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あなたにここにいて欲しい
- 1 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月06日(水)22時05分12秒
- 普段、普通の推理小説を書いているのですが、
いしよしにはまって、どうしても書きたくなりました。
こう言う形式は不慣れで、暗めの堅い文章になりがちですが、
読んでくれる方がいたら幸いです。
- 2 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月06日(水)22時08分12秒
- 部屋中に満たされた明るい声と人いきれ。
「じゃね、みんなー、また明日」
「待ってよー!、あたしも帰る」
さっきまでの喧騒が嘘のよう。
矢口のよく通る笑い声が、廊下の向こうで遠く響く。
それが、かえって控室の静けさを際立たせる。
ぽつんと、本当に、ぽつんと、
梨華は、吉澤とふたり取り残されたようで不安になった。
後藤と楽しそうに話をしたり、大声でジョークを飛ばしてみたり、
終始明るい笑顔を振り撒いていた吉澤は、
一転暗い表情で淡々と荷物の整理をしている。
- 3 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月06日(水)22時11分36秒
- 最近の吉澤はふたりきりになると妙に冷たい。
気のせい?
私のこと嫌いなの?
そう思うと、梨華は胸の奥に締め付けられるような
痛みを覚えた。
私はこんなに好きなのに…。
もちろん、変な意味じゃないけど。
同期で、いつも一緒にがんばってきて、
みんな、好きだけど、
でも、やっぱり、よっすぃーは特別な人。
一番大切な友達。
「梨華ちゃん…」
吉澤のいつもの低い声。
突然呼ばれて、梨華は何故だかどぎまぎした。
吉澤は片付けをする手を休めず、うつむいたまま。
「…なんか、最近、限界かなーって…」
独り言のような淡々とした吉澤の語り口。
梨華はただ吉澤を見つめるだけで、相槌も打てなかった。
「梨華ちゃん、今日、」
っと、その時、ガタンとドアが勢いよく開いた。
- 4 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月06日(水)22時15分15秒
- 「石川、遅いぞ、何してんのよ」
入ってきたのは保田だった。
「あー、よっすぃーいたんだ。今から石川とご飯食べに行くんだけど、一緒にどう?」
「ありがとう、でも、ごめんね、圭ちゃん。今日は友達と約束があるんだ」
いつのまにか吉澤はいつもの明るい笑顔に戻っている。
「っそっかー残念。また今度ね。じゃー行くよ石川」
「はーい」
梨華が歩き出すのを確認すると、保田は先に出ていった。
「よっすぃー、行くね」
「うん」
梨華はゆっくりとドアのノブに手をかけた。
「さっき、何を言おうとしたの?」
梨華が躊躇いがちにそう切り出すと、吉澤は何でもないというふうに手を振る。
と、聞き覚えのあるメロディーが静かな部屋に響く。
吉澤の携帯の着信音だ。
「今日、約束してる友達からだ。梨華ちゃんも早く行きなよ」
梨華はまだ何かを言いたくて、でも何が言いたいのかわからず、
ただ吉澤を見つめていた。
「ほら、早く。圭ちゃん待たしたら悪いよ」
「でも…」
「もしもし、…うん、ハハ…いいよ」
梨華には、携帯の向こうの誰かと楽しげに話す吉澤の後ろ姿が、
自分を拒んでいるように思えた。
- 5 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月06日(水)22時18分02秒
- 「なんだか今日は元気ないね」
保田は心配そうに梨華の顔を覗き込んだ。
「やだ。そんなこと無いですよー」
梨華はわざと目の前のパスタを口いっぱいに放り込む。
「ひょっとして、恋人でも出来たんじゃない?」
梨華は、焦って、あやうく喉を詰まらせそうになった。
「なんだ、図星か」
「違いますよ。そんなわけないじゃないですか」
「嘘。石川はすぐ顔に出るもん。可愛いね」
「違いますっ!」
保田は何かを見透かすように、大きい瞳で梨華をじっと見つめた。
梨華は居たたまれなくなって目をそらした。
「やっぱりそうなんだ。愛しい彼の事で頭がいっぱいって顔してるよ」
「彼なんていませんってば」
「じゃあ、片思い?」
梨華はなんだか自然と目のあたりが熱くなって、何も言えなくなった。
「そうなんだ。どんな男よ、こんな可愛い石川を泣かすなんて」
「泣いてません。ただ…」
「ただ?」
「ただ、そばにいたいなっ…て」
- 6 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月06日(水)22時20分20秒
- いったい私は何を言っているんだろう?
そんな人いないのに。
梨華は無意識に流れてくる自分の言葉を、止めることができなかった。
「好きなのかどうかわからないけど、あの人が悲しい顔をしていると、私も悲しくなって…」
「それは好きだからでしょ」
「でも、そばにいれるだけでいい。あとは何もいらない」
「そんなに好きなの?」
保田は優しく微笑む。
「告白しちゃいな。そうだ、今夜彼に電話しなさい」
梨華は保田の語気に押されるように気づいたらうなずいていた。
「けど、彼氏が出来て辞めるなんてだめよ、よっすぃーみたいに」
「えっ!」
梨華の高揚した顔から一気に血の気が引いていった。
「石川が知らないならデマかな。そんな話聞いたんだけど、単なる噂だから忘れて」
- 7 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2002年03月07日(木)00時27分54秒
- 今までにないパターンですね
果たしてどうなっていくのか…
御期待します
- 8 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月07日(木)01時58分20秒
- 自分も期待してます…
- 9 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月07日(木)21時16分01秒
- 梨華は夜の街をぼんやり歩いていた。
どうしても、一人の部屋に帰る気分になれなかった。
『よっすぃーが辞める』
『告白しちゃいな』
さっきの保田の言葉が頭の中をぐるぐる回る。
降り始めた雨がかすかに前髪を濡らす。
梨華は鞄から携帯を取り出した。
気づくと吉澤の短縮番号を呼び出していた。
掛け慣れた番号のはずなのに呼び出し音とともに鼓動が高鳴る。
呼び出し音と呼応するように、雑踏に紛れて『王子様と雪の夜』が聞こえてきた。
音の方向に自然と目がいく。
そこには…。
「…よっすぃー」
女の子にしては高い背丈。そして、その横に吉澤よりひとまわり大きな若い男。
どう見てもカップル。
- 10 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月07日(木)21時17分57秒
- 約束してた友達って…。
楽しげに話してた電話の向こうの人って…。
吉澤は鳴り出した携帯を取り出そうと鞄を探る。
梨華は慌てて携帯を切り、吉澤とは反対の方向に走り出した。
雨脚は次第に激しくなる。
頬を濡らす雫が雨なのか涙なのかわからなくなった。
今気づいた、本当の気持ち。
ずっと、気づかない振りをしてきたけれど…。
あなたが好き。
女の子だけど、ただの友達だけど。
よっすぃー…。
あなただけが好きだった。
降りしきる雨の中、こみ上げる想いを胸に、傘もささず、梨華は夢中で走り続けた。
- 11 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月07日(木)21時19分19秒
- 今日は朝からコンサートに向けてダンスレッスン。
休憩のたびに吉澤は携帯を取り出して着信を確認した。
梨華の事が気にかかった。
梨華は珍しく風邪で昨日から休んでいる。
切れてしまった梨華からの電話。
何の用だったんだろう?
後で電話しようと思いながら、結局疲れてすぐに寝てしまった。
『風邪大丈夫?』
悩んだ末、昨日の朝一言だけのメールを送った。
けれど返信はまだ無い。
スタジオの窓からは夕闇がさし始めていた。
- 12 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月07日(木)21時24分48秒
- 控室に一人残る吉澤は物思いに沈んでいた。
一昨日と同じシチュエーション。
がんばらなきゃいけない。
はじけなきゃいけない。
それは半ば脅迫観念のように。
撮影中はもちろん、人前では常にテンションを上げて笑顔を作る。
気づけば、本当の自分がどこにいるのかわからなくなり始めていた。
虚像と実像の狭間。
何もかもが中途半端な気がした。
友達以上恋人未満の関係を続けて彼の事も。
彼といても、どこかでもうひとりの吉澤ひとみを演じている。
好意を寄せてくれる人と一緒にいるのは心地いい。
会っているときは正直楽しい。
肝心の答えは先延ばしにしたまま。
本当は一昨日も、断る口実に梨華ちゃんを誘おうと思っていた。
『僕のことどう思っているの?』
とうとう投げかけられた彼の質問にただ黙り込んでしまった。
『そっか、まだ決められないんだね。いつまでも待ってるよ』
優しい彼の言葉が胸に染みる。
- 13 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月07日(木)21時28分42秒
- 読んでくれる人がいることをリアルタイムで感じれるのは、
すごく嬉しいもんですね。
よかったらまたお付き合いください。
週末はアップできる環境にないので、次回更新は月曜予定です。
- 14 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月08日(金)06時00分07秒
- なかなか痛めですね・・・
激しく期待しております!
- 15 名前:夜叉 投稿日:2002年03月08日(金)16時38分24秒
- 二人がどう動くのか楽しみです。頑張ってください。
- 16 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月11日(月)20時13分37秒
- ガタンとドアが開く。
入ってきたのは保田。
本当に一昨日と同じシチュエーション。
ただ、そこに梨華がいないだけ。
「よっすぃー、よかった、まだいたのね」
「うん、今帰るとこだけど、何?」
「ちょっとね…」
保田はめずらしく言いにくそうに口ごもる。
「石川、すっかり病気みたい」
「知ってるよ、風邪でしょ」
「それもそうなんだけど、恋煩い…かな」
思いもしなかった保田の言葉に、吉澤は軽いショックを受けた。
「石川があんまり思いつめた顔してるから…ついつい告白しちゃいな、なんて言っちゃって…」
告白…。
あの梨華ちゃんが。
「で、二日も休んでるでしょ。…なんか責任感じるよ」
保田はため息をつく。
「様子見てきてくれないかな?よっすぃーならあの子も話しやすいだろうし」
「…あ、うん、わかった。行ってみるよ」
「ありがとう、心配なのよ、一途な子だからね」
- 17 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月11日(月)20時15分08秒
- 『一途な子だからね』
保田の言葉が頭に残る。
確かに横で見ていると心配になることがある。
いつでも、何事にも、全力でぶつかる梨華姿。
危なっかしくて、不器用で、時には傷ついたり、自分を責めたり。
それでも一生懸命前を向いて歩いている。
本当は自分よりずっと強いのかもしれない。
寝込んでしまうくらい、好きな人がいるの?
吉澤はいつも隣を歩いてきた梨華に、ひとり置いて行かれたような気がした。
- 18 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月11日(月)20時17分28秒
- 「…よっすぃー」
ピンクのパジャマにカーディガン姿で玄関口に出てきた梨華。
熱のせいか顔が赤く、目が潤んでいる。
「どう?」
「…うん」
「入っていい?」
「…うん」
病気なのだから当然だけどひどく元気がない。
その瞳の翳りが風邪のためだけではないように思えた。
吉澤は梨華の後に続いて部屋に入る。
- 19 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月11日(月)20時18分33秒
- 「これプリンだけど、食べれる?」
「ありがとう」
梨華は差し出された洋菓子店の包みを受け取るとキッチンに向かった。
「紅茶でいいかな?」
かすれた声が痛々しい。
「そんなのいいよ、私がやるから。梨華ちゃんは寝てな」
「大丈夫だよ、熱も下がってきたし」
「嘘、顔が赤い」
吉澤は背後から腕を回して梨華の額に手を当てた。
「熱いよ」
梨華は一瞬ピクンと体をこわばらせ、腰が砕けたようにその場にしゃがみこんだ。
「ほら、全然大丈夫じゃない」
吉澤は抱きかかえるような格好で、梨華をベッドに座らせた。
「ごめんね…」
「なに言ってんの」
- 20 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月11日(月)20時20分30秒
- 梨華の顔が至近距離にある。
しばらくふたり黙り込んだまま。
「なんかあった?」
梨華は答えを探すように吉澤を見つめ、やがて目を伏せた。
吉澤は梨華の肩にそっと手を置く。
「…何でもない」
「無理しなくていいよ」
穏やかで優しい吉澤の声。
梨華は堪え切れずに吉澤の胸に顔をうずめた。
梨華の肩のかすかな震えが掌に伝わる。
女の子らしい華奢な体。
ほのかに甘い香り。
吉澤は目の前の梨華が一瞬ひどく愛しい存在に思えた。
好きな子を抱きしめる男の子の気持ちはこんなふうなのかな?
自分がもし男だったら惚れていたかもしれない。
落ち込んでいる友達の肩を抱いてそんな事を考える自分が、
ひどく不謹慎に思え無理やり思考を振り払った。
- 21 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月11日(月)20時21分06秒
- 胸のあたりが少し冷たい。
「…ご、めん、ね…」
やっとそれだけ言葉にできたといった感じの涙声。
「何も言わなくていいよ」
吉澤は梨華にかけてあげるべき言葉を探した。
「ほんとに大切なものを見つけたときは、簡単に諦めちゃいけないと思う」
「…」
「だって、ほんとに大切だと思うものなんて、なかなか見つかんないから」
「…」
「がんばってる梨華ちゃんが好きだよ」
肩の震えが止まるまで吉澤は梨華を優しく抱きしめた。
- 22 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月11日(月)20時27分06秒
- 皆様、レスありがとうございます。
ますます痛くなる予定ですが、時間のあるときにでも、
読んでいただけると嬉しいです。
- 23 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月12日(火)02時54分27秒
- 痛めでも期待。文章もいい感じです
- 24 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月12日(火)22時43分37秒
- 梨華はまだ少しふらつく足取りで仕事場に向かった。
連日の激しいダンスレッスン。
テレビやラジオの収録、雑誌の取材、分刻みのスケジュール。
病み上がりに体にはかなりきつい。
今日はテレビ番組のロケ。
メンバーが視聴者の願いを叶えるというコーナーで、
今回は片思いで悩む女の子のために、
山奥にある神社にお守りを買いに行くという企画だ。
もともと、梨華と吉澤が割り当てられていたのだが、
梨華の体調を考えて、後藤に変更が決まりかけていた。
けれど、梨華がやりたいと志願して当初の予定通りとなった。
- 25 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月12日(火)22時45分24秒
- 吉澤とはあの日以来ろくに話をしていない。
当然、毎日のように一緒に仕事をしているのだけれど、
不意に視線がぶつかると、恥ずかしくなって目をそらしてしまう。
写真撮影やテレビの収録、腕を組んだり抱き合ったり、
そんなことは日常茶飯事だったはずなのに、
あの日の手のぬくもりが、今でも梨華の体を熱くする。
『本当に大切なものを見つけたら、諦めちゃいけない』
大切な人の腕の中で聞いた言葉。
諦めなきゃいけないの。
大切な人はあなただから。
あなたが好きです。
そんなこと、言えるわけがない。
- 26 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月12日(火)22時48分49秒
- バスの中。吉澤は窓の外を流れる景色を無表情で眺めている。
隣に座る梨華は、何度か話し掛けようとした。
けれど、なんと切り出していいのかわからない。
こないだのことは、気にしないでね。
こないだは、ごめんね。
ありがとうのほうがいいかな?
いろいろ考えて吉澤のほうに向くと、妙に表情が硬い。
機嫌が悪いのかな?
仲良しのごっちんとのほうが楽しかったって思ってるのかな?
やっぱり、私のこと嫌いなのかな?
結局梨華は何も言い出せない。
都会の街並みは遠くなり、窓の景色は次第に緑が目立ち始めた。
やがてバスは山の中へ入って行く。
- 27 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月12日(火)22時50分58秒
- 「みなさん、こんにちはー、石川梨華です」
「吉澤ひとみでーす、イエーイ」
吉澤は先ほどとは別人のようなハイテンションでカメラに顔を近づける。
「今日は、片思いに悩む女の子のために、奇跡のお守りを手に入れるべく、
やってきたわけですが」
「はい、で、梨華ちゃん、その奇跡のお守りはどこに?」
「それはですね、なんとこの山の頂上にある神社です」
「頂上っ!まじっすか」
「さあ、さっそく頂上めざしてがんばりましょう、ね、よっすぃー」
「えー!やだよー山登り」
「はい、OKです」
スタッフの声と同時に吉澤は軽くため息をついた。
「梨華ちゃん、大丈夫?」
「え?」
「体調」
「うん、もう大丈夫」
- 28 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月12日(火)22時53分41秒
- 吉澤は先に歩き出す。
「ねえ、よっすぃー」
梨華が慌てて呼び止めると吉澤は振り向いた。
「こないだ、ごめんね」
吉澤は何も言わず、かすかに笑みを浮かべた。
その笑顔がとても優しかったから、梨華はほんの少し幸せな気分になった。
- 29 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月12日(火)23時00分52秒
- レスありがとうございます。
飲んで帰ってきたせいか、タイトル間違えたり、切るところ間違えたりで、
おかしくなりそうなので、今日は終了です。
- 30 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月13日(水)21時15分16秒
- ひたすら続く急勾配。
大きな石につまずいたり、ぬかるんだ道に足を取られたり。
カメラを意識して大げさにリ驚いてみせるふたり。
半ばに差し掛かったあたりから、梨華の体力は限界に近づいてきた。
「もうだめー!」
「きっつーい!」
「助けてくれー!」
吉澤はそんな叫び声を上げながらも、時折梨華を気遣うような視線を送り、
悪路にはさりげなく手を差し出す。
やがて視界に光が射す。
「もうちょっとだ、がんばれ」
梨華の耳元で吉澤が囁く。
- 31 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月13日(水)21時17分00秒
- 奇跡のお守り、必ず相手に想いが通じるという。
そんなものなどあるはずもなく、実際はただのオルゴールのついたキーホルダー。
このオルゴールに好きな人の写真を入れて持ち歩けば、必ず想いが通じます。
全国各地から寄せられたというお礼の手紙を披露しながら
そう力説する神主にインタビュー。
午前の撮影は終了した
- 32 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月13日(水)21時19分37秒
- 梨華は撮影用のキーホルダーをひとり眺めていた。
「こんなのほんとに効くのかな」
「効くわけないよ。これで5000円は高すぎる、ぼったくりだな」
不意に背後から吉澤の声が聞こえてた。
「きっと、パートのおばさんが流れ作業で作ってるんだよ」
「よっすぃー、夢を壊すようなこと言わないでよ」
梨華は吉澤を軽く睨む。
「じゃあ、梨華ちゃん、試しに買ってみれば」
「自分で効くわけないって言ったくせに」
「自己暗示だよ。信じるものは救われる、かもしれない」
「じゃあよっしぃーが買えば」
「いらないよ」
お守りに頼らなくても想いは通じているということなの?
梨華は複雑な心境で吉澤の顔を見上げた。
「私もいらない」
- 33 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月13日(水)21時20分48秒
- もうそろそろ撮影再開の時間。
梨華は未練を感じて、お守り売り場へと足を向けた。
奇跡のお守り。
ひょっとしたら、そんなものがあるのかもしれない。
たとえパートのおばさんが作っていようと、
たとえ流れ作業であろうと、
信じるものが救われることもあるのかもしれない。
あの人がそう言うのだから…。
と、そこに。
目の前の光景に、梨華は自分の目を疑った。
お守りを買う吉澤の姿。
どうして?
- 34 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月13日(水)21時23分58秒
- 帰りのバス。吉澤は疲れて熟睡している。
梨華も、もちろん疲労困憊の状態だった。
けれど目を閉じても眠れない。
隣の席の吉澤。
本当に整った可愛らしい顔立ち、なのにどこか少年っぽい。
普段、明るくて、さばさばしてるのに、クールで繊細。
本当はどんな人なのか、
いつも何を考えているのか、
実際自分は何も知らないのかもしれない。
梨華は吉澤の寝顔を見ながらそう思った。
穏やかな顔。
彼氏の夢でも見ているの?
- 35 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月13日(水)21時25分25秒
- バスが揺れて吉澤の体が寄りかかってくる。
短い髪が梨華の首筋をくすぐる。
それでも、やっぱりこの人が好き。
気持ちは止められない。
だから、
だから、決して叶うことのない想いだとしても、
この先どんなことがあっても、
この気持ちだけは、きっと、変わらない。
- 36 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月13日(水)23時33分01秒
- 今日は以上です。
明日の晩更新して、次は月曜予定です。
- 37 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月14日(木)00時41分42秒
- 気持ちのすれちがいが切ない・・
- 38 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月14日(木)21時18分10秒
- レッスンは日々厳しさを増す。
今日の吉澤は明らかに動きが悪い。
集中しなければと思いながら、心の迷いがそれを邪魔する。
このツアーが最後になるかも知れない。
事務所に意向は既に伝えてある。
もう一度よく考えろと言われ、答えはいったん保留中だけれど。
これ以上このままでいることはできない気がする。
だからといって、ここで辞めたら自分には何が残るのだろうか。
- 39 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月14日(木)21時20分46秒
- 梨華の方に目をやった。
もうすっかり回復したように見える。
その心中はわからないけれど、仕事にかける真剣さが伝わってくる。
この先続けるにしろ、最後になるにしろ、このコンサートは成功させたい。
だから、とにかく、今は練習に集中しなければならない。
わかりきったことだった。
けれど、気づくと雑念が頭をめぐる。
「吉澤!そこ違うぞ」
先生の檄が飛ぶ。
「はい」
メンバーの視線が吉澤に集まる。
梨華が心配げな表情で吉澤を見ている。
- 40 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月14日(木)21時22分31秒
- 「吉澤、体調悪いの?」
レッスンが終わると飯田が声をかけてきた。
「そんなことないですよ」
吉澤は極力明るい声を作る。
「なんか、考え事してるみたいだったけど」
「ああ、そうなんですよ。飯田さんのより面白いダジャレを考えてたんです」
「そんなの簡単じゃん。よっすぃー目標低過ぎ」
横から矢口が口を出す。
「どういう意味よ、失礼ね」
室内が笑い声に満たされる。
そんな中、ひとり少し離れた位置にいる梨華。
目が笑っていない。
- 41 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月14日(木)21時23分24秒
- 吉澤はさりげなく梨華の傍らに移動した。
「梨華ちゃん、今夜なんか予定ある?」
「…え、別にないけど…何?」
「時間があったら、梨華ちゃんの家に寄るかもしれないけど、いいかな?」
「…うん、いいよ」
- 42 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月14日(木)21時24分54秒
- 吉澤はバレーボールの試合を観戦するため体育館に向かった。
薄手のコートの襟を立て、帽子を目深にかぶる。
あれっ?という表情で振り返る何人かの人。
そんな人並みを足早に振り切る。
母校のOGが用意してくれた最前列の席。
人気薄のリーグ戦。観客はまばら。吉澤の周りのも人はいない。
けれど、試合は白熱していた。
そして、なにより、強烈なアタック、それを懸命に拾う選手達、
ボールをはじく音、審判のホイッスル。
懐かしい。
コートの中で生き生きとしたひとりひとりの表情。
きっぱり諦めたはずなのに、客席で見ている自分がもどかしい。
- 43 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月14日(木)21時26分20秒
- セットカウント2対1。先輩のチームは負けている。
3セット目後半。選手の交代が告げられた。
ピンチサーバーとして出てきた先輩。
これが引退試合だと、吉澤は聞かされていた。
ジャンプサーブはネットぎりぎりを狙い、相手コートに落ちた。
歓声が上がる。
「よーし」
吉澤は思わず声を出す。
2本目は一番深い所。これは惜しくもエンドラインを割る。
再度、選手交代。
結局、セットカウント3対1。
試合終了。
選手達はコートと客席に一礼する。
ひとり深々と頭を下げる先輩。
その姿を見つめる吉澤。気が付いたのか先輩が駆け寄ってきた。
- 44 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月14日(木)21時29分00秒
- 「忙しいのに来てくれたんだね。ありがとう」
「いえいえ。いい試合でしたよ、お疲れさまです」
「なんだか、吉澤の方が疲れた顔してるよ」
中学の頃、彼女はよく母校の練習を見てくれた。
中でも、一年の頃から吉澤に目をかけ、技術的にも、精神的にも的確なアドバイスをくれた。
「そうですか」
「よくテレビで見てるけど、最近無理してない?」
先輩の観察眼は以前から鋭い。
「ハードスケジュールでさすがに疲れますけど…なんとかやってます」
「そっか、もう本当にバレーはやらないの?」
「まあ…。それより先輩はこれからどうするんですか」
「クアラルンプールでコーチをすることになったの」
「クアラルンプール?」
ベンチの方から声がかかる。チームメートが先輩を呼んでいる。
「吉澤も来ない?」
「はい?クアラルンプールへ?また、冗談」
「結構本気だよ。ああ、もう戻らなきゃ」
先輩は後ろを気にして振り向く。
「1年でも、2年でも。勉強になると思うよ。その気になったら、連絡ちょうだい」
何かをやり終え、そして新たな旅立ちを決意した先輩の後ろ姿。
それがひどく輝いて見えた。
- 45 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月14日(木)21時47分00秒
- >37名無し読者さん
レスありがとうございます。
これでもっかっ!ってくらい切ないのを書きたかったので…。
他の方の作品もあまり読まず、欲求のままに見切り発車してしまったので、
ネット小説としては、読みにくい文章だと、手遅れですが今更反省してます。
なのに、読んでくれた方、本当にありがとうございます。
では、また来週。
- 46 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月15日(金)05時18分23秒
- 吉澤の選択が気になります。
- 47 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月18日(月)20時38分51秒
- 時計の針は11時をまわろうとしていた。
梨華は意味もなく部屋の中を歩きまわる。
『時間があったら寄るかもしれない』
そんな不確かな約束のために、落ち着かない自分が哀しい。
なんの用なんだろう?
脱退したいなんて言わないよね?
それとも、彼氏のこと。
そんな相談をされたら、私はどんな顔をしたらいいんだろう?
もう、限界。
そう思った時だった、吉澤が訪ねてきたのは。
- 48 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月18日(月)20時41分00秒
- 「ごめんね、遅くに」
「いいよ」
吉澤はソファーに座り大きくのびをする。
「あー、疲れた」
そう言うと吉澤は黙ったまましばらく梨華の顔を見つめた。
「どうしたの?」
「たいした用じゃないんだ。だから、わざわざ今日来ることもなかったんだけど…」
吉澤はじっくり考えながら、ひとことひとこと、言葉を紡ぐようにゆっくりと話し始める。
「いろいろあって、とにかく、今日は疲れた」
「うん」
「で、今さっき思ったんだけど、やっぱり」
- 49 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月18日(月)20時42分35秒
- 「やっぱり?」
「梨華ちゃんといると、一番落ち着く」
吉澤は照れるふうでもなく、ただ思ったことを素直に口にしたという様子。
梨華は頭が混乱して言葉が出ない。
「梨華ちゃんとふたりのときだけ、素のままでいるよなぁ、って、今思った」
突然、いったい何を言い出すの?
