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あの空の彼方に
- 1 名前:そらり 投稿日:2002年02月28日(木)21時14分30秒
- 初めて小説を書きます。
基本的にいしよしのお話です。
学園ヒーローもの(?)のコメディです。
初めての書き物なので広い心で読んで頂ければ幸いです。
- 2 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年02月28日(木)21時15分40秒
- 東京都内某所に可愛い女の子以外は入学できない事で有名なモームス女学院がある。
その学園内の寂れた一室には、何時からか悪の秘密結社、世界征服倶楽部(安直)が設立されていた。
部室内では、今週の活動内容と、来週からの意向とその対策についての討議が行なわれていた。
「…と言う訳で、今週の報告を終わります。」
中等部3年の紺野あさ美が報告文を読み上げる。
「まったく、やる気あるの?」
「そんな事じゃ、世界征服どころかご近所だって征服できないよ。」
これまで黙って聞いていた当組織の総帥(部長)矢口真理が口を開く。
矢口真理は、当女学院高等部の3年で女学院きっての優等生でIQ400の超天才児である。
人当たりも良く、誰にでも気軽に話し掛け、さらに時々講師に頼まれて特別講習を行なう事もあった。
さらに、背が低くて愛らしい顔立ちをしているので生徒だけではなく講師の間でも相当人気がある。
- 3 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年02月28日(木)21時16分30秒
- 矢口は更に話を進める。
「黒板に落書きや靴箱のシューズを反対向きに入れて取り難くするなんて、餓鬼の悪戯じゃないんだから…。」
紺野の隣で話を聞いていた高橋愛が手を上げる。
「はい、総帥!」
中等部3年で紺野とクラスメートであり、世界征服倶楽部に紺野を誘ったのも高橋の方である。
「なに、高橋。」
「世界征服するには、具体的に何をすれば言いのでしょうか?」
「そんな事決まってるじゃない。」
玉座から立ち上がると胸を張り、言葉を続けた。
「怪人に襲わせるのよ!!」
- 4 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年02月28日(木)21時17分16秒
- 辺りが静まり返る。
「…怪人…ですか。」
紺野が呟く。
「なるほど!」
納得する高橋。
「ちょっと待ってください!!」
これまで話を聞いていた吉澤ひとみは思わず立ち上がる。
吉澤ひとみは高等部1年で、中学までは違う学校に居たらしい。
スタイルも良くきれいな顔立ちをしていた事もあり、入学当時から既にかなりの人気があった。
しかも、運動神経がずば抜けており、さまざまな倶楽部から誘いがあったが、
矢口に見込まれてしまい世界征服倶楽部に入部する(させられる)事になったのだ。
「怪人ってなんですか?そもそも何処に居るんですか!」
最もな発言だ。
だか、この発言は彼女の運命を大きく変える事になる。
- 5 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年02月28日(木)21時18分16秒
- 「ここにいるじゃない。」
「それってどういう…」
「貴方が怪人になるのよ、吉澤ひとみ。いえ、タコヤキ怪人。」
「!?」
吉澤はあまりの突飛な発言に声を失う。
「なっ、何を言って…そもそもどうしてタコヤキ怪人何ですか?」
何とか言葉を搾り出す。
「それはね…。」
と矢口。
「それは?」
尋ねる吉澤。
「気分よ。」
かくして、吉澤ひとみは強制的にタコヤキ怪人へと改造される事となった。
- 6 名前:そらり 投稿日:2002年02月28日(木)21時23分03秒
- 本日はここまでです。
読みづらい点もあるでしょうが最後までお付き合いよろしくお願いします。
- 7 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月01日(金)03時49分47秒
- けっこう好きなノリかもしれない…
がんばってください
- 8 名前:夜叉 投稿日:2002年03月01日(金)17時18分00秒
- 密かに好きな路線かも(笑)。
頑張ってください、期待してます。
- 9 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時44分38秒
- 週が変わり、平穏な日々が始まる。
放課後になり、殆どの生徒が帰宅し始め、学校に残っている生徒も疎らになる。
その日、事件は起こった。
なんと、タイヤキ怪人と名乗る手足が生えた巨大タコヤキが、
居残っている生徒にタコの入っていないタコヤキを無理矢理食べさせているというのだ。
その被害者は数10名にも及び、その殆どがあまりの不味さにめっちゃブルーにり、
学業への取り組み意欲を減退させていた。
そのあまりの凄惨な状況に、ついに当女学院最強と謡われる高等部生徒会が動き出した。
- 10 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時45分23秒
- そして翌日。
石川梨華は急いでいた。
高等部2年で生徒会書記を任されている。
容姿端麗で独特の声質を持ち、一部の女生徒には多大の人気はある。
この日の放課後、石川は、生徒会長である安倍なつみに呼び出されていた。
安倍なつみとは、当女学院の理事長の一人娘で当女学院の最高権力者である。
外面は良く、その正体を知るものは生徒会書記である石川と、副会長である後藤真希ぐらいだ。
後藤真希は優しくて面倒見も良く、なにより可愛いかった。
生徒会役員はとにかく綺麗な人ばかりで、生徒会長である安倍が容姿(のみ)で選んだという噂があるぐらいだ。
(急がなきゃ、会議が始まっちゃう。)
息を切らし、廊下を走る。
廊下の掲示板に『廊下は走るな!』という張り紙が見えたが急がないとどんな目に合わされるか分らない。
わき目も振らず走りながら廊下の角を曲がったその時…。
- 11 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時46分33秒
- 鼻に衝撃が走る。
石川はそのまま前のめりに倒れた。
「っ!いったぁ〜い。」
右手で鼻を摩り、左手には柔かい感触が…。
(ん?なんだろ…。)
もみもみしてみる。
「…あ、あの…。」
下から声が聞こえる。
(えっ?)
ぶつかったと気に思わず閉じていた目を開く。
石川はリボンの色から判断して1年生らしい女生徒の上に馬乗りになっていた。
両膝は祖の女性を挟むようにして地面につき、左手は彼女の胸を掴んでいた。
- 12 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時47分12秒
- 「きゃあ!ごっごめんなさい!」
手を離し彼女から離れる。
見る間に顔が熱くなる。
「あっいえ、自分もよそ見していたんで…。」
恥ずかしくて、顔を上げられないでいる。
「本当にごめんなさい。どこか、怪我していないですか。」
深深と頭を下げ、平謝りに謝ると、頭を上げて相手の顔を見る。
この時初めて相手を顔を見た。
(きゃっ、綺麗な人…。)
石川が彼女に見惚れていると
「本当に、平気なんで…。」
と、にっこりと笑って答える。
「廊下は走ると危ないですよ。」
微笑みながら話し掛けられる。
「うっ。ごめんなさい。」
再び頭を下げる石川。
- 13 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時48分33秒
- (なんだかわたし、謝ってばかりだな。まっ、自分が悪いんだけど…。)
(…ってわたし、急いでるんだった。)
とにかく急いでるのでこの場は、名前だけを言って離れる事にする。
「あのっ、わたし、2年C組の石川梨華です。」
「あっ、知ってます。」
「えっ?」
「えっ?あっ!ほっほら、生徒会の書記をやってるから…。」
ちょっと焦って話す姿が妙に愛らしい。
思わず微笑んでしまう。
彼女もつられて微笑む。
「あたしは、吉澤ひとみです。」
改めて自己紹介すると右手を差し出す。
「あっ、ひとみちゃん。よろしくね。」
握手。
「ごめん、わたし、急いでるから。」
そう言うと、吉澤に手を振るとその場を離れた。
(ひとみちゃんか…何処かであった気がするな…。)
記憶の糸を辿るが思い出せない。
石川は吉澤の事を考えている間に生徒会室にたどり着いた。
- 14 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時49分10秒
- 「すみません、遅れましたぁ!」
扉を開けると開口一番に謝る。
「遅いぞ!罰として肩揉め!」
怖い形相で安倍が睨んでいる。
「分りました。」
ふらふらと安倍に近づくと丹念に肩をもみ始める。
「いや〜、お客さんこってますね〜。」
「まったく、世話の焼ける後輩を持つと苦労するよ。」
「うっ。」
言葉に詰まる石川。
それをこれまで傍観していた後藤が突然笑い出した。
「くくくっ、りかちゃん、気にしなくていいよ。安倍さんも今来たとこだから。」
安倍が後藤を睨む。
後藤は、動じることなく受け流す。
- 15 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時50分09秒
- 改めて見回すと、生徒会室の中には5人の生徒しか居なかった。
生徒会長の安倍なつみ、副会長の後藤真希、書記の石川梨華、そして…。
「…あの…。」
「ああ、あの2人は、中等部の生徒会で…。」
安倍が答えようとすると、
「うちは、加護亜依。中等部で生徒会会長をやってます。」
と横分けの女の子が自己紹介する。
加護に続き、隣にいた女の子が、
「え〜とぉ、ののは、辻希美です。副会長ですぅ。」
えっへんとポーズを取る。
「あっ、私は石川梨華。高等部生徒会書記をやってます。よろしくね。」
「よろしく。」
「よろしくですぅ。」
自己紹介も済むと、
「石川、もう肩揉みはいいから席着きな。」
と空いた席に座るよう促す。
石川は安倍から離れると適当に席に着いた。
「さて、今回みんなに集まって貰ったのは…。」
厳かに話し出した。
- 16 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時51分42秒
- 「昨今、怪人による被害が増大しております。」
「既に、全校生徒の2.4%が襲われており、登校拒否者まで現れる始末。」
ここで、全員を見渡し、
「そこで今回、高等部中等部生徒会連合による地球防衛倶楽部、通称E.D.C.の発足をここに宣言します。」
絶句する後藤と石川。
加護は待ってましたと言わんばかりに微笑み、辻は「ほえ?」と安倍を見上げる。
構わず話を続ける安倍。
「最高責任者(神)、兼、現場リーダーはわたし事安倍なつみ。」
「副リーダーは後藤真希、貴方です。」
名前を呼ばれてきょとんとする後藤。
「次に、メカニック担当である加護亜依。加護にはもう話をしていたけど、改めてよろしく。」
「任せとき。」
「次に、食いしん坊担当である辻希美。よろしくね。」
「はいですぅ。」
「最後に、不幸担当の石川梨華。断ったら殺すよ。」
「どうして私だけ強制なんですか?っていうか不幸担当って何ですか?」
思わず席を立つ。
「ピッタリだと思うけど。」
周りも頷く。
- 17 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時52分16秒
- 「辻さんも食いしん坊担当に疑問を持たないんですか?」
いきなり振られてきょとんとする辻。
「ののでいいれすよ。ののは、食いしん坊だからうれしいれすぅ。」
そこに加護が口を挟む。
「それに、ののは驚異的幸運の持ち主なんや。」
「たとえば、空から雨あられと槍が降ってきても掠り傷一つせずに平然とケーキを食べてるような奴や。」
「これが石川先輩だと、避けようと必死に動き回り、結果的に全て突き刺さるやろ。」
「ケーキ?何処あるれすか?」
「例えばや。」
石川は、もはや諦めたかの様にぐったりと項垂れるとそのままの姿勢で座る。
- 18 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時54分09秒
- 「全員納得したところで、これから作戦指令本部の説明をします。」
と言うと、全員に鍵を配った。
「この鍵は作戦指令本部へと続く秘密の扉を開ける鍵です。スペアは無いので無くさないように。」
その鍵は奇妙な形をしており5センチぐらいの短剣にも見えた。
安倍は、黒板横まで移動すると黒板横の隠しボタンを押す。
すると、黒板が僅かに移動して鍵穴が現れる。
鍵穴に鍵を差込み左に回すと今まで何も無かった壁に突然扉が現れた。
「それじゃついてきて。」
安倍を先頭に扉を潜る。
- 19 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時54分58秒
- 細い通路を降りていくと、八畳ほどの部屋でたどり着く。
そこには前面に巨大なスクリーンがあり、中央には広いテーブルがある。
「それでは簡単に説明するけど、前面のモニターは
この学園のいたるところに配置する予定の隠しカメラにより全ての場所を見ることが出来る予定。」
「下にある、何かごちゃごちゃしたのは操作盤。」
「後、左となりのドアを明けると更衣室になってきて更にその奥にシャワールームがあります。」
「右側のドアを明けると洗濯ルームになっていて他にもキッチンやってあ〜もう、めんどくさい!後は各自勝手に調べること。」
後藤、石川、辻の三人は呆然と頷くしか出来ない。
「後は加護、お願い。」
まってました、とばかりに前に出る加護はお任せとばかりに頷くと、隣の更衣室へと引っ込んだ。
- 20 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時55分41秒
- 更衣室から出てきた加護の両手には、色とりどりの全身タイツが抱えられていた。
全身タイツを中央のテーブルの上に置き、その中の白いタイツを手にすると
「えーっ、これは、パワースーツと言いまして、全身の肉体的強化を行なう事が出来ます。」
「赤は、リーダーである安倍さん。」
と言って紅い全身タイツ安倍に
「青は、副リーダーである常に冷静沈着な後藤さん。」
青いタイツを後藤に
「黄色はのの。」
黄色いタイツを辻に
「ピンクはその…石川さん。」
ピンクタイツを石川に渡す。
「そして、白いのはうちや。」
「もちろんヘルメットもあるで。」
とヘルメットを取り出す。
完全に顔が隠れるフルヘルメット型のものだ。
もちろんタイツとおそろいの色である。
「とりあえず、着替えてください。」
安倍に言われて仕方なく着替え始める。
- 21 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時56分33秒
- 着替え終わると辻がちょんちょんと加護をつつく。
「なんや。」
「ねぇ、アイボン。あたしのここをもっとこうして欲しいです。」
と言って胸のところで大きく両手を胸を強調するように動かす。
「無理や。そのスーツはそれでバランスが取れ取るんや、大きくしたかったらベースをでかくするしかない。」
がっかりする辻。
鏡の前でポーズを取っていた後藤が、
「ねぇ、何かダサくない?」
「そう言うやろ思ってな、このスカーフを巻くと良いで。」
と、紅いスカーフと取り出すと後藤に渡す。
後藤は、受け取ったスカーフを取り合えず着けてみる。
大して変わらない。
「後藤さん、めっちゃかっこいいで。」
「ほんと?」
「ほんまや。憎いでこのファッション泥棒。」
「そうかな…えへへ。」
鏡の前でポーズ取る後藤。
加護は、その横でうんうんと頷きながら、口の端を少し吊り上げた。
- 22 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月01日(金)20時57分21秒
- 同じく鏡を見ていた石川が
「ねぇ、このスーツって体のラインがはっきり出てなんか恥ずかしいよ。」
「石川さんスタイルいいから決まってますよ。」
と辻がフォローする。
「でもやっぱり恥ずかしい。ねぇ加護ちゃん、他に無いの?」
「うーん。有るに有るけど、甲冑型のスーツ何やねんけど…。」
「けどあんまりお勧めでけへんで。」
「どうして?」
「装甲にリアクティブアーマーを採用してるんやけど、
衝撃を受ける度にダメージを軽減する為爆発するんや。
そうすると、当然パーツも吹っ飛ぶ。
ダメージを受けすぎると素っ裸になってまうで。」
「うっ。これでいいです。」
着替えも済ませ、再び司令室に戻る。
「それでは、私たちの呼び名についての説明を…。」
安倍が説明を始める。
その後、安倍は数時間に及び説明をし、全てが終わる頃にはすっかり暗くなっていた。
- 23 名前:そらり 投稿日:2002年03月01日(金)20時58分47秒
- 更新はここまでです。
ようやくサブタイトルの通りになりました。
>7 名無し読者さん
レスありがとうございます。
今後もこのノリでいく予定です。
>8 夜叉さん
レスありがとうございます。
密かに好きでいてください(w)
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月01日(金)21時39分48秒
- 戦隊のお約束ですね
タイツ見たい(w
- 25 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 26 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月03日(日)23時25分21秒
- 次の日の昼休みに、石川は屋上に来ていた。
雲一つない晴れた空が何処までも続いている。
いつの頃からか石川は考え事や悩みがあると空を眺めるようになった。
今日も一人、手摺に手を掛け青い空を見上げていた。
不思議と落ち着く。
屋上には何人かの生徒が昼食を取ろうとグループを作り屯していたが、
石川はそんな事は気にもとめず考えに耽っていた。
(いやだなぁ…。安倍さんの思い付きには付いて行けない…。)
思わず溜め息が出る。
「どうしたの?」
「うわぁ!」
不意に背後から声を掛けられる。
石川は話し掛けられた事に驚き、後ろを振り向いた。
そこには吉澤ひとみがいた。
- 27 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月03日(日)23時26分39秒
- 「あっ、ごめん。驚かして…。」
「あっ、いいの。…でもビックリしちゃった。」
済まなそうな顔をして謝る吉澤に石川はにっこり微笑みかける。
(やっは可愛いな。驚いた顔も可愛かったけど…。)
その微笑につられて、吉澤も微笑む。
「どうしてここに?」
「お昼。何時もここで取ってるから。」
石川の問いに対して両手に持っているベーグルとヨーグルトを見せて答える。
「石川先輩こそ…。」
「あぁ、わたしは…ちょっと考え事があって…。」
「ふ〜ん、そっか…。」
それ以上は聞いてはいけない事のような気がして言葉を詰まらせる。
「ごめんね。心配してくれたのに。」
吉澤に対しての謝罪の気持ちからか、
これ以上聞かないで欲しいという意思表示なのか石川が謝る。
(まだ、わたしには話してくれないか…。)
吉澤は、そのことを感じ取って少し寂しくなった。
- 28 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月03日(日)23時27分10秒
- それから、話題を変えて他愛の無い話をした。
休み時間も終了間際になり屋上も人気がなくなってきた。
「それじゃ、もうそろそろ戻るよ。」
吉澤が教室へ戻ろうとする。
「あっ、うんまたね。ひとみちゃん。」
吉澤は、ひとみと呼ばれて照れ臭そうに額を掻く。
「よっすぃーで良いよ。」
「えっ?」
「皆にそう呼ばれているから、ひとみちゃんって呼ばれるとなんだか恥ずかしいや。」
思わず苦笑する。
「またね、よっすぃー。」
石川が呼びなおすと手を振って答え、屋上から出て行った。
(ありがとうね、よっすぃー。元気付けてくれて。)
不意に屋上に風がそよ吹く。
スカートがはためき、栗色の髪が風に流れる。
「気持ちいい…。」
青く澄み切った空は優しい風を送り、
石川の心を清清しい気持ちで満たした。
- 29 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月03日(日)23時27分44秒
- 放課後になり、吉澤の携帯に矢口からメールが届く。
『本日決行。場所はB棟美術室。』
溜息を一つ吐くと、怪人となる為、女子トイレへと急いだ。
- 30 名前:そらり 投稿日:2002年03月03日(日)23時29分08秒
- 今日の更新はここまでです。
次回は第一章を最後まで更新したいと思います。
>24 名無し読者
レスありがとう御座います。
ええ、お約束です。(w
お約束といえばもう一つ…
- 31 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月04日(月)04時24分35秒
- もしや・・・(w
- 32 名前:夜叉 投稿日:2002年03月04日(月)13時58分31秒
- おやおやおや?
