カルアミルク

1 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月22日(金)02時00分00秒
短めの話をいくつか。
2 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時01分00秒

悪寒と頭痛と眠気とイライラを抱えて、駅へ向かう人の波を逆流する。
調子に乗ってカルアミルク6杯も一気飲みなんかするから、足元がふらついてる。
酒臭い息を撒き散らしながら歩いていくけど、誰もあたしに気づく人なんていない。
毎日毎日こんなコト繰り返して、何が楽しいのかって言われたら別に楽しくないんだけど、
そこに誰かがいてあたしと遊んでくれるから、ただ何となくあたしは街に出る。
3 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時01分34秒

重たい足取りで階段を上がって、おぼつかない手つきで部屋の鍵を開ける。
鍵を探してる途中に、隣のOLさんがオトコと一緒に出勤していった。
挨拶しようかと思ったけど、やめておいた。 そしてこれからもしないだろうと思う。
別に仲良くなる必要もないし、余計な詮索をされることの不愉快さをあたしは
身にしみて知っているから。
4 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時02分19秒

ほとんど寝るためだけの部屋だから、生活感なんてものはまるでない。
うっすらと埃をかぶった床を見て、そろそろ掃除しなきゃなんて考えながら、きっと
実行しないのは自分が一番わかっている。 とりあえず、冷蔵庫から酔い覚ましの
ミネラルを引っ張り出して飲み干してから、暑苦しい部屋に冷房を入れて、
鬱陶しい朝の太陽を遮るためにブラインドを下ろした。
5 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時03分13秒
いつもと同じ作業を終えると、ベッドに潜りこんで惰眠をむさぼる。
眠りに落ちる前に、テレビの上に置きっぱなしのレンタルビデオが目に入った。
あれ、いつ借りたヤツだっけな。 そろそろ返さないとマズいかな。
そう言えば、あれ一緒に見たコの名前、なんていうんだっけ。
似たようなコトばっかやってるから、忘れちった。 ・・・・・・まあ、どうでもいいや。
6 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時04分13秒

夕方過ぎに目を覚まして、のそのそと朝なんだか昼なんだか夜なんだかわからない
食事を詰め込む。 不規則な食生活は太る原因だと言うが、最近それを実感する。
やかましくがなりたてるテレビを見るともなく眺めながら、ダイエットしようか
なんて考える。 きっと考えるだけで終わることも知っているけれど。
・・・・・・なんかイライラする。 ボンバーマンでもやろうかな。
7 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時05分29秒

自堕落な生活送ってるっていう自覚がないわけじゃない。
でも、身についてしまったサイクルを変えるのにはかなりの努力が必要で、
その努力をすると、今の弛緩しきった生活を捨てなければいけないのがわかっているから、
結局は同じコトを繰り返す。 だってその方が楽だから。
アタマ悪いっていわれても構わない。 人間はイージーな方へ流れていくものだ。
8 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時06分14秒

大体、あたしはそんな大層な人間ではない。
実際の自分とパブリックイメージとの間には、往々にして大きな開きがあったりする。
曰く、意志が強い。
曰く、負けず嫌い。
曰く、上昇志向。
9 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時07分44秒

確かに負けず嫌いではあるし、将来への夢も希望も持っているけれど、あれから
一年経っても一向に先の見えない厳しい現実と、目の前にある束の間の楽しみを
比較したら、後者を選びがちになったとしても、誰もあたしを責めやしないだろう。
何より腹が立つのは、あたしを一番よく知っているはずの人間たちでさえもが、
その幻想をあたしにあてはめることだ。
10 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時08分16秒

そこまで考えて、昨日から続くイライラの原因に気づく。
本当は気づくまでもなくわかっていたことなんだけど、無理矢理アタマの中から消し去ろうとしていたこと。 でなければ、カルアミルク一気飲みなんかして、二日酔いの最低な
気分を自分から味わおうなんて思いはしない。
テレビの中では、イライラの原因の張本人がにこやかにしゃべっていた。
11 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時09分01秒

いつものように何の理由もなく乾杯して、いつものようにDJが回す皿に合わせて
身体を動かす。 適当に酔いが回ってきたら休憩して、今夜一緒に遊んでくれそうな
コを探す。 ぐるりと見回した店内には、やっぱりいつものメンツが集まってて、
ここ最近のあたしにとっては、変わりない日常の風景が繰り広げられていて。
だからこそ、彼女が現れた時は本当にビックリした。
12 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時09分56秒
周りの仲間たちは誰も気づいてないみたいだったけれど、そこにいたのはまぎれもなく
あたしのよく知る人だった。
彼女は、店の中を物珍しそうにキョロキョロと一通り眺めた後、側で踊っていたヤツに
声をかける。 そしてそいつがあたしの方を指差すと、サングラスを外してこちらへと
歩いてくる。
13 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時10分28秒
そのときのあたしといえば、左手にバドワイザーのスタイニーボトル、右手には火を
点けたばかりのマルボロメンソールを完全装備して、のんびりまったり一服ついていた
ところだったから、想像もしていなかった来客に、アタマの中は完全にパニックに
なっていて。 人間テンパると訳わかんないコトをやりだすものだと、しみじみ思う。
つまり、彼女を見たあたしが何をしたかっていうと ――― 逃げた。

14 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時11分01秒
正確には逃げようとした、だけど。
だって、この世の中であたしと矢口と圭ちゃんだけが知っているであろう、あの鬼の
ような形相でこちらへズンズンと歩いてくるんだから、そりゃ逃げたくもなる。
トラウマというのは恐ろしいもので、ほとんど条件反射で逃げ出そうとしたあたしの
首根っこひっつかんで、彼女はあたしを店の外へと引きずり出した。
15 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時11分36秒
「・・・・・・どうしてここが?」
一年二ヶ月ぶりの再会だっていうのに、あたしのアタマの中は依然パニック状態で、
なんて間抜けな第一声なんだろうと思いつつも、そんな言葉しか浮かんでこなかった。
「みっちゃんがこのへんであんた見かけた言うててな。 あとは一軒ずつしらみつぶしや」
彼女 ――― 裕ちゃんは呆れたようにあたしを見ながら、それでも質問に答えてくれた。
16 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時12分11秒
「つーかな、なんであんたこんなトコでフラフラ遊んどんねん。
 日々再デビューにむけて精進しとるんかとばっか思ってたわ」
『精進』なんて古臭い言葉使うなあなんて、徐々にパニックも収まって冷静になりつつ
あるアタマで考える。 同時に、久しぶりの再会だっていうのにいきなり説教かます
その態度がなんだかとってもムカついた。
17 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時12分54秒
別に遊んでたっていいじゃんか。 いつまでも保護者面してないでよね ―――。
って言いかけたあたしをさえぎるように、裕ちゃんはしゃべり続けた。
「あんな、酒飲んだかて煙草吸ったかて、たまに夜遊びしたかて全然構へんけどな。
 うちはあんたの保護者やあらへんし。 けどな、ここ何ヶ月か毎晩毎晩あんたの
目撃情報がいろんなトコから入ってくるっちゅうのはどういうコトやねん。ええ? 紗耶香」
18 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時13分29秒
そりゃあ毎晩毎晩いろんなトコであたしが遊んでるからでしょう、なんて言える
雰囲気では到底なく。 だからといってうまい言い訳 ―――何故言い訳しなきゃ
いけないのかよくわからないけど――― があるわけじゃなく、かといって
裕ちゃんに謝る意味 ―――これもよくわからない――― もさらさらないから、
あたしは自分の感情を『そっぽを向く』なんていう子供じみた行為でしか表せなかった。
19 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時14分17秒
「何ガキみたいに拗ねた顔しとんねん。 ちーとも成長しとらんな、紗耶香は」
「してるもん。 勉強だってちゃんとやってるもんね」
「ほおー? ほな何やってるんか教えてもらおか。まさか、そのぶよぶよにたるんだ腹筋で
 『歌の練習してました』なんて言われへんやろうけどな」
最近気にしてるコトをツッコまれて、あたしはちょっとへこみつつも言い返す。
20 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時14分50秒
「ギターの練習もしてるし」
弦が切れたからってほったらかしのまんま。 そういやあれも埃かぶりっぱなしだ。
「作詞だってしてるし」
あのノート、どこいったかなあ。 三ヶ月くらい姿を見ていない。
「えーと、それから、それから・・・・・・」

21 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時15分20秒
「・・・・・・もうええわ」
裕ちゃんの呆れ果てたため息が、あたしの言い訳をさえぎった。
「結局何もモノになってへんのやろ? あんたこの一年何やっとってん、偉そうなコト
言うてからに。 残ったヤツらは毎日一生懸命に生きとるで、あんたよりずっとな。
話あったんやけど、もうええ。 帰るわ。ほな、邪魔したな」
22 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時15分39秒
帰っていく裕ちゃんの後姿は、今思えばどこか少し寂しげだったけれど、
多少なりとも酒が入ったアタマでそこまで考えられるわけはなくて、ただ「ばかやろー」
ってコドモみたいなセリフしか言えないまま、自分のボキャブラリーの無さとここ最近
自分がやってきたことの意味の無さに憂鬱になる。でもそれを晴らす上手い方法を知ら
ないあたしは、結局お酒に頼ってしまって、何ともいえない虚しさだけ残して朝を迎える。
23 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時16分15秒
突然現れた昔の仲間にさんざん好き放題言われて、でも言い返す言葉もなくて
結局は自分が悪いんだと思い知る。 昔だったらチクショウと思って頑張るんだけど、
今は何をどれだけどう頑張れば報われるかがわからなくて、だったら何もしないほうが
いいんじゃないかって考えたりもする。 情熱だけじゃ何も変わらないのだ。
・・・・・・イライラしてるのは裕ちゃんにじゃない。 頑張れなくなった自分にだ。
24 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時17分25秒
やらなければいけないコトがなくなって、やりたいコトだけしてればよくなったとき、
あたしの中でココロの張りがなくなった。 充実感なんてモノはきっと何かに追われて
いるときしか得られないって気づいてしまって、追っかけてくるモノがなくなった
あたしは、ただ楽な方へ楽な方へと流されている。 その気になればギターだって
作詞だって英語だってこの一年で身につけられたはずなのに。
25 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時17分56秒

目の前の電気仕掛けの箱は相も変わらずやかましい音をがなりたてていて、それが
またイライラを増幅させるものだから、あたしは今日もまた出かける準備にとりかかる。
あんだけ好き勝手言われてもやってるコトは昨日と変わらなくて、そこでまた
自己嫌悪に陥りそうになるけれど、かといって素直にギターの弦を張り替える気には
ならなかったから。
26 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時18分27秒
シャワーを浴びた後、そこらに散らばってる服から適当に着られそうなものを
見つくろう。 鍵と煙草とジッポを探し出して、ケータイをGパンのポケットに
突っ込もうとした時、何件か着信履歴が残っていることに気がついた。
それはみんな違う人間からだけれど、ある共通項で結ばれていて ――― つまりは
モーニングのみんなだったんだけれど ――― あたしの足を止めさせた。
27 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時18分58秒
大して連絡も取ってなかった連中から電話のラッシュがあれば、誰だって妙に思うだろう。
ましてや昨日の今日だ。 おおかた裕ちゃんからあたしの腐り具合を聞いて心配して
電話してきたのだろうと考えたら、ひどく憂鬱な気分になった。
それでも、忙しい合間を縫ってかけてきてくれたのだからと思い直して、とりあえずは
最新の着信 ――― なっちにコールバックしてみることにした。
28 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時19分16秒
向こうを呼び出す無機質な音を聞きながら、ちょっとだけなっちに電話したコトを
後悔する。 ・・・・・・だいたい二人でマトモに話したコトないじゃん。 どうすんだよ。
ココロの隅っこで留守電に切り替わるコトを祈ってたけど、その願い空しく
なっちはテレビと同じテンションで通話口に出てきた。
「もしもーし」
29 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時19分55秒
「・・・・・・あ。 え・・・・・・っと、いちーっスけど。 電話もらってたみたいで」
「紗耶香!? ひっさしぶりー! ちょっと待ってねっ」
なっちはそう言うと電話の向こうで叫んだ。
『みんなー、紗耶香から電話だよーっ』
『おおーっ!』
30 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時20分33秒
むやみやたらと高いテンションについていけず、あたしは思わずケータイを見つめる。
いや、なんでそんなにハイテンションなんスか?
おバカな仕事のやり過ぎでみんなホントにおバカになっちゃった?
それよりももっと訳がわからないのは、みんなが口々に叫んでる声。
『おめでとーっ!!』
31 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時21分04秒
別にこっちはめでたくもなんともないわけで。 あたしの誕生日はまだ半年先だぞ?
なんて戸惑っていると、どうやら話相手は圭ちゃんに代わったようだったので、
大歓声とハイテンションの理由を尋ねてみる。
「ちょっと、みんな何盛り上がってんのさ」
『はあ? 紗耶香こそ何すっとぼけてんのよ。 あんたの復帰祝いに決まってんでしょうが』
32 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時21分26秒
はあ、そうなんですか、それはめでたいですね・・・・・・ってあたしはそんなコト
カケラも聞いちゃいないし、これからだって聞く予定も無い。 聞きたい希望はあるけれど。
っていうか、もし本当ならなんで本人より先にあなたたちが知ってるんですか?
『あれ? 昨日裕ちゃんそっちに会いにいかなかった?』
ええ、来ましたとも。 ケンカ売って毒舌吐いて帰っていきましたけどね。
33 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時22分17秒
『おっかしいな、ちゃんと伝えたって言ってたんだけどな。
 あんた、ひょっとしてウチらからかって楽しんでない?』
・・・・・・おいおい。 からかわれてるのはこっちだろ。 タチの悪い冗談はやめてよね。
『あ、収録始まっちゃう。 ゴメン、切るわ。 裕ちゃんがさ、【紗耶香はスゴい張り切ってるでえ、
負けんなや】なんて言ってたからさ、ちょっと期待してる。 頑張んなよ』
34 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時22分46秒
一方的に切られた電話を手の中でじっとみつめながら、釈然としない思いがそこかしこに
残る。 懸命になってアタマの中を整理するけれど、整理する程度の作業でさえ今のあたし
には大変なコトに成り下がってると気づいて愕然とする。 それでも粉々に砕け散った
ガラスみたいな記憶のカケラを、ちょっとずつちょっとずつつなぎあわせて、昨日の
出来事をのろのろとアタマの中で反芻する。 まるで牛みたいに。
35 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時23分17秒
『あとは一軒ずつしらみつぶしや』
『なんであんたこんなトコでフラフラ遊んどんねん』
『あんたこの一年何やっとってん、偉そうなコト言うてからに』
『話あったんやけど、もうええ。 帰るわ』
・・・・・・あ。
36 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時24分04秒
あまりの間抜けさに自分のアタマを殴りつけたくなって、実際に何発か殴ってみる。
ケンカ売るためだけに一軒ずつそこらじゅうの店回るヤツがいるもんか。
あたしの生活態度を更正させるためだったら、家で待ち構えてればいいだけの話だ。
きっとそれはとても大事な話で、きっとそれはあたしにとって喜ぶべき話で、
それを一番に伝えてあげようって ―――。
37 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時25分06秒




――― 涙が、零れた。 きっと昨日のあたしは、世界で一番のオオバカモノだ。



38 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時27分06秒
――― 謝んなきゃ。 そう思って慌てて電話するけれど、ココロのどこかでつながら
なければいいと思っている。 それはなっちにかけたときのような気持ちじゃなくて、
直接会って話をしたいから。 顔見てごめんなさいって言いたいから。
今度の願いは叶ったらしく、何回目かの発信音の後に留守番センターへと転送される。
39 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時27分52秒
ちょっと一方的だけれど、昨日の店で待ってるって伝言入れて家を出る。


明日帰ってきたら、部屋の掃除してからギターの弦を買いに行こう。
ついでに、借りっぱなしのビデオも返しに。
40 名前:カルアミルク 投稿日:2002年03月22日(金)02時28分27秒
おわり。
41 名前:あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう 投稿日:2002年03月23日(土)02時37分54秒

汗まみれになってダッシュしたけれど間に合わなくって、無情にもタッチの差で
さよならバスはあたしを置いて出発していく。
未練がましくそこに立ちすくんで、走り去るバスの後姿を少しの間眺めていたけれど、
ひとつため息をついて諦めてから、針金でバス停にくくりつけてあるオンボロの時刻表に目をやる。

――― ま、いっか。

あたしがこの街とお別れするのは、十五分ばかり先になった。
真夏の青空を白い入道雲が彩る、ある日の午後。
42 名前:あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう 投稿日:2002年03月23日(土)02時38分49秒

時刻表よりもさらにボロボロのベンチに、少し大きなバッグと
息が上がっている自分の身体を投げ出して次のバスを待つ間、
あたしのアタマの中でグルグル回っていたのは、あの日の試合のコトだった。
43 名前:あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう 投稿日:2002年03月23日(土)02時39分36秒