鼓動が高鳴る。
熱くなった顔をごまかすように頬に手をやる。
「梨華ちゃんと出会えてよかった」
「な、なに言ってるのよ」
「ひょっとして、照れてる?」
吉澤のからかうような視線。
「よっすぃーが、突然変なこと言うから…」
「変かな?」
- 50 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月18日(月)20時43分54秒
- 「わけわかんないよ、そんなこと言いに来たの?」
声がうわずる。
「違う違う、忘れるところだった」
そう言うと吉澤は持って来た自分の鞄を探る。
「はい、プレゼント」
そう言って手渡されたのは、こないだの奇跡のお守りだった。
「どうして…」
「梨華ちゃん真剣にお守り見てたから」
「よっすぃー…」
「買うの、メチャメチャ恥ずかしかったよ」
吉澤は照れくさそうに笑い、そして急に真顔になった。
「叶うといいね」
熱いものがこみ上げてくる。
その意味を考えると複雑だけれど、その優しさが心から嬉しい。
- 51 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月18日(月)20時45分47秒
- 吉澤が去ったひとりの部屋。
淋しいくて、哀しくて、でも、ほんの少し幸せな気分。
梨華はベッドの上にうつぶせになった。
枕元にはお守りのキーホルダー。
そっと蓋を開ける。
オルゴール特有の音質が切ない。
メロディーは『I WISH』
スタンドの明かりに照らされて、写真の吉澤が優しく微笑みかける。
- 52 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月18日(月)20時46分42秒
- 奇跡は信じていたい。
だけど、たとえ、叶わなくても、
こんなに好きになれた人と、一緒にいられる一日一日を、
この幸せを大切にしたい。
『出会えてよかった』
そう言ってくれたあなたを、苦しめることはできないから。
友達でいい。
そう、ただの友達でいい。
だから、いつまでもそばにいてね。
- 53 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月18日(月)20時54分48秒
- >46名無し読者様
レスありがとうございます。
もうすぐ急展開となる予定です。
ところで、桃板の更新情報は、なんであんなに早いんでしょうか?
生身の人間の人(日本語が変)がやってるんでしょうか?
だったら、脱帽です。
- 54 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月18日(月)20時57分19秒
- >53 間違えました。
作者です。
- 55 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月19日(火)03時56分16秒
- 物わかりがいいなぁ石川・・・
もっとわがままになってほしいかも・・
- 56 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月19日(火)20時22分36秒
- 中途半端な自分を変えたい。
吉澤は携帯を握り締めた。
しかし、決心がつかずテーブルに置く。
これで二度目。
なんて言えばいいんだろう?
別れましょう。
ちゃんと付合ってもいないのに、それはおかしい。
やっぱり好きじゃない。
いや、好きじゃないわけじゃない。
ただ、特別な何か、そう、何かが足りない。
たとえば、胸を締め付けるトキメキ。
たとえば、梨華といるときに感じる安らぎ。
彼と梨華ちゃんを比べてどうするんだよ。
吉澤は思わずひとり苦笑する。
- 57 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月19日(火)20時24分10秒
- 三度目の正直。
発信音の後、いつもの明るい彼の声。
『嬉しいね。ひとみちゃんから連絡くれるなんて』
「…」
『どうした?』
「…返事、こないだの質問の」
『…』
「…」
『そっか、言いにくい返事なんだ』
「…ごめん」
『わかってたよ、そんなこと。今まで通り友達でいよう』
「…うん」
『また、遊びに行こうぜ、友達も誘ってさ』
電話を切った後、吉澤は大きく息をした。
もうひとつの決断。
もっと大きな、もっと大切な決断の時が、もう目の前にせまっていた。
- 58 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月19日(火)20時26分41秒
- 久しぶりに仕事が早く終わった。
吉澤はタクシーに揺られ家路に向かう。
頭の中のスクリーンには、この数年間の映像がランダムに流れていく。
客席の熱気に押され、無我夢中だった初めてのコンサート。
メンバー全員が涙に暮れた中澤さんの卒業。
オーディション。
ミュージカル。
梨華の笑顔。
いつもみんなに支えられていた。
みんながそばにいてくれた。
横には梨華ちゃんがいた。
突然ひとり去っていくことに、湧き上がる寂寥と罪の意識。
「すみません、引き返してもらえませんか」
気づくと吉澤は運転手にそう告げていた。
- 59 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月19日(火)20時28分23秒
- エレベーターの電子音が梨華の住む階への到着を告げる。
吉澤が一歩足を踏み出したとたん、怒気を含んだ声が聞こえた。
「もうここには来ないで」
普段より低い梨華の声。
外開きの扉が死角になって顔は見えない。
「そんな冷たいこと言うなよ」
そこに立っているのは中年の男。
「私のことは放っておいて」
きつい調子。それでも、どこか愛憎半ばといった口調。
「そんな、梨華…」
男が何か言いかけたとたん、バタンとドアが閉まる音。
吉澤は咄嗟に脇の非常階段に身を隠した。
- 60 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月19日(火)20時29分22秒
- 見てはいけないものを見てしまった気がした。
はっきり顔を見たわけではないが、いかにも妻子持ちという感じ。
『大切なものは簡単に諦めちゃいけない』
吉澤は以前梨華に言った言葉を思い出して愕然とした。
励ましのつもりが、逆に梨華を苦しめていたのかもしれない。
- 61 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月19日(火)20時34分40秒
- >55名無し読者様
レスありがとうございます。
可哀想な石川さんは、最後まで物わかりがいいのです。
- 62 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月20日(水)02時06分10秒
- うわ、こっちは誰だろう
- 63 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月20日(水)20時21分57秒
- ドアを閉めた途端、梨華は深い後悔の念にとらわれた。
また酷いこと言っちゃった。
心のすれ違い、もう何年になるだろうか。
本当は嫌いなわけじゃない。
けれど、話をしていると必ず腹が立ってくる。
気持ちはわかるのだけれど、やることなすこと全て神経を逆なでする。
私のことを、大切に思ってくれている数少ない人のひとり。
だから、今度会ったら謝ろう。
ごめんね、お父さん。
- 64 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月20日(水)20時23分33秒
- 父が出て行って一時間程。
突然玄関のチャイムが鳴った。
今日、来客の予定はない。
梨華は訝しく思いながらレンズに映る扉の向こうを確認した。
よっすぃー?
「ごめん。突然」
「いいけど、とにかく入って」
そう言って吉澤を招き入れると、梨華は二人分の紅茶を用意した。
- 65 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月20日(水)20時24分50秒
- ソファーに座る吉澤は、どこかソワソワしている。
「今日はどうしたの?」
「うん、ちょっと、梨華ちゃんに相談があって…」
そこまで言うと、吉澤は落ち着きなくあたりを見まわす。
不意に吉澤の表情が止まった。
その視線の先にはベッドの脇のお守り。
梨華は顔が熱くなるのを感じた。
「写真入れた?」
あなたの写真、なんて言えない。
「入れてないよ」
吉澤は梨華をじっと見つめる。
「諦めようって、思ってる。どうしようもないことって、あるじゃない」
またネガティブになってるぞ。
そんなふうに言われることが怖かった。
そんなことを言われたら…。
好きなのはあなただから。
そう言ってしまいそうで。
しかし、吉澤の次の台詞は意外なものだった。
- 66 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月20日(水)20時26分19秒
- 「そうかもしれないね」
それはそれで少し悲しい。
諦めるしかない、そんな最終宣告のよう。
吉澤は再びお守りに視線を移す。
「じゃあ、無駄になっちゃったね」
「そんなことないよ。ずっと、大切にする」
あなたの写真と一緒に…。
梨華は心の中でそう付け加えた。
「だって、私のために恥ずかしい思いして買ってくれたんでしょ?」
「そうだよ。じゃあ、花嫁道具に持って行ってよ」
「わかった」
ふたり顔を見合わせて微笑む。
ほんとうは、持って来い、って言って欲しいけど…。
- 67 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月20日(水)20時27分58秒
- 「今は、みんながいてくれて、いつもそばによっすぃーがいて…、だから、それでいい」
あなたがそばにいてくれる。
それだけでいい。
吉澤の表情がほんの一瞬曇った。
「ところで、相談って何?」
「…うーん、ごめん。今日はいいや」
「どうして?」
「なんとなく…。そうだ、今度デートしようか?」
「えっ?」
「Wデート」
梨華はさっと顔から血の気が引いていくのを感じた。
- 68 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月20日(水)20時33分29秒
- >62名無し読者様
レスありがとうございます。
つまんないオチですいません。伏線として必要だったもんで…。
そのに興味をもってくれる人がいるなら、もうちょっとひねろうかとも思いましたが、
いいネタが思いつきませんでした。
- 69 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月20日(水)20時50分18秒
- >68すいません。誤字があります。
- 70 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月21日(木)03時32分38秒
- ホッとしました(w
でも吉澤は誤解してるのね
- 71 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月21日(木)20時34分40秒
- 久しぶりのオフ。
あなたに会えるのは嬉しい。
だけど、Wデートなんて…。
ふたりきりならどれほどよかったか。
楽しげな3人を見ながら、梨華は何度もそう思った。
紛れもなく、あの雨の日に見かけた彼。
当然予想していたこととはいえ、目の当たりにするには辛すぎる現実。
もうひとりの男の人。吉澤の幼馴染だという。
子供時代の吉澤を語る彼に、梨華は軽い嫉妬を覚えた。
- 72 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月21日(木)20時36分46秒
- ドライブして、食事して、映画。
アクション映画を観たいという吉澤に、恋愛物がいいという男ふたり。
梨華がどちらでもいいと言って、多数決は2対1。
吉澤が軽く梨華を睨む。
スクリーンには延々と甘いシーンが映し出される。
左隣に座る吉澤の体温を、微かに肘のあたりに感じる。
クライマックス。主人公の唇が…。
と、不意に、梨華の左肩に重みがかかる。
見ると、吉澤は梨華に寄りかかり気持ちよさそうに眠っている。
よっすぃー…、嬉しいけど方向間違ってるよ。
- 73 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月21日(木)20時38分41秒
- 「作戦失敗」
彼が呟く。
「悲しいな。無意識に好きな人のほうへ寄っていくのかな」
吉澤の左側から、彼が梨華に小声でそう言う。
軽い冗談に顔が火照る。
「よっすぃーのこと、好きなんですよね?」
思い切って聞いてみた。
彼は少し困ったような顔をしながら頷く。
「幸せに、してあげて下さい」
梨華はそれだけ言うとスクリーンに視線を戻した。
ストーリーはもうよくわからないのに、涙が溢れてくる。
アクション物じゃなくてよかった。
梨華は心底そう思った。
- 74 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月21日(木)20時40分44秒
- 「じゃあ、また」
吉澤とふたり、彼らとは反対の方へ歩き始める。
「彼と一緒に行かなくていいの?」
「彼じゃないよ。ただの友達」
本当にそうならいいのに。
けれど、梨華は吉澤の言葉を信じてはいなかった。
きっと、私に気を使ってそう言っているに違いない。
優しい人だから。
- 75 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月21日(木)20時42分24秒
- 「あいつと付き合ってみる気ない?」
幼馴染の彼のことを言っているのだろう。
「結構いいやつだよ。前から梨華ちゃんの大ファン」
梨華は俯いて黙り込む。
「ああ、別に、嫌ならいいよ」
「いい人だと思うよ。だから、また、会って話するぐらいなら…」
子供時代をもう少し知りたい気はする。
「ほんと?あいつも喜ぶよ。でも、気を使わなくていいからね、嫌になったら私が断ってあげる」
梨華は笑顔で頷いた。
暗い顔など見せちゃいけない。
一生懸命、私を励まそうとしているあなたの気持ちが伝わってくるから。
- 76 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月21日(木)20時43分26秒
- 「もうすぐ夏なのに、夜になると寒いね」
自分の腕を摩る吉澤。
その腕に梨華は悪戯っぽく自分の腕を絡める。
「カップルにみえるかな?」
「どういう意味だよ」
吉澤はそう言いながらおかしそうに笑う。
「じゃあ、今度はふたりでデートしようか」
「えっ?」
「どこに行きたい?」
梨華の顔がぱっと輝く。
「…花火が見たいな」
「よし、わかった。花火を見に行こう」
梨華は腕を組む反対の手で吉澤と小指を絡める。
「約束だよ」
「うん。約束」
すっかり日は落ち、街頭もなく暗い夜。
月明かりだけがふたりを照らしていた。
- 77 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月21日(木)20時48分54秒
- >70名無し読者様
レスありがとうございます。
お察しの通りです
完全週休3日制で更新しているので、次はまた月曜です。
- 78 名前:素人○吉 投稿日:2002年03月23日(土)20時22分39秒
- 今日一気に読みました!
ドキドキしっ放しで楽しみです。
がんばってください!
- 79 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年03月24日(日)15時11分50秒
- 一気に読んだんですが、切ないですね。
なんかわからないけど、この先を考えると、ドキドキします。
梨華ちゃんの思いが伝わるように祈りながら、続き期待して待っています。
- 80 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月25日(月)20時30分43秒
- 今日も言えなかった。
吉澤はひとりため息をつく。
先輩たちには、素直な今の自分の気持ちを伝えた。
寂しいけど、やりたいことが他にあるなら止めない。
後悔しないように。
がんばれ。
みんな、そう言ってくれた。
もちろん決断するのは自分自身だ。
しかし、何の相談もせず、突然発表というのは冷た過ぎる気がした。
年下のメンバーには本当に決心してから伝えようと思っている。
- 81 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月25日(月)20時31分38秒
- そしてもうひとり…。
本当は一番に相談するつもりだった。
なのに、顔を見ると言えなくなる。
辞めないで。
もし、そう言って梨華に泣かれても、気持ちは変わらないだろうか。
本当は、変えて欲しいという思いも、心のどこかにないわけではない。
- 82 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月25日(月)20時33分19秒
- 「よっすぃー」
帰り際、吉澤を呼び止める声。
振り向くとそこに保田がいた。
「圭ちゃん、どうしたの?」
「脱退のこと、石川には話したの?」
心の気がかりを不意に指摘され、吉澤はうろたえる。
「まだなのか…」
小さくうなずく。
「私ね、なんだか石川のこと、誤解してたような気がするの」
- 83 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月25日(月)20時35分25秒
- 「誤解って?」
「前にさ、石川が恋煩いしてるって、言ったじゃない」
ひょっとして、あの中年男のことで何か知っているのだろうか?
吉澤は心の動揺を必死で隠す。
「それってさあ、誰だと思う?」
「…誰って言われても…」
「何か感じない?」
「何かって?」
吉澤には、保田が何を言いたいのか、まるで検討がつかなかった。
「うん、私が口出しすることじゃないんだけど…」
「…?」
「あの子みてるとほっとけないのよね、守ってあげたくなるっていうか…」
確かにそれには同意する。
しかし、吉澤には、依然として保田の言いたいことがわからない。
「でも、まあ、いいや。やっぱり私が言うことじゃない」
「…?」
- 84 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月25日(月)20時36分06秒
- 「とにかく、石川に早く言いなさいよ」
「うん…わかってる」
「あの子、きっと本気で泣いちゃうだろうな」
だから言えないんだよ。
心の中でそう呟く。
結局保田は、吉澤に新たな疑問符だけを残して、ひとり帰って行った。
- 85 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月25日(月)20時37分05秒
- 時は容赦なく過ぎてゆく。
本番に向けコンサートのリハーサルも始まった。
激しい動きに荒くなる呼吸。
飛び散る汗。
さすがにその瞬間は集中している。
これが最後だと決めたから…。
しかし、休憩になると梨華の動きを目で追ってしまう。
「どうしたの?」
吉澤の視線に気づいて訝しげに話し掛ける梨華。
言わなければ…。
「…うん、ちょっと」
「何?」
「いや、なんでもない」
どうしても言えない…。
- 86 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月25日(月)20時44分47秒
- これから、終盤突入していきます。
>78素人○吉様
レスありがとうございます。
そう言っていただけると、すっごい嬉しいです。
>79よすこ大好き読者。様
レスありがとうございます。
梨華ちゃんを応援してあげてください。
では、また明日です。
- 87 名前:素人○吉 投稿日:2002年03月25日(月)23時58分13秒
- この作品を読んで吉石にハマってしまいました…。
凄い感動です。
頑張れ、吉子!!
- 88 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月26日(火)05時07分03秒
- おお、なんという鈍さじゃ吉澤君…
- 89 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月26日(火)20時53分50秒
- いよいよ、コンサートツアー初日。
いつものように、舞台袖でみんな集まり円陣を組む。
梨華は朝から、どこかいつもと違う雰囲気を感じていた。
まわりを見渡す。
心なしかみんなの表情が硬い。
どうしたの?
「みんな、もう聞いてると思うけど…」
いつもより長い沈黙の後、飯田が重い口を開く。
「吉澤がこのツアーを最後にモーニング娘。を卒業することになりました」
- 90 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月26日(火)20時55分11秒
- 何が起こったのか、一瞬わからなかった。
えっ?
みんな聞いてるって?
何?それ。
頭が真っ白になった。
全身から力が抜けていく。
飯田の話は続いている。
けれど、梨華にはもう何も聞こえない。
「じゃあみんな、がんばっていきましょう!」
梨華には、その場にただ立っていることさえが、苦痛でならなかった。
- 91 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月26日(火)20時56分15秒
- どんなふうに舞台に上がり、
どんなふうにステージに立ち、
そしてどんなふうに幕が下りたのか、
梨華はその長い一日をなにひとつ思い出すことができない。
気づけばホテルのベッドの上、体をまるめて座っていた。
電気もつけずに真っ暗な部屋。
頭の中は空白のまま。
何も考えることができない。
生きていることさえ忘れかけていた。
深夜、部屋に吉澤が訪ねて来るまでは。
- 92 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月26日(火)20時57分13秒
- 「ごめんね、梨華ちゃん」
吉澤の声を聞いて、梨華はこの日初めて自分に感情があったことを思い出した。
「どうして…」
「ツアーが終わったらクアラルンプールへ行くことにした…」
いったん戻った感情は、涙ともに、激流となって溢れ出す。
「何度も言おうと思ったよ、だけど、言えなかったんだ…」
- 93 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月26日(火)20時58分40秒
- 「…ひ…どい…よ…」
「ごめん…」
「な…んで…」
涙で声にならない。
梨華は吉澤の胸に顔をうずめる。
吉澤は体に力が入らない様子。
梨華に押されるようにベッドに倒れこむ。
吉澤もこれ以上なんと言っていいのかわからない。
ベッドの上、胸の中で泣きつづける梨華を、ただ何も言わず抱きしめるだけ。
- 94 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月26日(火)21時00分52秒
- 東の空に光が射し始めている。
吉澤に抱きしめられたまま、いつのまにか泣きつかれて眠ってしまった梨華。
目を覚まして吉澤の顔を見つめる。
一晩中梨華の体を支えていた吉澤。
少し苦しそうな表情で眠っている。
その頬にそっと手を触れる。
どうしてひとりで行ってしまうの?
額にかかる髪を撫でる。
よっすぃー…。
こんなに好きなのに…。
- 95 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月26日(火)21時04分57秒
- レスありがとうございます。
>87素人○吉様
ありがとうございます。
失望させないように、がんばります。
>88名無し読者様
吉澤さんが、こんなだから、最後まで話がねじれてしまうんですよ。
- 96 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年03月27日(水)01時44分40秒
- これからの展開が楽しみです。
梨華ちゃんの気持ちを、吉は、どうすんのか?
悲しい結果にならないよう祈るのみです。(^^
がんがってください。
- 97 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月27日(水)20時29分56秒
- コンサート日程は、順調に消化されていく。
梨華とはどこか気まずいまま。
もう時間がない。
なんとかしないと…。
吉澤はふと思い出したように鞄から手帳を取り出す。
そうだ、今日だ…。
「ちょっと出かけてくる」
「あら、今日は一日ゆっくりするんじゃなかったの?」
リビングのほうから母の声。
「ごめん、遅くなるかもしれない」
吉澤はそれだけ言うと、スニーカーを履いて家を出た。
- 98 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月27日(水)20時31分01秒
- 梨華の部屋の前。
チャイムを鳴らす。
「よっすぃー…」
「梨華ちゃん、今日、暇?」
「…うん」
「じゃあ、ちょっと出かけない?」
「別に、いいけど…」
マンションを出てふたり並んで歩き出す。
交わす言葉はいつもより少ない。
- 99 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月27日(水)20時32分23秒
- 「どこに行くの?」
「うーん。買い物、ゲームセンター、遊園地、カラオケ、ボーリング、何がいい?」
「なんでもいいけど…」
梨華の声は暗い。
「気乗りしない?」
「そんなことないよ」
「まだ怒ってる?」
そう言って吉澤が顔を覗き込むと、梨華は初めて笑った。
「怒るわけないじゃない。好きだから、悲しいんだよ…」
梨華は少し照れたように目をそらす。
「でも、ちょっと怒ってるかな…」
やっぱり…。
- 100 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月27日(水)20時33分33秒
- 「許してあげるから、ひとつお願い聞いてくれる?」
梨華は一瞬思い詰めたような表情をする。
とんでもないことを言い出さないだろうか。
吉澤は不安を感じる。
「今日一日だけ、恋人になって欲しい」
吉澤は安心して思わず吹き出した。
「笑うことないじゃない!」
「ごめん、なんだ、そんなことかって思って。いいよ、恋人ごっこだね」
「ほんと?絶対嫌だって言われると思った」
「どうってことないよ。あんなスーツ着て、全国放送でミスタームーンライトやってるんだから」
吉澤がそう言うと、今度は本当に楽しそうに梨華が笑った。
「そうだね。あの台詞は寒いしね」
「梨華ちゃんひどいな」
- 101 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月27日(水)20時36分00秒
- ウインドーショッピング、UFOキャッチャー、公園のぶらんこ。
子供みたいに無邪気はしゃぐふたり。
本当にちっぽけな、けれど、梨華にとってはかけがえのない幸せ。
夕闇が迫る頃。
ふたり手を繋いで歩く。
今日は恋人同士だから。
「さあ、そろそろ行こうか」
急に吉澤は歩を早める。
繋いだ手はそのままで。
「どこへ?」
吉澤は微笑むだけで何も言わない。
- 102 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月27日(水)20時37分37秒
- 引っ張られるように連れて来られたのは、なんでもない河原。
時折吹く川風がふたりの髪を揺らす。
「穴場なんだ。人がいなくていいでしょ」
吉澤は不意に手を離し、腕時計をしばらく見つめた。
そして、その手を梨華の肩にまわす。
午後8時ジャスト。
「上を見ていてね」
「え?」
と、その時、空に大きな花火が上がる。
「約束したでしょ」
「よっすぃー」
形を変え、色を変え、何発も何発も打ち上がる花火。
上空のキャンバスが鮮やかに彩られる。
- 103 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月27日(水)20時39分07秒
- この時が永遠に続けばいいのに…。
無理なこととわかっていながら、梨華は願わずにいられない。
現実は、もうすぐふたりを引き離す。
幸福な時間。
それは、はかなく散ってしまう花火とどこか似ていた。
けれど、今は忘れていたい。
梨華は吉澤の肩に頭を預け、その日が終わるまで夜空を見上げた。
- 104 名前:ゆっち 投稿日:2002年03月27日(水)20時44分31秒
- 更新しました。
いいとこだったのに、また誤字をやってしまった…。
>96よすこ大好き読者。様
レスありがとうございます。
いろいろコメントしたいのですが、ネタばれになるので、
とりあえず、見捨てずに見守って下さい、と、だけ…。
- 105 名前:素人○吉 投稿日:2002年03月27日(水)23時55分43秒
- 某アニメのEDとこの石の気持ちが凄い一致して…号泣デス(T▽T)
幸せになって欲しいっす…。
- 106 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月28日(木)21時06分06秒
- 東京ドーム最終公演。
これが吉澤にとって最後のコンサートとなる。
長かったのか、短かったのかわからない。
とにかく、懸命に走ってきた時。
今日がその総決算。
次は『Mr.moonlight〜愛のビッグバンド〜』
初めてセンターを務めた曲。
思い出が次々蘇る。
緊張で手が震えた音楽番組の出演シーン。
泣かないつもりでいたのに、思わず目頭が熱くなる。
やぱい。最後だからこそ、格好良く決めたい。
吉澤は急いで控室に戻った。
- 107 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月28日(木)21時07分45秒
- 鏡に向かいキメのポーズ。
と、テーブルにぶつかってこけそうになる。
咄嗟に横の椅子を掴み、その椅子が倒れてガタンと大きな音が響く。
床にはテーブルに乗っていた筆記用具やお菓子が散乱した。
なにやってるんだ。
最後まで格好悪いよ。
吉澤はひとり苦笑する。
しゃがんで床を片付けていると、どこからか、微かにメロディーが聞こえてきた。
I WISH…?
- 108 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月28日(木)21時09分01秒
- 音のする方へ歩み寄ると、いつかのお守りのオルゴールがあった。
そばには梨華のジャージ。
今の衝撃でポケットから落ちたのだろう。
持ち歩いてたんだ…。
吉澤は少し嬉しくなって、拾い上げ、掌に乗せる。
と、
えっ?
中の写真は紛れもなく自分のもの。
吉澤は呆然と立ちすくむ。
不意に、ガタン、と、扉が開く音。
吉澤は、はっとしてお守りを握り締め、ポケットに手をいれた。
- 109 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月28日(木)21時10分56秒
- 「よっすぃー…」
入ってきたのは梨華だった。
「ここにいたの?はやく行かないと、みんな心配してるよ」
「う、うん、わかってる」
そう言ったきり黙りこむ吉澤。
「どうしたの?」
「梨華ちゃん」
「何?」
「ずっと、今まで…ありがとう…」
「何言ってるのよ…」
梨華は少し寂しそうに笑う。
「あと…」
「あと?」
「なんて言っていいのか…よくわからないんだけど…」
そう言ったきり言葉が続かない。
- 110 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月28日(木)21時12分09秒
- 実際、吉澤は自分が何を言いたいのかわからなかった。
しかし、今、何かを言わなければならない気がした。
廊下の向こうから、ふたりを呼ぶ声が聞こえる。
梨華は言葉の続きを待つように、じっと吉澤を見つめている。
けれど、どうしても言葉が見つからない。
ふたりを呼ぶ声はだんだん近くなる。
「ほんとにもう行かなきゃ…」
「そうだね」
「行くよ…」
「うん…」
梨華が出ていった後、握り締めたお守りをジャージのポケットに戻す。
そして、吉澤は、ひとりラストステージへと向かった。
- 111 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月28日(木)21時13分04秒
- 客席からの凄まじい熱気。
悲鳴さえ混じった声援。
メンバーの目にも涙が溢れている。
梨華の目にも…。
悩んだことも、苦しんだことも、きっといい思い出になる。
みんなと過ごした日々は一生忘れない。
ありがとう。
そして、さよなら…。
吉澤は持てる力を全て出し切るように、精一杯歌い、そして踊った。
吉澤の人生に、ひとつの幕が下ろされた。
- 112 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年03月28日(木)21時17分19秒
- 更新しました。
>105素人○吉様
レスありがとうございます。
どうなるともまだ言えませんがあと、もう少しです。
お付き合いください。
次はまた来週月曜日です。
木曜が最終回になる予定です。
- 113 名前:素人○吉 投稿日:2002年03月30日(土)00時10分04秒
- 吉子脱退…なんか泣きそになりました…。
少し現実を考えてしまいました^^; 辛いなぁ…。
ついに石の気持ちが吉子に…!?
期待していますっっ。
- 114 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月31日(日)02時10分35秒
- 吉澤の身の振り方が気になる…
- 115 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月01日(月)21時07分39秒
- 撮影はいつにも増して、押していた。
梨華は何度も時計を見てはため息をつく。
今日は吉澤の旅立ちの日。
もう到底間に合いそうにはない。
苛立ちが募る。
「一旦休憩入れます」
スタッフの声がスタジオに響く。
絶望的な宣告。
- 116 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月01日(月)21時08分53秒
- 「石川、行っておいでよ」
突然、後ろから保田の声。
「え?」
「後はなんとかするから」
「でも…」
「ほら、はやく」
保田に背中を押され、梨華は頷いて走り出した。
「石川さーん!どこへ行くんですか」
追いすがるスタッフの声を振り切って、梨華はスタジオを後にした。
- 117 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月01日(月)21時09分50秒
- 飛び乗ったタクシー。
「運転手さん、成田まで、ぶっ飛ばして下さい!」
テレビで見慣れた可愛いアイドル。
その予想外な気迫に、運転手は少したじろいだ。
赤信号の長さが普段の何倍にも感じる。
脳裏に浮かぶ吉澤の顔。
吉澤の声。
吉澤の温もり。
やっと到着した空港。
梨華はお釣りも受け取らず駆け出した。
- 118 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月01日(月)21時10分41秒
- このままじゃいけない。
ちゃんと気持ちを伝えなきゃ。
あなたが好きです。
ずっと好きでした。
なんて思われてもかまわない。
あなたには他に好きな人がいたとしても、
どんなに遠くに行ってしまっても、
私の気持ちは変わらない。
こんなにあなたが好きだから。
だから…、
伝えないまま、離れてしまうことなんてできない。
- 119 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月01日(月)21時11分56秒
- どこにいるの?
