インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板

”フォーミュラー・娘。” Rd.2

1 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年03月06日(水)23時52分12秒
ども、フィンランド人とのクオーターでダメ学生のものです。
緑板の 〜最速娘。伝説誕生〜”フォーミュラー・娘。” の続編です。
アドレスはこちら↓
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=green&thp=1007830858&ls=25

日本を舞台の中心にしたレースものです。
もちろんアンリアルです。
長くなりそうです。今のところ半分くらいでしょうか。
気力が続かないかもしれません(泣)。
わからないところがある場合や、つまらない場合など、ありましたらカキコしてください。
できる範囲で対応していくつもりです。
2 名前:〜ダイヂェスト・その1〜 投稿日:2002年03月07日(木)00時37分13秒
国内で1・2を争う人気のシリーズ、
全日本フォーミュラー・ニッポン女子選手権、通称 ”F・娘。”(えふむすめ)。
そのF・娘。は早くも4シーズン目を迎えていた。


開幕戦の鈴鹿は、赤旗も出る荒れたレースとなった。
勝負は序盤から飛び出した吉澤ひとみ、それを追う安倍なつみと後藤真希で争われた。
スランプから脱しつつある安倍をかわした後藤は、その勢いで吉澤にも迫った。
懸命に昨年のチャンピオンである後藤から逃げる吉澤。
しかし、終盤で後藤からのプレッシャーとトラブルによるスピンを喫してしまう。
後藤は悠々と優勝してマカオGP惨敗のショックを断ち切ったこと自ら証明する。
2位は2代目チャンピオンの安倍。吉澤はスピンで3位に終わった。

第2戦もてぎはスタートから混乱となる。
予選で低迷した安倍は1周目で押し出されリタイヤ。
レースは吉澤と後藤が飛び出すマッチレース。
ピット作業に勝る後藤が前に出るも、エンジントラブルでリタイヤ。
これで吉澤が初優勝を飾る。2位はタイヤ交換のタイミングが良かった矢口真里。
3位には後続を押さえきった保田圭が入った。
3 名前:〜ダイヂェスト・その2〜 投稿日:2002年03月07日(木)00時52分07秒
第3戦富士は全戦優勝で波にのる吉澤がポールポジションを獲得する。
しかしまたも波乱。吉澤が電気系トラブルでスタートできない。
レースは逃げる先頭集団を、スタートで大きく遅れた後藤がごぼう抜きで追う展開。
先頭集団の先頭は高橋。しかし高橋がペナルティで遅れると、調子をあげた安倍が独走する。
それをファステストで追いつめる後藤。ラストラップまでもつれるが安倍が逃げきって優勝。
僅差で後藤が2位。石川梨華が初表彰台の3位を獲得した。

第4戦美祢は酷暑でリタイヤ続出のレースに。
めまぐるしくかわる先頭。安倍も先頭に立つがスピンアウトでリタイヤ。
最後はこのレースから復帰した市井と後藤の一騎打ちに。
後藤は市井をかわした直後にパンクして6位で終わる。
優勝は復帰戦を思わせない走りだった市井。2位はピットタイミングであやで上位に進出した石川。
3位はに着実に走った吉澤が入った。
4 名前:〜ダイヂェスト・その3〜 投稿日:2002年03月07日(木)00時56分58秒
折り返しの第4戦までを終えてのポイントスタンディングは以下の通り。

DRIVER'S POINT
Pos. No. DRIVER     POINT
1   #6  吉澤ひとみ  18
2   #1  後藤真希   17
3   #19 安倍なつみ  16
4   #5  石川梨華   15
5   #20 市井紗耶香  10
6   #55 矢口真里    8
7   #11 保田圭      6
8   #8  辻希美      5
9   #7  加護亜依   3
9   #56 飯田圭織   3
11   #2  高橋愛    2

なお、エントリーリストは↓を参照
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=green&thp=1007830858&st=100&to=100&nofirst=yes

お話の方はサイドストーリーIVから開始。
みっちゃんの光と影、みたいなエピソードです。
明日の晩くらいからぼちぼちとカキコしていきます。

みなさまどうぞよろしくです。
5 名前:サイドストーリーIV-01 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月07日(木)22時21分54秒
市井の復帰戦優勝に湧く美祢。
同じとき、ピットの一角でもうひとつの歓喜の輪ができていた。
チーム・フラットアウト、平家みちよのチームだった。
スタッフが平家を囲んで騒ぐ。声を掛け合いお互いに労をねぎらう。
まるで、優勝したかのような騒ぎである。
が、このレースの勝者は市井紗耶香であり、平家は入賞に一歩届かない7位。
終盤に6位入賞のチャンスが巡ってきたが惜しくも逃す、という展開。
普通ならば落ち込む結果といえるだろう。
しかし、それでも騒ぐチームスタッフ。平家の表情も明るい。
中澤が平家にシャンパンを差し入れる。
たちまち、騒ぎは倍増する。
6 名前:サイドストーリーIV-02 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月07日(木)22時24分29秒
”平家みちよ”
大衆がその名前を呼ぶとき、期待と希望を込められていたのは、そう遠いことではない。
だが、大衆はわがままで移り気である。それも極度の。
本人の努力や苦労を理解せず、うわべだけで物事を判断する。
満足できなくなった大衆は、すぐに対象を乗り替える。
世間の注目は安倍に移り、それもしばらくして後藤へと変わった。
それだっていつ吉澤や石川に、あるいは他の誰かに注がれるかわからない。
こうして、数多くの才能が忘れ去られていく。
残酷といえば残酷、当然といえば当然、どちらとも言えないのだが。
7 名前:サイドストーリーIV-03 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月07日(木)22時38分14秒
4年前、全国から集められた女性ドライバーが寺田の元でオーディションを受けていた。
最終選考に残った面々は個性的かつ才能にあふれていた。
経験豊富な中澤、繊細なコントロールが売り物の安倍、爆発的な速さを見せる飯田、
堅実な走りの石黒、抜群のセンスを持つ福田など。
争いは僅差で、予想はつかなかった。
注目の最終選考でその名前が呼ばれたのは、平家みちよであった。
抜群のスピード感覚と繊細なペダルワーク、そして負けん気の強さが決め手。
加えてあの平家一族の末裔ということもプラスになっていただろう。
8 名前:サイドストーリーIV-03 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月07日(木)22時40分12秒
オーディションの勝者に用意されていたのは、寺田が設立したスカラシップだった。
チームやスポンサーなどの交渉を受け持ち、ドライバーはレースだけに集中すればよい。
そんな理想的な環境を受け入れないドライバーはいない。

さっそく動き出すプログラム。寺田は全体的な方針とスポンサーとの交渉を担当。
シリーズやチームとの交渉は寺田のマネージャーをしていた畑へと分担することに。
世界に通用することを念頭にしたため、海外のシリーズを狙うのは当然の選択だった。
検討の結果、本人の希望もありギリスF3選手権へ参戦することに。
アイルトン・セナやミカ・ハッキネンといったF1ドライバーを数多く輩出している評価の高い選手権である。
同時にトレーニングや英会話、マスコミへの対応などのトレーニングも開始される。
9 名前:サイドストーリーIV-05 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月07日(木)22時43分56秒
人気でなく実力重視のドライバーを育てる。それを目標とした寺田。
そのためメディアへの露出を押さえる方針を取った。
しかし、一方ではあるテレビ番組に密着取材を許すという矛盾も。
しかもその番組の視聴率は高く、平家の存在は世間に周知されていった。

テレビ出演の決定には、スポンサーの意向が大きく影響していた。
当時はまだまだ寺田のマネージメントの方針が定まっておらず、未熟だったのだ。
寺田に対する評価もまだ低く、今のような影響力が無かったこともあるのだが。
そうしたゆがみはこのほかの部分にも現れていた。
それも、もっと本質的な部分に。
10 名前:サイドストーリーIV-06 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月07日(木)22時50分57秒
イギリスF3選手権はチャンピオンシップクラスとスカラシップクラスがある。
前者は最新のシャシを使用するのに対して、後者は型遅れのものを使う。
それぞれ、1部と2部に相当する。
寺田は平家の才能を確信してチャンピオンシップクラスへの参戦を計画した。
が、平家の実績…全日本F3へスポット参戦した程度…では有力チームは受け入れなかった。
話がまとまったのは新興の弱小チーム。それも、いままでスカラシップクラスだったところ。
モータースポーツは総合力の闘い。それも激戦のイギリスF3などでは特に、である。
チーム力の無さを懸念してスカラシップクラスへ変更すべし、という意見も出てきた。

しかし、寺田はそれをはねのける。
平家を信用しての決断だったが、外からは見通しの甘さが目に付く決断だった。
11 名前:サイドストーリーIV-07 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月07日(木)22時58分42秒
イギリスに降り立った平家はその足でチームのガレージを訪問する。
ガレージは見たものを失望させる外見をしていた。まさに、納屋そのもの。
中はマシンを2台入れればいっぱいで、同時に2台を整備することは難しそうだった。
工具や設備機器こそ新しそうだったが、手入れはされてなさそうな雰囲気。
それは乱雑な工具類、汚れた床や壁といったところにも現れていた。
そして、なにより肝心のマシンがまだ届いていなかった。
すでに販売は行われているはず。他のチームはすでにテストを開始していたのに。
このままではテストにも参加できない。
初めてのサーキットがほとんどでデータ収集が重要なのに、ここでのテスト不足は痛い。
このチームは平家1台のみと、ただでさえデータが少ないのが確実なのに。

どこか漠然と、しかし確実に不安を感じる平家。
しかし、なぜかそれを口に出すことはできなかった。
12 名前:サイドストーリーIV-08 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月09日(土)22時04分01秒
平家の不安は的中する。
シャシの到着が遅れに遅れ、ほとんどぶっつけ本番で望んだ開幕戦。
イギリスF3選手権はすべてのラウンドがダブルヘッダーで行われる。
土曜日に第1レースと第2レースそれぞれの予選を行い、日曜日も同様にレースを2回行う。
予選こそ8位と6位とそこそこ。しかし、平家はクルマの動きに満足していなかった。
明けて日曜日の決勝。ここで平家はトラブルに振り回される。
第1レースはスタートを決めるものの、1周目を走りきる前にエンジントラブルが発生。

第2戦はエンジン交換に手間取りピットスタート。
6番手グリッドは水泡に帰し、最後尾から追い上げを強いられる。
鬼神の追い上げをみせるも、最後はデフトラブルでストップ。
平家は顔を真っ赤にしながらピットへ駆け戻った。
13 名前:サイドストーリーIV-09 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月09日(土)22時05分39秒
イギリスF3選手権の日程は厳しい。
なにしろ、1シーズンに13ラウンド26戦も開催されるのだ。
平家は開幕ラウンドの流れを断ち切れず第2ラウンドへ望むことに。
天候不順な中行われた予選は、予選落ち(20位までが決勝進出)をなんとか免れる16位・18位という結果。
雨となった決勝はではまたもエンジントラブルでリタイヤ、第4戦は初完走も16位という結果。
続く第3ラウンドの第5・6戦もトラブルに泣き、ロクに走ることすらできない。
14 名前:サイドストーリーIV-10 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月09日(土)22時08分42秒
対策として臨時スタッフを雇い入れての第4ラウンド。
予選は低迷したが、決勝前に決まったセッティングで好走を見せる。
第1レース第7戦は後方から追いあげて初の8位入賞、2ポイントを獲得。
そして、それ以上にアグレッシブな走りが注目された。中継映像に何度も映った。
果敢に攻める平家に、スタンドも大歓声。
自身を失いかけていた平家にとっては、大きな励みだ。
ピットに戻ってガッツポーズをする平家。チームも湧いた。
「行けるで、これは行けるで!」
興奮する平家。
「チャンピオンはもう遅いかもしれへんが、ええとこ見せようや」
畑も平家を激励する。
第2レースの予選順位は6位だった。ここまでの勢いを維持できれば、成績は期待できる。
平家、気合いを入れて2回目の決勝に望む。
15 名前:サイドストーリーIV-10 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月09日(土)22時11分21秒
好スタートを決め、4位に上がる平家。
さらに上を狙い、1コーナーへ飛び込む。
が、後方から衝撃。気が付くと平家はグラベルに埋まっていた。
必死に状況を理解しようとする平家。レースはそのまま続行されていた。
駆け寄ったオフィシャルがマシンから降りるように促す。
トラクターが近寄ってきて、マシンを回収しようとしていた。
「…そんなぁ。ホンマかいなぁ」
マシンのリアには、明らかに接触の跡が。
平家は、押し出されたのだ。

第7戦でなまじ好走を見せたため、平家は各ドライバーにマークされていた。
この1コーナーでの接触は、いわば小手調べ。
この後の行動や態度で、平家を見極めようというものだった。
怒り心頭の平家。だが、それをぐっとこらえた。
確かに、負けん気は強い平家。が、喧嘩速いわけではない。
苦しいことはぐっとこらえ、次のチャンスで叩きのめすという性格。
が、これが他のドライバーの目には生意気に映った。
16 名前:サイドストーリーIV-12 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月09日(土)22時14分16秒
次のラウンドから露骨にマークされる平家。
練習走行で、予選で、必ず邪魔が入った。
このあたりは弱小チームの悲しさ、抗議も十分に聞いてもらえない。
思うようにマシンセッティングが決まらないまま決勝を迎える。
決勝レースではさらにエスカレート。
追突され、押し出された平家は完走するのが精一杯だった。
「正々堂々と勝負せぇへんかい…」
唇を噛む平家、それでもあきらめない。
折り返しとなる第6ラウンドでは予選で4位と2位を獲得。
好調に沈みがちだったチームの雰囲気が明るくなる。

その翌日、決勝直前。
瞳をカッと見開いてスタートを待つ平家。
天候は悪化状態にあった。
そんな中での第1レース、平家は好スタート決めて2位に浮上する。
が、レース中盤に起きた多重クラッシュに巻き込まれてしまう。
空中で2回転する激しい衝突の中、平家は無事に生還する。
その代わり平家を守ったマシンは大破。それも、モノコックが割れるほどの。
チームは第2レースのスタートを見ることなく、サーキットを後にした。
17 名前:サイドストーリーIV-13 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月09日(土)22時18分55秒
モノコックの手配がつかなかったチームは、翌第7ラウンドも欠場する。
平家はその週末をはじめて1人で過ごした。
自分が出るはずだったレースの中継を見ながらパソコンに向かう平家。
ニュースサイトを閲覧していたとき、その手が止まった。

”寺田、女性だけの新しいシリーズを設立”

日本でのF・娘。シリーズ設立を報じるニュースだった。
暫定エントリーリストを見て、平家は複雑な心境になる。
そこにはオーディションで自分が打ち負かしたはずのメンバーが名を連ねていたからだ。
オーディションで苦楽をともにした仲である。彼女らの速さは認めていた。
しかし、ドライバーという人種は一番になりたがる性癖がある。
気にならない訳ではなかったが、自分には関係ないと言い聞かせる平家。
18 名前:サイドストーリーIV-14 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月09日(土)22時21分09秒
新しいモノコックで望んだ第8ラウンド、またも悪いニュースが。
チーフエンジニアの突然の移籍である。移籍先は同じイギリスF3のトップチーム。
彼に頼っていた部分の多かったスタッフは統率が取れなくなっていた。
そんなチームをまとめざる負えない平家。もちろん、自分のためにだ。

予選を無難にこなして望んだ第15戦の決勝は、曇天の元でスタートとなった。
好スタートを決めた平家はトップグループについていく。
パワー不足で先頭からは離されるものの4位争いを制してゴール。
レース後に平家と争ったドライバーが、いいレースだったと言いながら握手を求めた。
平家の実力が認められた瞬間だった。

この時の平家には、その先の光が見えていた。
暗いシーズンの中で初めてといっていい、光が。
しかし、第2レースは雨と霧で中止になる。
流れをつかみかけた平家にとっては残念な決定であった。
19 名前:サイドストーリーIV-15 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月09日(土)22時26分11秒
つかみかけた流れを失うのは、それで十分だった。
第9ラウンドはマシンのセッティングに苦しみ、トラブルが追い打ちをかけた。
エンジンにもトラブルを抱えた平家は初の予選落ちを喫する。
第2レースのグリッドはなんとか確保するも、17位だった。
前戦で表彰台まで後一歩まで迫ったドライバーとは、とても思えない結果。

この予選落ちがチームにまで悪影響をおよぼしていた。
それまでは平家に対するチームの信頼はギリギリのレベルにあった。
しかし、今回の落ちで平家への不満が漏れだしたのだ。
それまでお互いに理解しようという気持ちの上に成り立っていた会話。
お互いの思いやりが無くなった今、会話を破綻させるのは簡単だった。
スタッフの態度が刺々しい。なんとか理解してもらっていた平家の英語が通じなくなる。
しまいには、早口でスラングを返されて平家も理解できずに返答に困る。
こらえきれなくなった平家も関西弁でまくし立ててしまい、火に油を注ぐ結果に。

そんな状況で結果がいい結果が出るわけがない。
なんとか完走を果たすのが精一杯。
20 名前:サイドストーリーIV-16 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月09日(土)22時34分19秒
その後は坂道を転げ落ちるようだった。
第9ラウンドの結果から、チームが内紛を起こす。
分裂状態になったチームで、平家はそのどちらにも属さなかった。
こんな時に事態を解決してくれるのは結果だけ。
だがそれも望めない今、手の施しようが無かった。
平家の懸命のドライビングも、予選落ちを免れるのがやっとだった。

平家の悲痛な訴えに、寺田も最悪な状況を理解する。
そして平家は残り2ラウンドを残しチームを離れることになる。
22戦で入賞は4位と8位の2回、13ポイントでランキング18位。
これがイギリスに平家が残した結果のすべてだった。
21 名前:サイドストーリーIV-17 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月12日(火)01時10分43秒
空港では意外な人物が見送りに来てくれた。
チーム関係者すら見送りに来ていない中で、第8ラウンドで4位争いをしたドライバーが待っていたのだ。
言葉の問題もあり、ほかのドライバーとはあまり接点の無かった平家。
それだけに、社交辞令を抜きにしてもうれしかった。
「チャンピオンが取れなかったら、ミチヨのせいだ」
彼は笑いながら言った。
タイトル争いをしている彼にとって、あそこで平家を抜けずに失った2ポイントは大きかった。
接戦では1ポイントが運命を分けるかもしれないからだ。
だが、過ぎたレースを悔やんでも仕方ない。
「そんなこと言ったら、ウチはもっとポイント返してもらわなやで」
平家のたどたどしい英語に、彼は大笑いした。
硬い握手をする2人。そして、平家は機上の人となった。
22 名前:サイドストーリーIV-18 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月12日(火)01時13分13秒
日本に下り立った平家を出迎えたのは、静寂だった。
出発時にカメラに囲まれたのとは正反対。
世間は低迷する平家を罵倒するのではなく、忘れ去っていた。

折しもF・娘。の最終戦が開催されていた頃。
ニュース映像に映し出された良く知るライバル達がマシンに乗り込む姿を目にする。
「はぁ、ウチのこの1年は何やったんやろ…」
平家の嘆きをよそに、レースはスタート、中澤が安倍を押さえて優勝した。
そこから先を平家は見ることができなかった。
23 名前:サイドストーリーIV-19 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月12日(火)01時15分37秒
シーズンが短い休息を迎えようとする頃になっても、平家の翌シーズンは何一つ決まっていなかった。
希望はイギリスF3の継続だったが、スポンサーの関係もあり難しい。
それに平家自身が海外でのレースを躊躇している部分があった。
むしろ、走ることへの希望すら失いかけていた。

年が明けてすぐ、寺田に呼び出される平家。
スカラシップはフェードアウトしていたが、マネージメントの契約はまだ生きていた。
「ちゅーわけでな、イギリスは完全に無理になったわけや」
寺田はスポンサーが平家からF・娘。へとシフトしている現状を説明した。
「でもな、平家のことを見離したんじゃないで。ウチらの枠組みの中でできる限りの支援はするつもりや」
「…ウチ、もう走らへんかもしれません」
平家はそれだけ言って、うつむいた。
「せやなぁ、わかるで気持ちは。しかしな、ドライバーは走ってなんぼなんやで」
24 名前:サイドストーリーIV-19 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月12日(火)01時19分15秒
「ドライバーはスポンサーの支援無くして走れないんや。忘れがちだがな。
それだけやない。ほかにも幾人もの世話になってるんやで。
プロのドライバーはその人達の希望を背負って走ってるんや。
それをやすやすと放棄する訳にはいかんやろ」
「…でも」
「もちろん、走る気がまったく無いなら引き留めはしない。危険な競技だしな。
でも平家はまだまだ走れるはずや。イギリスでの走りを見る限りはな」
「…」
言葉を失う平家。たしかにイギリスでは自分のことしか考えていなかった。
自分を支援してくれている人を忘れていた訳じゃないが、深く考えた事もなかった。
25 名前:サイドストーリーIV-21 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月12日(火)01時20分22秒
それでも気持ちの整理がつかず、しばらく時間をもらう平家。
レーシングカートに乗ったり、サーキットでレースを観戦したりという日々を送る。
時折、周りの人が平家に気が付くことがあった。
大抵、少し言葉を交わしてから頑張ってくださいと言って終わる。
そのたびに、このままでいいのかと疑問に思う平家。

2年目を迎えたF・娘。の開幕戦にも足を運んだ。
ポールポジションは中澤だった。
平家はピット裏で中澤に呼び止められた。
「みっちゃん久しぶりやなぁ」
OLとドライバーの二足のわらじを履いていた中澤に嫌悪感を抱いていた平家。
しかし、F・娘。の参加を機に仕事を辞めたのだと聞いて見直していた。
「どや、今晩あたり?」
くぃっと杯をあおる仕草をする中澤に、平家は笑顔で頷いた。
26 名前:サイドストーリーIV-22 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月13日(水)01時24分10秒
その夜、もんじゃ焼き屋で落ち合った中澤と平家。
決勝はリタイヤだった中澤だが浴びるように呑むわけでもなく、場は落ち着いていた。
話が一段落ついたところで、中澤は本題とも思える話題を切り出した。
「これからどうするんや?」
「せやなぁ…」
窮する平家。店の喧噪だけが耳に届く。
「ウチはみっちゃんの今の気持ちはわからへんし、理解もできへんと思う。
でもな、ひとつ確実に言えるのはな、走りたいっていう何かが全身から出てるで、マジで」
「…そうなん?」
「そうや。物足りなそうな顔してるしな」
「ホントに?」
「本当や」
「マジで?」
「マジやで」
「そっか、それはうれしいわ」
平家は素直に喜んでいた。自分に走る意志などもう無いと思っていたから。
笑い出す2人。
27 名前:サイドストーリーIV-23 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月13日(水)01時27分29秒
寺田のもとを訪れる平家。
用件はひとつ、F・娘。シリーズへの参戦を認めてもらうこと。
平家の願いに、寺田はそか、と素っ気ない返事で許可を出した。
「それよか、チームとかクルマ、スタッフ、それにスポンサーはどうするつもりや?」
第2戦から2チーム4台が加わる一方で、福田が開幕戦終了後に引退していた。
「減らすんは簡単やけど、増やすのは大変なんやで。それも予定外のは。
でも、なんとかしてやらなとは思ってる。始めのウチらの方針が悪かったからな。
そのせいで平家には迷惑をかけちまったしなぁ」
寺田は平家に書類を渡した。
「マシンとスタッフは福田の所でええだろ。オレの方から声かけとくわ。
ただ、スポンサーはここに載ってるところまわって見つけて来いや。
単に支援するだけが育成にはならへん…いまのアイツらも苦労したんや」
平家は唇を噛みながら了承した。
28 名前:サイドストーリーIV-24 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月13日(水)22時58分36秒
平家の奮戦が始まった。
スポンサーを見つけるための営業活動なんてしたこと無い平家。
話を聞いてもらうことすらできず、落ち込んだ日もあった。
それでも、平家の知名度はまだ生きていた。
色好い返事を返すところが多く、手応えはそこそこだった。
そして、リストの中ほどに記されていた会社とメインの契約することになる。
そのほかにもいくつかの企業が支援を決定してくれた。
潤沢ではないが必要なだけの額が集まった。
こうしてなんとか資金の調達を完了させる平家。

だが、新たな問題も発生した。
マシンは確保できたのだが、スタッフは思うように集まらなかった。
福田のチームスタッフは早々に移籍していた場合が多かったからだ。
かといって他チームから引き抜けるほどの資金もツテも無い。
平家は駆け出しの頃から世話になったショップやチームなどを頭を下げてまわった。
みんな、平家のことを忘れていなかった。
29 名前:サイドストーリーIV-25 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月13日(水)23時04分46秒
こうして平家がドライバー兼監督を勤めるチーム、フラット・アウトが設立された。
チーム名の由来は平家の名字と英語のアクセル全開から。
スポンサーカラーのブラッディ・レッドに彩られたマシンは輝いていた。
赤は奇しくも平家一族の色でもあった。マシンを見て興奮を抑えきれない平家。
無くしたと思っていた情熱は、再び熱く燃え上がっていた。

とはいえ、平家の仕事はまだ残っていた。それも大量に。
レースに出場する場合、グリッドに並ぶまでが大変なのだ。
マシンを、そしてチームをレースに出られる状態までに仕上げるのに奮闘する平家。
寄せ集めのスタッフばかりのチーム、経験者の平家がすべてまとめなければならない。
こうしてレースへエントリーしたのはシーズンも大詰めの第4戦富士だった。
30 名前:サイドストーリーIV-26 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月13日(水)23時12分36秒
テストも参加できず、初日の練習走行がチーム初の走行となった。
初めてのマシンに手こずる平家だが、感覚は不思議と鈍っていなかった。
タイムは半分よりも少し後ろ。充分に合格点を与えられる結果だ。
予選に向けて平家の指示に従って作業を進めるスタッフ達。
手際はよくないが、一生懸命さは痛いほどわかった。
そんな彼らに、平家はきちんと応えなくてはならないのだ。
気合い一閃、ピットを飛び出す赤いマシン。
久しぶりのアタックで、15台中10位のグリッドを獲得することに成功する。
大騒ぎするチーム。トラブルに手こずり予選落ちも覚悟していたから、なおさら。
31 名前:サイドストーリーIV-27 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月14日(木)00時34分43秒
久しぶりのグリッドでは中澤や安倍たちが平家を激励しに来てくれた。
このシーズン限りで引退する石黒もレース復帰を祝ってくれた。
それだけでない。市井、保田、矢口、後藤ら追加メンバーも平家を慕って来た。
「せやなぁ。ウチはまだ死んでないで。目にモノ見せてやるで」
イギリスで独りよがりだった自分を恥じた。
ここまでに関わったすべての人の希望受けて、そして自分の情熱のために走る平家。
スタートを待つ。

