movin' on

1 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年02月27日(水)00時02分35秒
初めて小説を書かせてもらいます。
初心者な故、駄文、駄作を連ねてお目汚しになるかと思われますが、よろしくお願いします。

吉澤ひとみ中心の短編を、と思っております。
2 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)00時04分29秒



 『ボトルメール』



3 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)00時06分36秒


吉澤ひとみ様。


このはがきがあなたに届くころには、多分大人になってると思います。

そのころの私はなにをしているのかな?

元気ですか?

バレーボールをやってますか?



好きな人と一緒にいますか?



今、しあわせですか?


  10年後の吉澤ひとみへ。          バイバイ

 
 10年前の吉澤ひとみより





    PS、宝箱は木の下です。二人で仲良く箱を見つけてね。


4 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)00時09分08秒
吉澤ひとみ、20歳。
母さんと二人、小さな酒店を切り盛りしてる。

昨日、こんな葉書がうちに来た。
きったねぇ字だな、と思って裏を見たら、自分の字だった。
まさか、こんなコトしてたなんて覚えてもなかった。


『今、しあわせですか?』


普通、小学生がこんなこと書くか?
よっぽど書くことがなかったのか?うちは…。

自分のあまりのアホさに呆れてしまった。



しかも…。


『好きな人と一緒にいますか?』


って、あーた。
そうですよ、どうせそんな人はいませんよ。
どんなにませてるガキなんだ、こいつ…。


って、自分か…。

5 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)00時10分43秒
昔の自分が書いた手紙と自問自答する事に疲れたうちは縁側で大きく伸びをして体を横にした。
晴天の中、ゆっくり流れる雲をぼんやりと眺める。


あまり覚えてはいないけど、もう、10年も経ってるんだよね…。
10年前って小学5年生!?
あの頃の自分は何を夢見ていたんだろう。

こうなることを望んでいたのだろうか?


わかんないや。
ただ思い出せるのは、あの頃一番楽しかったってことだけで。

6 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)00時14分23秒
陽の暖かさと懐かしい思いにうとうとしてたら、母さんがひょっこり顔を出した。
ニヤニヤしながら、うちの手から葉書を奪い取り眺めていた。

「ひとみ、こんな可愛いコトしてたんだ」

起きあがることがなんだかおっくうになったうちはそっちに向かってだるそうに頷いた。


頭の中は昔見た夕焼けを思い出していた、二人で仲良く手を繋ぎながら…。
そんなに遠くないような、まだ、手に届きそうな思い。



「ふーん、この頃ってまだ引っ越しする前だったわね」

母さんの声も姿も、遠くに感じてしまう。
7 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)00時16分31秒
隣で笑ってる女の子。
うれしそうにうちの声にこたえてくれた可愛い声。

今、その子が振り返る…。
夕日が眩しすぎて、顔が見えないよ。

どうして?
あの時はその子の顔が見えてたのに。うちによく笑いかけてくれてたのに。


うまく思い出せないよ…。





8 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年02月27日(水)00時19分34秒
更新終了です。

こんな感じで話を進めていきたいと思っております。
よろしくお願いします。
9 名前:名無し読者 投稿日:2002年02月27日(水)05時14分34秒
可愛い声ですか。ふむ。。
10 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)15時09分13秒
「…そういえばあんた、引っ越す前の近所によく遊んでた子がいたわよねぇ…。
 名前、何ていったかしら…?一つ上の女の子で、ほら…」

遠くで母さんの声がする。でも、それはうちの耳には届かない。



眩しかった夕日がその子の陰に隠れようとしている。
次第に顔が見えてくる。早く、夕日が沈めばいいのに…。

夕日が沈んだのを惜しむかのように、夕焼けはゆっくりと紫色に染まっていく。


あ、顔が見えた。

「ひとみちゃん」

真っ直ぐうちを見る黒い瞳。
甘くて可愛い声。
ゆるりと肩に掛かる黒髪。
風の流れを柔らかくする雰囲気。

りかちゃん…。



『りかちゃん』という言葉に忘れかけていた思いに気づいた。
脈を打つことを忘れていた心臓が動き始めた、そんな感じだった。

体を起こし、母さんと目が合う。

「「りかちゃん!!」」

打ち合わせもしてないのに二人でお互いを指さしてしまった。

「そうよ!りかちゃん、…石川梨華ちゃん。」

母さんはうれしそうにうちの手を取って喜んでいた。

11 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)15時11分13秒

そうだよ、梨華ちゃん。…石川梨華ちゃん。
なんで、うちはこんな大事なことを忘れてしまいそうになってたんだ。


…って、忘れてました。ごめんね、梨華ちゃん…。
あんなに可愛い子を忘れるだなんて。



うちは中3の冬に上の弟と喧嘩してて、弟に広辞苑の角で頭を殴られたことがある。
殴られた時、一時的に記憶がなかったけど、今はそんなことはなく普通に生活できている。
でも、医者の先生が言うにはそれが原因でそれ以前の記憶が一部陥没しているらしいけど。

あーっ!今思い出すだけでも腹が立つ!!!
なんであんなことで殴られないといけないんだよっ。


…って、言い訳です、はい…。ごめんね、梨華ちゃん…。



「ひとみーっ、北村さんのとこにビール配達に行って来てぇ」

母さんの声が店の方から聞こえる。
お日様に向かってうなだれていたうちは、暗くなりつつある気持ちを縁側で引きずりながら配達へと向かった。


12 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)15時14分20秒


「ありがとうございましたぁ」

ペコリと頭を下げて、軽トラに乗る。
注文通りの品をお客様へお届けする、これもうちの仕事の一つだ。

あの日からずっと…。


車に乗ってる時の窓から流れ込んでくる風を受けるのがうちは好きだ。
横目で、色のかたまりになって流れていく風景を感じる。
いつも通っている道だけど、心地よく思う。

いつもの場所に軽トラを止めて、川沿いの土手へと足を向ける。
草の青い匂いと柔らかくここを流れる風に大きく深呼吸して、胸の中をいっぱいにする。
母さんにこんなとこ見られたら何て言われるか分かってるけど、土手に座って空や川を眺めてる。


13 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)15時17分52秒


あの頃、ほんとに楽しかった。
泥だらけになりながら川で遊んで、暗くなっても追っかけ合って、疲れるまで走り回って…。
何やってても楽しくて。

どんなに暑い日でも、どんなに寒い日でも、うちらは一緒に太陽の下にいた。

あまり女の子がするような遊びなんかしなかったなぁ…。
鬼ごっこに缶蹴り、裏山探検に秘密基地ごっこ。
どう考えても女の子がする遊びなんかじゃないわな。
普通なら着せ替え人形とかおままごととかさぁ、女の子らしい遊びをするもんなだろうけどね。
でも、梨華ちゃんはいつもうちと一緒に遊んでた。
どちらかというと、うちよりよっぽど女の子らしくってそんな遊びが似合ってるのに。
女の子らしくないっていったら、色が少し黒かったけど…。

くすくすと笑っていると、梨華ちゃんの怒った顔が浮かんだ。

…ううっ、ごめんなさい、梨華ちゃん…。

14 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)15時19分26秒

うちは色白で陽に焼けるとただ真っ赤になって終わる、ただ痛いだけ。
そんな風に梨華ちゃんに言うと、気にしていたらしく、もおっ、と言って頬膨らまして子供ながらに怒ってたっけ。
密かにそんなところが好きだったり。

怒らせて、困らせて、泣かして。
でも、そんなことがあっても、ごめんなさいって謝ったらすぐ許してくれた。
お姉ちゃんのいないうちには唯一梨華ちゃんがそんな身近な存在でもあった。

今思えば、1歳しか違わなかったのにすごく梨華ちゃんが大人だったんだなって思う。
何をしても許してくれた梨華ちゃん。
悪いことをしたら、ちゃんと叱ってくれて。
うちがどんなに落ち込んでてもいつも励ましてくれた。

いつも傍で、隣で一緒に…。


15 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)15時21分13秒


水面に視線を落としていると、川から土手へ風が舞い上がる。
その風に誘われるように視線を上げる。
太陽は西に見える鉄橋の柱の一番高い場所に刺さろうとしていた。

「やばっ、もうこんな時間!?」

腕時計を見て、土手を駆け上がる。
お尻に着いた枯れ草を払って、運転席に乗る。
母さんにばれると何言われることやら…、ただでさえ、遅くなってるのに。
軽トラの窓を全開にして、土手沿いの道を走り抜けて家に急ぐ。


16 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)15時24分48秒


「ただいまぁ」

こっそり帰ってくるわけにいかないので、いつも通りに声を掛けた。

「おかえり」
「おかえり、ひとみちゃん」

店の方から母さんの声と池端さんの声がした。
池端さんはうちと同じママさんバレーのチームのキャプテン。
最初は取っつきにくい人かなって思ってたけど、ほんとに怖かった…。
でも、なんだかんだ言っても、いつもかわいがってもらってる。

「池端さん、いらっしゃい」

店の入り口からひょこっと顔を出し、池端さんに手を振った。



17 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)15時26分03秒

「今日、来月の試合のミーティングするから、ちゃんと時間通りにおいでよ」
「え!?いつも時間通りに来ないのは池端さんの方じゃん!」
「なっ!!!言ったわねぇ!」
「今日もコートでお待ちしております」

にーっこり笑って、家の奥に入ろうとした。

「ひとみ、あんたお尻汚れてるわよ。また配達の帰りに土手に行ってたでしょ!?」

げっ!!
お母様、鋭すぎやしませんこと?

って、うちの詰めが甘いだけ?


ゆっくり振り返って、母さんの様子を伺おうとした。
横目に入った母さんの顔は、恐ろしくてはっきり直視することが出来なかった。

「…ご飯の用意しときます」

それだけ言い残して、急いで台所までダッシュ。
後ろでは、母さんと池端さんが笑ってる声がこだましていた。

また今日もミーティングで話の種にされちゃうよ…。


18 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)15時27分37秒


店の方ではまだ二人の声がしていた。

「ね!やっぱり…。だって目立つんだよ、ひとみちゃん。土手であんまりにも気持ちよくしてたから、声掛けるの悪いなって思って。」
「もう…。ごめんなさいね、あの子あんなこと言って…」
「いいのよ、あーでないとうちのチームを代表するアタッカーじゃないから。
 いいじゃないの。旦那さん亡くなってから、ひとみちゃん一生懸命頑張って店を手伝ってるじゃない。高校辞めてからずっと…」
「ひとみには悪かったと思ってるの。私がお父さんの店を残しておきたいって強情張ったばっかりにあの子に迷惑掛けて…」
「…あんな親孝行な娘はそうそういないよ。旦那さんも喜んでるって」


19 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)15時29分12秒


父さんはうちが高2の夏に死んだ。
配達中の信号待ちをしてる時に居眠り運転のトラックに正面から突っ込まれて…。

母さんは気丈にも店をたたむ、ということをしようとしなかった。
昼間は一人で店を切り盛りして、そして、家事までこなし、夜は遅くまで帳簿付けに伝票合わせ。
うちは三人兄弟で、母さんの女手一つでは生活がままならないのは、馬鹿なうちでも手に取るように分かった。
好きなバレーで高校に行ってたけど、それをも母さんを苦しめた。

それから間もなく、うちは高3になる前に学校を辞めて家業を手伝うようになった。
母さんはそんなコトしなくていい、って言ってたけど、母さんばっかりに負担がかかるのがうちには我慢ならなかった。
生意気だけど小さな弟たちを勉強に専念させるためには、うちにはこれしか出来ないから。

20 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)15時30分37秒

それからうちは母さんと二人三脚で店を立ち直すために躍起になった。
母さんばかりに配達に行かせるのはいけないので、うちは18歳になってすぐ車の免許を取った。
母さんが店を、うちは朝から夕方まで軽トラに乗って配達と営業。
帰ってからは母さんが家事をしている間に、うちが店番しながら苦手な帳簿と伝票整理。
中退だけど商業高校に行ってたから、見よう見まねで帳簿をつけていた。
今では、学校の先生が驚くくらい、出来るようになっている。何せ、うちは簿記が苦手でよく補習を食らってたくらいだったから。
一人でやっていた仕事量を二人でこなし始めたから早いに決まってる。
何より、母さんを精神的、体力的に楽にしてあげられた。
次第に贔屓にしてくれるお客さんの方も増えてきて、最近になって店の方にも父さんのいた頃のように余裕が見えてきた。

うちはこれで良かったと思ってる。
うちも父さんの残してくれたこの店が好きだから。
父さんと母さんのことが好きだから。

21 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月27日(水)15時32分01秒
二人の会話を聞きながら、夕食の準備を済ませた。
今日はほうれん草のお浸しと豆腐のみそ汁と自信作の肉じゃが。
我ながら、今日もうまくいきました!
でも、装うときに自分の分にはお肉入れないんだけどね。

って、この時間まで池端さん店にいていいのかなぁ…。多分、今日も遅刻かな。

「池端さん、もう時間無いよ」

店の入り口まで様子を伺いに行った。
うちの言葉に時計を見た池端さんの顔は、見る見るうちに顔面蒼白になっていった。

「ひとみちゃん、ありがと!!」

そう言うと池端さんは急いで帰っていこうとした。

ガツンっ。

池端さんが自動ドアの前に立ったと同時に鈍い音が響いた。
早く帰ろうとしたのが災いしたのか、池端さんは開きかけた自動ドアに頭をぶつけていたのだ。
池端さんはおでこを押さえ、無言で笑いながら(正確には顔を引きつらせながら)こちらに手を振り、帰っていった。
母さんとうちはそんな池端さんを見て、大声で笑ってしまった。
22 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年02月27日(水)15時34分35秒
>>10-21

更新終了しました。
23 名前:とみこ 投稿日:2002年02月27日(水)15時37分58秒
よしごまラブな私。けどなんだかんだいっていしよしも好きな私(w
なんだか過去の事を思い出すヨッスィがすごく切なくてgoodです。
ハタチのよしこかぁ〜。なんか想像つきますね^〜^
ちょくちょく見に来ます。がんばってくださいp(^^)q
24 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年02月27日(水)15時44分45秒
ストックがあるうちに、勢いのまま更新したのですが、読み返してみたら、誤字はあるし、読みづらいったらありゃしない(鬱)。
書いていくってことは大変だと、改めて実感しました。


>9 名無し読者様。
レス有難うございます。
本人は確かに可愛いのですが、自分の文章能力では表現しきれてないですね(泣)。。
未熟者なりに頑張っていきたいと思っています。



25 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年02月27日(水)15時52分21秒
>23 とみこ様。
レス有難うございます。そう言ってもらえるとうれしいです。
試行錯誤の上、やっとまとまりつつあったのでうpしてみました。
駄文ではありますが、お付き合い下さい。m(__)m
26 名前:どっかの人 投稿日:2002年02月27日(水)15時59分07秒
読んでると切なくなってきました(涙
凄く文章がお上手で羨ましいです〜

痛めっぽいのでむっちゃ楽しみです。
頑張って下さい。
27 名前:名無し男 投稿日:2002年02月27日(水)17時36分37秒
池端さん最高(w
28 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月28日(木)15時52分14秒

案の定、池端さんはバレーの練習に遅れてきた。
おでこには少し赤くなってる腫れができている。
ミーティング中にそれを見て思わず吹き出したら、思ってたとおりの反撃を食らってしまった。

池端さん、一言多いって…、って自分もか…。



ミーティングも終わり、家までの距離を歩いて帰っていた。
春といっても夜はまだ少し肌寒い。
吸い込む空気が冷たくて、練習後の体を冷やしていく。
普段なら軽トラで行き来するけど、今日はなんだか歩いてみたくなった。

そっか、夜の冷たさがあの日の寂しさに似てるのかもしれない。
そう思って少し笑った。

葉書が来たせいもあるのか、ぼんやりしていた記憶が鮮やかに描かれていく。

29 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月28日(木)15時53分44秒


うちが引っ越す時、梨華ちゃんは見送りに来てくれなかった。


「おばちゃん、梨華ちゃんは?」
「ごめんね、ひとみちゃん。梨華ねぇ、部屋から出ない、って聞かないの」
「そっか…、じゃ、おばちゃん、梨華ちゃんに伝えといて。ちゃんと手紙書くから、返事を書いてね、って」

おばちゃんは無言で何度も頷いて、目にいっぱい涙を浮かべていた。
それを見て、うちも泣いてしまいそうになった。

「じゃあ、そろそろ…」

父さんはうちの手を引いて、母さんは弟たちの手を引いて車に乗り込んだ。
車が出発しそうになっても、梨華ちゃんは姿を見せようとしなかった。


30 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月28日(木)15時56分03秒

走り出した車は、止まって後戻りすることを知らない。
うちは助手席の窓から見える見慣れた風景の中、大切な場所を必死に探していた。

鬼ごっこをした校庭。
ふざけて遊んだクラスのみんな。
はしゃいで水を掛け合った夏の川辺。
優しい笑顔で果物をくれた八百屋のおじちゃん、おばちゃん。
いろんなところを探検した裏山。
自分の娘と同じように叱ってくれた石川のおばちゃん。


うちはみんなのことが好きだった。



そして、一番好きで、大好きだった梨華ちゃん。




31 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月28日(木)15時57分15秒

もう少しで、その風景も終わってしまう。
この道路を抜けてしまえば、うちは知らない街へと行ってしまう。

そう言えば、この道路は裏山を横切る新しい道路だったっけ。
この道路を造るために、うちらの秘密の近道は途中を潰されて通れなくなった。
近道を通って奥まで行けば、山の上にあるお気に入りの桜の木へたどり着く。


ここから桜は見えるのかな…。
方向がこっちだったからこっちを見ていようっと。


あっ。

桜が見えた。
大きな桜だから遠くてもよく見える。
うちらが見つけた、どこにも負けない桜だからね。

32 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月28日(木)15時58分33秒

その桜の木の下に小さな人影を見つけた。
こっちに向かって、懸命に両手を振ってる様に見える。
うちは窓ガラスに顔を近づけ、必死になってその影を見つめた。



梨華ちゃん!?



「父さん、車止めて!!」

急に大きな声で叫ぶから、父さんはびっくりしていた。
そして車はゆっくりと左に寄って停まった。
うちはドアを開けて、車から飛び出す。



早くその小さな姿を確認したくて。


早く梨華ちゃんの顔が見たくて。




早く梨華ちゃんに会いたくて。




33 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月28日(木)16時00分02秒

必死になって、潰された先の近道を走り上がる。
新しい靴だったから後で母さんに怒られるけど、そんなの関係なかった。

だんだん大きく見えてくるその姿は、はっきりと確認できる。


「梨華ちゃーぁんっ!!」

叫ばずにはいられない。


空がさっきより近くなってきた気がする。



この頂上に…。



34 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月28日(木)16時02分42秒


「梨華ちゃん!!」
「…とみちゃ、ん…。…ひとみちゃんっ!!」

近くに見えるのに両手で大きく手を振りながら駆け下りてくる梨華ちゃん。
うちも負けずに大きく手を振った。

もう少しでお互いの手と手が取り合える距離になると、梨華ちゃんが転けそうになった。
うちは大きく手を伸ばし、左手で梨華ちゃんの腕を掴み、右手で抱き留めようとした。
が、受け止めるにも腕力のないうちとバランスを崩している梨華ちゃんは結局二人で仲良く転けてしまった。


「大丈夫?梨華ちゃん」

膝が擦り剥けてるのに無言でこくりと頷く梨華ちゃん。

「痛くなかった?ひとみちゃん」

肘から血が滲んでるのに無言でこくりと頷くうち。


「「ぷっ、…あっはははは」」

手に手を取って向き合っているお互いの姿を見てると、なぜかおかしくなってきて吹き出してしまった。
こんな時がいつまでも続けばいいのにと密かに思いながら…。


35 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月28日(木)16時05分24秒

桜の木の下は柔らかい日差しに包まれていた。
心地よく風が吹き、花びらがゆっくりと舞い落ちてくる。

「待ってたんだよ、出発するまで梨華ちゃんが来てくれるの。
 おばちゃんが部屋から出てこないって言ってたから」

梨華ちゃんは困ったような笑ったような顔をして黙っていた。

「引っ越しするって言ってから、梨華ちゃんあんまり話をしてくれなくなったし。
 うち、嫌われたのかと思って…。寂しかったんだよ」

そう言って視線を落とした。
見えていた地面は少しずつ端から歪んでくる。

握られていた手が突然強く握り直された。
それに反応してうちは顔を上げた。
梨華ちゃんは泣きながら、無言のまま首を横に振っていた。

梨華ちゃんがこんなに泣くの、初めて見た気がした。
何度となく泣かせてしまったけど、でもそれらとは何かが違ってるみたいに思えて。
うちはどうしてあげることも出来なくて、ただ梨華ちゃんの手を握り返すことしかできなかった。
すると、梨華ちゃんはうちの肩におでこをのせて、小さく震えていた。

36 名前:ボトルメール 投稿日:2002年02月28日(木)16時06分40秒


「…またここで会おうね、約束だから」
「うん、もちろんだよ。梨華ちゃ…」

強く答えたつもりが、次の瞬間、堪えていたものが流れだした。
梨華ちゃんの前では泣かないつもりでいたのに…。

梨華ちゃんは顔を上げて泣きながらだったけど、そんなうちに懸命に笑ってくれた。
うちも泣きながらだったけど、無理矢理笑って見せた。

下で車のクラクションが鳴った。
車の近くに父さんが立ってる。

「ひとみちゃん、向こうに行っても私のこと忘れないでね。手紙、いっぱい書くから」
「うん。うちのことも忘れないでね。うちも負けずに手紙書くから」

強くお互いの手を握りながら、うちは強く心に刻んだ。
忘れないように、思い切り息を吸い込む。
梨華ちゃんと一緒にいた、ここの桜の香りを忘れないように。

そして、二人でここから見た風景を胸に焼き付けながら。


37 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年02月28日(木)16時08分18秒
>>28-36

更新しました。


38 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年02月28日(木)16時20分14秒
勢い余って頑張りました。どこまでこの勢いが保てるか心配ではありますが(苦笑)。



>26 どっかの人様。
レス有難うございます。
もしや…、と思っておりますが、もしやの方ですね(笑)。
そちらではお世話になっております。読んで頂けてうれしいです。
駄作、駄文、不作法な自分なので、まだまだ…。
そう言っていただけるよう頑張ります。

痛めになるのかなぁ…、そうなるかもしれませんね。
実はまだ…(苦笑)。



>27 名無し男様。
レス有難うございます。
池端さん気に入って頂けてうれしいです。こういう人もいないと書いてるこっちも辛くなってきたり(笑)。その路線でも頑張りたいです。

メール欄はかなり痛いのですが…、今は大丈夫ですか?
あれも実話です(苦笑)。
39 名前:ごーまるいち 投稿日:2002年02月28日(木)16時36分29秒
胸がきゅんとする、ちょっとほろ苦い吉澤さんの思い出。
幼き日の情景が克明に思い出されて、何だか懐かしい気分にさせられますね。
更新、楽しみにお待ちしております。がんがってください。
40 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年02月28日(木)16時53分19秒
切ないような・・・・暖かいような・・・・ほのぼのとした情景が、夕日の色っぽいですね。
吉と、石にこれからどんな展開が待ち受けているのか楽しみです。
がんばってください!!
41 名前:とみこ 投稿日:2002年02月28日(木)17時08分26秒
なんかとっても懐かしい感じのする小説ですね。
子供の頃を思い出す・・・といってもまだ子供なんですけどね。
無邪気な吉子と梨華ちゃんがいい感じです。
42 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月01日(金)17時25分08秒


『…またここで会おうね、約束だから』

別れ際の梨華ちゃんの言葉。そうしっかり聞こえた、聞こえてた。

そっか、約束してたね。
…って、うちは忘れてました。ごめんね、梨華ちゃん…。
でも、今しっかり思い出したから許してくれるよね?



玄関のノブを回そうとした時に、ふと思い出した。

『…またここで会おうね』???
ここで会う…?あれは桜の木の下だったよな。

…そういえば、葉書に書いてあったよな?『宝箱は木の下です』って。


43 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月01日(金)17時27分48秒




…………。





…………。




宝箱はあの桜の木の下だ!
今、すっごい確信したよ、うちは。
読みが鋭いね、さすが、吉澤ひとみっ!!


44 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月01日(金)17時29分14秒


ガツンっ。


「あぁだっ!…つっうぅ…」

玄関先で星に向かって感動してるうちにドアが激突してきた。

「帰ってきたと思ったら、あんた玄関先で何やってんのよ?…って、ひとみ?」

頭上から「母さん」という名の無邪気な悪魔の声がする。
うちはあまりの痛さに、頭を押さえてうずくまっていた。

…あーたって人は手加減ってのを知らないのか!?
ドアっちゅーもんはゆっくり開けてよ。いつもうちに言ってるじゃない!


…って、うぅ…、い、痛いよぅ…。

45 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月01日(金)17時30分38秒

「もしかして当たった?あんたがぼさっとしてるから…。早く入りなさいよ」

そう言うと母さんは家に入っていった。
うちの頭にはまだ痛みが残っている。

そりゃないよ、母さん…。
もう少しはいたわりの言葉ってのが出てこないのかねぇ、あの人の口からは…。
コレでまた記憶が陥没したら、母さんを恨むからね!

「ただいまーぁ!!」

やり場のない怒りを言葉にぶつけながら、ドアを開け家に入った。

「おかえり、姉ちゃん」

居間でテレビを見ていた下の弟がこっちに振り向いた。

「母さんがお風呂に入れって言ってたよ」
「あ、うん」

そっか、もうこいつが中2になろうとしてるんだっけ。
それだけ時間が経ってるんだ。


46 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月01日(金)17時32分14秒


お風呂から上がったうちは、冷蔵庫の牛乳パックに手を伸ばした。
パックの口を開き、そのまま口を付ける。
冷たい牛乳が水分の抜けた喉に、全身に染みこんでいく。


くぅうっっ、やっぱり、風呂上がりの牛乳は最高だね!