ってことは…(汗汗)。
- 33 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時25分24秒
- E.D.C.本部では既にメンバー全員が集まりミーティングを行なっていた。
「以上、何かある人は…。」
安倍が言い終える前に、指令室に赤いランプが点灯し、
けたたましいサイレンが鳴り響いた。
操作盤を操作する加護。
するとモニターに怪人の姿が映し出された。
場所は、B棟1階の美術室。
全員は顔を見合わせて頷く。
「みんな!出動よ。」
「はい(です)。」
安倍の号令に答え、各々着替える為更衣室へと移動した。
- 34 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時26分08秒
- 一方、美術室では、美術の教師をしている保田圭はタコヤキ怪人に襲われていた。
タコが入っていないタコヤキを食べされられ、悲しみに打ちひしがれてすすり泣く。
その時、
「そこまでよ。」
掛け声と共に、5つの影が現れた。
「モーレッド」(どど〜ん)
「モーブルー」(どど〜ん)
「モーイエロー」(どど〜ん)
「モーホワイト」(どど〜ん)
「モーピンク」(どど〜ん)
彼女達の背後で、それぞれのカラーの煙幕が立ち上ると
「五人そろってモーレンジャー!!」(どどど〜ん)
背後で5色の煙幕が更に立ち上がる。
一瞬静寂に包まれる。
- 35 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時26分42秒
- 「あっお疲れ様です。わたし、タコヤキ怪人と言います。」
「あっども。」
「皆さんもタコヤキ食べます?」
それぞれの自己紹介を済ませると、タコヤキ怪人はモーレンジャーにもタコヤキを進めてきた。
「わ〜い。いっただっきま〜す。」
タコヤキに飛びつくイエロー。
プルヘルメットの口の部分だけ開くと、
ひょい。ぱくっ。
ぶ〜っ!!
タコが入っていない半生のタコヤキのあまりの不味さに喉を通らず吐き出してしまう。
「うわ〜ん。かごしゃ〜ん。」
味よりも吐き出してしまった事にショックを受けホワイトに泣きついてくる。
「よしよし、ウチが美味しいタコヤキ作ってあげるさかい泣きやみな。」
「ぐすん。うん。」
- 36 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時27分24秒
用意するもの
1.たこ焼き粉(100円ショップで買える!)
2.卵(粉150gあたり一個くらい)
3.キャベツ
4.天かす
5.紅生姜
6.たこ
7.青海苔、ソース
8.火薬100グラム
キャベツを細かく刻む。
粉150gに卵1個と600ccくらいの水をいれる。
このとき卵を入れないとひっくり返すのに苦労するので注意。
粉を投入して、粉が見えなくなくなるまで混ぜる。
たこ焼き器が温まったら、油を引いて半分くらい種をいれて、タコを投入!!
つぎにキャベツ、天かす、干しエビを投入。
さらに種を投入する。
焼けてくると素早くひっくり返す。
焼きあがったらソースを塗って、青海苔をかけてできあがり。
- 37 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時28分18秒
- 「できたでぇ。」
「わ〜い。」
ひょい。ぱくっ。
「美味しいれすぅ。のの幸せでれぅ。」
出来上がったタコヤキに美味しそうに飛びつくのの。
それを見てレッドとブルーも、
「あたしらにも頂戴。」
と、イエローにタコヤキを分けて貰う。
ひょい。ぱくっ。
「美味いべさ。」
ひょい。ぱくっ。
「美味しいねぇ〜。」
ひょい。ぽろっ。
「ああ、落としちゃった…。」
後藤のパワースーツ(全身タイツ)にタコヤキのソースが付いてしまう。
「あのぅ、わたしにも…。」
申し訳なさそうにピンクが言うと、
「ピンクはダメ!」
ホワイトが断る。
(ぐすん。加護ちゃん、わたしの事嫌いなのかな…。)
涙ぐむピンクであった。
- 38 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時28分49秒
- タコヤキを美味しそうに食べる姿をタコヤキ怪人は眺めていた。
ホワイトは、タコヤキ怪人のほうも見ると貴方も食べる?と目で語りかける。
「いいの?」
「ええで、食ってみい。」
残ったタコヤキをタコヤキ怪人に勧める。
タコヤキ怪人は軽く会釈するとタコヤキに爪楊枝を刺し、ひょいっと口の中に放り込む。
カリッ。
「っっっ!!」
どおぉぉん。
ばふぉんおんおん。
突然怪人口の中でタコヤキが爆発し、口から煙を吐きながら後ろ向きに倒れてしまう。
なんと、タコヤキの中に1つだけ爆薬が入ったものがあり、それを怪人は食べてしまったのだ。
- 39 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時29分27秒
- 「どうや、必殺タコヤキ爆弾の味は!」
この作戦は、驚異的に幸運なイエローがいてこそ成り立つ作戦である。
ピンクに食べさせなかったのは、絶対的に幸が薄い彼女の場合、
イエローの幸運を相乗効果で打ち消し確率が五分五分になる為、
ピンクが自爆するのを恐れた為である。
「さすがだべ。」
「やるね、ホワイト。」
「さすがれすぅ。」
「…ホワイト怖い…。」
- 40 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時30分01秒
- 「くっそぉ。こうなったら…。」
物陰に隠れて見ていた悪の総帥矢口は片膝を着き、右手を胸に当てる。
「セクシービーム!」
前に突き出した右手から出されたビームがタイヤキ娘に注がれる。
説明しよう。
セクシービームとは、怪人を一度原子レベルまで分解し再結合する事により破壊された個所を完全に復元することが出来るのだ。
さらに巨大化までさせてしまうおまけ(副作用)付きなのだ。
「そんなぁ…わたし、巨大化してる…。うっ、うおぉぉっ!」
巨大化したタコヤキ怪人は校舎を破壊した…己の不幸を嘆きながら。
- 41 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時30分39秒
- 「きゃあ、如何しよう。」
悲痛な叫べをあげるピンク。
「大丈夫や、こんな事もあろうかと、こちらも用意しとった物がある。」
「レッド!」
ホワイトの呼びかけに対してレッドが頷く。
懐から携帯を取り出すと、
「あっもしもし、あたしだけど。」
「そう、今から来れるかな?」
「うん、じゃあよろしく。」
携帯を切る。
突然当女学院のプールが2つにわれ、そこから巨大ロボットが姿を現した。
巨大ロボットは、ゆっくりとこちらに向かった。
16ビートを刻みながら…。
「あれは?」
ブルーが呟く。
「あれこそがこちらの秘密兵器、カオリロボや。」
- 42 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時31分16秒
- 「すごいれす。かっこいいれすぅ。」
カオリロボを見上げ、大はじゃぎのイエロー。
あまりの展開にボーゼンとするタコヤキ怪人。
「ホワイト、何か必殺技は無いの?」
レッドがホワイトに尋ねる。
「あるでぇ、凄いのが。」
「カオリキャノンと言って、地球の自転エネルギーを16ビートで刻む事により体内に取り込み一気に放出するんや。」
手振りを交えて説明する。
「OKわかった!」
よく分らなかった。
「いくよ!みんな。」
レッドが号令する。
「カオリキャノン!!」
全員の声が重なる。
- 43 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時31分58秒
- カオリは、口を開くとカオリキャノンを発射した。
そのとき、カオリから滴るプールの水に16ビートを刻む左足がとられ上体がわずかに上を向いた。
カオリキャノンはタコヤキ怪人を軽く掠り、上空に輝くお月様に直撃した。
目が眩むばかりの閃光が一瞬世界を真っ白に染める。
徐々に周囲の光度に慣れつつある目を細めながら見上げたお空には、
ほんのちょこっとだけ形を変えたお月様が浮かんでいた…。
- 44 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時32分28秒
- とどろく轟音、渦巻く砂塵。
すっかり縮みあがったタコヤキ怪人は体も縮み、小さくなって気絶した。
「ちっ、何て事なの…。」
それを見ていた悪の総帥矢口は、
「ひきあげだよ。高橋、紺野、タコヤキ怪人を回収するよ。」
手下の高橋愛、紺野あさ美に命じてタコヤキ怪人こと吉澤ひとみを引きずって退却していった。
破壊の痕に目を奪われ、モーレンジャーはその事に気づかなかった。
その、放心状態はしばらく続いた。
その日のニュースは欠けた月の話でもちきりだった。
モーレンジャーは誓った、2度とカオリキャノンは使うまいと…。
- 45 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時33分17秒
- その頃、矢口達は悪の秘密組織本部に戻っていた。
「今回の失策、何か言いたい事はある?」
矢口は高台の祭壇にある玉座に腰を降ろし、吉澤を見下ろしている。
「すっすみません。まさか、あのような連中が現れるとは…。」
恐ろしくて頭を上げる事が出来ない。
「わたしをガッカリさせないでね。」
「はっ、はい。」
「そう、それじゃあ…。」
嫌な予感がして頭を上げる。
矢口の瞳はあやしい光を放っていた。
「タイヤキ怪人に改造してやる。」
「…へっ?」
一瞬思考が止る。
「なっ何故タイヤキ怪人なのですか?」
「そんな気分だから。」
吉澤を連れて行くよう高橋と紺野に命じる。
その時、
「あの、立て続けに怪人になるとは可愛そうです。」
と紺野が庇う。
「…紺野ちゃん。」
吉澤は、感謝の瞳を紺野に向ける。
「じゃあ、あんたがやる?」
矢口の言われ、吉澤と視線を交わす紺野。
「…吉澤さん!がんばって!」
にっこりと天使の微笑を返す。
「っ!い〜や〜だ〜っ!!」
高橋と紺野に引きずられて、ひとみは改造室へと引きずられていった…。
引きずられ遠のく度合に応じて絶叫も小さくなっていった。
- 46 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時34分02秒
- ふと矢口が立っている祭壇の後ろにある閉ざされたカーテンが開く。
そこに何者かのシルエットが浮かぶ。
すらりと伸びた肢体。
意志の強さを表す、ともすれば高慢とも取れるその姿勢は自信に満ち溢れて圧倒的存在感を周囲に感じさせている。
「失敗したようやね。矢口…。」
その声には如何なる者も抗えない絶対的な強さを感じさせる。
「すっすみません。」
矢口は片膝をつくと頭とを垂れる。
「まーしゃあないな、今回は…。」
「次こそは必ず…。」
そのままの姿勢で答える。
「まっ、あんじょ〜きばりや〜。」
シルエットが1歩下がると同時に開かれたカーテンがさぁっと閉じる。
矢口は先ほどまでシルエットの人物が立っていた場所に一例をし、踵を返してその場を後にした。
- 47 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時34分35秒
次回、悲しき、タイヤキ娘。をお送りします。
- 48 名前:第1章 地球防衛倶楽部発足! 投稿日:2002年03月05日(火)00時35分09秒
- 今日の更新はここまでです。
無事、第1章を終了する事ができました。
第1章というより第1話ですが(w
次回から第2章を更新したいと思います。
今後も、広い心と暖かい目でお付き合いください。
>31 名無し読者さん
レス有難う御座います。
予想通りでしたか?ロボと言えばあの方を置いて思い浮かびませんでした(w
>32 夜叉さん
レス有難う御座います。
こういう展開になりました。
やはり、戦隊モノには必要不可欠ですから(w
- 49 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月05日(火)04時03分51秒
- ぃゃぁ好きだなぁこういうの(w
- 50 名前:夜叉 投稿日:2002年03月06日(水)09時53分17秒
- 恐るべし、カオリキャノン…(汗)。
次はタイヤキ娘。ですか、モーレンは何で対抗するのか楽しみです(爆)。
- 51 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時26分49秒
- 恐怖のタコヤキ怪人の襲来事件より一夜明け、何事もなかったように平穏な日々が始まる。
放課後になり、矢口は何時ものように悪の秘密組織本部へと向かっていた。
ふと、
「矢口せ〜んぱ〜い。」
彼女を呼ぶ声が聞こえた。
声のほうを振り向くと、活発そうな女の子が手を振りながら矢口の方へ駆けて来る。
彼女の名は小川麻琴。以前矢口が所属していたアーチェリー部の後輩で、
そのころから何かと面倒を見ていた事もあり随分と懐かれていた。
その、あまりの仲の良さに恋仲疑惑まで浮上していた。
もちろん、本人たちは否定していたが満更でもない様だった。
- 52 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時27分41秒
- 小川は下を向いて呼吸を荒げている。
一呼吸して、満面の笑みを浮かべると矢口に向かい飛びついてきた。
「先輩。お久しぶりですぅ〜。」
「うわぁ!ちょっ離れて。」
突然の事に驚く矢口。胸の鼓動が一瞬高まる。
胸がドキドキするのは驚いたからだけではなかった。
大人しく離れると、ちょっと悲しそうな表情を浮かべる。
矢口から拒絶された事にショックを受けているようだ。
(うわぁ、かわいいな〜。)
「ごめんね、びっくりしちゃって…。久しぶりだね、まこっちゃん。」
小川の顔に満面の笑みが戻る。
「はい。今お暇ですか?」
「暇だよ。」
「でしたら、これからモッス行きませんか?」
「うん。いいよ。」
取り立ててやる事もないので付き合う事にする。
- 53 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時28分18秒
- 校庭を抜けて3件目の角を右へ回り、さらに5分ほど歩く最寄の駅がる。
その2件隣にモッスバーガはオープンしている。
さすがに、モームス女学院の近くだけあってかわいい女の子たちで賑わっている。
2人は適当に注文すると空いている席に座った。
「先輩は高等部でもアーチェリー続けているんですか?」
「ん〜。いまはね、ほかにやりたい事見つけちゃった。」
「え〜っ何ですかぁ?」
「ちょっとね。」
「いいじゃないですか〜。教えてくださいよぉ。」
等と取り留めのない会話が続く。
ふと、思い出したように小川が話題を変えてきた。
「あっ、そういえば、昨日変なメールが着たんですよ。」
「えっ、どんな?」
「これなんですけど…。」
鞄から携帯を取り出し矢口にメールを見せる。
- 54 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時28分48秒
- 携帯の小さな液晶を覗き見ると。
『始めまして、私17歳の現役バリバリ女子高生です。
良かったら、友達になって下さい。
あっ、私みんなからゆうちゃんって呼ばれています。』
「ブッ!ハハハハハ。何これ、傑作。」
思わず吹き出す矢口。
(ゆうちゃんだって〜。まさかね〜年齢が違うか…。)
「ねぇ、ちょっと貸して?」
「あっ、はい。」
矢口は携帯を受け取るとなにやら文字を打ち込み始めた。
『こんにちは、僕はマコトと言います。
年齢は28才、独身のしがないサラリーマンです。
メールありがとう。僕でよければ、友達になりましょう。』
メールを返信する。
- 55 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時29分33秒
- 「あっ!何するんですかぁ。」
「いいじゃん。無視してればそのうち諦め…」
不意にメールの着信音がなる。
見てみると送信主は『ゆうちゃん』になっていた。
(はやっ!)
小川と目で合図をし、小川が頷く。
届いたばかりのメールを開いてみる。
『マコトさんって言うんですか。素敵な名前ですね。
マコトさんは趣味は何ですか?
私は、料理とか結構好きでこれでも得意なんですよ。
あと、映画も良く行きます。マコトさんはどんな映画がお好きですか?
あっ!もちろん友達とですよ。私も今は彼氏いないの…
すみません、長くなっちゃって。お返事待ってます(ハート)』
「ブッ!ハハハハハ!最高!!」
大爆笑する矢口、その横で小川はオロオロしている。
(はやっ!ながっ!へっ返信しなきゃ…。)
- 56 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時30分12秒
- その後も、このメールのやり取りは続けられ、
気が付くとすっかり日は沈み、茜の空が夜の闇に包まれ始めていた。
「じゃあね〜。今度メールがきたら無視するんだよ〜。」
「はい、今日はありがとう御座いました。」
小川は電車通学だか、矢口は徒歩通学しているので店を出るとそのまま別れた。
別れ際に振り返ると、小川は既に改札口を通る人の列に並んでいた。
「絶対に見ちゃだめだよ〜。」
既にホームの改札口を通ろうとしていた小川は振り返り、元気に手を振って矢口に答える。
(やっは、かわいいなぁ…。)
小川が改札口を通り、ホームへと消えるのを見届けると矢口も駅を背にし家路についた。
まさかこのメールがきっかけであのような目に遭うとは、この時矢口には想像もつかなかった。
- 57 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時31分13秒
- 次の日、新たな怪人の噂が流れた。
タイヤキの姿をした娘の怪人で、手当たり次第にタイヤキを食べさせているという。
別段害はなさそうだが、そのタイヤキに使われる具が餡子ではなく納豆やクサヤ等らしい。
そのあまりの臭さに歯を磨くものが急増した。
中には夜を語らう事も出来ないと早退する者もいるという。
(はぁ、いやだなぁ。また出動する事になるのかなぁ。)
モーピンクこと石川梨華は教室の窓から校庭を見ていた。
石川の席は、窓側の後ろから2番目という学生にとっては
可愛い女の子の隣に座る事の次に人気の高い場所だ。
先ほどの休み時間に噂の話を友達から聞かされ憂鬱になっていた。
校庭では、体育の授業が行なわれてる。
体操着のデザインとカラーで、高等部の1年生だと分かる。
ふと、グラウンドを走っている生徒の中に、見知った人物を見つけた。
(あっ!よっすぃーだ……走っている姿もかっこいいなぁ。)
静かに眺めていたらふと、こちらを見たような気がした。
- 58 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時32分23秒
- ためしに手を振ってみる。
吉澤も石川に手を振り返す。
(あっ、やっぱり。ふふ、嬉しいなぁ。)
吉澤が走るのを止める。
見ると体育の教師が吉澤を注意しているようだ。
(あっ!どうしよう。私のせいだ…。)
数度頭を下げると再び走り出し先ほどの集団に追いつく。
(ごめん、ごめんねよっすぃー…。)
「…しかわさん。」
(本当に、ほんと…。)
「石川さん!!」
「はい!」
突然名前を呼ばれ、思わず席を立つ。
「石川さん。今、何の授業か分かる?」
そう、今は大っ嫌いな英語の授業だった。
「はい、楽しいアヤカ先生の英語の授業です。」
「よろしい、では、次の所から石川さん、読みなさい。」
- 59 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時33分20秒
- もちろん読めるはずが無い。
先ほどまで校庭を(正確には吉澤を)眺めていたのだから。
クラスで別段嫌われているわけでもなく、
かといって特別に仲の良い友達もいる訳ではないので教えてくれる者はいない。
(はぁ、どうしよう…。)
俯くと、腕につけた時計型通信機に、赤いランプが灯っている。
この時計型通信機は、モーレンジャーの仲間同士の通信に利用している。
普段は着信音もするのだが、授業中なのでサイレントモードにしていたのだ。
CALLのボタンを押す、すると『74ページの7行目』と液晶に表示される。
そういえば、学校全体を監視する為に各教室にもカメラを設置するとかしないとか言ってたっけ。
ふと思い出し、今の現状を切り抜けた喜びよりも本当に設置していた事に対して呆れ果てる。
(なっち…。貴方って人は…。)
おそらくカメラが仕掛けられているだろうスピーカーの方に軽く会釈をすると
手にした教科書の74ページの7行目から読み始めた。
- 60 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時34分20秒
- お昼休みになると、お弁当を持って石川は屋上へ向った。
吉澤が何時も屋上で昼食を取るのを知っているからだ。
案の定、焼きそばパンと牛乳を持って、吉澤は屋上から外の景色を眺めていた。
「よっすぃー…。」
後ろから近づき声を掛ける。
呼ばれて振り向く。
晴れ渡る空と眩しい太陽を背にする吉澤の姿にドキッとする。
(あぁ、なんかいい…。)
「梨華ちゃん、じゃなくて石川先輩…。」
慌てて言い直す。
「あっ、梨華でいいよ。」
といいながら吉澤に近づく。
「あの、隣いいかな?」
「えっ?あっいいっすよ。」
吉澤の右隣に行くと手すりに凭れ掛かる格好で地面座る。
「へへぇ。」
と言いながらお弁当を取り出し
「よっすぃーも座ろうよ。」
と隣の地面を軽く叩く。
「あっうん。」
やや戸惑いながらも隣に座る吉澤。
- 61 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時35分05秒
- 「ごめん!」
吉澤が座るのを見計らうと、石川が謝る。
「えっ、何が?」
謝られた本人は訳がわからずにいる。
「ゴメンね、さっきは…私のせいで怒られちゃったでしょ。」
要約合点がいったというような表情をすると
「ああ、いいよ別に。それに、お互い様だし。」
「えっ?」
「怒られてたでしょ。」
吉澤が微笑する。
その表情を見ていたら、急に恥ずかしくなった。
「やだっ、見てたの?」
「バッチリ。」
そう言う吉澤の子供のような微笑みを直視できず俯いてしまう。
- 62 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時35分57秒
- 自分で顔が熱くなるのが分かる。
(やだ、どうしよう…あたし、顔真っ赤だ…。)
隣で、黙って石川を見ていた吉澤が、顔を表面に向けると
「ねぇ、梨華ちゃん…」
名前を呼ばれて顔を上げる。
吉澤も石川に顔を向ける。
「明日も…さ、いっしょにお昼どうかな?」
(えっ?)