申し訳程度に作られた小さな観客席にいる彼女の姿を見つけたのは試合終了間際のコトで、
嬉しさ半分情けなさ半分の複雑な心境がココロの中で渦巻いてた。

嬉しかったのはダメモトで無理矢理誘った彼女が応援に来てくれたからで、
情けなかったのはその試合そこまでまるでイイトコなかったからで。

インターハイへの道は思ってたよりもかなり険しくて、結局ウチの高校はその試合で
今年の夏を終えたのだけれど、あたしにとっては高校バスケの終わりでもあった。

なぜならあたしはこの試合を最後に両親の都合で転校しなくちゃならなくて、
これまた都合の悪いことに転校先にはバスケ部がないっていう話だったから。
44 名前:あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう 投稿日:2002年03月23日(土)02時42分08秒

のほほんとした見た目の割には結構な負けず嫌いのあたしは、内心それなりに気合入れて
大事な試合に臨んだけれど、運とマグレとノリの良さだけで勝ち進んできたウチらにとって、
県で五本の指に入ると言われる高校の相手は少しばかり荷が重すぎたっていうのも当然の話で。

大体がバスケットなんてスポーツは、半分くらいは身体の大きさで結果が決まるようなモノで、
センターなんてポジションは特にそうだ。
押し合いへしあいのゴール下場所取り合戦から始まるリバウンド競争にはそこそこ自信を
持ってたのに、あたしより5センチも高い『電波塔』なんて言われてる相手センターに
完全に抑えこまれちゃうし、何回かあったジャンプボールでも一回もボールに触れずじまいで、
最後の試合だっていうのにかなり情けない姿晒しながら走り回っていたときだった。

彼女の姿を見つけたのは。
45 名前:あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう 投稿日:2002年03月23日(土)02時43分06秒

最後くらい勝ってカッコいいトコ見せたかったなあ ――― なんて思ったけれど、
その時点じゃどうあがいたって勝ち目はなくなってて。
『最後まで諦めるな』なんて嘘くさい根性論を言うヒトもいるんだろうけど、
残り15秒で122対80をひっくり返すなんて、ジョーダンが5人揃ってたって不可能だ。


・・・・・・けどさ、ただ負けるのもシャクにさわるじゃない?
46 名前:あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう 投稿日:2002年03月23日(土)02時45分16秒

みんな苦笑い浮かべて残りの時間が過ぎていくのを待ってるだけで、
だけどこのまんまじゃ終われないからとりあえず走る。
フロアを踏みしめるバッシュの音がやたら気持ちよく耳に響いて、
しょうがないから最後だし好きにさせてやるよって感じのパスがあたしの胸へと飛んでくる。

5人抜きのドリブルシュートが出来るようなテクも、
ダンクシュートを相手の頭の上から叩き込めるようなジャンプ力もないから、
残りの時間でできるカッコいいコトってあたしの頭じゃ後一つしか思い浮かばなくって、
あんまり練習したコトないんだけどとりあえず試してみようって考えた。
47 名前:あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう 投稿日:2002年03月23日(土)02時47分52秒

自信なんてさらさらないけど、フリースローと大して変わんないはずだろうって
足りないアタマで分析する。
センターラインあたりから、いつもより力をいれて投げてみたボールが
綺麗な放物線を描いて飛んでいく様子を見ながら、
あたしはボールの行方よりもなぜだか違うコトが気になっていた。
48 名前:あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう 投稿日:2002年03月23日(土)02時48分39秒




――― あの娘あたしがロングシュート決めたらどんな顔するだろう ―――




49 名前:あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう 投稿日:2002年03月23日(土)02時50分44秒

その数秒後の笛とともに当然のごとく試合は負けて、先輩たちが泣いてるのをぼんやりと
『ああ青春だなあ』 なんてヒトゴトのように眺めていたけれど、
あたしの中ではもっともっと大事なコトがあって、
でもそれを口に出したら人でなしとか場をわきまえろとか言われそうだったのでやめておいた。

結局その後、先輩の引退式やら引越しの準備やらで夏休みはあっという間に過ぎてって、
そのことは誰にも確かめられないまま、今日を迎えてしまって。
50 名前:あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう 投稿日:2002年03月23日(土)02時51分21秒



――― バスのドアが開いて、あたしは一番後ろの席へと腰をおろす。

頬杖ついて窓の外眺めながら少しだけセンチな気分にひたって、
懐かしい街並みと生活に思いをはせる。

わりとマジメに頑張ったバスケと、
勉強はあんまりしなかった高校生活と、
彼女の姿を目で追いかけてたテニスコートと、
告白さえできなかった自分に。
51 名前:あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう 投稿日:2002年03月23日(土)02時55分13秒


夏休み明け、だいぶ新しい生活になじんできた頃、元クラスメイトが手紙をくれた。
何人かが一緒に書いて出したらしく、いろんな筆跡の懐かしい文字が便箋いっぱいに躍っていて、
ほんの少ししか経ってないのに懐かしさ満点だったんだけど、おまけにどこでどう撮ったんだか
あのシュートの瞬間とその後の彼女の表情の写真まで一緒に入っていて、
その裏側にはクラスメイトの字でイタズラっぽくこう書かれていた。


『来週日曜に石川そっち行くってよ! オシャレして出迎えるように!』


あたしの夏は、まだ終わらない。
52 名前:あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう 投稿日:2002年03月23日(土)02時55分45秒
おわり。
53 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月23日(土)02時57分50秒
はぢめていしよしなるものを書いた。

・・・・・・ダメダメやん、自分。

それはそうと元ネタ知ってる人はいるんだろうか。いやいなさそうだ(反語)。
54 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月23日(土)02時58分51秒
次は何にしようかな、と。
55 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月23日(土)20時27分37秒
初めて読みました。
なんか上手く言えないけど懐かしい文体ですね
56 名前:じゃない 投稿日:2002年03月24日(日)02時00分46秒
(^▽^)ノ<元ネタわかりまーす

(0^〜^0)<女の子のために今日は歌うよ〜 も好きです。
57 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月25日(月)01時49分42秒
>>55
懐かしいですかね。 本人よくわかってませんが。
>>56
あ、有名人だ(w 自分は SUPER GIRL とか好きなんですけどね。
で、いしよしヲタから見て許せる範囲の作品ですかね?
58 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月25日(月)07時31分20秒
全然OK。気が向いたらまた書いてくださいな
59 名前: 投稿日:2002年03月25日(月)21時25分11秒
元ネタは俺もわかるよ。
というか、カラオケで歌うしね。
どぉなっちゃてんだよ、と家庭教師が18番です。
60 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月26日(火)15時02分39秒
レス多謝。
>>58 
また書いてみた。
>>59
また濃い歌を(w 家庭教師って歌うの難しくない?

いしよしリベンジ。岡村ちゃんつながりで。
61 名前:1/2 投稿日:2002年03月26日(火)15時03分39秒


ゆっくりと、ゆっくりと。

二人を乗せて、自転車は走る。



62 名前:1/2 投稿日:2002年03月26日(火)15時04分10秒

きみの腰に手を回して、涼しげな風を感じる。

額に汗を浮かべながらペダルを踏む単調な音。
遠くの方で鳴いているセミの声。
背中に耳をつけたら聞こえてくる、きみの心臓の音。

黙っているとなぜか切なくなってコトバを一生懸命探すけれど、うまく話せなくて
ぎゅっと回した手に力をこめる。

63 名前:1/2 投稿日:2002年03月26日(火)15時05分26秒

きっとおおっぴらには言えない恋愛をしてると、ときどき思う。

「許されない恋って、なんかかっけーじゃん」

なんてきみは言うけれど、実際のところ、問題はイヤになるほど
目の前に積みあがっていて。

ずっと隠しとおすコトの大変さや、
バレた後の二人の生活や、
黙認してた事務所の立場や。

64 名前:1/2 投稿日:2002年03月26日(火)15時06分13秒

ただ 『好き』 ってだけでなんでこんなに苦しい気持ちになるんだろう。
いつもいつもそんなコト考えては暗くなってしまうけれど、
それでも二人でいることをやめられないわたしは、きっと弱い人間なんだと思う。


いっそのこと二人が一つだったら、こんなにつらい思いはしなくてすんだのに。
いつかそんなコトを話したら、きみは笑ってこう言った。

「それじゃあさ、梨華ちゃんにキスとかできなくなっちゃうねえ」


65 名前:1/2 投稿日:2002年03月26日(火)15時07分00秒

わたしたちは二人別の人間で、だからこそ一緒にいるときに幸せを感じられて、
きみは意識しているのかしていないのかそれをなぜかわかっていて、あたしの
不安をかき消してくれる。

あたしのほうが少しオトナのはずだけど、そんなきみの優しさにいつも救われてる。
面と向かってありがとうなんて言えないから、やっぱり回した手に力をこめるしか
できないけれど。

66 名前:1/2 投稿日:2002年03月26日(火)15時07分51秒

ゆっくりと、ゆっくりと。

二人を乗せて、自転車は走る。

おじぎしているヒマワリ畑を通り越して。

真っ赤な夕日のほうへ。



――― そんなコト考えた、二人の休日。
67 名前:1/2 投稿日:2002年03月26日(火)15時08分26秒
おわり。
68 名前:夜叉 投稿日:2002年03月26日(火)16時00分58秒
タイトル見て、どきっとしました。自分も好きなもんで。
がんがってください。
69 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月27日(水)02時05分31秒
短いけどキュッとくる。良かったです
70 名前:よすこ大好き読者。 投稿日:2002年03月27日(水)03時07分52秒
私も、その世代の人間だったので・・・・あ!と思っちゃいました。(笑
いしよし、いい感じです。まだ、短編ありますか?
がんがってくださいね。
71 名前:名無しさん 投稿日:2002年03月27日(水)22時14分10秒
微妙にこのスレは読者も作者も平均年齢が高い気がする(w
>>68
タイトル。『カルア』か『あの娘〜』か迷ったけど『あの娘〜』は長すぎたので。
いまだ『生徒会長』で何叫んでんのかわかってないです。
>>69
よろこんでいただければさいわいです。
>>70
いしよしではないですが。
72 名前:イケナイコトカイ 投稿日:2002年03月27日(水)22時14分56秒



――― あいたいよ。


73 名前:イケナイコトカイ 投稿日:2002年03月27日(水)22時15分31秒

こんな晴れた日に何もすることがないあたしは、
ただ空を眺めながらあなたのコトを考えます。

あなたがこの部屋にいた記憶だけ思い出しながら、
いつまでも終わったコトを追いかけ続けるあたしは
ダメな人間なのでしょうか。


息ができなくなるほど、思いつめた恋。
74 名前:イケナイコトカイ 投稿日:2002年03月27日(水)22時16分43秒

きっとあなたは今ごろようやく起きだして、淹れたてのコーヒーでも
飲んでいるのでしょう ――― おそらくは二日酔いの頭を抱えながら。
片付けるのがヘタなあなたのコトだから、
部屋の床には雑誌やCDや昨日着ていた服やお酒のグラスなんかが散らばっていて、
それを踏みつけないようにシャワーを浴びにいくあなたの姿が、なぜか目に浮かびます。


片付けてあげましょうか?

呼んでくれれば、すぐにでも行きますよ。
75 名前:イケナイコトカイ 投稿日:2002年03月27日(水)22時17分14秒



――― あいたいよ。


76 名前:イケナイコトカイ 投稿日:2002年03月27日(水)22時17分51秒

一人の部屋のドアを開けるのにまだ慣れないあたしは、
ただ星を眺めながらあなたのコトを考えます。

あなたが抱きしめてくれた記憶だけ思い出しながら、
二度とは叶わないコトを願い続けるあたしは
イケナイ人間なのでしょうか。


絶対離さないと思っていた、切ない恋。
77 名前:イケナイコトカイ 投稿日:2002年03月27日(水)22時18分37秒

きっと昔ならば、ドアを開けるなり抱きついて、
少しお酒くさいコトを冗談半分で怒りながらあなたの唇を確かめて、
あなたがそこにいる喜びを感じていたのでしょう。
今、あなたを出迎える大切なひとがいるのかはわからないけれど、
もし少しでも寂しさを感じているのなら。


呼んでくれませんか?

週刊誌ならまだ、気づいてないですよ。
78 名前:イケナイコトカイ 投稿日:2002年03月27日(水)22時20分09秒

出会った頃はまだまだコドモで、きっとあなたから見たら
今でもそうなのかもしれないけれど、あたしもあれからの4年間で
少しは大人になって。 だけどあなたがそばにいないこの1年で、
あの頃に戻ってしまった気がします。


寂しがりで泣き虫であなたがいなければ眠るコトさえできなかった、あの頃の弱いあたしに。
あなたに頼ってばっかりの、いけないあたしに。
79 名前:イケナイコトカイ 投稿日:2002年03月27日(水)22時20分41秒



――― あいたいよ。



80 名前:イケナイコトカイ 投稿日:2002年03月27日(水)22時21分28秒

だから、もう一度だけ呼んでくれませんか?
あの優しい声で、もう一度だけ。



―――「なっち」って。
81 名前:イケナイコトカイ 投稿日:2002年03月27日(水)22時22分02秒
おわり。
82 名前:イケナイコトカイ 投稿日:2002年03月27日(水)22時22分38秒
なっちゅ。 わかるとは思いますが。
83 名前:59です。 投稿日:2002年03月27日(水)23時03分52秒
酒が入ると家庭教師歌うんです。
エロ味全開de歌ってるよ。
84 名前:夜叉 投稿日:2002年03月28日(木)21時16分28秒
抱えきれないほどのなっちの気持ちが溢れてて、すごく良かったです。

>微妙にこのスレは読者も作者も平均年齢が高い気がする(w
どきっ…(^^;;、そんなこと無いですよ、なんて言ってみるテスト(笑)。
85 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月30日(土)01時15分34秒
>>83 
シラフじゃ歌えないやね、あれは。
エロっつーか変態に近いもんがある。
>>84 
だって最近の10代の若者は岡村を知らないだろーと思われ。
あ、SOPHIAのプロデュースとかやってんのか。どうだろう。
知ってるっていう若者はカムアウトして。
   
岡村ちゃんに行き詰まってきたので他のネタ考え中。なんかあるかねえ。
86 名前:22歳は若くないっすか? 投稿日:2002年03月30日(土)02時59分21秒
岡村靖幸、結構好きです。
貴方の文章も凄く好み。
これからも楽しみにしてます。
87 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月30日(土)23時39分11秒
川本真琴のプロデュースもしてたよね?
じゃ、『愛の才能』のタイトルで。
88 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月01日(月)00時23分53秒
>>86
そう言っていただけると大変嬉しいです。
>>87
「1/2」を書こうとしたときに考えたんですけどね。イメージできなかった。

消化不良なヤツを一本。
89 名前:ターザンボーイ 投稿日:2002年04月01日(月)00時25分21秒
ヒーローになりたかった。

ヒロインじゃなくて、ヒーロー。
だって、オンナノヒトは弱そうな気がしたから。

アニメじゃなく、特撮。
子供心に、アニメはツクリモノの世界で、自分がそのキャラクターになれるとは
とても思えなくて、でも特撮ヒーローなら自分にもなれるんじゃないかなんて思ってたから。
90 名前:ターザンボーイ 投稿日:2002年04月01日(月)00時26分31秒
仮面ライダーとかウルトラマンとか、もう名前さえ覚えていない何とかレンジャーとか
――― そこには、小さな胸には抱えきれないくらいの夢と希望がつまってた。

幼稚園から帰ってきては服が真っ黒になるまで 「ヒーローごっこ」 をやってたあたしも、
ちょっとずつちょっとずつ大人になって、特撮の世界だってツクリモノって気づくように
なってからは、すっかりそんなコトも忘れていたけれど。


あの日、ふと思い出した。
小さい頃に抱いてた、小さな夢。
91 名前:ターザンボーイ 投稿日:2002年04月01日(月)00時32分03秒
早めに入った楽屋の中で、矢口さんが泣いてた。
あたしに気づいた矢口さんは、慌てて何でもないフリしていたけれど。

唇の端を歪ませて、無理して笑おうとしている姿が
見てられないくらい痛々しくて、あたしは思わず顔を背けた。

その涙の理由を知っていたから。
そしてあたしは、背けた目の先にあった雑誌を力いっぱい破り捨てた。
92 名前:ターザンボーイ 投稿日:2002年04月01日(月)00時35分11秒
いつだって世間は下世話な話題を待ち望んでいて、
それがどれだけのヒトを傷つけているかなんてきっとカケラも考えちゃいない。
あたしたちはただ歌って踊ってみんなを楽しませたいだけだったのに、
ねたんだりひがんだり、あたしたちを困らせて喜んだり――― そんなヒトが
少なからずいるってコトに、どうしようもなく腹が立つ。

雑誌を破り捨てた手と苛立った感情が行き先を失くして、
気づいたら壁を殴ってた。
93 名前:ターザンボーイ 投稿日:2002年04月01日(月)00時36分44秒
大事な仲間が傷ついてるのに、あたしにはそれくらいしかできることがなくて
悲しくてやりきれなくなる。

こんなモノつくったヤツとか、写真売り飛ばしてるヤツとか、こんなの買うヤツとか、
全部ひっくるめてぶっとばしに行きたくなるけれど、そんなコトができるわけもなくて
あたしは自分の無力さをイヤというほど実感する。

何もできない自分がすごく情けなくて、あたしが泣いてどうすんだって思いながらも
なぜか涙が止まらなくて、そんなあたしを見て矢口さんが言った。

「・・・・・・よっすぃは、優しいね」
94 名前:ターザンボーイ 投稿日:2002年04月01日(月)00時39分01秒
正義の味方はいつだってカッコよくて、困ってるヒトや泣いてるヒトを助けてくれる。
彼らには不可能なコトなんてなくて、どんな状況だって必ず何とかしてくれて、
頑張ってるヒトの助けになってくれる。

