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デス・ゲームV 〜それぞれの理由〜
- 1 名前:flow 投稿日:2002年03月14日(木)23時10分16秒
緑板、黄板で書かせていただいていましたが、当初の予定以上に長くなってしまったため、
こちらに移転させていただきました。
題名から想像がつくかと思われますが、バトロワものです。
前スレは↓です。
デス・ゲーム 〜それぞれの理由〜
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=green&thp=1009186112
デス・ゲームU 〜それぞれの理由〜
http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=yellow&thp=1011522453
もしお時間あれば読んでくださると嬉しい限りです。
- 2 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時11分38秒
『ねえ、梨華ちゃん。私思うんだけどさ、皆が殺しあわなきゃならない理由なんて
あると思う?』
――― ひとみちゃん。
『私は、ないと思う。ないと思ってる。そう、信じたい』
――― ひとみちゃん。
『梨華ちゃんは、辻ちゃんと…福田さんを殺しちゃったって言ったよね? だけど、
それは望んでしたことじゃないんだよね? 私を生き残らせようと思って、私を
思ってくれたからこそ、そうしたんでしょう』
――― ひとみちゃん。
『だったら、今度は逆のことをして欲しい。梨華ちゃんだから、信用して話すんだよ?
私は、“絶対に不可能なこと”があるなんて思わない。皆で力を合わせれば、何とか
なるんじゃないかと思ってる。特に、朝比奈女子園の仲間なら、――― 』
――― ねえ、ひとみちゃん。あたしが気付いていないと、思っているの?
あたし、ずっとひとみちゃんだけを見てたんだよ。気付いてるんだよ。あなたが、真希
ちゃんを特別に思ってることも、この『死のゲーム』が始まってからずっとずっと、彼女に
会いたいと願っていることも。
- 3 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時12分42秒
だけど、優しいから。『よっすぃ』は優しすぎるから、それをはっきり口にしないだけ
で、あたしを傷つけないために、そう言葉を濁しているだけで ―――
それが逆に、どれだけあたしを苦しめているのか、気付いていないんでしょう?
ねえ、どうして? どうしてあたしじゃ駄目なの。あたし、いつもひとみちゃんの側に
いたでしょ。どうしてだか分からない訳じゃないでしょう。そんなに、真希ちゃんは特別
だっていうの? あたしと真希ちゃん、何処がそんなに違うんだろう。
『皆が、一緒なら何とかなる気がする。ねえ、梨華ちゃん。皆を手分けして集めよう。
まだ生き残ってる人、何とかして集めよう?』
違うよ、ひとみちゃん。“皆”を集めたいわけじゃない、あなたが会いたいと望んでいる
人はその中でたった1人だけ。後藤真希に、会いたいが為。
『 梨華ちゃんなら、協力してくれるって信じてるよ。ねえ、梨華ちゃん。本当は、梨華
ちゃんはすごく優しい子だって、私知ってるから。本当に純粋で、真っ直ぐで、優し
い子だって知ってるから。ずっと一緒にいたんだから』
- 4 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時13分58秒
ひとみちゃんは責めなかった、あたしのことを。辻ちゃんも、明日香ちゃんをも殺して
しまったあたしを、ひとみちゃんは決して責めなかった。あたしが、彼女を思ってそれを
したことを、理解してくれたから。あたしはすごく嬉しかった。
ねえ、涙が出るほど嬉しかったんだよ。あなたが、心の奥底では誰を想っているかを
知らなければ、あたしは素直に泣くことが出来たのかもしれないけれど。
『 優しくて、純粋過ぎるから辻ちゃんや福田さんを手にかけてしまったんだって、私は
そう思ってるよ。だから、私は梨華ちゃんを責める気はない。間違ってるのは梨華ちゃ
んじゃない。辻ちゃんや福田さんでもない。この、“ゲーム”そのものが間違っている
んだよ。私たちは、………梨華ちゃんが悪いんじゃない』
でもね、その半分、とてもがっかりしたんだよ。だって、ひとみちゃんは喜んでくれる
と思っていたんだもの。「よっすぃを生き残らせるためなの、ごめんね?」 ――――
それしか方法がないと思っていたんだもの。たった1人しか生き残れないって言われた
から、そうするしかないと思っていたんだもの。
- 5 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時15分19秒
-
あたしは只、ひとみちゃんに喜んでもらいたかった。「よっすぃを死なせなくない」。
だから、人を殺すことも問題じゃなかった、ちゃんと理由があるんだから。だけど。
ひとみちゃんは、あたしがこれ以上誰かを殺すことを拒否した。殺すんじゃなくって、
皆を集めてって。これ以上仲間が減らないように。殺さないで ――― 。
―――――
吉澤と離れて数時間が経過していた。梨華は当初は辻の武器であった日本刀をしっかりと
右手に握り締めたまま、地図を片手に森の中を徘徊していた。
2人分の血を吸った日本刀は、その分通常の重量よりもその重みを増しているのだろうか。
刀は、細身の梨華が手にするには重量感がありすぎて、その右手には過度に負担がかかっ
ており、彼女の腕からは痺れを通り越してもはやその感覚すら徐々に無くなり始めていた。
既に、涙は枯れ果てていた。吉澤ひとみと離れてから、体中の水分が無くなるのではない
かと思うくらい、梨華は存分に泣いたのだ。
- 6 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時16分17秒
- それは、吉澤と別れた後、徘徊する中で見つけた小屋で一旦休憩を取ったときも、その後
あんまり休んでいる暇はないと判断して再び出発したときも、ずっと梨華は涙を流し続けた。
( ひとみちゃん、ひとみちゃん……… )
自分の好きな彼女の名前を何度も呪文のように心中で唱えながら、梨華はそれでも、愛し
い彼女の言葉に忠実に従うため、森の中を歩き続けていたのだった。
あんなにも会いたいと願った彼女。そして、その願いは実に早いうちに叶えられた。だが
それは、実に残酷な彼女の言葉によって、梨華はその少女と離れざるを得なくなったのだが。
『皆を探そう。一緒に考えれば、何とかなるかもしれない』
その言葉がすべて嘘だとは思わない。彼女 ――― 吉澤ひとみは実に優良な少女で、学校
の成績はおろか、スポーツも、心配りも、人望も、全てがおよそ完璧だという、言うなれば
“模範的な少女”だった訳で。その彼女が、他人の心配をして、皆で逃げようと提案した事
が不自然だと思っている訳でもない。
まして、梨華は吉澤の隠された“裏の顔”などは知らなかったのだし。
- 7 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時17分34秒
吉澤が周囲に対して隠し続けてきたその“裏の顔”は知らなかったけれど ――― 梨華に
は1つ、気付いていることがあった。それは吉澤が周囲に対して平等に見せる完璧な態度の
中で唯一、特別視している少女の存在。後藤真希の存在を。
決して2人で馴れ合うわけでもない、特にスキンシップがあるわけでもない。吉澤には梨
華が、そして真希には市井紗耶香が。2人とも、お互い以外に一緒にいる時間がもっと長い
相手は存在したのだ。園で行動するときは、自然とその組み合わせが出来るくらいに。
だけど。( 何かが違う… ) そう、梨華は気付いていた、彼女が吉澤に向ける想いが大きけ
ればこそ気付いたその2人に通ずる奇妙な同調感を。例えて言うなれば、「目と目で会話で
きる」、そんな感じ。
いや、それも適当な表現ではないかもしれない。上手くは言えないが、確かにその2人は
どこか“特別”なのだ。そもそも、そのようなごく曖昧な関係性を的確な言葉で表現出切る
ほど、自分の語彙は豊富なわけではなかった。
- 8 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時18分55秒
食堂で、園の庭で、学校の屋上で ――― 。
同じ園で生活をし、同じ学校に通っていれば自然とその行動範囲も同一の場所が増えて
くるのは当然だとしても、そんな中でごく自然に視線を合わせ、ふっと微笑み合う2人。
吉澤の隣りにいるのは間違いなく梨華だけなのに、まるで自分の存在が2人の間から抜
け落ちてしまったかのような孤独感。いや、“疎外感”を言った方が適切か。
それはまさに瞬時のことなのだ。1呼吸、2呼吸する間だけの話。けれど、僅かな刹那
の中のやり取りだけに、彼女らの心の結びつきの強さをより感じてしまうのは否めない。
( どうして? ひとみちゃんは、真希ちゃんのことが好きなの? 真希ちゃんも? だっ
て、市井さんがいるじゃない。ひとみちゃんだって、知ってるでしょう )
梨華のその疑問は、口に出されることはなかった。出すつもりもなかった。問いただす
のが怖かったから。別にそんなことを聞かなくても、実質吉澤の1番近くにいるのは自分
なのだから、と。深く考えるべきことじゃない………そう、多分。
- 9 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時20分12秒
『鬱陶しい子』。吉澤にそんなことを思われてはたまらなかった。もちろん、優しい吉
澤のことだ、そんなこと考えたり、そんな目で人を見るはずはないだろうが。
――― ここでもし、梨華が吉澤と真希の結びつきの強さの本当の理由を知っていたのな
ら、彼女はこんな行動には出なかったのかもしれない、何故なら梨華が邪推した2人の絆
は、梨華の想いのように純粋なものではなかったからだ。
当然、梨華にそれを知る機会などはないし、それ以外の理由で2人が通じ合っているの
だとは想像すらつかない。けれど、吉澤と真希を繋いでいる糸は、決して「恋愛感情」など
と一言で片付けられるような単純な思いなどではなかった。
それは、吉澤や真希ら自身すらも意識し得ない範疇の問題だったけれど。だからこそ、
梨華のようにある意味「部外者」である立場の人間が、それを理解し、想像する事など不可
能に等しいことなのだ。( もちろん、梨華がそのような諸事情を知るはずはないけれど )
- 10 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時21分41秒
『皆を集めて』 ――― 梨華の耳には、それはどうしても「真希に会いたい」という意味
にしかとらえられなかった。吉澤自身は決してそうだとは明言していなくても、幼い頃から
ずっと共に育ってきた彼女のことだ、何となく、そうだという確信はあった。
もちろん、吉澤の言うことは聞く。その希望には、忠実に従うつもりだ、自分は。だけ
ど、だけど ――― 1つここで梨華の心に芽生えた感情があった。
今までは意識すまいと、必死に心の奥底に押さえつけていた黒い感情。自分は、常に笑
顔でいなければならない、少なくとも吉澤の前でだけは。
( ……真希ちゃん。真希ちゃんは、会いたい? 市井さんでなく、ひとみちゃんに、会い
たいと願ってる? ひとみちゃんと、会いたいの…? )
ざわざわとした焦燥感が、梨華の胸を少しずつ侵食していく。
嫉妬。
どう否定のしようもなく、梨華は真希に嫉妬していたのだ。もしこれが『デス・ゲーム』
などというふざけた殺し合いの会場などではなく、園や学校の中であったなら。その嫉妬と
いう醜い感情でさえも、楽しい青春の中の1つの“思い出”として、自分の胸の中に刻まれ
るのに違いない。
- 11 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時22分15秒
そういった、平和な生活の中での話だったのなら。今では手を伸ばしても、それは2度帰
れることもなく、とても遠い存在になってしまったけれど。
だけどこれは「殺し合い」だ。吉澤は誰かがこれ以上死んでいくことを願ってはいない、
そして皆が集まることを、真希に会えることを望んでいる。そして自分はそれに従う、だ
けど、だけど ――― 。
自分だけではないだろう、他人を殺そうと考えているのは。自分のように、『誰かの為』
に他人を殺そうとしているとは限らないけれど、少なくとも「死にたくないから、生き残
るために」……たった1つの椅子を目指して、他人を殺そうと考えている者がいたとして
一体何の不思議があろう? 現に、梨華はそれを実際の行動に移したのだ。
それに、人数はもう大分減っている。明らかに、自分が殺したのではない相手で死んで
いる者もいた。( そう、辻や福田しか、自分は手にかけていない。大体、加護や亜弥、新
垣達に至っては廃校で出発する時の印象でさえ残っていないのだから )自殺でなければ、
大方誰かに殺されたのだと考えるのが当然だ。
- 12 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時22分53秒
( ああ、それにしてもその彼女が“殺された”のであれば、一体誰か彼女らの命を奪っ
たというのだろうか? 怖くないといえば、それは嘘になる )
そして、ここで嫉妬から生まれた黒い感情が、梨華の心を覆ってゆく。
( ひとみちゃんはいない。もし、ここで真希ちゃんを殺してしまったとしても… )
吉澤が、真希と合流する前に彼女を消してしまえれば。「ヤル気」になっている者は
確実にいるのだ、そいつのせいにしてしまえばいい。自分は、真希とその「ヤル気になっ
ている者」以外の人間を連れて、吉澤と再会すればいい。
――― ああ、それは名案だ、………とても、いい考えだ。
実にそれは単純極まりない作戦だ、陳腐、とも言う。
けれど、このような殺伐とした生死の淵に立たされた状況の中で、梨華は正常ではいら
れるほどの精神は持ち合わせていなかったので。
彼女の正常な精神状態は、辻を殺そうとした時点で既に狂い始めていたのだ。吉澤ひと
みを強く想うが故の、自己防衛にも似た精神崩壊。
- 13 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時24分17秒
「ヤル気になっている者」が誰だかは分からないので、その存在が脅威ではあったけれ
ど、皮肉な話だが、梨華には強みがあった。『既に2人を殺している』という強み。こん
な異常な事態においても、経験はとても重要な意味合いを持つ。『殺した』のと『殺して
いない』のとでは、非常に大きな差がある。その一線を超えるか超えないか、だけでも。
そして、それ以上に梨華にはその思いつきを実行する方が先決だった。自分より先に吉
澤と真希が再会してしまっては、この作戦は全て水の泡になってしまう。
せっかく見つけた小屋を1時間足らずで出発し、刀を握り締める腕の痺れに耐えてまで
彼女が森の中を歩き続けるのは、そうした時間的な制限に焦っての理由もあった。
( ひとみちゃん。あたし、初めてひとみちゃんを裏切ることになるのかな… )
- 14 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時25分32秒
今までの人生で、梨華が吉澤に後ろめたい感情を持つような行為があったかと尋ねられ
れば、彼女は胸を張って答えることが出来た。『そんなこと、1度たりともした覚えはな
い。少なくとも、自分が覚えている限りではね?』 ――――
今回がおそらく初めてだろう。梨華が、吉澤の望むことと相反する行動を起こすのは。
・・・・・・
そうした中で、何度かの銃声を聞いた。
一体自分が銃声を耳にするのは何度目になるのだろう、疲弊しきった彼女の脳裏に、
もはやその回数を記憶するだけの気力は残っていなかったけれど。
何度聞いても慣れることのないその心臓をえぐるような音が静まった後、梨華はおそる
おそる、周囲に注意を張り巡らせながらその歩みを続けた。
実に数時間、彩がショットガンで自殺し、小川が紺野に射殺されているその間も、梨華
は吉澤と離れてから誰とも会っていなかった。人の影すら見ることもなく。
- 15 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時27分19秒
それがようやく「誰か」を見つけたのだ。木の陰に隠れるようにして固まっている人影
が3人ほど見えた。用心に用心を重ねて彼女らに近付いたその時、梨華はそれが保田や飯
田、矢口らのいわゆる『お姉さんグループ』の少女たちであることに気付いた。
( 矢口さんたちなら、大丈夫かな… )
1番の目的である真希の姿は見つけられなかったけれど、吉澤の言葉は覚えている。皆
を探そう、と。………そちらの目的は、どうやら叶えられそうだ。
遠目に見て判断した限りでは、どうやら争っているような雰囲気ではなかった。かとい
って、動揺して混乱しているという空気でもなさそうだ。もちろん、全くの冷静で普段通
りだったらそれはそれで怖いけれど。( 何せ、園で共に育った仲間が次々と死んでいるの
だ! 次は自分かも知れないだろう? 普通でいられるはずがない! ――― )ともかく、
話し掛けて、逆上するこということはなさそうだ。
それに、先ほどの銃声の主は、どうやらその3人ではないようだった。梨華は注意深く
彼女らを観察したけれど、少なくとも目に見える形で銃剣類を所持している者はいない様
に見えた。
- 16 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時28分35秒
( もちろん、隠し持っているという可能性がないとは言い切れないが、今、三者が話し込ん
でいる様子から見ても、いきなりぶっ放されるという心配はないだろう )
そう踏んだ梨華は、3人の会話が聞こえるくらいの距離まで、慎重に木々の間を縫って
徐々に近付いていく。( 日頃から、梨華は心配性なところがあったのだ )矢口たちは、依然
だ梨華の存在には気付いていないようだった。
『………っ…さ、やかと……』
『紗耶香と?紗耶香と何?』
『………ご、ごと………後藤…がぁ………』
『 ―――― 紗耶香と後藤ね? その2人がどうしたっていうのよ!』
( 後藤、後藤…!? 真希ちゃんね? 矢口さんは、真希ちゃんたちに会ったのね? )
矢口の(怯えた態度だったのが気になるが)口から、思いがけず真希の名前が飛び出した
時は、心臓が跳ね上がりそうだった。誰かを見つけると同時に、彼女の存在に関する情報
が手に入れられそうだ。 ―――― そして、もう1人。
- 17 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時29分06秒
とても手強い人物の名前も、同時に矢口真里の口から飛び出してきたのだ。市井紗耶香。
拳銃を撃ちたい、もっと勉強したいとアメリカ留学を果たした(ああ、こういう風に言う
と、本当に変わった人だよなあ、彼女は)少女。
優等生、という名目ではどこか吉澤ひとみを彷彿とさせる ――― いや、逆かもしれない
けれど ――― とにかく、よく「出来た」タイプの人間だ。とはいえ、特に共通点のなかっ
た彼女とは、別に印象に残るようなやり取りもない。希薄な関係だったが。
( そうだ、市井さんも……多分、市井さんは真希ちゃんと一緒にいる可能性が高いよね。
どうしよう、さすがに2人いっぺんに、っていう訳にはいかないな…… )
どうしてそれまで気付かなかったのだろう、紗耶香と真希が一緒にいる可能性を、梨華
はほとんど考えていなかったのだ。やはり自分が単独で行動していることからも、他人も
そうだという思い込みがあったのだろう。
一瞬、躊躇する気持ちが芽生えた。 ――― 真希1人でも大変そうなのに、それが市井
紗耶香も一緒となると、真希を殺すというのはとても難儀な事になりそうだ、と。
- 18 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時30分30秒
それでも、梨華の目的を断念させるまでには至らなかったけれど。取り合えずは、情報
だ。少しでも、真希に近付くための情報が欲しい。もしかしたら、今も真希と紗耶香が一
緒にいるとは限らないのだし……自分が吉澤と別れたように。
思ったときは既に行動に出ていた。「その話、一緒していいですかあ?」 自身のチャーム
ポイントと呼べる笑顔を浮かべて3人の前に姿を現したのだ。
唐突な梨華の出現は、予想通りその3人を驚かせるには充分だったようだ。保田圭の口
がぽかん、と開き、飯田圭織の目がカッと大きく見開かれ、その2人にはさまれるように
してもともと小柄な身をより一層縮めて身を竦ませていた矢口真里の体が、衝撃が走った
かのようにビクリ、と大きく震え上がった。
梨華の中で、何かが大きく変わっていた。以前の自分ならば、こんな風に堂々と彼女ら
の前に出て行くことなど出来たはずもない。彼女は生来の引っ込み思案な性格の上、その
常に女の子らしい態度が年上受けしないことも知っていたし。
- 19 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時31分06秒
触らぬ神に祟りなし、とでも言わんばかりに、梨華は同じ園の中で生活しながらも、年上
の少女達とはあまり関りを持つことなく生活してきた。
会話するのは本当に差し障りのないことばかりだった。別に、問題はなかった。今以上
の関係を自分は求めていない。相手も求めていない。よって、石川梨華の生活は平穏に流
れていきました、ちゃんちゃん。
しかし、今は違った。明るいムードメーカーの矢口真里が怯えている。人を威圧する様
な響きなど持つはずのない、自分の(自分でいうのも何だが)場違いに高いトーンのアニ
メ声にすら、動揺を隠せない彼女を見て。
確信があった。
――― 間違いない、あたしは、この人達に勝っている。この場、この状況を支配する
ことが出切る。( そして、あたしの知りたいことも全て、聞き出せる! )……
- 20 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時32分09秒
『……本気、なの?』
おそるおそる、という感じで ――― まさに腫れ物に触るような、とはこういう態度を
言うのだろう ――― 飯田が聞き返してくるのを、梨華はどこか浮ついた気持ちで聞いて
いた。( もちろん、はっきりとそれを肯定する返事はしたけれど )
さあ、言っちゃった。あたし、言っちゃったよ?ひとみちゃん。
もう後は実行に移すだけだ。迷うことなく。ついに自分は、吉澤ひとみを裏切る行為の
第一歩を踏み出してしまったのだ。“殺す”という言葉を口にしたことより、むしろ彼女
の意志に反した行動に手を染めようとしているそのことが、梨華を緊張させていた。
梨華は気付いた。いつの間にか、全身にじっとりと嫌な汗をかいている。
迷っちゃだめだ! ――― 自身を奮い立たせるため、梨華は背筋をピンと伸ばしたまま、
そして普段の微笑を絶やさぬまま、自分を驚愕の眼差しで見つめている3人 ―― 飯田、
矢口、そして保田の顔をぐるりと見渡した。
- 21 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時32分41秒
3人のいささか恐怖の混じった視線が、余計に梨華の優越感を煽った。今まで、この3人
に限らず年下にでさえからかわれることの多かった自分だけど、今は、今だけは……自分
の立場が上だ。優位な状況にいる。
「こんな状況に追い込まれて、ですけど。あたし、分かったことがあるんです」
それでも、自然と出ている彼女らに対する敬語は無意識のものだった。長年の間に染み付
いた習性だ、そう簡単に変わるものでもないのだろう。
しかし、これが敬語であろうとなかろうと、その内容に変化はない。梨華が今、吐き出そ
うとしている言葉は、もはや常人の理解出来うる範疇のそれではないのだし。
そうだ。誰が、このような状況に追い込まれた人間の心理など理解出切るだろう?
慣れ親しんだ自分の仲間が次々と死に、もしくはそれらの「誰か」と殺しあわなければ
ならない心境など ――― 簡単に分かってたまるものか!
- 22 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時33分19秒
大きな目で真っ直ぐに自分を見据える飯田、蒼白な顔色で体を震わせる矢口、そして身じ
ろぎ1つせず、それでも抑えきれない恐怖の感情を浮かべる保田の顔を順繰りに見つめな
がら、梨華は言った。一瞬躊躇する感情が生まれたが、無理矢理それは振り切った。
「あたし、ののちゃんと明日香ちゃんを殺したんです」
「 ――― !」 「………なっ……」
空気が動いた。
誰の口から漏れたのか分からないが、戸惑うような声が残った。誰も、言葉を発しない。
いや、咄嗟のことで理解出来ていないのかもしれない、無理もない。梨華のような争いを
好まない温厚な性格の少女が人を“殺した”などと。 ――― 悪い冗談のようだ。ああ、
これが本当に冗談で済むようなことだったならどんなに良かったか知れないけど。
「もっと言えば、あたしは他のみんなも殺すつもりでした。ひと……よっすぃ以外の皆
を、殺しちゃうつもりだったんです。あたしは、よっすぃに生き残って欲しかった。
ただ、それだけが望みだったから……」
「 ――― 」
- 23 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時33分51秒
3人は呆然としたように口をつぐんでいた。まだ、梨華の言葉に頭がついてきていない、
そんな状態なのだろう。気にせず梨華は言葉を続ける。
「だけど、それはよっすぃに拒まれたんです。よっすぃは優しいから、『みんなで脱出
出切る方法を探そう』って。本当に優しいから………」
「…………そ、んな……」
傍目にもはっきり分かるくらい、矢口が震え出した。目に涙が滲んでいるように見える。
その横では飯田が小刻みに肩を震わせていた。ただし、こちらは矢口とは違って怒りの感
情が強いようだが。まあ、どうだか知らないけど。
「でも、さっきも言いましたけど、あたしは……よっすぃと真希ちゃんを会わせたくない
から、だから」 「ふざけんなっ!!」
梨華の言葉は、途中で飯田に遮られた。憤然と梨華の前に立ちはだかった飯田の姿は、
全身で怒りという感情を噴出しているようだ。「 ――― ふざけんなよっ!」
もう一度そう叫んで、飯田は荒く息を吐いた。わなわなと握り締められた拳は、いつ
梨華に振り上げられてもおかしくない状態だった。
- 24 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時34分37秒
「殺した? 辻を?明日香を? ――― 他の皆も殺すつもりだった? 後藤を殺す!?
ふざけんなよっ! ……仲間だったじゃんか。カオリたち、一緒に育った仲間じゃな
いかっ……。どうして、そんな……殺すだの殺さないだの、言わなきゃいけないん
だよ。――― ふざけんなよ石川ぁ……」
真剣な表情だった。もちろん怒りのために少々我を忘れている感は否めないとしても、
まだ完全に自分を失っているかと言えば違う。本当に、彼女は怒っているのだ、そして
本気で石川梨華を説得しようとしているらしい。
( 残念です、飯田さん。もう、止まれません。石川は、止まれないんです )
「価値が、違うんです」
「 ――― あぁ……?」
突然の梨華の言葉に、飯田が一瞬呆けたような表情で口をつぐんだ。そして、飯田は
気付く。目の前のこのふざけたことを言い出した少女 ――― 石川梨華も、自分に劣ら
ぬ真剣な顔つきでいることを。
ざわり。
嫌な予感がした。飯田圭織は自分で自覚していることがあって……それはとても他人
に誇れるようなことではないのだけれど、そう。自分の嫌な予感は、よく当たる。
- 25 名前:《16,価値 石川梨華》 投稿日:2002年03月14日(木)23時35分44秒
「あたしにとって、1番大事なのはよっすぃの命。それ以外に、それ以上のものはない
んです。1番、価値が重いんです」
「あんたねえっ………!!」
思わず掴みかかろうとした飯田を、慌てたように保田が横から制した。矢口に至って
は反応すら出来ないらしい。まあ、ショックなことが立て続けに起こったのだ、無理も
ないのだろうが、彼女くらいの年齢の少女にしてみれば。
一歩も退く気はなかった。自分の目的を果たすまでは。
…そう、矢口から真希と紗耶香の情報を聞き出さなくてはならない。ここで揉めてい
る場合にも、吉澤が彼女を見つけてしまうかもしれないのだ。
3人を見返す梨華の瞳に迷いはなかった。代わりに、その伏せ目がちな目から涙が一筋
零れ落ちた。4人の空気が重さを増す。長く息を吐いて、梨華はもう一度呟いた。
「命の価値は違うんです」
【残り9人】
- 26 名前:flow 投稿日:2002年03月14日(木)23時37分03秒
しばらく膠着状態が続きましたが、これからまた少し動きそうです。
白板の皆様、しばらくお邪魔しますがよろしくお願いします。
- 27 名前:前スレ274 投稿日:2002年03月15日(金)14時17分15秒
- ついて来ました!
何やらこれから石川vs飯田矢口保田組が始まりそうな気配・・・ドッキドキ(w
壮絶な展開に期待です。
それにしても、石川は怖いなあ・・・
- 28 名前:深夜の携帯 投稿日:2002年03月15日(金)17時18分02秒
- ついに来ましたね(^▽^ )
どんな展開になるやら...期待。
- 29 名前:はろぷろ 投稿日:2002年03月15日(金)23時16分24秒
- どこまでもついていきますよ〜♪
なんか、もう・・・楽しみなんです。
新スレでもがんばってくださいね。
- 30 名前:gattu 投稿日:2002年03月18日(月)00時45分13秒
- はじめから一気に読みました7時間もかかってしまいました。
日曜日丸つぶれ(暇だったからいいけど)
ここいらで中間地点なぐらい長い長編にしてください。
2chのバトロワはもう人間じゃないしってゆうか田代出てるし、
石川が世界一無様な死に方しているし(ちなみに宣伝君じゃあありません)
訳わからんのですがここはストーリーも人間描写もバッチリじゃあ無いですか。
もう感動だねストーリーの流れがバトロワ風だと最後が丸わかりだから、
びみょーにオリジナルから離れて自分らしいエンディングを作っても、
いいと思いますよ。(もうだめか?)
俺も書こうかなーと思っているんですがアドバイスがあったらこれ幸い。
がんばってくださーい!!
- 31 名前:flow 投稿日:2002年03月21日(木)16時06分16秒
本当に週一更新になった感じで、今日も更新です。
>27 前スレ274さん
またお付き合いいただき、ありがとうございます!
もう残りも少ないし、これから話も動きますのでまたよろしくお願いしますね。
>28 深夜の携帯さん
石川は、今回のダークホース(その1)ですからね(w
1対3ですが、どうなることでしょう…
>29 はろぷろさん
ついてきてくださってありがとうございます!
とにかく暗い話ですが、楽しんでもらえるよう努力いたします。いつもレス感謝っす!
>30 gattuさん
読んでいただけて光栄です!
バトロワはかなり作品数あるので被らないよう気をつけますが、最期はどうですかね?
小説書かれるそうですが、もし書き始めたら是非教えてください!
