悪魔のお仕事
- 1 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月22日(金)23時34分01秒
少しずつ書きためながらの更新になると思います。
頻繁に更新出来るかわかりませんが、最後までお付き合い頂ければ
ありがたいです。
それでは、『悪魔のお仕事』始まりです。
- 2 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月22日(金)23時36分47秒
- 短い春休みが終わると新学期が始まる。
ついこの間まで冬という季節だったというのが嘘のように、暖かな柔らかい日差し
が降り注ぎ、草木は元気を取り戻す。もちろん、元気になるのは草や木だけでは
なく、人間達も縮こまった身体を伸ばし始める。
しかし、春の柔らかな雰囲気は心地良いものの、新学期という事実を前に後藤真希
は憂鬱な表情で学校へ向かっていた。
その表情は、この桜並木のある道にそぐわない。
彼女の通う高校は山の上にある。その高校へ向かうには必ず桜並木が美しいこの
道を歩かなければならない。
桜は暖かい日が続いたおかげで、満開、とまではいかないものの、美しい花を
咲かせていた。
真希の他にも同じ制服を着た何人かがこの道を歩いているが、その顔は一様に
明るく、桜の花を見上げながら歩いていたり、楽しそうにお喋りをしながら学校
へ向かっている。
けれど、真希はその桜たちを見上げることもなければ、明るい表情をすることも
なく事務的に学校へと足を進める。
- 3 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月22日(金)23時38分43秒
- 今日から高校三年生。
高校生活最後の年だ。それと同時に進路を決めて、勉強なり、就職活動なりを
行う年でもある。
だが、真希には特別な思いはなかった。
春休み中に会った友人達は、最後の高校生活を楽しもうとか、良い大学へ入る為
に受験勉強に打ち込もうだとか、何かしらの思いを持って新学期を迎えるよう
だった。
入りたい大学があるわけでも、高校生活に未練があるわけでもない真希は、他の
友人達のように新学期への甘い期待を持てなかった。
友人達と明らかに違う自分の新学期への思いは何だか真希をやるせない気持ちに
させて、真希の表情を曇らせるのだった。
「こんないい天気の日に学校へ行かなきゃなんないなんて、間違ってる。
こーゆー日は外でのんびり過ごせばいいんだよ」
学校へ向かうことに乗り気ではない真希は、長い髪をくしゃくしゃとかき上げる
と一人つぶやいた。
- 4 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月22日(金)23時41分20秒
- 新学期が何だ。
高校生活最後が何だ。
そんなのたいした事じゃない。
たいした事じゃないと思いながらも、結構たいした事だということが頭のどこか
でわかっている真希は、足を止めると大きなため息をつく。
「はぁぁぁ」
肺の中の空気を全部出してしまうほど大きく息を吐き出すと、くるり方向転換
をした。
今まで学校へ向かっていた身体を180度向きを変えるとどうなるか?
当然、学校とは正反対の方向になり、今来た道を戻ることになる。
(別に始業式ぐらいサボったっていいよね?)
真希は心の中で学校をサボる事に決めると、桜並木を他の生徒達とは反対方向
に向かって歩き始めた。
- 5 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月22日(金)23時43分28秒
- 学校をサボると決めたら、現金なものでさっきまで目に入らなかった桜が急に
美しく見えてくる。
「桜も綺麗で、天気もいい。……これからどこへ行こうかな」
学校へ向かわなければならない、と思っていたときの沈んだ表情は消え、
晴れ晴れとした表情で真希は一人ぶつぶつとつぶやく。
今までなら学校をサボるなんて考えられなかった事だ。何故なら、学校をサボ
ろうものなら、ガミガミとうるさい両親がいたからだ。
しかし、今学期からはうるさい両親はいない。
真希の両親はこの春から北海道で暮らしている。
父が転勤になり、母は一緒に北海道へ行く事へ決めた。しかし、この春で高校
三年生になる真希は、この場所に残ることになった。両親は真希を一緒に
北海道へ連れて行こうとしたが、高校三年生という受験がからむこの時期に
環境を急に変えるのもどうかと思ったらしく、この場所に残りたいという真希
の意志を尊重した。
- 6 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月22日(金)23時44分59秒
- そんなわけで、真希はこの春から一人暮らしをしている。
気軽な一人暮らしを始めたということもあってか、真希は軽い足取りで今来た道
を戻っていく。
北海道にいる両親が、始業式から真希が学校をサボろうとしていることを知った
ら、即刻一人暮らしを中止させて北海道へ呼び戻すに違いないだろう。
(一回や二回、学校をサボったってバレやしないよ)
勝手にそう決め付けると、学校をサボるという罪悪感が少し薄れる。学校に背を
向けて、スキップでもしそうな勢いで桜並木の下を進む。
そんな真希の背中に車のクラクションが鳴り響いた。
自分とは関係ない。
そう思って振り向かなかった。
- 7 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月22日(金)23時46分21秒
- しかし、振り向かない背中にもう一度クラクションが呼びかけるように鳴り響く。
もしかして私の事かもしれない。
真希は二度目のクラクションに驚いて後ろを振り向いた。慌てて後ろを見る
真希の目に、自分に向かって真っ直ぐに突っ込んでくる赤い車が映る。
『キィィィィーーーーーー』
急ブレーキをかける音と共に、タイヤが焦げ付く臭いが鼻に届く。
(多分、きっと間に合わない)
道路にこびりつくゴムの臭いをかぎながら、真希はどこかに冷静さを残しながら
思った。
そして、きっとやってくるであろう衝撃に対して覚悟を決めるように目をギュッ
とつぶる。
次の瞬間。
真希の身体に冷たく堅い金属が一瞬めり込むような感覚があった。真希はその
痛みに耐えるようにさらに目を強くつぶった。
- 8 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月22日(金)23時48分05秒
本日の更新分終了!
次の更新は来週になります。
……がんばって最後までたどり着きたいです(^^;)。
- 9 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月23日(土)00時02分29秒
- みるきぃーさんの新作はっけーん(w
ごっちんどうなるんでしょう
マータリお待ちしてます(w
- 10 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月28日(木)23時30分22秒
- しかし、いつまで待っても痛みが脳に届くことはなかった。
何故?
真希の頭に疑問が浮かぶ。確かに車が自分の身体にぶつかる感覚があったのだ。
だから、痛みを感じないとおかしい。というか、今、冷静に痛みについて考えて
いられる状態がかなりおかしい。
「あまりの衝撃に痛みを感じることさえ麻痺しちゃったとか?
……あっ、それとも死んじゃったとか」
自分で口に出してみて真希はハッと気がつく。
(そうだ、もしかしたら死んじゃったのかもしんない)
だから痛みを感じないのだ。
一瞬にして真希は納得する。
それと同時に自分の驚くほどの冷静さに、真希は時分自身、呆れたものを感じた。
自分が死んだかもしれないというのに、何故こんなに冷静にいられるのか。
それは、まだ死んだことを実感出来ていないからなのか、それとも死ぬことに
対して恐れがなかったからなのか。
真希は自分の冷静さがわからない。
- 11 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月28日(木)23時33分03秒
- けれど、パニックになってわけがわからないよりはいい。真希はそう考えると、
今までギュッとつぶっていた目をゆるゆると開いた。
ゆっくりと目を開いた瞬間、どういうわけか誰かと目が合った。
「……うわっ」
予想出来ない出来事に真希は思わず叫び声をあげ、自分を驚かした瞳の持ち主を
確かめる。
涼しげな目が綺麗な整った顔がまず目に入った。
視線を下へとずらすと、細い首と女らしいラインの身体。その身体に張り付く
ようなノースリーブの黒いタートルネックのニットと黒いタイトなロング
スカートを身にまとっている。ノースリーブからのぞく腕は小麦色に染まって
いて、身にまとっている黒い服によく似合っていた。
耳元に目をやれば、血のような赤い小さなピアスがアクセントのように付けら
れている。
さらに彼女のその美しさを引き立たせるようにバックには青い空が広がっている。
- 12 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月28日(木)23時36分32秒
- 真希がさっきまで歩いていた桜並木も、ぶつかったであろう車もない。彼女の
周りにあるのは青い空と小さな雲だけ。
そう、その美しい彼女は宙に当然のように浮かんでいた。
宙に浮く彼女は、その美しさのせいか空に浮かんでいるという状態が実に似合って
いたし、それに、空に浮いている為に必要な物も持ち合わせていた。
澄み渡る青い空に不似合いな夜の闇色を持つ羽が、彼女の背中から当たり前のよう
に生えていた。
その羽は美しい彼女にとてもよく似合う物だった。柔らかなイメージを持つとても
綺麗な羽で、その羽が優雅に彼女を宙に浮かせていた。
「…………」
自分が死んだのではないか、と思っても冷静さを忘れなかった真希もこの異常事態
には言葉が出なかった。いや、言葉を発しようとしてもうまくいかず口をパクパク
とバカみたいに動かすことしか出来なかった。
- 13 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月28日(木)23時38分00秒
- 一体、何なのだ。
当然のように羽を生やして空に浮かぶこの美しい人は。
自分の死よりもこの状態に驚いた真希の頭は思考能力が低下していて、今の状況
をうまく理解できない。
そんな真希に問題の彼女が声をかけてくる。
「ごめんなさい」
口を開くと、彼女は小さくあやまった。
真希は、その声は彼女にあまり似合わないと思った。自分より幾分年上に見える
彼女には、そのどこか幼い感じのする少し高い声が似合わないように感じられた
のだ。
「何であやまるの?」
混乱状態から復活できないまま、真希は彼女に問いかけた。
彼女はその問いには答えず、瞳に悲しげな色を浮かべるとまたあやまった。
- 14 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月28日(木)23時40分46秒
「本当に、ごめんなさい。でも、これが貴方の運命だから……」
「運命?」
真希は無意識のうちに彼女の言葉に反応した。しかし、彼女はその問いにも
答えず、ただ口元に困ったような微笑みを浮かべると、ほっそりとした腕を
真希の胸元へと移動させる。
真希は優雅と言えるようなその動きに見とれるように、視線を彼女の腕へ
落とす。
真希はノースリーブから伸びる細い腕から、視線を細い指先へと移す。
指先には形の良い爪が伸びている。
- 15 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月28日(木)23時43分14秒
- 綺麗な爪だな、とその指先を眺めていると、急にその爪が伸びた。
真希は急に伸びた爪に驚いて身体をビクッと動かした。いや、動かしたはずだった
のに、何故だか身体が動くことはなかった。まるで金縛りにでもあったみたいに
身体全体が強張って動かない。どうしてかと考えているうちにも彼女の爪はどん
どん伸びて、その爪が15センチほども伸びた頃だろうか、ピタっと爪の成長が
止まった。
『ズプッ』
真希はそんな音が辺りに響いたような気がした。
しかし、実際は音もなく静かにその行動は行われた。
空に浮かぶ美しい彼女は細い腕をそっと真希の方へと動かした。すると伸びた
爪がスルリと真希の胸元からその胸の中へと押し込まれていく。
何の抵抗も痛みもなく自分の身体の中へ入っていく彼女の長い爪。
- 16 名前:魂の行方 投稿日:2002年03月28日(木)23時46分25秒
- 真希はただ黙ってその様子を見つめていた。実際は、大声を上げて叫びたいぐらい
驚いたのだが、身体は強張って言うことをきかないし、喉を自分の思うように動かす
ことも出来なかったので、声を出すことが出来なかった、というのが正解だ。
驚きを身体に伝えることを拒否された真希は、静かにその様子を見守ることしか
出来ない。
諦めたようにぼーっと彼女の腕を見ていると、その腕の向こうに空が見える。
(あっ、そーだ。空に浮いてるこの人が私の目の前にいるってことは、私も
空に浮いてるんだ)
今更ながらその事実に気がついて、空に浮かぶって大したことでもないのかな、
などと今の状況とは見当外れな事を考えていると、彼女の爪は数センチを残して
真希の身体の中へと収まっていた。その爪が真希の身体の中を何かを探すように
動く。
身体の内部をゴソゴソと動き回る爪の感触が、真希の脳へ伝わった。その感触に
痛みはなく、何となくくすぐったいような気持ちになる。
- 17 名前:みるきぃー 投稿日:2002年03月28日(木)23時55分49秒
本日の更新分終了!
