インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板

冬桜の記憶

1 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月23日(土)18時22分35秒
はじめまして。
初めて書かせていただきます!
学園モノのいしよし予定。ゆっくりめの更新になると思いますが
暇つぶしにでも見てくだされば幸いです。
2 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月23日(土)18時23分22秒
〜Prologue〜


君さえいれば
それだけが私のすべてだった
たとえ周りが何を言っても
君以外目にはいらなかった
3 名前:名無しさん 投稿日:2002年02月23日(土)18時25分15秒
「窓、閉めないの?寒くない?」
はっとして顔を上げると後藤が立っていた。
「あ…ごめん。すぐ閉めるよ」
「―――…泣いてたの?」
言われて初めて気がついた。
確かに少し涙目になっているようだ。
「違うよ。少しうたた寝してて・・・さっき、あくびしたから…
 それより何か用があるんじゃないの?」
笑いながら、少し強引に話を逸らす。
「別に。ただ、なんか今日よっすぃ〜の様子が変だったから気になって来ただけ」
変なとこでするどい。
自分ではいつもどうり振る舞っていたつもりだったのだが。
「そう?別に何もないよ。
 心配してくれて、ありがと」
そう言っても、まだイマイチ納得していない表情だったが
後藤は大人しく引き下がってくれた。
4 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月23日(土)18時27分09秒
「だったらいいけど……じゃ、私は帰って寝よっと」
最後、ドアを閉める前にそう独り言を残して行ったのは、
いつでも話を聞いてやるという意味らしい。
いつもは直球のくせに、変なとことで遠まわしな言い方をする。
そんなところが友人としてたまらなく好きだ。
倒れそうになったとき、タイミングよく現れて迷わず手を貸してくれる。
何も考えていないように見えるのに、ホントはちゃんと考えてて……
自分よりもほんの少し背の低い親友は、私の心の傷を知っているけれど
知らない振りをしていてくれている。
“全然平気、もうとっくに立ち直ってます”
そう周りに強がって見せるのが
私の精一杯だと分かっていてくれている。

「…梨華ちゃん…私は元気でやってるよ…そっちはどう?」

風が吹いた。
もう会わないのがお互いの為だから。
この同じ空の下で生きているなら……
あなたが幸せなら、私はそれでいい。
時間が傷を癒しても君を想っていたという事実は忘れない。

君さえいれば。
5 名前:作者 投稿日:2002年02月23日(土)18時29分56秒
>>2>>4
名前が読者になってますけど、作者が書いてます。
カッコ悪…
6 名前:名無し作者 投稿日:2002年02月24日(日)01時33分38秒
1.

それは高校に入学して初めての冬の出来事。

「日直が早く来なくったって、早く来た奴が教室の鍵くらい開ければいいのに」
文句を言いながらも決められた時間よりかなり早く来すぎてしまったため
鍵を開けたあと、暇をもてあましていたので
散歩とまではいかないがとりあえずどこか静かで一人になれそうな所を
今のうちに見つけておこうと思い校内を歩きまわっていた。
桜の木にはもうすでに葉も付いていない。

(雪、降りそうだな・・・)

空は灰色に広がり、昼も夜も分からない。
乾燥した冷たい空気が息を白く光らせる。
ある冬の朝。

そんなありふれた日常に、彼女は現れた。
7 名前:名無し作者 投稿日:2002年02月24日(日)01時36分24秒
ふと、足を止める。
視線上に何かが見えたからだ。
『桜の木の下には、死体が埋まっている』
よく聴く話だが、今はシャレにならないほど恐ろしく感じた。
桜の木の下に人が立っている。

(――――っ!?ゆ…幽霊!?)

その場に立ち尽くしていると、それは私の存在に気付いたようで
顔をこちらに向けた。

(殺されるっ!!)

そう思って目をぎゅっとかたく閉じた。
8 名前:名無し作者 投稿日:2002年02月24日(日)01時41分08秒
とりあえず、今日はここまで。
9 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月24日(日)01時48分29秒
______
10 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月24日(日)02時52分42秒
綺麗そうな雰囲気ですね。
期待してます
11 名前:名無し作者 投稿日:2002年02月25日(月)00時09分19秒
(…………
 …………………
 …………………………
 …………………………………あれ?)

何も変化が無いということに戸惑い、警戒しつつ瞼を上げてみると、
木の幹に手を置いたままこちらに微笑を向けている。
吉澤は、木漏れ日の中に佇んで微笑むその人があまりにもきれいに見えて
ただただ言葉もなく見惚れていた。

「おはよう」

形のよい唇が動いて白い気とともに空気を振動させた。
やっと我に返って返事を返す。

「…えっ…あ、おはよう…ございます」

少し長めの髪。黒目がちな瞳。
女の子らしい外見に合った甘い声だった。
12 名前:名無し作者 投稿日:2002年02月25日(月)00時09分56秒
その一言で会話が終わってしまい、静寂があたりを包み込む。
どのくらいそうしていただろう。
その静けさに耐えかねて、口をついて出た言葉は
なんとも間抜けな台詞だった。

「えっと…どこかであったことないですか?」

―――…自分で言っておいてこう言うのもどうかと思うが
まるでナンパじゃないか?
『寒いですね、雪が降りそう』とか
『登校するの早いですね』とか
もっと他に言うことはあったろうに……
そんなことを考えていると、
心なしか申し訳なさそうに高い声が聞こえてきた。

「見たことはあるかもしれないけど……多分話したことはないと思います」
13 名前:名無し作者 投稿日:2002年02月25日(月)00時12分49秒
今日はここまで。
>10
読んで下さって有難う御座います
ご期待にそえるように頑張ります。
14 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月25日(月)04時58分33秒
さて、この出逢いからどんなドラマが始まるのか楽しみ
15 名前:夜叉 投稿日:2002年02月25日(月)13時59分29秒
楽しみにしてます。頑張ってください。
16 名前:名無し作者 投稿日:2002年02月26日(火)00時51分11秒
そりゃそうだ。
確かに、学校が同じなんだから校内とかですれ違ったことはあるかもしれない。
しかし、言葉を交わしてはいない。
当然、私自身もそんな記憶はかけらもない。

再び訪れようとした静寂は予鈴により回避された。

「あ、もういかなきゃ…」

教室に向かおうとするその人の腕をつかみ、引き止める。
驚いた表情でこちらを見ているのが分かる。

「よかったらあなたの名前、教えてくれませんか?
 あ…私は1−4の吉澤ひとみです」

やや早口で尋ねると、笑顔で答えてくれた。

「じゃぁ一つちがいね。二年生の石川梨華です」

(…うわぁ、かわいい……)
17 名前:名無し作者 投稿日:2002年02月26日(火)00時51分52秒

「…あの、もう行かなきゃ…」

困ったような笑みを浮かべて視線を腕に送るのを見て
ようやく自分が彼女の腕を掴みっぱなしだったと言うことに気付いた。

「ごっ…ごめんなさい!」

慌てて手を放すと、苦笑して「そんな、謝らなくていいよ」と返し
すぐに校舎の方へと向かって行ってしまった。

「…ちゃんと生きてる人間だ…」

手の平にまだ温もりの余韻が残っているのを感じながら、一人呟いた。
18 名前:名無し作者 投稿日:2002年02月26日(火)01時04分22秒
今日のところはここまで。

>14、>15
有難う御座います。
楽しんでいただけるよう頑張ります。
19 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月26日(火)22時23分54秒
文章いいね。情景とか
20 名前:名無し作者 投稿日:2002年02月27日(水)01時20分02秒
2.

「にしても…こんなプリントなんかやらせて意味あるのかねぇ。
 自習なんだからこんなの必要ないじゃんね。よっすぃ〜、聞いてるの〜?」

鞄に荷物を詰めていると、眠そうな声がやや前方から聞こえてくる。

「聞いてますよ〜。大体授業中に終わらせないのがいけないんでしょうが
 寝てばっかいるからだよ。で、その課題は終わったの?」

横を向いて椅子に腰掛けている後藤の持っているプリントを覗き込んでみるが、
埋まっているのは名前の欄と二・三個の解答欄のみ。ほぼ白紙状態だった。

「……ごっち〜ん?」

「なぁに〜?よっすぃ〜」

お互いに満面の笑みを交わすと、恐ろしいまでの生ぬるい空気の流れを感じる。
もっとも、それを作っているのは自分なのだが。

「先に帰るね」
21 名前:名無し作者 投稿日:2002年02月27日(水)01時21分49秒

「ひっどー!!よっすぃ〜、待っててくれるって言ったじゃんか〜!!」

それは確かに言ったが…こんなに時間がかかるとは思ってなかったからで。
付け加えるなら、後藤自身すぐ終わると言っていたからだ。

「約束破る人ってカッコワリーよ?」

アヒルのような形をした唇から発せられてるにしては結構棘のある言葉だ。

「……帰りにでもべーグル奢ってあげようと思ってたのにな〜」

「待ちます!この吉澤、喜んで待たせていただきますとも!!」

あぁ、現金な自分に時々泣きたくなる。
ただ、自分がここにいては後藤の口ばかりが動いて
課題も終わらないと思ったので校内を少し歩いてくることにした。
22 名前:名無し作者 投稿日:2002年02月27日(水)01時29分24秒
今日はここまで。次の更新は4〜5日後です。

>19
お褒めの言葉有難う御座います。
情景は丁寧に書くのが目標なので、これからも日々精進していきます。
23 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月27日(水)02時01分13秒
タイトルに含まれている「冬桜」が気になって、
ついつい調べてしまいした。
そういう桜もあるんですね。
次回の更新に期待します。
24 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年02月27日(水)11時55分49秒
いしよし、ハケーン!!
でも、始まり方からいうと、痛くなるのですか?
期待しています。がんばってください!
25 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月01日(金)15時08分05秒

向かうは、校舎の裏手にある桜の木。
今朝ゆっくりと落ち着いてみることが出来なかったので
授業をサボるときに使えそうな場所かどうかじっくり見ておきたかった。
もちろん、今朝のあの人がいたらいいなと思ったのもあるが。
そんな淡い期待を胸に抱いていたためか、やや早足で目的地へと向かう。

しかし、そんな期待とは裏腹に石川梨華はいなかった。

「……いるわけないじゃん…わかってたけどね……」

それでも少し残念に思えて呟いた。
もう一回会いたいなと思ってるのは自分だけなんだろうか。
今朝の事をゆっくりと思い出す。
表情のころころ変わる人。でも殆ど笑顔しか思い出せない。
困ってるときも仕方なさそうに笑ってた。

(手、離さなかったらもっと一緒にいられたのかな…)

目の高さに持ってきた右手を見つめてみる。
普通の人よりもやや大きめの手で掴んだ彼女の腕は余計に細く感じられた。
26 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月01日(金)15時09分12秒

(でも、何してたんだろ?あんな朝早くにこんなところで……)

春なら桜を見に来ていたと考えることも出来るが、今は冬。あの薄紅色の花びらはもちろん
見る影もない。大きな幹からは申し訳なさそうに無防備な枝が伸びているのみだった。

木の根の感触に足元を見てみると、何かが光を反射した。
どうやらアクセサリーのようだ。指輪に細いチェーンが付いている。

(特に高そうな感じじゃないな…指輪なのにチェーンにつけてネックレスにしてる
って事はサイズが合わなかったのかな)

チェーンから外して自分の指に入るかどうか試してみると、ぴったりはまった。
あの人のだとしたらおそらく大きすぎて外れてしまうのだろう。
見た感じ手は小さかったし、指も細かった。
27 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月01日(金)15時09分51秒
「よっすぃ〜?よ〜し〜こ〜どこいったの?帰ろーよー」

「ハイハイ。今行きますよ」

後者のほうから聞こえてきた後藤の声に答えて、指から外して元のように
チェーンに通した指輪をポケットに入れながらその場を離れた。
歩くたびにチャリチャリと歌うそれが、あの人の声のように思えたのは
きっと、もう一度堂々と話しかける口実が出来たことがそぉ〜とぉ〜嬉しかったから。

(でも、何でこんなに会いたいと思うんだろ?)

素朴な疑問が頭をかすめるが、そのときの自分では答えを出すことが出来なかった。
28 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月01日(金)15時14分09秒
予定よりかなり早く時間を作ることが出来たので更新。
本日はここまで。

>23
はい。そういう桜もあるんです。
冬桜はこれから話に絡んでいく予定なのでお楽しみに。

>24
痛くなるかどうかはまだ秘密です。
ご期待にそえるよう頑張ります。
29 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月01日(金)15時20分38秒
今回改行ミス多すぎですね。反省。
30 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月01日(金)16時48分00秒
訂正
>27
3行目…後者のほうから→校舎のほうから

まだなんかありそうでドッキドキな今回の更新分。
落ち着け、自分。何を焦ってるんだ。
度々スレ汚しすいません。
31 名前:夜叉 投稿日:2002年03月01日(金)19時22分22秒
情景が目に浮かぶような文章ですね。楽しみにしてます。
頑張ってください。
32 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月02日(土)02時16分46秒
謎な石川さんですねぇ
気になる
33 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月02日(土)21時34分50秒
――――――
3.

マンションの一室。後藤がドアノブを回し、ガチャッと小さな金属音を立てて
玄関へ入ると、中から明るい声が投げかけられた。

「ごっちん?おかえり〜遅かったね」

仔犬のようにかけ寄って来た小柄な女性は後藤に抱きついた。

「ただいま、なっち」

後藤の表情はいつもに増して柔らかくなっていて、とろけそうだ。
安倍は短い抱擁の後、やっとその後ろで奢ってもらったべーグルの入った袋を
持って苦笑するもう一人の存在に気付いた。

「おう、よっすぃ〜!いらっしゃいだべさ」

「相変わらずですね。安陪さん」

安倍はへへへっと実年齢よりもはるかに幼く見えるはにかんだ笑顔を見せて
部屋の中へ通してくれた。
34 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月02日(土)21時36分29秒
ソファに腰掛けると、後藤が「お茶入れてくるね」と言ってキッチンのほうへと
消えていった。
勝手知ったる他人の家。
安倍はそれを止めることなく机の上を片付け始めた。
部屋の中に転がる後藤の私物らしきものが空間の共有を物語っていて
ほほえましい。
後藤は週に3回くらいのペースで安倍の家に泊まりに来ている。

「散らかっててごめんね」

「いえ、こちらこそいきなり押しかけてスイマセン」

「いいのいいの。いきなりの訪問にはごっちんで慣れてるから」

「わるかったね。いっつもいきなりで」

拗ねたようなに返しながら、後藤が机に紅茶の入った3人分のカップを並べる。
口調とは裏腹に顔は笑っていた。
35 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月02日(土)21時43分17秒
相変わらず少しずつの更新ですが、今日はここまで。

>31
そう言って頂けて光栄です。
期待外れにならないよう頑張ります。

>32
謎な石川さんの出番はもう少しかかります。
それまで少々のご辛抱を。
36 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月02日(土)22時00分25秒
訂正
>34
最後から二行目
拗ねたようなに→拗ねたように
37 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月03日(日)18時22分41秒
なちごまも良い
38 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月03日(日)23時12分41秒

「ねぇ、よっすぃ〜。さっきはあんなとこで何してたの?」

別に隠すような事でもないと思い、べーグルを味わいながら今朝の事と併せて
話すと案の定笑われた。

「朝っぱらから…ゆ〜れ〜って……よっすぃ〜、そんなに怖がりだったっけ?」

息をするのも苦しそうに喋る後藤は目に涙までためている。笑い上戸なのは
十分承知だがちょっとむかつく。それに気付いた安倍が後藤に軽く注意を
しながら口を開いた。

「でも、珍しいね。よっすぃ〜がそんなに他人に興味を示すのって」

「そうですか?」

まだ笑い転げている後藤を少し睨むと「ごめん、ちょっとおかしくて…」と
まだ笑っているが申し訳なさそうに話に加わってきた。

「で、よしこはその石川さんに近づきたいわけね」

「…近付きたい…うん、そうなのか、な……よくわかんないや」

39 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月03日(日)23時14分33秒
自分の事なのにイマイチ自身がない。そう返すと安倍が優しく微笑みながら
頭を軽くたたいた。

「あっ、いいなぁ〜なっちそれ後藤にもやって〜」

羨ましがる後藤に「あとでね」と答えたあと、続ける。

「よっすぃ〜さ、石川さんの話するとき凄く可愛いよ。
なんかぎゅってしたくなるくらい。きっと素敵な人なんだろうね」

天使の微笑みに頷くと「じゃぁ、それがよっすぃ〜の素直な気持ちなんだよ」
と笑った。
40 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月03日(日)23時15分36秒

(私の素直な気持ち、ねぇ…)

石川のことを思い出してみる。
笑顔。特徴的な甘い声。小さな手。形のよい唇。
思い出すたびに心拍数が上がる感じがする。体温も上昇している気がする。

(……ちょっと待ってよ……これじゃ、まるで……)

「ん?よっすぃ〜、どうしたのさ。顔真っ赤だべ」

「あ…だ、大丈夫です。そろそろ帰りますね。お邪魔しました!」

気遣う安倍の声が頭の中を素通りしていく。かなり挙動不審な動きをしながら
上着と鞄を持って外へ飛び出す。

「…どしたんだろ…?」

「思春期だからねぇ〜、いろいろあるんでないかい?」

吉澤の行動にあっけに取られた後藤と安倍はそんな会話を交わしながら平和に
お茶をすすった。
41 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月03日(日)23時21分16秒
今日はここまで。

>37
良いですか。よかったです。
実は密かになちごま好きだったりします。
42 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月04日(月)04時18分03秒
自覚症状?
吉澤がうぶな感じで可愛いです
43 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月04日(月)23時18分24秒
4.

