り続けるコトへのいらだちに、頭が変になりそうだった。
立ち止まる、なんて考えは消滅してて、一心不乱に後藤のみを探し続ける。
見知った顔があれば、誰だろうとかまわず話しかけて探りを入れてみるけど、返ってくる言葉はみんな同じ、たった一言。

『知らない』

その度に、奥歯をギュッと噛み締めた。
たまに見かけたと言うヤツもいたけど、よくよく聞いてみれば、その全てにあたしが側にいたという証言。
…ちっ。
自分勝手な期待を粉々にされて、そう言ったヤツにまで苛立ちを覚える。
254 名前:叫び 投稿日:2003年08月12日(火)22時29分42秒
必死なって自分を体の中に抑え込める。

――ゴトウゴトウゴトウゴトウゴトウゴトウゴトウゴトウ…――

早く、あたしを抱きしめて。
そして名前を呼んで、その声で。

誰にも触れ合わず生活してきた。
あたし達の間にはあたし達しかいなくて、それが幸せだと思ってた。
その結果がコレ。
今更どうしようもない。
あの日、帰ってた来た時、すぐにでも探しに行けばよかったのかもしれない。
もしかしたら、街を歩く後藤の姿を見つけられたのかもしれない。
でも今更なんだ。
動き出す勇気もなくて、ただひたすら待ち続けてたたあたしには、この状況を心に叩き込んで懺悔しなくてはならない。
後藤が消えてしまった今、必ず見つけ出し、彼女に許しを請わなければ…。
255 名前:叫び 投稿日:2003年08月12日(火)22時30分18秒
ネオンは光り輝いてて、昼の街よりもずっと明るい。
死んだ顔して歩き回る、どうでもいいヤツの顔は映し出してるのに、あいつの顔だけが見つからない。

それから数日が流れていって、それでもあたしはまだ後藤を見つけられずにいた。
ダレに聞いても何の情報も得られない。
ちっぽけだと思ってたこの街が、今はこんなにもデカく思えるなんて。
虫けらはあたしなのかもしれないな。
あたしが生きてきた世界はちっぽけで、でも限りなく無限だった。

何度目かの夜。
整地されてない、今じゃ珍しい空き地に両足を放り出して座り込んでいた。
後藤を探すときめててからまだ一度も部屋には戻ってない。
決めたんだ、次に帰る時は後藤と二人。
そう決めたんだ。
256 名前:叫び 投稿日:2003年08月12日(火)22時30分54秒
体から発する汗の匂いと視線を落とせばうす汚れた腕。
さすがにちょっとやばいかな。
こんな格好で後藤に会ったらなんて言われるだろう。
怒れるかな。
笑われるかな。

『いちーちゃん、きたなーい♪』

なんて、嬉しそうな顔してつっこみ入れるのかな。
ハハハ、最近こればっか。
瞳に写るモノ全てが後藤に変換されてしまう。
257 名前:叫び 投稿日:2003年08月12日(火)22時31分31秒
泣きたくなって、でも泣けなくて。
流れ出したらもう止められないのがわかってたから。
この感情はなんだろう?
怒り?悲しみ?
もうなんにもわかんない。
苦しくて、なんとかしてこの感情から逃れたくてシャツと一緒に胸元をギュウッと握り潰す。
筋肉が僅かに盛り上がり、プルプルと震えだし、手のひらに込めた想いに誓う。

お前がいないとダメなんだ…。
あたし、おかしくなっちゃいそう。

そこで思考が中断して、自分の心に問いかけた。

おかしくなる?あたしが?
まだそう思えるほど、狂ってないのか?まだまともなのか?
258 名前:叫び 投稿日:2003年08月12日(火)22時32分30秒
愕然とした。
あたしにはまだ余裕があるってコトを知ってしまった。
後藤が消えたと同時にあたしが手に入れてたはずの世界も消えた…そう思ってた。
体から全ての力が抜けていく感覚。
まだ…まだだったんだ。
あたしの全部が後藤を求めていなかった。

がくんと首が崩れ落ちて、そのままずるずると両腕が地面に放り出される。
頬の筋肉か歪んで、嗚咽にも似た笑い声があたりに響いていく。

「フフッ、クックックッ…ハッハッハッ…!!!」

なんでもいいから、狂っちゃえよ。
もっともっとおかしくなっちゃえよ。
あたしの心に刻み込んじゃえ。
どれだけ、後藤が大切だったかってコトを。
259 名前:叫び 投稿日:2003年08月12日(火)22時33分01秒
忘れるな。
他のモノにも目を捕られるな。
あたしが欲しいモノはあいつだけなんだ。

「ごとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

天を見上げて大きく息を吐いた。
その吐く息の中にさえ、後藤への想いがつまってる気がした。
伝えたい、お前の耳に、直接。

いつ見ても星の輝きは変わらない。
一人で見ても二人で見ても…。

このまま、一人きりで虫ケラになんかなりたくない。
260 名前:名無し。 投稿日:2003年08月12日(火)22時36分32秒
お待たせして申し訳ありません。
保全して頂きました皆様、本当にありがとうございます。
自己中な酔い話ですが、がんばります。
261 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月14日(木)14時37分09秒
更新万歳
262 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月15日(金)09時29分40秒
がんばってください。
一応、落としときます。
sageをageてはいけないのです。
263 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月16日(土)03時59分32秒
いちー・・・頑張って後藤を探すのだぁぁー

更新ありがとうございます。
ところでHP持ってるってマジですか?
264 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/24(水) 01:09
265 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/26(日) 00:43
ホゼン
266 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/04(火) 18:01
hozen
267 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/16(日) 23:34
ほぜん。
268 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/21(日) 22:58
269 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/07(水) 19:44
保全

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