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君がスキ・・・

1 名前:Y 投稿日:2002年03月02日(土)10時53分51秒
はじめまして。
初めて小説を書かせていただきます。
未熟者ですが、よろしくお願いします。
2 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月02日(土)10時55分21秒
透明なカプセルが私の寝床だった。
たくさんの管が伸びている楕円形のそれは実験にも使われている。
私の今いる所は十畳ほどのコンクリートの部屋で、中央にはそのカプセル、隅には白いペンキの剥げかけたテーブルとイスのみ。
3 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月02日(土)10時55分55秒
入り口から見て前の壁には大きなガラス窓があり、たくさんの機械の置いてある研究室が見える。
左の壁にも大きなガラス窓。
この部屋はもともとあった大きな実験室を区切って小さな実験室を二つ作ったようで、隣の部屋は私の部屋と同じ構造の実験室がガラス越しから見えた。
監視カメラはないものの、研究室には研究者が出入りするため、いつも誰かに見られている感覚は捨てきれない。
4 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月02日(土)10時57分13秒
ここはとある研究所。
私は実験体としてここに暮らしている。

幼い頃から私には他の人にはない力があった。
一般で言う超能力ってやつ。
私の場合、物を自由に操る力、念動力があった。
5 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月02日(土)10時57分54秒
日本では今、私のような超能力を持った人間を研究所に収容して、解明するという研究が進められている。
この研究所はかなり前から超能力の解明作業が進んでいて、それによって分かった結果から、超能力者の力を引き出させないようにする機械−横文字の名前があるみたいだけど忘れてしまった−を開発した。
その機械がこの建物全体にあるわけで、超能力者はここではただの人間である。
ここから逃げようとする人もいるみたいだけど、超能力は封じられているし、セキュリティーは完璧だから不可能に近い。
6 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月02日(土)10時58分35秒
私は小学三年生でここにやって来た。
ここから出ることはできないし、学校はどうするんだろうと思ったけど、この研究所には多くの子供達もいるから、学校まではいかないけど専属の家庭教師が付いていて、毎日決まった時間に普通の子供達と同じように勉強できたのだった。
7 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月02日(土)10時59分20秒
私は年齢で言えば今は高校二年生。
高校の勉強はしたい人だけがすればいいので強制ではないが、私はそれまでと同じように決まった時間、勉強室に通っていた。
いつかここから出られると信じて・・・。
8 名前:夕焼け小焼け 投稿日:2002年03月02日(土)14時38分10秒
>作者さん
がんばってください。
更新楽しみにしています。
9 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月03日(日)14時47分45秒
「よっすぃ、おはよう。」

朝食をとるため、食堂にいる私に眠そうに声をかけたのはごっちんこと後藤真希。
長い茶色の髪にちょっと寝癖がついている。
きっとぎりぎりまで寝ていて、直す時間がなかったんだろう。
ごっちんも実験体。
私と同い年で、今もたまに一緒に勉強している親友だ。
10 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月03日(日)14時48分35秒
はっきり言って、ごっちんは私なんかと比べようのないほど力が強い。
パワーの強い人は体が力を抑えられなくてすぐに疲れてしまう。
だから一日の寝る時間はかなり多い。
ごっちんと会うのも勉強時間か昼休みぐらいである。

ごっちんは私よりももっと前にこの研究所に連れてこられた。
私なんか早くここから出て行きたいんだけど、ごっちんはそうではない。
というのも、ここから離れたくない理由があるからで・・。
11 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月03日(日)14時49分12秒
「おはよう。ごっちんがこんな時間に起きてるなんて珍しいね。」
今日は勉強時間はない。
それなのにごっちんが朝から起きているなんて滅多な理由がない限り珍しいことだ。
「だって今日は市井ちゃんに会えるんだもん。」
うれしそうにごっちんは笑った。
12 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月03日(日)14時50分10秒
これがごっちんの離れたくない理由。
市井さんというのはごっちん専属の研究者である。
ここでは実験体一人につき、一人の研究者が付いている。
その研究者によって検査されるのだ。

13 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月03日(日)14時50分45秒
ごっちんは女性である市井さんが好きだ。
それは憧れとかそういうものではなく、純粋に恋。
確かに同性の恋愛は冷ややかに見られがちだけど、私は別にいいと思っている。
だって市井さんのことを話すごっちん、ほんとに幸せそうなんだもん。
ごっちんはここに市井さんがいるからここから離れない。
市井さんがいるからどんな検査でも耐えられるんだ。
14 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月03日(日)14時51分30秒
「検査は今日なんだ。」
「あれ、よっすぃは違うの?」
「うん、私は明日。」

検査は不定期に行われるが、データとなる体の検査は毎日決まった時間に行われるのだ。
それは研究者が来るのではなく、カプセルによって自動的に研究者のパソコンに送られている。
15 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月03日(日)14時52分02秒
私より先に朝食を食べ終えたごっちんはすぐに自分の部屋に戻って行った。
ごっちんにとって検査もデート感覚になっているのかもしれない。
なんだかそれはとても悲しいことのように思える。
力なんてなければ、今頃いろんなとこに出かけたりできたんだろうな。
16 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月03日(日)14時52分33秒
朝食を終え、何も用のない私はとりあえず自分の部屋に戻って行った。
少し暗めの廊下。
ここは普段研究者は使用しない実験体が使う廊下。
この廊下には実験体の部屋しかない。
研究者の廊下とは違い、ひっそりとしていてどこかひんやりした空気が流れている。
私が歩く明るい場所と言えば、食堂と勉強室、洗面所、それから中庭くらいか。
中庭と言っても外に出られるわけではなく、草木があり、全面ガラスで覆われている太陽の光が入るテラスのようなもの。
憩いの場として使用されている所だ。
私はたまにそこのベンチで休んでいることがある。
・・・・外に出ることは許されない。
17 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月03日(日)14時53分33秒
私は自分の部屋のドアを開けようとして、ふと隣の部屋が気になった。
物音一つ聞こえない部屋。
確かにそこには誰かいる。
それに壁はガラスだから中を見ることもできる。
しかし、誰がそこにいるのか私は一度もその部屋の住人に会ったことがないのだ。
いつもカプセルの中にいて、起きている所なんて見たことがない。
男なのか女なのかも分からない。
これって結構不思議なことだと思う。
18 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月03日(日)14時54分21秒
私は部屋に入って、隣の部屋を覗いてみたが、やっぱり起きていなかった。
カプセルにいるのが少し見える腕で分かる。
あの人はいつ起きているんだろう。
きっと夜中なんだろうな、それしか考えられない。
私とは逆転の生活なんだ。
でも・・・一度でいいから会ってみたい。
19 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月03日(日)14時54分56秒
隣の部屋にその人が来たのは一ヶ月ほど前のことだ。
何やら研究者の人が準備してたから。
それまでその部屋は空き部屋だったから、私は一人だった。
まぁ、今も一人でいることは変わりないし、それにこの部屋は防音なので隣に誰かいたとしても話すことはできないのだけれど。
20 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月03日(日)14時55分34秒
何もする事のない時間。
休みは嬉しい人がたくさんいると思うけど、私には退屈でたまらない時間。
私はカプセルに入り、そっと目を閉じた。
21 名前:Y 投稿日:2002年03月03日(日)14時59分07秒
>夕焼け小焼けさん
はじめまして。
読んでくださる方がいてうれしいです。
毎日更新できるよう、がんばります。
22 名前:愛猫 投稿日:2002年03月03日(日)18時31分19秒
始めまして!雪板の愛猫です。
よしごま…?この先の展開に大いに期待!
頑張ってくださいね〜。
23 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)18時05分45秒
夢を見た。それは小さい頃の夢。

私は一人部屋に座っていた。
まだ小さい、幼稚園くらいの自分。

私の頭上にはくるくると飛び回る白い紙飛行機。
風がない部屋なのにきれいな円を描いてそれはゆっくりと動いている。

24 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)18時06分30秒
ガチャリ

ドアが開くのと同時に紙飛行機がぽとりと落ちた。
「ひとみ。」
自分の名前を呼ばれ、声の主の方を向く私。
その人の顔はひどくぼやけていてどんな人物か分からない。
しかし、それは確かに母親だった。
25 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)18時07分11秒
母親の視線は落ちている紙飛行機にいく。
そして母はそれを持ち上げた。
「これじゃ、飛ばないわよ。」
26 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)18時07分46秒
その紙飛行機はとても不恰好だった。
左右も均等じゃなくて誰が見ても飛ぶことなんて無理だと分かる。

それなのに飛んでいたそれ。
・・・私の、人にはない力によって。
私の力は不可能なことも可能にしてしまう。
手から飛んでいってしまった風船を私のもとに引き寄せることも。
テーブルから落ちた皿を空中で止めることも。
27 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)18時08分16秒
「ひとみの力は自然に反するものなんだよ・・・。」
「ひとみは他の子とは違うんだよ。」

なぜか頭から離れない両親の言葉と哀れみを含んだ視線。
その言葉を言われてから私は誰にもこの力を見せることはしなかった。
28 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)18時08分47秒
「はい。」
きれいに折られた紙飛行機を母親は私に手渡した。
私は笑ってそれを受け取る。
そしてひょいっと飛ばした。
それはすっと飛び、すぐに落ちた。
「うまくいかないわね。」
29 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)18時09分21秒
きれいな飛ばない紙飛行機。
不恰好な飛ぶ紙飛行機。
私の中には二つの紙飛行機が交錯していた。
30 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)20時57分43秒

暇な一日を大半寝て過ごした私はとりあえず夜もカプセルに入った。
寝ることができるだろうかと思ったが、いつも通りに眠くなってきた。
なんだかごっちんみたいだと思っているうちに私の意識はなくなった。
31 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)20時58分14秒
カタン

小さな物音が聞こえた、ような気がした。
おかしい、この部屋には私以外いないはずなのに。
誰か入ってきた?
私はゆっくりカプセルから起き上がった。
32 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)20時58分58秒
真っ暗な中にかすかに何かが動いた。
「誰?」
反射的に声を上げる。
しかし相手は私の声を気にも留めず、動いた。
おかしい・・・?

そのとき、私は気づいた。
この影、向こうの部屋?
それだったら私の声は聞こえないはずだ。
今は研究室の電気も消えていて、何も点いてないからどこまでが自分の部屋かもいまいち分かっていない。
私は電気を点けた。
33 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)20時59分45秒
パチッ

あたりが急に明るくなる。
目は暗闇の慣れていたせいで、光は少々まぶしすぎるように感じた。
私はその中、隣の部屋を見た。
34 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)21時00分35秒
そこには白いワンピースを着た少女が驚いた表情で私を見ていた。
私と同い年くらいのきれいな少女。

「あなたは・・?」
そう言ってから気づいた。
私がここで話し掛けても向こうには聞こえないんだった。
35 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)21時01分10秒
少女は微笑んだ。
そして。
『はじめまして。』
私の頭の中にかわいらしい声が聞こえた。

何だ?!
私は彼女を見つめる。
彼女は小さくうなづいた。
ということは、この声は彼女のものだ。
・・・・テレパシー?!
でもどうして使えるの?
ここでは私達の力は封じられているのに。
36 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)21時01分47秒
『私は石川梨華。あなたは?』
彼女は私に問い掛ける。
しかし私はテレパシーが使えなかった。
彼女に答えることができない・・・。
けれども。
『私の目を見て。そうすればあなたの声が聞こえるから。』
彼女は微笑んだ。

私は言われた通り彼女の目を見つめた。
『吉澤ひとみさん・・。』
私の言いたいことが彼女に伝わった。
じゃあ・・。
37 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)21時02分31秒
『どうしてテレパシーが使えるかって?』
彼女の言葉に私はうなづいた。
『私はもともと力が強すぎてこの機械じゃ完全に抑え切ることができないの。でもここでは自分の気持ちを送るのと相手の気持ちをその人の目から読み取るぐらいしかできないわ。』
(それって私の心を読んでいるってこと?)
彼女は首を横に振った。
『あなたの心の奥までは無理。あなたが私に何が言いたいかを読めるだけ。心配しないで。』
(そっか。)
私はどこか安心した。
38 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)21時03分20秒
(石川さんはいつも昼間寝てるけれど、夜、これくらいの時間に起きてるの?)
『うん。体がもたないからいつもこれくらいに。それでもせいぜい五時間くらいしか起きてられない。』
(そんなに力が強いのか・・。)
『吉澤さんは?』
(私は普通に昼間起きてるよ。そんなに力が強くないから。普段は勉強室に通ってるし、食堂でご飯も食べるし。)
『そうなんだ。うらやましいな・・・。』
39 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)21時03分54秒
(石川さんは・・・。)
『私、この部屋に来てからここから出たことがないんだ。ご飯は一日一回担当の研究者がこの部屋に持ってくるし。お風呂とかもこの部屋に付いているから。勉強もこの部屋で。』
(なんか大変だね・・。)
『しょうがないんだ・・・。』
石川さんの悲しそうな目。
何でしょうがないって割り切れるんだろう。
これじゃあ、まるで監禁だよ・・・。
40 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)21時04分36秒
『あの・・。』
(何?)
『もしよかったら・・・またこうしておしゃべりしてくれる?私、友達、いないの・・。』
最後は少し言い難そうだった。
(うん、いいよ。私もまた君と話したい。)
『ありがとう。』
私がそう言うと、石川さんはうれしそうに笑ってくれた。
『そろそろ誰か来るから・・。』
(あ、うん・・。)
石川さんは小さく手を振った。
私も手を振り返す。
41 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月04日(月)21時05分13秒
私は部屋の電気を消した。
あたりは一気に真っ暗になる。
隣の部屋も石川さんのかすかな影くらいしか見えない。
こんなに暗くて大丈夫なのかな?
そう思ったとき、石川さんの部屋の扉が開いたように見えた。
私は自分のカプセルに入り、目をつぶった。
42 名前:Y 投稿日:2002年03月04日(月)21時09分42秒
>愛猫さん
はじめまして。
雪板の小説、読ませてもらってます。
私、いしよし大好きなんですよ!
しかも甘口・・・かなりいいですね!
更新、楽しみにしてます。

これからも読んでいただけるとありがたいです。
43 名前:夕焼け小焼け 投稿日:2002年03月04日(月)21時15分08秒
更新早いね、お疲れ様。
がんばってください。
44 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月05日(火)03時38分55秒
おもしろそうですね!
がんばってください
45 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月05日(火)14時53分58秒
「よっすぃ、元気〜?」
昼頃になって私の部屋に明るい声が聞こえた。
「矢口さん。」
小柄で金髪のこの女性は一見研究者には見えないけど、私の担当の矢口真里さん。
私は背が高い方だから、話すときはいつも矢口さんが見上げる形。
そんなとき、とてもかわいいなぁなんて感じてしまう。
こんなこと言ったら、矢口さん怒るかな。
46 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月05日(火)14時57分26秒
「時間だよ。」
「はい。」
私はカプセルに寝る。
そして私は何やらたくさんのチューブを体に付けられ始める。
検査中、痛いとかはあまりない。
たまに体に電流が走ったような感覚を受けるが、耐えられないほどのものでもなかった。
何を調べているのか私には分からない。
聞いても矢口さんはあまり教えてくれなかった。
だから私ももう何も聞かないことにしていた。
沈黙があたりを包む。
47 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月05日(火)15時03分26秒
「あの・・。」
数十分後。
一通り終わったらしく、私の体からチューブを外している矢口さんに声をかけた。
「何?」
「あの、隣の人のこと、なんですけど・・。」
一瞬矢口さんの表情が強張った。
しかしすぐに何もなかったかのようないつもの笑顔になる。
「隣の子?」
自分はもう石川さんと知り合いになった。
けれどもそれは隠しておいた方がいいことなのかもしれない。
そんなことを少し思った私は知らない顔でたずねた。
「ずっと会ったことないからどんな人かと思って。」
「ああ・・そうだね・・。」
ちらりと隣の部屋を見つめる矢口さん。
48 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月05日(火)15時05分07秒
「うん・・女の子だよ。よっすぃよりも一歳年上だったかな・・。」
「何で昼間は起きてないんですか?」
「力が強いからね・・。よっすぃとは会うことはないと思うよ。・・・会っちゃダメだよ・・。」
最後の言葉はほとんど呟きに近かった。
「どういうことですか?」
会ってはいけない?石川さんに?
「まぁ・・いろいろと力の影響とかあるかもしれないしさ。」
矢口さんは軽く笑った。なんだかごまかすように・・。
「今日の検査はおしまい。お疲れ様。」
「あ、はい・・お疲れ様でした・・・。」
矢口さんは私から逃げるかのように部屋を出て行った。
49 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月05日(火)15時06分39秒
一つ分かったことは研究者は私が、いや私以外の人もそうかもしれないけど、石川さんにかかわってもらいたくなさそうだということ。
昨日の石川さんも誰かが来るからと言って、私との会話を打ち切った。
じゃあどうして私の隣の部屋に彼女を入れた?
隣の人間に会ってしまうかもしれないこんな部屋に。
個室だって確かあったはずなのに。
疑問はますます増えるばかりだ。
50 名前:Y 投稿日:2002年03月05日(火)15時24分41秒
>夕焼け小焼けさん
今のとこ、なんとか毎日更新できてます。
早ければいいってわけではないと思うのですが、見返してみたら、おかしい部分がちらほら・・・。
ちょっとネガティブ中・・・。
これからもがんばります。