空になったパックの中身を水道水で洗い、伏せて置いた。
そして、濡れた髪をタオルで拭きながら目を瞑る。



梨華ちゃん、あの時に何かくれなかった?
最後に何かくれたような気がするんだけど…。


…うまく思い出せないなぁ。

思い出せない苛立ちがタオルをゴシゴシと強く動かす。
何か思い出せるのではないかと。

47 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月01日(金)17時33分43秒

水道の栓が締め切れてないせいか、雫の落ちる音が耳に響く。
ステンレスの上で自らの存在を表現するかのように。
うちは音に釣られて蛇口を見つめる。


雫に映る風景。
丸く湾曲し、中心にある自分は大きく映る。
うちの着ているパジャマと蛇口の向こう側にある洗剤容器のせいか、透明な青の中に自分がいる。


なんか、ビー玉の中にいるみたい…。


そんな不思議な感覚に心奪われる。

少しずつ大きくなる自分の姿。
そして、その風景は強くステンレスに受け止められ儚く散乱した。

48 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月01日(金)17時38分09秒




そっか、ビー玉だ!

梨華ちゃん、ビー玉をくれたんだ。




うちはいてもたってもいられなくなり、階段を駆け上り部屋へと向かう。
母さんが何か文句を行ってたけど、そんなのは関係ない。

部屋に入り、3つも4つも引き出しを出して隅から隅まで探した。
中身を全て出して、また次の引き出しの中を引っかき回す。

自分でどこに仕舞ったかなんて忘れてしまううちもどうかしてるかと思う。
もしかして、引っ越しの片づけの中、無くした!?
そんなの嫌だよ。
梨華ちゃんがくれた、たった一つの…。

49 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月01日(金)17時40分18秒
>>42-48

更新しました。
50 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月01日(金)17時57分13秒
誤字脱字、間違い見つけるたびに気を失いそうです(鬱)。
でも結構開き直ってみたり…(笑)。

今回もある意味、痛いです、…ね(笑)。


>39 ごーまるいち様。
レス有難うございます、涙が出そうです(泣)。
ご期待に添えられるよう、命を削りながら頑張りたいと思ってます。だいぶ神経は図太いですが(爆)。
お忙しい中、有難うございました。


>40 よすこ大好き読者様。
レス有難うございます。泣きついてしまいそうです(苦笑)。
ご期待に添えられるような展開に持っていけるかどうかは、自分自身、自信がなかったり…(汗)。そうなるように頑張ります。


 

51 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月01日(金)18時09分08秒
>41 とみこ様。
毎回レスを下さって有難うございます(感涙)。
子供はやっぱり無邪気な方が子供らしいほうがいいと思って書いてたら、あんな二人になってしまいました(笑)。
なかなか大変ですわ、ほんまに…。でも頑張っていきますよっ。ファイ


ややストックが不足気味になりつつあります。
コンスタントに更新できていたのですが、次回からはそんな感じにはいかないかもしれません。
読んで下さっている神様のような方々に大変申し訳なくて、足を向けて寝られません(泣)。
なるべくご期待に添えられるよう頑張っていきますので、よろしくお願いします。

合掌。
52 名前:名無しベーグル。 投稿日:2002年03月01日(金)18時58分26秒
出遅れました。ノスタルジーに浸れそうなセピア色。
更新頑張って下さいね。
53 名前:通りがかりb. 投稿日:2002年03月02日(土)00時43分13秒
甘酸っぱ系っぽくて、好きッス!
54 名前:某さくしゃ 投稿日:2002年03月02日(土)02時47分42秒
なんかこう…切ないですね。
ビー玉見つかるといいな…
更新がんがってください!
55 名前:とみこ 投稿日:2002年03月02日(土)12時42分25秒
い〜な〜この小説。
なんか牛乳飲みたくなってきた。
56 名前:名無しバイク 投稿日:2002年03月03日(日)14時18分09秒
 放置にはできなかった(w
子供の頃は地面が土だったなぁ〜、とワケわからん事を思い出しました。
なんか懐かしい気持ちにさせてくれるお話ですね(^^)
マターリヒソーリ楽しみにしておりまする。
57 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月03日(日)22時06分03秒
なんか、胸がキュンと締め付けられるっちゅうか・・・・。
なんか、忘れていたものを思い出させてくれる感じ・・・??
というか・・・なんなんでしょう??(謎
とにかくいいです!マターリ待ちますのでがんばってください!!
58 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月04日(月)00時40分57秒

いつしか、うちの周りにはたくさんの引き出しといろんな物が散乱していた。

がぁー…、無いよ。
タンスの中も全部見たし、ここの引き出しも全部見た。
…残るはここの鍵付きの引き出しだけ。

この鍵、どこに行ったっけ?

ここ鍵掛けたままなんだよね…、もう泣きそう。
うちってなんでこんなにアホなんだろ…。

引き出しと散乱した物とうち。
途方に暮れる自分と部屋の状況に無性にいらいらしてくる。
こうなったのも自分に責任がある、と仕方なく散乱した物を拾い集め、引き出しの中に戻し始めた。

59 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月04日(月)00時43分29秒


ふと拾い上げたある物に目がいく。


安全ピン。



これって、鍵開くのかなぁ…、よくドラマで開けてるじゃん。
カチャカチャカチャ…ガチャって。
そんなに簡単に開くようなもんじゃないっしょ!?

安全ピンを手に取り、しげしげと見つめる。


現にこれで開いたら…、うちは手に職を持つのかなぁ…。
んーなわけないでしょ…。

おもむろにピンを外し、細く鋭い先を鍵穴に差し込んでみる。


カチャカチャカチャカチャ…。


こんなんで開くわけねーよな。
まず開かない。

60 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月04日(月)00時45分40秒


カチャカチャカチャカチャ…。










はずだった。


…ガッチャ。



ええええええ!?今、…今の開いたの!?
開くわけ無いじゃない、普通!?

動揺している心を落ち着かせようと一つ深呼吸してみる。


…そんなんで落ち着かないし、落ち着いてる場合か!?

恐る恐る開いているはずのない引き出しに手を掛けた。


落ち着けぇ、落ち着くんだ、吉澤ひとみっ。


気合いを入れて引き出しを引く。
がさっ…と、開くはずのない引き出しが音を立てながら出てくる。

おおおおおおおっっ!!!
うちって、すごいかも!もしかして、手に職持てそう!?

愛の力よぉっ!!!!


61 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月04日(月)00時47分13秒

安全ピン握ったまま感動してたら、引き出しの奥で何かが引っかかって出て来なくなった。
引き出しの奥に手を入れてゴソゴソしてみる。

…ん、何か小さい箱が引っかかってるみたい。

試行錯誤してその箱を取り出してみると、引き出しはスムーズに出てきた。
引っかかっていたのは、陽に焼けて白っぽくなった赤い小さな箱。
中を開けると、ビー玉が入っていた。


62 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月04日(月)00時49分08秒



「ひとみちゃん、これあげる」

梨華ちゃんはそう言うとうちの手を取り、それを握らせてくれた。
うちの手の中に「丸い」という感覚が伝わる。
手をゆっくり開いてみると、青く光る大きなビー玉があった。

「これ、梨華ちゃんが大事にしてたビー玉…」
「いいの。ひとみちゃんだからあげるんだよ」

そう言って、笑いかけてくれる梨華ちゃん。

いろんな思い出が頭の中をぐるぐる回って、訳分かんなくなって、また、うちは泣いてしまった。



泣き出したうちを優しく抱きしめてくれる梨華ちゃんの腕。
しっかり思い出すことが出来るよ、どんなに温かかったか。


63 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月04日(月)00時53分21秒

ビー玉を手に取り、蛍光灯の光に照らしてみる。
透き通る青の中に梨華ちゃんの顔が見えてこないかと期待しながら。


見えるわけないか…。


このビー玉、梨華ちゃんとお祭りに行った時に一緒に買ったやつだったよね。
でも、うちが買ったビー玉はどこにいったんだろ?
うーん、思い出せないなぁ。
この引き出しの中に入ってるのかな…。

ゴソゴソと引き出しを探ってみる。
ビー玉は出てこなかったけど、梨華ちゃんとやり取りしてた頃の手紙が出てきた。


結構、頻繁にやり取りしてたんだ…。

ピンクの封筒にピンクの便箋、極めつけにピンクの文字で書いてある手紙。
これじゃ読めないよ、梨華ちゃん…。

苦笑しながら次の手紙を手に取る。この手紙からボールペンで書かれてた。
手紙の最後に『PS.前の手紙、読みにくくてごめんね』って。
…ちゃっかり指摘してたのね、うち。ちょっと反省。


64 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月04日(月)00時54分37秒
一つ一つの手紙を読み返してみる。
梨華ちゃんが中学校でテニス部に入部したこと、初めての練習試合で負けたこと。
その日に何があったとか、向こうでみんなと遊んだこと、家族で旅行に行ったこと。
行きたかった高校に合格したこと、県の大会でベスト8に入ったこと。
そして、たくさんの言葉とうちが書いたことに対しての返事。
小さくて何枚もある便箋にびっしり書かれていた。

うちがどんな手紙を梨華ちゃんに書いていたのか、二人はどんなやり取りをしていたのか、うちの梨華ちゃんに対する思いが断片的ではあるけど分かったような気がした。

65 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月04日(月)00時59分23秒
>>58-64

更新しました。
66 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月04日(月)01時17分50秒
温かいお言葉、有難うございます。お待たせしたわりに今回も勢い任せ(苦笑)。
途中に回想シーン入れてみたものの、なんだか分かりづらい物になってますね。…逝ってきます(鬱)。


>52 名無しベーグル様。
レス有難うございます。
出遅れてなんていませんよ、全く。自分が出遅れているだけなんで(苦笑)。
そう言って頂けてうれしいっす(感涙)。突っ走っていきますので。


>53 通りがかりb.様。
レス有難うございます。
甘酸っぱ圭、好きですか?酸っぱくなりすぎないよう頑張ります。甘からず辛からず?(苦笑)。


>54 某さくしゃ様。
レス有難うございます。
書いてる自分も、ある意味切ないんですよ(泣)。
ビー玉見つかったんですが、吉がもう一つの仕事を(略。藁

お察しの通りで(謎。藁



67 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月04日(月)01時40分05秒
>55 とみこ様。
レス有難うございます。
香辛料は減少してないのですが、あまりコンスタントには…(汗)。
でも、なるべく減らさないように、自分に厳しく、をモットーに頑張りたいと思ってます。


>56 名無しバイク様。
レス有難うございます、お声を掛けて頂けてうれしいです(泣)。
マターリヒソーリ更新してきくかもしてませんが、これからもよろしくお願いします。


>57  よすこ大好き読者様。
レス有難うございます、そしてお帰りなさいませ。
なにがなんだか分かりづらいかも…、書いてる自分でさえも分からなくなることが(爆)。
いいと言っていただけて、感謝感謝の雨が(略。


短編と当初書いていたのですが、なにやら、中編までいってしまいそうなヨカーソ…(汗)。
更新、毎日とは保証は出来ませんが、頑張れるところまで頑張っていこうと思っておりますので、これからもお付き合い下さい。
よろしくお願いします。

合掌。

 

68 名前:とみこ 投稿日:2002年03月04日(月)13時17分57秒
香辛お疲れです。
こちらもやっとテストが終わって、先ほど香辛してきました。
最近この小説が1番楽しいです^^
69 名前:どっかの人 投稿日:2002年03月04日(月)17時56分57秒
なぜか泣けてきました…(涙

よしざーさんが『うち』って言ってるのが、親しみやすくて好き
なのです(w
がんばってくらさいね。
70 名前:某さくしゃ 投稿日:2002年03月05日(火)00時11分20秒
>短編と当初書いていたのですが、なにやら、中編までいってしまいそうなヨカーソ
その気持ちわかります(w
今もそうだし。

更新がんがってください!
71 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月05日(火)22時16分31秒


『同じ高校に行けたらいいね』

いつかの手紙にそう書かれていた。
一緒の高校に行こう、という梨華ちゃんとの約束をうちはいとも簡単に破り、うちはバレーの推薦で違う高校へと進学した。


うちはなんで約束を破ったのだろうか…。


72 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月05日(火)22時20分41秒


答えは、簡単であまりにも複雑なことだった。
広辞苑のせいでうちの記憶の一部が完全に抜け落ちてしまっていたから、その約束と梨華ちゃんとの記憶が抜け落ちていた、といった方がいいのかもしれない。


今頃になって、記憶がよみがえってくるなんて…。
やっぱり、あの喧嘩が悪かったんだよね…。

恨むぞ、ゴルァ!

って言っても、自分の不注意でもあるし…。

でも、うちの大切な記憶が無くなったことには変わりがなく…。

でも、あの後、弟もずいぶん反省してたし…。

でも…。

でも…。

でも…。





でも、あの葉書来なかったら、うちは一生思い出すことはなかっただろうし…。


良かったんだよ、これで。
うん。
ありがとう、10歳のうち。


73 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月05日(火)22時25分23秒


広辞苑のことが一段落してから、ふと気になることが浮かんだ。
梨華ちゃんとのやり取りが終わってしまったことだ。


いつ頃だろう…、手紙のやり取りが無くなったのは。


そう思って、最後の手紙の消印を見た。
中3の秋で梨華ちゃんからの手紙は途絶えていた。
返事が返ってこないから、何度かうちから手紙を書いた気がする。


この頃はまだうちの記憶も確保されてたはず。
なのに、それらの返事も返ってこなかったっけか…。

何か喧嘩でもしたんだっけ?

そんな記憶は全くない。そんなわけない。
手紙を読み直してもそんな感じの文面ではないし、何かあったのかな…。


うちは手紙を握りしめたまま、電気スタンドの光をぼんやりと見つめていた。


74 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月05日(火)22時30分22秒


そうだ、梨華ちゃんに会いに行ってみよう。
葉書がうちに来てるってことは梨華ちゃんの家にも届いているはずだし。

うちの記憶がこんなのじゃ、まだ埋もれている物もあるかもしれない。
梨華ちゃんに会えば、何かの糸口が見つかるかもしれない。


一緒に宝箱を見つけに行く、ってのはどうかな…。

うん、そうしよう。
でも、いつにしようかな?


葉書の消印に目を落とすと、10年前の明後日の消印になっていた。
電気スタンドの向こうにあるカレンダーに目を凝らすと、この日曜だった。


うちは休みだからこの日しかないか…、店休むわけにはいかないし。
梨華ちゃんに連絡しようかな?

いや、驚かすんだ!
引っ越した時みたいに今度はうちが梨華ちゃんを驚かすんだ!
突然行って、驚かしてみたり…。


『梨華ちゃん、約束の日に迎えに来たよ!』って。

『きゃあっ、ひとみちゃん!?』って驚いて言うのかな?梨華ちゃん。


75 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月05日(火)22時36分50秒


遠足前の子供みたいにわくわくしてくる気持ち。
自然と頬がゆるんでくる。

うちは逸る気持ちが押さえきれず、ドタドタと階段を下りた。

「ひとみ!何時だと思ってるの?ガタガタうるさいわよっ」
「母さん、この日曜に梨華ちゃんの所に行って来るよ。おやすみ」

居間にいる母さんに向かってそう言い放つと、またドタドタと階段を上って部屋に入った。

「ったく、聞いてるのか、聞いていないのか…」

そんな母さんの嘆きはうちの耳には入るスペースがなかった。


そうと決まれば、明日の仕事も頑張っちゃうもんね。
明日はきっちり仕事して、帳簿も伝票整理も残さないよ。
それで早く寝るんだ。


一人ニヤニヤしながら溢れかえっている物を片付けていく。
でもあまりにも懐かしくて、あれもこれもと目を通してしまうので何度と無く手が止まる。
こんなに温かい気持ちになるのって、何か久しぶりな気がする。
忘れかけていた大事なことを思い出せたから。


76 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月05日(火)22時41分34秒


結局、片付けるのに3時間ほどかかってしまった。
いつもならもう寝てる時間なのに、今日のうちは目が冴えてしまってる。
布団を引きながら、そんな自分に苦笑した。

梨華ちゃんの手紙を枕元に置いて、布団の中で何度も読み返しては今の梨華ちゃんを想像した。


21歳になってるだろうから、あの頃よりもっと可愛くなってるんだろうなぁ…。
ってゆーか、美人になってんだろうなぁ。
ドキドキしちゃうよね、なんか、こう…。




って、うちは何を考えてるんだぁ!!!


天井に見える蛍光灯に自分の心が見透かされているみたいで恥ずかしくなった。
おでこをぐりぐりと枕にぶつけ、何とか気持ちを落ち着かせようとした。
そんなんで落ち着く自分ではないとわかってるけど。


すっごい楽しみなんだよね、早く日曜が来ればいいのに…。


天井を見る顔は確実にニヤけまくってるに決まってる。
自然と頬がゆるんでいくのが分かるから。


77 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月05日(火)22時45分49秒


でも、思いとは裏腹に不安がこみ上げてくる。


梨華ちゃん、うちのこと、どう思ってるんだろう…。
うちはこんなに…。





って、うちは何を考えてるんだぁ!!!


その不安をぬぐい去るように何度も寝返りを打つ。
闇の先を見た思いは深くねじ込まれていく。


梨華ちゃん、可愛いからもてるだろうな、きっと。
やっぱ、彼氏の一人や二人いるんだろうなぁ…。

案外、結婚してたりして…。


なんだか、辛くなってきたよぅ…。



掛けている布団をぽすっと跳ね退け、両手を頭の下に持っていく。
淡い期待と鋭くとがった不安が胸の中で交錯してる。
何度と無く胸の中でそれらが行き交い、うちの胸を強く締め上げた。


78 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月05日(火)22時48分30秒



うちはカーテンの隙間を縫って入ってきた朝日に起こされる。
どうやら葛藤に疲れたらしく、いつの間にか手紙を握ったままで眠りについていたみたいだ。
布団の上でぺたんと座り、呆然と視点の定まらない世界を見つめていた。


覚えていない夢の中で梨華ちゃんに会えたかどうか分からない。
だけど、温かい気持ちだけが胸の中に残っている。





うちは……。




確かに思いはそこにある、温かく根付くこの気持ち。



「よしっ!!」

軽く両手で頬を叩き、自分自身に気合いを入れる。


それは昔のことかもしれない。
だけど、今の自分の気持ちに嘘はつきたくない。
明日、梨華ちゃんに会いに行くんだ。

そして、思いを告げるんだ。



その後、くしゃくしゃになって布団から発見された手紙を見て、うちがどんなにブルーになったとかっていうのは言うまでもなく…。


79 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月05日(火)22時51分54秒
>>71-78

更新しました。

80 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月05日(火)23時07分58秒
ある種の余裕みたいなものが見えておりますが、ただの現実逃避なので気になさらず…(汗)。



>68 とみこ様。
レス有難うございます。
テスト無事終了したとのこと、お疲れさまでした。そちらもちょくちょく…。

>最近この小説が1番楽しいです^^
そう言っていただけると、書く気満々になってきますね。ありがとうございます。
気はあれど、思うように指は動かずでし(苦笑)。



>69 どっかの人様。
レス有難うございます。
ぢゃ、箱ティッシュ5箱98円だったので、後でお送りしておきます(爆)。
どこかで吉が自分のことを『うち』と言うと書いてあったのでそのまま引用させてもらいました。『私』ってのもあったのですが、自分の中ではそっちの方がしっくりくるな、っと。
これからも頑張りますので、お付き合い下さい。

81 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月05日(火)23時11分34秒


>70 某さくしゃ様。
レス有難うございます。
そうなんです、考えていたらいろんなことが頭を巡り巡って…(鬱)。。。
気をつけているのですが、駄文の上、だらだらと書いてしまうのでしまりのない物になってしまいそうです。またご指導下さい。
身を削りながら、血を吐きながらタイピングしております。出血多量、栄養失調にならない程度にしたいものです。
がんがります。


82 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月06日(水)04時19分42秒
どんな再会劇が待ってるのか楽しみです
83 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月06日(水)13時55分04秒
吉と、石の再会がどうなるか?気になりますね(w
ほのぼのしてて、いいすっね。
これからの展開に期待です。がんばってください!
84 名前:名無しベーグル。 投稿日:2002年03月06日(水)19時08分16秒
再会シーンに、ドキワクですね。
マターリがんがって下さいませ。
85 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月06日(水)20時26分03秒
とってもいい。
石川さんがいったいどうなってるのかきになりますねぇ。
どうなるどうなる、この先どうなる〜♪
86 名前:どっかの人 投稿日:2002年03月06日(水)21時10分33秒
テッシュお願いしますね〜(w

二人の10年後がホンマに見てみたいですな…
再会がどうなるのか楽しみなのです。
期待して待ってます。
87 名前:じじ 投稿日:2002年03月07日(木)02時47分07秒
再会のシーンみるのが怖い!
もし石川がグレてたら…(w
あんまり血を出したら死んじゃうぞ
88 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月07日(木)21時35分49秒


白い壁紙に囲まれた一つの空間。
ピンクのソファーカバーにピンクの棚のあるアルミラック。
小さなピンクのテーブルには二つの白いティーカップ。
テーブルの向こう側には梨華ちゃんの笑顔。

そして、なんだか場違いなうち。


梨華ちゃんの部屋にこうして二人きり。
会えることをすごく楽しみにしてきたんだけど、ドキドキしてまともに梨華ちゃんの顔が見れないよ。
自分の気持ちに気が付いてから、変に意識しちゃってうまく話が出来ない。
いろいろ話したいことたくさんあったはずなのに、うちはどうやら家に忘れてきたみたいだ。

はぁ…。


89 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月07日(木)21時41分27秒



「…と…ちゃ…。ひとみちゃん?」
「ひゃい!?」

自分の世界に入り込んでたから、梨華ちゃんの声にびっくりして変な声出してしまいました。
変な奴だと思われてなかったらいいんだけど…。

「ご、ごめん、梨華ちゃん。…な、何?」

何かしてないと落ち着かない。
うちはおもむろに目の前にあるティーカップに手を伸ばした。

「っわっちぃ!!」

指の触れたところは熱い紅茶の中。
急いで指を離したけど、それが災いして紅茶をこぼしてしまった。

「ひとみちゃん大丈夫?火傷してない?」
「う、うん、大丈夫」

梨華ちゃんはうちの傍にきてくれて、タオルでうちの服を拭いてくれた。

90 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月07日(木)21時44分56秒


そう答えてみたものの、とても全然大丈夫なんかじゃありません!!
すいません、かなり至近距離なんですけど…。


「砂糖いる?って聞いたんだけどね」

梨華ちゃんは苦笑しながら拭き続けてくれてる。
でも、うちには梨華ちゃんの言葉が耳に入らない。



梨華ちゃん、いい匂いがする…。
こんなに近いとドキドキしてんのが聞こえるかもしれない。

ああああっっ!!どうしよう!!!
だんだん顔の辺りが熱くなってくるよ…。


91 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月07日(木)21時47分54秒



って、うち、梨華ちゃんに拭いてもらってんじゃん。
カッコ悪…。

こんなん自分で拭けってんだよっ、吉澤ひとみ!!


よし、気合い入れていくぞ。
梨華ちゃん、自分でやるからいいよ、ってちゃんと言うんだ。

「梨華ちゃん!」


その次は、自分でやるからいいよ、って言ってタオルを貸してもらって自分で…。


92 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月07日(木)21時56分25秒




って、うちは何をやってんだぁ!!!
手首掴んでるぞ、うちの手は!?
梨華ちゃん、びっくりして動きが止まってるじゃないかぁ…。


「梨華ちゃん、うち、ずっと前から…」



うわぁあっ、うちは何言ってるんだぁ…。
勝手に口が…。
違う気合い入れてどうするんだよ!!!


93 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月07日(木)22時00分40秒



「ずっと前から梨華ちゃんのことが…」




…もう止まらない。



「梨華ちゃんのことが好きなんだ…よ」



…言ってしまいました。
吉澤ひとみ、見事玉砕です…。




泣きそうかも…。



94 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月07日(木)22時04分49秒


梨華ちゃんは俯いたままぴくりとも動こうとしない。
そりゃ、急にそんなこと言われたらびっくりするわな。
しかも10年も会っていない奴からそんなこと言われたら、うちでもびっくりする。


「……、…」

俯いたまま、梨華ちゃんが何か言ったみたいなんだけど、うちにはよく聞き取れない。

「…梨華ちゃ…ん?」

梨華ちゃんの顔を恐る恐る覗きながら声を掛けてみた。


だいたい察しは付いてます。
えー、そうですとも、「拒絶」っていう言葉以外に何があるってんだ!

って、なんでうちは逆ギレしてるんだ?


すると、梨華ちゃんが顔を上げた。
次の言葉に耳を傾けたくないけど、しっかり目を見て聞かなくっちゃ。
現実から目を逸らすんじゃない、ひとみ!!


95 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月07日(木)22時09分15秒
>>88-94


更新しました。

96 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月07日(木)22時23分18秒
香辛料、少な目でごめんなさい…(鬱)。


>82 名無し読者様。
レス有難うございます。
どえりゃーあ再会劇がこんな感じで(汗)。期待に添えられるように頑張ります。


>83 よすこ大好き読者様。
レス有難うございます。
なんだかお忙しそうですね、体だけは大事にしてくださいね。
ほのぼのがそろそろ崩れるヨカーソ(爆)。


>84 名無しベーグル。様。
レス有難うございます。
お疲れのことと拝見しました。無理をしない程度にがんがってください。
書いてるこっちもドキワクもの(笑)。こちらも(略。

おおっ、そうですか!?うれしいですぅ。あの人に勝てる人など(略。藁

 
97 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月07日(木)22時33分41秒
>85 名無し読者様。
レス有難うございます。
そう言っていただけるとうれしいです、期待に添えられるよう頑張ります。
やや覗き始めたのですが、どうなることやら…(汗)。


>86 どっかの人様。
レス有難うございます。じゃ、早急にお送りしますね(爆)。
自分も見てみたい…ハァハァ。 ←すんません、逝ってきます。
ご期待に添えられるかどうか…(汗汗)。

こちらにもハケーン(爆)。


>87 じじ様。
レス有難うございます。 …ってそれって(謎。藁
そんなこと言わずに二人を見守ってやってください、お代官様(w。
そんな話、書いてみたいかも…ニヤソ。でも、自分が追いついていかない…。

末期なもので…(笑)。
98 名前:名無しベーグル。 投稿日:2002年03月07日(木)22時49分44秒
なんと、すぐに告ったですか! 吉かっけ〜!
でも、もしかして…(泣)。梨華ちゃぁ〜〜ん!