(大変だ、大変だ、大変だ!!)

学校の近くの小規模な公園。
安倍の家を飛び出したあと、家に帰る気になれず落ち着きを取り戻すために
冷たい空気に顔を冷やされながら頭を抱えてブランコに座っていた。

(マジっすか…初恋ですね。ってそりゃまずいっすよ自分。よく考えてみろっての
相手、女の子だよ!?問題ありだろ)

心の中で自分にツッコミを入れつつ考えてみる。
後藤に対しても「可愛い」とかは思うことはあるが恋愛感情は皆無だ。
そもそもこれもで生きてきて、誰に対しても恋愛感情を抱くことはなかった。
それに似た感情を持った事はあったが冷静に考えると友情の延長としか
思えなかった。

それなのに。

(……ヤバイ…本気で好きだ…憧れとかそういうのじゃない。どうしよ……)

とりあえずパニック状態から抜け出せたものの、悩みは消えるわけもなく
一人悶々と考え込む。

そういえば、以前一度だけ後藤に相談されたことがあったのを思い出した。

44 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月04日(月)23時19分19秒
――

『ねぇ、ごとーがなっちと付き合ってたらどうする?』
『べつに、どうもしないけど』
『なんとも思わないの?なっちもごとーも女の子なんだよ?』
『お互いに好き同士なんだったらいいじゃん。問題ないない』
『…うん、なっちもそう言ってた…けどさ…』
『何うじうじ悩んでんの?ごっちんにはそんな顔、似合わないよ』
『ひどー!ごとーだって悩むもん!!』
『そうそう、その顔。暗い顔してるよりよっぽどいいよ』
『…もう!……でも、ありがとね。よっすぃ〜』

――

45 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月04日(月)23時20分28秒

(「問題ないない」ってかなり無責任なこと言ってたんだな、私……)

いざ実際自分が同じ立場になると結構悩むものだ。
いや、自分と石川は好き同士ではないという違いはあるが。
もちろん、そのときは本当にそう思ったからあんな台詞が言えたのだけれど。

(…じゃぁ、今は?ただ好きってだけじゃ駄目なの?)

自分に問いかける。答えをすんなりと返せるとは思っていない。
でも、何か心の奥で確かな答えは出てる感じがする。
それは、きっと以前の自分と同じ答えで…

不意に浮かんだのは、あの人の笑顔。

それまでの苦悩の表情はきれいに消え去って清々しい表情に変わった顔を上げた。

46 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月04日(月)23時21分05秒
(まぁ、いいか。ここでうじうじ悩んでても何にも変わんないし)

ゆっくりと揺らしていたブランコに少し勢いをつけて飛び降りる。
スカートが踊って風が自分の周りを一瞬だけ包む。それがなんだか気持ちよくて
自然と笑みがこぼれる。

『よっすぃ〜の素直な気持ちなんだよ』

月明かりに乗せて安倍の優しい声が耳の奥で聞こえてきた気がした。

47 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月04日(月)23時31分54秒
今日はここまで。

>42
自覚してもらってからどう動かすか
いまだに試行錯誤してます。

大まかな骨組みとラスト以外は常にストックが無いので
行き当たりばったりなんですが
まだ読んで下さっている方々がいればマターリ待ってていただけると幸いです。
48 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月05日(火)04時08分55秒
マターリ待ってます
49 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月05日(火)21時18分14秒
5.

早朝。文字通り、早い朝と書いて早朝。
昨日よりもかなり早い時間に学校に来てしまい、硬く閉ざされた門の前で
立ち往生する女生徒が一人。

(……そうだ…学校だって二十四時間営業な訳じゃないんだ。
 無駄に早起きした…どうしよ……)

石川にもう一度会うために昨日の場所で待っていようと思い早起きして来たのは
良いが非常識に早い時間についてしまった吉澤は三十秒ほど悩んだ後、躊躇いなく
門に足をかけた。スカートから白い太腿が覗く。

ひらりと形容するに値する身軽さで門を越え校内へ飛び込む。

(伊達にバレーやってたわけじゃないんだよん♪かるいね〜)

調子に乗った顔をして門を見て周りに人がいなかったことを確認しつつ
目的の場所へと向かった。
50 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月05日(火)21時19分07秒

校舎を通り過ぎ少し奥に進むと、まるで隠れるようにひっそりと立っている桜の木。
昨日と同じ風景が目の前に広がる。
ただ、あの人がいないだけ。
そう考えただけで、言い知れない不安に襲われた。

本当に生きている人だったんだろうか。
実在する人なのだろうか。
自分は夢を見ていたのではないだろうか。

不安に押しつぶされそうになる。
51 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月05日(火)21時20分23秒
一歩。
桜の木に近づく。

『チャリッ』

ポケットの中から聞こえてきた軽い金属音がこんなに心強く感じるとは。

「…会える、よね…?石川さんはちゃんと実在するよね?」

二日連続の不慣れな早起きが祟ってか、木の幹にすがるように座って待っているうちに
穏やかな眠りへと落ちてしまった。
52 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月05日(火)21時24分36秒
今日はここまで。

>48
有難う御座います。
自分もマターリ書かせていただいてますので。

次回からやっとこさ謎な石川さんの出番があります。
……たぶん。
53 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月06日(水)02時44分32秒
なちごまだぁ〜〜〜(w
自分もなちごま大好きです!
54 名前:夜叉 投稿日:2002年03月06日(水)10時10分15秒
思い立ったら一直線な吉がいいですね。
さてさてこれから、石が謎の登場ですか?期待してます。
55 名前:名無し読者(^▽^) 投稿日:2002年03月07日(木)19時54分30秒
( ^▽^)<最高です!(0^〜^0)可愛い!
       謎な(^▽^)。。続き期待してます!!
56 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月07日(木)23時43分23秒
――――――
――――
――
(…いい匂いがする…なんか落ち着くなぁ……気持ちいい)

まどろみの中で心地良い世界を漂っていると何かが聞こえてきた。

「……ん、よ……わさん」

誰かの声と優しく肩を揺らす感覚が意識を現実に引き戻す。

57 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月07日(木)23時44分48秒
「授業始まるよ?吉澤さん」

聞き覚えのある高い声。やけに近くから聞こえてくる。
そう、まるで耳元でささやかれているような……
だんだんと頭がはっきりしてきて、ようやく自分が木じゃなくてその人に寄りかかり
肩に頭を預けて眠っていたことが分かった。

(どうりで木の匂いじゃないはずだ……って…この声って…)

弾かれたように目を覚ますと、そこには予想通り自分と同じように木を背もたれにして
座る石川がいた。いきなりのドアップに冬の外気で冷やされた身体はどんどん熱を取り戻した。

「あ、やっと起きた。今日は暖かかったから良かったけど寒い日にこんなとこで
 寝てたら凍死しちゃうんだから。気をつけないと」

ぱっと明るい笑顔を見せて注意をした後、立ち上がろうとした吉澤に手を差し伸べる。
それを掴むかどうか一瞬の迷ったが結局行為を無碍にしてはいけないと言い訳をして
手を取った。本音はやっぱり甘い誘惑に勝てなかっただけの事なのだけれど。
柔らかな手の感触に心底感動しながら努めていつものように振る舞う。

「…ありがとうございます…い、石川さん、は、いつからここに?」
58 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月07日(木)23時45分33秒
うんとね〜…6時過ぎくらいから…」

って事は自分が来て間もなくここに現れてたということだ。

(あぁっ!何でもうちょっと起きてられなかったんだ?!二時間も無駄に過ごしたなんて…
 いや、無駄じゃない。二時間も石川さんによっかかって眠れたんだからむしろ有意義?
 天国っすね!ひゃっほ〜い!!…意識があればもっと良かったんだけど…)

心のなかで一喜一憂しているとどうやら顔に出てしまったらしく、くすくすと笑い声が
聞こえてきた。

「面白いね、吉澤さんって。でも、私より早く来てどこから学校に入ったの?
 門、閉まってたでしょ?」

「閉まってましたけど…門を越えて入りました。石川さんも?」

同じような時間に来てたのだから門は開いていなかったはずだ。人が来る気配もなかった。
59 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月07日(木)23時46分22秒
吉澤の問いかけに「まさか」とにっこり笑うとウインクをして答えを返してきた。

「今度教えてあげるよ。今日はもう遅刻しそうだから行かなきゃ、ね?」

しぶしぶ頷く吉澤を確認して、さっきまでより少し大きめの声で一言言い残し
笑顔で石川は去って行った。

「今日もポジティブにがんばるぞー!」

(……犯罪的に可愛いんだけど…思いっきり空回りしてそうだなぁ…)

結局何も変わっていない気がするが、昨日よりも話が出来た事と自分の名前を
覚えていてくれたことに満足したので気分は上々だ。
なによりも、『今度ね』の一言が嬉しかった。

(今度ってことは、また会えるってことじゃーん♪)

意気揚々と奇妙なテンションを保ちつつ石川に言われた通り授業を受けるべく
校舎へと戻って行った。
60 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月07日(木)23時59分13秒
本日の更新はここまで。
さいきんPCの調子が悪くてよく落ちたり
凍ったりしてしまうので困ったもんです。

>53
おお、なちごま同志ハケーソ!!
なちごまの出番は今後もあるのでよろしかったら見てやってください。

>54
私的に吉は思い立ったら一直線のが萌えるので(w
石の登場が謎じゃなく、行動などが謎のままの石って意味でした。
期待外しと表現悪くてすいません。

>55
お褒めの言葉ありがとうございます。
続き、頑張って書きます。

では、もう少し生ぬるいまま続きますので。
61 名前:夜叉 投稿日:2002年03月08日(金)17時00分03秒
いえいえ、自分もそのつもりで書いてたので…(笑)。
二人の距離が緩くでも近くなれればと思ってるので、生ぬるくお願いします。
生暖かくお待ちしております。
62 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月10日(日)20時20分41秒
6.

「…どしたの?あれ」

「いや、なんか…どうなんだろーね〜」

休み時間、こそこそと教室の前で話す若い教師と後藤の視線の先に
なにやら窓際でニヤニヤしながら外を見ている生徒が一人。
いつにも増して締まりのない表情の吉澤だ。

「そうだ、圭ちゃん。石川って人知ってる?」

後藤が眼鏡をかけた教師に問いかけると顎に右手を当て考えながら答える。

「石川って、二年の石川梨華のこと?一応うちのクラスの子だけど……」

と答えたあと興味深々にレンズの向こうのつり目を輝かせて聞いてきた。

「ん?吉澤がおかしいのと関係あんの?」

「いや、……どんな人なのかなぁ、と」
63 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月10日(日)20時21分45秒
保田圭は新任の教師で一見近寄りがたい風貌をしているが、実際話してみると
実は気さくで優しくとっつきやすい。
安部の知り合いということもあり、いつの間にか校内で会うことがあればこうして
話すようになっていた。『先生』ではなく『圭ちゃん』と呼んでいるときは
教師ではなく友達として接している。

「どんな、ねぇ…成績優秀で運動神経も悪くない。口を開くと寒い発言も多いけど
 基本的にいい子よ。もろ“女の子”って感じ」

最後に「声に特徴があるから話し声が聞こえたらまず間違えることはないわね」
と付け加える。

「ふ〜ん…そっか」

「あ、あとネガティブなくせにポジティブが口癖」

「………なんじゃそら…」

眠たそうな顔をして呟く後藤に呆れながら圭は苦笑しながら軽く背中をポンポンと
二回叩く。

「まぁ、とにかくいい子ってことよ」

64 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月10日(日)20時23分56秒
予鈴がなると教科書やらチョークの入った小さな箱やらを小脇に抱えて
「午後からもサボんないようにね」と教師の顔に戻って去っていった。

「私は教室にいても寝てるからいつもサボってるみたいなもんだけど……」

(どうせ放課後は一緒に帰るんだからそのとき色々聞いてみよう。
 『石川さん』の事とかなんで今日はそんなに変なのかとか。)

二回目の鈴が鳴った直後ガラガラと音を立てて教室の古い扉が開いたのを
聞き、いつものように夢の世界へ出発する後藤であった。
65 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月10日(日)20時32分34秒
今日はここまで。

>61
二人の距離は徐々に近づくはずですので
生暖かく見守っててください。

ヤッスー登場。
因みに年齢は実際より少し上の設定なのでご了承ください。
66 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月10日(日)20時45分51秒
訂正
>63
最後から3行目
圭は→保田は
67 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月11日(月)00時55分34秒
一気に、今日読みました。
なんだか、暖かそうな話ですね。
久しぶりのなちごまも楽しみです。
ただ、Prologueが、気になっていますが・・・・(笑
がんばってください!
68 名前:名無し男 投稿日:2002年03月11日(月)10時04分49秒
何か読んでてマターリする
緑茶飲むと相乗効果が
69 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月13日(水)02時30分50秒
――

気持ちよさそうに寝ている後藤の斜め後ろの窓際の席、吉澤はまだ外を見ていた。
窓の外には割と広いグラウンドが広がっていて、体育の授業をしているのがよく見える。
その中に石川の姿を見つけてしまい、目が離せなくなってしまっていたのだ。

(ああ、また何にもないとこでつまづいてる…大丈夫かな…おっ。今のはナイス。
 テニス上手いんだー…意外。もっと運動神経鈍いのかと思ってた
 って褒めた先から、今度はよそ見して歩いて人にぶつかりそうになってるよ…)

と、石川の一挙手一投足をハラハラしながら見ていた。
石川のゲームが終わって、次の生徒のゲームに入った。コートの横に腰掛けて
クラスメートたちと談笑する石川を見ていると自然と顔が緩むのがわかる。
70 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月13日(水)02時32分41秒

(やっぱ、かわいいな…)

そんなことを考えていると、視線を感じたのだろうか。
こちらに向いた石川と目が合った。

(――っ!!)