やっともう一人登場人物が登場しました(笑)。
>>9
ごっちん危機一髪はまだまだ続きます(笑)。
更新ペースは早くないですが、がんばりますので最後まで
お付き合い下さい(^-^)。
- 18 名前:名無し読者 投稿日:2002年03月30日(土)05時46分35秒
- 不思議な話ちっくでいい感じっす。
作者さんがんばってください〜
- 19 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月03日(水)00時16分37秒
- みるきぃーさんの新作遅いけど発見(w
なーんか不思議な感じですね
頑張ってください
- 20 名前:ごんた 投稿日:2002年04月05日(金)16時05分48秒
すっごく楽しみです。
頑張ってください。
- 21 名前:魂の行方 投稿日:2002年04月07日(日)14時51分07秒
- そんな真希の気持ちにはお構いなしに彼女は爪を動かし、そして、目当ての物を
見つけたのかその動きが止まった。
臓器とは別の『何か』を捕まれる感覚。
(何だ、これ?)
その疑問の答えが出る前に、今までのくすぐったい感覚が嘘のような鋭い痛み
が真希を襲った。
「……っっ」
あまりの痛みに声を出そうとするがやはり声は出ない。
刺すような痛みが真希を支配する。しかし、彼女は真希の中の『何か』を離しは
しなかった。それどころかそれを軽く掴んだままをゆっくりと引き抜こうとして
いる。
(うわっ、何なんだよぉー。この痛みはっ。だぁっ、痛いって。マジで)
- 22 名前:魂の行方 投稿日:2002年04月07日(日)14時52分52秒
- 身体を動かすことが出来ない分、真希は頭の中でジタバタとするかのように
この痛みについて考え、そして叫ぶ。しかし、状況が改善されることはなく、
身体の中の『何か』は痛みを伴ったままズルズルと引きずり出されていく。
真希はあまりの痛みに、動かない身体を無理矢理に動かそうとした。ぐうっと
体中に力を入れる。それでも身体は動かなくてイライラするが、その苛立ちを
身体を動かす原動力に変えると、少しだけ腕を動かすことが出来た。
力の全てを腕に込めて、さらに腕を動かしてみる。ググッと腕が上がって、
痛みの元凶である腕に自分の手を置いた。手を彼女の腕の上に置いた振動が
真希の内部に伝わり、痛みを増幅させる。予想外の痛みに真希はまた頭の中
で叫び声を上げる。
本当は腕を掴んで、痛みを伴う彼女の行動を止めたかったのだが、そこまでの
力を出すことは出来なかった。しかし、出来なくてよかったのかもしれない、
と真希は思った。
- 23 名前:魂の行方 投稿日:2002年04月07日(日)14時54分23秒
- 彼女の腕に手を軽く置いた振動だけでもかなりの痛みだった。もし、彼女の動き
を止めようと無理な行動を起こしていたら、どれだけの痛みが自分を襲っていた
のか考えるだけでも恐ろしかった。
耐えきれない痛みが真希を苛む。
その痛みが意識をどこか遠くへ飛ばしてしまうのを拒むように、自分の体内を
弄ぶ彼女の腕に置いた手に力を入れた。
すると一瞬、彼女の腕の動きが止まった。
「……痛いよね。でも、止められないの」
少し高い声が濡れたように掠れていて、それが何故だか真希をドキドキさせた。
自分をドキドキさせた人の顔を確かめようと真希が視線を上げると、そこには
自分より痛そうに美しい顔を歪ませる彼女がいた。
疑問だらけだ、と真希は思った。
痛いのは自分のはずなのに何故か、自分よりも痛そうな顔をする彼女。
彼女が引きずり出そうとする『何か』。
そして、彼女の正体。
- 24 名前:魂の行方 投稿日:2002年04月07日(日)14時55分35秒
- 一体、どうやったら疑問の解答が得られるのだろう。
痛みで薄れそうになる意識の下で真希は答えを探そうとしていた。しかし、
答えが見つかるわけもなかった。
「ごめんね」
彼女は今にも涙をこぼしそうな瞳で真希にそう告げると、今までゆっくりとした
動きだった腕に力を込めて、一気に真希の体内から『何か』を引き出そうとした。
ズルズルと真希の身体から彼女の爪が抜け出てくる。それと共に意識は遠くなり、
『何か』が体外へ顔を出そうとしていた。
(もうダメだ……)
真希の意識を保つ糸がぷつりと途切れそうになったその時、頭上から声が降って
きた。
「アンタ、それ、殺すつもり?」
耳障りの良いアルトの声がぼそりと言った。
- 25 名前:魂の行方 投稿日:2002年04月07日(日)14時57分04秒
- その声に反応して、真希の身体から『何か』を引きずり出そうとしていた腕が
止まる。
「殺すの?それ?」
静かに、しかし、不穏なセリフを事も無げにアルトの声が問いかける。
「えっ?」
「だから、そのままじゃ死んじゃうって」
「……あの、死んだら、ダメなんですか?」
真希の目の前で、さっきまで悲しそうな色に染まっていた瞳の色がさっと不安
そうな色に変わる。真希の胸に爪を突き刺したまま急にオドオドとした態度に
変わった彼女は、困ったように『それ』を見つめる。
(もしかして、『それ』って私?しかも、殺すとか言ってるよ?おいおいおいっ!
何がどーなってんだよぉ)
態度を急変させた彼女に見つめられながら、真希は痛みも忘れて彼女を見つめ
返した。
- 26 名前:魂の行方 投稿日:2002年04月07日(日)14時58分30秒
「それ、まだ死ぬには早いみたいよ?」
「…………嘘ですよね?」
「いや、ホント」
「ええぇっっっ!」
「いったぁぁぁ!」
驚きのあまりか、困り顔の彼女がかん高い声を上げて勢いよく真希の身体から
爪を引き抜こうとする。それにつられて体内の『何か』も身体の外へ半分ほど
引きずり出されたものだから、真希はたまらず大声を上げた。
出なかった声が出た事に驚くことも出来ないほどの痛みに、今度は今までとは
逆に痛みのあまり意識を手放す事が出来なくなる。
「だぁっ、バカっ!何やってんのっ!!」
頭上から大声が降ってくると同時に、その声の主が真希の目の前にふわりと降り
てきた。
- 27 名前:魂の行方 投稿日:2002年04月07日(日)15時00分27秒
- 頭上から舞い降りてきた人物は、真希の身体から爪を全て引き抜こうとしている
彼女の腕を掴むと、空いている手で『何か』を身体の中へ押し戻してくれた。
押し戻す際、抜き出すときと同様の痛みが真希を襲う。こんなに痛い目にあう
ならもう死んでしまった方がいいのではないか、と真希は真剣に思う。
「石川、離しなさいっ」
どうやら、真希の体内を弄んでいた人物の名前は石川というらしい。真希は痛み
に必死で耐えながら、痛みの元凶を作った人物の名前をしっかりと脳裏に刻み
込む。
真希の身体に爪を立てたままの石川は命令にのろのろと従い、体内で『何か』
から爪を離した。そして一気に爪を身体から抜き去った。
「また失敗ですよね?」
石川が美しい容姿には似合わない情けない声で尋ねた。
「失敗以外の何者でもないわね」
アルトの声が無情にも彼女の失敗を告げる。
真希はその声の方へ目をやった。
そこには大きな目が印象的な女の人が空に浮いていた。オープンカラーの黒い
半袖シャツに黒いパンツ姿の彼女にも、やはり石川同様の黒い羽が背中に生え
ていた。
- 28 名前:魂の行方 投稿日:2002年04月07日(日)15時01分59秒
- この状態は一体何なんだ?
痛みに耐えながらの真希の疑問も空しく、二人は真希を無視したまま会話を
続ける。
「人違いでしょうか?」
「っていうかね」
パンツ姿の女性があきれ顔を石川の耳元へ近づけて、何事かボソボソと告げて
いる。
その耳元で囁かれる何かを聞こうとしている石川の顔は、可哀想な程に情けない
ものになっていた。
(今度こそ、ダメかも)
何故かすまなそうな表情でこちらをちらちらと見ている石川を眺めながら、
真希は意識が遠くなっていくのを感じていた。
「ええっ、まだ一ヶ月先なんですかっ」
突如、石川が大声を張り上げた。その口を「だぁっ、叫ぶなっ」とかなんとか
言いながらパンツ姿の女性が慌てて押さえている。
その叫び声を聞きながら、真希の意識は薄くなっていく。
意識がなくなりかけた真希はふらふらと倒れかけ、それを石川が慌てて助けに
来る様子が霞む視界に映る。
石川に抱きかかえられた真希が最後に見た物は、石川の耳元で輝く血のような
ピアスだった。
- 29 名前:みるきぃー 投稿日:2002年04月07日(日)15時08分47秒
本日の更新分終了!
ちょこっとずつの更新で申し訳ないです(^^;)。
>>18
不思議なまま話は進んでいきます(・▽・)。
この後も不思議満載!(なのか?(^^;))
>>19
発見してもらえてよかったです(笑)。
がんばりますので、この先もよろしくです♪
>>20 ごんたさん
風邪にも負けずがんばってます(笑)。
この先もちょびちょびですが、更新していくのでよろしくです。
- 30 名前:LINA 投稿日:2002年04月08日(月)23時44分55秒
- 今日はじめて読みました♪
前から気になってはいたんですが(w
背中から黒い羽ってのが、カナーリ気に入っちゃいました♪
続きも楽しみにしてますね(* ´ Д `)ノんあー
- 31 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月11日(木)23時20分41秒
- ふわふわと髪の毛に触れる優しい手の温もり。
子供の頃、熱を出すと母親がこんなふうに頭を撫でてくれた。
そんなことを思い出してしまうようなこの優しい手の持ち主は誰なんだろう?
柔らかな刺激に真希は深い眠りから呼び覚まされた。
真希ははっきりしない意識をたぐり寄せ、重たい瞼を無理矢理こじ開けようと
努力する。しかし、それは無駄な努力にしかならなかった。
眠りを誘うように撫でられる髪の毛が、真希を眠りの底へ押しやってしまう。
春風のように暖かい感覚をもたらす人を見つけることが出来ないまま、真希は
また眠りに落ちた。
- 32 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月11日(木)23時23分12秒
- ☆☆ ☆☆
ツンと鼻を刺激する独特の臭いが広がる空間。
その空間は全てが清潔な白で彩られ、半分ほど開けられた窓からは昼の光が
差し込んでいた。
真希は目を開けると、すぐにこの空間が病院であることに気がついた。しかし、
何故、自分が病院内に閉じこめられているのかまではわからない。
どういうわけか痛む身体を無理矢理起こして辺りを見回す。
真希の目に映る物はほとんど白い物だった。壁やベッド。そして、身体に巻かれ
る包帯。
(……包帯?包帯巻かれるような怪我なんかしたっけ?)
真希は身に覚えのない包帯をまじまじと見つめた後、ズキズキと痛む頭を押さえ
ながら今日一日を振り返った。
朝起きて、ご飯を食べて、そして嫌々ながらも学校へ向かった。それから、やっぱ
り学校に行きたくなくてどこか別の所へ行こうとした。
- 33 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月11日(木)23時25分29秒
- そこまでは確かだった。
問題はどうやらその後にあるらしい。だが、どうもその後の記憶がハッキリしない。
真希は、何故、頭に巻かれているのかわからないままの包帯を軽く撫でながら
記憶を辿る。その眉間にはしわがクッキリと浮かび上がっていた。
白い空間が沈黙に支配される。しかし、その沈黙も長くは続かない。
開け放たれた窓から風が病室に運ばれた瞬間だった。
真希のすぐ側から声が聞こえた。
「どこか痛い?先生、呼びますか?」
沈黙を破る少し高い特徴的な声に真希はびくっとして、思考を中断した。そして、
声の方向へ身体ごと向いた。
声の方向へと顔を向けた真希の瞳に映ったのは、病院には不釣り合いな健康的な
少女だった。
- 34 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月11日(木)23時27分23秒
- その少女はベッドの脇にあるパイプ椅子に腰掛けていた。
健康的な小麦色の肌を持つ彼女は、ピンクのパーカーにピンクがアクセントに
なったパンツ、そしてピンクの靴という、これまた病室には似合わないピンク
ずくめの格好をしている。その顔はかわいいというより綺麗な整った顔だ。
しかし、全身のピンクが美しい顔をかわいく見せていた。そして、特徴的な高い
声はその雰囲気に合っていると言えなくもない。
「どこかで会いました?」
何故か彼女にどこかで会った事があるような気がして真希は尋ねてみるが、
返事は返ってこなかった。かわりに彼女の手が優しく真希の髪に触れる。
「ごめんなさい」
真希の髪に軽く触れながら、悲しそうに彼女は小さく謝った。
どこかで聞いたセリフ。
- 35 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月11日(木)23時28分34秒
- その表情もどこかで見たことがある今にも泣きそうな顔。
どこで見たんだろう、と疑問を解決すべく真希は記憶の底を探り始める。
整った顔を悲しそうに歪ませる彼女を見つめる。
窓から太陽の光が差し込みピンクに彩られた彼女を浮かび上がらせていた。
真希は光に誘われるように窓を見た。するとそこには春らしい柔らかな青空が
広がっていた。
「そうだ、空だ。空に浮いてた……」
思わずつぶやいて、真希はバカなことを言ったと自分言葉を慌てて否定する。
「そんなわけないか」
そんな事があるわけないのだ。
- 36 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月11日(木)23時30分46秒
- 真希はやっとのことで思い出した記憶を、もう一度記憶の底に沈めてしまおう
とした。
車に轢かれて、そして気がついたら空の上で、羽の生えた謎の美人に殺されそう
になったなんてバカげてる。
よく見ればここにいるピンクの彼女は、あの時の美人に少し似ているが、あの人
のように羽など生えていない。第一、空に浮いていた人はもう少し大人っぽかった。
それにあれは現実ではないはずだ。
あはは、と真希は軽く笑って、頭に浮かんだバカげた考えを否定した。すると急に
別の事が気になってくる。
どうして見知らぬ人間が病室にいるのか?