やっと仕事も一段落したので、小説の方に…(w。ありがとうございます。
椎真夜叉さんもがんがってください。
99 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月08日(金)06時14分49秒
お〜いきなりだなぁ…
100 名前:じじ 投稿日:2002年03月08日(金)20時18分34秒
そっこーかましましたか!
んで、石川さんは…?
101 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月08日(金)23時28分08秒
おほほ、吉澤さん可愛い…
そうそう後ろではなく前をしっかり見つめて。
102 名前:婆金 投稿日:2002年03月09日(土)01時54分59秒
今までコソーリ読ませて頂いてました。
何か、スゴク好きな雰囲気です。がんがって下さい。
103 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月09日(土)18時12分17秒
ほのぼのが崩れてどういう展開に!!
激しく気になります。
石の答えが、いい方向にいってくれることを願って・・・・・。
104 名前:とみこ 投稿日:2002年03月09日(土)20時13分18秒
おーっ気になる展開っっ

すっごくすっごく楽しみにしてますっ
105 名前:ごーまるいち 投稿日:2002年03月09日(土)21時48分42秒
石川さんに会う前の日の吉澤さんの可愛さに萌え♪
玉砕覚悟の告白が功を奏すか・・・。
てぐすね引いてお待ちしております(w)
106 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月10日(日)12時20分57秒



「……、…」





え!?梨華ちゃんの声が聞こえない。
梨華ちゃんはちゃんとうちの顔見て、何かを話してくれてるのにうちには聞こえない。
どうしてなんだ?
うち、急に難聴になったの?


107 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月10日(日)12時23分20秒





目の前にいる梨華ちゃんから目を離せない。






少し頬が赤くなってますけど、それは気のせい?
目が潤んでますけど、それは気のせい?
何かだんだん顔が近づいてますけど、それは気のせい?


108 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月10日(日)12時26分05秒






…気のせい……じゃないかも?。



え? え? え?  えーっ!?

梨華ちゃんの顔がすっごい近いんですけど…。
至近距離どころの話じゃない!

109 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月10日(日)12時28分26秒









このままだと梨華ちゃんと…。









110 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月10日(日)12時31分02秒






梨華ちゃんは瞳を閉じて、何かを待ってる。




うちも瞳を閉じて、それに応えようと…。





111 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月10日(日)12時34分33秒





ん?何か遠くで、母さんの声がする…。

多分気のせいだから。



たとえ母さんでも邪魔しないでよ!
今、あーたの娘がお取り込み中なの!




112 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月10日(日)12時37分32秒




それに、目の前に梨華ちゃんが…。






だから、このまま…。




んーっと。
少し目を開けてもいいよね?こんなに近くで梨華ちゃんの顔見れることなんてないし。



113 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月10日(日)12時39分49秒















って、母さん!????


114 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月10日(日)12時42分34秒



「うあ”ーっ!!」


梨華ちゃんの顔を見ようとうっすら目を開けたら、母さんのドアップがうちの視界に飛び込んできた。
部屋中に響くうちの絶叫。


夢だったのね…。よしこ、ショック。





それより、母さんの顔が……。



115 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月10日(日)12時46分32秒


「あんた、梨華ちゃんの家に行くんじゃなかったの?」

うちは布団の中で夢というショックと夢の中でも母さんに邪魔されたショックで軽いめまいを起こしていた。
起こしに来てくれた母さんの機嫌を思いっきり損ねてしまったようで、布団を無理矢理剥がしていった。
おかげでうちは畳に叩き付けられ、鼻の頭を打った。


「早く降りてきなさいよ」

軽いめまいの中、鼻を押さえながら聞いた母さんの言葉。
冷たいけど、これが現実…。
現実に戻りたくなくて呆然とベランダに干されたうちの布団を眺めていた。


116 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月10日(日)12時48分47秒


気持ちよさそうに風に揺れる布団。
ベランダに出てみると、空の中を一直線に伸びる飛行機雲。


よし、行ってこよう。


服を着替えて、昨日詰め込んだカバンの中身をチェックする。
葉書とビー玉と、あと手紙。
あと、帰りが遅くなったらいけないからコート、っと。

家を出て、駅に向かううちの足取りは誰にも負けないくらい軽い。
歩きながら見上げた飛行機雲が梨華ちゃんに向かって伸びている風にも思えた。



何もかもが自分の背中を後押ししてくれている。



そんな気持ちになって、うちはうれしくて仕方がなかった。

117 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月10日(日)12時50分51秒
>>106-116

更新しました。
118 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月10日(日)12時53分04秒
なんとも(略)な展開ですね…(汗汗)。逝ってきます…。


>>98 名無しベーグル。様。
レス有難うございます、何と申しますか…(苦笑)。
吉にはもうひと頑張りしてもらおうかと(笑)。

自分もそんな経験ありますよ、元『某クラブ』の方から(爆)。


>>99 名無し読者様。
レス有難うございます。
こういうのを(自主規制)って言うんですよね…(^^;;
こんな奴ですが、見捨てないでくださいね。


>>100 じじ様。
レス有難うございます。
かましてみたら、あんな感じで(笑)。よくある光景かも…(^^;;


>>101 名無し読者様。
レス有難うございます。
吉、気に入って頂けてうれしいのですが、(自主規制)だと…(^^;;

>そうそう後ろではなく前をしっかり見つめて。
自分に言われているみたいでうれしかったです。がんがります。

119 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月10日(日)12時55分03秒

>>102 婆金様。
レス有難うございます、来て頂けてうれしいです。
コソーリ覗かれていたのですね、ありがとうございます。
そう言って頂けるとうれしいです、がんがるでし。


>>103 よすこ大好き読者様。
レス有難うございます、大丈夫ですか?お疲れのようなので…。
こういう展開で、ご勘弁を…(^^;;


>>104 とみこ様。
レス有難うございます、二つ楽しんで頂けてうれしいです。
ご期待に添えることが出来たのでしょうか?ずいぶん不安で、穴があったら入りたい気分です(汗汗)。


>>105 ごーまるいち様。
レス有難うございます、こちらもありがとうございます。
自分の知らない感情に気づくと、人間ってこんなになるかな…、なんて思いながら。
ご期待に添えてられたかどうか…(^^;;



私事で大変申し訳ないのですが、3日〜1週間ほど交信できる状態にありません。
自身ものってきているところなのですが、コレばっかりは人生の大博打を打ちに行ってくるので、勘弁してやってください、お代官様。
なるべく早めの更新をしたいと思ってるので、ご了承下さい。

合掌。

120 名前:名無しベーグル。 投稿日:2002年03月10日(日)14時37分25秒
夢オチかよっ!(w
まぁ何はともあれ、現実になるといいですね。
しばしのお別れですか。寂しいですが、またの更新お待ちしております。
121 名前:REDRUM 投稿日:2002年03月10日(日)17時02分01秒
い、い、今気付きました。
作者サンは夜叉さんだったんですね。。。本文しか見てなかったもんで。。。

うう〜ん寂しいけど行ってらっしゃいませ。
首を長〜くしてまってます。大博打とはなんぞや?
122 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月10日(日)17時08分00秒
夢ですか・・・・。現実になって欲しいですね。(笑
うきうきしている吉に何が起こるやら・・・・・・・。
マターリ待っていますので、師匠がんばってください!!
123 名前:理科。 投稿日:2002年03月10日(日)18時31分12秒
キレイな情景の描き方に心奪われました…(はぅ。)。
どなたが書いていらっしゃるのかなぁ…って思ってたら!
 夜 叉 さん!だったんですね(遅!!)!
…何だか懐かしいとゆーか
…切ないとゆーか。
…もどかしいとゆーか。
かなり先が気になりますが待ってます♪
『大博打』気になります?
124 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月10日(日)22時13分21秒
夢でしたか…トホホ。
いつかそのときのための予行練習ということで。
さあ現実ではどんな事が待ってるのでしょう。


125 名前:じじ 投稿日:2002年03月11日(月)02時48分31秒
夢 だ っ た の か !
現実になる日はいつでしょう…。
みなさん大博打が気になってますね(ニヤリ
私も気になります(w
126 名前:ごーまるいち 投稿日:2002年03月11日(月)20時03分29秒
あ゛あ・・・夢だったとわ!(T-T)
夢の続きが見れますように、ディスプレイの前でそっと合掌。
マターリお待ちしておりますです。
127 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月11日(月)21時28分04秒
夢だったのですか!
続き期待してます。

ご高名な作者様達からのレスが沢山ですね。
椎真夜叉さんもプレッシャーでは?(藁
128 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月15日(金)15時49分07秒

久しぶりに乗る電車。
車に乗ってる時と風景の流れ方はあまり変わりはないんだけど、今日は違って見える様な気がした。
遠足みたいにはしゃいでるうちの心。
なんだか自分が子供みたいに思えて、少し笑った。

電車に乗ると途中で海が見えるから、今日は車両の一番前の席に座った。
引っ越しする前に一度だけ、向こうから電車に乗ったことがある。


その時に見た海の色は今でも覚えている。

129 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月15日(金)15時51分24秒


曇り空だったせいもあるのか、その日の海の色は灰色に染まっていた。
雲の小さな切れ間から少しだけ太陽が顔を覗け始めた。
太陽は自らの存在を主張するみたいに強く光を放つ。
そして、灰色の世界に一筋の光が降りてくる。
それを受け入れようと、波間は静かにざわめき始めた。

光は次第に大きくなっていく。
波間にはいくつも無数の光が浮かび上がり、やがて小さな光達は大きな光の帯を紡ぎ上げていく。


うちには、それが海の真ん中に浮き上がる一本の道のように見えた。
その道はどこまでも続いている、そんな風な錯覚を起こしそうなくらい眩しかった。

走り続ける電車からずっとその風景が消えるまで、うちは窓に張り付いたままだった。

130 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月15日(金)15時55分26秒




もうすぐしたらこのトンネルを抜ける。
そしたら、その海が見えてくる。




131 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月15日(金)15時58分10秒

うちは、うちの家族と梨華ちゃんの家族とで行った海水浴を思い出していた。


泳ぐことに飽きたうちらは、波打ち際を歩くことにした。
自分たちの歩いた後をすぐ波が足跡を消していく、それが面白くて何度も繰り返し波打ち際を歩く。
それに飽きたら、打ち上げられた貝殻やきれいな石を拾う。
小さな掌に白や青、紫、ピンクといった宝物とたのしかった思い出をいっぱい抱えて。



早く梨華ちゃんに会いたい…。



電車の進むべき方向を見つめながら、梨華ちゃんのことを思っていた。
逸る気持ちを察したくれたのか、電車は海を通り抜けうちの生まれた町に差し掛かる。
前方の窓から見える銀色のレールが、うちを導いてくれてるように思えた。


132 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月15日(金)16時00分46秒

10年ぶりに訪れた町はあの頃と変わらぬままだった。
あの頃と同じように川沿いの道を歩いて、小学校の運動場の横を通りかかる。

運動場にあった鉄棒の横を通る。
鉄棒は思ったより低い位置にあり、うちの今の身長ではそこで逆上がりをするということは不可能に近かった。


ここで何度も逆上がりをして、みんなで競い合ったっけ。
○○ちゃんが何回出来たからうちもやってみるー、とか言いながら。

一番逆上がりが出来たのって梨華ちゃんだったよね。
梨華ちゃんにかなう子なんていなかった。
誰かに自分の記録を破られると、梨華ちゃんはその記録を超えるまで逆上がりしてた。

普段は女の子らしいのに、誰よりも負けず嫌いだった。
そんな意外な一面を持っていた梨華ちゃんにいつの頃からか惹かれていったっけ。


まだ少しここにいたいけど、今日は梨華ちゃんに会うつもりでいたから足早に学校を後にする。
誰もいない運動場から、まだここで遊んでいる二人の声がうちの脳裏に聞こえてくるような気がした。


133 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月15日(金)16時03分41秒
>>128-132

更新しました。
134 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月15日(金)16時05分42秒
やっと、大博打ならぬ博打を打ってきました。結果は吉と出るか、凶と出るか…。
復帰したのに、更新少なくて申し訳(合掌)。


>120 名無しベーグル様。
レス有難うございます。誠に申し訳(合掌)。
現実になる日は近いのか、遠いのか…(^^;;。


>121 REDRUM様。
レス有難うございます。
気づかれてしまったのですか…、でも、読んで頂けてうれしいです。ご期待に添えれるよう、がんがりまっす。

首、長くしてすいませぬ(^^;;。


>122 よすこ大好き読者様。
レス有難うございます。大変申し訳(合掌)。
早くそうなって欲しいのですが、なんせ10年会ってない二人…(汗汗)。

師匠だなんて、飛んでも、…もとい、とんでもないです(汗汗)。
何もお世話できておりませぬ…。


>123 理科。様。
レス有難うございます。
はぅう…、気づかれてしまいました(^^;;。
そう言っていただけるとうれしいです。ご期待に添えるかどうか分かりませんが頑張ります。
話進むのが遅いのかもしれませぬ…(鬱)。

135 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月15日(金)16時07分38秒

>124 名無し読者様。
レス有難うございます。めっさ申し訳(合掌)。
現実はこんな風に展開されております。吉がどこまで頑張れるか…、がんがってほしいのですが(^^;;。


>125 じじ様。
レス有難うございます。ぶち申し訳(合掌)。
いつなのでしょうか…(遠い目)。吉子はんにがんがってもらわなければ…(他力本願な自分…)。


>126 ごーまるいち様。
レス有難うございます。へち申し訳(こちらもディスプレイの前で頭をぶつけながら合掌)。
これから吉にはがんがってもらわなければ…(^^;;。


>127 名無し読者様。
レス有難うございます。ぼっけぇ申し訳(合掌)。
かなりプレッシャーの塊です、風化してたらすいません。水を掛けてやると、元通りになります(笑)。
期待に添えられる様がんがります。
136 名前:とみこ 投稿日:2002年03月15日(金)20時26分47秒
試験大変でしたね。
よすこの梨華ちゃんへ寄せる思いが切なくてイイ!(・∀・)
137 名前:じじ 投稿日:2002年03月15日(金)23時29分21秒
お帰りなさいませ。
いよいよほんとに再会の予感。
よすこがんがれ!
138 名前:ごーまるいち 投稿日:2002年03月16日(土)11時21分04秒
やはり椎真夜叉さんの情景描写は綺麗ですね。
読んでいるだけで、その風景が思い出されます。
吉の想いがほんのりあまずっぱくてイイっす。
139 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月16日(土)16時54分04秒
博打お疲れ様でした。
なかなか二人が出会わないのがじれったいような・・・。
でも、すごくそれがいいと思うのです。(笑
本当に、自分がそのなかの風景にいるような錯覚をしてしまいそうです。
140 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月16日(土)16時55分29秒
ageてもうた・・・・・。
師匠スイマセン。爆裂反省中・・・。
141 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)21時22分28秒

通い慣れたこの道を足早に歩く。
あの頃と視界の高さが違うせいか、同じ町並みなのに知らない町に来たみたいな気がする。
毎日牛乳飲んでるから、成長は著しいと思うけどね。

あの角曲がれば、梨華ちゃんの家が見えてくる。
一歩一歩近づいてるんだ、なんて思いながら歩いてるとドキドキしてきた。
いろんな思いを頭に巡らせながら角を曲がる。

ここの通りの一番奥の家が梨華ちゃんの家。
心臓がある場所がすぐ分かるくらい打ち付けてくる。
でも、足取りは心と裏腹に、緊張しているせいか思うようには進んでくれない。

142 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)21時26分53秒

心と体が葛藤している間に梨華ちゃんの家に着いた。
気持ちを落ち着かせようとうちは深く深呼吸しようとしたその時、玄関の表札が目に入った。


本原!?


飛び込んできた文字に、自分の目を疑った。
どっからどう見ても、ここは梨華ちゃんの家なのに名字が違う。
家を間違えたのだろうか、そう思い、家の回りを見回す。

間違えるはずがない。
何度となく行き来した梨華ちゃんの家。
確かにこの辺は家も詰んできていて少し見違えるけど、うちは間違えるなんてあり得ない。

もう一度確かめようと、うちは曲がってきた角まで走って帰ってみた。
この通りの向こう側には八百屋がある。
忘れもしない、忘れるわけないじゃない。
梨華ちゃんとよく、おじちゃんとおばちゃんに可愛がってもらってたんだもん。

143 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)21時30分24秒

確信したうちはもう一度、梨華ちゃんの家と認識していた家に向かった。
うちが家の回りを何度もキョロキョロしてるせいか、隣の家から人が出てきた。
何か不審な人だと思われてるみたい…、うちを見る目が疑ってる。


ありゃ、まず…。でも、隣の家の人だから、なにか分かるかも…。

「あ、あの…、すいません。こちらのお宅、石川さんっていうお宅じゃなかったですか?」
「あーとね、うち3年ほど前にこっちに引っ越してきたんだけど、隣の家、空き家だったよ。
 隣の人も最近引っ越してきたばっかりだし」
「そうですか…、すいません、有難うございました」

うちはペコリと頭を下げてその場を去り、もう一度、曲がり角に帰ってきた。


引っ越してる、ってことだよね…。
手紙にはそんなこと一言も書いてなかった。
じゃ、その後に引っ越ししたってこと?
どこに?


今、どこにいるの、梨華ちゃん。



144 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)21時32分44秒


うちの目の前を何台ものの車が通り過ぎていった。
アスファルトに落としていた視線を空へ向ける。
梨華ちゃんの行方が分かるかと。

空は青のままで、うちの背中を押していた飛行機雲は消えていた。


引っ越したこと聞いたのかもしれない。
でも、うちの記憶の中はその残像すらない。
何か…、何か糸口があれば思い出せるのかも…。


ふと、通りの向こう側に目を向けた。


そうだ、八百屋のおじちゃんとおばちゃんに聞こう。
何か知ってるかもしれないじゃん。
多分梨華ちゃんちのことだから、引っ越すときに挨拶に行ってるはずだし。

うちの足は八百屋へと走っていった。


145 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)21時36分33秒

店の近くまで来ると、おじちゃんが店にいるのが見える。
はやる気持ちが押さえきれず、うちは大きな声で二人に声を掛けた。

「こんにちはぁ!おじちゃん、おばちゃん!」
「っらっしゃい!」

おじちゃんはうちの声に振り返るけど、誰か分かってないみたい。

「お久しぶりです、ひとみです」
「あーっ!ひとみちゃんかい、吉澤さんちの?」

うちはにっこり笑って頷いた。
おじちゃんは店の奥に向かって走っていく。

「おーい!ひとみちゃんが来たぞっ」

おじちゃんの後ろをおばちゃんが眼鏡をかけ直しながら、奥から出てきた。

「ひとみちゃん!元気にしてた?」
「おばちゃんこそ…。うちもこの通り元気」
「どこのべっぴんさんが来たのかと思ったら…」

おじちゃんとおばちゃんのうれしそうな顔。
見てるこっちもうれしくなって、笑顔になる。

「こないだまであんなに小さかったのになぁ」
「そうそう、よく梨華ちゃんと二人でうちの前通ってたじゃない」
「おじちゃん、二人が可愛くて、よくミカンやリンゴをあげてたからなぁ」

おじちゃんが照れ笑いしてると、おばちゃんが笑いながら脇腹をこづいた。

146 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)21時44分53秒

「ほんと…。ごめんねぇ、ひとみちゃん」
「ううん、そんなことないです。うち、うれしかったし」
「あ、梨華ちゃん引っ越したのよねぇ…、4,5年前ぐらいになるのかねぇ」
「そうなんですか?やっぱり…。うち知らなくて、今梨華ちゃんの家に行って来たらそんな感じで。
 引っ越し先とかって聞いてます?」
「んーと、ちょっと待ってね。確か…」

おばちゃんはそう言い残すと店の奥へ入っていった。

「ひとみちゃん、久しぶりに訪ねてきてくれたんだ。これ持って帰んな」

おじちゃんはそう言うと、イチゴを一箱袋に入れて、うちに渡してくれた。

147 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)21時49分17秒

「え!?悪いよ、おじちゃん」
「いいから持って帰んな。これから梨華ちゃんちに行くんだろ?持って行きな」
「で、でも…」
「いいのいいの、もらってあげて。この人あげたいのよ、二人に」

そう言いながら、おばちゃんは奥から戻ってきた。

「はい、これ。ここから二つ向こうに行った駅がこの住所に近いから」
「ありがとう、おじちゃん、おばちゃん」


「「気をつけて行ってくるんだよ」」

小さい頃、聞き慣れた優しい言葉。
袋から伝わる重みが二人の気持ちをひしひしと伝えてきて、うちの足を一歩一歩前へと進ませてくれる。
二人は見えなくなるまで、うちを見送ってくれた。
そしてうちも見えなくなるまで、二人に手を振り続けた。

148 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)21時53分04秒

うちはおばちゃんに言われたとおり、2つ向こうの駅で電車を降り、メモに書き記されている住所を探した。

初めて来る町。
知らない町のせいか、うちの回りを流れる風が少し冷たい。
空は青くそのままなのに…。
自分一人だけが取り残されているみたいな気がした。


この町に梨華ちゃんがいる、その気持ちだけがうちの気持ちを支えてる。


早く会いたい。


気持ちばかりが先を急いで、思うように探せない。
袋を片手に、もう一つの手にはコートを掛けてメモをしっかり握り、辺りを見回す。
うまく探せない自分に腹が立ってくる。


でも、ここで諦めるわけにはいかないんだ。
家を出るときに決めてきたから…。
梨華ちゃんに会うんだ。

149 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)21時55分28秒

どれくらい歩いただろう。
コンビニぐらいあるかな…、なんて考えは甘かったみたい。
どこを見回しても住宅街ばっかり。
駅前に一軒あったぐらいで、歩いてここまで来たけど、あれっきり見ないし。
もう、あの距離を戻る気にもなんないし…。

はぁ…。


あ、交番めっけ。

一本道挟んだ向こう側だったけど、うちは一直線に向かっていく。


ラッキーじゃん。これで、もう迷わなくていいぞ。
なんか田舎の交番って何か暗そうね…。
ま、声掛けたら、奥からお巡りさん出てくるんだろうけど。


150 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)21時58分50秒


って、鍵かかってる?

うちはドアを何度か引いてみたが、そのドアは開こうとしない。
ドアの中の机の上に目がいく。

『ただいまパトロール中です。何かありましたら…』


何かありましたら…って、あったらどうするんだよっ。
現にうちが「何か」あるっちゅーのっ。


電話番号書いてあるけど掛ける気にはならなくて、うちはドアから手を離した。
諦めて地道に梨華ちゃんの家を探そう、そう思ってうしろを振り向いたら、目の前にお巡りさんが立っていた。


ありゃ!?うちって、ラッキーじゃん。


「何かご用ですか?」
「あ、用あります。この住所なんですけどね」


151 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)22時01分45秒


お巡りさん、いい人だったぁ。
ちょっと離れてたんだけど詳しく教えてくれたし、それに地図まで書いてくれて。
うれしくて足取りも軽くなってくる。

いろんなこと、梨華ちゃんに話さなきゃ。
今日あったこと、昨日あったこと、いままでのこと。


いっぱい話して二人で笑うんだ。


お巡りさんの地図通りに道を進んでいくと、長い坂の下に出た。
この坂の途中に梨華ちゃんの家がある。

152 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)22時05分38秒



梨華ちゃん、うちを覚えていてくれてる?



あの頃のようにうちに笑いかけてくれるだろうか?





変わらないまま、優しい視線で見つめてくれる?





うちと一緒に笑い合ってくれる?