あまりにも突然のことだったのでドキッというよりもギクッに近い感じがした。
そんなことは露知らず、石川は笑顔になり吉澤に向かって大きく手を振ってきた。

嬉しすぎてニヤニヤ笑いは止まらない。
片手で頬杖を付いたままひらひらと手を振り返す。
71 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月13日(水)02時34分02秒

「吉澤、何か外に面白いもんでも見つけたんか?授業はもう完璧ってことやな」

教師の声にハッとしてグラウンドから視線を外すと、黒板に問題が書かれていた。
すでに何問か答えが記入されているそれの空白部分を茶髪にカラーコンタクトという
おおよそ教師に似つかわしくない風貌の数学教師中澤がチョークで指している。

「い、いいえぇ!そんな滅相もないっ!!」

「じゃ、これ解いてもらおっかー。今日やったとこやから大丈夫やろ」

吉澤の台詞は無視して、にやりと笑いながら明るい口調でご指名。
もちろん答えが導き出せるはずもなく、適当な数字を書いて怒られた。

(わかるわけないじゃんかよ!こんな問題)

内心で逆ギレしつつも、すぐに先程のことで頭がいっぱいになり
表情は終始緩みっぱなしのままだった。
72 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月13日(水)02時41分10秒
本日はここまで。

>67
Prologue、気になりますか(笑
でも、痛い終わり方にはならないと思います。
励ましのお言葉、有難うございます。 頑張ります。

>68
マターリ書かせていただいてますので。
緑茶飲みながら相乗効果を楽しんでいただけたら幸いです。
73 名前:名無し男 投稿日:2002年03月13日(水)10時33分37秒
まだ優しい先生でヨカタ

それにしても石川さんは運動神経いいんだか悪いんだか(w
74 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月14日(木)06時45分11秒
7.


「よっすぃ〜、帰ろ〜」

授業が終了後、いつものように眠たそうな後藤が口調で話しかけてくる。
いつもなら即答するのだが、今日は違った。

「う〜ん…ちょっと待って。十分して戻ってこなかったら先に帰っててくれる?」

「ん〜?あっ、石川さん?」

石川と言う単語に過剰反応を示した吉澤は「えっ!?どこ?」と辺りを見回す。

「違うって。石川さんに会いに行くのかって聞いてんの!」

後藤に勘違いを訂正され、落ち着きを取り戻すとはっきりしない口調で言葉を進めた。

「え?あ…あぁ。そういうこと。…別に約束したわけじゃないから
 会えるかどうかわかんないんだけど……」

「ふ〜ん…ねぇ、ごとーもついてっていい?」
75 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月14日(木)06時45分52秒
その申し出に少し驚いて理由を聞くと「いっぺん見てみたいなぁと思って」と。
それだけだそうだ。吉澤がそこまで入れ込むのは何故かも興味をそそられる対象らしい。
別に断る理由も見つからなかったので承諾した。

「さっすがよっすぃ〜話がわかるぅ。じゃ、早くいこ〜!GO!GO!」

(寝起きのくせに何でそんなにテンション高いんだろ)

張り切って歩いていく後藤に手を引かれるようなかたちで二人は教室を後にした。

76 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月14日(木)06時46分53秒

――

その場所にお目当ての人はいなかった。

「昨日もいなかったんだよね?ってことは放課後は来ないってことかなぁ?」

隣で後藤が辺りを見回しながら言う。

「どうだろう……朝は、いるんだけどね。」

桜の木に近づきながら答えると軽い金属音が小さく響いた。
冬の寒さの中ではこういう音がいつにも増して聞こえるようにおもう。

「よっすぃ〜って財布使わない人だったっけ?」

その音を小銭の音だと思ったのだろう。
後藤の問いかけにポケットの中の指輪の存在を思い出した。
改めてその存在を確認し、呟く。

「…そういえば、今朝聞くの忘れてたや…」

「それ、石川さんの?」

「さぁ?わかんないけど、あの人のじゃないかなって思ってさ」
77 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月14日(木)06時47分45秒
冷たい北風が木の枝を揺らしてかさかさと乾いた音を立てる。
雲行きが怪しくなってきたと思ったら、目の前に白いものが落ちてきた。

「あ、雪降りだしたね〜」

「うん……風邪ひく前に帰ろっか」

とめどなく降る雪の中、寒そうに白い息を吐きながら帰路へつく。

道中、吉澤と後藤は石川について色々教えあった。
保田から聞いたと言う情報はまだ知らないことだったので大いに喜んだ。

「へぇ、保田組だったんだ。知らなかった…」

「そんな早くからいるってことは、桜好きなのかなぁ……あっ!!」

いきなり後藤が大きく叫んだのでびっくりして身体が跳ねた。

「なっ…なんすか!?」

まだ動悸は治まらないが、それだけは問いかけることが出来た。

78 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月14日(木)06時48分37秒
「いいもん見せてあげるよ。なっちんとこ行こ」

「へっ?」

自分より力の強い後藤に引っ張られ、わけの分からないまま安倍の家に連行。
まぁ、日常茶飯事だから今更なんとも思わなくなっていたが。
昨日に引き続き予告なしの訪問だったが、安倍ももう慣れてしまっている為
動揺などするはずもなく笑顔で部屋に入れてくれた。

「なっち〜!あの写真どこだっけ〜?」

アルバムらしきものが並べられている本棚の前に駆け寄った後藤が
後姿で問いかける。そこに近づきながら苦笑混じりに安倍が答える。

「あの写真ってだけじゃ分かるもんもわかんないっしょ?」

「ほら、えっと…こないだ、なっちが連れてってくれたとこのやつ」

それを聞いてすぐ「あぁ、あれね」と理解したらしい安倍が並んでいた
アルバムの中から一冊取り出してページをぱらぱらとめくる。
少しすると一枚の写真を抜き取り後藤に渡した。

「これのことっしょ?」

「うん。ほら、よっすぃ〜、これ見て」

やや興奮気味の後藤は単語で区切りながら吉澤を呼び寄せてその写真を見せる。

「……すっげ〜、これって合成?」
79 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月14日(木)06時49分21秒
その写真にはきれいに染まった紅葉と薄紅色の花をつけた桜が一緒に写っていた。

「あははっ。違うよ〜。それはね冬桜ってゆーんだよ」

後ろから安倍が話しに加わる。

「冬にだけ咲くんですか?」

「いんや。二回咲くの。春と冬に。冬はね一回寒さにあってから咲くんだって
 病気とかにも強いらしいべ」

「だからさー、石川さんに見せてあげれば?よしこも見てみたいでしょ?
 誘っていっしょに行っちゃえ〜」

親切な説明の後を後藤の能天気な声が追いかける。
80 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月14日(木)06時50分29秒
「えぇっ!?な、何言ってんの!まだ会ってから間もないのに!!」

「いいじゃん。細かいこと気にしてたら前に進まないよぉ?」

顔を真っ赤にして抗議する吉澤に後藤は軽く返す。
もうこうなったら敵わない。冷静さを失った吉澤が勝てるわけがない。
なんてったって相手は後藤なのだから。
しかも

「…ま、いいんでないかい?たまには冒険してみなよ」

と安倍まで後押しをするのだから勝率0%だ。
なにより、それで距離が縮められるかもしれないんだから誘おうかなと
思っている自分がいることも事実だ。

例の写真を貰って自宅に帰る頃には決心は固まっていた。
81 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月14日(木)06時58分43秒
本日はここまで。

>73
石川さんの運動神経は……まぁ、ヤッスーによると悪くはないらしいです(w

さて、やっとタイトルの冬桜が出てきました。
次回から、ちゃんと石川さんと吉の会話が…ある…と、思います。
82 名前:名無し男 投稿日:2002年03月14日(木)14時22分52秒
おお!行くのか!
ガムバレー吉澤!!
83 名前:夜叉 投稿日:2002年03月15日(金)17時34分58秒
ついに吉動き出しますね。
手を振り、振り返す二人に萌え♪。
がんがってくださいね。
84 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月15日(金)20時22分25秒
8.


「ちょっと待ってよ!ごめんってば」

「別に怒ってないけどー?怒られるようなことしたと思ってんの?」

「…やっぱ、怒ってんじゃない……」

「怒ってません!」

「怒ってる!」

もうすっかり日の落ちた薄暗い街灯のともる路上でつまらない言い合いをしている二人。
市井沙耶香と保田圭。
何故こんな状況になったのかというと、久しぶりに二人きりで食事に出かけたのはいいが
その最中に保田が仕事の話をしすぎてしまったのだ。
85 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月15日(金)20時23分33秒

「じゃぁ100歩譲って怒ってることにしよう。でも、べつに仕事の話したくらいじゃ
 怒らないよ。問題は圭ちゃんがその『石川梨華』ちゃんについて嬉しそうに話たのが
 気に入らないの」

「だってさ、沙耶香に似てんだよ。中身はあんま似てないけどさ…なついてくれて
 可愛いじゃんか」

市井は『沙耶香に似てんだよ』のところで不覚にも顔がほころびそうになったが、
なんとか堪えることに成功した。それにしても、何でこの人は自分の事になると
こんなに鈍いのだろうか。はっきり言わないと分かってくれないらしい。

「……あのねぇ…いいですか?保田圭さん?」

そう言ったあと市井は保田の肩に手を置き、一拍おいて早口で一気に次の言葉を発した。

「私は妬いてんの!圭ちゃんが他の子の話を楽しそうにするのが嫌なの!」
86 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月15日(金)20時24分06秒

言っている最中はまっすぐ保田に向いていた顔。今は、頭のてっぺんしか見えない。
下を向いているから表情は窺うことが出来ないが真っ赤になった耳を見れば大方の予想は付いた。

苦笑した保田は市井を抱きしめる。

「…沙耶香ってば、かっわい〜」

「うわ!ちょっ、圭ちゃんっ!!」


87 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月15日(金)20時24分36秒



その後方にじゃれ合いながら離れていく二つの影を見ている人物がいた。
声をかけるわけでもなく、ただ一部始終を見ていた。
無表情な頬に一筋の雫が流れているのも気付いていないかのように
二つに影が視線上から消えるまでその場に立ち尽くしていた。

88 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月15日(金)20時25分50秒
9.

「石川さん!おはようございます」

「…おはよう、吉澤さん…早いね。今日も門を越えてきたの?」

吉澤は石川の様子がいつもよりも心なしか元気のない印象を受けたが、
そのことには触れず問いかけに肯定した後、昨日の雪凄かったですねとか
もっと積もってるかと思ったけどそうでもなかったとか他愛のない話をした。
予鈴がもうすぐに鳴ろうかというときになってようやく例の写真を見せて
話を切り出すことが出来た。
石川が写真を見るその表情はいつもの微笑とは違い、子供に戻ったように瞳を輝かせていた。

89 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月15日(金)20時27分09秒

「も、もしよかったら今度一緒に見に行きませんか?
 紅葉はさすがに見れないと思いますけど、桜のほうは12月いっぱいは見れると
 思うんで」

上手く言えたかななどと思っていると、石川の声が沈黙を破った。

「ねぇ、これから行こうか?」

「はい?」

聞き間違いではないかと思って聞き返した。
見るからに真面目そうで教師受けもいい優等生の台詞とはとてもじゃないが思えなかったからだ。
予鈴が鳴り響く。

「…ごめん、やっぱり今のなしね。聞かなかったことにして」

教室に向かおうとする石川の腕をとっさに掴んだ。
90 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月15日(金)20時28分13秒

そういえば、初めて会ったときの朝もこうして腕を掴んだっけと思いながら、
力をいれずに、でもしっかりと引き止めた。

「あ…」

「今日は離しませんよ。聞いちゃったものは取り消せませんし。
 行きましょう。今からすぐに」

自分でも信じられないほど積極的だと思う。
でも、これを逃したらいつまでたっても前に進まない気がして…。

「……いいの?」

「もちろん。さぁ、行きましょう…って言ってもどこから出ましょうか?
 この時間になると人目が多い門からは無理だし……」
91 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月15日(金)20時29分09秒

石川の腕を掴んだまま考え込んでいると掴んでいるほうの腕を引かれて顔を上げる。

「その心配は要らないよ。こっち、来て」

言われるままについていくと学校を囲んでいる壁の下のほうに人が一人通れるくらいの
穴が開いていた。近づいても、よく見なければ気付かないほど判りにくいが。

「私はいつもここから入ってきてたの。なんか秘密基地の出入り口って感じだよね」

そう言って笑う石川はこれまで見た中で一番楽しそうな表情だ。
何故か自分まで楽しくなってくる。
こんなにどきどきわくわくしたのは何年ぶりだろうか。
腕を掴んでいたはずの手は、いつのまにか手のひらに移動し繋ぎあっていた。

そのまま二人は冬桜を見るために走り出す。

片手だけ繋いで。
92 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月15日(金)20時34分47秒
本日の更新はここまで。

>82
はい、行きます。吉澤にはこれから頑張ってもらわないと(w

>83
やっと吉動き出しました。
励ましのお言葉、有難う御座います。頑張ります!
93 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月15日(金)22時20分29秒
いしよしがアクティヴで良い感じ
94 名前:名無し男 投稿日:2002年03月16日(土)17時45分08秒
なぜか頭の中で大脱走のテーマソングが(w
95 名前:夜叉 投稿日:2002年03月16日(土)19時36分07秒
吉澤、行きまぁーすぅ(笑)。
つか、石の方が吉を引っ張ってるぢゃないかぁ(^^;;
続きに期待してますね。
96 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年03月16日(土)20時24分18秒
積極的に積極的に行くべし!
次の展開に期待。がんばってください。
97 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月17日(日)18時08分10秒
10.