スタートは悪くなかった平家。
しかしレース勘が戻っていないのか、1コーナーでラインを外して順位を落とす。
F・娘は。基本的に同じクルマで行われているレースである。
それゆえに、セッティングの重要度が高い。
ぶっつけ本番で完全なセッティングが出せるわけもない平家のマシン。
ペースが、上がらない。
32 名前:サイドストーリーIV-28 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月14日(木)00時47分22秒
思い通りにならないマシンを無理矢理ねじ伏せて走る平家。
小さなトラブルにも遭遇するが、耐えて感想を目指す。
そして終盤の稲葉貴子とのバトルを気合いで制して8位でゴールする平家。
優勝した市井には周回遅れにされていた。
それでも、素人同然のスタッフが集まったチーム状況を考えれば、最高の滑り出しだった。
ピットに戻った平家は安堵の表情を浮かべた。
喜ぶスタッフに囲まれて、同じようにうれしくなる平家。
どこかで失ったものを取り戻した感覚だった。

そう、これでいいんだ。
期待に応える走りをできてよかった、と。
33 名前:サイドストーリーIV-29 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月14日(木)00時50分27秒
それから、2年後。
平家の闘いは続いていた。
昨年は性能の劣るローラシャシに悩まされて10位以下で完走するのがやっと。
そして今シーズンも予算の関係で同じローラを使い続けるしかなかった。
結果、同じローラのカントリーと最下位争いを繰り広げることに。
それも第4戦からカントリーがレイナードにチェンジすると予選はダントツの最下位。
それでも、平家とスタッフは腐らなかった。
昨年は完走できなかった酷暑の美祢、走りきればチャンスがあると読んでいた。
読みは当たり、荒れるレースを乗り切ると7位でゴール。
入賞・初ポイントこそ逃したが、平家の、そしてチームの最高位だった。
34 名前:サイドストーリーIV-30 〜平家みちよの闘い〜 投稿日:2002年03月14日(木)00時54分27秒
チームのガレージに大きな荷物が届いた。
送り主はチーム・ゴナツヨ。
中身は、ローラ用のアップデートパーツだった。

昨シーズンはシャシの性能差に振り回されるチームが続出した。
ゴナツヨもローラに悩まされたチームのひとつ。
中盤以降シャシを乗り替えるチームが続出する中、意固地にローラを使い続けたチームでもあった。
そのゴナツヨ、独自にシャシの開発を行い戦闘力を上げた。
成果はあった。終盤の4位入賞を果たし、走りも記録以上の評価だった。
しかし、シーズン終了後にゴナツヨもレイナードに乗り替える決断を下す。
改良されたローラは倉庫に眠ることになった。

平家はその眠るマシンに目を付けたのだった。
ゴナツヨと交渉し、改良パーツの無償提供という破格の条件で合意する。
すでに1年落ちだが、今より戦闘力が上がるのは確実。
次のもてぎで狙うは初めての入賞。表彰台の真ん中だって射程に入れている。

平家は参加することに意義がある、という言葉は否定していない。
しかし、走るからには少しでもいい成績を望むのは当然のこと。
ましてや、負けん気の強い平家である。簡単にはあきらめない。

平家みちよの闘いはまだまだ続く。
35 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年03月14日(木)22時15分21秒
昨晩更新してから、終わりと書くのを忘れて放置してしました。
まぁいいや。

ということで苦労人みっちゃんの話はいかがだったでしょうか。
第2戦で紺野に押し出された平家が怒り心頭だったのがわかってもらえたでしょうか。
…読んでる人はそんな前のことは忘れてるかも知れないな(笑。

それから、残りラウンドの開催サーキット変更します。
第5戦は予定通りもてぎですが、その後を入れ替えて、第6戦鈴鹿、最終戦富士とします。
いろいろと理由はあるんですが、鈴鹿サーキットの改装工事の関係ということにしてください(笑。

このあとはシーズン後半戦の第5戦・ツインリンクもてぎです。
団子状態のタイトル争い、誰が抜け出すのか?あるいは新しいヒロインが現れるのか?
…と煽ってみても盛り上がりませんな。
いつもの様にちまちまと更新していくのでよろしくです。

最後に、こっちに移ってから一回もレスつかなくてちょっと不安な今日この頃。
一言でいいからもらえるとうれしーな、と呟いてみたりする。
36 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年03月14日(木)22時27分28秒
それから、>>4で書いた途中結果間違ってたんで(汗、
エントリーリスト共々もう一回カキコします。

DRIVER'S POINT After Rd.4
Pos. No.   DRIVER    POINT
1   #6  吉澤ひとみ  18
2   #1  後藤真希   17
3   #19 安倍なつみ  16
4   #5  石川梨華   15
5   #20 市井紗耶香  10
5   #55 矢口真里   10
7   #11 保田圭      6
8   #8  辻希美      3
8   #56 飯田圭織    3
8   #7  加護亜依    3
11  #2  高橋愛     2
12  #36 稲葉貴子    1
37 名前:F・娘。エントリーリスト 第5戦時点 投稿日:2002年03月14日(木)22時32分46秒
F・娘。エントリーリスト(第5戦時点)

チーム名(シャシ/エンジンチューナー)
#ゼッケンNo.:ドライバー名

FILA(REYNARD/Gackt-SPORTS)
#1:後藤真希
#2:高橋愛

FLAT-OUT(LOLA改/Gackt-SPORTS)
#3:平家みちよ

5-NATUYO(REYNARD/加納自動車)
#5:石川梨華
#6:吉澤ひとみ

BRINCO!(REYNARD/OKAMURA TECH)
#7:加護亜依
#8:辻希美

EE JUMP(G-FORCE/Gackt-SPORTS)
#9:ソニン
#10:ミカ

TOMY'S(REYNARD/加納自動車)
#11:保田圭
#12:新垣里沙

KEN MATSURA(REYNARD/OKAMURA TECH)
#14:松浦亜弥
#15:小川麻琴

NAKAZAWA(REYNARD/加納自動車)
#19:安倍なつみ
#20:市井紗耶香

RedPoint(REYNARD/OKAMURA TECH)
#21:紺野あさ美

SHINODA M-1(REYNARD/Gackt-SPORTS)
#36:稲葉貴子

TANPOPO(REYNARD/OKAMURA TECH)
#55:矢口真里
#56:飯田圭織

COUNTRY(REYNARD/加納自動車)
#63:りんね
#64:あさみ
38 名前:第5戦・もてぎ-01 投稿日:2002年03月16日(土)00時15分54秒
F・娘。選手権も後半戦に突入。第5戦は第2戦と同じ栃木県のツインリンクもてぎにて開催。
前半戦を終えて各チームとドライバーの勢力図がはっきりしてきた頃だ。
巻き返しを狙うチームがあれば、さらに逃げ切りを図るチームもある。
具体的には、独自の改良を加えた新しいパーツを持ち込んだところが数チーム。
また、直前に行われた合同テストで走り込みを重ねたチームもある。
これらによっては、勢力図を塗り替えるところが出てくるかもしれない。

また唯一のローラユーザーである平家も今回のレースでは注目されていた。
チーム・ゴナツヨからのアップデートパーツが供給、装備されていたからだ。
これで平家のマシンは昨年終盤にローラ最上位を記録したのと同じ仕様となった。
昨年の終盤で好走を見せた改良型ローラ、その走りはレイナードに劣らなかった。
全開の美祢でしぶとく生き残り7位を獲得した平家、もともとの実力は高い。
果たして、どこまでいけるか。
39 名前:第5戦・もてぎ-02 投稿日:2002年03月16日(土)00時26分20秒
チャンピオン争いも白熱している。
ドライバーズ選手権は1位から4位までがそれぞれ1ポイント差で並ぶ大接戦。
首位は自身の初優勝と3位を2回で18ポイントの吉澤ひとみ。昨年からは大躍進だ。
ランキング2位は昨年度のチャンピオンでもある後藤真希。開幕戦の優勝に2位と6位で17ポイント。
優勝と2位が1回ずつの16ポイントで3位につけるのは、不振を脱した元チャンピオン安倍なつみ。
4位は吉澤のチームメイトである石川梨華。優勝こそ無いが着実に走り15ポイントを得ていた。
この4人に加えて10ポイントで5位の市井と矢口までが自力でタイトルを決定できる範囲。
また、7位の保田以下でも上位の結果次第ではタイトルの可能性も残っている。
しかし、事実上吉澤から矢口までの6人の争いと言っていいだろう。
この中から、誰が抜け出せるのか。あるいはさらなる混戦にもつれるのか。
40 名前:第5戦・もてぎ-03 投稿日:2002年03月16日(土)00時31分20秒
ひどく気温が上がった予選から一転、残暑が和らいだ決勝日。
9月中旬にしては低めの気温に各チームとも安堵しているかもしれない。
それぞれの思惑を秘めてグリッドに並ぶマシン。
予選1位は前回のもてぎでのレースで初優勝を飾った吉澤ひとみ。
そして続く2位には吉澤のチームメイトである石川梨華がつけた。
この2台はコースレコードを更新するタイムを記録していた。
吉澤と石川が所属するゴナツヨのマシンが好調なのはわけがあった。
ゴナツヨは今回から前後ウイングに独自改良を加えてきたのだが、それが効果を発揮していたのだ。
41 名前:第5戦・もてぎ-04 投稿日:2002年03月16日(土)00時35分31秒
タイムでは前の2台に離された2列目以降には、3位矢口真里、4位保田圭、5位飯田圭織と続く。
6番手には市井紗耶香、7番手に安倍なつみ、8番手は後藤真希とゴナツヨ以外の上位陣は低迷。
このあたりはチームの開発能力の違いが現れたのかもしれない。
空力パーツの開発には定評があるゴナツヨやチーム・タンポポ。
それに比べるとチーム・フィラの開発能力は劣っているし、参戦初年度のチーム・ナカザワも然り。
事実、ナカザワは新型パーツの製作が遅れてこのレースの投入を見送っていたし、
フィラはゴナツヨ同様に新型パーツを投入したものの、途中で元に戻すドタバタを演じていた。
42 名前:第5戦・もてぎ-05 投稿日:2002年03月16日(土)00時38分27秒
一方、唯一のローラユーザーである平家は19番手で予選を終了していた。
後方に2台いる予選グリッドは定位置ともいえる場所だが、今までとは内容が違った。
これまでは同じローラを使うカントリーの2台が後ろにいることが多かった。
しかし、今回はレイナードユーザーの紺野あさ美と新垣里沙を従えての順位。
改良型ローラの威力を見せつけた。

それでも平家は満足していなかった。
導入したアップデートパーツは前後ウィングにカウル、前後サスにアンダートレイと多岐に渡っていた。
これだけ変わるとほとんど別のクルマである。マシンの性格も変わり、セッティングに苦労する平家。
苦心の末、平家は同じマシンを駆った吉澤と石川に様子を聞きに行く事にする。
感覚的に答える吉澤と、理論的な話す石川の意見をすり合わせるのに苦労するが参考にはなった。
こうして仕上げたマシンに満足はしていなかったが、及第点はつけられる出来になっていた。

スタートを待つグリッド上で、予選でのデータを元にさらに変更を加える平家。
決勝ではもっともっと上を食ってやるで。
平家の集中が高まる。
43 名前:第5戦・もてぎ-06 投稿日:2002年03月16日(土)00時44分32秒
フォーメーションラップを終えてグリッドに戻る各車。
動けないマシンもなく、全21台が綺麗に整列した。
予選ではゴナツヨの2台がかなり優勢だった。決勝でも優位は保てるか。
それとも、他のチームが追い上げるか。
グリーンフラッグが振られる。
スタートの瞬間。サーキットが一瞬静まり、シグナルに集中が集まる。

PPの吉澤が好スタートで先頭、石川も続いた。
矢口、飯田と続きその後方、遅れた保田が市井をブロックすべく左から右へとマシンを振る。
抜きにかかっていた市井は保田を避けきれずに1コーナー手前で追突してしまう。
押された保田のマシンが飯田に当たる。なすすべも無くウイングを落とす飯田のマシン。
間髪を入れずに後方のマシンがそこに殺到。数台が巻き込まれて多重クラッシュが発生する。
後藤はフロントウィングを失い、加護は後ろを向いてコース上に止まった。
そこに辻が接触、ソニンが辻の破片を避けようとしてスピン。
松浦は右の前後輪を失いストップ、それを避けた高橋に新垣が当たってしまう。
とっさの判断でアウトに逃げた安倍がゆっくりとコースに復帰。
一瞬にして、現場はマシンの墓場と化した。
44 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月16日(土)01時06分20秒
ちゃんと読ませていただいております。
頑張ってください。
これ読みながら・・・舘ひろしも監督やってたなって関係ない事思いだした(w

裕ちゃんドライバーも待ってます。
45 名前:名無しドリブン 投稿日:2002年03月16日(土)04時10分25秒
F1もの書こうかなっと思っているときにここ見つけて断念いたしました。
ドリブン小説版になりそうだったし(笑)。
F3000からFニッポンになったあたりから見てないけどこの小説で
また見たくなりました。ありがとうございます。
では更新楽しみにしています。
46 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年03月17日(日)02時22分00秒
一晩たって誤字や間違いをいっぱい見つけて鬱になったものの、
おぉ!レスがついてるぞ、と簡単に立ち直ってみる今日この頃、みなさんいかがですか?

>>44
いやいや。読んで頂いてありがとうございます。
頑張って完結させるつもりですので、これからもよろしくお願いします。
舘ひろしですか…ナビ・コネクションでしたっけ?確かに監督してましたね。
中澤のイメージは泣く子も黙る某御大なのですが…ネタバレは止めておこう(笑。

>>45 名無しドリブンさん
そんなこと言わないで書いてくださいよ。私のへなちょこなんか霞むようなのを(笑
Fポンは面白いですよ。ある意味F1より面白いかも(爆。
マイペースで書いているので、不定期な更新になりますが、これからもよろしくです。

そんなこと言ってるそばから、来週は更新できないかもしれません。
少なくとも18日と19日は更新できないので、間隔が空きますがお許しください。

ということで、第5戦もてき、このあと更新です。
47 名前:第5戦・もてぎ-07 投稿日:2002年03月17日(日)02時59分52秒
アクシデントに混乱する各チームのピット。各ドライバーに無線を飛ばして確認を取る。
必要とあれば修復のためにピットインさせなければ。
そして、レース審判団の判断にも注目していた。
赤旗でスタートやり直しか、それともセイフティカー導入でレース続行か。

幸いなことに、このクラッシュでの怪我人はなかった。
が、コース上に多数の破片が散乱してレースの続行は不可能と判断、赤旗が出される。
これでスタートがやり直しに。多くのドライバーが救われた。
状況を理解する後藤らアクシデントに巻き込まれたドライバー。
ヘルメットをかぶったまま、ピットへ向けて駆け出す。
48 名前:第5戦・もてぎ-08 投稿日:2002年03月17日(日)03時02分09秒
ピットも再スタートに向けての作業を急ピッチで進める。
特に、マシンが損傷してしまったドライバーは代わりのTカーでの出走となる。
そのため、Tカーでレースに出られるように準備を整えなくてはならない。
ここで思わぬ問題に突き当たったのが、矢口と飯田の属するタンポポだった。
矢口のマシンは損傷が無かったが、飯田のマシンはリアウイングを壊して使用不能。
当然飯田がTカーを使うのだが、不運な事に矢口のセットアップになっていた。
サスペンションやウィングのセッティングは近い2人。だが、それより深刻な問題があった。
F・娘。内はもちろん、おそらく世界一小柄なプロドライバーの矢口。
その矢口向けにセットされたマシンに、長身の飯田がそのまま乗れるハズがない。
ステアリング、ペダル、シートを総交換しなければ飯田はマシンに収まることもできないのだ。
スタッフの奮戦もかなわず、飯田はピットスタートになった。
49 名前:第5戦・もてぎ-09 投稿日:2002年03月17日(日)03時05分51秒
仕切り直しとなった再スタートに向けてグリッドにつくマシン。
ドライバーの想いはそれぞれ。助かったと思うドライバーに、惜しいと思うドライバーも。
飯田と辻がピットスタートとなり、マシンが無い高橋と新垣は出走できず。
その4台分が空いたグリッドのまま、シグナルが灯る。

2回目のスタートも吉澤が決める。石川は出遅れて矢口にかわされる。
石川の後方には安倍が好スタートでジャンプアップ。
続いて保田、市井、後藤の順で1コーナーへ突入。今度はきれいなスタートとなった。
最後尾の平家が1コーナーの先に消えてから、辻と飯田がピットロードをスタートする。
50 名前:第5戦・もてぎ-10 投稿日:2002年03月17日(日)03時13分08秒
予選1位の吉澤がやはり速い。
スタートで飛びだした勢いそのままに、どんどんリードを広げていく。
その様は自身の初優勝の時と同じ。吉澤はゲンの良いもてぎのコースが好きだった。

吉澤を追うのは矢口を先頭とした2位集団。
が、追うというよりは矢口が頭を押さえるような感じの集団になっている。
まさに、”矢口真里のドライビングスクール”状態。
矢口講師に続く生徒は石川、安倍、保田の順で3台。
少し離れた後方では、市井と後藤が早くもテールトゥノーズのバトルを繰り広げていた。
51 名前:第5戦・もてぎ-11 投稿日:2002年03月17日(日)03時16分53秒
1回目のスタートでは3台をかわすロケットスタートを決めた平家。
それだけに赤旗再スタートを恨めしく思ったひとりだった。
しかも2回目のスタートは失敗して紺野に抜かれていた。

「なんやこの!赤点ドライバーめが!」
前には出たものの、ペースが上がらずに逃げ切れない紺野が平家の当面のターゲット。
紺野といえばいろいろな意味で注目を集めているルーキーだった。
開幕前のルーキーテストを落第ギリギリで通過。
寺田曰く、全部赤点やけど頑張りは認める、と。
しかし、ふたを開けて見ればクラッシュは引き起こしたり、スタート遅延の原因になったり。
それだけでなく練習走行や予選でもスピンを頻発。
なんとなく鈍臭いイメージがあるのは、平家だけではあるまい。
そのイメージに引っ張られて、平家はためらい無く紺野に襲いかかる。
52 名前:第5戦・もてぎ-12 投稿日:2002年03月21日(木)21時55分01秒
矢口にてこずる石川。明らかに遅い矢口を抜けないのだ。
もっとも石川はオーバーテイクを苦手としている。熟練の域に達している矢口相手では分が悪い。
それでも、意を決してヘアピンでしかける石川。しかしミス、突っ込み過ぎる。
その隙を見逃さない安倍がインから石川を抜く。
続くバックストレートエンドで保田にもかわされて一気に5位まで順位を下げてしまう。

一方で吉澤は一人旅状態。
ゴナツヨの投入した新パーツと吉澤の相性がかなり良いのだろう。
傍から見てもブレーキング時の安定性が向上しているのがわかる。
他チームはこの速さの理由を見付けるべく眼を皿にしてマシンを観察する。
特にフロントウィングが大きく変わっているところが目を引く。
メインプレーンには後退角がつき、大きくなった翼端板には切れこみが、フラップも形が変わっていた。
下面にもスプリッタープレートが左右2枚づつ付いているが、これは見えにくかった。
53 名前:第5戦・もてぎ-13 投稿日:2002年03月21日(木)21時59分25秒
紺野に襲いかかった平家だが、思わぬ苦戦を強いられていた。
後ろから見る分にはそれほど速く感じないのだが、スキが無くて抜くポイントが見つからなかった。
スキが無いというか、迷いのない走り。平家はそう感じていた。
普通ドライバーは後続が接近すれば抜かれまいとか離そうと思い、それが動きに現れる。
だが、不思議と紺野にはそれが感じられなかった。
確かに紺野は接近している平家をミラーで視認しているはずなのに。

ふと気付くと、紺野の前を走る小川との差が小さくなっていた。
ピットに無線でラップタイムを確認する。自分と、紺野のタイムを。
返ってきた答えは、思った通りだった。
「速いやないか…紺野って侮れなんなぁ」
自分を押しだしたあの頃から成長した紺野に、少し感銘する。
54 名前:第5戦・もてぎ-14 投稿日:2002年03月21日(木)22時01分38秒
順位を下げた石川は少し間隔を取った。
自分がいっぱいいっぱいになっているのがわかったから、気持ちを落ち着かせる。
ミラーには市井をかわした後藤がちらちらと映っている。
少し冷静になると、マシンの動きがかなり良い事に気付く。
いままでの接近戦では先行車の乱流の影響を受けて不安定になっていたのだろう。
単独走行になって空力をフルに発揮できる状態にある今、理想的な動きをしている。
先のテストを思い出す石川。苦労は報われたようだ。マシンは完璧と言っていい。
作戦を切り替えて様子を見る事にする。
まだまだ、レースは始まったばかりだもの。

先頭を走る吉澤は完全にリラックス。
ものすごいスピードで走っているのに、マシンの動き一つ一つが手に取るようにわかる。
路面上の小さな変化も遠くから見える。スタンドの観客ですら判別が付きそうなくらいに。
いつか感じていた、あの感覚。それを完全に取り戻していた。
まだ序盤の8周を消化した段階で、吉澤は10秒以上のリードを作り上げていた。
55 名前:第5戦・もてぎ-15 投稿日:2002年03月21日(木)22時07分03秒
紺野と平家が、小川に追いついた。
容姿では紺野よりも強気な印象の小川だが、2台を背負った走りは明らかにおびえていた。
ヘアピンで後ろを取る紺野。それにあわてる小川。平家はしばし観察。
「あかん、そこで無理するなや小川」
ヘアピンのあとはもてぎで最長・最速のダウンヒル・ストレートに続く。
ここの最高速と続く90度コーナーがこのコースの攻略ポイントであり、抜き所でもある。
ヘアピンの脱出で無理をすれば、ストレートの最高速が伸びずに抜かれるのは目に見えていた。
案の定、ストレートのスピードが伸びない小川。紺野はマシンを振って並びかける。
平家も迫る。2台分のスリップストリームを利用してまとめて抜き去るつもりだ。
3台が並んでコーナーに飛び込む。小川がうろたえているのが伝わってくる。
前に出たのは、イン側の紺野。真ん中の小川はさらにふらつく。
小川の予想外の動きにあわてて避ける平家。
が、コントロールを失ってスピンしてしまう。
56 名前:第5戦・もてぎ-16 投稿日:2002年03月21日(木)22時10分52秒
「あちゃ…やってもうた…」
景色が平家を中心に半回転して、砂埃があがる。
反射的にクラッチを切ってエンジンは止めなかったが、マシンはグラベルの中。
スタックしないように注意してクラッチをつなげる。後続車が来ないのを確認してコースへ復帰。
これでポジションは最下位。落胆する平家。
ピットへタイヤ交換の無線を飛ばす。
スピンとコースアウトでタイヤが痛んでいたし、最下位だったら戦略もなにも関係ない。
幸運なことに、ピットレーン入り口はすぐ先にあった。

世の中そんなにうまく行かへんよな、とつぶやきながらピットへ向かう平家。
だが、このピットインがレースの展開を大きく左右することになるとは、このとき誰も気付いていなかった。
当の、平家みちよ本人さえも。
57 名前:第5戦・もてぎ-17 投稿日:2002年03月21日(木)22時14分33秒
中位グループの争いも激しい。
市井の後方、7位争いをするのは加護、ソニン、松浦の3台。
この3台はそれぞれ1回目のスタート時にマシンを失ってTカーで再スタートしていた。
加護とソニンは乗り換えたTカーに違和感を感じ、ペースが上がらない。
一方で松浦は相性がよかったのか、あるいは前のレースでのファステストが自信になったか、
前の2台を上回る好調な走りを見せていた。
ミスが少なく、しかも細かい積み重ねも怠らない松浦は”サイボーグ”の愛称が付いていた。
寸分も違わず周回を重ね、狙いすまして前車を攻略する。
まずは松浦がソニンをダウンヒルストレートでパス。その勢いで加護にも襲いかかる。
オーバルコースとの立体交差で加護に並んだ松浦、ビクトリーコーナーで完全に前に出た。
加護も負けじとラインをクロスさせて対抗するが、アクセルが早すぎた。
リアを振ってスピンモードに入ってしまう加護。
そこには、ソニンが迫っていた。
58 名前:第5戦・もてぎ-18 投稿日:2002年03月21日(木)22時30分06秒
なにかが衝突した大きな音がピットに響いた。
あわてるスタッフたちが身を乗りだしてメインストレートをのぞく。
そこには、寸前までクルマだった破片が散らばっていた。
モノコックから外れたエンジンがコースの真ん中を転々とする。
舞い上がった埃の向こうには、前半分だけになったクリームイエローのマシン。
アクシデントの大きさにピットが騒然となる。
オフィシャルがあわてて赤旗を取りだす。
この日2度目の赤旗は、このレースが中断を挟む2パート制になることを告げていた。
59 名前:第5戦・もてぎ-19 投稿日:2002年03月21日(木)22時36分27秒
モニタにスローリプレイが流れる。
最終コーナー、スピンした加護を避けようとしたソニンもまたスピン。
そのままピットウォールへ衝突したのだった。
さいわいソニン、加護とも怪我はなく関係者は胸をなでおろす。

ピットではこの日3度目のスタートのための作業が開始されていた。
中澤も安倍と市井のマシンがチェックされるのを見守る。
タイミングモニタに第2パートのスタートグリッドが表示される。
モニタをスクロールさせて確認。安倍と市井の順位は間違っていない。
が、なにか違和感を感じる中澤。何度か見直すが、今一つわからない。
落ち着いて考える。それは画面の下の方から発せられていることに気付く。
「…なに!みっちゃん!」
中澤は立ち上がって叫んだ。
60 名前:第5戦・もてぎ-20 投稿日:2002年03月25日(月)00時36分14秒
中澤が感じた違和感の正体は、タイヤ交換の有無を示すマークだった。
モニタに軒並み未交換を示す青いマークが並ぶ中、平家だけが交換済みを表す赤いマークだったのだ。
そして、それが意味する事実に気付く中澤。

当事者の平家たちですらすぐには気付かなかったピット作業のあや。
前回の石川も絶妙なピットタイミングで首位に立った。
しかし、今回はそれ以上にドラマチックな展開だった。
しばらくして他のチームも、そして平家たちも理解する。
平家、思わず武者震い。
61 名前:第5戦・もてぎ-21 投稿日:2002年03月25日(月)00時38分01秒
F・娘。では第1パートの結果は第2パートのスタートグリッドにしか影響しない。
実際に今シーズンの開幕戦は2パート制になったため、覚えている方もいらっしゃるかと思う。
だが、第1パートから第2パートへ引き継がれるものが順位以外に2つある。
ひとつは、周回数。ラップ遅れにされた場合は、その遅れを引き継がなくてはならない。
そして、もうひとつがタイヤ交換の有無。
F・娘。ではレース中に最低1回のタイヤ交換を義務付けているのは周知の通り。
このタイヤ交換はレース周回数の3分の2までならどのタイミングでも良い事になっている。
そして、これはレースが2パート制になっても同じである
62 名前:第5戦・もてぎ-22 投稿日:2002年03月25日(月)00時40分41秒
もっと具体的に説明しよう。
今回、レースの13周目に赤旗が出されてレース中断、12周目までが第1パートとなった。
この時点でタイヤ交換を済ませていたのは平家みちよ、だたひとり。
そのため平家はタイヤ交換の義務を第1パートで果たしているため、第2パートでタイヤ交換をしなくてよい。
逆に、他の選手は第2パート中にタイヤ交換をしなければならないのだ。

すなわち、平家は第2パートのスタート時点で、他車に対してピットストップ1回分のリードを持っているのだ。
平家のグリッドは最後尾だが、ピット作業1回のロスタイム分…約25秒…のリードを持っての実質首位。
劇的な展開に、平家でなくても武者震いしてしまうだろう。
63 名前:第5戦・もてぎ-23 投稿日:2002年03月25日(月)00時44分43秒
その平家は珍しくグリッドで緊張していた。
スタートでこんなに緊張したのは、どれくらい前のことだろう。
イギリスでのデビューレースも、F・娘。初戦ももっとリラックスしていた。
確実なチャンスが目の前に迫っているからか?
んなもんで縮こまる平家のみちよじゃないはずやでぇ…。
自らを鼓舞する平家。絶好のチャンスを逃したくない。

ピット作業1回のロスタイム、すなわち平家のリードは約25秒。そして第2パートは21周。
平家の自己ベストのラップと、ここまでで最速である吉澤のベストとの差は、約1.1秒。
数字上はギリギリ平家が逃げきれる。だが、ベストで比較しての場合である。
絶対に逃げて勝つつもりの平家。闘志を燃やす。
64 名前:第5戦・もてぎ-24 投稿日:2002年03月25日(月)00時47分37秒
フォーメーションラップをすませてグリッドに整列する各車。今日3度目のスタートを待つ。
グリーンフラッグが振られ、第2パートのスタートが切られようとしていた。
シグナルグリーンとともに飛び出したのは、またも吉澤。
その後方は矢口だが、すぐに差がつき始める。
3番手グリッドの安倍は石川にかわされて4位で第1コーナーへ進入。
その石川は第2コーナーで矢口も抜かして2位に上がる。これでゴナツヨが1-2体制。
後方ではミカと辻が軽く接触したが、ほかには混乱なかった。
注目の平家も、紺野をかわす好スタートを決めた。
65 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月25日(月)03時40分36秒
Fポンもいよいよ開幕したのでレス←意味不明

おお、ツキのなかったみっちゃんにもツキが回って来たぞ(w
楽しみにしてます、頑張って下さい!