もう、行っちゃったの?
お願い、待ってて…。
と、
よっすぃー…。
人混みの中、やっと見つけた吉澤の姿。
間に合った…。
そう、思った瞬間、目の端に映るもうひとりの人影。
いつかの彼…。
梨華は呆然とする。
- 120 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月01日(月)21時12分56秒
- 邪魔しちゃいけない…。
そうだよね。
梨華は肩を落とし後ろを向いた。
保田さん、ごめんなさい。
せっかくっだったけど、間に合わなかった。
戻ったらそう言おう…。
- 121 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月01日(月)21時21分15秒
- 更新です。
>113素人○吉様
いつもレスありがとうございます。
現実は、しばらくはなさそうなので書けました。
>114名無し読者様
レスありがとうございます。
もう、まもなくラストなのですが、今日もすれ違いです。
では、また明日。
- 122 名前:素人○吉 投稿日:2002年04月01日(月)22時47分40秒
- え?えぇ!?
辛いシーンだ…。
- 123 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月02日(火)04時24分28秒
- うわーん。かわいそ…
- 124 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月02日(火)21時04分34秒
- “モーニング娘。リーダー石川梨華卒業決定、結婚へ”
そんな見出しがスポーツ誌を飾る。
『4代目リーダーとしてグループを引っ張ってきた石川梨華(20)が、
夏のツアーを最後にモーニング娘。を卒業することが事務所の会見で明らかとなった。
卒業後の進路は明かされていないものの、かねてから噂のあった
会社員A氏との婚約が正式に整ったとの見方が強い。
A氏とは元メンバーの吉澤ひとみを介して知り合い、順調に交際を重ね…』
- 125 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月02日(火)21時06分01秒
- 最後の荷物をダンボールに詰め終えた。
がらんとした部屋で、梨華はぼんやりと窓の外を眺める。
これでよかったはず。
自分に言い聞かせるように心の中でそう呟く。
彼は優しい人。
ふたり力を合わせて生きていく。
もう後へは戻れない。
自分で決めたことだから。
いつか、家族が増え、暖かい家庭を築いていくんだ。
それが、きっと、私の幸せ。
- 126 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月02日(火)21時07分48秒
- 梨華の右手にはお守りのオルゴール。
吉澤が去ってから、雑誌や写真、CD、BVD、
見るのが辛くて全て処分してしまった。
どうしても捨てられなかった、掌の上の、たったひとつの思い出のかけら。
『花嫁道具に持って行ってよ』
あなたの言葉を思い出す。
でも、それは出来ない。
あなたの写真は剥がせないから。
梨華は時計に目をやる。
彼との約束までにはまだ少し余裕がある。
梨華は右手を握り締め部屋を後にした。
- 127 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月02日(火)21時09分28秒
- 二人で花火を見た思い出の川原。
暖かい風に髪が靡く。
橋の上から、眼下に広がる景色。
それは哀しいくらいあの時と同じ。
だだ、横にあなたがいないだけ。
あれからちょうど3年。
あの日もこんな風が吹いていた。
あなたは遠い空の向こう。
今ごろ何をしているの?
今年の花火大会の日、私はウエディングドレスを着ている。
もう、あの日の私じゃない。
思い出はここに捨ててしまおう。
梨華は川原の叢の中にお守りを投げた。
- 128 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月02日(火)21時10分31秒
- 「ごめん待った」
「いや、俺も今来たところ」
彼の声が暗い。
結婚後のあれこれを、楽しそうに話す昨日までのとは少し違う。
「後悔してない?」
「…何で、急に…」
「梨華って、昔から、吉澤の話をしてるときが、一番楽しそうだったよね」
彼の言葉が心に突き刺さる。
いまさら何を言い出すの?
- 129 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月02日(火)21時12分21秒
- 「俺、やっぱり嘘はつけない」
彼は大きく息をする。
「ごめん、隠してたことがあるんだ」
そう言って梨華に封筒を渡す。
「吉澤から預かってたんだ。梨華ちゃんに渡してくれって。空港でね」
「あなたも行ったの?見送り」
「ああ、あいつとふたりで」
ふたりきりじゃなかったんだ。
「吉澤、残念がってた。梨華ちゃん来れないんだねって」
「…え」
「で、その場でこれ書いて…」
「…」
「俺、これ渡したら、梨華が吉澤を追いかけて行くんじゃないかって、」
「…」
「なんか、そんな気がして…ごめん」
- 130 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月02日(火)21時15分00秒
- 梨華ちゃんへ
今日は来れなかったんだね。
仕事だから仕方ないか。
でも、ちょうど良かったのかもしれない。
今日、梨華ちゃんに会ったら言おうと思ってたことがあるんだ。
でも、なんて言っていいのか、よくわからなくて、昨日は寝れなかった。
手紙でなら何とか伝えられるかもしれない。
今までそばにいてくれて本当にありがとう。
前にも言ったけど、梨華ちゃんといると落ち着くんだ。
大切な友達だと、ずっと思ってた。
- 131 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月02日(火)21時16分38秒
- コンサートが終わって、いろいろ忙しくて、会えなかったけど、
気づいたら、梨華ちゃんのことばかり考えてた。
どうしてこんなに気になるのか、自分でもよくわからなかった。
荷物を鞄に詰め込終えて、ほっとしたら急に寂しくなった。
梨華ちゃんともう会えないんだ、って、その時初めて実感した。
今になってやっとわかった。
好きだったんだ。
たぶん、いつのまにか好きになってたんだと思う。
ただの友達としてじゃなく。
梨華ちゃんと離れることになっても、自分の選択は間違っていないと思ってる。
ひとまわり大きな人間になって、必ず帰ってくるよ。
とりあえず、夏には一度帰国するから、また、一緒に花火を見たいな。
ずいぶん先の話だけど、来年あの川原で待ってるよ。
これから大変だろうけど、梨華ちゃんもがんばってね。
遠くからいつも応援してるから。
では、また会える日を楽しみに。 吉澤ひとみ
- 132 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月02日(火)21時27分26秒
- 更新しました。
>122素人○吉様
レスありがとうございます。
酷い展開ですが、もう少しなので最後までお付き合い下さい。
>123名無し読者様
レスありがとうございます。
なんと言っていいのか、とりあえず、ごめんなさいって感じですね。
後2回ですが、もう一山あります。
この状態だと本当にコメントがし辛いのですが、
結局、タイトル通り『あなたにここにいて欲しい』って話で終わります。
解釈は2パターンあると思いますが…。
- 133 名前:素人○吉 投稿日:2002年04月02日(火)21時33分38秒
- …もう涙無しじゃ見れないれす……。
この後、チャミがどんな行動に出るのか――。
- 134 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月03日(水)19時36分58秒
- 痛い・・・痛すぎるよ……どうか梨華ちゃんが幸せになりますように。
- 135 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月03日(水)20時32分34秒
- 気づくと梨華は成田に向かっていた。
鞄ひとつ、住所の書かれたメモを握り締め。
午後10時発のフライト。シンガポール経由で約9時間。
空港に降り立つと、タクシーに乗り込み運転手に行き先を告げる。
マレー系、中国系、アラブ系。さまざまな民族が混在する国。
思った以上に街は近代化が進んでいる。
日系デパート、高層ビル、オープンカフェ。
英語圏のせいか西洋人の観光客が目立つ。
梨華は本屋で買った地図を頼りに歩き続ける。
日本語を話す人も見当たらず、片言の英語では要領を得ない。
- 136 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月03日(水)20時35分53秒
- 目的の住所にたどり着いたときには、もうすっかり日が暮れていた。
”HITOMI YOSHIZAWA”
そのネームプレートを見たとき、梨華は疲労と安堵でその場に倒れこみそうになった。
呼び鈴を鳴らす。
しかし、中からは人の気配がなしない。
留守なの?
連絡もせず、ただ夢中でここまでやって来た。
その自分の愚かさに、梨華はようや思い至った。
どうしよう?
ホテルの予約もしていない。
- 137 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月03日(水)20時37分21秒
- 「梨華ちゃん?」
久しぶりに聞いた気がする日本語の発音。
振り返るとそこには見知らぬ若い女がいた。
「ああ、ごめんなさい。石川さんですよね?」
彼女は吉澤の隣人で日本人留学生だという。
梨華のことは吉澤から聞いて知っているらしい。
「わざわざ会いに来たの?いじらしいね」
吉澤は梨華をなんといって紹介したのだろうか。
梨華は少し顔を赤らめる。
- 138 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月03日(水)20時38分11秒
- 「残念だけど、2.3日帰らないと思うよ」
「…」
「確か遠征って言ってたかな、今朝は大きな鞄を持って出て行ったみたいだし」
「どこへ?」
「そこまではわからないな」
梨華はがっくり肩を落とす。
「練習場で聞いてみれば?すぐそこだし」
「連れていってもらえませんか?」
「いいよ」
吉澤の帰りを悠長に待っている時間はない。
日本で待つ彼の顔は、もう記憶の彼方に消えてしまった気さえする。
けれど、まさか、このまま結婚式をすっぽかすわけにはいかない。
- 139 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月03日(水)20時39分03秒
- 「すみません、わがまま言って…」
「いいよそんなの」
彼女は何でもないというように笑う。
「吉澤さん、あの容姿じゃない?こっちでも、すごくもてるのよね」
突然話し始める彼女。
「でも、言い寄られても、きっぱり断ってたよ」
「はあ…」
「私には、日本に好きな人がいる。可愛い女の子だって」
梨華は赤くなって俯く。
「本当に可愛い子だったんだね…」
- 140 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月03日(水)20時40分16秒
- 連れてこられたのは近代的な体育館。
中に入ると何故か騒然とした雰囲気。
梨華には飛び交う言葉の意味はわからない。
しかし、何事か大変な事態が進行していることだけは伝わってくる。
横の彼女の方を見ると、明らかに顔色が変わっている。
「ちょっと、ここで待ってて」
そう言われて、ひとりなすすべもなく立ちすくむ梨華。
悪い予感に胸が苦しくなる。
- 141 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月03日(水)20時41分16秒
- それから30分程して彼女が戻ってきた。
「事故があったらしい…」
「事故?」
「遠征中の選手を乗せた飛行機が墜落して…」
「…」
「全員絶望だって」
「よ、よっすぃーは…」
「遠征選手のリスト」
そう言って手渡された質の悪い1枚の紙。
No.4 …
No.5 HITOMI YOSHIZAWA
No.6 …
- 142 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月03日(水)20時42分48秒
- 嘘だよね。
嘘だって言ってよ。
成田に向かう飛行機の中
梨華の目には涙がとめどなく流れる。
今になって思う。
あなたをどれほど好きだったか。
あなたがいない…、それがどれほど辛いことか。
傷つくのが怖かった。
チャンスはいくらだってあったはずなのに…。
振られてもいい、嫌われてもいい、
ひとこと、たったひとこと、
好きだと言う勇気があれば、
少なくとも今こんな気持ちでいることはなかったのに…。
- 143 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月03日(水)21時02分34秒
- 更新しました。
>133素人○吉様
レスありがとうございます。
あと一回です。あしたまで堪えてください。
>134名無し読者様
レスありがとうございます。
最悪方向に向かってしまいました。すみません。
予告通り明日最終回です。
あー、酷い話だ。
たくさんいい訳したいんですが、ネタを明かすわけにはいかないので、
明日までノーコメントで。
余談ですが、渡航先は、南米かヨーロッパかアメリカにしたかったのですが、
今回のシーンが頭にあったので、私が行ったことのある国になりました。
ついでに、私は関東の人間ではないので、
都内や成田のシーンが不自然になってるかもしれません。
すみません。
- 144 名前:素人○吉 投稿日:2002年04月03日(水)23時27分39秒
- 読んだばかりでどんな言葉を書いていいのか、
よくわからないんですけど…。
頭が真っ白になりますね。
明日まで待ちます。
私もその国だけは行った事があるので読み易かったです。
成田は小さい頃は行った事があるけど…。
- 145 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月04日(木)06時57分14秒
- >144素人○吉様
レスありがとうございます。
さすがに、ここで止めるのは罪悪感があるので、
早朝ですが出勤前に更新します。
では、最終回いきます。
- 146 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月04日(木)06時57分53秒
- 服が汚れるのもかまわず、梨華は叢のなかを這いつくばる。
今となってはたったひとつの思い出。
どうして捨ててしまったんだろう?
このあたりだと思うんだけど…。
野犬にでも持っていかれたんだろうか?
そんな悲しい想像はしたくない。
きっとあるはず。
- 147 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月04日(木)06時59分14秒
- お守りを探し出さなければいけない。
使命感に近いその思いだけが、崩れ落ちそうな梨華の心を支えていた。
こんなことになったのは、私がお守りを捨てたから。
見つけ出せれば吉澤が帰ってくる。
しだいに、そんな妄想さえ現実のような気がしていた。
日が落ちたら探せない。
しかし、夏の太陽は虚しく傾いていく。
やがて、闇があたりを包み込む。
だめだよ。
よっすぃー…ごめんね。
- 148 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月04日(木)06時59分59秒
- 呆然とその場に座り込む梨華。
もう涙も出ない。
と、その時。
「探し物はこれかな?」
闇の中から、不意に現れた人影。
手の上にはお守り。
そして、見上げたその顔は…。
「よっすぃー…」
死んだはずの吉澤がそこにいた。
- 149 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月04日(木)07時01分23秒
- 数日前、紀ノ國屋マレーシア店。
吉澤は何気なくつかんだ雑誌の見出しに手が震えた。
ようやく塞がった筈の胸の傷口が再び疼きだす。
もう忘れよう…。
そう思い始めていたのに…。
あれから3年。
毎日、ボールを追って汗を流す。
友達も出来た。
ぎこちない英語もなんとか通じるようになった。
毎日が充実している。
知らない街でがむしゃらにがんばってきて、人間的にも成長したと思う。
今なら、どこへ行っても、何をやっても、自分を信じて生きていける。
だから、あの時の決断は決して後悔していない。
ただひとつの心残りを除けば…。
- 150 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月04日(木)07時02分18秒
- 吉澤は梨華を想い、思案に暮れていた。
2年前、待ちぼうけをくった夏の日を思い出す。
空白の1年。当然といえば当然の話。
しかも相手は女の子。
あれから普通に恋愛もしただろう。
直接お互いの気持ちを確かめたことすらない。
ただひとつ言えること、
それは、一緒に過ごした日々が自分にとって特別だった。
このまま別々の道を歩いて行く前に、直接会って伝えたい。
好きだった。
ぎりぎりまで迷った挙句、遠征日の朝、吉澤は帰国を決めた。
- 151 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月04日(木)07時03分16秒
- 成田から直接梨華の部屋に向かう。
しかし、梨華はいない。
次の日も、梨華が部屋に戻った様子はない。
いったいどこへ?
不意に思い立って約束の川原へ行ってみる。
そこであのお守りを見つけた。
梨華ちゃん、ここに来たんだね…。
しかし、肝心の梨華がいない。
とうとう、挙式当日。
しかたなく、吉澤は呼ばれてもいない式の会場へ向かう。
- 152 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月04日(木)07時04分30秒
- どういうわけなのか、そこにも、花嫁は姿を現さなかった。
主役不在の間の抜けた結婚式。
憔悴した新郎は、吉澤の姿を見つけると、力なく語り始めた。
そして吉澤は真実を知った。
今ごろ手に渡った3年前の手紙。
それを読むなり姿を消してしまった花嫁。
そしてもうひとつ、意外な花嫁の父。
それにしても、梨華が何の連絡もなく、結婚式をすっぽかすとは考えにくい。
そこへ、隣人からの国際電話。
ようやく、パズル最後の一片が絵の中にはまった。
- 153 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月04日(木)07時05分13秒
- 今日は花火大会。
日が落ちるのを待ち、吉澤はお守りを握り締め、もう一度川原へ向かった。
そして、
やっと会えた…。
- 154 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月04日(木)07時06分25秒
- 「探し物はこれかな?」
「よっすぃー…」
涙が溢れ出す。
「遅かったじゃない」
吉澤は笑みを浮かべながらそう言うと、しゃがみこんでいる梨華を抱き起こす。
日ごろの鍛錬のせいか、以前よりがっちりした体。
背も少し伸びたみたい。
- 155 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月04日(木)07時07分07秒
- 吉澤は腕時計に目をやる。
ジャスト午後8時。
「ちょうど730日の遅刻だよ」
その瞬間、ドンという音とともに花火があがる。
「…今日、だったんだ」
すっかり忘れていた。
花火大会のことも。
結婚式のことも。
どうしよう、私、ひどいことしちゃった。
そんな思いが脳裏をかすめる。
しかし、次の瞬間、全ての現実が視界から消えてなくなった。
- 156 名前:あなたにここにいて欲しい 投稿日:2002年04月04日(木)07時09分03秒
- 吉澤が梨華を抱きし寄せる。
お守りが吉澤の手から滑り落ちた。
オルゴールが奏でる切ないメロディー。
頬を伝う涙を吉澤の指先が優しく拭う。
「笑ってよ」
愛しい温もり。
懐かしい甘い香り。
夜空一面に広がる花火。
そして、ふたり、唇を重ねる…。
♪笑顔は大切にしたい。愛する人のために…
ずっと…
これからずっと…
あなたにここにいて欲しい。
−fin−
- 157 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月04日(木)07時18分23秒
- おしまいです。
読んで下さった方、ありがとうございました。
レスついているのを見ると、
自分ごときの小説に貴重な時間を割いて読んでくれる人がいる…、
って、すっごい嬉しかった。本当に感謝です。
最初の成田のシーンでハッピーエンドにするという案もあったのですが、
この先の苦難を考えると、もっと、大きな障害を乗り越えてから、
終わらせたほうが、いいんではないかって結論になり、
こういう展開になりました。
時間がなくなってきたので、次回作予告等、また夜にやります。
- 158 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月04日(木)09時33分00秒
- えらい遠回りだけど良かったぁ…
どうなることかと思って読んでましたが(w
- 159 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月04日(木)14時25分54秒
- 泣きました。素晴らしい作品ありがとうございました。
次回作も期待しています。
- 160 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月04日(木)14時28分05秒
- 良かった・・・・
かなり感動いたしました。
本当に素晴らしい作品をありがとうございます。
お疲れさまでした〜
- 161 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)20時38分23秒
- 私も泣いちゃいました。感動作を有難う御座いました!
- 162 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月04日(木)21時22分28秒
- 再度、読んでくださった方に心からお礼を…。
ありがとうございました。
皆様レスありがとうございます。
>158名無し読者様
石川さんが告白すれば3日程で終わったのに、3年かかってしまいました…。
>159名無し読者様
次回作。期待していただけるのは本当に嬉しいですが、
ちょっと、申し訳ない感じです。説明の前に謝っときます。
>160名無し読者様
そう言っていただけると、いろいろ悩んだ甲斐があります。
>161名無しさん様
泣いてもらえましたか。ありがとうございます。
- 163 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月04日(木)21時42分41秒
- 今回は初めてなので、無理せず短くまとめたという感じです。
次回はもう少し、手の込んだ話にしようかと思ってます。
で、導入部だけ書いてみました。
サスペンスタッチで今回よりさらに重い話になると思います。
が、
今回の連載中、文章がすごい読みにくい気がして、悩んでいて、
実験的に、コメディーを書いてました。
タイトル『吉澤さんが天才だった頃』
ほんとに、ばかばかしい内容で、イメージが破壊されそうですが、
そこそこの量ができてしまったので、
来週から、連載しようかと、思ってます、が、どうでしょうか…。
あと、これも文章の実験で、後日談みたいなのも書いたんですが、
内容が皆無だし、シーンが微妙なので、公表するか思案中です。
ちなみに上記すべていしよしです。
- 164 名前:素人○吉 投稿日:2002年04月04日(木)22時51分50秒
- ゆっちサン、お疲れ様です。
ハッピーエンドで良かった。
昨夜はドキドキして眠れませんでした…。
吉石ファンのきっかけになった作品なので
後1000回は読むと思いますが(笑)
次回作も読みたいです!是非公表して下さい!!
- 165 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月05日(金)13時39分55秒
- >163
どんどん迷わず出しちゃって下さいな
もったいないよ(w
- 166 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月05日(金)15時26分14秒
- あなたにここにいて欲しい…最後が…もっと悲劇的になるかもと
勝手に思い込んでたので吉が無事で(多分)よかったです。
最近マイナス思考ぎみな俺…。なんでもアンハッピーな方へ考えてしまう(苦笑)
『吉澤さんが天才だった頃』作者さんのコメディータッチの作品も読んでみたいっす。
もちろん、後日談も読んでみたいっす。
訳わからん感想になってますが…(汗)
- 167 名前:166です。 投稿日:2002年04月05日(金)15時27分12秒
- ごめんなさい…あげちゃいました。
- 168 名前:作者です 投稿日:2002年04月05日(金)16時53分57秒
- レスの返事は月曜にしますので。(今仕事中…)
- 169 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月08日(月)21時28分05秒
- >164素人○吉様
レスありがとうございます。
お蔭様で、気分よく、無事終了することができました。
感謝してます。
>165名無し読者
ありがとうございます。
そう言ってもらえると勇気が出ます。
>166名無しさん
レスありがとうございます。
散々な話だったので、ハッピーエンドにしないと、可哀想で…。
次回作も、別の意味でひどい話ですが、よかったら読んでみてください。
と、いうわけで、皆様に勇気付けられ、
金板に『吉澤さんが天才だった頃』を始めてしまいました。
後日談も、画面でどう見えるかを確認したいので、今からいきます。
内容は、皆無です。
改行を多用して、文字量を減らしても伝わるかといのがテーマです。
作者の自己満足の世界です。すみません…。
- 170 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜梨華 投稿日:2002年04月08日(月)21時29分31秒
- 窓から微かな月明かり。
梨華はベッドの上で身体を丸め、ぼんやり受話器を眺める。
あなたは海の向こう。
5000キロの距離を繋ぐのは、この1本の細い電話線。
大好きなよっすぃー。
私のために、遠征をキャンセルして駆けつけてくれたひと。
夜空を彩る花火の下、私を抱き締めてくれたひと。
けれど、またすぐ旅立っていった…。
「段取りをつけたら、すぐ帰って来るからね」
最後に聞いたあなたの言葉。
あれから1ヶ月。
過ぎてみれば短かった3年間が嘘のよう…。
あなたのいない一夜が、こんなに長いなんて…。
- 171 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜梨華 投稿日:2002年04月08日(月)21時30分40秒
- 「梨華ちゃん?」
愛しいその声。
「…うん」
「何かあった?元気ないみたい」
何故だろう?
あなたの声を聞くと泣きたくなる。
「…淋しいよ」
言ってしまってから後悔する。
忙しい合間を縫って、どんなに遅くなっても、毎日電話をくれる優しいひと。
あなたもひとりがんばっているのに…。
「…ごめんね。もうちょっと、かかりそうなんだ」
「いいよ。心配しないで、私は大丈夫だから…」
弱い気持ちは見せちゃいけない。
「また、明日も電話するからね」
「よっすぃー…」
「なに?」
「大好きだよ」
あなたの声を聞きながら、
あなたの顔を思い浮かべながら、
こうしてまた、1日は終わる。
- 172 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜梨華 投稿日:2002年04月08日(月)21時31分23秒
- 楽しい事を考えよう。
いつかあなたが帰ってくる日。
料理をいっぱい作って待っていよう。
あなたの好きなものをテーブルいっぱいに並べよう。
ケーキを焼いて、
シャンパンを用意して、
リン、リン、リン…
「梨華ちゃん?」
「…うん」
「今日も元気ない?」
「そんなことないよ」
いつもより少し雑音が多い。
「ごめん、明日は電話できないと思うんだ」
「なにかあるの?」
「うん、大切な用があってね」
大切な用?
- 173 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜梨華 投稿日:2002年04月08日(月)21時32分46秒
- ピンポーン
「ごめん、よっすぃー。誰か来たみたい」
「そうみたいだね」
「チャイムの音聞こえる?」
「聞こえるよ」
ピンポーン、ピンポーン…
「せわしない人だね、早く出なきゃ」
「うん、じゃあ切るね」
「うん」
こんな時間に誰だろう?
えっ?
