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Stop the world
- 1 名前:こばん 投稿日:2002年03月02日(土)03時35分57秒
世界が動きを止めてくれたら
あたしはこの舞台から降りられるのだろうか。
やり直せるのだろうか
動くことを止めない、この永久運動の中で。
- 2 名前:こばん 投稿日:2002年03月02日(土)03時39分14秒
- いきなり素人丸出しですいません。
皆様のお目汚しにならない事を祈りつつ
- 3 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月02日(土)03時41分07秒
- どこか現実味のないストーリーが心地よくて、あたしはそれに没頭していた。
「いいですかー?」
と。そう言って、彼女はあたしの部屋へ入ってきた。
「あれ、どしたの?」
外は怖いくらいの大雨で、あたしはホテルの部屋で一人、本を読んでいた。明日にはこの雨は止むって聞いたけど、そんなの信じられないくらいに雨足は激しくて。
「だって、飯田さん『十時に来てね』って言ったじゃないですかあ」
- 4 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月02日(土)03時42分41秒
- それはあたしと吉澤のいつもの二人芝居のセリフ。ホテルに来るたびに始まっていた。
いつの間にか、あたしが『妻子ある吉澤部長と不倫しているOL』という設定に固定してしまってる。
バカバカしいけど楽しくって、周りにメンバーがいようがいまいがおかまいなしに、あたし達はその芝居を楽しんでいた。物怖じしない吉澤の性格は、どちらかと言うと引っ込み思案なあたしを簡単に受け入れてくれる感じで。
- 5 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月02日(土)03時44分09秒
- 四期メンバーの中では、辻加護はあたしの中で完璧に「お子様」で、石川はどうしてもあたしが「姉」になってしまって。そして……吉澤はどうにも区分が出来ない存在で。
笑顔であたしに話しかけてくるのは、たいてい吉澤からだった。
「マジで来るとは思わなかったよ……。ん? 後藤とか石川とかは?」
「っ、それが聞いて下さいよお」
両手を組んで、吉澤は半分怒って半分笑っているような妙な表情であたしの元へやってきた。
- 6 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月02日(土)03時46分54秒
- 遠くから雷の音が聞こえてた。ホントにこの雨は止むんだろうか。
吉澤の話は要を得なかったけど、どうやら石川の部屋に三人集まって話をしていたら、二対一の言い合いになってしまったようで。フテくされた吉澤は自分の部屋に帰ってしまったらしい。
その言い合いの内容は『目玉焼きには何をかけて食べるのが一番美味しいか?』という……。
- 7 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月02日(土)03時49分55秒
- 「しょう油マヨネーズですよねえ? 絶対!」
真剣にあたしに問う吉澤が、なんだか可愛いくって。吉澤は子供なんだか大人なんだか分からない部分がある。それを見つけるのが一々楽しかった。
やんちゃ坊主のような時もあるし、あたしが息を飲むほどに綺麗な女の子の表情を見せる時もある。
不思議と吉澤は誰とでもウマが合うようで、この子を悪く言う声はモーニングに限らず、誰からも聞かれることがない。
「圭織は何でもOKだけどね」
吉澤の肩にのった糸クズを取り払おうと手を伸ばしたら
「わ!」
と、身をすくめて逃げられてしまった。
「? あ、ゴミ乗ってた、から……」
- 8 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月02日(土)03時52分12秒
- 妙な沈黙が空いてしまってた。いきなり触ろうとした圭織が悪いのかな。
「あ……飯田さん。吉澤、髪伸びたじゃないですか」
「ん? あ、そうだね」
窓を叩く雨がうるさくて、耳をそばだてないと聞き取りにくくなってた。
「髪……まとめ方とか教えて下さいよ」
無造作に後ろに束ねた髪を吉澤はあたしに見せてた。
白いうなじに小さなホクロが一つ。
急に吉澤の話題が変わるのも、いつものことで。
あたしはベッド脇に置いてた自分のブラシを持って、吉澤を洗面台に連れていった。
- 9 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月02日(土)03時54分31秒
- 「吉澤……ホントに髪伸びたね」
「飯田さんより長くしよっかな」
鏡に映る吉澤とあたし。少しはにかんだような吉澤の視線は、居所を定めずに宙を漂ってた。
「そしたら同じ髪型にしよっか?」
ゴムで留めてた髪を下ろして、吉澤はあたしの顔をじっと見つめていた。
大きな瞳はその名の通りで、明るく輝くその瞳はあたしは大好きだった。
最近……吉澤と目が合うことが多くなった気がする。あたしは、吉澤は後藤とか石川とかと一緒にいるのが好きなんだと思って、あまり声をかけなくなってた。
いつものお芝居遊びくらいでしか、コミュニケーションはとってなかった気もする。
- 10 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月02日(土)03時57分01秒
- あたしに髪をとかしてもらってるのが吉澤には嬉しいようで、口の中で小さな笑い声をかみ殺している。
「でもなあ……」
「でも、なに?」
「……さすがに同じ髪型して、あのお芝居してたら……ヤバイですよね?」
吉澤の後ろ髪にブラシを通してたあたしの手が止まってた。柔らかな髪がブラシから落ちてゆく。
「何がヤバイの?」
言葉を切って少し俯いた拍子に、あたしの鼻先で吉澤の髪が香った。
「だって…………モロに…………」
「?」
- 11 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月02日(土)03時58分56秒
- 雷鳴が近くなっていた。
「…………レズじゃないですか」
その吉澤の言葉に、あたしは何故か頭の中で『ビアンって言う方が一般的だよ』って、恐ろしく的はずれな感想が漂ってて。
吉澤からそういう言葉が出たのが、少し意外だったのかもしれない。
そういう所から吉澤は一番遠い存在だと、あたしが勝手に決めつけていたのかも。
「そっか……あたしは吉澤とならキスくらいしてもイイけどね。とか言って」
あたしは吉澤の後ろ髪をひとフサ手にとって……キスしてみた。
- 12 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月02日(土)04時00分33秒
- なんでそんなことをしたのか、あたし自身にも分からなかった。
多分……『そうしたかったから』なんだろう。
吉澤はあたしの方がびっくりするくらいに、体をこわばらせてしまってた。
あたしの手から、スルリとその髪が逃げていた。
振り向いた吉澤はせっぱ詰まったような顔をしてて。でも、その表情が見えてたのは一瞬のことで。
吉澤は目も閉じずに、あたしの唇を奪っていた。
- 13 名前:こばん 投稿日:2002年03月02日(土)04時19分31秒
短いですけど。今日はここまでです
- 14 名前:おおばん 投稿日:2002年03月02日(土)04時36分50秒
- 面白そうですね。飯田、吉澤2人とも好きなんで、期待しています。
がんばってください。
- 15 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月03日(日)00時43分31秒
- おお、結構珍しい組み合わせでは?
先を期待させる展開ですな。もっと読みたいっす。
- 16 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月03日(日)00時49分04秒
- 「……ウソ」
それはあたしのじゃなく、吉澤の言葉だった。まだあたしの唇には吉澤の温もりが残っている。
「? なに、が……?」
今にも泣き出しそうな目で、吉澤はあたしを見つめ続けてた。
「全部……ウソ。ごっちん達と言い合いしちゃった、って……アレ、全部ウソなんです」
「いや……ウソって言われても……そんなウソ、何の意味があるの?」
「飯田さんの部屋に来たかった、から」
多分吉澤もそれを望んでるんだろうと思って、あたしは吉澤を優しく抱いてた。
「圭織の部屋に来るのに、理由なんていらないのに」
- 17 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月03日(日)00時50分18秒
- 少し安心したような吉澤の溜め息があたしの胸にかかる。
なんであたしは吉澤にこんなに優しいんだろうか。ふと考えたけど、理由は呆れるくらい簡単で、あたしはつい最近失恋したばかりで。……勿論相手は男の人だけど。
すごい卑怯だけど、あたしは誰かの温もりが欲しかっただけだったのかも。
その証拠みたいに、最近少しふっくらとしてきた吉澤の体が、あたしの腕に心地よかった。
- 18 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月03日(日)00時51分24秒
- 「吉澤ってさ………………あ、こっち来ようか」
あたしと吉澤はベッドに並んで座ってた。
俯いたまま黙ってしまった吉澤に
「あたしのこと……好きなの?」
って。
また、なんでかは分からなかったけど、あたしは優位に立ちたかったんだと思う。
この関係に。
優位を保ちたいというより、正直に言えば、あたしは吉澤が
欲しかったんだと思う。
あたしを……あたしだけを好きでいてくれそうな吉澤を。
愛してみてもいいかな、って。
- 19 名前:<in the rain> 投稿日:2002年03月03日(日)00時52分48秒
- 吉澤はあたしに向き直ると、ゆっくりとあたしの両肩を押さえて、ベッドに倒してしまった。
「……ダメ。ちゃんと答えて。……何にも言わずになんて……イヤだよ、圭織は」
それでも無言でやってきた吉澤の唇は受け入れてあげた。
「……すき……」
雨音にかき消されて、それは聞こえなかったけれど……吉澤の唇が、そう動いてるのが見えた。
受け入れてしまったのはあたし。悪いのはあたし。
この先二人がどうなるかなんて、その時のあたしは考えもしなかった。
いや、あたしがどうなってゆくかなんて。
- 20 名前:こばん 投稿日:2002年03月03日(日)01時04分18秒
- 今日は少しだけ多めに更新できそうです
14 おおばん様>自分も二人とも大好きなので、書いていてとても楽しいです
15 名無し読者様>ご期待に沿えるようがんばります。ありがとうございます
- 21 名前:<in my room> 投稿日:2002年03月03日(日)01時05分27秒
- あっさりとあたし達は、そう……笑ってしまうくらい簡単に『カラダの関係』になってしまってた。
勿論、あの雨の晩は翌日にライブを控えてたから……あたしから拒んだ。
『ダメだよ』
『……じゃ、いつならいい、の?』
お預けをくらった子供のような吉澤の声音が可愛いくて、あたしは
『今度のお休み……圭織のウチに来る?』
と。
- 22 名前:<in my room> 投稿日:2002年03月03日(日)01時07分09秒
- 今から考えてみると、吉澤は最初からプラトニックなモノを求めてはいなかったんだ。
『好き?』『うん、好き』『じゃ、しよ』
バカというかいい加減というか、これじゃまるでポルノ小説だ。
でも、ハッキリ言えば……あたしは吉澤に抱かれたかったんだと思う。でなければ多分、あの晩にしっかりと断っていたと思うから。
あたし達は色んなものを飛ばして、そういう関係になってしまった。女の子とそういう関係を持った経験はなかったけど、吉澤はあたしの内懐にすんなりと入り込んできた。
- 23 名前:<in my room> 投稿日:2002年03月03日(日)01時08分24秒
- でも、いつか吉澤に尋ねられると思う。
『なんで吉澤を受け入れてくれたの?』と。
『ホントに吉澤のこと……好きなの?』と。
その時あたしは何て答えるんだろうか。
「……なに笑ってんのお?」
バスタオルを体に巻いた吉澤が、ベッドの上のあたしを訝しげに見ている。
「ん〜? なんでもないよ」
ゆっくりとベッドに乗ってきた吉澤は、すぐにバスタオルを落としていて。あたしの胸の上のシーツをめくると、その真っ白な体を乗せてきた。
「圭織、って呼ぶよ……いいよね?」
あたしの返事を聞く前に、吉澤はあたしの胸の頂点を口に含んでいた。
答えようと開けていたあたしの口から、思わず声が漏れる。
「…………圭織、さん」
- 24 名前:<in my room> 投稿日:2002年03月03日(日)01時09分35秒
- これはベッドを共にしてから分かったことなんだけど。
吉澤は……とても巧かった。
あたしも吉澤も、まったりするのが好きだから、これは相性の問題かもしれないけど。
あたしはどうも男運が悪いみたいで、これまで夜を共にした男性は全員あたしを満足させることは無かった。
おざなりな愛撫、ただ叩きつけてくるだけのような抽挿、そのくせ終わってしまうと急に冷めてゆく態度。総じて男のセックスというのは、自分本位な所があると思う。あたしが高まる前に終わってしまう。
それと、どういうわけかあたしと付き合う男は、不思議なことに例外なく、あたしに何か『母性』を求めてきた。ベッドの中であたしを『ママ』と呼ぶ男さえいた。別れる原因はいつも、それに応えられないあたしの側にあるようで。
……あたしはいつしか『男』に失望していたのかも知れない。
- 25 名前:<in my room> 投稿日:2002年03月03日(日)01時15分59秒
- 「『圭織』でいいよ。……吉澤はあたしに、ホントは何て呼ばれたかったの?」
「んとぉ……『よっすぃー』でいい。普通がいい」
吉澤……よっすぃーはあたしとのえっちが楽しくて仕方がないみたいで。初めてよっすぃーがウチに来た日は、二人してずっとベッドで過ごしていた。
よっすぃーはベッドの上で、あたしに愛の言葉を囁き続けてくれた。リードはよっすぃーに任せてた。
「……圭織はあたしのこと、好き?」
突然投げかけられたその質問に、あたしはやっぱり少しとまどってた。
〜あなたがあたしを愛し続けてくれるのなら、好きよ〜
それはあたしが一番嫌いだった損得の感情で。でも、卑怯かもしれないけど、それはあたしの本心なのかも。
- 26 名前:<in my room> 投稿日:2002年03月03日(日)01時17分20秒
- 「そうね……好きかも」
言い淀むあたしからやっと出た答え。
「……つまんないな」
そう言いながらあたしの肩を優しく噛んでくるよっすぃー。
なんでこんな冷たいあたしの答えを許してくれるんだろうか。
「いつか、あたしのこと大好きって言わせてやる……」
鎖骨のあたりに何度もキスを繰り返すよっすぃーを、あたしはぼんやりと眺めてた。
ふと、あたしの意識がベッドから降りて、この状況を客観的に見ていた。
ベッドの上の二人の女の子。二人とも何も身につけずに抱き合ってる。
あたしの部屋のあたしの寝室で、この二人は何をしてるんだろう……。
- 27 名前:こばん 投稿日:2002年03月03日(日)01時20分23秒
- うわぁ、ageちゃった・・・。鬱鬱鬱
・・・めげずにがんばります
- 28 名前:名無しです 投稿日:2002年03月03日(日)01時46分47秒
- 読んでてすっごいドキドキします^^
ホントの《それ》の小説を読んでるみたいで…
自分が一番好きなカタチの小説です^^
頑張って下さい、この先どうなっていくのか期待してますので。
- 29 名前:おおばん 投稿日:2002年03月03日(日)04時21分55秒
- いいですねぇ…「かおよし」。美形カップルだし。
それぞれに切なさを内包してそうで…ますます楽しみです!