思い掛けないお誘いに一瞬言葉を失う。
「うん!約束ね。」
最高の笑顔で答える石川。
つられて吉澤も微笑む。
それから他愛のない話をし、あっという間にお昼の終了のチャイムが鳴る。
2人は腰を上げると別れの挨拶をし、それぞれの教室へと戻る。
この時石川は心に誓う。
(モーピンクであることは絶対に秘密にしよう。)
- 63 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時36分44秒
- 一方その少し前、後藤は昼休みを利用してE.D.C.本部で洗濯をしていた。
(やっば〜、染みになっちゃったかなぁ…)
青色の全身タイツを取り出す。
前の戦いの時についたタコヤキのソースがくっきりと残っていた。
「もっと強力な洗剤で洗わないと。」
ふと見ると洗濯機の陰に隠れてなにやら強力そうな洗剤がある。
「これなら取れるかも…。」
青い全身タイツを洗濯機に放り込むと先ほど見つけた洗剤を一箱丸ごと入れる。
ここの洗濯機は洗濯から乾燥まで全て全自動でやってくれる優れものだ。
「これで良しっと。」
両手を叩くとうんうんと頷きE.D.C.本部を後にする。
(放課後までには終わるよね。)
- 64 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月06日(水)21時37分55秒
- そして放課後、吉澤は悪の秘密組織本部にいた。
「あの、矢口総帥、お願いがあります。」
高台の上に祭壇があり、その中央には玉座に矢口は足を組み腰を降ろしている。
「何なの?」
にっこりと微笑んで用件を促す。
(ほっ…今日は機嫌が良いようだ。)
「実は…」
一呼吸起き、決心したかのように話し出す。
「実は、今回の出撃で……」
吉澤は己の胸の内を赤裸々に語りだした。
- 65 名前:そらり 投稿日:2002年03月06日(水)21時40分40秒
- 今日の更新はここまでです。
次回の更新で第2章を最後まで更新します。
>49 名無し読者さん
喜んで頂けたようで(w
一度、こういうアホな話を書いてみたかったので…
と言うか小説書く事自体初めてですが(w
>50 夜叉さん
レスありがとうございます。
タイヤキ娘の場合はどうやって人様に迷惑をかけるかが悩みました。悩んでこれかよ(w
モーレンはイエローとホワイトがいるので心配していません。
何かやってくれると思います(w
- 66 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月07日(木)01時53分03秒
- メールのやりとりに笑いました
- 67 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時24分49秒
- 「はぁ…」
石川は生徒会室の前で軽くため息をつく。
(安倍さんもう来てるかな…)
「どうしたべさ。」
後ろから声を掛けられる。
振り向くと当女学院の絶対権力者安倍なつみが立っていた。
「いえ、考えことをしていまして…」
「ふ〜ん、まあいいべさ。」
安倍は生徒会室の扉を開け、石川を避け中へ入る。
その後に石川が続く。
ほかの役員の方はみんな集まっており安倍が壇上に立つと、厳かに会議が始まった。
- 68 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時25分35秒
- 安倍なつみは、外面は良く、頭脳明晰で運動神経も抜群な為大変に人気が高い。
当然会議の議題がつまらなくても真面目に取り組むその姿勢は全校生徒に高い信頼を得ている。
会議も終盤に差し掛かる頃、突然赤いランプが点灯し、サイレンが鳴り響く。
それは怪人が出現したことを表していた。
教室に緊張が高まる。
「皆さん。」
教卓の後ろに立つ安倍に全員の視線が集まる。
「再び怪人が出現しました。本日はこれで中断したします。」
「続きは、また改めて行うので本日は気をつけてお帰りください。」
「それでは解散致します。」
解散の挨拶を済ますと各々が生徒会室を後しに安倍、後藤、石川の3人だけとなる。
「けっ、つまんねぇ会議させやがって、怪人ももっと早く出てくればいいのに…」
「…………」
(聞かなかった事にしましょう。)
(そうだね。)
石川と後藤は目で語る。
「何見詰め合ってるべさ。」
「いえっ、何でもないです。決して安倍さん怖いなぁなんて思ってません。」
はっと心に在る事を口走った事に気づくが後の祭りだった。
教室に快音が木霊する。
3人は秘密の扉を通り、別室のE.D.C.本部へと向かった。
- 69 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時26分08秒
- 3人が到着してまもなく、中等部の2人も到着する。
加護と辻は、石川の左頬が赤く腫れているのに気が付いたがその事には触れない事にした。
中央モニターに映し出される映像は、
B棟1階の職員室にて怪人が暴れている姿だった。
「みんな!出動よ。」
「はい(です)。」
安倍の号令に4人は答える。
後藤は隣の洗濯ルームへ、残りはそれぞれのロッカーまでパワースーツ(全身タイツ)を取りに行く。
「あ"〜っ!!」
突然、後藤が叫び声をあげる。
自動洗濯機の中から摘み出した全身タイツは何故か真っ白になっていた。
使用した洗剤を見てみる。
よく見ると『超強力漂白剤』と書かれている。
(どうしよ…)
仕方なく白くなった全身タイツ持って洗濯ルームを出ることにする。
- 70 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時26分39秒
- モニター室に戻ると既に着替えている加護と目が合った。
「あ〜っ!思いっきり加護とかぶってるやんボケェ。」
みんなの視線が後藤に集まる。
「どうしたの?その白いスーツ…」
「加護しゃんとお揃いれすねぇ。」
後藤はゴメンねポーズを取ると
「てへっ、間違って漂白剤使っちゃった…」
笑らって誤魔化す作戦に出る。
「どうしよう…」
「取り合えず、今回は留守番だべ。」
「しょうがないよね。それじゃ…」
しょんぼりする後藤。
後藤以外のみんなはモーレンジャーに変身(着替え)を済ませると
後藤を置いて現場へ急行した。
- 71 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時27分12秒
- 職員室では、美術教師の保田圭がタイヤキ娘に
納豆入りタイヤキを無理やり食べさせられていた。
そこへ、モーレンジャーが登場する。
「モーレッド」(どど〜ん)
「モーイエロー」(どど〜ん)
「モーホワイト」(どど〜ん)
「モーピンク」(どど〜ん)
彼女達の背後で、それぞれのカラーの煙幕が立ち上ると
「五人そろってモーレンジャー!!」(どどど〜ん)
背後で4色の煙幕が更に立ち上がる。
「いや、4人だけど…」
「そこまでだべ、タイヤキ娘。」
タイヤキ娘の突っ込みを無視して決まりのセリフを言う。
- 72 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時27分56秒
- そこへ、緊張感ゼロの女が、
「あ〜っ、タイタキ食べてますぅ。ずるいですぅ。」
「ののも食べたいですぅ。」
つかつか歩き保田を指差す。
「…食べる?」
タイヤキ娘が新しい納豆タイヤキを取り出すと
「はいです。」
と言って受け取り、頭から噛り付く。
「これ、納豆味ですね。美味しいですぅ。」
にこにこしながらタイヤキを頬張る。
もちろんヘルメットは着用している。
口の部分が開くようになっているのだ。
- 73 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時28分29秒
- イエローは、美味しそうにタイヤキを食べていたかと思うと
「うわぁぁん。」
突然泣き出した。
「うわぁ、今度は何?」
突然イエローが泣き出し、タイヤキ娘はかなり取り乱している。
「尻尾まで入っていませぇぇん。」
食いかけの尻尾の部分をタイヤキ娘に見せる。
確かに納豆は腹の部分で終わっている。
- 74 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時29分00秒
- このときを待っていましたとばかりにホワイトがタイヤキ娘に歩み寄る。
「姉さん、分ってないねぇ。」
懐からタイヤキを取り出すと、
「ええか、これがほんまもんのタイヤキや。食うてみい。」
と言ってタイヤキを渡す。
「あっ、どうも。」
タイヤキを口に入れようとして、前回の失敗を思い出す。
「おっと危ない、また騙される所だった。」
「何ゆうてますねん。やったら半分に割ってイエローに食べさせたらええんや。」
「ほえ?」
イエローは泣き止む。
なるほど、と手を打つと、タイヤキ娘はタイヤキを二つに割りイエローに頭のほうを渡す。
(尻尾の方を渡してまた泣かれたら敵わないしね。)
- 75 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時29分39秒
- 「わ〜い。ありがとう。」
タイヤキの頭の部分を受け取るイエロー。
そして、イエローが美味しそうに食べるのを見届ける。
(ほっ、今回は大丈夫みたい…)
無事イエローが食べるのを見届けたタイヤキ娘は、
安心してホワイトから受け取ったタイヤキを齧る。
その時、豪快な爆音を立てながら突然口の中が爆発した。
そのまま後ろ向きに倒れてしまう。
「やったぁ。こうなる事は全て予測済みや。」
勝ち誇るホワイト。
- 76 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時30分12秒
- そう、ホワイトは予め用意したタイヤキの尻尾の方にだけ爆薬を仕掛けていたのだ。
「泣かれたら敵わん思て、半分に割ったタイヤキの頭をイエローに渡すのも計算の内や。」
「さすがね、ホワイト。」
「ありがと、ピンク。」
「さてと、怪人も倒したし、戻りましょうか。」
本部へ戻ろうと、モーレンジャーが後ろを見せたその時
(ちくしょう。今回もやられたか、こうなったら…)
物陰に隠れて見ていた悪の総帥矢口は片膝を着き、右手を胸に当てる。
「セクシービーム!」
前に突き出した右手から出されたビームがタイヤキ娘に注がれる。
説明しよう。
セクシービームとは、怪人を一度原子レベルまで分解し再結合する事により破壊された個所を完全に復元することが出来るのだ。
さらに巨大化までさせてしまうおまけ(副作用)付きなのだ。
- 77 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時30分59秒
- 職員室を破壊し巨大化するタイヤキ娘。
モーレンジャーは、素早く校庭に避難すると巨大化したタイヤキ娘を見上げていた。
「こちらもカオリロボを呼ぶよ」
「おう!」
「はいですぅ。」
「わかりました。」
安倍は、徐に携帯を取り出すと
「あっ、カオリ?そう、あたし。」
「悪いけどさぁ、今から着てくれないかなぁ。」
「そっ、今校庭にいるよ。」
「うん、じゃあ待ってるからね。」
携帯を切る。
そして、カオリロボは現れた。16ビートを刻みながら。
- 78 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時32分05秒
- 今回の怪人はこの前とは明らかに雰囲気が違った。
「私は…私は負けない!!」
叫ぶとタイヤキ娘はすさまじい勢いでカオリロボを攻撃する。
その姿は、すさまじいの攻撃とは裏腹に悲壮感を漂わせる。
16ビートしか刻めないカオリロボは、成すすべもなく攻撃を受けていた。
「れっどぉ、たいへんれすぅ。カオリロボがやられちゃいます。」
「カオリキャノンさえ使えれば…」
イエローと同じく、レッドもカオリロボの戦いを見上げ拳を強く握り締めている
- 79 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時32分46秒
- これまで黙って見ていたピンクは、ホワイトの肩を掴むとホワイトを自分に向ける。
「ねえ、ホワイト…カオリキャノン以外に何か武器はないの?」
「あるにはあるんやけど、カオリデコピンは、約10秒のチャージが必要なんや。」
「…カオリデコピン?」
他のメンバーの声が重なる。
「そう、カオリデコピンや。この技は範囲やなくて個人に向けられるものやから
カオリキャノンのように周囲に被害が出ることはまずないやろ。」
「でも、チャージしている約10秒間の間は絶対に攻撃を受けてはいけないんや…」
タイヤキ娘の攻撃は休まる気配を見せず、とても10秒間も時間を稼げそうにない。
このままでは、タイヤキ娘を倒す事なんて出来ない。
早く、平和な世界にしないといつまでたってもこの全身タイツを脱ぐ事なんて出来ない。
(私がモーピンクであることがよっすぃーにばれるのなんて絶対にイヤ!)
ピンクは決意した。己の命を懸ける事を。
- 80 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時33分42秒
- 「あたしが、あたしが囮になる!!」
決意を打ち明けるピンク。
「そんなむちゃや!」
「そうですよぉ、危ないですぅ…。」
「そうだね。行ってくるべ。」
この場合、民主的な多数決は採用されずリーダー特権によりピンクの特攻は決定した。
ピンクは飛び出した。
「私はここよ!掛かって来なさい!」
精一杯叫んでタイヤキ娘の気を引こうとする。
しかし、まったく相手にされない。
小さいしね。
しかし、まったく諦めないモーピンクは必死に叫ぶ。
その時だった…、勢い余って破壊した校舎の一部がモーピンク目掛けて落ちてきたのだ。
「きゃぁ!!」
ピンクは、直撃は免れたものの地面に激しく叩きつけられ気を失う。
「ピンク(しゃん)!」
レッド、ホワイト、イエローの3人はピンクの下へと駆け出す。
パワースーツのヘルメットは砕け、顔を露わにしてた。
流れる髪が扇のように広がり額から血が流れてる。
- 81 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時34分14秒
- 偶然、その姿をタイヤキ娘は目撃した。
(っ!梨華ちゃん!そんな…。)
悲しきタイヤキ娘は愛しの梨華先輩がモーピンクであることを知りショックを受ける。
(そんな!!モーピンクが梨華ちゃんだったなんて…)
矢口と交わした約束、それはモーレンジャーを倒す事を条件に怪人を引退する事…。
全ては石川の為、怪人である事を石川に悟られたくない一心で
怪人を卒業する為に必死に戦ってきたのだ。
(梨華ちゃんを倒す事なんて出来ない。
でも、倒さないと私は怪人を続けなくちゃいけない…
如何すれば、如何すればいいの?…梨華ちゃん…)
- 82 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時34分55秒
- タイヤキ娘は混乱していた。
じっと倒れている石川を見つめる。
「いまだ!!必殺!カオリデコピン。」
レッドが叫ぶと
「カオリデコピン!!」
辻と加護もユニゾンで叫ぶ。
カオリロボはデコピンのポーズを取るとその姿勢のまま約10秒間のチャージを始める。
カオリロボの中指にローラを纏う。
その光は徐々に強くなり、ついにタイヤキ娘の額にヒットする。
大地は轟き、指を弾く風圧でお隣の洗濯物が宙を舞う。
そのあまりの破壊力にタイヤキ娘は空に舞い上がり星になった。
さようなら、タイヤキ娘。ありがとう、カオリロボ。
これで今宵も地球の平和は守られた。
- 83 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時35分31秒
- 一方その頃、悪の組織の影の支配者中澤ゆうこは女学院の近くの公園に来ていた。
ブランコに腰を降ろし、ビンの焼酎を片手にもう片方の手で鎖を握る。
地面を蹴って軽く揺らと、ギイギイとブランコの鎖が軋む音が辺りに木霊する。
「けぇへんなぁ…」
一言呟くと、周囲の暗闇を照らす少し欠けた月を眺めた…。
- 84 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月07日(木)22時36分27秒
- 次回、正しいお酒の飲み方をお送りします。
- 85 名前:そらり 投稿日:2002年03月07日(木)22時38分40秒
- 今日の更新はここまでです。
第2章終了しました。
サブタイトルわかると思いますが、第3章、第4章は少し趣向が変わります。
普段(?)の世界征服倶楽部と地球防衛倶楽部の話をちょこっと書きます。
>66 名無し読者さん
レス有難う御座います。
笑っていただけましたか(嬉
実は狙っていたので嬉しいです。
- 86 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月08日(金)01時02分19秒
- カオリロボの必殺技がステキすぎます(w
- 87 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月08日(金)05時57分27秒
- ラストの落ちもなかなか(w
- 88 名前:夜叉 投稿日:2002年03月08日(金)16時51分54秒
- >大地は轟き、指を弾く風圧でお隣の洗濯物が宙を舞う。
すみません、自分、↑の文かなりツボなんですが(爆)。
次回タイトルが気になりますね。頑張ってください。
- 89 名前:第3章 正しいお酒の飲み方 投稿日:2002年03月09日(土)21時58分48秒
- 裕ちゃん、用事ってなんだろ。
我が世界征服倶楽部の顧問にして影の支配者、
中技裕子に先ほど部室に来るように携帯に連絡があった。
嫌な予感がする。
これまで何度か呼び出しを受けた事があるが、大抵は雑用を頼まれる程度だ。
しかし、今回は今までとはまるで違う。
携帯で話したときの裕ちゃんの甘えるような声、何か企んでるに違いない。
しかし、部長としては行かない訳にはいかない。
「ああっ!もうホントっ!こんな時にあいつは何処に…」
「ほんとに、何処にいるんだよ。よっすぃー…」
吉澤ひとみが突然姿を晦ましてから既に3日が過ぎようとしている。
- 90 名前:第3章 正しいお酒の飲み方 投稿日:2002年03月09日(土)21時59分26秒
- 矢口は己の財力と手下を使い、四方八方捜索の手を広げていた。
しかし、いまだ彼女の痕跡すら見つけられずにいる。
「よっすぃー、そんなに嫌だったのかな…怪人になるの。」
まあ、怪人になりたがるキチ○イなんてそうそういないだろうけど。
「ごめんよ、もう怪人にならなくて良いから、だから戻ってきてよ…」
新校舎から渡り廊下を得て旧校舎にわたるには、一度外に出ることになる。
旧校舎に渡ると突き当りの階段を上り、3番目の教室の前で止る。
使われなくなった旧校舎の2階の科学室、そこに、世界征服倶楽部の部室があった。
扉には、『世界征服倶楽部』のプレートが貼り付けられている。
- 91 名前:第3章 正しいお酒の飲み方 投稿日:2002年03月09日(土)22時00分05秒
- コンコン。
軽くノックをすると、扉を開き中に入る。
「やっほ〜裕ちゃん。きたよ〜。」
部室の中は暗く、暗幕のカーテンも全て閉じられていた。
(こんな倶楽部だからカーテンを締め切るのは分かるけど、
それにしても電気ぐらいは付けろよな。)
「も〜。ゆ〜ちゃんいるのぉ?」
扉の近くのスイッチを付けると組織の演出する為に取り付けられた
ブラックライトが点灯し、特殊照明が周囲を青白く照らし出す。
「お〜、やぐちぃ〜。まっとったでぇ〜。」
声のする方をみると、いつも矢口が座っていた玉座の後ろの垂れ幕から顔を出し
矢口の姿を確認すると甘えるように掏り取ってきた。
- 92 名前:第3章 正しいお酒の飲み方 投稿日:2002年03月09日(土)22時00分44秒
- 中澤からはお酒の匂いがする。見ると右手には缶ビールを持っている。
見る間に矢口の眉間に皺が寄る。
「うわっ、お酒くさ〜。裕ちゃんお酒飲んでたの?」
「かわいいでぇ。やぐちぃ〜。チュ〜しよ。チュ〜。」
満面の笑みを浮かべ矢口に抱きつく中澤。
「うわっ!ちょっ、やめてよ裕ちゃん。ここガッコウだよ!」
「それにビール飲んでるし、普通教師が学校でお酒飲む?」
「ちぇっ、うるさいなぁ。学校で教師がお酒飲んで、なにがわるい〜。」
「悪いよ。」
矢口の突っ込みにちょっと詰まらなそうな表情をしたが、体を矢口から離すと
「ちょおまっとき〜。」
と再び垂れ幕の裏に引っ込んでいった。
- 93 名前:第3章 正しいお酒の飲み方 投稿日:2002年03月09日(土)22時01分24秒
- 後ろ手に扉を閉めると垂れ幕の裏で何をしているのか気になり覗いてみる。
そこには紫のソファーと円状の小さなテーブルがあり豹柄の絨毯がしかれていた。
(なんちゅう趣味だ。って言うかどっから持ってきたんだ?)