>名無しさん
はじめまして。
そう言ってくださるとありがたいです。
51 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月06日(水)12時10分38秒
夜。私は昨日石川さんと会った時間に起きていた。
彼女は起きだしただろうか。
研究室の電気は消えてあって誰もいないということが分かる。
私は自分の部屋の電気を付けた。
52 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月06日(水)12時11分52秒
私の部屋の電気で隣の部屋を見てみると、そこには石川さんが椅子に座っていた。
彼女は私に気づいて微笑んだ。
『こんばんは。』
(こんばんは。)
『今日もお話してくれるの?』
(当たり前だよ。だって友達だもん。)
『ありがと。』
照れたように笑う彼女がとても愛らしく見えた。
53 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月06日(水)12時13分28秒
その日はお互いのことを話した。
石川さんは、三歳からこの研究所にいるらしく、両親や家族のことを全く覚えていないとのことだった。
もともと力が強くて、自分でコントロ−ルできなかったから、個室にずっといたらしい。
昔は超能力の暴走とかしょっちゅうだったみたい。
矢口さんが私を石川さんに近づかせないようにしたのはこのためかもしれない。
54 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月06日(水)12時14分31秒
『私、外に出たことないの。太陽の光を体いっぱい浴びたこともないし、青い空を見たことだってないんだ。』
石川さんの声はひどくさびしそうだった。
『一度でいいから外に出てみたい。きっと無理だと思うけど・・。』
(そんなことないよ。今度、一緒に見ようよ。)
私は何て言えばいいか分からなかったけど、素直に自分の気持ちを出した。
一瞬、驚いたような感じだったけど、すぐに笑顔になってうなづいてくれた。
でもその笑顔はなんだか切なくて、私は忘れることができなかった。
55 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月06日(水)12時15分16秒
いつか絶対に石川さんと外に出たい。
これは私の心の中に小さく芽生えた希望だった。
56 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月06日(水)19時21分39秒
本日一気によまさせていただきました。(遅っ
不思議な世界ですね。
これからの展開楽しみにしています。がんばってください!!
57 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月07日(木)18時11分54秒
中庭で本を読んでいると、自分の前に誰かが立っている気配を感じた。
誰かと思って私はふっと顔を上げた。
太陽のような微笑み。
58 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月07日(木)18時13分04秒
「安倍さん。」
「よっすぃ、久しぶり。」

それは安倍なつみさんだった。
彼女もここで暮らしている実験体の一人で、私がかなりお世話になった人だった。
私よりも三、四歳上で姉のように慕っている人である。
59 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月07日(木)18時13分57秒
「お久しぶりです。一年ぶり、くらいですか?」
「そうだね。なっち、ずっと個室にいたから。」
「そう、だったんですか。」
「よっすぃ、少し見ない間にきれいになったねぇ。」
「そうですか?」
私が少し照れていると安倍さんはくすくすと笑った。
そして私の隣に腰をおろした。
60 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月07日(木)18時15分36秒
安倍さんは昔から笑顔がきれいな人だった。
見た人が幸せになれるその笑顔は今も健在だ。
安倍さんは私がここに来てからすぐに出会った人で、ごっちんよりも前に知り合いになった。

ここに来たばかりの私は泣いてばかりだった。
突然両親から無理やり離されて、こんなところに連れてこられたわけだし、まわりは知らない人ばかりだったし。
ホームシックにはなるわ、外にも出られないわで毎日が辛かった。
そんなとき、私に手を差し伸べてくれたのが安倍さんだった。
61 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月07日(木)18時16分35秒
安倍さんは毎日私のところに来てくれて一緒に遊んでくれた。
いろんな話をしてくれたし、本を読んでくれた。
側にいてくれたということが私の安心にもつながって、それ以来、泣く事が少なくなった。

小学校高学年くらいになると、だんだんと友達もできるようになり、また安倍さんもいろいろと忙しくなってあまり遊べなくなったけれど、それでも週に二度ほど会えた。
しかし一年前ほどからぱったりと安倍さんと会えなくなってしまっていたのだ。
62 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月07日(木)18時17分46秒
「よっすぃは、ここから出たいってまだ思ってるの?」
「まぁ・・いつかは出たいですけど。」

昔の私は一時期「ここから逃げてやる」が口癖だった。
こんな監禁されたような生活から一刻も早く逃げたかったのだ。
逃げ出したこともあったけど、入り口にたどり着く前にすぐに捕まった。
63 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月07日(木)18時19分38秒
どうして私には超能力なんてあるの?
こんなのさえなければ私はこんな目に合わなかった。
いつも思うのはそんなことばかり。
安倍さんはそんな私を慰めてくれていたのだ。

あの頃はここから逃げることに必死だった。
そのことに情熱を傾けていた。
けれども今の私にはそんな熱い想いは消えかけていた。
出たいことは出たい。
でも無理ならそれまで、などという気持ちがだんだんと出てきた。
そして私は何に対しても無気力になっていった。
64 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月07日(木)18時20分37秒
「なっちね、研究員になろうと思って。」
「安倍さん?」
「実はこの一年間、研修室に通っていたんだ。」
研修室。それは正式に研究員になるために必要な知識を学ぶところだ。
実験体が大きくなってから研究員になるということはよくあるケースだった。

「一応試験も受かってね、もうすぐ研究に参加できるの。」
「そうなんですか。おめでとうございます。」
「ありがと、よっすぃ。」
65 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月07日(木)18時21分52秒
ピピピ・・・

何かのコール音。
それは安倍さんのポケットからだった。
「あ、もうなっち、行かなくちゃ。これからまた研修なんだ。」
「がんばってください。」
「うん、じゃあね。」
「はい、さよなら・・。」
安倍さんがバイバイと手を振ったので、私もそれに応えるように手を振った。
66 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月07日(木)18時24分00秒
(なっちも早く外に出たいんだよ。)
昔、安倍さんがそう言っていたことを思い出す。
私は安倍さんもここから出たいのだとずっと思っていた。
しかし・・・。
安倍さん、あなたはここに残ることを選んだんですね・・・。
67 名前:Y 投稿日:2002年03月07日(木)18時33分23秒
>よすこ大好き読者さん
はじめまして。
ありがとうございます。
これからもお暇でしたら読んでやってください。
68 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月07日(木)20時04分34秒
はい。しっかり交信チェック!!させていただきました!(^^)
最後まで、お付き合いさせてくださいね。
これからどんな展開になるか想像できないので、期待して待ってます。
がんばってください!
69 名前:夕焼け小焼け 投稿日:2002年03月07日(木)21時14分28秒
更新お疲れさま。
これからどうなってくのか、まったくわかりません...
今後の展開に期待してます。
70 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月08日(金)02時36分31秒
この小説は、某バンドのPVが元になってるんでしょうか?
間違ってたら申し訳ないですけど。
これからの展開も楽しみにしています。
71 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時02分31秒
私と石川さんは毎晩のように話すようになった。
矢口さんの「会っちゃダメ」という言葉を忘れたわけではないけれど、私には彼女が大事だった。
彼女との会話を楽しみにしている自分がいた。
72 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時03分30秒
お互いのことを「ひとみちゃん」「梨華ちゃん」と呼ぶようになったこと。
私自身もテレパシーというか自分の気持ちを送ることができるようになったこと。
彼女のことを知るたびに、彼女のいろいろな表情に触れるたびに、私は梨華ちゃんのことを好きに・・・恋愛感情を持つようになっていったこと・・・。
私と梨華ちゃんの関係は親しくなっていった。
73 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時04分31秒
梨華ちゃんの瞳は宝石のようにきらきらと輝いていてとてもきれいだった。
そこには純粋さが見え隠れしていて、どこまでも透き通っているようだった。
そんな瞳で見つめられると、私の胸はしめつけられるように痛くなる。
見えない鎖で心を縛られたかのような・・・束縛感。
でもそれは心地よい束縛・・・。
彼女の笑顔は簡単に私を幸せにする。
私って単純だなぁって呆れることもあるけど、でも嫌じゃない。
74 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時05分09秒
梨華ちゃんはある意味、何も知らない子だった。
実験室から出られないということもあって、いろいろなことに対する経験が乏しかった。
友達と遊んだこともないし、スポーツをしたこともなかった。
テレビも見たことないし、音楽を聴くことももちろんなかった。
もともと起きている時間が少ないから、食事とか検査とかであっという間に時間が経ってしまうからだ。
それでも勉強はしているから知識はあって。
時間があったら本も読んでるみたいだから、有名な文学小説なんかも詳しかった。
こないだなんか家庭教師の平家先生から少女漫画を借りたとかで、恋愛とは・・なんて話してくれた。(その漫画がベタな話だったのは言うまでもない。)
梨華ちゃん自身は人と接することがあまりないから恋愛はしたことがなかったみたいだけど。
75 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時05分56秒
いまだに私達が会っていることは他の人には秘密だ。
矢口さんの忠告もあるけど、梨華ちゃん自身も担当の研究者に言われているらしい。
私は自分の部屋には鍵がかかってないし、食堂とかに行って誰かと話したりできるけど、梨華ちゃんの部屋には鍵がかかっていて、部屋の外に出ることさえできなかった。
梨華ちゃんが担当者以外と接することができないようになっているのだ
76 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時06分58秒
どうしてそこまで梨華ちゃんを閉じ込めなければならないのか。
私には全く分からなかった。
二人で話していても超能力の暴走とかも全然ないし。
でも何かある・・。
私はそう思わずにはいられなかった。
とにかく彼女を自由にさせてあげたい、という想いがあった。
77 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時36分04秒
『梨華ちゃん、起きてる?』
いつもと同じ時間。
私は彼女にテレパシーを送った。
『・・・ひとみちゃん・・。』
ワンテンポ遅れて梨華ちゃんの返事がくる。
私はランプに明かりを灯した。
かすかな明かりが私と梨華ちゃんの姿を暗闇から浮き出させる。
部屋の電気をつけることはやめた。
もしかしたら研究者達にバレやすいかもと危惧して。
78 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時36分45秒
『ひとみちゃん、外のお話してくれる?』
めずらしく梨華ちゃんの方からそんなことを言ってきた。
私達の会話はその日にあったことなんかを私が話して、梨華ちゃんがそれに対してコメントというか相槌を打つという形だった。
一日のほとんどを寝ている梨華ちゃんはリアルな生活に飢えていた。
リアルといっても、私だって一般の人の生活とは違うんだけど。
ちょっとした普段の話でも楽しそうに笑ってくれた。
79 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時38分03秒
『外って?』
『この研究所の外のお話。小学校三年生になる前は外にいたんでしょ?』
『うん、まぁね。そうだなぁ・・・。』

私は昔に記憶をめぐらす。
まだ家族と一緒に暮らしていた頃。
自分には人とは違う力があるのに気づいて、でも人前ではそれを見せないように親から言われて、必死になって隠していた。

それでもあの頃は自由だった。
何にも束縛されなくて、こんなところに閉じ込められなくて。
こんなところに来ることになるとはあのときは思いもよらなかった。

80 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時38分46秒
『ひとみちゃん?』
梨華ちゃんに名前を呼ばれてはっとする。
少し昔に浸りすぎた。
『ごめんね。』
『ううん、いいんだけど。』
梨華ちゃんはふるふると首を横に振った。
81 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時39分39秒
『じゃあ、私が小さい頃に行った丘のことを話そうかな。』
私がそう言うと、梨華ちゃんはうれしそうに笑った。
子供のような無邪気な笑顔。
・・・そうだ、梨華ちゃんはずっとここにいるんだよね。
物心ついたときからすでにこのコンクリートの景色しか知らないんだ・・。
そう思うと、ひどく彼女がかわいそうに思えた。
82 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時40分13秒
その丘は私がまだ小学校に入る前だったと思う。
私は小学校に入るときに引っ越したんだけど、それまでは海の見える街に住んでいた。
どこかなんてことはもう忘れてしまったけど。

私はよく母親に丘に連れていってもらっていた、と思う。
このあたりはとても曖昧だ。
ただその丘から見える青い空と青い海だけが記憶に残っていた。
83 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時40分51秒
遠くに見える街はまるで人形の街のよう。
家も車もみんなミニチュアで、何だかおもちゃの国みたいに思っていた。

丘には大きな木が一本があって、それはまるで街を見守っているかのように立っていた。
登ってみたいと思っても、あまりにも大きすぎるから無理だった。
いつか絶対登ってやると誓ったのを覚えている。

84 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時41分36秒
風は爽やかで、どこかやさしくて・・。
生えている草を引っこ抜いては風に飛ばした。
まるで草が空に吸い込まれているようで、子供心にうれしかった。
私は太陽が落ちるまで遊んでいた。
夕日が全てを真っ赤に染めても、ただ私はそこから見える景色を見つめていた。
離れたくなかった。
また来れるはずなのに、私はもう二度と来れないと思ってしまった。
私は家に帰らなければならなくなると、きまって駄々をこねた。

85 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時42分54秒
引っ越してからは当然、そこには行けなくなって、そして、この研究所に連れてこられて。
けれどもあの丘の景色だけはいまだに忘れることができない。
86 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時43分57秒
『私、そこに行ってみたい!』
梨華ちゃんが目をきらきらと輝かせた。
『すっごくいいとこだよ。二人で行こう。』
『うん、約束だよ。』
私は大きくうなづいた。
87 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月08日(金)18時44分38秒
私はその約束を絶対に叶えたい。
梨華ちゃんの笑顔を見たいというのもあるけど、二人で外を歩きたい。
この世にはたくさんのきれいなものがあるんだよって梨華ちゃんに教えてあげたい。
君にはきっと青い空の下が似合うと思うから・・・。
88 名前:Y 投稿日:2002年03月08日(金)18時45分32秒
>よすこ大好き読者さん
ありがとうございます。
期待に応えられるかどうか心配ですが、がんばります。
最後までよろしくお願いします。

>夕焼け小焼けさん
いつもありがとうございます。
今後かなり展開が速くなりそうな予感です。
うまく伝わるか不安なんですが、よろしくお願いします。

>70 名無しさん
はい。確かに某バンドのPVを見て思いついたものです。
一応その曲に感謝の意を込めてタイトルをこれにしたんですけど・・。
この話の舞台のイメージはあんな感じです。
PVは今後の話の展開にちょっと・・。
89 名前:夕焼け小焼け 投稿日:2002年03月08日(金)22時10分43秒
更新お疲れ様。
( ^▽^) (^〜^0)最高。作者さんがんばれ。 
90 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月09日(土)06時50分24秒
おもしろいっす!
今自分が一番注目している作品なんで期待してます!!
91 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月09日(土)19時06分21秒
そうですか・・・例のPVですね。(笑
なんか、頭に想像しやすかったのは・・・・。
でも、梨華ちゃんには、いったいどんな謎が?
外に出ることが出来るんでしょうか?がんばってください。
92 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月09日(土)21時34分45秒
中庭で私は何をすることなくぼぉーっとしていた。
頭に浮かぶのは梨華ちゃんの顔。
日に日に彼女への想いが強くなっているのが自分でも分かっていた。
93 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月09日(土)21時35分42秒
ふいにつんつんと背中をつつかれ、はっとして振り向くとそこには笑顔の辻がいた。
彼女、辻希美は十四歳の少女で、私と同じ実験体である。
数年前にここにやって来て、ひょんなことから知り合った。
私は辻にベンチに座るようにうながすと、うれしそうにうなづいてちょこんと座った。
94 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月09日(土)21時36分43秒
「よっすぃは外に出たら何かしたいことってある?」
突拍子もないことを言われ、私は一瞬戸惑う。
この子はたまに笑顔でこんなことを言ってくる。
彼女にしてみれば自分の中ではつながってるんだと思うけど。
「そうだなぁ・・辻は何かあるの?」
「うん、ののは歌を歌いたい。歌手になりたい!」
「歌・・歌手?」
辻はにこにこ顔で大きくうなづいた。
「こないだテレビで聞いた歌がすっごく良くて好きになっちゃったんだ。」
「歌、かぁ。」
最近テレビ見てないなぁ。
今流行りの歌とか全然知らないや。
95 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月09日(土)21時37分51秒
「どんな歌なの?」
私がたずねると、辻はゆっくりと丁寧に歌い出した。
「ひとりぼっちで少し 退屈な夜 私だけが淋しいの Ah Uh〜♪」
私は胸がドキリとした。
「人生って すばらしい ほら 誰かと 出会ったり 恋をしてみたり〜♪」
歌詞の言葉がひとつひとつ私の心にダイレクトに届く。
私がそんな風に感じてるとは知らず、辻は最近覚えたその曲を歌いきった。
「いい曲でしょ〜。」
「・・そうだね。」
満足げな顔でいる辻に私はうなづいた。

96 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月09日(土)21時39分07秒
ここに来た頃、正確には最近まで私は人生がすばらしいなんて思ったことはなかった。
私には自由がなかった。
ここから出たいのに出られない、束縛感を感じていた。
けれども最近人生も捨てたもんじゃないと思うようになっていた。
そう、それは梨華ちゃんと出会ったから。
梨華ちゃんに恋をしたから。
モノクロだった私の心に色をつけた彼女。
彼女がいるからこそ人生はすばらしいと感じることができた。
97 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月09日(土)21時40分26秒
「よっすぃはどうなの?」
「へ?」
私が聞き返すと、辻は少し怒った表情をした。
「よっすぃは外に出たら何したいのって。ののはちゃんと言ったよ?」
「あ、ああ・・そうだったね。」
私は・・・私は・・・・。
「そうだな、思いっきり外の空気を吸いたいかな。家族も元気なのかなーって気になってるし。まぁ、いろいろだよ。」
「そっか。そうだよね。ののもお母さん達に会いたいもん。いろんなことしたい。」
思いっきり笑ってから辻はすたっと立った。
「もう行くね。」
「うん、またね。」