……デ○タ奪っちゃった人間より(笑
66 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年03月28日(木)01時33分03秒
おひさしぶりでし。
いやぁ、急に環境が変わって更新どころか製作も進めずらくなってしまいました。
案内板のほうで盛り上がってる企画も、アイデアは出てるのですが書けない状態なので、
投稿してませんぜ、って誰にむかって言ってるんでしょか。

でも、負けない!ここだけはなんとか続けていくので、みなさまよろしくです。

>>65
デル○のことは気にしないで結構ですよ(笑
登場もだいぶ先の予定なので、早いもの勝ちってことで。
私も楽しみにしてるんで、続けていってくださいね。

では、第5戦もてぎ、この後ヒサブリに更新です。
67 名前:第5戦・もてぎ-25 投稿日:2002年03月28日(木)01時40分20秒
その周の終わりから、続々とピットインする各車。
これはリードを持つ平家への追撃体制をとるためだ。
その間に平家は労せずにトップに立つ。これで本当の首位へ。
数周をこなしてピット作業が落ち着くと、先頭は平家みちよ。
そこから20秒以上離れて吉澤ひとみと石川が連なって走行。
その後方には安倍と保田。すこし開いて市井、後藤そして松浦の順。
矢口はフライングをとられてペナルティストップ、後方に沈んでいた。

ラップタイムではやはり吉澤が速い。石川も引っ張られるかのようにペースアップしていた。
注目の平家も、自己ベストのラップタイムを刻みながら逃げる。
吉澤と平家のラップ差は、1秒ジャストくらい。
平家、逃げ切れるか。
それとも、吉澤らが追いつくか。
68 名前:第5戦・もてぎ-26 投稿日:2002年03月28日(木)01時43分42秒
各所で順位を巡っての争いが繰り広げられる中、吉澤と石川の間だけが落ち着いていた。
なぜなら、ゴナツヨの2台は共同戦線を張ることを無線で通達されていたから。
つまり互いに順位を争うのではなく、協力して平家を追っていた。
今回の平家のマシンにはゴナツヨの開発したパーツが使われている。
結果、型落ちとはいえ自らが放出したパーツで自分の首を絞める状態になっている。
ここで平家を抜けなければ、チームとしての面目にかかわる、そう首脳陣は考えたのだ。
それを無線で知らされた吉澤と石川も、事情はともかく方針には同調していた。
平家の願いでレースウィーク中に何度かセッティングを教えた2人。
しかし、後悔していない。2人は平家を尊敬していたから。
だからこそ、逃げる平家を全力で追いかけるのが礼儀。

ミラーを介して2人の目が合う。
「いくよ、梨華ちゃん」
「よっすぃ〜、もちろん」
視線で会話を交わす吉澤と石川、無言の結束。
69 名前:第5戦・もてぎ-27 投稿日:2002年03月28日(木)01時44分55秒
平家は全力で逃げていた。
その身を削るようなドライビングに、観客が魅了される。

たしかに、アップデートパーツを組み込んだローラは戦闘力が上がっている。
しかし1年前にレイナードとようやく同等になったという程度。
レイナードシャシはその後も開発が続いて進化している。
一方、ローラはこの1年間を倉庫で過ごしてきたのだ。
差は再び開いている。そして、決して小さくない。

本来ならどうしようもないマシンの性能差。
その差を唯一埋めることができるのが、ドライバーである。
平家のできることはただ一つ。全力で走ること。
メインストレートを駆け抜ける。ピットサインが後方との差が15秒を切ったことを知らせる。
残り周回数、12周。逃げ切れるかどうか微妙な差。
「絶対に逃げたるで!」
叫ぶ平家。その目にはゴールラインしか映っていなかった。
70 名前:第5戦・もてぎ-28 投稿日:2002年03月28日(木)01時54分07秒
平家は全力で逃げていた。
その身を削るようなドライビングに、観客が魅了される。

たしかに、アップデートパーツを組み込んだローラは戦闘力が上がっている。
しかし1年前にレイナードとようやく同等になったという程度。
レイナードシャシはその後も開発が続いて進化している。
一方、ローラはこの1年間を倉庫で過ごしてきたのだ。
差は再び開いている。そして、決して小さくない。

本来ならどうしようもないマシンの性能差。
その差を唯一埋めることができるのが、ドライバーである。
平家のできることはただ一つ。全力で走ること。
メインストレートを駆け抜ける。ピットサインが後方との差が15秒を切ったことを知らせる。
残り周回数、12周。逃げ切れるかどうか微妙な差。
「絶対に逃げたるで!」
叫ぶ平家。その目にはゴールラインしか映っていなかった。
71 名前:第5戦・もてぎ-29 投稿日:2002年03月28日(木)01時56分50秒
中澤はピットウォールで腕を組んでモニタを見つめていた。
視線の先は、平家とそれを追うゴナツヨの2台。
その心境は複雑だった。
苦難の道を歩んでいる平家には、親友としても是非とも勝たせたい。
しかし、改良型とはいえ1年落ちのローラに勝ち逃げされるのは割り切れない。
かといって、平家を追いかけている先鋒はライバルの吉澤・石川である。
本当は安倍と市井にも追いかけてほしいが、ラップタイムが伸び悩んでいた。
安倍は保田を引き離し単独4位だが、市井は後藤との6位争いが激しくなっていた。

それにしても、前の3台の走りはキレていた。
それぞれの走りを見比べる中澤。
72 名前:第5戦・もてぎ-30 投稿日:2002年03月28日(木)01時57分48秒
平家のマシンは明らかに吉澤らに比べると劣っていた。
しかしその差を少しでも埋めるべく、限界を維持し続けたまま走っていた。
マシンとタイヤ、それぞれと相談しながらアクセルとブレーキを限界まで使い切る。
ターンインもスムーズに、しかし迷いはない。
ここ最近はあまり平家の走りを見ていなかったが、少なくとも中澤の知る平家からは衰えていなかった。
むしろこれほど好調な平家は初めてかもしれなかった。
そして、なによりも飢えた狂気が強く伝わっていた。
”勝つ”という意志が強く、強く。
73 名前:第5戦・もてぎ-31 投稿日:2002年03月28日(木)01時59分22秒
追いかける吉澤の走りも、素晴らしい。
元々は寺田が”天才的に速い”と評価したほどの逸材だったが、昨シーズンはいいところがなかった。
戦闘力に劣るローラに苦しみスピンの繰り返し。ピットでは失笑を買う始末。
それに加えて突飛な発言や行動。
しかし、それは吉澤なりの方法だったのだ。
遅いマシンを少しでも速く走らせようと常に攻めていた結果、限界を越えてのスピンを連発していたのだ。
そして時折見せた奇行は精神面の弱さでなく、マシンへのフラストレーションを晴らすため。
そして、レイナードに乗り換えた今シーズンはすべてが好転している。
レースを重ねるごとに走りは洗練され、今日の走りは富士の後藤を思わせるほど。
コーナーの進入からブレーキング、そしてターンインまでの流れが素晴らしい。
メンタルだって弱くない。現にドライバーズ選手権のポイントリーダーじゃないか。
「手強いで…」
腕組みして、眉間を寄せる中澤。
74 名前:第5戦・もてぎ-32 投稿日:2002年03月28日(木)02時00分43秒
そして吉澤に続く石川も、いい走りをしていた。
吉澤が後藤に近いタイプなら、石川は市井に近いタイプといえるだろう。
その走りは以前の市井のように繊細すぎるほど繊細なもの。
毎周数センチ単位でそろえてくるライン取り、絶妙なアクセルコントロール。
マシンに無理をかけず、壊しにくいタイプでもある。
そしてクソ真面目で、ちょっとぐらいで挫けないポジティブ・シンキング。
だが、欠点として急な状況変化に弱いという点があった。
前走車や周回遅れのオーバーテイク、接戦になってラインが塞がれたとき、など。
アドリブに弱いとも表せるだろうか。
しかし、中澤は石川のそんなところが憎めない。
「こいつ、ウチが鍛えたいで」
中澤の顔がほころぶ。
75 名前:第5戦・もてぎ-33 投稿日:2002年03月28日(木)02時05分53秒
実際のところ、中澤は石川を高く評価していた。
石川はドライビングだけでなく、マシンの開発能力も優れている。
同じチームながら異なるドライビングスタイルを持つ吉澤と石川。
だが、中澤は知っている。ゴナツヨのセッティングは石川がほぼ仕切っていることを。
ドライビングのスタイルが違えば、マシンのセッティングも違うのが普通。
もちろん2人のセッティングは違うのだが、吉澤車の基本セッティングも石川が決定しているのだ。
それだけでない。石川に手ほどきを受けたカントリーの2台も侮れない走りを見せていた。
これらは石川のセッティング能力の高さを如実に物語っていた。

そろそろ来シーズンのことも考える時期にさしかかっていた。
安倍の契約延長は決まっていたが、市井は未定だった。
場合によっては石川にオファー出してみよか…。
中澤は本気で考えていた。
76 名前:第5戦・もてぎ-34 投稿日:2002年03月28日(木)02時07分03秒
平家とそれを追う吉澤・石川の後方には安倍、そして保田が続く。
はじめは接近戦だったものの、今は差が開いたためにほぼ単独走行になっていた。
さらにその後方、市井と後藤が6位を巡って美祢のような熱戦を繰り広げていた。
コース的には美祢の時より後藤が有利。だが、市井も懸命に守っていた。
後藤も無理には攻めない。今日の自分はそれほど速くないのがわかっていた。
それでも、市井を抜いて6位の1ポイントは欲しい後藤。
ラストラップの最終コーナーで前に出たっていいのさ。
そう、ゴールまではまだチャンスは幾らでもあるから。
77 名前:第5戦・もてぎ-35 投稿日:2002年03月28日(木)02時08分27秒
そして、注目の首位争い。
平家と吉澤・石川はまさに息詰まる闘いを繰り広げていた。
テールトゥノーズやサイドバイサイドのような派手なバトルでないが、むしろ緊張感は大きい。
それぞれが己の限界に挑む、自分との闘いでもあった。
3台がそれぞれ毎周ほぼ同じラップタイムを刻んでいるのが、圧巻。
なぜなら、常に限界ギリギリで走っている証であるからだ。

加えてこのバトルを盛り上げているのが、落ち着いたレース展開。
もしアクシデントでセイフティカーが入れば平家のリードは水泡に帰してしまう。
序盤の流れではこのレース、アクシデントが多い予感があった。
しかし、第2パート以降は落ち着いた展開となり、アクシデントは起きなそうだった。
誰もが緊迫したこの闘いを最後まで見たいという願いは、叶いそうだった。
78 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月28日(木)04時13分18秒
>>65 >>66 何の話しておられるんですか?わかんないです(ToT)

ひさしぶりにFN見たんですけどドライバーが知らない人ばかりでした。
あんた誰やねんって人ばっかりで・・・。
その点この小説は全員わかるのでうれしいです。楽しみにしてまーす。
79 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月29日(金)16時50分18秒
>>78 何の話しておられるんですか?わかんないです(ToT)
海板で頭○○Dっぽい話を書いてらっしゃる作者サンとの会話ですね。
80 名前:ミカ・ニネン ◆KA.mika2 投稿日:2002年03月30日(土)00時47分27秒
>>78
79の名無し読者さんの言う通りです。
海板の小説にデルタってクルマが出て来るんですが…先に使われちゃった、ってだけの話です。
あんまり気にしなくてよいかと(笑

確かにドライバー全員わかるかもしれませんが、読んでる人のイメージから外れていないか心配です。
これからもよろしくですね。

>>79
その通り、解説サンキューです。雑談にレス使ってすまんです。
…話としてはあちらの方が10倍くらい楽しめるかと(笑
でも、これからもよろしくです。

ということでこれから更新です。このレースは今月中になんとか完結させたいなぁ〜
81 名前:第5戦・もてぎ-36 投稿日:2002年03月30日(土)00時49分06秒
残り9周、平家と吉澤の差がついに10秒を切った。
コンスタントにラップを刻む吉澤と石川に対して、平家のタイムがわずかにばらつきだした。
終盤にさしかかり燃料が減ったりタイヤが磨耗すると、マシンに変化が出るのは避けられない。
その影響が平家のマシンには強く出ていた。
本来はその変化を最小限に押さえるようにするのがセオリー。現に吉澤らはペースが落ちていない。
が、なにせ平家はこのマシンの経験が浅い。満足するセッティングではなかった。
ある程度はこれまでの経験から予測して修正していたが、それにも限界がある。
ブレーキングでマシンが安定しない。ターンインのラインも乱れるようになった。
それでも、こらえる。
その先にある栄光を目指して。
82 名前:第5戦・もてぎ-37 投稿日:2002年03月30日(土)00時49分59秒
その差が8秒台に乗ると平家が常に吉澤の視界に入るようになった。
中継画像も1画面に石川も含めた3台が入るほどに接近してきた。
そして、タイムが停滞する平家とは対照的に、吉澤はタイムアップを果たしていた。
追う者の有利さからか。あるいは、平家が視認できたからか。

吉澤もまた、限界近くまで攻めていた。
感覚が研ぎ澄まされ、目に映るものと耳に響くものがはっきりとする。
マシンの動きが伝わってくるだけでなく、完璧な予測ができていた。
それも考えてではなく、身体が感じていた。
身体は正確にドライビングを続けていたが、意識は半ば夢心地。
全身から沸き上がる快感に、神経が麻痺しているかのように。

このとき、吉澤ひとみは驚異的なタイムを刻み、平家との間隔は一気に6秒台へ突入していた。
だが、ひとみ本人はそのことを知らない。
83 名前:第5戦・もてぎ-38 投稿日:2002年03月30日(土)00時51分32秒
吉澤とともに平家を追撃する石川もまた、一線を越えていた。
すっ、っと自分の一部分が冷静になって、景色がよく見えるようになる。
感覚が敏感になり、クルマと身体が一体になったように錯覚する。
前を走る吉澤のマシンすら、その動きが良くわかる。
理想のラインが見え、ブレーキとアクセルのタイミングも自然と決まる。
もっとも、石川はこれが初めての体験ではない。
湾岸で最高速チャレンジしていたときに感じた、興奮と恐怖の向こう側に存在する感覚だった。
しかしレース中に感じたのは、これが初めて。

そしてこのとき、石川もまた吉澤と同等の驚異的なタイムを記録していた。
もちろん、石川自身にそんな自覚はない。
84 名前:第5戦・もてぎ-39 投稿日:2002年03月30日(土)00時53分20秒
懸命に逃げる平家。そのミラーには2台の追撃手が大きく映っていた。
残り4周、吉澤との差は約3秒。平家のリードは無いに等しい。
だが、追いつかれてもいいのだ。前に出さなければ逃げ勝てる。
平家の体力もマシンも、限界に近かった。
タイヤのグリップは落ちている。
ハンドルが重い。ブレーキなんか石を踏んでいるようだ。
意識が流れる景色と同化していく。
なんとしても、なんとしても勝つのだという意志だけが強く浮かぶ。

ふと、平家の耳に声が聞こえた。
声は問う。
「なぜ走るのか!」
平家は答える。
「そこにスピードの限界があるから!」
声は問う。
「なぜ限界へ挑むのか!」
平家は答える。
「限界とは人の作ったものだから!
人が作ったものは必ず、越えられる!」
声は問う。
「何のために走るのか!」
平家は答える。
「自分の、そして自分を信じる人の情熱の証のために!」

平家の記憶はそこで途絶えていた。
85 名前:第5戦・もてぎ-40 投稿日:2002年03月30日(土)01時19分32秒
残り3周、ついに吉澤が平家を射程圏内に入れる。
平家のラップタイムも向上していた。しかし、元々のマシン性能が違いすぎる。
攻略はそれほど難しくないだろうと読んでいた。
しかし、吉澤は平家から感じる何かに気圧されていた。
各コーナーで平家は破綻無いブロックを見せていた。
ヘアピンを抜ける平家、後を追う吉澤。ついにその差が1秒を切る。
ダウンヒルストレートでスリップに入る吉澤。平家もそれを嫌ってマシンを振る。
90度コーナーへのブレーキングで並びかけるが、前には出られない。
S字状になっている最終のビクトリーコーナーでも並んだまま進入。
襲いかかる吉澤、アウトから抜きにかかる。
抜かれまいと平家、魂のブロック。きっちりと寄せてラインをふさぐ。
あきらめない吉澤、平家を避けるため、そして抜くためにさらにアウトへ。
そのまま前後輪をダートに落とし砂埃を上げながら、最終コーナーを立ち上がる。

吉澤が完全に並び、そして前に出た。
86 名前:第5戦・もてぎ-41 投稿日:2002年03月30日(土)01時20分45秒
いままで固唾をのんで観戦していた観客がいっせいに騒ぐ。
驚きと悲鳴の混じったような歓声が轟き、均衡が崩れたことを物語る。。

吉澤はそのままリードを広げにかかる。
やはりマシンの差は大きい。平家との間隔が見る間に広がっていく。
そして、今度は石川の番。
吉澤のオーバーテイクを目の前にして、奮い立っている石川。
いつもの”確実リカちゃん”からは想像もつかないアグレッシブさ。
高速のS字コーナーでアウトから抜きにかかる。
普通は抜きにかからないポイントで、しかも外側から。
それが平家の意表をついたのか、押さえきれない。
石川、あっけなく前に出ることに成功。
吉澤と同じく、平家との差を広げていく。
87 名前:第5戦・もてぎ-42 投稿日:2002年03月30日(土)01時22分35秒
チェッカーフラッグが閃光のようにはためき、平家はレースが終わった事に気付く。
疲労困憊。息が切れて、ヘルメットがとても重く感じる。
視線の先には、ゴナツヨの2台が連なって走っている。
「はぁ…やっぱダメやったか…」
強烈な脱力感が平家を襲う。
後方から安倍と保田が追い抜いていく。
2人とも、平家に手を振り健闘をたたえるが、平家はそれを感じる余裕はなかった。
歓声が平家の名を呼んでいるようにも感じたが、手を挙げる気力がなかった。

吉澤と石川が速度を落とし、平家に近づく。
石川が猛烈に手を振っていた。それにうなずく平家。
吉澤がメットのバイザーを上げてなにか言っていた。聞こえないよ!と首を横に振る。
手をメガホン状にして大声で叫ぶ吉澤。今度は平家の耳にかすかに届く。
「平家さん、カッケーっすよ!」
…え、かっこいい?
平家の中で、新たな感情がうまれる。
それはたちまち体中を支配していく。
平家の名を染め上げたフラッグが振られている。
それを見て、なぜか涙が止まらなくなった。
88 名前:第5戦・もてぎ-43 投稿日:2002年03月30日(土)01時24分09秒
パルクフェルメはスタッフやファンでごった返していた。
吉澤と石川、そして最後に平家がマシン止めると大騒ぎに。
疲労困憊の平家、マシンから何とか降りてスタッフの元へ。
ヘルメットのまま抱き合い、お互いを讃える。
落ち着いてヘルメットを脱ぐと、今度は吉澤と石川が笑顔で話しかける。
お互いの健闘を讃えて、3人はそれぞれがっちりと握手をする。
その様は、まるで平家が優勝したかのようだった。

優勝は吉澤ひとみ。2位には同じチームの石川梨華が入りゴナツヨは1-2フィニッシュ。
平家みちよは激闘の末に3位表彰台。もちろん、これが初めての入賞であり、表彰台だ。
4位に安倍なつみ、5位は保田圭が入った。
6位にはラストラップの最終コーナーで市井をうっちゃった後藤真希。
この1ポイントがタイトル争いでは重要になってくるかもしれない。
89 名前:第5戦・もてぎ-44 投稿日:2002年03月30日(土)01時26分19秒
表彰台で涙を隠しきれない平家。今までの苦労が脳裏によみがえる。
イギリスでの陰鬱とした日々、目標を失いかけた帰国直後。
スポンサーまわりを繰り返した夏の日、走らないマシンとチームに手を焼いた昨シーズン。
それらが報われた。ここまでの歩みは無駄じゃなかったんだ、と。

確かに、このレースでは幸運が平家に味方した。しかし、運も実力のうち。
いくら運が巡ろうか、完走しなければ結果にならないのがモータースポーツ。
戦闘力で劣るローラで逃げきっての3位は、お見事。
それだけでない。平家の鬼神迫る走りも十分に評価されるものだった。

しかし、平家としては納得していない。逃げ切れなかった悔しさもあった。
「本当はそこに立ったハズなんだから」
吉澤の足下を指さして涙声で笑う。
笑って答える吉澤だが、平家は本気だった。
90 名前:第5戦・もてぎ-45 投稿日:2002年03月30日(土)01時27分47秒
吉澤、石川、そして平家にトロフィーが渡される。
こぶしを突き上げ吠える吉澤。タイトル争いを一歩リードする勝利だ。
2戦連続で2位の石川はここまで全戦入賞している。ポイントランキングも2位に浮上。
そして今日の主役である、平家みちよ。
トロフィーを高々とささげる平家、その存在は未だに霞みもしない。
派手なガッツポーズも、叫んだりもしない。
それでも私はここにいるという存在感を強く放ちながら佇む。
歓声は止まなかった。人々は平家を忘れ去ったわけではないのだ。

平家のトロフィーが、いちばん輝いていた。
91 名前:F・娘。第5戦 ツインリンクもてぎ 決勝RESULT 投稿日:2002年03月30日(土)01時55分35秒
F・娘。第5戦 ツインリンクもてぎ 決勝RESULT
Pos. No.  DRIVER   LAP      TIME(2nd Part)    BEST
1   #6  吉澤ひとみ 34(13+21)  34'01.547     1'36.302
2   #5  石川梨華  34(13+21)    +1.914     1'36.281
3   #3  平家みちよ 34(13+21)    +3.067     1'37.257
4   #19 安倍なつみ 34(13+21)    +7.082     1'36.637
5   #11 保田圭    34(13+21)   +12.428     1'36.750
6   #1  後藤真希  34(13+21)   +21.199     1'36.546
※FASTEST LAP:#5 石川梨華 1'36.281(2nd Part18/21) 179.53km/h

DRIVER'S POINT
Pos. No.  DRIVER    POINT
1   #6  吉澤ひとみ  28
2   #5  石川梨華   21
3   #19 安倍なつみ  19
4   #1  後藤真希   18
5   #20 市井紗耶香  10
5   #55 矢口真里   10
92 名前:ミカ・ニネン ◆ueYpQzqs 投稿日:2002年03月30日(土)01時57分32秒
ということで、第5戦もてぎが終了しました。

カキコしてから気がついたのだけど、ラストのみっちゃんの言葉はちょっとちがうね(笑。
みっちゃんは中澤姐さんなんかよりも関西弁の比率が高いんだけど、標準語でしゃべらせちゃった…。
ま、大目に見てください(泣。

次回はサイドストーリーVですが、すこし時間をいただいてからにしたいと思います。
理由は私の環境の大幅な変化でございまして、はい。おかげで狩にカキコできなかったりしてるんですが。
たぶん書き込みも昼間から夕方がメインになるかと。
で、次回更新は最低でも4月4日以降になりますので、よろしくです。

ではでは。
93 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月30日(土)02時43分55秒
ミカさん、お疲れさまです。
今回の茂木、2000年のFポン思い出しちゃいましたよ。
逃げる柴原を追走する虎之介・野田・本山の3台、結局野田がスピンしたものの
あの時は、久々にレースらしいレースを観たと感動したものでした。

サイドストーリーV楽しみにしてます。
やっぱり次は中澤姐さんの話ですか?
94 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月01日(月)05時17分41秒
みっちぃの時代が来たっ!(笑