あたしが憧れたヒーローは、泣いてるヒトに励まされるような弱っちいヒーローじゃなかったのに。
こんなカッコ悪いヒーローなんていなかったのに。

そう思ったらまたボロボロ泣けてきて、矢口さんはそんなあたしのアタマを
優しく撫でてくれたけれど、なんだかそれが恥ずかしくて結局その日の間ずっと、
あたしは矢口さんに何も言えないままだった。
95 名前:ターザンボーイ 投稿日:2002年04月01日(月)00時39分36秒
強くなりたい。

何があっても泣かないように。
大事な仲間を守れるように。

もっともっと。
96 名前:ターザンボーイ 投稿日:2002年04月01日(月)00時44分38秒
あれからずっと、矢口さんは普通を装ってる。
きっとコトバじゃ言えないくらい傷ついてるのに、
それをあたしたちには決して見せないように。

そんな矢口さんを見て、あたしは自分に言い聞かせる。

97 名前:ターザンボーイ 投稿日:2002年04月01日(月)00時46分13秒
強くなるんだ。

世界の平和なんて守れなくていいから、あたしの大切なモノを傷つける全てのものを壊せるくらい。

あの日、ダンボールでつくったオンボロの秘密基地の中で夢見たヒーローみたいに。
98 名前:ターザンボーイ 投稿日:2002年04月01日(月)00時46分46秒
おわり。
99 名前:夜叉 投稿日:2002年04月01日(月)17時31分56秒
この手の作品好きですぅ。がんがってください。
100 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月03日(水)23時31分59秒
>>99
ありがとうございます。

狩の外部スレにちょろっと名前が出てビクーリ。
けど嬉しかった。 読んでくれてる皆様、どうもありがとう。
101 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月04日(木)22時30分57秒
ヨシザワとゴトウの話。
102 名前:8月のセレナーデ 投稿日:2002年04月04日(木)22時31分55秒



――― トモダチって、なんだろう。



103 名前:8月のセレナーデ 投稿日:2002年04月04日(木)22時32分49秒

「ヨシコぉ、一緒にかえろー」

いつもと同じ仕事帰り、いつもと同じようにごっちんが言った。
そして断る理由もないあたしは、いつもと同じように曖昧な返事をして
一緒に帰り道を歩く。

はたから見ればきっと二人は仲良しで、それはたぶん事実なのだけれど、
あたしはなぜかときどき憂鬱になる。

彼女と並んで歩くことに。

104 名前:8月のセレナーデ 投稿日:2002年04月04日(木)22時33分52秒

散りかけの桜が舞う帰り道はいつもよりも少し綺麗で、
一般人にバレないように俯き加減であたしの横を歩くごっちんを、華やかに彩っているように見える。
その姿を見ていると、自分がなんだか必要以上にみずぼらしく思えた。

・・・・・・勝てないよなあ。

どんなに隠してみたって本人が持ってるオーラは自然とにじみ出るもので、
あたしはごっちんが持っているそれのまばゆさに、理由もなく嫉妬する。

あたしは、一生彼女には追いつけないかもしれない。

105 名前:8月のセレナーデ 投稿日:2002年04月04日(木)22時34分49秒

たとえどんなに人数が増えても、たとえどんなに人間が入れ替わっても。
『後藤真希』 は常にあたしたちの真ん中にいるような気がする。
そしてそこは、誰も足を踏み入れられない領域で。

物理的な位置取り ――― 誰がセンターで歌うとか誰がリーダーだとか ――― じゃなくて、
ごっちんが持っている天性の何かをあたしたちはたぶん持っていない。
そしてあたしたちが悩んだり困ったりしているコトは、
本当の意味で彼女にはわからないんじゃないかと思ったりする。


106 名前:8月のセレナーデ 投稿日:2002年04月04日(木)22時35分57秒

たとえばごっちんが突然いなくなったとしても ――― たぶん最初は
悲しんだりするんだろうけど、いずれあたしたちはきっとそれさえも都合よくネタにして、
自分がのし上がろうとするんだろう。
彼女のコト、キライだとかそういうんじゃなくて、そうするコトが
『目立つ』 ためにいちばん効果的だろうから。

けれどごっちんはそんなコトをする必要性がまったくなくて、
きっと彼女は彼女のペースで生きていく。

まわりがほっとかないから。
『後藤真希』 という人間を。

107 名前:8月のセレナーデ 投稿日:2002年04月04日(木)22時36分37秒

「ヨシコ、どしたの? 難しいカオしてさあ」

ごっちんの声で我に返ったあたしは、「何でもないよ」 って愛想笑いしながら
彼女のツッコミをかわす。 なんとなく後ろめたい気分を抱えながら。

そしてあたしたちはまた歩き出す。
二人の間に奇妙な沈黙が流れて、結局あたしは別れ際まで何も話せなかった。

ごっちんのコトキライじゃないのに変なコト考えた自分を、少しだけキライになった。
そして、やっぱりこんな悩みはごっちんにはわからないんだろうと思った。

108 名前:8月のセレナーデ 投稿日:2002年04月04日(木)22時37分43秒

「じゃ、また明日ね」
「うん。 ばいばい」

別れ道彼女の背中を見送りながら、後でまた電話しようと思った。

あたしたちはトモダチだって確かめるために。



109 名前:名無しさん 投稿日:2002年04月04日(木)22時38分26秒
おわり。
110 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月04日(木)22時38分57秒
なんかすごく変な文章になった。鬱。
111 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月07日(日)01時00分55秒
またイシカワとヨシザワの話でも書いてみようか。
112 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月07日(日)02時36分07秒
期待しちゃったり
113 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月09日(火)00時06分48秒
>>112
期待にそえるかどうか。
初心にかえって岡村ちゃん。
114 名前:だいすき 投稿日:2002年04月09日(火)00時07分28秒

水平線がはるか彼方に見えて、ああ地球ってホントに丸いんだって実感する。
空の色と海の色が溶け合ってるような青が信じられないくらいキレイで、
何かに突き動かされるように目の前の砂浜へと走り出す。

シーズン前の海辺は、あたしたちだけで貸し切った秘密の楽園。
115 名前:だいすき 投稿日:2002年04月09日(火)00時08分30秒

「かっけー」
「・・・・・・そればっかり」

波打際まで走ってって遠くを見つめるあたしと、冷ややかな視線でそれを見守る彼女。
電車とバスを何本も何本も乗り継いで、やっとのことでたどり着いた先に見えた海は
想像以上にあたしを気分良くさせてくれたけれど、隣の彼女は乗継の嵐に少し疲れているみたいで、
あたしはちょっとムキになる。

せっかくのオフにわざわざ遠出してきたんだから少しくらい
喜んだカオ見せてくれたっていいじゃんなんて思いながら。

116 名前:だいすき 投稿日:2002年04月09日(火)00時09分07秒

「えー、だってなんかカッコよくない?」
「その表現は微妙に間違ってると思うんだけど」
「そっかなー」
「そうです」

少し早く生まれたくらいでオトナぶって醒めたフリしてる彼女。
そりゃあたしのアタマはよくないけれど、感動を素直に表現するのも大事ですよ?

「じゃ、梨華ちゃんなら何ていうのさ」
「え? そりゃまあ、普通だったらキレイだなあと・・・・・・わっ!?」

117 名前:だいすき 投稿日:2002年04月09日(火)00時10分16秒

こんなどうでもいい質問にさえ一生懸命答を考えてしまうトコロが
だいすきだったりするんだけど、あたしはついついそんな彼女をからかいたくなる。
手のひらですくった水が宙を飛んで、整った顔と明るい髪の毛を濡らすのを確認してから、
あたしは一目散に背中を向けて走り出した。
密かに負けず嫌いの彼女が、ムキになって追っかけてくる様子を想像しながら。

「くやしかったらココまでおいでーっ」

白い雲と青い空と広い海が見える砂浜に響くあたしの声。

118 名前:だいすき 投稿日:2002年04月09日(火)00時12分11秒

しばらく走ってから適当なトコで足を緩めてつかまってあげる。
だって、体力勝負じゃ負けるはずないから。
それは彼女もわかってるはずなのに、まるで自分の力でつかまえたみたいに
はしゃいでるから、またあたしはからかってあげたくなってしまう。
そんなトコもやっぱりだいすきだったりするんだけど。

ゼーゼーいいながらあたしの腕をつかむ彼女をちょっとだけダッシュして引き離したら、
今度は足を止めての水のかけあい。 くだらないコトに本気になってる彼女の顔が愛しくて、
あたしは時が経つのも忘れていく。

・・・・・・このままずっとこの時間が続けばいいのに。

119 名前:だいすき 投稿日:2002年04月09日(火)00時14分24秒

きっとはたからみればいい年して何やってんだかっていう光景だけど、
たまにはそんな日があったっていいじゃんなんて思うのは、
馬車馬みたいに働かされてる日常とそれにまとわりついてくるユウウツな悩みを
ほんの一時でも忘れられるから。

なんだかんだ言いながら結構楽しそうな彼女を見て、
あたしはほんの少しだけ哀しくなった。
120 名前:だいすき 投稿日:2002年04月09日(火)00時16分30秒

許されない感情をお互いに抱いてるあたしたちにはほんの僅かしかない
プライベートな時間にも気の休まるヒマがなくて、その後ろめたい想いが日を追うごとに
二人のココロを押しつぶしそうになっていく。

何も悪いコトしてないじゃんなんて開き直ってみたってきっと世の中は
あたしたちを後ろ指さして非難するんだろうし、それは大好きな――― 彼女とは違う意味で ―――
仲間たちにも迷惑がかかってしまうから、結局はひっそりこっそり
このカンケイを続けていくしかないってわかっているのだけれど。
121 名前:だいすき 投稿日:2002年04月09日(火)00時17分24秒

『だいすき』 だけじゃ、ダメなんだ。

そう言って泣く彼女を、ゲンキにしてあげたいじゃん。



こんなコトしか思いつかないあたしだけど。
122 名前:だいすき 投稿日:2002年04月09日(火)00時21分03秒

帰りの電車、うつらうつらしてる彼女の髪があたしの顔にかかって一瞬ドキッとする。
乾ききっていない髪の向こう側の眠たげな様子があまりにコドモっぽくて、
全然似てないんだけど小さな頃に遊園地に行った帰りの弟の顔を思い出させた。

その表情にホッとして、なんとなくため息をつく。
そしてつないだ手を握り直して、もう片方の手で彼女の髪を撫でながら
あたしもまたゆっくりと目を閉じた。




――― また、遊びに行こうね。
123 名前:だいすき 投稿日:2002年04月09日(火)00時21分34秒
おわり。
124 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月09日(火)00時22分35秒
イシカワとヨシザワ。
元ネタから随分と離れてしまいましたが。
125 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月09日(火)02時39分10秒
楽しい嬉しいだけじゃ、世間的に許されない関係。
吉澤の語りがちょっと切ない雰囲気で良かったです
126 名前:書いているヒト 投稿日:2002年04月17日(水)20時16分06秒
>>125
ありがとうございます。

これからかなり不定期更新になるかと。
読んでる人も少ないと思われますが告知。
127 名前:星のラブレター 投稿日:2002年04月21日(日)04時17分39秒

燃やされちゃうかもしれない。
捨てられちゃうかもしれない。
返事なんて返ってこないかもしれない、

けど、別にかまわない。

嬉しかったんだ、ホントに。
128 名前:星のラブレター 投稿日:2002年04月21日(日)04時18分22秒

窓から漏れてくるほんの僅かな光の下で、そっと便箋を折って封筒に入れる。
カサカサっていう紙の音が部屋中に響いて、別に誰に見られているわけでもないのに
ドキっとする。

・・・・・・悪いことしてるわけじゃないんだから。

そう思っても、やっぱり誰かに見られたら恥ずかしいから。

用意しておいた切手を封筒に貼り付けた後、何があっても開かないように念入りに
封をしてから、ようやく緊張がほぐれた。
129 名前:星のラブレター 投稿日:2002年04月21日(日)04時19分07秒

これ読んだら、なんて言うかな。

相変わらず字が下手だとか。
漢字が少ないとか。
ちゃんとした日本語使えとか。

あの頃みたく「しょうがないな」って感じで、笑いながら読んでくれるかな。
それとも、中身読まないで捨てちゃうかな。
一応、差出人の名前は封筒には書いてないけど。

捨てられてもいいか。
だってそれは、あたしの筆跡、覚えててくれてるってことだから。
130 名前:星のラブレター 投稿日:2002年04月21日(日)04時19分49秒



「なんで!? なんでやめるなんていうのさ!?」
「ちょっと話聞けって、後藤」
「やだ、聞かない! 聞いたらいちーちゃんは残ってくれるの?」
「や、そういうわけでは・・・・・・」
「じゃあ聞かない! ずっと一緒にいるっていったじゃんか、いちーちゃんのばかあ!」



131 名前:星のラブレター 投稿日:2002年04月21日(日)04時20分51秒

思い出すだけで顔が赤くなる。
あたしってば、コドモすぎる。

その日から、一言も口きかなかった。 いちーちゃんも、なんだか怒ってるみたいだったし。
そしてあの日から、一回も連絡とってない。
ケータイのメモリも消したし、アドレスも知らない。
圭織とかとはたまに遊んでるみたいだったけど、あたしは興味がないふりしてた。

だから、ホントに発表されるまで知らなかった。


復帰すること。
132 名前:星のラブレター 投稿日:2002年04月21日(日)04時21分28秒

たまに圭織にも言われてた。

「紗耶香、心配してるよ。 後藤のこと」

最初は、心配ならやめなきゃよかったじゃんなんて思ってた。
謝らなきゃって思えたのは、だいぶたって、あたしがソロをやらされ始めた頃。

誰も横にいないのはなかなかに寂しくて辛くてしんどくて ――― いちーちゃんが
自分からこの道を選んだことを、尊敬できるようになってから。
133 名前:星のラブレター 投稿日:2002年04月21日(日)04時21分59秒

自分が経験して、初めて素直に応援できるようになって、
それまでの自分の幼稚さに気がついた。

謝らなきゃって。
仲直りしなきゃって。
「がんばれ」って言ってあげなきゃって。

あの時言えなかったこと、伝えなくちゃって思ったんだ。


――― でも、電話番号もアドレスも知らないから。
134 名前:星のラブレター 投稿日:2002年04月21日(日)04時25分15秒

字も下手だし、漢字も少ないし、日本語になってないかもしれないけど、
あたしなりに一生懸命、便箋に3枚も手紙を書いた。

オフだっていうのに朝からずっと。
書き直し書き直ししながら。
いっぱいいっぱい想いをこめて。


そして閉じた封筒にもう一度お祈りしてから、あたしはようやく眠りにつく。
135 名前:星のラブレター 投稿日:2002年04月21日(日)04時26分20秒

郵便屋さん、書ききれなかったあたしのキモチも、できればちゃんと伝えてください。
そしてもし、あたしの手紙を見ていちーちゃんが嬉しそうな顔したら、伝えてもらえますか?