うちは大きく深呼吸をして、坂を一歩一歩登っていく。
鼓動も胸の高鳴りもだんだん大きくなっていく。
緊張も極度に達してるのか、うちの指は冷たくなってる。
全身に指の冷たさが伝わっていく。



うちは梨華ちゃんのことが…。




153 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月16日(土)22時08分54秒


「ひとみちゃん!?ひとみちゃんじゃない?」

後ろの懐かしい声に振り向く。

「ほら、やっぱりひとみちゃんだ」
「お姉ちゃんっ!」

梨華ちゃんのお姉ちゃんが目の前に立っていた。
お姉ちゃんは乗っていた自転車から降りて、笑いかけてくれた。
その笑顔は梨華ちゃんの笑顔に似ていて、うちの緊張を解してくれる。

「久しぶりだね、元気そうで良かった…」
「お姉ちゃんこそ」
「もしかして、うちを訪ねてきてくれたの?」
「うん。梨華ちゃんは?梨華ちゃんは元気にしてるの?」

うちは自分の気持ちが押さえきれず、梨華ちゃんのことを聞いた。

「じゃ、うちに行こうか」

お姉ちゃんはそう言うと、うちの手を引いて家まで連れて行ってくれた。


154 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月16日(土)22時19分17秒
>>141-153

更新しました。
155 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月16日(土)22時22分21秒
不審者ハケーン(爆)。逝ってきます…。


>136 とみこ様。
レス有難うございます。
吉は思いを寄せてるばっかりですねぇ(^^;;。つか、自分が悪いんですけどね。
試験、思ったより簡単だったり(笑)。


>137 じじ様。
レス有難うございます。
自分も吉にエールを送りたい、本音です(爆)。
遊びに行かせております、宜しかったら一緒に遊んでやってください(謎。w


>138 ごーまるいち様。
レス有難うございます。
そう言っていただけるとうれしいです。でも、難しいですね、書くことは。
いろいろな読み手の方がいらっしゃいますし。がんがります。
受からないと、埼玉が…(^^;;。


>139-140 よすこ大好き読者様。
レス有難うございます。
そう思ってくださるのがいつまで続くのか…(^^;;。ほんと進むのが遅い、自分でも腹立ってきます。
なんせまだ、3日しか経って無いという恐ろしさ。申し訳。
age、sage気にしてませんので、おっけ〜牧場。ってことで(笑)。

156 名前:どっかの人 投稿日:2002年03月16日(土)22時45分49秒
夜叉さまのを読んでると和むのです。
タイムマシーンで過去に戻ったような感じがして…(謎

再会しそうな予感。。。
小説もメール欄も楽しみに待っています。
157 名前:名無しベーグル。 投稿日:2002年03月16日(土)23時34分21秒
やっとやっと、梨華ちゃんに会えるのですね。
吉と同様、ドキドキしながら見守ってます♪
158 名前:婆金 投稿日:2002年03月17日(日)00時07分56秒
続き、めちゃくちゃ気になります。
マターリがんがって下さい!
159 名前:とみこ 投稿日:2002年03月17日(日)09時39分42秒
姉ちゃんの反応からして、梨華ちゃんに何かありそう??
なくてもあっても吉。とってもこの小説大好きです!!
160 名前:じじ 投稿日:2002年03月17日(日)13時25分58秒
>姉ちゃんの反応からして、梨華ちゃんに何かありそう??
私もそんな予感…。
あれとかあれは嫌です(謎
161 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月17日(日)23時43分37秒
あぁはたしてどんな石川さんが出てきますやら…
吉澤さんがぼっけえ笑顔でいれますように。。。
162 名前:ごーまるいち 投稿日:2002年03月19日(火)20時26分06秒
ああ…、やっと二人は会えるんですね。
ぶち期待してお待ちしております(^^)
163 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月20日(水)05時56分41秒
うーん!!ドキドキしますね。
マターリマターリ待っていますよ。(^^
石のおねーさんは、やっぱ石に似てるのかなー?なんて・・・・・
164 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時27分34秒


「お母さん、ひとみちゃんが来てくれたよ」

玄関先に自転車を置きながら、家の中に向かって話してる。
うちは家の周りをキョロキョロ見回して、梨華ちゃんの姿を探していた。


いきなり来ちゃったから出かけてるのかな?
おばちゃんしかいないみたいだし…。


玄関からおばちゃんが出てきてくれた。

「おばちゃん、こんにちは」
「ひとみちゃん、いらっしゃい!ほんとに久しぶりよねぇ…、ひとみちゃんが引っ越したとき以来かしら…。
 ささ、家に上がって。ちょっと散らかってるけど」
「じゃ遠慮なく上がりますね。お邪魔しまーぁす」

うちの記憶してる梨華ちゃんの家とは全く違い、純和風な家だった。
ずいぶん違いすぎているので、なぜか勝手が悪い。
よく分からないけど、そう思った。

165 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時30分02秒

「おばちゃん、これ」

うちは袋の中からイチゴを取りだし、おばちゃんに渡した。

「あらっ、何か気を使わせたみたいで…」
「ううん、食べてください。八百屋のおじちゃんが持たせてくれたんだ」
「じゃ、遠慮なく。おじさん、おばさん元気にしてた?」
「めっちゃ元気でしたよ。でも変わってなくて」

おばちゃんはイチゴを持っていき、うちは和室に通された。

「ひとみちゃん。お昼食べた?」

そう言えば、うちお昼ご飯食べてない。
探すのが精一杯でそんなこと忘れてた、それどころでもなかったし。
うちの体は正直にお腹を鳴らした。

「食べてないんでしょ?せっかく来てくれたんだから食べていってね」

おばちゃんはにっこり笑い、台所の方に向かっていった。

166 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時31分54秒

なんて現金な奴なんだ、うちの腹は…。
恥ずかしいよな…、訪ねてきたのにご飯よばれるなんて。

でもこの部屋、なんだか落ち着くなぁ。
部屋の中にたくさんの光が入ってくるからすごく気持ちいい。


縁側にある優しい光に惹かれるまま足を運ぶ。
庭には小さな桜の木が何本か植えてあり、小さいなりに自分の存在を教えるかのように力一杯咲いていた。
高台の途中にある梨華ちゃんの家は、うちが歩いてきたであろう町を見渡すことが出来る。


梨華ちゃんはここに住んでるんだ。


風がゆるりと流れ、桜の香りをうちへと運ぶ。
この桜の香り、約束した桜の匂いに似てるんだ。
だから、気持ちが落ち着くのかな…。
そう思うと、胸の中が一杯になる。

167 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時33分43秒

「ひとみちゃん、お待たせ」

不意に自分の名前を呼ばれて我に返る。

「あ、ごめんなさい。勝手に庭に出ちゃって…」
「いいのよ。 あ、冷めないうちに食べてね、遠慮しなくていいから」

おばちゃんはそう言うと、机の上にオムライスの皿を置いた。

「覚えててくれたんですか?うちが好きだったの」
「うん、忘れるわけないじゃない。『おばちゃんの作るオムライス、おいしいよ』って言ってくれたこと覚えてるから」
「そうそう、うちが遊びに行くといつもオムライスで」

部屋の中に入ってきたうちに笑顔で応えてくれるおばちゃん。
懐かしいあの頃の自分。
たわいもない思い出でもうちの中ではそれが一番の思い出だから。

そして、いつも傍に梨華ちゃんがいた。


168 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時36分14秒


オムライスを食べ終えたうちは、また桜を見つめていた。

「あの桜、きれいですね。小さいのに一生懸命咲いて」
「あ、あの桜ね。あの子が亡くなってから庭に植えたの」


え…?



「亡くなってからって、誰が…?」



「誰って、梨華が…」


自分の回りの時間がスローで流れているみたいに思えた。
おばちゃんの言葉はうちに重くのし掛かってくる。






「   ひとみちゃん?ひとみちゃん!!」






169 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時37分30秒






自分の中で何かがゆっくり崩れていく音がした。
頭だけは意識があって、体中の力が一瞬に抜けていくのが分かる。





170 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時39分05秒



「なんで…、なんで…」

残り少ない力を声にした。
うちはそこに座ってるので精一杯だった。

「ひとみちゃん、知らなかったのね…。てっきりそれで訪ねてきてくれたんだと思ってたから、ごめんね…」

膝の上の握り拳をさらに強く力が入る。

「どうして!?どうして梨華ちゃんが…」

おばちゃんは目を伏せて、一つ呼吸を置いた。

「5年前、こっちに引っ越してきてからすぐの頃、梨華、部活の途中で倒れたの。
 病院にすぐ運ばれたんだけど、梨華の体は血液の癌に侵されてて末期だって宣告されたわ」


梨華ちゃんが癌だったなんて、そんな…。


まだ信じれない、信じることが出来ない。
梨華ちゃんはあんなにはしゃいで、笑って、見つめてくれて…。

171 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時42分53秒

おばちゃんは立ち上がり、縁側の方に向いて歩いていった。

「梨華、部活の試合前だったから頑張ってて、私たちにも心配掛けたくなかったみたいで。
 あの子自身、自分の置かれている状況に自覚症状がなくて、「頭が痛い」とか「熱がある」ぐらいとしか思ってなかったらしいの」


縁側に座り、小さな桜を見つめながら、おばちゃんは話を続ける。
庭の温かな光が眩しすぎて、うちは目を瞑った。


「梨華の病気は、慢性のもので自覚症状がなくて健康そのものに思えるから見つけにくいらしくって、発見できなかったの。梨華が倒れてからその病気だと分かって。
 慢性の物がそうなってしまったら、治ることは急性の物より困難で、梨華の体はもって半年、いつ容態が急変してもおかしくないって先生に言われたわ…。

 助かる方法はただ一つ、あの子に適合するドナーを捜すこと。そして骨髄移植をすること。
 私たちは死にもの狂いでドナーを捜したわ。でも、そんな私たちをあざ笑うかのように、あの子の体は病気に蝕まれていった…」

172 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時43分50秒



うちはあまりのことに言葉を失った。
頭の中は「言葉」という物の影も形も無くなっていた。

溢れ来る何かがうちの胸の中を締め上げてく。



173 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時44分48秒


「あの子一人に辛い思いさせたくなくて、病気のことは黙っておいたの。
 けれど、病室のベットの上で何本もの点滴を打たれたまま、『お母さん、私の病気って…』って何度となく聞いてきたわ。
 その度に答えることが出来なくて、梨華の病気に気が付いてやれなかった自分が憎くてたまらなかった…。

 だけど、梨華も自分の体の異変に気づかないほど鈍感ではなかった。次第に聞いてくることもなくなって、あの子は変わりゆく自分の体を見つめてた。
 少しずつ思うようにならなくなる梨華の体は、冷たく固くなっていく…。あの子は感覚の無くなりそうになるその部位を何度も動かそうとして、懸命に自分の体を自分の意志で動かそうとしてた。

 その姿を見て、私たちが諦めるわけにはいかないと思ってそれ以上日中夜走り回った。
 でも、人間がこんなにたくさんいるのに、あの子に適合する骨髄が見つかることが無く、時間だけが無意味に過ぎていくだけ。
 疲れ果てた体で病室に向かう日々が続いたわ。でも、いつも梨華は笑って私たちを迎えてくれた。感覚のない体を無理にこちらに向けようとしながら、必死に…」

174 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時46分38秒

「ある時、梨華が『お父さん、お母さん、もういいよ』って笑ったの。その笑顔、今でも覚えてるの、真っ直ぐでまぶしかった梨華の笑顔。


 梨華は分かってたの、自分はもう助からないって。


 自分が入院してるのに、いつも人のことばっかり気にして…、最後の最後まで…。
 よく頑張って我慢したと思うの、梨華は」




おばちゃんは縁側を離れ、うちの傍に来ると、うちの手を握りしめた。
その目には大きな涙を浮かべ、今にもこぼれそうだった。
うちは何も言うことが出来ずに、ただおばちゃんの手を強く握り返すことしかできなかった。



うちの手に一つの雫が落ちる。
それは温かく、そして大きく広がって滑り落ちていく。



175 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時47分51秒

「ひとみちゃん、梨華は最後にあなたのことを話していたの。手紙をくれてたのに返事を書くことが出来ずにいたって。
 あなたに合わす顔がないって…。そう言って、笑ったような困ったような顔で泣いていたの。




 梨華はそう言いながら、この世を去ったの」




176 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時48分57秒


うちの視界の縁は大きく歪み、前が見えない。
声を上げることも出来ず、ただ俯いていた。

何が起こったのか、何があったのか、今、自分に何が起こっているのか、分からずにいた。
おばちゃんの言っていることが事実かどうかも分からないほどに。
駆けめぐるのは、梨華ちゃんのことばかり。



なぜ…


どうして…


なんで…



そんな言葉が浮かんでは消えていく、そしてまた繰り返す。
鼓動は、うちとは別の生き物みたいに早く強く打ち付け、全身が脈を打っているような感覚に襲われる。
よく分からないものがうちの中をぐるぐる回り続ける。
うちは混ざり合う渦の中で気分が悪くなっていた。


177 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時50分28秒















178 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時51分25秒




いつの間にか、うちはおばちゃんの腕の中にいた。


その温かさは梨華ちゃんに似ていて、でもどこか違っていて…。




179 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時52分58秒



「ひとみちゃん、あの子にお線香を上げてやってくれる?」

その声はどことなく震えてたけど、温かく優しかった。
うちは無言で頷き、大きく息を吸った。
歩くたびに畳のかすれる音が部屋の中を小さく響いた。

仏壇には梨華ちゃんの笑顔。
あの頃と全く変わること無い、懐かしくて愛しい笑顔。


梨華ちゃんはここで色あせることなく、ずっと微笑んでいるの…?


ずっと見つめながら、うちは梨華ちゃんに問いかける。


無言のまま、お線香を上げ、ぼんやりと梨華ちゃんを見つめる。
傍らに見えるのは、うちの持ってきたイチゴと茶色がかった一枚の葉書。
うちは葉書を手に取り、懐かしい梨華ちゃんの字を確かめた。

あの時、一緒に書いた葉書。
梨華ちゃんが何を書いたのか知りたくて、何度も見せてってせがんだよね。
でも、「内緒」って言って、うちには見せてくれなかった。
無理矢理取って見てやろうとしたうちの手を振り払って、大事に胸に抱えたまま。

もういいよね、梨華ちゃん…。


180 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
( `.∀´)ダメよ
181 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時57分09秒


石川梨華様。


このはがきがあなたに届く頃には、多分大人になってると思います。

その頃の私は何をしてるのかな?

いろんなものになりたいって思ってるけど、一つでも叶っているのかな?
よくばりだから、全部は無理だろうけど…。



ずっと二人は一緒にいますか?



  10年後の石川梨華へ。


 10年前の石川梨華より。


    PS.ひとみちゃんと必ず一緒に桜の木の下の宝箱を見つけに行ってね。



182 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時58分34秒





梨華ちゃん、うちは約束を守りにここまで来たよ。
でも…、でも梨華ちゃんがいないんじゃあ…。





183 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)18時59分44秒
>>164-182

更新しました。
184 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月20日(水)19時09分24秒
それからどーした、って言いたい気分(^^;;。


>156 どっかの人様。
レス有難うございます。そう言っていただけるとうれしいです、めざせ和み圭(爆)。
じゃ、今度はタイムマシーンでもお送りします(笑)。


>157 名無しベーグル様。
レス有難うございます。
自分もドキドキしながら、更新しております(笑)。

そう言えば、そうでしたよね。もう(ピー)歳ですもんね、彼女も(謎。w


>158 婆金様。
レス有難うございます。
そろそろマターリというわけにはいかないんですよほ。。終わりが近いし(爆)。
がんがりまっす。


>159 とみこ様。
レス有難うございます。
難無く無くありすぎます(爆)。←日本語おかしいっす(笑)。
告白は自分の胸に納めておきます(笑)、有難うございます。

185 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月20日(水)19時10分39秒

>160 じじ様。
レス有難うございます。
自分もそんな気がします…(^^;;、あんなことやこんなことが…。
(ピー)が(ピー)ということで(謎。w


>161 名無し読者様。
レス有難うございます。
自分も(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブルな感じで(爆)。


>162 ごーまるいち様。
レス有難うございます。
一人勝手にごっつし逝かせていただきます(謎。w

メール欄、有難うございます。♪一人じゃないってぇ〜(申し訳。w


>163 よすこ大好き読者様。
レス有難うございます。
自分も崖っぷちに立ってドキドキしております(爆)。
お姉ちゃんネタはASAYANで放送する前に書いていたので、こちらがやられたっていう気分です(笑)。これから(略。
186 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)23時36分42秒


梨華ちゃんの家を出て、どこをどう来たのか分からないけど、気が付いたらうちは駅のホームのベンチに座ってた。


胸の中はぼっかりと穴が空いている。
誰も埋めることの出来ないほどの大きな穴。
梨華ちゃんを失った、という事実はまだ受け止められそうにない。


銀のレールの上を何度も列車が行き交い、うちの前を人が流れては消えていく。


もう何本もの列車を見送ったのかな…。



そんなこともうどうでも良くなるくらい、ずっと座ったまま、ぼんやりと流れを見送っていた。


187 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)23時38分54秒


「ひとみちゃん!!」

声のする方向に集中する。
流れをかき分けてくる梨華ちゃんのお姉ちゃんの姿が見えた。
息を切らせながら、うちの前まで走ってきてくれた。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

声を掛けながら隣のベンチに座らそうとすると、お姉ちゃんは何度も頷き、小さな声でありがとうと言って深く腰掛けた。
お姉ちゃんは呼吸を整えるかのように何度も大きく深呼吸をした。


「ふぅ…、お母さんに聞いたら、ひとみちゃん…帰ったって言うから。…追っかけて来ちゃった」

小さく笑いながら息を整えるお姉ちゃん。
そんな姿を見てうちも小さく笑った。
同時に、お姉ちゃんの向こう側にうっすらと見える梨華ちゃんの笑顔にうちの胸がちくりと痛む。

188 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)23時41分30秒

買ってきたジュースをお姉ちゃんに渡した。

「家から走ってきたの?」
「うん。あ、ありがとう。
 ひとみちゃんに言わなきゃいけないことがあるの」

缶のプルタブを開ける二つの音が回りに響く。
うちはジュースを一口飲み、お姉ちゃんの言葉に耳を傾けた。
お姉ちゃんはよっぽど喉が渇いていたのか、半分くらい飲んだ後、遠くを見つめながら静かに話し始めてくれた。

「私、梨華に頼まれてたことが一つあるの。ひとみちゃんがもし訪ねてきてくれたら伝えてって。
 『約束、守れなくってごめんね』って」

やりきれない思いが無意味に持っている缶を回す。


「梨華は亡くなる前、一時退院したの。でもその時に亡くなったから、一時じゃないか…。
 あ、ごめん、話が逸れちゃったね」

お姉ちゃんはジュースを一口飲み、一呼吸おいた。


189 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)23時43分01秒



「あの子、その時に私と一緒に桜の木の下に行ったの」


えっ…。


「ひとみちゃんには悪いと思ってるの。
 でもあの子がどうしても行きたいって聞かなかった。梨華一人じゃ歩くことも出来ないし、二人で木の下に…。
 あの子、必死になって木の下を捜したんだよ、二人の宝箱を」

「そんなこと…、そんなことないですよ。でも、梨華ちゃんは何で宝箱を…」

お姉ちゃんは残りを飲み干し、うちに視線を向けた。


「ひとみちゃん、その中には二人の思い出が詰まってるんだよね?10年経つまで開けない約束で。
 でも、あの子にはもう時間がなかったの…、自分でも分かってて。
 確かめたいことがあるって、あの子は箱を見つけて中を開けたわ。
 
 
 許してやって欲しいの、約束を破ったこと、そして梨華のことを…」



190 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)23時46分52秒



「許すも何も…、うちは、うちは…」

お姉ちゃんの顔が見れなくなり、俯いて飲み干した缶を強く握りしめた。
次第にその力が強くなっていくのが自分でも分かる。


「中にあったひとみちゃんからの手紙を読んで泣いてたわ。何度も何度も読み返しては泣いて…」


ベンチに座っているうちらの前を貨物列車が通り過ぎていく。
大きく音を立てながら。

うちの胸は大きく締め付けられ、苦しさに耐えきれず、大きな音と共に消え去りそうになる。


191 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)23時49分08秒



「梨華は箱の中にあったひとみちゃんからの手紙と赤いビー玉を手に持って帰ったの。無くさないように、落とさないように、両手で持って。
 亡くなるまで、亡くなっても、あの子は手紙とビー玉を離そうとしなかった。



 ひとみちゃん、箱の中には梨華の気持ちが入ってるの。だから、ひとみちゃんに箱を見つけて欲しい。




 梨華を見つけてやって欲しいの…」



192 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)23時50分52秒


缶を握っていた手にお姉ちゃんの手が添えられた。
その温かさに呼び起こされたように、全身に熱が帯びていく。

うちはお姉ちゃんの視線に視線を合わせる。
お姉ちゃんは涙をこぼしながら笑って手を強く握ってくれた。


ぽっかり空いていた大きな穴に温かい泉がわき上がる。
少しずつ少しずつ…。


うちの頬に熱くこみ上げていたものが雫となってつたっていくのが分かる。
それは止まろうとせず、いつまでも渇くことを知らない。
うちは大きく頷き、くしゃくしゃの顔のまま微笑み返した。


もう、お姉ちゃんの笑顔から梨華ちゃんの姿は見えなかった。


193 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)23時52分35秒


それからうちはお姉ちゃんと別れて、電車に飛び乗った。
ドア越しに立ったまま、駅に着くのを待つ。
2つ向こうの駅だというのに、窓を流れる風景が遅く感じる。

自分に重くのし掛かる重圧から逃げようと、ため息をつく。
少しでも気持ちが落ち着くように、と願いながら。



お姉ちゃんの言葉が浮かんでは消える。



『梨華を見つけてやって欲しいの…』



梨華ちゃんを見つける…。




『ひとみちゃん、箱の中には梨華の気持ちが入ってるの』



梨華ちゃんの気持ち…。



194 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月20日(水)23時54分09秒

電車はうちの気持ちと同じように左右に振れ、カーブに差し掛かる。
もう少ししたら駅に着く。
ドアに寄りかかりながら天井を見上げた。


うちに出来ることはただ一つ。
梨華ちゃんを…、梨華ちゃんを見つけてあげること。
もう、それしか残ってないんだ。
うちに出来ることは…。


ドアは大きく息を吐きながら、ゆっくり開く。
うちの足は駆け出す。
迷いもなく、真っ直ぐに。

あの桜の木を目指して。


195 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月21日(木)00時03分38秒
>>186-194

更新しました。
196 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年03月21日(木)00時51分24秒
大量交信お疲れ様です。
まさか・・・・・・・。いや、そんなことは無い!と、
信じたくなかった展開になっていたのですが・・・・・そうなっちゃたのですね。
泣いちゃいました。梨華ちゃんを早く、吉見つけてあげて!
がんがってください。
197 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月21日(木)02時04分44秒
う゛ー・・・
ひさしぶりに来てみれば大量に交信してあり読んだら…
泣きながら読んでしまいました(泣
よっすぃー!梨華っちを見つけてあげてくれぇええ
198 名前:じじ 投稿日:2002年03月21日(木)05時48分36秒
そうきましたか…
ショックで私も寝込みます。
よしこがんがれ!
199 名前:とみこ 投稿日:2002年03月21日(木)10時05分54秒
超大量更新お疲れ様です。
なんだか、文の書き方とかがすごくいいです。
あぁ、こういう書き方があるんだなぁって見習いました^^
200 名前:名無しバイク 投稿日:2002年03月21日(木)15時01分05秒
(T▽T)<・・・

ヒサブリに覗いたらこんな展開に。
吉澤!絶対見つけるんだぞ!!。
201 名前:たひち 投稿日:2002年03月21日(木)15時06分32秒
もう、なんだか号泣です!
よしこ〜(T▽T)

小説書いている方とは露知らず・・・
だいぶ出遅れてしまいました。
すごく続き楽しみにしてます。
頑張って下さい!
202 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月21日(木)15時21分10秒
が〜ん…こんな事になっちゃうとは…
吉澤さんにとってつらい瞬間になっちゃいましたね。
石川さんの想い胸に秘めてがんばって。

いなくなった人にあやまられるのはとっても切ないね…。
203 名前:理科。 投稿日:2002年03月21日(木)20時25分31秒
…夜叉さん。
梨華ちゃんは…
梨華ちゃんは…。
あぅ…。
画面がよく見えないのですが、私のPCまた
壊れちゃったのかなぁ。
描写が凄いリアルで、しかも引きこまれてしまいます…。
私も見習いたい。長くなっちゃってゴメンなさい。
204 名前:ごーまるいち 投稿日:2002年03月21日(木)21時25分07秒
涙が止まりません………。
理科。さんの仰るとおり、描写の巧みさに、
読んだ瞬間、肌が粟立ってしまいました。
梨華ちゃんを早く見つけてくれ、吉!(涙)
205 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時37分16秒


ずっと走ってきた、流れる風景に目も来れず。
足を休めることなく、無心になって走り続けた。

引っ越すときに見つけた小さな影に向かって走ってるみたいに。


何ら気持ちに変わりはない。
流れた時間と取り巻く状況は大きく変わってしまったけれど。



梨華ちゃんを探しに行くんだ。



あの時駆け上がったのと同じ道を駆け上がる。
もう夕暮れが近く、視界に大きく広がる空は薄いオレンジの色だった。


206 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時38分39秒


10年ぶりに見る桜はあの頃より一回り大きくなって、うちを迎え入れてくれた。
枝木の間から見えていた空は花に埋め尽くされ、花はあの頃よりも桜色を強めている。


どこに埋めたんだろう…。


うちの頭は肝心なことを思い出してなかった。
仕方なく、木の根元をくまなく探していくことにした。


10年でどれだけ土が変わるなんてうちには分かんないよ。
でも、それは梨華ちゃんも一緒で…。
梨華ちゃんはどうやって探したんだろう。
あ、一度掘り起こしてるから5年か…。


207 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時40分29秒


「うわっ…」

木の根が大きく出ているから注意しないと、と思っている矢先に木の根に引っかかった。


気をつけながら歩いてるはずなのにつまずくなんて、結構、うち鈍くさいのかな…。


何気にその根の方を見ると、それは根ではなく、そこには土が盛り上がっていた。
不自然に盛り上がってる土。
どう見てもそれは怪しい、そう思ったうちはそこを掘り起こすことにした。

表面は固かったけど、掘り起こしていくと中の土は軟らかい。
手で何度も土をかき分けては、土を穴から取り除いていく。


そんな作業を繰り返していると、30cmほどの深さのところで、指先に土とは違う固いものが当たった。


これかな…。

うちは掘り起こすスピードを速めた。
それが宝箱と信じて…。



208 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時42分37秒




次第に形が現れてきた、茶色の箱が顔を出している。


これだ!


回りの土を取り除き、箱を穴から取り出した。
うちは静かにその箱を地面に置き、回りについている土を丁寧にはらう。

ちょっと古ぼけた茶色の箱。
この中に梨華ちゃんの気持ちが入ってる、そう思うと指が震えてくる。


209 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時44分09秒


空は夕焼けの色を濃くしてきた。
でも、うちの回りを流れる空気はまだ温かく、桜の花びらを優しく降らす。

うちは大きく深呼吸をして箱の蓋に手を掛けたが、一瞬躊躇った。


正直、開けることが少し怖かった。
うちは、10年経ったうちはこの箱を開ける権利、梨華ちゃんの気持ちを知る権利があるのかと。

だけど、うちは梨華ちゃんの気持ちが知りたい。
そう強く思う。
どんなに離れていても、どんなに時が経ってしまっても。
うちの胸の中に梨華ちゃんがいる限り。


そっと蓋を開けた。
小さい箱の中から10年前のあの時の気持ちが溢れ出してくる。
抱えきれないほどのいろんな思い出も一緒に。
懐かしい気持ちと梨華ちゃんへの思いが混ざり合い、うちの心を震わす。

箱の中には、うち宛ての梨華ちゃんからの手紙が入ってた。
うちは手紙を中から取り出して、震える手で手紙の封を開けた。


210 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時45分24秒



吉澤ひとみ様。

いつも一緒に遊んでくれてありがとう。
ずっとひとみちゃんの後ろを付いて行っててごめんね。
ひとみちゃんと一緒にいると、すごく楽しいの。


ずっと黙ってたことなんだけど、私、石川梨華は吉澤ひとみさんのことが好きです。


大人になってこんなこと言われても困るよね?
でも、私の気持ちは変わってないと思うの。
ずっと、ひとみちゃんのことが好き。


 石川梨華より。



211 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時46分45秒



白い小さな便箋には短くそう書かれていた。
うちはその文字を指でなぞりながら、梨華ちゃんに触れようとした。




梨華ちゃん…。




唇を強くかんで、こみ上げてくるものを押さえ込もうとした。
けれど、歯止めが利きそうにない。
うちは手紙を握りしめたまま、膝を抱えて泣いた。



静かに、声も上げることも出来なくなるまで泣いた。




212 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時48分09秒



どれくらいこうしていたのだろう…。
うちの回りを夕暮れの冷たさが包み始め、薄紫色の空が広がっている。

もう太陽は沈んでしまっていた。
流れる風も少しずつ強く、冷たさが増す。
うちは膝を抱えたまま、目の前に振る花びらをぼんやりと眺めていた。
このまま、花びらに埋もれてしまいたい、そう思った。


うちの視線の中に宝箱が入ってくる。
箱の中に沢山の花びらが降り積もり、花びらが敷き詰められているように見えた。


あれ…?