そう言えばありましたね〜、確かあれは富士でしたっけ?
トラ達の大逆転と柴原の初優勝、どっちが見たいかでものすごく葛藤した記憶が(笑

時期が時期だけに大変なのでしょうから、無理はなさらずに。
じっくりのんびりとお待ちしています。
95 名前:ミカ・ニネン ◆KA.mika2 投稿日:2002年04月06日(土)22時23分59秒
おひさです。復活!というわけではないけど、レス返しです。
…うぅ、>>92のトリップミスってる(泣。もちろん私ですよ、念のため。

>>93>>94
レスありがとうございます。
…ネタばれしてるよ(汗。
おっしゃる通り、今回のもてぎは2001年の富士のレース(確か第6戦)がベースになっております。
逃げる柴原に追うトラと本山、私も夜中に中継見ながら興奮してました。
すごく印象深いレースで、その時の緊張感を少しでも再現できればと思って書いたのですが…。
全然ダメでしたね。もっとうまく書けるようになりたいです。

次回のサイドストーリーは残念ながら中澤姐さんの話でないです。
予定としては、”GMの影に怯えるYH、その過去には何があったのか!?”みたいな話です。
以前に話題になったデルタが絡む話はこのさらに先、最終戦前のサイドストーリーの予定です。
で、姐さんの話は最終戦の後に、番外編みたいにしようと思っています。
しかし、パリダカネタは書けなくなったのでどうしようか思案中(泣。

ということで、これからもよろしくです。
96 名前:ミカ・ニネン ◆KA.mika2 投稿日:2002年04月06日(土)22時30分35秒
>>93さんの言う通り、2000年のレースでした…。
逝ってきます…じゃなくて頑張って今晩か明日の晩に更新するんでご勘弁を。
97 名前:サイドストーリーV-01 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月07日(日)18時09分34秒
秋の気配が色濃い9月下旬の週末。
富士スピードウエイに無数のエンジン音がこだましていた。
といっても、行われていたのはF・娘。ではなく全日本GT選手権。

F・娘。などのフォーミュラーレースと違い、市販車を改造したマシンで行われるのがGT選手権。
身近に走るクルマに近いマシンがレースをするので、こちらも人気の高いレースである。
GTの場合はフォーミュラーと異なり、1台を2人のドライバーで運転するシステムを取っている。
このあたりはレースの争点がクルマなのかドライバーなのか考え方の違いによるもの。
GTは、どちらかというとクルマに重きをおいたレギュレーションになっている。
とはいえ、GT選手権でもドライバー無しでレースはできない。
レーシングドライバーは無限にいるわけでない。人気と実力を兼ね備えているドライバーなら、なおさら。
よって飯田や矢口、保田などF・娘。と掛け持ちするドライバーは当然出てくる。
ピットでNSXの整備を見守る石川も、掛け持ち組の一人であった。
98 名前:サイドストーリーV-02 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月07日(日)18時11分17秒
奇妙なことに、石川のいるピットにはほかに保田と小川、そして吉澤がいた。
マシンは1台なのになぜ倍の4人ものドライバーいるのか?
それにはちょっとした理由があった。

このチームの本来のペアは石川梨華と保田圭だった。
しかし、このレースの直前に保田がスピード違反で免停を喰らい、出場停止になってしまった。
そこで白羽の矢が立ったのは、今シーズン好調で石川とも仲の良い吉澤ひとみだった。
しかし、フォーミュラーに重点を置く吉澤はこれをいったん断る。
続いてチームはスポンサーの関係が深い小川麻琴にオファーを出し、小川も了承する。
が、その後に吉澤がぜひ乗りたいと返事を翻したのだった。
チームとしては吉澤に乗ってほしかったが、エントリーが間に合うかわからなかった。
そのため、小川と吉澤はドライブできるかどうかわからないまま富士へ来ることになった。
最終的には手続きが間に合わず小川がドライブする事になり、吉澤は応援団となったのだが。
週末にする事もなくチームのパドックに顔を出した保田、一部始終を聞いてあきれ顔。
問題の根元は自らの交通違反からなのを忘れて。
99 名前:サイドストーリーV-03 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月07日(日)18時14分03秒
とはいえ、石川はどこでも吉澤にべったり。
一方の小川は若手で経験不足もあり、緊張気味だった。
保田が緊張をほぐそうとするも、小川はさらに恐縮するばかり。
見かねた保田、石川を咎める。吉澤も気を使って小川を話の輪に引き入れる。
しかし、ぎこちない小川。曖昧に笑顔を作り、様子をうかがうように相づちを打つ。
そのとき、しばらく小川を見ていた吉澤が急に口を開く。
「う〜ん、このNSXはシャクレ2号だね!」
はずかしそうに笑い出す石川、呆気にとられる小川、保田は首を傾げる。
「やめてよぉ、ひとみちゃん。それはF・娘。だけにしておいて」
「いいじゃん。まこっちゃんもちょっとシャクレっぽいしさ」
そうかも、と納得する石川、とっさにあごを押さえる小川、保田はさらに首を傾げる。
100 名前:サイドストーリーV-04 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月07日(日)18時15分30秒
ほぼ1年ほど前の話のこと。
チームスタッフの中でちょっとしたゲームが余興として行われるのは、よくあること。
そのゲームにドライバーも参加することも珍しくはない。
あるとき、F・娘。のレースウィーク初日に行われたゲームも吉澤が参加した。
しかし、吉澤は大敗して罰ゲームを命じられる。
それはある言葉を書いた紙を石川のマシンに張り付けるというものだった。それも決勝直前に。
悩む吉澤。しかし勇気を出して罰ゲームを実行する。

その日曜日のレース、決勝スタート直前。
石川はマシンに何かが張られているのに気がつく。
なにか文字が書かれているようだ。目を凝らす石川。
「えーっと…シャクレ号by石川梨華?!」
石川が密かに気にしていたことを露骨に書かれて怒る石川。
しかし、スタートは間近。手は届かないし、スタッフは他の作業が忙しい。
結局そのままスタートするしかなかった。
101 名前:サイドストーリーV-05 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月07日(日)18時17分20秒
が、石川はこのレースで初入賞を果たす。
ゴールすると当初の怒りはどこへやら、上機嫌の石川。
犯行を告白した吉澤ですら、逆に石川に礼を言われる始末。イタズラが好意的に解釈されて戸惑う。
それだけでない。止まらない石川はそれをジンクスとしたのだ。
いまでもマシンを”シャクレ号”と名付け、堂々と記入もしている。
さすがに1年も続けると知るところも増える。ファンの間でも知れ渡っているほどだ。
結果が良ければそれで良いのかよ、とあきれる吉澤。
もっとも、ジンクスなんてそんなもんだ。
吉澤だってレース前はベーグルとゆで卵のみというジンクスを持っているのだ。
102 名前:サイドストーリーV-06 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月07日(日)18時19分55秒
顛末を知った小川、いいなぁなんてつぶやく。それを聞いて保田があきれる。
ふと気づくと、石川はコクピットで何かごそごそしている。
そっとのぞき込んでため息をつく保田。
「どうやら石川は本気らしいわ。シャクレ2号って…」
さっきは拒否したじゃんか!とつっこむ吉澤。
あきらめて笑い出す小川。ついていけないわ、と見放す保田。

しかし、思いこみとは恐ろしい。
この後の予選で、石川・小川ペアは2位を獲得してしまう。
マシンに乗せているウエイトハンディを考えると驚異的な順位だった。
…どうやらNSXは”シャクレ2号”に確定したらしい。
103 名前:サイドストーリーV-07 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月08日(月)10時42分55秒
その夜、一緒に夕食をとる石川と吉澤。
「よっすぃはさ、なんで急に乗るって言い出したの?一回は断ったのに」
石川がもっともな質問をする。
「いや、ほら、GTのレースに出られるのは良い経験になるなーと思って」
「だったら初めから乗るって言えば良かったのに」
取り繕うとする吉澤だが、核心を突いた言葉に反論できなくなる。
視線をあちらこちらに動かし、頭をかいたり水を飲んだりして言い訳を考える。
そのあわてぶりを楽しんだ後、石川は冷たく言い放つ。
「やっぱさ、ごっちんでしょ」
その言葉にとどめを刺されたか、吉澤は観念したようにうなずく。
「やっぱり。そんなことだろうとは思ったけど。
ごっちんのエントリーが発表された直後だったからねぇ」
104 名前:サイドストーリーV-08 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月08日(月)10時44分09秒
後藤も、吉澤や安倍と同じくGTには参戦していなかった。
しかしこのレースでは直前に帰国したダニエルの代役として、後藤がエントリーしていた。
吉澤が乗りたいと意を翻したのは、後藤のエントリー発表直後だった。
仲の良い石川、吉澤のことはお見通しである。すぐに気がついた。
後藤真希と闘えるのなら乗りたい、と吉澤が思ったことを。

吉澤の後藤に対する執着というか、コンプレックスは、かなり大きい。
今シーズンの開幕戦、後藤が背後に迫った130Rで簡単にスピンしてしまったこと。
第2戦のもてぎで後藤がリタイヤした直後からペースがガタガタになったこと。
この2つはレース中に起きた周知されている出来事。
が、予選や練習走行ではもちろん、そして細かなことになるともっとある。
吉澤は認めていないが、石川ははっきりわかっていた。

しかし、一つだけわからないことがある。
なぜ吉澤ひとみは、後藤真希に執着するのか?
105 名前:サイドストーリーV-09 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月08日(月)10時46分01秒
今まで何度となく疑問に思ったそのこと。
しかしそれとなく聞いても吉澤ははぐらかすばかり。
いつしか、石川も強引に聞き出すことは避けていた。
でも、今回のごたごたは許せなかった。今日こそは聞き出そうと決意する石川。
「ねぇねぇ、よっすぃてどうしてごっちんの事にこだわるの?」
「…ごっちんがかわいいから」
「…」
「カッケーよね!」
「…」
「憧れのひとなんだよ…」
「…真面目に答えてよ」
むくれて冷たく言い放つ石川に、吉澤は固まる。
106 名前:サイドストーリーV-10 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月08日(月)10時47分55秒
しばらくの沈黙。レストランの穏やかなBGMだけが2人の間を支配する。
意を決して、吉澤が口を開く。
「隠すほどのことじゃないから…梨華ちゃん、笑わないよね」
「もちろん。なんで笑うの?」
「いや、何となく。そんなに大した事じゃないし、恥ずかしいじゃない」
「大丈夫、いつもちゃんと聞いてるじゃない。大体いつ私がひとみちゃんのことを笑ったの?」
「そうだね」
それだけ言って、吉澤は視線を遠くへと移した。
107 名前:サイドストーリーV-11 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月09日(火)11時00分04秒
  ◇◇  ◇◇  ◇◇  ◇◇  ◇◇  ◇◇

私は小学校のとき地元のサーキットを訪れて、そのときに初めてカートに乗ったの。
で、自分で言うのもアレなんだけど速かったらしいのね。
居合わせた常連さんが落ち込むぐらいに。それからサーキットの支配人に気に入られてね。
よく通った。というより通わされたんだけど。
レースにも出たよ。負けたこともあったけど、勝つほうが多かったと思う。
雑誌の取材も受けたし、テレビの撮影で芸能人と一緒に走ったりしたこともあった。
ま、それは関係ないんだけどね。
しばらくすると私の事を援助してくれる人とかも出てきててね。
本格的に始めたのが中学1年のときだったね。
そのうち、いつまでも地元のコースだけじゃなくて、ってのは自然な話だよね。
でも、私としてはとっても嫌だった。よく覚えていないけど嫌だったんだ。
今思うと、違うコースで勝てる自信がなかったのかもしれないし、
知らない人と一緒にレースするのが怖かったのかもしれない。
結局、中学生のわがままなんて大人の期待の前には無力だから、渋々遠征に出たのよ。
初めて地元以外のコース走りに行ったんだ。
108 名前:サイドストーリーV-12 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月09日(火)11時00分47秒
向かったのが千葉県のサーキット。
同じ歳くらいのすごい上手な女の子がいるって聞いてた場所だったんだ。
私としてはあんまり意識してなかった。ふーんそうなんだ、って感じだったね。
見た目も普通の中学生って感じで。聞けば同じ学年だってことでなんかうれしかったのを覚えてる。
もっとも髪だけは金髪だった。そのせいもあるだろうけど彼女のまわりの雰囲気が何か違ったの。
ピリピリしてるっていうか…本人が笑いながら話していても変わらなかった。

ヘルメットかぶると金髪は見えなくなるのに、雰囲気はもっと強くなって。
でも、それに怯えるとかじゃないよ。少なくとも何も影響されてないつもりだった。
…だったけど、そう思いこんでる時点で、そのときにすでに負けてたんだと思う。
109 名前:サイドストーリーV-13 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月09日(火)11時01分54秒
初めはフリーで走ってタイム計測したんだけど、まずラップタイムで勝てなかった。
私のタイムも悪くなかったんだけど、彼女がダントツだった。
レースになると、もっと差がついた。惨敗だったの、彼女に。
スタートで前に出たけど、すぐに抜かれてそれでおしまい。付いていけなかったもの。
終わっても、私なんか相手にしてないって感じの立ち振る舞いで。
そのとき、初めてレースで負けて悔しいって感じた。
それまでは悔しくなかったし、それにあんまり負けなかったからね。

まぁ、もうわかると思うけどそれがごっちんだったんだ。
そのときはごっちんって呼んでなかったな。マキちゃんだったかな?
もっとも私だってヒトミちゃんって呼ばれていた気がする。
そのころの私は走りなんて見てわからなかったけど、ごっちんの走りだけはすごいなって感じた。
110 名前:サイドストーリーV-14 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月09日(火)11時02分54秒
その後、何回かそのサーキットに行ったよ。
もちろん、ごっちんにリベンジするために。
でも、その後は1回も一緒にならなかったんだ。ちょうどごっちんが遠征してたりしてね。
その度に負けたときのことが蒸し返されて、悔しさが積もっていったのを覚えてる。
いつか、いつか絶対に負かしてやる!って。
でもなかなか対戦できなかった。
FJ1600にステップアップしたのは同じ頃だったけど、ごっちんは筑波で私はもてぎのシリーズだった。
当然、関わりはなくて。その後もごっちんがフォーミュラー・トヨタ、私がSRS-Fだから離れていく一方。
結局、同じフィールドで戦うのは、その後のF3まで叶わなかったんだ。
111 名前:サイドストーリーV-15 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月09日(火)11時04分45秒
私がF3に上がった年は、例年にも増して注目されてたみたい。
それは、”カミソリ後藤”と”天才的に速い”私が初めてエントリーしてたかららしい。
でも、私は体制が整わなくて序盤はレースを欠場することになって。
その間にごっちんは速さを見せて、異例のF・娘。への抜擢を受けた。
結局、F3でごっちんと戦ったのはわずか2レース。それも両方とも私の負けだった。
…とっても悔しかったね。
そのとき、絶対、F・娘。に上がってやるって決めた。
112 名前:サイドストーリーV-16 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月09日(火)11時05分43秒
その後はいい成績出せて、なんとかF・娘。にも参戦できることになった。
梨華ちゃんと出会ったのはその頃なんだけど。ま、昨年のことは話さなくてもわかるよね。
2人ともめちゃくちゃで、思い出したくないだろうから。
それに比べると、今年の好調はホント自分でもびっくりしてるくらいなんだ。
ごっちんと勝負できるだけで幸せ…って言い過ぎかな。

そんなわけで、やっぱりごっちんを意識しちゃうところがあるんだ。
負けたくないって気持ちと、かなわないって負けを認めちゃう狭間で自分を見失っちゃうんだ。
…ダメダメだよね、私。
113 名前:サイドストーリーV-17 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月12日(金)10時14分17秒
  ◇◇  ◇◇  ◇◇  ◇◇  ◇◇  ◇◇

吉澤が独白している間、石川は吉澤の横顔をじっと見つめていた。
話に割り込む事の多い石川だが、このときは相づちもせずに真剣に聞いていた。
言葉が終わってうつむいている吉澤に、石川は声をかける。
「全然恥ずかしいことじゃないよ。みんなそういう相手っているよ」
「…そうかなぁ」
「私だって、矢口さんに負けたくないって一心でここまで来たんだから」
「そうなの?」
石川と矢口の出身地が近く仲が良いことを知っていた吉澤だが、それは初耳だった。
「湾岸走ってたとき、全然矢口さんにかなわなかったの。すごく悔しくて、一生懸命追いかけた。
なかなか追いつかなかったけどね。
でも、それがあるからここまでやってこれたと思ってる」
114 名前:サイドストーリーV-18 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月12日(金)10時19分05秒
胸を張る石川。吉澤は石川がちょっとだけ年上なのを思い知らされる。
「よっすぃも、ごっちんをライバルだって認めるの。勝っても負けてもライバル。
それで、ずっと追いかけて、いつか追い越せばいいんだよ」
顔を上げる吉澤。その目は、好調のときの輝き。
「だからさ、次も頑張ろ。ごっちんに勝てるように」
「うん。ごっちんを負かして、それにチャンピオンも決める!」
吉澤の言葉に力がこもる。吉澤は次のレースで優勝すればタイトルが決定する。
「私だってチャンピオン狙ってるからね。よっすぃでも譲らないよ」
笑う石川に、吉澤がハッとする。
そっか、梨華ちゃんもタイトル争いのライバルなんだ、と改めて思う。
優勝こそ無いがここまで手堅く稼いでランキング2位の石川。
この状況なら誰だってチャンピオンを狙うだろう。

2人の笑顔の間に、微妙な距離が生まれていた。
115 名前:サイドストーリーV-19 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月12日(金)10時42分14秒
翌日の決勝レースも快晴。
フロントロウに並ぶマシンに不安げな小川が収まる。
石川は”私、スタートが苦手だからぁ〜”などと難癖をつけて勝手に順番を決めていた。
その後方には石川とタイトルを争っている中澤・飯田組や注目の信田・後藤組などが控える。

石川とともにピットでスタートを見守る吉澤。
さすがに自分のマシンのスタートは気になる石川、真剣な眼差しでモニタを見つめる。
GTはローリングスタートである。ストレートに戻ってきたマシンの列は加速してスタートが切られる。
小川はまずまずのスタート。飯田がスターティングドライバーのスープラは遅れる。
注目の信田・後藤組のスープラは信田が好スタートを決めて、飯田の前に出る。

レースはそのまま着々と進行する。
大きなアクシデントもなく中盤を迎える。そろそろピットが騒ぎ出す頃だ。
このころペースの落ちてきた信田と、追い上げたい飯田が接近していた。
ピット作業が近いが、前に出たい飯田。なんとか守りたい信田。
お互いのプライドがぶつかり合う。
116 名前:サイドストーリーV-20 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月12日(金)10時44分11秒
その代償は大きかった。
絡んだ2台はグラベルへ一直線。
タイヤバリアに接触した信田のスープラは損傷がひどく再走できそうにない。
これで後藤は決勝でドライブする機会を失ってしまう。
このアクシデントにスタンドは大いに落胆。
後藤の初GTドライブを目当ての観客も少なくなかったのだ。

一方の飯田も何とか復帰するが、大幅に遅れる。
これでポイント圏外に落ちてしまうスープラ。タイトル争いでも痛い後退だ。

その数周後、完全にモードを切り替えた石川が小川と交代。
初めてのGTマシンドライブに疲労困憊の小川、出迎えた吉澤の胸に倒れ込む。
小川の頑張りで上位につける石川組のNSX、ここで中澤・飯田組を突き放したい。
石川、渾身の走りでタイムを刻む。
117 名前:サイドストーリーV-21 〜吉澤ひとみの執着〜 投稿日:2002年04月12日(金)10時47分03秒
チェッカーフラッグが振られ、レースが終わる。
石川・小川組は3位表彰台を獲得した。同時にGTのタイトルにも王手をかける。

6人がかりの表彰台は大いに盛り上がる。
2位の矢口と稲葉が石川をシャンパンの集中砲火を浴びせる。
逃げまどう石川、さらに追いかける矢口。
彼女らが表彰台ではしゃぐところは、なんとなく微笑ましい。
シャンパンに滑って転ぶ石川に、笑いの渦が巻き起こる。
吉澤も笑いをこらえきれない。

ふと、視線を感じて振り返る吉澤。
その視界には、石川を見つめる私服の後藤が。
F・娘。のタイトル争いを思い出す。
ここにいる後藤真希と石川梨華、そして安倍さんと私。その4人がチャンピオン候補。
2週間後の鈴鹿のレースに向けて気を引き締める吉澤。

この手でタイトルを獲ってやる、と。
118 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年04月12日(金)11時47分02秒
いしよしーく万歳ってことで、更新です。
今更って感じですが、サイドストーリーが伏線になってるのは秘密です(笑。
…だから、この後の第6戦鈴鹿では吉澤と(略

最近はちょっとスランプ気味で、ただでさえ駄文なのにさらに進まない状態でして。
今回のお話も満足いってません。
実際のシーズンが始まってモチベーションが落ちてるってのもあるんですが(笑。

それと、どーでもいいことですが年齢について。
実際の年齢のままだと運転免許取れない人続出なので、全体的に上を想定しています。
日本の実状だと+10歳でちょうどいいんですが、それじゃ夢がない。
+5歳でもいいけど、下がちょっと若すぎるので+6歳にします。
…にしても新垣は1988年生まれって、セナの初タイトルの年じゃんか(汗。
若いなぁ…
119 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年04月12日(金)11時51分45秒
あ、あとサイドストーリーVは21で終了です。
って終わりとか書けよな、自分。

それから、他の作品を参考にショートカット作ったので、よろしかったらどうぞ。
次回の第6戦鈴鹿はまた少し開いてしまいますが、ヨロシクです。

ではでは。

<ショートカット>

>>5-34  サイドストーリーIV 〜平家みちよの闘い〜

>>2-3  〜前半戦ダイヂェスト〜

>>36  第4戦終了時点のポイントランキング

>>100  エントリーリスト(第5戦)

>>38-91  第5戦・もてぎ

>>97-117  サイドストーリーV- 〜吉澤ひとみの執着〜

前スレ(緑板)のショートカットはこちら↓
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=green&thp=1007830858&st=276&to=276&nofirst=yes
120 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年04月16日(火)17時29分23秒
春コン行きたいけど、金穴で行けそうにないなーとしょぼくれる今日この頃、
みなさんはいかがでしょうか?

第6戦の目処がようやく立ったので、今週の終わりか来週には更新できると思います。
…って待ってる人いないだろうけど、一応告知しておきますね。

シリーズも残り2戦、タイトル争いから目が離せないぃ!!
121 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年04月16日(火)17時38分25秒
>>119のショートカット集ですが、エントリーリスト(第5戦)が間違ってるので下のを使って下さい。

<ショートカット(訂正後)>

>>5-34  サイドストーリーIV 〜平家みちよの闘い〜

>>2-3  〜前半戦ダイヂェスト〜

>>36  第4戦終了時点のポイントランキング

>>37  エントリーリスト(第5戦)

>>38-91  第5戦・もてぎ

>>97-117  サイドストーリーV- 〜吉澤ひとみの執着〜
122 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年04月20日(土)23時05分46秒
なんか暑いのか寒いのかよくわからん気候がいやーんな今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?
といっても過去ログとかになったらすげーマヌケなんだろうな、この文(笑。

私自身は恋レボ21聞きながらバイク乗ってる時に思わず”ホイ!”をポーズ付きで叫んでしまい、
加えて道端の女子高生集団と目があってすんごく気まずくなり、
転けそうになるという愉快な日々を送っております。

ということで、F・娘。第6戦鈴鹿、この後更新です。
123 名前:第6戦・鈴鹿-01 投稿日:2002年04月21日(日)00時34分10秒
シーズンが終わりに近づき、F・娘。もいよいよ残り2戦となった。
第6戦は開幕戦と同じく、日本モータースポーツ発祥の地である鈴鹿サーキット。
F1日本GPでも知られる屈指のドライバーズサーキットである。
前半のテクニカルセクションと後半の高速セクションからなるレイアウトは難易度が高く評判も良い。

また、そろそろ来期の事が気になる時期だ。ここまで好調なドライバーはその波を維持したい。
結果が出ていないドライバーもシーズンの終わりを好成績で締め、来期への弾みとしたいところ。
保田の免許停止も解け、今回も前回と変わらない21人がエントリーしていた。
124 名前:第6戦・鈴鹿-02 投稿日:2002年04月21日(日)00時36分05秒
佳境に入ったタイトル争いを確認しよう。
ランキングトップは前戦で劇的な逆転で今期2勝目をあげた吉澤ひとみで、28ポイントと頭一つリード。
その吉澤を追うのは、石川梨華(21ポイント)、安倍なつみ(19ポイント)、
そして後藤真希(18ポイント)の3人。
事実上、タイトル争いはこの4人に絞られたといっていいだろう。

現在10ポイントの市井と矢口にも可能性は残っているが、かなり低い。
市井らのタイトル獲得の条件は残りを全勝、かつ上位ドライバーの結果次第という状況。
加えて、市井の場合はチームメイトの安倍が上位につけるために断念すると見られていた。
一方の矢口は小さな身体いっぱいに闘志をアピール、諦めないとコメント。
最後まで何が起きるかわからないのがレース。
あきらめなければ幸運がまわって来るかもしれない。
125 名前:第6戦・鈴鹿-03 投稿日:2002年04月21日(日)00時37分17秒
ポイントでリードしている吉澤はタイトルに王手をかけた状態にある。
第6戦終了時に吉澤が11ポイント以上の差をつければタイトル決定だ。
具体的にはこのレースで吉澤が優勝した場合。この場合は石川らの順位によらず決定する。
また吉澤が4位以上でも、ランキング2位以下のドライバーの順位によっては決定の可能性がある。
どちらにせよ、吉澤が有利な状況にあるのは変わりない。
さらに、もてぎでのゴナツヨのマシンの出来を考えると、優位は揺るがなそうだった。

このまま吉澤が逃げ切るか。あるいは、誰かが待ったをかけるか。
特にポイントで追いかける石川、安倍、後藤の動向が注目を集めていた。
126 名前:第6戦・鈴鹿-04 投稿日:2002年04月21日(日)00時44分18秒
そのタイトル候補を擁するチーム・フィラとチーム・ナカザワ、ともに手を打ってきた。

チーム・フィラは後藤真希のドライバーズ・タイトルの獲得を第一とする、とリリース。
フェラーリのような”チームオーダー”の発令である。
これはセカンドドライバーの高橋愛が自身の順位より後藤の援護を優先することを意味する。

また、タイトル争いで3位につけている安倍のチームメイト、市井紗耶香も援護を表明。
監督の中澤によればチームの意向ではないというが、フィラとあまり変わらないものと思われる。