…。
- 174 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜梨華 投稿日:2002年04月08日(月)21時33分32秒
- 「梨華ちゃん、ただいま」
よっすぃー…。
携帯電話を持って立っている吉澤。
「明日は電話できない。梨華ちゃんと一緒に過ごしたいから」
どうして…。
幻じゃないよね…。
「嬉しくないの?」
嬉しいよ…。
嬉しいに決まってるじゃない。
なのに…。
なのに、涙しか出てこない。
「また泣いてる」
そう言って吉澤は梨華を抱き締める。
「だ…だって…びっく…り…させる…から…」
- 175 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜梨華 投稿日:2002年04月08日(月)21時34分45秒
- ひとしきり泣いて、やっと落ち着いた梨華。
ふたりはベッドの上、ぴったり肩を寄せて座る。
「言ってくれればよかったのに」
少し拗ねたようにそう言う。
「こういう演出もいいでしょ?」
吉澤は悪戯っぽく笑う。
「でも、ひどいよー」
「ひどい?」
「よっすぃーが好きな料理、いっぱい作って待ってようって、考えてたんだよ」
「それは、ちょっと残念」
「でしょ、ね」
「でも、いいよ。梨華ちゃんさえいれば…」
吉澤は急に真顔になって梨華を見つめる。
- 176 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜梨華 投稿日:2002年04月08日(月)21時35分45秒
- 優しいキス。
そして、
吉澤の手が梨華の背中にまわる。
よっすぃー…。
そして、もう一度。
今度は激しく…。
苦しい…、
息ができないよ…。
遠のきそうな意識の中、気づくとベッドに横たわっている梨華。
吉澤の唇が頬に…、
首筋に…・。
そして、その手が胸元に…。
梨華は身体を強張らせる。
吉澤はそれでも強引に梨華の身体を引き寄せる。
「…やめて…」
吉澤の手が止まる。
「ごめん…嫌…だった?…」
困ったような、少し悲しそうな吉澤の顔。
「…よっすぃー…ちょっと、怖かった…」
吉澤は、微かに息を吐いて、梨華の上から身体をどかした。
- 177 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜梨華 投稿日:2002年04月08日(月)21時36分24秒
- ベッドに横になり、無言で天井を見つめるふたり。
「よっすぃー…」
「なに?」
「優しく…」
「ん?」
「…だったら、いいよ…」
会えなかった時間を埋めるように、
愛おしいその想いを、お互いの温もりで確かめる。
夜の闇の中、聞こえるのは僅かに漏れる吐息。
あなたの匂い…。
あなたの唇…。
あなたの息づかい…。
あなたの全てに包まれて、意識が遠のくほどの幸福を感じる。
今あなたはここにいる。
もう二度と離さないで…。
- 178 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜梨華 投稿日:2002年04月08日(月)21時38分45秒
- 梨華編 完
>177のラストに入れ忘れ。
- 179 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜吉澤 投稿日:2002年04月08日(月)21時39分38秒
- 「段取りをつけたら、すぐ帰って来るからね」
約束はまだ果たせぬまま。
空の彼方に散ってしまったチームメート。
吉澤の胸は張り裂けそうに痛む。
泥のように疲れた身体、そして心。
それを癒すものはただひとつ。
- 180 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜吉澤 投稿日:2002年04月08日(月)21時40分37秒
- 「梨華ちゃん?」
「…うん」
悲しげな声。
「何かあった?元気ないみたい」
「…淋しいよ」
愛しさがこみ上げる。
「…ごめんね。もうちょっと、かかりそうなんだ」
「いいよ。心配しないで、私は大丈夫だから…」
嘘は苦手なんだね。
強がりだってすぐわかる。
「また、明日も電話するからね」
「よっすぃー…」
「なに?」
「大好きだよ」
今すぐに…。
今すぐに、会って抱き締めたい。
もう1秒だって我慢できない…。
- 181 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜吉澤 投稿日:2002年04月08日(月)21時41分18秒
- 全ての残務処理を無理やり終わらせ空港へ向かう。
たった1ヶ月の空白が、狂おしいその思いを加速させる。
もうすぐ…、
もうすぐだから…。
梨華の部屋の前、用意したばかりの携帯電話。
指が覚えた番号に何故か手が震える。
「梨華ちゃん?」
「…うん」
「今日も元気ない?」
「そんなことないよ」
「ごめん、明日は電話できないと思うんだ」
「なにかあるの?」
「うん、大切な用があってね」
大切な…、
本当に大切な。
- 182 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜吉澤 投稿日:2002年04月08日(月)21時42分19秒
- 玄関の呼び鈴を鳴らす。
胸が高鳴る。
「ごめん、よっすぃー。誰か来たみたい」
「そうみたいだね」
「チャイムの音聞こえる?」
「聞こえるよ」
もう一度ボタンに手をかける。
1回、2回。
「せわしない人だね、早く出なきゃ」
「うん、じゃあ切るね」
「うん」
ゆっくりと扉が開く。
会いたかった…。
- 183 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜吉澤 投稿日:2002年04月08日(月)21時43分43秒
- 「梨華ちゃん、ただいま」
何が起こったのかわからないかのように、言葉もなく立っている梨華。
「明日は電話できない。梨華ちゃんと一緒に過ごしたいから」
「嬉しくないの?」
魔法を解かれたように、突然声を上げて泣き出す梨華。
「また泣いてる」
守ってあげたい。
震えるその小さな身体を抱き締めながら、心からそう思う。
「だ…だって…びっく…り…させる…から…」
愛しい声。
涙に詰まらせながら…。
- 184 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜吉澤 投稿日:2002年04月08日(月)21時44分13秒
- 「言ってくれればよかったのに」
「こういう演出もいいでしょ?」
「でも、ひどいよー」
「ひどい?」
「よっすぃーが好きな料理、いっぱい作って待ってようって、考えてたんだよ」
「それは、ちょっと残念」
「でしょ、ね」
「でも、いいよ。梨華ちゃんさえいれば…」
やっと会えたのに…、
こんなに側にいるのに…、伝えきれない思いがもどかしい。
この気持ちの全てを、愛しいひとに感じて欲しい。
- 185 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜吉澤 投稿日:2002年04月08日(月)21時45分06秒
- 視線が絡まる。
少し戸惑い気味の梨華。
その唇をそっと自らの唇で触れる。
大好きなんだ…、
梨華ちゃん…。
切ない思いを唇に託す。
呆然としている梨華の身体をベッドに沈める。
腕の中に、愛しいひと。
夢中でその身体にキスを浴びせる。
その愛しい頬に…、首筋に…。
大好きだよ…。
胸元にそっと触れたとき、梨華は身体を強張らせた。
けれど、高まった情熱は止まらない。
「…やめて…」
弱々しい梨華の声。
途端、吉澤の心が深い罪の意識に苛まれる。
- 186 名前:あなたにここにいて欲しい番外編〜吉澤 投稿日:2002年04月08日(月)21時46分21秒
- 「ごめん…嫌…だった?…」
酷いことをしてしまった。
「…よっすぃー…ちょっと、怖かった…」
傷つけるつもりなんかなかった…。
ただ、伝えたかっただけ…。
「よっすぃー…」
「なに?」
「優しく…」
「ん?」
「…だったら、いいよ…」
愛しい人を抱き締める。
僅かに漏れるその吐息に…、
耐えるような切ないその表情に…、
胸が限りなく熱くなる。
ずっと守ってあげたい、この腕の中で…。
確かに今ここにいる。
もう二度と離さない…。
完
- 187 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月08日(月)21時49分10秒
- 以上です。
>167166です。様
気になさらずに。
書き忘れてました、すみません。
- 188 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月09日(火)02時07分56秒
- 甘く優しい雰囲気で締めてくれて良かったです。。
- 189 名前:素人○吉 投稿日:2002年04月09日(火)03時12分38秒
- ふにゃあ〜…。
幸せの中の切なさっていいですね。
二人が大好きです。
- 190 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月09日(火)20時52分20秒
- >188名無し読者様
レスありがとうございます。
そういう部分がが伝わって嬉しいです。
>189 名前 : 素人○吉
レスありがとうございます。
最後まで読んでもらってありがとうございました。
- 191 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月09日(火)21時39分39秒
- >190
すみません。敬称つけるの忘れました。
- 192 名前:素人○吉 投稿日:2002年04月09日(火)23時17分05秒
- 全然気にしないで下さい(w
- 193 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年04月10日(水)21時10分40秒
- 出張逝ってる間におわちゃってた〜!!
でも、いっきによめて終わりよしで安心しました。
ありがとうございました。
- 194 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月11日(木)22時06分48秒
- 193よすこ大好き読者。様
レスありがとうございます。
お仕事ご苦労様です。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
- 195 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月16日(火)20時20分14秒
- ちょっと、短編書きます。
本編とは無関係です。
- 196 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時21分14秒
- コンサートリハーサル終了。
帰り支度を始めながら、はしゃぐメンバー達。
吉澤も、後藤と楽しそうに話をしている。
梨華はそんな姿を遠目に眺めていた。
「ねえ、よっすぃー…」
後藤がその場から離れた隙に、遠慮がちに話しかける梨華。
「何?」
「ちょっと、話があるんだけど…時間ないかな?」
そんななんでもないひとことを言うのに、何故これほど緊張するんだろう…。
梨華は熱くなった頬を隠すように俯いた。
「ごめん、今、ごっちんと約束しちゃったんだ…よかったら梨華ちゃんも来る?」
「…あ、そうなんだ…なら、またでいいよ。たいした事じゃないから…」
「そう、ごめんね」
「気にしないで…」
- 197 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時22分01秒
- ブルーな気分のまま、ひとりの部屋に戻った梨華。
ねえ、よっすぃー、
私たちって、付き合ってるんだよね…。
違うの?
そう思ってるの、私だけ?
- 198 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時22分42秒
- 一年前、コンサートツアー中のホテル。
星の綺麗な夜だった。
よっすぃーのこと、好きなの…。
梨華は押さえきれなくなったその想いを、とうとう吉澤に打ち明けた。
私も、梨華ちゃんが好きだよ。
確かにそう言ってくれた。
その声はとても優しくて、
軽く触れてくれたその手の温もりは、今でも私の肩に残っている。
でも、違ったの?
好きって言葉の意味…。
- 199 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時23分41秒
- 梨華は受話器を握りしめた。
いつもごめんね、柴ちゃん…。
「今日はどうしたの?」
「うん…何でもないんだけど、なんか、寂しくて…」
「彼と喧嘩でもした?」
吉澤のことは誰にも話していない。
仲のいい柴田にも、架空の彼に置き換えて、相談に乗ってもらっていた。
「喧嘩はしてないよ…喧嘩も出来ない…かな。最近、相手にしてくれない…」
「でも、付き合ってるんでしょ?」
一瞬言葉に詰まる梨華。
- 200 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時24分27秒
- 「私の何処がいけないのかな?」
「ひょっとしたら、重いのかもしれないね…」
受話器の向こうで、柴田の少し躊躇う気配が伝わる。
「前から思ってたけど、梨華ちゃん、彼のことが、好きで好きで堪らないって感じじゃない…」
「…」
「そういうの、重いかもしれない…」
「…そう、かも…」
梨華の暗い声。
「わからないよ、私がそう思うだけだから」
慌ててそう付け足す柴田。
「どうしたらいいとんだろう…」
「うん、ちょっと距離を置いて、冷静になってみるとか…」
「そっか…そうだね。ありがとう…」
- 201 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時25分12秒
- 柴田の言葉に従ったわけではないが、
あれ以来、ひと月ほど、吉澤とまともに話をしていない。
もちろん、顔を合わせれば挨拶もするし、仕事上の打ち合わせもする。
そっけない梨華の態度に、いささか怪訝そうな様子をみせる吉澤。
しかし、あえて自分から話しかけてこようとはしない。
- 202 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時26分00秒
- 私も、梨華ちゃんが好きだよ。
あの日の吉澤の言葉が何度も頭をよぎる。
幸せだった…。
これ以上の幸せはないと思った。
だけど、私があなたを想うほどには、あなたは私を好きじゃない。
ほんの軽い気持ちだったんだね。
考えてみれば、あの日から何も変わっていない。
ふたりは同期で、仲のいい友達で、落ち込んでいるときは慰めてくれた。
冗談半分に手を繋ぐことはあっても、それ以上は何もない。
私の気持ちを知っていて、それでも側にいてくれるのは、
愛情じゃなくて、優しさだったんだよね…。
- 203 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時26分42秒
- スタジオに向かう梨華。
「梨華ちゃん…」
不意に背後から吉澤の声。
「…あ、あの…」
少し口ごもる吉澤。
「そ、そう…前に、話がある、とか、言ってなかったっけ…」
「ああ、あれはもういいの。気にしてくれてたんだ、ごめんね」
出来るだけさりげない口調でそう言う梨華。
「いや、それは、いいんだけど…あの…」
「何?」
「なんか…その…怒ってる?」
「えっ?そんなことないよ。そんなふうに見える?」
「いや、そうは見えないんだけど…あの…」
まだ、何か言いたそうな吉澤。
「スタンバイお願いします」
遠くからスタッフの声。
「ああ、もう行かなきゃ」
「…うん」
- 204 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時27分36秒
- 自宅の自室に戻った吉澤。
何度も携帯の同じ短縮番号を呼び出しては、ため息をつく。
一時の熱病は、冷めてしまったんだよね…。
梨華ちゃんは、普通に男の人を好きになって、
普通に恋愛した方が、絶対幸せなんだ。
だから、決して深入りさせないように、気をつけてきた。
なのに、今更、気を引くようなことして、どうするんだ…。
その時が来たら綺麗に別れよう、ずっとそう思ってたのに…。
- 205 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時28分06秒
- 一年前の夜景が、昨日のことのように目に浮かぶ。
よっすぃーのこと、好きなの…。
愛しいその声。
今この瞬間、死んでもいいと思った。
ドキドキして、今にも胸がはり裂けそうで…。
私も、梨華ちゃんが好きだよ。
そう言ってそっと肩に手を回す。それだけが精一杯だった。
- 206 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時28分47秒
- 男に生まれてきたほうが良かったな…。
漠然とそんなふうに思うことはよくあった。
性格は男っぽい方だし、
面倒なスカートは嫌いだったし。
梨華ちゃんと出会って、
本気で好きになって、
今、切実に思う。
男に生まれてきたら良かった…。
- 207 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時29分27秒
- ツアー初日。
予定されていた2公演が無事終了。
2台のバスに分乗して宿泊先のホテルに向かう。
同じバスに吉澤はいない。
梨華はぼんやり窓の外を眺める。
自然消滅。
そんな言葉が梨華の脳裏をよぎる。
誰も傷つかず、誰も傷つけず…。
本当は消滅する実体さえなかったのかもしれないけど…。
信号待ちで並んだ2台のバス。
中が見えないその黒い窓のガラスに、梨華は吉澤の面影を浮かべていた。
- 208 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時31分01秒
- やがてバスは目的地に到着する。
「去年と同じホテルだ…」
思わず呟く梨華。
「石川、よく覚えてるね」
感心したようにそう言う保田。
「…はい」
忘れるわけがない…。
あの時、どんな思いで告白したのか…。
どれ程緊張して…、どれ程思い詰めて…。
そして、どんなに嬉しかったか…。
無意識に視線は吉澤を探す。
あっ…。
絡みつく視線。
心なしか青ざめた顔で、吉澤も梨華を見ていた。
- 209 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時32分01秒
- 日もすっかり暮れ、ひとけのないホテルの中庭。
去年と同じ星の下。
吉澤の短い髪を夜風が微かに揺らす。
やっぱり好きなんだ、結構、どうしようもないくらいに…。
気持ちは簡単に変えられないから。
どんなに封じ込めても…。
- 210 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時32分51秒
- 「…よっすぃー、なんで、ここにいるの…」
夜風が運んできた愛しい声。
「待ってた…」
「え?」
「来てくれるような、気がしたから…」
ふたり向かい合い、しばらく無言で見つめ合う。
「ごめんね…」
梨華の肩に手を置き、そう呟く吉澤。
「なんで、謝るの?」
「幸せにしてあげられないかもしれない。だけど、好きな気持ちは止められない…」
「私を、好きでいてくれたの?」
「好きだよ。たぶん、梨華ちゃんが私を好きな以上に…」
- 211 名前:少しだけ片思い 投稿日:2002年04月16日(火)20時33分43秒
- 「よっすぃー…」
吉澤の胸に顔を埋める梨華。
優しく抱きしめる吉澤。
「私、こうしてるだけで、十分、幸せだよ…」
涙の混じった梨華の声。
吉澤は、腕の中にあるその華奢な身体を、心底いとおしいと思った。
永遠なんて信じていない。
いつか、苦しめることがあるかもしれない。
だけど、その時まで、こうしてそばにいても…いいよね…。
おわり
- 212 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月16日(火)20時38分22秒
- 今やってるのが、ギャグものなので、
定期的にこういうのが書きたくなってしまいます。
どうってことない内容ですが、
次次回作か、次次次回作の原型になると思います。
- 213 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月16日(火)21時02分06秒
- いいです。
なんか 切なくて。
ちゃんと吉澤さんに愛されている石川さん。
幸せでしょう、ずっと。
- 214 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年04月16日(火)23時10分12秒
- うお〜〜〜やっぱいいっすね。甘くて切ないの。(^^
>次次回作か、次次次回作の原型になると思います。
そういわずに、ぜひ続きが読みたいです。
でも、けっこうあっちのアフォな吉も大好きですが・・・・何か?(笑
- 215 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月17日(水)20時09分13秒
- レスありがとうございます。
>213名無し読者様
私もふたりの幸せを心から祈ってます。
214よすこ大好き読者。様
終わったような、終わってないような、中途半端な話しですみません。
一日が30時間ぐらいあったら、
ギャグと、甘く切ないのと、重苦しいのと(次回作)同時にやりたい…。
- 216 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月25日(木)21時27分01秒
- ちょっとした落書きです。
- 217 名前:世界平和のために 投稿日:2002年04月25日(木)21時28分05秒
- 都内某神社。
賽銭箱のまえに神妙な面持ちの少女ふたり。
吉澤は財布を取り出し、しばらく悩む。
んー、勿体無い…。
同じく苦悩に眉を寄せる梨華。
よっすぃー、一生懸命だったもんね…。
応援してあげなきゃね…。
勿体無いけど…。
でも…。
メンバーでも一二を争う、ケチ…、いや堅実派のふたり。
賽銭箱に小銭以外入れたことのないふたり。
はっきり言えば、お賽銭は15円と決めているふたり。
苦渋の選択の末、そろって千円札を投げ入れてた。
何故か、一瞬、カランという音がした。
「よっすぃー、なんてお願いしたの?」
「世界平和の役に立つことができますようにって…。梨華ちゃんは?」
「…よっすぃーの試験がうまくいきますように…だよ、当然…」
「そっか、ありがとう。2千円も出したんだから、絶対受かるよね」
「…そう、だね…」
- 218 名前:世界平和のために 投稿日:2002年04月25日(木)21時29分46秒
- それは3ヶ月前。
「私はカンボジアへ行く!」
あなたは、突然、宣言した。
そう、きっぱりと。
黄色い声が飛び交う楽屋。
メンバー達は思い思いに弁当を広げる。
話題はいつものように、
アクセサリーや洋服のこと、
最近は気に入ってる音楽のこと。
あなたは、どこか遠い目をしていた…。
オトゲノム予習問題で、どんなボケをしたらオンエアーされるのか、
きっと、そんなことを考えているんだと思っていた。
まさかその目が、本当に遠い海の向こうを見ていようなどとは、考えもしなかった。
「今こうしてる瞬間にも、飢えて死んでいく子供がたくさんいるんだ」
あくまで真剣な眼差し。
本日2個目の弁当に取り掛かっていた辻。箸の動きがさすがに一瞬止まる。
- 219 名前:世界平和のために 投稿日:2002年04月25日(木)21時30分26秒
- 「梨華ちゃん、ひどいと思わない」
急に話題を振られて、私はたじろいでしまった。
「…お、思うけど…だからって…よっすぃーが、カンボジアへ行っても…」
後藤の手が、横からひょいと吉澤の額に伸びる。
「熱はないみたいだね。なんか、悪いもんでも食べた?」
「私は真剣だよ」
そう言って、吉澤は後藤を睨む。
「そんなことより、今日終わったらカラオケでも行かない?」
後藤の誘い。いつもなら気軽にOKする吉澤。
しかし…。
「私は勉強があるから」
そう言う吉澤の手には“英会話入門”のテキストが握られていた。
言葉通り、仕事が終わると、挨拶もそこそこに、そそくさと、ひとり帰って行く。
その後ろ姿を、私は呆然と見送った。
「よっすぃー、どうしちゃったんだろう…」
「きっと、テレビの特集でも見て、感化されたんだよ。確か昨日そんな番組やってたし」
なんでもないというように、後藤は軽い口調。
「大丈夫、きっとすぐ飽きるから」
きっと、すぐ飽きる。
私も、そう思っていた…。
けれど、看過していた、一度言い出したら聞かない、あなたの頑固な側面を。
- 220 名前:世界平和のために 投稿日:2002年04月25日(木)21時31分13秒
- ほんの短い休憩時間にも、必死で単語帳をめくるあなた。
集中してたら、朝になっちゃったんだ、
そう言ながら目の下に隈を作ってやって来たあなた。
対人地雷は許せないとか、
日本政府は何を考えているんだとか、
今までの言動からは想像できないような言葉を、たまにひとりで呟いているあなた。
認めないわけにいかなくなった。
あなたは、本気でカンボジアへ行く気なのね…。
「仕事は、どうするの?」
ふたりきりになった時、おそるおそる聞いてみた。
「辞めなきゃしょうがないだろうね」
「なんで…」
なんでそんなにあっさり言えるの…。
「だって、しょうがないっしょ。TV東京が、カンボジア中継なんかしてくれるとは思えないもん」
「そりゃ、そうだけど…」
「まだ、わかんないけどね。試験に受からないと、行けないからさ」
- 221 名前:世界平和のために 投稿日:2002年04月25日(木)21時31分59秒
- 眠れない…。
とうとう明日は合格発表。
あなたが、遠くへ行ってしまう。
そう思うと、胸がドキドキした。
何度も時計に目をやった。
やっと、うとうとし始めた頃には、窓から朝日が射し始めていた。
ピンポーン
チャイムの音で目覚めた。
ああ、もうこんな時間…。
「ごめん、まだ寝てた?」
「よっすぃー…」
「ごめんね、梨華ちゃん…」
「…?」
「せっかくの千円、無駄にしちゃったよ」
だめ、だったんだ…。
でも…。
私…。
- 222 名前:世界平和のために 投稿日:2002年04月25日(木)21時32分52秒
- 気付いたら私は泣き出していた。
涙が止まらない。
当惑する吉澤。
「なんで梨華ちゃんが泣くんだよ…」
「…私…本当は…受かりませんように…って…お願い、しちゃったの…」
「…」
「…それだけじゃ…ないの…、よっすぃーが…。千円だったから、私…、十円余分に…入れたの…、お賽銭…」
「…」
「…千十円分も…お願い…しちゃった…」
「…なんで?」
「だって…よっすぃーが…行っちゃったら…嫌なんだもん…」
「もう、いいよ…」
穏やかな声。
急に、体が温かくなる。
私は抱き締められていた。
そんなことされたら、ますます涙が止まらないじゃない…。
「よっすぃー…好き、なの…」
涙と一緒に堪えていた言葉も流れ出す。
「…変、でしょ…でも、ずっと、好きだったの…」
「私も悩んでたんだよ…でも、テレビを見て、自分の悩みなんか、ちっぽけなもんだと思ったんだ…」
愛しいあなたの腕の中でその声を聞く。
「世界平和って、世界中の人を幸せにすることだよね?」
……。
「じゃあ、とりあえず、目の前の女の子ひとり幸せにしてみようかな…」
よっすぃー…
「2千10円も出したら、願いは叶うもんなんだね…」
― Fin ―
- 223 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月25日(木)21時36分31秒
- 以上、ちょっとした落書きでした。
本編とは勿論関係ありません。
一発目のメール欄はミスです。
「吉澤さんが天才だった頃」今日更新した時のラストのが残ったままでした。
- 224 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月26日(金)02時02分27秒
- 落ちに笑いつつ、萌えつつ(w
- 225 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月26日(金)13時02分06秒
- ゆっちさん、いつも純粋で美しいいしよしをありがとう(●´ー`●)
- 226 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月30日(火)20時12分25秒
- レスありがとうございます。
>224名無し読者様
どーも、最高の誉め言葉です。
>225梨華っちさいこ〜様
こちらこそ、いつもありがとうございます。
また、軽〜く短編でもって思いまして…。
前回が、甘いカワイイ路線だったんで、
次はちょっとオトナな感じでいってみようと、
ちゃんとオチまで考えたんですが、書き出すと話しがそれてしまって、
どうも、短編でおさまらないような…。
とりあえず、いきます。
- 227 名前:純愛 投稿日:2002年04月30日(火)20時13分55秒
- 全国ツアー。ホテルの部屋。
ベッドに横たわる吉澤。
隣には、やっと呼吸の落ち着いた亜弥。
「今日で、終わりにして下さい…」
かすれた声。先ほどまでの余韻が上気した頬に残る。
切なげな、そして哀しげな眼差し。
「吉澤さんが好きなのは、私じゃないから…」
亜弥は目に涙をため、それでも懸命に笑っていた。
「最初から、わかってました。吉澤さんが好きなのは石川さんだって…」
吉澤の腕の中からすり抜けると、服を身に付け始める。
「そんなこと…」
「それでも、隠してるつもりですか?バレバレですよ」
吉澤の言葉を遮るように、少しきつい調子。
「吉澤さんの目を見てたらすぐわかります。気付いていなのは石川さんぐらい」
ドアに向かう亜弥。最後に一度だけ振り返った。
「ずっと、言おうと思ってたんですけど…」
「…」
「今度、誰かと付き合うときは…アノときに…梨華ちゃんなんて言っちゃ、だめですよ…」
- 228 名前:純愛 投稿日:2002年04月30日(火)20時14分43秒
- 昨日と同じベッドの上。
吉澤は亜弥の言葉を思い返していた。
確かに重ねていた。
震える身体。
漏れる吐息。
腕の中にいる彼女の向こうに、別の面影を探していた。
好きだと言われて嬉しかった。
半ば押し切られる形で付き合い始めた。
可愛いと思ったのは事実。
好きになれたら幸せだと思った。
好きになれるよう努力した。
そんなのただの言い訳だよね。
好きになるのに努力なんかいらない。
傷つけてしまった…。
手に入れたい、けれど決して手に入れることができない…。
その心の穴を埋めるために…。
- 229 名前:純愛 投稿日:2002年04月30日(火)20時15分57秒
- 突然、部屋のチャイムが鳴る。
「よっすぃー、元気?」
やって来たのは梨華だった。
「ん?」
「元気ないみたいだったから…」
「ふられちゃったんだ」
さりげない調子でそう言う吉澤。
「どうってことないよ。もう立ち直った」
「じゃあ、よっすぃーに新しい彼ができるまで、あたし、彼女にしてもらおうかな」
梨華は、吉澤の腕に自らの腕を絡める。
「だめ?」
「いいよ」
「やったー」
梨華の笑顔。
- 230 名前:純愛 投稿日:2002年04月30日(火)20時16分35秒
- 「梨華ちゃん好きだよ」
「あたしも大好きだよ。よっすぃー格好いいもん」
ありがとう。
でも、違うんだよ…。
本気で好きなんだ。
例えば、この瞬間、息も出来ないくらい激しく唇を奪いたい。
力一杯抱き締めて、我を忘れるほど感じて欲しい。
「どうしたの?怖い顔して」
「なんでもない…」
決して壊したくない…。
大好きだから…。
この温もりを大切にしたい。
こうしてそばにいるだけでいい。
限りない暖かさが、心に染みてくる。
そっと、肩に手を回す。
たったそれだけのことなのに、手が震えている自分がおかしい。
- 231 名前:純愛 投稿日:2002年04月30日(火)20時18分04秒
- 「ねえ、よっすぃー、今日ここで一緒に寝てもいい?」
「…う、うん、いいけど…」
ベッドにふたり。
不意に、梨華が吉澤の手を握る。
梨華ちゃん…?
ドキドキしながら梨華の顔を覗き込む。
あと、ほんの少し近づけば、キスの出来る距離。
しかし、梨華の表情に、そんな欲望は、ほんの欠片さえも見つからなかった。
「梨華ちゃんこそ、なんかあったんだ?」
しばらく、黙り込む梨華。
「よっすぃー、優しいから、好き…」
涙の混じった声。
- 232 名前:純愛 投稿日:2002年04月30日(火)20時18分51秒
- 「よっすぃーが、男の子だったら、よかったのに…」
「…」
「そしたら、私、本当に、よっすぃーのこと、好きになって、きっと…幸せに…」
それ以上言葉が続かない。
吉澤もその思いを声に出すことは出来ない。
暗い部屋の中、梨華の微かなすすり泣きだけが聞こえる。
そうだね…。
もし、私が男だったら、きっと幸せにしてあげられるのに…。
優しくない男の子を好きになって、幸せじゃないのか…。
こんなに側にいるのに、何もしてあげられない…。
繋いだ手に、ほんの少し力を込める。
それが、今出来る精一杯の愛情表現。
- 233 名前:ゆっち 投稿日:2002年04月30日(火)20時21分43秒
- とりあえずここまで。
いろいろ、不安要素や不確定要素があるのですが、
アップしてしまった以上、できるだけ手早く完結させます。
- 234 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年04月30日(火)21時40分41秒
- ああ…切ない…切な過ぎるっスっよ。
こおゆういしよし大好きです。続き楽しみにしています!!