98 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月09日(土)21時42分21秒
ぱたぱたと走っていく辻の背中を見つめてふぅーっと溜息をつく。
私は・・・梨華ちゃんと一緒にいたい。
彼女が私の隣にいて、私が彼女の隣にいたい。
・・・・彼女と外に出たい。
99 名前:Y 投稿日:2002年03月09日(土)21時56分20秒
>夕焼け小焼けさん
私、いしよし好きなんで・・。
これからかなりいしよし一色です。

>90 名無し読者さん
ありがとうございます。
そう言っていただけて光栄です。

>よすこ大好き読者さん
例のPVです(きっぱり)
石川さんに謎という謎は・・。
あまり深くないのでがっかりされてしまいそう・・。
100 名前:夕焼け小焼け 投稿日:2002年03月09日(土)22時43分36秒
連日の更新、恐れ入ります。
( ^▽^)<作者さんがんば!!
101 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月10日(日)03時40分48秒
いしよし一色に期待
102 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月10日(日)17時56分21秒
これから、いしよし一色ですか!!
たのしみにしています。がんばってください!
103 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)21時55分35秒
「よっすぃ、久しぶり。」
食堂に入る直前に声をかけられ、私は振り向くと、片手を挙げているごっちんがいた。
「あ、ごっちん。」
「最近、よっすぃと昼間会わなかったね。」
「ああ、うん、そうだね。」
夜、梨華ちゃんと会う分、昼間に寝ていたから。
そういえば最近、睡眠時間が増えているような気がする。
104 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)21時56分20秒
私はそのとき、ごっちんが茶色の紙袋を持っていることに気づいた。
「何、持ってるの?」
「あ、これ?」
ごっちんが紙袋を持ち上げて、私に見せる。
「お菓子の材料だよ。」
「お菓子?」
「うん、市井ちゃんに作ってあげようと思ったの。」
そう言って笑顔になる。
105 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)21時57分03秒
一瞬、梨華ちゃんの顔が浮かんだ。
あの子は外に出られないから、お菓子とか食べられないのかなぁ。
作ってあげたら喜ぶかも。
そう思ったが、すぐにそれが無理だということに気づいた。
そうだ、部屋の中には入れなかったんだ。

「よっすぃにもできたらあげるね。」
「ありがと。楽しみにしてるよ。」
ごっちんは手をひらひらと振ると、調理室の方へ歩いていった。

106 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)21時57分38秒
その夜も私は梨華ちゃんと会った。
昼間、ごっちんから約束通りクッキーをもらった。
それはとてもおいしくて、きっと市井さんへの愛が詰まってるんだろうなぁなんて思った。
その話を私は梨華ちゃんにしよう思った。
107 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)21時58分19秒
『今日、ごっちんから手作りクッキーをもらったんだ。』
『ごっちんってひとみちゃんのお友達だよね?』
前にごっちんの名前だけ出したことがあったのだ。
『うん、そうだよ。なんか市井さんに渡すってがんばってたんだ。』
『イチイさん?』
梨華ちゃんが首をかしげた。
『あ、話してなかったっけ。市井さんはごっちんの担当者なんだ。ボーイッシュなクールな人で。その人、女の人なんだけど、ごっちんが恋してるんだ。』
『恋・・・。好きなんだ・・・。』
梨華ちゃんは少し驚いたようだった。
それって同性に恋してるからなのかな。

108 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)21時58分54秒
『梨華ちゃんは同性の恋愛はいけないって思う?』
聞いてからはっとした。
もしこれでうなづかれちゃったら、私の梨華ちゃんへの想いも否定されてしまうことになる。
告白するつもりはなかったんだけど、かなりショック受けるかも・・。

109 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)21時59分35秒
『ううん、そうは思わないよ。』
その返事を聞いて私はほっとした。
『ひとみちゃんは?』
反対にたずねられた。
『私もいけなくないと思う。好きになったらそんなの関係ないよ。』
現に私は梨華ちゃんに恋してる。

110 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)22時00分36秒
ふいに会話が途切れた。
こんな話をするつもりなかったんだけどな・・。
何を話そう・・。

『あっ、ああ、そうだ、梨華ちゃんはお菓子とか食べたりする?』
苦し紛れの質問。
『・・うん、あまりないけど、たまに、保田さん・・・あ、私の担当の人が持ってきてくれるの。私は甘いもの大好きだよ。』
『そっか・・。』

111 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)22時01分16秒
私はちらりと時計を見た。
そろそろ担当者が来そうだ。
『じゃあ、今日はこの辺で。』
『あ、待って。』
私はカプセルに入ろうとしたら、梨華ちゃんが私を呼び止めた。
112 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)22時02分07秒
『あ、うん、何?』
『あ、あのね、ひとみちゃんは・・・その・・・。』
ひどく言いにくそうな梨華ちゃん。
なんだかうつむいて落ち着かない様子だ。
『?』
『・・・私のこと、どう思ってる?』
『へっ?』

113 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)22時02分38秒
『あ、うん、何?』
『あ、あのね、ひとみちゃんは・・・その・・・。』
ひどく言いにくそうな梨華ちゃん。
なんだかうつむいて落ち着かない様子だ。
『?』
『・・・私のこと、どう思ってる?』
『へっ?』

114 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)22時03分24秒
梨華ちゃんは上目遣いで私をじっと見てる。
私は梨華ちゃんの目から離せなかった。
心の中に梨華ちゃんへの想いがじわりじわりと膨れてくる。
少し見つめあった形でいると、ふいっと梨華ちゃんの方から視線をはずした。

『あ、ごめんねっ。変な事聞いちゃって。今の気にしないで。』
『気にするよ・・。』
『えっ?』
私の言葉に驚いたのか、梨華ちゃんはうつむいていた顔をぱっと上げた。
115 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)22時04分16秒
『梨華ちゃんのこと、好きなんだ。』

さっきまで告白するつもりなんてなかったのに。
私は自分でも驚くほど、はっきりと彼女への想いを口にしていた。
先のことなんて考えてる余裕はなかった。
ただ想いが止まらなくなっただけ。
・・・梨華ちゃんのせいだよ?あんなこと言ったから・・・。

116 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)22時04分46秒
梨華ちゃんはびっくりしてた。
でもそれがだんだんと笑顔になっていって・・。

『私もひとみちゃんのこと・・・好き。』
117 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)22時05分26秒
梨華ちゃんが瞳をうるませて私を見つめた。
二人の想いが通じ合った瞬間だった。

118 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月10日(日)22時36分10秒
>夕焼け小焼けさん
今日の更新、無理かと思ったのですが、なんとかできました。
あと数回くらいで終わると思うので、最後までお付き合いくださいませ(一礼)

>101 名無し読者さん
いしよし・・・自分の好みとかってやっぱり出ちゃいます。
期待に応えられるよう、がんばります。

>よすこ大好き読者さん
とにもかくにもがんばります。
最後までよろしくお願いします。
119 名前:夕焼け小焼け 投稿日:2002年03月10日(日)23時33分52秒
(0^〜^)♥(^▽^ )

更新お疲れ様。がんばれ。
120 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月11日(月)00時59分46秒
二人の思いが通じ合いましたねー(笑
これからの展開楽しみです。
121 名前:Y 投稿日:2002年03月11日(月)23時27分27秒
昨日の更新分、かなりいろいろと誤字、脱字がありました。
しかも二重投稿まで・・(泣)
読み難くくなってしまい、申し訳ありませんでした。
あわててると、ろくなことない・・(反省)
122 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月11日(月)23時28分18秒
また夢を見た。

暗闇の中に一人ぽつんと立っている私。
ここはどこだろうとあたりを見回していると、ふと目の前に白い服の小さな少女が現れた。

それは幼稚園くらいの“私”だった。
「どうして・・・。」
“私”はゆっくりと私に近づき、何かを渡した。
「これは・・。」
白い正方形の紙切れだった。
123 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月11日(月)23時28分50秒
「ひとみはどんな紙飛行機を折るの?」

感情のこもっていない声。
子供っぽくないやけに大人びてる響き。
「私は・・・。」
124 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月11日(月)23時29分28秒
きれいな飛ばない紙飛行機。
みんなに受けいられる普通の紙飛行機。
不恰好な飛ぶ紙飛行機。
みんなによく思われない他と違う紙飛行機。

「さぁ、ひとみはどっちを選ぶ?」
125 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月11日(月)23時30分01秒
答えなんて・・・決まってるじゃん・・・。
いまさらきれいな紙飛行機なんて私には作れない。

「そう。だったら受け入れるんだよ。」

分かってるよ、分かってる。
けれどやっぱりまわりと違うのは嫌だったんだよ。
両親に同情的に見られるのは嫌だったんだよ。
126 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月11日(月)23時30分35秒
「でも今はこの力があってもよかったって思ってる。」

そうだよ、だって彼女と同じなんだもん。
私と梨華ちゃんは同じなんだもん。
この力がなかったら梨華ちゃんとテレパシーで話せなかったし、ここで出会うこともなかった。
127 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月11日(月)23時31分22秒
「ひとみは・・もう大丈夫だね・・。」

こんな力がなければこんなところに閉じ込められることはなかったっていつも思っていた。
こんな力さえなければと。
・・でももう大丈夫。
もう自分の超能力からは逃げ出さない。

すると暗かったまわりが一気に明るくなっていった。

128 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月11日(月)23時59分23秒
>夕焼け小焼けさん、よすこ大好き読者さん
いつもありがとうございます。
がんばります。
129 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月12日(火)22時39分41秒
梨華ちゃんと両想いになってから数日。
変わったことと言えば、『おやすみ。』と言う前にお互い愛の言葉をかけるようになったことだけ。
それ以外は今までと少しも変わらない梨華ちゃんとのおしゃべり。
130 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月12日(火)22時40分31秒
このガラスがなかったら。
梨華ちゃんの部屋に鍵がかかってなかったら。
こんな閉じ込められた空間にいなかったら。
そもそも超能力なんて持ってなかったら。
私達はどうなっていただろう。
それでも出会ってたのかな。
今よりももっと幸せになれた?
最近になってそんなことを思うようになった。
恋をすると「もしも」の話が増えるのは私だけ?
そう思うと、何だか笑えてきた。
131 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月12日(火)22時41分07秒
『梨華ちゃん、最近痩せた?』
『えっ、そうかなぁ。』
梨華ちゃんがまじまじと自分の体を見回している。
『前から細かったけど、最近なんだかよけいに。ちゃんと食べてる?』
『ちゃんと食べてるよぉ。ひとみちゃんは心配性なんだから。』
梨華ちゃんはあははと笑った。
『すっごく心配にきまってんじゃん。梨華ちゃんが倒れたらやだよ。』
声を出して笑っていた梨華ちゃんは笑うのを止め、ふっと微笑んだ。
『ありがと・・。』

132 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月12日(火)22時41分44秒
あまりにやさしく彼女が笑うものだから私はやけに照れを感じてしまった。
そして私は梨華ちゃんからちょっと視線をはずした。
『もし倒れちゃったら、一緒に丘に行けないじゃん・・・。』
『ひとみちゃん・・・。』
一緒に外に出られなくなるのは嫌だ。
今の私の一番の願いは梨華ちゃんと一緒にここから出ることなんだから。
133 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月12日(火)22時42分30秒
『私、外に出られるかなぁ。』
独り言のように聞こえてきた梨華ちゃんの声。
私が梨華ちゃんを見ると、彼女はうつむいていた。
『何言ってんのさ。絶対外に出られるって。』
『・・そう・・だよね・・。』
私は大きくうなづいた。
134 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月12日(火)22時43分15秒
『最近ね、自分の中にある力が大きくなってる気がするの。』
『うん。』
そう言われてみれば私もそんな気がする。
『今は自分の力も抑えられてるし、研究者の人もいるから何かあっても平気だけど、外にでたとき・・・不安なんだ。』
膝の上の梨華ちゃんの手がぎゅっと握られた。
『私、大丈夫なのかなぁ。』
『梨華ちゃん・・。』
『力の暴走とかいろいろ・・・。』
梨華ちゃんはそこまでしかテレパシーで送ってこなかった。
しかし何を考えているのか私には分かってしまったのだ。
(私・・・生きていけるのかなぁ・・・。)

135 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月12日(火)22時44分19秒
外に出たい、ここから出たいと言っても、実際、私達が外に出たらどうなるのだろう。
何か不都合なことでもあるのだろうか。
そもそもどうやればここから出て行けるんだろう。
今になって大事なことに気づく。
136 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月12日(火)22時45分33秒
なぜそこまでここから出たいと思う?
その理由はたった一つ。
彼女に外を見せてあげたいということだけ・・・。

それは、何に対しても無気力だった私のたった一つの願い。
137 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月13日(水)18時32分42秒
どうなってくんだろう・・・
138 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時30分21秒
中庭で本を読んでいた私は自室に戻ろうと廊下を歩いていると、ふと小さな話し声が聞こえた。
誰もいないはずの会議室に二人の研究者。
一人は矢口さんだった。
もう一人は・・・分からない。
少しつり目のきびしそうな感じの人。
矢口さんよりも全然、研究者っぽい。(矢口さん、ごめんなさい。)
139 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時31分28秒
「よっすぃの体調は全然大丈夫。何も変わったとこはないよ。圭ちゃんの方は。」
なにやら資料を見ながら、矢口さんはもう一人の研究者に話を振った。
「石川の方は・・。」
石川?それって梨華ちゃん?
ということはあの人、梨華ちゃんの担当の・・・、保田さんって言ってたっけ。
140 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時32分37秒
「こっちもなんとか大丈夫。力もコントロールできるようになったし、落ち着いてきてる。発作も最近ないし。」
発作?梨華ちゃん、病気でもあるの?
「最近、調子がいいんだよ。だから私としては安心してるけど。」
「圭ちゃんはほんっと石川には心配性だよ。」
「今は大丈夫だけど、いつダメになるか分からないからさ。」
ダメ?梨華ちゃんが?どういうことなんだよ。
私は二人の言っていることが分からなかった。
141 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時33分21秒
「あとは時期を見てって感じだね。」
「そうだね。吉澤ほどの器はそうそういないし、石川ほどの力もそうそうないし。」
「よっすぃはほんと強い力を受け止める器、ばっちりだよ。石川は強い力持ってるけど、あの体じゃ、これからつらいとこだもんね。」
「もう少しもつとは思うよ。でももうあまり時間はないかもね。」
「そうだね。でも遅かれ早かれこれやったら石川はさ・・。」
「矢口・・。」
どこか暗い表情の矢口さんはふっと溜息をつく。
何・・・何なんだよ・・・、訳分かんないよ・・・。
器って何さ?これからつらいって何?
私、どうなるの?梨華ちゃん、どうなっちゃうの?
混乱している私は次の言葉を聞いて目の前が真っ暗になった。
142 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時34分08秒

「早めに石川の力を取り出して、よっすぃに注入しなきゃ。」
143 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時37分47秒
私と梨華ちゃんを会わせないようにしたのはこの目的のため?
部屋が隣同士なのは最初からこれをするため?
私と梨華ちゃんは・・・・どうなるの?
144 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時38分38秒
梨華ちゃんが部屋から出してもらえなかった理由・・・。
さっき保田さんが発作とか言っていた。
たぶんそれがあるからだと思う。
部屋の外にも誰か研究者はいるけれど、それでも人目のないところで倒れられたら大変だもんね・・。
梨華ちゃんは自分の体が弱いことを知っていたから、部屋から出られないことをしょうがないってあきらめていたのかもしれない。

145 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時40分35秒
私は一人、ふらふらと廊下を歩いていた。
いまだに頭の中が整理できていない。
信じられないと言った方が正しかった。

逃げなきゃ・・・。

無意識に本能的に私はそう感じた。
梨華ちゃんを連れてここから逃げなきゃ。
そうしないと私と梨華ちゃんは・・・。

146 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時41分53秒
私は急いで梨華ちゃんの部屋に向かう。
あいかわらず人気のないそこで、私は彼女の部屋のドアノブを回した。
やっぱり開かない。

ガチャガチャ

静かな廊下に響く金属の音。
(何で開かないんだよっ!)
半分キレぎみだった。
開けることは無理だと分かっていても、それでも私は回し続けた。
147 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時42分39秒
次に私は自分の部屋に駆け込んで、部屋を区切っているガラスを叩き出す。
割れることはないと分かっていても、せずにはいられなかった。

『梨華ちゃん、梨華ちゃん。』

テレパシーで彼女を呼び続けて。
私は必死だった。
このままここにいたら、私達は・・・。
148 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時43分48秒
「ちょっと、よっすぃ、何してるの?!」
研究室から見えたのだろうか。
矢口さんが慌てて、部屋に入ってきた。
そしてガラスを叩くのをやめない私を止めようと、腕をつかんだ。
「放してっ。」
私は腕を振り払った。
もともと体の小さな矢口さんはあまり腕力もないから、いとも簡単に振りほどくことができた。
小さい体が床に叩きつけられる。
うめき声が聞こえた。
いつもだったら気にする私もこのときばかりはそんな余裕はなかった。

149 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時44分48秒
必死に梨華ちゃんの名をテレパシーで呼び、ガンガンッとガラスを叩く。
手が痛くなってきた。うっすらと血も滲んできた。
それでもやめることはできない。
150 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時45分49秒
「吉澤!」
保田さんが駆け込んできた。
そしていまだ床から起き上がれない矢口さんのもとに駆け寄る。
「大丈夫?」
「うん・・・矢口は平気・・・。圭ちゃん、よっすぃを・・。」
そんな会話が聞こえてきた。
しかし興奮している私の頭の中にそれをとどめておくことはできなかった。
それから誰かが−おそらく保田さんだろうけど−が私に近寄ってきて・・・。

いきなり白いハンカチで口を覆われた。
「んんっ・・。」
私は抵抗したが、しだいに意識を失っていって・・・。
151 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月14日(木)17時48分00秒
(梨華ちゃん・・・。)
完全に失う前に見えたのは梨華ちゃんの笑顔だった・・・。

152 名前:夕焼け小焼け 投稿日:2002年03月14日(木)18時57分38秒
作者さん更新お疲れ様です。
話が大きく動き出しましたね...次回の更新に期待が膨らみます。
153 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月14日(木)23時16分14秒
・・・・どうなるのかな
154 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月16日(土)10時57分38秒
『ひとみちゃん・・・。』
遠くから愛しい彼女の声が聞こえる。
梨華ちゃん・・・?