積もり方がおかしいのに気が付いたうちは、中の花びらを取り除く。
すると、端の方に見覚えのない瓶が入っていた。
瓶はコルク栓がされていて、中には手紙と思われる紙と桜の花が一つ入っていた。

うちは瓶を手に桜の木の下を離れた。
瓶の中から手紙を取り出すと、中からほのかに桜の香りがした。
手紙はメモ帳を破ったような紙だった。


213 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時53分31秒



吉澤ひとみ様。

ひとみちゃん、元気にしてますか?
多分、ひとみちゃんがこの手紙を読む頃には、私はもうこの世にいないと思うの…。
だから伝えたいことをこれに書いて置いていきます。

ごめんね、先に一人で箱を開けちゃった。
二人で一緒にここへ来て開ける約束してたのに、その約束を私は破りました。
そして、ひとみちゃんからの手紙を読ませてもらいました。
ひとみちゃん、ありがとう。ひとみちゃんの気持ち、とってもうれしかった。

私、ひとみちゃんの気持ちに答えたかった。
気持ち、あの頃から変わってないよ、ひとみちゃんのこと、大好きだもん。
ほんとは二人で箱を開ける時にひとみちゃんの目の前で答えたかった…。
だけど、私にはもう時間がないの…。ひとみちゃんに一目会いたかった。


214 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時55分20秒


約束通り、赤いビー玉とひとみちゃんからの手紙をもらっていきます。
ほんとは自分で手紙書きたかったんだけど、もう自分で字を書くことも出来ないから、お姉ちゃんに代筆をお願いしました。



私がひとみちゃんと同じ気持ちでいられたこと、本当にうれしかったです。
ひとみちゃんの笑顔、大好きだよ。いつも笑っていてね。


 石川梨華より。



215 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時56分38秒







強く吹き始めていた風が止む。
そして、うちの回りを柔らかく優しい風が包んでいく。







216 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時57分43秒





梨華ちゃんっ!!



その気配に思わず顔を上げた。
うちは急いで辺りを見回したが、梨華ちゃんの姿はなかった。
確かに梨華ちゃんだった。そう直感で感じた。

手紙と瓶を手に、桜の木に寄りかかって座る。
座って見えた風景はあの頃と同じ風景で、うちにはそれがつらかった。


217 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)00時58分50秒



もう、梨華ちゃんはどこにもいない。
この手紙読んだら認めざるをえないよね…、でも、うちは認めたくない。


強がれば強がるほど自分の胸を締めつけた。
胸の痛みは涙となって、うちの頬をつたって地面へと吸い込まれいく。


梨華ちゃんに言いたいこと、まだまだたくさんあるのに…。
今日あったこと、あの頃の思い出、うちは梨華ちゃんのことが好きだってこと。
言い出したらきりがないくらい、次から次へとあふれ出てくるのに。
梨華ちゃんがいないんじゃあ、どうやって伝えたらいいの…。



誰か教えてよ…、行き場を無くしたこの思いをどうしろって言うんだよ…。




218 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月22日(金)01時07分10秒
>>205-217

更新しました。
219 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月22日(金)01時10分05秒
あと数回でこのお話も終わりです。宜しかったら最後までお付き合い願います。


>196 よすこ大好き読者様。
レス有難うございます。
予想通りの展開となってしまいました…、どうにかして裏切りたかったのですが…。力不足でした(ゴフ)。

お仕事大変そうなんで、体調の方が心配です。こちらもがんがりますので、無理のない程度にがんがってください。


>197 名無し読者様。
レス有難うございます。
がんがってみたのですが、吉の頑張りもこれからです。温かく見守ってやってください。
力不足なところはお許し下さい(泣)。


>198 じじ様。
レス有難うございます。
寝込んでしまったのですか?そんなじじ様には…

     @ノノヽヽヽ@
     ( `.∀´) < 元気出しなさいよ、私がいるじゃない。
     ( O┬O
   ◎-ヽJ┴◎ キコキコ               逝ってきます…(誤爆。

220 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月22日(金)01時12分17秒

>199 とみこ様。
レス有難うございます。
がんがってみましたが、がんがりすぎて管理人様のお世話になりました(^^;;。
いえいえ、こちらが見習うばかりです。


>200 名無しバイク様。
レス有難うございます、そして、200おめ(笑)。
吉の頑張りもこれから、自分の方もこれから…(^^;;。温かく見守ってください。


>201 たひち様。
レス有難うございます。あちらではお世話になっております。
いえいえ、出遅れてなんかいませんよ、まだまだこれからです(爆)。
ご期待に添えられるよう、がんがります。


>202 名無し読者様。
レス有難うございます。
書いてる自分も辛いです、自分でも根が暗いんちゃうんかと思ったり(^^;;。
吉にはがんがってもらうつもりです、これから。

221 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月22日(金)01時14分14秒

>203 理科。様。
レス有難うございます。
PC壊したのなら弁償しますです、でもあまり高いのは…(^^;;。
石のお母さんのとこは、生々しくって自分でもどうしようかと頭を抱えました。
こちらが見習わないといけないこと、たくさんあります。どうぞこれからもよろしくです。


>204 ごーまるいち様。
レス有難うございます。
近所で5箱78円で投げ売りされてたので、こちらにもティッシュを…(笑)。
あの更新のとこ書いてる時、本当にこれでいいのかと自問自答を繰り返しておりました。
期待を裏切るような作品目指して?がんがりまする。
吉共々、温かく見守ってくださいね。じゃないと、お母さんつらくって…。

222 名前:じじ 投稿日:2002年03月22日(金)16時17分47秒
手紙自分でかけないのが切ないですね。
もうそこまで症状が悪化してた時なんて…。
今こそ夢であって欲しいですよ。
223 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)21時49分12秒


うちはなぜか小学校の運動場に立っていた。
校舎寄りの運動場の入り口、たった一人でぼんやり立ちつくしている。
チャイムの音が鳴り響き、後ろの方から音が聞こえてくる。
それはだんだん大きくなって、いろんな人の声となってうちの耳に届く。


「帰ったらいつもの公園でね」
「校門までダッシュ!よーいどん!」
「ひとみちゃん、また明日ね」

うちの隣を通り過ぎていくのは、クラスのみんな。
あの頃のままで、追いかけっこしてる。

「うん、また明日」

反射的にそう答えた。でも、うちの姿は今のまま。
みんなはあの頃のままなのに…。
みんなから見えるうちの姿はあの頃のままなの…?


「じゃあね、また明日」
「待ってよ、走るの速いよーっ!」

不思議な感覚に襲われる。
自分が置かれている状況をいまいち飲み込めていない。


224 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)21時51分13秒


「ひとみちゃーん!!」

みんなの声に混じって、うちを呼ぶ声がする。忘れるはず無い、梨華ちゃんの声だ。
声のする方を振り返ると、梨華ちゃんが手を振りながら走って来てる。


「梨華ちゃん…」

うちはうれしくて涙が出そうになった。それを振り切るように、大きな声で梨華ちゃんの名前を呼んだ。

「梨華ちゃん!」
「ひとみちゃん、そっちで待ってるんだもん。私、ずっと向こうで待ってたんだよ」

梨華ちゃんは微笑みながらうちの手を取って、一緒に歩き出す。
待ち合わせしてたかどうか分からないけど、繋いでいる手から伝わってくる梨華ちゃんの温もりははっきり分かった。

225 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)21時53分17秒


「ごめん…」
「いいの、ひとみちゃんと一緒に帰れるから」

梨華ちゃんはうちの方を向いてニコリと笑うと、繋いでいた手を突然離して走り出した。

「あっ、梨華ちゃ…」
「土手まで競争!」

赤いランドセルを揺らしながら走っていく梨華ちゃん。
梨華ちゃんもあの頃のまま。
どうやら、うちの姿はあの頃のままのように見えてるみたい。


「ひとみちゃん、早くーぅ!」
「うんっ、今行くよ!」

振り返った梨華ちゃんにそう言うと、うちは全力で走り出した。
走り出すと楽しくてワクワクしてきた、あの頃に戻ったみたいで。
横目に流れるいろいろな色の風景をよそに、うちは梨華ちゃんの小さな背中を追いかけた。


あの頃はうちの方が走るの速かったような気がするんだけど…。
梨華ちゃん、こんなに走るの速かったっけ?

うちがどんなに走っても、梨華ちゃんの背中に追いつけない。
梨華ちゃんはもうあの角を曲がってるし。
どうなってんの??トシかしら…。

226 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)21時55分24秒


うちも負けずに角を曲がる。土手はもうそこまで見えてきてる。
梨華ちゃんはもう土手を上り始めてる。
うちも急がなくっちゃ…。

全力で走ってるからそれ以上速く走れるとは思えないけど、気合いを入れてみる。
風が追い風のせいか、うちの体は押されてるみたい。
なんか、速くなったみたいな気がする。


待ってろよー、梨華ちゃん!




227 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)21時58分18秒


土手の上まで来ると、梨華ちゃんは土手を降り始めたばっかりだった。
発見!、とばかりに梨華ちゃんの真横に並んで、にっこりと笑ってみせる。

「…っ、追いついたよっ、梨華ちゃん!」
「あっ、ひとみちゃん。きゃっ…」

梨華ちゃんの上体が崩れる。
危ないと思ったうちは咄嗟に右手で梨華ちゃんの左腕を掴んで、自分の方に寄せる。
梨華ちゃんに怪我をさせるわけにいかない。
あの頃と違って、今のうちには腕力があるから…。


梨華ちゃんの体を庇いながら、土手を滑り落ちていく。
辺りには枯れ草と土埃が舞い上がる。


228 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時00分21秒


舞い上がった埃の中、土手の下でやっと動きは止まった。


腕力がある、なんて思ってても結局はまた二人で転けてるし。
かっこよく抱き留めるなんて出来ないもんだね、下り坂じゃあ…。

「梨華ちゃん、大丈夫?怪我してない?」
「うん…、大丈夫。ひとみちゃんは?」
「うちも大丈夫」


肩と背中を打ったけど、うちは結構平気だった。
でも、平気じゃなかったり…。
咄嗟の判断だったとはいえ、うちの上には梨華ちゃんがいて、腕はランドセルごと梨華ちゃんをしっかり抱きしめているんですが…。

なんだか妙に意識しちゃって、うちは梨華ちゃんの顔を見れずにいた。
横目に見える梨華ちゃんの顔はうちの顔を見てる。
ドキドキしてるから、梨華ちゃんにも聞こえてるよね。

でも、これは夢だってこと分かってるから…。
少しでも梨華ちゃんを見ていたい。
梨華ちゃんに…。

229 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時02分28秒







…夢か。
やっぱり夢だったんだ。


うちはいつの間にか桜の木の下で眠っていた。
寒かったのか自分のコートを掛けて。

起きあがってみると、地面一面に桜の花びらが敷き詰められていた。まるで、うちを包み込むかのように。
辺りは静かに夜明けを待っている、そんな感じに見えた。


230 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時04分42秒


夢だったけど、いやにリアルな夢だったなぁ…。
夢の中でも梨華ちゃんに好きだと伝えることが出来なかった。


うちは自分の唇にそっと触れた。
梨華ちゃんの指の感触を覚えてるかどうか確かめてみたくて。

夢なんかじゃない、そんな気がする。
だってうちの指の感触と違う、違ってる。


231 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時06分28秒






『夢なんかじゃないよ、ひとみちゃん』






232 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時08分17秒




聞き覚えのある声。
忘れるはず無い、愛しい人の声。
その声はうちの寄りかかってる木の後ろから聞こえた。

「梨華ちゃん…?」

怖くて振り返ることができなかった。
あの声が幻だということを認めたくなくて、これがまた夢だということを認めたくなくて。
うちは塞ぎ込んで目を瞑る。



夢なら早く覚めて…!!



233 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時10分19秒



うちの肩に温かいものが触れる。


懐かしい温もり。


うちの頬に涙がつたっていく。
溢れては流れ、流れては落ちて…、止まることを知らない。



これが他の誰だっていうの?
他の誰も思いつかない、あの人以外に誰がいる…?。



234 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時12分19秒




「ひとみちゃん、夢じゃないよ」

肩に触れていた温もりはうちの頬に触れ、頬を流れる雫達を拭ってくれる。
うちは震える手で頬に触れる温もりに触れようとした。
すると、うちの手を包み込むように温もりが触れる。
うちは顔を上げて叫ばずにはいられなかった。

「梨華ちゃん!!」

握られたその手で握り返す。
目の前に見える愛しい人はうちに笑いかけてくれてる。
涙でその姿がぼやけててはっきり見えない。
ぼやけて見えても、その姿は梨華ちゃんに間違いなかった。



「ひとみちゃん…」


今、はっきり見えた。
神様、あなたは見ていたのですね…。





235 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時14分16秒






うちは梨華ちゃんに抱きついて、何度も名前を呼んだ。
今ここにいるのが、梨華ちゃんだということをかみしめながら。






236 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時15分20秒


「ひとみちゃん、いつからこんなに泣き虫になったの?」

梨華ちゃんはうちと抱き合いながら、そんなことを言った。
うちは目をゴシゴシとこすって、強がって見せる。

「そんなことないよ。梨華ちゃんが泣かしてるんじゃないかぁ…」
「ふふっ…、ごめんね」

そう優しく笑われるとこれ以上言えなくなってくる。

うちはただ黙ったまま、梨華ちゃんを抱きしめている。
胸の泉は梨華ちゃんへの思いで溢れかえってく。


梨華ちゃんがここにいる、もうそれだけでいい。


237 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時17分28秒


「ひとみちゃん、ありがとう。ひとみちゃんがあの箱を開けてくれなかったら、私どうしようかと思って…。
 でも、ひとみちゃんは箱を開けてくれた」

うちらは花の間からこぼれる優しい空気に包まれたまま、木に寄り掛かり手を繋いで座ってる。
梨華ちゃんは隣でうれしそうに笑いながらうちを見つめてくれてる。


ここにいるのは16歳の梨華ちゃん。
夢で見た、あの時の梨華ちゃんだった。


「梨華ちゃん、うちの気持ち…」

そう言いかけると梨華ちゃんは無言でうれしそうに頷いて、うちの唇に人差し指を当てる。


「さっきも…」

夢であったと、うちは頬を膨らます。
すると、梨華ちゃんは指を離して、うちの唇にくちづけた。

梨華ちゃんの柔らかな唇が触れているのかと思うと、自然と瞳は閉じていく。


一瞬、時が止まったのではないかと思うくらい、うちにはその時間が永遠の様に思えた。



238 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時18分33秒



そっと唇が離れると、うちの肩に心地よい重みを感じた。


「これが私の気持ち…」

やんわりと瞳を開くと、真っ赤な顔した梨華ちゃんがいた。
うちはそんな梨華ちゃんを最初は柔らかく、そして強く抱きしめた。


「ありがとう、梨華ちゃん」



239 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時20分09秒


やがて、空には鳥が舞い始め、薄紫色に染まっていた。


「そろそろ行かなくっちゃ…」

腕の中の梨華ちゃんはそう呟く。


こんな時間は長くは続かない、そう分かっているけど離したくない。

でも、これが神様が与えてくれた最後のチャンスだったのなら諦めざるをえないのだろう。
心にそう言い聞かすと、うちは腕の力を緩めた。


「ひとみちゃん、最後にもう一度抱きしめて…」

うちにしがみついたまま震えている梨華ちゃん。
梨華ちゃんも同じ気持ちなんだ…。
うちは黙って、梨華ちゃんを強く抱きしめる。

240 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時21分20秒




そして、お互いがちぎれるくらい、強く長く抱き合った。




241 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時24分02秒



「梨華ちゃん、最後に…」

うちは桜の木へと手を伸ばし、柔らかい枝を少し残して花を摘む。
不思議そうにうちを見つめる梨華ちゃんの左手を取り、細い薬指にその花を結んだ。

梨華ちゃんの薬指に小さな桜が咲いた。
桜は花びらを震わせながら、深みのある紅色に染まっていく。

そして、うちは左手の甲に優しくくちづけた。


「はい、指輪。たいしたもんじゃないけど。うちのこと、忘れないで」
「ひとみちゃん…」

梨華ちゃんはそう言ったまま、目を赤くして黙りこんでしまった。

242 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時25分17秒


うちはもう覚悟を決めた。
最後くらいは梨華ちゃんを笑顔で見送りたい。
そう思ったうちは、努めて笑って見せる。


「梨華ちゃん、うちにも欲しいな、指輪」

梨華ちゃんは小さく頷いて、背伸びをしながら花を摘んでくれる。
そして、細い指先でうちの左手の薬指に桜の指輪をくれた。


「ありがとう、梨華ちゃん」
「私のことも忘れないで…。でも、ひとみちゃんに好きな人が出来たら、その人と結婚してもいいから」

梨華ちゃんは泣きながら、うちにおどけて見せた。
うちは梨華ちゃんの両手を取り、梨華ちゃんの瞳を見つめる。

「梨華ちゃん…、梨華ちゃんはうちの一番好きな人だよ」


そう言うと、梨華ちゃんの唇にくちづけた。

何度も、何度も、忘れないように。



243 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時28分30秒


重なっていた唇の感触が離れていく。
一筋の風が枝木を揺らし、花びらが舞い落ちてく。
そっと瞳を開くと、目の前の梨華ちゃんは微笑んでいる。

次第に風は強く吹き始め、それは大きく渦を作りあげていく。


「ひとみちゃん、ありがとう」

梨華ちゃんがそう呟くと、うちらの間に少しずつ距離が生まれていく。
絡めた指先を強く握ろうとする。
それは虚しく、梨華ちゃんの指をすり抜けていく。


これが本当に最後なんだね…。


244 名前:ボトルメール 投稿日:2002年03月22日(金)22時30分08秒


うちは次々に吹き荒れる風に目を瞑りそうになる。
目を瞑っちゃいけない、と必死になって目を開けようとした。


最後まで梨華ちゃんを見つめるんだ。



うちの…、うちだけの梨華ちゃんを…。




今まで感じたことのない強い風が吹く。
枝木は折れるのではないかと思うぐらい大きく音を立てながら撓り、雨の如く、花びらを降らしていく。
地面に敷き詰められていた桜の花びらが小さく舞い上がったかと思うと、それらは梨華ちゃんを優しく包み込む。

次第に梨華ちゃんの体が足下から薄くぼやけていく。
梨華ちゃんはうちに微笑んだまま。


次の瞬間、全ては薄紫色の空へと吸い込まれていった。




245 名前:ボトルメール  〜終章〜 投稿日:2002年03月22日(金)22時32分10秒



物音一つしない丘の上。
さっきの風が夢だったかのように桜の木の下は静まりかえっていた。
音を立てながら撓っていた枝木も、雨のように降っていた花びらも、全てを吸い込んだ薄紫色の空も、なにもかもが黙り込んでいる。

うち一人を置き去りのままで。


夢ではない、そう実感してる。


梨華ちゃんの声。
梨華ちゃんの温もり。
梨華ちゃんの指。
梨華ちゃんの優しさ。
梨華ちゃんの腕の強さ。
梨華ちゃんの唇。

そして、この指輪。

これだけ残ってるんだ、夢なんかじゃないよ…。



246 名前:ボトルメール  〜終章〜 投稿日:2002年03月22日(金)22時33分49秒


空は太陽を迎えるべく、赤みを射して待っている。
もうすぐ夜が明ける。

深呼吸して、胸の中を冷たく澄み切った空気で一杯にする。


うちの気持ちは梨華ちゃんに届いた、…届いてる。
この空の向こうまで。


終わらない愛は、ずっと色あせないまま静かに佇む。
うちの心を温かくして止むことはない。



自分の指にある桜の指輪を見ながら、ふと思った。


あの桜の木の下には、梨華ちゃんとうちの思い出と愛が埋まってる、と。



247 名前:ボトルメール  〜終章〜 投稿日:2002年03月22日(金)22時35分48秒



どんなに時が流れても


ここから見る風景がどんなに変わっても


うちの姿形が変わっても


ここの桜が枯れてしまっても


うちの体が無くなってしまっても




二人の思いはここに残り、そして強く根強いている。




温かな風を感じ、赤み射す空を見上げる。
夜と朝の隙間からかすかに漏れてくる光を浴びながら、うちはそっと桜の木を後にする。


桜は優しく二人を見守ったまま、静かに花びらを降らし続けていくのだろう。
これからもずっと…。

248 名前:ボトルメール  〜終章〜 投稿日:2002年03月22日(金)22時37分45秒



  『ボトルメール』  終



249 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月22日(金)22時44分09秒
>>223-248

更新終了しました。
250 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月22日(金)22時47分05秒
>222 じじ様。
レス有難うございます。
吉も頑張りました、石も頑張りました。
ご期待に添えられるものだったのでしょうか?そればかりが心配で。


251 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月22日(金)22時49分21秒


至らない点、お恥ずかしい点、いろいろあったと思います(終章とか…泣)。
沢山ありすぎて、読者様に目を瞑っていただいていたことが多かったのでは…、と反省しております。
短編と銘打っておきながら、ここまで引っ張ってしまったことも反省材料で。
数々の反省もふまえて、自分の中でいろいろ考えさせられました。

この駄作、駄文に最後までお付き合いしていただけた方、本当に感謝の気持ちで一杯です。
大きな感謝の気持ちと完結する喜びを与えてくださった読者様、ありがとうございました。


合掌。


252 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月22日(金)22時58分15秒

228と229の間が抜けておりました。

下の部分を付け加えます。
253 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月22日(金)23時00分17秒


「ひとみちゃん…」

小さく梨華ちゃんが声を発した。
誘われるように視線を落とすと、梨華ちゃんはうちを上目遣いで見上げてる。
あまりのかわいさに、うちは目が眩みそうになる。


夢でもいい、梨華ちゃんに告白したい。
今ここでしないと、うちは夢でも現実でも後悔してしまう。


「…梨華ちゃん、うちは梨華ちゃんのことが…」

うちがそう言いかけると、梨華ちゃんはそっとうちの唇に細い人差し指を当てて、ニコリと笑った。



254 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月22日(金)23時02分40秒
詰めの甘さに脱力です…(鬱)。
255 名前:理科。 投稿日:2002年03月23日(土)03時46分03秒
朝から号泣です(T△T)…。
やっぱり、情景が素晴らしいですね。脱帽です。
最後に梨華ちゃんに会えて本当に良かったなぁ…って。(グス。
お疲れサマでした。次回作に期待してます。
256 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月23日(土)04時22分39秒
ラストの毅然とした吉澤が印象的です
切ないけど良かった…
257 名前:名無しバイク 投稿日:2002年03月23日(土)11時29分46秒
完結お疲れさまでした。
後半部分からは、目頭を熱くする私がそこにはおりました・・・。
ステキな作品、ありがとうございました。
またどこかでお会いできますよう(^^)
258 名前:じじ 投稿日:2002年03月23日(土)15時21分07秒
お疲れさまでした!
いやぁ…もう…素晴らしかったとしか表現できないです。
感動させていただきました、ありがとうございました。
私も感動も何も残らないエロ書いてる場合じゃないですね。なんか反省しました。
259 名前:どっかの人 投稿日:2002年03月23日(土)16時13分31秒
お疲れ様でした。
ウルっときました…感動です…
こんなに素敵な小説に出会えて本当に嬉しい限りです。
次回作も期待して待ってます。
260 名前:とみこ 投稿日:2002年03月23日(土)17時51分13秒
昼ドラみたいでよかったです。
すっごく感動しました。ぶっちゃけ泣きました。
映画化したいくらいです(^^
261 名前:ごーまるいち 投稿日:2002年03月23日(土)22時15分29秒
完結、お疲れ様でした。
最後、二人が想いを伝え合えて本当に良かったなと。
涙なくしては読めませんでした(T-T)
セピア色のように懐かしさを感じる、綺麗な情景描写は
純粋に見習いたいなと思いました。
次回作、楽しみにお待ちしております。
262 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月23日(土)23時10分43秒
初作品完結お疲れ様でした。とってもとっても良かったです。
切なさの中にもあたたかい二人の想い…最高です。
桜の木の風景がきれいにうかんできました。
またの機会をこころまちにしておりますです。
263 名前:婆金 投稿日:2002年03月24日(日)00時09分45秒
お疲れさまでした。
もぅ読んでいる間中、目の前にパァッと情景が広がっていく感覚でした。
最後は、ウルッときました。ウル、ウルッと(泣
ありがとうございました。
264 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年03月24日(日)11時30分43秒
完結お疲れ様でした。
めちゃめちゃ感動しました。(泣
なんていったらいいんでしょうか・・・・。とにかくよかったです。
二人、生きて会えてたらどんなだっただろう・・・・。とか、色々考えてしまいました。
さっすがっす。師匠!次回作もあるんですか?
期待しています。ありがとうございました。
265 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月27日(水)14時36分53秒
沢山のレス、本当に有難うございました。まさか、こんなに頂けるとは思っていませんでした(感涙)。
そして重ね重ね、最後までお付き合い有難うございました。


>255 理科。様。
ぢつは他のラストがあったのですが、あまりにも吉がかわいそうになったんで止めときました。しかも、理科。様。のある作品と同じような形に持っていく予定だったんですよほ…。
次回作はゴニョゴニョ…(笑)。また、そう言っていただける様がんがります。


>256 名無し読者様。
ラスト、もう少しいい物にしたかったのですが、これが自分の限界かと…。
話を進めて入ってると、吉には前向きに生きていって欲しいという願いが強くなってしまったので。
良かった、と言っていただけるだけで、これを明日への糧にがんがります。