- 30 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月03日(日)12時48分58秒
- (・∀・)イイ!!とにかくイイッす。
もっともっと読みたい。素直にそう思いました。
頑張って下さい。
- 31 名前:<at work> 投稿日:2002年03月04日(月)04時03分25秒
- こういうの、男の子のファンとかは喜ぶんだろうな……。
『あなたがメンバーを恋人に選ぶとしたら、誰?』
一分弱のコメントを、メンバー全員からとるらしい。圭織にはよく分からないんだけど、どうやらそれをインターネットで「配信」するらしい。……放送みたいなもんだよね。
あたしは都内の小さなスタジオに入っていた。十三人全員で集まる必要のない仕事だったので、メンバーは時間をずらして呼ばれていた。今は圭ちゃんの撮影をしている。
「圭織はまだなの?」
小さな体を揺らして、なっちがやってきた。まだ私服のままで、片手に携帯を握っている。
「あたしのコメントは最後に撮るらしいの。なんかすりあわせるらしいよ、選ぶ相手が偏らないように……」
「ふう……ん」
- 32 名前:<at work> 投稿日:2002年03月04日(月)04時04分57秒
- 控え室でなっちと二人っきりになると、何故か会話が止まる。仲が悪いというんじゃないけど、もう四年も一緒に仕事をしていると、話す話題も減ってきて。どうしても仕事絡みの話になってしまうのを、お互いに避けてるからこうなっちゃうんだけどね。
「なっちはさ……いま、誰かと付き合ってるの?」
あたしの素朴な質問に、なっちは妙な顔をしていた。
「……マジで聞いてるのお?」
「ふえ? マジって……マジだよ」
なっちが一瞬だけあたしを、気の毒な人を見るような目つきで見ていた。
「なによ。圭織、変なこと聞いた?」
そう、こういう人をバカにしたような目を、なっちはたまにあたしに向ける。本人に自覚がないから、余計に始末が悪い。
「いや。へンじゃないけど……そっか、そかそか」
「なにぃ? 感じわるーい……」
なっちはあたしを放っておいて、荷物をロッカーに入れてた。何かひっかかる。
「………………よっすぃーはヤメておいた方がいいよ、圭織」
「はい?」
- 33 名前:<at work> 投稿日:2002年03月04日(月)04時07分01秒
- 控え室のドアが開いて、マネージャーが顔を見せた。
「あ、なっち入ってたの。じゃ、先になっち撮っちゃうから。着替えこっちね」
なっちはそれ以上何も言わずに、さっさと控え室を出ていってしまった。
『よっすぃーはヤメておいた方がいいよ』
どういう意味だろう?
いや。それよりも、なんでいきなりよっすぃーの名前が出たんだろう。
しかも、なっちの口から。
なっちはあたしとよっすぃーの関係を知っているというのだろうか?
誰にも言ってないことだし、知られるはずがない……。
壁に貼ってあった撮影予定表を見る。
『矢口→保田→後藤→吉澤→石川…………安倍(随時)・飯田(ラスト)』
撮影自体は、リハを入れても三十分で済む内容で。
ふと、よっすぃーの声が聞こえた気がして、あたしは控え室のドアを開けていた。
- 34 名前:<at work> 投稿日:2002年03月04日(月)04時08分18秒
- ……心臓が凍りつく瞬間というのは、こういう時を言うのだろうか?
片目が出るくらいに開けたドア越しに見えた光景は、それから一週間ほどあたしの脳裏に焼き付いていた。
廊下の先に二つの人影があった。いや、二つの人影は一つになっていて。
なっちの腰を抱き寄せたよっすぃーが……なっちの唇を味わっていた。
その日の収録の仕事は滞りなく終わった。
……あたしがNGを十二回も出した以外は。
- 35 名前:<the past> 投稿日:2002年03月04日(月)04時10分08秒
「…………………………お願い……許し、て……」
「………………」
「痛いの……手……ホントに痛い」
後ろになってて見えないけれど、あたしの手は多分真っ赤になっていると思う。ジンジンと痺れて指先の感覚が無くなりかけてた。薄手のタオルがあたしの両手の自由を奪っている。
「ちょっと緩めたげるね。跡になっちゃうもんね」
背後から声がかかるばかりで、あたしにはよっすぃーの顔が見えないでいる。
あたしはベッドに俯せにされて、着衣のまま
よっすぃーに……そう、犯されていた。
- 36 名前:<the past> 投稿日:2002年03月04日(月)04時11分18秒
- 勿論、よっすぃーを家に入れたのはあたしだけど。
ベッドの上で優位に立つのって、実は簡単なことなんだ。腕力があればそれだけで充分。
だからあたしは、よっすぃーのするがままにされていた。
残酷なまでに的確に、あたしの体を煽り立てるよっすぃーの指。あたしは何も考えられないくらいに追い立てられて。気がついた時には、あたしはわけも分からずに
「ごめんなさい」
を繰り返していた。
- 37 名前:<the past> 投稿日:2002年03月04日(月)04時12分34秒
- 「圭織がつまんないこと聞くから……嫉妬してくれるのは嬉しいけどさ」
あたしの背中に体を乗せて、よっすぃーはタオルをほんの少しだけ緩めてくれた。
手首から先に血液が行き渡る。重みを増したような指先を、あたしは懸命に閉じたり開いたりしていた。
「そうか……服脱げないね、これじゃ」
冷静に笑うよっすぃーの下で、あたしは大きく溜め息をつく。
「大丈夫」
耳元にいきなり声が響いていた。
「なっちとはお遊び……だから」
よっすぃーはあたしの手首の痛みのことなど頭にないらしくて。
- 38 名前:<the past> 投稿日:2002年03月04日(月)04時13分39秒
- 「ひ!」
内股を撫でられて、あたしは小さく悲鳴をあげてしまった。
すぐに手指は上に昇ってきていて。
靄のかかった視界に、一瞬よっすぃーの笑顔が見えた。あたしの体で遊ぶのが楽しくてしょうがない、無邪気な子供のような顔。
……もう、『飯田さん』って呼んではくれないんだろうか。
あの雨の晩のように、『全部ウソ』って言ってはくれないんだろうか。
「かわいいよ……圭織……」
- 39 名前:<the past> 投稿日:2002年03月04日(月)04時15分15秒
- どこか遠い遠い所から、誰かの笑い声が聞こえる。
「なっちも、こうされるのが大好きだったんだよ」
たった指二本で、あたしはよっすぃーに……いや、あたし自身に負けていた。
「……や、だっ…………あたしに…………圭織に、集中して………………………………下さい」
始まりの日にあたしが優位に立ちたかったのは、すぐにそれが逆転することに気がついていたからだったのかも……。
- 40 名前:<the past> 投稿日:2002年03月04日(月)04時16分10秒
- 「なっちはね」
「やだ……もう、なっちの話はやめて」
「圭織から」
「だから、もう」
「……じゃ、圭織のこと話そう」
「……?」
「圭織は……こう…………されるのが好き」
「…………」
「こうされるのも好き」
「…………」
「涙が出ちゃうくらい?」
「…………」
「声も出せないくらいなのね」
「…………」
「…………」
- 41 名前:<the past> 投稿日:2002年03月04日(月)04時17分35秒
- くぐもった水音だけが部屋に響いてる。野生の動物が獲物の肉を引き裂いているような。
あたしは悔しくて何も言わず言えずに泣いてた。湿った快感が心まで支配してゆく。……悔しいのはそれに抗えない自分じゃなく、心までよっすぃーの指を求めていること。
よっすぃーは少し悲しげな目をして、あたしの顔をずっと見続けてた。
- 42 名前:こばん 投稿日:2002年03月04日(月)04時34分51秒
- 作品が 場違いでしたら すみません
28 名無しです様>《それ》がチョピーリ気になったり(w 薄く期待しててください
29 おおばん様>切ないのは苦手なのですが がんばって挑戦いたします
30 名無し読者様>ありがとうございます さらにつづきますので
- 43 名前:こばん 投稿日:2002年03月04日(月)04時41分01秒
- 今日はここまでです
- 44 名前:おおばん 投稿日:2002年03月04日(月)20時32分04秒
- うーむ、ジゴロな吉澤…ワル(笑)萌え。
次第に吉澤にはまって、抜けられなくなってゆく圭織も萌えね。
- 45 名前:<sign> 投稿日:2002年03月05日(火)00時26分17秒
- 手首に巻き付くように残った青黒い跡を、あたしは長袖の下に隠していた。
「おいしーね、今日の」
二人だけになった楽屋で、後藤がお弁当をあたしに見せている。珍しい取り合わせだったけど、今回のお仕事は後藤と二人っきりのものだった。それが嬉しいのだろうか、後藤はさっきからあたしの隣りで鼻歌まじりにお弁当を食べている。
「そう? 圭織の……あげようか?」
「いや、そーゆーつもりじゃ……」
- 46 名前:<sign> 投稿日:2002年03月05日(火)00時27分24秒
- 白いローテーブルの上に用意されていた中華弁当を、あたしは蓋も開けずに眺めていた。
この頃、あたしの口と胃袋は『お肉』を受けつけなくなってしまった。
「圭織、食べないの? ……調子悪いの?」
後藤があたしの顔を覗き込んでいる。この子はボーっとしているようで、メンバーの様子を人一倍気遣う子だ。いつも冷静な目で周囲を見ている。
あたしは変に隠さずに
「うん……あんまり食欲ないんだ」
と、これも用意されていたペットボトルのウーロン茶にだけ、口をつけた。
ホントは水が欲しい。色のついた液体でさえ喉を通りづらい気分。
- 47 名前:<sign> 投稿日:2002年03月05日(火)00時28分22秒
- 後藤は何を思ったのか、箸を置いてあたしの額に手を当ててきた。柔らかな手のひらが、まるであたしを慰めるように温かい。
「だいじょぶ、ありがと。……ごっちんは優しいね」
少し照れたようにはにかむ後藤が
「珍しいじゃん? 後藤と圭織の二人の仕事って……なんか、圭織がいるとさ、やっぱりリーダーだから……あたしもなんか『任せちゃう』みたいなとこあるから……いつも悪いなって」
って、額に乗せてくれてた手で、あたしの手を握ってくる。
- 48 名前:<sign> 投稿日:2002年03月05日(火)00時29分46秒
- と、そのまま後藤はあたしの手を胸に引き寄せていた。
「圭織っ!? ……どしたの、コレ?」
後藤はあたしの袖口から覗く手首を見て、息を飲んでいる。咄嗟に手を引き戻したけれど、それがさらに後藤の目を曇らせていて。素早く袖をつまんで引き上げるあたしを、じっと見つめている。
「なんでもないよ……ちょっと、ぶつけただけ……」
迂闊にも、あたしは後藤の視線から逃げてしまった。……今、口から出た言葉がウソだってことをバラしてしまうように。
「圭織……?」
「ホントに、なんでもないから……」
言えば言うほど、あたしの声は震えてきていて。
「……食欲ないのは、それのせい?」
ぶつけて出来る痣じゃないことは、後藤も分かっているだろう。痣そのものよりも、あたしがそれを隠してることを後藤は不審に思ってるんだ。
- 49 名前:<sign> 投稿日:2002年03月05日(火)00時30分39秒
- 「…………忘れて」
後藤に背を向けてそう頼むと
「……うん」
って、寂しげな声が返ってきた。
後藤はそれきり何も聞かずに、あたしの分までお弁当を食べてくれた。あたしが丸々お弁当を残したことが周囲に知れたらまずいって、後藤はそう考えてくれたんだと思う。
痣はじきに消えてくれるだろう。よっすぃーも『もう跡が残るようなことしないから』と言ってくれてた。
そう、『体に跡が残るようなこと』はしない……と。
- 50 名前:こばん 投稿日:2002年03月05日(火)00時37分16秒
- 今夜も交信
>44 おおばん様
いつもレスありがとうございます♪
やっぱりジゴロに見えちゃいましたか。
ひとみちゃんはいい子なんです
- 51 名前:<word of mouth> 投稿日:2002年03月05日(火)00時38分16秒
- よっすぃーはあたしの言葉を信じてくれなかった。
「じゃ、なんでごっちんがあたしに圭織のことを聞いてくるの?」
「だって……それは……後藤はよっすぃーの友達だから」
「……『圭織が心配』って……嫌味ったらしくさあ」
あたしが後藤に、よっすぃーとのことを喋ったと思ってるらしくて。
「ホントに言ってないよお……言うわけない……」
キッチンであたしはよっすぃーに詰め寄られていた。……詰め寄られてるのかどうかは、ちょっと分からないけれど。
よっすぃーはずっとあたしに笑顔を見せていたから。
- 52 名前:<word of mouth> 投稿日:2002年03月05日(火)00時39分49秒
- 「いいの……怒ってるんだよね? 圭織は……」
後ろ手にシンクの縁に掴まっていたあたしの腕を、よっすぃーは軽々と引き剥がしてしまう。
「まだ残ってる? 痣……」
着ていたセーターの袖をまくられて、まだうっすらと痣の残る腕をまじまじと眺められる。よっすぃーはそれを見てもまだ笑顔で……。
「ごめんね」
と。
あたしは頭がおかしんだろうか? だって、それはよっすぃーにつけられた痣なのに。よっすぃーがあたしを気遣ってくれたことが嬉しくて。
「怒ってない?」
痣のことなんかよりも、あたしは後藤のことでよっすぃーが怒ってるんじゃないか、それが気がかりで。
- 53 名前:<word of mouth> 投稿日:2002年03月05日(火)00時40分44秒
- そっと、よっすぃーがあたしを抱きしめてくれていた。
「二人とも怒ってなんかないんだよね? 二人して謝ってる……もんね」
耳元で囁かれて……耳たぶに軽くキスされて……。
「抱きたいなー、圭織のこと……」
やんわりと同意を求められる。
あたしがそれに答えるまで、よっすぃーは耳へのキスをやめてくれない気配だった。
よっすぃーがキスをやめてくれないんじゃなくて、あたしがそのキスを長引かせてるんだろうか。
何も言わずにいたら、よっすぃーは永遠にあたしを抱きしめていてくれるんだろうか。
- 54 名前:<word of mouth> 投稿日:2002年03月05日(火)00時42分19秒
- 耳の形をなぞるようによっすぃーの舌が動いてて。小さく頷いてみたけれど、よっすぃーは気づいてくれなかった。温かな舌の感触と艶めかしい音が、あたしの思考を踏みにじってゆく。
だって圭織はよっすぃーに許して欲しかったしそうじゃない誤解なんだから圭織が許してもらうというのは正確じゃないんだけどとにかく怒ってるよっすぃーがイヤで許してくれるのなら圭織は抱かれることなんて全然平気でじゃなくって圭織はホントは抱かれたくて
「ぅ……ん」
声に出して答えたら頼りないくらいに情けないほどに子供みたいな声で泣いてる子供が欲しいモノを与えられてすぐに泣きやんじゃうのは悔しいからちょっとだけ拗ねたような感じで答えるようなそんな声で
「抱いて」
と。頬を伝う涙が、唇の端にしょっぱくって。
- 55 名前:<word of mouth> 投稿日:2002年03月05日(火)00時43分23秒
- ああ、圭織おかしい圭織おかしい圭織おかしい圭織おかしい圭織おかしい圭織おかしい圭織おかしい……圭織おかしいよ。
キッチンで立ったまま、スカートをたくし上げられて、下着を下ろされて、でも唇にキスはしてもらえないまま、あたしは二度も。
……ううん。数えられてたのは、二回まで。
- 56 名前:<word of mouth> 投稿日:2002年03月05日(火)00時44分18秒
「……圭織、圭織?」
よっすぃーの声はポワンポワンしていて、ふざけてるんだと思って笑ったら、あたし自身の声もおかしいことに気がついた。
「そんなに気持ちよかった?」
あたしは少し気を遠くしてたみたいで、耳に入ってくる声には変なエコーがかかって聞こえる。
二人とも裸で、ベッドで寝ていた。
「ん?」
真上からあたしを見つめているよっすぃーを、力の入らない腕で抱きしめてみる。柔らかな重みがこの上なく気持ちよくて。
「ふふっ……圭織、あたしのこと……好きになってきた?」
「…………わかんない」
あたしはよっすぃーに抱いてもらえれば、それだけでいいんだろうか。
……色々考えるの……疲れた。
それよりも、柔らかなよっすぃーのこの体が気持ちよくて。
- 57 名前:<word of mouth> 投稿日:2002年03月05日(火)00時45分55秒
- 「……怖いよお」
そう漏らして泣いたあたしの涙を、よっすぃーは唇で拭ってくれてた。
「だいじょぶだよ。あたしが守ってあげるよ……圭織」
よっすぃーの腕に力がこもる。
違う、そうじゃない。怖いのはあたしの腕の中にいる人。
そして……。
- 58 名前:こばん 投稿日:2002年03月05日(火)00時48分19秒
今日はここまでです
- 59 名前:孫 投稿日:2002年03月05日(火)20時05分42秒
- 初レスです。
なんかすごいですね、不思議な世界に飛び込んだような感じがします。
これからも頑張って下さい!