ある程度学校から離れたところまで来ると走るのをやめて顔を見合わせると
お互い、真っ赤な顔で口からは白い息を短く繰り返していた。
ゆっくりと歩いて呼吸を整えながら話しかける。

「大丈夫ですか?」

「うん。こんなに走ったの久しぶり……すごい楽しい……」

肩で息をしているけど、そう答えた表情は明るい。
安心した吉澤も同じように笑う。

「石川さんってもっと真面目な人かと思ってました」

それを聞いた石川は苦笑して口を開いた。

「真面目よ?とっても。でもね、息抜きもたまには必要でしょ?
 ……ずっと頑張ったままじゃ壊れちゃうもの」

「……そんなもんですかねぇ……」

「そんなもんですよぉ〜?」

真面目な人は真面目な人で大変みたいだ。
98 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月17日(日)18時08分46秒
そうこうしていると安倍から聞いていた目的地にたどり着いたようだ。
平日の昼間と言うこともあって、辺りに二人以外の人の気配はなく静かだった。

目の前には季節を間違えてしまっているかのように可憐に咲く冬桜。
昨日の雪の名残に花びらに薄くかかっている白。
どんなリアクションをしているのかが気になり、隣を見ると
石川は言葉もなく嬉しそうに少し細めた目でそれを見つめていた。
その光景に息を呑む。

「……きれいですね……」

『桜よりも、あなたが』とは、さすがに言えるわけもなくその一言だけ口にした。

「うん。本当に……」

会話はそこで当たり前のように途切れ、吉澤は石川を、石川は桜を
暫くの間見つめ続けていた。

99 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月17日(日)18時09分22秒
どれくらいの時間が過ぎただろう。
気が付けばあたりはオレンジ色に染まり始めていた。西日が影を長く伸ばす。

西日を横顔で受けながら指輪のことを思い出した。

「あの、これ石川さんのですか?学校の木の下に落ちてたんですけど……」

ポケットからそっと取り出したそれを見て、複雑な表情をした後、俯いたまま
動かなくなってしまった。
何かを話そうか話すまいか迷っている。そんな感じだ。

こういう場合自分はどうすればいいんだろうかと目を泳がせていると、
躊躇いがちな石川の声が聞こえてきた。

「私のだけど、私のじゃないの。それに……もう必要ないから。好きにしていいよ」

「……?」

その言葉の意味が理解できずにいると、石川は、ぽつりぽつりと話し始めた。
100 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月17日(日)18時10分39秒
「それ、桜の木にあげたの。私が持っとくには重すぎるから……
 枝に引っ掛けてたんだけど落ちちゃったみたいだね……」

そう話す石川の表情が痛々しくて、切なくて、それ以上のことは聞けなかった。

「……どうせなら、ここの桜にプレゼントしましょう」

「え?」

石川が顔を上げるのと吉澤が木に登り始めたのはほぼ同時だった。
長い手足を使って軽がるときに登り、ジャンプしてもたわないくらいの高さに
ある枝にその指輪を通し、チェーンを巻きつけた。
誰かが故意に枝を折ったりしない限りは取れることはないだろう。
ちゃんとそれが外れないことを確認して地上に降りる。

「春にも冬にも咲くこっちのほうが良いでしょう?」

パンパンと制服に付いた木のくずや土を軽くはたいて、白い歯を見せて笑った。
101 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月17日(日)18時11分18秒
「……やっぱり、面白いね。吉澤さんって」

つられて笑う笑顔は先ほどの悲しそうな影を忘れそうなほど眩しく見える。
このときからだったと思う。この人が幸せそうに笑ってくれるならそれだけで
良いと心の底から思うようになったのは。

102 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月17日(日)18時21分17秒
本日の更新はここまで。

>93
いい感じですか。
若い人にはアクティヴでいてもらいたいものですから。

>94
大脱走のテーマソング…確かにそうかも(w

>95
吉は今回もスカートで登ってます(笑)。
でも石の方が吉を引っ張ってる感じは抜けてないような…

>96
今回の吉、積極的に行ってるでしょうか?
どうもこの話の中の吉は弱気なとこが多いようです。

次回は石川視点になると思います。
では、頑張って書きますので。
103 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月18日(月)04時23分50秒
指輪の謎が気になりますねぇ
104 名前:名無し男 投稿日:2002年03月18日(月)10時56分47秒
意味深な・・・
105 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月18日(月)12時24分44秒
すいません、市井は沙耶香じゃなくて紗耶香なんで、よろしくおねがいします・・・
106 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月19日(火)18時32分53秒
11.

『ごめん、私は石川をそういう風には見れないから……』

『ずっとなんて言いません……あの人が海外に行ってる間だけでもいいんです!』

『なおさら駄目だよ。それじゃ、私は紗耶香を裏切ることになる。
 それに、きっと私の中で紗耶香の面影を追っているだけになってしまうと思う』

『それでもいいっ!先生は私のこと嫌いなんですか!?』

『嫌いなら、もっと楽だったろうね……ごめん、石川……』
107 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月19日(火)18時33分23秒

二人で会うときはいつもこの場所だった。
初めて会ったのも、こうして今別れの場になっているのも。
ここで始まってここで終わる。

その証拠に、あの日、背を向けた保田は二度と戻ってくることはなかった。

初めて本気で愛した人の誕生日。
初めて自分で働いて買った銀色の指輪。
初めて自分から告白したその日、見事に玉砕した。
108 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月19日(火)18時34分12秒

結局渡せなかったシルバーリングは、今私の手の中にある。
自分で付けていようと思い、サイズの合わない指輪をチェーンに通して
首に掛けてみたが、行き場をなくした想いがこみ上げてくる気がしてきて、
すぐに外した。
このままこれを持っていられるほど、私は強くないと認めざるを得なかった。
かといってゴミ箱に捨てるには抵抗がある。
どうしようか迷っているときに、桜の木が思い浮かんだ。
だから、その枝に掛けようとしただけ。
109 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月19日(火)18時34分54秒

誰にも見つからないように早朝に家を出て秘密の抜け穴を通って校内に入り、
枝に掛ける事は出来たが、中途半端に時間が空いてしまった為そのまま
裸の桜の木を見上げていると背後で人の気配がした。
ぎくりとして振り返ると……




そこには天使がいた。
110 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月19日(火)18時43分40秒
本日の更新はここまで。また少な目の更新になりました。

>103
指輪の謎はこういうことでした。

>104
そこまで深いエピソードじゃなくてスマソ

>105
うわっ!ホントだ沙耶香になってる!
すいませんでした!!ご指摘有難う御座います。

と言うわけで、訂正
>84下から3行目、>85上から4行目と6行目、>86下から2行目の
沙耶香→紗耶香
本当に失礼しました。
111 名前:名無し男 投稿日:2002年03月21日(木)00時23分27秒
なるほど!こういう事だったのか
112 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月21日(木)18時34分52秒
保田が関係してたんですね(w
んーどうなってくのか
113 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月22日(金)13時38分04秒
12.

色白で、長い手足。甘いマスクと言う形容詞が当てはまる顔。
そして、やや低めのハスキーボイスで、天使は言葉を紡いだ。
会話の内容はもう覚えていない。
ただ、その印象だけが強烈に脳裏に焼きついて離れない。

『吉澤ひとみ』

あぁ、思い出した。
どこかで見たことがあると思ったら……
あの人と廊下で話してるとこを見かけたことがあったわ。
……あの人と……
114 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月22日(金)13時40分35秒

「梨華ちゃん……?お〜い?」

気が付くと目の前で手がひらひらを動いているのが見えた。
その向こうには心配そうな柴田の顔。
この一つ年上美人の友達、柴田にはよく一緒に遊んだり相談に
乗ってもらったりしていた。
家も比較的近いため、放課後はいつも一緒に帰っている。

「大丈夫?いつにも増してボケボケしてたけど」

「あ、うん。ごめんね〜、なんでもないよ」

「嘘ばっか。駄目だよ。何でも一人で解決しようとしてちゃ
 何かあったの?私でいいなら聞かせてくれるかな」

その優しいトーンに促され、保田に告白したこと、そして振られたこと
全てを話した。
115 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月22日(金)13時41分26秒

「保田先生はね、すごくいい人。顔はちょっと怖かったけどホントはすごく
 人の気持ちを考えて行動できる人なんだ…優しくて…だから私をはっきり
 振ってくれたんだってわかってる……けど…やっぱり……」

柴田は話を聞いてくれている間「うん」「そっか」と短く相槌を打ちながら
時々背中を撫でてくれていた。
それ以外には何も言わなかったけれど、それがかえって有難かった。

「……シバちゃん、卒業しちゃうんだよね……そしたらこんな風に頼れる人
 いなくなっちゃう……甘えらえる人いなくなっちゃうよぉ……」

話してる途中視界がぼやけてきた。きっと涙腺は壊れてる。
それでも、まばたきを堪えていると、頬に手の感触が感じられた。

「大丈夫だって。案外なんとかなるもんだよ?」
116 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月22日(金)13時42分36秒

にっこりと微笑むと、優しく触れていた頬をつまみ、軽く横に引っ張った。

「いひゃいって、ひふぁひゃん!」

まばたきして少しこぼれてしまった涙はもう引っ込んだ。

「はははっ。ま、そのうちいいことあるって。『ポジティブ』でしょ?」

明るく笑って手を離すと、すぐに柴田はくるりと反対側を向けて歩き出してしまった。
結構元気付けようと頑張ってくれているらしい。
117 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月22日(金)13時43分14秒

石川がすぐに追いつけるようにゆっくり目の歩調で足を進めるその背中に
思い切り飛びついて抱きしめた。

「ありがとう……シバちゃん大好き!」

「……なにいってんだか。ほら暗くなったきたし、とっとと帰ろ」

明後日の方向を向いたままそう言った柴田の頬は少し赤くなっていた。

(いいことある…か)

明日も朝早くあの場所に行けば、あの子に会えるかもしれない。
何故かそう思った。

118 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月22日(金)13時47分30秒
本日の更新はここまで。

>111
はい。そういうことだったんです。

>112
師弟が関係してたんです(w
どうなってくかは、お楽しみにということで。

学生さんはもう春休みですね。自分も休みほしいです…(苦
119 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月23日(土)19時42分27秒
13.


「ホントにいたんだもん。びっくりしちゃったわ」

冬桜見物の帰り道、小さく呟くと隣を歩いている吉澤が顔を覗き込む。

「何がですか?」

「昨日、あんな朝早くに外で寝てる人がいてびっくりしたな〜って……
 そういえば、何であんなとこで寝てたの?」

そのときは何故そこで寝てるのかよりももう一度会えた事の方に気を取られてしまい
隣に座ってボケッとしてたけど、よく考えると普通の人はあんな寒空の下で寝ない。

「あ…あれは、え〜と、そのぉ……石川さんを…待ってたんです」
120 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月23日(土)19時43分13秒

消え入りそうな小さな声で顔を真っ赤にしながら答えた。
石川は一瞬不思議そうな顔をしたあと「あぁ」と手を叩いた。

「さっきの指輪を返そうとしてくれてたんだ?ごめんね〜」

「へ?」

「吉澤さんって面白いって言うより、変わってるね。
 一・二回くらいしか会ってないのに私が桜好きなのを見破って、
 こんな素敵なところに連れてってくれるし」

「それは下心があるからなんですよ〜……なんちゃって……」

(あぁ、私の馬鹿野郎〜っ!!意気地無し〜っ!!なんでそこでいらん事を
 付け加えるかな!?弱気すぎ……)

いつものように自分の行った台詞を罵倒していると

「ふふっ、吉澤さんみたいに綺麗な人に言われるとなんだか光栄ね」

上品な笑顔にKOされた。
121 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月23日(土)19時44分15秒
同時に今のうちに少しずつ友人としての基盤を気付いていくのも手かもしれないと
打算的な考えが頭を掠めた。

「あの、石川さんが嫌じゃなかったらさん付けじゃないほうが嬉しいんですけど…
 なんか年上の人にさん付けされるのって違和感が……駄目ですかね?」

「ん?あぁ、そっか…じゃぁ“ひとみちゃん”で良い?吉澤って呼び捨てにするのは
 ちょっと抵抗があるし……あ、私も梨華でいいよ。敬語もなしで、ね?」

思ってもみない石川の申し出に吉澤は驚きを隠せなかった。

「えっ!?でも、先輩ですし……」
122 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月23日(土)19時44分45秒

そう躊躇していると石川の表情が微妙に曇っていくのを見逃さなかった。
後藤が保田から仕入れた情報に「ポジティブが口癖のくせにネガティブ」
というのがあったのを思い出す。

「あ、じゃ梨華ちゃんで!もう友達だよね、よろしく!」

すぐさま極力明るく優しい声を心がけて口を動かす。
すると、石川はパッと雲が晴れた笑顔を見せてくれた。

「うん、よろしくね。ひとみちゃん」
123 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月23日(土)19時46分25秒
14.


石川を無事に駅まで送り届け、自宅に帰ろうと踵を返したとき携帯の着信音が鳴り響いた。
ディスプレイには着信履歴の7割を占めている人物の名前が映し出されている。

『うひょう〜っ!よ・すぃ・こ〜。どうだったよ?行って来たんでしょ?』

「……(うひょう〜?)う、うん。行って来たけど、どうって?」

電話の向こうのハイテンションについていけずに答えると3秒間隔が空いた。
その後、さっきとは打って変わって静かに声が聞こえる。

『…もしかしてさ、な〜んもなかったとか言わないよね?』

「なんにもないよ?」
124 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月23日(土)19時47分28秒

とりあえず今日あったことを一通り話す。
といっても、ほぼ桜を見てただけのようなものだが。

『ばっかじゃないの!?授業サボってまでデートに漕ぎ着けたってのに
 何にもないって……よしこは木登りの為にそこに行ったの!?』

吉澤は大音量で罵られる事を予想していたので受話器を耳から遠ざけていた。

(やっぱり、予想通りの反応で……)

「あのねぇ、私はごっちんみたいに手ぇ早くないの!純情少女なんだから」

『自分で純情って言う奴に本当の純情少女はいない。……ムッツリのくせに』
125 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月23日(土)19時48分08秒

「ぐっ……まぁいいや。とにかく急いては事を仕損じるんだって。
 それに……」

石川のあの悲しそうな表情を思い出したら、いきなり迫るなんてまねは出来ない。
話すべきか話さないべきか迷って言葉に詰まっていると

『それに?言いかけて止まんないでよ、気になるじゃんか』

「あ、いや。友達にはなれたよ。名前で呼び合う仲にはなれた」

『友達ね……そっか。まぁ、明日詳しく聞かせてよ』

「うん。じゃあね」
126 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月23日(土)19時50分32秒

携帯をポケットに突っ込むと大きく伸びをした。
心地良い軽い疲労感を感じる。
少しはしゃぎ過ぎた、走ったせいもあるかもしれない。

(……梨華ちゃん……かぁ…へへへっ……)

それから家に辿り着くまでずっと吉澤の顔がにやけたままだったのは言うまでもない。
127 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月23日(土)19時51分22秒
今日はここまで。
128 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月23日(土)20時43分05秒
ムッツリがんばれ(w
129 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年03月24日(日)11時03分12秒
よしこ、もっと積極的に!(w
何気に、梨華ちゃんと呼ぶことに喜んでる吉に、萌え(笑
がんがってください。
130 名前:名無し男@ベッカムカット失敗でハゲチャビンの旅(クリリン) 投稿日:2002年03月26日(火)03時37分45秒
ムッツリーニ吉澤にワラタ

出ももしこれが自分だったらもっと偉い事になってたろうな(w
131 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月27日(水)12時13分27秒
15.