>257 名無しバイク様。
後半部分、かなり時間がかかって難しかったのですが、無事、完結することが出来ました。
書きながら、こんなに石川さんが出てこないもの無いんじゃないかとびくびくしておりました(^^;;。所詮、自分は(略。
次回作は、そう言っていただけないかも…(汗汗)。

266 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月27日(水)14時38分37秒

>258 じじ様。
そんなことないです、じじ様の作品は自分に感動を与えてますが何か。
うらやましいっす、書いてみたいんですけど…(ぼそ)。いつかは(略。w
先生、弟子入りしてもいいですか?(爆)。


>259 どっかの人様。
当初の期待に添えられることが出来たかどうか…(^^;;。
次回作は期待に添えられないかも…、予定は未定なもんで…。
今回の反省点を念頭に置いて、がんがります。


>260 とみこ様。
キッズ○ォーには負けそうです(爆)。つか、花○「愛の劇場」を狙ってます(って、こんなネタ(^^;;)。じゃ、「とっかえっ娘」と同時上映を検討してもらって、…こっちの方が制作費が少ないから大丈夫?(笑)。
おふざけはこのくらいにして(^^;;。


>261 ごーまるいち様。
こんな作品は最初で最後になるかも…(^^;;。萌え物が書けない自分はこれが精一杯でしゅ。
こちらこそ見習わないといけないこと、たくさんあります。なにとぞよろしくお願いします。
次回作はただいま作成中です、どうなることやら…。

267 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年03月27日(水)14時40分27秒

>262 名無し読者様。
二人が直接出会うことなく、いかに話を繋げていけることができるか心配だったのです、ぢつは。
そんな中、最高というお言葉がいただけたということがすごくうれしいです。
ご期待にまた添えられるよう、がんがります。


>263 婆金様。
自分も書きながらウルウルっと…(^^;;。
これからもそういうのを目指していきたいのですが、こんな作品はできないかも…(遠い目)。
そちらにも期待してます(謎。w


>264 よすこ大好き読者様。
おぉ、ご苦労様です。5往復とか…(^^;;
そうですよね、生きて二人が出会えていたら…、なんて考えてると、そのままほのぼのとした雰囲気のままだったんでしょうけどねぇ。…ニヤソ。
えせ師匠ですが、がんがります(^^;;。



次回作の声、有難うございます。只今、細々ながら次回へのステップを踏んでおります。
うpするにはまだ時間がかかりそうですが、上がり次第、こちらでうpしていこうと思っております。
宜しかったら、またお付き合い願います。
本当に有難うございました。

合掌。

268 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年04月04日(木)22時37分20秒
一作目とは何ら関係ない話なので、期待してはいけません(爆)。
もしかすると、痛いしっぺ返しを食らうかも…(^^;;。

それでは、宜しかったらこの短編にお付き合い下さい。
269 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年04月04日(木)22時39分40秒



『たんぽぽ』



270 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)22時43分57秒


うちはこのバスの停留所で空を見上げてる。
どんなに雨が降ろうとも、どんなに風が吹こうとも、
ここで黄色い顔を空へ向けている。


今日はどんな人がここへ来るんだろう。


そんな風にここでいろんな人を見送っては迎えてる。


うちは自分の存在を知ってもらおうと、
力一杯、緑の手を広げてここに生きてる。

今日も誰か、うちに気が付いてくれる人がいるんだろうか。



271 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)22時47分06秒


この時間になると、いろんな人が訪れる。

背広でぱりっとしたサラリーマン風の男の人、黄色い帽子を被った幼稚園児、
ヘッドホンを耳にやってくる男子高校生、赤と黒のランドセルを背負った小学生、
小さな巾着を持って低く腰を屈めながらやってくるおばあさん、

いろんな人がやってくる。


うちはここに来る人達に話しかける。


『おはよう』

うち自体が小さいから、うちの声なんて相手に聞こえない。
分かってるけど、うちはいつもみんなに話しかける。

誰かがうちの声に気づかないかと、密かに願いを込めながら。


272 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)22時50分33秒


同じ時間にバスが来る。
いろんな人が乗って、おのおのの場所へと流れていく。
うちはそれをいつも見送っている。


『行ってらっしゃい』




また、うちは一人になる。



そして、バスから降りてくる人たちを迎える。



273 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)22時52分54秒


ある日、いつものバスに乗り遅れた女の子がいた。
彼女の前を無情にもバスは発車してしまった。

『あーあ、バス行っちゃったよ…』

うちはぽつりと呟いた。
彼女はがっくりと肩を落とし、停留所のベンチに腰掛けた。


「次のバスまで15分もある…」

彼女の声にうちの心が震えた。



なんて高い声なんだろう。




274 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)22時56分03秒


彼女に興味を持ったうちは、空を見上げるのを止めて彼女を見上げた。


どうやら高校生みたい、肩にはテニスラケットを掛けている。
彼女の肩まである黒い髪がきれいだった。


『そんなに落ち込まないでよ』

届かない声だけど、彼女に話しかけてみた。
すると、彼女がこちらを向いた。

彼女の顔を見て、どきっとした。
黒く澄んだ瞳は優しくうちを見つめてる。
ずっとまっすぐに。


うちの黄色の頬が赤く染まってしまいそうだ。
彼女はそれくらいずっとうちを見つめてる。

275 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)22時58分17秒


すると彼女はこちらに近づいてきて、うちの前で小さく座った。

「こんなところにたんぽぽが咲いてるなんて」


近くで見る彼女はすごく可愛くて、彼女特有の柔らかさがある。
どう言ったらいいんだろう…。
なんだか体中がくすぐったくなってく。


「かわいい…」

彼女はそう呟くと、優しく微笑んだ。
優しい指先でうちの頬に触れる。


彼女の優しさに酔いしれてしまいそうだ。
こうして、ずっとここにいてくれたらいいのに…。



276 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時00分58秒


その願いも無情に、バスは定刻通りやってくる。
優しい彼女に一時の別れを告げなければならない。

そして彼女はバスに吸い込まれていく。


『行ってらっしゃい…』











うちは初めてバスを恨んだ。



277 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時03分10秒


それから毎日、うちは彼女の姿を探した。


最近分かったんだけど、彼女の名前は「りかちゃん」というらしい。
あの日とは違う、一本早いバスでここから学校に行ってる。
いつもテニスラケットを肩から掛けて、バスが来るまでの間、
友達と楽しそうにおしゃべりをしている。


ほら、彼女の足音が聞こえてくる。
いつもなら友達の方が早くここへ来て彼女を待っているのに、
今日は彼女の方が早く来たみたい。


『おはよう』

うちはいつも通りに彼女に話しかけた。


聞こえなくてもいい、彼女に話しかけることが出来るなら。
うちはそれだけでうれしいから。


278 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時05分51秒


彼女はちょこんとベンチに座って友達が来るのを待っている。


今日はリップの色が少し違うのかな…。
なんだか別の人みたいに見えてくる。
でも、よく似合ってるよ、その色。



「おはよう」

一瞬、自分を疑った。
彼女がうちに声を掛けてくれたのだ。
しかも、ちゃんとこっちを向いて話しかけてくれてる。
そうじゃなくても、うちは嬉しかった。

彼女はうちをずっと見てる。
それに答えるように、うちは顔を彼女に向けて、手を大きく広げてみせる。




うちはこんなにあなたを見ているんですよ。



279 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時08分30秒


幸せな時間ってそんなに長くはないね。
友達がやってきて、それもつかの間、バスまでやってきた。



憎き、バスめ。
うちから彼女を取らないでよ。



彼女はバスに乗り込んでいく。
うちは悄げて、広げていた手を少し緩めた。


もう少し見ていたい、でも、バスに乗らないとね…。


乗り込む姿を見るのが辛くて、うちは顔を背ける。


280 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時11分08秒


仕方ないか…、と落胆していると、ぼやけた視界で揺れる影を感じた。
そちらに顔を向けると、彼女がバスの中からこっちに向かって手を振っている。
バス停にはもう誰も残っていないのに。



それってうちに手を振ってるって思ってもいいの?



そう思うと途端に嬉しくなってきて、彼女に向かって手を大きく広げる。

『行ってらっしゃ〜ぁい!』


彼女を乗せたバスは白煙を上げながら、ここから出発する。
うちはそのバスが見えなくなるまで手を広げ、温かい気持ちを抱えたままバスを見送った。


281 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時13分23秒


昨日の夜からの雨がまだ止まない。
白い靄の中、ずっと雨に濡れてたまま、うちは顔を上げる気にはなれなかった。

ここは屋根が無くて、うちの隣には水たまりが出来ている。
嬉しくない隣人だ。
降り続く雨と隣からの跳ね返る飛沫にうちの気持ちは、濡れて重く沈んでいく。



一瞬、雨が止んだように思えた。
うちは顔を上げ、回りの様子を伺う。

靄で白く濁ったまま、空は灰色で道路はまだ雨を受けている。


何で、うちと隣人は雨に濡れないんだろう…。


視界に入った隣人の顔を見ると、傘の影が映し出されている。
顔を上に向けると、ピンクの傘が見えた。

282 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時16分07秒


「おはよう」

傘の主はりかちゃんだった。

『…おはよう、りかちゃん』

うちはドキドキしながら彼女に話しかけると、彼女は優しく微笑んで、傘を傾けてくれた。
嬉しくなって、うちは手を大きく広げて彼女に答えた。

『ありがとう』


このまま、時が止まってしまえばいいのに…、何度そう思っただろう。
もしうちが人間に生まれ変わることが出来るのなら、彼女の傍にいたい。
叶わぬ願いでも、うちはずっと願い続ける。


彼女とうちと隣人は不思議な直線上に並んだまま、彼女はバスを待ち、うちは願いを雨に
投げ続けてる。
隣人は何を思ってるんだろう…。


バスは靄の間を縫って、今日もここへやってくる。



283 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時18分46秒


もう、うちには時間が残ってない。

花の命は短いと、風が教えてくれた。



分かってる、分かってるよ、それがうちの運命だと。



彼女を知ってからそれが怖くて、自分の運命を恨んだりもした。
でももう、うちは黄色に染めて彼女を見上げることも、空を見上げることも出来ない。
ただただ弱ったまま、旅立ちの時期を静かに待つだけだった。


そんなのあまりにも辛すぎる。




もうこのまま、枯れてしまえたら…。




284 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時21分47秒


運命はあまりにも残酷で儚い。
旅立ちの時期が来てしまったのだ。


うちは久しぶりに空を見上げた。
空は悲しいくらい晴れていて、風はうちの旅立ちを後押しするかのように、
うちの白い綿毛をゆらゆら揺らす。
旅立つには絶好の日和なのだろうけど、うちには最悪の日和だった。



雨が降ればいい…、そうすれば、また彼女の優しさに触れることが出来るのに…。



285 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時23分58秒


風が彼女の香りを連れてくる。
彼女の足音がうちに届く。

彼女は変わらないまま、テニスラケットを肩に掛けている。


『おはよう、りかちゃん』

今日で最後になるだろう挨拶をする。
姿が変わってしまったうちに気が付いてくれるだろうか?

綿毛は悲しく揺れる。


「おはよう」

彼女は気が付いてくれた。
うちの前でちょこんと座ると、両手でうちを優しく包んでくれる。

286 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時26分44秒


うちはその優しさに答えたかった。
でも、今のうちにはそれに答えることが出来ない。
だから精一杯彼女を見上げる。



この手の中で旅立つことが出きるのなら…。



逆らえない運命なら、旅立つなら、
今がいいと、うちは強く強く願った。



風はうちの気持ちを知っていた。
綿毛がふわりと風に揺れると、うちは少しずつ旅立っていく。

『りかちゃん、ありがとう…』


うちは彼女の手の中から旅立った。


287 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時30分23秒


風に誘われて、うちは彼女の知らない土地でまた花を咲かせる。
そしてまた、風と共に旅立つのだろう。

誰にも気づかれないまま、

そっと花を咲かせて、綿毛を飛ばして。




願うなら、彼女の傍がいい。


そう、風に言ってみた。

分からないよ、と風は苦笑して、優しくうちを包んでくれた。



いいよ、ただ願っただけだから…。



そして、うちは知らない土地で生きていく。
一人静かに。





288 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時32分55秒









風が運んでくれた場所が彼女の家の庭先だなんて、
この時のうちは全く気づかなかった。









289 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時36分57秒



あれから、ここでうちは力強く生きている。
彼女の笑顔を見ていたいから。


彼女はうちに名前を付けてくれた。
その名前は、彼女の大切な人らしい。
その人の話になると、彼女は絶えず笑顔で話をしてくれる。


その人はりかちゃんにとって、ほんとに大切な人なんだね。
それがうちにも伝わってくる。

何か、複雑だけど…、その人と同じ名前で嬉しいよ。



290 名前:たんぽぽ 投稿日:2002年04月04日(木)23時39分35秒



そして今日も彼女を見送る。


『おはよう、りかちゃん』


彼女は笑顔で庭先の黄色の絨毯に話しかける。




「おはよう、ひとみちゃん」





うちの心の中に、りかちゃんと言う名の花が咲き乱れている。


291 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年04月04日(木)23時48分40秒



『たんぽぽ』   終



292 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年04月04日(木)23時51分04秒
>>269-291

更新しました。
293 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年04月04日(木)23時57分12秒
例の如く、今回も言い訳のお時間です。

また、こんな奴かよ…、とお思いでしょうが、すっかりおなじみですかね…(^^;;。
時間経過が分かりにくかったですね、反省しております…。
こんなん記念とは、言いませんね。また精進しますです、はい。

駄文、駄作にお付き合いいただき有難うございました。


合掌。

294 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月05日(金)05時26分17秒
いや、あったかい感じで良かったですよ
ある意味「バスが来るまで」(w
295 名前:Tommy 投稿日:2002年04月05日(金)08時19分01秒
タンポポになりたいvv(爆
りかちゃんカワイイですね。
296 名前:とみこ 投稿日:2002年04月05日(金)08時19分51秒
アホです、上の人(w
297 名前:じじ 投稿日:2002年04月05日(金)19時08分08秒
かわゆいですね(w
たんぽぽ視点面白かったです。
まだもう一つこのスレで書けそうですね(w
お疲れさまでした。
298 名前:婆金 投稿日:2002年04月05日(金)23時49分58秒
カワイイ!
“ひとみ・たんぽぽ”我が家にも綿毛、飛んでこないかな?
299 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年04月06日(土)20時32分46秒
おお!!知らないうちに短編が!!
さっすが、師匠。よかったっす。カワユイです。
「もう一本いっとく?」ですな。(笑
300 名前:名無しバイク 投稿日:2002年04月07日(日)10時29分41秒
 おぉ、カワイイ!。
確かに「バスが来るまで」ですね(^^)
まだ短編いけるかな?(w
301 名前:理科。 投稿日:2002年04月07日(日)15時51分10秒
何かこれから咲くたんぽぽ、もしかしたら…って
感じがしました。心、和みますね…(しみじみ。
名無しバイクさんが言うように、ホント「バスが来るまで」ですね。
302 名前:ごーまるいち 投稿日:2002年04月07日(日)21時19分27秒
おお!知らない内に短編がうpされてる!
遅ればせながら、拝見させて頂きました。
ひとみタンポポのつぶやきがすごく可愛いっす!
それと、こういう書き方もあるんだなぁと教わりました。
ステキな短編ありがとうございました(^^)
303 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月08日(月)00時30分30秒
おぉ何でしょうこの世界観、とってもいいじゃないですか。
おおきく手を広げるちっちゃなたんぽぽ、かーわーいーいー。
風の粋なはからい、ステキです。
304 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年04月12日(金)00時14分25秒
数々のお言葉、有難うございました(感涙)。
某板の小説総合スレッドの書き込みに脱帽…、ヤパーリ見つかっちゃうんですね(^^;;。


>294 名無し読者様。
そう言っていただけると、こっちまであったかい気持ちになれます。

>ある意味「バスが来るまで」(w
そのレス見て、それに初めて気が付いた自分がいますが何か(誤爆。w)。


>295 Tommy様。
ぢゃ、5人目って事で(爆)。←スマソ(^^;;
前のが、ほっとんど放置だったんで、今回は…、っと活躍して?もらいました。>石川さん。


>296 とみこ様。
書いてる自分はさらに上行くアフォです(w


>297 じじ様。
面白いと言っていただけるだけでもうれしいです、師匠(爆)。
そうですね、そういえばそうかも…(ニヤソ。>スレ。


>298 婆金様。
うちにも飛んできて欲しいです、吉(笑)。
気が付いたら、「お花シリーズ」になってる(^^;;。>このスレ。


>299 よすこ大好き読者。様。
お仕事落ち着いたようで良かったです。そんな自分は筋肉痛…(苦笑)。
ぢゃ、行きますか?(爆)でも、お時間を下さい、お代菅様(w


305 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年04月12日(金)00時17分21秒


>300 名無しバイク様。
2度目のキリ番、おめでとうです(パチパチ
短編考えているのですが、浮気性な自分なだけに定まりませぬ(^^;;。予定では(略。おなじみです

気をつけて行ってきてくださいね。


>301 理科。様。
うれしいお言葉、有難うございます。密かに癒し圭?(爆)
自分も自転車乗ってて、たんぽぽ見るとそう考えてたりします。

来ぉーい! ←猪木風味(w


>302 ごーまるいち様。
コソーリと更新したのが(一部を除く)、バレてしまいました(^^;;
たんぽぽの呟き、結構お気に入りなんですよ。
こちらこそ、教わっておりますです。

オセロ、見てみたい。とは言っても○竹芸能ではないですよ(爆)。


>303 名無し読者様。
いいと言っていただけるだけで、明日への糧になります。(鼻息、荒)
憎いお方です、風(笑)。たんぽぽもさぞ喜んでいると思います。

しっかり聞いてくださいね。って言いながら自分も最近(略。(^^;;


306 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年04月12日(金)00時18分38秒
吉澤さんの誕生日を迎えたのですが、何も用意しておりませぬ。
推しのくせして何やってんだ、とどやされそうですが(^^;;。
代わりというには、あまりにも違いすぎるのですが、新作の方をうpしていく予定です。
とりあえず、このスレにはお声のあった短編を、と思っております。
今後とも、よろしくお願いします。

合掌。
307 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月10日(金)23時08分27秒
日本から約6時間ほど飛行機に乗ってやってきた南の島。
どこまでも続く空と透き通るような海に囲まれたこの島に、仕事ででやってきた娘達は
空港へ降り立つと、夢のような風景に大きく歓声を上げた。


「しっかし、あっついよ…」

空を眩しそうに見上げる後藤。
日本との気候の違いにうんざりしているようだ。
今、この島は乾期を迎えていて、雨が降ることがほとんどない。

しかし、今回の仕事が終わってしまえば、残りの日程は自由。
日頃の激務から解放される喜びと南の島という開放感が、
皆の気分を心地よく擽っていた。


しかし、そんな気分には到底なれない娘が一人。
黄色い歓声の中、空港へ降り立つや否や神妙な面もちで辺りを見回す吉澤がいた。



 ──確か、この辺に…って、見えないじゃん。




308 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月10日(金)23時11分48秒


遙か遠くを見つめている吉澤を見逃さないメンバーが一人。
みんなと一緒にはしゃいでいたのだが、石川には吉澤のそんな表情が気になる。
歓声の輪をこっそり抜けて、吉澤の隣にやってくる。

「ひとみちゃん、どうかしたの?体調でも悪いの?」
「ん…、ああ、違うよ。海が綺麗だなって…」

そう言いながらも、表情はそのままでじっと海の方を見つめる吉澤だった。
心の疑問が少しも晴れない石川は、少しでも吉澤の気持ちに触れることが出来ればいいのにと
吉澤の腕に自分の腕をするりと絡めた。



そんな二人を歓声の輪から見ているメンバーが一人。



 ──吉澤、うらましいわよっ。でも、そんな吉澤の表情もいいわ。



はしゃいでいるメンバーの中で一際鋭い眼光を放つ保田。
小さくふっと笑うと、そんな二人に背を向けて、空港のターミナルビルへと急いだ。


309 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月10日(金)23時16分52秒


到着初日から2日間、びっしりと組まれたスケジュール。
しかし、それもなんのその。
目の前に餌ぶら下げられた馬車馬の如く、娘達は南の島での休暇を充分満喫するが為に
なんの文句を言わずに、これでもかと営業スマイルを大奮発する。



初日の撮影が終了したのは、完全に夕日が見えなくなってからだった。
空は夕日の残り香を残しながら、濃い藤色に染まっていく。



310 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月10日(金)23時19分13秒


バスの中での吉澤はやはり窓の外をじっと見つめ、何かをぼんやり見ているようだ。
空港で見せた表情とはまた違う、憂いの色を見せ始めている。
隣の座席に座っていた石川は吉澤の顔をのぞき込むと、小さく声を掛けた。

「疲れた?」

そんな石川の様子に、自分の心配をしてくれていることが伝わってくる。
吉澤はそっと石川の手を握ると、柔らかい視線で石川を見つめた。

「ううん、大丈夫だよ…」

長い睫が小さく瞬きをする。
仕草の一つ一つが石川の心を一喜一憂させるのだ。
吉澤の言葉を自分の心に沈み込ませると、隣にあるやさしい肩に頭を傾けた。
バスの心地よい振動と近くに感じる吉澤の温もりの中、石川は深い眠りに落ちていく。


娘達を乗せたバスは、宿泊先のホテルへの道をひたすら走っていった。



311 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月10日(金)23時21分49秒



「何か凄くない?今回のホテル」
「あれだよねぇ…」

バスの前方に乗ってる辻と加護が、お菓子を食べていた手を休めて小高い丘を指差す。
大きく緑が茂り、その中に点々と幾つかのヴィラの灯りが見えている。

「え?ほんとに?」
「どれ?、 …ってほんとにあれなの!?」
「この丘の向こうの別のホテルだったりして…」

宿泊するであろうホテルを遠目に娘達は口々に言う。
バスはそのままの速度で、緑の生い茂った中の一本道を走り抜けていく。
進むにつれて、次第にその姿はあらわになっていく。


一本道はそのホテルへと続く道だった。



312 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月10日(金)23時24分51秒



「着いたよー!」

バスの中を飯田の声が響く。
次々とバスを降りていく中、石川と吉澤の目はまだ覚めていないようだ。

「ほら、あんた達。ホテルに着いたよ!」

降り際に保田が二人に声を掛けていった。


その声に石川の睫が震える。
戻り行く感覚の中、バスの窓から見えた風景は全ての感覚を一気に呼び起こす。

どこまでも広がる薄暗い闇とその中に浮かび上がる島独自の伝統的な建造物。
遠くには空の闇を映す海と敷地内一面に広がっているであろう樹木の絨毯。
それらに埋もれてしまわないように存在を表している数々のヴィラの灯り。


石川はその風景達に心奪われる。
その感動を、今だ眠りこけている吉澤に伝えようと体を揺り起こす。

「ひとみちゃん、ひとみちゃんってば…」


「…ぅあ…、着いた…?」

まだ開けきらない目をこすりながら、吉澤は体を起こした。

「ひとみちゃん、あれ…」

石川の指先に誘われるように、視線をそちらに向ける。



313 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月10日(金)23時27分49秒


バスを降りてきた二人を満面の笑みで迎えるメンバーが一人。

「よっすぃーと梨華ちゃん、遅いのです」

辻は持っていた荷物を放り出して、その間に入り込むと、ご満悦そうに二人の手を取って歩き出す。
やってきた突然の訪問者に、二人はお互いを見て少し笑った。

ホテルの本館に向かう石畳を歩いていく。
そんな距離はないのだが、辺りの風景に目を奪われるので歩く足が自然と遅くなる。



「辻、荷物は?」

二人と手を繋いだまま、ホテルに行こうとする辻を引き留める矢口の声。


「あれ?」

荷物のことなんかすっかり忘れていた辻は、その声に立ち止まる。
振り返ると、辻の荷物はぽつんと石畳の上で持ち主の帰りを静かに待っていた。

「忘れてたです…」

恥ずかしそうに言う辻の周りに娘達の爆笑が包み込む。
辻は音を立てて走り出すと、待ちくたびれている荷物を持って帰ってきた。


「重たくない?」

吉澤は体に似合わない荷物を持っている辻に声を掛けると、荷物をひょいと自分の肩に掛けた。

「あ…、ありがとうです」
「いーえ、どういたしまして」

はにかんでいる辻に向かって、吉澤はにっこりと笑って見せた。


314 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月10日(金)23時29分40秒


エントランスを通りすぎると、本館が目の前に広がる。
本館の正面にはレストランがあり、その向こう側には大きなプールがある。
ロビーに続く石畳の両脇にはいくつもの灯籠が等間隔に並んでいて、
それらは訪れた娘達の視覚を幻想の世界へと誘う。


そこは普段の生活から完全に隔絶されている空間。
「楽園」という言葉はここのためにある。
時計なんか持たなくても、空が時の流れを告げるのだ。


入り口に入ると、柔らかくて甘い香りが一番に出迎える。
日の陰りで表情の変わるロビーの石柱と石柱の間には闇がこぼれていて、
石柱に掛けられている灯光が揺れている。
庭には手入れされているブーゲンビリア達が花を咲かせており、
奥を進むと、ロビーの中央には島の護身神の彫刻が置かれている。

入ってくる娘達にホテルスタッフが手を合わし、笑顔で深々と頭を下げて歓迎する。


315 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月10日(金)23時31分40秒



「…というわけで、明日は7時にはここに集まること、時間厳守でお願いします。
 それと、グラビア撮影だということを忘れないように。以上です」

食事を済ませた娘達はスタッフに明日の説明を受け、各自部屋へと別れていく。

部屋と言っても、今回のホテルは部屋ではない。
正確に言うと、ヴィラである。
部屋割りをされたメンバーと共に、ホテルスタッフが運転するカートに乗って各ヴィラまで行くのだ。



同じ部屋の石川と吉澤は同じカートに乗り込み、自分達のヴィラへと移動する。

木々に囲まれた石畳の道を白いカートがゆっくり軽やかに走っていく。
闇の中、所々に浮かび上がっている無数の灯りに吉澤は目眩がしそうになる。
隣にいる石川の手をそっと握り、自分がここにいるという実感を得ようとする。