中澤は中腰になり、奥に置いてある小型冷蔵庫から缶ビールを2本取り出してた。
(うわっ。冷蔵庫まである…。っていうか学校にビール置いとくなよな。)
中澤がビールを持って振り向きざまに、覗いていた矢口と目が合う。
「あちゃ〜。見られてもうたか…」
「入るよ。」
「ええよ、矢口もビールでえ〜か〜。」
「矢口は未成年だよ。」
「ええやん。今日ぐらい。」
「もう、それが教師のセリフ〜?」
中澤は、2、3歩近づくと、矢口にビールを差し出す。
「ほい、ビール。」
「あ、どーも。」
思わず受け取る。
- 94 名前:第3章 正しいお酒の飲み方 投稿日:2002年03月09日(土)22時02分19秒
- 矢口がビールを受け取ると、そのままソファーに腰を落とす。
(まっいいか…)
中澤の隣に腰を降ろすとプルタブを起こして少し口をつける。
「うっ!にげぇ!」
「苦いだけじゃん。よく飲めるねこんなの。」
「ふっ。この味がわからんとはね。えーかやぐちぃ。ビールってのはこう飲むんや。」
中澤は、新しい缶ビールのプルタブを起こすと一気に胃に流し込む。
「ぷはぁっ!これが正しい飲み方や。いいか矢口、ビールは舌で味わうんやない、喉で味わうんや。」
口についたビールの泡を左手の甲で拭き取ると最高の笑顔を矢口に向ける。
しかし、ときおり、悲しみを堪えるかのような表情を見せる。
- 95 名前:第3章 正しいお酒の飲み方 投稿日:2002年03月09日(土)22時03分00秒
- 「裕ちゃん、何かあったの?」
「うっ…。うわぁ〜ん。やぐちぃ〜。」
途端に泣き顔になると矢口の腹に顔を埋めて子供のように泣き出した。
「どっどうしたの?裕ちゃん。」
「なのなぁ…」
「うんうん。」
「うちなぁ…男に逃げられてもぉ〜てん…」
中澤の頭をそっと両腕で抱き、やさしく頬を頭に乗せる。
「そうなんだ…。どんな人なの。」
中澤も落ち着いたのか、ゆっくりと話し始めた。
「その人はサラリーマンなんやけど…」
「うん。」
「ちょっと照れ屋で、でもごっつ〜やさしくて…」
「うん。」
「年は28で…」
「うん。」
「マコトさんっていうんやけど…」
(え"っ?)
- 96 名前:第3章 正しいお酒の飲み方 投稿日:2002年03月09日(土)22時03分30秒
- 矢口には心当たりがある。
以前小川と偶然出会ったときに確かそういう設定でメールをやり取りしていた事を思い出す。
しかも相手の名前は…。
(いやまて、まだ確かめてみないと…)
「裕ちゃんさぁ、その人とどうやって知り合ったの?」
顔を上げる中澤。
矢口と視線が重なる。
「…メールで知り合ってん。」
(やばい!確実にあたしじゃんかそれ…。ばれたらヤラレルかも…)
矢口の顔色が若干青くなるが、ブラックライトの照明が元々青白い為ほとんど差は出ない。
しかし、僅かに表情が引きつるのを見て、中澤は眉を寄せる。
矢口の様子がおかしい事に気づき始めたようだ…。
(…どっ如何しよう。)
選択肢は二つある。
1つ、素直に白状して中澤の裁きを受ける。(当然ヤラレル…)
2つ、飽く迄白を切り通す。(ばれたらヤラレル…)
答えは初めから1つしかなかった。
- 97 名前:第3章 正しいお酒の飲み方 投稿日:2002年03月09日(土)22時04分05秒
- 「あのさぁ、裕ちゃん。その人とはもう会ったの?」
矢口の質問に対して首を左右に振って答える。
(そりゃそうだよ。)
「だっだらさぁ、会わなくて良かったんじゃない?
もしかして物凄いおじいちゃんかも知れないよ。」
「かっこいい男かも。」
「頭がはげた中年のおじさんかも。」
「ブラピみたいかもしれへんやん。」
「キャハハ、それは無いって。」
何処までも否定する矢口に頭にきたのか、プイッとそっぽを向く。
そのすねた表情をする中澤が可愛らしく思える。
「よしよし、矢口が慰めてあげるよ。」
中澤の口元が軽く釣り上がり、目元に怪しい光を漂わせる。
(はっ!しまった!)
「やぐちぃ、慰めてぇ…」
矢口を押し倒し、強引に唇を重ねる。
「んん〜っ!」
(無理矢理かよ、ちくしょう!)
- 98 名前:第3章 正しいお酒の飲み方 投稿日:2002年03月09日(土)22時04分38秒
- 唇を離し、互いに見詰め合う。
「慰めてくれるんやろ。」
青白く淡い光が中澤をやさしく照らす。
間近に見る彼女の瞳に引き込まれそうになり、胸の鼓動が高まるのを意識する。
濡れた唇がとても色っぽい。
(まあ、いっか…)
どちらからとも無く顔を近づけ、2度目のやさしいキス。
既に日は沈み、静寂の闇が辺りを支配する。
唇を離し、語らい再び互いの温もり感じあう。
誰もいない2人だけの空間で、互いの存在を確かめ合うように…。
- 99 名前:第3章 正しいお酒の飲み方 投稿日:2002年03月09日(土)22時05分09秒
次回、名探偵ののをお送りします。
- 100 名前:第3章 正しいお酒の飲み方 投稿日:2002年03月09日(土)22時07分43秒
- 今日の更新はここまでです。
第3章なんとか終了しました。
短い割には結構時間がかかってしまいました(汗
次回の第4章はサブタイトルの通り推理モノです。
ののちゃんの華麗な推理をお楽しみください。
>86 名無しさん さん
レス有難う御座います。
彼女のステキさが分かって頂けるあなたもステキです(w
>87 名無し読者 さん
レス有難う御座います。
第3章の伏線にと追加したのですが、喜んでいただけたようで。
>88 夜叉 さん
レス有難う御座います。
あのタイトルは内容がバレバレでしたね(w
もっと懲りたいのですが僕のセンスではあれが限界でした(涙
- 101 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月10日(日)03時27分35秒
- はたして吉澤は何処に?
- 102 名前:夜叉 投稿日:2002年03月10日(日)11時59分10秒
- そりゃ、やられるな…知(笑)。
よしこさんはいずこへ?
- 103 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時08分58秒
- タイヤキ娘を退けてから2週間が過ぎようとしていた。
辻は今、幸せだった。
E.D.C.本部の司令室のテーブルの上に置かれたショートケーキの前にちょこんと座って、満面の笑みを浮かべていた。
「あぁ…ふわふわのスポンジケーキを包み込む、甘〜い生クリーム♪」
「そして、甘すっぱ〜い、い・ち・ご♪」
フォークを手にして、目を輝かせていた。
ふと、辻の視線に赤くて小さい物が置かれていた。
「イチゴだ〜っ!」
そこには、ポツンとイチゴが1つ置かれていた。
「わ〜い、イチゴが2つだぁ!」
辻は、イチゴを摘むとショートケーキの上に乗せる。
ショートケーキの上には、イチゴが2つ並んでいた。
「いっただっきま〜…」
今まさに食べようとした時に素敵な考えが閃いた。
「そうだ、紅茶」
辻は、紅茶を飲もうと、給湯室へとお湯を取りに行った。
そして、事件は起こった…。
- 104 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時09分33秒
- 再び紅茶を手に司令室へ戻ると何時の間にか加護が居た。
「あっ、あいぼん」
「あっ、のの…なぁ、ここに置いてあったイチゴ知らん?」
テーブルの中央付近を指差しながら言う。
「えっ?知らないよ…」
辻は慌てた。
思いっきり心当たりあったがなんとなく言い出せなかった。
「そうか…」
右手を顎に当てて、ぶつぶつ言いながら辺りを見渡す。
- 105 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時10分06秒
- 辻は、紅茶を持って席に戻ると、紅茶を置き、フォークを持って
「いっただっきま〜ぁあ!!」
大声を出した。
そこには、あるはずのショートケーキが姿を消していた。
「うっ…うわあぁ〜ん」
泣き出す辻。
「なっなんやのの、どないした」
なだめる加護。
「なっないれすぅ…」
「なにがや」
「ショートケーキが無くなっているれすぅ」
こうして、ショートケーキ失踪事件の幕は切って落とされた。
- 106 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時10分55秒
- 辻は、涙を拭くとショートケーキの敵を取る決意を固める。
(犯人は必ず見つけてみせる。じっちゃんの名に賭けて!)
辻は、まずは現場検証をする事にした。
テーブルの上には紅茶とケーキが載っていたお皿、
それに、綺麗に拭かれてたフォークが置いてある。
それらしい汚れもなく、犯人の手がかりになるような物は何もない。
(一体如何やってショートケーキは姿を消したんれしょうか…。
まさか、ショートケーキに手足が生えて、
ののから逃げ出したなんて事はないですよね。)
次に、部屋を見渡す。
現在この司令室に居るのは辻、加護、石川の3人だけである。
(…梨華ちゃん?いったい何時から…)
まずは事情徴収を開始する。
- 107 名前:第2章 悲しき、タイヤキ娘。 投稿日:2002年03月10日(日)18時11分25秒
- 辻は、加護に歩み寄ると事情徴収を始めた。
「あいぼん、何時からここにいたれすか?」
「ん?ののが給湯室から出てくる少し前や」
「それ以前は何処にいたれすか?」
「先生に雑用やらされてたで」
「…ずばり聞きます。ここにおいてあったショートケーキ知りませんか?」
途端に加護の目付きが鋭くなる。
「なんやのの。まさか、うち疑うとるんちやうやろな…」
あまりの気迫に後ずさりする辻。
(怖いれす…。あいぼんは犯人じゃありません。)
- 108 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時12分12秒
- 次に、石川に歩み寄ると事情徴収を始めた。
「梨華ちゃん」
石川に呼びかける。
「……」
呼びかけても返事がない。
「梨華ちゃん!」
更に大きな声で呼びかける。
「…はぁ、よっすぃー…」
石川は、溜息をつき、独り言を言う。
「りぃかぁちゃん!!」
辻の声が室内に響き渡る。
「はい!…なに?ののちゃん」
漸く気づき、辻に振り返る。
「梨華ちゃん、いつからここにいたれすか?」
「ずっといたよ」
「ここにあったショートケーキ知りませんか?」
「知らない…ごめんね。考え事してたから」
「考え事って何れすか?」
黙り込む石川。
やがて、思いを打ち明けるように話しだす。
「大切な人が、突然居なくなったの…」
今の辻にはその気持ちが良く分った。
「…元気出してください」
「…うん。ありがとう、ののちゃん」
石川は微笑み、そして両肘をテーブルにつけ組んだ両手の甲に顎を乗せると再び妄想を始めた。
(りかちゃんは白れす。)
- 109 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時12分49秒
- 辻は再び考えるが何も思い浮かばない。
(犯人候補がいなくなったれす。あいぼんに相談するれす。)
再び加護に歩み寄る。
「あいぼん、いっしょに考えてください」
「ええで、いいかのの、犯人はこの中にいる」
「ええっ!本当れすか?」
突然の発言い驚く辻。
「ああ、間違いない」
そして、加護は自分の推理を語りだした。
「いいかのの、思い出すんや…」
「なにをれすか?」
「自分、給湯室に行く前は何しとった?」
「え〜と、フォークを持って、そして、いただきま〜すって…」
「言ったんやな」
詰め寄る加護。
たじろぐ辻。
「いったけど、でも、紅茶のもうと思って…」
「い〜や違う。ののはその時にショートケーキを食べた筈や」
「ちっちが…」
「違わない!、そして、喉が渇いて紅茶を飲もうと給湯室に…」
「違うれす!!ののは、ショートケーキ食べてません!!」
加護を突き飛ばす。
加護は、突き飛ばされた拍子に腰を打ち付けた。
「いったいなぁ」
腰を摩りながら立ち上がる。
「あいぼんが意地悪言うかられす」
辻は、プイッと体ごと横を向く。
- 110 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時13分26秒
- 突然、更衣室のドアが開く。
「さっきからなんだべ。うるさいなぁ」
安倍が、髪を拭きながら出てきた。
今までシャワーを浴びていたのだろう。
着替えてはいるものの、体からはほんのりと湯気が立ち、
まだ濡れている髪を丹念にタオルで拭き取っている。
「あっ安倍さん。いたんれすか?」
「うん。ずっと居たよ。今までシャワー浴びてたから」
辻の問いに答える。
- 111 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時14分05秒
- そこへ、洗濯室のドアが開く。
そこには、満面の笑みを浮かべ後藤が立っていた。
その両手には真っ青に染め上げた全身タイツが握られていた。
「じゃ〜ん」
両手を突き出し、渾身の出来ばえを披露する。
「見て、この色。斑なく染め上げるのに苦労したんだから」
今まで染めていたのだろう、その両手は真っ青になり、服の所々にも青い染みを作っていた。
「ごっちんもいたんれすか?」
「えっ?そうだよ」
その答えに呆然とする辻。
(困りました、容疑者が一気に増えました。)
- 112 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時14分43秒
- 辻は、考えをまとめる。
(給湯室から戻ると既に司令室にいたあいぼん。)
(ずっとに司令室にいたが心ここに在らずの梨華ちゃん。)
(シャワーを浴びていた安倍さん。)
(パワースーツを青く染めていたごっちん。)
(この中に、犯人がいるとすると…はっ、そうか!)
この時、辻は分ってしまいました。
犯人が誰であるのか…。
- 113 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時15分20秒
―
さて、今回の事件の推理を少しまとめてみましょう
推理1
ショートケーキに手足が生えて逃げ出した。
推理2
辻が給湯室に行っている間に加護が食べた。
推理3
辻が給湯室に行っている間に石川が食べた。
推理4
辻が給湯室に行く前に食べてしまった。
推理5
辻が給湯室に行っている間に安倍が食べた。
推理6
辻が給湯室に行っている間に後藤が食べた。
今回の事件は、辻が給湯室から戻ってくる30秒程度で起こりました。
その僅かな時間でこの犯行を行なう事が出来た人物、その人物こそが犯人です。
今回は、証拠がない為、犯人に罠を仕掛けてみようと思います。
辻希美でした。
―
- 114 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時16分18秒
- 「ねぇ、あいぼん」
あいぼんに話し掛ける辻。
「口にクリームがついてるよ」
「はぁ?」
加護は呆れた顔をする。
(あれ?反応が違う…。ここは、口元を抑えて、はっと!した顔をするはずなのに…)
「のの…まだ疑ってたんか?」
ジト目で睨まれ、辻は、蛇に睨まれた蛙のように縮こまる。
「いや、その、これはれすねぇ」
辻は、自分の推理を披露する。
- 115 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時16分55秒
「ののの席に水滴が落ちてなかったので、安倍さんは犯人じゃありません」
「フォークに青い塗料が無かったので、後藤さんも犯人じゃありません」
「心ここに在らずの梨華ちゃんにも犯行は無理です。僅かな間で、ケーキ1つ食べきる事は出来ません」
「もちろん、ののは食べていません」
「…となると、ショートケーキを食べたのは、あいぼんしか…」
容疑をかけられた加護が、「あのなぁ」と言いかけた時、
「ショートケーキってあれの事だべ?」
と、安倍が部屋の端の方を指差す。
指差す方向に視線を向ける辻と加護。
そこには確かにショートケーキがあった。
ただし、手足が生えた状態で…。
- 116 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時17分50秒
- 「あーっ!」
辻と加護がユニゾンで叫ぶ。
「あれは、うちが発明したイチゴ型移動ロボット『手足はえるくん』やないか!!」
ショートケーキの上に乗っている目がついたイチゴを指差し加護が叫ぶ。
「いたぁ!」
ショートケーキに飛びつく辻。
辻の動きを察知した『手足はえるくん』はジャンプして辻を避ける。
「まてぇ!」
辻は、両手両足を地面についた状態で、ジャンプしてショートケーキを追跡する。
更にジャンプして辻を避ける『手足はえるくん』。
蛙のようにジャンプしてそれ追う辻。
そして、辻をジャンプして躱したその先には、
青いタイツをもって満面の笑みを浮かべた後藤が…。
ペチャッ。
「あ〜っ!!」
叫ぶ辻。
固まる後藤。
ショートケーキは、見事後藤の青い全身タイツに命中し、無残に砕け散った。
- 117 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時18分54秒
- 「うわあぁ〜ん。ショートケーキがぁぁ」
泣き出す辻。
「うちを疑うから罰が当たったんや」
ショートケーキの残骸から『手足はえるくん』を取り出す加護。
「…………」
固まったまま動かない後藤。
「…はぁ…」
あっちの世界に行ったまま帰ってこない石川。
「…なんだべさ、いったい」
何が起こったのか理解できずに立ち尽くす安倍。
こうして、辻の推理劇は幕を閉じたのあった…。
おしまい。
- 118 名前:第4章 名探偵のの 投稿日:2002年03月10日(日)18時19分31秒
-
次回、最終章 空の彼方へ をお送りします。
- 119 名前:そらり 投稿日:2002年03月10日(日)18時21分09秒
- 今日の更新はここまでです。
第4章終了しました。
次回いよいよ最終章です。
最終章なのでシリアス(?)な展開が続きます。
どうぞ最後ませお付き合いください。
>101 名無し読者さん
レス有難う御座います。
次回明らかになります。
そっすぃー登場を期に事態は急展開に…嘘です。すみません(w
>102 夜叉さん
レス有難う御座います。
しまった…よしこさん心配かけすぎ…早く帰ってきて〜(w
- 120 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月11日(月)00時42分47秒
- 一気に読みました。一人で大笑いして・・・・ちょっと不気味でしたが(笑
面白いです。私的に、技を出す前の、「説明しよう・・・・」が、
つぼにはまりました。
最終章シリアスになるそうで・・・・楽しみにしています。がんばってくださいね。
- 121 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月12日(火)02時58分15秒
- シリアスにまとまるんですか?