しかし、真希はもしかして知っている人なのかもしれないと思い、もう一度彼女を
よく見てみる。
- 37 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月11日(木)23時32分49秒
- ピンクの服だけに気がいっていたさっきはよく見ていなかった部分に注目した。
するとさっきは気がつかなかったピアスが目に入った。
真っ赤な血のようなピアス。
それは、空に浮かんでいた人がしていた物と同じ色のピアスだった。
(ピアスが同じだからって、そんなの証拠にならないよ)
ドクっと心臓が脈打つ音が聞こえた。
夢か現実かわからないあの人とピアスが同じだからといって、彼女をあの人と
同一人物にしてしまうことを真希は躊躇う。
何故なら、ここにいる彼女があの人と同一人物だったら、この彼女が何者なのか
もっとわからなくなってしまうから。
あの人は、人間じゃなかった。
羽を持ち、爪を伸ばして人の身体の中に進入することが出来るなんて普通じゃない。
そんな人が目の前にいるわけがない。
- 38 名前:みるきぃー 投稿日:2002年04月11日(木)23時39分56秒
-
本日の更新分終了!
あうあう、はなしが進まない(爆)。
……がんばろう(^^;)。
>>30 LINAさん
読んでくれてありがとですぅ\(^-^)/
私も黒い羽が気に入ってます(笑)。
黒い羽軍団(←って二人だし)の活躍をお待ち下さい(笑)。
- 39 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年04月12日(金)09時33分39秒
- うたばん見ましたよ〜。
りかごまでしたね。
- 40 名前:葵 投稿日:2002年04月12日(金)14時14分50秒
- んーやっぱみるきぃーさんの書くの
すげー好きっす(w
うたばんはいしごまでよかったっす
生き返った?後藤と石川?がどうなってくのか期待してます
- 41 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年04月12日(金)15時48分34秒
- ごっちんが迷うのは仕方がない。
いったいこの二人はどうなってゆくのか楽しみです。
みるきぃーさん、頑張ってください。更新楽しみに待っていますよ。
- 42 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月14日(日)23時32分41秒
「あなた、誰?」
記憶にある信じられない出来事をなかった事にするかのように、真希はつぶや
いた。
そんな真希のつぶやきに、ピンクの少女が少し声のトーンを落として答えた。
「覚えてませんか?」
その今までより落ち着きのある声が、真希の記憶にあるあの人の声と重なる。
「……石川、さん」
真希は、目の前の少女に向かって話しかけるというよりは、自分自身を納得させ
るように声に出してみる。するとピンクの少女がその呼びかける答えるように
満足そうに微笑みかけた。
「石川梨華です。……あの時はごめんなさい」
「うそ?あれって現実……」
「信じられませんか?」
信じられない、というようにコクコクと首を振る真希の胸元に石川はそっと手
を置いた。
- 43 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月14日(日)23時38分24秒
- ビクッと真希の身体が無意識のうちに震えた。
夢か現実か定かではない記憶が蘇る。
あのしなやかな手から伸びた爪が自分の体内に入る感覚が、『何か』を捕まれた
痛みの記憶と共に身体に浮かび上がった。
実際には痛みはない。けれど、真希の記憶が身体を震わせる。
そんな真希を見た石川がすまなそうに視線を落とし、困ったような声音で言った。
「怖がらないで下さい。もうあんなことはしませんから」
「ねぇ、あれ、本当にあったの?」
震える身体を無理矢理止めると、石川の言葉を無視するように真希は問いかけた。
- 44 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月14日(日)23時40分28秒
「あれは現実です」
「現実って……」
「後藤さん、あの時、あなたは車に轢かれたんです。そして、そのはずみで魂が
身体の外へと出てしまった。私はその魂の核となるものを回収する為に後藤さん
の前に現れたんです」
「魂?だって、あの時、私、ちゃんと身体があった。自分の身体が空に浮いてた」
「あれは魂の記憶です。魂の記憶が身体や服を作り出しているにすぎないんですよ」
石川がその今まで持っていた雰囲気にそぐわない真面目な顔で説明する。
「うっそだぁ」
あまりに突拍子もない話しを聞かされて真希は石川の言葉を信じることが出来
ない。
魂を回収するなんてまるで死神か悪魔のようで、おとぎ話の世界だ。バカバカ
しくて信じる方がおかしい。
- 45 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月14日(日)23時43分03秒
- 確かにあの空に浮かんでいた人物には悪魔の羽と呼べるような物が生えていたが、
あれが現実にあったこととは到底思えない。
車に轢かれたショックで白昼夢でもみたのだ。
真希はそう納得しようとした。
「信じていないんですね」
石川が真希の方へと顔をぐいっと近づけて言った。
真希は整った顔が急に自分に近づいてきたことに驚いて、ベッドの上で身体を
仰け反らせる。
「だって、信じられるわけないじゃん。魂を回収なんてそれじゃ石川さん、死神だよ。
大きな鎌でぐっさり魂を突き刺してもっていっちゃうわけ?そんなの人殺しだよ、
人殺し。石川さんの話が本当なら、私は石川さんに殺される所だったってことだよ?」
石川の顔から遠ざかるようにしながら、真希は馬鹿な話しを否定するように一気
にまくし立てた。
- 46 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月14日(日)23時46分38秒
- すると、真希の言葉を聞いた石川の表情が一気に暗くなった。
困ったように真希から離れると、大きなため息を一つつく。
「人殺しですよね、やっぱり」
そうつぶやく石川の声は暗く沈んでいる。
「でも、でもっ!別に殺すつもりじゃなかったんです。私は私の仕事をしようと
しただけなんです。でも、それがちょっと間違っていただけで」
不穏なことをさらりと間にはさみながら石川は真希に説明をする。
その説明を聞いた真希は不穏な言葉に気がつかなかったのか、別の事を石川に
質問した。
「いや、あの石川さん。否定しないわけ?」
「何をですか?」
「死神ってこと」
「ああ!そうですね。それは否定します。正しくは悪魔です。なので、鎌でぐっさり
刺したりしません。悪魔はさっき空の上でしたように、爪をさっくり刺して魂を
回収するんです」
にっこりと極上の微笑みを浮かべて石川は真希に断言した。
一方、真希はといえば、目の前で天使の微笑みを浮かべる悪魔を見つめあきれ
顔をしている。
- 47 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月14日(日)23時50分00秒
- 死に神にしろ悪魔にしろ、普通じゃない。それは人間とは言わない種類の生き物
で、現実には存在しない物だ。それを、私は悪魔です、とはどういう神経状態
なのだ。
真希は石川をまじまじと見つめた。
見つめながら、自分の目の前にいる人物の頭はいっちゃってるんじゃないか、
と思う。
しかし、石川はにこにことあいかわらず天使の微笑みを浮かべている。
石川にしてみれば、何故、真希が今まであったことを信じないのかがわからない。
確かに経験したはずの出来事なのに、それを信用出来ない理由がわからないのだ。
とにかく真希に自分の存在を認めてもらわなければ、仕事に支障をきたす。ただで
さえ失敗続きの仕事なのだ。こんなところでつまずいているわけにはいかない。
- 48 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月14日(日)23時51分41秒
- 石川は心の中で決意を新たにすると、真希に声をかけた。
「証拠、見せましょうか?」
石川はパイプ椅子から立ち上がった。そして、窓枠に寄り掛かるようにして
身体を預ける。
太陽を背中に背負うように窓際に立つ石川に、小さな風が吹いて背中に流れる
髪を揺らした。
一瞬の出来事だった。
全身がピンクで埋め尽くされていたはずの石川が、あっという間に黒い衣装に
包まれていたのだ。
その身体を包むのは真希があの空で見た服と同じ物だった。そして、その背中
にもあの時見た闇色の羽が生えていた。表情も幼さが残る先程までのものとは
うって変わって、少し大人びた感じがするものになっている。
- 49 名前:みるきー 投稿日:2002年04月15日(月)00時01分16秒
-
本日の更新分終了!
久々の快挙だ!更新間隔が短い(爆)。
というわけで、筆が進んだ(キーボードが進んだ、か?)ので
アップしてみました(^-^)。
>>39 名無し募集中。。。さん
うたばんは、「ごっちん、良い発言ありがとう!」って
感じでした(笑)。
>>40 葵さん
好きだなんて言われると非常に嬉しいです。喜んで、更新して
しまいます(笑)。
ぞんびー後藤(←ちと違う)がこれからもがんばります(笑)。
>>41 いしごま防衛軍さん
ども、いつもありがとうございます(^-^)。
この二人の行く末を見守ってやってください。ごっちんは大変そうです、
これから(爆)。
- 50 名前:みるきぃー 投稿日:2002年04月15日(月)00時04分01秒
↑上のハンドルが微妙に間違っていますが、本人です(爆)。
自分のハンドル打ち間違えてどーすんだよ、私(;▽;)。
- 51 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年04月15日(月)00時14分43秒
- うーん、たしかにごっちんは大変そうです。
そして失敗続きの梨華たんも大変そうだ。悪魔の梨華たんってなかなかいい。
更新楽しみに待っています。
- 52 名前:LINA 投稿日:2002年04月15日(月)16時45分59秒
- なんか石川が(・∀・)イイ!