アドバイスなんて偉そうなことは出来ませんが、自分は結末から話を考えてます。
……参考にならないか……(w
それでは、(ようやく出番の)保田編です。
- 32 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時07分26秒
「……泣いたら何でも許してもらえると思ってんじゃないわよ」
ただ静かに涙を流し、且つ他の一切の感情を受け入れないような強い光を湛えた眼差
しをして立ち尽くす石川梨華に対し、最初に言葉を発したのは保田圭だった。
妹のように可愛がっていた愛らしい後輩を梨華に殺されたと知って怒りにうち震える
飯田、ただ自分を取り巻く全てのものに怯えきって泣きじゃくる矢口、そしてもともと
口数が少なく、あまり自分の意見を表に出さない保田。
このような場において、真っ先に何か意見するなど、生来控えめを心情としてきた以
前の保田にしたら、考えられぬことだった。
もちろん、このような異常事態において、「過去の物差し」がそのまま通用するなどと
は誰も考えてはいないだろうが、もう今となっては。
寒さのあまり顔色を失って紙のように蒼白な状態で、ただ静かに涙を流す梨華がそこ
で初めて保田の存在に気付いたかのように顔を向けた。「…………」 それでも、梨華は
保田に対して何ら反応を示さない。
『なんだ、いたんですか保田さん?』 ―――――
- 33 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時08分03秒
面と向かって彼女がそう言ってきたわけではない、けれど、話し掛けた相手である梨華
が言葉を返して来ないといのは、事実上「無視された」のと同じだ。
( 調子に乗ってるんじゃないわよ…… )
ぎりっと唇をかみ締めて、保田は梨華を睨みつけた。
・・・・・・
保田圭という少女 ――― 年齢からいえばもう大人の女性と言ってもよい世代にさし
かかってきている彼女は、生まれてからこのかた『主役』になれぬ自分を愛し、またその
逆に憎んでさえいた。
話下手で、作り笑いも上手くない。まして、特別に勉強が出来るわけでも運動が得意
なわけでもなく、人脈が広いわけでもない。
そして、これは非常に不本意ながら………保田はこの朝比奈女子園において、自分が
もっとも容姿の点で劣っていることを自覚していたのだった。
- 34 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時08分38秒
もっと社会に広く出ていたのなら ―――― もっと世間との交流を深めていたのなら
―――― 保田の悩みなど、取るに足らないことなのだと理解することも出来ただろう、
自分を納得させることも可能だったに違いない。
けれど、自身で「内向的」と分析出来るほどの内気な性格では、生まれ育った女子園
以外に自分の世界を広げることは容易にしなかった。
そして、その「内向的な性格」は、保田を更なる自分の世界の奥深くへ閉じ込めてし
まう原因となるのだ。
「わたしはわたしだから」
口癖のように自分に言い聞かせ、自分を落ち着かせてきた少女時代。
「どうせ、わたしなんて何も取りえがないし」
大人になり、彼女は結局自虐的にそう、自分を追い込んでしまった。
そもそも、〈 朝比奈女子園 〉という環境が特別だったことは言うまでもない。日本広し
といえども、どこかの学園ドラマじゃあるまいし、アイドルも小説家もバレーボール代
表選手まで詰め込まれた ――― それもただの学園じゃない、孤児院だ! ――― など、
滅多にお目にかかれるものではない。
- 35 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時09分54秒
それに、何故か何らかの意図があったのではないかと思えるくらいに、この女子園は、
非常にルックスの平均レベルが高かったのである。
いわば「凡人」の保田の劣等感を煽るには最適な環境だった、ただし確実にマイナス面
でしかそれは作用しないが、保田圭にとっては。
他人が聞けば、何だそんなこと、と思うかも知れない。しかし、親の顔も知らぬうち
から入園し、この女子園において成長を遂げてきた保田にとって〈 朝比奈女子園 〉は唯
一の自分の居場所だったし、離れることなど考えもつかなかった。
そして、保田は殻に閉篭もるようになった。飯田圭織が同じように自分の世界に浸る
空想壁があるとはいっても、彼女と自分はまるで違った。身を置く世界が違った。
少なくとも、保田にとってはそう思えたのだ。
( カオリはいいよ、カオリは美人だもん。美人だったら多少変でも、みんな受け入れ
てくれるのよ。しょせん、人間は上っ面しか見ていないんだから )
- 36 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時10分36秒
( わたしなんて、顔もよくないし、頭もよくないし )
( 話だって面白くないし ) ( 料理だって得意じゃないし )
( 運動もだめ、小説なんて書けるはずない! )
( ……それに、行動力もない。やりたいことも見つけられない )
( わたしなんて )
( わたしなんて )
保田自身に問題があったわけではなかった。むしろ、彼女は「平均的」なタイプの
人間だった。それが、「非平均的」な集団の中に放り込まれて、ただただ自分を悲観し
卑下していったかといって、何の不思議があろうか。
しかし、保田の内心に燃える彼女なりのプライドは、そんな自分を愛でる部分と、ど
うしようもない現実に憎しみさえ覚える暗い嫉妬心の両極端な感情を生み出した。
そして、保田は年を重ねると共に1つの結論を見出していく。
――― 結局、わたしはブスだから、孤立するのよ。みんなみたいに、可愛くないもの。
こんなこと、園の誰かに言ったら「馬鹿なことを」と言われるかもしれない、はては
嘲笑すら受けるかもしれない、そう、あの安倍なつみあたりに ――――
『はあ? 圭ちゃん、そんなくだらないこと考えてたのぉ〜?』
- 37 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時11分14秒
くだらないこと。そうだろうか。
自分がそんな結論を出すに至ったのは、単なる思い込みだけじゃない。
――――
いつだったか、(おそらく大学へ入って2年目あたりに思う) 保田はなつみの誘い
を断りきれず、飯田と共に初めて「合コン」なるものを体験したことがあるのだ。
「頭数、合わせるだけだから ――― 」 そもそも、なつみの頼みを保田や飯田が断
れるはずなどないのだが、口先だけでも真剣に言われると、嫌々ながらでも出席せざる
を得なかった。
それでも、当日になればそれなりに化粧を施し、服装も割と洒落たものを選んで、自
分なりに気持ちを奮い立たせて初めての「合コン」に臨んだのだ。
「こんにちはー」 「やりぃ、可愛い子ばっかりじゃん!」
「 ―――― 」 「……………」
出足こそ、( ああ、予想通りだわ ) などと漠然と考える余裕こそあった。けれど、
保田は時間の経過と共にはっきりとした焦燥と、汗が噴出すような屈辱感に耐えらなけ
ればならなくなった。
- 38 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時11分56秒
パッと見、アイドル然とした可愛らしさを放つ安倍なつみ(その笑顔の裏側や醜い心
根をこの場のみんなに見せてやることが出来たなら ――― !)、そしてモデル並のス
タイルを保持し、笑顔こそ不自然なものはあるが黙っていれば間違いなく『美人』の部
類に入る飯田圭織(ああ、彼女の話はいつもどこかしらズレていて、ちょっと普通じゃ
ないんですよ、皆さん? ――― )。
自然とその2人を中心に男たちが分かれるのは当然の流れだと言えた。この場で、1
番マトモなのはわたしなのに。あんなに裏がある女より、わたしのほうが断然、思いや
りもあるし、人に優しく出来るのに。どうして、どうして?
―――― ほら、やっぱり。人間顔なんだよ。
カオ、カオ、カオ、カオ。どんなに綺麗な心を持っていたって、どうせ他人には人の
内側なんて分からないもんね。まあ、だからといってわたしが人にお見せできるような
素晴らしいハートを持ってるなんて言わないけど。
- 39 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時12分32秒
卑屈になっていく自分を自覚しながら、保田はどうすることも出来なかった。ただ、
騒がしい喧騒の中で静かに自分の感情を押し込めながら、輪の中心で笑顔を振り撒いて
いるなつみ、照れ臭そうに回りの男と談笑する飯田を見つめながら、ひたすら保田は
耐えていた。耐えることでしか、この場をやり過ごすことが出来なかったので。
――――
それもこれも、とうに昔の出来事だ。ただし、私の中で賞味期限はまだ迎えてはいな
いけれどね。あんな屈辱、忘れることなんて出来やしない!
もともと快く思っていなかった安倍なつみへの嫉妬心や憎しみ、恨みが頂点に達した
ことに、この時の一件が絡んでいたことは言うまでもない。そして、「同等の立場」であ
るはずの飯田圭織との格差が決定的になったのもこの時からだった。
同じように安倍なつみに支配される保田と飯田。しかしながら、2人の間にあるはずの
一種の連帯感の中に、いつの頃からか不協和音が生じるようになった。当然、保田はそれ
を表に出すことはないし、飯田の方はわざと気付いていないフリをしているのか、それと
も本当に気付いていないのか、保田に対する態度に変わりはなかった。
- 40 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時13分10秒
ただ、一方的な思いだったのだろう、保田の嫉妬心からくる飯田への複雑な感情は。
人間誰しも何らかの優越感を抱えていなければ生きていかないのだ、回りの人間の中で
他人と比較して、少しでも自分の価値が他人よりも「勝っている」部分を認識したがる、
それはもはや本能に近い。
けれど、朝比奈女子園という特殊な環境下においては、保田圭の優越感を満たすことの
出来る存在というものはあり得なかった。少なくとも、彼女が他人と比較した上で自信を
持つことの出来る「特技」などはなかったし、まして朝比奈にはそれこそ非平凡な才能を
誇る少女達の集まりだったのだし。
( わたしの存在意義って何よ? ただ、なつみに馬鹿にされてみんなに嘲笑されて、歯
を食いしばって耐えるだけが、わたしの人生なの? )
疑念は絶えず保田の心をかき乱していた。絶対に自分が「主役」にはなれない人生、そ
れは彼女らが存在するから。安倍なつみの元にいる限り、園にアイドルや小説家やその他
もろもろのちょっとした有名人の少女らがいる限り、自分に陽が当たることはない。
- 41 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時13分43秒
無論それは、少々見当違いだというものだが、人間は不思議なもので一度思い込むと、
その思いに縛られてしまう傾向がある。例に漏れず、保田も同じだった。
そして、その苦い思いが初めて解放された瞬間。長らく自分の頭上に君臨し続けていた
安倍なつみの死。保田が園での生活を続ける以上、なつみの支配からは解き放たれること
はないと思っていた、その呪縛から解き放たれたのだ ――― 彼女の全ての世界を終焉す
る形で。ずっと、保田はそれを望んでいたはずだった。
はずだったのけれど ――――
・・・・・
( なつみは死んだ ) ( 裕ちゃんも、みっちゃんも死んだ )
( 中学生もいっぱい死んだ )
( カオリが、辻の死を悼んで泣いていた )
( 矢口が、裕ちゃんの死体を見て呆然としてた。いっぱい泣いてた )
( わたしは? …わたしは、本当に嬉しいの? )
- 42 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時15分09秒
ようやく自分の殻を破ったと思ったその時、保田の周りからは随分多くの仲間たちが
その短い人生を終結させていたのだった。そう、あの「女王」である安倍なつみも。
確かに望んではいた、自分は彼女が自分の世界から消えてくれることを。
だけど、こんな結末を望んだわけじゃない、こんなに自分の無力感を味わいたかった
わけじゃない、私は、私は ―――― 。
表情にこそ出さなかったけれど、保田はもう気付いていた。胸に風穴でも開けられたら
こんな気分になるのだろうかと、半ば自我を失いそうになる意識の片隅で彼女は能天気に
そんなことを思っていた。
なつみが初めて自分の立場の危うさに、危機感を持った瞬間。その精神が壊れた瞬間、
それを自分は何処か冷静に見つめていた。それこそ初めて、保田が安倍なつみという少女
に対して優越感を抱くことの出来た瞬間のことだ。
ただし、それは本当に「一瞬」のことだったけれど。
- 43 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時17分11秒
今さら言うまでもない、その直後 ――― 誰しもが予想し得ない悲劇の引き金となった
のだ、寺田の銃の引き金が火を吹いて、なつみが真っ赤な鮮血を飛び散らせてゆっくりと
倒れた ――― 市井紗耶香の腕に、その命を失った体が倒れ込むのを保田はブラウン管の
中の映像を見てるかのような気分で眺めていた。
そう、「眺めていた」のだ。その時確かに、保田は傍観者だった。何も、出来ない。
全てが作りものの虚像のように思えた。まさか、まさか………こんなにあっさり崩れ
てしまうのか、私の世界は?
どうあがいても、抜け出せないのだと自身を閉じ込めていた硬質な世界が、こんなに
も脆かったというのか? こんな、信じられないほど悪意に満ちた暴力でこじ開けられて
いいのか! ( こんなの、私は望んでいなかったんだ………! )
そうして、ゆっくりと保田の世界に色が戻ってきた時、保田は飯田圭織を発見して行
動を共にするようになった。そう、ゲームは始まっていた。なつみが、裕子が、みちよ
が、すでに退場してしまった死のゲーム。
- 44 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時18分39秒
寺田や和田といった政府の関係者 (本人らが言うにはこの計画の責任者らしいが、そ
んなことはどうでもよかった) の話で言えば、これは何らかの『プロジェクト』に当た
るらしく、それはそれは光栄な話らしいのだが、無論その言葉を意味通りに単純に受け
取るほど、保田も馬鹿ではなかった。
( 結局、あんた達がデータを取るために、私達が殺しあわなきゃならないってことで
しょう? くだらない、馬鹿らしい。どうしてそんなことしなきゃならないの?
そりゃあ、私の人生なんてそう楽しいことなんてなかったけど………… )
一体誰が望むというのだろう、自分の死を。自殺祈祷者の家出人じゃあるまいし、何
も20代前半のこの時期に、どうして死にたいなどと考えるだろう。それも、苦しい思
いをして死ぬのは尚更ゴメンだ。
よく見知った仲間たちの死。それは充分過ぎるくらい、保田に「生」への執着心を植え
つけた。
- 45 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時19分17秒
そして、もう1つ。 ――― 一瞬でも、哀れな少女を、それも長い間(本意でないとは
いえ)寝食を共にしてきた彼女の哀れな状況を「当然の報い」だと考えてしまった自分へ
の激しい嫌悪感。保田は、『醜い自分の外見』は正直好きではなかったけれど、どこかで
それを認めている部分を持ち合わせていたことも事実だった。
しかし、『醜い内面』についてはどうか? ……見知った少女が壊れていくのを「いい気
味だ」などと欠片でも考えてしまった自分の内面は腐りきってしまっているのではないの
だろうか? そんな自分を、認めてしまってもいいのか?
自分は、矢口や飯田のように純粋に人の死を哀しむことが出来ないのか? 役立たずは、
最後まで役立たずのままなのか? 違う、違う、違う、違う違う違う違う ―――― !
――――
- 46 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時19分55秒
-
「石川ァーっ!!!」
そして、止まっていた保田圭の時間が動き出した。石川梨華の胸のあたりに真っ赤な染
みが広がり始めていた。それを目にした保田の口から、うめくような叫び声が漏れた。
「カオリッ!」 「や、いやあっ、カオリ、何、して、いや、石川あっ!?」
「うるさい、うるさいうるさいっ!! 殺したんだよ石川は、辻を殺した殺したっ!!
あんないい子を、殺して、殺し、そんな、何でだよっ、石川なんでっ!!」
「カオリ、カオリ止めて、やめなさいっ……!!」
んぐっと、息が詰まるような吐息を漏らして、梨華がゆっくりと膝を負った。分厚いコ
ートは彼女の血液が染みるのを拒むかのように、その赤い面積が広がる速度は至極ゆっく
りなのだが、だからといって梨華の出血量が少ないわけではないのだろう。
石川梨華の胸部の中心に、一本の飾り気のない矢が突き立っていたのだ。保田は、飯田
がぶるぶると震える腕でボウガンを ―――― もちろん銃と同じく、実物を見るのは初め
てだったけれど、それを握り締めて立ち尽くしているのを見た。
- 47 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時21分10秒
保田が、矢口が、飯田が、それぞれに叫んだ。飯田は半狂乱に近いかった。
これは復讐だ。保田も矢口も、そして梨華でさえ飯田圭織が辻希美という無邪気で純粋
な少女を可愛がっていたことは知っている。けっして溺愛するのではない、それはまさに
巣立ちする雛鳥を黙って見守るような、包み込むような深い愛情を持って。
その関係から考えるとすれば、飯田が梨華を許せないのは当然だ。けれど。
「やめなさいっ、カオリっ!! そんなことしても、辻は戻ってこないんだよ!?」
「分かってるよっ!! 分かってるわよ、そんなことっ………」
保田が、背後に矢口と倒れこんだ石川を庇うようにして、飯田の正面に立ち塞がった。
狂気に支配されていると思った飯田は思ったよりも意志の篭った目で、その保田を真っ向
から真剣に見つめ返す。 ( カオリ……… ) 何でこんなことが起きなくてはならないの
かと、保田の中にどうしようもないやるせなさが募った。
- 48 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時22分20秒
「 分かってるのよ、こんなことしたって辻が帰ってこないって、もう死んだんだって、
カオリ理解してるもん…。だけど、石川のこと許せない。辻はきっと無抵抗だったん
だよ、殺されることだってきっと理解してなかったよ? 最後まで、みんなが大好き
だと思ってたはずだよ?」
「……カオリ……」
保田は唇をかみ締めた。自分が中学生組に「顔が怖い」と冗談交じりに距離を置かれて
いたのは知っている、けれど、辻は ――― 『保田さん、アメあげま〜す』 常に笑顔を振
りまいて、小さな幸せを作り出す天才だったその少女だけは、自分を恐れなかった。
そう、その辻だったら。石川梨華を疑いもしなかったのに違いない。
「だって、辻はそういう子だったんだから。本当に、いい子だったんだから」
飯田の声に涙が混じった。梨華は話が聞こえているのかいないのか、(出血量如何で
はもはや意識がないことも考えられる) 小さくケンケンと咳き込んだ。
それはとても、弱い咳だった。
- 49 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時23分31秒
「梨華ちゃ、梨華ちゃん………カオリぃ……」
矢口の息が上がっていた。保田の肩にぶら下がるようにしてしがみついて、ただ小刻み
に震えている。矢口にとって、ショックなことが多すぎた。
「……圭ちゃん、どいて」
「どかないよ。カオリを、殺人者にはしたくない」
「……どいてっ! そうでなきゃ、カオリ圭ちゃんだって撃つからねっ!」
飯田のその言葉に、保田の感情の垣根が壊された。塞き止められていた感情の波が一気
に流れ出すように、保田の口が感情に突き動かされる。
「 何よ、カオリッ…! カオリが言ったんでしょ、仲間だって! どうして仲間同士で
殺しあわなきゃならないの、って!? 辻は、争い事が嫌いだったんでしょ、どうし
て復讐なんてしようとするの! 辻がそんなこと望んでると思うの?」
いつの間にか、保田の目からも涙が溢れていた。
何が悲しい? それとも悔しい? ――― 両方だ、どうしようもない現実と、どうにも
出来ない現実。無力な自分、何かが狂った仲間同士の人間関係。
- 50 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時24分11秒
全てが、無理矢理作られた確執だというのに。もう、すべてが壊れてしまった。否、
それは壊れつつある。終わり無き現在進行形だ。
「 もう止めよう? 何か間違ってるよ、私ね、最初なつみが死んだとき、あんまり何も
思わなかったの。だけど、段々思うようになった。死んで当然の人間なんていないん
だよ。私、これ以上誰かが死ぬのは嫌だ。違うよ、間違ってるよ。
――― 命の価値は同じなんだよ、私は、もうこんなの嫌なんだ………」
やっと、認めることが出来た。冷静に見ていたはずのなつみの死も、裕子の死も、み
ちよの死も、もうこの世を去ったであろう自分が目にしていない数人の少女の死も、全
てが悲しいのだと。生前の業など関係ない、『死』は、悲しいものなんだよ。
「……ひは、ひはははは……っ」
乾いた笑い声を上げて、飯田が涙をぼろぼろと零した。ひくひくと口元が引き攣って
いるのが、保田の目にはっきりと映る。
「…辻、泣いてるかなあ? カオリこんなことして……。『やめてください飯田さぁん』
なんて、相変わらずの舌ッ足らずな声で言うかなあ?」
- 51 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時25分21秒
「 そうだよぉ、カオリ……もうやめよう…? 辻だって、優しいカオリが好きなはずだ
よ……? ひっ、う、んん……矢口だって、やだよ……矢口を助けてくれたカオリが
そんな、こと、するの…イヤだぁ………」
「 ――― ね。カオリ、もうやめよう?」
保田も矢口も飯田も、泣いていた。それぞれの涙の理由は少しずつ違うかもしれない、
けれど根本は同じなんだ ――― 「仲間内の、思いやり」。
「 カオリね、ちっちゃいころはなっちと仲良かったんだよ、一緒のころに入園してね、
ずっと上手くやってけると思ってたんだよなっちが変わっちゃう前までは。いつの
間に、こんな風になっちゃったんだろう。どうして、なっちが死ぬ直前、手を差し
伸べてあげることも出来なかったんだろう。友達だったのに。もしそれが辻だった
ら、また違ってたのかな ――― 違わないかな、カオリは駄目だね」
- 52 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時26分34秒
もう、飯田も何を言っているのか分かっていないのかも知れない、しかしそれでいい
のだろう。今は、ただ喋っているだけで欠落していた何かが戻ってくるような気がする。
矢口が保田の背中に顔を埋めて、嗚咽を漏らした。保田は、ただ飯田を見守っていた。
――― だから、気付かなかったのだ。梨華の動向に。
「……飯田さん……」
独特の細い、それでいて芯の通った声が聞こえて空気が一瞬固まった。保田が振り返る
と、梨華が自分の(といってもそれは“元”辻の武器だったが)を杖代わりに、よろよろ
と起き上がっていた。胸の赤い染みは、さっきまでとそう変わらないように見えた。
だが、その瞳。
痛みの為か、汗が浮いている彼女の蒼白な顔の中で、ギラギラと強い意志を放っている
かのような梨華の双眸だけが、やけに浮いて見える。
「飯田さん、ごめんなさいっ……」
絞り出すようにそう言って、梨華の身体が動いた。ボウガンの矢が胸に刺さっている
とはおよそ思えないような俊敏な動きで、梨華の身体が飯田へと倒れこむようにぶつか
っていった。その間、おそらく数秒。
- 53 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時27分11秒
そして、たった数秒のその動きで、飯田の心臓の鼓動は止められた。
傷ついた体で、渾身の力を込めたのだろう、梨華の刀は飯田の心臓部分を通って貫通
し、背中から刃の部分が20センチほど顔を出していた。
「だから、あたし、飯田さん、ののちゃんとこ、送ります」
切れ切れにそう言って、梨華はまた渾身の力をこめて刀を引き抜いた。「うっ」と低
い声を上げて、飯田の身体があやつり人形のように力を失って雪の上に倒れた。
その刀の表面が血でべっとりと濡れているのを見て、矢口が「ひっ」と息を飲んだ。
「石川っ……あんた」
そこまで言いかけて、保田は口をつぐんだ。梨華が、倒れた飯田の手元からボウガン
を引き剥がしているのに気付いたからだ。自身も苦しそうに顔を歪めながら、梨華はそ
れでも何とかそこへ立っていた。倒れなかった。
――― そして、ボウガンを保田たちへと構えた。
- 54 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時28分38秒
( まずい…… ) どくんどくんと、保田の胸の鼓動が早まる。これは、まずい。非常
事態だ、こっちは丸腰、向こうはボウガン。いくら石川が胸に矢が刺さって怪我してる
からって、彼女がちょっと引き金を引けば今度は自分が倒れる番だ。
だって、こんな至近距離。アニメの主人公でもあるまいし、ボウガンの矢を避けるな
んて、絶対に不可能だ。
( それに、矢口をどうする? )
ようやく異常な空気を察知したらしい矢口が、今度はさっきまでとははっきり違う理
由で震えているのが気配で分かった。どうやらもう泣いてはいないようだが、彼女の精神
状態は保田よりもよほど脆い。自分たちと出会う前に、矢口真里に何があったのか、梨華
の出現によりそれを知ることは出来なかったけれど。
とにもかくにも、矢口が心配だ。こんな不安定な状態じゃ、どうなるか分からない。
( ええい、仕方ないか…短い人生だったな、私も。あの飄々とした態度が癪に触るけ
ど、………紗耶香。あんたに任せるよ )
- 55 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時31分01秒
「矢口」
保田は、声を潜めて背後の少女に呼びかけた。「…圭ちゃ…」泣き出しそうになる矢口
の声を察知しながら、保田圭はきっぱり言った。
「 私が、石川の注意をひきつける。私が合図するから、矢口はそのまま後ろに向かって
走れ」 目だけは油断なく梨華の動向を注意しながら、保田は小さく丸めたものを、背
後に手を回して矢口の小さな手に握らせた。そして、続ける。
「これ。地図だから。あんた失くしたって言ってたでしょ? 私にはもう、必要ない」
「……圭ちゃん、何言って…」
矢口の声が震えた。勘のよい矢口でなくても、その意味くらいは分かるだろう。
「 ――― 死ぬ気なの?」
保田はにいっと笑んだ。その微笑はおそらく背後の矢口には見えていないはずだが、奴
にはちゃんと見えていたはずだ。面前でボウガンを構える、石川梨華には。
「 さあ、来なさいよ、石川。ろくでもない一生だったけど、最後に1つ、人の役に立て
そうなこと見つけたわ。……ちょっと、あんたもう立ってらんない?」
「…………っ」
- 56 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時35分18秒
「ひとみちゃん……」
不意に、梨華が呟いて表情を緩めた。見えない相手が目前にいるかのように、目を細め
て保田を見る。いや、彼女の視界に今保田は映っていない。今、彼女は保田の後ろに最愛
の少女を思い浮かべていることだろう、『吉澤ひとみ』の姿を。
「 ごめんね、あたし、やっぱりダメだぁ。約束守りたかったけど、ダメみたい。あたし、
だってもう人を殺しちゃったんだもん。ひとみちゃんみたいにキレイな体じゃないん
だもん。こんなあたしの言うことなんて、誰も聞いてくれないよ」
独り言なのか、それとも ――― とにかく梨華の瞳に段々と光が帯びてきて、今度こそ
梨華の目に保田圭が映し出された。保田はこんな時だというのに、 ( へえ、石川って吉澤
のこと『ひとみちゃん』とも呼ぶのね ) などと、呑気に考えていた。
ああ、案外そんなものなのかも知れない、死ぬ間際というのは。
特別なことを思うのじゃなくて、そう変化なんてないのかも知れない。
そうして、ゆっくりと梨華がボウガンを構え直した。その照準が自分に向けられている
ことを察して、保田が叫んだ。
「 ――― 矢口っ、今だよ、行って!」
- 57 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時36分13秒
弾かれたように、保田の背中から矢口が離れた。しかし、そのまま矢口は動き出す様子
がない。焦りを感じて保田はなおも叫び続ける。
「行きなさい、矢口! 紗耶香を探して、あの子なら何とかしてくれる!」
「出来ないよ、行けないよっ…………。圭ちゃん、一緒に行こうよぉ………っ」
「1人で行きなさい! あんただってもう19でしょ」
ふっと諭すような口調になって、保田が振り返った。「矢口?」 こんな緊迫した状況
とは思えないほど、穏やかな表情で。
( ああ……私、こんなに冷静な人間だったんだ……もう死ぬってのにね )
「 ―――― 生きて」
「! ………圭ちゃっ」
矢口の顔は、もう涙でぐちゃぐちゃになっていた。まったく、この子の涙は底を知ら
ないのかしら? 泣いてばかりじゃないの、今日会ってから、ずっと。
- 58 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時37分33秒
「いいから、行けえっ!!!」
――― ビクッとしたように体を竦ませた直後、矢口は口を結んでくるっと保田に背を
向けると、走り出した。その小さな姿を見守ろうとした保田の背中に、石を投げつけら
れたような鈍い痛みが走った。「……うっ…」 顔を歪めて振り返ると、ボウガン
を撃った梨華の蒼褪めた顔が先ず目に入り、続いて今度は胸にボウガンを撃ちこまれた。
「くっ……ふっ……」
口の中に生暖かいものが広がって、保田の意識は朦朧とし始めた。 ( ……何よ……
痛いじゃない、石川の馬鹿やろう……こんなの食らって何で立ってられるのよ… )
気付かぬうちに、保田は倒れていた。
もやのかかった視界の中で、保田の顔の丁度正面に位置するところに飯田圭織の体
が横たわっているのが見えた。( もう、死んでるのかな? それにしても…… )
穏やかな顔だった。飯田圭織の最期の表情は。
( カオリ、カオリ……ちゃんと辻を見つけてあげてね )
( そうだ、私のことも放っといたら許さないよ? )
- 59 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時38分18秒
( それから、なつみにも謝らなきゃね。もちろん、向こうにも謝らせるけど )
( 矢口、ちゃんと逃げ切れたかな……それにしても石川の大馬鹿やろうめ…… )
――― 全てが狂っていたけど、こんなものなのかもしれない、人生なんて。
だけど、私、役に立ったよね。最期に1つ、人の役に立つこと出来たよね?