良い意味で裏切ってくれそうな予感(w
- 122 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時15分29秒
- 「やっと…帰ってきた」
朝日をバックに、棒を杖代わりにボーイッシュな少女がモームス女学院の校門前に立っていた。
あの、激戦の末に鳥取の砂丘に飛ばされたタイヤキ娘こと吉澤は、さまざまの出会いと別れを繰り返し
はたまた砂丘を牛耳ろうとしているワニ男との壮大な戦いをし、ようやくこの地に帰ってきたのだ。
小説にすれば大ベストセラー間違いなしだろう。
そして…
「2週間…かかった…」
バタッ。
力尽きた…。
- 123 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時16分09秒
- 珍しく石川は朝早くから登校していた。
今日は朝の天気が良かったので、久しぶりに速く学校へ行ってのんびりしようと思ったのだ。
ふと、校門の前で怪しい人影を見つけた。
杖で体を支え、よろけながら歩いているその姿は…。
「よっすぃー!」
2週間ぶりに見る吉澤ひとみの姿だった。
久しぶりに吉澤の姿を確認して、石川の胸は喜びで一杯になる。
石川が駆け寄ろうとしたの時、吉澤はスローモーションのようにゆっくりと前のめりに倒れた。
「よっすぃー!!」
石川は駆け出した。
吉澤に駆け寄ると、抱き起こし体を揺する。
力なく揺れる頭は、石川に恐怖心を植え付ける。
「よっすぃー!よっすぃー!」
何度も名を叫び、吉澤の反応を確かめる。
両目に一杯の涙を溜め、やがて耐え切れずに溢れ出す涙は堰を切ったように流れ出す。
「よっすぃー、ねえ、起きてよ。よっすぃー…」
胸に顔を埋めて泣き叫び、吉澤に顔を近づけると、
「スー。スー」
吉澤は寝息を立てていた。
- 124 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時16分42秒
- 「…ここは…」
吉澤は、ベットの上に寝かされていた。
目の前には少し黒ずんだ天井が見え、周囲は白いコンクリートの壁で覆われていた。
窓は開かれ、気持ちいい風がカーテンを揺らしている。
窓からは、いつも見慣れた校庭の景色が広がっていた。
「気が付いた?」
声の方を見ると、若くて綺麗な女性が椅子に腰掛けてこちらを見ている。
「あの、ここは…」
「保健室よ。2年の石川さんが貴方をここまで運んだのよ」
「梨華ちゃんが!?」
体を起こし、周囲を見渡す。
しかしそこには保健医らしい女性しかいなかった。
「あの、梨華ちゃ…石川先輩は?」
「石川さんは、今授業を受けているわ」
「…そうですか」
石川の姿が見えない事に寂しさを感じたものの、
今は授業中であると聞いて納得した。
- 125 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時17分21秒
- 保健医の女医、平家みちよは吉澤の様子を見て微笑していた。
先ほどの石川の様子を思い出していたのだ。
「石川さんって、貴方のいい人なの?」
「えっ?」
石川の名前を呼ばれて、思わず平家に顔を向ける。
顔が熱くなる。自分で顔が赤らむのが分かる。
平家はそのまま話を続けた。
「さっきまでずっと貴方に付き添っていたのよ」
「ただの過労だから大丈夫だって言っても、貴方を心配そうに見つめて…」
「授業が始まっても、貴方が目を覚ますまでここに居させてって、
なかなか教室に戻ろうとしないで…」
「なんだか恋人同士みたい」
吉澤は耳まで真っ赤にすると、顔を見られるのが恥ずかしくて思わず下を向く。
- 126 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時17分55秒
- その様子をじっと眺めていた平家は、徐に顔を近づけると、
「まぁ、彼女の気持ちもわかるわねぇ」
「貴方、可愛いもの…」
と耳元でささやいた。
「えっ!?」
吉澤は、なんとも言いし難い恐怖を感じ、身の安全を図ろうと半身体を引いた。
「あら、やだ…なんだか警戒させちゃったみたい」
まるで、冗談よとでも言うように右手を縦に振り、
「本気にしないでね。貴方たち二人に当てられちゃって、
ちょっとからかってみたくなったの」
と言う。
しかし、その左手は吉澤の右肩に添えられたままだった。
- 127 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時18分27秒
- それから平家は優しく笑みを浮かべると、
「さぁ、貴方は暫くここで休んでいなさい」
「彼女、休憩時間になると必ずここに来てるから」
と、吉澤に休むよう促す。
吉澤は、少し考えたが首を左右に振り、
「いえ、もう大丈夫です」
といい、ベットから出ようとする。
「でも…」
心配そうに顔を曇らせ、吉澤をベットに留めるよう肩に手を置く。
「ほんとに、もう大丈夫ですから…」
と言い、平家の手を肩から外しベットを出る。
疲労も回復しており、足取りも軽そうだ。
「…そう、でも、辛かったらまたいらっしゃい」
平家に対し頭を下げると、保健室のドアへと歩いて行く。
ふと立ち止まり、思い出したように振り替える。
「もし、石川先輩が着たら、屋上で待っていると伝えてくれますか?」
「えぇ、伝えるわ」
「有難う御座います」
吉澤は、御礼を言うと保健室を離れた。
平家は、保健室に一人となると机へ向かい、荒々しく椅子に腰を降ろすと、
「チッ、逃したか、保健室って暇なのよね…」
と言いい、机の上に伏せてあった読みかけの本を開いた。
- 128 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時18分57秒
- 石川は、屋上へ急いでいた。
先ほど休憩時間となり保健室に行くが吉澤の姿が見えず、
平家から『屋上で待っていると伝えるように言われた』と教えられたからだ。
屋上の扉の前に辿り付くと、弾む息を整える為にゆっくりと呼吸をする。
呼吸を整えるとゆっくりと扉を開く。
扉が開く毎に日の光が差し込み、階段の踊場の影と溶け込んでゆく。
開かれた扉から広がる世界、振り注ぐ陽の光の中に吉澤ひとみがいた。
(いた…)
扉を潜り、吉澤と同じ世界へと足を踏み入れる。
吉澤も、石川が来た事に気づき振り返る。
「久しぶりだね、梨華ちゃん」
2週間ぶり向けられる眩しい笑顔も、その優しい声も懐かしくて嬉しくて
溢れる思いは雫となって石川の瞳から零れ頬を伝う。
- 129 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時19分33秒
- 「大丈夫?」
突然涙を流す石川に心配して歩み寄る。
石川は、それに答えるように涙を拭い軽く頷く。
「ゴメンね。嬉しくて…やっと会えたね、よっすぃー」
既に涙は止まり微笑みながら答える石川に
柔らかな笑顔を浮かべると吉澤は頷いた。
「梨華ちゃんが保健室に運んでくれたんだって?」
「ありがとう」
「ううん、いいの」
「それよりも、ビックリしちゃった。急に倒れるんだもん」
「…ごめん」
しばし沈黙する。
どちらともなく話そうとした時、
沈黙を破ったのは事業開始の予鈴の音だった。
- 130 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時20分06秒
- 漸く出会えた二人を引き裂くように鳴る世鈴を恨めしげに聞いていた吉澤の顔が、
不意に新しい悪戯を考えた少年のような笑顔になる。
「ねぇ、これから遊びに行こっか」
「えっ?でも学校…」
「サボっちゃおう!」
吉澤は、石川の手を取ると学校の外へ向けて歩き出した。
丁度授業が開始した事もあって廊下には人通りは殆どない。
途中、教室に向かう教師を廊下の角に隠れてやり過ごす事もあったが、
無事抜け出す事に成功した。
- 131 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時20分44秒
- 日も傾き辺りが暗くなり始める頃、二人は公園のベンチに腰掛けていた。
石川の右手にはピンクの怪獣のぬいぐるみが握られている。
「よっすぃー、ありがとう。このぬいぐるみ取ってくれて」
「喜んでくれて嬉しいよ」
「でもすごいよねー。私が幾らやっても取れなかったのに、
よっすぃー1回で取っちゃうんだもん」
「アレにはコツがあるんだ」
「その後、ビリヤード場で私が不良にからまれてる時に
よっすぃーがキューを振り回して私を守ってくれたじゃない。
すっごいかっこよかったよ」
「その後追い出されたけどね」
「でも一番凄かったのが、その後行ったボーリング場で…」
「梨華ちゃん」
不意に石川の言葉を遮られ、きょとんとした表情になる。
「梨華ちゃん…聞いて欲しいんだ」
吉澤は、何時になく真剣な表情で話し出した。
自然と聞く側の石川も真剣な表情になる。
- 132 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時21分18秒
- 「梨華ちゃんって、好きな人…いる?」
「えっ?」
突然の質問に言葉に詰まる。
今まで考えた事がなかった。
これまで、吉澤の事ばかり考えていた。
学校でも気がついたら吉澤の事を探していた。
(わたしは、よっすぃーのことが好きなのかな…)
(でも…)
「わかんないよ…」
正直な感想だった。
吉澤といるとドキドキする。
吉澤がいないと不安になる。
でも、それが恋愛感情から来るものなのか分らない。
初めて出来た友達だから、失うのが怖いだけなのかも知らない。
- 133 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時22分00秒
- (よっすぃはどうなんだろう…)
「ねぇ、よっすぃーって好きな人居るの?」
「いるよ」
(いるんだ…)
石川は、『いる』と言う返事を聞いて胸が痛む。
胸が締め付けられて、旨く息が出来ない。
(どうして、どうしてこんなに胸が苦しいの…これじゃまるで…)
石川は、初めて自分の気持ちに気づいた。
(そうか、私はそっすぃーの事好きなんだ…)
認めてしまうとすーっと心が楽になる。
それだけに、吉澤の言葉を重く受け止めてしまう。
急に吉澤が好きな相手を知りたくなった。
- 134 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時22分31秒
- 石川は、震える声を抑えながら言葉を紡ぐ。
「ふーん。どんな人」
口から出た声が上ずる事もなく普通に喋れてほっとする。
石川の問いに答える為、吉澤が口を開く。
「泣き虫で、廊下は走るし…」
(ふむふむ)
「健気で、心配性で…」
(なぬ?もしかして…)
「でも、笑うとすごく可愛い人」
「それって、わ…」
それ以上は喋らせてもらえなかった。
石川の唇は、吉澤の唇によって塞がれた。
唇が重なるだけの口付け交わす。
- 135 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時23分13秒
- 唇が離れる。
目の前に吉澤の顔がある。
彼女の瞳は真っ直ぐ石川を見ている。
「…好きだよ。心から…たとえ梨華ちゃんがモーピンクだとしても…」
石川の目の前が真っ暗になる。
吉澤に告白された嬉しさが、モーピンクである事を知られていた事に対する不安で押しつぶされる。
「っ!どうして…」
ベンチから立ち上がり、吉澤を見つめる。
吉澤は立ち上がると、石川を真っ直ぐ見つめ返し語しだした。
「見てたんだ、この前の戦いの時に…」
それは、2週間前のタイヤキ娘との戦いだった。
あの時、落ちる瓦礫を避けようとして、そして…ヘルメットは砕け、素顔をさらした。
(あの時…見てたんだ…)
「あの時、わたしは直ぐ傍にいた」
「わたしは…怪人なんだ」
- 136 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時24分00秒
- 何を言っているのか分らなかった。
膝が震えるのを必死でこらえ、立っているのが精一杯だ。
「な…に…」
混乱して、頭の中がぐるぐる回って、旨く言葉が出てこない。
吉澤が悲しそうに石川を見ている。
その瞳からは涙があふれ、頬を伝い落ちる。
「ごめんね、梨華ちゃん…」
そして、吉澤は踵を返すとその場を離れ、夕闇に消えた。
石川は混乱していた。
後を追わなきゃいけないと頭は分っていても、心が伴わない。
どのみち、石川の脚力では吉澤に追いつく事は出来ないが…。
石川は、ただずっと吉澤が消えた夕闇を見つめていた。
不思議と、石川からは涙は出なかった。
- 137 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時24分48秒
- 一方その頃、悪の秘密組織本部では、悪の総帥矢口が窓から外を眺めていた。
ふと、背後に気配を感じる。
「もう来ないと思ってた…」
矢口はゆっくり振り返る。
そこには吉澤の姿があった。
「矢口さん。お願いがあります」
吉澤は強い口調で矢口に話かける。
吉澤まで月の明かりは届かす、その表情は読み取れない。
「分ってる。もう、怪人はやりたくないんでしょ」
矢口は、吉澤の失踪の理由が怪人になりたくないからだと思っていた。
そして、吉澤がいなくなる位ならと、怪人にするのは諦めていた。
それが、この2週間で矢口が出した答えだった。
「いえ、違います」
「私を怪人にしてください」
一歩踏み出し、月明かりに照らされた吉澤の瞳は、決意の光を湛えていた。
- 138 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月12日(火)20時27分18秒
- 本日の更新はここまでです。
まず最初に、レス>107のタイトルが思いっきり第2章になってる…
本当にすみません、まさかこんな凡ミスを(涙
しかも106上げてるし…はぁ、鬱だ…。
よすこさんの失踪の理由は…実はこんなんでした(w
あぁ!石は投げないで、まさか、この件に注目が集まるとは思ってなかったんです。
後2回の更新で終了の予定です。
しかし、次回更新分のテキストだけがまだ上がっていません。
プチスランプです。困りました。
文章に異常が見られた場合、こいつ壊れたな…と哀れんでください。
>120 よすこ大好き読者さん
レス有難う御座います。
新たな読者様に読んで頂いて、これで106でageてしまったのも救われるというものです。
一気に読んで頂き有難う御座いました。
>121 名無し読者さん
レス有難う御座います。
>シリアスにまとまるんですか?
うっ!痛いところを…僕としては十分シリアスっぽいと思うのですが(汗
どうでしょう?
ラストはちょっと意外な展開になる筈です。
- 139 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月13日(水)20時57分49秒
- 夜が明け、石川は窓から射す朝の陽光で目を覚ました。
あの後、鞄を学校に置き忘れていたことを思い出した石川は、
一度学校に戻り、帰り着いたときには11時を回っていた。
その後、お風呂に入ると、部屋に戻りベットで眠りについた。
机の上には、ピンクの怪獣のぬいぐるみが置いてある。
昨日の出来事が夢ではない事をつげている。
思い出される吉澤の言葉、その一つ一つが重く石川の胸に圧し掛かる。
胸が苦しくなり、どうして良いのか分らない。
- 140 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月13日(水)20時58分42秒
- ベットから起き上がると、ぬいぐるみを手に取る。
「おはよう、シャルロット」
ぬいぐるみに挨拶をする。
当然返事は返ってこない。
石川は、ぬいぐるみを持ったままベットに座ると話し出した。
「ねぇ、シャルロット…わたし、苦しいよ…」
(どうてなの?)
「分らないよ。よっすぃーの事考えると、こう、ぎゅ〜って胸が締め付けられるの…」
と言うと、石川はぬいぐるみを胸に押し付ける。
(くるしいよ、りかちゃん)
「あぁ、ごめんなさい」
慌ててぬいぐるみを胸から解放する。
- 141 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月13日(水)20時59分22秒
- (ううん、大丈夫。それより、りかちゃんは如何したいの?)
「分らない…私は如何すればいいの…」
(よっすぃーの事、好きなんでしょ)
「うん、よっすぃーの事は大好き。でも…」
(でも、何?)
「でも、怖い…」
(それは、よっすぃーが怪人だって分ったから?)
「ううん、違う。拒絶されたら如何しようって…不安で…」
(モーピンクだって正体がバレてしまったから?)