とりあえずマツーラさんに助演女優賞を差し上げときましょう(w
- 235 名前:夜叉 投稿日:2002年04月30日(火)22時20分35秒
- すごく楽しみな内容です。
頑張って下さい、期待してます。
- 236 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 237 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 238 名前:純愛 投稿日:2002年05月01日(水)20時46分20秒
- ツアーの日程は順調に消化され、残りあと僅か。
早朝の控室。
まだ、誰も来ていないだろう。
そう思いながら、吉澤は扉に手を掛けた。
「あっ…お、おはよう」
中には既に、梨華、そして亜弥。
「おはよう」
「おはようございます」
微妙な人物構成。
しかし、慌てて出て行くのも不自然な気がして、しかたなく椅子に腰をおろす。
- 239 名前:純愛 投稿日:2002年05月01日(水)20時47分03秒
- 「よっすぃー、いつも格好いいよね」
ジーンズにTシャツ、いつも通りのラフな吉澤の格好。しみじみ梨華がそう言う。
「…そんなことないよ」
「格好いいですよ、吉澤さん。ファンになっちゃいそうです」
まるで、何事もなかったかのようにおどける亜弥。
「だめだよ、亜弥ちゃん。よっすぃーは私のものなんだから」
そう言って笑う梨華。
「えー、そうなんですか、ショックー」
「吉澤さんは、私と石川さん、彼女にするならどっちがいいですか?」
亜弥ちゃん…。
なんのつもりだよ。
悪い冗談はやめて欲しい…。
- 240 名前:純愛 投稿日:2002年05月01日(水)20時48分43秒
- 「うー…」
答えに窮していたとき、梨華の携帯が鳴り出した。
楽しげだった梨華の表情が引きつる。
「もしもし…うん…」
暗い声。
携帯を握り締め、ひとり外へ出て行く梨華。
「意気地なし…」
梨華の足音が遠くなるのを待って、亜弥が呟く。
「その通り…」
「いっそ、押し倒しちゃったらどうですか?」
「そんなこと…できないよ」
「どうして?予行演習はばっちりなのに…」
「…」
「悪かったと思ってるよ、ごめん、ほんとに…だから…」
「だから、忘れてとか言うつもりですか?」
図星をさされて黙り込む吉澤。
ひどいことをしてしまったんだ…。
あらためてそう思う。
- 241 名前:純愛 投稿日:2002年05月01日(水)20時49分53秒
- 「ひとの気持ちはそんなに簡単じゃないこと、吉澤さんだって知ってるでしょ…」
「…」
「ちゃんと、わかってますよ。石川さんがいる限り、吉澤さんは絶対私の方を見てくれないって…」
「…」
「だから、私から別れを切り出したんです」
そう言うと立ち上がり、部屋を出て行こうとする亜弥。
「意地悪してすみませんでした」
「…」
「でも、また意地悪しちゃうかもしれません」
「軽めの意地悪で、お願いしたいね…」
メンバーが次々やって来る。
梨華もいつもと変わらない笑顔。
もうすぐツアーが終わる。
そうすれば、亜弥と顔を合わす機会も減るだろう。
ずるいけれど、そう思うと少し気が楽になった。
- 242 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月01日(水)20時57分41秒
- 更新しました。
ちょっと、切り方間違えた感じです。
レスありがとうございます。
>234梨華っちさいこ〜様
松浦さんがんばってくれました。
でも、松浦さんって、よく知らないんですよね。
それが、不安要素その1なんですが…。
>235夜叉様
まだ先の展開がどうなるかわからないので、
期待していただくのも申し訳ない感じです。
出来るだけ、裏切らないようにがんばります。
- 243 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月01日(水)21時30分12秒
- 松浦亜弥さんは松浦亜弥が大好きだそうです。なんのこっちゃ(w
いや、面白いコですね。この前某番組で藤井隆さんが完全に負けてましたよ。
まったく説明になってないけど、オイラは好きです。
とりあえず助演女優賞をもう一つ追加しておきましょう。
- 244 名前:純愛 投稿日:2002年05月02日(木)06時49分10秒
- ツアーが終わり、厳しかったスケジュールにも、少しだけ余裕が出来る。
今日は久々のオフ。
待ち合わせの喫茶店。
窓際の席、ぼんやり外を眺める吉澤。
わざと早めに家を出た。
約束まではまだ30分近くある。
待っている時間が一番幸せなのかもしれない。
今日はどんな服を着て来るだろう?
どんな笑顔を見せてくれだろう?
ずっと、考えていられるから。
- 245 名前:純愛 投稿日:2002年05月02日(木)06時50分06秒
- 約束の時間から30分ほど遅れて梨華がやって来た。
「ご、ごめんね、よっすぃー…」
走って来たのか、息が弾んでいる。
少し目が赤い。
昨日泣いてたんだ…。
「待ったでしょ?」
「今来たとこだよ」
ほんのささやか嘘。
「ほんと?」
「うん。そんな慌ててたら、こけちゃうよ。梨華ちゃんドジだし」
「ひっどーい」
梨華の笑顔。
それを見たいがための1時間。
「とりあえず、ご飯、食べに行こうか」
「うん」
- 246 名前:純愛 投稿日:2002年05月02日(木)06時51分37秒
- レストランのテーブルにふたり。
声の調子も、話の内容もいつもと同じ。
しかし、時折、垣間見える哀しげな色。
吉澤は梨華の表情の中に、そんな一瞬の翳りを敏感に感じ取っていた。
梨華が笑うたび、冗談を言うたび、
吉澤の心は暗くなる。
無理しなくていいのに…、
哀しいときは泣いてくれたらいいのに…。
ちゃんと受け止めてあげるから。
誰かの身代わりになって…。
- 247 名前:純愛 投稿日:2002年05月02日(木)06時52分40秒
- 「これからどうしようか?」
楽しそうな梨華の声。あくまで表面上は。
「うん、そうだね…」
吉澤の声にも、その心のうちは隠されたまま。
と、梨華の携帯がなる。
「私、買い物したいな」
音を無視するように、梨華。
「鳴ってるよ」
「いいの…」
「でも…」
「いいから…あのね…」
梨華が買いたいという洋服の説明が終わった頃、携帯はやっと鳴り止んだ。
たかが服一着に、悲壮感が漂うほどの必死な説明。
- 248 名前:純愛 投稿日:2002年05月02日(木)06時54分53秒
- じゃあ、そろそろ行こうか」
「うん」
再び鳴り出す携帯。
「出た方がいいよ」
「いいの…」
今度はそう言ったきり黙りこむ梨華。
目が少し潤んでいる。
吉澤は椅子の上に置いた梨華の鞄を乱暴に開ける。
そして、携帯を取り出し、梨華の目の前に突き出した。
「ほら、逃げてたって解決しないよ」
梨華は少し息を吐いて、携帯を受け取り、通話ボタンを押した。
「…もしもし、うん、……でも…わかった…今日はだめだよ…うん…」
所在無さげに伝票を眺める吉澤。
「…うん、じゃあ…」
携帯がテーブルに置かれた。
- 249 名前:純愛 投稿日:2002年05月02日(木)06時58分41秒
- 「私はいいから、行ってきたら?」
「だめだよ、今日はよっすぃーとデートって決めたんだから」
そう言って笑う梨華。
しかし、既に力尽きた偽物の笑顔は、やがて涙に変わった。
しばらくの沈黙。
「…彼ね…浮気してたの…」
ようやく梨華がぽつりと呟く。
「…やっぱり、別れちゃったほうが、いいんだよね…」
そんなヤツ、さっさと別れちゃいなよ。
出来ることなら、ぶん殴ってやりたい。
湧き上がる苛立ちを心の奥に沈める吉澤。
「でも、好きなんでしょ?」
「…」
「それでも好きだから、そんな顔してるんでしょ?」
小さく頷く梨華。
吉澤はさっと立ち上がった。
「買い物に行こう、今度のオフにね。今日は解散」
「…でも」
「せっかくだから、映画でもみて帰るよ。ちょうどみたいのがあるから」
- 250 名前:純愛 投稿日:2002年05月02日(木)06時59分52秒
- 吉澤は映画館のシートに腰を埋めた。
スクリーンに流れる景色は、ただ頭の中を通り過ぎるだけ。
集中しよう。そう思っても浮かんでくるのは梨華の顔。
ちゃんとみなきゃ…。
今度会ったとき、面白かったと言えるに。
その日吉澤は同じ映画を3回みた。
しかし、ストーリーを人に説明できる自信は、結局持てなかった。
- 251 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月02日(木)07時03分48秒
- >243梨華っちさいこ〜様
レスありがとうございます。
そう言えば、ハロモニのコントでもそんなこと言ってたような…。
ビデオ調べて表情とかよく見てみます。
次回は連休明けに更新します。
- 252 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月02日(木)12時28分30秒
- 梨華ちゃん相手に浮気をするとはなんて贅沢…じゃなくて不届きなやつだ!!
出て来い! 俺が殴ってやる!! いや! だめだ! 殴るのは俺じゃない!!
ヨシコ! 君だ!! 君が殴ってやれ!! そんな奴君がなgっテやr:h~tj%(壊
- 253 名前:夜叉 投稿日:2002年05月02日(木)20時20分26秒
- 映画館での吉のシーン、すごく伝わってきます。
期待を裏切るとかっていうちっぽけな問題じゃないです、全然自分の期待を上回ってます。
これからも頑張って下さい。
- 254 名前:たろ 投稿日:2002年05月03日(金)02時17分38秒
- ゆっちさんはじめまして。
今日初めてゆっちさんの作品を読ませていただきました。
「あなたにここにいて欲しい」からここまで、引き込まれるように
一気に読んでしまいました。
うお〜っ、切ないぜ!
これからも期待しております。
- 255 名前:くわばら。 投稿日:2002年05月06日(月)06時47分36秒
- 泣けます…
- 256 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月06日(月)20時25分47秒
- 切ないですね。(涙
人を想う気持ちって微妙ですよね。
抑えないといけない気持ちとか、お互いに通じ合うって難しい。
と、真剣に語ってみました。(笑 続き待っています。
- 257 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月07日(火)13時00分54秒
- まず、最初に一言
「申し訳ございません」
レスありがとうございます。
>252梨華っちさいこ〜様
気を確かに…。
まだ、痛くなるので、どうか我慢してください。
>253夜叉様
そう言って頂けると、嬉しい限りです。
映画館のシーン。もう少し長く書きたかったんですが、
悲しくなってきたので…。
>254たろ様
恥ずかしいです。特に最初の頃は、感情だけで書いてましたから…。
これからも、よろしくお願いします。
>255くわばら。様
泣いてもらえたとは…ありがとうございます。
>256よすこ大好き読者。様
そうですね。人の気持ちは難しい…。
書いてると、ブルーになってくるんですが、
そういう時は、あっちを書くと…。
- 258 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月07日(火)13時01分24秒
- 謝罪の理由。
連休中、帰省していたのですが(同じ近畿内)
今朝帰ってきて、フロッピーの「純愛」ファイルを開けようとすると、
文書名またはパスが違います、というメッセージが出てきました。
同様に保存していた「吉澤さん…」のほうは無事だったのですが…。
僅かな望みをかけて、会社のPCでも試してみましたが、結果は同じで…。
読み込める方法はあるのでしょうか?
実家に置いているノートPCのハードに残っているはずなので、
金曜、仕事が終わったら帰って、こっそり、電話線を引き抜いて更新します。
ハードの方もだめだったら、諦めてもう一度書きます。
最悪でも来週月曜には更新します。
更新がマメなくらいしか取り柄がないのに、こんなことに…。
連休を挟んで、かなり間があきますが、
見捨てないでください…。
今日の更新を待っていて下さった人がいたら、
本当に申し訳ありません。
- 259 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月07日(火)19時09分18秒
- >更新がマメなくらいしか取り柄がないのに、こんなことに…。
ゆっちさんの作品大好きです。切なくて、あたたかくて。
更新、気長に待っとります。
- 260 名前:夜叉 投稿日:2002年05月07日(火)20時43分42秒
- 読ませていただいている身なのに、何も出来ない自分がもどかしいです。
自分も更新されるのをお待ちしております。
- 261 名前:たろ 投稿日:2002年05月08日(水)00時29分49秒
- あらあら大変なことになってたんですね。
259さん同様、私もゆっちさんの作品から感じる雰囲気がすごーく好きです。
のんびり待ってますので気にしないでくださいね。
- 262 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 263 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
- ( `.∀´)ダメよ
- 264 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月09日(木)12時00分52秒
- 我々はマターリ待ちますので、そちらの準備が充分に整ってから更新してください。
- 265 名前:純愛 投稿日:2002年05月10日(金)22時30分54秒
- 翌日。レギュラー番組の収録。
生気を取り戻したかに見える梨華の笑顔。
吉澤は少しほっとして、
そして、ほんの少し淋しくなった。
控室。いつものように活気に溢れた部屋。
窓から西日が射す。
帰り支度を始めるメンバー達。
吉澤も荷物を鞄に詰め終わると、椅子を引いて立ち上がった。
ふと、左腕に僅かな力を感じる。
見ると、いつのまにか隣に立っていた梨華が、吉澤の袖口を掴んでいた。
言葉はなく、ただ視線だけ。
吉澤は、さりげなく再び椅子に腰を掛け、鞄の中を整理し始めた。
梨華もその場から離れ、雑誌のページをめくる。
やがてみんな帰って行く。
部屋にはふたりだけ。
「…何?昨日のこと?」
そう言いながら、吉澤は梨華の近くの椅子に移動する。
「うん…」
「どうだった?」
「ありがとう…」
「ん?」
「よっすぃーのおかげだよ…」
窓から射しこむオレンジの光が、梨華の顔を照らしている。
きれいだな…。
見惚れずにはいられない。
このまま、なにも言わずに見つめていたい。
出来ることなら、話の続きは聞きたくない。
- 266 名前:純愛 投稿日:2002年05月10日(金)22時32分40秒
- 「もう一度、信じてみようと思うの…」
そう言うと恥ずかしそうに俯く梨華。
「仲直りしたんだ?」
「…うん。たぶん、よっすぃーがいなかったら、だめになってたと思う…」
「よかったね」
「ありがとう」
梨華の笑顔。
本物の笑顔…。
これでよかった。
吉澤は心の中でそう呟く。
半分は本心から、もう半分は自分に言い聞かせるため。
「どんなひと?」
「え?」
「梨華ちゃんの彼氏」
梨華の頬が赤く染まる。
「照れくさいよ…」
「聞きたいな」
ぽつりぽつりと言葉を紡ぎだす梨華の唇。
伝わってくる愛情の欠片が、吉澤の胸に刺さる。
こんな嬉しそうな顔、初めて見た気がする。
だから、笑顔でいよう…。
好きだから、
大好きだから、自分の痛みは我慢できる。
血だらけになって倒れても、きっと笑顔でいられる。
- 267 名前:純愛 投稿日:2002年05月10日(金)22時34分21秒
- 「もう一度、信じてみようと思うの…」
そう言うと恥ずかしそうに俯く梨華。
「仲直りしたんだ?」
「…うん。たぶん、よっすぃーがいなかったら、だめになってたと思う…」
「よかったね」
「ありがとう」
梨華の笑顔。
本物の笑顔…。
これでよかった。
吉澤は心の中でそう呟く。
半分は本心から、もう半分は自分に言い聞かせるため。
「どんなひと?」
「え?」
「梨華ちゃんの彼氏」
梨華の頬が赤く染まる。
「照れくさいよ…」
「聞きたいな」
ぽつりぽつりと言葉を紡ぎだす梨華の唇。
伝わってくる愛情の欠片が、吉澤の胸に刺さる。
こんな嬉しそうな顔、初めて見た気がする。
だから、笑顔でいよう…。
好きだから、
大好きだから、自分の痛みは我慢できる。
血だらけになって倒れても、きっと笑顔でいられる。
- 268 名前:純愛 投稿日:2002年05月10日(金)22時36分08秒
- 梨華と別れて、ひとりタクシーに乗り込む。
運転手に行き先を告げると、そっと目を閉じる。
こんなときは泣けばいいのかな…。
胸にのしかかった重石。
誰彼かまわずしがみついて泣き叫んだら、砕けてしまうのかもしれない。
そんなこと、出来ないけど…。
「ここでいいですか?」
自宅前。車を止め、笑顔で振り返る運転手。
「はい、ありがとうございます」
吉澤も微笑み返す。
心はますます重くなる。
深夜、ひとりベッドの中。掛け布団を頭まで被る。
けれど、やっぱり泣かなかった。
- 269 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月10日(金)22時38分57秒
- すみません。
167ダブってます。
マウスがなかったり、体勢が悪かったりで…。
もっと先までいくつもりでしたが、やばそうなのでこのへんで。
一応、うそつき呼ばわりされないための、更新でした。
レスの返事も次回に。
次は月曜です。
- 270 名前:269ゆっち 投稿日:2002年05月10日(金)23時08分59秒
- 267の間違いです。ダブリ。
- 271 名前:夜叉 投稿日:2002年05月10日(金)23時57分58秒
- 悲しすぎて涙も出ない、ということを聞いたことがあります。未熟な自分にはまだそんなことはないのですが。
ゆっちさんの作品は考えさせられることと、忘れかけていた何かを自分に教えてくれます。
でも、無理をせず頑張って下さい。次回の更新も楽しみにしてます。
- 272 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月11日(土)20時18分45秒
- 好きな人の恋を応援するのってつらいですよね。
結局何もできずに終わりにした恋を思い出しました。
ヨシコはそうじゃないといいな。
- 273 名前:パム 投稿日:2002年05月13日(月)05時16分22秒
- せ、、、切ない、、、。いや、マジで。
上から全部読んできましたが、作者さんマジで凄いね。
う〜ん。言葉にできん。が、かなり面白い。
次も期待しとりまっす。
- 274 名前:純愛 投稿日:2002年05月13日(月)19時27分35秒
- メンズカジュアルショップ。
「どっちがいいかな?」
洋服を手に取って、困惑する梨華。
両手いっぱいに抱えた幸せな悩み。
「こっちのほうがいいと思うよ」
「そうだよね…、私もそう思う…でも…」
「そっちのほうがいい?」
そんな会話が、もう1時間も続いている。
「最後は梨華ちゃんが決めなきゃ」
「決められない…だって…」
「大丈夫だよ、好きな人からのプレゼントなら、なんでも嬉しいから」
吉澤は横を向いて、梨華にわからないように、小さく溜息をつく。
- 275 名前:純愛 投稿日:2002年05月13日(月)19時29分27秒
- 不安そうな梨華の表情。
好きなひとへのプレゼントがなかなか決まらない。
まるで、少女漫画の世界をそのまま切り抜いてきたよう。
可愛いね…。
その仕草ひとつひとつが、女の子らしい。
自分には決して真似できない。
だから惹かれるんだろう。
彼を想うその健気さが愛おしい。
可愛くて仕方がない。
そして、同時に、鋭く胸をえぐる。
いったい、何をしてるんだろう…。
考えまいとしても、時折、頭をかすめる虚しさ。
3軒目を後にする。
「ごめんね…」
申し訳なさそうに俯く梨華。
「いいよ、どうせ暇だし。じゃあ、洋服はやめて、スニーカーなんかは?」
「うん、そうする。次は絶対決めるから」
次の店でも、迷ってしまう梨華。
結局、ほとんど吉澤が選んだと言ってもいいナイキのスニーカー。
それが、誕生日プレゼントになった。
- 276 名前:純愛 投稿日:2002年05月13日(月)19時30分21秒
- 「よかった、よっすぃーがいてくれて…」
紙袋を大事そうに抱えながら梨華が呟く。
「そうだよ、梨華ちゃんひとりだったら、今頃まだ店の中でおろおろしてたよ」
そう言って笑う吉澤。
「ほんとだね」
梨華も笑う。
この笑顔のそばにいれるのならそれでいい。
それは、強がりだろか?
それとも、弱い自分に対する言い訳だろうか?
この腕の中で幸せにしてあげることが出来ないのなら、
せめて、一番近くで、その幸せを応援してあげよう…。
馬鹿な考え方かもしれない。
亜弥が聞いたら、また意気地なしだと言われるだろう。
- 277 名前:純愛 投稿日:2002年05月13日(月)19時32分00秒
- 歌番組の収録。
吉澤は、いつもよりわざと遅く家を出た。
タクシーの心地よい揺れが、浅い眠りを誘う。
久しぶりに、亜弥と顔を合わすことになる。
今日のことを思って、昨日はほとんど寝ていない。
「着きましたよ」
運転手の穏やかな低い声に、吉澤は目を開けた。
同じ事務所。楽屋は別々だけれど、行き来はよくある。
「おはようございます」
扉をあけた瞬間、そこに亜弥がいないことを確認し、ほっと息をつく吉澤。
「おはよう、よっすぃー。はやく準備しないとリハーサル始まっちゃうよ」
心配げな梨華。
「うん、ちょっと、寝坊して…」
- 278 名前:純愛 投稿日:2002年05月13日(月)19時33分24秒
- リハーサル。休憩。
運が良かったのか、お互いがそうしむけたのか、吉澤と亜弥が顔を合わすことはなかった。
同じスタジオの中。さすがに本番は、同席しないわけにはいかない。
それでも、ほとんど目が合うことはない。
さすがに様子が気になって、亜弥の方を見た吉澤。
同時に、吉澤を見る亜弥。
しかし、それは、ほんの一瞬。
どちらが先に逸らしたともわからぬまま、視線は中を舞う。
- 279 名前:純愛 投稿日:2002年05月13日(月)19時34分17秒
- 本番が終わり、足早に人垣をすり抜けて行く吉澤。
「よっすぃー!」
矢口の甲高い声が、追ってくる。
仕方なく立ち止まる吉澤。
「みんなで、ご飯食べに行かない?」
「…」
「松浦もいるし」
ドキリとする吉澤。
「…今日はちょっと…」
「石川も来ると思うよ」
探るような矢口の視線。
- 280 名前:純愛 投稿日:2002年05月13日(月)19時35分22秒
- バレバレですよ。
亜弥の台詞を思い出す。
なんて思われてるんだろう?
間違ってる?
間違ってるよな…。
でも、仕方ないよ。
好きなんだから…。
止めようと思っても、どうしても止められないんだから。
どうでもいいや…。
梨華以外の誰にどんなふうに思われていようと、
吉澤にとって、それは、ほんのちっぽけなことのような気がした。
「せっかくだけど、今日は…」
「そっか、残念だね」
「すみません」
- 281 名前:純愛 投稿日:2002年05月13日(月)19時36分08秒
- 再び足を速め、ほとんど駆け足に近い形でひとり楽屋に戻る吉澤。
服を着替えると、急いで部屋を出て、タクシーに乗り込んだ。
いつか笑って話せるときが来るんだろうか…。
申し訳ないけれど、今は亜弥のことを考えている心の余裕はない。
何気なく鞄を探る吉澤。
あれ…。
携帯…。
急いでいたせいか、携帯を楽屋に忘れてきたようだ。
「すみません、引き返してもらえませんか」
- 282 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月13日(月)19時44分35秒
- レスありがとうございます。
本当に感謝です。
>259名無し読者様
>260夜叉様
>261たろ様
>264梨華っちさいこ〜様
暖かいお言葉ありがとうございました。
実家のハードは無事でした。
と、いっても、たいした量はまだ書いていないので、
そんな大げさな話しでもなかったのです。
その割に、長文な言い訳でしたが…。
- 283 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月13日(月)19時52分24秒
- レスありがとうございます。
>271夜叉様
そんな、たいしたもんではないような…。
悲しすぎて泣けないのと、悲しいけど泣かない、を両方かけた感じです。
>272梨華っちさいこ〜様
多分、誰でも経験するような話しですよね。
私も、昔のことなんか、思い出しながら書いてます。
>273パム様
全部読んでいただいたとは、ありがたい、というか、申し訳ないというか…。
今後ともよろしくお願いします。
- 284 名前:吉にゾッコン!! 投稿日:2002年05月13日(月)20時45分24秒
- ずっと読ませて頂いてました・・。マジに泣いた。(T-T)
痛い・・痛いよ〜。よっすぃ〜。せつない・・。
よっすぃ〜は幸せになれるんでしょうか。更新楽しみにしてます。
- 285 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月13日(月)21時32分38秒
- 本当は幸せを応援したいなんて嘘ですよね。
自分をごまかすための一番簡単な理由ですよね。
う〜…読んでてかなりキツイです。
でも最後までしっかりついていきますので、頑張ってください。
- 286 名前:たろ 投稿日:2002年05月14日(火)02時48分03秒
- はぁ〜、切ないなあ。
ずっと側にいてこんなに想っているのに梨華ちゃんの心は別のところにあって、
気持ちを伝える術もなく自分を抑えてるよっすぃー。
よっすぃー頑張れ、応援してるよ。
ゆっちさんも無理のない程度に頑張ってください。楽しみにしてます。
- 287 名前:パム 投稿日:2002年05月14日(火)06時31分26秒
- 申し訳ないってあなた、かなり面白いですぞ!。
なんか、こう文章に切なさてんこもりな感じが非常に(・∀・)!イイ
次回も期待して待ってます!。
- 288 名前:純愛 投稿日:2002年05月14日(火)20時03分25秒
- もう、みんな帰った頃だろう。
そう思いながら扉に手をかける吉澤。
「よっすぃー、どうしたの?」
中には梨華がいた。
「ちょっと、忘れ物。梨華ちゃんこそ…ご飯食べに行くんじゃなかったの?」
「うん、急に、用ができちゃって…」
少し顔を赤くする梨華。
「…彼?」
「…う、うん」
恥ずかしそうに、でも、嬉しそうな梨華。
「そっか。そうだ、プレゼントはどうだった?」
「喜んでくれたよ。本当に、よっすぃーのお陰」
誕生日の出来事を話し始める梨華。
- 289 名前:純愛 投稿日:2002年05月14日(火)20時04分12秒
- もう、それ以上聞きたくない。
馬鹿だよ。
自分から切り出したくせに、耳を覆いたくなる。
笑顔で聞いてあげなきゃ…。
応援するって、決めたんだから。
「よかったね」
「うん」
そっと頷く梨華。
吉澤の笑顔は、なんとか梨華に通用するぐらいには、成功していた。
- 290 名前:純愛 投稿日:2002年05月14日(火)20時05分09秒
- 「よっすぃーの忘れ物って?」
「ああ、そうだ。携帯」
あたりを見回すふたり。
しかし、携帯は見当たらない。
梨華が時計をチラッと見る。
「梨華ちゃん、約束があるんでしょ?」
「でも…」
「ひとりで、探すから大丈夫だよ」
と、その時。
ガチャ
「吉澤さん、これ、落ちてましたよ」
携帯を右手に持った亜弥が、扉を開けて入ってきた。
- 291 名前:純愛 投稿日:2002年05月14日(火)20時05分58秒
- 「亜弥ちゃんが拾ってくれてたんだ。よかったね、よっすぃー」
ほっとしたような梨華。
「う、うん…」
「じゃあ、私、先に帰るね。お疲れ様」
「うん、お疲れ…」
「お疲れ様です」
去って行く梨華。
華やいだ笑顔。
部屋に、吉澤と亜弥、ふたりを残し…。
- 292 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月14日(火)20時14分18秒
- レスありがとうございます。
>284 名前 : 吉にゾッコン!!様
前のは石川さんの方が辛かったので、
今回は吉澤さん。私は酷いヤツです。
>285梨華っちさいこ〜様
多分ラストあたりまでこんな感じかな…と。
耐えて読んでください。
>286たろ様
ほんとに可哀想な吉澤さんです。
応援してあげて下さい。
>287パム様
面白いと言っていただけると、
私も吉澤さんも本望かと…。
少ないですが更新です。
では、また明日。
- 293 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月14日(火)20時53分16秒
- うがぁぁぁぁぁぁぁ!! 勘弁してくれ〜…。
死にそうっス。 キツイっス。
でも、続き読みたいです…。
- 294 名前:純愛 投稿日:2002年05月15日(水)19時59分38秒
- 「吉澤さんって、お人よしですね」
亜弥の微かな笑み。
「話、聞いてたの?」
「だって、せっかくふたりきりなのに、邪魔しちゃ可哀想だから」
「…」
「私、優しいでしょ?」
おどけたように笑う亜弥。
「私が言ってあげましょうか?」
「何を…」
「吉澤さんは、石川さんのことが好きなんですよって」
吉澤は大きく息を吐く。
「あのさ…」
亜弥は吉澤の言葉を遮る。
「思い余って、石川さんの代わりに、私のこと抱いてたんですって」
- 295 名前:純愛 投稿日:2002年05月15日(水)20時00分26秒
- 吉澤は顔が熱くなるのを感じる。
「亜弥ちゃん…お願いだから…」
もう一度大きく息を吐く。
「私には何をしてもいいから、梨華ちゃんを傷つけるようなことだけはやめて欲しい」
「吉澤さんの頭の中は、全部、石川さんなんだ…」
少し潤んだ亜弥の目。
「私が入り込める余地は、やっぱり、ないんですね…」
「ごめん…」
「謝らないで下さい、哀しくなるじゃないですか…」
「…」
帰り際、携帯を差し出す亜弥。
「ありがとう」
「ちょっと、悪戯しました」
「何を?」
「石川さんの番号、メモリーから消しておきました」
力なく笑う吉澤。
「可愛い悪戯だね…」
- 296 名前:純愛 投稿日:2002年05月15日(水)20時01分08秒
- 自宅の部屋。
ベッドに潜り込む吉澤。枕もとには携帯。
この数ヶ月、いろんなことがあった。
その全てを消化しきれたわけではない。
亜弥と別れた。
梨華の告白を聞いた。
梨華の幸せを応援しようと決めた。
ちょうど、今ぐらいの時間。
梨華はよく吉澤に電話をかけてくる。
恥ずかしそうに、彼の話…。
嬉しそうだったり、
不安げだったり。
彼が…、
彼が…、
彼が…。
梨華の声が頭の中でこだまする。
もう、だめだ…。
もう、聞きたくない…。
そう思っても、次の瞬間、ちゃんと笑っている自分がいる。
そして、結局、今日も待っている…。
「もしもし、よっすぃー…」
「梨華ちゃん…」
「起きてた?」
「起きてるよ」
「ごめんね、遅くに…」
「どうしたの?」
「あのね…聞いてくれる?」
「いいよ、なんでも聞いてあげるよ…」
こうして夜は更けていく。
- 297 名前:純愛 投稿日:2002年05月15日(水)20時01分53秒
- オフ。地元の友人からの誘いも断って、ひとり街を歩く吉澤。
用があるわけじゃない。
ただ、ひとりになりたい。
そんな気分だった。
気付かれぬよう帽子を目深に被り、雑踏に紛れ込む。
こうしていると、ひと時、なにもかも忘れられそうな気がした。
何もない田舎町にひとりいるより、
都会の人ごみの方が孤独に浸ることが出来る。
喜びも、悲しみも、笑い声も、溜息も、街の中に吸い込まれていく。
ふと目に映ったショーウィンドー。
淡いピンクのピアス。
梨華ちゃんに似合いそう…。
「お出ししましょうか?」
店員の声。
- 298 名前:純愛 投稿日:2002年05月15日(水)20時02分49秒
- それほど真剣に見ていたのだろうか…。
忘れたくてひとりでいるのに…。
結局、何を見ても、何を聞いても、連想してしまう…。
忘れたいなんて嘘かもしれない。
本当は探してるんだ…。
吉澤の顔に自嘲ぎみな笑みが浮かぶ。
「いえ…いいです…」
立ち去ろうとする店員。
「あ、あの、やっぱり、これ下さい」
言ってしまってから後悔する。
なんて言って渡せばいいんだろう?