こうしてチーム・ゴナツヨ、あるいは吉澤ひとみ包囲網が出来つつあった。
127 名前:第6戦・鈴鹿-05 投稿日:2002年04月21日(日)00時45分53秒
そして吉澤にとって最大の障壁となりそうなのが、石川梨華。
前戦もてぎでは共通の目標のために順位キープのオーダーを出したゴナツヨ。
しかし、今回はドライバーの順位にオーダーを出さないとの方針を発表する。
これを受けて、ラインキング2位の石川もタイトル獲得を目指していることを宣言した。

この煮え切らないチームの態度に、様々な噂が飛び交う。
2人の所属ドライバーが上位に付けているために決められないのか、
あるいは契約にドライバーに差を付けないという条項があるのか、理由は定かでない。

しかし、その話題は当事者にはあまり関係ないことだった。
どちらにしろ、同じチームで同じチームというお互いに手強い存在となることに変わりないから。
128 名前:第6戦・鈴鹿-06 投稿日:2002年04月21日(日)00時52分00秒
次代を担うルーキーたちの戦いも熱い。
今期からF・娘。に参戦したルーキーは、松浦亜弥、高橋愛、紺野あさ美、小川麻琴、新垣里沙の5人。

関係者の評価が高いのが松浦。昨年の全日本F3チャンピオンであり、マカオF3にも出場した実力派。
第4戦美祢でのファステストラップを筆頭に、速さでは文句なくミスも少ない。
が、マシントラブルに足を引っ張られる事が多く、入賞は果たしていなかった。

ポイントでは唯一高橋が2ポイントを獲得してリード。
しかし、このレースから後藤への援護にまわるためこれ以上のポイントは望めないだろう。

シーズン初めは多重クラッシュの原因になるなど逆の意味で目立っていた紺野。
前のもてぎではそこそこのタイムを刻み、汚名を払拭しつつあった。
多かったミスもここに来て減っており、成長が伺える。
129 名前:第6戦・鈴鹿-07 投稿日:2002年04月21日(日)00時55分03秒
影の薄い感のある小川だが、安定感のある走りは評価が高い。
課題はマシンセッティング。セッションでタイムが上がっていくテンポが遅いのだ。

最年少ドライバーである新垣は、アグレッシブな走りが目を引く。
が、レースではそれが裏目に出ることが多く結果に結びついていない。
スポンサーがらみで噂になった新垣だが、パフォーマンスは及第点といったところか。

ここまで松浦と高橋以外は今一つな感じのある今年のルーキーたち。
それでも、時折光るところを見せており期待はできるだろう。
それに、今シーズン大活躍の吉澤と石川だってルーキーだった昨シーズンは低迷していた。
彼女たちのように、この先大化けするかもしれない。
130 名前:第6戦・鈴鹿-08 投稿日:2002年04月21日(日)00時57分05秒
秋の太陽の下、スタートにむけて各車がグリッドに着く。
タイトルを争う4人が上位のグリッドを占めた。
ポールポジションは吉澤ひとみ。タイトルを狙うのに最高の予選順位だ。
前回の逆転優勝の勢いをそのまま持続している感があり、本人も落ち着いている。
その隣2番手グリッドには昨年のチャンピオンである後藤真希。
このところ堅実な”らしくない”レースでポイントを重ねた後藤。得意な鈴鹿で優勝を狙う。
3番手グリッドは2年ぶりのタイトルを狙う安倍なつみ。
新型ウィングに手を焼いたが、予選までにまとめて3位を獲得。タイトルのためにも勝ちたい。
石川梨華は4番手グリッド。吉澤が注目されているが、石川だって負けていない。
マシン開発に関しては自負があるし、前のもてぎではファステストを記録。自信を持ちつつあった。
まだ優勝がない石川、タイトルのためにも勝ちたい。緊張の中で闘志を燃やす。
131 名前:第6戦・鈴鹿-09 投稿日:2002年04月21日(日)00時58分39秒
5番手にはこのところ好調な松浦、6番手は後藤をサポートする高橋とルーキーが並んだ。
安倍を援護すると表明した市井は7番手、8番手には保田と続く。
微かなタイトルの可能性を残す矢口は9番手と遅れた。
前回表彰台の平家は自己最高の予選結果となる14番手。
ルーキーの小川、紺野、新垣はそれぞれ15、17、20番手という予選結果だった。

週末を通じて好天に恵まれたレース、決勝日も予報は快晴。
晴れ上がった鈴鹿の空にエキゾーストを響かせて、フォーメーションラップがスタート。
タイヤを暖めながら各車が周回してグリッドに戻り、緊張のスタートを迎える。
132 名前:bagel_love 投稿日:2002年04月21日(日)05時35分53秒
おおっ!ついに始まりましたね第6戦
ゴナツヨはジョイントNo1体制ですか。

サイドストーリーの1や5の前フリどおりの展開ですね。
続き楽しみに待ってます。
133 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年04月23日(火)00時34分27秒
>>132 bagel_love さん
継続して読んで頂いてありがとうございます。
そーなんですよ。ジョイントNo.1体制なんですよ、ゴナツヨは。
それがどうなるかは…(略

で、さらにフィラとナカザワ、それぞれのチームが…(略

なんかネタばれの略ばっかですみません。
第6戦、このあと更新です。
134 名前:第6戦・鈴鹿-10 投稿日:2002年04月23日(火)00時37分12秒
サーキットが静まり、全員がシグナルに集中する。
緊張が頂点まで高まり、空気が堅くなる。
グリーンシグナルが灯り、緊張がはじけるのとともに各車がスタート。
動けないマシンはなく、全車が一斉にグリッドを離れる。
好スタートを決めた安倍が吉澤の前に出る。
吉澤も譲らない。インからアウトへマシンをよせて安倍を牽制する。
しかし、その直後につける後藤がよく見ていた。あいた右へ飛び込む。
そのまま、1コーナーでインを取り先頭を奪取する。それに続くのは吉澤。
塞がれて理想的でないアウトのラインをとった安倍は、迫っていた松浦と石川にもかわされて後退。
後方は混乱無く1コーナーをクリアしていく。
落ち着いたレース展開を予感させるレースの始まりだった。
135 名前:第6戦・鈴鹿-11 投稿日:2002年04月23日(火)00時39分29秒
ここ鈴鹿を得意とする後藤が、リードを築くべくハイペースで飛ばしていた。
それを追うのはタイトルに王手をかけている吉澤。この2台が早くも抜け出していた。
そこから少し離れて好スタートで前に出た松浦、石川、安倍の3位集団が続く。
安倍と石川は松浦をかわして早く先頭を追いたい。3台の間隔が狭まる。
だが、この日の松浦は好調だった。ストレートが伸びて他車は追いきれない。
石川が何度かアタックするものの、どれも松浦が守りきる。
それを後方から観察する安倍は早くも作戦の変更を考えていた。
136 名前:第6戦・鈴鹿-12 投稿日:2002年04月23日(火)00時42分06秒
「監督、あれ見てください」
声に振り向く中澤。スタッフの示す先はフィラのピットウォール。
「高橋のサインボードですけど、表示が…」
ちょうど高橋が最終コーナーを立ち上がってきて、それにあわせピットサインが提示される。
ピットサインは普通、残り周回数やポジション、そして前や後ろとの間隔などを表示するもの。
しかし、高橋のピットサインははるか前の吉澤とのタイム差を表示していた。
その数字の意味するところは…。中澤はそれを考えて苦笑いする。
「なるほどなぁ。そこまでするか」
スタッフが不審そうに聞く。
「監督、うちはやらないんですか?」
「んなことするかぁ。レースの展開はドライバーにまかせる」
「でも、市井さんだって安倍さんのタイトルに協力するって…」
「市井はプライドの高いドライバーやで。そんなこと指示しても無視するのがオチや」
ドライバーなら誰でも従いたくないやろうな。高橋だって渋々従ってるんやろ。
心の中でつぶやく中澤。この先の展開を考えると複雑な心境になる。
「…荒れるかもな」
137 名前:第6戦・鈴鹿-13 投稿日:2002年04月23日(火)00時43分47秒
レースが落ち着き始め、先頭が4周目の130Rに差し掛かろうとした時だった。
スプーンの進入で突然バランスを崩すマシンがモニタに映る。
不自然な動きを見せたそのマシンは、砂煙を上げてグラベルで止まる。
砂埃の中でマシンから降りた小柄な人影は、矢口だった。
これで矢口のタイトルは、完全に無くなった。

シーズン序盤は好調だった矢口だったが、第3戦のエンストから流れを失った。
美祢ではギアトラブル、前のもてぎはフライングでレースを失った。
今回も右のフロントホイールが割れるという信じられないトラブルでコースアウト。
運に恵まれなかったシーズン、と片づけるにはつらい幕切れだった。
ファンが悲鳴を上げる。スタンドの声援に元気よく応える矢口の姿が、逆に痛々しい。
138 名前:第6戦・鈴鹿-14 投稿日:2002年04月24日(水)00時10分04秒
先頭で逃げる後藤を追いながら、吉澤は舌を巻いていた。
もてぎではアドバンテージがあったゴナツヨのマシン。
しかし、わずか一月足らずの間に他のチームが進歩したのか。
あるいは新型パーツが鈴鹿ではそれほどの効果を発揮しないのだろうか。
どちらにしてもゴナツヨのマシンが持っていたリードが、ここ鈴鹿では小さくなっていた。
130Rを立ち上がる2台。そのままシケインへ一直線に加速していく。
「とりあえず、ごっちんについていかなきゃ…」
それだけど確認すると、強烈な減速Gに耐えるべく首の筋肉を締めてシケインへアプローチ。
ホームストレートにあらわれた2台は、変わらぬ間隔を保っていた。
139 名前:第6戦・鈴鹿-15 投稿日:2002年04月24日(水)00時11分48秒
松浦と石川がついに接近戦を始めた。
もてぎでは新型ウィングのおかげでアドバンテージを得たゴナツヨ。
ファステストラップを刻んだ石川も自信をつけていた。
しかし、ここ鈴鹿ではその優位も小さくなっていた。

松浦の所属するチーム、ケン・マツウラはF3の名門チーム。
往年の名ドライバー松浦謙が興したチームで、すぐに成績を出して評価を上げた。
その名門がオーナー兼監督である松浦謙の愛娘亜弥ともにF・娘。に挑戦したのが今シーズン。
ここまで成績は残せていないが、何もしていないわけではない。
今回はマシンに改良を加えて来たし、事前のテストでもしっかりマシンを仕上げていた。
その成果は現れていた。松浦の走りが生き生きしている。
ドライブする松浦も波に乗っている。石川は抜きにかかるチャンスすらつかめない。
140 名前:第6戦・鈴鹿-16 投稿日:2002年04月24日(水)00時13分35秒
その後方の安倍には2台の動きを見る余裕があった。
石川が懸命にアタックするも、松浦はスキを見せない。
その影響でラップタイムが上がらない2台。それに引っ張られて安倍のペースも上がらない。
先頭を逃がしたくないが、そのためには目の前の2台が邪魔。
かといって、安倍も抜くのには手こずりそうだった。
安倍は作戦の変更を決断し、無線でピットに提案する。
少しの間が開く。おそらく周りの状況を確認しているのだろう。
ピットからの返答が来る。それも中澤が直々にだ。
「ええで、その作戦のった! いつでも来いや!」
中澤の威勢のいい声に、元気づけられる安倍。
141 名前:名無しさん@超真矢 投稿日:2002年04月25日(木)01時24分34秒
なっち動きますか・・・これが吉とでるか凶とでるか
142 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年04月25日(木)23時54分01秒
>>141 名無しさん@超真矢 さん
レスどうもでし。
先に動いたなっち…どうなるかは、言えませんて(笑。

この後、更新予定です
143 名前:第6戦・鈴鹿-17 投稿日:2002年04月26日(金)00時08分10秒
6周目、安倍がピットロードに入った。
早すぎるピットタイミングに、他チームの注目が集まる。
ピットの方も準備が整っているから、緊急のピットインではなさそうだ。
ピットエリアに寸分も違わず停止する安倍のマシンに、ピットクルーが取り付く。
金・土曜日と練習を繰り返していたチーム・ナカザワ。練習通りに素早い作業を行う。
ミスはない。フィラ並の迅速さで安倍をコースへ送り出す。

安倍が復帰した場所は、5秒前に高橋が走行しているところ。
すなわち前方との間隔があり、安倍は自分のペースで走れるのだ。
早速ペースを上げる安倍。ピットインの翌々周には早くもファステストを刻む。
まさに狙った通りの展開で、安倍の思惑はとりあえず成功したように見えた。
144 名前:第6戦・鈴鹿-18 投稿日:2002年04月26日(金)00時09分59秒
中澤は作戦の第一段階が成功したことに安堵していた。
松浦と石川のバトルでペースが上がらない状況から脱するべく考えた作戦。
しかし、予選で後方スタートになった場合など、レースの序盤でピットインを済ますという選択肢もある。
単独走行でペースアップを狙い、後方から追い上げるのだ。
それを考慮すれば、安倍の考えた作戦も決して唐突なものではない。

とりあえず、安倍が復帰した場所は空いていてペースは上がった。
問題はその後だ。後藤らがピット作業を終えたときに位置関係はどうなるか。
そのためには、ここで安倍がどれくらいタイムを稼げるかにかかっている。
そして、早めに交換したタイヤがレースの終わりまで持ってくれるか。
ここでタイムを稼いでも、接近戦になるであろう終盤にタイヤが悲鳴を上げるかもしれない。
リスクは大きい。しかし、その分の見返りがあるハズ。
前のレースのように突然の中断でリードできれば楽なんやけど、と脳裏をかすめた。
不謹慎なことを考えた中澤はそれをすぐに打ち消す。
本心はなんとかして安倍を勝たせたい、ただそれだけ。
145 名前:第6戦・鈴鹿-19 投稿日:2002年04月26日(金)00時12分59秒
中澤の思いとは裏腹に、整然とレースが展開される。
後藤が先頭を走り、吉澤がそれを追う。その後方には松浦と石川、追いついた保田。
さらにその後方には、ハイペースで走る安倍と、安倍にすんなり譲った高橋が続く。

淡々と走る高橋に、中澤は不気味さを感じていた。
フィラと高橋が狙っているところは分かる。だが、中澤の胸をイヤな予感が走る。
それを原因に、荒れたレースになるのではないかと。
中澤の胸の内を代弁するかのように、空が陰り日差しが弱くなる。
タイヤに厳しい作戦の安倍にとってはうれしいことだった。
だが、中澤の心は晴れない。
146 名前:第6戦・鈴鹿-20 投稿日:2002年04月26日(金)00時14分11秒
レース中盤、ゴナツヨのピットが動いた。
少し早めのタイミングで吉澤を呼び寄せる。後藤の後ろから離れようと考えたのだろう。
ピットクルーが見事な連携を見せて、文句ないピット作業が行われた。
中澤、高橋の位置を気にしてホームストレートに目をやる。
タイミング良く高橋がストレートに戻って来たところだった。
ピットレーンを出口に向けて走り出した吉澤、間に合うか。
2台がどのような位置関係になるか、固唾をのんで見守る
高橋がピット出口をかすめた直後に、吉澤がコースへ復帰する。
中澤の目に、フィラにピットにいる首脳陣のしてやったりの表情が映る。

タイヤ交換を済ませた吉澤を高橋の後ろに封じ込める。これがフィラの狙っていた作戦だった。
高橋に前方の吉澤とのタイム差を提示していたのも、ピット作業で確実に後ろに来るようにするため。
後藤との間に、白いマシンに黒いヘルメットの高橋が吉澤に立ちはだかる。
147 名前:第6戦・鈴鹿-21 投稿日:2002年04月26日(金)00時15分52秒
コースに戻った吉澤の前には、後藤の援護を表明した高橋愛。
吉澤にはそれが意味することの重大さがすぐに理解できなかったかもしれない。
もちろん抜きにかかる吉澤。それを露骨にブロックする高橋。
ピット作業の有無はあるが、高橋と吉澤は同一周回なので違反ではない。
元々抜きどころの多いコースではない鈴鹿、高橋が吉澤を押さえるのは難しくない。。
1コーナー、デグナー、ヘアピン、スプーン、130Rにシケイン、そして最終コーナー。
高橋がコースの全てにおいて完璧に吉澤を押さえ込む。
このために吉澤との距離を計りながら、タイヤを温存して走っていたのだ。
前に出たい吉澤、何しろラップタイムが全然上がらないのだ。
さらに、安倍は高橋の前にいるのだ。吉澤はピットで抜かれたことになる。
吉澤が、少しづつ焦れる。
148 名前:第6戦・鈴鹿-22 投稿日:2002年04月26日(金)00時19分57秒
中澤は連なって走る高橋と吉澤を見て、複雑な気分だった。
予想通りの作戦を取ったフィラ。
安倍にとっても敵である吉澤を押さえ込んでくれるのは、歓迎すべきことだった。
しかし、元ドライバーの心境としては正々堂々と勝負させたいし、させるべきだと考える中澤。
チーム監督としては失格かもしれない。
どちらが正しいかは簡単に答えの出ない問題だ。
それよりも破綻しはじめた吉澤の走りの方が、気になっていた。
149 名前:第6戦・鈴鹿-23 投稿日:2002年04月26日(金)00時21分36秒
「なんとかして抜きたいけど…」
先ほどから目前に迫る高橋のテールエンドを恨めしく見る。
高橋のマシンは直線が伸びるようだ。ストレートでスリップに入れないし、入っても抜くに至らない。
加えてガチガチの守りのライン取りは、スキすらつかめない。
こうなると吉澤のできることは少ない。
プレッシャーをかけるべく、そしてフラストレーションを晴らすかのように、マシンを左右に振る吉澤。
ミラーに映る吉澤を見て高橋が動揺するのを期待するが、高橋は動じない。
逆に吉澤の方が追い込まれていることに、本人は気付いていなかった。

高橋だって今回の役割を納得して演じているわけではない。
しかし、速さではかなわない吉澤に対してできることといったら、これくらいしかない。
いつかは自分が援護されることを夢見て、吉澤を押さえ込む高橋。
大きな目に、野望の灯がともっていた。
150 名前:第6戦・鈴鹿-24 投稿日:2002年04月26日(金)00時27分44秒
レースも折り返しを迎えて、ピットインのラッシュが始まる。
注目は2位集団となっている松浦ら3台。
先に入ったのは保田。作業はミス無く終わってコースに復帰する。
が、ギリギリで高橋と吉澤の前に出ることができない。
この間に、松浦と石川はペースを上げた。ここが勝負のポイントになる。
2周後に松浦と石川が同時にピットイン。こちらも作業にミスはなく、静止時間はほぼ同じ。
しかし、出口に近いピットの石川が松浦の前に割り込む。
これで逆転、入ってきたときと逆の順でピットアウトしていく。
そして先ほどのペースアップが効いた。2台は高橋の前をかすめるようにコースに復帰する。
先にピットインした保田は2台に遅れをとることに。
石川らのタイヤが暖まっていないアウトラップだが、高橋は仕掛けず順位はそのまま。
151 名前:第6戦・鈴鹿-25 投稿日:2002年04月26日(金)00時30分30秒
「ちくしょー!!」
吉澤は激昂していた。
高橋に押さえられてペースが上がらない。
そのために吉澤はコース上で抜かれていないのに、石川と松浦にも前に出られてしまった。

フィラのこの戦略をレース前に多少は予想していたゴナツヨの首脳陣。
吉澤もその可能性は聞かされていた。
しかし、こうも見事にフィラの戦略に引っかかるとは思っていなかった。
自分の愚かさを実感させられ、憤るしかない。
ピットは吉澤を落ち着かせようと無線を通じて言葉をかける。
が、スタートから雑音の混ざっていた無線はこのころ完全に機能を失っていた。
吉澤にとっては不運。タイトルを狙うライバルの状況を知りたくとも、聞けない。
もともとチームメイトに援護を頼めない孤独な状況だった吉澤。
ピットとの通信手段を失い、本当に孤独な戦いに追い込まれる。
152 名前:第6戦・鈴鹿-26 投稿日:2002年04月26日(金)00時32分40秒
フィラはギリギリまでピットタイミングを遅らせてきた。
このレースでは16周目までに済ませなければならないタイヤ交換。
後藤を15周目に、高橋を16周目に呼び寄せた。

まずは後藤のピット作業。いつもの正確さはここでも発揮される。
電光石火の作業でピットを飛び出してコースへ。
が、安倍もここが勝負所とわかっていた。後藤の前に出るべくスパートをかけていた。
後藤が少し前だが、ストレートを駆ける安倍にはスピードが乗っている。
絶妙な距離だ。並んで1コーナーへ進入する2台。
やはりスピードが乗っている安倍が有利。アウト側ながら後藤の前に出る。
後藤も無理はしない。ピットで装着したてのタイヤは暖まっておらずグリップは不十分。
この状況で無理をしてスピンでもしたら全てを失いかねない。
ひとまず譲って次のタイミングを窺う後藤。冷静にレースを組み立てていく。

一方の安倍はこれで作戦の第二段階も成功。
安倍のスパートと、後藤が周回遅れの処理に手間取ったためか。
最後の関門は、安倍が後藤を押さえきれるかどうかにかかっていた。
中澤は安倍の健闘を祈る。
153 名前:第6戦・鈴鹿-27 投稿日:2002年04月27日(土)10時37分50秒
続いて、ギリギリまで吉澤を押さえた高橋がピットに向かう。
こちらも素早い作業でタイムロスを最小限にコースへ送り返す。
リミッターを効かせながらピットロードを行く高橋。
優れたドライバーは同じミスを2回しない。ピットレーンの制限速度はきっちり守る。

フィラのピット作業が終わり落ち着くと、先頭は安倍、すぐ続いて後藤が2位。
3位には石川、直後に付けるのは4位の松浦。高橋に押さえ込まれた吉澤は5位。
6位は保田、7位に飯田。
その後方、9位の平家はトラブルを抱えて後ろの小川に迫られていた。
154 名前:第6戦・鈴鹿-28 投稿日:2002年04月27日(土)10時40分38秒
高橋のタイヤ交換でようやくフリーになる吉澤。
ここまで抜けずに結構なロスをしてしまった。遅れを取り戻すべくペースを上げる。
最終コーナーを抜けてホームストレートに戻ってくる。
その時、1コーナーへ飛び込んでいく2台のマシンがチラッと見えた。
前は黒いマシンは安倍。そして後ろは白のフィラカラー、後藤真希だった。

その距離を改めて実感し、少しだけ残っていた吉澤の冷静さが吹き飛ぶ。
後藤にまた差を付けられる…、追いつけないかも…。様々な想いが頭を巡る。
F3で表彰台の後藤を見上げていたこと、カートで惨敗したこと、etc…。
それら過去の場面がフラッシュバックし、混乱する。
なんとか冷静さを取り戻そうとするが、時すでに遅し。
吉澤は完全に自分を見失っていた。
155 名前:第6戦・鈴鹿-29 投稿日:2002年04月27日(土)10時42分37秒
安倍はミラーに映る白いマシンを横目に、集中を高めていた。
レースも終盤、残りは8周。守り切るには少し長い。
開幕戦の後藤との攻防を思い出す。あのときはセッティングが甘くて守りきれなかった。
今日は違う。新型ウィングの効果もありマシンはパーフェクト。
ゴールまで守りきる自信があった。
唯一の心配といえばタイヤ。早めのピットインにより今のタイヤは距離が伸びている。
後藤よりも早く寿命が来るのは確実。だが、そこを補うのがドライバーの仕事。
中澤もそれをわかっていて、この作戦を許可した。
最後の関門を突破すべく、安倍はアクセルとブレーキを最大の繊細さでコントロールしていく。

再びミラーで後方との距離を確認する。後藤の大きさは変わらない。
まずは様子見と来たか。
王者同士のプライドが、三たび火花を散らす。
156 名前:第6戦・鈴鹿-30 投稿日:2002年04月27日(土)10時45分12秒
吉澤が懸命に追う。
まずは目前の相手である松浦に迫る。
松浦もわかっていた。吉澤から逃げるべくペースを上げる。
ラップタイムはほぼ同等で、2台の差は変わらない。
だが、2台の前には周回遅れのマシンがいた。
ホームストレートで追いすがり1コーナーで処理したい松浦、だが少し届かない。
2コーナー、S字、デグナーと抜きあぐねて押さえられてしまう。
そこを逃さない吉澤、差を大きく詰める。
ようやく松浦が周回遅れをパスしたのはヘアピンの進入。
追いついた吉澤はヘアピンの立ち上がりですんなりと周回遅れを処理する。
容赦しない吉澤、スプーン手前の通称マッチャンコーナーで並びかける。
157 名前:第6戦・鈴鹿-31 投稿日:2002年04月27日(土)10時49分02秒
マッチャンコーナーで一端は前に出た吉澤だが、スプーンの進入でオーバースピード。ラインがはらむ。
松浦はそこを見逃さない。綺麗な飛び込みでポジションを取り返す。
そのままスプーンカーブを抜ける2台。再び狙う吉澤は差を詰める。
鈴鹿で最高速を記録する西ストレートを逃げる松浦に、追う吉澤。
松浦のマシンはストレートが伸びる。吉澤がスリップに入るも前には出られない。
130Rを抜けてシケインへ向かう。松浦はシケインの1個目を、インベタのラインで進入する。
それを予測していた吉澤、インを窺う素振りを見せながらアウトから並びかける。
無茶に近いスピードで進入する吉澤に、観客が悲鳴を上げる。
吉澤はそこで限界ギリギリのブレーキング。タイヤスモークが上がる。
2個目のシケインを縁石に乗りながら回り、切り返しで前を取る。
松浦は強引なオーバーテイクに困惑するも、冷静さは失わずに接触を避ける。

最終コーナーを駆け抜ける吉澤の目は、すでに前しか見ていなかった。
158 名前:第6戦・鈴鹿-32 投稿日:2002年04月27日(土)10時52分09秒
「イっちゃってるわ…」
中澤は吉澤のオーバーテイクを見てつぶやく。
今のはきわどいところだった。今回は相手が冷静な松浦だったから何もなく終わった。
が、もしもキレた飯田などなら接触して一発で終わってるシチュエーションだ。
キレた吉澤の走りは後藤に匹敵する。しかし、今の走りはキレすぎていた。
速いが、必要以上に強引で危なっかしい。
吉澤がなぜそんな心理状態に至ったのかはわからない。
しかし、高橋に押さえ込まれたのが影響しているのは確実だろう。
「メンタルに面が強いってのは取り消しかもな…」