なんだ、簡単なことじゃん。私、悩んでたの馬鹿みたい。
表情を作るだけの力が残っていたのなら、保田はきっと苦笑を浮かべていたのに違
いない。しかし、すでに胸と背中に突き刺さったボウガンの矢は、確実に保田の生命
を削っていた。もう、死期は近い。
・・・・・・
- 60 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時39分32秒
やがて、保田圭が目を見開いたまま事切れたのを確認して、石川梨華は崩れ落ちる
ように雪の上に倒れた。そして体を横たえたまま、流れる涙を拭おうともせずにただ
泣いた。手からはとっくにボウガンは離れていた。
「ごめんね、ひとみちゃん……約束、破っちゃって」
やがて囁くような小さな声で、梨華がぽつりぽつりと、見えない相手へ話し掛ける
声だけがこの場に響く唯一の物音となった。
「…役に立てなくてごめんね……あたし、やっぱりひとみちゃんみたいにはなれな
いよ…。また殺しちゃったよぉ……もう、何でこうなっちゃうんだろ……」
「ああ、痛いなぁ……」
「……もう、このコートお気に入りだったのに……痛い……」
- 61 名前:《17,激昂 保田圭》 投稿日:2002年03月21日(木)16時40分16秒
・・・・・・
そして、石川梨華はまた立ち上がった。もう行くあてもない、約束も守れなかった、
深い傷を負った ――― それでも梨華は歩き出した。
飯田圭織と保田圭の骸だけがその場に残り、雪が舞った。風が吹いたのだ。
穏やかな表情で永眠についた2人の髪を優しく撫でるように吹いた風は、彼女たち
の茶色がかった髪の毛がふわふわと揺らす。
それは穏やかな世界がそこにあった。ただ、2人の体に突き立つ無機質な銀色の矢
と、それを引き立てる赤色の血の染みだけが、そこで起きた戦闘を物語っていた。
【残り7人】
- 62 名前:flow 投稿日:2002年03月21日(木)16時42分15秒
気付けば年長組、矢口しかいなくなってしまいました…。高校生組は福田だけなのに。
このままいけば、3スレ目にして完結できそうです。断言は出来ませぬが(w
- 63 名前:3105 投稿日:2002年03月21日(木)17時01分43秒
- カオリンがやられてショックです。
相変わらず面白いです。最後まで絶対お付き合いします。
- 64 名前:熱心な名無し読者 投稿日:2002年03月21日(木)19時08分04秒
- >61-62
更新直後にネタばれは勘弁してほしい・・・。
嫌でも目に入る部分だから。
分かっていても読まずにいられないところが、すごいとも言えるが。
- 65 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月21日(木)21時26分37秒
- 64さん
いやいや、レスの数を大体覚えておいて、数が増えてたら板を覗くのではなく、
直接このスレに入っていけば問題ないでしょう。
- 66 名前:読んでる人 投稿日:2002年03月22日(金)11時26分31秒
- 一番、人の死を多く見ている矢口。
紺野に銃を突きつけられ殺されそうになった矢口。
市井と後藤の関係に嫉妬(?)し、悔しい思いをする矢口。
これだけ、多く悲惨な目に遭いながら人間崩壊を起こさない
矢口の強靭な精神力に乾杯。
そして―――最後まで生き残ってくれ矢口!
- 67 名前:はろぷろ 投稿日:2002年03月22日(金)12時17分08秒
- ムムム。石川はまだ生きてるんですね。
てっきり相撃ちみたいなかたちになると・・・
期待です。
- 68 名前:gattu(未来予想) 投稿日:2002年03月22日(金)19時16分14秒
- いいねえ圭ちゃんの一生に一度の目立つ所しかと見届けたぞ。
それでも他の人と比べると目立ってないけど・・・
実は圭ちゃんのこと3番目に好きだったりします。
この後は矢口編があって後藤編がラストか・・・
最後じっくりと拝ませてもらいます。
石黒の使った武器を奪い死神化した紺野・石川を瞬殺ですかね?
そのあと三人で和田に挑み、そして和田を倒してアリアハンに帰ってきた三人だったが、
平和は長くは続かなかった。悪の大魔王ゾーマが再び世界を暗黒の海に包み込んでいった・・・
さあ立ち上がれ伝説の勇者、後藤真希!!
- 69 名前:flow 投稿日:2002年03月24日(日)00時16分03秒
珍しく早めの更新です。でもなかなか進まない……。
それでもレスを下さる方々に、感謝ひとしおです。
>63 3105さん
飯田さんは………すいません、ああなってしまいました(w
結局、アドリブがきかないので>作者。なるべくいい場面を作りたかった
んですけどね。ごめんなさい!
>64 熱心な名無し読者さん
これはもう本当に頭を下げるしかないです!ごめんなさいごめんなさい。
なんというか、更新し終わって気が緩んでいましたね。言い訳ですけど。
それでも一応内容に目を通して下さったようで、ありがとうございます。
駄作者ですいません、本当に…(陳謝)
>65 名無しさん
そしてフォローありがとうございます!
今度は2度とこんなことのないように気をつけます。
- 70 名前:flow 投稿日:2002年03月24日(日)00時16分44秒
>66 読んでる人さん
矢口の動向をよく読んでくださっているようですね。
そうなんです、実は矢口が1番大変な目に合っているのですが、強運なことに
何故か全て回避(w
まあ、今後はどうなるんでしょうね。
>67 はろぷろさん
重症(っぽい)ですが、石川さん生きてます。このまま何処かで
崖に落ちて死んでたとかいうオチにはしません、一応(w
とにかくネタバレ注意なのでここまでで。(戒めとして…)
>68 gattuさん
すいません、未来予想図、笑ってしまいました。(w
市井さんの存在が……ああ、一応主役(っぽい)のに〜。
そう言えば、まだ紺野が出てきていませんでしたね。何処にいるやら。
ということで、場面が変わって市井&後藤の小屋編です。
- 71 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時18分34秒
ああ、また誰か死んだ。
同じ小屋にいる市井紗耶香に気付かれないように、自分の「武器」である探知機の
表示に目を落として、真希は小さく、細い息を吐いた。
最初にその4つの赤い点滅を見つけたときから、ほんの10数分しか経過していな
かったのだけれど、まず1つの反応の脈搏がぐっと弱まり、それから少しして今度は
反応の細くなっているその点滅とは別の反応が僅かに明滅した後、消滅したのだ。
実にあっけなく。
それが、どういうことが分からないはずがなかった。つまり、誰かが死んだのだ。
そしてまた別の誰かがおそらくは深手を負ったかして、生命の危機に晒されている。
分かっていた、分かってはいたけれど ――― 真希は何もしなかった。
いや、どうにか助けたいと思ったところで、その場に到着するまでにどれだけ時間
がかかるだろう。現場に行き着いた時点で、既に全てが終わってしまっている可能性
だって考えられる。何より、真希はこのゲームに放り込まれた時点で、他の誰よりこ
の『デスゲーム』の特質性を理解していた。
だから、こう判断した。( 今は、動かない。目的を達成するためだ )
- 72 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時19分09秒
そうこうしているうちに、真希の手中にある探知機の小さな画面の中では、どうや
ら実に壮大なストーリーが展開されているようだった。1人が死に、1人が死にかけ、
今度は1人がその現場からどんどん遠ざかっていくではないか。
仲間割れか、はては誰かの裏切りか。
どちらにしろ、今その場にいない自分や紗耶香にとっては関係のない話だと、真希
は醒めた気持ちで画面を見続けていた。
( 気に、するな……目的以外に気を取られちゃいけない。気にしちゃ駄目だ )
この探知機を使い始めて、赤い点滅が1つ1つ消えてゆく度に胸がえぐられるよう
なやるせない痛みは、とうに無視するものと決めていた。
一度、真希は顔を上げてストーブの前に座って自分に背中を向けている紗耶香の方
に視線を走らせた。良かった、こっちのやってることには気付いてない。先刻と体勢
の変わらない紗耶香の姿に少し安心すると、真希はまた目線を下に落とした。
- 73 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時20分18秒
2つ残っていた反応のうち、反応が弱くなっていたのとは別の、――― 要するに
さっきまでは元気だったはずの“誰か”の生命反応が、急激に弱まっていた。脈拍が
かなり落ち込んでいた ――― と思ったら、呆気なくそれは消えてしまった。
( 誰……だろう…。ひとみじゃないことだけは確かだけど )
確かな証拠があるわけでもないのに、真希にはそう断言できるだけの確信があった。
吉澤ひとみとは、ゲームの開始以来1度も顔を合わせていない、その安否すらも確認
が取れてはいない。けれど。
真希はそれでも、吉澤ひとみの生存を信じて疑わなかった。だって、後藤はまだ、
ひとみに会っていない。伝えたいことを伝えてない。
――― ねえ、ひとみだってそうでしょう? 今、簡単に死ねるわけないよね。少な
くとも、後藤たちが会えるその時までは。
- 74 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時20分53秒
今、ものの10数分の間にまた2人の死人が出た。ああ、本当に政府の狙い通りじゃ
ないか………もちろん、それがどうしようもないことであることは認めていたし、何
よりこんな状況において互いに殺し合っている「誰か」を責めることなど出来ないと
真希は分かっていたけれど。彼女はだから、『何もしない』のだ。
――――
矢口が去り、小川もまた、その後を追って紗耶香と真希の前から姿を消してからの
間ずっと、紗耶香は一言も口をきかず、黙りこくって燃え盛るストーブの炎を見つめ
ていた。ゆらゆらと揺らめく炎の動きに合わせて、紗耶香の瞳が僅かに収縮を繰り返
している。( 市井ちゃーん…… )
一方の真希はといえば、何をするでもなく、時折自身の手元にある探知機を確認し
てはそんな紗耶香の様子をじっと見守っている。その繰り返しだった。
( 市井ちゃぁん、たまにはこっちも気にしてよね )
- 75 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時22分42秒
当然、矢口が2人の前から立ち去って程ない頃に聞こえた銃声には気付いていたけ
れど、顔色を変えて反応した紗耶香を、落ち着いた素振りで真希が制した。
「大丈夫だよ、やぐっつぁんじゃない」
――― 手元の探知機に目線を落として静かな声でそう言う真希を前に、『じゃあ
誰だよっ』などと聞き返す元気は、もはや紗耶香には残っていなかった。
普段の市井紗耶香という少女の実態からは考えられないくらい、今の彼女はまるで電
池が切れてしまったかのように、一切の感情を放棄しているように見えた。もちろん、
そんな状態が長く続く訳はないのだが。
そして真希もまた、紗耶香の性格を熟知しているだけに、その彼女が何を考えている
かの予想がついていた。
そう、一緒にいる自分のことなど、紗耶香には見えていない。今彼女が考えているの
はもっと別のことだ。泣きながら走り去った紗耶香の親友のことや、今何処かで殺し合
っているであろう園の仲間たちのこと。
- 76 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時23分18秒
そして、何とかして現状を打破する方法を。何とかして、あの政府の連中に一矢報い
る方法を。何故なら、紗耶香の目の輝きはまだまだ褪せていないからだ。
――― そうこなくちゃ。それでこそ、市井ちゃん。だけど、ね。
( 駄目だよ。市井ちゃんはもっと、後藤のことを考えてくれてなきゃ )
だから言ったのだ。その、全ての引き金になる言葉を。
「……ねえ、市井ちゃん?」
真希の呼びかけから数秒の間を置いて、紗耶香はようやく答えた。「……何だよ」
あくまでぶっきらぼうな口調に、真希は思わず苦笑する。抜け殻のようになってし
まったのかと思いきや(まあ、本気で市井ちゃんが抜け殻になってしまうなんて考え
ていたわけじゃないけどね)、まだまだ彼女の我の強さ ――― というか意志の強さ
は失われていないようだった。
もちろん、考えられないショックを受けて落ち込んでいるのは伝わってくる。今、
彼女がずっと無言でいたのも、真希の態度その他もろもろに腹を立てていたのでは
ないのだろうし。
- 77 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時24分11秒
「なんでさっき、やぐっつぁんのこと追いかけなかったの?」 「…………あぁ?」
突拍子もない真希の問い掛けに、紗耶香が目をひゅっと細めた。不機嫌そうな物言
いに、真希は再び苦笑する。まったく、年上のこの彼女は感情が表に出やすいのだ。
「……今さら、何言ってんだよ。後藤が言ったんだろ、『自分のこと守ってくれ』
って。約束だから、どこも行くなって」 口調に伴い、紗耶香の表情がみるみるう
ちに硬さを増してくる。苛付いているのが、明らかに見て取れた。
やだ。だから、怒らないでよ、市井ちゃんてば。
「嘘だね」
小屋の中の温度が1度2度、低下したような寒々しい空気が流れた。苦笑して僅か
に歪められていた真希の口元が、すっと線を引いたように一文字に閉じられ、穏やか
ささえ感じられたはずの表情が、険しさを帯びていた。
まるで、スイッチが切り替わったかのように。市井紗耶香を、糾弾するかのように。
「嘘って、何がだよ。何で嘘だなんて、後藤が断言できるんだよ?」
「 ふ ――― ん、分からないんだ、市井ちゃん? それとも、分からないフリしてる
だけ? 後藤に、言わせたいわけ?」
- 78 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時25分27秒
真希の突然の態度の変化に、紗耶香がややむっとしたように言葉を返すが、反論を
許さないかのような勢いで、真希がそう畳み込かけるように言った。
「 市井ちゃんが、優し ――― い市井ちゃんが、後藤との約束1つのために、泣い
てるやぐっつぁんを放っといてここに残るわけないじゃん」
「…………後藤」
戸惑ったように自分を見返してくる紗耶香が、いつもの自信ありげな彼女よりは数割
増しで、子供っぽく思えた。もちろん、真希はそんな紗耶香のことも好きだ、いつもの
紗耶香も好きだ、市井紗耶香という人間そのものが好きなのだ、だけど。
ここは、まだ全てを話す訳にはいかなかった。紗耶香への態度を和らげるわけにはい
かなかった。まだ、その段階ではないのだ。それに、これは今の真希の感情的な意見な
のだが、紗耶香の「意志」や「考え」を、明確にしておきたかった。
今後の、自分の動きのためにも。
- 79 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時26分11秒
「 言ってあげようか? 市井ちゃんの正直な気持ち。後藤に対して思ってること。あの
ねえ、市井ちゃんはそうと意識してないかもしれないけど、市井ちゃんってもの凄く
考えてることが顔に出やすいんだよ。後藤、長いこと市井ちゃんの側にいたから知っ
てるもん。だから、分かるんだよ。市井ちゃんの思ってることくらい」
何度も「市井ちゃん」という名前を使って、自身でも意外なくらい、淀みなくすらすら
とその言葉は真希の口をついて出て来た。普段より明らかに(そして紗耶香が不自然だと
感じるくらい)饒舌に語る真希に、紗耶香は訝しげな表情をして、ただ黙ってその言葉を
聞いている。
紗耶香は、無表情に自分を責める口調の真希に何か言いたそうな素振りを見せたが、
結局何も言わず表情を硬くして先を促すよう、僅かに頷いた。
「市井ちゃんはさあ、後藤が変わったって思ってるでしょ」
――― ふっとトーンの落ちた真希の声に、紗耶香がはっとしたように息を飲んだ。
- 80 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時26分46秒
「 後藤はさあ、いつも市井ちゃんに甘えてばっかりだったし、こんなに風に市井ちゃん
に突っかかるような真似しなかったもんね。ずうっと市井ちゃんにべったりくっつい
てて、市井ちゃんの言うこと何でも聞いてる良い子だったもんね。市井ちゃんはそう
思ってたはずだもんね」
――――
『…市井ちゃんっ!逢いたかったあ ――― っ 』
ほんの半日ほど前のことだ。2人の再会は。
それなのに、あの時真希が見せた無邪気な笑顔を、それ以来紗耶香はずっと目にして
いない。もともと笑うことが少ない彼女とは言え、後藤真希の変化は不自然なことが多
すぎた。そして、それだけではない。
紗耶香は、それをまた真希が自覚していることを今知ったのだ。『デスゲーム』など
といった政府の下らない計画の為に放り込まれたこの状況で、真希の変化が無意識的な
自己防衛本能の為なのだと考えることは出来なくなった。
全て、真希の変化は意図的なものだったのだから。
- 81 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時27分34秒
友人達が死んでいくのを冷静に見守っていたことも、石黒彩が自ら死を選ぶよう仕向
けたことも、全て、真希は至極落ち着いた態度で対処していた。それが、後藤真希とい
う少女の特性だとしても、この異常事態の中ではそう理解するとしてもやや無理感があ
るのは紗耶香としても否めない部分であった。
全て、全て。紗耶香が多少強引にも「このような状況下だから」真希の変化を理解し
ようとしていたものが、たった今裏切られたのだ。
「……何で、後藤変わったと思う?」 唇の端を少し持ち上げて、真希は紗耶香がぞっ
とするような微笑を湛えて見せた。( 当然、分かってるよね? ) 有無を言わせぬ圧倒
的な強さを放つ鋭い目から、真希の声が紗耶香の中に直接届けられる。
「変わってないよ。後藤は ―――― 変わってなんかない」
ここで目を逸らしたら、真希に負ける。紗耶香はぐっと拳を握り締めて、はっきりと
した口調で言い返した。「嘘だね」 真希が笑う。
「だから、市井ちゃんは嘘つきなんだよ」
- 82 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時29分03秒
「……誰が嘘つきなんだよ! 元はと言えば、後藤が『守れ』って言うから市井は矢口
を追いかけないでここに残ってるんだろ? それが気に食わないっての? 何なんだよ、
何が気に入らないんだよ、何でそんなに突っかかるんだよっ!」
遂に、紗耶香が癇癪を起こしたように口調を荒げた。受け流すように真希はただ微笑
を浮かべたまま、穏やかな言葉を返す。
「そう。やっぱり、市井ちゃんが後藤の側にいるのは“義務感”なんだ。ってことは
だ、市井ちゃんは後藤が変わった原因が何かってこと、本当は分かってるんだね」
「 ―――― 」
紗耶香が返す言葉を失うと、真希はすっと窓の外に視線を外した。そして、長い髪の
毛を手で弄びながら淡々と話し始めた。
「 市井ちゃんは、本当は後藤なんて放っといても大丈夫だと思ってる。いくらこれが
『殺し合い』なんだって言っても、後藤は大丈夫だと思ってる。それより、もっと
心配な人はたくさんいるから。やぐっつぁんとか、中学生組とか」
- 83 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時29分49秒
ちらりと真希は紗耶香に視線を走らせた。その紗耶香の目に怒りの感情が浮かんでい
るのに気付いたが、彼女が何も言わないので言葉を続ける。
( あーあ、目的の為とはいえ、こんな市井ちゃん見たくないのにな。早送りで、こん
な場面飛ばせちゃえばいいのに )
「ねえ、市井ちゃん? 市井ちゃんは、今の後藤に不審感を持ってるでしょ」
ずばり、ストレートに聞いた。
「“変わっちゃった”後藤は、どこか危険だって思ってるでしょ。彩っぺを自殺に追い
込んだり、人が死んでも淡々としてたりする後藤が、何かやらかすんじゃないかって、
危惧してるでしょ。市井ちゃんが後藤の側にいるのは、後藤を守ろうと思ってるから
じゃないよ。心配だからじゃないよ」
ふうっと、真希は大きく息を吐き、そして吸い込んだ。あらかじめ考えてあった台詞
とは言え、これを紗耶香に自分の口から語るのは少し辛いものがある。
「 市井ちゃんがここにいるのは、後藤を『見張る』為だ。これ以上、誰かを傷つける
ことのないように。変なことしないように。監視する為」
「 ばっ ――――……!」
- 84 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時30分26秒
真希が言い切ると、紗耶香が大きく目を見開いた。唇をかみ締めている口元にも、その
見開かれた瞳も全て、全身で怒りを表現しているように見えた。いや、事実紗耶香は怒っ
ているのだろう。「 馬鹿野郎っ!! 」 大声で、怒鳴られた。
――― ほら、やっぱり怒ってる。
「お前なあ、何勝手なこと言ってんだよ、市井がいつ、後藤のこと信じてないなんて
言ったよ? 市井は、自分の意志でここに残ってるんだ、約束したから ――― 」
「そうでなきゃ!」 「…………」
興奮して口走る紗耶香の言葉を断ち切るほどの鋭い声で、真希が叫んだ。相変わらず
目線だけは窓の外へ向けられているけれど、真希の意識が全身で紗耶香へ向けられてい
るのは明らかだった。
「 そうでなきゃ、市井ちゃんがここに残る理由なんてないもん。約束があろうがなか
ろうが、あんな泣きじゃくってるやぐっつぁん見たら、市井ちゃんは後藤を振り切
ってでも追いかけてった筈だよ。だって、市井ちゃんってそういう人じゃん」
- 85 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時30分59秒
ぐっと、紗耶香は言葉を飲み込んだ。言い返したいことは山ほどあるのだろうが、頭
の中で上手くまとまらない、そんな感じだ。
「冷静で、頭がよくって、ひとみ以外心配する人がいない後藤より。不安定で、友達
思いで、泣きじゃくってたか弱いやぐっつぁんの方が気になるはずだもんね」
「……随分、よく喋るんだな今日は」
不意に、ぐっとトーンダウンした声で紗耶香が口を開いた。何を喋ろうか考えている
うちに、ある程度落ち着きを取り戻したらしい。それでも怒りを帯びた目はまだ冷めて
いないようだったけれど。
「いい加減にしろよ! 何が言いたい? そんなに市井が信用できないって? いちいち
突っかかりやがって。何だよ後藤! ………どうしちゃったんだよ!?」
――― 『市井ちゃん! 逢いたかったあ ――― っ 』
「 市井は後藤が大事だよ? だから約束だって守ろうと思ってんじゃん! 本当に、何
があったんだよ、何でそんなに………」
「『変わった』のか、って?」
- 86 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時31分31秒
話しているうちにまた気持ちが昂ぶってきたのか、紗耶香の口調が激しさを増す。そ
れに反比例するように相変わらず低い落ち着いた声で、真希が口をはさんだ。
「……どうしてか、聞きたい?」
ふうん、そう。市井ちゃん、分からないんだ。あくまで分からないフリするんだ。
それなら、教えてあげるよ後藤が。何が原因かって、分からせてあげる。
ようやく窓の外へ向けられていた視線を室内に戻し、真希は正対する紗耶香を真っ直
ぐ見つめた。相対する紗耶香の体が、その視線を真っ向から受けて僅かに硬さを帯びた
ように見えた。( これが全部じゃない、言わなきゃならないことは。けど… )
真希は一呼吸置くと、唾を飲み込んだ。その時初めて、喉がからからになっていたこ
とに気付く。どうやら緊張しているのは紗耶香だけではないようだ。
「市井ちゃんが、いなくなって。あ、1年前の話ね」
また、真希の手が自分の髪の毛へ伸びた。無意識に出る癖とは言え、頻繁過ぎる。ど
うやら余程重い話なのかと、紗耶香の表情の真剣さが増した。怒りの感情は火が消える
ように、少しずつ燻って今はほとんど紗耶香の中に残っていなかった。
- 87 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時32分48秒
「 パソコンも飽きた。ひとみは部活に友人付き合いに忙しい。ああ、優等生って大変
だよね。市井ちゃんもだけど。…で、後藤はすることなくって。本当に何もなくっ
て。市井ちゃんはアメリカ行って、色々経験してるんだろーなあって思ったら、何
かこのまま何もせずにいるのに焦り感じちゃって」
紗耶香は黙って聞いていた。真希も、努めて淡々とした素振りを崩さずに言葉を続け
る。本当は、随分心の中に葛藤を抱えていたけれど、それを表面にはおくびにも出さな
かった。出せなかった。平気なふりして話さなければいけないのだ。
「 色々、ケーケンしたの。ネット犯罪って知ってる? そりゃ知ってるか、後藤にパ
ソコン教えてくれたのって市井ちゃんだもんね。で、詐欺・横領・脅迫・恐喝とか
すごい簡単に出来るの。世の中って馬鹿な人ばっかりだよねー。
会社なんて特に、ちょっとネタ握ってゆすってあげると馬鹿みたいにお金出してく
るの。何でもお金で解決出来ると思ってるみたい。ちょっとムカついた。ま、でも
ちゃんと貰うもんは貰ったけど、あはは」
- 88 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時34分14秒
-
「 ―――― ごとう……」
「黙って聞いてて、市井ちゃん」
有無を言わせぬ迫力でぴしゃりと真希が紗耶香を制した。呆然とした様子の紗耶香は、
納得したわけではないだろうが、取り合えず開きかけた口を閉じた。収まりかけた怒り
の感情が、またぶり返してきたのが目に見えて分かる。
「 あとはぁー、そうだね、色んな男と寝たくらいかな。ホント、見た目に騙される
男多すぎるね。ちょっと女の子っぽいカッコして、ちょっと愛想振り撒くと馬鹿み
たいにすーぐついて来るの。もちろん、顔の悪い奴はお断りだけど。
でもさあ、エッチのテクって、顔とは結びつかないんだよね、当たり前かな。
そうそう、1回ね、ちょっと遊んだだけの男の彼女に逆恨みされて、包丁向けられ
たことあったの! あれはビビッたなあ〜、後藤焦ったもん、少し」
真希は何がおかしいのか目を細めて肩を震わせた。笑っているのだ。
紗耶香は、唐突な、そして衝撃的な真希の告白にただただ呆然とした表情で話を聞い
ているだけだ。
- 89 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時34分59秒
それでも、徐々に顔色が赤みを帯びてきている。爆発するのはもう近いかもしれない、
しかし真希の話はまだ終わらない。
「 もちろん、ちゃんと“オシオキ”しといたよ、その女には。ホント、女が逆上する
のってさあ、かなりみっともないよね。そんなに浮気が許せないなら、首に紐でも
つけとけっつーの」
「後藤ぉっ!!」
遂に、紗耶香が拳を振り上げた。怒りと悲しみがごちゃ混ぜになったような複雑な顔
で、頭上の握り締めた拳を下ろせないまま。「…お前、何考えてんだよ……」
「殴らないの?」
真希の視線は、振り上げられた紗耶香の拳に注がれていた。会話が噛みあわない。
いや、あえて真希が話を会わせようとしないのだ。
「…市井ちゃんの、そーゆうとこ。優しいのか弱虫なのか、分かんないね」
平気な顔をして、真希は心に突き刺さることを言う。否、真希とて考えなしにそんな
ことを口にしているわけではないのだが、今自分の目的が紗耶香にばれる訳にはいかな
いのだ、紗耶香を責めるようなことを言って平気なはずはないが、仕方なかった。
( 許してね、市井ちゃん。後藤、市井ちゃんのこと好きだから )
- 90 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時37分41秒
それでも、紗耶香にそんな真希の思惑が分かる訳はない。紗耶香は今度こそ、真希に
対して心底怒っているようだった。
「 何やってたんだよ! 市井がいない間。何考えてんだ! 自分を蔑むようなことばっ
かして、そんなの経験って言うかよっ!? 違うだろ!?
本当に、何、やってんだよ……後悔してないのかよ…? そんな、何で……」
言いながら、紗耶香の胸に熱いものが込み上げてきて、思わず紗耶香は髪を掻き毟っ
ていた。泣きそうだった。でも、泣かない。
「大事にしてくれよ、自分のこと…。何でそんな、そんなこと」
「 ――― 市井ちゃんのせいじゃん」
また、声のトーンが変わった。真希のスイッチが切り替わる。紗耶香を糾弾する、そ
のスイッチに。
「 市井ちゃんのせいだよ。市井ちゃんが、アメリカなんて行っちゃうからだよ。何
でそんなこと? ……笑わせないでよ、寂しかったからじゃない。何かしてないと、
寂しくって潰れちゃいそうだったんだから」
- 91 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時38分26秒
「 そうだねー、市井ちゃんには分からないかも知れないけど。………後藤にとって、
『市井ちゃん』って存在が、どれ程大きいのか、どれ程影響するのか、なんて。
友達がたくさんいて、皆に好かれる市井ちゃんには」
―――― 『市井には、友人がたくさんいる。後藤には、ほとんどいない』
紗耶香の脳裏に、あの「思い」が蘇った。自分が、真希を置いてアメリカへ発った時
の後ろめたい思い。それを、無理矢理押さえ込もうとする感情。大丈夫、真希だって分
かってくれる、少し距離を置いた方がいいのだと。
「……後藤には、吉澤だっているだろ…」
自分でも、声が弱くなっているのが分かった。今の後藤は傷ついている、何となくそ
れを察した紗耶香には、強く出ることは出来なかった。
あははははっと、甲高い笑い声を上げて真希が紗耶香の顔を覗き込んだ。「何だぁ、
市井ちゃんってば、そんな風に思ってたのぉ?」
目を背けたくなる衝動を抑えて、紗耶香は真希の顔を見返した。笑顔だった。
- 92 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月24日(日)00時39分26秒
「なら、言っちゃおうかな。あのね、後藤、ひとみとも寝たんだよ」
「……はあっ?」
真希の言葉は、数秒遅れて紗耶香の脳に届いた。更に遅れること数秒、紗耶香はその
言葉の意味を理解する。口がぽかんと開いた。咄嗟に、紗耶香は反応することが出来な
かった ―――― 『あのね、後藤、ひとみとも寝たんだよ』 ――― その言葉に。
【残り7人】
- 93 名前:flow 投稿日:2002年03月24日(日)00時41分59秒
そして後藤編はまた次回続きます。長いので。
関係ない話ですが、「ナマタマゴ」を見ました。良かったっす。
それにしても、後藤のキャラが自分の(この話の)イメージに近かったです。
なんと言うか、淡々としてる画にはハマリますねえ。
- 94 名前:詠み人 投稿日:2002年03月24日(日)10時00分07秒
- 何やら後藤には複雑な背景がありそうですね。
しかし、吉澤と・・・市井ちゃんショーック!俺もショーック!(w
- 95 名前:はろぷろ 投稿日:2002年03月24日(日)22時33分35秒
- うわ!とんでもない独白だ・・・
市井ちゃんが怒るのも無理ないですね〜
続く独白に期待を・・・
- 96 名前:gattu(後藤をフォロー) 投稿日:2002年03月25日(月)01時17分04秒
- 笑っていただけて光栄です。
いやーちょーど前の日DQ3やってたから影響うけちゃって。
後藤は歌唱力の面でモームス。1〜2位ぐらいだから天才役はあってると思うけど。
無口は違うと思うけどなあ、結構明るい方だと思うけど。
他の人がすごくて暗い印象うけるけどね。
多分後藤が無口とゆう印象は、2年前の赤青黄のシャッフルスペシャルの印象が、
すごいからじゃないかなあ、あれは最高視聴率30以上行ったらしいから。
『100万取ってやる』これが俺の中で最初で最後の無表情。
他にありますかね??