悪魔とゆー設定が、メチャ萌える〜(w
やっぱ、梨華ちゃんの師匠はあの人ですよね♪
- 53 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月18日(木)23時21分28秒
- 目の前で『変身』した彼女に驚いて真希は声も出ない。
それでも、自分の前に立つこの美しい人物には見覚えがあって、頭の中で過去の記憶
と並べて比べてみる。
(やっぱりあの時と同じピアス……)
黒一色の服装にぽつんと小さな赤い点。
その赤い点は、空の上で意識を失う瞬間に真希の目に飛び込んできた赤いピアスと
やはり一致する。
真希は確かに見たことがある人物と記憶と一致するピアスを目にして、やっと石川
の言葉を信じようとする気になった。
「ほんとに悪魔なわけ?」
それでも真希の口から出てくるのものは疑問符のついた言葉だった。
「はい、そうです。あなたの魂を回収する為にこちらの世界へやってきたんです。
……間違いでしたが」
「ははははっ。悪魔なんだ、本当に。そーゆーのって本当にいるんだ。
って、ちょっと待って。何、その間違いって?」
つい先程聞き流した言葉を真希の耳がやっと捕らえた。
想像できないような出来事が自分の回りで起きている事に対して乾いた笑いで話し
を聞いていた真希だが、「間違い」という言葉にやっと反応を示す。
- 54 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月18日(木)23時24分32秒
- 黙っていればわからないことまでペラペラとしゃべる悪魔は、悪魔とは思えないような
態度で申し訳なさそうに真希へ頭を下げた。
「す、すみません」
背中の羽を小さくばたつかせながら石川はもう一度頭を下げる。
「本当は後藤さんの魂を回収してはいけなかったんです。なのに、間違えて
回収しようとしてしまったんです。本当にごめんなさい。
殺しかけておいて謝ってすむとは思えないんですが、ごめんなさいっ!」
悪魔らしくない情けない顔をした石川は病院に似つかわしくない大きな声で謝った。
その大きな声とは対照的に、背中の羽は申し訳なさそうに小さく震えている。
「私、間違えで殺されそうになったわけ?」
真希は呆れた顔で、声には少し怒りも混ぜて石川に声をかけた。
「……すみません」
「すいませんじゃ、すまないよっ!とりあえず生きてるからいいけど、
本当に死んでたらどーすんのさっ」
ビクビクと怯える悪魔に、真希は思わず大声をあげた。
それに反応するかのように、石川の羽が先程より大きく震えた。
怒鳴られても当然だ、と石川は思う。本当に彼女の魂を回収していたら、間違えました、
ではすまなかった。
- 55 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月18日(木)23時27分09秒
- 今まで何度も失敗してきたが、ここまで大きな失敗はなかった。
死ぬはずのない人間を死なせてしまいそうになるなんて、前代未聞の失敗だ。
(悪魔失格だよ、これじゃあ)
石川の潤む瞳から涙がこぼれそうになる。
その様子を見ていた真希は、何だか申し訳なくなってきて今度は幾分優しいトーン
で話しかける。
「まぁ、いいよ。結局、死ななかったわけだしさ」
真希は慰めるように石川に声をかけたが、石川からはなんの反応もない。真希の目の前
で激しく落ち込んでいるだけだ。
その落ち込みようがあまりに気の毒で、真希は話題を変えようと試みる。
「そうだ!私の魂を回収するのが間違いだったなら、石川さんは
何でまだここにいるの?」
悪魔に向かって、『石川さん』などと人間じみた呼びかけをすることに多少のためらい
があったが、他に呼びようもないのでとりあえず真希は『石川さん』と呼ぶことにする。
- 56 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月18日(木)23時30分08秒
「そうだった。落ち込んでる場合じゃなかった」
石川は真希の言葉に、我に返ったかのように反応した。
息を小さく吸い込むと、今までの空気を一変させ、力強く真希を見つめる。
そして、断言した。
「私がここに残っているのは、後藤さん、あなたを守る為です」
握り拳を作って力強く言い切った石川の背中から一枚、柔らかな悪魔の羽が舞い
落ちた。
『ガチャ』
羽が床へ落ちると同時に、病室のドアが開く音が部屋に響いた。
開いたドアからひょこっと顔を出しながら、大柄な人物が明るく真希に声を
かけてくる。
「ごっちーん、生きてるかぁ?」
「よっすぃー!」
「いやぁ、ノックしたんだけどさ、気づいてくれないみたいだったから
ドア開けちゃった」
どうやら、話しに夢中になっていたらしく、真希も石川もノックに気がつかなかった
らしい。
- 57 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月18日(木)23時35分31秒
- しかし、ノックに気がつかないほど話し込んでいた二人に気を遣うわけでもなく、
黙って立っていれば美少女にしか見えないこの少女は、どかどかと病室に入ってくる
とベッドの脇に置いてある椅子にこれまたどかっと腰を下ろす。
その様子は美少女にしかみえない彼女には似つかわしくない。
パイプ椅子に当然のように座っているこの人物、よっすぃーこと吉澤ひとみは真希
の親友だ。
高校に入学して以来の友人で、何でも話せて相談できる真希にとってとても大切な
人だ。
どうやら彼女はどこからか真希の入院を聞いて、わざわざ病院まで来てくれたらしい。
「車に轢かれたんだって?」
「ああ、そうみたいでさ」
「そうみたいって、まるで他人事みたいに……。頭打ってどっかおかしくなったんじゃないの?
大丈夫かぁ?」
ひとみは真希の頭に巻かれている包帯を指さしながら言った。その声は明るいものだったが、
顔は心配そうな色を浮かべている。
ひとみの顔色を見て心配させまいと真希は元気そうに笑った。
- 58 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月18日(木)23時37分08秒
「大丈夫だよ。こー見えても頑丈に出来てるから、少しぐらいのことじゃ死なないってっ」
真希は笑顔のついでに胸の辺りをドンと軽く叩いて見せた。
その様子を見てひとみも安心したように笑うと言った。
「一応、元気みたいだね」
「まあね」
答えながら真希はパイプ椅子に座っているひとみを見た。すると、ひとみは真希を
見ながら、先程とは違う種類の笑みを浮かべている。
その笑みの意味がわからず、真希が不思議そうな顔をしているとひとみはおかしくて
たまらないというように笑いながら告げた。
「そのピンクのパジャマ、似合ってるね」
(ピンクのパジャマ?)
ひとみの言葉に驚いて真希は自分の着ている物に慌てて目をやる。すると、鮮やかな
ピンクのパジャマが目に入った。
「何で?」
無意識のうちに声が出る。
- 59 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月18日(木)23時39分11秒
「ごっちんでもピンクのパジャマなんか着るんだねぇ。初めてみたけど、結構いいね」
ひとみは笑いをこらえながら真希に告げる。
しかし、そんなひとみの声も、他のことで頭の中が埋め尽くされていた真希には
届いていなかった。
ピンクのパジャマから連想されるもの。
そうそれはピンク一色に埋め尽くされた服装をしていた悪魔。
自分の目の前で見事に変身して、背中に羽を持つこの世の常識から外れた生き物
のことだった。
真希はひとみの正面に立っているであろう悪魔の方へ視線を動かした。そのまま
悪魔の足下を見ると、ふわふわとした黒い羽が一枚落ちている。
「わあぁぁぁっ」
「な、何?何なの、ごっちん」
目の前で急に手をバタバタと振り回して暴れ出した真希を見て、ひとみは驚いて声を上げた。
しかし、真希は落ち着くどころかさらに慌てたように手をバタバタと動かす。
- 60 名前:みるきぃー 投稿日:2002年04月18日(木)23時47分10秒
本日の更新分終了!
もうすぐ引っ越しでバタバタしているのですが、パソコンは最後まで
しまいません(爆)。
引っ越し間際の最後の最後まで更新します、多分。
>>51 いしごま防衛軍さん
この後も石川さん、大変です(^^;)。
私的に石川さんは悪魔っぽい感じが似合うと思うのです(^-^)。
>>52 LINAさん
私も悪魔の石川さんに萌えています(笑)。
石川さんの師匠はやっぱりあの人しかいないでしょう!(゚ー゚)
別スレの「今夜、出会えたら」に短編をアップしてますので、よろしければ
のぞいてみて下さい(^-^)。
- 61 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月19日(金)02時23分45秒
- ピンク好きな悪魔って絵的にも面白そう(w
- 62 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2002年04月19日(金)12時10分53秒
- 今度の新曲のごっつぁんはピンク・・・
- 63 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年04月19日(金)16時12分41秒
- よっすぃーは梨華たんに気づいていないのか。
おっちょこちょいの悪魔な梨華たん最高です。
- 64 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月23日(火)23時40分50秒
「見ちゃダメ。見ちゃダメー」
真希はひとみの目から悪魔を隠すように手を振り回した。そんなことをしても
今更無駄だということぐらいわかっているのだが、少しでも悪魔をひとみから
隠したくてバタバタと真希は暴れる。
見られたからといって困るのは真希ではなく、悪魔である石川のはずだ。その
はずが、どういうわけか真希の方が悪魔より慌てている。
「そんなに美人を私の目から隠したいんだ?」
「へっ?」
「とぼけちゃってぇ〜。もったいぶらずにさぁ、後ろの美人、早く紹介してよ」
「いや、あの。別にとぼけてなんかないんだけど。……なに、美人って?」
「ごっちーん。マジでこの辺の血管、2、3本切れてない?」
ひとみは自分のこめかみの辺りを指さしながら、あきれ顔で真希を見ている。
- 65 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月23日(火)23時44分21秒
- 悪魔を隠そうと無駄な努力をしていた真希はといえば、予想外のひとみの言葉に
戸惑う以外出来ない。しかし、いつまでも呆然としているわけにもいかず、
おそるおそる後ろを振り返ってみる。
真希の視線の先にいたのは、悪魔の羽を生やした石川ではなく、ピンク色を身に
まとった石川だった。
いつの間に悪魔から人間の姿に戻ったのか、石川はパイプ椅子に何事もなかった
かのように腰掛けていた。
「初めまして」
一言挨拶すると、石川はにっこりとひとみに微笑みかけた。その天使の微笑みに
ひとみは思わず頬を赤らめてしまう。
「私、真希ちゃんの親戚で石川梨華っていいます。真希ちゃん、交通事故にあって
怪我をしてしまったでしょ?でもご両親が仕事でこちらにこられないので、
私がかわりに真希ちゃんの様子を見に来たんです。しばらく真希ちゃんと一緒に
暮らすことになりますので、これからよろしくお願いします」
石川は真希が考えてもいなかったことを淀みなくひとみに語りかけた。
- 66 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月23日(火)23時49分26秒
「へぇ、そうなんですか。私はごっちんのクラスメイトで吉澤ひとみです。
いやぁ、こんな綺麗な人と知り合いになれるなんて嬉しいなぁ」
ひとみは本当に石川と知り合いになれたことが嬉しいらしく、にこにこと嬉しそうに
している。そして、その笑顔のまま真希の背中を軽くぽんっと叩くと言った。
「ごっちん、こんな綺麗な親戚がいたなら早く紹介してほしかったなぁ。
隠しとくなんてズルイよ」
「あは、あはははっ。そだね、早く紹介すれば良かったね」
真希はいつの間にか勝手に自分の親戚という地位に収まってしまった石川に抗議する
ことも出来ず、話しをあわせてひとみに乾いた笑いで返事を返す以外出来ない。
- 67 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月23日(火)23時50分54秒
- 本当は、親戚なんかじゃない、と大声で訂正したかったのだが、訂正したところで
他に説明のしようもないので、しょうがないと諦めるしかなかった。
「いやぁ〜、今日はいいもの見たなぁ。来た甲斐があった」
そんな真希の気持ちが伝わるはずもなく、ひとみは幸せそうにつぶやくと、
よいしょとパイプ椅子から立ち上がった。そして、様子を見に来ただけだから
もう帰る、と告げるとひとみは病室から出ていった。
しかし、パイプ椅子から立ち上がった瞬間、真希に小声で「あの服装はどうかと
思うけどね」と付け加えることをひとみ忘れなかった。
- 68 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月23日(火)23時53分14秒
- ひとみが病室から出ていってしまうと、先程までの明るい雰囲気が消え、
微妙な空気が病室に流れ出す。
白い空間がさらに白くなったような感じが病室に充満する。
その空気を消し去るように真希が口を開いた。
「いつの間に親戚になったわけ?ついでにこのパジャマは何?」
ひとみがいた時には言えなかった言葉を口にした。
その問いに石川は悪びれもせずにこやかに答える。
「今です。で、パジャマは私の趣味です。何か問題ありますか?」
「あるような、ないような。……とりあえず、このパジャマはちょっとね」
ピンクのパジャマを指さしながら真希は困ったように答える。真希はちらりと
石川を見たが、パジャマに関して気にしている様子はなかった。
- 69 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月23日(火)23時55分15秒
「そんなにイヤですか?だったら、裸がよかったですか?」
「それもちょっと……。まぁ、パジャマはいいや。それよりっ!」
そこまでで言葉を切ると、真希は真剣な顔で石川に告げた。
「私、親戚になった覚え、ないんだけど」
「じゃあ、正直に『悪魔です』って言った方がよかったですか?」
「い、いや、それは困る」
「ということは、親戚でいいですよね?」
石川のペースで会話を運ばれ、真希は悔しそうにぐぅと唸った。
「……別に親戚である必要なんてないじゃん。どーせ、もう帰るんでしょ?
悪魔の世界に」
親戚だということにしておくことに問題はない。むしろそうしておいた方が説明も
ラクだ。けれど、真希は石川のペースでそう決められてしまうのが悔しくて、
素直に『うん』ということが出来ない。
親戚だという嘘なんてどうでも良いことだと思っているのに、それを口にすること
が出来なくて、石川にからんでみる。
- 70 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年04月23日(火)23時57分32秒
- しかし、石川は真希が不満そうにしていることなど気にせずに話しを続けた。
「帰りませんよ。さっき吉澤さんに言ったじゃないですか。
しばらく後藤さんと一緒に暮らすって」
「嘘でしょ?」
「本当ですよ」
さも当然とばかりにさらりと石川は言った。
真希はどうして石川が当たり前のようにそんなことをいうのかわからない。
というよりもそれ以前の問題で、石川の考えがまったくわからなかった。
自分を殺しかけた悪魔と一緒に生活してどうするというのだ。もしかして、
また殺しかけられるんじゃないだろうか。
真希の頭に不安が過ぎる。
石川が悪い悪魔じゃないということは様子を見ていてもわかる。
まぁ、悪魔に良いとか悪い等があるのかはわからないが、少なくとも悪くはない
だろう。だから、滅多なことはないとは思うが、相手は人外の生き物だ。
心を許すには危ない相手だと思わざる得ない。
- 71 名前:みるきぃー 投稿日:2002年04月24日(水)00時09分12秒
本日の更新分終了!