「返事、できれば書いてあげてね」って。
136 名前:星のラブレター 投稿日:2002年04月21日(日)04時26分54秒
おわり。
137 名前:書いているヒト 投稿日:2002年04月21日(日)04時27分29秒
スレ流しをしてみよう。
138 名前:書いているヒト 投稿日:2002年04月21日(日)04時28分39秒
もはやスレタイトルと
何の関係もなくなってきてますが。
139 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月22日(月)02時21分33秒
一途で良いなぁ…
マターリ萌え
140 名前:Raining 投稿日:2002年05月06日(月)14時31分57秒


未来なんて、いらないと思ってた。


――― きみがここにいない未来なんて。



141 名前:Raining 投稿日:2002年05月06日(月)14時32分40秒

きみが選んだ夢にあたしは限りなく無力で、
それを自分で認めるにはあたしは果てしなく子供すぎた。

きみにとってのあたしは、きっと不必要な存在だと。
それだけならまだしも、きっとあたしはきみにとって足手まといですらあるのだろうと。

ほんのわずかな時間のあいだに、あたしはきみにすべてを預け、
そして共にあるはずだった未来を夢見た。

いつかその未来は分岐していくことに気づかずに。
142 名前:Raining 投稿日:2002年05月06日(月)14時33分24秒

きみの声も。
きみの笑顔も。
きみの温かさも。

いまはもう、この身体に感じることができない。
TVの向こう側、きみの歌声をあたしは何の感慨も覚えないまま聴き流す。
あれからきみは何かを掴んだんだろうか。

ここには、何もない。
きみと夢見た未来も、一緒に過ごすはずだった日常も。
143 名前:Raining 投稿日:2002年05月06日(月)14時34分03秒

だからあたしは手首を切ってみた。

何度も、何度も。

紅い液体が流れ落ちて、少しだけあの頃の温かさを思い出す。

このままいなくなってしまえばいい。
このまま忘れられてしまえばいい。

きみも、あたしも。
あの日々さえも。
144 名前:Raining 投稿日:2002年05月06日(月)14時35分21秒


あの頃の未来に、あたしたちは立っている。


――― 幸せかどうかは、誰も知らない。


145 名前:書いているヒト 投稿日:2002年05月06日(月)14時36分32秒
おわり。
146 名前:書いているヒト 投稿日:2002年05月06日(月)14時39分07秒
なんだかな、コレ。意味わかんない。
どうなんだろう。

>>139
ありがとうございます。
147 名前:書いているヒト 投稿日:2002年05月06日(月)14時39分47秒
短編投票して下さった方、感想下さった方、ありがとうございました。
148 名前:名無し娘。 投稿日:2002年05月07日(火)18時01分48秒
短編集、良かったよ。
長編も読んでみたい気分。
149 名前:書いているヒト 投稿日:2002年05月09日(木)01時31分40秒
>>148
ありがとうございます。
長編は、ねえ・・・・・・。いずれ書いてはみたいんですけど。
設定考えてるだけで収拾つかなくなって挫折した記憶が。放棄してしまいそうなのも怖い。

それはそうと、また煮詰まってきたんで誰かネタを下さい(w
150 名前:ミカ・ニネン 投稿日:2002年05月09日(木)22時48分43秒
ども、先日のチャットではどうもでした。

雰囲気たっぷりの文がいいですね。
私の場合はどうしても説明臭くなっちゃうので、こういう詩的な表現ができる人ってすごいなあ、と。
スマートに短くまとめられるところとか、勉強になります。

ではでは、これからもよろしくです。
151 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月10日(金)20時23分03秒
前から読ませて頂いてるのですが、私もぜひ長編が読んでみたいです。
できれば「1/2」や「だいすき」のようないしよしを……。
152 名前:書いているヒト 投稿日:2002年05月13日(月)00時54分41秒
>>150
ありがとうございます。
スマートっていうよりは細かい描写ができないだけですが。
これからもよろしくです。
>>151
お世話になっております。長編。書けるかなあ。
自分のよりそちらのいしよしが好きなんですけど(w

えっと、マジでネタが思いつかないので気分転換に長編にとりかかってみようかと。
そんなわけでお休みしますです。戻ってこないっていう話もありな方向で。
完成した時過去ログにいってなければここで書こうかなと。

では。
153 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月29日(水)00時20分37秒
こっそり保全。
短編、また読みたかったりします。
もちろん、お時間とネタのある時でいいんで。
がんがって下さい。
154 名前:書いているヒト 投稿日:2002年06月17日(月)18時28分44秒
いろいろ考えることがありまして。またぼちぼち書いてきます。
長編は・・・・・・まあそのうち(w

>>153 保全ありがとうございます。
155 名前:書いているヒト 投稿日:2002年06月17日(月)18時29分28秒



飛行機雲が、梅雨の合間の青空に真っ白な線を引いていった。



156 名前:飛べ模型ヒコーキ 投稿日:2002年06月17日(月)18時30分33秒

電車が終点に着いて、あたしは古ぼけたリュックを背負って改札へと向かう。

ずっとずっと前 ――― まだきみがあたしの側でちょっとだけ偉そうにしていた頃に何か
のロケで来たこの駅は、あの頃から少しも変わってはいない。

何かに疲れたときに必ずくるこの駅。
あったかい思い出がつまった駅。
157 名前:飛べ模型ヒコーキ 投稿日:2002年06月17日(月)18時31分04秒

「収録だるーい」
「・・・・・・誰よりも睡眠時間長かったくせに、そういうこというかな」
「なんで睡眠時間長かったってわかるの?」
「ゴトウが遅刻する理由なんて寝坊以外に何があるんだよ」
「あはっ、さすがいちーちゃん」
158 名前:飛べ模型ヒコーキ 投稿日:2002年06月17日(月)18時31分37秒

ちょっと先に入ったからって偉そうで大人ぶって、細かいことにぐちぐち文句つけて。
だけど誰よりもあたしに優しくて、何をするにも心配してくれて、あたしのことをいちば
ん理解してくれた人。

きっとそんな日々がいちばん幸せだったって気づいたのは、きみがいなくなってから。

大好きだった。
たぶん、あの頃からずっと。

14歳のあたしは、それに自分で気づかなかったけれど。
159 名前:飛べ模型ヒコーキ 投稿日:2002年06月17日(月)18時32分10秒

「んー、ホントにだるいよお・・・・・・。いちーちゃん、逃げ出さない?」
「はあ? 何言ってんのおまえ」
「いいじゃんいいじゃん、ローマの休日みたいにさ、手と手を取り合って」
「・・・・・・で、1時間後には強制送還されて裕ちゃんからたっぷりお説教される、と」
「むー、夢がないな、いちーちゃんは」
「ゴトウが夢見すぎなんだ」
160 名前:飛べ模型ヒコーキ 投稿日:2002年06月17日(月)18時32分41秒

だけど、あたしより先にきみは逃げちゃった。

カタチのない夢、追っかけて。
あたしのいないところへと。

「ゴトウ、一緒にいく?」って訊いてくれればよかったのに。
そしたら、二人でいつか見た映画みたいに逃げ出したのに。

たとえその先に何があっても。
161 名前:飛べ模型ヒコーキ 投稿日:2002年06月17日(月)18時33分11秒

「うー、だって待ち時間退屈なんだもん。 夢でも見なきゃやってらんないっス」
「仕方ないなあ、コレで遊んでなよ」
「何コレ? ヒコーキ?」
「組み立てて遊んでりゃヒマつぶしにはなるだろ」
「ゴトウ、こんなんで喜ぶほどコドモじゃないんだけど」
「オコサマじゃん、誰がどう見ても」
「っつーか何でこんなモノもってるかな、いちーちゃんは」
「そこの駄菓子屋さんで売ってた」
162 名前:飛べ模型ヒコーキ 投稿日:2002年06月17日(月)18時33分41秒

二人で簡単な説明書を見ながら作ったヒコーキは、なぜかうまく飛んでくれなかった。

「ばっか、ハネの角度が違うんだって」
「そんなこと言うならいちーちゃんやってみなよー」

何回も何回も試したけれど、結局それが飛ぶことはなくて、そのうちに収録の時間がきて
そのままになってしまった。

今思い出すと、あれは二人の未来を象徴していたような気がする。
あたしたちの共同作業が、その一回きり成功しないまま終わってしまったように、
きみもまたわずかな思い出だけ残していなくなってしまったから。
163 名前:飛べ模型ヒコーキ 投稿日:2002年06月17日(月)18時36分52秒
だからあたしはここに来る。
今はもう誰も助けてくれないけれど、きみの記憶に触れることで頑張れる気がするから。

きみとのわずかな、でも楽しかった思い出を忘れてしまわないように。
あたしは一人じゃないことを確かめるために。
いつかまた、きみと同じ夢を追いかけられるように。

そして願いをこめてヒコーキをつくる。
あたしの思いをのせてきみの元へ届くことを願って。



           ――― きみがとてもすきです ―――
164 名前:飛べ模型ヒコーキ 投稿日:2002年06月17日(月)18時37分48秒
おわり。
165 名前:書いているヒト 投稿日:2002年06月17日(月)18時38分20秒
むー。
166 名前:書いているヒト 投稿日:2002年06月17日(月)18時39分10秒
sageでやるつもりだったのに・・・
167 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月21日(金)09時10分59秒
あともう一回あなたから
またもう一回の電話で 僕らはでなおせる
でもこういったことばっかり続けたら
あの思い出がだめになってゆく

がんばってみるよ
優勝できなかったスポーツマンみたいに
ちっちゃな根性身につけたい

ここ最近の僕だったらだいたい午前8時か9時まで遊んでる
ファミコンやってディスコに行って
知らない女の子とレンタルのビデオ見てる
こんなんでいいのかな解らないけれど
どんなものでも 君にかないやしない

あの頃の僕はカルアミルク飲めば
赤くなってたよね
今なら仲間とバーボンソーダ飲めるけれど
本当はおいしいと 思えない

電話なんかやめてさ 六本木で会おうよ
いますぐおいでよ
仲なおりしたいんだ もう一度
カルアミルクで
168 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月21日(金)09時11分40秒
女の子ってか弱いもんね
だから庇ってあげなきゃだめだよできるだけ
だけど全然君にとってそんな男に
なれず終まいでごめんなさい

がんばってみるよ
優勝できなかったスポーツマンみたいに
ちっちゃな根性身につけたい

ばかげたプライドからもうお互い抜け出せずにいる
誕生日にくれたねカルアミルク
この前飲んだらなんだか泣けてきちゃったんだよ

電話なんかやめてさ 六本木で会おうよ
いますぐおいでよ
仲なおりしたいんだ もう一度カルアミルクで

電話なんかやめてさ六本木で会おうよ
いますぐおいでよ
仲なおりしたいんだ もう一度
カルアミルクで oh…
All right
がんばってみるよ oh…
いますぐおいでよ baby
いますぐおいでよ baby
Come to baby oh…
169 名前:天体観測 投稿日:2002年06月23日(日)03時11分42秒

眠れない。

東京に来て何年かがたって、きっとこれから何年も過ごしていくのだろうけれど、梅雨か
ら夏にかけてのこの寝苦しさに慣れることは一生できないと思いながら、彼女はベッドか
ら降りた。

窓の外では、しとしとと昼間からの小雨が降り続いていた。
170 名前:天体観測 投稿日:2002年06月23日(日)03時12分20秒

冷蔵庫を開けて、彼女はミネラルを取り出すと半分ほどを一気に飲み干す。
身体中にまとわりつく湿気が気持ち悪くて、エアコンのスイッチを除湿にあわせて入れた。

しばらくすると、一人で暮らすには広めの部屋に先程までよりはいくらかましな空気が流
れ始める。
残ったミネラルをチビチビと飲みながらTVのスイッチを入れたけれど、いくらチャンネル
を変えても砂嵐か都内の風景しか映らなくてため息をつく。

話し相手がいれば、少しは気も紛れるのに。

彼女は部屋を見回して、もう一度ため息をついた。
171 名前:天体観測 投稿日:2002年06月23日(日)03時13分44秒

「どした? 寝らんないの?」

髪の長い同居人が、ベランダで空を眺めていた。
ときどきどこかへ行ってしまうクセを持つ同居人とは、そのころはほとんど日常会話さえ
交わさない関係になっていたけれど、何となく ――― 本当に何となく、声をかけてみた。

「ん」

必要最小限な返事を返した後、同居人は再び空を見上げる。
その態度に彼女はいくらかカチンときたけれど、そこで怒るのも大人気ないと思って隣に
並ぶ。

見上げた空には、二、三の星が浮かんでいた。
172 名前:天体観測 投稿日:2002年06月23日(日)03時14分31秒

しばらく互いに黙ったまま空を眺めていたけれど、沈黙に耐え切れなくなった彼女が口を
開いた。

「空、暗いね」
「うん・・・・・・なんかさ、東京って星少ないよね」
「そだね」
「こっちきて満天の星空って見たことない」
「・・・・・・都会だからね、北海道と違って」
「室蘭みたいな田舎と札幌一緒にされるの、なまらムカつくんだけど」
「大して変わんないべさ、だいたい手稲なんて札幌とは認めないべ」

・・・・・・最近はいつもこうだ。

くだらない話のはずがいつのまにか喧嘩腰になってしまう。
馬鹿馬鹿しくなって切り上げた。

「やめるべ、東京の人から見たら多分室蘭も札幌も変わんないっしょ」
「・・・・・・ん」
173 名前:天体観測 投稿日:2002年06月23日(日)03時15分25秒

それからしばらく二人は何もしゃべらなかった。
数少ない星の光が、雲の間に消えていく。
はるか遠くで、眠らない都会の光だけが瞬いていた。

「うちら、これからどこまでいくんだろうね」

同居人がボソリとつぶやく。
疑問と諦観と希望が微妙に入り混じった言葉に、彼女はハッとなってその横顔を見る。
それは、普段の「どこかに行っている」横顔とは明らかに異なっていた。
174 名前:天体観測 投稿日:2002年06月23日(日)03時16分23秒
「なっちはさ、そういう疑問持ったことない?」
「・・・・・・あんまないかも」

そんな答しか返せない自分がなんだかコドモに思えて、彼女は下を向いた。

「五万枚売ったとか、一位になったとか・・・・・・なんか、虚しくなっちゃってさ」

同居人もまた軽くうつむいて、彼女に聞かせるわけでもなくとつとつと語りだした。

「TV局が『絶対成功する』って確信してなきゃあんな手売り企画なんて成り立たなかった
 だろうし。 失敗してればなんか別の方法でデビューできてただろうし。
 一位取ったって、あの曲がみんなの記憶とかに残るなんて、とても思えないし。
 じゃあ、あたしは誰のために、何のために歌ってる?
そりゃ好きな歌を歌ってお金稼げるのは嬉しいけど、なんかつまんなくない?」
175 名前:天体観測 投稿日:2002年06月23日(日)03時19分02秒

「・・・・・・そんなコト言われても、うちらに何ができるっていうのさ」
「さあね」

そう言って再び空を見上げた同居人の横顔は、今まで見たこともないくらい大人びていて、
だけどなぜか儚げに見えて。

きっとその場で彼女が何か言ってあげることが出来れば、満足したのかもしれない。
あるいは、微かに震えていた手を握ってあげることができたら。

でもそのときの彼女何も言えず、尋ねた同居人も別に明確な答を求めるほど
大人ではなかった。
176 名前:天体観測 投稿日:2002年06月23日(日)03時19分53秒
誰もいない部屋で、エアコンの音だけが低く鳴り響く。
彼女は残り少なくなったミネラルを飲み干し、再びベッドへと向かう。

あの日、カオリが言った問いの答を探しながら、あたしは歌い続けてる。

仲たがいばかりしていた元同居人だけれど、その思いを共有できるのは一人だけというの
もまた事実で。

明日仕事場で会ったら何か話しかけてみようと、彼女は思った。



――― 眠れない夜に思い出した、遠い遠い昔のお話。
177 名前:書いているヒト 投稿日:2002年06月23日(日)03時20分25秒
おわり。
178 名前:書いているヒト 投稿日:2002年06月23日(日)03時20分55秒
なんとなく。
179 名前:書いているヒト 投稿日:2002年06月23日(日)03時21分36秒
書いてみた。
180 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月30日(日)20時53分37秒
ああ…ものすごく良いです。
この二人のイメージはまさにこんな感じです。
181 名前:書いているヒト 投稿日:2002年07月01日(月)02時03分03秒
>>180
ありがとうございます。
元ネタとはまるで違う雰囲気ですが。
182 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時04分26秒

はらはらと。
はらはらと。

雪のように舞い落ちる花びら。

ゆっくりと。
ゆっくりと。

二人はその薄紅色に埋もれていく。

183 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時05分17秒

微かに残った力で、きみの手を握りしめる。
氷のようなその感触が、なぜか気持ちよくて。

目を閉じたままのきみが、少し微笑んだような気がした。
そしてあたしもまた、静かに目を閉じる。

きみの横顔に、そっとくちづけた後で。

184 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時05分56秒

空を飛ぶ鳥たちのように。
水に棲む魚たちのように。

あたしたちにも、似合いの場所があったのかもしれないけれど。
もう、たどりつくことはできないから。

せめて、きみが好きだった場所で。
大きな桜の木の下で。

185 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時06分37秒

ずっとずっと不思議だった。

なんて穏やかに笑うんだろうって。
なんて静かな瞳なんだろうって。

あんな場所に流れ着いたのに。
これから自分が何をさせられるのか、わかっているのに。

普通に笑えるきみが、不思議だった。

186 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時07分15秒

そこに元からいた連中はみんな ――― たいていは何かしらの過去を
ひきずっていたから ――― シゴト以外で笑うことなんかなくて。

もしあったとしても、それはこんなトコロに辿り着いた自分を嘲るときか、
そうでなければ、騙された男たちを哀れむときくらいで。

だから、みんな最初はきみのコト、キライだった。

善人ぶってんじゃねえよって。
どうせロクなコトしてこなかったんだろって。

187 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時07分51秒

そして、あたしも。
だって、あたしもうまく笑えないヒトだったから。
今も、それは変わらないけれど。

最後に心から笑ったのはいつだろう。

たぶんきっと、それはとても前の話で。
きみに出逢うより、もっとずっと。

188 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時08分46秒

十五のときに、親がいなくなったんだ。
ゼロが八コくらいある借金残して。
弟と二人、生きるためにあたしはこっち側へ来たんだ。

向いてたのかもしれないね。
夜の街は、それなりに居心地がよくて。

やってるコトはほめられたもんじゃなかったけれど。
弟、食べさせなきゃならなかったから。

189 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時09分33秒

でもね、すごく充実してた。
楽しかった。

誰かのために生きてるって実感できたから。
今日はいっぱい稼げたから、弟に何か買ってあげようとか。

前だけ向いていられたから。
お金返し終わって自由になったら、何しようかとか。


その頃までかな。
あたしが普通に笑ってられたのは。

190 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時10分46秒

いつもみたく街に出てフラフラしてたら、拉致られちゃって。

なんかね、そういうことするにもルールがあるんだって。
そんなの全然知らなくて、手当たり次第にお客さんつかまえてたから。
アタマ悪いよね。

シマ荒らしだっていわれて、結構ボコボコにされて ――― で、気がついたら
あの店に放り込まれてた。

191 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時11分44秒

でもね、それくらいならさ、まだ普通に笑ってられたと思う。
頑張っていつかこの店出て、また弟と暮らそうって。

けど、ダメだった。

店のヒトに聞いたんだ。
シマ荒らししてるヤツがいるってチクったの、弟なんだって。
借金棒引きしてもらうかわりに、あたしを売り飛ばしたんだって。

もう取立てとかに追われなくてすむって、そんな理由だけで。

192 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時12分23秒

あたしだけじゃないよ?