私ははっとして目をあけた。
気づけば私はカプセルの中にいた。
少し手に痛みを感じ、見てみると包帯で巻かれていた。
私・・・どうして・・・・?
155 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月16日(土)10時59分04秒
『ひとみちゃん・・・。』
もう一度声が聞こえて、私は急いでランプの明かりをつけた。
隣の部屋には心配そうにこちらを見ている梨華ちゃんがいた。

『あ、梨華ちゃん、ごめんね。』
『ひとみちゃん、大丈夫なの?』
『何が?』
『だって昨日、私がテレパシー送っても何も応答がなかったから。』
『えっ?』
156 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月16日(土)11時00分03秒
昨日?確かに私は昨日も梨華ちゃんと話して・・・。

『梨華ちゃん、今日何日?』
『今日は二十二日だけど。』

一日ずれていた。
たぶんあのとき、意識を失った後に安定剤か何か打たれたのだろう。
きっと私はそのままずっと寝ていたにちがいない。
つまり丸一日寝ていたことになる。
157 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月16日(土)11時00分37秒
『でも、よかった。』
安心したような梨華ちゃんの声。
『梨華ちゃん?』
『もしかしたらもうお話できないのかと思った。』
『そんな、心配しすぎだよ。』
『だってだって・・・。』
梨華ちゃんはそう言うと、ぎゅっとスカートの端をにぎった。
158 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月16日(土)11時01分21秒
『一日ひとみちゃんに会えないだけですごく不安だったの。さびしかったの・・。』
『梨華ちゃん・・・。』
『すごく会いたかった・・・。』
159 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月16日(土)11時02分03秒
ガラス越しの梨華ちゃんを見つめる私。
せつなそうな彼女の顔。

『あなたの声が聞きたい・・。』

頭の中に聞こえてくる梨華ちゃんの声。
お互いの声は耳には決して届かない。
いつだってテレパシーで会話していた。
梨華ちゃんはガラスに両手をついて、私を見つめる。
160 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月16日(土)11時02分57秒
『あなたに・・触れたい・・。』

私もそっとガラスに近づいて、彼女の手に自分のを重ねた。
ひんやりとした堅いガラスの感覚。
本当の彼女の手はきっとあたたかくてやわらかいはずなのに。
そう思うと悲しくなった。
梨華ちゃんの姿は見えるのにたった一枚のガラスの壁のせいでとても遠く感じる。
161 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月16日(土)11時03分43秒
『梨華ちゃん・・・。』
『ひとみちゃん・・。』

お互いの顔がそっと近づく。
そして、私達はガラス越しのキスをした。
それは冷たい冷たい感触。
私は涙が出てきた。
梨華ちゃんも泣いていた。
こんなにもスキなのに、こんなにも近くにいるのに、私は愛する人に寄り添うこともできない。
162 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月16日(土)11時04分18秒
君の声が聞きたい。
君に触れたい。
私達にはそんなささやかな願いも叶えられないのですか・・・?

163 名前:Y 投稿日:2002年03月16日(土)11時07分17秒
>夕焼け小焼けさん
 名無し読者さん
ありがとうございます。
次回の更新でこの話は終了します。
最終回も見てやってください。
164 名前:夕焼け小焼け 投稿日:2002年03月16日(土)12時40分51秒
更新お疲れさま。
次回最終回ですか、がんばってください。
165 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月16日(土)13時36分12秒
交信お疲れ様です
最終回ですか、どうなるのか…
頑張ってください
166 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月16日(土)13時50分23秒
次回最終回ですか・・
悲しいけど楽しみに待ってます!
167 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年03月16日(土)20時32分29秒
終わっちゃうのですか・・・・・(T0T)
最後どのようなかたちで終わるのか、ドキドキです。
楽しみにしています。
168 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時06分33秒
梨華ちゃんには矢口さんと保田さんの話は言えなかった。
きっとあんなこと知ったらショックを受けるにきまってる。
彼女の悲しむ顔を見たくなかった。
169 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時07分37秒
矢口さんは前よりも私の所へ来るようになった。
検査日でなくてもちょくちょく部屋に来るし、部屋の外でも視線を感じるようになった。
あのときのことは聞かれることはなかったけれど、私のことを警戒しているのは確かだ。
私はそれに気づかない振りをしている。

矢口さんは私と梨華ちゃんが知り合いだということに気づいてしまったのだろうか。
気づかれていないとしても今の私はとにかくおとなしくしているだけ。

170 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時08分22秒
私はここから逃げるのをあきらめたわけじゃない。
必ずチャンスはある。
だからそのときに梨華ちゃんを連れてここから出るんだ。

でも早く行動に移さなければならないのは確かだ。
梨華ちゃんの力が取り出される前に・・・。

そんな気持ちが私の心の中にうずまいていた。
171 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時11分05秒
私の願いが神に届いたのだろうか。
そして、時は・・・きた。
172 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時11分57秒
私はその日一人で遅めの昼食をとっていた。
食堂には私以外数人がパラパラといるだけだった。
そろそろ部屋に戻ろうと、食器ののったトレーを片付けた私は入り口へ向かった。
173 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時13分55秒
ドォーン・・・

研究所では聞きなれない爆発音。
そして大きな揺れ。まるで震度の強い地震のようだ。

「なっ、何?!」

その場にいた人も急に立ち上がって、あたりを見回している。
何が起こったのか全く分からない状況だ。
174 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時15分12秒
ドォーン・・・

もう一度聞こえた。
この音の発信地は確かにこの研究所。
これは一体・・・。
175 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時16分53秒
突然研究所内にサイレンが鳴り響く。
そして「事故発生。全員ただちに避難。」の放送。

理解できなかった私は立ち尽くしていただけだったが、我に返る。
そしてここにはいない愛しい彼女を思い出す。
梨華ちゃん!梨華ちゃんは無事なのだろうか。
私の足は彼女がいる実験室へと走り出していた。
176 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時18分09秒
食堂を出ると、そこは人でごった返していた。
研究者も実験体もみんな入り口や非常階段に向かって走っていた。
その顔は必死そのもの。
誰もがこんなとこで死にたくなんてないと思ってる。

私は彼らの波とは反対に駆け出す。
ここで私も彼らと同じ方向に進んでいれば完全に助かると思う。
しかし彼女を置いていくことはできない。
梨華ちゃんはまだあの部屋にいるかもしれない。
生き延びても彼女が隣にいないのは嫌だ。
177 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時19分17秒
途中で必死に走っている飯田さんを見かけた。
彼女、飯田圭織さんは研究者。辻の担当者だ。
しかし私と同じく超能力を持っている人だった。
最初は実験体としてここにやってきたらしい。
飯田さんもまた入り口とは反対の方に走っていた。

「飯田さん。」
私が呼ぶと、彼女は振り向いた。
いつも以上にきびしい顔。
「吉澤。早く逃げなさい。」
「それは分かってます。でも一つ教えてください。何があったんですか?」
飯田さんは一瞬ためらった。
しかし私が真剣な表情で見つめていたものだったから、彼女は口を開いた。

178 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時20分06秒
「後藤が暴走したの。」
ごっちん?!どうしてごっちんが?
力は確かに強かったけど、コントロールだってばっちりだったのに・・。
私は驚きを隠せなかった。
「どうして・・・?」
「紗耶香が矢口と付き合ってるの、後藤が知っちゃったみたいなんだ。」
市井さんと矢口さんが?
初めて聞く事実だった。
179 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時21分19秒
ごっちんがここに残っていたのも。
ごっちんの力が安定していたのも。
全て市井さんがいたから。
市井さんのことが大好きだったごっちん。
市井さんに彼女がいるなんて知ったら・・・・。

私は身震いした。
いまだおさまらない揺れはごっちんの悲しみのように感じてしょうがなかった。
ごっちんがその事実を知ったとき、どう思った?
きっと複雑な感情がおさまりきらなくて、そして・・・暴走した。
180 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時22分26秒
「今、圭ちゃんが後藤をなだめているの。だから私もこれからそこに向かう。」
「飯田さん・・。」
そんなの危険だ。
力を抑える機械さえもきかないくらいの力で暴走しているごっちんを止めるなんて。
「吉澤は早く逃げ出しなさい。」
私が何か言う前に飯田さんはごっちんのもとへと走っていった。

181 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時23分15秒
保田さんがごっちんのところにいるとなれば、梨華ちゃんはやっぱり部屋の中の可能性が高い。
182 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時24分10秒
いつも暗い廊下に今は赤いランプが点滅していた。
ガラス越しに見えた研究室のパソコンのモニターには危険の文字。
開け放たれたままの実験室。
すでにみんな避難しているのか実験室の廊下には人気はなかった。
183 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時25分26秒
梨華ちゃんの部屋に着いた私はドアノブを回した。
やっぱり開いていなかった。
このままじゃ梨華ちゃんは・・・。
私はドアをドンドンと叩いた。

「梨華ちゃん!!」

ボスッ

鈍い音がして、私ははっとした。
そこには人の力では無理なほどにへこんだドアがあった。
私の力が働いた?
私は集中してみると、今度はドアがはずれた。
なぜ力が使えたのか分からなかったけど、とにかく私は中に入った。
184 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時26分11秒
私と同じ部屋。
しかしずっと入りたくてしょうがなかった梨華ちゃんの部屋。
カプセルは開いてなくて、目を閉じた梨華ちゃんがそこには横たわっていた。
私は急いでカプセルに近づき、開けた。

「梨華ちゃん。」
眠っている彼女を起こすため、肩を揺する。
初めて触れる彼女の体。
しかし今はそれに感動している時間はなかった。

185 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時27分25秒
「梨華ちゃん。」
さきほどより強く揺するとようやく彼女が目を開けた。
「・・・ひとみちゃん・・?」
梨華ちゃんはそうつぶやいてから、ぱっと目を開けた。
「どうしてここに・・。」
ひどく驚いていた。
そりゃそうだ、ここには今まで入れなかったんだから。

186 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時28分32秒
バリーン!

いきなりガラスが割れた。
厚くてびくともしなかったガラスがいとも簡単に。

「きゃっ。」
梨華ちゃんは私に抱きついた。
私は彼女をやさしく抱き締める。
ここにいては危険だ。

「梨華ちゃん、早く逃げよう。」
「ひとみちゃん、どういうことなの?」
「それは説明するから。とにかく!」
187 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時29分44秒
私は彼女の手を掴んで部屋を出た。
二人は手をつないだまま走り出す。
混んでいた入り口への廊下は今や誰もいなかった。
まだおさまらない揺れを体に感じながら、私は梨華ちゃんを連れて走り抜ける。

壁は壊れ、物はあたりに散乱し、全てががらくたのよう。
火が出てないところは幸いか。
たくさんの障害物を抜けていく。

うっすらと暗い中に白い光。
それを目指して私達は走る。

そして。
188 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時30分44秒

私と梨華ちゃんは・・・外に出た。



189 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時32分03秒



・・外に出た瞬間、自分の中に今までにないほどの力がみなぎっていた・・。

190 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時34分56秒
そこは森だった。
この研究所は森の中に建てられているようだった。
ただたくさんの木があるだけだった。

何年ぶりかの外。
気持ちいい風が吹きぬけ、緑の爽やかなにおいが私達を包む。
私達は自由になったんだ。
体の中にたまっていた何かが解放されたような快感。
言葉では言い表せないほどの感動が私の心に溢れかえっていた。

191 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時36分57秒
繋いでいた手がぎゅっと握られた。
息を呑む声が聞こえる。
隣の梨華ちゃんに視線をやると、彼女はまっすぐ前を見ていた。
その瞳には感動の色が見えた。

梨華ちゃんは外の記憶がない。
つまり初めて外に出たのだ。
今、君は何を思ってる?
192 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時37分30秒
「梨華ちゃん、行こう。」
「うん。」
うれしそうにうなづいた梨華ちゃん。

私達はどこに行けばいいか分からないけれど、走り出した。
これから私達はどうすればいいのか分からない。
そしてどうなるのだろう。
逃げた人達の姿は見えない。
彼らはどこへ行ったんだろう。
はっきり言って不安だった。
けれども隣に梨華ちゃんがいるから、二人一緒だから怖くはなかった。

テレパシーじゃない梨華ちゃんの声。
手から伝わる梨華ちゃんのぬくもり。感触。
私の体全体に幸せが満ちていた。

193 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時38分17秒
そう思ったのも束の間。
「待ちなさい。」
突然、後ろから保田さんの叫ぶ声がした。
「保田さん?」
私は振り返る。
保田さんはこっちに向かって走っていた。
もしかして研究所に戻されるの?
「ひとみちゃん・・。」
不安そうな梨華ちゃんの声。
私は梨華ちゃんの手をぎゅっと握る。
私達はつかまるわけにはいかないんだ。

194 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時39分58秒
そのときだった。
突然白い暖かな光が私と梨華ちゃんを包んだ。
一瞬立ち止まってしまった私に梨華ちゃんが抱きつく。
細い彼女から考えられないほどの強い力。
「梨華ちゃん・・・。」
私の視界が真っ白になった。

195 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時41分10秒


     *   *   *   *   *

196 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時42分15秒
風が変わった。
私はおそるおそる目を開ける。
そこは・・・海の見える丘だった。

「ここは・・・。」
見間違えるわけはない。
ここは私の思い出のあの丘。
197 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時43分20秒
抱きついたままの梨華ちゃんに視線をやる。
「梨華ちゃん・・・。」
「・・うん・・・。」
梨華ちゃんはゆっくりと目を開け、私を見上げた。

「久しぶりに使った・・・。」
疲労の色を見せながら梨華ちゃんはつぶやく。
「これってテレポーテーション・・?」
私がたずねると彼女はうなづいた。
「でもこの場所って・・・。」
「私には外のイメージがなかったから、ひとみちゃんの頭の中にあったイメージを借りたの。」
梨華ちゃんは小さく微笑み、私から離れると、下に広がる景色に瞳を向けた。

198 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時44分59秒
丘から見える街並みは昔に比べてビルが多くなった気がする。
それは私がここに来れなくなってからの長い年月を感じさせた。
それでも雰囲気は昔とちっとも変わっていない。
それが私にはたまらなくうれしかった。
ただ昔よりもなんだか美しいと感じるのは、きっと隣に梨華ちゃんがいるから・・。

「きれい・・だね・・。」
梨華ちゃんが小さな声でぽつりとつぶやく。
「うん・・・。」
私はうなづく。

199 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時45分53秒
太陽、空、海、街・・・。
二人はただただ見つめるだけ。
私達は目の前の光景に感激していた。
言葉なんていらないほどに。

そして実感する。
私達は外に出れたんだと。
200 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時47分22秒
「ひとみ・・ちゃん・・。」
声が聞こえてきたのと同時に彼女は私にもたれかかった。
急にがくっと力がぬけたような感じ。
「梨華ちゃんっ!」
「・・大丈夫。少し疲れただけ・・。」
梨華ちゃんを休ませようと、私は丘の上に立っている木のもとに彼女を支えながら歩いていった。
201 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時48分16秒
大きな木の下で寄り添うように座る二人。
吹き抜ける風に潮のかおりを微かに感じる。
それはやさしかった、あの頃と変わらず。

202 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時49分47秒
「ひとみちゃん、あったかい・・。」
ぽつりとつぶやく梨華ちゃん。
私は彼女を抱きしめながら、梨華ちゃんの美しい髪をなでた。
「やっと梨華ちゃんを抱き締めることができた。」

見つめ合う二人。
どちらからともなく顔が近づいて・・・。
唇にやわらかい感触。あたたかい・・・・。
203 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時51分47秒
「ひとみちゃん、大好き・・・・。」
「私も好きだよ、梨華ちゃん・・・。」

もう絶対に君と離れない。
これからはずっと一緒だよ・・・・。
204 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時53分07秒


「なんだか眠くなっちゃった・・・。ちょっと・・いい?」
梨華ちゃんは微笑んで私を見つめた。
私は小さくうなづく。
それを見た梨華ちゃんは「ありがと。」と言って、ゆっくりと目を閉じた。
205 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時53分54秒
爽やかな風。
背中から伝わる木の包容力。
206 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時55分11秒
なんだか私も眠くなってきたな・・。
体もちょっとだるい感じがする・・・。
207 名前:君がスキ・・・ 投稿日:2002年03月18日(月)17時55分45秒