「吉澤、どうだって?」

適度にざわついているごく普通の喫茶店の一角。
電話を切ると向かいの席に座った保田がすぐに聞いてきた。

「友達には、なれたってさ。肝心なとこで押しが弱いんだよね〜」

そっかと呟いた保田は複雑な表情をしてコーヒーを口に運ぶ。
後藤から吉澤と石川のことを聞いた時、本当に心の底から喜んだ。
132 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月27日(水)12時14分21秒

あれ以来石川とはまともに話をしていない。
交わす会話は教師として生徒としての会話のみ。
お互い極力自然に振るまおうとしているが、それが余計によそよそしさを誘い
ギクシャクした感じになってしまう。
そこへ来て、吉澤が絡んできた。
それはきっと、石川が立ち直る良いきっかけになるだろう。
そう思っていた。
133 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月27日(水)12時15分22秒

「でもさ、圭ちゃん、ごとーになんか隠してない?」

鋭い指摘に背中をいやな汗がつたう。
石川と自分間にあった事は何一つ話していない。

「……なにかって?」

「――……いいけどね。圭ちゃんはちゃんと頭で考えて行動するし。
 間違ったこともしない。それは信用してるよ。ただ……」

後藤はそれまで持っていた紅茶のカップを置いて、まっすぐに保田を見据えた。
普段のふやけた雰囲気は消え、鋭い意志の強い光を宿している。

「市井ちゃんやよしこを傷つけた時は……問答無用で一発殴らせてもらう」
134 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月27日(水)12時16分16秒

それだけ言うとにっこり笑ってご馳走様と言い残し喫茶店を出て行った。
一人席に残された保田は安堵のため息をつき、深く背もたれに体重を預けた。

「ふぅ……骨、折れない程度に頼むわよ。後藤怪力だから、それだけが心配だわ」

小さく独り言を言うと、伝票を横目にゆっくりと残りのコーヒーを飲みはじめた。
135 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月27日(水)12時24分50秒
本日はここまで。

136 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月27日(水)12時25分28秒

>128
ムッツリにはこれからがんばってもらいますので(w

>129
吉も積極的にいきたいとこなんでしょうね
まだまだ消極的ですが(w
続き、頑張って書きます。

>130
クリリンですか〜それは辛いですね〜。因みに鼻はありますか?(w
自称純情だけど自覚のあるムッツリ吉澤です。
…もっと偉い事って…詳細キボンヌ(w
137 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月28日(木)02時02分29秒
大人な雰囲気ですね保田
けっこういい
138 名前:名無し男@ハゲ仲間×3が大活躍!!!あんたらはハゲの魂だ!! 投稿日:2002年03月28日(木)14時52分28秒
渋いぞ保田(w
139 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月31日(日)23時26分38秒
16.


石川から告白されるまでまったく気付かなかったわけじゃない。
好意を持ってくれているのは以前から分かっていた。
こんなに懐いてくれた生徒は少なかったし、自分自身も彼女が可愛くて仕方なかった。
しかし、いつしか時折感じるようになった尊敬や友情とは違う想いのこもった視線。
それを感じる度に息苦しくなっていたことは事実だ。
でも、嫌じゃなかった。むしろ嬉しかったのかもしれない。
もちろん恋愛感情を抱くことは出来なかった。抱こうとも思わなかったが。
140 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月31日(日)23時27分28秒

自分にはすでに紗耶香がいた。
ずっと想い続けるであろう恋人が存在していた。
その存在を石川は何故か知っていた。
市井がくれたものとよく似た指輪を差し出されたあの日……

『あの人が留学してる間だけでもいいんです!!』

正直、この時ばかりは心が揺れていた。
きっと紗耶香の留学中に浮気をしても、その気になれば隠し通せる自信はある。
けれど、自分まで欺く自信はない。心の半分はずっと紗耶香のもとにあるから……
141 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月31日(日)23時28分46秒

紗耶香に似ているこの子に紗耶香を重ねてしまってきっと辛い思いをさせてしまう事は
容易に予想できる。
ここで酷い振り方をすれば良い。
大嫌いになる程、酷い最低な言葉で断ればこれ以上石川は傷つかなくてすむ。
そう思った…けど、出来なかった。
嫌われるのが怖くて。
恋愛感情はないけれど、好意を持っているのは確かだから。
結局、ずるいのだ。
いつだって安全パイを握って、自分を庇ってる。
今だって、こうして吉澤が石川の立ち直りの手助けをしてくれるのをただ期待して
傍観してるだけ。

「……サイテーな奴だね。本当……」

保田の瞳は、ほんの少し潤んでいる。
ぼやけてくる視界でやっとそれに気付き、俯いたらきっとこぼれてしまうであろう
目の端にたまった涙を軽く袖で拭った。

142 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月31日(日)23時30分27秒
17.

冬桜を二人で見に行って以来、石川と吉澤の距離は目に見えて近くなっていった。
校舎が離れている為、そう頻繁に顔をあわせることはなかったが、
毎朝あの桜の木の下で隣り合わせに座っってどんな本を読んだだとか
どんなものが好きだとか他愛のない話をしたりして。
一回一回、会うたびに石川の事が見えてきて嬉しかった。
ある日、初めて会ったときの話になり、幽霊だと思ったことを明かした。

「幽霊ねぇ……ちょっとショック〜。ひどいなぁ、ひとみちゃん。
 私は初めて会ったときね、天使だと思っちゃったのに」

「えぇっ?どこがぁっ!?」
143 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月31日(日)23時31分30秒

照れ隠しに茶化して返すと石川が笑いながら答える。

「さぁ?なんでだろうね〜。でも、今でも印象は変わってないよ」

「ま、まぁ私って純真だしー」

(くそう……天使の笑顔はそっちだっての!あぁ、かわいいよぉ……
 持って帰りたい)

調子に乗って言うと、すかさず言葉の刃が飛んできた。

「ムッツリのくせに」

「!!?……梨華ちゃんまで〜……」

どうやら最近、後藤が余計なことを吹き込んだらしい。
144 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月31日(日)23時32分29秒

もちろん吉澤が石川に対して恋愛感情を抱いているということは洩らしていないが
こういうことはちゃっかり教え込んでいるので割と核心を突いた容赦ない突っ込み
が出来るようになってしまっている。

そんなやり取りの中で予鈴が鳴り響く。
いつもこの音が聞こえるたびに、ほんの少しでいいから時間が止まってしまえば
良いのにと考えてしまう。
生徒たちが駆け足で教室に向かっていくのが見えた。

「私たちもそろそろ行こうか」

そういって立ち上がろうとする石川の手に自分の手を重ねた。
145 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月31日(日)23時33分06秒

「ひとみちゃん……?」

「……もう少し……ここにいよう……?」

俯いたまま言ったので顔は見えなかったけれど『仕方ないなぁ』という表情で
微笑んでいるのが手に取るようにわかった。

「……少しでいいの?」

「出来れば、今日一日ずっと……駄目かな?」

「こないだ私がサボらせたせいでサボり癖がついちゃったかな?」

「ははっ、そうかもね。責任とってくれる?」

ふざけて言うと笑顔のまま頷いてくれた。
146 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月31日(日)23時34分06秒

今、告白するチャンスなのかもしれない。そう思っても、あと一歩のところで
踏みとどまってしまい自分の気持ちを言いそびれてしまっていると、
白い雲の中から小さな白い雪が落ちてきた。
少し寒いけど、今はそんな事どうでも良かった。
ずっとこの時が続けばいいと思った。
ただ、このまま石川の気配を感じていたかった。

それでも、心のどこかで予感がしていた。
幸せな時間は長く続かないと。
近づけば近づくほど、相手を傷付けてしまうのかもしれないと。
147 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月31日(日)23時35分00秒
本日はここまで。
148 名前:名無し作者 投稿日:2002年03月31日(日)23時40分28秒
>137
いいですか?よかったです。
保田は良くも悪くも大人なイメージがあるので。

>138
今回も渋めな保田でした。
詳細、ちょっと想像して萌えました(w

最近更新遅くてすいません。
時間がある時に出来るだけしようと思うんでマターリ待ってて下さると嬉しいです。
149 名前:名無し男 投稿日:2002年04月01日(月)01時36分51秒
やばい
波乱はありですか?
150 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)16時41分17秒
18.


「え……――?」

「だからっ、石川さん転校するんだって!」

「なんで?冗談にしちゃ笑えないよ」

後藤の口から出てきたその言葉はすぐには理解することが出来なかった。
茶化すように受ける吉澤の表情とは対照的に後藤の顔は真剣そのものだった。
151 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)16時41分57秒

息を切らしながら説明をしているのを聞くと、遅刻が酷いので職員室に
呼び出されて適当にお説教を聞き流していたら石川が担任の保田のところで
転校の話をしていたという。

「……いつ?」

「話を聞いたのはさっき。今週中には転校するみたい」

石川が……転校する……
今朝もいつものように話をしたのに、そんな話は一言もなかった。
話してくれなかった事に対して怒りはなかった。
そんなことよりも、もうあの困ったような笑顔が見れなくなってしまう事に
深い虚無感を覚えた。
悲しさとか寂しさなんかとっくに通り越しているような、そんな感じ。
152 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)16時42分39秒

吉澤は走って桜の木へ向かった。
きっといる。
いつもの放課後はいないけど、今日はきっといる。
おそらく、自分を待って。
自惚れてると思われてもいい。
これは根拠のない確信だから。

肩で息をしながらその場所へ着くと、石川が見えた。

「梨華ちゃん……」
153 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)16時43分16秒

振り返らなかったので、もう一度息を整えて歩み寄りながら名前を呼ぶと
それまで見つめていた桜の木から視線を外してこちらへ向き直る。
まっすぐな瞳で。

「……後藤さんから聞いたんでしょ?ごめんね……」

「何で謝るの?わかんないよ…私は何も知らない!!」

「何も言わずに、離れていきたかったの」

「梨華ちゃんはいつも結論だけしか言わない!私に理由や考えを言っても
 無駄だと思ってるの?そんなに私って頼りないの!?」

「……ひとみちゃ……」

石川が何かを言おうとして口を開いた瞬間に吉澤の唇がそれを塞いだ。
154 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)16時44分49秒

短い口づけのあと、両肩をしっかりと掴んだまま初めて出逢った時からずっと
言いたかった言葉を言った。

「私は、梨華ちゃんが好きだよ。梨華ちゃんが私の事をどう思っていようと
 私の気持ちは変わらないんだよ……初めて会ったときからずっと」

突然の告白に石川は少し戸惑った表情の後いつものように眉毛を八の字にして
俯いた。

「私は……保田先生が……」
155 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)16時45分32秒
19.


それからどうやって学校から出たのかは覚えていない。
気が付くと家の近くの公園にいた。

(そういえば、ここで自覚したんだっけ……梨華ちゃんが好きってこと)

西日があたりを照らし、影を伸ばしている。
パタッと本当に聞き逃しそうなほど小さな音が聞こえたので足元を見ると
水滴が落ちて一部の土の色を変えていた。

(泣きたくなんかないんだけどなぁ……止まってくれないや)

それでも声を上げて泣くのは、どうしても嫌で。
声を押し殺して泣いていると聞きなれた声が聞こえてきた。
156 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)16時46分45秒

「圭ちゃんは知ってて石川さんとよしこをくっつけようとしてたの?」

「……そうだよ。転校するまでの間だけでも石川が笑っていてくれるのなら
 吉澤を利用するくらいなんとも思ってなかった」

「よしこがどれだけ本気だったか知ってんの!?圭ちゃん、
 最低だよっ!!」

「言い訳はしない。その通りだから」

保田は諦めたような、でも強い意志を感じさせるような口調で話す。
対して、完全に頭に血が上っている後藤にはそれが余計に癇に障った。

(……――どういうこと?保田さんと梨華ちゃんは一体どういう……)

吉澤の頭の中を色々な推測がぐるぐると廻る。
混乱の中に後藤の声が聞こえてきた。
157 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)16時47分56秒

「歯ぁ食いしばってなよ!!」

その言葉の直後、保田の左頬に後藤の拳が綺麗に入った。
吹っ飛ぶといった表現が当てはまるほどに保田の身体は宙に浮き、
後方にあった植木に倒れ込んだ。

「……少しの間、ごとーには近づかないほうがいいよ……頭にくると
 自分でも止めらんないからさ……」

後藤は握り締めたままの拳を震わせながら、極力抑えた声でそう言い残し
その場を去って行った。

呆気に取られていた吉澤はハッと我に返り保田の側へと駆け寄る。

「大丈夫ですか?」

「吉澤っ……!?今の…聞いてた…?」

吉澤の顔を見て申し訳なさそうな顔をしながら保田は頬を押さえて上体を起こした。
158 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)16時48分28秒
本日はここまで。
159 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)16時55分23秒
>149
いつもレスつけて下さって有難う御座います。
波乱…になるんですかねぇ、これは。
とりあえずヤッスーが痛そうです。

間隔がだいぶ開いちゃってスイマセン。
もう少しで完結する予定なので…って言っても長くなりそうですが。
だいぶラストに近づいて来てはいます。
160 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時24分07秒
20.

吉澤は保田に手を貸し、自分の家に招き入れ簡単な手当てをした。
骨に異常はないようだったが、かなり派手に腫れていた。

「説明してくれますね?私には聞く権利があるはずです」

「……私と石川の間には何もないのは本当。以前一度告白されて、それを
 断ったってだけ」

一言喋るのにも痛みを耐えて口を開かなくてはならない為、苦痛に顔を
歪めながら答える。
161 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時24分56秒

「何もないって……梨華ちゃんはまだあなたが好きなんじゃないんですか?」

「さぁね。人の気持ちはどうにも出来ないよ……私は紗耶香が好きだし、
 吉澤は石川が好き。それは周りがどうこう言っても変わんないでしょ?」

「保田さんは私を利用してでも梨華ちゃんを悲しませたくなかったんでしょ!?
 だったら……――」

吉澤の言葉に、保田は瞼を伏せ、首を振る。

「石川への“好き”と紗耶香への“好き”は違うんだよ。
 わかってる筈でしょう?吉澤が後藤を好きってのとおんなじ種類なんだから」

「…………」

「なんにせよ、石川が転校するのは止められないよ。親でも周りの人間でもなく
 石川自身が強く希望したんだから」

「……何で……?」
162 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時25分42秒

困惑の表情で先を促すと保田は短い沈黙のあと口を開いた。

「石川はきっと気付いてたよ。だから距離を置こうと思ったってのも
 あるんだろうね」

「私と距離を置くため?」

「今の石川は“保田先生”を好きな気持ちと“吉澤ひとみ”に惹かれていく
 気持ちに板ばさみになっちゃってる。このままじゃ心労で倒れちゃう
 かもしれない程。変に優しいから自分で自分の想いが見えなくなって
 気持ちの整理がつかないのよ」

その程度のことで転校しなければならないのかとは言えなかった。
石川は繊細すぎて現状を打開するためにはクールダウンするのがベストだと
考えたのだろう。
人によっては弱々しすぎるとか逃げていちゃいつまでも成長できないと
思うかもしれない。
しかし、精神的な問題はそれを抱える人間によって感じ方は大きく違ってくるのだ。
163 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時26分46秒

「……私が梨華ちゃんをそこまで追い詰めてた……もし、あのとき私と
 出逢わなけりゃ梨華ちゃんは普通にこの学校に通って卒業してたかもしれない」

「吉澤……」

お互いが出逢わなかった頃に時計の針を戻すことが出来たら……
あのとき桜の木の側に行かなかったら……

そんなのは嫌だ。

「私は……梨華ちゃんに逢えてよかった。きっと後悔なんかしない」

その言葉には自信があったが、顔をあわせてしまうとまた石川は悲しそうな顔を
してしまうだろうと思い、その日から石川が転校する当日まであの場所には
寄り付かなかった。
164 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時27分23秒

  私はあなたが傷つくのが怖かった。
  私は私が傷つくのが怖かった。
  私は……
  何よりあなたを愛していた。

いや、

  ――愛している――
165 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時27分56秒
21.