ケイちゃんだって、ユウちゃんだって、カオリだって。
あたしよりきっつい取立てにあってたり、オトコのクスリ代がわりに売り飛ばされたり。

みんなみんな、それなりの過去背負っちゃったヒトばっかりで。
無邪気に笑うには、ちょっと、ね。
わかるでしょ?

193 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時13分04秒

だから、きっとみんなイライラしてたんだ。
きみの笑顔が、忘れてたモノ、思い出させるから。

やっぱりさ、あそこはきみのいる場所じゃなかったよ。
あんな笑顔ができるヒト、あそこにいちゃいけなかった。

もう、今さらだけど。
こんなコトした、あたしが言うセリフじゃないけれど。

194 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時14分05秒

はらはらと。
はらはらと。

雪のように舞い落ちる花びら。

ゆっくりと。
ゆっくりと。

二人はその薄紅色に埋もれていく。
195 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時14分48秒

桜、綺麗だよ。

まだ、きみには見えてるかな。
あたしには、もうほとんど見えないけれど。

いつか、誰かが言ってた。

昔は、桜の花は薄紅色ではなくて。
誰かがその根元に、人を埋めて。
それから桜はその人の血を吸って、薄紅の花を咲かすようになったんだって。

196 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時15分24秒

そんな話したら、珍しくきみは少し怒っていたっけ。

桜の色は、優しい色だって。
見る人を和ませる、あたたかい色だって。

その顔にびっくりして、そのときはそれで話は終わってしまったけれど。
今なら、わかるよ。

あたたかな花びらが、二人を包んでいく。

197 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時16分20秒

ゴメンね。
本当に、ゴメンね。

大好きだったよ。
だから許せなかったんだよ。

きみがいなくなるなんて。
あたしをおいて、ここからいなくなるなんて。

きみみたいなヒト、ここにいちゃいけないなんて思ってたクセに。
あたし、バカだよね。

198 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時18分07秒

眠いよお。
なんかね、もうなんにも考えられなくなってきちゃった。

あたし、天国に行けるかなあ。
たぶんダメだと思うけど。

きみはたぶん大丈夫だよ。
笑顔が綺麗なヒトはいいヒトばかりって、誰かが言ってたから。

ホントに眠くなってきちゃったよ。
そろそろ寝るね。


――― おやすみ、梨華ちゃん。
199 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時18分41秒

はらはらと。
はらはらと。

雪のように舞い落ちる花びら。

ゆっくりと。
ゆっくりと。

二人はその薄紅色に埋もれていく。
200 名前:二人静 投稿日:2002年07月01日(月)02時19分49秒
おわり。
201 名前:書いているヒト 投稿日:2002年07月01日(月)02時20分42秒
またなんとなく。
202 名前:書いているヒト 投稿日:2002年07月01日(月)02時22分14秒
これが小説だなんて口が裂けても言えないなとつくづく思ったり。
203 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月11日(木)03時01分09秒
こゆのもいいですねぇ。
なんか、せつなくなってきました。
いつも楽しみにしてます。
204 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月14日(日)16時22分29秒
初レスです。
ここは以前からちょくちょく読ませてもらってました。
あまり露骨でないいしよしでしたので大丈夫でした(w
作者さんの綺麗な描写は非常に勉強になります。
がんがってくらさい。
205 名前:書いているヒト 投稿日:2002年07月14日(日)22時31分48秒
>>203
ありがとうございます。
大したモノはありませんが楽しみにしていただけているのは非常に嬉しいです。
>>204
リレーではお世話になりました。
ヨシザワでなくゴトウのつもりで書いたんですけど、ヘタクソなせいで伝わんなかったですね。
修行しなおします。
Qさんのスレも宜しければ宣伝してって下さい。こんな僻地ですが(w
206 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月15日(月)11時41分04秒
説明不足でスミマセン。
だいすき辺りの軽めのいしよしの事を指してたつもりだったんです。
二人静はもちろんごとーだってわかりましたよ。
207 名前:書いているヒト 投稿日:2002年07月16日(火)23時10分11秒
>>206
あら勘違い。大変申し訳ないス。それにしても「だいすき」人気あるなー。
どこがいいんだかわかってないのは自分だけなんだろうか(w

えっと、短編集読んでくださった方、投票して下さった方、感想書いてくださった方、
それから話題にしてくださった某所の皆様へ。

どうもありがとうございました。
208 名前:書いているヒト 投稿日:2002年07月20日(土)02時14分45秒
http://jbbs.shitaraba.com/music/1578/
なんかこのへんで自分の短編をネタに企画やってるです。
参加したい人はどぞ。
209 名前:Missing 投稿日:2002年07月24日(水)01時04分12秒
あの日、彼女の涙に応えることができなかった。

腕のなかで泣きじゃくる後藤をぎゅっと抱きしめながら、
頭の中ではまるで違うことを考えている自分がいた。

ほんの僅かな時間しか共にできなかったことを今さらながらに
後悔したけれど、そこから全てを覆すには、あまりに自分は
ワガママを通し過ぎていた。

5月21日、外は雨。
210 名前:Missing 投稿日:2002年07月24日(水)01時04分44秒
ただ懸命に笑おうとしている泣き顔が切なかった。
言いたいことはたくさんあるだろうに、必死でそれを堪えながら
見送ろうとしてくれているその姿勢が、あまりに痛々しかった。

潤んだ瞳の奥底に、隠しきれない本音が見える。
手に取るようにわかるその感情が、自分をなぜか自虐的にさせる。
だから、彼女にかける言葉さえないままに腕の中の後藤を強く抱いた。

きっと互いに感じていた。

――― 出会いがもっと早ければと。
211 名前:Missing 投稿日:2002年07月24日(水)01時05分17秒
夢という甘美な響きに、自分が騙されてしまったとは思いたくなかった。
なぜならその瞬間の決断は限りなく本気だったし、ためらいがあったと
すれば、それは彼女のことではなく後藤のことだけだったから。
それさえも自分を足止めさせる理由には、結局なりえなかったけれど。

なのに、二人は出会ってしまった。
そして、一瞬で二人は理解した。

ただひとつ、寄り添いあうはずの二人の隣には、互いに違う人間が立っていた。
212 名前:Missing 投稿日:2002年07月24日(水)01時05分50秒
いっそ届かない想いであれば。
自分だけの彼女であれば。
彼女だけの自分であれば。

二人にはきっと何も迷うことなどなかったはずなのに。
こんなに後ろ髪引かれる思いで、ここを後にすることもなかっただろうに。

石川に手を引かれて部屋を出ていく彼女の後ろ姿を見ながら、
ステージでも見せなかった涙が、少しだけ零れた。


たったそれだけだった、二人の過去。
213 名前:Missing 投稿日:2002年07月24日(水)01時07分06秒
おわり。
214 名前:Missing −another side− 投稿日:2002年07月24日(水)17時00分47秒
誰にも気づかれるはずのなかった想いは、最も知られたくなかった人に
気づかれてしまっていた。

きつく抱いたその腕の中にいるのが自分じゃなくて泣きそうになりながら、
だけど懸命に笑顔を作ってその光景を受け入れようとしている自分がいる。

彼女が、ふっと笑った気がした。
あたしの心を見透かしたように。

5月21日、外は雨。
215 名前:Missing −another side− 投稿日:2002年07月24日(水)17時01分20秒

そして時が過ぎる。
あたしは彼女の後を追いかけ続けていた。

彼女が最も愛した人を隣に。
彼女が最も信頼した人を隣に。

それはとても楽しい日々で。
それはとても苦痛な日々で。

追いついたのか、追い越したのか、それとも未だ手の届かない存在なのだろうか。
216 名前:Missing −another side− 投稿日:2002年07月24日(水)17時01分53秒

あたしは自分の存在価値を知っている。
あたしの両隣もまた、それを知っている。

――― 代替品。

コピーがオリジナルを超えることなど、あってはならない。
だからあたしが彼女に追いつくことは、決してない。
あたしは彼女のコピーじゃないと、あたしはあたしだと叫ぶ声など、もう失った。

ただひとつ心に残っている感情は、彼女に伝えられなかった想い。
217 名前:Missing −another side− 投稿日:2002年07月24日(水)17時02分25秒

それを伝えられる日が来るかどうかなんて、わからない。
そしてもし来たとしても、報われることはないだろう。

鏡の向こうの自分に「好きだ」と言われて喜ぶ人はいないから。

だからあたしは祈り続ける。
二人の未来が交わることのないように。

あの瞬間ほんの少しだけ重なった心を、彼女が忘れてくれるように。
218 名前:書いているヒト 投稿日:2002年07月24日(水)17時03分18秒
おわり。
219 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時23分59秒

嬌声をあげながら身体をヒクつかせると、糸が切れた人形のように彼女が
ぐったりと崩れ落ちる。
あたしは黙ったまま彼女の下腹部から指を引き抜き、その手を洗おうとベッドから
ゆっくりと腰を上げる。 慣れたとはいえ、楽しいもんじゃない。
瞬間、彼女の懇願するような声が耳に入った。

「あ・・・・・・」

あたしはほんの少しため息をつくと、渋々粘液のついた手を彼女の口元へと差し出した。

――― これくらいは、我慢しなければいけないのかもしれない。
220 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時24分35秒

あたしの指に夢中で舌を這わせる彼女を、蔑みの眼差しで見下ろす。
それさえも彼女にとってはたまらない快感らしく、焦点の定まらない瞳で、
時折微かな声を漏らしながら、一心不乱に自分の愛液のついた指を
舐めまわしている。

「・・・・・・もう、いいでしょ」

ふやけるんじゃないかとさえ思えるほどに唾液のついた指を、彼女の口から
無理矢理抜き取った。
名残惜しそうな顔を見ないように立ち上がると、バスルームで丹念に身体を洗う。
備え付けのタオルで水を拭き終えて部屋に帰る頃、彼女は昼の顔に戻っていた。

「石川梨華」という、国民的アイドルグループの一員に。
221 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時25分13秒

同性から好きだと言われることには慣れていた。
子供のころから男っぽい容姿だったし、女子校に通っていればなおさら。
熱病にうかされるように告白してきた子たちも、いずれは彼氏を見つけて醒めていく
コトがわかっていたから、こっちも適当にあしらっていたし、時には面白がってみたりも
した。

それが普通の感覚だと信じて疑わなかったし、今でもそう思っている。

あたしはストレート。
世の中の大多数の人たちがそうであるように。

なのに。
222 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時25分52秒

本気の瞳だった。
これまでのように、適当にごまかせるような思い詰め方ではないようなことは、
一瞬でわかった。
だから、あたしは何も言えずにただその場に立ち尽くしていた。

「・・・・・・つきあって」

別に同性愛に偏見があるわけじゃないけれど、身近な ――― 恐らくはメンバーの
中でもいちばん ――― 人間に告白されたことは、はっきり言って衝撃だった。

「どんなカタチでもいいから、どんなコトされてもいいから・・・・・・。
 だからお願い、よっすぃのそばにいさせて」
223 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時26分29秒

正直、悩んだ。
彼女の告白を受け入れるかどうかではなく、断った後の彼女のコトについて。
そして自分の未来について。
心配性と言われても構わない。 そのときの彼女は、そんな過剰な心配をさせるほどに
切羽詰った目をしていたから。

あたしが断ったらどうするんだろう?
他のメンバーに狙いを変えるんだろうか?
それとも、他の芸能人や関係者に?

そしてそれをもし雑誌やなんかにスッパ抜かれたりしたら ―――


――― 13人丸ごと、沈没船にくくりつけられたような気がした。
224 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時27分06秒

個人の性癖なんて知ったこっちゃない。
そんなもんは人それぞれだし、それを否定する気もない。
だけど、それが公になることによって全員が蒙るダメージを考えた瞬間、
あたしは断れなくなっていた。
それほどにあたしたちは大きくなりすぎていた。

あたしが黙っていれば、それで済む。

自己犠牲に似た、醜い保身。
それがあたしの下した結論だった。
225 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時27分37秒

だから、契約を交わした。
あたしたちを路頭に迷わせないように、これからも平穏無事な芸能生活が
続けられるように。
そしてその契約が、あたしがストレートであることの証明であるかのように。

あたしには、あたしが気が向いたとき以外、指一本たりとも触れさせない。
それを破ったら、金輪際あたしは彼女に触れることも話をすることもないだろうと。
そして彼女はためらわずその申し出を了承した。

「どんなカタチでもいい」、そう言い切ったのは彼女だった。

つきあうことはできない。 でも、「ヤリたく」なったらあたしを呼べ。

そう改めて宣言することで、あたしはあたしたちの危機を乗り越えたつもりでいた。
その関係を保つことで、「あたしはノーマルだ」と自分に言い聞かせていた。
226 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時28分25秒

――― けれど。

カメラの向こう側には決して伝わることのない喘ぎ声を直接耳にし、誰も見たことの
ない彼女の悶える姿を目にすると、自分の意識さえ怪しいものへと変化していく。

彼女の悦ぶ姿を見たいとどこかで願っている自分がいる。
昼間とは比べ物にならないほどの切なげな吐息を、耳元で感じたいと思っている
自分がいる。

今も続く理性と本能のせめぎあいが、そのとき既に始まっていた。
227 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時28分56秒

彼女の服を脱がしながら。
彼女の唇を吸いながら。
彼女の身体を手のひらと指先と舌先で感じながら。

彼女がどうすれば悦ぶかを考えている。
そしてそれを次の機会に生かそうと思っている自分がいる。

そんな日々を積み重ねながらも、隠しきれると思っている自分がいた。
別にこんな関係を望んでるわけじゃない。
後の憂いがなければ、こんな関係、すぐにでも捨ててやれるんだと。

時折彼女が送る視線にさえ気づかなければ。
228 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時29分30秒

静かに微笑む。
クソやかましい声援を送る連中にも、幸せそうに手を振り返す。
そうかと思えば、どんな高級娼婦でも出さないような声をあげながら、
あたしのベッドを占領する。

――― 誘うように、からかうように。

彼女も恐らくは気づいている。

・・・・・・あたしが徐々に、この関係を望み始めていることに。
229 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時31分14秒

あたしが主。
彼女が従。

その関係が、あたしのなかで少しずつ崩れていく。
辛うじて踏みとどまっていられるのは、ほんの僅かに残された、過去の常識とあの契約が
あたしの中に生きているから。
本当はそれさえも曖昧になってしまっているけれど。

あたしは、ストレート。

奉仕する女王は、あたし。
奉仕される奴隷は、彼女。

何度自分に言い聞かせても、あたしの中の常識は崩れることをやめない。
230 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時32分41秒

部屋を出る彼女の後姿を見ながら思う。

実は遊ばれているだけなんじゃないかと。
あの契約さえも、彼女の予想の範疇だったんじゃないかと。
いずれあたしがそっちの世界へ飛び込むこともわかってて。

あたしもまた着替えを終えて部屋を出る。

きっとこの奇妙な関係は続いていく。
あたしが契約を破棄しない限り。

そのときは、きっとあたしが奉仕する奴隷になることを望んだとき。


――― そしてその日がくるのは、そう遠いわけではないだろう。
231 名前:Beauty&Stupid 投稿日:2002年07月31日(水)20時33分14秒
おわり。
232 名前:書いているヒト 投稿日:2002年07月31日(水)20時34分08秒
歪んでるっぽいのを書きたかったのです。
233 名前:書いているヒト 投稿日:2002年07月31日(水)20時36分28秒
こういうのは難しいと思いますた。
234 名前:書いているヒト 投稿日:2002年07月31日(水)20時40分12秒
後藤も保田も辞めるのね・・・。
235 名前:オガマー 投稿日:2002年08月02日(金)05時39分39秒
二人静、Beauty&Stupid
読ませていただきました!
とてもよかったです。
二人静、なんだかジーンときましたYO!
236 名前:書いているヒト 投稿日:2002年08月03日(土)02時03分44秒
>>235
ありがとうございます。
またよろしければぜひ読んでください。
237 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)02時06分26秒

やみそうもない雨と遠くから響く雷。
かすかな音の隙間を縫うように、チャイムが鳴った。

ドアを開ければそこには、久しぶりに会う懐かしい顔。
突然の来客にも、まるで驚きはしなかった。
たぶん、来ると思っていた。 昼間から、ずっと。

濡れた長い髪は雨のせいなのか、それとも―――

「入りな、風邪ひくよ」
そう口にした瞬間、いちだんと大きな雷の音が響いた。
238 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)02時07分44秒

「シャワー浴びる?」
「・・・・・・いい」

冷蔵庫から缶ビールを二本取り出して、片方を放り投げる。
彼女が受け取るのを確かめてから、プルタブを勢いよくあけた。
喉をならして飲む横で、缶を眺めている彼女が目に入る。

「グラスいるんなら、勝手に出して。 ウチじゃこれが普通なんだわ」
「・・・・・・いや、これでいいよ」

少しためらっていた彼女が、勢いよく空け始めた。
239 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)02時08分14秒

互いにそんなに強いわけじゃないから、最初の一口以降は自然とペースも落ちる。
だけど二人の間に流れる沈黙が辛くて、雨音をバックにいつもよりは少しばかり
早いペースで酒が進む。

何かを伝えにきたことはわかっているから、何も訊かない。
そしてその内容さえもおそらくは。
いつ切り出そうか考えている風の彼女と、5年前の彼女が重なる。

――― 思ったこと、すぐ口にできる子だったのにね。

大人になった、否、大人にならざるをえなかった彼女のここ一、二年を少し
垣間見たような気がした。

雨音は、まだ止みそうにない。
240 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)02時08分57秒

沈黙に耐え切れなくてTVのスイッチをつけるけれど、ロクな番組が見つからなくて
すぐにリモコンを放り投げる。

話したいことがあれば、言えばいい。
泣きたいことがあれば、泣けばいい。
あたしからは、何も訊かない。

傷を慰めあうような、そんな関係じゃないから。
クールに、ドライに。 だけど何よりも深い絆を胸に。
あたしも、彼女も、そしてあの娘も。

ふと気がついて、ラジオのスイッチを入れる。

今日は、木曜。
241 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)02時09分51秒

ノイズまじりのラジオの向こうから、あの娘の声。
久しぶりに聞いたその声は、何かをこらえているような涙声。

二人が何を思っているのか、今のあたしにはわからないし、わかっちゃいけない。
ただ一つだけ理解できることは、二人ともそれを望んではいなかっただろうこと。
昨日から今日にかけて、あたしでさえそれなりの喪失感を味わったのだから。

他の何よりもそれを愛した彼女。
初めて自分の居場所をみつけたあの娘。

ため息をついてラジオを消す。
また、遠くで雷が鳴った。
242 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)02時10分29秒

「・・・・・・ゴメンね」

雨音にかき消されそうな声で、ようやく彼女が口を開いた。
あたしはその言葉に軽い驚きを覚える。 謝る必要なんか、これっぽっちもないのに。

「彩っぺの思い出、また一つ消しちゃったよ・・・・・・」

――― 本当に、大人になっちゃったんだ。

あんたのための場所だったじゃない。
あたしなんか、とっくの昔に忘れさられた人間じゃない。
そんなことよか、あんたや矢口の方が傷ついてるでしょ?
あんたがいちばん落ち込んでるんでしょ?