キャラ潰してすいません。
小説だからしょうがないけどね。(反省
- 97 名前:flow 投稿日:2002年03月25日(月)21時41分30秒
一応今夜も更新してみます。どんどん終わりが近付いてくる…
>94 詠み人さん
後藤が、というより皆暗いんですね、基本的に考えていることが(w
ショックでしたか、すみません…もうぐちゃぐちゃ>人間関係
>95 はろぷろさん
続く独白=吉澤との関係。でもまだ全部ではないです。
一気に書ききれるだけの力量は自分にはありませんでした…
>96 gattuさん
無口で無表情、というのは世間的なイメージですかね。テレビ見てる
限りでは、ぼーっとしてることはあっても暗いイメージはないですから。
まあ、このキャラ設定も単に話が進めやすいというだけで(略)
………すいません、力不足です、本当。
というわけで後藤編後半戦です。長いです。
- 98 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時43分20秒
今度は怒りの感情すらも沸いてはこなかった。『後藤が、吉澤と寝た』――― それ
が、只一緒のベッドで仲良く“添い寝”しただけだなどと楽観的に考えるほど、紗耶香
もさすがに単純にできてはいない。そもそも、あれだけの衝撃的な告白の後だ、話がそ
んな軽いもので終わる筈がないのだ。
とは言っても、今、真希の告白の中でもその台詞は何より紗耶香にとって予想以上に
ショックだったことは言うまでもなかった。
…だって、そんな、馬鹿なこと。後藤も吉澤も、女じゃないか!
真希の言うとおり、紗耶香は感情が表に出やすい少女だった。呆然とした表情を覗き
込んで、真希がくすくす笑って言った。
「市井ちゃん、今さあ、『女同士なのに』って思ってるでしょ?」 そして、いたずら
っぽい表情で聞いてくる。やはり、紗耶香の思っていることは読まれていたらしい。
「 でもねえ、ひとみって上手なんだよ。ヘタな男の相手するよかよっぽど気持ちいい
もん。それに、乱暴なことしないし、優しいし。あ、これ梨華ちゃんには内緒の話
だよ? バレたら後藤、殺されちゃう」
- 99 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時44分05秒
-
冗談混じりにそう言って、真希はまた笑った。紗耶香はまだ動けなかった。
ひとしきり笑った後、真希が口を開いた。「…市井ちゃんがいなくなって」
そして、ふっと表情が真剣味を帯びる。まったく、今日の真希の表情は、驚くほど変
化に富んでいて、紗耶香は戸惑わざるを得なかった。もっともそれ以前に、真希の告白
によりもう表情の変化などに気を取られる余裕はなくなっていたが。
「 1番寂しいとき、1番辛いとき、1番苦しいとき、………いつも、それに真っ先に
気付いてくれるのはひとみだった。いつも側にいてくれたのはひとみだった。
安心出来たの、一緒にいると。確かなものにしたかった、ひとみまで離れてったら
後藤はもう生きてられないから、だから、ひとみと確かなつながりが欲しかったの。
だから、…だから自分から言ったんだ、『抱いて』って」
熱に浮かされたように、真希は話し続けた。あまりにショックの大きい話の連続に、
紗耶香の意識はもはや考えることを拒否したように麻痺しかけていたのだけれど、それ
でも紗耶香は気付いていた。
――― 真希の口調が、どこか自嘲めいた響きを持つことに。
- 100 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時44分46秒
「 ひとみに抱かれてるときがね、1番自分の存在を感じられるんだよ、生きてるって。
ほっとするんだ、1人じゃないって、後藤は1人じゃないって、手を伸ばせばすぐ
その手を握り返してくれるところに、いつもひとみはいてくれるから」
何故か、紗耶香の胸がぎゅっと締め付けられるように痛くなった。暗に、真希は自分
を責めていることに気が付いたからだ。
いくら口では『市井ちゃんを責めるだなんて、』と言ったところで、所詮それは上辺
の体よい言い訳にしか過ぎない。そう、分かっている。
真希は全身で紗耶香を咎めていた。
――― 『どうして後藤を置いていっちゃったの? どうして? どうして?………』
その抗議の方法が、つまりさっきの告白なのだ。そして、吉澤と寝たという事実と。
( 市井ちゃんは、知ってなきゃいけないんだ。後藤のこと、後藤がしたこと。
後藤の思いを理解してくれなきゃいけないんだ。そして、そして……… )
- 101 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時45分26秒
「市井紗耶香」という少女が、「後藤真希」という少女の存在に永遠に縛られるよう。
がんじがらめに身動きが出来なくなるほどに。
( 市井ちゃんが生き残ればいい。生き残るのは市井ちゃんでなきゃいけない。たった
1人だけを選べるなら、後藤は市井ちゃんを選ぶよ。だけど。そしたら市井ちゃん
は、それまでの間後藤のことだけを考えてなきゃいけないんだ )
――― この、ゲームが終わるまでの間。残された間。市井ちゃんは、後藤のことだけ
を考えていてくれなきゃいけないんだよ?
秘めた想いを抱えながら、真希はそれでも「告白」を続けていた。1番話さなければ
ならないことはそれでもまだ、口にすることは出来ないけれど。
そう ――― “あの事”を紗耶香に話すのはまだ早い。いや、話さないまま終わるか
もしれない。とても、それは重要でかつ重大な話だったから。
- 102 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時46分15秒
それより今は、紗耶香に出来るだけショックを与えなければならないのだ。自分のし
てきた事、それらが全て誰のせいであるかを知らしめなければならない。理解させる事
が必要なのだ、後々の目的の為に。
『後藤が変わったのは、他ならぬ市井ちゃんのせいなんだ』って。市井ちゃんがいた
ら、こんな思いもすることなかったのに。
何も変わらず、平和なまんま暮らしていれたのに。
あんな経験しようなんて、思わなかったのに。
「それでね、ひと ―――― 」 「もういいっ!!」
とうとう、紗耶香が叫んだ。唇が震えていた。「もう、いいよ……」 呟くように言っ
て、紗耶香は真希に歩み寄った。手を伸ばす。
「……後藤……何でだよ、何でそうなんだよ……もういいよ、分かったから、後藤が
市井のこと許せないのは分かったから、もういい。……辛いだろ? 自分も…」
紗耶香の伸ばした手が、自分よりもやや背の高い真希の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫
でた。真希の長い艶やかな髪が、少し乱れた。
- 103 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時47分19秒
「言ったじゃん、市井ちゃんのせいだって……」 初めて真希の表情に、哀しみの色が
強く表れた。どうしようもない自責の念と、それでもなお紗耶香への深い非難の感情が
入り混じって、真希自身もどうにも出来ないのかも知れない。
もともと、強く感情を表すことのなかった少女が、初めて生まれた大きすぎる感情の
波を上手くコントロールし切れていない、例えて言うならばそんな感じだ。
真希の目が、潤んでいた。かみ締めた唇は、涙が零れ落ちないよう自制しているかの
ようだ。 ――― そう、今気を抜いたら、きっと真希は泣くのだろう。
「 市井ちゃん、知ってたくせに。後藤が本当は弱いってこと、誰より知ってたのに、
置いてったじゃん。1人で行っちゃったじゃん」
「……それは………」
「 皆、後藤が強いと思ってる。1人でも大丈夫だって思ってる。本当は、そんなこと
ないのに。…市井ちゃんは、そのこと分かってくれてると思ってたのに」
不意にぼろぼろっと、真希の目から涙が零れ落ちた。こらえきれなかった。
- 104 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時47分56秒
ただ真っ直ぐに紗耶香を見つめる視線の中に、もう彼女を責めるような感情は見受け
られない。けれど、その代わりに、親に置き去りにされた子供のような、或いは捨てら
れた子犬のような寂しそうな瞳が、紗耶香の胸を貫いた。
『ひどいよぉ、市井ちゃん。置いてくなんて』
あの時、紗耶香がアメリカへ発つとき言えなかった真希の叫びが、今こそ聞こえる気
がした。笑顔で手を振っていたその影で、真希はきっと相当に深い傷を負っていたのだ。
「ごめん、後藤。ごめん、泣くな、ごめんって」
ぽろぽろと涙を流し続ける真希の体を、紗耶香が柔らかく抱きしめた。それでもまだ、
真希の頬を伝う涙は止まらない。嗚咽することもなく、体を震わせるでもなく。ひたすら
彼女は泣いていた。
泣いているときに優しい言葉を掛けられると、余計に涙が止まらなくなるものだ。一気
に感情の波が堰を切って溢れ出した真希の涙は、簡単には止まらない。
そして、抱きしめた真希の体が、いつの間にか自分が思っていたよりも随分成長して
いたことに、紗耶香は今さらながら気が付いた。
- 105 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時48分37秒
いやきっと、紗耶香は思い込んでいたのだ、真希はもう充分大人だと。外見ならず、
その中身も同年代の少女達より、そしてそこいらの大人よりもよほど、精神的に成熟し
た少女だと。しかし、本当は違ったはずだ。
確かに身体的には成長している。中身もそれに伴い成長しているだろう、彼女のその
知能指数の高さから考えても、真希が普通の少女より大人びているという考えも間違い
ではない、しかし ―――― 。
紗耶香は、だからこそ真希の中にある「子供」の部分に目を向けようとしなかった。
ないものとして、真希と向かい合っていたのだ。
後藤真希という少女の中に、こんなにも純粋に涙を流せる幼い一面があったことを、
おそらくは分かってあげられた筈なのに。
不器用な真希にはそれを伝える手段がなかったのだ。だから、紗耶香がショックを
受けるような行動を取り、それを伝えた。真希の心理状態を理解出来れば、それは実
に簡単な紐解きだ。後に、自分がどれほどの傷を負うかなど、まったく問題ではなか
ったのだろう、当時の真希にしてみれば。
- 106 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時49分15秒
ただしそれは、紗耶香の一方的な見解にしか過ぎないのだけれど。
ごめんね、市井ちゃん。後藤の目的は、まだ言えないよ。
抱きしめられて深い安堵を感じながら、真希の意識はまた別のことを考えていた。
もう、紗耶香は気付いているだろう、自分がこんな告白をした意図を。それはそれで
いい、彼女にはより深く真希の存在を刻み込まなければならないのだから。
もし、自分の本当の目的を知ってしまったら、紗耶香はそれを本気で阻止しようと
するだろう、だからこそ真希はそれをまだ伝えることは出来ないのだ。
もちろん、紗耶香が考えた真希の行動の裏にある心理が、間違っているのではない、
むしろその通りだ。――― 寂しさ故、気にして欲しいが故の、突飛な行動。
しかし、そのまた裏にあるもう1つの真実はさすがに今の段階で紗耶香に予測する
ことは出来なかった。真希が、一体何を目的としてこの『ゲーム』に臨んでいるのか、
何をしようとしているのか、まだ伝えられない真実とは何なのか。
真希は、紗耶香に抱きしめられながら、涙に濡れるその頬を、紗耶香の肩に押し付
けた。まだ涙は止まらない。
- 107 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時49分56秒
「 …後藤が、道を間違えそうになったとき、軌道修正してくれるのは市井ちゃん
だけだったのに。駄目だよって、叱ってくれなきゃ駄目だったのに。
市井ちゃんがいないと、後藤自分が分からなくなるんだよ、どうしていいか分か
らなくなる。他に、誰も巻きこんじゃいけなかったんだ、こんな後藤の世界に。
いけないのに、……なのに、なのに」
紗耶香は、抱きしめた真希が微かに震え始めたのを感じ取った。さっきまでの威圧感
を持った自分と向き合っていた後藤真希はもういなかった、今紗耶香が抱きしめている
のは子供のように泣いて自分にすがりつく、幼い少女だけだ。
そして、紗耶香は言いたいように真希に喋らせていた。真希も、その紗耶香の思い
やりを感じて言葉を次々と吐き出していた。
ただ、もう紗耶香を責める必要のなくなった現段階では、もう言葉の中に非難じみた
冷たい突き放すような感情は含む必要は無くなった。それは少し、真希にとっては気が
楽になることだった。
- 108 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時50分30秒
いくら紗耶香に置いていかれたことを恨んでいても、根に持っていても、自分が吐い
た言葉により彼女が辛そうな表情をするのは見たくない。というより、さっきもう充分
にそれは見たけれど。
どちらかと言えば、真希は紗耶香には笑っていて欲しいと思う。だが、それでは自分
の最終的な目的まで達することは出来ない。もう少し、言わねばならぬことがあった。
吉澤ひとみとのこと。
――― 繰り返した犯罪の数々や、不特定多数の男たちと関係を持ったこと。それらに
ついて、真希は後悔こそすれどさしたる罪悪感を持ってはいなかった。それよりも数段、
吉澤との関係を告白するのは真希にとっては難関だった。
簡単に吐露出来る思いを抱えていたわけではない。吉澤は、真希にとってなくては
ならない存在だった。いつの間にか、そうなっていたのだ。
真希かひとみか、どちらが先に望んだのか今となってはもう分からない。何故、こん
なにも2人に通ずるものがあったのか、惹かれ合ったのかも分からない。おそらく理由
などないのだろう。世の中に、理屈の通じないものなんて幾らでもあるのだから。
- 109 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時51分09秒
紗耶香がアメリカに行くまでは、明らかにその存在は紗耶香よりも下であった筈なの
に。真希は、吉澤の存在が今のように大きくなっていった訳が、市井紗耶香の不在に
よるものであることを自覚していた。
だから心苦しいのだ。紗耶香に対しても、吉澤に対しても。全ては、自分の弱い心が
原因であるのだと、理解していればこそ。
「 後藤は、ひとみを巻き込んじゃった……。後藤が我慢してれば済む問題だったの
に、大事な親友を巻き込んじゃったの。そんな、だってそんなことになるなんて
思わなかったんだもん。1人が嫌だっただけなんだもん。なのに、どうして…だろ、
…ひとみまで、後藤のこと」
「 ――― 何? 吉澤が、どうした?」
刺激しないよう、なるべく声を穏やかにして紗耶香が先を促す。こんなに感情の昂
ぶった真希を見るのは正直初めてだった。どちらかと言えば、紗耶香の方が感情的な
タイプだったので。それを、真希が穏やかに受け止めるというのが、2人従来の関係
だった筈だ。
- 110 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時51分46秒
「 ひとみと後藤は、似てるんだ。すごく、似てるから、だから、弱い部分を補うこと
が出来ないんだ。……後藤ね、それ分かってたのに。でもひとみがいないのは嫌で、
頼っちゃった。互いに支えることが出来ないって、分かってたのに」
「どういうことだよ? 共倒れ?」
真希は顔を紗耶香の肩に押し付けたまま首を横に振った。「違う」と、くぐもった声
で短く答える。
今、紗耶香は自分のことをどう思っているのか。その顔を見るのは少し怖かった。
とても、顔を見合わせては話せないだろう。真希は、紗耶香が自分を抱きしめていてく
れることに感謝した。同時に、純粋に嬉しく思っていた。
「 ――― 『依存心』って、怖いんだ。お互いに支えあうことが出来る存在ならいい。
後藤と市井ちゃん、ひとみと梨華ちゃんみたいに。プラスとマイナスの関係みたい
に、違うタイプの人同士ならそれが出来るでしょ?」
だけど。
- 111 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時52分59秒
「 後藤もひとみも弱かったの。似てたの、そういうところが。……だから、後藤は…
……途中でそれに気が付いて、距離を置こうと思った。だってひとみには、いっぱい
仲間が集まるから。後藤に引き摺られて、世界を狭くする必要なんてないと思ったか
ら。―― でも……」
一瞬、真希がためらったのを感じて紗耶香はより強く彼女を抱きしめた。「いいよ、
言えって」 耳元にそう囁く。真希が小さく頷いた。
「 でも、遅かったよ。あはっ……後藤がひとみにばっかり依存してたせいで、……
そのせいで、ひとみにも、後藤が必要になっちゃったんだ。ひとみはね、後藤に
だけは本心見せてた。『優等生』じゃない自分の本心。最初はね、後藤だけがそれ
を知ってるのが嬉しかった、けど、段々苦しくなった」
「……………」
- 112 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時53分44秒
-
「 ひとみはもっと、広い世界を見れるはずなのに。後藤がそれを縛り付けて、ひとみ
の自由を奪ってると思った。もっと本心を打ち明けなきゃいけない相手がすぐ側に
いるのに、その『彼女』にすら打ち明けられずにいたんだよ。ひとみは、後藤の前で
しか安らげなくなってた。逃げ場が、なくなってた……」
自嘲気味にそう言って、んんっと真希が小さく嗚咽を漏らした。それでもまだ、真希の
長く痛い独白は続く。
正直言って、真希自身も話を続けるのは辛かった。相手が市井紗耶香という、自分に
とって何より大切にしている存在であるが故。
しかし、吉澤ひとみもまた大事な存在であることに変わりはない。ここで言わなけれ
ば、おそらく永久にこれを告白する機会は失われるだろう。
タイムリミットがあるのだ。――― この『殺し合いゲーム』が終わるまで。
「 後藤はね、市井ちゃんもひとみも大事なんだ。すごい、何より大切な存在なの。
でも、後藤って大事な人を縛り付けちゃう性癖があるみたい。蜘蛛みたいだ」
「……何だよ、その例え…」
- 113 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時54分19秒
紗耶香が少し微笑んで口をはさむと、真希は力なくはは、と笑った。だって本当にそ
んな感じなんだもん、と子供っぽく口答えする。
「 市井ちゃんのことが好きで、大事で。ひとみのことが好きで、大事で。
……後藤にとっては、2人が全てなんだ。だから、この『ゲーム』が始まったとき、
後藤はまず真っ先に2人のこと考えた。会いたいって思った。そうしたら、探知機
が武器だった。すぐに、市井ちゃんを見つけられた」
何か教科書を読み上げているかのように、真希は言葉を短く区切りながら話す。それ
は、涙で言葉がつまらないようにする為には有効な手段だったのだけれど、紗耶香は
おそらくその意味には気付いていないだろう。
こうして抱きしめらている状態では、紗耶香がどんな顔をして話を聞いているのか
分からない。だけど、少なくとも彼女の腕から伝わってくる温もりは、真希を否定する
感情が含まれていることはない。それだけで、真希は安心出来た。
- 114 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時54分59秒
-
「 それで……後藤は、市井ちゃんが、何とか皆を集めて脱出しようとしているんだ
って知った。偉いと思った、だけど、無理だと思った。………だって後藤は、過去
のデータを見たんだよ。1度も、『優勝者』以外に生き残った例はないの。でも、
絶望はしたくなかった。なら死ぬ前に、やるべきことをやろうと思った」
『死ぬ前』という言葉を使ったことにより、紗耶香の肩がぴくり、と動いた。そうい
ったマイナスの言葉に敏感になっているのは当たり前だ、何せもう ――― 思い出した
くもないが何人もの仲間が死んでいるのだから。
そりゃあ、園の生徒たちから慕われ、好かれていた紗耶香のショックは真希の比では
ないだろう。だが。
仲間たちが死んで、その人数が減れば減るほど、真希の目的を達成する瞬間は近付い
ているのである。まだ誰にも ――― もちろん紗耶香にも ――― 言えない、自分の最
終的な到達目標は。( というより、紗耶香にだけは気付かれてはいけないのだ )
- 115 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時56分11秒
「ねえ、市井ちゃん…………後藤がやったことって、間違ってるかな?」
「やったことって?」
「……市井ちゃんがアメリカに行ってる間にしたこと。色んな人を傷つけたこと」
はあっと、呆れたように紗耶香が大きな溜息を付いた。
「間違ってるに決まってんだろ! 市井がいたら、絶対そんなことさせなかったね」
――― ありがと、市井ちゃん。
「……それ言ってもらう為に、後藤、あんなことしたのかなあ?」
「市井に聞くなよ。馬鹿」
「あはは。それでね。後藤がやったことに対して、市井ちゃんはどう思った? ショッ
クだった? 自分のせいかなって、ちょっとでも思った?」
「…思ったよ、そりゃ。後藤が、そんな馬鹿なことするなんてさ。……何より、市井
がいなくなって、そんなに自暴自棄になるなんて思わなかった。後藤が、自分を痛
めつけてるのが辛かった。今でも、………正直辛い。何で、その時気付いてやれな
かったんだろうって」
- 116 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時56分53秒
紗耶香の声が、本気で真希を思ってこそ重さを増しているのだと気付いて、真希は
ぎゅっと紗耶香にしがみつく腕に力を込めた。「ごめんなさい」と囁いた言葉は、果た
して彼女の耳には届いただろうか。
紗耶香に、自身のしたことを気付かれなかったのは、真希の接し方によるものだ。当時、
真希は欠片にもおかしな面を紗耶香の前では感じさせなかったし、そもそもメールや電話
でしか、2人は1年の間に連絡を取り合っていなかったのだから。
そして、言わば市井紗耶香への「あてつけ」のつもりで重ねてきた行為であるにも関
らず、真希はどうしてもその彼女へその行為を吐露することが出来なかったのだ。
どれだけ紗耶香が自分を心配するか、きっと分かっていた筈なのに。
いや、分かっていたからこそ伝えることが出来なかった。どんなに自分が間違った事
をしているのか、そしてその行為自体に意味がないことも分かっていた。
だから、真希自身もまた自分のしたことに後悔していたのだった。それを紗耶香が
同じように思っていてくれる、悲しいが、嬉しかった。
だから、また泣きたくなるのだ。
- 117 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時57分31秒
「 なかったことに出来ないかな…。今さらの話だけど、こうやって市井ちゃんに心配
かけることがこんなに辛いなんて思わなかった。あの時はただ寂しくって、市井ちゃ
んに当て付けてやろうっていきがって、自分を貶めることがただ唯一の抗議する手段
だって思い込んでたから。馬鹿だよね、後藤は。ほんと、馬鹿だぁ……あは。
……全部、なかったことに出来たらいいのにな……」
なかったことに出来たらいい。
――― あの時は只、自分ばかりが不幸を背負っているような気分で。
回りの、違う、自分以外の人間皆が嫌な目にあっちゃえばいいんだ、なんて考えて。
色んな犯罪繰り返したのだって、お金が欲しかったからじゃない。
色んな男と寝たのだって、快楽を欲していたわけじゃない。
ただ、絶対にこれをやったら市井ちゃんは怒るだろうなって行いを繰り返して、それ
でも当時の自分はそれを市井ちゃんには言えなくて、
罪悪感を振り払う為に同じ事繰り返して、自己嫌悪に陥っていた。
- 118 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時59分02秒
ひとみは、そんな後藤を受け入れてくれた。静かに、穏やかに。
嬉しかった。でも、市井ちゃんだったら怒るだろうなって思った。
だから、止められなかった。
「 ねえ市井ちゃん。頭が良くって、何でもそつなくこなせて、あんまり感情を表に出
さない人間は強いのかな。そう見られるのかな」
…だったら、後藤は強い人間なんだろう。でも、そうじゃない。
「 1人でいる人間は、強くなきゃいけないのかな」
…吉澤ひとみは、色んな罪を重ねた真希を非難もせず、追求せず、何を言わずとも自分
の思いを感じ取ってくれて、強く抱きしめてくれた。
それが、真希にとっては『浄化』だと思っていた。すぐにそれが違うことに気が付いた。
「 後藤もひとみも強くなかった。でも、2人でいたからそれに気付こうとしなかった。
そうしたら、離れられなくなっちゃた。……本当はただ、ただ、市井ちゃんに、気に
して、気にして欲しくって…。ひとみが………」
- 119 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)21時59分43秒
とうとう言葉に詰まって、真希は体重を紗耶香に預けたまま全身を奮わせた。本当は、
妹のような存在でありながら、自分よりも体格のよい彼女の体を支えるのは容易ではな
かったけれど、それでもまだ子供のように紗耶香にしがみつく真希がとても愛おしく思
えた。紗耶香は黙って真希の髪の毛を撫でていた。
真希がすっと体を離したのは、それから数十秒ほど経ってからだった。まだ赤みの残る
目の端に涙の痕が残っていたけれど、意外にも彼女の表情は泣く前よりもずっと大人びて
いて、紗耶香をどきりとさせた。「ごめんね、市井ちゃん」
また、紗耶香の心臓がどきり、と波打った。
あまりよくないことの象徴のように思える。いや、真希の様子がおかしいのではない、
違う、いやおかしい、違う、違う。
――― 紗耶香の脳裏に、石黒彩の最期の瞬間が過った。「死」を覚悟し、それを望ん
だ者の悲壮感溢れる決意の表情。あの時、彩は何を見たのだろう? 何を感じたのだろう?
それが、今の後藤真希にはおそらく分かっている。そんな気がした。
- 120 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)22時01分09秒
( ……ここまで一緒にいれて、嬉しかったよ。ありがとう、ごめんね市井ちゃん。
ちょっと、あとちょっとの間………あとちょっとだから、きっと、あと少し )
「ふーっ」と、真希が大きな溜息を吐いた。その真希の後ろで、燃え続けるストーブ
の炎がちらちらと揺れているのが、やけに紗耶香の視界に入りうるさかった。
「…ごと」 「ね、いちーちゃん」
あまり思わしくないことが起こる前兆を予測して、先に紗耶香が口を開こうとした
のを遮ったのは、真希の何処か能天気ささえ感じさせるやや間延びした声だった。
――― そうだ、普段の生活の中で。まだ2人が一緒に園で暮らしていた頃は、当た
り前に交わされていた呼びかけの言葉。「いちーちゃん」
( 残りは7人。あと時間がどのくらい残ってるか分からない。…もう、限界かな。
もうちょっとくらい、一緒にいたかったけど…無理は出来ないよね )
「 だから、後藤は行かなきゃいけないんだ。ちょっと行ってくるから、待っててね」
- 121 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)22時01分48秒
白い歯を見せて微笑みながら、真希が言った。さっきまで子供のように泣きじゃくっ
ていたのだとは微塵も感じさせない、完璧な微笑で。他の生徒らがおそらく1度たりと
も見たことはないであろう、極上の笑顔だ。
それでも。泣いているようにも見えたのは、紗耶香の目の錯覚だろうか。
「 行くって、何処にだよ。今さら何処に行くんだよ。だって、後藤が言ったんだろ?
一緒にいてくれって、市井に言ったのは後藤だろ!」
紗耶香は気付いた、泣きそうなのは自分の方だと。
多分、紗耶香は自分で分かっているのだ、真希の決意がどんなものなのか。その裏
に見え隠れする、“死”という深い暗闇を否が応でも意識してしまっている。
そして、真希が紗耶香の元を離れて何処へ行こうとしているのかも。
「あはは」 真希が、また声を上げて笑った。涙声だった。「そうだったねー」
それでも、もう彼女の目に涙は浮かんでいなかった。あるのは、その瞳の奥に見える
深い湖のような漆黒の闇だけだ。
- 122 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)22時02分37秒
「 分かってるよ、大丈夫だよ、言ったじゃん、『ちょっと』だよ、ちょっとの間だ
けだもん。また戻ってくるよ、市井ちゃんのところ。だって、後藤が一緒にいたい
んだから、間違いないよ。戻ってくるよ。約束だもん。市井ちゃんに、後藤守って
もらうんだから。だって、約束だからね?」
( 約束なんだ、約束なんだから……… )
真希は天上を見上げた。ここでまた涙を零してしまったら、決意が鈍ってしまう。
――― 『大丈夫、待ってて』
そして、もう1つの“約束”。言葉でない、目と目で交わされた、親友吉澤ひとみ
との約束を、自分は守らなければならない。
だってそうでしょう? 小学生だって知ってるよ、『約束は守らなきゃいけません』。
「 ごめん、市井ちゃん。きっとこれが最後のワガママ。………ひとみの所、行かなきゃ。
一緒にいてくれて、ありがとね。また戻ってくるから。きっと」
――――
紗耶香の横を無言ですり抜ける時、真希が短く囁いた。「死なないで」
「…………えっ」
- 123 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)22時03分32秒
( 今度は、置いていかないで )
咄嗟に反応できずに紗耶香が真希を振り向いた。ドアの手前で、立ち止まったまま、
真希は背中を向けたままもう一度言う。
「 市井ちゃん、生きてて。絶対に、死なないで。後藤が会いに来て死んじゃってたり
したら、一生許さないからね」
それが最後の言葉だった。パタン、という木製のドアを閉める音は、2人の少女の世界
を遮断するにはあまりに薄っぺらな音だった。けれど、その音で完全に真希と紗耶香の道
は断ち切られたのだ。
いや違う、完全に切れたのではない。2人がそれを認めない限り。
「…誰が死ぬかよ……お前が死ぬなって……」 力無く呟いて、紗耶香は身近な壁を
力一杯殴りつけた。びいん、と痺れるような痛みが走った。
――― あれだけ衝撃的な告白ぶちかましといて、誰がそのまま死ねるかよ。帰って
きたら、たっぷり説教してやる。泣くまで説教してやる。だから、覚悟しとけ!