梨華ちゃんの甘い香りとぬくもりに包まれながら、私もそっと目を閉じた。

208 名前:Y 投稿日:2002年03月18日(月)18時02分53秒
以上で『君がスキ・・・』終わります。
今まで読んでくださった方、ありがとうございました。
感想などありましたらよろしくお願いします。
この話のサイドストーリー的な番外編がありますので、そちらもよろしくお願いします。
209 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月18日(月)21時32分57秒
(T▽T)うわぁーん!!涙で前が見えませんよう。
完結お疲れ様でした。このタイトル元になったの曲のPV見た事あったんで
最後とても気になってたんですがヤパーリあのとうりになって
しまったんですね・・・。でも二人幸せそうだったからよかったのだと思います。
も一回読みなおそっと。しかしごっちんが可哀想で可哀想で・・・(涙
番外編も期待してますね
210 名前:夕焼け小焼け 投稿日:2002年03月18日(月)23時45分08秒
作者さん脱稿お疲れ様でした。
娘。小説定番の( ^▽^)(^〜^0)。
この手は今まではあんまり読んでなかったのですが、
ほのぼのハッピーエンドにとっても満足しています。
後藤は可哀想な結果ですが...
文章も読みやすく、初めてとは思えないすばらしい出来で、
安心して読める小説でした。とっても面白かったです。
番外編も楽しみにしています。
211 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月19日(火)01時00分48秒
ウワァァァン!!マジで泣けるっすよー(0T〜T0)
本当に最高でした! そしてお疲れさまでしたー
番外編も密かに楽しみにしてるっす♪
212 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年03月20日(水)05時03分08秒
完結お疲れ様でした!最後まできれいな文章で・・・感動しました。
吉の記憶にあった、思い出の丘の風景が見えるようでした。
ありがとうございました。
そして、番外編。期待していますので、がんばってください!!
213 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月20日(水)14時09分51秒
私の記憶にある景色はコンクリートの部屋だけだった。
214 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月20日(水)14時10分51秒
物心ついた時からこの研究所にいて、ずっと個室に閉じ込められていた。
その理由は私には他の人にはない力を持っていたから・・。
私は超能力の解明を行っている研究所の実験体だった。

両親のことは覚えていない。
どんな顔だったかも、どんな性格だったかも何も知らない。
今どこにいるのかも当然知らない。
もしかしたらもう・・亡くなっているのかもしれない。
215 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月20日(水)14時11分52秒
小さい頃の記憶といえば、煙の出ているカプセルとバラバラになってしまった家具。
がらくたが落ちているような部屋。
・・・・私が暴走した跡。

私は他の超能力者よりも力があるみたいで、またコントロールもできていなかったからこんなのは日常茶飯事だった。
この研究所には超能力を抑える機械、super natural power off machineと呼ばれるものがあって、この中では超能力は使えない。
私はそれを超えるような力を持っていたのだ。

私は暴れたくてしたわけじゃない。
体の中にある力が自分では抑えきれなくて勝手に飛び出していくという感じ。
私の意志とは裏腹に私は部屋を壊していた。

216 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月20日(水)14時12分42秒
それでもだんだんと落ち着いてきて。
完全に抑えられるようになるには十数年かかった。
しかしコントロールを手に入れたのと引き換えに、私の体は痛みを伴うようになった。

突然起こる発作。
力をコントロールするために使う大量のエネルギー。
私は一日五時間ほどしか起きることができなくなった。

217 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月20日(水)14時13分39秒
コントロールできるようになってもいつかまた暴走してしまうだろうという気持ちは完全になくならなかった。
それに自分の体はもう・・・無理なのかもしれないとも感じるようになった。
不安は私の心から離れてくれない。

それでも必死に耐えた私。
私にはここから出ることができない。
逃げることができないのだから・・・。
218 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月20日(水)14時14分14秒
けれでも私はいまだ見たことのない外の世界に想いを馳せている。
どこまでも続く青い空。
人々を暖かく包む太陽。
夜空にきらきらと輝く星。
風や雨や雪・・・たくさんの木や花・・自然。
それだけじゃない、街や文化や・・人も。
もっといろんなことも・・。
本の知識だけの私にはきっと想像もできないすごい事が外の世界には溢れている。

外に出たら、きっと「生きてる」って体中で感じることができる。

219 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月20日(水)14時14分56秒
ただ死ぬ前に一度でいいから、外の世界を見てみたい。
それは私の唯一の願いだった。

220 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月20日(水)14時17分35秒
*   *   *   *   *
221 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月20日(水)14時18分14秒
「石川。」
「保田さん、こんばんは。」

私が起きるのはいつも深夜だった。
もともと窓もない部屋だったから、昼も夜も関係ないのだけど。

保田さんは数年前から私の担当になった研究員。
私のことをいつも気にかけてくれるやさしい人だった。
私が起きた頃にいつも食事を持ってきてくれる。
私が外に出ないように、部屋には鍵がかかっているから。

222 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月20日(水)14時19分29秒
「今日はこれを持ってきたよ。」
保田さんが食事のトレーと一緒に持ってきてくれたのはバスケット。
中に入っているのは直径五センチくらいの丸い茶色い焦げ目のあるお菓子、だと思う。
「何ですか?」
初めてそれを見る私は手にとってまじまじと見つめた。
「それはね、スコーンっていうお菓子だよ。石川、食べるの初めてだよね?」
「はい。」
誰かが持ってきてくれないと私は何も食べられない。
「生クリームやジャムをつけて食べるとおいしいんだ。」
保田さんはそう言って、私にイチゴジャムのビンを渡した。

私はビンを開け、スプーンでジャムをすくい、スコーンにつけると口に運んだ。
「あ、おいしい・・。」
前に食べたクッキーとは違い、もっとパンっぽい感じ。
イチゴジャムのほどよい甘さが口の中に広がる。
「でしょ?これはイギリスの伝統的なお菓子だよ。」

223 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月20日(水)14時20分04秒
スコーン。私はまた一つ覚えた。
いつか私もこんなお菓子を作ってみたいと思う。
そして保田さんや家庭教師の平家先生に食べてもらいたい。
でもきっと無理だ。
私はここから出られないのだから。
私にはあきらめる癖がついてしまっていた。

その後はいつもと同じ。
食事を終えて、検査をして、勉強をして、お風呂に入って。
今日は寝るまで少し時間が空いたから読みかけの小説を読んだ。
224 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月20日(水)14時20分48秒
決まりきった生活を送る私。
何のために生まれてきたのかな。
この世に私って必要なのかな。
何人の人が私という存在を知っているのだろう。
私が死んだら、何人の人が悲しんでくれるのだろう。
答えは・・・想像したくない。

225 名前:Y 投稿日:2002年03月20日(水)14時50分52秒
感想いろいろありがとうございます。

>209 名無し読者さん
読んでくださってありがとうございました。
PVはご覧になったんですか。
PVの方よりも幸せめにしたくて。
その後どうなったかは読んでくだった方々の想像におまかせという形にしたかったのですが。
後藤さんは辛い役目を与えてしまいました。
後藤さん視点の番外編がありますのでそちらもよろしくお願いします。

>夕焼け小焼けさん
読んでくださってありがとうございました。
途中、いろいろとコメントもありがとうございました。
とても励みになりました。
最初からいしよしと決めていたのですが、何かいしよし小説です、と書くのに気が引けて・・。
番外編の方もよろしくお願いします。

>211 名無し読者さん
読んでくださってありがとうございました。
そう言ってもらえてうれしいです。
番外編も”密かに”よろしくお願いします。
226 名前:Y 投稿日:2002年03月20日(水)14時51分24秒

>よすこ大好き読者さん
読んでくださってありがとうございます
お褒めの言葉、ありがとうございます。
とってもうれしいです!
風景の描写とか大変だなぁとつくづく思いました。
よりリアルな描写ができるよう、がんばります。

この話はあと1回で終わります。
石川さん視点で少し書いてみたかったというだけの自己満足なものなので、本編と重なる部分が・・。

227 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月21日(木)13時34分13秒
あっ!新しいのが(w
石川視点ですね、頑張ってください
228 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)13時49分27秒
その日、私はいつもより早く目を覚ました。
こんなことはめずらしい。
自分の体が覚えてしまっているせいか、毎日決まった時間に起き、決まった時間に眠る習慣がついてしまっているのに。
私はカプセルから出て、ぐるりと真っ暗な部屋を見回した。
いつも暗闇の中にいるから目も慣れてしまっていた。

229 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)13時50分30秒
隣の部屋。
誰かがそこに眠っている。
まだ一度も会ったことのない人。
その人は昼に起きていて、私は夜だから会うことはない。
会ってみたいとは思う。
だって私の生活に関わっている人なんて保田さんと平家先生。
何度か研究員の矢口さんに会ったくらい。
私だって誰かとおしゃべりしたいって思うもの。
でもやっぱり無理だと思い、苦笑いを浮かべた。
230 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)13時51分39秒
私は小さく溜息をついて、部屋にある小さなテーブルに近づいた。
ここには保田さんを呼ぶボタンがある。
発作が起きたり、何かあったときに押せばすぐに来てくれることになっている。
しょうがない、ここは早めに来てもらおう。
私はボタンに手を伸ばした。
231 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)13時53分12秒
そのときだった。
急に隣の部屋の電気がついた。
「えっ?」
私は驚きを隠せなかった。
思わず、隣の部屋を見てしまう。

そこには白いシャツとズボンを着た少女が立っていた。
すらりと背が高くて顔立ちの整ったきれいな人。
私をじっと見ていた。
232 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)13時54分00秒
彼女の口が動いた。何かをしゃべったみたいだった。
でも部屋は防音だから、その声は私には届かない。
相手もそのことに気づいたみたい。
はっとして口をつぐんでしまった。

私はうれしかった。
保田さん達以外の人に会えたことに。
しかも隣の部屋にいるってことは私と同じ超能力者だし。
私は彼女に向かって微笑んだ。

233 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)13時54分34秒
『はじめまして。』

意識を集中して私は彼女にテレパシーで送ってみる。
彼女はすごく驚いた顔をした。
私の声が伝わったみたい。
彼女は私を見つめてきたから、私はうなづいた。

234 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)13時55分17秒
『私は石川梨華。あなたは?』

続けて送ってみる。
彼女は少し動揺しているみたいだった。
一向に返事も返ってこないし。
もしかして私と話すの嫌だったかなぁ。
でもテレパシーが使えないとかかも。
あ、そういえばここでは超能力は使えないはずだった。

『私の目を見て。そうすればあなたの声が聞こえるから。』

向こうに変に警戒心を持たれないように微笑む。
すると彼女は私の目を見つめ始めた。
235 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)13時56分01秒
(私は吉澤ひとみ。)
『吉澤ひとみさん・・。』

(何でテレパシーが使えるの?ここでは超能力は使えないはずだよね?)
もっともな質問をされた。
『どうしてテレパシーが使えるかって?』
私が送ると吉澤さんはうなづいた。
『私はもともと力が強すぎてこの機械じゃ完全に抑え切ることができないの。でもここでは自分の気持ちを送るのと相手の気持ちをその人の目から読み取るぐらいしかできないわ。』
(それって私の心を読んでいるってこと?)
私は首を横に振った。
少し誤解されてしまったみたい。
『あなたの心の奥までは無理。あなたが私に何が言いたいかを読めるだけ。心配しないで。』
(そっか。)
ほっとしたような吉澤さんの表情。
誤解は何とか解けたみたいだった。
236 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)13時56分39秒
(石川さんはいつも昼間寝てるけれど、夜、これくらいの時間に起きてるの?)
『うん。体がもたないからいつもこれくらいに。それでもせいぜい五時間くらいしか起きてられない。』
(そんなに力が強いのか・・。)
『吉澤さんは?』
(私は普通に昼間起きてるよ。そんなに力が強くないから。普段は勉強室に通ってるし、食堂でご飯も食べるし。)
『そうなんだ。うらやましいな・・・。』
(石川さんは・・・。)
『私、この部屋に来てからここから出たことがないんだ。ご飯は一日一回担当の研究者がこの部屋に持ってくるし。お風呂とかもこの部屋に付いているから。勉強もこの部屋で。』
(なんか大変だね・・。)
『しょうがないんだ・・・。』
私はそう言って、顔を伏せた。
しょうがないってあきらめなければならない。
237 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)13時57分26秒
そろそろいつも私が起きる時間になる。
そしたら保田さんが来ちゃう。
保田さんからは他の人と接点をもたないように言われている。
万が一私が暴走してしまったらその人を傷つけてしまうからって。
だからこうやって吉澤さんと話すことも本当はいけないことだった。
でも・・このまま別れてしまうのは嫌だった。
もしかしたらお友達になれるかもしれないんだもの。
238 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)13時58分04秒
『あの・・。』
私は思い切ってテレパシーを送った。
(何?)
『もしよかったら・・・またこうしておしゃべりしてくれる?私、友達、いないの・・。』
友達がいないなんて言うの、少し恥ずかしかったけど、でも、ほんとのことだし・・。
言ってからちょっとだけ後悔。
吉澤さんにどう思われたかなぁ。
私はおそるおそる吉澤さんの目を見つめた。
(うん、いいよ。私もまた君と話したい。)
そう聞こえてきて私はすごくうれしくなった。
『ありがとう。』

239 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)13時58分56秒
『そろそろ誰か来るから・・。』
本当に危ないと思って、私から切り出した。
保田さんにばれないようにしなきゃ。
せっかくお友達になれたのだから。
(あ、うん・・。)
私は小さく手を振った。
吉澤さんも手を振り返してくれた。

吉澤さんが部屋の電気を消した。
いつもと同じ暗闇に戻る。
楽しかった夢からすぐに現実に引き戻されたような感じ。
少しさびしかった。
明日も会えるかなぁ・・。
240 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)14時00分24秒
ガチャリ

私の部屋のドアが開いて、白衣姿の保田さんがいつものようにトレーを持って入ってきた。

「こんばんは。」
「ん?石川、何か機嫌いいわね。」
「えっ、そうですか?」
「うん。」

吉澤さんと話せたのがうれしくて態度にまで出ちゃったみたい。
平常心、平常心。

241 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)14時01分39秒
「そんなことないですよ。それより今日はお菓子ないんですか?」
私がそう言うと、保田さんは溜息まじりに答えた。
「今日はないわよ。それに食べ過ぎると太るわよ。」
「なんだ、残念。」
口では残念なんて言ったけど、全然そんな風に思っていない私。
242 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)14時02分29秒
吉澤さんに出会えたことで私の日常に何か変化が起きそうって思った。
それがほんとかどうかは分からないけど、だけど私はこの出会いを大切にしたい。
吉澤ひとみさん・・・初めてできた私のお友達。
243 名前:君がスキ・・・〜運命の出会い〜 投稿日:2002年03月22日(金)14時03分13秒


吉澤さん・・・ひとみちゃんが私の大切な人になるのはもうちょっと先のこと・・。

244 名前:Y 投稿日:2002年03月22日(金)14時05分22秒
『君がスキ・・・〜運命の出会い〜』はこれで終わりです。
あと一本後藤さん視点の番外編がありますのでそちらもよろしくお願いします。
245 名前:しーちゃん 投稿日:2002年03月22日(金)17時31分25秒
楽しみに待っています。
246 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年03月24日(日)10時53分39秒
梨華ちゃん視点・・・・。すごくよかったです。
切ないです。
後藤さん視点もがんがってください。
その後の二人・・・・は、どうなったんだろう?と、チョット気になりますが・・。(笑
247 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時34分51秒
あの人は私の全てなの!