誕生日でもないのに…。
梨華ちゃんに似合いそうだから買ってきた。
そんなことを言う権利、自分には与えられていない。
一日街を歩いて得たもの。
やっぱり好きだという思い、
そして、ポケットの中、行き場のない小さな包み。
- 299 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月15日(水)20時05分13秒
- >293梨華っちさいこ〜様
レスありがとうございます。
同じところをぐるぐる回っているような展開ですが、
辛抱して読んでください。
お願いします。
今日も少しですが、更新しました。
また、明日です。
- 300 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月15日(水)21時05分31秒
- 胸がキュウッッッてなるのがカイカンになりつつあります。。。
- 301 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月15日(水)21時16分09秒
- 切なすぎる(TーT)なんて言ったらいいのやら。
好きな人の、話を聞くのがつらい、でも聞きたい。
この辺りの心の葛藤が・・・泣けますね。
- 302 名前:たろ 投稿日:2002年05月16日(木)06時18分52秒
- 彼の話なんて聞きたくないのに電話を待ってしまう気持ち、すっごく分かります。
似たような経験があるのですが、思いだしてイタタタ…(涙
- 303 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月16日(木)08時00分04秒
- ヨシコばかりではなく松浦さんもつらいのでしょうか?
意地悪したくなるのもしょうがないことなのですかね。
自分は松浦さんのような立場にあったことはないのでわかりませんが…。
- 304 名前:純愛 投稿日:2002年05月16日(木)20時00分14秒
- 仕事は早く終わった。
梨華とふたりタクシーに乗り込む吉澤。
お礼がしたいの…。
帰り際、急にそう言って呼びとめられた。
わずかな一時、それは梨華の心を占める思いの、ほんの隙間。
それでも、共有できる時間。
吉澤にとってそれは何物にも代え難い。
「お礼って何してくれるの?」
「私の手料理」
少し照れたようにそう言う梨華。
「そりゃ、楽しみだね。ところで梨華ちゃんの家、胃薬あったけ?」
「ひどいよ、よっすぃー」
頬を膨らます梨華。
他愛ない会話。
穏やかな時間。
- 305 名前:純愛 投稿日:2002年05月16日(木)20時00分57秒
- 台所に立つ梨華。
いっぱいに広げた豊富な食材。
「梨華ちゃん、料理できるんだ?」
「うん、最近ちょっとね…」
彼のためか…。
頭をかすめる思考を無理矢理振り払う。
この僅かなふたりの時間を無駄にしたくない。
「なんか手伝おうか?」
「いいよ、それじゃお礼にならないもん。よっすぃーは座ってて」
言われるままにソファーに腰掛ける吉澤。
ぬいぐるみ。
ピンクのカーテン。
女の子らしい部屋。
それは梨華の存在そのままを写し出したよう。
- 306 名前:純愛 投稿日:2002年05月16日(木)20時01分37秒
- ようやく出来あがった料理。
スープを口に運ぶ吉澤を真剣な眼差しで見つめる梨華。
「おいしいよ」
「ほんと?」
吉澤が頷くと、梨華の顔が輝く。
「よかった…自信なかったの…」
「なんだ。本番前の毒見役か」
冗談っぽくそう言う吉澤。
「そんなんじゃないよ…私は、よっすぃーに…」
言葉を詰まらせる梨華。
また、何かあったんだ…。
わかりやすいね…。
本当はこの料理も彼に食べさせたかったんだ…。
「冗談だよ。梨華ちゃんの料理を食べさせてもらって嬉しい」
何も気付かないふりで、笑みを浮かべる吉澤。
梨華もそれに答えるように笑う。
- 307 名前:純愛 投稿日:2002年05月16日(木)20時02分15秒
- 食事が済み、お茶を飲み、言葉を交わす。
お互い別の思いを抱えながら、それでも暖かに時は流れる。
「もうそろそろ帰らないと…」
そう言って立ちあがる吉澤。
「もう、帰っちゃうの?」
「明日も早いしさ…」
「お願い…」
吉澤の手首を掴む梨華。
「もうちょっとだけ…」
「どうしたの?」
「お願いだから、ひとりにしないで…」
梨華は立ちあがり、吉澤の胸に頭を付ける。
衝動のままに抱き締める。
一瞬梨華がピクンと身体を強張らせた。
けれど、抗おうとはしなかった。
今なら、キスをしても許されるだろう。
それ以上だって、嫌だとは言わないかもしれない。
深い理由もなく、吉澤はそう思った。
何故なのか、
身体の温もりから、その息遣いから、
そうとしか説明できない。
- 308 名前:純愛 投稿日:2002年05月16日(木)20時03分35秒
- 顔を上げる梨華。
キスを待つ視線。
けれどその心は自分を見てはいない。
吉澤は、はっきりそう思った。
亜弥を抱いたとき、自分もきっとこんな目をしていたんだろう。
それでも平気な振りをしていられる自信はない。
吉澤は腕を解き、梨華の片に手を乗せる。
「少しは落ちついた?」
「…う、うん…」
目を伏せる梨華。
「ありがとう…」
「なにが?」
「暖かくて、なんだか、好きな男の子に抱き締められてる気がした…」
「安心した?」
「うん」
「誰だって寂しくなるときはあるよ。寂しくなったら、いつでもそばにいてあげるから…」
「じゃあ、今日は帰るね。もう大丈夫でしょ?」
少し寂しそうに、それでも頷く梨華。
引きずられる心を断ち切るように玄関へ向かう吉澤。
「よっすぃー…」
「ん?」
「錯覚なのかな?」
「何が?」
「さっき、よっすぃーのこと、ほんとに好きになりそうだったの…」
「錯覚だよ」
そう言って笑う吉澤。
ひとり、部屋を後にする。
- 309 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月16日(木)20時16分22秒
- レスありがとうございます。
>300名無し読者様
少しでも、胸に伝わるものがあるのかと、安心しました。
ありがとうございます。
>301よすこ大好き読者。様
んー。吉澤さんは複雑な心境なのでしょうね。
可愛そうだけど、ずっとこんな感じです。
>302たろ様
人生いろいろありますよね。
きっと、過ぎてみればいい思い出に…。
>303梨華っちさいこ〜様
松浦さんは間違いなくつらいと思います。
できることなら、3人とも幸せにしてあげたいと思ってるんですが…。
いつものように少しですが更新です。
では、また来週月曜に更新します。
- 310 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月16日(木)21時01分54秒
- ヨシコ強いなぁ…オイラだったら自分を抑えられないだろうな。
いや、別の考え方ではむしろ弱いのかもしれないな…。
- 311 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月16日(木)22時58分07秒
- 錯覚だと言った吉の気持ちを考えると泣けてきます・・・
- 312 名前:たろ 投稿日:2002年05月17日(金)01時55分23秒
- よっすぃー、ホントにそれでいいのか〜!
部屋を出た後のよっすぃーのことを思うと胸が痛いです…。
- 313 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月17日(金)16時14分22秒
- >「錯覚だよ」
どんな気持ちで、この台詞を言ったのか?
い・痛すぎる……。精神内科を呼んで下さい…。
- 314 名前:純愛 投稿日:2002年05月20日(月)20時15分02秒
- 梨華のマンションが遠くなる。
振り向かないでおこう。
そう思いながら歩く吉澤。
それは、錯覚なんだ…。
現実から目を背けたいだけなんだよ。
よくわかる。
自分もそうだったから。
頬に一滴雨が落ちる。
そろそろタクシーを拾おう。
何気なくポケットに手を入れる。
右手に触れる箱の感触。
小さな箱。
けれど、そこにはやり場のない思いが弾け出しそうに詰まっていた。
足が止まる。
これ以上前へ進めない。
そして、
結局、振り向いてしまった。
- 315 名前:純愛 投稿日:2002年05月20日(月)20時16分58秒
- ちょっと、衝動買いしちゃたんだ…。
梨華ちゃんのほうが似合いそうだから…。
バーゲンだったんだよ…。
梨華に会ったら言おうと思う台詞を、心の中で繰り返す。
何度も、何度も…。
再びマンションの前。
窓のあかりを見上げる。
大きく一度息を吐いて、一歩足を踏み出した。
チャイムを鳴らす。
しかし、出てくる気配がない。
シャワーでも浴びているのだろうか。
さほど期待もせずに、取っ手に手をかけてみる。
カチャ
開いてる…。
無用心だな、注意しとかなきゃ…。
そう思いながら中に入ろうとした瞬間、吉澤の身体が硬直する。
吉澤の視線が捕らえたもの。
それは、玄関に置かれた、ナイキのスニーカー。
気付かれないようそっと扉を閉め、マンションを出る。
降り出した雨が髪を濡らす。
玄関に彼のスニーカー。
たった、それだけのことだった。
散々ボディーを浴びたボクサーが、最終ラウンドの軽いパンチにダウンしてしまう。
それは、そんな出来事だった。
少なくとも、今の吉澤を打ちのめすには十分な威力があった。
- 316 名前:純愛 投稿日:2002年05月20日(月)20時18分05秒
- どこをどう歩いたのかさえ思い出せない。
気がつくと亜弥の部屋の前。
チャイムも鳴らさず、ただ立ち尽くしていた。
何をやっているんだろう…。
ここにだけは来ちゃいけない。
我に返って立ち去ろうとした時、背後から声がした。
「吉澤さん…」
今帰って来たらしい亜弥。
「ごめん…」
言葉はそれしか出てこない。
「とにかく中に入って下さい」
「帰るから…ごめん…」
「だめですよ、そのままじゃ、風邪引いちゃいます」
亜弥にそう言われて、びしょ濡れなことに始めて気付く。
結局、背中を押されるように、吉澤は部屋に入った。
- 317 名前:純愛 投稿日:2002年05月20日(月)20時19分22秒
- 風呂に入れてもらい、温まったはずの身体が、何故か震えている。
頭は真っ白で何も考えられない。
「…ごめん」
「さっきから、そればっかりじゃないですか」
そう言うと、亜弥はソファーに座る吉澤の背後に立つ。
「言わないで下さい」
「ん?」
「何があったのか。私も聞きませんから」
そう言って後ろから吉澤を抱き締める亜弥。
吉澤はただそのまま座っているだけ。
「震えてる…」
呟くように亜弥。
「こんな吉澤さん、見たくないから…」
「ごめん…」
「すきにしていいですよ…」
「馬鹿なこと…」
そう言って振り向いた吉澤を、亜弥の唇が塞ぐ。
「だめだって…」
そう言って身体を離そうとする吉澤。
「私のこと、石川さんだと思って下さい。前みたいに」
「亜弥ちゃん…」
重いため息をつく吉澤に、亜弥はもう一度唇をつける。
「もう、やめようよ…」
力のない吉澤の声。
それでも亜弥は執拗に吉澤を求め続ける。
やがてベッドへなだれ込む。
- 318 名前:純愛 投稿日:2002年05月20日(月)20時20分44秒
- また、こんなことの繰り返し…。
お互いの傷口を深くするだけのこと…。
わかっていても、一旦はずれてしまった心の留め金。
そう簡単には修復できない。
結局闇の中、だだ落ちて行くだけ。
「私、別れたいって、言ったこと、後悔してます」
ベッドの中。吉澤の腕にしがみつき呟く亜弥。
「言わなかったら、ずっと、吉澤さんが、そばにいてくれたたんだって思って…」
「…」
「ひとりで寂しいより、ふたりで寂しいほうがいい…」
「…」
「石川さんを好きなままでいいから…これからも、そばにいてくれませんか?」
「…少し、考えさせて…」
早朝、まだ外は暗い。
ベッドからそっと抜け出す吉澤。
まだ少し湿った服を身につける。
亜弥の寝顔を見つめる。
まだあどけなさの残る顔。
そこにまたひとつ苦痛の跡を刻み込んでしまった。
- 319 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月20日(月)20時33分09秒
- レスありがとうございます
>310 梨華っちさいこ〜様
どうなんでしょうか?
書いている本人、よくわかってません。
>311名無しさん様
んー。
悲しいですね。としか言えないですね、まだ。
>312たろ様
さらに、酷いことになってしまいました。
>313よすこ大好き読者。様
そうですね、精神内科を呼びましょうか。
更新しました。
予定より、筆が遅れてるので、今日も少量の更新です。
本当は、読みがいがあるくらいの量をアップしたいのですが、
そうもいかない感じです。
では、また明日。
- 320 名前:名無しベーグル。 投稿日:2002年05月20日(月)23時13分08秒
- お互い届かない想い切ないですね。読んでて涙が…。
あやゃも吉澤にも幸せになって欲しいんですが。
- 321 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月20日(月)23時36分15秒
- またヨシコと我々の心がザクザクえぐられる…。
幸せってそう簡単には手に入らないんだなぁ…。
- 322 名前:たろ 投稿日:2002年05月21日(火)00時49分43秒
- ううう…つらいですね〜。
ホント、胸が痛みます。
よっすぃーのこの想いが何とか報われたらいいな。
ゆっちさん、更新お疲れさまです。
- 323 名前:くわばら。 投稿日:2002年05月21日(火)03時20分02秒
- 初めまして。
この切ない吉澤さんの気持ちにもう、ただただ、涙涙ですぅ。。。
- 324 名前:バターカップ 投稿日:2002年05月21日(火)07時07分14秒
- うおーーー。
カナーリ(・∀・)イイ!ここの小説!!
嗚呼、マジでせつな過ぎるもん(涙
吉頑張れーーー。
- 325 名前:純愛 投稿日:2002年05月21日(火)21時03分35秒
- 番組収録。休憩時間。
控室に吉澤と梨華。
「昨日はごめんね、私、どうかしてた…」
恥ずかしそうに俯く梨華。
「呆れてるよね…」
「そんなことないよ。梨華ちゃんの気持ち、わかる気がする」
「よっすぃーも好きな人がいるの?」
梨華の言葉が吉澤の胸を刺す。
こんなにそばにいるのに、決して届かないその想い。
心のうちを見透かされないように、微かに笑う吉澤。
「いるんだね…」
少し淋しそうな梨華。
「いないことも、ない、かな…」
「前、振られたって言ってた人?」
吉澤は黙って首を横に振る。
「ずっと好きだった…でも、好きになっちゃいけない人なんだ…」
扉の向こうにでも話し掛けるように、遠い目をする吉澤。
「そんなの、よっすぃーらしくないよ…」
「もうやめよう、そんな話」
廊下の向こうから聞こえる声がだんだん近くなる。
やがて、戻って来たメンバー達の笑い声が部屋を満たす。
- 326 名前:純愛 投稿日:2002年05月21日(火)21時04分30秒
- 収録が終わり、ひとり控室に残る吉澤。
立ち上がれない。
まるで、体に力が入らない。
今日1日、いつもの笑顔を貼り付けることだけで精一杯だった。
玄関の靴。
耳に残る梨華の声。
抱き締めた身体の感触。
そして、その同じ腕の中に抱いた亜弥の切なげな眼差し。
狂っている。
全て、狂ってしまっている…。
ようやく立ち上がり、扉に手を掛ける。
「…」
「吉澤さん」
ちょうど、亜弥が入って来るところだった。
- 327 名前:純愛 投稿日:2002年05月21日(火)21時05分03秒
- 部屋の中にふたり。
「どうして…」
「私も、今日、ここのスタジオだったんです。知りませんでした?」
目を伏せる亜弥。
「当たり前ですよね…私は、吉澤さんがどこにいるか、いつでも知ってるけど…」
力のない亜弥の声。吉澤の胸は締め付けられる。
「昨日はごめん…」
やっとそれだけ口にする。
「いいですよ、そんなの。私が誘ったんだし」
「私はもうだめだ…亜弥ちゃんは強いね…」
「強くなんかない」
そう言って吉澤に抱きつく亜弥。
「今日だって、早く終わらないかなって…そしたら吉澤さんに会えるのにって…そんなことばっかり…」
「亜弥ちゃん…」
「そばにいてくれるだけでいいから…」
かすれた声。
- 328 名前:純愛 投稿日:2002年05月21日(火)21時06分31秒
- 必死にしがみついてくる小さな身体が小刻みに震えている。
思わず抱き締める。
顔を上げる亜弥。
その唇を吉澤が塞ぐ。
間違っている。
どんなにいとおしいと思っても、
どんなに可愛いと思っても、
それはやはり、どこかが違う。
どうしても忘れられないひとがいる。
とっくに結論が出たこと。
変わらない事実。
変えられない事実。
それでもこの瞬間だけ、壊れそうなその小さな身体だけを見つめていたい。
そう思いながら、腕に力を込める吉澤。
と、
ガチャ
「…あ」
唇を離し、扉の方に目を向けるふたり。
そこには梨華が立っていた。
- 329 名前:純愛 投稿日:2002年05月21日(火)21時08分05秒
- それは一瞬の出来事。
3人の視線が複雑に絡まる。
「…ごめん」
それだけ言うと、慌てて立ち去る梨華。
脱力したように、その場にしゃがみこむ吉澤。
「いいんですか、追いかけなくて」
哀しそうに呟く亜弥。
「追いかけても、仕方ないよ…」
息を吐いて立ち上がる吉澤。
「私が、無理矢理キスしたことにしてもいいですよ」
不自然なくらい明るい亜弥の声。
「もういいから…」
「…」
「もう一回、付き合おうか」
「やけくそってやつですよね、それって」
「ごめん…」
「いいですよ、それでも」
笑顔で腕を絡める亜弥。
やっぱり、本当に、狂っている…。
- 330 名前:純愛 投稿日:2002年05月21日(火)21時08分50秒
- ベッドにひとり吉澤。
鳴らない携帯をじっと見つめる。
今日はかけてこないのか…。
当たり前だよ…。
あんなシーン目の前にしたら…。
どんなに辛い言葉でも、それを、どれほど待っていたか…。
あらためて、思い知らされる。
- 331 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月21日(火)21時24分07秒
- レスありがとうございます
>320名無しベーグル。様
わざわざ、こっちにまで、ありがとうございます。
幸せになる方法を模索中です。
>321梨華っちさいこ〜様
またしても、酷くなってしまいました。
幸せは、思ったより、遠いようで…。
>322たろ様
吉澤さんは…、
どうなるんでしょうか、
私も、わからなくなってます。
>323くわばら。様
始めまして。
毎回酷くなってます。すみません。
>324バターカップ様
ありがとうございます。
吉澤さんを応援してあげてください。
更新しました。
どうも、当初の予定から、ストーリーがそれていく一方です。
この先どうなるのか、まだ未定です。
- 332 名前:たろ 投稿日:2002年05月22日(水)02時45分46秒
- 疲れ果てたよっすぃーを何とかしてあげたいです。
梨華ちゃん、吉の気持ちに気付いてあげてくれ〜。
あ、でもそれも辛いかなあ…
- 333 名前:吉にゾッコン!! 投稿日:2002年05月22日(水)09時10分04秒
- はぅ〜・・(T−T)
よっすぃ〜もあややも痛すぎる・・。この話は全員が幸せにはなれない関係ですよね・・
みんながHAPPYになれる方法ってないのかな〜。
- 334 名前:純愛 投稿日:2002年05月22日(水)20時05分11秒
- 「ちょっと、よっすぃー」
突然、矢口に呼び止められる。
「なんですか?」
「石川と何かあったの?」
小声でそう言う矢口。
「…いえ、別に…」
一瞬言葉を詰まらせる吉澤。
あれから吉澤と梨華の間には、気まずいムードが漂っている。
目を合わせるのが辛かった。
そんな気持ちが、梨華にも伝染したのだろう。
お互いの態度がぎこちない。
喧嘩をしたわけではない。
梨華との間には何もない。
そう、悲しいぐらいに何もない。
「ふたりとも元気がないみたいに見えるけど…」
「そうですか?梨華ちゃんは知らないけど、私は元気ですよ」
「なら、いいんだけど…」
梨華の元気がないとしたら、その原因は別にある。
そばで支えてあげられない自分が、吉澤はひどくもどかしかった。
- 335 名前:純愛 投稿日:2002年05月22日(水)20時06分32秒
- 仕事から自宅へ戻る。
携帯を見つめる吉澤。
何度も、梨華の番号を呼び出してはため息をつく。
なんて言えばいいんだろう…。
亜弥ちゃんとのことは、気にしないで欲しい。
そんなこと、気になんてしていないのかもしれない。
私が避けているから、話かけられないだけなんだろう。
明日オフだね、遊びに行かない?
だめだ…。
断られたら、余計な想像をしてしまう。
いっそ…。
本当に好きなのは梨華ちゃんなんだ。
話をこれ以上複雑にしてどうする…。
再び大きく息を吐いて携帯を机に置く。
- 336 名前:純愛 投稿日:2002年05月22日(水)20時07分06秒
- 深夜、もう一度梨華の番号を呼び出す吉澤。
しばらくそのディスプレーを眺めた後、別の番号を表示させる。
「ごめん、遅くに」
「そんなことは、いいですけど…」
不審そうな亜弥の声。
「明日の仕事、何時まで?」
「…休みです。吉澤さんと一緒で」
「っあ、ごめん…」
先に調べておけばよかった…。
またひとつ傷つけてしまったことを、後悔する吉澤。
「どうしたんですか?」
「どこかへ行きたいなあ、って、思って…」
電話の向こうから息を飲む気配が伝わる。
「いいんだよ、急だし、用があるなら、別に」
早口で、そう言う吉澤。
「私に、吉澤さんより大切な用が、あるわけないじゃないですか」
「じゃあ、明日の朝、家に行くから」
「はい、待ってます」
弾んだ亜弥の声。
「これって、デートですか?」
「そうだろうね、付き合ってるんだから」
- 337 名前:純愛 投稿日:2002年05月22日(水)20時08分11秒
- 頭に残る亜弥の声に、罪の意識を感じる。
あまりに、嬉しそうだったから…。
行き着く先は、結局、破滅的な結末。
ますます、傷つけてしまうだけ。
わかっているのに…。
枕元で、不意に鳴り出す携帯。
そっと、手を伸ばす。
梨華ちゃん…。
「もしもし…」
ずっと待っていた愛しい声。
「どうしたの?」
いつも通りの自然な声が出たことに、吉澤自身が一番びっくりしていた。
「ごめんね、遅くに…」
「いいよ、ちょうど寝れなかったとこだから…」
「明日、会ってくれないかな。話がしたくて…」
「え…」
明日…。
「あ、無理ならいいよ…」
「いや、少しぐらいなら、時間、作る」
気がついたらそう言っていた。
「いいの?」
「うん。家に行ったらいい?」
「来てくれるの、ありがとう」
「じゃあ、明日ね」
「うん…よっすぃー…」
「ん?」
「…よっすぃーの声を聞くと、安心する…」
「それは、よかった…おやすみ…」
「おやすみ」
おやすみ…。
その声を聞くだけで、胸の中が暖かくなる。
- 338 名前:純愛 投稿日:2002年05月22日(水)20時09分06秒
- 「悪い知らせですか?」
吉澤が口を開く前から、電話の向こうで亜弥がそう言う。
「明日、だめになったとか?」
「いや、必ず行く。でも、ちょっと、遅くなるかもしれない…」
亜弥のため息が聞こえる。
「吉澤さんには、私より大切なもの、たくさんありますもんね」
「そんなことないよ」
「ひとつはあるでしょ?」
言葉を失う吉澤。
「私、ずるいですよね…それでもいいって言ったのに…」
「ごめん…」
亜弥の、微かな笑い声。
「嘘、ついてくれたらいいのに…」
「嘘は下手だから…」
「どんなに下手でも、私は、ちゃんと、騙されてあげますよ」
電話を切った後。携帯を握り締めたまま、窓辺に立つ。
薄く浮かぶ雲が流れて、月を隠す。
その様を意味もなく視線が追う。
口を開くたびに、傷つけてしまう。
どこまで行っても、出口のない関係。
わかっていて、自ら繋ぎ止めている。
こんなときでさえ、
いつまでも耳に残るのは梨華の声。
頭に浮かぶのは梨華の面影。
- 339 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月22日(水)20時12分51秒
- レスありがとうございます
>332たろ様
八方塞です。
どうしたもんか…。
>333吉にゾッコン!!
その方向で考えてます。
一応…。
更新しました。
単調な感じですが、もう少しすると、動きが出てくる予定です。
- 340 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月22日(水)20時22分45秒
- あやや……。切ないですね〜(T-T)
胸が詰まるような気持ちで一杯です。
みんなハッピーになれる方法? あるのですか?
続き楽しみにしています。がんがってください。
- 341 名前:バターカップ 投稿日:2002年05月22日(水)21時52分23秒
- あぁ〜〜、切なすぎる〜〜〜 (TдT)
もう、たまりませんっ(なにがだよ 謎
更新、むっちゃ楽しみに待ってますよ!!!