―――
―――
- 124 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)22時04分36秒
小屋を出てから、真希は走り出した。このくそゲームが始まってから、彼女がこうし
て走る、というのは初めてだった。もともと(運動が苦手なわけではないが)体を動か
すのは好きではなかった。
しかし、今は一刻も早く紗耶香の元を離れる必要があった。そうでなければ、決意が
鈍ってしまう。残りの人数は少ない。さすがに、これ以降ゲームがどう動くかは予測が
付きかねていた。判断を誤ったら、もう自分の目的は果たせない。
走りながら、真希はちらりと手元の探知機に目を落とした。自分に付いて来る反応が
1つ。さっき小屋を出る時一瞬だがその姿を見たのだ。
中学生の残りの1人、紺野あさ美。
彼女に、少なくとも“今のところ”殺意がないことは、小屋の中にいるときから分か
っていた。もし本当に「やる気」なら、真希と紗耶香、2人が一緒にいるところを狙え
ばいいのだ。
それをしなかったということは、(彼女の武器が何かは知らないが)即座に攻撃して
くるつもりはないのだろう。
- 125 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)22時05分43秒
それでも、小屋の中にいるときはすぐ手に取れるところに石黒彩のショットガンを
置いておいたのだけれど。(死体は一応埋めたのだ)
探知機で、その反応の相手の動きは手にとるように分かっていた。もし何らかの怪し
い動きを見せたなら、真希は迷わずそのショットガンを撃つつもりだったけれど、結局
その反応 ――― それはつまり紺野だったわけだが ――― は、移動するでもなく、ただ
小屋から100メートルほど離れた森の中に待機しているようだった。
その相手が何を目的としているのかは図り切れなかったが、真希が小屋を出て、そし
てその反応が自分を追いかけて来ているのを確認すると、真希は少しばかり安心した。
自分が狙われるより、紗耶香が狙われる方が余程痛い。
1人なら。自分1人なら、どうとでもなる。吉澤を探す途中にでも撒けばいい。
( 絶対に死なないでよ、市井ちゃん。絶対だよ、絶対だからね?…… )
走り慣れないせいか、それとも極度に気持ちが昂ぶったせいか、真希の呼吸は早くも
乱れ始めていた。「………ちくしょう……っ」知らぬうちにそう吐き捨てていた。
- 126 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)22時06分20秒
目指す相手は、吉澤ひとみ。探知機の赤い点滅の光だけを頼りに、そして自分の悪運
の強さを信じて、真希は雪の上を駆け抜ける。
「……ちくしょうっ」
息が上がる。視界が、涙に滲んだ。全て、世の中の全てが間違ってる。こんなの、理
不尽だ、不条理すぎるだろう、どう考えたって。ちくしょう。
何で、こうなるんだ。運命とでもいうのか? ――― そんな運命、願い下げだ!
――――
- 127 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)22時07分11秒
ようやく出て来た。
紺野は、凍えた手を擦り合わせて「彼女」が出てくるのをひたすら待っていた。冬空
の元、長きに渡ってその行為を続けていた成果はあった。出て来たのだ、紺野の憧れの
相手、後藤真希が。
出て来たと同時に、その真希は猛スピードで(少なくとも、あまり足の速くない紺野
にはそう見えた)、雪の上を駆け出したものだから、座り込んでいた紺野はそれを追い
かけるのに四苦八苦しながらも、何とか見失わずにその後ろ姿を追いかける。
真希が、小屋を出てくるとき一瞬だが自分に視線を向けたのには気付いていた。
( やっぱり、後藤さんは私のことちゃんと見てくれてるんだ )
妙な昂揚感だった。だから、紺野はその小屋に他に誰がいるのだとか、そんなところ
までは気が回らなかった。とにかく、紺野は真希だけを追った。
「後藤さん、後藤さんっ……あは、あははっ速いなっ……」
紺野の口元が、耐え切れずほころんだ。真希は速かった。自分の前を走る真希は、と
てもとても速かった。けれど、真希はちゃんと自分に気付いてくれている。
- 128 名前:《18,独白 後藤真希》 投稿日:2002年03月25日(月)22時08分01秒
そのことが、紺野にとっては至福に思えたのだ。独りぼっちで日々を過ごしてきた彼女
にとって、「誰か」に気をかけてもらうことがどれ程嬉しかったことか。
黒い厚手のジャケットを羽織り、その上から袈裟懸けに下げられたショルダーバックの
僅かに開いた口から、真っ黒な銃口が時折見え隠れしていた。
「………やっと、……2人、後藤さんと……っ」
紺野の目に宿るキラキラとした光は、見る人によっては純粋な「憧れ」と捉えることも
出来たかもしれない、けれど、――――
きっと、この『ゲーム』に参加したことのある人間だったら分かるだろう、その瞳の奥
から湧き出すような、溢れんばかりの「狂気」の色を。もちろん、そのゲームの生き残り
なんて人間は、本当に数える程しかこの世には存在しないけれど。
【残り7人】
- 129 名前:flow 投稿日:2002年03月25日(月)22時11分22秒
やっとこさ後藤編が終わりました。次回は………まだ検討中です。
なかなか話が進みません。
- 130 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月25日(月)23時25分35秒
- ナマタマゴをついさっき見終わったせいか、涙腺が弱くなってました。
なので後藤の告白にぐっと来ちゃいました。
この話、厳しいテーマでありながらゆったりとした空気感は、あの映画に通じるものがあるような気がします。
クライマックスに向けて、これからもがんばってください。
- 131 名前:詠み人 投稿日:2002年03月26日(火)19時02分17秒
- 痛い・・・後藤の独白が痛い・・・
そしてこの先更に痛い展開の予感。なんか1人1人に情がわいてしまう。
そしてついに最強キラーマシン紺野登場!(w
続きが激しく気になります。
- 132 名前:3105 投稿日:2002年03月26日(火)21時31分06秒
- 久しぶりですこんな気分になったのは、泣けました。
市井と後藤には幸せになって欲しいです。
続き期待しています。
- 133 名前:gattu 投稿日:2002年03月26日(火)23時09分09秒
- ん?7人?誰だ?
石川・紺野・後藤・市井・矢口・吉澤と後誰だ?
多分次は紺野か吉澤の2回目それか矢口が市井と合流?
だいたい流れはわかっているけど、やっぱ気になる紺野の存在。
今回の更新で一番印象に残った所。
「 後藤はね、市井ちゃんもひとみも大事なんだ。すごい、何より大切な存在なの。
でも、後藤って大事な人を縛り付けちゃう性癖があるみたい。蜘蛛みたいだ」
流れはできたんだけど内容がどうもうまくいかない。
やっぱオリジナルは無理だな。
誰かに内容任せるか。
- 134 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月26日(火)23時26分36秒
- >133 あんまし、よけいなこというなや。
でも、気になるなあ、消えた一名。
誰かは分かってるけど。
またーり、おまちしております。
- 135 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月26日(火)23時27分23秒
- >>133 もうちょっと空気読め。最悪。
マジで作者書かなくなったらどうすんだよ。
- 136 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月27日(水)09時56分05秒
- すごい面白いです。
他のバトロワものと違って心理描写がめちゃくちゃ上手いし。
全然出てきていないあのメンバーの行動も気になりますね。
これからも期待してます。
- 137 名前:gattu 投稿日:2002年03月27日(水)17時54分22秒
- すいませんね癖なもんで
これからはネタバレは控えます
- 138 名前:はろぷろ 投稿日:2002年03月28日(木)22時45分58秒
- 後藤の告白に感動!
市井とのやりとりにも感動!
続きはゆっくりでもかまいません。
がんばってください!
- 139 名前:flow 投稿日:2002年04月01日(月)23時58分53秒
-
エイプリルフール記念、ということで書いたのですが、(もう過ぎたけど)
かなりふざけた内容なのでsageでのせます。
本編とはかけ離れていますが、どうかお怒りにならないでくださいませ……
「ドラクエ風デス・ゲーム」
- 140 名前:〜最後の戦い〜 投稿日:2002年04月02日(火)00時00分00秒
市井「もう、たった数人しか残っていないのね…」
後藤「市井ちゃん、あきらめちゃダメだよ!だって今残ってるのは最強のパーティだよ!」
市井「……は?パーティって何?」
吉澤「 駄目だなあ、市井さん。今のメンバーは、皆もうレベル99までいってるじゃない
ですか」
石川「そうですよ!真希ちゃんの言うとおり、最強なんです!」
吉澤「もう、最後のセーブも済ませましたからね」
石川「いよいよ決戦です!」
- 141 名前:〜最後の戦い〜 投稿日:2002年04月02日(火)00時00分40秒
紺野「薬草もいっぱい持ちましたから……」
高橋「あのー、私はやっぱり馬車ですか?」
矢口「矢口も前衛で戦いたいよぉー!」
紺野「…みんなが死にそうになったら、私が××××唱えますから…」
矢口「縁起でもないこと言うなよぉ!」
市井「…さっぱりみんなの言っている意味が分からない」
後藤「駄目だねえ、市井ちゃんは頭が固いんだから」
市井「吉澤みたいなこと言うな」
後藤「いやーん、市井ちゃん妬いてるの?」
石川「なんだかもめてるみたいだね、ひとみちゃん」
吉澤「ふっ(微笑)」
市井「うわっむかつく、吉澤むかつく!」
・・・・・・
- 142 名前:〜最後の戦い〜 投稿日:2002年04月02日(火)00時01分22秒
てらた が あらわれた!
たたかう
にげる
→じゅもん
あいてむ
いしかわ は べギラマ を となえた!
寺田「ぎゃああああっ!!」
…てらた を たおした!
- 143 名前:〜最後の戦い〜 投稿日:2002年04月02日(火)00時01分56秒
石川「もう敵を倒しても、レベル上がらないから経験値いらないんだよね」
吉澤「ちっ、大してゴールドもってないな」
市井「……あのー、皆さん?」
後藤「しょうがない、最後の敵に挑むか」
市井「誰だよ最後の敵って!」
紺野「…最後の敵といったら、ゾーマしかいませんよ…」
市井「誰だよゾーマって!」
・・・・・・
- 144 名前:〜最後の戦い〜 投稿日:2002年04月02日(火)00時02分29秒
ゾーマ が あらわれた!
→ たたかう
にげる
じゅもん
あいてむ
1じかん が けいかした!
ゾーマ を たおした!
- 145 名前:〜最後の戦い〜 投稿日:2002年04月02日(火)00時03分21秒
-
・・・・・・
市井「……なんなんだ、なんなんだ……」
後藤「よかったね、市井ちゃん」
市井「何がいいんだよ、分かんねーよ!他の仲間は死んじゃったんだぞ!?」
高橋「大丈夫だす、市井さん。もう教会でお祈りしましょう」
紺野「いっぱいお金がかかっちゃいますけどね…」
矢口「まあ、うちらって回復系の呪文苦手だからさー」
吉澤「とりあえず行こうか」
石川「そうだね、ひとみちゃん」
吉澤「っていうか棺桶重いよな…特につ○゛とあ○゛さん」
市井「……訳わかんねえ!」
・・・・・・
- 146 名前:〜最後の戦い〜 投稿日:2002年04月02日(火)00時04分13秒
ごとう は パルプンテ を となえた!
なかざわ は ふっかつした!
あべ は ふっかつした!
へいけ は ふっかつした!
つじ は ふっかつした!
かご は ふっかつした!
まつうら は ふっかつした!
ふくだ は ふっかつした!
いしぐろ は ふっかつした!
おがわ は ふっかつした!
いいだ は ふっかつした!
やすだ は ふっかつした!
- 147 名前:〜最後の戦い〜 投稿日:2002年04月02日(火)00時05分34秒
吉澤「お〜、真希でかしたっ!」
石川「わあ、教会にいく手間が省けたね」
市井「何だよ、どうなってんだよ!?」
矢口「よかったー、みんな生き返った」
高橋「…あれ、誰か足りない?」
紺野「大丈夫だよ……」
後藤「まあ、パルプンテだから」
・・・・・・
にいがき は わすれられている!
新垣「…あ〜い〜を〜く〜だ〜さ〜い〜……ワー(涙)」
- 148 名前:〜最後の戦い〜 投稿日:2002年04月02日(火)00時06分28秒
エイプリル記念
ドラクエ風デス・ゲーム ― おわり ―
- 149 名前:flow 投稿日:2002年04月02日(火)00時08分21秒
上げてしまいました、こんな状態で……!!
本編が暗すぎるのを悲観した作者の横暴をお許しください。
ちょっとした出来心なので……
しかも本編はまだ書き上がっていなかったり…すいませんすいません。
- 150 名前:flow 投稿日:2002年04月02日(火)00時24分42秒
-
>130 名無しさん
涙腺緩んだと言ってもらってるそばから、こんな小話入れて
申し訳ないです。ナマタマゴはいいっすねー。
>131 詠み人さん
きっと、更に痛い展開になるでしょう。
だからこそ、その前に少し笑いを入れてみたかった……!というのは言い訳です(w
>132 3105さん
作者も幸せになって欲しいのですが、いかんせん……
とにかく、納得できる結末になるよう心がけたいですね。
>133、137 gattuさん
確かにオリジナル的内容は難しい……ということで、以前のgattuさんのネタ
を参考に書いてみました(w どうですかね?
- 151 名前:flow 投稿日:2002年04月02日(火)00時25分23秒
>134 名無しさん
意図的に出していないわけではなかったのですが、結局出番が作れず…
最近ペースが落ちてますが、まったり待ってくださると安心します。
>135 名無しさん
大丈夫です、放棄はいたしませんので(更新は遅いですが)
心配してくださってありがとうございます。
>136 名無し読者さん
その「全然出てきてないメンバー」を小話で出してしまいました…(汗
褒められると嬉しい反面、気が引き締まる思いになります。
>137 はろぷろさん
このスレで終わるかどうか、というところですが。最後までお付き合い
くださいね!今回のようにくーだらないことも書きますが……(w
ageてしまい、本当に申し訳ないです。
本編を待っていてくださる方がいましたら、もう少しお待ちください。
- 152 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月02日(火)12時38分23秒
- レベル99でベギラマとは、石川なんて中途半端なんだ!(w
こんなノリも好きです。
- 153 名前:3105 投稿日:2002年04月02日(火)16時00分55秒
- 思わず爆笑してしまいました。
こーゆーの大好きです。
- 154 名前:はろぷろ 投稿日:2002年04月03日(水)01時46分33秒
- ほのぼのしてていいですね〜。
笑ってしまいました。
- 155 名前:gattu 投稿日:2002年04月03日(水)17時30分57秒
- グッジョブ!!flowさん
ロトの装備をしている後藤想像できない!
すぐそこのバラ〇スゾンビでばったばった死んでいく
その他全員という風にしてもらうとおもしろさ3割増だったかも!?
無理矢理デスゲームにくっつけなくてもいいですよ。
でも市井のキャラはオーケー!!
後藤:ロトの剣・・・
吉澤:もろはのつるぎ&やいばのよろい(呪)
石川:日本刀(刃こぼれ多し)
市井:ショットガン!?(弾数残り5発)
こんなもんでどうでしょう?
- 156 名前:flow 投稿日:2002年04月07日(日)16時46分32秒
前回の更新からまたまた期間が空いてしまいましたが、またノロノロと
更新させていただきます。白板って回転速いですね…しかも面白い作品
ばっかりで。(何気にほとんどチェックしている自分w)
>152 名無しさん
気まぐれで書いたものですが、好きといってもらえて嬉しいです。
石川のべギラマは、……これも作者の気まぐれで(w
>153 3105さん
爆笑っすか…嬉しいです!
本編が暗いですが、作者的にはこういうほうが書いてて楽だったり。
>154 はろぷろさん
本当は、出てきているメンバーがこんな風に平和になって欲しいん
ですけどね。もう無理なので、番外として(w
>155 gattuさん
毎回、gattuさんのレスには笑かしてもらわせています。
自分的には、吉澤のもろはのつるぎ&やいばのよろい(呪)にウケました!
あの、呪われるときの音が微妙にトラウマです…(w
それでは、初登場の彼女から再開です。
- 157 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時49分28秒
この世の中で、一体何を指して「平凡」だと決め付けるのだろう。
その基準が一体何なのかと尋ねられて、果たしてそれを明確に答えることの出来る
人間が、どれだけ存在するのだろうか。
悪く言えば無個性の者。成績・運動神経・性格・容姿、人間の価値を決める尺度な
どは(まあ表向きには)ありはしないなどと言う答えは単なる綺麗事に過ぎない。
大方の者が回りの人間の評価をするにあたって、それらの項目が、ごく一般的な見
解であるのは、共通な意見だろう。
そう。「平凡な人間」が ――― これといって突出した特技を持たず、人の波に埋
もれて生活している者を指すのであれば、この少女………たった7人の中の1人に入
ってしまった中学生の高橋愛は、ほぼ間違いなく「平凡な」少女になるだろう。
ごくごく平均的な交友関係。
学年ではほぼ中位の成績。
最近人気のある3人組のアイドルグループに憧れ、クラスメイト達と噂話に花を咲
かせるいつもの日常。
- 158 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時50分03秒
それらが「平凡な中学生」の1日だとして、それを疑問に思う
者はいないだろう。そしてそれが高橋愛の平均的な1日の流れであるのだから、彼女
が「平凡」な少女であるという結論は決して外れではない。
そんな彼女も人並みに恋をしていた。いや、その感情が単なる憧れなのか、それと
も「恋愛感情」なのか、判断できるほど愛は今まで恋を経験してきたわけではないの
だけれど、今、彼女には気になる相手がいた。
その相手が、1年前留学すると聞いたときには随分とショックを受けたものだ。
『同性愛』など、今やさして話題になるほど目新しいものではない。無論、日本と
いう一国家において、同性同士の結婚こそ認められていないものの、世論は同性愛に
対し寛容になりつつある。
高橋愛が、その同性相手の恋愛に対し、そこまで奥深くものを考えて想いを抱いて
いるかといえば当然そんなことはないけれど、相手がいくら同性だからとて、それに
不快に思ったり、咎めるような友人は愛の回りにはいなかった。
- 159 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時50分46秒
むしろ、中学生という思春期真っ只中の少女らにとって、同性 ――― それも年上
の女性相手に憧憬の念を抱くことなど珍しいことではない。その気持ちが当人の中で
どんな比重を持つのかはそれぞれ違うのだろうが、愛の、『相手』に向ける感情は、
その様な憧れの気持ちの延長上に位置するようなものだった。
――――
「見つけた、やっと見つけた、市井さん……っ」
そして、その憧れの相手を目にしたとき、無意識のうちに口元に手を当てて、高橋
愛は目を涙で潤ませた。地図に従って雪の上を移動するのは疲労も伴い、予想以上に
時間がかかってしまった。涙脆くなっていたのだ。
――――
- 160 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時51分21秒
そのログハウスを見つけたとき、まず頭に浮かんだのは暖を取ることだった。いくら
長時間歩いていたからといって、運動したときのように体温が上がっているとは思い難
い。証拠に、外気に直接晒されている顔や耳は、凍るように冷たいのだ。
( 耳あてか、帽子が欲しいな… )
殺し合いの会場という異常な場に居合わせているにも関らず、平凡ではあるがやや呑
気な性格の愛は、場違いにそんなことすら思っていた。
もちろん、最初は動揺と混乱の入り乱れた感情で、随分泣いたものだ。正直、今でも
泣こうと思えばすぐに泣ける。でも、泣いたって状況は変わらない。
武器を手にして廃校を出た後、幸運か、それとも不運なのか、愛は生徒の誰とも会う
ことなく、今までの時間を過ごしてきたのだった。愛としては、当然仲の良い中学生組
のメンバーと出会えることを望んでいたのだけれど、それが叶わぬうちに、4人の仲間
達が既に死んだことを放送により知らされた。
( 辻ちゃんに、加護ちゃんに、亜弥ちゃんに、里沙ちゃん? そんな、だって……
嘘でしょう………? だって、だって!! )
- 161 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時51分58秒
パーティをしていたのに。今日はクリスマスパーティをしていたのに。プレゼント交
換だって、まだしてないよ?
どうして死ななきゃならないの。あたし達、悪いことした? ねえ麻琴。もう、あたし
達しか残ってないの? 皆、みんな死んじゃったの? 嘘、でしょう……?
平凡な少女が考えたのは、やはり特別な意見やアイディアやまさか脱出する方法など
ではもちろんなく、同じ園の仲間たちである友人の安否を気遣い、この状況に対して只
悲観することだけであった。( どうしよう、どうしよう……! )
ともかく、廃校を出てこのままずっと外にいるのが得策ではないことくらい、反応の
鈍い愛の頭でも考えることは出来た。考えるまでもなく寒いのだ。季節は冬。
( 寒いし、誰もいないし、どうして……どうしてこんなことになるの………? )
そう、ここに連れてこられたのがイブの夜だから、今日はクリスマス当日ということ
になる。12月後半、山の中。寒いのは当たり前の話だ。
- 162 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時52分29秒
頼りになるのはたった一枚の紙切れである地図と、そして1人1人に配布された武器
だけだった。当然、愛自身はその武器を使うことが来るなどとは考えていないとしても、
他の“誰か”に襲われたとき、それは役に立つかもしれなかった。
最初のうちこそ、仲間が襲ってくるなんてと、おそらく大多数の少女が考えた意見を
胸に抱いていたけれど(やっぱり、平凡な自分が考える意見は平凡な意見なのだ)、そ
の意見は脆くも政府の人間によって覆される。
1人で震えながら耳にした放送。そして理解したこと。
( 戦ってるんだ。……もう、冗談じゃないんだ。死ぬんだ。殺しあうんだ… )
それは政府側による誘導だったのかもしれない。
ただ武器や兵士の数で抑圧するのではない、実際に残虐な方法で殺して見せることで、
「死」が遠い存在でなく、それは自分達のすぐ目の前に立ちはだかっているものだと、
まだ成年に満たない少女達に認識させたのだ。一種のマインドコントロールの様なもの
だと考えればよい。
- 163 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時53分03秒
目の前で殺された園長や年長の少女達。
『ゲーム』が始まってから死んだ自分の友人達。
では次は? 残っているのはたったの数人だ、自分か、それとも親友の小川麻琴か、
それとも、それとも ――― 。
残っている少女を指折り数えて、愛の胸を嫌な予感が掠めた。次は自分かもしれない。
中学生で残っているのは、自分と、麻琴と、何故かあの‘トロい’はずの紺野あさ美。
( 当然、最初の放送以来何も音沙汰ないので、愛は小川がもうこの世にいないことを
知らなかった )
そして、あとは全員が年上の人ばかりだ。考えたくはないけれど、本当にたった1人
しか生き残れないのであれば、どう考えても自分がその「たった1人」の中に入れると
は思えなかった。今、この数人の中に残っていること自体が奇跡みたいなもんだ。
けれど。愛はその数人の中に、自身の憧れであった少女もまた残っていることに気付
いたのだ。もちろん、その『相手』が、何があろうとも簡単に命を落とすような人物で
ないだろうとは考えていたけれど、その相手と共に自分もまた、生き残っている。
- 164 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時53分39秒
高橋愛、中学3年生。市井紗耶香、高校3年生。
そう、市井紗耶香 ――― 1年半ほど前、アメリカ留学を果たし、つい先日の夜に帰
郷したその少女こそ、愛のずっと想い続けていた片思いの相手だった。
3歳の年の差があれば、中学でも高校でも、同じ学校に通うことなどまず不可能だ。
( もし紗耶香が留年でもしていたのなら話は別だが、優等生の彼女に限ってそんなこ
とは雹が降ろうが槍が降ろうがあり得ない )
園においても、中学生組と高校生組はほとんど接点がないし、加えて人見知りしがち
な愛が、園の中心人物であった紗耶香と接触する機会はほとんど皆無に等しかった。
・・・・・・
それでも、人を好きになるきっかけというのは些細なものだ。
当時、(紗耶香がまだ園にいた頃、愛が中学1年生のときの話だ)学校の日直で帰宅
が遅れ、暗い夜道を1人走っていたときだった。
- 165 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時54分19秒
ちりりーん、と軽やかな音が響いて、愛は走りながら振り向いた。
「よっ、高橋じゃん。今帰り?遅いねー」 爽やかな笑顔で、髪を靡かせながら自転車
にまたがり、声を掛けてきたのは市井紗耶香だった。
高校の帰りなのだろう、紗耶香もまた制服姿だった。ただ愛と違うのは、高校では自
転車通学が認められ、中学では認められていないという点だ。
同じ女子園で生活しながら、全くと言っていいほど接点のなかった紗耶香に話かけら
れ、何を答えるでもなくドギマギしていた愛に向かって、彼女はきいっと音を立てなが
ら自転車を止めた。
「もう、すぐそこだけどさ、園。乗ってきなよ」
自転車の荷台を指差しながら、紗耶香は朝の挨拶でもするかのように軽い調子で言っ
たのだ。普段「びっくり顔」と評されることの多い大きな丸い目を更に見開いて、愛が
裏返った声で何とか答える。
「は、はぃっ………い、いいんですか?」
あははっと、紗耶香は笑っていた。「面白いねー、高橋って。緊張すんなよ」 なんて
言いながら、けらけらと軽やかに笑っていた。
- 166 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時54分55秒
会話すること自体初めてに等しいその彼女の仕種に、何故か妙に胸が高鳴ってしまい、
荷台に腰掛けて紗耶香の背中の温もりに、心臓がパンクしそうになっていたことを覚え
ている。
初めて、会話をした日。その人と、自転車を2人乗りして園まで帰ってきた日。彼女
が自分に笑いかけてきてくれた日 ――――
特別なことをしたわけじゃない、それでも、愛にとってそれは大きな引き金だった。
『市井紗耶香』という、近いようで遠い存在だった彼女が、自分を気にかけてきてくれ
たということ。それは小さな事件だ。愛は、紗耶香を意識するようになる。そもそも、
紗耶香という少女は人の注目を集めやすい人種だったし、園の内外に限らず彼女に憧れ
ている少女は愛の他にも多数いたはずだ。
それでも、結局彼女が留学を決めるまでの約1年間、想いを告げることはおろか、そ
の時のようにまともな会話が成り立つことすらなかったけれど、愛は満足だった。
遠くから見ているだけ、その凛々しい姿を見ているだけで、充分なのだ。身を焦がす
ような恋なんて言葉はよく聞くけれど、そんな大袈裟なものじゃない。
- 167 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時55分31秒
ただ、その姿を見ているだけ。話掛けるタイミングを計るだけ。そんなちょっとした
駆け引きを楽しむことだって、充分に愛を満たしてくれた。紗耶香が留学してしまう前、
よくそうやって彼女の姿を探しては、小さな満足感に浸っていたものだった。
それは、愛の同級生が一様にクラスメイトの男子生徒に密かに片思いすることや、部
活の先輩に想いを寄せるそれらと何の変わりもない、ごく純粋な気持ちだった。
相手に何を求めるでもない、特別な関係を望むでもない。
でも決して、中途半端ではない複雑な感情 ――― こんな気持ちを何と呼ぶのだろう、
とにかく愛は、紗耶香が「好き」だったのだ。
・・・・・・
制服姿の紗耶香を思い出し、愛はごしごしと目元を乱暴に擦った。目に涙が浮かんだ
のを、溢れ出す前に拭ったのだ。一度涙を流してしまえば、しばらくは泣き止むことが
出来なくなるのを、愛は自覚している。今は、泣くよりも前にすることがあった。
- 168 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時56分12秒
「制服姿」
それは、愛の日常だった。当たり前にそこにあって、当たり前に過ぎていくはずだっ
たことが全て今では手の届かないものに成り果て、自らの手中にあった筈のものが、今
はもう手元にはまるで残っていない。
学校へ行って勉強することも、友人と遊ぶことも、大好きなコイバナをすることも、
毎回見ていた(あのアイドル3人組が出るのだ)バラエティ番組を見ることも、全ては
夢の中の出来事だったかのように、砂の城ように、崩れ去ってしまった。
( 市井さん ) ( 先生、中澤さん、勉強 ) ( 麻琴と夜更かしして遊んだ )
( 後藤さんと矢口さん、市井さん ) ( あさ美を泣かせちゃったこと )
( 冬休みの宿題、受験勉強 ) ( 市井さんの留学 )
( 死んだ ) ( みんな死んだ )
( 生きてる、あたしは生きてる )
( 死んだ子がいる )
- 169 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時56分51秒
よく、死ぬ間際の人間が「走馬灯のように今までの思い出が ――― 」と話している
のを、陳腐な二時間ドラマなどで耳にする機会があった。
今、愛は生きている。生きているけれど、「走馬灯」などという非物質的なものが一
体どんなものなのか、不確かではあるけれど、愛の脳裏を次々と巡ったのは過去の思い
出だった。紗耶香を始め、見知った人物が頭を過る。
そして、その事実に気付く。思い出した人物の中に、既に死んでいる者も混じってい
ること、市井紗耶香の頻度が異常に多いこと。
紗耶香が留学したときは、それは残念で寂しかったのだけれど、愛には他の友人たち
もいたし、それほど深くダメージを受けたわけではなかった。
時間の流れは徐徐に「憧れの人」に対する気持ちを薄れさせていく。1年も経てば、
それは完全に風化しているだろう、そんな風に考えていた。
- 170 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時57分27秒
しかし、それが間違いであったことに、愛はすぐに気付くことになる。何がきっかけ
かって、それは紗耶香が先日の夜、パーティ会場に姿を現したときだ。
帰郷の知らせは一切なく、それでも当たり前のようにひょっこり顔を見せた紗耶香は
どんな経験をしてきたのか、1年前よりも精悍さを感じさせる顔つきで、とても大人び
て見えた。知らず知らずのうち、愛の胸は初恋のそれのように高鳴っていた。
( 素敵になってる、市井さん……とても、素敵…。ああ、やっぱり… )
その大人びた横顔 ――― 決して、自分には気付かず、矢口真里たち同年代の少女ら
と楽しげに言葉を交わす紗耶香の姿に熱い視線を送りながら、愛は思った。
( やっぱりいいなぁ、市井さん。憧れちゃうな、好きだな )
それはとても、そう自然に思えた。気持ちにブランクなんてありはしない、好きなも
のは好き、時間が経っても好き。そう、あたしは市井さんが好き。
――――
「…1人なのかな、市井さん……」
- 171 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時58分45秒
ようやく見つけたログハウスの中に、これまたようやく見つけた自分以外の‘生きた’
少女が自身の想い人・市井紗耶香であることを知り、愛はすぐには行動に移ることが出
来ず、冷たい手の平を窓枠に引っ掛け、ガラス張りの窓から小屋の中を覗き見た。
――― やはり、紗耶香1人のようだ。
( 入ってもいいかな、大丈夫かな ) ( ちょっと緊張しちゃうな )
( 市井さん、市井さん…… )
ここが「殺し合いの会場」であることは愛の脳裏からは忘却の彼方に追いやられていた、
まあそうだ、ほんの一瞬だけ。これがこんな異常な状態でなければ、そう、これが例えば
中学校の体育館なんかであったら。
憧れの先輩が1人、居残り練習してるのを見つけて、『あたしも一緒に、いいですか?』
なんてドキドキしながら話し掛けたりして、ここぞとばかりに接近しちゃったりするんだ、
――― そう、ここがこんな山奥の、「デス・ゲーム」なんて状況でなければ。
- 172 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)16時59分26秒
愛は、市井紗耶香を警戒していたわけではなかった。それ以前に、すぐにでも声を掛け
て側にいたいという気持ちが強い。けれど、それをさせなかったのは紗耶香の厳しい表情
だった。( 何かあったのかな、市井さん… )
じっと椅子に腰掛け、僅かにうなだれて唇をかみ締めた市井紗耶香は、とても重い苦痛
に耐えているかのように目元を歪ませて、虚空の一点を見据えていた。
もちろん、愛は知る由もない。紗耶香が後藤真希の重大な「独白」によって、どれ程の
ショックを受けているのかなどと。その真希が、紗耶香を置いて吉澤ひとみという彼女の
親友の元へ向かってしまったことなど。
そして紗耶香もまた、その親友である矢口真里の安否をひどく、それはひどく気遣って
いて、少しずつ余裕を無くしていっていることなど。
それらの諸事情などは知る由もないが、それでも普段は飄々として自由な感じの強い紗
耶香が、今はどこか情緒不安定になっていることは、愛の目にも明らかだった。
「紗耶香ぁっ……」
小さく、とても小さく弱い声で聞こえてきたその悲鳴に似た叫びに、愛はびくっと体を
竦ませて弾かれたように後ろを振り向いた。
- 173 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時00分06秒
-
小屋の中にいる紗耶香の観察に夢中になって、背後の状況には全くの無関心になってい
たのだ。それに気付いたとき、愛はぞっとして身震いした。
もし、今後ろから誰かに狙われていたら。命はなかった……!