「…うん。変な人って思われてたら…」
(僕と話している時点でもうアウトだよ)
「もう、酷い!」
- 142 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月13日(水)21時00分08秒
- (ははは、冗談だよ。でも、よっすぃーはモーピンクでも好きだって言ってたじゃないか)
「それは…そうだけど…」
(がんばれ!りかちゃん。
思いは言葉にしなきゃ伝わらない。
きっと今ごろよっすぃーも苦しんでるよ。
きっと、今のよっすぃーを救えるのは、りかちゃんだけなんだ…残念だけど…)
「シャルロットもよっすぃーの事好きなんだ」
(うん。僕をりかちゃんに引き合わせてくれた人だからね)
「私、よっすぃーと話してみる。旨く話せるか分らないけど、でも、私の気持ちをぶつけるみる」
(うん!それでこそ、りかちゃんだよ。そうと決まれば、善は急げだよ)
「ふふ、ありがとう。シャルロット」
- 143 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月13日(水)21時01分42秒
- ぬいぐるみから視線を外し時計に目をやると、既に7時30分をまわっていた。
何時もは家を出る時間である。
「きゃあ、大変!」
石川は、ぬいぐるみを机に戻すと制服に着替え始めた。
(あっ、そうだ。お気に入りのイヤリング付けて行こう♪)
石川は、机の引出しを開けると、小指の爪ほどの大きさしかない
ピンクのハート型イヤリングを取り出し、両耳につける。
(これで良しっと♪)
そして、鞄を手に持ち、学校へと向かった。
- 144 名前:そらり 投稿日:2002年03月13日(水)21時02分25秒
- 本日の更新はここまでです。
次回、最終章のラストまで更新します。
- 145 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月13日(水)21時47分04秒
- ラスト期待してます
- 146 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時30分12秒
- その日、吉澤は学校には来なかった。
教室も屋上も探せる所は全部探した。
昨日の事があるからか、一日見かけないだけで
もう二度と吉澤に会う事が出来ないような気がした。
既に全ての授業は終了し放課後になる。
不安な気持ちを抱えたまま、石川はE.D.C本部へ急いだ。
さすがに昨日サボった事が気がかりだった。
E.D.C本部には、後藤とちびっこ2人が既に来ており談笑をしていた。
- 147 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時30分43秒
- 辻は何故かバットを持っており、加護がボールを投げる真似をしている。
その様子を黙って見ていた後藤が石川に気づき話し掛けてきた。
「あっ、梨華ちゃん。昨日はどうしたの?」
「あっ、うん、ごめん。急用で…」
後藤は『ふ〜ん』という顔をしている。
「あっ!梨華ちゃん。見てください。今日、ののホームラン打ったれす」
「おう、梨華ちゃん。うちのノーヒットノーラン見せたかったわ〜」
辻と加護も漸く石川に気づき、それぞれに話し掛けてきた。
「えっ?えっ?」
石川は、何のことか分らずオロオロする。
「今日の体育の授業、中等部のA組とB組で野球の試合をしたんだって」
そこで後藤が助け舟を出す。
「そうや、あのにっくきライバル、新垣のクラスとな」
「そうれす。新垣さんは、中等部ソフト部のエースで、あいぼんのライバルなんれす」
それに2人が続く。
- 148 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時31分17秒
- 話によると、A組(辻、加護)とB組(新垣里沙)は宿命のライバルであり、
今日の野球の試合で3対0で快勝したらしい。
しかも、加護がノーヒットノーランを達成し、辻は全打席ホームランだったらしい。
「凄いね2人共、でも3対0って事は加護ちゃんは打たなかったんだ…」
「なっ、うちはピッチャーだから打てへんでも良いねん」
石川に痛い所を突かれてショックを受けているようだ。
「でっでも、ノーヒットノーランって凄いね。それって、一度も打たれてないって事だよね」
「そうや」
石川に言われて胸を張る加護。
「それに、ののちゃんも全打席ホームランなんだよね」
「えっへん。のの、天才スラッガーなのれす」
といいバットを構える。
「ふ〜ん、それじゃ、ののとあいぼんどっちが上なの?」
そこまで聞いていた後藤が思わす口走る。
はっと顔を見合わせる二人。
「もちろんうちが上や」
「ののが上れす」
二人の間で火花が散る。
「おもしろい、勝負やのの。おもて出えや」
「望むところれす」
二人が息巻いて外へ出ようとした時、突然安倍が飛び込んできた。
- 149 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時31分59秒
- 安倍と石川の目が合う。
「あっ!石川!貴方は今日残ってなさい」
「…はい」
「ねぇ、それよりこれ見て!」
といい、テーブルの上に一通の手紙を勢いよく置く。
手紙には
―
挑戦状
本日、放課後にモームス女学院の第二グラウンドにて
決闘を申し込みます。
ご多忙中とは存じますが、奮ってのご参加をお待ち
申し上げております。
シャンペン怪人より
―
と書かれていた。
- 150 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時32分53秒
- 石川は、手紙を読み終えると第二グラウンドへ向かうべく踵を返し駆け出す。
「ちょっと待つべさ!」
安倍の呼び止めると石川の腕を掴む。
「いやぁ、離してっ!行かせてっ!」
安倍に掴まれた腕を振り払おうと、石川は必死に腕を振り回した。
「石川っ!」
安倍が叫ぶと同時に本部に快音が木霊する。
石川の左耳のイヤリングはどこかへ飛んで行き、左頬は朱色に染まる。
- 151 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時34分08秒
- 慌てて阿倍と石川の傍に後藤は駆け寄る。
「安倍先輩!」
後藤が心配して叫ぶ。
「後藤は黙ってて、…ねえ石川、貴方、何か変だよ」
そう言う安倍の視線は石川から離れることはなかった。
黙り込む石川。その目にはうっすらと涙が滲む。
「黙ってたら分かんないよ」
安倍は、優しく諭すように話し掛ける。
「…べ…には…」
石川は、叩かれた頬を左手で押さえると、安倍の言葉に対しポツリと声を出す。
「何?ちゃんと話して」
「安倍先輩には分かんないですよ!」
安倍をキッと睨み付け、石川は大声で叫んだ。
驚いて一瞬怯んだ隙に、石川は腕を振り解くとE.D.C.本部を飛び出した。
「あぁっもう、みんな!行くよ!」
「はい(です)」
安倍の号令に後藤、辻、加護が答える。
四人は更衣室へ向かうと素早くモーレンジャ―へと変身し、
石川の後を追うべく駆け出した。
- 152 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時34分53秒
- 石川は階段を駆け下りると急いで中庭へと向かっていた。
息を切らし上履きのまま中庭へと飛び出す。
第二グラウンドは、中庭を抜けて通路を隔てた一段高い丘の上の
中等部第一校舎を突っ切ったテニスコートの横にあるプールの隣にあった。
中庭では帰宅する為に校門まで向かう人達や、
運動部であろうジャージ姿の生徒達が行き交っていた。
石川は、人の波を掻き分け、時には薙ぎ倒し、第二グラウンドへ急いだ。
走ること15分、漸く石川は第二グラウンドへたどり着いた。
ただっ広いグラウンドの中央に、吉澤は一人立っていた。
- 153 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時35分26秒
- 石川は、吉澤の姿を見つけると彼女の元まで駆け出した。
吉澤の30メートル程手前で立ち止まると
荒れた息を整えようとゆっくりと呼吸をする。
「梨華ちゃん……来てくれると思ってた。」
吉澤は、以前と変わらぬ笑顔で言う。
「よっすぃ……」
石川は、その笑顔にほっとすると近寄ろうと足を踏み出した。
しかし、吉澤の表情が途端に引き締まる。
それと同時に周囲の雰囲気も変わり、
まるで先ほどとは別の場所にいるような錯覚に陥る。
「梨華ちゃん、わたしにはもう……時間がないんだ」
「だから、今回で決着をつけよう。梨華ちゃんとも、モーレンジャーとも」
石川の足が止る。
空気がピリピリとして緊張が高まる。
吉澤のあまりの気迫で動く事が出来なかった。
「勝負だよ。梨華ちゃん」
吉澤は、徐にポケットからボタンがついたカプセルのような物を取り出すと、ボタンを押した。
カプセルが二つに割れ、糸のような細い繊維状のものが噴出すと吉澤を包み硬質化して次第と形になってゆく。
そして、吉澤はシャンペン怪人に変身した。
- 154 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時36分04秒
- 丁度そこへ、モーレンジャーが到着した。
「モーレッド」(どど〜ん)
「モーブルー」(どど〜ん)
「モーイエロー」(どど〜ん)
「モーホワイト」(どど〜ん)
彼女達の背後で、それぞれのカラーの煙幕が立ち上ると
「五人そろってモーレンジャー!!」(どどど〜ん)
背後で4色の煙幕が更に立ち上がる。
モーレンジャーは石川は取り囲むように布陣する。
「心配したよ。そのままの格好で急に飛び出すなんて」
「梨華ちゃん、パワースーツも無しに危険だよ」
「心配したで、ホンマ」
「心配したれすよ」
口々に石川に話し掛ける。
他のメンバーはともかく安倍までが心配してくれた事が以外だった。
石川は、嬉しさと申し訳さなで一杯になった。
「ありがとう。心配かけたね」
石川の言葉に全員が頷く。
そして、振り返り、シャンペン怪人と対峙する。
「ご招待に授かり光栄だべ、シャンペン怪人」
レッドが言い放つ。
- 155 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時36分38秒
- 「ここは私たちに任せて、梨華ちゃんは下がってて」
石川は、ブルーに言われて頷くと一歩下がった。
そして、ついにシャンペン怪人とモーレンジャーの戦いが始まった。
先に動いたのはシャンペン怪人だった。
シャンペン怪人は体を激しく揺さ振ると、
「喰らえ、必殺コルクシュート!!」
コルクをモーレンジャーに向けて飛ばした。
コルクシュートとは、シャンペン怪人の最大の必殺技で、
体を揺らす事で発生する炭酸ガスの勢いを利用し
頭についた巨大コルクを相手にぶつける恐ろしい技である。
唯一の欠点は、一度しか使えない事だった。
- 156 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時37分10秒
- イエローは、それを待ち構えていたかのように一歩踏み出す。
なぜかその手にはバットが握られていた。
「甘いのれす!」
バットを振りかぶり狙いを定める。
「ふっ、どっちが…」
不適な笑いを浮かべるシャンペン怪人。
突然、コルクがスコンと落ち始めた。
「あかん!イエロー、そいつはフォークや!」
コルクは見事足元へとコースを変える。
でもそれじゃ意味ないじゃん…。
しかし、上手に膝を落とし、腕力でバットの方角を変えるとコルクを真芯で捕らえた。
「甘甘れす!秘儀、ピッチャー返しれす!!」
スパコーンと快音を響かせて、コルクはそのままシャンペン怪人の方に打ち返される。
そして…。
パリィィン
シャンペン怪人に直撃した。
この間0.5秒だった。
そのまま前のめりに倒れる。
そして、シャンペン怪人の変身が解除され、吉澤は元の姿に戻った。
吉澤の傍には、割れたシャンペンとヒビが入ったカプセルが転がっていた。
- 157 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時37分45秒
- 石川は、吉澤が地面に倒れるや否や駆け出していた。
「よっすぃー!」
石川が吉澤に駆け寄り、抱え起こすと顔を覗き込む。
吉澤は意識を失っていた。
だらりと下がる力のない腕が悲愴感を煽立てる。
「いやぁ!よっすぃーしなないで!!」
「よっすぃーが怪人でも構わない」
「あたしは、よっすぃーの事……」
「いやだぁ…イヤだよう…よっすぃー…」
必死に揺さ振り、話し掛ける。
涙が頬を伝い、覗き込む吉澤の顔や胸に滴り落ちる。
目を覚まさない吉澤の顔が青白く見える。
その時、以前テレビで見た救命関係の番組を思い出す。
「そうだ、人工呼吸…」
息を吸い込み、瞳を閉じるとゆっくりと顔を近づけた。
- 158 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時38分50秒
- その時既に吉澤は、顔に滴る石川の涙で目を覚まていた。
そして、声をかけようとしたその瞬間、石川の唇が近づいてきた。
チャンスとばかりに高まる胸を抑えつつ、瞳を閉じて意識を失った振りをする。
その頃、石川は迷っていた。
(なんだか、みんなの前で唇にするのって恥ずかしい…)
(でも、早くしないと…そうだ!鼻にしちゃえ!)
(口と繋がってるし。梨華、あったま良い♪)
石川の唇が吉澤に近づく、そして…
「ん゛?」
むにゅとした感触とともに鼻が塞がれ大量の息が鼻腔を等して吹き込まれた。
「んあ゛ぁぁ!!」
じたばたと足掻く吉澤。
- 159 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時39分24秒
- その様子に気づき、慌てて鼻を唇から解放する。
安堵感で緊張が解け、再び涙が溢れ出した。
「よかっ…よっすぃー…。」
「またっ、わたしの前からいなくなっちゃうんじゃないかと…」
吉澤は、優しく右手を石川の頭の上に乗せると、優しく髪を撫でる。
「…ごめんね。心配かけちゃったね」
吉澤は、頭に乗せていた手を離し、
その手で石川の頬を流れる涙をそっと拭い取る。
吉澤の瞳に映る自分がいかにも子供染みて見えた。
優しくされる事が、心配した分余計に腹が立つ。
「バカだよよっすぃー」
「よっすぃーは私の事モーピンクでも構わないって、好きだって言ってくれたよね」
「わたしも同じだよ。怪人でも構わない。よっすぃーはよっすぃーだもん」
今まで抑えていた感情と共に、溢れ出す思いが言葉となって自然と口から紡ぎ出される。
言えなかった事、伝えたかった思いを言葉として吐き出すことで
石川の心は吐き出した分だけ軽くなっていく。
- 160 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時39分57秒
- 吉澤は、石川の告白に驚きつつも拭い取れない不安がある。
「…でも、怪人だよ。気持ち悪くない?」
自信のないか細い声で呟く。
「そんな事ない!」
「たとえよっすぃーが怪人だろうが宇宙海賊だろうが関係ない」
「あたしはよっすぃーが好き…」
石川は、左右に首を振り、吉澤に答える。
その言葉を聞き、吉澤は真剣な表情をする。
「…それ、本当?」
「うん。大好き!」
「そうじゃなくって、わたしが宇宙海賊でも関係ないって…」
「えっ?」
吉澤の真剣な物言いに、石川は言葉を失う。
- 161 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時40分39秒
- 吉澤は、ポツリポツリと語りだした。
「実はわたし、宇宙海賊なんだ」
「もう7年になるかな、初めて地球に来たのは…」
「あの時わたしは当時最強だった宇宙警察の一人に追われていたんだ」
「そして、この地球に逃れてきた」
「深手を負ったわたしは傷を癒す為、この地球に身を潜める事にしたんだ」
「梨華ちゃんは覚えてないかもしれないけど、そのとき治療をしてくれたのは梨華ちゃんだった」
「わたしは、梨華ちゃんのことを調べて、そして、この学院で学生をしている事を突き止めた」
「ずっと、傍に居たかったから、だから、この学園に潜入した」
石川は、吉澤の衝撃の告白を受け、唯々聞き入るのみだった。
ふと、石川から視線を外すと上を向き空を見上げる。
「でも、もうそれも終わり…」
「えっ?それっ…どういう…」
石川に一抹の不安がよぎる。
吉澤は、石川に視線を戻す。
「もうこれ以上この星にはいられない、わたしは宇宙へ帰るよ」
「如何してなの?わたしに宇宙海賊であることを話したから?」
左右に首を振る吉澤。
「もう直ぐ地球ビザが切れるんだ…」
- 162 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時41分25秒
- 石川は、あまりに突然の事に何も考えられないでいた。
吉澤が宇宙へ帰ってしまうという現実が受け入れられないでいた。
(そんな、宇宙に帰っちゃうなんて…)
(そんなのイヤ!もう、離れ離れになるなんて、そんなの耐えられない!)