そう思ったけれど口には出さない。
きっと今の彼女は、慰めるよりも背中を押してやることが必要だから。
243 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)02時13分14秒

あたしの寂しさより、彼女の喪失感より、あの娘の空元気よりも、もっともっと不安を
感じてる連中がいる。 彼女の声を待ってるヤツがいる。
だから、彼女はここにいちゃいけない。

「あたしの居場所はここにある。 あんたが心配することなんか何もないよ。
 それよりもあんたの居場所はどこだ? あんたの仕事は何だ?
 ここでウジウジしながらヤケ酒飲むことか? だったらリーダーなんか
 やめちまえ。 なっちか矢口に代わってもらいな」

驚いたように見上げる彼女に、少しだけ心が痛んだ。

でも、あたしはもう、当事者じゃないから。
強いこと言ってあげられるのは、あたしくらいしかいないから。
244 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月03日(土)02時17分01秒

「・・・・・・そうだね」

疲れきった表情で、彼女が頷いた。

きっと、頭じゃわかっていること。
それでも、納得できないこと。
愛したものを奪われることに慣れてしまったら、それはもう人間じゃないから。
そこに心は存在しないから。

哀しいほど、愛しいほど、彼女はあの頃と変わらず人間くさかった。

そしてあたしは心を鬼にする。
抱きしめたい感情を精一杯押し込めたつもりで。

「・・・・・・帰りな」
245 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)02時17分41秒

「・・・・・・傘、持ってきなよ」
「ありがと」

その言葉が、傘についてだったのかどうかはわからない。
ただそれ以降、彼女は黙ったきりだった。

玄関から見える、雨の中を歩く後姿がたまらなく痛々しい。
だけど、あたしにできることはこれが精一杯。

「頑張れ」なんて言うのは簡単だけど、彼女の気持ちを考えたら口が裂けたって言えない。
だからあたしは彼女の後姿に、心の中で目いっぱい叫んだ。

「頑張れ、一人じゃないよ」って。
246 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)02時19分26秒

部屋に戻ってぬるくなった缶ビールを一気に飲み干す。
ラジオのスイッチを入れると、あの娘の声は聞こえなくなっていた。

今日、あたしの知っている「タンポポ」はなくなった。
根っこから引き抜かれて、綿毛になることさえ許されず。
そこに咲く花は、可愛いけれど別の花。

そして何年かたてば、誰の胸からも消えていく。
いつか全てが終わった後に、三人で飲めれば、それでいい。
誰の記憶に残らなくても、ひっそりと強く生きる花たちで。


飯田圭織と、矢口真里と、石黒彩で。
247 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)02時19分56秒
おわり。
248 名前: 投稿日:2002年08月03日(土)02時20分33秒
一日で書きました。
249 名前:  投稿日:2002年08月03日(土)02時22分13秒
タイトルは思いつきませんでした。
250 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月03日(土)07時24分32秒
号泣。作者さん、ありがとう。。
251 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月03日(土)22時53分29秒
ただ涙…
252 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月21日(水)20時37分54秒
ほぜん
253 名前:書いているヒト 投稿日:2002年08月25日(日)17時23分23秒
>>250-251
ありがとうございます。
勢いだけで書いたので恥ずかしいでつ。
254 名前:さよならなんかは言わせない 投稿日:2002年08月25日(日)17時26分11秒

「もう、終わりにせえへん?」

何を言ってるのかわからなかった。
セミの声があたり一面に響いていて、それ以外に聴こえるものは何もなかった。

真夏の陽射しに灼きつけられたアスファルトの向こう側に、彼女の姿が歪んで見えた。
いつもどおりの笑顔で、だけど一度も見たことのない服を着て。

きっとこれが蜃気楼のような幻ならいいと、心のどこかで思っていた。
255 名前:さよならなんかは言わせない 投稿日:2002年08月25日(日)17時26分46秒

「・・・・・・なんで?」

それしか言えなかった。
せいいっぱい振り絞った声は、ほんのわずかにかすれていたような気がする。

その問いに、彼女は答えなかった。
ただ静かにいつもの微笑を浮かべたまま、真っ青に染まった空へと視線を移した。
空の向こうにある何かを探すかのように。

涼しげな風が二人の間を吹き抜けていった。
256 名前:さよならなんかは言わせない 投稿日:2002年08月25日(日)17時27分26秒

「なんでそんなこと言うん?」

もう一度訊ねる。
今度はしっかりとした声で。
こちらに視線を戻した彼女に、笑顔はもうなくなっていた。

「・・・・・・別に」
「別に、やあらへんやろ。 うち、なんか怒らせるようなことしたか?」
「してへんよ」
「ならなんで? 冗談にしたらタチ悪すぎるで」

彼女はまた笑った。
それは今までと違う、哀しげな微笑だった。

「一人になりたいんよ」
257 名前:さよならなんかは言わせない 投稿日:2002年08月25日(日)17時27分58秒

大きくため息をついた。
そしてキッと顔をあげ、しっかりと彼女の顔を見つめる。

「あんな、何年あんたと一緒におると思ってんねん。 ヘタクソな嘘やめて、
 さっさとホントの理由言い。 うちが悪いんなら謝るから、な?」
「別に姐さんは悪くあらへんよ・・・・・・どっちかいうたら悪いのはうちの方やし」
「ならなおさらや。 なんかあったんやろ? うちにも言えんことなんか?」
「大したコトやあらへんけどな」

そこまで言うと、彼女はまた空を見上げた。
それは涙をこらえているようにも見えた。

「うちな、辞めるねん」
258 名前:さよならなんかは言わせない 投稿日:2002年08月25日(日)17時28分45秒

「はあ?」

なんて間抜けな返事だったんだろうと、今でも思う。
だけど仕方がないとも思う。
彼女が側にいることが当たり前だったから。

「辞めるて、何を?」
「事務所」
「いつ?」
「秋頃・・・・・・かな、たぶん。 次の改編で吉澤とのラジオが終わったらやと思うけど」

淡々と話す彼女は、また元の表情に戻っていた。

「そういうコトや。 もう姐さんともそうそう逢えへんくなると思うし。
 ズルズル続けるよりは、そっちの方がええやろ思て」
259 名前:さよならなんかは言わせない 投稿日:2002年08月25日(日)17時29分19秒

「・・・・・・アホか」

なぜか無性に腹が立った。
辞める相談をしてくれなかったことにも、もう逢えなくなると思っていることにも。

うちの部屋に置いてあるあんたの私物は何やねん。
あの服は。
あのCDは。
あの歯ブラシは。
どこにいようとどこで歌ってようと、あそこに帰ってくればええことやん。

「姐さん、辞めたって関係あらへんやん、とか思ってるやろ?」
260 名前:さよならなんかは言わせない 投稿日:2002年08月25日(日)17時29分53秒

心の中を見透かされたようでドキっとする。
けれど事実は事実だ。

「・・・・・・せや。 理由になってへんもん」
「そう言うと思ったわ」

彼女は静かに笑った。
何かを諦めたように。

「けどな・・・・・・あまりに自分がミジメやもん、このままやったら」
261 名前:さよならなんかは言わせない 投稿日:2002年08月25日(日)17時30分23秒

「・・・・・・どういう意味?」

言葉の裏側に隠された意味の怖さに気づかないフリをする。
そうであってほしくないという願いと、もしそうなら許せないという怒り。
心の底から、否定してほしいと願った。
そしてその願いは、あっけないほど簡単に裏切られる。

セミの声に混じった彼女の声が、はるか遠くから聴こえた気がした。

「好きで辞めるわけちゃう、って姐さんも気づいてるんちゃうの?」
262 名前:さよならなんかは言わせない 投稿日:2002年08月25日(日)17時30分58秒

「ドコかがすぐに拾ってくれればええんやけど、先行き不透明やしね。
 ひょっとしたらずっとプー太郎続くかもわからんし。
 歌は絶対続けるけど・・・・・・まあ、どうなるかわからんから」
「そんなら、次決まるまででもウチにおれば・・・・・・」
「うちにヒモになれっちゅうの?」

見上げた彼女の瞳は、これまでのどんなときよりも怒っていた。

「・・・・・・あんまバカにせんといてや。 そら売上なんて娘。に比べたら全然やけど、
 プライドだけは持ってるんよ。 歌うたいとしての、な。 自分の食べる御飯代くらい、自分で稼ぐわ」
263 名前:さよならなんかは言わせない 投稿日:2002年08月25日(日)17時31分31秒

自分の言葉を、このときほど恥ずかしく思ったことはない。
あまりの自己嫌悪に下を向くと、彼女は我に返ったように詫びた。

「姐さんの気持ちはものすご嬉しいんやけど・・・・・・ごめん、言いすぎたわ」
「・・・・・・そんなこと、ないわ」

精一杯強がって見せたけれど、涙でかすれた声にしかならなかった。
それがまた恥ずかしくて、上を向いて止まらなくなりそうになる涙を必死でこらえる。
彼女はそんな様子を優しく見つめていた。
264 名前:さよならなんかは言わせない 投稿日:2002年08月25日(日)17時32分28秒

「・・・・・・けど、終わりにせんでもええと思うんやけどな」
「せやね・・・・・・。 けどこのままやったら、たぶん姐さんに甘えてまうから、うち。
 それこそヒモみたくな。 ずっと一緒におったし、少し間置いてみるのもええかな、思て。
 変なコト言うたのは謝るけど、考えてみてくれへん?」

そして、冗談ぽく彼女は付け加えた。
その言葉の優しさにまた泣きそうになるけれど、なんとかこらえて切り返す。

「だいたいな、クビにしたヤツと仲良うしとったら姐さんが事務所に睨まれるがな」
「アホ。睨まれてクビにされたかて、うちなら引く手あまたや。 天下の中澤裕子やで?」
「はいはい、なら天下の姐さんに並べるように頑張りますわ」
265 名前:さよならなんかは言わせない 投稿日:2002年08月25日(日)17時34分21秒
ほんの少し西の空が紅く染まりはじめる。
ゆっくりと二人、帰り道を歩く。
二人ともいつもの調子で、いつもの笑顔で。

道は分かれているけれど、きっとまたいつか。


「いつになったら迎えにくるん?」
「せやな、姐さんがプーになっても食わしてける自信がついたら・・・・・・かな」
「・・・・・・いったい何年先の話や」
「失礼やね、素直に応援するとか言うたらええのに」
「うちは金遣い荒いでえ、ちっとやそっとの稼ぎじゃ食わしてけんよ」
「・・・・・・20年後くらいにでも」



266 名前: 投稿日:2002年08月25日(日)17時35分30秒
おわり。
267 名前: 投稿日:2002年08月25日(日)17時36分15秒
もうちょっと長く出来たかなあ。
268 名前: 投稿日:2002年08月25日(日)17時39分12秒
更新ペース遅いよなー。
白の短編スレに移動してちまちまのんびり書くべきかもしれない。

っていうかその前に、何人くらい読んでるんだろう、ここ。
269 名前:名無しさん 投稿日:2002年08月26日(月)08時33分10秒
今までの話の中で一番泣けた…。
270 名前: 投稿日:2002年09月03日(火)02時09分59秒
>>269
ありがとうございます。
みっちゃんがんがれと願いつつ。
271 名前:First Love 投稿日:2002年09月03日(火)02時11分17秒

秋にしては少しばかり冷たい空気を感じて、目を覚ました。
薄暗い部屋の中で、ほんのわずかに揺れているカーテンだけが目についた。

隣に寝ているはずの人は、いなかった。
微かにシーツに残っている体温が、妙に私をほっとさせた。

――― まだ、終わってない。

そして静かにベッドを降り、風にたなびいているカーテンをそっと開ける。
東の空が、黒から濃紺へと色を変え始めていた。
272 名前:First Love 投稿日:2002年09月03日(火)02時11分49秒

「・・・・・・おはよう」

そこに、彼女はいた。
ベランダの柵に寄りかかりながら、遠くを見つめていた。
その細く白い指先に、煙草を挟んだまま。

「おはよ」

私は彼女の横に並ぶ。
彼女は何も言わず柵で煙草の火を揉み消すと、無造作に階下へと投げ捨てた。
消え切らなかった火の紅が、闇の中へと落ちていって見えなくなるのが、なぜか無性に
哀しかった。
273 名前:First Love 投稿日:2002年09月03日(火)02時12分31秒

「・・・・・・まだ、吸ってたんだ」
「ん、久しぶりだけど」

私が煙草の匂いがどうしてもダメだったこともあって、彼女は決して私の前で煙草を吸う
ことはなかった。
一緒にいる時間が長くなってからは、ほとんど手にすることはなかったと思う。

「やー、ゴトウも健康管理に気を使おうと思ってさ」

いつか、そんな風に笑っていた。
未成年なのに『禁煙』する後ろめたさを隠すように。
マスクまでして眠るほど喉に気を使っている私をからかうように。

本当は、知っている。
私が煙草を嫌いだから、ただそれだけの理由だったということを。
274 名前:First Love 投稿日:2002年09月03日(火)02時13分09秒

でも、もう私に気を使う必要はなくなる。
だから、彼女はまた手元のジッポに火をともした。
薄紫の煙が暗い空へと浮かんで消えていくのを、私は何も言わずに眺めていた。
嫌いだったはずの煙草の匂いを、少しだけ懐かしく感じた。

彼女は相変わらず遠くを見つめていた。
その先に何が見えるのか知りたかったけれど、黙っていた。

時間が止まってほしいと、心から祈った。
きっとそうすれば、あの瞳がもう一度私の方を向くかもしれないと思っていた。
275 名前:First Love 投稿日:2002年09月03日(火)02時13分45秒

だけど、それは決して叶うことのない祈りで。

ゆっくりと昇る朝日に、街が白く染められていく。
神様が、最後の日が来てしまったことを二人に告げるように。

――― もう、終わりなんだ。

明日の朝日を、彼女はどこで見るんだろう。
明日の今ごろ、彼女は誰といるんだろう。

それはもう、私には関係のない話で。
なぜなら、私はここで泣いてるだろうから。
276 名前:First Love 投稿日:2002年09月03日(火)02時14分22秒

ふと、横を見た。
やっぱり「さよなら」って言うべきなんだろうかと思って。
だけど、彼女の横顔を見たら何故か言えなくなった。

「誕生日、おめでとう」

気がついたら、そんな言葉が口をついて出ていた。
彼女は少し驚いたようにこっちを向いて、そして優しく微笑んだ。

でも、彼女はやっぱり何も話そうとはしなかった。
ただ静かに、唇を重ねてきた。
煙草の匂いが、口の中に広がる。
それは今までのどんな時よりも優しい香りだった。


それが、最後のキスになった。
277 名前: 投稿日:2002年09月03日(火)02時15分46秒
おわり。
278 名前: 投稿日:2002年09月03日(火)02時17分01秒
なんかねえ。
279 名前: 投稿日:2002年09月03日(火)02時18分02秒
芸風を変えたいなあと思う今日この頃。
280 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月05日(木)17時07分51秒
どの話も心に染みます。
作者さんの芸風好きです。
281 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月20日(金)00時13分11秒
かなり泣きそうになるなぁ。作者さんありがとう。
282 名前: 投稿日:2002年10月01日(火)23時27分11秒
>>280 そう言っていただけると。
>>281 こちらこそありがとうございます。