――――――
―――


素晴らしい時は長くない。1分間だとしても構いはしない。
君と一緒に過ごした時間は、無駄なものなんかじゃない。
君さえいれば
それは平凡だけれど……とても大切なこと。
166 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時28分26秒


あれから1年。

保田と後藤はお互いに話し合って仲直りした。

「ごとーは圭ちゃんを許さないなんていった覚えはないよ。
 殴らせてもらうとは言ったけど」

「…まぁ、確かにそうだけど……」

「細かいこと気にしないの〜!ほら、なっちの家一緒に行こ〜よ〜」

後藤は元々こんな奴なのだから。
相変わらず安倍といちゃいちゃしているのを自慢され、保田は苦笑しつつ
微笑ましく見守っている。

167 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時29分27秒


半年前、後藤が部屋に来た時までずっと、もう二度と会わないほうが良いと
思っていた。
でも、そのあと夢を見た。

いつか行った冬桜の木の下で二人並んで座って落ちていく花びらを見ていた。
石川はいつもの微笑みを浮かべて幸せそうにしている夢。

君が幸せなら、私はそれでいい。
時間が傷を癒しても君を想っていたという事実は忘れない。

……今でも本当にそう思ってるけど……

今はもう会わないほうがいいなんて思ってない。
会わない間も想いは日を追うごとに増していくばかり。

「梨華ちゃん、会いたいよ……私はまだ諦めてないんだよ」
168 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時30分11秒

保田が言ったあの台詞。
『吉澤ひとみに惹かれていく気持ち』が石川にはあった。
その微かな希望にかけてみてもいいんじゃないかと思う。

二人で学校を抜け出したのは1年前の今日。
なんとなくその場所に行きたくなって学校を抜け出した。

急いでいるわけでもないのに駆け足でそこに向かう。
あの時の再現をするように。
隣にいるはずのない存在を想いながら。

雪の降る中に薄紅色の花びらで着飾った桜の木が徐々に大きく見えてくる。

息を弾ませて2〜3メートルの距離でゆっくりと立ち止まり、
冬桜を見つめる。
169 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時31分00秒

その枝の一本に銀色に光るものが輝いていた。

「はははっ……まだ残ってたか……」

石川と二人でここに来ていたという証拠。
石川の想いの詰まっていたであろうシルバーリング。

「これも付けとこうかな……」

そう言ってピンクの指輪を取り出した。

「梨華ちゃんの誕生日プレゼントに買ってたんだけど、結局誕生日が来る前に
 転校しちゃってたからなぁ……」
170 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時31分36秒

振られた相手に買った指輪。
自分と彼女は似てないようで根っこの部分ではそっくりなのかもしれない。
そう思うとすこし可笑しく思えてクスッと笑った。

以前と同じように木に登ろうと幹に足をかけようとすると後ろから声が聞こえた。

「またスカートで木登りするの?」
171 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時32分10秒


甘い声。
ずっと聞きたかった一番好きな声。
きっと振り向いたら、あの困ったような笑顔で笑っているんだろう。

後ろから優しく抱きしめられた。
優しい匂いに包まれて目の奥から熱いものがこみ上げてきた。

172 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時32分48秒

「ただいま」

「……おかえり」



再開の挨拶なんて、それだけで十分だ。

二人の甘いキスを冬桜だけが見ていた。

173 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時33分37秒



君さえいれば

それはきっと幸せな……冬桜の記憶……




<終>
174 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時36分31秒

冬桜の記憶
          【終了】
175 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時38分03秒
色々と納得いかない所も多々ありますが
一応はこれで完結です。

最後まで読んでくださった方々、レスを付けてくださった方々
心の底から感謝します。

ありがとうございました。
176 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月07日(日)22時46分06秒
追記:
まだこのスレに余裕があるので
番外編みたいなものでもそのうち書かせていただこうかと思っています。
177 名前:LINA 投稿日:2002年04月08日(月)01時30分00秒
お疲れ様です!
最後のシーンかなりいいです!泣きました!(T▽T)
番外編も楽しみにしてますね!
がんがって下さい♪
178 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月08日(月)01時58分05秒
ラスト、いいっすねぇ〜。
この出来で納得いってないところがあるんだから、次回作はもっと期待して良いっすか?
番外編は誰ですかね。期待しております。
179 名前:名無し男 投稿日:2002年04月08日(月)10時07分15秒
お疲れさんでした!
凄く綺麗な感じでヨカタ!!

番外編も激しく期待!!
180 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月08日(月)11時06分45秒
最高でした!!
番外編…やすいしの絡み期待!!!
181 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年04月09日(火)19時53分22秒
完結お疲れ様でした。
最後すごく綺麗な文章で、ウルウルしました。(T0T)
感動しました。ありがとうございました。
番外編期待しています。がんがってください。
182 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月09日(火)23時45分01秒
レス有難う御座います。

>177
最後のシーンよかったですか。
有難う御座います。
番外編、頑張って書きます。

>178
ラスト、いいっすか〜。
次回作……微妙にプレッシャーですね(w
二作目のスレ、性懲りもなく立ててしまいました。
番外編の主役は…まだ秘密です。

>179
綺麗な感じ、ちゃんと出来てましたか。
ホッとしました。
番外編、期待を裏切らないよう頑張ります!

183 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月09日(火)23時46分42秒
>180
身に余るお言葉を有難う御座います。
やすいしの絡みですか……考えときます(w

>181
最後のシーンは絶対こうしようと思って書き始めたので、
感動していただけて光栄です。
こちらこそ読んでいただいて有難う御座いました。
番外編期待に副えるよう頑張ります。

最後までお付き合い頂いて有難う御座いました。
番外編は週末あたりに更新できたらいいなと思っています。
184 名前:消えない想い 投稿日:2002年04月13日(土)00時32分48秒

それはごく普通の土曜日の昼下がり。

「あれ?高橋じゃん。久しぶり〜」

学校帰りに立ち寄った本屋で参考書を探していると背後から
聞き覚えのある声がした。
185 名前:消えない想い 投稿日:2002年04月13日(土)00時33分26秒
「吉澤さん……お久しぶりです。偶然ですね」

「いや、運命だよ」

「……何言ってるんですか……まったく、そんなだから
 タラシとか言われるんですよ」

「冗談だって〜。ところで、今日は一人なんだ?」

意外そうな顔をしてあたりを見回す。
いつも私の右隣にいた筈の紺野あさ美が見当たらないからだろう。

「あ、はい。あさ美ちゃんは先生に手伝いを頼まれちゃって……」

ニヤニヤしながら「ふーん」と言ったあと、今度は思い切り爽やかな
笑顔でこう言った。

「じゃぁ、今日はお姉さんとデートしようか?」
186 名前:消えない想い 投稿日:2002年04月13日(土)00時34分14秒
………はぁ!?

何言ってるんだ、この人は。
何が「じゃぁ」なんだ!?
私はこの人と出会ってからもう半年以上たっているというのに、
未だに思考回路が読めない。

「よし、決定!!さぁ。早速行こう」

よ……「よし」って……まだOKとも何とも言ってないってのに……
ボケッとして見えて意外と強引だなぁ、この人。
187 名前:消えない想い 投稿日:2002年04月13日(土)00時34分47秒


手を引かれ連れて行かれた先は水族館だった。

「うおぅ〜!あの魚、かっけ〜!!」

吉澤さんは興奮した様子で水槽に張り付き、目を輝かせている。

……本当に年上なんだろうか。
時々本気でサバ読んでるんじゃないかと思ってしまう。

「ねぇ、高橋さぁ……好きでしょ?」

「あの魚ですか?別にそこまで好きではないですけど」

「違うよ、紺野だよ」

「……なんでですか?」

答えずに質問に質問で返してしまった。
吉澤さんのほうを見ると、真剣な顔で水槽を見据えていた。
188 名前:消えない想い 投稿日:2002年04月13日(土)00時35分28秒

綺麗な顔立ちをしている。
黙っていれば本当に正統派美少女と言えるのではないだろうか。
透き通るような白い肌。
その名前の由来でもある大きな瞳。
美人は三日で飽きると言うけれど、あれは嘘だ。
だって私は、いつまでたっても見飽きることはないかもしれない。

そんなことを思いながら見惚れていると、唇が動いた。

「紺野が遠くに行って離れちゃっても好き?」

「え……?」

「答えれない?」
189 名前:消えない想い 投稿日:2002年04月13日(土)00時36分02秒
薄暗い青の中に沈黙が広がる。
たくさんの魚たちが私たちの周りを泳いでいく。

「……水族館ってさ、怖いね。海の中へ沈んで、ずっと、深く…
 光の届かないほど深く……飲み込まれてしまいそうで……」

そう呟く吉澤さんの表情は悲しみのそれではなく、悔恨。
一体、私が見かけなかった間に何があったのだろう。
まるで知らない、別の人みたいだった。

不意にあの大きな魚が二人の目の前を通過した。

「……私ってかっけ〜と思う?」

「はい」

今度は即答。
本心の回答が出来た。
すると、先程までの冴えない空気は消えてしまい、いつもの軽口が戻った。
あの独特のニヤニヤ笑いの吉澤に。

「いい娘だね〜…そろそろ出ようか。ジュースでも奢ってあげよう」
190 名前:消えない想い 投稿日:2002年04月13日(土)00時36分37秒
別に見返りを期待しての答えじゃなかったんだけど。
好意は有難く受け取っておこう。
浮気じゃないからね、あさ美ちゃん。

紙コップになみなみと入っているオレンジジュースを一口飲み、
喉を潤して一つだけ聞いた。

「吉澤さん、何か私に出来ることはありますか?」

何かがあったということくらいは薄々感じ取ることが出来る。
でも、それを詳しく聞くなんてマネ出来やしない。

だから。

「……有難う……やっぱり高橋はいい娘だね。十分私の力になってくれたよ。
 うん。デートしてくれて、ありがとね」

吉澤さんは左手にはコップを持ち、空いている右手で私の頭を
“いいこ いいこ”と撫でた。
191 名前:消えない想い 投稿日:2002年04月13日(土)00時37分09秒
「ちょっと弱気になってたんだけど、私をかっけーって言ってくれる人も
 いるんだもんね。自信、取り戻しちゃったよ」

口の端を上げ、目を細める。
数時間前とは全く違う、なにか吹っ切れたような笑顔。
あぁ、そうか。
きっと私は、あなたの元気の無かった理由がわかってしまった。

「吉澤さんはカッコイイですよ」

「うん」

「本当に言ってほしい人に、早く言ってもらえると良いですね」

「――っ!?高橋、何言って……!?」
192 名前:消えない想い 投稿日:2002年04月13日(土)00時37分47秒
ほら、図星。
顔を真っ赤にして何か言おうとしているけど言葉がうまく見つからないほど
動揺してる。
イヤでもわかっちゃうんですよ。
私も同じ経験があるんだから。

ねぇ、あさ美ちゃん。

「きっと上手くいきますよ。あなたを嫌いになれる人なんてそう居ません」

餞別は最高の笑顔でいいですよね?
私に出来ることは、それくらいなんでしょう?

「吉澤さんはカッコイイですよ」

繰り返した。
暗示みたいなものだ。
そう言われ続けると、本当に自分でもそう思えてくる。
193 名前:消えない想い 投稿日:2002年04月13日(土)00時40分41秒
『愛ちゃんって、可愛いよね』

『私の中では世界で一番可愛い』

もちろん、自分が世界一だとか思える訳は無いけど、大好きな人の中で
一番ってそれよりも凄く嬉しいことでしょ。

家まで送るという吉澤さんの申し出を断って、私は電車に乗った。

行き先はもちろん……――




「愛ちゃん、どうしたの?」

何にも言わずに抱きしめた。
吉澤さんも、はやくこんな幸せをかみしめる日が来るといいね。

いつまでも、消えない思いを抱きながら。
194 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月13日(土)00時45分47秒
番外編その一、終了。
石川に再開するちょっと前の出来事。

次回は今のところ保田編の予定です。
195 名前:名無し男 投稿日:2002年04月14日(日)15時22分41秒
ヤパーリ綺麗な仕上がりでビクーリ
196 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月21日(日)02時25分14秒
高紺(・∀・)イイ!!
197 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月22日(月)23時00分17秒
レス有難うございます。

>195
お褒めの言葉有難うございます。

>196
紺高、初めて書きました。紺野萌え(w
198 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月22日(月)23時05分03秒
保田編始動。
やすいし色強いのでご了承ください。

番外1よりも、ちょっと長いです。
199 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月22日(月)23時06分03秒



「保田先生」

その声は特徴的で耳に残る音だった。

200 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月22日(月)23時07分42秒



初めて彼女の顔を見たのは入学式。
校舎で迷っているところを偶然見つけて体育館に案内した時だ。
式の最中、周りに結構可愛い子はたくさんいたのに何故か目がいくのは彼女の方。
女の子らしさの溢れる容姿だった。

201 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月22日(月)23時08分28秒
二度目に見たのは教室の中。
初めてクラス担任になってドキドキしながら黒板の前に立ってHRを始めると
目が合った。
クラスの子達の出席を取る時にやっと名前がわかった。


「石川梨華」
202 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月22日(月)23時09分06秒


二人きりで会ったのは6月の初め頃だった。
空き時間に校内を散歩していると目に付いた校舎の外れにひっそりと
立っている桜の木。
そこで彼女はもう葉だけになった桜を見上げていた。

「石川?今授業中でしょう。何してんの」

私の声にわずかに驚いた様子だったが、すぐに平然とした態度に戻った。
にっこりと笑って答える。

「何って……葉桜を見てたんです。先生も一緒に見ます?」

203 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月22日(月)23時09分49秒
「……あんたねぇ……」

「何ですか?」

きょとんとした表情を浮かべている彼女を見ると、怒る気も失せてしまった。
何故サボっている生徒がこんなに堂々と教師の前にいる事が出来るのだろう。

「……や、いいわ。私ってナメられてるのかしら……」

ため息混じりに言うと彼女は笑顔のままで口を開いた。

「そんなことないですよ〜。みんな顔が怖いってびびってますし」

204 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月22日(月)23時10分38秒
……このやろう……
えらいはっきりと言ってくれるじゃないか。
それでもムカつかないのは声のせいか容姿のせいか。
それとも、もっと別の何かのせいなのだろうか。

「あっそう。で、石川は“びびってなんかないやい”ってこと?」

「ちょっと違います。尊敬してますよ。だって保田先生は良い人ですもん」

即答。
しかもなんだか自信に満ち溢れた言い方だ。

「何でそう思うの?」

「入学式の日、忘れたんですか〜?本当にあの時泣きそうだったんですよ
 でも保田先生が助けてくれたんじゃないですか」
205 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月22日(月)23時11分18秒
忘れてなんかいない。忘れられるはずがない。
この娘は覚えていたんだ。
嬉しかった。

人懐っこく笑う彼女の顔がほんの一瞬、愛しい恋人の顔に被った。
その時初めて気付いた。




――この娘、紗耶香に似てる。
206 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月22日(月)23時13分47秒
本日はここまで。
こっちは別にsage進行しようとは思ってないのでageときます。
207 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月23日(火)20時16分27秒


それから私は石川と二人で話をする機会が多くなっていった。
まるで妹のように可愛い生徒。
「保田先生」と仔犬がしっぽを振って寄って来るように懐いてくれる。
いつも人一倍一生懸命に何かをしている。

208 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月23日(火)20時17分03秒
「だからって、極端すぎるのよ」

「なにがです?」

もう午後の授業開始時刻から20分程が過ぎている。
石川の“息抜き”は唐突で、予期できない。

「あんまり真面目すぎると息が詰まっちゃいますよ。
 ほら、保田先生も突っ立てないで」

そう言って私の腕を引き寄せると、重力も手伝って簡単に石川の腕の中に入る。
209 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月23日(火)20時17分38秒
「いっ…石川……っ!?」

「膝枕してあげます。先生最近疲れてるみたいですし」

「いいわよっ!恥ずかしいじゃない!」

「気にしない、気にしない。この時間にこんなとこ来る人いませんって」

顔に熱が集まってくるのを感じた。きっと赤面しているに違いない。
結局根負けして膝枕初体験となったわけだが、余計疲れた。
……――いろんな意味で。
210 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月23日(火)20時18分23秒
短いですが、本日はここまで。
211 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月23日(火)20時51分28秒
お、保田編始まってましたか。照れる顔が目に思い浮かぶよう(w
212 名前:名無し男 投稿日:2002年04月24日(水)17時28分26秒
鼻の下の長さがマウンドプレートからホームベースまでの距離と等しくなりました
213 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月29日(月)21時43分04秒

後頭部に柔らかな太ももの感触を感じる。
……膝枕ってこんななんだ〜と思って何気なく
視線を上に上げると豊満な二つの山が見えた。

(うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!)