 ──うちはここに来てるんだ…。



心にそう言い聞かせながら、吉澤は石川の横顔を見つめる。



316 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月10日(金)23時34分08秒


その視線に気が付いたのだろう。
石川は吉澤に微笑んで、気持ちに答えようと手を握り返す。

「どうかしたの?」

体を寄せて、石川は小さく耳元で囁いた。
吉澤はその仕草がたまらなく可愛く見えて、石川の頬に素早くキスをする。
突然の吉澤の行動に、石川はただただ呆然とするばかりだった。

「ううん、なんでもないよ。ありがとう、梨華ちゃん」

吉澤は笑顔で答えると、握っている掌にその思いを込めた。

「もう…っ、びっくりするじゃない…」

不機嫌そうに頬を膨らまし、顔を背ける石川。
しかし、その頬は薄明かりの中でも赤く染まっているように見える。
吉澤は膨らんでいる頬を笑顔で人差し指で柔らかく触れていた。


317 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年05月10日(金)23時41分27秒
>>307-316

更新しました。

318 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年05月10日(金)23時44分41秒
萌えどころが皆無なスタート。
お暇で心優しい方がいらっしゃったら、この作品にしばらくお付き合い願います。
とんとんとんと、逝けるようがんがります。
319 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月11日(土)21時51分24秒


別荘風のヴィラの前でカートは止まる。
二人はカートから降りると、ホテルスタッフの後ろに続いてヴィラの中に入っていく。
ホテルスタッフは二人の荷物を軽々と持ったまま、ドアを開ける。


室内にはロビーで感じた柔らかく甘い香りが漂っている。
飴色の統一されたアンティーク調のインテリアと編み上げられた屋根が綺麗に調和された室内。
照明は柔らかい色を含み、薄暗い中でほのかに自らの存在を示す。
二つ並んだ天蓋付きのダブルベットは目を奪うほどの白さで二人を迎えた。

石川は小さく歓声を上げると、外の空気や光が感じられるような作りの室内を
見回しながら歩いていく。


どっしりとしたソファーに荷物を置くと、ホテルスタッフは一礼をする。
吉澤は出ていこうとするホテルスタッフに声を掛け、何やら話をしているようだ。
話が終わったのか、ホテルスタッフは手を合わせ、吉澤に向かって会釈をし、部屋を後にした。


320 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月11日(土)21時54分07秒




「ひとみちゃーぁん!お風呂、外が見えるよっ」

クローゼットの向こうから石川の甲高い声が聞こえる。
よっぽど楽しいらしいその声に吉澤は苦笑した。


「ねぇってば…」

天蓋の柱の向こうから石川が顔を出して、吉澤の腕を引っ張る。
吉澤は小さく返事し、引かれるがままに石川の後をついていく。


ほら…、と吉澤は誘導する。

「あ、ほんとだ。かっけー!」

石川を後ろから抱きしめ、吉澤は石川の顔の横から顔を出す。
白で統一されたバスルームは外の小さな庭園が見えるようにガラス張りになっている。


「この大きさなら二人でも入れそうだね」

石川の耳元で囁くと、腕の力を強くする。
恥ずかしそうに無言で頷く石川を見て、吉澤はここにいることを噛みしめていた。


321 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月11日(土)21時56分49秒



「この匂い、ロビーでもしてたよね?」

石川は自分の荷物をクローゼットに入れながら、すでに終えてソファーでのんびりしている吉澤に話しかける。
クッションを抱えたまま、吉澤はふがふがと鼻を動かす仕草をする。

「うん…。何か甘いよね、この匂い」
「私、好きかも…」



「あ、そうだ。
 うち、圭ちゃんの処に行かないといけないんだ。梨華ちゃん、ちょっと行って来るね」

吉澤は不意にソファーから立ち上がると室内をばたばたと走る。

「え!?何?」

急な吉澤の行動に石川は戸惑いを隠せない。
部屋を出ていこうとしている吉澤を引き留めようとする。

「あ、先に寝ててもいいよ、遅くなるかもしれないし。
 明日、撮影だから早めに寝なよ。うちも可愛い石川梨華さんが見たいから」

そうドアの前で言い残すと、クローゼットの脇から顔を覗かせている石川に笑顔で手を振った。
そしてすぐ、ドアから出て行く音が室内に響く。


「ひとみちゃん…」

一人室内に残された石川は、仕方なく荷物の整理の続きを続けていた。


322 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月11日(土)22時00分04秒



ぼんやりと吉澤を待っていた石川は、あれから3時間近くバルコニーのイスに腰掛けていた。

吉澤の帰ってくる様な気配は無く、ドアが開く様子も無い。
帰ってくるまで待つつもりだった石川を包む風は優しかったが、さすがに夜は涼しい。
小さく一つため息をバルコニーに落とすと、石川は温もりを取り戻そうとバスルームへと急ぐ。



濡れた髪にタオルを巻いてバスタブに身を委ねると、外の庭園に視線を落とす。

今日の吉澤の様子が気になって仕方がない。
仕事中は何ら変わりがないが、一人になった時や自分といる時の様子がいつもと違う。
そんな気がする。

空港に降りてからの吉澤の様子。
車窓から外を見つめる吉澤の表情。
保田に用があると部屋を出ていった吉澤の行動。

辻の荷物を持ってあげたという吉澤の優しさは日常茶飯事として、ほかのそれらはいつもとは違う。


 ──いつもならべったりで、こっちが恥ずかしくなるくらい私の傍にいるのに…。


体は温かくなったのに、石川の心は冷え切ったまま。
石川はバスタブの中で強く自分を抱きしめた。





結局、石川が起きている間に吉澤が帰ってくることはなかった。



323 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年05月11日(土)22時04分38秒
>>319-322

更新しました。

324 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年05月11日(土)22時10分51秒
大変少なくて申し訳ないです。うれしくなったんで、つい…(^^;;
このペースが保たれることはほとんどと言っていいほど皆無(遠い目)。
多分、次の更新は月曜以降になりそうです。
325 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月11日(土)23時43分21秒
おお!新作始まってたんですね。気付かなかった・・・
新婚旅行みたいで先が楽しみです
326 名前:婆金 投稿日:2002年05月12日(日)00時11分55秒
いいッス!
そうそう、気付いたんですけど、夜叉さんの書いたのって
どれも心象風景って感じがして好きです。 先が楽しみ!!
327 名前:じじ 投稿日:2002年05月12日(日)01時08分48秒
新作だ!
やっぱ夜叉さんすごいっすねー。
上手過ぎて鳥肌立ちますよほ。。。
328 名前:理科。 投稿日:2002年05月12日(日)05時02分13秒
キター――――――――!
夜叉さんの文章力には驚かされます。。。
いいなぁ…。
って、よっすぃ〜は何処に逝っちゃったんだろ?
329 名前:REDRUM 投稿日:2002年05月12日(日)08時17分50秒
夜叉さんの作品は情景描写が素晴らしくって周りの風景が
頭のなかに広がります。
にしても(0^〜^0)の行動が不可解ですねぇ。
嫁さんほっといてまで何処に。。。
330 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月12日(日)18時53分11秒
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
楽しみにしておりました。
私も、REDEUM様。同様いつも思いますが、景色が浮かぶ作品っていいですね。
続き期待して待っています。
331 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月19日(日)10時29分19秒


カーテンのない窓から朝を告げる光が射してくる。
その光に誘われるがまま、石川は目を覚ます。
室内には多くの光が射し込み、夜とはまた違う表情で石川を包み込む。

ふと隣のベットに目をやると、静かな寝息を立てている吉澤がいた。



 ──ひとみちゃん、いつ頃帰ってきたんだろう…。



石川はベットを抜け出すと、吉澤のベットにそっと潜り込んだ。


規則正しく繰り返される呼吸。
それと同じように柔らかく揺れる長い睫。
自分と正反対の白く透き通った肌。

吉澤の髪にやさしく触れ、指を絡める。


「…んっ… 」

規則正しかった呼吸が途切れると、吉澤の睫はゆっくりと動こうとしている。


石川はまだ意識のはっきりしてないであろう吉澤の唇にキスを落とす。



332 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月19日(日)10時32分30秒




吉澤から離れた石川の唇はまだ少し熱い。

思いもしなかった自分の行動に石川自身戸惑ってしまう。
頬を染める恥ずかしさと無防備な吉澤に背を向け、ベットから離れようとした。


すると、眠っているはずの吉澤の腕に体を引き寄せられてしまった。

間近に見える、にっこりと笑う吉澤の顔。
石川は先程の恥ずかしさから、吉澤をまともに見ることが出来ない。

「おはよう、梨華ちゃん」
「お、おはよう…、ひとみちゃん…」


「吉澤ひとみ、お姫様からのキスで目を覚ましました」

吉澤はいたずらっぽく言うと、石川の様子を伺う。

自分の腕の中で落ち着かない様子の石川。
くすっと小さく笑うと、吉澤は石川の体の上に覆い被さった。

「きゃっ…」
「お姫様、さっきの続きをしましょうか…」

下にされた石川は、思っていることを全て吉澤に見透かされてしまっているような気がして、
熱っぽく送られる吉澤の視線から逃れることが出来そうになかった。



熱い視線で見つめる吉澤。
そのまま吉澤を受け入れてしまいそうな石川の心。



早まる二人の鼓動を止める物は何もない。




333 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月19日(日)10時34分37秒

















『明日は7時にはここに集まること、時間厳守でお願いします』


















心の片隅にスタッフの言葉がこだまする。


334 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月19日(日)10時36分34秒



現実に引き戻された石川は、瞑っていた瞼を開いた。


近づいてくる吉澤の唇。
吉澤はそんなことは覚えてもいないようだ。
このまま吉澤を受け入れると、時間厳守なんて到底無理な話である。



「ひとみちゃん!今日、7時時間厳守なのよっ!」

石川は近くにある白い枕をむんずと掴むと、それを吉澤の顔へと無理矢理押しつけた。

ばふっ…という鈍い音と舞い上がる小さな羽。
枕は吉澤の顔に見事にクリーンヒット。吉澤の唇は枕と激しくディープキス。

「あぐっ……、梨華ちゃん、ひどい…」

情けない声を上げている吉澤は顔を押さえたまま、石川の隣に倒れ込んだ。
そんな吉澤を横目に、石川はベッドサイドの時計に目をやる。


 ──良かった…、まだ一時間ある。


石川はほっと胸をなで下ろすと、身支度をしようとベットを離れた。
傍らでいじけている、涙目の吉澤を残したまま。



335 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月19日(日)10時38分12秒




「吉澤、何か顔赤いぞ」

集合場所に現れたスタッフの開口一番の言葉。

吉澤はその言葉に言い返すことが出来ない。
調子に乗りすぎて梨華ちゃんに枕で殴られました、なんて到底言えない。

他のメンバー達もそれに気が付いているが、何があったなんて容易く想像できるので、あえて誰も触れようとはしない。
向かいで罰悪そうに手元のサラダをつついている吉澤を見て、石川は声を殺して笑っていた。


336 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年05月19日(日)10時42分49秒
>>331-335

更新しました。
337 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年05月19日(日)11時04分12秒
レス有難うございます。
ペースがだんだん落ちていってて、自分も心配…。


>324 名無し読者様
新婚旅行…、いい響きだぁ。そこまで甘い物になればいいのですが…、目指せ萌え物(爆)。


>325 婆金様
そーゆうものになるんですかねぇ…、本人本能のままに書いて逝ってるんで、ムラが出やすいんですよほ。。。気になるところです。


>327 じじ様
>鳥肌立ちますよほ。。。
それは風邪のヨカーソ(笑)。
♪溶かして飲んでーぇ 風邪に効く       …自分、あのポットになりたい…(笑)。

自分もエ●を伝授していただきたいです。


338 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年05月19日(日)11時17分31秒
二人がこうやって出てくる物って、初めてなんですけど…。初心者でお願いします(笑)。


>328 理科。様
自分も紺野先生のようなキャラが書いてみたいです。…と言うことで修行の道へと…(それは別名、現実逃避ともいふ(^^;;

>って、よっすぃ〜は何処に逝っちゃったんだろ?
やすの言うことに逆らうってことは出来ないんでしょうね(笑)。
( `.∀´) <キリキリ逝くわよっ!!


>329 REDRUM様
>頭のなかに広がります。
良かった…、自分の念が届いて…(笑)。次回は念写で(爆)。

>嫁さんほっといてまで何処に。。。
( `.∀´) <あたしの酒が飲めないってんの?

相手は未成年ですし…(^^;;


>330 よすこ大好き読者。様
おお、こちらでも念(略。w
期待に応えられるか分かりませんが、そうなるようがんがります。
339 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月20日(月)02時08分16秒
お目覚めシーン萌え
甘すぎ〜(w
340 名前:ごーまるいち 投稿日:2002年05月21日(火)01時24分23秒
夜叉さんの描く二人の甘い空間にたまらなく萌えてます♪
がんがってくださいね♪
341 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月21日(火)21時47分22秒


今日は各メンバー毎のPV撮影とグラビア撮影がびっしりと組まれている。
グラビアとPVのカメラマンが二人ずつで、同時間に4人を一斉に撮影するという強行スケジュール。
プール付きのヴィラを1棟貸し切っての撮影だが、敷地内は娘達とスタッフでごった返していた。



「じゃ、お願いします」

先に吉澤と後藤がグラビア撮影、そして新垣と高橋がPV撮影に入った。
その他のメンバーは待ち時間の間、衣装あわせや打ち合わせをしたり、雑談したりしていた。


衣装あわせの終わった石川は日陰になっているバルコニーのイスに座り、
プールで撮影中の吉澤を目で追っていた。
外の日差しが強い上にレフ板からの反射光が加わるため、吉澤からは眩しくて何も見えない。

342 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月21日(火)21時49分43秒


そんな石川の隣に打ち合わせの終えた安倍と矢口が紙コップを片手にやってきた。

「へへへ、昨日のうちにちゃんと教えてもらったもんね」
「なっち、ほんっとに好きだね、お香」
「そりゃもう…。ホテルに入った時から気に入ったんだもん」
「うーん、矢口には甘すぎるよ、あの匂い」
「そう?なっちは気に入ったよ。ね?梨華ちゃん?」

空いたイスに腰掛けると同時に安倍は笑顔で、話に加わっていない石川に声を掛けた。
二人が来たことに気が付いていなかった石川は、びっくりしてイスからこぼれ落ちそうになる。

「びっ、びっくりするじゃないですかぁ…」

崩れている体制を元に戻そうと焦る石川。
そんな石川を見て、矢口は腹を抱えて笑っている。

「石川、面白すぎっ!」
「こらっ、そんなに笑わないの。ごめんね、梨華ちゃん」

安倍は小さく手を合わせて、石川に向かってウインクをする。
ううん…と首を横に振ると、安倍の仕草に釣られて、石川は小さく笑った。


343 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月21日(火)21時51分50秒


「で、なんの話ですか?」
「あぁ…。なっちがね、お香に凝っててさぁ。
 それでホテルの人に聞いてるんだよ、なんの匂いかって」
「お香…?」
「そうなんだよ。なっちね、ホテルに来たときにピーンときたんだ。
 梨華ちゃん、気が付かなかった?あの甘い匂い…」




 ──ホテルに来たときの甘い匂い…。




石川は昨日ヴィラで吉澤と話したことを思い出した。


「あ、もしかしてあの匂いですか?あれなら私も好きです」
「そうだよねぇー。
 ほらほらほらー、矢口ぃ。梨華ちゃんもそう言ってるし」
「うえーぇっ…」

意見が合う人を見つけた安倍は満足そうに笑顔で、ねぇー、と石川に向かって首を傾ける。
隣の矢口は舌を出して、自分の感情をそのまま顔に出していた。

「あれ、なんの匂いなんですか?お香にしては…」
「梨華ちゃん、よくぞ聞いてくれました。あれは『スダップマラム』っていう花の匂いらしいのよ。
 うーんとね…」

そう言うと、安倍はバルコニーの周りを見渡した。
どうやら、その花を探しているようだ。


344 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月21日(火)21時55分31秒



「…あ、あった!」

それを見つけると、安倍は白い花の前まで石川を連れて行く。
石川はその花の小ささに驚いた。

「ほんとにこの花が?」
「うん、そうなんだって。なっちもさ、最初聞いたときはびっくりしたさ。
 でも、ほんとにこの花なんだよ」

安倍は一つ花をちぎると、石川に手渡す。
確かにこの匂いなのだが、なんだか匂いが弱いような気がする。

不思議そうな表情をしている石川を横目に、安倍は花に近づいて胸の中をその香りで一杯にする。

「今は匂いが弱いけど、夜になると匂いが強くなるんだよ。
 だから別名が『月下香(げっかこう)』って言うんだって」
「そうなんだ…」


「矢口、安倍はPV撮影、石川と飯田はグラビア撮影に入って」

遠くでスタッフの指示が飛ぶ。
安倍にお礼を言うと、石川はスダップマラムを手にしたまま、プールの方へと向かった。


345 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年05月21日(火)21時58分42秒
>>341-344

更新しました。

346 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年05月21日(火)22時05分44秒
レス有難うございます。何か、キリが悪いですね…(^^;;


>339 名無し読者様
こんな駄作で萌えていただけるなんて…(泣)。
でも、自分は満足してないのでがんがりますよほ。。。


>340 ごーまるいち様
こちらも有難うございます。
もっともっと萌え物目指してがんがりまする。。
347 名前:婆金 投稿日:2002年05月21日(火)23時58分41秒
静かにドキドキドキドキ、はぁ、続き期待!展開です。
何が言いたいのか分からないので逝ってきます
348 名前:理科。 投稿日:2002年05月25日(土)05時56分00秒
何か勉強になりますねぇ。。。
そんな花があるなんて。。。
やはりキレイですね、描写が。
忙しいみたいですけど がんがってください。
349 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月27日(月)23時11分51秒
なんだか、匂いまでしてきそうです。
どんな香りなんでしょうね。
続き楽しみにしています。がんがってください。
350 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月27日(月)23時17分03秒



昼食ぐらいはみんな一緒に。
という娘達の声に、スタッフは心良く了承した。


自前の一眼レフを片手にメンバーの中を行き交う保田。

もっぱら自分の気に入った写真しか撮らないのだが、メンバーに声を掛けられると、
仕方ないなぁ…、と声に出しながらも楽しんでそれを撮っている。
メンバーのいい表情なんて一番自分が良く知っている、と保田は思っている、…思っていたいらしい。

カメラを縦位置で構え、ファインダーを覗きながら覗いていない片目で周りを伺う。



 ──おぉっ、めっけ。



絞りを開放して、ピントを合わせる。
脇を固めて、絶好の被写体を逃さない。



シャッターを切ろうとした瞬間、誰かが照準を合わせた保田の裾を掴む。


351 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月27日(月)23時19分23秒


「圭ちゃん、撮ってぇ」

その声に保田はファインダーを覗くのを止めた。
裾を引っ張りながら、後藤が笑っていた。

「仕方ないなぁ…」

やはり緩んでいる保田の頬。
後藤はそんな保田の気持ちを察している。だから、とりあえずせがんでみる。



「おばちゃん、かわゆう撮してな」
「辻もそうしてほしいです」
「「「「保田さん、お願いしまーぁす」」」」

中学生5人と高橋が後藤の脇に群がる。
保田はオートフォーカスモードに切り替えて、ファインダーを覗いた。

「じゃ、撮るよー」
「「「「「「「はーい」」」」」」」


352 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月27日(月)23時21分54秒


カメラからのシャッター音が聞こえたと同時にブーイングの嵐が起こった。

「何しとんねん!」
「ひどいですぅ!」
「圭ちゃん…」

保田に向かって暴走する辻加護コンビに苦笑している後藤。
5期メンバーは何も言えずにただ苦笑するばかり。



シャッターを切る前に保田自身がファインダー内に写り込み、自分の写真を撮ってしまったのだ。

「うっさいわねぇ。あたしが写っただけじゃない。
 世界のYasudaに撮ってもらってんだから、文句は言わない!」

保田はけらけらと笑うと、もう一度ファインダーを覗き込み、素早くシャッターを切った。


「「「「「「「あ゛ーーーーーーーーっ!!」」」」」」」


またもわき上がるブーイングの嵐の中、保田は笑いながらその場を立ち去った。




 ──やっぱ、写真撮るには自然体が一番ね。



そうほくそ笑んで、今さっきの場所へと狙いを定めにいった。
しかし、狙った獲物達はすでに消えており、保田は一つため息を落とした。


353 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月27日(月)23時23分54秒


午前中に撮影された分のポラがテーブルの上に所狭しと並んでいる。
真剣な眼差しで飯田がそれらに目を通していた。

「まだ表情が硬いのかな…」
「何が?」

そこを通りかかった保田が飯田に声を掛ける。

「ああ、これ。何か…ね」

ポラを差し出すと、保田に向かって困ったように笑った。

「んー?ほんとだ…。でも、紺野はそんな子だよ」
「あら?言い切るんだ…」


「あ、保田、いいところに」

二人の会話に、グラビア撮影をしているカメラマンの一人が入ってきた。
娘の撮影には必ず彼がいる。保田とも写真やカメラの話で盛り上がることがしばしある。

「いい写真が撮れたんだ。石川なんだけどね…、これ」

並べてあるポラの中からその写真を選んで、二人に見せた。


354 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月27日(月)23時26分38秒


ポラの石川は、プールの縁に座り、素足をプールに投げてぼんやり遠くを見ている。
白いスカートの裾を濡らしたままで、プールサイドに置かれた手には白い花が握られていた。
誰かへと想いを投げかけているのだろうか、瞳は伏し目がちに切なく曇って、
レンズに視線を投げようとはしてない。

青い空を映し返すプールの水面と正反対な石川の曇った表情。



「これって、撮影前ですか?それとも、撮影開始直後?」

保田はポラを手に、食い入るように見ている。
横からそのポラを飯田が覗いていた。

「これで撮ってるから、開始直後かな…。
 いろんな写真撮ってきたけど、これはいいと思うんだよね」


カメラマンの言葉に頷く保田。


「いいですね、この写真。石川の表情と対比してるプールの色とか…。
 でも、この表情を石川に作らすことが出来るのは、たった一人なんですけどね」


テーブルにポラを静かに置くと、保田は自分のカメラのファインダーを覗き込んだ。


355 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月27日(月)23時29分20秒


娘。としての仕事の全日程は無事全て終了した。
仕事の打ち上げを兼ねた食事を済ませたメンバーとスタッフ達はロビーラウンジでくつろいでいた。


本館の裏手には広大な熱帯雨林の森が広がっていて、ラウンジのデッキはそれに丸く張り出している。
開放感溢れるラウンジから見える風景は、来る人全ての意識を森の中へと誘う。

夜が来る前の空が森全体を闇で包み込もうと忍び寄ってくる。
暖かい色の照明がラウンジ内を包み込み、森に向かっているデッキには3人掛けのソファが何台か置かれており、傍らのランタンの灯りが紫色の中で揺れている。


吉澤はデッキのソファに深く腰掛けると、持ってきたオレンジジュースを口に含む。

耳元をすり抜けていく風が酷く心地いい。
グラスを傍らに置き、ふぅーっと息を吐いた。


356 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月27日(月)23時31分33秒




「ここから見る風景もいいね」

甘いフレーバーの香りが吉澤に届く。
振り向くと、アイスティーのグラスを大事そうに抱えている石川がいた。
石川はちょこんと吉澤の隣に座ると、緩やかな風の中で流れる石川の髪が吉澤の肩を擽る。


「梨華ちゃん、少しちょうだい」

吉澤は石川の手の中のグラスに顔を近づけ、白いストローでアイスティーを飲み干していく。

「これすげー甘い…。よく飲めるね、こんなの」

石川は甘さに顔をしかめている吉澤の表情を見ていると、半分しか飲んでいないアイスティーのことなど忘れてしまいそうになる。


「うん、私甘いの好きだから…」

笑いながら、空になったアイスティーのグラスを吉澤に渡す。
そのグラスを受け取りながら、不敵な笑みを浮かべる吉澤。

グラスから離れそうになる石川の手を引き寄せると、吉澤は真剣な眼差しで石川を見つめる。

「じゃ、うんっと甘いやついきましょうか?お姫様…」
「ちょ…っ、ここじゃ…ぁ」
「大丈夫…、ここは見えないから…」

確かにデッキは一段下がっているので、あまり見えることはない。
しかも二人が座っているソファは端の方だから、人目に付くこともない。


357 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月27日(月)23時34分16秒


石川の腰を素早く抱き寄せると、空になったグラスは傍らで放置。

「でも誰かに見られたら…」
「しっ…、梨華ちゃんは黙って…」

続きを話そうとする柔らかな唇は吉澤の人指し指によって塞がれた。
吉澤は軽くウインクをすると、ゆっくり距離を詰めていく。


距離が縮まるに連れて、石川の鼓動は大きく胸を打つ。
熱は全身に伝わり、指がかすかに触れられている唇でさえも早まる鼓動を感じ取ることが出来る。
石川は軽く瞼を閉じると、心落ち着かせてくれる、やさしく降って来るであろう吉澤を待つ。



汗をかき始めたグラスの輪郭は近づく二人を黙って映し出す。



藍色の中の二人の距離は指一つ。
自分の唇に指が触れるか触れないかぐらいで、吉澤は二人を妨げている障害物を取り除く。






氷達は空になっているグラスの中を滑り落ちて、小さく声を上げる。

グラスに映る二つの影が重なろうと…。









358 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月27日(月)23時36分19秒








「吉澤、昨日の話の続きなんだけどさぁ…」


一つの影になろうとする二人の背後から、突然声が聞こえる。

「ぬぁああぁっ…!」「きゃ…」

吉澤はその声にびっくりして、人目もはばからず、大きく叫んでしまった。
叫びそうになる衝動を途中で抑えた石川は、吉澤との距離を大きく取ると、
回りを見渡して、吉澤の後ろを伺った。