だが、後ろを振り向いてその「誰か」を認めたとき、愛は一瞬胸を掠めた黒い予感が、
杞憂に済んだことを知った。そこにいたのは、荷物らしい荷物を一切持たず ( 当然
武器を持っている様子もない )、片手に紙切れのようなもの ――― おそらくは地図
であろう ――― を握り締め、涙をぽろぽろと流す矢口真里の姿だった。
「や、ぐちさ……」 予想もしなかった他人の登場に、愛は我を忘れて呟いた。ここに
いたのは、自分と市井さんだけだったのに? あれ、どうして矢口さんがいるの?
――― せっかく、2人っきりのチャンスだったのに。
矢口の視界に、どうやら愛は入っていないようだった。すぐ目前にいるというのに、矢
口の目は愛を見ていない。黒い濡れた瞳は、真っ直ぐに紗耶香のいる小屋へと注がれてい
る。小さな体が、小さく震えていた。
そして、矢口はもう一度叫んだ。「…さやか、さやかぁっ……」
- 174 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時00分43秒
幼い子供が、買い物途中で迷子になり、母親を呼ぶときのそれは泣き声によく似ていた。
『お母さん、お母さん、どこにいるの ――― ?』 もちろん、孤児院である朝比奈女子
園の生徒が、母親の名前を呼ぶことなど寝言くらい、いや、寝言ですら呼ぶ者はいないで
あろう。何と言っても、親の記憶のある少女は少ないのだ。
けれど、愛の中で、矢口の普段活発な姿からは想像もつかないほど頼りなく、儚げに映
る矢口真里の様子は、どうしても泣きじゃくる幼子と結びついて見えた。
ばぁん!と勢いよく小屋のドアが開き、市井紗耶香が飛び出してきたのは矢口真里が
彼女の名前を呼んでから数秒のことだった。
端正な顔が、憂いを湛えた表情が矢口の姿を認めて僅かに安堵の色を浮かべたのを、
愛が見逃すはずはなかった。同時に、紗耶香の瞳にも、自分が写っていないことを。
紗耶香の唇が少し動いた。よく聞き取れなかったけれど、おそらくは矢口の名を呼んだ
のだろう。その華奢な体が、雪の上を走り、矢口に駆け寄るとその小さな体を包み込むよ
うにして抱き竦めた。愛は、ただ見ているだけだった。
- 175 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時01分56秒
「矢口……、矢口、よかった、無事で、よかった。よかった……ごめん。ごめん…」
「……うっ、くぅ、うぅう……さやかぁ〜……ああああっ…」
雪の上での感動の再会。それが、このゲームが始まってから2人にどんな事情があった
のかは知らない。それでも、愛にとっては面白くなかった。
1つは、自分の存在がまったく無視されていること。
もう1つは、憧れの市井紗耶香と2人きりであるはずだったのに、何時の間にかその状
況が影も形もなくなってしまったこと。
嫉妬というのは、例えそれが『死の恐怖』という緊迫した場面の一角であっても、人が
感情を持つ限り、無くなることはないのだろう。愛は身をもってそれを体験している。
( どうして。あたし、だって、市井さん……あたしだって、怖いのに。あのときみた
いに、笑いかけてください……あたしだって、あたしだって )
『高橋じゃん。よかった、あんたも無事だったんだね』
- 176 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時02分32秒
――― 掛けてもらうのは、その一声だけでいい。
まさか、矢口にしているように強く抱きしめてくれとは言わない、けれど、全く自分に
気付きもしないで。無視するなんてひどいじゃないですか ――― 。
「矢口、とにかく、中に入ろう。…めっちゃ冷えてるよ、体」
紗耶香が、自分にしがみついて嗚咽を漏らす矢口をあやすように柔らかい声で言って、
その震える体を支えるようにして小屋の方へ向き直った。
そして、ようやく紗耶香の目が、愛の姿を認める。「………高橋?」
僅かに、その目が驚愕のために開かれた。いつから、そこに? ――― その目は、そう
言っているように感じた。そう、ずっと紗耶香が矢口を抱きしめているのを傍観していた
愛は、それが数十秒か数分か、まるで見当もつかなかったけれど。
もはや時間的観念は愛の中にはなかった。それが長い間だったのか、短い間だったのか
それすら分からない。
ただ言えたのは、とても、とても胃のあたりがムカムカして、矢口真里に激しい嫌悪感
を覚えたこと。激しい嫉妬。
- 177 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時03分06秒
何故って? ―――― 当たり前じゃないか、ようやく話し掛けるきっかけが舞い込んだ
っていうのに、突然表れた第三者にその場面を掻っ攫われるんだから。
体育館で、憧れの先輩を見つけて話し掛けようとしたら、その先輩のクラスメイトが
わざとらしく現われて、自分の入る隙をなくしてしまう………ほら、そんなのやっぱり
腹が立つだろう?
「……市井さん……」
愛は、何とか返事を返すことでその理性を保っていた。色々なことがあり過ぎて、どう
も上手いこと考えられない。矢口は、未だ愛の存在には気付いていないようだった。
それすら、愛にとっては屈辱的なことに思えた。市井さんは悪くない、全部、いきなり
現われた矢口さんが悪い。悪い。ずるい。矢口さん、ずるいですよ。
紗耶香の口が、何かを喋ろうとしたのだろう、もごもごと動いた。しかし、結局その口
から何か言葉が発せられることはなく、紗耶香はそのまま口篭った。
困っているのだろうか? ――― ふっと思い立って、愛は泣きそうになる。
( 邪魔ってこと? あたし、ここにいたら邪魔なのかな? ねえ、市井さん…… )
- 178 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時03分47秒
ほんの少し、気まずい空気が流れたが、そんな場面を打破するのはこのような状況では
紗耶香しかいないのは明白だ。紗耶香は、足元さえおぼつかない矢口の体を抱きかかえる
ようにして支えた体勢のまま、矢口の耳元に何事かを囁いた。
「………っ」 紗耶香の胸に埋められていた矢口の小さな顔が、伸び上がるようにして
愛の姿を捉えた。黒目がちな潤んだ瞳と目が合って、訳もなく愛は緊張する。
「あの、あのっ……あたし……」
何か言わなくては。そう思って口を開いたけれど、アドリブの利かない愛の性格では
当然上手い言葉は浮かんでこなかった。ただ、紗耶香と一緒にいたい。それを言い出せ
れば万事うまくいくのだろうが、愛とていくら平凡と言えど、そんな場違いな告白をす
るほど空気を読めない馬鹿ではないのだ。
どうしよう。
市井さん、矢口さんが大事ですか? だから、あたしのことなんて気がつかなかったん
ですか? ――― なら、もし。矢口さんがいなかったら……
「あの、えっとだから…」( 違う、そんなこと考えたら。駄目だよ、愛? )
- 179 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時04分24秒
紗耶香が自分と見つめている、その視線を意識して、愛の口は更に動揺を増す。
そして、愛はふっと無意識のうちに頭で思い描いた恐ろしい空想に、身を震わせた。
――― 矢口さんがいなかったら? いなかったら、どうだというの?
何をどうしたら、矢口さんが「いなくなる」と思ってるの、それがどういうことなのか
分かってるの?
「平凡な」はずの高橋愛にしたら考えられないくらい、残酷なそれは考えだった。
無論、自身でもそれは当然恐ろしいと思える感情だったので、愛は慌ててそれを頭の中
で打ち消したけれど、一度思いついた考えは、そう簡単には完全い消去することは出来
ない。自分でも怖いけれど、どうしようもないのだ。
「……高橋。とりあえず、あんたも一緒に小屋に入りな。寒いだろ。とにかく、体
あっためることだけ考えよう」
- 180 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時05分02秒
次に吐き出すべき言葉を失って、立ちすくむ愛を見かねたように、紗耶香が落ち着い
た声で話掛けた。はっとして愛が顔を上げると、決して笑顔ではないものの、穏やかな
表情の紗耶香が自分に手を差し出しているのが見えた。その彼女が、「おいで」、と短
く言ったのを機に、愛はその憧れの少女の元へと駆け寄った。
「…い、ちいさ……。ありがとございます……」
本当に、今でも泣きそうだった。紗耶香の柔らかい手は、今まで小屋の中にいたせい
かとても温かい。その手を握り締めて、愛は必死に涙を零さぬよう、歯を食いしばって
今にも感傷に溺れそうな自分を戒めた。
ああ、それでも。この場に矢口さえいなければ、彼女の気持ちは自分だけに向けられ
ていたのだろうか?
……そんなこと考えちゃいけない、いけないのは分かっているけど。
片腕で矢口の肩に手を回してその体を支え、もう一方の手は愛の手を握り、紗耶香は
開け放たれた小屋の入り口に向かって歩みを進めた。質素な作りのドアに近付くと、中
からストーブによって加熱された暖かい空気が流れ出してくるのを感じられる。
( あったかい、嬉しいな……。……あれ。あれって…… )
- 181 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時05分36秒
暖かさにほっとしたのも束の間。愛の視線は、ドアの入り口の真横に立て掛けられた
1つの武器に、釘付けになった。当の紗耶香は、愛の様子に気付く風も無く、小屋の奥
へと2人の少女を引っ張っていく。
( あれは!? だってあれは…… )
暖かいはずなのに、愛の顔は蒼褪めた。
まさか? だって、市井さんに限って、そんなことするはずがない!
『拳銃のために留学した、市井紗耶香』
『こんな状況なのに、落ち着いた様子の市井紗耶香』
『園の中心人物のはずなのに、何故かたった1人でいる市井紗耶香』
そして、愛の目にした圧倒的殺傷力を誇る武器 ―――― 立て掛けられたショットガン。
( まさか、だって、まさか!? )
- 182 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時06分25秒
愛の目は、限界にまで見開かれて、落ち着き払った態度の紗耶香の背中に注がれた。
その後姿は愛が憧れ続けてきた「先輩」のそれと何ら変わることはない。
そうだ、少し変なことを考えてしまったけれど、それらは全て自分の勝手な妄想に
過ぎないんだ。だって、まさか。
市井さんが、人を殺すだなんて。
ばくばくと不自然に高鳴る胸の鼓動は、空気を通して紗耶香にも伝わっているのでは
ないかと、愛を不安にさせた。もっとも、愛に背を向けたままの紗耶香は(わざと気付
いていない振りをしているのも考えられるが)、そんな愛の素振りを気にした様子はま
るで見られない。……大丈夫、何も、変なことは考えちゃいけない。
自分の前にいるのは、一緒にいるのは、ずっと憬れていた「優等生」の市井さんだ。
あたしを心配してくれているんだ。変なこと考えたら、市井さんに失礼でしょ。
何度も自分に言い聞かせるように心の中で呟いていると、自然と愛の胸の鼓動は収ま
ってきた。大丈夫、大丈夫。しつこいくらいに何度も何度も。
- 183 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時07分56秒
そして、紗耶香と矢口が共にストーブの近くに腰を下ろしたのを見計らって、愛も
また2人の側にそっと近寄った。少しばかり遠慮したように、やや離れた所に腰を下ろ
そうとしたその時、その恐ろしい考えは、愛の脳裏に再燃する。
――― ヤグチサンサエイナケレバ。
( ! ……駄目だってば、そんなこと考えたら! )
沸きあがる衝動を押さえ込もうとする理性と、それでも「生」への執着と思わぬ「憧
れ」の少女との接近という機会。磁石に引き付けられる蹉跌のように、愛の視線はその
殺人道具 ――― 彩の遺品であるショットガンから離れることはなかった。
矢口さんさえ、いなければ?
生気を失った様に白っぽい顔で紗耶香に寄りかかる矢口真里と、ドア付近に立て掛け
られたショットガンとを交互に見やりながら、愛は結局、紗耶香よりも矢口よりも、ド
アに程近い位置に陣取ってようやくそこに腰を落ち着ける。
油断なく、矢口の行動に目を光らせながら、愛はそれでも彼女のことは意識すまいと
自身を諭していた。どうしても、その大量殺人器には心を奪われがちだったけれど。
- 184 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時11分18秒
矢口さんさえ ―――― また頭に浮かんできたそのフレーズを無理矢理打ち消して、
愛は膝を曲げて抱え込んだ。自分の意志とは無関係に、ショットガンを手にとろうとす
る衝動を必死に隠して、ただ唇をかみ締めた。
その言葉は、思考能力を欠いた愛の頭の中を、ひたすらぐるぐると巡っていた。まる
で、それが自分を追い詰める呪いの言葉のように愛は感じていたのだけれど、しかしそ
れは、紛れもなく愛自身の意志によるものなのだとは、愛は認めることは出来なかった。
パニックに陥った心の中で、叫ぶ。
『矢口さんさえ、矢口さんさえいなければ』
- 185 名前:《19,混迷 高橋愛》 投稿日:2002年04月07日(日)17時13分14秒
- 親友である小川麻琴の存在は、今は愛の脳裏からは抜け落ちていた。もちろん、彼女
がもう存在しないことを知っている訳ではないけれど。
おそらくそれこそが、この『デスゲーム』の本質なのだとは、平凡な少女には理解出
来る筈もない。愛は、自分でこそ気がついていないが、完全な混乱状態にあったと言え
る。何故なら高橋愛は、平凡であるが故、「他人」の興味を独占したいと考える様な欲
の深い少女ではなかったのだから。
【残り7人】
- 186 名前:flow 投稿日:2002年04月07日(日)17時14分48秒
- 最近どうにも筆の進み具合がよくないですが、これで一応全員は出せたかな?
ちなみに、最年少の彼女についてだけは、主役回はなしです。この先もなしです(w
- 187 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月08日(月)05時33分23秒
- ようやく出てきたー!と思いきや、こいつもか?黒いのか?(w
続きが楽しみです。
- 188 名前:読んでる人 投稿日:2002年04月08日(月)11時21分17秒
- 矢口は登場するたびに、殺されそうな雰囲気に・・・。
もしかして、この小説を一番ハラハラしながら読めるのはヤグヲタなんじゃないでしょうかね?
- 189 名前:はろぷろ 投稿日:2002年04月09日(火)05時08分31秒
- ついに高橋が出ましたね〜。
ある意味、平凡が一番怖いんじゃないか、
と考えさせられました。
- 190 名前:gattu 投稿日:2002年04月09日(火)17時01分50秒
- なるほど最後はホッピーでホップか。
みんな黒いな(吉澤以外)矢口もか?
>flowさんへ
あの程度の笑いだったらいくらでも出せますよ(ネタがあれば)
でもあれはモークエなのでスレ違いです。すいません
今回は使えそうなネタがないので☆なっしんグー☆
それでは、ばいならならばいばいならならばい・・・・
- 191 名前:aki 投稿日:2002年04月09日(火)19時14分16秒
- これは・・・危険人物パート3になっちゃうのかぁ!
つぎはどーなっちゃうんでしょう。
続き楽しみにしてます。
- 192 名前:flow 投稿日:2002年04月14日(日)18時12分52秒
何とか1週間ぶりに更新です。間に合ってよかった〜…
>187 名無しさん
どうなんでしょう。どうなりますかね。
あまり綺麗な人間なんていないと思います(ニガワラ
何せ生きるか死ぬかの瀬戸際ですからね〜、どうなることやら。
>188 読んでる人さん
そうですね、矢口はいい反応するのでどうしてもこういう役には
当てはめやすいのです。
矢口を好きな方にはどう思われているのでしょう……
>189 はろぷろさん
はい、ようやく出せました。別に出し惜しみをしていたわけではない
んですけどね(w
「平凡な私にだって、殺れるはず、GO!GO!GO!GO!」……
ウソデス、ゴメンナサイ
- 193 名前:flow 投稿日:2002年04月14日(日)18時13分46秒
>190 gattuさん
最後のばいならばいなら……は反則でしょう(w
とりあえず黒いですね、皆さん黒いです。でもそのほうが書きやすい。
またネタあれば笑わせてください。なにぶん本編が黒いので。
>191 akiさん
びっくりしました。あのakiさんが、自分にレス〜!?
天変地異が起きたくらいびっくり(w)っていうか嬉しいです、
感激……。何気に実際現役で小説書かれている作者さんに読まれると
いうのは緊張します。実は私も、匿名でakiさんの方へレスしたことが。
また読んでくだされば幸いです。もうすぐ終わりそうですが(w
では続きです。矢口編よりスタート。
- 194 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時14分44秒
紗耶香、矢口、それに愛を迎えて3人になった小屋の中で、誰ともなく溜息を
吐いたのは、10数分が経過してからだった。
勢いよく燃え続けるストーブに手をかざしながら、ようやく涙を拭いて何とか
落ち着きを取り戻したかに見える矢口、それにさっきから何故か鋭い視線をその
矢口真里に向けている高橋愛。
そして、矢口という1番の親友とようやく再会を果たしたものの、今度は妹の
ように大事に思っていた少女の突然の告白、そして唐突過ぎる別れに半ば呆然自
失となってしまっている市井紗耶香。
どうしても、小さなログハウスの中の空気は重くなる。
さっきから、矢口は気になっているものがあった。否、それを「もの」と表現
するのは間違っているかもしれない ―――― 矢口が意識しているのは、紗耶香
を挟んで斜めの角度に、2人からはやや距離を置いて座っている高橋愛の痛みす
ら覚えるほどの強い眼差しだった。
( 何よぉ……矢口が何かしたっていうの? )
- 195 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時15分26秒
いくらか、ショックから立ち直りつつあった矢口は、憮然とした表情で彼女の
視線を受け止めていた。( もちろん、矢口が早々に気を取り直すことが出来た
きっかけは、紗耶香の存在によるところも大きい )
普段の矢口真里という、活発でいささか強気な少女のままであったなら、悶々
とした気持ちなど抱える暇もなく問い質していたのだろう、『何よ、さっきから
文句でもあるの』 ――― おそらく、そんな風にでも。
しかしながら、度重なる重度の精神的打撃を受けたダメージは、矢口をそこま
で気丈に振舞わせることを許さなかった。今の矢口に出来るのは、ただ俯いて、
愛の視線を受け止めるでもなく、受け流すでもなく、ただ感じるのみであった。
「なぁ、矢口、覚えてる……?」
このまま半永久的に沈黙が続くのではないかと思える程の、重苦しい空気を破っ
たのは、矢口と同じく俯いたままストーブの炎に目を向けたままの紗耶香だった。
- 196 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時16分10秒
-
咄嗟に声を出すことが出来ず、矢口は一瞬躊躇したようにちらり、と愛の姿を
横目で確認した。その高橋愛は、今まで睨むように矢口を見据えていた視線の的
を紗耶香へと移したようだ。
どこか安堵の気持ちを抱えて、矢口は紗耶香に言葉を返す。
「覚えてるって、何を?」 ――― ああ、久しぶりだなぁ、こんな普通の会話
を口にするのは。この『デスゲーム』が始まって以来、常に死と隣り合わせな状
況に陥ることの多かった矢口にとって、今この瞬間は初めての安穏とした空気の
様に感じられていた。
紗耶香は少し口篭ったように見えたが、すぐに言った。
「市井がさ、アメリカに留学する前のこと。後藤と矢口と3人で、遊園地にさ、
行ったことあるじゃん?」
「……ああ。あったねえ」
矢口の丸い目が、懐古の念を呼び起こされて嬉しそうに細まった。もちろん、
胸に秘めた暗い思い ――― 中澤裕子や安倍なつみや、石黒彩、それに保田圭、
飯田圭織たちの無残な最期を忘れたわけではないけれど。
- 197 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時16分47秒
いや、忘れられたならどんなにか矢口は救われるだろう。いくら経験を重ねた
としても、人の「死」に鈍感になれるわけがない。それに。
矢口は思う。
( 人の死に慣れてしまったり、軽いものだと思ってしまえるくらいなら、矢口
はそんなの最低だと思う。堕落した人だと思うよ )
それでも、その様な悲壮な思いを表情に出すことはしなかった。
自分も辛いが、紗耶香もきっと辛いのだ。これ以上、自分も弱い部分を曝け出
すことは、何となく申し訳ない気がした、矢口は。
( だって、紗耶香にはもういっぱい迷惑かけちゃったし。いっぱい泣いちゃっ
たし。……それに…… )
忘れる訳にはいかなかった、石黒彩が死んだとき、矢口が紗耶香を信じてられ
なかったこと。彼女が自分に伸ばしてくれた手を振り払ってしまったこと。
そして、その時の傷ついた紗耶香の表情。
( お姉ちゃんなんだから、矢口は。……紗耶香にばっかり、負担かけらんない
よね……。ごめんね、紗耶香 )
- 198 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時17分24秒
散々泣いた。充分過ぎるくらい傷を負った。
それでも、自分は生きている。紗耶香も生きている。ここで全てを投げ出すに
はまだ早い。 ――― 何があったのか、その市井紗耶香の瞳にさっきまで漲って
いた正義感や、強い責任感の澄んだ光は失われつつあるようだったのだけれど。
だからこそ、思ったのだ。『紗耶香にこれ以上気を使わせてはいけない』と。
・・・・・・
昔から、紗耶香は年下のくせにいつも矢口より一歩先を進んでいるような少女
だった。生来の大人びた気質がそうさせたのか、それとも人一倍負けず嫌いな彼
女のことだから、内なる努力を重ねていたせいか、「市井紗耶香」は人に弱みを
見せないところがあったのだ。
例えそれが、幼馴染み兼親友、且つ年上の矢口真里に対しても。
それを矢口がかつて心苦しく思ったことはない。目立ちたがりで甘えたがりの
矢口は、年下という枷はあったとしても、紗耶香を自分より未熟な存在であると
見なしたことは1度たりともなかった。
- 199 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時18分06秒
それ以上に、彼女を「自慢の親友」として誰よりも信頼し、誰よりも大事に思
っていたのだ。そんな2人に、たった1歳の年の差など大した問題ではなかった。
―――
『ああ? 誰が小さいって、てめえ何様のつもりだよ』
『そういうことで突っかかるあんたの度量の方がちっちゃいんじゃないの?』
『矢口、なんか言い返してやれよ!』
―――
『ねえ紗耶香ぁ。ちょっと気ぃ短すぎるよあんた』
『ちょっと目、覚めちゃってさぁ。怖いからトイレつきあってくんない?』
『きゃははははっ。紗耶香、見てあれ、かわいーっ』
―――
『何か悩んでるんなら言いなって、誰にも言わないからさ』
『顔色悪いよ、大丈夫? ったく、あんたすぐに無理すんだから』
『もぉ、夜遊び控えろってこの不真面目高校生がっ』
―――
『うぁ〜ん、紗耶香どうしようっ。単位やばいんだよぉ』
『ねえねえ買い物行かない?ええ?いーじゃん行こうよ〜』
『友達と喧嘩しちゃったんだ。やっぱ、矢口から謝るべきかな』
- 200 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時18分46秒
・・・・・・
紗耶香に頼る矢口、矢口に頼られる紗耶香。
2人には常にその関係性が結びついており、それと逆の立場になることはあり
得なかった。そしてそれはごく自然な流れとして、当然のこととして。
けれど、今、それが逆転しつつある。今この瞬間だけは、紗耶香はとても「弱
い」少女だった。いつもの凛とした、真っ直ぐな強さを持つ市井紗耶香ではなく、
ただ傷つき、弱音を吐き出そうとする一少女だったのだ。
矢口の中で、何かが動いた。( 紗耶香が、あの紗耶香が……… )
普段の彼女を誰よりよく知る矢口だからこそ、今の紗耶香がいかに深い傷を抱
えているのかは分かる気がした。こんなに覇気の感じられない紗耶香は、正直言
って初めて見る気がする。
そして、その原因が一体何に起因するのかも。
――― いた筈の少女がいない。いる筈の少女がいない。
だったら、おそらくは『それ』が原因。その消えた少女 ――― 後藤真希が。
- 201 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時20分12秒
ふと、嫉妬じみた苦い気持ちがじわりと胸に侵入し始めるが、今度はその醜い
感情の為に自分を見失うような馬鹿な真似を、矢口はするつもりはなかった。
( いいよ、紗耶香。言いなよ、お姉ちゃんが聞いてあげるからさ…… )
無理矢理にでも、笑えば少しは気が晴れるというのは本当の話だった。矢口は
引き攣りつつも口元を僅かに釣り上げて、「笑顔」を作った。
少し、気が楽になった気がする。いいよ、紗耶香。矢口は大丈夫。
あれほど気になっていた高橋愛の視線、いや存在そのものは、今や矢口の視界
には影も形もなく残っていなかった。それ程までに矢口の中で市井紗耶香の存在
が大きかったのだと言えばそれまでだが、ここで愛の立場を全く無視した態度を
2人がとったことが、結局大きな悲劇を引き起こす引き金となるとは。
いくら矢口が頭の回転が速く、気のつく少女だとはいえ、まさかそんなことま
で予想し得るはずもなかった ――― 。
- 202 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時21分22秒
「そう、遊園地行ってさ………楽しかったなぁって、思って」
自嘲気味に笑いながら紗耶香がそう言ったものだから、矢口は何となく拍子抜
けしてぽかん、と彼女を見返した。一体、何を言い出したのだろうか?