そんな言葉をなんとなく読んだ少女漫画の主人公が言っていた。
涙を目にいっぱい溜めて、彼との交際を反対している親に必死で言ってる。
あのときは何言ってんだ?!ってバカにしてたけど、今はその気持ちが分かる。

市井ちゃんは私の全てなの・・・。
248 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時35分44秒
初めて市井ちゃんと会ったときのこと、今でもはっきり覚えてる。
あれは私が十三歳のとき。
あのときの私はまだ力をコントロールできないでいた。
人一倍力の強かった私は機械でもおさえらんなくて、毎日のように物を破壊し続けて。
私はいつも研究員に怒られて、でも私にはどうしようもなかった。
そうして、いつものようにめちゃめちゃにしてしまった自分の部屋に一人ぽつんと座っていると、そこに現れたのが市井ちゃんだった。
249 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時36分36秒
「うわー、すごいね・・。」
「・・あなた、誰?」

力を放出してしまった私はぼーっとしたまま、見慣れない研究員に目を向ける。
私より少し上くらいの市井ちゃん。
最初は研究員だというのも信じられなくて。
白衣をラフに着こなしていたせいか、今まで会った研究員とはなんか違うなぁと感じたのを覚えている。
市井ちゃんは瓦礫となってしまったものをうまく避けながら私のもとに近づいてくる。
そしてぺたんと座っている私にさっと手を差し出して言った。

「今度君の担当になる市井紗耶香です。よろしく、後藤。」

250 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時37分37秒
市井ちゃんは私が暴走しても怒らなかった。
むしろすごいとほめてくれた。
私は生まれてから一度もほめられたことがなかったから、すごくうれしかった。
でも同時に私は暴走したくないと強く思い始めた。
私の力で市井ちゃんを傷つけたくない!
私の暴走はいつ起こるか分からなかった。
せめて市井ちゃんが私の部屋にいないときに・・・。
そう思っているうちにいつのまにか暴走しなくなった。
251 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時38分53秒
市井ちゃんは検査の日じゃなくても私に会いにきてくれた。
どうして毎日来てくれるのって聞いたら、一人じゃさびしいだろって言ってくれて、抱き締めてくれた。
いつも一人だった私。
さびしいなんて一度も言ったことなかったのに、市井ちゃんは私の心の声を聞いてくれた。
私の想いが届いたんだって思って、すごくうれしかった。
252 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時39分45秒
それからいろんな話もしてくれた。
私は個室から出られなかったから、市井ちゃんのしてくれる外の話はいつも新鮮でワクワクして聞いてた。

「こないだ少し時間があったから、中庭のベンチでひなたぼっこしてたら寝ちゃってさ。」
「ひなたぼっこ?」
初めて聞く言葉。
私はあまり勉強してないから、他の人には知って当然の言葉とかも知らないことが多かった。
人と話すことなんて全くなかったから、全然気にしてなかったけど、市井ちゃんと話すようになってから、単語を知らないことが少し恥ずかしかった。
だけど、市井ちゃんは私のことをバカにしなかった。

253 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時41分03秒
「ひなたぼっこっていうのはね、太陽の光を体全身に受けながらぼーっと過ごすっていうか、すっごく気持ちがいいこと。」
「へぇー、ごとーもしてみたい!」
市井ちゃんがにこにこ顔で話すから私は“ひなたぼっこ”に興味を持った。
あ、でも、私はここから出られないんだった。
窓もない部屋には太陽の光は入ってこない。
がっかりしてると、市井ちゃんは私の頭をなでた。
「後藤がコントロールできるようになったらできるから。」
「うん。」

254 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時41分50秒
私は今まで以上に力をコントロールできるように励んだ。
力をコントロールするってことは安定させるってことで、安定するには精神力が大事だった。
感情的にならず、いつも理性を保てるように。
それから勉強もがんばった。
市井ちゃんとばっちり会話ができるようにたくさん単語を覚えた。

255 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時43分04秒
私は初めて恋をした。
私の気持ちをいつも理解してくれた市井ちゃんに。
女の子同士の恋愛はいけないみたいだけど、好きになったらきっと性別なんて関係ないと思う。
私はずっと市井ちゃんの側にいたい。
市井ちゃんのためだったら私、何でもするよ?
256 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時43分56秒
一度だけ市井ちゃんが自分の夢を話してくれたことがある。
どうしてそんな話になっていったかはよくは覚えてないけど、確か私にはやりたいことがないって言ったときだったと思う。
「私には後藤のようなすごい力を持ってない。私には何にもない。でも、人のために何かしたいって思ってさ。」
市井ちゃんはすっと遠くを見つめた。
「市井の夢は超能力を解明して人の役に立てることなんだ。私に力がなくても知識さえあれば研究ができる。」
「市井ちゃん・・・。」
「後藤のおかげで私は研究ができるんだよ。ほんと、感謝してる。」
改めて感謝してるなんて言われたから私はなんか照れてしまった。
でも、すっごくうれしかった。
257 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時44分37秒
そのときからだ。
市井ちゃんの夢を叶える手助けをしたい。
これが私の夢になった。

人助けとか私にはあまりそういう気持ちはない。
でも市井ちゃんが喜んでくれるなら、市井ちゃんが必要なら私は自分の力をたくさん差し出すよ。
だって市井ちゃんのこと、大好きだから。

258 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時45分23秒
市井ちゃんと出会って一年くらいで、私は部屋から外に出られるようになった。
でも体に負担がかかるからあまり長い時間起きていることはできなかった。
やってみたかったひなたぼっこもしたし、中庭で市井ちゃんとおしゃべりすることもできた。
お菓子作りなんかも挑戦しちゃったりして、市井ちゃんにプレゼントした。
渡したら、うれしそうにありがとって言ってくれて、次に会ったときはおいしかったって。
私、すっごくうれしくて。
だからそれ以来、ちょくちょく作っては市井ちゃんにあげた。
259 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時46分01秒
そうそう、友達もできた。
同じ時間に勉強室で一緒だった吉澤ひとみ・・・よっすぃ。
なんか意気投合しちゃって食事とかも一緒にするようになった。
市井ちゃんの次に信頼できる友人。
でも、なんか壁があるって感じてた。
自分の気持ちをあまり出さないって感じ。
クールな印象を受ける。
だけど、最近、表情がやさしくなった気がするんだ。
何かあったのかな?
私には分からないけど、きっとそれはよっすぃにとってすごく幸せなことなんだと思う。

260 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時46分33秒
大好きな人もできて、友達もできて。
外には出られないけど、私は楽しかった。
ずっと続くと思っていた幸せ。
でもそれは永遠じゃなかった・・・。
261 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時47分17秒
「市井ちゃん、どこかなぁ。」

私はいつものように昼間、部屋から出て市井ちゃんを探していた。
食堂とか中庭とか市井ちゃんの行きそうなところをずっと歩き回って。
それでも全然いなかった。

「もしかして研究の最中なのかなぁ。」
それだったら研究室にいるはずなんだけど、でも邪魔しちゃ悪いしなぁ・・。
そんなことを考えながら歩いていると、会議室の前を通った。
いつもだったら閉まってるはずの会議室のドアが少し開いているのに気づいて、私はちょっと除いてみた。
それはほんの出来心だった。
262 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時47分59秒
中にはずっと探していた市井ちゃんの姿が。
そして隣にはちっちゃな金髪の人。
白衣を着ているからこの人も研究員なんだと思う。
二人は書類を見ながら話してる。
会議中だったかな。
私に背を向けながら話しているから、二人とも全く私に気づいてなかった。

263 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時48分41秒
私はじっと市井ちゃんを見つめる。
市井ちゃんの背中、私は好きだなぁ。
なんかぴしっとしててかっこいい。
それにぴたっとくっついて、甘えたくなっちゃう。
私の顔、もしかして緩んでるかも・・。
264 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時50分40秒
ちっちゃな幸せを感じ始めたのも束の間。
二人は書類から目を離して、お互い顔を見合わせた。
そして、ゆっくりと重なる・・・二人の唇・・・。
265 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時51分35秒

その光景を見た瞬間、私の中で何かが弾けとんだ。

今・・何が起きた・・?
ウソ・・・ウソだよね・・・。

266 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時52分49秒
「市井ちゃん・・・。」
ぽつりとつぶやいた私の言葉に市井ちゃんが振り返った。
「後藤・・・。」
驚いた表情。
隣の金髪の人もびっくりした顔で私を見つめていた。
267 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時53分32秒




市井ちゃん、彼女・・・いたんだ・・・。




268 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時55分11秒
急に大きな力が私の中に溜まってくる。
それはあまりも大きくなってきて。
私の体におさまりきらなくなってきて。
おさえようとしてもすっごく体が苦しくなった。
私はガクッと膝が床についた。

269 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時56分18秒
市井ちゃんに彼女が・・好きな人がいるという事実は私の心をどん底に落とした。
悲しかった。さびしかった。
隣にいる金髪の彼女に嫉妬した。
市井ちゃんのあったかい腕は私だけのものじゃなかった・・。

彼女がいるのにどうしてやさしくしたの・・?
そんなことを思ったけど、どうしてかは私がよく知ってる。
市井ちゃんは誰にでもやさしい人だから。そういう人だから。
市井ちゃんは私のことも好きでいてくれたと思う。
でもそれは私のとは違う「好き」。
きっと妹のような・・そんな感じだったんだと思う・・。

今頃になって気づくなんて・・・。


270 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時57分36秒
「後藤っ!」
私のもとに走り寄ってくる市井ちゃん。
ダメ!来ないで!って言いたいのに、力を安定させようと集中しているから無理だった。
私には分かっていた。
・・・このままだと私は・・暴走する。
でも市井ちゃんを傷つけたくないの。
だから市井ちゃんの近くで暴走してしまうことだけは避けたかった。

市井ちゃんの手が私の震えている肩に触れた。
「は・・離れ・・て・・・。」
「後藤?!」
私の声が届かなかったのか、市井ちゃんは私から離れてくれない。
私は震える足でなんとか立って走り出した。
「後藤っ!」
271 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)15時58分37秒
会議室の入り口付近で私はとうとう倒れてしまった。
もうダメだ・・・。
ごめん、市井ちゃん。
私の暴走に巻き込んじゃって・・・。

その瞬間。
私の体から白い光が噴き出した。

272 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)16時00分14秒
ドォーン・・・

あまりにも大きなその音を聞いて、私はこの会議室が昔の私の部屋のようになってしまうのだと感じた。
何かが割れる音、折れる音、崩れる音。
そして人のうめき声。
・・・私、市井ちゃんのこと、傷つけちゃったのかな・・?
273 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)16時01分03秒
力の放出は一度では終わらなかった。
力が外に飛び出してもすぐにまた体に溜まってくる。
抑えようと、安定させようとしても無理だった。
私は自分の暴走を止められなかった。

私の意識がだんだんと薄れてきた。
なんだか体と魂がバラバラになってしまったかのような感じもする。
私はひどく疲れていた。
それなのに力は溜まったら、外に放たれ、そしてまた溜まるという繰り返し。
274 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)16時01分44秒
誰かのこっちに走ってくる足音。
こっちに来たら危険だよ。
でも誰でもいいから私を止めて欲しい。

私の名前を呼ぶ声。
ごとーはここにいるよ。
でも私には何も応えることができなかった。

275 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)16時03分26秒
意識は飛びかけていた。
頭の中は真っ白で何も考えられない。
目はだんだんと閉じていき・・・・。

ごめんね、市井ちゃん。
最後の最後まで迷惑かけちゃって。
でも・・でも、ほんとに大好きだったんだよ。

276 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)16時04分07秒



浮かんでくるのは市井ちゃんの笑顔。
聞こえてくるのは市井ちゃんの私の名前を呼ぶ声。


277 名前:君がスキ・・・〜私のすべて〜 投稿日:2002年03月25日(月)16時05分10秒




市井ちゃん、ありがとう・・。
あなたに会えてよかった・・・。



278 名前:君がスキ・・・〜forever love〜 投稿日:2002年03月25日(月)16時06分32秒
君がスキ・・・。
私の心の中に存在する確かな想い。
それだけが真実。
・・・それだけが・・永遠。
279 名前:Y 投稿日:2002年03月25日(月)16時10分13秒
『君がスキ・・・』
『君がスキ・・・〜運命の出会い〜』(番外編1)
『君がスキ・・・〜私のすべて〜』(番外編2)
『君がスキ・・・〜forever love〜』
以上、完結しました。
今まで読んでくださった方々、どうもありがとうございました。
280 名前:Y 投稿日:2002年03月25日(月)16時11分31秒
>しーちゃんさん
読んでくださってありがとうございました。
281 名前:Y 投稿日:2002年03月25日(月)16時27分47秒
間違って投稿してしまいました。
すいません・・。

>しーちゃんさん
読んでくださってありがとうございました。
後藤さん視点の話、一気にあげました。
いしよし好きの私にはいちごまはちょっと大変でした。
感想いただけるとありがたいです。

>よすこ大好き読者。さん
ありがとうございます。
その後の二人・・・ですか。
それはご想像におまかせします。
私的には二人は“ハッピー”(byチャーミー)になっててもらいたいな、と。
全体的に切なめにしたかったというのもあって・・。
なっていたかどうかは心配ですが。
282 名前:しーちゃん 投稿日:2002年03月25日(月)19時22分41秒
いちごま好きですよ。後藤さんをすこしでも幸せにして欲しいです。
救われない話はちょっと苦手なもので・・・私個人の意見ですから
あまり気にせず、がんばって下さい。
283 名前:名無しだべ 投稿日:2002年03月29日(金)14時29分30秒
いい感じです(泣)てゆーかやっぱり市井ちゃんはカッコイイっす。
284 名前:Y 投稿日:2002年04月02日(火)18時35分00秒
ちょこっといしよし短編。
285 名前:【スキ】=【キス】 投稿日:2002年04月02日(火)18時36分42秒


あなたを見ると「好き」と言わずにいられない。

286 名前:【スキ】=【キス】 投稿日:2002年04月02日(火)18時37分41秒
「ひとみちゃん、好き。」
私がそう言うと、ひとみちゃんはいつも戸惑った顔をする。

「どうしてそんなにさらりと言えるかなぁ。」
少し顔を赤くしてひとみちゃんは言う。
照れ隠しなのか、私から少し視線をはずして。

どうしてって?
そんなの決まってるのに。
あなたが好きで好きでたまらないからだよ?

私がそう言おうとするとひとみちゃんは私にやさしいキスをしてくれた。

287 名前:【スキ】=【キス】 投稿日:2002年04月02日(火)18時38分57秒
ひとみちゃんは私にあまり「好き」と言ってくれない。
その代わりなのか、たくさんキスをしてくれる。
言葉で伝えることに照れを感じるからみたいなんだけど、私からしてみればキスの方が恥ずかしい。

あなたがキスをしてくれるのなら、私はあなたにたくさん「好き」って言うよ。

そんな風に思っていたら、ひとみちゃんは微笑んだ。

そして。
288 名前:【スキ】=【キス】 投稿日:2002年04月02日(火)18時40分03秒
「梨華ちゃん、好きだよ。」
小さいけれど、はっきりした声。
胸の中がほわんとあったかくなる。

それじゃあ・・・。

私はちょんっと爪先立って。
ひとみちゃんの肩に手をのっけて。
たくさんの「好き」を込めたキスをした。

289 名前:【スキ】=【キス】 投稿日:2002年04月02日(火)18時41分11秒
いつもと反対。
だけどたまにはこういうのもいいね・・。
290 名前:Y 投稿日:2002年04月02日(火)18時42分17秒
おしまい。
291 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)14時52分46秒
こういう短編もいいですね〜。
短いながらも雰囲気が伝わって、顔がにやけちゃいました。

作者さんは他にも書かれてるのでしょうか?
好きな作風なんで読んでみたいです。
292 名前:夢→恋 投稿日:2002年04月04日(木)15時54分36秒
真っ暗な闇の中に映える白いワンピース。
彼女はいつの間にか少女から女性へと変貌していた。
けれどもそのやさしい笑顔だけは変わることはない。
いつも私に微笑んでくれる。

293 名前:夢→恋 投稿日:2002年04月04日(木)15時55分35秒
初めて彼女と会ったのは私がまだ小学校の頃だった。
その時、彼女は私と同じくらいの年だった、と思う。
私の夢の中にひょっこりと現れて、高めのかわいらしい声で私の名を囁いた。

私は夢の中で彼女とたくさん語り合った。
内容は他愛無いものから悩みまで。
といっても私が一方的に話し、彼女が相槌を打つだけだったが。
それでも私はうれしかった。
いつでも私の話を真剣に聞いてくれたから。
そしてやさしい声で私の名前を呼んでくれたから・・。
294 名前:夢→恋 投稿日:2002年04月04日(木)15時56分18秒
私が成長していくたびに彼女の方も徐々に成長していった。
少しぽっちゃりしていた体型はほっそりとした女性らしい体に変わった。
幼かった顔が大人の顔へと変化していった。
彼女は美しく成長した。

いつからだろう、彼女に対して淡い恋心を抱いたのは。
彼女は女性、ましては私の夢の中に存在する人だというのに。

彼女はあまりにリアルだった。
私の意志とは関係なしに生きているような気さえした。
彼女は私が作り出した少女ではない・・・。

295 名前:夢→恋 投稿日:2002年04月04日(木)15時57分21秒
中学生の頃、私は彼女に一つの悩みを話したことがある。
それは自分の声が女にしては低いこと。
そのことがどこかコンプレックスに感じていて、私は彼女に話したのだった。
「私はひとみちゃんの声、好きだよ。聞いてて安心するの。」
私の目をじっと見つめ、彼女はにっこり笑った。
彼女の一言で私は救われたような気がした。
そして同時に彼女への想いが強くなった。

296 名前:夢→恋 投稿日:2002年04月04日(木)15時58分41秒
あれは私が中学三年生の頃だと思う。
私は彼女の名前を知らないということに今になって気づいたのだ。
彼女と出会って、五年以上経つというのに。
自分でもおかしいと思う。
しかし私の心の中には不安な気持ちがあったのだ。

『彼女の名前を聞いたら彼女は消えてしまうのではないか。』
『彼女に触れたら私の前に二度と現れないのではないか。』

彼女を呼ぶときはいつも「君」だった。
彼女に触れたいと思って伸ばした手はいつも途中で引っ込めた。

私は我慢ができなかった。
297 名前:夢→恋 投稿日:2002年04月04日(木)15時59分27秒
いつものように会話をしていた二人。
けれどどこか彼女の様子がおかしい気がした。
そのことに気を止めず、私は勇気を出してそっと彼女の手をつかんだ。
彼女がぱっと私を見た。
悲しい瞳だった。
「あのね、私、ひとみちゃんともうここで会えなくなっちゃったの。だから、今日はお別れを言いに来たの。」
彼女の言葉が私に衝撃を与えた。

彼女に触れてしまったから・・・?
私がいけないの・・・?