- 60 名前:<spinning around> 投稿日:2002年03月06日(水)01時50分39秒
- 多分そうなるとは思ってたけど、いざ聞かされてみると、やっぱり脚は震えるわけで……。
「だって、答えないと今までのことをバラすって……泣くんだもん」
出来れば仕事の終わった後に聞かせて欲しかった。
楽屋からちょっと離れたロビーの隅で、よっすぃーはつまらなそうに教えてくれた。
「でもね……圭織を恨んじゃダメだよ、って…………悪いのはあたしなんだから、って言っておいたし」
なっちがよっすぃーに、圭織との関係について問いただしてきたらしい。
休日のほとんどに、よっすぃーはウチに来るようになっていた。なっちにバレるのは時間の問題だったのかもしれない。
- 61 名前:<spinning around> 投稿日:2002年03月06日(水)01時51分43秒
- 『よっすぃーはヤメておいた方がいいよ』
なっちは……本気だったのかなあ。
あれ? 圭織は本気なの?
それを考えると、頭の中が何かに塗りつぶされるように重くなってくる。
「だから……なっちとは終わったよ」
あたしの胸元に人差し指をあてて、よっすぃーはにっこりと笑ってた。その人差し指は
『もう、圭織だけだよ』
という意味なんだろうか。
いつの間にか主導権はよっすぃーが握ってて。あたしはただそれに従ってるだけのような気がする。
- 62 名前:<spinning around> 投稿日:2002年03月06日(水)01時52分48秒
- よっすぃーの指先はあたしの胸を丸くなぞっていた。螺旋状に動かす指が、ゆっくりと胸の先に近づいてくる。怖くなって辺りを見回すと
「誰も来ないよ」
と、先手を打たれた。
あたしとよっすぃーはカラダでしかコミュニケーションをとれないんだろうか。
いや、これはコミュニケーションと言えるんだろうか……。
あたしはよっすぃーに何を求めていたんだっけ?
いや、よっすぃーと圭織は、なっちのようにいつか終わってしまうのだろうか。
- 63 名前:<spinning around> 投稿日:2002年03月06日(水)01時54分07秒
- 「圭織……」
よっすぃーはあたしを、人気のない通路の柱の陰に引っ張ってきていた。慣れた様子に、チラリと疑念が湧く。人差し指を口元にあてて、よっすぃーはあたしに『声を出しちゃダメ』と命令する。
ブラウスの胸の部分だけ開けられて、器用に服の上からブラのホックを外される。
誰かに見つからないか、あたしは怖くてしょうがないんだけど、よっすぃーの舌先が素肌の胸に触れると、あたしの思考は止まってしまって……。
「んっ」
丹念に舐め上げられて、止めようとしても小さく声が出てしまう。それどころか、あたしはよっすぃーの髪に指を埋めて、その頭にキスまでしている。
- 64 名前:<spinning around> 投稿日:2002年03月06日(水)01時55分12秒
- その場所は本当に誰も来ないみたいで、遠い足音すら聞こえてこない。二人の行為には実は愛情なんかなくて、ただいやらしいことをしてるだけなんだって考えたら……逆にどんどん気持ちよくなってきてしまって。
壁に寄りかからないと立っていられないくらい。よっすぃーの髪の毛をくわえてないと、声を漏らしてしまいそうなくらいに。
……最低だ、あたし。
- 65 名前:<spinning around> 投稿日:2002年03月06日(水)01時56分33秒
- なっちは何事もなかったように、あたしに接していた。
ごくごく普通の会話、今まで通りの笑顔、変わらない口調。
よっすぃーも仕事中は矢口や石川、それに五期メンたちと笑顔で接している。
みんながいつも通り仕事をこなしている間、あたしだけが薄い靄の中を漂っている感じだった。
仕事でくたくたに疲れて家に帰り着くと、あたしはそのまま倒れるようにソファに横になった。
「……ん?」
バッグの中にしまい込んでた携帯が鳴っていた。メールが入ったらしい。
なんとなく見たくなかった。体が重かったせいもあるけれど、今は誰とも接したくない。
億劫だったけど、あたしは這うようにしてソファから降りると、バッグの中を探った。
- 66 名前:<spinning around> 投稿日:2002年03月06日(水)01時57分33秒
- 《 カオリおつかれさま。おきてたら電話ください。2時くらいまでならおきてます 》
メールは後藤からだった。
- 67 名前:こばん 投稿日:2002年03月06日(水)02時02分26秒
- 今夜も交信
>59 孫様
レスありがとうございます
こちらの読者さん方に不評をかわないか
ビクビクもので書いております。
ラストまでお付き合い頂けると嬉しいです
- 68 名前:<her eyes> 投稿日:2002年03月06日(水)02時04分03秒
- そういえば、最近絵を描かなくなってた。
ちょくちょくウチに来るようになったよっすぃーに、描きかけの絵を見られるのが恥ずかしかったし。でもなぜか、絵筆をとろうという気持ちは段々と薄れていっている気がする。画材も小さなイーゼルも仕舞ったっきりだ。
久しぶりにキャンソンのスケッチブックを開けてみたら、そこにはまだラフスケッチの後藤の肖像があった。
後藤をごっちんと呼ぶようになったのは、いつからだったろう……。
- 69 名前:<her eyes> 投稿日:2002年03月06日(水)02時05分14秒
- 『あ、圭織ぃ? おつかれー』
受話口から響いてきた後藤の声は、最初から何かを探っているようだった。
「つかれたねー、今日は特にさ……」
明日からの仕事のこと、毎度起こる小さなトラブルの愚痴、いつも「今度行こうね」って言うだけで全然行ってないケーキ屋の話……とりとめのない会話もいつしか途切れがちになってきて。
「じゃ、明日もがんばろうね」
通話を切り上げようと、お決まりの文句を言うと
『圭織……ちょっといいかな?』
と、低い声が返ってきた。
「……なに? どしたの?」
数秒おいてから、さらに低くなった声が届く。
『……ごとーじゃ……頼りないかもしんないけど、さ……』
- 70 名前:<her eyes> 投稿日:2002年03月06日(水)02時06分23秒
- 「うん?」
『見てらんないよ……圭織』
話を聞くと、自分では分からなかったけれど……どうやらあたしは「腫れ物扱い」されていたらしい。ひどく落ち込んでいるように見られてて、誰も話しかけられない雰囲気だったらしい。
『だって、やぐっちゃんがためらうくらい……だよ』
そういえば、今日は楽屋では誰からも話しかけられなかった……かも。喋っていたのはスタッフさんやマネージャーとだけだった……かも。
『……こないだの、腕の痣のこと?』
あっさりと言われて言葉を飲む。なかなか返事を出来ないことが、今の質問を肯定してしまうって分かってるんだけど、上手い返しが出てこない。
『ごとーが言うことじゃないけどさ…………いま圭織が付き合ってる人、とは……別れた方がいいんじゃない?』
やっぱり後藤はアレが……セックスの時の跡だって気がついてたのか。
- 71 名前:<her eyes> 投稿日:2002年03月06日(水)02時07分40秒
- 「ん……でも」
『ほら、こないだごとーが腕にヤケドしちゃって、跡になっちゃった時あったでしょ?』
ちょうどドラマ収録と重なってた時期で、後藤の傷跡を心配して問い合わせてくるファンレターが事務所に山のように届いたことがあった。
そういえばあの時、ガラにもなくちょっと後藤を叱っちゃったっけ。
『あたしらってさ、変な意味じゃないけど……体は売り物じゃん? そういうこと気遣わない彼氏はさ、やっぱり圭織のこと大事に考えてくれてないってことじゃん……』
- 72 名前:<her eyes> 投稿日:2002年03月06日(水)02時08分32秒
- 後藤の言い分は至極もっともなことで。
『あたしが口出すことじゃないって……分かってるけどさ。なんか……誰も圭織に話しかけないって、おかしいし……なんか、なんか違うんだけどさ、あたしらが圭織を見放してるみたいでさ』
後藤はそれきり言葉を詰まらせていた。
「……ごめんね、ごっちん」
『違うよ! 圭織が謝ることじゃないよ!』
後藤の声は……泣いてた。
- 73 名前:<her eyes> 投稿日:2002年03月06日(水)02時09分48秒
スケッチブックの中の後藤は笑ってなくて。それは圭織の想像の中の後藤だったから……少し寂しげな目でこちらを見つめ返していた。
……ごめんね、ごっちん。
よっすぃーとは別れられない。
好きとか嫌いとか……そういうこと以外でも人と人は繋がることがあるんだ。カラダだけの関係というのとも違う。
ヒトは誰かに支配されていたい時もあるんだよ。圭織はよっすぃーに命令されたいんだ。身を任せていたい。どんどんエスカレートしてゆくよっすぃーの要求にも、あたしは応えてたい。あの子が圭織を求めてくるのが、あたしは嬉しくてしょうがないんだ。あたしはよっすぃーと一緒にいたい。
よっすぃーは圭織だけを愛してくれてるはずだから。
たとえそれが周りにどう映ろうと。
- 74 名前:おおばん 投稿日:2002年03月06日(水)03時02分35秒
- 本当にどんどん深くなってゆきますね。
誰にとっても幸せな結末?を望みたいですが…難しいのかな。
- 75 名前:<diet> 投稿日:2002年03月07日(木)02時03分31秒
- 四キロ落ちていた。
お風呂上がりにデジタルの体重計に載ってみたら、自分のベスト体重の幅ギリギリ下ラインだった。……最近、楽しんで食事をした覚えがない。
一度、あたしの部屋でよっすぃーと食事をとったことがあった。色々と献立を提案したけれど、彼女は野菜スティックだけを食べた。冷蔵庫には赤ワインが入ってて、冗談まじりにそれを薦めると、慣れた様子で喉に通していた。
ふと、よっすぃーの持つグラスの中身が、圭織の血に見えた気がした。
- 76 名前:<diet> 投稿日:2002年03月07日(木)02時05分03秒
「偏食」
下着にTシャツを着ただけのよっすぃーに、あたしは少しお姉さんな声で言ってみる。
せっかく作ってあげたトマトスープを断って、よっすぃーはクラッカーだけを食べた後だった。
「いいんだよ」
キッチンからベッドに戻ったあたしを少しだけ睨んで、よっすぃーは自分で持ってきていた何かの錠剤をガリガリと噛んでいた。すぐにそれをエビアンで喉に流している。
ボトル半分くらいを一気に飲むと
「飲む?」
と、あたしに聞いてきた。手を振って断ると、残りを全てシンクに流して捨てていた。
自分がいない所で、それに口をつけられるのがイヤなんだろうか……。
- 77 名前:<diet> 投稿日:2002年03月07日(木)02時06分45秒
- 「なに飲んだの? ビタミン?」
「セントジョーンズワート」
「ん、なに?」
早口で答えられてとまどうあたしを、よっすぃーは薄い笑顔で見つめていた。四つ歳下とは思えない、何か大人びた顔だった。
「圭織……」
あたしの元へ戻ると、すぐに唇を合わせてきた。冷えた舌が滑り込んでくる。
シーツの中で、よっすぃーの手が動く。それをやんわりと手で押しやる。
だって、さっき終わったばっかりだったから。
唇を離すと、二人の間に透明な糸が繋がっていた。恥ずかしくてすぐにあたしはそれを指で拭う。その様子がおかしかったのか、よっすぃーは避けたあたしの目を追ってくる。
「圭織ってさ……」
顎を指で持ち上げられて、正面を向かされる。
「ツバ多いよね、口ん中」
- 78 名前:<diet> 投稿日:2002年03月07日(木)02時07分36秒
- なんでそういう、圭織を一番恥ずかしがらせる言葉がすぐに出てくるんだろう……。
「っ、わかんないよ、そんなの自分じゃ……」
「ねえ」
するりとあたしの下に潜り込んで、よっすぃーはもう一度唇を求めてくる。今度は後ろ頭を手で押さえられて、唇を外せない。
よっすぃーの舌が圭織の内頬を撫でていて、そこでやっと気がつく。
「……んんっ」
顔を外そうとよっすぃーの肩を押しても、構わずによっすぃーは口を開けて待っている。
「んゃっ……」
喉の奥で拒否の声を上げても、よっすぃーは手を外してくれなくて。
- 79 名前:<diet> 投稿日:2002年03月07日(木)02時08分43秒
- ……あたしの口の中からゆっくりと唾液が落ちてゆく。そしてそれは全てよっすぃーの舌の上に流れてゆく……。背中に流していた圭織の髪が、ゆっくりと落ちてよっすぃーの肩にかかる。一本一本、まるで砂時計のように。
鼻から洩れる吐息がテンポを増してきて、肩に置いたあたしの指先が震えてきた頃。
よっすぃーの喉が「こくん」と鳴った。
- 80 名前:<diet> 投稿日:2002年03月07日(木)02時09分52秒
- 恥ずかしくて恥ずかしくて、やっと手を外されたあたしはシーツの中に潜り込んでいた。唇を離した時に、どういう顔を見せてしまったのかも分からない。目の周りが火照って熱い。
「おいし……圭織って」
シーツの上から乗りかかられて、そっと囁かれる。
キスして……唾液を飲まれただけなのに……圭織は、みっともないくらいに……濡れてしまっていた。ふと、それさえもよっすぃーが欲しがるんじゃないか、って……あたしは気違いみたいなことを考えてしまって。
気がつかない内に、よっすぃーはあたしから色々な物を飲み込んでいたのかも。だから圭織は体重が落ちてきたのかも。
ガリガリとよっすぃーが錠剤を噛む音が耳に甦る。
噛み砕かれて粉々になったあたしがよっすぃーの中で溶けてゆく。
ゆっくりと。
- 81 名前:こばん 投稿日:2002年03月07日(木)02時31分04秒
- 今夜も交信
>74 おおばん様
レスありがとうございます
おおばん様に言われて、ではないのですが
後半部分のプロットを見直しております
がんばります
- 82 名前:<bruise> 投稿日:2002年03月07日(木)02時32分24秒
- 世界は回る。あたしのいない所でも。……当たり前か。
「どうしたのっ?」
よっすぃーは玄関先で蹲ってしまってた。片手を後頭部にあてて、もう片方の手にはコンビニの袋を握ってる。
『少し遅れるから』
と、出かける前の彼女から電話を受けた休日だった。こんなことは初めてだったし、その沈鬱な声に、あたしは嫌な予感を覚えていた。やってきたよっすぃーは、とても疲れた表情をしてた。
- 83 名前:<bruise> 投稿日:2002年03月07日(木)02時33分24秒
- 「タオル……」
それだけしか言う余裕もないみたいで、あたしに向けて袋の中身を見せている。うっすら汗をかいたクラッシュアイスが二袋ほど入ってた。
「タオル? タオルをどうするの?」
ゆっくりと顔を上げたよっすぃーは、ひどく青い顔をしていて。
「袋ごとタオルでくるんで……持ってきて」
圭織はとやかく聞く前に、よっすぃーの言葉に従った。下駄箱に背をあずけて、よっすぃーは小さく唸っている。
- 84 名前:<bruise> 投稿日:2002年03月07日(木)02時34分15秒
- 「……何があったの? どこ行ってたの?」
ソファに俯せになって横たわるよっすぃーの前に、圭織は正座していた。後ろ頭にタオルでくるんだ氷をあてたよっすぃーは、時折短い溜め息をつくばかりで、圭織の問いかけを無視してる。
彼女の後頭部には小さなコブが出来てた。圭織が氷をあててあげた時に少し触ってしまったみたいで、よっすぃーは日本語にならない悲鳴をあげてた。
「よっすぃー……?」
「ん〜……転んだ……」
教科書通りのウソに、よっすぃーは自分で言って笑っている。圭織も、怪我をしてるよっすぃーをまさか叩くわけにもいかなくって。
「うん……ウソはいけないね。ごめん…………なっちに呼び出されて」
- 85 名前:<bruise> 投稿日:2002年03月07日(木)02時35分21秒
- 「なっちがやったのっ!?」
「まさか……突き飛ばされただけ」
「同じだよっ」
つい大きな声を出してしまったことを反省した。ごめん、怪我に響くよね。
何か聞こうと思ったけれど、詳しいことは話したくない様子にも見えた。
「打ち身とかは慣れてるから、バレーで。半日冷やしてれば大丈夫だよ……」
よっすぃーは自分のことよりも、圭織の顔色ばかり気にしている風で。
- 86 名前:<bruise> 投稿日:2002年03月07日(木)02時36分26秒
- ひょっとしてなっちは圭織も呼びつけるつもりだったのかも。それをよっすぃーが止めて、自分一人で話をつけに行ったのかも。……でも、それを聞いたところで、よっすぃーは真相を語ってくれるとも思えないし。
辛そうにしてるよっすぃーを見てたら、我慢できなくって……圭織は声を殺して泣いてしまってた。
- 87 名前:<bruise> 投稿日:2002年03月07日(木)02時37分06秒
- 「圭織……圭織?」
よっすぃーはソファの上で、あたしに手招きをしてる。
「……な、なに?」
鼻をすすりつつ顔を寄せると、頬にキスされた。驚いて正面を向くと、今度は唇にキスされた。
「お願い。このことは忘れて……。悪いのはあたしなんだから……バチだね」
よっすぃーはコブの痛みに少し歪んだウィンクをして見せてくれた。それは、両目を閉じちゃうような下手くそなウィンクで。なんでも上手くこなしてしまうように見えるよっすぃーだけど、実はすごい不器用な子なんじゃないだろうか。
「圭織とはお遊びじゃないよ、あたしは……」
- 88 名前:<bruise> 投稿日:2002年03月07日(木)02時38分14秒
- その日よっすぃーは、あたしのソファでずっと横になっていた。
持ってきた氷が解けると、よっすぃーは言葉少なに帰ってしまった。
でも……笑顔だったよっすぃー。圭織にはそれが嬉しかった。
- 89 名前:こばん 投稿日:2002年03月07日(木)02時48分04秒
- またしてもやってしまいました
・・・sage忘れです
愚作のうえに素人ですいません
- 90 名前:池孫四葉 投稿日:2002年03月07日(木)19時35分33秒
- 愚作なんてとんでもない!