石川は、吉澤との現実を理解すると同時に決意した。
「…わたしも、わたしも連れて行って!」
吉澤と共に、宇宙へ行くことを…。
「…いいの?」
当惑する吉澤。
「うん。宇宙海賊でもいい。わたしはよっすぃーといたい」
「ありがとう…梨華ちゃん…」
吉澤は、立ち上がると石川を肩に抱き、遠いお空を指差した。
「行こう、宇宙へ!」
- 163 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時42分10秒
- 吉澤は、首に下げていたの宇宙船のリモートコントローラを操作する。
すると突然影がさし大気を揺るがす轟音が聞こえる。
巻き上がる砂塵
銀色の巨影
その広げた翼は虹色に輝き、
剣を抱く乙女のレリーフが光を反射して輝いている。
巨大な翼が生えた魚の形をした宇宙船がモームス女学院の上空に飛来していた。
「…すごい」
石川は、息を呑み、呻くように呟く。
「あれがわたしの宇宙船、『スカイフィッシュ』だよ」
- 164 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時42分53秒
- 宇宙船は静かに校庭に着陸すると搭乗口の扉が開き中へと続く階段が現れる。
ついに、地球と別れる時が来た。
石川と吉澤の周りには、同じモーレンジャーの仲間達が取り囲んでいた。
「梨華ちゃん、よっすぃー、元気でね。私の事忘れたらダメだからね。」
後藤は、互いに向き合った状態で石川と吉澤を両手に抱き、二人の肩を涙で濡らした。
「うわぁ〜ん。のの、とは、ずっと、ともらち、れすぅ」
辻は、拭うことなく涙を流し、石川の洋服の裾を握っていた。
「うちらの事忘れんといてぇや」
加護は、必死に涙を拭い、笑顔を絶やさなかった。
「元気でね。石川のこと忘れないからね」
安倍は、石川に抱き付き、涙を溜めて、しかし、必死に涙を堪えていた。
そっと体を離すと、吉澤の方を向き直りそっと抱きしめる。
「よっすぃー、この子の事頼んだよ」
安倍の言葉に頷く吉澤。
「ありがとう、みんな……みんなの事忘れないよ」
石川もまた、堪えようとすればするほど溢れる涙をそれでも必死に堪え、
別れの挨拶をした。
- 165 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時43分36秒
- 日は傾き、辺りを茜色に染め上げる。
仲間との挨拶を一通り済ますと、吉澤は、石川の方を向きそっと手を取る。
「じゃ、行こう」
石川は、頷いて答えると、宇宙船の搭乗口へと向かった。
「じゃあね、みんな!」
扉の前で一度だけ振り返り、石川と吉澤は宇宙船へと乗り込む。
扉がゆっくりと閉まり始めると二人の姿が扉の陰に隠れ、そして、完全に消えた。
銀色の宇宙船は、夕日影を反射して燃えるような朱色に染めあげる。
ゆっくりと浮上すると、別れを惜しむかのように上空に停止し、
船体を傾けると徐々に速度を上げて遠のいて行く。
そして、空の彼方へと飛び立って行った。
- 166 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時44分09秒
- 吉澤と石川を乗せた宇宙船が旅立つのを
中澤は旧校舎2階の旧化学室の窓から眺めていた。
その隣で窓に背を向けて矢口が立っている。
「…いったよ」
「…うん」
しばし沈黙。
「裕ちゃん」
中澤の方を振り向く。
その瞳には涙が溢れ、一筋頬を伝い落ちた。
「…わたし、フラレちゃった…」
「そっか」
中澤は矢口に近づくとやさしく抱きしめる。
「悲しいときは、思いっきり泣き」
矢口は泣いた。
中澤の胸に顔を埋めて声の限り泣いた。
(ちょっと焼けるな…)
- 167 名前:最終章 空の彼方へ 投稿日:2002年03月14日(木)20時44分52秒
- それから数時間たち、辺りはすっかり暗くなっていた。
矢口は、窓の傍に置いた椅子に腰掛け、夜の空を眺めていた。
涙は既に止まっている。
中澤はずっとそばに居てくれる。
それが、矢口には嬉しかった。
「なぁ、裕ちゃん」
「ん」
「…ありがとね」
「ええよ」
夜の暗闇を照らす少し欠けた月だけが、
いまでは吉澤が地球に居たことの唯一つの証となった。
(1年あげる…)
今はもう地球には居ない、宇宙へと旅たった友人に語りかける。
(1年したら、必ず捕まえに行くからね)
(それが、宇宙警察であるわたしの使命だから…)
新たな思いを胸に、矢口はいつまでも月を眺めていた。
〜 完 〜
- 168 名前:そらり 投稿日:2002年03月14日(木)20時46分20秒
- これで、最終章全て更新終了しました。
ついに、『あの空の彼方に』完結しました。
長い間(と言っても2週間ですが)お付き合いくださり有難う御座いました。
終わってみると、意外と短かった事にちょっと驚きです。
自分で読み直してみて、誤字脱字が多い事…ちょっと凹みました。
レスを下さった皆様、本当にありがとうございました。
書く側にとって、読者様のレスがどんなに心の支えになるかと言う事が
書いてみて始めて分りました。
モーニング娘。メンバーは全員出しました。
保田はセリフなし。新垣にいたっては名前のみですが(w
決して二人が嫌いなわけではありません。むしろ好きです。愛の鞭です。
現在、外伝のようなものの構想が出来ているので、近いうちに更新するかもしれません。
その時は、こいつまた変なのを書いてるよ、などと思わずかるく目をとうして頂ければ幸いです。
最後に、このような駄文を最後まで読んで下さった読者の方々、誠に有難う御座いました。
>145 名無し読者さん
レス有難う御座います。
ラスト、如何だったでしょうか。
- 169 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月14日(木)23時08分04秒
- 空どころか宇宙だったとは…
これは意表を突かれました
- 170 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月15日(金)00時37分03秒
- 作者氏には裏切られっぱなし(w
何じゃコリャ(w
突込みどころが多すぎて・・・、でもそこがよかった(爆
最後のちょっと切ない感じ、言うことなしです(w
お疲れ様でしたm(__)m
- 171 名前:夜叉 投稿日:2002年03月15日(金)16時39分47秒
- 大きく揺さぶる展開、おもしろかったです。
この路線好きな自分としてはうれしい限りでした。
作者様。お疲れさまでした。そして、有難うございました。
- 172 名前:そらり 投稿日:2002年03月18日(月)00時50分44秒
- レスの返信をします。
> 169 名無し読者さん
レス有難う御座います。
意表を突かれましたか(w
最後までお付き合い有難う御座いました。
> 170 名無し読者さん
レス有難う御座います。
そういって頂いて嬉しい限りでス。
まさに狙い通りです(w
読んでくださり有難う御座いました。
> 171 夜叉さん
レス有難う御座います。
面白いと言って頂けると嬉しいものですね。
こちらこそ、最後まで読んで頂き有難う御座いました。
- 173 名前:そらり 投稿日:2002年03月18日(月)00時51分21秒
- 外伝1が書きあがったので更新します。
ちょっと文法を変えてみました。
題名は『シャルロット物語』です。
- 174 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時52分21秒
- 僕はずっと一人だった。
たくさんの仲間たちはいたけど、それでも僕は一人だった。
僕は、都内某所になる寂れたゲームセンターの角にある、
ガラスケースの中の死角になるような場所にいた。
でもそれは、僕があの人と出会う為の要因の一つに過ぎない。
僕とあの人が出会う事は、既に決められた、そう、運命だったんだ。
あの人は、ガラスケースに入れられた僕に気づいてくれた。
とてもキラキラした瞳で僕を見つめると、とても可愛い顔で微笑んでくれた。
財布からコインを取り出すと、ボタン横にある小さな縦穴に入れて、
一生懸命ボタンを操作して、僕を変てこなアームで捕まえようとする。
でも、僕はガラスケースの隅っこにいたからなかなか捕まらなかったんだ。
財布からコインを取り出すと、何度も何度も同じ事を繰り返す。
暫くしてコインが無くなってしまうと、
とっても悲しい顔をして、その場を離れてしまった。
僕もとっても寂しかったよ…。
- 175 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時52分54秒
- でも、あの人は直ぐに戻ってきた。
片手にたくさんのコインを持って。
僕は、きっともう会えないと思っていたからとっても嬉しかったんだ。
それでも、僕はなかなか捕まらなかった…。
とっても悔しそうなあの人の表情が、僕にはとても辛かった。
だから、僕は本当に捕まりたかったんだ。
とうとう手持ちのコインが無くなってしまうと、
とっても悲しそうにお財布を握ってた。
そしたら、あの人と同じ格好をした女の人が、
あの人に話し掛けてきたんだ。
僕は、ガラスケースの中にいたから、
何を話しているのかは分らなかったけど、
僕の事を指差しながら話しているので、
きっと僕の事を話してたんだろうな。
- 176 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時53分40秒
- 突然、さっき来た女の人がコインを取り出すと
ボタンを操作して僕を捕まえようとするんだ。
僕は、簡単に捕まって、細い通路を通って外に出る事が出来たんだ。
僕は、変てこな箱の中から取り出されると、
あの人は僕を抱きかかえてくれた。
「こんにちは、ピンクの怪獣さん」
にっこりと微笑んで、僕に笑いかける。
僕は、その笑顔が見れただけでとても幸福だった。
あの人はりかちゃんって呼ばれてた。
そして、僕を捕まえてくれた人は、よっすぃーって呼ばれてた。
りかちゃんは、僕に名前をくれたんだ。
「シャルロット。それが貴方の名前よ」
僕に名前が出来た。
- 177 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時54分10秒
- それから、僕とりかちゃんとよっすぃーは、いろんな所で遊んだ。
長い棒で、沢山のボールを突いたりする場所では、
りかちゃんは、へんな頭の男達に言い寄られてとっても困ってた。
僕は、何も出来ない事がとっても悔しかったんだ。
でも、よっすぃーのお陰でへんな頭の男たちを追っ払う事が出来たんだ。
よっすぃーの事は、りかちゃん程じゃないけど、ちょっと好きになった。
ちょっとだけだけどね。
それから、おっきいボールを転がす、変なところにいったんだ。
ここでも、へんな出来事が起こったけど僕には理解できなかった。
それから僕達は、公園でお話をしてたんだ。
辺りはすっかり暗くなって、なんだか怖かったな。
でも、りかちゃんがいっしょだから平気だけどね。
その時に、とっても辛い事があったんだ。
- 178 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時54分45秒
- りかちゃんが話していたらよっすぃーが
突然言葉を遮るように話し出したんだ。
りかちゃんは、きょとんとしてた。
よっすぃーは、とても真剣な表情で話してた。
なんだか僕まで緊張しちゃったよ。
よっすぃーは、
「梨華ちゃんって、好きな人…いる?」
って、突然りかちゃんに話し掛けてくるんだ。
なんだか、りかちゃん言葉に詰まって考え込んでるようだった。
りかちゃんはよっすぃーの方ばっかり向いて、
「わかんないよ…」
「ねぇ、よっすぃーって好きな人居るの?」
って聞くんだ。
それから、よっすぃーが、
「いるよ」
って言ったら、りかちゃん、とても辛そうな顔をしてた。
やい、よっすぃー、りかちゃんを困らせたら唯じゃ済まさないからな。
- 179 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時55分20秒
- それから、また二人は話し出したんだ。
「ふーん。どんな人」
って言った時の、りかちゃん、ちょっと声が震えてた…。
何が辛いの、りかちゃん、僕も辛くなっちゃうよ…。
それから、よっすぃーがまた話だしたんだ。
「泣き虫で、廊下は走るし…」
「健気で、心配性で…」
「でも、笑うとすごく可愛い人」
それって、誰の事かな?
よっすぃーの好きな人って変わってるね。
まぁ、りかちゃんの方が可愛いに決まってるけど。
そんな事考えてたら、突然、りかちゃんにキスしたんだ。
ムキーっ!許せない、いくらよっすぃーでも、
僕のりかちゃんにキスするなんて!!
りかちゃんのフォーストキスは僕のものだったのに!!
- 180 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時55分51秒
- キスの後、よっすぃーは立ち上がると
「…好きだよ。心から…たとえ梨華ちゃんがモーピンクだとしても…」
なんて変なこと言い出すんだ。
りかちゃんがモーピンク?モーピンクってなんなのさ。
そうか、とっても可愛い人って意味なんだね。
それにしてもやっぱり許せないや。
だって、よっすぃーがそう言った後のりかちゃん
とっても辛そうだった。
まさか!モーピンクって悪口なのかな?
やい!よっすぃー!僕のりかちゃんになんて事言うんだ!
ちょっとは見直してやったのに!!
こうなったら、僕がりかちゃんを守るんだ!!
- 181 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時56分24秒
- それからまだ傷つけたり無いのか、また変なこと言い出したんだ。
「見てたんだ、この前の戦いの時に…」
「あの時、わたしは直ぐ傍にいた」
「わたしは…怪人なんだ」
うわぁ、地震だ!!
ちがう…りかちゃん震えてる…。
きっと、酷い事言ったに違いないんだ。
もう、ゆるさないぞ!
「ごめんね、梨華ちゃん…」
今ごろ謝ったって、許してやるもんか!!
もう、こんな奴大っ嫌いだ!!
りかちゃん、こんな奴ほっといて僕たちで遊ぼう。
それから、よっすぃーは僕から逃げ出したんだ。
ざまぁみろ、僕がりかちゃんの事ずっと守ってあげるからね。
だから、元気出してね。りかちゃん…。
- 182 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時56分55秒
- それから僕たちは、学校という所に行って、梨華ちゃんのお家に帰ったんだ。
梨華ちゃんは、ずっと元気が無かった…。
夜が明けて、お日様の光がお部屋にいっぱい広がった。
お日様の光で、りかちゃんの寝顔がここからはっきり見える。
やっはり、りかちゃんの寝顔は最高!
この寝顔は僕だけのもの、羨ましいでしょう。
そんな事を考えていたら、りかちゃん目を覚ましたみたい。
おはよう!りかちゃん。
「おはよう、シャルロット」
りかちゃんは、僕を抱きかかえると、僕に挨拶してくれた。
- 183 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時57分30秒
- 僕を抱きかかえたままベットに座ると、僕に話し掛けてくれたんだ。
「ねぇ、シャルロット…わたし、苦しいよ…」
どうしたの?
何が苦しいの?
「分らないよ。よっすぃーの事考えると、こう、ぎゅ〜って胸が締め付けられるの…」
そうと言うと、りかちゃんは、僕をぎゅぅって、胸に押し付けたんだ。
僕は、左右のふくよかな谷間に埋められて、最高だった。
この幸福が理解できるかなぁ。
そう、エベレストとチョモランマを一度に制覇した気分かな?
チョモランマがエベレストの中国名だって事はこの際気にしないでね。
同じ標高の山を二つ思い付かなかったんだ、勘弁してよ。
でも、それぐらい凄いってのが分ってもらえたかな。
でも、この幸福はそう長くは続かなかったんだ。
「あぁ、ごめんなさい」
というと、僕を僕のサンクチュアリから離したんだ。
別に、あのままでも良かったのに…。
- 184 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時58分00秒
- りかちゃんはの話はまだ続いていた。
「分らない…私は如何すればいいの…」
りかちゃんは凄く悩んでいた。
さっき、よっすぃーのせいで胸が苦しいって言ってた。
やっはり、昨日の事をまだ気にしていたんだね。
「うん」
ぼくは、あんな奴大嫌いだ!
りかちゃんもそうなんでしょ?
「よっすぃーの事は大好き。」
えぇ!どうして!!あんなに酷い事言う奴の何処がいいのさ。
僕の方がずっとプリティだし、セクシー…では負けてえるけど…。
でも、でも、やっぱり納得いかないや。
「でも…」
でも?
でも、どうしたの?
「でも、怖い…」
- 185 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時58分32秒
- よっすぃーが怖いの?
大丈夫だよ。僕が守ってあげるから。
「ううん、違う。拒絶されたら如何しようって…不安で…」
りかちゃん…よっすぃーに嫌われるのが怖いんだ…。
そんなに、よっすぃーの事好きなんだ。
「…うん。変な人って思われてたら…」
大丈夫だよ。
りかちゃんはちっとも変じゃない!
変なのはよっすぃーの方さ!
「もう、酷い!」
ゴメンね…。
別によっすぃーの事悪く言うつもり無かったんだ。
りかちゃんに、怒られるとなんだか悲しいよ。
- 186 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時59分02秒
- ねぇ、りかちゃん。
よっすぃーは、きっと、りかちゃんの事大好きだよ。
僕がりかちゃんの事大好きだから、だから、なんとなく分るんだ。
「それは…そうだけど…」
僕はぬいぐるみだから、
りかちゃんがいて欲しいときにしか傍にいることは出来ない。
でも、よっすぃーは違う…
好きなときに傍にいて、好きなだけお話できて、
そして、本当に困った時に君を助ける事ができる。
りかちゃんは僕を大事にしてくれるかもしれない…
でも、きっと愛してはくれないんだよね…。
「シャルロットもよっすぃーの事好きなんだ」
…嫌いだよ。
僕に出来ない事全部できるくせに、
こんなにりかちゃんを苦しめて…。
りかちゃんの笑顔を取り上げて…。
それでもこんなに愛されて…。
- 187 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)00時59分40秒
- 「私、よっすぃーと話してみる。旨く話せるか分らないけど、でも、私の気持ちをぶつけるみる」
きっと、旨くいくよ。
やっぱり、りかちゃんには笑顔がお似合いだよ。
がんばれ、僕は何も出来ないけど、でも、精一杯応援するよ。
「ふふ、ありがとう。シャルロット」
でも、もし、りかちゃんが辛い思いをしたら…。
僕がいるから…何も出来ないけど…ずっと傍にいるから…。
「きゃあ、大変!」
時間はもう7時30分を過ぎていて、
時計を見たらりかちゃんは凄く慌てていた。
りかちゃんは、僕を机の上に戻すと着替え始めた。
恥ずかしがり屋のりかちゃんは、僕を後ろ向きに机に置いたので
残念だったけど着替えているところは見れなかった。
僕はずっと、窓の外の青いお空を眺めていた。
それからりかちゃんは、
制服に着替え終えると学校という所に行ったんだ。
いってらっしゃい、りかちゃん。
- 188 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)01時00分11秒
- 青いお空は真っ赤になって、
それから黒いベールで覆われるように真っ暗になった。
僕は、ずっとりかちゃんの事を考えていた。
りかちゃん…よっすぃーに会えたの?
ちゃんとお話できた?
ちゃんと仲直りできた?
りかちゃんは、何時までたっても帰ってこない。
僕は、とても心配になった。
また、苛めれているんじゃないかとか、
悪口を言われて、傷付いていないかとか。
早く帰ってきて、そして笑顔を見せて欲しかった…。
その時だった。
- 189 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)01時01分01秒
- 見上げていたお空に、お魚が泳いでいたんだ。
僕は、お魚は水の中にしかいないものだと思っていたからビックリした。
お魚は、お空も飛べたんだ…。
それとも、ここが水の中なのかもしれない。
もしそうなら、りかちゃんは人魚姫だね。
今も、銀色の、羽が生えたお魚は夜のお空にプカプカ浮んでいた。
突然、階段を駆け上がる足音が聞こえた。
僕には直ぐに分かった、あの足音は、りかちゃんだ!
扉が開く。
「ただいま!シャルロット!」
扉から入ってきたのは、やっぱりりかちゃんだった。
とっても元気そうで、とてもいい笑顔で、僕はとても嬉しくなった。
お帰りりかちゃん。
- 190 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)01時01分38秒
〜・〜・〜・〜
僕は今、りかちゃんと一緒にいる。
近くにはよっすぃーもいた。
ぼくは、『スカイフィッシュ』と言う宇宙船に乗って、
宇宙っていう星の海を航海しているんだ。
宇宙は、何処までも暗くて、何処までも深くて、とても不安なる。
でも、りかちゃんと一緒なら怖くない。
今は最高に幸せなんだから。
「ねぇ、シャルロット。後でいっしょにお風呂にはいろっか」
「はい、りかちゃん…でも、僕は水に浸かれないです」
「あぁ、大丈夫だよ。防水加工してるから」
「ほんとうですか?よっすぃーさん!」
「ほんと。ねぇ…わたしも…その…いっしょにいいかな?」
「えっ……うん」
僕はその後、よっすぃーに改造されて、
アンドロイドっていうのになったんだ。
- 191 名前:外伝 シャルロット物語 投稿日:2002年03月18日(月)01時02分13秒
- 僕が始めて動いたときは、りかちゃん凄く喜んでくれた。
でも、その後直ぐに怒られたけどね。
どうしてかって?
最初動いた時、僕は、真っ先によっすぃーを殴ったからね。
理由はいえない、でも、これは男のケジメってやつだ。
よっすぃーは、ポカンとしていたけど
でも、直ぐに「ごめんね」って言ってくれた。
よっすぃーには感謝してる。
ここにこうしていられるのは
みんな、よっすぃーのお陰なんだから。
僕は今でも思うよ。
地球って星のゲームセンターで
僕とりかちゃんが出会ったのは
やっぱり運命だったんだ…。
〜 fin 〜
- 192 名前:そらり 投稿日:2002年03月18日(月)01時05分48秒
- 外伝1更新終わりました。
この話は当初予定は無くて、何気なく出したぬいぐるみの会話ネタを書いた時に思いついた話です。
実を言うと、当初は、保田が石川を説得して吉澤に告白するようにする予定でした。
ですので、安田に台詞がないのは全てシャルロットが悪いんです(w
- 193 名前:そらり 投稿日:2002年03月18日(月)01時32分25秒
- すみません。>192で思いっきり名前を間違えてしまいました。
>ですので、安田に台詞がないのは全てシャルロットが悪いんです(w
(誤) 安田 ―> (正)保田
です。
誤字脱字の多さに嫌になります。
でも、何故か更新した後に気づいたりするんですよ(涙
- 194 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月18日(月)04時34分08秒
- おお、すごい自意識(w
怪獣の人形なんですか。
個人的には吉澤が石川に誕生日にプレゼントした
ピンクのプーさんイメージしちゃう…(w
- 195 名前:夜叉 投稿日:2002年03月18日(月)14時16分43秒
- 外伝、いいですね♪かなり好きです。
ちょっぴりその後も載ってたり。改造後に吉を殴ったのには爆笑(笑)。
- 196 名前:そらり 投稿日:2002年03月21日(木)14時47分05秒
- レスの返信をします。
>194 名無し読者さん
レス有難う御座います。
ピンクのプーさん!!言われてみればピッタリ…
2足歩行なら何でも良くて、だったら怪獣かな〜なんて単純に考えちゃいました…(w
>195 夜叉さん
レス有難う御座います。
外伝良かったですか!苦心(?)して書いた甲斐があります(w
- 197 名前:そらり 投稿日:2002年03月21日(木)14時47分51秒
- 外伝2を更新します。
今までと随分印象が違う話になってしまいました。
ちょっと暗めの話になります。
それと、今更ですが登場する人物の年齢設定は滅茶苦茶です。
題名は『いつものように』です。
- 198 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時48分55秒
- 石川が宇宙へと旅たって、既に2週間が過ぎようとしていた。
私は今、E.D.C.本部にいた。
急須でお茶を注ぎ、一口すする。
「あぁ、うまいべぇ」
湯飲みから口を離し一言漏らす。
横でそれを見ていた後藤が、物言いたげに顔がニヤける。
「安倍先輩も、とうとうおばちゃんですねぇ」
むっ、なんだとぉ、おばちゃんは、美術教師の保田先生だけで十分だ!