思わず叫んでしまいそうになるのを喉の奥でなんとか堪えることに成功した。
それにしても柔らかそうだ。触り心地の良さそうな形のよさが制服の上からでも
容易に想像できる。
214 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月29日(月)21時43分45秒
…………いかん。何を考えているんだ。
私はどこぞの変体教師じゃないんだ!!
真面目な誠実な教師なんだぁっ!!
と、心の中で叫びつつ、理性は崩壊しそうになっている。

215 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月29日(月)21時44分24秒
「先生って付き合ってる人いるんですか?」

悶々としているところに甲高いアニメ声がふってきた。

「え?あぁ〜……うん。まぁ、いる……よ」

「そうですか……どんな人なんです?」

「一言で言えば、コドモ。純粋で真っ直ぐなヤツだよ」

今更こんなことを言うのも照れてしまう。
本人がいたら絶対に言えない。だってあいつはすぐに調子に乗るんだから。

「……へ〜え……先生も隅におけませんねぇ〜」

冷やかした様なからかい声がくすぐったかった。
216 名前:誤算心理 投稿日:2002年04月29日(月)21時44分55秒
少ないですが本日はここまで。
217 名前:名無し作者 投稿日:2002年04月29日(月)21時52分30秒
>211
保田編、またの名を「モテヤッスー編」です(w

>212
どんな顔してんですか?(w

相変わらず、更新とろくてスイマセン。
218 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月30日(火)05時34分40秒
豊満な二つの山を触ってみる展開とか・・・
219 名前:名無し男 投稿日:2002年04月30日(火)18時39分47秒
登山隊に志願致します!!
220 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月02日(木)20時35分17秒
「モテヤッスー編」ですか??
続き楽しみです。私も登山隊に志願したいです!(笑)
221 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月03日(金)19時02分10秒

「石川は?」

「好きな人ならいますよ〜。顔は……ちょっと怖いけど、すごくしっかりしてて
 照れ屋で優しい素敵な人です」

極上の笑みで答える。
ちくしょう……可愛いじゃないか。
今にも襲い掛かりたい衝動に駆られてしまいそうになる。

「いしか……」

私の言葉を5時限目終了を知らせる鐘がかき消した。

(――いいところでぇ……膝枕タイム終了じゃんか……)

悶々とした気分のまま、頭の中をよぎるその台詞にハッとして我に返った。
222 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月03日(金)19時02分46秒
まずい。後もう一押し二押しあったら浮気をするかもしれない。
紗耶香のことは特別に好きだけど……それとはまた別な……
あぁ、なんか変な感じ。
今までは別に誰の胸見ようがこんなに動揺することはなかったのに。

なんかエロいんだよなぁ……石川って。
セクシーというよりも、エロいっていうほうが当てはまる感じ。

「?どうしたんですか、保田先生?」

無意識のうちに胸元を凝視していたらしく、気が付けば視線が石川の顔から
下方向に逸れていた。
223 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月03日(金)19時04分32秒
「え!?いや、ははっ。なんでもない。うん、なんでもないよ!」

「何あせってるんですか?はは〜ん……さ・て・は石川に惚れましたね〜」

「!!!なっ!!何言ってんのよっ!そんなわけないじゃない!」

「またまたぁ〜照れなくても良いですって。真っ赤になっちゃってぇ」

そう言いながら石川がふざけて抱きついてきた。
224 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月03日(金)19時06分12秒
咄嗟のことだったので体勢が崩れてしまい、顔が胸部に
はまる形になってしまった。

(む……胸がっ、胸がぁぁぁっ!!乳でかすぎなんだよぉっ!!)

「い、石川、苦しいから。ほら、離して。授業に遅れる」

勤めて平静を装って解放を要求する。

(頼むからこれ以上興奮させないでくれ〜……)

その後の授業がまともに出来なかったのは言うまでもない。

225 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月03日(金)19時07分06秒
本日はここまで。
226 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月03日(金)19時13分31秒
>218
良いかもしれない(w  
エロになっちゃいますね〜

>219
いや、志願致されましても(w

>220
一応「モテヤッスー編」です。もうちょっとしたら本領発揮です。
あ、ここにも登山志願者さんが(w

皆さんやっぱりエロ有りのほうが良いですか?(w
227 名前:名無し男 投稿日:2002年05月04日(土)14時03分26秒
保田よ、俺の夢を全部横取りするな(w
228 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月10日(金)23時24分43秒

「なんや、なっさけないなぁ〜。逆に襲いかかるくらいすればよかったのに」

仕事がはけて中澤と呑みに行った居酒屋で一部始終を話すと
案の定中澤らしい答えが返ってきた。

「教師として以前に人としてどうかと思うわよ。それは」

「いいやん、別に。石川も絶対圭坊のこと好きやで〜?」

「ぶはっ!!!!」

「うわっ!きしゃなっ!!いきなりビール吹く奴があるかっ!」

おいおい、イキナリも何も、原因を作ったのはあんただろうが……
ゲホゲホとむせながら真っ赤な顔に涙目で中澤を見る。
炭酸でむせるのはかなりきつい。

229 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月10日(金)23時26分12秒
「あ〜大丈夫かいな……なんしてんねや、ったく。ほら、ふきん」

「ゴホッ……ご、めん……散ったかな?」

「や、全然。それより、石川のこと、どうよ?」

どうと言われてもなぁ……
私は紗耶香が一番だし。
そりゃ、石川のほうがルックス的には勝ってるかもしれないけど。
乳もでかいけど。
声も可愛いけど。

どうだろう?

230 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月10日(金)23時26分49秒
机の上をふきんで拭きながら考えていると、中澤が肩に手を回し
こそこそと話しかけてきた。

「紗耶香とは最近忙しくてあんま会ってないんやろ?
 正妻と側室はベツモンやで」

「側室って……裕ちゃん……」

……なんつーやつだ……
自分はそういう考えなんかい!?と言いたくなったが、口を開こうとした瞬間
私たちの上になにやら人影が現れた。

「ほ〜う……そら、ええ事聞いたなぁ〜。ほんならウチも別に浮気しても
 ええっちゅうこちゃなぁ〜……」
231 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月10日(金)23時27分35秒
冷たい声が背後から妙な迫力を連れて降りかかってきた。
冷や汗ダラダラの中澤が振り返る。

「み、みみみみみみみみ……っ」

「あぁ?耳がどないしたんかなぁ……中・澤・せ・ん・せ〜」

笑顔の圧力。
偶然一人で呑みに来ていた平家が、満面の笑みに青筋を浮かべている。
怖い……。

「圭ちゃんも、こないなアホと一緒に飲んでないでウチと一緒にいいことしようか」
232 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月10日(金)23時28分16秒
頼むから私まで巻き込まないでくれ。
腰に手を回すなぁぁっ!!
この人、もしかして相当酔ってるんじゃ……――

「ウチは前から思うとった!圭ちゃんは良い!!」

「良いって何がっ!?だぁぁっ!ボタンを外そうとするなっ!!
 裕ちゃん!?止めなさいってば!」

今日はツイてない。
こんなんばっかだ……おいしいのか、その逆なのかよく分からない。
とりあえず、こういう場合取る方法は一つ。
233 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月10日(金)23時28分47秒
「あ!逃げんでもええやん!こっからがええとこやのに!」

「みっちゃん、ごめんって〜。あれは冗談やから いい加減目ぇ覚ましてぇな」

二人の痴話げんかを背中で受け、食い逃げのように素早い動作で暖簾をくぐり外へ出る。
やれやれ。
疲れがどっと出てきた。
今日はもう帰って寝よう。
234 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月10日(金)23時29分17秒
ゆっくり眠れるだろうか。
眠れたとしても、夢にまで出てきそうで怖いな。
夢の中でくらい、紗耶香と会えればいいのに。
そう思って暫く会っていない恋人の顔を思い浮かべる。

(……あれ……)

紗耶香ってこんな顔してたっけ。


無意識のうちに浮かんできたのは、石川の顔だった。
235 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月10日(金)23時29分47秒
本日はここまで。
236 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月10日(金)23時33分18秒

>227
なんてったって、モテやっす〜ですから。
ちょっと羨ましすぎですが(w
237 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月11日(土)05時52分47秒
はぁ〜側室か・・・贅沢な(w
238 名前:名無し男 投稿日:2002年05月12日(日)17時18分24秒
一夫多妻制うらやますぃー(w
239 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月19日(日)16時24分52秒



『保田先生の誕生日もうすぐですね』

『ん〜?あ、そういえばそうね。もうこの歳になるとあんまり嬉しくないけど』

『何を言ってるんですか。めでたいことじゃないですか』

『考え方よね。それは』
240 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月19日(日)16時25分31秒
一ヶ月ほど前そんな会話があったのは覚えている。
石川がサボっているのを見つけたときの他愛のない会話の一部。
その日から石川はあの場所にあまり寄らなくなっていた。
クラスメートに聞くところによると休み時間は殆ど眠っているらしい。
私の授業中も眠そうにしてたなぁ。
いつもはニコニコしながら話を聞いてくれているのだが、
最近は眠気と戦いつつノートを取る日々が続いているようだ。
241 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月19日(日)16時26分09秒
「なんで梨華ちゃんの事を聞くんですか?」

3年の柴田あゆみなら石川と仲が良いようだし、何か知っているのかもしれないと
思い最近何か変わった様子が無いか問いかけると、こちらが質問されてしまった。

「えっ?あ、いやぁ……はははっ」

「笑ってごまかすのは感心しませんね。あやしい……何かありますね」

……妙に勘が良いわね。
さすが美少女として名をはせるだけの事はある……って関係ないか。
242 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月19日(日)16時26分39秒
頭の悪いやつならここで点数を持ち出せばほいほい喋るんだろうけど、
柴田はあいにく学年でも上位にいる優等生だ。
どうしたもんかな…………

「先生、今、私を何で釣ろうか考えてるでしょ?」

「……あんまり頭が良いと可愛げないわよ柴田……」

「私は可愛いですよ。ほら、可愛いでしょ?」

そういって一番可愛い笑顔を見せて顔を近づけてくる。
心拍数がどんどん上昇していく。
243 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月19日(日)16時27分09秒
もう、息がかかるほどに近い。柴田は止まる気配が無い。
鼻先2センチ程の所までくると、私の方がギブアップした。
これ以上は非常に不味い。

「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!わかった!可愛い!可愛いからストップ!!!」

「いいですよ。話しても」

「へ?」

「それくれたらOKですよ」

そう言って私の胸ポケットを指差してにこりと笑う。
胸ポケットにはいているものと言えば…………
244 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月19日(日)16時27分46秒
「ボールペン?」

「はい。ボールペンです」

そんなに高価なものじゃない。なんってたって100円均一で買ったんだから。
誰もが見たことあるであろう、あのオーソドックスな安っぽいボールペンだ。

「こんなんでいいの?安モンだよ?」

「値段は関係ないんですよ」

「そうなの?ひょとして……ボールペン収集家?」

「…………梨華ちゃんは短期のアルバイトしてるんですよ。家の近くの飲食店で」
245 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月19日(日)16時28分21秒
胸ポケットが心なしか軽くなった私の一言は軽くスルーされた。
まぁ、いいけどね。
本題にサクサク入っていく柴田に追いつくべく、私は先を促した。

「アルバイト?そりゃ、ウチの学校は別に禁止してないからいいけど……なんで?」

「さぁ……そのうちわかるんじゃないですかね〜」

適当な答えを返しながら、柴田は教室へと足を向けた。
ボールペンを大事そうに懐にしまい込んで。

「……インク無くなりかけてるヤツなんだけど良かったのかな……」


246 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月19日(日)16時29分29秒




柴田が教室についた途端にチャイムがなり、授業が始まった。

(ごめんね、梨華ちゃん。私も保田先生好きなんだ。でも、もうこれだけでいいから)

心の中で石川に謝罪しつつボールペンを見つめる。
微かに柔らかい表情を浮かべた後、それを鞄にいれて何事も無かったかのように
授業に意識を戻す。顔を上げると、受験対策問題の解説が長々と黒板に書かれて
いくのを見て慌ててペンを取った。




柴田の淡い恋心は淡いままで終わるのだった。
247 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月19日(日)16時30分56秒
本日はここまで
248 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月19日(日)16時32分28秒
>237
側室、確かに贅沢過ぎですね(w

>238
実は多夫多妻制だったり(w
249 名前:名無し男 投稿日:2002年05月19日(日)16時44分13秒
ぃょっ!憎いねぇ!モテヤッスー!!
250 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月19日(日)23時36分54秒
モテモテ。。。
なにげにあったみっちゅーもイイ!!
251 名前:  投稿日:2002年05月26日(日)17時15分14秒
12月。私の誕生日前日の夜。
その日は雪が降っていて、道路も、木も、屋根もみんな白く染まっていた。

「ごめん、遅くなった」

「いいよ、別に。今の時期あれでしょ?ほら、期末試験。先生は大変だね」

そう言って紗耶香は右手を差し出し、私は何も言わずにその手をとる。
その手の冷たさで、どのくらいの間この寒空の中待っていたのかを推し量る。
繋いだ手はお互いの体温を共有しあい、同じ温度になる。
それはとても心地が良くて。
252 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月26日(日)17時16分39秒
「本当は明日お祝いしてあげたかったんだけどね」

申し訳なさそうに笑う紗耶香の顔はほんのりと赤みががっていた。

「気にしないって。祝ってもらえるだけでも十分嬉しいし、ね?」

「うん、大丈夫!一番に顔を見ておめでとうを言えるのは私だけだし……
 きっと日付変わってるし!」

……………オイオイ。

「そんなわけで、早速行こうか」
253 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月26日(日)17時17分15秒
どんなわけだよ!?
と突っ込みを入れる間もなく手を引かれて連れてこられたのは、桃色の電飾があやしい
ご休憩とご宿泊の値段が書かれた看板のある建物…………
…………なわけないでしょう!何を期待してるのよ!?
あぁ、私は誰に向かって何を一人で妄想しているんだろう。

今、目の前にあるのは私の家。
合鍵を取り出して慣れた手つきでドアを開ける紗耶香に少し嬉しくなる。
好意を持った相手と空間を共有するというのは心地良い。
254 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月26日(日)17時17分47秒
机の上にはワインとケーキ。花束。
そして、隣には愛しい恋人の微笑み。
夢でも見ているようだ。
こんなに幸せなことが他にあるだろうか。

「誕生日おめでとう、圭ちゃん」

ワイングラスを傾けてウインクした。

「うっわぁ〜、キザっちぃ〜」

「キザっちぃって……いちー結構ショックなんですけど」

「冗談。カッコイイよ。私の中で一番」
255 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月26日(日)17時19分28秒
ぽんっと頭に手を置く。
仔イヌみたいだと思った。
人懐っこい笑顔で「へへへ」と照れ笑いを一つ。