素晴らしいですよ、作者様。
細かい描写が、すごくいいです。
これからも頑張って下さい!
- 91 名前:<coz I'm in love> 投稿日:2002年03月09日(土)03時37分41秒
- 石川って、あんなにいつもよっすぃーにベッタリだったんだ。
収録の合間に、あたしは昨日のコブの具合を聞こうと、よっすぃーの姿を探していた。
「よっすぃー、スニッカーズあるよ。食べる?」
スタジオ外のロビーで、よっすぃーと石川がレザー張りのソファに並んで座っていた。お菓子の話題を耳ざとく聞きつけた辻が、一つ離れたイスから首を伸ばしてその様子を見ている。
「ののが聞いてるよ」
その言葉に、一度よっすぃーに顔を寄せてから、石川が辻を手で追い払う仕草をしてる。
そこに加護が加わり、矢口やミカちゃんまでが加わる。あっという間に、よっすぃーを囲んで笑い声がわき上がる。
圭織はなんだか手持ちぶさたで、でもその輪に入れなくて、ちょっと離れた窓辺で携帯をかける真似をしていた。……誰と話してるわけでもないのに。
- 92 名前:<coz I'm in love> 投稿日:2002年03月09日(土)03時38分44秒
- そうか。圭織は寂しかったんだ。
リーダーになってから、あたしの考えすぎかもしれないけれど、なんだかみんなからちょっと距離が出来ちゃったみたい。
なんだかんだ言って、圭織は周りからチヤホヤされるのが好きなだけだったのかも。
情けないハタチだ……。
- 93 名前:<coz I'm in love> 投稿日:2002年03月09日(土)03時39分35秒
- 「かーおりっ」
その場を離れてトイレの前に来た時、小さく声をかけられた。
「?」
振り向いた方と逆に回られて、あたしはその声の主の顔を見られずに腕を引かれてトイレに入る。
「え? え? え?」
誰もいないトイレの中で、強引に個室に引き込まれる。
「……よっすぃー」
笑顔のよっすぃーと、狭い個室の中で向き合う。息がかかるほどお互いの顔が近い。
「……かおり……どうしたの? あたしを避けてる?」
すぐに頬と頬をくっつけられて、声が漏れないように耳元で囁かれる。ゆるく抱きしめられる。よっすぃー甘い髪の香りが懐かしい。柔らかな手のひらが圭織の肩を撫でてくれてる。
「……コブ……痛くない?」
「だいじょぶ……痛くないよ」
その言葉が圭織には……『大好きだよ、圭織』……って聞こえた。それ程に甘く優しいよっすぃーの囁き声だった。
- 94 名前:<coz I'm in love> 投稿日:2002年03月09日(土)03時40分29秒
- 「ごめんね」
肩にまわっていたよっすぃーの手が段々と下に向かって行って、圭織の腰を丸く撫で始めてて。
「なにが?」
ようやく首を離してくれて、圭織はずっと見たかったよっすぃーの顔を見つめた。
……バカだ……圭織。
「なに泣いてるんだよお、圭織」
この後も収録があることを思い出して、あたしは必死に涙をこらえる。その様子を見て、よっすぃーは小さく頷いてくれた。
「ごめんね、昨日は…………………………抱いてあげなくて」
- 95 名前:<coz I'm in love> 投稿日:2002年03月09日(土)03時41分28秒
どこで覚えたんだろう、そんなテクニックを。
よっすぃーはあたしを全然脱がせずに、ショーツすら下ろさずに
たった二、三分で
言葉と指だけで………。
- 96 名前:<coz I'm in love> 投稿日:2002年03月09日(土)03時42分26秒
- 「圭織、さみしかったんだね?」
中指を舐めながら、よっすぃーは肩で息をしているあたしにまた囁いてきた。
「一緒に出たらマズいから……先、出るよ」
圭織の唇を舐めるようなキスをして、よっすぃーは個室から出ていってしまった。
惨めな余韻が体に残ってる。フタを下ろしたままの便座に腰掛けて、圭織は溜め息ばかりをついていた。真っ白なタイルと、同じように真っ白な個室の仕切り板。まるで病院みたい。
- 97 名前:<coz I'm in love> 投稿日:2002年03月09日(土)03時43分10秒
- よっすぃー……違うよ。圭織が欲しいのは、よっすぃーの温もりなんだよ。そんなものを求める圭織がわがままなの? いまさら言っても遅いの? 『普通の恋愛がしたい』って。
そうじゃない、か。……圭織の心はいつも自分自身の体に犯されてたんだ。いつでもよっすぃーは、そんな圭織の欲しがってたモノをくれてただけなんだね。
体を求めるだけの幼稚な恋愛を……。
- 98 名前:こばん 投稿日:2002年03月09日(土)03時48分52秒
- 交信です
>90 池孫四葉様
ほめすぎですー(照
でも嬉しいです。がんばります
・・・HN変えられたのですね
- 99 名前:<cold fire> 投稿日:2002年03月09日(土)05時11分27秒
- 右の脇腹に、よっすぃーのつけたキスマークを見つけた。
シャワーノズルを置いて、あたしは鏡で改めて自分の体を見回してみる。湯気の立ちのぼるバスルームで体のあちこちを探る。
- 100 名前:<cold fire> 投稿日:2002年03月09日(土)05時12分13秒
- 例の一件以来、あたし達はお互いの体に何か跡が残るようなことを無意識に避けていた。おかしな話だけれど、えっち以外ではよっすぃーは圭織と手を繋ぐことさえしなくなってた。寂しかったけれど、あたしは無理強いはしないでいた。
圭織もよっすぃーには唇にしかキスしない。
でも大抵、ウチに来ればすぐにベッドへ。色々なことが削ぎ落とされた関係になっていた。
「…………」
もう一箇所、キスマークを見つけたけれど、そこはいつも隠れている場所だった。
- 101 名前:<cold fire> 投稿日:2002年03月09日(土)05時13分03秒
- ……なんで気がつかなかったんだろう。いや、キスマークじゃなくて。
よっすぃーとえっちするようになってから、もうひと月半は経ってる。あの晩もあの晩も、そうだった。
いつも圭織が『されるだけ』で……あたしがよっすぃーに『してあげる』って、無かった。
幾つもの夜を振り返ってみても、思い当たらない。求めてもこなかった気がする。
「イヤなのかな……されるの……?」
体の奥に冷たい何かが宿る。あたしは急いでバスタブに戻った。
あたしがよっすぃーに『してあげれば』……あたしも何か変われるんじゃないだろうか。
- 102 名前:<cold fire> 投稿日:2002年03月09日(土)05時14分12秒
お昼前によっすぃーはやってきた。
薄いブルーのサングラスをしている。どんよりと曇った天気に、その色は不穏な何かを感じさせる。うちのオレンジ色のカーペットは、そのサングラスでは何色に見えるんだろうか。
「なんかあった?」
テーブルの脇にトートバッグを下ろしながら、よっすぃーはあたしの顔を読んでいる。ジロジロと見つめすぎていたのかも。
「ん? なんかよっすぃー、元気ないなあって」
よっすぃーはサングラスをテーブルに置くと、その場で腹筋をしてみせた。
- 103 名前:<cold fire> 投稿日:2002年03月09日(土)05時15分05秒
- 「元気だよー」
珍しくロングスカートを穿いてきていたよっすぃーの、白いふくらはぎが揺れていた。
「あはは」
そう。この『次の行動が読めない所』がよっすぃーなんだよね。肩が揺れるほどに笑ってしまったあたしを、よっすぃーは満足げに見ている。よっすぃーに振り回されるのは嫌いじゃない。
- 104 名前:<cold fire> 投稿日:2002年03月09日(土)05時16分06秒
- 「おいで、圭織」
仰向けになったよっすぃーが手を伸べていた。
よっすぃーの横に腰を下ろすと
「違う」
と、腕を引っ張られて体の上に載せられてしまった。手をついてしまったよっすぃーの胸が、やんわりとひしゃげる。すぐに手を離したけれど、一瞬だけ感じたよっすぃーの胸の鼓動が手のひらに残る。
「強引なんだからあ……」
言いつつ、よっすぃーの顔にかかったあたしの髪を避けてあげる。なんだか普通の恋人同士みたい。
「そう……圭織は笑ってて。あたしは圭織の笑顔が好き」
鼻の頭をつつくよっすぃーの指に、あたしは噛みつく真似をしてみせた。指先を口に含むと、よっすぃーはすぐにその指を引き抜いて、自分でも口に含んで見せる。
- 105 名前:<cold fire> 投稿日:2002年03月09日(土)05時17分40秒
- 「…………」
何か恥ずかしくて、あたしはその指をよっすぃーの口から外す。そしてそのまま自分の唇で、よっすぃーの唇を塞ぐ。さっきまで食べていたんだろうか、よっすぃーはミントの味がした。
あたしからキスをするのは久しぶりかも。あたしの腰によっすぃーの腕がまわる。なんか、今日のよっすぃーは可愛い……。
「んっ」
少し痛いくらいに舌を吸われた。反撃のつもりであたしはよっすぃーのスカートをたくし上げて、腕を差し入れてみる。きめの細かい素肌が手のひらに心地いい。
うん、よっすぃーに『してあげよう』と思ったから。
「んんっ」
……あたしはよっすぃーが感じてくれているんだと思ってた。だから、そのまま手を下着のあたりにまで移動させてゆくと
- 106 名前:<cold fire> 投稿日:2002年03月09日(土)05時18分40秒
「イヤっ!」
上半身が起きるほど強い力で跳ねのけられて、あたしの口から小さな悲鳴が洩れた。
「……やめて」
よっすぃーが怒っていたのなら、あたしはそんなに驚かなかったと思う。
あたしの下で、よっすぃーは肩を震わせて、怯える目をしていた。
外したサングラスと同じ薄蒼い色の炎が、その瞳に見えた気がした。
- 107 名前:<denial> 投稿日:2002年03月09日(土)05時19分59秒
「ごめん……なさい」
謝ってみても、よっすぃーは体を横に向けたまま何も言ってはくれない。
「ホント……ごめん……あたし」
よっすぃーの上からおりて、なぜか正座になってしまってた。ゆっくりとよっすぃーはスカートを元に戻している。
「……されんの」
「え?」
「されるの…………好きじゃない、の」
背を向けてしまったよっすぃーが小さな声で呟く。
あたしはとんでもないことをしてしまったのだろうか。よっすぃーの声のトーンに体全体が粟立つ。
- 108 名前:<denial> 投稿日:2002年03月09日(土)05時20分50秒
「悪い……帰る」
立ち上がったよっすぃーは圭織を見ずに服のヨレを直してて。
ああ、あたしはとんでもないことをしてしまったんだ。もうよっすぃーは圭織に振り向いてはくれないんだ。もう、終わりなんだ。
一気に頭の中をそんなことが駆けめぐっていた。
「やだっ! やだやだっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ」
でも、よっすぃーの背中にすがりつくことは出来なくて、あたしはテーブルの上のサングラスを握りしめていた。バカみたいだけど、これを渡さなければよっすぃーが帰れないと思ったから。
- 109 名前:<denial> 投稿日:2002年03月09日(土)05時21分47秒
- 「…………今日は帰るよ…………怒ってないよ」
それだけ告げると、よっすぃーはあたしの脇をすり抜けて、玄関に向かってしまった。
「やだっ! ウソだっ! よっすぃーは怒ってる……怒ってるよ……」
よっすぃーを追ったけど、それでもやっぱりその背中に腕をかけることは出来なくて。怖くて怖くて、触れない。何も出来ずに涙がぽろぽろとこぼれてきて、よっすぃーの背中が滲んでよく見えない。
- 110 名前:<denial> 投稿日:2002年03月09日(土)05時22分30秒
- 「やだっ」
閉じてしまったドアに、圭織の声だけがぶつかって……跳ね返って。玄関に崩れ落ちて、あたしはただ泣くことしか出来なかった。
いやだ、こんなことで終わっちゃうの? もう取り返しは効かないの? やりなおせないの?
初めてのよっすぃーの拒否。圭織の拒否なんて、笑って乗り越えてくるクセに……。
ひどいよ……よっすぃー。
……ひどいよ。
- 111 名前:<denial> 投稿日:2002年03月09日(土)05時23分11秒
悪い予想は必ず当たる。そうなって欲しくない方に事態は動いてゆく。
こないだ読んだ本にも、そんなことが書いてあった。
……よっすぃーはそれきり、あたしのウチに来ることはなくなった。
圭織とよっすぃーは……切断されてしまった。
- 112 名前:おおばん 投稿日:2002年03月09日(土)07時13分44秒
- あらぁ〜…今までこの世の春を謳歌してきたかに見えたよっすぃ〜に、
意外な弱点が…(いや、そういうことじゃないだろ)。
でも本当に、こういう形で拒否されると、圭織も相当つらいですね。
どうなっていくのか…。
- 113 名前:925 投稿日:2002年03月10日(日)02時04分11秒
- される…のが嫌いなのは、なにか理由があるのかな?