それだけでない。中澤は一層の胸騒ぎを感じていた。
レースは残り少ないが、何かが起きるには十分だ。
その中心はとなるのは、やはり白とブルーのゼッケン6なのだろうか。
159 名前:第6戦・鈴鹿-33 投稿日:2002年04月30日(火)11時37分10秒
後藤が戦闘態勢に入った。
安倍との間隔を広めにとっていたが、ここで後藤が接近する。
とはいえ、まだ抜きにはかからない。プレッシャーをかけるべくストレートでマシンを振る。
安倍も慣れたもので動じた様子は見せない。
落ち着いて最後の捨てバイザーを投げ捨て、戦闘態勢に入る。
市井がピット作業のミスで下位に沈み、高橋は吉澤の足止めで後退していた。
そう、後藤と安倍はお互いに援護のない直接対決。
元チャンピオンと前チャンピオンの戦いに、注目が集まる。

中澤が心配そうに見つめる中、ついに後藤が動く。
スプーンの出口で詰め寄り、西ストレートで安倍のスリップに入る。
160 名前:第6戦・鈴鹿-34 投稿日:2002年04月30日(火)11時41分13秒
130Rで抜くのは難しい。それはお互いにわかっている。
本当の勝負は、次のシケイン。
ミラーを窺う安倍。真後ろに付けている後藤の動きを読む。
「右!」
ラインを寄せて、1個目のシケインのインを押さえる。
後藤は攻めきれない。連なってシケインを脱出、そのまま最終コーナーへ向かう。
ストレートでスリップストリームを巡る攻防を経て、1コーナーへ突入。
安倍が前だ。後藤もラインをクロスさせようとするが、前に出られない。
161 名前:第6戦・鈴鹿-35 投稿日:2002年04月30日(火)11時44分22秒
松浦を攻略した吉澤は、依然ペースをゆるめずに前を追う。
シケインやヘアピンでは毎周のようにタイヤスモークを上げるほど攻めていた。
吉澤のペースに危機感を覚えたチームは、慌てて順位キープのオーダーを発令。
レース前のプレスリリースとは矛盾した決断。セオリーに反する行動がチームの混乱ぶりを示していた。
それでも、無線が通じる石川はそれを了承した。

一方の吉澤には残された最後の通信手段であるピットサインで”KEEP”と”COOL”を出す。
この2つは順位キープと落ち着けという意味のサインなのだが、見なければ伝わらない。
そして完全にキレている吉澤はこのピットサインを、見ていなかった。
それだけでなく、吉澤はレース前の”順位に干渉しない”というチーム監督の言葉を反芻していた。

譲り損ねたソニンへ右手を猛烈に振り怒りを露にしながら周回遅れにする吉澤。
そして、次の目標は3位を走る石川だった。
162 名前:第6戦・鈴鹿-36 投稿日:2002年04月30日(火)11時47分26秒
ミラーに映る吉澤を見て、石川は特に何も感じなかった。
あるいは、ランデブー走行の指示が出ているのかもしれないな、と思った程度。
石川は水温が上がり気味で、ペースを調整し始めていた。
だから警戒していなかったし、隙のあるライン取りで走っていた。
が、吉澤は完全に抜くつもりでいた。あっという間に間隔が縮まる。
その映像に、チーム・ゴナツヨはあわてる。
いやゴナツヨだけでなく誰もが、その2台になにか危ない雰囲気を感じていた。
残り、5周。レースは終盤になって大きく動き始めた。
163 名前:第6戦・鈴鹿-37 投稿日:2002年04月30日(火)11時51分12秒
ホームストレートを疾走する安倍。ミラーには後藤が映る。
再びスリップを狙う後藤だが、今度も少し距離が遠い。
まだまだ、余裕を持っていた安倍。
アクセル全開からブレーキングで1コーナ進入の、一連の流れのラインを見極める。
ブレーキキングポイントが安倍の目前に迫る。
その時だった。安倍の視界を一瞬黒いものがよぎったのは。
危険を感じ、そしてマシンと自身の保護のために反射的にアクセルを戻していた。
そして衝撃に身構える安倍。しかし、何も起きない。
そのかわりに、スピードとブロックのタイミングを失っていた。

もちろん、その隙を後藤は見逃さない。
後藤が安倍のインに飛び込んだ。ホイールが接触寸前まで接近する。
しかし、この2台からは危険な緊張感が全く伝わってこない。
順位が入れ替わった。
絵に描いたような、あるいは屈指の好プレーとなる見事なオーバーテイク。

後藤が、再び先頭に立つ。
164 名前:第6戦・鈴鹿-37 投稿日:2002年04月30日(火)11時56分57秒
吉澤は容赦しない。
石川のスリップに入ったホームストレート、そこから1コーナーのインへ飛び込む。
「ちょ、ちょっと、なに!!」
とっさのことに慌てる石川。少しだけラインを寄せて守る。
「聞いてないよ〜。順位キープじゃないんですか?」
混乱する石川がピットに問いつめるが、答えは返ってこない。
2台は連なって2コーナーそしてS字をクリアしていく。
吉澤は手を緩めない。デグナーでも狙うが果たせない。
事態を少し理解した石川、ヘアピンを極端なインベタで回る。が、脱出で少し遅れる。
そこへ詰める吉澤、松浦の時と同じようにマッチャンコーナーで並びかける。
2台は並んだままスプーンへ進入。吉澤がアウト側、インは石川。
「くおぉぉぉぉぉぉ!」
吉澤は叫んでいた。相手が石川だということすら、頭の中から飛んでいた。
「負けない!」
対する石川。チームオーダー、そしてタイトルのことが頭にあった。
譲る気は、2人とも全くなかった。
意地を張りあう吉澤と石川、危険な雰囲気が強く漂う。

2台が急速に接近して、間隔がほとんど無くなった。
165 名前:第6戦・鈴鹿-39 投稿日:2002年04月30日(火)11時59分54秒
そのアクシデントに、悲鳴が上がった。
2台の間から来る雰囲気から少しだけ予測されたこの事態。
しかし、実際に起きてしまうと衝撃は大きい。
ゴナツヨの首脳陣は頭を抱え、中澤はため息をつく。
スタンドは騒然となり、事態の深刻さを裏付ける。

最後まで譲らなかった石川と吉澤。
想いのすれ違った2人は、チームメイト同士で接触してコースアウト。
最悪の事態だ。
それでも、スプーンのアウト側グラベルに飛び出した2台はまだ動いていた。
手を振り上げる吉澤。そのマシンは、サイドポンツーンを破損していた。
先にコース復帰した石川は吉澤に見向きもしない。
その石川もまた、フロントウィングを破損している。
マシンを点検するようにゆっくり走り出した石川を、松浦が冷静に追い抜いていく。
166 名前:第6戦・鈴鹿-40 投稿日:2002年04月30日(火)12時04分07秒
石川は西ストレートから130Rをスローに走る。
が、マシンの無事を確認したのかピットインせずにそのまま走行を続ける。
見た目にはフロントウィングの翼端版が曲がっている程度だ。
残りは3周、今の4位という順位を守りたい。

吉澤もやっとコースに復帰するが、こちらのダメージは深刻だった。
左のポンツーンからは冷却水が大量に漏れ、左フロントもダメージを受けていた。
一見して、リタイヤは免れないほどのダメージである。
ゆっくりとピットに戻った吉澤は、マシンを頭からガレージに入れる。
クルーが間髪を入れずにシャッターを下ろすが、隙間から吉澤が乱暴にマシンから降りるところが見えた。
ピットでリタイヤした吉澤は怒鳴り散らしながらヘルメットとグローブを投げ捨てる。
話しかけるスタッフには反応せずに、モーターホームへ早足で引っ込んでいった。
167 名前:第6戦・鈴鹿-41 投稿日:2002年04月30日(火)12時13分59秒
後方のアクシデントとは別に、首位争いも終盤を迎えていた。
先頭に立った後藤は、安倍を振り切れないでいた。
今日は安倍の方がマシンの動きがよい。レース終盤になってからは特にそう見える。
先にピット作業をしたのに、安倍はタイヤの消耗を感じさせない動き。
だが、後藤も悪くない。ストレートの伸びを活かして要所を押さえ込んでいた。
シケインの縁石に乗り上げてクリアしていく2台。最終コーナーを抜けて、残りは2周。
開幕戦そして第3戦富士に続く安倍と後藤の接近戦に、サーキットは熱狂する。
168 名前:第6戦・鈴鹿-42 投稿日:2002年04月30日(火)12時16分28秒

安倍は冷静さを取り戻しつつあった。
前の周回で視界に飛び込んできたものが何だったか、それが引っかかる。
しかし、マシンには何も起きなかった上、後藤を前に出してしまった。
結果的には、自分の判断ミスで順位を下げてしまうことに。
だから、絶対に取り返すつもりだった。
1コーナーで狙う素振りを見せる。後藤はインを閉め、安倍は譲る。
ここで何回か仕掛けたがこれはカモフラージュ。本当の勝負は、別のポイントで。
安倍は歯を食いしばり、その時まで耐える。
169 名前:第6戦・鈴鹿-43 投稿日:2002年04月30日(火)12時19分08秒
後藤は少し焦っていた。
ペースを上げているつもりなのに、安倍を引き離せない。
何か嫌な予感がする。安倍のマシンが良いのだろうか。
タイヤ交換からここまでタイヤを酷使しすぎていたことも、後藤の不安のひとつ。
グリップが落ちているのが手に取るようにわかる。
後藤の走りはタイヤへの負担が大きい。消耗させないように心がけているが、そう行かない時もある。
だが、安倍のタイヤ交換は早かった。タイヤの消耗は少なくないはず。
ヘアピンでミスしてふくらんでしまう後藤。
ミラーに映る安倍も同じようにふくらむ。
「辛いのはお互い様なんだぁ」
少しだけ安心する後藤。
それでも胸騒ぎは治まらない。
170 名前:第6戦・鈴鹿-44 投稿日:2002年04月30日(火)12時22分04秒
後藤のミスにおつきあいしてしまった安倍。
確かにチャンスだったが、狙っているのはここではない。
ここまで観察してきて、今日の後藤はシケインがまとまっていないことに気付いていた。
シケインの突っ込み勝負はそれほど得意でない安倍。それは後藤も知っていること。
だからこそ、意表を突くシケインで勝負をかける。そう決めていた。
スプーンを抜けて、西ストレートを駆け上がる。
5速全開で曲がっていくチャレンジングな130Rをクリアすると、その次はシケイン。
前を走る後藤のラインを見極め、自らのラインもイメージする。

決断した安倍が、タイヤスモークを上げながらシケインに突っ込む。
171 名前:第6戦・鈴鹿-45 投稿日:2002年04月30日(火)12時24分32秒
先ほどの吉澤と石川のアクシデントを見ていた者は、同じ結末を想像したかもしれない。
中澤に至っては、一瞬心臓が凍り付いたと思ったほど。
それほどまでに際どい安倍のアタックだった。
だが、その時と違うのはお互いが冷静なこと。
安倍は完全にスキを攻めたし、後藤も無理にならない範囲で抵抗した。

シケインの進入で並んだ2台、ひとつ目でイン側の安倍が前に出た。
そして、ふたつ目となる切り返し。ここではアウトになる安倍だが、強引に切り返した。
後藤も退かない。ひとつ目はあきらめてふたつ目で攻勢に出る。
だが、安倍が一瞬早い。後藤のフロントウィングが、安倍のサイドをかすめ、リアタイヤに触れる。
安倍のマシンが少しスライドするが、何とか立て直す。
加速する2台。最終コーナーのインは安倍が押さえている。
ホームストレートに先にあらわれたのは安倍。そして、斜め後方に並ぶように後藤。
172 名前:第6戦・鈴鹿-46 投稿日:2002年04月30日(火)12時29分33秒
裏をかかれた格好の後藤。安倍のリアを見て悔やむ。
今回はストレート重視のためダウンフォースを減らしていた。
その反動として、ブレーキングに不安を残していた。
それがここで裏目に出てしまった。
あるいは、安倍がシケインのようなところを苦手としているのを知っていたから、少し油断していたか。
だが、後悔しても仕方ない。これがラストラップ。
攻守交代はしたがチャンスはまだ残っている。
得意とする1コーナーを狙う。しかし、安倍はきっちりと守って攻められない。
そのまま次を狙う。レースの残りは少ない。
後藤には攻めるしか手は残されていない。
173 名前:第6戦・鈴鹿-47 投稿日:2002年04月30日(火)12時32分04秒
ラストラップまでもつれる優勝争い。
安倍も後藤を突き放すべく集中する。
タイヤは限界だった。逆バンクを攻めすぎて焦るが、何とか乗り切る。
ダンロップ通過、デグナーのひとつ目は縁石に乗り上げるように進入。後藤も続く。
デグナーふたつ目、後藤がインを刺すが前に出ることは出来ない。
立体交差を過ぎて、ヘアピンカーブに進入。
少しアウト目に進入し、タイミング良くインへ切れ込む安倍。
インを狙った後藤だが、安倍のライン取りに飛び込むタイミングを逸する。
ヘアピンを立ち上がる2台の前には、周回遅れのマシンの姿が。
2人に緊張が走る
174 名前:第6戦・鈴鹿-48 投稿日:2002年04月30日(火)12時34分11秒
スプーンの進入で周回遅れをかわす安倍。
かわされたのは、エキゾーストの割れた稲葉。エンジンパワーが落ちているため容易に譲る。
一方の後藤はタイミングを逃す。一端はインに入りかけたが再び下がる。
後藤はスプーンの立ち上がりで前に出るが、すでに差は広がっていた。

舌打ちする後藤。安倍のテールはスリップが効かないほど離れていた。
ラストラップにして、この差は大きい。
それでもあきらめない後藤。130Rを渾身の力で抜けると、少し間隔が縮まったように感じる。
勢いそのままに、カシオトラインアングルの名を持つシケインへ。
だが、安倍には届かない。
175 名前:第6戦・鈴鹿-49 投稿日:2002年04月30日(火)12時38分48秒
最終コーナーを駆け抜ける安倍のミラーには、後藤が小さく映っていた。
ここで初めて、勝利を確信する安倍。
ホームストレートに戻ってきた。チェッカーフラッグを受けてゴール。
ピットウォールにマシンを寄せて、盛り上がるスタッフに両手でガッツポーズ。
スピードを落として、スタンドにも手を振る。
それに呼応してなっちコールが起きる。バイザーを上げた安倍が目を細めている。
吉澤に待ったをかけたのは元チャンピオンの安倍。
タイトルを強く引き寄せる勝利だ。

後藤もすぐにゴール。今日は勝てなかったが、タイトルの可能性はまだ残ってる。
気持ちを切り替える後藤。その視線はすでに最終戦を捉えていた。
笑顔で安倍に手を振って、勝利を讃える。
176 名前:第6戦・鈴鹿-50 投稿日:2002年04月30日(火)12時41分31秒
続いて松浦が3位でゴール。追いきれなかった石川がすぐに後ろに続く。
松浦は初入賞で初表彰台。それでも軽く1回ガッツポーズを見せただけ。
今日の走りに本人は満足していない。さすがは期待のルーキー、大物ぶりを見せつける。

アクシデントを乗り越えた石川は4位。
松浦を抜きたかったが、接触のせいかマシンに不安を覚えて攻めきれなかった。
ゴールしても憮然としたままの石川。
原因が吉澤とのアクシデントにあることは、明らかだった。
177 名前:第6戦・鈴鹿-51 投稿日:2002年04月30日(火)12時47分54秒
パルクフェルメに戻ってくるマシン。
先に戻ってきた石川はマシンを降りると足早に立ち去った。
松浦は何事も無かったかのようにマシンを降りると、笑顔でスタッフとハイタッチ。
それでも、騒ぎ回らずに落ち着いている。
レポーターが松浦に問いかける。
「表彰台おめでとうございます。初めてなのに落ち着いてますね?」
「そんなことないですよ。私なんかがはしゃいじゃってよいのかな? って」
いつものはじける笑顔で答える松浦。
しかしこれで満足していない。目指すのはもっともっと先。

激しい戦いを繰り広げた後藤と安倍が戻ってきた。
今シーズンだけでもこの2人の名勝負は語り草になりそうだ。
しかし、マシンを降りれば友達同士。笑ってお互いを讃える。
ドライバーに寄っていくスタッフ。ここまでの苦労が、この瞬間に癒される。
それをわかっているからドライバーはスタッフと大騒ぎし、表彰台ではしゃぎ回るのだ。
178 名前:第6戦・鈴鹿-52 投稿日:2002年04月30日(火)12時50分32秒
レースが終わってもゴナツヨのピットは異様な緊張感に包まれていた。
ゴールした石川、その表情はひきつっていた。
スタッフと少し言葉を交わすと、すぐに帰り支度を始める。
誰もが石川と吉澤に近づけずにいた。首脳陣も事態の深刻さを嘆く。
当然、雰囲気が和むハズもない。

結局、2人は目も合わせずにそそくさと帰路に着いた。
あれほど仲の良い2人が目も合わせない。
その様子はすぐに知れ渡り、ファンの知るところになるのもそう時間はかからなかった。
179 名前:第6戦・鈴鹿-53 投稿日:2002年04月30日(火)12時53分18秒
表彰台でトロフィーを受け取る安倍。
今期2勝目はランキングトップに躍り出る大きな一歩。
最終戦を前にしてタイトル争いで少しだけ有利に。安倍の闘志が静かに燃え上がる。

2位の後藤、いつもの微笑でトロフィーを片手で軽くかざす。
勝ちたかった。でも、今日は運が少し足りなかった。それだけだ。
今日使わなかった分、最後には運が向くかもね。そんなことを思いながら手を振る。

松浦は初の表彰台だが、F3の経験からか堂々としてる。
それでも、内心は喜びいっぱいの松浦。
その証拠にシャンパンの栓をなかなか抜けず、安倍と後藤にしこたま浴びせられる。
逃げまどいながら、今度は真ん中でシャンパンファイトに参加すると誓う。

3人の無邪気なシャンパンファイトが、アクシデントの苦い後味を少しだけ薄めてくれた。
180 名前:F・娘。第6戦 鈴鹿サーキット 決勝RESULT 投稿日:2002年04月30日(火)12時57分21秒
F・娘。第6戦 鈴鹿サーキット 決勝RESULT
Pos. No.  DRIVER   LAP    TIME      BEST
1   #19 安倍なつみ 26   46'52.447     1'46.299
2   #1  後藤真希  26    +1.069     1'46.391
3   #14 松浦亜弥  26    +9.871     1'46.662
4   #5  石川梨華  26     +10.282     1'46.415
5   #56 飯田圭織  26     +55.892     1'46.997
6   #15 小川麻琴  26   +1'05.299      1'47.059
※MAJOR RETIREMENT:#55 矢口真里(LAP 4)
               #6 吉澤ひとみ(LAP21)
※FASTEST LAP:#19 安倍なつみ 1'46.299(22/26) 197.14km/h

DRIVER'S POINT
Pos. No.  DRIVER    POINT
1   #19 安倍なつみ  29
2   #6  吉澤ひとみ  28
3   #1  後藤真希   24
3   #5  石川梨華   24
5   #20 市井紗耶香  10
5   #55 矢口真里   10
181 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年04月30日(火)13時44分09秒
第6戦・鈴鹿が終了して、残すはサイドストーリー1話と最終戦のみになりました。
ようやくここまで来た感じです。

で、次回更新までにまたまた時間を頂こうと思います。
個人的な事情と、先の展開の練り直しをしたいためです。
予定としては2〜3週間ほどのつもりですが、気が向いたら早めに更新するかもです。

たまに見るのでレス返しは出来ると思います。
リクエストもOKです。実現できるかどうかは別として(笑。
182 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年04月30日(火)13時49分58秒
またしてもどうでもいいことですが、主要チーム&ヘルメットのカラーリングをば。
イメージするのに、ちょっとは手助けになればと。

フィラ
白地に濃紺のロゴとストライプ。もちろん、ロゴの一部が赤になってるアレです

#1:後藤真希
オレンジと赤、そして白。太陽モチーフにした陽気な雰囲気のデザイン
#2:高橋愛
真っ黒(それだけかよ!)

ゴナツヨ
白地に大面積のライトブルーとダークブルーのグラフィック

#5:石川梨華
白とピンク2色。ピンクの方が大面積。脇には黒のゴシック体で”RIKA”
#6:吉澤ひとみ
白にイエロー、Yをモチーフにしたデザイン(←ベタだな)

ナカザワ
黒ベースで、ノーズとサイドポンツーンの上面は銀。ただし、ユニホームは白

#19:安倍なつみ
白地にイエローとスカイブルーのラインが入ったもの。
後頭部には北海道がペイントされているが、これは飯田と紺野も同じ

ケン・マツウラ
白地にライトブルー
#14:松浦亜弥
白地にピンク。ハートをデザインしているため石川と見分けるのは難しくない
183 名前:<ショートカット> 投稿日:2002年04月30日(火)13時51分37秒
<ショートカット>

>>5-34  サイドストーリーIV 〜平家みちよの闘い〜

>>2-3  〜前半戦ダイヂェスト〜

>>36  第4戦終了時点のポイントランキング

>>37  エントリーリスト(第5戦)

>>38-91  第5戦・もてぎ

>>97-117  サイドストーリーV- 〜吉澤ひとみの執着〜

>>123-180  第6戦・鈴鹿

前スレ(緑板)のショートカットはこちら↓
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=green&thp=1007830858&st=276&to=276&nofirst=yes
184 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月01日(水)00時57分44秒
サイドストーリーの中澤選手はまだかな?(w
185 名前:bagel_love 投稿日:2002年05月01日(水)19時58分06秒
はーい!リクエストでーす。
最終戦富士は予選のグリッド争いから読んでみたいです。
どうでしょうか?

サイドストーリー楽しみにしてます。
186 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年05月06日(月)14時53分47秒
連休の最終日、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。
私はどこも出かけずにさみしいGWを終えようとしています(泣。

閑話休題。
某スレで”好きなのよ”との発言、とってもうれしいです。
最近更新が滞り気味なのは、実際のシーズンがスタートしたってのもあるんですけど、
個人的な事情で制作の時間がとれないってのが最大の理由です。
私の中でストーリーは大体固まってるので、あとは文章にするだけなのです。
…と、読者が安心しそうな事を言ってみるテスト。

それだけでなく、空き時間には他のアイデアも考えるときもありまして。
最近練っているのが、某ユニットがアレを走るって話。
どうなるかわからないので、あまり期待しないでほしいですけど(笑。
本題が終わっても、そんな番外編みたいなのをちまちま続けられればなぁ、と思っております。
187 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年05月06日(月)14時57分50秒
そんでもってお返事です。レスありがとうです。
みなさん良かったらどしどしレス下さい。レース系の雑談もOK。
レスの数だけ更新が早くなる…かもしれません(笑。

>>184 名無し読者さん
姐さんのパリダカ編、ようやく制作を再開しました!
こちらもエンディングは(頭の中で)できているので、いつか完成すると思います。
期待しないで待っていて下さい。

>>185 bagel_loveさん
了解です。とりあえず予選システムから調べないと(汗。
次回のサイドストーリーは石川が(略)って、吉澤がそれを(略)けて、そして(以下略
という展開なので、期待に応えられるかもしれません。


次回更新予定は今のところ未定です。ストックほとんど使い果たしちゃったからさ(泣。
続きはまだ6レス位しかできてなくて…。
中旬までには開始できるよう頑張りますので、見捨てないでくださいな。

長々といいわけスマソ。では。
188 名前:名無し娘。 投稿日:2002年05月06日(月)23時23分40秒
半月も前に更新されてたのに気づかないなんてファン失格だね(^^;
弾けそうで弾け切れない後藤にやきもきしながら楽しく読んでます。
実際は集中力とスタミナに問題の有る後藤は抜き返すという行為に弱そうですが、
ここでは人間的に大きく成長してるようですね。
逆に吉澤の焦りや脆さ、安倍の安定感には、なんとなく納得したり(w
ともあれ来シーズンへの展望も含めて最終戦も期待してます。

・・・気早いな(笑)
189 名前:bagel_love 投稿日:2002年05月07日(火)00時31分27秒
リクエストにお応えいただけるようでありがとうございます。
なんか、余計な負担かけているみたいで申し訳ありません。

次のサイドストーリーは吉澤・石川の話しみたいですね楽しみにしています。
伏せ字になっている部分が非常に気になります。
190 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年05月09日(木)12時18分13秒
チャットしてる暇があったら更新しろとお叱りを受けたミカ・ニネンです。
ちゅーか、現実の状況もいろいろ辛かったりして現実逃避モード炸裂な日々。…いかんねぇ
ということで、頑張って更新できるよう努力しますです。はい。

>>188 名無し娘。さん
ファンって言っていただき、嘘でもうれしいです。これからもよろしくですね。
後藤ですが、昨シーズン末のマカオGPの惨敗で成長した、ちゅーことにしておいてくださいな。
体力的にも吉澤や安倍ほどでないものの、十分なスタミナをつけているってことで(笑
吉澤や安倍に関しては思ったように伝わっていて、一安心です。

>>189 bagel_loveさん
うぉ、鋭い…(汗
ユニットだから人数でわかったのかな?…いや、十人祭りかもしれないし(笑
余計な負担じゃないですよ。いつも予選は略してるのでいつかは、と思っていましたし。
どんな出来になるかは何とも言えないのですが。
サイドストーリーは現在鋭意製作中です。しばしお待ちを。
191 名前: 投稿日:2002年05月10日(金)00時02分51秒
先日はお世話になりました。

・・・や、別に怒ってたわけじゃなくてですね(w
更新まだかなーって思っただけで(汗 不快にさせてたらごめんなさい。
楽しみにしてるです。

http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=green&thp=1007830858&st=48&to=48&nofirst=yes
半年ぶりのレス・・・。
192 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年05月15日(水)01時28分52秒
佐藤のアクシデントに青くなるも、無事がわかってほっとしたミカ・ニネンでございます。
ちょっとねぇ。チームオーダーは夏以降出すべきでしょう。今だしたらそれこそ出来レースに(略。