作者さん頑張ってくださいね!!!!
- 342 名前:たろ 投稿日:2002年05月23日(木)04時23分34秒
- みんな、どんどん切なくなっていくよ〜 エーン
大きな流れに飲みこまれていくような感じですね。
松浦さんちょっと苦手だったのですが、何だか愛しくなってきた…
- 343 名前:純愛 投稿日:2002年05月23日(木)20時05分39秒
- 梨華の部屋の前。
チャイムを押す。
「おはよう」
「おはよう。ありがとう、わざわざ来てくれて」
招き入れる梨華に従い、中に入る吉澤。
こうして目を見て話すのは、ずいぶん久しぶりな気がする。
気付くと吉澤は、梨華の顔をじっと見ていた。
みとれていた。
「どうかしたの?」
不思議そうに、梨華。
「いや、ちょっと、考え事」
「亜弥ちゃんのこと?」
吉澤の呼吸が止まる。
「よっすぃーの好きなひとって、亜弥ちゃんだったんだね…」
吉澤は、頷くことも、否定することもできず、ただ梨華の口元を見ていた。
「お似合いだと思うよ」
邪気のない梨華の声が、胸に刺さる。
「よっすぃーなら、好きになる亜弥ちゃんの気持ちも、わかる気がする」
「やめよう、その話は…」
「よっすぃーが苦しんでるんなら、応援してあげたい。私じゃ力になれない?」
そんなことない。
そう言うように、僅かに笑みを浮かべ、首を振る吉澤。
優しいね…。
でも、その優しさが一番心に痛い。
- 344 名前:純愛 投稿日:2002年05月23日(木)20時06分48秒
- 「梨華ちゃんはどうなの?」
話の矛先を変えようと、梨華に話を振る吉澤。
「私は…」
一瞬表情を硬くする梨華。
「やっぱり、信じられなくて…もうだめ…」
「梨華ちゃんは、それでいいの?」
しばらく考え込む梨華。
「もう、辛い思いは、したくないから…」
辛い思いはしたくない。
辛いのは、やっぱり好きだから…。
そういうことだよね。
「亜弥ちゃんが羨ましいな」
暗い気持ちを振り払うように、笑顔でそう言う梨華。
「どうして?」
「だって、よっすぃー優しいから、泣かされることなんてないよね」
ずっと、泣かしてるよ。
これ以上ないくらい、苦しめてるよ。
こうしている今まさに…。
「羨ましいなら、私と付き合う?」
そう言った瞬間、梨華の顔から笑顔が消える。
「そんなこと、冗談でも言っちゃだめだよ」
自分の立場と重ねているのだろうか、本気で怒ったような口調。
「亜弥ちゃんを幸せにしてあげなきゃ」
「わかってるよ。でも、ひとを幸せにする力なんかないから…」
「亜弥ちゃんだけをずっと見ててあげたら、亜弥ちゃんは、それで幸せだと思うよ」
そうだね…。
だから幸せにできないんだよ。
- 345 名前:純愛 投稿日:2002年05月23日(木)20時07分21秒
- 「ところで、話って何?」
吉澤が訊ねると、梨華は机の抽斗から封筒を取り出した。
「これ、送られてきたの」
そう言って吉澤に封筒を手渡す梨華。
「読んでいいの?」
梨華が頷く。
差出人は女の名前。
一枚の便箋に、飾りも何もない文章。
彼と別れて欲しい。
私たちは結婚する。
そういう内容だった。
「梨華ちゃん、辛かったんだね…」
「…」
「辛いときに、そばにいてあげられなかった…」
「別れた方がいいよね?」
弱々しい声で、そう言う梨華。
「私が、別れろって言ったら別れるの?」
頷く梨華。
「別れられるの?」
今度は、じっと吉澤を見つめたまま黙っている。
重い沈黙が続く。
- 346 名前:純愛 投稿日:2002年05月23日(木)20時07分55秒
- ピンポーン
不意に玄関のチャイム。
「彼?」
「かもしれない…」
そう言うと玄関に向かう梨華。
彼だったらどうしよう…。
ひとり部屋に取り残された吉澤は、いたたまれない思いを抱えていた。
見たくない。
それが正直な気持ち。
もし、本当にいいかげんな男だったら…。
その時、自分を抑えることができるだろうか?
僅かに漏れ聞こえる声。
女?
「キャー!」
梨華の悲鳴。
吉澤は慌てて玄関に向かい、駆け出す。
- 347 名前:純愛 投稿日:2002年05月23日(木)20時08分36秒
- 若い女。
その手元が銀色に光っている。
ナイフ?
そう思った瞬間、吉澤は女に飛びかかっていた。
ナイフが吉澤の脇腹をかすめる。
一瞬顔をしかめる吉澤。
呆然と立ちつくす梨華。
破れた服が僅かに赤く染まる。
それを見て驚いたのは、吉澤よりも、むしろナイフを持った女の方。
「ごめんなさい…そんなつもりじゃ…」
今にも泣き出しそうな女。
手が震えている。
きっと、少し脅そうとでも思っていただけなのだろう。
「いいよ、たいしたことないから」
「ほんとに、私…」
「もう、梨華ちゃんには近づかないで、わかった?」
頷く女。
「なら、もういいから、出て行って」
- 348 名前:純愛 投稿日:2002年05月23日(木)20時09分40秒
- ゆっくりとソファーに腰をおろし、天井を見る吉澤。
ようやく我に返った梨華が、吉澤の身体にしがみつく。
「よ、よっすぃー…ご、ごめん…ごめんね…」
かすれた声。
「なんで梨華ちゃんが泣くの…」
「だって、私のせいで…」
梨華のしがみつく手に力がこもり、傷口を圧迫する。
「う…」
思わず声を漏らす吉澤。
「あっ、ごめん…」
幸い傷は浅く、血もすぐに止まった。
「病院行かなくていいの?」
「いいよ、たいしたことないから」
「でも…」
「騒ぎになったら困るしさ」
「…ごめん」
俯く梨華。
「本当に大丈夫だから」
梨華の肩に手を置くと、穏やかな声でそう言う。
「そろそろ、行かなきゃ…」
寂しそうな梨華の顔。
「何かあったら、電話して、いつでも行くから」
「よっすぃー…ありがとう」
- 349 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月23日(木)20時18分29秒
- レスありがとうございます。
>340よすこ大好き読者。
一番可哀想なのが、実は松浦さんだと思います。
タイトルが「純愛」だし、
作者が、いしよし贔屓だし。
>341バターカップ様
楽しみにしていただいてると…。
ありがとうございます。
裏切らないよう、がんばります。
>342たろ様
状況は、悪くなる一方です。
うん、松浦さんは切ない。
更新しました。
次回はまた来週月曜です。
- 350 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月23日(木)20時58分52秒
- 松浦さんが二人の間の決定的な溝になってしまったんですね。
ヨシコ、このままでいいのかよ…絶対よくないって…。
- 351 名前:たろ 投稿日:2002年05月23日(木)23時41分57秒
- お互いが相手を大切に思っていながらもこの状況…切なすぎです。
松浦さんのことを知られてしまった以上
もうどうにもならないんでしょうかねえ…。
更新お疲れさまです。来週も楽しみにしています。
- 352 名前:くわばら。 投稿日:2002年05月24日(金)04時33分28秒
- なんでよしざーさんは、そんなに石川さんの事が好きなんでしょ…
切ない。。。(:_;)
しかし、松浦も切ない。。。
- 353 名前:バターカップ 投稿日:2002年05月26日(日)09時46分33秒
- この切ない状況!!!
やりきれない思い!!!
たまりません!!!最高です!!!
大好き!!作者ファイッ!
- 354 名前:純愛 投稿日:2002年05月27日(月)20時11分33秒
- 「ごめんね、遅くなって」
そう言いながら部屋に入る吉澤。
亜弥は黙ったまま、切なげな目を吉澤に向ける。
やがて、堪えきれなくなったように、吉澤の胸に顔を埋める。
「どうしたの?」
「来てくれないと、思ってた…」
胸の中、くぐもった声。
「必ず行くって、言ったでしょ」
吉澤の背中に回された腕。
その予想外の力に、傷口が再び疼きだす。
けれど、亜弥の心はもっと痛かったはず。
そう思って、吉澤はそれ以上の力で亜弥を抱き締める。
震える亜弥の身体。
吉澤の胸のあたりに濡れた感触。
ジンジンする脇腹。
それで、亜弥の心を、一瞬でも穏やかにしてあげられるのなら、
ほんのささやかな代償。
「どこへ行こうか?遠くへは行けなくなったけどね…」
その言葉に、ようやく顔を上げる亜弥。
吉澤から身体を離し、その視線が傷口を捉える。
「それ、どうしたんですか?」
「ん、ちょっと…」
梨華に手当てをしてもらった傷口。
ガーゼに、また血が滲みだしている。
亜弥の服も、同じあたりが赤く染まっている。
- 355 名前:純愛 投稿日:2002年05月27日(月)20時12分19秒
- 「ごめん、汚しちゃったね」
「そんなこと…」
俯く亜弥。
「ごめんなさい、痛かったでしょ…」
「たいしたことないよ」
亜弥の髪に軽く手を触れながら、明るい声でそう言う吉澤。
「どこへ行きたい?」
「無理しないで下さい。今日はゆっくりしましょう」
「だって、今日はデートって約束でしょ」
「いいですよ。私は、吉澤さんのそばなら、どこにいても同じだから」
「どうして、そんなに…」
どうして、そんなに健気なの…。
いったいどこがいいの…。
言い終わらないうちに、亜弥が口を開く。
「だって、好きだから…」
「亜弥ちゃん…」
見つめ合うふたり。
「幸せに、してあげたいと、思うよ…」
その言葉は嘘じゃなかった。
目の前の華奢な身体が、急に愛しく思えた。
苦しめ続けている罪の意識に、胸が押しつぶされそうだった。
- 356 名前:純愛 投稿日:2002年05月27日(月)20時12分55秒
- 亜弥は思い立ったように、戸棚の引出しを開ける。
「これ、忘れ物です」
そう言って差し出したのは、梨華のために買ったピアス。
「あの雨の日に、服を乾かした時、ポケットから…」
「ああ…」
「石川さんに…ですよね…」
「捨てていいよ。なんなら、あげるけど」
言ってから後悔する。
また傷つけてしまった。
「ごめん、返して。自分で捨てるから」
亜弥が差し出していた手を引っ込める。
「預かっていてもいいですか?」
「ん?」
「本当に、吉澤さんが、忘れてくれる時まで…」
結局、残りの半日を部屋で過ごすふたり。
どうしても埋められない心の隙間。
肌の温もりだけで、互いの存在を確かめる。
- 357 名前:純愛 投稿日:2002年05月27日(月)20時13分35秒
- 変わらない日常。
亜弥と会い、食事をしたり、ビデオを観たり。
たまには一緒に買い物に出かける。
亜弥といても、たまにかかってくる梨華からの電話。
とくに、これといった話をするわけではない。
ただ淋しくてかけてくるのだろう。
亜弥は何も聞かない。
気付かないふりで、さりげなく吉澤のそばから離れる。
吉澤も何も言わない。
闇の中、見失いそうなお互いを、激しく求めるだけ。
ベッドの中、吉澤が亜弥の肩に手を掛けた時、携帯が鳴り出した。
亜弥は、身体を一瞬強張らせる。
電源を切っておけばよかった…。
さすがにこんな時は…。
後悔する吉澤。
出ないでおこうか…。
しかし、暗闇にいつまでも鳴り響く着信音。
黙ってふたりで聞いているのも気詰まりだった。
- 358 名前:純愛 投稿日:2002年05月27日(月)20時14分12秒
- 「もしもし」
「ごめんね…」
僅かに漏れる声に、背中を向ける亜弥。
吉澤も壁際に身体を寄せて、声をひそめる。
「どうしたの?」
「あのひとが…」
「ん?」
「あの女のひとが、今から来るって…」
「えっ!」
思わず、声が大きくなる。
「今から行くから、それまで、絶対、開けちゃだめだよ」
「来てくれるの…」
「なにかあったら、いつでも行くっていったでしょ」
「ありがとう…」
携帯を切ると背中を丸めた亜弥を、重い気持ちで見下ろす。
「行っちゃうんだ…」
横を向いたままの亜弥。
「ごめん…」
「帰ってきてくれる?」
「帰ってくるよ」
亜弥の髪を軽く撫でると、手早く服を着て部屋を後にする吉澤。
ごめん…。
本当にごめん…。
でも…。
頭に浮かぶ梨華の顔。
ほっとけないんだ…。
心配で仕方ないんだ…。
とにかく、今すぐ会いたい…。
タクシーの拾える大通りまで、吉澤は全力で走った。
- 359 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月27日(月)20時26分29秒
- レスありがとうございます。
>350梨華っちさいこ〜様
松浦さんは切ないわけで…、
でも、吉澤さんも切ないわけで…。
なんと言っていいか…。
>351たろ様
まだ、どうしようもない状況ですね…。
>352くわばら。
石川さんが、好きで、どうしようもない、吉澤さんを書きたかったので、
こういうことに…。
>353バターカップ様
んー…。
ちょっと、やりすぎかな…とも思いながら、こんなことになってます。
更新しました。
いろいろ考えた結果、強引なのですが、結論を出しまして、
書き上げました。
あと、2回か、3回に分けるか、思案中ですが、
まもなく完結です。
では、また明日。
- 360 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月27日(月)21時43分56秒
- はぁ〜。(ため息)切ないっす。
今から修羅場ですね。あややが、可哀想ですが
やっぱり、いしよし激推しの私としては…(r
- 361 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月27日(月)23時29分49秒
- よっすぃ〜、あややを幸せにしてあげて下さい・・・
- 362 名前:ホッピー 投稿日:2002年05月28日(火)00時28分58秒
- 切ないべ。昔の自分を見ているようだべ。
- 363 名前:娘。 投稿日:2002年05月28日(火)00時56分39秒
- よっすぃ〜(涙)
- 364 名前:くわばら。 投稿日:2002年05月28日(火)01時14分32秒
- 痛いです。けなげです。吉澤さんも、あややも。。。
- 365 名前:純愛 投稿日:2002年05月28日(火)20時57分29秒
- 梨華の部屋。ソファーに座る3人。
「いったい、どういうつもり?」
きつい調子で吉澤。
俯きがちな女。おろおろする梨華。
「彼がいなくなって、だから…」
「梨華ちゃんには近づくなって、言ったでしょ」
「絶対、ここだって思って、そしたら、夢中で…」
涙声の女。
「あれから、私には、一度も連絡ないよ…」
小さく呟くような梨華。
その声が、どこか哀しげなことに、吉澤の胸は締め付けられる。
しばらくの沈黙。
「ちょっと、外で話そう」
そう言って立ち上がると、女の腕を掴む吉澤。
「よっすぃー?」
不安げな梨華。
「梨華ちゃん、ちょっと待っててね」
「でも…」
まだ何か言いたげな梨華を残し、部屋を出るふたり。
- 366 名前:純愛 投稿日:2002年05月28日(火)20時59分07秒
- 「彼の電話番号教えてよ」
「いいけど、出ないよ」
「これで、かけてみるから」
そう言って自分の携帯を取り出す吉澤。
発信音の後、低い男の声。
勢いでかけてみたものの、一瞬言葉が出ない。
「いたずら?誰だよ?」
「…石川梨華の友達」
やっとそれだけ口にする。
微かな笑いが聞こえる。
「ひょっとして、梨華の命を助けたヒーロー?」
からかうような口調。
「で、何の用?」
「どういうつもりなのか聞きたい」
「なにが?」
「どういうつもりで、付き合ってるのか」
「そら、あんな可愛い子に惚れられたら、手を出してみたくなるってもんだ」
「それだけ?」
「それで、十分じゃないの」
悪びれるふうもなく、軽い調子。
- 367 名前:純愛 投稿日:2002年05月28日(火)20時59分44秒
- 「あんたも、梨華に惚れてんの?」
「そんなこと、関係ないでしょ」
「そういうことか。で、もうヤった?」
怒りに言葉を失う吉澤。
「なんだ、プラトニックか」
「今後一切梨華ちゃんには近づくな!」
声を荒げる吉澤。
「怒るなよ。わかった。俺も面倒なのは嫌いなんだ。梨華はあんたにやるよ」
携帯を地面のコンクリートに投げつける。
電子部品がバラバラになってあたりに飛び散る。
吉澤の剣幕に驚いた女が一歩後退する。
「話はつけたから」
「…」
「梨華ちゃんは無関係。あとはそっちで勝手にやって」
虚しい思いで、散らばった部品を拾い集め、
大きく息を吐いてから、部屋に戻る吉澤。
- 368 名前:純愛 投稿日:2002年05月28日(火)21時00分55秒
- 「梨華ちゃん、この前、私が別れろって言ったら別れるって…」
苦しそうに、そこで一旦言葉を切る吉澤。
梨華の前ではいつも冷静なその顔が、気のせいか、今にも泣き出しそうに見える。
梨華はひどく戸惑っていた。
「そう言ったよね」
不安そうに頷く梨華。
「別れて」
「…」
「彼と話した。梨華ちゃんも好きだけど、あの人がいるから、もう会えないって…」
早口にそう言う吉澤
「わかった…」
やがて静かそう言って頷く梨華。
微かな笑み。
それは、泣き顔に変わる前、ほんの僅かな抵抗。
今にも崩れそうな目の前の梨華が、堪らなくいとおしい。
守ってあげたい…。
この世の苦痛の全てから…。
夢中で抱き締める。
「よっすぃー…」
かすれた声。
「ちょっと、痛い…」
「ごめん」
少し力を緩める。
「今夜は一緒にいてくれる?」
「うん…」
- 369 名前:純愛 投稿日:2002年05月28日(火)21時01分25秒
- ベッドにふたり。
「彼に酷いこと言われたんじゃないの?」
小さな声で梨華。
「そんなことないよ」
「ほんと?」
「ほんとだよ。疲れたでしょ、もう寝よう」
「梨華ちゃん…」
「なに?」
好きだよ…。
「なんでもない」
肩が僅かに触れる。
その温もりを感じながら、ふたりやがて眠りに落ちる。
- 370 名前:純愛 投稿日:2002年05月28日(火)21時02分25秒
- 時計に目をやる吉澤。
朝、5時30分。
梨華を起こさないようそっとベッドから抜け出す。
「よっすぃー…」
「ごめん、起こしちゃた」
「行くの?」
「うん」
起き上がる梨華。
「いいよ、まだ寝てて」
「表まで送って行く」
「いいのに…」
結局並んでマンションを出る。
目の前の公園。
その石段にうずくまるような人影。
亜弥ちゃん…。
慌てて駆け寄る吉澤。
凍えながら、青い顔で浅い眠りの中にいた亜弥。
肩に触れる吉澤の手の温もりを感じて目を覚ます。
「吉澤さん…」
「どうして…」
「だって、吉澤さん、帰ってくるって言ったから…」
うつろな目。
「携帯も繋がらないし、私…不安で…」
今にも、消え入りそうな声。
ずっと、待ってたんだ…。
いつ帰ってくるかって、ずっと待ってたんだ…。
真夜中にひとり…。
どんな思いで…。
ギュッと抱き締めて冷えた身体を温める。
額に手をやる。
熱い…。
- 371 名前:純愛 投稿日:2002年05月28日(火)21時03分32秒
- 「亜弥ちゃんを待たせてるんなら、そう言ってくれたらよかったのに…」
ふたりの様子を呆然と見ていた梨華。
申し訳なさそうに口を開く。
「私が、引き止めたから…」
「梨華ちゃんは悪くない…」
亜弥を抱き締めたまま、低い声。
梨華はゆっくりふたりに近づく。
「亜弥ちゃんごめんね。誤解させちゃったんだよね」
「誤解じゃないです…」
そう呟く亜弥。
「誤解だよ。私達はなんでもないんだから。ただの友達だよ」
同意を求めるように吉澤を見る梨華。
しかし、吉澤は何も言わない。
確かになんでもない。
ただの友達…。
「私、知らなくて、引き止めちゃったの。よっすぃー、優しいから、出て行けなかったんだよ…」
引き止められたから出て行けなかったわけじゃない。
出て行きたくなかった。
1秒でも長く、一緒にいたかった…。
好きだから。
誰よりも、好きだから…。
ただ、そばにいたかった…。
- 372 名前:純愛 投稿日:2002年05月28日(火)21時04分36秒
- 「誤解じゃないんだよ…」
ようやく吉澤が口を開く。
「ずっと、梨華ちゃんのこと、好きだった」
「何、言ってるの…」
意味がわからないというように、吉澤を見る梨華。
「だから、亜弥ちゃんを、苦しめてきたんだ」
ずっと、苦しめてきた…。
「もう、こんな思い、させられないから…」
そう言って、亜弥の頭を撫でる吉澤。
「ごめんね、梨華ちゃん」
「え?」
「これからは、相談、乗ってあげられない…」
亜弥の前髪をそっとかきあげる。
「もう、辛い思いはさせないよ」
吉澤にしがみついて泣き出す亜弥。
「帰ろうか…」
亜弥の身体を支えるようにして歩き出す吉澤。
- 373 名前:純愛 投稿日:2002年05月28日(火)21時05分21秒
- 梨華に背を向けたまま、1度だけ立ち止まる。
「梨華ちゃん…」
「…」
「さよなら…」
これからも、毎日のように顔を合わすだろう。
けど、もう、昨日までの私はいない。
好きだった…。
本当に好きだった…。
だけど、さよなら…。
梨華は遠くなっていくふたりの背中を、複雑な思いで見送った。
さよなら…。
日常にありふれた挨拶。
しかし、それは、吉澤にとって、本当の意味での別れを告げる言葉になった。
- 374 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月28日(火)21時17分30秒
- レスありがとうございます。
>360よすこ大好き読者。様
何にしても、あまり激しい系の描写は不得意なので、
修羅場と言えば、今回が一番の修羅場です。
>361名無し読者様
はぁ…(ため息)
今回はノーコメントで、すみません。
>362ホッピー様
みなさん、それぞれに、いろいろあるかと…。
HP拝見致しました。
>363娘。様
もう少しです。
よろしければ、お付き合いください。
>364くわばら。様
そうなんですよね。
んー…。
更新しました。
あとラストのみなのですが、多分2回に分けると思います。
かなり、卑怯な手段で、終わらせますが、
言い訳は、終わってからということで…。
- 375 名前:某読書人 投稿日:2002年05月28日(火)21時26分06秒
- 最後の1行が凄く気になる・・・。
あと2回、待ち遠しいです。
- 376 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月28日(火)21時38分22秒
- やっと想いを伝えたのに、なんでこんなに切ないんだ…。
あと2回、読んでて苦しまなくてすむのがうれしいような、悲しいような…。
- 377 名前:バターカップ 投稿日:2002年05月28日(火)23時14分06秒
- 嗚呼、やっぱ最高っすよ、ここ。
もう毎日楽しみでしょうがないっすよーー。
ふーー、けど今から宿題やってきます(w
あぁ、鬱だぁ。。。。
作者さん、ラストスパート、頑張ってくださいね!!
- 378 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月29日(水)00時42分13秒
- ここでは初レスです。
ラストが楽しみなような悲しいような。
がんがってください!
- 379 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月29日(水)19時39分44秒
- 鳥肌が立っちゃいました。(T▽T)
日本語って難しいですね。さよならにもいろんな意味が…。
あと2回。。。がんがってください。
- 380 名前:たろ 投稿日:2002年05月29日(水)19時51分15秒
- はぁ、もっと早く気持ちを伝えられていたら…
ようやく「好き」って言葉を言えたのにね(涙
- 381 名前:純愛 投稿日:2002年05月29日(水)20時18分14秒
〜時は流れた〜
- 382 名前:純愛 投稿日:2002年05月29日(水)20時19分26秒
- 「亜弥、行ってくるよ」
ベッドの中、まだ半分眠ったような亜弥に声をかける。
「もう行くの?」
そう言って起き上がろうとする亜弥。
「寝てていいよ。昨日も遅かったみたいだし」
そう言ってひとり部屋を出る吉澤。
すれ違いの日々が続いている。
今も第一線で、寝る暇もないほど働いている亜弥。
普通の大学生となった吉澤。
スポットライトを浴びて、輝いている亜弥。
正直、羨ましいと思うこともある。
けれど、これでよかった。
吉澤はそう思っている。
このまま大学を卒業したら、教師にでもなろう。
バレー部の顧問になって、全国大会を狙う。
そんな生活もいいかもしれない。
もし、あのまま続けていたら、今頃、どうなっていたかわからない。
もっと辛い思いをしたはず。
鮮明に残るあの面影。
顔を合わすのが辛かった…。
手を伸ばせば届く距離。
なのに、ずっと遠くなってしまった。
それが耐えられなかった。
いまだに、拘ってる?
今でも好き?
自分の問いかけて微かに苦笑いを浮かべる。
もう、思い出だよ…。
思い出にしなきゃ…。
- 383 名前:純愛 投稿日:2002年05月29日(水)20時20分11秒
- 授業を終えると、バレーコートで汗を流す。
半分サークルのような、弱小チーム。
練習が終われば、仲間達と夕食。
軽くアルコールも入る。
和やかに時は過ぎていく。
「亜弥…」
珍しく、部屋に亜弥がいた。
「今日は早かったんだね」
「休んじゃった…」
「具合でも悪いの?」
首を横に振る亜弥。
「疲れたの…」
立ち止まることなく、ずっと走りつづけている。
これほど働いていたら疲れるのは無理もない。
しかし、仕事をさぼることなど、今まで1度だってなかった。
「なにかあった?」
「親がそろそろ帰って来いって…こっちで見合いでもしろって…」
「見合いって…まだ、そんな年じゃないでしょ」
少し笑う吉澤。
「心配してるんだと思う。こんな生活だから…」
こんな生活…。
仕事のこと?
それとも、ふたりの暮らし?
- 384 名前:純愛 投稿日:2002年05月29日(水)20時20分53秒
- 始終思いつめたような亜弥の表情。
久しぶりに共有できる時間。
けれど、結局、会話も弾まぬままベッドに入る。
「明日は、仕事どうするの?」
「行くよ。そうそう、休めないし」
「お見合いの話は?」
おそるおそる聞いてみる。
「それもいいかな、って…思ってみたり…」
「そっか…」
それっきり黙ったまま。
亜弥の寝返りをうつ気配。
「行っちゃだめだ、って、言ってくれないの?」
「…」
「私が、いなくなっても、いいの?淋しくないの?」
「淋しいに、決まってるじゃない」
亜弥の溜息が聞こえる。
「好きだよ、亜弥」
そう言って、パジャマのボタンに手をかける。
「すぐ、そうやって誤魔化す…」
吉澤の手が止まる。
- 385 名前:純愛 投稿日:2002年05月29日(水)20時21分30秒
- 数日後。
先に起きだした亜弥。
眠る吉澤の頬にキスをする。
「バイバイ…」
吉澤はベッドの中から、その淋しげな後ろ姿を見送った。
それっきり、亜弥は二度と帰って来なかった。
- 386 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月29日(水)20時33分43秒
- レスありがとうございます
>375某読書人様
一応、とりあえずは、本当にさよならなでした。
>376梨華っちさいこ〜様
ラストです。
私も、罪悪感から解放されます。
>377バターカップ様
宿題ですか。若いんですね。
懐かしい響きです。 がんばって下さい。
>378ごまべーぐる様
こっちの方まで、ありがとうございます。
>379よすこ大好き読者。様
ちょっと、大げさかと思いつつ、そういう表現にしてみました。
リアル時間のラストシーンだったので。
>380たろ様
言い出すまでに、時間がかかったために、
こんな話になってしまいました。
更新しました。
明日がラストです。
- 387 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月29日(水)21時08分53秒
- 何年経っても忘れることはできないか。
そうだよな、無理だよな…、。
- 388 名前:たろ 投稿日:2002年05月30日(木)01時47分02秒
- おお〜、こういう展開になるとは。
強烈に好きだった想いって、時間が経ったからといって
なかなか忘れられるものじゃないんですよね〜。
- 389 名前:純愛 投稿日:2002年05月30日(木)20時17分56秒
〜再び時は流れた〜
- 390 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月30日(木)20時18分34秒
- 体育館にボールの弾く音が響く。
3年生、最後の公式戦。
「次、行ってもらうから」
吉澤は選手の肩に手を置いて、静かにそう告げる。
「先生…」
「ん?」
「がんばります…先生のために」
真っ直ぐな視線が、吉澤に向けられている。
吉澤はくすぐったく、そしてどこか懐かしい思いで選手を見た。
「がんばれ、自分のために」
選手交代。ピンチサーバー。
思いを込めたボールは、ネットにかかり、ぎりぎりのところで自コートに落ちる。
試合終了のホイッスル。
初めての教え子が、春には卒業していく。
コートで涙を流す選手。
少し大人になったその生徒達を、吉澤は穏やかな気持ちで眺めていた。
やりがいのある仕事。
充実した毎日。
そこに、何か欠けているとしたら…。
一瞬、浮かんだ思いを、気付かぬ振りで、また胸に押し込めた。
- 391 名前:純愛 投稿日:2002年05月30日(木)20時19分20秒
- 3年生の慰労を兼ねた残念会を終え、ひとりの部屋に帰る吉澤。
郵便受けに懐かしい筆跡を見つける。
亜弥…。
『届くかな?