この先がますます楽しみです。
- 114 名前:<confession> 投稿日:2002年03月10日(日)03時44分51秒
- 色々と整理をした。圭織の頭の中。
時間はいっぱいあったから。
「それ、焼けてるよお」
薄い煙の向こうのごっちんが割り箸を持って笑ってた。
「取りなよ。圭織はもういい……」
向かいにいるごっちんに、圭織はテーブルの上ロースの皿を押しやる。久しぶりに聞くじゅうじゅうとお肉の焼ける音が、なんだか楽しかった。でも、ごっちんの食欲には負けるよ。
二人きりで焼き肉を食べに来るのは、そういえば初めてか。
「あ、さっき話したっけ? この網でヤケドしちゃったんだよ」
テーブルの真ん中で一段高くなって突きだしているロースターを箸で指しながら、ごっちんはまだ笑っている。圭織が痛い話とかが苦手なのを知っているクセに。
- 115 名前:<confession> 投稿日:2002年03月10日(日)03時45分36秒
- 「……でもよかった」
「?」
イスを少しだけ前に寄せて、ごっちんは呟くように漏らした。ウーロン茶を一口飲んで、あたしはごっちんの顔を見つめ返す。
「食欲出てきたんだよね。よいことです」
網の端っこに載せてあった薄切りのカボチャを取って、ごっちんはあたしの皿に置いてくる。
誘ってきてくれたのはごっちんだった。お店は圭ちゃんや矢口もよく来ている所らしくて、店員さんも何も聞かずに個室に通してくれた。ごっちんはメニューも見ずにテキパキと注文をしてた。ちょっとだけ高そうなお店だった。
- 116 名前:<confession> 投稿日:2002年03月10日(日)03時46分28秒
- 「ごっちんに心配されるようじゃ、リーダー失格だね」
冗談のつもりで笑ったら、少し不機嫌な顔をされた。ちょっと気まずくなって
「あ、後藤は行儀いいね。箸があんまり汚れてないもん」
と濁したけれど。
「そーゆーこと、言わないの」
ごっちんは『一緒に持ってきて下さい』と頼んでいたマンゴープリンを頬張っていた。冷たそうなオレンジ色の塊が、ごっちんの口へどんどんと消えてゆく。気持ちのいい子だ、ごっちんって。
「……別れたよ」
テーブルに肘を着いて、ごっちんが聞きたかった答えを聞かせた。スプーンをくわえたごっちんは、一瞬圭織を見たけれど、何も言わず流してくれた。
あたしは皿の上のカボチャを箸でもてあそんでいた。
- 117 名前:<confession> 投稿日:2002年03月10日(日)03時47分23秒
- よっすぃーは何も言ってはこなかった。仕事では毎日のように会うけれど、それだけ。お互いに避けてるワケじゃなかったけれど、十三人もいるメンバーだから、二人が話をしなくなったと気がつく人はいなくて。
仕事が忙しいのが嬉しかった。というか、元の日常に戻っただけ。
あたしの中に疑問は一杯あったけど、それを聞き出す勇気が無い。
よっすぃーは『怒ってないよ』と言った。あたしは『ごめんなさい』と謝った。怒っているのなら謝れる。怒ってない人には何も出来ない、言えない。
よっすぃーは『すき』と言ってくれた。あたしは『わかんない』と応えた。好き同士ならやり直しも出来る。好きでもない人とは「元通り」にはなれない。
- 118 名前:<confession> 投稿日:2002年03月10日(日)03時48分07秒
- 圭織は好きでもない人に、何かをしてあげようとは思わないのに。
あの時、言うはずだったのに。
「はい、圭織……あーん」
ごっちんはスプーンにすくったマンゴープリンを圭織の口元に持ってきて笑ってた。
- 119 名前:こばん 投稿日:2002年03月10日(日)03時56分36秒
- 今夜も交信
>112 おおばん様
いつもレスありがとうございます
切ないのは苦手なのですが、ここは少し
飯田さんに泣いてもらいましょう(w
>113 925様
なかなか需要の少ない「かおよし」に
お付き合い頂けて嬉しいです
ふつつかですが最後まで読んでやってください
- 120 名前:<speed of love> 投稿日:2002年03月10日(日)03時58分03秒
- 「圭織……ごっつぁんとデキてるだろっ?」
ラジオ局のロビーで矢口にからかわれた。
「えー、ホントですかあ? うわわわっ」
あたしの隣で紙パックのイチゴ牛乳を飲んでいた石川が、素っ頓狂な声をあげる。たっぷりと陽の差し込む窓辺にはそぐわない話で。
「どこ情報ですかっ?」
石川はマイクを持つ仕草で、矢口に問いただしている。レザー張りの長椅子に座って、あたしを挟んで二人が笑っていた。風もないのに、自動販売機の横に置かれた観葉植物の大きな葉が揺れてる。艶のないタイルの床に、三人の影が伸びていた。
- 121 名前:<speed of love> 投稿日:2002年03月10日(日)03時59分11秒
- 「圭ちゃん情報です。なんかあ、三日にいっぺんは外で食事をしてるそうです……一緒にっ! 二人っきりでっ!」
ケラケラ笑いながら、石川は矢口の話を聞いてる。
「もうねえ……ごっちん可愛くってさ」
あたしはごっちんを抱きしめるマネをしてみせた。
「いやぁ〜ん」
「……キショっ」
背中が痒くなるような声をあげる石川を、矢口は横目で見ている。
- 122 名前:<speed of love> 投稿日:2002年03月10日(日)04時00分39秒
別にホントに付き合ってるワケじゃないけど、ごっちんとは随分仲良くなった気がする。まだまだ落ち込んでる圭織を心配してくれてるんだろうか。あたしのために時間を割いてくれてる感じだった。
つくづく圭織は一人ではいられないんだなあ、って分かった。
でも、仕事場でよっすぃーを見ると胸が痛くなる。もう圭織のことは忘れたんだろうか。分かってはいるけど、辻や加護とじゃれあってる彼女を見かけると、あたしはその場を逃げ出すようになった。
いつの間にそんなによっすぃーに気持ちが行っていたんだろう、圭織は。
- 123 名前:<speed of love> 投稿日:2002年03月10日(日)04時01分37秒
- 「飯田さんがごっちんを取るんなら、わたしはよっすぃーをもらいまーす」
石川の口からその名が出て、あたしは一瞬だけ心臓が止まった。
「だぁめ、よっすぃーは矢口のモノ!」
「むぅーっ。勝負ですよっ」
拳を出す石川を矢口が呆れて見てる。
「じゃんけんかよっ」
もしもよっすぃーが石川や矢口を選んでいたなら、今の圭織と同じようなことになっていたんだろうか。
- 124 名前:<speed of love> 投稿日:2002年03月10日(日)04時02分35秒
『圭織……明日さ、お休みじゃん? あ、でさ…………よかったら、ごとーのウチ来ない?』
ラジオの収録が終わってすぐ、ごっちんから電話が入った。少し緊張気味の声で、ためらうように。彼女が家を建て直したって、あたしはマネージャーさんから聞いていた。『なんとか御殿』とか言われてるらしい。
あたしはごっちんの言葉に妙な含みを感じた。……まさか。まさかだよね。
- 125 名前:<speed of love> 投稿日:2002年03月10日(日)04時03分43秒
- ――圭織……ごっちんとデキてるだろっ?
矢口のセリフが思い出される。
『あ、なんか予定とかある、の?』
断る材料も思いつかなくって
「ううん、行く。お邪魔するよ……」
と応えると、ごっちんは何かホッとしたような声で、来て欲しい時間を指定してきた。
ごっちんのまろやかな笑顔が思い浮かぶ。
今度はごっちんを泣かしちゃうのかなあ……圭織は。
- 126 名前:<behind the door> 投稿日:2002年03月11日(月)02時29分26秒
薄いブルーのサングラスは、とうとう返せずじまいで圭織の部屋にあった。
よっすぃーがあたしに残したものって、これくらいしかない。二つあったキスマークはもう消えてた。
「よっすぃー……」
枕元に置いていたサングラスを手に取って、あたしはフトンの中でそれを眺めていた。両手の中に入れて、そっとキスしてみる。
涙がこぼれてくる。
二人にはちょっと狭かったベッドが、今はとっても広くって。
しょうがない。なんとなく始まってしまったあたし達だったんだから、こうしてまたなんとなく終わってしまうのが自然なんだ。多分。
- 127 名前:<behind the door> 投稿日:2002年03月11日(月)02時30分27秒
- 恋愛の始まりと終わりって、みんなはどうしてるんだろ。圭織には分からなくなってきた。ただ抱き合うだけでは、恋愛は成り立たないんだろうか。心と体って、いつも一致してるんだろうか。
そっと、下着の上から……よっすぃーがそうしてくれたように、軽くそこを撫でてみる。よっすぃーのサングラスを眺めながら。
いくらたっても気持ちよくはなってこない。
ただ、よっすぃーが『圭織』って呼んでくれてた声が耳に甦るだけ。涙がこぼれるだけ。
涙はもう誰も拭ってくれない。
- 128 名前:<behind the door> 投稿日:2002年03月11日(月)02時31分36秒
白い大きなウチだった。確かにこれは『御殿』って言われるよ。ううん、『ごっちんビル』って感じ。黒い鉄の門の前でインターホンを押すと、元気なごっちんの声が返ってきた。
「あがってー。カギ開いてるから」
なんか最近、お休みの日って天気がよくない。今日も薄曇り。目の前の建物だけがやけに溌剌としてて。
広い玄関に入ると、白いワンピースを着たごっちんが出迎えてくれた。部分編みの髪には、小さな赤いリボンが乗ってる。
「えへへ、いらっしゃあい。……あ、パパとママとアべちゃんは奥だから、怖がらなくていいよ」
ごっちんは圭織の手を取って、二階へと案内してくれた。家中、新築の家独特の爽やかな香りに満ちている。装飾品も床も壁も何もかもが新品で、ちょっと落ち着かないくらい。
- 129 名前:<behind the door> 投稿日:2002年03月11日(月)02時32分43秒
- 「? ……ごっちん、なんにも無いじゃん」
通された部屋には家具やベッドがあるんだけど、まるでホテルの個室のようだった。
「ああ、ここはお客さん用の部屋なの。ほら、ごとーんチって泊まってく人が多いからさ。お客さん専用の部屋も作ったの」
ごっちんの部屋は最上階にあるらしい。なんだろ。圭織に部屋を見せたくないのかな。それとも他に何か意味があるんだろうか……?
モデルルームみたいで生活感の無い部屋だ。
「こないだお姉ちゃんの友達が泊まってってさ。居心地良かったみたいでさ、三日も泊まってったよ。……あ、ちゃんと掃除したからキレイだよ。なんなら圭織も泊まってく?」
早口でまくしたてるごっちんは、何だかあたしより緊張してるみたいで。
- 130 名前:<behind the door> 投稿日:2002年03月11日(月)02時34分47秒
- 「ここで暮らしちゃおっかな? 圭織」
「あはは。いいね、いいね」
あたしが冗談を言ってみても、自分の家なのに、ごっちんは窓から外ばかり見てる。
やっぱり何か隠してる、ごっちん。
「……ごっちん、さあ」
「あ、ゴメン」
壁に設置されてる白い電話が鳴ってた。フローリングの床に、電話の音が耳に痛いくらいに響いてる。
ごっちんがそれを取ると、あたしはその部屋に一人きりにされてしまった。
「ちょっと待っててね」
スカートの裾をひるがえして去っていったごっちんの香りだけが残る。
- 131 名前:<behind the door> 投稿日:2002年03月11日(月)02時36分28秒
- 大きめのベッド。作りつけのクローゼット。ガラスのローテーブル。そして、奥にはユニットバスまで……。
「マジ、ホテルだよ……」
言ってから自分の顔が火照ってきた。……まさか、まさか、だよね。
ごっちんは圭織を……?