閑話休題。
各所(っても某チャットだけだけど)で読んで下さってる方&読み始める方と出会い、
感謝感激雨霰な今日この頃です。

そのお返しは、更新して話を進めることだけ。
ということで、サイドストーリーVIの目処がようやく立ちました。
明日の晩から更新する予定なので、よろしくです。

>>191 人さん
全然不快になってないですよ〜。
楽しみにしていただいて光栄です。前にもレスもしていただいて、サンキューです。
これからもよろです。

ではでは。
193 名前:サイドストーリーVI-01 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月15日(水)23時23分56秒
 吉澤は電話の呼び出し音に目を覚まし、ベットサイドに手を伸ばした。
 布団をかぶったまま手探りをし、目覚まし時計やら読みかけの本を蹴散らして受話器を取り上げる。
 寝ぼけ眼のまま顔に押しあて、うめき声のような一言を発する。
 『よっさん? こんちわ…ちゅうか寝てたやろ?』
 気の抜けた独特の関西弁が受話器から響く。
 声の主が中澤だと気付くまでワンテンポかかる。怒った顔を思いだして思わず姿勢を正す吉澤。
 「え、いや、そんな寝坊助じゃないですよ…」
 言いながら落とした目覚まし時計を手探りするが見つからない。
 ふと気が付いて壁掛け時計に目をやると、10時55分を示す2本の針に少し悲しくなった。
 『まぁええわ。ところで、今日は来るんやろうな?』
 「へ?…」
 『なに? 忘れとるんかい。今日は大切な協賛企業さんのイベントやで』
 吉澤はぼんやりする頭を振り動かしてスケジュールを思い出す。
194 名前:サイドストーリーVI-02 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月15日(水)23時27分21秒
 「ん…今日は金曜日でしたっけ?」
 『ちゃうで、土曜日や』
 「あれ…。で、パシフィコ横浜でしたよね?」
 『いや、幕張メッセやで。ちゅうか、それ来月の予定やな。
  よっさん手帳か何か見いや。寝起きのごっつあんでももっとマシやで』
 「ところで、そのよっさんってのやめてほしいんですけど…」
 『なんでや? ええやん』
 「なんかフェルスタッペンみたいじゃないですか」
 『ええやん。フェルスタッペンっはイイ男やないか〜』
 「そういう問題じゃないんですけど…」
 そんな無駄話で時間を稼ぎながら、吉澤は脳細胞を目覚めさせていく。
195 名前:サイドストーリーVI-03 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月15日(水)23時32分55秒
 「で、本題は何なんですか?」
 『そやったそやった。今日はイベント来るんやろ、当然』
 今日の夕方から幕張メッセで開かれるイベントにF・娘。のドライバーが出ることになっていた。
 吉澤や中澤を含め、ほとんどのドライバーが出席を予定していた。
 「ええ、行かない理由無いですし。で、なんかあったんですか?」
 言いながらテレビをつけた。天気予報を目当てにチャンネルを回す。
 『いやな、よっさんが来るかどうか確認しときたかったんや』
 「ふ〜ん。そうなんですか」
 『ふーんって、なんで確認したいのか追求しないんかい』
 「だったら初めから言ってくださいよ〜」
 どうにも中澤のペースには話の合わない吉澤。
 電話口の向こうにいる関西人が正直苦手なのである。
 彼女がドライバーズアソシエイション…いわゆる選手会の会長を勤めていた頃は話した事もあったが、
引退と同時に役職を飯田圭織に譲ってからは、サーキットで軽く会釈する程度になっていた。
196 名前:サイドストーリーVI-04 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月15日(水)23時35分42秒
 『とある人物がな、吉澤と会いたいって言ってんねん。で、その人物も幕張に来るからな』
 「ある人物って、誰なんですか?」
 『言わんでもわかるやろ〜。自分の胸に手をあててよーく考えてみ』
 そんなことしなくても痛いほどよくわかっていた。
 意地っ張りでクソ真面目、ちょっと色黒で甲高い声が特徴的な、桃色ヘルメットのチームメイト。
 石川梨華しか、いない。

 あのアクシデントの瞬間が鮮明に蘇ってくる。
 身体を切り刻むような衝撃。そして、ピンクのヘルメットから一瞬だけ送られた視線。
 あれ以来、会うことはおろか毎日のようにしていた電話ですらしなくなっていた。
 何とかしたいと思いながらも、この週末で1週間になる。
 吉澤は親友を失ったつらさに浸食されていた。
197 名前:サイドストーリーVI-05 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月15日(水)23時42分57秒
 『ウチが今さら口出しするのもなんやけど、あんたら無理矢理に仲直りしなくてもええんちゃう?
  確かにみんな仲間で、特にチームメイト同士。けどな、仲良しクラブやってるわけじゃないんや。
  みんなが上を目指して、お互いに切磋琢磨する。そのために仲良しじゃないほうがええ場合もあるやろ。
  F1ドライバーの場合だって、セナとプロストみたいにやな……ってよっさん聞いてんかぁ?』
 「え、ええ聞いてますよ、もちろん」
 聞いていたが、神経は天気予報に向いていて電話の声はスルーしていた。
 もっとも、そんなこと口が裂けても中澤には言えないが。
 『ほんまか? ま、ええわ。そんじゃ詳しいことはあとで携帯にかけるわ。それじゃなぁ』
 「怒らせちゃったのかな…」
 一方的に切られた電話につぶやく吉澤。
 妙に陽気なお天気お姉さんの声が、関東一円で曇り空、降水確率30%だということを告げていた。
 会場周辺の混雑を考えて、バイクで出かけることにする。
 …といっても、吉澤はほとんどいつもバイクを足としているのだが。
198 名前:サイドストーリーVI-06 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月16日(木)13時19分20秒
 大盛況のイベントが終わり、熱気もさめやらないまま吉澤は指定された場所に向かった。
 会場の地下に作られた駐車場に隣り合った小さな休憩所は、コンクリートの壁が冷たかった。
 火照った吉澤の頬が、急速に熱を失っていく。
 体の中に澱が積もっていくような、重たい感覚に襲われる。

 イベント中に石川と近づきはしたが、言葉を交わすことはおろか目があうことすらなかった。
 相手が強く意識しているのがわかった。もしかするともう話し合いの余地はないかもしれない。
 ここで一方的に宣言されて終わってしまうのか…。
 気分が沈んでいく。身体も冷えてきた。ジャケットに袖を通し、手をすりあわせる。
 照明は十分にされていたが、色彩を失った内装が陰鬱な雰囲気を作り出していた。
 唯一明るく輝いている自動販売機も、どこか人為的でもの悲しかった。
 排気ガスの臭いが鼻腔を刺激して、落ち着つくことができない。
 ベンチに座り込み、ため息を大きくひとつだけつく。
 脇に置いたヘルメットのバイザーを拭ったり、グローブを弄ったりして時間が過ぎるのに耐えていた。
199 名前:サイドストーリーVI-07 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月16日(木)13時23分35秒
 吉澤はとても緊張していた。
 この場所がこれからする話にふさわしくない、というわけではない。
 親友を、それもとても大切な親友をひとり、永遠に失うかもしれない分岐点を迎えていたからだ。
 靴音が響き、誰かが向かって来ているのがわかった。
 吉澤はお腹の中で蝶々が飛んでいるような感覚を押さえ込み、どう話を切り出そうか考えた。
 もちろん、決定的な言葉はなにひとつ浮かんで来ないのはわかっているのだが。
 人の気配がはっきりして、吉澤は顔を上げる。
200 名前:サイドストーリーVI-08 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月16日(木)13時25分41秒
 「おっ、よっすぃ〜じゃん」
 予想よりも軽い声に肩透かしを喰らう吉澤。声の主は眠たそうな目をした後藤だった。
 普段は攻撃的な印象とは対極にある後藤だが、ヘルメットをかぶると雰囲気が180度変わる。
 そしてドライビングも驚くほどアグレッシブなもの。
 特に昨年末のマカオGPでの走りは、吉澤の脳裏に未だ鮮やかだ。
 人を外見から判断するのは難しい。つきあいは短くないが、未だに不思議でとても魅力的だ。
 「なんだ、ごっちんかぁ。びっくりしたよ」
 「なんだはないじゃんかぁ〜。よっすぃこそこんなところでどーしたの?」
 気の抜けた言葉も、レースでの印象とはかけ離れている。
 もっとも、これはいつものことだが。
201 名前:サイドストーリーVI-09 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月16日(木)13時28分38秒
 「人を待ってるんだ」
 「そっか、じゃ邪魔しない方がいいね」
 後藤は割とカンが鋭い。吉澤の一言で大体のことを察して歩き出した。
 「待って」
 吉澤の一言に、後藤は歩みを止めて振り返り、瞬きを数回した。
 「ごっちんはさ、市井さんとどうやって仲直りしたの?」
 細かい経緯は知らないが、美祢のレースの後から急速に回復した2人の関係を参考にしない手はない。
 好奇心もあったが、藁にもすがる気分だった。
 「いちーちゃんとねぇ…」
 考え込む後藤。息を呑んで待つ吉澤。しばしの静寂。
 「…よくわかんないや」
 相変わらずの薄い笑いとともに返す後藤。予想はしていたが、吉澤は少し落胆する。
 「でも、本当の親友なら言葉なんて要らないんじゃないかな。
  よっすぃたちはお互いのことよくわかってるでしょ。時間ときっかけ次第じゃない?」
 いつも素っ気ない後藤が親切にアドバイスをくれたことに驚く吉澤。
 そして、そのアドバイスが的確なことにも。
202 名前:サイドストーリーVI-10 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月16日(木)13時30分26秒
 「おーい、後藤。なにしてんの?」
 市井の声が向こうから聞こえた。
 後藤は市井と待ち合わせしていたようで、じゃねと言って駐車場の方へ歩いていった。
 再び訪れる重苦しい静寂に肩を落とす吉澤。
 だが、すぐに再び聞こえた靴音に静寂は破られた。

 硬い表情をした石川がゆっくり歩いて来るのが見える。
 緊張を押さえて向かい合う吉澤。
 覚悟を決めて視線をあわせる。石川も視線をそらさずに返してきた。
 石川は絶交を告げに来たわけではないようだ。
 どうやら、話し合いにはなりそうで、すこしだけ安心する吉澤。
203 名前:サイドストーリーVI-11 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月16日(木)13時32分49秒
 ベンチに2人、微妙な感じで固まっていた。
 想いを全部話したら、おわってしまいそうで。
 言いたいこと、言うべき事は山のようにあるのにそれが言葉にならない。
 重い雰囲気を破りたいのに、気持ちだけが空回りして何もできない吉澤。
 石川もなんとかしなくちゃとは思うが、言葉だけが巡ってまとまらない。
 しばらくの沈黙。
 
 吉澤が何度目かの決心をして口を開こうと顔を上げた瞬間、お団子頭が2つ突進してきたのが見えた。
 向かっている先は、まっすぐにこっち。その意図に気付いて叫ぶ吉澤。
 「…ちょ、ちょっと待った!」
 吉澤の声に耳を貸さず、宙を舞う2つの肉体。
 豊満な肉体の質量を武器としたボディアタックが吉澤と石川に炸裂、その場に崩れ落ちる。
204 名前:bagel_love 投稿日:2002年05月16日(木)20時12分18秒
ついに始まりましたねサイドストーリー
二人は、仲直りするのかな〜?

よっすぃ〜のバイク姿萌え〜
いしよしで7月最後の日曜日なんて面白いかも。
205 名前:サトル 投稿日:2002年05月16日(木)23時51分55秒
毎回楽しませてもらってます。
正直モータースポーツにはまったく詳しくないのですが、
それでもスルスルと読ませてくれる、魅力的な作品だと思います。
ニネンさんの想像力がこれからも冴え渡り続けるのを期待してます。
がんばってください。
206 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年05月18日(土)01時13分06秒
またしても今回の話が長くなりそうで鬱なミカ・ニネンです。
変な説明ばっか増えて、肝心な結末がお粗末かも…(泣。

>>204 bagel_love さん
いつもレスありがとうです。バイクを駆るよっすぃ〜を納得してもらえてよかったです。
>7月最後の日曜日
これって、三重県のサーキットで1/3日走り続けるレースですか?いいですね。
個人的には、某U選手がツナギをファンサービスしたのが印象的です(笑。

>205 サトルさん
読んでいただき、ありがとうございます。
モータースポーツ知らない人でも楽しめるよう心がけ書いているつもりですが、どうでしょうか?
これからも妄想を駄文にしていくので、よろしくです。

今晩はこの後、少し更新です。
207 名前:サイドストーリーVI-12 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月18日(土)01時15分42秒
 「こんなところで何してんねん?」
 いち早く立ち上がった加護が尋ねる。
 「何か怪しい雰囲気れすね〜」
 石川にアタックをかました辻が合いの手を入れる。
 「ははーん、さてはよっすぃが梨華ちゃんを口説いてたとこやな。
  ったく、このジゴロな姉ちゃんは手が早くてこまるわ」
 「あややという恋仲がいるのに梨華ちゃんに手を出すなんて、よっすぃはふしだられすね〜」
 やんちゃコンビの辻希美と加護亜依に言いたい放題言われ、怒りを押さえられない吉澤。
 「あ゛〜!!テメーら人が真剣な話しようとしてるときに茶化しやがって! こうしてやる!!」
 吉澤は手を伸ばして辻と加護のたるんだ腹の肉をガッとつかみ、プニプニとした。
 「…や、やめてーな。気にしてるんやで」
 「は、8段アイスのせいじゃないですよ…」
 吉澤は容赦しない。
 「この感触をみんなに言いふらすぞ。そうされたくなかったらあっち行け!」
 迫力に気圧されて、うなずく2人。それを吉澤は見て手をはなす。
208 名前:サイドストーリーVI-13 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月18日(土)01時19分13秒
 「よっすぃって割と心狭いんやな。ののとは何回もぶつかったことあるけどな、今でも仲良しやで」
 「あいぼんとは喧嘩するほど仲がいいんですよ〜」
 2人は捨て台詞を残して去っていく。
 その背後で、正しいことを言われた吉澤が言い返せずにうつむいていた。

 辻と加護はカートから頭角を表した、いわば生え抜きのドライバー。
 後藤と吉澤の関係に似ているが、違うのは2人が同じカテゴリを歩んできた点。
 容姿が似た2人はカートからFJ1600、そしてF3と舞台を変えて何度も競い合って来た。
 加護が勝つこともあれば、辻が押さえたこともある。そして、もちろん接触で終わったことも。
 そんな2人は勝負のごとに喧嘩と仲直りを繰り返して友情を深めてきた。
 今では同じチームに所属し、F・娘。内では一の仲良しコンビと目されていた。
 そんな辻と加護にとって、一度のアクシデントでこじれた仲を戻せずにウジウジしている吉澤と石川は、
とても女々しく見えたのだった。
209 名前:サイドストーリーVI-14 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月18日(土)01時21分38秒
 ともあれ、辻加護の乱入で重い空気は払拭された。
 このタイミングを逃すわけにはいかない。吉澤が今度こそ思い切る。
 「あ、あのさ、梨華ちゃん怒ってるのかな…やっぱ怒ってるよ、ね…」
 何とか絞り出した声が、かすれて消えそうになる。
 石川はうつむいたまま反応をみせない。
 が、再び声をかけようとした吉澤の耳に、微かに届く石川の声。
 「…しぃ」
 「え?」
 「私、怒ってなんかいない。悲しいの…」
 思わぬ展開に戸惑う吉澤。
 予想していなかったのは返事の内容だけでなく、今にも泣き出しそうな石川の瞳だった。
210 名前:サイドストーリーVI-15 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月18日(土)01時23分46秒
 「ひとみちゃんはさ、どうして走ってるの?」
 唐突な質問に戸惑う吉澤。少し考えて、勝ちたいからかな、と答える。
 石川はうつむいたまま続ける。
 「私ね、走ることしか取り柄のないダメな女なの」
 今にも消え入りそうな弱い声が、コンクリートの内装に妙に響いた。
 「今はこうしてレースに出てるけど、本当は違うの。
  クルマを自由に、思う通りに走らせたい。それだけなの。」
 言葉の真意を測りかねる吉澤。
 石川はゆっくりと言葉を続ける。
 「本当は勝ち負けなんてどうでもいいの。思いっきり限界まで攻めているとき。
  自分の存在価値を感じるのは、そのときだけなの…。
  だから、辛くても最後まで走る。きちんと走り切りたいの!」
 いつの間にか石川の語気が強まっていた。
 「梨華ちゃん…」
 吉澤は、あの瞬間を思い出してうつむく。
211 名前:サイドストーリーVI-17 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月18日(土)01時25分37秒
 再び、沈黙が訪れる。
 心の中を吐露した石川は堪えきれなくなったのか、静かにすすり泣いていた。
 泣いている石川をそのままにすることはできず、弁明をする吉澤。
 「勝ちたかった。優勝は無理だったろうけど、少しでも上でゴールしたかったんだ。
  あのときは抜けると思ったし、もちろん押し出す気なんて全くなかった。
  純粋に抜かそうとしただけ。…判断のミスはあったと思うけど」
 「違う。ひとみちゃんは私のことどうなってもいいと思ってるんだ。
  あの状況で抜こうなんて無理だったよ。接触は避けられなかった」
 「そんなことない。どうなってもいいなんて思ってないよ。でも、梨華ちゃんと競うのはイヤだなって」
 「なんでイヤなの?私だってレーシングドライバーよ。ちゃんと勝負したいの!」
 「ちゃんと勝負したよ。だけどそっちのウィングが当たったんじゃんか!」
 いつの間にか2人とも興奮して口論になっていた。
212 名前:サイドストーリーVI-17 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月18日(土)01時30分30秒
 「もういい!」
 駄々っ子の様に捨て台詞を残して駆け出す石川。
 「あっ…」
 取り残された吉澤も、すぐに我に返り追いかける。
 しかし、石川の姿を見失ってしまう。焦って辺りを見回す。
 冷静になると、自分の言っていたことの無意味さに気が付く。
 後悔の念が広がる。身体が冷えていた。
 握ったこぶしが小刻みに震えていた。
 もう、取り戻せないのかもしれない…。
 
 その時、今朝のモーニングコールと同じ声が後ろからした。
 「なにしとるんや。石川は駐車場にいるで。はよ追いかけんかい」
 腕を組んだ中澤が吉澤をにらみつけていた。
 「それだけの価値があるならば、やけどな」
 冷たく言い放つ中澤。
 吉澤は少しの迷いも見せずに決断した。
 中澤に向かってうなずいて、駆け出す。
213 名前:サイドストーリーVI-17 〜湾岸の二人、微妙な 投稿日:2002年05月18日(土)01時40分06秒
番号間違えたうえにsage忘れ…

悲しいね(泣
214 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年05月18日(土)01時43分18秒
またしてもsage忘れに、今度は名前までまちがえてる…
もう寝るよ…
215 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年05月20日(月)01時31分36秒
…前回の更新は睡魔と戦いながらだったので、めちゃめちゃでした。
反省しています。はずかしぃよぉ(泣

で、ここまで来ておきながら申し訳ないのですが、次回の更新は少し先になるのをご了承下さい。
推敲をするうちに大幅な修正が必要になってしまったためです。
話の締めも少し迷いが出てきまして。基本は変わってないのですけど。
一週間もあかないと思いますが、ちょっと手こずるかも(汗

ではでは。
216 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年05月22日(水)15時48分07秒
何とかなったので、早速更新です。
お待たせしてすみません。ってどれだけの人が待ってるかは謎ですが(笑。

ちゅーことで、引き続き
”サイドストーリーVI 〜湾岸の二人、微妙な関係〜”
をお楽しみ下さいな。
217 名前:サイドストーリーVI-18 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月22日(水)15時50分05秒
 駐車場に入った吉澤の耳に届いたのは、聞き慣れたクルマのエンジン音だった。
 吉澤のとるべき行動は決まった。バイクに飛び乗りイグニッションをオンにする。
 キックペダルを一挙動で蹴り下ろすとエンジンが一発で目覚めた。
 派手な白煙とくぐもった排気音が発せられる。
 その間にヘルメットとグローブを装備。チンストラップを留めるのがもどかしい。
 クルマのが動き出したようだ。エンジン音が動く。
 こちらのエンジンも暖まったのか、音も変わってきた。なんとか間に合いそうだ。
 今度は見失うわけにいかない。
 吉澤はスタンドを蹴り上げて、バイクをスタートさせる。

 10月の夜は予想以上に冷たかった。
 ビル街が明かりを失って暗くて妙に閑散としているのが、寒さに拍車をかける。
 視線の先には、石川の駆るクルマのテールランプがしっかりと捉えられていた。
 差を縮めるべく鞭を入れると、エキゾーストノートを響かせて吉澤をさらに押し出す。
218 名前:サイドストーリーVI-19 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月22日(水)15時52分46秒
 国道に出た石川を追いかけて、黄色信号の交差点を深いバンク角で抜けていく。
 交差点を立ち上がって前方を見た吉澤は状況の悪さを悟る。

 バイクとクルマ、どちらが速いとは一概に言えない。
 それぞれに長所・短所があり、状況によって有利・不利が入れ替わるからだ。
 混雑した市街地など、加減速を繰り返したりすり抜けが有効な状況では、バイクが速い。
 逆に、長い直線や高速コーナーの場合は安定度の高いクルマの方が速い。
 片側2車線の幹線道路であるこの国道はほとんど真っ直ぐで、時間帯のせいか交通量はまばらだった。
 この状況ではクルマに乗る石川の方が有利だ。
 加えて、幹線道路故の交通量の多さからアスファルトには深いわだちができていた。
 これもバイクの吉澤には不利な条件。

 それでもここで引き返すわけにいかない。覚悟を決める吉澤。
 上体をピッタリと伏せてカウルの影に納めたまま、無人の赤信号を駆け抜ける。
219 名前:サイドストーリーVI-20 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月22日(水)15時56分30秒
 パィィ〜ンという2st特有の乾いた排気音を奏でながら、闇を切り裂いて疾走する吉澤。
 白地に赤丸とロゴをデザインしたラッキーストライクカラーが夜景に映える。
 スズキのRGV250ガンマ(VJ-22A)という、レーサーレプリカだ。
 本当は”大人の事情”により、NSRやCBRなどホンダのバイクに乗るべきなのだが。
 10年近く前の設計ではあるが、チューンで約70馬力を発揮するこのバイク、戦闘力は今だ一戦級。
 現に、峠では相手がリッターバイクでもほとんど負けたことはない。
 もちろん吉澤のライディングテクニックが優れている部分も大きいのだが。
220 名前:サイドストーリーVI-21 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月22日(水)15時59分34秒
 国道も都心に近づくと、交通量が少し増えてきた。
 5〜6台の集団が見えるか見えない位の間隔で続く、といった状況。
 直線ではかなわない吉澤にとって、これらの車群は間隔を詰める絶好のチャンス。
 クルマの動きを的確に先読みし、抜群のコントロールで間をすり抜けていく。
 ミラーとミラーがかすり、クルマの運転手が驚愕の表情をするが吉澤はおかまいなし。

 吉澤に気付いた石川もハイペースを維持したまま。
 迫る吉澤から逃げるように、開いた間隔に割り込みながら車線変更を繰り返す。
 が、車群の中でのペースはバイクにはかなわない。吉澤との差は縮まる一方。
 その分、集団の前に出たときは石川がスピードを上げて引き離す。
 じりじりと吉澤が詰めるが、決め手を欠いていた。

 2台の壮絶な追いかけっこを、シンデレラ城が遠くから見つめていた。
221 名前:サイドストーリーVI-22 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月22日(水)16時05分05秒
 石川は半ば自棄になっていた。
 アクセルを思い切り踏み続け、メーターは一発免停以上の速度を示していた。
 先日も保田が免停でレースを欠場したばかり。
 これで警察に捕まったときのことは容易に想像ができる。
 それでも、アクセルを緩めない。
 正体のはっきりしない苛立ち、出所のわからない憤り。荒れ狂う感情が理性を切り離していた。
 あのときのアクシデントがフラッシュバックのように蘇る。
 反射的に送ってしまった視線。わずかに生まれた友への疑念。
 整理が付かない自分の気持ちに、さらに苛立つ。

 大体、なんでこんな事になってしまったのだろうか。
 自分は正しいという自己弁護と、無用な意地を張ってしまったことへの罪悪感。
 その狭間で自らを苛む石川、想いと行動がバラバラになっていた。
222 名前: 投稿日:2002年05月22日(水)20時12分03秒
ガンマってまた渋い単車に(w
オイラはカタナが大好きです。
223 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年05月23日(木)22時54分24秒
Fポンって実は土日の2日開催だったことに今頃気がついて焦ってるミカ・ニネンです。
だってさ、ここまで金曜も公式日程として書いちゃったんだもん…(泣
しょうがないから独自日程にしちゃおうか、と開き直っています。

>>222 人さん
レスどうもです。
その渋さ(というかマイナーさ)を狙っての採用なのです(笑
あと、2st車ってとこもポイントなんですが。

シャキシャキ行くわよ!ってことで今夜も更新です。
224 名前:サイドストーリーVI-23 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月23日(木)22時58分41秒
 ハンドルとシートから伝わる感触で前後輪の状態を察知し、的確な操作をしていく石川。
 そのドライビングに忠実に応えるのは、メタリックピンクにオールペンしたアルテッツァ。
 外観で目を引くのは、カラーリングと控えめなエアロパーツぐらい。
 が、重要なのは中身。エンジンはスーパーチャージャーを装備して約380馬力を発揮。
 ターボでないのはレスポンスを重視する石川のこだわりだった。
 足周りそしてボディの補強もパワーに負けないよう、そして石川好みに強化してあった。
 小遣い稼ぎにゴーストのテストドライバーとして有名ショップの開発を引き受けていた石川。
 その見返りというか、役得としてこのアルテッツァをチューンしていたのだ。
 今でも時たまこのアルテッツァで湾岸や首都高を攻めては憂さ晴らしをしている石川だった。
225 名前:サイドストーリーVI-24 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月23日(木)23時01分55秒
 微かにしびれてきた手足を気遣いながら、なおもスピードを緩めない吉澤。
 250ccという小排気量から70馬力というパワーを絞り出している吉澤のバイク。
 常に高回転を維持していないと十分なパワーが得られない性格のエンジンになっていた。
 そのため音や振動は尋常ではなく、ライダーの体力を消耗させ気力すら奪っていく。
 挫けかけた気持ちを立て直す。
 今のバイクはかなり気に入っている吉澤。
 それでも、こんな状況では少しだけ乗り換えることを考えてしまう。

 リッターバイクを試乗した時のことを思い出す。
 低回転からトルクがモリモリと発生して、その乗りやすさに感動すら覚えたものだ。
 だが、エンジンのフィーリングには納得いかなかった。
 そこには感情がこもっていないからだ。
 2stエンジンのフィーリングは狂気だ。二次曲線的に盛り上がるパワーはまるでロケットのよう。
 吉澤を官能の世界へ誘ってくれる魅惑のパワーユニット。
 これだけのテクノロジーを人類は破棄しようとしているのを、吉澤は本気で嘆いていた。
226 名前:サイドストーリーVI-25 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月23日(木)23時05分57秒
 吉澤がレースを続けているのは、スピードに魅せられたからである。
 はじめてカートに乗ったとき、壮絶なスピード感と全身で受ける風の虜になった。
 カートを続ける一方で、手軽にスピードを感じられるバイクにも目覚め、今も乗り続けている。
 レースでもオープンホイールのフォーミュラーを選んできたのは、スピードの追求から。
 GTなどの箱車を避けているのも、吉澤に言わせれば、ガラスで隔離されていてイヤだから。
 さらに加えると、運転席が真ん中からずれているのも嫌いなのだという。
 そんな吉澤だから日常的にバイクに乗り、そして唯一の愛車がオープントップのS2000なのだ。