管理課のTV出演も一段落して暇です。って、引っ越しの準備で忙しい
はずなんですが(爆)。
結構、管理課の新曲好きです♪また、うたばんで聴けるのが楽しみ。
>>61 名無し読者さん
本物の石川さんにやってもらいたいです、ピンク色の悪魔(笑)。
>>62 名無し募集中。。。さん
ごっちんの新曲、かわいい感じで好きかも。しかし、衣装はピンク色なんですね。
……もしや、ピンクの悪魔が黒幕?(笑)
>>63 いしごま防衛軍さん
よっすぃー、一応、美人は目に入ってます(笑)。
なんか石川さん、書いてるうちにどんどんヘタレ悪魔になって
いくんですが(爆)。
- 72 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月24日(水)22時00分11秒
- 一緒に暮してどうなっていくのか(w
何が目的なんだろう…
- 73 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年04月25日(木)01時17分57秒
- さすがよっすぃー!!
梨華たんは今のままでいいのではないでしょうか。
- 74 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年05月05日(日)13時24分00秒
「何が楽しくて悪魔と一緒に暮らさなきゃなんないわけ?」
とりあえず、警戒心も露わに真希は言ってみた。
しかし、石川は動じない。それどころか、平然と真希に話しかけてくる。
「だって、吉澤さんが来る前に言ったじゃないですか」
「何を?」
「後藤さん、あなたを守るって」
「はぁ?」
「あなたを守る為に一緒に暮らすんです。だから、お願いします。
私を後藤さんの家にしばらくおいて下さい」
最初の頃のビクビクとした態度はどこにいってしまったのか、石川は強い光を宿した目で
真希を見つめてお願いする。
(弱気じゃ、後藤さんを守れない)
強気になりきれる自信はないが、いつまでもクヨクヨイジイジしているわけにはいか
なかった。人を一人守ることは悪魔の力を持ってしても簡単な事ではない。だから、
気持ちを入れ替えてビシッとやってやろうと石川は思う。
- 75 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年05月05日(日)13時26分45秒
- その意気込みを見せるというわけではないが、石川は後藤が口を開く前に宣言する。
「私、後藤さんにダメって言われても絶対に離れません。
あなたを守るのが私の仕事なんです。だから、絶対に一緒に暮らします」
「離れないって、んなこと急に言われても……。私の意志はどーなるわけ?」
真希は石川の勢いに押されて情けない声を上げた。
「関係ありません。とにかく守らせてもらいますから」
ダンッとパイプ椅子から立ち上がって石川は声も高らかに再度宣言した。
「大体、何で悪魔が私を守るのさ。悪魔って、さっき石川さんが言ってたみたいに魂を
回収するのが仕事なんでしょ?だったら、人を守るのって間違ってない?」
真希は当然のように不信感一杯の表情で石川を見上げる。
人の魂を集めて回ると言えば多少聞こえが良いが、結局は、人を死に導くのが仕事なのだ。
そんな役割を持っている悪魔が人を守るなんておかしい。
- 76 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年05月05日(日)13時28分46秒
- 真希は、悪魔がするべき仕事とは正反対の事を行おうと宣言する石川の言葉を簡単
には信じられなかった。
「間違ってません。これも悪魔の正式なお仕事です」
石川は真希の不信感を少しでも拭おうと言葉を紡ぎ出すが、それでも真希の顔から
不審そうな表情を消すことは出来なかった。
「そもそも、守るって私の何を守るわけ?」
「後藤さんの魂です」
「魂?……石川さんが私から抜き取ろうとしたヤツ?」
真希に悪気はなかった。
しかし、真希の言葉を聞いた石川は途端にすまなそうな情けない表情に変わってしまう。
「……あの、えっと。……後藤さんの言う通りで、私が抜き取ろうとした魂をですね、それを、
その、責任を取ってきちんと守りたいんです」
間違って魂を奪おうとしたことにかなりの責任を感じているらしく、石川は先程までとは
うって変わってしどろもどろになりながら真希に説明する。
- 77 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年05月05日(日)13時30分49秒
「責任を取るって……。間違って魂を抜きそうになったのって、そんなに重大なことなの?」
「あの、すみません」
「いや、あやまられてもわけわかんないし。わかるように説明して」
真希は急にしゅんとしてしまった石川に戸惑いながらも説明を促した。
「そうですよね。意味、わからないですよね」
それまで真希のベッドの脇に立っていた石川はパイプ椅子に座り直すと、真希に
わかるようにゆっくりと魂を奪いかけた事による弊害を説明をし始めた。
「私が間違って魂を抜き取りかけたことによって、後藤さんの魂は身体から離れやすく
なってしまったんです。悪魔の手によって奪われかけたわけでなくても、魂というものは
一度抜け出しそうになってしまうと、その後も身体から離れやすくなってしまうんです。
ただでさえ一回身体から離れかけた魂というのは、身体から抜け出そうとする力が強くなるのに……」
そこま話して言葉を区切ると、石川は言いにくそうに口をつぐんでしまう。
- 78 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年05月05日(日)13時32分49秒
- 真希が目で話しの先を促すと、石川は軽く息を吸い込んでからやっと聞こえるぐらいの
小さな声で説明を続けた。
「悪魔の力で奪おうとした魂は、もっと身体から抜け出す力が強くなってしまうんです。
……私のような失敗をした悪魔は他にいないんですが、悪い悪魔もいて、
そういう悪魔がいたずらで人から魂を抜きかけたりすると、その人は……。
はっきり言うとですね、死にやすくなってしまうんです」
沈黙が病室を支配する。
しかしその沈黙もほんの一瞬で、すぐさま真希のバカにしたような、けれど少し不安が
混じった声が病室に響いた。
「うっそだぁ」
あの時、結局魂を奪われず、今こうして真希は生きてこの世界に存在している。だが、
魂を奪われそうになったのはまぎれもない事実だった。
- 79 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年05月05日(日)13時34分46秒
- 『死にやすくなる』なんて、普段ならバカにして気にもしないだろう。だが、自分の
目の前にいるのは悪魔なのだ。人の魂を狩る悪魔がそう告げるのだから、他の誰かが
口にするのとは言葉の重みがまるで違った。
(悪魔になんか見えないけど、この人は悪魔で。その悪魔の言葉だから、本当なのかな。
……きっと、本当なのかもしれない)
もしかしたら何かの拍子で死んでしまうのかもしれない、そんな考えが頭に浮かび
思わずゴクリと喉を鳴らした。
「お願いです。後藤さんを守らせてください」
石川は真希の手を取ると、ぎゅっと握りしめてすがるように懇願する。
今まで想像していた冷たい悪魔とは違う、暖かな体温が握られた手の平
から真希に伝わってくる。その瞳を見つめれば、悪魔とは思えないような
優しい光が宿っていた。
- 80 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年05月05日(日)13時37分32秒
- 本当に魂が抜け出しやすくなっているかはわからない。けれど、もし本当だったら
困ることになるのは真希自身だ。
とりあえずこの悪魔を頼ってもいいのかもしれない。
「もしも私が断ったらどうするの?」
実際には石川の申し出を断るつもりはなかったが、真希は思ってもいないことを
口にした。
「それは……。困ります」
「困って、それから?」
「守らせてもらえるまでお願いします。私、このまま自分の世界に帰るわけにはいかないんです。
あなたを守りきるまで帰れません。だから、絶対に守らせてもらいます」
「だったら、私がどう言おうが同じじゃん」
「それって?」
素っ気なく答えた真希に石川が不思議そうに尋ねた。
- 81 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年05月05日(日)13時38分53秒
- 石川は握った手はそのままに真希の次の言葉を大人しく待っている。
「住めば、うちに」
その言葉を聞いた石川が、喜びのあまり握ったままの真希の手にぎゅうっと凄い力
を入れてきた。
思わず顔をしかめる真希に石川が嬉しそうに口を開いた。
「いいんですか?」
「ダメって言ったってくるんでしょ?だったら、何て言っても同じだもん。
住んだらいいじゃん」
「ありがとうございますっ」
「で、一つ聞きたいんだけど」
今にも踊り出しそうな勢いで喜んでいる石川に、真希は先程から気になっていた事を
聞こうと言葉を続ける。
- 82 名前:非日常的な日常の始まり 投稿日:2002年05月05日(日)13時40分32秒
「その魂が抜け出しやすいのってさ、いつ治るの?」
「…………」
石川が困ったように沈黙する。
そして、今までの喜びはどこに行ってしまったのか、曖昧な微笑で真希に告げた。
「さぁ、いつでしょう?」
ガックリ。
困りきった笑顔であははと笑う悪魔を瞳に映しながら、真希はうなだれた。
「いつでしょうって、一体、いつまでうちに居座るつもりなの?」
「いつか治る日まででしょーか」
その何とも頼りない返事を聞いて、真希も石川につられたかのようにあはははは、
と乾いた笑いを浮かべた。
この頼りになりそうにない落ちこぼれ悪魔との共同生活が退院後には待っている。
そう考えると真希は、いつまでも病院に入院していたいようなそんな気がした。
- 83 名前:みるきぃー 投稿日:2002年05月05日(日)13時46分06秒
……お久しぶりです(^^;)。
引っ越し前に更新したかったんですが、結局出来なくてちょっとばかり更新が
遅れてしまいました。
なんとかGW中には間に合ってよかった。
>>72 名無し読者さん
いちおー、今回、石川さんの目的が明らかにされました。
さてさて、石川さんはうまくやれるのでしょーか。
>>73 いしごま防衛軍さん
石川さんはこのままヘタレ状態で突き進みます(笑)。
がんばれ、石川さん!
- 84 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年05月05日(日)16時57分46秒
- うおーいいっすねえ。ヘタレ梨華たん最高!!