ごっちんはいい子だけど、いい子だけど。
テーブルの脇に腰を下ろして、何にもすることがなかったんで、ただごっちんが来るのを待ってた。
気持ち良さそうなベッド……。昨夜あんまり寝られなかったから、余計そう見える。圭織のウチのより大きいなあ。
ベッドを見ていたら、圭織の後ろでふいにドアの開く音がした。防音がしっかりしてるから足音も聞こえなかったのかも。
- 132 名前:<behind the door> 投稿日:2002年03月11日(月)02時37分19秒
開いたドアの前にはよっすぃーが立っていた。
- 133 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月12日(火)02時32分57秒
- 面白いっす。
続き楽しみです。
- 134 名前:<tell me (1)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時06分59秒
- 「…………!」
多分、圭織もよっすぃーも同じことを考えてると思う。『なんでここにいるの?』って。
よっすぃーが驚いているように、あたしも驚いてた。
「ごっちんっ?」
自分の後ろに立ってたごっちんに、よっすぃーは問いただしていた。よっすぃーもあたしがここにいることを知らされてなかったみたい。
「帰るよ、あたし」
肩にかけていたカバンをかけ直して部屋を一旦出ていったよっすぃーが、そのまま後ずさりしながら部屋へ戻ってくる。
「どして? 圭織といるの……イヤ?」
よっすぃーの陰から、ごっちんの真剣な眼差しが見えた。
「圭織ぃ? 圭織は、よっすぃーがいてもいいでしょ?」
顔を覗かせたごっちんは何もかも知っているような目で、あたしに聞いてくる。
- 135 名前:<tell me (1)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時08分14秒
- どんな顔をして、どんな返事を返せばいいんだろう。いや、ごっちんは何がしたいんだろうか。
「ほら……二人とも座って。お茶持ってくるから」
よっすぃーの胸元を押すと、ごっちんはまたドアまで戻ってた。
「……言っとくけど……二人とも……あたしに何にも言わずに帰ったら…………絶交だよ」
よっすぃーは額に手を当てて、圭織に背を向けて立ったまま。あたしも何も声をかけられずに、床とよっすぃーの足下だけを見てた。休日のよっすぃーを見るのは久しぶりで、あたしは『ああ、いつものあのトートバッグだあ』なんて思ってみたり、『帰りたいのは圭織の方だよお』なんて思ってみたり。思考が一つにまとまってくれない。うん、パニック寸前。
- 136 名前:<tell me (1)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時10分20秒
- 「……ごっちんに頼んだの?」
何も感情の読みとれない平板な調子で、よっすぃーの言葉が壁に当たって圭織に届いた。いや、少しだけ怒ってる。
「? 頼むって……。何を?」
「フフっ」
セリフのようなよっすぃーの笑い声。何がおかしいんだろう。何をおかしがりたいんだろう。
「あたしはどうせ、酷い奴だよ……なに? 裁判でもしますかっ?」
何を言って笑ってるんだろう、よっすぃーは? 圭織には分からない。
「さんざん圭織を弄んで、都合が悪くなったらポイ。……どんな罪でしょう……強姦罪? アハハ」
- 137 名前:<tell me (1)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時11分37秒
- やっと振り向いてくれたよっすぃーは、口元だけで笑ってた。
「卑怯だよっ! ごっちんを使うなんて。言いたいことがあるんなら、直接あたしン所に来ればいいじゃない!」
「……ちが」
「っ……あたしだってっ!」
もう一度電話が鳴って、二人の言葉が途切れた。何か時間切れを示す音のようにも聞こえてた。
そのままにもしておけないので、その電話は圭織が取った。
「はい」
『ん、圭織? ごとーだよ。キッチンからかけてる』
室内フォンのごっちんの声は普通の電話より明瞭で、まるで壁越しに話をしているようだった。
『オレンジ色のボタンあるでしょ? それ押して』
言われるままにボタンを押すと
『そしたら受話器はかけちゃって平気だから…………よっすぃー、聞こえてる?』
スピーカーモードになった電話機そのものから、ごっちんの声が出てきた。
- 138 名前:<tell me (1)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時13分10秒
- 『圭織?』
「うん?」
ごっちんはあたしとよっすぃーに何をさせたいんだろう。
『……あのね……悪いけど、分かっちゃったんだ』
一瞬間をおいてごっちんの言葉が続く。
『圭織が付き合ってた人って……よっすぃーでしょ?』
思わずよっすぃーと顔を見合わせてしまった。
『圭織もよっすぃーも……巧く隠してるつもりかも知れないけど、そういうの隠せない人だよ。二人とも正直……ごとーには』
あたしとよっすぃーは立ったまま動けずに、ごっちんの声だけを聞いている。
『よっすぃー? 聞こえてるよね? …………あの話、圭織には聞かせてないんでしょ』
よっすぃーは圭織を押しのけるようにスピーカーの前に来ていた。
- 139 名前:<tell me (1)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時14分08秒
- 「やめてっ」
『ごとーには聞かせられて、なんで圭織には聞かせられないの? ホントは一番に聞かせる人で』
「っ!」
オレンジ色のボタンの上によっすぃーの指が乗っていた。ごっちんの声はそこで途切れた。
- 140 名前:<tell me (2)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時15分35秒
- 「あの話?」
眉間に皺を寄せて何か思い詰めたような顔のよっすぃーは、爪の先が白くなるほど強くボタンに指をかけていた。
「…………」
ゆっくりと階段を上ってくる小さな音が聞こえてくる。
一歩一歩足音が近づくにつれて、よっすぃーの顔の色が消えてゆく。ドアの前で足音が止まると、よっすぃーはドアノブを押さえて扉を開かせないように力を込めていた。
「よっすぃー? 開けて」
「やだっ! ダメだっ!」
「圭織、よっすぃーをどけて」
「ダメっ!」
あたしを見るよっすぃーは、今にも泣き出しそうに首を左右に振っている。
- 141 名前:<tell me (2)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時17分15秒
- 「…………あたしが今、圭織に聞かせていいの? よっすぃー?」
ドア越しに聞こえたごっちんの声は、責めるというよりも、よっすぃーの何かを案じている様子だった。
「やめて、ごっちん」
圭織はよっすぃーが必死に何かを隠しているって分かったけど、泣き出しそうなよっすぃーの顔を見たら、可哀相という気持ちしか湧いてこなかった。
「よっすぃーを……いじめないであげて……」
圭織のその言葉を聞いても、よっすぃーはまだ思い詰めた表情のままで。
「……開けて、よっすぃー」
- 142 名前:<tell me (2)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時18分13秒
- 力が抜けてしまったんだろうか、よっすぃーの隙をついたように、ごっちんは軽々とドアを開けてしまっていた。沈んだ表情のごっちんが、その場に蹲ってしまったよっすぃーを見ている。
よっすぃーは無言でごっちんの脚を拳で叩きはじめていた。
「……よっすぃー」
しゃがんだごっちんが、よっすぃーの頬を平手で撲った。
「!?」
一瞬の出来事で、圭織はただ見ているだけしか出来なかった。
「あんたが悩んでるのは構わないよ。でもね、圭織だってきっと泣いてるんだ……。そんな圭織に何にも説明ナシかよ。ごとーに相談出来るんなら、圭織にも話せるだろっ!?」
よっすぃーは何か意味にならない声をあげて、泣き出してしまっていた。
- 143 名前:<tell me (2)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時19分45秒
- ごっちんは入り口ドアの脇に置いていたトレイを持って、それをテーブルの上に置いている。
「紅茶でよかったでしょ?」
トレイの上にはティーカップが二つポットが一つ、それだけが乗っていた。よっすぃーを叩いた後だったけど、ごっちんは落ち着いていた。ごっちんが落ち着いていてくれたお陰で、圭織もそんなに取り乱さずに済んだ。
「よっすぃー? ……圭織に打ち明けな……コレ飲んでから」
あたしは何が何だか分からないんだけど、口を差し挟むタイミングも勇気も無くて。
- 144 名前:<tell me (2)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時20分53秒
- 「圭織、よっすぃーの話……聞いてあげてね、しっかり」
ごっちんはあたしの手を一回握ると、そのまま部屋を出て行ってしまった。
「あ、ごとーは自分の部屋にいるから……その電話で『内線の三番』だからね」
よっすぃーは崩れた『女座り』の格好で俯いたまま。
部屋には紅茶のいい匂いだけが漂っていた。
- 145 名前:こばん 投稿日:2002年03月12日(火)04時27分59秒
- 日曜に推敲が進んだので、多めに交信です
>133 名無し読者様
レスありがとうございます
お読み下さる方のお言葉が、なによりの励みです
がんばります
- 146 名前:<tell me (3)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時28分55秒
- 整理しよう。
ごっちんは圭織とよっすぃーをここに呼んだ。
ごっちんは圭織とよっすぃーが付き合っていたことを知った。そして別れたことも。
ごっちんは圭織によっすぃーの話を聞いてあげて、と言った……。
……話?
- 147 名前:<tell me (3)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時29分44秒
- 伏せられて置かれた二つのティーカップは、何だか今の圭織とよっすぃーに見えた。お互いに内側を見せずに、本来の役目を拒否しているように……。ポットの注ぎ口から仄白い湯気が立ちのぼっている。こっちは何かをせかすように。
「よっすぃー……?」
声をかけると、背を向けて座ったよっすぃーが一瞬身構えるのが分かった。近寄らない方がいい、そう思ったから
「あのね……あ、……言いたくない話だったら、圭織に聞かせなくてもいいよ。ごっちんにはよっすぃーからちゃんと聞いたって言っておく、から」
と、なだめるようにそれだけ告げた。
ごっちんは圭織のために色々としてくれたけど、それがよっすぃーにとって辛いことだったら、圭織はそれは受け入れられない。また卑怯な損得勘定だったけど、ごっちんよりはよっすぃーを大事にしたい。
たとえ終わってしまった関係でも。
- 148 名前:<tell me (3)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時30分50秒
- 「……それでいいの?」
「え?」
「圭織はそれで済ませられるの?」
よっすぃーは『話』だけのことを言ってるわけじゃない。そう感じた。二人のこれまでを……これっきり終わらせていいの? と。でも、それは圭織だって聞きたい。
「だって……よっすぃーはもう……」
そこまで言って、涙がこぼれた。だってもう、圭織の元へは戻ってきてくれないんでしょう? よっすぃーは。
「……それと……えっと……ごっちんに怒ったらダメだよ。ほら、ごっちんもさ、あたしとよっすぃーのためを思って、って……今日のことを、さ……」
上手く説明が出来ない。あたしも早くこの場を逃げ出したいんだ。
- 149 名前:<tell me (3)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時31分54秒
- 「なんでごっちんのこととか……あたしのことを心配するの? 悪いのはあたしなんだよ? なんでそんな……周りばっかり気にするの?」
あたしが悪い……それは罪を被っているようで、実は何かから逃げている言葉だ。それが分かったのは、圭織もよっすぃーと同じように考えてるからだと思う。
「……圭織も、もう面倒くさいんでしょ? あたしのことなんか……」
よっすぃーはとてもイヤな顔をしていた。人の表情の中で、圭織が一番嫌いな顔をよっすぃーは見せていた。……人をバカにするような目。
- 150 名前:<tell me (3)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時32分42秒
- 「……じゃあ、どうすればいいの!? 圭織がどう言えばいいの? どうすれば……どうすればよっすぃーは戻ってきてくれるんだよお」
言いたかった言葉が、もう止められなかった。
「ふざけんなよお……勝手に……一人で帰っちゃって。圭織に何にも言わないで、圭織に何にも言わせないでっ……!」
涙でよく見えないけど、あたしはよっすぃーの元へ行って、その胸を叩いていた。
「あの日……圭織は……言うつもりだったんだっ!」
どんどんと胸を叩いていたら、息を詰まらせながら、よっすぃーが聞いてきた。
「圭織は、何を言う……つもりだったの……?」
- 151 名前:<tell me (3)> 投稿日:2002年03月12日(火)04時33分31秒
- 両腕を捕まれて、顔を覗き込まれる。
もがいたけれど、よっすぃーはあたしからそれを聞き出すまで腕を放してくれないつもりだ。
あたしは、よっすぃーの目を見て――
「圭織はよっすぃーが好きになりました……って。あなたを愛し始めました……って!」
腕は掴まれたままだった。
- 152 名前:おおばん 投稿日:2002年03月12日(火)05時39分18秒
- ううむ、この緊迫感が何ともいえない・・・。
今はただ、見守るのみです。
- 153 名前:池孫四葉 投稿日:2002年03月12日(火)12時56分50秒
- おぉ、すごい展開ですね〜。
目が離せません!
- 154 名前:925 投稿日:2002年03月12日(火)13時11分24秒
- おぉっ!いっぱい更新されてて嬉しい!
作者様、お疲れさまです。
よっすぃ〜の話ってなんだろ?気になるぅ。
- 155 名前:<yours> 投稿日:2002年03月13日(水)02時02分19秒
- 人がこんなに悲しそうな声で泣くのを、圭織は初めて聞いた。
小さな子供のように、取り返しのつかない何かを悔やむように、大切な人を亡くした時のように。
あたしは我知らずよっすぃーを抱きしめてあげていた。
- 156 名前:<yours> 投稿日:2002年03月13日(水)02時03分26秒
- 「ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい……」
圭織の胸が苦しくなるほど、よっすぃーは泣きながら謝り続けていた。
よっすぃーはあたしをきつく抱きしめたまま……泣きやんでもまだ謝り続けていた。
「……あたしは………………怖いの」
抱き合った格好のまま、よっすぃーは小さく話しだしていて。
「抱かれるの……されるのが怖いの……怖いの」
それはよっすぃーの長い話の始まりだった。
- 157 名前:<yours> 投稿日:2002年03月13日(水)02時04分45秒
- 「――中学の夏休み、あたしはその時付き合ってた人の家で、一緒に宿題やってた。なんとなく、彼が言ってきたの……『ひとみが欲しい』って。あたしも初めて、彼も初めてだったんだと思う。あたしはちょっと怖かったんだけど……何だか断ったら悪いような気がして。でも、やっぱり怖くて、途中で『やめよう』って言ったんだけど、そいつはあたしの言葉を聞いてくれなくって…………痛いばっかりで、イヤでイヤで」
- 158 名前:<yours> 投稿日:2002年03月13日(水)02時05分31秒
- 時折身震いするよっすぃーを、あたしは何度も背中を撫でてあげていた。
「そいつがあたしの言葉を聞かなかったのがイヤだったから、あたしはもうそいつとは会わないようにしてたんだ。……でもそいつはあたしを諦めきれなかったみたいで、あたしがクラブで遅くなる日には、いつも待ち伏せみたいにして。クラブのみんなは、あたしがそいつと付き合ってると勝手に思ってて、なんか……二人きりにされちゃったり。そんなことが続いてたから……今日こそハッキリ断ろうと思って、あたしは放課後に彼に会ったんだけど」
- 159 名前:<yours> 投稿日:2002年03月13日(水)02時06分28秒
- 言葉が途切れた。
「…………そいつ……いきなりあたしを殴って………………教室で無理矢理、殴られながら服を脱がされて……あたしはイヤだって、何度も言ってるのに……イヤだって。でも、あたし怖くなって声も出せなくなっちゃって……怖くて」
「……もういいよ、よっすぃー」
「泣いてるあたしを見て……あいつ……笑ってて」
「もういいよ、よっすぃー」
よっすぃーの細い溜め息は、圭織の背中を伝って床に落ちていった。
- 160 名前:<yours> 投稿日:2002年03月13日(水)02時07分18秒
ティッシュとハンカチでよっすぃーの涙を拭いてあげた後、圭織はごっちんの紅茶を思い出していた。
紅茶はすっかり冷めていた。お砂糖多めのミルクティーは、それでも美味しかった。こんな話をしている時にでもその紅茶が美味しかったのは、それを淹れてくれたのがごっちんだって分かってるからだろう。
- 161 名前:<yours> 投稿日:2002年03月13日(水)02時08分03秒
- 「あたしは今でも……男の人が怖い……男の人とそうなるのが」
両手でカップを持ちながら、よっすぃーは紅茶の表面をずっと見据えている。
「だからって、いきなり女の人が好きになったワケじゃないけど。安倍さんと……始まったのは、実は最近なの」
チラリとあたしを見つつ、よっすぃーはまた話し始めていた。
「安倍さんチに圭ちゃんと遊びに行ってて、二人はちょっとお酒を飲んでて。そしたら圭ちゃんが何かの用事が出来ちゃったみたいで、一人で帰っちゃって。……ホントに冗談みたいな感じで……ベッドで遊んでたら、安倍さんが……『抱いて』って」
笑っていいのよ、バカにしていいのよ、って……よっすぃーの目がそう言ってた。
- 162 名前:<yours> 投稿日:2002年03月13日(水)02時09分02秒
- 「安倍さんの服に手を入れたら、なんか柔らかくって……安倍さんはホントに気持ちよさそうに目を細めてて。でも、それを見たら、なんか……安倍さんが憎たらしくなってきて。こんな簡単なことで気持ちよくなりやがって、って。……上手い具合に安倍さんは『される』のだけが好きだったから……あたしは」
「あたしは?」
圭織の言葉に、よっすぃーは小さく首を横に振っている。
「……非道いことばっかりしてた。縛り上げたり、目隠ししたり、いやらしい言葉を何度も言わせたり。あたしは安倍さんを身代わりにして、あいつに復讐してたんだと思う。簡単に体を求める人間が、全員憎かったんだ」
紅茶を一口飲むと、よっすぃーは悔しそうにまた涙を流しだしていて。
- 163 名前:<yours> 投稿日:2002年03月13日(水)02時09分40秒
- 「安倍さんを抱きながら、こんなことしてちゃダメだ、って。あたしもあいつと同じことしてるって……思い始めてて。本当に好きな人としか、こういう事はしちゃダメなんだ、って分かって」
カップを持ったまま立ち上がって、よっすぃーは窓の方へと歩いて行った。曇り空は紅く染まりつつある。よっすぃーは窓にかかったレースのカーテンを、指で避けて空を眺めている。
「……でも、あたしは相変わらず…………抱かれるのが怖くて。圭織とも……そういう風にしか……出来なくって。圭織がいつあたしを抱きたいって言ってくるか、怖くて怖くて……圭織と二人きりになるのも、実は怖かったんだ」
- 164 名前:<yours> 投稿日:2002年03月13日(水)02時10分28秒
- いつかよっすぃーが飲んでいた錠剤が安定剤だったことは、ついこの間知った。
よっすぃーは普通の恋愛を知らずに、普通の女の子の生活を失ってしまったんだ。
「抱かれるのが怖かったから、手を縛ったり……恥ずかしがらせたり……全部自分を守るため。あたしの愛し方は最低だよ」
- 165 名前:こばん 投稿日:2002年03月13日(水)02時19分02秒
- 今日も多めの交信です。ラスト見えてきました
>152 おおばん様
テンションが高くなってくると書きにくいですね
とりあえず、泥沼にはならない感じです
>153 池孫四葉様
お付き合い頂けて嬉しいです
書かれるおヒマないのですか
私は年がら年中妄想してるので楽です(w
>154 925様
筆が進んでくれまして
でも、推敲の方が疲れますね
後半チョピーリえっちになります(w
- 166 名前:<mine> 投稿日:2002年03月13日(水)02時20分12秒
- 「なんで、圭織に相談してくれなかったの?」
窓辺に立つよっすぃーは圭織の問いかけには振り向いてくれないでいた。
「言ってくれれば……圭織、よっすぃーの嫌がることなんかしない……のに」
ゆっくりと圭織に向き直ったよっすぃーは、また首を振っていた。笑っているようにも見えたけど、それは圭織を笑ってるんじゃなくて、自分を蔑んで笑っているようで。
「そうじゃないし……もう一つ、言ってない事が……ある」
小さく囁くよっすぃーの声を聞こうと、あたしもよっすぃーの傍に立った。何か諦めたようによっすぃーは続けた。
- 167 名前:<mine> 投稿日:2002年03月13日(水)02時20分45秒
- 「あたしは圭織をずっと見てた。綺麗だなあって。可愛くって綺麗で、ホント女の人だなあって。…………圭織?」
「うん……?」
沈みきった表情。まるで世界の終わりを見ているよう。
「あたしは圭織が好き…………でも、あたしは圭織をバカにしてた。圭織が気持ちよさそうにしてればしてるほど。……それに、あたしは圭織が……憎い。あたしはいつまで経っても圭織みたいには、なれないから」
- 168 名前:<mine> 投稿日:2002年03月13日(水)02時21分28秒
- 空になったティーカップが、よっすぃーの指から滑り落ちた。一呼吸おいてから、よっすぃーも膝から崩れた。涙の一杯溜まった目であたしを睨んでいた。
「あたしは、可愛い女の子になりたい…………もっと普通の女の子になりたい」
もう隠すことは何一つ無い、もう後悔しても遅い、そんな顔でよっすぃーは涙をこぼしていた。
「……愛してる人に、抱かれたい」
- 169 名前:<mine> 投稿日:2002年03月13日(水)02時22分29秒
あの雨の晩、ホテルでよっすぃーが圭織の部屋にやってきた晩。本当はよっすぃーは、あたしに何を告げにきたんだろうか。
『たすけて』
と、知らせたくてやってきたのかも。
でも、よっすぃーは圭織の元へやってきてくれたんだ。『すき』でも『にくい』でも『たすけて』でも。
けれど、抱かれることを怖れていたよっすぃーは、片道通行になることを知っていたよっすぃーは
『あいしてる』
とは伝えられなかったんだ。
- 170 名前:<mine> 投稿日:2002年03月13日(水)02時23分13秒
- そして、全てに受け身だった圭織は、そんなよっすぃーをただ眺めてただけだったんだ。
室内フォンのごっちんの声は、その時の圭織の声に似て、沈んでいた。暇乞いをしたのは、すっかりと日が暮れてからだった。
- 171 名前:おおばん 投稿日:2002年03月13日(水)07時15分59秒
- なるほど…。この吉澤のトラウマを、意識の変わった圭織がどう癒すのか…それとも…
やはり見守りたいです。
- 172 名前:池孫四葉 投稿日:2002年03月13日(水)17時32分13秒
- む〜・・・、そんな過去があったとは・・・。
圭織がどう動くのか気になります。
頑張って下さい!