 それに対して石川はストリート上がりのドライバー。
 無いお金を必死に貯めてクルマを作り上げては、ひたすら走り込んだ。
 マシンに無理をかけない走りも、そんな環境から身に付いたもの。
 何しろ、マシンを壊したら走れなくなるのである。壊さないようになるのは自然なこと。
 石川にとってレースはストリートの延長であり、少しでも長く走り続けることが重要だった。

 このあたりの意識の違いも、吉澤と石川を微妙にすれ違わせていたのだ。
227 名前:サイドストーリーVI-26 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月23日(木)23時13分00秒
 前方の空が、ほのかに光っていた。
 湿気を帯びた空気に、臨海副都心のライトアップが乱反射して少しだけ幻想的な雰囲気だった。
 ここまで走ってきた国道はこの先で行き止まり。逃げる石川は、針路を変更しなければならない。
 併走する首都高速に上がり、海底トンネルで羽田方面へ抜けるか、
 あるいは、都内へ向かい第一京浜などへ移るのか。
 吉澤は石川が向かっている先を予想して、その方面の地理を思い出す。
 このあたり、カーナビの装備が絶望的なバイクが不利な点でもある。
 加えて、吉澤は地理が苦手である。
 世界地図ですら不確かなのだから、都内の入り組んだ道路を把握するのは不可能に近い。
 以前にバイク便ライダーを勤めたとき何度も迷子になり、すぐ解雇された吉澤。
 唯一の救いは、方向感覚はそれほど悪くないということか。
 とりあえず、今いる場所と向かっている方角ぐらいはわかっていた。
228 名前:サイドストーリーVI-27 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月23日(木)23時16分02秒
 振り切りたい石川は、吉澤が想像していないであろう針路をとることにした。
 周囲の状況、特に赤いものを乗せた車両がいないことを確認して、アクションを起こす。
 軽いフェイントから、絶妙なペダルワークで荷重移動。
 スピードをほとんど落とさずに、華麗なドリフトで交差点を左折していく。
 
 その動きに思わず見とれそうになる吉澤。だが、自分の立場を思い出す。
 思いっきりのハードブレーキング。過重が抜けて持ち上がるリアを身体で押さえ込む。
 ギアを落としながら減速を終了すると、ブレーキのリリースと同時に車体を倒し込む。
 ジーパンだから膝を擦るわけにいかないが、身体を内側にスライドさせてバイクを旋回させる。
 視線はまっすぐ、進む方向を見据えたまま。
 コーナーの脱出にあわせてアクセルを開き、それにあわせて車体を起こす。

 改めて視線を意識すると、石川はすでに次の交差点に進入しようとしていた。
 「梨華ちゃん、マジですかぁ〜」
 半ばあきれながらも、あきらめない吉澤。
 シートに座り直して、次の交差点へ突っ込んでいく。
229 名前:サイドストーリーVI-28 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月23日(木)23時19分31秒
 臨海副都心を縦横に駆け回るピンクのセダンとラッキーカラーのバイク。
 石川と吉澤はともに手足のようにマシンを操り、舞うように駆け抜けていく。
 前触れもなく始まったバトルに、偶然居合わせたギャラリーが興奮する。
 中にはバトルを挑むつもりか、追いかけるクルマも現れた。
 それなりに腕に覚えがあったのだろうが、誰も追いつけなかったのだが。
 
 訳も分からず盛り上がるギャラリーをよそに、吉澤にはいくつかの心配事が生まれていた。
 ひとつは、自分の場所がわからなくなったこと。
 石川についてグルグル走っているだけだから、方向感覚すら失ってしまったのだ。
 そしてもうひとつ…それもかなり致命的なこと…は、吉澤の腕の間にあるタンクに関わること。
 この中身であるガソリンが、ほとんど空であろうということだ。
230 名前:サイドストーリーVI-28 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月23日(木)23時21分14秒
 もともと構造上の理由から燃費の悪い2stのエンジン。
 それに加えて、吉澤のバイクはパワーを出すために燃費を犠牲にしていた。
 メーターの距離計が示す数字は限界に近かった。
 事実、振り回しているバイクが軽いのである。
 ヒヤヒヤする吉澤だが、無情にもガソリンはどんどん減っていた。

 そしてもう一つ、吉澤にとっての不運が近づいていた。
 夜空は透明度を失い、雲が低く垂れ込めていた。
 空気がじっとりと湿気を帯び、天気が変わることを予言していた。
 吉澤も気付く。雨が近づいていることに。
 「降水確率30%なんて、雨が降らないってのといっしょじゃないのかよ!」
 予報に文句を付けても、天気が変わるわけではない。
231 名前:サイドストーリーVI-30 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月24日(金)23時59分34秒
 ステップをアスファルトに擦りながらコーナーを抜ける。
 アクセル操作の僅かな遅れでラインがはらみ、縁石と仲良くなりそうになるのをこらえる。
 体力・気力とも限界に近かった。
 ここまで石川を見失わずになんとか追ってきたが、終わりの時も近いようだ。
 負けるのは悔しいし、親友を失うのも悲しいが、どうにも吉澤の旗色が悪い。
 大体、どうやって決着を付けるか考えもしないで始めた不毛な追いかけっこ。
 吉澤が振り切られるのは、時間の問題だった。

 ついに、じっとりとした霧雨が降り出してきた。
 雨はどんどん強くなり、ただでさえ滑りやすくて要注意のマンホールがさらに滑りやすくなっていく。
 自然とペースが落ちて、テールランプがどんどん小さくなる。
 それだけでない。ついにエンジンが息継ぎをし始めた。
 恐れていた、ガス欠の初期症状だった。
232 名前:サイドストーリーVI-31 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月25日(土)00時16分28秒
 ついにエンジンの鼓動が止まった。
 クラッチを切り、惰性で歩道に乗り入れる吉澤。
 コックはすでにリザーブにしていたので、タンクの中は本当にカラだった。
 雨はかなり強くなっていて、吉澤にも容赦なく降り注ぐ。
 なんとか歩道橋の下を確保したが、ここまでに相当雨を浴びていた。
 雨の影響で騒いでいたギャラリーは退散していて、面倒なことになるのは避けられたが、
同時に助けを頼めるような人影すら消えてしまった。
 もちろん、石川を見失ったのは言うまでもない。
 さまざまな感情が交錯して、吉澤の視界がぼやける。
 「ちくしょ〜!!」
 叫んでみても雨音でかき消されてしまい、自分の小ささを痛く実感するだけ。
 どっと押し寄せる疲れに負けて、歩道に座り込んだ吉澤。ため息も出る。

 ふと顔を上げると、視界に映ったのはこちらへ向かってくる一対のヘッドライト。
 助けてほしいというわずかな希望を抱くも、立ち上がることはできなかった。
 そのクルマが、吉澤の目の前で停止するまでは。
233 名前:サイドストーリーVI-32 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月27日(月)01時15分21秒
 最悪の状況にあった吉澤の元に颯爽と現れた、まさに救世主とも言える一台のクルマ。
 少し懐かしいウエッジシェイプに、微妙な曲線が組み合わされたシルエットは美しかった。
 大きくラウンドしたフロントウィンドウは、宇宙船か未来の乗り物といった感じ。
 リアフェンダーは大きく張り出し、中におさまった極太タイヤも手伝って力強い印象を与える。
 ボディは抜けるようなスカイブルーで、イエローのホイールとの対比が小気味よい。
 その何とも言えないカッコよさに、しばし見とれる。
 吉澤はこの出会いに運命的なものすら感じていた。
 まだ見ぬドライバーが、まるで白馬に乗った王子様かのように。

 ツッーとウィンドウが下がる。
 雨と涙でぼやけた視界の向こうに、金髪のドライバーを認めた。
 顔形ははっきりしないが、スマートで知的な雰囲気を感じる。
 胸が熱くなり、涙がまたじわりとあふれてくる。
 雨音のに紛れて届くドライバーの呼びかけは、どこか聞き覚えのある声色。
 「…っさん、よっさーん」
234 名前:サイドストーリーVI-33 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月27日(月)01時18分28秒
 この声をつい最近、それも今朝聞いたような気がして、現実に引き戻される吉澤。
 「風邪ひくで、よっさん。早く乗れや〜」
 どっと押し寄せた徒労感に倒れ込みそうになる吉澤。
 「なんだ、中澤さんっすか〜」
 「なんだとはなんや。せっかく追いかけて来たのに乗せてやらんで」
 「あ、いや、ごめんなさい。置いてかないでください」
 謝りながら、慌ててガードレールをまたいで助手席に乗り込む。
235 名前:サイドストーリーVI-34 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月27日(月)01時20分47秒
 抱えたヘルメットを後席に置こうと後ろを見て固まる吉澤。
 後方には空間が無く、隔壁とウィンドウだけ。
 「あぁミドシップやからな。メットはドアポケットに入れときぃ」
 中澤は4点式のハーネスをゆっくりと締めながら言った。
 「何言ってるんですかぁ中澤さん。そんなとこにヘルメットが入るわけないじゃ…」
 身体をひねってドアの方を見た吉澤は、言葉を失った。
 シートとドアの間隔は大きく開いていて、確かにヘルメットの入るポケットが付いていたのだ。
 半信半疑ながら、そこにヘルメットを納める吉澤。
 それを見ながらうれしそうにしている中澤。
 「何か、うれしそうですね…」
 「いやな、見事これに引っかかってくれたからな。ホンマよっさんはからかいようがあってええわ〜」
 迎えに来てくれた事を感謝すべきか悩む吉澤だった。
236 名前:サイドストーリーVI-35 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月27日(月)01時28分33秒
 吉澤がハーネスを締めたのを確認して、中澤はクルマをスタートさせる。
 電話でバイク引き上げの依頼を済ませると、吉澤はだらりとへたり込む。
 そのまま、緊張の抜けた声で話しかける。
 「中澤さん、クルマ違いませんでしたっけ?」
 「ああ、インプな。あれはエンジンブローして廃車にしたんや」
 「じゃ、このクルマは新しく買ったんですか?」
 「ま、そういうことやな。ええやろ〜」
 「いいっすね。カッケーですもん。
  ところで、これなんて言うクルマなんですか?吉澤は知らないんですけど…」
 「へへへ、よくぞ聞いてくれたぞ吉澤君! これはな、モンテカルロの3連勝を初め、
  WRCで3年連続タイトルを獲得した栄光のマシーン、ランチア・ストラトスや!」
 「マジですか! それってプレミアもんじゃないですか!」
 「モノホンのラリー優勝車なら歴史的価値から億単位の価値がつくやろな。
  …ま、これはホークリッジちゅーイギリスのレプリカやけど」
 「あ…、そうなんですか…」
 レプリカとはいえ、それでも1000万円以上するのだが。
237 名前:サイドストーリーVI-36 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月27日(月)01時31分29秒
 中澤はクルマを首都高へと進めていた。
 雨は上がったが、路面は濡れていてまだ滑りやすいまま。
 トリッキーな挙動を示すミドシップのストラトスは、ハイペースで飛ばしていた。
 ふと違和感を覚えた吉澤が尋ねる。
 「中澤さん…ヘタになってません?」
 「んぁ、まぁな。このクルマ今日初めてだからまだ挙動がつかめてないんや。
  それに、濡れた首都高もヒサブリやしな」
 確かに。カウンターのタイミングや当てる量はまちまちで、クルマの動きを手探りしているかのよう。
 「あの…、中澤さん…」
 「なんやぁ?」
 「私、まだ死に無くないんですけど」
 「なにぬかしてるんや。偉い勢いで副都心駆け回ってたやつの言うことじゃないやろ」
 確かにそうかもしれない。だが、今の吉澤は助手席に張り付けられているのだ。
 自分でマシンをコントロールできないのは拷問に等しい。
238 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月28日(火)10時49分23秒
更新更新(わら
しかもいしよし+なかよし(わら
最高です。
239 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年05月29日(水)00時04分58秒
身辺が再び忙しくなっていやーんな日々を送っている今日この頃、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。
更新が遅いのは決して出し惜しみしているわけでなく、最終戦を書く時間を稼いでるのです。
…ってあんまり変わらないじゃんか(爆

>>238 名無し読者さん
そっか、なかよしですね。あんまり意識して書いてないので…。
最高と言って頂いて光栄でございます。
期待に応えられるかどうかわかりませんが、このあと更新です。
240 名前:サイドストーリーVI-37 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月29日(水)00時27分53秒
 「で、石川と話は…って追いつけなかったんやな」
 「はぃ…」
 恐怖以外の理由もあって、消え入りそうな声で答える吉澤。
 「休憩所での話も聞いてたで、悪いとは思ったけど。
  しかしあんたらどーしょうもないなぁ。何でこんなにこじれるんや。ちゃんと謝ったんか?」
 「…いや、行きづらくて。梨華ちゃん怒ってたみたいだし…」
 「なんで謝りに行かないんや。お互いに相手が悪いと思ってる、ってなところか」
 吉澤は無言で肯定した。
 「ええか、承知してるやろうけど、ウチらはお互いを信頼してレースしてるんや。
  もしも相手を信じられなかったら、時速300キロでテールトゥノーズする気にならんやろ」
 もっともだ。うなずく吉澤。
 「だからな、お互いを信頼できる位にはならなあかんで。少なくともな」
 「…はい」
241 名前:サイドストーリーVI-38 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月29日(水)00時30分26秒
 「ったく、F・娘。に出なくなったのになんでウチがこういう役せなあかんのや」
 愚痴る中澤を横目に恐縮する吉澤。
 「大体、ウチの立場ちゅーもんもあるんやで。ホンマはこんな仲取り持つようなことしたくないやけどな」
 ハッとする吉澤。
 中澤率いるチームのエースドライバー、安倍は現在ドライバーランキングトップ。
 加えて吉澤らのゴナツヨがリードするチームタイトル、ナカザワも僅かだが可能性が残っていた。
 実際、中澤としてはゴナツヨがこのまま内部分裂してくれたほうが都合が良いのだ。
 それを承知でなんとか間を取り持とうとしている中澤の心境を察する吉澤。
 中澤が自らのチームよりも優先する今回の吉澤と石川の問題。
 この事態がそれだけ深刻で、F・娘。全体に大きな影響を与える恐れがあるということなのだ。

 逆に言うと、中澤はそれだけF・娘。の事を考えて行動していると言える。
 良い仲間に恵まれたことを、改めて感謝する吉澤だった。
242 名前:サイドストーリーVI-39 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月29日(水)00時33分30秒
 「まぁな、この騒動の原因はゴナツヨにもあるけどな」
 「なにかあったんですか?」
 「よっさんがレース後半にキれて石川に迫っていた時、ゴナツヨは順位キープのオーダー出したんや」
 「え! オーダー無しだったはずじゃ…」
 「チームが慌ててたんやろな。
  それが2人に徹底されれば問題なかったんやけど、結果的には混乱させただけやった」
 「私の無線は壊れていました。それで伝わらなかった…」
 「そこで誤解が生じて、あの接触へつながるわけや。
  …けどな、あんたレース後半ピットサイン見てたか?」
 そうだ。あの時は冷静さを失って全くピットサインなんて見てなかった。
 苦虫をかみつぶしたような表情になり、そうですと答えるのがやっとの吉澤。
 「スタッフが何度も出してたけど見てなかったんやろ。だったらよっさんにも責任があるで。
  というわけで決まりやな。よっさんが先に謝ること。ええな」
 命令形の中澤に、吉澤は納得するしかなかった。
243 名前:サイドストーリーVI-40 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月30日(木)12時06分37秒
 突然響いた携帯電話の着信音に、中澤はハンドルを握りながらゆっくりと反応する。
 「おっ、矢口からや〜」
 上機嫌で電話機を顔に当てて応対する中澤。慣れた手つきだ。
 その様子を見ながら不安を募らせる吉澤。
 ちなみに、運転中の携帯電話による通話は、イヤホンマイクなどで運転に支障が出ないようにすべし。
 そうでないと交通法に触れるので注意。
 「どや、おったか?」
 『任せとけよ裕子〜。例のところでビンゴ! 予想通りだったね。
  とりあえず様子見てるからね』
 「頼むで。好きやで、や・ぐ・ち♪」
 『やめろよ裕子、気持ち悪い』
 「好きなものを好きって言ってなにが悪いんや〜」
 『そういう問題じゃなくてさぁ、というか裕子運転中だろ! ちゃんと運転しろよな!』
 「大丈夫やって〜」
 笑って受け流す中澤。吉澤は際限無く続く会話に脱力する。
244 名前:サイドストーリーVI-41 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月30日(木)12時08分35秒
 大黒パーキングにゆっくりとクルマをすすめる中澤。
 サタデーナイトフィーバー、魅惑の夜は始まったばかり。
 様々な趣向のクルマが群をなし、喧噪を生み出していた。
 中澤がゴミの散らばった駐車スペースに手早くクルマを止めると、すぐに矢口がやってきた。
 「ほら、裕ちゃんあそこ」
 矢口が指した先には、ピンクのアルテッツァが鎮座していた。
 運転席に映る影が誰なのかは、言わなくてもわかる吉澤。
 そして、自分がどうするべきかも。
 視線で促す中澤に、吉澤は少しだけ躊躇する。
245 名前:サイドストーリーVI-42 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月30日(木)12時11分12秒
 唇を噛み後悔する吉澤。
 無用な意地っ張りでここまでこじれてしまったこの関係。
 しかし、ここで一歩を踏み出さないと永遠に失ってしまいそうだった。
 あの時に出なかった勇気が、なんとなく、今なら出るような気がした。
 目をつぶって、決心する吉澤。
 無言でハーネスの金具を外す。カチリと車内に冷たい音が響く。
 車外に降り立つと、冷たい空気が神経を引き締める。
 「気が済むまで話し合って来いや。ウチらは邪魔せんから」
 中澤が優しく声をかけ、エンジンをかける。
 矢口も吉澤に手を振って、自分のクルマに戻る。
 「ありがとうございます」
 エキゾーストに負けないように中澤へ声を張る吉澤。
246 名前:サイドストーリーVI-43 〜湾岸の二人、微妙な関係〜 投稿日:2002年05月30日(木)12時13分46秒
 アルテッツァの脇に立っても、少し躊躇してしまう。
 意志を握りしめてサイドウィンドウをノックすると、パワーウィンドウが下がった。
 その向こうに座っているのは、もちろん石川梨華。
 シートバックに上体を預け、反対側の彼方へ視線を飛ばしていた。
 「いい、かな?」
 「…うん。ロック開いてるよ」
 言葉少なな2人。吉澤がゆっくりとドアを開けてロールゲージをまたぐ。
 ハンドルに手を置き、視線をあわせない石川。
 ヘルメットを抱えて、長身を縮こませている吉澤。
 しばらくの沈黙。再び流れるイヤな雰囲気。
 中澤の言葉が脳裏を掠め、そして雨中の孤独を思い出す。
 もう、あんな思いはしたくない。
 そして、最終戦でちゃんとレースできるように。
 覚悟を決めた吉澤が、視線を上げた。
 「ごめん、梨華ちゃん。あれ、無茶だったよね…」
 石川が吉澤の方を向いた。その表情は穏やかだった。
 「いいんだ。私も、ムキになってた…」

 夜の闇が、2人の距離を少しだけ縮めてくれていた。
247 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年05月30日(木)13時59分26秒
サイドストーリーVIはこれで完結です。
色々悩んだのだけど、なんかすっきりしない終わり方で
非難飛びまくりな気もするんですが…許してーな(泣

で、残すは最終戦・富士となりました。
なったのはいいのですが、スレサイズが限界に近づいてきました。
レースに予選も入れると40レスくらいは軽く行くので、引っ越しは必至ですね。

とりあえず予選をこっちで、決勝レースから新スレに移行しようと思ってます。
予選はまだ半分くらいだけど、それほど伸びないだろうとの読みです(笑

ということで、次回更新までまたあいてしまいますがご勘弁を。
ではでは。
248 名前:bagel_love 投稿日:2002年05月30日(木)20時15分31秒
いしよしが仲直りして本当によかった。

最終戦トップのなっちに1ポイント差のよっすぃ〜、
5ポイント差の梨華ちゃん、ごっちん。
展開が非常に気になります。
チャンピオンの栄冠は誰の頭上に輝くんでしょう?

>ということで、次回更新までまたあいてしまいますがご勘弁を。
多少時間がかかっても、いくらでも待ちますので
ミカ・ニネンさんの納得のいく作品を書いてください。
249 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年06月04日(火)00時35分44秒
何か暑くなって夏みたいだな、と思ったらもう6月なんだなぁと今さら気がついた今日この頃、
みなさんいかがお過ごしでしょうか。
本当は今晩あたり更新しようとしてたのですが、
今日は精神的にダメージを受けることが立て続けにありまして、ちょっとパスさせてください。
対ベルギー戦で中山がハットトリック決めても回復できないくらいの状態でして。
あーでもハッキネンが復帰を表明したら元気になるかも。

希望的予測としては、世界規模のお祭りが終わるまでには最終戦も終わらせたいなぁ、と。
どーなるかわからないですけど。

>>248 bagel_love さん
毎度レスありがとうございます。
続きはもうしばらくお待ち下さい。
最後に笑うのは…さて、誰なんでしょうか?
250 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年06月08日(土)03時30分01秒
ワールドカップが盛り上がる今日この頃。
サッカーは詳しくないけど良い試合を楽しむ日々を送っております。

個人的にはスウェーデンを応援していまして。
先の対ナイジェリア戦は勝ってうれしいなぁ、と。
観戦していて久々に北欧の血が興奮しちゃいました、なんてね(爆)。

で、更新の方ですが、気分も乗って来たので明日から再開したいと思います。
書いていてスレ数がかさんだので、予選から新スレに移行します。

ということで、もう少しだけお待ちを。
251 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年06月09日(日)17時13分50秒
新スレ立てました。

”フォーミュラー・娘。” Rd.3
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=blue&thp=1023607602&ls=50

こちらで最終戦の予選から開始いたします。

…明日から、って書いておいて思いっきり守れなかったのですが、
そこのところは許してください(泣
252 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年07月04日(木)21時00分10秒
ここのところ、気分的にアレな状態が続いていまして。
更新しづらい、というか制作の方がスランプ気味。
…読んで頂いてる方々には全然関係ないことですけど。

具体的にどうとかは書けないのですけど、自分の見通しの甘さに苦しむ一方で、
世の中のいい加減な一面を知ってあきれたりとか、とかとか。
すっごいローテンションかつモチベーション下がりまくりでもうイヤッ!

愚痴ですません。
いや、本当はこんなところに書く内容じゃないのはわかってるんですけど。
253 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年07月04日(木)21時36分37秒
んな愚痴ばっか言ってもしゃーないので、なんか最近のスポーツ関連のことでも書こうかな、と。

話題沸騰だったサッカーW杯ですが、一番記憶に残っているのは開幕戦のフランスvsセネガル。
予備知識無くて、フランス=フェラーリ、セネガル=ミナルディって勝手にイメージして観戦した。
でも、試合が始まると互角の戦い、そしてセネガルの先制、何もできないフランス。
で、セネガルが勝った瞬間、サッカーはすごいなと思った。
よっぽどの事が無ければミナルディが勝つことはないF1とはえらい違う。どんなチームも勝つチャンスは平等なんだと。
 
ま、その後は逆の意味での平等を思い知らされましたが。
F1で八百長とか、審判の買収は難しいからねぇ。
254 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年07月04日(木)22時05分41秒
で、F1について。
フェラーリ強すぎ。ハンディとして昨年型に戻して欲しいくらい。たぶん、それでも勝てると思うけど。
 
でもそれ以上につまらなくしてるのが、バリチェロ。モロにやる気無しじゃないですか。
フェラーリ同士でバトルにならないとシリーズ全体が停滞しかねない。
来期の契約なんか早々に決めないで、もっと貪欲になって欲しかったな、と。
マクラーレン・ホンダの頃はセナプロが激しかったから、充実したシーズンだったと思うんだけど。
 
WGPもホンダ(というかRCV)が速すぎ。宇川があの位置で走れるのだから、推して知るべし。
まぁ、この勢いだとRCV全勝しかねないし。それはそれで面白いかもだけど。
 
今はどこのカテゴリーが面白いかなぁ。なんか今期はどこもパッとしない気がするんですわ。
CARTもIRLもつまんないし、Fポンも伊達公子の旦那は出なくなっちゃうし。
WRCはちょっと面白くなってきたけど、スバル・三菱はダメっぽいし。
誰かおすすめカテゴリー教えて〜な気分。

さて、気分転換になったし、本スレの更新でもしますか。
255 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年07月23日(火)19時57分32秒
F1
とりあえずタイトルおめでと、顎(←ここの管理人さんじゃなくてドイツ人のほうね)。
記録なんか気にせず、残りを全部勝ってくれ、ここまで来たら。
あと、バトンがBARですか。ビルニューブ放出の前触れか…。

WGP
ロッシは怪我しても、ポール取れなくても勝っちゃいましたね。
ザクセンは2stのチャンスだと思ってたけどね…。
加藤にRCV供給されるらしい後半に期待です。

WRC
フォードの攻勢に期待。じつはサインツ推し。
マクレーに負けるな!
256 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年08月05日(月)16時11分15秒
ちまたでは大異変のストーブリーグに大騒ぎの今日この頃、みなさんはいかお過ごしでしょうか?
個人的にいろいろあった怒濤の期間が終わり、制作に集中できるようになりました。
今まで脳内に貯めてきたあれやこれを消化できるといいな、と思ったりしてみて。

にしても、今回の電撃移籍は驚きでしたね。
虎之介がトヨタF1以上の衝撃度でしょうか?いや、それ以上かも。
個人的には、ハッキネンの引退の方がショックとしては大きいですが。
でも、書きづらいという点では自分にとって予想以上に影響が大きいですね。
(正確には、妄想を膨らませるのが大変になったのですが)
とはいえ、本編のストーリーは崩さない予定です。
それ以降の番外編みたいなのは、ちょっと変更しようかな、と。

ということで、最終戦はもう少しお待ちください。
完結させてから、最後まで一気にアップいたします。

(…って、ここ誰も見てないだろうな)

Converted by dat2html.pl 1.0