マターリ待っていますので更新頑張ってください。
- 85 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月10日(金)05時27分12秒
- 守護天使ならよく聞きますが守護悪魔ってのは珍しいですね(w
- 86 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年05月26日(日)11時06分20秒
- 春の日差しが心地よい午後、真希は病院から自宅へ向かって歩いていた。
あの事故から一週間も経たないうちに真希は無事に退院することになった。派手な
事故だったわりに怪我が少なく、すぐに退院が許可されたからだ。
真希は最初、バスで家まで帰ろうかと思ったが、久しぶりの外が嬉しくて歩いて家
まで帰ることに決めた。家までの距離は少しばかり病院から遠いが、歩いて歩けな
い距離ではない。
「ふぁ〜、いい天気だなぁ」
ぐいっと両手を空に向かって伸ばしながら真希は一人つぶやいた。
「そうですね」
真希の独り言とも言えるつぶやきに答える声が空から聞こえてきた。
- 87 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年05月26日(日)11時07分57秒
- 空に向かって伸ばした両手を下ろして、真希は声の聞こえた方向へ顔を向けた。
真希の右斜め上、ちょうど肩の少し上辺りにパタパタと羽を動かして悪魔が一人空に
浮かんでいる。その悪魔とは当然、真希を守ると宣言をした石川だった。
「ねぇ、本当に誰にも見えないんだよね?」
信用できない、というような顔つきで真希は石川に問いかけた。
「はい、本当に誰にも見えません。もし見える人がいるとしたら、後藤さんのように
悪魔に魂を抜かれかけた人ぐらいですよ。でも、まぁ、そんな人でも私が見える人は
少ないはずです」
「本当かなぁ」
真希は自分の近くに浮かんでいる悪魔の言葉が信用出来なくて、悪魔の顔をまじまじと
見つめながらつぶやいた。
- 88 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年05月26日(日)11時09分31秒
- 病院を出る前、悪魔の姿に戻った石川は、「悪魔の姿は人間には見えません」と教えて
くれた。石川が言うには、悪魔自身が見せると決めた人物には見えるが、他の人には
見えないらしい。当然、悪魔の声も聞こえることはないと言っていた。
そうは言っても、真希は自分の目にはこんなにはっきりと見えている悪魔が他の人
には見えていないというのが、どうにも信用できない。
実際、こうして外を歩いていて何人もの人間とすれ違っても、真希のすぐ上に浮かん
でいる悪魔に目をやる人物はいないので、石川の言うことが間違っていないことは
わかる。しかし、真希は何だか落ち着かない。
誰かにこの悪魔が見られているような気がしてしょうがないのだ。
石川は、基本的に悪魔の姿で他人には見えないようにして真希を守ってくれること
になっている。真希がなるべく今までと変わらない生活が出来るように気を遣って
のことらしい。
- 89 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年05月26日(日)11時10分42秒
- しかし、自分の目には見えて他人には見えない、というのがどうにも落ち着かない
ことに気がついた真希は、こんなことなら人間の姿で守ってくれればいいのにと思う。
だが、このドジな悪魔がどんな姿であれきちんと自分を守ってくれるのかは疑問だ。
本人のやる気だけはすごいが、それがうまく発揮されるのかどうか真希は心配だった。
過去の失敗があまりにひどいからな、と真希は自分の胸元を押さえながら右肩の上辺り
に浮かぶ石川に目をやった。
「心配いりませんよ」
真希の心配に気づいているのかいないのか、石川は真希を安心させるように優しく
微笑んだ。
それはあの時を思い出させる。
真希は石川の姿を見ながら思い出していた。
- 90 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年05月26日(日)11時12分18秒
- 青い空をバックに空に浮かぶ彼女。その青空には不釣り合いな美しい黒い羽が石川を
浮かせている。そして、その身体を包む彼女によく似合う黒い服。あの時と同じ美しく
整った顔。
ただ一つ、あの時と違う物があるとすればその笑顔だった。
今は、あの時とは違う親しげな優しい笑顔が石川の顔に浮かんでいる。
真希だけに向けられる石川の声と微笑み。
「どうかしましたか?」
石川の方を向いたまま石のように固まっていた真希は、突然現実に引き戻されて
びくっと身体を震わせた。
(何、見てるんだろ)
真希は、あわてて石川から目をそらし、自分の進行方向へと顔を向けた。しかし、
その頬が赤く染まっていくことは止められない。
(これじゃ、この前のよっすぃーと同じじゃんか)
- 91 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年05月26日(日)11時13分54秒
- 石川の笑顔に頬を染めるひとみの姿が脳裏に浮かぶ。真希はその映像を頭の中から
追い出すように止めていた足を動かし始めた。
「何なんですか?一体」
「何でもないっ」
不思議そうに首を傾げる石川を振り払うように真希は歩調を早めた。自分の上に浮かぶ
悪魔の存在をないものにするかのように、真希はわき目もふらず前へ前へと進んでいく。
『ゴツンッ』
鈍い音が真希の頭に響いた。
「いったぁぁぁ」
前を見ているようでその瞳には何も映っていなかった真希は、自分の進路上にある電柱
にまったく気がつかず激突して大声を上げた。
電柱にぶつかった瞬間、目の前が真っ暗になって稲妻のように星が脳裏にきらめく。
- 92 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年05月26日(日)11時15分18秒
- 目から星が出るというのは本当なんだ、と、変なことに感心しながら、真希はしゃがみ込み
くらくらとする頭を抱えて痛みに耐えた。
「後藤さんっ!あの、あのっ、大丈夫ですか?」
「…………」
「あの……」
しゃがんで頭を抱える真希に空から石川が心配そうに声をかけてくる。しかし、真希は
その声に返事を返すことをせずに、キッと石川をにらみつけた。
「あのぉ」
石川が困ったような情けない声でなおも真希に声をかける。
「石川さんのせいだ」
真希が小さくつぶやいた。
「えっ?」
石川の疑問の声に、電柱の前でしゃがみ込んでいた真希は立ち上がって大声で叫んだ。
- 93 名前:名無しさん 投稿日:2002年05月26日(日)11時17分02秒
「石川さんのせいだかんねっ」
「ええっー?」
訳が分からないといったように石川も真希につられて大声で叫ぶ。
「とにかく石川さんのせいなんだからっ」
星が頭に飛ぶ状態から立ち直った真希は、もう一度大声で叫ぶと情けない顔で声を上げる
悪魔を無視して、石川に固定していた視線を外し電柱をよけて歩き出そうとした。
しかし、真希は一歩踏み出した足を思わず止める。
石川から外した視線の先に遠巻きに真希を見つめるちょっとした人だかりが見えたからだ。
「あの人、大丈夫かなぁ?」
「頭強く打ちすぎて、ちょっとヤバイ状態なんじゃ……」
「救急車呼んだ方がいいんじゃないか」
真希は人だかりから聞こえる声で気がついた。石川が自分以外の人間には見えないことを。
ということは、今まで自分は何もないただの空に向かってしゃべりかけていた事になる。
- 94 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年05月26日(日)11時18分48秒
- 確かに何も見えない人たちにとってはおかしな状態だと自分でも思わざる得ない。
(何で他の人には見えないんだよぉ。自分の上に浮かんで、しかもそれが綺麗だったり
して。でも、他の人には見えなくて。あーもぉー、何が何だかわかんないよっ。
とにかく、とにかくっ!この状態は姿が見えない悪魔のせいだぁー。
もぉ、何もかもこの悪魔のせいだぁー)
真希はまとまらない考えをまとめることを放棄する。
そして、先程とは違う意味で頬を赤らめた真希は、何もかもをとりあえず石川の
せいにして歩き始めたのだった。
- 95 名前:みるきぃー 投稿日:2002年05月26日(日)11時21分54秒
ども、お待たせしました(^^;)。
忘れ去られていないか不安な今日この頃ですが、やっとアップしました。
>>84 いしごま防衛軍さん
マターリ待って頂けると本当にありがたいです(;▽;)。
今後もがんばりますので、どーぞよろしくm(__)m
>>85 名無し読者さん
悪魔に守護されるごっちんが幸せかどうかは謎です(・_・)。
- 96 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年05月26日(日)15時00分54秒
- おおなんと梨華たん人間の姿でごっちんを守ればいいのに。
頑張れごっちん!!更新楽しみに待っています。
- 97 名前:aki 投稿日:2002年05月26日(日)23時31分41秒
- 何か二人がいい感じですね。
ロムってばかりですが読んでます^^;
がんばってください〜。
- 98 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年06月10日(月)19時21分50秒
- 早足というよりは小走りといったような状態で家まで帰り着いた真希は、石川と
向かい合ってお茶を飲んでいた。
真希は石川に追いつかれないように、どこかで撒いてくる程の勢いで家まで帰って
きたのだが、当然、悪魔を撒いてくることなど出来るわけもなく悪魔と家まで一緒
に帰ってきたのだった。
真希はゴクリと最後の一滴までお茶を飲み干すと、もう一杯お茶を飲むべく立ち上がり、
台所へ向かおうとした。
「後藤さん、私、お茶入れてきます」
その石川の呼びかけにビクッとして真希の足が止まった。
「いいっ。いいから。お願いだからそこに座ってて」
真希は人間の姿をした石川に懇願する。
今、飲んでいたお茶を入れるまでの事を考えると、それも仕方がないと言えた。
- 99 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年06月10日(月)19時24分08秒
- 先程、真希がお茶を入れようと台所に向かうと、石川が真希を手伝う為に隣に並んだ。
そして、お湯を沸かしたヤカンで火傷をしそうになり、お茶の葉を辺りにまき散らし、
最後には湯飲み茶碗を一つゴミにした。
どう考えても石川は仕事を手伝っているというよりは、あきらかに仕事を増やしていた。
それを思うと、とても石川の申し出を受ける気持ちになれない。
石川を座らせておいて、真希が自分でお茶を入れる方がはるかに効率的と言える。
「本当にお手伝いしなくていいですか?」
「うん、いい。そこに座っていてくれるのが、一番手伝ってることになるから」
真希は仕事をこれ以上増やされたくないので、立ち上がろうとする石川を無理矢理
座らせた。
- 100 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年06月10日(月)19時26分26秒
「悪魔って、仕事以外、普段は何やってんだろ?」
仕事以外でも失敗が多い事がわかった悪魔の事を思いながら、真希はお茶を入れる。
「……一応、家事もするんですが。私はちょっと苦手で。
……役に立たなくてすみません」
真希のつぶやきが聞こえたらしく後ろから石川が謝る声が聞こえてくる。
「気にしなくていいよ。何となくこーなるのが想像できたから」
「どうして想像出来たんですか?」
「見てればわかるよ、なんとなくね」
「そーですか?」
石川は何故、真希にそう言われるのかまったくわからず首を傾げている。真希は
そんな石川の様子を見ていると、失敗ばかりしている悪魔が憎めないどころか
かわいく思えてくる。
(悪魔がこんなにかわいくていいのかなぁ)
新しく入れたお茶を片手に、先程と同じように真希は石川の前に座ると
そう思わずにはいられなかった。
- 101 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年06月10日(月)19時27分58秒
- 悪魔がこんなにかわいいのなら、天使とはどういうものなのだろうか?
真希は石川を前に、まだ見たこともない天使を想像してみた。
きっと、この悪魔より役立つんだろうな、などと石川が聞いたら激しく落ち込みそう
なことを考える。
「これ、ピンク色のはないんですか?」
ぼけっと石川を見ながら想像の世界に旅立っていた真希は、石川の声で現実に引き
戻された。
現実に戻った頭で石川の指さすものを見てみれば、指先には湯飲み茶碗があった。
「ピンクの湯飲み茶碗……」
「かわいいと思いませんか?」
「あんまり……」
このピンクがやたらに好きで身につけたり持ちたがるというところがなければ、
石川はもっとかわいくて綺麗なはずだと真希は思った。
- 102 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年06月10日(月)19時29分47秒
「悪魔ってさ、みんなピンク好きなわけ?」
半ば呆れながら真希が石川に尋ねる。
「多分、私は普通の悪魔よりピンクが好きなんだと思います」
「じゃあさ、何で悪魔の服、ピンク色じゃないの?」
「それは、それはですねっ」
ドンッとテーブルを握り拳で勢いよく叩き、石川は言葉を続けた。
「悪魔の服装は黒に統一、っていう決まりがあるからなんです。
私はピンクの服が着たかったんですが、そういう決まりのせいで
許可されなかったんです」
ピンクの服が許可されなかったのがよほど悲しい出来事だったのか、石川は目を
潤ませながら真希に訴える。
「なるほどね。でも、ピンクの服が許可されなくてよかったよ」
真希は羽も服装もピンク一色の悪魔が自分を守ることにならなくて本当によかった
と思う。
- 103 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年06月10日(月)19時31分08秒
- 例え他人には見えなくても自分には見えているのだから、そんな派手な悪魔がうろうろと
飛び回っていてはきっと目障りでしょうがないだろう。悪魔の服装を決めた人が誰だかは
わからないが、黒一色に決めてくれたその人に感謝したいぐらいだ。
真希は心の中で悪魔の服装を考えた人物に手を合わせながら、もう一つ疑問に思っていた
ことを口にした。
「あのさ、もう一つずっと不思議に思ってたことがあるんだけど」
「何ですか?」
「悪魔ってみんなさ、そんな日本人向けな名前なわけ?」
真希は石川と出会うまで、日本人向けというよりは、日本人にしか思えない名前を持つ
悪魔がいるとは思わなかった。
悪魔という響きから、その名前にぴったりなのは横文字の名前のような気がしていたから、
『石川梨華』という名前はどうもしっくりこない。
- 104 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年06月10日(月)19時32分53秒
「まぁ、一応ですね、私は日本悪魔なんで」
まるで犬か猫の種類の話しでもしているような口調で石川が答えた。その顔は冗談を
言っているようには見えず、真希は意味がわからず気が抜けたような声を出してしまう。
「はぁ?」
「えーっと、日本地区担当悪魔って言えばわかりやすいですか?」
「ということは、担当地区ごとに名前の種類が変わるってこと?」
「そういうことになりますね」
石川の答えに何故だか真希が落胆したような表情を見せる。答えた石川には今の答え
のどこが悪かったのかよくわからず、その目は不思議そうに真希を見つめていた。
石川のそんな視線を受けて、真希が残念そうに口を開いた。
- 105 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年06月10日(月)19時34分31秒
「悪魔だったらもっと、こう、なんていうのかな。
日本的な名前じゃなくてさ、悪魔っぽい名前がよかった」
「そう言われても、今更名前を変えるわけにもいきませんし……」
「いいんだけどね、変えなくても。
でもなぁ、せっかくだからナターシャとか、ナタリーとかさぁ」
真希はそれのどこが悪魔的なのかわからないような名前をつらつらと上げ、
ふうっとため息をつくとお茶に口をつけた。
石川はといえば、名前がいけないと予期せぬ事を言われ、困ったように額の辺りを
押さえている。
(ドジばっかりで怒られることはあっても、名前がダメなんて言われるとは思わなかったよ)
石川は仕事の失敗で怒られるのは慣れていた。プライベートでもドジばかりで、それを
注意されるのも慣れている。しかし、名前がダメだと言われたことはなかった。
失敗やドジは謝ればいい。けれど、こんな時はどうしたらいいのか石川にはわからない。
- 106 名前:悪魔と人間 投稿日:2002年06月10日(月)19時36分18秒
「そんなに深刻そうな顔しなくても」
どうしていいかわからず沈黙してしまった石川に、真希がまいったな、というような
口調で話しかける。
「名前のことはただ言ってみただけだから、気にしないでよ。
……あっ、そうだ!石川さんのこと、梨華ちゃんって呼んでも良いかな?」
石川は黙ってうなずいた。
「私のことはさ、ごっちんって呼んでよ。あっ、真希でもいいよ」
黙りこくる石川に真希が優しく微笑みかけると、石川がおずおずと口を開いた。
「……じゃあ、真希ちゃん」
「うん」
真希は、嬉しそうな笑顔で自分の名前を口にする石川を見て、この部屋に自分が
一人ではないことを実感する。
両親が北海道へ行ってしまい一人暮らしが始まった。しかし、それを寂しいと思った
ことはなかった。だが、一緒にお茶を飲む人物が現れてみると、一人というのはやはり
寂しかったのだと感じる。
相手は悪魔だが、こういう生活も悪くなさそうだと真希は思った。
- 107 名前:みるきぃー 投稿日:2002年06月10日(月)19時40分53秒
平家さんの新曲、なかなか良い!ですね(^-^)。
けど、あまりTV出演ないみたいですが(^^;)・・・。
もうちょっとプッシュして欲しいなぁ。
>>96 いしごま防衛軍
ごっちん、がんばってます。
がんばって悪魔の被害(?)を最小限にくい止めようとしてます(笑)。
>>97 akiさん
ロムでも読んでもらえると嬉しいです(^-^)。
akiさんも新作がんばってください♪
- 108 名前:みるきぃー 投稿日:2002年06月10日(月)21時39分25秒
す、すみません。
いしごま防衛軍さんに「さん」付け忘れてました(爆)。
- 109 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年06月11日(火)09時35分33秒
- いやいや別にかまいませんよ。ごっちんも梨華たんも頑張ってますねー。
梨華たんが落ち込むのもわかる気がします。
二人でお茶を飲んでいる風景を考えると人間と悪魔ではあるが、なんか
ほほえましいです。更新楽しみに待っています。
- 110 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月15日(土)18時37分28秒
- 共同生活がどんな展開になるのか楽しみ
- 111 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月25日(火)03時37分43秒
- なんだか新鮮なハナシだね。
期待sage
- 112 名前:@ 投稿日:2002年07月06日(土)10時58分24秒
- 待ってますよぉ
- 113 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年07月06日(土)22時10分03秒
- 真希が眠りについたことを確認すると、石川は悪魔の姿でマンションの屋上へと
移動した。
春になってからしばらく経つがまだ夜風は冷たく、真夜中の屋上に人影を見つける
ことは出来ない。
石川は誰一人いない屋上で思い切り夜の色をした背中の羽を伸ばした。そして、
空に浮かび上がり、眼下の夜景を眺める。
真夜中だというのに街の明かりは消えることなく、石川の瞳にネオンの瞬きを
届けている。その光を瞳に映しながら、石川は真希の魂に触れた瞬間を思い
出していた。
(どれだけ触れても慣れないなぁ)
悪魔失格かもしれないと石川は思う。これまで何度も何度も人の魂に触れてきた。
しかし、いつまでたっても魂の感触というものに慣れることはなかった。
冷たい夜風に髪を撫でられたまま、石川は自分の手の平に視線を落とした。
- 114 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年07月06日(土)22時11分57秒
- この手でどれだけの人達の魂を運んだことだろう?