- 173 名前:<& the truth> 投稿日:2002年03月14日(木)03時04分41秒
- よっすぃーは意外にも断らなかった。
あのサングラスを返すからと、あたしは自室に誘った。
二人でタクシーで圭織の家に向かう間、あたしは窓の外を眺めながらこんなことを思った。
- 174 名前:<& the truth> 投稿日:2002年03月14日(木)03時05分47秒
- ベッドの上では、愛も憎しみも等価なんだ。相手に自分を植え付けたい。その想いが激しければ激しいほど、体は心は燃え上がる。
けれど……圭織はよっすぃーに抱かれることで、愛のない自分を蔑み罰し。よっすぃーは圭織を抱くことで、同じように愛のない自分を蔑み……罰し。二人はベッドの上で、自分だけを愛し憎んでいたんだ。
動き続ける地平の上で、あたし達はただ足踏みをしていただけ。世界は回っていても、あたし達はただそこに留まっていただけ。
二人の世界が止まった今、二人は自分達が一歩も歩き出していないことにようやく気づけた。
- 175 名前:<& the truth> 投稿日:2002年03月14日(木)03時07分25秒
「ワイン、あるけど……飲む?」
それはよっすぃーは断った。もう、圭織の前では正気のままでいたいんだね。
キッチンのテーブルに着いて、二人は何故か示し合わせたように忍び笑い。
「あ、何も食べてないんだ。圭織バカだね……コンビニでも寄ってくればよかったね」
時計を見るともう七時を回っていて、あたしは席を立って冷蔵庫を開けてみた。入っている物で作れる献立を考える。
- 176 名前:<& the truth> 投稿日:2002年03月14日(木)03時08分52秒
- 「んー、バジルソースがあるから……パスタにしよっか? そうしよ」
「手伝うよ」
よっすぃーが肉を食べられないのは、何か特別な理由があるんだろうか。そんなことを考えながら、あたしは深鍋を用意する。
「茹でるだけだよ……あ、じゃあお皿出して座ってて」
よっすぃーは給湯器のお湯で手を洗っていた。
棚の上に置いていた乾スパゲティの袋に手を伸ばす。あたしの後ろでよっすぃーの動く気配がした。
- 177 名前:<& the truth> 投稿日:2002年03月14日(木)03時09分40秒
- そっと、背中から抱きしめられる。それはまさに、恐る恐るという感じで。
「……よっすぃー?」
「かぉ…………飯田さん」
ああ、飯田さんって呼ばれるのは久しぶりだ。もしかしてよっすぃーはかなり無理して『圭織』って呼んでたんだろうか。前にまわされたよっすぃーの腕は微かに震えている。
「………………」
よっすぃーはそれきり黙ってしまった。圭織はよっすぃーにも、ほんの少しの勇気を期待した。何でもいい。何か言って欲しい。そしたら圭織は……。
- 178 名前:<& the truth> 投稿日:2002年03月14日(木)03時10分41秒
- 「……あたし、を…………」
よっすぃーの腕をそっと外して、そのまま体を変えて正面に向き直る。俯くよっすぃーの頬に手をあてて、優しく圭織と見つめ合わせる。
「……吉澤、を?」
顔を真っ赤に染めたよっすぃーは、震えながら、息を吐きながら
「女の子にしてください」
と。
- 179 名前:<& the truth> 投稿日:2002年03月14日(木)03時11分32秒
- ごめんね……ほんの少しの勇気なんかじゃないよね。よっすぃーにしてみれば、それは自分の存在を確かめる最後の言葉だもんね。
「飯田さんに……都合よすぎ? あたし」
「……圭織でいいの?」
いや。自分で出した言葉だったけど
「ううん…………圭織、よっすぃーを抱いてあげたい。……よっすぃーをよっすぃーに戻してあげる」
……くだらない感傷かもしれない。あたしとよっすぃーの出会いに、何か運命的な飾り付けをしているだけかもしれない。でも、圭織にはよっすぃー、よっすぃーには圭織しかいないと、そう思った。
- 180 名前:こばん 投稿日:2002年03月14日(木)03時23分39秒
- 200ちょいで終わりそうです
>171 おおばん様
飯田さんには、もう少しがんばって貰いましょう(w
癒し系の本領発揮で
>172 池孫四葉様
ダークな話は得意ではないので、自分で書いててつらいです
新スレ立てるんですか。期待してます
- 181 名前:<where there is love> 投稿日:2002年03月14日(木)03時24分44秒
- 部屋着に着替えたあたしは、ベッドに入ってよっすぃーを待っていた。
『――よっすぃーは今、お風呂に入ってるの?』
電話の向こうのごっちんは何かホッとした様子だった。
あたしとよっすぃーは、今晩はごっちんの家に泊まってることにしてもらった。電話口で冷やかされそうだったんで、あたしは先手を打った。
「ごっちん……なっちを落とそうと思うんなら、今の内だぞ」
『な、な、な、な、なに言ってるんだよおっ! 何だよソレっ?』
「ごっちんだって、隠しきれてないぞ。正直者だよ、ごっちんも」
「ごっちんにかけてるの?」
振り向くと、バスタオル一枚のよっすぃーがあたしを見ていた。
- 182 名前:<where there is love> 投稿日:2002年03月14日(木)03時25分56秒
- 「うん……じゃねっ」
携帯を切って、あたしはフトンを持ち上げてよっすぃーを迎え入れる。シャワーを浴びたよっすぃーは白い肌が一面ピンク色に染まってた。……なんかヘンだ。今までの夜はどうしてたんだっけ?
「……ごっちん、安倍さんが好きなの?」
タオルを巻いただけのよっすぃーは居心地悪そうに身を捩っている。
「冗談のつもりで言ったんだけど……当たってたみたい……ふふっ、こっちがびっくりしちゃったよ」
「アハハ」
「アハハ……」
- 183 名前:<where there is love> 投稿日:2002年03月14日(木)03時26分58秒
- 笑い声はすぐに途切れて。
……正直言えば、圭織も怖い。怖いというか、女の子に「して」あげるのは初めてだし。でも、よっすぃーはあたしに賭けてくれてるんだよね。また怖い思いをさせてしまったら、よっすぃーはホントに立ち直れないかもしれないし。……今まで「されてた」ことをすればいいんだよね。じゃないよ。圭織がどうしたいか、なんだよ。
「……飯田さん?」
いけない……交信してたみたい。
「なに?」
よっすぃーはあたしを見て、しょんぼりしてた。
「……自分から言い出して悪い、んだけど」
「うん」
「今日は…………やっぱり、怖い」
- 184 名前:<where there is love> 投稿日:2002年03月14日(木)03時28分05秒
- そう言われて、圭織もホッとしてた。心の準備とかは、よっすぃーより圭織の方が必要なのかも。
あたしは
「違うからね」
と、念を押してから服を脱いだ。訝しげにあたしを見ているよっすぃー。「大丈夫」って言いながら、あたしは着ていたものを全部脱いだ。
「……何にもしない」
- 185 名前:<where there is love> 投稿日:2002年03月14日(木)03時29分09秒
- ゆっくりとよっすぃーのバスタオルを外す。しっとりとやや汗ばんだよっすぃーの体。その上に圭織は身を載せる。
「手」
よっすぃーの両手と圭織の両手をそれぞれ合わせる。胸と胸、お腹とお腹、脚と脚。それぞれをぴったりと合わせて。
「……どう? 怖い?」
首だけが交差するように寝て、あたしはよっすぃーの耳に直接尋ねる。
「……重い」
よっすぃーはちょっとだけ不安そうに、でも笑っていた。
「でも…………飯田さんの重み……気持ちいい」
- 186 名前:<where there is love> 投稿日:2002年03月14日(木)03時30分32秒
- 手を外して、あたしは肘立ちになって……よっすぃーの襟首にキスした。
「んっ」
唇をあてた所から、見る間に肌が染まってゆく。……鎖骨の所にまで唇を下ろした時、よっすぃーは小さく震えだした。
「……怖い?」
一度何かを考えるように、よっすぃーの視線が宙に漂う。
「だいじょうぶ」
でも、それ以上は圭織はしなかった。それよりも、圭織はよっすぃーに伝えたいことが見つかったから。……そっとよっすぃーの前髪を撫でて、しっかりと目を見つめて
「かわいいよ、よっすぃー」
と、伝えてあげた。
- 187 名前:<where there is love> 投稿日:2002年03月14日(木)03時31分31秒
あたしの下で、よっすぃーは泣いていた。涙はあたしが拭ってあげた。
- 188 名前:こばん 投稿日:2002年03月15日(金)00時21分52秒
- ラストまで交信です
- 189 名前:<if I were a man (1)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時22分25秒
外でデートするのは初めてだった。
夜の元町は人通りも多かったけれど、明るすぎない街灯はあたし達二人を街に溶け込ませていた。通りの両脇に様々な店が並んでいて、ちょっとしたテーマパークみたい。家具を色々と観てまわったけど、二人の趣味がまるで違うことに今さら笑いあった。
- 190 名前:<if I were a man (1)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時24分16秒
- 「何時?」
薄い口紅をひいたよっすぃーの唇が動く。
「結構いい時間かもね」
「中華街……混んでるんだろうね」
よっすぃーは雑貨店のウィンドウを見ながら、少しだけ憂鬱そうな顔をしていた。街を歩いて、食事をして、そしたらもう二人の時間が終わってしまうことを悔やんでいるんだと思う。すれ違う人の波も、夕飯を求めるという目的を持って動いている感じで。
- 191 名前:<if I were a man (1)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時24分52秒
- 「あのさ」
ウィンドウに飾られたアンティークのスタンドを二人で眺めながら、あたしはよっすぃーの腕をそっと取った。
「部屋……とってあるんだ」
駅にほど近いシティホテルの、小さなパンフレットをあたしはカバンから取りだしていた。一週間前から、元町でデートすることが決まった日から、あたしは予約を取っていた。
「行く?」
- 192 名前:<if I were a man (1)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時25分38秒
ツインの部屋で食事をとった。シャンパンを残して、あとは下げてもらった。
「横浜に来て、中華以外の食事をしたのって初めて」
そんなことを言って、よっすぃーは笑ってた。
窓辺に置かれた白い布で張られたイスに座って、よっすぃーは夜の港の灯りを見ている。あたしは部屋の電気をいくつか落として、その隣りに立った。
「……飯田さんって、大人なんだよね」
ぽつりと洩らすよっすぃーの声は、あの雨の晩のようで。
「よっすぃーが圭織の歳になったら、多分よっすぃーの方がしっかりしてるよ」
「そうかな……?」
「そうだよ」
- 193 名前:<if I were a man (1)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時26分25秒
- よっすぃーは仕事で会うと、あたしからのキスをねだるようになってた。それはまるで一から恋人の普通のステップをやりなおすように。そしてあたし達は、もう一度最初の夜をここで迎えるつもりだ。
「……シャワー、浴びてくる」
あたしから逃げるように、よっすぃーはバスルームに向かっていた。あたしはよっすぃーの腕を取って首を横に振った。
「一緒に浴びよ」
- 194 名前:<if I were a man (1)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時27分12秒
- 二人とも裸は見慣れているはずなのに、よっすぃーはしきりに恥ずかしがった。あたしをまるで見ずに、早々にバスルームを出ていってしまった。
ベッドの上のよっすぃーは今にも泣き出しそうな顔をしてて、まるで圭織が虐めているよう。あたしはバスローブ姿のままベッドに乗った。
「よっすぃー?」
声をかけると、よっすぃーはシーツで顔を隠してしまって。あたしはシーツ越しに言葉を続ける。
「無理矢理とか、嫌がることとか……そういうこと、圭織がするように思う?」
「……それは……思わない、けど」
「けど?」
- 195 名前:<if I were a man (1)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時28分09秒
- そっとシーツを外す。また顔を隠すように、よっすぃーは圭織に抱きついてきた。
「よっすぃー」
優しく抱きしめて、こめかみにキス。あたしはあたしに出来る一番優しいやり方でよっすぃーを抱こうと思った。
- 196 名前:<if I were a man (2)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時28分50秒
- 唇の味って不思議だ。一度唇を離すとすぐに忘れてしまう。
だから圭織は、何度も確かめるようにキスを続けてた。
「飯田、さん」
不安げなよっすぃーが腕の中で震えてる。下着姿の姿はいつもより小さく見えた。
「なあに?」
何も応えなかったけれど、よっすぃーの言いたいことは分かってる。圭織が男の人だったらよっすぃーをどういう風に抱くんだろう。でも、圭織は女性でよかった気がする。あたしが男の人だったら、今のよっすぃーの言葉の意味も分からなかったと思うから。
- 197 名前:<if I were a man (2)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時29分47秒
- よっすぃーを横たえさせて、背中を向けさせる。真っ白な背中を唇で撫でてゆく。大きな枕を抱えるようにして、よっすぃーは声を殺していた。
手や指は使わないことに決めてた。なんとなく、よっすぃーはそれを嫌がる気がしたから。
「んっ……」
甘い声が段々と熱を帯びてくる。圭織は慎重に慎重に愛してゆく。
バスローブを脱いで、体を変えてよっすぃーの下に入った。
「気持ちいい?」
- 198 名前:<if I were a man (2)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時30分26秒
- 体を腕で支えさせて、あたしはよっすぃーの胸の先を口に含んでみる。震えつつも、よっすぃーは「うん」と答えてくれた。圭織はずっとよっすぃーの顔を見てあげてた。少しでも嫌がる素振りを見逃さないために。でも、その必要は無かった。よっすぃーはずっとあたしに身を任せてくれた。
目をきつく閉さして、よっすぃーは小刻みに首を動かしてる。甘い溜め息がその度に圭織の胸に落ちた。
- 199 名前:<if I were a man (2)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時31分11秒
テーブルの上のシャンパンを思い出した。
ひとしきりよっすぃーの体を唇で撫でた後、圭織は裸のままグラスを取りに行った。
「美味しいよ」
背の高いグラスはまるであたし達二人のようで。中に注がれた金色の液体が、まるで呼吸をするように小さな泡を絶えず浮かべてる。少し口に含んで、ベッドの上で待っていたよっすぃーに口移しで飲ませる。
- 200 名前:<if I were a man (2)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時32分01秒
- 今度は上になって、圭織は
「ふーっ」
と、ゆるい吐息だけでよっすぃーの体を撫でてゆく。シーツの中で、シャンパンの香りの吐息が二人を包む。
よっすぃーは小さく声を洩らしはじめてた。吐息を避けるように身を捩るよっすぃーを追いかけて、圭織も移動してゆく。
「やぁっ、んっ……んっ」
吐息で全身を撫でられて、よっすぃーの口からも切なげな吐息が洩れる。
圭織は自分の唇に指をあてて、よっすぃーを窺う。「いい?」と。
頷くよっすぃーを確認してから、あたしは頭をシーツの奥に潜り込ませる。圭織の髪がよっすぃーの胸元でサラサラと音を引いていた。
- 201 名前:<if I were a man (2)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時32分45秒
- よっすぃーの一番柔らかい所にキスした。潤んで熱を帯びたそこは、どこまでも柔らかかった。
「あ……ぁっ…………飯田……さ、ん」
舌先で押し広げ、そこをゆっくりと味わっている内に、よっすぃーの体から急に力が抜けた。顔を上げてよっすぃーを見ると、こめかみに細く涙を伝わらせて果てていた。
じんわりと胸の奥が熱くなってくる。圭織は与える悦びを初めて知った。