「後藤に言われたくないべ。なっちは、まだまだピッチピチだべ」
「後藤の方が可愛いし二つも年下だよ」
のあ〜んとした顔で、しかも「二つも」を強調して言われた。
何か腹立つなぁ。
最近はいつもこんな感じで過ごしてる。
こうした他愛の無い日常が、
あぁ、平和だなぁと思う。
- 199 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時49分32秒
- 石川が抜けた穴は、松浦亜弥が受け持つ事になった。
松浦亜弥は、当学院の高等部1年生で、
とても愛らしい顔立ちをしている。
素直で可愛いのだが、若干自己中なところがあり、
またそれが可愛らしさを引き立てている。
もちろん、石川から引き継いでいるのは
生徒会書記という肩書きだけである。
E.D.C.への加入は行なっていない。
怪人もいなくなった今、当然といえば当然であるが…。
石川がいなくなって、生活にも張りがなくなる。
ぽか〜んと、何だか大切な部分がポッカリ空いた感じかな…。
毎日がつまんないって訳でもない。
でも、やっぱり寂しいよ……石川。
「石川、今ごろ如何してるかな……」
なんとなしに呟いたこの一言をきっかけに、
私は衝撃を受ける事になった。
- 200 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時50分04秒
- 私の横で両肘をテーブルに載せて組んだ手を
顎に乗せていた後藤がボーっとしながら
「そうだねぇ。何してるだろうねぇ……」
と呟く。
その時だった。
横で二人でじゃれていた辻と加護が
きょとんとした顔でこちらを見る。
「安倍先輩、石川って誰の事やねん」
「安倍しゃんのお友達れすか?」
私と、後藤は二人を振り向いた。
「何言ってるの?石川だべ、石川梨華」
「二人とも、冗談やめてよ」
私に続いて後藤も言う。
「石川梨華?やっぱ分らんわ」
加護の言葉に辻も頷く。
- 201 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時50分36秒
- 私は正直腹が立った。
だって、あんなに仲良かったのに、冗談でも酷すぎるよ。
「二人とも、悪ふざけはよしてよ」
「だって、知らんもんは知らんねん」
加護の横でうんぬん頷く辻。
だめだ、もう怒った。
言って良い冗談と悪い冗談がある。
私は、椅子から立ち上がると二人の前に立つ。
「いい加減にしないと、ほんとに怒るよ!」
私が怒鳴ると、加護と辻は目に涙を溜めて今にも泣きそうになる。
ちょっと言い過ぎたかな?
でも、辻と加護がいけないんだからね。
- 202 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時51分13秒
- 私は、身長はまあ低い方だけど
この二人を前にすると見下ろす格好になる。
二人は、ビクッと肩を窄めると上目遣いで、
でも、涙を目に滲ませて強く見つめ返す。
その後出た二人の言葉に、私は愕然とした。
「知らんゆうたら知らんねん。何で怒んの?意味わからんわ」
「うぅぅ……ホントれすぅ……のの、石川って人、分かんないれすよぉ」
悪ふざけにしては、二人の顔は真剣だった。
二人は嘘をついているようには見えない。
そんなに簡単に忘れられる筈ないのに、
この二人の記憶にはもう、石川はいない。
石川が、思い出の中からもいなくなってしまう……そんな気がした。
私は、何だか怖くなった。
- 203 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時51分46秒
- そうだ!モーピンク。あのスーツはまだ在るはず。
「ちょっと待ってな、パワースーツ見せれば言い逃れ出来ないからね」
「あっ!あたしも行く!」
私と後藤は、急いで更衣室へと駆け込んだ。
ロッカーを一つずつ開けていく。
最初のロッカーには赤いパワースーツが、
次ののロッカーには青いパワースーツが、
3番目のロッカーには白いパワースーツが、
4番目のロッカーには黄色いパワースーツが、
5番目のロッカーには……ない!
ピンクのパワースーツがなくなってる!!
私と後藤は全部のロッカーを開けた。
棚の上、シャワールーム、他にもいたる所を探したけど結局出てこなかった。
急に寒気を覚え、体が震える。
まるで、部屋の温度が数度急激に下がった感覚に囚われる。
私と同じ様に感じたのか、後藤は顔を真っ青にしている。
私達は、言い知れぬ不安を抱いたまま更衣室を後にした。
- 204 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時52分22秒
- 更衣室から出てくると、辻と加護は何事も無かったかのように遊んでいた。
彼女達の無邪気な笑い声が、狭い室内に空しく響き虚空に消える。
私と後藤は、力なくテーブルの椅子に座る。
「ねぇ、安倍先輩……どういう事?」
「分かんない。分かんないよ……」
まるで、石川が消えて行くような、そんな錯覚に陥る。
ふと、加護が私に話し掛けてきた。
「ののとうちはもう帰ります」
2人はペコリと頭を下げて、本部から退出する。
もうすっかり遅くなっていた。
「もう、帰えろ……」
私は後藤に話し掛けると、席を立ち帰り支度を始めた。
後藤も頷くと、同じように帰り支度を始めた。
- 205 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時52分52秒
- 暗い夜道も、消えかかった街灯も、
全てが不気味に感じてしまう。
いつも通る通学路が違う道に思え、
夜道に反響する自分の足音が訳も無く不安を倍増させる。
私は、今日の辻と加護の様子を思い浮かべていた。
特定の人物の存在が消えるなんて事がある筈が無い。
余りにも馬鹿馬鹿しい考えに自嘲する。
辻と加護が悪ふざけをしているんだと、
石川のパワースーツをどこかに隠しているんだと
都合のいいように解釈してしまう。
でも、どこか心の深い所で分かっていた。
あの2人は嘘なんかついていない。
私の中で、指の隙間から零れる砂のように
石川の存在が私達の心から失われていると警告している。
私の知らない所で何かが起こっているんだと……。
- 206 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時53分39秒
- 翌朝、私は何時ものように目を覚まし、
何時ものように朝食を取り、
何時ものように学校へと向かった。
昨日の事が気になってよく眠れなかった。
登校途中に、ふと、前を歩きながら話をしている
女生徒の姿を見かけた。
「ねぇ、あゆみ。そういえば最近石川さん見ないよね」
「えっ?誰それ……」
「えっ、石川さんだよ。あゆみ、同じクラスじゃん」
「いないよ、そんな子。瞳、勘違いしてるんじゃない?」
「え−っ、そうかなぁ」
「そうだよぉ」
……吐き気がする。
もう、先ほどの女生徒は遠のいて声も聞こえない。
私のいる世界が音を立てて崩れていく感覚に囚われる。
止まらない不安。
加速する恐怖。
私は、石川のいない世界……否、石川が消えていく世界に紛れ込んでいた。
私は、不安を抱えたまま学校に着いた。
- 207 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時54分13秒
- 放課後になると、私はまっすぐE.D.C.本部へと向かった。
本部には既に後藤がいた。
「こんにちは、後藤」
「あっ、こんにちは、安倍先輩」
簡単な挨拶をする。
私は、後藤の隣に座ると今朝のことを相談することにした。
「あのさ、今朝登校途中に他の生徒の話を聞いたんだけど……」
「ん?どうしたの?」
「それでね、どうも石川のこと忘れてるの辻や加護だけじゃないみたいなんだ」
- 208 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時54分54秒
- きょとんとする後藤。
「……石川って誰?」
……イシカワッテダレ?
何を言ってるの?
後藤、やめてよ……。
冗談はやめてよ。
やめてよ……怖いよ……。
「やめてよ!どうしてそんな事言うの?」
「まさか、後藤まで石川のこと忘れたって言うんじゃないでしょうね!」
私は逆切れしていたんだと思う。
後藤、困ってた……。
「忘れたも何にも……ホントに知らない……」
後藤も忘れてる……。
忘れてるんじゃない、石川の事だけ
すっぽりと記憶から無くなってるんだ。
私は、怖くなってE.D.C.本部を飛び出していた。
- 209 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時55分24秒
- 私は、まっすぐ石川の家へ向かった。
石川のお母さんならきっと……。
きっと私を救ってくれる。
私には、もう他に頼るものが無かった。
石川の表札を確認して、インターフォンを押す。
インターフォンから声が女性の聞こえる。
『どちら様ですか?』
「あの、私、安倍なつみと言います。梨華ちゃんの友達の……」
わずかに沈黙する。
『……あの、家に子供はおりませんけど……』
突然目の前が真っ暗になった。
いや、真っ白だったのかもしれない。
私は、何も考えることが出来なかった。
私は逃げ出した。
- 210 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時55分56秒
- 石川の自宅から少し離れた裏手の路地を行くと
小学生が遠足などでよく行く小さな山がある。
キャンプ地としてもよく利用され、この辺では結構有名だ。
私は、何時の間にか山道を歩いていた。
山道といっても、普通の登山コースから外れた獣道で、
なぜ自分がこんな所にいるのかはっきり覚えていない。
ただ、私は逃げたかったんだと思う。
訳のわからないこの世界から……。
- 211 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時56分34秒
- 日は沈み、辺りに夜の帳が舞い降りる。
私は、草を掻き分けながらとにかく歩いていた。
月がすっかり天上へと上り、辺りは完全な闇に閉ざされる。
足が痛い……まるで棒のようで、歩こうとすると悲鳴をあげる。
私は、近くの木に凭れ掛かると少し休むことにした。
私は眠るのが怖かった。
目が覚めたら、石川の事を忘れてしまいそうで……。
だから、必死に石川のことを考えていた。
- 212 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時57分12秒
- 私の中の石川は、
些細なことに一喜一憂して、
何時も表情豊かだった。
冗談を言って笑っていた。
叱られて泣きそうな顔をしていた。
友達と楽しそうに話をしていた。
話に入れなくて困った顔をしていた。
全てが、鮮明で確かなものだった。
私は忘れない。絶対忘れない。
ふと、草がゆれる音がした。
- 213 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時57分50秒
- 「だれ?」
辺りは静まり返り、何の音も聞こえない。
あれ?変だ……。
何が変なのかわからない。
でも、確かに違和感を感じる。
「誰かいるの?」
やはり、何の音も聞こえない。
水を打ったように静まり返っている。
言い知れぬ恐怖に振動が速まるのを感じる。
ただ、激しく波打つ私の心音と呼吸をする音だけが辺りを支配する。
そうだ!
変だよ。
何も聞こえない。
虫の声も、草木が揺れる音も……
何もかもが静寂の中に取り囲まれている。
「イヤ……イヤだ……イヤだ!」
私は、訳もわからず走り出していた。
- 214 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時58分41秒
- 何処まで走ったか分からない。
既に、山を登っているのか下っているのかさえも分らない。
私は唯々闇雲に走っていた。
手足がヒリヒリする。
きっと草で切ったんだ。
私は走るのを止め地面に座り込むと、呼吸を整えた。
ひんやりした地面が上気した体温を奪っていく。
夜気の冷えた空気が肺を満たし血管を通して前身に酸素を送る。
私は、暫くの間夜空を見上げ、ゆっくりと呼吸をして
胸の鼓動が落ち着くのを待った。
不意に、私の背後から両手が伸びてきた。
その両手は、私を抱きかかえるように胸の前で組み重なる。
「ヒッ!!」
私は息を呑むと恐る恐る後ろを見た。
そこには、金色の髪をした女性がいた。
- 215 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時59分13秒
- 月影を背中に受け、その金髪は淡く透けるよう色をしている。
瞳には悲しい色を浮かべ、きつく唇と閉ざしている。
私を抱くその腕は細く、とてもか弱く見える。
私は彼女を知っている。
「矢口……さん?」
私は、その人の名を言った。
名前を呼ばれても表情を変えず、唯々私を見つめている。
彼女は、とても、とても哀しい顔をしていた。
彼女は、私を強く抱き寄せると、
唇を耳元まで寄せて徐に口を動かした。
「ごめんね。なっち……」
何で謝るの?
それよりも、どうして……
「どうして……ここに?」
矢口は答えてくれなかった。
- 216 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)14時59分50秒
- 暫くそのまま私達は動かなかった。
もしかしたら、凄く短い時間だったのかもしれない。
でも、私にはとても長く感じた……。
最初に沈黙を破ったのは矢口だった。
「ごめんね。なっちの事苦しめて……」
苦しめるって……
「もっと早く忘れさせてあげれば良かった。」
何言ってるの?忘れさせるってどういう事?
「よっすぃー……いえ、私達と関わった人達から
私達の記憶を消すのも私の、宇宙警察としての仕事だから……」
記憶を消す?
何を言ってるの?
私は、言いようの無い恐怖を感じた。
- 217 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)15時00分50秒
- 私は、腕を振り解こうと手足をばたつかせた。
でも、矢口の腕はピクリとも動かない。
今も女の子とは思えない力で私を抱きしめている。
矢口は、別段力を込めてる風でもなく、同じ口調で私に話し掛ける。
「全てを忘れれば、苦しみから開放されるから……」
「……やだ……」
「だから……ごめん」
「いやだ……助けて……」
どんなに暴れても、どんなに叩いても、
矢口は何事も無いように私を抱いている。
- 218 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)15時01分22秒
- 私は、手当たり次第に武器になりそうなものを探した。
ポケットの中にペンダントのような感触……。
本部の鍵!
私は、ポケットから5センチ大の剣のような鍵を取り出すと
矢口の腕に突き立てる。
しかし、どんなに突き立てても弾き返され傷一つ付かない。
「ゴメンね……矢口に傷を負わせれる者は、宇宙でも数える程しかいないの……」
私は、気が狂っていたのかも知れない。
ひたすら、矢口に鍵を付き立てながら嗚咽を漏らしていた。
不意に、矢口の腕が解かれる。
私は、無我夢中で走り出した。
一秒でも早くこの場を離れたかった……。
- 219 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)15時02分12秒
――私は、何時ものように目を覚ました。
ベットから起きると、目覚ましのベルが鳴る前にスイッチを押す。
カーテンを開けて、窓から差し込む光で部屋を金色で満たし
寝不足で狂っていた体内時計をリセットする。
体の節々が痛い……。
何か、マラソン大会の次の日みたい……。
あたしも年かなぁ……なんてね。
今日の朝食はな〜にかなっと……。
ハムエッグにトーストか……スタンダードだな。
私は、何時ものように朝食を取り、
何時ものように仕度をし、
何時ものように学校へ向かう。
- 220 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)15時03分58秒
- 登校途中に、同じ学院の女生徒が前を歩きながら話をしていた。
「ねぇ、最近の最新情報なんだけど……」
「なになに?」
「学校の怪談」
「あっそれ知ってる。41人目の生徒でしょ」
「そう、2年生のクラスなんだけど、40人しか居ないのに、
何故か41人目が居るような気がするっていう……」
「同じクラスの下駄箱の2番目が不自然に空いているし……」
「何でも、苛めを苦に自殺した女生徒が……」
前を歩いている女生徒は、笑いながら話している。
- 221 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)15時04分32秒
- ふと、背後から声がした。
「安倍せんぱ〜い♪」
生徒会の書記をしている松浦が私に駆け寄ってくる。
「亜弥ちゃんおはよう」
「おはよう御座います。先輩♪」
なんだろう。
松浦とは長い付き合いなのに何かぎこちなく感じる。
「……ねぇ、亜弥ちゃん」
「何ですか?先輩」
「亜弥ちゃん、前から書記だったっけ」
「何いってるんですか?当たり前ですよぉ」
「……そうだよね」
うん、やっぱり気のせいだ。
亜弥ちゃんには悪い事聞いちゃったかな?
私は、松浦と二人で学校に登校した。
- 222 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)15時05分17秒
- 何時ものように授業を受け、
何時ものように生徒会の仕事を片付けると
私は、E.D.C.本部で談笑していた。
本部には既に、後藤、辻、加護も来ており
テーブルにお菓子を広げて他愛のない話題で盛り上がる。
「……だったんです。可笑しいですよねぇ」
「そうだねぇ。あんたはどう思う?」
私は、思わず隣に話題を振る。
しかし、そこには誰もいない。
「安倍せんぱ〜い。どっち向いているんですかぁ」
「あっ、ごめんごめん……」
- 223 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)15時05分48秒
- 私は部屋を見渡す。
何時もと変わらない内装。
テーブルが一つと椅子が五つ……。
「ねぇ、後藤。何で椅子五つあるのかなぁ」
「はぁ?知りませんよ。別に良いじゃないですかぁ」
「それもそうだね」
私は、椅子から視線を逸す。
ふと、部屋の隅に光るものを見つけた。
席を立ちその場所へ行ってみる。
そこには、小指の爪ぐらいの大きさの
ピンクのハート型イヤリングが落ちていた。
- 224 名前:外伝 いつものように 投稿日:2002年03月21日(木)15時06分24秒
- 私は、しゃがむとイヤリングを手に取る。
「なんですかぁ。それ……」
上から後藤が覗き込んでいる。
「ねぇ、後藤……このイヤリング、貰ってもいいかな」
「えっ?いいですよ。でも片方しかないじゃないですか」
「そだね。でも、何だか持っていたいの」
「ふ〜ん」
私は、イヤリングをポケットに入れると、
先ほどまで座っていた席に戻った。
私たちは、席に戻るといつもと変わらない談笑をし、
他愛のない話題で盛り上がった。
また、何時もの生活が始まる。
〜 終 〜
- 225 名前:そらり 投稿日:2002年03月21日(木)15時07分06秒
- 無事、外伝2の更新終了しました。
この話は、僕の中ではTRUE ENDです。
全ては白紙に戻り、また当たり前の日常に戻るみたいな……
これにて、『あの空の彼方に』本当に終了となります。
長い間お付き合いください、本当に有難う御座いました。
- 226 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月21日(木)22時20分29秒
- これは外伝じゃないですね。
もうひとつのエンディング・・・。
いや、エンディングの補完かな。
お疲れ様でした。
- 227 名前:夜叉 投稿日:2002年03月22日(金)12時38分32秒
- 知られざるもう一つのエンディングはこんなにも切ないストーリーだったんですね。
それぞれの記憶は白紙に戻されて、また同じ日々が繰り返される。
あまりにも切なすぎます(泣)。
ほんとにお疲れ様でした。
- 228 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月23日(土)21時32分21秒
- あの話しの外伝とは思えない後味でした。
なんだかんで言ってても、なっちは石川の事かわいがってたんですね。
ちょっとほろりとさせられました。
- 229 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年03月24日(日)10時42分57秒
- 完結お疲れ様でした。
後半は、出張の為?一気に読むような形になってしまいましたが、
前半笑って読んでたので、最後にこんなに切ない気持ちになるとは、予想していませんでした。
作者様。いい作品をありがとうございました。
- 230 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月09日(木)01時14分19秒
- ほろり
- 231 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 232 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
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