過去に出会った人々が脳裏に過ぎる。
石川の目から涙がこぼれた。
悪魔でいる限りこの感触から逃れることは出来ない。だから、本当はこんな感情も
どこかへやってしまった方が楽になれる。
しかし、わかっていても石川は魂に手をかけるときの悲しみを捨てきれない。
「今回は魂を運ばなくてもすんだけど、でも……」
誰に聞かせるわけでもなく一人つぶやく。
石川は屋上のフェンスに腰をかけると、瞳にたまった涙をそっと拭った。
(泣いてばかりじゃ、いけないんだ。
今は真希ちゃんを守ることだけを考えなくちゃいけない)
これは大事な仕事で、でも仕事以上のものでもある。
悪魔の世界から離れて、人の住む世界にやってきた。ここには魂を抜くターゲット
として初めて見たときから何だか気になる真希がいて、彼女は失敗ばかりの自分を
受け入れてくれた。
- 115 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年07月06日(土)22時13分00秒
- 自分を受け入れてもらえただけで嬉しいのに、さらに一緒に住むことが出来る
ようになった。
石川は悪魔の世界へ帰ったときの約束を口に出してみる。
「真希ちゃんを絶対に守る」
悪魔の世界で上司と約束したことを口にしてみて、石川は自分の故郷での出来事を
思い返していた。
- 116 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年07月06日(土)22時16分45秒
- ☆☆ ☆☆
「……石川。失敗するな、とは言わないけれど、今回の失敗はちょっとな。
本当にこのままだと、石川をクビにしないといけないことになる。
それはわかってるな?」
「はい、わかってます。……本当に申し訳ありませんでした」
背中の羽をこれでもかというぐらいに縮めて石川が謝った。そんな石川の目の前に
いるのは、悪魔協会日本支社の支社長である中澤だ。中澤は金髪に近いような色合いの
髪を持つ細身で小柄な悪魔だが、協会の支社を任されるだけあって堂々としていて
威圧感がある。
中澤は自分の机の向こう側でペコペコと頭を下げる石川を苦虫を噛みつぶしたような
表情で見た。そして、黒のチャイナドレスから伸びる細い足を優雅に組み替える。
「私だって石川をクビにしたいわけじゃない。しかし、この失敗は大きすぎる」
苦々しい表情で言葉を続ける中澤に、石川は口を開くことが出来ない。そんな石川の
様子を見かねてか、石川の隣に立っている先輩悪魔が助け船を出した。
- 117 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年07月06日(土)22時19分24秒
「支社長、この失敗が大きなものだと言うことはわかっています。
しかし、もう一度だけチャンスを与えてやってもいいのではないでしょうか?」
「……保田さん」
石川は自分の隣に立つ、大きな目が印象的な悪魔をすがるような目で見る。
「石川。あんた、このままクビになりたくないよね?」
「はい」
「じゃあ、あんたもお願いしなさい」
保田は闇色の羽を一度大きくはばたかせると、石川の肩を励ますようにぽんっと
叩いた。保田のその行動に励まされたのか、石川は大きく息を吸うと勢いよく
言葉を紡ぎ出す。
「中澤支社長、どうかお願いです。私にもう一度だけチャンスを下さい」
そう言って石川は頭を深々と下げた。そして、頭を下げたまま中澤の言葉を待った。
- 118 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年07月06日(土)22時21分02秒
「石川、もういいから。頭、上げなさい」
先程よりも優しいトーンで中澤が声をかけると、石川がゆっくりと頭を上げた。
「誰もこれで終わりとは言ってない。
もう一度だけ、本当にもう一度だけ今までの失敗を挽回するチャンスをあげるから。
だから、頼むから、今から言う仕事を今度こそ失敗しないでやり遂げて欲しい」
今まで以上に真剣な瞳で中澤が告げる。
石川はその言葉が信じられないのか、中澤を見つめたまま動かない。
「もう一度仕事をやる気はあるか?」
中澤は黙ったままの石川に問いかけたが返事は返ってこなかった。
「石川?」
もう一度中澤が石川に呼びかけた。
- 119 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年07月06日(土)22時22分32秒
- しかし、石川はその声にも反応しない。そんな石川の脇腹を保田が肘でつつく。
「支社長!!私、やりますっ。今度こそ、ちゃんとやります」
保田につつかれて石川は電源が入ったロボットのように動き出し、返事を返した。
「……もし失敗したらどうなるかわかるな?」
「今度は失敗しません」
「いつもそう言ってるが、今度ばかりは失敗出来ないからそのつもりで」
中澤は重々しく石川にそう告げると仕事内容の説明を始めた。しかし、その仕事内容は
至極簡単で、一言で終わってしまうようなものだった。
- 120 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年07月06日(土)22時24分15秒
『後藤真希の魂を守ること』
自分の不始末の責任は自分で取る。簡単に言えばそういうことで、後藤真希の魂を
誤って抜きかけた責任を取って、今度はその魂がどこかへいかないように守るのだ。
(悪魔をクビになるのはかまわない。けど、後藤さんにしたことはキチンと責任取らなくちゃ)
出来るとか出来ないではない。
絶対にやらなければならない。そして成功させなければならない。
真希に対する謝罪の意味も込めて、石川は誠心誠意彼女を守ることを中澤に誓った。
そんな石川の態度を見て安心したように中澤は言った。
「じゃあ、早速、後藤真希の側に戻って彼女を守るように」
「わかりました」
石川は中澤に一礼すると支社長室を後にした。
- 121 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年07月06日(土)22時26分12秒
- 石川が支社長室を去った後も、部屋に残された二人は石川が心配でたまらない
というように石川が閉めたドアの方を見つめていた。
「圭ちゃん、石川の事頼むわ」
中澤がドアを見つめたまま保田に告げた。
「支社長、仕事中ですよ」
「今日はもういいわ。カタイこと抜きで話そ?」
「……裕ちゃん」
はぁ、と大きなため息をつきながら中澤が保田に話しかける。その様子は、
先程までの上司としての態度とはまったく違う親しげなものだった。
「今度の仕事を失敗したら、あの子を本当にクビにするしかない。
さすがにこれ以上のフォローは私でも出来へん。
石川の最後のチャンスや、なんとかうまいこと助けてやってぇな」
「裕ちゃんに言われなくてもフォロー入れるつもりだけどさ。
でも、石川のドジぶりは尋常じゃないからなぁ」
「そこをなんとか、な?」
「そりゃ、私だって自分が面倒を見た石川がクビになる姿は見たくないし。
まっ、出来る限りのことはするつもりだけどね」
「頼むわ、ほんまに」
- 122 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年07月06日(土)22時28分26秒
中澤の言葉を受けて、保田がコクンと小さくうなずく。しかし、その表情には
不安の色が見て取れる。そんな保田の表情を見て中澤はすまなそうに口を開く。
「私はここを空けるわけにはいかんし……。ホンマにごめんな」
中澤は椅子から立ち上がると、机の前に立っている保田の横へと移動した。
中澤が保田の髪の毛に触れ、その頭を軽く撫でる。そしてもう一度「ごめんな」と
小さくつぶやいた。
「裕ちゃん、石川のことは大丈夫だから」
保田は中澤を安心させるようににっこりと微笑んだ。
その笑顔に安心したのか中澤は申し訳なさそうな表情を消し去ると、保田の肩に
頭をコツンとぶつける。
- 123 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年07月06日(土)22時31分15秒
「あの子が生粋の悪魔ちゅーのが、時々信じられんようになるわ」
「確かに」
自分の言葉に同意する保田の表情を見る為に、中澤は保田の肩から顔を上げた。
そして、大きなため息を一つついた。
「「はぁぁぁ」」
そのため息に中澤と同じように困ったような表情をした保田のものが重なった。
その偶然に二人は顔を見合わせもう一度小さくため息をついた。
「クビ、にはしたくないんやけどな」
手のかかる子供ほどかわいいものはない。
中澤も保田も落ちこぼれで手のかかる悪魔である石川が嫌いではなかった。
二人は自分たちの願いが石川の力になればいいな、と思わずにはいられなかった。
- 124 名前:みるきぃー 投稿日:2002年07月06日(土)22時38分31秒
お待たせしました。
やっと更新しました(^^;)。
とりあえず文中の怪しげな関西弁は気にしないで下さい(;▽;)。
>>109 いしごま防衛軍さん
微笑ましい悪魔梨華ちゃんは、今回も周りの人々を心配の渦に
叩き込んでおります(笑)。
>>110 名無し読者さん
共同生活の模様は今後明らかに!!(笑)
>>111 名無し読者さん
そのように言ってもらえると嬉しいです♪
倉庫行きにならないようがんばります(^^;)。
>>112 @さん
待ってもらえるとは・・・。ありがとうございますm(__)m
なんとかかんとか更新出来ました。今後もちまちまがんばりますので、
よろしくっ!