- 202 名前:<if I were a man (3)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時34分37秒
「……怖くなかった?」
頭を並べて横になって、あたしは息を整えたよっすぃーに聞いてみる。
「……うん…………ううん、ちょっとだけ」
女の子同士だからといって、相手の一番気持ちいい所は分からない。けれど、されてイヤなことは分かる。圭織は自分の初めての時を思い出して、よっすぃーを抱いてあげた。
でも、一つ……圭織はしてあげたいことが残っていた。
「あのね……圭織、よっすぃーに……したいことがあるの…………いい?」
- 203 名前:<if I were a man (3)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時35分16秒
- 髪を撫でてあげながら聞いてみた。
「……いいよ……飯田さん、なら」
よっすぃーは何か覚悟を決めたようだった。それは体で知った信頼関係だと思う。あたしは『心と体』とか『男と女』とか『する、される』とか、二つにして考えるのをやめた。『あなたとあたし』ということも。
「圭織とよっすぃーが、一つになれると思うんだ」
- 204 名前:<if I were a man (3)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時36分19秒
- そう言ってはみたけれど、これはどういう風にしたらいいんだろう。よっすぃーにしてみればかなり恥ずかしいポーズにされると思う。
「え? えっ?」
よっすぃーの膝を胸に付くくらいに持ち上げる。ごめんね、ちょっとどころじゃなく恥ずかしいよね。
「やだ」
大丈夫だよ、と首を振ってみたけれど……よっすぃーはあたしから顔を背けてた。
「あっ」
初めて指を使ってみる。そっとよっすぃーのそこを指で左右に拡げて
「……圭織がよっすぃーの初めての人だよ」
と、そう伝えて顔を上に向ける。
- 205 名前:<if I were a man (3)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時37分07秒
- よっすぃーには何がなんだか分からないと思うけど。少しだけ時間が必要なことだった。
顔をそこに持ってゆく。そっと口を開けると、圭織の舌の先から透明な一筋が落ちてゆく。指で拡げた部分にそれが浸み込んでゆく。
「っ……はっ、あぁっ」
よっすぃーの中に圭織が入ってゆく。よっすぃーは身を震わせながら、でもそれをしっかりと見ていた。圭織は直接唇をあてて、圭織を流し込んでいた。
「んぁっ……」
舌先で核を撫でる前に、よっすぃーは短く甘い悲鳴をあげて大きく震えてた。
よっすぃーの中で圭織が溶けてゆくのを想像して、あたしも少しだけ眩暈を覚えた。
- 206 名前:<if I were a man (3)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時38分08秒
二人、ベッドの中で向かい合って……無言で見つめ合ってた。よっすぃーは圭織の髪先を手にして、それに何度もキスを繰り返してる。
「圭織ね、よっすぃーのカラダ好きだよ」
「……? 体だけ?」
ちょっと笑って身を寄せてくる。
「心より体が大事な時も……あると思うのね。あたしはよっすぃーとこうしてると、すごい安らぐし。よっすぃーには言うけど、圭織……抱かれるの好きなんだ」
- 207 名前:<if I were a man (3)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時38分50秒
- 笑顔を消したよっすぃーは、目を閉じて何かを考え続けている。ふと見ると、お腹の下の方に手のひらをあててた。
「……もっと、飯田さんには抱かれたい。飯田さんが欲しいって、もっとハッキリ言えるようになりたい、から」
何かの約束みたいなキス。圭織はよっすぃーのお腹にあてた手のひらに、自分のそれを重ねてた。
「あのね……圭織……最初はね…………」
- 208 名前:<if I were a man (3)> 投稿日:2002年03月15日(金)00時39分38秒
あたしとよっすぃーは自分の思っていたことを、一晩かけてお互いに打ち明けあっていた。
ずっと手を繋ぎながら。
- 209 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時40分30秒
「ごっちん……今度のお休みになっちと温泉に行くんだって……」
「ふうん」
- 210 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時41分08秒
- 話し合うことはいいことだ。
こんな当たり前のこと、誰も教えてくれなかった気がする。あたしの人生の中で。
- 211 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時41分45秒
- 「……似合う?」
「似合う、似合う」
姿見の前でよっすぃーは少し照れながら、鏡越しにあたしを見ている。よっすぃーは圭織のワードローブの中で一番短いスカートを穿いていた。いや、穿かせていた。
もう、少し小さめになったものもあったけど、よっすぃーは圭織の服を着させてもらうのを喜んだ。ヘアスタイルまで似せるのは限界があったけど、並んで鏡の前に立つと、まるで姉妹のようにも見えた
- 212 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時42分23秒
- 少しずつ時間をかけて、よっすぃーは変わっていった。
圭織の前で。
今でもまだ、よっすぃーは男の人は怖いらしい。というか、どういう心境になるか分からないといった方が正解かもしれない。
- 213 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時43分25秒
- 「一着くらいならあげるよ」
よっすぃーの後ろに立って、肩に手をかける。ごく自然によっすぃーは圭織の手に頬を寄せる。よっすぃーを後ろに倒すように、あたしは身を寄せる。
「じゃあ、これが欲しい」
「いいよ」
手を肩から外して、前からよっすぃーのスカートをゆっくりと脱がせてゆく。
「なんか妙だね」
「なにが?」
「だって、圭織が自分を脱がしてるみたい……」
- 214 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時44分16秒
- 話し合うことで、新しい自分が見つかることがあるなんて。当たり前すぎて分からなかったし。
- 215 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時44分58秒
- 「自分で脱ぐ?」
あたしの目の色が変わったことに、よっすぃーはすぐに気がついていて。
「……脱がせて」
チラチラと寝室を見やるよっすぃーの目も、あたしはすぐに気がついていた。
- 216 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時45分36秒
- 体を合わせることで新しい自分を確信することも、あたしは本当には知らなかったんだ。
- 217 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時46分24秒
- 「ん……っ」
よっすぃーが着ている明るいクリーム色のセーターの裾から、あたしは手を差し入れる。その下に着ているTシャツの下には何も着けていないことは知っていた。
「下だけ……全部、自分で脱いで」
言い終わると、あたしはよっすぃーの耳たぶを口に含んだ。すっかり顔を上気させたよっすぃーは、目を閉じておとなしくしてる。
- 218 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時47分05秒
- 人は自分のお腹と相談して食事を摂る。同じように、あたし達はお互いの体に聞いて体を合わせる。今日はどちらがどちらを『受け入れる』かを。
- 219 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時47分42秒
- 「全部……ですか?」
スカートは手を離せば落ちてゆくけど、下着はなかなかそうはいかない。
「じゃ、後は……ベッドでね」
圭織の手の動きを止めるように、よっすぃーは服の上から胸に手をあてる。
- 220 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時48分54秒
- あたしとよっすぃーに役割のようなものは無い。強いて言えば、圭織は圭織を、よっすぃーはよっすぃーを演じていればいいだけ。あたし達は女の子である前に、圭織とよっすぃーだったから。
- 221 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時49分46秒
- 「やだっ……ベッドで……って、言った……じゃ、ない」
服の下でそれでも動いていた圭織の指に、よっすぃーは震えながら抗議していて。
「脱ぐのはね」
「……んゃっ」
……圭織って、わりとSだったのね。眉間に皺を寄せて顔を赤らめるよっすぃーって、ホントに可愛い。いや、可愛い表情はそれだけじゃないんだけれど。
よっすぃーの肌って、ホント、柔らかくて気持ちいいなあ。
「んんんんんん」
蹲ってしまったよっすぃーの体勢に合わせるように、圭織も腰を下ろす。手は服の下に滑り込ませたまま。
「……だけで一回イカせてからね」
耳元で囁くと、よっすぃーは肯定とも否定とも取れない声を上げていて。
- 222 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時50分30秒
- あたしはよっすぃーが望むように、悦ぶように指を動かして。よっすぃーが最後に聞きたがる言葉を呪文のように唱える。
「かわいいよ、よっすぃー」
- 223 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時51分36秒
- よっすぃーが怖かったのは、自分自身だったのかもしれない。でも、今はもうよっすぃーの中には圭織もいるんだ。二人が惹かれていったのは、お互いがお互いの欠けた部分を補える関係だと、どこかで感じあえてたのかも知れない。
- 224 名前:<things that we do> 投稿日:2002年03月15日(金)00時52分13秒
- 「……かお、りっ」
よっすぃーは自分の体から出てくる答えに、素直に応じていた。
圭織の指は、よっすぃーのハートの上に置かれていたから。
「よっすぃー……圭織のこと好き?」
- 225 名前:Stop the world 投稿日:2002年03月15日(金)00時53分25秒
end
- 226 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月15日(金)00時55分51秒
- 完結まで感想は黙っていましたが、(・∀・)イイ!!
名作集では久々の大人な小説ですね。
リアルタイムで最後まで読めたことが嬉しいです。
作者さん、お疲れ様でした。ありがとう。
- 227 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月15日(金)01時02分29秒
- 深かったです。。。
チンケな感想で申し訳ないですが、いい小説だなァと思いました。
お疲れ様でした。
- 228 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月15日(金)01時20分15秒
- こばん様、お疲れさまでした。
痛い最後もちょっと想像していたので、
2人が独自の良い関係を築けたラストに安心しました。
飯田さんがらみのカップリング物は苦手だったんですが、
この小説で喰わず嫌いだったということに気づきました。
作者さんの技量次第なんだと痛感しました。
毎日更新を楽しみににしていたので、
完結してしまったのがちょっと淋しいです。
もう1回読み返したいと思います。
- 229 名前:おおばん 投稿日:2002年03月15日(金)07時37分29秒
- 本当におつかれさまでした。
2人が、ただ傷つけあうだけの身体の関係から、お互い分かり合え、
補え合える関係になれたことが本当に嬉しく思います。
板小説はどうしても勢いに任せたものになりやすいので、折角滑り出しが良くても、
やや冗長になってしまうことが多いのですが、プロットをしっかり作られているということで、
長さ的にもちょうど良いし、圭織やよっすぃ〜を必要以上に、これでもかこれでもかと
追い込みすぎない匙加減も絶妙で、キャラクターへの深い愛情を感じました。
ごっちんやなっちの使い方も非常に新鮮で効果的だったと思います。
圭織―真希/ひとみ―なつみという組み合わせで事態の発展、解決に向かわせるというのも
普段あまり見かけない組み合わせだけに、違和感が残らずに絡ませるのには、細かい部分で相当
技量が必要になると思いますが、その辺も過不足なく自然に描かれていました。
よっすぃ〜が自分の過去を吐露できた後藤家の場面から後は、ある意味、もう安心して読めました。
素敵な作品をありがとうございました。
- 230 名前:謝辞 投稿日:2002年03月15日(金)23時53分17秒
- 短い間(約二週間)でしたが、おつきあいありがとうございました
またいつか、なにか作品を発表できればと思ってます
Cobain (こばん)
(# ゜皿 ゜)^〜^o#)
- 231 名前:こばん 投稿日:2002年03月15日(金)23時54分22秒
- お返事です
>226 名無し読者様
ずっと読んで頂いてたんですか。ありがとうございました
大人な作品と言って頂けて、とても嬉しいです
>227 名無し読者様
「いい小説」って、最高の誉め言葉です。嬉しいです
またいつかどこかで「こばん」を見かけたら
目を留めてやってください
>228 名無し読者様
ラスト部分は何度も書き直し書き直ししてました
当初は「飯田×吉澤」とか「かおよし」と明記しようとも
思ったのですが、書かなくて正解だったようです
楽しんで頂けて本当に嬉しいです
>229 おおばん様
始まった頃からずっとレスを頂けて、とても嬉しかったです
リーダーになってから少しだけ変わった飯田さんを書きたくて
ずっと機会を待っていた感じでした
ただ、なっちに少しだけ損な役回りをさせてしまったことを
後悔しております(w
丁寧なご感想、ありがとうございました。次作にも活かせます
- 232 名前: 名無し読者 投稿日:2002年03月18日(月)23時48分25秒
- 圭織の人物設定がすごく良かったです。繊細さを充分に持たせ
ながらも過度に流さず「真人間」を保たせている所が。
悲しいことにあまり無いんですよね(笑) >真人間( ゜皿 ゜)
デフォルメなくても、これほどに魅せる作品になるんですよね。
それから、さりげない一文にドキっとすることが結構ありました。
> 出会いに、何か運命的な飾り付けをしているだけかもしれない。
…こういうのとか。作者さんのセンス感じます。
連載中のレスは控えていましたが、大好きな小説でした。
良質の作品を、ありがとうございました。+お疲れさまでした。
次回作はぜひ ( #`.∀´) ゜皿 ゜#) で。……ダメ?(笑)
いえ真面目な話し、この作者さんの筆至で↑を読んでみたい。
ご検討願えればこれ幸いです。
- 233 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年04月09日(火)02時58分19秒
- 保全
- 234 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年05月20日(月)03時38分02秒
- 今日気がつきました。一気に読みました。すんごく描写が上手いなあ。
次回作にも期待してます。
- 235 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年06月12日(水)14時08分51秒
- 保全
- 236 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年06月14日(金)00時09分59秒
- 今日気付いて一気に読みました。
すごくいい話で感動しました。
かおりんはじめ、各キャラの心情の描写が抜群です。
また、作品を書いていただけると嬉しいです。
- 237 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月14日(金)02時08分21秒
- 感想はともかく、終わった話に保全書き込みの必要はないよ。
過去ログ倉庫できちんと保存されるのだから。
作者さんお疲れ様でした。次回作期待します、で、
倉庫行きにさせてあげようよ。
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