「もう・・会えないの?嫌だよ、そんなの!」
私は彼女を強く抱き締めた。
「君と離れたくないよ!」
彼女は私の背中にゆっくりと手をまわした。
彼女のぬくもりがすごく伝わってきた。
どう考えてもこのあたたかさは嘘じゃないよ・・・。
298 名前:夢→恋 投稿日:2002年04月04日(木)16時00分38秒
「大丈夫、また会えるから。ただ、ここではもう会えないだけ・・。」
彼女は私の腕の中からそっと抜け出して、私の目をしっかり見つめた。
「ほんとに・・?」
涙が出そうになるのをぐっとこらえて、私は彼女の目を見つめ返した。
彼女の目に私の顔が映る。
真実だと信じたい・・・。
彼女の中に私は存在していて、私の中にも彼女は存在しているんだから・・。

299 名前:夢→恋 投稿日:2002年04月04日(木)16時01分45秒

「最後に聞いてもいいかな?」
「なぁに?」
「君の名前を教えて・・・。」
300 名前:夢→恋 投稿日:2002年04月04日(木)16時03分01秒
私は高校生になった。
電車で三十分の比較的近いところにある女子高に通うことになった。

私がこの学校を選んだ理由。
中学のときにバレー部だった私は高校でもバレー部を続けるつもりだった。
だから部活動が盛んだというこの高校を選んだ。
そして。
綺麗な桜の木が中庭にあったから。
学校見学に来たときは当然花は咲いてなかったんだけど、多分春になったらきれいに咲くんだろうなぁと感じた。

入学式を終えた私は気になっていた桜の木を見に、中庭へと向かった。
301 名前:夢→恋 投稿日:2002年04月04日(木)16時03分44秒
ピンクの花びらが風に舞ってひらひらとあたりを染めている。
そこだけ切り離されたように幻想的な世界。
そしてその中に佇んでいる一人の少女。
美しい風景画を見ているようだった。

一瞬私は見とれて立ち尽くしていたが、桜を眺めていた少女が私の方を振り向いたとき、私の心は動き出していた。

302 名前:夢→恋 投稿日:2002年04月04日(木)16時04分50秒

「梨華ちゃん・・・。」

最後に聞いた彼女の名をつぶやいた私。
彼女は少し驚いて私を見たが、すぐにふわっと笑った。

303 名前:夢→恋 投稿日:2002年04月04日(木)16時05分33秒


ユメ カラ ハジマル コイ

304 名前:Y 投稿日:2002年04月04日(木)16時24分20秒
おしまい。

>名無しさん
ちょこちょこと書いてますが、HPは持っていないので。
機会があればまた長編?中編?を書いてみたいとは思ってます。
今は気が向いたら、書けたら短編を投稿、という形です。
お暇であればまた読んでやってください。
305 名前:よすこ大好き読者 投稿日:2002年04月07日(日)01時26分14秒
ごっつあん視点泣きました。(T−T)
悲しすぎる!切なすぎる!鳥肌立っちゃいました。(涙
But,その後の「いしよし」ありがとうございました。
カナーリにやけましたです。はい。イパーイってな感じで・・・・・。(謎
長編・中編・短編なんでも、待っています。
また、読ませてください!
306 名前:LINA 投稿日:2002年04月08日(月)01時21分23秒
今日みつけて、イッキにここまで読みました!
ごとー編で号泣(T▽T)
でも、作者さんの書くモノは情景がすぐ読み取れるってゆーか、
すごいキレイだなぁと思いました♪
短編もカナーリ(・∀・)イイ!
また、何か書いてください♪
307 名前:『フツウ』的恋愛 投稿日:2002年04月10日(水)15時01分52秒
もしモーニング娘。に入っていなかったら、
人の目を気にすることなく街を歩けたのに。
でももしモーニング娘。に入れなかったら、
君とも出会えなかった・・。
308 名前:『フツウ』的恋愛 投稿日:2002年04月10日(水)15時02分59秒
久しぶりのオフに私は梨華ちゃんと買い物に出かけた。
私はサングラス。
梨華ちゃんは帽子を被って。
バレてるのかバレてないのかはいまいち分かんないけど。

ピカピカに磨かれたウィンドウ。
君の手に触れそうで触れない自分の手の微妙な距離に私は少し苦笑いした。
ほんとは手を繋ぎたいけれど。
もし見つかったら何か書かれそうだから。
それでなくても最近二人の仲が噂になってるらしく。
どうしても人の目を気にしてしまう自分が情けない。

309 名前:『フツウ』的恋愛 投稿日:2002年04月10日(水)15時04分04秒
二人は口数少なく歩く。
梨華ちゃんの甘い声はすぐにバレてしまうから。
一度街中でバレて大変な目に遭ったことがある。
ほんとは君の声が聞きたいけれど。
でも見つかって二人の時間を壊されるのはもっと嫌。

ふと隣の彼女をちらりと見たら、そこはぽっかりと空いていて。
はっとして振り返ったらおろおろしてなかなか人ごみを通れない梨華ちゃんがいた。
梨華ちゃん、人ごみが苦手だったね。
きっと眉毛を八の字にして困ってるだろう君のもとに私は駆け寄って。
彼女の手を掴むとするすると人の波を抜けた。
310 名前:『フツウ』的恋愛 投稿日:2002年04月10日(水)15時04分34秒
さっきまでは手を繋ぐことも躊躇していたのに。
こんなにあっけなくできてしまったことにかすかに笑う。
でも人の波を抜けたらどちらからともなく手は離れてしまった。
胸がズキンと痛んだ。

「ごめんね。」
人通りの少ない場所に来て、君は初めて口を開いた。
「私の方こそごめん。人ごみ苦手だったのに。」
「ううん。でもうれしかった、よっすぃと手、つなげて。」
ふふふと笑う梨華ちゃん。
「・・・私も。」
梨華ちゃんが自分と同じ気持ちでいてくれたことがすごくうれしくて。
今も手を繋ぎたいって思ったけど・・やっぱり無理だった。
311 名前:『フツウ』的恋愛 投稿日:2002年04月10日(水)15時05分08秒
恋人だったら手を繋ぐのなんて普通じゃん。
でも私達は女の子同士で。
私達はアイドルで。
だから普通のことは無理なんだ。
・・・じゃあ、普通って何なのさ。

312 名前:『フツウ』的恋愛 投稿日:2002年04月10日(水)15時06分10秒
買い物を済ませた私達は梨華ちゃんの家に戻ってきて、二人まったりとしていた。

「よっすぃ。」
「何?」
「もし娘。に入ってなかったら、誰にも気にせず、普通に買い物に行けたかなぁ。」
私は少し考える。
「確かにそうかもしれないけど、娘。に入ってなかったら、梨華ちゃんと出会えなかったかも。」
私がそう言うと、梨華ちゃんは「そうかも」ってうなづいた。

埼玉と神奈川。
同じ県内でも出会うことなんて難しいのに。
でもモーニング娘。に入ってなくても、梨華ちゃんと出会う気がする。
なんか運命っていうか・・・。
もしモーニング娘。に入ってなくて、それでも君と出会って付き合って。
そしたら普通にデートできるのかなぁ。
313 名前:『フツウ』的恋愛 投稿日:2002年04月10日(水)15時07分57秒
・・・また普通か。

普通ってほんと何なんだろう。
一般とか当たり前とかそういうこと?
やけに曖昧。

でも今思ったことなんだけど。
私にとって梨華ちゃんと一緒にいることが普通なんじゃないかって。
仕事でもいつも一緒にいて。
隣に君がいないと何だか不安で。
君がいることが私には当然のことで。
君なしでは何もかもがモノクロで・・。

あぁ、私のすべては石川梨華で占められてるんだ・・・。

314 名前:『フツウ』的恋愛 投稿日:2002年04月10日(水)15時09分12秒
「どうしたの、よっすぃ。」
急に何もしゃべらなくなった私を梨華ちゃんは心配そうに見つめてる。
「ううん、何でもないよ。ただ・・。」
「ただ?」
「私は石川梨華が好きなんだなぁって。」
私がそう言うと、梨華ちゃんはとたんに顔を真っ赤にして。
「ばかぁ・・。」
恥ずかしそうに私の胸に顔をうずめた。
そして私だけにしか聞こえないほど小さな声で。
「私だって吉澤ひとみのこと、愛してるんだよ?」
315 名前:『フツウ』的恋愛 投稿日:2002年04月10日(水)15時09分49秒
なんだかすっごく君のことを愛しいと感じてしまったから。
私は君をぎゅっと強く抱き締めて。
「そんなの分かってるよ。」
そしたら君も。
「私だって知ってるよ。」
私の背中に手を回した。
316 名前:『フツウ』的恋愛 投稿日:2002年04月10日(水)15時10分33秒

こんな『フツウ』のことに幸せを感じている私。
君もきっと今、幸せだよね?
317 名前:Y 投稿日:2002年04月10日(水)15時11分45秒
おしまい。

>よすこ大好き読者さん
本編でほとんど後藤さんに触れることなく、最後のみ・・という感じだったので、
私としても番外編で書きたかったんです。
後藤さんはあくまで一途というのを出したかったんですが・・。
短編は・・・石川さんストレート、吉澤さん変化球みたいな(意味不明・・?)

>LINAさん
はじめまして。
そして読んでくださってありがとうございます。
そう言ってもらえてうれしいです。
書くとしたらこれからもいしよしばっかだと思いますが、よろしくお願いします。

次回は「吉澤さん誕生日記念」の予定です。
読んでいただけたらありがたいです。
318 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年04月10日(水)20時29分40秒
いしよし!!ありがとうごじゃいます。そして!

>次回は「吉澤さん誕生日記念」の予定です。
んあ!!すご〜い楽しみに待っております!
がんがってください!
319 名前:Y 投稿日:2002年04月12日(金)00時38分32秒
今更ですが、訂正箇所がありました。

>308
ピカピカに磨かれたウィンドウ。
そこに映る二人の姿。
君の手に触れそうで触れない自分の手の微妙な距離に私は少し苦笑いした。
ほんとは手を繋ぎたいけれど。
もし見つかったら何か書かれそうだから。
それでなくても最近二人の仲が噂になってるらしく。
どうしても人の目を気にしてしまう自分が情けない。

となります。一文抜けてました。すみません・・。

では、予告通り「吉澤さん誕生日記念」ということで。

320 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時39分36秒
今日はあなたが生まれた特別な日。
あなたと出会うまではただの普通の一日だったけれど、今日があなたの誕生日だと分かってからは今までの4/12がウソのように色ついた日になった。

あなたとは一つ学年が違うけれど、ついこないだ私は誕生日を迎えたばっかりだから、同い年になる。
やっと、と言っていいのか、とうとう、と言っていいのか。
でもあなたと“一緒”が増えてうれしい。

321 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時40分21秒
部屋で一人、雑誌を見ながらふと思う。
(ちゃんと届いたかな・・。)
今頃あなたはたくさんの人からプレゼントや祝福の言葉をもらってるんだろうなぁ。
あなたの隣に私がいない事実は寂しいけれど。

今日はお仕事がなくて、よっすぃに会わない。
ほんとはプレゼントを直接会って渡したかったけれど、きっと予定もあるだろうし、それにちょっと恥ずかしいかなって思ったから。
あなたの誕生日に届くように郵便屋さんに頼んだの。
322 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時40分56秒
よっすぃは何が欲しいかなぁ。何が似合うかなぁ。
何日もかけてよっすぃへのプレゼントを選んだ。
石川はセンスがないってよく言われるから、少し心配だったけれど。
でも大好きなあなたのために選んだから・・。

あなたのことが好きだという気持ちは告げていないけれど、告げられないけれど。
少しでも私の想いが伝わればいい。

あなたに出会えてよかった。
大好きな大好きなあなた。
323 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時41分31秒

おめでとう、よっすぃ。
あなたにたくさんたくさん幸せがおとずれますように。
あなたがいつも笑顔でいられますように。

324 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時42分02秒


*   *   *   *   *



325 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時42分42秒
ピンポーン

突然鳴ったチャイム。
私はちらりと壁の時計を見る。
六時。
・・誰だろう?
私はそっとドアを開けた。
326 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時43分21秒
「梨華ちゃん。」
「よっすぃ!」
そこには笑顔のあなた。
どうして・・・?

とりあえず中に入ってもらう。
ちょうど紅茶を飲んでたから、もう一つカップに紅茶を注いで、座ってるよっすぃに差し出した。
「ありがとう。」
327 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時43分56秒
「これ・・。」
紅茶を一口飲んだあなたは私に自分の右手を差し出す。
よっすぃの手の中には青い石が埋め込まれているクロスのシルバーペンダント。
私が今日あなたに贈ったもの。

「ちゃんと届いてたんだ。よかった。」
「ほんとありがと。うれしかったよ。」
あなたの笑顔に私もなんだかうれしくなって。
「喜んでくれて私もうれしいよ。」
328 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時44分32秒
「あ、何か私に用でもあったの?」
今頃は友達や家族と一緒だとてっきり思っていた私。
よっすぃが来たことは私には予想外の出来事だった。
「うん、一言お礼が言いたくてさ。」
「もしかしてわざわざそれを言いに?」
「うん。」
すごくうれしかったけれど、なんだかよっすぃに無理させちゃったみたいに感じて。
「携帯やメールでもよかったのに。」
「ちゃんと会ってお礼が言いたかったんだ。」
「よっすぃ。・・」
329 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時45分12秒
「あ、ピンクのプーさん、飾っててくれてるんだ。」
よっすぃは私のベッドにあるプーさんを見つけて言った。
今年の私の誕生日によっすぃがプレゼントしてくれたもの。
すごくうれしくてうれしくて。
毎晩一緒に寝てたりする。
よっすぃの代わりに・・・なんてことは言えないけど。

「私のお気に入りだよ。ほんとありがとね。」
そう言うと、よっすぃは少し照れくさそうに笑った。
今年の2/19はコンサートだったから、メンバーとも一緒だった。
二人っきりじゃないけれど、私の生まれた日によっすぃといられたこと、すごくうれしかったんだよ。
330 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時45分59秒
「梨華ちゃん、この後、暇?」
「あ、うん、暇だけど・・。」
「じゃあさ、ご飯でも食べに行かない?」
「いいよ。でも、パーティーとかあるんじゃないの?」
「あぁ、それ他の日にしてもらったんだ。」
「他の日?」
「やっぱさ、誕生日は好きな人と一緒がいいなぁって。」

今、よっすぃ、なんて言った?
すっ、好きな人って言ったよね?
えっと・・そのぉ・・好きな人って・・もしかして・・。
331 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時46分42秒
「ほら、ご飯食べに行こう。」

よっすぃは少し照れたように笑いながら立ち上がると、まだ座り込んでいる私に自分の手を差し出した。
私ははっとしてよっすぃの手を掴む。
よっすぃはひょいっと私を立ち上がらせてくれた。
でも二人ともつながれた手はそのままで。

332 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時47分16秒
「私もよっすぃのこと、大好きだよ。」

きっと私の顔、真っ赤だろうなぁ。
よっすぃの手をぎゅっと握って。
なんだかよっすぃの顔を直視できなくて私はうつむいてしまった。

「私も梨華ちゃんのこと、好きだよ。」

あなたの声と同時に抱き締められて。
あなたのぬくもりを感じて胸のドキドキはよけい止まらなくなって。
でもすっごく幸せ・・。
333 名前:ハピハピバースディ 投稿日:2002年04月12日(金)00時48分04秒
今日は大好きなあなたの誕生日。
それと同時に私とあなたの告白記念日。
私にとって特別な日。

来年の4/12も一緒にいようね、よっすぃ。
334 名前:Y 投稿日:2002年04月12日(金)00時49分47秒
おしまい。

これは同タイトルの曲のストーリーをお借りして書いたものです。
後半は私なりにその後ということで付け加えてみました。
もう一本、おバカな話を考えてみましたが・・・。
まぁ、とにかく吉澤さん、お誕生日おめでとう!
335 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月12日(金)04時23分14秒
誕生日おめでとー
甘くて良かったです
336 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月12日(金)18時15分48秒
梨華ちゃんの誕生日は1月19日…
337 名前:Y 投稿日:2002年04月12日(金)23時26分22秒
先に指摘されてしまいました。
ほんとすみません・・。

>329
「私のお気に入りだよ。ほんとありがとね。」
そう言うと、よっすぃは少し照れくさそうに笑った。
今年の1/19はコンサートだったから、メンバーとも一緒だった。
二人っきりじゃないけれど、私の生まれた日によっすぃといられたこと、すごくうれしかったんだよ。

となります。石川さんの誕生日は2月じゃないですよね・・。
338 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年04月13日(土)15時47分07秒
すごくよかったす!
ありがとうごじゃいました。
>もう一本、おバカな話を考えてみましたが・・・。
んあ?いつ発表ですか?
339 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月19日(金)23時41分07秒
密かにお待ちしてますよー(w
340 名前:とた 投稿日:2002年04月20日(土)03時08分32秒
ふあー、疲れた。。。
一気にここまで読みました。
もう1本の方も希望です。
気長〜に待ってまーす。
341 名前:Y 投稿日:2002年04月28日(日)16時27分30秒
吉澤さんお誕生日記念に考えたおバカな話ですが、受け流せる人のみこの先
読んでいただければと・・。

すみませんっ!!と最初に謝っておきます。
342 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時32分07秒
もうすぐよっすぃの誕生日。
私としてはよっすぃの喜ぶものをあげたい。
でもだからといってよっすぃに「何が欲しい?」なんて聞きたくない。
やっぱりいきなりあげて驚かせたい。

「う〜ん、何がいいかなぁ・・。」

私は腕組をしながらうなる。
いろいろなものが頭の中をよぎるけど、なんかこれっていうものがない。
私とよっすぃは好みとか似てるから結構すぐに思いつくかと思ったんだけど。
343 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時33分00秒
「後藤、何悩んでるの?」

たまたま横を通りかかった圭ちゃんが心配そうに見つめてた。
そんなにごとー、すごく悩んでるように見えたのかなぁ。

「うん、もうすぐよっすぃの誕生日じゃん。何あげようかなぁって。」
「あ、そういえばそうね。・・何にしようかしら・・。」

圭ちゃんも一緒に悩み始める。
いつも仕事で一緒にいるからといっても結構こういうのって大変なんだよね。

よっすぃの欲しいもの・・・。
よっすぃの好きなもの・・・。
よっすぃの・・・・。
344 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時34分26秒
私の中にぴんっとひらめきのランプが点灯した。
よっすぃの好きなものって『アレ』じゃん。
う〜ん、でも・・。

私は一瞬、そのプレゼントを渡すのに躊躇する。
でも『アレ』がよっすぃにとって一番、なんだよねぇ・・。
他のものは・・・。
『アレ』に勝る代用品なんて考えられない。
・・・やっぱり『アレ』しかないっしょ。

よっすぃに『アレ』をただ渡すのはつまらない。
なんかないかなぁ・・。
345 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時35分22秒
「!!」

・・・いいこと思いついた!
ごとーって天才かも。
じゃあ、そのためにはいろいろと準備しなきゃね。
そうだ、圭ちゃんにも協力してもらおう。
ぜーったい、よっすぃ、喜ぶね。

「何がいいのかなぁ・・。」
私の隣ではいまだ悩んでいる圭ちゃん。
「ねぇ、圭ちゃん。」
「何?」
顔を上げた圭ちゃんに私は満面の笑顔を向けた。
346 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時36分58秒
そしてよっすぃの誕生日当日。
私が天才的なプレゼントを考えてから、今日まで着々と準備を進めてきた。
圭ちゃんは私の考えに賛成してくれていろいろと協力してくれた。
今日もモーニング娘。の仕事があるから、作戦決行もといプレゼントは仕事が全て終わってからなんだけど。
私は事務所にお願いして会議室を一室借りた。
そこに今回使用するいろんなものを集めてきたんだけど、これが考えていたより大変だったんだよねぇ。
ごとーと圭ちゃんで、もう走り回ったよ。
知り合いとかスタッフとかメンバーにもたずねたりして。
こんなにがんばったのって久しぶりかも。
347 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時38分41秒
楽屋。
テレビの収録を終え、支度を済ませ帰ろうとしているメンバー達。
みんなはすでによっすぃにプレゼントを渡したみたい。
けど、きっとごとーのプレゼントが一番だよ?