短編集投票&感想下さった方々並びに読んでくださった方々へ。
ありがとうございました。
283 名前:MAYBE BLUE 投稿日:2002年10月04日(金)00時13分51秒

雨が、降っていた。
冷たい部屋の片隅で、窓の外の静かな雨音を聞きながら、二人はただそこで
互いの身体を求めていた。

「――― 好きだよ」

いつものように繰り返されるその言葉が、その日の私には信じられないくらい重かった。
284 名前:MAYBE BLUE 投稿日:2002年10月04日(金)00時14分41秒

普段よりも、彼女の身体が熱く火照っている。
その理由がわからないままに、私は戸惑いながら火傷しそうなほどのそれを
懸命に抱き寄せる。
その全ての行為に、彼女は激しい動きと声で応えてくれた。
言葉なんて必要なかった。

全てを終えてからも彼女は求めることを止めない。
まるで二度と逢えなくなるかのように。
私はその理由を不思議に思いながら、しかしゆっくりと理解し始める。

許されない恋は、いつだってやりきれなさといつ終わるかの恐怖がつきまとう。

――― 彼女は既に気づいていた。 私の心に沈んでいるものの正体に。
285 名前:MAYBE BLUE 投稿日:2002年10月04日(金)00時15分26秒

肩で息をしながら、それでも二人は話す言葉を持たなくて沈黙が部屋を支配する。

何から話せばいいのかわからない。
私が抱えた秘密を彼女が全て知っているのなら、このまま何も喋らなくても
いいのかもしれない。

でもそれが彼女に対する優しさだとは、どうしても思えなかった。
枕元の煙草を手探りでつかむと、ジッポに火を灯す。
オイルの匂いが、私の心に話し出すきっかけをくれたように感じた。

「・・・・・・知ってた?」
「昨日、聞いた」

明るい栗色に染まった長い髪の向こうの横顔は、見えなかった。
ただそれが笑顔でないことだけは、彼女の声で理解できた。
286 名前:MAYBE BLUE 投稿日:2002年10月04日(金)00時16分29秒

「みんなカオリを置いてっちゃうんだ」

私は何も言えなかった。
その言葉をどう否定しようと、事実は変わらないから。
決して逢えなくなるわけじゃないけれど、きっと今までのような関係には戻れない。
三月までの月日は、二人にとっては火のついた導火線と同じ。

ならばいっそ、爆発する前に。

「・・・・・・なーんてね」

おどけてこちらを向いた彼女の瞳は赤く潤み、髪をかきあげる指先は微かに震えていた。
無理に作った笑顔は、昨日よりも確かにやつれていたような気がした。
287 名前:MAYBE BLUE 投稿日:2002年10月04日(金)00時19分15秒

「・・・・・・別れようよ」
「現在がいちばん楽しいからさ、その想い出壊したくないし」
「圭ちゃん優しいから、自分からそんなこと言えないでしょ?」
「カオリ、大人だから平気だよ」
「みんなもいるしね・・・・・・後藤はいなくなっちゃうけど」

彼女の言葉が、二人だけの部屋のどこか遠くから聴こえる。
私の言葉を取られたことより、彼女がそれを口にしたことになぜか無性に腹が立った。
自分のことは棚に上げて。

不安に押しつぶされそうになりながら、みんなの前でせいいっぱい強い自分を演じて。
コドモたちの前ではいいお姉さんを演じて。
だけど私の前でだけ、素の彼女に戻って。

そしてようやく私は気づく。

私ももう、彼女の言う「みんな」の中に入ってしまっていることを。
288 名前:MAYBE BLUE 投稿日:2002年10月04日(金)00時19分46秒

何か言おうとしたけれど、言葉にはならなかった。
だから、YESともNOとも答えずに、ただ彼女の身体を押し倒した。

彼女の身体は、さっきまでとは比べ物にならないほどに冷め切っていた。
それがなぜかひどく悔しくて、指先を身体中に這わせる。
彼女の声や仕草はさっきと変わらないのに、何かが遠く離れてしまった気がしていた。

気がついたら、視界がにじんでいた。

ふと彼女の顔を見上げる。
彼女の唇が、微かに動いた。
声にならない声は、確かに過去形だった。


好きだったよ ―――
289 名前: 投稿日:2002年10月04日(金)00時20分17秒
おわり。
290 名前: 投稿日:2002年10月04日(金)00時21分14秒
WHITEBERRYが「自転車泥棒」をカバーするらしく。


・・・・・・なんかイヤだ。
291 名前: 投稿日:2002年10月04日(金)00時24分01秒
またちょっと更新できないかもしれないです。
292 名前:名無し@1 投稿日:2002年10月10日(木)19時31分36秒
自転車泥棒は花*花の小島もユニコーンで一番好きって言ってたな。俺も好き。
293 名前:名無しさん 投稿日:2002年10月11日(金)19時56分20秒
あげ
294 名前:保全代わりの日記 投稿日:2002年10月19日(土)00時09分37秒
10月某日 
白苺の「自転車泥棒」を聴く。原曲の情緒らしきものとかはカケラも残ってないけど
初めて聴く人にはいいのかもしれない。よくわからない。
アリかナシかといわれたら断然ナシ。だってユニファンだったから。そういえばEBIが
市井のライブでベース弾いてたことを思い出しました。

10月某日
岡村靖幸と石野卓球の「come baby」をエンドレスで聴いてたら気が狂いそうになりました。

10月某日
チャットをROMってて微妙にへこみBAD板をみて微妙に立ち直り。PVっていうのは意識してたし。
なぜみんな長編読みたいって言ってくださるのかが自分でよくわかってません。
ストーリー作るの苦手なんだってば。
295 名前:保全代わりのレス返し 投稿日:2002年10月19日(土)00時19分47秒
>>292
手島氏の曲は何気に佳曲が多いと思います。「デーゲーム」とか。
>>293
保全あげなら感謝。晒しあげなら御勘弁。

なんか書きたいけど書ける状況にないしアイデアも浮かばないしやる気もあんまない。
日々ダメ人間になっていってる気がします。それではまた。
296 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月26日(土)00時44分54秒
えーと、変なの書き始めました。
ここを読んでる奇特な方は興味があったら探してみてください。
こっちは果てしなく気が向いたときに書けたらいいなあと。
100%気が向く前に過去逝きだろうけど。ではでは。
297 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月26日(火)13時34分27秒
楽曲の選択がよいですね。同年代なんでしょうか。
大沢ヨシユキ(字わすれた)あたりなんかも希望。
298 名前:自分で保全 投稿日:2002年12月17日(火)11時56分33秒
>>297 
実はみっちゅ@B'zが「そして僕は途方に暮れる」を聴いて書き始めたものだなんて
口が裂けても言えません
299 名前:PEACHY! 投稿日:2002年12月30日(月)02時42分46秒

あんた誰だよ?
演歌でソロだあ?

最初に会話を交わしたとき、そんな気持ちしかなかった。
いつまでもくすぶってるわけにはいかないんだ。
そんな切羽詰った感情なんて今じゃ誰も理解してくれないだろうし、自分のことを
覚えてる人もいないだろう。

・・・・・・ただ一人、その人を除いては。
300 名前:PEACHY! 投稿日:2002年12月30日(月)02時44分41秒



きっと彼女の言葉はあの場所から離れたからこそわかることで、きっと本当の意味で
その時の自分の感情を理解してもらえていたとはカケラも思っちゃいないけれど。

でも、そのときの自分にはとても大切な言葉で、それがあったからこそ先なんて見えない
この世界で勝負していこうと思えたと今でも思う。

「アホ! 自分、最初から一人で歌えてるクセに偉そうなこと言うなや。
 うちらの中の誰一人、みっちゃんには勝てへんかってんで。 せやから5人でデビュー
 したんや。 他の連中はどうか知らんけど、なっちとカオリはあんたを羨ましい思うとる
 はずやで。 明日香も彩もせやと思うけどな」
301 名前:PEACHY! 投稿日:2002年12月30日(月)02時45分51秒

そんなこと知らないよ。
ある意味トップ極めた人間たちが自分を羨ましいと思ってる?
そんなん言われて信用できるもんか。
「安倍なつみ」なり「飯田圭織」ってブランドで勝負できる奴らに何がわかるもんか。

だけど彼女は何も言わない私に言った。

「あんたが何考えてるか知らんけどな、童謡だろうが何だろうが『自分の歌』持ってる
 いうのは幸せやで。 ・・・・・・うちら何ぼ歌っても『なっちの歌』とか『後藤の歌』
 やったさかいな」
302 名前:PEACHY! 投稿日:2002年12月30日(月)02時48分20秒




その言葉だけ、妙に心に突き刺さった。
誰かと歌ったことなんてなかったし、スポットライトを浴びるのはボーカリストの
特権だと思っていたから。

ホントにその言葉を理解したのは、真夏の恒例になったシャッフルイベント。

『電話出てた娘と一緒に歌うなんてねー』

羞恥と屈辱。
きっと何気ない言葉で、自分を傷つけようなんて思ってないっていうのはさすがに
理解できるけれども、その言葉を口に出された瞬間に自分のここ何ヶ月かの疑問と憂鬱が
まとめて襲いかかってくる。

電話番したくてここの事務所に移ったわけじゃない。
一山いくらの連中に紛れて歌うわけにここに来たわけじゃない。
303 名前:PEACHY! 投稿日:2002年12月30日(月)02時50分11秒

自分が目指してたのは、ここじゃない。
ここにいたら、きっとこの娘を超えることはできない。

「うちら何歌っても『なっちの歌』やったさかいな」

あの女性の言葉がリフレインする。

あなただけじゃない。
きっと彼女の近くにいる人全て、自分の歌を彼女に歌われてしまった人全てがそのことを
理解しているし、ここにいる私だってそうだ。

それが『芸能人』に必要な資質と言われたら何も反論できないけれど・・・・・・。
304 名前:PEACHY! 投稿日:2002年12月30日(月)02時51分07秒










だけど思う。

ふざけんな。
あんなちょこざいなオーディションですら勝てなかったヤツに負けてられるもんか。
悔しいかな、今の自分がそれを述べたって所詮敗者のたわごと。

現実は数字。
数字が現実。

今のままじゃどうしようもない。
だから私はここから旅立つことを選んだ。

このまま笑われるだけの立場なんてイヤだ。
いつかどこかで天下を取れるかもしれない夢を抱いて歌ってたい。
自分の歌が何かを伝えられることを実感したい。
上に言われた歌を歌うだけじゃなく。
305 名前:PEACHY! 投稿日:2002年12月30日(月)02時51分55秒































きっとそれは遠い遠い夢だけれど。




夢は叶わないなんて誰が決めた?



306 名前: 投稿日:2002年12月30日(月)02時55分00秒
酔っ払いで行間開けすぎ。今年最後の大反省中。読みづれえったらありゃしねえ。
わけわかってません。ごめんなさい。マジ削除してえ・・・・・・。
307 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月30日(月)04時55分19秒
おぉ本当に石井小説!ピーチー!
UFA内にいた頃の複雑な心境が何とも……終わりも未来を感じさせて良いですね。
永久保存決定です。
308 名前:誰もいないけど宣伝 投稿日:2003年01月26日(日)16時44分35秒
http://csx.jp/~b-syndrome/syndrome.htm

こっちに転載中。適当に文章整形する予定ではありますがめんどくさいので
どうなるかわかりません。
309 名前:誰もいないけど宣伝 投稿日:2003年01月29日(水)08時14分37秒
http://csx.jp/~b-syndrome/

こっちだった
310 名前:君が思い出になる前に 投稿日:2003年02月01日(土)22時01分24秒

「・・・・・・寒いね」
「あったかいよ」
「・・・・・・ん、そだね」

ぎゅっと握り返された手の温もりを忘れないように心の奥底に刻み込んでから
下を向いていた視線を前へと戻したけれど、繋がった手の先にあるはずの横顔は
どうしても見ることができなかった。

遠くの方から汽笛の鳴る音が聞こえる。
身体の芯まで凍らせるような冷たい潮風以外にも、二人の間を通り過ぎていく風がある。
隙間なんてなかったはずのあたしと彼女の間に。
311 名前:君が思い出になる前に 投稿日:2003年02月01日(土)22時02分22秒

最初は、三人で来た。
次に来たときは、あたしと彼女の二人になっていた。
そして、今日。 これから彼女は、この風景を一人で見るんだろうか。

「あーあ、圭ちゃんもあっち側に行っちゃうのかあ」
「ん・・・・・・やっぱ一人でやってみたいってのもあったし」
「紗耶香みたいに?」

矢口は水平線を眺めながら、こちらを向くことなしにボソリと呟いた。
二度目にここに来たときから、二人の間でその名前が出ることはなくなっていた。

悔しかったから。
うまく言葉じゃ言い表せないような絆みたいなものを否定された気がしていたから。
紗耶香が最初に見つけてきたこの風景は、いつのまにか残された二人の絆を確かめる
ための場所に変わっていた。
312 名前:君が思い出になる前に 投稿日:2003年02月01日(土)22時02分55秒

そして今日その役割さえも終えて、彼女はこれからこの海に何を見つけるんだろう。
あの頃と風の匂いも水の色も変わらないはずなのに、どこかが歪んで見えるのは
たぶん気のせいだとあたしは自分に言い聞かせる。

「二度と逢えないわけじゃないんだし」

あたしは矢口の質問をうまいことはぐらかしたつもりで、繋がった手をまた握り返そうと
する ――― そして予想したとおりに裏切られる。
矢口は絡まった互いの指をほどくようにゆっくりと手を離すと、あたしの瞳を
覗き込むようにこちらへ小さい身体を向け直した。
313 名前:君が思い出になる前に 投稿日:2003年02月01日(土)22時03分52秒

「ウラギリモノはあっちいっちゃえ」

まるきりコドモの目で涙を浮かべながら矢口は笑う。

その顔を見てぐるぐるぐるぐる世界がまわる ――― あたしだって好きで抜けるわけじゃなくて上から言われてしょうがないんだけどっていうかあたしの中でだって半年たってもまだ整理できてないのに矢口に理解しろっていってもそんなの無理な話でならどうすればいいんだろうって考えたってわかんないよそんなの ――― 上手に嘘でもつければいいんだろうけどあたしには無理だってことだけははっきりわかってて ――― だから何も言えなくなってそこに立ってることさえつらくなってまた下を向いて。
314 名前:君が思い出になる前に 投稿日:2003年02月01日(土)22時05分42秒

「ちょ、ちょっと暗い、暗いぞ圭ちゃん。 ウチら加入直後ぐらいの勢いで顔が暗い」

ついさっきまで涙声だったクセにあたしの表情に敏感に反応してくれる優しさが痛い。
場の雰囲気を読むのがうまくてアタマの回転早いクセに自分の本音は最後までみせない矢口はきっと、
あたしみたいに不器用じゃないからこれからもうまくいい意味で立ち回っていけるんだろう。

それが彼女にとって幸せかどうかは別にして。

精一杯の強がりで空を見上げて涙をこらえたあとに無理矢理唇を歪めて笑ってみた。
それを見た矢口もまた無理矢理に笑顔をつくる。

「不細工な笑顔だなー、放送禁止になるぞお」
「うるさいわね、ウチら入った直後のあんたの顔の方がヤバいわよ」

そして二人、腹の底からホントに笑った。
315 名前:君が思い出になる前に 投稿日:2003年02月01日(土)22時06分55秒

汽笛とウミネコの鳴き声が混じりあって潮風に乗る。
東の水平線が濃紺から紅へと少しずつ色を変えていくのを、二人黙ったまましばらくの間
眺めた後で、思い出の場所に背を向ける。

きっとこれくらいの別れじゃ二人の関係は変わらないと信じて。
いつかこの海を見ることがなくなっても。

それにいちばん最初に気づいていたのが紗耶香だったのかもしれないと、今日ようやく
理解できたような気がする。あたしも、矢口も。
316 名前:君が思い出になる前に 投稿日:2003年02月01日(土)22時07分39秒

「・・・・・・がんばれ」
「あんたもね」

三人から二人へ、そして一人一人へ。
そしてまたあたしたちの物語は続いていく。

三人にしかわからない何かが、胸の奥にあるってことを信じて。
317 名前: 投稿日:2003年02月01日(土)22時08分12秒
おわり
318 名前: 投稿日:2003年02月01日(土)22時09分41秒
気分転換は重要な気がしないでもないと思う今日この頃。
いやぶっちゃけ金板書くのに飽きてきたとこなだけですけどね。
319 名前: 投稿日:2003年02月01日(土)22時10分52秒
放置はしない。しないつもり。しないと思う。まあ覚悟し(略
320 名前:名無し蜜柑 投稿日:2003年02月02日(日)18時03分36秒
キタ――――――――――――――――!!!!!!!!!!
大好きな作品なので、嬉しいです!!
いつまでも待ってるんで、マタ―リ更新してくださいな。
321 名前:sage 投稿日:2003年02月26日(水)16時04分11秒
保全
322 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月01日(土)22時42分20秒
作者殿はLIVE EPIC 25に行ったのだろうか?