その夜私は銀色に光るシンプルな指輪を貰った。
たくさんの愛と一緒に。

ごめんね、紗耶香。
一瞬でも石川に心が傾いたこと、許してくれる?
本当の一番は紗耶香だけだから。

改めて自分の気持ちを見直すことが出来てよかったよ。
256 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月26日(日)17時19分59秒
今日はここまで。
257 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月26日(日)17時25分55秒
>249
モテヤッスーは最強です(w

>250
みっちゅーも好きなんです。


番外編1よりもちょっと長いとかほざいといて
かなり長くなってしまってすいません。
番外編のくせに本編無視してやすいしにしちゃおっかなぁ
とか考えてごめんなさい(w
258 名前:名無し男 投稿日:2002年05月26日(日)20時39分31秒
>>257
正直、そっちの方も見てみたかったりする(w
259 名前:7氏 投稿日:2002年05月29日(水)21時19分59秒
>>258
自分も同意見っす!
260 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)22時56分51秒



次の日の朝、もう紗耶香はいなかったけど乱れたシーツと右手のリングが
昨日の出来事は確かに現実であったと見せつけてくれた。
清々しい朝。
きっといいことがあるだろう。

「保田先生」

終礼が終わった直後、廊下に出たところを石川に捕まえられた。
いつもと様子が違う。
何かを決意したような、真剣な眼差しをしている。
261 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)22時58分01秒
「今からいつものトコに来てくれませんか?」

「ん?あぁ、別にいいけど」

いつものそっけない口調で返すが、心の底では針で指されたような地味な痛みが
チクチクと走っていた。
いくら鈍い私でも、これから起こるであろう事態を予測することは出来た。

「先生、今日誕生日でしたね」

目的地に着いた石川はいつものように木の幹に背中を預けてにこやかに
話しかけてくる。

「うん、まぁね」
262 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)22時58分49秒
「その指輪は海外に行っちゃう恋人からプレゼントですか?」

「……うん」

あれ、何で紗耶香のこと知ってるんだろう。
そういえば以前話したことがあったっけ。
でも、海外へ行くとかは話した覚えないけど。

「私、その人ときっと趣味合いそうです。好きな人も、
 その人に渡すプレゼントも同じなんて……偶然にしても、運命を感じますね」

そう言って小さな包みをポケットから出して私に差し出した。
柴田が言っていたアルバイトはこれを買うための資金稼ぎだったのだろう。

「私はずっと保田先生の事が好きです」

冗談っぽさなんか一片もないその告白は予期していても私を動揺させた。
一時は本当にその想いに応えようかと思ったこともあった。
でも……
263 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)22時59分31秒
「ごめん、私は石川をそういう風には見れないから……」

私は紗耶香を愛している。
その事実が変わらない限り石川の想いに応えることは出来ないんだから。

「ずっとなんて言いません……あの人が留学している間だけでもいいんです!」

心が揺れる。
しかし、それは石川にとっても、物凄く辛い思い出になるんじゃないだろうか。
ずっと自分以外の人を重ねて見られるんだ。
気持ちの良いものじゃない。

「なおさら駄目だよ。それじゃ、私は紗耶香を裏切ることになる。
 それに、きっと私の中で紗耶香の面影を追っているだけになってしまうと思う」

「それでもいいっ!先生は私のこと嫌いなんですか!?」
264 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)23時01分10秒
「嫌いなら、もっと楽だったろうね……ごめん、石川……」

そう、嫌いなら。
石川のことが嫌いならもっと酷い振り方をして彼女が私を嫌悪するように
出来たはずなんだ。
石川に恋愛感情じゃない好意を持っていなければ。
私が石川に嫌われるのが怖くなかったら。

それからは個人的に石川と会うのを極端に避けるようになった。


265 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)23時02分18秒

一週間ほど経った頃だろうか。
後藤が吉澤と石川が接触していると言う情報を教えてくれた。
実にお似合いじゃないか。まさに理想のカップル。

そんな中、石川の転校の話が持ち上がってきた。

「転校?」

「はい。理由はいろいろありますけど……もう決めたことなんです」

「……ご両親も了承済み、なら私は何も言うことないわよ。
 手続きの手伝いくらいしか出来ないし」

「はい。ありがとうございます」

たったそれだけで会話らしい会話は終わってしまい、職員室を出て行く石川の表情は
無表情に近く感情を読み取ることが出来なかった。
266 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)23時02分54秒
このとき、石川の笑顔がもう見れないと思い胸が痛んだ。
吉澤が石川の笑顔を取り戻してくれれば私もこの苦しみから解放されるだろうか。
私には、人任せにそれを期待するしかなかった。

私は後藤にも吉澤にも石川との出来事を知られるわけにはいかない。
二人との関係が崩れてしまうのを恐れていたからだ。
結局石川の時と同じ。自分が大事だから。
こんな自分は最低なヤツだと思う。
267 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)23時03分28秒
障子紙で作った壁なんて脆くてすぐに破れてしまう。
石川との関係、転校のこと、吉澤を利用ようと思っていたこと全てばれてしまい
後藤には思い切り殴られた。

「……少しの間、ごとーには近づかないほうがいいよ……頭にくると
 自分でも止めらんないからさ……」

この感覚は何年ぶりだろう。
人に拳で殴りとばされることなんて久しぶりだったから受身の取り方も忘れていた。
瞼の裏ではいろんな色の光が点滅している。

「大丈夫ですか?」

「吉澤っ……!?」

予想外なところで吉澤にもばれてしまった。
ホント、ダメダメね……私って。

268 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)23時04分02秒
全てを吉澤に話したあと、吉澤はそれでも彼女を想い続けていると言った。

なんだ。
これは嬉しい誤算。
吉澤は転校するまでじゃなくて、きっとずっとあんたのことを想ってるよ。
石川、やっぱりあんたは私じゃダメだよ。
ここに運命の人がいるんじゃない。何をボケボケしてんのよ。
ホントはもう心は私の元を離れているくせに。

――――――
―――

269 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)23時04分37秒
あれから一年。
石川は小さな花屋に就職が決まったらしい。
その報告の絵葉書には綺麗な小ぶりの桜と紅葉が写っていた。

校舎のはずれにある冬桜の木。
もう花は散ってしまっているけれど、そこには確かに石川との思い出が咲いていた。
ゆっくりと歩み寄っていくと、桜の幹越しに誰かがいるのがわかった。

その誰かが誰なのかは、もちろんわかっている。

「もう学校は休みに入ったの?」

「まだですけど、ほとんど休みみたいなもんです」

「……吉澤のトコ行ったら?」

「今から行きますよ。でも、その前に一言言っておきたくて」
270 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)23時05分16秒
ようやく姿を見せた彼女は笑顔だった。
私が見たいと願ってやまなかった、あの笑顔。

「私、保田先生の事が好きでしたよ」

「でした、ね。今はもうわかってんでしょ?」

返事はなかった。
ただ、にっこりと笑って踵を返し、“秘密の出入り口”からでて行った。

271 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)23時05分50秒
その光景はまるで映画のワンシーンのように余韻を残す。

「……逃がした魚は大きいってか……?」

タバコに火をつけて呟いた。
何故か顔がにやけていることに気付き、よく聴く諺が頭を掠めた。
私の誤算はこれでリセットされたでしょう。



――――――終わりよければ全て良し。
272 名前:名無し作者 投稿日:2002年05月30日(木)23時08分35秒
これで、番外編2(ヤッスー編)終了です。
273 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)23時13分38秒
>258
そっちの方は……またの機会に(w

>259
あっ、ここにも(w
一応番外編はこういう形になってしまいましたが。


次回作は今のところ考えてないんですが、
これとは全く別の話でやすいし書きたいなぁとは思っています。
274 名前:誤算心理 投稿日:2002年05月30日(木)23時15分07秒
とりあえず、今回で一段落です。
今まで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。
275 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月31日(金)07時18分44秒
ちょっと雰囲気大人っぽくてよかったです。
お疲れさま
276 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月31日(金)09時12分00秒
よかったです!!
次回作のやすいしも期待して待ってます
277 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月31日(金)18時09分19秒
お疲れ様です。
結果は分かってたけど、ヤス視点から見れてすごく良かったです。
同じく、次回作のやすいし話がみれることを期待してます!
278 名前:名無し男 投稿日:2002年05月31日(金)18時42分28秒
保田がクールでカコヨカタ!!
&次回作期待!!
279 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月18日(火)01時12分56秒
作者さんはまだおられるのだろうか…
素朴な疑問なんですが次回作ってこのスレ使うんですか?
ちょっと気になったんで。
280 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月20日(木)23時01分09秒
一応、生きてます。
短いのしか描けそうにない状態なので
引き続きこのスレを使おうかと思ってます。
と言っても、まだなにも描いてないのですぐUPということは出来ませんが。
281 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月23日(日)19時23分05秒
とりあえず短いのが出来たのでこっそりUP。

今までも話とは一切関係ないです。
予告通りのやすいしで。
282 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時24分24秒
MIND1――保田圭

「好きです」

昼休み二人きりになったとき、確かに石川はそう言った。
その告白はあまりにも突然で、私は返事が出来なかった。
タイミングを逃した返事は切り出す機会がなくてうやむやなまま
一日が終わろうとしている。

返事なんかとっくの昔に決まってるのに。

いつからだろう。
石川が私を“圭ちゃん”と呼ぶようになったのは。
もちろん嫌じゃない。むしろ嬉しいくらいだ。

でも、なんだろう……変な感じ。

複雑な気分だ。
283 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時24分58秒
私が石川を“梨華”と呼ぶと石川はどんな感じがするんだろうか。
今の私と同じ心境になるのだろうか。

それはきっと“慣れ”の一言で片付く問題なのだろう。

でも、慣れたくないんだよ。
このドキドキにも、不思議と感じる心地良さや嬉しさ。
きっといつかは消えてしまう。
でも、忘れたくない。

だから、慣れたくないんだ。

284 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時25分41秒
MIND2――石川梨華

仕事も終わって帰宅しようとしていると、携帯がなった。
電話ではなくメールだ。
差出人は……保田さん……
少し前から番組とかでは“圭ちゃん”なんて呼ぶことも
多くなってきたけど、やっぱり私は“保田さん”のほうがしっくり来る。
真剣なときとか、素でいるときにはきっと“圭ちゃん”なんて呼べない。

メールを開くと短い文章が一行だけ表示された。

『すぐそこの公園に来て欲しい』

なんだろう。
さっきまで一緒にこの楽屋にいたのに。
メンバーがいると話しにくいことなのかな。

「梨華ちゃん、途中まで一緒に帰らない?」

にこやかにごっちんが笑いかけてきてくれたのを
「用があるから、ごめんね」と断り私は公園へと急いだ。
285 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時26分13秒
個人的に呼び出されるのは久しぶりだ。
怒られるのかな。
いやいや、怒られるようなことはしてないはず。
……――多分……
でも、そうでないとしたらなんなんだろう?

……一つしか思い浮かばなかった。
あのときの返事。

とにかく行ってみないことにはわからない。

公園につくとブランコに座って空を見上げている保田さんがいた。
少し覚悟をしながら私は彼女の名前を口にした。


286 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時26分56秒
MIND3――保田圭

「保田さん」

高い声が聞こえて視線を公園の入り口のほうへ向けると、
石川がニコニコしながらこちらへ歩いて来た。

「どうしたんですか?急に呼び出して」

「や、別に用って程じゃないんだけど
 ちょっと話がしたいと思ってさ……」

長くなると思ったのだろう。
隣のブランコに石川が腰掛けて軽く揺れた。
287 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時27分35秒
静かな公園にブランコの音がキィキィと小さく響く。
心を落ち着かせる為に、私は少し瞳を閉じる。
石川は今どんな顔をしているのだろう。
私は今どんな顔をしているのだろう。
どんな顔をするべきなのだろう。

「……私は、保田さんを困らせる為に告白しなんじゃないんです」

不意に耳に入ってきたその声はほんの少しだけど、掠れている。
ゆっくりと瞼を持ち上げると頬に一筋の雫を伝わせる石川の顔が見えた。

泣かせちゃったな。
ハッキリしない私が悪いんだね。
でも、自分の気持ちに自信が持てない。
288 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時28分07秒
「今日のことは、全部忘れて下さい。それで石川のことが嫌いじゃないなら
 明日からも、いつも通りに接してください」

忘れて……
いつも通りに……
無理だ。

ブランコから降りて石川の前に立つ。

「保田さん」

「二人のときは“保田さん”なんだ……」

「え?」

「梨華」

キィ。
音が止まったのは私が鎖をつかんで揺れを止めたから。
私の気持ちの揺れと一緒に。
289 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時28分38秒
MIND4――石川梨華

『梨華』

その声でそう呼ばれるのは初めてかもしれない。
ふざけ半分とかなら何度かあった気もするけど、
こんなに真剣なトーンで呼ばれたことはなかった。

鎖をつかむ手は小刻みに震えている。
逆光になって保田さんの表情はわからない。

「保田さ……」

「私は……自分に自信が持てない」

搾り出すような声。
290 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時29分15秒
「梨華のこと好きだよ。たぶん梨華が思ってるよりずっと」

「…………」

「理解できないかもしれないけど“当然”になるのが怖いんだ。
 梨華が私を思ってくれるのが当然になってしまうのが、怖いんだ」

保田さんは自分のつま先を見たまま「初めは断ろうかと思った」と続ける。

「いつか自分以外の人に向けられるかもしれない愛情なら
 知りたくないと思った。片思いのままのほうがずっと楽だと思った」

その台詞を聞いた直後、パシンッと乾いた音。
私は保田さんに平手打ちをしていた。

291 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時29分49秒
MIND5――保田圭


左頬に軽い痛みが走った。
視線を上げると涙目のままの石川がこちらを睨んでいた。

「私の気持ちを見くびらないで下さい!」

「うん……ごめん」

あぁ、叩かれた理由はちゃんとわかってるよ。
大丈夫。

「続きを聞いて、今は違うよ。先のことはいいんだ。
 今、私たちの気持ちは同じだと思うから」

そこで一旦言葉を切って石川の手を軽く握る。
柔らかく暖かい手だ。

「その、もし、こんな情けないヤツで良かったら……」
292 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時30分22秒
言葉が途切れる。
こんなにドキドキしたのは生まれて初めてかもしれない。

石川は言ってくれた。
相手の気持ちが見えないうちから。
私のほうがずいぶん楽なはずなんだから、ちゃんと顔を見て言わないと。



「恋人になろう」

293 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時30分59秒
やっと言葉に出来たその台詞に、石川はまた涙を流した。
握り返してくるその手から優しい感情が伝わってくるのを感じた。

愛しい人が月明かりの下で頷いた。
その光景を私はきっと忘れない。

「はい」

耳の残ったのはその一言だけだった。

294 名前:月明かりの告白 投稿日:2002年06月23日(日)19時31分32秒

月明かりの告白

                    ――了――
295 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月23日(日)19時35分06秒

わけわかんない上に短い話でスイマセン。
296 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月23日(日)19時35分45秒
何気に微妙に
初めてのロックコンサート風味。
297 名前:名無し作者 投稿日:2002年06月23日(日)19時36分18秒
次回更新は忘れた頃に(w
298 名前:名無しさん 投稿日:2002年06月24日(月)00時20分22秒
何かちょっと見ない間に更新されてるしー!
やっぱ、いいっすね〜
やすいしマンセー
299 名前:名無し男 投稿日:2002年06月24日(月)21時55分21秒
公園って設定がピッタリ来るお話ですた

Converted by dat2html.pl 1.0