「あの時は、後藤も矢口も市井も、人生の深いことなんて考えないで生きてた
って気がするんだ。楽しかった。すごく」
何を言いたいのかはよく分からないけれど、どうやら深刻な話であるようだと
察知した矢口は、取り合えず口を挟まず大人しく聞いている。
「あの時が、矢口が17歳。市井が16歳。後藤は……14歳だったっけ。
若かったよねえ」
へへっと薄く笑って、紗耶香は言った。もうそれは、何処か独り言に近い響き
を持っていることに、矢口は気付いていた。
「ねえ、紗耶香……。よく話が見えないよ、どうしたっていうの? それに、
後藤は何処行ったの? どうしてそんなに………」
『悲しそうなの?』 ――― さすがに、それは言えなかった。この状況であっけ
らかんとしている方が、それは尋常ではないのだから。
- 203 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時22分02秒
悲しいのは当たり前なんだ、多くの仲間が死んでいる。紗耶香だって人の子だ、
何にも感じないはずがないじゃないか!
「……矢口……」 それまで俯き気味だった紗耶香が、ふっと顔を上げた。長ら
く1人で堪えていた苦痛を放出するように、重い口を開く。
「後藤はさ。市井がいなくなって、どうだった? 何か変わった様子、あったり
した? なんか、おかしいことなかった?」
「……後藤……? 」( ああ、やっぱり、後藤か…… )
紗耶香の様子が何処かおかしくなっているのに関係しているのは、やはり予想
通りの彼女の所為だった。
胸を微かな痛みが貫いたが、気付かぬ振りをして矢口は思案を巡らせる。他な
らぬ、市井紗耶香の問い掛けならば、答えてやらなければ。例え、明確な答えを
出すことなど叶わぬとしても。
- 204 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時22分46秒
虚ろな眼差し。それが紗耶香の目の色であることは、正直矢口には耐え難かっ
た。何時いかなるときも希望を失わないヒーロー的存在。矢口は、無意識のうち
に紗耶香をそんな目で見ていたのかもしれない。
そして、紗耶香もまた、今までその期待に答えようと虚勢を張っていたのかも
しれない。――― ああ、何て自分は愚かだったのだろう。
「ごめん。矢口………急に、こんなこと聞いてさ」
一見強気に見えるこの年下の少女とて、普通の女の子と同じく傷つきやすい、
繊細な一面を持っていたことなど、分からないはずはなかったのに。
「いいよ、紗耶香。そう、後藤か……後藤、ね」
視線が一瞬宙に逃れた。言ってもいいのだろうか、果たしてこれを紗耶香に?
逡巡する気持ちが生まれたが、それでも矢口は口を開いた。彼女がそれを望ん
でいるのなら、それには答えてやりたい。それで紗耶香がショックを受けない保
障なんてないけれど、何処かで「紗耶香は知っているんじゃないか」という無責
任な予感もあった。
ふうっと息をついて、矢口はおもむろに切り出した。
「後藤はね。色々、変な噂がついて回るようになってた ――― 」
- 205 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時23分24秒
―――
―――
最初に変だなって思ったのは、極端に帰宅が遅くなったころかな。いっつも脇
にノートパソコン抱えて。あれ紗耶香のお下がりだったヤツだよね?
そう、それで、無断外泊が増えたの。寮に全然寄り付かないときもあった。
特に、よっすぃがいないときは絶対帰ってこなかったね。あの2人、妙に気の
合うっていうか、通じるものがあったみたいで。
おかしな噂が聞こえてきたのは、それから2,3週間くらい経ってからだよ。
何かね、ヤバイ犯罪に手ぇ出してるとか、クスリやってるとか、援交やってる
とか暴力団に関ってるとか、………挙句の果てには中絶したとか、人刺したとか
まで話が膨らんじゃってて。
紗耶香はいないし、よっすぃの態度は普段と何にも変わらないし。
ただ、噂が一人歩きしてるんだって思った。気にしないようにしようって思っ
たんだ。それに、後藤がそんなことするはずないって、矢口は思ってたし。
あの子のいいところ、知ってたし。
- 206 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時24分02秒
でもね。後藤はそんな噂知ってか知らずか……って、あの子のことだから多分
気付いてたと思うけど。でも、全然変わらなかった。ううん、どんどんひどくな
ってった。話し掛けると今までと変わらない態度で接してくるんだけど、何でか
な、1ヶ月くらい寮に帰らないことすらあったの。
よっすぃは相変わらず、そんな後藤と仲良くしてたみたいだけど。
で、矢口心配だったからさ。違うよ、信じてた、信じてたけど。
やっぱり、寮に帰らないの何でかな、って思うじゃん? 彼氏でも出来たー、
くらいならいいなと思って。
聞いたんだ、いつも何処行ってるの?って。
『市井ちゃんには内緒にしてて』
『別に、何も悪いことしてないから』
『なに、やぐっつぁん、後藤のこと疑ってるんだ、噂信じてるんだ』
――― そんなこと言い返されたらさ、それ以上追及できないじゃん?
どうしようって思ってたら、後藤が矢口の前でいきなりシャツの襟元、ぐい
って開けたのね? ………で、したら見えちゃったの。
- 207 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時24分36秒
『分かる?これ。キスマーク』
『そゆことなの。寮に帰らないのは』
『市井ちゃんって奥手っぽいじゃん。外泊してんのなんてバレちゃったら、
後藤合わす顔ないもん』
やっぱりそうなんだ、って思った。
服装がちょっと派手になったのも彼氏の趣味で、妙に色っぽくなったのも彼氏
が多分年上とかで、相手が独り暮らししてるからそこに泊り込んでるんだろうな、
なんて思ってて。
……多分、多分。
そうやって、矢口は自分を納得させようとしてたんだ。本当は後藤がいい子なん
だって知ってるから、知ってるから、そんなことしないって。
犯罪重ねてるのも、援交も、クスリも全部作り話なんだって。
- 208 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時25分13秒
矢口はね。逃げてたんだよ。後藤のこと、直視出来なかった。もしそれが真実だ
ったらって考えたら、ちょっとでも考えたら、それが現実になりそうで。
そうしたら矢口はどうしたらいいんだろう?って。何も出来ないって分かってた
から、逃げるしかなかった。紗耶香には言い訳なんて出来ないけど、怖くって、何
も言えなくって、逃げてたんだ。
友達を大事にするっていうのが、矢口の唯一の信念だったのに。他に取り得なん
てなかったのに。裕ちゃんだって、「それが矢口らしい」って言ってくれてたのに。
誰も何も言えなかった。何となく、「もしかしたら」って気持ちは持っていたの
に、何も。何も、何も……。
信じてる、なんて聞こえはいいけど、結局深入りするの避けてただけなんだよ。
卑怯かな、矢口。卑怯だよね、それでも、心配してたんだ、後藤のこと。
―――
―――
- 209 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時25分53秒
「 こんなこと、紗耶香には言えないって思ってた。後藤が口止めしなくても…
だって、後藤が犯罪に走ったり、クスリやったり、援交の挙句に中絶だとか
人刺したとか、信じられない、ううん信じたくないことばっかり。言えない
よ、後藤のこと大事に思ってる紗耶香には………」
「…そっか。ありがと矢口。嫌な役目、させちゃって」
「驚かないの?」
どこかで予想はしていたものの、実際こうやって割とあっさりした対応と取ら
れると、それは何だか違和感があった。矢口は意外だったが、それを問う前に、
紗耶香本人からその理由が語られた。「さっき、後藤が自分で言ったんだ」
( ……本人が、言った? 紗耶香に? じゃあ、じゃあ、それって…… )
「そうだよ。矢口が今思った通り、全部本当の話だったんだ。クスリってのは
初めて聞いたけど、なんか、色々……やってたみたいでさ」
苦笑いを浮かべて、紗耶香がぽつりぽつりと話す。妹の様に可愛がっていた筈
の少女による様々な所業の告白。それが、紗耶香にとってどれほどの衝撃だった
ことか。どれだけ、苦痛だったことか。
- 210 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時26分43秒
だから、彼女はこんなにも悲しい目をしているのだろう。
「言ったんだ、アイツ。すっごい、苦しそうな顔で、泣きながら」
『…後藤が、道を間違えそうになったとき、軌道修正してくれるのは市井ちゃん
だけだったのに。駄目だよって、叱ってくれなきゃ…』
「どうして、アイツを責められるだろうって思った。市井は知ってたんだ、後藤
が精神的に弱いことも。子供な一面を持ってることも。友達がいなくて、寂し
がりやで、市井に依存してることも。…………全部、知ってた。
知ってたのに、アイツを1人にした」
「……………」
「そうやって自分を傷つけることが、アイツなりの精一杯の市井への反抗心だっ
たんだよ。なのに、市井が帰ってきたら帰ってきたで、めちゃめちゃ嬉しそう
に笑うんだ。『会いたかった』、って笑うんだ」
「紗耶香………」
「正直言って、後藤の告白はマジで辛かった。もう少しで、泣くとこだった…」
- 211 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時27分24秒
口元だけで微かに笑んで、紗耶香は顔を覆って深い息を吐いた。彼女との付き合
いの深さや長さに関しては誰にも負けない自信のある矢口ならば、その紗耶香の態
度が何を表すのか、どんな思いを抱えているのか、手に取るように分かっていた。
「泣いてもいいんだよ?」
ようやく温まってきた体に鞭打って床から立ち上がると、矢口は紗耶香を抱き締
めた。「…矢口?…」 小さな体を目一杯に伸ばして、矢口は自分よりも大人っぽい、
それでいて年下の親友を、子供でもあやすように抱き締めて言った。
「辛いときはね。泣いていいんだよ、矢口がここにいるからさ。矢口はね、もう
いっぱい泣いたから大丈夫。今度は紗耶香が泣けばいいよ」
「………ばぁか。誰が、子供の前で泣くかよ」
「誰が子供だぁ!」
抱き締めた紗耶香が憎まれ口を叩くのを聞いて、矢口は小さく微笑んだ。そうだ、
それでこそ市井紗耶香だよ ―――― やっぱり、紗耶香はこうでなくっちゃ駄目な
んだよ? 矢口は、何でも協力するよ、大事な親友の為ならね。
- 212 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時28分07秒
「そう言えばさ、パソコンで思い出したんだけど」
「何を?」 紗耶香を抱き締めたまま、矢口はふっと思いついたことがあった。
パソコン、真希、死んだ石黒彩のこと。そうだ、どうして今まで忘れてたんだろ!
「ほら、あの子パソコン持ってきてたじゃん! パソコン、彩っぺのとき、何か
使ってたでしょ? あれ使えないかなぁ、ここは山奥だけど、東京とか街の人
に、『私達ここで遭難してます!』とか………」
矢口にとっては、とてもいい考えのつもりだった。けれど、目を輝かせて口にし
たその良策は、落ち着きを取り戻した紗耶香の冷静な言葉によってあっさり終結す
ることになる。「それは、無理だね」 ―――― え、無理って、何で?
「…それさ、市井も考えたよ。後藤がこの小屋出て行って、パソコン置いたまま
にしてあるの見てね。後藤がやってた通りにしたらちゃんと立ち上がったんだ」
「じゃあ、何で!?」
「まあ落ち着いてよ矢口。考えてみたらさ、そんな初歩的なこと後藤が思いつか
ない筈がないんだよ。だから、それを後藤がやらなかったってことは、つまり
それは意味のない行為だってことだ。無理なんだよ」
- 213 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時28分53秒
「………無理、って……」
一瞬大きく輝いて見えた希望の光が、瞬時に色褪せていく感覚に、矢口は呆然自
失となって紗耶香を見返した。
「 試してみたんだ。駄目だったよ。簡単に言えば、『受信は出来ても発信は出
来ない』ってところだね。どうやら変な妨害工作が働いてるみたいでさ。そん
なところまで網を張ってるなんて思わなかったけど。
でも、後藤は気付いてたんだろうね……。アイツ、政府のコンピューターに
侵入したことあるって言ってたし」
「………そんな……」
「 アイツが、そこでどんなデータを見たのかは分からない。だけど、あの後藤が
『脱出なんて無理だ』って言うくらいの絶望的なものを見たのは確かなんだ。
それに、ここでうちらが例えば救助を求めたとしてもだよ? この『ゲーム』を
仕切ってるのは気に食わないけど政府の連中だ。この国で、奴らがどんなに権
力を持ってるかは知らない筈ないだろう? 簡単だよ、消防にも警察にも圧力を
かけることなんて。――― だから、無理なんだ」
- 214 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時29分36秒
言葉を失って、矢口は紗耶香の言葉に耳を傾けていた。そんな、それじゃあ本当
に何もかも絶望的ってことじゃないか! せっかく、あれほど会いたいと願い続けた
紗耶香の元に、今こそ寄り添っていられるっていうのに。
「何て顔してんだよ、矢口」
その蒼白な顔を覗き込んで、紗耶香が薄く笑っていった。どこか、皮肉っぽい表
情の彼女は、いつもの「強さ」を持つ少女へと復活を果たしているように見えた。
「だからって、市井はあきらめるつもりはないよ。死なないって約束したんだ、
後藤に。――― それに、矢口がいるから。守りたいものがあるから」
弱音を吐いたことで、何か吹っ切れた様子の市井紗耶香は、そう言って今度は逆
に矢口の体を抱き締めた。お互いに、どこか血の匂いのする抱擁だった。
ことん、と不意に音がした。
矢口はハッとした表情でその音を振り返り、紗耶香もまた矢口の腕を解いて鋭い
表情に切り替わると、同じ方向に目を向けた。「……高橋………?」
- 215 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時30分17秒
黙りこくって同じ小屋の中にいた中学生の高橋愛が(そして、今の今まで矢口は
彼女の存在を忘れていたのだった)、腰を浮かしかけて窓の外をじっと凝視してい
るのが目に入った。どこか、虚ろな表情の彼女の姿を。
その立ち上がりかけた愛のコートのポケットから、リップクリームが転がり落ち
たらしく、床の上をリップの丸い容器がコロコロと転がって止まった。先程の音は
どうやらそれが床に落ちた音らしい。
だが、愛の目はリップなど意に介さず、ひたすらに窓を通して外の白銀の世界に
向けられていた。結ばれた口元が、緊張感を帯びている。
「……人が、いました……。後藤さん、っぽかった、です」
妙に上ずった口調で、愛はゆっくりと2人に振り向いた。最初に矢口を、続いて
紗耶香の姿に目線を移す。紗耶香は、『後藤』という名前を耳にするとほぼ同時に
その場に立ち上がっていた。
「どっちに行った、高橋?」
- 216 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時30分57秒
そのまま紗耶香は愛に駆け寄ると、今まで見せたことのないような真剣な眼差し
で愛を見据えて言った。「あっちです」と、愛が囁く程度の小さな声で指差した方
向を追って視線を向けた後、紗耶香は再び駆け出す。
――― 今度は、閉じられたドアに向かって。
「紗耶香っ、どこに………っ!!」
その背中に向かって、矢口が呼びかける。紗耶香はドアに手をかけたまま、首だ
けを反らせて矢口の方へと振り向いた。「すぐ戻る、待ってて!」
ドアが開き、冷たい空気を風が運んでくる。矢口は少し身震いした。
「後藤を連れて、戻るからっ。矢口はここで、高橋と待ってて! 必ずすぐに戻る
から、心配すんな。2人、絶対ここを動くなよ!」
「待っ…、紗耶香!」
矢口の返事を待たず、そして愛は小さく頷いて見せたのを合図に、紗耶香は鉄砲
玉のような勢いで雪の中へと飛び出して行った。
途端に訪れる静寂に、矢口は何故かぞっとした。この状況に、得体の知れない空
気に嫌悪感すら感じる。分かっていた、この感覚が何か。……それは、恐怖だ。
- 217 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時32分04秒
( 何で、なんでこんな嫌な感じがするの……? だって、今は矢口と高橋しか、
ここにはいないはずでしょ……? )
「矢口さん……」
震える声で自分の名前を呼ばれたのは、紗耶香が出て行ってものの十数秒と経過
しないうちだった。
声の主など振り向くまでもない、何故なら紗耶香を除いた今、このログハウスに
存在するのは自分ともう1人、中学生の高橋愛しかいないのだから。
「…っ、ひっ………」
「大声を上げないでください。市井さんが、戻ってきちゃいますから……」
息を飲んで、矢口は身を竦ませた。一体、ほんの数時間のうちに自分は何度こん
な目に合っているのだろう ―――― 顔を上気させて、いつの間にかショットガン
を構えている高橋愛を目にして矢口は思った。
この、ろくでもない『ゲーム』が開始してから誰よりも危険な目に遭ってきたの
は他でもない、矢口真里だった。本人にその自覚はないけれど、何度も命の危機に
晒されながらそれでも、今こうして生き長らえているのは奇跡に近い。
- 218 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時32分53秒
死の恐怖に何度も直面しながら、矢口はその奇跡を呼び込んできた。ただしそれ
は、よく見知った友人達の命が代償として払われていたけれど。
それでも、何度も「危険な目に遭った」というのは、多少なりとも矢口を強くし
ていたのだ。耐性がついた、とでも言えばよいのだろうか。まさか銃を向けられて
恐ろしくない筈はないとしても、矢口がパニックに陥るまでには、まだ精神的余裕
が残されていたのは事実だった。
( っくそ、みんなみんな、おかしくなるなんて………何でだよ、ムカツク! )
紺野に狙われたときも、石川に狙われたときも、自分は生き延びてきた。それは
矢口真里を、体を張って助けてくれた仲間がいたからだ。そしてその仲間達は、自
分を守るために命を落とした。だから、矢口の命は矢口だけのものじゃないんだ。
( 小川、…圭ちゃん、カオリ………… )
からからになった喉で空気を飲み込んで、矢口は気丈にもショットガンを自分に
向けて構える高橋の姿を見返した。「……何のつもりだよ、高橋………」
- 219 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月14日(日)18時35分05秒
泣いてばっかりじゃ駄目だ、泣いてるから皆が矢口を心配して、守ってくれた。
だから、皆は死んじゃったんだ。もう、矢口は泣いちゃ駄目なんだ。
( ここには、小川も圭ちゃんもカオリもいないよ。守ってくれる人はいないよ )
――― でも、守られてるばかりじゃ駄目だ。紗耶香のお荷物になるのは嫌だ。
「矢口さんが、邪魔なんですよ!」
「うるさいっ、紗耶香がいなくなった途端、いきなりキレんなっ!」
「大きな声出さないでくださいっ!!」
その矢口よりも大きな声で一括すると、高橋はぶるぶると震える腕で、ショット
ガンを抱え直した。( 緊張してる、こいつ………… )
「大きな声出されたら、びっくりして撃っちゃうかもしれませんから」
丸い目に精一杯の凄みを利かせて、愛は矢口を睨みつけた。一体、愛が何を思っ
ていきなりこんな行動に出たのか。矢口は恐怖と緊張で飛び出しそうになる心臓を
押さえた。そして、必死に願っていた。
( ………紗耶香、…紗耶香。どうか、戻ってこないで…………… )
【残り7人】
- 220 名前:flow 投稿日:2002年04月14日(日)18時36分02秒
矢口編は次回まで続きます。3スレ目では終わらないかも…
- 221 名前:flow 投稿日:2002年04月14日(日)18時36分37秒
残り少ないので隠します、今回から(w
- 222 名前:flow 投稿日:2002年04月14日(日)18時37分12秒
スマステ見なきゃ……
- 223 名前:詠み人 投稿日:2002年04月14日(日)23時36分28秒
- 久しぶりに来たら・・・大変なことに!!
マジで結末どうなるのかが気になります。
ちなみに石吉後紺らはどうなっているのでしょう。かなりドキドキ
- 224 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月15日(月)07時18分43秒
- タカハスイキタ━━━(゚Д゚)━━━ッッ!
なんかもう主役以外みんなブラックですね。最後までとことんついてきますよ!
- 225 名前:読んでる人 投稿日:2002年04月15日(月)11時34分29秒
- あのコも、さすがに今回だけはダメそう…。
もし、一押しのあのコが逝くようなコトになっても、最後まで読みます。
ああ〜、しかし読んでてスゲードキドキする〜!
- 226 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月15日(月)22時21分21秒
- あぁ・・・高橋・・・
先が凄く気になります。
矢口と高橋の運命は?
後藤と吉澤はどうなるのか?
本当におもしろいです。
- 227 名前:ロ〜リ〜 投稿日:2002年04月16日(火)20時12分31秒
- 初めまして。
評判を聞いて今日Tから一気に読みました。
一言で言うと凄い!!
バトロワ系はあまり読まなかったんですが食わず(読まず?)嫌いでした。
メンバー一人一人の心の葛藤が細かく書かれてて引き込まれてます。
一押しのあの娘も今回ばかりはやばそうですね。
次回の更新も楽しみにしています。
がんばって下さい。
長レスですいません・・・。
- 228 名前:gattu 投稿日:2002年04月18日(木)14時24分37秒
- いやー今回もご苦労さんなこって。
がんばってるねー
ファイトーあと4〜5は−つ(ぐらいか?)
- 229 名前:はろぷろ 投稿日:2002年04月19日(金)21時01分03秒
- あ〜!矢口ピンチ!
なんかほんとにかわいそうですね〜。
『弱い』市井も新鮮でした。
- 230 名前:flow 投稿日:2002年04月21日(日)23時53分50秒
何とか1週間ぶりに更新です。
>223 詠み人さん
お久しぶりです!
こんな展開になっていました………(w
また、お付き合いよろしくお願いしますね。
>224 名無しさん
高橋、きました(w
確かに皆黒いのですが、追い込まれたら人間そんな感じかな、と。
主役は……どっちが主役なんだろう(ヲイヲイ
>225 読んでる人さん
>一押しがいなくなっても……
正直、どきっとしました(w
でも最後まで読んでくださると聞いてホッ。お願いします、最後まで。
>226 名無し読者さん
矢口と高橋は今回、後藤吉澤は次回の更新辺りで明らかに。
どうしますかね………どんどん暗い方向へ(w
- 231 名前:flow 投稿日:2002年04月21日(日)23時59分08秒
>227 ロ〜リ〜さん
初レス、感謝です!長文大歓迎ですよ!嬉しいです。
Tから読まれたんですか〜、褒められて相当照れてます>作者
もうすぐ完結(予定)ですが、最後まで目を通していただけたら…
>228 gattuさん
はい、頑張ってます!(w
リポビタ○Dが切れるほどに………あわわわわ。
gattuさんの予想通り、あと4〜5回……かな?
>229 はろぷろさん
矢口ファンの方は怒ってらっしゃるでしょうか……
自分的には矢口は苦労人のイメージが(w
その矢口は、今回も前回に続き、メインです。
では次回の続きを。
- 232 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時00分32秒
-
じっとりと汗を掻いた手の平を握り締めて、矢口は自分を標的に定めてショッ
トガンをおぼつかない手つきで構える高橋愛と対峙していた。
紗耶香が、愛に指摘され後藤真希を探しに小屋を飛び出して行ってから、ほん
の10数秒の間に、あっという間に状況は一変していた。
「何やってんの? 何考えてんのあんた!何しようとしてんだよ!」
人の命を奪う殺人道具を目の前で向けられて、緊張しない人間などいない。矢
口はそれでも、ショットガンを構える愛を真っ向から睨みつけ、怒鳴っていた。
年上として、そして紗耶香へのささやかなプライドの為。小さな矢口真里の、
大きな精一杯の強がりだった。
「生き延びる為? だからって、皆を殺すわけ? 矢口を殺す? 帰ってきたら、
紗耶香も殺すの!?」
興奮した矢口は、知らず知らずのうちに語気を強めていた。今の愛のように、
気持ちが昂ぶっている人間を対処するとき、自身も感情的になっているのは当然
上手くないけれど、まさかそのようなことを矢口が考え付くはずもない。
まして、銃を向けられているこんな状況では。
- 233 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時01分18秒
「……市井さんを、殺す……? まさか、そんなこと……」
愛は、矢口を真っ直ぐ見据えたまませせら笑った。いいぞ、と矢口は思う。
今、こうやって少なくとも会話が成り立つ状態ならば、いきなり指を掛けたそ
の引き金を引くことはあるまい。
「ただ、あたしは……市井さんと、2人になりたくって。……今まで、まとも
にお話したことなんてないけど、でも、でも憧れてたから………」
何処か遠い目をして、愛はほとんど聞き取れないような声でぼそぼそと言い放
った。とてもそれは小さな声だったけれど、矢口にはちゃんと届いていた。
「……高橋、あんた紗耶香のことを………?」
「ずっと、寒い中1人ぽっちで歩いてきて」
矢口の問い掛けを無視して、愛は再び口を開いた。それでも、ショットガンを
手放すどころか、引き金から指を離しもしないのだが。
「やっと、市井さんを見つけたんです。……憧れていた市井さんを。ずーっと、
片思いしてた市井さんを。……嬉しかった、でも、矢口さんが」
「…………矢口が、紗耶香を横取りしたって言いたいの?」
「 ――― だって!!」
- 234 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時02分55秒
急に感情的になって高橋は叫んだ。甲高いその声は、悲鳴のように矢口の耳へ
と届いていた。悲痛な声だった。
「せっかく、2人っきりになるチャンスだったのに! 矢口さんは、園にいた時
からいっつも市井さんと仲良くしてて、こんな時まで邪魔しなくてもいいの
に!! いつもいつも、市井さんの周りには人がいて、あたしなんてとても、
話し掛けられもしなかったのに。矢口さんは、今じゃなくてもいつでも市井
さんとは話が出来るじゃないですか! どうして今なんですか!!」
次第に、愛の口調は激しさを増していく。先刻に矢口に『大声を出すな』と制
したことなど、とうに忘れてしまっているのに違いない。
矢口は顔をしかめると、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす愛の顔を見た。
「馬鹿! そんなこと、今だからこそ言ってる場合じゃないんだよ!」
同じように、矢口が叫ぶと愛は一瞬戸惑ったように口を閉じた。そして、その
目の奥に宿っていた「怒り」の炎が次第に弱まっていく。何となくそれを察知し
た矢口は、改まって口を開いた。
- 235 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時03分31秒
「もう、生き残っている子は随分少なくなってるんだよ? あんたの親友の、
小川だって………小川だって………」
そこまで言い掛けて、矢口は目を潤ませた。脳裏に蘇る赤く染まったコート、
血に塗れた小川の顔、最後に喘ぐように残した言葉、紺野の暗い瞳、銃声、そし
て動かなくなった小川麻琴 ――――
「麻琴がっ!? 麻琴がどうしたっていうんですか!!」
言葉を切った矢口に、愛は予想以上に素早く食いついていた。さっきまでは憤
怒の形相一辺倒だったのに、戸惑い、焦り、不安、いつの間にか様々な感情が入
り混じった複雑な表情で矢口に詰め寄る。
「………死んだんだよっ、殺されたんだ! 紺野に!!」
ヤケクソ気味に怒鳴り返してから、矢口はそれを後悔した。こんなこと、感情
的に口にすることじゃない、愛の顔色が目に見えて白っぽくなっていく。
「………死んだ……? 麻琴が………?」
震えは、ショットガンを持つ腕だけでなく、全身に回っていた。口を半開きに
した愛は、呆然として矢口を見返している。
- 236 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時04分12秒
「嘘だっ、そんなのっ………」
泣きそうな声で、愛が言った。『そう、嘘だよ。みんなみんな、冗談なんだ』
――― もし、笑いながらそう言い返してやることが出来たなら。でも高橋?これ
は残念ながら現実なんだ。
イブの夜にサンタさんがくれた、悪夢なんかじゃないんだよ。
「約束したんだからっ! 映画行こうねって、遊園地も行こうねって、カラオケ
行こうねって、勉強も教えるよって、美味しいパフェ食べに行くって、高校
受かったら最初にお祝いするよって、言って、言って、言ってたんんだ……」
指折り数えて言いながら、愛の目に涙がせり上がった。矢口が友人を失う度に
苛まされていた胸を過る多すぎる思い出。おそらく、愛にも同じ現象が起きている
のだろう。そして、誰より仲の良かった年下の親友を失った愛の悲しみは、矢口の
経験した以上のものかもしれない。
年上の、明るい少女。年下の、落ち着いた少女。そして、親友同士。
――― それは、驚くくらいに自分と市井紗耶香の関係と近い。
- 237 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時04分53秒
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁああああああああっ!!」
発狂したように、愛は叫び続けていた。
これが、嘘ではない本物の「殺し合い」であるからこそ、小川麻琴が死んだ、
その事実が偽りでないことを理性では理解しているのだろう。
「何で、どうして麻琴が、嘘だよ、何で何で? やだああ………」
ショットガンを手に持ち、棒のように立ち尽くしたまま、愛は泣き出した。
小川が死んだ、そのことを理解している一方で、本能がそれを拒んでいるのだ。
信じられない、信じたくないと。
もちろん、矢口のように、自身の信頼する人間を目の前で亡くしたわけではな
い、それが人づての伝聞なのだから、『信じられない』と考えるのも分からなく
はない。
しかし、こんな状況で誰かが「死んだ」ことを告げる行為自体が、冗談では済
まないことくらい分かっているだろう。愛にしろ、矢口が「小川の死」を自分に
伝えたことで、得になることなど1つもないと承知している筈。
( 辛いけど、これが現実なんだ、もう逃げられないんだよ……… )
- 238 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時06分00秒
「信じないっ、どうして矢口さんがそれを知ってるんですか! 麻琴はそんな
簡単に死ぬ子じゃないもん、死なないよぉ……っ!!」
完全に子供のような口調で愛が喚いた。
「だけど、死んだんだよ!」
小さな体の底から搾り出す様に声を上げて、矢口は高橋を見据えた。自分がどん
なに残酷な現実を彼女に突きつけているかは分かっているつもりだ。
けれど、言わなくてはならないことでもあった、それは。高橋愛が、小川麻琴の
唯一無二の親友であればこそ、彼女の最期を、伝えなくてはならない。
そしてそれは、きっと小川自身も望むであろうことだったから。きっと、きっと
………断言するにはあまりに付き合いの短い矢口と小川だったけれど、友達思いと
いう点で非常に似通った考え方を有する自分になら、分かる気がした。
( ごめんね、小川。こんな大事な役目、矢口にはちょっと荷が重いや…… )
「小川は、小川はっ………もう、この世にいないんだ。もう、いないんだよ……」
- 239 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時06分53秒
血に染まった小川麻琴の姿。切れ切れの言葉。断片的な彼女の「死の瞬間」が脳
裏に鮮明に映し出され、矢口は思わず目を瞑った。
当然そうしたところで、それを打ち消すことなどは叶わないが、そうせずにはい
られなかった。それに、高橋愛を真正面から見つめることに気負いが生じていたの
も事実だった。あまりに正直な、ストレートな感情を表す彼女を。
大粒の涙を流し始めた愛の姿を。
「…………ぐぅっ、うーうぅぅぅう、うううううーっ……」
結んだ口元の端が僅かに開かれて、その隙間から押し殺した嗚咽を漏らす。
平凡な性格の割に端正な愛の顔が、涙でぐしゃぐしゃになり、溢れ出した複雑な
感情がその表情に歪みを生じさせていた。
ショットガンを握り締めたまま、愛はひたすらに泣きじゃくった。
「何で、なんで、なんでなんでええ……」
流れ出す涙を拭いもせず、愛は泣いていた。矢口は、そんな彼女の姿をまともに
直視することが出来ず、黙って唇をかみ締めたまま目を逸らしていた。
「何で、あたしだけ生き残ってるのぉ…!?ねえ、麻琴ぉ……どうしてぇ……」
- 240 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時07分41秒
悲痛な愛の声は、矢口にもずしりと重くのしかかっていた。
( 何で、あたしだけ………何で、矢口だけ……… )
次々と、大事な友人達が死んでいった。
矢口は、何も出来ずにいた。ただ、守られているだけの存在だった。
――― どうして、何故?