- 125 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年07月09日(火)06時44分16秒
- 梨華たん頑張れ!!としか言えない。
- 126 名前:名無し読者 投稿日:2002年07月09日(火)20時20分50秒
- 梨華ちゃん、なんだかんだ愛されてるのね(w
続き楽しみであります。
- 127 名前:@ 投稿日:2002年07月28日(日)22時21分40秒
- 氣になりますね(w
期待してます。
- 128 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月07日(水)16時23分08秒
- 待ってます
- 129 名前:みるきぃー 投稿日:2002年08月08日(木)19時28分42秒
春のお話なのに、もう夏ですね(爆)。
・・・みなさん、お待たせしています(^^;)。
3〜4日中に更新出来ると思いますので、しばらくお待ち下さい。
・・・忙しいです、仕事(;▽;)。
もうすぐ盆休み〜。
>>125 いしごま防衛軍さん
梨華ちゃん、これからもがんばります(^-^)。
・・・娘。も大変そーなので、本物の梨華ちゃんにもがんばって
ほしいなぁ。
>>126 名無し読者さん
みんなに愛される梨華ちゃんなのです。
たとえどんなにドジでも(・▽・)。
>>127 @さん
もうすぐ更新しますので、しばしお待ちを(^^;)。
>>128 名無し読者さん
がんばりますので、もうしばらくお待ち下さい(^^;)。
- 130 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年08月11日(日)21時11分25秒
- ☆☆ ☆☆
夢と現実の間で真希は隣にいた石川がベッドを抜け出る気配を感じた。
いつもだったら、ベットに入ればすぐに眠りにつくのだが、最近、色々な事があって
神経が過敏になっているせいか、今晩の真希はなかなか寝付けないでいた。
寝付けない理由は、もしかしたら悪魔という異質な存在が隣にいたからかもしれない。
だから、隣に寝ている石川がベットから抜け出たことに気がついたが、どこへ行くか
尋ねたりはしなかった。
(まっ、トイレかなんかでしょ)
石川がベットからいなくなったことを真希は気にするわけでもなく、横になったまま
目を開いた。
暗闇に目が慣れてきた頃、真希はベッドから起きあがると手の甲をじっと見た。
- 131 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年08月11日(日)21時15分32秒
(爪が伸びて、それからその爪が私の身体の中に入ったんだよね)
数日前の出来事を思い出してみる。それはまるで今日あった出来事のように鮮明な
記憶で、迷うことなく全てを思い出すことが出来た。
爪が体内に入り込む激痛は酷いもので忘れることが出来ないが、それと同じぐらい
忘れられないのがあの綺麗な石川の事だった。
あの時の石川はとても綺麗だった。
今の石川が駄目だというわけではない。しかし、自分の魂を奪おうとしていた彼女
は今と比べものにならないぐらい美しかった。
今は悪魔の姿をしていてもあの時のような美しさを感じない。
しかし、それが何故かはわからない。
人の命を奪う為に悪魔の力をふるうその瞬間、その時に輝く美しさなのだろうか?
そうだとしたら、もう一度あの美しい石川を見る為には、自分の魂と引き替えに
その姿を見るしかない。
- 132 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年08月11日(日)21時16分47秒
- そこまで考えて真希はその考えを否定した。
何故そこまでしてあの時の石川を再現する必要があるのか、よくわからなかった
からだ。
美しい石川にこだわる必要なんかないのだ。
きっとあの時の印象が強すぎて、あの石川を忘れることが出来ないのだ。
真希はドキドキと急に激しく動き出した心臓を落ち着かせて、別の事を頭に思い
浮かべた。
そういえば、あの時もう一人の悪魔がいた。真希の命を助けてくれたもう一人の
悪魔も石川とは違った意味で人目を引く人物だった。
- 133 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年08月11日(日)21時18分52秒
「あの悪魔はどーしてるのかなぁ?」
大きな目が印象的で、しなやかな身のこなしで自分を助けてくれたような気がする。
石川とは違う美しさを持った人だった。
(なんか梨華ちゃんに守ってもらうより、あの時の悪魔に守ってもらった方が
いいような気がするなぁ。あの悪魔、もう来ないのかなぁ)
石川が聞いたら酷く落ち込みそうな事を真希は考えた。しかし、あのもう一人の
悪魔に守ってもらう事は多分無理だろう。家事も仕事も出来ない悪魔に命を託す
しかないのだ。
「まぁ、家事が得意な悪魔ってのも想像出来ないけどね」
真希は眠りにつく為に目を閉じた。
- 134 名前:それぞれの思い 投稿日:2002年08月11日(日)21時20分21秒
- 隣にいるべき石川はまだ帰ってきていない。
一人には慣れている。でも、久しぶりに家の中に誰かがいる生活を始めたのだ。
だから、早く隣に戻ってくればいいと真希は思う。
眠れなかったのは多分、あの悪魔のせいじゃない。
よくわからないがもっと別の事のせいだ。
真希はピンクのパジャマを着た石川が帰ってくるのを、目を閉じて待つことにした。
- 135 名前:みるきぃー 投稿日:2002年08月11日(日)21時25分08秒
とりあえず、少ないですが更新しました。
近々、もう少しアップしようと思っています。
嗚呼っ!盆休みよ、永遠なれっ!
- 136 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月15日(木)03時57分50秒
- 悪魔にも盆は関係あるのかなとフと思ったり(w
続きも期待してます
- 137 名前:いしごま防衛軍 投稿日:2002年08月19日(月)23時50分59秒
- うーん、気になる。
- 138 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月05日(木)19時07分05秒
- 情景描写が綺麗ですね。続き待ってます。
- 139 名前:みるきぃー 投稿日:2002年09月14日(土)21時34分38秒
只今、休日出勤の嵐です(;▽;)。
はう〜。
>>136 名無し読者さん
悪魔の盆は、私と共に終了しました(爆)。
来週あたり更新します。
>>137 いしごま防衛軍さん
気になる続きを来週あたりアップします(^-^)。
>>138 名無し読者さん
少しでも小説の景色が頭に浮かべばと思って書いているので、
嬉しいです(^-^)。
- 140 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月04日(金)21時47分25秒
- 続き待ってますyo
- 141 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月02日(土)19時20分40秒
- ほぜむ
- 142 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月26日(火)02時11分30秒
- 待ってまっせ〜
- 143 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月15日(日)00時05分38秒
- まってまっせ
- 144 名前:名無し読者 投稿日:2002年12月30日(月)05時34分36秒
- 保全
- 145 名前:彼女を守る一つの方法 投稿日:2003年01月11日(土)21時54分30秒
- あれから真希がどれだけ待っても石川がベッドの隣に戻ってくることはなく、
いつの間にか待ち疲れて寝てしまった。しかし、翌朝目が覚めると、いつ戻って
きたのか石川は真希の隣でスヤスヤと静かな寝息を立てて眠っていた。
(寝不足だよ。……梨華ちゃん、いつまでたっても帰ってこないんだもん)
真希は眠い目をこすりながら学校へ向かう道を歩いていた。
たった数日間、学校を休んだだけなのに何故だか懐かしく感じる。
きっと、この数日の間に普通では体験できないような事を体験したからだろう。
真希は、久々に学校へ続く道を歩きながら辺りを見回した。その瞳に石川と
初めて出会った桜並木が映る。しかし、ピンク色に染まっていた桜並木も今は
緑色の方がはるかに目立つようになっていた。
- 146 名前:彼女を守る一つの方法 投稿日:2003年01月11日(土)21時56分24秒
「もう桜の季節も終わりかぁ」
真希はふわふわと宙に浮かんでいる石川に向かって、小声で話しかけた。
「そうですねぇ。あまり見ないうちに散ってしまって何だか残念ですね」
「うん。でも、今年の桜は絶対に忘れないだろうなぁ」
「何故ですか?」
誰にも気づかれないように悪魔の姿で空の上にいる石川が、パタパタと羽を
動かしながら不思議そうな顔をした。
「だって、桜が満開で綺麗な時にさ、あんなことがあったんだもん。
絶対に忘れられないよ」
真希が石川をからかうようにクスクスと笑いながら言った。石川はその言葉を
聞くと、空から降りてきて真希の隣に立って頭を下げた。
「ごめんなさい」
「いーよ。別にもう気にしてないしさ」
真希は石川に向かってそう言ったあと、「そうだ、敬語はやめてよね」と付け加えた。
そして、葉桜になってしまった並木道に向かって歩く速度を速める。
- 147 名前:彼女を守る一つの方法 投稿日:2003年01月11日(土)21時58分02秒
- この桜並木がまだ満開の花で彩られていたら、きっと石川の反応で楽しめたに
違いない。
真希は今は緑の葉ばかりになってしまった桜を見ながら、そんなことを考えた。
ピンク好きの石川の事だから、桜吹雪が舞い散る中を歩けば嬉しそうにはしゃぐ
はずだ。悪魔の黒い制服にピンクの花吹雪というのも悪くない。
ちょっとばかり残念そうに真希は、桜並木が続く道を歩き続ける。
そして、このまま進めばそろそろ校門に着くだろうという所で足を止めた。
「あれ?こんなところに家なんか建つんだ」
真希が足を止めた場所は今まで空き地だった。それが、今、見てみれば家を
建てる為の土台が出来て、材料などが所狭しと置かれている。
- 148 名前:彼女を守る一つの方法 投稿日:2003年01月11日(土)22時01分01秒
(ここだと学校に近くていいなぁ)
これだけ学校に近ければ今よりも遅くまで寝ていられるに違いない。その上、
春は家の窓から花見も出来るだろう。
羨ましい、そんな事を考えながら建築中の家に近づいた。
「どうしたんですか?」
「だから、敬語じゃなくていいってば」
「じゃあ。……どうしたの?」
「んー、どんな家が建つのかなと思って。こんな学校の近くに家があるなんて、
羨ましいじゃん?」
興味津々といった様子で真希が建築中の家の敷地内に足を踏み入れた。
石川はその様子を空の上から見ていたが、ふらふらと建築中の家の側に寄って
行く真希が心配になって、慌てて空からその姿を追いかけた。背中の羽を
軽やかに羽ばたかせながら、石川は真希の後ろまでたどり着く。
- 149 名前:彼女を守る一つの方法 投稿日:2003年01月11日(土)22時04分10秒
- ぼけっと家を建てる為に置いてある材料を眺めている真希に、石川が声をかけようと
した瞬間だった。真希の前に整然と並んでいた木材などの材料が突然、音を立てて
崩れ始めたのだ。
「うわっ」
真希は崩れ落ちてくる木材の音に驚いて、二、三歩後ずさった。しかし、その程度
後ろに下がっただけでは、真希めがけて倒れてくる材料の山から逃れることは出来ない。
(当たるっ)
一本の木材が真希の目の前まで迫ってくる。
真希はその木材だけでも避けようと、さらに斜め後ろ方向へと下がった。とりあえず
その木材を避けることには成功した。だが、次に迫ってくる木材を避ける時間はない。
例え、その木材を避けたとしても次々に倒れ落ちてくる材料からは逃れられそうに
なかった。
真希がどうしても避けられそうにない木材の一本が、その頭の上に落ちようとした時
だった。
- 150 名前:みるきぃー 投稿日:2003年01月11日(土)22時10分02秒
長期間の放置にもかかわらず、保全してくださった方々
ありがとうございますm(__)m
ちびちびと更新していこうかと思いますので、細長ーい目
で見守ってやってください(^^;)・・・。
・・・あ、この長期間の更新お休み中にHPなんぞを作っ
てみました。まぁ、お暇なときにでも覗いてみてください。
- 151 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月12日(日)00時58分20秒
- 設定が面白いので細長く楽しみにしてます
ところでHPはどちらにあるのでしょうか?
- 152 名前:みるきぃー 投稿日:2003年01月12日(日)01時39分09秒
あう、HPはここです(^^;)
http://plaza16.mbn.or.jp/~gp/
さりげなくメール欄に貼り付けて置いたので、気がつきにくくて
ごめんなさい(^^;)
- 153 名前:名無し読者 投稿日:2003年01月14日(火)00時48分52秒
- 待ってましたよぉ
期待
- 154 名前:名無し読者 投稿日:2003年02月05日(水)16時37分40秒
- 保全
- 155 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月02日(日)01時16分00秒
- ( ´D`)<てへてへ
- 156 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月23日(日)18時28分37秒
- 保
- 157 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月25日(火)23時47分55秒
- 全
- 158 名前:名無しさん 投稿日:2003年04月13日(日)20時49分34秒
- 川σ_σ||<保全
- 159 名前:名無し読者 投稿日:2003年05月03日(土)05時48分32秒
- 保全
- 160 名前:名無し 投稿日:2003年05月17日(土)04時17分42秒
- 保
- 161 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月26日(月)04時03分25秒
- 保全
- 162 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月26日(月)18時05分10秒
- うむ。
- 163 名前:名無し読者 投稿日:2003年06月26日(木)00時47分38秒
- 保全
- 164 名前:名無し 投稿日:2003年07月11日(金)01時25分07秒
- まつてます
- 165 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月03日(日)20時38分40秒
- ほ
- 166 名前:ナナシドクシャ 投稿日:2003年08月24日(日)00時31分50秒
- ぜ
- 167 名前:ななしどくしゃ 投稿日:2003年09月01日(月)02時45分34秒
- ん
- 168 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/02(木) 00:25
- ほぜん
- 169 名前:名無し読者 投稿日:2003/10/30(木) 11:00
- 保
- 170 名前:名無し読者 投稿日:2003/12/10(水) 01:58
- 全
- 171 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/29(月) 23:37
- ho
- 172 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/15(木) 18:04
- 保全
Converted by dat2html.pl 0.1