圭ちゃんは最後の準備のために一足先に事務所の方へ向かってる。
ごとーの役目はよっすぃを事務所に連れていくこと。
だいぶ人がいなくなったところで私はよっすぃに声をかけた。

348 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時40分14秒
「ねぇ、よっすぃ。」
あたりをきょろきょろと見回しているよっすぃは私の方を振り向いた。
「あ、ごっちん、何?」
よっすぃは何か焦ってるようなさみしそうな・・ちょっと変な感じ。
でもこれからビッグな泣いて喜ぶようなプレゼントあげるから!
「これから時間ある?」
「え?・・あぁ・・うん・・。」
「よっすぃにプレゼント渡したいんだけど。」
「プレゼント?ありがとう。」
よっすぃは笑顔になる。
「だからね、ちょっと来てもらいたいとこあるの。」
「う、うん・・。」
私は腕時計をちらりと見る。
・・・うん、もう準備できてるはず。
私はよっすぃを連れてタクシーで事務所に向かった。

「で、プレゼントって何?」
「それは見てのお楽しみだよ。でもきっと喜んでもらえると思う。」
「そう。楽しみだな。」

349 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時41分28秒
事務所に到着。
私はよっすぃを会議室に連れていく。
圭ちゃん、もう準備できてるよね・・?

コンコンッ

私は会議室のドアをノックする。
「はい。」
圭ちゃんの声。
「ごとーだけど、よっすぃ連れてきた。」
「こっちも準備できてるから入って平気よ。」
「・・圭ちゃん?」
私と圭ちゃんの会話を聞いてよっすぃは不思議そうな顔をする。
私はドアを開けて、よっすぃに中に入るよう、うながした。
「どうぞ。」
「あ、うん・・。」
よっすぃはおそるおそる部屋の中に足を踏み入れる。

350 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時43分23秒
それなりに広い会議室。
その中央には自前のカメラ片手に得意そうに笑っている圭ちゃん。
そして圭ちゃんの横には白い布のかかっている横長の物体と、圭ちゃんより少し低めの縦長の物体。

「吉澤、お誕生日おめでとう。」
「あ、ありがとうございます・・。」
「私と圭ちゃんでよっすぃの一番好きなものをあげようと思ってここまできてもらったんだけど。」
「ありがとう・・。」
よっすぃはそう言って会議室をぐるりと見回す。

「あの・・なんか少しこの部屋、暑くないですか?暖房かかってるような・・。」
よっすぃが壁についているエアコンをちらりと見る。
「あー、ちょっとね・・。まぁ気にしないで。」
「はぁ。」
351 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時45分03秒
「えーっと・・、で、これ何?」
よっすぃは白い布のかかっている物体を指差す。
「これが吉澤へのプレゼントよ。」
圭ちゃんの言葉に物体をまじまじと見つめるよっすぃ。
「さ、よっすぃ、布とって。」
「う、うん。」

よっすぃの手が縦長の物体に伸びる。
私はごくりとつばを飲み込む。
この布を取った瞬間、よっすぃはきっと私のプレゼントに泣いて喜ぶはず!
このときのために、私は朝から晩までいろいろ準備に走って・・。
あの苦労した日々がなつかしい・・。

よっすぃはゆっくりと白い布を取る。
やっと来た!この瞬間!
352 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時46分26秒
バサリ・・・

よっすぃ、喜んでくれたよね!!
私はよっすぃの顔をばっと見る。
きっとすっごい笑顔でいるはず。
しかし。

「・・・・。」
よっすぃは目が点で、ただただプレゼントを見つめていた。
・・・あれ?あんまうれしくない?
あっ、うれしくて言葉が出ないとか・・。
そんな風に私が思ってると、よっすぃはやっと口を開いた。
353 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時47分54秒
「り、梨華ちゃん・・・、何で・・?」

ピンクのリボンに体をぐるぐるにまかれた梨華ちゃんが少し泣きそうな顔で立っていた。
まだ春だというのにピンクのキャミソールに白のショートパンツという夏服で。
足も手もリボンによって縛られてるから身動き取れないでいる。
「よっすぃ〜・・。」

「これが圭ちゃんと私からのプレゼントだよ。よっすぃの一番好きなものって言ったら、やっぱ梨華ちゃんだと思って。」
「ごっちん・・確かにそうだけど・・。」
「・・何でもいいけど、リボンとって、よっすぃ。」
「あ、ごめんごめん。」

354 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時48分49秒
よっすぃは慌てて梨華ちゃんの体からリボンをほどく。
あまりにもぐるぐるに巻いてるからよっすぃ、大変そう。
梨華ちゃんも回されてるし。
圭ちゃん、すっごい巻き方したね・・。

「どうしたのさ、梨華ちゃん。」
「それが私も訳分かんなくて。仕事終わったら、保田さんにいきなり連れてこられて、これに着替えさせられて、リボン巻かれて・・。」
「ごめんね・・。」
「よっすぃが謝ることじゃないよ。私もよっすぃに連絡できなくてごめんね。」
「約束、忘れちゃったのかと思った。」
「私がよっすぃとの約束、やぶるはずないよ!」
二人がそんな会話をしてたけど、まぁとりあえず置いといて。
これからがまたプレゼントなんだよねぇ。
355 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時49分49秒
「よっすぃ、まだプレゼントはあるんだよ。」
梨華ちゃんの体からリボンが取れたのを見計らって、私は切り出す。
「もう一つの白い布をとってよ。」
「うん・・。」
よっすぃは一気に白い布を引き抜いた。

「・・・何これ?」
「すごい・・。」
よっすぃと梨華ちゃんは驚きの表情。
「何って、服、衣装だよ。」

白い布の下からハンガーにかかった衣装がずらりと出てきた。

「そりゃ、見れば分かるけど・・。ドレス・・セーラー服・・体操着・・あかぐみ4のときのや、青色7の衣装まで・・。」
「もう大変だったよ。あかぐみのは後藤のを用意できたからよかったけど、黄はなっちに頼んだんだよ。」
「いや、そういう問題じゃなくて。」
「チャイナドレスや、テニスのスコートまであるよ、よっすぃ・・。」
「えぇっ?!一体どういうことなの、ごっちん。」
よっすぃに問われて、私は得意げに話し出した。
356 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時51分07秒
「だからね、ただ梨華ちゃんをあげるのじゃ、つまんないと思ったの。だから梨華ちゃんのための衣装を用意したんだよ。」
「ご、ごっちん・・。」
「これがほんとの『梨華ちゃん人形』!!」
私は両手を挙げてばしっとポーズをとった。

「さ、梨華ちゃんで着せ替えして。」
「ごっちん、ちょっと聞いてないよ・・。」
梨華ちゃんが慌ててそんなこと言ってるけど、そんなの関係なし。
「この服着せたのってこのために・・。」
「吉澤、石川の着せ替えできたら、私のカメラで写真とってあげるわよ。」
梨華ちゃんの言葉を遮って圭ちゃんそう言った。

そして当人のよっすぃはというと・・。
「最初どれにしようかなぁ・・。やっぱ王道にセーラー服でしょ。」
もちろん衣装を選んでいた。

357 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時52分46秒
よっすぃ、やっぱり喜んでくれると信じていたよ。
セーラー服を持ちながらにやりと笑っているよっすぃを見て、ほんとにこのプレゼントにしてよかったって思う。
あのとき、あきらめないでよかったよ。

「りーかちゃん!」
セーラー服を片手に満面の笑顔のよっすぃ。
「よ、よっすぃ・・。」
一方、梨華ちゃんは苦笑い気味で一歩後ずさり。
「ほら、着替えさせて。」
「自分でできるから・・。」
「それじゃあ、意味ないじゃん。」
よっすぃは強引に梨華ちゃんにセーラー服を着させ始める。
「あ・・よっすぃ・・あっ・・。」
梨華ちゃんの抵抗は全く無意味で。

「やっぱ梨華ちゃんにはセーラーだね。かわいいよ。」
「は、恥ずかしいよぉ・・。」
セーラー服を着た梨華ちゃんは顔を真っ赤にさせてうつむいている。
「さ、圭ちゃん、撮ってください。」
「OK!」
「よっすぃ・・保田さん・・・あの・・。」
圭ちゃんは自慢のカメラのレンズを梨華ちゃんに向けた。

358 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時54分33秒
「じゃあねぇ、次はこれ。」
「これってテニスウェアーとスコート?」
「梨華ちゃんのスコート姿見たかったんだよねぇ。今までは想像だけだったからさ。」
「よっ、よっすぃ!」
「あ、ラケットもある!ごっちん、気が利くね。」

359 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時56分29秒
「今度はあかぐみの衣装ね。」
「ごっちんの衣装か・・。」
「コンサートで歌ってるとき、絶対この衣装梨華ちゃんに合うって思ってたんだよね。
さ、手を上げて。」
「う、うん・・。」
「・・・よし、やっぱかわいいなぁ〜。」
「ちょっと腰のあたりがぶかぶかだけど・・。」
360 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時58分31秒
「やっぱ梨華ちゃんの三人祭はさいこー。」
「ちょっと恥ずかしいんだけどね。」
「ピンクのかつらかぶってなくてもいいねぇ。あ、今度・・。」
「よっすぃ?」
「ううん、なんでもないよ。」
「・・何でにやにやしてるの・・?」
361 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)16時59分50秒
「あれ〜。」
「何、探してるの?」
「うん、ブルマーを。」
「ブルマー?!」
「梨華ちゃんに体操着って言ったら、ブルマーでしょ。」
「ちょっとどういう発想なの!よっすぃ!!」
362 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)17時01分23秒
「ちょ、ちょっと、よっすぃ?!」
「梨華ちゃん、動かないで。」
「動かないでって何でキャミソールを脱がそうとするの?」
「だって全部脱がせないと無理なんだもん。」
「無理って・・。」
「裸エプロン。ひらひらのかわいいのがあったからさ。きっと似合うって。」
「ダメ、絶対ダメ!」
「けちー。」
363 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)17時02分40秒
やっぱり、よっすぃは喜んでくれた!
でもね、最後にすんごいの用意したんだよ。
パシャパシャと圭ちゃんのカメラで梨華ちゃんを撮っている間に私はこっそり部屋の隅に言って大きめの箱を二つ持ってきた。

「圭ちゃん。」
「ん?」
圭ちゃんが私を見る。
私が箱を持っていることに気づき、うなづいた。

「さてと、そろそろ着せ替え遊びはおしまい。」
「えー、まだ遊びたいよ。」
よっすぃは子供のように駄々をこねる。
「後はプライベートで石川にさせてもらいなさい。」
「ちょっ、保田さん?!」
「梨華ちゃん、また遊ぼうねぇ。」
364 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)17時04分27秒
「よっすぃ、もう一つ用意してるものがあるの。」
そう言って私はよっすぃと梨華ちゃんに箱をそれぞれ渡した。
「ごっちん、私にも?」
梨華ちゃんがたずねてきたので私はうなづいた。
「開けてみて。」
圭ちゃんに言われ、二人はそっと箱を開けた。

「これって・・。」
よっすぃが圭ちゃんを見る。
「・・ウェディングドレス・・?」
梨華ちゃんがぽつりとつぶやいた。
よっすぃの方には白いタキシードを、梨華ちゃんには白いウェディングドレスを渡したのだ。
シンプルな細身のドレス。
これは私の知り合いがこないだ結婚式を挙げて、そのときに使ったものなんだけど、無理言って借りてきたんだ。
365 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)17時05分55秒
「いづれ二人ともウェディングドレスは着ると思うけどさ。よっすぃにはタキシードを用意しちゃったけど。」
私がそう言うと、よっすぃは首を横に振った。
「こんなときしかタキシードなんて着れないよ。」

「二人がこれを着て写真撮影。これが私達の最後のプレゼントだよ。」

圭ちゃんの言葉に泣きそうな笑顔のよっすぃと梨華ちゃん。

よっすぃと梨華ちゃんは好き同士だけど、女の子同士だから結婚なんて無理。
だからせめてお遊びでも着させてあげたかったんだ。

「ありがとう、ごっちん、圭ちゃん。」
「早く着替えてきなさいよ。」
「うん・・。」

366 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)17時07分56秒
二人がたくさんの衣装の裏に消えていく。

「二人とも喜んでくれてよかったね。」
「そうね。それにしても後藤の作戦、よかったわよ。冴えてたっていうか。」
「まぁね。」

よっすぃ、誕生日おめでとう。

367 名前:これがほんとの・・・ 投稿日:2002年04月28日(日)17時09分17秒
〜後日談〜
「こないだの吉澤と石川の写真できたんだけど。」
「あ〜、見る見る〜。」
圭ちゃんから最後に取った二人のタキシード・ドレス姿の写真を手渡される。
「まだ二人には渡してないんだ。」
「よく撮れてるね〜。なんかほんと結婚しちゃったみたい。」
「『私達結婚しました』っていうハガキでも作ってみる?パソコンなら簡単だよ。」
「あ、それいいじゃん!」
数日後、メンバーに『結婚しました』ハガキが渡されることによっすぃと梨華ちゃんはこのとき知る由もなかった。
368 名前:Y 投稿日:2002年04月28日(日)17時09分57秒
おしまい。
369 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月29日(月)01時10分12秒
(・∀・)イイ!!っす!!
着せ替え梨華ちゃん♪(w
結婚式も(w
何気にメンバーに結婚しましたハガキ出したあとどうなったか気になります(w
370 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月29日(月)21時08分43秒
面白かった〜
着せ替え梨華ちゃんでわらかしてもらって、
結婚写真でじんわり。(#´▽`)´〜`0)
私にもはがき下さい。(w
371 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年04月29日(月)22時01分41秒
かなりワラタ!!いや〜面白かったです。
現実になることを希望!!っと、言ってみたりする。(w
この話大好きです。もう一本いっとく??(笑)
372 名前:短いですが・・ 投稿日:2002年06月03日(月)22時39分41秒
梨華ちゃん、キスしていい?

えっ、何で呆れてるの?

よっすぃはいつも唐突すぎるって?
でもさ、いきなりしたくなるときってあるじゃん。
例えばトイレとかだってさぁ・・。

トイレと一緒にしないでって?
あ、ちょっと怒んないでよ。
ごめんごめん。
でも何ていうのかなぁ、生活の一部ってやつ?
梨華ちゃんも私にとってそんな感じで・・・。

え?何、顔赤くなってんの?

ばかって・・・ひどいよ、梨華ちゃん。

    ちゅっ・・・

あっ・・・。

・・・私からキスしようと思ってたのに・・。

まぁ、でも・・もう一回しよ?
373 名前:Y 投稿日:2002年06月03日(月)22時40分42秒
かなり長く空いてしまいました。
もう忘れられているかも・・。

>369 名無し読者さん
着せ替え梨華ちゃん、ちょっとベタだったかなぁと。
結婚しましたハガキのその後については書いてはみたんですが・・。
機会があればそのうちに・・。

>370 名無し読者さん
おバカな話とひかれなくてよかった・・。
吉澤さんと石川さんの結婚ハガキ、私もほしい・・。

>371 よすこ大好き読者。さん
私も現実になること希望です。
大好きと言ってもらえて光栄です。

近いうちに新たにスレを立てたいと思っています。
またよろしくお願いします。

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