この手紙が戻ってこなかったら、届いたってことですよね。
元気ですか?
私、結婚することになりました。
式に来てくれませんか?
私の幸せな姿を見てもらいたくて…。
あんなふうに別れちゃったから、安心して欲しいし、
あと、ちょっとだけ、やきもちを焼いて欲しい。…』
読み終わった後、僅かに頬を緩める吉澤。
ほろ苦く、けれど暖かな思い出。
一生懸命だったよね…。
お互い…。
- 392 名前:純愛 投稿日:2002年05月30日(木)20時19分50秒
- バージンロードを歩く亜弥。
久しぶりに見るその姿は、少し大人びて、綺麗で、
でも、やっぱり、あの頃と同じように可愛かった。
横を通るとき、ほんの一瞬視線が合った。
しかし、亜弥の表情は変わらない。
幸せなんだね…。
よかった…。
でも、ちょっと、悔しいかな…。
注文通りだね…。
指輪の交換。
誓いの言葉。
幸せそうなふたりを、微笑ましく、でもどこか淋しい思いで眺める吉澤。
「吉澤さんですよね?」
背後から不意に声をかけられる。
タキシードの男。式の関係者だろうか。
「これ、預かりました」
手渡された、1枚の紙。
『来てくれてありがとう。渡したいものがあります。
今晩9時に、表の公園で待ってます。亜弥』
- 393 名前:純愛 投稿日:2002年05月30日(木)20時20分34秒
- 初夏。夜になるとまだ風は冷たい。
人気のない公園。背中を丸めてベンチに座る吉澤。
電灯の微かな明かりに照らされながら、やがて人影が近づいて来る。
「亜弥、ちゃん…」
何度も繰り返したはずなのに、もう呼び捨てには出来なかった。
「おめでとう…」
「ありがとうございます」
ふたりベンチに座り、お互いの近況を話す。
それぞれの傷には触れないように。
「吉澤先生ですか?なんだか、違うひとみたい」
「失礼だな、これでも、生徒に人気なんだよ」
「だからって、生徒に手を出しちゃ駄目ですよ」
「出すわけないよ」
目を合わせて笑う。
- 394 名前:純愛 投稿日:2002年05月30日(木)20時21分10秒
- 時計を見る亜弥。
「そろそろ、行かなきゃ…」
「そっか、で、渡したいものって?」
立ち上がるふたり。
「その前に、最後にもう一度、キスしてくれませんか?」
「亜弥ちゃん…」
躊躇いながらも、亜弥の唇に軽く触れる吉澤。
「ありがとう…じゃあ、手を広げて下さい」
「ん?」
不審に思いながら、言われた通り、右手を広げる吉澤。
「目を閉じて、ゆっくり、10数えて下さい」
「なんで?」
「これが本当に、最後のお願い」
「わかった」
目を閉じる吉澤。
「1、2、3…」
掌に小さな軽い物が置かれた感覚。
「…8、9、10」
目を開ける。
「亜弥ちゃん?」
目の前に亜弥はいない。
広げた右手を見る。
色褪せた包装紙。
それは梨華のために買ったピアス。
吉澤が梨華を忘れるまで、預かると言った小さな箱。
まだ、持ってたんだ…。
一緒に暮らした日々。
その間も、ずっと持ってたんだ…。
ずっと、不安だったんだ…。
吉澤は、目には映らない亜弥の後ろ姿を追うように、前を見つめ続けた。
- 395 名前:純愛 投稿日:2002年05月30日(木)20時22分06秒
- どれくらい、そうしていただろう。
「よっすぃー…」
後ろから、そう呼びかけられたとき、
吉澤は、本当に時が巻き戻ったのかと思った。
振り返るまでもなく、その存在を確かに感じた。
何故ここにいるのか、
何をしにきたのか、
そんな疑問より先に、浮かんだ思いはただひとつ。
ずっと、会いたかった…。
「梨華ちゃん…」
何より大切なそのひとが、今、目の前にいる。
思わず握り締めた右手に、小さな箱は形を崩す。
やっぱり…、
結局…、
好きなんだ…。
どうしようもないくらい…。
- 396 名前:純愛 投稿日:2002年05月30日(木)20時22分40秒
- 「亜弥ちゃんに呼ばれて来たの…よっすぃーが待ってるからって…」
優しい笑みを浮かべる梨華。
必死に、笑い返そうと思う。
けれど、うまくいかない。
言葉も出ない。
「なにか言ってよ…」
不安そうな梨華。
「どうしたの?ねえ…よっすぃー…」
「好きなんだ…」
ようやくそれだけ言う。
自然に涙が流れ出す。
「いつまでたっても、梨華ちゃんじゃなきゃ、だめなんだ…」
「よっすぃー…」
「好きなんだよ…ずっと、ずっと…梨華ちゃんしか…」
梨華のやわらかい小さな身体が吉澤を包む。
「もう、わかったから…」
- 397 名前:純愛 投稿日:2002年05月30日(木)20時23分19秒
- やっと平静を取り戻した吉澤。
ふたりベンチに座る。
「ごめん、梨華ちゃんの都合も考えないで…忘れていいよ」
呟く吉澤。
「忘れられない…」
「え?」
「そんなに好きだって言われたら…忘れられないよ」
照れたように俯く梨華。
「どれだけ私の支えだったか、いなくなって、始めてわかった」
「梨華ちゃん…」
「もう1回、言ってくれる?」
「…梨華ちゃんが、好きだ…」
「私も…」
「グシャグシャになったけど…」
右手の箱を梨華に差し出す。
「私に?」
「似合うと思ったら、つい買っちゃって…渡せる日が来るとは思わなかった…」
「ありがとう」
箱を受け取ると。吉澤の肩に頭を乗せる梨華。
梨華ちゃん…。
そっと梨華の手を握る吉澤。
やっと、追いついた…。
もう離さない…。
僅かに伝わる肌の温もり。
木の葉の隙間から、隠れていた月が顔を覗かせる。
ふたり、いつまでも、その光を見つめていた。
- 398 名前:純愛 投稿日:2002年05月30日(木)20時24分03秒
―Fin―
- 399 名前:理科。 投稿日:2002年05月30日(木)20時32分24秒
- ( T▽T)<ああああ。
最初から読ませて頂いてました。
良かったです!よっすぃ〜の想いが通じて…。
あややも幸せになれて良かったし…。
みんながみんな幸せで良かった〜!!
ゆっちさん、乙彼サマでした。
金板の作品も大好きです(ポ...
- 400 名前:ゆっち 投稿日:2002年05月30日(木)20時33分56秒
- レスありがとうございます。
>387梨華っちさいこ〜様
そういうことで、こうなりました。
>388たろ様
展開としては、「あなたにここに…」と同じパターンで、
まずいかな、とは思ったのですが…。
これで完結です。
お付き合い下さった方々、本当にありがとございました。
結局、時間の経過以外に、解決の道は、見つけられず、
こういうことになりました。
ちょっと、ずるいやりかたかと思ってます。
あと、松浦さんが、あんなに、辛かっただけに、
別カップリングに思い入れを持っていた方がいたら、
酷い話に感じられたかと思います。
最後にもう一度、
つたない文章を読んでくださった方々、ありがとうございました。
- 401 名前:吉にゾッコン!! 投稿日:2002年05月30日(木)20時41分41秒
- (T-T)マジ泣きました。
よかったです。もうそれ以外いえません!!
みんながHAPPYになれて!!ゆっちさんお疲れさまでした。
金も期待してます。
- 402 名前:名無しベーグル。 投稿日:2002年05月30日(木)20時54分23秒
- 完結お疲れ様でした。毎日ハラハラと切なく拝見させていただいてました。
最後も切なく、でも心が温かくなる終わり方で、とっても良かったです。
お疲れ様でした。金の方も頑張って下さいね。
- 403 名前:ルーク 投稿日:2002年05月30日(木)21時26分16秒
- 完結お疲れ様でした。
ずっと、ROMらせて頂いていました。
とにかく、感動しました。
ほんわかと心が温かくなって、涙が出ました。
吉澤の思いが通じてよかったです。
皆、辛かった分だけ、これから幸せになって欲しいと思いました。
金板、そして次の次回作と楽しみにしています。
それでは、この辺で失礼します。
- 404 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月30日(木)21時46分12秒
- 完結お疲れ様でした。
(こちらでは初レスですね)
毎回切ない思いで読ませていただいてました。
幸せになってよかったです。
それでは最後に。。。
素敵な作品をありがとうございました!
- 405 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年05月30日(木)21時50分23秒
- 勘違いでした(^^;;
初レスではなかったです。スマソ
(;^▽^)<ウチのはそそっかしいもので・・・スミマセン
- 406 名前:REDRUM 投稿日:2002年05月30日(木)23時40分16秒
- 完結お疲れ様でした。
毎日ハラハラしていましたが三人が幸せになれて良かったです。
涙が、涙が止まりません。一緒に鼻水まで。。。
金板のこれからも楽しみにしています。
- 407 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年05月31日(金)00時09分42秒
- 完結お疲れ様でした。
途中は、とっても辛かったけど、最後にみんな幸せで、
よかったです!!ありがとうございました。
- 408 名前:梨華っちさいこ〜 投稿日:2002年05月31日(金)00時15分09秒
- お疲れ様でした。
最後にとても暖かい気持ちになれました。
ありがとうございました。
- 409 名前:肩身が狭くなっちゃった 投稿日:2002年05月31日(金)01時45分10秒
- お疲れ様でした。
とにかく良かった!
三人とも幸せになれるなんて、嬉しい誤算です。
これで、ゆっちさんを極悪人として指名手配せずにすみます。
- 410 名前:オガマー 投稿日:2002年05月31日(金)03時37分10秒
- 完結、おめでとうございます!
初レスですが、ずっと見てましたよ〜。
よかったです!!
亜弥ちゃん…ハマりそう(w
- 411 名前:たろ 投稿日:2002年05月31日(金)06時27分29秒
- 完結お疲れさまです!
昨日ずっと、夜に最終話を読むのを楽しみにしていたのに寝てしまい、
今やっと読めました。
ううっ、朝から涙…すごくよかったです。
どんなふうに終わるんだろう、みんな辛くなっちゃうのかな?とも
思っていましたが、温かいラストになってよかった〜。
こうして毎日楽しみに読むのって初めてでした(娘。好きになってまだ浅いので)。
どうもありがとうございました。
- 412 名前:ごーまるいち 投稿日:2002年05月31日(金)21時01分00秒
- ゆっちさん、完結お疲れ様でした。
私も毎日ハラハラしながら拝見させて頂いてました。
途中切なくて胸が痛くなるような事もありましたが、
最後はみんなが幸せになってくれて良かったです。
素敵なお話をありがとうございました。
- 413 名前:夜叉 投稿日:2002年05月31日(金)21時17分40秒
- お疲れさまでした。
もう何と言っていいのやら分かりません…。こんなに胸を締め付けられるとは…。
毎日の更新が楽しみで、何があっても読まさせていただきました。
本当に有難うございました。
- 414 名前:ゆっち 投稿日:2002年06月03日(月)21時57分46秒
- たくさんのレスありがとうございました。
>399理科。様
読んでいただいたんですか。ありがとうございました。
ほんとに、もう、勿体無い、勿体無い。
>401吉にゾッコン!!様
こんな、話に、泣いていただけるとは、
もう、ありがとうございますとしか、言えないです。
>402名無しベーグル。様
あー、そんな、もう、とんでもないです。
ほんとに、お世話になってます…。
>403ルーク様
辛いばっかりの話に、最後まで、お付き合いいただきまして、
本当に、ありがとうございました。
>404ごまべーぐる様
こんなマイナーなところにまで、来ていただきまして、
本当に、感謝してます。
>406REDRUM様
あー、もう、
こんな話にレスまでいただいて、本当にすみません。
ありがとうございます。
- 415 名前:ゆっち 投稿日:2002年06月03日(月)21時58分34秒
- >407よすこ大好き読者。様
お世話になりました。
いつも、励まされております。
ありがとうございました。
>408梨華っちさいこ〜様
そう言っていただけると、嬉しいです。
ずっと、お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
>409肩身が狭くなっちゃった様
なんとか、犯罪者にならずにすむ、結末となりました。
ほっと、してます。
>410オガマー様
読んでいただいてたんですか。
ありがとうございます。
本当に、感謝です。
>411たろ様
楽しみにしてもらえたとは、
書いていて、よかったなあと思えます。
ありがとうございます。
>412ごーまるいち様
とんでもない、とんでもない…。
あー。
本当に、ありがとうございます。
>413夜叉様
そんな、そんな、そんな…。
勿体無いお言葉で。
ありがとうございます。
- 416 名前:ゆっち 投稿日:2002年06月03日(月)22時04分12秒
- ありがとうございました。以外、
殆ど、日本語になっていないような、返事になってしまいました。
どう、表現していいかわからないくらいの、感謝です。
こんな、地味で目立たない話を読んでくださった方が、
こんなにいらっしゃるとは思いませんでした。
本当に、ありがとうございました。
しばらくは金板に専念し、次回はアンリアル系の、重苦しい話をする予定です。
懲りずに、いしよしです。
- 417 名前:いしよしサイコ〜 投稿日:2002年06月05日(水)19時03分13秒
- ゆっちさん素敵な作品ありがとう!金板の作品も楽しみにしてます。
甘い話もいいけど、重いシリアスなアンリアル系も私は好きです・・・
がんばってくださいね!
- 418 名前:ゆっち 投稿日:2002年06月07日(金)00時53分42秒
- >417いしよしサイコ〜様
レスありがとうございます。
ご期待にそえるかどうかわかりませんが、がんばります。
次回は多分、再来週ぐらいからになるかと思います。
タイトルは『Destiny』
- 419 名前:いしよしサイコ〜 投稿日:2002年06月08日(土)18時32分11秒
- ゆっちさんお返事ありがとうございます!
次回作のタイトルも、なかなかい〜じゃないですか!
ゆっちさんの作品は綺麗で引き込まれる感じで読んでます。
更新、楽しみにしてますね〜。では、失礼・・・
- 420 名前:ぶらぅ 投稿日:2002年06月11日(火)00時16分29秒
- 最初から読み直して読みました。
松浦好きになりそうです…
石川と吉澤がうまくいってよかったです。
完結お疲れ様でした。
- 421 名前:ゆっち 投稿日:2002年06月12日(水)09時19分26秒
- レスありがとうございます。
>419いしよしサイコ〜様
すでに、発見していただいたようですが、
諸事情により、予定を繰り上げて新作、はじめました。
>420ぶらぅ様
読み直してもらうなど、もったいないことで…。
恐縮です。
ありがとうございます。
作者のバカな事情により、赤板に新作「Destiny」プロローグのみ、
予定を早めて既にアップしてあります。
金板「吉澤さんが天才だった頃」が完結しましたので、
今夜より、本格始動します。
重いです。暗いです。いしよしです。
金板の読者の方は、引くこと間違いなしだと思われます。
- 422 名前:ゆっち 投稿日:2002年07月01日(月)11時13分20秒
- 近日、短編アップ予定です。
- 423 名前:あなたにどこにいて欲しい? 投稿日:2002年07月01日(月)13時00分07秒
- 時計の針と受話器を交互に見比べ、何度も溜息をつく梨華。
メンバー、友人。
吉澤の立ち寄りそうなところは、思いつく限り電話してみた。
どこに行ったの?
先ほど目にした、信じられない光景。
それを、無理矢理、目の錯覚だと言い聞かせる。
帰っちゃったんだよね…。
きっと…。
怒って出て行っちゃったんだんだよね…。
私がまばたきしてる間に…。
『留守番電話サービスセンターにお繋ぎします』
無機質な声。
吉澤の携帯は、相変わらず繋がらない。
今頃は自宅に戻っているはず。
- 424 名前:あなたにどこにいて欲しい? 投稿日:2002年07月01日(月)13時00分40秒
- 梨華は、意を決して受話器を握った。
「夜分恐れ入ります、石川と申しますが、ひとみさんはお戻りでしょうか?」
『石川さん?今日は石川さんの家に泊まるって言ってたけど…』
母親らしい声。
泊まってく、つもりだったんだ…。
この状況をどう説明していいかわからない。
梨華自身、なにが起こったのかを理解していない。
「さっきまでいたんですけど、急に、いなくなったんで、その、コンビにでも行ったのかも…」
しどろもどろになりながら、なんとか誤魔化して電話を切った。
ほんとに、どこへ行っちゃったの?
ティーカップに、冷めた紅茶が3分の1。
確かに座っていたはずのソファー。
よっすぃーのバカ…。
ちょっと、喧嘩したからって、なにも言わずに消えちゃうなんて…。
- 425 名前:あなたにどこにいて欲しい? 投稿日:2002年07月01日(月)13時01分36秒
- 「話があるんだ。家に行ってもいい?」
いつになく真剣な表情で吉澤にそう言われたとき、
梨華は、ひそかに期待していた。
告白してくれるのかな?
2年間、想い続けたひと…。
やっと…。
最初は完全に片想いだった。
それは梨華にもわかっていた。
ふざけた振りで甘えてみても、なにも感じていないよう。
まったく気付いてくれそうにない。
それでも、ずっと、吉澤だけを想い続けた。
そして、ようやく、梨華を見る吉澤の視線が変わってきた。
言葉などなくてもわかる。
あなただけを見ていたんだから…。
ずっと、ずっと…。
初詣のお願いも、
流れ星をみつけたときも、
七夕のたんざくも…。
あなたのことだけ考えて、
あなたのことだけお願いした。
私の想いが、あなたに届きますように…。
- 426 名前:あなたにどこにいて欲しい? 投稿日:2002年07月01日(月)13時02分09秒
- 部屋に着いても、落ち着きない様子の吉澤。
「うろうろしないで、座っててよ」
紅茶を用意しながらそう言う梨華。
けれど、梨華の胸も高鳴っていた。
「これ…」
吉澤は棚の上の本を手に取る。
「今度出る私の写真集だけど…」
写真集をテーブルに置き、ソファーに腰掛け紅茶に口をつける吉澤。
「あのさ…」
「…なに」
「えっと…」
言いにくそうな吉澤。
手持ち無沙汰で、見るともなしに写真集のページを開ける。
すると、その表情が見る見る変わっていく。
- 427 名前:あなたにどこにいて欲しい? 投稿日:2002年07月01日(月)13時02分45秒
- 「梨華ちゃん、なに、この写真…」
「なにって…」
「こ、こんな、格好、しなくても…」
あきらかに青ざめた吉澤の顔。
「そんなこと、私に言われたって…」
「あー!な、なんだよ、これ!」
ビキニ写真のページ。
思わず、叫び声を上げる吉澤。
「仕事だから仕方ないでしょ」
「仕事だったらなんでもやるんだ?」
「そんな言い方しなくたっていいじゃない。私だって、嫌だったんだから」
泣き出しそうなのを懸命に堪える梨華。
「嫌なら断ればいいじゃん!」
ヒートアップした吉澤には、梨華を思いやる余裕はない。
- 428 名前:あなたにどこにいて欲しい? 投稿日:2002年07月01日(月)13時03分19秒
- 「断れないよ…」
「そんなだから、圭ちゃんに、肩抱かれたりするんだよ」
「そんなこと、今、関係ないでしょ!」
興奮するふたり。
お互いセーブが利かなくなる。
「よっすぃーは、いったい私のなんなの?」
「ただの同期だよ…」
そう言った途端、梨華の目から堪えきなくなった涙が溢れ出す。
一瞬、呼吸の止まる吉澤。
しかし、急に態度は変えられない。
「そうやって、すぐ泣く。ひとが、せっかく…」
いいかけた吉澤の言葉を、梨華が遮る。
「ただの同期だったら、私のことなんか、放っておいてよ!」
「放っておくよ。圭ちゃんに、慰めてもらえばいいじゃん!」
「そうする。保田さんは大人だし、優しいし」
「子供で、冷たくて、悪かったね」
「そんなこと言いに来たんなら、もう消えて!」
「言われなくても、今すぐ消えるよ!」
その言葉と同時に、吉澤は消えてしまった。
ソファーの上から、梨華の見ている目の前で、跡形もなく。
その夜、一睡もせずに、吉澤を待った梨華。
しかし吉澤は帰って来なかった。
- 429 名前:あなたにどこにいて欲しい? 投稿日:2002年07月01日(月)13時04分03秒
- 疲労と心配を引きずりながら、仕事場へ向かう梨華。
吉澤に会ったら伝えようと思う言葉を、心の中で繰り返す。
昨日はごめんね。
私も言い過ぎた。
私、ずっと、よっすぃーのこと…。
うまく言えるかな…。
あっさりした性格の吉澤。
つまらないことをいつまでも引きずったりはしない。
きっと、吉澤の方から笑顔で話しかけてくれるはず。
そんな、期待を抱きながら吉澤を待つ。
しかし、吉澤は仕事場にも現れない。
連絡のつかない吉澤に、周囲は騒然とする。
昨夜遅くまで一緒にいた梨華。
事情を聞かれるが、喧嘩をしたらいなくなったとしか言えない。
- 430 名前:あなたにどこにいて欲しい? 投稿日:2002年07月01日(月)13時05分02秒
- その日の仕事は、吉澤抜きで進められた。
明日になっても見つからなければ、警察に届けることになった。
ひとり部屋に戻った梨華。
心身ともに疲れてきっているはずなのに、ベッドに横になっても眠れない。
やっぱり、ほんとうに消えちゃったんだ…。
錯覚じゃなかったんだ…。
私が、消えてって言ったから?
もう、会えないの?
そんなの、耐えられないよ…。
だって…、
だって、大好きなんだもん。
「お願い、帰って来て、今すぐここに来て…」
思わず声に出す梨華。
すると、
- 431 名前:あなたにどこにいて欲しい? 投稿日:2002年07月01日(月)13時05分51秒
- 「よ、よっすぃー!」
何もなかったはずの空中から、吉澤が音もなく出現した。
驚きのあまり、ベッドから飛び起きる梨華。
そして、吉澤の肩にしがみつく。
「ど、どこへ行ってたのよ…」
呆然としたようにあたりを見回す吉澤。
「わかんない…」
「今まで、なにしてたの」
「わかんない…」
「どうやってここへ来たの」
「わかんない…」
「そればっかりじゃ、私の方が、わからないよ…」
「わかんないけど、梨華ちゃんに、呼ばれた気がした」
ようやく少し理性を取り戻した吉澤。
「多分、梨華ちゃんが、いて欲しいと思うところに、いつもいるんだ」
「よっすぃー…」
吉澤の胸の中で泣き出す梨華。
「そうやって、すぐ泣く」
「また、そんなこと言うの…」
「すぐ泣いちゃう、そういうとこも、好きだから」
「ずっと、そばにいてね…」
「一生、そばにいる」
吉澤の腕に抱かれ、梨華はようやく穏やかな眠りにつくことが出来た。
- 432 名前:あなたにどこにいて欲しい? 投稿日:2002年07月01日(月)13時06分46秒
- 翌朝。
「もう、梨華ちゃん。朝はパンがいいって言ってるじゃん」
うんざりしたような吉澤。
「日本人はご飯なんです!」
「朝ぐらいいいでしょ」
「1日の食事は、朝が1番大切なんだよ」
「とにかく、朝はパンがいいの!」
じっと吉澤の顔を見つめる梨華。
「そんな強気に出ていいと思ってるの?」
自信満々なその表情に、一歩、後ずさる吉澤。
「な、なんだよ…」
「よっすぃーが、熱帯雨林のジャングルにいて欲しいって、お願いしちゃおうかな」
「梨華ちゃん…」
「よっすぃー、朝は?」
「ご飯がいいです…」
「やっぱり、気が合うね」
「…」
一生、尻に引かれるのかよー!
おしまい
- 433 名前:ゆっち 投稿日:2002年07月01日(月)13時09分04秒
- ちょっとした冗談の短編です。
- 434 名前:ゆっち 投稿日:2002年07月01日(月)14時11分06秒
- 誤字訂正。
ラスト
尻に敷かれるのかよー!
です。
バカでした。
- 435 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月01日(月)16時21分12秒
- その1!さいこー(w
可愛いお話ありがとうございました。
時事ネタもおもしろかったです。
- 436 名前:オガマー 投稿日:2002年07月01日(月)17時17分30秒
- かわいいw
- 437 名前:いしよしサイコ〜 投稿日:2002年07月02日(火)01時22分23秒
- さっき、某情報スレで、ゆっちさんが昼に
何の連絡取り合ってたのか、偶然わかりましたよ〜!
たぶん、これの更新の事だったんでしょ?
も〜、人が悪いなぁ・・・
こんな面白い短編アップするなら、予告して欲しかったな。
某、ゆっちさんファンの一人からのメッセでした!
- 438 名前:ごまべーぐる 投稿日:2002年07月04日(木)21時05分47秒
- 最高です(w
- 439 名前:ぷー 投稿日:2002年07月04日(木)23時57分23秒
- へたれ吉最高!
- 440 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年07月06日(土)13時36分40秒
- 最高ですた。素敵な短編ありがとうございました。
やっぱ、吉は、尻に敷かれたほうが(・∀・) イイ!と思われ(w
- 441 名前:ゆっち 投稿日:2002年07月08日(月)13時57分41秒
- レスありがとうございます
>435名無し読者様
その3!が最高かと…。
そう言ってもらえると、
恥ずかしい思いをして、写真集買った甲斐があります。
>436オガマー様
最近、重いのを書いてますんで、
ちょっと、かわいいふたりも…。
>437いしよしサイコ〜様
先に、情報スレで、その1とその2が並んでいるのを、
発見して頂いた方が、面白いかと思いまして…。
>438ごまべーぐる様
ちょっとばかり、手の込んだ冗談でした。
>439ぷー様
石川さんの前では、へたれになる吉澤さんが好きです。
>440よすこ大好き読者。様
尻に敷かれるのが、家庭円満の秘訣でしょうか。
冗談に付き合って下さった方々、ありがとうございました。
- 442 名前:ゆっち 投稿日:2002年07月08日(月)13時58分58秒
- 訂正
その1!とその3!が並んでる
です。
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