バービーあたりで新作を期待
323 名前: 投稿日:2003年03月04日(火)07時53分52秒
>>320
いつになるかはわかりませんがお気に召したなら待っててください。
>>321
わざわざどうも。
>>322
行けませんでした。はげしくDVD化を希望。お好みの曲などあれば教えていただきたく。


確かに一ヶ月に一本は遅いよな・・・・・・。
324 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月07日(金)21時09分51秒
322です
LIVE EPIC 25、5月にNHK衛星で放映だそうです

バービーだと「女ぎつね on the run」ではいかがでしょうか?
325 名前: 投稿日:2003年03月23日(日)15時33分04秒
>>324
情報どもですー。イマサのHPとか見てっとツアーやりそうげでなんとなく不安と楽しみが。
お話の方は・・・・・・ごめんなさい待っててください。しかも「女ぎつね」じゃないかもしれない。
BARBEEですらないかもしれないスけど。
326 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月08日(火)17時37分50秒
高紺読みたい。。。
327 名前:バラ色の日々 投稿日:2003年04月23日(水)20時36分44秒

空の青と、少しばかり気の早い黄砂、そして舞い散る薄紅の桜の花びらを
一人ぼんやりと眺めながら、ほんの少しの間だけ、通り過ぎていったはずの
過去に思いを馳せる。

追いかけても追いかけても、きっとこの手に戻らない夢のような日々。
328 名前:バラ色の日々 投稿日:2003年04月23日(水)20時37分17秒

全てを投げ打つ価値がそこにあったのか、自分ではわからない。
一人、二人と心許せる人間がいなくなって、気づけば自分ひとりに
なっていた。

自分たちの手の届かないところで決まる、自分たちの未来図。
自由になりたくてなれなくて、作られた虚像の自分を演じながらも
それを捨てられずに、貼りついた薄ら笑いを消すことなく過ぎていく日常。
これから少しだけ変わるだろうその日常に、たった一つの不安があるとしたら。


ゴトウ、あんたは望んだ日々を送れてる?
329 名前:バラ色の日々 投稿日:2003年04月23日(水)20時37分51秒

全てを壊していく勇気がなかった自分は、自分を壊れた操り人形だと信じこんで
あなたのいない日々を過ごしていた。
そして最初から一人ぼっちだった自分は、また気づいたらたった一人でここに立っている。

何も他にいらなかったのに、あなたはその全てを自分から奪い去って、
そして何もなかったかのようにそこに立っていて、でも伸ばした手は決して届くことなく。
望んだコトは一つだけ。
また、あなたと共に。


いちーちゃん、そろそろ一緒に歌おうよ。
330 名前:バラ色の日々 投稿日:2003年04月23日(水)20時38分22秒

海図も羅針盤も持たないで飛び出した海は、果てしないほどに広すぎて。
灯台も目印もない海のど真ん中で月を見上げ、自分は決して自ら輝く太陽ではなかったことを
今さらのように実感していたあの頃。

ほんの少しでも成長できたかどうかなんて、自分ではわからないから。
たった一人、恋愛でも友情でもなく全てを共にした戦友に確かめてほしいと
祈り続けた願いが、もうすぐ叶う。
少しだけ自分よりは大人だった彼女に、こっち側の世界で先輩風吹かせられる日を想像しながら。


圭ちゃん、待ってるから。
331 名前:バラ色の日々 投稿日:2003年04月23日(水)20時38分59秒

懐かしい日々に別れを告げて、自分はまた新しい場所へ向かう。
不安と期待を胸に抱いて。

空が夕陽に染まっても、黄砂が通り過ぎても、桜が散り終わっても。
あの日の三つの色を胸に。
332 名前:バラ色の日々 投稿日:2003年04月23日(水)20時39分43秒
おわり
333 名前: 投稿日:2003年04月23日(水)20時42分42秒
>>324 ごめんなさいBARBEEでもなければ女ぎつねでもないです
>>326 ごめんなさいCP指定はとてもとても難しいのです
334 名前: 投稿日:2003年04月23日(水)20時43分54秒
勢いで書いてしまうっていうのはどうなんでしょうか。
・・・・・・推敲は大事です。ええ。
335 名前:チャンス到来 投稿日:2003年05月25日(日)14時14分42秒

ぼすっ、っていう音をたててホテルのベッドに倒れこみながら、
サイドテーブルに置いてあるリモコンを手に取って電波を飛ばす。

「器用だね」って相部屋の彼女が笑う声は、自分たちが出てるTVの
音に邪魔されて聞こえなくなる。
嘘。それはただの聞こえないフリ。

これ以上あなたを近くに感じたくない ――― あたしが、壊れるから。
336 名前:チャンス到来 投稿日:2003年05月25日(日)14時15分26秒

鏡の前の小さなテーブルに、教科書と参考書と几帳面な字で埋め尽くされた
ノートを広げながら、あなたは黙々と手を動かす。

その背中をベッドの上で横になりながら見ているだけで、あたしは
わきあがってくる衝動を抑えるのにひどく苦労する。

ぎゅっと抱きしめたらどんな感じするだろう。
そのまま押し倒したらどんな反応するだろう。

そんな想像に耐え切れなくて、あたしはいつも一人頭を抱えて。

ねえ、あなたはあたしのココロに気づいてる?
337 名前:チャンス到来 投稿日:2003年05月25日(日)14時16分21秒

その瞬間にあなたが振り向く。
じっと背中を見つめてた視線を速攻でTVに飛ばして、興味ないフリ見せるけれど。

ココロ読まれた?

ありえない話だってわかってたって心臓が止まる。

「・・・・・・ねえ、愛ちゃん」
「なに?」

あなたのことばをききましょう。
あなたののぞみをかなえましょう。
あなたがのぞむ、そのすべてを。

その代償に、あなたをください。
あなたののぞみはなんですか?

「・・・・・・TV、音小さくしてくれないかな」

握りしめてたリモコンは、持ち主の知らない間にも「音量大」の信号を律儀に送り続けてた。
338 名前:チャンス到来 投稿日:2003年05月25日(日)14時16分58秒

「・・・・・・ああ、ごめん」

奇妙なくらいにあたふたしながら左上の赤いボタンに親指をのばすと、
一瞬で部屋中の空気が重くなったような気がして。

「ありがとう」

「どういたしまして」っておどけて言おうとした台詞につまづいて、
また背中を見せたあなたの後姿をぼーっと眺めてる。

静かさだけ満ちた部屋の外からは、年下のセンパイが走り回る音。
それもだんだんと遠くなっていく。
いつもなら遊びのお誘いがかかるころなのに、今日に限って
不思議と静かな時間が流れてく。

誰か、来てくれないかな。

――― このままあなたの後姿眺め続けてたら、何するかわからないから。
339 名前:チャンス到来 投稿日:2003年05月25日(日)14時17分33秒

自分の衝動を抑えきれる自信がだんだん弱くなってくから、
あたしはごそごそと自分のベッドの中にもぐりこむ。

ねむってしまおう。
ねむってしまえばなにもかんがえなくていいはずだから。

「おやすみ」さえ言わずに寝るのはどうかとも思ったけれど
その声を聞くだけでおかしくなりそうだからあたしは寝る。
アタマの中であなたの声だけ想像しながら。

そしてまた繰り返すやるせない夜。
340 名前:チャンス到来 投稿日:2003年05月25日(日)14時18分16秒

どれくらいたったろう。
やっぱり眠れなくて、モンモンと寝返りうったあたしの目の前にあった
あなたの顔。

「あさ美ちゃん!?」
「そんな驚くことないじゃん」

いやいやだれでもおどろきますから。

「勉強は?」
「終わった・・・・・・っていうか終わらせた」
「終わらせた?」

あなたは笑いながら鏡を指差す。

「鏡越しでモノ欲しげにじーっと見つめられてたら、ね?」
341 名前:チャンス到来 投稿日:2003年05月25日(日)14時18分46秒

顔が真っ赤になってくのが自分でわかりすぎるくらいわかって、
あたしはまたベッドの中にもぐりこむ。
そしてあなたはそれを阻止しようとして、結局はしっちゃかめっちゃかな
プチ乱闘の末に同じベッドの中へ。

はだけた首筋の白さが目に痛くて、あたしはあなたに背を向ける。
ホントに襲ってしまいそうなほどに理性が吹っ飛びかけてる。

あたしはどうすればいいですか。
あなたはなにをしてほしいんですか。

オトナなコドモ。
コドモなオトナ。

挑戦的な囁きが、ココロの奥底を甘くくすぐる。

「ねえ、愛ちゃんは何したい?」
342 名前:チャンス到来 投稿日:2003年05月25日(日)14時24分37秒

照明を落とした部屋の月あかりだけが二人を照らす。

見つめあうだけの二人。
張りつめた空気だけが耳に痛い。

「・・・・・・ワルイコト、かな」

ふたりでしましょう。
かるはずみでおこられそうな、なきたくなるような。

「ワルイコト、かあ。いいね」
「いいやろ?」
「そうだね」
343 名前:チャンス到来 投稿日:2003年05月25日(日)14時26分00秒




そして二人の夜がはじまる。



344 名前:チャンス到来 投稿日:2003年05月25日(日)14時26分35秒
おわり
345 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月25日(日)14時28分16秒
>>324 がんばってみました
>>326 がんばってみました

346 名前: 投稿日:2003年05月25日(日)14時30分51秒
保全がわり更新。内容についてはお願いだからつっこまないでください。
LIVE EPIC BARBEE放送カットで鬱な今日この頃。
347 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月26日(月)20時07分18秒
高紺キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!
よかったです(wまた気が向いたら書いてください
348 名前:くり 投稿日:2003年05月28日(水)15時30分49秒
高紺すきっス!
ほかにも、ごまたか、なちのの、ごまなちとか
希望っス!
349 名前:Friends and Dreams 投稿日:2003年05月29日(木)23時17分37秒

「おつかれ」
「ん」

グラスを重ねる涼しげな音が響く。
めったにない二人きりはいつだって言葉少な。

キライなわけじゃない。
とりたてて好きなわけでもない。

話す言葉が見つからないだけ。
話す必要を感じないだけ。

いちばん身近にいる人だから。
350 名前:Friends and Dreams 投稿日:2003年05月29日(木)23時18分09秒

「変わったこと、あった?」
「・・・・・・別にないって。 そっちは?」
「毎日顔あわせてるっしょ?」
「なら聞くなってばさ」

静かな店の中で、バーテンがシェイカーを振る音だけが規則正しく耳に届く。
初老のバーテンは、慣れた手つきでグラスをそっと二人の前へと差し出す。
二人は極上の笑顔でそれを受け取ると、再び静かにグラスを鳴らして今度は
一口だけ口をつける。

「・・・・・・遅いね、みんな」
「ま、それぞれいろいろあるだろうし」

互いにグラスを唇に持っていこうとしたとき、ドアにつけられた小さな鐘が新たな客の訪れを告げる。
351 名前:Friends and Dreams 投稿日:2003年05月29日(木)23時19分08秒

「おっそーい」

打ち合わせもせず同時に出てきた言葉に、顔を見合わせて少し吹き出す。

「悪い悪い。ロケ、時間通りに終わらんくて。 っちゅーか、ひょっとしてまだあんたら二人だけ?」
「せいかーい」
「勝手に始めさせてもらってまーす」
「酒弱いクセに何やってんだか・・・・・・ま、ええか。 マスター、ウチも同じの」
「・・・・・・かしこまりました」

そして差し出されるカクテルグラス。

「んじゃ改めて」
「かんぱーい」
「・・・・・・ちうかコレ甘すぎやで。 マスターごめん、やっぱビールにしてや」
352 名前:Friends and Dreams 投稿日:2003年05月29日(木)23時19分56秒

「忙しそうだねー」
「あんたらほどやないけどな」
「ちょっと太ったっしょ?」
「・・・・・・言いにくいコトをハッキリ言うなや」
「やっぱねー、三十路近いと体型も崩れるもんなのよ」
「あんたらもあと10年たってみいや、人のコト言えんくなるんやで?」

トクトクと音を立てて一杯になったグラスのふちから、白い泡が零れおちる。
一瞬で空いてしまうそれを見ながら、二人は呆れた顔で、それでも嬉しそうに続きを注ぐ。

「ま、現在無職の二人よかはまだマシやろけどな」
「だーれがだれよりマシだって?」
353 名前:Friends and Dreams 投稿日:2003年05月29日(木)23時20分34秒

カウンターの向こう側、初老の男性はいつの間にか妙齢の女性に。
ブランデーグラスに氷をなみなみ、ウィスキーもなみなみ。
悪戯っぽい微笑は相変わらず。

「コレ見てみなさいってば。コドモ産んだって体型変わってないでしょうが」
「・・・・・・いやその前に聞きたいことが山ほどあるんやけど」
「マスターに連絡してさ、裏口から入れてもらったのさ」
「何のために?」
「いやビックリするだろうなーって」
「・・・・・・それだけかい」
「相変わらずだねー・・・・・・」
「アタシはいつでもアタシのまんまさ。 ま、三人とも変わってなくて安心したよ」

グラスを重ねる音が増える。
そこには極上の笑顔たち。
354 名前:Friends and Dreams 投稿日:2003年05月29日(木)23時21分30秒

「で、あと一人は?」
「知らん。 あんたら連絡取ったんやないん?」
「取ったよー、来るって言ってたけど」
「いちばん歳下のクセに遅れてくるかなー」
「あんたよか精神年齢高いやろけどな」

再びドアの鐘が鳴る。

「あら、いちばん最後か」

少しも悪いと思っていなさそうなその表情が、懐かしい日々を思い出させる。
醒めた瞳をして四人を見回すその態度も変わらないまま。

「とりあえず駆けつけ三杯やでー」
「未成年に飲ますなよ三十路」
「まだなってへんちゅーに」

不機嫌そうな表情とは裏腹に弾んでいる息がわかるから、誰も何も言わずに
笑うだけ。

「とりあえず、これもらう」

残り僅かになったビール瓶を傾け、いつの間にかカウンターに戻ったバーテンから
差し出されたグラスに注ぎ終えると同時に、五つのグラスが掲げられる。
355 名前:Friends and Dreams 投稿日:2003年05月29日(木)23時22分06秒

何があるわけじゃない。
何を話すわけじゃない。

ただそれだけの時間が、静かに、時に騒がしく過ぎる。



帰る場所は、ここにある。
全てを始めた者たちの間に。
356 名前:Friends and Dreams 投稿日:2003年05月29日(木)23時22分42秒
おわり
357 名前: 投稿日:2003年05月29日(木)23時26分10秒
>>347 たぶん向くことはないかもしれないと思われます
>>348 おそらくは無理かと思われます
358 名前: 投稿日:2003年05月29日(木)23時28分59秒
意味のない文を書きたいという衝動を抑えきれずつい。
359 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月30日(金)21時29分18秒
なんか泣きそうになってしまいました。なんでだ?
この五人、いーなー。
360 名前:322 投稿日:2003年06月04日(水)23時10分34秒
俺も鬱でした<蜂共カット

おそくなりましたが「チャンス到来」拝読。
なかなかええ感じじゃないですか?
「バービーなら年上組で」という先入観があったので、
高紺のカップリングには意表をつかれました。

あと「Friends and Dreams」を読むと、作者さんはオリメンファン?
そうだったら明日香主役で「約束の橋」てどうだろう?
361 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月05日(木)21時34分03秒
やっぱオリメンはいいよなぁ
どんどん出してください。322さんの明日香主役に一票!!
362 名前: 投稿日:2003年06月14日(土)23時43分00秒
返レスのみ。
>>359 なぜなんですか?
>>360 なかなかええですかそうですか。佐野さんはまったく聴かないのでわからないです
>>361 書けたら出すかもしれません
363 名前:322 投稿日:2003年06月15日(日)22時39分07秒
明日香の場合「はじまりは『約束の橋』」だったもんで、
ネタとしては最適と思ったモンですが。

「LIVE EPIC 25」DVD発売決定です。
但しバービー未収録という噂も流れているのがかなり不安。
http://www.hmv.co.jp/news/newsDetail.asp?newsnum=306130040&category=1&genre=100&style=101
364 名前:名無しさん 投稿日:2003年07月14日(月)15時15分17秒
投票してくれた皆様ありがとう
365 名前: 投稿日:2003年07月23日(水)22時34分08秒
ええと明日香モノは短編コンペで。
「いつかどこかであいましょう」というやつです。よろしければどぞ。
>>363
イマサのサイトに代々木の映像がうpされてたです。
杏子がくるくるまわってました。
366 名前: 投稿日:2003年08月07日(木)03時23分30秒
今後一切このスレの更新はないと思われますので
決してあげることのなきよう、またレスをつけることのなきよう
身勝手ながらお願いいたします。

決して短くはない時間でしたがこのスレを読んでくださった方
一人一人に感謝の意を表すとともに、自分の未熟さを反省し、
また今後別スレ等で出会うことがあればこれまで以上のご愛顧を
いただけることを願いつつ。

金板の方は現状はともかくとして続ける意志はありますし、
コンペ系のイベントにはちょいちょい参加させていただくことも
あるかもしれないですが。

自分にとってとてもよい経験をさせていただきました。
どうもありがとうございました。
367 名前:a 投稿日:2003/11/16(日) 13:56
a
368 名前:cal 投稿日:2003/12/11(木) 02:01
名無し読者さん・・・メールください。お願いします。理由はメールにて返信するので・・・おねがいします!

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