高橋愛の叫びは、そのまま矢口の心の悲鳴そのものだったのだ。自分だけが生き
残り、自分にとって必要な存在である筈の友人は、もういない。
( カオリに圭ちゃん……。矢口と会わなければ、死ぬことはなかった )
別れる間際の、保田の笑顔が脳裏にこびりついて離れない。正確に言えば、矢口
は保田が死ぬ瞬間を目撃しているわけではないけれど、自分を庇った保田はまるで
丸腰だった。石川梨華のボウガンに対し、何の抵抗も出来ない存在だったのだ。
――― 保田は、自分が死ぬのをきっと理解していた。
( なのに、圭ちゃんは笑ったんだ。『生きて』って、笑って…… )
- 241 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時08分28秒
涙が浮かびそうになるのを必死に堪えて、矢口は愛に近付こうとした。近寄って
何をしようと思ったのか、何をしたかったのか、何も考えていなかったのか、とに
かく矢口は愛に向かって一歩を踏み出した。
「……ひっ……」
ぼろぼろ泣きじゃくっていた愛が、しゃくり上げるのと同時に、その気配に気付
いたらしく、身を竦ませて矢口を見た。「……いや、いやぁ………」
ぶるぶると引き攣る口元を必死に動かして、愛は首を振った。怯えきった表情。
普通ならば、ショットガンを構えている愛に対し、矢口の方こそが怯えているの
がふさわしい状況であるのは間違いない。
けれど、大して精神的に強いわけでもない高橋愛が、次々と押し寄せる嫉妬や深
い悲しみ、怒り、様々な感情の変化についていけず、精神崩壊を起こすのに、もう
それほどの時間は要しなかった。
愛が何を思ってショットガンを構えたのか、それはおそらく紗耶香と矢口の仲を
邪推してのことだろうと矢口は予想した。そして、それは間違っていない。
- 242 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時09分19秒
-
しかし、今の愛はそれ以上に「小川が死んだ」という事実を突きつけられて混乱
していた。冷静な判断が出来ない状態だ。
「……麻琴が死んだ……あたしも、死ぬの………?矢口さん、あたし、死ぬんで
すか?……矢口さんは、あたしが死ぬと思う?それを望んでる?………
…市井さんは、………市井さんは………矢口さんと、一緒に………あたしは…」
強張った表情で、愛はぶつぶつと呟いた。ほとんどその内容は聞き取れなかった
けれど、矢口は気付いていた。誰よりも、人が狂気に支配される瞬間を見てきた彼女
だからこそ分かる、愛の表情の意味を。
「高橋っ、いいから、武器を捨ててっ………!」 危険を察知した矢口が、金切り
声で叫んだ。――― しかし、その言い方が不味かったのだ。
「捨てる?………す、捨てる?これを………?」
愛が、うつろな瞳で手にしたショットガンに目を落とした。涙は止まっているが、
頬に幾筋もの涙の痕ははっきりと残されている。
しかし、その目だ。矢口は、高橋のうつろな目を見てぞくりと悪寒が走った。
( やばい、やばいよ、こいつの目……紗耶香、高橋が危ないよ……やばいよぉ )
- 243 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時10分15秒
「捨てたら、…矢口さんは、あたしを、殺す? あたしが、矢口さんさえいなけれ
ばって、思ったから? ………せっかく市井さんと2人っきりだったのに、矢口
さんが邪魔したって、思ったから、怒ってるんですか?」
「………何、言ってるんだよ、高橋………」
低い声で高橋に言い返しながら、矢口は全身に走る震えを押さえようと必死にな
って小さな体を自身の腕で抱き締めていた。足に、力が入らない。少しでも気を抜け
ば、ショットガンの弾を受ける前に、気を失ってしまいそうだった。
「そんなこと、させない……!」
愛の目が、狂気を孕んだ大きな目がきゅっと猫のように釣りあがって、小さな猫の
様に震える矢口の姿を捉えた。「……あたしは、麻琴みたいに死なないっ、死なない、
――― 絶対、死なないっ!」
発狂したように叫んで、愛の指が引き金を引いた。
ダンッッ
狭い小屋の中で、大きな銃声が轟いた。
- 244 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時11分03秒
矢口の顔に、愛が撃ったショットガンの弾が、木製の床を深く抉った際の木片が
パラパラと降りかかった。ちりちりと、焼けるような痛みが肌を刺す。
「つぅ……」と、矢口が頬を押さえて顔をしかめた。傷は出来ていないかもしれ
ないが、衝撃が大きかったため痛みは軽くなかった。
愛は、ショットガンを撃ったときの反動が予想以上に大きかったのだろう、数歩
後ろに下がってよろめいた。しかし、すぐに体勢を立て直す。
( アホか、こいつ………いきなり撃つなんて! )
黙ったまま矢口は再びショットガンを構え直す愛を睨みつけた。制止を呼び掛ける
間もなく撃ってきた愛の狂気の深さを知って、矢口は身震いする。
そして、今度こそ( もう駄目かもしれない )そんな絶望に満ちた思いが矢口の
胸を駆け巡った。銃を向けられるのは2度目、でも命の危険に晒されるのは3度目。
誰もいない、この場には矢口真里だけ。
( っくぅ〜、もう駄目か………紗耶香、矢口はもう駄目だよ、ごめんっ… )
- 245 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時11分51秒
愛の目が、獲物を駆る動物のようにひゅっと細められた。( くる! )瞬時に、
矢口は二度目の攻撃を予測したが、だからといって為すべき手段がある訳でもなかっ
た。ただ、目を逸らさず、愛の動きを目で追っていた。
ダンッッ
「っ……うわああああっ……!!! くぅ、うあ、うあああうううああああうっ!」
次の瞬間、矢口は絶叫して床に転がっていた。
みるみううちに、彼女が倒れた木製の床の上に、真っ赤な血が広がっていく。愛
が撃った2度目の銃弾は、急所への直撃こそさけたものの、その凶弾は矢口の右の
太腿を貫いていた。「ぐあ、ぐあああああうううううわああっ……」
怪我を負った足元を押さえる矢口の手も、既に真っ赤に血塗られている。意識を
失いそうになる強烈な痛みの中、矢口は必死に彼女の名前を呼んでいた。
( 紗耶香…、紗耶香、紗耶香………紗耶香ぁ……、痛い、痛いよぉ……っ )
- 246 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時13分05秒
いくら急所でないからとて、ショットガンの威力はそこらの拳銃とは比較になら
ない殺傷力を有する。矢口の太腿は、血塗れになっている今の状態ではそうと分か
りにくいが、骨への直撃は免れているけれども大部分の肉を削り取られていた。
「………痛…痛いよぉ………っ、っうぅぐうああ……さ、さやかぁ……」
転がって痛みに耐えている矢口には、愛がどうしているのかは分からなかった。
けれど、撃つには格好の餌食である筈の今の矢口に、3度目の銃声は聞こえてこ
なかった。しかし、矢口にはそれを疑問に思うことすら叶わない。
( 痛い、痛い、痛いよ、さやか、痛い、痛いぃ…… )
ほとんど、痛覚しか感じられなくなっていた矢口の耳に、バァン!とドアを勢い
よく開く音が聞こえてきた。「なんだよ、今の銃声はっ ――――― !!!」
( ………さやか…… )
その声の主は、何事か叫んだようだったけれど、既に意識が朦朧としかけていた
矢口にはそれを理解するほどの気力もなかった。
ただ、市井紗耶香が戻ってきたのだと、それだけは認識出来ていた。
- 247 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時13分47秒
―――
紗耶香は唖然として、小屋の中で繰り広げられている惨状を目にした。
高橋愛がショットガンを構えて、呆然と立ち尽くしている。そして、その対角線
上には血溜まりの中に転がって、うめいている自分の親友の姿。
「てめえ、高橋!! 何やってんだこの馬鹿!!」
一瞬躊躇したものの、紗耶香はすぐに行動に移った。すなわち、「愛からショッ
トガンを奪う」か、「矢口真里の救済に向かう」のか。
考えるまでもなかった、誰が親友を放っておけるんだ、高橋が撃ってくるんなら、
今度は市井が体を張って矢口を守ってやる!
けれど、紗耶香の決意は今のところ必要ないようだった。矢口の大量の血を見て
ようやく自分のしたことに気付いたのか、愛はショットガンを抱えて震え出したの
だ。「あたし、あたし………?」 目をきょろきょろと動かして、愛は動揺している。
「矢口、――― 矢口しっかりしろ、矢口………」
紗耶香は、倒れて声を既に発していない矢口に駆け寄ると、自分がコートの下に
着用していたチェックのシャツを勢いよく切り裂いた。簡易に作るものだし、この
出血量じゃ心もとないけどないよりはまし。包帯代わりだ。
- 248 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時14分23秒
こんなとき、後藤だったら。もっと上手いこと処置してくれたのかもしれないが、
今の紗耶香にはそれが精一杯だった。いくら銃撃の訓練を積んだからとはいっても、
アメリカじゃ銃に撃たれた傷の処置方法までは教えてくれなかった。
「矢口、分かる? 市井はここにいるから、矢口、お願いだから目を開けて…」
祈るような紗耶香の気持ちが通じたのか、矢口はうっすらと目を開けた。焦点の
合っていない瞳の奥に、自分の姿が映っているのを確認して紗耶香は安堵する。
「……矢口。市井だよ、見えてる? ごめん、何も出来なくて」
「……あ、さ、やか……だ………」
切れ切れに言って、矢口は苦しそうに顔を歪めた。「い、いたい……紗耶香ぁ、
痛いよぉ……あし、いたい…」
「ごめん」
何も、紗耶香が謝る問題ではなかった。けれど、結局自分がここを一瞬でも離れ
たばかりにこのような事態が起こってしまったのは事実だ。
責任感の強い紗耶香が、自分を責めないはずはなかった。
- 249 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時15分51秒
「高橋」
鋭い声で、紗耶香が愛を見据えてその名を呼んだ。「何で、こんなことした?」
正当な理由などを求めている訳ではない、何を言い訳しても、紗耶香は矢口をこ
んな目に合わせた高橋愛を許すことなど出来ないのだから。
けれど、この事態とて決して愛が望んだ結末であるはずがないことくらい、紗耶
香も分かっていた。むしろ、愛も被害者の1人なのだ。
けれど、許せないものは許せない。
「あの、あたし……………だって、矢口さんが、いなかったら、って……」
泣きそうな声で、愛がそう口にすると、紗耶香は激昂して叫んだ。
「どういう意味だよ、何で矢口がいなかったら、なんて思う必要があるんだ!?
矢口が高橋に何かしたんかよ、してないだろ!? 何で、何でだよっ!」
「 ――― だって、あたしは市井さんのことがずっと好きだったから!」
「……え?」
思いがけない告白に、紗耶香が目を丸くした。
- 250 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時16分45秒
「でも、もう全部終わりです………。麻琴はいないし、矢口さんを傷つけちゃ
って、市井さんは怒ってるし、あたしのことなんて許してくれない…………
あたしはただ、ただ、市井さんと一緒にお話がしたくて……」
毒気が抜かれるように、紗耶香の表情から怒りの感情が消えてゆく。ようやく
打ち明けられた真実。3歳も年下の後輩の、純粋な気持ちの告白。
それを、頭から否定出来るほど紗耶香は冷たい人間ではなかった。こんな異常
事態の中で、嘘をつけるほど愛はひねくれてはいまい。
なら、きっと彼女の告白は嘘偽りのない真実。
自分が矢口ばかりを気にしていた中で、高橋愛をどんなにか傷つけていたか、
今、そのことに思い当たったのだ。
そんな紗耶香に、愛に掛けるべき言葉は思い当たらなかった。
「ごめんなさい、市井さん。……ごめんなさい、矢口さん………」
すうっと、愛がショットガンを構えた。照準は ――――
- 251 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時17分28秒
「高橋! もう止めろ!!」
――― 紗耶香が、矢口の体を庇うようにして叫んだ。照準は、大量の血液を
失って意識を失いかけている矢口に向けられていたのだ。
「ごめんなさいっ、あたしも、すぐ後追いますから ――― 」
バァン!
何かが弾け飛ぶような音が聞こえたのは、その直後だった。
「………?」 何の衝撃も感じないことを不審に思いながら目を開けた紗耶香
が見たのは、信じられない光景だった。
「…………かっは………」
愛が、愛の顔から上半身にかけてが真っ赤に染まっていたのだ。彼女自身の
血によって。そして彼女の愛らしい顔は、鈍器で殴りつけられたようにぐしゃ
ぐしゃに瞑れていた。血を吐きながら、愛の体がゆらり、と床に倒れた。
- 252 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時18分08秒
「 ―――― 高橋!!」
目を見開いて、紗耶香は一部始終を眺めていた。矢口を抱えているため、愛の
元へと駆け寄ることは出来ないが、ガラン、と音をたてて彼女の体の横に落ちた
ショットガンが、強い力で押し潰されたかのように形状を崩しているのを見て、
瞬時に悟った。( 馬鹿な! 暴発した!? )
明らかに自殺ではない。ショットガンが、暴発したのだ。
高橋愛が、あの平凡な少女が、もはや生命を有していないのは一目瞭然だった。
( そんな、馬鹿な、ばかな………… )
呆然と愛の亡骸を見つめる紗耶香の脳裏に、「あること」が思い出された。
( このショットガンは、もともと彩っぺの……… )
後藤真希は言っていた、『多分、彩っぺの武器は結構いいヤツの筈だよ』。
つまり、石黒彩の武器は「ランダムに」渡されたのではなく、予め決められて
いたのだ、当て馬としてある程度ゲームを転がすようにと。
その彩はもう既にこの世にいないが、彼女の「予め決められていた武器が暴発
した」ということは、ということは ――――
- 253 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時18分52秒
( 最初から、………そうだ、最初から彩っぺを生きて返すつもりなんか、なか
ったってことじゃないかよ! )
おう思い至って、紗耶香は本当に泣きそうになった。同時に、政府に対する激
しい怒りがこみ上げてきた。
( じゃあ、彩っぺがしてきたことってなんだったんだよ! 家族まで殺されて、
散々悩んで、矢口を守って、………彩っぺの死はなんだったんだ!! )
そして今、彩の命を奪うはずだったそのショットガンは、別の若い命の灯火を
消し去ったばかりだ。ただちょっと、こんな異常な状況下で錯乱し、信頼すべき
友人を失って、精神的にどん底に叩き落されたであろう高橋愛の命を。
( こんなのって、こんなのってあるかよ……… )
大量に出血し、苦しんでいる矢口真里を抱き締めて紗耶香はうなだれた。全て、
予定調和で進んでいるのだ、この『デス・ゲーム』とやらは。何処がゲームだ、
あらすじの決められているゲームなんて、あるもんか!
- 254 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時19分42秒
「矢口。聞こえる? 移動しよう………もう、いつまでもここにいる意味はない
よ。後藤達を探そう。…アイツに、ちゃんと手当てしてもらおう」
( このまま終わってたまるかよ、絶対、このままで終わらせられるか…! )
高橋愛を、血だらけのままここに置いていくことには少し抵抗があったが、そ
れでも死んだ人間よりは生きた人間の方が優先だ。
冷血かも知れない、そう思われてもいい、今の紗耶香にとって、矢口の命を少
しでも長らえさせる方が先決だった。
( ごめんな、高橋。市井って鈍感だからさ。……大丈夫、ちゃんと、友達が
待っててくれるよ。お前にはさ。だから、今は行かせて。ごめん )
心の中でそっと告げて、紗耶香は矢口の小柄な体を背負い上げた。
「行こう、矢口。揺れるけど、ちょっと我慢して」
「………ん、さやか…」
紗耶香の言葉を完全に理解しているかは分からないけれど、矢口はひゅうひゅう
と喉を鳴らしながら、辛うじて声を発した。まだ、意識はあるようだ。
「…か、えろ……えんに、かえろう、ね………」
「当たり前だ、皆で、絶対帰るんだよ。矢口も、一緒に帰るんだよ」
- 255 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時21分07秒
「ふふふ」と、矢口が体を小さく揺らした。笑った。
( 紗耶香、ありがとう…………でも、もう、さよならだね……… )
別れの言葉は、口をついて出てくることはなかった。矢口は目を閉じて、静かに
紗耶香の背中に体重を預けた。( …あったかい、アンシンできるな……… )
まだ、紗耶香は何事かを自分に話掛けてきているようだったが、矢口の意識はそ
れに答えることは出来なかった。
( 最後の最後まで、足引っ張っちゃってごめんね、紗耶香…… )
目を閉じた矢口真里の意識は、暗い闇の底へと沈んでいくのだった。
( さやか、大好きだったよ )
・・・・・・
- 256 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時22分07秒
「………矢口。ここ出たら、映画観にいこうな。約束してたやつ、ほら、矢口
子供向けの好きじゃん。矢口が子供だし」
紗耶香の軽口に、矢口はいつものように『うるさいよっ』と勢いよく反論して
くることはなかった。
それでも構わず、紗耶香はなおも矢口に話し掛ける。
「こないだ言ってた、矢口のいきつけのクラブ、連れてってよ」
「そうだ、また遊園地行きたいよなぁ。また、後藤も連れてさ。なあ矢口?」
「…………………」
「辛いけど、皆のお墓も作らなきゃなぁ」
「市井さ、園に戻ってとってきたいものがあるんだ」
「…………………」
「皆で取った写真。アルバム。思い出いっぱい、あそこに置いてあるんだ。朝
比奈には、市井の全部が置いてあるんだ。取りに、行かなきゃ」
「な、矢口」
「…………………」
- 257 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時22分53秒
「矢口、矢口。……何か喋ってよ」
「矢口がうるさくしてないと、調子狂うんだよ」
「…………………」
「 ―― ほら、なんでここで言い返さないんだよ。『何だと』って、怒ってよ」
ざく、ざくと、紗耶香は止まらずに雪を踏みしめて歩いている。でも、真っ直ぐ
に歩いているという意識はなかった。ただ、機械的に歩いていた。
矢口真里を背中に背負って、紗耶香はひた歩いていた。
「矢口? あんた、ダイエットでもしたの?」
「なんか、すっげー軽いんだけど。何で、こんなに軽いのさ」
「…………………」
「 ―――― 矢口、お願いだから………」
ざっ、と音を立てて、紗耶香が立ち止まった。いや違う、もう足を踏み出すこと
が出来なかったのだ。白い頬の上を、涙が伝って流れ落ちていた。
「お願いだから、何か言ってよ」
- 258 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時23分50秒
ぽたぽたと、紗耶香は涙を流して静かに嗚咽した。ずっと「泣かない」と宣言し
てここまでやって来たつもりだった。
中澤裕子の死も、安倍なつみの死も、平家みちよの死も、多数の中学生たちの死
も、石黒彩の死も、飯田圭や保田圭の死を知らされても、そして、あの後藤真希の
衝撃の告白を聞いても、涙だけは流さずやって来たけれど。
泣いたら、そこで全てが終わってしまう気がしていたから。もう、進めない気が
していたから。だから、ずっと泣かなかったけれど。
「……矢口ぃ………なんで、何も言わないんだよぉ……何でだよぉ……」
立ち止まって、軽い矢口の体を背負ったまま、市井紗耶香は泣いた。
振り返って、その小さな親友の顔を見ることは出来なかった。怖くて、悲しくて、
ちゃんとその顔を看取ってやることが出来なかった。
「………矢口……」
- 259 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時24分28秒
――― 『あのね、矢口は、紗耶香のこと大好きだよ』
――― 『親友だから』
掠れ声で呟いて、紗耶香はそこでしばらく泣いた。随分軽くなってしまった年上
の親友、矢口真里を背負って泣きじゃくった。
気付かないはずがなかった、矢口の小さな体から奪われていたのは軽くなった体
重だけではない、背中越しに感じていた彼女の温もりが、いつの間にか感じられな
くなっていたことに。
「っ……くぅ………ううう……」
とうとう、紗耶香は矢口を背負ったまま、雪の上に跪いた。矢口は文句すら言わ
ない。何も言わない。動かない。
「帰るんだよ、皆で、園に帰るんだ……矢口も、一緒に帰るんだよ………」
――― 『紗〜耶香ぁっ』
- 260 名前:《20,友達 矢口真里》 投稿日:2002年04月22日(月)00時25分14秒
「何でだよぉ、何で………ぅうっ、くっそ……ちきしょ………」
下を向いて、紗耶香は声を上げて嗚咽した。
分かっていた、認めたくはないが、分かっていたのだ。もう、彼女は………自分
が最も慕っていた、小さな小さな元気一杯の大事な親友は、この世にいないのだと。
誰よりも長い間一緒に過ごしてきた市井紗耶香の「大親友」は、他ならぬ自身の
背中の上で、静かに息を引き取った。矢口真里は、死んでいた。 【残り5人】
- 261 名前:flow 投稿日:2002年04月22日(月)00時27分20秒
何だかな、何だかなな失敗を、最後の最後でやらかしてしまいました……(w
以前にもあったな、この失敗。
というわけで、おそらくこのスレでラストまでは無理そうなので、次回あたりから
また次スレを探すと思います。予想以上に長くてすいません。
- 262 名前:flow 投稿日:2002年04月22日(月)00時27分57秒
前回から始めた残り人数隠し(w
- 263 名前:flow 投稿日:2002年04月22日(月)00時29分00秒
やっぱり夜は眠いですね…(当たり前)
- 264 名前:読んでる人 投稿日:2002年04月22日(月)10時16分07秒
- あうぅ・・・
初めてこの小説を読んだトキから、こーなるコトは覚悟してました。
ただ、自分の予想以上に、そのトキが来るのが遅かったけど・・・。
- 265 名前:gattu 投稿日:2002年04月22日(月)14時57分27秒
- おいっす今回は早めに来たよ。
まったくこれ異常泣かせてどうするきよ。
これからも生暖かく見守らせてもらいます。
別スレに行くならきちんとアド書いてね
それともまた白板ですか?
いずれにしてもたーのしみーギャンバレ
次回はロスからお送りします。(うそ)
- 266 名前:ヤグヤグ 投稿日:2002年04月22日(月)18時23分13秒
- あ〜、ついに来ちゃったか・・・
でも、めちゃくちゃ面白いです。
バトロワものって完結しないのが多いですけど、
flowさんを信じて、最後までついて行きます。
これからも楽しませて下さい。
- 267 名前:ロ〜リ〜 投稿日:2002年04月22日(月)20時03分20秒
- 矢口が・・・。
覚悟はしてたけどやっぱり痛いっす・・・。
でも、絶対最後までついていくのでよろしくです。
- 268 名前:3105 投稿日:2002年04月22日(月)22時22分53秒
- 親友の死は辛いですね。頑張れ市井ちゃん!
市井ちゃんに幸あれ。
- 269 名前:詠み人 投稿日:2002年04月23日(火)18時31分12秒
- 二人の「帰ろう」という思いがあまりに切実で、泣けました・・・。
改めて残り人数を見て、愕然。
- 270 名前:くわばら。 投稿日:2002年04月25日(木)01時35分55秒
- (:_;)
- 271 名前:はろぷろ 投稿日:2002年04月26日(金)02時18分07秒
- あぁ!矢口〜・・・
今までどんな状況でも生きてきたのに・・・
市井がんばれ
- 272 名前:ショウ 投稿日:2002年04月27日(土)11時44分51秒
- flowさん覚えてますか?ショウです。
ずっと読んでましたが、カキコしないですいません(汗)
矢口が死ぬところでちょっと泣きそうになってしまいました。
もうすぐ完結だということで、がんばってくださ〜い!
- 273 名前:flow 投稿日:2002年04月28日(日)21時55分58秒
引越し警報はまだ出ていないのですが、1回の更新量が少し多くなってしまうため、早めに
移転させていただくことにしました。
それでは、これまでのショートカットです。
《16,価値 石川梨華》 >>2-25
《17,激昂 保田圭》 >>32-61
《18,独白 後藤真希@》 >>71-92
《18,独白 後藤真希A》 >>98-128
《19,混迷 高橋愛》 >>157-185
《20,友達 矢口真里@》 >>194-219
《20,友達 矢口真里A》 >>232-260
T、U、Vと、どんどん一話辺りの内容が長くなっております。
3スレ目、ほとんど話的に進んでいないような……(汗
予想以上に長く続いてしまっている「デス・ゲーム」ですが、おそらく
次スレでは確実に終了するでしょう。
読んで下さっている方々、よければもう少しお付き合いくださいませ。
- 274 名前:flow 投稿日:2002年04月28日(日)21時56分52秒
それでは、感謝感謝のレス返し、させてください。
>264 読んでる人さん
引っ張りすぎたでしょうかね?彼女も頑張ったんですが、及ばず。。。
という感じになってしまいました。もう少しで完結する(と思う)ので、
ラストまで読んで下されば幸いです。
>265 gattuさん
漢字変換はわざと………ですよね!?(w
生ぬるくですか、相変わらずにやり☆と笑わせてくれるレス、どうも
ありがとうございます。顔にやにやです。ロス、遠いなぁ〜
>266 ヤグヤグさん
完結、させます!!(鼻息荒)
めちゃくちゃ面白いだなんて………続けないわけにはいきませぬ。
ただ、4スレ目までいくことになろうとは思いませんでしたが(w
>267 ロ〜リ〜さん
矢口の死は、反響が凄いっす。やっぱり、バトロワもので生き残る確率
が高い彼女ですからね。そして人気も。
最後まであと僅かですが、こちらこそよろしくお願いします!
- 275 名前:flow 投稿日:2002年04月28日(日)21時59分28秒
>268 3105さん
辛いです、辛いです。市井、初めて泣きました。
幸があるかは………どうなんでしょう、どうなるのでしょうかね。
期待にこたえられればよいのですが(汗汗
>269 詠み人さん
泣いてもらえたんですか、嬉しい……ああ、でも不謹慎……(w
残り人数だいぶ減ったんですが、3スレ目で減った人数はかなり少ない
んです。話が長すぎて。。。
>270 くわばらさん
何ていうか…( T ▽ T )ですね。(何が?w)
>271 はろぷろさん
どんな状況でも生きてきたんですが……無念です。
とりあえず、設定が設定なもんですからね。書いててかなり鬱ですかも。
市井も頑張るでしょう、っていうか頑張らせます!
>272 ショウさん
覚えてますとも〜!!というか私の方こそ忘れられているものかと
思っていましたから(w
嬉しいです、読んでくださっている方が離れていないというのは、かなり
こみ上げるものが………またよろしくお願いしますね。
- 276 名前:flow 投稿日:2002年04月28日(日)21時59分59秒
次スレです。↓赤板に移転しました。
デス・ゲームWhttp://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi?dir=red&thp=1019996678
白板、お世話になりました………
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