359 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月27日(月)23時38分41秒




「保田さん…」

石川の言葉に後ろを振り返ると、保田の苦笑している姿が視界に飛び込んでくる。

「圭ちゃんっ!びっくりさせ…、ふがっ…」
「…ひとみちゃん、声が大きい…よぅ」

今にも保田に飛びかかりそうな吉澤の口を両手で覆うと、石川は小さな声で吉澤に促す。
他のメンバーやスタッフ達には苦笑いで済むが、他の宿泊客の視線はかなり痛い。
保田は回りの宿泊客にペコリと頭を下げると、身を屈めて二人の正面に来る。

「ごめん、びっくりさせるつもりも邪魔をするつもりもなかったんだけどさぁ…」

顔の前で手を合わせると、小さな声で保田は二人に謝った。


「邪魔なんて…」

保田にしっかりと見られていたことを恥ずかしく思った石川の頬は赤く染まり、
正面にいる保田の顔を見ることが出来ない。
石川の手によって塞がれている吉澤の口は何か言いたげにふがふがと動いている。

「け…ぃひゃ…、…ひゃま…ん…ばぁ……」
「で、明日のことなんだけどね…」

保田は小さく笑って、横目でちらりと吉澤を見る。
その言葉に目の色が変わった吉澤はソファから立ち上がると、
素早く保田の首にヘッドロックをかけた。


360 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月27日(月)23時40分56秒



「り、梨華ちゃん、ちょ…っと圭ちゃん…と話がある…がらっ、先に…、か、帰ってて。
 今日は…、はや…く帰るから…」

ヘッドロックをかけ、なおかつ保田の口を器用に塞いでいる吉澤の顔は保田の抵抗に歪んでいる。

「ぐ、ぐるぢぃっ…」

手のひらで吉の頬を押し退けようと抵抗する保田。
その抵抗にも負けずにロックする力を強くして、吉澤は力尽くで保田を押さえ込んだ。


今にも逝ってしまいそうな保田と本気で首を締めかねない吉澤。
二人の形相は仮にも『アイドルの表情』と言うには末恐ろしいものになっていた。

放送禁止の枠をも越えて、その顔にはモザイク処理が必要になるのではなかろうか…。


「う、うん。分かったから、手を緩めて…」

怖くなった石川は、苦しそうな保田を気遣ってか、吉澤の裾を引っ張った。
心配そうに見つめてくる石川の表情に吉澤は腕の力を抜き、顔が青ざめている保田を解放する。

「げほっ、げほ…」
「レフリーストッ…プが入ったから、け、圭ちゃんの負けぇ」


 ──そーゆう問題なの?ひとみちゃん…。



361 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年05月27日(月)23時43分28秒


そんな二人をそのままそこに残しておくのは気がかりだったが、
石川は他のメンバー達と一緒にラウンジを後にした。
モザイク処理が施されようとしていた二人は、石川の後ろ姿を見送ると深くソファーに腰掛けた。


「げほ…、世界のYasudaの演技はどうだった?」
「圭ちゃん、ありがとう。実はまだ…」
「そうだと思ったよ。でも、今さっき、本気で締めたでしょ?」

保田は首を押さえながら、舌を出して鋭い視線で吉澤を刺す。
蛇に睨まれた蛙の吉澤は大きな体を小さく折って、何度も首を振った。

「っそ、そんなことないよぉ…。で、さぁ…話の続きなんだけどね…」

否定するも、吉澤の額にはうっすらと冷や汗が滲んでいることは言うまでもなく…。

「はいはい…」



 ──世話が焼けるわね…、全く。



完全に闇の世界となった熱帯雨林を見つめながら、吉澤の話に苦笑しながらも耳を傾ける保田。
保田の相づちと傍らに置いてあるランタンの炎は小さく揺れ動いていた。

362 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年05月27日(月)23時51分02秒
>>350-361

更新しました。

363 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年05月28日(火)00時01分21秒
レス有難うございます。
久しぶりの大量交信でした(笑)。でも、そうでもなかったかも…(^^;;


>婆金さま
帰ってきてぇーーーーー。
最初は甘いつもりで書き始めたのに、こんな形に早変わり?(^^;;
見捨てないでぇーーーーー。


>理科。さま
自分もこんな花があるだなんて知らなかったんですよ。資料をゴソゴソしてたら出てきました(笑)。
どうやら、月下美人みたいな花らしいです。いしかーさんみたいな花です、と言ってみるテスト(爆)。
有難うございます。がんがります。


>よすこ大好き読者。さま
イヤーソ、すれ違い…。
では、PCのディスプレイに鼻をこすりつけて、      ……も匂いませんよほ(^^;;
カヲリの謎は次回へと続く(笑)。
有難うございます。がんがりまっする。
364 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月28日(火)02時34分51秒
すれ違いでしたな。(w
世界のyasuda素敵です。(笑
でも、イイ!!セリフでした。謎があるんですが……。
次回に期待!!マターリ待っています!
365 名前:理科。 投稿日:2002年05月29日(水)21時50分23秒
世界のyasuda…ステキ…。
何を隠してるのかが気になります!!
とにかく気になって夜も眠れませんが何か?と逝ってみる。。。
ちょっとドキドキして読んでますた。
366 名前:ごーまるいち 投稿日:2002年05月31日(金)21時09分35秒
スミマセン、世界のyasudaで笑ってしまいました(w)
モザイク処理の二人を思わず薄目で見ようとしてしまいましたが何か?(爆)
367 名前:じじ 投稿日:2002年06月01日(土)23時54分12秒
写真でも演技でも世界のyasuda(w
やっぱり保田さんは凄い人ですね(w
368 名前:婆金 投稿日:2002年06月02日(日)01時44分52秒
世界のYasuda・・・、どこまでも甘い響きです。
それにしても、この先が気になって気になって。一体、何が!?
369 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年06月09日(日)20時31分25秒



石川はカートを降りると、ヴィラの扉を一人で開く。
キィっというドアの音が物悲しく聞こえ、部屋がひどく広く感じた。
静まり返っている室内は、そんな石川の気持ちを一層寂しい色に染め上げていく。


 ──私に何か隠してるのかなぁ…?


目の前の二つのベットだけが二つ仲良く寄り添っているのが、切なく映る。
石川は不安げなため息を一つ落とすと、一人では広いベットに腰掛けた。


 ──隠し事なんてつきあい始めてから一度もなかったのに…。
   でもあの時は…。


石川は17回目の自分の誕生日のことを思い出していた。



370 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年06月09日(日)20時32分28秒


誕生日当日は娘。としてのコンサートで地方に行っていて、
コンサート終了後、メンバー達は宿泊先のホテルで過ごしていた。

アンコール時に起こった、予想もしなかったハプニングが石川の頬を濡らし、
大歓声の中で聞こえた祝いの歌は、コンサート終了後も胸の中で響いていた。
そんな余韻が残る中、ひっきりなしにメンバーやスタッフ達が石川の部屋を訪れている。



「梨華ちゃん、誕生日おめでとう」


数々の笑顔と数々のプレゼント。
石川はメンバーからも、細い腕では抱えきれないほどの多くの気持ちを受け取っていた。
しかし、一人のメンバーが石川の元へ現れない。
石川にとってかけがえのない特別な人、吉澤の影は一向に見えては来ない。

そんな吉澤のことを気にしてか、何度も何度も時計を見てはため息を落とす石川。
どんなに他のメンバー達を訪れても、ぽっかり空いた胸の空洞は誰にも埋めることは出来ない。
開いては閉じて、閉じては開くドアを見ては、吉澤がドアを開けてくるのを待ち望んでいた。


371 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年06月09日(日)20時33分42秒



出入りする波が落ち着いた頃、石川は時間を気にする。
時計の針が指し示すのは、日付を越える30分前。



 ──もう寝ちゃったのかなぁ…。





石川の視線は宙を泳ぐ。

見えている街灯りは儚げに闇に浮かんでいる。
心に沈んで消えていく思いは石川の胸の中を満たすことはない。
途切れることを知らないのか、吉澤のことばかりが溢れては消えていく。

こんなにも吉澤の存在が自分にとって大きな物だったのかと思い知らされて、
石川の胸はちくりと刺す鋭い痛みに震えていた。


372 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年06月09日(日)20時34分55秒






 ピンポーン。



ドアベルが部屋に響く。
今日の自分には気が休まることがないのかと、やや頬を膨らませながら、
新たな来客者を迎えるべくドアの前に立ち、向こう側の様子を伺う。


丸い小さな向こう側には、湾曲したピンクの物体が見える。
何が見えているのかさっぱり分からない石川は、小さな窓に目を凝らした。
すると、ピンクは少し動くと姿をあらわにする。


 ──あ…、プーさんだ。


窓に見えるプーさんは左右に動くと、石川がドアを開けてくれるのを、今か今かと待っている。

可愛らしいプーさんに、さっきまでふくれていた頬も緩んでくる。
石川はチェーンロックを外すと、ドアを素早く開けようとした。
しかし、ドアは石川の気持ちとは反対に少ししか開かない。
開かないドアを不審に思っていると、少し開いたドアからプーさんがひょっこり顔を覗かす。


373 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年06月09日(日)20時35分40秒




「梨華ちゃん、お誕生日おめでとう」

プーさんは左右に揺れながら、やさしく笑いかける。


どんなに声色を変えても間違うことなんてあり得ない優しい声。
溢れては消えていたもの達が石川の胸の中をいっぱいにする。




待ちわびた人が、
この胸の空洞を埋めてくれるその人が、


今、ドアの向こう側にいる。



374 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年06月09日(日)20時36分38秒





「ひとみちゃん、遅いよぅ…」

石川はドアにこつんとおでこを付けて、ドアの向こう側に呟く。
俯いた視界にプーさんが入り込んでくると、石川の頬にやさしくキスを降らす。
その柔らかさに涙が溢れ、胸の奥に温かな波が広がってゆく。

「遅くなってごめん…」

ゆっくりドアが開き始めると、石川をやんわりと吉澤の肩が抱き留め、
一番落ち着ける場所へとたどり着く。

「誕生日おめでとう。
 うちはずっと梨華ちゃんの誕生日を一緒に祝っていくから」

吉澤の言葉と腕の強さが石川の心に染みこんでいく。




そして、閉まるドアの向こう側で二人の新たな時を刻み始めた。





375 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年06月09日(日)20時37分30秒


バスルームから出てきた石川は、バルコニーに出ると庭先をぼんやりと見つめていた。


『今は匂いが弱いけど、夜になると匂いが強くなるんだよ』


甘い匂いに誘われたのか、昼間の安倍の話が気になってくる。
石川は月明かりを頼りにスダップマラムを探そうと、庭先に降りた。

足を進めるに連れて、甘い匂いはきつくなってくる。
裸足のまま、青い芝生の上を歩く石川。
たちこめている空気の温度にうっすらと額に汗を浮かべながら、
闇に浮かんでいる白い花に近づいていく。

石川は手に取ると、顔を近づけた。
安倍の言葉通り、匂いは強さを増している。




形は同じでも、昼間とは別の顔を見せる花。




枝から花を一つちぎると、石川は静かに枕元に忍ばせた。



376 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年06月09日(日)20時41分36秒
>>369-375

更新しました。
377 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年06月09日(日)20時58分07秒
レス有難うございます。
先に行くよか、後退っしちゃってるし、話…(^^;;。


>よすこ大好き読者。さま
>謎があるんですが……。
お楽しみは演歌の花(略。w

ってことは、「チャー●ー大好き読者。」に変更する日は近いのでしょうか?(ニヤソ


>理科。さま
長い時間放置しててスイマセン。
寝不足の日々が続いてるかもしれませんが、もうしばらくの辛抱です。さらに長い苦しみの日々が…(^^;;


>ごーまるいちさま
笑っていただいてうれしいです、こんな路線も書いてみたい(ボソ

>モザイク処理の二人を思わず薄目で見ようとしてしまいましたが何か?(爆)
では、モザイクキャンセーラーを近日こちらからお送りしたいと思います。是非それでお試し下さい(笑)。


>じじさま
何気に器用びんぼーな世界のyasuda(爆)、って感じがするんですよね(笑)。
yasudaの壁を打ち破りたいっ!  Σ(`.∀´#)


>婆金さま
半年ほど前まで後退しましたが何か(笑)。
先を書く予定だったのに、こんなことに…(−−;。
優しいお言葉、有難うございます。
378 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年06月10日(月)16時11分33秒
初レスです。
いつもながら描写の上手さに脱帽です。
花の強い匂いが暗闇の中で立ち込めてる感じとか、よく分かります。
続き、楽しみにしてます。
がんがってください。
379 名前:じじ 投稿日:2002年06月14日(金)00時03分01秒
やたらと萌えました♪
>形は・・・
いいっすね。かっこいーです。
やはり夜叉さん素敵♪
380 名前:チャーミー大好き読者。 投稿日:2002年06月16日(日)15時15分38秒
プーさんの動きになぜか、萌え(w
花の匂いがしてきそうです。
続き楽しみにしています。
381 名前:婆金 投稿日:2002年06月17日(月)01時00分34秒
以前の話、良いですね。スッと、こう、入ってくるというか・・・。
花も実際、見てみたくなりました。
382 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月13日(土)05時24分00秒
そろそろ更新無いかなぁ…
383 名前:皐月 投稿日:2002年07月21日(日)16時06分15秒
続きが見たいものです。
384 名前:名無しさん 投稿日:2002年07月24日(水)18時14分41秒
またーり待つのです!
385 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月18日(日)17時53分03秒
保全
386 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年08月26日(月)22時26分01秒


『「うち、よっすぃーのこと、めっちゃ好きやねん」』


浅い眠りの中、加護が吉澤に関西弁を教えてるときのことを思い出す。
少し照れた様子でその関西弁を話している吉澤が印象的で。

普段からあまり「好き」だという言葉を口にしない吉澤。
何度となく、石川の方からせがんだこともあった。
そんな時決まって吉澤はやんわり笑って、真っ直ぐ石川を見つめる。


『言わなくても分かってるでしょ?』


黙ったままの笑顔はそう答えを投げてくる。
見つめる瞳はどこまでも澄んでいて、石川の心を揺らして止まない。
無言の空間の中に吉澤の気持ちが込められているのは痛いくらい分かっている。


 ──だけど、言葉にして言ってくれないと不安になるんだよ…。


ただの我が儘だと言ってしまえばそれだけで片づいてしまう。
しかし、胸の底のざわめきは消えることはない。

387 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年08月26日(月)22時26分37秒


 ──口に出して、言葉にして欲しい。


何度となく重ねられる吉澤からの口づけは優しくて。
大切に思ってくれているってことはよく分かる。
なのに、心が満たされるのは一瞬で、吉澤のいないところで不安の色を滲ませ、
石川の小さな心は不安でいっぱいになる。

「ひとみちゃん…」

ぼんやりした意識の中、指に触れるスダップマラムに口づけて、
かすかな声で吉澤を求める。
まだ帰ってこない優しい眼差しを待ちこがれながら、
石川の意識は急速に深い闇の底に落ちていく。


388 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年08月26日(月)22時27分28秒


吉澤は物音を立てないように静かにバスルームを出る。
濡れた髪を拭きながらそろそろと足を運び、自分のベットに腰掛けて、
隣のベットに視線を落とし、ぼんやり見つめる。

白いシーツの上で静かな寝息をたてている石川。
心を落ち着かせようと、吉澤は大きく深呼吸をし、静かにゆっくりと息を吐いた。
手元にある小箱をベットサイドに置くと、隣のシーツの上に身を降ろす。



 ──梨華ちゃん…。



小さく軋むベット。
もう少し近くで石川の顔が見たい。
吉澤は肩に掛けているタオルを自分のベットの方に放りやると、
石川を起こさないように静かに覆い被さる。

外から流れてくる柔らかい風に小さく揺れる前髪。
軽く閉じられている艶やかな唇。

石川の頬に触れようと指先を伸ばそうとした時、その指の間をすり抜けていく何かが視界に入る。



ぽた。



髪から滑り落ちた一つの雫が石川の頬に落ちた。


389 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年08月26日(月)22時28分18秒



石川の体はぴくりと震え、ゆっくりと瞼が開く。


「…とみっちゃん…?」
「あ、ごめん…。起こすつもりはなかったんだ、ごめんね」

覆い被さっている体を起こしながら、吉澤が申し訳なさそうに視線を逸らしたその時、
石川は両手を伸ばして、離れていく体をぎゅっと抱きしめた。

「しばらくこのままでいて…」

ぽつりと囁くと、背中に回された細い腕は強く吉澤を包み込む。
石川の首筋に顔埋めたまま、吉澤はそれに答えるように石川を抱きしめると、
耳元に小さな吐息だけで名前を呼んだ。

その声はひどく優しすぎる。
堪えきれない何かが石川の中でぱちんと弾けて、それは涙になってゆっくりと頬をつたう。



 ──そんな儚げな優しさはいらない、ほしいのはひとみちゃんだけ…。


   ずっと傍にいて、一瞬でも私から離れないで…。



口にすれば簡単なのに、石川はそれが怖くて出来ない。
言葉となって吉澤に届いても、それは一瞬で形が無くなってしまい、
二人の関係にひびが入ってしまうのではないかと…。


390 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年08月26日(月)22時30分18秒


細い腕から不意に開放された吉澤は耳元に熱く濡れた温度を感じる。
ゆっくり体を起こすと、石川が顔を両手で覆っていた。

小刻みに上下に揺れる肩。
必死に何かに耐えようとする眉。
声を上げないように固く閉じられた唇。


「ごめん、うちが悪いんだね…」

長い指で石川の頬に触れると、吉澤は溢れ出る涙を拭おうとする。
石川は吉澤の言葉に何度も首を振りながら、涙を止めようと強く拳を握り、
吉澤に涙を見せないよう、ごしごしと目を擦る。

391 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年08月26日(月)22時30分56秒


どうすれば、石川の心落ち着ける場所になれるのだろうか。
泣いている理由は自分にあると分かっていても、うまく伝えることの出来ない自分がいる。
普段なら器用にこなすことが出来ても、この時ばかり器用になれない。
だから吉澤は行動に自分の言葉を乗せて、石川の気持ちに答えようとする。

「梨華ちゃん、あんまり擦ると、明日目が腫れちゃうよ」

強く握られている拳を優しく包み込むと、指に小さくキスを落とした。

「「ち…が…っ、うのぉっ…、だっ、…てぇっ…」

閉じられていた唇は、嗚咽と途切れ途切れの言葉を漏らす。
顔を覆っている手をゆっくりと解き、石川の頬に流れる涙を唇で拭う。
そして、固く閉じられていた扉を開こうと、吉澤は熱のある瞼に優しく何度もくちづけた。

392 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年08月26日(月)22時33分18秒
>>386-391

更新しました。
393 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年08月26日(月)22時34分42秒
レス有難うございます。
2ヶ月も上、更新を怠っていて申し訳ありません。
正直書けない、ということが恐ろしく感じております。この先のろのろ運転、徐行運転で運転していくと思われますが、よろしくお願いします。


>ごまべーぐるさま
そう言っていただけるとうれしいのですが、何せ間があいてしまったので微妙です(泣)。
期待に添えられるようがんがります。


>じじさま
こんな駄作で萌えていただき、うれしゅうございます。
素敵だと言ってもらえる毎日にしたいです(鬱)。


>チャーミー大好き読者。さま
今ではプーさんの話も懐かしいくらい…。
枯れきっているいしよしに合いの手を、ぢゃなくて愛の手を。。。


>婆金さま
花は実際手にしたこと無いのです(爆)。だから自分も直接見てみたいんですけどね。
日本にもあるみたいですよ、あの花。


>382さま、皐月さま、384さま、385さま
お待たせして申し訳ありませんでした。書き上げたら早めに更新しますのでよろしくお願いします。
394 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年09月28日(土)12時22分28秒


温かい腕の中で落ち着きを取り戻しつつある石川をきつく甘い香りが迎えた。
ゆっくり瞼を開くと、優しい眼差しを向けている吉澤の顔が見える。

「大丈夫?」

首を縦に振るだけの返事した石川の赤く上気していた頬に、吉澤は小さくキスをした。
石川は触れられる感覚に柔らかな吐息をこぼすと、広い背中に腕を回わす。
吉澤の匂いで胸の中をいっぱいにして、腕の中にいることを噛みしめたい。
大きく息を吸い込もうとした時、吉澤の胸元から甘い匂いがすることに気づいた。


 ──この匂い…。


その匂いに気が付いた石川は吉澤の顔を見上げる。

395 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年09月28日(土)12時23分15秒

「ひとみちゃん…」
「あ、ちゃんとお風呂に入って匂いを取ってきたんだけど、やっぱりまだ匂う?」

吉澤は小さく笑うと、腕を緩めて傍を離れようとする。
倒していた体を起こして、離れていく姿を切なそうに見つめている石川の耳元に
すぐ帰ってくるから…と囁くと、吉澤はベットの向かいのテーブルの方へと足を運んだ。

闇の中に浮き上がるほのかな光が吉澤を包みこんでいく。
その横顔も照明のせいか、石川にはいつもとは違う表情のように見えてくる。
ぼんやりと見とれていたら、その視線に気が付いたのか、吉澤がベットの方へと振り返った。
自分の方を見たわけではないかもしれないのに、石川は早まる鼓動を押さえようと
すぐさま目を逸らして視線を闇に泳がせた。


396 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年09月28日(土)12時24分12秒



「この匂い、好きだって言ってたから…」

吉澤は石川の隣りに静かに腰を降ろす。
差し出された小さな籠にはスダップマラム達が雫に濡れている。
そっと石川の手を取り、籠を細い指に触れさせると、包み込むように温かく手を重ねた。


 ──私のために…?


その甘さは切なさを連れてくる。
籠を見つめていた視界が少しずつ揺れ始めると、心は何かに満たされようとする。
限られた場所は広く深く、吉澤の手から伝わる熱は石川の中に浸透されていく。
胸は激しく泣いて、呼吸をすることすらおろそかになる。




 ──スキダトオシエテホシイ。




籠を抱えたまま、石川は倒れ込むように吉澤の肩に頬を埋めた。


397 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年09月28日(土)12時25分16秒



「よく似てるんだよね、この花…」

耳元で囁かれる声に顔を上げると、真っ直ぐな、それでいて澄んだ瞳が石川を優しく迎える。


「うちも好きだよ、甘いところとか…。梨華ちゃんによく似てる」


熱を伝えていた掌が離れていこうとする。
その手が、吉澤が、離れていかないように、両手でその手を包み込むと、
石川は細く長い指先に柔らかく口づけた。


かさっ…という小さな音と共に、ゆっくりと籠からこぼれ落ちて広がるスダップマラムの甘い匂い。
その匂いは二人を強く包み込むと、さらに甘さを増して、雫をこぼしていく。


石川は熱く発する指先に小さく言葉を乗せると、ぎゅっと強く握りしめた。



 ──キズツイテモイイ。



398 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年09月28日(土)12時26分11秒


唇が触れられている場所から体温が急激に上がっていくのを吉澤は感じていた。
突然の石川の行動に一旦躊躇した吉澤だったが、指先を唇の動きに身を任せ、
空いている左手で柔らかな髪に指を絡めていく。

髪を弄んでいた指が細い首筋に触れると、吉澤はゆっくりと胸元近くまで指を滑らした。
指先に別の熱を感じると、一瞬、唇の動きが止まる。
石川は小さく体を震わすと、吉澤に視線を向けた。



「ひとみちゃんの徴を付けて…」




視線は甘い湿度に濡れていて。




399 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年09月28日(土)12時28分36秒


吉澤は聞こえてきた言葉に耳を疑う。
何度か幾度も心と体を重ねていた二人だったが、一度だけ石川の首筋に徴を付けたことがあった。
それに気付いた石川がひどい剣幕で怒ったことがあり、吉澤は数ヶ月おあずけを食らったことがある。
以来、何度となく重ねても、吉澤は徴を付けることはしなかった。


 ──ヤバすぎるよ…


吉澤の胸はひどく高ぶっていた。
今日の石川は普段からかけ離れているように思える、いや、かけ離れすぎているのだ。
しかし、向けられる視線は、目の前にいるのはただ一人。


 ──そんなこと言われても、今日は…


胸元に触れている指が肌で震える。
徴を付けたくない、なんて、そんなことはない。
寧ろ、柔らかい肌に、全身に自分の徴を刻みたいくらいだ。


400 名前:約束にいちばん近い島 投稿日:2002年09月28日(土)12時29分08秒


見つめる視線は熱を増している。
躊躇している指に石川の手が重なり、吉澤はその冷たさにどきっとした。

熱を発しているのは自分の方だと。



出来れば、理性を保ったまま、石川を抱きたい。
そうでなければ、壊してしまいそうで。



指は導かれるまま、バスローブの間を縫って柔肌に触れ、
緩く結ばれていた紐は、自由になるとシーツの上に横たわる。


 ──今日は…



白いバスローブの向こうに見え隠れする褐色の肌。
自分の左の掌から感じる石川の鼓動と肌の温度に、吉澤の鼓動は否が応でも早まっていく。
吉澤の意に反して、口づけられていた指先は名残惜しそうに石川の唇に触れる。




遠くで何かが壊れる音が小さく響くと同時に、吉澤は艶やかな唇に口づけを落とした。




401 名前:椎真夜叉 投稿日:2002年09月28日(土)12時31分03秒
>>394-400

更新しました。
402 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月02日(水)23時48分48秒
あっ!更新されてる!待ってましたw
なんか続きが気になりますね・・・
マータリお待ちしております
403 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月20日(日)21時19分58秒
鼻を伸ばしてお待ちしております。
404 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月10日(日)15時23分09秒
マターリ待てます
405 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月02日(月)03時27分21秒
待ってるでヤンス。
406 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月25日(水)00時53分09秒
待ってます
407 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月02日(日)15時11分45秒
保全
408 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月12日(水)21時42分41秒
待ってます
409 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月12日(水)02時27分25秒
hozenn
410 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月10日(木)19時07分19秒
保全
411 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月10日(土)13時46分48秒
保全
412 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月10日(火)01時18分08秒
ほぜん
413 名前:名無し読者 投稿日:2003年07月09日(水)15時17分30秒
ほほほ
414 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月09日(土)00時22分35秒
保全
415 名前:名無しさん 投稿日:2003/09/20(土) 01:14
hozen
416 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/22(水) 02:17
ほぜん
417 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/06(土) 21:32
ホゼン

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